転生して水になったので存分に楽し・・・・・・水っ!? (レイ1020)
しおりを挟む

本編
転生したものの・・・・・・


転スラの小説を書いていこうと思います。基本的に原作に沿っていきますが、所々脱線する予定です。それが嫌な方はブラウザバックを推奨します。


「(あ〜〜〜・・・・・・僕、死んじゃうのかな?)」

 

 

 

ふりしきる雨の中、日本の都会の中心地の道路脇で地に背をつけた僕は不意にそう悟る。僕の倒れてる周りには赤黒い液体が大量に流れ出て、頭や身体中からも激しい損傷が出ていた。こんな状態じゃ、大量出血で死ぬのも時間の問題だと言うのは明確だった。

 

 

 

「(でも・・・・・・後悔は無いかな?・・・・・・あの女の子はどうやら無事みたいだし・・・・・・)」

 

 

 

僕はそっと歩道の方へ視線を移す。そこには目に涙を溜めながらこちらを眺めている一人の女の子がいた。・・・・・・そう。僕はこの子を信号無視して突っ込んできたトラックから守ろうとして、轢かれたんだ・・・・・・。

 

 

 

「(こんな形で僕の人生が終わるなんてね・・・・・・。まだ高校生なのに・・・・・・やりたいことだってまだまだあった・・・・・・)」

 

 

 

悔やむ僕だったが、そんな事はお構いなしにと僕の意識はどんどん薄れて行った。・・・・・・あぁ、もうそろそろ限界らしいな・・・・・・。

 

 

 

「(死んだらどうなるんだろ?・・・・・・僕的には天国に行きたいけど、行き方わかんないしな〜・・・・・・せめてそれを案内してくれる人でもいれば・・・・・・)」

 

 

 

『確認しました。ユニークスキル『指導者(ミチビクモノ)』を獲得しました。』

 

 

 

「(あ〜でもそれだけじゃ心許ないかな?誰か一緒に来てくれる心のいい人っていないかな・・・・・・)」

 

 

 

『確認しました。ユニークスキル『魔物使い(マヲスベルモノ)』を獲得しました。』

 

 

 

 

「(はは・・・・・・こんな状況だって言うのに、どこか降っている雨が体に染み込んでいくみたいで気持ち良いなぁ・・・・・・。死ぬ寸前だって言うのにこんなことで快楽を覚えるなんて・・・・・・何でか雨も・・・・・・冷たい水も悪くないって今更だけど思えるね・・・・・・今まで一度も思ったことなんてないけど・・・・・・)」

 

 

 

『確認しました。水を媒介とする身体の生成を実行します・・・・・・・・・・・・成功しました。』

 

 

 

「(なんかさっきから変な幻聴が聞こえてるけど・・・・・・まぁいいや。本当にそろそろ限界だ。ごめん・・・・・・父さん、母さん。親より先に逝く僕を許してね。それと、そこの女の子。・・・・・・せめて君だけは幸せに生きてね?・・・・・・僕は(天国)で静かに応援してるからさ・・・・・・)」

 

 

 

 

そうして・・・・・・僕の意識は静かに闇の中へと落ちていき、僕の17年と言う短い生涯は終わりを告げるのだった・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

『確認しました。ユニークスキル『応援者(コブスルモノ)』を獲得しました。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・かに見えたんだが、何故か僕は目を覚ます。それも全く知らない大自然の中でだ。目を閉じる前まであったビルや人の姿は、影も形もなかった。

 

 

 

 

「ここ・・・・・・どこ?僕ってさっき死んだんじゃ・・・・・・それに、やけに”視点が低い”気がするんだけど・・・・・・気のせいかな?」

 

 

 

《解。それは主人(マスター)が魔物、”水魔人”へと転生したためです。》

 

 

 

「っ!?だ、誰かな?僕の頭の中に聞こえてくる気がするんだけど・・・・・・」

 

 

 

突如聞こえてきた僕以外の声に驚きを隠せない僕はそれとなく聞いてみることにした。

 

 

 

《解。ユニークスキル『指導者(ミチビクモノ)』。主人(マスター)を導く者です。》

 

 

 

「そ、そう。じゃあ指導者(ミチビクモノ)さん。さっき言ってた水魔人って何かな?」

 

 

 

《解。水魔人はこの世の”水”を媒介として生きる魔物のことです。水に関与するものであれば、エクストラスキル《水操作》で操ることもでき、エクストラスキル《水創造》では主人(マスター)の思い通りに水の形や格好を変えることも可能。》

 

 

 

「へ、へぇ〜〜・・・・・・」

 

 

 

うん。つまり、僕は水になったってことでいいかな?一応魔物らしいけど・・・・・・それにしてもまさか転生するなんてね。ラノベの小説とかでみた事はあったけど、あんなの絶対に無いって思ってたのに・・・・・・・・・・・・ん?まてよ?

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って!って事は今、僕の外見って水そのものって事だよね!?えっ!?僕ってせっかく転生したのにずっとこの状態のまま生活していかなくちゃいけないの!?移動とかどうすればいいわけ!?」

 

 

 

そう。僕の外見は完全に水。それ以上でもそれ以下でも無い。だからこそ困る。そんなただの水に転生してしまった僕は今後どうすればいいわけ(自分が水になった根本的な原因だと言うことに気がついていない)!?

 

 

 

《解。水魔人は元来よりスキル《擬人化》を習得している為、主人(マスター)を擬人化することが可能です。実行しますか?Yes/No?》

 

 

 

「あ、そうなのね。それならもちろんYesで!」

 

 

 

人型に変えることができるなら初めからやって欲しかったと言う言葉を飲み込み、僕は自身の変化を待った。

 

 

 

 

 

そして数十分後・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

《告。《擬人化》に成功しました。》

 

 

 

 

指導者(ミチビクモノ)』さんから完了を言い渡され、僕は軽く外見を確認してみた。”海みたいな深い青色の髪”は肩あたりまで伸びてるな。眼は後で確認したんだが両眼とも紅い眼をしていた。身長は・・・・・・150cmってとこかな。かなり小さいよな・・・・・・。体つきもかなり華奢で女の子と見られても不思議じゃ無い状態になってる。結果として、俺の容姿はどちらかといえば女寄りな中性的な容姿へと成り果てたのだった。

 

 

 

 

「まぁ・・・・・・人型になれただけ良しとしますか・・・・・・とりあえず・・・・・・・・・・・・”服”どうしよう・・・・・・」

 

 

 

僕の苦労はまだまだ終わりを見せないようだった。




柳生健斗


ユニークスキル

・『指導者(ミチビクモノ)』・『魔物使い(マヲスベルモノ)』・・『応援者(コブスルモノ)


エクストラスキル

・『水操作』・『水創造』


コモンスキル

・『擬人化』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジュラの森にて

リムルにはまだ会いません。


とりあえず僕は、水創造で仮の衣服を作り、何とか裸のまま移動すると言うことは避けられた。仮の服と言っても、簡単なTシャツとズボンを作っただけの手抜きなんだけど、身体を隠すくらいならこれでちょうどいいからね。

 

 

「(へー?水でも服って作れるもんなんだね?)」

 

 

 

《解。『水創造』はこの世の水を利用して様々なものを創造するエクストラスキルです。この世に水が存在する限り、主人(マスター)は無制限で物を作ることが可能となります。》

 

 

 

「(そうなんだ?え、て事は武器とかも作れるって事?)」

 

 

 

《解。武器を作る事は可能です。しかし、大掛かりな武器や物を作る際、主人(マスター)の魔素が大幅に使用されます。主人(マスター)の体内魔素が一定値を下回った場合、強制的に低位活動状態(スリープモード)へと移行します》

 

 

 

「魔素・・・・・・魔力みたいなものかな?(と言うか、低位活動状態(スリープモード)って何?)」

 

 

 

《解。生きるために必要な活動のみを遂行する状態(モード)のことです。低位活動状態(スリープモード)時は、会話や動作、気配の感知などが出来なくなります。》

 

 

 

それってほとんど植物状態に近いんじゃ・・・・・・。とりあえず、武器とかを作る際には気を付けないといけないね。こんなジャングルの中でそんな状態になんてなったら怖くて仕方ないし・・・・・・。

 

 

 

「(『指導者(ミチビクモノ)』さん。僕の今の魔素の量を教えてくれる?)」

 

 

 

《解。主人(マスター)の体内魔素は残り95%。先ほどの《擬人化》にて3%、《水創造》にて2%の魔素を消費しました。》

 

 

 

意外なことにほとんど魔素は減って無かったみたいだった。それならと思い、僕は再び《水創造》を発動した。

 

 

 

「さっきは服をイメージして作ったから、今度は一振りの剣を・・・・・・・・・・・・・・・・・・こんな感じかな?」

 

 

 

ようやく出来たそれは、水色の刀身が特徴的な一つの剣だった。文じゃ分かりにくいだろうけど、地味に1時間近くかかったこともあって、若干疲れた僕だった。なんで作ったかって言うと、もし何か出てきた時のための護身用としておくためだったからだ。もっとも僕に剣術の心得なんて無いんだけどね?

 

 

 

《告。主人(マスター)の体内魔素量が残り90%となりました。》

 

 

 

「剣で5%消費か。そんなに減らなくて良かった。・・・・・・さてそろそろ行こう。まずはこのジャングルを抜けないと・・・・・・」

 

 

 

ある程度の準備が整った僕は、このジャングルを抜けるべく、移動を開始した。

 

 

 

だが、行けども行けども一向にジャングルの中から抜け出れる様子では無く、まる三日経っても未だにジャングルの中を抜け出ること叶わず、彷徨い続けていた。

 

 

 

「(『指導者(ミチビクモノ)』さん。何か人の気配とかあったかな?)」

 

 

 

《否。この範囲に人の気配及び、魔物の気配は確認できませんでした。》

 

 

 

「そっか・・・・・・。何か人を感知できるスキルでも持ってれば良かったのに・・・・・・」

 

 

 

そう嘆こうとも現実は変わらない。幸いなことに、僕は別に食事などを取らなくても問題がない魔物だったため、食べ物が無くて餓死すると言う事は無いらしいが、それとこれとでは話が別であって・・・・・・。

 

 

 

「どうだかな〜・・・・・・」

 

 

 

お先真っ暗なこの状況に内心ため息を吐きながら、今後のことを考えている僕だったが、その時・・・・・・。

 

 

 

 

《警告。主人(マスター)の対象範囲に魔物を感知しました。その数、およそ5。》

 

 

 

指導者(ミチビクモノ)』さんからの警告が頭に鳴り響いた。どうやら魔物が出たようで、こちらに近づいてくるらしい。当然魔物になんて会った事がないし、会いたくもないと思っていた僕にとってそれは驚き以外の何物でも無く、一人ワタワタと慌てていた。

 

 

 

「嘘っ!?どうしよう・・・・・・魔物なんて戦った事ないし・・・・・・・・・・・・ってそんなこと考えてる間に来ちゃった!!」

 

 

 

そうこうしている内に、僕の目の前に魔物が現れてしまった。現れた魔物は『指導者(ミチビクモノ)』さんが教えてくれた通り5頭で、”犬とも狼”とも取れ、体長は2m弱はあるかと言うほど巨大な魔物だった。地味に一頭妙に強そうな長みたいなのもいるし・・・・・・。相手は明らかに僕のことを敵視してるし、低い呻き声まで上げてる。・・・・・・どうしよう?

 

 

 

「(『指導者(ミチビクモノ)』さん。あの魔物ってなんて言うの?)」

 

 

 

《解。種族・《牙狼族》。Cランク級の魔物であり、群れで行動する事が多い魔物です。また、群れと戦闘となる場合、Bランク級の強さになります。》

 

 

 

そうなのっ!?え、僕いきなり結構強そうな魔物と出会っちゃったって事!?次第に足先が震え始め、足がすくみ始めた。

 

 

 

「(ど、どうすればいいのかな?)」

 

 

 

《解。牙狼族は嗅覚や瞬発力、スピードに優れているため、逃げる事は愚策かと。》

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

うん。つまり『指導者(ミチビクモノ)』さんは僕に戦って死ねと言うのかな?勘弁してよっ!?転生してこんな早くになんて死にたくないよ!?・・・・・・はぁ〜〜、だったらもうやる事は一つしかないよね・・・・・・。

 

 

 

僕は覚悟を決め、先ほど作った水剣を抜いた。

 

 

 

「自信ないけど、生きるためなら・・・・・・なんだってやってやる!『指導者(ミチビクモノ)』さん!この水魔人って何か特性みたいなものって無いの?」

 

 

 

《解。種族・《水魔人》は固有スキル《熱無効》、《自己再生》、《痛覚無効》を所持しています。》

 

 

 

「(なるほど。水だから火は効かないってことか。自己再生もついているのはありがたい。これなら多少怪我をしてもすぐに治るかな。なら、この特性を生かして戦っていくとするか!)」

 

 

 

戦う方針を決めた僕は、改めて目の前の魔物と対峙する。すると、向こうもこっちが戦う気になったとみるや、一斉にまとめて僕に襲いかかってきた。だが、ただ闇雲に襲いかかってきてると言うわけでは無くて、一匹一匹が僕の行動を封じるかのようにして僕を包囲し、いつでも僕のことを噛み殺せるとでも言わんばかりに瞳をぎらつかせていた。

 

 

・・・・・・なるほど。群れになるとBランクになるって言う話は本当みたいだね。一匹一匹の頭も良いみたいだし、動きも予想以上に機敏。どうする?

 

 

 

《告。エクストラスキル《水操作》にて、攻撃術《水刃》を発動可能となりました。実行しますか?Yes/No?》

 

 

 

「そんなことできるの?それなら・・・・・・Yes!!」

 

 

 

僕が叫ぶと同時に、僕の掌から一筋の水の斬撃が群れの一頭に向かって放たれた。その斬撃は一直線に魔物に飛んで行き、その魔物の頸を綺麗に跳ね飛ばした。・・・・・・え?ずいぶんと強く無い?これ?

 

 

 

「ガルッ!?」

 

 

 

「《水刃》!!」

 

 

 

突然の僕の反撃に戸惑ってる魔物達の隙をつき、僕は再び《水刃》を放つ。今度は先ほどよりも力強く斬撃を出すイメージでやったため、大きな水の斬撃が魔物達を襲った。その斬撃により、4頭のうち2頭を討ち取る事ができ、勝てる光明が見え始めてきたことを実感していた。

 

 

 

「向こうもどうやら戦意が削がれ始めてきたみたいだ。だったらなおさらチャンス!行くぞ!!」

 

 

 

今がチャンスとばかりに僕は魔物達に襲いかかった。魔物達も今まで遠隔距離からの攻撃ばかりだった僕が突然前進してきたことに戸惑ったのか、動きが鈍っていた。当然そんな好機を僕が逃すはずもなく・・・・・・。

 

 

 

「やあっ!!!」

 

 

 

僕の水剣が火を吹いた。水なのに火を拭くってどうなのかと思うけど、とにかく僕の水剣が一頭の頸を刈り取った。だが、長?の方はやはり他の魔物達よりも強いのか、剣を当てられはしたものの、頸を取る事は叶わなかった。だが、それでも剣を当てられた衝撃は凄かったようで、近くの木に吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

「ふぅ・・・・・・意外となんとかなったか。・・・・・・さて、また何かに会う前に離れないと・・・・・・」

 

 

 

水剣をしまい、いそいそとその場を離れることにした僕は、魔物達の屍を避けつつ先に進もうとした。・・・・・・だが、そんな僕にどこからとも無く声がかけられる。

 

 

 

「ま、待ってくだ・・・・・・さい・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・へ?」

 

 

 

僕は移動する足を止め、声のした方へ振り返ると、そこに見えるのは先ほど木に向かって吹き飛ばした牙狼族の親玉?さんだった。あ、そういえばこいつに関してはとどめさして無かったんだっけ?ま、襲ってくる気配は無いし、無理に殺しはしないけど。・・・・・・というか、魔物って喋るんだ。初めて知ったんだけど?

 

 

 

「何故・・・・・・ワタシを殺さないのですか?殺しても良いはず・・・・・・」

 

 

 

「何故って・・・・・・別に今のキミに敵意が微塵も感じないからかな?僕は別に相手が何もしないなら危害なんて加えないし、殺しなんてしないよ。・・・・・・それに・・・・・・」

 

 

 

僕は何かを言う前に静かに親分さんのもとに歩み寄った。急に近づいてきた僕に、親分さんは困惑じみた表情を浮かべるだけだった。

 

 

 

「キミは始めっから僕を脅しはしてたけど、攻撃はしてこなかったでしょ?だから、別にキミに関しては殺す必要は無いかなって思ったんだよ。危害を加えられたわけじゃ無いし」

 

 

 

「・・・・・・そうですか。ええ、そうです。もともとワタシは貴方に危害など加える気などありませんでした。ワタシ達はとある事情で急いでいた事もありましたので。・・・・・・それにも関わらず、この子達ときたら旨そうな魔素を持った奴がいるから喰いに行くと聞かないものですから、渋々ついて来たのですよ・・・・・・」

 

 

 

「魔素?魔素を食べるの?」

 

 

 

「はい。ワタシ達牙狼族は、魔素を吸収することを食事としているのです。魔素を多く持っている者ほど好んでワタシ達は食べます。・・・・・・貴方のように大量の魔素を持っている魔物は特にです・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・僕って魔素の量多かったの?」

 

 

 

《解。この世界の体内魔素量の平均値を主人(マスター)は大幅に超えています。》

 

 

 

ああ・・・・・・そうなのね。・・・・・・って事はもしかしたら今後もこうして同じ魔物に狙われる可能性もあるってわけだ。・・・・・・魔素量が多ければ良いってわけでも無いわけね。気をつけないと。

 

 

 

「そういえば、さっきとある事情って言ってたけど、それって何なの?」

 

 

 

「っ!そうでした!早く父上の元に向かわないと!」

 

 

 

「父上?それってキミ達の長かな?」

 

 

 

「ええ。ワタシの父は牙狼族の長です。今は一つのゴブリンの村を襲撃するために移動を始めてるらしく・・・・・・」

 

 

 

「ゴブリンの村?(ゴブリンってゲームとかでよく出てくるあの魔物のことかな?)なんで襲撃するの?」

 

 

 

疑問に思ったので素直に聞いてみることにした。

 

 

 

「ワタシ達は豊かな土地を求め、南の大地に向かおうとしているのです。その際、この森ジュラの森を抜けなくてはならず、とりあえずこの森を通り抜ける足がかりとして近くのゴブリンの村を滅ぼそうと言うことになりました。父上達とは別に行動していたワタシ達も急遽呼び戻され、急ぎでここまできたのですが・・・・・・」

 

 

 

「その時に僕に会ったってわけね?」

 

 

 

その魔物はコクリと頷く。運が悪かったといえばそれまでだけど、先に喧嘩を吹っかけてきたのはそっちだから何も言えない・・・・・・。あ、そうだ!

 

 

 

「ワタシはとにかく父上の元に急ぐことにします。貴方は・・・・・・」

 

 

 

「ね、よければ僕も一緒に連れて行ってくれないかな?キミのお父さんのところに」

 

 

 

「・・・・・・はい?何故ですか?」

 

 

 

「いや・・・・・・理由がどうであれ、一族を殺しちゃったわけだし、一応の謝罪をしようと思って・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・ふふっ」

 

 

 

・・・・・・うん?今笑ったよね?絶対この子笑ったよね!?なんで笑うわけさ!?

 

 

 

「どうかした?」

 

 

 

「いえ・・・・・・あんなにお強いのに随分の慈悲深い方なのだと思っただけです」

 

 

 

あ、そう言うわけね。それなら良いけどさ。と言うか普通だれかを誤って殺したんだったら謝りに行くのが筋って者でしょ?慈悲深いとまで言われるくらいかな?

 

 

 

「・・・・・・分かりました。では、背中にお乗りください」

 

 

 

笑い終えたこの子はそっと身をかがめ、僕に背中に乗るよう促した。お言葉に甘えた僕は、背中に跨るようにして乗った。

 

 

 

「では、行きますよ!」

 

 

 

「うわっ!!」

 

 

 

掛け声と同時に駆け出したそのスピードは僕の予想の範疇を遥かに超えていて、しがみ付いていないと吹き飛ばされてしまうほどに凄まじかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ目的の村に到着します」

 

 

 

「そ、そう・・・・・・。死ぬかと思った・・・・・・」

 

 

 

数十分後、ようやく目的のゴブリンの村に到着した。正直何度転げ落ちそうになったか分からないが、気合と根性でなんとか耐える事が出来ていた。その代わり、身体と精神がかなり疲弊してしまっているが・・・・・・。

 

 

 

「おそらくですが・・・・・・もう既に父上達が村を・・・・・・・・・・・・っ!!!」

 

 

 

「ん?どうかし・・・・・・た?」

 

 

 

驚愕にも似た驚きの表情を見せたこの魔物に疑問を抱いた僕は、彼女が見ている方角に視線を移してみた。・・・・・・すると、そこに映っていたのは・・・・・・。

 

 

 

「父上・・・・・・。そんな・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

彼女のお父さんと思わしき牙狼族の長が、何者かによって頸を落とされる光景だった。




ユニークスキル・『指導者(ミチビクモノ)


主人を導く存在。あらゆる事象を網羅する『森羅万象』を始めとした、『解析鑑定』や『並列計算』、『詠唱破棄』、『思考加速』などを内包している。同系統スキルである『大賢者(エイチアルモノ)』と似ているが、『大賢者(エイチアルモノ)』が知覚速度を通常の1000倍にする『思考加速』を持つ中、このスキルは通常の500倍にする『思考加速』を持っている。現状としては、『大賢者(エイチアルモノ)』よりも少し劣るスキルという位置づけとなっている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一匹のスライムとの邂逅

今回でようやく邂逅!


「父上・・・・・・父上・・・・・・」

 

 

 

実の父親が死んだという事実に言葉が出ないのか、彼女はただお父さんを呼ぶことしか出来なくなっていた。だが、次の瞬間、そんな彼女と僕がさらに驚愕するような事が目の前で起こった。

 

 

 

「っ!!あの姿!父上・・・・・・?」

 

 

彼女のお父さんを殺したらしい魔物が、そのお父さんと瓜二つの姿に変貌を遂げたんだ。だけどあれはおそらく、

 

 

「いや、多分違うと思う。(『指導者(ミチビクモノ)』さん、あれって何?)」

 

 

 

《解。あれは個体、粘性生物(スライム)が擬態・《牙狼》を発動した姿です。》

 

 

 

「(?スライムってそんなことも出来るんだっけ?)」

 

 

 

《否。通常の粘性生物(スライム)では不可能です。ですが、あの粘性生物(スライム)は幾多のユニークスキルを所持している模様。擬態・《牙狼》はユニークスキルの一つ、『捕食者(クラウモノ)』により牙狼族から得た物です。》

 

 

 

「なんでスライムがそんなスキル持ってんのよ・・・・・・」

 

 

 

スライムっていわばゲームの中でも雑魚キャラに位置付けられるくらい弱い魔物のはず。なのにそのスライムが何で自分よりも明らかに格上の牙狼族に勝ててるわけ?・・・・・・意味わからない。

 

 

 

そんなことを考えながら、僕たちはそのまま動かずその場を見守っていたんだが、それはすぐに出来ない事となった。

 

 

 

「ん?何だ?牙狼族みんな頭を下げてるように見えるんだけど・・・・・・」

 

 

 

「あれは・・・・・・あの方に生涯仕えるという意味です。・・・・・・一族の長の仇とも呼べる存在に対して・・・・・・」

 

 

 

「妙だな。何で急に・・・・・・」

 

 

 

《解。個体粘性生物(スライム)のスキル『威圧』の効果により、牙狼族に力を認めさせた事が原因です。》

 

 

 

「・・・・・・そういうことか。確かに力の差を知れば従わざるを得ないか」

 

 

 

一人妙に納得する僕を尻目に、隣で今までずっと自分を抑えていたこの子もとうとう限界を通り越したようだった。

 

 

 

「ですが・・・・・・ワタシは許せませんっ!父上の仇に頭を垂れるなど・・・・・・死んでもごめんです!今ここで・・・・・・父上の仇を討ちます!!」

 

 

 

「えっ!?ちょっとキミ!!・・・・・・あぁ、もうっ!!」

 

 

 

我慢の限度に達したらしく、彼女は僕の制止を無視し、一人?単独でその場に駆け込んでいった。さすがにそれを見過ごすこともできない僕は渋々後を追う。

 

 

 

()()!!何故ですか!!何故父上の仇に頭など下げるのです!!」

 

 

 

「む・・・・・・?我が妹か・・・・・・遅かったな。・・・・・・なぜと問うか?・・・・・・このお方は我々が戦いに敗けたと言うのに我らを赦すと仰られたのだ。それに、生活の方もどうやら保証してくれるそうなのだ。それだけの事をされては従わなければ一族の恥であろう?」

 

 

 

兄上と呼ばれた一頭の牙狼族は、ひどい剣幕で迫る妹に対して冷静に説明をした。だが、当然そんな事で当の彼女が納得できる筈もなく・・・・・・。

 

 

 

「ワタシはごめんです!父上を殺した者に下げる頭などありません!!」

 

 

 

「我儘を言うな!お前のその一言で一族皆を破滅に追いやる気かっ!!!」

 

 

 

「っ・・・・・・もう良いです。ならばせめてワタシだけでも抵抗します。あんな方に従うくらいなら死んだほうがマシですから・・・・・・っ!!!」

 

 

 

「なっ!?ま、待てっ!!」

 

 

 

やはり、彼女の兄であっても激昂した彼女を止める事はできなかったようで、彼女は無我夢中で親の仇であるスライムの元へと駆け出して行った。

 

 

 

「えっ!?いやもうみんな従うって形で終わったんだからこれ以上抵抗しないでくれよ!・・・・・・ちっ、仕方ないな」

 

 

 

「父上の仇取らせてもら・・・・・・・・・・・・えっ、こ、これは・・・・・・」

 

 

 

凄まじい速さでスライムに対して接近していた彼女だったが、突如として動きが止まる。いや、正確には動きを止めさせられた・・・・・・。

 

 

 

「スキル『粘糸』で動きを封じさせてもらった。しばらく動く事はできないだろうな。・・・・・・で、どうするんだ?他の牙狼族と一緒に俺に従ってくれると嬉しいんだけど?」

 

 

 

「だ・・・・・・誰が。貴方に従うくらいなら死を選びます!さぁ・・・・・・殺すなら早く殺しなさい!!」

 

 

 

「いや・・・・・・そうは言ってもだな・・・・・・・・・・・・はぁ〜、わかったよ。死んでも恨むなよ?」

 

 

 

一瞬迷ったように見えたスライムだったが、結局殺すことにしたのか、先ほどと同じように『水刃』を放つ態勢に入った。そして・・・・・・。

 

 

 

「はあっ!」

 

 

 

張り巡らされた糸によって身動きが取れない彼女に向かって、『水刃』が放たれた。あれをまともに食らって仕舞えばいくら彼女と言えど助からない。そう悟った僕は颯爽とその間に割って入った。

 

 

 

「させるかっ!!」

 

 

 

『水刃』が届く前に、僕は割り込むことに成功し、同じく『水刃』を放ち相殺することにも成功した。スライムも、その後ろにいたゴブリン達も、牙狼族達もみんな突然現れた僕に驚きを見せていた。

 

 

 

「っ!貴方・・・・・・どうして・・・・・・」

 

 

 

「ここまで連れてきてくれた恩人を殺させるわけにはいかないからね。後は、僕に任せておいて?」

 

 

 

「・・・・・・分かりました。また助けていただき、感謝します」

 

 

 

よし。とりあえず頭は冷えたようだ。僕は彼女に絡まっている糸を水剣で斬り落とすと、そのまま彼女を僕の後ろに下がらせた。

 

 

 

・・・・・・そして、ゆっくりと視線を件のスライムへと向けた。

 

 

 

「急に割り込んでごめん。でも、あの牙狼族の子は本当はとても良い子なんだ。だから、どうか今回はなかったことにしてもらいたいんだけど・・・・・・」

 

 

 

「ああ。それは別に構わないが・・・・・・とりあえず、お前のことを教えてもらいたいんだが、いいか?」

 

 

 

ああ、やっぱりこのスライムも喋るのね。と言うか、見た目的にすごく可愛らしくて凄く愛でたい気持ちになるのは僕だけだろうか?・・・・・・っと、自己紹介だったっけ?

 

 

 

「うん。僕は柳生健人。《水魔人》だ」

 

 

 

「・・・・・・?その形式に名前・・・・・・・・・・・・あっ!お前もしかして”転生者”かっ!?」

 

 

 

うん?何で目の前のスライムは僕が転生者だって知ってるの?誰にも言った覚えはないけど・・・・・・・・・・・・ん?待てよ?さっきスライムは僕のこの名前に反応したように見えたよね?と言う事はこう言った形式の名前に見覚えがあると言うことで・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

「もしかして・・・・・・キミも・・・・・・転生者?」

 

 

 

「ああ!」

 

 

 

何ともまぁ・・・・・・。そんなこんなで、僕はこの世界で僕と同じ転生者という名のスライムと邂逅を果たすのだった・・・・・・。




エクストラスキル


『水創造』


水魔人特有の水を用いて様々なものを作る事ができるスキル。武器や道具はもちろん、回復薬(ポーション)などの戦闘に役に立つものまで生成が可能。ただし、物を作るに連れて自信の魔素を消費するため、使い過ぎは厳禁。また、作るものが高級または高度な物になるに連れて消費する魔素量も増える。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リムル=テンペストとエリス=テンペスト

オリジナル展開です。


「へぇ〜?リムルさんも僕と同じで日本から転生してきたんですね?」

 

 

 

「ああ。転生してきたのは少し前だけどな。にしても、まさか俺と同じ転生者と会えるなんて思わなかったな〜」

 

 

 

牙狼族のゴブリンの村襲撃事件を何とか穏便に済ませた後、僕は先ほど会ったスライムに村に招かれていた。そこで僕は先ほどの彼が言った事を問いただすべく、質問を繰り返して行ったんだけど、驚くべき事が沢山ありすぎて正直気が滅入っていた。

 

 

簡単に説明すると、彼はこの世界のスライムとして転生してきた元日本人らしい。日本での名は三上悟。こっちの世界では転生された場所の洞窟の奥深くで、暴風竜(ヴェルドラ)と言う魔王?の一角に”リムル=テンペスト”という名を貰ったらしく、そう名乗っているそうだ。ついでにその時に友達になったみたい(なんでそうなったのかは謎だけど)。ちなみにその暴風竜(ヴェルドラ)は、勇者によってユニークスキル『無限牢獄(マモルモノ)』を使用され、300年以上封じられたままだったらしい。それを可哀想と思ったのか、リムルはユニークスキル『捕食者(クラウモノ)』で暴風竜(ヴェルドラ)を喰らい、これまた自身のユニークスキル『大賢者(エイチアルモノ)』で解析をし、何とか『無限牢獄(マモルモノ)』を破る方法を探している最中らしい。

 

 

 

そして、その後は洞窟から出るためにいろんな試行錯誤をしながら出口を目指し、つい最近に出ることに成功したようだ。このゴブリンの村は洞窟から出た後、偶然にも通りかかり、その時ゴブリン村の危機を聞かされたリムルはゴブリン村を救う為、味方につくことになった。そして、僕たちと遭遇したわけだった(何故ゴブリン達はリムルに泣きついたのかというと、リムルが醸し出す魔素の量がえげつない物で、勝手にリムルを神か何かと勘違いしたから)。

 

 

 

「そっちも色々あったんですね〜」

 

 

 

「そりゃ色々な・・・・・・あ、別にそんなに畏って敬語で話す必要ないぞ?俺とお前はもはや同じ転生者っていう同士だからな」

 

 

 

「そ、そうですか?じゃあ・・・・・・そうするよ、()()()

 

 

 

ふと笑みを浮かべる僕に、リムルもつられて笑顔を浮かべた。

 

 

 

「そうだ。お前、今の名前ってあるのか?俺みたいなさ?」

 

 

 

「名前?・・・・・・そういえば無いかな?そんなこと考えてる余裕も無かったし・・・・・・」

 

 

 

そういえばと思い出したかのようにいう僕。考えてみればそうだった。最初は日本の名前でいいんじゃ無いかって思ってたけど、リムルは違うみたいだし、それなら僕も別の名をつけたほうが良さそうだよね。

 

 

 

「それなら俺が名付けをしてやるよ。自分じゃ意外と名前って出にくいだろ?実際俺もヴェルドラから名付けてもらったし」

 

 

 

「うん。お願いしていいかな?」

 

 

 

「わかった。・・・・・・そうだなぁ〜・・・・・・・・・・・・エリスってのはどうだ?”エリス=テンペスト”」

 

 

 

エリスか・・・・・・悪く無い響きかな。でも、テンペストという名も貰っていいのかな?

 

 

 

「エリスは良いけど、テンペストの名まで貰って良いの?」

 

 

 

「構わないだろ。お前はもはや俺と友達と言っても過言では無いし、同士だ。この名を与えることにも何も躊躇いないさ」

 

 

 

「そっか。じゃあありがたく受け取らせてもらうよ。今日から僕の名はエリス=テンペストだ。これからよろしくね?リムル」

 

 

 

「ああ。互いに頑張っていこう。エリス」

 

 

 

こうして僕は、この世界でエリス=テンペストという名を貰い、生きていく事となった。この先何が待ち受けているのかは正直わからないけど、リムルと一緒ならどんな事にも立ち向かえる!そんな気になるのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

それからリムルは、ゴブリンの村の人たち全てに僕と同じように名付けをして行った。知らなかったけど、実は名付けをすると魔物は進化をする種もいるそうで、ゴブリン達はその類に含まれていた。雄のゴブリンはその上の”ホブゴブリン”へ、雌のゴブリンはその上の”ゴブリナ”へと進化を遂げた。

 

 

 

「僕は特に変化は無かったみたいだけど・・・・・・何でだろ?」

 

 

 

《解。名付けによる進化は、名付ける相手が対象者よりも上位の存在だった時のみ行われます。主人(マスター)と個体名『リムル=テンペスト』は現状、同格の格付けとなっている為、進化の発動は無効となりました。》

 

 

 

「そうなんだ。・・・・・・進化してみたかったな〜」

 

 

 

少し、落ち込む僕だったけど、現状は今のままでも問題ない事もあった為、そこまで深くは考えなかった。いつかそんな機会も巡ってくるかもしれないしね。

 

 

 

今僕はゴブリンの村の中を散歩中でそのついでにゴブリン達に挨拶をしていた。一応これからは共に過ごす事が多くなる仲間なわけだし、挨拶くらいはしておくのが道理だろう。意外にもゴブリン達は僕のことをすんなり受け入れてくれた。何でも、『エリス様はリムル様と同様、凄まじいまでの魔素を秘めていらっしゃるお方。そして、あの牙狼族達の交渉の架け橋となってくれたお方』という事になってるらしい。確かに僕は牙狼族を何とかこのゴブリン達と共存させるために軽い交渉を牙狼族達にしたが、ほとんどリムルに従うという意見が殆どだったため、交渉とは呼べない交渉をしただけにすぎなかった。ゴブリン達は何でそう解釈したんだかいまだに理解が不明だね。

 

 

 

ちなみにそのリムルは、山ほどいるゴブリン達と牙狼族に名付けをした事による魔素の枯渇により、今は低位活動状態(スリープモード)に入っている。どうやら名付けをすると魔素を大量に消費するようだ。低位活動状態(スリープモード)になると3日は通常状態に戻れないって言うし、名付けをするときは気をつけないと・・・・・・。

 

 

 

「エリス殿、少しよろしいでしょうか?」

 

 

 

「ん?あぁ・・・・・・えっと〜、”ランガ”だっけ?どうかした?」

 

 

 

そんな時、僕に声をかけてきたのは、あの牙狼族の長の息子であるランガだった。リムルにランガと名付けられて嵐牙狼族(テンペストウルフ)になって体長もかなりデカくなっていたこともあって、少し引いてしまった。

 

 

 

「はい。実は・・・・・・我が妹のことでご相談が・・・・・・」

 

 

 

「あ〜・・・・・・」

 

 

 

苦い顔をするランガに僕も何て返したら良いのか迷ってしまう。ランガの妹と言うのは、僕が森の中で出会い、この村まで僕を送り届けてくれたあの牙狼族だ。彼女はランガ達とは違い、父を殺したリムルをそこまで良いように見ておらず、それもあってリムルに忠誠を誓っていなかった。もちろん名付けもして貰ってない。ランガも度々彼女を説得しに行ってるようだが、聞く耳持たずと言う状態で一向に話に応じる気はないようだった。

 

 

 

「このままでは我が妹はいずれこの村を去って行ってしまうでしょう。そうなってしまえば会えることはもう二度と・・・・・・」

 

 

 

「うん。わかった。僕がそれとなく話してみる。だから心配しないで?」

 

 

 

「・・・・・・感謝致します。どうか、我が妹をよろしくお願いします」

 

 

 

ランガにあそこまでお願いされちゃったら断るわけにもいかないよね?とりあえず、彼女の元へ向かおう。

 

 

 

ランガと別れた後、僕は彼女を探すため、村の中を散策した。ランガ曰く、さっきまで村の片隅にある木の下で休んでいたらしかったから、とりあえずそこに向かう事にした。

 

 

 

「あの子は・・・・・・あ、いたいた」

 

 

 

目的の場所にたどり着くと、そこには木にもたれかかりながら休息を取る、ランガの妹さんの姿があった。これでどこかの移動してたら探すのは難しかったけど、とりあえずよかった〜。僕は彼女を脅かさないようにそっとそばまで寄っていき、声をかけた。

 

 

 

「ねえ?ちょっと良いかな?」

 

 

 

「・・・・・・?あ、貴方は・・・・・・。昨夜は助けていただき、ありがとうございました・・・・・・」

 

 

 

「気にしないで良いよ。それよりもさ?少し話をしない?キミと少し話しておきたい事があるんだ」

 

 

 

「・・・・・・兄上から何か言われたんですね?」

 

 

 

「うん。それもあるけど僕自身もキミと話したいって思ってたからさ。良いかな?」

 

 

 

「・・・・・・構いません」

 

 

 

「ありがと」

 

 

 

どうにか話をさせてもらえる事になった僕は、彼女の傍にどっかりと腰を下ろす。彼女も話を聞くためか、寝た状態から少し体を起こし、僕の方へと視線を移していた。意外にも素直に聞いてくれるんだね。こっちとしてはありがたいけどさ。

 

 

 

「それで・・・・・・話とは何ですか?先に言っておきますが、リムルさんに忠誠を誓う気は一切ありませんので・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・そっか。確かにリムルはキミの親の仇だもんね。簡単に認めるわけにもいかないのは分かるよ。でもさ?そうだとするならキミは今後どうするわけ?キミ以外の牙狼族はみんなリムルに忠誠を誓って配下となってる。それはつまり、今はここがみんなの居場所となってるって事なんだ。リムルは多分だけど配下や仲間のためなら何でもしてくれる。豊かな生活を望めば叶えてくれる。食事を求めるならどこからでも取り寄せてくれる。彼はそんな人だと思うんだ」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「だけどそれはあくまで仲間内だけ。忠誠を誓わない以上、あかの他人でしかないキミはそれの対象外って事になる。そうなればきっとそのうちキミはこの村を追い出される事になるんだよ?それでも良いの?また家族と離れて暮らしたいの?」

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

僕が話すにつれてどんどん表情が険しくなる彼女。僕だって本当はこんな言い方したくないけど、これも彼女のためなんだ。多少は強引にいかないと・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・それでも・・・・・・やはり無理です。頭ではそうしたほうがいいと分かってはいるのです。ですが、やはりどうしても体が動いてくれません・・・・・・。・・・・・・本心では、あの方に忠誠は誓いたくないと拒んでいるのかもしれませんね」

 

 

 

「・・・・・・まいったな〜」

 

 

 

これだけ言っても聞いてもらえないとなると、もはやリムルに忠誠を誓わせるのは無理と判断すべきだ。だがそうだとすると彼女の今後が不安になる。それは何としても避けたい。彼女は僕にとっては恩人とも呼べる存在なんだ。ここで見放すのは無いと思う。・・・・・・・・・・・・何かないか?リムルに忠誠を誓わせないで僕たちの元にとどまらせる方法は・・・・・・・・・・・・・・・・・・あっ。

 

 

 

「そうだっ!」

 

 

 

「っ!?どうかしたんですか?」

 

 

 

僕の突然の大声に彼女はビクッと震え勢いよく立ち上がってしまう。・・・・・・悪いことしちゃったかな?・・・・・・ってそんなことよりも!

 

 

 

「それならこう言うのはどうかな?」

 

 

 

「・・・・・・こう言うの・・・・・・とは?」

 

 

 

思えば何で真っ先にこれが思いつかなかったんだろ?これなら万事解決だって言うのに・・・・・・僕のバカ・・・・・・。自己嫌悪も大概にして、僕は続きを話す。

 

 

 

「キミはさ?リムルに忠誠を誓うのが嫌なんだよね?」

 

 

 

「?はい。そうですが・・・・・・」

 

 

 

「じゃあさ・・・・・・・・・・・・()()()()()()()()()?」

 

 

 

「っ!!・・・・・・え?」

 

 

 

「え、じゃなくてさ。リムルじゃなくて僕に従って欲しいんだ。僕の元であれば、この村にとどまる事もできるし、家族とも離れる事もない。それに別にリムルに忠誠を誓うわけでもないから特に問題ないでしょ?・・・・・・どうかな?」

 

 

 

「貴方に・・・・・・忠誠を・・・・・・」

 

 

 

さすがに即断できる内容では無いため、彼女はしばし考え込んでしまう。確かにこれは彼女にとっては寝耳に水な話だ。でも、これであれば彼女に過度な負担なくこの場に止まらせる事ができる筈なんだ。できれば彼女にはこれを呑んでもらいたい。・・・・・・無理にとは言わないけど。

 

 

 

「別に強制じゃ無いからね?嫌だったら断ってくれても良い。だけど、これだけは言わせて?僕はキミを恩人だと思ってる。だからこそキミを悲しませるようなことはしたく無い。それを危惧した配慮がさっき僕が話したことだから・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・ふふっ」

 

 

 

・・・・・・おい。またこの子笑ったよね?何この子?そんなに僕のことを笑いたいのか?

 

 

 

「・・・・・・なんで笑うのさ?僕は真剣に話してるのに・・・・・・」

 

 

 

「ごめんなさい。・・・・・・やはり貴方は変わってるなと思ってしまって・・・・・・」

 

 

 

「変わってる?どこが?」

 

 

 

「たかがこの村に送っただけのことに恩を感じたり、襲わなかったからと言ってワタシを殺さずに見逃してくれたこと。・・・・・・ワタシが死のうとしていた時に我が身を顧みずに助けに入ったこと。そして・・・・・・今こうして捻くれ者であるこのワタシを迎え入れようとしていること。・・・・・・その全てですよ」

 

 

 

「そうかな?・・・・・・変わってないと思うけど?」

 

 

 

これまで僕がやってきたことは、全部僕の考えた末にやったことだ。やった事が正しいと思ってるし、変わってると思ったことは一度もない。だけど、彼女からしたらそれは充分変わってると見えるようだった。

 

 

 

「貴方のその考えは良いものだと思います。実際それでワタシは何度も助けられていますから。・・・・・・ですが、それも度が過ぎれば貴方自身の身を滅ぼすこととなります。ワタシをリムルさんの攻撃から守った時もそうです。タイミングが悪ければ、ワタシだけでなく貴方まで死んでいたのかもしれないのですよ?・・・・・・それを分かっていますか?」

 

 

 

「へ?・・・・・・う、うん」

 

 

 

・・・・・・なんか説教されてる気がするんだけど・・・・・・気のせい・・・・・・いや、気のせいじゃないな。明らかに目が怒ってるし・・・・・・。

 

 

 

「全く・・・・・・。ですが、それが貴方なのですよね。自分のことはそっちのけで自分以外のことのために尽力する。もし出会ったのが貴方ではなかったら今頃ワタシはこの世にいなかったことでしょう・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・うん。そうかもね。僕は自分の命ももちろん大事だけど、それと同じくらいみんなのことも大切に思ってるからさ。・・・・・・もちろんキミのこともね?」

 

 

 

「ありがとうございます。ですが・・・・・・やはりそんな危なっかしい貴方をこのまま一人、放っておく事は出来ませんね。いつまたどこかで無茶をするか分かったもんじゃありませんし、貴方に何かあればワタシもすごく悲しいので・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・えっ?それってつまり・・・・・・」

 

 

 

僕がそう言うと同時に、彼女はちょこんと僕の前に”おすわり”の形で座り込んだ。

 

 

 

「ワタシが、そばで()()()を支えましょう。貴方様が無茶をしないように・・・・・・。そしてこのワタシの命・・・・・・貴方様に預けます・・・・・・。二度も貴方様に救われたこの命、貴方様のために使わせて頂きます・・・・・・()()

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

ゆっくりと頭を垂れる彼女に僕は思わず泣きそうになる。理由はともかくだが、とにかく僕に忠誠を誓ってくれるって事がとても嬉しかったからだ。気づくと僕は、彼女に抱きついていた。

 

 

 

「ありがと!これからよろしくね!!」

 

 

 

「ふふっ・・・・・・よろしくお願いしますね?我が主様・・・・・・」

 

 

 

僕に初めての配下ができた瞬間だった。この子とは今後とも仲良くして行こう!




少し長めに書いてみました!


思ったんですけど、エリスとリムルが同格の扱いとされるのであれば、エリスが進化しないのも納得出来ますけど、それだと、ただリムルがエリスに名を付けただけで、リムルを頂点とする魂の系譜にはエリスは含まれないと言う事になってしまう気がするんですけど、実際のところはどうなんでしょうかね?リムルも、エリスに名付けをしたからと言って魔素が過度に消費されて消耗していると言う様子も無いわけですし、エリスもリムルの魔素を受け取ったようには見えませんしね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

名付けと村の開拓!

前回が長かったので今回は短めになります。


「ところで、主様。早速一つ、お願いしたい事がございます」

 

 

 

「何かな?何でも言って良いよ?僕にできる事ならするからさ?」

 

 

 

早速のお願い。初めて配下になった彼女のためにもここは僕が一肌脱ごう!

 

 

 

「ありがとうございます。・・・・・・その、よければワタシに”名付け”をして欲しいのですが・・・・・・」

 

 

 

「ああ・・・・・・そうだね。僕もキミのことを何て呼べば良いか分からなかったしちょうど良いや。・・・・・・そうだなぁ〜、リムルは嵐の牙ってことでランガのことをランガって名付けたらしいけど・・・・・・・・・・・・(『指導者(ミチビクモノ)』さん、僕が名付けをした場合、彼女はどんな進化をするの?)」

 

 

 

《解。名付けをした場合、個体《牙狼族》は《氷牙狼族(アイシクルウルフ)》へと進化を遂げます》

 

 

 

氷の牙狼族になるってことかな?リムルとは違うな・・・・・・。僕が水だからそれに関与する属性になるってことなのかな・・・・・・まぁ良いか。名前は・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし、単純だけどこれで行こう!

 

 

 

「キミの名前は”ヒョウガ”。氷の牙と書いてヒョウガだ。・・・・・・この名前で良い?嫌なら別のに変えるけど?」

 

 

 

「いいえ。主様が決めた名であるならばどんな物でも嬉しいです。わかりました。今日からワタシの名はヒョウガです。以後、よろしくお願いします」

 

 

 

「うん。よろしく!」

 

 

 

リムルに似たような名付け方だったけど、彼女は気に入ってくれたようで、尻尾をふりふりと降っていた。無事に名付けが終わると、ヒョウガも他の牙狼族同様、進化を始めた(その際、急に虚脱感が襲ってきたけど何とか耐えた)。今までの黒に近い藍色をしていた身体が、純白ともいえるほどに綺麗な白色に変化を遂げ、額には今までなかった一角の青い角が生えてくる。そして体長も今のランガとさして変わらぬほどに大きくなり、僕の3、4倍ほどの大きさになってしまった。正直、これだけの進化を見せられると流石に驚くね・・・・・・。

 

 

 

《告。ユニークスキル『魔物使い(マヲスベルモノ)』の効果が発動。個体名『ヒョウガ』よりスキル『思念伝達』及び『魔力感知』を習得しました。》

 

 

 

そんな中、『指導者(ミチビクモノ)』さんからスキルの獲得の知らせを受けた。こんなに突然・・・・・・何でだ?

 

 

 

「(何でスキルを獲得できたの?それもヒョウガの)」

 

 

 

《解。ユニークスキル『魔物使い(マヲスベルモノ)』は、一部の魔物を除き、自身に服従させると対象が持つスキル全てを獲得する事が可能です。また、このスキルを持つ事により、魔物の服従率が格段に上がっています。》

 

 

 

あんなに頑なだったヒョウガが意外にも簡単に肯いた理由はそれか。スキルについては・・・・・・なるほどね。つまり僕は、”魔物を従えさせる事でスキルを獲得できるスキル”を持っているってことか。そのスキルに関しては嬉しいの一言に尽きる。スキルが沢山あるに越したことは無いし、やれることも増えること間違い無しだからだ。・・・・・・このスキルは重宝したいな。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「え?この村に鍛冶士や建築士を連れてくるためにドワーフの王国に行ってくるの?」

 

 

 

僕がヒョウガに名付けをした数日後、無事に低位活動状態(スリープモード)から回復したリムルから唐突にそんなことを言われた。確かにドワーフって鍛冶とか技術をたくさん持ってるイメージだけど・・・・・・。

 

 

 

「ああ。この村にもそんな技術を持った奴がいないと成り立たなくなってきてな。・・・・・・お前も見たろ?リグルドたちに作らせた家がどんなのだったか・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・確かに、あれじゃ僕たちも困っちゃうね・・・・・・あはは」

 

 

 

苦笑いを浮かべながら僕とリムルはリグルド(リムルが名付けたゴブリン・ロード)達に先日作らせた家を思い出していた。その家は、家というよりただ木材を繋げて簡単に組み立ててできた小さなテントのようにしか見えないほど酷かった。これではリムルもドワーフを頼りたくなる理由もわかるというものだ。それに、この村にはまともな武器も防具も無く、万が一また牙狼族のような魔物が攻め入ってきてしまえば今度こそ滅亡してしまうかも知れないんだ。だからこそ、そうならないためにもまともな武器や防具を作れる鍛冶士も必要なんだろう。

 

 

 

「それでさ、俺たちがドワーフの国に行ってる間、エリスには村の留守番をしていてもらいたいんだ。俺たちが出かけている間に村に何か起こったらまずいからな」

 

 

 

「う〜ん。正直僕も行きたかったけど、村に何かあったら嫌だしね。・・・・・・分かったよ。その代わり、お土産も忘れないでね?」

 

 

 

「ああ、任せとけ!」

 

 

 

その後、リムルはランガ、その他の数名のゴブリン達を連れて、ドワーフの国へと出発して行った。ここからドワーフの国『ドワルゴン』までは徒歩では2ヶ月はかかり、嵐牙狼族(テンペストウルフ)達の足でどのくらいかかるかはわからないらしいけど、少なくとも帰ってくるのは少し先になる。そうとなれば、その間僕は僕のできることをしておこうと思ってる。ただ村でじっとしててもつまらないしね。

 

 

 

「さて!まずは”あれ”を作らないとね!」

 

 

 

早速僕は、”あれ”を作るため行動を開始するのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 




ユニークスキル


魔物使い(マヲスベルモノ)


魔物の持ち主への服従率が格段に上がるユニークスキル。さらに、一部の魔物を除き、その魔物が持つスキルや魔素が自分も使えるようになる(スキルを奪うわけでは無いため、対象がスキルを使えなくなるということは無い)。


オリキャラ  


・ヒョウガ  種族『氷牙狼族(アイシクルウルフ)


ランガの妹。元牙狼族で、エリスの直属の部下。自分の父を殺した仇としてリムルに忠誠を誓う事が出来ずあまつさえ死のうとしていた時、エリスに助けられた狼。そのエリスの姿勢と心優しさに心を撃たれ、エリスに忠誠を誓うことを決める。エリスに”名付け”をされた事で『氷牙狼族(アイシクルウルフ)』へと進化を遂げる。エリス以外の者とはあまり関わろうとはせず、素っ気な態度をとる事が多い(リムルや兄であるランガも例外では無い)。基本的に物静かで優しい性格をしているが、エリスの敵を発見すると即座に排除に向かうほど戦闘意識は高い。



おまけ

・ヒョウガの外見は、モンスターハンターの幻獣『キリン』が狼風な感じになって大きくなった感じとなっています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

村開拓と水やり係?

オリジナル回です!


「主様、これは何を作っておられるのですか?」

 

 

 

ヒョウガが、僕が『水創造』で作った”巨大な箱”を見てそう問うてくる。

 

 

 

「ん?ああ、今から冷蔵庫を作ろうと思ってね?」

 

 

 

「・・・・・・”レイゾウコ”?それは何でございますか?」

 

 

 

「ああそっか知らないよね。冷蔵庫っていうのは、食べ物などの物を冷やしたり冷凍したりして品質を保つためにある保管庫だよ。これがあればいつでも良い品質の物が食べられたりするんだよ」

 

 

 

「なるほど。それは便利ですね。・・・・・・ですが、冷やすと言ってもどのように?この大きな箱だけでは物を冷やすには至れないと思われますが?」

 

 

 

ヒョウガは当然そこに疑問を抱いていた。僕もそんなことはわかってるんだ。だからこそここでヒョウガの力を借りたいんだ。僕はすっとヒョウガの方を向いた。

 

 

 

「ヒョウガ、一つ頼まれてくれないかな?」

 

 

 

「何なりとお申し付けくださいませ・・・・・・」

 

 

 

「ちょっと・・・・・・これを”凍らせて”欲しいんだ」

 

 

 

僕はそう言うと、『水操作』で掌から水を空中に出すと、その状態を保ちつつヒョウガに頼みを聞かせる。

 

 

 

「ああ、そう言うことですか。この水を凍らせてそのままあの箱の中に入れて室温を下げると言うことですね・・・・・・」

 

 

 

「うん。お願いして良いかな?」

 

 

 

「お安い御用でございます!」

 

 

 

ヒョウガは元気よく返事をすると、自身の口から吐息を水に向かって掛けていった。その吐息にはかなりの冷気がまとっている様であって、よく見ると雪の結晶の様なものまで見えるほどに冷たそうだった。尚且つかなり勢いよくその吐息は掛けられたため、空中にあった水は数分もしないうちに水としての原型は無くなり、代わりにしっかりと固まり、冷たくひんやりとしていて、冷蔵庫内を冷やすのに充分値する”氷”の形へと変わっていた。氷が出来上がったと分かった僕は、ヒョウガに『ご苦労様』と言ってやめさせると、その場に氷を置いた。

 

 

 

「よし!上出来かな?後はこの氷を・・・・・・・・・・・・ん?こ、氷を〜〜〜っ!!ぐぐっ・・・・・・・・・・・・お、重い・・・・・・」

 

 

 

《告。対象の氷は推定総重量・・・・・・約100kg。主人(マスター)が持ち上げることは現実的では無いかと。》

 

 

 

後は氷を冷蔵庫の中に入れるだけなのだが、僕たちが作った氷が大きすぎたのか、僕では到底持ち上げられそうになかった。つい気合入れてやりすぎちゃったかな?・・・・・・後、『指導者(ミチビクモノ)』さん・・・・・・そんな情報はいいから何か僕でもこの氷を持ち上げられる方法とかを教えて貰いたいんだけど?

 

 

 

「はぁ・・・・・・主様?もう少しご自身のことを考えてからお作りください。全くご自分の手に負えてないじゃ無いですか・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・ごめんなさい。つい張り切っちゃって・・・・・・」

 

 

 

「次からは気をつけてくださいね?・・・・・・仕方がありません。今回はワタシが運びますので、主様はあの箱の扉を開けてください」

 

 

 

「は、はい・・・・・・」

 

 

 

呆れつつもなんだかんだ言ってヒョウガは協力してくれた。・・・・・・これじゃどっちが主なのか分かったものじゃ無いね。・・・・・・面目ない。ヒョウガは、僕には全く動かせなかった氷を軽々と口で咥え持ち上げるとそのまま冷蔵庫の下まで歩いていった。そして、冷蔵庫内の氷を置くスペースにヒョウガが氷を置いたことで、ようやく冷蔵庫が完成したのだった。氷は適宜追加して行かないといけないんだけど(溶けるから)、電気がないこの世界ではそれは致し方ないことだと思って割り切っている。

 

 

説明してなかった外見だけど、冷蔵庫の大きさは約10m。縦に10mで横に10mの正方形の形に整えている。かなりの大きさだからそれなりに魔素を使ったけど、みんなのためを思えば安いもんだと思って気にせずに使った。扉は全部で3つありそこから出入りできる様になっている。こうする事で、1つの扉にみんなが入り乱れる事なく、冷蔵庫の中に入る事ができて、混雑が防げるんだ。ま、外見と冷蔵庫の説明についてはこんなものでいいかな?

 

 

 

「さて、冷蔵庫の完成を、リグルド達に伝えに行くとしますか!」

 

 

 

無事に冷蔵庫が完成したことを確認した僕は、リグルド達村に残ったゴブリン達に声をかけに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

《個体名《ヒョウガ》がスキル『氷の息吹(アイシクルブレス)』を体得したため、主人(マスター)もスキル『氷の息吹』を獲得しました》

 

 

 

「さっきのが使えるってことか。・・・・・・でも今は忙しいからまた今度にしよっと!」

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「エリス様、少しよろしいですか?」

 

 

 

「ん?どうかした?リグルド?」

 

 

 

冷蔵庫ができてひと月が経ち、村のみんなも徐々に冷蔵庫の使い方に慣れ始めた頃、一休みをしていた僕の元にリグルドが訪ねてきた。何やら重苦しそうな顔をしてるけど・・・・・・何かあったのかな?

 

 

 

「はい。実は・・・・・・ここ最近の乾季の影響もあってか、食物があまり育たなくなってしまいまして・・・・・・」

 

 

 

「うん。それで?」

 

 

 

「今はまだ蓄えがあるため問題はないのですが・・・・・・その蓄えがなくなるのも時間の問題な訳でして・・・・・・どうか、エリス様のお力をお貸しして頂きたいのです。お願いします!」

 

 

 

「そっか〜・・・・・・わかった。雨を降らせる事は出来ないけど、任せておいて」

 

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

食物が取れなくては飢死は免れない。僕やリムルは問題ないけど他の魔物はそうも言ってられない。だからこそ僕が何とかしないとね!そんなことを心の中で叫びつつ、僕は件の畑地まで赴いてみた。・・・・・・やはりというか、リグルドの言う通りいくつもの作物が萎びれてたり枯れたりしていて、とてもじゃないが食べれた物じゃない状態で荒んでいた・・・・・・。

 

 

 

「確かにこれはまずいな・・・・・・。とりあえず、枯れたり腐ったりしてる物は取り除いて、まだ無事そうな物だけ残そう。リグルド、他のみんなも連れてきて頼める?」

 

 

 

「お安い御用です!」

 

 

 

リグルドはその後、僕の言いつけ通り、数人のゴブリン達を連れてきて早速作業に入った。みんなはやはり進化したこともあって、仕事のスピードも体力も上がっていたことも相まり、約1時間ちょっとでこの作業は終了した。・・・・・・改めて進化ってすごいんだね。

 

 

 

「終わりました!エリス様!」

 

 

 

「ご苦労様。じゃ、後は任せて?」

 

 

 

僕はリグルド達を下がらせると右手に魔素を込め、そこからちょうど畑のど真ん中の位置する場所の真上に向かって一つの”水の塊”を放った。その水の塊が目的の畑の真ん中の位置まで来たことを確認した僕は・・・・・・。

 

 

 

「弾けろ!『散水』!」

 

 

 

僕がスナップをすると同時に、水の塊は途端にミスト状の液体に変わりそのまま真下の野菜達に降り注いで行った。これは以前僕が考えた物なんだけど、まさかこんな時にまで利用できるとは思っていなかったな(本当はみんなを涼ませるために作ったんだけど・・・・・・)。その光景を後ろで見ていたリグルド達は『おおっ・・・・・・!』という感嘆じみた声を漏らしていた。

 

 

 

「とりあえず、今の時期は雨が降らないわけだし、僕が畑の水やりを担当するよ。これなら作物達も元気になるだろうしね」

 

 

 

「エリス様!ありがとうございます!このご恩はいつか必ずお返しを・・・・・・」

 

 

 

「そんなの良いって。みんなのためになるならこの程度お安い御用だからさ?」

 

 

 

そんなわけで、僕はこの村の畑の水やり係へと就くことになったのだった。・・・・・・こうして思うと、水になったって言うのも・・・・・・あんまり悪くないかもしれないね。

 

 




スキル


『散水』


エリスが考えた非攻撃魔法。水の塊の中にエリスの魔素を織り混ぜ、それを一気に放出させることで水を拡散させる魔法。遠隔操作が可能でいつどこでも、エリスは水の中の魔素を放出させる事が出来、魔素もそれほど使わないため、用途もかなりある。今のところの使い道は、人をミストで涼ませること、畑の野菜達に水をあげることぐらいだ。



氷の息吹(アイシクルブレス)



ヒョウガが持つスキル。口から強烈な冷気を含んだ息吹を放つ技で、ある程度の魔物、人間であれば数瞬で冷凍状態に出来てしまうほどに強力なスキル。体内の魔素の量によって威力は変化するため、ヒョウガよりも魔素量が多いエリスの場合はそれ以上の冷気と威力が伴っている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

謎のパーティーと仮面の少女

前半はエリス。後半はリムル視点となっています。


リムルの方はほとんど原作と同じになってます。


それから約数日後、リムル達は予想よりもだいぶ早く村へと戻ってきた。何でも、嵐牙狼族(テンペストウルフ)達の足が予想以上に速かった様でドワーフ王国に着いたのは、村を出て3日後のことだったみたい。あの子達ってそんなに足速かったんだね。移動手段としてこれほど優秀な人材はいない・・・・・・余計な話はそこまでにして、さっきも言ったけどリムル達が帰って来た。・・・・・・何人かのドワーフを連れて。あ〜、そういえば何人か技術者を連れてくるって話だったね。僕としたことが、村の開拓や水やりに夢中ですっかり忘れてたよ。

 

 

リムルから事情を説明して貰い、僕や他のみんなもこのドワーフ達を歓迎することにした。これから色々と世話になる訳だし、歓迎しないわけにはいかないよね。

 

 

 

「リグルやランガ達には紹介したが、まず始めにこいつが武具製作職人のカイジン。こいつが3兄弟の長男のガルムで防具製作の職人だ。で、次男のドルド。細工の仕事はこいつに任せるつもりだ。最後に3男のミルド。建築や芸術に詳しいみたいだからそれを任せるかな。一応こいつらが今回ドワーフ王国から連れて来た職人達だ。みんな、仲良くしてやってくれよ?」

 

 

 

リムルの言葉に僕たちは静かに頷いた。『意外と素直だなぁ〜』ってリムルが少し驚いていたけど、実はすでに僕が村のみんなのことをある程度説得しておいたんだよね。リムルが誰を連れて来ても仲良く接して欲しいってね。それもあって、リグルドを始めとしたゴブリン達や嵐牙狼族(テンペストウルフ)達は快く新たな仲間である、カイジン、ガルム、ドルド、ミルドを歓迎してくれた。うんうん!みんな仲良くしてくれそうで良かった!

 

 

 

「・・・・・・本当に良いのですか?彼らが信用に足りる存在かは測りかねませんが?」

 

 

 

「大丈夫だよ。リムルは変な悪人とかを連れてくる様な奴じゃないから。・・・・・・ヒョウガは嫌かな?」

 

 

 

「いえ・・・・・・主様がよろしければそれで良いのですが・・・・・・」

 

 

 

「うん。すぐに彼らを信じてとは言わないよ。でもさ?いつかは彼らをちゃんと仲間として認めて欲しいかな」

 

 

 

「・・・・・・分かりました」

 

 

 

ヒョウガはやはりリムルが連れて来た者達と言う事で、少し嫌な顔をしていたが最後には頷いてくれた。この子ももっと他のみんなと仲良くして貰いたいな。もちろん常に僕のそばにいてくれるのは嬉しいけど、やっぱり僕以外にも気さくに接せる仲間はいたほうが良いはず。この子にそんな気は今のところ全くないため、時間はかかるかもしれないけど、この子がその気になるまで、僕がそばでこの子に寄り添っていてあげよう。

 

 

 

その後、4人の歓迎会を兼ねてちょっとした食事会が開かれ、僕たちは盛大に盛り上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・で、何でこうなっちゃうのかね?」

 

 

 

 

森の中の一つの”だだっ広い開けた土地”の中で、今までの()()もいるゴブリン達がドワーフたちの指示のもと、作業をしている中、僕は一人そんなことをぼやいていた。

 

 

 

「まさかここまでゴブリンたちが増えるなんて予測外だった・・・・・・」

 

 

 

事の発端はリムルたちが帰ってくる2日前。僕たちがいつもの様に村で呑気に過ごしていた頃に、まさかまさかの近隣のゴブリンの村からたくさんのゴブリンたちが庇護を求めて大勢で押し寄せて来たんだ。その数はおよそ500人弱と言ったところで、とてもじゃないがこの村では到底収まり切れたものじゃ無かった。だから、僕はリムルたちが帰って来て歓迎会も終わった後でリムルに相談をしたんだ。新たな広い土地に移動をしないかと。リムルもそれを考えていたのかそれを快く受け入れてくれて、すぐさま僕たちは引っ越す事になったんだ。

 

 

 

引っ越す前に、500人いるゴブリン達に僕とリムルは半分に分けて名付けを行った後、改めて広い土地へと移って行った。そして数日後、僕たちはようやくこの大所帯でも生活できそうな土地を見つけることができた。数日かけて見つけたその広大な土地は、立地的にも問題は無く、うまく建築や開墾、整備などをすれば街を作ることも可能に見えた。そのことをリムルに相談した結果、その案が見事に採用され、この土地に僕たち魔物の街を作ることになり、今に至るってわけだ。

 

 

 

「リムルは暇だからってどっかに行っちゃったし、ヒョウガは昼寝中だし・・・・・・僕も暇だから・・・・・・少し寝よ」

 

 

 

僕は今のところ特に仕事はないから暇なんだ。それに話し相手もいなかったから、とりあえず寝る事にした。別に『水魔人』は寝なくても大丈夫なんだけど、元々寝ることが好きだったため、僕は寝る事にした。僕は、ドワーフたちが作ってくれた僕専用の”巨大な壺”を持ってくると、そこで『擬人化』を解いた。すると、途端に僕の体は人間の体からただの液体の水へと変わり、その壺の中へ入り込んでいく。こうして置かないと、あたり一面に僕の水が流れ出てしまい、大変な事になってしまうんだ(実際、転生直後もあたり一面に大量の水が流れてたわけだし)。意外とそんな事ないだろって思われがちだけど、見た目に反して、僕は水を大量に擁しているため平地でそれをやると大惨事になりかねないんだ(洪水など)。また、水の状態で外に出ると、いろんな意味でひどい目に遭うからだ。よくあったのは、水溜りと間違われて踏まれる事、間違って飲まれる事、などなど。

 

 

 

とにかく、そんな事は絶対に嫌だったからドワーフたちに頼み込んで作ってもらったんだこの壺を。これならみんなに迷惑をかけることもないし、僕にも何も問題はない。はぁ〜〜このツボって落ち着くな〜〜っとぼやきながら、僕の意識はゆっくりと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

視点 リムル

 

 

 

 

広い土地に引っ越して数日経った。俺は今はその土地の近くでいろんなスキルを試し打ちしたりして、何が使えて何が封印した方がいいかってのを探っていた。封印ってのは主に威力が強すぎて周りに危害が出そうなスキルのことで、基本的に今後使う事は少なくなるかもしれないスキルでもある。

 

 

 

そんなことをしていると、俺は一つの冒険者?らしきパーティーと出会した。見るにそのパーティーは以前、俺がヴェルドラと会った洞窟内で見かけたパーティーであって、どうにも魔物と交戦していて苦戦気味であるのがわかった。だが妙なのは、あの時見かけたのは3()()であって、4()()では無いはず。なのにもう一人、()()()()()()()()()()()がいたんだ。・・・・・・彼女は一体?

 

 

 

それはともかくとして、苦戦してるなら助けてあげようと思い、俺はスキル『黒雷』を使ってそのパーティーを助けた(このスキルも威力が計り知れなかったため、封印決定となった)。そのパーティーの連中は、最初俺のことをスライムだからといって警戒して来て、お礼の一つも言ってこなかった。それに俺は少しむかっとしたけど、一応俺の方が年上みたいだし(精神年齢が)多めに見る事にした。・・・・・・だが、そんな中俺が気になっていた仮面の女の人が俺へと近づいて来た。

 

 

 

「助かったよ。ありがとね」

 

 

 

「っ!・・・・・・うん。どういたしまして!」

 

 

 

彼女はすっとしゃがむと、顔につけていた仮面をとり、微笑ましい笑顔を見せながらお礼を言った。俺が驚いたのは、何も彼女が一瞬見せた仮面の中の顔が綺麗だからとか、美しいからとかそんな理由じゃ無い。俺が驚いた理由・・・・・・それは、この人がドワーフ王国『ドワルゴン』で占ってもらった俺の運命の人・・・・・・シズエ・イザワだったからだ。まさかこんなに早く会えるなんてな・・・・・・。

 

 

 

「やれやれ・・・・・・ここ最近ほんとついてないことばかりだぜ・・・・・・」

 

 

 

「ん?何かあったのか?」

 

 

 

「いやそれがさ〜・・・・・・」

 

 

 

聞いたところ、こいつらはこの森の調査に来ていたらしく、運悪く巨大妖蟻(ジャイアントアント)の巣に入ってしまい、三日三晩追われ続けていた様で疲労困憊中なのだと言う。それに、道中に荷物を落とし、装備を壊し、はらぺこなのだしとやいのやいの言われ、さすがにかわいそうに思えた俺は、こいつらを俺の町・・・・・・とまで言えるかは分からないが、とにかく俺らの住処まで招待する事にした。

 

 

 

だが、やはり魔物の町と言う事に抵抗があるのかこいつらは何処か嫌そうな顔を見せる。・・・・・・仕方ない。ここは敵じゃ無いアピールでも見せて警戒心を解くとするか!俺はとっさに思い出した、スライムにとっては馴染みのある”あの台詞”を言い放った。

 

 

 

「『俺はリムル!悪いスライムじゃ無いよ!』」

 

 

 

「っ?・・・・・・ふふっ」

 

 

 

・・・・・・なんかシズエさんに笑われたんだけど?俺の敵対ゼロアピールは結構良かったと思うんだけど?そんなことを呑気に考えていると、何故かシズエさんに持ち上げられた。

 

 

 

「この子は信用できる。お邪魔しよう」

 

 

 

「えっ?・・・・・・そ、そうなのか?・・・・・・・・・・・・それなら、行くか」

 

 

 

どうやら大人しくついて来てくれる様になったみたいだな。なら良かった。・・・・・・にしても、シズエさんはなんでこんなにあっさり俺のことを信用してくれたんだ?それだけが疑問だ。

 

 

 

「ねぇ、スライムさん。貴方の国はどこ?」

 

 

 

「国?・・・・・・はは。まだ国なんて呼べるものじゃ無いさ。あくまでまだ町を作ってるレベルでいずれは・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

「そうじゃ無くて・・・・・・貴方の()()()()()はどこ?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

そう言うことか。この人はどうやら俺がこの世界の者じゃ無いことを知っているんだ。・・・・・・もしかして、さっきのセリフに聞き覚えがあったのか?

 

 

 

「・・・・・・日本だよ」

 

 

 

「やっぱりね!私もそうよ。さっきのセリフ、同郷の子から聞いたことがあったのよ。だからもしかしてと思ったけど、そうだったんだ・・・・・・会えて嬉しいよ」

 

 

 

「ああ、俺もだ」

 

 

 

シズエさんの笑顔に俺も自然と笑顔になる。占ってもらった時から名前的に日本の人かなって思ってたけどどうやら当たりみたいだった。にしても、運命的な出会いがこうも立て続けに起こるなんてな。1回目はヴェルドラ。2回目はエリス。3回目はシズエさんだけど、こんなに早く運命の人たちと会っていいのかな?・・・・・・まぁいいか。それにしても・・・・・・こんな優しそうな人が『爆炎の支配者』だなんて二つ名を持っていると言う事に違和感しかないが、それはいずれ聞いてみる事にしよう。

 

 

 

俺たちは、街に向けて歩を進めるのだった。・・・・・・エリスは今何やってるんだろ?

 

 

 

 

 

「Zzz・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 




「思ったんだが、寝るときは『擬人化』した状態で寝たらどうだ?それなら水が出る心配もないだろ?」



「う〜ん。それも考えたんだけど、『擬人化』って常に魔素を消費していないとなれないんだ。僕の体質上、魔素を消費しながらだとなぜか寝ることが出来なくてね?だからそれは却下って事になったんだ」



「へ〜?じゃあお前が寝るときはあの壺が必需品ってなるわけか〜。なんかめんどくさいな?」



「それはしょうがないよ・・・・・・」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シズさんの過去

少し空きました。色々と忙しかったためです。


 

 

それから数分後に、俺はこいつらを連れて町へと着いた。見たところ、少しずつではあるけど確実に家や建物などの施設の建設は着実に進んでいた。やっぱりカイジン達ドワーフ族を連れてきて正解だったな。この調子なら後1ヶ月ほどで出来るだろうな。後ろのパーティーも意外にも広い土地だったのか、戸惑い気味の顔を浮かべていた。

 

 

 

「さて、町についた事だし、早速何かご馳走してやりたいところなんだけど、その前に一ついいか?」

 

 

 

「一つ?何かあるの?」

 

 

 

「ああ。お前たちに紹介したい奴がいるんだ。俺と同じでこの町のみんなをまとめてる奴なんでお前たちにも紹介したくてな。ちょっと待っててくれ!」

 

 

 

俺はそう言うと、そのパーティーを残し、エリスを呼びに行った。さっきまでエリスは見回りをしてたはずだからその辺に居るはずだけど・・・・・・あれ?だが、エリスのその姿はどこにも無かった。

 

 

 

「いないな。あいつどこに・・・・・・あ、もしかして?」

 

 

 

姿がない事に違和感を覚えた俺だったが、すぐにエリスの居場所に見当がつき、そこに向かった。と言うのも、以前エリスから教えてもらった”寝床”がある場所なんだがな。

 

 

 

だが、目的の場所についた俺が見たものは・・・・・・ある意味ではとてもまずいものだった。・・・・・・・・・・・・先ほどのパーティーの一人が”エリスの寝床である壺の中身を掬って飲んでいる”なんて。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

エリス視点

 

 

 

「ん〜〜〜・・・・・・」

 

 

 

どのくらい経ったかはわからないけど、少し寝れた僕は非常に気分が爽快としていた。やっぱり寝ると気分が良くなって落ち着くね。さて、そろそろと思い、起きようと壺から出ようとした僕だったけど、あるいくつかの声に遮られ、それは叶わなかった。

 

 

 

「はぁ〜・・・・・・腹もだけど、喉もすごく乾かねーか?」

 

 

 

「うん、私もかな?結構前に水なくなっちゃったし・・・・・・」

 

 

 

「だよな・・・・・・。ん?おっ!こんなとこに大きな壺があるじゃねーか!それも水がたっぷり!少しくらいもらってもバチは当たらねーよな?」

 

 

 

何やら男の声が近づいてくると思ったら僕の壺に向かって唐突にそんなことを言ってくる。そして、僕の一部(水)をひと掬いして飲もうとしようと僕の中に手を入れ始めた。そっか・・・・・・喉が渇いてるのか・・・・・・まぁ、それくらいなら全然問題ないし水はあげても・・・・・・・・・・・・って。

 

 

 

「(なるわけないでしょっ!!?)ま、待って待って!!水はあげるからこの水だけは飲まないで!!?僕の体の一部なんだから!!」

 

 

 

「うわっ!!・・・・・・はっ!?水が・・・・・・喋った?」

 

 

 

僕が突然喋った事に驚いたのか、その男の人と後ろの3人の人達は盛大に驚いていた。その間に、僕は素早く壺の中から出ると、さっさと『擬人化』を発動して人の姿に変えてしまった。その僕の変化に目の前にいた4人の人たちは再び驚いた。

 

 

 

「人・・・・・・?いえ、でも・・・・・・」

 

 

 

「あの?すいませんがどなた方ですか?見たところ・・・・・・人間でしょうか?」

 

 

 

「スライムさんに助けられて、この町に招待されたの。なんでも、私たちに会わせたい人がいるって言って、どっかに行っちゃったんだけど・・・・・・・・・・・・もしかして、それって貴方のことかな?」

 

 

 

「そうなのかな?僕は何も聞いてないけど・・・・・・」

 

 

 

「エリスーーー!!」

 

 

 

僕が何か言おうと口を動かそうとした時、この人達を連れてきた張本人であるリムルがこっちに向かってきた。

 

 

 

「いきなり飲まれそうになるなんて災難だったな」

 

 

 

「全くだよ・・・・・・リムルも出来れば注意して欲しかった。・・・・・・で、この人たちは?お客さんかな?」

 

 

 

「ああ、ちょうどさっき会ってな。お前たち、こいつがさっき言ってた俺が紹介したかった奴だ。あ、と言うか俺の自己紹介がまだだったな?・・・・・・俺はリムル=テンペスト。一応この町を仕切ってる。よろしくな!」

 

 

 

「お客さんなら、ちゃんともてなしてあげないとね。僕は、エリス=テンペスト。リムルの補佐みたいな立ち位置に入るのかな?とにかくよろしくお願いします」

 

 

 

「「「「よろしく・・・・・・」」」」

 

 

 

挨拶はちゃんと返してくれたけど、どこかぎこちない。まぁ・・・・・・いきなり一匹のスライムと水から変化した僕から自己紹介されても戸惑うのも無理ないか。・・・・・・とりあえず、緊張をほぐそうかな?

 

 

 

「皆さんは喉が渇いてるんでしたよね?良ければこれをどうぞ」

 

 

 

僕は、『水創造』で4つ小さなコップを作ると、その中に水を入れて4人に手渡してあげた。

 

 

 

「おっ!ありがてー!・・・・・・・・・・・・はっ!?なんだこの水!めちゃくちゃうまいんだけど!?」

 

 

 

「確かに美味いでやすね?」

 

 

 

「おいっしー!!エリスさんでしたっけ?この水ってどこで取れるんですか?」

 

 

 

「僕が浄水して清潔にした水なのでこの水は僕がいないと飲めませんね。僕は一応は水の魔物ですから、水は清潔にしたかったので。良ければお代わりどうぞ」

 

 

 

「ありがとう、エリスさん」

 

 

 

僕の水が思いの外好評だった事に僕の頬が緩む。良い気分のままコップが空になった4人に再び水を注いであげると、近くにいた仮面をつけた女の人が僕の頭を撫でてきた。嬉しいんだけど・・・・・・なんだろう?この人に撫でられると、どこか母さんに撫でられていた頃を思い出す。

 

 

 

その後、僕たちは4人を町の中へ案内し、簡単な料理を振る舞うこととなった。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「そうなの・・・・・・エリスさんも転生者か・・・・・・貴方も苦労したのね」

 

 

 

「まぁ・・・・・・色々大変でしたね・・・・・・」

 

 

 

料理を簡単に振る舞った後、リムルとさっきの人たちと一緒にいた仮面をかぶっていた女の人、シズエ・イザワさん(通称シズさん)から簡単に自分のことを教えてもらっていた。そのことを教えてもらう前に、リムルのことを転生者と知っていたシズさんに僕も転生者だと言うことを教えておいた(その際、やはり驚かれた)。先に教えておけば僕にも話しやすいと思うしね。

 

 

 

それでシズさんについてなんだけど、なんでもシズさんは僕たちの世界で言う戦時中・・・・・・つまり日本で大空襲があった時代からこの時代に()()されてきたらしい。シズさんも十分苦労人・・・・・・・・・・・・あれ?

 

 

 

「シズさんは死んでこの世界に来たわけじゃないのか?」

 

 

 

「うん。私は違うよ?本当は私は召喚される予定じゃないみたいだったけど、なんか召喚したその男はなんの因果か、もしくは気まぐれかもしれないけど、私に”炎の精霊”を憑依させたの」

 

 

 

「炎の精霊?さっき使ってたあの炎もその精霊の力か?」

 

 

 

「うん。そうだけど、あの力は別に私が望んで手に入れたかったわけじゃない。勝手にあの男につけられた力だからね。・・・・・・一種の呪いみたいなものかな?」

 

 

 

「呪いって・・・・・・少し大袈裟なんじゃないですか?」

 

 

 

「そんなことないよ。この炎を操る力のせいで、私は多くの親しい人を失ってしまったんだから・・・・・・。それに・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

もうこの力を制御できる力も残ってないしね・・・・・・

 

 

 

 

「何か最後言ったか?」

 

 

 

「いいえ、なんでもない。さて、私の話はこれでおしまい。この後はどうしようか・・・・・・」

 

 

 

「腹ごなしに散歩でもどうだ?俺とエリスが案内するからさ!」

 

 

 

「うん。そうしよっか。エリスさんもそれで良いかな?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「エリス?どうかしたか?」

 

 

 

「・・・・・・へっ?ううん、なんでもない。行こうか・・・・・・」

 

 

 

呆けていた僕を心配するリムルとシズさんにそう返した僕だったが、内心は非常に穏やかでは無かった。・・・・・・なぜなら。

 

 

 

「(シズさんが最後に言った言葉・・・・・・『力が制御できない』ってどう言うことだろう?もしかして、その炎の精霊に何か関係があるのかな?・・・・・・・・・・・・いやな予感がする)」

 

 

 

シズさんが最後にボソッと呟いた言葉が僕には聞こえていたからだ。今はそのシズさんが言った『力の制御』の意味がよくわからなかったが、この後すぐにその言葉の意味を”悪い方向”で知ってしまうことを今の僕は知らなかった・・・・・・。

 





エリスの水


エリスの媒介となっている水。この水は地上にある水を魔素によって取り寄せているため、仮にエリスの本体である水も飲まれたり失ったりしてもすぐに元に戻る(本人は嫌がっている。なんでも気持ちが悪いのだとか)。この水はエリスの体内で浄水され、魔素の力によって余分な雑味や細菌などが取り除かれているため、普通の水よりも綺麗でさらさらしていてとても扱いやすい。基本的には『水創造』や『水操作』などで用いられることが多いが、飲み水としても利用することが可能。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

力の暴走

それから僕たちは、近くの森を散歩してたわけなんだけど・・・・・・いまだに僕は先ほどの”シズさんの言葉”に妙な予感を感じていて、気が気で無い状態だった。さっきのシズさんの顔は・・・・・・その力に抗うとか抵抗するだとかそう言ったものでは無かった。・・・・・・あの顔は明らかに諦めというか・・・・・・どこかその言葉どおりになることが当然だとでも言うかのような顔に見えた。それもあってか、僕は頭の中で一つの仮説を導き出していた。

 

 

 

「(もしかして・・・・・・シズさんの中にいる炎の精霊が・・・・・・シズさんのことを蝕もうとしているのかな?シズさんはその炎の精霊を望んで手に入れたわけではなく、無理やり憑依させられたって言ってたよね?・・・・・・だとすると、その精霊とシズさんがうまいこと体の中で適合しているとも限らない。そうなると、中の精霊も反発を起こすはず・・・・・・。この体の主(シズさん)と体を操る主導権を奪うために争うべく・・・・・・。多分今はシズさんの強い気持ちと気力でなんとか精霊を起こさないようにしているのかもしれないけど・・・・・・それもいよいよ限界に近づいてるってこと・・・・・・?)」

 

 

 

あくまで仮定で断言はできないけど、この可能性も十分に考えられた。だからこそ、いつでも対応ができるように準備を固めていた僕だったけど・・・・・・どうやらその行動は・・・・・・・・・・・・正解だったみたいだ。

 

 

 

「シズさん。そろそろ戻ろう・・・・・・っ!どうかしたのかシズさん!?」

 

 

 

「うっ・・・・・・そ、そんな・・・・・・こんな早くに・・・・・・・・・・・・二人とも・・・・・・私から早く・・・・・・はな・・・・・・れて・・・・・・」

 

 

 

「な、何を・・・・・・うわっ!!」

 

 

 

突然シズさんが苦しみ出した。心配したリムルが追求しようとシズさんに近づいたところ、シズさんはリムルを片手で掴み上げると、僕の方へ投げ飛ばしてきた。飛んできたリムルを僕が受け止めるのと同時に、シズさんの雰囲気が一気に変わるのが分かった。先ほどの物静かで優しい雰囲気を醸し出していた少女は既になく、代わりに現れたのは、辺りを暑い暑い蒸気で蒸し上げ、炎のオーラの様なものを纏い、殺気を隠すことなく僕たちに向けてくる()()()をした少女だった・・・・・・。

 

 

 

「くっ・・・・・・(嫌な予感ほどよく当たるもんだね・・・・・・。)ピィィィーーーー!!!!」

 

 

 

「お呼びでしょうか?主様?」

 

 

 

「ランガッ!!」

 

 

 

「ただいま参上致しました!我が主よ!!」

 

 

 

突然の緊急事態の為、僕は口笛でヒョウガを呼ぶ。それと同時にリムルも僕の腕から降りると、自分の”影の中”からランガを呼び出した(そんなことできたんだ・・・・・・)。

 

 

 

「ヒョウガ!シズさんに異変が生じた!このままだと町にまで被害が出る可能性があるんだ!だからキミは町に戻ってみんなに避難を呼びかけてくれ!」

 

 

 

「了解いたしました!主様は!?」

 

 

 

「僕は・・・・・・リムル達と共にここでシズさんを食い止める!」

 

 

 

「無茶です!!見たところ、あの者からは膨大なる魔素が滲み出ています!おそらくその量は主様を上回っていることは間違いありません!今の貴方様では太刀打ちできるとは思えません!ですからどうか・・・・・・」

 

 

 

「大丈夫!僕を信じてくれ!・・・・・・前にも言ったでしょ?僕は自分のことも大事だけど、他のみんなのことも同じくらい大事なんだ。・・・・・・だから、僕が・・・・・・僕たちがみんなを守らないといけないんだ!」

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

僕がそう言い放つと、ヒョウガは非常に悲しそうな顔をしてしまう。・・・・・・大丈夫だって言っても確かに根拠はないけど、そこまで悲しそうにしなくていいのに・・・・・・。僕はそっとヒョウガの近くまで来ると、そっと頭を撫でてやる。

 

 

 

「約束する。必ず生きて全員で戻ってくるって。・・・・・・だから、ヒョウガは町で待っていてくれ」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かりました。約束ですからね?・・・・・・どうかご無事でご帰還ください。・・・・・・・・・・・・兄上、主様をどうかよろしくお願いします」

 

 

 

「・・・・・・わかった。必ず守り抜こう」

 

 

 

「・・・・・・では」

 

 

 

ヒョウガはランガに僕のことをお願いすると、颯爽と町へと戻って行った(リムルにはお願いしないのね・・・・・・はは)。とりあえず、これで町のみんなは大丈夫だろう。あとは・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

「エリス。なんとかしてシズさんを助けるぞ!」

 

 

 

「うん!なんとしてでも助け出そう!!」

 

 

 

僕たちが、シズさんを食い止めるだけだ・・・・・・。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「リムルの旦那ー!エリスの旦那ー!」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

僕たちがシズさんを食い止めるべく動き出そうとした時、僕たちの後ろから先ほどのパーティーの人たち、カバルさん、ギドさん、エレンさんが駆け寄ってきた。

 

 

 

「さっきでっかい炎柱が出たでやすが一体・・・・・・っ!!」

 

 

 

「っ!シズ・・・・・・さん・・・・・・?」

 

 

 

3人もやはり突然のシズさんの変貌に驚いているのか驚愕に似た顔を貼り付けていた。・・・・・・このままだと彼らにも危害が加わってしまう。それはシズさんも望んでいない!

 

 

 

「皆さん!ここは危険です!速やかに離れてください!町まで戻ればヒョウガが誘導をしてくれますので!」

 

 

 

「そうだ!ここにいちゃ危ない!今のシズさんはお前達の知るシズさんじゃないんだ!」

 

 

 

「そんな・・・・・・ん?シズ・・・・・・シズエ・・・・・・シズエ・イザワ・・・・・・・・・・・・っ!そうかっ!」

 

 

 

「どうかしたの?ギド?」

 

 

 

突然ギドさんが何か思い当たった様に顔を引きつらせた。・・・・・・もしかして、何か気がついたのかな?

 

 

 

「間違いありやせん!あの人はあの伝説の英雄、”爆炎の支配者”シズエ・イザワでやす!炎の最上位精霊”イフリート”を宿していると言われている最強の精霊使役者(エレメンタラー)・・・・・・」

 

 

 

「まじかよっ!?」

 

 

 

「嘘っ!?」

 

 

 

相手があの伝説級の英雄だとわかったのか、震えがさらに大きくなる3人。・・・・・・だが、それもすぐに治まった様だった。

 

 

 

「そっか、だがシズさんがそうだったとしても、あの人は俺たちの大事な仲間だ!このまま大人しく帰るわけには行かねーよな!」

 

 

 

「うんっ!」

 

 

 

「そうでやす!」

 

 

 

・・・・・・全くこの人達は。でも、シズさんのためにここまでしてくれるなんて・・・・・・シズさんはいい仲間に巡り会えたんだね。良かった。それなら僕はこの人達を絶対に守り抜かなくちゃ!シズさんのせいでこの人たちが怪我をしたと知ったら悲しむからね・・・・・・。

 

 

 

感慨も程々にし、僕は改めてシズさんに向き合った。先ほどよりも明らかに殺気が増し、あたりの気温も徐々に上がっていくのを肌で感じた。しばらくすると、シズさんの姿がすっと変わっていき、現れたのは豪炎を纏った一人の精霊だった。おそらく、これが”イフリート”なんだろう・・・・・・とにかく、長期戦になると森にまで火が回る可能性がある。そうならないためにも、なるべく早めに勝負を決したいとこだね・・・・・・。

 

 

 

《警告。対象の魔素の量が桁違いに上がっています。身体能力及び精霊魔法の向上が見込まれます。》

 

 

 

「そうか。リムル、僕が注意を引きつけるからその間にリムルはランガと共に背後に回って攻撃して。相手は炎の精霊だから水に弱いかもしれない」

 

 

 

「ああ・・・・・・。無理はするなよ?」

 

 

 

「うん。大丈夫!・・・・・・さて、行こうっ!!」

 

 

 

僕の合図と同時に一斉に動き出す。僕がまず始めにに出ていき、イフリートの注意をこちらに向けるべく誘導していく。

 

 

 

「キミの相手はこっちだ!やれるものならやってみろ!」

 

 

 

僕の挑発の声に反応したのかは分からないが、イフリートは視線をこっちに向けた。するとイフリートの頭上から数多の炎のかけらが形成される。そして・・・・・・そのままその炎を僕に向けて降り落としてきた。

 

 

 

「くっ・・・・・・!まるで隕石だ・・・・・・こんなのまともに食らってたら勝ち目なんてない・・・・・・あれ?でも、僕って『熱無効』のスキルを持ってるよね?だったらこの炎を食らっても大丈夫なんじゃ・・・・・・」

 

 

 

《解。過剰なる熱を持った炎を浴びさった場合、主人(マスター)の体の水が反応し、巨大な水蒸気爆発を引き起こす可能性があります。その範囲はおよそ半径1km。》

 

 

 

それは・・・・・・まずいよね?そんな爆発なんてしたらここら一帯町丸ごと消し飛んじゃう。・・・・・・そっか、確かにそうだよね。『熱無効』っていうのはあくまでその炎によって暑さを感じなくなったり、ダメージが入らなくなるってだけの話であって、そう言った”爆発現象”まで防げるわけじゃない。だとすると、闇雲に炎に当たるのはやめておいた方がいいということになるね。

 

 

 

「だとするなら・・・・・・攻撃を躱しつつこっちも応戦するしかない!【水刃】!!」

 

 

 

「こっちも【水刃】だっ!!」

 

 

 

僕に注意が入ってるうちに背後に回れたリムルとランガ。そして、僕が【水刃】を放つと同時に、リムルもまた同じ【水刃】でイフリートに攻撃を当てようとしていた。・・・・・・だが、その僕たちの攻撃はイフリートに届く前に一瞬にして蒸発してしまった。

 

 

 

《告。精霊種は爪や牙などの物理攻撃を無効化します。有効な攻撃手段は”魔法”です》

 

 

 

「くっ・・・・・・僕は魔法はまだ使えない。それだと・・・・・・僕に攻撃できる術は・・・・・・・・・・・・ない」

 

 

 

「ちっ・・・・・・黒稲妻も多分効かないだろうし・・・・・・攻撃がすごく限定される・・・・・・どうする?」

 

 

 

まともにダメージが入るのが魔法な以上、僕にできる事は少ない。氷の息吹(アイシクルブレス)も多少は効くかもしれないが、有効なダメージにはならないと思う。リムルだって、魔法が使えるわけではないためリムルも攻撃手段がないはずだ。・・・・・・まずい。詰みに近い状況だ・・・・・・どうする?はぁ〜・・・・・・こんな事なら魔法の一つでも二つでも学んでおくべきだったな〜・・・・・・。

 

 

 

「『水氷大魔槍(アイシクルランス)』!」

 

 

 

次の一手はどうするか悩んでいた僕とリムルだったけど、今まで防戦一方だったエレンさんが放った一つの魔法によって、展開が大きく動き出す事となった。その放った魔法は、かすり傷ではあるけどイフリートの腕に傷を作ったんだ。これは非常に大きかった。今までまともにダメージが入らなかったイフリートに対して初めて攻撃が当たったんだから。・・・・・・これをきっかけに状況が一変することを祈りたい!

 

 

 

「リムル!僕はエレンさん達を援護する!リムルはランガと共にイフリートを翻弄して!」

 

 

 

「わかった!行くぞランガ!」

 

 

 

「お任せを!!」

 

 

 

攻撃手段を変えたことで役割を変えることになった。今度はリムルが攻めで僕が守りという形だ。リムルは先ほど、エレンさんが放った魔法『水氷大魔槍(アイシクルランス)』を『捕食者(クラウモノ)』で自分の物にしたため、攻撃手段を得た。それによってリムルは新たなる魔法『水氷大魔散弾(アイシクルショット)』を会得し着実にイフリートにダメージを与えていった。だが、やはりそれだけではイフリートを止めるには至れなかったのか、徐々に押され始めていってるのがわかった。エレンさん達も既に限界を迎えていたのか、かなり苦しそうにしているのがわかる。このままじゃ・・・・・・。

 

 

 

「(どうする?・・・・・・エレンさん達はもう限界だ。リムルとランガだっていつ限界が来てもおかしく無い。・・・・・・僕だけが・・・・・・何も出来てない。僕はなんて無力なんだ・・・・・・。僕はこうして・・・・・・みんなを・・・・・・リムルをただ見守ることしか出来ないの?・・・・・・ただただ他人を”応援”することしか出来ないの?・・・・・・・・・・・・どうすればいい?どうすればみんなを守れるの?・・・・・・僕はみんなを守りたいんだ!!)」

 

 

 

《告。ユニークスキル『応援者(コブスルモノ)』が発動可能となりました。実行しますか?Yes/No?》

 

 

 

心の中で嘆く僕の頭の中に、『指導者(ミチビクモノ)』さんの声が響き渡った・・・・・・。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着!そして別れ・・・・・・

今回でシズさんの話が終わります。やっと先に進める・・・・・・。


 

 

 

 

 

《告。ユニークスキル『応援者(コブスルモノ)』が発動可能となりました。実行しますか?Yes/No?》

 

 

 

「っ?ユニークスキル?・・・・・・この状況になってなんで今頃?」

 

 

 

突然頭に響いてきた声に僕は戸惑いを浮かべ、首を傾げる。今のところ僕が使えるとわかっているユニークスキルは『指導者(ミチビクモノ)』『魔物使い(マヲスベルモノ)』のみで、さっき聞いた『応援者(コブスルモノ)』というユニークスキルは知り得ないスキルだ。通常であれば、どんな効果を持つか分からないスキルを使うのは吝かで、使いたくは無いのだが、今は”こんな状況”ということもあって、そんなことを考えている余裕は僕には無かった。だから僕は、この状況を打破する一手として藁にもすがる思いで頭の中で強く念じた。

 

 

 

「(頼むっ!なんとかこの窮地を脱する糸口となってくれ!『Yes!』)」

 

 

 

《了。ユニークスキル『応援者(コブスルモノ)』を発動します。》

 

 

 

指導者(ミチビクモノ)』さんが発動を宣言する。すると同時に、僕の体から神々しい光が溢れ出す。そして、その光が徐々に大きくなっていくと、ここら一帯を光が侵食していき、あたりを呑み込んでいった。そしてしばらくすると・・・・・・その光は僕の体の中に収まるかの様にして静かに消えていった・・・・・・。

 

 

 

「これはっ・・・・・・」

 

 

 

「すっごい光がエリスさんから・・・・・・しかもなんだろ?なんだかさっきの光を浴びてから何処か安心するというか・・・・・・落ち着くというか・・・・・・って、えっ!?」

 

 

 

「エレンっ?どうかしたのか!?」

 

 

 

「傷が・・・・・・さっき攻撃を受けたときにできた傷が・・・・・・治ってるのっ!」

 

 

 

「はっ!?んなばかな・・・・・・って俺の傷も治ってるじゃねーかよ!?」

 

 

 

「俺もでやすよ!しかも、なんだか力がさっきよりも漲ってくる感じもするでやす!」

 

 

 

「っ・・・・・・?」

 

 

 

エレンさん達の様子がおかしい事に疑問を覚えた僕はエレンさん達の方を向いてみると、そこには・・・・・・先ほどまでイフリートの攻撃を受けて傷だらけになってた彼女達では無く、まるでここにきたのは今とでも言わんばかりに傷一つ無く、五体満足な状態の彼女達の姿だった。・・・・・・それはリムルも同様の様だった。

 

 

 

 

「我が主よ!何やら”力が溢れ出てくる様な感覚”に見舞われているのですが・・・・・・もしやエリス殿が出されていたあの光が・・・・・・」

 

 

 

「ああ、多分な。(・・・・・・大賢者、これは何だ?)」

 

 

 

〈解。個体名エリス=テンペストが発動したユニークスキル『応援者(コブスルモノ)』の効果により、対象が味方と判断した者にのみスキル効果の”強化付与”がされたことが原因です。〉

 

 

 

「(強化だって?バフみたいなものか・・・・・・具体的には何が強化されたんだ?)」

 

 

 

〈解。主に身体能力、スキル、魔法、自己再生力、脳内の思考速度、精神力、その全てが強化されます。〉

 

 

 

「(え?マジで?そんなめちゃくちゃ良いスキルをエリスって持ってたのかよ・・・・・・。確かにさっきに比べて力が解放っていうか溢れ出てくる感じに苛まれてるけど・・・・・・って今はそんなことはいいか。せっかくエリスが援護してくれたんだ。絶対にこいつを倒して、シズさんを助け出してみせる!)」

 

 

 

リムルも自分の体の変化に気がついたのか、少し動揺している様に見えたけど、すぐに気持ちの切り替えが出来たのか、颯爽とイフリートへと向かって行った。リムル同様にリムルを乗せながら走っているランガもまたかなりの強化がされた様で、先ほどよりも俊敏性や洞察力などが向上している様に見えた。・・・・・・リムルは言わずもだけど、先ほどからはなっている魔法もスキルも、比べ物にならないほどに強力になっていた。・・・・・・これならなんとかなるかもしれないという状況に僕の顔はスッと緩んだ。

 

 

 

「まさか、『応援者(コブスルモノ)』がこんな力を持ったスキルなんてね・・・・・・。さっきまで劣勢だったリムル達も今はまるで余裕って言わんばかりに戦ってるし・・・・・・あ、そういえば、このスキルを使うと魔素ってどのくらい消費するのかな?」

 

 

 

《解。主人(マスター)の意思によって、スキルに使う魔素の量を調整することが可能です。また、消費する魔素の量によって、強化区域、強化度合が変化します。》

 

 

 

「なるほど・・・・・・」

 

 

 

それは有難いと胸を撫で下ろす。いくらこんな良いスキルを持っていても、無限に使えるわけでは無いからね。むやみやたらにこのスキルを使って、魔素を枯渇するのだけは絶対にしたく無いしね。とりあえず、その場その場で使う量とか加減を考えておいた方が良さそうだ。

 

 

 

「さて、リムルの方はどうなって・・・・・・・・・・・・えっ!?リムルっ!!」

 

 

 

このスキルのことを一旦棚に上げてリムルの方へ視線を向けた僕は、今のリムルの状況に目が飛び出そうなくらいに驚いた。だって・・・・・・リムルがイフリートが放った豪炎によって焼かれているんだもの・・・・・・誰だって驚くでしょ!?途端に僕の体が動き出す。

 

 

 

「早く助けに行かないとっ・・・・・・・・・・・・って、へ?」

 

 

 

リムルを助けるべく、動き出した僕だったけど、それはどうやら要らぬ心配だったみたいだ。

 

 

 

「俺に炎は効かねーんだよ。『熱耐性』のスキルを持ってるからな(大賢者から言われるまで忘れてたけど)。そんな訳で、イフリート・・・・・・シズさんを返して貰うぜ?」

 

 

 

リムルもどうやら熱を無効にする系統のスキルを持っていた様で、炎の中でも無傷で生存していた。イフリートも流石にこれには動揺したのか、動きが鈍った。これをチャンスと見たリムルは、『粘糸』でイフリートを縛り上げるとイフリートの近くまで接近する。・・・・・・そして。

 

 

 

「『捕食者(クラウモノ)』!」

 

 

 

捕食者(クラウモノ)』の力によって、イフリートがリムルの中へと喰い込まれていった。完全にイフリートの姿が消えると、それと同時に体を支配していた元凶の精霊がいなくなったことで、シズさんも本来の姿に戻り、無事に帰ってきた。かなり衰弱していて、魔素の量もかなり少なくなっている事が分かったがここでは何も出来ないため、とりあえず町に運んで、それからシズさんの治療を始めようとリムルと話し合って決め、僕たちはエレンさん達と共に町へと戻っていった。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・・・」

 

 

 

町の片隅にある木の下で座りながら、僕はゆっくりと息を吐いた。町に無事に戻って来られてリグルドやヒョウガ、他のみんな達からも随分と喜ばれたけど、当の僕たちはうまく喜ぶことが出来なかった。それは無論、シズさんのことがあるからだ。イフリートとの決戦から1週間が経ち、シズさんはようやく目が覚めたらしいけど、体調は芳しくなさそうだった・・・・・・というか、もはや生命力が尽きかけているかの様にも見えた。僕も1週間リムルと付きっきりで看病してたけど、生命力の回復は見込めなかった。・・・・・・どうにもおかしいと、『指導者(ミチビクモノ)』さんにそれとなく聞いてみたところ・・・・・・。

 

 

 

《解。イフリートとの同化により、彼女の延命が施されていた模様です。個体名シズエ・イザワの気力は既に限界を迎えていた為、イフリートが浄化された以上、延命させる術が無くなりました。それにより、今まで命を削るほどの魔素を使用したり、かなりの気力をイフリートに持っていかれたために、対象の生命力はすでに無くなりつつあります。》

 

 

 

 

・・・・・・とのことだった。普通に考えれば、それならばリムルがイフリートを喰らったことはシズさんの寿命を縮めたことこの上無く、リムルはそのことを悔やんでいたけど、あの時のリムルの判断は正しかったと思ってる。だって、多分だけどあのままずっとシズさんの中にイフリートが居座っていたらいずれきっと・・・・・・イフリートが暴走してシズさんの体を本格的に乗っ取ってしまうから。そうなってしまったらもはやシズさんでも制御は出来ない。おそらく、人だろうが魔物だろうが・・・・・・村だろうが、町だろうが、国だろうが・・・・・・彼女は見境なしに襲いかかっていたことだろう。・・・・・・そんなことをシズさんが望んでいるとは思えないし、あの時イフリートを喰らったことでシズさんが自我を失うことは無くなった訳なんだから、僕は・・・・・・たとえシズさんの命が削れたのだとしても、あれでよかったのだと思っている。シズさんもきっと、それを望んだはずだ・・・・・・。

 

 

 

今リムルは、意識を取り戻したシズさんのところに行ってる。僕もそろそろ様子を見に行こうと腰を上げた時、なぜかリムルがランガに乗りながら僕の元までやってきた。・・・・・・何か忘れ物でもしたのかな?

