グラスワンダー【アメリカンシスター編】 (メンダコとスミス)
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Fooo!!Foooo!!
「さあ、ついに夢の舞台が開かれます『URAファイナル決勝』優駿の栄光を勝ち取るのは誰なのか!?」
「まもなく第四コーナー最後の直線に入り、ああっとここで抜け出したのはグラスワンダーとスペシャルウィーク!! 後からエルコンドルパサーも追いかけてくる!! 最終直線っ、セイウンスカイも粘っているぞ!!」
「誰が来る!? 並んでいるぞ!! 残り200四者一線譲らない、譲れないぞ!!!」
「「「「はぁああああああああああああっ!!!!」」」」
「っっ……雪崩れるようにゴールイン!!! 歴史に残る激戦だぁああ──。もっとも早く栄光のラインを超えたウマ娘は……《グラスワンダー!!!!》最後の最後に一歩差しが伸びました!! 今ここに優駿たちの頂点が決まりました。おめでとう!!」
その後、類を見ないほどの熾烈な争いに会場は沸き立ち、人々は歓喜した。喜び、抱き合い、歌い。中には涙を浮かべ、悔しさをかみしめる者もいたが、それらを含めても皆どこか清々しさを感じていた。そんな、すべての人が感動を覚えるほどのレースで唯一の勝者となったグラスワンダーは……。
誰よりも……静かに震えていた。
「…………っ、……~~っ」
「グラス……」
「……! 、トレーナー……さん」
「あぁ、やったな」
「はぃ……っ、はい! これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。どこまでも」
最高の舞台、最高のレース、その中で最高の結果を手にしたグラスワンダー。その日は彼女はもちろん、トレーナーの俺にとっても忘れられない一日となった。
「……さん。トレーナーさん」
「……んん」
華やかな景色から一変、うつろいな意識の中で聞こえる声。
「うぅ……ん、……?」
「あら、やっとお目覚めに。ふふっ、こんなところで寝てしまっては風邪をひいてしまいますよ」
少し目が覚め、視界のぼやけが引くと、さっきまで自分一人だけだった空間にもう一人少女が加わっていた。
その姿は見るものに安心感を与える柔和な雰囲気をまといつつも、その蒼い瞳には比類なき強さを秘めている。担当ウマ娘であるグラスワンダーだった。
「グラス……か。悪い、今後のトレーニングメニューを考えてたら、うたた寝してた」
「そんなこと言って、また他の方にされた相談にも熱心に取り組んでいたのではありませんか?」
ギクッ……
「いや、まぁ、その……なんだ? 困ってる子に自分にも何かできることがあったらな……みたいな?」
実のところ、先のURAファイナルでグラスワンダーが勝利したことで、トレーナーである自分にも脚光があたり、最近はトレーニング方法や走り方についての悩み相談を受けることが多いのだ。
「はぁ……トレーナーさんが良くても、それで体調を崩されては意味がありませんよ? もう少し自分の体にも私に気遣っているのと同じくらいご自愛ください」
「えぇ……あぁ。でもなぁ、相談にくる子のほとんどは選抜レース前のまだ担当のついてない子たちが多くて、みんな光るものを持ってる優秀な子たちなんだよ。今後が本当に楽しみだなぁ、あっそういえば、昨日訪ねてきた子はな……
「はいはいこの話はもうおしまいです、まったくトレーナーさんのウマ娘への熱情は感服いたしますが、何と言いますか……その、
「それでその子の脚質がグラスに通ずるな~ってところがあって。その子のトレーニングを見てるうちにもっとグラスに合う鍛え方を思いついてしまい。で、それをこねくり回してたら、まぁ、ねてた」
どやぁ……自信満々に自分の成果を自慢すると、グラスワンダーは少しだけ目を細め頬をぷくっと膨らませた。
「トレーナーさん、そういうことをなんというか……ご存じですか?」
あれれっおかしいな。にこっと、あらかわいいな顔に凄みと背景に《ゴオォォォッ!!》って見えるのは自分だけかな?
「そっ、そうだった! 寒いよな今お茶でもいれるから……
緊急脱出を開始する!
「ご心配なく、トレーナーさんが寝ている間に淹れておきましたから」
ジャンプパッド、✖封鎖✖!
「ええ……と、ああ、この後会長に用があるとかなんとか」
ポータルを設置したわ!
「ふふっ、ご一緒いたします」
ポータル、✖封鎖✖!
「ぐ、グラス……さん? あ、圧が、」
「あらあら、どうしました……トレーナーさん♪」
う、うわぁぁああぁあぁあぁあぁぁぁあ!!
