ネプ短編まとめ (烊々)
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たまには君と ( ユニ ネプテューヌ )

 ネプテューヌとユニちゃんが仲良く遊ぶだけです。



「じゃあ、私ちょっと出かけてくるから、何かあったら連絡ちょうだいね、ユニ」

 

 そう言ってお姉ちゃんが出ていった。どこに行くか聞いても適当にはぐらかされたので、多分趣味のコスプレの衣装の材料でも仕入れに行くんだろう。お姉ちゃん的には他人には秘密にしてる趣味らしいけど、あたし含むみんなにはバレバレなんだけどね。

 

 今日は仕事がないから、あたしもガンショップ巡りに出かけようと思ったけど、SNSで行きつけのショップのアカウントがほとんど臨時休業って情報を発信していたし、FPSをやろうと思っても、どうやら大型アップデートが近いらしいから今じゃなくてアプデ後にがっつりやりたい。バージョン末期ってあまり面白くないのよね。

 

 友達と遊ぼうと思っても、ネプギアにはなぜか連絡がつかないし、ロムとラムは今日はクエスト行くって言ってたわね。あたしもクエストに行ってもいいんだけど、せっかくのお休みだから働きたくないしなぁ……

 

 というわけで、今あたしは暇を持て余している。あまりにも暇だったからお姉ちゃんの執務室に勝手に入って、お姉ちゃんの椅子に腰をかける。勝手に入っても何もいじらなかったらバレないし怒られないわよね……?

 

 うんうん、なかなかの座り心地。少し気分が舞い上がってきちゃった。

 

「ふふん、ラステイションの女神、ユニよ! …………なんてね」

「似合ってるよー、ユニちゃん」

「ひゃあああああっ‼︎ ね、ねねね、ネプテューヌさん‼︎⁇」

「おぉう、すごいリアクション」

「いつからいたんですか⁉︎ ていうかどうしてここにいるんですか⁉︎」

「ユニちゃんがノワールの仕事部屋に入る前からいたよ。ユニちゃんがウッキウキで入ってきたからなんか面白そうなものが見れそうと思って音と気配を消してそこらへんに潜んでたんだー。あ、ノワールには黙っといてあげるから安心してね」

 

 ほっ、と胸をなでおろす。お姉ちゃんに言うって言われたら、ネプテューヌさんを相手に戦わなくちゃいけないところだった。

 

「あまりにも暇だからノワールで遊ぼうと思ったんだけど、その様子だといないっぽいね」

 

 お姉ちゃん『と』じゃなくてお姉ちゃん『で』なんだ……

 

「お姉ちゃんはさっき出かけちゃったんですよ。そういえば、ネプギアって今何してますか? 連絡しても何も反応がなくて」

「あー、なんか良いパーツを沢山仕入れたって言って朝から部屋にこもってずっと機械弄ってるんだよね。おかげで全然構ってくれなくてさー、お姉ちゃん悲しいよー」

「そ、そうなんですか……」

 

 あのネプギアがネプテューヌさんを放置するぐらい集中してるんだから、あたしからの着信に気がつかないわけだわ……

 

「じゃあさ、ユニちゃん。姉妹に見捨てられたもの同士、今日は一緒に仲良く過ごそうよ。一緒にゲームするのもいいけど、天気がいいから外に遊びに行こっか」

「えっ」

「よし、そうと決まれば善は急げだね! ラステイションの街へ向けてレッツゴー!」

「ちょっ」

 

 ……そのままネプテューヌさんに強引に外に連れ出されてしまった。けどまぁ、たまにはこんな休日も悪くない……かな?

 

 

 

 

 

 

「いつもネプギアとどんなことしてるの?」

「そうですね、ガンショップ巡りとジャンクショップ巡りをして、その途中でご飯食べてゲームセンターに寄ったり……ですかね?」

「ほうほう、ネプギアがいないからジャンクショップは無しとして……ガンショップ行く? わたしついて行くよ? 面白そうだし」

「今日はどこも休業らしいんですよね……ネプテューヌさんはどこか行きたいところありますか?」

「うーん、あ! ラステイションの中古ゲーム屋巡りがしたいな。ユニちゃん場所知ってる?」

「あまり行きませんけど場所は把握はしてます。案内しますよ」

「ありがとう!」

「あたしもレトロゲーを何かやり込んでみようかな。ネプテューヌさん、おすすめのレトロゲーはありますか?」

「たくさんあるよ! 良ゲー、バカゲー、クソゲー、虚無、どれがいい?」

「……できれば良ゲーでお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

「見て見てユニちゃん! 『ブラックハート様の顔出しパネル』だってー! あはははは! あはははははは! 面白ー! あはははははは!」

「わ、笑いすぎですよネプテューヌさん……」

「さてと……どうかしら、ユニちゃん?」

「ちょっ、なんで変身してから顔出すんですか⁉︎ んふっ」

「あ、今ちょっと笑ったわね」

「だって、身体はお姉ちゃんなのに顔だけネプテューヌさんなのがすごくシュールなんですもん!」

「こほん……ラステイションの女神、ブラックハートよ! ……なんてね」

「全然似てませんね」

「ラステイションの女神、ユニよ!」

「それはもう忘れてください‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

「お昼ご飯までご馳走になっちゃって……いいんですか?」

「いいのいいの! ここは先輩女神であるわたしの顔を立てて、ね!」

「はい、ありがとうございます!」

 

(ユニちゃんって、ノワールやネプギアにはツンデレを発揮するんだけど、わたしに対しては素直で可愛いんだよねー)

 

「あの……あたしの顔に何かついてますか?」

「ううん、なんでもないよー。ソースがほっぺについてるぐらい」

「ついてるんじゃないですか!」

「あはは。食べ終わったらさ、そろそろ行かない?」

「どこにですか?」

「そんなの決まってるでしょ、ゲームセンターだよー!」

 

 

 

 

 

 

 

「ユニちゃん、シューティングゲーム上手っ!」

「ネプテューヌさんもなかなかやりますね。ネプギアよりも上手いですよ」

「そりゃお姉ちゃんだからね! ドヤァ!」

「まぁあたしの方が上手いですけど」

「ぐぬぬぅ……スコアの差が二倍ぐらいあるから言い返せない……流石ガンナー……! あっ、それわたしが狙ってた敵ー!」

「そんなルールありませんからね!」

「少しは先輩を立てようという気持ちはないのー⁉︎」

「この瞬間に限ってはそんなものありません! シューティングゲームは遊びじゃないんですよ!」

「ねぷぅぅぅ!」

 

 

 

 

 

 

 

「格ゲーなら負けないよー!」

「ちょっ、ネプテューヌさんちょっとは手加減してください!」

「聞けない相談だね! さっきのお返しだよー!」

「……何もできずに負けちゃった……強いですね、ネプテューヌさん」

「ふっふっふ、これが仕事は欠かしてもゲームは欠かさない女神ことネプ子さんの実力だよ」

 

(それは女神としてどうなんだろう……)

(ゲイムギョウ界の女神として、ゲームが上手いことも大事だもんねー!)

(……⁉︎ 直接脳内に……っ⁉︎)

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感じで今日はネプテューヌさんと二人でラステイションを練り歩いていた。ネプテューヌさんとすごく仲良くなれた気がする。

 

「もう夕暮れかぁ、そろそろ帰らなきゃなー。じゃあね! ユニちゃん!」

「はい、今日はありがとうございました。それじゃ、さようならネプテューヌさん」

 

 ……違う、そうじゃない。挨拶も大事だけど、これを言わなきゃ! 

 

「あっ……その……あの……ま、また誘ってください!」

 

 緊張してみっともなく言葉が詰まってしまった。恥ずかしい。

 

 けど、それを聞いたネプテューヌさんは、ほんの少しだけ驚いた表情をしてからにっこりと笑って、

 

「うん! また遊ぼうね!」

 

 と言って帰って行った。正直すごく疲れたけど、それ以上に楽しかった。次はあたしがプラネテューヌに行ってネプテューヌさんを連れ回しちゃおうかな……なんて。

 

 

 




 ネプユニを推してください。


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ユニちゃんの新武装 ( ユニ ネプギア )

 


 ネプギアとユニ、二人の女神候補生は、プラネテューヌとラステイションのシェア集めと鍛錬を兼ねてクエストに来ていた。

 

「これで決める! 『ビットズコンビネーション』!」

 

 『ビットズコンビネーション』。ネプギア自作の自律浮遊砲台『ビット』と共に連携攻撃を行うネプギアの必殺技で、斬撃と砲撃を織り交ぜた強力な攻撃である。

 

「やぁぁぁっ!」

 

 その強力な攻撃により、クエストのターゲットのモンスターであるエンシェントドラゴンは倒れ、消滅した。

 

「これでクエスト完了だねユニちゃん!」

「……」

 

 クエストが完了したにもかかわらず、不満そうな表情をしているユニに対しネプギアが不安そうに尋ねる。

 

「ユニちゃんどうしたの?」

「うーん、ネプギアもいきなりこんなこと言われて困ると思うんだけど……」

「?」

「そのビット。あんたに使えてあたしには使えない射撃武装があるっていうのがなんか気に入らないのよね」

 

 射撃機能が付いているビットとの連携攻撃は女神の中でネプギアのみが使える必殺技である。どうやら、それをユニもやってみたいと思っていたらしい。

 

「えっ……うーん、じゃあユニちゃんもやろうよビット攻撃! 私と一緒にユニちゃんのためのビットを開発しようよ!」

「いいの?」

「ユニちゃんがやりたいことができるのが一番だよ!」

「……ありがと」

 

 そう言って屈託のない笑顔を向けてくるネプギアに対し、みっともない嫉妬をしてしまったと己を恥じるユニであった。

 

 そんなこんなでギルドにクエスト完了を報告してプラネテューヌ教会に戻った2人は、ユニの新武装及び新技『ビット』開発を始めるのだった。

 

「ユニちゃんはどんな感じのビットが良い?」

「どんなって?」

「ビットにも色々種類があるんだよ。私みたいな

ファンネル型のビットとか、ネクストフォームのノワールさんが使う『ナナメブレード』みたいなソード型のビットとか、そういう感じ」

「そういう感じね。あたしは……ええと……攻めより守りの方がいいわ」

「守り?」

「変身後のあたしの武器のエクスマルチブラスターって威力が高い分大きくて取り回しが悪いじゃない? そこを補えるようなビットが良いかなって」

「なるほど、私みたいにビットに火力を求める必要はないってことだね」

「そういうこと」

「そうなると火力を下げた分のエネルギーをシールド機能に回せそう」

「それいいわね、狙撃の隙をカバーできそうだし」

「じゃあ、早速制作に取り掛かろう!」

 

 ネプギアが残していたビットの設計図をユニ用のものに転用することで、制作はスムーズに進んでいった。次に二人が話し合っているのは、ビットの操作方法についてである。

 

「そういえば、ビットってどうやって操作するの?」

「私のビットは、私の攻撃パターンや合わせて自動で動いてくれるけど、そのうち脳波制御で操作できるようにしたいなって思ってるよ。その方が動きに幅ができるし」

「やっぱ自分で動かすのって難しいのね」

「一つの頭で複数の身体を動かす感じだから難しいよ。失敗するとビットの攻撃が自分に当っちゃうかもしれないし」

「じゃあ、あたしも最初は自動でいいわ」

「わかった。じゃあユニちゃんの戦闘データを集めなきゃね。ちょっと模擬戦やろっか」

「おっけー」

 

 そのまま二人は教会地下の訓練場に行き模擬戦を始めた。この模擬戦は、ユニの戦闘データを集めるための試合なので二人が本気で戦う必要はあまりない。しかし、お互いに戦っているうちに感情の抑えが効かなくなり本気でぶつかり合ってしまうのだった。

 

 こうして開発、模擬戦、そして模擬戦のデータを反映させた上で再度の開発、これらを数週間にわたって繰り返し、遂にユニ専用のビットが完成した。

 

「できた……私専用のビット! 名付けて『シールドビット』よ!」

「やったねユニちゃん!」

「ネプギア……その……ありがとね。できるまでずっと付き合ってくれて」

「えへへ、どういたしまして。私もユニちゃんと一緒に開発してて楽しかったよ!」

「悪いけどもうちょっと付き合ってくれる? 早速これを試しに行きたいの」

「勿論だよ! 私もユニちゃんがビット使ってるところ見たいし。クエスト行こっか!」

「よし、じゃあ行きましょ!」

 

 そう言ってギルドで手頃なモンスター討伐のクエストを受注し、ダンジョンに向かう二人。

 

 そしてダンジョンに到着した彼女たちの前に、早速モンスターが立ち塞がる。

 

\ ぬらっ /

 

「おっと、出たわねモンスター! スライヌごとき新武装を使うまでもないけど、せっかくだから使ってやるわ! 『シールドビット』展か……痛っ‼︎」

 

 高らかに武装名を宣言したユニであったが、急に頭上に出現したビットに思い切り頭をぶつけてしまった。悶絶しながら数秒間その場に蹲る。

 

「ユニちゃん! 大丈夫⁉︎」

「へ、平気よ……なるほど、出現させる位置をミスるとこうなるのね……勉強になったわ……」

 

 その隙を狙い、ユニに向かってスライヌが突進してくる。しかし、その突進は『見えない壁』に阻まれユニに届くことはない。

 

\ ぬらっ⁉︎ /

 

 その見えない壁こそシールドビットの機能。シールドビットは小型のバリア発生させ、敵の攻撃を防ぐことができる。

 

「今度は……『ライフルモード』よ!」

 

 ユニがそう言って音声入力をすると、盾状のシールドビットが銃の形に変形していく。

 

「さぁ、行きなさい」

 

 そのままビットがスライヌの周りに飛んでいき、ビームを発射する。

 

 シールドビットは攻めよりも守りのための武装。それゆえにネプギアのビットほど高出力のビームを放つことはできない。しかしそれでもスライヌを倒し切るには充分な威力であった。 

 

\ ぬらぁ……っ!/

 

 ……と思いきや、倒れることなく健在するスライヌ。

 

「っ! ……こいつ、『外道スライヌ』ね」

 

 『外道スライヌ』とは、スライヌと見た目は似ているが、普通のスライヌと比べものにならない強さを持つ特殊な種である。

 

 しかし、それでも女神であるユニの敵ではないことに変わりはない。

 

\ ぬ……らぁっ! /

 

 だが、外道スライヌは強さだけでなく知能も高い。ユニを自分が勝てない相手と悟り、逃走という手段を取った。ダンジョンの障害物を盾にするように上手く逃げて行く。

 

「逃がさないわよ! シールドビット、『リフレクターモード』!」

 

 今度はライフル状のシールドビットがまた盾状に戻る。

 

「さて、と」

 

 ユニはライフルを構える。狙いは外道スライヌではなく、シールドビット。

 

 そう、『リフレクターモード』とはその名の通り、ユニの放つ射撃を反射することができる機能。つまり、この機能を使うことで障害物越しの狙撃が可能となる。

 

「狙い撃つわ!」

 

 ライフルから放たれたビーム砲がビットに当たって反射し、障害物の先へビームが飛んでいく。

 

\ ぬらぁ…… /

 

 すると、少し遠くから外道スライヌの断末魔と、それに続いて消滅する音が聞こえてきた。

 

「あたしからは逃げられないわよ」

 

 ユニは結局その場から一歩も動くことなく、外道スライヌを撃破したのだった。

 

「いけるわね、この新装備」

「ユニちゃんすごい!」

「ふふっ、すごいのはあたしとあんたで作ったこのビットよ。それに悪いわね、あたし一人でやっちゃって」

「いいよ、元々ユニちゃんのためのクエストだし。それよりも、もっとそのビットで戦うところみたいなぁ」

「じゃあ、この調子でどんどん行くわよ!」

 

 こうして新武装『シールドビット』が完成し、新たな戦闘スタイルを身につけたユニ。また一つ成長し、理想の女神としての強さを手にすることができた…………

 

 

 

 

 ……………はずだった。

 

 ビットが完成してから数ヶ月後。

 

「あら、新しいシューティングゲームが入荷されてるじゃない。早速店内スコアを総ナメしてやるわ!」

 

 一人で散歩している時になんとなく寄ったゲームセンターでシューティングゲームに興ずるユニ。

 

 ユニの通っているゲームセンターのシューティングゲームのハイスコアはほぼ全て彼女のもので埋め尽くされている。最新機種のそのゲームのハイスコアも同じようにユニのスコアで埋め尽くされることになるだろう。

 

「あれ……?」

 

 しかし、プレイし終えたユニの表情は良くなかった。ユニのスコアは決して低くはなく、普通のプレイヤーよりも高いスコアを出せている。しかし、ユニは自分の実力を発揮できていないと感じていた。

 

(……まさか)

 

 ユニはここ数ヶ月の自分の戦闘を思い返す。雑魚モンスターはシールドビットのライフルモードを使いオートで蹴散らし、少し強力なモンスターにはリフレクターモードを使い障害物越しのアウトレンジから一方的に撃ち倒す、そんな戦い方ばかりしていた。

 

(あたし、ビットの使いすぎで射撃の腕がかなり落ちてる……⁉︎)

 

 そう、ユニはここ最近自分で狙って弾を撃っていない。そんな戦い方を数ヶ月も繰り返していたせいで、射撃の腕がかなり落ちてしまっていた。

 

「はぁ……射撃の腕が戻るまで、しばらくビットは封印ね……」

 

 そんな独り言を呟き、項垂れながらゲームセンターを後にするユニ。

 

 親友であるネプギアと共に開発したシールドビットはかなり高性能な武装だったが、その高性能さがかえって仇となってしまった。

 

(武装が強すぎるのも考えものってことなのね……)

 

 それから必死に鍛錬を積み、ビットの便利さの誘惑を跳ね除け、しっかりと射撃の腕を戻したユニであった。

 

 

 

 




 サバーニャのN特射に盾が出ません。助けてください。


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夢の中の戦い ( 天王星うずめ )

「おやすみうずめ」

「あぁ、おやすみ海男」

 

 うずめは同居人……ではなく同居魚に、眠りにつく前の挨拶を済ませ、自室のベッドに寝転がる。

 

「さて……」

 

 そのまま彼女は眠りにつく。

 

 そして彼女の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 夢の世界。『天王星うずめ』の意識の奥深く。

 

「また来たのかい? 懲りないな、【俺】」

 

 そこはうずめの心の中でありながら、うずめの意識とは別の領域。荒んだ心をイメージしたかのような廃墟、その瓦礫の山の上に腰掛けながら、うずめを見下ろすのはもう1人の天王星うずめ。

 

 彼女の名は『暗黒星くろめ』。かつて猛争事変を引き起こし、ゲイムギョウ界を滅ぼさんとした天王星うずめのもう一つの人格。その猛争事変の最終決戦に彼女たちは自分の存在を懸けて戦い、その勝者たるうずめの人格の方が主人格となった。しかし、くろめという人格が消滅したわけではなく、うずめの意識の底で眠り続けていた。

 

 そして、それから数年経った今、意識の奥に眠っていたくろめが再び目覚めていた。だが、うずめが夢の中でくろめに会うのは、くろめを抑えるためではない。それをくろめ自身も分かっている。瓦礫の山をゆっくりと下りながら、くろめが言う。

 

「いい加減諦めろよ【俺】。オレの意思は変わらない」

「俺の諦めが悪いことは【オレ】が一番わかってんだろ?」

「くだらない。さっさとオレを消せばいいものを」

「嫌だ。【オレ】も一緒に帰ろう、俺たちのゲイムギョウ界に」

 

 その理由は、くろめを説得するためであった。先程のくろめが言ったように、夢の中でこうやって二人が話すのは今日が初めてではない。くろめが目覚めてからほぼ毎日うずめはこうして説得をしていた。

 

「そんなものは【俺】の自己満足だ。オレは救われる気なんてない。どうしてもオレを救いたいって言うなら、今すぐこの身体を明け渡してオレの復讐を再開させてくれよ」

 

 歩み寄ろうとするうずめを突き放すようにくろめがそう言い放つ。

 

「じゃあ、俺に勝ったらこの身体を貸してやる。その時に復讐でも何でもすりゃあいい」

「……何?」

 

 うずめが発した予想外の一言に驚くくろめ。しかし、その言葉の裏にある真意を推測し、釘を刺すように言う。

 

「……言っておくが、オレが負けても【俺】の言う条件を呑むつもりはないからな」

「今は……それでいいさ」

「じゃあ、ルールを確認しようか。と言っても単純なものだが。今から【俺】が目覚める時間まで殴り合って、オレが勝ったらオレがその身体を貰う。【俺】が勝ったら特に無し……で良いんだよな?」

「ああ、いいぜ……っ!」

 

 そう言った瞬間、くろめの拳が、今さっきまでうずめの顔面があった場所に突き出された。

 

「……っと、危ねえ! いきなりかよ」

「いいと言っただろう」

 

 初撃は回避されたものの、先手を取ったくろめの猛攻が緩むことはない、うずめに攻撃の暇を与えさせないように打撃と蹴りを畳みかける。

 

「…………ちっ!」

 

 うずめは一旦反撃を諦め回避に専念する。繰り返される攻撃は全てが同じ威力というわけではない。威力の高いものもあれば、低いものもある。

 

(……ここだ!)

 

 うずめは直感で威力の低いものを見極め、それを敢えてくらうことにより、強引に隙を作り出す。所謂『カウンター』。

 

「くっ!」

 

 カウンターの打撃が炸裂し、その衝撃で後退るくろめ。しかし、その眼孔は怯むことなくうずめを捉えたままである。

 

(オレたちのメガホンによる超音波攻撃は、音に音をぶつければ互いの攻撃を容易く打ち消せるからオレたち同士の戦いだとやってもあまり意味がない。ならば……)

 

「出ろ」

 

 くろめがそう言って適当に腕を振るうと、その後ろにダークメガミが出現する。

 

「マジかよ……っ⁉︎」

「ここはオレたちの夢の中、なんでもアリだ」

「なるほどな……! なら!」

 

 うずめは一瞬驚いたものの、臆することなく思い切り腕を振りかぶる。

 

「おらぁっ!」

 

 そして、気合の掛け声共に突き出された拳によりダークメガミは一撃で粉砕される。

 

「なんでもアリはお互い様だ!」

 

 自身のイメージによってダークメガミを顕現したくろめに対しうずめはそれを一撃で打ち砕くイメージをした、ということだろう。

 

(……一撃か。こんな人形じゃ相手にもならないな。ダークオレンジになるプランも考えていたが、この戦いにおいてはそれをする意味はないだろうな)

 

 ここは夢の中、故に体力が減ることはない。勝敗を分けるのは精神力の差。そして、くろめの力の源は負の感情。

 

(そうだ……思い出せ!)

 

 くろめは力を貯めるために己の記憶から憎悪を引き出そうとする。

 

(オレの憎しみ……オレの……っ!)

 

 しかし、そんなくろめに心に溢れ出すものは…………

 

『この前……その……だ、ださいとか言ってごめんな! そのゲーム機、買うよ!』

『女神様ー! 一緒に遊ぼー!』

『お、女神様! 今日も頑張ってるね!』

『女神様!』 『女神様ー!』

 

 …………怨みではなく、自分を信じ、愛してくれていた者たちの記憶であった。

 

(何だこれは……っ⁉︎ オレは一体……? ……いや、違う! 違う……っ!)

 

 猛争事変の時の彼女がこんな記憶を思い出すことはなく、もしあったとしてもそれに対して何も思うことはなかった。それは彼女が憎しみだけのエネルギー体で、悪意しか感じ取ることができなかったからである。

 

 しかし、今の彼女はうずめと一つ。それにより以前はできなかった善意を感じ取ることができる。できてしまう。

 

 長い間悪意しか感じ取れなかったくろめの心に急激に流れ込んできた善意は、彼女を狼狽えさせた。

 

「違う、違う違う違う‼︎ こんな感情オレには存在しない! こんなもの、【俺】がオレに見せているまやかしだ‼︎」

「何が見えたかは知らないが、俺がそんなまどろっこしいことすると思うか?」

「なら、【俺】の感情がオレに流れ込んできているだけだ!」

「それはあり得るかもな。けど、結局お前が憎しみより先に思い出したのはそれなんだろ? お前はもう自分で言うほど世界を恨んじゃいないってことじゃねーのか?」

「黙れっ!」

 

 くろめは声を荒げ、再びうずめに殴りかかる。

 

 感情は時に大きな力を生む。『信仰』という感情から生まれるシェアエネルギーを力の源にする女神なら尚更。

 

(何故だっ!)

 

 しかし、感情が大きな力を生むことと、感情に身を任せることは別であり、感情に身を任せた攻撃は動きが単調になる。

 

(何故当たらない……!)

 

 今のくろめは後者。その単調な動き故にうずめには簡単に攻撃が捌かれてしまう。

 

「俺はな」

 

 攻撃を捌きながらうずめが語り出す。

 

「最初は【オレ】のことをなんでこんな奴が俺なんだ、消えちまえって思ってた。でも、お前がそうやってゲイムギョウ界を憎み続けてたから、その過程でお前が捨てた良心から俺が生まれたんだ。だからーー」

 

 うずめの言葉を聞いてもくろめが手を止めることはない。それでもうずめは話し続ける。

 

「ーー俺が今こうしてここにいるのは、お前のおかげなんだよ。俺がお前の歪な思いから生まれた副産物だったとしても、それは変わらないんだ」

 

 遂にうずめはくろめの攻撃を捌くことをやめた。

 

「やめろ! そんな目でオレを見るな!」

 

 最早くろめの攻撃に乗った感情は怒りや憎悪ではなく、自分を赦し共に生きるために歩み寄ろうとしてくるうずめに対する怯えだった。そして、夢の世界ではそんな感情から繰り出される攻撃はダメージにならない。

 

(なんなんだお前は……⁉︎)

 

 その瞬間、くろめにあるイメージが溢れ出す。まるで双子の姉妹のように過ごすうずめとくろめ、そんなうずめの妄想から生まれたイメージが。

 

(これは……⁉︎)

 

『なら、【俺】の感情がオレに流れ込んできているだけだ!』

 

 くろめは先程うずめに吐き捨てたその言葉を思い出す。

 

(【俺】の……感情……)

 

 うずめのくろめへの想いが夢の世界に溢れ出す。『一緒にゲイムギョウ界に帰る』。先程くろめはそれをうずめの自己満足だと吐き捨てた。そう、自己満足である。うずめの想いとは、くろめと対話するのは世界のためや平和のためではなく、かけがえのないもう一人の自分としてそばにいて欲しい、ただそれだけのことだった。

 

(【俺】はそこまでオレのことを……)

 

 だが、自己満足だからこそ、ただひたすら自分を肯定し、自分の存在を求めているからこそ、それがくろめの心を打った。そして、くろめは遂に攻撃の手を止めた。

 

「…………」

 

 うずめは腕を上げる。それを見たくろめは目を瞑り腕を構え防御の姿勢を取る。しかし、うずめがやったのは『攻撃』ではなく、くろめを抱きしめることだった。

 

「【オレ】の感じた憎しみを俺はもう否定しない。だからくろめも、ゲイムギョウ界を愛していたことを否定しないでよ….…」

 

 溢れ出す想いから素の喋り方に戻っていくうずめ。

 

「一緒に帰ろう……うずめたちのゲイムギョウ界に……!」

 

 くろめにはもう戦う意思はなかった。かつての憎悪ももうなかった。腕の力を抜き、うずめに体重をかけ、弱々しく呟く。

 

「【俺】が良くても、みんなが赦してくれるものか」

「赦してくれるよ、きっと、いや絶対に」

 

 夢の世界に段々と光が差していく。そろそろ目覚める時間だーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 数ヶ月後。珍しくうずめはクエストに出かけていた。

 

「とりゃあ!」

 

 クエストの討伐対象である鋼スライヌを追込み、拳を叩きつけるうずめであったが、鋼スライヌは耐久値が低い代わりに防御力と素早さが非常に高いモンスターであり、その素早さからうずめの攻撃をヒラリと躱しそのまま逃げていく。

 

「くっそぉ……! すばしっこいな……っ!」

 

 その時、うずめの脳内に声が響く。

 

(何やってるんだ、少し変われ『相棒』)

 

 うずめは小さく笑い、それに応える。

 

「……! あぁ、頼んだぜ『相棒』!」

 

 その言葉の直後、一瞬だけうずめの身体が脱力し、主人格の『うずめ』から副人格の『くろめ』へと意識が切り替わる。

 

「さて、さっきまでの【俺】とは思わないことだ」

 

 敵意や恐怖、そういった負の感情を読み取ることに長けているくろめは、鋼スライヌの回避先を予測し……

 

「ここか……っ!」

 

 ……数発フェイントを入れ、予測した場所に逃げた鋼スライヌを一撃で倒し、消滅させる。

 

「これで、クエスト完了だな。帰ろうか【俺】」

 

(さんきゅー! こういうちまちました感じの相手は好きじゃないんだよな)

 

「オレは好きだよ? 動きが読みやすくて楽だし」

 

(…………)

 

「どうした? いきなり黙り込んで」

 

(いや、【オレ】とこうやって仲良く過ごせるようになれて嬉しいなって)

 

「やめろよ照れ臭い」

 

(けど、結局俺のもう一つ願いはまだ叶ってないんだよなぁ……)

 

「もう一つの願い……?」

 

(お前と二人で、一緒にこの世界を歩くことだよ)

 

「……いつか……叶うといいな」

 

(絶対に、叶えてみせる)

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 



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ロムちゃんの悩みごと ( ロム ブラン )

 

 

 

 ロムは珍しく一人でクエストに来ていた。

 受注したクエストは『大量発生したスライヌの討伐』程度のもの。今のロムの実力ならば軽くこなせるだろう。なぜロムが一人でクエストに来ているのかというと、ある悩みを解消するためであった。

 

 その悩みとは、最近ラムと過ごす時間が少し減っていること。しかし、ラムの方はそれを気にする様子を見せないどころか、一人の時間を楽しむ様子すら見せているため、ロムはその悩みを言い出すことができずにいた。

 

 そこでロムは、自分も一人で色々なことをやるようになればその悩みが解消されるのではないかと思い、とりあえず一人でクエストに行くことから始めてみたわけである。

 

「……あと二匹……うん、クリアできそう……」

 

 変身していることもあってサクサクとスライヌ討伐は進んでいき、クエストももう終わりが見えてきていた。

 

「やあっ……! よし、これであと一匹……」

 

 流れるような動きでスライヌを倒し、最後のターゲットに狙いを定めたその瞬間……

 

\ グォオオオオッ!/

 

 ……突如物陰から出現した巨大な影が、最後のスライヌを踏み潰した。

 

「えっ……なに……?」

 

(あれは……エンシェントドラゴン……かな? いや、違う……それよりももっと大きくて強そう……!)

 

 そのモンスターとは見て『エンシェントドラゴン』よりも一回りも大きい体躯と硬く鋭い鱗に覆われたドラゴン系モンスター『八十禍津日神』。強力な種が多いドラゴン系のモンスターの中でも最強クラスのモンスターで、危険種を超えた特別危険種……を更に超えた接触禁止種に指定されている。

 

 危険種や特別危険種は守護女神が対応すれば問題はない。しかし接触禁止種は守護女神であっても苦戦するほどの相手と言われている。

 

(なんで……こんな強いのが……⁉︎)

 

 接触禁止種の厄介さは強さだけではない。生息地が特に定まっておらず、どこのダンジョンにも前触れなく出現する可能性があること。

 

 そして、もう一つはその精神性。八十禍津日神は理性なく暴れる獣ではない。その敵意は常にその場にいる強者へと向かう。八十禍津日神の眼孔はこの場の強者、つまり女神であるロムを捉えていた。

 

(どうしよう……向かってくるなら戦わなきゃ……!)

 

 ロムは八十禍津日神レベルの強いモンスターと戦ったことがないわけではない。女神候補生としてゲイムギョウ界の危機に立ち向かう際に、それ以上の強敵と戦うこともあった。しかし、その時には常に共に戦う仲間がいたが、今は彼女一人。

 

「……っ! 『アイスコフィン』……!」

 

 それでもなんとか恐怖を振り払い、氷魔法を繰り出して攻撃するも、八十禍津日神はほとんどダメージを受けている様子がない。

 

「そんな……!」

 

\ ガァァァアアッ!/

 

「っ……!」

 

 咆哮に怯んで動きが止まってしまったロムの身体を、振り回された尻尾が捉える。

 

「かは……っ!」

 

 肺の中の空気がほぼ全て吐き出され、声にならない悲鳴をあげ、衝撃により数メートル吹き飛ばされて木の幹に叩きつけられる。

 

「げほっ……げほっ……うぅ……」

 

(お姉ちゃん……ラムちゃん………………)

 

 薄れ行く意識の中、突如としてロムの中にある記憶が浮かびあがる。それは、自身の悩みを唯一打ち明けた相手、姉のブランと模擬戦をした時の記憶であった……

 

 

『……ん、私の勝ちな』

『負けちゃった……』

『珍しく私に一人で模擬戦を挑んできたと思ったら、戦闘中は心ここに在らずって感じだな。武器持ってんならともかく、素手の私に負けるって相当だぞ?』

『……お姉ちゃん、聞いて欲しいことがあるの……』

『言わなくてもわかるさ。ラムのことだろ?』

 

(……少し前まではロムとラムは私とミナ、そしてお互いのことしか見えてなかったが、最近は少しずつ外の広い世界を見るようになった。

 そして、ラムは好奇心旺盛な性格とそれが噛み合って、どんどん視野を広げて外の世界に駆け出して行ってる。自分の使う攻撃魔法のレパートリーを増やそうとベールの元にリーンボックス式の魔法を勉強しに行ったり、ネプギアと共に魔法と科学技術を組み合わせた新しい武器の製作をしているなんて話も聞くな。

 で、ロムはそんなラムに置いていかれてる気がして不安になっているけど、どうすればいいのかわからない。その答えを見つけるためにとりあえず私に挑んできたってところか。

 さて、どんな言葉をかけてやるべきか……全部私が答えを示してやるわけにもいかないしな。うーん、とりあえずは戦闘面のアドバイスからしとくか)

 

『なんつーか。ロム、お前戦うのがお上手になってんな』

『お上手……?』

『そう。上手じゃねえ、お上手だ』

『どういうこと……?』

『お前基本二人以上で戦うだろ? 他人と連携する技術は確実に上がっている。それは良いことだが、逆にそんな戦いばっかしてるせいでお前の可能性ってやつを狭めてんだよ。戦闘における自分の役割がこうだから、自分はこんな風に強くなれば良い……って感じで、自分を型にはめちまってんだ。自分の役割だけを淡々とこなすつまらない戦い方、それがお上手ってことだ』

 

(まぁ、これはロムだけの話じゃない。正直女神候補生の中でこれが1番顕著なのはネプギアだが、その点は(ネプテューヌ)が指導すべきことだから私には関係ない。それに、ネプギアの強さは正直私には測りきれないところがある。

 ユニは候補生の中で1番問題がない。常に(ノワール)の背中を追っていて、自分を型にはめるようなことはしない。その背中が遠すぎてたまに挫けそうになりながらも、それでも歩みを止めることはない。

 ラムはどっちかっていうと『他人に合わせる』いうより『他人が合わせろ』ってタイプだ。それは未熟さでもあるが、この件に関しては逆に好都合。

 でも、ロムは戦闘における自分の役割をしっかりとこなすうちに、自分を型にはめ出しちまって、戦闘で本気を出せなくなってきている。自分が失敗したらパーティが瓦解する……そう思ってるからだろうな)

 

『……お姉ちゃん……私、どうしたらいいかな? どうすればもっと強くなれるかな……?』

『簡単だ。本気を出せばいい。今のお前は出せてないんだよ』

『え……』

『余計なこと考えなくていいんだよ。自分の役割がどうとか、味方がどうとか、一旦そんな考え全部捨てて本気で暴れてみろ』

『本気で……暴れる……』

『あともう一つ』

『……?』

『ラムが頑張ってるのは、お前に置いていかれないためって言ってたな』

『私に?』

『おっと、これはロムには内緒って言われてたんだった。私が今言ったことはラムに内緒にしといてくれ』

 

 

 ……それはまるで走馬灯のようなもので、実際に意識を失っていた時間はほんの数秒。意識を失う前の八十禍津日神との距離はあまり縮まっていない。

 

(本気……私の……)

 

 ロムは記憶の中の姉の言葉を思い出し、氷面に映る自身の顔を見る。

 

(……違う。お姉ちゃんは……ルウィーの女神は敵と戦う時にこんな不安そうな顔なんてしない。もっとお姉ちゃんみたいに、ラムちゃんみたいにキリッとしなきゃ……!)

 

 身体を少し動かして、深く深呼吸をする。

 

「ぁ……ぁあああああーーーっ! よし……!」

 

 そして顔を上げ、普段のロムでは考えられないような気合の一声を入れ、八十禍津日神を睨みつける。その表情にはもう怯えも竦みもない。

 

(やってみせる……! 私がこのモンスターを……倒す!)

 

\ ……ォ、グォオオオオッ! /

 

 それに気圧され怯む八十禍津日神だが、すぐに雄叫びをあげ、ロムに襲いかかる。

 

(……よく見れば避けれる……うん、大丈夫)

 

 だが、その攻撃がロムを捉えることはない。冷静に的確に、降りかかる八十禍津日神の爪を見極め回避する。避けれなさそうなものは魔法の氷壁で防御する。

 

(……何でだろう? もう何も怖くない)

 

 先程ロムの魔法が弾かれてしまったのは、魔力が足りないからではない。魔力があっても、それを放つ魔術が拙ければ大した威力にはならない。そしてそれをロムは今この瞬間なんとなく感覚で理解した。

 

(闇雲に魔力をぶつけるだけじゃ、弱いモンスターなら倒せても、強いモンスターには通用しない……もっと工夫しなきゃ)

 

 それを理解した瞬間、ロムの氷魔法の質が変化していく。ただぶつけるんじゃなくて、凍らせて砕く。尖らせて刺す……そうやって少しずつだが確実にロムの魔法が洗練されていく。

 

「……もっと強く、もっと自由に……!」

 

 守護女神は最初からそれ相応の強さを持ちながら生まれてくる。だから人のように身体が大きく成長し身体能力が上がることはない。

 

(私の魔法で相手を倒すイメージ……)

 

 だからこそ、『気持ちの切り替え』……そんな些細なきっかけで女神の強さは大きく変わる。姿形は変わらずとも、ロムはもう数刻前とは別次元の強さを手にしていた。

 

\ ーーーーーーッ! /

 

 接触禁止種としての意地を見せるかのような八十禍津日神の鋭い爪の一撃がロムの肩を捉え、その傷口から鮮血が飛ぶ。

 

「……」

 

 しかし、ロムは怯むことなく、左手で練った魔力で回復魔法を使い傷を癒やし、右手で練った魔力をそのまま八十禍津日神に叩きつける。

 

「『アイスコフィン』!」

 

 先程はダメージにならなかったアイスコフィンだったが、洗練された魔法で再び放ったそれは先程とは比べ物にならない威力を出し、八十禍津日神を吹き飛ばす。

 

(そっか。最初から悩む必要なんてなかった。ラムちゃんが広い世界に先に進んでしまっても、ラムちゃんの進んだ道を辿って、私も後から広い世界に行けばいい。ラムちゃんはきっと待っていてくれる)

 

 心の曇りが晴れていく。それに反応するように、ロムの中の魔力とシェアエネルギーが高まっていく。

 

(それに、外の世界とか、そんなことは私にはまだよくわからない。なら私はただ強くなればいい。女神ホワイトハート(お姉ちゃん)の妹として、そしてラムちゃんの双子の姉として。広い世界に駆け出して行ったラムちゃんのいつでも『帰れる場所』として……!)

 

 そして笑う。普段の悪戯っ子のような無邪気さとブランのような荒々しさを混ぜたような笑みで。

 

(……強いモンスターさん。あなたに会えて良かったかも。あなたのおかげで大事なことに気づけたから。けど、そろそろ終わりにしなくちゃね……)

 

「『エンドレスコキュートス』……!」

 

 吹き飛ばした相手にロムは自身の最強必殺技『エンドレスコキュートス』を叩き込む。それでも仕留めきれていないが、それを見て狼狽えるようなことはない。 

 

(耐えるんだ……じゃあ)

 

 相手が倒れないなら倒れるまで攻撃すればいい、ただそれだけのこと。ロムが魔氷で創り出したのは、巨大な銃型のコントローラー。それは、ブランの最強必殺技『ブラスターコントローラー』を真似たもの。

 

「えへへ……お姉ちゃんのまね」

 

 可愛い台詞ともに、可愛くない悍ましい量の魔力が蓄えられていく。

 

\ オオオオオオオオッ! /

 

 そうはさせまいと、立ち上がった八十禍津日神の咆哮と共に竜系モンスター最強の技『ドラゴニックレイズ』の閃光がロムを貫く。

 

「それ……ニセモノだよ」

 

 しかし、その真逆の方向からロムの声が響く。ドラゴニックレイズによって貫かれたロムは、氷の鏡により映し出されていたものに過ぎない。

 

「これで……終わり……っ!」

 

 充分に魔力がチャージされた一撃、その閃光が八十禍津日神を呑み込む。そして、八十禍津日神は次第に青い光となって消滅していく。

 

 決着、女神ホワイトシスターロムの勝利である。

 

「ふーーっ……」

 

 エネルギーを使い果たしたロムは変身を解き、そのまま氷原に倒れ込む。

 

「つかれた……今ごろラムちゃん何してるかな……?」

 

 そして、最愛の双子の妹のことを思いながら、眠りに落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「接触禁止種の出現反応! しかも、そこはロムがクエストに向かったダンジョンじゃねえか! くそっ!」

 

 いつにも無く焦った表情をしながら、凄まじいスピードで空を駆けるブラン。

 

(無事でいてくれ、ロム……っ!)

 

 現場に到着し、探し回ること数分。ブランはダンジョンの真ん中で眠りこけるロムを発見した。

 

「ロム! ……ん?」

 

(気絶……ってよりはただ寝てる感じだな。それに、ロムの近くに転がってたこのアイテム……)

 

 モンスターは撃破されると消滅するが、稀にアイテムをドロップする。どうやら八十禍津日神は倒された際に珠のような素材アイテムをドロップしたようであった。

 

(この珠……例の接触禁止種が倒された時に落とすやつじゃねえか? この戦闘の痕にこれが落ちてて、ここにロムが寝てるってことは…………ははっ!)

 

 ブランは寝ているロムを起こさないようにゆっくりと抱き上げる。

 

「……一人でやっちまったのか。大したやつだよお前は。私の自慢の妹だ」

 

 ロムの頭を優しく撫でながらも、少しバツの悪そうな表情をするブラン。

 

「あーあー、これじゃあまたラムが焦っちまうな」

 

 そんな独り言を呟きながら、少し前にしたラムとの会話を思い出す。

 

 

『ねえ、ラム』

『どうしたの、お姉ちゃん?』

『最近ロムと二人でいる時間が減っているようじゃない。ロムが寂しがってたわ』

『えー! ロムちゃんを寂しがらせるつもりはなかったんだけど、困ったなぁ』

『何か理由があるの?』

『わたしよりロムちゃんの方が魔法が上手いでしょ? ロムちゃんと同じことをしてたらいつまでもロムちゃんより強くなれなくて置いていかれちゃうから、ひみつの特訓をしてるの!』

『……そう』

『あ、これロムちゃんに内緒ね! あ! そろそろネプギアとの待ち合わせの時間だわ! じゃあ、行ってくるね、お姉ちゃん!』

『ええ、いってらっしゃい』

 

 

 ブランは、自分の知らぬ間にも成長していく妹たちを想い小さく笑うのだった。

 

「……頑張れよ、二人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ちょっとロムのキャラがズレてたかもしれません。


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秘密の特訓 ( ユニ ネプテューヌ )

 ネプユニの時間だゴラァ‼︎
 三人称視点ですが、最初の独白だけはユニ視点の一人称です。



 最近あまり調子が良くない。

 

 お姉ちゃんやネプギアとの模擬戦で負け込んでいる。お姉ちゃんには元から全然勝てないから置いといて、ネプギアにも連戦連敗で試合内容も酷い。そして負けて悩んで更に負けるの悪循環。

 

 こうなるとあたし一人だけで考えていてもダメそうだから、誰かに相談してみよう。うーん……ネプギアの戦い方を良く知ってて、お姉ちゃんの戦い方も良く知ってるような人いないかしら? うーん、まぁそんな都合のいい人いるわけ……

 

 …………

 

 ……あ、いた!

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほどなるほど。ゲイムギョウ界最強の守護女神たるこのネプ子さんに教えを乞うとは、ユニちゃんお目が高いね!」

 

 プラネテューヌ教会、女神の部屋。ユニは該当の人物であるネプテューヌの元に来ていた。

 

「え⁉︎ ネプテューヌさんって最強なんですか⁉︎」

「ツッコミを入れられると思ったのに普通に驚かれちゃったよ……マジレスすると、多分みんな自分が一番強いと思ってるんじゃないかな」

 

 自分の言葉を真剣に聞き入れるユニを見て、ノワールに対して行うようなボケをユニにやってもあまり意味はない、そう学んだネプテューヌだった。

 

「で、話を戻すけどさー」

 

 どうやらおふざけモードを終了した様子のネプテューヌは少し真面目な表情に切り替え、ユニに問いかける。

 

「ユニちゃん、目的と手段が逆になってない? ユニちゃんが強くなりたいのってノワールとかネプギアを超えるためじゃなくて、理想の女神として相応しい強さを手にするためとかでしょ?」

「それはわかってます……けど、最近ネプギアにボコボコにされっぱなしでなんかムカつくから、ネプギアをけちょんけちょんにしてやりたいんです!」

「それネプギアの姉であるわたしに言っちゃうんだ……あ、でもユニちゃんのそういうとこ好きだよ」

「あ、はい……なんかごめんなさい。つい熱くなっちゃって……」

「いやいや、ネプギアもそんぐらい強気になってほしいんだよねー……よし! それじゃあ、ネプ子さんがユニちゃんを鍛えてあげよう!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 かくして、国の違う女神と女神候補生の秘密の特訓が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わってバーチャフォレスト。特訓をするにはプラネテューヌの訓練所かコロシアムの方が好ましいのだが、『秘密の特訓』ということで、二人はあえて人目のつかないダンジョンに来ていた。

 

 そして、お互い適当に準備運動で身体を慣らした後、変身して模擬戦を始めたのだが、二人の力量の差……というよりも、ユニの調子の悪さから一瞬で勝負がついてしまった。

 

「……なるほど、これじゃネプギアに勝てないわけだわ」

 

 変身したネプテューヌ-パープルハートが模擬戦用の刀をユニ-ブラックシスターの首元に突きつけながら言う。

 

「これでもかなり手加減した方なんだけど、負けが続いて調子が落ちてるのは本当みたいね。あまりにも動きが消極的すぎる」

 

 刀を下ろし、話を続ける。

 

「まずは調子を戻すところからね。ネプギア対策はその後にしましょう」

「ネプテューヌさん……あたし……」

「大丈夫よ、ユニちゃんは弱くなんてないわ。ただちょっと勝ち方を忘れてしまってるだけよ」

 

 そう言って、不安そうに俯くユニの頭を優しく撫でる。

 

「ダンジョンに来たのはもう一つ理由があってね。あそこ」

 

 そして、ダンジョンの奥にいるモンスターに指を差す。そこにいるのはスライヌの群れ。ユニならば片手どころか指だけで倒せる程度のモンスターである。

 

「最初はあのレベルから倒していって、それからどんどん強いモンスターに挑んでいって、少しずつ勝ち方を思い出していくのよ。そうね、あそこにいるのはユニちゃんなら寝てても勝てるような相手だけど、手を抜かずに真剣に戦うこと。いいわね?」

「はい!」

 

 元気の良い返事とともにモンスターに向かっていくユニの背中に小さく手を振るネプテューヌ。

 

(少し……面倒見すぎかしら? でも、他の国の子に教えてあげるのは私にとっても良い経験になるし、ユニちゃんが強くなればなるほどネプギアも気合を入れるだろうし、たまにはこういうのも良いわよね)

 

 こうして最初の特訓はモンスター狩りで終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一週間後、二回目の特訓。一回目の特訓からネプテューヌのアドバイス通りにモンスター狩りの自主練を欠かさずに行っていたユニは、すっかり調子を取り戻していた。

 

 今日の特訓メニューは、寄られた時の相手の攻撃の捌き方。ガンナーであるユニが距離を詰められてしまうという不利な状況に置かれた場合にどう立ち回るかの訓練である。今回は変身をせず、模擬戦用の刀を振り合っている。

 

「うんうん。この前とは全然違うね、ユニちゃん!」

「……っ! ……!」

 

 談笑する余裕のあるネプテューヌに比べて、ユニはそれについて行くのに精一杯の様子であった。ネプテューヌは手を止めずに話し続ける。

 

「ネプギアは真面目なんだよね。それは長所だけど短所でもあるんだよ」

「短所……?」

「例えば、上半身に意識を向けてる時に足払いとかするとめっちゃ効くよ。ユニちゃん足技得意だから割とアリだと思う」

「……こんな感じですか?」

 

 姿勢を低くし、足払いをするユニ。

 

「おっと!」

 

 ネプテューヌはそれに反応し、飛び上がって回避する。

 

(跳んだ……っ! けど!)

 

 今のネプテューヌは変身をしていないため飛行ができない。一度跳び上がってしまうと、空中での移動は不可能となり、更に着地という隙を晒すことになる。ユニはその隙を狙い澄ましていた。

 

「とりゃあっ!」

 

 ……しかし、それを読んでいたネプテューヌは、落下の勢いを攻撃に乗せて斬りかかる。

 

「……きゃっ!」

 

 ユニは迎撃しようとするも、その力強い斬撃に押し負けて、尻餅をついてしまった。

 

「中々良い足払いだったけど、ネプギアに通用する技でもわたしには通用しないんだなーこれが」

 

 ネプテューヌはそう言って座り込んだユニに手を差し伸べ、手を取ったユニを引っ張って立ち上がらせる。

 

「だいぶ動けるようになってきたね。今のユニちゃんなら、ネプギア相手にもうボコボコに負けることはないと思うよ。でもノワール相手は厳しいかなぁ。ノワールも真面目なところはネプギアと似てるんだけど、今みたいな行動に全部対応できちゃうから」

「そうですよね……」

「ノワールはわたしがアドバイスしたぐらいで勝てるようになる相手じゃないからねー。こればっかりは頑張れとしか言えないかなー」

「……」

「でも、ユニちゃんがユニちゃんの力を充分発揮できれば勝てない相手じゃないと思う。ゲイムギョウ界最強の守護女神たるこのネプ子さんが保証するよ」

「それ、みんながみんな自分のことを最強だと思ってるだけって前言ってましたよね?」

「あはは、覚えてたか」

 

 ネプテューヌは、ジト目になってツッコミを入れてきたユニから、自分への接し方から緊張が消えてきていることを実感し、少し喜んでいた。

 

「よし、じゃあもう一回模擬戦やって今日は終わりにしよっか。今度は本気でいくよ! ユニちゃん!」

「はい! ネプテューヌさん!」

 

 そう言って両者は距離を取り、シェアクリスタルを顕現させ……

 

「刮目せよ!」

「アクセス!」

 

 ……掛け声と共に女神化する。

 

「行きますよ!」

「ええ、特訓の成果、見せてちょうだい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから更に数週間後、プラネテューヌ教会女神の部屋にて、わかりやすく落ち込んでいる様子のネプギア。

 

「はぅぅ……」

「どうしたのネプギア? 最近元気ないね」

「最近ユニちゃんに全然勝てなくて……昨日も負けちゃったんだ……」

 

 どうやらネプテューヌの指導は、ユニがネプギアとの模擬戦で連戦連勝するほどの効果があったようだった。

 

「そ、そうなんだ……」

 

 ネプテューヌは実質自分のせいで愛する妹が落ち込んでいることから、気まずそうに苦笑いする。

 

「ううん、しょぼくれてる暇なんてない! ユニちゃんに勝てるようにもっと鍛えなきゃ! お姉ちゃん、ちょっと訓練に付き合って!」

 

 ネプギアはその真面目さからすぐに気持ちを切り替える。ネプテューヌは、そんな妹の頼みを快く受け入れる。

 

「いいよー!」

「じゃあ早速やろうお姉ちゃん! はやくはやく!」

「わかったから、そんなに急がなくてもお姉ちゃんは逃げないよ」

 

 気合が入っているからか、ネプテューヌよりも早歩きで訓練場に向かうネプギア。

 

(……まぁ、多分ネプギアならすぐにユニちゃんに追いつくでしょ。なんたってこのわたしの妹だもんね。今はわたしの方が強いけど、いつか超えられちゃうかもなぁ。それにしても……)

 

 そんな妹の背中を見て、後輩たちの成長に期待を寄せながら、

 

(……やっぱりわたしは、指導者としての才能もあるんだなぁ。ふっふっふ……)

 

 ちゃんと自画自賛も忘れない、そんな『ゲイムギョウ界最強の女神』のネプテューヌだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 頼れる先輩やってるネプ子さんが書きたかったのです。
 あとネプユニを推してください。



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復活のX! ( アフィモウジャス ステマックス )

 


 『秘密結社アフィ魔X』。かつて、猛争事変を引き起こし、世界を猛争の渦に陥れた文字通り悪の秘密結社。猛争事変が終わった現在は、改心したアフィモウジャスとステマックスの計二名で、同人サークルをやりながら『@将軍のまとめサイト』を運営している。しかし、秘密結社時代の情報網は健在で、ギリギリ法に反しない範囲での情報収集による金儲けを続けていた。

 

 そんな秘密結社の事務所で、今日も情報収集という名の金儲けに勤しむアフィモウジャスとステマックス。

 

「うーむ……」

「将軍、どうしたでござるか?」

「ステマックスよ。この間、ネプテューヌシリーズ10周年記念のねぷぐるみの予約が開始されたじゃろう? ワシは金髪巨乳道を征く者としてリーンボックスの女神のものを注文しようと思っているのだが、何個注文するか悩んでおっての。お主はラステイションの女神候補生のぬいぐるみを何個予約した? 参考程度に教えてくれんか?」

「えっ、えーと、二つほど……」

「ほぅ。二つか……ならばワシはお主の二倍の四つといこうかの」

「四つも……流石は将軍!」

 

 そんな趣味の話をしていると、急にアフィモウジャスの表情が真剣なものに変わる。

 

「さて、話を変えるぞステマックス。このデータを見るがいい」

「これは……?」

 

 アフィモウジャスのパソコンのモニターに映し出されたのは、ロボット兵器や武器などの流通データ。情報収集の素人が見るとバラバラな流通ルートに見えるが、アフィモウジャスはそれらが一箇所に集められていることを見抜いていた。

 

「将軍、やはり……」

「あぁ。何者かが兵器や武器を一箇所に集めてあるのじゃろうな」 

「教会に報告すべきでは……?」

「いや、やめておけ」

「何故でござるか?」

「ワシらの情報網でようやく疑惑へと変わったほどのデータだ。それだけこの連中は相当念入りに計画をしていると思われる。それに、これを見ろ」

「これは……暗号、でござるか?」

「ラステイションで使われた毒ガス搭載型の兵器をお主も知っておるじゃろう? その隠語じゃろうな」

「ユニ殿を苦しめた……忌々しきあの毒ガスでござるか……!」

「流石に女神とはいえ、アレを浴びたら無事では済まん。ワシらは鋼タイプだから毒は効かんけどな」

「ならば、拙者たちだけで処理する、と?」

「あぁ。敵の組織が大きくなる前にワシらで仕留める。それに、女神や教会の転落を目論む組織が活性化したのは、以前ワシのせいで起きた世界改変のせいだ。これはワシなりの贖罪……じゃな」

 

 アフィモウジャスは猛争事変で女神たちに敗れ、改心している。しかし、改心したからこそ、自分が引き起こした世界改変による混乱の罪の意識に苛まれていた。

 

「しかし将軍! それは暗黒星くろめに操られていたからでは……!」

「だとしても、当時のワシが己の欲に囚われ、混沌の世界を望んでいたことも事実なのだ」

「将軍……」

「ステマックスよ。貴様にももう少し情報収集を手伝ってもらいたい」

「勿論でござるよ!」

「情報を更に集め、兵器を集めている組織の場所を特定する。そして、特定次第、ワシが単独で其奴らを討ち取りに行く」

「……一人で行くつもりでござるか?」

「あぁ。先ほども言ったようにこれはワシの贖罪、お主が付き合う必要は……」

「何を今更そんなことを言っているのでござるか! 将軍と拙者は運命共同体! 将軍を独りで行かせるわけには行きませぬ!」

「ステマックス…………すまぬ」

「そこは、謝るところではないでござるよ」

「そうだな。ありがとう、我が友よ」

 

 

 

 

 

 

 

 それから二人は更に情報収集に勤しみ、遂に兵器が集められている場所を特定した。彼らが向かったのは、プラネテューヌとラステイションの国境沿いにある廃工場だった。

 

「如何にも……な場所でござるな」

「そうじゃな。国境沿いとなると、国同士の管轄が曖昧になりやすい。その手の組織が兵器を隠すのにうってつけの場所だ。さて、ワシは正面から突入する。お主は裏から回りこめ」

「了解でござる」

 

 そう言ってステマックスは自慢のステルス機能で闇夜に消える。

 

「さて……頼もう!」

 

 アフィモウジャスが正面から入ると、さっそく構成員の男に見つかった。

 

「誰だ!」

「ワシの名はアフィモウジャス。お主らのような組織なら、ワシの名は知っているだろう?」

 

 その名前を聞いた構成員の男の表情は喜びと期待がこもったものに変わっていった。

 

「おぉ! あなたがあの有名な秘密結社アフィ魔Xの……! なら、我々の国家転覆計画に手を貸してくださるのですね!」

「何……?」

 

 どうやら構成員の男は、アフィモウジャスが自分たちの味方としてこの廃工場に来たと勘違いしたらしい。話を聞くと、組織の構成員は犯罪組織、反女神派の市民団体、革命家や傭兵集団など、あらゆる女神や教会の敵対組織の残党の集まりとのこと。

 

「おいみんな! 心強い味方が来てくれたぞ!」

 

 組織の構成員たちは、アフィモウジャスを廃工場の奥に快く迎え入れる。

 

(勘違いしてくれたお陰で楽に奥まで進むことができたな。忌々しい過去の悪名は、こんなところで役に立つのか……)

 

 アフィモウジャスが廃工場の奥に来ると、ずらりと並ぶロボット兵器型のモンスターたちが目に入った。

 

(此奴ら、これほどの兵器を……思っていたよりも戦力が高いようじゃな……だが)

 

「……この程度で女神を倒せると思っておるのか?」

「ふふふ、ご安心を」

 

 組織の構成員の男が、得意げな顔をして指を刺す。

 

「これは、かつてラステイションで使用された対女神兵器『〆タルギア』! この兵器に内蔵された毒ガスは、女神すらも死に至らしめるほどのものなのです!」

 

(……やはり毒ガス兵器か)

 

「これがあれば、女神など……っ!」

「そうか、ならば……」

 

 アフィモウジャスは〆タルギアに近づき……

 

「……こんなものを残しておくわけにはいかんな」

 

 ……そう言って、〆タルギアを叩き壊した。

 

「なっ! 何のつもりですか! アフィモウジャスさん! ……まさか、お前、最初からそのつもりで!」

「その通りじゃ。お主らよ、こんなことはやめるのだ」

「正義の味方ヅラして、説教のつもりか! お前だって同じ穴の狢だろ! 一度はゲイムギョウ界を転覆させた悪の秘密結社のくせに!」

「そうじゃな。ワシにはお主らを説教するような資格などない。だがそれでも、お主らの蛮行を許すわけにはいかんのだ!」

「くそっ! 偉そうに……っ! 野郎共、やっちまえ!」

 

 構成員の男一人が声を上げると、廃工場の奥からぞろぞろと構成員が出てきた。武器を手に取る者、ロボット兵器に乗り込む者など様々、アフィモウジャスに襲いかかる。

 

「ふん、舐めるなよ小童共。負けはしたものの、ワシは正面から女神たちと戦ったあのアフィモウジャスじゃぞ! かかってくるが良い!」

 

 敵兵たちはアフィモウジャスを取り囲むように、散開する。しかし、背後から攻撃しようとした敵兵に、上空から手裏剣が突き刺さった。

 

「……思ったより早く敵の中枢まで侵攻していたでござるな、将軍」

「此奴らが変な勘違いをしてくれたおかげでの」

「勘違い……でござるか?」

「あぁ、どうやらワシを味方だと思ったようじゃ」

「成程」

「さて。背中は任せるぞ、ステマックスよ」

「了解でござる! 昔を思い出しますね」

「あぁ、ワシとお主で小遣い稼ぎと鍛錬を兼ねてクエストに行っていた若い頃の日々をの!」

「若い頃って、拙者たちまだそんなに年寄りじゃじゃないでござるよ!」

「それもそうじゃな!」

 

 そんな軽口を叩き合い、背中合わせになり、アフィモウジャスがその巨体を生かしたパワフルな大剣の大振りでロボット兵器を叩き斬り、ステマックスは小回りの効いた攻撃で的確に歩兵たちを倒していく。アフィモウジャスもステマックスも、かつて女神たちを相手取ったほどのゲイムギョウ界の猛者である。故に、雑兵程度に遅れは取らず、あっという間に敵兵の数を減らしていく。

 

「……やはり、雑兵どもではこれが限界か。ならば、ガダンム発進‼︎」

 

 すると、敵組織のトップらしい男が起動兵器『ガダンム』に乗り、その姿を見せた。

 

「ふん、ガダンムか。強力なロボ型モンスターではあるが、ワシらの敵ではないぞ!」

 

『ただのガダンムではないことを教えてやろう! くらえ!』

 

 男の声がガダンムの外部スピーカーから鳴り響き、腕のキャノン砲から大出力の照射ビームが発射される。

 

「将軍!」

「案ずるな! ワシの後ろに立て!」

 

 アフィモウジャスはマントを盾にしてビームを防ぐ。このマント盾こそ、新次元ゲイムネプテューヌVⅡでプレイヤーを苦しめた属性攻撃でしかダメージが通らないクソ盾。ネクストフォーム覚醒後の初戦闘にも関わらず、ネクストパープルがアフィモウジャスにダメージを殆ど与えられないという空気読め案件になってしまったものである。

 

 ビームを防ぎ切ったアフィモウジャスとステマックスは両サイドからガダンムに近接攻撃を仕掛ける。

 

『このガダンム……みくびってもらっては困る……!』

 

 ガダンムはビームサーベルを抜いて応戦し、アフィモウジャスの大剣と鍔迫り合いとなる。

 

(くぅ……っ! パワーはワシ以上! そして小回りも効くようじゃ! 無策で突っ込んでも逆に此方がやられるな!)