 

 

 

「どうしたのリムル?」

 

 

 

「エリス。すぐにシズさんのところまで来てくれ。俺とエリスに話があるみたいなんだ」

 

 

 

「話?・・・・・・わかった。すぐに行くよ」

 

 

 

シズさんが話があると呼ぶのであれば行かない選択肢はない。僕はすぐさま立ち上がり、シズさんが眠る家まで駆け足で向かった(リムルはランガに乗って先に向かった)。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「来てくれたんだね。エリスさん・・・・・・」

 

 

 

「はい。体調は・・・・・・良くはなさそうですね・・・・・・」

 

 

 

僕が部屋に入ると同時に、ベッドの上で横になっていたシズさんは消え入る様な声で僕に声をかける。・・・・・・やはりかなり弱ってる。これだともう・・・・・・。先に来ていたリムルも、どこかシズさんの状態を察していたのか、俯いたままだった。

 

 

 

「スライムさんにも言ったけど、ずっと側にいてくれたんだったね?ありがと・・・・・・」

 

 

 

「シズさん・・・・・・僕はお礼を言われる様なことは・・・・・・」

 

 

 

なんの曇りもない笑顔を見せられながらお礼を言われたら、どうしても萎縮してしまう。納得したこととは言え、僕とリムルはシズさんの寿命を縮めた張本人なんだから・・・・・・。そんなことを考え視線を下に向けていると、僕の頭にフワッとした感覚が襲ってきた。ふと視線をあげてみると、そこにはシズさんが僕の頭に手を置いている光景が映っていた。この手を置かれて、優しく撫でられる感触は・・・・・・前に感じた母さんの様な感覚そのもので、どうにも懐かしい感覚に陥ってしまう。

 

 

 

「そんな顔しないで?私はスライムさんと貴方、そして心優しい仲間の人たちとも出会えただけでもすごく幸せだったよ?もちろん苦しいことも悲しいことも沢山あったけど、最後にこんな奇跡的な出会いが出来て・・・・・・嬉しかったな。少し心残りもあるけど・・・・・・もう良いの。私はこの数十年・・・・・・十分に生きたから・・・・・・」

 

 

 

「「っ・・・・・・」」

 

 

 

シズさんの体が徐々に痩せ細っていき、シワが体中に浮かび出る光景に僕とリムルは息を呑んだ。・・・・・・もう限界って意味か。・・・・・・もし僕が今でも人間であったならきっと涙を流していたことだろう。涙が出ないこの『水魔人』っていうのも、この時はちょっと恨めしく思えるね・・・・・・。

 

 

 

「シズさん。俺たちに何かできることは無いか?さっき心残りがあるって言ってたろ?できればそれを教えてくれ」

 

 

 

「そんなこと出来ない・・・・・・。それが貴方達の重荷になってしまうもの・・・・・・」

 

 

 

「そんなことありません。貴方が果たせなかった物・・・・・・心に残っている物・・・・・・その全てを・・・・・・僕たちに引き継がせてください。僕たちは・・・・・・貴女の力になりたいんです!」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・ありがと」

 

 

 

その後、シズさんからその心残りを聞かせて貰い、最後にシズさんきってのお願いで、リムルがシズさんの葬送という形で『捕食者(クラウモノ)』でシズさんを喰らった。・・・・・・こうして、歴戦の英雄”爆炎の支配者”である少女、シズエ・イザワの生涯は、一匹のスライムと一体の魔物に見守られながら静かに終わりを告げた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方達に出会えて・・・・・・良かった・・・・・・』

 

 

 

 

最後にこぼれたシズさんのその言葉。その言葉を紡いだシズさんのその笑顔は、今までの歴戦の英雄としての”シズエ・イザワ”の笑顔では無く、みんなのお姉さん的存在でみんなを導く”シズさん”の笑顔でも無かった。その笑顔は・・・・・・何も縛られず、ただただ自身の幸せに喜びを噛み締め、日本にいた頃に見せていた少女の晴れやかな姿を模したかの様な物だった。それはまさに・・・・・・日本人である”井沢静江”さんの物であることこの上無かった・・・・・・。

 

 

 

 




ユニークスキル



応援者(コブスルモノ)


エリスが持つユニークスキル。エリスが味方と判断した者のみに、消費した魔素の分だけ強力な強化付与を施すスキル。主に身体能力、スキル、魔法、自己再生力、脳内の思考速度、精神力、が強化され、魔素の消費する量によっては通常の倍以上の強さになる。また、強化の対象範囲も魔素量によって変わるため、消費魔素量が多ければ多いほど範囲も広がる。仮にエリスの強化区域を対象が離れた場合、このスキルの効力は解除される。


※このスキルにはまだ隠れ性能がついていますが、それはまだ秘密です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スキルを獲得・・・・・・するためのスキル?

シズさんとの一件から少し経った。リムルがシズさんを喰らった後、エレンさん達にはシズさんは亡くなったと告げた。その事実に3人は深く悲しんでいたけど、すでにわかっていた事だと割り切っていたのか、すぐに立ち直っていた。その後、ギルドがある町に戻るという3人に、カイジンさんたちが作り上げた特製の防具や武器などを餞別がわりに差し上げ、3人は僕たちの町を後にしていった。

 

 

 

・・・・・・良い人たちだったな。また会える日を楽しみにしていよう・・・・・・。

 

 

 

 

「それにしても・・・・・・やっぱりその姿には驚かせられるね・・・・・・リムル」

 

 

 

「そうだろうな。今までスライムだった奴がいきなり”人に化けたら”誰でも驚くしな」

 

 

 

町づくりも順調に進み、徐々にそれらしい建物等が出来始めた頃、僕とリムルは一つの屋根の下で今後の方針について話し合ってたわけなんだけど、今の”リムルの姿”には当初はもちろんだけど、今でさえ多少の違和感があるため会話がぎこちなくなってしまっていた。

 

 

 

「シズさんを喰らって人への『擬態』が出来るようになるなんてね・・・・・・」

 

 

 

「ああ、俺も始めはそれには驚いた」

 

 

 

 

リムルはあの日、シズさんを『捕食者(クラウモノ)』で捕食したことにより、シズさんが持っていたスキルを大量に獲得することが出来たみたいで、今のリムルはシズさんを捕食したことで得たスキル『擬態:人間』によって人化中なんだ。見た目は僕よりも少し小さいくらいかなって見えるほどの子供の姿で、水色と銀色を混ぜ合わせたような色の髪を肩近くまで伸ばしていた。体つきは僕同様でとても華奢で小柄なこともあってか、これまた僕同様で男とも女とも取れない中性的な人間に見える。

 

 

 

 

「それに、その他にもイフリートやシズさんからいろんなスキルを会得した訳なんでしょ?・・・・・・今更に思うけどさ?『捕食者(クラウモノ)』ってチートじゃない?」

 

 

 

「否定できないな・・・・・・。だが、お前だって『応援者(コブスルモノ)』って言う凄い強化ができるスキルを持ってるじゃないか。それだってチートだと思うけどな?」

 

 

 

「それはそうだけど・・・・・・」

 

 

 

僕もチート持ちだって言うリムルに僕は苦い顔をする。だって、そのスキルはあくまで僕以外のみんなの力を上げると言うもので、僕自身が劇的に強くなるわけではない。それに、そのスキルも無限に使えるわけではないためどうしても制限が入ってしまうのが難点なんだ。だから、『捕食者(クラウモノ)』ほどのなんでもスキルが手に入るようなチートスキルには及ばないのではと思ってしまい、どうしても尻込みしてしまうんだ。

 

 

 

 

「それよりさ?せっかく人の姿になれたことなんだし、何か食べにいきたいって思ってるんだけど、付き合ってくれるか?」

 

 

 

「食事ね〜。・・・・・・そうだなぁ」

 

 

 

「ん?どうかしたか?」

 

 

 

「いや・・・・・・それが・・・・・・」

 

 

 

リムルのせっかくの誘いだし、快く受けようと思ったんだけど・・・・・・ある事実があるためどうにも行こうか迷ってしまう自分がいたため、行くことを躊躇ってしまう。・・・・・・その事実って言うのは・・・・・・。

 

 

 

「僕、()()()()()から食べ物の味が分からないんだよ・・・・・・」

 

 

 

「はっ?何言ってんだよ?お前だって人に化けてるだろ?それなら味覚だって戻ってるはずじゃ・・・・・・」

 

 

 

「僕が使ってるスキルは『擬人化』。リムルの『擬態:人間』とは違って完璧な人間へと化けてるわけではないんだ。あくまで僕は、ただの水を人のように見せた物になっているだけ。だから、味覚がないのは当然なんだよ・・・・・・」

 

 

 

言ってて悲しくなってくる。そう、擬人化っていうのは完璧な人化では無いため、色々と足りないものが出てきてしまうんだ。まず視覚と聴覚、触覚は何故かあった。そして、味覚と嗅覚は無かった。と言うのも、もともと『水魔人』には最初の3つの感覚は備わってたみたい(それなら他の2つも備えていて欲しかったけど)。まぁ、一応”魔人”っていう立ち位置だからね。あってもおかしくは無いんだけど・・・・・・そんなわけで、味覚と嗅覚なしで生きていくことになったわけなんだけど・・・・・・味覚と嗅覚・・・・・・特に味覚がないのはとても辛かった。何せ、いくら何も食べなくても生きていける体とは言え、前世は人間だった僕だ。何かを食べたいと思う時もあるわけであって、食べた時に何も味がしなかったらそれはそれは悲しすぎる・・・・・・。だから、今は味覚を復活させるスキルを探してるんだけど、そのスキルはいまだに見つかっていない・・・・・・。

 

 

 

「そ、そっか・・・・・・なら早いとこ味覚のつくスキルを見つけることだな。味覚がないといろんな意味で不便だし・・・・・・」

 

 

 

「うん。はぁ〜・・・・・・なんか”簡単なスキル”でも作れるスキルでも持ってれば良かったのにな〜・・・・・・」

 

 

 

『確認しました。個体名エリス=テンペストが、エクストラスキル『技能作成者(スキルクリエイター)』を獲得しました。』

 

 

 

「「ん?」」

 

 

 

突然耳に入ってきた僕たち以外の声に僕とリムルは首を傾げる。今のは一体・・・・・・僕がなんかスキルを獲得したって聞こえたけど・・・・・・。

 

 

 

《告。主人(マスター)が、新たなるエクストラスキル『技能作成者(スキルクリエイター)』が使用可能となった模様です。実行いたしますか?Yes/No?》

 

 

 

「(『技能作成者(スキルクリエイター)』?それってどんなスキルなの?)」

 

 

 

《解。このスキルは、一部を除き”『エクストラスキル』までの全てのスキルを作成する”ことが可能となるスキルです。ですが、その上のスキルである『ユニークスキル』『アルティメットスキル』を作成することは不可能となっています。また、スキルを作成する際、微量の魔素を消費します。》

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

随分と粋なスキルを会得したもんだね僕も・・・・・・。ユニークスキルとアルティメットスキル・・・・・・だっけ?その2つのスキルが作れないっていうのはちょっと残念に思ったけど、エクストラスキルでも流用的に使え、とても便利になるスキルもたくさんある事は知っていたため、そこまで悲観的にはならなかった。魔素もそこまで減らないらしいし。

 

 

 

「なあ?結局スキルは手に入ったのか?確か『技能作成者(スキルクリエイター)』って聞こえたけど・・・・・・」

 

 

 

「うん。ちゃんと手に入ったみたい。なんでも、エクストラスキルとかを作ることが出来るスキルなんだって」

 

 

 

「・・・・・・これまた随分とチート並みのスキルを・・・・・・・・・・・・ってそうだ。(大賢者、さっき聞こえてきた声って何だったんだ?)」

 

 

 

〈解。それは『世界の言葉』による知らせです。世界の言葉の声は誰の耳にも届き、主にスキルの獲得、進化、世界の改変を告げます。〉

 

 

 

 

「(はっ?あれってお前の声じゃ無かったのか?)」

 

 

 

〈解。ユニークスキル『大賢者(エイチアルモノ)』は『世界の言葉』の権能の一部を流用して言葉を発しています。また、個体名エリス=テンペストが持つユニークスキル『指導者(ミチビクモノ)』も同様です。〉

 

 

 

「そっか・・・・・・(そう言えば死ぬ間際にもさっきみたいな声聞いた記憶あるもんな。あれって『世界の言葉』だったんだな・・・・・・)」

 

 

 

リムルは一人、何やら考え込んでいる。大方リムルの相棒である大賢者とでも話をしているんだろう。邪魔をしてはまずいしとりあえず、そのリムルは放っておき、僕は早速さっき貰った『技能作成者(スキルクリエイター)』を使ってみることにした。

 

 

 

「『技能作成者(スキルクリエイター)』!」

 

 

 

《『技能作成者(スキルクリエイター)』の発動を確認しました。作成可能のスキルを選んでください。》

 

 

 

僕が『技能作成者(スキルクリエイター)』を発動すると、頭の中にズラーーッと作ることが出来るスキルの情報が流れ込んできた。少なく見積もっても300以上はありそうで、それを見ただけで僕の目はクラクラしてきた。

 

 

 

「スキルってこんなに多いんだね・・・・・・。この中から必要なスキルを探すとなると・・・・・・すっごく骨が折れそう・・・・・・」

 

 

 

《・・・・・・主人(マスター)に現在必要とされるスキルを厳選しました。スキルを作成しますか?》

 

 

 

それはとってもありがたい・・・・・・・・・・・・んだけどさ?なんか『指導者(ミチビクモノ)』さんの声が呆れたように聞こえたのは気のせいかな?・・・・・・まぁ良いか。やってもらおう。

 

 

 

「『指導者(ミチビクモノ)』さん、お願いしても良いかな?」

 

 

 

《了。スキルの作成を開始・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・成功しました。また、スキル獲得の代償として主人(マスター)の体内魔素の30%を消費しました。》

 

 

 

「結構持って行かれたね・・・・・・さて、じゃあ獲得したスキルの確認をして行こうか!」

 

 

 

数分後、スキルの作成が終了した。魔素を3割持って行かれたのは痛かったけど、その分たくさんのスキルを会得できるのであれば安いものな為、特に気に留めずに今獲得したスキルの確認をしていった。

 

 

《解。スキルの確認及びスキルの整理を実行いたします。固有スキル『自己再生』がエクストラスキル『超速再生』を獲得したことにより消失しました。続けて、コモンスキル『五感作成』を獲得したため、主人(マスター)に五感の付与が可能となりました。実行しますか?Yes/No?》

 

 

「え?あ、う・・・・・・うん?」

 

 

《了。五感の作成を実行いたします・・・・・・・・・・・・成功しました。続けて、エクストラスキル『水操作』に『水創造』を統合、『水操作者(ミズオペレーター)』へと進化しました。『水操作者(ミズオペレーター)』獲得により、エクストラスキル『水結界(アクアヴェール)』を常時発動可能となりました。常時発動をいたしますか?Yes/No?》

 

 

 

「お、お願い・・・・・・しようかな?」

 

 

 

《了。『水結界(アクアヴェール)』を発動しました。このスキルは主人(マスター)の魔素の20%を切るまで常に発動します。続けて––––––––––––––––」

 

 

 

これ・・・・・・いつまで続くんだろ・・・・・・?

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

《––––––––––––––––以上が、今回の作成で獲得したスキルになります。》

 

 

 

 

「ず・・・・・・随分と多くのスキルを作成してたんだね・・・・・・。50個以上はあったはずなのに作成にかかった時間は数分とか・・・・・・改めて『技能作成者(スキルクリエイター)』ってやばいね?」

 

 

 

あまりに多くのスキルを獲得していた事実に辟易し切った僕は、気疲れをしてしまっていた。無理もない・・・・・・自分が予想していた以上の性能を見せた『技能作成者(スキルクリエイター)』に驚いたり、エンドレスに流れ続ける『指導者(ミチビクモノ)』さんのスキル獲得の確認と説明をずっと聞き続けたりしてたんだから・・・・・・。

 

 

 

「エリス。もう終わったか?」

 

 

 

「へ?あ、あぁリムルか・・・・・・。ごめん、こっちに集中してて忘れてた・・・・・・」

 

 

 

「良いさ。俺のほうもスキルの確認とかして時間潰してたし・・・・・・。それよりも、スキルは獲得できたのか?」

 

 

 

「うん!結構たくさんのスキルを会得できたかな。それでね?コモンスキルに『五感作成』っていうスキルがあって、それを会得したことによって僕にも味覚と嗅覚が戻ったんだ!」

 

 

 

「まじかっ!じゃあもう味がしないとかの問題は解決だな!」

 

 

 

「だねっ!というわけで、早速何か美味しいものを・・・・・・」

 

 

 

『主様っ!』

 

 

 

『主よ!』

 

 

 

「っ!?ヒョウガ?どうしたの?」

 

 

 

「っ!ランガ?どうした?」

 

 

 

何かを食べに行こうと、町へ戻ろうとした矢先、僕の頭の中にヒョウガの声が響き渡った。これはおそらくヒョウガからの『思念伝達』。・・・・・・だが何だろう?妙に焦っているように聞こえる・・・・・・何かあったのか?胸騒ぎを覚え、顔を強張らせた僕は、リムルへと視線を向けるが、リムルもどこか苦い顔をして立っていた。おそらくランガから『思念伝達』があったんだろうけど、そのランガの様子が変だったのか、リムルもどうやら何か妙な胸騒ぎを覚えたのかもしれない。

 

 

 

《告。ここから南に1.5km離れた先にて、個体名ヒョウガ及び、個体名ランガの複数の魔物との交戦を確認。その数、およそ6。》

 

 

 

〈先程の『思念伝達』の声音から推測するに、()()()()を求めているものと思われます。〉

 

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 

僕とリムルは互いに見合わせる。僕もリムルもアイコンタクトだけでお互いが何を言いたいのかは察っせたため、特に会話を交わす必要は無かった。

 

 

 

「リムル、行こう!」

 

 

 

「ああ!向かうぞ!」

 

 

 

ヒョウガとランガを助けるが為、僕たちは目的の場所へと駆けていくのだった・・・・・・。




エリスが獲得したスキルはそのうち明らかにして行こうと思います。





※大賢者と指導者、世界の言葉の話し方が同じで紛らわしいと思うので、少し見分けがつくようにしました。


大賢者→〈〉 指導者→《》 世界の言葉→『』


こんな感じにしてみました!




エクストラスキル



技能作成者(スキルクリエイター)



エクストラスキル、コモンスキルを作成可能となるスキル。作成するスキルによって消費する魔素の量が異なるため、スキルの持ち主の魔素量を超えるようなスキルは作成が不可能となっている。ユニークスキル、アルティメットスキルは一応作成は可能だが、かなり膨大な魔素を必要とするため、今のエリスでは作成は不可能とされている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大鬼族(オーガ)との戦闘

ベニマル達との邂逅です。


 

 

ヒョウガとランガの知らせを受け、大急ぎでその場に向かった僕たちは目的の場所についた時に目撃した光景に目を丸くした。何せ・・・・・・ヒョウガやランガだけではなく、リグルやゴブリンのゴブタ、その他のゴブリン達が()()()、もしくは戦闘不能で倒れ伏した状態になりながら”妙な魔物?”達と対峙していたんだから・・・・・・。

 

 

 

「一体何が・・・・・・」

 

 

 

「何なんだこれは?・・・・・・お前達、何があったんだ?」

 

 

 

「リムル様・・・・・・エリス様も・・・・・・実は・・・・・・」

 

 

 

そばにいたリグルがこんな状況になった成り行きを説明してくれた。ことの発端となったのは、リグル達町の警備隊が何やら強い妖気(オーラ)を感じ、この場に向かった際にこの目の前の人型の魔物である大鬼族(オーガ)と出会してしまったことらしい。いくら、進化して力も上がっていたリグルやゴブタ達だったとしても、Bランク相当の力を持つ大鬼族(オーガ)相手には手も足も出なかったようで、こんな状態になってしまったようだ。ランガもヒョウガも後から駆けつけ、加勢したらしいが撃退するまでには至らなかったらしい。今、戦闘不能になっているゴブリン達は魔法で眠らされているだけで、特に怪我をしているわけではないようだ。

 

 

 

「ゴブタ、大丈夫?」

 

 

 

「だ、大丈夫じゃないっす・・・・・・」

 

 

 

「ごめん、そうだよね・・・・・・。ちょっと待っててね」

 

 

 

傷だらけになっているゴブタにそう言うと、僕は以前リムルからもらっていた完全回復薬(フルポーション)をゴブタに振りかけた。すると、途端にゴブタの身体の傷は修復していき、無傷の状態へと戻った・・・・・・んだけど、何だかその傷のつき方が妙だったことに気がついた。

 

 

 

「(リグルやゴブタ、ランガやヒョウガを見たけど、どれも傷は負ってはいるけど致命傷とまではいってない。・・・・・・殺気だって彼らからは微塵も感じない・・・・・・という事は?)」

 

 

 

「主様!」

 

 

 

僕が考え込んでいると、今まで戦闘に入っていたヒョウガが僕の元まで戻ってきた。ランガも同様で大鬼族(オーガ)の攻撃を躱すと同時にリムルの元まで後退した。見たところ、二人は大鬼族(オーガ)達とほぼ対等に戦えていたためか、リグルやゴブタ達ほど傷は負っていなかった。

 

 

 

「ヒョウガ、大丈夫だった?」

 

 

 

「ええ。ですが・・・・・・兄上と共に戦っても奴らを退けることも叶いませんでした。・・・・・・申し訳ありません」

 

 

 

ヒョウガの耳と尻尾が垂れ下がり、そのまま謝罪と共に頭を垂れる姿は・・・・・・何とも可愛らしかった。とりあえず、後でこの子は慰めてあげるとして、今は目の前のことの解決に尽力することにしよう。

 

 

 

「リムル。ちょっと良いかな?」

 

 

 

「エリス。お前も気がついたか?」

 

 

 

「うん。彼らはどうやら少し・・・・・・訳ありみたいだね」

 

 

 

「だな。見た感じ、身につけてる刀とか鎧とかに()()()がついてるしな。・・・・・・おいお前ら!俺たちの仲間が失礼したな。どうやらお前らも事情があるようだし・・・・・・誰か話し合いに応じる奴はいるか?」

 

 

 

リムルが早速彼らに説得をしに前へと出た。だが、彼らはそんなリムルに対し、はっきりとした敵意を向けてきた。

 

 

 

「騙されぬぞ!邪悪なる魔人よ!」

 

 

 

「・・・・・・は?」

 

 

 

「姿を変え、妖気(オーラ)を押さえ込んでいるようだが、そんな強力な魔物の使役など並みの人間などにできるわけがない。そんな芸当ができるのは・・・・・・強大な力を持つ()()()のような魔人だけだ!」

 

 

 

「リムルはシズさんから貰った仮面を被ってるおかげで妖気(オーラ)は抑えられているはずなのに何で・・・・・・・・・・・・ん?貴様等?それってもしかして・・・・・・?」

 

 

 

「後ろにいる貴様もだ!むしろ貴様の方が邪悪なる妖気(オーラ)が醸し出ているわ!」

 

 

 

「「(俺ってただのスライムなんだけどな・・・・・・)(僕ってただの害のない水なんだけどね・・・・・・)」」

 

 

 

リムルはともかく、僕までそんな化け物みたいに言われたらさすがに傷つく。確かに僕はリムルみたいに妖気(オーラ)を抑えるみたいな事はしてないけど、それでもリムルよりはマシだとは思っていた。だけど・・・・・・彼らの反応を見る限り、その考えは間違ってたみたい。

 

 

 

「いや・・・・・・とりあえずだな?話を・・・・・・」

 

 

 

「問答無用!!我らが同胞の無念!ここで果たしてやろう!!」

 

 

 

「はぁ・・・・・・しょうがないな。エリス、少し付き合ってくれ」

 

 

 

「わかったよ。とりあえず、彼らを一旦落ち着かせよう!」

 

 

 

「ああ!行くぞ!」

 

 

 

僕とリムルと大鬼族(オーガ)達との戦いが今・・・・・・始まった。

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

「大丈夫だと思うけど、一応『応援者(コブスルモノ)』で強化しておくね?」

 

 

「ああ、助かる。とりあえず、こっちの圧倒的な力を見せて話し合いに持ち込ませる。エリスは俺のフォローを、ランガとヒョウガは魔法を使うあの少女を牽制してくれ!」

 

 

「わかった!」

 

 

「おまかせを!」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「ヒョウガ、お願い」

 

 

「・・・・・・承知しました」

 

 

ヒョウガは未だにリムルからの指示には従えないみたいだ。・・・・・・いつか分かり合える日が来ると良いけど・・・・・・まぁ、今はいいか。

 

 

ランガとヒョウガは、僕たちから離れ、対象の魔法を使う少女の元へと駆け出していった。・・・・・・見た感じ、その少女は他の5人に比べて僕たちに敵意を向けているわけではなさそうだけど、何でだろ?

 

 

「エリス。行くぞ!」

 

 

「うん。『応援者(コブスルモノ)』!」

 

 

応援者(コブスルモノ)』の力によって、この場にいる味方全てが強化される。無論、敵は強化の対象にはならない。

 

 

「後悔するなよ?お前達が吹っかけてきたんだからな!『黒雷』!」

 

 

「「「「「「!!!!!?」」」」」」

 

 

「いきなり『黒雷』!?何でエクストラスキルの中でも上級のスキル使っちゃってるわけ!?いくらなんでもオーバーキルでしょ!!?」

 

 

「何でだよ?ちゃんと当たらないように外してやったろ?」

 

 

「もし当たったらとか考えなかったわけ!?当たってたら間違い無く彼ら死んでたよ!?」

 

 

「そうかな〜?」

 

 

当たり前でしょ!と怒鳴りたくなる気持ちを必死に抑えた僕は頑張った方なんじゃないかな?リムルってこういう時調子に乗ってヤバめのスキルをバンバン使う気質があるから止めるのが大変なんだよね。しかも、僕の『応援者(コブスルモノ)』の効果もあって威力もとんでもないことになっていた。現に、今まで身の前にあった森の木々達は、先程のスキルによって焼きこがれてしまっていた。その威力には、僕だけで無くその場にいた全員がドン引きをしていた。やっぱり、『応援者(コブスルモノ)』はいらなかったかもね・・・・・・。

 

 

「この圧倒的な力・・・・・・若、やはりこの者は・・・・・・」

 

 

「そのようだな。やはり貴様は我らの仇敵!生かしては返さんぞ!」

 

 

「おいおい。そろそろ話を聞いてほしいんだが・・・・・・」

 

 

 

リムルがあれだけの力を見せても尚、僕たちに向かってくる。この執念はどこから来てるのか・・・・・・やっぱり、この人達からは話を聞く必要がありそうだ。というか、さっきの攻撃を見て、彼らの敵意がリムルにだけ向き始めたようで、僕は若干蚊帳の外みたいな感じになっていた。

 

 

「いい加減、話を聞いてくれませんか?こっちとしては貴方達が怒ってる理由もわからないですし、貴方達と戦う理由もありません。だから、どうか武器を収めてください」

 

 

「問答無用だと言ったはずだ!邪魔をするなら先に貴様から消してやる!!『鬼王の妖炎(オーガフレイム)』!!!」

 

 

結構丁寧口調で説得したつもりだったんだけど、案の定応じてはくれなかった。それどころか僕に向かって攻撃を仕掛けてきた。目の前の赤髪の人が放ってきた鬼王の妖炎(オーガフレイム)というスキルが爆炎を伴いながら僕を包み込んでいく。普通の魔物であれば、この時点で息の根を止められている。というか焼け死んでる。・・・・・・だけど、ごめんね?

 

 

「僕には炎は効かないんだ。・・・・・・水だからね(前までは水蒸気爆発の危険性もあったけど、『熱変動無効』のスキルのおかげで爆発現象も防げるようになって解消されたし、実質的に僕は本当に炎に耐性を得たかな)」

 

 

 

「なっ!?ば、化け物め!!やはり貴様も・・・・・・!」

 

 

 

「だから僕を化け物扱いするのは・・・・・・って、うわっと!!」

 

 

 

「むぅ・・・・・・頸を刈り取る予定だったのだがのう・・・・・・わしも耄碌したものじゃ・・・・・・」

 

 

 

『熱変動無効』という『熱無効』のスキルが進化したスキルを先ほど会得した僕には、炎の攻撃が効かないと言うのと同時に、僕の化け物発言の撤回を求めようとしたところだったが、それは後ろにいた”大鬼族(オーガ)のお爺さん”の一つの太刀の一閃によってそれは遮られた。その太刀筋は僕の頸が数瞬前まであった場所を通過していき、もし、少しでも『魔力感知』で感付き、躱すのが遅れていたらと思うとゾッと・・・・・・・・・・・・はしなかった。確かに簡単に僕の『魔力感知』を掻い潜り、『水結界(アクアヴェール)』を破ったのは驚き、この人はかなりの手だれだという事はわかったが、ただそれだけだった。だって、別に頸を斬られようが、身体を真っ二つに斬られようが、結局は『超速再生』ですぐに回復してしまうからだ。多分それはリムルも同じだろう。だから、僕たちに剣撃や銃撃、鈍撃などの物理攻撃は何の意味も為さない。

 

 

 

「そんな炎や剣撃じゃ、俺とエリスには勝てないぞ?・・・・・・今から本当の炎を見せてやる!『黒炎』!!」

 

 

 

「っ!!なんて膨大な・・・・・・あの”黒い炎”はあの者の力そのものを表しています。つまり、あれだけの炎を扱えるだけの力を持っているということに・・・・・・私たちでは到底・・・・・・」

 

 

 

「くっ・・・・・・」

 

 

 

どうやらようやく僕たちの力に勘付き始めたようだね。その証拠にその場にいる6人の大鬼族(オーガ)達は、リムルのエクストラスキル『黒炎』に、みんな顔を深く青ざめさせていた。また随分と大規模のスキルを・・・・・・まぁでも、効果は絶大みたいだったし良しとしよう。実際今も『黒炎』は彼らの頭上に浮揚していて、いつそれが撃ち下ろされてもおかしく無い状況なんだから当然って言えば当然なんだけどね?さて、後もう一押しってとこかな?じゃあ・・・・・・最後は僕が力を見せよう!リムルが持つスキルほど強くは無いけど、少なくとも牽制程度にはなるスキルだ!

 

 

僕は掌に魔素を込めると、そのまま一斉に魔素を解き放った。

 

 

 

「行くよ?・・・・・・『水龍』!」

 

 

 

「っ!?な、何と!一瞬にして”巨大な龍”が・・・・・・」

 

 

 

僕が放ったスキル『水龍』が『黒炎』同様、彼らの頭上に浮揚していく光景にもはや彼らは腰を抜かしていた。このスキルはさっき指導者(ミチビクモノ)さんが獲得してきてくれたエクストラスキルなんだけど、水の龍のような見かけをしているわりに威力はそこまで高く無い。良くてもCランク級の魔物を倒せるくらいの威力しか持ち合わせていないらしく、有用なスキルかといえば微妙な立ち位置に存在するスキルだ。その為、そこまで魔素を消費することなく獲得できた。とはいえ、このスキルも他のスキル同様、僕の魔素の量によって威力も大きさも変わる為、今回のように見かけで萎縮させ、屈服させようという時にはうってつけのスキルだった。

 

 

 

「この強大なスキルもまた・・・・・・かの人の力量を表しています。・・・・・・このような規格外の人物・・・・・・いえ、魔物が2人も存在していたなんて・・・・・・」

 

 

 

「こんな奴らに勝てるわけが・・・・・・」

 

 

 

「おとなしく降参を・・・・・・」

 

 

 

どうやら、見掛け倒し(僕だけ)作戦は成功したようだ。みんなお互いに降参を示唆し始めてるし、もう大丈夫だろう。

 

 

 

「手荒な真似をしてすいません。ですが、こうでもしないと貴方達は話し合いに応じてくれないと思っていましたので・・・・・・。どうか、話だけでも聞かせてくれませんか?もしかしたら僕たちにも力になれる話かもしれませんし」

 

 

 

「お前等見た感じ、なんか訳ありなんだろ?そんな奴らを放っておくほど俺たちは悪い奴らじゃ無いからさ?出来ればエリスの言った通り、俺たちにここまできたわけを話してくれないか?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

僕とリムルはそれぞれ、『水龍』と『黒炎』を治めつつ、彼らに再び説得を試みた。さすがにこれ以上拒むようであればもう説得は不可能と追い返す予定だったけど、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。

 

 

 

「どうやら貴様等は・・・・・・我らの里を襲った魔人共とは違うようだな。・・・・・・よかろう、話し合いに応じよう」

 

 

 

 




ベニマルとハクロウ、シュナ以外の大鬼族(オーガ)が空気になってるのが否めないですね・・・・・・。




エクストラスキル


『水龍』


水が龍のような形となって具現化したスキル。発動者の魔素の量によって龍の大きさが変化し、それだけでも敵対したものは尻込みをしてしまう。だが、その見た目とは裏腹に威力はそこまででは無く、魔素の量に比例して威力がそこまで上がるわけでも無い為、攻撃として使うよりも牽制や威嚇として使うことが良しとされている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

滅ぼされた里と豚頭族(オーク)

間が空きました。すいません。


結果として、なんとか話し合いに持ち込むことに成功した僕たちは、彼らを僕たちの町まで案内した。町の中に居たみんなは見慣れない彼らに訝しげな視線を向けて来て尋ねて来ていたが、僕たちが客人だと説明すると、それ以上は何も言ってこなくなった。とは言っても、ちょうど今は町中でちょっとした宴みたいなことの準備にみんなは取り組んでいて忙しかったって言うのもあるけどね。

 

 

そんな訳で、僕たちはその夜、みんなで宴を楽しむと共に、彼らに事情を説明してもらうことにした(もちろん宴を楽しみながらね?)。

 

 

 

「ヘ〜?つまり、『豚頭族(オーク)』って言う魔物が、貴方達の村を滅ぼしたって事ですか?」

 

 

 

「ああ。奴らは数千もの大群で我らの里を蹂躙し尽くして行ったのだ。・・・・・・同胞たちも少なくとも300人は居たのだが、もはや生き残っているのはここにいる6人のみしか居ないのだ・・・・・・」

 

 

 

「そんなことが・・・・・・辛いこと思い出させちゃってごめんなさい・・・・・・」

 

 

 

「気にするな。過ぎたことだ・・・・・・」

 

 

 

そういう赤髪のオーガさんだったけど、顔は非常に苦しそうにしながら歯軋りをしていた。そりゃそうだよね。故郷である里を何の理由もしれぬまま滅ぼされたんだから・・・・・・。

 

 

 

「でも、その『豚頭族(オーク)』って奴っすか?そいつらってそんなに強い魔物だったんすか?あんなに強かったあんた達でさえ歯が立たなかったぐらいの?」

 

 

 

「いや、単体でも集団でも見ても『豚頭族(オーク)』は『大鬼族(オーガ)』にはこれっぽっちも敵わん。何せ、強さの桁が違うからな。下手をすればゴブタ、お前でも倒せるほどの力だ」

 

 

 

「え!?そうなんすか!?じゃあ何で・・・・・・」

 

 

 

「それが分からないから困ってるんでしょ?彼らは」

 

 

 

「うっ・・・・・・ごめんなさいっす・・・・・・」

 

 

 

カイジンさんの説明に問質するゴブタを一旦制止した僕は、少し思考を巡らせてみた。

 

 

 

「(『豚頭族(オーク)』はカイジンさんが言うようにそこまで強い魔物じゃない。少なくともゴブリンよりもちょっとだけ強いぐらいの力量だったはず・・・・・・(指導者(ミチビクモノ)さん教え)。となると、誰かがその魔物達に何かしらの細工を施して強化をしたと考えるのが一番納得が行くけど・・・・・・そうなると一体誰がそんなことを?)」

 

 

 

「エリス殿?どうかしたのか?」

 

 

 

「はい。少しだけその『豚頭族(オーク)』について考えていたんですけど、未だによく分からなくて・・・・・・ですが、貴方達よりもはるかに弱い『豚頭族(オーク)』がそこまで強くなってた原因としては・・・・・・何者かが一枚噛んでいると見ていますかね?」

 

 

 

「やはりそう言うことになるか・・・・・・」

 

 

 

僕の立てた仮説にオーガさんは顎に手を当てて、何やら考え込む。僕がさっき話したことはあくまで僕が思ったことを話しただけだからそこまで考え込まないでも良いんだけどね?

 

 

 

「まぁ・・・・・・でもさ?今はそんなことよりもこれからのお前達のことを考えるべきじゃないのか?」

 

 

 

「うん、確かにそうだけど・・・・・・・・・・・・って、リムルっ!?いつの間に?」

 

 

 

突然現れたリムルにその場にいた僕たちは少なからず驚いた。見ると、リムルの手には町中で買ったとみれる肉の串焼きが乗っかっていた。あぁ・・・・・・そういえばさっき宴楽しんでくるーって言いながら駆け出して行ったっけ?それにしても・・・・・・串焼き美味しそう・・・・・・後で僕も買いに行こ。

 

 

 

「話も全部聞かせてもらっ・・・・・・ん?さっきから居たぞ?お前らが話に夢中で気がつかなかったんだろ?」

 

 

 

「そ、そうか・・・・・・すまない」

 

 

 

「いいさ。それよりどうするんだ?一応お前の采配次第で今後のあの5人の命運が決まる訳だろ?何か今後の方針でも決めてるのか?」

 

 

 

「それは・・・・・・力を蓄えて今度こそあいつらを・・・・・・」

 

 

 

「どこで力を蓄えるんです?場所は?アテはあるんですか?」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

うん、無いらしいね。って言うか考え無しにまた再戦を挑もうとしようとする神経が意味が分からないんだけど?意外と・・・・・・馬鹿なのかな?・・・・・・失礼だね、ごめんなさい。

 

 

 

「それならさ?俺たちの部下になる気は無いか?あくまでもお前達の生活環境を提供するってだけの話だけどな?」

 

 

 

「だが、それだとこの町を俺たちの復讐に巻き込むことに・・・・・・」

 

 

 

「『豚頭族(オーク)』が数千の大群で、ましてや武装して攻めて来たんだろ?そりゃいくら何でも異常事態だ。格上であるお前達『大鬼族(オーガ)』の里が襲われたんだとすれば、ここも襲われる危険性も十分にあるってわけだ。だからこそ、お前達のような強い存在が俺たちの味方になってくれるだけですごい心強いんだ。だから気にするな!」

 

 

 

「・・・・・・少し、考えさせてくれ」

 

 

 

そう言いながら、その場を離れて行ったオーガさん。いきなり僕たちの部下になれって言われて戸惑うのは無理もない。だけど、出来ればそうして貰えた方が僕たちも彼らもきっと助かると思うんだ。だから、これを呑んでくれないとちょっと困るなって思っていた僕だったけど、どうやらそれは杞憂に終わったようだった。宴の後日、オーガさん達6人は正式にリムルと僕の部下になってくれると誓ってくれたからだ。リムルは自分の部下になった証として彼らに名付けをしようとしていた。僕もやろうかと尋ねたけど、6人程度なら俺一人で十分だと断られてしまったため、渋々リムルに任せることにしたんだけど、それはどうやら間違った選択みたいだった。何せ、6人とはいえ『大鬼族(オーガ)』と言う高ランクの魔物に対して名付けをするんだ。当然ゴブリンや牙狼族なんかを名付けするよりも膨大な魔素も必要とする訳だから、6人全てに名付けを終えたところでリムルの魔素に限界が来て、低位活動状態(スリープモード)に入ってしまったんだ。

 

 

 

・・・・・・だから一緒にやろうかって相談したのに・・・・・・全くもう・・・・・・。

 

 

 

低位活動状態(スリープモード)に入って何の反応も示さなくなったリムルを尻目に、僕は深く深くため息を吐くのだった(リムルは3日後に復活した)。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「さて、リムルが目覚めるまで暇な訳だし、少しスキルの確認でもしようかな?」

 

 

 

低位活動状態(スリープモード)に入ってしばらく起きないリムルを家に置いてきて、名付けの終わったオーガさん達にも適当にくつろいでいるように言っておいた僕は一人、町から外れて人気のない森の中へと来ていた。

 

 

 

「まずはどんなスキルを・・・・・・」

 

 

 

「面白そうなことをやっていますね?良ければワタシにもお見せしてくれませんか?」

 

 

 

・・・・・・訂正。一人と一匹だった。

 

 

 

「ヒョウガ・・・・・・いつの間に?」

 

 

 

「たまたま町を歩いていましたら、ちょうど町を出て行く主様を見かけましたので。・・・・・・ご迷惑でしたか?」

 

 

 

「いや、良いんだけどね。じゃあ、早速試してみるか・・・・・・『水操作者(ミズオペレーター)』!」

 

 

 

着いてきたヒョウガを少しだけ下がらせると、僕は今まで使っていなかったスキル『水操作者(ミズオペレーター)』を発動した。今回はこのスキルを使って様々なものを作ってみようと思っている。『水操作者(ミズオペレーター)』は『水創造』と『水操作』が統合して進化したスキルだから作れても不思議ではないけど・・・・・・大丈夫だよね?

 

 

 

「(作れなかった時はその時でまた考えよう)とりあえず、水剣を作ってみるかな。よっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・っと?・・・・・・あれ?」

 

 

 

「主様?どうかなさいましたか?」

 

 

 

「いや・・・・・・なんかこの剣、前に作ったのと違う気がしてね?前のはこんなに”大きく”なかったし今みたいに”銀色”に輝いてなんかいなかったからさ?」

 

 

 

ヒョウガに僕が今回作った水剣の違和感を説明しながら、改めて僕も作った水剣を観察してみる。刀身はかなり伸びていて僕の背丈以上の長さになっている。これは剣というよりは”太刀”に近いかな?それで、さらに疑問なのがこの水剣自体が何故か銀色に光り輝いていることだ。今までの水剣はただの透明で何の色もない剣だったのに対し、この変わりようには驚かざるを得ない。

 

 

 

「(『指導者(ミチビクモノ)』さん、聞くけど僕って一体何作ったの?どう見てもただの水剣じゃないよね?)」

 

 

 

《解。スキル『水操作者(ミズオペレーター)』を獲得したことにより、水による創造ができる種類が増えたことが原因です。今主人(マスター)が創造した創造物は『水聖剣』という『水剣』よりも高い攻撃力、攻撃範囲を持ち合わせた創造物です。推定威力は、水剣の20倍。『水聖剣』を作る上での消費魔素量は対象者の体内魔素の約6割です。》

 

 

 

「6割っ!?そういえばさっきからどうにも体がだるいなって思ってたら・・・・・・6割も持っていかれたらそりゃこうなるよね。危ない危ない・・・・・・危うくリムルと同じ運命になるかと思った・・・・・・」

 

 

 

もう少しで低位活動状態(スリープモード)突入しそうな魔素量になり、ひやっとした僕だった。いくら水剣よりも20倍の威力を持っていたとしても、魔素を6割も持っていかれてしまっては元の子もない。・・・・・・これは随分と問題な代物を作り出したもんだね。

 

 

 

「すごく綺麗な剣ですね。何というか・・・・・・言葉には表せない神々しさを醸し出しているように見えます」

 

 

 

「そりゃ、聖剣って名前がついてるからね。こんだけ輝いていても何ら不思議ではないよ。でも、これを作る上では注意しないと・・・・・・」

 

 

 

「?何故ですか?」

 

 

 

「これを作るには膨大な魔素が必要なんだよ。僕の体内の物を6割持って行くほどにね?そんなのを戦闘中にほいっと気軽に作っちゃうとすぐに魔素切れになっちゃうからさ。これは最終手段として取っておこうと思ってる。・・・・・・威力は魅力的だしね」

 

 

 

とりあえず、この剣に関してはやむを得ない時以外では極力使わないことに決めた。もちろん本当なら何度でも使ってやりたいところだけど、流石に毎度毎度低位活動状態(スリープモード)ギリギリの状態で戦いたくなどないので、我慢した。

 

 

 

「(いつかは気兼ねなく作れるようになれたら良いな〜)」

 

 

 

そう心の中でぼやきながら、僕はヒョウガとともに、その後も他のスキルの確認作業を続けたのだった。




話のスピードが極端に遅い・・・・・・もう少しペースを上げたいな。




『水聖剣』


『水剣』の上位互換。『水剣』とは全く異なり、常に刀身が銀色に光り輝いていて、その刀身も『水剣』の2倍はある所謂太刀に近い武器となっている。攻撃範囲も格段に広がっており、攻撃力に関しては『水剣』の20倍の威力を誇っている。聖剣という名が付くだけあってか、魔物や魔人、悪魔などに多大なダメージを与えることができ、魔物退治などには重宝される。その強大な武器能力と引き換えに、創造する際には膨大な魔素を必要とする(エリスの場合、体内間素の6割を必要としていた)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心強き配下と豚頭帝(オークロード)

投稿頻度下がってる・・・・・・何とか上げたい。


リムルが低位活動状態(スリープモード)に入って3日後、ようやく目が覚めたと知らせを受けた僕はリムルの家へと向かっていた(以前作ってもらったらしい。もちろん僕の家も)。

 

 

 

「やれやれ、やっと起きたか〜・・・・・・。やっぱり低位活動状態(スリープモード)に入っちゃうと不便でしょうがないね。今後はもっと気をつけるように言っておかないと・・・・・・」

 

 

 

「ですが、そのおかげで我らは貴方方の配下に加われたのですから、どうか多めに見てあげてはいかがでしょうか?」

 

 

 

「ん?あぁ、ソウエイか。まぁ、それはそうなんだけど、もうちょっとしっかりして欲しいっていうか・・・・・・はぁ〜」

 

 

 

リムルへの愚痴を隣にいた”鬼人”の部下に聞いてもらいながら僕は一つ溜息をついた。この人はリムルが名付けをしたあの6人の大鬼族(オーガ)のうちの一人で、蒼影(ソウエイ)と言う名を貰った人だ。リムルが起きたと言う知らせをくれたのはこの人だ。この人を含めたあの6人の大鬼族(オーガ)は、大鬼族(オーガ)の中でも上位種族とも呼べる”鬼人”へと進化を遂げ、全員が体格が大きくなり、身体能力及び魔素量などが大幅に上昇したこともあって、ますますチート並の強さとなってしまった。ソウエイもまた、進化前と比べると体格が大きくなっていて、迫力も増していた。・・・・・・多分僕よりもかなり強くなってると思う。

 

 

 

「そういえば、僕は君たちの直属の上司じゃ無い訳なんだし、無理にヘり降んなくてもいいんだよ?」

 

 

 

「そういうわけには行きません。貴方様はリムル様と同格のお方、たとえ直属でなくとも我らの上に立つ者と変わりはありません。ですので、決して無理をしているわけではありませんのでご理解を・・・・・・」

 

 

 

「そ、そう?それならいいんだけど・・・・・・」

 

 

 

その意見には従えないとでも言わんばかりに喋るソウエイにこれ以上僕は何も言わなかった。これ以上何か言ったところで結果は変わらないと踏んだためだった。一応彼らの正式な上司は名付けをしたリムルなんだけど、ソウエイもさっき言ってたけど僕もリムルとほぼ同格ということで、ほとんど同じような扱いを彼らから受けている。それもあってか、僕から彼らに対しての振る舞いに対しては強制的に変えさせられた。とは言っても単に敬語をやめたに過ぎないんだけどね?・・・・・・確かに上司である僕が部下である彼らに敬語を使うのは変だと思うけど・・・・・・そんなにうやまられる立場にいるとは思えないんだけどリムルに比べて僕って・・・・・・。

 

 

 

途中で、同じ鬼人である黒兵衛(クロベエ)をカイジンさんの工房前(最近入り浸ってる様子みたい)で拾い、そのままリムルの家へと僕たちは歩みを進めた(クロベエもまた、進化前よりも逞しくなったかのように見えた)。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「いや〜、まさか名付けした途端に低位活動状態(スリープモード)に入っちまうとはな〜。とんだ誤算だった、悪かったなエリス。町のこと任せっぱなしにしちゃってさ?」

 

 

 

「それは別に良いんだけど、今後はもう少し考えて名付けをしてね?リムルに倒れられたら困る人もたくさんいるんだからさ。わかった?」

 

 

 

「ああ、気をつける」

 

 

 

リムルの家についた僕は、すでに目を覚ましていたリムルに一言注意をし、リムルの前に腰を下ろした。リムルの家には既にソウエイやクロベエの他の鬼人、赤い髪が特徴的で体格も一際大きくなった紅丸(ベニマル)、白に近い長い髪をポニーテールで結いあげていて何とも美しく進化したとも言える紫苑(シオン)、小柄なのは相変わらずだがその分進化前よりもさらに可愛らしくなった朱菜(シュナ)、白髪を靡かせ老人の雰囲気を醸し出しているが、少々若返ったかのように体が引き締まった様子の白老(ハクロウ)が既に集まっていた。

 

 

 

「リムル様、改めて我ら一同は貴方様、そしてエリス様の配下に加わります。今後は如何様でもご命令を下しくださいませ・・・・・・」

 

 

 

「そんな硬くなん無くていいって。・・・・・・で、早速なんだけどさ?なんでお前らの村が襲われたのか聞きたいんだけど?」

 

 

 

「それは我らにもいまだに分からんのです。・・・・・・ですが、もしかすると奴らの中に・・・・・・豚頭帝(オークロード)が混じっていたのかも知れませぬ」

 

 

 

「「豚頭帝(オークロード)?」」

 

 

 

ハクロウから出たその単語に聞き覚えがない僕とリムルは同時に首を傾げた。

 

 

 

豚頭帝(オークロード)というのは数百年に出るか出ないかと言われているオークの特殊個体(ユニークモンスター)です。何でも味方の恐怖の感情すらも喰らうため、異常に統率力が高いんだとか・・・・・・」

 

 

 

「なるほど・・・・・・つまりキミたちの村を襲ったオークたちは、その豚頭帝(オークロード)に影響されて向かってきたってことかな?」

 

 

 

「・・・・・・可能性はゼロでは無いでしょう」

 

 

 

「そうだな。そんな奴が出てきたんだとするとこっちも対策を考えないといけなくなる。一応その線のことも考えて、対策を練ってみよう。当面の目標はそれでいいか?」

 

 

 

リムルはその場にいた全員に確認するが、特に反論は出なかった為、今日のところはここでお開きということになった。豚頭帝(オークロード)・・・・・・いったいどんな魔物なんだろ?僕もそれなりに準備をしておかないと・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

【エリスの日常日記 ミニ】

 

 

 

 

「それ、『散水』!」

 

 

 

 

リムルたちと今後の方針を決めた翌日、僕は日課である畑の水やりをしていた。以前に比べて畑の面積が広くなったこともあって、育てられる作物も増えた。ちなみにそういった作物の種子は、以前手に入れた『種子生成』のスキルを使って生成している。今水をあげてるのはジャガイモの畑で、隣にある畑はキャベツの畑だ。他にもまだまだあるんだけど、それは後のお楽しみということで伏せておく。今はまだ収穫の時期では無いからそのままだけど、その時期になったらみんなと一緒に収穫しようと考えている。

 

 

 

「エリス様、お疲れ様です」

 

 

 

「ん?・・・・・・シュナか。お疲れ。どうかな?結構育ってきたと思うんだこの野菜達。もう少ししたら収穫するからその時はみんなで一緒にしようね」

 

 

 

「ふふ、それは楽しみですね」

 

 

 

畑の見物にでもきたのか、シュナが僕の隣に佇んだ。シュナは進化してから何故かいろんなことに興味を示し始めた。昨日も解散した後に絹織物を自分で作っていたり、僕たちのために料理を振舞ってくれたりしてくれた程だ。今回も多分だけどそんな所だろう・・・・・・僕にとっては嬉しいんだけどね?

 

 

 

「よかったらシュナもやってみる?水やり」

 

 

 

「え?良いのですか?でも、肝心の水をやる道具が・・・・・・私はエリス様のように水を出せるスキルを持っていませんし・・・・・・」

 

 

 

「あ、それなら心配ないよ。待ってて・・・・・・・・・・・・はい、これ使って」

 

 

 

シュナに僕は『水操作者(ミズオペレーター)』で簡易的なじょうろを作り出し、水を八分目程まで入れた状態で手渡した。

 

 

 

「すごい・・・・・・エリス様は何でもお作りになれるのですね!」

 

 

 

「何でもって訳じゃないけど・・・・・・それなりに作れるものは多いと思うよ?」

 

 

 

「そうですか。ありがとうございます!」

 

 

 

満面の笑顔を見せながら、シュナは畑に水をやりに向かった。そのシュナが水をやる光景は何とも・・・・・・とてもとても・・・・・・可愛らしかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

町への訪問者

今回はあのお方が登場します。


 

 

豚頭帝(オークロード)のことをベニマルたちから聞かされた僕たちは、それからと言うもののそれなりの対策を練って・・・・・・はいなかった。

 

 

 

「し、シオン?あの〜こ、この目の前にある物って一体・・・・・・?」

 

 

 

「はい!私がお二人の為に丹精を込めて作った手料理です!是非ともお食べになってください!きっとお気に召しますよ!」

 

 

 

「そ、そうなんだ・・・・・・あ、ありがとね・・・・・・」

 

 

 

対策を練らないで何をしているのかというと・・・・・・シオンの手料理を堪能しようとしているんだ。それだけ聞けば聴こえは良く、羨ましがられるシチュエーションなのかもしれないけれど、椅子に座らされている僕とリムルは到底そんなふうには思えなかった。・・・・・・何でかって?だって・・・・・・。

 

 

 

「(・・・・・・料理っていう割になんで妙に禍々しい雰囲気を醸し出してるわけ?おまけに全体的にお世辞にも食欲をそそられない紫に近い色合いをしてるし・・・・・・)」

 

 

 

「(俺・・・・・・これ食べても死なないかな?・・・・・・幻覚かもしれないがなんか妙に人の顔のようなものが見えてる気がするんだが・・・・・・)」

 

 

 

僕もリムルもこの料理に対して似たような感想を抱いていたからだ。見かけだけ見ればよく言えば個性的で面白そうな鍋のような料理、悪く言えばジャ◯アンシチューみたいな料理ってとこかな。正直言って、これを見て食べたいという気持ちにはどうしてもなれず、断ろうとしたんだけど・・・・・・隣で目をキラキラさせながらこちらを覗いているシオンを目撃し・・・・・・僕は踏みとどまった。

 

 

 

「(流石にあんな顔されたら食べないわけにはいかないでしょ・・・・・・。折角シオンが作ってくれたわけなんだし・・・・・・有難くいただこう!・・・・・・リムルもそれでいいね?)」

 

 

 

 

「(まじかっ!?・・・・・・だよな、もうこうなった以上食べないわけには行かないもんな・・・・・・ああ、もう覚悟は決めた!死なば諸共だエリス!)」

 

 

 

思念伝達でそれぞれ覚悟を示し合わせた僕たちは、シオンの料理が盛られた器に手をかけ・・・・・・その料理の一部をスプーンでゆっくりと掬った・・・・・・。そして・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「(バクッ!!!)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一思いに一気に口に放り込んだ。

 

 

 

 

「うぐっ!?・・・・・・っ」

 

 

 

「うっ・・・・・・ぐっ・・・・・・」

 

 

 

リムルは・・・・・・料理を口にした途端、鈍い呻き声を立てた後・・・・・・お陀仏となった。僕も一瞬僕の体から何か言葉には言い表せない何かが抜けていきそうな感覚に陥ったが、間一髪で踏みとどまることに成功した。・・・・・・ある意味それが地獄を見ることになるのも知らずに・・・・・・。

 

 

 

「リムル様っ!?大丈夫ですか!?エリス様も顔が真っ青ですけどっ!?」

 

 

 

「だ・・・・・・だいじょう・・・・・・ぶ。・・・・・・うぷっ」

 

 

 

僕の後ろにいたベニマルが心配そうに駆け寄ってくる。この事態を引き起こした張本人でもあるシオンは『あれ?』と言った表情で目をパチクリさせていた。・・・・・・や、やばい、僕も気を抜いたら意識が飛びそう・・・・・・。

 

 

 

「(なんかすごい衝撃的な味だった気がする・・・・・・甘い、酸っぱい、辛い、苦い、渋い、しょっぱい・・・・・・そんな味という味が一斉に僕の舌に襲いかかってきた感じで、今も舌がこんがらがってる・・・・・・。匂いは無臭なわけなんだけど、逆にこんだけの味をしていてなんの匂いもしないと言うのが逆に怖い・・・・・・。っていうか、むしろ僕もリムルみたいに気絶したほうが良かったのかもしれない。だって・・・・・・そうじゃないと、しばらくこの”摩訶不思議の舌殺人攻撃的な味”と格闘しなくちゃいけなくなるんだから・・・・・・)」

 

 

 

「エリス様?良ければ料理の感想をいただきたいのですが?リムル様はお休み中ですので・・・・・・」

 

 

 

お休みじゃなくて倒れたんだよっ!?・・・・・・って目の前にいるシオンに叫びたくなったが・・・・・・叫ぶと色々と出すものを出してしまいそうだったためやめて、とりあえず感想を言ってあげることにした。

 

 

 

「・・・・・・そ、そうだね。とても個性的な味だったかな〜。最初はちょっと味にびっくりしたけど慣れてくるとちょっとした旨みも出てきておいしかった・・・・・・よ?でも、ちょっと味が強過ぎたところもあるからそこだけを直して欲しいと思うかな?」

 

 

 

「わかりました!次からはそれらのことを意識して料理を作ってきますね!」

 

 

 

・・・・・・出来れば、今後はもう少し料理は控えてもらいたい。じゃないと多分だけど今度はリムルだけじゃなく、僕まで死ぬことになる・・・・・・。それだけはなんとしても防がなくてはと思い、今までずっと蚊帳の外にいたベニマルに話を振った。

 

 

 

「それなら、今後は僕たちに出す前にベニマルに味見してもらいなよ?彼だったら舌が肥えてるだろうからうってつけだと思うよ?ベニマルの舌を唸らせるような料理を作れた時は改めて、僕達も美味しくいただくことにするからさ」

 

 

 

「なっ!?え、エリス様!?」

 

 

 

この世の終わりみたいな顔を見せてくるベニマル。・・・・・・うん、ごめんベニマル。これ以上僕たち以外の犠牲者を出さない為なんだ。だから・・・・・・。

 

 

 

「頑張ってね♡」

 

 

 

「ぐっ・・・・・・あんまりだ・・・・・・」

 

 

 

この日を境に度々調理場からベニマルの阿鼻叫喚の声が聞こえてくることになるのだが、それはまた今度の時に話すと言うことで!

 

 

 

 

そんなことがあった翌日、僕たちの町に一報が届けられた。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

蜥蜴人族(リザードマン)から使いが来た?どういうことだ?」

 

 

 

リムルと僕で談笑していた時、ソウエイからの来客の知らせにリムルは途端に首を傾げた。無論それは、その場にいた僕も同じことだった。

 

 

 

「ここ最近、奴らは理由は分かりませんが、何やら近くのゴブリンの村で交渉をしているところを目撃しました。本来蜥蜴人族(リザードマン)は湿地帯を拠点としているので、こう言った地帯へはあまりやっては来ないのですが・・・・・・とにかく、その使者が言うにはここの責任者を呼んできて欲しいとのことだったのですが・・・・・・追い返しますか?」

 

 

 

「いや、折角きてくれた訳なんだし対応はしたほうが良いと思うよ?」

 

 

 

「まぁ、そうだな。よし、すぐに行く!」

 

 

 

「御意」

 

 

 

「じゃ、頑張ってね〜!」

 

 

 

責任者と言うことなら、リムルだけいれば十分だと思い、僕はそのままそこを後にしようとした・・・・・・んだけど、何故かリムルからがっしり肩を掴まれた。

 

 

 

「お前も来るんだよ」

 

 

 

「責任者はリムルでしょ?だったらリムルだけ行けば良いでしょうが?」

 

 

 

「お前も立派な責任者だろうが。くどくど言ってないでさっさと来る!」

 

 

 

「わ、わかったよ・・・・・・もうっ」

 

 

 

何やらリムルから行くことを強制されてしまった為、渋々僕はリムルとともにその蜥蜴人族(リザードマン)?がいる町の入り口まで向かった。途中、ベニマルやシオン達も一緒に来たいと懇願してきたため、それも引き連れて僕たちは歩を進めた。

 

 

 

 

 

「我が名は〜〜ガビル!!この町の者どもよ!貴様らにも我輩の配下となるチャンスをやろうではないか!感謝するが良いぞ!!」

 

 

 

 

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 

 

 

 

入り口で見た何とも珍妙な光景に僕、リムル、ベニマル、シオン、ソウエイ、ハクロウは言葉を無くしていた。そりゃそうだ、なんてたって、入り口のど真ん中で蜥蜴みたいな格好した魔物が威厳高く・・・・・・いや、格好つけながら自分たちの配下になれだとかどうだとか叫んでるんだもん。なんて反応したら良いのかわからなくなるのも当然だ・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・何だって?」

 

 

 

「皆まで言わねばわからんのか?やれやれ、これだからスライムなどと言う下等な魔物は・・・・・・」

 

 

 

「「「「っ!・・・・・・」」」」

 

 

 

目の前の蜥蜴人族(リザードマン)(確かガビルだっけ?)のその一言にその場にいた鬼人全員が一斉にガビルを鋭く睨んだ。僕も少しムッとはしてるかな。誰だって仲間や慕う相手を愚弄されたら腹は立つ。だが、どうやら当のガビルは殺気にも近い物をぶつけられても平然としていた。おそらくはこれだけの物をぶつけられてもびくともしない程の胆力の持ち主なのか・・・・・・ただこの殺気に気が付かないアホなのかのどちらかだ。

 

 

 

「おっと、口が過ぎたな、失敬失敬。話を戻すが我輩達がこうしてこんな村まで来ているのかと言うとだな・・・・・・貴様らも聞いているとは思うが、オークの大侵攻が関わっているのだ」

 

 

 

「はい、確かに聞いてはいますが・・・・・・」

 

 

 

「であろう?しからば貴様らも我輩達の配下に加わるがいい!配下に加われば我輩達がお前達・・・・・・いや、この村をオークの手から守ってやろうではないか!!」

 

 

 

・・・・・・この人は何でこんなに上から物を言ってくるんだろ?一応ここは僕たちの町な訳なんだし決定権というか・・・・・・普通立場は逆だと思うんだけど?・・・・・・はぁ、僕は言っちゃうとこの人たちに守られたいだなんて微塵も思わないな・・・・・・多分それはみんなも同じだと思うけど。

 

 

 

「そういえば、この村にはあの牙狼族を手懐けたという輩がいるそうであるな?その者をここまで連れてまいれ!幹部にしてやろうではないか!」

 

 

 

「はぁ・・・・・・?」

 

 

 

終いにはこんなことを言い出す始末・・・・・・。それっておそらくリムルのこと・・・・・・いや、一応僕もヒョウガという部下がいるから僕もってことになるのかな?・・・・・・とにかく、僕たちは幹部になる気なんてないし、もうこれ以上聞いていても無駄かもしれないから、早々にお引き取り願ったほうがいい・・・・・・そろそろベニマル達の堪忍袋の尾も切れかかってるしね。

 

 

 

「すみませんが、お引き取り願いませんか?僕たちはあなた達に守られずともオークからこの町を守ることは可能だと思っています。ですので配下になれという申し出は却下という形にさせて貰います」

 

 

 

「む?誰だ貴様は?見たところゴブリンでは無いようだが・・・・・・まぁいい。我輩は貴様のような小さき子供など呼んではおらん、我輩が呼んでいるのはあの牙狼族を手懐けたと呼ばれる者だ!さっさと連れてくるが良い!」

 

 

 

「き、貴様・・・・・・リムル様だけでなく、エリス様にまで・・・・・・もう許さんぞ!!貴様らはここで俺が・・・・・・」

 

 

 

「待てベニマル!」

 

 

 

とうとう我慢の限界が来たベニマルが、リムルの制止も無視してガビルに向かって襲い掛かろうとした。だが、それはひとつの()()()によって遮られることとなった。

 

 

 

「っ!・・・・・・お前は」

 

 

 

「・・・・・・確か、ベニマルさんでしたね?リムルさんや主様を愚弄されて憤る気持ちもわかりますが、ここはワタシに譲っては貰えませんか?敬愛なる我が主様へのあの者の物言い・・・・・・絶対に許してはおけませんので・・・・・・」

 

 

 

「っ・・・・・・わ、わかった」

 

 

 

突然現れた白い影・・・・・・ヒョウガの憤怒とも呼べる気持ちが、そのまま言葉に乗せられたような物をぶつけられたベニマルは一瞬たじろみ、身を退いた。一応氷牙狼族(アイシクルウルフ)であるヒョウガよりも、鬼人であるベニマルの方が力関係は上な訳なんだけど、そんなベニマルでさえみじろむ程に、今のヒョウガは・・・・・・怖かった。うん、それは本当にほんっっとうに・・・・・・・・・・・・寒気がするほど怖かった(ちなみにヒョウガはスキル『影移動』を使って僕の影の中から飛び出していた。前に覚えたらしい)。

 

 

 

 

「う・・・・・・お、おお・・・・・・貴殿が牙狼族の族長殿であるかな?だが・・・・・・なぜ、其方があの者の影から出てきたのだ?」

 

 

 

「ワタシは族長ではありません。何故・・・・・・と問いますか?・・・・・・我が主様だから・・・・・・とだけ申しておきましょうか?」

 

 

 

「主?ほほう?其方ほどの主があのようなひ弱そうな子供だとは・・・・・・いささか拍子抜けと言うか、がっかりというか・・・・・・」

 

 

さっきから子供子供って・・・・・・そんなに子供に見えるかな僕って・・・・・・ちょっと悲しくなってくるな・・・・・・。

 

 

「よくもワタシの主様を・・・・・・もう結構です。あなた方が・・・・・・我らにあだなす敵だと認識しましたので。・・・・・・無事に帰れるなどと・・・・・・思わないことですね!!あなた方のこれまでの度重なる非礼、死をもって償って貰います!!」

 

 

 

「っ!?な、何を・・・・・・」

 

 

 

《告。個体名ヒョウガの一時的な魔力及び、身体能力の強化が確認されました。》

 

 

 

「(そんなことは見なくても分かるよ!?というかこのままじゃまずいって!!)待って、ヒョウガ!!」

 

 

 

ヒョウガが身体中に冷気を纏いながらガビル達に襲い掛かろうとする。あの様子、形相だとおそらく本気でヒョウガはあのガビル達を仕留める気なんだろう。だけどそれはいくら何でもやりすぎだ!僕は激昂した彼女を止めるべく割って入ろうとしたが・・・・・・その必要は無くなった。

 

 

 

「・・・・・・我が妹よ、感情に身を任せて行動するな。その行動によって我が主やエリス殿にどれだけの迷惑をかけるのかわからんのか?」

 

 

 

「っ!兄上っ・・・・・・!」

 

 

 

僕よりも先にリムルの影から出てきたランガが割って入り、ヒョウガを止めたからだ。・・・・・・ふぅ、とりあえず助かったけど、ベニマルをヒョウガが止めて、そのヒョウガを今度はランガが止めて・・・・・・ここには暴走する配下がたくさんいるってのが今改めてわかった気がする・・・・・・。

 

 

 

「兄上はこの者らが許せるのですか!?我らの主をあのように愚弄されて・・・・・・」

 

 

 

「無論、我もこの者達は許せん。だが、今感情的に動いてこの者らを仕留めたところで何の解決にもならんだろう。それにお二人もきっとそれを望んではいまい。だから、今は耐えるのだ、妹よ・・・・・・」

 

 

 

「〜〜〜っ。・・・・・・わかりました」

 

 

 

どうやら彼女を抑え込めたようだ。ランガには感謝しないとね。ヒョウガが僕のためにあそこまで怒ってくれたのは嬉しかったけど、流石に命を取るまでは望んでなかったから、ここで踏ん張ってくれて正直ホッとしている。

 

 

 

「我が主よ、勝手に出てきてしまい、申し訳ございませぬ・・・・・・」

 

 

 

「いいさ。緊急事態だったみたいだしな。折角だ、そのままそいつの話を聞いてやれ」

 

 

 

「承知。で、ガビルだったな?」

 

 

 

「お、あ、ああ・・・・・・もしや、其方が牙狼族の族長殿であるかな?」

 

 

 

「そうだ。それで、先程の貴様らの提案だがな?()()()()を満たしたなら呑んでやらん事もない」

 

 

 

「ある条件?それは何であろうか?」

 

 

 

ランガのその提案は僕達には全く知らされていないもので、当然僕達は首を傾げている。本当にランガの言うそのある条件って言うのは何なんだろう?

 

 

 

「それはだな・・・・・・ゴブタ!こちらへ来い!」

 

 

 

「へっ?何すか?・・・・・・・・・・・・って、なんで武器持たされてるんすか!?ってかこの目の前のやつ誰なんすか!?」

 

 

 

いつの間にかこの場にいたゴブタに何故か矛先が行き、この場に駆り出された。しかも何故か武器を持たせて・・・・・・ってもしかしてランガは?

 

 

 

「この目の前にいるゴブタに一騎打ちで勝つことだ。勝てば貴様らの配下になることも一考してやろう。どうだ?」

 

 

 

「ガビル様〜、こいつらガビル様のこと舐めてやしませんかね〜?」

 

 

 

「ガビル様がこんなゴブリン如きに負けるはずないっすよ〜!!」

 

 

 

「やっちゃってください!ガビル様〜!!」

 

 

 

「ふっふっふ〜・・・・・・いいだろう!いい機会だ!今ここでこの偉大なる竜戦士であるガビルの力を見せてくれよう!!」

 

 

 

周りにいた蜥蜴人族(リザードマン)達に煽られ、すっかりやる気になったガビルは、持っていた槍をくるくると回しながら高々とそう宣言していた。偉大なるって・・・・・・ある意味自分で言っちゃうって言うのが凄いな・・・・・・。それで相手のゴブタはと言うと・・・・・・。

 

 

 

「なんでオイラがこんな事を・・・・・・やめていいっすか?」

 

 

 

「やめたらシオンの料理の刑だぞ〜?」

 

 

 

「ひっ・・・・・・そ、それって・・・・・・前チラッと見たっすけどあのとても食い物とは言えなさそうな・・・・・・あの料理っすか?」

 

 

 

「うん、あの料理」

 

 

 

「が・・・・・・頑張るっす〜!!!」

 

 

 

なんかやたらゴブタの気合が増した気がした。まぁ・・・・・・確かにあのシオンの料理を思い出せばそうなるのも無理はないと思う。多分僕でもそうなると思うから・・・・・・。というか、よくシオンがいる前でそんな事言えるよねゴブタは。・・・・・・後でどうなるかは知らないけど・・・・・・まぁ、そこは自分でなんとかしてもらおう。

 

 

 

 

 

結果として、勝負の決着は早々とついた。ゴブリンだと思って油断していたガビルに『影移動』を用いた巧みな戦略で翻弄したゴブタが、最終的にガビルの鳩尾に回し蹴りを喰らわせ、勝負有りということになった。あまりにあっさりと勝負が決してしまったことに拍子抜けしてしまったけど、こればっかりはガビルが弱いというよりも、ゴブタが思っていたよりも強かったと思っていいのかもしれない。それはおそらく以前から受けていた、ハクロウとの厳しい扱きもとい、指南が原因だと思う。ハクロウは以前から時間があればゴブタ達、若いゴブリン達を自分なりに鍛えていたようで、それにより、ゴブタの基礎能力や戦闘能力が大幅に向上していたのだと思う。・・・・・・だとしても、ここまでとは思わなかったけどね?

 

 

 

「ま、また来るぞ〜・・・・・・お、覚えているんだな〜・・・・・・」

 

 

 

ゴブタに完膚なきまでに負けたガビルは、部下達に引きずられながらその場を後にし去っていった。

 

 

 

・・・・・・結局彼らは何をしにきたんだろう?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

作戦会議!

もう時期オークロードとの戦いが始まります。どんな展開にしようかな〜?


 

 

 

ガビル達(蜥蜴人族(リザードマン))が去っていった後、僕達の町ではその後でも色々とあった。まず、以前は数千程の規模であったオークの集団が、今となっては20万規模の大所帯となってこの森へと侵攻してきているということが発覚し、それによりオークロードが出現している可能性が極めて高くなったことが分かり始めていた。

 

 

それだけでも十分驚いたんだけど・・・・・・さらに、指導者(ミチビクモノ)さん曰く、森の最上位の存在で『ジュラの大森林の管理者』及び『樹人族(トレント)の守護者』と呼ばれている樹妖精(ドライアド)のトレイニーさんのまさかの来訪にこれまた驚かされる事となったんだ。そして今は、町の重鎮(主に鬼人達やリグルドなど)や、そのトレイニーさんを加えて今後のオーク達への対策について会議を行っていた。

 

 

 

「で、トレイニーさん?樹妖精(ドライアド)であるアンタが何でこの町まで来たんだ?理由を教えてくれ」

 

 

 

「はい。実は、あなた・・・・・・リムル=テンペストさんと、そちらにいらっしゃるエリス=テンペストさんにお願いがあって来ました」

 

 

 

「僕達にお願い・・・・・・?それは何でしょう?」

 

 

 

「あなた方には・・・・・・豚頭帝(オークロード)の討伐をお願いしたいのです」

 

 

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 

トレイニーさんのその申し出に僕達は沈黙した。いきなりそんな『災厄みたいな魔物を討伐しろ!』なんて言われたら誰でもこんな反応になる。

 

 

 

「何故?と言った顔をしていますね?それは、わたくしがあなた方を”その魔物を倒しうる強き者”だということを認めているからです。そうで無ければわざわざこのような場所まで赴きません。・・・・・・分かっていただけましたか?」

 

 

 

「でも待ってください!まだオークロードがいると確定したわけじゃ・・・・・・」

 

 

 

豚頭帝(オークロード)はいます。わたくし達樹妖精(ドライアド)は、この森で起こっているようなことは概ね把握出来ますので、豚頭帝(オークロード)がいる事は間違いありませんよ?」

 

 

 

「マジかよ・・・・・・」

 

 

 

その場の空気が凍りつくのが分かった。確かに樹妖精(ドライアド)であるトレイニーさんが言うのであれば信憑性は高い。恐らくみんなは察したんだろう・・・・・・オークロードの出現とそれによる被害がどれほどになるものなのか・・・・・・という事を。

 

 

 

「そいつを相手にするにしても、情報が少なすぎる。・・・・・・トレイニーさん、何かオークロードの情報を持ってたりしないか?討伐の依頼を受けるかはそれを聞いてから決める」

 

 

 

豚頭帝(オークロード)はユニークスキルである『飢餓者(ウエルモノ)』を所持しています。リムルさんが持っている『捕食者(クラウモノ)』程強力かつ確実ではありませんが、喰らった相手のスキルを得ることができるスキルです。恐らくそのオーク達および豚頭帝(オークロード)の狙いは・・・・・・」

 

 

 

「オーガやリザードマンと言った強力な魔物達を喰らって持っているスキルを奪う事・・・・・・ですか?」

 

 

 

「その通りです。そうなりますと、ここの町ももはや安全とは言えなくなります。何せこの村には鬼人を始めとした多くの上位の魔物達が住んでいる。まさにオーク達にとっては絶好の餌場となっています」

 

 

 

「確かにそうだな・・・・・・」

 

 

 

リムルの表情が浮かなくなってくる。そりゃそうだよね。もしかしたら・・・・・・いや、多分ほぼ確実でオーク達がこの町まで攻め込んでくるって分かっちゃったんだから。

 

 

 

「特に、あなたやエリスさんは気をつけてくださいね?もしも、あなた方がオーク達の餌食になってしまえば、それこそおしまいですから・・・・・・」

 

 

 

「は?なんで俺まで?エリスの方が喰われたらまずいだろ?」

 

 

 

「いや、それはこっちのセリフだって・・・・・・リムルの方こそ食べられないでよ?リムルの規格外のスキルなんて奪われたら、僕達には絶対に歯が立たなくなっちゃうんだからさ?」

 

 

 

「規格外って言うならお前もだろ?仮にオークロードがお前の『応援者(コブスルモノ)』を手に入れて、20万のオーク達を強化なんてしてみろよ?それこそこの世が破滅するぞ?」

 

 

 

「「「「「リムル様もエリス様もどっちもどっちです!」」」」」

 

 

 

鬼人のみんなやリグルドから鋭いツッコミが入った。・・・・・・どうもすいません。

 

 

 

「そういうことです。それに、この度の豚頭帝(オークロード)の誕生に伴って、魔人の存在も確認しています。その魔人は今現在この世に君臨しているいずれかの”魔王”の配下である事は間違いありませんので・・・・・・あなた方からすれば、放っておける存在では無いのではないでしょうか?」

 

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 

トレイニーさんはこの森で起こった事は全て把握している。つまりは僕達とシズさんとの関係性も知っているということになる。僕はリムルから聞かされるまで知らなかったけど、どうやらシズさんをこの異世界に召喚した男というのが、魔王であるレオン・クロムウェルという人物だったみたいで、今僕達はシズさんを召喚した意図を問いただす為、その魔王を追っているんだ。恐らく今のトレイニーさんの発言は、概ねその僕達の胸中を理解し、この事を話せば僕達が動かざるを得ないということを察してのことなのだと思う。確かに、その魔人から魔王に対する情報をなんかしら得られれば、魔王レオンへ近づく大きな一歩となる訳なんだし、僕達からしたら願ったり叶ったりなことだ。・・・・・・全く、優しそうな顔をしていながら・・・・・・食えない人だよ、あなたは。

 

 

 

「・・・・・・そこまで言うんだったら、分かった。オークロードについては俺たちがなんとかしよう。エリスもみんなもそれで良いな?」

 

 

 

リムルからの問いに僕達は無言で頷く。どうやら満場一致みたいだ・・・・・・よかった。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「よし!じゃあ早速、オークロード討伐のための作戦会議を始めようとするか!」

 

 

 

あの後、トレイニーさんは帰り、残った僕達で今後のオークロードに対する対策を練るべく緊急会議を開いていた。もちろんリムルを主軸として。

 

 

 

「まずはだが、20万もいるオーク達と戦闘となると、こっちも戦力を増やすことを第一に考える必要が出てくる。だから、俺の考えとしては、リザードマン達と共同戦線を張るのが一番だと考えるんだが、どうだ?」

 

 

「あのようなバk ・・・・・・礼儀知らずな輩がいる者共とですか?」

 

 

ベニマル・・・・・・今、絶対バカって言おうとしたよね?ガビルのこと・・・・・・。

 

 

「だとしても、リザードマン達が一緒に戦ってくれるとするなら、これほど心強いことはないだろ?だから、出来ればあの話聞かない奴(ガビル)以外の奴と交渉出来たら良いんだけど・・・・・・例えば、リザードマンの頭領みたいな奴と」

 

 

「それなら僕が行くよ。上手く交渉して、共同戦線を張ってくれるよう頼み込めば良いんだよね?任せて!」

 

 

「エリス様がわざわざ、出向く必要はありません。ここは自分が行って交渉してきますので・・・・・・」

 

 

僕の提案はソウエイに却下された。だけど、もちろん僕が出向くのにも理由がある。

 

 

「いや、僕が直接お願いをしにいきたいんだ。今オーク討伐に向けて忙しい中会いに行くわけなんだから、こっちも誠意を持って行かなくちゃいけない。多分だけど向こうも簡単には承諾はしてくれないと思うけど、だからこそ責任者の一人でもある僕が出向く必要があるんだ。さすがに責任者という上の人が来れば邪険には扱えないだろうから、交渉もスムーズに進められると思うんだ。・・・・・・駄目かな?」

 

 

「エリス様がそこまで仰るのであれば・・・・・・リムル様、いかが致しますか?」

 

 

「・・・・・・わかった。お前なら何も心配いらないだろうが、念のためソウエイと一緒に交渉に行ってくれ。万が一ってこともあるからな」

 

 

「うん。任せて」

 

 

「御意に」

 

 

 

こうして、僕はソウエイと共にリザードマンの頭領さんのところに交渉に行くこととなった。頭領さんの居場所はソウエイが予め調べておいてくれてたみたいだから、ソウエイの道案内の元、僕達は頭領さん達のいる湿地帯へと足を踏み入れるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦前準備

今回は少し短めです。


リムル達とは一旦別れ、ソウエイを連れてリザードマン達の頭領さんがいる湿地帯の住処へと赴いていた僕。この場所へはヒョウガに乗って来たこともあって、1日と掛からずに到着することができたことに内心ホッとしていた。何にかって言うと、もちろんオークの大群のことで。あまりに行くまでに時間が掛かって行く前にリザードマン達が壊滅!ってなったら洒落にならないからね。

 

 

そんなわけで、今僕たちはリザードマン達の頭領さんと面会をしています。・・・・・・やたらと、周りのリザードマン達からは睨まれて空気はかなり悪いけどね。

 

 

 

「ほう?20万のオーク供と戦う為に、我々と同盟を結びたいと申すのだな?」

 

 

 

「そうです。オーク達を迎え撃つのはこの湿地帯にして、僕達とあなた方達リザードマンで共闘してあのオーク供を討ち取ります。既にこちらではオークやオークロードに対する対策も十分に練っているので不都合でも起こらない限り、問題なく駆逐できると思います。それに、こちらは樹妖精(ドライアド)から直接要請を受けてこのオーク討伐を確約されています。この森の管理者でもある樹妖精(ドライアド)からの直接要請・・・・・・これの意味することはなんとなく理解できますよね?・・・・・・どうでしょうか?どうか力を貸してはくれませんか?」

 

 

 

「(つまり、樹妖精(ドライアド)が直接要請をするほどに、この者らの力は強大と言うことか。確かに目の前のこの二人からは恐ろしいほどの妖気(オーラ)が感じ取られる。特にこの青髪の子供・・・・・・此奴はまずい。敵に回せば我らは確実に滅びる・・・・・・)・・・・・・うむ、そうだな・・・・・・だが、少し考えさせてくれ」

 

 

 

「決断は早めにして貰おうか。リムル様もエリス様も忙しいのだ」

 

 

 

「分かった・・・・・・」

 

 

 

そう呟きながら暫し考える仕草を見せる頭領さん。やっぱり頭領という立場から言って、そう簡単に頷くことはできないよね。自分の一言で下手をすれば一族全員を破滅させる可能性だってあるんだから。それだけの戦いなんだよね・・・・・・今回のオークロード討伐は。

 

 

 

「首領!こんな訳もわからぬもの達と同盟など、意味などありませんぞ!それになんだそのリムルと言う輩は!聞いたこともないようなそんな輩と我らリザードマンとで釣り合うと思っているのか!?それに、責任者とかほざいていた貴様もどうせ単にオーク供が怖くて我らに泣きついて来ただけなのだろう!?そうならそうと最初から言えば・・・・・・っ!」

 

 

 

「口を閉ざせ・・・・・・それ以上の主たちへの侮辱は許さんぞ?」

 

 

 

とうとう我慢出来なくなったのか、一人のリザードマンが僕たちに向けて色々と苦言を言ってきた。その中にリムルや僕の悪口みたいなことも入ってたから、隣にいたソウエイが憤り、『鋼糸』でそのリザードマンの頸を刎ねようと、糸を勢いよく巻きつけていた。既に頸からは血が滲み出ていて、あとちょっとでもソウエイが力を加えれば、すぐさま頸が飛びそうな状況へとなっていた。・・・・・・流石にここで殺すのは良くないから止めに入ることにしよう。

 

 

 

「ソウエイ。僕たちの目的は同盟の締結でしょ?戦いに来たわけじゃないんだから、糸を締まってくれる?」

 

 

 

「・・・・・・失礼いたしました。あなた方を侮辱されたことに少し腹が立ちまして・・・・・・」

 

 

 

「怒ってくれてありがと。その気持ちだけで充分だから、今は抑えていてね?」

 

 

 

「御意に」

 

 

 

怒りは鎮まったのか、ソウエイは絡み付かせていた糸をしまい、そのまま僕の後ろへと下がった。

 

 

 

「僕の部下がごめんなさい。それで、返事を聞かせてもらいたいんですけど?」

 

 

 

「・・・・・・分かった。同盟を受け入れよう。これほどの強者達とともに戦えるのだ。これほど心強いことは無い。だが、一つだけ条件を出しても良いか?」

 

 

 

「なんでしょうか?」

 

 

 

「先ほど其方達が話していたリムルという輩に会わせてもらいたい。一度同盟相手として話してみたいのでな」

 

 

 

「分かりました。ソウエイ、リムルに頭領さんとの面会にかかる時間を聞いてもらっていい?」

 

 

 

「分かりました。少々お待ちを・・・・・・」

 

 

 

ソウエイはそう言うと、僕たちから少し離れ『思念伝達』でリムルと連絡を取り始めた。

 

 

 

「エリス殿・・・・・・で良かったかな?」

 

 

 

「はい。どうかしましたか?」

 

 

 

「あのオーガは其方とリムル殿の部下であるのか?」

 

 

 

「正式にはリムルの部下なんですが、一応僕もリムルと同じ責任者という肩書を持っていますので、僕の部下ということにもなっていますね。あ、それと、今の彼はオーガでは無く鬼人となっていますよ?リムルが名付けをして進化したので」

 

 

 

「な、なんと!あのオーガから稀に出るオーガの上位種族が彼の者であるというのか!?では・・・・・・その名付けをしたリムル殿というのはそれ以上の・・・・・・化物か」

 

 

 

「あはは・・・・・・それは言えてますね」

 

 

 

リムル・・・・・・キミはとうとう化物呼ばわりされ始めたみたいだよ。ま、あんだけ規格外のスキルや能力を持ってたら誰だってそう思うよね?

 

 

 

そんな中、リムルとの思念伝達が終わったのか、ソウエイがこちらに戻ってきた。

 

 

 

「エリス様、リムル様は7日あればこちらに合流できるとのことです」

 

 

 

「うん、ありがと。というわけで頭領さん、リムルに会えるのは7日後になりますけど、よろしいですか?」

 

 

 

「構わぬ。それまではなるべくこちらは籠城して凌いでいるとしよう」

 

 

 

「それでお願いします。では、僕たちはこれで失礼します。7日後にまた会いましょう」

 

 

 

「うむ」

 

 

 

大体の予定を決め、同盟の締結も出来た僕たちは、そろそろお暇しようとその場から去ろうとした。だが、その場から去る前にソウエイが一言・・・・・・。

 

 

 

「”背後にも気をつけろ”との伝言を受けた。用心するのだな」

 

 

 

そう言い残して、今度こそその場を後にした僕たちだった。”背後”・・・・・・ね?後でリムルに確認してみようかな。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

それから3日後、無事に町まで戻った僕たちを加えた総勢100騎程の町の精鋭達は、オーク達との決戦の舞台となる湿地帯へと進軍を開始していた。一応目的としては、僕たちはオーク達を殲滅するわけではなく、オークロードのみを討伐することを目的として行動をしている。いくらベニマル達鬼人やリムルがいたとしても、流石に多勢に無勢なことには変わりないため、そういう決断に至ったわけだ。

 

 

 

「あれ?そう言えばリムルは?さっきから姿が見えないみたいだけど?」

 

 

 

「リムル様なら先ほど突然翼を生やして空へと飛んで行きましたよ。なんでも、オーク供やオークロードの位置などを確認したいがためだとか」

 

 

 

「そ、そっか・・・・・・(リムルったら、またそんなスキルを・・・・・・。そんなスキルばっかり習得してたらいつの日か、これ以上にないくらいに規格外な存在になっちゃうよ?・・・・・・まぁ、今でも十分規格外なんだけどさ?それにしてもいいな〜・・・・・・僕も空飛んでみたいよ・・・・・・)」

 

 

 

《告。『技能作成者(スキルクリエイター)』を発動することにより、ユニークスキル『飛行者(ソラヲトブモノ)』の作成を実行することが可能です。実行致しますかYes/NO?》

 

 

 

そんな僕の願望に指導者(ミチビクモノ)さんが反応したのか、いかにも空を飛べそう・・・・・・というか多分絶対に飛べるようになるようなスキルを作成するかという提案をしに来た。もちろん答えは・・・・・・。

 

 

 

「(お願いします!)」

 

 

 

《了。スキルの作成を開始します・・・・・・・・・・・・・・・・・・作成を中止しました。》

 

 

 

「(えっ!?何でっ!?おかしくない!?)」

 

 

 

《対象のスキルを獲得する際、主人(マスター)の体内魔素量が”10%”を下回ることを確認しました。それにより、主人(マスター)の生命維持が極めて難しい状態に陥ることが高い状態になります。よって、このスキルの作成は現状では不可能と判断したため、作成を中止します。》

 

 

 

「(じゅ、10%!?あ、そう言えばユニークスキルって言ってたっけ?ユニークスキルはエクストラスキルとかよりも強力な分、消費する魔素もそれなりに多くなるって言ってたもんね・・・・・・。はぁ〜、現実そう甘くはないか・・・・・・。とりあえず、今のところは空を飛ぶことは諦めよう・・・・・・)」

 

 

 

「エリス様?浮かない顔をしていますが、どうかしましたか?」

 

 

 

「ううん、何でもないよ。さて、リムルが先に行ってるなら僕たちも先を急がないとね!」

 

 

 

ユニークスキル獲得はならなかった僕だけど、今はそれに落ち込んでる暇がないことは自分でもよく分かってるため、すぐに頭を切り替え進軍を再開するのだった。

 

 

 

 

 

オークロードとの決戦は近い・・・・・・・・・・・・。

 




次回でオークロードの話は終わりに・・・・・・したいですが、場合によっては続く可能性もあります。ですが、なるべく早くこの話は終わりにしたいと思っています。


早いとこ先に進みたいので!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガビル救出大作戦!

やっぱり話はもう一話続ける事にします。


とても終わりそうに無かったため・・・・・・。


「ガビルがオークと一騎討ちをしてたって?リザードマン達は籠城して耐えるって話だったはずだったんだけど?」

 

 

 

一人偵察に向かっていたリムルから突然『ガビルがオークと一騎討ちをしている』というなんとも理解し難い情報を聞かされ、僕たちはひどく頭を悩ませていた。僕たちが使者として向かった際には、頭領さんは防御に徹するために籠城すると約束をしてくれたにも関わらず、このような行動に移っているんだ。戸惑うのも無理はなかった。

 

 

 

「俺にもわからん。だが、俺の予想が正しければおそらくあのガビルは・・・・・・」

 

 

 

「失礼仕ります!!」

 

 

 

「っ!・・・・・・あれ?キミって確か・・・・・・」

 

 

 

リムルが何かを口走ろうとした矢先に、突如何者かがこの場に勢いよく割り込んできた。敵かと思い、戦闘体制に入ろうとした僕たちだったけど、目の前にいるこの()()()()()()に僕は見覚えがあったため、僕は警戒を解いた。この人は僕が使者に赴いた際に見た、頭領さんの真隣に立っていた少し位が高そうなリザードマンだった。

 

 

 

「エリス殿、此度は我々と共にオーク討伐に協力をしていただき、ありがとうございます。我々だけではあの大軍勢はとてもではありませんが・・・・・・・・・・・・って、そんな悠長に話している場合ではありませんでした!あの、リムル殿はどちらにいらっしゃいますか!?」

 

 

 

「リムル?リムルならそこにいるよ?」

 

 

 

そう言いながら、僕は少し離れた場所にいたリムルの方へと視線を移した。リムルの方も、僕の視線に気が付いたのか、こっちに向かってきた。

 

 

 

「リザードマンからの使者か?自己紹介してなかったな。俺はリムル=テンペスト。今から俺たちはお前達リザードマンと対談をするために行軍を進めていたわけなんだが・・・・・・何か問題でも出たか?」

 

 

 

「・・・・・・はい。・・・・・・お願いします!!我が父である首領と、兄であるガビルをお助けください!」

 

 

 

「やっぱり何かあったんだね?話してみて?」

 

 

 

それから目の前のリザードマンから出たそのわけに、僕たちはまた頭を抱え始めた。なんでも、兄だと言うガビルが実の父親である頭領さんを幽閉したらしい。つまり、謀反を起こしたということだ。ガビルはどうやら一人でもオークやオークロードを討伐できると思い込んでいるらしく、周りの声は全くと言っていいほど届いていない様子だったようだ。全く、そんな一人の力であのオーク達を退けられるなら誰も苦労しないっていうのに・・・・・・とりあえず、一言言っていいかな?

 

 

 

「バカなのかな?」

 

 

 

「バカだろうな」

 

 

 

「バカだな」

 

 

 

「バカですね」

 

 

 

「愚行ですな」

 

 

 

「そ、それは・・・・・・・・・・・・否定はできませんが・・・・・・」

 

 

 

僕のその一言にリムルや他のみんなが同調する。前見た時からバカだとは思っていたけど、まさかここまでの大馬鹿者だとは思っていなかったため、流石に動揺する。

 

 

 

「で?そのバカみたいに先走ったガビルを俺たちに助けて欲しいってか?親のことを裏切って一族を破滅の危機に貶めようとしている奴を?少し虫が良すぎないか?」

 

 

 

「わかっています!大変失礼なことを言っていることは重々承知しております!ですが・・・・・・あれでも私の兄であり、大事な家族なのです。・・・・・・お願いします!もう頼れるのはあなた方しか居ないのです!!」

 

 

 

頭を地につけて再度救助を願い出てくる頭領の娘さん。正直、ガビルに関してはちょっと迷ってるけど、頭領さんが危機だっていうなら助けない手はない。同盟相手って言うのもあるけど、目の前の彼女が悲しむのを見たくないというのも、尾を引いていたからだ。

 

 

 

「わかった。同じオーク達と戦う同士なんだ。必ず助ける。リムルもそれでいい?」

 

 

 

「仕方ないな。ソウエイ、『影移動』を使って頭領のいる場所まで向かってくれ。もし、オークと交戦でもしてるなら援助してやってくれ」

 

 

 

「御意に」

 

 

 

渋い顔をしながらも、最終的には頷いたリムルは、ソウエイにそう命じると再び偵察に向かうべく、空の彼方へと飛んで行った。僕も先を急ぐべく、みんなを引き連れ、行軍を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「(エリス!オークロードを発見した。お前達から見て南東の方角にいる!)」

 

 

 

「(わかった!リムルは僕たちがガビルを救出するまでその場で待機してて!何か動きがあればまた連絡してくれ!)」

 

 

 

「(わかった!)」

 

 

 

思念伝達でリムルとやりとりをしつつ、僕たちはガビルを救出するべく動き出していた。既にオーク達との戦闘は始まっているのだが、ベニマルやシオン達鬼人がいるおかげもあって、特に問題なく進めることができている。僕も問題なく戦えてはいるんだけど正直ちょっとこの鬼人達の強さには及ばないため、少し羨ましいと思ってしまっている。・・・・・・やっぱり鬼人はちょっと規格外だよね・・・・・・多分僕よりも強いし。

 

 

 

そんな中、ようやくオーク達と奮闘をしているガビルを発見した。所々傷を負っているようだが、命には別状無さそうであったため内心で息を吐きながら一部の部下に指示を出した。

 

 

 

「ランガ!ヒョウガ!」

 

 

 

「はっ!」「お呼びでしょうか?」

 

 

 

僕が呼ぶと同時に、ランガとヒョウガが影の中から出てくる。・・・・・・相変わらず行動が早いこと。

 

 

 

「『影移動』を使ってガビルの側まで行って援護してやってくれ。あれじゃ時間の問題だからね。あ、ゴブタもついでに行ってあげて?『影移動』使えるでしょ?」

 

 

 

「へ?まぁ、いいっすけど・・・・・・戦力になれるか分かんないっすよ?」

 

 

 

「大丈夫。ゴブタは強いから十分戦力になるよ。とにかくお願いね?二人もそれでいいかな?」

 

 

 

「承知しました!」

 

 

 

「あの者を助けるのはひどく癪ですが・・・・・・主様の命とあれば、従わざるを得ませんね。・・・・・・承りましょう!」

 

 

 

「ありがと。じゃあ行ってくれ!」

 

 

 

3人は『影移動』を使い、すぐさまガビルの下へと急行していった。あの3人であればよほどのことでもない限り、負けることはないだろう。さて、僕たちは・・・・・・。

 

 

 

「残りのみんなはここらのオーク達を片付けつつ、ガビルの救出に向かってくれ!怪我をした人は僕のところで治療を受けるように!狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)のみんなは相手を牽制しつつ、オーク達を翻弄しながら戦うように!ベニマル達は・・・・・・思う存分やっていいよ。ただし、周りへの被害は最低限にね?」

 

 

 

「もちろんそうさせてもらいます!我が同士達の無念、ここで晴らさせてもらおう!!」

 

 

 

「リムル様とエリス様の前に立ちはだかる愚かなこの豚どもは、私が成敗してやります!!」

 

 

 

「ワシもちと・・・・・・力を振るうとするかのう」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

僕の一言で一斉にやる気になるベニマル達。・・・・・・味方に被害が出ないことを祈っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

視点 ヒョウガ

 

 

 

 

ワタシと兄上、ゴブタさんは主様の命により、以前主様やリムルさんを愚弄すると言った愚行を行なったガビルの救出のために動いていた。あのような者など助けたくはないが、主人の命である以上従わざるを得ないため渋々救出へと向かっていた。

 

 

 

『影移動』の力でガビルのもとに駆けつけた時には、既にガビルはかなりボロボロの状態となっていて、もう少し遅ければきっとオーク達の餌食となっていただろうと推測した。ワタシとしてはそうなっても良かったのですがね・・・・・・。

 

 

 

「っ!貴様達は、牙狼族の族長殿と・・・・・・あの村の主人殿ではないか!」

 

 

 

「「「・・・・・・?」」」

 

 

 

何故か、ゴブタさんを見てそう言うガビルに私たちは首を傾げた。

 

 

 

「彼は狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の隊長であるゴブタさんです。決して主人という風格の持ち主ではないので間違えないように」

 

 

 

「ひょ、ヒョウガさん?その言い方は地味に傷付くんっすけど・・・・・・」

 

 

 

「事実であろう?・・・・・・っと、無駄話をしている場合では無さそうだ」

 

 

 

兄上はガビルから目の前の”黒い鎧”を着たオーク達へと視線を移した。見たところ、このオーク達は他のただのオークよりも妖気(オーラ)の量が多く、体も少し大きく見て取れた。このオーク達は一体?

 

 

 

「グググ・・・・・・また妙な雑魚が現れたようだ。まぁいい。餌は多いに越したことはないからなぁ」

 

 

 

「ふんっ。貴様らのような豚の餌などになる気は無い。・・・・・・それにしても、貴様は本当にオークか?オークにしては妙に妖気(オーラ)が多すぎるが?」

 

 

 

「我らは豚頭将軍(オークジェネラル)豚頭帝(オークロード)様の腹心である」

 

 

 

「腹心・・・・・・っすか?」

 

 

 

「なるほど・・・・・・」

 

 

 

オークロードの直属の腹心であるなら、この妖気(オーラ)には納得出来た。だが、それと同時にまだ見ぬオークロードに一途の恐怖心を覚えた。

 

 

 

「(これだけの妖気(オーラ)を持つオークジェネラルが部下だとするならば、オークロードは一体どれだけの手練れだと言うのでしょう・・・・・・)」

 

 

 

「そろそろ、貴様達を喰らうことにしよう。ふんっ!大方このトカゲどもを助けに来たつもりだろうが、何処ぞの()()()()()の配下が加わったところで、我らの優勢は微塵も揺るがんわ!」

 

 

 

「「「(カチンッ)」」」

 

 

 

自分たちの主であるリムルさんや主様を”木っ端”呼ばいされた事により、ワタシを含めた3人は憤る。

 

 

 

「リムル様やエリス様をバカにするのは許せないっすよ・・・・・・?」

 

 

 

「そこまで言うのであれば見せてやろう・・・・・・貴様達が木っ端と侮ったお方達の力の一端を!!」

 

 

 

「もう謝っても許しませんからね?・・・・・・見せてあげます!主様からいただいたこの力を!!」

 

 

 

ワタシと兄上が力を解放すると同時に、あたりに暗雲が漂い始め、次第にそこから巨大な竜巻と雷がいくつも現れ、それに加えとても一般的な大きさではない巨大な雹が多数現れると、そのままオーク達に向かって降り注いでいった。

 

 

 

 

「『黒雷嵐(デスストーム)』!」

 

 

 

「『凍て刺す零雹(ヘルヘイル)』!」

 

 

 

「ぐ・・・・・・グゴォォォォォォーーーーーーーッ!!!!!」

 

 

 

私たちの放った技は、一瞬にしてオーク達を飲み込んでいき、次にオーク達の姿が確認出来た時には・・・・・・オーク達は醜い姿と成り果て、息絶えた姿へと変貌を遂げていた。

 

 

 

「ら、ランガさん・・・・・・ヒョウガさん?・・・・・・相変わらずすごいっすね・・・・・・って、なんか二人とも姿変わってないっすか!?角も2()()に増えてるし!」

 

 

 

 

ゴブタさんの言葉が気になったワタシと兄上は、お互いに自身の体を見回してみた。

 

 

 

 

「・・・・・・む?確かに変わっている。そういえば、先程と比べて力が溢れている感覚であるな。魔素の量も幾分か増えているようにも感じ取れる。・・・・・・妹よ、そちらも同様か?」

 

 

 

「そうですね。ワタシも兄上と同様の感想を抱いています。お互いに体も少し大きくなりましたし、使えるスキル、技なども増えたようです」

 

 

 

「そうか。・・・・・・少しは我が父に近づけたであろうか・・・・・・」

 

 

 

「父上のことは言わないでください。・・・・・・さて」

 

 

 

今まであまり考えないようにしていた父上のことを引っ張り出され、少し気持ちが沈みそうになってしまったワタシだが、すぐに持ち直し、あたりに残っているオークを討伐するべく、突撃した・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

視点 エリス

 

 

 

ベニマル達と共に、ガビルの元へと向かっていた僕だったけど、突如現れた巨大な竜巻と、巨大な雹に目を奪われた。

 

 

 

「な、なんだあれ?」

 

 

 

《解。巨大竜巻の発生原因は、個体名ランガの広範囲攻撃『黒雷嵐(デスストーム)』によるもの。巨大雹の発生原因は、個体名ヒョウガの広範囲攻撃『凍て刺す零雹(ヘルヘイル)』によるものです。》

 

 

 

「そ、そうなんだ〜・・・・・・(ねぇ、リムル?ちょっと言いたいことがあるんだけど良いかな?)」

 

 

 

「(奇遇だな。俺も言いたいことがあるんだ)」

 

 

 

思念伝達でリムルに話しかけた僕は、どこかリムルの声が引き攣ったように感じたが、そのことは無視した。

 

 

 

「「((僕『俺』達の部下ってなんでこんな規格外な奴らばっかりなのかね〜?))」」

 

 

 

言いたいことが見事に被った僕たちなのだった・・・・・・。




次回で終われたら良いなって感じです。



黒雷嵐(デスストーム)


ランガのスキル。複数の稲妻を纏った竜巻で敵を殲滅するスキル。威力だけでなく、攻撃範囲もかなり広い。



凍て刺す零雹(ヘルヘイル)


ヒョウガのスキル。敵の頭上に多数の巨大な雹を降り落とし、敵を一網打尽にするスキル。降り落ちる速さはかなりのものであり、かつ雹事態もかなりの大きさを誇っているため、逃げるのは容易ではない。



※『凍て刺す零雹(ヘルヘイル)』の雹の大きさはそれぞれバラバラであるが、大きいので10m。小さいので4mの雹が降り注ぐ。




ヒョウガの進化先の名前を募集します。もし『違う名前にしてほしい』に票を入れた方は、よければ自分で考えた名前をコメント等で教えていただけるとありがたいです。場合によってはそちらを採用させていただく場合もございますので。では、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦!豚頭魔王(オークディザスター)

今回で終わるといいな〜・・・・・・。


ランガとヒョウガ、及びベニマル達鬼人の暴虐無双の行軍により、オーク達の軍は半壊に陥るほどの被害を被っていた。特に、鬼人のみんなは故郷である里を滅ぼされた恨みもあるのか、血も涙も無いスキルや攻撃を容赦なくオーク達にお見舞いしていた。あまりにも一方的に殲滅されているオーク達であった為、彼らにどこか同情してしまう僕は決して間違ってはいないと思う・・・・・・多分。

 

 

 

そんな行軍を続けていた僕たちだったが、ようやく目的の場所であるオークロードの元へと辿り着いた・・・・・・んだけど、何やらそのオークロードの前に()()()()がいた。その人物はオークロードに対して何やら言っているようだが、オークロードの関係人物なのかな?

 

 

 

「あの人は・・・・・・」

 

 

 

「あのお方はゲルミュッド様である。かつて、我輩に名を与えてくださったお方だ・・・・・・」

 

 

 

「あの人に名を?あぁ・・・・・・だからガビルにだけは名があったわけね?」

 

 

 

隣にいたガビルから明かされた事実に、僕は内心で静かに納得する。おかしいと思っていたんだ。リザードマンの頭領さんやその娘さんを含めたリザードマン達は、誰一人として名を持っていなかったのに対して、何故か息子であるガビルにだけは名があったことに。

 

 

とりあえず、ここでは話が聞こえないため僕たちはオークロードとそのゲルミュッド?の元へ移動していった。

 

 

 

「この愚鈍が!!貴様がさっさと魔王に進化しないからわざわざこの()()()()であるこの俺様が出向く羽目となってしまったではないか!!このゲルミュッド様の計画を台無しにしやがって!!」

 

 

 

「おい。計画っていうのはどう言うことだ?詳しく聞かせろ」

 

 

 

今まで空からこの二人を見下ろしていたリムルが降りてくると、開口一番にそうゲルミュッドに問いた。それにしても、今、魔人って言ったよねこの人?もしかして、この人がトレイニーさんの言ってた魔王に関わりのある人物って事だよね?