「ふふっ、なんて……冗談ですよ。体を大切になさってくださいね、私からの甘言です」
あらあらまぁまぁ。
「甘言にしては少々辛口なような……」
「ふふっ」
「いや、ちょっと本気が入ってたよね!?」
「ふふっ」
「あの……
「ふふっ」
「……以後、気を付けます」
「よかった、言葉を交わさずとも《心を以て心に伝う》トレーナーさんに伝わっていただき嬉しい限りです」
「ははっ……、そうだな……」
本当に強くなったなぁ(汗)。でもこんな会話もこれまでの三年間、二人で積み上げてきたものの一つなのかもしれない……のかも。
その後、グラスワンダーとお茶をしながら嫌々溜めてた書類作業に邁進する(させられる)。
「またあの時の夢を見てたんですか?」
「あればっかりは何度見ても震えるんだよなぁ。会場の人間はみんな一人のウマ娘に魅了されていた。湧き上がる歓声、とどまることを知らない賛辞。でもその中で、お前は……いや、グラスは……震えていた、そこの空間だけはまるで聖堂のように静かに、燃え上がる炎を内包して……な。俺はその光景に心の底から感動って言葉が安く聞こえるくらい震えたんだよ」
「で、あらためて思った、お前の走りをもっと見たいなってな。そのためなら、この身も惜しくはないな……って思っただけだ」
「ウマ娘として、これ以上ないお言葉ですね。これからもそういってもらえるように精進してまいります」
……今!
「だから、ほかの子の相談に乗るのも新たな可能性を調べる一手として
「ご自愛ください」
「……はい」
トントンッ
「よし、ようやく片付いた」
トレーナー室を巣食っていたおびただしい書類の山はグラスワンダーの協力? により何とか終わらせることができた。
「お疲れ様です」
「こっちのセリフだ、ありがとな、グラスのおかげだ。相変わらずいつまでたっても書類ってのは苦手なんだよなぁ」
また提出が遅いとかでエアグルーヴに怒られるんだろうなぁ。やだなー。
「いえいえ、ウマ娘を支えてくださるのがトレーナーさんであるのは然り、そのまた逆も同義ですからお互い様です」
なんだただの女神か。まぶしくて直視できねぇぜ。
「そう言ってもらえると助かる。じゃあ、最後にこの書類を生徒会室に提出したらお終いだな」
「ご一緒します」
「よし、~エアグルーヴの説教【シンボリルドルフのため息を添えて】~イクゾー!」
「いよいよ次はドリームトロフィーリーグだな」
「そうですね、これまでも凡庸な道ではありませんでしたが、これからは最初の三年間を走り抜いた方々を相手にしなくてはなりません。どの方もその走りは力強く、また技術も研ぎ澄まされているとお聞きしています。より一層、帯を締めなければなりませんね」
ウマ娘の多くは最初の一、二年で心折れ去っていくものが大半であり、三年目も結果を思うように残せず引退していく。つまりその先にいるウマ娘たちはほぼすべてが輝かしい実績を積んできた古豪たちであり、各クラスのレースも今までとは一線を引く次元のレベルとなっている。
この学園にも幾人か先人たちが在籍しているが、生徒会長のシンボリルドルフ、エアグルーヴと引き続いて、⁽怪物⁾の名を冠する彼女も……。
「ああ、いよいよ……だ」
「はい、無論勝ちを譲る気など毛頭も」
改めて二人の目標を再確認し合い、闘志を高める。
「よし、じゃあ今から受けるお説教の覚悟もできたということで……。生徒会室に、突撃じゃあ!! うぉおおおおおおおおおお!!!!」
勢いよくドアを開け生徒会室に飛び込む、どこか書類を置ける空いたスペースはないか!?
〇サーチ、生徒会長の机が空いてます。
よし、ここに書類を全部ここに放置してっとok
よし、あとはとんずらだ! ラッキィーたまたま留守でついてるぜ(キリッ)
「よしグラス、俺は逃げるからあとはその書類を……ぶふっ
ポヨンッ
「はいゲットー、お姉さん逃がさないわよぉ!」
「なっ、マル、ゼ……」
柔ら、苦し、柔ら、ポヨンポヨン苦ポヨンポヨンポヨンポヨンポヨンポヨンポヨン天……
「あら、マルゼンスキーさん。こんにちはご無沙汰しております」
え、助けてくれないの? そこはスルーなの!?
「ハーイ、グラスちゃんこんにちマッスル。元気そうでお姉さんも安心したわ。これからのレース、楽しみにしているわ」
ひょうひょうとしているがその目は獲物を見定めるハンターの目だ。
「もちろん、ご期待を越して見せますのでどうぞご期待ください」
モゴモゴッ
二頭の猛獣でしたか焔と蒼炎って感じだなぁ。ってか助けてくださいマジで!!
「あらっ、いいわねぇ。早速熱くなってきちゃったかも、何なら今でも……」
「あらあら」
モゴモ……チーン
「あっ、いっけなーい。大丈夫~?」
「あっ、あっ」
これだけは……言わせてくれ……。
「「あ?」」
「あ、ありがとう……ございました」
ガクッ
「あら~、かわいい」
「……むぅ」
「……ろ、……きろ」
あれ、冒頭と同じ流れだ。
「……うぅ」
なんか苦しい?
「さっさと起きんかこのたわけ!」
ドカッ
「ウボァッ!? なにこれ痛いっ!?」
えっ、どういう状況!? なんか、がんじがらめで吊るされてるんですけど!?