 

「将軍……援護を!」

 

 横からステマックスが手裏剣で茶々を入れ隙をつくり、アフィモウジャスが鍔迫り合いを弾き飛ばし、両者の距離が少し離れる。

 

『距離を取ったつもりか! 無駄だ!』

 

 距離が離れたところで、再度ガダンムが腕のキャノン砲にエネルギーを充填する。

 

「ビームはワシには通じんぞ!」

『それはどうかな? このガダンムには「AG3システム」が積んであるのだ!』

「何……! 『AG3システム』じゃと⁉︎」

 

 『AG3システム』とは、高ランクのロボ型モンスターを倒すとドロップするレアアイテム。「生物の進化の法則を数値化したデータ」に「自己成長」の発想を追加したシステムで、敵との戦闘データを常に収集・蓄積することで、新装備の設計図をシステム自体が作り上げる、というもの。そして、その設計図を元に機体に装備されている『AG3ビルダー』が素材となるインゴットから、即座に武装を整形し、ガダンムを進化させていくのである。

 

 つまり、先程のビーム砲ではアフィモウジャスの盾に防がれることをガダンムのシステムが学習し、即席で新たなビーム砲を形成したのである。そう、アフィモウジャスの盾に通じる、魔力を含んだ属性攻撃のビーム砲を。

 

『その厄介な盾も、既にこのガダンムには無意味だ!』

 

 アフィモウジャスにガダンムの属性ビーム砲が直撃し、盾が破損する。

 

「ぬぅぉぉぉっ!」

「将軍!」

『よそ見をしている場合か!』

 

 アフィモウジャスのダメージに気を取られたステマックスを、高速で回り込んできたガダンムがビームサーベルで斬り伏せる。

 

「ぐぁぁっ!」

 

 それだけでなく、止まることはないガダンムの猛攻によるダメージが重なり、アフィモウジャスとステマックスはついに膝をつく。

 

『ふははははっ! 素晴らしい! この強さ! そしてこのAG3システムによる成長性! 対女神用毒ガスを再生産し内蔵すれば、女神どもに勝つことだって夢ではない……! そうだ、この機体こそ、女神による統治の時代に終止符を打ち、新たに人類を導くガダンムだ!』

 

「……ワシの見通しが甘かったようじゃな。思っていた以上に此奴らの戦力が高い。ならば、お主だけでも逃げろステマックス!」

「将軍はどうするつもりでござるか⁉︎」

「そうじゃの……ベール殿に伝えておいてくれ。ワシは勇敢に戦い抜いた、と」

「……嫌でござる! 拙者たちは一心同体! 将軍が死ぬ時が拙者の死ぬ時でござる!」

「ぬぅ……ならば、ワシとお主で思い切り自爆でもすれば、奴ごと巻き込めるかもしれんな……」

「それ、良いでござるね……! ……さよならは言いませぬぞ、将軍!」

 

 

 

「ダメダメ! 死んで何かを成し遂げようなんて、そんなのダメだよ!」

 

 

 

「その声……! お主は……っ!」

「ネプテューヌ殿⁉︎」

「次元を股にかける昆虫ハンター、ネプテューヌ参上!」

「何故……お主がここに……?」 

「いやぁ、わたしとしてはただの夜のお散歩をしてただけだったんだけどね〜。クロちゃんが面白いことが起こってる予感がするって言うから、その方向に来てみたらあら大変、ってわけだよ! さてと、一時は同じ秘密結社に身を寄せた仲! 助太刀するよ!」

「すまぬ……助かる!」

「はいこれ、わたし特製のネプビタンVⅡだよ! これ飲んで回復して」

「すごい見た目の飲み物でござるな……」

「不味い……が、回復アイテムとしての性能は高いな! さて、体力も回復したところで、もうひと頑張りと行くかのう!」

「オーケー! 秘密結社アフィ魔X、三人だけだけど、今夜限定の復活だね!」

 

『数が増えようが無駄だ! いきなり現れた女諸共、このガダンムで消しとばしてやる!』

 

「回復したは良いものの……奴はワシらの戦いを学習し、何処までも強くなっていく。そんな相手にどう戦う……?」

「そんなの簡単だよ! わたしたちの最大火力の必殺技を叩き込んで、学習させる間もなく倒す!」

「成程、短期決戦でござるな! ならば、拙者が先陣を切る!」

 

 ステマックスは目にも止まらぬスピードでガダンムの周りを走り回り……

 

(拙者には将軍ほどのパワーはない……ならば!)

 

「『ステルス流必殺忍法』! はぁぁっ‼︎」

 

 ……その最中に見つけたガダンムの装甲の隙間、フレームの部分を正確に削っていく。

 

「やるねー、忍者! ならわたしも……『ネプニカルコンビネーション』!」

 

 ネプテューヌは、ガダンムの背後から剣舞と銃撃を混ぜた必殺乱舞を叩き込み、ガダンムの背部のバーニアを破壊する。

 

「トドメ、任せたよー! 将軍!」

「承知した!」

 

 フレームを砕かれ、バーニアを破壊され、無防備な姿を晒すガダンム。

 

『機体が動かん! AG3システムの進化が間に合わんというのか……っ!』

「終わりじゃのう……!」

『……馬鹿な! この私とガダンムが、女神でもない奴らを相手に敗れるだとぉおおおっ⁉︎』

「その通りじゃ! くらうが良い! 我が一撃『成・金・斬』‼︎」

 

 アフィモウジャスの必殺の一閃と、そこから拡散する衝撃波をまともにくらい、遂にガダンムは崩れ落ちた。

 

「……先程も言ったが、ワシにお主らに対して正義を説く資格などはない。だが、女神たちが創り上げた平和を守るために、ワシらもワシらの為すべきことを為す。それだけじゃ」

「やったね! 秘密結社アフィ魔X、大勝利!」

「助かったでござる、ネプテューヌ殿」

「お礼はクロちゃんに言ってよ。クロちゃんが気づいたからわたしはここに来たんだし」

『俺は面白えことが起こりそうっつー気配に釣られただけだよ。それなのにお前らが台無しにしちまってよ。あーあ、つまんねーの!』

「もう、クロちゃんったら! そんなこと言っちゃダメなんだからね! 平和が一番、だよ!」

「平和が一番……か。そうじゃな」

 

 こうして、かつては世界を混沌の渦に陥れた秘密結社の手により、今度は世界の平和が守られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 その戦いから数日後、指導者を失った組織は瓦解し、残党も全て捕まったと報道された。しかし、指導者とガダンムを成敗したのが誰であるかを知る者は当事者である三人以外にいない。

 

「将軍、良かったんでござるか? この事件を解決したのが拙者たちだと名乗り出なくて……」

「良い。ワシらは正義の味方ではない。例えるなら義賊じゃ。お主も以前名乗っておったろう? 確か……『義賊のジロ吉』、じゃったか?」

「なっ……! それは、忘れて欲しいでござる!」

「ぐわっはっはっは! ……そうじゃ! ワシは決めたぞ!」

「何を、でござるか?」

「サークル活動や情報収集をしつつ、このゲイムギョウ界に渦巻く悪意を監視し続ける。それがワシらの……秘密結社アフィ魔Xの新たな使命! どうじゃ?」

「……どこかの人工知能搭載人型ロボの四人組みたいでござるね」

「ワシも自分で言っててそう思った」

「けど……良いと思うでござるよ! どこまでもお供します、将軍!」

「ふっ、任せたぞ。我が忠臣、そして我が友、ステマックスよ!」

 

 新たな志を胸に、秘密結社は今日も活動するのだった。

 

 

 

 

 




 
 書いてる途中で四回ぐらい「何で俺こいつらのss書いてるんだろう……」ってなってました。


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『ひとりでひとつ』へ ( ラム ブラン )


 『ロムちゃんの悩みごと』よりも前の時系列で、VとVⅡの間らへんの話になります。



 

「うーん……」

 

 ラムは焦っていた。

 

 始まりは数日前、ロムとクエストに行った時のこと。ボスモンスターであるビックスライヌを、ロムとラム二人の魔法攻撃でハメ殺していた際、ラムは『あること』に気づいてしまった。

 

(ロムちゃんの『アイスコフィン』。わたしとおんなじぐらいのダメージだったよね……?)

 

 双子とはいえ、若干のステータスの差異はあり、MEN(魔法防御)はロムの方が高く、INT(魔法攻撃)はラムの方が高い。同じ『アイスコフィン』なら、INTが高いラムの方が威力は高いはずである。

 しかし、ラムよりもINTが劣っているはずのロムの魔法がラムと同じ威力。

 それはつまり、魔法の洗練の差。魔力の使い方が上手ければ上手いほど、INTが劣っていても威力の高い魔法攻撃を放つことができる。

 ラムが気づいた『あること』とは『ロムとの差が開き始めている』こと。ロムと同じことをしていれば、ロムとの差はどんどん開いていく。

 実際に使える魔法の種類もロムの方が多く、それらを使うためのSP(スキルポイント)もロムの方が高い。

 

(このままじゃロムちゃんに置いてかれちゃうかも……どうしよう……)

 

 大好きな双子の姉が強くなるのは嬉しい。しかし、自分が置いて行かれるという状況は好ましくない。

 

(とりあえず……お姉ちゃんに相談かな)

 

 

 

 

 

 

 

「……って、感じなんだけど。どうしたらいいかなお姉ちゃん?」

「なるほど……」

 

(いずれこんな日が来ると思ってはいたけど……)

 

 双子とはいえ、性格やステータスや差異はあり、そこから戦闘スタイルの差異も生まれる。

 ブランは双子の妹たちがもう少し成長しその差異がわかりやすくなってから、二人それぞれに向いた戦い方を指摘してあげればいいと思っていた。

 しかしラムは自分の戦い方がロムと同じのままでは良くないことに自分で気づいたのである。

 

(まさかラムがこんなに早く気づくなんてね……)

 

 思わぬ妹の成長の嬉しさから、少し頬が緩むブラン。

 

「……口で説明するより、実際に身体を動かしながらの方が良さそうね。少し見てあげるわ」

「何を?」

「今のラムがどれくらい強いかってことよ」

「お姉ちゃんと戦うってこと?」

「嫌かしら?」

「ううん! ちゃんと見ててよね、お姉ちゃん!」

「わかってるわ」

 

 『秘密の特訓』としてロムにバレたくないラムの希望で、ブラムとラムは教会の訓練場ではなく適当なダンジョンへと向かう。

 

「さて……」

 

 ダンジョンに到着し、準備運動を済ませ、早速女神化するブラン。

 

「……見るっつったからには、全力で見てやんねーとな。本気でかかって来い、ラム!」

「わかった……へんしーん!」

 

 ラムも女神化し、変身後専用の杖を握り、構える。

 

「行くよ、お姉ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

「……よし、じゃあ少し休憩だ」

 

 模擬戦(といっても、ブランは大した反撃をせずに防御に徹し、ラムの魔法攻撃を観察することに専念していたもの)が終わり、休憩も兼ねてラムの魔法について評価をする場面。

 

(どうするか……)

 

 ブランは悩んでいた。

 

(ラムの魔法ってこんなに強かったんだな……私からアドバイスすることなんて思いつかないぞ……?)

 

 ルウィーは魔法の国、そしてルウィーの女神たるブランは勿論魔法の知識を多く持っている。

 しかし、魔法よりも近接戦闘を主体とするブランにとって、ラムの魔法についての悩みは想定してたより高いレベルだったため、どんなアドバイスをすればいいか思いつかずにいた。

 

(……てか、ラムがこのレベルで悩んでるってことはロムはもっと凄いってことだよな? やべぇな、思ってたより妹たちの成長が早え。ネプテューヌやノワールが焦ってる気持ちがわかってきたぜ……)

 

「……お姉ちゃん!」

 

 ラムは何かを思いついたようで、悩んでいるブランの方に急に身を乗り出す。

 

「ん? どうした?」

「わたしに斧の振り方を教えて!」

「……え?」

 

 『魔法』ではなく『斧の振り方』。

 ブランはラムの意外な頼みに目を丸くする。

 

「斧……?」

「今思いついたんだけど……ええと……その……ロムちゃんは全部魔法でできちゃうけど、わたしには難しいから……ええと……うーん、うまく説明できないなぁ……」

 

 理屈は思いついても、幼さ故か言語化に苦労している様子のラム。しかしブランは姉らしく妹の言わんとしてることを理解した。

 

「……あー……なるほど、大丈夫だ。なんとなくわかった。つまり……」

 

 魔法攻撃のプロセスは主に二段階。

 魔法の『生成』と『攻撃』。

 この二つのプロセスを術式に組み込むことで、『詠唱』や『術式の展開』によって魔法攻撃をオートで行うことができる。そしてそれはラムよりもロムの方が上手く、練度の差が開いてきている。

 そこでラムが考えたのは、自分の魔力のリソースを『生成』にのみ割き、『攻撃』の方を自分の身体で行うということである。そうすれば『詠唱』や『術式の展開』を簡略化し、空いた手間で『生成』の質を向上させることができる。そして勿論ロムの魔法攻撃との差別化も図れる。

 

「……って感じか?」

 

 ブランはラムの発想を上手く言語化し、ラムに伝える。

 

「そうそう! ……どうかな?」

「悪くねえな。だが……」

 

 そう、一つ問題点がある。魔法攻撃を自分の身体で行うには敵に接近する必要があり、その分敵の攻撃を喰らいやすくなるというリスクが付き纏う。

 

「……お前はロムよりも敵に近づかなきゃいけなくなるぞ? ダメージを受けることも多くなるだろうな」

 

 つまり、この戦法には近接戦闘の心得を学ぶ必要があり、それはVIT(物理防御)が低い魔法使いにとって茨の道となる。

 

「痛いのはいやだけど……ロムちゃんに置いていかれるのはもっといやなの! それに、私がロムちゃんの前で戦えば、ロムちゃんを守ってあげられるでしょ? あとは……」

「あとは……?」

「……私とロムちゃんとユニちゃんとネプギアの四人で戦うとき、いつもネプギアが前にいるから、私も前でいっしょに戦ってあげられたらいいなって」

 

 双子の姉のため、そして友のために『茨の道』をあえて突き進もうとするラムの覚悟に、ブランは応えないはずはない。

 

「……そうか。じゃあ、斧の振り方を教えてやる」

「やったー! ありがとうお姉ちゃん!」

 

 かくして、ラムの新戦法の修行が始まった。

 

「……あっ、さっき私が言ったことはネプギアには絶対に言っちゃダメだからね!」

「わかってる。言わないから安心しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 それからラムは、

 

「『テンツェリントロンペ』ッ!」

「じーっ……」

 

 ブランと共に戦う際にはブランの技をよく観察したり、

 

「『シレットスピアー』を見せて欲しい……ですの? ふふ、構いませんわ。しっかりと学んでいってくださいな」

 

「『32式エクスブレイド』が見たいの? いいよ! ネプ子さんに学びに来るとはラムちゃんお目が高いねー!」

 

 自分のインスピレーションを刺激するため、『シェアエネルギーで生成した巨大な武器で攻撃する技』を他国に学びに行ったり、

 

「ラムちゃん、なに読んでるの……?」

「んー? 魔法の本だよロムちゃん」

「うわぁ……文字ばっかり……わかるの……?」

「ぜんぜん?」

「え……?」

「でも、おもしろいよ!」

「そ、そうなんだ……」

 

 ルウィー教会の書庫から魔術書を持ってきて読み漁ったり、

 

「やぁっ!」

「てぇい!」

「……きゃぁっ!」

「あっ、ラムちゃん大丈夫?」

「へいき! それよりもう一回よ、ネプギア! 手は抜かないでね!」

「うん、わかった!」

 

 ブランに斧の振り方を習うだけでなく、ネプギアと剣を振り合ってみたり、

 

「こうやって武器を創って……重っ! えっと……お姉ちゃんはこうやって持ってたかな……? ……あっ、振りやすくなった」

 

「……武器に氷を纏わせて……っと……うん、我ながら強そうじゃない! ……あ! 前読んだ本に書いてあった『武器にジュツシキのコウカをフヨふる』って、こういうことだったのね!」

 

 そうやって学んだことを実践し、理屈を理解していく。

 

(そっか……強くなるのって、楽しいんだ!)

 

 それらがラムの好奇心旺盛な性格と噛み合い、世界が広がっていく感覚がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてついに、

 

「『アイスハンマー』!」

 

 ラムの新技『アイスハンマー』が完成した。

 

「行くわよ、お姉ちゃん!」

「よし……来い!」

「えぇいっ!」

「……っ!」

 

 実際に自分が喰らうことでアイスハンマーの完成度を確かめるブラン。ゲイムギョウ界随一の防御力を誇る女神ホワイトハートだからできることなので、絶対に真似してはいけない。

 

「成程……良い技だ、ラム」

「ふっふーん! 私ってばサイキョー!」

「……だが、まだ持ち方も振り方も甘え」

「えーっ! お姉ちゃんきびしー!」

 

 ブランはラムを褒めはしても、厳しく評価する。

 

「お前もロムも今よりもっと強くなれるってことさ。いつかは私を超えるぐらいにな」

 

 つまり、それは期待の裏返し。

 

「じゃあ、わたしがお姉ちゃんより強くなったら、お姉ちゃんを守ってあげるわね!」

 

 自信に満ちた笑顔で、胸を張りながらラムが言う。

 

「そりゃ心強いな。けど、あと数十年は負ける気はねえよ」

 

 ブランは、自信過剰とも取れるラムの物言いに半分呆れながらも、もう半分は期待を込めて小さく笑うのだった。

 

「さ、帰るぞ」

「はーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、ラムはロムとは異なった方向に自分の長所を伸ばすことに成功した。

 その過程で広がった視野も全てラムの強さの糧となることだろう。

 

 そして、ラムは少し先の未来、猛争事変の最中に新たな必殺技を修得する。生まれ持つ高い魔法攻撃力と、新しく身につけた武器の扱い、この二つが組み合わさった必殺技を。

 

 その技の名こそ、『氷剣アイスカリバー』である。

 

 

 

 

 

 





 ラムのVⅡから追加された技はブランの戦闘スタイル寄りなのがなんか良いですよね。


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振り回されるユニ ( ユニ ネプテューヌ )


 全国7兆人のネプユニ推しの皆様お待たせしました、ネプユニの時間です。久しぶりすぎて短編の書き方を忘れてしまったので今回はかなり短めです。



 『四女神オンライン』の拠点街『ウィシュエル』。

 ユニ、ロム、ラムの三人は、今日はリアルではなくゲーム内で一緒にクエストをやろうということで、ボイスチャットを繋げ、ゲーム内で集まっていた。

 

「え……ネプギアちゃん来れないの……?」

「急な仕事が入ったからって」

「そっかー。じゃあわたしたち三人で行こっか」

「ネプギアちゃんのアイテムも集めてあげようよ……!」

「そうしましょ。でも、進めすぎてもネプギアに悪いからほどほどしないとね」

 

 ゲーム内のジョブだと、ユニは盗賊、ロムは侍、ラムは忍者と、パーティのバランスはあまり良くないため、いつも以上に慎重に戦う必要があるため装備やアイテムを整えるため街を練り歩いてた。

 

「回復はアイテムでなんとかなるけど、魔法攻撃ができないのは辛いわよね」

「わたしたち、現実だと魔法が使えるけどゲームだと使えないもんねー」

「あたしも剣を使うジョブにすれば良かったかしら」

 

 談笑しながらショップでアイテムを揃えるユニとラム。

 

(……あれ? あのアバター……)

 

 ロムは画面端にチラリと映ったあるアバターの姿に気づいた。

 

「……ねえラムちゃん、ユニちゃん。あそこにいるのって……」

 

 そう言ってロムがコントローラーでポイントを指定した先にいたのは、

 

「うーん……ベールもブランもノワールもオフラインかぁ。おっ、ユニちゃんとロムちゃんとラムちゃんはオンラインだ」

 

 ゲーム内のジョブ『聖騎士』の衣装を見にまとったネプテューヌだった。

 

「ネプテューヌちゃんだ」

「……ネプギアちゃんは仕事中って言ってたのに、ネプテューヌさん普通にログインしてる……」

「前もこんなことあったわよね。なんか、こうも多いとネプギアが少し可哀想じゃない?」

「うん……」

「……あたし、ネプテューヌさんに注意してくる!」

 

 ユニはネプテューヌのアバターの方に近付いていき、ボイスチャットのグループに招待する。そして数秒も経たないうちに承認され、ネプテューヌの声が入る。

 

「ユニちゃんにロムちゃんにラムちゃん! 良いところに来てくれたね!」

「ネプテューヌさん‼︎」

「ねぷっ⁉︎ なんか怒ってる⁉︎ ど、どうしたのユニちゃん⁉︎」

「どうしたの、じゃないですよ! ネプギアを誘ったら仕事が忙しいからログインできないって言われたのに、どうしてネプテューヌさんは普通にログインしてるんですか‼︎」

 

 ネプテューヌがグループに入った瞬間、ユニの怒号が飛ぶ。

 

「それは……」

「プラネテューヌ教会の事情に首を突っ込むのも良くないと思って今までは黙っていましたけど! 今日という今日は許しません! ネプテューヌさんは女神なんですから、ちゃんとお仕事してください! いくらなんでもネプギアが可哀想です!」

 

 リアルで顔を合わせていないゲーム画面越しというのもあり、ユニは遠慮なくネプテューヌに厳しい言葉をかける。

 

「だって……今日のお仕事はネプギアが詳しい機械系のお仕事で……わたしも手伝おうとしたんだけど機械のことなんて全然わかんないし……挙げ句の果てにネプギアといーすんにわたしは遊んでていいって厄介払いをされて……」

「そ、そうだったんですか……」

「しょうがないから四女神オンラインで遊んでたらログインしてたユニちゃんたちを見つけたから一緒に遊ぼうと思って声をかけたのに……」

「ネプテューヌさん……」

「でもユニちゃんが……! ユニちゃんが……! ……うわぁぁぁん!」

「ご、ごめんなさいネプテューヌさん!」

「びぇぇぇぇん! およよよよよ!」

「どうしよう……まさか泣き出しちゃうなんて……」

 

 モニター越しに聴こえてくるネプテューヌの泣き声にたじろぐユニ。どう考えても嘘泣きなのだが、ユニにはバレていない。

 

「その……言いすぎました……あたしが悪かったですから……」

「……じゃあ、ユニちゃんが遊んでくれる?」

「わかりました! ご一緒させていただきます!」

「……今から明日の朝まで一緒に遊んでくれる?」

「え⁉︎ それはちょっと……」

「……ぐすん」

「はい! 一緒に遊びましょう!」

 

 ユニは必要のない罪悪感でネプテューヌの頼みを引き受けてしまうのだった。

 

「ねぇロムちゃん」

「どうしたの……? ラムちゃん」

「あんな嘘泣きに引っかかっちゃうなんて、親友としてユニちゃんが心配になるわよね……」

「……そうだね」

「でも、ネプテューヌちゃんも一緒だともっと楽しいからいいか」

「うん……!」

 

 そんなこんなで候補生の三人とネプテューヌによるオンライン協力プレイが始まった。

 そしてユニだけは、ロムもラムが落ちた後、翌日の朝までネプテューヌに付き合わされた。なんだかんだで楽しかったらしい。

 

 

 

 

 それから数日後。その日は予定を空けることができたネプギアはユニと一緒に『四女神オンライン』をプレイしていた。

 

「ユニちゃん! 今日は行ったことのないクエスト行こうよ! 上位ランクのヴォルケリオスを倒すやつとか」

「それ前にネプテューヌさんと行っちゃったのよね」

「じゃあ、ミラジュエルは?」

「それもネプテューヌさんと行ったわ」

「じゃあ、カオスロイドは?」

「それも」

「……じゃあ、エルデメイツは?」

「それも……」

「……う」

「……?」

「うわぁぁぁん! お姉ちゃんにユニちゃんが取られちゃったし、ユニちゃんにお姉ちゃんが取られちゃったよぉ〜!」

「ちょっ、ネプギア⁉︎」

「もう知らないもん! 私ソロでクエストやる! さよならー!」

「ネプギアー⁉︎」

 

 その日、ユニはいじけてしまったネプギアを宥め続け、そしてその間にネプギアはちゃっかりプラネテューヌでのジャンクショップ巡りにユニにも同行してもらう約束を取り付けるのだった。

 

「わーい、ユニちゃんありがとう!」

「さっきまでいじけてたのが嘘みたいな笑顔ね……」

 

 こうして、ラステイションの女神候補生は、プラネテューヌ守護女神姉妹に振り回されるのだった。

 

 

 

 





 ちなみに四女神オンライントロコンしました。


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大好きなあなたへ ( アイエフ アイリスハート )


 蛇腹剣良いよね



 

 

 モンスター退治に勤しむプラネテューヌの守護女神アイリスハートと、諜報員アイエフ。

 

「これでイかせてあげる……『ファイティングヴァイパー』!」

「援護します、プルルート様! 『天魔流星斬』!」

 

 アイエフの素早い剣技によりモンスターは翻弄され、アイリスハートの蛇腹剣から繰り出される斬撃によって一掃される。

 

「お見事です。プルルート様」

「あたしとしてはもうちょっと骨のある相手が良かったわね、これじゃ欲求不満だわ。それにしても、アイエフちゃんがあたしをクエストに誘ってくるなんて珍しいじゃない。しかも二人きりでなんて」

 

 アイリスハートはアイエフの腰に手を回し、耳元で囁く。とても際どい光景となっているが、これが彼女なりの普通のスキンシップなのである。多分。

 

「そ、そうです!二人きりになりたかったんです! それと……その……まだ変身は解かないでくれませんか⁉︎」

「……? 別にいいけど」

 

 アイリスハートは、自分が想定していたような反応がアイエフから返って来なかったことと、いつもは皆に戦いが済んだらすぐに解くように言われる変身をアイエフが解かないように頼んできたことに、驚く様子を見せた。

 

「えっと、その……私がまだ小さかった頃、マジェコンヌに連れ去られたことがあったじゃないですか」

「……そんなこともあったわね」

 

 かつてマジェコンヌにアイエフが誘拐された際、アイリスハートが怒りのあまりマジェコンヌを執拗に痛めつけたことがアイエフのトラウマとなってしまい、アイリスハートとアイエフの両者にとって苦い思い出となっている事件である。

 

「そのことなんですけど……」

「……」

 

 アイリスハートは少し身構える。

 もしや反抗期になったアイエフに恨み言の一つや二つ吐かれるのではないか、と思ってしまっていた。

 ノワールなど他の女神に苦言を呈させるのは慣れているが、幼児の頃から娘のように育ててきたアイエフとコンパやピーシェにそうされるとなると、流石のアイリスハートも狼狽えるものだ。

 

「あ、ありがとうございました!」

「……え?」

 

 しかし、想定していた事と真逆の内容の言葉に少し驚き目を丸くする。

 

「あの時の記憶はショックすぎて覚えてなかったんですけど、最近少しずつ思い出してきて……ネプ子にはちゃんとお礼を言ったのに、プルルート様には言ってなかったなって。あの時、プルルート様が助けてくれたのに、私は泣いてるばかりで……」

「それはまぁ……あたしが悪かったのよ」

「プルルート様が怖かったのもあって、あれからコンパやピーシェと比べてプルルート様には少し距離がある気がして……」

「そうかしら?」

「プルルート様は気にしてないって、ネプ子は言ってくれましたけど、私の中でずっと引っかかっていて……これからも引っかかりながら一緒に暮らしていくのは嫌でしたから……ずっと謝りたかったんです。怖くて泣いたことも、気まずくて距離を置いてたことも」

「そうだったのね……」

「ごめんなさい。プルルート様」

 

 アイエフの謝罪を聞いて、そもそもアイエフが自分を恐れるようになったのは自分のせいなのにアイエフに謝らせてしまった、とアイリスハートは少しバツの悪い表情をする。

 

「……良いのよ。それに、むしろあたしが謝ることよね。ごめんなさい、アイエフちゃん」

「そ、そんな……プルルート様が謝ることでは……」

「え〜、あたしには謝らせてくれないの?」

「いえ、そういうわけじゃ……」

「これで仲直り、ね?」

「はい。ていうか、元々喧嘩していたわけじゃないですけどね」

「ふふっ、そうね」

「あ、それとまだ言いたいことが」

「……!」

 

 アイリスハートは再び身構える。

 もしかすると、距離が縮まったことで普段アイエフがネプテューヌに向けて言うような辛辣な言葉でも出てくるのではないか、と思ってしまったのだ。

 

「……とってもカッコよかったです。あの時だけじゃなくて、今でもずっとプルルート様はカッコいい女神様です!」

「アイエフちゃん……」

 

 『カッコいい』。

 マジェコンヌを撃退した時、ネプテューヌだけではなく自分にも言って欲しかったその言葉。

 

「それと……っ、大好きです! プルルート様!」

 

 自分たち以外誰も聞いていないから恥ずかしがってもしょうがない、この際もう言ってしまえと、アイエフは思いの丈を口にする。

 それを聞いたアイリスハートは小さく笑い、アイエフを持ち上げて思い切り抱きしめた。

 

「えっ! ちょっ! プルルート様⁉︎」

「なぁに?」

「どうしたんですかいきなり⁉︎」

「良いじゃないたまには。そういえば、昔はよくこうやって抱っこしてあげたわよね」

「昔って……私が赤ちゃんだった頃のことですよね⁉︎ 今はもう抱っこなんてされるような歳じゃないです! 降ろしてください!」

「あたしにとってはあの頃のアイエフちゃんのままよ」

 

 アイリスハートはアイエフを抱き上げたまま、街に戻ろうとする。どうやらしばらくは降ろすつもりはない様子。

 

「……わかりましたから、せめて街に着く前には降ろしてくださいね」

「え〜どうしよっかなぁ〜。むしろあたしとアイエフちゃんの仲の良さをみんなに見せつけるいい機会だと思わない?」

「恥ずかしいですー! 降ろしてくださいー!」

 

 口ではそう言いながらもアイリスハートにしっかりと掴まり、身を寄せて思い切り甘えているアイエフなのだった。

 

「ねえ、アイエフちゃん」

「はい。どうしましたか?」

「……あたしもアイエフちゃんのこと大好きよ。ずっとね」

 

 信仰する女神、守りたい仲間、そして家族としての愛情。その温もりも感じ合う二人なのだった。

  

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 プラネテューヌ教会にて。

 

「やだ〜〜! お昼寝するの〜〜!」

「待ってくださいプルルート様! 今日という今日は溜まっているお仕事を片付けてもらいます!」

 

 女神の仕事から逃げるプルルートを追いかけるアイエフ。しかし素早さの差は歴然で、すぐに捕まってしまう。

 

「捕まえましたよ!」

「うぅ〜……あいちゃんの意地悪〜! だったら〜……!」

 

 すると、プルルートは変身する。

 

「うふふ……アイエフちゃぁん? さっきはよくもあたしを追い回してくれたわねぇ?」

 

 アイリスハートに変身してしまってはもう誰にも手がつけられない……………………と思われたが。

 

「あぁ、変身したなら丁度いいです。それならもっとたくさんお仕事できますね」

「えっ……?」

 

 他の守護女神ですら恐れるアイリスハートを前にしても、全く反応が変わらないアイエフ。

 数日前の件を経て、アイエフがアイリスハートを恐れる理由なんてもうどこにも無くなっていた。

 

「ほら、行きますよプルルート様」

「いやぁ〜ん! やめてぇ〜!」

「変な声あげないでください。それに往生際が悪いですよみっともない」

「アイエフちゃんの意地悪〜!」

 

 こうして、プラテューヌ教会では、アイエフの手によって執務室に強制連行されるプルルートの姿が見られるようになったとか。

 

 

 

 

 






 神次元のぷるるんとアイコンピーシェの母娘みたいな関係好き。父親はネプ。

 神次元の成長あいちゃんってぷるるんに対して敬語だったよね? Vのストーリーあんまり見返す機会なくてうろ覚えなので、もし間違ってたらこの話は消えます。


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リバーシブル・ネプギア ( ネプギア ユニ )

 

 

 

「そこで私は考えたんだけどね」

「急に始まったわね」

 

 ある日、ラステイション教会にて、ネプギアとユニがゲームをしている時のこと。

 会話の流れをぶった切ってネプギアが言う。

 

「武装のバリエーションを増やしたいけど、M.P.B.Lの性能はこれ以上弄れないから、プロセッサユニット自体に新しい武器を装着してみるのはどうだろう……って」

「悪くない発想ね」

「最初は変形機能を作りたいなと思って、お姉ちゃんみたいに『ハードフォーム』に変身したかったんだけど、私にはできなくて……」

「あれどうやってるのかしら?」

「お姉ちゃん聞いてみたけど……

 

『ハードフォームのやり方? まず身体を丸めるでしょ? そしてこう』

 

 ……って言いながら目の前で変身されても、正直全く意味がわからなかったんだ……」

「あー……」

「武器のバリエーションも増やしつつ変形機能も付けられるようなアイデアはないかなぁ〜……」

「そんな都合の良いアイデアなんてあるわけないわよ」

「だよねー……」

 

 少しの沈黙。

 部屋には、カチカチとコントローラーをいじる音とゲーム音が鳴る。

 

\リボーンズガンダム! フハハハハ! リボーンズキャノン! /

 

「……これだよ‼︎」

「え?」

 

 

 

 

 アイデアを思いついたネプギアは数日で設計開発を済ませ、再びラステイション教会にて、ユニの前でプロセッサユニットのパーツを組み立てながら実演する。

 

「なるほどなるほど、近距離戦特化高機動形態と遠距離戦特化砲撃用形態に変形換装しながら戦うってわけね」

 

 ネプギアの完成させた新プロセッサユニットとは、一形態で性能を盛るのでなく、各レンジに特化させた二形態を変形換装させるというアイデア。

 普段は前面が接近形態『アサルトモード』、背面が砲撃形態『バスターモード』となっており、使用する方が前面に展開され、状況に応じて切り替えられる構造になっている。

 離れればバスターモードによる嵐のような砲撃で敵を殲滅し、砲撃を掻い潜ってきた敵はアサルトモードで圧倒する、という隙のない武装コンセプト。

 また、性能を盛るとなるとどうしてもゴテゴテとしたフォルムになってしまう欠点を、二形態に分けたことによりカバーし、すっきりとしたフォルムとして完成させることができた。

 

「……どうしてあたしはあんたの背中に縛り付られているのかしら⁉︎」

 

 ただ一つ、ネプギアの背部、バスターモードにユニがくくりつけられているという点を除けば。

 

「その……本当は砲撃形態にユニちゃんのエクスマルチブラスターみたいな巨大砲を付けたかったんだけど……今のプラネテューヌ教会にはそんなもの用意できるリソースはないってイストワールさんに言われちゃって……自分で作ろうにもお小遣いも足りなくて……そもそもエクスマルチブラスターの火器管制は私には難しくてユニちゃんじゃないとできないから……この際もう背中にユニちゃん付けて砲撃形態を任せちゃおうかな、って」

「任せちゃおうかな、じゃないわよ! 新プロセッサユニットが完成したからあたしの部屋で組み立てる、って言われて、どうしてあたしの部屋なんだろう……って思ってたらこういうことだったのね!」

「でもユニちゃん抵抗しなかったから……」

「理解が追いつかなくて動けなかっただけよ! あたかもあたしが受け入れたみたいな言い方しないでくれる⁉︎ とりあえず降ろしなさい!」

「ダメだよ! ユニちゃんは今から私の砲撃形態『バスターモード』になるんだから!」

「……あ、これ機械いじってる時の人の話を聞かないネプギアだわ。あたしもう詰みね」

 

 ユニは全てを諦め、ネプギアが満足するまで耐えることを選んだ。

 

「ユニ、ネプギア、信者の方からお菓子をいただいたの。あなたたちもどうかし……ら……?」

 

 ユニの部屋に入ってきたノワールは、その光景を見て目を丸くし言葉を失う。

 

「ありがとうございます! そうだ、ノワールさん! 私の新プロセッサユニット、どうですか?」

「新プロセッサユニット……ユニット……? もしかして、背中のユニも……?」

「はい! 私の新プロセッサユニットの砲撃形態『バスターモード』のユニちゃんです!」

「……ねぇ、ユニ。この子大丈夫?」

「ダメだと思う」

「そうだ! ノワールさん! 私と模擬戦やってくれませんか⁉︎」

「良いけど……もしかして、それ……使うの?」

「はい‼︎」

「……ユニはどう思う?」

「良いわよ。ていうか徹底的にやっちゃって。そしたらネプギアの熱も冷めるだろうし」

「それもそうね」

「あと、戦う半分はネプギアだけどもう半分はあたしってことになるのよ。だから、覚悟しててよね、お姉ちゃん!」

「あなたもなんだかんだでノリノリじゃない」

 

 

 

 

 場所は変わって、ラステイション教会の修練場。

 そこで向かい合うのは、女神ブラックハートと女神候補生パープルシスター(と背後にブラックシスター)。

 

「さて、やるからには思いっきり行くわよ。新プロセッサユニットがスクラップになっても恨んだりしないでね」

「ユニちゃんをスクラップにはさせません!」

「スクラップはあんたの頭よ」

 

 試合の前の雑談を終わらせ、お互いが定位置に足をつけてから十数秒後、試合開始のブザーが鳴り響く。

 

「ユニちゃん!」

「任せなさい!」

 

 試合開始の定位置は近接戦の間合いではないため、ネプギアは振り向いて背部をノワールに向けることでユニモードに変形。

 既にエクスマルチブラスターは発射準備を済ませており、ビーム砲がノワールに向けて放たれる。

 ちなみにアサルトモード、バスターモードという呼び名は早急に変更され、近接モードが『ネプギアモード』、射撃モードが『ユニモード』となった。

 

(……! そっか、背中にユニが付いてるものね……!)

 

 ノワールは突然の射撃に驚きつつも、最低限の動きで回避しながら接近していく。

 

「ネプギア!」

「わかってる」

 

 ネプギアが振り返り、ネプギアモードに変形。

 そのまま、ネプギアのM.P.B.Lとノワールのソードがぶつかり、鍔迫り合いとなる。

 

「見た目はアレだけど、近遠距離それぞれの特化形態を作るって発想は悪くないと思うわ。ただ、特化形態ですら勝てない相手にはどうしようもないとも思うけど……ね!」

 

 ノワールがソードに更に力を込める。

 

「それは……どうでしょうか?」

 

 瞬間、ノワールの左右が光る。

 

「……っ!」

 

 その光に反応し、ノワールはネプギアから距離を取る。

 すると、二本のビーム方がさっきまでノワールがいた位置を横切った。

 

「……そういえば、そんな武器もあったわね」

 

 ネプギアが使用したのはビット。

 二基のビットに意識を向けながら正面からネプギアの相手をするのは少し分が悪い、とノワールは少し距離を取る。

 

「ユニちゃん!」

「オッケー!」

 

 距離を取ると再びユニモードに変形し、ビットから砲撃も交えたビームの雨がノワールを襲う。

 

「くぅっ……!」

 

 ノワールは大きく旋回しつつグネグネと動きながら弾幕を避けていく。

 

(昔のネプギアならまだしも、今のネプギアは私でも手を焼くほどの剣技がある……そしてユニの射撃能力は私たち女神の中でも随一。この二人が一つになってるってことはそりゃ強いわよね。おまけに背後も取れないし)

 

 回避に専念しながら、相手の戦力を分析する。

 

(それに、さっき少し押し合ってわかったけど、今のネプギアのパワーは普段よりも強い。おそらく、ネプギアのシェアエネルギーとユニのシェアエネルギーの一部が共有されているってことでしょうね……)

 

 女神は戦闘時には高い身体能力をシェアエネルギーで更に強化している。

 そして、戦闘に使用できるシェアエネルギーの総量は守護女神の方が候補生よりも多い。これが守護女神と候補生の戦闘能力の差における大きな要因である。

 しかし、ノワールの推測通り、今のネプギアは戦闘に使用しているシェアエネルギーが共に戦っているユニのシェアエネルギーの一部でかさ増しされている。そのため、エネルギーの総量が増えた分ネプギアのパワーも増しており、今のネプギアは本来近接戦闘では勝てないノワール相手に劣らないほどの力を手にしていた。

 

(……おそらくスペックだけなら私以上。馬鹿みたいな見た目してるくせに、普通に強いじゃない……‼︎)

 

 苦戦しながらも、ノワールはニヤリと笑みを浮かべる。

 強敵との戦闘も、それはそれで楽しいもの。

 

(けど、スペックだけが勝敗を左右する絶対条件ではないわ!)

 

 ノワールはネプギアに距離を詰める。

 しかし、距離を詰めただけで斬りかかろうとはしない。

 

(えっと、この距離なら……)

 

「なるほど、この距離は迷うのね」

「……っ⁉︎」

「『フォールスラッシュ』!」

 

 ノワールが維持するのは、一瞬で間合いを詰めることができながらも、剣を振り合うほどではない絶妙な位置。

 ネプギアが変形をするかしないか迷う一瞬の隙を狙い、攻撃を仕掛けていく。

 

「何やってんのよネプギア! あたしに変わりなさい!」

「でも、この距離だと……!」

「そうね、ユニの苦手な剣の間合いにすぐ近づけるわ。こんな風にね……『レイシーズダンス』!」

「「きゃあぁぁっ!」」

 

 ノワールは一撃を与えても追撃はせずにすぐに距離を置き、先程の絶妙な位置に戻る。

 

「こうなったら、わざわざ切り替えるのはやめましょ、ネプギア」

「え? ……うん、わかった!」

 

 ネプギアがM.P.B.Lを構え、その最後でユニもエクスマルチブラスターを構える。

 

(ユニには変わらずネプギアのまま射撃戦を行うってことね。ま、悪くない判断だわ)

 

 ノワールは自らを捉えたM.P.B.Lの銃口から離れるように、ネプギアの側面に移動する。

 

(けど、あなたの射撃じゃ私は捉えられないわよ!)

 

「ユニちゃん!」

「ええ! 行くわよ!」

 

 その掛け声と共に、前面のネプギアと背面のユニが、お互い照射ビームを撃ちながら回転する。

 中距離戦における強力な牽制択、全方向へのビーム射撃。

 

「まず……っ!」

 

 ノワールはたまらず上方向に飛び上がって回避する。

 

「離れたね!」

「なら、あたしの番よ!」

 

 少し距離が離れたところに、再び襲いかかるユニモードの連射撃。

 距離を詰めようとしてきたノワールに対しては、ビットで牽制しながら再びネプギアモードに変形して迎撃する。

 そして先程苦戦した中距離には、ネプギアモードとユニモードどちらでもない射撃攻撃のばら撒きによって強引に距離を離すか詰める。

 段々とネプギアとユニの息が合い始め、ノワールは追い詰められていく。

 

(やば……対応できな……っ!)

 

「今だよ、ユニちゃん!」

「ええ! 華麗に決めるわ!」

 

「「『シュタルクヴィータ』!」」

 

 そして遂に手詰まりとなったノワールに対し、ネプギアとユニの連携技『シュタルクヴィータ』が炸裂する。

 

(……っ、負ける……! …………!)

 

 瞬間、閃光が弾けた。

 

「えっ?」

 

 黒と青の軌道が目にも止まらぬ速さで、ネプギアを横切ると、ダメージで変身が解け、ネプギアとユニはぺたんと地面に座り込む。

 二人が振り返った方向に立っていたのは、ノワールの最強形態ネクストブラック。

 

「「ええ〜〜〜〜っ⁉︎」」

 

 二人は負けてしまったことよりも、ノワールが大人気なくネクストフォームに変身したことに納得がいかない様子だった。

 

「お姉ちゃん! ネクストフォームはずるいわよ‼︎」

「ね、ネクストフォームが禁止なんてルールないわ!」

「でも、ノワールさんをそこまで追い詰められたってことですよね⁉︎」

「まぁそれは……そうね。強かったわ、あなたたち。えっと、じゃあ私仕事に戻るから! さようなら!」

 

 ノワールはユニとネプギアの頭を優しく撫でると、そそくさとその場を去っていった。

 

「行っちゃった……」

「もー! 納得いかないわ!」

「それよりもユニちゃん! どうだった⁉︎ 私の新プロセッサユニット‼︎」

「悪くはなかったけど……その……」

「その……?」

「ぶっちゃけあたしとあんたが合体するより連携取りながら二人で戦った方が強いと思う」

「あー……確かに」

 

 結局ネプギアとユニの間では、二人が合体して一つの強力な個を作るより、信頼する仲間と共に二人で戦う方が強いという意見で合致し、ネプギアの新プロセッサユニットはテスト運用のみとなり実装はお蔵入りとなった。

 

 

 

 

 数日後。

 

「ユニちゃん! 今度はロムちゃんラムちゃんとも合体するのはどうかな⁉︎」

「変形合体はお蔵入りにしたでしょ! その考えから離れなさいよ‼︎」

 

 

 

 





 ギャグっぽいSSが書きたいので練習中です。


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贈り物 ( プルルート パープルハート )

 

 

 

「〜〜で、その時ネプギアがね」

「あはは、ぎあちゃんったら面白い〜」

 

 ネプテューヌとプルルートは『四女神オンライン』のボイスチャットで会話していた。

 今日はオンラインゲームでおしゃべりする、そんな気分で、プルルートとピーシェが営んでいるコスチューム&アクセサリーショップ『ふぁんし〜しょっぷ』にて駄弁っていた。

 

「……あ、お客さんが来たから、そっちの対応するね〜」

「わかったー」

「いらっしゃいませ〜!」

「ここがふぁんし〜しょっぷね。こんにちは」

 

 客として現れたのは、ゲーム内のNPC『女神パープルハート』。

 

「あっ! ねぷちゃ……じゃなくて、パープルハート様だ〜。いらっしゃいませ〜」

 

 NPCであるパープルハートが街を歩き回ること当たり前の事だが、自ら店に入ることは稀、というかほぼ無いことであるため、ネプテューヌは不思議そうな表情をする。

 しかしプルルートはゲームシステムをネプテューヌほど理解していないため、いつもと変わらない様子で接客するのだった。

 

「何かお探しですか〜?」

「今日は、ウィシュエル一番の縫製職人であるあなたに頼みがあってきたの」

「ウィシュエル一番なんてそんな〜、照れちゃうな〜。頼みってなんですか〜?」

「私の衣装について、かしらね」

「ふむふむ〜」

「ゲームをしているみんながみんな、とても魅力的なコスチュームをしているものだから、私も新しい衣装が欲しくなっちゃったの」

「確かに、わたしたちプレイヤーは自由に服装を変えられるけど、女神様には別衣装無いもんね」

「そうなのよ。そこで、ウィシュエル一の縫製職人であるあなたに、私の新コスチュームを作って欲しいのよ!」

「え、ええ〜!」

「ダメ……かしら? タダでなんて言わないわ。もし作ってくれたら、超レアアイテムをあげちゃうわよ!」

 

(……NPCが運営の意図しないタイミングで勝手にプレイヤーに超レアアイテムあげちゃうオンラインゲームって大丈夫なのかな? ……まぁいっか)

 

「わかりました〜。でも〜、すこ〜し時間がかかっちゃうけど、大丈夫ですか〜?」

「大丈夫よ。ありがとう」

「は〜い」

 

 注文が済むと、パープルハートは嬉しそうな足取りでふぁんし〜しょっぷから去って行った。

 

「……大変なお仕事を頼まれちゃったよ〜。緊張しちゃうなぁ〜」

「へぇ、ぷるるんでも緊張することってあるんだね」

「も〜! ねぷちゃんはあたしのことなんだと思ってるの〜?」

「ごめんごめん。でも、ゲームのわたしとはいえ、ぷるるんがわたしの服のデザインをしてくれる楽しみだよ。ぷるるんが作ってあげてた向こうのノワールの普段着に少し憧れてたんだよね」

「そっか〜。頑張るから期待しててね〜」

 

 かくして、プルルートによる女神パープルハートの新衣装デザインが始まった。

 

 

 

 

「う〜ん……」 

 

 プルルートは悩んでいた。

 

「もっと細かく聞いた方が良かったかも〜」

 

 これまで服のデザインは何度もしてきたが、その殆どはイメージを向こうから細かく伝えてくるノワール(神次元)相手である。

 しかし、パープルハートは別のコスチュームを作ってくれと言うだけで、作って欲しいコスチュームに関しては何の指示もしてこなかったのだ。AIだからしょうがないという話は置いておき、具体的な指示がなく一からのデザインとなると、流石のプルルートでも苦戦していた。

 

(ねぷちゃんだから紫、っていうのも安直だし、少しイメージと違う色にしてみようかな〜。そして、あくまで主役は服じゃなくてねぷちゃんだから、ねぷちゃんの良さを出すために飾り付けは無難にしてシンプルに仕上げた方が良いかも〜。あとは、変身したねぷちゃんだからきゅーとよりくーるでせくしーな感じが良いよね〜) 

 

 だとしても、そこで止まるようなプルルートではない。

 プルルートには、ほんわかとした緩い雰囲気の中に「手を抜かず最高の逸品を仕上げる」という確固たる意志、縫製における意識の高さがあった。

 これこそが、ゲーム内のコスチューム&アクセサリーショップの中でもふぁんし〜しょっぷの人気が特に高い理由でもある。

 

(……あっ、閃いたかも〜! よ〜し!)