 

 

 

「む?・・・・・・ほう?貴様が俺様の計画の邪魔をしている愚か者どもの親玉か?ふん!貴様などに教えるはずがないであろう?最も、このゲルミュッド様の計画を知ったところで、どうせ死ぬ()()()には意味のない事であるがな〜?」

 

 

 

貴様ら。つまりリムルだけでなく僕たちも見逃すことはないと言うことか。それならそれで僕たちは迎え撃つだけなんだけど・・・・・・って、ちょっと待って?じゃあガビルは?ガビルはどうなるんだろう?ガビルももしかしてその”貴様ら”の中に組み込まれているのかな?一応ガビルの名付けの親であるから、それなりの愛情があるはずだけど・・・・・・聞いてみよう。

 

 

 

「ちょっと良いですか?」

 

 

 

「・・・・・・?なんだ貴様は?」

 

 

 

「僕はエリス=テンペスト。そこのリムルの仲間です。一つ聞きたいんですが、あなたは先程()()()と言いましたが、それはここにいるガビルも含まれるんでしょうか?あなたが名付けをしたこのガビルも」

 

 

 

「ガビル?・・・・・・ふむ、なるほど・・・・・・確かに俺が名付けた魔物の一部だな。それならば・・・・・・っ!!」

 

 

 

「っ!!げ、ゲルミュッド様っ!!?な、何を・・・・・・!」

 

 

 

ゲルミュッドが一拍置いて出たのは・・・・・・優しい言葉でもなく厳しい言葉でもなく・・・・・・攻撃だった。

 

 

「ガビルよ!貴様は役に立たん奴だったが、ようやく俺の役に立つ時が来た。感謝するがいいぞ!さぁオークロードよ、あのトカゲを喰え!あれでも俺が名付けをした個体の一つだ。お前を魔王に進化させるだけの力を持っているやもしれん!」

 

 

「それが狙いかよ。お前、本当にガビルの名付けの親か?ガビルは本気でお前のことを慕っているように見えたぞ?」

 

 

「ふん!あんなトカゲに好かれるなど俺はごめんだ。それにあんなのの変わりなどいくらでもいる。一人犠牲になったところで俺の計画に何ら狂いはない!はっはっは!!」

 

 

「笑ってるが、それはお前の目の前を見てからにしたらどうだ?」

 

 

「はっ?何を言って・・・・・・って、何っ!!!?」

 

 

リムルの言う通りに自分の目の前の光景を目の当たりにしたゲルミッュドは、信じられないと思わんばかりに盛大に驚いていた。別に特段難しい事はしてない。単に僕がガビルの前に割って入り、水結界(アクアベール)でその攻撃を凌いだに過ぎないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

でも・・・・・・今はそんな事どうでもいい。だって・・・・・・僕は今、久しぶりに本気で怒っているから・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

リムル視点

 

 

 

ゲルミュッドがガビルへ攻撃をしようとした際、俺はすぐさま助けに入ろうとしたが、その前にエリスが助けに入ったため俺はその場で止まっていた。とても名付けの親がするようなことではない行為に俺はゲルミュッドを睨みつけたが、ふと後ろから()()()()()()()()空気の乱れを感じ取り、睨みつけるのも程々にし、後ろを振り返ってみた。

 

 

 

 

するとそこには・・・・・・今まで見たこともないような、はっきりとした”怒り”の表情を浮かべたエリスが、ガビルを背にして立っていた。

 

 

 

「ガビル・・・・・・。もうあの人を慕うのはやめた方がいいよ。あの魔人はキミの事を自分の計画を遂行するための道具のようにしか思っていない。・・・・・・今攻撃してきたのがいい例でしょ?」

 

 

 

「げ、ゲルミュッド様・・・・・・なんで?いずれはゲルミュッド様の右腕にしてくれると・・・・・・お前には見込みがあると言っていたではありませんか!!」

 

 

 

「最初からその気は無かったんだよ。褒めるだけ褒めて名付けをして、使えなくなったらすぐに切り捨てる・・・・・・。あの魔人はそう言うやつだったようだね。・・・・・・ガビル、キミはついて行く人を間違えたようだ・・・・・・」

 

 

 

「そ、そんな・・・・・・我輩はずっと、名付けをされたあの日からずっと・・・・・・あなたを信じていたと言うのに・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

ゲルミュッドの本性を知り、絶望したガビルの瞳から涙が溢れる・・・・・・。それを見たエリスは、ますます形相が激しくなっていった。

 

 

 

『確認しました。個体名エリス=テンペストがユニークスキル『激怒者(イカルモノ)』を獲得しました。』

 

 

 

「貴様っ!邪魔をするな!!そのトカゲをオークロード・・・・・・いや、ゲルドに喰わせれば魔王に進化できるかもしれんのだ!さっさとそこを・・・・・・っ!!ぎゃぁーーっ!!!!」

 

 

 

「もう口を開かなくても結構です・・・・・・。もう口も聞きたくないんで・・・・・・」

 

 

 

この場にゲルミュッドの叫声が響き渡った。一瞬のことで鬼人や他のみんな達もゲルミュッド本人も何があったのか理解できていないようだった。簡単に言うと、エリスが一瞬でゲルミュッドの前まで接近して、そこで『水剣』を使ってゲルミュッドの右腕を叩き斬ったんだ。あまりの速さにみんなエリスが移動をした事に気がつかなかったんだ(俺にはギリギリ見えたけど)。それを行ったエリスは、今まで感じたこともないような怒気を纏わせていて、形相も鬼人でさえビビりそうな鬼のようなものへと変貌を遂げていた。それを見た俺や他のみんなは驚愕・・・・・・とまではいかないが、少なくとも驚いていた。

 

 

 

普段のエリスは怒ることなどまずなく、温厚かつ優しく、人当たりが良い性格をしているため町のみんなからも深く慕われている。もちろん俺やベニマル達鬼人のみんなもエリスのことを信頼している。仮に怒ったとしても、軽く注意したり説教をするだけで、怒鳴ったり罵ったりするわけでも無いため、特に怖いなんてことはない。まぁ、それがエリスが慕われる理由の一つでもあるんだがな。ともかくだ、そのエリスが、今回初めて本気で怒ったわけだ(地味に『激怒者(イカルモノ)』って言う、スキルをゲットするぐらい怒ってるらしいからな)。みんなが動揺するのも無理はないと思う。

 

 

 

「もう、あなたは許す気なんてありませんからね?ガビルの気持ちを踏み躙り、無下にした魔人。死んでガビルに一つでも償ってください。・・・・・・っ!」

 

 

 

「がっ・・・・・・ば、バカな・・・・・・お、俺様の計画が・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

エリスの『水剣』がゲルミュッドの頸を跳ね飛ばし、ゲルミュッドは絶命した。これで後はオークロードを討伐すれば終わりなのだが・・・・・・。

 

 

 

 

「「「「「「っ!!!!!」」」」」」

 

 

 

 

次のオークロードの行動に俺たちは今度こそ驚愕した。

 

 

 

 

「オレは、ゲルミュッド様の・・・・・・願いを・・・・・・叶えル」(グチャグチャグチャ・・・・・・)

 

 

 

「く、喰ってやがる・・・・・・ゲルミュッドを・・・・・・」

 

 

 

「マジで・・・・・・?」

 

 

 

予想もしえなかった光景を目の当たりにし、俺たちは空いた口がしばらく閉じれないでいた。そりゃ驚く。誰が、オークロードがゲルミュッドを喰らうなんて言う事を予想できる?まぁ、名付けをした親であるゲルミュッドが、名付けをした奴に喰われるっていうのは・・・・・・どこかスカッとするな。

 

 

 

 

 

そんな中、突如この世界にどこかから声が聞こえてきた。

 

 

 

 

『確認しました。個体名ゲルドが魔王種への進化を開始します。』

 

 

 

 

・・・・・・色々と厄介な事になりそうだな。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

エリス視点

 

 

 

 

『確認しました。個体名ゲルドが魔王種への進化を開始します。』

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

僕に頸を斬り落とされ、挙げ句の果てにオークロードの餌となってるゲルミュッドを静かに眺めていた僕は、怒りを鎮めどこかすっきりとした気分に浸りながら、突然この場に響いた言葉に疑問を浮かべていた。

 

 

 

指導者(ミチビクモノ)さん?今の声ってキミの声じゃ無いよね?」

 

 

 

《解。先程の言葉は『世界の言葉』より発せられたものです。個体名ゲルドがゲルミュッドの要望に応えるべく、進化を望んだものと推測します。》

 

 

 

「進化・・・・・・ね?魔王種って言ってたけど、それってなんだろ?」

 

 

 

《解。魔王種とはある一定量の魔素を保有する魔物が得ることができる称号です。この称号を保有する魔物は、”魔王”を名乗ることが可能となります。》

 

 

 

「えっ!?じゃあ・・・・・・」

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・成功しました。個体名ゲルドは『豚頭魔王(オークディザスター)』へと進化が完了しました。』

 

 

 

「・・・・・・これはちょっとまずい・・・・・・かな?」

 

 

 

『世界の言葉』がオークロード改め、豚頭魔王(オークディザスター)の進化を告げた。明らかに先程とは雰囲気も妖気(オーラ)も違い、そこにただ立っているだけなのにやたらと迫力がある。その圧倒的なる存在感に僕はただ呆然と奴を観察をするしか出来なかった。

 

 

 

「・・・・・・これが、魔王?・・・・・・なんて迫力なんだ・・・・・・」

 

 

 

「だな。・・・・・・正直ここまでになるとは予想外だったけどな?」

 

 

 

いつの間にか僕の隣に立っていたリムルは、僕同様にその場で豚頭魔王(オークディザスター)を観察していた。だが、リムル自身もぼやいたように、豚頭魔王(オークディザスター)の変貌が異常かつ予想外すぎたためか、顔がすごく固まっていた。

 

 

 

「オレの名は、ゲルド。・・・・・・オークディザスターのゲルドだ」

 

 

 

「進化したようだが、我らの敵である事に変わりは無い!シオン、行くぞっ!」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

豚頭魔王(オークディザスター)に真っ向から向かっていくのは、今までオーク達を散々薙ぎ倒してきた鬼人の筆頭でもある、ベニマルとシオン。普通の相手であればこの二人が徒党を組めばまず間違いなく仕留めることが可能だが、相手は魔王と称される豚頭魔王(オークディザスター)だ。生半可な攻撃では歯が立ちそうに無いが、果たしてどうなるか・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・効かぬな」

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

結果としては、ベニマルの『黒炎獄(ヘルフレア)』も、シオンの嵐のような素早い斬撃も豚頭魔王(オークディザスター)には効かなかった。正確には二人の攻撃で傷を負わせることは出来ているのだが、『自己再生』を持っているのか、傷を負ってもすぐさま再生してしまい、元通りになってしまうため、実質的に攻撃をしても無傷と何ら変わりが無いんだ。

 

 

 

「『凍て刺す零雹(ヘルヘイル)!』

 

 

 

「『黒雷嵐(デスストーム)』!」

 

 

 

続いて、ランガとヒョウガの兄妹が先程と同じように強烈なスキルを豚頭魔王(オークディザスター)に向けて放っていくが、同等の威力を誇るであろう『黒炎獄(ヘルフレア)』でさえ、歯が立たなかったことから、これらスキルもおそらくは通用しない。

 

 

 

「・・・・・・効かぬと言っているだろう?」

 

 

 

やっぱりね。すぐに傷が再生して行ってる。・・・・・・その後もソウエイやハクロウなどが攻撃を仕掛けていったが、やはり再生力が異常に速いため、どんな攻撃もスキルも無意味と化していた。再生力が異常に高い魔物の討伐方法としては、”即死”させるのが一番なんだけど、今それができる人はここには居ない。リムルならもしや・・・・・・って思ったけど、それも無理だった。リムルは自分の持つ全部のスキルをまだまともに制御出来る状態では無いらしく、それにベニマル達ほどスキルの扱いに慣れているわけでもない為、火力としてはむしろ乏しくなってしまうからだ。・・・・・・そうなると。

 

 

 

「(僕がなんとかするしかない。でもどうやって・・・・・・・・・・・・っ!!そうだっ!!リスクは高いけど、これならもしかすれば・・・・・・)・・・・・・リムル、それにみんな。ちょっといいかな?」

 

 

 

「・・・・・・なんだ?」

 

 

 

僕の一声によって、リムルを含めたみんなが僕の周りに集まってくる。

 

 

 

「今から僕が8()()分の魔素を使って『応援者(コブスルモノ)』を発動する。僕がスキルを発動したらみんなはすぐさま豚頭魔王(オークディザスター)の討伐へと動いてほしい」

 

 

 

「っ!8割って、そんなに一気に魔素を消費したら・・・・・・」

 

 

 

「エリス様のお身体が・・・・・・」

 

 

 

ベニマルとシオンが心配そうに僕を見つめてくる。だが、それでも僕はこれをやめるつもりは無かった。

 

 

 

「わかってる。体の負担もおそらく凄まじく、低位活動状態(スリープモード)になる可能性も極めて高いと思う。だけど、こうでもしない限りあの豚頭魔王(オークディザスター)には絶対に勝てない。このままなんの工夫もないまま闇雲に攻撃をしたところで、いずれ魔素切れを起こして僕たちが負けるのは目に見えてる。・・・・・・それはリムルが一番よくわかってるんじゃないかな?」

 

 

 

「・・・・・・だな。わかったよ、お前に従う。ただし・・・・・・絶対に死ぬなよ?」

 

 

 

「わかってる。ありがと」

 

 

 

リムルが首を縦に振った以上、従わざるをえなくなった他のみんなは、いまだに僕の身を案じている様子だが、渋々了承してくれた。正直に言うと、僕自身もこの作戦にはかなり迷った。『応援者(コブスルモノ)』を8割の魔素を使って発動なんてしたことないし、何より自分の身がどうなるのか予想出来なかったからだ。だけど、もうこれ以外に豚頭魔王(オークディザスター)を討伐できるような術が思いつかなかった事もあって、僕も覚悟を決めたんだ。僕よりもかなり強いリムルや鬼人達が限界まで強化されるんだ。きっと彼らが豚頭魔王(オークディザスター)を討伐してくれる・・・・・・そう信じて僕は・・・・・・スキルを発動した。

 

 

 

「じゃあ・・・・・・行こうっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

応援者(コブスルモノ)』!!」

 

 

 

 

 




終わんなかった・・・・・・。すいませんでした。


次で終わらせます!!




ユニークスキル『激怒者(イカルモノ)


怒りの感情をパワーに、身体能力、魔力、洞察力、精神力、自己再生力を向上させるスキル。怒りの感情が大きければ大きいほど力は上がっていく。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着とゲルドの過去

終盤はもしかしたら文が拙くなってるかもしれません。改善しようとしたんですけど、文才が無い僕からしたらこれ以上は改善できそうに無かったので、どうかこれで多めに見てください!


応援者(コブスルモノ)』の発動と同時に、僕の体からは今まで以上の眩い光が溢れ出し、その光が辺り全体を覆い尽くしていった。

 

 

「よし、行くぞっ!!」

 

 

 

僕の『応援者(コブスルモノ)』の効果により、この場にいる全員の強化がなされた後、リムルの号令でみんな一斉に豚頭魔王(オークディザスター)へと向かって突撃した。そのスピードは今までとは全く違うと言っていいほど凄まじく速かった。

 

 

 

「(8割の魔素を使ってるんだから当然って言えば当然なんだけどね・・・・・・)くっ・・・・・・それにしても、流石にきついね・・・・・・」

 

 

 

「エリス様、大丈夫っすか?」

 

 

 

大量の魔素の消費で足元がふらつく僕を、近くにいたゴブタが支えてくれた。我ながら情けないなぁ・・・・・・。

 

 

 

「ありがと。僕は大丈夫だから、ゴブタもみんなを援護してやってくれ。キミの力もきっと必要になるだろうから」

 

 

 

「そ、そうっすか〜?へへ〜、なら行ってくるっす!」

 

 

 

”自分の力も必要になる”、そう言われて嬉しかったのか、ゴブタはにぱっと顔を輝かせ僕の元から離れると、先程のみんなのように豚頭魔王(オークディザスター)に向けて突撃していった。さっき僕が言った事は決して嘘ではない。ゴブタは、ベニマル達鬼人には流石に及ばないものの、それでも『応援者(コブスルモノ)』の恩恵を受けている今の状態であれば、ランクA級の魔物に対しても遅れを取らないほどの実力へと成り上がるんだ。もちろん、それでも豚頭魔王(オークディザスター)に勝てるかは微妙だけど、少なくともかなりいい戦力になる事は間違いからね。ゴブタにはなんとか頑張ってもらいたい。

 

 

 

「僕は僕で、できる事をしないと・・・・・・とりあえず、無駄な魔素の消費を抑えるために、『水結界(アクアヴェール)』は解いておこう・・・・・・」

 

 

 

魔素を大量に消費したことで、もうあまり大量に魔素を使用するスキルは使えなくなってしまった僕は、とりあえず常時発動していた『水結界(アクアヴェール)』を解き、無駄な魔素の消費を抑えることにした。ぶっちゃけて言うと、あともうちょっとでも魔素を使えば間違いなく僕は低位活動状態(スリープモード)へと入るだろう。そうなってしまえばもう僕には何もできないため、それだけは何がなんでも防ぎたかった。

 

 

 

「まぁ、こんなものかな。さて・・・・・・戦局の方は・・・・・・・・・・・・うん、かなり押してるね」

 

 

 

ようやく一息つけた僕は、戦局がどうなってるかを見てみた。やはりと言うか、当たり前だけどベニマル達はあの豚頭魔王(オークディザスター)に対しても互角以上の戦いが出来るほどに・・・・・・いや、正直言って彼らの方が強くなってると思うが、とにかくそんな戦いを繰り広げていた。そりゃ、Aランク級の魔物の中でも上位に位置する鬼人である彼等が、今回の規模のような『応援者(コブスルモノ)』で強化されれば必然的にそうなる。今まで攻撃をする際に厄介になっていた豚頭魔王(オークディザスター)の『自己再生』も、『応援者(コブスルモノ)』の効果で今までに無いくらいの強化を施された彼等からすれば、そんなの無いにも等しかった。現に、今もシオンが斬り落とした片腕をなんとか再生しようと豚頭魔王(オークディザスター)は苦心しているが、再生しようとする度に次々とベニマルやハクロウの爆絶強化された攻撃が襲ってくるため、流石に再生が追い付かなくなっていた。さらに、ソウエイのスキルである『操糸妖縛陣』のせいで動く事を制限されてしまっているため、もうやられ放題だった。だけど、そんな彼等を差し置いてやばかったのがいた。それは・・・・・・。

 

 

 

「『炎化爆獄陣(フレアサークル)』」

 

 

 

察している人も居ただろうけど、案の定それはリムルだった。元々規格外に強かったリムルだから、強化されれば当たり前のように強くなる。だけど、なんだろう?いつものリムルとどこか違う気がするんだよね?なんか以前よりもスキルの使い方が上手くなってる気がするし・・・・・・。

 

 

 

「(指導者(ミチビクモノ)さん、リムルの様子がどうもおかしい気がするんだけど?)」

 

 

 

《解。個体名リムル=テンペストは現在、一時的に身体の使用権限をユニークスキル『大賢者(エイチアルモノ)』に委ねたことにより、自動戦闘状態(オートバトルモード)へと移行している模様。それにより、不必要な思考、感情、情報などは全て遮断されています。》

 

 

 

「(えっ!?リムルってそんなことまで出来たの?・・・・・・・・・・・・ちなみに聞くけど、僕もそれって出来たりする?)」

 

 

 

《解。自動戦闘状態(オートバトルモード)へと移行する事は可能ですが、現在の主人(マスター)の保有魔素量では移行したとしても、すぐに自動戦闘状態(オートバトルモード)を継続する魔素が尽きてしまい、自動戦闘状態(オートバトルモード)を中断することとなる為、実質今現在の段階で主人(マスター)自動戦闘状態(オートバトルモード)へ移行するのは不可能です。》

 

 

 

ですよねー。僕も半ばわかって聞いたから特にショックは無かった。一応僕も自動戦闘状態(オートバトルモード)へ移行することができると言う情報を得られただけでも良しとしないとね。それにしても自動戦闘状態(オートバトルモード)か〜。ただでさえ強いリムルに『応援者(コブスルモノ)』と『大賢者(エイチアルモノ)』の力が加わりでもすれば、もうどんな魔物でも倒せるんじゃ無いかな?たとえ魔王だって・・・・・・って、それは言い過ぎだよ・・・・・・

 

 

 

『黒炎!』

 

 

 

・・・・・・・・・・・・案外間違ってないかもね。さっき『世界の言葉』が豚頭魔王(オークディザスター)がリムルの『炎化爆獄陣(フレアサークル』)や、ベニマルの『黒炎獄(ヘルフレア)』を喰らい続けたことによって、スキル『炎熱攻撃耐性』を身に付けたって通告したにも関わらず、リムルの強化された『黒炎』はそれを歯牙にもかけず、豚頭魔王(オークディザスター)を焼き尽くして行ったんだから・・・・・・。焼き尽くされた豚頭魔王(オークディザスター)は低い呻き声を上げながら、ゆっくりと膝を地面へとつける。・・・・・・改めて思うけど、『応援者(コブスルモノ)』ってかなり有能なスキルだよね?さっきまで劣勢だった戦局がこのスキルで一気に形勢逆転しちゃうんだから。・・・・・・その分、僕への負荷はやばいけどね。

 

 

 

「そろそろ・・・・・・眠れ。『捕食者(クラウモノ)』!」

 

 

 

《告。個体名リムル=テンペストが自動戦闘状態(オートバトルモード)を解除しました。》

 

 

 

自動戦闘状態(オートバトルモード)の時間切れか、自主的に解除したのかはわからないが、とにかく元の状態へと戻ったリムルが、とどめと言わんばかりに『捕食者(クラウモノ)』を発動する。最早豚頭魔王(オークディザスター)は虫の息同然の様子だった為、放っておいてもじきに死ぬとは思ったけど、リムルがなんの意図があって『捕食者(クラウモノ)』を発動したのかは理解できなかった。そうこうしているうちに、リムルの『捕食者(クラウモノ)』はみるみるうちに豚頭魔王(オークディザスター)包み込んでいき、最終的には体全体を覆い尽くすようにして豚頭魔王(オークディザスター)を飲み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・そんな時、ふと僕の頭の中に何やら()()()()()()が浮かんできた。なんだろうこれ?寂れた土地に煤けた草木、泣き喚くオークらしき子供達、それを見た体の大きなオークが()()()()()()()()()()()その手を子供達に食べさせている光景・・・・・・それらすべてが僕の頭の中に流れ込んでくる。そして、今僕の・・・・・・正確にはリムルの目の前に豚頭魔王(オークディザスター)が立っていた。・・・・・・これは一体?

 

 

 

《解。現在主人(マスター)は、『応援者(コブスルモノ)』の追加効果により、スキルの対象となった個体名リムル=テンペストの精神領域に干渉をしています。今見ている風景や光景は、リムル=テンペストがユニークスキル『捕食者(クラウモノ)』を使用したことによる豚頭魔王(オークディザスター)への干渉からもたらされたものです。》

 

 

 

う〜ん?つまり、豚頭魔王(オークディザスター)の精神の中に入ったリムルに僕が干渉したってことでいいのかな?『応援者(コブスルモノ)』にそんな追加効果があるなんて聞いてなかったけど?

 

 

 

《解。スキル対象に干渉するためには、最低でも50%の魔素の消費が絶対です。》

 

 

 

あー・・・・・・なるほどね。確かに今まではビビって使っても3〜4割程度の『応援者(コブスルモノ)』しか使ってこなかったもんね。その追加効果が発動しないのも納得だ。だからと言って、それを知っても今後5割以上の『応援者(コブスルモノ)』を発動するかと言ったら・・・・・・・・・・・・うん、多分渋るね。だって、干渉って言ったってこうやって誰かの精神の中に入り込んでただそこで何があったのかを一緒に見ることが出来るだけで、そのほかに特にメリットが無いんであれば、無理に使う必要なんて無いからさ?

 

 

 

《解。干渉をした際には、その対象が得た魔素、経験、スキル、身体能力、記憶、それらすべてが主人(マスター)にも共有されます。》

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

そういうことは先に言って欲しかった・・・・・・。えっ?なに?リムルが得たスキルとか魔素とかを僕まで貰えるってこと?何それチート?ってことは今までベニマル達が倒していたオーク達の経験値とかも全部僕にも受け渡ってるってことになるよね?何なのそのポ◯モンの世界にある”経験値譲渡道具”みたいなシステムは・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・って、今はそのことは後にしよう。今は目の前のことをしっかりと見ておかないと・・・・・・」

 

 

 

すっかり自分のスキルに夢中になり、目の前の光景を全く見てなかったことに気づいた僕は、改めて豚頭魔王(オークディザスター)・・・・・・ゲルドの過去を見た。ゲルドの過去は何とも切なかった。ゲルドは同胞であるオークやその子供たちの飢えを凌ぐため、一人食事を求め旅に出たことが、今回の騒動の元凶であるゲルミュッドと出会うきっかけとなった。同胞たちが飢えているのであれば、当然自分も飢えていることに変わり無いため、ゲルドは旅の道中で空腹に敵わずに倒れてしまうのだが、そこでゲルミュッドに出会い、従うのと引き換えに食事と名を与えられたのだとか・・・・・・。名を与えられた事により豚頭帝(オークロード)へと進化を果たしたゲルドは、進化の際に獲得した『飢餓者(ウエルモノ)』が飢える仲間を救えるスキルだと知ると、ゲルミュッドの思惑も半ば理解しながらもそれしか同胞の仲間を救える手段を知らなかったゲルドはそれに賭けるしか無かったそうだ。

 

 

 

「オレに残された道など無い。オレは同胞たちを守るために、今ここでスライムである貴様に喰われるわけには行かんのだ。オレがここで崩れれば、今までのオレの罪・・・・・・様々な魔物を喰らったこと・・・・・・ゲルミュッド様を喰らったこと・・・・・・同胞までも喰らったこと・・・・・・そのすべての罪を我が同胞に背負わせることとなってしまう。それだけは何としてもさせたくは無い!」

 

 

 

「心配するな。お前が死んでもお前の同胞たちに罪を背負わせたりなんて絶対にさせねーから。俺は『捕食者(クラウモノ)』だからな。お前の罪も、お前の同胞達の罪も、全部俺が喰らってやるさ。無理だなんて言うなよ?俺は欲張りだからな。絶対に喰らってみせる!・・・・・・だから、もう安らかに眠れ。お前はもう・・・・・・自由なんだ」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・何とも強欲な者よ。だが・・・・・・感謝する・・・・・・心優しきものよ・・・・・・我が同胞たちを・・・・・・よろしく頼む・・・・・・オレはもう眠る・・・・・・・・・・・・もう、オレの飢えは・・・・・・・・・・・・満たされた・・・・・・」

 

 

 

リムルの覚悟とも取れるその発言に、ゲルドもどこか安心しきったのか、リムルに対する抵抗をやめ、その場で崩れ落ちていき・・・・・・眠るようにして息を引き取った。最期のゲルドの顔は、豚頭魔王(オークディザスター)としてのゲルドでは無く、同胞たちのことを何より大切にし、家族のようにして接していた心優しき彼らの長であった、ゲルドそのものだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

そして、それと同時に僕の頭の中から先程の光景が消失した。おそらくゲルドの意識がリムルの中から消失したことで、僕の干渉も終了したからだろう。意識を現実世界に戻してみると、そこにはゲルドの捕食を終えたリムルがスライム形態から人型へと変化して、こちらへと戻ってきている光景が目に入った。そして、リムルはみんなに向かって、高々と宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この戦いは、俺たちの勝利だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーク達との長きに渡る戦いは、これにて終わりを迎えるのだった。




ようやく終わりです。本当に長かった・・・・・・。



応援者(コブスルモノ)』(改)

エリスが持つユニークスキル。エリスが味方と判断した者のみに、消費した魔素の分だけ強力な強化付与を施すスキル。主に身体能力、スキル、魔法、自己再生力、脳内の思考速度、精神力、が強化され、魔素の消費する量によっては通常の倍以上の強さになる。また、強化の対象範囲も魔素量によって変わるため、消費魔素量が多ければ多いほど範囲も広がる。仮にエリスの強化区域を対象が離れた場合、このスキルの効力は解除される。
スキルの対象となった魔物や人物の精神領域へ干渉することが可能となる。また、干渉することでその対象が得た魔素、経験、スキル、身体能力、記憶、その全てが発動者(エリス)に共有される(簡単に言えば、スキルの恩恵を受けた者がスキルを得た場合、エリスもそのスキルを使えるようになると言うこと)。ただし、干渉するには体内魔素量の半分以上を消費する必要がある。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦後処理と大同盟

今回は少し短めです。


オーク達の戦いが終わった後は、色々と忙しかった。まず、あの後トレイニーさんがやって来て事の終結を確認した後・・・・・・

 

 

 

「森の管理者としての権限において、事態の収束に向けた話し合い(会議)を明朝に行います。参加の希望をするしないは種族により自由ですが、議長であるリムルさんは参加をお願いします。エリスさんも、リムルさんの補佐をお願いしたいので、参加をお願いしますね?」

 

 

 

という宣言をした為、僕たちはこの大所帯の代表格を集めて会議をする事になった。議長というとんだ抜擢にリムルは心底嫌がっていたが、僕も含めたその場にいた全員がその案に納得の意を評していたため、半ば強引にリムルは会議に参加することとなった。一応、リムルの補佐という立ち位置にある僕と、鬼人のみんなも同席する事になったのだが・・・・・・そこで一つ問題が起こった。それは・・・・・・

 

 

 

《告。主人(マスター)の保有魔素量が20%を下回った為、強制的に低位活動状態(スリープモード)へと移行します。》

 

 

 

「あっ・・・・・・まずい・・・・・・リムル、ごめん・・・・・・もう僕、限界みたいだ・・・・・・会議頑張ってね」

 

 

 

「はっ!?・・・・・・いや、ちょっとエリス!?俺一人でこいつらをまとめるのは無理あるって!おいっ・・・・・・聞いてねーし・・・・・・」

 

 

 

・・・・・・僕に限界が来て、低位活動状態(スリープモード)に入ったことだ。一応、『擬人化』を発動できるほどの魔素は確保していたんだけど、それも限界に来たようだ。会議をリムル一人に押し付けちゃって申し訳なくなったけど、これにはどうにも逆らえそうに無いから仕方ないよね?僕の『擬人化』はその場で解け、素の水へと戻ったことを確認した僕は、そのまま意識を手放した・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「・・・・・・で?キミ達は何をしてるのかな?」

 

 

 

僕が意識を手放して3日後、ようやく低位活動状態(スリープモード)が解除され、自由に行動出来ることに快感を覚えた僕。低位活動状態(スリープモード)の時に記憶は特には無い。ただただ寝ていたという感覚しかなかった感じだ。

 

 

あの後、誰かしらが運んでくれたのであろう。僕が目覚めたのはいつもの僕の寝床である大壺の中だったこともあって、寝起きは最高に良かった・・・・・・筈だった。

 

 

 

「いえ・・・・・・エリス様が水のお姿になられているのは初めて見かけましたので・・・・・・つい」

 

 

 

「なんとも可愛らしく映ってしまいまして、どんな感じなのか少々起こさぬ程度に身体を突いていまして・・・・・・」

 

 

 

「いや、二人して何やってるの・・・・・・確かにこの姿よりも人型になってる方が多いけどさ?・・・・・・って言うか、ベニマルも見てないで止めて欲しかったよ!」

 

 

 

「いや・・・・・・俺もその〜・・・・・・ちょっと興味あったんで・・・・・・実際さっきまで俺も触ってたし?」

 

 

 

キミもかっ!!そうベニマルに怒鳴ってやりたかったが、近くに未だに僕の身体もとい水を触っているシュナとシオンがいる為、それはやめておいた。

 

 

そう。僕の寝起きがなんとも微妙になったのは、この3人・・・・・・ベニマル、シュナ、シオンが・・・・・・僕の寝込みを襲っていたからだ。シュナとシオンにされるのは何とも嬉しいけど・・・・・・ベニマルってまさかそっち系の・・・・・・・・・・・・そんなわけないよね。

 

 

 

「・・・・・・エリス様?何やら今、俺に対してやましいことを考えませんでしたか?」

 

 

 

「き、気のせいだよ気のせい!あ、あはは・・・・・・」

 

 

 

鋭いベニマルに悟られそうになった僕だったけど、それは間一髪大丈夫であったようで内心ため息を吐いた。

 

 

 

「それで?お体の調子はよろしいのですか?」

 

 

 

「うん、もうすっかり回復したよ。心配かけて申し訳ない事したね・・・・・・・・・・・・あの〜、シュナ?シオン?そろそろ僕の体から離れてもらえると嬉しいんだけど?」

 

 

 

そう言いながら僕はベニマルから、さっきからずっと僕の体に触れながら何処かほんわかしてる二人へと視線を向けた。

 

 

 

「え?・・・・・・あの〜、もう少しだけ触っていてもいいですか?」

 

 

 

「迷惑で無いのであれば、私ももう少し・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

そ、そんな潤んだ目で僕を見ないでっ!断りづらくなるからっ!・・・・・・それにしても何で、そんなに僕の体に触れたがるんだろう?

 

 

 

「僕の体に触れてると何かあるの?」

 

 

 

「はいっ!エリス様の体であるこのお水はとても清潔でとてもサラサラしていて手を入れるととても気持ち良いのですが、その他にもお肌がすべすべになる効力まで付いてるそうなんです!」

 

 

 

「あ〜・・・・・・なるほどね?」

 

 

 

僕の体に触れたがる理由に納得がいった。前にも話したと思うけど、僕の体の水は、常に清潔にして保たれている。だが、この水は僕の体内にある魔力を微量ながら流している少し変わった水となっていて、その魔力の効果なのか、一度この水に触れれば、人間や魔物に存在している余分な雑味、細菌、などを残らず洗い流してしまう素晴らしい水なんだ。簡単に言えば、この水で体を洗えば肌荒れや、汚れだけでなく、病気の元となる細菌まで掃除できてしまうと言うことだ。前世で言う、ヒアルロン酸やアルコール消毒液みたいな成分が僕の水にはあるって言えば分かりやすいと思う。・・・・・・と言っても、これは水魔人であれば、誰でもこのような体の構造をしているので、水魔人からすれば珍しくも何とも無いんだけど、こうして水魔人のことをよく知らない者からすれば、この体の構造には十分驚かされるのだろう。ま、水魔人ってあんまり生息数が多く無いらしいんだけどね?

 

 

 

「わかった。とりあえず、そのままにしてて良いから、僕が眠っている間に決まった事とかを教えて貰えるかな?会議で何が話し合われて、なにが決まったのかとかを」

 

 

 

「分かりました。まず・・・・・・」

 

 

 

僕は、その場で3人から僕が眠っている3日間の間で起こったこと、決まったことなどを詳しく説明してもらった。まず、残った15万弱のオーク達は、結果として罪を問われることは無かった。と言うのも、リムルがゲルドとの約束通りオーク達の罪を自分自身が背負うと宣言したからなんだけどね。当然、何も知らされていなかったオーク達は猛烈にそれを拒んだが、自分たちの長だったゲルドの命である以上、従う他なかったため、やむを得ずそれに従う事にしたそうだ。

 

 

そして、ここからが重要だった。なんと、この森・・・・・・ジュラの森に住む種族間で大同盟が結成されたのだとか。理由としてはこれ以上の森の中での争いや、諍いごとを防ぐと言うことと、オーク達のためだった。オーク達はこれまで、ゲルドが持っていたスキル『飢餓者(ウエルモノ)』のおかげもあって、特に空腹に困ることもなく生きて来れていたが、ゲルド亡き今、それもなくなってしまった。そうなると、故郷が大飢饉に苛まれ、住む場所も無いオーク達は、じきに飢餓に苦しみながら死んでいくことは間違いない。そうならない為に、リムルは大同盟を結成し、リザードマンや樹妖精(ドライアド)達から食料や住む場所、働く場所などをオーク達に提供するという事にしたそうだ。もちろん、ただでと言うわけでなく、その代わりにオーク達には労働力の貸し付けを命じたそうだ。確かに、15万もいるオーク達から労働力を借りれるとなると、これほど有益なことは無かった。オークは力仕事だけでなく、頭もそれなりに良いため、カイジンなどのドワーフの技術も教え込めば、かなりの有用な人材へと成長する。そうなれば、オーク達の活躍の場もグッと広がり、僕たちにとっても凄く助かることは間違いなかった(ちょうど人手も不足してたしね)。

 

 

 

この同盟は、僕たちにとっても他の種族にとってもほとんどメリットしか無い事もあってか、特に異論も無く同盟は結ばれる事となったようだ。ちなみに、この大同盟の盟主はトレイニーさんの宣誓により、リムルと言う事に決定したそうだ。それを聞いた途端、リムルは驚きを通り越して呆れていたようだけどね。

 

 

 

「・・・・・・とまあ、一応決まったことはこんな感じでしょうか?」

 

 

 

「そっか・・・・・・。僕が寝ている間に色々と決められてたんだね。あ、そういえばベニマル達は今後どうするの?一応、このオーク達との戦いまで配下にいるって言うことになったはずだけど?僕としては、今後もキミたちと一緒にいられたらって思ってるけど・・・・・・」

 

 

 

僕はふとそんなことを思い出し、いい機会だと思って聞いてみることにした。ベニマル達鬼人は、あくまでも僕たちと共同戦線を張ると言った形で、オーク達との戦闘が終わるまでは僕たちに従ってくれると言う話になっていた。だから、その目的が果たされた今となっては、ベニマル達が僕たちに従う意味は無いに等しいんだけど、彼らはどう思ってるんだろう?

 

 

 

「それについてはご安心を。俺たちはあの後、正式にあなた方の配下になりたいとリムル様に願い出て、正式な配下となりましたので。ですので、今後も俺たちは配下としてあなたとリムル様を支えて行くつもりです」

 

 

 

「ほんとにっ!?嬉しい!ありがと!!」

 

 

 

これからも、鬼人のみんな達と一緒にいられると分かった僕は途端に嬉しくなった。今回を機に僕たちの元から去る・・・・・・とか言われたら凄く悲しくなるからね。せっかく仲良くなれたんだから、もっと彼らと触れ合いたいもん。この時ばかりは、ベニマルたちの願い出を聞き入れてくれたリムルに多大なる感謝の心を覚えた。

 

 

 

「それにしても・・・・・・リムルがジュラの大森林の大同盟の盟主か〜、全く・・・・・・どんどん大きくなってくんだから、リムルは・・・・・・あ、ってことはこれからは僕もみんなと同じリムルの部下って事になるよね?よかった〜・・・・・・やっと目上の立場から解放されるよ・・・・・・」

 

 

 

僕はほっと胸を撫で下ろした。正直、皆んなから崇拝、もしくは慕われるのは悪い気はしないんだけど、その代わりみんなの期待みたいなものも一緒に背負ってる感じになっちゃってたから、主に精神的に疲れるんだよね。リムルは案外大丈夫そうだったけど。だから、ようやくそれから解放されると思えて嬉しくなってたんだけど、それも束の間だった・・・・・・。

 

 

 

「いえ、エリス様もその後に”副盟主”に任命されましたので、今まで通り私たちはあなた様の部下ですよ?・・・・・・よろしくお願いしますね?()()()()()()()()!」

 

 

 

「・・・・・・マジですか?」

 

 

 

「マジです」

 

 

 

ベニマルに確認をとり、即答された僕は、未だにシュナとシオンに体を触られながら、深い深いため息を吐くのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば・・・・・・リムルは何やってるんだろ?

 

 

 

 

 

「お前は”湖ー429M”、お前は”湖ー430M”、お前は・・・・・・・・・・・・って一人で15万のオークに名付けなんて出来るかーっ!!エリスーー!!早く戻ってきてくれーーっ!!」




エリスが水の状態になってる姿は本当に稀だと自分では思ってます。基本的に寝ている以外の時は人型になっているので。





ヒョウガの進化形態のアンケートはこの回で締め切りたいと思います!たくさんの票を入れてくださり、本当にありがとうございました。一応結果から見て明らかだと思いますが、このアンケートの結果を元に、今後これを使っていきたいと思います!ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなる配下

ようやく、あの人の登場です!


「やれやれ・・・・・・やっと終わったよ・・・・・・」

 

 

 

最後にオークに名付けを終えた僕は、ようやく息をつけるとその場で腰を下ろした。あの後、ベニマル達からリムルがあの大所帯のオーク達すべてに名付けをしていると知らされ、流石に一人では可哀想と思い、僕はすぐにリムルの元へと向かったわけだ。その間にベニマル達にはオークの食料となる乾魔実(ドライトレント)の運搬を命じておき、その場を去った。リムルは僕が来たとわかると、今にも泣きそうな顔をしながら僕に名付けの協力を要請してきたため、僕もそれに協力することにしたんだ。会議とか面倒ごとも全部リムルに任せっきりになっちゃってたからこれくらいは良いかなと、僕は快く受けたんだけど、これが結構きつかった・・・・・・。だって、名付けをしてもしても一向に減らないオーク達の行列を見るたびに僕たちの精神が削られていくんだから、無理も無い。15万も居るんだもんね?それは当たり前だ。ちなみに、名付け終わったオーク達は、猪人族(ハイオーク)へと進化した。結局、全てのオーク達に名付けを終えたのは、僕が来てから3日後のことだった。

 

 

 

「そっちも終わったか?俺の方もさっきの集団で最後だ。はぁ〜〜・・・・・・マジで疲れた・・・・・・」

 

 

 

「僕よりも多くオーク達に名付けしてたからね。疲れるのも無理ないよ。魔素の方は大丈夫なの?」

 

 

 

「ああ。お前がきてくれたおかげで、低位活動状態(スリープモード)に強制突入するくらいまでには減らずに済んだからな。最後のゲルドの側近だった奴にゲルドの名を継がせた時はちょっとやばいくらい魔素を消費したけどな。とにかくサンキューな!」

 

 

 

「うん。役に立てたなら何よりだよ」

 

 

 

にこやかにそう言うリムルに、僕も笑顔で返した。リムルも言ったように、一応、あのオーク達を統べる存在は必要ということで、ゲルドの傍にいつもいた一人のオークにゲルドの名を継がせる事にしたんだ。このオークはゲルドともそれなりに信頼関係があり、明らかに他のオーク達とは違った扱いも受けていたため、そうする事にしたそうだ。彼なら、ゲルドの名も遺志もしっかり継いでくれるだろうから特に心配はしていない。リムルが名付けをしたと同時に彼は進化を始め、周りのオーク達が猪人族(ハイオーク)へと進化する中、リムルが特別に名を付けて魔素を与えた事もあって、猪人王(オークキング)へと進化を果たした。それと、この新しいゲルドを始めとした元々豚頭将軍(オークジェネラル)だった総勢2000人の猪人族(ハイオーク)達は、揃って僕たちの町でお世話になる事になった。何でも、この力を僕たちのために使いたいんだとか。人手不足に困っていた僕たちにとっては断る理由もなかった為、快く了承した。

 

 

 

「とりあえず、少し休んだら帰る?」

 

 

 

「ああ。帰る最中に”アビル”に挨拶したらそのまま帰るとするさ」

 

 

 

「・・・・・・?アビルって、誰のこと?」

 

 

 

リムルの口から僕が知らない名が出てきた為、僕は首をかしげた。アビル・・・・・・・・・・・・やっぱり知らないな〜?ガビルだったら知ってるけど・・・・・・。

 

 

 

「リザードマンの頭領さんのことだ。お前、挨拶に行ったろ?」

 

 

 

「へっ?あの人ってそんな名前だったの?」

 

 

 

「違う違う。会議が終わった後、どうしても盟主である俺から名を与えてもらいたいって聞かなくってさ?しょうがないから、息子のガビルの名に因んでアビルって付けたんだよ」

 

 

 

「あ〜・・・・・・なるほどね?」

 

 

 

とりあえず納得しておく僕だった。まぁ、確かにこの大騒動を鎮めた盟主のリムルから名を貰えるっていうのはすごい名誉になると思うし、アビルさんが名を貰いたいと嘆願したのも納得かも。

 

 

 

「わかったよ。じゃあ、少し休んだら出発しよっか。そろそろベニマル達も食料の分配や運搬を終えて町に帰ってる頃だし」

 

 

 

「だな」

 

 

 

その後、僕たちは小一時間ほど休憩をした後、『影移動』を使って町まで戻る事にしたんだが、これを使っても僕が町へと帰ることが出来たのは翌日になってのことだった。対してリムルに至っては2時間もかからずに町に着いたんだとか。この原因は主に、僕がリムルよりも『影移動』のスキルを使い慣れていなかった事と、移動スピードの差だった。だって、僕は『影移動』で作った一本の道を走って行くのに対して、リムルは前みたいに背中から羽を生やしてさっさと飛んで行っちゃうんだもん。差が出るのも無理ないと思う。だったら、同じ『影移動』が使えて移動も早いヒョウガを呼べば良いじゃんって話なんだけど、ヒョウガは僕が命じて星狼族(スターウルフ)達(ランガが黒嵐星狼(テンペストスターウルフ)へと進化したことで、同時に進化した嵐牙狼族(テンペストウルフ)達)と共にベニマル達の移動と運搬の手伝いに向かわせている最中なんだ。だから、それも出来ないから、結局僕は一人で歩いて帰る事となったんだ(あの時、手伝いに行くのを渋ってたヒョウガを無理やり行かすんじゃ無かったな〜・・・・・・)。ちなみに、ゲルド達は4日後に無事、町に到着した。

 

 

 

 

・・・・・・そんな小さな問題があった僕だったけど、特にそれ以外は問題はなかった為、気にせず町へと戻り、今後に対する計画を練る事を頭の中に入れながら、眠りにつくのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

それから一月の時が流れた。僕たちの町はオーク達やカイジン達ドワーフの力添えもあって、徐々に建設等が進むようになっていった。あれから人口が増えた事により、建設する建物や施設が増えたけど、それでも以前より格段に作業スピードが速くなったこともあって、じきに町の住民すべてに家が設けられる事は間違いないだろう。ちなみに言っておくと、僕とリムルの家は真っ先に作られた。どっちの家も、僕たちの希望で日本をイメージした和風の家造りにして貰った。異世界に来て、魔物に転生した僕とリムルだけど、根っこは日本人のままだから、どこかこういった日本風の家の方が落ち着くんだよね。家を作る際に、僕とリムルは後回しでも良いと何度も言ったんだけど、鬼人のみんなや町の住民みんなが揃って『リムル様とエリス様がお先にどうぞ!』と言うもんだから、それ以上は断らずにいておいた(あんまり断るとみんなが悲しみそうだったから)。お言葉に甘えた僕たちはそれぞれようやく落ち着ける家を持てたことに感情を昂らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・そんな時だった。あの人が来たのは・・・・・・。

 

 

 

 

「・・・・・・何しに来たんだ?ガビル?」

 

 

 

「おおっ!これはこれは・・・・・・リムル様にエリス様ではありませんか!またこうして会えるなど、このガビル光栄であります!」

 

 

 

「あ、ああ・・・・・・そう・・・・・・」

 

 

 

いつものテンションで僕たちの元を訪れていたのは、オークとの戦いで別れて以来、音沙汰なかったガビルとその配下100人だった。隣にいたシオンやハクロウなどは、すでに刀を抜きそうな姿勢へと入り、討ち取る気満々の調子でいるのをガビルが慌てて止めていた。確かガビルはあの後、謀反の罪で捕縛され連れて行かれたはずだ。それが今こうしてここに来ていると言うことは・・・・・・。

 

 

 

「もしかして・・・・・・破門でもされた?謀反の罰とかで」

 

 

 

「おおっ!さすがは聡明なエリス様!まさにその通りで我輩は父アビルより故郷からの追放を命じられましてな。それで行く当てもなく彷徨った我らは、ここへと赴いたわけであります!」

 

 

 

破門ってそんなに元気よく言えるような言葉じゃないと思うけどね?でも、正直ホッとしていた。ガビルはただの謀反ではなく、下手をすれば一族みんなを破滅に追い込む可能性のあるような重い謀反をしでかしたんだ。最悪、死罪になっても不思議ではない程の罪だったはずなんだけど、そこはアビルさんの息子にかける最後の情けが出たのか、追放で許したんだろう。・・・・・・お父さんに感謝したほうがいいと思うよ?ガビル?

 

 

 

「質問に答えろ。お前達は何しに来たんだ?」

 

 

 

「これは失礼しました。では・・・・・・リムル様、エリス様!どうか・・・・・・どうか我輩達を配下に加えてはくださいませんか?必ずやお役に立ちますので!」

 

 

 

ガビルがそう頭を下げると、配下のみなさんも揃って頭を下げて懇願してきた。元々僕は、ガビルのことはそこまで悪い人ではないと思っていたし、ちょっとお調子者だけど面白い人だなって思ってたから、僕はこのお願いを聞いてあげてもいいと思ってるけど・・・・・・リムルはどうだろ?一応、確認のため、リムルに視線を向けてみた。

 

 

 

「エリスは良いのか?」

 

 

 

「うん。どこにも行く当てはなさそうだし、このまま追い返すのは可哀想だよ」

 

 

 

「はぁ・・・・・・ったく、仕方ねーな。わかったよ。ただし、配下になったからにはしっかり働いて貰うからな?サボったら承知しねーぞ?」

 

 

 

「っ!!ありがたき幸せ!我ら一同、揃ってあなた方に忠誠を誓いましょう!!」

 

 

 

配下になれるとわかると、途端に笑顔になって喜ぶガビル達。・・・・・・本当に調子良いんだから・・・・・・。

 

 

 

「さっきから気になってたんですけど、何でアビルさんの娘さんまで居るんですか?あなたは確か、親衛隊長だったはずじゃ・・・・・・」

 

 

 

喜ぶガビル達は一旦置いておき、さっきから気になっていたアビルさんの娘さんの存在について触れる事にした。彼女はさっきも言った通り、アビルを守る親衛隊長だったはずだし、本来ここにいるような人では無かったはずだけど・・・・・・?

 

 

 

「私は兄上と違って追放されたわけではなく、リムル様やエリス様の町へと行って見聞を広めよと言う命を父上から受けた為、ここまで参じました。ですので、私も兄上同様、あなた方の配下へと加わります」

 

 

 

「それは嬉しいが、アビルの方は良いのか?」

 

 

 

「リムル様から名を授かった父上の統率は100年は揺るがないと思われますので、ご心配なく・・・・・・」

 

 

 

そう言う娘さんの顔に嘘は無さそうだったため、これ以上は追求しないでおく事にした僕たちは、とりあえず配下になった証として、オーク達同様に彼らに名付けをしようとしたんだけどその時、ガビルが何故か待ったをかけた。

 

 

 

「しばしお待ちを!もう一つ、我輩の願いを聞いては貰えませぬか?」

 

 

 

「まだ何かあるの?何かな?」

 

 

 

「我輩達は、エリス様の直属の配下となりたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 

 

「・・・・・・へっ?」

 

 

 

ガビルの突然の指名に困惑を浮かべる僕。突然何を言い出すんだこの人?直属?何で急に・・・・・・。

 

 

 

「何だよ?俺じゃ不満か?」

 

 

 

「い、いいえ!もちろん、リムル様の配下にもなりますし、従います。ですが、エリス様にはオーク討伐の際に助けられた御恩があります・・・・・・。ですので、その御恩をエリス様の直属の配下となって支えることで返していきたいのです!・・・・・・駄目でしょうか?」

 

 

 

「駄目じゃないけど・・・・・・」

 

 

 

オーク討伐の時って言うと、おそらくゲルミュッドの攻撃から守った時のことだろう。確かにあの時はガビルを助けたけど、あれくらいで恩を感じる必要なんてないんだけどな〜・・・・・・あくまで僕が勝手にやった事だし。

 

 

 

「俺はエリスの判断に任せるぞ?どうするんだ?」

 

 

 

「せっかくこう言ってくれてる訳だし、そうさせて貰うよ。よろしくね、みんな!」

 

 

 

「ありがたき幸せ!必ずやあなた様の期待に応えますぞ!!」

 

 

 

「「「「おおおおおっーーーー!!!!」」」」

 

 

 

こうして、僕にガビルと100人の部下たちが新たなる直属の配下として加わる事となった。直属の部下はヒョウガ以外にいなかったから、正直言って嬉しかった。・・・・・・今後、僕の周りがかなりうるさくなりそう・・・・・・いや、間違いなくなるだろうけどね。

 

 

 

 

「・・・・・・こいつらの面倒はお前が見ろよ?」

 

 

 

「わかってるよ。あはは・・・・・・」

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「さて、じゃあみんなに名を与えようと思うから、一列に並んでね〜!」

 

 

 

僕の直属の配下になった以上、上司である僕が名付けをする義務があると思った僕は、リムル達を帰らせ一人、リザードマン達に名付けをするべく止まっていた。

 

 

 

「エリス様!名付けですが、まずはこの者等を先に行っては下さいませぬか!」

 

 

 

「いいよ。・・・・・・そこの二人でいいのかな?」

 

 

 

ガビルがそう言いながら僕の目の前に出して来たのは、二人の男女のリザードマンだった。二人ともどこか萎縮してビクビクしている様子だったけど、ガビルは気にせず続けた。っていうか、ガビルの配下の中に女の人なんていたんだ?娘さんを除いて。でも、どうやら女の人はこの人だけみたいだ。・・・・・・何で女である彼女がこの場にいるのか後で聞いてみようかな。

 

 

 

「はい!この者達は我輩の配下の中でも一二を争うほどの実力を持った者達でございます!我輩には及びませぬが、きっとエリス様の役にも立ってくれるであろう逸材共であることは間違いありませぬ!そうであるな、お前達!」

 

 

 

「は、はい!ガビル様!」

 

 

 

「は、はい・・・・・・」

 

 

 

「ガビル・・・・・・この人達ちょっと怯えちゃってるから、声のトーンを落としてあげて?」

 

 

 

「おっと、失礼致しましたな。ではエリス様、お願いします」

 

 

 

あとは任せたと言わんばかりに、ガビルは二人の後ろへと下がっていった。残った二人と僕との間に何とも微妙な空気が流れ出てることを察した僕は、とりあえずさっさとこの二人に名付けをしてしまおうと、話を切り出した。

 

 

 

「じゃあ、名付けをするね。まずは男のキミから。・・・・・・キミは左眼が見えないの?」

 

 

 

「え?あ、はい。以前魔物との戦闘で目を怪我しまして、それ以来は・・・・・・」

 

 

 

「そっか・・・・・・」

 

 

 

男のリザードマンの方は左眼を怪我していた事もあって、他のリザードマンよりも随分と特徴的な風貌をしていた為、見分けもつきやすかった。何で僕がさっきみたいな質問をしたかって言うと・・・・・・ただ単に何で怪我をしたか聞きたかっただけ。だって眼だよ?よっぽどのことしない限り怪我なんてしないでしょ?

 

 

 

「ごめん、話逸れたね。キミの名前だけど・・・・・・・・・・・・”隻眼”だから、それからもじって”隻我(セキガ)”って言うのはどうかな?どうにも安っぽいけど・・・・・・」

 

 

 

「エリス様から貰える名であればどんな名でもオレは嬉しいです。この”隻我(セキガ)”という名、ありがたく頂戴致します!」

 

 

 

「気に入ってもらえて良かった。じゃあ次はキミだね」

 

 

 

安っぽいネーミングだったけど、気に入ってもらえてほっとした僕は、次に女性の方のリザードマンへと視線を向けた。

 

 

 

「よろしく・・・・・・お願いします・・・・・・」

 

 

 

「そんなに硬くならなくていいからね?リラックスしてていいから。さて、名前だけど・・・・・・その”赤い髪”は生まれつきなの?」

 

 

 

「はい・・・・・・。親からは珍しいと・・・・・・よく言われました。基本的にリザードマンは・・・・・・黒い髪なので・・・・・・」

 

 

 

「確かにそうだね。じゃあ名前は・・・・・・・・・・・・火のように赤い髪をしてるから”火蓮(カレン)”はどうかな?結構可愛い名前だと思うんだけど?」

 

 

 

「”火蓮(カレン)”・・・・・・いい響きですね。この名、しかと受け取りました」

 

 

 

さっきまで少し萎縮したような顔をしていた彼女だったけど、名を授かった途端、ほんのりと柔らかい笑顔を見せ始めた。・・・・・・喜んでもらえたなら何よりだ。・・・・・・それにしても、この二人に名付けをしただけでだいぶ魔素を持っていかれたな・・・・・・ガビルの言う通り、かなりの実力者なのかも知れないね、この二人は。

 

 

 

「エリス様!ありがとうございました!では、我輩達も・・・・・・」

 

 

 

「わかったから、慌てないでね?とりあえず、セキガとカレン以外は列になってね?」

 

 

 

二人の名付けを終えた僕は、他のリザードマン達にも名付けをしていった(娘さんに至っては僕ではなく、何故かソウエイの元で働きたいと言っていたため、名付けはリムルにお願いしてある)。名付けをしたリザードマン達は、一斉に進化を始め、リザードマンから龍人族(ドラゴニュート)へと進化を果たした。男であるセキガや他のリザードマン達は、外見上はリザードマンであった頃と対して変わってはいないが、女性であるカレンは、なぜか人間に近い外見へと変貌を遂げた。角と羽根はそのままだが、それ以外のところはほぼ人間と言った感じで、男と女でどうしてこうも差が出るのだろうと不思議に思った僕だった。

 

 

 

 

 

・・・・・・で、最後にガビルなんだけど・・・・・・。

 

 

 

「我輩には名付けはなさらぬおつもりですか!?」

 

 

 

「いや、でもね?キミにはもうガビルっていう立派な名前が・・・・・・・・・・・・っ!?」

 

 

 

「エリス様?どうかされ・・・・・・っ!!おお!我輩の体が光り輝いておるぞ!!」

 

 

 

ガビルの名を口に出した途端に、ごそっと体内から魔素が抜き出たような感覚が襲ってきた。おそらく、名付け親であるゲルミュッドが既にこの世にいない事もあって、何の偶然かが噛み合ったか知らないけど、名前を上書きしたのかもしれない。・・・・・・まいったな、まさか上書きができるなんて・・・・・・って、まずい、意識が・・・・・・。

 

 

《告。急激な体内魔素の減少を確認したため、強制的に低位活動状態(スリープモード)へと移行します。》

 

 

「ご、ごめんガビル。あとの事はお願い・・・・・・」

 

 

 

「へっ!?え、エリス様っ!!?」

 

 

 

ガビルに膨大な魔素を持っていかれた僕は、ガビルに後のことを託し、その場で意識を手放した・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからまた日を改めて、ガビル達の様子を見に行ってみると、そこには無事に龍人族(ドラゴニュート)へと進化を果たしたガビル達の姿があった・・・・・・。




ガビルはエリスの配下という事になりました。あの時助けたのがリムルではなくエリスだったからという事もありませが、これの方が展開的に面白そうだったので。


オリキャラの説明については次回にさせていただきます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話① エリスと二人の配下

今回は閑話です。たまにはまったり、ゆっくりとした話も書いてみたいので。


「「お、お邪魔しまーす・・・・・・」」

 

 

「いらっしゃい。適当なとこに座っていいからね?」

 

 

オークとの戦いが終わって、もう時期二月が経とうとしていた。あれから約定通りに、オーク達が僕たちの町へ働きに出てくれていた事もあって、僕たちの町は急激に大きくなって行った。多分だけどあと一月もすれば、この町に住む住民全員の家が完成する事だろう。

 

 

 

そんな明るい未来に期待を膨らませていたある日、僕は新しく僕の配下となった龍人族(ドラゴニュート)のセキガとカレンを僕の家へ招き入れていた。この二人は僕が名付けをして配下になって以来、町づくりのために誰よりも献身的になって動いてくれたんだ。龍人族(ドラゴニュート)になった事により、身体能力などの基礎能力が上がったのは勿論のことだが、それだけではなくセキガは進化の際にエクストラスキル『剛力』を、カレンは進化の際にエクストラスキル『身体強化』を獲得したようで、そのスキルを駆使して使って町づくりに貢献していた。改めて、あの二人がかなり有能な配下であると自覚した僕だった。

 

 

そんな彼らにお礼という意味も含めて、今回僕の家へと招待したんだ。前々から、一度僕の家に来たいって言ってたからね、二人とも。

 

 

 

「エリス様!我輩も参上仕りましたぞ!エリス様の屋敷に招待されるなど、これほど嬉しい事はありませぬ!」

 

 

 

「・・・・・・キミは招待したつもりは無いんだけどね?」

 

 

 

何故か、二人の後ろにはいつものお調子モード全開のガビルの姿があった。あ〜、二人がさっきから申し訳なさそうな顔してるのはこの人が原因か・・・・・・。

 

 

 

「すみません・・・・・・。オレ達がここに来る最中にこのガビル様と出くわしてしまいまして・・・・・・」

 

 

 

「事情を話したところ、『我輩もエリス様の部下だから赴く義務がある』と聞かなくて・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

どこか呆れたように言う二人に、僕も内心でため息を吐いていた。

 

 

 

「む?どうかしたであるか、お前達、エリス様?」

 

 

 

「ガビル・・・・・・今回は大目に見るけど、部下に迷惑を掛けるのもほどほどにしないと、怒るからね?わかった?」

 

 

 

「は、はい!も、申し訳ございません?」

 

 

 

何について怒られてるのか分からなかったのか、キョトンとした顔のままとりあえず謝ってきたガビルに、また僕はため息を吐いた。今後、このガビルには色々と躾が必要だと認識を改めた瞬間だった・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

結局、ガビルも一緒に上がらせた僕は、それから数時間ほど二人と会話に花を咲かせていた。途中、今日の仕事を終えたヒョウガが僕の元へと戻ってきたため、それからはヒョウガも交えて会話を弾ませた。一応、同じ僕に従ってくれてる配下同士だからね。最近は忙しくてまともに会話すら出来てない状況だったろうから、今回のこう言った機会を機に少しは打ち解けてもらえると嬉しいけど。

 

 

 

「ヒョウガ殿、最近は話せていなかったが、同じエリス様に仕える者として共に頑張っていこうではないか!」

 

 

 

「そうですか」

 

 

 

「ヒョウガ殿は最近忙しくされているようであるが、体調の方は問題無いのであるか?」

 

 

 

「問題ありません」

 

 

 

「休みの時などは何をしているのだ?」

 

 

 

「主様のそばにいます」

 

 

 

 

・・・・・・やっぱりと言うか、わかってた事だけど、ヒョウガはガビルに対して随分とそっけなく対応をしていた。まるで眼中にも無いとでも言わんばかりにそっぽを向きながら・・・・・・。無理もないか、ヒョウガはガビルのことを同盟を結ぶ前からだいぶ嫌ってたからね。その気持ちは同じ僕の配下となった今でも変わっていないようだった。嫌っている原因は主にガビルが僕のことを馬鹿にしたかららしいけど、当のガビルは既に僕に謝罪してるし、僕もそれを許してる。だからヒョウガももう怒る必要は無いんだけど・・・・・・二人の溝は簡単には埋まりそうになさそうだね・・・・・・当分。

 

 

 

「あはは・・・・・・ヒョウガさんって、かなりクールな方なのですね?あのガビル様に言い寄られても全く気が動じていないなんて・・・・・・」

 

 

 

「まあね。でも、そう言うところもまた可愛らしいんだ。あとで二人も話して見るといいよ。ガビルにはああだけど、二人には多少態度を緩めてくれると思うから」

 

 

 

「はい、そうさせて貰います」

 

 

 

「さて、じゃあさ?ちょっと二人のことを教えてもらえるかな?二人の上司として、二人のことはちゃんと知っておきたいからさ」

 

 

 

ヒョウガとガビルの件は一旦置いておき、僕はセキガとカレンのことについて教えてもらおうと、話題を切り出した。僕が二人を家に招き入れたのはお礼という意味もあるけど、この二人との距離をもっと縮めたいと言う気持ちもあったからだ。だからこそ、聞ける時に聞いてしまおうとさっさと話題を切り出したんだ。

 

 

 

「分かりました。エリス様も知っての通り、オレ達はガビル様の元で働いてきました。今でこそ、多少マシにはなったと思っていますが、一昔前までオレもカレンもひどく弱虫で貧弱だったんです・・・・・・」

 

 

 

「そうなの?今のキミ達からは想像つかないけどね?」

 

 

 

「無理もないです。当初は戦いの訓練すら怖くて、私たちはよく逃げ出していましたからね。それに、セキガは元々体が弱くて親族や仲間からも一族の恥だとかで見放されていて、私はこの独特の紅髪のせいで迫害を受けていたので、まともに助けてくれる人もいませんでした。そんな頃に私たちは偶然出会い、同じ境遇であった事もあって、私たちはすぐに打ち解けたんです。ですが、それでも当初はまだ子供だった私たちですから、できることなんてほとんどありはせず、もういっそのこと死んだ方が楽だと感じるようになった頃でした・・・・・・ガビル様に出会ったのは・・・・・・」

 

 

 

「ガビルに?」

 

 

 

「はい。その当時からガビル様はアビル様の息子として、既に頭角を表していて一つの軍隊を率いる程になっておられたのです。そんなガビル様がオレ達に何の用かと首を傾げましたが、その後に言ったガビル様の言葉にオレもカレンも驚かされましたよ。『貴様等には我輩の下に付くだけの才がある!我輩の元へ来るがいい!』とね」

 

 

 

「なるほど・・・・・・あのガビルが・・・・・・」

 

 

 

「誰からも必要とされず、馬鹿にされてきたオレ達に対して初めて与えられた期待のその言葉が、オレやカレンには心底嬉しかった。だからこそ、オレ達はその時に決めたんです。ガビル様のこの期待を裏切らないように、”もう泣き虫の自分とは・・・・・・貧弱でいつも逃げていた自分とは・・・・・・決別する”と。それからオレ達は必死に鍛錬をし、幾多の戦闘にも参加したことによって、ガビル様から信頼を勝ち取ることに成功し、今回のようにエリス様の()()()に任命されるようにまでなったのです」

 

 

 

「そっ・・・・・・か?え、ちょっと待って?」

 

 

 

途中まですごくいい話でまとまってたセキガ達の話だったけど、最後だけどうにも”聞き捨てならないこと”を聞いた気がしたため、セキガに問い返した。

 

 

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

 

「どうかしたって言うか・・・・・・さっき、僕の()()()に任命されただとかなんとか言ってなかった?」

 

 

 

「・・・・・・?はい、確かにそう言いましたが?」

 

 

 

うん、どうやら僕の聞き間違いじゃなさそうだ。・・・・・・どう言うこと?近衛兵って、あの王様みたいに位が高い人のことを側で護衛する兵の事だよね?それにこの二人が就いたって?誰がこんな・・・・・・・・・・・・いや、だいたい想像はついてるけど。

 

 

 

「ちなみに聞くけど、それは誰が決めたの?」

 

 

 

「ガビル様です」

 

 

 

「だよねー・・・・・・」

 

 

 

やっぱり決めたのはガビルだった。僕の知らないところで何勝手に近衛兵だとかを配置してるの!?僕正直そう言うのっていらないけど!むしろ違った役職についてもらったほうが彼らのためにもなると思うんですけど!?二人にも迷惑でしょ!?

 

 

 

「・・・・・・二人が嫌だったら今からでもガビルにやめさせるように言うよ?迷惑でしょ?」

 

 

 

「迷惑だなんてとんでもありません!オレ達はエリス様を守りたいと言う気持ちに従ってこの近衛兵という役職に就いたのです!だよな?カレン?」

 

 

 

「そうです。エリス様は何やら勘違いをしているようですが、私たちは決して受け身でこの役職に就いている訳ではありません。先ほどセキガが申したように、私たちはあなたを守りたいと思ったからこそ、こうして役職に就いているのです。そこのところをどうかお忘れ無く・・・・・・」

 

 

 

「そ、そう?それなら良いんだけど・・・・・・何でそこまで?」

 

 

 

二人の言っていることに嘘は無いようだったが、なぜまだ付き合いが浅い僕にそこまで思ってくれてるのか不思議だった。いくら上司とは言え、明らかに度が過ぎている。自分たちを拾ってくれ、育ててくれたガビルに対していうのであればまだ納得できるけど・・・・・・。

 

 

 

「エリス様には、ガビル様を助けていただいたという多大な恩があります故、それをオレ達はあなたを護衛するという形で返していきたいと思っているのです!」

 

 

 

「あの時、一歩間違っていればガビル様は間違いなく死んでいました。それをあなたはなりふり構わずに助けに入った。そのお姿に私たちはひどく心を打たれたのです。だからこそ私たちは、それの恩返しと、あなたの配下に加わった記念ということで近衛兵に就く事にしたのです。・・・・・・ご理解いただけましたか?」

 

 

 

「う、うん・・・・・・理解した」

 

 

 

目をキラキラさせながらそう詰め寄ってくるセキガとカレンに、僕は苦笑いを浮かべた。セキガはともかく、カレンは人間に近い姿となって、とても魅力的になっているので、あんまり言い寄られるとこっちが照れ臭くなってしまうんだ。・・・・・・それにしても、この二人までガビルを助けた事に対して感謝しているんだ。あの時は咄嗟に助けに入っちゃったけど、特別善意で助けに入った訳じゃなかったから、特に感謝されることでも無いんだけど、それをここで言うのは少し野暮だから、それは言わないでおいた。

 

 

 

「そこまで気持ちが固まってるんであれば、もう止めはしないよ。でも、これだけは守ってね?キミ達は僕だけじゃなくてリムルの配下でもあるって言うこと、それはわかってるね?万が一、君たちの護衛範囲内で僕じゃなく、リムルに危害が及びそうになった時は、彼も護衛をしてやってほしい。いいかな?」

 

 

 

 

「エリス様がお望みであれば、リムル様も警護致しましょう」

 

 

 

 

「ありがと。じゃあ、これから僕の身の回りの警護は任せたよ?二人とも?」

 

 

 

「お任せを!」

 

 

 

「お任せ下さい!」

 

 

 

僕にセキガとカレンという近衛兵が就く事になった瞬間だ。一応、リムルの配下だと言うことも認識させるために、護衛するように言っておいたけど、多分リムルに至っては護衛なんて本当にいらないと思う。・・・・・・ゲルドと戦って以来、ますます強くなってるしね・・・・・・あはは。まぁ、それは置いておいて、この二人とはまた新たなる関係性を築いていけそうと言う気持ちを抱かせた僕は、とりあえず一旦その気持ちを沈め、一発説教をするために、いまだにヒョウガに冷たい態度をとられ続けているガビルの元へと向かうのだった・・・・・・。




もう一話、閑話を続けるつもりです。もう一組、絡ませたいペアがいますので・・・・・・。



オリキャラ 


隻我(セキガ)  種族 龍人族(ドラゴニュート)


左目に傷がある特徴的な龍人族(ドラゴニュート)の青年。エリスの直属の配下でありながらエリスの近衛兵も務めている。小さき頃の弱かった自分を救済してくれたガビルには恩を感じており、深く忠誠を誓っている。それと同時に、そのガビルを窮地から救ったエリスのことも慕うようになり、ガビル同様に深い忠誠を誓うこととなった。礼儀正しいのだが、所々抜けているところもあるためか、ちょくちょくミスをしてはエリスやカレンに注意されている。ガビルの配下の中でも一二を争うほどの実力を持ち、進化の際にエクストラスキルである『剛力』を獲得した事により、さらに実力が際立つようになった。武器は大槍。



火蓮(カレン)  種族 龍人族(ドラゴニュート)


龍人族(ドラゴニュート)にしては珍しい、紅髪を肩まで伸ばした龍人族(ドラゴニュート)の女性。人間に近い風貌へと変化を遂げ、魅力が上がったことで、ちょくちょくゴブタなどから口説かれたりされるようになったが、本人はそれについては大して興味がないようで、全部断っているそうだ。セキガ同様、エリスの直属の配下でありながらエリスの近衛兵も務めていて、忠誠心もセキガに負けないほどに強い(もちろんガビルにも)。キビキビとしていて、硬い印象な彼女だが、実は可愛い物や編み物が好きという女性らしい趣味もあり、シュナなどとよくそう言ったものを作ると言う可愛らしいこともする。進化の際にエクストラスキルである『身体強化』を獲得したため、実力も数段上がった。武器は槍。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話② リムルとヒョウガ

今回も前回話したように閑話です。





視点 リムル

 

 

「さて、あいつはどこに行ったかな?」

 

 

オークとの激闘から早くも2ヶ月以上が経とうとしていた。町の建物の建設もオーク達が手伝いに来てくれてるおかげもあって、進捗は良かった。そんな中、俺は今のところは特にやることもなかったため、エリスと一緒にゲルドを倒したときに新たに獲得したスキルなどを見直しておこうと思い、エリスを探していた。

 

 

「ま、家に行けば会えるか」

 

 

エリスは基本的に、仕事などやることが無ければ家にいることが多いため、今回もおそらく家にいるだろうと悟っていた俺は、一人エリスの家へと向かった。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「主様は只今出かけております」

 

 

 

結果として、俺の予想は外れた。俺を家で待っていたのは、エリスではなく、いつもの大きさよりもかなり小さくなって(大きさ的には大型犬くらいの大きさ)畳の上で静かに目を閉じていたヒョウガだったからだ。何でこいつがいるんだ?

 

 

「何でここにいるんだ?エリスは?」

 

 

「話を聞いて無かったのですか?主様は出かけています。ワタシは主様にここの留守を任された為ここにいるのです」

 

 

「いや、俺が聞きたかったのはエリスがどこに行ったか何だけどな?」

 

 

「あなたに教える義理は無いと思いますが・・・・・・主様でしたらクロベエさんの工房に向かわれました。新しい武器の新調をお願いしたいそうで」

 

 

「そっか、わかった」

 

 

俺に対して、ぶっきらぼうになりながらも、エリスの居場所を教えてくれたヒョウガは、もう話すこともないと言わんばかりに、再び畳の上に寝そべった。だが俺は、エリスの場所へと向かう事はせずに、そのまま家に上がらせてもらい、ヒョウガの隣に腰を下ろした。エリスなら別に知らないやつでも無い限り、勝手に上がっても怒らないだろうしな(ちなみに、クロベエの工房というのは、以前オーク達に建ててもらったクロベエ専用の工房のことだ。クロベエはどうやら武器や防具の加工に多大なる才を持っていたようで、本人も武器や防具を加工することが好きだったこともあって、カイジンたちが作らせたんだそうだ。それもあって、クロベエには役職として”鍛治師”を与えている)。

 

 

「・・・・・・さっさと主様の元に向かわれたらどうですか?ここにいても主様には会えませんよ?」

 

 

「ちょっとしたら帰ってくるだろ。それまでここで待たせてもらうわ。いいか?」

 

 

「・・・・・・勝手にしてください」

 

 

俺がこの場に留まると知り、途端に嫌そうな顔をしたヒョウガ。やれやれ、改めて思うが、俺ってこいつからだいぶ嫌われてるよな〜・・・・・・。

 

 

「なぁ、ヒョウガ?エリスが来るまで暇だし、ちょっと俺と話さないか?」

 

 

「ワタシはあなたと話すことなどありませんので、遠慮します」

 

 

「そう言うなって。そろそろお前とも腹を割って話したかったんだ。お前が俺のことを好いて無いことも知ってるが、今回は俺の頼みも聞いてくれないか?」

 

 

「・・・・・・もう、好きにしてください。どうせ言っても聞かないのでしょうから・・・・・・」

 

 

ため息を吐きながらそう言うヒョウガ。どうやら俺のしつこい頼みに拒むのも疲れて、呆れられてしまったようだな。ま、諦めが悪いのも俺の取り柄だからな。ともかく、これでこいつと話ができるな。

 

 

「サンキューな。それで、話なんだけどな?ヒョウガ、お前は親の仇である俺のことをまだ恨んでるか?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

ヒョウガは目を瞑ったまま、何も声を発さなかった。だが、少しすると少しだけ目を開けて、こっちに視線を向けてきた。

 

 

「恨んで無いといえば嘘になります。どんなにあなたが大きな存在になり、魔物の皆から慕われようと、あなたがワタシから父上を奪った張本人であることに変わりはありませんから」

 

 

「そりゃそうだな。俺だって今さら許されようとは思ってないさ」

 

 

俺だってあの時、何も思わずにこいつとランガの親父を殺したわけでは無かった。ゴブリンの里を襲おうとした一見悪そうなやつだったが、それもこれも自分の子供達や、一族のためにやってることだとあの時何となく察せたからな。あの親父を殺した時、俺は申し訳ないと言う気持ちと共に、残ったこいつの家族の面倒を、せめてもの償いの意味も込めて見ようと決めたんだ。だから、俺は別にこいつに恨まれようと構わなかった。恨まれて当然のことをしたんだからな。

 

 

「お前はこの先、俺のことを許さなくてもいい。恨んでくれても構わない。だが、これだけは言わせてくれ。お前達のことは、あの親父に代わって俺たちがしっかりと面倒を見て、守っていくつもりだ。もちろんヒョウガ、お前の事もだ」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「それで償いになるかは分からないが、少なくとも俺はお前とももっと仲良く付き合って行けたらと思ってる。今はまだ無理っぽいだろうが、いつの日か、そう言う関係になれたら俺は嬉しい。お前は違うか?」

 

 

「・・・・・・今はまだ、そうは思えません。ですが・・・・・・あなたがワタシ達に対してそこまで思ってくれているのは非常に嬉しく思います。少し、あなたの事を見直しました」

 

 

「お?マジで?」

 

 

ヒョウガの態度が先ほどと比べて少し柔らかくなったように感じた俺は、どこかホッとした気持ちのまま、聞き返した。

 

 

「ですが、ワタシ達のことを守ると言っていたあなたにしては、随分と軽く、一度ワタシの事を殺そうとしましたよね?そのことについてはどう思っているのですか?」

 

 

「うっ・・・・・・そ、それはだなー・・・・・・」

 

 

ヒョウガのその怒気をにじませた言葉に俺は口籠るしか無かった。確かに俺はあの時、ランガ達と共に従ってくれなかったヒョウガの事を殺そうとした。エリスがあの場で助けに入らなかったら、間違いなく今この場にヒョウガはいなかっただろうからな。

 

 

「意地悪な質問でしたね。そのことについてはもう気にしてませんので気に病まないでも結構です。あの場で拒んだワタシの方がどうかしていたのですし、それに主様のおかげでこうして生きてますので」

 

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

 

よ、よかった・・・・・・。これ以上追求されたら俺にはどうしようもなかったからな。あの時はただ勢いでヒョウガを殺そうとしちまったなんて死んでも言えねーよな?言ったら言ったでこいつとエリスに殺されそうだしな。はぁ・・・・・・マジでよかった。

 

 

「あなたの事を認めることはまだ出来ません。ですが、それは今の段階ではのことです。ですので、今後はあなたの事を見極めさせてもらうべく、動かせていただきます。あなたが、父上の代わりにワタシ達を統べるに値する人物かどうかをこの目で見極めるつもりですので、そのつもりでいてください。もし、あなたがそれに足り得ない人物だと判断した暁には、今後一切あなたには従わないことにしますので」

 

 

「それでいいさ。あ、そうだ。出来れば今後は俺の指示のことも聞いてくれると嬉しいな。お前にも色々と頼みたいこともあるんだよ」

 

 

「主様の命の次にでしたら聞かないでもありませんが・・・・・・」

 

 

「いや、一応俺は盟主で、エリスは副盟主だから立場的にはほとんど変わらないが、若干俺の方が立場は上なんだけど?」

 

 

「都合の良い時に立場を振りかざさないでください。それに、立場はどうであれ、ワタシが第一に従うのは主様のみです。それだけは曲げるつもりはありません」

 

 

・・・・・・はぁ〜、相変わらずこいつはエリス一筋だよな〜?ここまで来ると、もはやヒョウガは”エリスコンプレックス”ならぬ、”エリコン”にでもなっちまってるんじゃないかって思いたくなる。ま、ここまでになる程にエリスに対して深い忠誠を誓ってるって事だから、別にそれでもいいとは思っているが・・・・・・。

 

 

 

「やれやれ、エリスも随分と配下に恵まれたな。こんなに尽してくれる配下なんて探しても中々いないぜ?」

 

 

「はぁ・・・・・・あなたも人のことは言えないでしょう?兄上を始めとした鬼人やゴブリン達も皆あなたの配下ではありませんか。一応、主様の配下でもあるようですが、真に忠誠を誓っているのはあなたでしょう?あなたこそ、配下に恵まれているのだと自覚してください」

 

 

「へっ?・・・・・・あ、ああ、なんかすまん・・・・・・」

 

 

まぁ・・・・・・確かに、ベニマル達はエリスの直属の部下では無いが、エリスに対しては俺と同じくらいの忠誠を誓ってると思うがな?一応あいつだって、副盟主っていう肩書を持っているし、目上の立場としてみんなを引っ張る役目もよく引き受けたりしてるしな。あいつはそう言った役割は少し嫌がっていたようだけどな?

 

 

それはともあれ、ヒョウガの呆れたような、怒ったようななんとも分からないお説教を聞かされた俺は、そんな中でもどこか俺に対して何の裏もなく話すヒョウガを見て嬉しく思っていた。今までヒョウガとは、こんなやりとりさえできないほどに距離が出来ていたからな。まだ本人は、俺のことを本気で信じてくれてはいないようだが、今はそれでよかった。今回は、少しでもヒョウガとの距離を縮めるのが主な目的だったんだからな。この距離をさらに縮めるには、今後の俺がもっと頑張らなくちゃいけないことはわかっているため、ヒョウガの説教を聞きながら、そう気を引き締めるのだった・・・・・・。




このペアを今後どのような関係性にして行くかは今もまだ悩み中です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エリスの想い

ちょっとだけ重い話になります。本当はあんまりこう言った話は書きたくないんですけどね。


オークとの戦いが終わって、3ヶ月が経とうとしていた。あれからと言うもの、僕たちの町は飛躍的な発展を遂げ、最初の頃は更地であった土地だとは到底思えない程の建物で溢れていた。最近では、井戸を設立した為その水を利用して日本風のトイレを作ろうと言うことになって、カイジン達に作ってもらうことにした。もちろん、カイジン達は日本のトイレなど見たこともない為、作るのは困難に思えたんだけど、以前『思念伝達』が進化したスキルである『思念操作』を獲得したこともあって、それは杞憂に終わった。このスキルは、『思念伝達』の機能はそのままに、なんと”自分が思い描いた想像(イメージ)をそのまま相手に伝える事ができる”と言う優れたスキルだったんだ。僕とリムルが描いた通りの想像(イメージ)を受け取ったカイジンやミルドはやはりさすがはドワーフと言うべきか、すぐに僕たちの望み通りのトイレを作ってしまったんだ。ほんと、ドワーフのみんなには頭が上がらないよ。

 

 

その他には、温泉とかも作った。これはリムルの意見だ。リムルもやはり、元が日本人なだけあって、お風呂が恋しかったらしい。僕もぶっちゃけて言うなら、久しぶりにちゃんとした温泉に入ってみたいって思ってたから、この提案には真っ先に頷いた。この温泉も、ドワーフの手に掛かれば、作るのは雑作もない事であったようで、10日ほどで作り上げてしまった。で、問題のお湯なんだけど、これは僕の水を使うことになった。僕の水には前にも話した通り、肌荒れや細菌を取り除く効果があるため、温泉の湯として使うに申し分ない効能がある為、それに以前から、僕が操る”水の温度を変えられるようになった”為、温泉に順応した温度にすることも可能になった。僕の水は減ってもすぐに戻るため、特に問題なかったから、快く了承した。・・・・・・とは言っても、ずっとやるのは流石に疲れるから、いつかは温泉を掘ろうとしてはいる。

 

 

 

それから、温泉は町の住民達から、特に女性を筆頭にひどく人気が出たようだ。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

「リムル?前より身長伸びたんじゃない?」

 

 

 

オーク達との戦い以降、平和が続いていたある日、僕はリムルの家へお邪魔していた。

 

 

 

「まあな。豚頭魔王(オークディザスター)のゲルドを捕食者(クラウモノ)で喰らった事もあって、なぜか伸びたみたいだな。これで俺もやっとお前の身長に追いつける・・・・・・って思ってたんだがな」

 

 

 

「あはは・・・・・・僕も身長伸びたからね。ほんの少しだけだけど。でも、これで僕たちも子供とは思われなくなるんじゃない?実際、前ほど子供子供って言われなくなったし。リムルの方もいい加減うんざりしてたでしょ?」

 

 

 

「だな。マジでウザかったしな・・・・・・」

 

 

 

最近の悩みが解決されたことに、僕たちはほっと息をつく。魔素の保有量が原因なのか、魔力の保有量が原因なのかは分からないけど、僕たちはあの戦い以来、人型の姿での身長が前よりも伸びていたんだ。多分リムルがさっき言ったように、豚頭魔王(オークディザスター)のゲルドをリムルが喰らったことが原因で、喰らった時に得た魔素やスキルなどが体の成長に変化をもたらしたのかもしれないと僕は考えている。僕も応援者(コブスルモノ)のおかげでリムルが得たもの全てを共有できた為、同じように僕の身長も、魔素の量も前より増えていた。まぁ・・・・・・身長に至っては、伸びたと言っても微々たるものでしかないけどね・・・・・・。簡単に言うと、今まで幼少の子供に見えた子が、ちょっと大きくなって少年、少女くらいの大きさになったって言う感じかな?身長で言うと、僕が160cmくらいで、リムルが155cmくらいの大きさになってる。

 

 

 

それもあって、前々からの僕たちの悩みであった、”子供扱いされる問題”が著しく解決したと言うわけだ。まぁ、今でもたまに子供扱いはされるんだけどね?

 

 

 

「話は変わるが、お前も成長したってことは、スキルも会得したってことだよな?良かったな!これでお前もゲルドから貰った飢餓者(ウエルモノ)で捕食すればスキルを獲得することが出来るぞ?」

 

 

 

飢餓者(ウエルモノ)捕食者(クラウモノ)とは違って、必ずしもスキルを獲得できる訳じゃ無いからね?確かにいいスキルだとは思うんだけど、このスキルは常時発動してたら魔素を常に消費しちゃうし、今のところ特に有効な使い道は思い付いていないんだよ。だから今はスキルの発動を指導者(ミチビクモノ)さんに抑えて貰ってるよ」

 

 

 

「そっか。エリスがいいならそれで良いんだろうが・・・・・・常時発動してたって特に問題なさそうだけどな〜?」

 

 

 

キミと一緒にしないでくれ、と言ってやりたかった。飢餓者(ウエルモノ)捕食者(クラウモノ)程の脅威を持っているスキルでは無いが、少なくともユニークスキルに分類されるスキルである為、決して飢餓者(ウエルモノ)が脅威的なスキルでは無いことは無い。そもそもこのスキルには、触れた相手の体を腐食させ、死体の一部を吸収すればその能力の一部を獲得できる「腐食」、一定確率で食った相手の能力を奪う「受肉」、影響下にあるか、もしくは魂の繋がりのある魔物へ対し能力の一部を授与する「供給」という強力な3つの能力がある。これだけを見れば、スキルとしては十分すぎるほどの性能を持っていることが分かるけど、その代わり、発動にはやはりかなりの魔素を消費するらしい。僕も一応、リムル同様にゲルドの魔素を吸収してある程度・・・・・・というか、かなり魔素の量は増えたんだけど、それでもユニークスキルを常時発動していてもずっとへっちゃら・・・・・・と言うわけでも無いため、とりあえずこのスキルについては置いておこうと思ったんだ。

 

 

 

つまり、それを容易くできるリムルはいよいよやばい・・・・・・と言うことだ。それに・・・・・・。

 

 

 

「そういえば、リムルのスキルの捕食者(クラウモノ)、進化したんだっけ?名前は確か・・・・・・」

 

 

 

暴食者(グラトニー)だ」

 

 

 

そう得意げに言うリムルに、内心ため息を吐いた僕。なんでため息を吐いたかと言うと、この進化した暴食者(グラトニー)と言うスキルがまた・・・・・・捕食者(クラウモノ)を超えるチートスキルだったからだ。

 

 

 

このスキルは、捕食者(クラウモノ)飢餓者(ウエルモノ)を捕食したことで進化したスキルだ。性能としては、捕食者(クラウモノ)の元の能力に加え、対象物を腐食させ、死体の一部を吸収すればその能力の一部を獲得できる「腐食」、影響下にある魔物の得た能力を獲得可能とする「受容」、影響下にあるか、もしくは魂の繋がりのある魔物へ対し能力の一部を授与する「供給」の3つの能力が追加された。簡単に言うと、捕食者(クラウモノ)の性能に飢餓者(ウエルモノ)の性能がプラスされたと言うことだ。しかも、飢餓者(ウエルモノ)の3つの能力のうちの一つであった「受肉」が進化を果たし、「受容」へと変わったんだ。その能力は上で説明した通りだ。多分、大賢者(エイチアルモノ)さんは、すでに「捕食」と言う能力が存在しているから、同系統の能力である「受肉」は要らないという判断に至ったんだと思う。だから、この余った能力を最善化して進化させることで残したと考えている。

 

 

 

おまけに、胃袋の容量・・・・・・つまり、捕食できる量も大幅に増えていると来たもんだ。いや〜、もはや爽快とも言えるようなチートっぷりだよ。リムルの旦那は・・・・・・。捕食者(クラウモノ)ですら既に反則的なスキルだったって言うのに、それを進化させてさらに反則的にしてリムルは一体どうしたいわけさ?

 

 

 

「リムル、キミには自重という言葉を知ってもらう必要があるよ?なにどんどんチートの道へと走り出しちゃってるわけさ?」

 

 

 

「いや、別に俺も好きでこうなってるわけじゃ無いぞ?あくまで成り行きでだな?」

 

 

 

「だからって限度ってものがあるでしょっ!?全く・・・・・・でも、こんな強力すぎるスキルを持つリムルに、守られてるみんなは幸せ者だよ。この町に居る限り、この”馬鹿みたいに強くて恐ろしそうなスライムでありながら、ジュラの大森林同名の盟主”でもあると言うリムルがどんなことがあっても守ってくれるんだから」

 

 

 

何処か皮肉じみた言い方になったけど、これでもリムルのことを褒めている。リムルに僕の気持ちが伝わってるかは分からないけどね?

 

 

 

「守ってるって言うならお前もだろ?お前だって、今までいろんなところで俺たちや町のみんなを守ってきたじゃねーか?」

 

 

 

「ううん。僕がしてきたのはほんと些細なことだよ。あくまでもみんなのサポートに徹したに過ぎない。実際、あのオークとの戦いで、僕は味方のサポートや援護以外、何もやってないよ」

 

 

 

「はっ?そんなこと・・・・・・・・・・・・っ」

 

 

 

「無理に答えようとしなくていいよ。事実だしね」

 

 

 

リムルは僕を擁護しようとしたのか、必死に言葉を探していたが、結局なにも見つからなかったようだ。その気持ちだけで僕は嬉しいけどね?

 

 

 

「リムルは凄いよね。どんな凶悪な魔物と出会っても、顔色一つ変えずに立ち向かって行けて、それで大抵はその相手に勝っちゃうんだから。それに戦うたびにどんどん強くなって行って、終いには魔王と称されている豚頭魔王(オークディザスター)まで倒しちゃうんだから、もはや凄いを通り越して呆れちゃったよ。でも、その姿はまさに人の上に立つ人のそれだった」

 

 

 

「・・・・・・(エリスも十分強いと思うけどな?ガビルの奴を助けるためにゲルミュッドを討ち取った時なんか、ほとんどの奴が何が起こったかわかってなかった程だし。・・・・・・こいつ、自覚無いのか?)」

 

 

 

「僕にはそんな風にどんな相手にも立ち向かっていけるだけの気迫は無いし、それを為せるだけの力もリムルには到底及ばない。もちろんみんなを守れるだけの力もない。だからこそ、せめてサポートだけは全力でやろうとこれまでみんなを色々サポートしてたけど・・・・・・リムルに関しては、もう僕のサポートも要らなそうだね。一人でなんでも出来るし、こなせるわけなんだから、”僕の力なんて必要ない”・・・・・・・・・・・・痛っ!?」

 

 

 

僕が言葉を紡いでる最中なのに、何故かリムルが僕の頭を殴ってきた。痛覚無効があるから痛くは無いんだけどね(痛いって言ったのは・・・・・・ノリ?)。

 

 

 

殴ってきたリムルの方を向いてみると、そこには今までに見せたこともないような怖い形相をしたリムルの姿があった。

 

 

 

「もう一度”自分が必要ない”・・・・・・なんて言ったら今度は本気で殴るぞ?」

 

 

 

「リム・・・・・・ル・・・・・・?」

 

 

 

「何が何もしてないだ。何が力がないだ。何がみんなを守れないだ。そんなわけないだろっ?お前はこれまで幾多の場面でみんなを救って来ただろうが!もちろんこの俺のこともだ!」

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 

リムルにしては珍しい、憤りの気持ちを乗せたその言葉に僕はたじろぐしか無かった。

 

 

 

「でも僕は、一人じゃ出来ることも限られちゃうし、戦闘もそこまで強くない。唯一優れてるって思ってるのは僕のサポートの能力だけで・・・・・・」

 

 

 

「それが俺たちにとって救いになってるって言ってるんだよ!お前の応援者(コブスルモノ)を始めとしたスキル、お前の戦場での冷静な分析能力、統率力、それら全てが俺たちにとって凄い助けになってる。そして何より、俺たちに対して何かしてやりたい!自分も役に立ちたいって言うその気持ちが、俺たちのことをすっごく鼓舞してくれてるんだ!俺だけがこう思ってるんじゃないからな?ベニマルも、シオンも、ハクロウも、ランガも、ヒョウガも、ゴブタも、それ以外のみんなもみんなお前がいるから頑張れるって言ってるんだぞ?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「俺だってそうだ。お前のことが必要ないだなんて今までこれっぽっちも思ったことなんて無い。むしろ、今後もお前の力をもっと必要としたいくらいだ。・・・・・・一つ言っておくぞ、エリス?お前は俺を買い被りすぎだ。俺はなんでも出来る完璧なやつじゃない。ベニマル達ほど、スキルをうまく使いこなせるわけじゃ無いし、シュナみたいに家庭的なことが出来るわけでもない。それに、お前ほど町の為に色々と尽力できるかどうかも微妙だし、サポートにしたって、俺よりもお前の方が上だ。それにお前は同盟の副盟主でもあるんだぞ?今後お前の力が必要にならないわけがないだろーが。はぁ・・・・・・これでわかったか?俺には・・・・・・俺たちにはまだまだお前の力が必要だってことが・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・うん、なんとなくわかったよ」

 

 

 

コクリと、静かに頷く。わかったと言った僕だけど、正直全部わかったかといえばそうでは無かった。確かにみんなが僕のことをそう言う風に思ってくれてたことについてはすっごく嬉しかったけど、やっぱり心の何処かでは自分の力の無さに不甲斐なさを抱いているのは間違い無かったから。その証拠に今でも胸がどこか”モヤモヤ”してる。僕が今後どう言った立場でみんなを守るべきか・・・・・・リムルのように戦闘やカリスマ性でみんなを守る、縁の下の力持ち的な存在でみんなを支えつつ守る、今までのように自分が裏でみんなのサポートをしつつ守る、考えようは色々ある。・・・・・・でも。

 

 

 

「(今はやめておこう。この問題はそう簡単には解決しなさそうだし。まぁ・・・・・・でも、もしかしたら僕にもリムル同様に何かしらの転機みたいのがあって強くなれるかも知れないし、力をつけて強くなればきっと、僕もみんなを守れると胸を張って言えるようになれるだろうから、その時にまたこの事について考えてみよう。早く、僕もリムルみたいに・・・・・・いや、それ以上に強くならないと・・・・・・)」

 

 

 

「エリス?」

 

 

 

「・・・・・・ごめん、今さっき言ったことは忘れて?少し弱気になってたみたいだ。そうだよね、僕だってみんなの役に立ちたくて、ここで平和に暮らしたくてここにいる訳なんだから、今後も頑張らないといけないね!自分を卑下してる場合じゃないよ!」

 

 

 

「その意気だ!分かってくれたか?エリス」

 

 

 

「うん!ありがと、リムル。目が覚めたよ!」

 

 

 

満面の笑顔でリムルにお礼を言った僕。さっき僕も言った通り、今ここで自分のことを卑下にしたりしたところで、何も解決はしない。だからこそ、『今は前を向こう!そして、いつかはこの胸の”モヤモヤ”を消し去ってやる!』と、心の中で熱く意気込んだ時だった・・・・・・ペガサスに乗った騎士達がこの町に来たという知らせを受けたのは・・・・・・。

 

 

 




最後はちょっとリムルに惚れそうになりましたが、意味深な発言も幾つかありましたね。


これが後にどのような影響を及ぼすのか・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ガゼル王の来訪

話をようやく進められます。ちょっと余計な話が多過ぎたかも?


「リムル、この状況をどう見る?」

 

 

 

「どうって言われてもだな・・・・・・俺にも理解出来ないんだよな・・・・・・」

 

 

 

目の前に飛び交うペガサスの集団を前に、僕とリムルは呆然と立ち尽くしていた。無理もないよね。ペガサスって言う僕たちのいた世界では空想上とされている生物が、こうして何匹も僕たちの目の前を優雅に飛んでいるんだから。しかも、どうやらそのペガサスには人が乗っているようで、用は僕たちにあるようだった。

 

 

 

すると、一匹のペガサスが僕たちの目の前へと降下してきた。そして、ペガサスが地面に足をつけるのと同時にペガサスから降りてきたのは、白銀の鎧を纏い、なんとも迫力のあるオーラを出した一人のドワーフの男の人だった。

 

 

 

「お、お久しぶりでございます。ガゼル王よ・・・・・・」

 

 

 

「うむ、久しいな、カイジンよ。そして・・・・・・スライムよ、俺のことを覚えているか?」

 

 

 

「ああ。(忘れるわけない。こいつがいなかったら、今頃俺たちはあのベスターの野郎のせいで有罪になっていただろうからな。この王の公正な裁決があったから、俺たちは事なきを得たわけなんだがな・・・・・・)」

 

 

 

リムルと、一緒に来ていたカイジンがどうやら知っているようだから、恐らくこの人はリムルがカイジンたちを連れてくるために前行ってきた、ドワルゴン国の王様かなにかなんだろう。カイジンが”王”って言ってたし、多分合ってると思う(ちなみに、僕たちの護衛として、鬼人のみんなや近衛兵の二人もついてきている)。

 

 

 

「して、王よ。今日は何やら用があってここまでおいでになったのでしょうか?」

 

 

 

「うむ。そこのスライムの本性を見極めてやろうと思ってな。このような大軍勢で来たのは申し訳ないと思っているが、別に戦争をしに来たわけではない。警戒する必要はないぞ?」

 

 

 

まぁ、王様ならこのぐらい兵を連れてこないと勝手な行動はできないよね。でも、警戒する必要はないって言っても、後ろにいる兵達はみんな僕たちのことを敵視しているようにも見えるんだけど・・・・・・気のせいかな?・・・・・・一応、最低限の警戒はしておこう。

 

 

 

「本性・・・・・・ね?ちなみに聞くが、どうやって俺の本性を見極めるって言うんだ?」

 

 

 

「そんなもの決まっておるだろう?・・・・・・これだ。これで貴様のことを見極めてくれる」

 

 

 

そう言ってガゼル王が取り出したのは、一筋の剣だった。それだけでこの場にいるみんなは大方の予想がついたと思う。見極め方は剣を交えての交戦。なるほど、つまり決闘しろってことね?何とも武闘派な王様だこと・・・・・・。

 

 

「そんなに警戒しなくてもいいんだけどな?」

 

 

 

「それを今から判断すると言っているのだ。それに、この森の盟主と法螺吹く貴様に分というものを叩き込んでおきたかったのでな」

 

 

 

ガゼル王の煽りとも取れるその言葉に、鬼人のみんなが一斉に殺気だったのがわかった。自分の主君を法螺吹き呼ばいされては誰でも腹が立つのはわかるけど、変な気は起こさないでほしいな。話がややこしくなりそうだから。

 

 

 

「今の発言は、我らが森の盟主であるリムル様に対して失礼ではありませんか?ドワーフの王よ」

 

 

 

「・・・・・・む?樹妖精(ドライアド)か。森の管理者たる貴様達が何用だ?」

 

 

 

「いえ、何やらこの町で妙な騒ぎが起こっていると察知しましたので、慌てて駆けつけてきたのです。来てみれば、ドワーフの王・・・・・・あなたはリムル様に対して随分と傲岸不遜な態度を見せていましたね?この森の盟主たるリムル様に対して、そのような態度はわたくしどもとしても見過ごすわけにはいきません。今すぐ無礼を働くのはやめてください」

 

 

 

緊迫とした空気の中、突如として現れたのは、トレイニーさん達樹妖精(ドライアド)だった。トレイニーさんを含め、3人の樹妖精(ドライアド)がこの場に現れたけど、他の二人はどこかトレイニーさんに似ていた。・・・・・・姉妹なのかな?

 

 

それはともかくとして、突如森の管理者である樹妖精(ドライアド)がこの場に現れたことには流石のガゼル王も、他のドワーフの兵達も驚いたのか、目を白黒とさせていた。それだけを見れば、樹妖精(ドライアド)の存在がどれほど大きな物なのかすぐに分かった。改めて思うけど、僕たちって随分とすごい人たちに認められちゃったよね・・・・・・今でも、信じられないよ。

 

 

 

「ほう?樹妖精(ドライアド)のこの物言いに嘘は無さそうだな。・・・・・・スライムよ、法螺吹き呼ばいしたことは謝罪しよう。だが、それと貴様の為人を知るのは別の話だ。得物を抜くがいい!」

 

 

 

「・・・・・・まだ無礼を働くと言うのであれば・・・・・・」

 

 

 

「やらせてあげなよ、トレイニーさん。言ったところでどうせ話なんて聞かないよ、あの人。それに、別にリムルを本気で相手にする訳じゃないんだろうし、ここはリムルに任せるべきだよ。上手くいけば、ガゼル王とも友好な関係になれるかもしれないし」

 

 

 

「エリスの言う通りだ。ここは任せてくれ。俺が無害で優しくて愛らしいスライムだって証明するにはこれしか無いようだからな」

 

 

 

「リムル様・・・・・・エリス様・・・・・・わかりました」

 

 

 

「愛らしいスライムって・・・・・・どこが・・・・・・」

 

 

 

「何か言ったか、エリス?」

 

 

 

「ううん?なんでも無いよ」

 

 

 

トレイニーさんも、リムルと僕の意見には従ってくれるようで、今回も素直に従ってくれた。そして、そのままトレイニーさんには立会人についてもらい、勝負を見届けさせることにした。リムルはスライムの姿から人型へと姿を変えると(その際、ドワーフの兵達からは盛大に驚かれた)、腰に備えていた一太刀の剣に手を添え、静かに抜いた。この剣は以前クロベエに作ってもらった剣で、強度も切れ味も一級品であるため、かなりの業物とされている。

 

 

 

「人の姿になれるのか?ますます興味深いな、貴様は・・・・・・」

 

 

 

「そりゃどうも。じゃあ、さっさと始めようぜ?」

 

 

 

「その心意気やよし。いつでもかかってくるがいい!」

 

 

 

そして、トレイニーさんの開始の合図とともに、決闘が始まった。本来の実力であれば、リムルがガゼル王に負けることなどまず無い。何せ、スキルの保有量や魔素量の違い、その他全てのことにおいて、リムルはガゼル王を上回っているからだ。だが、これは()での決闘。つまり、剣術以外のスキルを使うことは許されることでは無いんだ。もちろん、スキルを使ったからって何があるってわけでも無いけど、使ってしまうとその時点で『ガゼル王には剣では絶対に勝てない』という事実上精神的な敗北を意味していて、リムルの器量の小ささを際立ててしまうこととなってしまう。だから、この勝負はどっちに転ぶか予想は全くできそうに無かった。リムルは確かに強いけど、それはスキルであって、剣術はそこまででは無かったはずだから・・・・・・。

 

 

 

「どうした!その程度の剣で、このガゼルを倒せると思っているのか!」

 

 

 

「くっ・・・・・・(こいつ・・・・・・強い!)」

 

 

 

やはり、剣術ではガゼル王に分があるようで、リムルは全く歯が立っていなかった。後でカイジンに聞いたんだけど、ガゼル王はどうやら剣鬼と呼ばれていた剣の達人に教えを乞うていて、それで得た剣技を持って英雄王と称されているほどの実力者だったらしい。そんな凄い人に、よくリムルは立ち向かっていけてるよ、ほんとに・・・・・・。

 

 

 

「っ!消えたっ!?・・・・・・いや、そんなわけない。俺の魔力感知を掻い潜って攻撃をしてくる算段だろ。だったら、相手が攻撃してくる瞬間を見極めて、タイミングよく防御をすれば・・・・・・・・・・・・っ!!(上だっ!!!)」

 

 

 

「・・・・・・ほう?これを受け止めるか。これは流石に予想外であったな」

 

 

 

ガゼル王の本気に見えた、その渾身の一撃をリムルは見事に防いで見せた。ガゼル王の動きが速すぎて、攻撃をするモーションさえ見えなかったのに、リムルは何事もなかったかのように、攻撃を防いだことに、僕はほっと息をつく。でも、もしあのリムルの剣がクロベエの作った剣ではなく、ただの剣であったなら、きっとあの一撃に剣は耐えることが出来ずに、真っ二つに折られていただろう。・・・・・・クロベエの技術には感服しかないね。

 

 

 

「さて、攻撃も受け止めたことだし、続きを・・・・・・」

 

 

 

「もういい。”貴様”が邪悪な魔物ではないことは今の攻防でよく分かった。この辺で終いとしよう」

 

 

 

「そ、そうか?なら良いんだけど・・・・・・」

 

 

 

「決着のようですね。勝者、リムル=テンペスト!」

 

 

 

リムルとガゼル王の決闘が、トレイニーさんのジャッジによって終幕を迎えた。やっぱりガゼル王は、元から本気でリムルのことを相手にしようとは思っていなかったようだ。あくまでリムルが自分たちにあだなす、または弊害となる魔物かを見極めるための決闘だと言うことが本来の目的。それ以上のことは王として、部下に迷惑をかけるわけにはいかないと悟ったのか、踏みとどまったみたいだ。・・・・・・結構武闘派な人かなって思ってたけど、こう言ったところはしっかりと王様で堅実的なんだなって、ちょっとガゼル王のことを見直した僕だった。

 

 

 

「さて、次は・・・・・・貴様だ。そこの青髪の童よ」

 

 

 

「・・・・・・へっ?」

 

 

 

リムルとの決闘が終わって、一安心したのも束の間、ガゼル王は今度は僕のことを見据えてそう言ってきた。・・・・・・次ってことは・・・・・・つまり?もしかして・・・・・・。

 

 

 

「貴様もかなりの傑物と見受ける魔物であるな?先程から目立たぬよう、力を抑えていたようだが俺の目は誤魔化せんぞ?スライムよ、樹妖精(ドライアド)よ、この者は何者だ?」

 

 

 

「ん?ああ、こいつの名はエリス=テンペスト。俺と一緒にこの町を治めてる仲間であって、俺にとって大事な親友だ」

 

 

 

「この方はリムル様からも言われました通り、エリス=テンペスト様にございます。先のオークとの激戦下で数々の場面でその力を遺憾無く発揮し、勝利に貢献したお方です。また、この森での”副盟主”でもあらせられますので、リムル様同様、失礼な態度はご遠慮ください」

 

 

 

ガゼル王の問いかけに、リムルとトレイニーさんが応じた。トレイニーさん・・・・・・僕のことをそこまで持ち上げるのはすっごく困るからやめてください。後リムル・・・・・・親友って言ってくれて、ありがと。僕もキミのことは親友だと思ってるよ。

 

 

 

「副盟主・・・・・・なるほどな。面白い。童よ、貴様も得物を取るがいい。この目で貴様のことを見極めてくれるわ!」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

さっき、ガゼル王は意外としっかりしていて、堅実的なんだって言ったけど・・・・・・やっぱり撤回する。やっぱこの人は根っからの武闘派だ!!