「貴様というやつは、いっつもいっつも会長の手を煩わせおって、この書類の納期なんて二か月前だぞ!? 社会人としての自覚はどうした!? 生まれて持ってこなかったのか? ならば今ここで文字通り叩き込んでやろう!!」
ボカッ、ドスッ、ベキッ!!
「ハゲッ、ドボァッ、プギッ」
お、おいt、今度こそ助けてくれ!! 死ぬ、これ死んじゃうやつだから!!
「おぉっ、どんどんパワーが伸びていくぞ。貴様っ、パワーlevel4の練習器具としての適性があるようだ。よかったな新しい就職先だぞ!」
「いやぁあああああああああああああああああ!!!!」
「あら~、ウマ娘って普通の人間と比べると圧倒的に強い腕力を持ってるはずなのに、それをあんなに受けてもピンピンしてるわぁ。あの子って意外とそういう才能があるのかしら」
「グ、グラスぅううううううう!!」
「トレーナーとして、ウマ娘を成長させるために『この身も惜しまない』とはこういう意味でしたか、私、少々言葉の意味を間違えていたようです」
「合ってるからぁあああああ」
えっ、なんで急におバカな子になっちゃったの!? お父さんそんな子に育てた覚えはなくってよ!!
「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」
ごめんみんな……さよ……な……
「エアグルーヴ、その辺にしておけ」
「はっ」
号令を機に無情なオラオラは即座に終了し、はかない命はギリギリのところで散らずに済んだ。
「少しやりすぎだ、すまないな。だが、君も少しは肝を冷やしてくれると助かる。いつも君の書類は彼女が率先して当たってくれているんだ」
「……そうか」
「ふふ、あまりいじけないでくれ、彼女も悪気ばかりでもないということを知っておいてほいいだけさ。悪気がないとは言えないけどね」
「申し訳ありません」
「……ん」
普通に気に食わないがこう諫められてはぐうの音も出ない。相変わらず、口が上手いやつだ。酷い目にあった、さっさと帰って寝よう。
「よし、じゃあこの話はおしまいだ。本題に入ろう」
「「本題?」」
えっなんのこと?
「グラス何か聞いたか?」
「いいえ、私も今言いましたのでとくには……」
全く大人を呼ぶなら前もってアポなり連絡を取るのが一般常識だろうに、お嬢様にはそこら辺のところが抜けてるのかね。
「いや、普通ならしっかりとした手順で呼ぶのだが、君、絶対に来ないじゃないか」
「…………」
やめろ、こっちを見るな。
「トレーナーさん……」
おい、やめなさい!
「まぁ、そういうわけで私が捕獲役ってことで呼ばれたのよねぇ」
なんで来るのが分かったんだよ。あっ、そういえばルドルフって『大局観』のスキル持ってたっけ? あぁ~、それで視野が広がってなるほど~ってアホーっそんなわけかーい!!
パンッ!
「さて、ここからは至極真面目な話なので真剣に聞いてもらおう」
緩んでいた空気が一瞬でピりつく、ルドルフから発せられる覇気のようなオーラによってその場の全員が引き締められる。
「君たちをわざわざ呼んだのはもちろん君たちに特別な用事があるからだ。要件は二つ。まず一つ目。これを見てくれ」
そういって、手渡されたのはかなり立派に仕立てられた手紙? サイズの便箋だった。
「なんだこりゃ?」
「拝見しますね。……えっ!? そんな!?」
グラスワンダーは取り出した中身を読むと驚きのあまり絶句してしまった。いったい何が書いてあったのだろう。もしかして俺クビになっちゃうの!?
