メイド長の紅美鈴です (破壊王子)
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メイド長の紅美鈴

この小説は東方projectの二次創作です。

何番煎じかわかりませんが、読んでいただけると嬉しいです。


 

 

 

 

「よいしょ……うん、できた!」

 

 

 自分の背丈よりも大きな鏡を見ながら、紅美鈴(ほんめいりん)はホワイトブリムを頭に装着して一回転した。

 

 何処にもおかしなところは無い。いつも(・・・)通りのメイド服だ。

 

 

 

 

 時刻は早朝の六時。

 

 美鈴のメイド長としての仕事が始まる時間だ。

 

 

 

 私室を出て直ぐの部屋に向かう。扉を開けると同じくメイド服姿の妖精たちが八人集まっていた。首から足までは美鈴と全く同じメイド服だったが、頭に着けるホワイトブリムが美鈴よりは簡易的な作りであり、その部分がメイド長と一般メイドの違いである事は誰の目から見てもわかる。

 

 

 彼女らは談笑していた所、入室してきた美鈴に向かって頭を下げた。

 

 

 

「おはようございます! メイド長!」

 

 

 八人同時に可愛らしい声で美鈴に朝の挨拶をした。

 

 

「おはようございます! 今日もはりきって行きますよ!」

 

 

 部屋にいる九人全員で右拳を天井に向け、オー! と元気よく意気込んだ。決まりではないが、毎朝全員でこれをする事が習慣になっている。

 

 

 自分の方が立場が上の美鈴だが、基本的には下の者にも敬語で接する事になっている。メイド長として他の妖精メイド達に示しをつける為であるが、理由はそれだけではない。

 

 

 

 

 

 

 とりあえずそれは置いておいて、早速メイドたちの仕事が始まった。

 

 

 

 先ずは朝食の用意だ。

 

 

 吸血鬼であるレミリアは夜行性であり、普段は朝に起きる事はないがレミリアの気分によってそれは変わる。今回は前日に朝に起きるから朝食をと、美鈴に頼んでいたのだ。

 

 

 

 

 毎日新鮮で豊富な食材をふんだんに使い、見た目が綺麗かつ美味な料理を作り上げていく。

 

 

 

 

 

 が、それは妖精メイドの仕事である。

 

 

 美鈴はその間に違う事をしなければいけない。そしてこの仕事内容は美鈴が1番苦手な事なのだ。

 

 

「……」

 

 

 地下に向かい始めた美鈴。その足取りはだいぶ重いように見える。

 

 

 

 

 

 

 長い階段を無言のまま足を進めると一つの扉が見えた。

 

 美鈴は用意しておいた蝋燭に火をつけ、ポケットから鉄製の輪を取り出した。そこには相当な数の鍵の数が取り付けられており、その一つである少し錆びた鍵を使って目の前の扉の鍵を開けた。中は真っ暗闇で、灯りがなければ右も左も分からない。

 

 

 ゆっくりと扉を開き、入室するとまたゆっくりと閉じる。耳障りな開閉音が美鈴の気持ちをさらに憂鬱にさせた。しかしそれは序の口。直ぐに様々な方向から声が聞こえてくる。

 

 

 

 怒号。

 

 蛮声。

 

 奇声。

 

 

 中には泣き声の混じった呻き声まで。

 

 

 

 そう、此処は牢。

 

 

 紅魔館(こうまかん)に───レミリアによって囚われた人間たちを閉じ込めている牢なのだ。

 

 

 一人一人が小さな牢に入れられており、美鈴が来た事を確認した人間たちは檻を両手で大きく揺らしている。

 

 この者たちの殆どが紅魔館に不法侵入した悪漢なのだが、例外も稀に居る。

 

 

 

 美鈴は一瞬目を閉じ、何かを呟いた。小さな小さな声で。仮に此処が無音だったとしても誰にも聴こえない位の本当に小さな声だった。

 

 

 直ぐに目を開けると真っ直ぐに歩き始めた。全方向から自分に対する暴言や許しを乞う声が耳に入るが、それに全く耳を傾けずに足を進めた。

 

 そして一つの牢の前までやってきた。その牢の囚人は男性で、年齢は四十代前半くらいだろうか。

 

 男は地べたに座り込んでおり、ゆっくりと顔を上げ檻を挟んで目の前に立っている美鈴を見上げる。他の者と違い、奇声を発することもなくただ美鈴の目を見つめていた。

 