 

 

 

結局、この後僕は、ガゼル王とリムル同様、決闘をすることとなった。・・・・・・さて、どうしよう?

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「準備はいいか?」

 

 

 

「ちょっと待ってください。今、剣を出しますので」

 

 

 

さっき同様、トレイニーさんを立会人として立たせ、僕とガゼル王はそれぞれ数歩ほど離れて立ち合っていた。その間に僕は、いつものように”水剣”を出そうとしたんだけどその際、少し思いとどまった。

 

 

 

「(相手はあのガゼル王。さっきのような一撃を僕の”水剣”で受け切れるのかな?水剣で無理となると、残ってるのは前に一度だけ作ったことのある”水聖剣”だけなんだけど、あれは魔素の消費が激しいからな〜・・・・・・指導者(ミチビクモノ)さん、なんとか消費する魔素を抑えることは出来ないかな?)」

 

 

《解。消費する魔素の抑制は事実上不可能です。ですが、個体名ゲルドの魔素を引き継ぎ、体内保有魔素量を大幅に増やした現在の主人(マスター)であれば、”水聖剣”を生成する際の消費魔素量は、全体の30%で済みます。”水聖剣”を生成しますか?》

 

 

 

「(30%!?ほんとにっ!?それだったら、魔素切れの心配も無いし違うスキルにも魔素を使うことが出来る!・・・・・・はぁ〜、魔素が増えるといいことってあるもんだね・・・・・・って、生成だよね?もちろん、Yesだ!)」

 

 

 

僕がそう念じるとともに、僕の手元に、一筋の太刀が生成される。以前同様に、この太刀の刀身からは銀色の光が滲み出ていて、眩い神々しい雰囲気も醸し出していた。

 

 

 

「・・・・・・かなりの業物のようだな。だが、それも持ち主が盆暗ではただのなまくらに過ぎん!さぁ、どこからでもかかってくるがいい」

 

 

 

「わかりました。行きます!」

 

 

 

トレイニーさんの開始の合図とともに、僕は早速ガゼル王に向かって走り出した。僕もリムル同様、剣術に関してはほとんど素人に近いため、こうした攻め方しかできないんだ。だが、思っていた以上にこの”水聖剣”が軽かったため、さしてスピードも落ちることもなくガゼル王へと接近することに成功した。

 

 

 

「たあぁっ!!」

 

 

 

「スピードはあるな。だが、甘い!」

 

 

 

「うっ・・・・・・(軽い攻撃のはずなのにこの重さ・・・・・・やっぱりこの人は・・・・・・強い)」

 

 

 

接近し、攻撃をすることは出来てもただそれだけで、僕の攻撃は簡単に弾き返されてしまう。やっぱり単調な攻撃ではこの人に攻撃を与えることは不可能だ。

 

 

 

「今度はこちらから行くぞ!これを受け切ってみせよ!!」

 

 

 

「うわっ!・・・・・・ぐっ・・・・・・くっ・・・・・・」

 

 

 

ガゼル王が振り下ろしてきた剣を僕は真っ向から受けに行った。そして、そのまま鍔迫り合いに持ち込んだんだけど、明らかに力ではガゼル王に分があるため、僕は徐々に押され始めていった。だが、”水聖剣”はこれほど剣を押し込められても刀身はびくともしておらず、依然として銀色の光は漏れ出ていた。

 

 

 

「どうした?貴様の力はその程度か?この程度の力では、副盟主として、この森の者どもを()()()()()()()()ことなど出来ぬぞ?」

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

鍔迫り合いの中、ガゼル王が言い放ったその一言に、僕は目をかっと見開いた。

 

 

 

「っ!?・・・・・・力が、増しただと?」

 

 

 

「そうですね・・・・・・。確かにあなたの言う通り、今の僕ではこの森のみんなを守ることなんて出来ません。自分一人で打開できる力もないのに、こうやってみんなは僕のことを副盟主として慕ってくれてる。でも、それが僕にとってはかなり苦痛なんです。すっごく苦しいんですよ。だから、副盟主を降りたいと思ったことなんて何度もありましたよ」

 

 

 

「ほう?では何故、今もこうして副盟主を名乗っているのだ?」

 

 

 

ガゼル王のその問いかけに、僕は剣を押し込みながら答えた。押し込むと同時に、光が一気に強くなったような気がしたが、今は決闘に集中しているため、気にならなかった。

 

 

 

「そんなの決まってます。それは、自分なりにケジメをつけたからです。もう迷うことはやめにしたんです。僕は弱い、副盟主には相応しくない人なのかもしれない。だけどそうだからって、みんなを守れない訳じゃないってリムルに教えてもらいましたから(まぁ、全部の問題を解決した訳じゃないんだけどね?)。だからこそ、僕はこの森の副盟主として、みんなを導き、支え、そして・・・・・・自分なりにみんなを守る、と言うケジメをつけたんです。これはもう、一生曲げるつもりはありません!」

 

 

 

 

「ぐっ・・・・・・なるほどな・・・・・・それが貴様の皆を守りたいと言う信念か。・・・・・・貴様もまた、スライム同様、侮れぬ魔物であるようだな」

 

 

 

僕に徐々に押され始めたガゼル王は、どこかふっと笑みを浮かべると、剣に込めていた力を緩めた。

 

 

 

「貴様のその信念、そして今の剣の重み・・・・・・それをもって、俺は貴様をスライム同様、邪悪なる魔物でないと言うことを認めよう。ふっ・・・・・・感謝するぞエリスよ。なかなかに楽しめたわ・・・・・・」

 

 

 

「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。あの時、あなたの言葉が無ければ、僕はあのまま何も出来ずに終わっていたでしょうから。それに、改めて今の自分としっかりと向き合えたような気もしてますので、どこか胸もスッとしてます」

 

 

 

「そうか」

 

 

 

「決まりですね。勝者、エリス=テンペスト!!」

 

 

 

 

僕とガゼル王の決闘は、壮絶な鍔迫り合いの末、僕の勝ちで幕引きとなった・・・・・・。




エリスの自己嫌悪と過小評価が酷すぎる印象ですが、これがエリスの性格であるので責めないであげてください。でも、今後の話の展開次第では、この性格も少しは変わる余地はあると思うので、それも楽しみにご覧になってください!

それと、今回の話では、ガゼル王が強過ぎて、”水聖剣”の凄さがいまいち伝わっていなかったと思いますが、それについても今後の話で盛り返していこうと思っているので、そちらについてもお待ちください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔物国の誕生

投稿頻度、ちょっとずつ上がってきたかも?


「ふぃ〜〜・・・・・・やっと落ち着いたよ・・・・・・」

 

 

 

ガゼル王との決闘を終え、その後色々とドワルゴン国都の会議やら宴やらを色々こなした僕は、ヘトヘトな状態で自宅へと戻ってきていた。

 

 

 

「お疲れ様です。何か飲み物でもお持ちしますね?」

 

 

 

「では、私は座布団をお持ちします」

 

 

 

「うん、ありがと。じゃあお願いするよ」

 

 

 

護衛として、僕と一緒に戻ってきていたセキガとカレンの優しい言葉に僕は甘える事にし、カレンが用意してくれた座布団の上にゆっくりと腰を下ろすと、再び大きく息を吐いた。息を吐いた後、同じく僕と一緒に戻ってきていたヒョウガに視線を向けた。

 

 

 

「ヒョウガ、ちょっとの間だけで良いからキミの体に寄り掛からせてくれないかな?キミの体ふさふさで気持ち良いから、疲れも取れるんだ。良い?」

 

 

 

「もちろんです。むしろどんどん寄りかかってください!ワタシにとってもこの時が一番至福の時ですので!」

 

 

 

「そ、そう?それなら良いんだけど・・・・・・」

 

 

 

いつもクールなヒョウガにしては珍しく、目を輝かせながら僕に詰め寄ってくる。ヒョウガが良いって言うなら遠慮なくと思い、僕は座った姿勢のまま、ヒョウガの真っ白な毛皮で覆われた体に身を預けた。ヒョウガは以前のオークとの戦いで白氷月狼(アイシクルムーンウルフ)へと進化したからなのか、強さも大きさも増したんだけど、毛も前よりも長くなり、ふさふさになったこともあって、以前からこれをもふもふするのが僕の癒しになっていた。僕が、ヒョウガのなんとも絶妙な毛皮のふさふさ具合に癒されてる中、ヒョウガもまた、まるで天国にでもいるかのように顔をとろけさせていた。

 

 

 

「(思えば、ヒョウガがこうやって感情を表に出すのは、この時だけな気がする・・・・・・それだけ、この子も気持ち良いんだね)」

 

 

 

「(主様の匂い、ぬくもり、体に触れられる感触、それらすべてをこうして間近で感じ取れるワタシは・・・・・・幸せ者ですね・・・・・・)」

 

 

 

「エリス様、お茶をお持ちしまし・・・・・・・・・・・・カレン?なんかエリス様とヒョウガが異常なくらい顔がとろけてるんだが・・・・・・」

 

 

 

「邪魔しないであげましょ?今二人はお楽しみ中のようだし、何より、とっても幸せそうだから・・・・・・ふふ」

 

 

 

セキガとカレンが見守る中、僕はしばらくの間、この癒しの時間を堪能することにしたのだった。・・・・・・この時間が終わったらまた気を引き締めないとね。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

癒しの時間が終わり、幾分か疲労も回復した僕は、先ほど行われた会議で決まったことをざっくり頭の中で整理していた。まず、ガゼル王の提案により、ドワルゴン国と僕たちは盟約を結ぶこととなった。その理由としては、ガゼル王曰く、『この町はかなり良い町並みであるがため、いずれ交易路の中心都市となるだろうから後ろ盾となる国がいた方が便利』だからだそうだ。もちろん、その提案にはリムルも僕も快く応じた。ドワルゴン国はこの世界の中でも有数の大国であり、国力も膨大であるため、そんな国がこの町のバックについてくれると言うのなら、これほど嬉しいことはないからね。断る理由の方が逆に思いつかないと言うものだ。ガゼル王が盟約を締結する際に出した条件は二つ。一つは、国家の危機に際しての相互協力。もう一つは相互技術提供の確約。この二つだ。盟約を受ける上では、断るわけにもいかないので、その話も僕たちは呑んだ。

 

 

ガゼル王がこうして僕たち魔物の町と盟約を結ぶと言うことは、僕たち魔物の集団を認め、同関係の”国”として認めることを意味していた。そのことについてもリムルはガゼル王に話を聞いたが、ガゼル王は『無論だ』と言うだけで、それ以外は何も口を開くことはなかった。まぁ、認めてくれるって言うなら、嬉しいことこの上ないんだけどね。以前リムルとも話してたけど、いつかは、僕たちも人間や亜人たちと交流をしたり、交易をしたりしたいと思っていたから、こうして一つの大国の王が僕たちのことを国として認めてくれたことには感謝しかなかった。

 

 

それで、無事に盟約は締結したわけなんだけど、その際に重要なことを僕たちは忘れていたんだ。それは・・・・・・この国の名前を決めていなかったことだ。と言うのも、まだこの町を含め、他のところも国と呼べるまでに大きくなってる訳じゃなかったから、先送りにしてただけなんだけどね。それに、リムルと僕はジュラの大森林の”盟主”と”副盟主”って言う肩書を貰っているけど、別に”国主”になった訳じゃないから、なおさらそれについては蚊帳の外に置いていた訳なんだ。結果として、その場にいたみんなの意見や、トレイニーさんの後押しもあって、国主にはリムルが就くことになり、この国の名を今日の盟約の調印式までに決めておけと、ガゼル王からの命令が下ることとなった(それと、これは余談なんだけど、ガゼル王は何とハクロウの弟子だったようだ。剣鬼から教えを受けたって聞いたけど、ハクロウのことを流石に言い過ぎじゃ・・・・・・ないね。ハクロウ戦闘の時は鬼みたいな形相で戦うし。で、リムルも最近、ハクロウから剣術を指南してもらってる為、ガゼル王とは兄弟弟子ということで意気投合してた。・・・・・・僕も、弟子入りしようかな?・・・・・・考えとこう。)。

 

 

 

その調印式は、両国の国主であるリムルとガゼル王が調印を行い、正式に盟約を締結すると言ったシンプルなものであり、僕も一応リムルの補佐であるため、ベニマルやリグルドと共に揃って出席していた(簡単な正装をして)。調印式を終え、この国は『ジュラ・テンペスト連邦国』として魔法の力で世に公開された。これで、僕たちのこの国の知名度も飛躍的に上がることだろう。・・・・・・今後は、もっともっと忙しくなることを、この時の僕とリムルは静かに覚悟していた(ちなみに、この今僕たちがいる町はみんなの総意で中央都市『リムル』と言う名になった。リムルは恥ずかしいから変えてくれと嫌がっていたけど、僕が賛成したことからその意見は可決となりリムルの意見は通らなかった。その際、リムルからはすっごい睨まれてたけど、スルーした。)。

 

 

「これからは、忙しいだろうし、頑張らないと・・・・・・」

 

 

「そうですね。オレたちも可能な限りサポートをしますので、気軽に頼ってくださいね!」(もふもふ)

 

 

「エリス様が申し付けたことであれば、どんなことでも致しますので、いつでもお命じください」(もふもふ)

 

 

「・・・・・・そう言ってくれるのは嬉しいけどさ?随分気持ち良さそうにしてるね?キミたち・・・・・・」

 

 

「「うっ・・・・・・どうもすいません・・・・・・」」

 

 

僕が頭の中を整理している間に、いつの間にか、セキガとカレンは手持ち無沙汰になっていたヒョウガと抱きついたり、触ったりして戯れていた。当の二人は、普段の凛々しい佇まいからは想像できないほどに、顔つきが緩んでいた為、先ほど言っていたカッコいい発言は台無しになってしまっていた。

 

 

「お二人とも?主様に迷惑をかけるのだけはやめてくださいよ?」(もふもふ)

 

 

「「はーい・・・・・・」」

 

 

ヒョウガに怒られながらも、二人は戯れるのをやめようとはしなかった。そんな二人にヒョウガは少し呆れた様子でいたが、当の本人もそこまで嫌じゃ無いのか、拒んだりはせず、少し笑みを浮かべながら、二人のさせるがままにさせていた。この三人は、以前から僕の部下として交流をしていたようで、今はこう言った戯れができるほどに打ち解けていた。始めはヒョウガも二人のことを認めていなかったが、二人の僕に対する忠誠心と心意気を見て心を入れ替えたようで、二人に対してはこうして普段の彼女らしからぬ無邪気っぷりも見せている(ちなみに、ガビルに対しては相変わらず冷たい)。その何とも和やかな光景を見た僕は、ふっと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「やれやれ、やっぱり忙しくなったか・・・・・・」

 

 

 

家で、この町の住民票を整理しながら、僕は忙しくなったこの頃を振り返っていた。ジュラ・テンペスト連邦国が出来て、世にその名が知れ渡った途端、この町には幾多もの種族の魔物や亜人などが多く訪れるようになった。基本的に問題を起こしたり、略奪とかそう言った目的でこの町を訪れない限りは、友好的にみんな出迎えている。流石に魔物の国であるテンペストに人間は出入りはしてこないけど、いつかは人間の人たちもこの国に気軽に訪れるようになって欲しいと思っている。魔物達が訪れる理由としてはこの町の見学と、国主であるリムルへの挨拶など様々ある。さっき言った住民票と言うのは、庇護や保護の目的でこの町に来て新たな住民となった魔物達の住民の証みたいなものだ。もちろん、この町にいる全員の住民票も作ってる。この住民票は、制作が僕で、管理はシュナにやってもらってる。シュナはリムルの筆頭秘書でもあるため、こう言った管理業をこなすのはお手の物なんだとか(ちなみに、素行が悪く、略奪目的で来た魔物達は、漏れなくベニマルやシオン、ソウエイに返り討ちにあっている。)。

 

 

 

「とりあえず、さっさとこれらを終わらして、リムルのところへ行こう。忙しくしてるだろうから何か手伝って・・・・・・」

 

 

 

「エリス様ーー!!見てください!遂にヒポクテ草の栽培に成功しました!!」

 

 

 

「(はぁ〜)ガビル?家に入るときには静かにっていつも言ってるでしょ?」

 

 

 

「はっ、そうでしたな!失礼しました!」

 

 

 

早くこの仕事を終えて、リムルのところへ向かいたかったって言うのに、こう言うときに限ってくるんだよねこの人(ガビル)は・・・・・・まぁ良いけどね?

 

 

 

「で?なんだって?」

 

 

 

「見てください!ヒポクテ草の栽培に成功しましたぞ!」

 

 

 

「え?ほんとに?どれどれ・・・・・・・・・・・・ねぇ、ガビル?一つ言っていいかな?」

 

 

 

「はい!なんなりと!」

 

 

 

「これ、”雑草”なんだけど?」

 

 

 

ガビルが持ってきた一つの鉢を見て、呆れるしかない僕だった。その鉢の中に入っていたのは、回復薬の元となるヒポクテ草ではなく、なんの元にもならないただの雑草だったんだから、呆れるのも無理は無い。話してなかったけど、ガビルには前々から仕事としてヒポクテ草の栽培をお願いしていた。ヒポクテ草は、ただの草が魔素を吸収して特殊な成分を得た草のことで、濃い魔素が充満している場所で栽培しない限り、ヒポクテ草は出来ないから、この町の近くにある”迷宮の洞窟”で栽培をお願いしていたはずだったんだけど・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・はっ!?いや、そんなことは・・・・・・・・・・・・むむっ?お、おお・・・・・・よく見れば、これはヒポクテ草ではありませんな。いや〜、エリス様にすぐにでも成果を見てもらいたいと急いでいたせいでしょうな〜。鉢を間違えてしまったようです、あっはっは!」

 

 

 

「・・・・・・本当にそうだろうね?」

 

 

 

「ほ、本当ですとも、わ、我輩は嘘などつきませんぞ・・・・・・・・・・・・いえ、嘘です。まだ栽培は完了しておりませぬ」

 

 

 

「はぁ〜・・・・・・わかってるよ最初っから。いいよ、栽培については今後僕がリムルに話しておくから。それよりも、今度からは嘘なんてつかないで正直に話してよ?・・・・・・全く、そんなんだからキミは・・・・・・」

 

 

 

「エリス様、取り込み中失礼いたします」

 

 

 

「へ?あれ、ソウエイ?どうしたの?」

 

 

 

嘘をついたガビルに説教をしようとした僕だったが、いつものように音もなく現れたソウエイによって、それは叶わなかった。ソウエイの顔を見ると、どこか深刻気な形相をしていた。

 

 

 

「いえ、何やらこの町に”妙に大きな気配を持った者”が接近してきている様子ですので、ご報告にと。すでにリムル様には伝え済みです」

 

 

 

「大きな気配?・・・・・・・・・・・・っ!!今までに感じたことがないくらい大きな気配だ。場所は・・・・・・」

 

 

 

《解。対象のスピードと気配をもとに、着地地点を推測します。確認しました。『魔力感知』に反応した個体は、10秒後にここから数百m離れた高台へと着地する模様。その際、半径10mに渡って強い衝撃波に見舞われます。接近には注意を。》

 

 

 

「(ありがと、指導者(ミチビクモノ)さん。)ソウエイ、キミは先に行ってリムルを援護してやってくれ。僕もすぐに行くから!」

 

 

 

「承知」

 

 

 

「ヒョウガ!」

 

 

 

「はいっ!主様!」

 

 

 

僕の指示で、その場からソウエイが消える。それと同時に僕はガビルに近衛兵のセキガとカレンを呼ぶよう伝え、呼び出したヒョウガに乗って、勢いよく家を飛び出した。10秒後に来ちゃうんじゃ間に合わないだろうけど、先にリムルが行ってるんであれば大丈夫・・・・・・とは限らないから、とにかく僕は、なるべく早くその場所に着くために、可能な限り早くしてもらうようヒョウガに言い聞かせ、先を急いだ。リムル・・・・・・できるだけ粘ってよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、家を飛び出して30秒後、ようやく目的地である高台へと到着した僕だったけど、そこで見たのはなんとも珍妙な光景だった。

 

 

 

 

「な、なんなのだこの美味しい食べ物は!?こんな美味しいもの、今まで食べたことないのだ!!」

 

 

 

「そうかそうか。そりゃどうも」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

うん・・・・・・どう言う状況だろこれ?




「やっと、俺たちの国が出来上がったな、エリス」


「うん。キミのことは僕がちゃんとサポートするから、何かあったら頼ってくれて良いからね?」


「助かる。・・・・・・なぁ、エリス。ここで一つ、俺と約束してくれ」


「約束?何かな?」


「この先、お前は俺と一緒にどんな事があろうと、この国・・・・・・魔国連邦(テンペスト)を”宝”として守って行って欲しいんだ。この先、魔国連邦(テンペスト)には恐らくだが、色々な試練や苦難が待ち構えていることだろう。だから、そう言った事からみんなのトップに立つ俺たちが率先して守っていくって言う約束だ。この国を作ったら真っ先に交わそうと思ってたんだ。・・・・・・どうか、頼む」


「頼まれるまでも無いよ。僕もみんなの上に立つ存在だからね。しっかりとみんなのことを守らなくちゃ!”宝”・・・・・・なんだからね?」


「っ!・・・・・・ああ!」



この日、二人の間で堅い堅い約束が交わされることとなるのだった・・・・・・。
















盟約の締結や調印式などはほとんどハイライトですが、どうか許してください。これをまともに書くと文字数が半端なくなってストーリーが進まないもんですから・・・・・・。



それにしても・・・・・・ヒョウガの毛皮って、どんだけふさふさなんだろ?めっちゃ気になる・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王ミリム・ナーヴァ

ミリムの登場です。エリスとリムルの絡みをどうしようか・・・・・・。


「で、リムル?どう言うことか説明してくれるかな?」

 

 

目の前で繰り広げられたなんとも意味不明なやり取りの前に、どこか拍子抜けした僕は、ヒョウガから降り、とりあえずリムルに話を聞こうと近づいた。よく見ると、リムルと、おそらく先ほどの恐ろしいまでの気配の持ち主であろう”一人の女の子”の周りには幾多ものクレーターが出来上がっていて、その付近にベニマルやシオン、ソウエイ、ランガが揃って倒れていた。

 

 

 

「お?エリスか。いや、それがな・・・・・・」

 

 

 

「おおっ!お前もかなり強そうだな!この目の前のスライムの次に強そうだ!」

 

 

 

「・・・・・・へっ?あの、それはどう言う・・・・・・」

 

 

 

「誤魔化しても無駄だぞ?ワタシのこの『竜眼(ミリムアイ)』はお前の体内魔素量を簡単に見抜くことができるのだからな!よろしくなのだ!さっき名乗ったが、ワタシはミリム・ナーヴァ、”魔王”だぞ!」

 

 

 

「魔王っ!?」

 

 

 

目の前の彼女のいきなりの魔王宣言に僕は腰を抜かしそうになった。確かに、目の前のこの彼女からはあのオークロード以上の妖気(オーラ)を感じるけど、まさか魔王だなんて・・・・・・。

 

 

 

「リムル?ちなみに周りのみんなはどうした訳?」

 

 

 

「この魔王に攻撃して、返り討ちにあっただけだ。大丈夫、死んじゃいないさ」

 

 

 

そう言いながら、リムルは体内から完全回復薬(フルポーション)を取り出し、ベニマル達に掛けて行くと、途端にベニマル達の傷が癒え、みんなすくっと立ち上がった。ベニマル達は決して弱くはない。戦闘の実力なら僕を凌ぐほどの実力者だ。それを一人であっさりと・・・・・・うん、絶対に敵対はしないでおこう・・・・・・僕だったら一瞬で殺されるだろうから。

 

 

 

「みんな、大丈夫?」

 

 

 

「はい・・・・・・」

 

 

 

「私たちがいながら、何もできず申し訳ありません」

 

 

 

「いいよ。キミたちは十分頑張ってくれたから。あとは僕たちに任せておいて?」

 

 

みんなの無事を確認した僕は、リムルと共に魔王のもとへと戻る。

 

 

「そうだ、さっき食べたあの甘い物!あれをまた食べたいのだ!どこに行けばあるのだ!?」

 

 

 

「教えてもいいが、これだけは約束してくれ。今後、あんたは俺たちの国、魔国連邦(テンペスト)に魔王として手を出さないこと。これを守ってくれるんだったら良いぞ?」

 

 

 

「守る!守るからさっきのをよこすのだー!!」

 

 

 

「わかった!わかったから揺らすなって!!」

 

 

 

リムルの巧みな説得もあって、とりあえずこの魔王ミリムによってテンペストが滅ぼされると言う未来は防げたようだ。やれやれ、今後こんな見るからに危なそうな魔王と付き合って行かなくちゃいけないのか・・・・・・はぁ〜、先が思いやられるよ・・・・・・。

 

 

そんなこんなで、僕たちは魔王ミリムを連れて、テンペストへと帰還するのだった・・・・・・。

 

 

 

「リムル、さっき魔王に食べさせた甘い物って何なの?」

 

 

 

「ああ、あれはハチミツだ。以前から栽培を始めたもんで、今日はたまたま採れたてを持っていたんだ」

 

 

 

「なるほど・・・・・・運が良かったね。もしハチミツがなかったらと思うと・・・・・・」

 

 

 

「全滅してたな。俺たち・・・・・・」

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「そういえば、お前達は”魔王”を名乗らないのか?」

 

 

 

「「・・・・・・はい?」」

 

 

 

テンペストに戻る道中、リムルから受け取った蜂蜜を美味しそうに舐めていた魔王ミリムが、唐突にそんな爆弾発言をしてきた。

 

 

 

「なる訳ねーだろ?なって何の得があるんだよ?」

 

 

 

「魔王は人間や魔人に威張れるのだぞ?楽しいぞ!」

 

 

 

「僕たちはそんなことで楽しいと思ったりはしないんですよ。そんなことしてる暇があれば、違うことをやって楽しくのんびり過ごしたいですし」

 

 

 

「楽しい?・・・・・・もしやお前達、魔王になるよりも楽しいことをしているのだな!ずるいぞ!ワタシも仲間に入れるのだ〜!!」

 

 

 

「ちょ、ちょっと!わかりましたから頭揺すらないでください!頭とれちゃいますから!!」

 

 

 

魔王ミリムは、まるで仲間外れにされ駄々を捏ねている子供のように僕の頭をこれでもか!ってほどに揺らしてきた。

 

 

 

「はぁ・・・・・・死ぬかと思った。リムル、良いよね?」

 

 

 

「仕方ねーな・・・・・・。じゃあ、仲間になった証として、俺もエリスもお前のことはミリムと呼ぶことにする。お前の方も俺のことはリムルと呼んでくれていい。俺はリムル=テンペストだからな」

 

 

 

「僕はエリス=テンペスト。僕のこともエリスで良いですよ」

 

 

 

「リムルにエリスだな?よろしくなのだ!だが、ワタシのことをミリムと呼ぶのは特別なことなのだからな?何しろ、そう呼ぶのを許しているのは仲間の魔王達だけなのだからな」

 

 

 

「ふふ、そうなんですね。ですが、仲間になったと言うことは、これで僕たちも友達ですね」

 

 

 

「と、友達?」

 

 

 

「何だ?違うのか?」

 

 

 

「違くないのだ!そうだ、ワタシとお前達は友達・・・・・・いや、親友(マブダチ)なのだー!!」

 

 

 

ミリムの喜びとも取れるその叫び声を耳にしながら、ようやく僕たちはテンペストへと帰還を果たした。さて、これから住民のみんなにはちゃんと説明しないとね・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

結果として、ミリムは住民のみんなから歓迎された。と言うのも、元々ミリムは魔王としてこの国でも名が知れ渡っており、評判も他の魔王と比べて良かったからなのだとか。確かに、ミリムはどこか危なっかしく、ムキになるとすぐに攻撃的になると言う問題点を抱えているが、それ以外は本当にただの、楽しい事を存分に楽しむ女の子でしか無かったから、その評判も満更嘘ではないと思えた。

 

 

 

今僕は、ミリムにこの国の中を案内しているところだ。リムル達はとりあえず、まだこの事を伝えてない住民やリグルド達重鎮の元へと向かったため、一旦ミリムの面倒は僕が見ることとなった訳。別に面倒を見るくらい良いと思った僕だったけど・・・・・・それにしても。

 

 

 

「おい、エリス!あの店はなんだ!すっごく美味しそうなものが置いてあるぞ!食べてみたいのだー!お、あっちには面白そうな玩具が置いてある!行ってみるのだ!」

 

 

 

「落ち着いてってミリム。一つ一つ案内するから、とりあえず僕についてきて」

 

 

 

「わかったのだ!」

 

 

 

ミリムのこのはしゃぎっぷりに僕は内心ため息を吐く。なんか、小さい子供を遊園地に連れて行って盛大に振り回されている親になってる気分だ・・・・・・。面倒を見るの引き受けたの、間違いだったかな(ちなみに、ミリムへの敬語は、ミリムがよそよそしいからやめろと言ってきたので、やめることにした。)?

 

 

 

「じゃあ、次は・・・・・・って、あれ?」

 

 

 

「ん?どうかしたか?・・・・・・む?何やらこっちに来るぞ?誰だ、あれは?」

 

 

 

しばらくミリムとこの町を巡っていると、僕たちの前方から僕の”見知った3人”が近づいてきた。あ〜・・・・・・やっときたのね?

 

 

 

「エリス様ー!!お待たせしました!此奴らを連れてきましたぞ!」

 

 

 

「・・・・・・ガビル、遅すぎない?もう事態は解決しちゃったんだけど?」

 

 

 

ミリムに視線を移し、セキガとカレンを連れてきたガビルにそう苦言をこぼす僕。そして、僕の視線が気になった3人は、一斉にミリムの方へと視線を向けた。

 

 

 

龍人族(ドラゴニュート)か、珍しいな!エリスの知り合いか?」

 

 

 

「うん、この3人は僕の配下なんだ」

 

 

 

「っ!!え、エリス様、この方はもしかして・・・・・・」

 

 

 

「まさか・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・?貴様ら、このヒョロくて”ちまっこい小娘”を知っておるのか?」

 

 

 

「「「っ!!?」」」

 

 

 

どうやら、セキガとカレンはミリムのことを知っていて、ガビルは知らなかったようだが、ガビルが今放ったその言葉に、僕たちは固まるしかなかった。ガビルは基本的に自分が慕ってる人や部下に対しては優しく紳士的だが、その他の人に対してはこうして、無礼な発言をすることがしばしばある。以前から彼には注意しているんだけど一向に治る気配がない。まぁ、知らないんなら無理も無いけど、魔王であるミリムに対して、こんな暴言を吐ける度胸のあるガビルは、ある意味では勇者なのかもしれない・・・・・・。そして、その言葉を発せられてから何も口を開かないミリムへとゆっくりと視線を向けると、そこには・・・・・・明らかに怒りの形相を見せ妖気(オーラ)をムンムンにただ寄らせていた魔王(ミリム)の姿があった。

 

 

 

「・・・・・・それは、ワタシのことを言っているのか?」

 

 

 

「む?貴様以外に誰がい・・・・・・・・・・・・ぶわぁっ!!!」

 

 

 

ガビルが何か言う前に、案の定ミリムの叩きのめされたガビルだった。顔面を殴られたガビルは、数m程吹っ飛び、近くにあった家の壁にめり込んだ(あの家の家主には後で僕が謝っておこう)。殴られる際、一応『応援者(コブスルモノ)』でバフを掛けておいたから、死んではないと思う・・・・・・多分ね。

 

 

「ガビル様・・・・・・魔王様に対して・・・・・・」

 

 

 

「自業自得だから、擁護しようもないわね・・・・・・」

 

 

 

二人も、めちゃくちゃ呆れてるし・・・・・・。まぁ・・・・・・知っている人からすれば、さっきのガビルの発言は死を意味することだと分かっているから、当然って言えば当然だけど・・・・・・。

 

 

 

「二人はミリムのこと知ってたんだ?」

 

 

 

「はい。というか、逆に知らない人の方が少ない気もしますが・・・・・・」

 

 

 

「ガビル様だから・・・・・・」

 

 

 

「あはは・・・・・・だよね。それで、ミリム・・・・・・ここでは暴れないでって約束したでしょ?」

 

 

 

「あんなの暴れたうちに入らないだろ?それに、始めはこうしてガツンと行かないと舐められてしまうからな!」

 

 

 

「ここではそんなことしちゃダメっ!ガビルは頑丈だからいいけど、他の魔物達はそうで無い人も沢山いるんだ。今後は無闇矢鱈に攻撃するのはやめて!」

 

 

 

「そうなのか?・・・・・・わかったのだ。お前達との大事な約束であるからな。今後は気をつける!」

 

 

 

「わかってくれたならそれでいいよ。じゃあ、ガビルを回収したらまた町を巡ろうか。あ、二人も一緒に来る?」

 

 

 

「「もちろんです!」」

 

 

 

一悶着あったけど、何とか解決した僕は、再びミリムと共に町中を巡ることにしたのだった・・・・・・。

 

 

 

 




「あ、そうだ、よければこれあげるよ」



「む?これは何なのだ?瓶?・・・・・・水か?」



「うん。僕の魔力が込められた水だよ。飲んでも美味しいんだけど、手とか体に塗ると殺菌の予防や肌がすべすべになる効力があるんだ。友好の証としてあげるよ」



「すべすべにっ!?本当かそれは!!エリス!こんな瓶ひとつでは足らん!もっとよこすのだ!!」



「だから頭揺らさないでってばー!!!」



結局、ミリムには僕の水が入った瓶(500ml)を10本程渡しておいた。






どうやら、エリスもミリムの餌付けを習得したそうです。今後はもっと絡みが多くなることは間違いないでしょうね。





※新たに、アンケートを実施します!内容は番外編である”『エリスの日常日記』でやって欲しいことはなに?”です。『エリスの日常日記』はストーリーとは全く関係ありません。ただ単にテンペストでの日常を書くだけです。それで、ただ日常を書くのだけじゃつまらないと思ったので、皆さんにエリス達にやってもらいたいことをアンケートで答えてもらおうと思いました。もちろん、下の項目以外の事もやっていいと思ってるので、やって欲しい案があれば是非、コメント等で教えてもらえると嬉しいです。投票の期間は特に決めていませんが、かなり長く取るつもりですので焦らずゆっくり決めてもらって構いません。ちなみに、いつやるかは未定にしています。今は本編の方で手一杯なので・・・・・・。では、お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

日常と新たな来客

ミリムに一通り町中を案内した後、僕はミリムを連れてリムル達のいる家へと戻った。戻ってみると、何やらいい匂いが僕とミリムの鼻をくすぐった為、何を作っているのかを料理担当のシュナに聞いてみたところ・・・・・・。

 

 

 

「カレーライスっ!?シュナってカレー作れたのっ!?」

 

 

 

「いえ、先ほどリムル様に簡単な材料と料理の想像(イメージ)を受け取りまして、それを元に私なりに再現してみたのです」

 

 

 

「いや、でもたったそれだけの情報でこの完成度って・・・・・・シュナってやっぱりすごいよね?」

 

 

 

「ふふ・・・・・・ありがとうございます。さて、もう出来上がりますのでエリス様は皆さんと一緒にあちらで待っていてください」

 

 

 

シュナが盛り付けを始めるそうだから、シュナの言う通り僕はリムル達のいる居間へと戻って行った。シュナが作っていたカレーは、材料と完成図しか情報のない状況で作ったとは思えないほどの出来栄えで、もはや前世で食べていたカレーと何ら変わりない見かけをしていた。

 

 

 

「リムル、エリス。”かれー”とは何だ?美味いのか?」

 

 

 

「ああ、マジで美味いぞ。ちょっと辛いが、スパイスが効いていて、それがまたアクセントになっていてやみつきになるんだ」

 

 

 

「僕も大好き。野菜とかもたくさん入っていて、肉とかもゴロゴロ入ってるから食べ応えもあるよ?辛かったらさっきリムルから貰ったハチミツをカレーにかけてみるのもいいかもね?まろやかな味合いになって美味しいと思うよ?」

 

 

 

「おおっ!そう言われるとすっごく食べてみたくなったのだ!おい、早く持ってくるのだ!!」

 

 

 

その後、僕たちはシュナお手製のカレーライスを存分に堪能した。味は多少差はあるかなって思ったけど、全然そんなことはなく、味までちゃんと再現されていたことに僕もリムルも食べながら密かに驚いていた。ミリムやベニマル、シオン、近衛兵の二人達もどうやらお気に召したようで、何杯かおかわりをしていた(いまだに伸びていたガビルは、リムルに完全回復薬(フルポーション)で治してもらい、元気を取り戻した後で、同じようにカレーを美味しそうに頂いていった。)。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「さて、今日はどうしようかな?」

 

 

 

ミリム来訪の翌日の朝、今日は特に仕事もなく予定の特になかった僕は、町の中を軽く散策していた。

 

 

 

「それにしても、まさかミリムがここで暮らすことになるなんてね・・・・・・」

 

 

 

僕から一つのため息が溢れる。昨日、カレーを食べた後に、ミリムがこの町に住むって言う驚くべき事を言ったもんだから、その場にいた僕たちはもちろん驚いた。一応、僕とリムルで”帰るべきだ”と説得したんだけど、本人は聞く耳持たずと言った感じで全く取り入ってもらえなかった。こうなった以上、説得は不可能と悟った僕たちは、渋々それを許可することにした。で、ミリムはリムルの家に住まうことになり、面倒も基本的にリムルが見る事になった。だけど、リムルが忙しかったりなどして、面倒が見切れない状況の時は僕が面倒を見ると言う事に決まった。

 

 

 

「リムルなら何とかするから大丈夫でしょ。じゃあ、僕は・・・・・・」

 

 

 

「あ、エリス様ではありませんか!おはようございます!」

 

 

 

「ん?シオンか。おはよう」

 

 

 

再び散策しようとしていた僕の前に現れたのは、シオンだった。朝からこうして会うことはあまり無いからある意味新鮮だったけど、朝からどこか出かけてたのかな?

 

 

 

「どこか行く途中?」

 

 

 

「いえ、先ほど外から来た不埒な魔物どもを叩き出してきたところです!」

 

 

 

「そ、そうなんだ?ちなみに不埒って、具体的にはどんなことしたの、その魔物達?」

 

 

 

「リムル様とエリス様を馬鹿にした挙句、この国を乗っ取ろうと企んでいました。ですので、この"剛力丸"で成敗をしてきました!」

 

 

 

・・・・・・うん、とりあえず、その魔物達が死んでない事を祈っておこう(剛力丸というのは、シオンが愛用している大太刀のこと)。一応、シオンだけでなく、他のみんなにも略奪目的の魔物に対しては返り討ちにしても良いけど、殺すことは許可してない。僕たちの言うことには従ってくれる為、多分悪くても半殺し程度には済んでると思う・・・・・・。何でかって言うと、無闇に殺しても、この国の評判を落とすだけで良いことなんてないからだ。もちろん、魔物に限らず、人間や亜人に対しても同じことが言える。この国、魔国連邦(テンペスト)は、種族の隔たりなくみんなで共存して生きていくと言う理念を持っていて、いずれは人間国との交易なども行えたらとも思っているため、今ここで人間側に、ここに対しての悪い印象を植え付けたくないんだ。だから、ここの住民となっている魔物のみんなには、そのことは口が酸っぱくなるほど言っている。

 

 

 

 

「エリス様こそ、一人でお出かけですか?」

 

 

 

「うん。特に予定もなかったから、散歩中なんだ」

 

 

 

「そうでしたか。あ、でしたら製作工房に一緒に来てくれませんか?エリス様に是非見てもらいたいものがあるのですよ!」

 

 

 

そう言うシオンの目はひどく光り輝いていて、キラキラしていた。製作工房と言うのは主に服や装飾品、絹織物や綿織物と言った物を製作している工房のことだ。主にシュナやゴブリナの面々が中心となって作っているが、たまに僕も混ざって製作に加わらせてもらってる事もある。

 

 

 

「いいよ。暇だったし」

 

 

 

「ありがとうございます!では行きましょう!」

 

 

 

特に断る理由もなかった為、快く行くことを決めた僕だったけど、この時のこの判断のせいで、僕はこの後、とんでもない辱めに遭う事をこの時の僕は知る由もなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「で、何でこうなる訳なの・・・・・・?」

 

 

 

「エリス様!すっごくお似合いですよ!」

 

 

 

「とても可愛らしいです!エリス様!」

 

 

 

製作工房内に、僕の盛大なるため息と、シュナとシオンの黄色い声が響き渡った。端的に言うと、今僕は、シュナが作ったと見える服を試着している。それだけだったらまだ良いんだ。服はあるに越した事はないし、シュナが作る物であればどれも素晴らしい出来の物ばかりだったから、拒む理由も無いんだけど・・・・・・それと、今着ている”この服”では意味合いが違ってくる。

 

 

 

「シュナ、シオン・・・・・・一応言っておくけど、こんな見た目だけど僕は男だからね?」

 

 

 

「そうですが、その見かけであればこのお召し物の方がとても可愛らしく見られますよ?」

 

 

 

「可愛らしく見られる必要無いんだってばっ!こんな女々しい服を着て外なんて出歩けないから!絶対に笑われるっ!」

 

 

 

「笑われる事なんてありませんって。むしろ皆の注目の的となって大人気になられる事間違いありませんよ!」

 

 

 

そんなわけあるかっ!!と言いたくなった。それだけ今着ている服は男の僕としては恥ずかしかった。今僕が着ている服・・・・・・それは・・・・・・()()()()だった。言わずとも知れた物だけど、これは本来女性が着る物であって、男である僕が着る物では決してない!女装の趣味も無いし!メイド服は黒と白の生地を中心に作られていて、暑さを考慮してか、袖は半袖、スカートはミニスカートの作りをしていた。それでいて、頭には服と同じ色をした薔薇が付いたカチューシャ、足には白のニーソックス、おまけに顔に少々の化粧まで施された。一応、近くにあった鏡でその女々しくなった僕の姿を見てみたが・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

「(我ながら悔しいけど・・・・・・めちゃくちゃ可愛い!)」

 

 

 

それが僕の率直の感想だった。元々、女寄りだった顔が化粧によりさらに魅力が際立つ様になり、メイド服と持ち前の長い青髪がうまいことマッチしていることもあって・・・・・・むちゃくちゃ可愛くなっていたんだよね・・・・・・これが。

 

 

 

「おーい!シュナー、いるか?」

 

 

 

「あ、リムル様。おはようございます。ちょうど今、エリス様も来られてますよ?」

 

 

 

「はっ!?り、リムル!?いや、ちょっとまっ・・・・・・」

 

 

 

「エリスが?あいつが一体何をして・・・・・・・・・・・・お前、随分可愛らしくなっちまって・・・・・・そんな趣味あったのか?」

 

 

 

「違うからっ!!誤解だってっ!!」

 

 

 

まさに今一番会いたくなかったリムルがこのタイミングでこの場にやって来た。リムルは僕のこの姿を確認すると共に、何とも微笑ましい様な顔を浮かべながらそう言った。何とか誤解を解こうと、リムルに歩み寄ろうとした僕だったが・・・・・・。

 

 

 

「エリスっ!お前可愛いなっ!ワタシに引けを取らないくらいに可愛らしいぞ!!エリスもこんなに可愛く着飾ることが出来るのだな!ワタシにも着飾り方を教えて欲しいのだ!!」

 

 

 

一緒について来ていたんだろう、ミリムが僕の元に飛び込んできたので、それは叶わなかった。

 

 

 

「好きでこんな格好になってるわけじゃ無いからねっ!?僕にこんな趣味ないからっ!!」

 

 

 

「はっはっは!照れなくて良いって!お前元から可愛い顔してたんだし、スッゲー似合ってるぞ!」

 

 

 

「だから〜〜!!!」

 

 

 

ミリムもリムルも全く僕の言ってることに耳を貸そうとしない。・・・・・・いや、多分リムルはわかっていて僕のことを揶揄ってるんだろう。実際、そう言いながら顔は笑ってるしね・・・・・・。そのリムルの姿にちょっとむかっと来た僕は、ちょっと仕返ししようとシュナとシオンにある提案をしてみせた。

 

 

 

「はぁ・・・・・・ん?あれ?リムルも何だか”可愛らしい服を着たそうな顔”してるね?シュナ、シオン、せっかくだからリムルにもこんな感じの服着せてみたらどうかな?リムルも見かけはすっごく可愛いからきっと似合うと思うよ?」

 

 

 

「っ!?え、エリス!?お前何言って・・・・・・」

 

 

 

「それは名案ですね!リムル様にも色々とお似合いになりそうな服をたくさん作って来ましたのでちょうど良かったです!」

 

 

 

「リムル様、早速お着替えに参りましょう!私がお手伝いしますので!!」

 

 

 

「ま、待て!やめてくれ!!エリスーーっ!!お前恨むぞーっ!!」

 

 

 

「僕のことバカにした罰だよ。僕だって着たんだからリムルも黙って着てくるんだね」

 

 

 

「嫌だぁぁ〜〜〜〜〜っ!!!!」

 

 

 

結局その後、リムルもシュナとシオンに無理やり着せ替えをされ、次に僕たちの前に現れたリムルは顔を真っ赤にさせながら・・・・・・”バニーガール”の姿へと変貌を遂げていた。無論、そんな姿のリムルも可愛かった(ちなみに僕はリムルが着替えている間に、メイド服を脱いだ)。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「やれやれ・・・・・・朝から酷い目にあった・・・・・・」

 

 

 

ようやく二人から解放された僕は、同じく解放され疲労困憊状態だったリムルとミリムと別れ、疲れた体を癒そうと思い、少し離れた温泉に向かっていた。朝からの温泉は本当に気持ちが良く最近ではよく朝に入りに行ってるんだ。

 

 

 

「今度髪切ってみようかな?そうすれば少しは男に見える様には・・・・・・ならないかもね、多分」

 

 

 

髪を切ったところで、この女顔は変わらないから意味などないと悟った僕は、この日何度目かわからないため息を吐いた。例えるなら、今までロングヘアーの清楚系女子だった子が、ショートヘアーの爽やか系女子に変わると言った感じで、髪型を変えただけで男と見られるのはどうしても無理があった。おまけに体つきもまさに女としか見れないほどに華奢な作りをしているため、もはや男と思われる要素が皆無に等しかったんだ。・・・・・・性格と口調を除いて。

 

 

 

「とりあえず、温泉でその事はじっくり考えることにしよ・・・・・・・・・・・・ん?何だろう、この気配?」

 

 

 

早く疲れを癒やしたいと思い、温泉へ歩くスピードを上げようとした矢先、僕の『魔力感知』に何やら"妙に強い気配"が引っかかったため、僕はその場で停止する。

 

 

 

《告。膨大な魔素を保有する個体の感知を複数確認しました。そのうち一つは”個体名ベニマル”を凌ぐ魔素を保有している模様です。》

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

指導者(ミチビクモノ)さんの言葉に、僕は言葉を無くす。だって、あのベニマルよりも強いかも知れない人がこの町に来てるんだよ?誰だってこんな反応になる。誰だろ?魔物?それとも・・・・・・。

 

 

 

「ともあれ、町の住民のみんなに危害を加えられたら堪らないな。敵意があるかはともかく、確認しに行かないと!」

 

 

 

とりあえず確認しに行こうと、感知を確認したその場所へと僕は急足で向かうことにした。その人達がどんな理由で来たのかはわからないけど、もしこの町中で敵意を持って暴れでもされたら町が崩壊しかねない。それを未然に防ぐために、僕が確かめに行かないと!・・・・・・本当はリムルが行くのが一番良いんだけど、リムルはさっき、回復薬の研究所に向かうって言ってたからしばらくは戻ってこれない。だから、ここはリムルの次の責任者である僕が出向く必要があった。

 

 

 

 

「何事もなければ良いけど・・・・・・」

 

 

 

しかし、その僕の願いは虚しくも散ることとなった・・・・・・。




ちょっと、閑話に近いですが、気にしないでください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王カリオンからの使者

暑いから、ちょっと書くのがだれてきた・・・・・・。


「感知を確認した場所はあそこか・・・・・・何も起こってないと良いんだけど・・・・・・」

 

 

 

駆けること数分、ようやく目的の場所にたどり着いた僕は、心の中でそうぼやく。

 

 

 

「リグルドと何か話している様だけど、あれは・・・・・・魔物じゃないよね?・・・・・・もしかして、魔人?」

 

 

 

《解。感知に反応した複数の個体は、魔人である確率が極めて高いです。》

 

 

 

「やっぱりそうか・・・・・・」

 

 

 

どうやら、あの人たちは魔人で間違いない様だった。その場には既にリグルドがいて、その魔人らしき数人の人達を引き止めて何やら話し込んでいて、周りにいた住民のみんなも、魔人と言う存在が珍しい事もあって、みんな足を止めてその場を見つめていた。

 

 

 

「ここは良い町だな。まさにカリオン様が支配するに相応しい。そうは思わんか?」

 

 

 

「いえいえ・・・・・・ご冗談を」

 

 

 

リグルドがそんな口調で彼の言葉を否定した・・・・・・その時だった。その一人の魔人が、徐に高々と拳を上げると、そのままそれをリグルドに向けて思いっきり叩き付けようとしてきた。

 

 

 

「(っ!まずいっ!!)」

 

 

 

その拳には明らかに強い力が込められていて、その一撃をまともに受けて仕舞えば、いくらリグルドとは言え、命の保証はできそうに無かった。それを瞬時に悟った僕は、颯爽とその場に割って入り、それを止めに入った。

 

 

 

「やめてくださいっ!」

 

 

 

「っ!?エリス様!?」

 

 

 

「っ!何だ貴様は・・・・・・!」

 

 

 

魔人が放ったその拳がリグルドに届く前に、僕は自分の両手でそれを受け止めることに成功した。本当はカッコよく片手で軽く止めてみせたかったけど、それをしたら今度は逆に僕の手が吹き飛ばされそうだったからそれはやめておいた。実際、両手で受け止めてもかなり重い一撃だったから、今は手がかなり痺れてるしね・・・・・・まぁ、止められたから良いけどさ。

 

 

「え、エリス様っ!手が震えて・・・・・・もしやお怪我をっ!?」

 

 

 

「大丈夫、ちょっと痺れてるだけだから。さて、申し遅れました。この町の責任者のエリス=テンペストと申します。失礼ながら、この町改め、この国で暴力、諍いごとを起こし、住民達へ危害を加えることはおやめ下さい。これがこの町に来る際に守っていただく約束事です。守って頂けないのであれば、強制的に追い出させてもらいます」

 

 

 

「はっ!貴様の様な貧弱そうなガキに何が出来ると言うのだ!このカリオン様の配下である俺たちに貴様如きが敵う筈ないだろうが!責任者だとっ!?笑わせるな!そんな法螺に付き合ってる時間はねぇんだ・・・・・・」

 

 

 

「おい、今誰に向かって手を上げ、誰のことをバカにしたのだ・・・・・・?」

 

 

 

僕たちが話し合いをしている中、妙に怒気が滲んでいるような言葉がこの場に響いた。その言葉がした方へ僕たちは視線を向けるとそこに居たのは・・・・・・。

 

 

 

「ミリム・・・・・・?」

 

 

 

「なっ!?魔王ミリム・ナーヴァ!?なぜこの場に!?」

 

 

 

先ほど別れたばかりのミリムだった。あの後着替えたのか、随分と可愛らしくなっていたのだが・・・・・・さっきまでとは明らかに様子が違う。さっきまでの陽気で無邪気で活発なミリムの姿は鳴りを潜め、代わりに魔王特有の覇気をこの場全体に醸し出し、怖いくらいの怒りのオーラを目の前の魔人達にぶつけていた。・・・・・・やばい、むしろ魔人達よりもミリムの方が数十倍怖いんだけど・・・・・・。

 

 

 

「この町に住んでいるのだ。それよりも、答えを聞いてないぞ?お前は一体誰をバカにした?」

 

 

 

「バカにって・・・・・・この俺はただそこの妙な法螺を吹いた貧弱そうな青髪のガキを・・・・・・っ!!!?」

 

 

 

その男の魔人の人の言葉が最後まで語られる事はなかった。何でかって?・・・・・・ミリムが、彼の鳩尾に一発蹴りを入れたからだよ。

 

 

 

「もう一度言ってみるのだ。今度は木っ端微塵にしてやるのだ。・・・・・・これだけは覚えておくが良いぞ?・・・・・・ワタシの親友(マブダチ)であるエリスをバカにしたり見下したりする発言はこのワタシが許さんぞ!」

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

多分だけど、今ミリムが言った言葉は一つも彼には届いてないと思う。・・・・・・一発でノックアウトしちゃったからね。現に、今彼は口から泡を吹いて白目を剥きながら地面に倒れているし・・・・・・。

 

 

 

「おいっ!聞いているのか!」

 

 

 

「待って待ってミリム!ストップストップ!!」

 

 

 

一発だけでは腹の虫が治らなかったのか、倒れて気を失ってる彼に対して再び追撃を加えようとするミリムを僕は必死に止める。正直、僕のために怒ってくれたのは嬉しいけど、これ以上ミリムの攻撃を受けたら彼は本当に死んじゃうからね・・・・・・。・・・・・・っていうかそもそも。

 

 

 

「ミリム・・・・・・僕とリムルの許可なしでこの町で暴れないって約束しなかったっけ?」

 

 

 

「うっ・・・・・・いや、でもこいつはお前のことをバカにして・・・・・・それにこいつはこの町の者ではないからセーフなのだっ!」

 

 

 

「アウトに決まってるだろっ!!」

 

 

 

「うえっ!?り、リムル。いつの間に・・・・・・」

 

 

 

いつの間にか、リムルもこの場に来ていた。リムルもおそらくこの気配を感知してこの場に駆けつけたんだろう。ちょっと遅かったけど・・・・・・。

 

 

 

「はぁ〜・・・・・・とりあえず、こいつらの言い分も気になるし、場所を移すぞ。それと、ミリムは罰として昼飯抜きな?」

 

 

 

「え〜っ!?酷いのだ〜〜!!」

 

 

 

話が少し落ち着いた様だから、僕たちはこの魔人の人たちから話を聞くべく、場所を移すこととするのだった・・・・・・。もちろん、今気絶しているこの人はちゃんと完全回復薬(フルポーション)で治してあげた。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

僕たちは話の場を以前建てておいた、会議室(みんなが仕事をする場でもある大きな建物)へと移し、カリオン(?)という人物の配下と自称しているこの魔人達から話を聞くことにした。この場には万が一という事も考えて、鬼人の二人、ベニマルとシオンや近衛兵の二人も同席させている(ちなみにミリムは、一応この場に同席しているが、話に直接交わる事はせずに、一人モクモクと昼食のサンドウィッチを頬張っていた。・・・・・・?さっきリムルに無しって言われた筈だって?・・・・・・泣き落とされました。)。

 

 

 

「それで、お前達は何の用があってここへ来たんだ?」

 

 

 

「ふんっ!お前のような下等なスライム如きに教える気になどならんな!お前の様な奴がこの町の責任者だと聞いて驚いたが・・・・・・ははっ、そこのガキと言い、貴様と言い、この町では弱者が統治するって言う決まりでもあるのかよ?」

 

 

 

「「「「っ!・・・・・・」」」」

 

 

 

さっき気絶してた男の魔人の、そのリムルと僕に対する侮辱ととれた言葉にその場にいた全員が一斉に殺気立った。

 

 

 

「みんな落ち着いて。気持ちは分かるけど、ここで争っても意味なんて無いよ?」

 

 

 

「その通りだ。今は抑えろ。・・・・・・っていうかお前さ?さっきから大口叩いてるけど、口には気をつけろよ?」

 

 

 

「はっ?」

 

 

 

「そもそも先に手を出そうとしたのはお前達の方だ。エリスが止めに入らなかったら、リグルドだって無事じゃ済まなかったかも知れない。それを分かっているか?一応無事だったから、手を出そうとした事については今回は水に流してやるが、そっちがずっとそんな態度をしてるってんなら、こっちもそれなりの対応をするぞ?」

 

 

 

「それなりの対応だと?」

 

 

 

「あなた方の態度次第では、僕たちは敵対関係になると言うことです。リムルと僕は、僭越ながら、このジュラの大森林の盟主と副盟主という役職を務めさせてもらってます。僕たちと敵対すると言うことはつまり、このジュラの大森林全てを敵に回す事と同位と言う事になります。あなた方にそれをするだけの覚悟があるのであれば、今の態度を続けてもらって結構です。それでも・・・・・・あなた方の主であるカリオンさんがどんな人かは知りませんけど、僕たちと敵対することをあなた自身が勝手に決めて良いとは思いませんけどね?どうなんですか?」

 

 

 

「ちっ・・・・・・」

 

 

 

流石に、この場で僕たちを敵に回すと言う判断を下すのは不味いと察したのか、彼の態度が少し変わり、話をする姿勢へと移っていった。といっても、相変わらず上から目線みたいな態度をしている事には変わりは無く、イラッとしたけど・・・・・・でも、今はそれでよかった。話が聞けるわけなんだし。

 

 

 

「・・・・・・悪かったな。では目的を話す。俺の名はファビオ。俺たちは魔王であるカリオン様の使者としてここまで来た」

 

 

 

「魔王?カリオンさんって魔王だったんだ・・・・・・」

 

 

 

「はい。魔王カリオンは、獣王国ユーラザニアを統べている獅子の獣人族の魔王です」

 

 

 

僕はカリオンさんが魔王だって事を知らなかったから、ちょっと驚いていたけど、聞いたベニマルを始めとした他のみんなもどうやら知っている様だったから、ミリム同様侮れない人物であることは間違い無さそうだった(リムルはさっき、ソウエイに聞いたそうだ)。

 

 

 

使者であるファビオさんから話された内容は至ってシンプルなもので、僕たちをカリオンさんの配下に加えたいとの事だった。カリオンさんはどうやら何処からかあのオークとの戦いを見物していたようで、豚頭帝(オークロード)に見事打ち勝って見せた僕たちのことをひどく気に入ったらしいんだ。だからこうして使者を派遣してスカウトしに来てるって事なんだろうけど・・・・・・。

 

 

 

「配下にしたいのなら、それなりの利益を提示してもらわないとこっちも受けようが無い。魔王カリオンに伝えてくれ。『俺たちを配下にしたいのなら利益を提示しろ。連絡をくれれば交渉に応じる。』とな」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

ファビオさんも、他の魔人達もリムルの実質、”今の段階では配下にならない宣言”を聞き、言葉を無くしていた。最終的には『分かった。伝えよう』とだけ、言い残し彼らは会議室を出ていった。出る間際に『後悔させてやる・・・・・・』的なことを言ってた気がするけど、気にしない事にした。今彼らが何を言ったって僕たちの意見に変わりは無いんだから。というか、それ以前に僕たちは誰かの配下になる気なんてさらさら無い。たとえそれが・・・・・・魔王であったとしてもね?

 

 

 

その後、一応ミリムにもカリオンや他の魔王のことを教えてもらった(その際、他の魔王の邪魔をしないと言う約束で、カリオンを含めた魔王の事を教えることを拒んでいたけど、『ミリム専用の武器を友好の証として作る』とリムルが提案したらすぐに折れた)。なんでも魔王達は、傀儡の魔王を誕生させようとしていて、その魔王を使って何やら計画を立てていたらしい。その計画の内容までは流石のミリムも分からなかったみたいだけど、とりあえずそれだけでも分かったことは良しとしないとね。・・・・・・だけど、今後ちょっと不安な日々になることは間違いなかった。なぜなら・・・・・・。

 

 

 

「僕たちって、知らずのうちにその魔王達の計画の邪魔をしてたって事になるよね?もしかしたら、今後も他の魔王達がここへ干渉してくるんじゃ・・・・・・」

 

 

 

「そうかも知れませんね。思っていた状況とは違いますが・・・・・・」

 

 

 

「大丈夫ですよ。リムル様とエリス様がいる限り、魔王など恐るるに足りません!」

 

 

 

「魔王が来たところで、オレのやることは変わりません。ただただ、あなたをお守りするだけです!」

 

 

 

「セキガ・・・・・・それは勿論だけど、リムル様のことも守るんだからね?万が一の時は・・・・・・」

 

 

 

「やれやれ、今後もまだまだ気が抜けそうにないな・・・・・・」

 

 

 

僕たちの抱えたこの問題は、この目の前にいるミリムの来襲から始まったと言っていい。このミリムが動き出し、それと共に巻き起こった暴風(騒動)は勢いを落とすことなく接近し、僕たちの国(テンペスト)を飲み込んでいく事となる事をこの時の僕たちは知らなかった・・・・・・。

 

 

 

 




そういえば、触れてなかったですけど、以前最初の方にアンケートを実施したクロスオーバーの件については、アンケートの結果、”無し”と言う事にしました。報告が遅れてしまって申し訳ありません!



『エリスの日常日記』のアンケートは、現段階では圧倒的に『全部やれ!』がトップですね。それに続くのが『シュナのわくわくお料理教室』か・・・・・・。


ちなみに、『全部やれ!』に決定した場合、それ以外の項目で一番多かった物から順で書いていきたいと思ってるのでそのつもりでいてください。


8月5日現在の段階では、『シュナのわくわくお料理教室』が一番投票が多いため、最初という事になっていますが、皆さんの投票次第でそれも変わるので、どんどん投票していってください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強くなるための対策

ちょっと忙しかったので間が空きました。


フォビオさん達が帰った後、僕は一人、ヒポクテ草の栽培の進捗を見に、洞窟へと向かっていた。栽培を担当しているガビルは、流石に以前のようにただの雑草をヒポクテ草と間違うということはしておらず、順調に栽培が行えているという知らせを受けていた。

 

 

そんな訳で、様子を見に来た僕だった訳なんだけど、なぜか洞窟内にはガビルともう一人、”僕の知らない人”がいた。見たところ、この男性はガゼル王やカイジン達と同じドワーフの様だけど、僕には見覚えのない人だった。

 

 

 

「ガビルー!調子の方はどう?捗ってるかな?」

 

 

 

「エリス様ではありませんか!勿論ですとも!この”ベスター殿”が来てからと言うもの、栽培と研究が順調そのものでございます!」

 

 

 

「ベスター?もしかして、あなたがそうですか?」

 

 

 

ベスター・・・・・・やっぱり僕は知らない。とりあえず、彼に話を聞こうと、首を傾げながら彼に視線を向けた。

 

 

 

「はい。あなた様がエリス=テンペスト様ですね?なかなか挨拶に行けず、申し訳ありません。私は、ここでリムル様にヒポクテ草の研究と回復薬の製造を任されたベスターと言う者です。どうぞ気軽にベスターとお呼びください」

 

 

 

「ご丁寧にどうもです。それで・・・・・・ベスターさんはいつ頃ここに?」

 

 

 

「はい。実は・・・・・・」

 

 

 

ベスターさんの話によると、ベスターさんは元々、ドワーフ国ドワルゴン内でも有数の研究者で、その研究力でガゼル王に尽くして来たらしいんだけど、リムル達を主であるガゼル王の命令無しに追放をし、貶めようとしたのを罪に問われたようで、免職されてしまったんだとか。

 

 

 

「なるほど。で、あなたのその素晴らしい研究力を見込んで、この国でその力を遺憾なく発揮させ、そのあまりある知識を僕達のために使わせるために、ここに連れてこられたと言うことですか?」

 

 

 

「そう言う事になります。・・・・・・あの、リムル様にも謝りましたが、リムル様と同格に扱われているあなた様にはまだ何も言わせてもらっていませんので、この機会に言わせてください。・・・・・・あなた方に多大なるご迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした。そして、こんな私を拾ってくださり、ありがとうございました。この御恩は、私の知識と研究で返していきたいと思っていますので、どうか今後ともよろしくお願いします!」

 

 

 

「拾ったのはリムルで、僕は特に迷惑をかけられたとは思っていませんけど・・・・・・その言葉は素直に受け取らせてもらいます。改めて、僕はエリス=テンペスト。この国の責任者(リムルの次の)をやらせてもらってます。ベスターさん。今後は、僕達とともに、この国を豊かなものにしていける様、切磋琢磨していきましょう。こちらこそ、どうかよろしくお願いします!」

 

 

 

「ははっ!」

 

 

 

ベスターさんに挨拶と自己紹介をした後、ベスターさんに現在のヒポクテ草の研究の進捗と、回復薬(ポーション)の製造のことについて聞いてみた。研究は思いの外順調に進んでいたようで、その研究結果を基に回復薬(ポーション)の製造に尽力した事により、リムルが自分の体内で作っている完全回復薬(フルポーション)と”同等”の物を作る事に成功していた。この結果には僕もガビルもすごく驚いたけど、ベスターさんは『作ることは出来ましたが、まだまだこの程度では満足できません』と、少し物足りなさそうに呟いていた。ヒポクテ草を99%抽出し、欠損した体の部位ですら治してしまう完全回復薬(フルポーション)を完成させたんだから、もうこれ以上の研究は意味ない様な気もするんだけど・・・・・・ん?待てよ?

 

 

 

「(指導者(ミチビクモノ)さん、ヒポクテ草を99%抽出すれば完全回復薬(フルポーション)になることは分かるんだけど、もし1()0()0()()抽出できたらどうなるのかな?)」

 

 

 

《解。以前行ったヒポクテ草の解析を元に、最適の情報と解答を述べます。・・・・・・ヒポクテ草を100%抽出した場合・・・・・・死者を蘇らせる行為もとい、”蘇生”を可能とする薬品『蘇生薬(エリクサー)』を完成させる事が可能となります。》

 

 

 

”死者を蘇らす”という単語に僕は目を見開いて驚き、テンションが猛烈に上がった事を自分でも実感した。

 

 

 

「(蘇生!?死んだ人まで生き帰らす事が出来ちゃうってことだよね!?え、それって今のベスターさんじゃ作ることは出来そうにないかな?)」

 

 

 

《否。『蘇生薬(エリクサー)』の明確な抽出方法、製造方法が現状では確認する事ができませんでした。おそらく、個体名”ベスター”が現段階で製造を実施したとしても、製造が成功する確率は0%に等しいかと・・・・・・。》

 

 

 

「(・・・・・・だよね〜。そう簡単には上手くいかないか・・・・・・)」

 

 

 

蘇生薬(エリクサー)』が作れないという事がわかり、盛大なため息を吐いた僕だった。そうだよね、そんなチートみたいな回復薬が簡単に作れるなら誰だって苦労はしない。おそらく、リムルでも無理だろう。リムルでさえ、完全回復薬(フルポーション)を作るのが限界だったんだから、それよりも上位の回復薬である『蘇生薬(エリクサー)』を作るというのは夢のまた夢の話である。

 

 

 

まぁ、完全回復薬(フルポーション)も本来であれば、英雄級の人が万が一の時に備えて持っているようなレベルの貴重な物で、僕達魔物が毎度毎度当たり前のように使っていい代物では無いくらいチートな薬品なんだけどね?治す側が”死なない”限りはどんな傷だって治す事ができるんだから。リムルが当たり前のようにポンポン使用するから、貴重性が薄れつつあるけど、結構これって貴重な物なんだからね?

 

 

 

「この事については考えなかった事にしよう・・・・・・。絶対に今じゃどうしようもない事だし、現状は必要なさそうだし・・・・・・」

 

 

 

「ん?何か言いましたか?」

 

 

 

「う、ううん!何でもありません。じゃあ、僕はこの辺で失礼します。研究、頑張ってください」

 

 

 

「はい。お任せください」

 

 

 

ベスターさんにそう言い残し、僕はその場を後にした。『蘇生薬(エリクサー)』ね・・・・・・なんかとんでもない事を知っちゃった気がする、僕・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「う〜ん・・・・・・どうしたものかな・・・・・・」

 

 

 

翌日、僕は一人、誰もいない森へと足を踏み入れていた。

 

 

 

「今後もしかしたら他の魔王達がこの国に来るかもしれないんだし、何か僕も対策ができる様になっておきたいんだけど・・・・・・」

 

 

 

来た理由としては、今後、魔王達がこの国に来襲してきた時の対処法を自分なりに考えてみようと思ったからだ。リムルは昼寝中だったから放っておいた。僕達が魔王達の計画を邪魔したことはおそらく間違いないだろうから、いつミリム以外の魔王達が接触を図ってきても不思議じゃない。だからこそ、今のうちに対策を練る必要があるんだ。

 

 

 

「魔王が攻めてきた時のことを考えると・・・・・・やっぱり僕も何か”他のスキル”を身につける必要があるのかな?後、僕の戦闘能力の向上・・・・・・これは後でハクロウにでも相談してみよう。いい案をくれると思うし」

 

 

 

僕は基本的に剣を使うから、戦闘能力の向上を望むのならハクロウを頼るのが一番良い。ハクロウはあのガゼル王やリムルの剣術の師でもあるから、もしよければそのうち僕も彼に弟子入りをしようと思っている。・・・・・・ハクロウとの修行と鍛錬はかなりキツいとリムルから言われていたけど・・・・・・頑張ろう。

 

 

 

「となると、やっぱりスキルか・・・・・・。指導者(ミチビクモノ)さん、『技能作成者(スキルクリエイター)』で何か良いスキルを見つけてくれないかな?出来れば”ユニークスキル”」

 

 

 

《解。スキル『技能作成者(スキルクリエイター)』を使用し、ユニークスキルの模索を実施します・・・・・・・・・・・・失敗しました。主人(マスター)のスキルの許容量を超えてしまうことを確認した為、模索を実施することが出来ませんでした。》

 

 

 

「スキルにも得られる限度の量っていう物があるんだね・・・・・・ユニークスキルは伊達じゃないってことか。指導者(ミチビクモノ)さん、度々申し訳ないけど、僕の中にあるスキルを一度整理してもらって良いかな?」

 

 

 

《了。スキルの整理を開始します。・・・・・・・・・・・・》

 

 

 

容量がないなら、整理をすれば良い。そう思った僕は、早速指導者(ミチビクモノ)さんに整理をお願いした。それから小一時間、指導者(ミチビクモノ)さんの僕の持っているスキルのお掃除(整理)の知らせを延々と聞く羽目となり、少々疲れてしまった僕。スキルを獲得するなら有用なスキルが一番良いけど、どんなのが良いんだろ?僕的にはもっとサポートの能力を強化したいから、それにあったスキル・・・・・・あ、回復系のスキルなんて良いかも。それならサポートの幅もグッと広がるし、あったら嬉しいかも。途中から近くの木に腰をかけながらそんなことを考え、耳を傾けていた僕だったけど、最後のスキルの整理に取り掛かった指導者(ミチビクモノ)さんから、思わぬ情報を得る。

 

 

 

《告。主人(マスター)の意思の主張を確認した為、回復に纏わるスキルの模索を実行します。・・・・・・失敗しました。該当するユニークスキルが存在しませんでした。再度実行します・・・・・・・・・・・・確認しました。ユニークスキル『治癒者(イヤスモノ)』の確認に成功しました。スキルの整理及び破棄を行ったことにより、このスキルの獲得が可能となりました。このスキルを獲得しますか?Yes/No?》

 

 

 

「(そんなスキルあったんだ?全然知らなかった・・・・・・)とりあえず、Yesでお願い!」

 

 

 

《警告。ユニークスキルを獲得する場合、消費した魔素が元の状態へと戻る保証が出来なくなります。それでも宜しいですか?》

 

 

その指導者(ミチビクモノ)さんの言葉に、一瞬僕はためらいを見せた。指導者(ミチビクモノ)さんによると、『技能作成者(スキルクリエイター)』はスキルを獲得できるけど、獲得するスキルが強力であればある程、その代償として体内の魔素を大量に持っていかれる。ユニークスキルともなると、使用する魔素も尋常では無くなり、最悪僕の体内に保有出来る魔素の量が減ってしまう可能性があるらしい。・・・・・・でも。

 

 

「(・・・・・・リスクあるけど、ユニークスキルが獲得できるって言うなら我慢するか・・・・・・)うん、いいよ」

 

 

多少の犠牲なら僕は厭わない。これが今後の僕に必要なスキルとなるのであれば、この程度のことなんてなんでも無かった(もしかしたら魔素だって戻るかも知れないしね?)。

 

 

《了。スキルの獲得を実施します・・・・・・・・・・・成功しました。ユニークスキル獲得に伴い、スキル容量に余裕を作る為に、一部のコモンスキル、エクストラスキルを独自に廃棄しました。該当のスキルは全て、主人(マスター)が”今後使用しないであろうスキル”を基準に廃棄しています。・・・・・・以上でスキルの整理を終了します。続いて、新たに獲得したユニークスキル『治癒者(イヤスモノ)』の解析を実施します・・・・・・》

 

 

 

「うん、ありがと」

 

 

 

相変わらずの見事と言うほか無い指導者(ミチビクモノ)さんの仕事っぷりに、僕は感服していた。それにしても、『治癒者(イヤスモノ)』か〜・・・・・・名前からして、相手を治したりする事が出来るスキルなんだろうけど、実際のところはどうなんだろ?

 

 

それから30分後、解析が終わったとの知らせの報告が指導者(ミチビクモノ)さんから届いた。

 

 

 

《解析が終了しました。ユニークスキル『治癒者(イヤスモノ)』の能力は・・・・・・・・・・・・》

 

 

 

で、その報告が思ったよりも長かったから、僕がざっくりとこのスキルについて説明しよう。

 

 

 

治癒者(イヤスモノ)』は、人や魔物の傷や病を治す能力を持っている。だがそれに加え、『応援者(コブスルモノ)』同様に、スキルに使う魔素の量によって、傷の癒せる範囲、スピードなどを調節する事が出来るという優れたスキルだった。で、極め付けだったのは・・・・・・。

 

 

 

”治癒をした対象の能力のほんの一部を貰い受ける事が可能”という能力だった。これはエクストラスキル『吸収』をちょっと改造したみたいな能力だけど、簡単に言うと、僕が傷を治した相手から能力が貰えると言うことだ。貰えると言ってもほんの一部で、ぶっちゃけて言うとあんまり変わんないかもしれないけど、それでも能力が少しでも僕に付くのであれば、これほど嬉しいことは無かった。今は少しでも力を付けたいと思っていたからね。それに、相手側も僕に能力を分け与えたからと言って、自分の力が減るわけでは無いと言うのもまたメリットだ(いくら治せても、相手が僕に力を分け与えて弱体化しちゃったら本末転倒だからね。)。

 

 

だけど、これも当然ユニークスキルであるから使用にはかなりの魔素を使うため、無闇に乱発することは出来ない。だから最初は絶対にうまく制御出来ないだろうから、このスキルもまた、うまく制御できる様に練習しておかないといけない。だけど、その練習台になりそうな人が今は居なそうなんだよね?今は至って平和で、怪我にも病気にも悩まされている人なんて居ない・・・・・・・・・・・・あっ。

 

 

 

()()()ならいるかも。行く予定だったしちょうど良いや。行ってみよう」

 

 

 

場所に当てが見つかった僕は、早速”ハクロウが指南”をしているであろう。町の空き地へと向かった。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「うむ。今日はここまでじゃ。明日はもっと厳しくしていくのでな。覚悟して望むように」

 

 

 

「へ、へ〜い・・・・・・お、お疲れっした〜・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

空き地についた僕が見たのは、ある意味予想していた光景だった。僕の目には、指南者であるハクロウを前に、まるでボロ雑巾の様に地面に転がされているゴブタ達、ホブゴブリンの若手達の姿が映っていた(今の僕にとっては好都合だけど)。ゴブタ達の近くにはさっきまで使っていたのであろう、木刀が転がっていたので、ゴブタ達はハクロウから剣術を教わっていたんだろうと悟った。だが、この様に見るも無惨にボロボロにされたゴブタ達を見て、改めてハクロウの指南がどれほど厳しいものかと言うのを認識し、息を呑んだ僕だった・・・・・・。

 

 

 

「や、やぁ・・・・・・ハクロウ。お疲れ様」

 

 

 

「む?おぉ、これはエリス様。ここに来られるとは随分と珍しいですな?何か御用ですかな?」

 

 

 

「うん。確かに用はあるんだけど、その前に・・・・・・」

 

 

 

とりあえず、先にゴブタ達を治しておこうと思い、僕は早速先ほど得たばかりのスキル『治癒者(イヤスモノ)』を発動した。

 

 

 

「(魔力をここら一帯に広げるイメージをして・・・・・・)『治癒者(イヤスモノ)』!」

 

 

 

最初だから軽く魔素を込めてスキルを発動すると、僕を中心に”銀色の光”と、”黄色い小さな粒子”の様な物が周りに広がっていった。そして、その粒子がゴブタ達の傷ついた体の表面に付着すると、途端に粒子が体に浸透していくかのように溶けていき、やがて浸透していった箇所を中心的に、その粒子はゴブタ達の傷を次々と治していった。数分もすれば、ゴブタ達の傷はすっかりと癒え、ゴブタ達も元気を取り戻していた。

 

 

 

「ゴブタ、みんな、お疲れ様。傷はどう?治ったかな?」

 

 

 

「傷っすか?それならもう治ってるっすよ!エリス様一体何したんすか?オイラ達さっきまで立つことすら出来なかったって言うのに、エリス様が来てからいつの間にか体軽くなってますし、傷もこんなに綺麗に治ってますし、一体何がどうなってるんすか?」

 

 

 

「新しく得たスキルの効果だよ。詳しいことはまた後で話すよ。で、ごめんねハクロウ、話逸らしちゃって?」

 

 

 

スキルについてはとりあえず、試運転は上出来だったと言う評価に至った。軽めにやってこの回復力には正直言って驚いたけど、今はスキルの話や感想はとりあえず置いておき、本来の目的を果たすため、今までほったらかしにしていたハクロウへと視線を向けた。

 

 

 

「ほぉ、ほぉ、ほぉ。気にせんでよろしいですぞ。で、ワシに何用でしょうかな?」

 

 

 

「うん。っていうか、用というかお願いなんだけどね?」

 

 

 

「お願いですと?」

 

 

 

怪訝な顔をしたハクロウに、僕は姿勢を改めてすっと頭を下げた。

 

 

 

「僕に・・・・・・剣術を教えてください!先生!」

 

 

 

 

 




スキルの事や進化のことを書くのはいまだに苦手です。本当に毎回に思ってることですが・・・・・・文才が欲しい。


ちなみにユニークスキルをこんなに簡単に獲得出来てるエリスですが、実はかなり膨大の魔素を消費しています。スキルと言うのは本来なんの情報も無いまま作成をすることなどほとんど不可能に近いものです。リムルも、『捕食者(クラウモノ)』などで対象のものを喰らって、解析・鑑定を行って初めて、スキルを獲得していましたからね。この『技能作成者(スキルクリエイター)』は、そう言った情報も解析も何も無しにスキルを作成出来る代わりに、それ相応の魔素を一気に消費し、最悪”消費した魔素が元に戻らなくなる”と言ったデメリットまでついている、ある意味諸刃の剣のスキルと言う立ち位置にしています。


ですので、今後はこのスキルを使うことはなくなるかも知れません。そんなに簡単にスキルを獲得してしまっては面白くありませんからね。ですから、今回だけはどうか大目に見てくれるととても嬉しいです!



※新しいユニークスキルは『応援者(コブスルモノ)』の回復機能と似ていますが、『応援者(コブスルモノ)』はあくまでも自己再生力を向上させて傷を治しているに過ぎず、治癒とはまた違う治し方です。また、自己再生力を向上させても病を治すことは出来ないため、病を治すにはこの『治癒者(イヤスモノ)』が必要になってきます。また、『応援者(コブスルモノ)』がバフと言った、サポートに特化したスキルであるのに対して、『治癒者(イヤスモノ)』は回復に特化したスキルである為、回復力も『治癒者(イヤスモノ)』の方が遥かに高いです。


ユニークスキル


治癒者(イヤスモノ)


典型的な回復のユニークスキル。人や魔物の傷や病を癒す事が出来、癒した相手の力(能力)を一部得る事ができる(相手は能力を渡したとしてもその能力が減るわけではない)。基本的に、使用する魔素の量で『癒しの空間(ヒーリングルーム)』(後にエリスが命名)の規模や機能を調節する事ができる。



おまけ


治癒者(イヤスモノ)』の他にエクストラスキル『治癒』という同系統のスキルがある。このスキルは、『治癒者(イヤスモノ)』よりも回復力もスピードも遅いが、傷も病も治す事ができる。だが、一度に治す事が出来るのは、一人までと言うデメリットを持っている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

剣の修行と人間の使者

アンケートに票がたくさん集まる事ほど嬉しいことはありませんね〜。


「やあっ!せいっ!とうっ!」

 

 

 

僕の家の庭に、僕が木刀を振る音が静かに響き渡る。そして、その隣には・・・・・・1週間前、僕がお願いして剣術の師になって貰ったハクロウの姿もあった。結果として、僕の先生になってくれと言う話にはハクロウは頷いてくれ、時間がある時にはこうして、僕の家まで来て剣の師事をして貰っていた。

 

 

 

「振りが少々雑になっておりますぞ?剣を振る時には手だけでなく、体全体の力を使って振らなければ力を剣に伝えることは出来ませぬ。もう少し意識して振ってみてくだされ」

 

 

 

「うん、わかった!」

 

 

 

ハクロウからの厳しい指摘に僕は素直に頷き、指摘された通りに再び素振りを再開する。やってて思ったけど、ハクロウとのこの鍛錬はやっぱりと言うべきか、とってもキツいものだった。言い訳、甘言、弱音、愚痴、それらすべてをこぼすことを一切許さない鬼畜っぷりで指導をするハクロウはまさに、剣鬼そのものだった。だが、その反面指導の仕方は的確で、尚且つわかりやすいため、自分の実力が徐々に伸びつつあると実感し始めたこの頃だった。

 

 

 

「エリスー!頑張れよー!」

 

 

 

「リムル、暇だったら一緒にやれば良いのに?やらないの?」

 

 

 

「ああ。俺は今日は見学者として来てるからな。ここでお前の勇姿をしっかりと目に焼き付けさせてもらうから覚悟しとけよ?」

 

 

 

何を覚悟するの・・・・・・と、何故か家の縁側に腰を下ろして、僕とハクロウの鍛錬の様子を見学しているリムルに言いたくなったが、それさえもハクロウに許してもらえそうに無かったからやめておいた。

 

 

 

「さて、では少しワシと手合わせを致しましょう。そろそろエリス様も同じ稽古ばかりで飽きて来た頃でしょう?」

 

 

 

「ほんと?よかった〜、やっとそれっぽい稽古になって来た気がするよ。じゃあ、胸を借りるつもりで行かせてもらうよ!」

 

 

 

「ええ、いつでもかかって来てください」

 

 

 

ハクロウはそう言うと、僕と同じ木刀を構えた。当の僕は、ようやくハクロウと手合わせができることに、非常に興奮していた。多分、今の僕じゃ絶対に敵わないだろうけど、何か得るものはきっとあるはずだから、ここは本気で今の僕の力をハクロウにぶつける事にしよう。

 

 

 

「(最初から全力で行こう!)行くよ!やぁっ!!!」

 

 

 

「っ!以前よりも太刀筋が鋭くなりましたな?鍛錬の成果が出ていて何よりですぞ。・・・・・・ですが、まだまだ甘い」

 

 

 

僕の渾身の一振りを、ハクロウはいとも容易く自身の木刀で軽く受け止めた。

 

 

 

「(くっ・・・・・・簡単に弾かれ・・・・・・)まだまだ行くよ!!せいっ!ふんっ!でやっ!」

 

 

 

「体の動きで次の攻撃が丸分かりですぞ?もっと敵に悟られぬよう、動きを最小限に抑えてくだされ」

 

 

 

僕の横なぎの一閃、真下からの斬り上げ、刺突、それらすべてをハクロウは軽快な動きで捌き、またはひらりひらりと躱していった。あまりにも簡単にいなされてしまう現実に、僕は攻撃を仕掛けながらも徐々に苦笑をこぼし始めていた。・・・・・・ここまで差があるものなのかと。もちろん僕は全力でやってる。相手の立場になって、どこをどんな風にして攻めれば有効的かと言うことも熟知してるつもりだ。だけど、そんなのはまるで意味もないとでも言わんばかりにハクロウは僕の攻撃をいなして行った。

 

 

 

「では、そろそろワシの方からも仕掛けますぞ!」

 

 

 

「っ!消えた・・・・・・どこに?」

 

 

 

僕の視界からハクロウの姿が消える。咄嗟に『魔力感知』でハクロウの気配を探ってみたけど、残念なことに『魔力感知』でもハクロウの気配を捉えることは出来なかった。・・・・・・このシチュエーション、覚えがある。

 

 

 

「(ハクロウと初めて会った時に仕掛けてきた時と同じだ・・・・・・あの時は、気配が消えたと思ったら急に”後ろ”から斬りかかって来たんだっけ)となると・・・・・・後ろかっ!?」

 

 

 

「・・・・・・良い読みでしたが、ハズレですな」

 

 

 

「あっ・・・・・・」

 

 

 

同じシチュエーションなら、その時と同じ事になるはず!そう割り切った僕のその予想は、見事に裏切られることとなった。ハクロウは、僕をあざ笑が如く、後ろではなく僕の”真上”から斬りかかってきて、そのまま僕の持っていた木刀を跳ね飛ばして行った。・・・・・・というわけで、勝負あり。

 

 

 

「勝負あり、だな?」

 

 

 

「うん、そうだね。ありがとハクロウ。良い鍛錬になったよ。それにしても、まだまだ鍛錬が必要だってことが改めてわかったよ。僕も鍛錬を積めば、いつかはさっきのハクロウみたいに気配を消して、敵に接近する事が出来るようになるのかな?」

 

 

 

「今の段階じゃ多分無理だろ。俺だって出来ないしな。ハクロウ、いつかで良いから教えてくれよ?」

 

 

 

「もちろんですとも。今のお二方では指南することは出来ませんが、いずれ時が来たらお教えしましょう。ですので、これからも日々鍛錬を続けていき、精進して行ってくだされ」

 

 

 

「わかった。いつかはハクロウに一太刀浴びせるくらいには強くなってみせるから、そのつもりでいてね!」

 

 

 

「ほぉっ、ほぉっ、ほぉっ、それを楽しみに待っていますぞ」

 

 

 

僕の完敗に終わったハクロウとの手合わせだったけど、少なくとも得るものは沢山あった。だからこそ、今日の事をしっかりと糧にして、今後もっともっと鍛錬に励んでいかないといけない!と意気込む僕だった。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

「エリス様、悪いっすね。オイラ達の狩りに付き合って貰っちゃって」

 

 

「いいよ。今日は鍛錬も仕事も済ませてあったし、それに、僕も狩りをしてみたいって思ってたからね」

 

 

最近色々あり、忙しい日々を過ごしていたある日、僕はゴブタ達狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)と共に、夕食のおかずとなる獲物を狩りに森へと赴いていた。話してなかったけど、基本的に狩りに出ているのはこの狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)達で、僕たちの食卓に肉などの豪華な食料が並ぶのは、この子達のおかげでもある。だから、そのせめてものお礼という意味も込めて、今回僕が彼らの狩りを手伝うことにしたんだ。ちょうどやる事もなかったしね。

 

 

「ゴブタさん、今回はどんな獲物を狩るんです?」

 

 

「今回はエリス様いるっすからね〜・・・・・・もしもの時はエリス様に倒してもらうとして・・・・・・思い切って(ドラゴン)でも狩りに行くっすかね?(ドラゴン)の肉はめちゃくちゃ美味いって聞いたことあるし、オイラ食べてみたいんすよ!エリス様、もしいたら相手お願いするっす!」

 

 

「僕を殺す気なのっ!?リムルならともかく、僕に倒せるわけないでしょ!?もっと簡単な獲物にして!」

 

 

ゴブタのその無茶振りに全力で否定する僕。そりゃそうだ。(ドラゴン)は魔物の中でもかなり上位に来るくらいの強敵で、下手をすれば鬼人と並ぶくらいの強さを持った個体だっているんだ。僕じゃ勝てっこ無い。(ドラゴン)を狩りたいのならリムルを連れてきて欲しい。

 

 

「す、すいませんっす。・・・・・・じゃあ今日は・・・・・・ん?何か音が聞こえないっすか?」

 

 

「声?・・・・・・確かに聞こえるね。しかも、この音からして、戦闘が起こってるようにしか思えない気が・・・・・・」

 

 

《告。100m前方にて、交戦が行われている模様です。生命反応の確認をしたところ、どうやら数名の人間が一体の魔物と交戦しているものと推測します。》

 

 

「(うん。やっぱりそうだよね・・・・・・って人間?こんな森の中に何で・・・・・・まぁ、直接聞けばいいか。)みんな、どうやらこの先で人間の人たちが魔物に襲われてるみたいだから、助けに行こう。問題ないね?」

 

 

「「「「了解!!」」」」

 

 

『人間が危機に陥っているのであれば、どんな理由があるにせよ助けろ!』リムルが僕達によく言っている言葉だ。それを熟知している僕達は、特に迷うこともなく助けに向かうべく、その場に駆けた。100mという近場だったこともあり、大した時間もかけずにその場に到着した僕達は、とりあえず状況を確認した。

 

 

「(人間の数は約10人・・・・・・あの魔物は確か槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)・・・・・・かなり人間の方が劣勢に立たされている。早く助けに入ろ・・・・・・って、あの3人って確か?)」

 

 

「エリス様?どうかしたんすか?」

 

 

この場に来てから沈黙していた僕に疑問を抱いたのか、ゴブタが声をかけてきた。

 

 

「いや、ちょっと()()()()がいたものだからね。ともかく、このままだと危ないから、助けに入ろうか!」

 

 

「うっす!クロベエさんに作ってもらったこの”小太刀”の威力、このでっかい蜘蛛で試させてもらうっすよ!!」

 

 

 

僕の号令と共に、ゴブタ達が一斉に槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)に掛かっていった。その際、『応援者(コブスルモノ)』を発動して、彼らを強化しておいた。これならば、最近成長が著しいゴブタ達で十分勝てるはずだ。ちなみにゴブタの言っていた小太刀というのは、以前リムルがクロベエにお願いして作って貰ったゴブタ専用の武器のことを言っている。クロベエが作ったということもあって、小振りでありながらかなりの強度と斬れ味を持っていて、大抵の魔物であれば一瞬で斬り伏せる事ができるほどの立派な業物となっている。

 

 

 

「くっ・・・・・・これまでか・・・・・・」

 

 

 

「させないっすよ!!てやぁっ!!!」

 

 

 

人間の一人に、槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)の足攻撃が命中しそうになった所を、ゴブタが間一髪のところで蜘蛛の足を切断して阻止した。守られた人間達は、突然現れた僕たちに驚きを隠せないでいる様子だった。

 

 

 

「ふっ・・・・・・待たせたな・・・・・・」(キリッ)

 

 

 

「だ、誰だあんた?ゴブリンか・・・・・・?」

 

 

 

「ゴブタ、カッコつけてないで早くこの魔物を倒すよ?ここで暴れられても困るからさ」

 

 

 

「は、はいっす!」

 

 

 

遅れてその場に姿を出した僕は、何故かドヤ顔でかっこよくキメてるゴブタに呆れながらそう指示を出した。正直、ス◯ークか!ってツッコミたかった所だけど、言った所で誰も知らないだろうし、ゴブタが調子に乗りそうだから黙っておいた。

 

 

 

「エリスさん!?エリスさんだ!お久しぶりです!」

 

 

 

「エリスの旦那!!よかった〜・・・・・・これで助かるぜ・・・・・・」

 

 

 

僕が姿を表すと、途端に人間側から見知った声と姿をした人達が3()()近づいてきた。この3人は、以前僕たちの町にシズさんと共に訪れてきた事のある”冒険者”の人達で、人間の中でも唯一、僕達が関わりを持った事のある人達でもあった。

 

 

 

「久しぶりですね。エレンさん、カバルさん、ギドさん。怪我はありませんか?それと、今回はどうしてここに?」

 

 

 

「怪我は特にねーけど・・・・・・いやいやエリスの旦那!今はそんなこと喋ってる場合じゃ・・・・・・って、後ろ後ろ!あぶねーぞっ!?」

 

 

 

落ち着いている僕とは対照的に、カバルさんが僕の背後を見ながら、焦った様子で僕に危険を知らせてくる。後ろを振り返ってみると、ちょうど槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)が巨大な足を僕たちに向けて振り下ろしている所だった。だけど、そんな光景を目にしても、僕の落ち着きの度合いは変わらなかった。なぜなら・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・?ああ、大丈夫ですよ。何せ僕たちの国が誇る狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の彼らは・・・・・・」

 

 

 

「とどめっす!!」

 

 

 

「ギャォォォーーーッ!!!!」

 

 

 

「・・・・・・とっても強いですから」

 

 

 

この場にゴブタ率いる狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)がいるからだ。彼らは素早い動きで槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)を撹乱すると、僕たちを襲おうとしていた足を全て斬り落とす事に成功し、最終的にはゴブタが槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)の腹部に潜り込んで、思いっきり腹部を斬り裂いた事で、槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)はそのまま力無く地面に倒れ伏し、絶命した。カバルさんや他の人間の人達は、自分たちでは全く歯が立たなかったこの槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)をゴブタ達が最も簡単に倒してしまった事に、ひどく動揺していた。

 

 

 

「ね?大丈夫だったでしょう?」

 

 

 

「そ、そうですね〜・・・・・・あ、そうだ!エリスさんが来てくれたのならちょうど良いかも!ギルマス!この人が以前話してたエリスさんです」

 

 

 

「そうか・・・・・・」

 

 

 

エレンさんが、そう言うと、後ろからギルマスと呼ばれた初老の男の人が前へと出てきた。顔に切り傷があって、ちょっと怖そうな顔をした人だけど、不思議と嫌な感じはしなかったから、特に緊張も警戒もするまでもなく、彼から話を聞く事にした。

 

 

 

「あなたが、魔物の国『ジュラ・テンペスト連邦国』の”副国主”であるエリス=テンペスト殿で間違い無いでしょうか?私はブルムンド王国の自由組合支部長(ギルドマスター)を任されている、フューズと申します。今日はあなたと国主であるリムル=テンペスト殿に会うためにここまで赴いて参りました」

 

 

 

「副国主・・・・・・と名乗った覚えはありませんが、エリス=テンペストは僕です。立ち話もなんでしょうから、是非僕たちの町まで来てください。リムルも交えて、話はそこでお伺いしますので」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

というわけで、話を聞くためにヒューズさん達を町まで案内する事になった僕たちは、先ほど仕留めた槍脚鎧蜘蛛(ナイトスパイダー)を切り分けて袋に入れた後、共に魔国連邦(テンペスト)へと帰還するのだった・・・・・・。




ヨウムとかの登場は次回に持ち越させて下さい。エリスが狩りに出て、エレン達と会ったことで、書くことが多くなってしまったので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヨウム英雄化計画

今回は短めです。


ヒューズさん達を魔国連邦(テンペスト)に招いた僕たちは、リムルや他の重鎮達を会議室に集めた後、そこで改めて今回訪問に来た目的などを全て話して貰った。

 

ヒューズさん達4人の目的は主に、この国、魔国連邦(テンペスト)の調査と、オークロード討伐の真相を探るためだったのだとか。オークロードの討伐の噂はどうやら、人間国であるブルムンド王国にも広がっていたようで、今回はギルドマスターであるヒューズさんが直々に真相を探り、魔物の国である魔国連邦(テンペスト)が自分の国に脅威をもたらす国であるかを見極めるために、エレンさん達3人に護衛をお願いしてここまで来たらしい。だけど、その他の人達の目的はどうやら違うようだった・・・・・・。

 

 

 

「あんたらの目的は分かった。・・・・・・で、そっちの兄ちゃん達は何しにここまで来たんだ?」

 

 

 

「あん?・・・・・・話してやってもいいが、その前に一つ言わせろ。・・・・・・何でスライムが話してんだ?普通話さねーだろ?おかしくねーか?」

 

 

 

「はっ?今はそんな事どうでも良いだろ?早く話せって」

 

 

 

「ふっ・・・・・・」

 

 

 

リムルが視線を向けた男の人の何とも・・・・・・ごもっともな質問に僕は少し笑ってしまう。確かにリムルを初見で見た人は誰だってそう思うはずだけど、こうして面と向かってはっきりと口に出した人はいなかったから、面白かったんだ。スライムは普通は話さない・・・・・・うん、間違い無く正論だ。その事についてはリムルも僕も特に否定も咎める事もしなかったけど・・・・・・とりあえず、隣で今にも剛力丸を抜きそうになっているシオンを抑える事にしよう。

 

 

 

「リムル様への無礼は許しませんよ?」

 

 

 

「まぁまぁ、抑えて抑えて。で、話を戻しますが、あなた方は何をしにここまで来たんですか?」

 

 

 

「団長のヨウムさんが失礼をしました。私たちはファルムス王国から来た調査団で、私はお目付役のロンメルと申します。どうかよろしくお願いします」

 

 

 

ロンメルと名乗った、眼鏡をかけた一人の男性から事情を説明して貰ったところ、ここにいる人たちは何とも不憫な扱いを受けていたことがわかった。ここにいる人たちは全員、騒動となったオークロードの調査のためにこの森に来た辺境調査団らしいのだけど、この人たちは本来の辺境調査団ではなく、雇い主である二ドル伯爵が調査団を組織するために必要なお金と時間、人員、装備を渋ったがために、矯正施設に収容されている人を強制的に駆り出し、満足な装備も与えられぬまま(安い装備ということ)、こうしてここまで即席の辺境調査団として調査に来させられたんだとか。それに、お目付役のロンメルさんにはヨウムさん達が裏切らないよう、強制的に命令に従わせる魔法、”契約魔法”を使用する事を強制されてまでいたそうだ。まぁ、オークロードは既に倒してるから、この調査も無意味に終わることになるのだけどね?

 

 

 

「おいおい・・・・・・お前らのことの雇い主はとんでもなくどうしようもない奴だな?会った事ないが、その話を聞くだけでもどうしようも無いクズだってのが予想つくぞ?」

 

 

 

「それは同感だな。ロンメルの話じゃ、あのアホ伯爵は防衛の強化に充てるべき国の援助金も着服してたって話だ。だから、今回のオークロード出現の話が出た時も何の対策もしてなかったから、急遽今回は、俺たちのようなゴロツキが調査団として情報を集めるために編成されたってわけだ。わかったか?」

 

 

 

「分かりました。・・・・・・けど」

 

 

 

「エリス?」

 

 

 

ヨウムさん達の言っていることはよく分かった。だけど、一つ納得できないことがあった。それは、ヨウムさん達が言っていた伯爵のこの調査団に対する扱いのことだ。何が言いたいかと言うと、この調査団は言って仕舞えば・・・・・・。

 

 

 

「それじゃ、あなた方は”捨て駒”として扱われていることと同義じゃ無いですか。今の話を聞く限りじゃ、情報を集めさえすればあとはどうにでもなれ、みたいに思ってるとしか思えないんですけど?リムルもさっき言ってましたけど、その伯爵さんはどうしようも無い程のクズの様ですね?・・・・・・”人の命を何だと思ってるんですかね”?」

 

 

 

「「「「っ・・・・・・」」」」

 

 

 

僕の、怒気を滲ませたその言葉に場の空気が凍った事を悟った。おそらく、少々その伯爵に対する殺気みたいな物が勢いで出てしまったんだろう。みんなには申し訳ない事をしてしまったね・・・・・・。

 

 

 

「エリス。その辺にしておけ。みんなビビってるからさ?」

 

 

 

「うん、ごめん。・・・・・・失礼しました。ですが、僕はその伯爵さんのやり方と強欲さ、あなた方への扱いには納得いってませんので、そのつもりでいて下さい」

 

 

 

「あ、ああ・・・・・・(こいつ(エリス)を怒らすのはよしたほうが良さそうだな・・・・・・)」

 

 

 

「悪かったな。でだ?ヒューズだっけ?オークロードの討伐の噂と真相はどの程度広がってるんだ?」

 

 

 

「混乱を招く事を防ぐため、一般的には発表はしておらず、国王や一部の大臣にのみお伝えしております」

 

 

 

「そっか。なら好都合だ!」

 

 

 

オークロードのことがそこまで広まってない事を知ったリムルは、妙にニヤついた表情でそう言った。あ、この表情の時は・・・・・・また何か妙なこと企んでるな?どうやら、他の重鎮達も僕と同じ考えのようで、呆れ顔の人もいれば、薄く笑みを浮かべている人もいた。

 

 

 

「ヨウム、だっけ?お前・・・・・・()()になる気は無いか?」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・はっ?」

 

 

 

何言ってんの?リムルさん?・・・・・・どう言うことか詳しく説明して下さい。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

リムルにどう言うことなのか説明をして貰った所だと、簡単に言うとオークロードを討伐した功績を、この目の前にいるヨウムさん達調査団のものにしたいとのことらしい。そのリムルの考えに最初は戸惑った僕だったけど、すぐにリムルの考えに察しがつき、納得の意を評した。オークロードを討伐したのはあくまでも僕達”魔物”だ。魔物である僕達が災厄級の魔物と称されている、オークロードを討伐したと世間で広まって仕舞えば、今度は僕達が人間や他の種族の脅威になるという噂が広がってしまい、僕達の目標である”多種族間での共存共栄”がまた一歩遠ざかってしまうと言う事態に陥ることとなる。

 

リムルはおそらくそれを考慮して、あくまでも僕達の国は、『オークロードに勇敢にも挑んだ若者達に武器や防具、食料と言った物資を提供した魔物の国』として、他の国々に認識してもらおうと考えたんだろうね。僕としては、この案には大賛成だ。そうすれば、少なくとも僕達の国に対する人間国の印象は良いものへと変わるはずだから。他のみんなも特に異論はなさそうだ。ブルムンド王国のヒューズさん達もどうやらこれに関しては賛成のようで、後で国に戻ったら周辺諸国に僕達のさっき言った噂を流してくれるそうだ。・・・・・・後は当のヨウムさんだけだけど・・・・・・。

 

 

 

「んなこと急に言われたって・・・・・・できるわけねーだろ?」

 

 

 

「リムルも強制している訳ではありません。あくまでもこちらはあなたに”お願い”をしているだけですので、無理なら無理でそれはそれで構いません。ですが、少し考えてみてはくれませんか?あなたがこの案を呑んでくれれば、双方にとって少なくともメリットはあります」

 

 

 

「そう言う訳だ。何なら何日かここに滞在して貰って構わないから、この国を見学して行ったらどうだ?せっかく来たんだし、俺もお前達にはこの国のことをよく知ってもらいたいしな」

 

 

 

「・・・・・・分かったよ。俺が英雄になるかならないかは、この国を見てから決める。・・・・・・それで良いだろ?」

 

 

 

「ああ。分かった」

 

 

 

それからヨウムさんは、数日かけてこの国魔国連邦(テンペスト)を調査もとい見学をして行った。最初は嫌な印象を持っていたヨウムさんだったけど、この国の発展具合、活気、生活環境、交易、製造、栽培、住民・・・・・・の様子を間近で見て行った結果、徐々にこの国のことを認めるようになり、いつの日か、あれだけ曇っていた表情も、国の住民の溢れんばかりの笑顔に触発されてか、満面の笑みを浮かべながらこの国の見学を満喫するまでになっていた。

 

 

 

そして・・・・・・さらに数日後。僕とリムルはヨウムさんに近くの高台まで呼び出されたため、そこでヨウムさんと話をした。

 

 

 

 

「リムルさん、エリスさん。俺はな?口では達者なこと言うくせに、大した事も出来ねーような奴が大っ嫌いで信じられねーんだ。・・・・・・あの豚伯爵みたいなやつが良い例だな」

 

 

 

「「それは全く同意(です)」」

 

 

 

「だがな?国の為を思い、住民の為を思って一途になって支えようとしているアンタらなら・・・・・・俺は信じようと思ってる。俺はアンタらのことはまだよく知らねーが、この国の奴らのアンタら二人への並外れた忠誠心と信頼性を目にして、少なくともアンタらはあの伯爵とは違うってことがよく分かったよ。口だけじゃなくて、それを為せるだけの力があり、人望もあるってことがな・・・・・・」

 

 

 

「え?・・・・・・ってことは?」

 

 

 

僕が促すと、一泊置いてヨウムさんが口を開いた。

 

 

 

「ああ。アンタらのその案、呑んでやるさ。英雄にでも何でもなってやるよ!」

 

 

 

「そう言ってもらえて嬉しい。今後ともよろしくな、ヨウム!」

 

 

 

「よろしくお願いしますね、ヨウムさん!」

 

 

 

「へへっ、おうっ!!」

 

 

 

こうして、ヨウムさんが承諾したことにより、『ヨウム英雄化計画』が進むこととなるのだった。とは言ってもすぐに実行する訳にもいかず、色々とこちらも準備をして体制を整える必要があったから、とりあえず実行するのは先送りとなった。それに、ヨウムさんにも英雄に相応しい姿になってもらうべく、色々と矯正やら鍛錬やらをやってもらう必要があるため、実行に移すのはそれが完全に為された時だろうと思っている・・・・・・。




「なぁ、リムルの旦那がスライムだってのは分かったんだが、アンタはどんな魔物なんだ、エリスの旦那?」


「あぁ・・・・・・この姿じゃ分からないですよね?ちょっと待って下さい・・・・・・はい、これが僕の本当の姿です」


「はっ!?水っ?アンタって水の魔物だったのか?」


「そうです。普段は動きやすさも考慮して人型になってますけど、本来の姿はこんな感じです。・・・・・・まぁ、驚きますよね。僕も始めはめちゃくちゃ驚いたし・・・・・・」



「何というか・・・・・・不憫だな、アンタも」



「憐れむような目で見ないでください・・・・・・悲しくなってくるので・・・・・・」



ヨウムさんに僕の正体を知られた僕は、何とも微妙に悲しくなった・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

”ヴェルドラの申し子”暴風大妖禍(カリュブディス)

久々のリムルの視点です。今後はもうちょっと増やして行けたらと思っています。


視点 リムル

 

 

 

ヨウム達の矯正やら鍛錬やらは、ハクロウと言った指南に適した人材に任せた事もあって、滞りなく進み、1週間も経たないうちに立派に英雄らしい一団へと成長を遂げた(ハクロウの鬼指導を受けた事もあって、全員微妙に”痩せこけて”いたがな?)。

 

 

これならオークロードを倒したと噂されても信じて貰えるだろうと、俺が合格を出すと、ヨウム達はどこか満足じみた表情を浮かべながら、この国を去っていった。あいつらにはこの国を拠点として英雄活動を行ってもらう予定だから、今後幾度となく会う機会は増えるだろう。ま、その時はその時でまた歓迎してやれば良いだけの話だがな。俺たちはもう、赤の他人同士ではなく、仲間なんだから・・・・・・。

 

 

 

それから、また少しの時が経った・・・・・・。俺は一人、温泉に来ていた。

 

 

 

「ふぅ・・・・・・やっぱ温泉は気持ちいいな」

 

 

 

「そうですね。本当に気持ちが良いです。疲れがこのお湯に溶けていくようで・・・・・・顔もとろけてしまいそうですな。往復路に危険が無ければ通い詰めたいほどです」

 

 

 

「(仕事帰りのスーパー銭湯かよ・・・・・・)アンタもいたのか、ヒューズ」

 

 

 

温泉には先客としてギルマスのヒューズが、熱燗を片手にお湯に浸かっていた。そういえば、こいつやカバル達はなんかここの居心地が良すぎて、ハマっちまって、まだ帰ってなかったんだっけか?