「ちょっと見せてくれ、えー、なになに。『本紙はグラスワンダー様宛』なんだ、グラス宛か。ビビったぁ。そろそろやばいカモとは思ったけどセーフ、よかったー」
「うつけ! 重要なのはその先だ。宛名で読むのをやめる馬鹿がいるか」
「はいはい、分かってますよ。それで? 『この度のURAファイナル優勝誠におめでとうございます。つきましては、8月に本国にて行われるダイアナステークスへの…………招待状!?」
「ということだ」
「ということだ、じゃねーよ。ダイアナステークスって、これアメリカのレースだぞ! しかもG1の」
「承知している」
「確かにこれはすげーことだがこっちにもこっちの都合ってもんがな。こちとらこれから始まるドリームトロフィーリーグへの調整で予定を埋めてるんだよ。さすがにあっちのレースともなればそれなりの準備は必要だし他のレースも考えるとなると……無理だ。今すぐ丁重にお断りし……
「お受けいたします!」
「えっ??」
今なんて。
「グラス? お前……」
「トレーナーさん急なお話なうえ、無理なお願いとは存じますがお願いします。私をダイアナステークスに出走させてください!」
おいおい、これからの予定全部ひっくり返していきなり海外に出走ってなかなかやばいことだぞ。トレーナーとしては百止めるべきだ。……が、なんて強い目してやがる。まあ、そういうことなら、うんまぁ……そういうことなんだろうな。
「急な話ですまない。しかし、三日以内に返答をしてほしい。もちろん強制はしないが本校としては……
「了解だ。その話承った」
「トレーナーさん……」
「いい……のか? 相当無理な招待だと私自身も感じている、勧めはしないぞ?」
「おおっと、珍しく女帝さんも心配してくれるのかい?」
「……っ、バカいえ。私はグラスワンダーのことを心配しているだけだ」
「とはいえ、本当に受けてくれるのかい? 学園としては好ましい限りだが……」
「お前らから振ってきた話でお前らがウジウジすんじゃねぇ。グラスが走るっていたんだ、なら俺はそれを最高のコンディションで走れるのをサポートするだけだ」
「なるほど、その覚悟見せてもらったよ。なら、これ以上は蛇足だな。よし、話もまとまったところでスムーズに二つ目の要件に行けるよ」
ああ、そういえば要件は二つあるって最初に言ってたっけ。忘れてた。
「それで、二つ目は?」
「ああ、学園理事長の依頼だ。アメリカ合衆国ニューヨーク州にある当校と並ぶ歴史と実績を誇るウマ娘名門校マスタービーツ学園との交換留学だ。ここトレセン学園ではアメリカ出身で目覚ましい成長をしたウマ娘は少なくない。ここにいるグラスワンダーが一番の例だな。よって本校との交換留学で有望な学生を成長させつつグラスワンダーの実力を皆の参考にと招致したいらしい」
「それって、こっちになんかメリットが特にないように感じるんだが。あっちだけ得してないか?」
「と、私も一見は思う。が、あの敏腕な理事長のことだきっとその先を考えているに違いない」
「ちなみに、なんて言ってたんだ」
「『なんか面白そうだし、承認』だそうだ」
ぜってー何も考えてないだろそれ。
「まぁ、とにかくだ。学園としては他行と交流を積極的に持てるのに悪いことはない。それにだ、君たちにとってはむしろ都合がいいまである。ダイアナステークスは8月、期間としてはかなり余裕がある。その間の滞在場所にもなるし、それに加えてあちらで籍をおけばアメリカでのレースへの出走権もある程度は融通が利くというものだ。それらは本命のレースに出るにあたって非常に有意義になると思うのだが」
「うむむ……確かに」
すべて聞くといいことしかないように……感じる。そうだグラスはどうなんだ? すべての環境が一新されるのは精神的なストレスが激しい。調子を著しく落とす可能性もある。これは、さっきよりも慎重に考えるべきだ。
「なあ、グラスはどう……
「…………」
返事がない、その様子はどこか上の空といったようで。
「グラス?」
「……っ! はっ、はい。なんでしょうか?」
「大丈夫か?」
「はい、もちろんです」
「よし、で、留学についてだが」
「はい、謹んでお受けします」
「そうだよなぁ、やっぱすぐには……って早!? 判断早くない? ちょっとは不安を感じようよ? 知らないところだよ? ストレスもあるかもしれんし」
「あら、それで心配を。ふふっ、トレーナーさん。私の出身がどこか、まさか忘れちゃったんですか? 確かに不安がゼロ……というわけではありませんが、それでも私は向こうで走りたいと思います。それに」
「それに?」
「私、お姉ちゃん……ですから」
「えっ、お姉ちゃ……あ……あー、あ~なるほど。そういうことか……わかっ……た。了解だ、それで行こう」
「察していただき恐縮です」
「よし、これですべての話はまとまったな。では、グラスワンダーおよびトレーナーの二名をトレセン学園代表の留学生として生徒会長シンボリルドルフが承認する。わが学園の実力を遺憾なく異国の地でも示してきてくれ、健闘を祈る!」
生徒会室を後にした帰路にて。
「はぁ、しっかしずいぶん大ごとになったな」
まさか書類を提出しに行っただけなのに海外に提出されることになろうとは。
「合縁奇縁といいますが、何が起きるかわからないものですね。しかし、そんな中でも私のわがままを通してくれるトレーナーさんには感謝の言葉しかありません。ありがとうございます」
「そゆのはなしだっていったろ、巡り巡って最後は自分のためさ。気にすんな」
少しばかりのこそばゆい気持ちをごまかすようにグラスワンダーの頭を少し柔らかくなでる。
「……もぅ、ずるい人」
「ん、なんだって?」
さて、帰ってから大仕事だな準備することが山積みだ。どうやら気を引き締めないといけないことは変わらないらしい。
「なんでもありませんよ~、ところでお聞きしたいことがあるのですが」
「なんだ?」
よし、帯を締めなをさねきゃな。こいつの前でくらいドンと構えてやらねぇと。
「その……胸筋、いえ、ええと……お胸はやっぱり殿方としては大きいほうが……」
Oh……マジか、あーあの時の、……
[……え、えーっと……だ、な。その……、あの。……」
to be continue
こんな感じでゆったり書いていく予定です。
これ見てグラスワンダー好きが一人でも増えたらうれしいです。グラスワンダー好きになったわとか、よかったらコメントしてください(笑)
煽りコメとかはなしでお願いします。お豆腐メンタルなので。
いつも、ご愛読ありがとうございます。
twitterもやっていますので、良ければ新話通知用にどうぞ。
https://twitter.com/mendakosumith
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Helloアメリカン!サヨナラ世界!
