おはようノエル (白紙の日記)
しおりを挟む
おはようノエル
「……おはようノエル」
私の朝はノエルに挨拶するところから始まる。
2人で寝られるように大きく作ってもらったベッドから出て、早朝の肌寒さを感じながら
リビングに向かう。
朝ご飯を作るのは私の仕事だ。
暖炉に魔法で火をともし、パンと水を入れた鍋を暖炉に乗せる。
「最近寒くなってきたなぁ」
しばらく暖炉の前で温まっていると鍋がクツクツと煮立ち始め、
少し焦げ目がついたパンをひっくり返す。
昨日庭で摘んでおいたミントをポットに入れハーブティを淹れる。
ハーブティをひと口だけ飲んでカップをテーブルに置き、ノエルのもとに戻る。
「おはようノエちゃん……今日はふぶちゃんとわためぇが来てくれる日だったよね」
布団を軽くめくりノエルの腕を肩に回し抱きおこす。
「上手くなったもんでしょ!
最初はノエちゃん思ったより重くって大変だったんだよ~…うん。」
リビングの真ん中に置かれたテーブルに、向かい合わせに座る。
朝日に照らされた、いつまでも眠そうなノエルの顔を眺めていると、焦げ臭い香りが漂ってきて
急いでパンを取りに行く。
テーブルに戻り、片面が残念に真っ黒になってしまったパンを前にいただきますの挨拶をする。
「ノエちゃん見てたらまた焦がしちゃった。アハハ……。でもノエちゃんも良く焦がしてたよね」
焦げたパンはザリザリとした触感で苦みもある。
パンをひと口ほおばるごとにハーブティで流しこむ
変に思うかもしれないが、私はこの瞬間が好きだった。
「ふう。ごちそーさまでした!」
ノエルのカップには、なみなみと注がれたハーブティが入ったままだ。
私はぼーっとすることが増えたように思う。
特に何かしたわけでもないのに時計は10時を指していた。
今日はふたりが来るから一応準備をしなければならない。
気を引き締めて掃除の支度を始める。
服が入ったタンスの上、日差しの入る窓、最後に軽く床を掃いて掃除は終わってしまった。
あまりにもあっけなく片付いてしまった部屋を見渡すも、シンプルな家具と
椅子に腰かけるノエルがいるだけだ。
何かもっと装飾をした方がいいかと考えながら寝室に戻る。
壁に飾っている剣と弓を手に取りベッドに腰かける
鞘に綺麗な装飾が施してあるこの剣はノエルのもので、この弓はわたしの。
並べると不釣り合いだと思うけど大事なものだから飾ってしまっている。
両方ともほこりは付いていないけれど丁寧に布巾で拭いてゆく
「~~~♪ ~~~~♪」
またぼーっとしていたようで手に持ったままの弓と
ベッドに置いたままになっていた剣を壁に掛ける。
するとチャイムの音が響いた。
「こんこんきーつね! げんきかい?フレア」「ふーたん久しぶりだねぇ!」
玄関の扉を開けるとバカタレなふたりが待っていた。
「ん~ふたりとも久しぶりだねぇ!早くはいってはいって~!」
ふたりをリビングに通して、淹れ忘れていた紅茶をいそいそと準備する
「……やっぱりフレア達の家は落ち着くねぇ!」
「そぉだよね~まったりしちゃうよねぇ~」
ふたりは用意していたお菓子をつまみながら、もうグダグダしている。
「もーお茶もまだなんだから全部食べないでよー」
「「はーい!」」
ふたりは気の置けない数少ない私の友人だ。なんでもないこの返事が嬉しい。
「ほら、ふーたんもはやく席についてよ」
急かされながら、こぼさないようにポットをテーブルに運ぶ。
「お待たせ~、じゃあ注いじゃうね~」
私とふたりの分のカップを並べて紅茶を注ごうとすると
「…フレア、ノエルの分飲んでもいいかな?」
「うん、、ありがとう」
そういうとノエルの前にある冷めてしまったハーブティを飲み干してくれた。
改めて4つのカップに紅茶を注ぎ、4人でテーブルを囲んだ。
その後は3人で昼食を作り、雑談をしてふたりから最近あったことを聞いた。
夕方になり近くの町までふたりを見送った。
ふたりは私を心配してくれていつでも遊びに来てくれていいと約束してくれた。
……寂しくなったら会いに行こうかな。
ひとりで帰る道はいつもより長く、日が落ち始めた空は高くだいだいに流れていた。
家に帰るころには辺りはどっぷりと暗くなり、家の温かな光が眩しかった。
「ふー、寒かったー」
「おかえりフレア~! フレアがいないから団長おなか空いちゃったよ!!」
「 」
私は勝手に流れる涙をそのままにノエルに抱きついた。
目次 感想へのリンク しおりを挟む