 

 

 

「そこまで通いたいなら、こことブルムンド王国を結ぶ道路の開通をする。そうすれば、行き来も楽になるだろ?それに、もし仮にブルムンド王国と交易やら国間でのやり取りなんかをしたい場合には、あった方が非常に便利になる。あ、道路の舗装とかは俺たちの方でやっておくから心配しなくて良いからな?」

 

 

 

「いや、ですがそれではそちらだけに負担が多大に・・・・・・」

 

 

 

「問題ない。人手は十分に足りてるからな。その代わり、周辺各国には俺たちの国の評判のことを広めてほしい。見返りはそれだけで十分だ」

 

 

 

「・・・・・・わかりました。そこまでして頂けるのであれば、このヒューズ・・・・・・持てる人脈を駆使し、この国の喧伝に尽力して行きましょう・・・・・・」

 

 

 

「ああ、頼む!」

 

 

 

と言うわけで、ブルムンド王国行きの道路を作ることを約束した俺は、温泉に浸かりながら、道路などの整備を担当しているゲルド達へ密かに”思念”を飛ばしておいた。とりあえず、これで後はゲルド達に任せれば良くなったから、俺は静かにヨウム達の英雄活動を期待しながらゆっくりと生活する・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことは、叶わなかったんだよな〜・・・・・・これが。

 

 

 

 

 

俺たちの国に、また新たなる”災厄の種”が降り注ごうとしていた・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「盟主様・・・・・・暴風大妖禍(カリュブディス)が復活致しました・・・・・・。そして、その大妖はどうやらこの地を目指しているようなのです・・・・・・」

 

 

 

「「はっ?」」

 

 

 

トレイニーさんの妹さんであるトライアさんのその一言に、俺とエリスの声が会議室内に静かに響く。何で樹妖精(ドライアド)であるトライアさんがこの場にいるのかと言うと、先ほど俺が外に出ていた時に、何故か妙に”殺気”を放った状態と言う、いかにも普通ではない状態で突然俺の目の前に姿を表したからだ。とりあえず、トライアさんから話を聞くべく、会議室にエリスや他のみんなのことも呼び出したところで、トライアさんから、冒頭のセリフが飛び出てきたと言うわけだ。そのセリフに、一部の重鎮達はどこか顔を青ざめていた。・・・・・・ってか、暴風大妖禍(カリュブディス)って何?

 

 

 

「『天空の支配者』が復活だと?何かの間違いでは・・・・・・」

 

 

 

「あれは遥か昔に封印された魔物。理由もなく封印が解かれることなどないと思っておったがのう・・・・・・」

 

 

 

『・・・・・・リムル、トライアさんの言ってた暴風大妖禍(カリュブディス)って一体?』

 

 

 

『俺も知らん。だが、トライアさんのこの表情から察するに、相当やばそうな存在だってことはわかるな』

 

 

 

エリスもどうやら俺と同じように思っていたようで、『思念伝達』でそう聞いてきた。だが、俺も知らないんだから、答えようがないな。

 

 

 

《解。暴風大妖禍(カリュブディス)とは、知性は無く、ただ本能のままに殺戮を繰り返す災厄級魔物(カラミティモンスター)のことを表しています。また、死亡しても一定期間を経れば復活すると言う性質を持ち合わせているため、脅威度はさらに上位である”災禍級(ディザスター)”に匹敵する物と思われます。それを考慮してか、今までは勇者により封印をされていました。》

 

 

 

「(サンキュ、大賢者)そうか・・・・・・だが、何でその暴風大妖禍(カリュブディス)?がこの国まで向かってきてるんだ?知性はないんだろ?」

 

 

 

そう。俺にとってそれが一番の謎だった。大賢者の話からするに、暴風大妖禍(カリュブディス)は知性がまるで無い・・・・・・言って仕舞えば生まれたての赤子も同然の知性しか持っていないと言うことになる。だと言うにも関わらず、なぜ暴風大妖禍(カリュブディス)はこの国という目標を持って向かって来ているのだろうか?それがいまだに俺には分からなかった。

 

 

 

「はい。それはそうなのですけど・・・・・・実は暴風大妖禍(カリュブディス)はヴェルドラ様から漏れ出た魔素溜まりから発生した魔物で、『ヴェルドラ様の申し子』と称されています。恐らくはリムル様の体内にいらっしゃる・・・・・・」

 

 

 

「ヴェルドラさんを狙ってここまで来てる・・・・・・と言うことですか?」

 

 

 

「・・・・・・恐らくは」

 

 

 

エリスの言葉に、力無く頷くトライアさん。さて・・・・・・困ったな。もしエリスの言ってたことが本当だとすると、もう時期この国にその暴風大妖禍(カリュブディス)が来ると言う事になる。ここには万を超える住民達がいる。ここが暴風大妖禍(カリュブディス)との戦場と化して仕舞えば、甚大な被害が出てしまう。そうならない為にも、早い段階のうちに住民達へ避難勧告を出しておくとするか。トライアさんの話によると、今は姉であるトレイニーさん達がうまく足止めをしてくれてるようだけど、それも長くは続かないはずだ。

 

 

 

「エリス!住民のみんなに避難するよう呼びかけるから急いで広場に集めてくれ!他のみんなも頼む!」

 

 

 

「分かった!」

 

 

 

それから数十分後、無事に住民達を集め終わった俺たちは、暴風大妖禍(カリュブディス)のことをざっくりと説明し、森の中へと避難をすることを呼びかけた。俺たちの切羽詰まった雰囲気を察してか、住民のみんなは特に何を聞くでもなく、素直に避難をしてくれた。とりあえず、これでみんなは大丈夫だろう。

 

 

 

 

「さて、暴風大妖禍(カリュブディス)・・・・・・『ヴェルドラの申し子』とか称されているお前のその力、体験させてもらうぞ?」

 

 

 

 

よし・・・・・・戦闘の準備だ!!

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「みんな、ちょっと良いかな?」

 

 

 

「どうかしたか、エリス?」

 

 

 

戦闘の準備を整え、暴風大妖禍(カリュブディス)を迎え撃つ場所と指定した、ドワーフ王国への街道(以前から作っていた)に到着した俺たちは、何が起こっても良いように、暴風大妖禍(カリュブディス)への対策を練っていたが、そんな中で唐突にエリスが口を開いた。

 

 

 

「今回は、僕も”前線”で戦わせてくれないかな?いつものように、サポートに回る訳じゃなくて・・・・・・」

 

 

 

「「「「っ!!?」」」」

 

 

 

エリスのその言葉に、俺たちは少なからず驚いた。当たり前だろう。普段、こいつは自身の戦闘能力が低いことを加味して、俺たちのサポートに尽力していることが殆どだったんだから。いや、別に俺もみんなもエリスが弱いとなんて微塵も思って無いし、むしろ強いと思っているが、当の本人がそんな自覚がまるでない以上どうしようもない為、いつも本人の希望通り、サポートに徹してもらってたんだ。・・・・・・そんなエリスが、前線に出て戦いたいと言って来たんだ。驚くのも無理はない。

 

 

 

「珍しいな?お前自ら前線で戦いたいとか言うなんてさ?あんまりお前は、戦いたくないタイプだと思っていたが・・・・・・」

 

 

 

「うん。正直言って、僕はあんまり戦いが好きじゃないよ。みんなが傷つくのを見たくないしね?・・・・・・でも、おそらく今回の相手は、僕がただサポートに徹してみんなを支えるだけじゃ、ダメなような気がするんだ。曲がりなりにも、災禍級(ディザスター)級の脅威を持ってるって話を指導者(ミチビクモノ)さんから聞いたしね?だから・・・・・・戦力になるかは分からないけど、僕も前線で暴風大妖禍(カリュブディス)と戦わせて欲しいんだ。・・・・・・身勝手なこと言ってるのは分かってるけど・・・・・・お願い!」

 

 

「・・・・・・(むしろ、こっちがお願いしたいくらいだったんだがな?オークロードとの戦い以降、エリスもどうやらかなり強くなって、スキルも沢山習得したみたいだし、戦力として前線にいてくれればこれほど心強い事はない。こっちにとっては願ったり叶ったりの提案だ。)」

 

 

「リムル?・・・・・・だめ、かな?」

 

 

「っ!(そ、そんな可愛らしい顔でそんな目するなよ・・・・・・)そ、そんな事はない。お前がいてくれるだけで戦局はガラッと変わるからな。エリス、今回は前線で一緒に戦ってくれ!」

 

 

「ありがと!僕、精一杯頑張るから!」

 

 

前線に出ることを許可されたのがよっぽど嬉しかったのか、可愛らしく満面の笑みを浮かべたエリスに、その場にいた俺を含めた男連中は一瞬意識を持っていかれた。改めて思うが、エリスってマジで可愛いくて綺麗な顔してるよな?俺よりも背が高いからかもしれないが、俺みたいに子供っぽくないし、妙に佇まいが大人っぽく見え、雰囲気も性格もすっごく柔らかいから、万年童貞だった俺でも変に意識しちまう・・・・・・。あいつの中身は男なんだけどな?

 

 

「リムル様?エリス様を見つめられて、どうかされたのですか?」

 

 

「あ、いや、何でもない!気にするなシュナ(エリスの可愛らしさに見惚れてたなんて、死んでも言えないよな・・・・・・)」

 

 

明らかに不自然な様子だった俺のことを心配してか、シュナが心配そうに俺の顔を覗いてきたが、訳を話すとシュナだけでなく、他の配下のみんなからも軽蔑もしくは、引かれる事は間違いなかった為、何でもないと一言言って下がらせた。やばいな、これから大きな戦いが始まるってのに、緩みすぎだろ俺・・・・・・気を引き締めないとな。

 

 

 

「リムル様・・・・・・来ました。臨戦態勢を整えましょう」

 

 

 

「ああ。・・・・・・腹を括るか」

 

 

 

そして、俺たちの目の前の空に・・・・・・自分の周囲に複数の”サメ”のような魔物を侍らせ、明らかに異常で圧倒的な妖気(オーラ)を漂わせながら・・・・・・件の暴風大妖禍(カリュブディス)が現れるのだった。

 

 

 

 

これは・・・・・・長い戦いになりそうだ。




次回から戦闘が始まります。エリスのまともな戦闘を書くのは初めてなので、ちょっと不安ですが、頑張ってみたいと思います。お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鍛錬の成果

前回予告した通り、エリスの初めてのまともな戦いを書きます。


視点 エリス

 

 

 

リムルやみんなに、前線で戦わせてもらうことを許可してもらった僕は、改めて気を引き締めつつ、自分にできる主な戦法を模索していた。そんな中、配下であるガビル達が近づいてきた。先に言っておくと、近衛兵であるセキガとカレン以外の龍人族(ドラゴニュート)は、今回はガビルと共に僕達とは別で戦ってもらうと言うことになっている。最初は龍人族(ドラゴニュート)全員で僕の護衛をするとか言い出してたけど、護衛はこの二人だけで十分だった為、半ば強引にガビルの元に行かせた。

 

 

 

「エリス様、本当によろしかったのですか?自ら前線に出て戦うなどと言ってしまって・・・・・・」

 

 

 

「カレン、心配してくれるのは嬉しいけど、大丈夫だよ。僕だって何も考え無しに戦いたいなんて言わないよ。それに、僕には新たに”強い味方”が加わったからね!」

 

 

 

僕は徐に、懐に下げている”一太刀の剣”を誇示した。今まで気が付いていなかったのか、3人は少し目を丸くしながらこの剣を凝視していた。

 

 

 

「エリス様、我輩はこの剣を見たことはありませんが、見る限りかなり上等な代物と見受けられますな!」

 

 

 

「ほんとだ・・・・・・あ、もしかしてこの剣が以前からクロベエさんにお願いしてたって言う代物ですか?オレ、こんな剣作れるのクロベエさんぐらいしか思いつかなくって・・・・・・」

 

 

 

「うん、そうだよ。実は、オークロードとの戦いの後で、クロベエに剣を作るよう、お願いしてたんだけど、それがつい最近出来上がったんだ」

 

 

 

「なるほど、だからさっきは何処か自信に満ちた表情でリムル様に進言していたのですね?」

 

 

 

「そ、そんな顔してたの、僕っ!?」

 

 

 

「「「はいっ!」」」

 

 

 

3人から一斉に即答され、急に恥ずかしくなってしまった。あの時は別にこの剣があるから前線に出たいと言ったわけではない。さっきリムルにも話したけど、今回の相手は明らかにこれまでの相手とは違う事は大体わかってる。指導者(ミチビクモノ)さんからの情報だと、暴風大妖禍(カリュブディス)は魔法をほぼ無効化するスキル『魔力妨害』を持っていて、『超速再生』も持っているとのことだ。僕もリムルも『超速再生』を持っているが為、このスキルの脅威性も十分に知っている。魔法が効かないのであれば、物理で・・・・・・と言う考えを吹っ飛ばしてしまう程に再生が早いスキルのため、手数を多めにして再生する前に倒し切らないと、いずれジリ貧と化してしまう事は明白だろう・・・・・・。だからこそ、少しでも手数を増やすために、今回は僕はサポートではなく、みんなと共に肩を並べて暴風大妖禍(カリュブディス)に立ち向かわないといけなかった。

 

 

 

ちなみにこの剣は、刀身は水聖剣とほぼ同じくらいある。斬れ味や軽さはやや水聖剣に劣るものの、この剣は水聖剣のように魔素を消費する事なく戦うことが出来、おまけに魔素を消費せずに戦える業物にしては十分すぎるほどに立派であったため、今回はこの剣を頼ろうと思ってる。・・・・・・クロベエには本当に感謝しかないよ。

 

 

 

「主様、来ました・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・あれが、暴風大妖禍(カリュブディス)か・・・・・・想像してたよりもだいぶ大きいね・・・・・・」

 

 

 

そうこうしている内に、今回の討伐目的である暴風大妖禍(カリュブディス)が僕たちの目の前へと姿を表した。空を悠々と飛ぶその姿は、まるで巨大化したサメのようで、ゆうに50mを超える体長を持ち合わせていた。そんな中、いつからいたのか、ミリムが呑気そうにつぶやいた。

 

 

 

「そうか?あんなのただのでかい魚ではないか。ワタシなら一撃で倒せるぞ?」

 

 

 

「そ、そうなんだ〜?ってか、ミリムいたんだ?あ、それならもう、ミリムに倒してもらった方がこっちとしても楽・・・・・・」

 

 

 

「お言葉ですがエリス様?この件は私たちの問題であり、友人関係に至るミリム様を頼るのは筋違いと思われます」

 

 

 

「ミリム様には、リムル様やエリス様がどうしても困った時にのみ、お力添えを頂きたく存じます。お友達のことを信じて見守ることもまた、お友達として大事なことですよ?」

 

 

 

「そうなのか?・・・・・・わかったのだ」

 

 

 

いや、シュナもシオンも何言ってるの!?それにミリムもそんな簡単に納得しないで!?僕今すっごく困ってるし、リムルもきっと困ってるよ!?・・・・・・って言ったところで、もう何も解決しないだろう。現に、ミリムはすっかり戦闘モードから逸脱して、傍で僕の水を美味しそうに飲んでるし・・・・・・。はぁ〜、楽して勝とうとはするなってことか・・・・・・。

 

 

 

「エリス。・・・・・・ミリムの説得は諦めろ。もう俺たちでやるしかなさそうだからな」

 

 

 

「だね。じゃあ、腹を決めて頑張るとしますか!」

 

 

 

暴風大妖禍(カリュブディス)と僕達との戦いの火蓋が今・・・・・・切って落とされる。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

《告。暴風大妖禍(カリュブディス)の周囲に暴風大妖禍(カリュブディス)により異界から召喚された魔物”空泳巨大鮫(メガロドン)”が多数存在することを確認しました。その数、およそ7体。この魔物も暴風大妖禍(カリュブディス)同様、エクストラスキル『魔力妨害』を保持している模様です。》

 

 

 

「(となると、このサメ達にもよっぽど強力な魔法や物理以外は殆ど効力無しってことか・・・・・・厄介だな・・・・・・)」

 

 

 

開戦の火蓋は、ベニマルの黒炎獄(ヘルフレア)によって切って降ろされた。ベニマルの放った黒炎獄(ヘルフレア)暴風大妖禍(カリュブディス)に直撃すると同時に、そこを中心として、円形状に黒い炎が暴風大妖禍(カリュブディス)空泳巨大鮫(メガロドン)を焼き尽くしていった。だが、その黒炎獄(ヘルフレア)も、『魔力妨害』による阻害を受けた事もあり、本来であれば灰すら残さぬほどに焼き尽くす威力を持つものが、空泳巨大鮫(メガロドン)の一体を軽く焦がす程度に終わってしまっていた。そして、当の暴風大妖禍(カリュブディス)はと言うと、全くダメージを負ってはいなかった。いや、正確には受けたんだろうけど、おそらく炎が自身の体を守っている楯鱗までしか届いていなくて、ダメージが最小限になってしまったんだろう。で、その負ったダメージは『超速再生』ですぐさま回復する。・・・・・・うん、やっぱり魔法で攻撃するのはやめておいた方が良さそうだね。無駄に魔素(エネルギー)を使うだけだし。

 

 

 

仲間がやられた事に怒ったのか、焦ったのかは分からないけど、他の空泳巨大鮫(メガロドン)達が地上にいる僕たちに向かって、次々と思いっきり突進をしてきた。その突進自体は、そこまで早い訳ではなく、僕たちは簡単に避けられた訳なんだけど、それだけで油断しては行けないのが、この空泳巨大鮫(メガロドン)だ。この魔物は暴風大妖禍(カリュブディス)と言う規格外の存在と一緒にいて、脅威さがかなり薄くなってしまっているが、実はAランク級の魔物でもあったりするんだ。特徴的なのは奴らの持つその鋭利な牙と顎の力。その威力は岩を砕くほどとされている。そんなのに噛みつかれでもしたら、いくら僕たちでも命の保証はできない。おまけに魔法も大して効かないと来たもんだ。そんな魔物にずっとウヨウヨされていたら・・・・・・厄介この上無い。・・・・・・まずは、この魔物達を先に倒さないと!

 

 

 

「(リムル!僕たちはこの空泳巨大鮫(メガロドン)達を先に殲滅するから、リムルは暴風大妖禍(カリュブディス)を牽制しててくれ!)」

 

 

 

「(わかった。ベニマル!)」

 

 

 

「はっ!俺たちは先に空泳巨大鮫(メガロドン)を殲滅する!各隊一体ずつ引きつけて相手取れ!エリス様は・・・・・・」

 

 

 

「僕は余った空泳巨大鮫(メガロドン)を担当するよ。その代わり、今回は戦いの方に集中したいから、『応援者(コブスルモノ)』は発動しない。少し苦になるかもだけど、今のキミたちならきっと勝てるって信じてる。だから・・・・・・統率は任せたよ?ベニマル”侍大将”さん」

 

 

 

「っ!わかりました。必ずやエリス様のその期待に応えて見せましょう!・・・・・・行くぞっ!殲滅開始!!」

 

 

 

ベニマルのその檄に、みんな一斉に空泳巨大鮫(メガロドン)へと攻めかかった。本来ならここで僕が『応援者(コブスルモノ)』でみんなを強化するところだけど、今回はさっきも言った通り、使用するつもりは無かった。一応、『応援者(コブスルモノ)』を発動した状態でも戦えはするけど、発動してるとどうしてもサポートの方に頭がいっぱいになってしまい、戦いの方に集中することが出来ないんだ、僕の場合は。だから、今回はみんなには自力で頑張ってもらうつもり。まぁでも、みんなもかなり力をつけてきたから、滅多な事では負けないだろうし、もしもの時はミリムを頼ればいいから、そんなに問題はないと思う。

 

 

戦況の方はと言うと、まず、ゴブタ率いる狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)達は、持ち前の連携力で空泳巨大鮫(メガロドン)を翻弄し、隙ができたら攻撃、攻めて来たら退く、もしくは守ると言った所謂”ヒットアンドアウェイ”作戦で戦っていた。

 

 

 

街道から少し外れた森の中では、ゲルド達オークの集団と、彼らに加勢するように言っておいたガビル率いる龍人族(ドラゴニュート)の軍勢が空泳巨大鮫(メガロドン)に対応していた。こちらは、ある程度の手傷を負った人が居たみたいだけど、進化したガビルやゲルド達に掛かれば、そんな事態に陥っても問題なく対応することが出来たようで、事前に用意してきた回復薬(ポーション)などを駆使して戦い、最後はゲルドが空泳巨大鮫(メガロドン)を押さえ、そこにガビルの渦槍水流撃(ボルテクスクラッシュ)が炸裂し、空泳巨大鮫(メガロドン)の討伐に成功していた。・・・・・・前の戦いではお互い敵同士だったのに、こうして手を取り合って共闘する姿を見るのは、なんとも微笑ましいね。

 

 

 

僕の近くでは、ソウエイ率いる忍び集団と、ランガとシオンのコンビがそれぞれ空泳巨大鮫(メガロドン)を相手取っていた。まず、ソウエイ達だが、ソウエイ以外の忍び達が空泳巨大鮫(メガロドン)の注意を引いている間に、ソウエイが操妖傀儡糸(そうようかいらいし)と言う、脳からの指令を伝える神経網に妖糸で接触し、対象を思い通りに操ることが出来るようになるスキルを使用して、周囲の空泳巨大鮫(メガロドン)達を共食いさせると言う、何とも見るに堪えないえげつないやり方で討伐して行った。

 

 

対して、ランガとシオンのコンビはそんな小細工は一切せず、真っ向から空泳巨大鮫(メガロドン)をねじ伏せていった。ランガのスピードで急速に空泳巨大鮫(メガロドン)との距離を詰め、速さに驚いた空泳巨大鮫(メガロドン)の一瞬の隙をついて、シオンの技である断頭鬼刃(だんとうきじん)を炸裂されることに成功し、空泳巨大鮫(メガロドン)を真っ二つに斬り裂いた。

 

 

 

戦況はだいたいこんな感じだけど、この時点でもう空泳巨大鮫(メガロドン)を3体倒してる。いや、ベニマルが始めに丸焦げにしたのを含めると4体か。一応もう一度言っておくけど、空泳巨大鮫(メガロドン)はAランク級の魔物で十分脅威的な魔物なんだからね?それをこんな短時間で・・・・・・改めて僕の配下達の規格外さを思い知った気がする。とっても心強いけど。

 

 

 

「・・・・・・って、感心してる場合じゃないか。僕達も役目を果たさないと!行くよ、セキガ、カレン!」

 

 

「「承知!!」」

 

 

今まで傍観者だった僕達にも、どうやら攻撃の矛先が向けられたようで、残った2体の空泳巨大鮫(メガロドン)が僕達目掛けて襲いかかってくるのを確認した僕は、近衛兵の二人に軽く檄を飛ばして、臨戦態勢に入る。

 

 

さて・・・・・・やろう!

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「1体は僕が引き受けるから、二人はもう1体をお願い!」

 

 

 

「わかりました!倒したらすぐに加勢しますのでお待ちを!」

 

 

 

「すぐに終わらせます!一気に片付けるよ!セキガ!」

 

 

 

「ああ!」

 

 

 

僕が1体を相手にし、二人にはもう1体の方を相手に取ってもらった。これで、僕の邪魔をする空泳巨大鮫(メガロドン)は居なくなった事だし・・・・・・早速やらせてもらうとしますか!僕はすっと・・・・・・剣を抜いた。

 

 

 

「『身体強化』発動・・・・・・っ!すごい、戦闘では初めて使ったけど・・・・・・体が一気に軽くなった感じだ。以前から、使い勝手がありそうなスキルだって思ってたけど、これは・・・・・・って、危なっ!?」

 

 

 

以前、『魔物使い(マヲスベルモノ)』の効果でカレンから受け取ったスキルである『身体強化』を今回、鍛錬以外で初めて使用し、その効果に舞い上がって油断してた僕に、空泳巨大鮫(メガロドン)が容赦なく体当たりを仕掛けてきた。だけど、油断していたからと言って、対応出来ないとなる程、今の僕は弱くはなかった。『身体強化』の効果もあって、敏捷性(アジリティ)が飛躍的に上がった僕は、その体当たりを難なく躱し、そのままステップを踏み、隙だらけとなった空泳巨大鮫(メガロドン)の側面へと回り込んだ。・・・・・・そして、これまでの剣術の鍛錬で身につけた初めての()()()()()を、見舞った。

 

 

 

「喰らえ!『水輪覇斬(すいりんはざん)』!」

 

 

 

僕が横なぎに剣を振ると同時に、幾多もの水の輪っか・・・・・・水輪が勢いよく空泳巨大鮫(メガロドン)に向かって襲いかかって行き、その水輪が空泳巨大鮫(メガロドン)の肉体を次から次へと斬り裂き、または肉を抉り取っていった。この技は、『水操作者(ミズオペレーター)』との合わせ技で、この剣に水の属性を『水操作者(ミズオペレーター)』で付与し、『身体強化』で僕の身体能力を底上げして、剣の振りを強化したことでようやく完成することの出来た技だ。もちろん、それだけで簡単にできる技でも無かったので、今まで時間が空いた時にはこの技の練習をしていた。最初は、剣に上手く属性を付与することが出来ないで、暴発させてしまったり、剣の振りが弱くて水輪が出来なかったりなどしてたけど、努力の末、ようやくこの技を習得することが出来たんだ。・・・・・・正直すっごく嬉しかった!

 

 

 

空泳巨大鮫(メガロドン)はどうなったかと言うと、僕のこの技によって・・・・・・もう見る影もないくらいにズタズタに斬り裂かれていて、すでに絶命していた。う、うん・・・・・・ソウエイ達に対して、えげつないとか言ったけど・・・・・・僕も人のこと言えない気がする。

 

 

 

「あ、そういえば二人は・・・・・・」

 

 

 

「『剛槍龍昇撃(ごうそうりゅうしょうげき)』!」

 

 

 

「『龍光・斑(りゅうこうまだら)』!」

 

 

 

 

「大丈夫そうだね、うん」

 

 

 

剣をしまい、二人の方へ視線を向けると、すでに空泳巨大鮫(メガロドン)は虫の息となっていて、最後のトドメとして二人が大技を繰り出して終いと言う状況だった。虫の息の空泳巨大鮫(メガロドン)に対して随分と大掛かりで高威力な技を出したもんだ・・・・・・。そのせいでもう跡形も無くなっちゃってるし、空泳巨大鮫(メガロドン)・・・・・・まぁ、いいけどね?

 

 

 

「エリス様!こちらは終わりました!そちらは?」

 

 

 

「僕も倒したよ。・・・・・・それにしても、相変わらずキミたちは強いし、凄いね?上司として鼻が高いよ」

 

 

 

僕がそう二人を褒めると、途端に二人の顔が赤く紅潮した。・・・・・・照れてる姿も可愛らしいな。

 

 

 

「そ・・・・・・そんなことは・・・・・・え、エリス様の方こそ、素晴らしい戦いぶりでした!改めて、エリス様の偉大さ、凄さを実感しました!それに、あの戦ってるお姿はまるで・・・・・・”水を司る聖女様”の様で、かっこよかったです!」

 

 

 

「オレもそう思いました!なんかこう・・・・・・”戦う女神様”みたいな感じで、すっごく可憐でかっこよかったです!」

 

 

 

「う、うん?褒めてくれて嬉しいけど・・・・・・」

 

 

 

お返しと言わんばかりに、僕を褒め称えてきた二人だったけど・・・・・・・・・・・・改めて言わせて?僕・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”男”だからねっ!!!?




エリスは、リムルよりも女性に近い容姿ですからね。二人の感想もどこか納得してる自分がいます。



それと、勘違いしている人もいらっしゃると思いますので、ここで言っておきます。エリスは決して本人が言っているほど弱くはありません。流石にリムルほどは強くはありませんが、少なくともそれに次ぐくらいの力を持っています。ただ、エリスは基本的にサポートに徹していることが多いため、あんまり”強い!”と言う描写を書くことが出来なかったのが、もしかすると読者の皆さんに勘違いを促してしまう原因となってしまったのかもしれません。今後はもっと戦闘の描写を増やしていこうと思っているので、今後のエリスの活躍にご期待ください。



水輪覇斬(すいりんはざん)


エリスのオリジナルの剣技。横なぎの一閃で敵に対して無数の水輪を飛ばし、一気に対象を斬り刻む技。水輪を辺りに多数飛ばす事も可能なため、広範囲に攻撃をする事も可能。この剣技は今の段階では、エリスは『身体強化』と『水操作者(ミズオペレーター)』を発動していないと、使用することが出来ない。



剛槍龍昇撃(ごうそうりゅうしょうげき)


セキガの技。螺旋状に回転しながら敵の下方から上方へ向かって勢いよく槍を突く技。彼が持つ『剛力』を加えながら放つと、さらに殺傷力が向上する。



龍光・斑(りゅうこうまだら)


カレンの技。自身の魔力を槍に付与し、攻撃力を上げたことで紫色の光を纏う様になった自身の槍で、次々と敵に刺突を浴びせる技。刺突の速度が増しているため、回避するのは非常に困難。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着の時

タイトルにある通り、今回で決着です。


僕達が空泳巨大鮫(メガロドン)を倒し、残りは善戦してたゴブタ達のところの空泳巨大鮫(メガロドン)だけとなっていた。だが、見たところ、傷は負わせているけど決定打を与えられていないのか、未だに空泳巨大鮫(メガロドン)は存命だった。

 

 

「助太刀しよう・・・・・・あ、ハクロウが行ったか。なら問題ないね」

 

 

仕方ないと思い、ゴブタ達に加勢するべく地面を蹴ろうとした僕だったけど、今まで戦況を見つめていたハクロウが先に彼らの助太刀に入った為、やめることにした。ハクロウは、一瞬で空泳巨大鮫(メガロドン)との間合いを詰めると、そのまま空泳巨大鮫(メガロドン)をサイコロステーキのように切り刻んで、命を刈り取って行った。さすがハクロウ、師匠は伊達じゃないってことか。

 

 

「ゴブタ、それに貴様らも、この程度の敵に苦戦するようでは修行がまだまだ足りんらしいな?今後は、修行の時間をもっと増やすとするかのう?」

 

 

「いや!それは待つっすよじじ・・・・・・」

 

 

「何か言ったか?」

 

 

「い、いえ!何でもないっす!」

 

 

ゴブタ、それに他のみんながすっごく憐れに感じるけど、僕もハクロウの弟子である以上、彼の決定を覆すことなど出来そうにない(僕が意見したらある意味、僕にも飛び火しそうだからね。)。だからせめて、彼らがハクロウの地獄の指導から無事に生きて帰れるよう、願っておいた。・・・・・・きばってね、ゴブタ。

 

 

 

「主様!お待たせしました!」

 

 

 

「ヒョウガ。ご苦労様。天翔騎士団(ペガサスナイツ)達はもうすぐ来るかな?」

 

 

 

「トレイニーさん達の案内もあって、もう数分後には到着する模様です」

 

 

 

「分かった。ありがと。じゃあ、ヒョウガはこのままこの場で僕たちの援護をしてくれ」

 

 

 

「おまかせを!」

 

 

 

役目を終えたヒョウガが、そのまま僕の傍にくっつく。さっきまでヒョウガがいなかったのは、ヒョウガにはさっきトレイニーさん達が援軍として呼んでいたドワルゴン国の天翔騎士団(ペガサスナイツ)の様子を見に行ってもらっていたからだ。援軍が早く来るに越したことはないからね。来る時間とかは把握しておきたかったんだ(ヒョウガに命じた際に、非常に寂しい顔をされてしまったけど『後で愛でてあげる』って言ってあげたら途端に元気そうに頷いたことについては内緒だ)。

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、特に苦戦するまでもなく、空泳巨大鮫(メガロドン)達を殲滅した僕達は、今回の本来の目的の対象である暴風大妖禍(カリュブディス)へと視線を向けた。

 

 

「リムル!こっちは終わった。後は暴風大妖禍(カリュブディス)だけだ!」

 

 

「サンキュー!さて、暴風大妖禍(カリュブディス)?もうお前の部下達はいないぞ?高みの見物もそこまでにして俺達とさっさと・・・・・・って、なんだ?」

 

 

 

リムルが挑発するように暴風大妖禍(カリュブディス)を牽制していると、何やら暴風大妖禍(カリュブディス)から妙な音が聞こえ始めてきた。・・・・・・なんだろう?何か奴の鱗が軋んでるような音がしてるし、それになんだか、さっきよりも鱗がちょっと逆立っている様な気が・・・・・・。

 

 

 

その不快な音の正体が分かったのはこの数瞬後だった・・・・・・。

 

 

 

「っ!!何だこれっ!?う、鱗が大量に・・・・・・!!」

 

 

 

《解。暴風大妖禍(カリュブディス)の攻撃手段の一つである、”暴風の乱鱗雨(テンペストスケイル)”です。攻撃範囲が格段に広く、一撃一撃の威力はかなりの強さを誇っている模様です。》

 

 

 

「(まいったな・・・・・・これだけの鱗を全て防ぐって言うのはちょっと無理があるし、僕が持ってるスキルじゃとてもじゃないけど全てを受け流せる自信は無い。となると・・・・・・・・・・・・)」

 

 

 

僕はその時、一瞬だが以前から試行錯誤していて、練りに練って指導者(ミチビクモノ)さんと共に作り上げている”ある一つのスキル”のことが頭をよぎった。これは言ってなかった事なんだけど、僕はこれまで、剣の鍛錬だけを行なっていたわけではなく、スキルの構築や整理、練度の向上なども同時に行なっていたんだ。そのスキルとは、その際に僕が思い付いた”一種の技”のことを表している。確かにあのスキルであれば、この攻撃も容易く相殺出来るだろう。・・・・・・だが。

 

 

 

「(だめだっ・・・・・・あのスキルはまだ未完成・・・・・・。下手な状態で使用すれば、暴発、もしくは”命を縮める”ことだってあり得る。今、この場で使用することは得策じゃない・・・・・・となると、やっぱり(リムル)に頼るしかないよね・・・・・・)」

 

 

 

僕に出来ることが無い以上、もうリムルを頼るほか無かった僕は、取り敢えず攻撃を喰らってもある程度の怪我で済む様、『応援者(コブスルモノ)』でこの場にいる全員にバフを掛けておいた。

 

 

 

「避けられぬなら、突き進むまで!行きますよランガ!」

 

 

 

「承知!」

 

 

 

「「何やってる(の)!?」」

 

 

 

雨のように降り注ごうとしている暴風の乱鱗雨(テンペストスケイル)に対して、『真っ向からねじ伏せにいこう!』と言うなんとも無謀な作戦に打って出ようとしたシオンとランガを、僕とリムルが二人の前に立ちはだかる形で止めに入った。潔いけど、あれをまともに受けて仕舞えばいくらシオンとランガとは言え、タダでは済まないだろうからね。

 

 

 

「・・・・・・ったく、こう言う時くらい俺を頼れっての。・・・・・・あとは任せろ」

 

 

 

「・・・・・・申し訳ありません」

 

 

 

「大丈夫。キミたちの気持ちはしっかりと受け取ったから。後は僕たちに任せて・・・・・・って言いたいところなんだけど、正直僕にもお手上げなんだよね、この状況は。・・・・・・ごめんだけど、またリムル・・・・・・キミに頼っていいかな?」

 

 

 

「ああ。・・・・・・行くぞ。『暴食者(グラトニー)』!」

 

 

 

リムルが暴風の乱鱗雨(テンペストスケイル)に向かって片手を翳すと、そこから『暴食者(グラトニー)』が発動し、『捕食』と『腐食』の効果でそのまま前方にあった暴風の乱鱗雨(テンペストスケイル)をものの見事に消し去って見せた。うん・・・・・・さすがチートスライム。相変わらず規格外な事・・・・・・。まぁ、もう見慣れた光景だから、僕も大して驚かなかったんだけどね?

 

 

 

「やれやれ、相変わらずすごい事するね、キミって?」

 

 

 

「そうかな・・・・・・って、なんか呆れてないかお前?」

 

 

 

「気のせいでしょ。さて、攻撃も食い止めたことだし、早いとこ暴風大妖禍(カリュブディス)を倒そうか。またいつ、さっきの攻撃が来るか分かんないしね?」

 

 

 

「だな。やるか!」

 

 

 

 

暴風大妖禍(カリュブディス)との決戦が今・・・・・・始まった。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

暴風大妖禍(カリュブディス)との戦いはまさに、熾烈・・・・・・と言った感じだった。さっきのリムルの攻撃のおかげで、暴風大妖禍(カリュブディス)の攻撃対象はリムルへと移り、僕たちは攻撃しやすくなった訳なんだけど、それでも所々で放つ”暴風の乱鱗雨(テンペストスケイル)”や”怪光線”の影響もあって、かなり苦戦を強いられていた。何より厄介なのは、やはり『魔力妨害』と『超速再生』だった。僕たちの攻撃は、魔力や魔素を媒介とするスキルや技が多い為、どうしても『魔力妨害』の影響を受けてしまうことが非常にきつい。おまけに攻撃が通ったとしても『超速再生』ですぐに再生されてしまう為、正直体力よりも精神的にキツくもなってくるんだ。僕も必死に剣技等で応戦して行くけど、僕のさっき使った『水輪破斬(すいりんはざん)』は、『身体強化』と『水操作者(ミズオペレーター)』を発動していないと使用することが出来ない。もちろん、そう言ったスキルも『魔力妨害』の影響を受けるため、いつもよりも中途半端な『水輪破斬(すいりんはざん)』をお見舞いするしか無くなっていた。だが、そんな攻撃も奴の楯鱗一枚を傷付けるだけに終わる。

 

 

 

途中でトレイニーさん達や天翔騎士団(ペガサスナイツ)達が援軍として合流し、加勢したが、あまり自体は好転しなかった。むしろ、余計激しく暴風大妖禍(カリュブディス)が攻撃を仕掛けてくる様になり、こちら側に怪我人が続出し始めた。一応、回復薬(ポーション)は持ち合わせているけど、数には限度がある。それにこの戦いは・・・・・・ぶっちゃけかなり長くなると思えるため、なるべく回復薬の消費は避けたかった。・・・・・・それなら、”あのスキル”の出番かな。僕は、戦いに集中しているリムルに思念を飛ばした。

 

 

 

「(リムル。怪我人が増え始めた。このまま放置してると命が危ない。)」

 

 

 

「(分かってる。それなら回復薬(ポーション)で・・・・・・)」

 

 

 

「(いや、戦闘はまだ序盤・・・・・・ここで無駄に回復薬(ポーション)を消費すると、いずれ底をつくことは間違い無いと思う。)」

 

 

 

「(じゃあ、どうするって言うんだ?見捨てろって訳じゃ無いだろ?)」

 

 

 

失礼な。大事な国民を見捨てるほど僕は馬鹿じゃないし、堕ちてもいないよ。

 

 

 

「(うん。実は僕には、以前会得したばかりの”人を回復させることのできるスキル”があるんだ。だから今回はそれを使う。)」

 

 

 

「(回復できるとかマジかよ・・・・・・『応援者(コブスルモノ)』だけじゃ飽き足らず、次は回復のスキルってか?やっぱお前ってチー・・・・・・)」

 

 

 

「(キミにだけは言われたくないよ?と言うわけで、ここからは僕は戦闘とサポートを兼任してやるからそのつもりでいてね?じゃあ!)」

 

 

 

一方的に『思念伝達』をきった僕は、すぐさまシュナが怪我人を集めた場所まで駆けた。

 

 

 

「シュナ。怪我人はこれで全員かな?」

 

 

 

「エリス様?はい、怪我をされた方は全員ここに集まってもらってますけど・・・・・・」

 

 

 

「分かった。話は後で、とりあえず怪我をした人はここに集まって!僕が治療するから!」

 

 

 

僕が治療するという言葉に、シュナを含めたその場にいた全員が首を傾げる。口で言うと長くなりそうだから、ここは”論より証拠”で行こう!

 

 

 

「『治癒(ヒール)』!」

 

 

 

「お、おお・・・・・・身体の傷が・・・・・・」

 

 

 

僕が傍にいたハイオークの一人に『治癒者(イヤスモノ)』の能力である『治癒(ヒール)』を掛けると、途端にその人の全身にあった傷が元通りに修正されていった。その光景を見てたシュナ達は、もちろん驚いていた。

 

 

 

「これで分かった?僕が言ったことが」

 

 

 

「す、すごいです!エリス様、そんなことまで出来たんですね!尊敬します!」

 

 

 

「そ、そう?ありがと。じ、じゃあ、みんな並んで!治療するから!」

 

 

 

シュナに褒められ、照れ臭くなった僕はそれを隠すようにみんなを治療していった。『治癒(ヒール)』の効果は、僕が思っていた以上で、大怪我ならいざ知らず、体の部位の欠損をしていた人でさえ治してしまうほどに回復力が強かった。これは最早、完全回復薬(フルポーション)と同等の回復力を持ち合わせていることになる。・・・・・・魔素はちょっと持って行かれるけどね?

 

 

 

それから数十分後、ようやく全ての怪我人の治療を終えた僕は、再び戦闘を開始した。始めと比べて、動きが若干鈍くなった印象のある暴風大妖禍(カリュブディス)だが、やはり『ヴェルドラの申し子』なだけあってか、まだまだ体力の底を見せそうに無い暴風大妖禍(カリュブディス)。はぁ〜、やっぱりこれは長くなりそうだね・・・・・・。

 

 

 

その後の僕は、戦っては負傷したみんなの治療、戦っては治療、戦っては治療・・・・・・を延々と続けることとなるのだった。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

暴風大妖禍(カリュブディス)との戦闘が始まって、10時間近く経った。結果から言うと、まだ暴風大妖禍(カリュブディス)は倒れていない。確かに消耗している様子は見えるけど、それでもまだ倒れるほどでは無いのか、いまだに空中を悠々と浮遊しながらこちらに攻撃を仕掛けていた。そろそろ倒れてくれないといい加減泣きたくなってくるよ僕も・・・・・・。冗談はさておき、リムルはともかく、みんなはそろそろ限界に近いし、僕の魔素(エネルギー)もそろそろきついと言う状況にあった為、このまま倒れないのであれば、一時撤退を余儀なくされることも考えた方が良さそうだ。

 

 

 

「どうしたものか・・・・・・ん?」

 

 

 

《告。暴風大妖禍(カリュブディス)より生体反応を確認しました。物質体(マテリアルボディー)を持たない暴風大妖禍(カリュブディス)から生体反応が確認されることは極めて異常です。生体反応があるとするならば・・・・・・。》

 

 

 

「依代の方が生体反応を示してるってことなのかな?」

 

 

 

暴風大妖禍(カリュブディス)が生体反応を示さないことに少々驚いた僕は、改めて暴風大妖禍(カリュブディス)を目視する。

 

 

 

「うむ?この感じ、覚えがあるぞ?・・・・・・確か、ワタシが一撃でのした”フォビオ”とか言う魔人だな」

 

 

 

「え、フォビオさん!?あれがっ!?」

 

 

 

僕の近くに来ていたミリムが、竜眼(ミリムアイ)暴風大妖禍(カリュブディス)を視認した所、あれが以前会った魔人のフォビオさんが依代となって生み出されたものだと知り、僕を含めたその場にいた全員が驚く。・・・・・・と言うことはだ。つまり暴風大妖禍(カリュブディス)は、依代であるフォビオさんの意思でこの国を目指してたって事だよね?しかも、暴風大妖禍(カリュブディス)の口から妙に『ミリム・・・・・・ミリム・・・・・・』とぼやきながらだ。これだけで、僕はなんとなく察することが出来た。おそらく暴風大妖禍(カリュブディス)の目的は・・・・・・。

 

 

 

「リムル!エリス!どうやらあの魚はワタシの客の様だぞ!客が来てるのであれば、ワタシが対応せねば失礼なのだ!もうワタシが手を出しても良いだろう?」

 

 

 

うん、そう言うだろうと思っていたよミリム・・・・・・。でも、暴風大妖禍(カリュブディス)の目的がミリムと分かった以上、ミリムも無関係では無くなった訳だし、もうミリムに任せて良い気がする・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・分かったよ。とりあえず、みんなを避難させるから暴れるのはちょっと待て。このままじゃみんなを巻き添えにしかねないからな」

 

 

 

「僕が言っておくよ。『死にたく無かったら避難してね』って・・・・・・」

 

 

 

「まさにそうだよな・・・・・・」

 

 

 

僕はそのまま、みんなに避難をするよう思念を飛ばした。さっきのは冗談っぽく言ってるけど、案外これってマジだったりする。普段はあんななりをしているミリムだけど、彼女はここら一帯など平気で消し飛ばすことなんて訳もないほどの強さを誇る”魔王”でもあるからね。みんなには全力で避難の警告をしておかないと、暴風大妖禍(カリュブディス)と一緒に消されるってオチになりかねない為、何度もみんなには言い聞かせた。

 

 

 

数分後、みんなの避難が終わると、ミリムが飛翔し暴風大妖禍(カリュブディス)と同じくらいの高さにまで上昇した。・・・・・・何する気だろう?

 

 

 

「ミリムー!出来れば、依代のフォビオだけは殺さないでくれ!魔王カリオンの配下を始末してややこしい事態にはしたくはないからな!」

 

 

 

あ〜・・・・・・確かにね。一応魔王カリオンさんは僕たちの元に使者を派遣してる身だから、それが僕たちに殺されたとあっては、怒って攻めてくる可能性もあるし、リムルのその判断は妥当だろう。

 

 

 

 

「任せるのだ!最近は手加減を覚えたしちょうど良いのだ!さて・・・・・・見せてやろう。これが・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手加減と言うものだ!」

 

 

 

ミリムが叫ぶと同時に、彼女の両手から光の光弾が現れる・・・・・・明らかに尋常じゃない魔力と魔素(エネルギー)が込められてる気がするんだけど・・・・・・本当に手加減してるのかね?

 

 

 

 

「行くぞっ!『竜星拡散爆(ドラゴ・バスター)』!!!」

 

 

 

ミリムが放ったその強力な一撃は、青白い光と、複数の気弾を伴い暴風大妖禍(カリュブディス)へと襲いかかっていった。それはまさに流星群を思わせるような攻撃で、見ていて何処か爽快さを覚えるような感じだった。暴風大妖禍(カリュブディス)はこの攻撃になす術もなく駆逐され、影も形もないほどに粉々にされていた・・・・・・。あの、僕たちが総力を上げて、10時間以上を掛けて戦っても倒しきれなかった怪物をだ・・・・・・。この攻撃と、暴風大妖禍(カリュブディス)の成れの果てを目撃して、僕は改めて決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミリムとは・・・・・・ぜっっっったいに敵対関係にはならないでおこう!!




フォビオの救済は次回に持ち越しです。救済したその後は・・・・・・まだ未定です。閑話を挟むか、さっさとストーリーを進めるか迷い中です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

来訪!魔王カリオン

暴風大妖禍(カリュブディス)編、完結です!


ミリムの凄まじい攻撃により、暴風大妖禍(カリュブディス)は消滅した。だが、言った通りに手加減してくれたのか、依代であったフォビオさんはちゃんと無事に救出することが出来た僕たちだったけど、そこで一つ問題が発生した。それは・・・・・・。

 

 

 

「えっ?あと一時間もすれば、また復活しちゃうってどう言うこと?」

 

 

 

「その言葉の通りだ。このまま俺たちがフォビオに対して何も処置をしなかった場合、また暴風大妖禍(カリュブディス)は復活する」

 

 

 

「な、なんで・・・・・・」

 

 

 

《解。個体名”フォビオ”と、個体名”暴風大妖禍(カリュブディス)”の魔核の融合率がほぼ完全に近い状態となっているが為と推測します。復活を阻止するには、両者を分離させるしか方法が存在しません。》

 

 

 

分離と言ったって、どうやってこの両者を引き剥がすって言うのっ!?ほとんど両者が融合しちゃってる以上、引き剥がすのは非常に困難にも思えるんだけど?だって、暴風大妖禍(カリュブディス)は確か”精神生命体”だったはずだから、依代としてるフォビオさんの体から離れた途端、逃げ出してしまう可能性がある。そうなってしまえば、暴風大妖禍(カリュブディス)はまた別の依代を見つけて、今回と同じように融合して復活してしまう。これは・・・・・・かなり、まずいんじゃ?

 

 

 

「リムル、どうするのだ?」

 

 

 

「安心しろ。すでに対策は練ってる。『変質者』でこいつらを分離させたら、出てきた暴風大妖禍(カリュブディス)を『暴食者(グラトニー)』で喰いつくす。それで万事解決だろ?」

 

 

 

「万事解決って・・・・・・しかもリムル?しれっと言ってるけど結構今から自分がすることってかなり凄くてやばいことだからね?ユニークスキル二つを並列起動って・・・・・・もういいや。リムル、フォビオさんを助けてあげてくれ」

 

 

 

一つのユニークスキルを使うだけでもかなり消耗するって言うのに、このチートスライム(リムル)は平然と並列起動をこなすって発言したことに、小さくため息を吐く僕。でもまぁ、リムルのそのやり方はどうやら理にかなってるようだし、他に良い案も無かったから、僕はそのやり方に賛成した。

 

 

 

「ああ。それとエリス、一応俺に『応援者』でバフをかけておいてくれ。能力の制御がしやすくなるし、魔素(エネルギー)消費も抑えられるからな」

 

 

 

「うん、了解。じゃあ頼むよ」

 

 

 

僕が『応援者(コブスルモノ)』でリムルを強化したこともあって、特に何の問題も起こらずに、フォビオさんの手術という名の救済は、成功した。

 

 

 

・・・・・・とりあえず、これで一件落着で良いかもね。はぁ〜やれやれ・・・・・・だいぶ疲れた。早く帰りたいよ・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

救済に成功したフォビオさんは、僕がその後治療をした事もあって、すぐに意識を取り戻した(その間に避難してたみんなも戻ってきた)。意識を取り戻すと同時にフォビオさんは全力の謝罪姿勢・・・・・・つまり土下座をして、僕たちに今回の件のことを詫びてきた。とりあえず、頭を上げさせた僕とリムルは、詳しい事情を聞かせて貰った。

 

 

話を聞くに、どうやらフォビオさんは、”仮面を被った二人の道化”の人物達から暴風大妖禍(カリュブディス)の封印場所を教えられたのだとか。一人は、”怒り”の表情がペイントされ、少し肥えた男で、もう一人は”悲しみ”の表情がペイントされた小さな少女だったそうだ。この話になった時に、ベニマル達鬼人の表情が少し険しくなったけど、無理ないかもね。自分たちの故郷を襲ったオーク達を率いていたのがその仮面の男だって話だったんだし、恨むのも分かる気がする・・・・・・。

 

 

話が逸れたけど、その道化達はどうやら”中庸道化連”という組織の者らしく、またの名を”何でも屋”と言うのだとか。だけど、ミリム曰く、この計画の真の黒幕はその道化達ではなく、同僚の魔王の一人である”クレイマン”では無いかとのことだ。クレイマンは何かと企み事が好きで、よく魔王間で抜け駆けをする事も頻繁にあるから、そう思ったらしいけど、それだけでは何の確証も証拠もない為、とりあえずその魔王のことについては保留にしておき、今後はその道化達に気をつけると言う形で、話を終着させることにした。

 

 

 

「今日はお開きだ。みんなゆっくり休めよー!あ、フォビオも気をつけて帰れよ?」

 

 

 

「はっ!?いや、俺は許されないだろっ!?」

 

 

 

フォビオさんの叫び声が、辺りに響き渡った。フォビオさんの言うことにも確かに納得は出来る。自分はこれだけ僕たちに酷いことをし、怪我をさせ、かなり大きな迷惑を僕達と、主のカリオンさんにかけた訳なんだし、もう自分は絶対に許されないと踏んでいただろうからね。もしかすると・・・・・・端っから命を捨ててケジメをつける所存だったのかも知れない。それが、いきなり気軽に『帰っていいよ』なんて言われれば、動揺するのも分かると言うものだ。

 

 

 

「あなたのやった事に全部見て見ぬふりをする・・・・・・ことは出来ません。こちらもかなりの迷惑を掛けられましたからね。ですが、あなたはどうやら真犯人にただ利用されただけのようですし、こちらにも人的被害は特に無かったので、先程の謝罪でチャラと言う事にさせて貰いました」

 

 

 

「そう言うことだ。ミリムもそれでいいだろ?」

 

 

 

「うむ!一発殴ってやろうかと思っていたが、許してやるのだ!()()()()もそれで良いだろう?」

 

 

 

「「「えっ!?」」」

 

 

 

僕、リムル、フォビオさんの声が一斉にハモる。・・・・・・今なんて言った?カリオン?・・・・・・もしかして・・・・・・?僕たちはゆっくりとミリムの視線の先へと顔を向けた。するとそこには・・・・・・。

 

 

 

「バレてたのかよ?相変わらずすげーなミリムは。・・・・・・よう。そいつ(フォビオ)を殺さずに助けてくれた事、感謝するぜ」

 

 

 

「か、カリオン様・・・・・・」

 

 

 

フォビオさんが”信じられない!”といった表情でカリオンさんを凝視していた。・・・・・・この人が魔王カリオンさんか。気配を全く感じ取れなかったけど、どうして今この場にいるんだろ?

 

 

 

「あんたが魔王カリオンか?わざわざそっちから出迎えてくれるなんてな。・・・・・・俺はリムル=テンペスト。この森の魔物達で作った国である魔国連邦(テンペスト)の盟主だ。よろしく」

 

 

 

「(リ、リムル・・・・・・魔王に対してこの物言い。・・・・・・相変わらず肝が据わってるというか・・・・・・唯の礼儀知らずって言えば良いのか・・・・・・)」

 

 

 

「おう、よろしくな。それにしても、たった一匹のスライムが国を興すなんてな・・・・・・・・・・・・お前、豚頭帝(オークロード)を喰ったろ?」

 

 

 

「その通りだが、何か問題でもあんのか?」

 

 

 

スライムから人の姿へと姿を変え、半ば挑発的にカリオンさんに対してぐいぐい発言をするリムル。・・・・・・うん、流石に止めに入った方が良さそうだね。変に刺激してここで”魔王と一戦!”なんてなって欲しくないし・・・・・・。

 

 

 

「失礼だよリムル!す、すいません。リムルも決して悪気があって言っている訳じゃなくて・・・・・・」

 

 

 

「ははっ!わかってるよ、んなことは。・・・・・・って、お前、ゲルミュッドをぶっ倒したあの青髪のガキじゃねーか。お前もかなりの魔素(エネルギー)を持ってるようだな?このスライム程じゃねーが、お前も上等な傑物だな。・・・・・・お前、名はなんて言うんだ?」

 

 

 

「僕は、エリス=テンペスト。一応魔国連邦(テンペスト)の副盟主をやらせて貰ってます」

 

 

 

「こいつは俺の親友だ。俺ともども宜しく頼む」

 

 

 

「リムルにエリスだな?俺は獣王国(ユーラザニア)の王、獅子王(ビーストマスター)カリオンだ。宜しくな!」

 

 

 

とりあえず、衝突は防げた事にホッとした僕は、カリオンさんに今回来た目的を聞かせて貰った。と言っても、目的は非常にシンプルで単に自分の配下の醜態の尻拭いをしに来たのだとか。その尻拭いとは、主に僕たちへの謝罪と、何か僕たちに対して詫びをする、の二つだった。こちらとしては、そもそもフォビオさんを最初っから許す気でいた為、カリオンの謝罪は受けても、それ以外のことは受け取る気は無かったけど、カリオンさんが頑として譲らなかったため、仕方なく『獣王国(ユーラザニア)魔国連邦(テンペスト)に牙を向けない』と言う国間での不可侵協定を結んでもらう事にし、カリオンさんには、帰って貰った(帰る際に、フォビオさんのことを今回の罰として、一発容赦なく殴りつけていたけど・・・・・・フォビオさん、死んでないと良いな・・・・・・。)。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

視点 リムル

 

 

暴風大妖禍(カリュブディス)の一件から数日経った。色々あってみんな疲れもあったようだったが、今ではようやく落ち着いた生活を取り戻していた。戦いを見届けてくれたヒューズ達は、俺たちと友好関係を築いて貰えるよう、国王を始めとした貴族を説得するためにブルムンド王国へと帰っていき、共闘して貰ったドワーフ王国には後日、この件について詳しく報告をさせて貰った(その際にガゼル王から正式な招待状をもらったのは正直ビビった)。

 

それからさらに数日後、協定を結んだ国同士で交易を行いたいとの事で、獣王国(ユーラザニア)からフォビオが再び使者として派遣されてきた。流石に二度目と言う事もあり、フォビオも態度を改め、慇懃な態度で使者としての役目を務めていた。・・・・・・人って変わるもんだよな〜。

 

 

それはともあれ、ようやく俺たちの国はちゃんと『国』らしくなってきた。おそらくこれからは、国として政治的な駆け引きなんかも必要になってくるから、そこも今後の課題としてみんなと話し合ってみる事にするか。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ミリムは何で魔王になったんだ?」

 

 

 

そんな忙しい毎日を過ごしていたある日、俺は戦闘訓練に付き合って貰っていたミリムに唐突にそう尋ねる。平和になったからと言って、俺は日々の鍛錬は欠かさないでいた。いつどこで強大な敵が出たとしても、立ち向かって行けるようになりたいし、魔王レオンを殴るって言う目的もあるしな。休んでなんて居られなかった。だから、同じ魔王であるミリムに相手をお願いした訳なんだけど、やっぱりミリムは規格外に強く、俺のスキルやら攻撃やらはまるっきり通用しなかった。やれやれ、まだまだだな、俺も・・・・・・。

 

 

話が逸れたが、その場で一緒に戦闘訓練に参加していたエリス(ミリムに強引に誘われた)も、俺と同じ疑問を抱いていたのか、休憩をしながら静かに聞く耳を立てていた(ちなみにエリスの攻撃もまるで通用しなかった)。

 

 

 

「ん?何でって・・・・・・何だろうな?何か嫌な事があって・・・・・・ムシャクシャしたから?」

 

 

 

「いや、僕たちに聞かないでよ・・・・・・。もしかして、理由を忘れちゃったとか?」

 

 

 

「もう随分前の話だからな。そんな事、とうの昔に忘れてしまったのだ!」

 

 

 

いや・・・・・・魔王になるきっかけの出来事を『そんな事』で片付けるなよ・・・・・・。相変わらず、ミリムはミリムだよな。だが、こんなでも、魔王の中でも最古参の一柱だって言うんだ。古参であればある程気が遠くなるほど長い年月を生きてるらしいから、ミリムがさっき言っていた”とうの昔に忘れてしまった”って言うのは案外間違ってないのかも知れないな(この見た目と性格からはとてもそうは見えないがな?)。多分俺だってそんなに生きてたら、思い出ごとの一つや二つは絶対に忘れるだろうしな。

 

 

 

「家族はいないのか?心配してくれる人とか?」

 

 

 

「ワタシの世話をしてくれる者共はいるが、家族でも無ければ友でも無いな。そいつらはただワタシのことを世話するだけで、ワタシが魔王で”サイキョー”であるから心配など微塵もしてくれないのだ。むしろ心配することすら畏れ多いとされているから、友や家族と言うよりも、家来とか信者に近いのかもな」

 

 

 

「まぁ、ミリムなら特に心配はいらなそうだしね。でも・・・・・・それだと寂しくないの?」

 

 

 

「全然そんなことないのだ!だって、ワタシにはリムルとエリスという大事な親友(マブダチ)がいるのだからな。寂しい訳なんてないだろう!」

 

 

 

「「・・・・・・っ!」」

 

 

 

そのミリムの、裏表ないハッキリとした物言いに、俺とエリスは途端に照れ臭くなった。そりゃ、こんな可愛い少女に面と向かって”大事な親友(マブダチ)”なんて言われたら誰だって気恥ずかしくなる。

 

 

 

「ミリムがそう言ってくれて嬉しいよ!僕もミリムと一緒にいると楽しいから、これからも仲良くしてね!」

 

 

 

「そうだな。これからも宜しくな、ミリム」

 

 

 

「もちろんなのだ!」

 

 

 

この日を境に、俺たちの友情の絆がまたさらに深まったような気がした。それから数日後、ミリムは突如、仕事に行くと言い出してこの国から飛び出していった。何でも、他の魔王達に会いに行くそうで、ついでにこの国”魔国連邦(テンペスト)”に手出しせぬように言い聞かせてきてくれるのだとか。そうして貰えるならこっちとしてはかなり嬉しい事なんだが、しばらくミリムと会えないと言うことを考えると少し寂しさを覚えてしまう自分がいた。本人は終わればすぐに帰ってくると言っていたが、いつ帰ってくるかは分からずじまいだったしな。なんだかんだ言って、ミリムとの生活は慌ただしかったが、賑やかで楽しかった。多分、それはエリスも他のみんなも同じだろう。

 

 

だから、今度帰ってきた時は、俺があいつにあげた武器(ドラゴンナックル)の他にも、何か盛大なプレゼントをしてやると意気込んだ俺だった・・・・・・。




次回はまだ未定です。閑話か、ストーリーを進めるか・・・・・・とりあえず、ちょっと考えます。


お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話③ 開院!エリス診察院!

悩んだ末、閑話にしました!


視点 エリス

 

 

 

「よしよし、もう大丈夫だからね?・・・・・・まだどこか痛むかな?」

 

 

 

「ううん!エリス様のおかげで転んだとこの痛さなんてどこかに行っちゃったよ!ありがと!」

 

 

 

「うん、よかった。じゃあ、気をつけて帰ってね」

 

 

 

「バイバイ!」

 

 

 

ゴブリンの少女のその嬉しそうに駆けていく姿を見て、僕はすっと笑みを浮かべる。彼女はさっきまで、町の道端で転んでべそをかいていて、偶然通りかかった僕が『治癒(ヒール)』で治してあげたんだ。この町の子供たちは、元気で落ち着きのない子がたくさんいる為なのか、よくさっきの少女みたいに怪我を作ることがしばしばあったため、僕自身少しソワソワしていた。僕だっていつもいつも子供達のそばにいる訳でもないし、仕事で忙しい時だってある。そんな時に子供達に怪我をされては、傷を治すことは出来ない。

 

 

 

「僕がいない場所で怪我をされても、困るし・・・・・・どこか、前世で言う”病院”みたいなところがあれば良いんだけど・・・・・・」

 

 

 

「病院?それは何ですか?」

 

 

 

「うん、それはね・・・・・・って、カレン!?いつの間に・・・・・・」

 

 

 

「いつの間にって・・・・・・最初からおそばに居たではありませんか。もしかして、近衛兵である私の存在を忘れられてたのですか?」

 

 

 

妙に黒い笑みを浮かべながら僕に詰め寄ってくるカレンに、僕は身震いしてしまう。あ、そういえば僕の家からずっとカレンには護衛として付き添って貰ってたんだっけ?・・・・・・さっきの子供の治療に集中してて、すっかり忘れてた・・・・・・。ちなみに、セキガは今日は別件の用があってこの場には居ない。

 

 

 

「ご、ごめんごめん。・・・・・・で、病院だっけ?それは怪我をした人とか、病気に侵された人とかを治療するためにある医療施設だよ。もし、そんな所があれば、僕もそこでみんなのことを治療できるのにな〜・・・・・・って思ってさ?・・・・・・カイジン達に相談でもしてみるかな〜?」

 

 

 

「なるほど・・・・・・それは名案ですね。その病院(?)が成り立てばエリス様の偉大さがもっと際立つでしょうし、住民の皆さんの怪我事情も解決します。早速実行に移しましょう!私は早速、カイジンさん達やシュナさん達に相談してきます!」

 

 

 

何故か目をキラキラ輝かせたカレンは、すごい勢いでその場から離れていった。

 

 

 

「へっ!?あ、カレンっ!?・・・・・・行っちゃった。護衛の任をほっぽりだして良かったのかな?・・・・・・それに、カイジン達はわかるけど、なんでシュナ達にまで相談に行く必要あるんだろ?」

 

 

 

その理由は、数日後に分かることとなるのだった・・・・・・。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「す、凄い・・・・・・たった数日で・・・・・・」

 

 

 

カレンがカイジン達に病院の設立について掛け合ってくれた数日後、カイジン達はいつものように電光石火の勢いで僕のイメージした通りの病院を作り上げてくれた。とは言っても、そこまで規模の大きな病院ではなく、どちらかといえば、少々小さめの医院と言った感じにして貰った。治療するのはあくまでも僕一人だから、そこまで規模を大きくしても仕方が無いという結論に至ったからだ。外壁はシンプルに白色で構成されていて、医院の中は”二部屋”で出来ていた。一つは僕が治療をする診察室。もう一つは待機と受付を行う受付室だ。

 

 

 

「どうだ、エリスの旦那。俺たちからしてもかなりの出来栄えだと思うが?」

 

 

 

「うん、バッチリだよ!ありがとカイジン、みんな!」

 

 

 

僕の想像を超える医院を作り上げたカイジン達にはしっかりとお礼を言い、カイジン達には帰って貰った。残った僕は、もう少しこの医院のことを眺めていたかったので、その場でしばらく佇んでいた。・・・・・・だが、そんな時だった。

 

 

 

「エリス様ー!!」

 

 

 

「ん?あれ、シュナ?どうかしたの?」

 

 

 

どこか慌てた様子で、シュナが僕の元へとやってきた。・・・・・・急ぎの用事でも出来たかな?

 

 

 

「カレンさんから頼まれていた、エリス様の()()が完成しましたので、ぜひ試着をお願いしたいのです!」

 

 

 

「・・・・・・はっ?試着?え、どういうこと?」

 

 

 

「話は後にしましょう!まずは来て下さい!」

 

 

 

「い、いや、状況を説明してってー!!」

 

 

 

訳もわからないまま、僕はシュナに何処かへと連れて行かれることとなった。・・・・・・というか、試着って言ったよね?・・・・・・この展開・・・・・・もしかしなくても・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すっごく似合っています!エリス様!」

 

 

 

「やっぱこうなるよねー・・・・・・」

 

 

 

前回と同じように、製作工房にまで連れてこられた僕は、早速お着替えをさせられた。で、今着てシュナに似合ってると言われたのが・・・・・・僕の()()姿()だった。白色のワイシャツと紺色のスラックスを着用し、首元を僕の眼と同色の赤色のネクタイで締めた上から、白衣を羽織ってる・・・・・・といった感じかな?その姿はまさに、ザ・医者!といった感じで、案外自分でも悪く無いと思ってしまっていた。地味に様になってるしね。

 

 

 

「この衣装の案を出したのは?」

 

 

 

「リムル様です!」

 

 

 

「だよね・・・・・・」

 

 

 

僕の時代の医者の姿形を知ってるのはリムルしかいないし、特に驚きは無かった。まぁでも、この衣装なら特段恥ずかしい事もないし、医院にいる時はこれを着用していよう。・・・・・・とりあえず、作ってくれたことにお礼を言おうと、シュナに視線を向けると・・・・・・そこには先ほどよりもさらに満面の笑みを浮かべたシュナが・・・・・・もう一つ、絶対に”医者、もしくは医療関係者だと思われるような衣装”を手に持っていた・・・・・・。・・・・・・もうわかるよね?白衣以外の医者にまつわる衣装と言ったらもう一つしかないし・・・・・・。

 

 

 

「エリス様!こちらの衣装もどうかお着になっては頂けませんか?」

 

 

 

「シュナ。・・・・・・一応聞くけど、それって・・・・・・」

 

 

 

「リムル様の話では、これは”ナース服”と言うものです。エリス様がお着になればきっともっとお美しくなられます。カレンさんも是非エリス様に着て欲しいと・・・・・・って、エリス様っ!?」

 

 

 

シュナが話し終わる前に、僕は颯爽とその場から逃げ出した。当たり前でしょっ!?ナース服なんて着たくないし、もうあんなメイド服着た時みたいな思いするのは懲り懲りなんだから!!それと、カレン!リムル!キミ達のことは後で絶対に説教するからね!!!

 

 

 

それからしばらく、町中で僕とシュナの追いかけっこが繰り広げられることとなるのだった(結局最後は、シュナの泣き落としにより、一回だけそのナース服を着用するハメとなった・・・・・・案の定、シュナやシオン、カレンには可愛いと褒められ、リムルには笑われた。)。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

医院を開いてから数日経った。『エリス診察院』と名付けられたこの医院には、毎日患者さんが訪れていて、まさに盛況といった感じで、改めて、この医院を作って良かったと思えた。開業時間は、基本的に僕の”空き時間”という事にしてる。つまり、かなり短い。何故なら、それ以外の時間は僕も仕事がある為、開業することが難しくなるからだ。だからなのかも知れないけど、仕事を終えて、医院にまで向かうと、まるで”待ってました!”とでも言わんばかりにたくさんの患者さんが行列を作って待ってたりするんだ。開業時間が短いからしょうがないのかも知れないけど、何でみんなこんなに患者さんとして来るのかね?特にゴブタ達狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)は、”一日に数回”の頻度で、僕の元を訪れていた。大方、ハクロウにこっぴどく指導されたからだと思うけど、治療して、また何度も戻って来るのは正直勘弁して欲しかった・・・・・・。

 

 

 

でも、患者さんが僕の元まで来てくれると言うのはとても嬉しいことなんだけど、これは素直に喜ぶべきなのかな?患者さんが来ないに越したことはないし、怪我や病気を起こしても良いことなんて一つもないからね。でも、患者さんが来たからには、僕は持てる力の全てを出し切って、治療を行ってるつもりだ。下手な治療をして、患者さん達に迷惑はかけたくないからね。

 

 

 

「エリス様。今日の患者さんは以上です」

 

 

 

「ありがと、セキガ。それなら、キミももう帰って良いよ。ご苦労様」

 

 

 

「はい、ではお先に失礼します」

 

 

 

開業時間が終わった為、受付の番をお願いしていたセキガには、先に帰って貰った。一応、この医院の受付はセキガとカレンが交代で受け持っていて、たまに、シュナがやってくれる事もあるが、基本的にはこの二人が行っている。ちなみに二人には、この医院に携わる者として相応しい格好になってもらおうと思い、セキガには僕と同じように普段着の上から白衣を着てもらい、カレンにはシュナ特製のナース服を着用してもらって、業務を行なって貰っていた。セキガもカレンも、これらの衣装を着ることに特に抵抗は無かったようで、意外とすんなり受け入れたことに、僕はどこかほっとした。

 

 

 

「エリスー!いるかー?」

 

 

 

「リムル?どうかしたの?」

 

 

 

そんな折、帰り支度をしていた僕の元にリムルが訪ねてきた。リムルが患者さんとして来ることはまず無い為、いつものように普通に受け答えをした。

 

 

 

「ちょっと様子を見に来ただけだ。ちょうど暇になったしな。今日もたくさん患者が来たんだって?」

 

 

 

「うん。大勢ね。・・・・・・思ったんだけど、この町ってこんなに怪我をする人達がいたんだね?この町で生活して結構経つけど、全然気が付かなかったよ・・・・・・」

 

 

 

「いや、そんな訳ないだろ?・・・・・・エリス、多分だがあいつら・・・・・・わざと怪我してお前のとこまで来てるぞ?」

 

 

 

「・・・・・・はい?」

 

 

 

リムルの言ってる意味がよくわからなかった為、思わず聞き返してしまった僕。・・・・・・ドユコト?

 

 

 

「お前の使う『治癒(ヒール)』が何とも心が暖かくなる感じで気持ちが良くて、病みつきになるやつが大勢いたんだそうだぞ?だから、何度もそれをやって貰いたいがために、怪我を作って患者として訪れてるんだと。・・・・・・ソウエイが調査した事だから間違い無いと思うぞ?」

 

 

 

「『治癒(ヒール)』にそんな効果無いから・・・・・・。それにしても、そんな感覚で僕の医院に訪れて貰っては困るから、後で注意しておかないと・・・・・・僕だって無限に治療できる訳じゃ無い訳だし」

 

 

 

「そうしとけ。・・・・・・にしても、お前って本当に優しいよな?俺たちや住民達のために、医院を作っちまうなんて。人間ならともかく、魔物なら体も頑丈だし、多少の傷だったらそんなに時間もかからずに治るんだぞ?」

 

 

 

「・・・・・・ううん。そう言う問題じゃ無いんだ」

 

 

 

リムルの言ったその一言に、僕は静かに首を横に振りながら否定する。確かに魔物は人間に比べて頑丈だし怪我も人間よりも早く治る。特に、魔国連邦(テンペスト)の住民達はみんな名持ち(ネームド)だから、さらに怪我をするリスクは減っているだろう(それでも、今回みたいに怪我をたくさん作って来る人達はいるんだけどね?)。だけど・・・・・・そう言う問題では無いんだよ、リムル。

 

 

 

「僕はね?こう言う性格もあって、みんなが怪我をしてるのを見てると、どうしても放って置けないんだよ。だって、みんなはこの国の大事な住民達だし、僕もすっごく大切に思ってるからね。だから、怪我とか病気なら早めに治してあげたいんだ。一日でも早く、みんなには笑顔になって貰いたいし。それと・・・・・・というか、これが僕が医院を建てた一番の理由だったんだけど・・・・・・僕にとって、みんなが怪我や病気で泣いてたり、苦しんでる姿を見るのは・・・・・・苦痛でしか無いんだ」

 

 

 

「エリス・・・・・・」

 

 

 

「だから僕はこの医院を開いたんだ。『誰のどんな怪我や病気でも、僕が必ずどんなことをしても治して見せる』っていう決意を持ってね。だから、魔物だから早く治るとか、そんなのは問題じゃ無いんだよ、リムル。・・・・・・でもまさか、わざと怪我を作ってくる患者さんがいるとは思わなかったけどね?」

 

 

 

「・・・・・・だな。お前がそれで良いっていうんなら、もう俺からは何も言わないさ(・・・・・・優しすぎないかこいつ?こいつが俺たちや住民達をかなり好いていることは前々から分かっていたが、この様子だともはや”聖女のような慈愛を持つエリス様”って住民達から呼ばれても不思議じゃないぞ・・・・・・?・・・・・・それだけだったらまだ良いんだが、エリスのこの俺たちに対する”異常なまでの優しさ”が、後々影響を及ぼさないと良いが・・・・・・)」

 

 

 

「うん。話聞いてくれてありがとね、リムル」

 

 

 

最後、リムルが僕を見て何やら考え込んでる様子だったが、気にせず僕は帰り支度を再開させる。リムルに対して、言いたいことをはっきりと言えたからか、何処か胸がスッとしていた。やっぱり話を聞いてもらうならリムルが一番だよね!

 

 

 

その後、リムルと一緒に温泉に行って疲れをとった僕は、家で今日の疲れを癒すべく、静かに眠りにつくのだった・・・・・・。




最後ら辺は、エリスが医院を開いた理由を話したことで、ちょっと重めな話になってしまいました。すいませんでした!

ちょっとばかし、『日常日記』的な内容になってしまいましたが、この医院も今後のストーリーにはちょこっと出て来るので、閑話という形にさせて貰いました。

次回からストーリーに戻ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

使節団の来訪

転スラアニメ、そろそろ漫画の話を超えるんじゃないかな?


暴風大妖禍(カリュブディス)との大戦が終わり、僕たちは日々を忙しなく過ごしていた。暴風大妖禍(カリュブディス)を討伐した事により、僕たちに興味を持ってくれた獣王国(ユーラザニア)の王であるカリオンさんに使節団を派遣するために使節団を編成したり、リムルが以前貰ったというガゼル王からのドワルゴン国への招待に誰が赴くかや、他にも辺境の様々な国々との提携や国交を結ぶ準備などを僕たちは分割して進めていた。

 

 

話し合いの結果として、獣王国(ユーラザニア)にはベニマルを団長としてリグルや他のホブゴブリン達総勢数十名を使節団として派遣する事になった。最初は、僕が赴こうとしたけど、『まだ完全に信用出来るわけではない魔王の元に、エリス様が向かわれるのは危険です。』と、ベニマルに止められてしまった為、却下となった。

 

 

 

そして今日は、その使節団が獣王国(ユーラザニア)に向けて旅立つ日だった。出立の前に使節団のみんなを広場に集め、リムルから一言二言、言葉を貰うという、所謂”見送り式”みたいな事をやる為、他の住人達もみんな、広場前に集まっていた。一応正式な式ということで、リムルも僕も、しっかりと正装していた。・・・・・・僕は特に何も喋らないんだから、正装で式に出席する意味なんて無いって思ったんだけど、副盟主という立場上、威厳のある姿を見せなくてはいけないらしく、渋々僕も正装をする羽目になった。

 

 

 

「今回お前達を派遣する目的は色々あるが、何より大事なのは相手が今後とも俺たちと共に付き合っていけるかを確かめることだ。我慢とかしなくちゃ付き合っていけなさそうな相手なら、俺はこの関係はなかった物としたい。お前達の後ろには俺やエリス、仲間達がいる。だから何にも恐れる事なく自分たちの意思をしっかりと伝えろ。それでその相手が俺たちと友誼を結べるか否かを見極めてきて欲しい。頼んだぞ!みんな!」

 

 

 

「「「おおっ!!!」」」

 

 

 

リムルのその言葉に、使節団のみんなは気合のこもった返事を返す。・・・・・・うん、これなら問題なさそうだね。

 

 

 

「頼んだぞ、ベニマル」

 

 

 

「気をつけて行ってくるんだよ?」

 

 

 

「おまかせを。リムル様、エリス様。この目で魔王カリオンが信用に足る人物かどうか、見極めてきます」

 

 

 

自信たっぷりに言うベニマル。・・・・・・頼もしい事この上ないね。・・・・・・ただ、ベニマルって結構好戦的な性格してるから、向こうで戦闘なんて起こさないと良いけど・・・・・・まぁ、リグルがいるから大丈夫か。

 

 

 

そして、使節団は星狼族(スターウルフ)が引く馬車に乗り、獣王国(ユーラザニア)へと旅立っていった。

 

 

 

さて、こっちも早いとこ準備を進めないとね。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「リムル、くれぐれも失礼のないようにしてね?」

 

 

 

「安心しろよ。俺だって礼儀くらい弁えてる」

 

 

 

カリオンさんに普通に無礼を働いていたスライム殿が何言ってんだと言いたくなった・・・・・・。何で僕がこうリムルに言うかというと、今日は、獣王国(ユーラザニア)から僕たちと同じような使節団が訪ねて来る日だからだ。大丈夫だとは思うけど、念には念をってね。出迎えにはリムルや僕を始めとした町の重鎮たちと、以前戻ってきていたヨウムさんたち辺境使節団が赴いている。英雄活動も少し落ち着いたのことで、立ち寄ってくれたんだとか。もちろん彼らにも事情は説明して納得済みだけど、最初は今から来る使節団が魔王カリオンから派遣された物だと知った時には、もちろん盛大に驚いていた。

 

 

話は変わるけど・・・・・・多分、カリオンさんがこうして使節団を送ってきた意味は、おそらく僕たちとほぼ同じと捉えて良いと思う。・・・・・・僕達が、本当に自分たちと友誼を結ぶに値するかというのを使節団を通して見極めるために・・・・・・。うん、僕も無礼が無いようにしないと。

 

 

この日のために、僕達は色々と迎え入れの準備を進めてきた。町中の道路の舗装はもちろん、料理の準備、施設の準備などなど・・・・・・。より時間がかかったのはやはり施設の建築だった。今回は客人が来るということで、客人を泊らすことのできる宿泊施設(迎賓館)や食事ができる施設(レストラン)、温泉の施設もまた、建築してもらった。せっかく来てもらう事だし、お客さんには存分に魔国連邦(テンペスト)を満喫して貰いたいという僕達の願いもあって、施設の建築には時間をかけてもらったという訳だ。まだ幾つかは完成してない施設もあるけど、そこはどうか大目に見てもらうつもりだ。料理の方も、シュナを中心として、作るメニューや作る技術なども色々とホブゴブリン達やゴブリナ達に教え込んでることもあって、無事に客人の舌を唸らせるであろう絶品の料理をたくさん作る事にも成功していた。

 

 

・・・・・・とまあ、そんな感じで、僕達は使節団が来るまでの間はそういった準備をして、迎える態勢を整えていたんだ。

 

 

 

「お、どうやら来たみたいだな」

 

 

 

リムルの言う通り、ようやく獣王国(ユーラザニア)からの使節団がお出ましになった。なんか妙に”青い雷を纏った虎”がすごい勢いで台を引きながら、こちらへ向かって来ると、僕達の目の前へ到着するなりゆっくりとその場で停止をした。馬車もとい虎車が停止するや否や、中から一人の女性が姿を現した。・・・・・・だけど、その人はただの女性では無かった・・・・・・。

 

 

 

「初めまして、私はカリオン様の三獣士が一人、”黄蛇角”のアルビスと申します。お初にお目にかかれて光栄です、ジュラ大森林の盟主様」

 

 

 

彼女は上半身は普通の人間とほとんど変わらない作りをして居るんだけど、代わりに下半身はまさに、”大蛇”のような野太く長い胴体の作りをしていた。まさに”半人半蛇”・・・・・・ってとこかな?彼女は使節団らしく礼儀正しく挨拶をしてくれたけど・・・・・・正直、僕ってあんまり蛇って好きじゃ無いからどうしてもこの人に至っては拒否反応が出てしまいそうだ。

 

 

 

ともあれ、向こうが挨拶をしたんだからこちらも挨拶をしなければいけなくなった為、こちらも挨拶を・・・・・・しようとしたんだけど、それは”一つの轟音”によって遮られた。

 

 

 

「おい、弱小なるスライムが盟主だって?・・・・・・馬鹿にしてんのかっ!?その上矮小で小賢しく卑怯な人間どもとつるむなんざ、魔物の風上にも置けねえな!」

 

 

 

「(びっくりした・・・・・・)あの、あなたは?」

 

 

 

音の正体は、虎車のドアを思いっきり蹴破った時に出た音だった。ドアを蹴破り、明らかに僕達に敵意を向けながら虎車の中から出てきたのは、銀色の毛並みが特徴的で、何とも可愛らしい獣耳を施した一人の女性だった。

 

 

 

「はぁ?・・・・・・あぁ、お前か。カリオン様が言ってた、『面白い青髪のガキ』ってのは。・・・・・・って、今はそんな事どうでも良い!お前らに名乗る名なんて有りはしねーよ!」

 

 

 

「スフィア!良い加減になさい!カリオン様の顔に泥を塗るつもりですか?」

 

 

 

「命令するんじゃねーよ!アルビス!」

 

 

 

何やら今度はあちらで揉めて居る様子だ。はは・・・・・・『面白い青髪のガキ』って・・・・・・カリオンさん、僕のことそういう風に思ってたんだね?・・・・・・一応僕も”副盟主”っていう肩書きを持ってるんだけどな・・・・・・?

 

 

 

「おい、口が過ぎるぞ?ヨウムは人間だが、俺の友人だ。つるんで何が悪いっていうんだよ?」

 

 

 

「それがどうした?」

 

 

 

「はぁ〜、仕方ねーな。ヨウム、ちょっとで良いから相手してやれよ。お前の力を見せつければ向こうだって少しはお前たちのことを認めてくれるだろ?」

 

 

 

「いやいや!何言ってんのリムル!?向こうは使節団として来てる大事なお客さんだよ!?そんなの失礼だし、何でいきなり武力で解決しようとしちゃってるの!?」

 

 

 

リムルのこの案にはもちろん僕は反対した。ここで戦っても双方にとっても何のメリットも無いし、それに僕達は戦いをしに来た訳じゃ無いんだし、ここで戦って話をややこしくなんてしたく無いよ・・・・・・。もう、平和的に行こうよ!平和的に!

 

 

 

「向こうが仕掛けようとして来てるんだから仕方ないだろ?大丈夫だって。これくらい、カリオンなら大目に見てくれるって。ヨウム、頼む!」

 

 

 

「お、おう。あ、あの、エリスの旦那・・・・・・やっていいか?」

 

 

 

「はぁ〜〜〜・・・・・・。もう、好きにしてください・・・・・・」

 

 

 

リムルのこの能天気ぶりに、いよいよ頭が痛くなって来た僕は、もう止めるのは諦める事にし、ヨウムと銀髪の女性(スフィアさんって言ってたっけ?)の戦いを見守る事にした。

 

 

・・・・・・だが、ヨウムさんは、剣を抜いてやる気になって居るのに対して、スフィアさんは何故か未だに戦闘態勢に入らずに、ずっとこちらを見つめていた・・・・・・。

 

 

 

「なんだ?どうした?」

 

 

 

「この人間とやるのも良いが、オレは・・・・・・お前とやってみたいな〜・・・・・・」

 

 

 

スフィアさんは、どこか口角を釣り上げながらこちらを・・・・・・正確には”僕”を指差してきた。・・・・・・はいっ?

 

 

 

「おい、何でエリスを指差してんだ?」

 

 

 

「その青髪が一番強そうに見えたからな!どうせなら強そうなやつとやって見たいだろうが!おい、早くやろうぜ!それとも、びびったか?」

 

 

 

「いや・・・・・・ビビるとかそういう問題じゃなくて・・・・・・」

 

 

 

スフィアさんは何か勘違いをしている。この中で一番強いのはどう考えてもリムルです。確かに今はスライムの形で居るから強そうにはまるで見えないけどさ?・・・・・・ってか、戦えって言われても困るんですけど!?僕に戦う意思なんてまるで無いし、正直戦っても勝てるかどうか分かんないから、それだけは勘弁して貰いたい・・・・・・。

 

 

 

そんな時、僕の後ろから”二人の戦士”が僕を庇うように前へと出た。

 

 

 

「エリス様、ここは私達にお任せを。あのような礼儀知らずの者、エリス様のお手を煩わす事もありません」

 

 

 

「オレ達がすぐに終わらせますので、エリス様はそこで見ていて下さい」

 

 

 

「カレン・・・・・・セキガ・・・・・・うん、わかった。頼んだよ・・・・・・」

 

 

 

僕は、二人の戦士・・・・・・カレンとセキガにそうお願いをした。二人が割り込んでくることは想定外だったけど、ここは近衛兵の二人の言葉に甘える事にしよう。

 

 

 

「何だお前達?どけ、お前達に用はない!」

 

 

 

「それなら、力尽くでどかしたらどうだ?最も、それが出来たらの話だがな?(カレン、今回はお前が先に相手していいぞ?流石に二体一は相手に不利だ。)」

 

 

 

「私たちを倒すことが出来たら、エリス様と戦って良いわよ?(そうね。わかった。じゃあ、先に相手するから。)」

 

 

 

何やら二人でボソボソ話し合ってたけど、よく聞こえなかったからスルーしておいた。その間、手持ち無沙汰となったヨウムさんは、虎車の引き手をしていたグルーシスさんという人と軽く戦うという事になった。彼もかなりの実力者のようだけど、今のヨウムさんの実力なら互角以上に渡り合えるだろうから、特に心配はしていなかった。

 

 

 

「そうか・・・・・・なら、とっとと終わらせてやる!!」

 

 

 

そうこうして居るうちに、スフィアさんのその一言が開戦の合図となり戦闘が始まった。スフィアさんは地面を力強く蹴り、二人との距離を一気に詰めてくると、持ち前の鋭い爪で二人に襲いかかっていった。そのスピードはかなりの物で、生半可な実力では目視出来ないほどのスピードだ。おまけに爪からは雷の様な青い光が滲み出て居るため、おそらく雷属性が備わって居るのかもしれない。あれを喰らって仕舞えば、ダメージを受けると同時に身体が麻痺をしてしまい、詰みとなってしまう。だから、なるべく攻撃を受けて欲しくないというところなんだけど、これまで数多くの激戦をくぐり抜けてきたカレンとセキガにとって、その攻撃は反応できないというほどでも無かったらしく、身をかがめるようにしてその攻撃を躱していった。

 

 

 

「・・・・・・ほう?思ったよりやるな?この”白虎爪”のスフィアの攻撃を躱すなんて?」

 

 

 

「そんな攻撃なんて、止まって見えるわよ?よくそんなので、エリス様と戦いたいだなんて言えたものね?・・・・・・今度はこちらから!」

 

 

 

今度はカレンが仕掛ける。槍を構えつつ、その長いリーチを生かして何度も何度も刺突を繰り出して行く。スフィアさんはその攻撃を軽快な動きとステップで躱していき、また合間を縫って攻撃を繰り出していった。リーチの長さや、攻撃の威力で言えば圧倒的にカレンが有利だけど、スピードや攻撃速度、敏捷性(アジリティー)に関してはスフィアさんの方が秀でている。それなら、カレンであればスフィアさんのリーチの短さなどを利用して遠くから槍で攻撃を何度も仕掛ければいいし、スフィアさんであれば、攻撃速度が遅い槍のデメリットをついて機動性とスピードで勝負すれば良いじゃんっ・・・・・・て話なんだけど、それがそう簡単な話でも無かったんだ。なぜなら二人は、そう言った足りない要素を、自分の長所で補う事によって実力差をなくす事に成功していたからだ。

 

 

カレンで言うならば、『身体強化』で能力を底上げし、デメリットでもある攻撃速度の遅さなどをしっかりとカバーする事で、スフィアさんのスピードに対応している。対してスフィアさんは、リーチの短さの穴を埋めるが如く、素早く機動性のある動きでカレンを撹乱し、隙ができたところで一気に攻勢に打って出る事によって、カレンに対応していた。

 

 

一言で言えば、かなりレベルの高い戦闘だった(途中からなぜか後ろで傍観者と化してるセキガには疑問が残るんだけどね?)。そういうこともあって、僕達はその激しい戦闘に目が釘付けになり始めていた・・・・・・。そして、戦闘が進むにつれて、徐々に激しさが増し始めると、スフィアさんが徐々に、にこやかな好戦的な笑みを浮かべ始めた。まるで、この戦闘を心から楽しんでいるかのように・・・・・・。さらに、それに同調するが如く、カレンまで妙に楽しそうに笑っていた。・・・・・・あれ?スフィアさんはともかく、カレンって、戦闘狂じゃないよね?

 

 

 

「カレン、そろそろいいだろ?交代だ」

 

 

 

「・・・・・・もうちょっとだけ、だめ?」

 

 

 

「だめだな」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

今まで二人の戦闘を静かに見守っていたセキガが、戦いに熱くなっているカレンに対して呆れ気味にぼやいていた。・・・・・・あぁ、交代ってそう言うことね。だからセキガはさっきまで傍観してたんだ。戦闘の続行を即答で却下されたカレンは、名残惜しそうに渋々槍を収めようとした。

 

 

だが、それをスフィアさんが止める。

 

 

 

「オレは別に二人でまとめてかかってきても構わねーぞ?どうせ、あのスライムの部下じゃ、二人いたところで大した差はないだろうしな!」

 

 

 

「オレ達の主はエリス様だが・・・・・・その友であらせられるリムル様を馬鹿にした事に関しては許せないな。・・・・・・カレン、()()をやるぞ?」

 

 

 

()()を?・・・・・・いいわね。この場にいる人達全員の度肝を抜くにはピッタリの技だからね」

 

 

 

・・・・・・あれって何?なんか凄い嫌な予感がするんだけど?・・・・・・そんなことを考えてると、二人は唐突に自身の持っていた槍と大槍を天に向かって掲げた。そして・・・・・・。

 

 

 

「「はぁぁぁぁっ〜〜!!!!!」」

 

 

 

「っ!(なんて魔素の量だ!それに、まだまだ量が膨れ上がっていくっ!)」

 

 

 

二人の掲げた槍に、赤紫色の何とも禍々しい色の光が滲み出始めると、それに比例したかのように一気に槍に魔素がおび始める。やがて、その槍同士が空中でクロス・・・・・・さらに光と魔素が濃くなった・・・・・・。あれは一体・・・・・・何なんだ?

 

 

 

《告。過剰な魔素の出現を確認しました。解析を始めます・・・・・・》

 

 

 

「エリス様!リムル様!危ないのでお下がり下さい!」

 

 

「お、おう!」

 

 

「わ、わかった!」

 

 

シオンに一言言われ、僕達はその場から少しだけ下がった。巻き添えを食らって怪我なんてしたら格好がつかないからね・・・・・・。あと、指導者(ミチビクモノ)さん・・・・・・その解析は今はいらないよ?

 

 

 

「はははっ!面白い!!本能を解き放て!そしてこのオレをもっと楽しませろっ!!!」

 

 

 

スフィアさんも、それに同調するように爪に今まで以上に雷を纏わせて二人に襲いかかる。二人もそれを迎撃するように攻撃を繰り出す。・・・・・・いや、ちょっと待って!?こんな高エネルギーの攻撃同士が激突したらここら一帯が吹き飛ぶんじゃ・・・・・・。

 

 

 

「それまで!」

 

 

 

一つの声が、この戦場に響き渡った。声の主はアルビスさんだった。二人とスフィアさんのちょうど真ん中に位置する場所で制止をかけていた。その一言に、さっきまでヨウムさんと戦闘を繰り広げていたグルーシスさんは、自身の武器である両手剣をしまい、スフィアさんも少し冷静になったのか、自分の爪をしまった(ヨウムさんとグルーシスさんの戦闘は、案の定互角の攻防を見せていた)。

 

 

 

「で?俺たちは合格なのか?」

 

 

 

「合格?それってどう言うこと?」

 

 

 

「どうやら俺たちは、こいつらに試されていたようだ」

 

 

 

「はっ!そう言うことだ!」

 

 

 

リムルの言ったことにスフィアさんが同調すると、高々と拳を掲げた。

 

 

 

「見たかっ!彼らは強く度胸もある!我らが友誼を結ぶに値する素晴らしい相手だ!彼らとその友人達を軽んじることはカリオン様に対する不敬と思えっ!いいなっ!」

 

 

 

スフィアさんの下知とも取れるその一言に、他の使節団の人たちは無言で頷いた。あぁ〜、だからやたらとスフィアさんは僕たちのことを挑発してきたわけね?確かに、どこぞの軟弱な国と関係を結びたいだなんて誰も思わないだろうからね。だからこうして、戦って自分たちの目で判断しようとしてきたわけだ。だからと言って、ちょっと強引だった気がするけどね・・・・・・まぁ、結果として認められたから良かったけど・・・・・・。

 

 

 

「さて、どうやら認めてくれたようだし、さっさと中へと案内しよ・・・・・・ってお前ら?いつまで”それ”出してるんだ?」

 

 

 

リムルがどこか頬をひく吊らせるようにゆっくりと”それ”を指差した。リムルのいうそれって言うのは・・・・・・もちろん、セキガとカレンが先ほどまで出していたあの禍々しい技のことだ。確かに変だよね?もう戦いは終わったんだし、もう止めていいんだけど・・・・・・ん?なんか二人とも、妙に目が泳いでるし、随分と慌ててる様子・・・・・・ってまさかっ!?

 

 

 

「まさか・・・・・・止められないの?」

 

 

 

「は、はい・・・・・・この技は一度出すと、もう止めることが出来なくて・・・・・・」

 

 

 

「まだ制御することは完璧に出来てたわけでは無かったので・・・・・・」

 

 

 

「未完成な技を使おうとしないでよっ!?って危ない危ない!!こっちに向けないで!!せめて空に向かって撃って!?」

 

 

 

いくら戦いで熱くなってたとはいえ、そんな危なくて未完成な技を使おうとする神経が理解できないんだけど!?・・・・・・こんな危な気な状況だからか、先ほどまで近くにいたアルビスさんやスフィアさんはそそくさと遠くに離れていってしまい、シオンやシュナ達はソウエイが避難をさせていた。

 

 

 

結局、その攻撃はリムルの『暴食者(グラトニー)』で喰らって貰い、二人には迷惑をかけたこととして、僕と一緒にみんなに謝罪と、反省文を書いてもらう事にするのだった・・・・・・。




今回出たセキガとカレンの合体技にはちゃんと技名がありますが、今回は不発で終わったので出さない事にしました。もちろん今後、しっかりとこの技を出す場面を設けますので、その時にこの技名を明かしたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

獣王国(ユーラザニア)との交流

主に今回は交流の話です。

皆さんの応援もありまして、"UA100000"を超えました!これからも頑張って行きますので暖かい目で見守って下さい。


使節団を町に招き入れた後、軽く町中を案内し、そのまま迎賓館で歓迎の宴を催した。そこで僕達は、意外なことを知った。それは・・・・・・使節団の人達が、思った以上の酒豪だったと言うことだ。僕達は、他国では作れないようなお酒を量産・・・・・・というほどではないけど作っていて、現状で今作れているのが、りんごから作ったブランデーと、麦芽酒(ビール)の二種類だ。その二つのお酒をこの人達と来たら、ある分の在庫全てを飲み尽くす勢いで飲んで行くものだから、そりゃ驚く・・・・・・。特に、アルビスさんとスフィアさんに至っては他の人の倍は飲んでいた。スフィアさんは若干酔っ払っていたけど、アルビスさんはお酒に強いからなのか、ケロッとしてるんだけどね?

 

 

 

「本当に美味しいお酒ですこと・・・・・・。この味はもしかして、りんごから作られているのですか?」

 

 

 

「はい。国で取れたりんごをもとにして、作らせています。ただ、りんごを含めた果物類はまだ試験的に作っているに過ぎませんので、今は森の恵にも頼っている状況ですね。気に入って頂けたのであれば、本来であれば持ち帰ってもらっても良いのですが・・・・・・」

 

 

 

「あはは・・・・・・私たちが全部飲んでしまいましたものね・・・・・・」

 

 

 

何故か申し訳なさそうに、床に転がるりんごのブランデーが入っていた樽の数々を指差すアルビスさん(ちなみに、麦芽酒(ビール)の樽もいくつか転がってる)。お客さんとしてきてるんだから、気にしなくてもいいんだけどな?このお酒を気に入ってくれたからこうして樽が空になってる訳だし、こっちとしてはむしろ嬉しいよ?

 

 

 

「酒は嗜好品だしな。そう言うわけもあって、まだ量産できなくって、みんなに行き渡って無いんだ」

 

 

 

「ああ、それでしたら我が獣王国(ユーラザニア)の果物をこちらに回すよう手配致しましょう。そうすれば、果物に困る事はありませんし、お酒を作るのにも困らないと思いますよ?ただ・・・・・・」

 

 

 

「お酒が出来たら幾らかそちらに寄越して欲しい・・・・・・ですか?」

 

 

 

「さすがエリス様!分かってんじゃねーか!」

 

 

 

スフィアさんが僕の頬をペロペロと舐めながらそう言う。今のスフィアさんは、さっきみたいな獣人型では無く、白くて大きな虎の姿になっている。スフィアさんは基本的に獣人の姿でいることが多いそうなんだけど、こうした和みの場ではこのように虎の姿で寛ぐことがしばしばあるらしい(このような姿になるには『獣身化』という獣人特有のスキルが必要)。

 

 

スフィアさんは最初に会った時とは印象がまるで変わり、普通に僕達と友好的に接してくれていた。ちょっと乱暴的な言葉遣いと、戦闘狂なのが玉に瑕だけど、それでもこうやって触れ合っていくうちに良い人だってことがよく分かったから、特に気に留めなかった。・・・・・・でも、こうして酔っ払った勢いで僕に絡んでくるのは勘弁して貰いたい・・・・・・。地味にお酒臭いし・・・・・・。

 

 

 

「なぁ!今度時間あったらオレと一戦付き合ってくれよ!あんた見たところかなり強いみたいだしな!」

 

 

 

「・・・・・・そんなに戦いたいならリムルとやったらどうです?リムルの方が全然強いですし、僕意外とそこまで強く無いですよ?」

 

 

 

「そうなのか?」

 

 

 

「どの口が言ってんだよ?暴風大妖禍(カリュブディス)戦の時、あんだけ活躍して勝利に貢献した奴が?」

 

 

 

リムル、余計なことを言うものじゃありません。それじゃ、僕がスフィアさんと戦う羽目になっちゃうでしょうが?それに暴風大妖禍(カリュブディス)戦は確かに前線で戦ってたけど、実際に暴風大妖禍(カリュブディス)を倒したのはミリムとリムルじゃん・・・・・・。

 

 

 

「それはそれだよ。とにかく、そんなに腕試しがしたいならリムルとやってください。もし、本当にどうしても僕と一戦を交えたいと言うのであれば・・・・・・時間があったら付き合ってあげますので。ただ、今は双方色々と忙しい時期だと思われますので、付き合うことは出来ません。・・・・・・どうか分かってください」

 

 

 

「ああ。別に無理にってわけじゃ無いんだ。一応オレたちだってカリオン様から、使節団としてあんた達を見極める為にここに派遣されてる身だし、その任を放棄してまでやり合いたいとは思ってねーよ」

 

 

 

意外にもすんなりと頷いてくれた事に、拍子抜けした僕だったけど、それと同時にほっと息をついた。ちなみに言っておくと、さっき言ったことは建前で、本当は単純にスフィアさんと戦いたく無かっただけなんだ。僕は別に戦闘狂じゃないし、必要じゃない戦闘はしない主義なんだ(鍛錬とか、模擬戦は別だけど)。まぁ、もちろん交流のつもりで戦うって言うならやるし、時間が作れれば付き合うつもりだけど、基本的にそれ以外の時はリムルに任せようと思ってる(腕試し等)。そう言ったことは僕よりもリムルの方が向いてるからね。

 

 

 

とりあえず、僕と一戦交えることは保留という事にしてもらい、その後はゴブタの腹踊りやら大道芸などでさらにお酒が進み、宴会は盛大に盛り上がった。あ、後、料理の方もちゃんと好評だったこともあって、料理担当だったシュナやゴブリナ達はすごく喜んでいた。僕は特に、野菜の天ぷらが好きだったな・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

使節団の人達が来てから数日経ち、アルビスさんやスフィアさん達は獣王国(ユーラザニア)へと帰っていき、一部の彼女達の配下の人達は、首都である『リムル』に滞在し、ここの技術を色々と学ぶ事に尽力していた。何でもカリオンさんの指示なんだとか?

 

 

こちらの技術は獣王国(ユーラザニア)には無かったものが多かった為か、みんな興味を示すと共に、密かに驚いていた。特に驚いていたのは、前にカイジンさん達に作ってもらったお湯が出る装置だった。具体的には、魔晶石を内蔵させた蛇口のハンドルに熱の魔法を刻印させる事で出来た代物だ。それもあって、温泉では僕の水でなくてもお湯が使えるようになった為、僕は水を出さなくても良くなったんだけど、お湯とはいえ、普通の水である事に変わりは無い為、もちろん入ったからと言って、肌がすべすべになったり、薬用効果が出るわけでも無い。その事実を知った住民達・・・・・・特に女性は、これからも僕の水で入浴をさせて欲しいと願い出てきた為、仕方なく一ヶ所のみを僕の水でお湯を作る事にして納得して貰った。流石に数カ所全部を僕が担当するのは疲れるからね。

 

 

この案はもちろんリムルの案で、カイジンさん達も作る当初は驚いていたけど、僕が驚いたのはそれを最も容易く作るカイジンさん達の技量だった・・・・・・。この人たちに作れないものなんて無いんじゃないかな?

 

 

その他にも、製作工房にて織物や衣類などを作る技術を教授してもらう人もいれば、クロベエの工房に赴き、鍛治技術を学びに行っている人たちも数多くいた。同じく残っていたグルーシスさんは、フォビオさんの命でここでリムルや僕の役に立つべく、ゴブタ達と共に警備隊に混ざって見回りに出ていた。彼の実力は折り紙付きのようだし、彼が警備隊についてくれるのであれば心強い事この上無かったから、正直すごく嬉しかった。

 

 

 

それからさらに数日後には、こちらから獣王国(ユーラザニア)に派遣していたベニマル率いる使節団が戻ってきた。戻ってきたベニマルやリグルに話を聞いたところ、やはり獣人という戦闘に適した種族が率いる軍隊は凄まじいまでの武力を持っていたようで、一兵一兵が体の芯まで鍛え上げられたいたようだ。あのカリオンさんの事だから、きっと兵士の一人一人を徹底的に鍛え上げてるんだろうな〜・・・・・・って思ってたけど、案の定そうだったみたいだ。

 

 

 

「で、カリオンはどうだった?」

 

 

 

「はい。魔王カリオンは少々武闘派なところがありましたが、信用には値すると思われます。闇討ちの危険性も皆無かと。かの御仁であれば、そんな卑怯な真似はせずに堂々と攻めて来そうですし」

 

 

 

「よかった。ベニマルがそう言うんであれば、間違いないんだろうね。・・・・・・あの、一応聞くけど、向こうの国で暴れたりとかはしてないよね?例えば、僕とリムルの悪口を言われたから・・・・・・とか?」

 

 

 

「まさか。俺だって、その辺はしっかりと弁えているつもりですよ。・・・・・・カリオン殿に喧嘩は売りましたけどね?」

 

 

 

「「何してん(の)だっ!?」」

 

 

 

執務室に僕とリムルの声が綺麗にこだまする。当たり前でしょっ!?何で使節団の団長であるベニマルが普通にカリオンさんに喧嘩売ってるわけ!?意味わかんない!