「Hello アメリカ!! 乗ること飛行機で7時間、なかなかに長い旅だったなぁ」
遠征の通知を受けてからというもの、俺たちは何故かすでに予約されていた飛行機のチケットの
予定に間に合わせるため大急ぎで荷物をまとめ日本を飛び立った。
去り際にチラッと顔を見せた理事長のにやにやを俺は見逃さない。あのちびっ子め、いつか泣かす。
……っと、それより今は。
「あの、トレーナーさん?」
「はい、何でございましょうか? グラスワンダー様」
「その話し方、いつまで続けられるおつもりですか?」
「いえいえ、私はいつも通り、ありのままのトレーナーですよ」
あ~あ、この作者、しばらく書かないから前回の人格忘れちゃったんだなぁ。。。ってなわけねぇだろ!!
一旦、垂れ幕は入りま~す。
前回のあらすじ!!
突如、究極の選択を突き付けられたトレーナー。彼が選ぶのは本当の自分か(ボイン)、それとも偽りのやさしさか(……)。
前者を唱えば、間違いなく死。ゲイ〇ルグ並みの因果的な死は避けられないだろう。
「おれ、は……」
おい……まさか、迷ってるのかっ!?
迷うまでもない、後者を唱えば助かるのだ。〇✖問題のごとく明快な答えが目の前に転がっているだろう?
「うっ……」
命あっての物種。死を避けることの何が悪い!?揺るがない言い分が俺にはあるじゃないか?安心しろ、彼女のためでもある。命も助かる、彼女も悲しまない。これが……これ以上の最善があるっていうのか!?
「…………っ」
……そうだよな、何こんなことでいっちょ前に悩んじまってんだ俺。考えるだけ無駄だ、正解はそこに転がってるじゃないか。早く言って楽に……。
「……あっ、ああ。そーだなー、おれはーーーーー
……おい。
「ーーーーーっぐ!?」
彼女のため……って言ったよな。……本当か?本当にそれが彼女のためになると、本気で思ってんのか!?
、っ!?
ウマ娘とトレーナーは二人で一人。俺たちがこの3年間で積み上げてきた信頼はその程度のことで揺らぐものだったのか!? 違うだろっ、この『絆』はそんなに柔なものなんかじゃない!!
……そうだ。俺たちはこれまで、どんな困難も二人で乗り越えてきた。片方が折れそうなときはもう片方が支えた。苦しくても彼女がいてくれたからここまでやってこれたんだ。俺の人生で彼女以上に信頼できる存在はいない!
そう思うなら、わかるだろ!! 本当の自分を偽ること、それこそが信頼する彼女を侮辱する……最大の過ちだってことが!!
ああ、そうだ!!
大丈夫、お前たちには『おれ(絆)』がついてる。それに、ここで真を言わなきゃーーーーー
男じゃっ、、ねぇ!!!!
「うぉおおおおおおおおおお!!!! グラスッ!! 俺が本当に好きなのはーーーーー
垂れ幕、上がりまーす。
かくして、ありのままの自分をさらけ出したトレーナーは、無事担当ウマ娘の地雷を踏み倒し、生徒副会長専用のパワーlevel4トレーニング器具として出荷されたのは誰もあずかり知らぬことであった。
「いぃいいいいいいいいいやぁああああああああああああ!!!!!!!」
「オラオラオラオラオラオラオラァ」
おしまい。
……えっ?(絆)
チャンチャン。
ここから、今編。
「はっ!?」
い、今のは……。実のところここ最近、特に生徒会長室を出たあとの記憶がおぼろげなんだが、それって……
「……い、聞いてるのか貴様!!」
聞き慣れたフレーズが不意に飛び込んでくる。
「おい、副会長さんよぉ!!報復の覚悟は出来てんだろぉなぁあ!!」
日頃の鬱憤はらさずにおくべきか。みせてくれるわ!【トレーナー柔術壱の型:閂(かんぬき)】
某アニメの影響を受けて壱の型だけとりあえず作った描写表現も考えられていない雑な一撃が対象者を襲う。
「ふぉおおおおおお!!うぐっ!?」
ドサッ。
「……あの、私達が悪いのでしょうか?」
「申し訳ありません、普段は穏やかな方なんです。私が介抱しますので気に病まないでください」
ココハドコ、ワタシは誰?