 

 デザインを思い付き、それを普段のプルルートとは思えない迅速な手捌きで製図していく。

 

「ぷるるとー! 遊……」

 

 その時、元気いっぱいに部屋に入ってきたピーシェだが、あまりにも真剣な様子のプルルートを見て、あのピーシェが気を遣って引き返した。

 

(……がんばって、ぷるると)

 

 そして、心の中でエールを送る。

 神次元のアイエフとコンパも、プルルートを優しく見守っていた。

 

「……にしても、おかしいわね」

「何がです?」

「プルルート様がデザインしてるのはゲーム内での変身したネプ子の衣装なのよね?」

「そうですよ」

「ならどうして、ここ最近プルルート様はデザインの間に何度も現実のクエストに足を運んでいるのかしら?」

「確かに……です」

 

 

「よし、できた〜! 後はこれをデータにしてゲームに入れれば〜…………どうやるんだろう? う〜ん……あいちゃん〜! 助けて〜!」

 

 

「……おっと、呼ばれたわ。プルルート様のお手伝いしてくるわね」

「はーい」

 

 

 

 

 プルルートが仕上げたのは、真っ赤なドレス風のワンピースだった。シンプルな見た目であるもの、女神としての高貴さと可愛らしさが見事に内包されているデザイン、正に逸品。

 

「わぁ〜……!」

 

 AIとは思えないほどに、目を輝かせ喜ぶパープルハート。

 

「着てもいいかしら?」

「勿論〜」

「ネプテューヌ、操作してくれる?」

「おっけー」

 

 ネプテューヌがステータスウィンドウを開き、パープルハートの装備欄から衣装を入れ替える。ゲーム内なので着替える動作は必要なく、一瞬で服装が変わる。

 

「すごい……! 流石ウィシュエル一番の縫製職人、私の目に狂いはなかったわ」

「いやぁ、それほどでも〜」

「謙遜する必要なんてないわ。本当にありがとう。これ、約束の超レアアイテムよ」

「は〜い。毎度あり〜」

「本当はあなたと冒険がしたいけど……そのためにはあなたがもう少しストーリーを進めてくれないと、仲間には加われないのよね……」

「ごめんなさい〜。あたしはゲーム攻略の方はあんまりなんですよ〜」

「そう……でも、こうしてお店に顔を出すことはできるから、これからもよろしくね」

「は〜い。これからもふぁんし〜しょっぷをご贔屓に〜」

 

 注文した時よりも格段に嬉しそうな足取りでふぁんし〜しょっぷから去って行った。

 

「そうだ、このアイテム、ねぷちゃんにあげるね〜。あたしはゲーム攻略はしないし〜」

「ありがとうぷるるん! それと、ゲームのわたしのこともありがとう!」

「いいんだよ〜。あたしが作ったものを喜んでもらえるとあたしも嬉しいから〜。あと〜、ねぷちゃんログアウトしたら、あたしの部屋まで来てくれる〜?」

「良いけど、どうしたの?」

「それは〜、来てからのお楽しみだよ〜」

「えー、気になっちゃってゲームにならないから今から行ってもいい?」

「いいよ〜」

 

 ネプテューヌはログアウトし、プルルートの元へ向かう。

 

「来たよぷるるんー」

「いらっしゃ〜い。早速だけど、ねぷちゃんにプレゼント〜!」

「え? これって……」

 

 そう言ってネプテューヌがプルルートから手渡されたのは、四女神オンラインでパープルハートに着せたものと全く同じドレス風のワンピースだった。

 

「実はね、こっちのねぷちゃんにも着て欲しかったから、普段着にしてもいいようなシンプルなデザインにしたんだよ〜」

「わぁ〜……!」

 

 プルルートは自らの手で最高の素材を集めに行っていた。

 大切な親友のためのプレゼントを作る、そこに一切の妥協はなかった。

 

「ねえぷるるん! 今着てもいい?」

「勿論だよ〜。むしろ着て見せて欲しいなぁ〜」

「わかった。着るね」

 

 ネプテューヌは変身してプルルートから受け取ったワンピースを身に纏う。

 

「……ありがとうぷるるん。嬉しいわ……本当に嬉しい」

 

 そして、プルルートを優しく抱きしめる。

 

「えへへ、どういたしまして〜」

 

 大切な親友のために頑張ったプルルートなのだった。

 

 

 

 

 しかし、それによりある問題が生まれてしまったようで、プルルートが四女神オンラインにログインすると。

 

「わたくしにも、わたくしにもデザインしてくださいまし!」

「いいえ! 次は私よ!」

「私が先だ! なぁ、いいだろ⁉︎」

 

 パープルハートを羨ましがった他の女神三人が一斉にふぁんし〜しょっぷに押しかける姿が見られるようになったとか。

 

 

 

 




 ギャグばかりだとギャグしか書けなくなりそうで怖かったのでたまにはまともなものにしました。


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ユニちゃんロボ、出撃? ( ネプギア ユニ )


 『リバーシブル・ネプギア』の続きです。
 半分くらいタイトル詐欺です。




 

 プラネテューヌ教会、プラネタワーの居住スペースにて。

 大画面のテレビの前に、ちょこんと座りながらアニメを見ているイストワール。

 それを見たネプギアが物珍しそうに話しかける。

 

「いーすんさんもアニメとか見るんですね」

「たまには見ますよ」

「それにしても、少し古いアニメですね」

「そうですね。もう数十年前のアニメですけど。この主人公が好きだから、何度も見たくなっちゃうんです」

「へぇ〜。一緒に見ててもいいですか?」

「どうぞどうぞ」

 

\ カツテセンソウガアッタ…… /

 

(ロボアニメってアイデアが転がってるから見てて楽しいんだよね。あっ、早速いいこと思いついた!)

 

 

 

 

「というわけで新しい武器を思いついたんだけど……」

 

 ユニの腕を強く掴みながら話すネプギア。

 

「わかった! わかったから離して!」

「だってユニちゃんが逃げようとするから……」

「前みたいに背中に括り付けられる羽目にはなりたくなかったからね!」

「私はユニちゃんと一緒に戦えて楽しかったよ?」

「それはどういたしまして! とりあえず離しなさいよ!」

「わかった。でももしユニちゃんが逃げたら大声でユニちゃんの名前を叫びながら泣くからね」

「くっ……絶妙に嫌な脅迫ね……まぁいいわ、とりあえずどんなアイデアか教えて」

「簡単に言うと、ユニちゃんロボを作ろうと思ってね。私が前で戦ってる時に、後ろからユニちゃんロボに援護射撃してもらおうかなって。だからユニちゃんのデータが欲しくて」

「またイカれたことしようとしてる……」

「……ダメ?」

「はぁ……しょうがないわね」

「ありがとうユニちゃん!」

 

 ユニは初動で逃げ遅れた場合には素直に従っておいた方が事が早く済むことを学んでいた。また、なんだかんだでネプギアと新兵器開発をするのはユニにとっても楽しみであり、それに加えてネプギアに頼られることは満更でもなかったりするのだ。

 

「ロボに援護させるって言っても、どうやって動かすのよ?」

「基本は自動での機械制御だけど、詳細な操作がしたいときは、私の脳波をNP粒子を媒介にしてロボに飛ばすんだ。そうすれば戦闘中でも簡単に動かせるよ。ビットの技術の応用かな。元ネタがそれだし」

「出た出た、プラネテューヌの超技術。お姉ちゃんがナナメブレイドの改良の為にその技術を欲しがってるんだけど、ネプテューヌさんに頭を下げるのは死んでも嫌だって言ってたわ。かと言ってあんたに聞いてその技術を流用するのは女神としてのプライドに関わるとも言っててね」

「あはは、ノワールさんらしいね」

 

 和気藹々と会話しながらも、迅速かつ精巧な手捌きでパーツを組んでいく二人。

 すると、部屋にノワールが入ってきた。

 

「ユニ、ネプギア。ブランから今年もブラン饅頭が送られてきたからあなたたちもどうかし…………」

 

 部屋に入ってきたノワールの目に入ったのは、ユニのようなロボット。

 

「のわぁ〜〜〜〜⁉︎ ゆ、ユニがロボットにされてる〜〜〜〜〜〜っ‼︎⁇」

「お姉ちゃん、あたしはこっち」

「……あぁ、ロボの後ろにいたのね。死角になってて見えなかったわ。てっきりあなたがネプギアにロボットにされてしまったかと思って本気でビビったわよ……」

「まぁ……ネプギアならやりかねないわよね……」

「いくら私でも友達をロボットになんてしないよー!」

「この前はその友達を武器に、そして今はその友達を模したロボットを作ろうとしてるじゃない」

 

(こういう破茶滅茶具合を見ると、やっぱりこの子はネプテューヌの妹なんだなって思うわね……)

 

「でも確かに、援護射撃用の自立行動ロボを作るってのは良いわね。割と需要がありそうだわ」

「ノワールさんも要ります? 二機作れるかは分かりませんけど……」

「いえ、私にはホンモノのユニがいるから必要ないわ。ロボよりも頼れるもの」

「ふふっ、そうですね」

 

(……けど、その言葉は私じゃなくてユニちゃんに直接言ってあげればいいのに)

 

「さて、私は仕事に戻るわね。完成したら私にも見せてちょうだい」

「はーい」

 

 ノワールはテーブルにブラン饅頭とお茶を置いて部屋から出ていった。

 それから、ネプギアとユニはノンストップで作業を続けて、ロボットは完成へと近づいていった。

 

「これで完成度80%ってとこだね」

「ほとんどできてるのにまだ80? あとなにが必要なの?」

「音声かな。ユニちゃんロボだからユニちゃんの声を入れたくて」

「えぇ〜……どれくらい入れるの?」

「えっと、出撃時ボイス三種類、攻撃ボイス十二種類、被弾時ボイス五種類、あとは……」

「ちょ、そこまでやるの?」

「えー、だって音声が多い方が嬉しいし、それに、アクションゲームの収録をする時の声優もこれぐらいやってると思うよ」

「あたし声優じゃないし……」

「ユニちゃんが乗り気じゃないなら無理強いはしないよ。ユニちゃんのサンプル音声をAIに自己学習させればセリフなんていくらでも増やさそうだし」

「出た出た、プラネテューヌの超技術。だったら最初からそうしなさいよ」

「だってホンモノのユニちゃんのボイスの方が欲しいんだもん」

 

 結局、容量の問題で音声はお蔵入りとなった。

 そして、設定と微調整を何度も繰り返してついに。

 

「「できた〜〜‼︎」」

 

 『ユニちゃんロボ』、完成。

 体長はユニより一回り大きい、所謂ネプギアンダムのユニバージョンのようなもので、飛行能力搭載、エクスマルチブラスターもちゃんと装備していたりと、中々の完成度を誇る。

 

「イカれたメカでも、実際完成させたとなると達成感が心地いいわね」

「早速ノワールさんに見せてこようよ!」

「あんた一人で行ってくれない? 自分と似た姿のロボをお姉ちゃんに見せるの恥ずかしいから」

「しょうがないなぁ」

「譲歩してもらった感じになってるの死ぬほど納得いかないんだけど」

 

 

「へぇ、中々いい見た目してるじゃない。けど流石にホンモノのユニの可愛さには勝てないわねぇ……」

 

(それも直接ユニちゃんに言ってあげればいいのに……)

 

「そうだ。これ、早速使いたいでしょ? 相手になるわよ」

「本当ですか⁉︎  ありがとうございます!」

「先に訓練場で待ってるわね」

「はーい!」

 

 

「……というわけで、早速ユニちゃんロボを使ってノワールさんと模擬戦することになったよ!」

 

(なんか最近お姉ちゃんってネプギアのビックリドッキリメカの犠牲者枠になってない?)

 

「早速起動するよ! ユニちゃんロボ、起動!」

 

 意気揚々とネプギアがユニちゃんロボの電源ボタンを強く押す。

 

「……」

「……」

「……あれ?」

 

 しかし、ユニちゃんロボが動くことはなかった。

 

「起動しないわね。どうしたのかしら?」

「ユニちゃんに似てロボットも素直じゃないのかな?」

「ぶっとばすわよ」

「どっかの回路がダメになってるのかもしれない。どうしよう……ノワールさんもう待ってるし……」

「あたしが直すから先行ってなさい。お姉ちゃんは忙しいんだからあんまり待たせちゃダメよ」

「ユニちゃん……直せる?」

「あんたと一緒に作ったんだから構造は知ってるわ。なんとかなるわよ……多分」

「わかった。任せたよ、ユニちゃん」

 

 ネプギアはノワールの元へ向かった。

 

「さて……」

 

 

 

 

「あら? ユニロボは?」

「えっと、不具合があって起動しなくて……ユニちゃんが直してくれてます。ユニちゃんに、ノワールさんを待たせないように先に行って、って言われたんですよ」

「別にそれぐらい待つわよ」

 

 二人が待つこと数十分後、ユニちゃんロボがのそのそと歩きながら訓練場に入ってきた。

 

「ユニちゃん! ちゃんと直してくれたんだ!」

「……」

 

 嬉しそうなネプギアに対し、怪訝そうな目でユニちゃんロボを見つめるノワール。

 

「……? どうかしましたか、ノワールさん?」

「……いえ、始めましょうか」

「はい!」

 

 戦闘が始まり、ネプギアとノワールがプロセッサユニットの背部ウイングを展開、飛行する。

 ユニちゃんロボも飛行し、ネプギアの背後につく。

 

「やぁぁぁっ!」

 

 ネプギアがノワールにM.P.B.Lを振りかぶる。

 それと同時に、ユニちゃんロボも援護射撃を放つ。

 

(うーん、調整した時よりもユニちゃんロボの反応が悪いな? でも、私の意図しないタイミングで援護くれるんだよね。ユニちゃんがプログラムいじったのかな?)

 

「……はぁ、そういうことね」

 

 ノワールが何かに気づき、呆れたように溜息をついた。

 

「……全く、とんだ茶番ね。『フォールスラッシュ』!」

 

 そして、ユニちゃんロボに飛ぶ斬撃を放つ。

 

「ユニちゃんロボーーーーッ!」

 

 容赦ないノワールの攻撃に、ネプギアの悲鳴が漏れる。

 ユニちゃんロボの機動力ではフォールスラッシュを避けられず、斬撃が当たった場所にヒビが入り、装甲が砕けた。

 

「……ぎこちない動きでロボットらしさを偽ったところで、ネプギアにはバレてなくても私にはバレバレよ、ユニ」

「えっ⁉︎」

 

 ノワールの言う通り、ユニちゃんロボの外装が崩れると、その中からユニが出てきた。

 

「やっぱバレちゃったか」

「ユニちゃん……」

「ごめんネプギア……やっぱりあたしじゃロボット直せなかったわ」

「そ、そんな! 謝らなくてもいいんだよ!」

「……ううん、実は嘘よ。本当は直せなかったんじゃなくて、直さなかったの」

「え? どうして……?」

「……だって! ロボなんかに援護させる必要ないじゃない! あんたのことはいつだってホンモノのあたしが援護してあげるわよ!」

「ユニちゃん……!」

「だから、一緒に倒すわよ……お姉ちゃんを!」

「うん!」

 

 戦闘そっちのけでイチャつくネプギアとユニを不満そうに眺めるノワール。

 

「……今までは茶番だったから手を抜いてたけど、あなたたち二人を同時に相手するってなったらもう手は抜かなくていいわよね?」

 

 そう言ってノワールは、掌の上にハイパーシェアクリスタルを顕現させる。

 

「うっそ! マジの本気じゃない……!」

「大人気ないなんて言わないでよね。それだけあなたたち二人を評価してるんだから。決して普通にユニロボが楽しみだったのにがっかりしたことの憂さ晴らしの意味なんて込めてるわけじゃないわ」

「……良くそれで今『大人気ないなんて言うな』なんてこと言えたわねお姉ちゃん……」

「何か言ったかしら?」

「なんでもない」

 

 実際、ネプギアとユニを同時に相手取るとなると、守護女神であっても通常の女神化では荷が重く、手加減していられるほどの相手ではないのだ。

 ハイパーシェアクリスタルを使用し、ノワールはネクストブラックへと変身する。

 

「さ、行くわよ! 『ナナメブレード』、射出!」

 

 そして、ソード型ビット『ナナメブレード』をネプギアに向けて射出する。

 

「……っ、『ビットズコンビネーション』!」

 

 ネプギアも必殺技『ビットズコンビネーション』によりファンネル型ビットを展開し、ナナメブレードを迎撃する。

 

(……ビットの攻撃力では勝っていても、動きの質は劣ってるわね……悔しいけど、プラネテューヌとの技術力の違い……か)

 

 ノワールの思った通り、ビット同士のぶつかり合いは拮抗していた。

 

「……けど、私を止められるかしら?」

 

 ノワールはネプギアに距離を一気に詰める。

 

(来る……っ!)

 

 しかし、ノワールの接近はユニのエクスマルチブラスターの砲撃に阻まれた。

 

「ネプギア! ナナメブレードはあたしが撃ち落とすから、その間お姉ちゃんからの攻撃は死んでも耐えて!」

「わかった!」

 

 ネプギアのM.P.B.Lとノワールのソードの鍔迫り合いとなる。

 しかし、力の差は歴然、ジリジリとネプギアの方に剣は傾いていく。

 

「ユニがナナメブレードを撃ち落とすまで、耐えられる?」

「私はユニちゃんを信じています! 私がやられる前に助けにきてくれるって!」

 

 その時、ノワールの側面からビットのビーム砲が飛ぶ。

 

「おっと」

 

 ネプギアは、ナナメブレードをユニに任せたことにより空いた自身のビットに近接援護をさせ、自身より遥かに強いノワールの猛攻をなんとか耐える。

 

(ネプギアが必死でお姉ちゃんの猛攻を耐えてくれてる! だから、あたしが出し惜しみしてる暇なんてない!)

 

「『ドルチェ・ヴィータ』! 乱れ撃つわ‼︎」

 

 ユニは最強必殺技、魔法弾『ドルチェ・ヴィータ』を使用し、ナナメブレードを撃ち落とす。

 そしてノワールに向かい数発ネプギアの援護射撃をし、ネプギアからノワールを引き剥がす。

 

「へぇ、やるじゃない。ユニ」

「ネプギア、大丈夫?」

「なんとか耐えたよ」

 

 ネプギアを狙えばユニからの射撃をまともに喰らうハメになる。

 逆にユニを狙おうとすればネプギアに隙を晒すことになる。

 ステータス面では絶対的な優位を誇るネクストブラックでも、ナナメブレードを失ってしまったことで、この布陣は易々と崩せそうにない。

 

「でもまぁ、潰すならネプギアが先よね」

 

 ユニの射撃を警戒し、高速で旋回しながらネプギアに斬りつける。

 

「く……っ!」

 

 とはいえ、回避に気を回しながらの攻撃であるため、ネプギアを倒し切るには至らない。

 ネプギアは隙を見てスキル『ヒール』を繰り返し、自身の耐久力を少しずつ回復させ、ノワールの猛攻を凌ぐ。

 

「……やっぱりちまちまするのは性に合わないわね。なら……」

 

 一旦ネプギアから距離をとったノワールは、自身の剣にシェアエネルギーを込め、技を放とうとする。

 

「『トルネードソード』!」

「……っ、ネプギア!」

 

 ネプギアに向けられたトルネードソードの斬撃を、エクスマルチブラスターの射撃で相殺しようとユニが少し前に出る。

 

「……っ! 違うよユニちゃん! 下がって‼︎」

 

 その時、何かに気づいたネプギアがユニに警告するも……

 

「えっ……」

 

 ……もう遅かった。

 トルネードソードの刃が捉えたのは、ネプギアではなく、その背後にいるユニだった。

 

「自分が狙われてないと思って少し油断してたわね、ユニ」

 

 ノワールはユニから視線を逸らしていたが、逆に狙いはずっとユニだったのだ。

 手品やスポーツなどで使われるテクニック、所謂視線誘導(ミスディレクション)であり、それに引っかかったユニはトルネードソードの範囲まで入ってきてしまっていたわけである。

 

「そんな……っ」

 

 耐久値が大きく削られ、変身解除して膝をつくユニ。

 

「さて」

 

 ノワールはネクストフォームから通常の女神化に戻り、ネプギアの方に振り向く。

 

「後はあなた一人よ、ネプギア」

 

 大きく疲弊したネプギアに対し、ネクストフォームになったことの疲労程度しか感じていないノワール。

 勝負はすぐに決した。

 

 

 

 

『聞いたよノワール〜大人気なくネクストフォームになったんだって〜?』

 

 その日の夜、ネプテューヌと通話しながらオンラインゲームをしていたノワールは、ネプテューヌに昼間の戦闘について色々と聞かれていた。

 

「そりゃなるわよ。ネプギアとユニを同時に相手取るなんて、普通の女神化じゃ無理なのはあなたにとってもそうでしょ?」

『確かに。あの二人同時はもうわたしでも無理かなぁ』

「それに、今回はネクストフォームで簡単に勝てたといっても、いつまでそうかはわからないわ。あの子たちの成長速度は日々加速してる。いつか二人同時だとネクストフォームでもきつくなるかもしれないわ」

『ネプギアもユニちゃんも、私たちを超える日がどんどん近づいてきてる気がするね〜。焦るような頼もしいような』

「まぁ、まだ負けてあげる気なんてさらさらないけどね」

『ふふっ、そうだね』

 

 まだ姉である守護女神の方が強い。おそらく、明日も明後日もその次の日も、戦えば勝利するのは姉たちだろう。

 しかし、そうでなくなる未来が近づいていることをノワールもネプテューヌも確かに感じていた。

 そして、ネプテューヌの言った通り、妹たちが自身を超える日が来ることを焦る気持ちと期待する気持ち、その二つを併せ持っていた。

 

 

 

 

 また後日、ラステイション教会ユニの自室にて、再びロボのパーツを持ち込んだネプギア。

 

「ユニちゃん! 今度こそユニちゃんロボを完成させるよ!」

「嫌」

「えっ……?」

「言ったでしょ。ロボなんかに援護させないでもいつでもあたしがしてあげるって。ロボなんか作る暇があったら少しでもあたしたち自身が強くなるの。わかった?」

「はーい」

 

 結局『ユニちゃんロボ』作成はお蔵入りとなったが、ネプギアは嬉しそうに笑っていた。

 

「……? 何嬉しそうにしてんのよ?」

「んー? なんでもないよ、ふふっ」

 

 何気ない日常の中でも、妹は姉の元へ一歩ずつ近づきているのだった。

 

 

 

 





 多分またこんな感じのギアユニがバカみたいな兵器開発するやつやると思います。


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ギアユニ武器開発日和 ( ネプギア ユニ )


 ネプギアのキャラがいつも以上に崩壊してますが、こんな姿を見せるのは親友のユニの前でのみということでどうかお許しください。



 

 

 

 こたつに入りながら、興味もないテレビ番組を見続けるユニと、携帯端末をいじるネプギア。

 お互い予定がなかったため、いつもの通り片方の教会(今回はプラネテューヌ教会)で一緒に遊んでいたのだが、こたつの魔力に取り憑かれた二人はひたすらだらけていた。

 

「よくあるやつあるよね?」

 

 急にネプギアが口を開いた。

 

「よくあるやつってだけ言われても何もわからないわね」

「え〜、ユニちゃんなら私の言いたいことをわかってくれると思ってたのになぁ〜」

 

 理不尽な抗議をしながらこたつの上のみかんを頬張るネプギア。

 

「何であたしが悪いみたいになってるわけ?」

「ふぁふぁふぁふぇ、ふぃっふぉふぉふぁふぃふふふぉ……」

「みかんを食べながら喋らないの」

 

 いつもはしっかりもののネプギアだが、こたつの魔力に魂を縛られ珍しくだらけ切っていた。もしくは、これは親友のユニの前でのみ見せる姿なのかもしれない。

 

「ビットをライフルと連結させて、ライフルの射撃能力を底上げしたり、ビームソードの出力をあげたりするやつ、あるじゃん?」

「よくあるってほど、よくあるやつじゃない気もするけど、あるわね」

「あれやりたいな、って」

 

 つまるところ、いつもの新武器開発である。

 

「パーツとか足りてるわけ?」

「全然足りてないよ。買いに行きたいな」

「じゃあ行きましょ」

「でも外寒いしこたつあったかいから出たくないし…………わかった! 行くから! こたつから引っ張らないでぇっ! 服が伸びちゃうっ‼︎」

 

(ネプギア……なんか最近ネプテューヌさん化が少し進んでる気がするんだけど……)

 

 そんなこんなで、二人はネプギア行きつけのジャンクショップにやってきた。

 

「わぁ! ジャンク品がたくさん増えてる!」

「年末の大掃除で出たゴミが大量に持ち込まれたわけね」

「なんて言い方するのユニちゃん」

 

 手を輝かせながらジャンクショップ内を歩き回るネプギアと、ネプギアに呆れた表情を向けながらも自分の欲しいものを探すユニ。

 

「とはいえ、流石に品数が多いわね。ライフルの拡張パーツがこんなに売ってるとは思わなかったわ。実弾も売ってるわね。徹甲榴弾、対空ミサイル、ハイドボンブ、ナパーム弾……流石にジャンク屋ね。珍しいもの揃えてるじゃない」

「あれ? ユニちゃんって弾も自分で買って揃えてるの?」

「実弾は教会から予算が降りる分はあるけど、それを超えると自腹ね」

「へぇ、私のはビームオンリーだからそういうの考えたことなかったなぁ」

 

 可憐な見た目からは想像できない物騒な話題である武器談義で盛り上がる女神候補生二人。

 

「……じゃなくて、今日はビット用の武器を買いに来たんでしょ? なんかいいのあった?」

「武器と連結できるタイプはないかなぁ。それっぽいパーツを買って自分たちで組み立てるしかないかも」

「長い作業になりそうね……」

「私は楽しいよ。ユニちゃんと一緒だともっと」

「…………ぁたしもょ」

「……? 何か言ったユニちゃん?」

「何でもないわよ!」

「ええっ! 何で怒ってるのー⁉︎」

 

 二人は買い物を済ませ、教会に戻る。

 

「お小遣いが厳しいって言ってたのに、よくそんなにパーツ買えたわね」

「ユニちゃんも出してくれたじゃん」

「そりゃあんただけに出させるわけにはいかないでしょ」

「えへへ。ありがとう。それに、お姉ちゃんがお年玉くれたから」

「ウソ、ネプテューヌさんが?」

「うん。毎年くれるんだよ」

「へ、へぇ〜」

 

 ネプテューヌの意外な一面に驚くユニ。

 ちなみに、ノワールのデスクの引き出しの中には、毎年ユニにあげようと思って結局あげられなかったお年玉がずっと保管されており、相当な金額になっているのだが、ユニがそれを知るよしはない。

 

「よし。早速作業開始といこうじゃな……」

 

 意気揚々と準備するユニの目に入ったのは、こたつに入ってふにゃふにゃになってるネプギアだった。

 

「……何帰宅早々こたつに引きこもってんのよ! あんたが新しいビットを作るって言い出したんでしょーが‼︎」

「ユニちゃん。守護女神がこたつに勝てるわけないんだよ。今日は諦めて明日からビットを作ろ…………わかった! 作るから! こたつから引っ張らないでぇっ! 服が伸びちゃうっ‼︎」

 

(やっぱり……ネプギアのネプテューヌさん化が進んでる気がするわ……)

 

 ……といった風に、製作に取り掛かるまでが長かったものの、取り掛かってからは早かった。ネプギアとユニは日に日に武器開発の手際が洗練されていっており、およそ半日で新型のビットを完成させた。

 

「これで完成だね! ユニちゃん!」

「いつも言ってるけど、この達成感が心地いいわね」

 

 ネプギアのビームソードとM.P.B.L、ユニのライフルとエクスマルチブラスターに連結できる新型のビット。ネプギアの『ビットズコンビネーション』で使用するビットのような丸みを帯びたデザインではなく、連結を前提とした角ばった見た目となっている。勿論、自身の周りに浮遊させて援護射撃をさせる従来の使い方もできる。

 

「よーし! じゃあ、いくよ!」

 

 二人は早速、新武装を試そうと教会地下の修練場に向かい、ネプギアが新型ビットを起動し、まずはビットを浮遊させ、適当に動かす。

 

「どう?」

「反応は悪くないけど、精密な動きは難しいかな。私のビットみたいな動きの自由度は無さそう」

「まぁ、機能を増やしたらそうなるわよね」

「次は合体連結だね。ビームソード! ドッキングセンサー!」

「声に出す意味あるのそれ?」

「こういうのはノリが大事なんだよユニちゃん」

 

 ビットからセンサーが起動され、ビームソードの側面にドッキングされる。

 そしてネプギアがビームソードを起動すると、ビットと連携され出力が上がったことにより、バリバリバリと大きな音を立て、普段よりも長く鋭いビーム刃が現出される。

 

「うわ、すっごい」

「ちょっとデコイ相手に試し切りしてみるね」

 

 ネプギアがビットで強化されたビームソードを構え、技を出そうとした瞬間。

 

「はぁぁぁっ! 『スラッシュエッ……」

 

 バシュン、と音が鳴り、ネプギアのビームソードがもくもくと煙を出しながら、機能停止してしまった。

 

「「……え?」」

 

 ネプギアもユニも何が起こったか分からず、その場に立ち尽くす。

 

「……もしかしてなんだけど」

 

 数秒間の沈黙の後、先に口を開いたのはユニ。

 

「ジャンクパーツとか使って強引に作ったから、エネルギーを食う量が馬鹿にならないってことなんじゃない?」

「ちょっと調べてみる」

 

 ネプギアは自身のNギアを使い、新型ビットの解析をする。

 すると、消費するシェアエネルギー量が、女神化以上の数値を示していた。普段使いする武器においては、最低レベルの燃費である。

 

「わぁ……」

「これは……酷い……」

「ぷっ……ふふ、あはははははは!」

「ちょっ……何で笑うのよ! ……くくっ、はははははっ!」

 

 あまりにも酷い数値がツボに入ったのか、ネプギアが笑い始め、それに釣られてユニも笑う。

 

「だって、面白いんだもん! 何この数値! 燃費悪すぎだよ! あはははははっ!」

「ふふふふふっ……ふーっ。あー、笑った笑った」

「ごめんね……ふふっ、ユニちゃん。せっかくふふ……手伝っ……くふふ……れたのに……ふふっ」

「別に気にしなくていいわよ。それより笑うか謝るかどっちかにしてくれる?」

 

 こうして、今回の新武器開発も結局失敗に終わった。

 しかし、ネプギアもユニも心から楽しんでいたので、結果オーライというやつなのだろう。多分。

 

 

 





 そろそろ月一で更新するのがしんどくなってきて二ヶ月に一回更新にしていいかなってTwitterの方でアンケートを取ったのですが、フォロワーどもにダメと言われました。
 そういうわけで、これからも月一更新頑張ります。


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二月三日の激闘 ( ネプテューヌ イストワール )

 

 

 プラネテューヌ教会。

 体力を使い果たし倒れ込むアイエフとコンパ。

 ショート寸前のイストワール。

 最後の力を振り絞り、よろけながらも立ち上がったネプテューヌ。

 

「これで……最後だね、ネプギア」

 

 ネプテューヌが仲間たちと死力を尽くして創り上げた"それ"が、ネプギアに託された。

 

「……やっと終わるんだね、お姉ちゃん」

 

 寂しさと安堵を混ぜた表情で、ネプギアは受け取った"それ"を両手で大事に持ちながら駆ける。

 

「『プラネテューヌ教会特製恵方巻き』、おまたせしましたーーッ‼︎」

 

 予約注文の最後の一つが届けられ、遂に地獄の恵方巻き作りに幕が降りるのだった。

 

「やっと…………終わった…………」

 

 ネプギアの声を聞いた厨房のネプテューヌは、その場にがくりと倒れ込むのだった。

 なぜこのようなことに至ったか、それは数週間前に遡る。

 

 

 

 

「正月からバレンタインの間、少し暇じゃない?」

 

 イストワールを始めとする教会員に捕獲され、渋々書類仕事に取り込むネプテューヌが、ふと呟いた。

 

「暇、と言いますと?」

 

 また変なことを言い始めるのか、と呆れた様子のイストワールだが、とりあえずネプテューヌの言葉に耳を傾ける。

 

「こーんな地味な仕事じゃなくて、イベントっぽいことをすれば効率的にシェアを稼げると思うんだよね。そこで、何もないこの期間にプチイベントを作ろうと思うんだよ」

「はぁ……では、イベントとは?」

「いーすんは、恵方巻きって知ってる?」

「恵方巻き……?」

 

 この次元のゲイムギョウ界には存在しない文化である『恵方巻き』をイストワールは知るわけもなく、首を傾げる。

 

「わたしも詳しくは知らないんだけど、大きいわたしがどこかの次元で食べたものらしいんだ」

「食べ物なんですね」

「そうそう。なんか二月の初めぐらいに大きな巻き寿司にかぶりつくんだって。後は鬼がどうとか豆がどうとか方角がどうとか聞いたけど細かいことは忘れちゃった」

「……ふむ。話を聞く限りだと意味がわかりませんが、その次元なりの縁起というものがあるんでしょうね」

 

 そして、イストワールは既にネプテューヌが次に言うであろう言葉を予測していた。

 

「というわけで、わたしは『プラネテューヌ教会特製恵方巻き』を作って、恵方巻きの文化をプラネテューヌに広げて、ついでにシェアを稼ごうと思うんだ」

「そう言うと思いましたよ。やってみればいいんじゃないですか?」

「……あれ? いーすん意外と乗り気? 反対されると思ってたけど」

「しませんよ。ネプテューヌさんなりにシェアを稼ごうと考えたことじゃないですか」

「えへへ。いーすんってば話しがわかるね〜!」

「その代わり!」

 

 イストワールはビシッと指を立てながら言う。

 

「食べ物を作るだけではなく人に売るということは思っている以上に大変なことですからね。やるならしっかりとやってください。それに、食材を無駄にしないこと。わかりましたか?」

「はーい!」

 

 イストワールの尤もな忠告に、元気一杯に返事するネプテューヌ。

 

「まぁ、食材を無駄にしないように完全受注販売にするし、それにわたしたちが女神だっていっても食べ物に関しては素人なわけだし、そんな素人が作ったものを食べたがるもの好きなんてそうはいないから大丈夫だよ。最低限働いて最低限のシェアを稼げればいいってね」

「やっぱり楽することを考えてるんじゃないですか……」

「でも、新しいイベントを作ってみんなで楽しみたいって気持ちもあるよ」

「わかっています」

 

 ネプテューヌは軽い気持ちでイストワールと共に受注用ホームページを作成。大々的に宣伝するのではなく、こういうことをやってみるのでよかったら〜、程度の規模で告知を開始した。

 ネプテューヌやイストワール的には、『二月初頭に恵方巻きを食べる』というイベントをたった一回で定着させるつもりはなく、数年かけて少しずつ定着させるつもりだった…………

 

「……うそ。予約が殺到してる」

 

 …………はずだった。

 数日後、告知サイトを開いたネプテューヌは戦慄していた。想定の数百倍の注文が届いていたのだ。

 

「上限を設けるべきだったのかな……今から抽選制にして……でも、今更変えたら問題になりそうだし……」

 

 信じられない予約数に圧倒されながら、ぶつぶつと策を練るネプテューヌ。

 

『食べ物を作るだけではなく人に売るということは思っている以上に大変なことですからね。やるならしっかりとやってください』

 

 ふと、イストワールの言葉が脳裏に浮かんだ。

 予定していた予約数を上回ったため材料が足りないとか、そういうありそうな言い訳をすれば、この事態を収束させることができるだろう。

 しかし、それは妥協したということになる。

 また、この予約数は言い方を変えれば国民からの期待でもあった。

 

「……作るしかないか」

 

 守護女神が国民の期待に応えなくていいはずがない。

 ネプテューヌは覚悟を決めたのであった。

 

 

 

 

 時は戻り、二月三日の夜。数百にわたる地獄の恵方巻き作成と後片付けを終えたネプテューヌたち。

 

「みんな、今日は手伝ってくれて本当にありがとう」

 

 ネプテューヌは親友たちに、地獄に付き合わせたお詫びとして、しっかりと頭を下げて感謝する。

 

「ほんとよ。調理がしんどくて死ぬかと思ったのなんて初めてよ」

「一生分お料理した気分です……」

「でも、やり遂げられて良かったわね」

「それに、一番頑張ったのはねぷねぷですから」

「うぅ……ショート寸前まで働いたのは、猛争事変でネプテューヌさんを零次元から帰還させた時以来です……」

「ありがとういーすん。お疲れ様」

「ネプテューヌさんもお疲れ様でした。シェアの上昇が確認されますし、イベントとしては成功といっていいでしょう」

「良かったぁ……でも、来年もこれやりたくないなぁ……しんどいし」

「……でしょうね」

「ネプギアもお疲れ様。渡し作業ありがとね」

「どういたしまして。お姉ちゃんもお疲れ様」

「当分お米は見たくないし……三食パンにしよう。うん」

「そうだね……」

 

 国民たちは楽しんだイベントであったが、始めた当事者であるネプテューヌたちが地獄を見たことにより、結局プラネテューヌでは恵方巻きが定着することはなかったとか。

 

 

 





 もしかしたら公式でネプテューヌとかが豆とか撒いてる絵があったかもしれませんけど、この作品の次元には節分という文化がないということにしておいてください。


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シェアリングタクティクス ( 天王星うずめ ネプギア )


 かなりの独自解釈と少しの独自設定が入り、人を選ぶ内容となっています。



 

 

「ぎあっちと二人きりで遊ぶのも久しぶりだな」

「そうですね。うずめさん、超次元に戻ってきてから忙しそうだったから」

 

 プラネテューヌの街中を練り歩く二人の女神、ネプギアと天王星うずめ。

 

「忙しいっつっても、ゲイムギョウ界中を大きいねぷっちと遊び歩いてただけだけどな。ぎあっちに誘われたらゲイムギョウ界の裏からでもすぐに飛んできたのに」

「流石にそんな無理は言いませんよ……」

 

 冗談だとはわかっていても、本当に世界の裏側からでも駆けつけて来かねないうずめに対し、ネプギアは苦笑いしながら返す、

 

「さて、どこ行く? ぎあっちの行きたいとこ連れてってくれよ」

「行きたいところ……うーん、今日は特にないんですよね」

「ぎあっちの好きな機械系の店とかは?」

「先月は週八ぐらいのペースで通ってたんですけど、それから新パーツが入荷されてないから行ってももう見るものがないんですよね」

「……ん? あ、あぁ……うん、そっか」

 

 ネプギアから発せされた週八という常軌を逸脱した単語に、一瞬言葉が詰まるうずめ。

 

「実は……」

 

 何やら神妙な顔つきになったネプギアに対して、うずめは納得したような表情を見せる。

 これから言われることが今日俺が誘われた理由なんだな、と。

 

「うずめさん……稽古をつけてくれませんか?」

「……俺? 別に良いけど……ねぷっちじゃなくていいのか?」

「お姉ちゃんやユニちゃんと戦うだけじゃなくて、色々な経験を積みたいんです。だから最近は、ベールさんに槍術を習ってみたり、色々できることを増やしてみてるんですよね。ユニちゃんには『器用貧乏が加速するわよ』て言われちゃいましたけど」

 

 要領が良く何でも器用にこなせるタイプであるネプギアだが、それ故に器用貧乏となってしまい特出した個性がないと言われる悩みがある。

 最近は自身の戦い方における特出した個性を見出すため、様々な試みを図ってはいるとのの、ユニの言うとおり、結局は器用貧乏が加速しているだけとなっていた。

 

「……いいじゃねえか、器用貧乏」

「え?」

 

 しかし、うずめは器用貧乏という単語に好感を示していた。

 

「器用貧乏を極めてホンモノの器用にすりゃいいんだよ。ぎあっちならできるさ。そのためならいくらでも付き合ってやる」

 

 時には短所扱いされることも、突き詰めれば強力な個性となる。

 それに、たとえそれが器用貧乏と言われようが何でもできるぎあっちが好きだから、という照れ臭くて言葉にできなかった思いもあった。

 

「ありがとうございます!」

「じゃあ、一旦戻るか」

「はい!」

 

 場所は変わり、プラネテューヌ地下の訓練場。

 ジャージ姿に着替えたネプギアとうずめは、準備運動をしていた。

 

「うずめさんってシェアエネルギーの扱うのがすごく上手いですよね。コツみたいなのあるんですか?」

 

 シェアエネルギーの操作。

 武器の使い方やスキルの多彩さとは違った方面の技術。

 天王星うずめという守護女神は、ゲイムギョウ界の歴史の中でも特異な立ち位置である。既にプラネテューヌの守護女神という立場はネプテューヌに移っており、プラネテューヌの国民からのシェアが向かう先はもちろんネプテューヌである。

 現在うずめが得ているシェアは、うずめが女神だった時代を知っている極小数のプラネテューヌ国民と、海男や零次元から連れ帰ってきたモンスターぐらいしかいないため、うずめが持つシェアエネルギーの総量は、現役の守護女神であるネプテューヌたちと比べて大きく劣る。

 しかし、女神が持つシェアエネルギーの総量が女神の戦闘力に直結するわけではない。

 先述した武器の使い方、スキルの多彩さといった戦闘技術や、シェアエネルギーの出力、そして扱い方が、戦闘力における大きな要因となる。

 ちなみに、正確に数値化などをして比較されているわけではないが、ゲイムギョウ界で最もシェアエネルギーの総量が多い守護女神はグリーンハート、出力が高いのはホワイトハートであると言われている。

 比べて、うずめはシェアエネルギーの総量は低く、出力もそこそこといったところ、スキルも多彩ではあるが特出するほどではない。

 しかし、うずめは現役の守護女神に負けず劣らずの戦闘力を持っている。それは何故か。うずめはゲイムギョウ界の女神の中で、シェアエネルギーの操作がダントツで得意だからだ。

 

「逆に、俺がねぷっちとかぎあっちみたいに剣持たない理由はそこなんだよな」

「そこ……って?」

「俺はシェアエネルギーの操作においては、手で直に触れる感覚を大事にしてるんだよ。武器持つとブレるっていうかさ」

 

 また、うずめ唯一の武器と言えるメガホンの使用も、自分の声を媒介にシェアエネルギーを攻撃に変換しているため、手と同様に自身の感覚を大事にしている。

 

「私も素手で戦った方がいいんですかね?」

「いや、そこまでしなくていい。俺のスタイルがそれに合ってたってだけだし、素手じゃなきゃいけないわけじゃないさ」

「わかりました」

「じゃあまずは戦いにおけるシェアエネルギーの使い方の基本からだな。これはぎあっちにも知ってることが多くて退屈かもしれないけど」

「そんなことないですよ。お願いします!」

「おう! じゃあ、まずシェアエネルギーはな…………」

 

 守護女神は戦闘時には高い身体能力をシェアエネルギーで更に強化している。加えて、攻撃を行うときに身体に力を入れる要領で、その箇所をシェアエネルギーで更に強化するのだ。

 また、威力の底上げだけでなく、ネプテューヌの『32式エクスブレイド』、ベールの『シレットスピアー』のようなシェアエネルギーそのものを顕現させ攻撃する技や、ノワールの『トルネードソード』、ネプギアの『スラッシュウェーブ』などシェアエネルギーで武器の攻撃範囲そのものを大幅に延長させた技のように、応用を効かせれば戦い方を幾らでも増やすことができる。

 そして、武器を持っている相手と素手で近接戦闘が行えるうずめのシェアエネルギー操作がどれだけ上質かはもう言うまでもないだろう。

 

「…………っつーわけだ。例えば、大振りの一撃はシェアエネルギーも乗せやすいから、威力もその分高くなる。敵に避けられやすくなる欠点があるけどな。ぎあっちのギアナックルもそんな感じの技だろ?」

「そうですね。あの、今それを聞いて思ったんですけど、うずめさんの『夢幻連撃』って連続パンチ全部にシェアエネルギーが込められてるんですよね……?」

「まぁな」

「すごい……」

 

 技の一つにシェアエネルギーを込めること自体はさほど難しくはない。

 しかし、咄嗟に出す技ですらない軽い攻撃全てにシェアエネルギーを込めることや、連続攻撃の全てに同じようにシェアエネルギーを込めることになると、その難易度は跳ね上がる。

 

「慣れてくりゃ、シェアエネルギーを使う時に使う分だけ出せるようになる。ねぷっちより使えるシェアエネルギーが少ない俺が同じように戦える理由がこれだ。ぎあっちもやれること増やしたいなら覚えておいて損はないぜ」

「……」

「……? どうしたぎあっち?」

「あ、いえ、なんでもないです」

 

 ネプギアは、解説されたシェアエネルギーの扱い方を知らなかったわけではない。ある程度は知識として既に持っていたものではある。

 しかし、うずめのシェアエネルギーへの理解度が自分のそれを遥かに超えていたことに感心し、言葉を失ったのだ。

 

「極め付けは……シェアリングフィールドだな。こればっかりは教えたらできるようなもんじゃないけど」

「……え? シェアリングフィールドって、うずめさんだけの技じゃないんですか?」

「ふふっ、実はそういうわけでもないんだぜ?」

 

 シェアリングフィールドは精巧なシェアエネルギー操作によって行われる空間生成能力であり、シェアエネルギー操作と結界術を含んだスキルの最高難易度技である。

 しかし、ある一定以上の実力を持つ守護女神にとっては実現不可能なほど難しい技ではない。

 だが、現在のゲイムギョウ界において、天王星うずめ:オレンジハート以外の守護女神にはシェアリングフィールドが発動できない。

 では現代の守護女神が一定以上の実力を持っていないのか。それは勿論違う。

 うずめが使うシェアリングフィールドは、他の守護女神には到底真似できないほど出力が高く範囲が広い。

 つまり、他の守護女神にとってうずめが使うシェアリングフィールドが基準となってしまい、その先入観が会得の妨げとなってしまっているのだ。

 

「じゃあ、私もうずめさんぐらいシェアエネルギーを操作するのが上手くなれば、フィールドを展開できるんですか?」

「あぁ、できる。できる……けど、もう一つ大事なことがある」

「大事なこと……?」

「"思い"と"イメージ"だ。自分の思いをシェアエネルギーを使って具現化するんだよ」

「う〜ん……聞けば聞くほどわからなくなっていくって言いますか……」

「シェアってのは"思い"だろ? 自分の思いや自分への信仰で形成するシェアリングフィールドは、言うならば"自分の世界"ってことだ」

「自分の……世界」

「ねぷっちとかのわっちみたいな、実際に国を治めてる女神の方が掴みやすい"イメージ"だな。託された思いからどういう国にしていくか、みたいな考えと似てるわけだ」

 

 まだ女神候補生のネプギアにとって、そのイメージを具体的にするのが難しいからか、ネプギアは頭を抱えて考え込んでしまう。

 

「こんなもん一回できるようになっちまえば後はもう楽だし、シェアリングフィールドなんてシェアエネルギー操作の延長も延長だから、今は考えなくていいさ」

 

 うずめはネプギアの頭にぽんと手を乗せ、わしゃわしゃと撫で回し、凝り固まったネプギアの思考をほぐす。

 

「うずめさん、くすぐったいですよ〜!」

「わりいわりい。さてと、これ以上は実戦で教えるしかないな。丁度いいから俺の修行にもちょっと付き合ってほしいんだけど」

「良いですよ。むしろお願いします」

 

 会話で止まっていた準備運動を再び済ませ、距離を取って向かい合う二人。

 ネプギアは訓練用のゴム剣を数回振り回してから構える。

 うずめも訓練用の破壊音波がマイルドに調整されているメガホンを、少しだけ音声チェックをした後、一旦消滅させ、楽な姿勢で立つ。

 

「行きます」

「おう、来い」

 

 先に動いたのはネプギア。

 思い切り地面を蹴り、刀を振りかぶりうずめに突撃する。

 しかし、うずめから教わったことを実践しようとするあまり、いつもより少しだけ動きが硬くなっていた。

 

「……ま、そうなるよな」

 

 故に、ネプギアの動きはうずめに見切られ、刀は簡単に受け止められしまう。

 

「ぎあっち。今、腕に力とシェアエネルギー込めたろ?」

「え、あ、はい」

「そして、力はともかく、シェアエネルギーを込めることを意識しすぎて動きが硬くなった、ってところか」

「ぅ……」

 

 ネプギアは自分のミスを完璧に言い当てられたからか、ばつの悪い表情で返事にならない声を漏らす。

 

「悪いことじゃねえって。言われたら意識すんのは当たり前だ」

 

 むしろうずめは、ネプギアが自分に言われたことをすぐに実践しようとしたことを、誇らしげに笑っていた。

 

「けど、シェアエネルギーってのは身体と違う。身体に力を入れる要領でやると、ズレるんだ。何故かわかるか?」

「えっと…………あっ」

 

 ネプギアは少し考えると、何かに気づいて声をあげた。

 

『例えば、大振りの一撃はシェアエネルギーも乗せやすいから、威力もその分高くなる』

 

 模擬戦の前にうずめから教わったことを思い出し、それをヒントに回答を導き出す。

 

「シェアエネルギーを乗せられないから……ですか?」

「おっ! 大正解。流石ぎあっちだ」

「さっきのうずめさんの言葉を思い出したんです。大振りの攻撃にはシェアエネルギーは込めやすいけど、そうじゃない攻撃には込めにくいのかな、って」

「そう。つまり、俺たち女神の高い身体能力から繰り出される攻撃の速さに、自分のシェアエネルギー操作の意識がついてこれないんだよ」

「どうしたらできるようになるんですか?」

「身体の一定の場所に『シェアエネルギーを込める』っていう意識を変えるんだ。シェアエネルギーを常に身体の動きとリンクさせるんだよ。でも、これは感覚的な問題だからなぁ……具体的なやり方を俺からは教えられるかは……」

「……いえ、大丈夫です。ありがとううずめさん。なんとなくわかりました」

 

 ネプギアの目つきが変わる。

 集中しつつ、身体の力を抜き、シェアエネルギーが全身に行き渡る感覚を掴もうとしていた。

 

「……それでいい」

 

 うずめは、そんなネプギアを満足げに見つめながら、ネプギアに聞こえないぐらいの声量で呟く。

 

「うずめさん。もう一度いいですか?」

 

 ネプギアは再び剣を構えた。

 

「あぁ、いいぜ」

 

 返事とともに、今度はうずめも拳を構える。

 少し前のネプギアの攻撃は受け止められる自信があったが、今のネプギアに対して同じことができる自信はなかった。

 

「行きます!」

 

 ネプギアは思い切り地面を蹴り、刀を振りかぶりうずめに突撃する。

 動き自体は先程と同じだったが、動き以外は何もかも違った。

 身体の動きとシェアエネルギーの込められ方が噛み合い、先程とは比べ物にならない鋭い剣筋となっていた。

 

「……っと!」

 

 咄嗟に回避したうずめの表情は半笑い。

 ネプギアの成長速度を喜びながら、少し恐れもしていた。

 たった少しだけ教えただけでここまで変わるのか、と。

 

「今度は、こっちから行くぜ!」

 

 うずめが放つのは、鋭い右ストレート。

 模擬戦相応に威力は抑えてあるが、それでも常人が放つものとは隔絶された威力の打撃がネプギアを襲う。

 しかし、ネプギアは怯むことなく、空いている方の掌で、うずめの拳を受け止める。

 

「……ほんとにすげえよぎあっち。俺が教えたことを、攻撃だけじゃなくてもうガードにも使えてるなんてな」

「それでもかなり痛いですけどね……」

「えっ⁉︎ ごめん、大丈夫かぎあっち⁉︎」

「今は戦っているので、気にしなくても大丈夫です」

 

 やりとりの途中、ネプギアは一旦剣を消滅させていた。

 そして、うずめの腕を掴んで引っ張り、思い切り拳を突き出す。

 

「うおっ⁉︎」

「……『ギアナックル』ッ‼︎」

「……っ!」

 

 うずめは、咄嗟の身体の動きで突き出された拳の角度をズラし、衝撃をある程度受け流すことでダメージを抑えた。

 ネプギアは自分の技が大した威力にならなかったことを悟ると、うずめの手を離して即座に距離を取る。

 今の攻防で、剣の間合いよりも更に近くなっていたため、その距離で戦うとなるとネプギア側が不利だからだ。

 

「くっそ〜。可愛い顔してえげつねえ手を使うじゃねえかぎあっち〜!」

「お姉ちゃんとかユニちゃんに度々攻撃が素直すぎるって言われて、私も色々考えてるんです」

「なるほどな」

 

 言いながら、うずめはメガホンを取り出し、深呼吸する。

 

「すーっ……」

 

 ネプギアは息を呑む。今までうずめの攻撃範囲は腕の届く距離でしかなかったが、今この瞬間からは。

 

『うぉああああああーーーーーーッ!』

 

 ネプギアの攻撃範囲の更に奥から、メガホンを通り破壊音波となったうずめの声が、ネプギアに襲いかかる。

 うずめのメガホンを用いた攻撃は、メガホンから音波にシェアエネルギーを乗せて攻撃しているので、ただの超音波攻撃とは少し異なる。

 そして、シェアエネルギーの理解度を深めたネプギアは、そのことを理解していた。

 

「『スラッシュウェーブ』!」

 

 ネプギアはスラッシュウェーブを攻撃ではなく、防壁のように貼り、音に乗せられたシェアエネルギーの衝撃波を遮断する。

 そして、ネプギアに届くのは爆音だけとなり、ダメージはなくなる。

 

「やるな……だが!」

 

 前方に飛び出してきたうずめが、既にネプギアの眼前に迫っていた。

 うずめからしても、ネプギアに破壊音波を防がれることは想定内。だが、足を止めざるを得ない防御を強要してその隙に距離を詰める、これがうずめの真の狙いだった。

 

「今度は、割と本気で殴るからな!」

 

 うずめはシェアエネルギーをドリル状に纏い『夢幻粉砕拳』を繰り出す。

 

「『パンツァー……」

 

 ネプギアもうずめのメガホン攻撃が接近の布石であることはある程度読んでおり、既に技を出す準備ができていた。

 

「……ブレイド』‼︎」

 

 突き出されたうずめの拳に対し、思い切り剣を振り下ろすネプギア。

 シェアエネルギー同士がぶつかり合い、両者ともに弾き飛ばされる。

 

「きゃっ……!」

「うわっ……!」

 

 軽い模擬戦のつもりだった。

 しかし、戦いの中で両者ともに気分は高揚し、更なる刺激を求める。

 

「うずめさん……!」

 

 声と共に一瞬、ネプギアの虹彩が光を放ち、不完全な電源マークが瞳孔に刻まれる。

 

「……あぁ!」

 

 うずめも応じるように、一瞬目が発光し、完全な電源マークが瞳を走る。

 

「刮目してください!」

「変身ッ!」

 

 力強い掛け声を皮切りに、両者とも光に包まれ『女神化』を果たす。

 

「プロセッサユニット、装着。変身完了です!」

「変身かんりょー!」

 

 キリッとした表情でM.P.B.Lを握りしめるパープルシスターと、ほにゃっとした柔らかい表情でメガホンを持つオレンジハート。

 

「ここから本気で行くよ、ぎあっち!」

 

 そう言ってうずめが再び深呼吸し、メガホンに声を入れようとしたその瞬間、ビーム砲が飛んでくる。

 

「……わわっ!」

「同じようには行きませんよ!」

 

 今のネプギアは、武器が変身してM.P.B.Lに変化したことにより、うずめ以上の攻撃範囲を持ち、隙の大きい攻撃はロングレンジからの射撃によって一方的に潰される。

 

「……むぅ」

 

 隙の小さい音波攻撃ならネプギアに邪魔されずに放つことはできるが、有効打にすらならない攻撃にシェアエネルギーを使うのは勿体無い。

 うずめは一旦メガホンを消滅させ、拳を握る。

 

「こっちでいこっかな」

 

 うずめの背部ウイングから放たれる光は勢いを増し、ネプギアに向かって高速で旋回しながら接近する。

 

「はぁっ!」

 

 ネプギアはビーム弾を連射し、うずめの接近を妨げようとするも、高速で飛び回るうずめに弾を当てることができない。

 

「なら……受けて立ちます!」

 

 うずめに弾を当てるのを諦めたネプギアは、M.P.B.Lをビームソードモードに換装し、ビームソードの出力を上げる。

 

「とぉりゃああああっ!」

「はぁああああああっ!」

 

 ぶつかり合う剣と拳。

 

「ほ……にゃあああああっ!」

「……嘘っ⁉︎」

 

 最初だけは互角に見えたが、うずめがネプギアを押し始める。

 実際に力だけなら互角だった。差を生んだのは、シェアエネルギー操作の精度。ネプギアもコツを掴みかけてはいるものの、まだうずめには大きく劣る。

 

「く……ぅ……! 受けて立つって言ったけど……ごめんなさい! 行って、ビット!」

 

 正々堂々の押し合いでは勝てないことを悟ったネプギアは、申し訳なさそうに自身の周りにビットを展開し、ビットからビーム砲をけしかける。

 

「よっ、と」

 

 うずめは咄嗟にM.P.B.Lを蹴り出して、離脱し、ビーム砲を回避した。

 

「……困ったなぁ」

 

 中遠距離では、メガホンを使う隙がない。

 近距離では、ネプギア本体とビットによる連携で不利な戦いを強いられる。

 うずめにとっては、かなり手詰まりな状況。

 

「う〜ん、よし、やっちゃお!」

 

 しかし、うずめには、この状況を覆す秘策がある。

 

「『シェアリングフィールド』てんかーい!」

「……っ⁉︎」

 

 瞬間、うずめの左腕の装置が光を放ち、シェアエネルギーがドームのように展開され、ネプギアとうずめを包み込んだ。

 シェアリングフィールドは、本来はダークメガミなど巨大な相手に対して有利に戦うためのものだが、その効力はうずめの匙加減で応用を効かせることができる。

 このシェアリングフィールドにおいては、うずめは自身のシェアエネルギーを、自身の攻撃の威力の底上げとネプギアのシェアエネルギーの流れを阻害するように効果を調整していた。つまり、うずめにバフがかかりネプギアにデバフがかかっているということ。