 

 

 

「コテンパンにされましたけどね?ミリム様に少々鍛えられて強くなったと思ってたんですけど・・・・・・まだまだです。ですが、フォビオには勝ちました」

 

 

 

「そう言う問題じゃ無いでしょ!・・・・・・って言うか鍛えられてって・・・・・・ただミリムにサンドバック代わりに殴られてたようにしか・・・・・・

 

 

 

「何か言いましたか?」

 

 

 

「う、ううん!何でもないよ!」

 

 

 

とりあえず、ベニマルには後で厳重に注意しておくことにしよう。その後は、お土産に持って帰ってきた獣王国(ユーラザニア)産の果物をいくつか頂いた。主に持って来たのはりんごやメロン、ぶどうやマンゴーと言った嗜好品で、どれもここで作ったものより遥かに甘く、ジューシーで美味しかった。それもあって、『この果物達を使ってデザートやお菓子を作ったらすっごく美味しそうだな〜』と、僕は内心で涎を垂らしていた。最近では砂糖を作る事にも尽力している僕達だから、そう言ったものが作れる日も近いのかもしれないね。・・・・・・後でシュナにそれとなく相談してみよう。

 

 

 

果物はアルビスさんが、カリオンさんにこちらに回すよう言ってくれると言っていた。その代わり、その果物でできたお酒を獣王国(ユーラザニア)に回すという、いわゆる物々交換が条件だけどね?だけど、僕やリムルはそういった物々交換の割合のラインがよく分からない為、仕方なくこう言った事に精通していて商人の代表でもある犬頭族(コボルト)のコビーさんにこの案件を一任する事にした。いきなり思わぬ大役を任せられたコビーさんはひどく困惑していたけどそこは・・・・・・頑張って欲しいです。

 

 

 

他国との交流はまだまだ少ないけれど、その始まりとして、これはかなり上々になることを確信した僕は、満足に微笑むのだった・・・・・・。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「じゃあリムル、みんな、気をつけて行って来てね?」

 

 

 

「ああ、留守の間は国のことはお前に任すからな、エリス」

 

 

 

「うん、任せておいて!」

 

 

 

翌日、ガゼル王からの招待でドワルゴン国へと赴く事になったリムルは、町の住民達が見送りに来る中、シオン、シュナ、カイジンさん達ドワーフ、護衛としてゴブタ達狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)を引き連れ、馬車に乗り込もうとしていた。馬車を引くのはランガ。彼の足なら数日でドワルゴン国に到着する事だろう。

 

 

 

「本当は僕も行きたかったんだけどね?ドワルゴン国には行ったこと無かったし・・・・・・」

 

 

 

「でしたら!エリス様もご一緒に・・・・・・」

 

 

 

「国の責任者が二人とも留守になんて出来ないだろ?今度、一緒に連れてってやるから、今回は我慢してくれ」

 

 

 

「分かってるよ。そう言うわけだからシオン、一緒に行くのはまた今度ね?」

 

 

 

「・・・・・・そうですか、残念です・・・・・・」

 

 

 

一緒にいけないことに残念がるシオン。心なしか、シュナもどこか残念そうにしていた。・・・・・・まぁ、リムルの言う通りでリムルと僕が一緒に行っちゃったらその間、魔国連邦(テンペスト)の責任者がいなくなる事になってしまうからね。今は色々と国との交流やら交易やらを結ぶので忙しい時期でもあるため、ここで僕たち両方が抜けるのはまずい。だから今回は、僕がドワルゴン国へ行くことはお預けとなった。

 

 

 

「じゃあ、行ってくる!」

 

 

 

「うん!気をつけて!」

 

 

 

こうして、リムル達を乗せた馬車は、僕たちに見守られながら、ガゼル王が待つドワルゴン国へと向けて出立した。今回はベスターさんに儀礼やらマナー等をしっかりと教え込まれたシュナがいる事だし、問題はないと思う。ただ、向こうで魔国連邦(テンペスト)とドワルゴン国の友好宣言の式典を行うって話だし、国主であるリムルもしっかりと威厳高くしていて欲しいん・・・・・・だけど、彼は結構抜けてるところがあるから正直心配だよ・・・・・・まぁでも、リムルなら上手くやるでしょ。

 

 

 

「さて、じゃあ僕は、今日残った仕事をとりあえず終わらせるとしますか!」

 

 

 

リムルがいない以上、今の国の責任権は僕へと移行する。いわば、”国主代理”と言ったところかな?とにかく、代理となった以上、それに恥じないよう、僕も国のために尽力して行くとしますか!

 

 

 

これからの日々は・・・・・・かなり忙しくなりそうだ。




エリスがドワルゴンへ行けるのは当分先だと思います。その間に、色々と・・・・・・本当に色々とありますから。でも、エリスがリムルと一緒にドワルゴンへ行ったら、リムルはあのお気に入りの楽園(エデン)を勧めるのですかね?エリスは前世ではまだ高校生だったので、ちょっと刺激が強い気がするのですけど・・・・・・今は、考えないでおきます。


ちなみに、ベニマルがミリムに鍛え上げられたいたと言う話は本当です。ただ、どんな鍛錬だったかは・・・・・・ご想像にお任せします。とりあえず、エリスが言ったようにサンドバックのように殴られていたことは間違い無いかと・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなるスキルと代償

今回はリムルがドワルゴンへと赴いている間でのテンペストでの出来事です。


ですので、今回はリムルは出てきません。


リムル達がドワルゴン国へと旅立って数日が経った。あれからと言うもの、僕は日々を今まで以上に忙しく過ごしていた。理由は勿論、国主代理としての仕事をたくさんしていたからだ。魔国連邦(テンペスト)に赴いてくれたお客人達のおもてなしや、僕やリムルへの謁見を求める種族達との面会、住民票の整理と作成、エリス診察院、鍛錬などなど・・・・・・その他にも国にとって大事な事を僕一人でこなしていた。勿論、全部一人でやる訳じゃなくて、リグルドやその配下のゴブリンロード達、ベニマルや近衛兵の二人にも手伝って貰ったりしている。流石にそれ全部を僕一人でやってたら効率が悪いし、キツいからね。

 

 

リムルや秘書のシュナやシオンがいない分、仕事量が増えてキツくなった訳だけど、こうしてみんなと一緒になって仕事をするのはある意味新鮮だったから、むしろ楽しかったんだよね。・・・・・・たまにはこう言うのも悪く無いかも。

 

 

 

 

そんな忙しい日々を過ごしていたある日、僕は仕事を終えてひと段落にと、執務室でヒョウガに寄り掛かりながら、獣王国(ユーラザニア)からの贈り物であるマンゴーをパクパクと食べて仕事の疲れを取っていた(疲れた時は糖分を取るのが一番だからね。)。そんな僕に、同じく執務室で共に作業をしていたベニマルが作業する手を止め、声を掛けてきた。

 

 

 

「エリス様、良ければ気晴らしで俺と鍛錬でもしませんか?最近働き詰めで、まともに体が動かせていないでしょう?」

 

 

 

「鍛錬か・・・・・・うん、良いかもね。最近はハクロウとばかりやってたけど、たまにはキミとやるのも良さそうだからね。じゃあ、ベニマルのその作業が終わったらやりに行こうか。ヒョウガも来る?」

 

 

 

「是非に!」

 

 

 

「分かりました。ではさっさと終わらせますね」←(数分で終わらせた)

 

 

 

そんなわけで、急遽ベニマルと一緒に鍛錬をする事になった僕は、軽く身支度を整えた後、ベニマルと共にヒョウガに乗っていつも鍛錬の場として使用している空き地へと赴いた。・・・・・・だが、ちょうどそこには先客がいた。

 

 

 

「あれ?ハクロウにソウエイ、セキガにカレン?どうしたの、揃いも揃って?」

 

 

 

いたのはその4人だった。あまり揃わないこの意外なメンツにちょっと不思議な気持ちになった僕は、ヒョウガから降りながら徐にそう聞いてみた。ハクロウとソウエイは今日は仕事が無くて、OFFのはずで、近衛兵の二人には獣王国(ユーラザニア)から運ばれてくる物資の受け取りをさせに行かせたはずだったんだけどな?

 

 

 

「いえ、俺は時間があったので、久しぶりにとハクロウに鍛錬に誘われまして・・・・・・」

 

 

 

「オレとカレンは物資を倉庫に置きに行った後で、偶然ここを通りかかって・・・・・・」

 

 

 

「ハクロウさんに・・・・・・誘われたんです」

 

 

 

「あはは・・・・・・そうなんだね・・・・・・」

 

 

 

要するに、みんなハクロウに指南されるためにここに居るってわけか。・・・・・・あぁ、だからみんな何処か顔が強張っていたんだ。まぁ、いつもゴブタ達がハクロウの鬼の指南を受けてひどい目に遭ってる様子を見ている彼らからすれば、そうなるのは当然か・・・・・・。

 

 

「これはこれは、エリス様。どうですかな?此奴らと共に鍛錬など?」

 

 

「うん、誘ってくれるのは嬉しいけど、今日はベニマルと先に鍛錬をやる約束をしてるんだ。だから、今日は遠慮しておくよ」

 

 

「ほう?若と?」

 

 

「ああ。エリス様の気晴らしになればと思って提案したんだ」

 

 

「そうでしたか。宜しければ、見学させて貰ってもよろしいか?」

 

 

「うん、全然いいよ。断る理由も無いし」

 

 

師匠でもあるハクロウに見てもらえるならこれ程嬉しい事はない訳だし、快く見学する事を許可した僕は、早速鍛錬をするべく、ヒョウガを下がらせ、剣を抜きつつベニマルと対峙する。ベニマルもまた、自身の剣を抜く。

 

 

「さて、じゃあ始めようか!」

 

 

「胸を借りさせてもらいます!エリス様!」

 

 

ベニマルのその言葉を皮切りに、僕達の鍛錬が始まった。鍛錬と言っても、単に模擬戦をするってだけの話で、何も難しい事をするわけでは無い。ただただ、今の自分の力を目の前の相手に全力でぶつける。それだけを考えて、鍛錬に勤しむ。それが、ハクロウから教わった鍛錬と模擬戦の心得だ。ベニマルもそれを熟知しているのか、手を抜く事なく、最初から全力で飛ばしてきた。

 

 

「はぁ!」

 

 

「おっ・・・・・・と」

 

 

ベニマルの横凪の一閃を僕は、体の重心を少し後ろ寄りにしつつ、軽く体を捻りながらその攻撃を受け流す。

 

 

「まだまだ!」

 

 

「よっと・・・・・・」

 

 

今度は体重の乗った上段からの斬りかかりだ。見ると、ベニマルの剣には微量だけど、魔力が込められていることがわかった。おそらく、魔力を込める事で、殺傷力と剣の強度を上げているんだろう。あれを真っ向から受けてしまうと、僕の剣は多分一発で砕けてしまうだろう。それに、あれを受け流せる程の技量を僕は持ってるわけでも無いため、仕方なく、横にステップをする事でそれを回避した。

 

 

「どうしました?受けに回ってるばかりでは、俺には勝てませんよ?」

 

 

「言うね?・・・・・・それなら、こっちもそろそろ行くよ!」

 

 

ベニマルのその挑発じみた発言に少しむかっときた僕は、同じように剣に魔力を込めつつ、ベニマルに向かって地を蹴った。

 

 

「やぁっ!せいっ!」

 

 

「・・・・・・っ。エリス様、以前よりもさらに力をつけられたようですね?剣技にさらに磨きが掛かっておられるように見られます」

 

 

僕の怒涛の攻撃ラッシュが、意外だったのか、ベニマルは攻撃を受けながら少し驚いた様子でそう聞いて来た。・・・・・・僕ってそんなに弱そうに見られてたのかな?確かにリムルやみんなと比べたら強く無いのかもしれないけどさ?

 

 

「当たり前でしょ?みんなの上に立つ者として立派である為に、ずっと鍛錬に励んで努力して来たんだから」

 

 

「そうですか。では、その鍛錬の成果とやらを存分に見せてください!『黒炎獄(ヘルフレア)』!」

 

 

そんな僕の攻撃を阻むかのように、ベニマルは大技である『黒炎獄(ヘルフレア)』を発動した。もちろん鍛錬である為、威力は限りなく抑えられているんだけど、それでもかなりの規模と威力を誇っている。

 

 

「(『黒炎獄(ヘルフレア)』を防ぐには、それ以上の魔法やスキルを使って相殺するしか手はない。今の僕にある高威力のスキルと言えば・・・・・・・・・・・・ちょっと完成したばかりで不安だけど、あれを使おう。指導者(ミチビクモノ)さん、必要な分の魔素の構成と、制御をお願い。)」

 

 

《了。必要分の魔素の構築を開始します・・・・・・成功しました。》

 

 

 

「ありがと。じゃあ・・・・・・行くよ!これが僕の鍛錬と努力の成果だ!–––––––––––!!」

 

 

これまで、色々と指導者(ミチビクモノ)さんと試行錯誤を繰り返して、ようやく完成に至った、僕が保有するスキルの中で最大の威力を誇るスキルが、『黒炎獄(ヘルフレア)』を相殺しつつ、ベニマルへと向かって放たれた。ベニマルは見たこともないこのスキルに戸惑いを覚えていたが、すぐに気持ちを立て直し、真っ向からスキルを相殺させるべく迎え撃とうと動き出した。

 

 

その結果は・・・・・・。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「痛てて・・・・・・」

 

 

 

「大丈夫?ベニマル?」

 

 

 

「え、ええ・・・・・・なんとか」

 

 

 

僕のスキルを真っ向から抑えに行こうとしたベニマルは、最初こそうまいことスキルを駆使しつつ相殺出来てたわけなんだけど、徐々に僕のスキルの勢いに押されて行くようになり、最後にはまともにこの攻撃を受けてしまって鍛錬の続行が不可能となってしまった為、僕はすぐさま手傷を負って唸っているベニマルの元へと駆けつけ、治療を施していた。

 

 

 

「主様?先程のスキルは・・・・・・一体?」

 

 

 

ヒョウガがどこか顔をひくつらせながら、僕に問うてきた。ハクロウやソウエイ達も先程の僕のスキルには度肝を抜かれたようで、目を白黒とさせながら僕を凝視していた。・・・・・・スキルをまともに食らったベニマルは言わずともだけど。

 

 

 

「僕が作ったオリジナルのスキルだよ。本来、このスキルはこう言った場では使用することは良しとはして無くて、今回は使わない予定だったんだけど・・・・・・思ったよりもベニマルの『黒炎獄(ヘルフレア)』が強力になってたから、思わず使っちゃったんだよね。威力かなり抑えたと思うんだけど・・・・・・ごめんね、ベニマル・・・・・・怪我させちゃって・・・・・・」

 

 

 

「いえ、エリス様が謝られることはありませんぞ?若がまだまだ修行が足らんかっただけの話ですからな。・・・・・・のう、若?」

 

 

 

「ああ・・・・・・確かに、俺も強くはなったと思っていたが・・・・・・まだまだだな。・・・・・・それにしても、威力を抑えたとしてもあの威力とは・・・・・・やはりエリス様はお強い・・・・・・」

 

 

 

「まさにその通りだな。さすがはエリス様です・・・・・・」

 

 

 

僕のあのスキルが相当応えたのか、少し疲れ切った様子でそう言うベニマルとソウエイ。褒めてくれるのはすっごく嬉しいけど、正直照れくさいな・・・・・・。

 

 

 

「エリス様、もしもですけど・・・・・・さっきのスキルを全開で放っていたとしたら・・・・・・どうなるんですかね?」

 

 

 

「え?う〜ん・・・・・・それは・・・・・・」

 

 

 

セキガのその唐突な質問に、少し考え込む僕。このスキルは確かに強いんだけど、その分使う魔素もかなり多い。今回はそれを考慮して全体の4分の1程度の魔素を使って使用したけど、もし全開で撃ったとしたら・・・・・・。

 

 

 

《解。推測の結果、主人(マスター)の体内魔素を消費した場合、威力は”魔王を一瞬で消滅させる程”へと上昇しますが、魔素の急速な減少と枯渇の影響で”生命維持が出来なくなる状態”へと移行する可能性が極めて高くなります。》

 

 

 

ま、魔王をっ!?その指導者(ミチビクモノ)さんから齎された情報に、驚愕した僕。

 

 

・・・・・・いや、でも待てよ?いくら魔王を倒せても、それで僕が戦闘不能になっちゃったら意味無いしな・・・・・・。相討ちになって良いことなんて何一つ無いし、”よっぽどのこと”でも無い限り、全開では使わないと思う。・・・・・・うん、結論としては、このスキルも結構使い方を間違えないと危なそうってことか・・・・・・。とりあえず・・・・・・みんなにはそれとなく話しておこう。

 

 

 

「簡単に言うと、全開で撃てば、魔王を一瞬で倒せると思う」

 

 

 

「「「「「「魔王をっ!?」」」」」」

 

 

 

その場にいた5人全員が、驚愕の表情を見せる。うん、僕も最初聞いた時はそんな顔だった。

 

 

 

「でも、代償として一気に大量の魔素を消費しちゃうから、多分使えば即、低位活動状態(スリープモード)行き。最悪の場合は・・・・・・()()()()と思う」

 

 

 

「「「「「「っ!・・・・・・」」」」」」

 

 

 

”死”と言う言葉が出たためか、みんなどこか驚いていると言うよりも、表情が暗くなっていた。・・・・・・心配させちゃったかな?

 

 

 

「あぁ、心配しなくてもいいよ?別に今後、全開で使うつもりは無いから・・・・・・”やむを得ない時”以外は」

 

 

 

「やむを得ない時?」

 

 

 

「うん。もうこのスキルを使用しない限り、”事態が好転しない時”だとか、これを使用しないと”みんなを無事に守れない”・・・・・・って察した時・・・・・・僕はこのスキルを全開で使うかもね。・・・・・・まぁ、そんなこと滅多に起きないだろうし、他にも僕が保有するスキルの中で有用なスキルはいくつもあるし、大丈夫だと思うけどね?」

 

 

 

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 

 

 

最後は少し冗談じみて言ったつもりだったんだけど、みんなの表情は一向に暗いままだった。

 

 

 

「主様、これだけは約束してください」

 

 

 

「何?ヒョウガ?」

 

 

 

「今後、決して先程のスキルを全力で使用しないでください。・・・・・・例え、どんなことがあろうともです・・・・・・」

 

 

 

「え?だからさっき言ったように・・・・・・」

 

 

 

「”やむを得ない場合”の時にも使用をして欲しく無いと言っているのです。お願いします・・・・・・。もし、そのせいで主様に何かあればワタシ達は・・・・・・」

 

 

 

泣きそうな声でヒョウガが僕に対してそう伝えると、他のみんなもそれに同調するかのように首を縦に振っていた。

 

 

 

「エリス様。俺たちはあなたの配下だ。だから、あなたの命令とあらばどんな辛く厳しき事でも快く引き受けましょう。例え、先程あなたが仰られていた”やむを得ない状況”・・・・・・それを覆して欲しいと命令されても、俺たちは身命を賭して遂行いたします。ですから、どうか身を滅ぼす行為に及ぶことはお控えください。エリス様がいなくなっては、俺たちや住民の皆、何よりリムル様が悲しみます・・・・・・」

 

 

 

「俺も同意見です。エリス様には、これからもこの魔国連邦(テンペスト)でリムル様と共に皆を引っ張って貰いたいので・・・・・・」

 

 

 

「まだ、エリス様には指南しておらぬ事が山ほどあります故にな。いなくなられては困りますぞ?」

 

 

 

「エリス様!あなたの事はオレたちが何がなんでも守ります!ですから、どうか早まらないで下さい!」

 

 

 

「そうです!それが私たち近衛兵の仕事ですから!」

 

 

 

ベニマル、ソウエイ、ハクロウ、セキガ、カレンがそれぞれ自分の思いの丈を僕に伝えてくる。あの〜、なんか今から僕が身投げしようとしてる・・・・・・みたいな言い方になってるけど、僕別にそんなつもりで言ってないよ!?僕だって死ぬのは嫌だし、さっきのスキルを全開で撃ちたくなんて無い(戦闘不能になる可能性が高いし)。それを精一杯伝えたつもりだったんだけど・・・・・・でも、みんなのその僕に対する気持ちがしっかりと聞けて、改めて僕がみんなに認められていることを知れたため、僕の心はどこかほっこりとしていた。

 

 

 

「うん、約束するよ。僕だって死にたく無いからね。・・・・・・でも、もし僕が困った状況にあったらちゃんと僕に協力してね?リムルと違って、僕はどんな事でもできる万能じゃ無いんだから。わかった?」

 

 

 

「「「「「「はっ!」」」」」」

 

 

 

少し暗い話になっちゃったけど、どうにか話をまとめ切れた僕は、みんなに軽くそう念を押しておくと、その後は再び皆んなと鍛錬に励んだ。結局その後の鍛錬はハクロウに全員(僕も含めて)扱かれることとなった為、終わる頃には全員がボロボロの状態で地面に伏せることとなるのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしても、僕が変なスキルを作ったせいで、みんなに変に気を使わせちゃうなんてね・・・・・・。

 

 

みんなを悲しませたく無いし、今後このスキルが使われる日が、どうか来ませんように・・・・・・。




エリスの新スキルの名は明かしません。・・・・・・何でかは、単にここで発表してしまうと今後の展開的に面白みが欠けてしまうからです。ですので、今後の展開にどうかご期待ください。・・・・・・ですが、もう近く無い将来にこの技名が明かされるかも・・・・・・しれません。


別に、このスキルを使ったからと言って、エリス自身が死ぬと言う事はありません。あくまでもそれはエリス自身の魔素を全部出し切って使用した時のみであって、普通に威力を抑えて使う分にはかなり強力なスキルです。今後、エリスがどのようにしてこのスキルを活用して行くのか・・・・・・。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

イングラシア王国へ向けて

そろそろ、”あの事”について展開を考えないとなぁ〜・・・・・・。


余談ですが、おかげ様でお気に入り数が"1000"を超えました!最近・・・・・・というか、前日からやたらと見てくれる方々が続出していて、すっごく驚いています!


視点 リムル

 

 

ドワルゴン国でガゼル王と面会し、向こうで色々と近況報告やら、二国間での友好宣言を行ってきた俺は、現在は魔国連邦(テンペスト)へと戻ってきていた。

 

 

あっちではそれなりに色々と・・・・・・本当に色々とあって疲れた・・・・・・。まず、俺たちが持っていった酒が思いの外、ガゼル王に評価され、是が非にも獣王国(ユーラザニア)との貿易を成功させて、自分たちの国へその酒を融通させろって煩かったのが、まじでキツかった。さらに、友好宣言を行った後では、ガゼル王から俺の国主としてのスピーチが零点とダメ出しされた。主な原因は、俺が国民に対して謙ったり国主が言うにしては、甘い発言をした事だそうだ。・・・・・・確かにそうだよな。仮にも魔国連邦(テンペスト)の国主である俺が、他国の国民に対して下手に回れば、俺だけでなく、魔国連邦(テンペスト)全体が舐められることになるわけだからな。・・・・・・俺はまだ国主となってまだ日が浅いが、自覚が足りなかったんだなと、ガゼル王からのその言葉で改めて自覚をした。

 

 

で、その疲れた体を癒そうと、夜に以前に入った事のあるエルフのねーちゃん達が営業をしている酒場(楽園)に、俺はゴブタやカイジン達を誘って飲みに行ったわけだ。もちろん、シュナやシオンには内緒でな?

 

 

ねーちゃん達に抱かれながら飲む酒ほど美味いもんは無い!久々にここへきて興奮してた俺やカイジン達は、明日のことなんて気にせずに好き勝手に飲みまくる。ゴブタに至っては、ねーちゃん達のなんとも言いにくい・・・・・・色仕掛けでノックアウトされてしまい、しばらくの間、顔中をりんごのように真っ赤に染め上げたまま、ぶっ倒れていた。

 

 

十分に飲んだ俺たちは、そろそろ帰ろうと店の外に出たんだが・・・・・・そこで問題が発生した。何が問題かって?だって、店の外には・・・・・・

 

 

 

『リムル様♡・・・・・・今、ここの店で何をなされていたのですか?』

 

 

 

『リムル様!私を置いて遊びに行くなんてひどいですよ!』

 

 

 

全く”目が笑ってない笑顔”でこちらを覗いているシュナと、俺が自分を置いて行ったことに腹を立てているシオンが並んで立っていたからだ・・・・・・。二人の隣には、ゴブタの部下であるゴブゾウの姿があった。・・・・・・って言うか、なんで二人がいるんだよ!?バレずに来たつもりだったんだが!?

 

 

 

『ゴブゾウがすべて教えてくれましたので』

 

 

 

お前かっ!!!何、馬鹿正直に話してくれちゃってんだよゴブゾウ!!・・・・・・と言ったところで、もう二人にバレてしまった事実は取り消せない為、俺たちはその後、しばらくの間正座で二人のお説教を聞かされる羽目となったわけだ・・・・・・。

 

 

 

で、罰として俺は、1週間”シオンの手料理の刑”が科される事となった。正直、これが一番辛い・・・・・・。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

・・・・・・お願い、あの子達を救って。

 

 

ん?・・・・・・またこの夢か。最近やたらと見るな・・・・・・。俺の脳裏に映るは、シズさんと共に、満面の笑みを浮かべながらはしゃぐ子供の姿。最近はやたら寝るたびにこの夢を見る。

 

 

・・・・・・早く、王都に・・・・・・イングラシア王国に。

 

 

この夢はおそらくただの夢じゃない。これは、俺が喰らった・・・・・・シズさんの記憶・・・・・・いや、未練と言うべきか。それが夢という形で現れたんだろう。

 

 

・・・・・・お願いね?・・・・・・スライムさん。

 

 

 

 

 

「へ?お、おいシズさん!・・・・・・って、あれ?」

 

 

気がつくと、俺は自分の自宅で横になって寝ていた。・・・・・・まだ全然日が高いのにだ。あれ?・・・・・・俺、何やってたんだっけ?

 

 

「あ、やっと起きたね?もう、食事の最中なんだから寝ないでよ。寝るならせめて”これ”食べてからにしてくれる?」

 

 

「は?”これ”?うっ・・・・・・って、そうだった!」

 

 

いつのまにかいた、エリスに俺の目の前に置かれている”料理”を指さされて、ようやく思い出した。・・・・・・そういや、さっきまであの夜遊びの罰としてシオンの手料理を食べさせられてたとこだったんだよな?それで、その料理の味が俺の想像を遥かに超えた衝撃的な味だったもんだから、気絶したんだっけか?まじかよ・・・・・・メシ食って気絶するとか・・・・・・。

 

 

「て言うか、いつからいたんだよエリス?」

 

 

「ついさっきかな?帰ってきて罰を受けてるリムルの顔でも拝んであげようと思ってね?」

 

 

「エリス、いたんならどうにかシオンを説得してくれよ・・・・・・。お前だってこの料理の脅威さは知ってるだろ?」

 

 

「リムルの自業自得でしょ?聞いたよ?ドワルゴン国でシュナ達に隠れて夜遊びしたんだって?そりゃ、怒られたって仕方ないよ。潔く、この刑を受けるんだね」

 

 

「うっ・・・・・・(否定出来ねー・・・・・・)」

 

 

「全く、少しは国主として自覚した方が良いよ?もし、魔国連邦(テンペスト)の国主は、だらしなく、威厳がなく、果てにはドワルゴン国の酒場のバーで飲みまくって、それを配下にこっ酷く叱られる情けないスライム、なんて噂が立ったらどうするの?少しは、行動を考えなって・・・・・・」

 

 

ため息混じりに、エリスはぼやく。明らかに俺に呆れてるな、こいつ・・・・・・。その姿が妙にガゼル王と重なる。・・・・・・ガゼル王にもエリスと似たようなこと言われたからな。無理ない。いや、だがあそこは俺の疲れを癒してくれる唯一の楽園(エデン)なんだよ!ドワルゴンに行ったからには俺は絶対にあそこに行かなくてはいけない使命が・・・・・・これ言ったら今度こそエリスから失望されそうだし、やめとこう。

 

 

「わ、悪かったよ。それにしてもエリス?・・・・・・なんか妙に俺に冷たくないか?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

エリスは何も答えないまま、そっぽを向いてしまう。俺が帰ってからと言うもの、こいつはずっとこんな調子で機嫌を悪くしていた。・・・・・・俺、何かやったか?

 

 

「別に?”僕が行けない代わりに、ドワルゴン国でお土産を買ってくるって約束してたのに、夜遊びだかなんだか知らないけどそれに熱中してたせいで約束忘れて、一つもお土産買ってきてくれて無いじゃん!”・・・・・・なんて思ってないから気にしないで?」

 

 

 

「あっ・・・・・・」

 

 

 

や、やばい・・・・・・そういや、ドワルゴンに出発する前に、エリスとは隠れてお土産を買ってくるって約束してたんだった。・・・・・・向こうで本当に色々とありすぎてすっかり忘れてた・・・・・・。はぁ、元々俺が買ってくるって言い出して期待させておいて、こうして何も買ってこなかったんだから、怒るのも無理ないよな・・・・・・。おまけに、約束を忘れて、俺が夜遊びしてた事を知っちまったこともあって、怒りのボルテージはさらに上がって、もはやMAXに近い状態になってることだろうし・・・・・・。と、とにかく謝らないと!

 

 

 

「わ、悪い!忘れてたわけじゃ無いんだ!本当はちゃんとお前にも土産をちゃんと買うつもりだったんだが・・・・・・その〜、色々と向こうであってな?買う時間がなくて・・・・・・」

 

 

 

「だから気にしなくていいよ。それならそれで、今度は僕が行った時に買えばいいだけの話だからさ。・・・・・・悪いって思ってるなら、”今回の刑”をしっかりと受けて反省するんだね。それで今回のことは許してあげる」

 

 

 

「はぁ〜・・・・・・わかったよ。これからは気をつける・・・・・・」

 

 

 

「うん、そうしな」

 

 

 

エリスの態度が少し和らいだのを確認してほっとした俺は渋々、未だ”妙な物が滲み出てきている”シオンの料理を口に運んでいった・・・・・・。夜遊びは程々にしておこう・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

「人間に扮して、イングラシア王国に行こうって思ってる」

 

 

 

それから1週間後、俺はそろそろ頃合いかと思い、シズさんの教え子が居るっていうイングラシア王国へ単身で行ってくるとみんなに伝えた。

 

 

ちなみに今俺たちが集まってるのは、この前完成したっていう新しい執務館だ。これからの俺らの仕事場はおそらくここになる。外観はアメリカのホワイトハウスをベースとしたものを作って貰ったため、執務館というよりも王宮に見えるかもな。正直引くくらいのかなりの規模で、バルコニーや中庭、テラスなども作られていて、ここまでするか!?って思うくらいだったんだが、カイジンやベスター曰く、ここは国の王宮という意味合いを持つため、なるべく大きく、そして気品溢れる偉大な建物を作るべきなんだとか。・・・・・・さすが、長年ガゼル王に仕えてきた奴と、元ドワルゴン国の大臣だ。こう言ったことはマジで参考になる。

 

 

 

「急だね?イングラシア王国って、確かブルムンド王国よりもさらに西にある人間の国だよね?」

 

 

 

みんなが俺のこのお出かけ宣言に驚いている中、そんなみんなを代表してエリスが、俺に対して聞いてくる。・・・・・・にしてもこいつ、よくイングラシアのことが人間国だってわかったな?俺は大賢者に教えられてようやく分かったってのに・・・・・・。

 

 

 

「ああ、それであってる。いや、そろそろ・・・・・・”シズさんの言っていた教え子”のところへ行きたいと思ってな?エリスも聞いたろ?心残りの一つがそれだって」

 

 

 

「あぁ・・・・・・そういうことね」

 

 

 

エリスが納得の意を評した。エリスも俺と同じであの時シズさんの思いを受け継いだからな。俺の気持ちも十分にわかるんだろう。

 

 

 

「なるほど・・・・・・リムル様のお考えはよくわかりました。・・・・・・ですが、リムル様お一人でその人間の国へ赴かれるのは些か危険では・・・・・・?」

 

 

 

「もし万が一、リムル様の身に何かあれば、ジュラの大同盟にも少なからずの影響が・・・・・・いや、最悪の場合は根底から崩壊する可能性も・・・・・・」

 

 

 

リグルドとベニマルがそれぞれ俺にそう意見する。・・・・・・まぁ、そんな風に言われるのは分かっていたことだけどな?

 

 

 

「安心しろ。俺一人で行くわけじゃない」

 

 

 

「え?・・・・・・もしや?」

 

 

 

ベニマルがそう言うと、その場にいた全員が揃ってエリスの方を向く。確かに、普通ならここはエリスも行くべきだ。今は交易関係の話や国間での問題の話もある程度落ち着いてるし、俺やエリスが魔国連邦(テンペスト)を離れたとしてもこいつらだけで十分対応できる。だから、本来であれば連れて行きたいところなんだが・・・・・・。

 

 

 

「エリス。お前、魔素をゼロに抑えることできるか?」

 

 

 

「う〜ん・・・・・・抑えることは出来るけど、流石に全部とまでは行かないかも。リムルみたいに”抗魔の仮面”を持ってるわけじゃ無いから、完璧に魔素を隠蔽するのは難しいかも」

 

 

 

エリスならもしやって思ってたが、やっぱり無理か・・・・・・。だが、魔物にとって魔素は命の源だし、勝手に体外に漏れ出すことを防ぐのは簡単なことでは無い。俺だって、このシズさんから貰った”抗魔の仮面”が無ければ魔素を抑えられないしな。別に亜人のとこや他の魔物達のとこへ行くのだったら、それでも良いんだが(絶対ではないが)、今回行くところは()()()だ。こっちが魔物だって気付かれたら即パニックになりかねない。・・・・・・そうなると。

 

 

「(大賢者、抗魔の仮面を複製出来るか?)」

 

 

〈否。抗魔の仮面の解析が未だ不十分である為、複製は不可能です。〉

 

 

複製出来るかもと思っていた俺の考えを、大賢者は即座に否定した。そういや、この仮面の解析を終えたって知らせはずっと来てなかったもんな・・・・・・。思ったよりも解析に時間かかるんだな、これ。

 

 

となると、俺から言えるのは・・・・・・。

 

 

「(そうか・・・・・・もしやと思ってたが、残念だな・・・・・・)エリス、残念だが、連れて行くのは無理だ」

 

 

 

「だよね。こう言うことも考えておいて、以前からカイジン達にそんなものを作る様依頼してたんだけど、まだ作れてないみたいなんだよ・・・・・・あはは」

 

 

そう呟くエリスの顔はどこか寂しそうだった。・・・・・・無理もない。シズさんの心残りだって言う子供達に会いに行くことができないって言うのも勿論そうだが、何よりこいつは・・・・・・話していなかったが、以前から人間の国へ行くことを楽しみにしていたんだ。前世が俺と同じ人間であった事もあって、同じ人間に会うことと、人間国の文明や文化などに触れ合うことなどを密かに楽しみにしていた様だった。そして、今回こうして人間国であるイングラシアへと行けるチャンスが来たって言うのに、自分が魔物であるせいで行けないと分かったんだから、落ち込むのも仕方がない事だった。

 

 

 

「いずれ、ブルムンド国みたいに国交を結べば、普通に行ける様になる。それまで、少しの間だけ我慢してくれ。何度も我慢させることにはちょっと悪い気はするんだがな・・・・・・」

 

 

 

「いいよ。仕方ないことだし。・・・・・・じゃあ、連れて行く人はどうするの?」

 

 

 

「俺の影にランガを忍ばせてついて来てもらう。それと・・・・・・」

 

 

 

「はっ・・・・・・俺の分身体の一体をリムル様との連絡役に回す為、何かありましたらすぐにでもエリス様や皆に伝えに参ります・・・・・・」

 

 

 

ソウエイが静かにそう答える。その言葉にエリスを含めた全員の顔の表情が少し緩む。

 

 

 

「そう言うわけだ。それに、カバル達に案内役を担って貰おうと思ってるし、何も心配はいらないぞ?」

 

 

 

「・・・・・・わかりました。ですが、くれぐれもお気をつけて・・・・・・」

 

 

 

「リムル様の身に何かあれば・・・・・・」

 

 

 

「やはり、私がお供について参ります!」

 

 

 

おいおい・・・・・・このままじゃ、みんな俺について来そうな勢いなんだが?・・・・・・はぁ、残されるエリスの心労が募りそうだ。あと、シオン?お前は、話を聞いてなかったのか?

 

 

 

「大丈夫だって。・・・・・・エリス、今度はちゃんと連れて行くから、今回は・・・・・・こいつらのことを頼む。子供達のことに関しては、俺に任せとけ」

 

 

 

「はいはい。次は、ちゃんと一緒に連れてってよ?約束だからね?」

 

 

 

「ああ、約束だ」

 

 

 

エリスと、軽い約束を交わした後、俺は身支度をするためにその場で会議はお開きとした。出発は今、ゴブタが呼びに行ってるカバル達がここに到着次第だ。それまでに、準備をしておかないとな・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

身支度を整えた後、俺はカバルたちが来るまで回復薬(ポーション)の製造とヒポクテ草の栽培を行っているベスターとガビルの元へ赴いていた。理由は主に近況報告を聞きに来たと言うのと、イングラシア王国との回復薬(ポーション)の販路を確保する旨を伝えると言う二つだ。せっかく旅に出るんだ。タダで帰るのは勿体無いしな。また、ドワルゴン国にも下位回復薬(ローポーション)を納入することが確約している。以前赴いた際にガゼル王に聞いた話だが、現在は回復薬(ポーション)自体が不足してるんだそうだ。こっちとしても、納入してくれるってなら、これほど嬉しいことは無いため、快くOKを出した。俺たちの資金源になる大事な事だしな。ただし、ドワルゴンの薬師を数人、研究員として受け入れることを条件としてだ。

 

 

ベスターにそのことについて話し、派遣される人材の情報をベスターに見せたところでは、皆自分の元同僚で信用できる人材だと事だったため、それに関してはどうやら問題なさそうだった。

 

 

「それで、回復薬(ポーション)の開発状況はどうなんだ?」

 

 

 

「順調ですよ。今では”一日に一個”のペースで完全回復薬(フルポーション)を作ることに成功しています。ですが、先ほど見せて頂いた研究員達がこの開発チームに加わるとするのであれば・・・・・・そうですね、少なくとも”一日に三個”を作ることは可能になるかと」

 

 

 

「おおっ・・・・・・!」

 

 

 

手足の欠損ですら一瞬で治す事が可能な完全回復薬(フルポーション)を”一日に三個”のペースで作れるという事実を知った俺は、感嘆する。完全回復薬(フルポーション)は特定の状況で薄くする事によって上位回復薬(ハイポーション)を”二十個”作る事ができる。これは、ベテランの冒険者が万が一の時用に持っておく回復薬(ポーション)だ。で、さっき話した下位回復薬(ローポーション)って言うのは、完全回復薬(フルポーション)を”百分の一”に薄めた回復薬(ポーション)のことを言っていて、言い換えるなら完全回復薬(フルポーション)一つで”百個”の下位回復薬(ローポーション)を作れることを意味している。この下位回復薬(ローポーション)は、一番ありふれていて、巷でもよく出回っている代物で、大概の冒険者は携帯している。

 

 

 

今回の旅で、イングラシアには上位回復薬(ハイポーション)を中心的に買うよう交渉してくるつもりだ。数で言うならどう考えても下位回復薬(ローポーション)を売るのが一番いいんだが、さっきも言ったように下位回復薬(ローポーション)はどこにでも出回っていて、これを特産品として周知させるにはどうしても無理がある為、却下となった。完全回復薬(フルポーション)に至っては、そもそも性能があまりにも良すぎて、この性能に見合う値段をつけてしまうと、最早”冒険者には手が出せない様な値段”になってしまい、商売にならなくなってしまうというベスターの意見が出た為、これも却下となった。

 

 

そんなわけで、俺はターゲット層をベテラン冒険者と言う、ある程度冒険者稼業で稼いでそうな人間達に搾り、そう言った連中に上位回復薬(ハイポーション)を買ってもらえるよう交渉に行ってくるつもりだ。勿論、利益を上げるためになるべく高値で売る。・・・・・・俺の目標は、徐々に規模を大きくして行きつつ、国庫を潤す事だからな。頑張らねーと!

 

 

 

それから、数時間後、無事にカバル達が到着したため、三人を少し休ませた後、出発することにするのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「リムル様!どうか、気をつけていってらっしゃいませー!」

 

 

 

「お気をつけてー!」

 

 

 

カバル達の休憩も済み、イングラシア王国へと出発する俺たちを、リグルド達重鎮を始めとした、町のみんなが総出で見送りに来ていた。・・・・・・なんか、初めて学校に送り出される子供になってる気分になって、めちゃくちゃ恥ずかしいんだが?一応、いつでも連絡が取れるように、以前作った通信水晶(前世で言う、テレビ電話のような物で、『思念伝達』が届かない場所へ行っても、簡単に連絡を取る事を可能としている優れ物。)を持って行くから、そこまで心配しなくても良いと思うんだが・・・・・・って、あれ?

 

 

 

あいつ(エリス)、どこ行った?」

 

 

 

いつもだったら、真っ先に見送りに来るエリスの姿が見えないことに疑問を抱いた俺。・・・・・・どうしたんだ?

 

 

 

「リムルー!」

 

 

 

「あ、来た来た。・・・・・・どうした?どっか行ってたのか?」

 

 

 

「うん、家に忘れ物しちゃってね。・・・・・・ってことで、はいこれ!」

 

 

 

「うん?これは・・・・・・ペンダントか?」

 

 

 

遅れて現れたエリスから渡されたのは、”水の雫”をモチーフにした形が何とも可愛らしい、一つのペンダントだった。コバルトブルーに輝くそのペンダントは、エリスの綺麗な青髪を彷彿とさせた。

 

 

 

「そう。一応、お守り・・・・・・みたいなものかな。もし、”万が一”のことがあった時に、リムルを守るよう作ったから出来ればつけていて欲しいな」

 

 

 

「お前の作った物だったら、喜んでつけるさ。それにしても、お前が作ったのか?へぇ・・・・・・何か飛び出してくるとかか?」

 

 

 

「それは内緒。言ったら面白く無いでしょ?・・・・・・と言っても、それを見ずに終わってくれた方が僕としては嬉しいんだけどね?万が一・・・・・・なんて起こってほしくないし・・・・・・」

 

 

 

「ご安心を、エリス殿。我が主は我が身命を賭して守りますので!」

 

 

 

俺の影の中から、元気よく飛び出してきたランガが、自身ありげにそう言い放つ。そして、その横にいたソウエイも同じ様に頷いていた。・・・・・・全く、頼もしい配下達だ。

 

 

 

「さて、じゃあそろそろ行くわ。・・・・・・みんなの事、頼んだぞ?エリス」

 

 

 

「うん、任せといて!・・・・・・今度は絶対、お土産忘れないでね?」

 

 

 

「分かってるよ。期待して待っとけ!・・・・・・じゃあ行ってくる!」

 

 

 

エリスから貰ったペンダントを首から下げた俺は、カバル達を先導にイングラシア王国へと出発した。この世界に転生して二年近く経ったわけだが、未だに人間の国へ行ったことは無かったからな。・・・・・・楽しみだ!

 

 

 

 




「うぅ・・・・・・ランガやソウエイだけずるいです・・・・・・私も行きたかったです〜・・・・・・」


「シ、シオン?何も泣かなくても・・・・・・そ、そうだ!今日はこれと言って用事は無いから、僕と一緒に何かする?気分転換にさ?」


「っ!本当ですか!では、私の料理を食べていってくれませんか?最近色々と料理に凝っていまして〜!」



「っ!!りょ・・・・・・料理・・・・・・」



「だめ・・・・・・でしょうか?」



「っ・・・・・・わ、分かった。じゃあ、後で料理を持って僕の家まで来てね・・・・・・」



「はいっ!すぐにお持ちします!!」



「(時を戻したい・・・・・・)」



その日を境に、僕はなるべくシオンに対してはあまり、気分転換に誘うことをやめた。・・・・・・こう言う事になるから。



結局その後、案の定”とんでも無い料理”へと仕上がっていた物を存分に堪能した僕は、しばらくの間寝込むこととなるのだった・・・・・・。




ようやくリムルがイングラシアへ向けて出発しました。今回も、エリスはお留守番です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人間国と交流を

あの日が、近づいてくる・・・・・・。エリスはどうするんだろうか?原作知識を持ってるならまだしも、何も情報が無いままであの日を迎えれば一体・・・・・・?


視点 エリス

 

 

 

リムルがイングラシア国へと旅立って、7日程が過ぎた。リムルがしばらく留守になり、僕が再び国主代理を任されることとなった訳だけど、以前に比べて国交等の忙しい仕事や、やりとり、交易関係の話は大方まとまっていた事もあって、そこまで苦もなく国主としての仕事をこなせていた。それに、重鎮のみんなにも色々と仕事を手伝ってもらった事もあって、仕事を早めに終わらせて、みんなで一緒に温泉に行ったり、食事をしたりすると言った時間も作れてたりする。最近はこう言った時間が多く取れる事もあって、みんなからは笑みが絶えなかった。・・・・・・勿論僕もね?

 

 

 

ここで、みんなに任せている仕事を簡単に説明しておこう。

 

 

 

ベニマルには警備隊に派遣する人材の編成やら、万が一の戦闘に備えるための戦闘部隊の編成を行ってもらっている。彼は、”侍大将”と言う、みんなを指揮しながら指示を出し、指揮を高める役職に務めているからね。こう言った事には適してると思ったから彼に任せる事にした。

 

 

シオンには、僕の補佐をお願いしていた。最初は、腕っ節の良さを考慮して警備隊につけようと思ったんだけど・・・・・・『エリス様のお側でどうか、私にお手伝いをさせてください!』と、執拗にお願いをして来たものだから、仕方なく補佐を任せる事にしたわけ。・・・・・・とは言っても、シオンもちゃんと仕事を教えればしっかりとこなしてくれ、そのおかげもあって僕の仕事をこなすスピードも上がったから、正直補佐にして良かったと思ってる。

 

 

ソウエイにはこれまで通り、”隠密”としての仕事を部下であるソーカ達と共にこなして貰ってる。町の外で、不穏な気配や動きがあった場合の時は、真っ先に僕に伝える様指示している。・・・・・・ちなみに、そう言ったことはこの7日間では一つもない。

 

 

シュナには秘書としての仕事をこなして貰っている。僕が国主代理として、仕事をしている間、本来僕がやるべきである住民票の作成や整理などをやって貰い、今までやってきた交易や国交という大事な事について、後で詳しく確認するために、それらの情報をまとめて貰ってもいた。

 

 

ハクロウにはいつも通り、指南者として町の若者たちに(地獄の)指南をして貰っていた。いつ、何が起こるかわからないからね。こうして、戦力を高めておいて、備えておくと言うことは大事なことだと思う。

 

 

 

リグルドには、新たに町に訪れに来た魔物やら、亜人やらの歓迎と案内をして貰っていた。基本的に、魔国連邦(テンペスト)には誰でも来れる様にしているから、各国から色々な種族の魔物達が訪れてくるんだ。特に、友好を結んだ国(ドワルゴン国や獣王国(ユーラザニア))からは、度々使者や資材等を運ぶ配送者たちが訪れてくる為、その絶対数は高い。本当は彼らを僕が出迎えたいとこなんだけど、仕事がある以上無理な為、リグルドにお願いしてるってわけ。

 

 

 

セキガとカレン、ヒョウガには警備隊について貰っている。この頃平和だし、僕を護衛する必要も無さそうであったため、警備隊に彼らの力を貸そうと派遣したんだ。彼らの実力はかなりのものだし、きっと警備隊でも役に立ってくれることだろう。ちなみに、ヒョウガは・・・・・・一応二人の”保護者”的な形で付き添わせた。二人だけで問題ないと思うんだけど、たまにどこか危なっかしくなる時があるから・・・・・・もしもの時の保険として一応・・・・・・ね?

 

 

 

・・・・・・とまあ、ざっとこんな感じかな?こんな感じでみんなにはそれぞれ仕事をして貰い、国のために頑張って貰ってる。で、終わったらみんなで集まって遊びに行くか、食事に行くかの二択になる。最近では、こう言った生活をほぼ毎日過ごしているかな。もちろん、みんなが仕事を手早くこなし、早めに終えることでそう言った時間が作れていると言う事もそうなんだけど、何より今は”平和”だからより一層そう言ったことができる。周辺各国とのいざこざも無いし、交易間でのトラブルも無い。当然、暴風大妖禍(カリュブディス)と言った災害級の魔物が出現して、襲ってくるといった一大事件も無いため、今まで忙しくて出来てなかったこうした”娯楽”を僕たちは楽しんでいるんだ。特に娯楽で流行ってるのは、以前僕とリムルの提案で、カイジンさん達に作って貰った、『将棋』と『オセロ』だ。これを温泉上がりにみんなでやるのが最近、僕がハマってることだ。・・・・・・僕は・・・・・・と言うか、大半の人は異常に強いハクロウに完膚なきまでに叩きのめされるんだけどね?でも・・・・・・楽しいから良いんだよ、うん!

 

 

 

すっごく、リムルを仲間外れにしてる感が否めないけど、リムルだってドワルゴン国で僕たちに隠れて、楽しく遊んでたみたいだし、これくらいはしても良いと思ってる。

 

 

 

そう言えば、さっきリムルから通信水晶を通して僕に連絡が入ってきたんだ。内容としては、『ブルムンド王国でのやる事を終えたから、今からようやくイングラシア国へ向かう!』とのことだった。それだけを伝えるために連絡してくるなら、わざわざ連絡してこなくて良いのに・・・・・・って思ったけど、リムルが元気そうにしていると確認をとることが出来たから、むしろ連絡してくれて良かったかな。

 

 

それで、ついでにブルムンド国でどんな事をしたのかも色々と聞いたんだけど、やっぱり一番驚いたのはブルムンド国王と極秘にリムルが面会していたことだ。国王と面会なんて、普通なら出来るはずも無いけど、リムルは魔国連邦(テンペスト)の国主だからと言う事もあって、国王直々に指名が掛かったそうだ。ドワルゴン国に続いて、二国目の承認を得られるチャンスなんだから、リムルはこれに快く応じたらしい。で、その国王さんと面会する前に、その大臣であるベルヤード男爵さんと言う人と実務的な協議を行い、その協議で決定した内容等を国王さんとの会談で相互に確認を取るようにする事にしたのだとか。

 

 

協議は滞りなく終わったそうだ。こちらの開国条件である『相互安全保障』『相互通行許可』に対して、少々揉めるようなことはあったようだけど、最終的にはどちらもベルヤードさんは承認してくれ、色々と国間での決め事などもそちらで提案してくれた事もあって、リムルにとっては、非常に有意義な時間となったそうで何よりだった。

 

 

国王さんとの会談で、無事にこの国の承認を得ることはできたそうなんだ。何故か『色々とあいつらに騙された〜』・・・・・・ってぶつぶつ何か言ってたけど、それは今のところは関係なさそうだったからそこはスルーしておいた。あとで帰って来た時にでも聞いてあげればいいし。そんなわけで、最後にリムルは騙された腹いせとして上位回復薬(ハイポーション)をブルムンド国に売りつけ、ついでに自由組合(ギルド)で冒険者に登録して、イングラシア国に向けて出発を開始したそうだ。そう言った話をした後、軽く雑談をして連絡を切った僕は、しばしの間思考を巡らせていた。

 

 

 

「(ブルムンド国と魔国連邦(テンペスト)間で『相互通行許可』が出されるってことはすなわち、魔国連邦(テンペスト)にもブルムンド国の国民・・・・・・いや、”人間”がたくさん来る事になり、逆にこちらも自由に人間の町に赴ける事になると言う事を意味している。人間達と友好的に触れ合いたい僕たちの願いが叶う、またと無いチャンスだと言うことは間違い無いと思う。・・・・・・とりあえず、ブルムンド国と魔国連邦(テンペスト)を結ぶ道路の舗装と整備をゲルド達に急がせることと、人間達が寝泊まりする事も考慮して、迎賓館以外の宿もいくつか作ってもらうよう、カイジンさん達やハイオーク達にもお願いしておこう。あ、冒険者の人たちもたくさん来る可能性もあるから、装備を買える施設や、回復薬(ポーション)を買える施設なんかも作って貰わないと。あとは・・・・・・やれやれ、久々に忙しそうだ)」

 

 

 

 

久しぶりに、忙しくなることを予兆した僕は、軽く頬をパンッ!と叩き気合を入れると、すぐさま行動へと移すべく動き出した。まず、さっき考えた事をみんなに伝えるために、会議室にみんなを集め、人間がこの国に多く訪れることとなる事もしっかりと伝えた。人間がこの町に来ると言う事実に、一部はどこか苦い顔をして否定した人も居たけど、僕が必死に説得をしたおかげもあって、なんとか折れて貰えた。

 

 

 

「みんな、改めて言っておくけど、僕たちは魔物だけど、人間達とはともに良い関係でありたいと思ってる。だから、人間だからといって変な嫌悪感を抱くのはどうかやめてほしい。暖かく、そして優しく・・・・・・彼らを迎え入れて欲しいんだ。そうすればきっと、人間達の方からも自然と僕たちのそばへと寄り添ってくれるだろうから」

 

 

 

「分かっています。あなた方がそう決めたのであれば、俺たちは従うだけです。・・・・・・では、俺は人間達が来る事によって治安が悪くなる事を防ぐ為に、警備隊の警備範囲の見直しと、増員・・・・・・そのほか諸々を考える事にします。後、獣王国(ユーラザニア)への使節団のことについてもリグル殿と相談を・・・・・・」

 

 

 

「うん、ベニマルはそれでお願い。他のみんなは、それぞれ今まで通りの仕事をこなして。もし、仕事が早く終わったのなら、出来れば他の人の仕事のこともどうか手伝ってあげてほしい。人間との共存を目指してこの国をもっと豊かにして行くつもりだから、みんな団結して頑張っていこう。いいね?」

 

 

 

「「「「はっ!!」」」」

 

 

 

「うん、じゃあ解散で。・・・・・・あ、クロベエとシュナはちょっと残ってもらえる?」

 

 

 

概ねの方針を伝え、みんなを解散させた後、僕は二人には頼みたいことがあったため、残って貰った。

 

 

 

「クロベエ、キミにはこれから来るであろう冒険者達の装備の補修や修理なども行って貰いたいんだ。鍛治の片手間で良いと思うんだけど、大丈夫かな?」

 

 

「オラに最近弟子入りした奴で筋のいい奴がいますだ!そいつに任せれば問題ないだ!」

 

 

 

「ありがと。じゃあそれでお願い。で、シュナ。キミには人間達におもてなしをする際に出す”新しい料理”を料理担当のホブゴブリンやゴブリナ達と共に作って貰いたいんだ。既存の料理でも十分におもてなしになるとは思うんだけど、せっかく来てもらうことだし、それなりのサプライズがあった方が面白いでしょ?だから、是非シュナの力を貸して貰いたくてね?あ、仕事の方は僕がやっておくから気にせずそっちに専念してくれていいよ?」

 

 

「いいえ、それではエリス様の負担が大きくなってしまいますから、仕事の方も私がやります。大丈夫ですよ、そこまで苦の作業では無いですし、量も以前と比べれば多くはありませんから」

 

 

「そう?それなら、良いんだけど・・・・・・じゃあ、料理について何だけど、僕としては・・・・・・」

 

 

 

クロベエには装備の補修と修理を、シュナには新料理の調理参加をお願いし、二人には帰って貰った。せっかくだから、クロベエの作った武器や防具なんかも販売すれば・・・・・・って思うかも知れないけど、クロベエの作ったものは全て、”生半可な冒険者では絶対に買えないであろう値段”がついてしまう程に性能が良いものである為、完全回復薬(フルポーション)同様、全く商売にならなくなってしまう為、却下となった。

 

 

シュナに頼んだ新料理については、まだ秘密ね?・・・・・・ヒントとしては、日本人なら知らない人は居ないあの、”鍋料理”だ・・・・・・あ、思い出しただけで涎が垂れるな。・・・・・・早く食べてみたい!

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3日後、色々と準備に追われていて忙しい日々を送っていた僕達の元に再び、通信水晶を通してリムルからの連絡が入った・・・・・・。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「”教師になる”・・・・・・ってどう言うこと?」

 

 

 

リムルの声を聞けてちょっと嬉しいな!・・・・・・なんて思ってたら、突然『俺は、シズさんの教え子達の教師になる!』って言いだすもんだから、途端に僕の顔は怪訝な顔へと変わった。

 

 

 

『言葉の通りだ。子供たちを助けるために俺は教師になる。だから、しばらくはイングラシアで一人暮らしする事になったから、それを伝えようと思ってな?』

 

 

 

「教師って・・・・・・あの、もっと詳しく教えてくれませんか?」

 

 

 

『ああ。急に言われても困るよな。・・・・・・実は』

 

 

 

それからリムルから語られたのは、ざっくりとした事の成り立ちだった。まず、今日に旅の目的地であるイングラシア国に着いた様で、早速シズさんの元教え子で、現在は自由組合総帥(グランドマスター)として自由組合(ギルド)のトップに君臨している、”ユウキ・カグラザカ”さんに会うべく、”自由組合本部”に赴いたそうだ。この人はどうやら、シズさん同様、異世界から転移して来た人のようで、名前からして日本人で間違いないとリムルは言っていた(もう一人、イングラシア国の聖騎士団に”ヒナタ・サカグチ”さんと言う転移者もいるそうだが、その情報はあまり得られなかったようだ)。イングラシア国は、対魔物の互助組織とも比喩されている『西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)』と呼ばれる、ジュラの大森林周辺に点在する人間の国家で形成された評議会の中心国のようで、そう言った自由組合(ギルド)等の本部もこの国に点在しているそうだ。

 

 

で、イングラシア国に向かう前に立ち寄ったブルムンド国で、ヒューズさんから貰った招待状を受付に見せることで、ユウキ・カグラザカさんと面会出来るようになったらしいけど、そこでどうやら一悶着あったそうだ。ユウキさんは、リムルが自分の先生であるシズさんを喰らった(殺した)張本人であると分かるとひどく憤り、脇目も触れずにリムルに襲い掛かったらしい(とても、自由組合総帥(グランドマスター)とは思えない行動だ。)。だが、リムルからシズさんの事情と願い、想いをまじまじと聞かされたユウキさんは、ようやく平静を取り戻し、リムルと話をするようになったそうだ。リムルもそれを見て安心したのか、今回の自分の目的をユウキさんに伝えた。

 

 

 

そして、リムルの目的を知ったユウキさんから告げられた言葉は、想像を絶する程に驚くものだった。

 

 

 

「1・2年以内に・・・・・・()()()()()()?どう言うことなの?」

 

 

 

『ユウキの話だと、人間が魔物に対抗する為に、有能なスキルを持つ異世界人を呼び出して英雄にするべく、国絡みで誘拐するみたいに、召喚の儀式で異世界から特定の異世界人を呼ぶんだが、それが失敗して全く戦うスキルを得ることが出来ない非力な子供が多く召喚される事になっちまったらしい。それで、失敗したその影響でその子供たちは、本来スキルに還元されるはずだった大量のエネルギーを過分量、体内に取りこんじまって・・・・・・』

 

 

 

「そのエネルギーが、体内で暴発を起こして・・・・・・身を焼き尽くすって事?」

 

 

 

『ああ。だから、この世界に来た子供達は、みんな5年以内には死んでしまうらしい。そのシズさんたちの教え子達はこっちに来てからそれなりに経ってるから、この余命なんだろうが、正直はっきりとしたことは分かっていない』

 

 

 

「そんな・・・・・・。このままじゃ、あまりにも子供達が・・・・・・」

 

 

 

あまりにも理不尽なその理由に、僕は小さく子供達を憐れんだ。こっちの世界の人間の都合で、なんの罪もない小さな子供達を勝手に連れてきて、それでいて何でそんな身勝手な大人の事情で、子供達が死を迎えないといけないのか理解が出来ないからだ。

 

 

 

『大丈夫だ。その為に俺が教師になったんだからな。シズさんの代わりに子供達の教師になって、そいつらのことを絶対に救ってみせる。・・・・・・まだなんの手がかりも無いが、絶対に助けるから安心しろ?』

 

 

 

「うん、お願いね?じゃあ、みんなには僕の方から伝えておくから、リムルはそっちの事を頼むよ」

 

 

 

『ああ。その内顔出しに行くから、待っとけよ?そん時には土産も持って行くからさ?』

 

 

 

「期待してるね!」

 

 

 

僕のその言葉を最後に、リムルとの連絡は途切れた。通信を終えた僕は、執務室の椅子にゆっくりと腰をかけた。・・・・・・なんか色々と聞かされて疲れちゃったんだよね?

 

 

 

「子供達がそんな事になってたなんてね?・・・・・・リムル、絶対に救ってきてよ?」

 

 

 

僕の呟いたその一言は、しんと静まり返る執務室に、静かに響き渡った・・・・・・。

 




今回は色々と人間達を出迎えるための準備風景と、リムルと情報交換をしました。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大商人との取り引き

あの大商人が登場します。


リムルがイングラシアへと旅立って、一月が経った。あれから僕は、軽く町のみんなにリムルがしばらくの間、イングラシア国に居住する事を伝えた。みんな、しばらくリムルに会えないことが分かり、寂しさを覚えていたが、リムルの気持ちのことも考えてのことか、そこまで悲しがらずにすぐに納得してもらえた。

 

 

無論、僕も寂しいけど、今はそんなことは言ってられないんだ。何せ、最近は本当にやたらと”人間の人たち”が沢山魔国連邦(テンペスト)を訪れていて色々と忙しいからだ。その理由としては、やはり以前ブルムンド国と結んだ『相互通行許可』が原因だろう。その許可が降りたことで、こちら(テンペスト)の住民も向こう(ブルムンド)の住民も自由に両国に出入りできるようになり、こうして毎日のように魔物の国である魔国連邦(テンペスト)に多くの人間の人達が訪れに来てくれてるんだ。流石に、まだ人間の一般住民は僕たち魔物への恐怖もあるのか、あまり訪れては来ないが、代わりに”先見”と言った形で冒険者の人たちや商人達が数多く来ていた。

 

 

ここに来る理由は人によって様々だった。『武器の新調、整備、修理を行って貰いたいから』『観光に来た』『ここにしか無い商品を買いに来た』『宿に泊まりに来た』などなど。そう言った案内に関しては、リグルドがやってくれるとの事だったから、そこは任せる事にした。流石に、来る人全員を相手にすることは出来ないからね。

 

 

嬉しかったのは、ゲルド達が大急ぎでブルムンド国とここを繋ぐ道路を完成させてくれたおかげもあって、冒険者の人達も口々に『あの道路のおかげで来るのが楽だった』と言いながら満足げに微笑んでいたことだ。うんうん、一月はかかると思っていた道路の舗装をたった”20日”で完成させたゲルド達には本当に感謝しかないね。

 

 

ちなみに、人間達の相手は基本的に僕がしている(案内以外)。それもリグルドに任せても良いかな・・・・・・って思ったけど、やっぱり遥々ブルムンド国から訪ねてきてくれている人間の人達には、それなりの誠意を持って対応をして良い印象を持って貰いたかったため、僕が相手を受け持つ事にしたわけだ。

 

 

 

「初めまして!僕はこの町の責任者のエリス=テンペストと申します!今日はお越しくださり、ありがとうございます。是非、町中をゆっくりと散策して、楽しんで行ってください」

 

 

 

・・・・・・こんな感じで、来た人にはこうして明るく笑顔で、元気よく挨拶をしている。この挨拶は意外と評判が良かったようで、来た人間の人たちの中には、笑顔で挨拶を返してくれる人も数多くいた。・・・・・・たまに頭を撫でられる事もあったけど、それは何でなのかはいまだに分かってない。

 

 

 

「あ、いたいた!エリスさーん!」

 

 

 

「ん?あ、エレンさん。それに、カバルさんにギドさんも。一月ぶりですね。リムルの護衛は問題ありませんでしたか?」

 

 

 

他のみんなに色々とやるべき事を示唆しながら、自分自身も来る人来る人に対応して居た頃、前にリムルがイングラシア国に留まるとのことで、護衛の任を解かれてこちらに戻ってきていた、エレンさん、カバルさん、ギドさんが僕に声を掛けながらこちらに向かってきた。・・・・・・約一名、妙に位が高そうな服を纏った人を隣に侍らせながら。

 

 

 

「ああ、問題なかったぜ。・・・・・・にしても、1ヶ月前と比べて、随分とこの町が発展しているように見えるんだが・・・・・・気のせいか?」

 

 

 

「ああ、確かにここ最近で宿屋とか、武器屋、商屋と言った施設を大幅に造設しましたからね。そう見えるのも無理ないかも知れません」

 

 

 

「そうでやすか?どうりで・・・・・・」

 

 

 

何処か辟易したかのように言う3人。確かに、ここ最近で10を超える施設をカイジンさんやハイオーク達に作らせたけど・・・・・・ちょっと調子に乗って作らせすぎたかな?いや、カイジンさん達に『自分が思うがままに、好きなようにいろんな施設を作ってね?』なんて言った僕も悪いんだけどね?でも、施設が多い事に越したことは無いし、いずれはもっといろんな国の人達もここに訪れられるようにしたいから、施設が・・・・・・特に宿屋が多い方がむしろ都合が良かった。

 

 

 

そんな事を呑気に考えていて呆けて居た僕だったが、ある一つの声によって意識は現実に引き戻された。

 

 

 

「もし、あなた様がエリス=テンペスト様でいらっしゃいますか?ジュラの大森林同盟の副盟主で、魔国連邦(テンペスト)の副国主であらせられる・・・・・・」

 

 

 

「へ?あ、はい。エリス=テンペストは僕ですが・・・・・・あなたは?」

 

 

 

声を掛けてきたのは、3人と一緒にいた何とも位が高そう・・・・・・正確には良いとこの商人さんのような風貌をした男の人だった。あの〜、毎回言ってる気がするんだけど、僕は副国主であるつもりないからね?

 

 

 

「申し遅れました。ワシはブルムンド国で商人をやっております、ガルド・ミョルマイルと申します。今回は、ヒューズ殿の紹介でここの特産品である上位回復薬(ハイポーション)を買わせて頂きたく、参上いたしました」

 

 

 

「この人は国でも有名な商人なんだ。今回俺たちはこの人の護衛としてここまで来たわけだ。エリスの旦那、話聞いてやってくれないか?俺たち冒険者としても、上位回復薬(ハイポーション)が向こうでも買えりゃ、これほど心強いことは無いってもんだからな」

 

 

 

「(あ、やっぱり商人だったのね?)そうでしたか、分かりました。でしたら、執務室までご案内致しますので。話はそこでしましょう」

 

 

 

「はい。では・・・・・・」

 

 

 

3人とは一旦そこで別れ、僕は上位回復薬(ハイポーション)の販売の取引をするため、ミョルマイルさんを連れて執務室へと向かう事にするのだった。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

執務室でミョルマイルさんと上位回復薬(ハイポーション)の販売取引に応じる前に、ミョルマイルさんから、一つの手紙のような物を渡された。その手紙には、ヒューズさんの名前があった事から、おそらくこれはヒューズさんから僕に対しての何かしらの要求とそれにまつわる内容みたいなことが書かれているんだろう。・・・・・・多分、今回のこの上位回復薬(ハイポーション)の販売取引の事についてだろうけどね?

 

 

 

「拝見しますね?・・・・・・なるほど、上位回復薬(ハイポーション)を”銀貨25枚”で売って欲しいと・・・・・・そう言うわけですね?」

 

 

 

「はい。本来であれば、上位回復薬(ハイポーション)は銀貨30枚で売られているのですが、こちら(ブルムンド)で売れた上位回復薬(ハイポーション)の売上額を一部、こちらの魔国連邦(テンペスト)に献上する事を条件に、少し値を下げて銀貨25枚で売って欲しいのです」

 

 

 

「そうですか。ええ、問題ありませんよ?」

 

 

 

そちらの売り上げを少し貰えるのであれば、こんな値下げなんて可愛い物な為、僕は快くそれを呑んだ。ちなみに銀貨と言うは、この世界で出回っている貨幣のことで、その下の貨幣に”銅貨”と言う物があり、その上に”金貨”と言う貨幣がある。銀貨一枚が日本円で約1000円。銅貨が一枚約10円。金貨が一枚約10万円だ。だから、これを元に計算すると、上位回復薬(ハイポーション)は日本円で約”3万円”、今回は”2万5000円”で売られてると言う事になる。・・・・・・うん、地味に高いね。ちなみに、下位回復薬(ローポーション)は銀貨3枚(3000円)で買える。

 

 

魔国連邦(テンペスト)でも最近、この貨幣制度を導入し始めたんだけど、貨幣を使っているのはほんの一部で、今のところはまだ物々交換を主流で交易等を行なっている。貨幣に対する認識が人によって違うし、正直言っちゃうと僕自身もそこまで完璧に貨幣に精通しているわけでも無いので、とりあえず今のところはこんな感じでやっていこうと思っている。下手に広めて、訳わかんなくなってパニックになりたく無いからね。

 

 

 

「今回はどれだけ買って行かれますか?在庫はかなりありますので、好きなだけ買って行かれて構いませんよ?」

 

 

 

「そうですか。では・・・・・・とりあえず、”1000個”程宜しいですかな?」

 

 

 

「分かりました。では、後日から、ブルムンド国へ分割して送らせますね?一気に全部を運ばせるのは流石に無理がありそうなので・・・・・・」

 

 

 

「それで構いません。では、これが代金です。お納めください」

 

 

 

テーブルに出された代金は、金貨250枚。つまり・・・・・・”2500万円”だ。こんな大金をポンって出せちゃう辺り、ミョルマイルさんはかなり儲かっている大商人と見て間違いないだろう。いや、ある程度は国からも出してるんだろうけど、それでもこうして躊躇なくこんな大金を出すんだから驚くよ。

 

 

 

魔国連邦(テンペスト)はどうですか?出来れば、国主代理として感想を聞きたいのですが?」

 

 

 

「素晴らしいの一言ですな。我が国と比較しても比べ物にならない程に文化が進んでいて、豊かです。それに、国民皆が活気溢れて笑顔が絶えず、まさにブルムンド国が理想とする国その物ですな〜はっはっは!」

 

 

 

せっかくこうして会えたのだから、感想を聞いてみようと思って振ってみたけど、思ったよりもこの国に対して良い印象を持ってくれてるようでホッとした。

 

 

 

「そう言ってもらえて嬉しいです。魔国連邦(テンペスト)内で気になった事とかも教えてもらえると嬉しいです。そう言った事を改善する事も僕の仕事ですから」

 

 

 

「ほう?気になった事ですかな?特には・・・・・・あぁ、そういえば一つありましたな?」

 

 

 

「何ですか?」

 

 

 

なければ別にそれでも良いかな、って思ってたんだけど・・・・・・あったのか。仕方ない。後で僕が・・・・・・。

 

 

 

「この町にいる女性が妙に麗しく感じ取れるのですが、何かしているのですかな?・・・・・・もっと具体的に言うと、皆顔立ちも良く、肌が透き通るようにスベスベして居ますのでな。つい気になってしまって・・・・・・」

 

 

 

「あの・・・・・・町の女性に変なことしてませんよね?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

沈黙してるってことは・・・・・・そう言うことだよね?はぁ〜・・・・・・この人、良い人なんだろうけど・・・・・・スケベ?

 

 

 

「今回は見逃しますけど、次やったらたとえあなたでも許しませんからね?」

 

 

 

「・・・・・・申し訳ありませんでした」

 

 

 

「はぁ〜・・・・・・で、その気になってる事ですけど、それは”これ”をみんな飲んでる・・・・・・もしくは肌に塗ってるからだと思います」

 

 

 

僕はそう言いながら懐から、”僕の水が入った瓶”を一本取り出し、テーブルの上に置いた。

 

 

 

「これは?」

 

 

 

「僕が魔力を通して作った水です。国民達からは『エリス水』なんて呼ばれてますけどね?これは飲んでも勿論美味しいのですが、これを肌に塗れば肌がすべすべになる化粧水のような効用も望めますし、それにプラスして体を消毒することも出来きますので、病気の予防にもなります」

 

 

 

「ほうほう?それはどうにも気になる品物ですな?少し、拝見させてもらっても?」

 

 

 

「ええ、どうぞ。良ければ飲んでも構いませんよ?」

 

 

 

「そうさせて貰います」

 

 

 

瓶を渡すと、ミョルマイルさんは軽く水を口に含むと、何やら考え込むように唸る。さらに、手に三滴ほど水滴を落とすと、それを自分の頬や手に満遍なく塗って、効用が本当にあるのかを試していた。勿論、誰であろうとこの水は同じ役割を果たすため、案の定塗った箇所は塗る前と比べて明らかに艶が出ていた。

 

 

ちなみに、町の女性達が綺麗になってるのは、勿論この僕の水を使っていたり、僕の水で作った温泉に入ってると言う事もあるけど、それだけでは無く、最近ではシュナが新たに女性向けの化粧品を作り、町中に配った事も原因の一つとなっている。その甲斐あって、町中の女性達は、今やどこの国に出ても恥ずかしくない程の美人、もしくは美少女へと変貌を遂げたんだ(前に、僕までその化粧をシュナやシオンに施されそうになったけど、当然拒否した。これ以上、女っぽくなりたくないからね。)。

 

 

「これは素晴らしいですな!これを売ればきっと女性を中心にヒットする事間違いない事でしょう!エリス様!是非、この『エリス水』も買い取らせてはくださいませんか!?一本、銀貨2枚で!在庫はありますかな?」

 

 

 

「へ?え、ええ・・・・・・在庫は沢山ありますから大丈夫ですけど。いくつ買うつもりですか?」

 

 

 

「先ほどと同じく、1000本頂けますかな?」

 

 

 

「わ、分かりました?じゃあ、上位回復薬(ハイポーション)と一緒に送らせますね?」

 

 

 

「ありがとうございます!では、ワシはそろそろお暇しますな。いや〜、まさか上位回復薬(ハイポーション)だけでなく、こんな素晴らしき商品と出会えるなんて・・・・・・今日のワシは幸せ者ですな〜、はっはっは!!」

 

 

 

こんな感じで、何故か僕の水も買ってもらえる事になった。この水も倉庫にいくつも保存してるから1000本売ったところで全然問題ないんだけど、まさかこれが売れるとは思ってなかったから、ちょっと驚いていた。でも、せっかくの好意だし資金源にもなりそうだから、ありがたくこの話も受ける事にした。

 

 

 

僕の水の1000本分の代金、金貨20枚(200万円)を置いたミョルマイルさんは、随分と満足そうに執務室を出て行った。あの人とも、今後ともいい関係でありたいな。・・・・・・スケベなとこ以外は信用できそうだし。

 

 

 

 

それにしても、今日だけでかなり儲かったな〜。リムルが帰ってきたら自慢しないと!




「むぅ・・・・・・」



「どうかしたかエレン?さっきからずっと剥れてるが?」



「調子でも悪いんでやすか?」



「違うわよっ!だって、ここの町にいる女の人全員が、私以上にすっごく女らしくて、すっごく綺麗なんだもん!おまけにお肌もスベスベそうだし・・・・・・すっごく嫉妬しちゃう・・・・・・」



「あぁ・・・・・・確かにそうかもな。全員やたらと綺麗に見えるぜ」



「ちょっと私聞いてくる!どうしてそんなに綺麗なのか!」



「はっ!?ちょ、ちょっとエレンさん!?」



「すいませーん!なぜあなたってそんなに綺麗な肌をしているんですか?何か特別な化粧水でも使ってるんですか?」



「いえ、そんなもの使ってませんよ?強いて言えば、”これ”を使ってるくらいかしらね?」



「これ?・・・・・・水かな?」



「ただの水ではありませんよ?これは『エリス水』と言って、エリス様がお作りになられた特殊な水で、これをお肌に塗れば肌荒れもすぐに・・・・・・って、あら?」



「エリスさーーーーんっ!!!!」



その後、エレンはエリスの元へと直行し、必死になって『エリス水』を恵んでくれるよう懇願するのだった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リムルの帰還と奇妙な魔導師(ウィザード)

今回、ついに”あの人”がヨウムと共に魔国連邦(テンペスト)を訪れます。


もう、”あの事件”が起こるのは秒読みと言って良いですね・・・・・・。


視点 リムル

 

 

 

魔国連邦(テンペスト)を出て、シズさんの教え子達を助けるべく、その子達の教師を受け持つ事になって早1ヶ月弱。俺は、久々に報告も兼ねて『影移動』で魔国連邦(テンペスト)へと一時的に帰還していた。勿論、タダで帰ってきた訳ではなく、ちゃんと今回はイングラシアで買ってきた”シュークリーム”と言う名のデザートを土産として持って来ている。流石に、エリスにあれだけ言われて持って来ないほど、俺も馬鹿じゃないからな。

 

 

 

「このシューク()()()という名のお菓子・・・・・・とても愛らしい形をしていてとても美味しいです。特に中のクリームがとても・・・・・・」

 

 

 

「リムル様の名が入ってるだけの事はあって、とっても美味しいスイーツですね!」

 

 

 

「このシューク()()()というお菓子は、一体どのようにして出来ているのでしょうか?私、すごく気になります」

 

 

 

「「シュークリーム(ね)な?」」

 

 

 

シュナ、シオン、カレンと言う、スイーツ大好き女子3人組が揃ってシュークリームを呼び間違えてたので、俺とエリスが即座にツッコむ。確かに語呂は悪くねーけど・・・・・・なんかムズムズするからやめて貰いたい。

 

 

 

「エリス、町の運営の方は順調か?」

 

 

 

「うん。最近で一番大きかったのは、ミョルマイルさんって言う、ブルムンド国でも有数の大商人さんと上位回復薬(ハイポーション)の販売取引が成立したことかな?最初だけでも1000本買ってくれたからかなり儲かったよ!後ついでに、”僕の水”も買い取ってくれるって言ってたから、それも買い取ってもらっちゃったんだよね〜、えへへ。ミョルマイルさんはもう帰っちゃったけど、イングラシア国にも行商で赴くって言ってたから、もしかしたら帰ったら会えるかもよ?会ったら挨拶しておいてね?いや〜、それにしても最近は、人間の人たちが多く訪れて来ててさ?最初は、僕たちのことを警戒している様子だったんだけど、次第に心を許してくれたみたいで、今では気軽に接するほどの仲になってる人も居るし、人間の人達と共存して生活できる時も近いかもね!」

 

 

 

「お、おう・・・・・・(なんか随分と饒舌で、ご機嫌だな。まぁ、それだけ大きな取引を俺なしで自分一人で出来たんだもんな。そりゃ嬉しいか。それに、こいつは人一倍人間の事を好んでいるし、共存を望んでる。それがもう時期叶うかも知れないってなったら、こんな調子になるのも納得できるな。)」

 

 

 

 

「それに、最近では貨幣経済も徐々に浸透してきて、もうちょっとすれば魔国連邦(テンペスト)全体で貨幣を用いた交易や取引ができるようになるかも知れないね。そうなったらもっといろんな国と取引も出来るだろうし、人間国との交易の内容もぐっと幅が広くなること間違い無しだよ。今、僕はもっと貨幣を用いた取引、交易のノウハウとかを調べてたり、住民のみんなへの”貨幣の使い方の説明書”を作成している最中なんだ。だから、今はちょっと忙しいんだよね・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・無理してないよな?」

 

 

 

俺が暫く留守になったせいで、国主の仕事をほとんどエリスに任せっきりになってる今、俺が心配してるのはエリスのオーバーワークだ。エリスの体質上、疲れは特に感じないらしいが、それでも心配な事に変わりは無い。

 

 

 

「うん。みんなにも色々と手伝って貰ってるし、度々休憩を入れてるから問題無いよ。何より、こうやって仕事をしている時が楽しくって、魔国連邦(テンペスト)の為に僕が色々と出来ているって事を実感出来るから、特に苦に思ったことは無いかな」

 

 

 

「・・・・・・なら良いけどさ」

 

 

 

それ以上追求しても無駄だと察した俺は、持って来たシュークリームを一つ齧った。本人が大丈夫って言うなら大丈夫って事なんだろうし、今はエリスが中心となって町づくりに励んでる訳なんだ。俺が口出しするところじゃ無いだろう。・・・・・・にしても、随分と頼りになったよな、エリスは。いや、前からもずっと頼りにはなってたんだが、前までのエリスだったらここまでみんなをしっかりと取りまとめながら、国の運営をすることなんてできなかったはずだ。だが、俺と同様の仕事をこなすようになった事で、俺の代わりとしての役割、覚悟・・・・・・みたいな事を学び、こう言った運営も出来るようになったんだろう。・・・・・・はぁ、お前がいてほんとに良かったよ、エリス。

 

 

 

「そろそろ、リムル様のお話も聞きたいです。人間の国で先生になられたと聞いたのですが?」

 

 

 

「おっと、そうだったな。実はな・・・・・・」

 

 

 

 

エリスとの話ですっかり忘れていた。そういや、みんなに報告をしにも来たんだよな。とりあえず、俺はエリス以外には話していないシズさんの教え子の事と、その子達が抱えてる問題について詳しく話した。話を聞いたみんなは、その悲しき結末を迎えるしか無い子供達にひどく同情してか、顔を硬らせていた。

 

 

 

子供達の魔素の暴走による消滅を防ぐ為には、俺の見解としてはシズさんに憑依していた炎の巨人(イフリート)のように、上位精霊を憑依させればそれは防げるのでは無いかと思っている。大賢者の話だとイフリートがシズさんの暴走する魔素を抑えていた可能性があるって話だったから、もしかしたら・・・・・・って思ったんだが、いつの間にかいたトレイニーさん(シュークリームを既に4個食べている)の話だと、確かに上位精霊なら、魔素の暴走は防げるかも知れないんだそうだが、どうにも上位精霊というのは気まぐれさんが多く、扱いが難しいようで、向こうがこちらを気に入らない限りは、全く力を貸してくれないらしい。精霊女王が統べている精霊の棲家に行けば、相性の良い精霊に出会えるかもと、トレイニーさんは言っていたが・・・・・・。

 

 

 

「じゃあ、その精霊の棲家はどこにあるんですか?」

 

 

 

「すみません。わたくしは現女王とは接点が無いため、どこにあるかまでは存じ上げないのです。・・・・・・力になれず、申し訳ありません」

 

 

 

「良いって。俺がやろうとしてることが間違ってないって分かっただけでも収穫だったからな」

 

 

 

・・・・・・とのことな為、精霊の棲家は自力で探す事にした俺は、その後は暫くその場にいた全員と色々と話をしていった。次に会えるのはいつになるか分からないからな。今のうちに話せるだけ話しとかないとな!

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「さて、じゃあ帰るか」

 

 

 

「うん、気をつけてね?」

 

 

 

数時間後、みんなを帰した俺は、最後まで残っていたエリスに帰る事を伝えた。・・・・・・こいつと会うのも暫く我慢しなきゃな。

 

 

 

 

「子供達のこと・・・・・・頼んだよ?絶対に救ってきて?」

 

 

 

「任せとけ!絶対に俺が助け出してやるからさ!その間、みんなを・・・・・・魔国連邦(テンペスト)のことは頼んだぞ?()()()()()()?」

 

 

 

「っ!?も、もう!リムルまでそれ言うのやめてよ!恥ずかしいじゃん!」

 

 

 

明らかに照れた様子で、エリスが俺の頭をポカポカ叩いてくる。・・・・・・ははっ!こう言った反応は相変わらず可愛いな、エリスは。

 

 

 

「悪い悪い。じゃあ、もう帰るな?」

 

 

 

「うん。こっちの事は僕に任せて、リムルは子供達の事に集中してて良いからね」

 

 

 

「ああ。じゃあな!」

 

 

 

「じゃあね!」

 

 

 

その言葉を最後に、俺は影の中へと潜り、イングラシアへと戻っていった。国のことを心配して戻ってきたが、エリスがあの調子なら、暫くの間はあいつに魔国連邦(テンペスト)を任せて大丈夫だろう。なんたってあいつは俺と同等の力を持つ奴でもあり、俺の大親友だからな。信用できるってもんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・だが、俺はこの時知らなかった。まさかこの後、俺たち・・・・・・魔国連邦(テンペスト)にとって、”史上最悪の出来事”が起きる事になるだなんて・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・・・・それのせいで、”あんな結末”に陥る事となる・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

視点 エリス

 

 

 

 

 

リムルが再びイングラシア国へと帰ってから、また1ヶ月ほどが経った。国の運営も順調で、ここ最近の国の賑わいもピカイチとなっていた。人間と僕達魔物が当たり前のようにして同じ国、同じ場で交流を楽しんでいるその光景が僕にとってはとても嬉しかった。今はまだ、ブルムンド国の人間しか訪れていないけど、いずれはリムルが行っているイングラシア国や、ファルムス王国の人間の人たちとも交流をして見たいっていうのが、最近の僕の願望だった。・・・・・・この調子なら、それができる日もそう遠く無い事だろう。

 

 

 

「さて、じゃあ今日も頑張りますか!」

 

 

 

そんな有意義な日々を過ごしていたある日、僕はいつも通り町中へ出て人間の人達への挨拶とおもてなし・・・・・・という名のその人達との触れ合いをするべく、準備を始めていた。そして、着替えを済ませて家の外へ出てみると・・・・・・そこには見知った姿があった。

 

 

 

「よっ!エリスの旦那。久しぶりだな!」

 

 

 

「ヨウムさん!それに皆さんも!帰って来てたんですね!」

 

 

 

家の前に立っていたのは、最近色々と忙しくてなかなか帰って来なかったヨウムさん達一向だった。久しぶりに会えたという事もあって、お互いに何処か嬉しさが滲んでいた。

 

 

 

「ああ、昨日の夜にな。そうだ、あんたに紹介したい奴がいるんだ。最近仲間になった奴だが、俺たちの中で一番の手練れの魔導師(ウィザード)でな・・・・・・」

 

 

 

「名をミュウランと言います。お目にかかれて光栄です。魔国連邦(テンペスト)の副国主様・・・・・・」

 

 

 

「(だから副国主じゃ・・・・・・もういいや。否定するのもめんどくさくなってきたし)よくぞお越しくださいました。僕は、エリス=テンペスト。リムル・・・・・・国主が不在の間、国主の代理を務めている者です。よろしくお願いします、ミュウランさん!」

 

 

 

軽く挨拶をした僕は、ヨウムさん達の新たな仲間というミュウランさんと握手をする。緑色と銀色が混じったような髪を背中まで伸ばしていて、”人間にしては妙”なほどに肌白く、華奢(ちょっと失礼かな?)なのが特徴的な女性だなぁ・・・・・・。・・・・・・ん?あれ?なんで僕、ミュウランさんに対して”妙”・・・・・・だなんて思ったんだろ?確かに、なんかこの人・・・・・・見かけは人間だけど、どうにもそれが本来の姿で無い感じがするけど・・・・・・(雰囲気とかがね?)。

 

 

《解。個体名ミュウランは擬態により、人間へと化けている模様です。・・・・・・解析の結果、ミュウランは”魔人”である可能性が極めて高いことが判明しました。》

 

 

 

「・・・・・・(魔人?・・・・・・なんで魔人がヨウムさん達と一緒に?)」

 

 

 

「旦那?どうかしたのか?」

 

 

 

「いや、何でもありませんよ。じゃあ、折角なのでみんなでミュウランさんを町中を案内しましょうか。ミュウランさんはここに来るのは初めてでしょうし、色々と見てもらいたいものが沢山あるので」

 

 

 

「そうですか。・・・・・・では、お願いします」

 

 

 

とりあえず、その事は一旦棚に置いておき、僕はヨウムさん達と共に、ミュウランさんを案内して行く事にした。宿屋や食べ物屋は勿論のこと、武器屋や買い物施設等もあらかた案内させて貰った。ミュウランさんも、こう言った施設は見た事がなかったのか、少し驚いた様子でいた。ヨウムさんもヨウムさんで、久々に来た魔国連邦(テンペスト)が思ってた以上の発展を遂げていたことに非常に驚いていた。・・・・・・うんうん!こんな反応が見たかった!

 

 

それから後は、そのまま解散となり、僕達は別れた。ヨウムさん達はこの後、ハクロウの指南風景を見学しに行くって言ってたけど・・・・・・多分、ついでにヨウムさんも絞られる事になるだろうね。うん・・・・・・頑張ってね、ヨウムさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしても、もしミュウランさんが本当に魔人なんだとしたら、彼女は一体何のためにヨウムさん達に近づき、何のために魔国連邦(テンペスト)にまで来たんだろう?

 

でもまぁ、別に彼女が何かをするって保証も無いわけだし、暫く彼女のことはそっとしておいても大丈夫かな。ヨウムさんも居るし・・・・・・”万が一”の時は僕が対応すれば良いし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時の僕の疑問が解決されるのは・・・・・・割とすぐの事だった。




エリスが随分と鋭いですね。多分、自分も擬態している身ですから、そう言った事にはある程度詳しいのかも知れませんね。だからと言って、簡単に見極められるかって言われたらそうとも言えませんけどね?


とは言っても、見極められたからと言って、この後に起こる”あれ”を止められるかは不明ですが・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

危機迫る魔国連邦(テンペスト)・・・・・・

いよいよ、事態が動き出します。それもあって、文字数が多くなってしまっていますが、どうかご了承を・・・・・・。


書くことが多すぎて、そうなってしまったと言えば、ご納得いただけるかと・・・・・・。


それから数日間は、特に何事もなく平和な日々が過ぎて行った。結局ヨウムさん達は鍛錬の見学のついでにハクロウにミュウランさんやゴブタ達を混ぜて勝負を挑んだらしいんだけど、ハクロウの瞬動法や巧みな剣技には手も足も出なかったようで、無惨に地面に転がされる羽目になったそうだ。まぁ・・・・・・何となく予想はついたけどね?

 

 

 

「さて、じゃあ今日は僕もハクロウに鍛えてもらおうかな?」

 

 

 

最近色々と仕事で忙しかった為、なかなか鍛錬に時間を割く余裕が無かった。今日は特に予定も無いわけだし、仕事も終えた為、良い機会だと思って今日はびっちりハクロウに鍛えて貰おうと気合を入れ直していた僕は、ハクロウのいる鍛錬場に足を運んでいた・・・・・・んだけど。

 

 

 

「・・・・・・あれ?あれって・・・・・・ヨウムさんと、ミュウランさん?二人で何してるんだろ・・・・・・って見なくても分かるんだけど・・・・・・」

 

 

 

ヨウムさんがミュウランさんに一つの木の下で”膝枕されてる光景”を目にしてしまったため、僕の足がゆっくりと止まった。・・・・・・この光景だけを見ると、もはやあの二人が仲睦まじいカップルにしか見えない。でも、最近あの二人、何かと良い雰囲気になってるし、仲もすっごく良さそうだから、案外本当にそういう関係になってるかも知れないね(それを見たグルーシスさんがすっごく悔しそうにヨウムさんを睨んでた事は内緒だ)。

 

 

 

「(二人の時間のようだし、邪魔をしないようにこの場を去ろう・・・・・・)」

 

 

 

「あら?エリスさん?」

 

 

 

「っ!!(ば、バレちゃった・・・・・・)」

 

 

 

気配を消してその場を去ろうとした僕だったけど、それをする前にミュウランさんに先にバレてしまった。・・・・・・なんか、ヨウムさんごめん・・・・・・。

 

 

 

「ん?お、おう・・・・・・エリスの旦那。こんなとこでどうした?」

 

 

 

「いや・・・・・・ちょっと鍛錬場に行こうとここを通ったんですけど・・・・・・お邪魔だったら、もう行きますね?」

 

 

 

「そ、そんな事ないぞ!全然いてくれて構わない!むしろ居てくれ!(今、ミュウランと二人っきりってのは気まずすぎるからな!)」

 

 

 

「・・・・・・?わかりました。じゃあ、お言葉に甘えますね?」

 

 

 

なんか随分と慌てた様子で、ヨウムさんは僕を引き止めてくる。あぁ・・・・・・大方何かミュウランさんに言って気まずい雰囲気にでもなったんだろう。そして、その場を和まして欲しいから僕に居て欲しい・・・・・・そんな所だろうね。・・・・・・まぁ、別に良いんだけど。

 

 

 

「そう言えば、聞きたい事があったんですけど・・・・・・」

 

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

 

「二人って、付き合ってるんですか?」

 

 

 

「「はぁっ!?」」

 

 

 

僕の口から出たいきなりの『カップルですか?』発言に、二人は明らかに動揺しながら言葉を返してきた。いきなり直球で聞くのはデリカシー無いかなって思ったけど、二人は絶対に自分からはその事は言わなそうだったから、この際だと思って思い切って聞いてみる事にしたんだ。・・・・・・ぶっちゃけ、僕も気になってたし。

 

 

 

「べ、べべ別に()()付き合ってなんかないぞ!?確かにさっき、それとなく告白じみた事を言ったが・・・・・・」

 

 

 

「言わないで!?それに、あれはあなたが寝ぼけて言った事でしょう!?冗談を言わないでほしいわ!エリスさん、私はこんな人とそう言った関係では決してございませんので!」

 

 

 

「そ、そうなんだ・・・・・・(まだ・・・・・・ってことは、そのうち付き合うつもりなのね、ヨウムさんは・・・・・・あはは)」

 

 

 

二人とも照れながら一緒になって僕の誤解を解こうと必死になってる。・・・・・・うん、この連携力もやり取りもまさに・・・・・・カップルのそれだ。・・・・・・今は付き合っては居ないようだけど、いずれそうなる日も近いかも知れないね。う〜ん♪甘いね〜〜!

 

 

 

「全く・・・・・・」

 

 

 

ミュウランさんは否定しながらも少し笑みを浮かべていた。案外、彼女の方もヨウムさんのことをそれなりに気に入ってるのかも知れないな〜・・・・・・と思ったのも束の間で、すぐに彼女は、何処か・・・・・・”悲しそうな顔”へと表情を変える。それに妙な胸の引っ掛かりを覚えた僕は、それとなく聞いてみる事にした。

 

 

 

「ミュウランさん・・・・・・何か悩み事でもあるんですか?浮かない顔をしてますけど?」

 

 

 

「・・・・・・えっ?いえ、別にそのようなことは・・・・・・」

 

 

 

「いや、そんな風には見えねーぞ?明らかに曇ってるじゃねーか、顔が」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

ヨウムさんと僕の問いかけに、ミュウランさんは俯いたまま答えようとはしなかった。おそらく、僕達には言えない、何か大きな悩み事でも抱えてるんだろう。もしかすると、それが魔人である彼女がこの町へ来た理由と関係が・・・・・・考えすぎか。

 

 

 

「エリスさん。一つ聞かせてくれませんか?」

 

 

 

「何ですか?」

 

 

 

「あなたにとって、この国・・・・・・魔国連邦(テンペスト)とは何ですか?」

 

 

 

「・・・・・・へっ?」

 

 

 

あまりにも唐突すぎるその質問に、思わず変な声が出てしまう僕。それって、今の話と何の関係があるんだ?・・・・・・意味が分からないけど、とりあえず質問には答えておいた方がいいだろう。

 

 

 

僕にとってこの国は・・・・・・。

 

 

 

 

「”宝”・・・・・・ですかね?

 

 

 

「宝?」

 

 

 

「はい。僕にとって、この国は何よりも大事にしたい宝物なんです。多分、リムルも同じです。・・・・・・信じられないかも知れませんが、ここは元々何も無い一つの更地だったんです。勿論、人だってこんなに多くいた訳ではなく、数百人ほどでした。ですが、それから月日を経て、様々な苦難や試練を乗り越えて、僕やリムル、そして頼りになる配下達や住民のみんなの努力の甲斐もあって、こうして大きな町へ・・・・・・今では色々な国から認められるほどに巨大な国へと成長を遂げました。今となっては、これまで起こったこと全ては、良い思い出になったんじゃ無いかって思ってます。それによって、より魔国連邦(テンペスト)が強固になった感じがして心強くもなりましたしね。・・・・・・そして何より、僕たちはこの国が大きくなっていく姿、その大きくなっていく国の中で笑い合いながら楽しく生活を送る住民達を見るのが何よりも好きで、同時にその光景を守りたいと思うようになり始めたんですよ」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「そんな時、僕とリムルは一つの約束をしたんです。この国へと至るまでの過程や、思い出、苦難、努力、町の施設、ジュラの大森林・・・・・・そして、僕やリムルを今まで精一杯支えてくれた配下達や住民のみんな・・・・・・その全てを”宝物”として守って行こうと。どんな事があっても・・・・・・ね?・・・・・・これが僕の・・・・・・いや、僕達が魔国連邦(テンペスト)へと抱いている想いです」

 

 

 

「・・・・・・そうですか」

 

 

 

ミュウランさんは最後までちゃんと聞いてくれたが、表情はいまだに優れていなかった。むしろ、さっきよりもさらに悪くなっているような気がする・・・・・・。

 

 

 

「ミュウラン?本当に大丈夫かよ?」

 

 

 

「良ければ、悩んでいる理由だけでも聞かせては貰えませんか?僕でしたら何か力になれるかも知れませんので・・・・・・」

 

 

 

「いえ、その気持ちだけで十分です・・・・・・。いつか、お話しできる機会があれば、その時に話しますので、今回はどうか・・・・・・」

 

 

 

やはり、悩みについては話してくれる気は無いようだった。その様子に、僕もヨウムさんも少し呆れたけど、流石にこれ以上強引に聞き出すのは失礼だから、これ以上追求する事はやめておいた。

 

 

 

「分かりました。・・・・・・ですが、これだけは覚えておいて下さい。あなたが()()()()()()、僕はあなたの味方です。何かあれば、ぜひ頼って下さいね?これでも一応、国を纏めている身ですので!」

 

 

 

「っ・・・・・・ありがとうございます」

 

 

 

おそらく、僕が自身の正体に勘づいていると察した為か、表情を強張らせながらお礼を言ってくるミュウランさん。ちょっとカマをかけたつもりだったけど、彼女の反応を見る限り、どうやら指導者(ミチビクモノ)さんの言う通り、魔人と見て間違い無いだろう。

 

 

・・・・・・とは言え、さっきも言ったように、敵でも無い限りは彼女のことは僕は味方として見る事にする。・・・・・・どうにも、彼女からは何かが匂うからね。

 

 

《告。個体名ミュウランの更なる解析の結果、ミュウランは元々は人間であった事が判明。魔人となった経緯は未だ解析不十分の為、不明ですが、”何者か”の秘術、もしくはスキルによる所為だと思われます。》

 

 

「(”何者か”・・・・・・か。その人物と、掛けられてる術やスキルが分かれば、僕も何か出来るかも知れないけど・・・・・・。分からない以上、今はどうしようも無いな・・・・・・)」

 

 

 

指導者(ミチビクモノ)さんのありがたい情報を得た僕だったが、流石にそれだけの情報では対応のしようが無い。・・・・・・今後の、新たなる情報を指導者(ミチビクモノ)さんが得ることを期待しよう。

 

 

 

「そうだぜ、ミュウラン?悩み事なんて誰かに言っちまえばすっきりするぜ?なんなら俺にでも・・・・・・」

 

 

 

「ハクロウさんに叩きのめされて、さっきまで伸びてた人の言うセリフじゃ無いわよ?」

 

 

 

「うっ・・・・・・」

 

 

 

また、さっきのように仲睦まじいやりとりが再開されそうになった為、僕はそこでお暇する事にした。そろそろ、鍛錬に行かないとだからね。・・・・・・って言うか、ヨウムさん、またやられたんだね・・・・・・僕もそうならないと良いけどな〜。

 

 

 

僕のその願いは虚しくも、散る事となった。・・・・・・何でか?・・・・・・聞かないで(ハクロウに剣技でボロボロにされた)?

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、鍛錬を終え、家に戻ろうとした僕の元にソウエイからの念話で、町中で”3人組の人間”が騒いでいると言う知らせを受けた。最近は、そう言った騒ぎは見かけないから、珍しいなと思いながらも、責任者として止めに行こうと、すぐに現場へと急行した。

 

 

 

その時の僕は、その騒動のことを、『どうせいつものようにちょっとしたいざこざで揉めてるだけだからすぐに解消出来るだろう』・・・・・・と、楽観視をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その騒動が、この後に巻き起こるあの”最悪の惨劇”の火種となることも知らずに・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

–––––––––数時間前–––––––––

 

 

 

 

 

視点 リムル

 

 

 

俺が魔国連邦(テンペスト)を出てから2ヶ月と少しが経った。俺はイングラシアに戻った後、無事に占い師のエルフねーちゃんのおかげもあって、精霊の棲家に辿り着くことが出来た。そこで、精霊女王で、魔王でもあるラミリスに出会い、そこで子供達全員に上位精霊を憑依させてもらう事に成功した。これで、無事に子供達を助けた事になる訳なんだが、一応様子を見ると言うことでもうしばらくあいつらの教師をする事にしたんだが、今日それが終了となった。子供達も元気そのものだし、魔素が暴走する危険性も無くなったため、俺はユウキに話をつけて教師を降りる事にしたわけだ。・・・・・・そろそろ、魔国連邦(テンペスト)のみんなが恋しくなり始めた頃だからな。

 

 

 

 

「さて、じゃあ帰るとするか!」

 

 

 

教師を辞める旨を子供達に伝え、別れを済ませた俺は、国から離れたところで『空間移動』を使って魔国連邦(テンペスト)に帰ろうとした。

 

 

 

だが・・・・・・。

 

 

 

「っ?あれ?()()()()()?・・・・・・何でだ?」

 

 

 

 

『空間移動』がなぜか発動しなかった事に俺は疑問を浮かべた。普段であれば、特に何の問題も無くスキルが発動し、すぐさま目的の地へと渡れる優れたスキルなんだが・・・・・・どう言う事なんだ?

 

 

 

〈告。広範囲結界に囚われました。結界の外への”空間干渉系”の能力は封じられました。〉

 

 

 

「け、結界って・・・・・・何でそんな物が・・・・・・って、ん?」

 

 

 

「・・・・・・初めまして・・・・・・で良いのかな?と言っても、もうすぐにさよならだけどね?」

 

 

 

突然結界に囚われ、戸惑う俺に一つの声が掛けられた。その声の主の方を見ると・・・・・・そこに居たのは・・・・・・。

 

 

 

「(こいつは確か・・・・・・ユウキと共に、シズさんから教えを受けていた生徒だった・・・・・・西方聖教会の聖騎士団長・・・・・・ヒナタ・サカグチだ。何でそんな奴がここに?)」

 

 

 

「何でここに?・・・・・・って顔をしてるけど、そうね・・・・・・単刀直入に言えば、あなたを足止め・・・・・・いえ、”殺すため”にここにいるの」

 

 

 

「・・・・・・何?」

 

 

 

「あなたが今、国に帰られるとこっちとしては都合が悪いの。あなたが帰ってしまえば、邪魔な”あなたの国を潰す”のが少々面倒になってしまうからね。ねぇ?魔物の国の盟主さん?」

 

 

 

「・・・・・・へぇ?よくご存知なこって、西方聖教会の聖騎士団長、ヒナタ・サカグチ」

 

 

 

こちらの正体もどうやら彼女にはバレてるようだ。なら、こっちも変に正体を隠さなくても良いだろう。・・・・・・とりあえず、どうにか話し合いに持ち込みたいところだ。正直、シズさんの教え子である彼女とは戦いたくない。だが、ここに来てからずっと、剣を抜いて俺に対して尋常じゃない殺気を飛ばしてる彼女がそれに応じてくれるかは分からないが・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・よく知ってるのね?魔物のくせに」

 

 

 

「まぁな。だが、まずは一つ話し合わないか?話し合ってみれば分かり合える事だってあるぞ?たとえ、魔物と人間であったとしてもな?」

 

 

 

「話し合いの必要なんてないわ。もう決めてるの、私は。あなたを・・・・・・シズ先生の仇であるあなたを、この手で殺すってね!」

 

 

 

「ちっ・・・・・・やっぱダメかよ!」

 

 

 

やはり、彼女の方に話し合いに応じると言う選択肢は無かったようで、問答無用で俺に襲いかかってくる。・・・・・・この結界のせいで、妙に体が重いが・・・・・・やるしか無い!