 

「そうか……もう俺の番か。早かったな思ったよりも」

 

 

 男はそう言うと頭を掻きながら目線を地べたに移した。反対に美鈴は男から全く目を離す事なく、蝋燭が乗っている皿を置き、再びポケットから鍵を取り出した。

 

 

「最期に何か言い残す事があれば聞きますが」

 

「ねえよそんなもん。ただ……恨むよ。アンタらと……俺の運命を」

 

 

 

 男はまた美鈴に目線を合わせてきた。

 

 さっきまで無気力で死人の様だった男の目から、強い憤怒と悲壮感が伝わってくる。

 

 

「……そうですか」

 

「吸血鬼に血を捧げる為に死ぬことになるとは夢にも思わなかった。まあ……無駄に殺されて死ぬよりはマシなのかな」

 

「……」

 

 

 美鈴は鍵を開け、牢の中に入った。普通なら襲われてもおかしくない場面だが、この男は美鈴の桁外れの強さを知っているが故かその様な行動には出ない。

 

 

「なあ、俺の〝死〟に意味はあるんだよな……!」

 

 

 ここにきて〝死〟というものに改めて恐怖し出した男。涙を流しながら急に美鈴に問いかける。

 

 人間という生き物は〝死〟を前にすると自分のこれまでの人生を振り返る。そう振り返ってきた中、男の人生には何も無かった。

 

 

 楽しかった事。

 

 悲しかった事。

 

 

 

 何一つ無い。

 

 そんな男が何かを欲する様にして侵入したのがこの紅魔館であり、呆気なく囚われこの結末だ。

 

 

 

 そんな人生だった男にでも何か意味が欲しかった。これから死にゆく命であれど、何かの役に立つのならば、と。

 

 

 そう思い、美鈴に自分の『命の意味』を問いかけたのだった。

 

 

 

 それに対して美鈴は───

 

 

「ええ。貴方の命に意味はあります」

 

 

 そう答える。

 

 

 気休めもいい所だ。

 

 

 美鈴自身ですら、もう少し気の利いた事を言えなかったのかと答えた直後に悔やんだ程だった。

 

 しかし男はそれを聞くと安心した表情を浮かべる。たかだか一言の気休めであるのに、まるで命が助かったかの様に安堵していた。

 

 

「……」

 

 

 そんな男を見て、美鈴は胸が痛くなった。何とも言えない情けなさと悔しさを感じながら、手刀で男を気絶させ、担いでまた違う部屋に向かった。

 

 

 

 解体場。

 

 

 

 と書かれた部屋に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 美鈴は部屋に入ると電気を付けた。此処はこの地下で唯一電気が通っている部屋である。

 

 

 男を解体台に乗せ、返り血や臭いが付かないように厚い防護服の様なものを着た。ここからがこの仕事で一番大変である。

 

 

 壁に掛かっている大きな包丁。上の調理場では見ることすらない骨ごと簡単に断ち切ることのできる道具。

 

 

 

 

 レミリアが好むのは人間の心臓付近の血のみ。それ以外は口にすることは無い。

 だからといって中途半端な所から斬りつけると、折角手刀で気絶させたにも関わらずに起こしてしまう可能性がある。そうなると男を苦しめてしまうことになる。

 

 

 なので先ず最初に切断する部位、それは首。

 

 

「……行きましょうか」

 

 

 ゆっくりと喉元に刃を当て、美鈴は深呼吸した。そして───

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 そう呟いたと同時に、全体重をかけ包丁を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は朝の九時。

 

 

 

 

 次に仕事───それは、主人(あるじ)への朝の挨拶。

 

 

 

 この紅魔館の主人である、レミリア・スカーレットへの。

 

 

 

 

 

 

 全ての用意が終わった事を確認し、美鈴はレミリアの私室へ向かう。館の最奥にある一番大きく、豪勢な部屋に。

 

 

 華美で頑丈そうな扉の前に立つと、美鈴は簡単に髪を整え、ゆっくり4回ノックをした。

 

 

 

「開いてるわよ」

 

「はい、失礼します!」

 

 

 

 若干強張った声で返答し、すぐに扉を開けた。入室するとこれまた大きな化粧台の前で口紅を塗っている紅魔館の主人、レミリア・スカーレットが、宝石の様な真紅の瞳で美鈴を見ていた。