 

「これが、シェアリングフィールドを相手にした時なんだ……」

 

 ネプギアは自身の身体を重く感じ、少しの息苦しさを覚えていた。

 しかし、女神との一対一で使用するシェアリングフィールドは、ダークメガミ対味方多数で使用するものほどの優位性はない。

 確かに、今この状況ではうずめが有利ではある。しかし、シェアリングフィールドはシェアエネルギーの消耗が早く、時間が過ぎれば過ぎるほどうずめは不利になっていく。もしネプギアに防御に徹され、耐え切られれば、敗北するのはうずめ自身。

 だからこそ、うずめはフィールド展開後、即行動を開始する。

 

「……っ!」

 

 そして、ネプギアもフィールドの効果をなんとなく理解し、攻撃に回すシェアエネルギーも全て防御に回し、完全に防御に徹する。

 すると、うずめは防御に徹したネプギアを無視し、ネプギアの周囲に飛んでいるビットを掴み、思い切り握りつぶした。

 

「……えっ?」

「狙いはこっちなんだよね!」

 

 直後、フィールドが解除される。

 うずめは展開の時間を最小限に抑えることで、シェアエネルギーの消耗も抑えたのだ。

 しかし、消耗を抑えることはできても、消耗そのものをなくすことはできない。

 消耗したシェアエネルギーが再び戦闘に使えるほど回復するまでのクールタイムは約十秒ほど。

 だが、女神同士の戦いにおいて、十秒という時間はあまりにも長く、その隙をネプギアが見逃す筈もない。

 

「たぁああっ! 『ミラージュダンス』‼︎」

 

 迫り来るネプギアのM.P.B.Lを前に、うずめは何かを決心したような表情を見せる。

 加えて、この状況に追い込まれることを想定していたかのような表情でもあった。

 

「よし、やったるぞ!」

 

 うずめは、ドス黒いオーラを手に纏い、ネプギアのミラージュダンスを受け止めた。

 

「えっ、これって……」

 

 ネプギアはそのオーラに見覚えがあった。

 忘れる筈もない。かつて、自分たちの脅威だったその力の正体を。

 

「ネガティブエネルギー……?」

「うん、そう……だよ……っ!」

 

 応じるうずめの表情は、少し苦しそうに見えた。

 無理もない話である。ネガティブエネルギーはシェアエネルギーと相反するエネルギー。女神にとっては毒となりうる。

 強力なものであるが、使うことにおいては大きなリスクが付き纏う。

 

「どうして、そんな危険な力を使うんですか⁉︎」

 

 だからこそ、ネプギアは声を荒げてうずめに問いかけた。

 

「分かってるよ。これは危険な力だって。でも、【くろめ】もうずめだから」

「くろめ……さん……?」

 

 くろめ、暗黒星くろめ。

 かつてゲイムギョウ界の滅亡を齎そうとした、憎しみに染まったもう一人のうずめ。

 

「あの時、うずめはくろめに勝って、くろめを受け入れた。そして分かったんだ。くろめも大事なもう一人のうずめだって。だから、ネガティブエネルギーごとくろめのことを受け入れてあげたいんだ」

 

 胸に手を当て、穏やかな笑みを浮かべるうずめ。

 

「力ってのは使いようでしょ? 力自体に善悪は無くて、使う人の気持ちで変われる。ネガティブエネルギーだってそのはずだって、うずめは信じたい」

「うずめさん……わかりました。それがうずめさんの決めたことなら」

 

 ネプギアはうずめの思いを汲み、ネガティブエネルギーを使うことに関してはうずめの意志に任せることにした。

 

「それに、ネガティブエネルギーも使えるようになっておけば、何かあった時も安心だし」

 

 今さっきシェアリングフィールドで消耗して使えなくなったシェアエネルギーの代わりにネガティブエネルギーを用いたように、シェアエネルギーとネガティブエネルギーを使い分ければ戦い方の幅も広がり、エネルギー効率も更に良くなる。

 まるでガソリンと電気を使い分けて走ることで、ガソリン車よりも大幅に燃費が良いハイブリッド車のようなものだ。

 

「……うずめさんが付き合ってほしい修行って、これのことだったんですね」

「うん。ごめんね、ギリギリまで黙ってて」

「気にしないでください。いくらでも付き合いますから」

「ありがとね、ぎあっち」

 

 会話を終わらせ、戦いに戻る二人。

 互いに限界が近い。

 ダメージは蓄積され、ビットやシェアリングフィールドといった奥の手も出し合っている。

 シェアエネルギーとネガティブエネルギーの同時使用は、相反するエネルギーという性質上、今のうずめには不可能。

 そもそも、今のうずめに使いこなせるネガティブエネルギーは少量であるため、使われることさえわかっていればネプギアにとってそこまで脅威ではない。

 しかしネプギアは、うずめがどれほどのネガティブエネルギーを使えるかは知らない。先程見せたのはほんの一端で、本気を出せばまだ出力をあげられるかもしれない、と悪い方向で想定していた。

 

「……あ〜、さっき使えた分が今のうずめ限界だよ?」

「え?」

「ネガティブエネルギー。そんなに警戒しなくてもいいからね」

「あ、そうなんですか」

 

 ネガティブエネルギーを警戒するあまり攻め方が消極的になっていたネプギアに対し、うずめは正直に手の内をバラす。

 うずめがしたいのは、勝利のための戦闘ではなくあくまでも修行だからだ。ネプギアの戦い方に雑念を混ぜたくはなかったのである。

 

「行くよぎあっち! ひっさーつ!」

 

 うずめは掛け声と共に、自身のシェアエネルギーを解き放ち、必殺技(エグゼドライブ)を繰り出そうとする。

 

「……私も、行きます」

 

 牽制の射撃を放つ、ひたすら距離を取り回避に徹する、勝利だけを目指すのならこの二つが安定の行動となる。

 しかし、ネプギアも自身のシェアエネルギーを最大まで高め、M.P.B.Lのリミッターを外し、必殺技(エグゼドライブ)の準備に入った。

 

「ほにゃああああーーーーーーッ!」

「てやぁああああーーーーーーッ!」

 

 紫と橙の閃光がぶつかり合い、互いのシェアエネルギーが炸裂し、周囲の物体を薙ぎ払って行く。

 光と煙が晴れ、焦土と化した訓練場に立っていたのは…………

 

「……参った。俺の負けだ。流石だな、ぎあっち」

 

 ネプギアだった。

 変身が解け、仰向けになりながら勝者(ネプギア)を讃えるうずめ。

 ネプギアも変身が解除され、肩で息をしながらもどうにか立っている様子だった。

 

「勝ちじゃないです。終始私が動きやすいように戦ってくれてたじゃないですか」

 

 うずめは手を抜いていたわけではないが、自分が教えたことをネプギアが実際にできているか、というテストのような戦い方をしていた。

 本気でうずめがネプギアを倒しにきていたのなら、違った結果になっていたかもしれない。

 

「そ、ソンナコトナイゼ……?」

「ふふ、ならそういうことにしておきます」

 

 どう考えてもバレバレな嘘なのだが、うずめなりの気遣いを無下にするのは野暮だと思い、ネプギアはそれ以上追求はしなかった。

 ネプギアはうずめに手を差し伸べ、うずめはその手を取って立ち上がる。

 

「今日は本当にありがとうございました。うずめさんから教わったこと、大事にします」

「あぁ、そうしてくれ。ぎあっちが修行を積んだらまたやろうぜ。俺ももっと腕を磨いて、ネガティブエネルギーを使いこなせるようになっとくからさ」

「はい!」

 

 肩を貸し合いながら、訓練場を後にする二人。

 ボロボロな状態で部屋に戻ると、ネプテューヌに「だ、誰にやられたの⁉︎」と心配そうに詰め寄られ、笑いながらお互いを指さすネプギアとうずめだった。

 

 

 

 

 数日後。

 

「ぬゔぉあーーーーーーッ!」

「ご、ごめんユニちゃん! 大丈夫⁉︎ 今女神が出しちゃいけないような悲鳴をあげてたけど……」

 

 ネプギアはいつものようにユニと二人で戦闘訓練をしていたのだが、うずめとの稽古の成果がありすぎたのか、ユニを圧倒してしまったのだ。

 うずめの影響を受け徒手空拳スタイルを真似したら、良い一撃がユニの鳩尾に直撃してしまったのだ。

 

「ぐぇぇ……っ、ネプギア、あんたどうしたのよ! 何をしたの⁉︎ こんな短期間でそんなに強くなるなんて!」

「えっと……」

 

 ネプギアに詰め寄るユニ。

 

「うずめさんに稽古してもらったんだ。ユニちゃんも教えてもらうといいよ」

「わかったわ! 教えてもらう! 早くうずめのとこ行くわよ!」

「ええっ⁉︎ 今から⁉︎」

「今から!」

 

 ネプギアとユニは、どうせなら、とロムとラムを誘い、候補生全員でうずめの元へ押しかけた。

 うずめは少しだけ困ったような苦笑いをしながらも、快く受け入れ、候補生たちの猛特訓が始まるのだった。

 そして、急速なスキルアップを果たした候補生たちに、守護女神たちがマジで焦る事態になるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 





 シェアエネルギーという概念について色々意見交換したい。
 我こそはシェアエネルギー博士っていうやつ、至急連絡くれや。


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相剋する巨闇 ( 暗黒星くろめ 犯罪神マジェコンヌ )

 

 

 

 

 崩壊したゲイムギョウ界。

 無数の瓦礫と屍の転がるかつて大国があった場所にて向かい合う、邪悪なオーラを放つ二対の神。

 

「やぁ、久しぶりだね。驚いたよ」

「貴様は……」

 

 一つは、復讐を完遂しゲイムギョウ界を滅ぼした女神『暗黒星くろめ』。

 そしてもう一つは、かつて自分を討った女神へ復讐を誓い復活した邪神『犯罪神マジェコンヌ』。

 その昔にぶつかり合い、当時は決着がつかなかった両者が、再び合間見えていた。

 

「天王星……だったか? 女神が代替わりしていたから、もう消えたものだと思っていたが……まさか生きていたとはな」

 

 今のくろめは、かつての『天王星うずめ』の姿とは異なっていたが、犯罪神マジェコンヌは目の前の人物がうずめ(くろめ)であることをなんとなく理解していた。

 

「それはこっちの台詞だよ。ぎあっちにやられたんじゃなかったのかい、キミ?」

「私は蘇ったのだ。奴を……ネプギアを殺し、今度こそゲイムギョウ界を滅ぼすためにな」

「威勢が良いところすまないけど、ぎあっちはオレが闇に堕としたねぷっちが殺したし、ゲイムギョウ界はほとんどオレが滅ぼしたんだよね。ていうか、なんとなく残しておいたぴーしー大陸を、まさかキミに滅ぼされちゃうなんてね。人のデザートを横取りするなんて、酷いじゃないか」

 

 ゲイムギョウ界四大国は、既に暗黒星くろめの手によって滅びている。

 どの国も、かつての華やかな街並みの面影は一切なく、ただ茶色と灰色の廃墟が広がるだけとなっている。一部では空や大地も割れ『終末』という言葉を体現したかのような景色が広がっていた。

 

「……だからもうキミにやることなんて残ってないよ。大人しくギョウカイ墓場の跡地で二度寝でもしていれば良いんじゃないかな」

「いいや、残ってはいるだろう? ここに」

 

 犯罪神マジェコンヌは不敵な笑みを浮かべながら、目の前のくろめを指差す。

 犯罪神にとって、くろめを斃すことにはなんのメリットもない。むしろ、ゲイムギョウ界を滅ぼすという点では、両者の利害は一致している。

 だが、それは理屈ではない。目の前に力を持った存在がいれば討ち滅ぼす。それが邪神としての矜持であった。

 

「ふっ……良いね。あまりにもあっさりと目的を完遂できたから、少し退屈だったんだ。相手してあげるよ」

 

 くろめも笑いながら応える。

 完全に身体を取り戻し、生命活動にシェアが必要なくなり、女神という存在を超えたであろう自分の力を試したくなったのだ。

 

「ゆくぞ」

「いつでもおいで」

 

 言葉の後、刹那の静寂が訪れ、闇が横切り、轟音が響く。

 

「ちぃ……っ!」

 

 マジェコンヌの攻撃を受け、瓦礫の山を貫きながら、吹っ飛んでいくくろめ。

 

「やるな」

 

 くろめは追撃を加えようと迫りくるマジェコンヌに対し、メガホンを取り出し。

 

「うああああぁぁぁぁッ‼︎」

 

 破壊音波で迎撃する。

 

「……ッ⁉︎」

「そらっ!」

 

 音波のダメージでマジェコンヌの動きが一瞬止まると、くろめはその隙を突いて、マジェコンヌの羽根を掴み、思い切り廃ビル群に投げつける。

 そして、吹き飛ばした先に向かい、再びメガホンを構えて破壊音波攻撃を仕掛けた。

 

「すぅぅ……ゔあああああーッ‼︎」

 

 破壊音波の影響で、廃ビルは砕け散り崩れ落ちた。

 すると、間髪入れずに瓦礫の中が光り、ビーム砲が飛んできた。

 

「……っ⁉︎」

 

 くろめはギリギリで回避するも、ビームに触れた髪の毛の先端は消し飛ぶ。

 そして、瓦礫の中からマジェコンヌが飛び出し、くろめの胸元へ槍を伸ばす。

 

「……っ」

 

 くろめは槍の刃の側面に拳を叩き入れ、軌道を逸らす。

 

「……"効いてない"?」

 

 くろめは、先程の音波攻撃が、初撃と比べてダメージの通りが悪いことに気づいた。

 

「貴様の音はもう我には効かん」

「……っ!」

 

 一度通用した技であっても、二度は通用しない。あらゆる攻撃に即座に適応し、耐性をつけていく。

 これが、復活した犯罪神マジェコンヌの力であった。

 

「長引けば……不利なのはオレか」

 

 だからこそ、くろめは短期決戦に舵を切る。

 

「なら、すぐに終わらせようか」

 

 くろめは自身のエネルギーを解き放つと、ドス黒い瘴気のようなオーラを纏い始めた。

 そして──

 

「シェアリングフィールド、展開」

 

 ──まるでペンキで塗りつぶしたかのように、黒いエネルギーが撒き散らさせ、渦を巻き空間が形成されていく。

 『シェアリングフィールド』、肉体を取り戻し、自らが捨てた善意から生まれた絞りカスが使用していた技であり、かつて自らを食い止めるために立ち塞がったうずめを叩き潰して再吸収した際に手に入れた技である。

 

「堕ちろ……!」

 

 うずめが用いていたフィールドも強力な効果を有していたが、くろめがカスタムしたフィールドはそれすらも生易しく思えるほど。

 くろめが合図をすると、フィールド内を舞う黒いエネルギーの塊が形容できない禍々しきモノへと変貌し、フィールド内の敵を斬り刻み、砕き、潰し、引き千切る。

 妹たちを手にかけた後に正気に戻った守護女神たちはくろめに戦いを挑むも、この暗黒領域に呑まれ呆気なく鏖殺されてしまった。

 

「ぐ……ぉおおおおっ!」

 

 容赦ないフィールドの猛攻を、マジェコンヌは弾き飛ばし薙ぎ払う。

 徐々にフィールドに適応し始め、次第に黒いエネルギーでは大したダメージを得られなくなっていく。

 

「……流石は犯罪神だ。一筋縄ではいかないか」

 

 くろめにとっては、このシェアリングフィールドは布石に過ぎなかった。

 

「だが……!」

 

 負のエネルギーへの耐性と正のエネルギーへの耐性は反比例する。

 片方を得れば得るほど、もう片方への耐性が下がっていくのだ。

 

「……『夢幻連撃』」

 

 負の(ネガティブ)エネルギーで構築された空間と負の(ネガティブ)エネルギーが最大限に込められた攻撃で耐性をつけさせ、正の(シェア)エネルギーを込めた攻撃に切り替え、一気に畳み掛ける。それがくろめの策。

 今のくろめは、エネルギー体だった頃は毒であったシェアエネルギーも、完全に使いこなすことができる。

 

「『夢幻粉砕拳』‼︎」

 

 シェアエネルギーが込められたくろめの攻撃の拳は、マジェコンヌの肉体を貫いた。

 

「ぐ……ぁあああああッ!」

「終わり……だ‼︎」

 

 そして、くろめが貫いた拳からマジェコンヌの体内にシェアエネルギーを注ぎ込み、拡散させ、爆破すると、マジェコンヌは弾け飛んだ。

 戦闘が終わると、シェアリングフィールドがひび割れて崩れて消えていった。

 

「ふーっ……」

 

 渦巻き型のゲームハードに封印されていた自身の肉体を取り戻したことにより、それまでのエネルギー体に比べて絶大な力を手に入れた暗黒星くろめの前では、犯罪神マジェコンヌであってももう敵ではなかった。

 

「こんなもの……か」

 

 しかし、失ったものもある。ゲイムギョウ界のほぼ全ての人間が死に絶えたことにより、世界中のネガディブ感情を取り込むことが実質不可能となったのだ。

 無限ともいえたエネルギーは有限となり、ちょっとやそっとのことでは尽きることはないが、もちろん消耗はする。

 例えば、シェアリングフィールドを解除した直後に過剰に使用したエネルギーが焼き切れ少しだけ力が抜けること、など。

 

「……疲労、か。懐かしい感覚だ」

 

 勝利というほんの少しの達成感を味わいながら、くろめは次に何をするか考えていた。

 

「次は……数少ない生き残りを始末するとしようか。例えるなら……モグラ叩きかな」

 

 シェアリングフィールドの影響で抉り取られた地面から、くろめが立ち去ろうとしたその時。

 

「……ん?」

 

 いつの間にか巻かれていた粘液に足を取られ、動きを止められていた。

 

「何……?」

 

 そして、ドスり、と鈍い音が鳴る。

 くろめは、その音が自分の身体から出たものだと気づき、自分の身体に目をやると、紫色の剣先が腹部を貫いていた。

 

「か……は……っ……⁉︎」

 

 自らの状態に気づくと、意識が痛みに追いついた。

 

「この時を待っていたわ……! ずっと……ずっと‼︎」

 

 憎悪が漏れたような鈍い声で、剣を更に押し込むその少女の名は『アイエフ』。

 くろめの足を取った粘液の罠を仕掛け、アイエフの攻撃の布石を作った少女の名は『コンパ』。

 

「ネプ子の……」

「ぎあちゃんの……」

「「みんなの仇……ッ‼︎」」

 

 アイエフとコンパは、親友を闇に堕とされ、闇に堕とされた親友の手によって国が滅ぼされ、大切な人たちを殺された。

 しかし、それでも生き抜いていた。滅び行く世界の中でも、生きて生きて生き抜いて、親友の仇を討つために、耐え忍んでいた。

 かつての悪敵であった犯罪組織の残党とまで手を組んで、犯罪神を復活させ、暗黒星くろめにぶつけ、疲弊するであろうくろめを執念のもとに見つけ出した魔剣『ゲハバーン』で殺害する。それが、アイエフとコンパの策だった。

 『ゲハバーン』とは、刺した女神の命を力に換え、女神の命を吸えば吸うほど力を増す禁断の魔剣。

 逆を言えば、ゲハバーンに刺された女神は例外なく死に至る。

 暗黒星くろめは、生命活動にシェアを必要とはしていないが、生物としてはまだ女神の範疇を出ていなく、ゲハバーンを強化するための命としてカウントされる。

 

「……なるほど、これがキミたちの策か」

 

 刺された痛みだけでなく、命が吸われていくことを感じ、死を悟るくろめ。

 しかしその表情は、痛みで少し歪みながらも、まるで清々しさを感じさせるものだった。

 

「……それで? オレを殺したところで、ねぷっちたちが生き返るわけじゃないし、滅んだ世界が蘇るわけじゃない。滅んだこの世界はすぐに崩壊し、キミたちも死ぬ。キミたちの復讐なんて無意味で無価値さ」

 

 自分の復讐を完遂したくろめにとって、既に自分の命など興味はなかった。

 この次元最後の催しだと思っていた犯罪神マジェコンヌとの戦いが今さっき終わり、死ぬには丁度いいタイミングとすら思っていた。

 だからこそ、くろめはアイエフとコンパを嘲笑う。キミたちがしたことはオレの手伝いに過ぎない、という意味も込めて。

 

「そうね。その通りよ。けど、悔しい気持ちで死ぬこと、無意味な復讐でもやり遂げて死ぬこと、私たちは後者を選んだ、それだけよ」

「意味のない復讐をやり遂げて、無価値に死ぬ……ははっ、オレと同じだね」

「……かもね」

「最期に褒めてあげるよ。よく頑張ったね、おめでとう」

「要らないわよそんな言葉」

 

 言い放ったくろめは目を閉じると、光となってゲハバーンに吸収されていった。

 アイエフは、もう役割のないゲハバーンを放り投げる。

 

「……終わったわね」

「はい。全部終わったです、ね」

 

 アイエフとコンパは、自分たち以外に誰もいなくなった荒野に腰掛ける。

 もしかすると、多少の生き残りはいたかもしれないが、たとえいたところでこの世界の滅ぶ運命に変わりはない。

 

「後は暗黒星くろめの言う通り、この次元が崩壊して終わり、かぁ。コンパ、最期に何かしたいことある?」

「そうですねぇ……なら、あいちゃんとドライブがしたいです。今の今まで、隠れるために外を歩くことすらできませんでしたから」

「良いわね。多分まだバイクは動くと思うし、一緒にこの次元中を走り回りましょ」

「はい」

 

 程なくして、超次元ゲイムギョウ界と呼ばれたその次元は崩壊し、消滅した。

 アイエフとコンパは、最後の最後までこの次元中を走り回り、寄り添い合いながら、次元の崩壊に呑まれていった。

 死への恐怖もなく、ただただ終わりを受け入れて。

 

 

 



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慣れた妹と慣れない姉 ( ユニ ネプテューヌ )


 ネプSSを書くリハビリを兼ねているので、今回はかなり短いおつまみネプユニです。



 

 

「ユニちゃん助けてぇ! ネプギアに殺されるぅ⁉︎」

 

 急にあたしの部屋に転がり込んできたネプテューヌさんは、そんなことを言いながらベットの下に隠れた。

 

「ちょっ、ネプテューヌさん⁉︎」

「匿って! お願い!」

「わ、わかりました!」

 

 とりあえず、ベットの下に隠れたネプテューヌさんを隠すように、この前買ったモデルガンの空箱(記念に残しておいたやつ)で蓋をし、カモフラージュする。

 

「ユニちゃ〜ん」

 

 すると、ネプギアがあたしの部屋の前にやってきた。

 

「どうしたのネプギア」

「お姉ちゃん見なかった?」

「ネプテューヌさんがどうかしたの?」

「新しいメカを作ったから、ちょっと手伝って欲しかったんだけど……何故か逃げられちゃって」

「なんかネプテューヌさんが嫌がることしたんじゃないの?」

「そんなことしてないよ。ちょっとデビルネプギアンダムの生体ユニットになってもらおうと思って」

「ちょっとどころじゃないえげつない単語聞こえたんだけど……」

「だからユニちゃん! お姉ちゃんがどこ行ったか知らない?」

 

 あーこれ、趣味の機械絡みで暴走してる時のネプギアだわ。こうなったネプギアはネプテューヌさんにも止められないのよね。あたしは慣れっこだから、ネプテューヌさんを助けてあげようかな。

 

「……知っているわ。何もかも知ってる。けどあんたには教えない」

「えっ、な、なんで⁉︎」

「一つ。ネプテューヌさんが割とガチ目に嫌がってた。あんた好きなもののことになると周り見えなくなるから気づいてなかったと思うけど」

「ぅ……そうなの?」

「二つ。あんたのバカ兵器開発に付き合ってあげられんのなんてあたしぐらいよ。人巻き込むならあたしだけにしときなさい」

「……はい」

「ネプテューヌさんには、ネプギアに反省させたって言っとくわ。後で謝っときなさいよ」

「うん……」

「早く帰ってそのデビルネプギアンダムとやらも解体しときなさいね。名前的に早くしないととんでもないことが起きそうだし」

「わかった。ありがとうユニちゃん。また今度遊ぼうね」

「うん。またね」

 

 ネプギアを送りだすと、ベットの下からネプテューヌさんが出てくる。

 

「すごいユニちゃん……暴走ネプギアを制御しちゃった……わたしにもできないのに……」

「まぁ……慣れですよ。あたしも散々酷い目に遭わされてきましたし」

「ごめんね、ウチの妹が……」

「いいんですよ。それはそれで楽しいですから」

 

 素直じゃない性格は自覚しているが、何故かネプテューヌさん相手だと素直に言葉が出てくる。

 お姉ちゃんともまた違ったこの安心させてくれる感じ、この人も紛れもない守護女神なんだな、って思う。普段はだらしないとも思ってるのは内緒。

 

「さて、ネプギアから逃げ疲れたから昼寝するね」

「え? ここでですか?」

「だって丁度ベットがあるじゃん。ここに」

「あたしのベットなんですけど」

「そうだね。ユニちゃんの匂いがするよ」

「ぎゃあああ⁉︎ な、何で嗅ぐんですか⁉︎」

「おやすみ」

「おやすまないでください! ……って、きゃっ」

 

 ネプテューヌさんをベットから引き摺り出そうしたら、逆にネプテューヌさんに引き摺り込まれてしまった。

 

「ちょ、ネプテューヌさん!」

「ユニちゃんもお昼寝をしようよ」

「昼寝って、あたしそんなに眠くな……むぎゅ」

 

 有無を言わされず、ネプテューヌさんに抱きしめられてしまい、身動きが取れなくなる。

 

「ふぁ……」

 

 ……うわ、なにこれ……ネプテューヌさんの腕の中、なんかすごく……心地良……すやぁ。

 

 





 ネプユニ無限に描きたいけどネタが無くて悩んでます。舞い降りろネタ。


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蠱惑のユニ、魅惑のネプ ( ユニ ネプテューヌ )


 深夜のおつまみネプユニです。


 

 

「ネプテューヌさぁん〜」

「え、えっと……」

 

 満遍の笑みでネプテューヌの腕に抱きついてすり寄るユニと、困った様子のネプテューヌ。

 

「ぐ……ぬぬぅ……!」

「むすー……」

 

 そんな二人を物陰から見つめるのは、最早憎悪レベルで嫉妬の表情を向けるノワールと、頬を膨らませながらいじけるネプギア。

 

「ひぇっ」

「ネプテューヌさん〜、こっち向いてくださいよぉ〜」

 

 何故こんなことになったかは、数時間前に遡る。

 

 

──

 

────

 

──────

 

────────

 

 

 ネプテューヌはプラネテューヌとラステイションの国境にある渓谷のダンジョンに来ていた。

 

「あれ、ユニちゃん。こんなとこで何してんの?」

 

 そこで同じくライフル片手にダンジョンを練り歩くユニと出会った。

 

「お小遣い稼ぎに適当に討伐クエストに来たんですけど……ネプテューヌさんもですか?」

「うん。コンパが薬草と素材アイテム集めたいって言っててさ。一人でダンジョンまで行こうとするもんだから、わたしが代わりに……って」

「そうですか……ここで戦うと邪魔になるかもしれないですし、あたしクエスト変えた方が良いかもしれないですね」

「いいよいいよ。わざわざそんなことしなくて。ユニちゃんが戦ってる間にパパッと集めちゃうからさ」

 

 後輩を気遣うことは勿論ながら、ちゃっかり邪魔なモンスターの排除を任せようとしてる先輩なのだった。

 

「ネプテューヌさーん!」

「どうしたのー?」

「そこあたしの射線なので危ないですー!」

「あ、ごめんごめん」

 

 クエスト中とは思えない緩い雰囲気で、達成率を上げていく二人。

 そのままダンジョンの奥に辿り着くと、そこには巨大な花のようなモンスターが佇んでいた。

 

「おっ、なんかそれっぽいモンスターがいるねぇ」

 

 ユニたちの身長の三倍はある巨体、ウネウネと動く触手のような蔦を何本も携え、頭部の花びらの綺麗さは逆にモンスター自身の不気味さを助長している。

 

「あっ触手だ! えっちなやつだよユニちゃん!」

「そういうこと言うのやめてもらえますか⁉︎ ……アレを倒せばクエスト達成でしょうね。ネプテューヌさんのアイテム採集も、アレ倒したらいい感じに素材落としてくれそうですし」

「ここのボスっぽいし、わたしも一緒に戦うよ」

「大丈夫です。小遣い稼ぎも兼ねつつ腕試しで来たんですから」

「そっか。じゃ、ファイト!」

「はい!」

 

 巨大花はボス級の敵ではあるが、女神候補生であるユニの敵ではない。

 迫りくる触手攻撃を華麗に回避し、種を弾丸のように撃ち出してくる攻撃は、手に持つライフルで撃ち落とす。

 

「それっ!」

 

 ライフルと魔法弾で部位破壊していき、敵の抵抗力を奪っていく。

 

「良いよー! ユニちゃんー! すごいよー! かっこいいよー!」

 

 後方から聞こえるネプテューヌの声援に少し顔を赤くしながらも、巨大花の耐久値をゴリゴリ削っていく。

 

「これで終わりよ!」

 

 ユニは巨大花の懐に潜り込み、ライフルの最大火力で根から焼き付くす。

 

「……っ、ユニちゃん! 危ない!」

「えっ?」

 

 しかし撃破される瞬間、巨大花は胞子のようなものを撒き散らし、ユニはそれを浴びてしまった。

 

「きゃっ……ごほっ、げほっ」

 

 人間ならば気を失うぐらいの毒素を含んだ胞子だったが、強い肉体を持つ女神であるユニにとっては少しむせる程度のものだった。

 

「うぅ……なんか変な気分……っ」

 

 身体"だけ"には影響はなかった。

 

「なんだろ……少し……ドキドキする……」

 

 だが、ユニは状態異常『魅了』になってしまっていた。

 しかし、魅了にされた瞬間に敵モンスターを討伐したため、敵モンスターにメロメロになることはなかったが、魅了状態が治り切ることなかったユニの目に最初に入ったのは……

 

「ユニちゃん、大丈夫⁉︎」

「ネプテューヌさん……あはっ❤️」

「え?」

 

 

────────

 

──────

 

────

 

──

 

 

 というわけで、今現在ユニはネプテューヌにメロメロなのである。

 

「もーネプテューヌさんったら〜。あたしを見てくださいよ〜」

 

 ユニはネプテューヌの頬に手を添え、自分の方に振り向かせる。

 

「ねぷっ」

「やっと……目が合いましたね❤️」

「ひゃっ」

 

 透き通るような赤い瞳、少し紅潮した頬、そして言うまでもない整ったユニの顔立ちを改めて認識させられたネプテューヌは、ダメだとわかっていても少し心が揺さぶられてしまい、顔を赤くする。

 

「えへへ……ネプテューヌさん……顔が真っ赤ですね……ドキドキしてます?」

「いや……その……」

「あたしは……ドキドキしてますよ……? ほら」

 

 ユニはネプテューヌに抱きつき、胸を押しつけ、心臓の高鳴りをアピールする、

 

「あわわわわわ」

「ネプテューヌさん……❤️」

 

 ネプテューヌの首の後ろに手を回し、少しずつ顔を近づけ始めるユニ。

 

「えっ、ちょっ、それは不味いよ!」

「うふふ……❤️」

「やばい! このままユニちゃんの可愛さにわたしが堕とされる! こうなったら……!」

 

 ネプテューヌは最終手段に移った。

 つまりは女神化である。

 

「ユニちゃん」

 

 差し出されたユニの唇に人差し指を押し付けるパープルハート。

 

「気持ちは嬉しいけど、今のユニちゃんは正気じゃないの。そんな時に、こんな大事なことはするものではないわ。でも、私がもっとよく見てあげていれば、ユニちゃんがこうなることもなかったかもしれないのよね。ごめんなさいね」

 

 そして、ユニを抱きしめて頭を撫でる。

 

「ふぁ……❤️」

「落ち着くまでこうしていてあげるから、ゆっくり休んで、ね?」

「はぁい……❤️」

 

 頭を撫で、背中を摩りながら、ユニを眠りへと誘うパープルハート。

 変身前に堕とされかけてから一転、ユニを手なづけることに成功した。

 

「すぅ……すぅ……」

「寝てくれたようね。少し……危なかったわ。それよりも……ねぇ二人とも」

 

 パープルハートは、ネプギアとノワールが潜む物陰に視線を向けて呟く。

 

「そんなところで見てないで、助けてくれてもよかったんじゃないかしら?」

 

 その声に反応し、物陰からのそのそと出てくる二人。

 

「……ギリギリで止めるつもりだったし、もしキスしてたらぶっ殺してたわ」

「あら怖い。でも、本気のあなたと戦えるのは悪くないわね。ユニちゃんにちゅーしちゃおうかしら」

「マジでやめなさい」

「その……お姉ちゃん……」

「もう、そんな顔しないでほら。あなたもおいで、ネプギア」

 

 言いながらパープルハートは一旦片方の腕をユニから離し、ネプギアの方へ伸ばす。

 

「……うん!」

 

 ネプギアは満遍の笑みで腕の中に収まる。

 

「全く、甘え上手なんだから」

「だってぇ」

「良いのよ。いつもは私の方が甘えてるからね」

「えへへ……」

 

 パープルハートがネプギアを抱きしめて撫でまわしていると、呆れたような表情のノワールとふと目があった。

 

「……ノワールも来る?」

「遠慮しとくわ」

 

 



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他人姉妹 ( ユニ ノワール )


 かなり短いです。



 

 

「あらいらっしゃい」

「ん」

 

 妹であって妹ではないその子は、言葉ですらない最低限の返事をして、私の仕事部屋のソファーに腰掛ける。

 私の方を見ることもせず、ムスーっとした無愛想な表情(それでも可愛いけど)、たまに溜息。

 この子がこんな感じで私のところに来るのは、決まって"お姉ちゃん"と喧嘩した時。

 この子にとって私のところは『お姉ちゃんと一緒にいたくないけどお姉ちゃんのそばにいたい』そんな矛盾した感情を発散できるうってつけの場所なのだ。

 

「何か飲む?」

 

 書類仕事の終わる目処がつき、少し休憩しようと思ったから、ついでに声をかけてみる。

 

「……コーヒー。あまくして」

「わかったわ」

 

 私と名前も顔も存在も同じな"お姉ちゃん"には素直に甘えられないくせに、私には普通に甘えてくる。

 初めて会った時の態度はもっと硬かったのに、今ではすっかり柔らかくなった。

 なんだか、友達と妹が同時にできた気分。悪い気はしない。

 

「また喧嘩?」

「そんなんじゃない」

「そう」

 

 これは、この子と向こうの私の『いつものこと』というやつ。向こうの私が言葉足らずでこの子を不安にさせて、この子もこの子で言葉足らずで向こうの私を困らせて、お互い落とし所がわからなくなって……って感じ。

 全く、姉妹なんだから仲良くしなさいよね。

 

「……ならいっそ、私の妹になっちゃう?」

 

 魔が刺して、つい出てしまったその言葉。

 あわよくばという気持ちはなくはない。こんなに可愛い妹があっちの私にしかいないのは不公平だと思っているぐらい。よくブランも嘆いているし。

 

「それは……やめとく」

 

 まぁ、断られることも分かっているけど。

 

「……こっちのお姉ちゃんも勿論好きよ。でも、あたしのお姉ちゃんはあっちお姉ちゃんで、あたしが超えたいお姉ちゃんもあっちのお姉ちゃんだから」

 

 『好き』か。

 この子は天邪鬼。言い換えれば、私の好きな言葉じゃないけど『ツンデレ』ってやつ。

 本当に好きな人に対しては、態度がトゲトゲしてしまうもの。

 つまり、私には素直でハッキリ『好き』って言ってくるってことは、たとえ好かれてはいても向こうの私ほどは愛されていない。

 

「いいのよ。わかってるから。意地悪なこと言ってごめんなさいね。はい、コーヒーよ。あなたのご所望通り、甘いやつ」

「ありがと」

 

 それでも、この子が気軽に訪ねてきて、気軽に甘えてくるこの立ち位置は悪くはない。

 厳しく育てるのは"お姉ちゃん"である向こうの私に任せて、ただ可愛がれるというもの。

 でも今は────

 

「それ飲んだら帰りなさい。時間が空きすぎるともっと気まずくなるわよ」

 

 ────ここに長居させるべきじゃない。

 ネプテューヌほどじゃないけど、私はお節介だから。

 

「……うん。そうする。ありがとう。ごめんね。すぐ来ておいてすぐ帰るなんて」

「別にいいのよ。またいつでもいらっしゃい」

「今度は……お姉ちゃんと一緒に来るね!」

「いや、それは……うーん……ま、まぁ待ってるわ、うん」

「……?」

 

 私はブランやベールと違って自分同士で意気投合できる自信がないから、会うのは割と避けているけど、この子に『連れてこないで』なんて言えないものね……

 

「またね、ユニ」

「うん! じゃあね、"お姉ちゃん"!」

 

 そうして、私は妹であって妹ではないその子に手を振りながら別れを告げた。

 

 

 

 



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自由な二人 ( ラム ネプテューヌ )

 

 

「こんにちはー!」

 

 ドアを押し開け、プラネテューヌ女神の執務室に入ってきたのは、元気いっぱいなルウィーの女神候補生ラム。

 

「あ、ラムちゃん! いらっしゃ〜い!」

 

 執務室のイスに腰掛け、書類仕事を処理しながら応じるネプテューヌの姿は、普段からは考えられない光景であった。

 

「ねぷぅ? ラムちゃんだけ?」

「ん? わたしだけだよ」

「ブランはともかく、ロムちゃんは?」

「おうちでお絵描きしてるんじゃない?」

「……喧嘩でもしたの?」

 

 双子なこともあっていつもべったりな二人のうち片方だけが訪ねて来るのは珍しく、その理由を聞こうとしたネプテューヌだったが……

 

「……? なんで?」

「いや……う〜ん、なんでもなーい」

「変なネプテューヌちゃん」

 

 当のラムにとっては大した理由もないようだったので、詮索をすることをやめた。

 いつも二人一緒にいるとしてもたまには別々の方法で時間を過ごす、そんな当たり前のことでしかない、それを理解したからだ。

 

「でもネプギア今いないんだよね。丁度さっき出かけちゃったんだ」

「えー! わたしが来るんだからいときなさいよネプギアー!」

「そんな無茶な……」

「まぁいっか。しょうがないからネプテューヌちゃんと遊んであげるわ!」

「なんでわたしがもらう側……? それに、今わたしお仕事してるからさ」

「えっ⁉ ネプテューヌちゃんお仕事してるの⁉ あのネプテューヌちゃんが⁉︎」

「ラムちゃんにまでその認識なのかわたし……しばらくしっかりしないといけないかも……」

 

 ラムの相手をしながらも手を動かし仕事を続けるネプテューヌ。

 そんな姿が新鮮に映ったからか、ラムは興味深い表情でネプテューヌに駆け寄り、膝の上に座った。

 

「……どしたの?」

「ネプテューヌちゃんがちゃんとお仕事してるか見ててあげる」

「そっか」

 

 特に断る理由もなかったのでそのまま放っておくことにしたネプテューヌは、ラムを膝に乗せたまま書類を見たりパソコンを弄ったりして仕事を処理していく。

 

「ネプテューヌちゃんが……本当にお仕事してる……」

「だからしてるって言ってるじゃん」

「してるフリしてゲームしてると思ってた。たまにお姉ちゃんやってるし」

「ブラン地味にそういうとこあるよね」

「ネプテューヌちゃんはどうしていつもみたいにお仕事サボってないの?」

「うーん、普段サボった仕事はいーすんとか他の優秀な教会員さんがやってくれるし、正直その方が上手くいくからサボってるんだけどさ、今やってるやつはわたしがやんなきゃいけないことなんだよね」

「どれどれ」

「これ国家機密だから見ちゃダメ……まぁラムちゃんだからいっか」

 

 ネプテューヌは、ラムがこの内容をバラすことはしないしそもそも内容を理解することもできないだろうと思い、放っておくことにした。

 

「ラムちゃんってさ」

「んー?」

「ブランやロムちゃんと違って髪長いよね」

「キレイでしょー?」

「うん、サラサラで綺麗」

「えへへー」

「どうしてラムちゃんだけ長いの?」

「うーん……わたしもお姉ちゃんとロムちゃんとお揃いにしたいから短くしたいって思ってたんだけど、お姉ちゃんとロムちゃんにダメって言われたの。お姉ちゃんもロムちゃんもわたしの長い髪好きなんだって。だから短くしないでって頼まれちゃった」

「そっかぁ」

 

 ラムの言葉を聞いて、幼い日のネプギアが自分と同じ髪の長さまで切りたいと言ったが、自分は妹の長い髪が好きだから切らないで欲しいと頼んだ昔のことを、ネプテューヌは思い出した。

 

「……すんすん」

 

 妹の髪に思いを馳せたネプテューヌは、なんとなくラムの髪の匂いを嗅いでみた。

 

「ひゃっ……!」

「やっぱりブランの匂いと似てる」

「もー、くすぐったいわ。いきなりこんなことするなんて、ネプテューヌちゃんったらいじょーせーへきなのー?」

「そんな言葉どこで知ったの?」

「ベールさんに読ませてもらった漫画。裸の男の人が抱き合ってて面白いんだよ」

「なんてもん読ませてるのさベール……」

 

 ネプテューヌの仕事を見るのに飽き、持ってきたゲーム機を起動するラム。

 仕事を処理し続けながらも、ラムが座りやすいように足の位置を調整するネプテューヌ。

 パソコンのキーボードに打ち込む音、書類の上を走るペンの音、ゲーム機のコントローラーのカチカチ音、たまに出る独り言、それらの音が順番を変えながら無作為に鳴り続ける。

 姉妹でも友達でもない二人が、同じ空間と時間を共有しながらも、別々のことをやっている。側から見れば普通のことのようにも、はたまた奇妙に見える光景。

 

「よーし、終わったァ! 後はいーすんにチェックして貰えば大丈夫でしょ。さて、お仕事終わったから遊ぼっかラムちゃん」

「……」

「あれ? ラムちゃん?」

「すぅ……すぅ……」

 

 ネプテューヌの膝の上の心地が良かったのか、ラムはいつのまにか寝息を立てていた。

 

「もう、いきなり来て、膝の上に乗って、国家機密覗いて、ゲームして、挙げ句の果てに寝るなんてさ、自由すぎだよラムちゃん」

 

 ネプテューヌは、眠るラムの頭を優しく撫でながら呟く。

 

「そういう自由なとこ、わたしにちょっと似てるよね。あはは」

 

 そして、寝ているラムをひとしきり可愛がった後、Nギアを取り出してブランに通話をかける。

 

「もしもしブラン? ラムちゃんこっち来てるよ。あ、ブランには言ってから来てるんだね、りょーかーい。今寝ちゃったから、起きたら遅くならないうちに帰すね」

 

 

 

 

 それから後日。

 

「お、お姉ちゃん、重くない?」

「全然」

「その、邪魔じゃない?」

「全然」

 

 ラムを膝に乗せ続けていたからか、逆に誰かに膝に乗られていないと違和感を持つようになってしまったネプテューヌは、数日間ぐらい常にネプギアを膝の上に乗せるようになったとか。

 

 



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ギアユニ衣装交換 ( ネプギア ユニ )

 

 

「プロセッサユニットの交換?」

 

 ネプギアからの提案に、首を傾げるユニ。

 

「うん。お互いの武器と装備を交換してみたら新しい発見があるんじゃないか、って」

「なるほど。まぁ、普段の装備でやれることはやり尽くした感あるもんね、あたしたち。良いんじゃない?」

「やったぁ! 一回ユニちゃんの着てみたかったんだ」

 

 と、軽いノリでプロセッサユニットとスーツの交換することが決まった。

 

 

 

 

『ユニちゃんのプロセッサ……胸が……きついよぉ……!』

『ネプギアのプロセッサ……色んなとこが無駄に大きいから、これじゃ隙間から色々見えちゃうじゃないの!』

 

 ……という展開には残念ながらならない。

 プロセッサユニットは、装着する女神の体型体格に合わせて展開されるからだ。

 

「……お互い、似合ってないわね」

「あはは、そうかも」

 

 プロセッサユニットもスーツも、装着する女神本人の容姿や体型とセットでデザインされている。そのため、元の装着者のイメージもあり、違和感はどうしても生まれ、似合わないという意見が出るのも仕方のないこと。

 

「スーツだけなら見た目以外に大きな違いはないね」

「じゃあ、次は武器か。まずあたしからね」

 

 ユニは、プロセッサユニットにリンクされている武器、ユニの場合はライラックにリンクされているパープルシスターの『M.P.B.L』を出現させた。

 

「ふむふむ……」

「どう?」

 

 そして、M.P.B.Lの性能を軽く見通すと、顔を歪ませた。

 

「うわなにこれ!」

「……え?」

 

 予想外のユニの反応にたじろぐネプギア。まさかここまで悪反応だとは思わなかったようだ。

 

「照準の性能がカスなんだけど!」

「わ、私の愛用武器をカスとか言わないでよぉ!」

「射撃もビームしか撃てないじゃない。この際ビームソードをオミットして射撃方面に特化させなさいよ」

「私の武器の設計思想全否定しないで……ていうかそれやるとただのエクスマルチブラスターになるじゃん……」

 

 ユニの批判に対し、不満げに口を尖らせるネプギア。

 しかし、照準の性能が悪いという指摘を頭に入れており、早速プロセッサ交換の意味があったようだ。

 

「後は……ビームソードかぁ。重さがほぼないから実体剣より振り回しやすいのが利点よね?」

「うん、でもお姉ちゃんとかノワールさんは逆に武器にちゃんと重さがないと不自然で手元が狂うんだって。だから実体剣使ってるらしいよ」

「へぇ……そういう考え方もあるのね」

「うん。じゃあ、次は私の番だね」

 

 一旦M.P.B.Lを消滅させ、今度はネプギアがブラックシスターの『エクスマルチブラスター』を出現させる。

 

「ユニちゃんのこれ大きいよね。振り回したら

強そうだ」

「もし鈍器にしたら絶交だからね」

「し、しないよ!」

「それよりもどう? あんたのとは性能が段違いでしょ?」

「そうだね、射撃は敵わないかな。でも、やっぱり剣は欲しいし、小回りも利かせたいしなぁ……」

「近接に寄られた時は自分の腕でカバーよ。そもそも寄らせないし。最悪寄られてもお姉ちゃん直伝の技があるからね」

 

 ユニはガンナーであるが、近距離戦が一切できないわけではない。姉のノワールほどではないが、体術も日々鍛えていたりする。

 

「お互いの武器の確認は済ませたし、そろそろ試合しましょ」

「そうだね」

 

 一通り装備の確認が終わった二人は、訓練場に向かうのだった。

 

 

 

 

 訓練場の試合モードを起動し、二人は早速模擬戦を開始した。

 いつもの通り、距離を取るユニと追いかけるネプギアの構図となる。

 

「あれ? そういえばなんであたし逃げてるんだろ?」

「……待って、私の武器がエクスマルチブラスターなら、追う必要……ある?」

 

 ネプギアとユニの模擬戦は、普段だと接近するネプギアと距離を取るユニ、という流れになるため、側から見ると何故か近接が苦手ガンナーが遠距離が苦手なアタッカーを追う奇妙な展開になっていた。

 

「……」

「……」

 

 それに気づいた二人の目が合い、気まずそうに苦笑い。

 そして、ユニを追うために前傾姿勢だったネプギアは逃げ易いように少し身体を仰反らせ、ネプギアから逃げるために身体を仰け反らせていたユニは追い易いように前傾姿勢に変わる。

 

「待ちなさいネプギアー!」

「わー! 来ないでユニちゃーん!」

 

 迫りくるユニに、エクスマルチブラスターから実弾とビームを交えながら迎撃するネプギア。

 しかし、慣れない武器というのもあり、ネプギアの射撃がユニを捉えることはない。

 

「相変わらず……ヘッタクソな射撃ね」

 

 ユニは少し強い言葉でネプギアを挑発しながら距離を詰めていく。

 

「はぁああ! 『トリコロール……」

 

 そして、剣の攻撃範囲に入り、技を繰り出して攻撃する。

 

「……っ」

 

 しかし、咄嗟に技を中止してその場を離れる。

 そして、横から飛んできたビームが、先程までユニがいた場所を横切った。

 

「……成程、確かにそれはプロセッサに付随する武器じゃなかったわね」

 

 攻撃の正体、ネプギアの周りをフヨフヨと浮き回る二機のビットを睨みつけながらユニが言う。

 ネプギアの技や装備を知り尽くしているユニだからこそ、撃たれる前に気づくことができたのだろう。

 

「やっぱり、ユニちゃんにはもうこんな不意打ち通用しないか」

 

 また、たとえネプギアの射撃精度が低くてもここまで簡単に自分が近寄れたことには何か裏があるのではないか、というユニの推理もあった。

 

「けど……!」

「……くっ」

 

 ビットからの射撃を回避することは、ネプギアに距離を取る時間を与えるということでもある。

 

「……うん、わかってきた。でも、これを使いこなすなんてユニちゃんやっぱりすごいなぁ」

 

 そして、ネプギアは段々とエクスマルチブラスターの扱いに慣れつつあった。

 弾の切り替えがスムーズになり、射撃の精度も上がっていく。

 

「くぅっ……」

 

 ネプギアの弾幕が、少しずつユニの耐久値を削っていた。

 

「……厄介ね」

 

 エクスマルチブラスターから繰り出される高火力の射撃で相手を削り、無理に距離を詰めようとした相手からはビットで自衛することで時間を稼ぎ更に距離を取る。小回りが利きづらいエクスマルチブラスターの弱点を上手くカバーした戦術をネプギアは見出していた。

 

「でも、あんたのこれにも射撃はあるわ!」

 

 ユニはM.P.B.Lをソードモードからランチャーモードに換装し、ネプギアに狙いを付ける。

 

「あたしのエクスマルチブラスターより精度が劣るなら……あたしが合わせてやればいいのよ!」

 

 そして、M.P.B.Lからビーム砲を撃ち出した。

 

「うわっ!」

 

 ユニの射撃の腕は超一流。慣れない武器でありながら、ネプギアの弾幕の隙間から、ビーム砲をネプギアの装甲に直撃させる。まるで動き回る針の穴に糸を通すかのような神業だが、ユニにとっては大したことではない。

 

「流石だねユニちゃん……こっちの方が射撃性能は上なのに、撃ち合いを互角にされちゃった……」

「さ、反撃開始よ!」

 

 ユニもまた、M.P.B.Lの有効的な使い方を見出しつつあった。

 取り回しが良いため、ライラックの高い機動力を活かしながら射撃戦が行える。自分のエクスマルチブラスターには無い利点だ。

 

「う〜ん……」

 

 高速で飛び回りながら精度の高い射撃を通してくるユニの戦法に悩まされるネプギア。

 

「なら……動きを止める!」

 

 ネプギアは自衛用のビットをユニに向けて飛ばし、ユニを囲うように浮遊させる。

 

「ほんと便利よねそれ」

 

 ビットを扱うのは、通常の射撃武器とはまた違ったセンスが要る。ネプギアにあるがユニには乏しいため、自身の技に導入できずにいる。

 

「けど、撃ち落としてくれって言ってるようなものよ」

 

 ユニは、逆にビットの射出を好機と捉えた。

 ネプギアの周りを飛び回るより、こちらに飛んできた方がビットを処理しやすいのだ。

 

「そこ!」

 

 ビットの軌道を読み、正確に射撃を撃ち出して一機目を破壊、そして背後から来たもう一機のビットは魔法弾で迎撃して破壊する。

 

「これであんたはもう丸裸ね」

 

 ビットを破壊したため、ネプギアは自衛の要を失うことになった。

 この好機を逃さぬよう、ユニはネプギアに一気に距離を詰める。

 

「それっ」

 

 ネプギアがユニに実弾を放つも、ユニはビームで迎撃する。

 すると、破裂した実弾から黒い煙が撒き散らされた。

 

「煙幕弾? そんなもの入れてたつもり無いけど……この短期間で仕込んだのね……!」

 

 ユニの視界が封じられるが、それはネプギアも同じ。

 おそらくは近距離戦を拒否し仕切り直すための時間稼ぎのつもりだろう、とユニは思っていたため視界が晴れるまで迂闊に攻撃を仕掛けたりはしなかった。

 

「また距離を取……え?」

 

 煙幕が晴れた瞬間、ユニは戦慄した。

 エクスマルチブラスターの射程を活かすため距離を取る筈だと思っていたネプギアが眼前に迫ってきていたからだ。

 

「正気⁉︎」

 

 驚きながらも、M.P.B.Lを構えようとするユニ。

 しかし、予想外の一手だったため、まだ体勢を整えられていなかった。

 また、ユニは射撃戦から格闘戦への意識の切り替えの速さがネプギアに劣るのだ。

 

「……『スラッシュウェーブ』!」

 

 ネプギアは、手刀から『スラッシュウェーブ』を繰り出した。

 剣から放つものより威力は大きく下がるが、ユニの晒した隙を上手く突き、直撃させる。

 

「きゃあっ! ……やったわね!」

 

 ネプギアは追撃と言わんばかりに、手刀での連撃を繰り返す。

 しかし、数度目の追撃にて、ユニに腕を掴まれた。

 

「威力が低いことが分かってれば……我慢できる程度のダメージね……そして捕まえたわ!」

 

 ユニは左手でネプギアの腕をしっかりと掴み、右腕でビームソードを振りかぶる。

 

「それは……こっちもだよ」

 

 しかし、ネプギアもエクスマルチブラスターの銃口をユニに向けていた。

 

「ゼロ距離射撃か……っ! でも、その出力でやったらあんたも……!」

「我慢比べだね、ユニちゃん」

 

 ゼロ距離ならばユニの一撃もネプギアの一撃も直撃するだろう。

 そうなれば、相手の攻撃をまともに受けて立っていた方に勝敗が傾くことになる。

 

「……」

「……」

 

 しかし、目を合わせ一呼吸置いて、ネプギアもユニも武器を下ろした。

 あくまでこれはお互いの武器とプロセッサユニットを交換した試験的な模擬戦、勝敗を付けるためにボロボロになるまで戦う必要はない、と二人は判断したのだ。

 

「うん、悪くなかったわ。良い経験になったわね」

「こっちこそ、ありがとうユニちゃん」

「でも、やっぱ剣を振るのは性に合わないわねぇ」

「う〜ん、私も射撃オンリーはちょっと物足りないかな」

「ま、そうなるわよね。じゃ、早速模擬戦のフィードバックでもしようじゃない? 色々アイデアも思いついたし」

「いいね! あ、プロセッサユニット返そうか?」

「え? ここで脱ぐ気?」

「ち、違うよぉ!」

 

 そのまま二人は、訓練場を後にした。

 今日も今日とて、仲の良い二人なのだった。

 

 



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アイエフの優雅なる休日 ( アイエフ )

 

 午前六時、アイエフ起床。

 

「……ぅ〜ん? ん……」

 

 しかし、今日は休日。

 平日なら目覚めるこの時間に、休日にも関わらず目を覚ましてしまったことに不満げな様子で二度寝を始める。

 

「んぅ……」

 

 すやすやと眠りだし、三時間後、午前九時。

 

「……ん、もうちょい寝よ」

 

 日々の激務の疲れから、起床して活動することより睡眠の継続を優先。

 とこぞの守護女神が仕事をしない皺寄せによって、アイエフは多忙の日々を過ごしており、休日の疲労が尋常ではないのだ。

 

「……すぅ」

 

 数分後、二度目の睡眠についた。

 

「……お腹減った」

 

 そして、午前十一時半、空腹により目が覚める。

 

「なんもない……」

 

 寝ぼけ眼を擦りながら、部屋の冷蔵庫を開けると、空。

 アイエフは自炊をほとんどせず、教会の食堂か親友お手製のお弁当で食事を取るので、食材を買い込むことはない。

 故に冷蔵庫は空。乾物用の戸棚も空。空腹を満たせるものは無い。

 

「……ふー」

 

 深いため息。

 食事を取るには、外に買いに行く、もしくは食べに行くという選択肢になるのだが、今のアイエフにとっては、寝汗をシャワーで洗い流し、ボサボサの髪の毛をセットし、最低限のお肌のケアをし、着替える、etc……これらの行動が面倒なことこの上なかった。

 

「……寝よ」

 

 そして、全てを諦め、空腹を紛らわすために寝ることにした。

 時刻は正午を回った。アイエフの休日の午前は、惰眠を貪ることのみで終了した。

 

「……寝過ぎて疲れた」

 

 午後二時、アイエフ四度目の起床。

 流石にもう眠くないので、枕元にあったスマホを弄る。

 

「……ふふっ」

 

 ニュースサイト、動画サイト、SNSをあらかた巡り、気づけば二時間経っていた。

 

「もう夕方かぁ……」

 

 時刻は午後四時。一日の終わりを感じ始める時間。

 未だに寝巻きを羽織り、ベッドに寝そべるアイエフは、この際もう今日はどこも行くまい、とすら思っていた。

 

「……ゲームでもしようかしら」

 

 言いながら起き上がり、ゲーム機を数週間ぶりに起動する。

 アップデートに約十時間、アイエフはゲーム機の電源をつけたままコントローラーをクッションに投げ捨てた。

 そして、再び寝転び、スマホ弄りを始めるのであった。

 

「あ、このアニメ全話無料配信してるじゃない」

 

 動画サイトを開き、気になっていたアニメを視聴し始めた。そのまま約三十分のアニメを全十二話で約六時間、一気見した。

 

「えぇ、何この終わり方……? 主人公の自己犠牲モノって今時流行らないわよ」

 

 最終話を見終わり、時刻は午後十時。

 

「えっと……明日の予定は……?」

 

 アイエフは翌日からの仕事に備え、スケジュールを確認していた。

 

「後輩の子たちと戦闘訓練かぁ。苦手なのよねアレ。やりすぎるとケガさせちゃうけど、緩すぎても訓練にならないし」

 

 寝る前のストレッチをしながら、ぼやくアイエフ。

 

「ネプ子ぐらい頑丈な相手なら本気でやれるんだけどね〜」

 

 アイエフは、プラネテューヌ教会における女神と候補生を次ぐほどの実力者である。本人はそのことを誇りに思いつつも、ちょうど良い訓練相手がいないという悩みも抱えているのだ。

 

「そろそろ寝よ。こんなに寝たから寝られるかわかんないけど」

 

 時刻は午後十一時、最低でも六時間以上の睡眠を心がけているアイエフにとっていつもの睡眠時間。

 

「おやすみなさい……」

 

 そして、翌日からまた激務が始まるのだった。

 

 



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「できたよジャガちゃん! ピピちゃんの服が弾け飛ぶボタン!」 ( ピピ ジャーガ リディオ )


 最新作のネタバレが含まれているので、未プレイの人は閲覧注意。



 

 

「できたよジャガちゃん! ピピちゃんの服が弾け飛ぶボタン!」

「……は?」

 

 そんなことを言いながら、リディオは屈託のない笑顔で、小さなスイッチをジャーガに手渡した。

 

「操作は簡単、真ん中のボタンを押すとピピちゃんの服が全部弾け飛ぶんだ〜」

「いや、なんだそれ? ていうかなんでそんなものを作ったんだい?」

「弾け飛んだ衣服は時間が経つと、再びピピちゃんに着せられるように再生するから安心設計になってるよ〜」

 

 困惑するジャーガを気にすることなく、説明を続けるリディオ。

 

「ちょ、そういうことが聞きたいんじゃ……」

「くれ悪だからね〜」

 

 ジャーガの訴えを聞くことなく、リディオはウキウキとした足取りで立ち去って行った。

 そして、ジャーガのデスクの上には『ピピの衣服が弾け飛ぶボタン』が残った。

 

「S・W・I、捨てる・わけにも・いかないよね……」

 

 元CEOであるネプテューヌが去ってから、ピピは以前よりもリーダーシップを発揮するようになった。ビクトリィー社のビッグタイトル【ムシカイザーシリーズ】の売り上げに負けず劣らずの企画をパンパンと打ち出し、増えてきた社員たちをまとめ上げ、会社の業績を上げていく。

 そんなピピは、CEOの座をあえて空けているビクトリィー社にとって、実質最高責任者ともいえる。ピピ本人は、ジャーガとリディオと三人合わせて代表だと言っているが、ジャーガもリディオも、ピピがリーダーであることは認めている。

 本人に言うと調子に乗るから直接は言わないではいるが。

 

「……ネプテューヌにも見せてあげたいね。ピピが頑張ってるところを」

 

 ピピは今、ビクトリィー社のオフィスの応接間でゲーム雑誌からの取材に応えている。

 人前に立つことに緊張していたピピはもういない。今やビクトリィー社の実質的な代表としてあらゆるメディアへ露出している。そんなピピに──

 

「──今、このボタン使ったらどうなるんだろうか?」

 

 一瞬、そんな邪悪な考えが、ジャーガの頭を過った。

 

「まぁ、そんなことするわけないけどね」ポチッ「……え?」

 

 すると、ジャーガの添えた手が、机の上に置いてあったボタンに触れてしまった。

 

「やばっ……!」

 

 すると数秒後。

 

「ひぎゃぁぁああああああッ⁉︎」

 

 応接間から、ピピの悲鳴が会社中に響き渡った。

 

 

 

 

「できたよピピちゃん、ジャガちゃんの衣服が弾け飛ぶボタン!」

「……は?」

「くれ悪だよ〜」

 

 そんなことを言いながら、リディオは屈託のない笑顔で、小さなスイッチをピピに手渡した。

 

「……こ、この前のアレそのボタンのせいかーッ! なんてもん作ってんのよ! この間マジで大変だったんだからね! 取材の写真を撮った瞬間に服が弾け飛ぶし! しかも、弾け飛んだ衣服で大事なとこは隠れてるからって、その写真普通に使われたし!」

 

 結局、服がバラバラに弾け飛びながら笑顔でピースしてるピピの写真付きの雑誌が発売されたが、ゴールドサァドたちが取り締まり事なきを得たのだった。

 

「大変だったね〜」

「大変だったね〜、じゃ! ないのよ!」

「でも、あたしはボタン作っただけで、押したのはジャガちゃんだよ〜?」

「はぁ⁉︎ なんでジャーガが⁉︎」

「あたしもくれ悪って言ったんだけどね〜」

「悪用しかできないもん作っといて何言ってんのよ! まぁいいわ! ジャーガにもあたしの屈辱を思い知らせてやるんだから!」

 

 ピピは、リディオから貰ったボタンの真ん中のスイッチを連打する。

 

「ひっひっひ! 屈辱を思い知るといいわ!」

「うわぁ邪悪な笑顔〜」

 

 その頃、ジャーガは今日ケーシャのとこに商談に行っていた。

 

「……あ」

 

 それを思い出し、ピピは顔を真っ青にする。

 ケーシャの前でジャーガが脱ぐ、それはまるで、飢えた獣の前に餌となる草食動物を放り出すような行為である。

 

「ど、どうしようリディオ……!」

「あたし、知らないよ〜? くれ悪って言ったし〜」

 

 

 

 

 

「ケーシャ、今日はありがとう。君が協力してくれるなら、次回作のゲームも上手くいきそうだ」

「こちらこそありがとうございました。あのジャーガさん。もう少しだけ、帰らないでいてくれませんか……? もう少しだけあなたと一緒にいたいんです……」

「ケーシャ……しょうがないな。この後の予定は無いし、少しぐらいなら君に付き合……」ビリビリビリパァーンッ!