 

 

 

俺と、ヒナタとの一騎打ちが今・・・・・・幕を開ける・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「くっ・・・・・・」

 

 

 

「意外と頑張れるのね?この聖浄化結界(ホーリーフィールド)に囚われた魔物は、大抵の魔物は消滅・・・・・・少なくとも動けなくなるくらいには弱体化すると言うのに・・・・・・腐っても魔物の国の主と言うことね」

 

 

 

戦闘を開始してから、数十分程が経った。俺は完全にヒナタに手玉に取られ、全くなす術がなかった。戦局を握られてる原因としては、やはりこの結界だ(ヒナタは聖浄化結界(ホーリーフィールド)とか言ってたか?)。この結界のせいで俺は大半のスキルや魔法、身体能力に制限が掛けられてしまい、まともに戦うことが出来なくなってしまっている。

 

 

それに、ヒナタ自身も聖騎士団長ということもあってかなり強い。この結界が無かったとしても、正直勝てるかは未知数だった。

 

 

 

「もう、足掻くのはやめにしたら?今更戻ったところで、手遅れ。国はめちゃくちゃにされているわよ?」

 

 

 

「それに関しては心配無用だ。魔国連邦(テンペスト)には今、俺の配下が数多くいるし・・・・・・何より、エリスがいるんだからな」

 

 

 

「エリス?」

 

 

 

「ジュラの大森林の副盟主って言えば分かりやすいだろ?それが今、魔国連邦(テンペスト)にいるって言うんだよ。あいつがいる限り、俺無しでも国は大丈夫だ」

 

 

 

「へぇ?その子を随分と信用しているのね?」

 

 

 

「当たり前だろ?あいつは、俺の大親友だからな」

 

 

 

いかに、西方聖教会が魔国連邦(テンペスト)を潰しに来ようと、俺と同等の力を持つエリスがいる限り、問題無いはずだ。そう、問題無いはずなんだが・・・・・・何だ?ヒナタがさっきから浮かべている笑みが、どうにも胸に引っ掛かりを覚える。

 

 

 

「ふふ・・・・・・なら、そんなあなたの親友であるその子が()()ば・・・・・・あなたはきっと・・・・・・絶望するでしょうね・・・・・・。それはもう盛大に・・・・・・。あなたを殺すよりも、あなたにも私と同じように”大事な人が居なくなる悲しみ、恐怖”を経験して貰った方が、よっぽど良い復讐になる・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・はっ?お前何言って・・・・・・・・・・・・っ!まさか、お前っ!?」

 

 

 

ヒナタのその笑み、そしてさっきの発言でヒナタが"これからするであろう行為"に、察しが付いた俺は、なりふり構わずに剣を片手に襲いかかった。

 

 

 

「お前っ!エリスに何かしたら許さねーぞ!!」

 

 

 

「さっきまで冷静だったのに、そんなに感情的になるなんて予想外・・・・・・。やっぱり、あなたにとってはそれだけ大事な人なのね。そのエリスという魔物は・・・・・・。ふふ、でも・・・・・・もしかしたらその子に至っては、私が”直接手を下す必要は無くなる”かもしれないけれどね?」

 

 

 

「おいおい、マジかよ・・・・・・」

 

 

 

だが、ヒナタは涼しい顔で俺の剣を簡単にいなす。くそっ・・・・・・せめてこの結界さえなければ・・・・・・。

 

 

 

「でも、自ら殺されに来るって言うなら・・・・・・望み通りにしてあげるっ!」

 

 

 

「ちっ・・・・・・また”あの技”かよ。何なんだよ、あの”虹色に光る刺突”は・・・・・・」

 

 

 

 

ヒナタの虹色に光り輝く剣を前にして、俺は軽く戸惑う。この技はすでに”6回”ほど受けたが、どれも何故か『痛覚無効』を持つ俺でさえ、痛みを感じる物だった。大賢者の話だと、どうやらこの技は精神体(スピリチュアルボディー)へ直接ダメージを与えるように出来てるようで、『痛覚無効』は意味を成さないんだそうだ。

 

 

 

「よく頑張ったけど、これで終わりね。この『七彩終焉刺突撃(デッド・エンド・レインボー)』は”7回”ダメージを受けると、どんな相手でも死に至らす技なの」

 

 

 

「(・・・・・・ってことは、後一回でも食らえばアウトじゃねーか・・・・・・)」

 

 

 

「そろそろ死になさい!『七彩終焉刺突撃(デッド・エンド・レインボー)』!」

 

 

 

「(まずいっ!・・・・・・って、しまった!芝に足を取られた!態勢が・・・・・・)」

 

 

 

光速の勢いで迫るその刺突を躱そうと地を蹴った俺だったが、運悪く芝に足を取られて態勢を崩してしまう。

 

 

 

やられるっ!・・・・・・そう瞬時に悟った俺は、死を覚悟した・・・・・・・・・・・・だが、その時だった。

 

 

 

「っ!なに?こ、これは・・・・・・水の障壁?」

 

 

 

「一体、何だこれは?」

 

 

 

俺とヒナタの間に、突如として”水で出来た壁”が聳え立った。いきなり現れたこの壁に、俺もヒナタも動揺を隠し切れなかった。

 

 

 

〈告。個体名エリス=テンペストから譲り受けた、”水壁のペンダント”の効力が発動された模様です。一定時間、水の壁ができ、ペンダントの保持者を守護する作用を持っていると推定されます。〉

 

 

 

「ペンダント?もしかして・・・・・・これのことか?」

 

 

 

俺は、首にかけていたペンダントを手に持った。これは俺がイングラシアに行く前にエリスからお守りとして貰ったペンダントだ。あの時は、エリスはこのペンダントがどんな効力を秘めてるのか教えてはくれなかったが・・・・・・こう言うことかよ、エリス。何はともあれ、どうやら俺は助かったようだ。

 

 

役目を終えた水の壁は、音も無く崩れ去って行き、それと同時に、ヒナタがこちらへと歩み寄ってくる。おそらく、再び俺にトドメを刺しに来ようとしてるんだろうが・・・・・・さっきのような失態は、もう絶対にしたりなんかしない!

 

 

 

「サンキュー、エリス。お前に助けられた」

 

 

 

「助けられた?この状況でよくそんな余裕な事を言えるのね?何かしらの方法で九死に一生を得た様だけど、それはただ寿命が少し伸びたに過ぎない。あなたは結局、私に殺される運命にあるのよ?この『七彩終焉刺突撃(デッド・エンド・レインボー)』でね?」

 

 

 

「そうかな?俺だって・・・・・・素直にやられる訳にはいかないんだ。必ずお前を倒して、魔国連邦(テンペスト)に帰るんだからな!俺は!」

 

 

 

「吠えるだけの元気は残ってるみたいだね?でも、残念だけどもう終わり。・・・・・・さようなら。『七彩終焉刺突撃(デッド・エンド・レインボー)』!」

 

 

 

「目覚めろっ!『暴食者(グラトニー)』!」

 

 

 

小細工は通用しないとわかった俺は、今まで使ってこなかった『暴食者(グラトニー)』の能力解放をこの場で初めて使用した。能力を解放すると、俺の理性が吹き飛び、まるで化け物のような見た目となって、対外者に襲いかかると言う、なんとも最後の悪あがきのようになってしまうが、もうこれしか手が無かった為、俺は実行に移した。

 

 

「さっきの技を喰らってまだ立てるなんてね?そんな見た目になりながら・・・・・・。わかった、ならこの技で本当におしまいにしてあげる・・・・・・」

 

 

 

「ぐるぅ・・・・・・」

 

 

理性が無くなった為、俺はもう自分の体をコントロールすることはできない。ただただ、その場で無作為に暴れるしか出来なかった。だから当然、ヒナタが今からとんでもない技を放とうとしてることにも気がつくことも出来ないし、避けることも出来やしなかった。

 

 

「神へ祈りを捧げ給う・・・・・・我は望み、聖霊の御力を欲する・・・・・・我が願い聞き届け給え・・・・・・」

 

 

 

俺の足元に、やたらと光り輝くオーラをただ寄らせた術式陣が展開される。そして・・・・・・。

 

 

 

「万物よ・・・・・・尽きよ!『霊子崩壊(ディスインテグレーション)』!!』

 

 

光の速度で、あらゆる生物を焼き殺すのではないかと思えるほどの光の術が俺に降り注ぐ。光の速度のため、避ける間もなかった俺はその術をまともにくらい・・・・・・そのままお陀仏に・・・・・・。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「って、そんなわけないだろっ!・・・・・・誰に言ってんだよ俺・・・・・・」

 

 

さっきのとんでもない技を俺に喰らわせ、俺が消し飛んだと思って勘違いしたヒナタは、そのままこの場を後にして行った。・・・・・・で、それを確認した俺は、隠れていた草むらからゆっくりと顔を出した。

 

 

「はぁ〜、分身体を作っといて正解だったな。あんなのまともに喰らったら、すぐさまあの世行きだぞ・・・・・・」

 

 

なんで、俺が生きてるのかと言うと、実はさっきまでヒナタと戦っていたのは、俺の分身体・・・・・・いわば影武者みたいな奴だ。一応念の為を思って、ヒナタと戦う前にこっそり俺は分身体を作り、本体の俺は近くの草むらへと身を潜めていたわけだが、どうやらその判断は正解だったようで、俺はほっと息をついた。

 

 

「主よ!ご無事でしたか!?」

 

 

 

「ランガか・・・・・・。ああ、なんとかな・・・・・・」

 

 

 

ヒナタが去ったことで、聖浄化結界(ホーリーフィールド)も解かれたようで、影の中からランガが心配そうに飛び出してきた。

 

 

 

「主、我は先程からエリス殿にこの事態をお知られしようとしたのですが、どうにも妙で、何故か影空間が繋がらないのです」

 

 

 

「は?そんな馬鹿な?結界はもう解かれてるんだ・・・・・・」

 

 

 

〈告。移動先が何らかの結界により、隔絶されていると推測されます。〉

 

 

 

「結界?隔絶?・・・・・・そういえばヒナタの奴・・・・・・」

 

 

 

大賢者からのその情報に、俺は先程のヒナタの言葉が頭をよぎった。

 

 

 

・・・・・・邪魔なあなたの国を潰す。

 

 

 

・・・・・・国はめちゃくちゃにされてるわよ?

 

 

 

・・・・・・手遅れ。

 

 

 

 

「どう言う意味なんだよ・・・・・・それは。それに・・・・・・」

 

 

 

 

 

・・・・・・その子(エリス)に至っては、直接手を下す必要は無くなるかもしれない。

 

 

 

 

ヒナタのあの一言。その子っていうのは間違いなくエリスの事を指して言っていた。しかもあいつは、俺が絶望する姿を見たいだとか言う理由で、エリスに・・・・・・。こうしちゃいれない!早いとこ魔国連邦(テンペスト)に帰らねーと!みんなが心配だ!

 

 

 

「(大賢者!今すぐ転移可能な近くのポイントを探れ!)」

 

 

 

〈了。直ちに実行に移ります。〉

 

 

 

「ランガも、早く行くぞ!」

 

 

 

「はっ!・・・・・・っ!主よ!ペンダントが・・・・・・!」

 

 

 

「っ?ペンダントがどうかした・・・・・・か?」

 

 

 

ランガに言われ、徐にエリスのペンダントに視線を移した俺は、それを見た途端・・・・・・・・・・・・息が止まった。

 

 

 

「何で・・・・・・()()()るんだ?」

 

 

 

そう、息が止まった理由・・・・・・それは、先程まで傷一つ無く、綺麗な水の雫の形をしていたペンダントが・・・・・・縦に線が入るかのように、”ひび割れて”いたからだ・・・・・・。これはもしや・・・・・・エリスに何か・・・・・・いや、そんな訳ない!

 

 

 

「主よ・・・・・・。もしや、エリス殿や皆の身に何かが・・・・・・」

 

 

 

「そんな訳ねーだろ!エリスがいるんだぞっ!あいつやみんなに何かがある訳なんて・・・・・・」

 

 

 

無いっ!・・・・・・とは言い切れなかった。俺だって、今さっきまで死にかけてたんだ。そんな状況が向こうにだってあったって何も不思議じゃ無いんだ。例え・・・・・・エリスが居たとしても・・・・・・。だからこそ、俺は是が非でも戻らないといけないんだ!

 

 

 

「・・・・・・何が起こってるんだよ・・・・・・一体?エリス・・・・・・みんな・・・・・・どうか無事でいてくれよ?」

 

 

 

俺のその不安は、一向に晴れそうに無かった。

 

 

 

 

 

そして、その俺の心の具合と比例するが如く・・・・・・先程まで綺麗な晴天だった空は、不気味な雰囲気を醸し出す曇天へと変貌を遂げていた・・・・・・。




次回はエリスの視点へと移行します。リムルがヒナタと激戦を繰り広げてる中、エリス達はどうなっていたのでしょうね・・・・・・。


エリスがいるから、魔国連邦(テンペスト)は大丈夫だとリムルは言っていましたが、本当にそうでしょうかね・・・・・・?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

陰謀と結界の脅威

エリスの視点に戻ります。


エリスがテンペストにいることで、事態がどのように動いたのでしょうか?


–––––––––現在–––––––––

 

 

視点 エリス

 

 

 

ソウエイからの知らせを受けた僕は、騒動が起こってるとされてる町の一角へと向かっていた。ソウエイの話では今はその人間たちへの対応はシオンとシュナが行ってるようだけど、何と無く心配であり、騒ぎが起こってると言われて行かないほど僕も無神経じゃ無いから、行くことに決めたわけだ。

 

 

 

「よし、着いたかな?・・・・・・騒ぎはどうやらあそこで・・・・・・って、えっ!?」

 

 

 

騒動の場に着いた僕は、そこで見た光景に驚いた・・・・・・と同時に、どこか呆れた。だって・・・・・・。

 

 

 

「シオンってば・・・・・・人間の人に手荒な真似をしないようにってあれだけ言ってたのに・・・・・・全く・・・・・・」

 

 

 

何故か、騒動の種になったのであろう、一人の男性とシオンがその場でやり合っていたからだ(シオンが若干優勢に進めている)。近くで見ていた住民に話を聞いたところ、原因となったのはあの3人の人間のうちの一人の女の人の一言だったらしい。何でも、ゴブタの部下でもあるゴブゾウが、彼女に『痴漢をされた!』・・・・・・といういちゃもんをつけられたそうで、それを近くで見ていたゴブタやシオン、シュナが必死に反論をしたことで、このような騒ぎになったそうだ。・・・・・・だからと言って、喧嘩にまで発展するのはどうかと思うけど・・・・・・。

 

 

一応、双方武器は扱っていない為、ただの喧嘩をしているようにしか見えないんだが、そういう問題では無い。騒動を起こしたとは言え、相手は僕達といずれは共存をする事になるであろう、人間だ。こんな些細な騒動で怪我をされて、僕たちの印象が崩れてしまってはまずい。そうなる前に、まずはこの喧嘩を止めないと!

 

 

 

「ストップストップ!!二人ともやめて!!」

 

 

 

「っ!誰だてめっ!」

 

 

 

「エリス様っ!?」

 

 

 

二人の間に割って入るようにして止めに入った僕は、必死に二人を制止する。二人は、いきなり現れた僕にかなり驚いたようで、その場でゆっくりと停止した。ふぅ・・・・・・とりあえず、抑えられたかな?

 

 

 

「はぁ・・・・・・何やってるの、シオン?人間とはあまり争わないようにって、言ったはずだけど?」

 

 

 

「も、申し訳ございません!ですが、この者どもは・・・・・・」

 

 

 

「シオンの言い分もあるだろうから、これ以上は何も聞かないでおくよ。シオンだって、なんにも無しに人間を襲う訳ないしね?・・・・・・後は、彼らに話を聞くから、キミは下がっててくれる?」

 

 

 

「・・・・・・わかりました。どうか、お気をつけて」

 

 

 

「エリス様・・・・・・シオンの言う通り、お気をつけを・・・・・・。あの者たちは、ただならぬ気配を持っているようですので・・・・・・」

 

 

 

下がるように言ったシオン、同じ場にいたシュナが僕の身を案じつつ、彼らには注意するよう言ってくる。・・・・・・確かに、彼らは普通の人間とはどこか違う。それに、彼らの容姿、雰囲気、身なり・・・・・・僕にはどこか心当たりがあった。あれは・・・・・・。

 

 

 

「おい、いきなり出てきて何なんだよ、テメェはよ?今いいとこだったんだから邪魔してんじゃねーよ!」

 

 

 

「邪魔も何も、この町の責任者として、こう言った騒動は見過ごす訳には行かないんですよ。・・・・・・申し遅れました。僕は、この町・・・・・・この国の国主代理を任されている、エリス=テンペストです」

 

 

 

「エリス?・・・・・・もしかして、ジュラ大森林同盟の副盟主で、この国の副国主でもあるあのエリス=テンペストかな?」

 

 

 

「そうですが・・・・・・何か?」

 

 

 

3人の人間のうちの、細目をした男の人が、そう確認を入れてくる。・・・・・・なんだ?この人の妙な薄ら笑いは・・・・・・?

 

 

 

「へっ!こりゃいいぜ!ここでこんな大物と出くわせるだなんてな!ここでテメェをやりゃ、俺らの知名度はぐっと上がるってもんだし、報酬は俺たちのもんだ!ついでにあのジジイにも認められる事間違いなしだぜっ!!」

 

 

「ショウゴあったまいいっ!そうすれば、もうこんなめんどくさい命令なんて聞かなくて済むしね!さっさとやっちゃって報酬受け取ろうよ!聞いてた割には随分と弱そうだし!」

 

 

 

「「「「「っ!!」」」」」

 

 

 

その二人の言葉に反応したのは僕の影の中にいたヒョウガ、カレン、セキガ(この二人は、以前から『影移動』が使えるようになった。今回は影の中から護衛としてついてきて貰っていた)と、後ろにいたシオンとシュナだった。それぞれみんなが顔に憤りの色を見せながら僕の前に立ち・・・・・・相手を静かに睨んでいた。

 

 

 

「っ・・・・・・なんだよ、お前ら?」

 

 

 

「エリス様を・・・・・・やる?貴様・・・・・・もう一度その言葉を言ったら、即座にその頸を跳ね飛ばしますよ?」

 

 

 

「エリス様は、この国には無くてはならないお方。・・・・・・あなた方如きに、殺させるわけには参りません」

 

 

 

シオンとシュナが、普段の優しい表情とはかけ離れた、激しい怒りの表情を見せながら、前の3人へと言い放つ。・・・・・・地味に怖い。

 

 

 

「ちょ、ちょっと!何なのよあんたら!あんたらは関係ないでしょっ!どきなさいよ!」

 

 

 

「関係大ありだし、どく気も無い。オレはエリス様の護衛を任としている近衛兵だからな・・・・・・」

 

 

 

「私も、同じ近衛兵だから、エリス様の身に危険が迫ってる以上、ここを通すわけには行かないのよ」

 

 

 

セキガとカレンの近衛兵コンビが、僕を守るような形で隊列を組みながら、そう言い放つ。

 

 

 

「ありゃ〜・・・・・・やっぱり、そう簡単にうまくは行かないよね・・・・・・」

 

 

 

「主様を脅かす存在は・・・・・・誰であろうとワタシが許しません!」

 

 

 

低い呻き声を立てながら、ヒョウガが今すぐにでも飛びかかりそうな勢いで叫ぶ。

 

 

 

「もはや弁論は不要!この者らは我ら魔国連邦(テンペスト)に仇なす者達と判断した!よって、この場にて貴様らに処罰を下してくれます!」

 

 

 

「ちょ、ちょっとシオン!?待ってって!!」

 

 

 

それじゃ、話がややこしくなるだけで何も解決しないでしょっ!心の中でそう叫んだ僕は、とりあえず今にも怒りが爆発しそうになって、暴走しそうになってるシオンを抑えつつ、みんなの前に出ながら、3人に視線を向けた。

 

 

 

「何故止めるのですか、エリス様!奴らはあなたの命を狙っているのですよっ!?」

 

 

 

「わかってるよ。でも、何で僕の命を狙ってるのか分からないし、もしかしたら何か事情があってこんなことをしている可能性だってあるでしょ?まずはそれを聞いてみない事には、判断できないよ。・・・・・・聞かせてください。あなた方は何の目的があって、この国へと来たのですか?そして、何の理由があって僕の命を狙うんですか?」

 

 

 

「あんたの命を狙うのは・・・・・・そうだなぁ・・・・・・簡単に言うと、あんたを殺せば特別報酬がたんまりと貰えるんだよ。その特別報酬は”西方聖教会”の方から出るってラーゼン様は言ってたけど、何であんたを殺せば報酬が出るかまでは分からないんだよね?・・・・・・まぁ、そんな事僕たちにはどうでも良いことなんだどね?」

 

 

僕の質問に答えたのは細目の人だった。なんか、賞金首みたいになってるけど、僕って何か悪さした?・・・・・・いや、そんなこと特にしてないはずだけどな?

 

 

 

「(西方聖教会・・・・・・)じゃあ、ここに来た目的は?僕の命だけが目的ではないでしょう?」

 

 

 

「それは、じきに分かるよ・・・・・・・・・・・・あぁ、もう()()がで始めてるね。思ったより早くて助かったよ・・・・・・」

 

 

 

「効果?いったい何を言って・・・・・・・・・・・・っ!どうしたんだ、みんな!?」

 

 

 

その人の言っている意味が分からず、困惑していた僕は、ふと視線をみんなの方へ向けた瞬間・・・・・・大きく戸惑った。

 

 

 

「か、体が・・・・・・鉛のように重い・・・・・・」

 

 

 

「これは・・・・・・一体?」

 

 

 

「力が・・・・・・抜けていく・・・・・・」

 

 

 

先ほどまで快調な様子で立っていたみんなが、一人残らず苦しそうに地面に膝をつけていたからだ・・・・・・。それだけじゃない。他の住民達もみんな、苦しそうにしており、中には意識を失いそうになっている人もいた。・・・・・・どう言うことなんだ!?目の前の3人から何かをされたような感覚は無い。おそらく、彼ら以外の何者かの手によって、巻き起こされている現象かもしれないが・・・・・・。

 

 

 

「何が・・・・・・起こってるって言うんだ?」

 

 

 

全く意味不明で、状況判断が不可能なこの状況に、僕はただただ困惑するしかなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

《告。二種類の広範囲結界に魔国連邦(テンペスト)は囚われた模様です。一つは魔法の使用を制限、もしくは阻害する効果を持つ魔法不能領域(アンチマジックエリア)、もう一つは、解析不十分のため、詳しい効果は不明ですが、結界内の魔素を浄化する作用がある模様です。》

 

 

 

「(結界?・・・・・・何でそんなものを。それに・・・・・・魔素が浄化なんてされたら、魔物である僕たちはみんな弱ってしまう・・・・・・・・・・・・っ!そうかっ!だからみんな・・・・・・)」

 

 

 

みんなが苦しそうにしている理由にようやく納得が行った僕は、内心で小さく舌を打った。魔素と言うのは魔物である僕たちにとって無くてはならない存在だ。それが、この結界により、浄化されているのだとすれば・・・・・・この状況は非常に不味かった。

 

 

 

「(僕は、そこまで影響を受けてないようだけど、何でだ?)」

 

 

 

《解。結界を張られた際、主人(マスター)の周辺には、常時発動されている『水結界(アクアヴェール)』に加え、『多重結界』を張ったため、抵抗(レジスト)に成功しているためと思われます。》

 

 

 

「(・・・・・・相変わらず、良い仕事するよ、指導者(ミチビクモノ)さんは・・・・・・)」

 

 

 

と言うこともあって、僕は何とか大丈夫のようだけど、他のみんなはそうも行かない。未だにその場にいた全員・・・・・・いや、おそらくこの町にいる全ての住民達が魔素の枯渇による苦しみに苛まれていることだろう・・・・・・。

 

 

 

「「「「エリス様っ!!」」」」

 

 

 

「っ!ベニマル!ソウエイ!ハクロウ!リグルド!」

 

 

 

今まで行方が知れなかったその4人が、この場に駆けつけてきた。だが、やはり4人もこの結界の影響を受けていることもあって、足取りはどこか重そうにしていた。

 

 

 

「みんな、大丈夫っ!?」

 

 

 

「エリス様こそ、よくぞご無事でっ!」

 

 

 

「は、はい・・・・・・何とか・・・・・・ですが、これは一体・・・・・・」

 

 

 

「何やら、妙な物が張られてるようじゃが・・・・・・」

 

 

 

「どうやら結界を張られたらしい。それのせいで、みんなが・・・・・・」

 

 

 

「リムル様にも連絡が繋がらないのも・・・・・・その結界が原因か・・・・・・くそっ、早く知らせなければならぬと言うのに!」

 

 

 

ベニマルのその悔しそうに言う言葉に、僕はやっぱりか・・・・・・といった心情だった。魔法系が阻害されてるってことは、そういった通信や伝達といった魔法、スキルもある程度は阻害されてしまうと言うことだから、リムルに繋がらないのも無理はなかった・・・・・・。・・・・・・とはいえ、早くリムルにこのことを伝えないとまずい気がするんだ・・・・・・何か嫌な予感がずっとしてるし・・・・・・。

 

 

 

「ソウエイ。この結界のせいで多分、分身体と連絡を取るのも無理そうだから、キミは今すぐにリムルの元へ向かってくれ!そして伝えて!『魔国連邦(テンペスト)に危機が迫ってる』って!」

 

 

 

「御意!・・・・・・エリス様、どうかお気をつけて・・・・・・」

 

 

 

「うん、キミもね」

 

 

 

僕の命を聞いたソウエイはすぐさま、その場を後にし部下を引き連れつつリムルの元へと向かっていった。・・・・・・頼んだよ、ソウエイ。

 

 

 

「ベニマル、リグルド、キミ達は今すぐに町の人たちを外れへと避難させてくれ。・・・・・・何か、嫌な予感がするんだ・・・・・・苦しいだろうけど、頑張ってくれる?」

 

 

 

「おまかせをっ!」

 

 

 

「もちろんですよ。俺だってそこまで脆くはありませんから・・・・・・っ」

 

 

 

そう励んだ二人だったけど、やっぱり相当苦しそうだ。ベニマルでさえ、これほどに弱るなんて・・・・・・この結界の威力は相当なものと捉えていいな・・・・・・。

 

 

 

「(指導者(ミチビクモノ)さん、何か少しでもみんなの苦しみを和らげられる方法見たいのって無い?)」

 

 

 

《解。スキル『応援者(コブスルモノ)』を発動する事により、ある程度の弱体化は緩和させることは可能です。ですが、魔法不能領域(アンチマジックエリア)の影響もあり、従来の効力は出せないものと推定します。》

 

 

 

「(それでいいよ。それで少しでもみんなが元気になるんだったら。発動をお願いしていい?)」

 

 

 

《了。直ちに実行致します。》

 

 

 

応援者(コブスルモノ)』は僕の周辺を自分の魔素、魔力を充満させることで、味方を強化するスキルだからね。そういった効果を持っていても不思議じゃ無いって思ってたけど、相変わらず『応援者(コブスルモノ)』は有能で助かる・・・・・・。

 

 

指導者(ミチビクモノ)さんの言う通り、『応援者(コブスルモノ)』が発動された事によって、みんなは少しだけ調子を取り戻したようで、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

「おいおい!何でこいつらまた起き上がってくるんだよ!この結界のせいで弱体化したんじゃねーのかよ?」

 

 

 

「僕のスキルを使って少し、みんなに魔素を提供しましたからね。それでも、かなり弱ってはいますけどね?」

 

 

 

「うっ・・・・・・申し訳ございません、エリス様・・・・・・こんな醜態を・・・・・・」

 

 

 

「大丈夫。みんなの事を守るのも僕の仕事だからさ?・・・・・・みんなはそこで待ってて。ベニマル、リグルド・・・・・・ある程度は動きやすくなっただろうから、みんなの避難誘導を頼むよ」

 

 

 

「「はっ!」」

 

 

 

二人も先程のソウエイ同様、近くにいた住民達全員に避難勧告を出しつつ住民達を誘導していった。・・・・・・とりあえず、住民のみんなのことは彼らに任せていれば大丈夫だろう。・・・・・・後は、この場の処理だけだ。

 

 

 

「さて・・・・・・どう言うつもりかは知りませんけど、随分と物騒な事をしてくれますね?どうやら、この結界はあなた方の力で為されたわけじゃなさそうですけど・・・・・何かしらの要因はありそうですので、この国の責任者としてあなた方を見過ごすわけにはいきません。一つ・・・・・・聞きます。この結界を張るように言った人物は誰か教えてはもらえませんか?返答次第では、あなた方の処遇を考えなくてはいけませんので・・・・・・出来れば、しっかりと答えてください」

 

 

 

「処遇だって?そんな弱った状態でよくそんな余裕ぶっていられるよね?まぁ、質問には答えてあげるよ。・・・・・・この結界を張るように言ったのは、詳しくは分からないけど、確かファルムス王国の国王と、西方聖教会のお偉いさん達がそう命令したらしいよ?『魔物が国を統べるなど言語道断!我らが聖戦という名の裁きを下してやる!』・・・・・・ってな風にね?」

 

 

 

「・・・・・・そんな理由で僕たちを?」

 

 

 

「さぁね?僕たちはただ命令に従うだけだからね。さて、弱ってるキミ達を一方的に殺しちゃうのはちょっとつまらないけど、これは命令だからね。そんなわけで、これから僕たちがキミ達のこと無惨に殺してあげるから、覚悟してよ?」

 

 

 

「ははっ!やっとやれるってわけか!待ちくたびれたぜっ!」

 

 

 

・・・・・・どうやら、彼らはやる気のようだ。この人たちと今ここで争うのはどうにも得策のようには思えないけど・・・・・・向こうがやる気になってる以上、こちらも迎え撃たないとこっちがやられるしか無い。・・・・・・みんなは、何とか持ち直しているけど、まだ本調子とまでは行ってなさそうだ。・・・・・・仕方ない。ここは僕が相手取ろう。みんなに無理強いはさせたく無いからね。

 

 

 

「そちらが向かって来るのであれば、こちらもそれなりの対応をしなくてはなりません。・・・・・・ある程度の怪我は覚悟してくださいね?」

 

 

 

「はん!済ました顔して言うじゃねーか!やれるもんならやってみろやっ!!」

 

 

 

みんなが動けない以上、僕が彼らを相手にするしか無いため、僕は懐の剣を抜きつつ構える。今回は『水聖剣』を使う事は控えた。と言っても、この結界のせいで『水操作者(ミズオペレーター)』がうまく発動されなかったからだ。だから今回はこの、クロベエの剣を使うことにした。

 

 

相手にすると言っても、軽くあしらう程度にするつもりだ。彼らに重傷を負わせて最悪の場合、死なれては困るためだ。軽く相手をした後、一旦この結界のことについて詳しく洗い、対策を練ろう・・・・・・。

 

 

 

さて、とりあえず・・・・・・。

 

 

 

「やりましょうか。愚鈍なる人間方・・・・・・」

 

 

 

僕と、3人の人間の戦闘が・・・・・・幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時の僕は知らなかった・・・・・・。僕たちのことを狙う僕たちの敵(人間)が、この3人だけで無いことを・・・・・・。そして、その新たなる刺客は既に・・・・・・すぐそこまで来ていると言うことにも・・・・・・。




原作よりも、四方印封魔結界(プリズンフィールド)の威力が強力となっていて、シオンを始めとした重鎮達も、片膝をつくほどにひどく弱体化してます。エリスの『応援者(コブスルモノ)』の効果でようやく、原作よりも少しだけ強くなる・・・・・・といった感じになります。強くなるといっても微々たるものでしか無いため、あんまり差は無いかも知れません。

エリスは見て分かる通り、そこまで弱体化はされていません。リムルほどでは無いにせよ、その次に強大な魔素を保有するエリスは、四方印封魔結界(プリズンフィールド)程度の結界ではそこまで多大なる影響を受ける事はありません。それに、『多重結界』等で抵抗(レジスト)もしてるので、殆ど意味をなさないと考えていいです。


だから、異世界人のショウゴ、キララ、キョウヤ相手でも余裕で勝てる筈ですけど・・・・・・実際はそう簡単にうまくいくのでしょうか・・・・・・?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

崩れゆく日常

話を書くのが辛くなってきました・・・・・・。この先の顛末を知っている身としては・・・・・・。


「ぐっ・・・・・・くそ〜・・・・・・」

 

 

 

「あ、ああぁぁ・・・・・・」

 

 

 

「これは・・・・・・参ったね・・・・・・」

 

 

 

僕と3人の戦闘が開始され、数分が経ち、僕は”地面に這いつくばった3人”を冷たい目で見つめていた。3人はそれぞれ、呻き声をあげたり、怯えたりしながら僕のことを睨んでいた。

 

 

 

「勝負ありですね。いくら、この結界が魔物を弱体化させる効力を持っていようと、僕には何も意味を成しません。色々と対策をしてますので(指導者(ミチビクモノ)さんが)。よって、あなた方3人と戦っても問題無く戦えるんですよ。僕の命を狙いに来たとか言ってましたけど・・・・・・残念でしたね?」

 

 

勝負は物の数分で決した。指導者(ミチビクモノ)さんの解析によって、3人がそれぞれユニークスキルを持っていることがわかった僕は、少しだけ動揺したけど、見たところ、彼らはどうやらスキルに頼り切ってる様子で、素の”身体能力、剣技、武闘能力などはどうやらからっきしの様”だった為、すぐに落ち着きを取り戻した(細目の人は少しは剣の心得がありそうだったけどね?)。いくら彼らの持つユニークスキルが強力であろうと、それを扱うスキル保持者が()()では、スキルも十分に使いこなせないと言う物だ。

 

 

自力の差では明らかに僕の方に分があったため、『身体強化』を発動して攻撃に転じた僕は、彼らを無力化するべく剣を振るった。やはり、『身体強化』も結界の効果を受けていつもの様な効力は出なかったけど、相手を無力化するくらいならこれで十分だったし、他のスキルを使わなくても問題なさそうだった為、特に気にはならなかった。彼らを無力化する手段は3つ。一つは、彼らの戦意を削ぐ。二つ目は彼らを気絶させる。三つ目は、彼らを殺す。

 

 

三つ目は論外で、二つ目もちょっと・・・・・・って思ったから、僕は一つ目の方法で彼らを無力化する事を決め、僕は目にも止まらぬ動きで彼らを翻弄していき、徐々に彼らの戦意を削いで行った。細目の人のスキルである『天眼』や『切断者(キリサクモノ)』が少し厄介だったけど、僕の剣技や、以前ハクロウに教わった瞬動法を駆使して使用したことで、スキルの効果を限りなく割くことが出来たため、彼もまた他の二人同様、戦意を削ぐことに成功する。

 

 

そしてさらに数分後・・・・・・ようやく今の自分らでは僕に勝てないと察したのか、三人は揃って戦意を失った。

 

 

 

「くっそ・・・・・・この結界があってこの強さとか、反則かよ・・・・・・」

 

 

 

「ば・・・・・・化物・・・・・・」

 

 

 

畏怖の対象を見ているような言い草でそう言う彼らに、僕は少しムッとしてしまう。・・・・・・僕は化物じゃないし。それに、僕でこんなに驚いていたら、リムルの強さなんて見たら絶句しちゃうんじゃ無いかな?

 

 

 

「参ったな・・・・・・早く()()欲しい物だけど・・・・・・・・・・・・っ!ショウゴ!どうやら()()みたいだよ!」

 

 

 

「っ!・・・・・・ったくおせーんだよ、全く・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

二人の言っている意味が分からず、首を傾げる僕。なんだろう?そう思って、二人の見ている方へ視線を向けてみると・・・・・・そこに居たのは・・・・・・。

 

 

 

「人間の・・・・・・騎士団?何でこんなとこに?」

 

 

 

「エリス様・・・・・・彼らは一体?」

 

 

 

「僕にも分からないよ・・・・・・」

 

 

 

シュナの問いかけには、僕にも答えようが無かった。騎士団がこの町に来るなんて話聞いてないし、まず何でここに来ているのかが理解出来なかったからだ。・・・・・・本当に何のためにここまで来てるんだろう?

 

 

 

「おーーいっ!!助けてくれー!!ここの魔物達に襲われてるんだっ!」

 

 

 

「「「「「「っ!!?」」」」」」

 

 

 

細目の人のその叫びに、僕たちは当然驚いた。どう考えても、先に手を出してきて、宣戦布告してきたのは彼らだ。それを何で人間の騎士団なんかに・・・・・・言ったところで、誰も信用なんて・・・・・・・・・・・・っ!

 

 

 

「(しまったっ!そう言うことかっ!)待ってください!僕たちは決してっ・・・・・・」

 

 

 

「魔物の国と聞いて調査に来てみれば・・・・・・善良なる人間を襲うとは・・・・・・やはり魔物は魔物であることがよくわかった!人類の法、神の神託に従い、我らファルムス国はこの国、魔国連邦(テンペスト)を滅ぼすこととした!」

 

 

 

騎士団の一人の人が、剣を高々と掲げつつ、そう騎士団全体に下知を飛ばした。・・・・・・そうだ。彼らが”今”この場に来たのだとすれば、先ほどまでの僕たちと三人のやりとりを見ている筈がなかった。それを見ずに、この現場を目撃すれば、もはや僕たち魔物が人間であるこの三人を襲っている様にしか映らない事は明白だった・・・・・・。さらに、トドメとしてこの三人から助けを求められてしまえば・・・・・・もう、彼らが僕たちのことを信用すると言うことは・・・・・・ないと思っていいかもしれない。

 

 

 

「(それにしても・・・・・・何でこのタイミングで来るんだ?・・・・・・あまりにもタイミングが良すぎる・・・・・・まるで、図ったかのように・・・・・・っ!まさかっ!?)これを・・・・・・狙って?」

 

 

 

「ははっ。やっと気がついた?僕たちだってただやられてた訳じゃないからね?まぁ、気がついたところでもう遅いだろうけどね?」

 

 

 

「くっ・・・・・・まさか騎士団の人たちと組んでいたなんて・・・・・・厄介だ」

 

 

 

あまりにも予想外な敵に、僕たちは戸惑うしかなかった。・・・・・・ただの敵(今まで相対してきた魔物や魔人)であれば、僕たちはここまで戸惑うことは無い。今までだってこんな状況、数多くあった訳だし。だが・・・・・・。

 

 

 

「主様・・・・・・相手が()()ですと・・・・・・ワタシ達は・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・分かってる。すまないけど、キミ達は少しの間、あの三人を見張っててくれ。僕が対応するから・・・・・・」

 

 

 

敵が人間である以上・・・・・・僕たちには手が出せなかった為、とりあえずにと思って僕は先程の三人を後ろのみんなに任せ、騎士団の方へと歩を進める。僕達には大事な掟が3つほどあり、そのうちの一つが・・・・・・『人間を襲うな』だからだ。これは、僕とリムルが決めたことで、これを今までみんなは律儀に守ってきた。それが、今になって尾を引くことになるなんて・・・・・・。

 

 

 

とにかく、あの人たちを止めないと!

 

 

 

「お待ちくださいっ!僕達は決して、あなた方と相対する気はありません!むしろ僕達は、あなた方人間国と友好的に接したいと・・・・・・」

 

 

 

「黙れっ!人間を襲う下劣な魔物め!皆、容赦はいらん!見せしめにまずはこの町の住民どもをありったけ殺し尽くしてやるのだっ!!」

 

 

 

「くっ・・・・・・仕方ない!『水陣壁(ウォーターウォール)』!」

 

 

 

説得はどうやら現段階では不可能と察した僕は、少しでも足止めをするべく、スキルの『水陣壁(ウォーターウォール)』を発動した。これは僕がリムルにあげたペンダントにも付与したスキルで、防御や足止めには打って付けのスキルだ。この結界のせいで、いつもよりも壁の層が薄いけどね?

 

 

 

「むっ!・・・・・・水の壁か?」

 

 

 

「お願いです!どうか僕の・・・・・・僕達の話を聞いてください!そうでなくては・・・・・・僕達は・・・・・・あなた方と戦うことになってしまいます!それだけは、どうしてもしたく無いんです!あなた方とは戦いたく無いんです!だから・・・・・・どうか!」

 

 

 

「・・・・・・言うではないか?貴様、名を何と言うのだ?」

 

 

 

「僕は、エリス=テンペスト。この国を治めている者です」

 

 

 

僕の名を聞くや否や、何故かその人はふっ・・・・・・と微笑を浮かべ始めた。・・・・・・なんだ?

 

 

 

「貴様がこの国の副国主とはな。これは、厄介な魔物と出会したものだ。・・・・・・だが、”これ”を見てもまだそんな余裕が保っていられるのかな?」

 

 

 

「っ?何を言って・・・・・・・・・・・・っ!!」

 

 

 

彼の言ってる意味が分からずに、困惑する僕が次に見たのは・・・・・・・・・・・・騎士団の人たちに”人質”として捕らえられている二人の男女のゴブリンだった。その光景を目の当たりにした僕、そしてみんなは驚愕すると共に、人質という卑怯な手を使ってきた目の前の騎士団の人たちに、酷い憤りを覚えた。

 

 

 

「あれは・・・・・・ホブゴブリンのメゼットさんと、ゴブリナのリーゼさんです・・・・・・何で・・・・・・」

 

 

 

「えっ・・・・・・確かあの二人って夫婦だったよね?しかも、最近リーゼさんって・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・はい。ご懐妊されました。今も、あのお腹の中に、あの二人の子供が・・・・・・」

 

 

 

「っ・・・・・・早く助け出さないと・・・・・・いけないのに・・・・・・」

 

 

 

シュナのその一言に、僕の表情は曇る。

 

 

以前、『懐妊しました!』と大変喜んで、リーザさんとメゼットさんが僕の家にまで飛び込んで来たことが今でも鮮明に思い出せた。あの時の二人は本当に嬉しそうに僕に報告をしてくれ、それを見ていた僕も我がことの様に喜んでいた事を思い出した。・・・・・・そんな二人・・・・・・いや、三人を人質にとるなんて・・・・・・なんていう事を・・・・・・!これじゃあ、僕達は動きようがない!

 

 

 

本来であれば、すぐにでも助けに行きたいところだけど、この結界のせいでスキルも魔法も半減、もしくは無効化されてしまってる為、闇雲に動くことが出来なかった。もし下手に動いて彼らに危害を加えられることとなってしまえば、意味がない。・・・・・・どうすればいいんだ?

 

 

 

「この魔物どもの命が惜しいのであれば、下手な真似はせぬことだっ!・・・・・・後ろにいる貴様らもだ!!」

 

 

 

「「「「「「「っ・・・・・・」」」」」」」

 

 

 

人質を取られてる以上、下手な真似をする事はできないため、渋々僕は、『水陣壁(ウォーターウォール)』を解除した。

 

 

 

 

「火矢を放てっ!神なる聖火を持って、この町を焼き払うのだっ!!」

 

 

 

僕達が身動きが取れぬのを尻目に、騎士団の人たちは徐に弓矢を取り出し、火が付与された矢を一斉に・・・・・・町へと放った。放たれた矢は建物や屋台に突き刺さり、そのままそれらを紅蓮の炎で焼き尽くして行った・・・・・・。

 

 

 

その光景を目撃した僕・・・・・・いや、僕達は今まであった思い出、ここにあったこれまでの日常が崩れ去っていくかのような錯覚に陥った・・・・・・。

 

 

 

「(やめろ・・・・・・やめてくれっ!!僕達からこの国を・・・・・・大切な宝物を奪わないでくれっ!!)」

 

 

 

「(くっ・・・・・・せめて、人質さえいなければ・・・・・・)」

 

 

 

「(町が・・・・・・崩れる・・・・・・)」

 

 

 

「(消火したい・・・・・・だけど・・・・・・)」

 

 

 

「(何も出来ない自分が恥ずかしいです・・・・・・)」

 

 

 

「(何で、こうも容易く残酷なことができるのでしょうか・・・・・・人間は・・・・・・)」

 

 

 

「(リムル様とエリス様の大切な国を・・・・・・なんたる下劣な種族なのじゃ、人間は・・・・・・!)」

 

 

 

紅蓮の業火に焼かれる町並みを見つつ、絶望するみんな。もちろん僕もだ。これまで僕は、人間とともに生活、共存する事を夢見てこれまで頑張ってきた。この町だって、その気持ちの表れだ。いつか来る、人間の人たちとの共存、仲良くお互いに笑って暮らせるように町づくりに励んできたって言うのに、それを何で人間に壊されないといけないんだっ!こんなあんまりな話ないよっ!!僕達はただ・・・・・・あなた達人間と・・・・・・楽しく過ごしたかっただけなのに・・・・・・。僕が・・・・・・甘かったのか?

 

 

「(もう、ファルムス王国と共存するって言う夢は果たせないかもしれない。だって、こんだけあからさまに敵意を向けてきて、挙げ句の果てにはこうして僕たちの町に酷い事をしてるんだから。紛れもなく、彼らは僕たちの敵だ。でも、彼らを殺さずに無力化するのは正直言ってきつい。ざっと見たところ100人はいるし・・・・・・無力化しようと動くとどうしても手加減が入ってしまうため、力を存分に発揮できないからね・・・・・・。だからと言って、このまま何もせずにいたら僕たちは彼らに殺されるか、焼死するしか無くなってしまう・・・・・・。だとすると・・・・・・)」

 

 

その時、僕に残された選択肢はもはや一つしかなかった。・・・・・・もう、やるしかないのか。

 

 

 

「(攻めて来るってことは、"その"覚悟も持ってるって事だろうし・・・・・・気は進まないけど、"やる"しかない。どうせ、誰かがやらなきゃ誰も助からないんだ。・・・・・・みんなを守る為だったら、何だってやってやる・・・・・・。それにもう、僕としても限界だ・・・・・・人質まで取られて、町をこんなにされて、黙ってるほど・・・・・・僕は、優しくなんてないんだから。”人殺し”になろうと関係ない。悪いのは向こうだ。このツケは・・・・・・きっちりと払ってもらうことにしよう・・・・・・。ごめん、リムル・・・・・・僕がキミと決めた約束、みんなを守る為に・・・・・・破らせてもらうよ?)」

 

 

 

「はっはっはっ!!愉快だ愉快!魔物の国など、この火で消毒されてしまうがいいっ!!!」

 

 

 

・・・・・・焼かれる町並みを見て、爽快と言わんばかりに笑い飛ばす騎士団の人たちに対して・・・・・・僕はある一つの決意を固めた・・・・・・。

 

 

 

 

「ファルムス国・・・・・・そしてあなた方を・・・・・・僕達の敵として・・・・・・()()しますっ!」

 

 

 

 

もう、吹っ切れた僕の瞳に、曇りは微塵もなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




流石の優しいエリスでも、町を壊されたら怒るのも無理ありませんね。


原作よりも、襲撃者達がさらに外道と化しています。・・・・・・人質は流石にひどいですよね・・・・・・。


さて、エリスは人間であり、自分たちに仇なす彼らを排除することに決めた訳ですが、この判断が後にどの様な影響を受けるのか・・・・・・?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

逆鱗

エリスの怒りが限界を超えた。・・・・・・騎士団の運命は?



遅いですが、転スラが映画化されて非常に嬉しいです!来年が今から待ち遠しいです!


「ファルムス国・・・・・・そしてあなた方を・・・・・・僕達の敵として・・・・・・()()しますっ!」

 

 

もはや、弁論は不要だった。彼らは僕たちに仇なす敵。それならば、排除しなければ今後もきっと僕たちを脅かす事は間違いない。彼らを始末するには、これだけの理由があれば十分だろう。

 

 

もう、僕に迷いはない。みんなに何と言われようと、リムルから罵倒されようと・・・・・・この国とみんなを守るためだったら・・・・・・僕は人殺しでも何でも汚名を被ってやろう。それが・・・・・・僕が今決めた覚悟だ!

 

 

 

「え、エリス様・・・・・・?」

 

 

 

「みんな・・・・・・」

 

 

 

僕の元へ心配そうに歩み寄ってくるみんな。おそらく、次に僕が起こす行動に、先程の言動から察しがついたんだろう。・・・・・・全く、察しの良い配下達だよ、もう・・・・・・。

 

 

 

「みんな。時間がないから手短に話すよ?さっきも言ったように、僕はあの人たちを排除すると決めた。まず、僕が突っ込んであの二人を救出するから、みんなにはあの二人の護衛をお願いしたいんだ。・・・・・・頼める?」

 

 

 

「それは・・・・・・構いませんが・・・・・・。あの、エリス様?排除というのは・・・・・・つまり?」

 

 

 

「うん・・・・・・そう。彼らを”殺す”・・・・・・。もうそれしか、この場を打開出来る手は無さそうだからね。・・・・・・大丈夫、彼らの始末は全部僕がやるから・・・・・・」

 

 

 

”殺す”・・・・・・まさか人間相手に僕がこんな発言をするとは思っていなかったのか、みんな驚きを隠せていなかった。そりゃそうか・・・・・・今までずっと、人間と共存だとか生活だとか言ってきた僕が、手のひらを返してそんな物騒なことを言ったんだから・・・・・・。

 

 

 

「エリス様・・・・・・。あなたが手を汚される事はありません!あなたはこの国の誰よりも人間との和睦、共存を望んでいたお方なのです!そんな慈愛深きあなたが人間を殺すなど・・・・・・絶対になりません!心に大きな傷が残ってしまいます!その汚れ役であれば、私が引き受けますので!」

 

 

 

シオンがすっごく焦ったように、僕を引き止めてくる。そりゃ・・・・・・僕だって本当は人を殺したくなんてないよ。不必要な殺生はいらぬ争いを生むしかない最低な行為なんだから・・・・・・。でも・・・・・・もう、決めた事なんだ!

 

 

 

「シオン。その気持ちは嬉しいけど、それはダメ。キミに人間を殺させることは上に立つ者として認可することは出来ないよ。キミが掟を破ることは許さない・・・・・・当然、他のみんなもね?」

 

 

 

「「「「「「っ・・・・・・」」」」」」

 

 

 

みんながピクリと反応を見せた。どうやら、みんなもシオンと同じ気持ちだったようだ。だが、残念ながらその気持ちを汲んでやることは出来ない。大切な配下に、”人殺し”なんて言う残酷なことをさせたくなんて無いし、みんなが血濡れるところを見たくなんて無かったからだ・・・・・・。

 

 

 

「大丈夫だよ。みんなを守る為だって思えば、そんな心の傷の一つや二つ・・・・・・安いものさ。それに、僕はリムルに国を任された身だ。だから、その役目は僕が担わないと行けないんだ。みんな思うところがあるようだけど、どうかわかって欲しい。・・・・・・頼むよ」

 

 

 

「・・・・・・主様がそこまで仰られるのであれば、もうお止めはしません。・・・・・・ですが、どうかご無理はなさらず・・・・・・」

 

 

 

「ごめんね。・・・・・・ねぇ、みんな?」

 

 

 

「・・・・・・何でしょうか?」

 

 

 

僕の問いかけに、シュナが代表して聞いてくる。

 

 

 

「もし・・・・・・僕が大量の人たちを殺し尽くして・・・・・・”殺人鬼”・・・・・・もしくは、人間から”魔王”と恐れられる存在となったとしても、みんなはこれからもずっと・・・・・・僕のことを・・・・・・大好きでいてくれる?」

 

 

 

それは、僕がこの場の人間を排除すると決めた時から、ずっとみんなに聞きたかったことだ。そんな、殺人魔となって落ちぶれた僕なんかに・・・・・・みんなから慕われる資格が・・・・・・好かれる資格なんてあるのか、すごく不安だったからだ。

 

 

・・・・・・だけど、それはどうやら杞憂だったようだ。

 

 

 

「当然です!エリス様がどの様な存在となろうと、私たちはあなたを慕い続けます!」

 

 

 

「わたくしたちはリムル様とエリス様に一生涯の忠誠を誓った身です。あなた様がどうなろうと・・・・・・わたくしたちはずっとあなた様の配下ですよ?」

 

 

 

「ふぉっ、ふぉっ、エリス様、それは愚問ですな?我らが主人であるあなたをワシらが見限るはず無いですぞ?」

 

 

 

「魔王であろうと、何であろうと・・・・・・主様が変わることはありません。それなら、ワタシは今まで通り、あなた様の側で支えていきたいと思っています!」

 

 

 

「オレもカレンも、エリス様に生涯、近衛兵として仕えると決めてるので、どんな存在になろうと、オレたちはついていきますよ!」

 

 

 

「私たちのあなたに対する忠義は、それしきのことで崩れることはありませんので、安心してください!」

 

 

 

「みんな・・・・・・」

 

 

 

あぁ・・・・・・僕は本当に、良い配下に・・・・・・心優しい配下に恵まれたんだな・・・・・・。感極まって泣きそう(涙出ないけど)。・・・・・・よしっ!

 

 

 

「ありがと。・・・・・・じゃあ、やろうか。人間の皆さん・・・・・・僕たちを怒らせたこと・・・・・・後悔させてあげるからね?」

 

 

 

みんなから元気をもらった僕は・・・・・・まずは人質の二人を救出するべく・・・・・・行動を開始するのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「(指導者(ミチビクモノ)さん、『身体強化』を出来るだけ最大限発動できる様に魔素の調整を頼む。・・・・・・向こうが”反応できないほど”の移動速度になるぐらいに・・・・・・)」

 

 

 

彼らを排除することを決めた僕だったが、まずは人質の二人を救出しないことには話にならない為、まずは『身体強化』で限界近くまで身体能力を向上させ、一瞬で彼らを救出すると言う作戦を立てていた。

 

 

 

《告。スキル『激怒者(イカルモノ)』の発動条件が満たされた為、『身体強化』と共に並行発動させることで、『身体強化』の効力に『激怒者(イカルモノ)』の効力を上乗せさせることが可能です。上乗せをする事で主人(マスター)の身体能力は数倍以上に上昇します。実行いたしますか?》

 

 

 

「(それで、彼らを救うことは出来る?)」

 

 

 

《解。推測の結果でしかありませんが、可能性は高いかと。》

 

 

 

「(じゃあ、それで頼むよ)」

 

 

 

《了。実行に移します。》

 

 

 

激怒者(イカルモノ)』は確か、怒りのパワーを自分の力や魔素へと変換出来るユニークスキルだったはず。・・・・・・そうか、これが発動したってことは、僕は今多分・・・・・・相当怒ってるんだろう。普段はあんまり怒るなんて事なかったし、怒りたくもなかったから『この先このスキルは必要になる時なんて来るの?』なんて思ってた時期があったけど・・・・・・まさか、こうして発動される時が・・・・・・必要になる時が来るなんて思わなかったよ。まぁ、今の状況なら嬉しいんだけどね?

 

 

 

それからすぐに、二つのスキルの効力が僕の体に浸透し始めた。さっきまでとは比べ物にならないほどに体が軽く、力もみなぎっていた。思ってた以上にその効力が素晴らしかったこともあって、僕は少し驚いてしまう。

 

 

 

・・・・・・いけるっ。何の根拠も無かったけど、何故かそう言えたのは・・・・・・このスキルの効力を体感した僕の自信から来るものだろう。・・・・・・そして。

 

 

 

「準備は整った。・・・・・・必ず助けるからね?二人ともっ!」

 

 

 

準備が整った僕は、すぐさま彼らを救出するべく、地を蹴り、騎士団の人たちとの距離を一気に詰めた。そのスピードは指導者(ミチビクモノ)さんの言った通り、彼らには到底目で追える物では無かったようで、彼らが()()()()()僕に戸惑いを見せている間に、僕は捕らえられていた二人を両脇に抱えて救出をし、みんなの元へと一目散に戻った。

 

 

 

「二人とも、大丈夫?怪我は無いかな?」

 

 

 

「だ、大丈夫です。す、すみません、エリス様・・・・・・俺たちのせいで・・・・・・」

 

 

 

「気にしなくて良いよ。大事な住民を守るのは上に立つ僕としては当たり前のことなんだから。・・・・・・それにしても、何で人質に?」

 

 

 

「少しの間、二人で森に散歩に行っていたのです。その時に、偶然あの人間たちに出会して・・・・・・申し訳ありません・・・・・・」

 

 

 

「良いって。・・・・・・セキガ、カレン、二人を頼む」

 

 

 

ゼネットさんと、リーゼさんを近衛兵の二人に預けた僕は・・・・・・二人に酷いことをしてくれた目の前の人間達に鋭い視線を向けた。

 

 

 

「なっ!?い、いつの間に・・・・・・。き、貴様・・・・・・折角の人質を・・・・・・」

 

 

 

「あなた達の無駄話に付き合ってる暇はありません。・・・・・・さて、お次は・・・・・・」

 

 

 

二人を救出したのであれば、もう僕たちが行動を制限されることも無かったため、もう自由にさせてもらう事にした。・・・・・・僕は手元から魔力で凝縮された僕の水(直径およそ50cm程)を取り出すと、それを天高く放り投げた。

 

 

 

「弾けろっ!『散水』!!」

 

 

 

右手をギュッと握ると同時に、それと連動して放り投げた水の塊が盛大に弾けた。弾けた水はまるで、雨のように水の雫をこの魔国連邦(テンペスト)内に降らせ、町を焼き尽くす炎を、徐々に鎮火していった・・・・・・。この分だと、あと数分もすれば全部の火を消せる事だろう・・・・・・(それにしても、住民のみんなを避難させておいて良かったよ・・・・・・ほんとに。もし、そうして無かったら、少なからず、この炎による犠牲が出ていただろうからね・・・・・・)。

 

 

 

これで、町が壊され、燃やされることも無くなった。・・・・・・後は、僕が彼らを排除すれば、それで終わりだ・・・・・・。

 

 

 

「ほ、炎まで・・・・・・き、貴様・・・・・・は一体?そもそも何故貴様はこの四方印封魔結界(プリズンフィールド)が張られてる中で弱体化してないのだっ!魔物であるならば、少なくとも何かしらの影響は受けると言うのに!」

 

 

 

四方印封魔結界(プリズンフィールド)・・・・・・それが、みんなを苦しめてる結界の正体ですね?・・・・・・確かに、みんなをここまで苦しめるこの結界は厄介です。ですが、僕にはそこまで効果は無かったようですね?どうやら弱体化した僕たちを狙って襲撃に来たようですけど、考えが甘いですよ?」

 

 

 

「そうです!この町にエリス様がいる限り、あなた方人間がこの魔国連邦(テンペスト)を脅かす事は不可能と思うがいい!」

 

 

 

シオンが随分と自信満々に言ってるけど・・・・・・そう言われると、めちゃくちゃ照れるからやめて貰いたい・・・・・・嬉しいけど。

 

 

 

「くっ・・・・・・よもや、此奴がここまでとは・・・・・・おいっ!」

 

 

 

僕が剣を抜きつつ、彼らに歩み寄る中、彼らのリーダーと思わしき人物が後方の数人に何やら伝言を告げているようだった。・・・・・・何かと思ったけど、別に問題無いだろうと思った僕は、特に気に留めずに歩みを進めた。

 

 

 

「さて・・・・・・随分とひどいことをしてくれましたね、あなた方は・・・・・・。この町・・・・・・国はあなた方人間と共存をするべく色々と試行錯誤を繰り返して、ようやく形になって来たところなんですよ?それをあなた方は・・・・・・。もしかしたら、あなた方とだって、いつかはきっとわかりあって、共に楽しく共存することができると信じていたのに・・・・・・残念です」

 

 

 

彼らの近くまで来た僕は、歩を止めると・・・・・・剣先を静かに向けた。

 

 

 

「もう謝っても許しません。あなた方は僕の逆鱗に触れた・・・・・・。今、この場を持って、僕たちに仇なす敵であるあなた方を、排除します!!」

 

 

 

・・・・・・そして、ここから僕の・・・・・・最初で最後の・・・・・・人間の”大虐殺劇”が始まるのだった。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「ひっ・・・・・・ひぃ・・・・・・た、助け・・・・・・ど、どうか、話を・・・・・・」

 

 

 

僕と彼らの戦闘が始まって数十分・・・・・・僕の眼下に広がるのは、無数の人間の屍。そのどれもが首を斬られてたり、胸を貫通されるなどされて・・・・・・何とも無残だった。そのどれもを・・・・・・この手で・・・・・・僕のこの手でやったんだ・・・・・・。前世も含めて一度もやった事がない人殺しを・・・・・・。最初の一人二人を殺した時は、ひどい罪悪感を覚え、無性に怖くなった・・・・・・。もう、以前のような自分に戻れなくなるのではないか・・・・・・と言う恐怖で。

 

 

だが、それもそこまでだった。それからはもう考える事をやめ、ただひたすらに機械のように無感情で彼らを排除していった・・・・・・。彼らも必死に抵抗してきたけど、二つのスキル(『激怒者(イカルモノ)』と『身体強化』)の恩恵を受けている僕にとっては、そんなのただの悪あがきに過ぎなかった・・・・・・。そして、それを繰り返すこと数十分・・・・・・残ってるのはリーダーを思わしき、男だけだった・・・・・・。彼にはもう、最初の時のような威厳高さは無く、まるで子供のように泣きべそをかきながら僕に助けを乞うていた。

 

 

「僕たちもそうやって、最初はあなた方に説得を試みました。ですが、あなた方はそれを無視して、僕たちが魔物であると言うだけで、害悪と定め・・・・・・僕たちの国を壊そうとしたんですよ?・・・・・・それを今更になって、話だなんて・・・・・・聞くわけないでしょう?どうです?僕たちと同じ状況に陥った気持ちは?」

 

 

 

「お、おのれ・・・・・・だが、貴様らもこれで終わりだ・・・・・・。今、我らの援軍をここに向かわせるよう要請したところだ。その数はおよそ”一万”!貴様らなどひとたまりも無く・・・・・・」

 

 

 

「そうですか。それなら、その援軍も始末しますのでご心配なく。・・・・・・そろそろさよならです。口も聞きたくないので・・・・・・では、さようなら・・・・・・」

 

 

 

彼の言うことに耳を傾ける気も無かった僕は、そのまま彼の頸を刈り取った・・・・・・。もう、人間の命を奪っても・・・・・・僕の心は何も揺らぐ事はなかった・・・・・・。ははっ・・・・・・なんか、悲しくなってくるね。でも・・・・・・みんなを守れた代償だと思えば、全然受け入れられる・・・・・・。

 

 

 

「そ、そんな馬鹿な・・・・・・騎士団達が全滅なんて・・・・・・」

 

 

 

今まで蚊帳の外だったあの三人も、これには相当驚いていたようで、腰を抜かしていた。・・・・・・そういえば、彼らの処遇を決めてなかったね。まぁ、別に彼らはただの協力者のようだし、ちょっとした騒動を起こしただけだ。彼らに関しては国外追放だけにしておこう。

 

 

 

「エリス様・・・・・・だ、大丈夫ですか?」

 

 

 

終わったことを見計らったように、みんなが僕の元へ駆け寄ってくる。自分でした事とはいえ、みんなにはこんな残酷な光景を見せたくなかったな・・・・・・。ほら・・・・・・みんな随分とひどい顔してるし・・・・・・。

 

 

 

「うん。ごめんね?・・・・・・こんなひどい光景を見せちゃって・・・・・・」

 

 

 

「いえ・・・・・・申し訳ありません。エリス様・・・・・・わたくしたちの力不足故に・・・・・・エリス様のお心に多大なる傷を負わせてしまって・・・・・・」

 

 

 

「ワタシ達に・・・・・・もっと力があれば・・・・・・申し訳ございません、主様・・・・・・」

 

 

 

「気にしなくて良いって。僕がそう決めてやった事なんだから、後悔はないよ。・・・・・・だから、泣かないで?」

 

 

 

目を涙で濡らしながら、謝ってくるシュナとヒョウガの頭を、優しく撫でてあげる僕。キミ達がそう思ってくれるだけでも、僕にとってはすっごく嬉しくて支えになるから、そこまで気にしなくて良いと思ってる。・・・・・・泣かれるとは思ってなかったけど。さて、とりあえず町への脅威は去った・・・・・・いや、そういえばまだ”一つ”残ってたか。確か、彼らの援軍として一万の人間達が攻めてくるんだっけ?・・・・・・今度は、さっきよりも100倍多い人間達を相手にしないといけないのか・・・・・・。だが、まだ彼らを説得できないと決まったわけじゃない。彼らを上手い事説得できればもしかしたら・・・・・・って思いたいけど、正直言って説得できる可能性は低いだろう。だって・・・・・・。

 

 

 

「(この始末した人たちの援軍として来るわけなんだもん。援軍をよこせと要請した人たちを始末した張本人である僕の言う事など、聞く耳持ってくれるはずも無い・・・・・・。また、数多くの人たちを・・・・・・やらなければいけないのか?)」

 

 

 

そう言うわけだったから、あまりそれには期待してなかった。となると、また僕は・・・・・・この手を汚さなくてはいけなくなってしまう。その事実に、僕は途端に悲しくなってしまう。僕はもう・・・・・・これ以上人なんて殺したくない・・・・・・とは言っても、それをやらなくては間違いなく魔国連邦(テンペスト)はその一万の兵達によって潰されてしまう。・・・・・・僕の私情と、魔国連邦(テンペスト)の未来・・・・・・どちらを優先するかなんて天秤にかけるまでも無かった・・・・・・。僕はリムルにこの国を任されたんだ。・・・・・・絶対にこの国を守ってみせる!

 

 

・・・・・・やろう。再び決意を固めた僕は、改めてみんなに向き合った。

 

 

 

「みんな、聞いてくれ。さっき始末した人たちに話を聞いたところ、どうやら援軍を呼ばれたらしい。数はおよそ一万」

 

 

 

「「「「「「一万・・・・・・」」」」」」

 

 

 

援軍のその数を知ったみんなは、当然のように顔を強張らせる。

 

 

 

「このままでは僕らはその一万の兵達に殺され、魔国連邦(テンペスト)は滅亡する。そうなる前に、僕は今から、可能性は薄いけど彼らをどうにか説得してこようと思う。説得に応じなかった時は・・・・・・僕が処理するよ」

 

 

 

「説得・・・・・・出来るのでしょうか?彼らはおそらく、オレ達の敵としてここまで来るわけなんですよね?そんな相手に説得なんて・・・・・・」

 

 

 

「ほぼ無理である事は間違いないじゃろうな・・・・・・」

 

 

 

「わかってる。多分、ほぼ無理だと思う。だけど、最後まで僕は諦めたくないんだ。仮にも相手は僕たちが共存を望んでいる人間だ。もう、これ以上の人たちを殺したくはない。でも、それでも僕たちの国に攻めて来るって言うなら・・・・・・僕はもう、容赦をする気は無い・・・・・・はは、矛盾もいい所だよね・・・・・・」

 

 

 

人間を殺したく無いけど、国を守るためだったら殺す・・・・・・。そんな自分勝手で矛盾してることを言ってるのは重々承知してるつもりだ。・・・・・・ほんと、自分でも何言ってるのか分からなくなってきたよ・・・・・・。

 

 

 

「エリス様にそのように考えさせるように仕向けた人間達が悪いのです。エリス様が気に病む必要はありません。・・・・・・エリス様、説得に行くと言うのであれば、二つほど約束をしてください」

 

 

 

「何かな?」

 

 

 

シュナがどこか真剣身を帯びた顔つきで僕にそう言う。

 

 

 

「一つ、お一人で行く事はどうかお控えください。エリス様の実力を疑っている訳ではありませんが、流石に一万の軍勢と相対するのは心配ですので・・・・・・。せめて一人は、誰かを連れていってください。それともう一つ・・・・・・」

 

 

 

ふぅ・・・・・・と一息ついたシュナは、少し優しい笑みを浮かべながら僕に囁いた。

 

 

 

「無事に戻ってきてください。その間、魔国連邦(テンペスト)はわたくしたちがなんとかしておきますので・・・・・・」

 

 

 

シュナのその一言に、他のみんなも同時に頷く。・・・・・・全く、本当に僕には勿体無いくらいの配下達だよ、キミ達は・・・・・・。心なしか、元気が出た僕は、みんなに指示を出す。

 

 

 

「もちろんさ。絶対に戻ってくるよ。・・・・・・じゃあ、ヒョウガ。一緒について来てくれるかな?キミの足が必要なんだ。いいかな?」

 

 

 

「もちろんです!主様!!」

 

 

 

「そしてみんなは、そこの三人を捕縛した後、ベニマルやリグルドと合流して町の住民のみんなを避難させてくれ。多分、まだ全員を避難させてる訳じゃなさそうだからね」

 

 

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

 

 

「よし、じゃあみんな。あとは頼む!行くよ、ヒョウガ!」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

みんなに指示を出した僕は、ヒョウガに跨るとすぐに町の外へと向かって移動を開始した。一応、『応援者(コブスルモノ)』を常時発動してるため、結界の中でもそれなりにみんなも動けるはずだから、問題無いはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、この時の僕は一つの()()があったことを知らなかった・・・・・・。

 

 

 

まさか、僕が徹底的に戦意を削いだと思っていたあの三人組が・・・・・・実は、完璧には戦意を削げて居なかったとは・・・・・・。




『散水』は自分の水を扱った技の為、そこまで結界の影響を受けないの良いですね!それが無かったら、きっと魔国連邦(テンペスト)はきっと焼け野原にされていたでしょうからね。


さて、100人の騎士団を始末したエリスは、次に迫り来る一万のファルムス国の兵達を説得しに向かいましたが、結果はどうなることやら(ちなみに、この一万の兵達は、原作の二万の兵を分けたわけではなく、あくまでもそれとは別の別働隊としてテンペストに攻めてきました。ですので、今作の場合、実質ファルムス王国は、総勢”三万”の兵達を総動員して攻めて来てると言う事になります)。


そして、最後のエリスの誤算がもたらす、他の配下達への影響とは・・・・・・?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

死の雨

エリスの説得は・・・・・・果たして成功するのか?


「いた・・・・・・あれだ」

 

 

 

「想像以上に、多いですね・・・・・・」

 

 

 

ファルムス国”一万”の兵達を説得するべく、町を出て数分・・・・・・結界の外に出たことで『魔力感知』がある程度使用可能になった事もあって、意外とすんなりと見つける事が出来たその兵達は、森の中の一つの開けた更地に点在していた。この土地は、最近多くなっていた住民達を住まわせる新たなる町を作るために作った場所だ。森の中にいたのでは、最悪戦うことになった場合に、視界が悪くなって戦い辛くなってしまい、こっちにとって不利になる可能性があったため、ありがたかった。

 

 

兵達を確認出来た僕は、ヒョウガから降り、兵達の方へ視線を向けた。

 

 

 

「ヒョウガ、キミは影の中に入っていてくれ。もしもの時は・・・・・・援護を頼むよ」

 

 

 

「お任せください。・・・・・・主様、どうかお気をつけて・・・・・・」

 

 

 

そう言い残したヒョウガは、颯爽と僕の影へと潜んだ。・・・・・・これで、ヒョウガが”あの技”の餌食になる事は無くなった。・・・・・・とりあえずは安心だ。そして、僕は気を引き締めつつ・・・・・・歩みを進めた。・・・・・・頼む、上手くいってくれ・・・・・・。

 

 

 

「っ!なんだ貴様はっ!我らに何か用か!?用がなくば道を開けよっ!我らはこれより、この先の魔国連邦(テンペスト)とやらに向かわねばならんのだっ!」

 

 

 

「・・・・・・用ならありますよ。魔国連邦(テンペスト)の副国主として・・・・・・聞きたいことがあります。あなた方はこの先の魔国連邦(テンペスト)に何をしに行くのですか?よければ教えて下さい」

 

 

 

彼らの、この僕の質問の返答次第では、ここが”戦場”と化すか否か決まる。・・・・・・出来れば後者になって欲しいけど・・・・・・。

 

 

 

「ほう?貴様があの魔物の国の副国主か!知れたこと!我らに刃向かい、楯突くその魔物の国を”滅ぼし”に行くのだ!それ以外に何の理由があると言う!」

 

 

 

「・・・・・・一応聞きますけど、どうにかそれを取りやめてもらうことは出来ませんか?僕はあなた方と戦いたくはありません。それに・・・・・・あなた達だって、命は惜しいでしょう?」

 

 

 

やはり・・・・・・というか、わかっていた事だけど、彼らに止まる気はなさそうだった。・・・・・・最後に一度だけ、説得を試みることにした訳だけど、多分これだって・・・・・・。

 

 

 

「ふんっ!貴様のようなひ弱なガキに何が出来るというのだっ!さっさと退くがいい!我らは急いでいるのだっ!これ以上邪魔立てするというのであれば・・・・・・このオレ、フォルゲンが貴様を始末してくれよう!」

 

 

 

「(やっぱり・・・・・・無理だったか・・・・・・。もういいや、これ以上言ったところでどうせ彼らは止まってくれないだろう。覚悟を・・・・・・決めよう。指導者(ミチビクモノ)さん、”あの技”で彼らを全滅させるのに、必要な魔素の調整をお願い)」

 

 

 

最早、説得は不可能だった・・・・・・。これ以上の無意味な説得は不用意に時間を費やすだけにしかならないと察した僕は・・・・・・再び、”自らの手を汚すこと”を決意した。

 

 

 

 

《告。推測の結果、主人(マスター)の現在の保有魔素量の”4分の3”を必要とすることが判明しました。それでも、実行に移しますか?》

 

 

 

「(4分の3なら、撃っても死ぬ事はないだろうし、問題なさそうだ。みんなとの約束もあるしね。この技で死ぬわけにはいかない。・・・・・・構わないよ。やってくれ、指導者(ミチビクモノ)さん)」

 

 

 

《了。必要分の魔素の構築を開始します・・・・・・・・・・・・成功しました。》

 

 

 

指導者(ミチビクモノ)さんの完了したとの声が、僕の脳内にこだまする・・・・・・。後は、僕が撃つだけだ・・・・・・。()()()・・・・・・ベニマルに対して使ったあの技を・・・・・・!

 

 

 

「何かする気でいるようだが、例え貴様がここに居る兵達を多く倒そうとも、このオレを倒すことなど出来ん!なぜならオレは、視界内にいる味方が死んだ途端にその者の能力を会得することが出来るというユニークスキル『統率者(ヒキイルモノ)』が・・・・・・」

 

 

 

「そんなの関係ありませんよ?・・・・・・あなたも含めてこの場にいる者全員を・・・・・・一瞬で屠らせてもらいますので・・・・・・」

 

 

 

「うん?何か言った・・・・・・」

 

 

 

向こうが何か言ってくる前に、僕は息を深く吸い込むと・・・・・・久々に出す大声で高々と宣言した。

 

 

 

「よく聞けっ!僕の名はエリス=テンペスト!!不在の国主、リムル=テンペストに代わり、国を収めている者だ!ただの偏見のみで僕たち魔物を悪と決めつけ、魔国連邦(テンペスト)を滅ぼし・・・・・・愛する僕の”家族達”を殺そうと目論む人間達よっ!この先に進みたくば、この僕を先に殺していけっ!!」

 

 

 

「ほう?我らに喧嘩を売るとは良い度胸だ!者共、遠慮はいらん!奴に望み通り、死をくれてやれ!!」

 

 

 

 

『確認しました。個体名エリス=テンペストが、ユニークスキル『仁愛者(アイスルモノ)』を獲得・・・・・・成功しました。』

 

 

 

 

・・・・・・何か、指導者(ミチビクモノ)さんに似たような声を聞いたような気がしたけど、僕は気に留めなかった。僕にはもう、そんなことに気持ちを割く余裕なんて無かったからだ・・・・・・。

 

 

 

 

「僕たちの平穏を脅かす人間の人達よ・・・・・・終焉を告げる雨にて・・・・・・その命を散らせ・・・・・・」

 

 

 

 

 

僕は、自身の両手を高々と掲げると、そこから普段の僕の水よりも色が少し白っぽい・・・・・・”巨大な水の塊”を彼らの頭上目掛けて放った。彼らの上空高々と舞い上がったその水の塊は、不気味にゆらゆらと揺れながら彼らの頭上を飛翔する。彼らは、それがなんなのか分からずに、ただただ戸惑うか・・・・・・怪訝に思うしか無くなっていた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その水の揺れが静かに”止まった事”を確認した僕は・・・・・・今まで開いていた両手を・・・・・・ぎゅっと閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「眠れ・・・・・・『終焉の驟雨(エンド・オブ・ヴロヒー)』!」

 

 

 

 

 

僕の拳が握られると同時に、彼らの頭上にあったその水の塊が、爆発をしたかのように巨大な轟音を放ちながら弾け飛ぶ。弾け飛び、無数の水の雫へと変貌を遂げたそれは・・・・・・未だに混乱をしている彼らの下へと降り注いだ。

 

 

 

「なんだ?ただの雨・・・・・・っ!ぐわぁっ!!!」

 

 

 

「お、おい!?どうし・・・・・・っ・・・・・・」

 

 

 

「こ、これは、ただの雨なんかじゃ・・・・・・っ」

 

 

 

「まるで、矢の雨だっ・・・・・・」

 

 

 

得体の知れないこの技に、彼らは盛大に驚き、混乱し、怯えていた。そんな彼らに、容赦無く降り注ぐのは・・・・・・僕が開発した現状最強の技である・・・・・・『終焉の驟雨(エンド・オブ・ヴロヒー)』だ。

 

 

 

この技は、原理こそ『散水』に似ているものの、用途や威力などは全く違う別物と思ってもらって良い。日常生活等で活躍し、殺傷力はゼロに等しい『散水』に対し、この『終焉の驟雨(エンド・オブ・ヴロヒー)』は、戦闘で使うことに特化した技で、威力が想像を絶するほどに高く、殺傷力もかなりあるため、当然日常生活などでは使い物にならない。この技は『散水』とヒョウガのスキル技である『凍て刺す零雹(ヘルヘイル)』を参考にし、組み合わせて作り上げたものだ。『散水』で降らせる雨を『凍て刺す零雹(ヘルヘイル)』で降らせる雹と合成させ、先端を尖らせるよう作成したことで、貫通力をも増幅させ、まるで『矢が降り注いでいるのでは無いか?』と錯覚させるほどの”殺人雨”になったわけだ。

 

 

威力は勿論のことだが、攻撃範囲もかなり広く、さらに降り注ぐその雨は、”光の如き”速さを持っている為、この技の範囲内にいる限り、魔王でも無ければ、逃げる事はほぼ不可能と言っていい。目の前の騎士達もその例外では無い。現に、目の前の騎士達は、すでに過半数以上がこの雨に体を貫かれて絶命していた。未だに生き延びていた彼らに至っては、”見るも無惨な生き地獄の光景”を間近で目撃している事もあって、ほぼ半泣きの状態で逃げ回っていた。だが、そんな彼らにも『終焉の驟雨(エンド・オブ・ヴロヒー)』は無情にも降り注ぎ、命を刈り取って行く・・・・・・。

 

 

当たり前だけど、とても見ていて気持ちの良い光景では無かった。僕たちに仇なす敵だとは言え、彼らは僕達が将来、共存を目指し、友好的に接しようとしていた人間だ。それを、こうして無惨に始末し尽くしているのだから、そんな気持ちになれる筈もなかった。・・・・・・むしろ、心が痛かった。

 

 

 

「(僕達はただ、あなた方人間と一緒に楽しく交流をしたかっただけなのに・・・・・・一緒に笑い合いながら共に生活をしたかっただけなのに・・・・・・何で?)」

 

 

 

「き、貴様!一体何をし・・・・・・っ・・・・・・」

 

 

 

フォルゲン、と名乗っていた人も例に漏れずにこの雨に頭を貫かれて、絶命した。・・・・・・結局彼が何者なのか分からなかったな?どうにも、この集団を率いるリーダーのようにも見えたけど・・・・・・まぁ、いいか。

 

 

 

それから数分経つと、ようやく『終焉の驟雨(エンド・オブ・ヴロヒー)』は降り止んだ。だが、今更止んだところで意味などなかった。だって・・・・・・もう、既に”八割”近い兵達の命を”狩り取り済み”だったんだから。

 

 

 

《告。先ほど獲得したユニークスキル『仁愛者(アイスルモノ)』の解析が終了しました。能力は、主人(マスター)が”敵”と認識した者の()()()(魔物なら魔素)()()()すること。主人(マスター)が”味方”と認識した者に対しては、()()()()()()()()()ことが可能となることです。》

 

 

 

「(敵からは生命力を奪い、逆に味方には生命力を譲渡できるってわけかな?・・・・・・まだ、何千人かは残ってるようだし、丁度いい。キミ達にはみんなの餌になって貰おう。ねぇ、指導者(ミチビクモノ)さん?僕が奪った人間の生命力を、魔素に転換して、そのまま町のみんなに譲渡する事はできる?)」

 

 

みんなは『応援者(コブスルモノ)』である程度は持ち直してる筈だけど、魔素が枯渇していることに変わりは無い。この新たに獲得したスキルで、みんなの負担を少しでも減らせるって言うなら、ぜひ使いたかった。結界があるのが不安だけど。

 

 

 

《解。可能です。ユニークスキル『仁愛者(アイスルモノ)』を発動しますか?》

 

 

 

「(あ、大丈夫なのね?うん、お願い)」

 

 

 

どうやら、問題無いようだった。僕がお願いをすると、それに比例するように未だに逃げ惑う彼らが猛烈に苦しそうに、地面へと這いつくばった。

 

 

 

「がっ・・・・・・なんだ・・・・・・い、意識が・・・・・・」

 

 

 

「力がはいら・・・・・・」

 

 

 

「胸が苦しい・・・・・・どうなっているんだ・・・・・・」

 

 

 

「(お、おぉ・・・・・・す、すっごい威力だね・・・・・・)」

 

 

 

自分でも思ってた以上にこのスキルは強力だった。僕が敵だと認識した、先程の攻撃で撃ち漏らした数千人は、揃ってこのスキルの餌食となったようで、すでに虫の息に近い人も沢山いた。まぁ、生命力を吸い取られてるんだもんね・・・・・・無理ないか。

 

 

 

《告。ユニークスキル『仁愛者(アイスルモノ)』にて、この場にいる主人(マスター)が敵と認識した総勢”二千”の者の生命力を吸い取りました。吸い取った生命力を魔素へと転換・・・・・・成功しました。転換した魔素の供給を開始します・・・・・・。》

 

 

 

 

「(これでよし。後は、彼らが息絶えるのを待つだけだ。・・・・・・それにしても、かなりきつい・・・・・・。そりゃそうか・・・・・・あんだけ強力な技を使ったんだし、低位活動状態(スリープモード)にならなかっただけでも有り難いと思わないと・・・・・・)」

 

 

 

 

さっきの『終焉の驟雨(エンド・オブ・ヴロヒー)』を使った事も勿論だけど、今もみんなの為にと思って、常時発動している『応援者(コブスルモノ)』の影響もあって、僕の体はかなり疲弊しきっていた。正直もう、立つ事も厳しくなってるけど、町に戻るまでは倒れる訳にはいかなかった。・・・・・・みんなと約束したからね。『ちゃんと戻ってくる』って。・・・・・・だからせめて、町に戻るまでは持ってくれ・・・・・・僕の体。

 

 

 

そして、さらに数分後・・・・・・ようやくスキルが全ての兵達の生命力を吸い取れたようで、僕の眼前で動く人の姿は・・・・・・最早、どこにも存在していなかった。その時、僕は改めて『取り返しがつかない事をしてしまったんだな・・・・・・』と実感する。・・・・・・僕がこの手で、一万の人間を殺めてしまったという事実を・・・・・・。

 

 

 

「ヒョウガ、もう出てきていいよ?」

 

 

 

「はっ!・・・・・・主様、お怪我はありませんか?」

 

 

 

「うん・・・・・・僕は大丈夫・・・・・・ううん、大丈夫じゃないかも。体はどこも痛くなくて問題ないんだけど・・・・・・心が・・・・・・ものすごく・・・・・・痛むんだ。この手で、大量の人間の人達を殺してしまったから・・・・・・・・・・・・ヒョウガ、僕は悲しいよ・・・・・・」

 

 

 

「主様・・・・・・」

 

 

 

影の中から出てきたヒョウガに、小さく呟く。涙が出るのであれば、きっと僕は手で拭い切れない程の涙を流している事だろう。それだけ、僕は今やった行為を悔やんでいたんだ。それしか手は無かったとはいえ、多くの人間を殺めてしまったんだから・・・・・・。

 

 

 

「主様が悲しまれる事はありません。悪いのは、こちらの言い分を全く聞かずに攻め寄せてきたあの忌まわしき人間どもの方です。主様は正しい判断をなされました。・・・・・・ですから、どうかそんな悲しい顔をなさらないで下さい・・・・・・ワタシまで、悲しくなってしまいますので・・・・・・」

 

 

 

「ヒョウガ・・・・・・ありがと。少し元気出たよ。じゃあ、みんなの様子も気になるから帰ろ・・・・・・っ!」

 

 

 

「っ?主様?どうかなされましたか?」

 

 

 

「い、いや・・・・・・なんか急に眠気が・・・・・・」

 

 

 

町に戻ろうと、ヒョウガに跨がろうとした時、突如強烈な眠気が僕を襲い、咄嗟に膝をついた僕。この眠気は、低位活動状態(スリープモード)に入る時の比じゃない・・・・・・な、なんだ、これは?

 

 

 

『告。進化の条件(タネのハツガ)に必要となる人間の魂(ヨウブン)を確認しました。これより数分後、『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』が開始されます』

 

 

 

「『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』・・・・・・って何?」

 

 

 

聞き慣れない単語が聞こえてきて、混乱する僕は、なんとかこの眠気を振り払おうと、必死に抵抗をしていた。だが、眠気は一向に強くなる一方だった・・・・・・。

 

 

 

《解。『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』とは、魔王種の称号を獲得した魔物が、一万の人間の魂を礎として真なる魔王・・・・・・覚醒魔王へと進化する現象です。》

 

 

 

「(くっ・・・・・・それがこの眠気の正体か。指導者(ミチビクモノ)さん、これを止める方法はないの?)」

 

 

 

《否。『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』の途中停止は不可能です。》

 

 

 

「(魔王になるって言うのは別に構わない。・・・・・・もう、そう呼ばれても仕方がない程のことを僕はしたんだから。この期に及んでその罪から逃げようとは思っていない。だけど・・・・・・今だけはどうか待って欲しい!せめて、町にだけは帰してくれ!みんなが待っているんだっ!)」

 

 

 

魔王になろうと一向に構わない。だけど、それはせめて僕が町へと帰還してからにして欲しかった。このままでは『無事に帰る』というみんなとの約束を破る事態になりかねない。そうならない為にも・・・・・・その”魔王への進化”が実行される前に、帰らないと!

 

 

 

「っ・・・・・・ヒョウガ!今すぐ僕を乗せて魔国連邦(テンペスト)へと帰還してくれ!早くっ!」

 

 

 

「っ!承知しました!しっかりとお掴まりください!」

 

 

 

すぐさまヒョウガに跨った僕は、ヒョウガにそう指示を出して魔国連邦(テンペスト)へ帰還することを急いだ。確か、数分後にその進化とやらは始まるって言ってたから、それまでに戻れば問題ない。ヒョウガの足ならそんなに時間も掛からないことだし、普通に大丈夫だと思う。・・・・・・心のどこかで、そう安心しながら、僕はヒョウガと共に魔国連邦(テンペスト)へと帰還していった。・・・・・・酷くなり続ける眠気と戦いながら。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・眠気がかなり強くなって、意識が朦朧とし始めて来た頃、ようやく僕達は魔国連邦(テンペスト)へと帰還を果たした。後は、みんなに無事を知らせるのと、報告をするだけだ。もうすぐ約束を達成出来るという事もあって、僕はふっ・・・・・・と笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・だが、町に入って数瞬後・・・・・・僕の耳に、”聞き慣れた声”の()()が耳に轟いた為、その笑みがすっと消えた。

 

 

 

 

「主様!今の声は・・・・・・」

 

 

 

「うん、シュナの悲鳴だ・・・・・・。ヒョウガ、声のした方へ向かってくれ・・・・・・」

 

 

 

聞こえて来た声はシュナの物だった。あの声量からするに、何か”尋常では無い何か”が起こったことは間違い無さそうだ・・・・・・。すぐに向かおうと、ヒョウガをその場に急行させた僕は・・・・・・そこで・・・・・・”夢にも思えないような衝撃的な光景”を目の当たりに・・・・・・してしまった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、シオ・・・・・・ン・・・・・・?」

 

 

 

 

 

泣き喚くシュナに抱き抱えられながら・・・・・・()()()()()()()()倒れているシオンの姿を・・・・・・。




やはり・・・・・・運命は変えられないのでしょうか?こうなる未来しかないのでしょうか?






さて、今回エリスが一万の人間の魂を得たことで『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』が開始されそうになりましたが、『エリスはリムルに名付けをされたから、魂の系譜上では最上位にいるわけでは無いため、『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』は為されない!』と思う人がいるかもしれませんが、それは間違いです。

なぜなら、エリスは正確にはリムルに名付けをされた訳ではないからです。確かに、エリスはこの名をリムルから貰いましたが、リムルは別にエリスに対して”名を授けた訳”ではなく、『この名前を名乗ったらどうだ?』と提案しただけに過ぎず、あくまでもこの名を名乗ることを決めたのはエリス自身です。

リムルがヴェルドラに名付けをした時もそうですが、他人から提案された名を自ら名乗る事を決めた場合、もしくは名付けをする相手が自分よりも上位、同格だった場合は名付けが無効となります。現に、エリスがこの名を名乗ると決めてからも、”進化”をすると言った変化等はありませんでした。とは言っても、ヴェルドラには既に名があり、ただテンペストの名を共有したに過ぎませんから、それと同じなのか?と言われて仕舞えばそれまでですけど、少なくともその可能性は十分にあります。
もしくは、エリスもリムルと同じ異世界人からなのか、テンペストの名を貰ったからかわかりませんが、リムルと同格と言う扱いを受けているので、名付けが無効化されたと言う可能性もあります。

リムルに名付けをされてないと言う事は、必然的にリムルを主軸とする魂の系譜にエリスは含まれてない事になりますので、当然ながら、リムルからの恩恵も受け取ることも出来ないですし、魂の繋がりもありません。ですが、その代わりに新たに自分を主軸とした魂の系譜を展開出来るようになったため、条件を満たしてさえいれば、『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』が行われる様になりました。


一応、テンペストの名は共有していますが、エリスに至ってはヴェルドラの許可無く、ただそう名乗ってるだけですので、リムルとヴェルドラの様な繋がりは無いかもしれません(ほんの少しは繋がりはあるかも知れませんけど)。今後の展開次第・・・・・・と言うか、ヴェルドラがエリスが自分と同じ名を名乗ることを認めれば、その関係性も変わってくるかも知れませんが、今のところは特にこれといった繋がりはありません。


設定がかなりごちゃごちゃでわかりにくい部分もかなりあると思うので、何かありましたら是非コメントで教えてもらえると嬉しいです。

これは間違ってるんじゃないか?と思ったことでも、構いません(場合によっては修正します!)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

反撃の襲撃者達

エリスが一万の兵達を相手にしていた頃、町の配下達は・・・・・・?


–––––––––数十分前–––––––––

 

 

 

視点 シュナ

 

 

 

「エリス様・・・・・・どうかお気をつけて・・・・・・」

 

 

 

エリス様が、ここに向かってくるとされている一万の人間の軍勢の元へ説得をしに向かわれ、残されたわたくし達は、先程エリス様から命じられた任を遂行するべく行動を開始していました。本当であれば、一緒について行きたい気持ちで一杯でしたが、自分が行ったところで何もすることなど出来ずに終わる事がオチでしょうし、何より自分がいることでエリス様の足を引っ張りたくなど無かったため、わたくし・・・・・・いえ、この場にいるシオン、ハクロウ、セキガさん、カレン・・・・・・その全員は揃って、その気持ちを押し殺しながらこの任についていた。・・・・・・また、自分達のせいでエリス様に無理をさせてしまっていると言う事実に顔を歪ませながら・・・・・・。

 

 

先程のエリス様は、気丈に振る舞ってはいましたが、明らかに無理をしているようにしか見えなかった。当然と言えば当然の事です・・・・・・あの優しきエリス様が、これから多くの人間達を殲滅しに行くというのですから・・・・・・。わたくし達に心配をかけまいと思って、明るく接してくれたようですが、わたくし達の顔はいまだに暗いままでした・・・・・・。それと同時に、エリス様にお手を汚させる行為に及ばせてしまった自分達の力の無さに、不甲斐なさも感じるようになった。・・・・・・わたくし達では、一万の人間達の相手などできるはずも無い・・・・・・行ったところで、すぐに潰されて終わりです。彼らの相手が出来るのは、この場ではエリス様ただ一人・・・・・・その事実にわたくしは更に顔を歪ませた・・・・・・。

 

 

 

「おーいっ!みんな大丈夫っすかーっ!住民のみんなは避難完了したんで助太刀に来たっすよー!」」

 

 

 

「・・・・・・?ゴブタ?それと、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)達・・・・・・あぁ、よかった、来てくれたのですね・・・・・・」

 

 

 

そんな中、ゴブタ達狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)と合流を果たした。彼らには、この騒動が起きる前に、隠れて住民の人たちの護衛と誘導をお願いして居ましたけど、どうやらそれも無事に終わったようですね。・・・・・・彼らが居てくれるだけでも、わたくし達は少し心強い気持ちになった。今は全員が弱っている状態である為、少しでも人員を多く確保したかったこともありましたからね。

 

 

 

狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の皆さん。この二人をお兄様の元へと送ってください」

 

 

 

「分かりました。隊長はどうします?」

 

 

 

「オイラはここに残っていくっすよ。手伝いが必要そうなんで!」

 

 

 

「了解です!」

 

 

 

ゼネットさんとリーゼさんを狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)達にお兄様の元へと送らせた。これで、あの二人の安全も確保できた為、少し肩の力を抜いた。後はわたくし達もこの者達を捕縛して、すぐに後を・・・・・・。

 

 

 

 

「シュナ様!まずは、ベニマル達と合流しましょう!この者共を捕縛して、私たちも早く住民達の元へ!」

 

 

 

「ええ。では・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・へへっ、ようやく行ったか・・・・・・あの化け物が・・・・・・」

 

 

 

「うん、そのようだね」

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

わたくし達は、お兄様たちと合流を急ぎたかった為、早く目の前の彼ら三人を捕縛しようとして居たのですが、その刹那・・・・・・彼らは、先程の意気消沈した態度からは一変して、眼光をギラリときらつかせた猛獣のような雰囲気へと変貌を遂げて居ました・・・・・・。・・・・・・何故?彼らは先ほど確かに・・・・・・。

 

 

 

「戦意を喪失したって思ってたでしょ?・・・・・・確かに、僕たちはさっきまではあの化け物(エリス)に対してはそうなっていたさ。あんなのいくら僕達でも絶対に倒せないしね?・・・・・・でも、それはあくまでもあいつに対してだけだ。あいつの配下であるキミ達にまで、僕達が怖気付く訳ないでしょ?」

 

 

「・・・・・・随分と、舐めた口を聞いてくれるのう?若造・・・・・・」

 

 

 

彼のその言葉に、怒りの形相のハクロウが反応した。ですが、わたくしはどこかそれに納得をしてしまって居ました。そうです・・・・・・彼らが、わたくし達に恐れを為すはずは無いのです。・・・・・・だって、彼らが先ほどまで恐れを抱いて、震え上がって居たのは・・・・・・彼らを完膚なきまでに抑え込み、この魔国連邦(テンペスト)に襲いかかった騒動をたった一人で沈めて見せたエリス様なのですから・・・・・・。何もやって居ない、わたくし達を恐れる理由など・・・・・・無いに等しいのです。

 

 

 

「ね、ねえ!早く、ここから帰ろうよ!またさっきのやつが来たらもう・・・・・・」

 

 

 

「心配すんなよ、キララ。さっき出てったばっかなんだし、当分戻って来ねーよ。・・・・・・つーわけで、俺らはさっさとトンズラこかせて貰うわ。早く戻んねーと、あのジジイがうるさいんでね?」

 

 

 

「待てっ!逃すと思っているのか!お前らはここで捕らえさせてもらう!」

 

 

 

彼らが逃げようとするのを阻むかのように、彼らの前にセキガさんが立ちはだかった。・・・・・・セキガさんの言う通りで、今この場で彼らを逃して仕舞えば、彼らはきっとまた、体制を整えてこの国へ攻め寄せてくる。・・・・・・それだけは何としても防がなくてはなりませんっ!

 

 

 

「へぇ?雑魚の分際で俺らを阻もうってか?・・・・・・上等だ!なら、このタニグチ・ショウゴがテメェをぶっ殺して、強引に道を開けさせてやる!!」

 

 

 

「・・・・・・やれる物ならやってみろ!行くぞっ!!」

 

 

 

彼らの逃亡を防ぐべく、セキガさんは最初に向かってきたタニグチ・ショウゴと名乗った男性を押さえ込もうと構えた。・・・・・・ですが、いくらセキガさんと言えど、彼を押さえ込むのは容易ではないでしょうし、それにこの結界内では思うように動く事など出来ないはず・・・・・・。例え、エリス様のスキルのおかげで、ある程度は結界の効力を緩和されて居たとしてもです・・・・・・。

 

 

 

「シオン、セキガさんを援護しなさい!」

 

 

 

「承知しました!」

 

 

 

そう考えたわたくしは、すぐにそばにいたシオンに援護に回るよう指示を出した。今の弱ったセキガさんでは、(ショウゴ)を止めることは不可能に近いですし、シオンと二人がかりであればもしやと思って、援護に回したわけなのですが・・・・・・それで、(ショウゴ)を止められるかは分かりません。さっき、エリス様と戦われて居た時は、ほとんど何も出来ずに戦闘不能にされて居ましたが、あれはエリス様のお力が凄まじく、自力での差がありすぎたが為に、そうなったに過ぎない。

 

 

実際、本来の彼らは、この結界が無いならともかく、今の状態のわたくし達では到底押さえ込む事など出来ない程の実力を持っている・・・・・・。勘でしかありませんが、なんと無くわたくしはそう思いました・・・・・・。

 

 

「ははっ!雑魚だと思ってたが、思ってたよりやるな!なかなか楽しめそうだぜ!・・・・・・それと、姉ちゃん(シオン)に至ってはさっきの続きだ!さっきは加減してやったが、今度は手加減無しで全力で行ってやるぜっ!!」

 

 

 

「「っ・・・・・・」」

 

 

 

二人がかりでも、やっと戦えてる状況な二人に対し、(ショウゴ)に至ってはまだまだ余裕を残して居そうな雰囲気だった。それを察してか、二人はどこか顔を歪ませながら、対峙をしていた。

 

 

 

「くっ・・・・・・このままでは二人が・・・・・・」

 

 

 

「他人の心配するのもいいけどさ?キミの身のことも守った方がいいんじゃ無い?・・・・・・ねぇ、かわいいお嬢さん?」

 

 

 

「っ!し、しまっ・・・・・・」

 

 

 

二人のことに気を取られ過ぎていて、自分の周囲に注意を怠ったことが災いとなったのか、彼らのうちのもう一人の男性(キョウヤ)が剣を片手に、わたくしに向かって襲いかかってきた。気付くのが遅れたことで、もう彼との距離は数mも無くなってしまっていた事もあって・・・・・・避ける事さえ、出来そうに無かった。・・・・・・あ、これ死・・・・・・。

 

 

 

「させないっすよっ!!」

 

 

 

「っ!・・・・・・ちっ、ゴブリン如きが邪魔しやがって・・・・・・」

 

 

 

だが、それを阻んだのは・・・・・・頼もしき狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)のリーダーである、ゴブタだった。

 

 

 

「ご・・・・・・ゴブタ・・・・・・?」

 

 

 

「へへっ!レディーを守るのは男の役目っすからね!ここはオイラに任せてくださいっ!」

 

 

 

「ほっほっ・・・・・・よくぞやったゴブタよ。それでこそ我が弟子よ・・・・・・。姫、この若造はワシらで引き受けます故、どうかお下がりください・・・・・・」

 

 

 

「ハクロウも・・・・・・。分かりました。どうか、お気をつけて・・・・・・」

 

 

 

ハクロウも来てくれたおかげで、少しほっとしたわたくしでしたが、それと同時にひどい罪悪感を覚えるようになった。この結界のせいでわたくしの魔法を封じられた事で、わたくしに出来る事が何も無くなってしまい、ただの今までのみんなに”守られるだけの姫”に逆戻りをしてしまっているこの情けない自分に・・・・・・。あの時・・・・・・大鬼族(オーガ)の里から落ち延びて、リムル様やエリス様と出会った時から、わたくしは・・・・・・『自分の身は自分で守る。だから、もう”守られるだけの姫”でいるのは、もう卒業する』そう決意を固めたはずなのに・・・・・・この体たらく。泣きたくなって来ますよ、本当に・・・・・・。

 

 

 

「なんて・・・・・・情けないのでしょう・・・・・・わたくしは・・・・・・」

 

 

 

「シュナ?・・・・・・大丈夫?」

 

 

 

わたくしの異変に気が付いたのか、カレンが近くまで寄って来て肩をさすってくれる。

 

 

 

「カレン・・・・・・みんなはこの国のためを思い、そして・・・・・・エリス様の命を果たす為に必死になって戦ってくれています・・・・・・。ですが、わたくしは・・・・・・わたくしには何もする事が出来ません・・・・・・。唯一誇れた魔法もこの結界により封じられてしまいました・・・・・・。もう、わたくしがこの場にいる意味などない。そして、このままではみんなも・・・・・・・・・・・・っ!」

 

 

 

わたくしの言葉が最後まで紡がれることは無かった。・・・・・・今まで優しくわたくしの肩をさすっていたカレンの手が・・・・・・わたくしの”頬を叩いた”から・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・だから何?何も出来ないからって諦めるの?」

 

 

 

「カレン・・・・・・?」

 

 

 

「シュナ、さっきエリス様に向かってなんて言った?自分で言ってたよね?『その間、国の方は自分たちでなんとかする』って。・・・・・・言い出しっぺが、なんで先に諦めて、私たちは精一杯戦ってるの?意味わからないんだけど!?答えてよシュナ!さっき言ったことは嘘だったのっ!?シュナのこの国に対する想いはそんなちっぽけな物だったの!?どうなの!?」

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

カレンのその透き通った声で言われた言葉に、思わずハッとしたわたくしだった。・・・・・・そうだ、色々と混乱していて忘れていた・・・・・・。そもそも、エリス様にこの国を任してくれと言って送り出したのは、紛れもないわたくしだ。そんな先陣きって言い放ったわたくしが、なぜ誰よりも早く自分の不甲斐なさに心が折れようとしているのでしょうか・・・・・・?こんな時こそ、わたくしがエリス様の代わりにみんなを鼓舞し、少しでも士気をあげなくてはいけないと言うのに・・・・・・なんでこんなことを今になって・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・すみませんでした、カレン。・・・・・・そうですよね。言い出したわたくしが先に諦めるだなんて絶対にいけないことですよね。・・・・・・すみません、どこか弱気になっていたようです・・・・・・」

 

 

 

「謝ってる暇があるなら、さっさと行動に移す!魔法が使えないって言うなら、それ以外の方法で・・・・・・」

 

 

 

「あのさー?喋ってる所悪いんだけど、そこ退いてもらえない?ウチさっさと帰りたいの、疲れたし」

 

 

 

わたくしとカレンの会話に割り込んできたのは、キララ・・・・・・という名で呼ばれていた女性だった。・・・・・・彼女は他の二人とは違い、どこかやる気が無く、嫌そうな顔をしていた。・・・・・・彼女の言っていることはどうやら間違ってはいないようですが、彼女も他の二人同様、逃がす訳にはいきませんね?

 

 

 

「そう言う訳にもいかないね?あなたも捕らえるよう、エリス様から命令が下っているから」

 

 

 

「そ。別にあんたらの許可なんていらないんだけどね?断られたら強引に通るだけだし」

 

 

 

「そっちがやる気なら、私たちも強引にあなたを捕らえることにする・・・・・・怪我しても文句言わないでよ?」

 

 

 

「ふふっ!やってみれば?多分、無理だろうけどね?」

 

 

 

なぜか余裕の笑みを浮かべる彼女に、わたくし達は戸惑いを覚える。彼女は見たところ、戦士でも無さそうですし、カレンと相対すればすぐに押さえ込めることでしょうけど・・・・・・。何か策でも?

 

 

 

「なら、望み通りやってあげる!」

 

 

 

「ま、待ってくださいカレン!何か妙です!」

 

 

 

わたくしの必死の制止も、カレンの耳には届いていなかったようで、カレンは槍を両手に持ち、彼女へと向けて突撃していった・・・・・・。そんなカレンを見ても、彼女(キララ)の笑みは絶える事は無かった。

 

 

 

「・・・・・・『地面にひれ伏せ』」

 

 

 

「っ!な、何・・・・・・これ?」

 

 

 

「こ、これは・・・・・・」

 

 

 

カレンのその突撃は、彼女のその一言で簡単に止められ、彼女のその一言同様にわたくしとカレンは、その場で地面に伏せられてしまった。・・・・・・これはもしや?