 

 白く透明質の肌が、真紅の瞳と口紅をより輝かせている様に見え、美鈴は挨拶もできずに見惚れて声が出せなかった。

 

 

 二人が目を合わせて五秒間ほど。痺れを切らしたのはレミリアの方で、左で口を隠す様に笑い始める。

 

 

 

「貴方、何しにここに来たの?」

 

「はっ……!? い、いや……朝のご挨拶をと……」

 

 

 赤面しながらアタフタする美鈴。

 視線を右へ左へずらし、ハッキリと言って失礼に値する行為なのだが、レミリアは全く気にしていない様子で、化粧道具を片付けて美鈴の目の前まで歩いてきた。

 

 

「そう。おはよう、美鈴」

 

「……ッ! ……おはようございます、お嬢様」

 

 

 あろう事か、先に主人から挨拶をさせてしまった。

 

 不敬極まりないが、レミリアはそれでも何も言わない。言わないだけではなく思ってすらいない。美鈴の素の〝在り方〟を気に入っているのだろう。

 

 

「お、御食事の用意が出来ておりますが、如何なさいますか?」

 

「ええ頂くわ。毎日毎日私一人(・・・)のために悪いわね」

 

「滅相もございません! ではご案内させていただきます」

 

 

 

 深々と頭を下げつつ、美鈴は主人を案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

「うん……今日も美味しかったわ。御馳走様」

 

「こちらこそお口に合いましたようで何よりです」

 

 

 美鈴がレミリアの側にいる妖精メイドと目を合わせる。するとメイドは急いで厨房へと向かっていき、直ぐに帰ってきた。

 

 その両手には銀のトレーがあり、その上には銀の美しいグラスがあった。中身は真っ赤な液体が入っており、トレーごと妖精メイドから受け取った美鈴は、グラスだけレミリアの目の前に差し出した。

 

 

「昨夜の仰せの通り、人間の血をご用意致しました。本日採取したものです。どうぞご堪能下さいませ」

 

 

 今日一番のお辞儀をした美鈴。

 

 あの男はここでやっと報われる。意味が生まれる。

 

 

 

 

 と、思っていた。

 

 

 

 

 

 

「あら? 私昨日そんなこと言ったかしら?」

 

 

「……はい?」

 

 

 

 予想だにしない言葉に、美鈴は吃驚してしまった。

 

 

 確かに昨日聞いた筈。

 

 

「明日の朝は血を用意して頂戴」と。

 

 

 絶対に。間違いなく。

 

 

 

「悪いけど今はそんな気分じゃないわ。破棄してもらえる?」

 

 

「……は……」

 

 

 言い返せない。

 

 

 言い返す事など許されない。

 

 

 どんな心情があろうとも、美鈴に許された行為はいつだってただ一つ。

 

 

 

「……承知致しました」

 

 

 

『従う』こと。

 

 それしか許されない。例えどんな事があろうとも、従者に許された行為は主人に従うことしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レミリアを再び部屋に案内した後、美鈴は妖精メイドに頼る事なく、自分でグラスを運び、厨房へと戻ってきた。

 

 

「……」

 

 右手に握られたグラスの中に真っ赤でそれでいて若干の黒さを兼ね備えている血液を、シンクに向かって躊躇なく破棄した。言われた通りに。

 

 

 

 

 

 結局、男の命には何の意味も無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メイド長……」

 

 

 

 そんな美鈴を心配してか、経緯を知っている妖精メイドがゾロゾロと集まってきた。しかし掛ける言葉が見つからないのか、メイドたちは厨房の入り口付近で美鈴を見守るように立っているだけだ

 

 

 すると美鈴も妖精メイドたちの存在に気づき、振り返った。その顔からは悲壮感でも喪失感でもないなんとも言えない表情を感じ取れた。

 

 

 しかし、美鈴は直ぐにいつもの笑顔を見せ、妖精メイドたちにこう言った。

 

 

 

 

 

「皆さん、次はお掃除ですよ!」

 

 

 

 明るい声でそう言いながら、誰よりも早く次の支度を始めた。

 

 

 

 

 

 紅美鈴(メイド長)の一日はまだまだこれからだ。




はい、第一話でした。

この小説、恐らく短編になると思いますが最後まで投稿できるように頑張ろうと思います。もし宜しければ感想や評価お願い致します。

では次の話もよろしくお願いします。


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