「……!」

「……っ⁉︎」

「ジャーガさん……! そんな情熱的に……! わたしもう我慢できませんっ!」

「ちょ、やめ……アーーーーッ!」

 

 

 

 

 翌日。

 

「ジャーガ、ごめんね。ジャーガがあんなことわざとやるわけないのに、自分がやられたからって、熱くなって……」

「ピピ……でも、ボクは君を責めたりはしない。先に君の衣服を弾け飛ばしたのはボクなんだから……」

 

 ピピとジャーガは、無事和解していた。

 そんな二人の様子をニコニコと眺めるリディオ。元凶であるとは思えない屈託のない笑顔であった。

 

「……ていうかさ、わたしたちがこんな目に遭ってるのに、全ての元凶が涼しい顔してるのって、納得いかなくない?」

「その通りだよ。F・K・H、不公平だ!」

 

 そして、ピピとジャーガの視線が、リディオの方に向く。

 

「……え?」

「ボクたちにリディオの服を弾け飛ばせるボタンを作れる技術力はないから、もう物理的に剥いちゃうのはどうだろう?」

「いいわね、それ。あの無駄にでかい胸とケツを晒してあげようじゃない」

「ちょっと、待って二人とも〜! どうしてそんな流れになるのさ〜!」

 

 逃げ場が無くなるように囲い込みながら、じりじりとリディオに近づいていく二人。

 

「や、やめて二人とも〜!」

「覚悟しなさいリディオー!」

「Do the math!」

「ごめんなさ〜い!」

 

 その日、リディオは罰としてほぼ裸で仕事をさせられていたのだった。

 

 

 



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ホワイト・エクステンション ( "ホワイトハート" )

 

「──それで」

 

 プラネテューヌ教会の執務室のソファーに、我が物顔で腰掛けるラステイションの守護女神ユニが言った。

 

「また性懲りも無く復活したわけ? 犯罪神サマは」

「それが、最近研究でわかってきたことらしいんだけど、犯罪神の顕現って、数百年おきに発生する災害のようなもので、現象に近いんだって」

「犯罪神マジェコンヌは、その現象を利用して生み出された邪神ってこと?」

「そうなるのかな」

 

 執務室の女神の椅子に腰掛け、お仕事モード用の伊達眼鏡をかけているプラネテューヌの守護女神ネプギアが、仕事用のパソコンのモニターと睨めっこしながら言った。

 

「てことは、前のとは別個体なの? 魂がどうとか言ってたやつと」

「そうなるのかな。アレは強敵だったよね。マホちゃんが魂ごと攻撃できるエネルギー変換機を作ってくれたから最後は楽に倒せたけど」

 

 数百年前はゲイムギョウ界の存続を揺るがすほどの脅威だった犯罪神も、時が進めば対策が進み、かつて候補生と呼ばれていた彼女たちが正式に守護女神の座を継承した現在では、出現しても昔ほど騒がなくなった。

 

「今回の出現場所はどこ?」

「いーすんさんが三日かけて割り出したデータによると……このポイントは……ルウィーかな」

「あー……ルウィーね」

 

 ネプギアもユニも、拍子抜けしたように肩の力を抜いた。まるで、自分たちのやることがなくなったと言わんばかりに。

 

「じゃ、アタシはコーヒーでも淹れるわ」

「私はお菓子出すね」

「砂糖何個だっけ?」

「入れなくてもいいよ」

「本当に?」

「う……二個ぐらい入れてください。ミルクもたくさん」

「はいはい」

 

 そして、何事もなかったかのように、二人きりの女子会を再開するのだった。

 

 

 

 

 ルウィー北部の極寒の氷山にて。

 顕現した犯罪神が、周囲のモンスターをその瘴気で汚染し配下にしながら、中心街に向かって南下していた。

 

「来たわね」

「来たね」

 

 犯罪神を迎え討つべく、ルウィーの守護女神ロムとラムが、襲名した『ホワイトハート』に女神化し、ホワイトハートロムは神聖な輝きを放つ細長い杖を、ホワイトハートラムは荘厳な雰囲気を放つ巨大な斧のような杖を、それぞれ構える。

 

「久しぶりの二人での戦闘ね、ロムちゃん」

「いつもはどっちかがデスクワークで、もう片方がクエストだもんね」

 

 姉のブランがその座を退き、守護女神の座を継承した二人は、候補生だった頃よりほんの少し外見が成長していた。

 また、ロムは人見知りを克服し、堂々とした態度で話すようになった。ラムは相変わらずの天真爛漫さはあれど相当に落ち着き、女神らしい淑やかさを持つようになった。

 

「前線は私が切り開くわ。後はロムちゃんがお願いね」

「うん、わかった」

 

 ラムがプロセッサユニットのウイングから、魔法で氷の翼を伸ばし、前線に飛翔する。

 

「『アブソリュート・ゼロ』」

 

 そして、飛んだ軌道で魔法陣を描き、全方位に魔力を含んだ氷塊を放つ。

 かつては必殺技であったアブソリュート・ゼロだが、今のラムはシェアエネルギーや魔力を貯めることなく即座に使用することができる。

 

「たぁっ!」

 

 討ち漏らしたモンスターは、斧のような杖を振り回し、斬り砕いて破壊する。その姿は、ラムの姉である先代ホワイトハートを彷彿とさせる。

 ラムの攻撃範囲の隙間から進軍してきたモンスターは、間髪入れずに放たれたロムの氷魔法によって全てが凍り、活動を停止する。

 二人の守護女神は、言葉を交わすことなく、数回目を合わせるだけで互いの思考と行動を把握し、適切に連携を行う。

 

「さて……」

 

 ルウィーの氷原を黒く染めるほどの数だった汚染モンスターたちは、瞬く間に殲滅された。

 

「後はあんただけよ、犯罪神」

 

 ラムがアイスカリバーを生成し、犯罪神に向けて射出する。

 しかし、アイスカリバーは犯罪神の身体を貫くも、ダメージを気にすることなく犯罪神が前進し、ラムに剣を振る。

 

「ラムちゃん!」

 

 間髪入れずにロムがバリアをラムの前に展開することで、犯罪神の斬撃を防ぐ。

 バリアは二撃目の斬撃で破壊されるが、その間にラムは離脱し、魔力を貯める。

 

「『スノーマン……」

 

 ラムは巨大な雪だるまを創り、先程のアイスカリバーとは違い、質量で押しつぶすことを選択。

 

「『ノーザンクロス』!」

 

 ラムの選択を予測したロムが、即座にま力の十字架で犯罪神を拘束する。

 

「『プレッシャー』ッ!」

 

 そして、魔力を貯め終わったラムが、巨大な雪だるまを犯罪神の頭上から落とし。

 

「『サウザンクロス』!」

 

 ロムがトドメと言わんばかりに、追撃の十字架で上から蓋をする。

 

「「それっ!」」

 

 高威力の魔力とシェアエネルギーが炸裂し、大爆発を起こす。

 

「……」

 

 手応えはあった。

 しかし、ロムとラムは、転がる氷塊の中に生命反応を察知していた。

 魔力が足りず仕留め損なったか、それとも犯罪神の防御力が想定以上だったか。

 

(いや……これは……)

 

 その答えは、どちらでもない。

 

(再生能力!)

 

 ラムは、自身最初に放ったアイスカリバーの効きが悪かった理由から、犯罪神の特性を推理した。

 

「肉体へのダメージは回復されちゃうってことだよね? だったら、魂への変換機をマホちゃんから借りて来ようか?」

「そんな時間がないのが問題よ。それに、アレはシェアエネルギーによる物理的なダメージを変換するものだから、私たちの魔法攻撃とは相性が悪いわ。変換できても威力が大幅に減衰するって言ってたもん」

「う〜ん……魔法が強いってのもメリットだけじゃないんだね……」

 

 氷塊を薙ぎ払い、姿を現した犯罪神の攻撃を避けながら作戦会議をするロムとラム。

 

「昔、お姉ちゃんが言ってたわ……」

 

『再生能力持ちの敵? 簡単よ、一撃で倒せばいいのよ』

 

「……って」

「一撃……ラムちゃん、アレをやろっか」

 

 言いながらロムが、シェアクリスタルを体外へ顕現させる。

 

「おっけー! 決めちゃうわよ!」

 

 ラムも、応じるようにシェアクリスタルを顕現させた。

 そして、二対のシェアクリスタルを一つにし、ロムとラムの身体が水色とピンクに光り輝く。

 

「「『シェアリング・フュージョン』!」」

 

 その掛け声と共に、二つの光が溶け合い、一つになる。

 一つになった光は、再び身体を形成し、そこに一人の守護女神が爆誕する。

 

「合体完了! 『ホワイトハート・エクステンション』!」

 

 『ホワイトハート・エクステンション』。ルウィーの守護女神たる二人の守護女神が融合した姿。

 かつて、二人の女神候補生が当時の女神であった姉を超えたことを、明らかにした形態でもある。

 

「さぁ、茶番は終わりよ犯罪神」

 

 ゆっくりと前進するホワイトハートEX(エクステンション)に対し、犯罪神は闇を纏わせた剣を振るう。

 しかし、その剣はホワイトハートEXに届くことはなく、直前で腕ごと凍りつき、その動きを止める。

 物理攻撃は届かないと見た犯罪神は、魔法弾を撃ち出すが、その全てはホワイトハートEXに触れる直前で凍りつき、地面に落下する。

 

「これが私の『氷獄冷衣』……もう少し分かりやすいようにしてあげる」

 

 ホワイトハートEXが言うと、透明な氷の着物が白く変色することで姿を表し、鎧のようにその身を守っている様子が見えた。

 これが『氷獄冷衣』、ホワイトハートEXが身に纏う魔力氷の衣装。放たれる超越的な冷気は、あらゆる攻撃を触れる前に凍らせ、動きを奪う。

 

「さっさと終わらせるよ」

 

 氷獄冷衣は、先端から少しずつ空気に溶けている。これは、制限時間を意味するものであり、全てが溶けると効果も消える。

 ホワイトハートEXは、凍らせた犯罪神の右腕から、氷を侵食させていく。

 犯罪神はその前に右腕を切り落とし、即座に再生させて事なきを得る。そして、斬撃に炎魔法を纏わせ、凍結の突破を試みる。

 

「氷には炎、か。悪くない作戦だね」

 

 しかし、相性の良い炎であっても、ホワイトハートEXの操る氷を溶かしきることはできず、逆に炎が消え、犯罪神の剣が凍り、砕ける。

 

「……」

 

 犯罪神の炎斬撃は、ホワイトハートEXに攻撃を通すことはできないが、ホワイトハートEXの攻撃から身を守ることはできており、逆にホワイトハートEX側からも有効打を与えられずにいた。

 また、攻撃が通ったとしても、武器を壊そうが身体を凍らせようが、破損した箇所から再生され、即座に攻撃の意味が消える。

 その間、氷獄冷衣は段々と空気に溶けていき、展開時間の限界が迫る。

 

「むぅ……」

 

 そして、決着が付かぬまま時が過ぎていき、展開時間が遂に切れた。

 

「時間切れかぁ……」

 

 氷獄冷衣が全て溶け、その効果が終了する。

 すると、ホワイトハートEXは白い冷気に包まれた。

 

「そう、時間切れ」

 

 その様子を見て、犯罪神は勝利を確信し、ホワイトハートEXに向けて前進した。

 

「でも、タイムリミットはあなたの方だよ、犯罪神」

 

 氷獄冷衣は、装甲でありながら、一番の効果は『繭』である。幼虫が蝶へと変化する過程。

 つまり、繭が消えたということは、蛹が蝶へと完成するように、ホワイトハートEXも新たな姿と力を手にするということ。

 

「シェアリング・フュージョンには、デメリットが二つある。一つは、融合した直後には、氷獄冷衣の解除のための時間経過を待たないと本気を出せないこと」

 

 白い冷気が晴れると、そこには一切の幼さが消えた、美麗なる長身の守護女神が立っていた。

 

「もう一つは、本気を出すに相応しい肉体年齢に強制的に成長させられること。紳士淑女(ロリコン)の多いルウィー国民の前でこんな変身をしちゃったら、シェアが減ってしまうわ」

 

 シェアリング・フュージョンによって得た莫大なシェアエネルギーと魔力の出力は、変身直後の肉体では耐えることができず、変身後に更なる変身を必要とする。

 それを経た姿が、先代ホワイトハートの最強形態『ネクストホワイト』をも超えたホワイトハートEXの最終形態。

 

「この姿になったからには、あなたを倒すのに一の歩みも必要ない」

 

 ホワイトハートEXは、小声で詠唱を開始し、手で印を紡ぐ。

 詠唱と印により、底上げされた魔力とシェアエネルギーを混ぜ、空間を形成していく。

 

「『シェアリング・フィールド:アブソリュート・コキュートス』」

 

 かつてある先輩女神が見せた技『シェアリング・フィールド』、それをシェアエネルギーの操作のみで行う技量はホワイトハートEXにすらない為、魔術によってシェアエネルギーを操作し、フィールドを展開する。

 

「この絶対零度の氷獄に足を踏み入れた者は、一秒で身体が凍り、二秒目で能力が凍り、三秒目で思考が凍り……四秒目で全てが凍る」

 

 全ての物体が凍結し、ホワイトハートEXのみが行動できるフィールドの中、犯罪神は抵抗することもできずその活動を停止した。

 

「もう聞こえてもないし、そもそも意識という概念すらないと思うけど」

 

 そして、ホワイトハートEXは、ありったけの魔力をゆっくりと時間をかけて貯め、掌から解き放ち、一撃で犯罪神を消し去った。

 

「ふーっ……」

 

 戦闘が終わり、ホワイトハートEXは二人のホワイトハートへと分離する。

 

「終わったね、ラムちゃん」

「私たちが本気を出せばこんなものよ」

 

 結局、犯罪神はルウィーの防衛ラインに入ることなく、撃破された。

 強敵を難なく討ち倒した二人の後ろ姿は、かつての姉に守られていた未熟な候補生だった頃の面影はなく、国を世界を護る守護女神の格が感じられるものだった。

 

「ラムちゃん。ラムちゃんと融合したから分かったんだけど、この前わたしのクッキー全部食べたのラムちゃんだったんだね」

「ぎくぅ⁉︎」

 

 いや、少し面影があるのかもしれない。

 

 



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ロスタイムバケーション ( ネプテューヌ ブラン )

 

 

「やっほーブラン」

 

 ルウィー南部の町外れの小屋に、ネプテューヌは訪ねて来た。

 

「はいこれ、頼まれてた新刊」

「ありがと」

「来るついでに買ってこいなんて言わないで、自分で買いに行ってよねー」

「田舎暮らしに慣れるとどうも、街まで行くのが億劫になるのよ」

 

 ブランは読んでいた本を閉じて置き、立ち上がって部屋の隅の小さな冷蔵庫を開け、コーヒーが飲めないネプテューヌのために常備してあるジュースをコップに注ぐ。

 

「ブランはさ」

 

  ネプテューヌがコップに手をつけ、飲もうとした直前に、思い出したかのように口を開いた。

 

「なに?」

「なんで教会に住むのやめたの?」

「女神を引退したから、田舎でセカンドライフでも送ろうと思って」

 

 既に、ネプテューヌとブランも一国の守護女神の座を引退した身である。昔は守っていた妹たちに今は超えられ、信仰(シェア)も移り変わり、女神の責務に追われる忙しない日々とは別れを告げた。

 ネプテューヌは今でも変わらずプラネタワーに住んでいるが、ブランはルウィー教会から出ていった。

 

「最近は読書だけじゃなくて、ガーデニングも始めたのよ」

「見たよ庭。まだ耕された土しかなかったけど」

「何を植えるかはまだ決めてないの。一緒に考えてくれるかしら?」

「じゃあ、桜を植えよう!」

 

 両手を広げながら満遍の笑みで言うネプテューヌに、ブランは少し怪訝な顔をしながら言い返す。

 

「花壇に木を植えるって……」

「だって、花だとすぐに散っちゃうじゃん。桜の木だと毎年楽しめるよ!」

「すぐに散るからいいのよ。散ったらまた新しいのを植える。その繰り返しがいいんじゃない」

「そうかなぁ?」

「そうよ……ふふっ」

 

 そのやりとりの最中、ブランから笑みが漏れる。

 

「そんな面白いこと言ったかなわたし……?」

「違うわ。だって、革新の国の女神だったあなたと不変の国の女神だった私、その二人が望むものが真逆なんだもの」

「言われてみれば……そうだね」

「女神だった頃、変化が好きじゃなかった。季節は巡り時は移ろい世界は何もかも変わっていくのに、私だけ変わらないことに……寂しさを感じていたから」

「わたしは逆だったかな。みんなが変わっていくのを、変わらずに見続けていられるのが楽しかったよ」

 

 ネプテューヌは笑顔で言うが、その笑顔にはどこか寂しさのようなものが感じられた。

 

「でも、いざ自分が変わらないモノ(守護女神)から退いた時、自分の終わりを自覚して、何かを残したくなってるのかもね。わたしがいなくなっても残る何かを」

 

 プラネテューヌは革新の国。流行も、風景も、常に新しいものへと移り変わっていく。ネプテューヌという女神が存在した痕跡も、今この時には残っていても、数十年数百年経てば綺麗さっぱりなくなっているかもしれない。

 

「……なら、植えましょう、桜の木を」

 

 ネプテューヌの心境の変化で生まれた寂寥に、ブランは寄り添うことにした。

 

「私たちが消えても残るような立派な木にしなくちゃいけないわね。庭の大きさは足りるかしら?」

「良いの……? 花が良かったんじゃないの?」

「花なんてその隙間にでも植えればいいのよ」

 

 元々、ガーデニングを本気でやり込もうとしていたわけではない。ならば、そのために作った場所を、互いに女神でなくなってただの友人となった相手のために使ってあげたい。ブランはそう思っていた。

 

「そういえば、ロムちゃんとラムちゃんに最近会ってる?」

「会ってないわね。数日おきに連絡は取ってるけど」

「へぇ、意外」

「姉離れ妹離れできないあなたたちとは違うのよ」

「わたしの方はそうかもしれないけど、ネプギアはそうでもないんだよね。だから、わたしが一人でいる時間が増えたかな」

「あのネプギアが姉離れって……想像できないけど」

「そりゃ今でも仲は良いよ。でも、ネプギアがわたしにベッタリだったのは、わたしが女神でネプギアが候補生だから、ってのもあったんだと思う」

 

 女神と候補生は、単なる姉妹としてだけでなく、先駆者と後継者の関係でもある。後継者たる候補生は、いずれ国を背負う女神となるために、先駆者たる女神を見て学ぶ。未熟な自分が、その未熟さの要因を知るために。

 しかし、いざ自分が姉を超え女神の座を継げば、先代から学ぶことは一切ではないが無くなる。心の余裕も生まれ、姉からの愛情を以前ほど求めなくなる。

 

「昔はあんなに『お姉ちゃんお姉ちゃん』だったのになぁ……」

「それだけ女神として上手くやれてるってことでしょ」

「それはそうなんだよね。むしろやれすぎて怖くなってるレベル。我が妹はどこまで行ってしまうんだ、と。ネプギアといーすんの会話のレベルが高すぎてついていけないことあるもん」

「あなたの時代がどんだけダメだったかってことよ」

「ダメって言わないでよ〜! わたしだってそこそこ頑張ってたんだから〜!」

「……ま、姉より妹が優れてるのはそっちだけじゃないから、人のことを言えないわね」

 

 言葉の内容とは裏腹に、ブランは嬉しそうに言う。

 

「そう? ブランはしっかりしてるイメージだったけど」

「ルウィーは魔法の国。魔法に長けたあの子たちは、その時点で私よりこの国の女神に向いていると言えるわ。それに、単純に二人いるってのは強いわね。一人が書類仕事して一人がクエスト行くってのができるもの。正直ズルよ」

「ネプギア言ってたな……ロムちゃんとラムちゃんの二人がかりなら絶対勝てないって」

「そうね。今のあの子たちの本気には、私が全盛期に戻ってネクストフォームになっても勝てないでしょうね」

「頼もしい限りだけど、少し悔しいよね」

「ほんとにね」

 

 会話をしながら、ネプテューヌがジュース、ブランがコーヒーを飲みながら、ネプテューヌが買ってきたお菓子を摘む。

 

「わたしさ、女神辞めてネプギアに託す時、何もやり残したことないって思ってたんだけど。何個かあったんだよね」

「なに?」

「小競り合いはしてたけど、ブランとノワールとベールと、本気で決着つけたことはなかったなぁ……って」

「なるほど……」

 

 かつての四女神は、敵対していた時でも決着が付くまで戦うことはなかった。本気で戦った時もあるのだが、四つ巴ということで、消耗しすぎると他の女神にトドメだけ掻っ攫われる可能性もあるため、ある程度のところでお互い引いていた。今思えばそんな卑怯な手を取る者などいなかったが、当時は他の女神の性格を知る由はなかった。

 そして時が経ち、手を取り合い、戦うことはなくなったのだが、決着が付くまで戦ってみたかったという心残りがネプテューヌにはあった。

 

「それは……私もよ」

 

 無論、ブランにも。

 

「じゃ、やる? お互い衰えたけど」

 

 ネプテューヌは、半分冗談、そして半分本気でブランに聞く。

 

「うーん……」

 

 ブランは考え込んだ。ネプテューヌ同様、半分本気でネプテューヌと戦う気があった。

 

「……やめとくわ。今のわたしたちが決着がつくまで本気で戦ったら、どっちかが死ぬと思うから」

 

 得られる信仰(シェア)が減ったネプテューヌとブランは、現役時代より力が落ちており、特に顕著なのが、女神の治癒能力である。

 女神はシェアがあれば、死にかけたとしても回復し身体の損傷も修復される。しかし、今の二人だと、もし死にかけたら回復が追いつかず、そのまま絶命する可能性が高いのだ。

 

「それでも良いと思ったんだけどね。このまま女神の力が減っていって、病とか老いで死ぬんだったら、まだ戦える間にあなたたちの誰かと戦って殺されて死ぬっていうのも」

 

 物騒な言葉ではあるが、それが女神としての矜持であり、ブランは穏やかな笑みで言う。

 

「けど、まだやりたいこと少しあるから。読んでない本もあるし……それに、桜の木を植えたいし」

「それもそうだね」

 

 決着はまたの機会に。

 その日は、ネプテューヌもブランも、友としての集まりを楽しんだ。

 

 

 





「あのさネプギア、わたしがいつかブランかノワールかベールと戦って時、相手のことを恨まないで欲しいんだよね」
「え? どうしたのいきなり?」


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最期の刻はあなたと ( ノワール ネプテューヌ )


 キャラクターの死亡描写があるので嫌な人は我慢して読んでください。



 

 

 その日は少し肌寒く、天気も良いとは言い難った。

 ラステイション教会、女神の居住スペースにて、ラステイションの守護女神ユニと守護女神を引退した姉のノワールが、向かい合い食卓を共にしていた。珍しくその日の朝食はノワールが作ったものだった。

 

「やっぱり、食堂の人が作ったモーニングの方が美味しいわね」

「そんなことないわよ。お姉ちゃんの料理、アタシは好き」

「そりゃ、私とユニの口に合うように作ってるもの。特にあなたにね」

 

 ノワールに自分の好みを把握されていたこと、更にそれをノワールが当然のように口に出したことに対し、ユニは気恥ずかしさを覚える。

 お互い素直になれなかった女神の姉と候補生の妹だった時から、特にノワール側からの接し方は大きく変わった。守護女神の座を引退し、守護女神として、そして姉としての威厳という意識から解放されたノワールは、素直にユニへの愛情を口に出すようになった。

 

「ねぇユニ」

「なに?」

「今夜は、あなたのカレーが食べたいわ」

「カレー? 別に良いけど……」

「言ってなかったけど、私の一番好きな食べ物って、あなたの作ったカレーなの」

「最後に……食べたいほど?」

「最後に食べたいほど」

「そう……」

 

 ノワールの言葉を聞き、ユニの目から涙が溢れる。

 

「ちょ、ユニ! どうして泣くのよ!」

「だってぇ……お姉ちゃん……うぅ……」

 

 泣きだしたユニを抱きしめ、頭を撫でるノワール。

 

「お姉ちゃん……明日、行かないで」

 

 数分経ち、泣き止んだユニが言った。

 

「ネプギアだって、ネプテューヌさんに同じこと言ってるはずよ……」

「……言ってるでしょうね」

「そんなに大事なことなの?」

「私にとっては、命より大事なことよ」

 

 ユニは、ノワールに対して何も言えなかった。

 ノワールとユニは姉妹だが、初めから女神として生を受けたノワールと、候補生として生を受けたユニとでは、経験の違いから価値観も少し異なる。未熟さがあったとしても女神として敗北が許されなかったノワールと、未熟な候補生だからこそ敗北を重ねながらも強くなり守護女神の座を継いだユニとでは。

 そんなユニにとって、ノワールの"やりたいこと"は理解し難いものであったが、だからこそ、理解できないから否定するのではなく、やりたいようにさせてあげたいと思っていた。

 しかし、ノワールと言葉を交わせば交わすほど、その決意が揺らいでいく。

 

「私って、不器用な姉だったわ。本当に」

「ほんとにね」

「そこは否定するところじゃないの?」

「だって本当のことだもん。不器用過ぎよ。あの頃のアタシ本当に可哀想だったわ」

「う……ごめん」

 

 ノワールへの積年の不満をやんわりと解き放つユニ。

 その表情は、言葉の内容と裏腹に穏やかなものだった。

 

「私があなたを素直に褒めてあげられなかったのはね、恥ずかしかったっていうのもあるけど、私が褒めてあげたら、あなたは満足して成長が止まってしまうんじゃないかと思っていたのもあるのよ。バカみたいよね? あなたがそんな程度なわけないのに」

「ほんとにバカよ。今だってそう。アタシのカレーがそんなに好きならもっと前から言ってくれればいいじゃない。いくらでも作ってあげたわよ」

「それは……なんというか、私が妹をこき使って作らせたみたいで嫌だったのよ」

「今夜はこき使って作らせようとしてるのに?」

「それとこれは別」

「もっとこき使って欲しかった」

「その頃の私はプライドの塊だから無理ね」

「も〜開き直っちゃって……」

 

 お互いに何も遠慮することなく言い合う。その様子は、かつてのノワールもユニも夢見ていた姉妹の姿の一つだった。

 その何気ないやり取りの中、ユニは再び決意を固めていく。

 

「お姉ちゃん」

「ん、なぁに?」

「どうせやるんならさ、思いっきりやりなさいよ。それこそ、何もかも残らないぐらい思いっきり」

「言われなくてもそのつもりよ。だって……」

 

 ノワールは言葉の最中、お姉ちゃんとしての柔らかい笑顔から、女神としてのキリッとした表情に変わる。

 

「ネプテューヌとの決着は、私の悲願でもあるから」

 

 ノワールの"やりたいこと"とは、ネプテューヌと戦うことだった。そして、その日は翌日に控えていた。

 試合のような形式的なものではなく、お互いの全力……すらも通り越し、死力を尽くした戦い。守護女神の座を退いた今のノワールとネプテューヌが本気で戦えばそうならざるを得ないのだ。

 

「悲願……」

「今だから素直に言えるけど、私たち仲良かったじゃない? ネプテューヌのことも、ブランのことも、ベールのことも大好きだった。国同士も仲が良くなって、本気で戦って優劣をつける必要なんてなくなった。でも、そんな平和な日々を過ごしながらも、心の奥底にあった同格の相手と本気で戦いたいっていう欲求はいつまでも消えなかったわ」

「そう……なんだ」

「そういう気持ちがほとんどないあなたたちのことを否定するつもりなんてもちろんないけどね」

「今思えば……お姉ちゃんたちが守護女神をやってくれていたから、候補生だったアタシたちは何度も本気でぶつかり合えてたのよね。その戦いに国を背負う必要なんてなかったから」

「そうなのかしらね。だから、何も背負わなくなった今、まだ私もネプテューヌも女神化できる間に本気で戦いたいのよ。いつできなくなるかもわからないし」

 

 守護女神の座を退き、次第に供給されるシェアも減ってきたノワールとネプテューヌは、当然現役時代ほどの戦闘力はない。そして、現役を退いた女神は、時が経つにつれてシェアを生命に変える機能が劣化していく。もちろん戦闘力も下がり、女神の象徴であった女神化もできなくなる。更に時が経てば、人間が老いて寿命を迎えるように、ノワールとネプテューヌにも終わりの刻が来るだろう。

 また、シェアを生命に変える機能が劣化しているということは、女神の治癒力やそもそもの身体の強度も低下し、現役の女神なら命に支障はない傷でも死に至ることがある。つまり、今のノワールとネプテューヌが本気で戦えば、敗北した方がそのまま絶命する可能性が非常に高いのだ。それこそが、ユニがノワールの"やりたいこと"をさせたくない理由であった。

 

「まぁでも、まだ絶対死ぬと決まったわけじゃないし。勝って何食わぬ顔で帰ってくるかも」

「それはそれでネプギアが可哀想」

「ネプテューヌは可哀想じゃないのね……」

「お姉ちゃんもネプテューヌさんも、お互いに負けて死んじゃうなら悔いはないんでしょ? だったら。可哀想なんて思ったら失礼じゃない」

「それもそうね」

 

 おそらくは、プラネテューヌ教会の方でも、死を覚悟した戦いに挑もうとするネプテューヌをネプギアが引き止めたのだろう。そして同じように、最終的にネプテューヌの望みを受け入れたネプギアが覚悟を決め、ネプテューヌを送り出す決意をした、と思われる。

 

「ネプテューヌだけじゃなくて、ブランやベールとも決着を付けたかったんだけどね」

 

 その日は特別なことはなかった。共に過ごすのが最後になるかもしれない日だからこそ、ノワールとユニは普段と変わりなく過ごした。そして夕食はノワールの待望だったユニのカレーを食べたのだった。

 

「さて」

 

 翌朝、ユニは、決戦の場へ向かう準備をするノワールと最後になるかもしれない時間を過ごす。

 ユニはノワールに何を言えばいいかわからず、何気ない会話しかしていなかった。

 

「ユニ」

 

 そんな時、ノワールがユニの目をじっと見つめて言う。

 

「あなたは、私の生涯の誇りよ。今までも、そしてこれかもずっと」

「お姉……ちゃん……」

「大好きよ、ユニ。ワガママなお姉ちゃんを許して」

「謝んなくていいわよ。そんな後ろ向きな気持ちじゃネプテューヌさんに負けるわよ?」

「言うじゃない」

 

 ノワールの言葉を聞き、ついさっきまで何を言えばいいかわからなかったユニだったが、伝えたい言葉が次々と頭に浮かんできていた。

 

「アタシね、どんなお姉ちゃんも好きだけど、やっぱり一番好きなお姉ちゃんは、カッコいいお姉ちゃんよ。お姉ちゃんが女神辞めて、お互い意地張るのやめて、素直に言い合えるようになったのは嬉しかったし毎日楽しかったけど、お互いに意地張り合ってた昔もそれはそれで嫌いじゃなかったわ。その頃のお姉ちゃんが一番強くてカッコよかったから。そう思ったら、これ以上弱くなる前にネプテューヌさんと決着付けたいお姉ちゃんの気持ちが少し分かった気がしてさ」

 

 ユニはようやく、理解し難かったノワールたちの思いを、なんとなく分かってきた。そして分かってしまえば、自然と悲しさも減っていた。

 最愛の姉を失うのはもちろん悲しいが、最愛の姉が悔いを残しながら衰えていき最後に死ぬのは、自分にとっても心残りとなってしまうだろう、と。

 

「さて、そろそろ約束の時間ね。じゃあ……」

「いってらっしゃい、お姉ちゃん」

「うん、行ってくるわね、ユニ」

 

 ノワールとユニは、熱い抱擁を交わし、その後ユニがノワールの背中を思い切りひっ叩いて送り出した。

 透き通るような青空の下を、ノワールは堂々と歩きながら決戦の地に赴くのだった。

 

 

 

 

 

「まさかあなたの方が先に来るとは思わなかったわ」

 

 決戦の地、プラネテューヌとラステイションの境にある峡谷で待っていたネプテューヌに対し、後からやってきたノワールが言う。

 

「待ちきれなかったからね。本当に楽しみだったんだよ今日は」

「死ぬかもしれないってのに?」

「だからこそだよ」

 

 ネプテューヌは、自分の女神生に悔いはないと思っていたが、満足し切ったわけでもなかった。そんなネプテューヌにとってノワールとの死闘は、女神生を締めくくるに相応しい最高のデザートのようなものだった。

 

「それよりも、あなたよくあの妹を説得できたわね。ある意味私より大変だったと思うけど」

「大変だと思ったからさ、わたしが引退した時からずっと言ってたんだよね。わたしの最期はこうなると思うからその時はよろしく、って。それでも説得するのに十年ぐらいかかったけど」

「十年ね……私たちにとっては長いようで一瞬よね」

「そうだね。じゃあ……やろっか」

 

 語り合いが終わり、両者ともに剣を構える。

 ネプテューヌは軽快なステップでノワールまで距離を詰めていく。そして、数回のステップの直後急激に加速した。

 

「……!」

 

 ネプテューヌは定石や王道と呼ばれている剣裁きから逸脱しためちゃくちゃな動きで戦うが、体重移動や脱力と漲溢の緩急の付け方が非常に上手い。

 しかしノワールはネプテューヌにペースを乱されることなく、ネプテューヌが加速した勢いで繰り出した斬撃を剣で受け止める。

 

「やるね、ノワール」

「あなたこそ」

 

 ノワールは足払いするも、ネプテューヌに跳んで避けられる。

 ネプテューヌの着地の隙を狙ってノワールが前進するも、ネプテューヌが光魔法の小剣(エクスラッシュブレイド)を足元を守るように撃ち出し、それを阻む。

 

「『フォールスラッシュ』!」

 

 しかしノワールは、それを小賢しい守りと言わんばかりに斬撃を飛ばし、光魔法の小剣(エクスラッシュブレイド)ごとネプテューヌを吹き飛ばした。

 

「ねぷっ! とぉっ!」

 

 ネプテューヌはあえて大袈裟に吹っ飛ぶことで距離を稼ぐ。

 

(今のわたしじゃ飛び道具系の技の威力は出せない……)

 

 自分で武器を扱って出す技ならともかく、今のネプテューヌもノワールもシェアエネルギーの塊のみで攻撃する技は、衰えたことにより現役時と比べると大幅に威力が落ちている。

 だから、ノワールは距離を取られても急いで詰めてくることはしなかった。

 

(ノワールはきっとそう考えてる!)

 

 その考えを逆手に取ったネプテューヌは、右腕を天に掲げた。

 

「【普賢の羽】【紫獄の塔】……」

 

 そして、ぶつぶつと何かの言葉を綴る。

 

「何……?」

 

 その発言の意味をノワールが気付くのに、数秒の時を有した。

 

「【輻輳】【相剋】【堕罪の剣】……」

 

 ネプテューヌが今行っているのは、スキルの完全詠唱。魔術に限らず、女神が使う攻撃用のスキルの一部には詠唱が存在し、完全な詠唱を経て繰り出されたスキルはその威力が底上げされる。

 

(いや……これは詠唱⁉︎)

 

「『32式エクスブレイド』!」

 

 スキルの完全詠唱により、衰えた身ながらも全盛期と遜色ない威力で放たれる『32式エクスブレイド』が、峡谷の崖を抉りながらノワールに迫る。

 

「『トルネードソード』ッ!」

 

 ノワールは咄嗟に『トルネードソード』を繰り出すが、『32式エクスブレイド』を弾き飛ばす威力には至らない。

 シェアエネルギーの塊の大剣が炸裂し、大爆発を起こす。

 

「ノワール……」

 

 ネプテューヌが物憂げにノワールの名を呟いた直後、大地が膨れ上がり、割れた地面から爆炎が噴き出す。

 

「ねぷっ⁉︎」

 

 そして、炎を剣に纏わせながら、ノワールから女神化したブラックハートが地面から飛び出した。

 ブラックハートはトルネードソードで地面を抉り掘り、32式エクスブレイドを躱していたのだ。

 飛んだブラックハートは、ネプテューヌ目掛けて落下と同時に攻撃を放つ。

 

「『ヴォルケーノダイブ』ッ!」

 

 ネプテューヌもパープルハートに女神化し、手に握る剣に炎を纏わせ、ブラックハートの攻撃に応戦する。

 

「『ブレイズブレイク』!」

 

 二人の炎を纏った斬撃同士がぶつかり合い、互いの炎が相手のものをかき消していく。

 全盛期と比べれば発するシェアエネルギーの総量や出力も減少し、膂力も機動力も落ちた。しかし、戦いに向ける気迫は、全盛期よりも研ぎ澄まされていた。

 

「行くわよ! 殺してあげるネプテューヌ!」

 

 迸る戦意をあえて乱暴な言葉にして解き放つブラックハート。

 ブラックハートの言葉は然程間違ってはいない。この戦いに決着が付けば、おそらく片方、場合によっては両者とも命を落とすだろう。

 そんな結末を両者ともに望んでいた。女神の身ゆえに見た目が老いることはなくとも、時が経ち衰えて朽ちていくのならば、その前に華々しく戦って散りたいと。

 

「『クロスコンビネーション』!」

「『レイシーズダンス』!」

 

 パープルハートもブラックハートも、互いの最も得意とする剣技を同時に繰り出す。

 互いに迫り来る敵の刃を自身の刃で防いではいるが、防ぎ漏らした攻撃が身体に届き、傷を作る。

 

「ぐ……っ」

 

 ブラックハートの剣がパープルハートの肩口を掠め、パープルハートの剣がブラックハートの脇腹を掠める。

 全盛期の身ならばこの程度のダメージなど気に留めることなどなく、身体に傷が付くこともなかった。

 肉体強度の劣化もあるが、女神が戦闘の際に身を守るために身体の表面に展開している薄皮なようなシェアエネルギーのバリア、これの精度が落ちていることも原因である。

 

「はぁっ!」

 

 斬り合いの中、ブラックハートの繰り出した膝蹴りがパープルハートの脇腹に突き刺さる。

 

「剣に意識が行き過……」

 

 ブラックハートのが言い終わる前に、パープルハートが肘でブラックハートを殴り飛ばす。

 

「意識が……なんですって?」

「この……っ」

 

 ブラックハートの高速の突きがパープルハートの頬を掠める。

 反撃を考慮し、突きの勢いを止めずにそのまま一旦パープルハートから距離を置き、呼吸を整えるブラックハート。

 

「ふー……」

 

 疲弊。厳しい戦いの末に息が上がることはあったが、本来なら意識せずとも回復する小さいダメージが今の身体には蓄積されていた。

 対するパープルハートを見ても、呼吸が乱れている。頬についた赤い線のような切傷からは少量の血が垂れていた。

 

「お互い……本当に衰えてしまったものね」

 

 パープルハートは口惜しそうながらも、穏やかな口調で言う。

 かつて、親愛なる人間の友を看取った。友は、自らの生き様に誇りを持って逝った。その意思を、当時はまだ現役の守護女神だった自分は全てを理解することはできなかった。老いることも死ぬことも受け入れがたいものだったからだ。

 しかし、パープルハートはそれを今になってようやく理解した。

 

(限界は……思っているより早いってことね)

 

 おそらく、この疲弊がこれ以上積もれば、女神化を維持できなくなるだろう。

 全力の勝負をいつまでも続けていたかったが、それを続けられるほどの強さはもう自分たちにはない。

 

「はぁぁあああ……!」

 

 パープルハートは、今の自身が行える最高の一撃を放つ為、自らのシェアエネルギーを限界まで高める。

 当然、ブラックハートはパープルハートのシェアエネルギーの高まりを察知し、この意図を理解する。

 

「受けて立とうじゃない!」

 

 そして、ブラックハートもまた自身のシェアエネルギーを限界まで高める。

 二人の女神の全力に、周囲の空気が震え、大地が揺れる。

 

「『ネプテューン……」

「『インフィニット……」

「……ブレイク』!」

 

 技名と共に、パープルハートは力強い足踏みで地面を蹴り出し、敵に向かって飛びかかる。

 

「……スラッシュ』ッ!」

 

 対するブラックハートは、急速旋回してパープルハートの初撃を避け、側面から斬りつける。

 パープルハートは峡谷の崖面を蹴って切り返し、迫り来るブラックハートの剣に自身の剣を振り抜いて迎撃する。

 剣がぶつかり合う衝撃で互いの剣を逸れると、加速しながら距離を離し、パープルハートは縦横無尽に峡谷の崖面を足場代わりに蹴り付けて飛び回りながら剣を振り、ブラックハートは敵を中心とした八の字の軌道で飛び回りながら剣を振る。

 

「あははははっ!」

 

 剣を交える中で傷が増えながらも、ブラックハートは言いようのない高揚感に包まれ、笑い声をあげる。

 

「ふふっ……!」

 

 パープルハートは声をあげて笑うことはないが、その表情は歓喜に包まれていた。

 斬り合う中で、どちらの必殺技も最後の一撃に差し掛かる。

 

「これでっ!」

「食らいなさい!」

 

 最後の一撃にふんだんに込めたシェアエネルギーが互い同士に誘爆し合い、大爆発を起こした。

 

「くぅうう……っ!」

「きゃああっ!」

 

 パープルハートもブラックハートもその衝撃で吹き飛ばされ、峡谷の崖面に激突し、地面に転がり落ちて変身が解除された。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 頭から地面に落ちて意識を失ったネプテューヌに対し、背中から地面に落ちたので辛うじて意識を保っていたノワールは、剣を引きずりながらよろよろと歩いてネプテューヌの元に近づいていく。

 

「これで……私の勝ちよ……!」

 

 そして、ネプテューヌ目掛けて剣を振り下ろす。

 

「ねぷっ!」

 

 その直前、意識を取り戻したネプテューヌが身体を捻って横にゴロゴロと転がり、ノワールの剣を回避した。

 身体へのダメージの影響で振り下ろした勢いを支えられず体勢を崩したノワールに対し、ネプテューヌは立ち上がって剣を振ろうとするも、握る力が弱まっていたせいで剣は手からすっぽ抜け、ノワール目掛けて飛んでいく。

 

「あっ……」

 

 ノワールは屈んで避けようとしたが、身体の動きが間に合わず、ネプテューヌの剣が自身の剣に直撃し、その衝撃で剣が手から離れて落ちた。

 

「この……!」

「たぁっ!」

 

 ノワールが剣を拾おうとネプテューヌから目を離した瞬間、ネプテューヌはノワールに飛びかかり、馬乗りになる。

 

「の……わぁあるぅううっ!」

 

 そして、ノワールの顔面目掛けて拳を叩き込んだ。

 

「ぎゃぅっ!」

「あああっ!」

 

 ノワールは上に乗るネプテューヌを押し退ける力は残っていない。

 しかし、数回の打撃を受けながらも、なんとか手を動かし、地面の砂を手に掴み、ネプテューヌの目に向かって投げつける。

 

「ふぎゃっ……」

 

 ノワールは、ネプテューヌが怯んで手が止まった隙に、ネプテューヌの顔面に頭突く。

 

「うぐっ!」

 

 そして尻餅を付いて倒れたネプテューヌの腹部に飛び蹴りを踏み込んだ。

 

「んぐぇ……っ」

 

 ネプテューヌは血を吐きながらも、マウントポジションを取らせないようにノワールの足を掴んで引っ張り、体勢を崩す。

 異様な光景だった。女神がするとは思えない醜い暴力のぶつけ合い。おそらくこの場に観客がいれば、全員が言葉を失い目を背けるだろう。

 ネプテューヌもノワールも、戦闘に使えるシェアエネルギーが残っていない。だからこその先程の暴力の応酬だった。

 疲労とダメージで朦朧とする意識の中で、相手を倒すという意志だけが二人を動かしていた。試合終了の合図など存在しない。そうなれば、どちらかが動かなくなるまで戦い続けるしかないのだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 戦闘に使えるシェアエネルギーが残っていない、しかしノワールはネプテューヌに悟られぬよう掌にシェアエネルギーではなく魔力を溜めていく。

 普段ならばそのような小細工に即気づくことができたネプテューヌだったが、今の消耗し切った身体と意識ではノワールの策を見抜くことができなかった。

 

「『ドルチェ・ヴィータ』」

 

 そして、技名と共に指先から撃ち出された魔法弾が、ネプテューヌの腹部を貫き風穴を空けた。ノワールは、妹のユニが得意としている技を、ユニほど威力は出せないにせよちゃっかり習得していた。

 

「かは……っ」

 

 体力の限界に加え腹部を貫かれたダメージで崩れていくネプテューヌを見て、ノワールは勝利を確信した。

 

「私の勝ちよ……ネプテュ」

 

 言葉の途中で、ネプテューヌから放たれたシェアエネルギーの斬撃により、ノワール身体が上半身と下半身に両断された。

 

「え……?」

 

 どさり、とネプテューヌとノワールの身体が地面に倒れる。

 

「ね……ぷ……ぅ……」

 

 ネプテューヌは右腕が無くなっていた。戦闘用のシェアエネルギーが尽きたネプテューヌは、自身の肉体というシェアエネルギーの塊を力として武器に換えることで、右腕を媒体に斬撃を繰り出したのだ。

 

「……」

「……」

 

 既にネプテューヌもノワールも絶命していた。

 互いに亡骸は凄惨なものだが、悲壮感は無かった。

 それが、一時代を築いた二人の女神の生き様だった。

 

 

 

 

「つまり、ノワールの方が先に死んだからわたしの勝ちだよね?」

「え? 先に死んだのはあなたでしょ? だから私の勝ちよ」

「そうかなぁ? だって先に目を閉じてたのノワールじゃん」

「目を閉じてても意識はあったの。だから先に死んだのはあなたよ」

「い〜や、絶対わたしの勝ちだも〜ん!」

「勝ったのは私よ!」

「…………ぷっ」

「あははっ」

「楽しかったね」

「そうね。楽しかったわ。この戦いも、私たちの生涯も」

 

 

 

 

 



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進化ではなく個性? ( アイエフ コンパ )


 人によっては解釈違いな内容のため、苦手な人は我慢して読んでください。



 

「あいちゃんって、今何歳なの?」

 

 ある日、ネプテューヌが言った。

 

「あんまり歳とか言いたくないんだけど」

「いや、失礼な質問したとは思うけどさ、わたしは女神だから数十年数百年経っても見た目が変わらないんだけど……あいちゃんはそうじゃないじゃん? でもさ……」

 

 アイエフとコンパとはネプテューヌと出会い、犯罪組織、タリの女神の件、猛争事変、その他諸々の事件を経て、もう数十年の付き合いとなる。

 

「わたしたち初めて会ってからもう五十年以上経ってるよね? あいちゃんもコンパも、ほんの少し顔つきが大人びたかなぁ……ぐらいで全然見た目変わらないんだけど」

 

 アイエフもコンパも、キャラデザの微調整かってぐらいしか容姿が変わらず、年老いた様子が全くない。容姿だけでなく、身体能力が衰えているわけでもない。それどころか、長き時に渡り女神と共に最前線で戦い続けたことで、並の人間を寄せ付けない強さとなっている。

 

「大人しく老いぼれてろってこと?」

「そんな言い方はしてないよ〜!」

「けどまぁ不思議よね。わたしは両親なんていないからアレだけど、コンパはこの間両親亡くなったし。本人は老けてないのに」

「あいちゃんとコンパってもしかして女神……?」

「そんなはずないわよ。変身できないし、そもそも身体の構造が普通に人間だもの」

 

 アイエフとコンパが人間であることは変えようのない事実である。傷がシェアによって治ることなく、シェアエネルギーを用いて戦うこともできない。紛れもなく人間なのだ。健康診断も毎年受けているため、医学的にも人間であることは証明されている。

 

「まぁわたしはいいんだけどさ。あいちゃんが寂しい思いしてないかな、って」

「私は別に。コンパは心配だけど。あんまり気にしたことなかったけど、言われてみれば気になってきたわね」

「いーすんに聞いてみれば? あいちゃんの身体がどうなってるのか」

「どっか悪いみたいでなんか嫌ねその言い方。まぁでも、聞きにいくのはアリね」

 

 その後アイエフは、ゲイムギョウ界の步く辞典ことイストワールに話を聞くことにした。

 

「ふむ。ご自身でお気づきだと思っていましたが、せっかく聞きにきてくださったので、それにちなんだ大昔の話からしましょう」

 

 イストワールの執務室……執務室とは呼ぶには幻想的なまるでプラネタリウムのような部屋に、アイエフを訪れていた。

 

「私が生まれるよりも遥かに昔、この世界がゲイムギョウ界と呼ばれる前の世界では、一般的に人間の平均寿命は七十から八十年ぐらいでした。今でも常人の平均寿命は同じですが、例外が生まれる大きな理由となったことがやはり……」

「守護女神の誕生、ですか?」

「はい。女神という存在がゲイムギョウ界に誕生し、信仰……シェアエネルギーという概念が生まれ、それに呼応されるようにそれまでの世界では迷信程度のものであった魔力が活性化し、世界の性質が大幅に変わったのです」

 

 言いながらイストワールが指を鳴らすと、一瞬部屋の明かりが消え、部屋の壁一面に映像が流れ出す。

 映し出されたものは、これまでイストワールが記録してきたゲイムギョウ界の歴史であった。

 

「信仰によるシェアエネルギーの循環、それは少なからず人体に影響を及ぼすものです。長き時の中で生物が外的要因により進化するように、女神やシェア、魔力に充てられた人間が変革することもあります」

「それが……私やコンパですか?」

「そうなりますね。他の要因もあるでしょうが」

「他の……?」

「あなたやコンパさんが、女神様(ネプテューヌさん)の友であろうとするからでしょう。信仰の対象であること以上に」

 