「そうですか…。失礼、少々ごたつきましたがお迎えに上がりました」
「では、貴方達が?」
「はい、詳しくは理事長からと仰せつかっています。お車を用意しておりますので、まずはそちらへ」
礼儀正しい丁重な扱いを受け、一行は指示に従う。
しかし、グラスは感じ取っていた。彼女たちから放たれる闘気と、どこかにじみ出る不気味さを。
この学園は何かある。そんな、言い現せぬ不安を匂わせながら、グラスワンダーとトレーナー(失神)は学園へ向けて出発しだした。
いつも、ご愛読ありがとうございます。
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attr…
「……ん。ん」
「おはようございます、トレーナーさん」
目を開けると、すーっとこちらを見つめてくる端正な顔。その先に見えるのは天井だろうか。そして、後頭部には柔らかい感触。
……ふぅ。
「おれ、トレーナーやってて……よかった」
「あらあら、お寝坊さんが何か言ってますね。お体は大丈夫ですか?」
「ん、こんなのこの前ゴルシに食らったドロップキックに比べれば気持ちいいくらいだぜ」
記憶が飛ぶのにもそろそろ慣れてきたな。ここどこ?
「お目覚めのようですね、トレーナー様」
「……誰?」
「向こうの学園の方です」
グラスの言葉で、ようやく自分の状況を理解することができた。
「……ふむ」
目の前には、見慣れないウマ娘が2人。1人は金髪…と言うよりはプラチナゴールドな髪色の子。腰まではある長くおろした髪を先端でシュッと結っている。
もう1人は赤毛でミディアム、そばかすに眼鏡という感じで少しばかり控えめそうな雰囲気で、前者のひとつ後ろのシートに座っている。
特に先頭の子は鉄仮面、というか表現筋がお亡くなりなっているんじゃないかってくらい丁重な言葉とは裏腹に無表情だ。
いや待てよ、、これは……!!
「では、お揃いのようなので、軽く当学園のご説明をさせていただきまーー!?
ムニムニッ。
「きゃああああああ!!」
「きみ、いい足してるね。ここの筋肉なんてとってもいいバランスだ、けどここは少し多すぎるな。もしかして、最近スタミナ強化のトレーニングを中心にメニューを組んでないか?」
「えっ、…えと、は、はい」
赤毛の子は、急なことと、トレーナーの初見とは思えないあまりにも的確な指摘に目を丸くしながら、おずおずと答える。
「おそらく、メニューの中に偏りがあるんだろう。ここの筋肉にはまだ余白があるからこの部分のウェイトを増やすとよりバランスが良くなるぞ?瞬発力に関しては文句のない脚質だ、これからが楽しみだな」
「え、あっ、ありがとう…ございます」
ムニムニムニムニ
「うーむ、あと体幹と、ここももっと伸びるな」
「あ、あの…」
ムニムニムニムニムニムニムニムニ
「あっ…」
ムニムニムニ…ガシッ!!
「ん?」
「トレー、ナー、さん??」
ギリギリギリギリッ
「ア、ハイ」
あれれ?さっきまで俺の事を心配してくれた女神は?般若さんがおるんですが、あ、、やめてください。反対の手は握りしめないで!!
「大っ変、申し訳ありませんでしたー!!」
謝ろう、謝ってから話し合おう!
「えっ、あ、あの。全然大丈夫…ですので、、」
「あらあら、少しでもお気に触れば仰ってくださいね。学園の前へ行く前に警察署へ寄り道ていただきますので」
ちょっとぉおおお!!一応パートナーだよね、俺たちっ!?
「あー、ゴホンッ!!」
ビクッ!?
「そろそろ話しても……?」
「「「ごめんなさい…」」」
「では、改めて当学園に関するご説明をさせていただきます。まずはコチラを」
そう言われ、それぞれ手渡されたのは、1台のスマホ。
「これは…?」
「これは当学園内における、一種の身分証明書になります。基本的にこのスマホに搭載されているアプリを使えば、学園内の衣食住は不自由なく過ごせます。また、トレーニング施設の利用も同様です」
「へぇ〜、便利なもんだな」
おお、確かに色んな機能がある。トレーナー用は、担当ウマ娘に関するデータの管理もできるのか……いや、プライバシー的に大丈夫なのか?
……チラッ
「……?、どうかしましたか、トレーナーさん?」
……やめておこう。真実とは時に諸刃の剣なのだ。……ん?
「なぁ、このGPってのはなんなんだ?」
よく見ると、見慣れない文字が画面の右上に表示されている。【0】って書いてあるけど。
「あぁ、…それはこの学園独自の機能なのですが、今回VIPであるお二方には縁のないことですので、省略させていただきます」
「えっ、私のにはないのですが……なんででしょう?」
「細かい仕様は、実際に学園内で使っていただければ感覚的に掴めると思いますので、ご不明な点があればその都度メールでお知らせ下さい」
説明の最中、赤毛の子がさっきから何か言いたげな顔をしているが、目を合わせるとスっと顔を下げてしまう。
「それと、先程は彼女にアドバイスをして下さいましたが……彼女には無用なのでお気になさらずに」
は?
「あー、いやいやいやいや。確かに勝手な事を言っちまったのは悪かったが、悪意があった訳じゃーーー
「いえ、伝え方が誤っていたようです。彼女は選手ではなくただの【水汲み】ですのでお気遣いなくという意味です」
え、そんなわけないだろ。一目見りゃわかるぞ。あの子が必死に努力してる事くらい。
「おい、それはいくらなんでもーーー
「あ、あのっ!!」
っ!?