 二人が話す背景で流れる歴史の映像も終盤に差し掛かり、ここ数十年のものとなる。犯罪組織との戦い、タリの女神の件、猛争事変、イストワールが映像として記録していた中に、アイエフとコンパがネプテューヌたち守護女神と共に戦っている場面もあった。

 

「シェアエネルギーとは心から生まれるもの。人の心のエネルギーなのです。それは女神様だけでなく、人間にも作用します。あなたがネプテューヌさんの友人でい続けたいという思いが力となり、あなたの老いを否定しているのかもしれませんね」

「そんなことあるんですか……?」

「さぁ?」

 

 イストワールは、彼女には珍しく肯定でも否定でもない曖昧な返事をした。

 その時、ちょうど歴史の映像は終わり、部屋の壁面が元に戻る。

 

「ゲイムギョウ界の歴史は変革の歴史。世の理が一定だった時期の方が珍しいものです。女神様ほどではないにせよ長寿の人間が増えるか、それとも人類の異端として普遍化することなく歴史の中に消えていくか、それを知る者は今の世界にはいないでしょうね」

「わからない、というのを回りくどく言っているだけですよね?」

「ふふ」

 

 誤魔化されたような気がするが、口の巧さでは敵うはずないイストワール相手に、アイエフは何も言い返すことはなかった。

 

「たまには長話に付き合って欲しかったのです。ネプテューヌさんはあまり付き合ってくれないので」

 

 その後、イストワールと世間話を少しして、アイエフは部屋を後にした。

 

「心の持ちよう、か」

 

 数日後アイエフは、コンパと休日が被ったので、ランチに誘うことにした。

 アイエフはコンパに、常人より遥かに遅い老いについてどう考えているかを聞いてみたかったのだ。

 

「コンパはさ、何か思うことはある?」

「私自身はあまりないですね。けど、よく患者さんに聞かれますよ。若さの秘訣は? みたいなのは」

「なんて答えてるの?」

「友だちが偶然老けない子だったから自分も老けないように心掛けて生きてます、って」

「ぷっ……なによそれ」

 

 あまりにも軽いコンパの言い様に、アイエフは失笑した。

 

「だって、ねぷねぷは女神だから歳をとらないじゃないですか。そして、あいちゃんも何故か歳をとらないときたら、私だけ歳はとりたくないって思うのも当たり前じゃないですか」

「いや、まぁそういうもんだけどさ」

「だけど?」

「その……私たちは女神という存在に適合した新人類なのかな、って」

「……ぶふっ」

 

 今度は、アイエフの言葉に対してコンパが失笑する。

 

「なんですかその『新人類』って、ふふっ」

「だって! そう思うじゃん! ネプ子に影響を受けて長生きしてるし老けないから!」

「それで、どうせその『新人類』として自分はどう生きるべきか、みたいなのを悩んでたんですよねあいちゃんは」

「んぐっ」

 

 アイエフはコンパに図星を突かれ、言葉が詰まる。

 

「真面目さんなのはいいことですけど、もっと気楽に生きてみてもいいと思いますよ。長生きなのも老けないのも自分の個性って程度に受け止めて、ですね」

「そっか……それでいいかもね」

 

 もしかすると、イストワールの曖昧な言い方も、自分に気にしないように言っていたのかもしれない、とアイエフは考えたが、その答えを知ろうとするのは無粋だと自分に言い聞かせ、それ以上何も考えないことにした。

 

「それで、老けない理由ってなんか分かったのー? あいちゃーん?」

「私が冥界住人だからよ。冥界に住まう者は、この世の老いという理には囚われないの」

「あ、そういう感じでいくことにしたんだ」

 

 

 



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妹たちのためだったのに…… ( ユニ ネプテューヌ )

 

 ある日のラステイション教会で。

 

「う〜ん……」

 

 プラネテューヌから届いたある一枚の書類を手に、頭を悩ませるノワール。

 

「どうしたのお姉ちゃん?」

「珍しくネプテューヌから仕事関係の提案があったのよ、珍しく」

「それは珍しいわね」

「ほんと珍しいわ。明日のプラネテューヌの天気が心配ね」

 

 ネプテューヌという女神への印象は、ラステイション姉妹の間で共通していた。

 

「それで、内容は?」

「しばらくお互いの妹を交換するのはどうか、って。交換留学みたいなものね。向こうからはネプギアが来てこっちからはユニが行くって感じの」

「アタシがプラネテューヌに……?」

「ネプテューヌ、自分のことは適当なくせに、ネプギアのことになると割と考えてるのよね。あの子頭が硬いところがあるから見聞を広げてほしい、って言ってたわ」

「なるほどねぇ……じゃあプラネテューヌ行ってくるわね」

 

 ────という軽いノリで、交換留学もとい研修が始まった。

 それにあたって、ユニには心配ごとが一つあった。ネプテューヌという守護女神が仕事をしないことは周知の事実であり、他国の候補生の自分ですら知っている。

 

「ちょっと待ってくださいネプテューヌさん」

 

 そんな状態でプラネテューヌに自分が出向いたらプラネテューヌの女神の仕事のほとんどを自分がやる羽目になるのでないか、と。

 そして、それは心配ごとでありながら意気込みでもあった。ユニの書類仕事の処理速度は、滅多に褒めない姉ことノワールが素直に褒めるレベルであり、ユニ自身も自信を持っている。ユニは自分の実力がどれだけプラネテューヌで通用するか意気込んでいたのだ。

 

「ん、どうしたのー?」

「なんで普通に仕事してるんですか?」

 

 研修初日、何事もなく机に座り仕事を始めたネプテューヌに対し、ユニが言った。

 

「……ねぷぅ⁉︎」

 

 ネプテューヌはその衝撃の一言に、声を上げて驚愕した。

 ユニにとっては、自分の意気込みが早速打ち砕かれたわけだが、ネプテューヌにそれを知る由があるはずもない。

 

「いつもネプテューヌさんってお仕事してないじゃないですか」

「う……いや……そ、そんなこと……ない……よ?」

「普通に仕事してたら『いつも通り』じゃないですよね? アタシはプラネテューヌを知るためにここに来てるんです。ネプテューヌさんがいつもと違ったら、それって研修にならないと思うんですよ」

「ねぷぅ……言い返したいけど言い返せない……」

 

 ユニはスタスタと歩きながらネプテューヌの机の前に立ち、手を伸ばす。

 

「というわけで、そのお仕事はアタシがやります」

「いや、流石によその妹に仕事押し付けるのはなぁ……」

「じゃあネプギアにならいいんですか?」

「その言い方は卑怯だよぉ〜」

 

 ネプテューヌは渋々とユニに書類を渡した。

 その後ユニは、ネプテューヌにプラネテューヌでの仕様を聞きながら、書類を処理していく。

 

「う〜ん……」

「どうしたんですかネプテューヌさん? 変なものを食べてお腹を痛めたみたいな声を出して」

「ユニちゃんの中のわたしってそんなイメージなの? じゃなくて、色々と遅かったかなぁ、って」

「何がですか?」

「ネプギアもユニちゃんも、今更わたしとノワールから何か言うことあんまないんだよね。もうちょっと昔にこの企画やればよかったかなぁ」

 

 ユニもネプギアも、従来の女神候補生に求められるレベルを大幅に超えている。実力も精神性も。

 ネプテューヌは、妹のネプギアと後輩のユニに、今回の研修を通じて新しい気づきを得て欲しいと思っていたが、今更そんなものは必要でないと思えるぐらいに二人が成長していることがわかった。

 

「昔さ、わたしユニちゃんのこと危なっかしい子だと思ってたんだよね」

「アタシを?」

「狂犬だったじゃん」

「……否定はできないです、はい」

 

 過去の自分に思うところがあるのか、ユニは気まずそうに頷く。

 そのあどけないユニの反応に、ネプテューヌは微笑んだ。

 

「今回の件さ、ネプギアの為っていうのもあるけど、あの頃からユニちゃんがどんくらい変わったのかわたしが気になったからっていうのもあるんだ」

「アタシを……?」

「ユニちゃん。強くなったね」

 

 ネプテューヌは、普段のおちゃらけた態度ではなく、パープルハートを彷彿とさせるような慈愛に満ちた表情で言った。

 

「ノワールのことだからどうせユニちゃんのことあんまり褒めてあげてないんだろうし、わたしがたくさん褒めてあげる」

 

 ネプテューヌは、ニコニコ笑いながらユニの頭を撫でる。

 いつものようなおふさげモードではないネプテューヌの優しさに触れ、ユニは照れてしまい顔を赤くしていく。

 

「ぇ……ぁ……ぅ……し、仕事中ですっ!」

「あはは、可愛いなぁ」

「からかわないでくださいっ!」

「ごめんごめん」

 

 ネプギアとは違った可愛さを持つユニと接するのが楽しくなったネプテューヌは、時々ちょっかいをかけつつユニの仕事ぶりを見届けたのだった。

 

「うわ、ほんとに二段ベットなんですね」

 

 その日の夜、ユニはプラネテューヌのいつも通りを実践する為、ネプテューヌと同じ部屋で寝ることにした。

 

「ユニちゃんはノワールと部屋分かれてるんだっけ?」

「そうですね。お姉ちゃんはアタシたちに隠し通せてると思ってる趣味がありますし、アタシも部屋中にパーツ広げて銃のメンテとかするんで、部屋分かれてる方が都合がいいんですよ」

「バレバレなんだから隠さなくていいのにね」

「いや、今の感じでいいんです。下手に刺激したら、アタシまで巻き込まれかねませんから」

「ノワールのことよくわかってんじゃん」

「そりゃわかりますよ。妹ですもん」

 

(そのくせノワールがユニちゃんに甘々でデレデレなのに気づいてないんだよねぇ……まぁこれはノワールにも原因があるからユニちゃんだけのせいじゃないんだけど)

 

「明日は何するんですか?」

「どうしよう? 仕事もユニちゃんがあらかた片付けちゃったし、ひたすらユニちゃんを可愛がろうかな」

「やめてくださいよ恥ずかしい」

「そういう反応が新鮮でいいんだよね」

「逆効果かぁ……」

 

 ネプテューヌにとって、今回の企画は既に研修ではなくお泊まり会のようなものになっていた。このいじらしい後輩と、もっと親睦を深めたいと思っていた。

 

「あの……」

「どうしたのー?」

「二段ベッドなのにどうしてアタシの隣で寝るんですか?」

「んー?」

「んー、じゃないです」

「んー」

「ちょ、離してくださいよっ」

「すやぁ……」

「寝ないでくださいっ! もう……」

 

 ユニは飽きれながらも、自分の隣で眠るネプテューヌに寄り添いながら眠りについた。たまにはこの自由奔放な先輩に振り回されるのも悪くないと思っていた。

 また、その頃。

 

「ノワールさ〜ん」

「はいはい、もう寝るわよ」

「は〜い……あの、もっとそっちに行ってもいいですか?」

「……好きになさい」

「えへへ」

 

(くぅ……素直に甘えてくる妹も……良い……っ!)

 

 妹のためのはずの企画だったが、結果として妹より姉の方が得をした期間なのだった。

 

 

 



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堕天 ( 暗黒星くろめ クロワール )


 ネプテューヌVⅡバッドエンド後の話です。



 

 

 全ての女神は倒され消滅し、社会と呼べるものは崩壊し、かつて街だった廃墟と瓦礫の広がる地では、死に絶えた人々の亡骸をモンスターたちが踏み潰しながら闊歩していた。

 

「どうだ?」

 

 そんな滅亡したゲイムギョウ界の大地を、かつてプラネタワーと呼ばれた廃墟の上で見下ろす天王星うずめとかつてクロワールの二人。

 

「復讐を完遂した気分っていうのは?」

「何もないさ」

 

 かつては世界を護るシステムだった彼女らの手によって、この世界は滅びたのだった。

 

「何も……ってよ、せっかく望みが叶ったんだ、もっと楽しそうにすればいいのに」

「マイナスがゼロになっただけだ。何も楽しくはない」

「自分を裏切った奴らを永遠に苦しめるとか言ってなかったか? あれどうしたんだよ?」

「飽きたよ。最初は面白かったんだけどね。何度か繰り返すと面倒さの方が勝るんだよ。何より煩いし」

 

 逃げ惑う人々の悲鳴は、最初は聴き心地の良い音楽のようであった。しかしそれは『希望』というものがあったかららしい。人々に女神の死が知れ渡ると、その希望が失われ人々は絶望し、生き残るために足掻くことをやめ、聴き心地の良かった音楽は、聴くに耐えない雑音へと変わっていった、そんな気がした。

 

「だからまぁ……やりたいことを残しておいたわけだけど」

 

 二人の後ろに、意識を失った大きい方のネプテューヌが転がっていた。身体の一部に怪我は残っているが、命に別状はない。

 

「そういや、今更ネプテューヌを生かしとく理由でもあるのかよ?」

「今更だからさ。例のノートに閉じ込められていた君は解放されたし、逃げることも戦うこともできなくなったただの人間な彼女に、もうオレたちを止める手段も力もない」

 

 暗黒星くろめと呼ばれていた『天王星うずめ』は、ネプテューヌを抱き上げる。

 

「気にならないか? この女がこれからどう生きようとするのかを」

「ならねーな。生きていても死んでいてもどうでもいい」

「なら、生きていてもいいんだろう?」

「いや、やっぱ死んでた方がいい気がするな。身体を取り戻したことで、心を取り戻しつつあるお前が、ソイツに謎の執着を見せるようになってるとこを見ると」

 

 クロワールは、うずめがネプテューヌに何かの感情を持っていること、うずめ自身も気づいていないそれを、見抜いていた。

 

「オレがまともじゃないと?」

「逆だよ。まともじゃないお前が、ソイツの影響でまともに戻られても困る」

「へぇ、意外と高く評価しているんだね、彼女を」

 

 女神を全て殺し、その仲間たちをも全て殺したうずめが、ネプテューヌの命は奪わなかったその理由を、クロワールはなんとなく察していた。

 

「まぁ、君の察していることを当たっているよ。身体を取り戻し、負の感情以外の感情も持てるようになったオレは、意外にもこのネプテューヌのことを気に入っていたことを自覚してね」

「ほれみろ」

「けど、君の危惧してるようなことにはならないよ。オレはね、逆にこの女をオレたちと同じように染めてやりたいんだ」

 

 腕の中で眠るネプテューヌの頭を優しく撫でながら、うずめは話を続ける。

 

「この女の善性を消し去り、オレたちと同じような悪意の塊に堕としてやりたいのさ」

「コイツを……? できるかよ」

「とっても難しいだろうね。けど、難易度は高い方が飽きなくて良いと思わないかい?」

「知らね。勝手にしろよ。殺しといた方が良かった、みたいなことにならなけりゃいいけどな」

 

 クロワールは呆れたようなため息を吐きながら言った。ネプテューヌの心を闇に堕とす、おそらくうずめはそんなことをできるとは思っていない。むしろ、できないことだと分かっているからこそ、これからいつまでも続く余暇の余興のための目的にしたことを、クロワールには分かっていたからだ。

 

「さて、こんな次元にもう用はないし、次は君の望みを何回か叶えてあげようか」

「望みって?」

「君の力で渡った先の次元が、オレの手で滅びるところを見せてあげるよ。この身体の礼として、ね」

「ははっ、そりゃいいな」

「きっと目が覚めたら、ネプテューヌはオレたちを止めようとするだろう。だからオレは、そんなネプテューヌの頑張りを全部台無しにしてあげるんだ。彼女が善意で行ったこと全てをオレの悪意で踏み潰す。何度も何度も、ね」

 

 うずめは、指先にありったけのエネルギーを込めた球体を作り出し、地面に放る。

 しばらく地面を抉り掘り進んだエネルギー球は地中で弾け、次元そのものを崩壊させていく。

 大地が破れ、空が裂け、曖昧になった次元の壁が砕け、その穴が世界そのものを吸い込んでいく。

 

「おぉ、派手な終わりようだな。こんな過激なのは久々に見たぜ」

「それは良かった。でも、そろそろ離脱しないとオレたちも巻き込まれるよ」

「わかってるって、じゃあ行こうぜ」

「あぁ、行こう」

 

 うずめとクロワールが次元を去った少し後に、完全に超次元ゲイムギョウ界は崩壊し、残骸は次元の狭間に呑まれて消えた。

 こうして、復讐を完遂した暗黒の女神と、世界の滅亡を見届けたかつて史書であった者の新たな旅が始まった。

 

「うずめうずめ! 次はあのムシを捕まえよう! ほらほらこっち!」

「わかった、わかったから手を引っ張るな……! くそっ、いつになったら折れるんだコイツ……」

「あーあ、うずめのやつすっかり牙を抜かれやがった。だから言ったのによ」

 

 そして旅が続く中、うずめの新たな目標は、未だに全く達成の目処が立たないのであった。

 

 

 

 



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ユニを抱いて寝よう ( ノワール ユニ )

 

 

「待ってノワール! 剣を下ろして!」

 

 ブラックハートはネプテューヌの首元に剣を添え、怒りと憎しみを込めた表情で口を開いた。

 

「『ユニと寝た』ですって? 人の愛する妹に手を出した報い、地獄かギョウカイ墓場で償いなさい!」

「違うんだよ! そういう意味じゃないんだって!」

「じゃあどういう意味よ!」

「一緒にお昼寝しただけだよ〜!」

「……」

「……」

 

 数秒の気まずい雰囲気の後、ブラックハートが剣を降ろし、女神化を解く。

 

「……紛らわしい言い方しないでくれるかしら?」

「最初からしてないって。CEROがZになっちゃうじゃん。でも言葉が足りなかったね。詳しく話すと、アレは三日前のこと──」

 

 

『こんにちは。あれ? ネプギアいないんですか?』

『あ、ユニちゃんいらっしゃい。でもネプギア出かけちゃったんだよね。アレコレ詮索されるのも嫌だろうから何処に何しに行ったとか何も聞いてないし……いつ帰って来るか分からないかなぁ……』

『そうなんですか。まぁ、アタシもどうせいると思って何も連絡なしに来ましたし、後日また来ますね』

『うぃーん。がしっ』

『え、ちょっとなんでアタシの腕掴むんですか? ていうかなんですかその効果音?』

『お昼寝タイムだよ! 今日の相方はユニちゃん!』

『いや相方とか知りませんから。別にアタシ眠くな……ちょ、やめてくださ……うわ力強っ…………すやぁ』

 

 

「──ていう感じで、わたしは唐突に現れたユニちゃんを巻き込んでお昼寝してたわけなんだけど」

「人の妹を抱き枕代わりにしないでくれるかしら? それに、あの子と昼寝したことをどうしてわざわざ私に報告しにくるわけ?」

 

 ノワールは、自分の妹と自分よりも仲良くされることが気に入らない、という思いが露骨に表面化し、嫌味ったらしい言い方で聞いた。

 

「ユニちゃんって抱き心地が良くてやけにいい匂いがするから気持ちよく眠れるんだ! ノワールも抱いて寝てみなよ!」

 

 そんなノワールの心中を知ることのないネプテューヌは、100%の善意でノワールに言った。

 

「ネプギアとは違う良さなんだよね。これは『ユニちゃんセラピー』として周知されるべきだよ」

「周知されなくていいわよ」

「そして昼寝から起きたらやけに調子良くて、その後積んでいたゲームを休みなしで何個もクリア出来ちゃってさ」

「調子が良かったなら仕事しなさいよ」

「というわけで、まずはノワールに知らせるべきだと思ってね。ほら、ノワールって一応ユニちゃんのお姉ちゃんじゃん?」

「一応って何よ普通に姉よ」

 

 その後、ネプテューヌはラステイション教会の来客用の菓子を食い荒らしてから帰っていった。

 そしてその日の夜、ノワールは寝る直前にネプテューヌとの会話を思い出す。

 

「何が『ユニセラピー』よ。それより、何より気に入らないのは、私ですらほとんどした覚えのないユニとの添い寝をネプテューヌにされていたことね……!」

 

 ノワールは素直になれない性格からユニへの愛情を直接出すことはあまりない。

 

「ユニ、ちょっといいかしら?」

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「今日、一緒に寝ない?」

 

 しかし、この時のノワールはネプテューヌへの対抗心が素直になることの恥ずかしさを上回っていた。

 

「えっ⁉︎ なんで?」

 

 ノワールの問いかけはユニにとって思いもよらないものだったようで、ユニは動揺しながら聞き返す。

 

(『なんで』……⁉︎ 断られることは想定していたけど理由を聞かれるとは思わなかったわね……っ! さて、どういう理由にしようかしら。私とじゃなくてネプテューヌと寝たのが気に入らないからなんてダサい理由言えるはずないし……)

 

 ノワールは職務中や戦闘中に匹敵するほどの勢いで頭を回し、それらしい理由を考える。

 

(うわっ……急に聞かれたから『なんで』なんて聞いちゃった……せっかくの機会なのに、アタシってほんと可愛くない妹よね……)

 

 ユニは勝手な思い込みで勝手に落ち込んでいた。

 

「えっと……その……さ、最近忙しいじゃない? だから……その……つまり……? えっと……あなたと一緒に過ごす時間をあまり取れなかったから……寝る時だけでも一緒にいたいな……って思ってね、うん」

 

 ノワールは必死に考えた言い訳をしどろもどろになりながら話す。

 

「……っ!」

 

 その言葉を聞き、ユニの表情が一気に明るくなった。

 普段は厳しくて甘えられないノワールが、ハッキリと自分と一緒に過ごしたいと言ったのだ。

 また、ノワールが言い訳を考えながら話していたことによるしどろもどろとした喋り方は、ユニにとってはノワールが不器用ながらもなんとか自分に歩み寄ろうとしてくれているように感じられ、それがたまらなく嬉しかったのだ。

 

「うんっ! わかった! 一緒に寝ようお姉ちゃん!」

 

 そうなれば、自分もある程度の恥は捨て姉に歩み寄ろうと、ユニは素直に返事をした。

 

(ユニがいきなり上機嫌になった……? いや、違うわ……! 私のあまりにも強引な言い訳を察したユニに気を遣われてしまったのね……! でもまぁ……これはこれで上手くいったことでいっか)

 

 そんな妹の思いをあまり理解していないバカタレ姉貴がここにいるわけだが、なんだかんだで状況は二人にとって良い方向に転がった、

 

「ね、ねぇお姉ちゃん……流石にちょっとこれは恥ずかしいわよ……」

 

 精々横に寝るぐらいだと思っていたユニだったが、まさかノワールに抱きしめられる体勢で寝ることになるのは予想外だったようで、顔を真っ赤にしながら嗜めるように言った。

 

「ねぇ、お姉ちゃん」

「……」

「お姉ちゃん……?」

「……」

「え、もう寝たの?」

 

 ノワールはユニを抱きしめてから数秒で眠りに落ちていた。ネプテューヌの言う抱き心地と匂いの良さもあるが、自分が世界で一番心を許せる者と寄り添う安心感が何よりも大きかったようで、ユニという存在の暖かさを享受しながら幸せそうに眠っていた。

 

「せっかくなんかおしゃべりでもしようと思ってたのに……でも、お姉ちゃんの寝顔なんて見たの初めてかも。気絶とかならあるけどね」

 

 ユニはノワールを起こさないように、ペタペタと頬に触れたり、頭を撫でたりした後、ノワールに甘えるように寄り添いながら目を閉じた。

 

「……おやすみ、お姉ちゃん」

 

 

 *

 

 

(おそらくノワールのことだから、わたしへの対抗心を燃やし昨夜ユニちゃんを抱いて寝たはず。ユニちゃんもノワールからの誘いを断ることはなく、なんか良い雰囲気で終わっただろうね。ふっ……手のかかる姉妹だね本当に)

 

「どうしたのお姉ちゃん? そんな何もないところに向かって得意げに笑って」

「いやぁ、良いことをした後は気分が良いなぁ……って」

「へぇ、どんなことしたの?」

「えっとねぇ……そうだなぁ、その話はまずわたしがユニちゃんと寝たところから始まるんだけど…………待ってネプギア! 剣を下ろして!」

 

 

 

 



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ネプテューヌワンドロ
救世の悲愴・アナザー ( パープルハート イストワール )


 ネプテューヌワンドロ 5/29 お題『パープルハート』であげたものをほんの少しだけ修正したものです。
 タイトルから見てわかると思いますが読んでいてあまり気分の良い話ではないです。



 限界だった。

 友と仲間をその手にかけた妹の心は既に壊れる寸前だった。

 最後の仕上げとして、自分を殺すことを頼んだ結果、寸前だった心が完全に崩壊し、妹は自ら命を絶った。

 自分以外の全ての女神の命を吸って最終形態となった魔剣と、それに命を捧げて消滅した妹の形見となったNギアが転がっていた。

 だから、最後に残った自分が犯罪神を撃破した。

 

 

 *

 

 

「ネプテューヌさん。もう三日も働き続けていますから、少しは休んでください」

「必要ないわ。それに、休んでいる暇もない」

「ですが……」

「……そうね、口で説明するよりも、実際に見せた方が早いかしら」

 

 そう言ってパープルハートは、山のように積んである書類を処理する手を止め、手に持った万年筆を思い切りもう片方の手首に突き刺した。

 

「ネプテューヌさん! …………え?」

 

 イストワールは二重の意味で驚いた。パープルハートの凶行と、その凶行によりできたはずの傷が既に完治していたことに。傷跡ひとつ残っていなかった。

 

「女神ってシェアの力があれば傷なんて直ぐに治るのはいーすんも知っているでしょう? この世界の全てのシェアエネルギーが集まった私にとってはもう休息なんて必要ないのよ」

「……」

「睡眠も必要ないわ。寝るのって脳を休めるためでしょう? でも、今の私は常にシェアの力で身体が再生しているから、いつでも新鮮な脳がお届けされるのよ」

 

 イストワールはそれ以上何も言えなかった。

 

「さて、モンスターの大量発生情報が届いたわ。ちょっと行ってくるわね、いーすん」

「は、はい……行ってらっしゃいネプテューヌさん」

 

 犯罪神を撃破した日から、パープルハートは元の姿には戻っていない。四つの国、八人の女神に分散されていたシェアエネルギーは今はパープルハート一人に集まっており、変身で消費する以上のシェアが常に届けられているからだ。

 

 誤魔化しや嘘の苦手なパープルハートは犯罪神撃破後、すぐに犯罪神討伐のために全ての女神を犠牲にしたことを公表した。それにより、初めは多くの人間の反感を買ったが、彼女の行動と実績によってその反感はすぐに止んだ。それどころか、ゲイムギョウ界ほぼ全ての人間がパープルハートの信者となった。元々敵対していた女神たちを仲間にできるほどの人徳……ならぬ女神徳がある彼女にとって、人々の心を掌握することなど容易かったのだ。

 パープルハートは一人になり、誰かに頼ることも甘えることもできなくなった。だからこそ彼女は自分の持てる力を全て世界のために使った。イストワールと協力し、国が一つでも世界が問題なく成立するシステムを作り上げることに成功した。国のために、世界のためにと自らの心をかなぐり捨てた彼女は完璧な守護女神となった。皮肉にも、彼女が愛した友や仲間は、彼女にとっては『枷』でしかなかった。

 こうして、パープルハートはゲイムギョウ界の覇者となった。そんな世界は、彼女の望んだものではなかったとしても。

 

 余りあるシェアから供給される力を持つパープルハートは今更雑魚モンスター如きに傷を負うことはない。負ったところですぐに完治する。刀を適当に振るえば、余波だけでモンスターは霧散する。彼女がかつてライバルたちと鎬を削りながら磨き上げた剣技を披露する必要のある敵など、最早ゲイムギョウ界には存在しない。

 

「虚しい……なんて思ってる暇はないわよね」

 

 誰が聞いているわけでもない独り言を呟き、さっきまで大量モンスターがいたはずの静かなダンジョンを後にする。

 それに、自分の虚しさよりも、最愛の妹にこんな思いをさせる寸前だったことの方が、彼女にとっての憂いだった。

 

 

 *

 

 

 犯罪神討伐から数百年が経った。

 ゲイムギョウ界は相変わらず成立していた。

 かつて犯罪神を倒した際に「この世界は、最早我が滅ぼす必要はない。誰に滅ぼされることもなく、ただ自ら滅びゆくのみ。ただ一つの国、ただ一人の女神に統べられた世界は、さぞかし平和であろう。争いのない世界に競争は生まれず、そこには発展も成長もない。暮らす人間共は漫然と怠惰な日々を過ごしやがて衰退していく」などと言われたが、そんな犯罪神の思惑すらも彼女は乗り越えた。

 犯罪神の言った通り、平和で発展も成長もない停滞した世界ではあったが、女神パープルハートの手腕により衰退することもなかったのだ。

 

 ある日、パープルハートはいつものように山のように積まれた書類を凄まじいスピードで処理しながらイストワールに呟いた。

 

「ねえ、いーすん」

「どうしました?」

「私、この世界を壊そうと思うの」

「……もっと具体的にお願いします」

「あら、驚かないのね。実を言うと少し驚かせようと思ってわざと紛らわしい言い方をしたんだけど」

「長い付き合いですから」

「そう、じゃあもっと具体的に言うわ。モンスターがどうやって発生するか知っている?」

「どう……と言われましても、自然に、ではないのですか?」

「私たち女神が人々からの信仰、正の想いで生まれるとしたら、モンスターというのは負の想いから生まれるものだってわかってきたのよ」

「それが、この世界を壊すことになんの関係が?」

「この世界からシェアとかそういう概念を消せば、モンスターという存在も消える。シェアエネルギーってゲイムギョウ界の本質ともいえるエネルギーだから、その概念が消えればゲイムギョウ界が壊れるってことよ」

「……なるほど」

 

 いわば『シェアエネルギーからの脱却』。モンスターという脅威を完全に消去するため最適な手段である。しかしそれは『守護女神』という存在もこの世界から消えることになる。複数の国、複数の女神が存在したかつての世界においては、理論だけ存在しだが、誰も成そうとは思わなかった手段。

 

「いいのですか?」

「正の想いであるシェアがある限り、負の想いのモンスターも存在する。つまり女神が……私がいる限りこの世界からモンスターが消えることはないわ。だから、私の最期の仕事をしようと思うの」

 

 イストワールは、パープルハートの世界から完全に脅威を消すための決意を感じ取ったが、同時にそれが弱音であることにも気づいた。「もうやり切った。疲れたからアガって楽になりたい」、そんな嘆きであることに。かと言ってそれを咎める気にはならなかった。実際に世界からモンスターの脅威を消すための最適な手段であるわけだし、それに何よりも、あの日から自分の心を殺して世界を守り続けたパープルハートに、最期ぐらい自分のしたいことをさせてあげたかった。

 

「……良いんじゃないでしょうか。ゲイムギョウ界にとって一つの到達点だと思いますよ」

「そう……ありがとういーすん」

「いいえ」

「それと正直、私の手でこの世界を終わらせたかったっていうのもあるわね。世界を始めるのが主人公なら、終わらせるのも主人公って言うでしょう?」

「ふふ、なんですかそれ」

 

 そのまま、二人は犯罪神を倒して以来初めて仕事を放り出して談笑していた。そしてひとしきり話し終わった後、

 

「さて、先に言っておくわね、いーすん。今までありがとう」

「こちらこそ、お疲れ様でした。ネプテューヌさん」

 

 予め別れの挨拶を済ませ、女神と教祖としての最期の仕事に取り掛かるのだった。ゲイムギョウ界からシェアという概念を消すという最期の仕事に。

 

 

 *

 

 

 それから暫くして、パープルハートとイストワールは最期の仕事を完遂した。世界からシェアという概念は消えた。パープルハートの言った通り、女神もモンスターも存在しなくなった。それだけでなく魔法といったファンタジックな要素も全てが消え、最早ゲイムギョウ界と呼べるものは崩壊し、人間の人間による人間のための世界が始まった。

 

 当然ながら、もうその世界を守護する女神なんてものはいない。歴史を綴る史書もない。その新たな世界の行く末を知る者など、もうどこにもいないだろう。

 

 



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大決戦! ホワイトハートvsホワイトハート ( ブラン ホワイトハート )

 7/31 ネプテューヌワンドロ お題『ホワイトハート』にて投稿させてもらったものです。こんなタイトルですが半分ギャグです。



 『四女神オンライン』に登場する主要キャラクターのNPCにはAIが搭載されており、プレイヤーとの会話から学習することができる。

 しかし、その学習に内容よってはトラブルが巻き起こることもある。これはそんなお話である。

 

 

 

 

 

 

 -大決戦! ホワイトハートvsホワイトハート-

 

 

 

 

 

 

「クエスト達成だ!」

「わーい! たっせーたっせー!」

「わーい……!」

 

 クエストを達成して拠点街「ウィシュエル』に戻ってきた三人。

 一人は侍のロム、もう一人は忍者のラム。そして最後の一人は四女神オンラインに登場するNPCの『秩序を司る守護女神、ホワイトハート』。

 

「なぁ、お前たち」

 

 街に戻ってくると、ホワイトハートがロムとラムに問いかける。

 

「どうしたの、おね……じゃなかった、ホワイトハートさま?」

「どうしたの……?」

「どうしてお前たちは他の女神じゃなくて私ばかりをクエストに連れて行くんだ?」

「それはね、おね……じゃなかった、ホワイトハートさまのことが大好きだからよ!」

「うん……! おね……じゃなくて、ホワイトハートさま大好き……!」

「……」

「ホワイトハートさま……?」

 

 ロムとラムの言葉を聞くと(正確にはチャット欄に書き込まれたコメントを見ると)、ホワイトハートは視線を上に向けて何かを考え込む。

 

(……そういえば、グリーンハートがベールっていうプレイヤーから『妹』という存在について教わったって言ってたな。妹とは尊いとかなんとか言ってたっけ。それを聞いた時は何とも思わなかったんだが……こいつらを見ていると何かこう、込み上げてくるものがあるな。もしかして、私に妹ってやつがいたならこんな感じなのか、って。あれ? なんかこいつらが可愛く見えてきたぞ?)

 

 上に向いていたホワイトハートの視線が、再びロムとラムに向く。

 

「お前たち……私の妹にならないか?」

「…………え?」

「ならないか、じゃないな。お前たち、私の妹になれ。私と一緒に神界で暮らそう」

「ちょっ、どうしたのよ、ホワイトハートさま⁉︎」

「そんなよそよそしい呼び方はやめてくれよ。お姉ちゃんでいいぞ?」

「えぇ……」

 

 ロムとラムにぐいぐいと詰め寄るホワイトハート。

 

(どうしようロムちゃん? ホワイトハートさまがなんかおかしい……)

(おかしいね……それに少し怖いよ……)

 

 痺れを切らしたホワイトハートが強引にロムとラムを連れて行こうとした時、

 

「……待ちなさい」

「「お姉ちゃん‼︎」」

 

 丁度ログインしてきたブランが、三人の間に割って入る。

 

「お前は……ブランか」

「人の妹をどこに連れて行くつもり?」

「神界だ。こいつらを神界に連れて行って私の妹にする」

「そんなことはさせないわ」

「私の妹ができる邪魔をするなら……共に魔王と戦う勇者だとしても容赦はしねえぞ……!」

 

 そう言ってホワイトハートは斧を構える。本来なら味方側のNPCであるホワイトハートが、プレイヤー側と敵対することはあり得ない。

 

「お姉ちゃん……どうしてホワイトハートさまはあんなことになっちゃってるの?」

「バグのせいよ」

「バグ……?」

「ええ、ベールが発見した『お姉ちゃんバグ』らしいわ。NPCの女神が特定のプレイヤーを勝手に妹だと思い込んで暴走し、場合によってはプレイヤーに攻撃までしてくる恐ろしいバグよ……」

「そうなんだ。ていうか、ベールさんはどうしてこんなバグ発見できたのかな……?」

「それは、このバグはベールが女神のAIに余計なことを吹き込んだせいで発生したバグだからよ」

「えぇ……ベールさん何やってるの……」

「ブラン! お前がそいつらの姉だって言うんなら、お前を倒して妹達をいただくとするぜぇっ‼︎」

「私の妹達は……誰にも渡さないわ……!」

「はっ! 人間如きが守護女神に敵うと思ってんのかぁ⁉︎」

「それはこちらのセリフよ。私を模して作られたNPC如きが……オリジナルに勝てると思ってんのかよ‼︎」

 

(お姉ちゃんのチャットの文面が変わった!)

(もしかして……お姉ちゃん変身しながらゲームしてる……?)

 

「下がってろ、ロム、ラム。あの女神は私が倒す……!」

「そんな、一人で大丈夫なの?」

「大事な妹を守れないで、姉なんか名乗れねえよ。任せてろ」

「わかった。お姉ちゃん、頑張ってね!」

「頑張って……!」 

 

 かくして、女神ホワイトハートと女神ホワイトハートの大決戦の幕が上がるのだった。

 

『 女神ホワイトハート が 現れた ▼ 』

 

 このゲームにおいて、守護女神のステータスは最高クラスに設定されてある。そして、それが高性能AIから繰り出されるキャラクターの動きと合わさって並のプレイヤーを寄せ付けない強さとなっている。

 しかし、

 

「……馬鹿なっ! 私が押されている……⁉︎ 守護女神であるこの私が……⁉︎」

 

 ブランのプレイヤースキルはそれをも凌駕していた。

 

「こっちの知り合いに最強のプレイヤーがいるもんでな! そいつと比べりゃ、ちょっと強いNPCなんて相手にならねえんだよ!」

 

 ジョブが魔法職の司祭であるにも関わらず、肉弾戦でホワイトハートをタコ殴りにするブラン。

 

「これで終わりだ!」

 

 そのままブランは、ホワイトハートを無傷で撃破した。

 

『 女神ホワイトハート を 倒した ▼ 』

 

 

 

 

「この度は、申し訳ありませんでした!」

 

 事が済んでから、ガイド役妖精NPC『ブーケ』に頭を下げられるブランたち。

 

「気にしなくていいわ。そもそも私たちの知り合いのせいで発生したバグなわけだし」

「後にお詫びアイテムを贈らせていただきます!」

「そう、ならもらっておくわね」

「バグ修正のための緊急メンテナンスを行いますので、一旦ログアウトしてもらってもいいですか?」

「わかったわ」

 

 ブランたちは、四女神オンラインからログアウトした。

 

「ふぅ、少し疲れたわね……」

「お姉ちゃん、かっこよかったよ!」

「かっこよかった……! ありがとうお姉ちゃん……!」

 

 どうやらロムとラムには、ゲームとはいえ自分たちを守るために戦っていたブランの姿がとても眩しく見えたらしい。

 

「妹を守るのは姉として当然のことよ……それに……」

「それに……?」

「いや、何でもないわ」

「……?」

 

(たとえ私相手でも、可愛い妹たちを渡したくないなんて、恥ずかしいから言えないもの)

 

 妹たちの一番は自分でありたい。そう思うブランであった。

 



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運命の決戦 ネプテューヌvsブラン ( ブラン ネプテューヌ )

 9/4 ネプテューヌワンドロ お題『ブラン』にて投稿させてもらったものです。



 

 

「わたしの勝ちだよ!」

「負けた……」

 

 ルウィー教会にて、ネプテューヌとブランは早押しクイズゲームで対決していた。

 そして、意外にも勝者はネプテューヌであった。

 クイズの難易度が低く、知識勝負というよりは早押しの瞬発力勝負となったためである。

 

「あ、もうこんな時間。そろそろ帰るねブラン! ばいばーい!」

「ええ……さよなら」

 

 変身して窓から飛んで帰っていくネプテューヌを眺めながら、ブランはふと思った。

 

(納得がいかない……)

 

 どうやらブランは、ネプテューヌにクイズ対決で負けたのがよほど堪えているようだった。

 

(クイズっていうのは知識で競うものでしょ? ……そもそも『早押し』って何? どうして知識の競い合いに早さが要求されるの?)

 

 悔しさから次々と不満が出てくる。

 

(あんな知性も理性もないような女神に負けるなんて……!)

 

 最早不満を超えて悪口となっていた。

 

「……あ、良いことを思いついたわ」

 

 

 

 

「……というわけで、クイズ勝負のリベンジよネプテューヌ」

「良いけど、ブランがわざわざこっちまで来るの珍しいね。そんなに悔しかったの?」

「黙れ」

「はい、ごめんなさい」

 

 ブランは鞄からゲーム機と解答ボタン型のコントローラーを取り出す。

 

「おお! 本格的!」

「さて、ルールは説明するよりやってみたほうが早いわね」

 

 ゲーム機のセッティングを済ませ、ゲームを起動する二人。

 ゲームが起動され、チュートリアルモードに入る。

 

「最初は簡単な問題でチュートリアルよ」

「おっけー!」

 

 チュートリアル用の簡単な問題が画面に映し出される。

 

『問題、プラネテューヌの女神こ……』

 

 問題の途中で、ネプテューヌが解答ボタンを押す。

 少し遅れてブランが解答ボタンを強打する。

 

「よし! わたしの方が早かったよ!」

「いいえ、ゲームの画面をよく見てみなさい」

 

 ゲーム画面は、解答権を持っているプレイヤーをブランと表示していた。

 

「えっ⁉︎ どうして⁉︎」

「プレイヤー名の下にある数値を見てみなさい」

 

 そう言ってブランが指で刺したプレイヤー名の下には、ネプテューヌは『2』、ブランは『4』という数値が表示されていた。

 

「これは……?」

「これには私たちが解答ボタンを押した時の力の強さを十段階に分けた数値が表示されるのよ」

「わたしが『2』で……」

「私が『4』。数値が高い方が解答権を得る。ボタンを押す早さにはなんの意味もないわ」

「ボタンを押した時の力の強さ……ボタンを押す早さには意味がない……」

 

 ブランの言った言葉を口に出して反芻するネプテューヌ。

 

「これが早押しクイズに変わる新たなクイズ。『力押しクイズ』よ!」

 

 ネプテューヌは目を丸くした。

 しかし、すぐにその目を輝かせ。

 

「へー! いいね、面白そう!」

 

 斬新なルールを受け入れた。

 

「意外ね。私有利のルールだから、卑怯だと言われる覚悟はできていたけど……」

「全然? ブラン面白いこと考えるなー、って」

「……そう」

「それに、ブランが有利だと決まったわけじゃないんだなーこれが!」

「何ですって?」

「さ、チュートリアルが終わって、対戦モードに入るようだよ」

「そうね。あなたの発言の真意は対戦で確かめるとするわ……」

 

 そして、対戦モードがスタートし、問題文が流れ始める。

 早さを競うゲームではないので、ゆっくりと問題文を読み、解答を考える二人。

 

「……らぁっ!」

 

 そして、ボタンを力一杯押すブラン。

 その数値は『5』と表示された。

 

「……ん? 割と力を入れて押したつもりだったんだけど、意外と限界値は高いようね」

 

 ブランの言う通り、最大値の『10』を出すには女神であっても困難であるようだ。

 

「すぅ〜〜……とりゃあっ!」

 

 続いてネプテューヌがボタンを押した。

 その数値は……

 

(ネプテューヌのSTRは私より劣る。いくら力を入れたとしても、私より高い数値は出せないわ……!)

 

 ……『6』であった。

 

「……えっ⁉︎」

「よし! これで解答権はわたし!」

 

 そして、解答を難なく当て、ポイントを得る。

 

「わかった……『頑張れファイトファイト』ね……!」

「ご名答!」

 

 ネプテューヌが行ったのは、SPスキル『頑張れファイトファイト』で自身のSTRを高めること。

 これにより、素のSTRで劣るネプテューヌでも、一時的にブランのSTRを超えることができる。

 

「やるじゃない。けど、私にも自身のSTRを上げるSPスキルがあるのよ?」

「そう何度も通じないってことは分かってるよ。けど、今回のポイントはいただくね!」

「……勝負はこれからよ」

「望むところだよー!」

 

 続く問題、お互いがスキルを使ったり、変身をしたり、果てには解答ボタンに武器を振り下ろして高い数値を狙ったりなど、戦いは熾烈を極めた。

 

 

 

 

 こうして、ブラン有利と思われた『力押しクイズ』は互角に進んでいった。

 気づけばもう最終問題。お互いのポイントは同じ。これで決着となる。

 

「やるじゃねえかネプテューヌ……!」

「あなたもね、ブラン!」

「実は少し思ったんだ。たかがゲームでこんなに熱くなっちまったな、って。けど、違ったぜ。ゲームだからこそこんなに熱くなれるってな!」

「私も、同じことを思っていたわ。変身までして全力で真剣に遊ぶからこそ、楽しいのよね!」

 

 二人の間には、謎の友情が芽生えていた。

 

「けど、勝利までやるつもりはねえ! この問題でトドメを刺してやる!」

「いいえ! 勝つのは私よ‼︎」

 

 そして最終問題が流れ始めた。

 

「はぁぁぁぁっ! 『ネプテューンブレイク』ッ!」

 

 パープルハートは、自らのエグゼドライブを解答ボタンに叩きつける。

 その様子を見るホワイトハートは、焦ることなく小さな笑みを浮かべた。

 

(……終わりだな)

 

 すると、解答ボタンが砕け散ってしまった。

 

「……なっ⁉︎」

「やっちまったなネプテューヌ。いいや、私の作戦通りだ」

「作戦……?」

「私たちの戦いが盛り上がり、解答ボタンにスキルまでぶつけるようになることを実は想定していたんだよ。だから、この解答ボタン型コントローラーは私たちのスキルになら耐えられるが、エグゼドライブには耐えられないような耐久性で作ったんだよ」

「何……ですって……」

「これでお前は解答ボタンを失い、解答権も失った」

 

 そう言ってホワイトハートは変身を解き。

 

「こうなれば、私はもう力を込める必要もないわ……」

 

 指先で軽く、解答ボタンを叩く。

 数値は『1』と低かったが、解答ボタンが破壊されたネプテューヌはどうすることもできない。

 

「私の……勝ちよ……!」

 

 そしてクイズに正解し、最後のポイントを得た。

 勝者は、ブランとなった。

 

 

 

 

 数日後。

 

「お姉ちゃん、どうして最近筋トレしてるの?」

「ブランとのクイズ勝負に勝つために鍛えてるんだよ!」

「はい????????」

 

 プラネテューヌ教会では、ブランへのリベンジを心に誓い体を鍛えるネプテューヌと、そんな姉に困惑して固まるネプギアの姿が見られるようなったとか。

 



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忍者マスター・ラム ( 女神候補生 )


 9/4 ネプテューヌワンドロ お題『ホワイトシスター(ラム)』にて投稿させてもらったものです。
 忍ネプ次元のお話です。
 微ネタバレ注意。



 

 幻影夢忍界二大国の内の一国である波戸ノ国は女神四忍と呼ばれる波戸ノ国最強の忍者たちによって守護されている。

 しかし、女神四忍の後継者と呼ばれている『忍者候補生』の存在は、大名や巫女などの忍者関係者を除く一般の民にはあまり知られていない。

 

「どうしてあたしたちは毎度毎度お姉ちゃんたちの任務に置いていかれるのよ!」

「しょうがないよ、私たちはまだ変身もできないんだし……」

 

 女神四忍のうちの一人、ブラックハートことノワールの妹であり忍者候補生のユニ。

 パープルハートことネプテューヌの妹であり同じく忍者候補生のネプギア。

 ホワイトハートことブランの妹であり同じく忍者候補生のロム、ラム。

 姉たちに劣らず仲の良い彼女たちは、今日も集まっていた。

 

「たとえ変身できなくても、あたしは一人前の忍者として戦えるわ!」

「でも……妖怪もスチームレギオンの機械忍者も怖い……(ぶるぶる)」

「お姉ちゃんの重大任務の足を引っ張るわけにも行かないし……」

「それは……」

「…………」

 

 ネプギア、ユニ、ロムの会話に混ざらず、何か考え込むラム。

 すると、何かを思い出した風に、急に立ち上がって言う。

 

「わたし……ちょっと前に忍術を極めていた気がする!」

「「「え⁉︎」」」

「わからないけど……ちょっと前に忍者として活躍していた気がするのよね。大体四年半ぐらい前かしら……」

「えらく具体的ね……けど、どうしてだろう。あたしもラムが忍術を極めていた気がするわ」

「うん。私もラムちゃんが忍術を極めていた……気がする!」

「わたしも……ラムちゃん……忍者だった……!」

「そうよ! 真の忍者だった気がするわたしが、ロムちゃんもユニちゃんもネプギアも鍛えてあげて、一人前の忍者にしてあげるわ!」

 

 こうして、忍術を極めた(気がする)ラムによる候補生忍者修行の幕が上がるのだった。

 ちなみに先に述べておくと、今から約四年半前に発売したPS4ゲームソフト『四女神オンライン CYBER DIMENSION NEPTUNE』にて、ラムのジョブは忍者であったため、忍術を極めた者という言い方は間違っていなくもない。

 

 

 

 

「まずは影分身の術よ! それっ!」

「……って言いながら、ラムの隣にロムが立ってるだけじゃない」

「ラムちゃんだよ……?」

「どう見てもロムでしょ」

「流石ユニちゃん! わたしの術を看破するなんて、センスあるじゃない!」

「誰でもわかるに決まってるでしょこんなの」

「でも、何も知らない人からするといきなりラムちゃんが二人になったように見えるから、割と有効な忍術かも」

「あんたは何冷静に分析してんのよ」

 

 

 

 

「立派な忍者になるためには、走り込みが大事よ! というわけで今からみんなで鬼ごっこするわね! はいネプギア、タッチ」

「え? え⁉︎」

「みんな! ネプギアが鬼よ! 逃げろ〜!」

「逃げろ〜〜……!」

「ま、待ってよみんな〜! ユニちゃん待って!」

「鬼ごっこで鬼に待てって言われて待つ馬鹿がどこにいるのよ」

「む〜〜! こうなったら本気で追いかけちゃうから!」

「わー! ネプギアはやーい!」

「待て待て〜!」

「あはははは!」

 

 

 

 

「次は滝行よ!」

「滝……怖い……」

「何怖がってるよロムちゃん! それじゃあ立派な忍者にはなれないわよ!」

「でも……」

「じゃあラムが最初にやって見せなさいよ。忍術を極めたんでしょ?」

「う……そ、それは……」

「まぁまぁ、滝行じゃなくてみんなで水遊びしようよ。ね!」

「それよ! ネプギア良いこと言うじゃない!」

「うん……!」

「全く、ネプギアったら甘いんだから」

 

 

 

 

 そして、その日の夕方。

 

「結局一日中遊んでただけだったわね……」

「一人前の忍者を目指して頑張ることも大事だけど、みんなで遊ぶ時間も大切だよ。ユニちゃんも楽しかったでしょ?」

「それは……そうだけど……っていうか、ラムって忍術を極めているなら、変身の仕方も知ってるんじゃないの?」

「え⁉︎」

「そうなのラムちゃん……?」

 

(ど、どうしよう……『忍術を極めた気がする』ってでたらめなことを言ってみんなと遊ぼうとしてただけなのがバレちゃう。なんとかして誤魔化さないと。えっと……そういえば前にお姉ちゃんが……

 

 

『ロム、ラム、あなたたちが変身できないのは、ただ変身したいと思っているだけだからよ』

『……?』

『どういうこと……?』

『何のために変身したいか、変身して何がしたいか。自分の心と向き合って、その目標を明確にしなければ、変身はできないわ』

『んー? よくわかんない』

『わかんない……』

『今はわからなくても、そのうちわかるわ』

 

 

 ……みたいなこと言ってたわ! ……そうだ! これを言えば良いのよ! 流石お姉ちゃん! そしてわたし!)

 

「そ、そうね! 変身をするためには……ええと、変身をしたいと思うだけじゃなくて、何のために変身するかを考えないといけないのよ!」

 

 なんとか記憶を探り、それっぽいことを言うラム。

 

「確かに……」

「そうだよね……」

「うーん……」

 

 ネプギアとユニとロムはその言葉を間に受けて、考え込む。

 

(何のために変身したいか……何のために強くなりたいか……か。わたしも考えてみようかな……)

 

 咄嗟の誤魔化しだったとはいえ、ラム自身もその言葉から再び考え込む。

 

(わたしが変身したい理由……お姉ちゃんみたいに強くなりたいから……? じゃあ、どうして強くなりたいの……? ……あ)

 

 瞬間、ラムの脳内にある記憶が蘇る。

 それは、少し前に波戸ノ国がスチームレギオンの襲撃を受けた際の記憶。

 

(あの時……町もお店もお家も壊されて……みんな悲しそうな顔をしてた。わたしがお姉ちゃんみたいに強かったら、みんなを守れたのかな? 悲しませないで済んだのかな?)

 

 段々と、ラムの中の目的が明確になってくる。

 

(……うん、わかった。わたしが変身して強くなりたいのはみんなを悲しまなくて済むようにするためだ。お姉ちゃんはとっても強いけど、お姉ちゃんだけじゃ全部を守れない。だから、お姉ちゃんが守れないところはわたしが守るんだ……!)

 

 すると、ラムの身体が光りだした。

 

「ラムちゃん……光ってる……」

「……え? わたし、光ってるの?」

「すごい光ってるわよ」

「でも、なんか優しい光……お姉ちゃんが変身する時の光みたい……」

「じゃあ、今ならできるかも、変身……」

 

 ラムがそういうと、ラムから発する光が強さを増す。

 そして光が晴れるとそこには、忍者装束『忍衣』を身に纏い、新たな姿、女神忍者『ホワイトシスター』がいた。

 

「すごい! わたし、変身できちゃった!」

「わー! おめでとう、ラムちゃん!」

「ありがと、ネプギア。でも……ごめんね、みんな。実はね、わたしが忍術を極めたっていうのは嘘なんだ。みんなと遊びたくて、でたらめなことを言ってたの」

 

 ラムは変身して精神が若干成長したからか、自分が言っていたことが全て嘘だったことを白状した。

 

「うん、知ってたよ」

「え?」

「あんたの嘘に乗ってたまには羽目を外して遊ぶのも良いかなって思っちゃったのよね」

「もしかして……ロムちゃんも?」

「うん……」

「そうだったんだ……」

「でも、ラムちゃんがさっき言っていたことを考えてみたら、私たちも変身したい理由がわかったよ!」

「今ならあたしたちだって変身できる気がするわ!」

「えーい……変身……!」

 

 そして、他の候補生たちも次々と変身していく。

 

「やったー! 私たちも変身できた!」

「ラムちゃんと……いっしょ……!」

「これでお姉ちゃんたちと一緒に戦えるわ!」

「ラムちゃん」

「どうしたの、ネプギア?」

「ラムちゃんの言ってたこと、嘘じゃなかったね。ラムちゃんがいたから、みんな変身できたんだよ」

「……そ、そうね! わたしってば天才! よーし、じゃあ、お姉ちゃんたちと一緒にスチームレギオンを倒しに行くわよ‼︎」

「「「おーっ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え⁉︎ お姉ちゃんたち、もうラスボス倒して来ちゃったの⁉︎」

 

 

 

 

 





 忍ネプをやった人、やらなかった人に良い悪いはありませんが、ゲーム内でも言われていましたように、やらずに評価するのは良くないことだと思っています。


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椎茸戦争 ( 暗黒星くろめ 天王星うずめ )

 10/16 ネプテューヌワンドロ お題『暗黒星くろめ』にて投稿させてもらったものです。

 うずめとくろめが普通に和解してます。「夢の中の戦い」の後の話だと思ってください。



 プラネテューヌ教会、夕食の時にて。

 

(そん……な……!)

 

 天王星うずめ、戦慄。

 理由は目の前の自分の皿に広がる椎茸のバター醤油焼き。

 椎茸好きにはたまらない一品。

 反面、椎茸嫌いのうずめにとっては地獄のような一品。

 椎茸嫌いを治そうと日々努力しているうずめにとっては、とても高すぎるハードル。

 調理したコンパは、うずめの椎茸嫌いをうっかり忘れていた。

 そんなコンパに椎茸が嫌いだから食べたくないとは言い出せない。

 

(うぐぐ……ど、どうすれば……っ!)

 

 瞬間、うずめの頭に閃光走る。

 

(……そうだ!)

 

 一瞬目を瞑り、再び開く。

 

「……ん?」

 

 覚醒したのは、うずめの第二人格『暗黒星くろめ』。

 

(いきなりオレに身体の主導権を明け渡すなんて、一体どうしたんだ…………っ⁉︎)

 

 暗黒星くろめ、戦慄。

 理由は目の前の自分の皿に広がる椎茸のバター醤油焼き。

 同一人物故に、くろめとうずめの嗜好は同じ。そして、椎茸嫌いも同じ。

 

(【俺】め……椎茸をオレに押し付けようというのか……!)

 

『おい!』

 

 くろめは自らの脳内でうずめを呼びかける。

 

『…………』

 

 しかし、返事はない。

 うずめ、椎茸のバター醤油焼きを断固拒否。

 くろめの呼びかけに一切応じず、心の奥底に避難。

 

(なんていうことだ……)

 

 くろめもせっかくコンパが作ってくれた料理を、椎茸が嫌いだから食べたくないとは言い出せない。

 

(食べるしか……ないのか……っ!)

 

 くろめが、目の前に広がる絶望(椎茸のバター醤油焼き)を諦めて受け入れようとしたその瞬間。

 

「そういえばさ、夕方にネプギアと散歩してたら、駅前に新しいケーキ屋さんができてたからさ、みんなの分も買ってきたよ。夕飯の後にみんなで食べようよ!」

 

 ネプテューヌからの提案に、くろめは光明を見出す。

 

(ケーキ……だと……!)

 

 ただ椎茸を食べるという苦行の先に、美味しいケーキが待っている。

 

(食後にケーキがあるなら、椎茸を乗り越えてみせる……!)

 

 覚悟を超えた先に希望はある。

 くろめが箸を持ち、椎茸に立ち向かわんとしたその時。

 

『【オレ】……! 俺も椎茸を半分食うから、ケーキ半分くれ!』

 

 心の奥底に避難していたうずめが、急にくろめに呼びかける。

 

『やぁ【俺】。さっきはよくも無視してくれたな。けどいいさ、椎茸は頑張ってオレ一人で食べるよ。だからケーキもオレ一人でいただく』

『待ってくれよ! ケーキがあるなら話は別だ! 俺たちは一心同体。嬉しい時も悲しい時も一緒だって言って和解したじゃねえか!』

『黙れ。その一心同体のオレに一方的に椎茸を押し付けようとしたのは【俺】じゃないか』

『そ、それは……』

 

 形勢逆転。一転攻勢。

 身体の主導権を明け渡すことは容易だが、奪い取ることはほぼ不可能。

 

『【俺】は心の中で黙って見ているんだな。オレ一人がケーキを食べるさまをなぁ! ふははははは! はーはっはっはっは‼︎』

 

 くろめ、愉悦。心の中で大笑い。

 若干キャラ崩壊。

 

「あっ、そうだ」

 

 すると、ネプテューヌが再び口を開く。

 

「うずめとくろめは二人ってことで、ちゃんと二つケーキ買ってあるからね」

 

 くろめの愉悦、終了。

 椎茸を食べないうずめにも降りかかる幸運。

 不公平。

 

『……なぁ【オレ】』

『……なんだい? オレを笑おうってのか?』

『いや。悪かった。椎茸半分食ったら変われよな。もう半分は俺が食うから』

『あぁ……ありがとう。それとオレもすまなかったね』

 

 くろめとうずめ、ネプテューヌの優しさにより和解。

 そして、二人で嫌いな椎茸を分け合い頑張って完食し、ケーキを美味しくいただいたのだった。

 

 

 

 

 




 たまにはこんな感じのうずめとくろめを。


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ツンデレツン抜き ( ノワール ユニ )

 10/30ネプテューヌワンドロ お題『ノワール』にて投稿させてもらったものです。




「ほげほげーーーーっ!」

「あぁっ! お姉ちゃんが女神があげちゃいけないような悲鳴をあげてる!」

 

 ある日、ラステイション国土内のダンジョンにて、ラステイション女神姉妹はモンスター退治に勤しんでいた。

 敵を追い詰めたはいいものの、最後に残ったモンスターが自爆特攻を仕掛けてきたことによりノワールが大ダメージを食らってしまったところから話は始まる。

 

「痛た……まさかこの私と差し違える気で来るなんて……モンスターながら天晴れな心意気ね……」

「お姉ちゃん大丈夫?」

「平気よ。心配してくれてありがとうユニ」

「う、うん」

 

(……あれ?)

 

 ユニはノワールに対して少し違和感を覚える。

 

「さて、モンスター退治も終わったし、帰って書類仕事の続きね。ユニも手伝ってちょうだい。頼りにしてるわ。あなたがいれば百人力よ」

「……わかった」

 

(うーん……なんだろう? お姉ちゃんなんだけどちょっとお姉ちゃんらしくない感じ……)

 

 どうしてもその違和感を放っておけなかったユニは、教会に戻ってから教祖のケイに頼んでこっそりとノワールのステータスを確認してもらうことにした。

 

「……ふむ。ノワールのステータスを確認した結果、今ノワールはある状態異常に罹っていることがわかった。おそらく、君たちが戦ったモンスターの自爆攻撃の衝撃でなってしまったんだろう」

「状態異常⁉︎ 大変じゃない! どんな状態異常なの⁉︎」

「ノワールの状態異常、それは『ツン封じ』だ」

「『ツン封じ』……?」

「その名の通り、『ツンデレ』の『ツン』が機能しなくなるものだ。日常生活に支障はないが、君や僕にとっては厄介かもしれないな……」

「厄介? どうして?」

「一緒にいればわかるさ。僕はツンの無くなったノワールの相手をするのは面倒臭いから今日は退勤させてもらうよ」

 

 そう言ってケイは目にも止まらぬ速さで荷物を纏めて退勤していった。

 

(ツンデレのツンがないお姉ちゃんか……なんかちょっと面白そう!)

 

 最初はそう思っていたユニであったが、

 

「ふふ、今日もかわいいわね。ユニ」

 

「流石ユニ。私の自慢の妹ね」

 

「ありがとうユニ。愛してるわ」

 

 といった風に、純度100%の愛情をぶつけられ続けた結果、

 

(もう無理、限界。ツンデレのツンが無くなったお姉ちゃんの破壊力やばすぎ。死ぬ)

 

 嬉しさと恥ずかしさが混ざり合い、メンタルが持たず情緒不安定になってきていた。

 すると、

 

「やっほー! ノワール! 遊びにきたよー!」

 

 我らが主人公、プラネテューヌの女神ネプテューヌが舞い降りた。

 

「あら、ネプテューヌ! 来てくれて嬉しいわ。今お茶とお菓子を出すから待っててね」

「……ねえユニちゃんこのノワールに似てる人誰?」

「それはかくかくしかじかというわけで」

「まるまるうまうまってことね。そっかー。わたしてっきり偽物のノワール、略してニセモノワールに国を乗っ取られたのかと思っちゃったよ。メガミラクルフォースのメインストーリーみたいな感じで」

「ネプテューヌさん、メガミラはもう……」

「あっ…………じゃなくて、ごめんユニちゃん。わたしツンの無い今のノワールに耐えられる自信ないからもう帰るね」

「はい」

 

 ネプテューヌが帰ろうとしたところ、丁度ノワールがお茶菓子を持ってきた。

 

「あ、ノワール。わたし用事を思い出したから帰るね」

「……えっ、もう帰っちゃうの? 寂しいじゃない……もっとここにいなさいよ……」

「ぐはっ……だ、ダメだ。ツンのないノワールは威力が高すぎる……! こんなのただの美少女だよ……! 撤退ーーッ!」

 

 ネプテューヌは変身し、よろよろと飛びながら帰っていった。

 

「はぁ……せっかく来たんだからもうちょっとゆっくりしていけばよかったのに……」

「まぁ……ネプテューヌさんにも色々あるんだよ」

「そうね。まぁ私にはユニがいるから寂しくないわ!」

 

 そう言ってノワールはいきなりユニを思い切り抱きしめた。

 

「わわっ、お姉ちゃん!」

「そうだわ。仕事もひと段落したし、一緒にお風呂入らない?」

「まぁ……良いけど……」

 

 ユニとしては今のノワールと接する時間を減らしたかったが、ノワールからの頼みを無碍にするほどの非情さを持つことはできなかった。

 

(……あー、もういいや。あたしもこの際素直にお姉ちゃんに甘えちゃおう)

 

 そして、ユニの中で決定的な何が砕け散った。

 こうして、ユニはツン封じ状態のノワールと数時間過ごした結果、

 

「そろそろ寝よっか、ユニ」

「んー……まだお姉ちゃんと一緒にいたい」

「なら一緒に寝ましょう? そうすれば一緒よ」

「うん!」

 

 すっかり甘えん坊モードになってしまっていた。

 

「……ごめんね、ユニ」 

 

 電気を消し、ベッドの中で身を寄せ合っていると、急にノワールがそんなことを言い出す。

 

「いきなりどうしたの?」

「実はなんとなくわかってたのよ、今の私はいつもの私と違うって。わかってたけど、こんな時じゃないとユニを素直に可愛がれないからって……それでも結局ユニに無理をさせちゃったわ。いつもあなたに気を遣わせるばかりの姉でごめんなさい」

「……無理なんてしてないわよ。それと、こっちこそごめん。いつも素直になれなくて。本当はお姉ちゃんのこと大好きよ」

「ありがと、ユニ。私も大好きよ。おやすみなさい」

 

 こうして、ラステイションの女神姉妹は眠りに落ちていった。

 状態異常『ツン封じ』の効果は翌朝にはもう消えて無くなり、彼女たちはいつものツンデレ姉妹に戻った。

 しかし、それでもお互いを想い合う幸せな姉妹であることには変わりはないのだった。

 

 

 

 

「……ってことがあってさ。ノワールがやばかったんだよ」

「そうなんだ。私も見てみたかったな……なんて」

 

(……状態異常『ツン封じ』にユニちゃんがなれば、ツンツンしてない可愛いユニちゃんが見れるってことだよね? いや、ツンツンしてるユニちゃんも可愛いけど……ってダメだよ私! ユニちゃんを状態異常にしちゃおうなんて! ……でも、クエストの途中に偶然たまたま状態異常になっちゃったとしたら………………よし、今度ユニちゃんをクエストに誘おう!)

 

 してはいけない決意がされた瞬間であった。

 

 

 

 

 



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お姉ちゃんモード全開 ( パープルハート ネプギア )


 11/27ネプテューヌワンドロお題『パープルハート』にて投稿させてもらったものです。



 

 

 

「これで終わりよ! 「クロスコンビネーション』ッ!」

 

 パープルハートの一撃が敵モンスターを粉砕し、クエスト達成となる。

 

「こんなものね。さて、帰りましょうか」

 

 一息ついて、変身を解除しようとしたところ。

 

「……あれ? 戻れないわ」

 

 いつものように変身を解除しようと脱力しても、いつまで経っても戻ることがない。

 

「うーん……さっきの戦いで数発くらった時に何か起こったのかもしれないわね。こんぱかいーすんにでも診てもらいましょう」

 

 

 

 

「これは状態異常ですね」

「やっぱり?」

「はい。女神様のみが罹る状態異常に変身が行えなくなる『ウイルス』があるですよね? それの逆バージョンのようなものです」

「つまり、変身が解けなくなってしまう状態異常ってことね」

「そうです。あまり見ないタイプの異常なので特効アイテムがないですね……でも、半日程度で治ると思うですよ」

「なら別に大丈夫ね。ありがとうこんぱ」

「はーい。どういたしましてです」

 

 診察を終え、パープルハートは教会の執務室に戻る。

 

「さて、この姿だと集中できるから、書類仕事でも片っ端から片付けてやろうかしら。いつもの私だと絶対にやる気になれないし丁度いいわ」

 

 そのまま、机の上に山積みになっていた書類を凄まじいスピードで処理していく。

 

「お姉ちゃん。お茶が入ったよ」

 

 ネプギアがとてとてと歩いて部屋に入ってきた。

 

「ありがとうネプギア」

「コンパさんに聞いたよ。状態異常なんだって?」

「そうね。あまり不都合なものじゃないからよかったけど、この前のノワールがなったみたいに、最近意味不明な状態異常が増えてるらしいのよ。あなたも気をつけてね」

「うん。そうだ、何か手伝えることある?」

「そうねぇ……ちょっと来てちょうだい」

 

 言いながら手招き、やって来たネプギアを膝の上に乗せる。

 

「えっと……お姉ちゃん?」

「なに?」

「これは……?」

「ん? 可愛い妹を愛でながら仕事してるのよ」

「手伝えることって……これ?」

「そうよ。いつもの私はあなたに甘えてばかりだけど、たまには私があなたを存分に甘やかしたい時もあるの」

「そっか」

「うふふ」

 

 左手でネプギアを撫でながら、右手で仕事を処理していく。

 そして、大好きなお姉ちゃんが甘やかしてくれるならそれはそれで嬉しいネプギアだった。

 

「ねぷねぷ〜。ぎあちゃん〜。プリン食べるですか〜?」

「プリン! 食べるわ!」

 

 『プリン』という三文字に反応して変身前と変わらぬように目を輝かせるパープルハート。

 

「私もお願いしまーす」

「はーい」

「ネプギア、あなたに新しい任務を与えるわ」

「なに?」

「私は両手が埋まってるから、プリン食べさせてちょうだい」

「ふふ、わかった。ほらお姉ちゃんあーん」

「あむっ、うん、美味しい。やっぱこんぱのプリンは最高ね。プリンを食べている時が一番幸せな時間よ」

 

 そのままネプギアにプリンを食べさせてもらいながら、ネプギアを愛でつつ仕事をこなすパープルハート。

 

「ふぅ、終わったわ」

 

 書類の山は完全に消え去り、イストワールが満足げに受け取っていった。「いつもこうならいいのですが……」と言葉を漏らしたが、残念ながらそうはならないだろう。

 

「お姉ちゃん、お疲れ様」

「これでいつもの私に戻って仕事をする気がなくなっても一週間は遊べるわね」

「うーん……仕事はした方がいいと思うな」

「キリッと決める今の私と、だらだらしたいつもの私。この二種類の女神像こそがプラネテューヌ国民の信仰なのよ」

「国民のせいにしないの」

「……手厳しいわね。さて、ネプギア。暇になったことだし、いい機会だから戦闘訓練なんてどうかしら?」

 

 パープルハートからの提案にネプギアはニッコリと笑う。

 

「うん。やろう!」

 

 

 

 

 パープルハートは頭から地面に突き刺さるように埋まっていた。

 

「ご、ごめんお姉ちゃん!」

 

 パープルシスターが急いでパープルハートを地面から引き抜く。

 

「お姉ちゃん大丈夫……?」

「……けほっ……そうよね、変身解除ができなくなったからってずっと変身中の強さってわけじゃないなんて、少し考えればわかることよね……」

 

 パープルハートの言う通り、今のパープルハートは本気で戦うことができない。変身前のステータスと女神化したステータスを足して割ったステータスとなっており、いつもの女神化よりもかなり弱体化している。これこそが状態異常『変身解除封じ』の真の恐ろしさである。

 つまり、いつもの自分よりかなり弱体化していることに気づいていなかったパープルハートは、パープルシスターの攻撃をまともにくらった結果地面に頭から勢いをつけて落ちて突き刺さってしまったのである。

 

「多分今の私はあなたよりもステータスがかなり低いと思うわ」

「そうなんだ。じゃあやめる?」

「いいえ、まだやりたいわ。自分より強い相手と戦う機会なんてあまりないから逆に燃えてきたの。本気で来てね、ネプギア」

「わかった!」

 

 再びぶつかり合う紫の女神姉妹。

 

(弱くなってるなら、それ相応の戦い方をしなきゃいけないわね)

(お姉ちゃん、すごい……っ! もう今の強さにちゃんと意識を合わせてる……!)

 

 パープルハートは自らの動きを修正し、弱体化のステータスに合わせる。

 

(STRとかVITは大幅に落ちてるけど、AGIとかTECはあまり落ちてないようね。なら、充分戦えるわ!)

(……でも! 私が本当に勝ちたいのは100%の強さのお姉ちゃんだもん! だったら、今の強さのお姉ちゃんには絶対に勝たなきゃ‼︎)

 

 結局この日はお互いがへとへとになるまで戦い続けた。結果ネプギアが勝ち越したが、ステータスが大幅に下がっているにも関わらず数本取られたことも事実であり、改めて姉の偉大さを感じるネプギアなのだった。

 

 

 

 

「久しぶりの通常モードだよー! 思う存分だらだらするもんねー!」

「まぁ……昨日たくさんお仕事をしてくれましたし、今日ぐらいはいいでしょう」

「わーい!」

 

 翌日、変身解除封じが治ったネプテューヌは、イストワールからの許可が下りたこともあり、早速だらけにだらけきっていた。

 

「あ、お姉ちゃん」

「ネプギア! 一緒にゲームしよー」

「うん、わかった」

 

 ネプテューヌの隣に座るも、何か少し物欲しそうな表情をしているネプギア。

 

「……むむ!」

 

 それをネプテューヌは感じ取ると。

 

「……まだ甘えたりなかったのね。可愛い子」

 

 変身し、ネプギアを抱き寄せる。

 

「わわっ! お、お姉ちゃん! その……」

「良いのよ。甘えたかったらいつでも言ってくれれば。私だっていつでもあなたを甘やかしてあげたいもの」

「……うん! えへへ……」

 

 そうして、甘やかしモードの姉と甘えモードの妹は二日目に突入するのだった。

 

 

 

 





 変身後の姉が変身前の妹を甘やかすシチュ好き


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今だけはあなたの ( ベール ネプギア )


 1/8 ネプテューヌワンドロ お題『ベール』で投稿させてもらったものです。



 

 

「やぁああっ! 『ミラージュダン……」

「踏み込みが甘いですわね」

 

 ネプギアが繰り出そうとした技は、発生する直前にベールの槍を剣先に押し込まれ、不発となる。

 

「くぅ……っ!」

「終わりですか? ならこちらから」

 槍で押されて怯んだネプギアに、ベールは容赦なく槍の連続突きを差し込む。

「……っ」

 

 ネプギアはなんとかベールの猛攻を捌くも、反撃の糸口を掴めずにいた。

 

(ベールさん……やっぱり強い……っ!)

 

 ネプギアとベール。何故この二人が戦っているかは、数時間前に遡る。

 

 

 

 

「わたくしに……稽古ですか?」

「はい」

 

 ベールを尋ねてリーンボックスに来たネプギア。

 

「お姉ちゃんとかユニちゃんと稽古することが多いんですけど、お姉ちゃんには元から勝てないとはいえ、ユニちゃんにも連敗してて……」

 

 ネプギアは、調子が悪いから負けて更に調子が悪くなる、という負の連鎖に陥っていた。

 

「自分一人で悩んでいても仕方ないからって、誰かに話を聞いてもらおうと思って、良い機会だからベールさんに色々教わろうと思って来ちゃいました」

 

 ネプギアが遠慮せずにベールに頼み込むことなどとても珍しいことであったが、それだけここ最近の連敗が響いているのだろう。

 

「それにその……聞いても笑わないでくださいよ?」

「ネプギアちゃんを笑うことなんてしませんわ」

「秘密の特訓をして、お姉ちゃんとユニちゃんを驚かせたいな、って」

 

 ネプギアは恥じらいで少し顔を赤くしながら言う。

 ベールは、ネプギアのあまりにもの可愛さに頬が緩みそうになるが、笑わないという約束を守るためになんとか耐える。

 

「ダメ……ですか?」

「全然構いませんわ。むしろ嬉しいです。それに、素直にわたくしを頼りに来るなんて……ついにわたくしの妹になる気になったんですわね……!」

「えっ、いや、それは……」

 

 また始まったいつもベールがしてくる要求にたじろぐネプギア。

 

(でも……私はベールさんにお願いに来たんだよね。ベールさんもお仕事とかで忙しいはずなのに、私のために時間を割いてくれる。だから、私のして欲しいことだけをしてもらうなんて不公平だよね)

 

 しかし、今日だけは断り切ることが出来なかった。

 

「わかりました」

「はぁ、やっぱり今日も振られてしまいまし…………え? 今なんと?」

「今日だけは、私はベールさんの妹になります! だから、私のことを鍛えてください! ベールさん! いや、ベールお姉ちゃん‼︎」

 ネプギアは、ベールの誠意にネプギアなりの誠意で応えることにしたのだ。

 

「あっ……ああっ……あああああああああああ」

 

 ベールはネプギアの答えを聞くと、ワナワナと震え出す。

 ネプギアが自分を頼りにきたこと。妹になって欲しいという要求を承諾してくれたこと。

 そして、今だけとはいえ自分を『お姉ちゃん』と呼んでくれたこと。

 取り繕っていたベールの理性は、もう限界だった。

 

「ネプギアちゃん! ネプギアちゃんっ! ネプギアちゃぁんっ! 大大大大大大好きですわぁっ‼︎」

 

 ベールは絶叫し、目にも留まらぬほどのスピードでネプギアを思い切り抱きしめた。

 

 

 

 

 ……というわけで、ベールはネプギアと戦闘訓練をしていたのである。

 

「どうなさいました? 今度こそ終わりですか?」

「まだですっ!」

 

 必死で剣を振るネプギアと涼しい顔で槍を振り回すベール。

 まるで先程の醜態が嘘のように、ベールはネプギアの行動を冷酷に無に返していく。

 

「てやあっ!」

「……おっと」

 

 ネプギアがなんとかベールの槍を弾いて押し返し、一旦距離を取る。

 そして、振るった剣から衝撃波を放つ技『スラッシュウェーブ』をベールに繰り出す。

 

「見えていますわ」

 

 しかし、ベールはネプギアの剣を振る方向やシェアエネルギーの流れからスラッシュウェーブの軌道を予測し、最小限の動きで回避する。

 回避の勢いでネプギアに接近し、剣を思い切り振った直後で体制を崩して隙を晒したネプギアの頭の上にに槍を差し出した。

 

「はい。わたくしの勝ち、ですわ」

 

 そして、コツンとネプギアの頭を軽くつついた。ちなみに、両者が使用していた槍と剣は訓練用のゴム製のものであるため、勢いがなければ身体に当たっても全くダメージはない。

 

「……参りました」

「さてと、ネプギアちゃんの戦い方の良いところも悪いところも今の戦闘で良くわかりました。休憩とお茶会を兼ねながら、ゆっくりとお話ししますわね」

「はい。お願いします」

 

 ネプギアは敗北の悔しさが全くないとは言えない様子ではあったが、それ以上にベールの強さを思い知り、今の自分では勝てないことを理解し、敗北を受け入れる。

 

「そんなに気を張らないでくださいな。今のわたくしたちは姉妹! なのですから」

「そ、そうですね。あはは……」

 

 同時に、ベールからどんなことを教えてもらえるか、そして教えてもらったことを活かせばどれほど成長できるかが楽しみだった。

 

 

 





 限られた時間で戦闘シーンなんてやるもんじゃないですね。マジで。


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アウェイキング・ロム (ロム ブラン )

 2/5ネプテューヌワンドロお題『ロム』にて投稿させてもらったものです。



 パリーン、と何かが割れた音が台所に鳴り響いた。

 

「あっ……」

 

 ロムがブランのマグカップを落として割ってしまった音だった。

 割れた音を聞いて駆けつける者はいなかった。

 ブランは趣味の古書店巡りに朝から出かけており、ラムは一人でクエストに出かけていたからだ。

 普段なら二人でクエストに行くのだが、ラムは、自分一人でどのくらいやれるか試してみたい、とのことで一人で行ってしまっていた。

 

「どうしよう……お姉ちゃんに怒られる……(おどおど)」

 

 ブランは素直に謝ればこんなことで怒りはしないのだろう。しかし、姉のものを壊してしまったこと、普段は一緒に怒られてくれるラムがいないこと、それらからくる焦りが、ロムから正常な判断力を奪っていた。

 

「なんとかしなきゃ……!」

 

 その結果ロムは、ブランに素直に謝るのではなく、どうにかしてマグカップが割れたことを隠すという選択をしてしまった。子供にはよくあることである。

 テープや接着剤で付ける程度じゃ誤魔化せるはずがないことは、ロムにもわかっている。

 

「えい……!」

 

 ロムはまず、マグカップに回復魔法をかけてみた。

 しかし、反応はない。

 ロムの回復魔法では、他人の傷は癒せても、壊れた物を直すことはできないのだ。

 

「これじゃダメだ……今のわたしじゃ直せない……」

 

 ロムはとにかく考える。

 素直に謝るのが手っ取り早い筈なのだが、前述したとおりロムは正常な判断力を奪われているため、どうにかしてマグカップを直す方法を。

 

「こうなったら……!」

 

 ロムが向かったのは、ルウィーの書庫。

 そこにある魔法書を片っ端から読み漁り、物体を修復する魔法を探す。

 普段は絵本しか読まないロムであるが、窮地に立たされているからか、凄まじい集中力を発揮し、恐るべき勢いで魔法書を読み漁っていく。

 また、集中力を高めるため、女神化まで行っており、完全に努力の方向を間違えている。

 

(お姉ちゃんは夕方の五時ぐらいに帰ってくるって言ってたから……あと約三時間ぐらいかな。その間にマグカップを直せる魔法を見つけ出す……!)

 

 そして一時間程度経った頃。

 

「見つけた……!」

 

 ようやく該当する魔法を見つけたロムは、その本を片手に猛ダッシュで割れたマグカップの元へ戻る。

 その様子からは、まるで姉女神ホワイトハートを彷彿とさせる猛々しさが感じられた。

 

「ええと、まずは魔法陣を下に書いて……その後は回復魔法と同じ要領で魔力を注いでいく……」

 

 頭と魔力をフル回転させ、本のとおりに魔法を使って修復を開始するロム。

 

「……やった。直った……!」

 

 そして、見事にブランのマグカップを修復したのだった。

 実を言うと、この修復魔法は難易度が非常に高く、ロムの魔法の才能が遺憾なく発揮されたことによる偉業だった。ロムが必死でやってできたことだからか、ロム自身やり方を記憶してはおらず、再現性がなくなってしまったことが惜しまれる。

 

「これで……よし!」

 

 最後に、ロムはマグカップを何事もなかったかのようにきちんと元の場所に戻すのだった。

 

 

 その日の夜。

 

「ロム、わたしのマグカップ割ったでしょ」

「えっ……」

 

 ブランにはバレていた。

 

「えっと……その……」

 

 ロムは必死で誤魔化そうとするも、逆にその反応がブランに確信を与える。

 

「まずは、なんて言うの?」

「……っ、ごめんなさい」

「よろしい」

 

 ロムの頭を優しく撫でるブラン。

 その表情には微塵も怒りの様子は見られず、むしろ微笑んでいた。

 

「お姉ちゃん……その、どうしてわかったの?」

 

 おそるおそる、ブランに尋ねるロム。

 

「簡単よ。使い込んだはずのマグカップが新品同様に元通りになっていたりしたら誰でも気づくわ」

「……あ」

 

 ロムのマグカップ修復は完璧だった。しかし、完璧すぎた。

 ブランの言うとおり、ロムは使い込まれたマグカップの経年劣化ごと修復してしまったため、逆にバレてしまったのだ。

 

「でも、よく同じものを買ってこれたわね」

 

 しかしどうやらブランは、ロムが割ったマグカップを魔法で修復したのではなく、同じものを買ってきたと勘違いしていた。

 

「……えっと、違うの」

「違う……?」

「その、魔法で直したの」

「なるほど。魔法で……………………え?」

 

 ブランは戦慄した。

 割れたマグカップを魔力によって新品同様に完全に元通りにするには、高度な修復魔法と術式が要求される。おそらく自分では不可能なそれを、ロムがやってのけたわけだ。

 

(……魔法の国、ルウィーの女神に相応しい才能、というべきね)

 

 そして、そんな妹を誇らしげに微笑むブランなのだった。

 

 



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紫女神と黒候補生の共謀 ( ネプテューヌ ユニ )


 3/12ネプテューヌワンドロお題『ネプテューヌ』にて投稿させてもらったものです。



 

 

 

 

 やっほー! わたしはみんなの主人公、ワンドロの今日のお題のネプテューヌだよ!

 今日は仕事がないからコンビニでジュースとお菓子をたくさん買って、ラステイション教会にアポなしで突撃しに行くところだよ!

 まぁノワールのことだから最初は文句言うけど満更もなく受け入れてくれるでしょ。

 

「というわけで、やってきましたラステイション教会! ノーワールー! あーそびましょー!」

「あ、ネプテューヌさんこんにちは」

「ねぷぅ? ユニちゃんだけ? ノワールは?」

「朝から出かけちゃっていないんです。あたしに何も言わないで出て行ったので、多分コスプレ関係かと……」

「そっかー」

「ネプギアは来てないんですか?」

「ネプギアは仕事だよ」

「まさか、ネプテューヌさんネプギアに仕事押し付けて遊びに来たんですか?」

 

 ゆ、ユニちゃんが鋭い眼光で睨みつけて来た……! もうユニちゃんったら、ネプギアのこと大好きなんだから。妹が良い友達に恵まれてわたしも鼻が高いよ。

 ……じゃなくて、絶賛急降下中のユニちゃんからの信頼度を取り戻さなくちゃ!

 

「違うよー! これには深い事情があって……!」

「事情?」

「プラネテューヌのあるジャンク屋が違法に兵器を外国から売買してるって話が入って来たから、摘発しに行くって仕事で、最初はわたしが行くつもりだったんだけど、ネプギアがいーすんから押収したジャンク品は貰っていいって許可が出た瞬間飛び出して行ったんだよね、わたしを置いて」

「……ネプギアらしいですね」

「うん。まるで獲物を狙う獣の目をしてたよネプギア。少し涎も垂れてたし」

「……そういう事情があったんですね。ごめんなさいネプテューヌさん」

「いいよいいよ」

 

 よし、ユニちゃんからの信頼度が回復したね。数少ないわたしを普通に尊敬してくれてる後輩だから、ちゃんと信頼度を高めておかないとね。

 

「でもノワールいないのかぁ」

「なんかすいません。お姉ちゃんにはネプテューヌさんが来たことは言っておきますから」

「大丈夫大丈夫、ユニちゃんと遊ぶから」

「……え゛?」

 

 すごいトーンの声で驚かれちゃったよ⁉︎ もしかしてネプ子さん、ユニちゃんに嫌われてる……?

 

「そ、そんなに嫌だった……?」

「え、あっ! ち、違います! 少しびっくりしちゃって。あと……」

「あと?」

「普段のお姉ちゃんとネプテューヌさんって、ネプテューヌさんがボケてお姉ちゃんがツッコむみたいな"流れ"があるじゃないですか。あたし、ネプテューヌさんのボケにちゃんとツッコめるか自信なくて……」

「えっと、わたしとノワールのことお笑い芸人か何かだと思ってる?」

「二人揃ってる時は、少し……」

「ねぷぅ⁉︎ そこは否定してよ!」

 

 と言いつつ、わたしはお笑いみたいにボケるつもりでボケてるわけだから願ったり叶ったりだね。ノワールがこれ聞いたら怒りそうだけど。

 

「ユニちゃんってさ、いつもノワールと何して遊んだりするの?」

「えっと……普通にゲームしたり、とかですね。多分ネプテューヌさんとネプギアが遊ぶのとあんまり変わりないと思いますよ」

「え? じゃああいちゃんをくすぐってから全力で逃げるゲームとかしたりするってこと?」

「しませんよ……ていうか何してるんですか二人とも……」

「あ、そうだ! それで思いついたんだけどさ、ラステイションの教祖のケイちゃんいるじゃん?」

「いますね」

「さっき久しぶりに会って軽く挨拶したんだよね。だからケイちゃんくすぐって逃げるゲームやらない?」

「"だから"の意味が全くわからないんですけど」

「そっかぁ。じゃあ普通にゲームとかして遊ぼっか」

「待ってくださいネプテューヌさん」

「え?」

「あたし、まだやらないとは言ってないですよ?」

「ユニちゃん……!」

 

 こうしてわたしたちは熱い握手を交わし、気配を消しながらケイちゃんをくすぐりに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、お姉ちゃんとユニちゃんがケイさんを怒らせて、ユニちゃんがラステイション教会に帰れなくなったから、今日はプラネテューヌ教会に泊まることになったんだね」

 





 ネプユニはゲイムギョウ界にて最強。


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バトルオブラム ( ラム )


 3/5 ネプテューヌワンドロお題『ラム』にて投稿させてもらったものです。



 

「つまんないなー」

 

 HPが底をつき、青いポリゴンになって消えていくモンスターを眺めながら、ラムは退屈そうに呟く。

 

「みーんな弱すぎて、これじゃ意味ないじゃない」

 

 自分一人の実力を試すためと、ロムを置いて一人でクエストに出かけていたラムだったが、どうやら向かった先のダンジョンでは、実力を試せるほど強いモンスターが存在しなかったようだ。

 というのも、ラムがそう思い込んでいるだけで、今しがたラムが撃破したモンスターたちは一般人のハンターらにとっては脅威となるほどの強さをしているのだが、女神候補生のラムにとっては取るに足らない相手だったのだ。

 

「もう帰っちゃおうかなぁ」

 

 言いながら、ルウィー教会の棚からくすねてきたお菓子を懐から取り出し、封を開けて頬張る。

 

「へもほんふぁにふぁふぁふふぁへふふぉふぇっふぁふふぃふぁふぃふぃふぁふぁふふぁっふぁふふぁー……」

 

 口いっぱいにお菓子を詰めながら独り言を続けるラム。

 普段なら行儀が悪いからと姉のブランからお叱りを受けそうな行為であるが、今ここにラムを咎める者はいない。

 

「グルルル……!」

 

 すると、後方からモンスターの呻き声が聞こえた。

 

「……ん?」

 

 ラムが振り返ると、そこには大型の獣タイプのモンスター『フェンリル』が今にも襲い掛かって来そうな気迫でラムを睨みつけていた。

 

「なーんだ。ちゃんと強そうなのいるじゃない」

 

 ちょうどお菓子を食べ終わり、杖を回しながら構え、ニヤリと笑うラム。

 

「ガァオォォッ!」

 

 目があったことを戦闘開始と判断したのか、フェンリルは咆哮を上げながらラムに飛びかかる。

 フェンリルの巨大な腕がラムに振り下ろされ、爪が大地を抉る。

 

「おっそーい」

 

 しかし、その場所に既にラムはいなかった。ラムは攻撃を避けつつ、フェンリルの側面に回り込んでおり、杖に貯めた魔力を解き放つ。

 

「『アイスコフィン』!」

 

 氷魔法『アイスコフィン』の氷塊をフェンリルにぶつけ、数メートル吹き飛ばす。

 しかし、大したダメージではなかったようで、すぐに起き上がり体勢を立て直したフェンリルは、口からビーム砲を吐き出した。

 

「嘘っ⁉︎」

 

 咄嗟に魔法で防壁を作るも、展開が間に合い切らず、今度はラムが吹き飛ばされてしまった。

 

「いったいわね……! なにすんのよ!」

 

 かつてのラムだったら、ダメージを受けてしまうと痛みによる恐怖に戦意を奪われていたかもしれない。しかし、今のラムが感じているのは"恐怖"ではなく自分を痛がらせた相手への"怒り"。

 怒りによって恐怖は上書きされ、ラムの戦意は奪われるどころか沸々と湧き続けていた。

 

(……そういえばお姉ちゃんが言ってた気がする。最近はモンスターも強くなってきてて、思いもよらない攻撃をしてくるとかなんとか)

 

 しかし、冷静さも失ってはなく、敵への認識をアップデートさせ、次の攻撃に備える。

 ルウィーの女神の中では末っ子のラムであるが、意外と一人の時はしっかりするタイプであった。

 

(……あ、魔力反応!)

 

 フェンリルが動くよりも前に、ラムはフェンリルの身体の中から魔力を感知した。

 そして次の瞬間、フェンリルの目の前につららが出現し、ラムに向かって射出される。

 

「……おっと」

 

 ラムは一つは避け、もう一つは杖や魔法で叩き落とすなどして、冷静に捌いていく。

 

「モンスターのくせに魔法まで使ってくるなんて……」

 

 しかし、全てを避け切ることはできず、少しだけダメージが入る。

 

「……でも、下手っぴな魔法ね」

 

 だが、ダメージを気にもかけず、ラムは再び杖に魔力を込める。

 

「魔法っていうのはね、こう使うのよ!」

 

 そして、闇魔法『ダークネスフォール』の奔流をフェンリルに解き放った。

 また数メートル吹っ飛ばされたフェンリルは、魔法の撃ち合いでは不利と判断したようで、一気にラムに駆け寄って距離を詰める。

 上から腕を叩きつける攻撃が先程回避されたことを学習し、今度は地面と水平に腕を振るい辺り一体を薙ぎ払う。

 

「……当たり前だけど、お姉ちゃんより遅いしお姉ちゃんより力も弱いわね」

 

 ……ように見えたが、その攻撃はラムの『アイスハンマー』によって受け止められていた。

 

「もういいや、飽きちゃった。あんたも弱いし」

 

 そのまま『アイスハンマー』を使い、フェンリルの頭部を回りながら殴打し続ける。

 

「それそれそれっ!」

 

 そして、よろけたフェンリルに追撃と言わんばかりに、アイスハンマーを思い切り振り下ろした。

 

「おっしまい!」

 

 技名こそ口に出すことはなかったが、今ラムが用いたその技はブランの『テンツェリントロンペ』であった。

 

「ゥゥ…………」

 

 フェンリルは力尽き、青いポリゴンとなって消えていった。

 ラムは変身することなく、危険種として登録されているほどの強いモンスターであるフェンリルを撃破した。

 

「……やっぱりダメね。つまんないわ。お姉ちゃんかロムちゃんと特訓する方がよっぽと楽しいもん」

 

 結果、ダンジョン探索に飽きてしまったラムは、退屈そうな足取りでルウィー教会へと帰るのだった。

 その背中から感じられる雰囲気は、小さな子供のものではなく、ゲイムギョウ界に君臨する絶対の強者、守護女神そのものであった

 

 

 





 可愛い子のカッコいいところ書くのが好きです



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後悔はない旅路 ( クロワール 大人ネプテューヌ )


 4/2ネプテューヌワンドロお題『クロワール』にて投稿させてもらったものです。



 

 

 

 クロワールは超越者である。

 次元すらも超えられるワープに始まる多種多様な能力、あらゆる次元の物事を知る叡智。

 しかし、力にはそれなりの代償を伴うというジンクスからは、超越者であっても逃れられない。

 

「ぅぅぅ……頭痛え……そろそろ来るとは思ってたけどよ……」

 

 クロワールは体調を崩していた。

 あらゆる次元を渡る中で得たあらゆる能力同士が、彼女の体の中で互いに悪い干渉を起こし合い、そこから生じたバグのようなものが、彼女の身体を蝕んでいた。

 数百年に一度という長いスパンで発生する体調不良といったところである。

 

「あ〜めんどくせ……」

 

 クロワールにはある懸念があった。

 それは、体調不良により能力がうまく使えなくなることではない。

 この体調不良は、過去に何度も経験している。

 以前までは、なんとか力を振り絞って誰もたどり着けないような次元の狭間に降り立ち体調が戻るまで潜伏を続ける、といった風に乗り越えてきた。

 ならば、懸念とは何か。

 

「わわっ! クロちゃん大丈夫⁉︎」

 

 同伴者のネプテューヌに(ウザいぐらい)心配されることである。

 

「顔色悪いよ! えーと……うわぁ! すごい熱‼︎」

「……うるせえな」

「ごめん……体調悪いのにうるさかったよね……えぇと、こんな時は……」

「しばらくほっときゃ治る」

「でも……」

「あ、そうだ。今だけはあの本の中入れてくれよ。いつもなら不愉快だけど、今なら逆に落ち着く」

「ダメ。ねぷのーとは入れたものの力を吸っちゃうんだから、今のクロちゃんを入れるわけにはいかないよ」

「だったらいつもは入れんじゃねーよ……」

「それもダメ。う〜ん、やっぱり今のクロちゃんなんだか覇気がないなぁ。お布団用意してあげるから横になって」

 

 そう言ってねぷのーとからクロワールサイズの寝具を取り出し、トントン拍子で看病の準備を整えていくネプテューヌ。

 体調が悪いとはいうものの重病患者扱いまでされて癪に触るところもあったが、ここで拒否したところでネプテューヌが更にウザくなると思ったクロワールは、素直に従うことにした。

 

「わかったよ。寝とく」

「はーい。何かいるものある?」

「別に。てかお前出かけないのかよ? 今日はこの次元観光するって言ってたじゃねえか」

「クロちゃんが身体壊してるのに放っておけるわけないじゃん」

「……そうかよ」

 

 それ以上は何も喋らず布団の中で横になるクロワールと、クロワールの様子を見つつどこかで買った漫画雑誌を読むネプテューヌ。

 

「……なぁ、ネプテューヌ」

 

 数十分したところで、クロワールが口を開いた。

 

「どうしたの?」

「お前、なんで今の今まで俺についてきたんだ?」

 

 予想もしなかった質問に少し驚き、う〜ん、と考えるネプテューヌ。

 

「なんで……って言われても……旅が好きだから、かな」

「旅、ね。お前は今自分がどうなってるかわかるか?」

「わかんないけど」

「お前は俺と同じさ。様々な次元を渡り、身体はただの『人間:ネプテューヌ』から『人間:ネプテューヌの情報を持った何か』に変わっていってんだよ」

「……どういうこと?」

「あぁ、つまりな…………」

 

 今のネプテューヌはクロワール同様、様々な次元を超え、知識を蓄え、力も付け、超越者に近い存在へとなりかけている。

 人間でも、ましてや守護女神でもない『何か』に。

 しかし、それは自分という存在を受け入れることができる次元が存在しなくなるということ。

 永遠に次元から次元を彷徨う存在となり、どこにでも行くことができるが、どこに行ってもそれは自分のいるべき場所ではなくなってしまう。

 

「…………っつーわけだよ。そして、それがお前にとって良いことじゃないんじゃねえかな、って。お前があの時俺を捕まえなきゃ……いや、俺があの時お前に捕まらなきゃ……お前はあの次元のネプテューヌでいられたわけだ」

「クロちゃん……」

「俺は……お前から奪ったんだよ。お前があの次元で生きていけば得られたかもしれない幸せってやつをよ」

 

 普段のクロワールなら、こんなことは考えもしないだろう。

 ある別次元の同一体の彼女が持つような他者を慈しむ心を、自分がとうの昔に捨ててしまったそれを、体調を崩し身体が弱っている今だからこそほんの少しだけ思い出していたのだ。

 

「こうなる前に、お前をどこかの次元で捨ててくりゃ良かったのかもしれないな……」

「それは違うよ」

 

 ネプテューヌは、クロワールの言葉を否定した。

 

「わたしはわたしの意思でクロちゃんについてくるのを選んだんだよ? わたしがクロちゃんを離さなかったんだもん。だからクロちゃんは悪くないよ」

「けどよ……」

「確かに、わたしが生まれた次元に居続けてれば、暖かい家族も友達もいて、幸せに生きていけたのかもしれないよね」

「そうだよ」

「けど、そこにクロちゃんはいないじゃん」

「そりゃ……そうだけどよ……」

「じゃあ、わたしの選択は間違ってなんかいないよ。ここには、大切な友達がいるから」

 

 ニッコリと笑いながら言うネプテューヌ。

 その一切の曇りなき眼を前にして、クロワールは何も言えなかった。

 

「ほんとに……変なやつだな、お前」

「そんなに褒めても何も出ないよ」

「褒めてねえよ」

 

 呆れたように言い放ち、クロワールは目を閉じる。

 睡眠を取ることで、より質の高い休息を取るために。

 そしてそれは、一人だった頃は周りを警戒するためにできなかったことでもある。

 

「……もう寝る。これ以上起きてると自分でも何言うかわかんねーし」

「そっか。おやすみ、クロちゃん」

「あぁ。おやすみ、ネプテューヌ」

 

 言い終わってから数分後、クロワールは眠りに落ちた。

 

「ふふっ、可愛い寝顔だなぁ。初めて見たよ」

 

 

 

 

 翌日の早朝。

 

「オイ‼︎ 起きろネプテューヌ‼︎」

 

 クロワールの怒号が響き渡る。

 

「んぅ……? なにぃ……?」

 

 それによって起こされたネプテューヌが、不満そうに眼を開ける。

 

「『なに』じゃねえよ! お前のせいで動けねえんだよ!」

 

 あの後、クロワールに添い寝したネプテューヌが、寝ぼけてクロワールを抱き枕にした結果、クロワールはネプテューヌの腕から抜け出せなくなってしまっていたのだ。

 

「お前、病人抱き枕にするってどういうつもりだよ!」

「朝からうるさいなぁ……でも元気そうで良かったよ。体調良くなったんだね」

「……あぁ、おかげさまでな」

 

 ネプテューヌは腕を緩めてクロワールを解放する。

 

「どういたしまして。おはよ、クロちゃん」

「あぁ。おはよう、ネプテューヌ」

 

 ネプテューヌは、身体を起こし、身支度を整える。

 クロワールは羽を広げ、本の上に座る。

 

「さぁ、今日はどこに行く? クロちゃん」

「昨日の礼だ。どこにでも連れてってやるよ、ネプテューヌ」

 

 二人の旅は、これからも続いていく。

 

 



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オレンジハートオリジン( 天王星うずめ )


 4/30ネプテューヌワンドロお題『オレンジハート』にて投稿させてもらったものです。
 一部オリキャラ要素があります。



 

 

 ××年前。

 超次元ゲイムギョウ界プラネテューヌの守護女神が『天王星うずめ』だった頃の話。

 

 

「ルウィー、今やばいことになってるらしいじゃん」

 

 窓から見える荒れた北の空を眺めながら、うずめが呟いた。

 ちなみに、当時の天王星うずめの容姿も性格も、面影はあれど現在のものとは異なっている。

 

「犯罪神マジェコンヌの顕現により、国存続の危機を迎えているようです」

 

 イストワールが言葉を返した。

 

「ねぇ、イストワール」

「ダメです」

「まだ何も言ってないよ?」

「ルウィーに救援に行くと言うのでしょう? ダメです。そんな危険なこと、教祖として女神様にさせるわけにはいきません」

「じゃあ、ルウィーが滅びてもいいってこと?」

「あなたに何かあるよりは」

「むー……」

 

 当時は現在ほど国家関係が良好ではなかったため、女神ならまだしも教祖にとっては他国の存続を気にかける情というものは、あまり存在しなかったのだ。

 

「じゃあ、ルウィーを滅ぼした犯罪神がプラネテューヌに南下して来たらどうするの?」

「それは……」

「だったら、ルウィーの女神と協力してでも食い止めるべきじゃないの?」

「……」

 

 イストワールは、うずめの意志を変えることができないと悟った。

 

「……わかりました。ですが、一つだけ約束してください。何があっても必ず生きて戻ってくると。これは、この国のためであり……私の願いでもあります」

「わかってる」

 

 うずめは窓を開け、女神化する。

 

「犯罪神なんて、ちゃちゃっと退治してくるよ。だから、うずめの帰りを待っててね、イストワール」

「はい。行ってらっしゃい、うずめさん」

「うん、行ってくる」

 

 うずめはそのまま窓から飛び出して、オレンジ色に光翼を広げ、ルウィーへ翔けて行った。

 

「うずめさん……お気をつけて」

 

 イストワールは不安そうな顔で、オレンジハートの後ろ姿を見送った。

 

 

 

 

「酷い……」

 

 ルウィーに着いて早々、声を漏らすうずめ。

 犯罪神らしき巨大なモンスターが街を闊歩しているだけではなく、犯罪神の瘴気により凶暴化したモンスターまで市街地に侵入している。

 街の至る所から火や煙が上がり、逃げ惑う人々の悲鳴が耳に入る。

 その中で、国中を飛び回り、犯罪神やモンスターに攻撃を仕掛ける白い光がうずめの視界に入った。

 

「あれはルウィーの女神だよね……よし、助けよう!」

 

 うずめは迷うことなく、当時のルウィーの女神の救援に向かった。

 

「人々の避難とモンスター退治……どっちからやれば……! それとも、あいつを、犯罪神を叩く方が先……⁉︎」

「おーい!」

「あなたは……プラネテューヌの女神、オレンジハート⁉︎」

「助けに来たよー! すぅぅ……ほにゃああああッ!」

 

 そしてうずめは、メガホンから破壊音波を放ち、ルウィー女神の目の前にいたモンスターを殲滅した。

 

「大丈夫⁉︎」

「どうして、プラネテューヌの女神が……いいえ、助かりました。ありがとうございます」

 

 本来、当時は国の中枢まで無断で他国の女神が入ってくるなど国際問題に発展するレベルの条約違反だったが、ルウィーの女神はそれを黙認し、ただ礼を言う。

 

「申し訳ありません。ルウィーの国民たちの避難を任せてもいいですか?」

 

 ルウィーの女神は、畏まった態度でうずめに頭を下げた。

 うずめは少し考えてから口を開く。

 

「それも良いけど、逆の方が良いかな」

「逆……とは?」

「君が国民を連れて逃げなよ。うずめはここで犯罪神を食い止めておくからさ」

「しかし、そんなことまであなたにさせるわけには……!」

「だって、国に加えて女神まで失ったら、ルウィーの国民たちは本当に絶望しちゃうでしょ。それに、あの犯罪神ってやつ。もうルウィーだけの問題じゃないよ。だから、まず君は生き残った国民たちをまとめて逃がして」

「……っ、わかりました。本当にありがとう。国民の避難が済んだらすぐに戻ってきます。その時まで……どうか耐えていてください!」

「大丈夫。うずめ、強いから」

 

 ルウィーの女神は離脱し、国民の救助と避難させに向かった。

 うずめは、それを見送った後、目の前のモンスターの大群と、犯罪神に目を向け、そしてルウィーの街並みを見下ろす。

 

「……こんなにメチャクチャにして」

 

 うずめの心の中に、怒りの炎が燃え上がっていく。

 ルウィーは自分の守る国ではない。しかし、そこに生きる人々の日常が、平和が踏み躙られたことを、許せるはずもない。

 

「許さ、な……いいいいいいいいいッ‼︎」

 

 うずめは、先程よりも大きな声とシェアエネルギーをメガホンに込め、破壊音波を撒き散らす。

 それだけで、かなりの数のモンスターがダメージにより薙ぎ倒されていく。

 

「とりゃああっ!」

 

 うずめは攻撃の手を緩めることはない。倒しきれなかったモンスターたちが破壊音波で怯んだ隙に一気に距離を詰め、一体ずつ確実に拳で破壊していく。

 その姿、正に獅子奮迅。

 

「数はある程度減らしたから……後は!」

 

 うずめは、モンスターの大部分を蹴散らした後、我が物顔でルウィー中心部に佇む犯罪神に目を向ける。

 

「アレを……叩くよ!」

 

 そして、犯罪神へ突撃していった。

 

 

 

 

「……んで、その後はぶっちゃけ一人だときつかったんだけど、ルウィーの女神が戻ってきてくれて、更にはラステイションの女神まで加勢しに来てくれたんだよ。それでもまぁ……犯罪神は倒しきれなくてさ。どうにかダメージを与えて、撤退させたんだよな」

「そうだったんですね」

「あぁ。その後、ゲイムギョウ界の滅亡より、ダメージを修復することを選んだ犯罪神が、自分で自分を封印したってわけだ。そうされちまったせいで、こっちも手が出せなくなったんだけど」

 

 時代は現在に戻り、うずめは犯罪神と戦った当時のことをネプギアたち女神候補生に話していた。

 

「今の守護女神たちじゃ犯罪神を倒せないから後の世代に託すなんて、今思えば恥ずかしいったらありゃしないけどな……」

「そんなことないですよ……」

「それに、その後俺が妄想力でやらかしたせいで俺も封印されることになっちまったし……」

「それは……」

「しかも、あの時うずめが犯罪神と戦った記憶のせいで、くろめがぎあっちたちに迷惑かけることになっちゃったわけだしぃ……」

「めいわくなんかじゃないわようずめさん!」

「うずめさん、元気出して……!」

 

 武勇伝を語っていた筈が、段々と意気消沈していくうずめ。果てには言葉遣いまで元に戻り、候補生たちは必死でうずめを慰める。

 

「……そうやってうずめさんも、ウラヌスさんも、お姉ちゃんも、プラネテューヌの、そしてゲイムギョウ界の平和を守ってきたんですね」

 

 うずめの話を聞き、改めて女神への尊敬を深めるネプギア。

 

「あたしたちも、そんな女神になりたいわ。いや、なりたいじゃなくて、ならなきゃね」

「そうよ! わたしがみんなを守ってあげるんだから」

「頑張ろうね……!」

 

 それに続くように候補生たちも改めて決意を固めていく。

 

「あぁ、期待してるぜ、後輩たち」

 

 うずめは、ネプギアたちのそんな姿を見て、小さく笑うのだった。

 

 

 



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憧れと願い ( グレイシスター パープルシスター )


 6/4ネプテューヌワンドロお題『グレイシスター』にて投稿させてもらったものです。
 シスシストゥルーエンド後の話なので、ネタバレと独自設定独自解釈に注意。



 

 

 

「私の勝ち……だね」

「……はい。参りました」

 

 M.P.B.Lを突きつけるパープルシスターと、両手を挙げて降参のポーズを取るグレイシスター。

 今回の模擬戦の勝者はネプギアとなった。

 

「やっぱり、ネプギアは強いですね」

「最近、調子がいいんだ。それでもまだお姉ちゃんには敵わないけど……いつかは超えてみせるよ」

「ネプギアならできますよ」

「それよりも……」

 

 どうやら、ネプギアにはマホに関して気になる事がある様子だった。

 

「どうして、マホちゃんは変身すると喋り方が変わるの?」

 

 『今の世界線』において、ぴーしー大陸の『マホ』という女神候補生は一部翻訳が必要なレベルのギャル語で話す、と知られており、普段の姿では実際にそうである。

 しかし、女神化して『グレイシスター』となると、変身前の落ち着かなさは消え、丁寧な言葉遣いをするようになり、勿論ギャル語も使わなくなるのだ。

 まるで『存在しなくなった世界線』の彼女のように。

 

「そうですね……理由は二つほどあります」

「あるんだ」

「その……聞いても笑わないでくださいよ?」

「う、うん。わかった」

 

 どうやらそこまで深な理由ではないことを察するネプギア。

 

「一つは……ネプギアの真似というか……影響を受けたというか……誰にでも丁寧で真剣なあなたに憧れて、真似してるんです」

「そ、そうなんだ……」

 

 少しだけ顔を赤く染めながら語るマホ。

 それを聞いたネプギアも、照れ臭そうに目を逸らす。

 ちなみに、これは『存在しなくなった世界線』でのマホと同じ理由である。

 

「もう一つが……その……カッコつけてるだけです。ねぷち……ネプテューヌさんが、パープルハートに変身すると、クールになりますよね? それと同じ感じで、ギャップによって人気を獲れないかなぁ……って」

「……ん、ふふっ」

 

 予想外の理由に、ネプギアはつい笑い声を溢してしまった。

 

「あっ! 笑ったー! 笑わないでって言ったのにー! ぎあちーってば!」

 

 それを見たマホは、顔を真っ赤にしながらネプギアに抗議する。つい言葉遣いも戻ってしまっていた。

 

「ご、ごめーん! だってぇ……!」

「……こほん、それに加えて、ぴーしー大陸の在り方を変えた今、人前に出ることも多くなったから、流石に公の場であの感じで話すのもどうなのかなって思いまして。あんりー……アンリにも言われましたし」

 

 マホは今、ぴーしー大陸の在り方を変革している最中である。

 以前までのぴーしー大陸では、女神はイメージを大事にするため国民に姿を見せることもなかったが、いつしかシェアの集まりが悪くなり、国の維持のためのエネルギーを供給するため、マホの姉は眠りについた。そして今も目覚めていない。

 だからこそ、マホは姉の眠りを覚まし、初めて姉妹で話すため、国の発展に尽力しているのだ。今回ネプギアに挑んだ模擬戦もその一環であり、自分の戦闘力のスキルアップのためである。

 

「……そっか。マホちゃんも頑張ってるんだね」

「ええ。あなたに憧れるだけじゃなくて、並び立てるようになりたいから」

「そんなに憧れられると少し恥ずかしいよ。私だってまだまだなんだし……」

「たった今打ち負かした相手に、自分はまだまだ、なんて嫌味に聞こえちゃいますよ?」

「あっ、違……! そんなつもりじゃ……!」

「ふふっ、冗談です。さっき笑った仕返しです」

「ぁ……もー! マホちゃんってばー!」

 

 今度はネプギアが少し顔を赤くし、マホに抗議した。

 

「……そうだ!」

 

 すると、ネプギアは何かを思い出したような表情で、マホに問いかける。

 

「前からずっと気になってたんだけど、マホちゃんのその武器……」

 

 ネプギアは目を光らせながら、マホの左腕についた盾型の武器を指差した。

 

「ああ、これですか?」

「うんうん、それは……盾なの? 武器なの?」

「両方です。盾としての機能はもちろんあって、後ろのスクリーンに映し出されたアイコンを操作して、使う技や魔法の切り替えをすると、その攻撃を打ち出すこともできるシステムなんです。戦闘中は一々切り替えてる余裕がなくて、予め使うものをある程度決めて置かなくてはいけないのが難点ですが」