「わ、私の事は……いいですから。本当です。私は…ただの水汲みですので」
「だが…」
「説明は、以上です。以降はこれよりお話になられる理事長にご質問下さい」
それと同時に、車は止まり、ドアが開く。
「ようこそおいで下さいました、グラスワンダー御一行様。世界一の学園、マスタービーツ。どうぞ、ご堪能くださいませ」
車から降り立ってすぐに二人は、初めに感じていた不気味な違和感が確信に変わるのを感じた。
この学園には何かがある。先程の会話と言い、これはどうやら穏やかな遠征とは行かなそうだと帯を締め直す。
「グラス、」
「はい」
「気を引き締めろよ、ここはどうもきな臭い」
「…はい」
警戒心を持ちながら進んでいく二人、しかし、そんな想定をもはるかに超える試練が行く末に待ち受けているのを、まだ二人は知らない。
いつも、ご愛読ありがとうございます。
twitterもやっていますので、良ければ新話通知用にどうぞ。
https://twitter.com/mendakosumith
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get ready
……なぁ、みんな。
おれ、今どこにいると思う?
頭上を見上げればそこにあるのは星天の星々。今夜のマンハッタンは晴天なり、地上を見れば夜になれども、街ゆく人々の活気は静まることもなく。それは、この学園外にあるゴミ捨て場まで聞こえてくる。
ゴミ捨て場まで…聞こえてくる。
ゴミ捨て場……。
…………。
「って、なんでじゃああああ!!」
前回から急展開すぎるわ。読者以前にまだ俺がついてけてないわ!
……はぁ、一旦情報の整理だ。思い返してみよう。
遡ること2時間前。
車から降り、俺たちは学園内を案内されていた。
「正門から真っ直ぐ進んだここが、学園の講堂になります。ここから右の廊下がトレーニング棟、左は図書館棟になります」
「えっと、過去の大会データや現代科学に基づいた強化メソッドなどあらゆる情報を閲覧することができます」
「まぁ……」
おぉ〜、すげぇ施設。
トレセンは、歴史のある建築様式って感じだが、ここはそれから一変、最先端を具現化したような近代的な景色が広がる。
学園と言うよりは、効率を追い求めた巨大な実験室みたいだ。……ん?
「……トレーナーさん?どうかされましたか?」
「あ、いや……なんでもない」
目新しい光景に新鮮さを感じて浮かれているだけか、どこか違和感を覚えながらも案内は続く。
「以上で宿舎棟を除くすべての施設の説明を致しました。御二方ともお疲れ様でした。最後に我が校の理事長からご挨拶があるとお聞きしておりますのでご案内いたします」
…あぁ、ようやく終わった。トレセンも広い広いと思ってたが、それが狭く感じるほど、ここはデカかった。各施設も倍ほどの数があり、トレーナーとしては垂涎するほど充実している器具たち。
でも広すぎだ、さすがに疲れた…。
「大丈夫ですか?トレーナーさん」
「…ん、トレーナーさんはまだまだ元気よ」
とはいえ、慣れないことだらけでも、トレーナーの俺がしゃんとしないようじゃグラスも不安を感じちまうからな。
何より、こんだけ見れば違和感の正体にだってさすがに気づく。
そこんとこも含めてここの理事長には聞いておかないとな。
「失礼します。理事長、客人をお連れしました」
声とともに閉ざされていたドアが開き、中へと案内される。部屋の中は白一色。床、照明、机から小道具を含めた全てが徹底して白に統一されていた。さながら手術室を思わせるような人間味のなさ。
まさに、この学園の長が存ずる場所という感じだ。
しかし、そこに人の姿はなく…。
「…だれも、いなくね?」
「君の目は抜け穴かな?」
「ん?会長さんなんかいったか?」
「…はぁ、私ではありません」
あれっ、おかしいな。確かに声がしたと思ったんだが。
「どこを見ているんだい、駄犬くん」
「誰が駄犬じゃあ!…って、おっ?」
あー、そうゆうタイプかぁ。まっすぐな視線をすこ〜しだけ下げると、小さな女の子が俺のお腹に向かって話しかけていた。
「よしよし、君は理事長のお付の子かな?」
この学校の幹部はみんなお付をつける制度でもあるのだろうか?
「トレーナーさん、その子…」
「ん?、この子がどうした?」
小さくて可愛い子じゃないか。あ、そう言うと語弊が生まれそうだな。ちっちゃくて可愛らしい子じゃないか。ほら、この綺麗でいてきめ細やかな金髪、柔なそうな肌、アメリカ最高だぜ!
「……変態(ボソッ)」
長年連れ添った相棒から聞いたことない罵声がきた気もするが気にしない。基本的にはロング派なんだが、時折ショートがとても似合う人を見るとときめく、そんなこと君もあるんじゃないかな?
えっ、キモイ?、うるさいよ?