「へぇ〜……じゃあ、後ろのアイコンを変えると、使う技も変えられるってこと?」

「そうなりますけど……今私が使える技の中で有用なものを並べたのがこのアイコンなんです。増やすのは難しいですね」

「そっか。じゃあ、例えばだけど……武器を量子変換して収納しておいて、技とか魔法みたいに取り出せるようにするってのはどうかな?」

「それは……考えはしたんですけど、私の得意じゃない領域なので」

「マホちゃんはソフト面は強いけどハード面はそこまで強くないもんね。そこで……!」

「ハード面……あっ!」

 

 自信たっぷりに胸を張るネプギアと、ネプギアの言いたいことを察するマホ。

 

「私がハード面を調整すれば、不可能じゃないってことだよ!」

「そうですね、ネプギアなら……けど、良いんですか? いきなりこんなこと頼んでしまって」

「良いも悪いもないよ! マホちゃんと一緒に開発! 楽しみだなぁ! 早速やろうよ! まずは良いパーツ仕入れに行こっか! ほら、早く早く!」

「え、あ、はい」

 

 ネプギアに手を引かれ、プラネテューヌに連れられていくマホ。ネプギアは興奮しすぎて、女神化を解除することすら忘れてしまっていた。

 そんな曇りのないネプギアの笑顔を見て、マホは穏やかに笑うのだった。

 

(……ありがとうネプギア……ううん、ぎあちー。あーしとまた友達になってくれて)

 

 マホもあえてネプギアに合わせて、変身を解かずについて行くのだった。

 

 

 

 

「……でね、ぎあちーったら、お金なくなっちゃって、欲しいパーツが買えなくてあまりにもしょんぼりしてるもんだからさ、あーしが買ってあげたんだよね」

 

 ぴーしー大陸の教会に戻ったマホは、その日の出来事を話していた。

 カプセルの中で眠り続ける姉に対して。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。あーしは毎日楽しいよ。楽しくて、楽しくて、楽しくてしょうがないんだ。だからお姉ちゃんが早く起きれるようにして、お姉ちゃんともいーっぱい楽しいことがしたい……な。だから、頑張るね、あーし」

 

 いつの日か、プラネテューヌの、ラステイションの、ルウィーの、姉妹たちのように心から笑い合えるその日を夢見て、マホは、グレイシスターは、女神候補生としての決意を更に固めるのだった。

 

 

 



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いつまでも"いつもの" ( アイエフ 大人ネプテューヌ )


 9/17ネプテューヌネプテューヌワンドロお題『大人ネプテューヌ』にて投稿させてもらったものです。
 https://syosetu.org/novel/260494/ ←これの続きみたいなもんです。


 

 

「あ、おかえりあいちゃん」

 

 数年ぶりに会った親友は、数時間ぶりかのような口調でそう言った。

 自分が知るよりも背は伸び、身体の起伏は増え、同性に使うべき言葉かはわからないが色気も増した。

 しかし、自分の呼び名と向ける笑顔は当時と変わらない。

 

「……あのさ、聞きたいことは山ほどあるんだけど」

「うん」

「ここ私の部屋なんだけど。あたかも自分の部屋のように振る舞うのやめてくれる?」

「だってぇ、わたしの部屋無くなってたんだもん」

「そりゃ数年も空けてその間家賃も払わないんじゃ退居させられるわよ」

「だからわたしの帰る場所はここしかないんだよー」

「コンパの家があるじゃない」

「知らないおじさんが住んでたんだよね」

「……そういえば、コンパは最近勤務先の病院の近くに引っ越したんだったわね」

 

 普通に暮らしてるところに急に不審者に押しかけられたそのおじさんを気の毒に思いつつ、聞きたいことを一つずつ消化することにした。

 

「で? 何してたの今まで? 急に私たちの前からいなくなって」

「次元を股にかける昆虫ハンター」

「……そう。じゃ、どうやって私の部屋の鍵開けたの?」

「ピッキング」

「……ふーん。なんで急に帰ってきたの?」

「なんとなく顔が見たくなったから」

「……はぁ。もういいわ」

「え?」

「なんでもない。ただいま。そしておかえり」

 

 数年ぶりに会ったはずなのに、身体の大きさ以外何も変わらない親友に拍子抜けて、昔と変わらないようなやりとりをしてしまう。

 言いたいことは沢山あった。突然いなくなったから、寂しかったし、心配しすぎて泣いたこともあった。

 けど、実際急に目の前に現れると、何もかも吹き飛んでしまった。この子が元気でいる。それだけでもうなんでもよかった。

 

「うん、ただいま。あいちゃんはさ、今何してるの?」

「諜報員よ。プラネテューヌ教会のね」

「コンパは……看護師って言ってたね」

「そうよ。昆虫ハンターさんよりちゃんとした仕事してるのよ、私たちは」

「えー、わたしだってちゃんと昆虫ハンターしてるよー? 捕まえたレア虫見る?」

「見ない。それより、あんた夕飯食べたの?」

「食べてないよ」

「コンパがそろそろ仕事終わるって言うから鍋パしようと思ったんだけど、あんたも食べる?」

「食べる!」

「じゃ、買い出し手伝ってね」

「わかったー!」

 

 親友は、元気よく勝手に座っていた私の愛用してるゲーミングチェアから立つ。勝手に座りやがっていくらしたと思っているそれ。

 いなくなる前は私の方が背が高かったのに、今はもう背を越えられていた。

 そして立ち姿にどこか風格があって、剣の振り方を教えたのは私のはずなのに、この子はきっと私よりもいろんな経験をして、私よりも強いんだろうな、って気がした。

 

「言っとくけど、具材は割り勘よ」

「え? わたしこの次元のお金もう持ってないんだけど。プラネテューヌオオヒラタクワガタ払いでいい? 市場だと一匹数千円だからさ」

「要らないわよクワガタなんて。現金一括しか受け付けてないわ」

「が〜ん。わたしの夕飯はお水だけかな……」

「冗談よ。今日は私の奢り」

「ありがとうあいちゃん……! 心の友よ……!」

「あーもう抱きつくな!」

 

 大きな二つの塊に圧迫されかけ、本気で殺意が湧きそうになった。何故私のだけ小さいんだ。

 スーパーに着き、食材をカゴに入れつつ、無駄にお菓子をカゴに入れようとする親友の腕を叩いて止め、会計を済ませ、帰路につく。

 

「……で、別次元だっけ? 次はいつ出発するの?」

「明日かな。本当はあいちゃんとコンパの顔見てすぐ行こうと思ったんだけど、鍋の誘惑には勝てなかったよ」

「そう」

「……止めないの?」

「止めて欲しいの?」

「欲しくはない、けど」

 

 しばしの沈黙。

 そうか。この子もこの子で、私たちの前に帰ってくることに少しの葛藤もあったのだろう。

 

「……あんたが帰ってきた時、驚いたけど安心もしたのよね。あんたにとって、私たちはまだ帰る場所なんだ、って」

「……」

「だから、それでもう良いかな、って思ったのよ。その次元を股にかける昆虫ハンターってのが、今一番あんたのやりたいことなんでしょ? 私もやりたいことやってて、コンパもそうで、あんたもそう。なら、それで良いじゃない」

「あいちゃん……」

「ま、たまには帰ってきなさいよ。久しぶりに顔見れて嬉しかったんだから。そうだ、今度はピッキングなんてしなくていいように合鍵渡しとくわね。私は当分あそこから引っ越すつもりないし」

「……ありがとう」

「どういたしまして」

 

 たとえ、会えない日の方が多くても、次元の向こうに離れていても、私たちはいつまでも親友だ。それ以上でもそれ以下でもない。それで良いのだ。

 さてと、買い物は済ませたし、準備をしつつ、もう一人の親友を待つとしよう。

 

「あいちゃん、お待たせで…………って、えぇええぇぇぇぇえええ⁉︎ ね、ねぷねぷがいるですぅうううう⁉︎」

 

 あ、やば。コンパにネプ子がいるって言うの忘れてた。

 

 



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雑魚処理一丁上がり ( ブラン ネプテューヌ )


 10/22ネプテューヌワンドロお題『ブラン』にて投稿させてもらったものです。



 

 

「やっほーブラン! ス○ブラタイマン十先やろうぜ!」

 

 コントローラー二つとゲーム機本体を両手に抱え、器用かつ行儀悪く足でドアを開けて入ったきたネプテューヌに、ブランは表情一つ変えずに応える。

 

「この前それで私に負けて焼肉奢らされた女神はどこの誰だったかしら?」

 

 ゲーム自体の腕前はネプテューヌの方がやや上なのだが、そのゲームがルウィーのハードから発売されている超有名作品ということでブランは相当にやり込んでおり、そのゲームにおいてはネプテューヌはブランに歯が立たない。

 

「わたしは修行したんだよ! この前と同じようにいくと思わないことだね」

「雑魚が話しかけないで欲しいわね。雑魚が感染るから」

「何をぉ〜!」

 

 煽るに煽られるネプテューヌだが、実際にボコボコに負けたことも事実なので、反論らしい反論もできず、ただ唸ることしかできない。

 

「……まぁとりあえず、結局やるの? やらないの?」

「そうね……」

 

 ネプテューヌの誘いに対し、ブランは仕事を中断してパソコンを落として席を立つ。

 

「しょうがない、相手してあげるわ」

「よし! 早速対戦と行こうか、ブラン!」

「対戦? 処理の間違いでしょ、ネプテューヌ」

 

 ゲームを起動し、コントローラーという武器を携えた二人の女神の戦いが始まった。

 

 数十分後。

 

「……負けた。対戦ゲームは基本わたしの方が強いのに……何故スマ○ラだけわたしはブランに勝てない……っ!」

「〜♪」

 

 特に苦戦することもなくネプテューヌを下したブランは、コントローラーを弄り、勝利画面をスクリーンショットする。

 

「……なんでスクショなんて撮ってるの?」

「みんつぶに投稿するのよ。『雑魚乙』ってメッセージも一緒にね」

「ねぷぅぅぅ!」

「あ、ベールからいいねが来たわ。それにしても、一回も勝てないなんて、やはり雑魚は雑魚だったようね」

 

 危なげなくストレート勝ちしたブランは、得意げな表情でネプテューヌ煽る。

 

「ぬぁああっ! こうなったら勝つまで帰らない! 今日はとことん勝負だよ、ブラン!」

「二度と帰れなくなるけどいいの?」

「すぐに帰ってやるもんねー!」

「しょうがない。雑魚のネプテューヌに少しだけアドバイスをあげるわ。もっと強くなってくれた方が面白いからね」

 

 なんだかんだで、ネプテューヌとゲームすることは嫌いじゃないブランなのだった。

 

「あなた人読みしないでしょ」

「人読み?」

「簡単に言うと、対戦相手の動きを読むことよ。キャラじゃなくて、プレイヤーのね。例えば、同じぐらいの強さのプレイヤーが同じキャラを使っても、プレイヤーごとの性格や癖で違いが出るものよ。その傾向を分析して読み合いをする、これが人読みよ」

 

 人読みは一期一会のオンライン対戦などではあまりされないことだが、たった今ネプテューヌとブランが行っていたような十先のような対戦方法だと、これをするかしないかの差はあまりにも大きい。

 

「……確かに、キャラ対はするけど、人読みってやつはあんまりしてる覚えないなぁ」

「ゲームじゃなくて、守護女神戦争の頃はあなたが一番これやってたわよ」

「え、まじ?」

「むしろ現実でできるのになんでゲームだとしないのよ。多分、これやるだけでだいぶ変わると思うわ。あなた操作は上手いから」

 

 ブランのアドバイスを受けてから、再度ブランに挑むネプテューヌ。

 それでも勝つことはできないが、試合内容は良くなっていた。

 

「……ていうか」

 

 その後、何試合もしたところで、ブランが口を開く。

 

「なんでいつも十先やる時は私のところに来るわけ?」

「ベール相手は絶対勝てないから。ガチ勢すぎて次元が違う」

「ノワールがいるじゃない」

「ノワールって、人生はガチ勢だけどゲームは割とエンジョイ勢じゃん? 対戦しててなんかひりつかないっていうか」

「それが人の有るべき姿よ」

「だからブランとが一番いいんだよね。ブランの隣だと落ち着くし、対戦するといい感じにひりつくし、なんだかんだで毎回付き合ってくれるし」

「……そう」

 

 態度や表情には出さないが、ネプテューヌの言葉を聞いたブランは少し上機嫌になっていた。

 そして、上機嫌から繰り出される軽快なコントローラー捌きによって、○マブラでネプテューヌをしばき倒し続けるのであった。

 

「ネプテューヌちゃん来てるから遊んであげようと思ったのに、お姉ちゃんとずっとゲームしてるわね」

「あの中には入りづらいなぁ……(おどおど)。でも、二人とも楽しそう」

「お姉ちゃん、ネプテューヌちゃんのこと割と大好きだもんね」

 

 その後、「勝つまで帰らない」と決めたネプテューヌは、深夜三時頃にブランが寝落ちして棒立ちになったキャラをボコボコにすることでようやく帰ることができたとか。

 

 





 実はスマブ○やったことありません。エアプです。


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オレンジハートリオリジン ( 天王星うずめ )


 12/10ネプテューヌワンドロお題『オレンジハート』にて投稿させてもらったものです。
 時系列はシスターズvsシスターズで、以前投稿したもの( https://syosetu.org/novel/253584/3.html )とは別パターンの話になります。


 

 

 暗く黒い闇の奥深く、光届かぬ深遠へと堕ちていくうずめ。

 底らしきものに足が付くと、目の前の何かに気取る。

 

「……久しぶりだな」

 

 そして、目の前の暗闇に声をかけた。

 

「久しぶり、か」

 

 帰ってきた言葉は、囁くような小さな声だったが、それから放たれる重圧にうずめの表情は強張る。

 

「……何の用だい?」

「言わなくてもわかるだろ?」

「ああ、わかるよ」

 

 声の主は嘲笑うかのように語り出す。

 

「【オレ】に『力を貸してください』って【俺】が言いにきたのを、ね」

 

 黙り込むうずめに対し、声の主『暗黒星くろめ』は更に言葉を続ける。

 

「……プラネテューヌは堕ちた。ねぷっちは姿を消した。残されたぎあっちたちは、バズール現象によるシェアの低下で力を発揮できない。だからこそ、ねぷっちたちとは力の源が異なる【俺】だけが、今のゲイムギョウ界でフルスペックで戦える。そうだろう? けど、【俺】だけの力じゃ復活した犯罪神マジェコンヌには勝てない。だから、オレに力を借りに来た。そういうことさ」

 

 うずめの記憶は、心の奥深くに閉ざされているくろめにも共有されている。そして、うずめが何を思い、何を為しに来たのかも。

 

「でも、オレにゲイムギョウ界の滅亡を止める理由はないよ。そもそも、それが目的だったんだから」

「それは、昔の【オレ】だろ?」

「今は違う、そう言いたいのか? それともそう信じたいのか?」

 

 その言葉の中には、少しの苛立ちがあった。

 苛立ちは敵意へと変わり、敵意は戦意へと変わる。

 

「【俺】が今までオレに会いに来なかったのは、オレたちが心の中で再び出会えば、また主導権を巡り戦いが起きるからだ」

 

 猛争事変最後の一騎打ちは、決着ではなかった。あの時、うずめは暗黒星くろめを完全に倒すことはできていなかったのだ。

 

「あの時、オレを受け入れるという裏ワザでようやくオレに勝てたことを、【俺】自身もわかっているんだろう? そして、次戦えば勝てる保証はない。負けたら身体の主導権を奪われる。だから、【俺】はオレを心の奥深くに閉じ込めたわけだ」

「……」

「だったら、オレに会いにくればこうなる事を、わかっていた……だろ!」

 

 言い終わると同時に突き出されるくろめの拳。

 

「……っ!」

 

 うずめは辛うじて防御し、距離を取る。

 そして、掌にオレンジのシェアクリスタルを顕現させた。

 

「女神化か。懸命な判断だね。平和で腑抜けていた【俺】と、【俺】の心の中で力を蓄えていたオレとじゃ、変身しなければその差は埋まらない」

 

 ぶつかり合うオレンジハートとくろめの打撃。両者一歩も引くことはない激戦が繰り広げられる。

 そもそも、心の中での戦いでは身体へのダメージはない。

 殴り合いではあるが、どちらが心が先に折れるかの我慢比べのようなものである。

 

「……そうだよね。わかってる」

 

 戦いが続く中、何かを察したオレンジハートは呟き、くろめに微笑みかける。

 そして、突き出されたくろめの拳を、両手を広げて受け入れた。

 

「……!」

 

 くろめの拳は、オレンジハートを貫いた。

 

「よく……わかったじゃないか」

「……痛くないね」

「当たり前だ。オレは【俺】自身、オレの拳を受け入れることに、痛みなどあるものか」

「ゲイムギョウ界を、みんなを憎んでたんじゃなかったの?」

「憎悪、か。そんなもの、【俺】に受け入れられたあの日から少ししたらどこかへ消えてしまったよ」

「だったら、こんなまどろっこしいことしなくてもよかったのに」

「【俺】は、何もかもを失ったオレに残された最後の砦のようなものだ。それが無くなれば、本当にオレは全てを失う。だから、【俺】にはもう戦ってほしくなかったんだ」

 

 くろめの身体が黒い光となり、オレンジハートに吸収されていく。

 

「【俺】がオレを拒んだなら、オレは【俺】を叩き潰して追い返すつもりだったさ。けど、【俺】はオレを受け入れた。オレが力を貸す理由は、それだけで充分なんだよ」

 

 うずめは、猛争事変が集結してからも、暗黒星くろめというもう一人の自分を理解しようとしていた。

 自分へ向けられた悪意の記憶を掘り起こし、くろめが生まれた理由を理解し、全てを知った上で、もう一度くろめに向き合う機会を作ろうとしていた。

 そして、ただそれだけのことが、くろめにとっての救済でもあったのだ。

 

「……今度こそ、オレたちは一つとなろう。オレの中の力を、全て【俺】に託す。これで【俺】はオレを含めた【俺】自身の全ての力で戦える。そうしたらもう、誰にも負けはしないさ」

 

 くろめが完全にオレンジハートに吸収されると、全ての闇が消え、そこはオレンジ色に光り輝いていた。

 

「……ありがとう、くろめ」

 

 オレンジハートは、意識を心の中から、心の外へと戻していく──────

 

 

 *

 

 

「さて、今回の主役はぎあっちなんだけど」

 

「うずめが……いや、うずめたちがいっちょ世界を救ってあげようかな!」

 

 



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アイエフに可愛いお洋服を着せたい ( アイエフ )


 5/13ネプテューヌワンドロお題『アイエフ』にて投稿させてもらったものです。



 

 

「……あいちゃんに、フリッフリな可愛い服を着せたい」

 

 ネプテューヌが呟いた。

 

「すーーーーッ……」

 

 それを聞いたネプギアが、深く深呼吸して。

 

「わかる」

 

 力強くうなづいた。

 次の瞬間、二人の部屋のドアがバン! ……と勢いよく開けられた。

 

「話は聞かせてもらったです!」

 

 そして、やる気に満ち溢れたコンパが部屋に入って来る。

 しかし、問題がある。

 アイエフは、可愛いお洋服を着て、と頼んでも素直に着てくれるような性格ではない。

 早くも大きな壁に当たり、思い悩む三人。まるで世界の危機に立ち向かっているかのような気迫だ。

 

「……いや、私に考えがあるです」

 

 コンパが手を挙げながら言った。

 

「私、あいちゃんの部屋の合鍵を持っているんですけど、夜あいちゃんが寝ている間にあいちゃんの部屋に忍び込み、服を全て隠して、代わりに可愛いお洋服だけを置いておく……というのはどうです?」

 

 普段のコンパからは考えられないほどハキハキとした喋り方で、作戦は説明された。

 それを聞いたネプテューヌとネプギアは、コンパにビッ、と指を差し。

 

「「採用!」」

 

 ハモリながら言った。

 だが、更にもう一つ問題があった。

 

「あいちゃんに似合うようなフリフリの服って……どうやって調達しよう?」

 

 ネプテューヌもネプギアもコンパも、あまりそういった服を着る機会がなく、故に所持もしていない。

 

「……ぷるるんに作ってもらう?」

「悪くない案だけど……次元を超えるためのシェアの消費にいーすんさんが首を縦に振ってくれるか……」

「どうすれば……どうすればいいです……⁉︎」

 再び大きな壁に当たり、まるで世界の滅亡に瀕しているかのような絶望感で思い悩む三人。

「……いいえ、一つ策があります」

 

 今度はネプギアが手を挙げながら言った。

 

「ラステイション教会に行きましょう」

 

 

 

 

「フリフリの衣装を貸してくれ⁉︎」

 

 ラステイションに着いた三人は、趣味コスプレの女神ことノワールに頼み込んでいた。

 

「コスプレといえばノワール、というわけでお願い!」

「私別にコスプレなんて興味は……」

「いやもうそういうのいいんでほんと。ワンドロでそういうくだり書いてる暇もないし」

「すごいメタな攻め方ね⁉ ワンドロでそういうくだりを書いてる暇がないからしょうがないわね……けど、アイエフのサイズに合う衣装なんてない……うん、ないわよ」

 

 三度目の大きな壁に当たった、ネプテューヌとコンパがそう思った時、ネプギアが口を開いた。

 

「……ユニちゃんのサイズなら、アイエフさんに合いますよね?」

「え? いや、どうしてユニ……?」

「ノワールさん。確かにあなたのコスプレ趣味は一人で隠れてやっているつもりで全然隠しきれていなかったものです。けど、あなたはその趣味をいつか妹のユニちゃんと共有し、一緒にコスプレしたいと思っている。そして、そのための衣装を既に買い込んだり作っている────違いますか?」

 

 かけてもいないメガネをかけ直す動作と共に、ネプギアがノワールを若干早口で問い詰める。

 

「ノワールさん、私たちはアイエフさんが可愛いお洋服を着ているところが見たくてたまらないんです。これ以上抵抗されれば、手段を選ぶことができなくなります」

「こっちは女神が二人いるんだよ」

「微力ですが私もいるです!」

 

 追い詰められたノワールは、苦悩に満ちた表情で首を縦に振った。

 

「アイエフの写真……私にも送りなさいよ」

 

 そして、作戦と道具を揃えた三人は、プラネテューヌに帰還し、その日の夜に決行するのだった。

 

 

 

 

 次の日。

 

「ネプテューヌさん、今日はやけに素直にお仕事されてますね?」

「……まぁ、たまにはね」

 

 ネプテューヌは、教会でデスクワークに勤しんでいた。来る時を待ちながら。

 

「そういえばアイエフさんはまだ出勤して来ませんね。まだ時間はありますが、いつもは早くに来てお仕事をされているのに……」

 

 イストワールの言葉を聞き、ネプテューヌとネプギアとコンパがニヤリ、と笑う。

 このタイムラグは、勝利を意味するものだと。

 

「お、おはようございます……」

 

 直後、声を震わせながら、アイエフが出勤してきた。

 フリッフリの可愛いお洋服を身にまといながら。

 

「……っ、ネプ子ぉ!」

 

 そして、ネプテューヌに問い詰める。

 

「おはようあいちゃん。可愛い格好だね」

「あんたの仕業でしょこれ!」

「そうだよ。わたしと……そしてネプギアとコンパの仕業だよ」

「そういうことか……みんなグルかよぉ!」

 

 怒るアイエフだが、あまりにも格好が可愛すぎるため迫力がない。そんなアイエフをニヤニヤしながら見つめる三人。

 

「イストワール様! イストワール様からこの三人に何か言ってください!」

「しかし……普通に似合っていますし……特に悪いことは……」

「ぐ……」

 

 味方と呼べる者がいなくなり、頭を抱えるアイエフ。

 

「あいちゃん、嫌がってるように見えるですけど……」

 

 その肩をぽん、と叩き、コンパが言う。

 

「あいちゃんが今着ているそれ、私がクローゼットの奥の方にしまっていたやつですよね?」

「……っ!」

 

 その言葉を聞き、アイエフはびく、と震える。

 

「私が、あいちゃんに一番似合って一番可愛いと思ったから、あえて奥の方にしまっていた服……ですよね?」

 

 容赦なく追撃を仕掛けるコンパ。

 

「それに例えば、あいちゃんは早起きさんなので、前の方にしまわれていた服をすぐ手に取っていれば、こんなに出勤に時間がかからなかったと思うです」

「コンパ……やめて……それ以上言わないで……っ!」

 

 アイエフは、自分の行動がコンパに読まれていたことを察する。

 

「楽しかったですかあいちゃん? 可愛いお洋服を片っ端から着て自撮りしたのは?」

「あああああぁぁぁぁぁっ〜!」

 

 そして、それを言い当てられたアイエフは、顔を真っ赤にしながらその場に崩れ落ちた。

 なんだかんだで、アイエフもそんな服を着てみたかったらしい。

 

「……」

 

 数分後、羞恥が限界に達したアイエフは、すっ、と立ち上がり、お洋服に手をかける。

 

「……脱ぐ」

「え?」

「もういい、私今日は下着姿で仕事する」

「ちょっ!」

「離してネプ子ぉ! こんな屈辱もう耐えられないわ! もう脱ぐぅ!」

「落ち着いてあいちゃん! 下着姿で仕事する方が屈辱だと思うよ! それに教会の風紀が!」

「脱ぐぅ‼︎」

 

 お洋服を脱ごうとするアイエフを、必死で抑えるネプテューヌ。

 

「写真送ってって言ったけど、なんとなく見に来ちゃったわネプテュ……」

 

 その時、ノワールが気まぐれでプラネテューヌ教会にやってきた。

 そんなノワールの目に最初に入ったものは……

 

「……あ」

「……え?」

 

 服を半脱ぎのアイエフと、それに覆い被さるネプテューヌだった。

 何も知らない者が見ると、まるで今からナニをおっ始めようとするような構図である。

 

「そ……」

 

 ノワールの顔が真っ赤に染まっていく。

 

「……そんなプレイをするために貸したんじゃないわーーーーッ‼︎」

 

 ノワールの羞恥に満ちた怒号が、プラネテューヌ教会中に響き渡った。

 

 

 

 



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女神と人と ( アイリスハート )


 5/27ネプテューヌワンドロお題『アイリスハート』にて投稿させてもらったものです。
 特定のキャラクターが結婚、死亡描写があるので苦手な人は閲覧注意



 女神になったことに後悔はなかった。覆せない事実を突きつけられたこの日までは。

 全てが後悔に変わったわけではないが、あたしが女神じゃなかったら、この悲しみから逃れることはできただろうか。

 

 

「はぁ〜忙し忙し」

 

 アイリスハートが、書類の山を処理しながらボヤく。

 

「あの子一人いないだけでこんなに忙しいなんてねぇ……」

 

 何故女神化した姿で仕事をしているかは、普段のおっとりさでは到底処理しきれない仕事の量が原因である。

 

「お茶が入ったですよぉ〜」

「ありがとうコンパちゃん。そこ置いといて」

「は〜い。えっと……わたしに手伝えることありますか?」

「充分よ。教会勤務のアイエフちゃんならまだしも、看護師のコンパちゃんに手伝わせるわけにはいかないもの。機密書類もあるしね」

 

 しょんぼりするコンパの頭を優しく撫でるアイリスハート。

 

「それに、コンパちゃんに仕事手伝わせてるなんてアイエフちゃんに知られたら、あの子産休中にも関わらず仕事するとか言い出しかねないもの」

「あいちゃんならあり得るですね……」

 

 捨て子の赤子として拾われたアイエフは、時が経ち大人になり、結婚し、そして今度子供が産まれようとしていた。

 出産ギリギリまで働こうとするアイエフをなんとか制止したプルルートは、アイエフの分まで仕事をしているのだ。

 

「あいちゃん、無事に赤ちゃん産まれるといいですね」

「そうね」

「でも、昔は『コンパに悪い虫が付かないように』とか言いながら、私に言い寄って来る男の人みんな追い払ってたくせに、自分は良い人を見つけて私より先に結婚するの酷いと思わないですか!」

「あはは。確か彼氏ができたって言った時、アイエフちゃんコンパちゃんに気まずそうにしてたものね」

 

 半分冗談半分本気でぷんすか怒るコンパと、苦笑いするアイリスハート。

 

「はぁ……この前まで赤ちゃんだと思ってたアイエフちゃんに、もう赤ちゃんが産まれるのか……時間が経つのは早いものね」

 

 まるで娘の成長を喜ぶように、アイリスハートは微笑みながら、仕事を続けるのであった。

 

 

 

 

 数週間後。

 

「プルルート様〜!」

「アイエフちゃん、久しぶり。出産おめでとう。何事もなく終わって良かったわ」

「ありがとうございます! ていうか、やっぱり常時女神化してるぐらい仕事忙しかったんじゃないですか! 私ゆっくり休んでる場合じゃなかったですよね!」

「良いのよ。あたしがアイエフちゃんに休めって言ったのは女神命令よ。だから逆らえないの」

 

 昔はアイリスハートにトラウマがあったアイエフだが、時間の流れが解決してくれたようで、今ではなんのわだかまりもなく接している。

 

「むぅ……あ、そうだ。今旦那が子供連れてきてるんですよ」

「あら、アイエフちゃんの子供、あたしも会いたいわね」

「是非!」

 

 数分後、アイエフの夫が到着し、アイリスハートにぺこぺこと頭を下げる。ちなみに、アイエフの夫はアイリスハートの大ファンらしい。

 

「昔のアイエフちゃんにそっくりね。可愛いわ」

「プルルート様、その……抱っこしてあげてくれませんか?」

「え? 良いの……?」

「勿論! プルルート様に抱いてもらいたいんです」

 

 アイリスハートは、アイエフの夫から赤子を受け取り、優しく抱き上げる。

 

「可愛いわね、本当に……」

 

 すると、アイリスハートの目から涙がポロリと落ちた。

 

「プルルート様⁉︎」

「……ごめん、孫が産まれたような気分になって……ちょっと感慨深くて……あんなに小さくて可愛かったアイエフちゃんにこんな可愛い赤ちゃんが……っ」

「プルルート様が泣くことないですよぉ〜。変なところで繊細なんですから〜」

「もー、うるさいわよぉ」

 

 アイリスハートとアイエフは、まるで本当の母娘のように軽口を言い合える関係にもなっていた。

 

 

 

 

 それから数十年後。

 

「……アイエフちゃん」

「ちゃん付けはやめてくださいよ。もう私おばあちゃんなんですから」

 

 病院のベッドに横たわる、老婆になったアイエフと、昔と一切変わらない姿のアイリスハート。

 信仰がある限りいつまでも歳を取らない女神と、時の流れと共に老いる人間、二人は同じ時を生き続けることはできない。

 別れの時が来ようとしていた。

 

「当たり前と言えば当たり前なのですが、不思議なものですね。赤子の頃からお世話になってたプルルート様に、こうして看取ってもらえるというのは」

「……そうね」

「プルルート様はいつまでも綺麗で美しいままなのに、私はすっかりしわくちゃのお婆さんになってしまいました」

「……あたしにとっては、今も変わらない真面目だけど少しおてんばで可愛いアイエフちゃんのままよ。いつまでも、ね」

 

 言いながら、弱々しく呼吸をするアイエフの頭を優しく撫でるアイリスハート。

 

「ありがとうございますプルルート様。私はあなたに拾われて、あなたに育ててもらえて幸せでした」

「あたしこそありがとう」

「おやすみなさい……プルルート様……」

 

 アイエフはゆっくりと目を閉じる。そしてもう目を開けることはなかった。

 

「おやすみ……アイエフちゃん」

 

 

 

 

 数日後、プラネタワーの上で、プラネテューヌの街並みを眺めるアイリスハート。

 

「あんまり気にしてなかったけど、こう見ると随分変わったわねぇ」

 

 プルルートが女神メモリーを手にしてからもう何十年も経った。時代の最先端を行き続けるプラネテューヌは、その街並みも時代に合わせて革新し続けてきた。不変なものは女神の住処であるプラネタワーぐらいである。

 

「ここにいたのね、プルルート」

「……ノワールちゃん」

 

 感傷に浸っていたアイリスハートの元に、ブラックハートがやって来た。

 

「どうしたの?」

「一人で泣いてるんじゃないかと思って。昔からあなたって寂しがり屋だから」

「泣いてなんてないわよ……いや……そうね。ノワールちゃんがもう少し来るのが遅かったら、一人で泣いてたかも」

 

 珍しく弱音を吐いたアイリスハートの隣に、ブラックハートは何も言わずに立つ。

 

「……あたしね、女神になって何も後悔したことはなかったのよ。今日までは」

「……うん」

「娘みたいに育ててきた子に先立たれるのって、こんなにも辛くて……あたしが女神じゃなかったら、こんな思いしなくて済んだのに、って思ったわ」

「……そう」

「少し、胸貸してくれる?」

「……ええ、おいで」

 

 ブラックハートは、アイリスハートを抱きしめる。

 アイリスハートは、ブラックハートの胸の中で沢山泣いた。女神アイリスハートとしてだけではなく、アイエフのお母さんとして。

 

「……ありがとうノワールちゃん」

 

 落ち着いて顔を上げる。

 

「でも、女神じゃなかったら、あたしはあの子たちに会えなかったものね。あの子たちが生きたこの国を、世界を、これからも守っていかなくちゃ、ね」

 

 アイリスハートは、涙で目を腫らしながらも、いつものように強気に笑ってみせるのだった。

 

「……あなたにはいつまでも私がいるわ。それだけは忘れないで」

「ふふ、そうね。これからもいつまでもよろしくね、ノワールちゃん」

 

 

 



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『学会メスガキ事件』 ( ホワイトシスターラム )


 6/10ネプテューヌワンドロお題『ホワイトシスター(ラム)』で投稿させてもらったものです。



 

 ルウィーは魔法の国である。

 学問としての魔術も盛んであり、ルウィーの女神ホワイトハートは代々年一で行われる名門ルウィー大学の学会にて魔法を披露するというイベントがある。

 ある……のだが。

 

「やらかした」

 

 女神ホワイトハート、ブランは頭を抱えていた。

 

「遊び過ぎた。学会の発表の準備全然できてない……」

 

 ゲストという扱いのブランは、他の学者や学生と違い大掛かりな研究を披露する必要はない。ちょろっと女神の魔法を披露するだけで良い。

 

「どうしよう……何も考えてないわ」

 

 しかし、ブランはその最低限すら用意していなかった。

 

「ふっ……どうして大事なモノに追われている時に限って、執筆は捗るし、新作のゲームは発売されてしまうのでしょうね」

 

 挙げ句の果てに、どうしようもない状況を笑う始末。

 

「この際女多忙ゆえに用意できませんでした、みたいなこと言おうかしら……けどそんなことしたら女神の威信とルウィー教会の伝統が……」

 

 そんな絶望的な状況のブランの前に。

 

「お姉ちゃーん! 新しい魔法を思いついたのー! 見てみてー!」

 

 救世主が現れた。

 

 

 

 

「お姉ちゃんから任された大事なお仕事、頑張らなくちゃ!」

 

 ブランは、社会勉強という名目でラムに発表を依頼すると、ラムはこれを快諾、学会へと向かう。

 また、公務ということで、女神化していた。

 

「はいはーい! 女神ホワイトハートの……えーと、代理? で来ました! ラムちゃんでーす!」

 

 ルウィーの学者や学生は皆紳士なので、学会の場に似つかわしくないラムのハイテンションを、文句ひとつなく受け入れる。

 そして、学会が始まり、ラムは出番まで待機。他の発表を聞いていた。

 

(なんであんな簡単な魔法のためにあんな複雑な術式が必要なのかしら? あんなのちょちょいのちょいでできるでしょ?)

(あの学者さんの魔法よりロムちゃんの魔法の方が上手いな……)

(あそこの術式間違ってるけど誰も何も言わないなぁ。恥かかせちゃ可哀想だから黙っとこうっと)

 

 そして、ゲストであるラムの出番、女神の魔法披露の番が来た。

 

「とりあえず、まずは……!」

 

 ラムは魔法の氷塊を出し、魔力で削り、『女神ホワイトハート』のオブジェを作った。

 

「お、おぉ……!」

 

 その時点で歓声が湧く。人間にとっては精巧な魔術操作が必要だからだ。

 

「そして……えいっ」

 

 ラムが彫刻に魔力を込めると、なんとホワイトハートのオブジェが動き出した。

 

「……えっ」

 

 そして数十秒ぐらい、その場で軽く手足や斧を動かしたりなどすると、オブジェは溶けてしまう。

 

「う〜ん、やっぱりこの程度が限界かなぁ」

 

 すると、数分前まではラムの可愛さで和んでいた学会のムードが、一気に盛り下がる。

 ラムが『この程度』と言った今の魔法─精巧な氷のオブジェを作りそれを操作する─を使える者は、ラムを除いて誰もこの場にいないからだ。

 この時点で、魔法学者たちの何年間にもおける歩みを、ラムはただの思いつきで踏み越えてしまっていたのだ。

 続いて攻撃魔法。ラムは『アイスコフィン』を披露する。ラムからしたらもっと威力の高い技を披露したかったようたが、予めブランに釘を刺されていた。

 

『ラム、あなたが本気で魔法を使ったら、その場にいる何人かの学者がもう研究をやめかねないわ。だから、披露するのはアイスコフィン程度にしておきなさい』

 

 ブランの忠告を守り、ちゃんとアイスコフィンに留めておいたラム。

 

「あの! 質問が!」

 

 すると、学会の中で手が上がる。

 

「はーい、なんですか?」

「どうやって魔力の威力を底上げしてるんですか?」

「底上げ……?」

「今ほどの威力の魔法を扱うには、魔力を高める術式を仕込むなどして威力の底上げをしていたと思われるのですが……女神様はどう行なっているのですか?」

「え? 特に何もしてないよ」

 

 構内がざわついた。一部の者は唖然とし、一部の者は心が折れていた。人間が研究していた魔法の限界など、女神にとっては取るに足らないものだと知らしめられたのだから。

 そんな学者たちの様子を見て、ラムの悪戯心に火がつく。

 

「……おじさんたちこ〜んな簡単な魔法もできないの〜?」

 挑発的な表情で、言う。

 

「でも大丈夫よ〜! こんな簡単な魔法も使えないよわよわなおじさんたちのことは、み〜んなわたしが守ってあげるから、ね!」

 

 その瞬間、盛り下がっていた会場が、再度湧く。

 心が折れかけていた学者たちは、いつか目の前のメスガキをわからせるため、更なる研究や修行に励もうと心に誓ったのだ。

 この学会を境に、ルウィーの魔法使いのレベルは全体的に一段上がることになる。そしてしばらくの間、この学会で起こったことは学生たちの間で『学会メスガキ事件』と呼ばれることになった。

 そして翌年の学会では、今度はゲストとして招かれたロムが、ラム以上の魔法を見せつけ、鍛えてきた魔法学者たち全員の心を無惨にへし折った。

 

 



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昔と今 ( ネプギア ユニ )


 7/1ネプテューヌワンドロお題『パープルハート』にて投稿させてもらったものだった気がします。



 

 プラネテューヌのとあるカフェで駄弁るネプギアとユニ。

 

「ネプテューヌさん、変わったと思わない?」

 

 ユニが言った。

 

「お姉ちゃんが……?」

「あ、いつものネプテューヌさんじゃなくて……変身後のパープルハート、さん?」

「なんで疑問系なの?」

「いや、女神の名前にさん付けするのが新鮮で……」

「あー、確かに」

「……じゃなくて」

 

 呼び方の話は置いておき、話題を戻す。

 

「昔、まだアンタと友達になったばかりだった頃さ、変身後のネプテューヌさんのこと少し怖かったのよね」

 

 言うまでもなく、ネプテューヌと女神化後のパープルハートでは、性格が大幅に変わる。

 その性格や雰囲気のギャップを、出会ったばかりの頃のユニは少し怖がっていた。

 

「……少し、わかる気がする、かも」

 

 ネプギアからの意外な同意に、ユニは目を丸くする。

 

「アンタのことだから、ネプテューヌさんに怖いとこなんてないよ、なんて言うかと思ったけど」

「私がお姉ちゃんの妹として生まれてきて、初めて女神化した姿を見た時は、あの変わり様にビビってたよ」

「アンタもビビってたんだ……」

「まぁでも、お姉ちゃんが変わったのはユニちゃんの言う通りかな。昔はもっと厳しい人だったから、私には甘々だったけど」

 

 四女神の仲が良かったのは昔からではない。シェアを奪い合い、時には戦う仲であった。むしろ、ここまで友好になったのはここ十数年のことである。

 そして、まだ四女神が不仲だった頃、パープルハートは今ほど柔らかい性格ではなかった。根本的な性格は変わっていないが、そういった弱みを他人に見せようとしていなかった。

 

「やっぱり、みんな仲良くなったから気を張る必要がなくなったってのが大きいのかも。それだけじゃなくて……プルルートさんの逆バージョンで、いつものお姉ちゃんから変身後に性格が滲み出ちゃってる……とか?」

「あはは、そうかもしれないわね。そういえば、ジェットコースターの話覚えてる?」

 

 ジェットコースターの話とは、ネプテューヌがジェットコースターの身長制限に引っかかった際、女神化して身長を伸ばすことによって制限を突破したが、性格がクールになった結果、あまり楽しめなくなってしまったという一件のことである。

 

「正直思うのよね。今のネプテューヌさんだったら、女神化してもジェットコースターではしゃいでそうだって」

「……あり得るかも。変身したお姉ちゃん意外とノリが良いし」

「忍ネプの時とかすごかったじゃん? おふざけ多めで」

「変身してるだけのただのいつものお姉ちゃんだったよね」

 

 若干メタな話も出しつつ、二人は盛り上がる。

 

「あらネプギアとユニちゃん」

 

 すると、偶然パープルハートが通りかかった。

 

「お姉ちゃん! どうして変身してるの⁉︎」

「まさか、敵⁉︎」

 

 戦闘モードともいえる女神化状態のネプテューヌを見て、ネプギアとユニも身構える。

 

「違うの、二人とも」

「「え?」」

「映画を見たかったの……年齢制限に引っかかって、女神だからって言っても信じてくれなくて……だから、女神化して見たの」

「それで、どうだったの?」

 

 ジェットコースターの件からすると、テンションの下がってしまったパープルハートが、あまり映画を楽しめなかった、という流れになりそうだったが。

 

「面白かったわ。それに変身すると作品の見方も変わるものね。それに気づけて倍楽しめた気がするわ。じゃあね二人とも」

 

 パープルハートは、楽しそうな足取りで二人の元を去っていった。

 

「……やっぱ変わったよね」

「そうだね」

 

 

 



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救世の果ての果て ( パープルシスター イストワール )


 9/16ネプテューヌワンドロお題『パープルシスター』にて投稿させてもらったものです。



 

「さて……」

 

 『その日』は唐突に訪れた。

 封印された自分が、再び身体を取り戻し、憎き世界に復讐するその日は、自らの想定よりも遥かに早く。

 

「これで、終わりです」

 

 そして、同時に終焉も訪れた。

 たかが守護女神一人、肉体を取り戻した自分にとっては取るに足らない相手だった筈なのに。身体も力を取り戻した自分の、ウォーミングアップ程度の相手だと思っていたのに。

 

「ぐ……う……ぅ……っ」

 

 目の前の女神は傷一つなく立っている。対する自分は、肉体を魂ごと斬り刻まれ、動くこともままならない。

 目の前の女神のこの口ぶりからすると、殺すことは容易いがあえて生かされている、それほどの実力差だった。

 

「何故だ……完全に力を取り戻したオレが……こんな簡単に……っ」

「簡単な話です。あなたより、私の方が強い。だからこそ、私があなたを復活させたんです」

 

 その女神は、暗黒に堕ちた自分よりも、重圧感のある雰囲気を放っていた。言葉の奥に、感情というものを感じられなかった。まるで、自分の役割や使命のために、感情というものを押し殺している、そう感じられた。

 

「なる……ほど……」

 

 おそらく、この女神は、自分がかつて思い知らされた以上の哀しみと絶望を味わっている。自分が背負わされた運命以上に重いモノを背負っている。

 

「今から、この剣であなたの邪念を斬り、消去します。あなたの身体は真の『天王星うずめ』として生まれ変わるでしょうが、邪念が消えるということは、今のあなたの人格はおそらく消滅するでしょう。だから、最期に何か言い残すことはありますか?」

 

 今から自分はこの女神に殺される。どうあがいても変えられないその未来に対し、怒りも絶望も憎悪も悔しさも無かった。どうしようもない手詰まりの状況を前にすると、人は諦観するのだな、とすら悟った。

 それに、守護女神もモンスターも超越した自分が手も足も出ないほどの悍ましい実力を持っている目の前の女神は、この世界の何よりも哀れな存在であることを、自分は理解していたのだ。殺されるのは自分であるが、同情すらしていた。

 

「逆に、オレを終わらせるのが、君のような女神であって良かったよ」

「……」

「けれど、そんなに辛くて苦しくて悲しそうな顔をする女神に、本当に世界が救えるのかな……?」

「……」

「ふっ……まぁいいか。さぁ、やるならやるといい」

「そうさせてもらいます……」

 

 剣が、振り下ろされた。

 そして、オレの意識は、この瞬間をもって途絶えた。

 

「……」

「アレ……? うずめって……封印された筈じゃ……?」

「初めまして、『天王星うずめ』さん。私の名は『パープルシスター』。あなたの後輩にあたる女神です」

「え、あ、うん、よろしく……?」

「突然のことで驚いていると思いますが、あなたに一つやって欲しいことがあります。協力してもらえませんか?」

「やってもらいたいこと……?」

「あなたの持つ『妄想力』で、この世界を改変してもらいます。滅びに向かうこの世界を止めるために」

 

 

 

 

 競争による発展が大事だと言われる。あの犯罪神ですらそのようなことを言っていた。

 しかし、女神が一人(厳密に言うと復活した天王星うずめさんもいるが)しかいない今のこの世界で、競争は起こらない。守護女神という概念が根付いたゲイムギョウ界で、女神の存在抜きで競争を創り出すのは難しいからだ。

 だから、そうじゃない世界に創り変えることにした。

 女神という絶対の統治者の下に、四人の守護者を置き、その守護者に帰属する勢力で競争を行わせ、発展を狙う。

 人間の中から、適性のある者四人を見出し、彼女らに力を与え、世界を改変し、守護者の立場も与える。

 その守護者たる彼女らのことを『ゴールドサァド』と名付けた。

 

「今のところ上手くいってはいます。かつての四女神の皆さんのように、ゴールドサァドの皆さんが作る個性豊かな四国が競争を行い、発展が見られます」

「そうですか……」

 

 しかし、女神の役割を人間が行うというのは、あまりにも不安定だ。

 シェアを得ればいくらでも生きる女神と違い、人間であるゴールドサァドたちは寿命がある。人から人へ継承させることで存続させること自体は可能だが、人が願えば生まれる女神と違い、ゴールドサァドの適性がある人間が必要な時に常に生まれているとは限らない。

 極力そういう因果になるようにうずめさんに世界を改変してもらったが、イレギュラーというものはいつか必ず発生する。

 

「ねえ、ぎあっち」

 

 うずめさんが復活して、孤独じゃなくなったのは、ほんの少しの心の救いだ。私の使命に付き合わせてしまって申し訳ない気持ちはあるし、そもそも私が救われて良いのかという疑問はあるが。

 

「ぎあっち……? それよりも、うずめさんまでずっと女神化している必要はないですよ?」

「でも、ぎあっちがずっと女神化してるから」

「これは、私の罪に対する戒めのようなものです」

「じゃあ、うずめも一緒に背負うよ」

「気持ちは嬉しいのですが、お断りします」

 

 うずめさんは本当に優しい人だ。優しい人だからこそ、悪意の捨て方が分からず、自分の中に溜め込んでしまい、あのような第二人格が生まれてしまったのだろうが。

 

「これは私の罪に対する戒めと覚悟のようなものですから。私一人が背負いたいんです」

「そっか……」

「それに、うずめさんには助けられました。うずめさんの力が無ければ、世界がまた発展に向かうなど叶わなかった」

 

 この改変は、ある意味新たなる女神の誕生を永遠に拒むものになる。特殊な力を持つ人間が女神の代わりに信仰と力を持つ、そうなれば人々は新たな女神の誕生を願うことはない。人々が女神を求めないように世界を改変したこともあるのだが、女神がいなくても廻る世界に人々はわざわざ女神の存在など求めないからだ。

 それに、たとえ同族の誕生を永遠に断つことになっても、世界の存続を優先しなければならない。

 

「私たち女神の存在意義は最早、ゴールドサァドや国同士の争いの調停に過ぎません」

「みんな良くやってるからうずめたちが出張る必要もないもんね」

「ずっとそうであれば良いのですが……いえ、そうしなくてはいけないですね」

 

 先程も述べたが、この世界は一見安定しているように見えるが、不安定なのだ。

 女神は人々だけでなく、自らが統治する国の大地や自然すらも守護できる。しかし、ゴールドサァドにはそこまでの力は無い。

 形式だけ似せても、全てが同一ではなく、女神の統治よりもゴールドサァドの統治は安定感が欠けるのだ。

 勿論、彼女らに否があるわけではない。これは人間と女神の生物としての違いというものだ。

 

「そのために、私にはやることがあります」

 

 だから私は、その『不安定』を『安定』させるために、世界の楔になることにした。

 

 

 

 

「本当にやるんですか?」

 

 ネプギ……パープルシスターさんは、自らが世界の楔になると言った。

 世界の楔とは、自信が世界そのものと融合するという形で、世界の安定性を確保するためのもの。一人の女神では到底行えないことだが、今のパープルシスターさんにはそれを行えるほどの力が有る。

 しかし、それを行えば、意識という概念がなくなり、世界に溶ける。パープルシスターさんという女神は、ここで消えることになってしまう。

 

「良いんです、私が決めたことですから」

 

 パープルシスターさんは、曇りなき眼で言う。

 本当にこれでいいのだろうか。

 世界の為に尽くしてきた英雄の結末がこれとは、あまりにも哀しくないだろうか。

 罪を、悲しみを背負い、心を殺して世界のために尽くしてきた姿を誰よりも近くで見続けてきた私だからこそ、疑問を持ってしまう。

 

「イストワールさん、そんな顔しないでください」

 

 そんなわたしを諌めるように、パープルシスターさんは言った。

 

「これで、ようやく本当の意味でこの世界を救える。胸を張って、世界を護り抜いたんだって言えるんです。こんなに嬉しいことはありません」

 

 そして、ゲハバーンを覚醒させた日から一度も見せたことのなかった笑顔を、私に向けた。

 

「イストワールさん……いーすんさんっ!」

 

 私のことを痛いぐらい強く抱きしめ、あの日から呼ばれなくなったあだ名でまた呼んでくれた。最後の最後に、まだ彼女が『候補生』だった頃のような懐かしい愛らしさを、私に見せてくれた。

 だから、私は彼女の選択を尊重する他なかった。

 

「うずめさん、あなたのおかげで私は一人じゃなくなったのに、今度はあなたを一人にしてしまってごめんなさい」

「気にしなくて良いよ。本当にお疲れ様。ぎあっちが楔になれば世界は大丈夫だと思うけど、それでも何かあったらうずめがなんとかするから」

「はい、お願いします」

 

 うずめさんとも別れの言葉を交わし、パープルシスターさんは、ゲハバーンを自身の身体ごと地面に突き刺す。

 

「ぐ……っ! はぁああああッ!」

 

 そして、己の全てを力に変え、身体は光となり、世界に溶けて一つになっていく。

 その全てが完了し、大地に静寂が戻った。

 

「終わったね」

「ええ、終わりましたね」

 

 さようならネプギアさん。

 あなたは自分のことを罪深い女神のように言い続けましたが、あなたこそ最後まで世界に向き合い続けた素晴らしい女神様でした。

 その魂が、永遠に安らかなることを、私は心から願っています。

 

 



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セクハラされる女神候補生 ( ブラン ユニ )


 4/20ネプテューヌワンドロお題『ユニ』にて投稿させてもらったものです。
 R-15ぐらいなので苦手な人は我慢して読んでください。



 

 

「ユニって、私と一緒に貧乳女神代表みたいな感じ出してるけど、女神化したあの子胸が小さい"だけ"でスタイル超良いしやけに色気あるし普通に"持ってる側"だと思わない?」

 

 唐突に、ブランはネプテューヌにそう言った。

 

「どしたのブラン? 何か嫌なことでもあったの?」

「いえ、思ったことを言っただけよ。こういうくだらない話題を出せるのはあなた相手ぐらいだもの」

「えへへ、それほどでも」

 

 照れるネプテューヌに対し、ブランは「褒めてはいないけど」という言葉は口に出さないでおくことにした。

 

「それで、なんでいきなりそんなこと言い出したの?」

「それは、この前ユニと貧乳女神会議をしていた時に──」

「ちょっと待って回想に入らないで。貧乳女神会議って何?」

「名前のとおりよ。ベールみたいな女神に胸がデカいだけで態度までデカくされるのが我慢ならないから『私たち(貧乳女神)はどう生きるか』という議題で話し合う会よ」

「そんなアカデミー賞作品みたいな……でも、面白そうだね。わたしも行ってみていい?」

「良いけど、もし女神化したら殺すわ。私とユニ二人がかりで」

「怖っ⁉︎」

「というわけで回想に入るわね。あれは数日前──」

 

 ブランとユニが、第二十四回貧乳女神会議にてルウィー教会の秘密の部屋に集まっていた時のこと。

 

『ブランさん、この豊乳ストレッチって本当に効果あるんですか?』

『それはやってから確かめるしかねえよ』

『そもそも、なんで女神化してからやるんですか?』

『女神化前のお前って言うほど胸無くないだろ? ストレッチ用の薄手のトレーニングウェアに着替えたとするだろ? それなりのサイズのお前の胸が強調されるだろ? ムカつくだろ?』

『……そ、そうですか』

 

 下手にホワイトハートを刺激しないために、ブラックシスターはこれ以上何も言わないことにした。

 お互い無言でのストレッチが続く中、ホワイトハートはブラックシスターの身体を凝視する。

 

『……ふむ』

 

 すると、ブラックシスターの腰を掴んだ。

 

『ひゃんっ⁉︎』

『気にすんな。続けろ』

『は、はいぃ……』

 

 そして、ブラックシスターの尻を鷲掴みにする。

 

『きゃっ……⁉︎ ちょ、何するんですか⁉︎』

『これもストレッチの一環だ。そして、一人前の女神になる為にも必要なことだ』

『そ、そうなんですか……?』

『あぁ、戦いにおいて常に敵はダメージだけを与えてくるわけじゃない。こういった羞恥的なことをしてくる奴だっている。ノワールは真面目だからそういうことをあまり教えないだろうがな』

『……わかりました。頑張ります!』

『良い返事だ』

 

 そしてその後、ホワイトハートはブラックシスターの尻を揉み続け、たまに太腿をさすったりした。

 

「──そして私はユニの身体を弄りながら気づいたのよ。あの子、胸がないだけで身体は一級品だって」

「何サラッと後輩にとんでもないセクハラかましてんのさ」

「あの子私が何やっても一人前の女神になる為って言ったら納得してくれたわ」

「それノワールに聞かせたら殺されるよ?」

「だからあなた相手に話してるんじゃないの。まぁ、魔が差したとはいえユニには申し訳ないことしたと思っているわ。今度会ったら謝るつもりよ。あなたには懺悔がしたかったの」

「なら良いけど……」

 

 二人が話していると、部屋の外から何者かの気配を感じ取った。

 

「……ん? 誰か来たわね」

「今日はロムちゃんとラムちゃん遊びに行ってるんじゃなかったの? 帰ってきたのかな?」

「まだ帰ってこないと思うけど……」

 ブランがドアを開けると、そこにはユニが立っていた。

「あ、ブランさんこんにちは!」

「あら、ユニ。どうしたの?」

「あの……その……」

 

 ブランの問いに、ユニは少し顔を赤らめ、モジモジしながら話す。

 

「こ、この前してもらった『一人前の女神になる為の修行』ってやつ、またして欲しくて……」

 

 するとユニはブランの後ろにいたネプテューヌに気づき、ハッと正気に戻る。

 

「……あっ、ネプテューヌさんっ⁉︎ す、すみません邪魔しちゃって! 今日は帰りますね! また今度来ます! さようなら!」

「え、えぇ……さようなら」

「ばいばいユニちゃーん」

 

 そしてそそくさと去って行った。

 

「……あーあ、ハマらせちゃったね。悪い先輩だね〜ブラン?」

「やりすぎたわほんとに……どうしましょうこれから……」

 

 ブランの苦難の日々が始まるかもしれないのだった。

 

 



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