まったく、うちの理事長も年は近いんだからこーゆー風になれば良いだろうに、ほら、この子のショートをロングにしたらそっくりだろ。素材は良いのに。
あれ、よく見たらなんか似てるような、、……てか、似すぎじゃね?
「…まったく初対面から女児の体をジロジロと、これは私からの挨拶だ」
「……ん、…ん!?」
あ。
「ロリコン変態駄犬がぁあああああ!!」
「ギィャアアアアアアア!!!!」
説明しよう、少女の身長は俺の腹筋くらいの高さ、そんな少女がアッパーしたらどこに当たるかだいたい分かるよね。
「アッ…アウ、」
「自業自得です」
あっ、いつもなら「トレーナーさん!!」って心配もしてくれないんだ。
「そんなわけでようこそ諸君、我が学園へ。もうお察しだとは思うが私がこの学園の理事長、秋川つゆだ。」
「あ……、秋川?じゃあそれってやっぱり」
「ああ、そうだ。君たちの学園の理事長は私の愛しい姉君だよ。ま、親戚だがね」
ああ、やっぱり。
「それはそうと、私は時間を無駄にするということが1番嫌いでね。トレーナー君、きみ、私に言いたいことがあるだろ?一つだけ許可するから早く言ってしまえよ」
っ!?
「……よくわかったな」
「みんなそうだからね、ほら、はやく」
「じゃあ言わせてもらうぞ、なんでこの学園にはトレーナーが一人もいないんだ!?」
歩いている間に気づいた、ここには誰一人としてトレーナーが付いていなかった。トレーナーだけじゃない。管理人、食堂、全ての施設においてもそうだ。大人がいない、まるで意図的に排斥されたかのようだ。
それになりより……、
「……はぁ、考えうる限り一番退屈な質問だったな」
「なにっ!?」
ついぞ一転し、理事長は使わなくなったおもちゃを見るようにすっかり興味失った瞳でこちらを見下ろす。
「そんなの至極単純だろう?答えを開示するよ」
ガコッ。
「え…」
不意に感じる浮遊感、何とか足元に視線を下ろすとあら不思議、床がないじゃない。
「わたしははなから君を読んだ覚えはない。いちばん強いウマ娘を、伝えたのはそれだけだ、君じゃあない。ここで不純にまみれた大人達はいらないんだ。悪かったね、さよなら」
「おぉおおおおおおおおおおおおお!!??」
浮遊能力などなく、重力に従ってトレーナーは深い闇へ消えていった。
「っ!?トレーナーさんっ!! 貴方、なんて事をするんですか!?」
「おっと、いかなる時も冷静沈着が大和撫子なんだろ?落ち着きたまえ、死んじゃあいないよ」
「そういう問題ではっ」
「けど、このマンハッタンの夜空英語もまともに話せない、お金もない彼が無事に過ごせるかは知ったことではないがね」
「っ!!」
言葉と同時に体が動く。こんなところに用はない、自分の身勝手なわがままでこんなことになってしまった。今は一刻も早くトレーナーさんを…
「まぁ、落ち着きたまえよ。ここからはどうせ出れない」
「え……」
「当然だろう?君の選択肢は私からの申し出を受ける。この一択のみだ」
「だれがっ」
「言っただろう?私は時間の無駄が嫌いだって。対価は君の望むものを約束しよう。それとも、存外薄情だったりするのかな?」
「……くっ、」
「安心したまえ、約束は守るよ。ただし、君には地獄を見てもらう。せっかくの客人だ、十全にもてなさせておくれよ。ようこそ、我が学園へ」
渦巻く狂笑へと物語は歪み、巻き込まれていく。
一方、
まったく床に落とし穴っていつの時代だってんだ。あの女狐めいつか絶対泣かす。
それはそうと……
「ぶわぁっくしょんっっ!!」
寒っ!!!!、え、アメリカってこんなに寒いの!?常夏の海外でエチエチなお姉さんたちが日光浴、どころか雪が降り始める始末。
ヤバいッ、このままだとやり返す以前に明日を迎えられない。
「えー、このダンボールを組み合わせて雨風を防げるか?」
ちくしょう、まさかわざわざアメリカにまできてホームレスを余儀なくされるとは
っと、あれ、い、意識が。だんだん眠く…
最後はかわいい女の子の太ももで迎えたかっ…。
先ほどの夜空から一転マンハッタンの風は冷たく肌をなぞる。道行く者たちも特に珍しくもない異国のホームレスになど目もくれず、淡々と横を通り過ぎていく。
幾ばくか、時間の流れも体温の低下とともに鈍くなり、トレーナーの意識は徐々に混濁していく。
「う……う、、」
「……トレーナー、さん!?」
「……えっ」
嘘かまぼろしか。どこか既視感のある…。
「…大丈夫ですか!?」
あたたかく。
「お…まえ、は…」
「すぐに――――――
グ…ラス…。
一瞬の緩みが、寒空のもと一心にとどめられていた意識の手綱を手放させた。
それは安心からくるものか、それとも…。
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