 

 

 

「人の脳波に干渉して、暗示をかけ、操るスキルですね?」

 

 

 

「よく分かったね?そ、ウチのユニークスキル『狂言者(マドワスモノ)』に掛かれば、あんたらなんてすぐに一網打尽に出来るってわけ」

 

 

 

それが本当だとすると、厄介この上無かった。つまり、そのスキルの保持者が放った言葉には絶対服従しなくてはならないと言うことになり、現状それを打開できる策がないわたくし達にとっては厄介でしか無かった。わたくしの魔法が使えれば相殺できない事もありませんが、使えない以上、どうしようもありません。

 

 

 

「だったら、あなたの声を聞かなければいいだけのこと!」

 

 

 

「ははっ!耳を塞いだって無駄だよ?このスキルは直接脳内に入り込んで暗示をかけるんだから!『そこのあんた、立って派手に転べ!』

 

 

 

「ぐわっ!!」

 

 

 

「カレンっ!」

 

 

 

彼女の能力により、カレンが盛大に転ぶ。耳を塞げば・・・・・・と、わたくしも一瞬考えましたが、彼女も言ったように、彼女から出される特殊な波長は、脳波に直接干渉して操ってくる類のものな為、耳を塞いだところで効果などありはしなかったのです。

 

 

 

「はははっ!ああ、面白い。・・・・・・さて、そろそろ飽きてきたし、おしまいにして上げる。『死ね』」

 

 

 

「「っ!」」

 

 

 

その声に反応するかのように、カレンは持っていた槍を自分の首元に突きつけ、わたくしは自身の両手で自分の頸を絞めようと、手を伸ばしていた。・・・・・・おそらく、あの声の要望通りに自殺をさせようと体を操っているのでしょう・・・・・・。わたくしもカレンも、必死に抵抗をしていますが、それも無駄な努力にしかなら無かった。

 

 

 

「わたくし達は・・・・・・こんなところで死ぬ訳にはいきません。約束したのです・・・・・・エリス様が戻ってくるまでは、わたくし達で国を守ると。だから、このようなところであなた方に負ける訳にはいかないのです!・・・・・・そうでしょう、カレン!」

 

 

 

「もちろん!エリス様が戻られるまで、この国で好き勝手なことは絶対にさせない!」

 

 

 

「そんな状況でよく国を守るだなんて言えるね?めっちゃウケるんだけど!安心しなって、あんたらを殺した後、絶対にいつかあの化け物(エリス)とも会わせて上げるからさ?・・・・・・あの世でね?」

 

 

 

「「っ・・・・・・」」

 

 

 

もはやこれまでか・・・・・・そう思った刹那だった・・・・・・。

 

 

 

「ぐっ・・・・・・がぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」

 

 

 

「っ!か、カレン?」

 

 

 

突然のカレンの咆哮に、わたくしも彼女も少なからず驚いた。何をしたのかと、視線だけをカレンに向けてみると・・・・・・。

 

 

 

「っ!!カレンっ!?そ、その腕・・・・・・血が・・・・・・!」

 

 

 

「大丈夫・・・・・・ちょっと肉を喰いちぎっただけだから・・・・・・。ははっ・・・・・・かなり堪えるけど・・・・・・お陰で上手くいったようね・・・・・・」

 

 

 

わたくしの目に映ったのは、カレンが彼女の逆手である左腕を押さえながら苦しそうに唸っていた光景と、押さえ込んでいる腕から痛々しい程の、かなりの量の血が流れ出ている光景だった。それには当然驚いたが、わたくしが驚いたのはそれだけでは無かった。

 

 

 

「カレン、あなた・・・・・・呪縛を解けたの?」

 

 

 

「ええ。強烈な痛みを覚えれば、もしかしたら呪縛もかき消せるんじゃ無いかと思ってやってみたけど・・・・・・どうやらそれは当たりみたいで助かったよ・・・・・・。さて・・・・・・よくもやってくれたね。・・・・・・覚悟は良い?お嬢さん?」

 

 

 

痛みで脳波への影響をかき消すというなんとも原始的なやり方にどこか引いてしまったわたくしでしたが、効果は的面だったようで、カレンが呪縛にかかっている様子は、もう微塵もなかった。

 

 

 

「嘘でしょっ!?自分の腕に噛み付いて、無理やりスキルの効果を解くとか・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・遅いわよ?・・・・・・とりあえず、眠ってて貰うわね?」

 

 

 

スキルを破られたことに動揺し、隙だらけとなった彼女の元にカレンは一瞬で近づくと、首元に手刀で一撃を与え、彼女を気絶させた。彼女が気絶をしたことでスキルの能力も消えたようで、わたくしを縛っていた呪縛も解除され・・・・・・わたくしはほっと息をついた。

 

 

 

「シュナ、大丈夫?」

 

 

 

「はい。・・・・・・カレン、ありがとうございました。あなたがいなければわたくしはきっと・・・・・・」

 

 

 

「お礼を言うのはこっちもだよ。さっき、シュナが私に呼び掛けてくれなかったら、きっと私はあそこで諦めてた・・・・・・。あの時のシュナはどこか・・・・・・エリス様やリムル様を彷彿とさせて、かっこよかった。・・・・・・ありがと、シュナ」

 

 

 

「そ、そうでしょうか?・・・・・・そう言われると、少し照れますね・・・・・・」

 

 

 

さっきはただただ、この国を守りがたいために咄嗟に思ったことを叫んだに過ぎなかったため、もうあまり覚えていなかった。・・・・・・だけど、わたくしのその時の言葉で、その状況を打開できたのだと実感すると、どこか嬉しく感じた。・・・・・・わたくしでも、みんなの役に立つ事が出来たのだと。

 

 

 




漫画等ではこの異世界人三人の・・・・・・特にキララの描写が少な過ぎたので、今回はキララの場面を多くして見ました。キララの情報が少ないので、あくまでも自分の想像でキララの戦闘を書いてますので、変だと思った方はすいません。

ぶっちゃけ言うと、この三人の中でキララが一番やばいスキル持ちだと思うんですが、皆さんはどう思いますかね?


次回もまだ、こちらの視点が続きます。お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

事の顛末

そろそろか・・・・・・そろそろなのか・・・・・・?



本当はこちらの視点は一話で終わらせたかったのですけど、夢中で書いてたら余裕で”一万文字”を越しちゃってたので、渋々二話構成にさせてもらいました。


「こっちは終わったけど、みんなは・・・・・・って、あれ?」

 

 

 

「カレン?どうかしましたか?」

 

 

 

「い、いや・・・・・・これ・・・・・・」

 

 

 

なぜか不思議そうな顔をしていたカレンが見せて来たのは、先程自分が噛んで大量に出血()()()()左腕だった。だけど、その左腕にはすでに出血は見えず、傷口も完治に近いほどに塞がっていた。・・・・・・これは?

 

 

 

「傷が・・・・・・もう治っている?こんなに早くになんで?」

 

 

 

「わからない。傷が治ったことに越した事はないんだけど・・・・・・っ?シュナ、気のせいか分からないんだけど、少し体が軽くなったような気がしない?何というか、少し普段の自分に戻ったみたいな・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・?そう言われれば・・・・・・確かにそうですね?」

 

 

 

カレンの言った通り、今までよりも体が自在に動かせるようになっている事実に、少し戸惑いを覚えるわたくし達。それはどうやら自分達だけでは無かったようで、いまだに戦闘を繰り広げている他の四人も、どこか攻撃に”鋭さ”が増しているようにも見受けられた。

 

 

 

「ちっ・・・・・・どうなってやがる!こいつらさっきよりも動きが・・・・・・」

 

 

 

「なんか体が軽い・・・・・・これなら多少なりとも!」

 

 

 

「ええ!存分に戦えます!」

 

 

 

今まで劣勢だったセキガさんとシオン。この二人もわたくし達同様に、体にいつもの調子が戻って来たようで、形勢逆転とでも言わんばかりに(ショウゴ)を圧倒し始めた。

 

 

 

「(っ!このジジイとゴブリン・・・・・・徐々に剣に鋭さが!僕の『天眼』でもその太刀筋や動きが捉えられなくなって来てる!)」

 

 

 

「やはり、未熟者の若造じゃな。己のスキルに頼り過ぎで剣が疎かになっている様じゃ。貴様のような輩、このゴブタのみで十分じゃろ」

 

 

 

「はっ!?ちょっとジジ・・・・・・師匠!それは無理っすから!」

 

 

 

こちらも、ハクロウがいた為、劣勢とまでは行かないものの、少なからずの手傷をおっていた状況だったゴブタとハクロウ。力がある程度戻ったのだとすれば、もはや彼らが負ける事などないに等しい。

 

 

 

「キョウヤ!どうすんだ!このままじゃ・・・・・・」

 

 

 

「かなりまずいね・・・・・・。何とか逃げよう!僕が隙を作るからその間にキララを連れて退散するぞ!」

 

 

 

この状況が非常にまずいと察したのか、彼らは戦う手を止め、わたくし達の目の前で倒れているキララさんを小脇に抱え、一目散に町の外へと逃げようとした。もちろん、そうはさせまいと皆が揃って立ちはだかる。

 

 

 

「逃がさないと言って・・・・・・」

 

 

 

「くらえっ!!」

 

 

 

こちらが逃げ道を阻むのを見ると、何を思ったのか、近くの建物の下部をその一人(キョウヤ)が剣で切り刻むと、それを最後に剣をしまって、町の外へと逃げ出す。その行為の意味が分からずに一瞬沈黙を覚えてしまったわたくし達だったが、すぐにこの行為の意図を掴んだ為、慌てて皆に指示を出した。

 

 

 

「っ!建物を倒して足止めに・・・・・・味な真似を・・・・・・」

 

 

 

「彼らに逃げられます!ゴブタとハクロウはこの倒れてくる建物の処理を!シオン、セキガさん、カレンは彼らを追ってください!」

 

 

 

こうしている間にも彼らはどんどんわたくし達との距離を離していく。早くしないと本当に逃げられてしまう。そうならない為にも、早く彼らに追い付かないといけません!わたくしの指示通り、ゴブタとハクロウの剣技で倒れてくる建物を切り刻み、わたくし達への直撃の回避に成功すると、その隙を縫って残りの三人が持てる力全てを使って、彼らを追っていった。・・・・・・頼みます、どうか間に合って!

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

視点 シュナ→視点 シオン

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「くっ・・・・・・あいつら、思っていた以上に速い・・・・・・」

 

 

 

「なかなか距離が縮まらない・・・・・・このままでは逃げられる!」

 

 

 

「二人とも!諦めないでください!まだ可能性がゼロでは・・・・・・・・・・・・っ!あ、あれは・・・・・・!」

 

 

 

必死に逃げる襲撃者三人を追う私達は、なんとか追いつこうと全力で駆けていたが、やはり結界のせいで本調子とまでは行かない体の状況の為、一向に奴らとの差が詰まりそうに無かった。なんとか気力を振り絞ろうと二人にも檄を飛ばした・・・・・・その時だった。私の・・・・・・私達の視界に、()()()()()()()の人影が映ったのは・・・・・・。

 

 

 

「子供がなんであんな所に・・・・・・」

 

 

「あそこだと、あの三人にぶつかる!下手をすれば・・・・・・」

 

 

 

突然出てきた”その人物”に、私たちは走ってることもお構いなしに盛大に驚いた。

 

 

 

 

「おい!なんだあのガキは!どけっ!邪魔するなら殺してくぞ!!」

 

 

 

「ひっ・・・・・・こ、来ないで・・・・・・」

 

 

 

おそらく、迷子にでもなったのであろう。ゴブリンの小さな女の子がぬいぐるみを片手に、小さくなって怯えていた。そして、彼女の目の前には息を切らしつつ私たちから逃げようとしている襲撃者達三人が・・・・・・。このままでは、すれ違いざまに殺されてしまう可能性が大だった。子供なら・・・・・・と言った甘い考えは捨てるべきだ。彼らはこの町を容赦なく焼き払い、人道の風上にも置けぬほどの愚かなことを平気でする様な奴らの仲間なのだから・・・・・・。

 

 

 

「(助けに行きたい!だけど、この距離では間に合わない・・・・・・っ!そうだ!)セキガ、ちょっと良いですか?」

 

 

 

「なんだ?手短に頼む」

 

 

 

「あなたのスキル『剛力』を使って私をあの子供の所まで投げ飛ばしてください。そうすれば、多分助けられるはずです」

 

 

 

咄嗟に思いついたことだが、これならおそらく彼女を救う事が出来るはずだ。・・・・・・だが、セキガはそれに首を縦に振ることは無かった。

 

 

 

「ダメだ。それだと、あの子供だけでなく、あなたまで危険な目に遭う。それに、この結界のせいでスキルをうまく制御する事が出来ないんだ。発動できたとしても、しっかりとあそこまで飛ばせるとも・・・・・・」

 

 

 

「そうだよ!それにシオンだってもうかなり無理をしてるはずでしょ?これ以上無理をすれば体が・・・・・・」

 

 

 

「関係ありません!あの子供が危機に陥っているのですよ!?それを助けなくては、絶対に今後私は後悔します!・・・・・・エリス様やリムル様だったらこう言うはずです。『何がなんでも住民達を守れ』・・・・・・と」

 

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 

「だから、お願いします!あの子供を助けるため、力を貸してください!」

 

 

 

以前、お二人が言っていた事を私はこの時思い出していた。あのお二人にとって、この国、そして住民達・・・・・・その全てが自分達の宝物だと。それが少しでも欠けて仕舞えば、お二人は大変悲しまれることは間違いない。私はあのお二人が悲しまれるお姿を見たくなんて無かった。だからこそ、私は”この決断”をしなければならなかった・・・・・・。

 

 

 

 

”例え、この身が削れようとも・・・・・・あの子を守ってみせる”・・・・・・と。

 

 

 

 

 

この決断が、後に()()()()()を巻き起こしてしまうことも知らずに・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・わかったよ。そこまで決心してるのであれば、もう何も言わない。・・・・・・出来る限り手を貸そう」

 

 

 

「ありがとうございます。では、早く!」

 

 

 

ようやく協力を得られた私は、セキガの腕に乗っかると、飛ぶ準備を整える。自分の目標としては、子供を助け出して、ついでに奴らも捕らえる。それが何よりベストだが、それはうまく行った時だ。うまく行かなかった時は子供だけを助けるしかない。その時に自分の身に何が起こるかは分からないが・・・・・・。

 

 

 

「邪魔だっ!死ねっ!!」

 

 

 

「今です、セキガ!!」

 

 

 

「出来る限り強めに飛ばす!うまく制御できるか分からないが、うまくやってくれ!・・・・・・はぁっ!!!」

 

 

 

爆発的な威力で投げ飛ばされた私は、勢いそのままに奴らに向かって突撃をする。既に奴らは剣を子供に振り下ろそうとしている為、私がそれよりも先にその子供の元にたどり着けなければその時点で終わりだ。そうはならないと良いが・・・・・・。

 

 

 

「(っ!間に合いそうだ!・・・・・・だが、剛力丸を抜いている暇が・・・・・・仕方ない。この身一つで子を守れると言うなら・・・・・・)」

 

 

 

どうやら間に合いそうだが、それだけでは意味なかった。なぜなら、間に合ったところで、奴らの攻撃を防げなければ意味など無かったからだ。防ぐには剛力丸を抜かねばいけないが、それをする時間さえ無かった・・・・・・。そうなると、もうあの子供を助ける手段は・・・・・・私には”一つ”しか思いつかなかった。

 

 

 

それは・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ザァシュッッ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・私が子供に覆い被さって・・・・・・彼女の代わりに身代わりとして攻撃を受ける・・・・・・ことだ・・・・・・。無事に彼女の元に辿り着いた私は、彼女の盾となるように彼女に覆い被さった。・・・・・・それと同時に、奴らの振り下ろした剣が私に直撃した・・・・・・。

 

 

 

背部を深く斬られたことで、あたりに鮮血が舞ったのを意識が朦朧とする中・・・・・・感じ取った。そして、そんな私たちの横を奴らがすり抜けていく感覚も・・・・・・。

 

 

 

 

「シオーーーーーーンッ!!!」

 

 

 

シュナ様の悲鳴が聞こえてくる・・・・・・。だけど、その呼びかけに応えることは・・・・・・出来そうになかった。・・・・・・大量に出血をしたせいでもう、身体が動かせないし、意識が無くなりそうだから・・・・・・。あぁ・・・・・・私はもう・・・・・・死ぬのか?

 

 

 

「(でも、この子供は助けられたのだし、悔いは無い・・・・・・いや、強いて言うのであれば奴らを取り逃してしまったことは残念ですね。エリス様は・・・・・・なんて言うだろう?あの方の事だから、それでも『気にしないで』と言って、優しく微笑んで私たちを励ましてくれる事は間違い無いでしょうね・・・・・・。あの笑顔をもう見る事が出来なくなってしまうのは残念だけど・・・・・・それでも私は満足だ。だって・・・・・・リムル様とエリス様のお役に立てて死ねるのですから・・・・・・)」

 

 

 

シュナ様やみんなが駆け寄ってきて、必死に私のことを呼び止めているが・・・・・・呼びかけには応えられない・・・・・・。意識が・・・・・・もう・・・・・・。

 

 

 

「(エリス様・・・・・・リムル様・・・・・・どうか、お元気で・・・・・・)」

 

 

 

 

 

私の意識は・・・・・・そこで途絶えた・・・・・・。

 




結局シオンは・・・・・・原作と同じで子供を庇って・・・・・・。まぁ、シオンらしいと言えばそれまでですけど、やはり何度経験しても慣れませんね、これは・・・・・・。涙腺が崩壊します・・・・・・。


原作のシオンは、オーガイーターによる致命的な傷が元で亡くなってしまいましたが、今回はエリスがそれを持つ騎士達を倒してしまったので、代わりにキョウヤの『切断者(キリサクモノ)』の『空間属性』が付与された攻撃で致命的な傷を負う設定に変えさせてもらいました。


お察しの方はいるかと思われますが、カレンの怪我や他の配下達の動きに繊細さが戻ったのはエリスの『仁愛者(アイスルモノ)』の恩恵を受けたからです。これが無かったら・・・・・・と考えると、ゾッとしますね・・・・・・。


次回から、エリスの視点に戻ります。・・・・・・こんな状態のシオンを見て、エリスはどう思うのか?




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

守るべき者の為に

エリスの視点に戻ります。


戻ってきたエリスが、シオンに対して・・・・・・どうするのか?


–––––––––現在–––––––––

 

 

 

視点 エリス

 

 

 

「シ、シオ・・・・・・・・・・・・ン?」

 

 

 

薄れゆく意識の中、ようやく戻ってこれた僕が真っ先に見たのは・・・・・・シュナに抱き抱えられながら大量の血を流し、倒れているシオンの姿だった。その光景がいまだに信じられず、僕の頭は真っ白になっていた・・・・・・。

 

 

 

「うっ・・・・・・ぐすっ・・・・・・・・・・・・あっ・・・・・・エリス・・・・・・様?」

 

 

 

「シュナ・・・・・・そしてみんな・・・・・・いったい何があったの?・・・・・・教えてよ」

 

 

 

状況が整理できない中、僕はその場にいたみんなに事情を話して貰った。・・・・・・聞いたところ、僕が捕縛するように言ったあの三人組が、僕がいなくなった途端に反撃を開始して来たそうで、今までみんなは彼らと一戦交えていたらしい。・・・・・・どうりで、みんなの体に傷が沢山あった訳だ。・・・・・・と言うことは、シオンはそれで?

 

 

 

「もしかしてシオンはそれで・・・・・・?」

 

 

 

「いえ・・・・・・彼らとの戦闘はオレ達の勝ちと言っても良い物でした。何故か、途中から力が漲ってきて体も軽くなって互角以上に渡り合える様になり、彼らを徐々に追い詰めることに成功してましたから・・・・・・」

 

 

 

「(『仁愛者(アイスルモノ)』の効果のおかげか)じゃあ・・・・・・何で?」

 

 

 

てっきり僕は、その戦闘でシオンが致命傷を負ってしまったのではないか?と思っていたから、それが違うと否定されると、余計に頭が混乱してしまう。

 

 

 

「シオンは・・・・・・私とセキガと共に、自分たちに勝ち目がないと悟って逃げ出した彼らを追って行きました。それで、逃げる彼らの進行方向に、迷子と思わしきこの子が、現れまして・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

この子・・・・・・と指されて、僕の前に出て来たのは、小さなゴブリンの子供のミラだった・・・・・・。そうか・・・・・・シオンはこの子を庇って・・・・・・。ミラは自分のせいでシオンが酷い目にあった事が分かっているのか、半泣きの状態で僕の方を見ていた・・・・・・。

 

 

 

「エリス様・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ミラのこと庇って、シオンさんが・・・・・・シオンさんがぁ・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・大丈夫、キミが泣く事なんてないよ。絶対に僕がなんとかして見せるから・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・ほんとに?」

 

 

 

「うん。絶対にシオンを死なせはしない。すまないけどゴブタ、ミラをベニマル達のとこへ連れてってあげて?」

 

 

 

「りょ、了解っす!」

 

 

 

少し泣き止んだミラをゴブタはおんぶすると、そのまますごい勢いでベニマル達の元へ走っていった。それを見送った僕は、重い体を引きずりながら、倒れてるシオンの元へ寄っていく。

 

 

 

「エリス様?随分とお加減が悪い様ですが・・・・・・もしや、一万の人間達との戦いで、どこかお怪我を!?」

 

 

 

「大丈夫・・・・・・人間達はちゃんと片付けた。これは、ちょっと疲れてるだけだから気にしないで(指導者(ミチビクモノ)さん、聞くけど・・・・・・シオンはまだ生きてる?)」

 

 

 

涙を拭きながら、心配そうに駆け寄ってくるシュナに一言『大丈夫』とだけ伝えると、指導者(ミチビクモノ)さんにシオンの生死の確認をとった。これでシオンがもし・・・・・・そうだったのだとすると、僕にはもう手の施しようがない。・・・・・・だから、どうか少しでもいいから・・・・・・命の灯火が灯っていてくれ・・・・・・。

 

 

 

《解。個体名シオンは『空間属性』が付与された武器によるダメージを受けた事により、回復薬や回復魔法による治療を阻害されてる模様です。また、深く内臓を傷つけている可能性が大であるため、数分後まで生きている可能性は・・・・・・何も手を施さない限り”ゼロ”です。現在はユニークスキル『応援者(コブスルモノ)』とユニークスキル『仁愛者(アイスルモノ)』のスキル効果で、命を繋ぎ止めていますが、それも時間の問題です・・・・・・。》

 

 

 

「(なんとか治せる方法はないの?・・・・・・シオンを死なせたくないんだ!それに、さっき”何も手を施さない限り”って言ってたよね?それってつまり、何かをすればシオンが助けられるかもしれないって事でしょ!?それを教えてくれ!すでに方法が何か考えがついてるんでしょ!?指導者(ミチビクモノ)さん!)」

 

 

 

《・・・・・・》

 

 

 

「(・・・・・・沈黙してるってことは図星だよね?出し渋ってないで早く教えてよ!一刻を争うんだ!!)」

 

 

まだ生きてるのだとすれば、救えるチャンスはあった。だからこそ、早くその救う手段を知りたかったのに、何故かこの時だけは指導者(ミチビクモノ)さんが頑なにそれを話そうとしなかった・・・・・・。

 

 

 

《・・・・・・》

 

 

 

「(指導者(ミチビクモノ)さん!!)」

 

 

 

《・・・・・・解。現在発動している『応援者(コブスルモノ)』への魔素の消費をさらに多くさせることで、個体名シオンの”自己再生力”を限界まで向上させ、傷と出血を塞ぎ、『仁愛者(アイスルモノ)』で魔素を譲渡する対象を、魔国連邦(テンペスト)の住民全員からシオンへと変更することで戦って不足した分の魔素を補う必要があります。》

 

 

 

「(・・・・・・それで?)」

 

 

 

《さらに、『治癒者(イヤスモノ)』を発動し、残りの体内にある魔素を限界まで使うことで『空間属性』が齎す効果を打ち消すことができ、シオンの治療が可能となります・・・・・・。これら全てを行なった時、シオンは息を吹き返すと思われます・・・・・・。》

 

 

 

「(・・・・・・わかった。なら、早くそれをやろう。そろそろ意識が飛びそうだしね・・・・・・)」

 

 

 

《警告。先程述べた工程一式を、現在の主人(マスター)が行なった場合・・・・・・。》

 

 

 

「(皆まで言わなくても分かってるよ、そんなこと・・・・・・。でも、それをしなければシオンを助ける事はできないんでしょ?・・・・・・なら、やるしかないよ・・・・・・)」

 

 

 

指導者(ミチビクモノ)さんが言いたい事はなんと無く分かっていた為、特に気に留めることもなくすぐにそれを実行に移そうとした。自分の体のことは一番自分でわかってる。もう既に魔素を大幅に使い切って、フラフラなのに、そこからさらに『応援者(コブスルモノ)』と『仁愛者(アイスルモノ)』、『治癒者(イヤスモノ)』を三つ同時に発動するだなんて・・・・・・自殺行為も良いとこだ。

 

 

「(多分、これを行えばシオンはもしかしたら助かるかもしれないけど・・・・・・僕はひょっとしたら・・・・・・いや、ひょっとしなくても、多分”そう”なる。・・・・・・だけど、もうこれ以外に方法は無さそうだし、目の前で散りそうになっている大事な配下を見殺しにするくらいなら死んだほうがマシだ。それに・・・・・・僕はリムルにみんなを任されたんだ・・・・・・。ここでシオンを死なせて仕舞えば、リムルに会わせる顔がない!)」

 

 

 

シオンを助ける代わりの代償がどの様なものかは、すぐに察しがつく。・・・・・・だけど、それはもはやどうでも良かった。

 

 

 

「(僕はシオンを助ける!自分の身がどうなろうと・・・・・・必ずこの町の住民全員を生きてリムルに会わせる!それが・・・・・・僕の()()の国主代理としての使命だ!)」

 

 

 

決意を固めた僕は・・・・・・シオンの傍に腰を下ろし・・・・・・作業に入ろうとした。・・・・・・だが、それを”一つの声”が待ったをかけた。

 

 

 

「・・・・・・エリス様。何をなされるおつもりですか?」

 

 

 

「・・・・・・ベニマル、戻って来てたんだね?・・・・・・住民達はみんな無事?」

 

 

 

「ええ、今は住民達はリグルド殿に任せて、俺はこちらに応援に来たのですが・・・・・・」

 

 

 

「そっか、なら良かった。これでリムルに怒られなくて済むよ・・・・・・」

 

 

 

その声の主は、いつの間にか戻って来ていたベニマルのものだった。彼はどこか苦い顔をしながら、じっと僕の方を見つめて来ていた・・・・・・。苦い顔をしているのは、どうやら彼だけの様ではないらしいだけどね?

 

 

 

「質問に答えてください。あなたは、シオンに対して、何をなされようとしているのですか?」

 

 

 

「何って・・・・・・見てわからない?シオンを助けるために、これから治療をするところだよ。・・・・・・あんまり時間がないから、下がってて貰えるかな?早くしないといけないんだ」

 

 

 

「・・・・・・本当に、”ただの治療”ですか?」

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

やはり、勘が鋭いベニマルには僕の考えが悟られてしまった様だ。・・・・・・はぁ、今のこの状況だと、厄介でしかないよ・・・・・・キミは。

 

 

 

「・・・・・・主様?何を・・・・・・考えられているのですか?」

 

 

 

「何か、妙に顔が苦しそうですが・・・・・・」

 

 

 

ほら・・・・・・キミに連動して他のみんなまで、僕の事を疑い出しちゃったじゃん・・・・・・。でも、だからと言って僕はこれをやめるつもりは無い。

 

 

 

「大丈夫だって。・・・・・・良いから、早く離れてくれ。治療に移れないからさ?」

 

 

 

「ですから、それがどう言ったものかを・・・・・・・・・・・・っ!エリス様・・・・・・もしや!?」

 

 

 

「っ!(まずいっ!どうやらベニマルには完全にバレた。今、彼に無理矢理にでも止めに来られたらもはや治療どころじゃ無い!)」

 

 

 

意識だってどんどん無くなってきてる中、そう直感した僕は、内心で強く舌を打った。

 

 

 

「エリス様っ!!」

 

 

 

「(・・・・・・ごめん)『水輪束縛(ウォーターバインド)』」

 

 

 

心の中で静かに謝りながら、僕は以前作っておいた、相手を捕縛する為のスキルである『水輪束縛(ウォーターバインド)』をベニマルに向けて放つ。スキルを発動した途端、僕の掌から二つの”大きな水輪”がベニマルへ向けて放たれると、その二つの水輪がベニマルを縛るかの様にして巻き付き、動きを封じた。

 

 

 

「ぐっ・・・・・・くぉっ・・・・・・」

 

 

 

「無理だよベニマル。キミにも、その拘束を解くことは出来ない。結構頑丈に作ったからね・・・・・・、僕の合図がない限り、それが外れることは無い・・・・・・」

 

 

 

「くっ・・・・・・皆!エリス様を止めろ!この方は”自らの命を犠牲”にシオンを助けるおつもりだ!!」

 

 

 

「「「「「っ!!!」」」」」

 

 

 

ベニマルのその叫びにその場にいた全員が、すぐさま僕を止めに来ようと駆け寄ってくる・・・・・・。こうなるから、僕はみんなに言いたくなかったのに・・・・・・。

 

 

 

「『水輪束縛(ウォーターバインド)』」

 

 

 

・・・・・・申し訳ない気持ちでいっぱいになる中、僕はベニマル同様にみんなを『水輪束縛(ウォーターバインド)』で拘束する。

 

 

 

「くっ・・・・・・おやめ下さい、エリス様!何か別の方法がきっと・・・・・・」

 

 

 

「そうです!どうか、早まらないでください!」

 

 

 

「それが無いからこうする事にしたんだよ、セキガ、カレン・・・・・・。ごめんね?キミたちの近衛兵としての仕事を奪う事になっちゃって・・・・・・」

 

 

 

もがきながら必死に僕を説得してくるセキガとカレン。

 

 

 

「主様っ!主様がいなくなってはワタシはどうすれば良いのですか!」

 

 

 

「大丈夫、キミならもう一人でもなんでもできるさ・・・・・・ごめんね、ヒョウガ。先に逝く主をどうか許してくれ・・・・・・」

 

 

 

拘束に苦しみながら僕を呼び止めるヒョウガ。

 

 

 

「エリス様!どうかお考え直しを!あなた様がいなくなられてはリムル様も・・・・・・」

 

 

 

「リムルには・・・・・・”ごめん”って言っておいて、ハクロウ・・・・・・」

 

 

 

老体に鞭を打ちながら、なんとか拘束から逃れようと必死になっているハクロウ。

 

 

 

「どうか・・・・・・どうかわたくし達をおいて行かないでください!お願い・・・・・・します・・・・・・」

 

 

 

「シュナ・・・・・・ごめん、その頼みを聞いてあげることは・・・・・・出来そうに無いよ・・・・・・」

 

 

 

再び涙を零しながら、僕にそう願ってくるシュナ。

 

 

 

話して見て思ったけど・・・・・・こうして、僕のためにここまで必死になってくれる配下を持って・・・・・・改めて僕って幸せ者なんだなぁ・・・・・・って感じる様になった。彼らを悲しませる事になる事は重々承知だ。・・・・・・だけど、やっぱり僕は・・・・・・救える命は絶対に救ってあげたい。例え・・・・・・この身が滅びようとも・・・・・・ね?何しろ、シオンは僕やリムルにとって大切な配下であり、家族だ。・・・・・・家族を救う為に命を散らせるのだから・・・・・・本望だ。

 

 

 

「もはや邪魔をする者はいない・・・・・・。あとは僕が治療をすれば・・・・・・いや、”あと一人”だけいたか・・・・・・」

 

 

 

僕は、頭の中で最後の”抵抗者”に命令を下した。

 

 

 

「(指導者(ミチビクモノ)さん、スキルの発動をしてくれ。ありったけの魔素を使って・・・・・・)」

 

 

 

《警告。只今の状態で過剰な魔素の消費をすると、依代の獲得に失敗し・・・・・・》

 

 

 

「(くどいよ?そんな事はわかってるから早くやって?)」

 

 

 

《警告。生命維持に必要な魔素が不足した場合、精神生命体である主人(マスター)の魂は・・・・・・》

 

 

 

「(早くするんだ()()()!!このままだとシオンが死んじゃうから!!これは命令だっ!やるんだっ!!)」

 

 

 

警告、警告とうるさい指導者(ミチビクモノ)さんに対して初めて浴びせた怒声。まさか、僕が指導者(ミチビクモノ)さんに対してこんなに怒りをあらわにするとは思っていなかったから、僕自身も少し驚いてしまっていた。

 

 

 

《・・・・・・・・・・・・了。三つのユニークスキル『応援者(コブスルモノ)』、『仁愛者(アイスルモノ)』、『治癒者(イヤスモノ)』の並列起動を開始します。》

 

 

 

ようやく、指導者(ミチビクモノ)さんが折れてくれた様で、三つの並列起動が始まった。起動が始まると同時に、今までに感じた事がないほどの魔素の減りによる疲労が僕を襲ってきた。三つのユニークスキルを同時に発動すればそんなの当たり前だとたかを括っていたけど、まさか・・・・・・ここまでとは。だが、その甲斐あって、シオンの体にあった深い傷や出血などはある程度塞いだ・・・・・・。よし・・・・・・。

 

 

 

《警告。体内魔素量が10%を下回った為、『水結界(アクアヴェール)』、『多重結界』を解除しました。》

 

 

 

「(くっ・・・・・・まだまだ・・・・・・)」

 

 

 

《警告。これ以上の魔素の消費は主人(マスター)の結界内での存在維持に必要となる魔素が不足する”可能性が極めて高くなります。必要となる魔素が不足した場合、結界の浄化作用が精神体(スピリチュアルボディー)へ直接加えられる事となり、大量の体内の魔素が流出されます。致命的な魔素の流出を許した場合、存在が消滅します・・・・・・。》

 

 

 

「(良いから!続けてくれ!!)」

 

 

 

存在が消滅する?・・・・・・そんなの最初からわかってるさ!だけど、この僕の命一つで、大切な配下を守る事ができるって言うなら・・・・・・僕は喜んで命を差し出すさ。・・・・・・それが、僕にできる最期のことだからね!

 

 

 

《告。『空間属性』の効果を『治癒者(イヤスモノ)』の効果により、無効化する事に成功しました。これより、個体名シオンの治癒を開始します。》

 

 

 

「(はぁ・・・・・・良かった。これで、シオンは大丈夫だろう・・・・・・・・・・・・僕はもう・・・・・・きついけど・・・・・・)」

 

 

 

厄介だった『空間属性』の効果さえ打ち消して仕舞えば、もう怖いものは無い。後は、『治癒者(イヤスモノ)』がシオンを治癒するのを待つだけだ。

 

 

 

《告。個体名シオンの治癒が完了しました。》

 

 

 

「は、はは・・・・・・どうやら・・・・・・うまく・・・・・・行ったみたいだ。良かった・・・・・・」

 

 

 

《警告。体内魔素量が5%を下回った為、使用中のスキル『擬人化』『水輪束縛(ウォーターバインド)』を解除しました。》

 

 

 

治癒が完了した・・・・・・。その言葉に、僕の体から力が抜け、『擬人化』が解けた。解けたことで僕の水が近くにいたシオンに掛かってしまう(ごめん、シオン)。

 

 

やばい・・・・・・もう、立っている事さえ、出来そうに無い。呼吸も乱れて意識が朦朧とする・・・・・・。体の感覚も・・・・・・何も感じなくなっちゃってる。・・・・・・あはは、これは本当に・・・・・・まずいね。

 

 

 

「エリス様っ!!」

 

 

 

水輪束縛(ウォーターバインド)』が解除されたことで、体の自由を取り戻したみんなは、血相を変えつつ僕の元まで駆け寄ってきた。

 

 

 

「み、みんな・・・・・・安心・・・・・・して?シオンは無事に・・・・・・治した・・・・・・から」

 

 

 

もう、口もうまく回らない・・・・・・。ちゃんと喋れてるか、自分でもよく分かっていなかった・・・・・・。

 

 

 

「シオンが助かっても、あなたが助からなければ意味など無いではありませんか!!どうかお気を確かに!!いずれは、『この国を人間達と共に楽しく暮らせる様にしていきたい』と仰っていたではありませんか!ここで死んでしまっては、それも果たせなくなってしまいますよ!?それでも良いのですか!?悔いはないのですか!?悲しくないのですかっ!?」

 

 

 

「はは・・・・・・それは残念だね。悔いがないって・・・・・・訳でもないさ。みんなともっともっと一緒にいたかったよ・・・・・・。だけど・・・・・・人間との共存はきっと・・・・・・リムルやみんなが・・・・・・僕の代わりに成し遂げてくれるって・・・・・・信じてるから、思ったよりも悲しく・・・・・・ないよ」

 

 

 

「そ、そんなことっ!」

 

 

 

ベニマルとシュナを中心にみんなが揃って必死に呼びかけて来てくれるけど・・・・・・もはやその声も聞こえなくなって来ていた。近づいてるってことか・・・・・・僕の命の終わりが・・・・・・。

 

 

 

「みんな・・・・・・この先は、僕のことは忘れて・・・・・・リムルと一緒に幸せに暮らすんだ・・・・・・。僕の仇とか思って・・・・・・人間達に復讐とか・・・・・・そんなこと考えちゃダメだよ?キミたちが復讐に・・・・・・取り憑かれる姿なんて・・・・・・僕は見たくなんてないんだ・・・・・・。人間を殺した罪を・・・・・・背負うのは・・・・・・僕一人で十分だから・・・・・・。これが・・・・・・僕・・・・・・エリス=テンペストの最期の命令だ・・・・・・。いいね?」

 

 

 

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 

 

 

僕のこの問いかけには誰も頷かなかった。・・・・・・みんな、目から涙を零して、悲しみに暮れている為、そんな余裕が無かったんだろう・・・・・・。でも、これだけは頷いて欲しかったな。だって、僕の存在に囚われて、みんなが今後、心の底から笑えなくなったり、常に僕のことを想い過ぎて、暗い気持ちになんてなって欲しくなかったから・・・・・・。だから、この場を持ってみんなには僕の事を綺麗さっぱり忘れるよう言ったんだけど、その言葉は、ただみんなの悲しみを増進させる結果にしかならなかった。

 

 

 

みんなを悲しませてしまい、すごい罪悪感に襲われたけど・・・・・・みんなのケアは、きっとリムルがしてくれる。だから、悔やむのはもうこれで終わりにして、後はみんなに託す事にしよう・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、みんな・・・・・・。こんな僕を・・・・・・最後まで・・・・・・慕っていてくれて・・・・・・。どうか・・・・・・幸せに・・・・・・なって・・・・・・くれ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が闇に引きづり込まれる感覚を肌で感じ取りながら、僕は・・・・・・意識を手放した・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめん、リムル・・・・・・。道半ばで逝く僕を・・・・・・どうか許してくれ・・・・・・。でも、キミとの約束通り、ちゃんとみんなは守ったからね・・・・・・。後の事は・・・・・・頼む。

 

 

 

 

 

それと・・・・・・一緒に、人間の国へ行くのは・・・・・・また、いつかね・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『告。これより魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)を開始します・・・・・・失敗しました。個体名エリス=テンペストの生体反応の確認が取れなかった為、魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)を中止しました』




エリス・・・・・・忘れるなんてできる訳・・・・・・それに、キミ無しで幸せになれるはずなんて・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大き過ぎた代償

視点がリムルに移ります。


視点 リムル

 

 

 

「リムル様!よくぞお戻りに!」

 

 

 

「ああ。・・・・・・何があったのか、教えてくれるか?」

 

 

 

魔国連邦(テンペスト)の危機を知った俺は、転移出来ない町中ではなく、ベスターやガビルのいる洞窟の近くへとランガと共に転移した。そこで、今の魔国連邦(テンペスト)の状況がどの様なのか、ベスターに聞かせて貰った。

 

 

「(転移出来なかったのは、何らかの魔法で魔国連邦(テンペスト)が覆われていて干渉ができなかったのが原因か・・・・・・。それに、ミリムがユーラザニアに宣戦布告って・・・・・・何考えてんだよ、あいつは・・・・・・)」

 

 

 

どうやら、俺が外に出ている間に、何故かミリムがカリオンが治めているユーラザニアに対して宣戦布告をしたそうで、その訳もわからん行動に俺の頭は痛くなった。・・・・・・だが、それは今はどうでも良い事だった。まずは、早く魔国連邦(テンペスト)に向かわねーと!

 

 

 

「リムル様っ!」

 

 

 

「っ!ソウエイ!良かった・・・・・・無事だったんだな?分身体の姿が見えなかったから心配してたんだぞ?」

 

 

 

「申し訳ありません・・・・・・。あなたに接触しようとしたのですが、得体の知れない人間どもに邪魔をされ、分身体が消されてしまった様なので・・・・・・」

 

 

 

「そっか・・・・・・ならしょうがないな。・・・・・・それで、ソウエイ。魔国連邦(テンペスト)は・・・・・・みんなは無事なのか?中に連絡が付かないせいで、状況が分からないんだ」

 

 

 

俺の影の中から突然出てきたソウエイに、俺は早速状況説明を求める。

 

 

 

「おそらく、無事である事は間違い無いかと。俺がこの場に来ようとしていた時には、既に結界が張られてしまい、俺たちは皆弱ってしまいましたが、エリス様のお力により、ある程度は持ち直すことができましたので」

 

 

 

「流石はエリスだな。・・・・・・やっぱり、俺なしでもあいつがいるんだから問題なんて無い・・・・・・」

 

 

 

「ですが、俺が町を出てからかなりの時間が経っています。その後のエリス様達の動向までは分かりません。ですので、早く町へとお戻り下さい!・・・・・・何やら嫌な予感がするのです」

 

 

 

「・・・・・・ああ、すぐに向かう!」

 

 

 

ソウエイの言葉通り、俺はすぐに町へ向かって必死に駆けた。駆けること一分弱、俺は結界の壁面と思わしき場所にたどり着く。

 

 

 

〈内部に基点のある魔法不能領域(アンチマジックエリア)の影響と、外部から仕掛けられた結界による魔素濃度の低下を確認。聖浄化結界(ホーリーフィールド)と原理は同じですが、浄化能力はこの結界の方が弱く、劣化版だと推測。『多重結界』で抵抗(レジスト)可能です。〉

 

 

 

「(なら問題はないな)俺なら中に入れそうだから、俺は中で術を使った奴を抑える。ソウエイはソーカ達と協力して外から結界を張ってる奴を見つけてくれ。可能なら無力化も頼む」

 

 

 

「御意。どうか・・・・・・お気をつけを・・・・・・」

 

 

 

俺が与えた任務に動いたソウエイを見送った俺は、『多重結界』を張り、結界の中へと侵入した。結界内の町中は、少し建物の屋根ら辺が焦げていて、ちょっとした瓦礫や木材が落ちているだけで、それ以外は特に異常が無かった。

 

 

 

「(やっぱり何者かの襲撃を受けた様だが、思ったよりも町へのダメージはなさそうで安心した。・・・・・・思ったより大事にはならなそうだな。はっ・・・・・・ヒナタの奴、何が『俺の国が邪魔だから、滅ぼす!』だよ。滅ぼすどころか、町の建物一つすら壊せていないじゃねーかよ。口だけも良いとこだ・・・・・・)」

 

 

 

心の中でそう軽口を叩きながら、俺は広場へと入る。するとそこには、五体満足で元気そうにしているリグルドや住民達の姿があった。・・・・・・はは、良かった。みんな無事のようだ。

 

 

 

「リグルド!無事で良かった!」

 

 

 

「おおっ!リムル様〜!!よくぞご無事で!」

 

 

 

俺に気づいたリグルドは、大泣きしながら俺の帰還に喜びを見せていた。それを見た他の住民達もこぞって俺の元に駆け寄り、満面の笑みで喜んでいた。

 

 

 

「みんな無事で何よりだ。俺がいない間、よく無事でいてくれたな」

 

 

 

「ええ!それもこれも、エリス様や他の皆様のお力添えがあってこそです!もし、それが無ければ、今頃私たちは・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・だな。ちゃんとあいつらにもお礼を言わないとな。リグルド、みんなはどこにいるんだ?」

 

 

 

俺が不在の中、しっかりとこの町とみんなを守ったお礼を言うため、リグルドにみんなの所在を確認した。・・・・・・だが。

 

 

 

「先ほど、ベニマル殿がエリス様の元へと向かわれ、用が済めば皆を連れてここへと戻ってくると言われておりましたが・・・・・・妙に遅いですな?」

 

 

 

「いいさ、俺が向かう。方向はこっちで良いのか?」

 

 

 

「は、はい!もし宜しければ、皆を連れて来てはもらえませんか?皆を交えてリムル様に報告とご相談したい事がございますので」

 

 

 

「ああ。分かった」

 

 

 

元々、俺の方から出向く予定だったし、ちょうどいい。リグルドの言う通り、エリス達がいると思われる町から少し外れた街道に俺は向かう事にした。道中、俺はあいつらに褒美でもなんでも一つや二つ、あげようかと考えていた。特にエリスに至っては、これまで俺の仕事を肩代わりしてくれた礼も含めて、色々と何をあげようか悩んでいた。

 

 

 

「あいつだったらなんでも喜びそうだが、何にしたら・・・・・・って、ん?」

 

 

 

そんな時だった。俺の耳に”爆音に近い轟音”が響いて来たのは・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・何だ?行ってみるか・・・・・・」

 

 

 

気になった俺は街道を外れ、爆音が起こった路地裏へと足を運んだ。・・・・・・そこで見たのは・・・・・・見たことのない人間の女を、ヨウムとグルーシスが必死に庇い、それを退かそうと攻撃を加えようとしているベニマルの姿だった・・・・・・。

 

 

 

「良いからそこを退け・・・・・・グルーシス、ヨウム・・・・・・」

 

 

 

「残念だが・・・・・・冷静さを欠く今のあんたにこの(ひと)は渡さねーよ!」

 

 

 

「・・・・・・二度も言わせるなよ?退け!さも無ければ貴様ら諸共、その第一容疑者である女を消し炭にしてくれるっ!!」」

 

 

 

「なんでだっ!何故ミュウランを殺そうとする!容疑者として捕らえるならまだしも、殺しまですることはねーだろうがっ!!」

 

 

 

「その女のせいで、”あのお方”は亡くなられたっ!!!死を与えることは当然の報いだっ!!」

 

 

 

「待てっ!ベニマルっ!!」

 

 

 

怒りが爆発して、『黒炎獄(ヘルフレア)』を三人に放とうとしているベニマルを俺は制止した。俺に気がついたベニマルは、攻撃する手を止め、俺の方へと振り返る。・・・・・・振り返ったベニマルの顔を見て、俺は酷く驚いた。ベニマルの凛々しかった顔からは・・・・・・未だに”溢れんばかりの涙”が零れ落ちていたからだ・・・・・・。

 

 

 

「リムル・・・・・・様・・・・・・」

 

 

 

「ベニマル・・・・・・一体どうしたんだ?お前がそんなに涙を流すなんて・・・・・・それに、亡くなったって・・・・・・っ!誰かが死んだのかっ!?」

 

 

 

俺の心に動揺が走る。ベニマルの先程の発言・・・・・・今のベニマルの顔から察するに、嘘ではないことは明白だ・・・・・・。・・・・・・ということはやっぱり、誰かが死んだのか?

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・ついて来て・・・・・・下さい」

 

 

 

涙が一向に止まらないベニマルは、軽く涙を拭くと、俺の質問には答えずに、ヨウム達を放って俺をどこかへと案内した。ついて行けば答えが分かると思い、黙ってついて行った俺。

 

 

 

 

ベニマルに連れられた場所は、町の広場から少し離れた東の街道だった。・・・・・・そこで目撃したのは・・・・・・。

 

 

 

「シオン・・・・・・?」

 

 

 

倒れてるシオンに対し、他の重鎮達・・・・・・シュナ、ハクロウ、ヒョウガ、セキガ、カレンが揃って蹲って泣き喚いてる光景だった・・・・・・。おい・・・・・・嘘だろ?

 

 

 

「まさか・・・・・・シオ・・・・・・ン・・・・・・が?」

 

 

 

「いえ・・・・・・シオンは・・・・・・生きてます。今はただ眠っているだけですので、いずれ目を覚ますことでしょう・・・・・・」

 

 

 

「そ、そうか・・・・・・はぁ〜、なら良かった・・・・・・っ?だったら、なんでみんな泣いてるんだよ?それならみんなが泣く理由なんてないだろ?」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

ベニマルは何も答えようとはせず、再び涙を零し始める。・・・・・・何なんだよ、一体?仕方ない・・・・・・エリスに話を聞いて・・・・・・って、ちょっと待てよ?

 

 

 

「おい、エリスはどうした?ここにいるんじゃないのか?」

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

「何だよ?黙ってちゃ分かんないぞ?エリスはどこだ?」

 

 

 

「え、エリス・・・・・・様・・・・・・は・・・・・・」

 

 

 

もはや涙で顔がぐちゃぐちゃになってしまっているベニマルに対し、不信感を募らせる。・・・・・・おい、まさかっ!?

 

 

 

「エリスに何かあったのかっ!?」

 

 

 

「・・・・・・あそこに・・・・・・おられます・・・・・・」

 

 

 

ベニマルが指差した方向には、シオンの傍らに存在していた”小さな水溜り”があった。・・・・・・おそらく、あれはエリスが依代としていた水だろう。その証拠に、水溜りの近くにはあいつが愛用していた剣が転がってるし。魔素を使いすぎたのか低位活動状態(スリープモード)にでも入ったせいで、『擬人化』が解けてしまったんだろう。・・・・・・ったくしょうがねーな。

 

 

 

「全く、こんなになるまで無理しやがって・・・・・・ほら、俺が壺の中に入れてや・・・・・・っ?」

 

 

 

エリスの元に寄り、水を壺に戻してやろうと手で触れた時・・・・・・俺は疑問を覚えた・・・・・・。

 

 

 

「(何だ?いつものエリスの水じゃない・・・・・・。何の魔力も込められてないただの水だ・・・・・・。おかしい・・・・・・低位活動状態(スリープモード)に入っていたとしても、ある程度の魔力は感じる筈なのに・・・・・・。これがエリスだってのは間違い無いはずだが・・・・・・)」

 

 

 

〈解。それは依代となった対象物に、”魂”が存在してない為だと推測します。魂を失った対象物は元の原型に戻り、依代の役目を終えます。〉

 

 

 

「(・・・・・・は?じゃあ、エリスは・・・・・・)」

 

 

 

〈解。個体名エリス=テンペストの生体反応の確認が取れませんでした。過度の魔素の枯渇により、魂と依代が分離している模様です。〉

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

大賢者のその無情なる言葉に・・・・・・俺は言葉を無くす・・・・・・。”生体反応”が・・・・・・無い?そんな訳・・・・・・!

 

 

 

「(大賢者、もう一度確認しろ。あいつが死ぬ訳なんてねーだろ?)」

 

 

 

〈否。何度も実行に及んでいますが、未だに生体反応の確認は取れませんでした。〉

 

 

 

「(ふざけんなよっ!そんな筈ねーだろうがっ!!何であいつが・・・・・・っ!)」

 

 

 

その時、俺は初めてこの場にいる全員が涙を流している理由を知った。まさか・・・・・・みんなは、シオンでは無く・・・・・・エリスの死に悲しんでいたのか・・・・・・?

 

 

 

「・・・・・・っ。あ・・・・・・リムル・・・・・・様」

 

 

 

「シュナ!一体どう言う事なんだ!エリスは・・・・・・」

 

 

 

ようやく、俺の存在に気がついたシュナが、ベニマル同様に顔を涙で濡らしたまま、こちらを向いてくる。

 

 

 

「エリス様は・・・・・・・・・・・・この町と、わたくし達全員をたったお一人で守って下さいました・・・・・・ですが・・・・・・それのせいでお体に・・・・・・ご無理が祟って・・・・・・っ・・・・・・なっ、()()()()()()()()・・・・・・」

 

 

 

「っ!!!」

 

 

 

シュナから告げられたその言葉に、俺は息をするのも忘れて絶句した。あいつが・・・・・・死んだ?みんなを守った代償のせいで・・・・・・エリスが?

 

 

 

「はは・・・・・・嘘だよな?揶揄ってるんだろ?あいつが死ぬなんて、そんな訳・・・・・・」

 

 

 

「嘘ではありません。俺たちはこの目で・・・・・・エリス様の最期を見届けました・・・・・・から。リムル様・・・・・・申し訳・・・・・・ございませんでした。俺たちの力不足故に・・・・・・エリス様を・・・・・・お守りする事が・・・・・・出来ず・・・・・・おめおめと生き延びて・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

嘘だと言って欲しかった・・・・・・。だが、ベニマルの口から出たのは、エリスの死を肯定するものだった・・・・・・。その言葉を聞いたみんなは、また瞳から涙を零した。・・・・・・どうやら、嘘でも冗談でもないようだ。

 

 

 

 

 

 

”エリスが・・・・・・死んだ”。・・・・・・その現実を突きつけられ、俺は強烈な吐き気と胸の苦しみを覚えた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・ほら、”抗魔の仮面”だ。大賢者が解析してくれたおかげで複製出来るようになったんだ。これを被れば、お前が行きたがってた人間の国へ行けるんだぞ?・・・・・・約束したよな?『今度は一緒に連れていく』って・・・・・・。こんなとこで寝てちゃ、いつまで経っても行けねーぞ?・・・・・・だから、早く目を覚ませよ・・・・・・覚ましてくれよ・・・・・・エリスっ!」

 

 

 

 

目の前のエリス()()()水に対して、”抗魔の仮面”を差し出しながらそう言うが・・・・・・いくら言ったところで、エリスが言葉を返してくれる筈もない。また、あの優しく、みんなを安心させる笑みを浮かべながら『大丈夫だよ?』と囁いてくれることも無い。

 

 

 

「何でだよ・・・・・・いくらこの町や住民達が全部助かったって・・・・・・お前が死んじゃ・・・・・・意味がないだろうが・・・・・・」

 

 

 

 

 

・・・・・・だって、この場には・・・・・・もう・・・・・・あいつは存在しないのだから・・・・・・。

 

 

 

 

 

その事実に、俺の胸の苦しみはさらに酷くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・くそっ・・・・・・くそ、くそ、くそ、くそくそくそっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっっっそぉぉぉぉおおおっっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の号哭が、曇りゆく曇天の空へと響き渡った・・・・・・。




いくら、町やみんなが助かっても・・・・・・大事な親友・・・・・・敬愛する副国主がいなくなってしまえば・・・・・・喜べる訳もありません・・・・・・。


・・・・・・しばらく、リムルの視点が続きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

失意

エリスを失い・・・・・・絶望のどん底に突き落とされたリムルたち・・・・・・。





エリスの想像もし得なかった死に、俺たちは絶望に打ちひしがれた・・・・・・。だが、いつまでもめげていたところで、事態が好転する訳でもない・・・・・・。無駄に時間が過ぎるだけだ・・・・・・。

 

 

それは何としても避けたかった俺は、”持ち主のいなくなった剣”を懐にしまうと、悲しみで重くなった体に鞭を打ち、泣いているみんなを連れて、一度詳しい話を聞くべく、執務館へと戻った。目を覚ましそうに無かったシオンは俺の家で寝かせる事にし、ベニマル曰く、この騒動の第一容疑者らしいミュウランと言う女性は、近くの宿で軟禁する事にした。

 

 

執務館にはリグルドやガビル、ベスターやヨウムと言った他の重鎮達も集まらせた。・・・・・・こいつらにも伝えなくちゃいけないからな・・・・・・エリスの事を・・・・・・。

 

 

 

「リムル様!皆様をお集め頂きありがとうございます。・・・・・・?失礼ですが、エリス様はどこに?」

 

 

 

「・・・・・・ああ、それについては今から話す。・・・・・・みんな、気を強く持て・・・・・・」

 

 

 

「む?リムル様?気を強くと言うのは一体?」

 

 

 

ガビルが何やら話し始めそうになったが、俺は気にせず続けた。

 

 

 

「エリスは・・・・・・死んだ。この町と住民全員を人間達から守った代償で・・・・・・」

 

 

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

 

 

その言葉に会議室内の空気が凍る・・・・・・。・・・・・・まぁ、当然だよな。俺だっていまだに信じられねーんだから・・・・・・。

 

 

 

 

「ご、ご冗談を・・・・・・。いくらリムル様とはいえ、その冗談は笑えませんぞ?」

 

 

 

「・・・・・・俺が冗談でこんな事言うと思ってるのか?」

 

 

 

「い、いや・・・・・・それはそうですが・・・・・・そんな・・・・・・」

 

 

 

「エリスの旦那が・・・・・・嘘だろ・・・・・・?」

 

 

 

 

リグルド、ガビル、ベスター、ヨウムは、それぞれ突然言い渡されたエリスの死に、戸惑いを覚えていた。まだ、頭の整理が追いついていないんだろう、みんなしどろもどろになっていた。・・・・・・既に知っているベニマル達は、もうそんな様子はないが・・・・・・いまだに泣きそうな顔をしていた。

 

 

・・・・・・信じられないって言うんなら仕方ない。俺は徐に、置いておいたエリスの壺をみんなの前へと差し出した。

 

 

 

「・・・・・・これがその証拠だ」

 

 

 

「それは確か・・・・・・エリス様が愛用されている壺・・・・・・?」

 

 

 

「・・・・・・この中にエリスが入ってる・・・・・・いや、エリスだった水・・・・・・って言うべきか。とにかくそれが入ってる。自分の目で見て、この水に触れて確かめてみれば良いさ・・・・・・それで真実がわかる・・・・・・」

 

 

 

「「「「・・・・・・?」」」」

 

 

 

俺の言っていることがいまいち理解できてなかった四人だったが、とりあえず従ってくれるようで四人それぞれ席を立つと、壺の前までやってきて・・・・・・壷の中の水へと手を入れ込んだ・・・・・・。そして・・・・・・手を入れ込んだ途端、四人の目つきと表情が変わった。

 

 

 

「っ!これは・・・・・・」

 

 

 

「いつものエリス様の水では無い!・・・・・・何の変哲もない、ただの水・・・・・・である」

 

 

 

「リムル様!これは一体っ!?」

 

 

 

「これは・・・・・・エリスの旦那じゃねぇ・・・・・・」

 

 

 

みんなもどうやら壷の中の水の異変に気がついたようだ・・・・・・。あぁ・・・・・・俺も最初の時は今のみんなみたいな顔をしてたな・・・・・・。

 

 

 

「みんなも感じたように、その中にある水は・・・・・・ただの水だ。・・・・・・エリスが依代としていた・・・・・・な?」

 

 

 

「ですがっ!エリス様はいつもこの壺に・・・・・・!」

 

 

 

「・・・・・・もう分かってるんだろ、リグルド、それにみんな?その壷の中に入ったエリスの水が、ただの水へと変貌を遂げてしまったこと・・・・・・それがどう言う意味かを・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

リグルドは何も答えなかったが・・・・・・次第に先程のみんなのように瞳から涙を零し始めた・・・・・・。無論・・・・・・他の三人もだ。

 

 

 

「じゃあ・・・・・・やはりエリス様は・・・・・・」

 

 

 

「信じられねぇ・・・・・・あの旦那が・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

みんなが悲しむ気持ちもわかるが、今回はそれを伝える事が目的ではない為、少し間を置いたらすぐにベニマル達からここで何があったのかを聞く事に決めた俺だった。だが突然響いた・・・・・・一人の”机を強く叩く音”により、その考えは払拭されることとなった・・・・・・。

 

 

 

その机を叩いた張本人は・・・・・・エリスの死を聞かされてから沈黙を貫いていたガビルだった・・・・・・。そのガビルの目は酷く怒りの色を見せていて、その視線を・・・・・・二人・・・・・・エリスの近衛兵でもあったセキガとカレンへと注いでいた。

 

 

 

「貴様ら・・・・・・何故エリス様をお守りせずに、二人のうのうと生きておるのだっ!!貴様ら、エリス様の近衛兵に就く時・・・・・・言っておったな?『エリス様は命をかけてでも守り抜く・・・・・・エリス様を守れるのであれば、この命など惜しくなど無い!』・・・・・・とな。そんな大口を叩いておきながら、主であるエリス様をみすみす死なせて・・・・・・貴様らは生き永らえただと?・・・・・・ふざけるで無いわっ!!そんな大事な任を遂行出来ずして何が近衛兵であるかっ!!我輩は貴様らの力量を見込んであのお方の近衛兵に選んだのだぞっ!それを貴様らは・・・・・・っ!」

 

 

 

普段のガビルからは想像もできないほどの、憤りを見せた様子に、俺たちは動揺しきっていた。・・・・・・無理も無い。ガビルの主はエリスであり、あいつはガビルのことを助けもしてくれた命の恩人でもあるんだからな。そんな奴が死んだとあれば、悲しむのも仕方ないし、護衛を任せていた二人に怒りの矛先が向くのもわかると言うものだ。近衛兵の二人も、自分たちがしてしまったことの重大さに気が付いてる様子で、反論する様子は無かった・・・・・・。

 

 

 

「待って下さいっ!ガビルさん!」

 

 

 

怒りのあまり、二人に掴み掛かろうとしたガビル。流石に止めに入ろうとしたが・・・・・・だが、それは近くにいたシュナが止めに入ったことでそれは回避された。

 

 

 

「退いてくだされシュナ殿!我輩は一度、其奴らを殴らねば気が済まぬのだっ!」

 

 

 

「彼ら二人は・・・・・・最後まで精一杯エリス様をお守りするべく、尽力していました。近衞兵の名にそぐわない程に・・・・・・です。・・・・・・ですが、それでもエリス様をお守りする事ができなかったのは、彼らだけの問題ではありません。・・・・・・わたくし達、重鎮の力不足・・・・・・そして不甲斐なさの問題でもありますから・・・・・・。ですので、どうか二人を責めないであげて下さい・・・・・・エリス様のことをお守り出来ず、何より悲しいのは・・・・・・この二人なのですから・・・・・・」

 

 

 

「「っ・・・・・・」」

 

 

 

シュナのその一言はどうやら的を得ていたようで、その言葉を聞くと同時に、二人は血が滲み出るほどに両手を強く握りしめ、小さく肩を震わせていた。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・すまぬ。我輩としたことが、少々熱くなったようだ・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・ありがとうございます」

 

 

 

ガビルも少し頭が冷えたのか、一言謝罪をしてから席へと戻っていった。

 

 

 

「みんなが悲しみ、憤る気持ちもわかる。・・・・・・俺だっていまだに信じらねーんだからな。・・・・・・だが、まずはここで何があったのかを聞かない限り、何も判断のしようが無い。だからまずは聞かせてくれ。俺が外へ出ている間に何があったのか・・・・・・そして、何故エリスは死んだのか・・・・・・を。・・・・・・エリスのことで悲しむのは、この話し合いを終えてからにしてくれ・・・・・・酷なこと言ってるのは分かってるけどな・・・・・・」

 

 

 

「分かりました。・・・・・・では、お話しします・・・・・・」

 

 

 

 

そこからベニマルから聞かされた内容は・・・・・・あまりにも衝撃的なことだった・・・・・・。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

俺は全てを聞かせてもらった。町に妙な三人組の人間が騒ぎを起こした事・・・・・・その騒ぎに乗じてファルムス王国の騎士達が魔国連邦(テンペスト)を滅ぼそうと攻め寄せてきたこと・・・・・・人質を取られたこと・・・・・・町中に一度、火を放たれたこと・・・・・・その攻めて来た人間、総勢一万人全てをエリスが排除したこと・・・・・・負傷を負い死にかけたシオンをエリスが身を投じて救った事・・・・・・その全てを。

 

 

 

・・・・・・話を聞いて色々と聞きたいことが増えたが、まずこれだけは聞きたかった・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・なぁ、本当にあのエリスが人間を殺したのか?」

 

 

 

俺のこの質問に、みんなは苦い顔を浮かべる。そりゃ、聞きたくもなる。・・・・・・あの虫も殺さないような優しいエリスが殺しを・・・・・・ましてや人間を殺すなんて到底信じられるものでは無かったからだ。

 

 

 

「・・・・・・はい。本当のことです。最初はエリス様は必死に人間達を説得なさっていました。・・・・・・ですが、あの人間達はわたくし達が魔物であると言うだけで敵と認識して、エリス様の言葉になど耳も傾けずに襲いかかって来ました・・・・・・。こうなってしまった以上、もう説得は不可能と察したエリス様は・・・・・・本当はしたくは無いであろう人殺しを・・・・・・わたくし達とこの町を守るがために・・・・・・非常に苦しそうな顔をされながら・・・・・・なされました」

 

 

 

「っ!・・・・・・」

 

 

 

「わしらも加勢しようとしたのですが・・・・・・エリス様から頑なに拒み続けられてしまったため、何もする事ができませんでしたのう。『みんなが人を殺すことは認可出来ない』・・・・・・と。・・・・・・とはいえ、わしらが加勢したとしても、出来たことなどたかが知れてましたがな・・・・・・この妙な結界のせいで、わしらは皆弱っておりましたので・・・・・・・・・・・・面目ありません・・・・・・」

 

 

 

「そんな俺たちを見越してか・・・・・・エリス様は『応援者(コブスルモノ)』をこの町全体に発動させ、俺たちの弱体化を限りなく少なくしてくれました。その甲斐あって、俺たちは速やかに町の住民達の避難や誘導と言った事を遂行する事が出来ました。・・・・・・ですが、それがエリス様にとって、多大なる負担になり、死期を早めてしまったことに間違いありません。・・・・・・もし、仮に俺たちにもっと力があり、そこまでこの結界による影響を受けずにいれば、エリス様にご無理をさせることもなかったと言うのに・・・・・・くそっ!自分達の不甲斐なさに腹が立つ・・・・・・」

 

 

 

「そうか・・・・・・」

 

 

 

何も出来ずに、ただただエリスに頼りっきりになっていた自分に腹が立っている様子のハクロウとベニマルは、歯をギリギリと食いしばりながら顔を歪ませていた。『応援者(コブスルモノ)』は、確かにチート並にすごいスキルだが、それの効果範囲をこの町全体に拡大させたのだとすると、エリスにとってはかなりの負担になったに違い無く、ベニマルの言ったように、それのせいでエリスの魔素が急激に減ってしまったことも、今回のエリスの死に繋がってしまう・・・・・・。

 

 

 

「主様が・・・・・・人を殺すと決めた際、ワタシ達は当然反対をしました。この国で誰よりも人間との共存を望んでいた主様が人間を殺せば・・・・・・間違いなく心にひどい傷を作ってしまうことになり得ましたから・・・・・・。・・・・・・ですが、主様は・・・・・・『みんなを守れるのであれば、そんな心の傷なんて安い物。それに、僕はリムルから国を任された身だ。だから、人を殺す役目は・・・・・・僕が担わなくちゃいけない』と言って譲らず・・・・・・それで仕方がなく・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・あいつは、人殺しの罪をみんなに背負わせたく無かったんだろう。・・・・・・だから、この国での掟を破ってまで、自らの手を汚すことを決め・・・・・・一人でその罪を背負おうと決めたんだろうな・・・・・・自分の心を押し殺してまで・・・・・・。人殺しなんて・・・・・・絶対にやりたくなんて無かっただろうに・・・・・・本当にあいつは・・・・・・」

 

 

 

エリスは、最後までエリスだった・・・・・・。家族とも呼べるみんなを大切に思い、みんなとこの町を守る為に一人で頑張ってくれてたんだ・・・・・・。この町がそこまで壊れていなかったのは、おそらくエリスのおかげだろう・・・・・・。本当にあいつはすごい奴だ・・・・・・だが。

 

 

 

「本当にそうです・・・・・・ですが・・・・・・まさか・・・・・・亡くなられるとは・・・・・・未だに俺には信じられません・・・・・・」

 

 

 

「それはみんな思ってることだ。あいつが死ぬなんて・・・・・・信じたくなんてないさ・・・・・・。だが、これは現実なんだ・・・・・・辛いだろうが、受け入れろ・・・・・・みんなもだ」

 

 

 

みんなには敢えてこう言った厳しいことを言ってる俺だが、そう言ってる自分が一番、この現実を受け入れたいと思っていなかった・・・・・・。エリスが・・・・・・親友が死んだんだ・・・・・・。そう簡単に受け入れられるはずなんて・・・・・・ない。

 

 

 

「シュナ、シオンはまだ目を覚さないか?」

 

 

 

「はい。ですが、呼吸は安定してますので、明日には目を覚ますかと・・・・・・」

 

 

 

「それなら良かった。あいつ(エリス)が命をかけて助けたシオンまでが居なくなったら・・・・・・それこそ俺たちは立ち直れなくなっちまうからな・・・・・・」

 

 

 

「そうですね・・・・・・エリス様が治療をしなければ、今頃シオンは・・・・・・いえ、何でもありません」

 

 

 

幸いにも、瀕死の状態だったと言うシオンはどうにか一命を取り留めた様子で、俺はほっと息をつく。もし、エリスの処置が少しでも遅れていたらシオンは助からなかったらしい。それについてはエリスに感謝しか無いが、その処置のせいで自身が代わりに死んでしまっては本末転倒だ。例え・・・・・・それしか手がなかったとしてもな?

 

 

・・・・・・話を聞く限り、シオンをあそこまでの瀕死の状態へと追い込んだのは最初の人間三人組のようだ。・・・・・・そいつらに至っては当然許すつもりは無いし、ちゃんと落とし前をつけてもらうが・・・・・・それよりも許せないのは、今回攻め寄せてきた”ファルムス王国の人間達”だ。何の理由も無しに襲いかかって来て、国を滅茶苦茶にしようとし・・・・・・エリスを死に追い込みやがって・・・・・・。

 

 

 

「ファルムス王国・・・・・・何の目的があってこんなことを・・・・・・許せねーな・・・・・・」

 

 

 

「それは俺たちも同じ気持ちです。人間と共存をすると言う我らの夢を踏み躙り・・・・・・エリス様の命を奪ったあの人間どもを許す事など・・・・・・できるわけもありません!」

 

 

 

何の目的があったのかは知らないが、少なくともこちらは、ファルムス王国に攻撃を加えられるような真似をした覚えはない。もしかしたら、無自覚に何かをしていた可能性もあるが、だからと言ってここまでする必要は無い筈だ。・・・・・・だからこそ許せねーんだ、あの国(ファルムス王国)を。その意味の分からない襲撃のせいで、こっちは大切な家族を・・・・・・親友を失ったんだからな。

 

 

 

 

「もし、少しよろしいですかな?」

 

 

 

「・・・・・・ん?誰だ・・・・・・って、お前は確かイングラシアで会った商人の・・・・・・」

 

 

 

俺やみんながファルムス王国に対して、憤りを見せている中、会議室に一人の男が入ってきた。入口の方へ視線を向けてみると、そこに居たのは・・・・・・俺がイングラシア国で会った、ブルムンド国の商人のミョルマイルだった。・・・・・・何でこいつがこの場にいるんだ?

 

 

 

「お久しぶりですな、リムル様。イングラシアで会った以来で・・・・・・」

 

 

 

「ああ。その節では世話になったな。・・・・・・で、今回はどんな用件だ?すまないが、商売の件についてはまた今度の機会にしてくれ・・・・・・今はとても、そんな気分じゃ無いんだ・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・いえ、今回はこの会議に参加するべく参上仕りました。今回の件について、ワシなりに色々と見解を立てて来ましたので、良ければ参考までに聞いては貰えませぬか?もしかすれば、ファルムス王国のこの襲撃を起こした意図も掴めるやも知れませんぞ?」

 

 

 

「・・・・・・助かるよ。そう言う事ならぜひ参加してくれ・・・・・・」

 

 

 

 

・・・・・・そんなわけで、急遽ミョルマイルも加わえ、会議を再開する事にした俺は早速ミョルマイルにその見解とやらの発表を促す事にするのだった。

 

 

 

 

会議は・・・・・・まだまだ終わりそうに無かった・・・・・・。




ガビルが怒る姿なんて殆ど見かけませんでしたが・・・・・・流石に自分の主人を殺されては怒るのは至極当然ですね。・・・・・・それが近衛兵のセキガとカレンに向けられているのは・・・・・・どうかと思いましたけどね?


次回も、会議の模様をお伝えします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

驕りと後悔

この暗い展開・・・・・・書いていて辛いですね・・・・・・。


ミョルマイルの考えはこうだった。ファルムス王国は元々、西側諸国にとってドワーフ王国(ドワルゴン王国)との取引ができる唯一の国として有名で、その甲斐もあって潤っていた国であったらしい。だが、この魔国連邦(テンペスト)が興って以来、その取引がファルムス王国だけでなく、魔国連邦(テンペスト)にもなされるようになった事から、ファルムス王国から嫌な顔をされるようになり、おまけにその取引の競合相手が魔物の国ということにも納得が出来なかったのか、反感を買ってしまった可能性があったようだ。

 

 

確かにここは交易路も安全で税も安い。各国へ繋がる街道だって数多く作ったし、交易をする上ではこれほど良い環境は無かった。元々、ジュラの大森林は危険地帯として恐れられていたが、街道を作って、物資を運搬するのに必要な安全性が保証されれば、流通に至って、この世界に大きな改革をもたらすほどとされている。

 

 

そんなとこが、競合相手として突如現れたんだ。元々、ドワルゴンと取引をしていて潤っていたファルムス王国がいい顔をしないのは至極当たり前のことだろう。

 

 

 

・・・・・・まぁ、それと今回の襲撃については別の話だがな?

 

 

 

 

 

「・・・・・・とまあ、ワシからは以上です。・・・・・・?そういえば、エリス様は・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

何も知らないミョルマイルは、この場にいないエリスの所在を聞いてくる。・・・・・・さっき来たばっかなんだし、知らないのも無理ないと思ってるが・・・・・・何度も何度も、”これ”を口にしたく無かった俺は、苦い顔を浮かべる。

 

 

 

「ああ・・・・・・あんたには話して無かったな。・・・・・・エリスは・・・・・・”死んだよ”・・・・・・。そのファルムス王国の襲撃からみんなとこの町を守った代償でな・・・・・・」

 

 

 

「っ!!ま、まさか・・・・・・あのエリス様が・・・・・・」

 

 

 

ミョルマイルもこれには相当驚いたようで、目を白黒とさせながらあたふたとしていた。

 

 

 

「信じられないだろうが、事実だ。・・・・・・これで、俺たちが何で”こんな状態”だったのか納得出来るだろ?俺たちはそのファルムス王国のせいで、俺たちにとって何より大事な奴を失ったんだからな。・・・・・・正直言って、俺は今すぐにでもこんな襲撃を仕掛けてくれたファルムス王国に殴り込んでやりたい。・・・・・・それだけ俺は・・・・・・俺たちは・・・・・・怒ってるからな」

 

 

 

俺のその言葉に同調するかのように、みんなは首を静かに縦に振る。その表情には、明らかに怒気が滲んでいた。

 

 

 

「そのお怒り・・・・・・お察ししますぞ。ワシも流石にこれには納得しかねます。・・・・・・もし、ファルムス王国を撃つご決断をされるのであれば、ワシら商人や冒険者達も協力を惜しみませぬ。もし何か取り入れて欲しいもの等があれば、いつでもお申し付けくださいませ」

 

 

 

「ああ。ありがとうな、ミョルマイル。だが、今回は大丈夫だ。この件については俺たちがカタをつける。だから、今回はもう帰還してくれて構わない。もし、他に何かあればちゃんと連絡はするから、その時はちゃんと手を貸してくれ」

 

 

 

「そうですか・・・・・・わかりました。では・・・・・・ワシはこれにて・・・・・・」

 

 

 

ミョルマイルは、その言葉を最後に会議室を出て行った。俺がミョルマイルの申し出を断ったのは、単に彼らを巻き込みたく無かったからだ。彼らまで巻き込んで万が一怪我でもされたら、それこそ俺たち魔国連邦(テンペスト)の凶行だって宣伝されかねないからな。・・・・・・それだけは何としても防ぎたかったんだ。

 

 

・・・・・・それに、これは俺たちの問題だ。彼らは関係ない・・・・・・。

 

 

 

「リムル様・・・・・・これからどう為されるおつもりですか?先程おっしゃられていた様に、ファルムス王国に殴り込みを?」

 

 

 

ベニマルが、顔を歪ませつつ、そう質問をしてくる。

 

 

 

「今すぐにでもそうしたいとこだが、今この国は人間達の襲撃によって混乱してる。そんな状況の中で俺がまた外に出るわけにはいかない。今はとりあえず、国を落ち着かせることに集中しようと思ってる」

 

 

 

「そうですか・・・・・・でしたら俺は警備隊を編成して住民達の警護を始めるとともに、一部の警備隊をソウエイ達と合流させるよう手配をしておきます」

 

 

 

「ああ、それで頼む・・・・・・」

 

 

 

「あの、リムル様?」

 

 

 

「ん?どうした、リグルド?」

 

 

 

何処か心配そうな顔をしながら、リグルドは視線をこちらに向けていた。何やらある様だが、これ以上まだ何かあるのか?

 

 

 

「住民の皆には・・・・・・伝えますか?・・・・・・エリス様の・・・・・・死を」

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

・・・・・・そうだった。その問題が残っていた。確かに・・・・・・いつかは伝えないといけないもんな。『エリスは病に侵されて寝込んでいる』と嘘をつくことも考えたが、そんな嘘など数日でバレてしまうことは明白だ。あいつはほぼ毎日町中を出歩き、住民のみんなや訪れてくる客人達と交流を深めていたからな。そんな奴が急に姿を消したとすれば、住民達はきっと不審に思い、俺たちに問い詰めてくるはずだからな。・・・・・・ちゃんと伝えるしか道は無い。

 

 

 

十中八九・・・・・・いや、ほぼ100%住民達はその事実を知ったら悲しみに暮れることだろう。あいつは・・・・・・その人間性もあってみんなから慕われていたし、俺がいない間はみんなを引っ張るリーダー的な存在でもあったんだ。そんな奴が死んだとあれば・・・・・・そうなることは容易に想像がつく・・・・・・。

 

 

 

 

「俺の方から、後で伝える。・・・・・・だから、お前達は何も口にするな。・・・・・・いいな?」

 

 

 

「「「「「・・・・・・はっ」」」」」

 

 

 

「じゃあ・・・・・・今日はもう、疲れてるだろうから帰って休んでくれ。この話についてはまた明日に話す事にする。・・・・・・俺は、先に失礼させてもらうな」

 

 

 

「・・・・・・はい」

 

 

 

ようやくみんなを解散させた俺は、執務館を出ると・・・・・・俺の家に向かう事はせず・・・・・・エリスの家へと向かった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

”エリスの壺”と、”剣”を持ちながら・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・エリスがいないこの家に来るっていうのも・・・・・・なんか新鮮だな・・・・・・」

 

 

 

しんと静まる和式の部屋内に、俺の小さな呟きが響く。会議を終え、エリスの家へ直行した俺は、あいつが大事にしていた剣を剣置きに、あいつが寝床としていて・・・・・・今はただの水しか入っていない壺をその隣に置き、そのまま俺はその場に腰を下ろしていた。

 

 

 

「・・・・・・お前のおかげで、俺は命を助けられ、みんなやこの町は、お前の尽力のおかげで誰一人として欠ける事も無かった・・・・・・」

 

 

 

首に掛けた(今は割れてしまっている)雫のペンダントを手に取りながら、今は亡きエリスに対し・・・・・・そう口にする俺。やっぱり、まだ俺はエリスの死を受け入れることが出来ずにいるんだろう・・・・・・。はは・・・・・・本人がこんな時ひょっこり現れて『ドッキリだよ!』みたいな感じで茶化しに来てくれたら、そんだけ嬉しい事はないはずなんだが・・・・・・。

 

 

 

「そんな夢みたいな話、ある訳ないか。あいつは・・・・・・死んだんだ・・・・・・もう、会うことは出来ない・・・・・・」

 

 

 

もうエリスとは会えない・・・・・・。そう考えると途端に悲しくなってくる・・・・・・。だが、俺の瞳から涙が出ることは無かった・・・・・・親友が死んで、本来なら号泣をしてもおかしくないこの状況でだ。・・・・・・あぁ、そうか・・・・・・。

 

 

 

「俺は・・・・・・もう、心から魔物になっちまったんだな・・・・・・」

 

 

 

親友の死に泣く事さえ出来ない・・・・・・。その事実に俺の悲しみは深まるばかりだった・・・・・・。

 

 

 

「なぁ・・・・・・どうすれば、エリスは死なずに済んだんだろうな?」

 

 

 

〈告。回答不能・・・・・・〉

 

 

 

「俺が人間と関わりたいだなんて言わなければ・・・・・・こんな事にはならなかったのか?」

 

 

 

〈告。回答不能・・・・・・〉

 

 

 

「どうして・・・・・・こうなっちまったんだろうな・・・・・・」

 

 

 

〈告。回答不能・・・・・・〉

 

 

 

俺の問いかけには、誰も答えることは無い。・・・・・・誰もいないんだし、当たり前か・・・・・・。一応、大賢者が応答して来れてるが、さっきから同じ答えしか返ってこない・・・・・・。

 

 

 

 

「俺のせいだよな・・・・・・。俺があいつにこの国のこと全てを押し付けて、無理をさせたせいであいつは・・・・・・死んだんだ。俺が・・・・・・『みんなのことを任せる』だなんて言ったせいであいつは責任を感じて、たった一人でその言葉通り、みんなの事を守ったんだ・・・・・・自分の命を顧みずに・・・・・・」

 

 

 

俺が言ったその一言が、エリスの死に直結しているかもしれないという事実に、俺はさらに気を落としていた。

 

 

 

「責任感が強い奴だってことは、分かっていた。俺との約束ならあいつが破ることなんて絶対に無い。どんなことがあってもだ・・・・・・。それはわかっていた・・・・・・なのに、なんで俺はあの時・・・・・・いや、その理由は想像がついてる・・・・・・」

 

 

 

あの時(俺が一度魔国連邦(テンペスト)に顔を出しに言った時)、本来であれば、一旦は魔国連邦(テンペスト)に留まり、エリスやみんなと共に国作りや国交に励むべき時だった。・・・・・・だが、あの時の俺は国のことはエリスや他のみんなに任せ、自分の私用を済ませるべく、イングラシアへと戻ってしまった。正直、国主としてあるまじき行為だと思っているが、何故そんなことを平気で出来たのか?

 

 

 

・・・・・・答えは簡単だった。

 

 

 

「俺は・・・・・・心のどこかで驕っていたんだ。『俺が居なくとも、エリスさえいれば魔国連邦(テンペスト)は問題ない』、『エリスであれば俺の代わりにみんなのことを守ってくれる』・・・・・・と。だから俺は・・・・・・国の留守をエリスに任せたんだ・・・・・・あいつなら何も心配はいらないって思ってたからな・・・・・・」

 

 

 

思えば、ここに駆けつける時も、俺は確かに急いではいたが、本気で駆けていた訳ではなかった。心配ではあったもののやっぱり心の中では『エリスがいるから大丈夫』『エリスならきっと上手くやってくれるはず』・・・・・・そう思い、信じていたため、どうしても本気で駆ける気になれなかったんだ・・・・・・。もし、最初から全力でこの場に戻ってきていれば、何か結果が違ったかもしれないっていうのに・・・・・・あの驕っていた時の俺をぶん殴ってやりたい・・・・・・!

 

 

 

「俺の驕りのせいで・・・・・・エリスに過度の負担をかける事になり、挙げ句の果てには、俺との約束のせいであいつが絶対にしたくなかっただろう人殺しまでさせて、その罪をひとり抱え込ませたまま・・・・・・死なせてしまった・・・・・・。これじゃあ・・・・・・俺が殺したのとほとんど変わらないじゃないか・・・・・・。あいつの事を何より分かっていたのは・・・・・・俺のはずなのに・・・・・・」

 

 

 

歯を食いしばりつつ、頭を掻きむしる俺。エリスは確かに、腕っぷしも強いし、社交性豊かな性格をしている為、みんなからの信頼も厚い。それに加えて国の管理や交易関係の仕事も難なくこなせるほどに仕事も出来る。まさに完璧な奴だった。

 

 

・・・・・・だが、それは表の顔だ。本当のあいつは・・・・・・超がつくほどの努力家で・・・・・・町の住民達がちょっとした怪我や病気を引き起こしただけで、簡単に崩れてしまう脆いメンタルの持ち主なんだ・・・・・・。以前、あいつが開いた『エリス診察院』に行った時だって、あいつはみんなの治療を笑顔を浮かべながら喜んで引き受けていたが、それと同時に瞬時に見せる”深く悲しい顔”がいまだに頭から離れずにいた。もし、仮にこの町の誰か一人でも犠牲が出ていたとすれば、きっとあいつは・・・・・・酷く悲しんでいただろうな・・・・・・。

 

 

 

・・・・・・あいつは優しすぎるんだ。異常なほどにな・・・・・・。その優しさ故に、自分のことなど二の次とし、第一に他人のことを考えてしまう・・・・・・。今回、あいつが死んだのも・・・・・・自分のことを棚に置き、この町や住民達を守る事に全ての力を費やしたからだろう・・・・・・。以前から、あいつの優しさが異常だということは理解していたつもりだったが・・・・・・まさか、その優しさが自分の首を絞める事となるなんてな・・・・・・。

 

 

 

・・・・・・それが分かっていた筈だったのに・・・・・・俺はそれを無視して・・・・・・自分勝手な事ばかり・・・・・・。・・・・・・何が、国主だよ。国の守護を他人に任せる様な奴が・・・・・・大事な親友一人も守れないような奴が・・・・・・よくもまぁ・・・・・・国主なんて名乗れるもんだよ・・・・・・全く。

 

 

 

「エリス・・・・・・すまない・・・・・・俺のせいで・・・・・・」

 

 

 

謝ったところでエリスが帰ってくる筈もない。依然として、この場はしんと静まり返ったままだ・・・・・・。この静けさが、俺の心を余計に掻き乱していくのを実感していた。

 

 

 

「リムルさんっ!」

 

 

 

そんな静まり返ったこの場に・・・・・・凛とした一つの声が響き渡る。その声の主は・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・エレン?」

 

 

 

どこか真剣身を帯びた表情をしながら、俺のことを見つめていたエレンだった・・・・・・。




リムル・・・・・・頼む・・・・・・エリスを救ってくれっ!


次回で、いよいよリムルは決断を下します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

御伽噺

ようやくリムルが動き出します。この鬱シーンももう時期終焉かな?


「・・・・・・エレン?それに、カバルにギドも・・・・・・来てくれたのか」

 

 

 

ブルムンド国からわざわざ来てくれたエレン達に対し、俺は特に振り返ることもなくそう呟く。今の俺は・・・・・・多分かなりひどい顔をしているからな・・・・・・あまり顔を見せたくなかったんだ・・・・・・。

 

 

 

「聞いたよ?この国がファルムス王国による襲撃を受けたって・・・・・・」

 

 

 

「そうか。・・・・・・じゃあ、エリスのことも・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・ああ、全部シュナさんから聞かせて貰った。・・・・・・あの旦那がまさか、死ぬなんて・・・・・・あんな良い人が何で・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・全くでやす」

 

 

 

そう言うこの三人は、深く悲しい顔をしていた。エレンに至っては、すでに涙をポロポロと零しているほどだ。こいつらも、普段から色々とエリスには世話になっていたしな・・・・・・。

 

 

 

「エリスが死んだのは、ファルムス王国のせいでもあるが・・・・・・それと同時に俺のせいでもあるんだ・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・どう言うこと?」

 

 

 

「俺は、イングラシアに行く前に一つ・・・・・・エリスと約束を交わしていたんだ。『みんなのことを任せる』って言うな?俺は正直、その約束は軽い気持ちで交わしたつもりだったんだが・・・・・・エリスは違った。エリスはその俺との約束を重く受け止めていたらしく、そのせいであいつはやたらと責任感を強く持つ様になってしまったんだ。『・・・・・・何が何でも、俺の代わりにみんなを守る』・・・・・・みたいに」

 

 

 

 

「「「・・・・・・」」」

 

 

 

「今回の襲撃では、おそらくその気持ちが全面的に現れてしまったんだろうな・・・・・・。自分の命など顧みないで・・・・・・住民や町の安全を守るためにたった一人で奮闘して・・・・・・。ただ、俺との約束を守るがために・・・・・・あいつは命を張ってここを守ってくれたんだ・・・・・・。・・・・・・己の命と引き換えにな?」

 

 

 

「「「・・・・・・」」」

 

 

 

「俺があの時、エリスとそんな約束をしなければ、きっとあいつは死なずに済んだかもしれないんだ・・・・・・。いや、あいつの事だから、そんな約束してなくても同じ様なことをしてたかもしれないが、少なくとも命までは失わなかったはずだ・・・・・・。だから・・・・・・エリスを失った責任は俺にもある・・・・・・すまなかったな?」

 

 

 

エリスの死は俺にも責任はある・・・・・・。このケジメはもちろん付けるつもりだが、今は・・・・・・俺には謝ることしかできなかった。

 

 

 

「リムルさん・・・・・・今日、私たちがここに来たのはね?・・・・・・あることを伝えるために来たの」

 

 

 

「・・・・・・あること?」

 

 

 

「うん。可能性はほとんど無いに等しいんだけどね?・・・・・・でも、あるのよ。”死者が蘇生した”っていう御伽噺が・・・・・・」

 

 

 

「っ!」

 

 

 

”死者の蘇生”・・・・・・その言葉に俺の体は反応する。御伽噺でしかなく、作り話としか思えないその話は到底信じられるものでは無かった。・・・・・・だが、もしも・・・・・・本当にその”死者の蘇生”が可能であることが分かれば・・・・・・。

 

 

 

「(また・・・・・・エリスと一緒に暮らせる?また・・・・・・エリスに会うことが出来る?)」

 

 

 

可能性がゼロに等しい事は間違いない。死者の蘇生というのはそれ程のことなんだ。夢物語もいいとこだ。・・・・・・だが、少しでも可能性があるなら、俺はそれに賭けてみたい・・・・・・。俺は・・・・・・絶対に失いたく無いんだ!エリスを!大切な親友を!

 

 

 

「エレン、その話を詳しく聞かせてくれ」

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

 

俺はエレンから、死者の蘇生にまつわる御伽噺の全てを聞かせてもらった。

 

 

幼い竜皇女と子竜の出会い・・・・・・仲良くしていたその子竜を、ある魔法大国が手にかけ、それに竜皇女がブチギレた事・・・・・・その怒りが元で竜皇女は復讐として、魔法大国の人間数十万人を虐殺し、魔王へと開花した事・・・・・・死んだはずの子竜が竜皇女の魔王化と共に生き返った事・・・・・・生き返ったその子竜は魂を失ったことで混沌竜(カオスドラゴン)に変貌を遂げてしまい、もう竜皇女の知る子竜では無くなってしまった事・・・・・・破壊の限りを尽くすその友だった子竜を、竜皇女が自らの手で封印をした事・・・・・・その全てを。

 

 

この御伽噺は、”魔導王朝サリオン”に伝わる物のようで、エレンの話だと、この御伽噺はサリオンの中でも限られた人でしか知りうることが出来ない様な話らしい。・・・・・・エレンって実は結構すごい奴だったりするのか?

 

 

 

「その話通りであるなら、俺が魔王にでもなりさえすれば、エリスは生き返るって事になる。だが、それだとその御伽噺の二番煎じにしかならない。生き返ったとしても、それでエリスがエリスじゃ無くなってしまうのであれば意味がないんだ・・・・・・」

 

 

 

そうだ・・・・・・。たとえ生き返ったとしても、エリスがその御伽噺の子竜のように魂を失って、全くの別人の様になって仕舞えば俺が魔王になっても意味が無い。もし、エリスがその子竜のように破壊の限りを尽くすような暴君へと成り下がってしまった時には・・・・・・俺が直々に息の根を止めなくてはいけなくなる・・・・・・。それは絶対に嫌だった・・・・・・俺自らの手で、エリスを殺すなんて、出来るはず無いんだからな・・・・・・。

 

 

 

「もしかしたら何だけど・・・・・・今、魔国連邦(テンペスト)は二重の結界に覆われているでしょう?その結界が魂の拡散を邪魔している可能性があるから、もしかしたら・・・・・・エリスさんの魂もきっとまだ・・・・・・」

 

 

 

「(・・・・・・大賢者、どうなんだ?)」

 

 

 

〈解。本来、絶命した者達の魂は拡散し、やがて消滅をしますが、二種の結界によりそれは阻まれているため、魂が残存している可能性はあります。その可能性・・・・・・”3.14%”〉

 

 

 

円周率かよっ!?とツッコミたくなったが・・・・・・それと同時に小さいが、希望を見出せた俺は、どこか心がスッとしていた。

 

 

 

「(エリスを蘇生できる可能性が3%以上もある。それだけ可能性があれば十分だ。俺が魔王になる事になっちまうが、そんなのどうでも良い・・・・・・エリスが蘇ってくれるのであれば、俺は魔王でも何にでもなってやるさ!)」

 

 

 

俺にもう、迷いは無かった。俺はエリスを生き返らせるために魔王になる。これは決定事項だ。もう誰に何を言われようとも、この決断を覆す事はしない。

 

 

 

「エレン、教えてくれて感謝するよ。でも良いのかよ?仮にもその話を知る数少ない奴だって言うのに、俺にこんな提案をして・・・・・・俺に魔王になれって言ってる様な物だぞ?」

 

 

 

「いいの。私たちだって・・・・・・エリスさんには生き返って貰いたいしね。でも、もしリムルさんが魔王になれば、きっと私が関与していると言うことはすぐにバレちゃうと思うの。そうなればきっと私は国に連れ戻されるわ・・・・・・”そう言う”家系の出身だからね」

 

 

 

「お前・・・・・・実は結構、お偉いさんなんだろ?礼儀作法や佇まいとかを見ても、ただの一介の冒険者には見えなかったし・・・・・・」

 

 

 

エレンへの違和感は前からずっとあった。冒険者とは思えないほどに綺麗で清楚な顔立ち、ただ冒険者をしているだけでは絶対に身につけることなど出来ない礼儀作法、マナー、それらを兼ね備えていた彼女は、とてもただの冒険者の様には見えなかったんだ。

 

 

 

「うん。隠していてごめんね?・・・・・・私の本当の名はエリューン・グリムワルト。サリオンの王家に連なる家系なんだぁ・・・・・・」

 

 

 

エレンは少し申し訳なさそうに、髪に隠していたその()()()()を露わにさせる。まぁ、サリオンはエルフの王国だもんな・・・・・・そこ出身であるならエレンもエルフであるのは当然か。

 

 

 

「別に気にしちゃいない。・・・・・・ってなると、カバル達は・・・・・・」

 

 

 

「俺たちはエレンの護衛で付き添ってるんだ。冒険者を夢見て国から出てきたお嬢様の面倒見を兼ねてな?」

 

 

 

「姐さんはどこか危なっかしいとこもあるっすからね〜」

 

 

 

「どう言う意味よぉ!それって!」

 

 

 

さっきの深刻そうな様子が嘘のように、いつものようにコントを繰り広げる三人にどこかほっとする俺だった。・・・・・・こいつらは、その見た目通り本当の意味での『仲間』なんだな・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

エレン達は、しばらくの間この町に留まると言う事に決め、宿へと帰っていった。と言うのも、さっきエレンが言ったように俺が魔王になれば、エレンがその情報を漏らしたと気づかれる事となり、国へと連行されることになるそうだ。だから、それまでの間はこの町に留まりたいとの事だったため、俺は快く了承をしたわけだ。確かに魔王の誕生に加担したとされれば、エレンの国での立場は厳しいものになることは間違い無い。そのリスクを冒してでも、あいつは俺にこの情報を届けてくれたんだ・・・・・・あいつの想いに応える為にも・・・・・・絶対に魔王になって、エリスを蘇らせないとな・・・・・・。

 

 

 

〈告。主人(マスター)は既に豚頭魔王(オークディザスター)を捕食した時点で魔王種の称号を獲得している状態である為、条件を満たせば真なる魔王へと覚醒することが可能です。〉

 

 

 

「(魔王種?何だそれ?)」

 

 

 

魔王種と言うよく分からない単語が大賢者の口から出たことに俺は疑問を覚える。大賢者の話だと、”魔王種”と言うのは魔素量や保有スキルが真なる魔王へと覚醒するに足るか否かを指し示す称号の事を言っているらしい。その称号をすでに持っている俺は、その条件とやらをクリアすれば魔王へと覚醒できるらしい。その条件がどんなのによるがな・・・・・・。

 

 

 

「(その条件って?)」

 

 

 

〈解。御伽噺から推測するに、種を発芽させるには養分が必要となります。その生け贄(ようぶん)となるのは”人間の魂”。魔王への開花に必要な人間の魂は推測からして、”一万名分以上”が必要になります。〉

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

その条件とやらを聞いた俺は、言葉を無くした。つまりは・・・・・・魔王になるには俺自身が一万人以上の人間達を殺さなくてはいけないという事だ。いずれは共存を望んでいたあの人間達をだ・・・・・・。だが・・・・・・。

 

 

 

「(いずれは攻めに行こうって考えてた訳だし、ちょうど良いのかもな。・・・・・・それに、ここで俺が人間を殺すことを渋れば、エリスは蘇ることも無いし・・・・・・何より、人間を殺したという罪をあいつ一人に背負わせる事となってしまう・・・・・・。そんなこと、絶対にさせてやるもんかよ・・・・・・エリス・・・・・・お前が背負った罪・・・・・・俺にも背負わせてもらうからな?)」

 

 

 

あのエリスも、苦渋の決断で一万人以上の人間達を殺したんだ・・・・・・みんなと国を守るために。だったら俺は、エリスを生き返らせるために一万人以上の人間達を殺して魔王になってやる・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・迷いは吹っ切れた。なら早いとこ準備を・・・・・・って、ん?」

 

 

 

決意を固めた俺は、準備に取り掛かろうとした。その時、俺の粘綱糸が反応を見せた。

 

 

 

『リムル様!』

 

 

 

「ソウエイか。すまないな、中々連絡出来なくって」

 

 

 

『いえ、ご無事であるなら何よりです』

 

 

 

結界の外からこの結界を張っている人物達の捜索に取り掛かっていたソウエイから粘綱糸を通して連絡が入った。魔法不能領域(アンチマジックエリア)では思念伝達は阻害されてしまう為、粘綱糸を電話線がわりに俺とソウエイを繋いでおいた事もあって、こうして結界の中でも思念伝達で連絡のやりとりが出来ているんだ。

 

 

 

「で、どうだ?見つけたか?」

 

 

 

『はっ。町の四方に西方聖教会の騎士の集団が陣取っています。一ヶ所につき、規模は中隊程度でその傍に”魔法装置”の様なものが置かれていることを確認しました。おそらく、その装置が結界を作り出しているものかと・・・・・・』

 

 

 

「そうか。今はまだ動くな。相手は未知数だからな・・・・・・俺が指示を出すまでは町の周囲の警戒を続けてくれ」

 

 

 

『はっ。それと、先ほどトレイニー殿から連絡が入り、ファルムス王国と西方聖教会の連合軍が我らの領土へと進行中との事です。数はおよそ、”二万”に上ると・・・・・・』

 

 

 

「エリスに一万の兵を殺されて尚攻めてくるなんて・・・・・・いい度胸だ。俺がその命・・・・・・全て狩り尽くしてやる・・・・・・」

 

 

 

二万もいれば、俺が魔王になる生け贄(ようぶん)としては十分だ。その事実に俺の口角は不意に上がっていく。

 

 

 

「ソウエイ・・・・・・一ついいか?」

 

 

 

『はっ?まだ何か?』

 

 

 

任務の支障になるかも知れないから、言わないでおこうと思っていたが、やはり他のみんなが知ったことをソウエイにだけ伝えないという訳にはいかないからな・・・・・・。ソウエイの心が、あまり乱れないことを願うしかない。

 

 

 

「エリスが・・・・・・死んだ」

 

 

 

『っ!!まさか・・・・・・そんな・・・・・・』

 

 

 

「信じられないのも無理ないが、事実だ」

 

 

 

やはり、流石のソウエイでも心の動揺は隠せなかったようだ。・・・・・・いきなりそんな衝撃的なことを言われたら・・・・・・そういう反応になるよな・・・・・・。

 

 

 

「だが心配するな。俺が魔王になって、絶対にあいつを蘇らせてみせるからな。・・・・・・随分とぶっ飛んだ発言だが、可能性はあるんだ。・・・・・・だから、今は信じて待っていて欲しい。・・・・・・頼む」

 

 

 

『・・・・・・御意。どうか・・・・・・お願いします』

 

 

 

その言葉を最後に通信が途切れた。とりあえず、結界を張っている奴らの場所の特定はできた。後はそいつらをいつ仕留めに行くかだが・・・・・・今はそれはおいておく事にし、俺は一旦エリスの家の外に出た。

 

 

 

外に出た俺は、先ほど大賢者が魔法不能領域(アンチマジックエリア)を解析鑑定した際に獲得することが出来た、”もう一つの結界”をこの魔国連邦(テンペスト)に張った。結界を張った理由としては、結界を三重にする事でさらにエリスの魂の拡散を防ぐ為だった。二重だと、どうにも不安だったからな。この結界は魔法不能領域(アンチマジックエリア)の効力を少し改変したような物であり、魔法を阻害するといった効果は持ち合わせていないから、俺たちに何かしらの影響を及ぼす事はない。

 

 

 

突然張られた新たなる結界に驚いたのか、ベニマルやリグルドが慌てて俺の元に駆けつけてきたが、『俺が張った』と言えば、二人は納得して安堵の表情を浮かべた。

 

 

 

「リグルド。日が昇ったらみんなを会議室に集めておいてくれ。今後の人間に対する振る舞いについて議論するのと・・・・・・エリスの蘇生について話しておくべきことがあるから」

 

 

 

「っ!・・・・・・はっ、お任せください!」

 

 

 

思ったよりもあっさりと引き受けてくれたリグルドに俺はどこか拍子抜けしてしまう。普通、人を蘇らせるなんて言ったら、『頭がおかしくなった』とか、『冗談はやめてください!』と言った感じで心配、もしくは怒られると思ってたんだがな?

 

 

 

「ある程度は俺たちも予想していましたからね。リムル様ならばきっと・・・・・・エリス様を蘇らせることができる・・・・・・と」

 

 

 

「ふっ・・・・・・そうか。なら、俺はそのお前達の気持ちにしっかりと応えなくちゃな。ベニマル、明朝にミュウランの事情聴取と彼女に対する処遇を行う予定だから、お前も付き合ってくれ」

 

 

 

「はっ・・・・・・」

 

 

 

みんなもエリスの蘇生を望んでいる。なら俺は、そのみんなの願いに応えるために尽力するだけのことだった。

 

 

 

絶対に生き返らせてみせるからな?・・・・・・エリス。

 

 

 

俺が決意を固めると同時に・・・・・・眩い光を放つ朝日が・・・・・・魔国連邦(テンペスト)を照らした。その光はどこか暖かく心地が良く・・・・・・俺の心を癒してくれるかのようだった・・・・・・。

 

 

 

 

そして、先ほどまで空を覆っていた厚く、どんよりした雲は姿を消し・・・・・・青く澄んだ青天の空が姿を露わにしていた・・・・・・。




次回はミュウランとリムルが接触します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

容疑者の処遇

そろそろこの鬱展開ともおさらばしたいです。





「さて、これからお前の処遇を決めさせて貰う。まずは名を名乗ってくれ」

 

 

 

日が昇り、朝を迎えたことを確認した俺は、ベニマルを引き連れ、この魔法不能領域(アンチマジックエリア)を張った張本人であるミュウランを問い詰めるため、彼女を軟禁している宿へと赴いていた。軟禁をしている部屋の中には、ミュウランの他にヨウムとグルーシスの姿もあったが、特に居ても問題は無かったため、気に留めなかった。

 

 

 

「はい。私の名はミュウラン。魔王クレイマンの配下で、五本指の薬指と呼ばれている者です」

 

 

 

「(クレイマン・・・・・・確かミリムの話じゃ、豚頭帝(オークロード)計画に関わっていた魔王の一柱らしいが・・・・・・)続けてくれ」

 

 

 

「私に与えられた任務は魔国連邦(テンペスト)の内偵でした。・・・・・・ですので、ヨウムを利用してこの町に潜入したのです」

 

 

 

視線を隣に立つヨウムに移しつつそう口にするミュウランは、何処か悲しげな雰囲気を醸し出していた。そして、そこから彼女から『何故この様な行為に及んだのか?』・・・・・・その全てを聞き出した。

 

 

ざっくり説明すると、彼女はクレイマンに利用されているに過ぎなかった。何でも、クレイマンは人形傀儡師(マリオネットマスター)と言う二つ名で知られていて、その名の通り、配下を操り人形のように操ることを得意としている魔王らしい。その為、魔国連邦(テンペスト)の内偵を終え、魔法不能領域(アンチマジックエリア)は発動させ役目を果たした彼女はもう、用済みとでも言わんばかりに見捨てられたそうだ。

 

 

そんなやつに何で従ってるのかと聞いたところ、ミュウランはクレイマンに、”仮初めの心臓を媒体に被術者を魔人へと至らしめる秘術”『支配の心臓(マリオネットハート)』を掛けられ、自分の心臓をクレイマンに奪われてしまった事で、従わざるを得ない状況へと陥ってしまったそうだ。

 

 

 

・・・・・・確かに話を聞く限りじゃ、彼女は仕方がなくこの行為に及んだ・・・・・・とも取れるが、裏を返せばそれは・・・・・・。

 

 

 

「ミュウラン。つまりお前は・・・・・・”自分の命惜しさ”でこの魔国連邦(テンペスト)を窮地に陥れてくれたわけだよな?」

 

 

 

俺の怒気のこもったその質問にミュウランは反応を示さなかったが、否定をしていないことから、俺は彼女が肯定をしていると取った。

 

 

 

「それだけじゃない・・・・・・。お前のその行動のせいで・・・・・・エリスは死んだんだぞ?・・・・・・この責任をどう取ってくれるって言うんだよ?」

 

 

 

「っ!・・・・・・そうですか、エリスさんが・・・・・・」

 

 

 

その、ミュウランのどこか冷めきった様な反応に、俺は静かに怒りを覚える。だが、感情的になったところで話が進む訳でもない事は理解してる為、何とかその怒りを鎮めた俺は、さらにミュウランを問い詰めた。正直、全部が全部、彼女の責任ではないとは思っているが、少なくともこの襲撃に関与し、エリスの死の一因となっている彼女を俺は責めない訳にはいかなかった。

 

 

 

「エリスは・・・・・・この国にとって無くてはならない存在だったんだ。俺を含めたこの国の住民全員が、あいつの事を認め、好いていた。そんな大事な奴を・・・・・・お前の行動一つで死に追い込みやがって・・・・・・今すぐにでも殺してやりたい気分だ・・・・・・」

 

 

 

「だ、旦那!待ってくれっ!」

 

 

 

鎮めた怒りが再び込み上げ、この部屋中に殺気を飛ばした俺に対し、ミュウランを庇う様にしてヨウムとグルーシスが立ち塞がる。

 

 

 

「ヨウム、グルーシス!貴様らは黙っていろ!リムル様が話されているのはそこの女だけだ!」

 

 

 

「分かってる!だが、頼む!ミュウランを殺さないでくれ!」

 

 

 

「お願いします!リムル様っ!」

 

 

 

ベニマルの怒声にもたじろぐ事なく、二人は俺を見据えていた。殺気を飛ばしただけで、彼女を殺すつもりは無かった俺は、すっと殺気を鎮める。

 

 

 

「ふぅ・・・・・・悪かった。・・・・・・で、聞きたいんだが、あんたはエリスと面識があるのか?どうにも知っている風に話していたが?」

 

 

 

「・・・・・・はい。この町に訪れた際に、少し話をしました。それと・・・・・・昨日にも・・・・・・」

 

 

 

「昨日?」

 

 

 

ミュウランのその言葉に首を傾げる。昨日と言えば、この町は襲撃に苛まれていたはずだ。その襲撃が起こる前にでも何かを話していたのか?」

 

 

 

「ああ。実はこの襲撃が起こる前、俺とミュウランはエリスの旦那と軽く話をしてたんだ」

 

 

 

「あの方は、どうやら私の正体のことも気がついている様子でしたが、それでも関係なしに気さくに接してくださいました。今まで、あそこまで優しく親密に接してくれる方は、このヨウム以外は誰も居なかったので、私はどこか嬉しさを感じていました・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・だったら、何でこんな真似をした?」

 

 

 

そう思ってるなら、尚の事この行為に及んだ理由が分からない。いくら自分の命が惜しいとは言え・・・・・・な?

 

 

 

「それでも、クレイマンには逆らえないと悟ったからです。エリスさんは・・・・・・『いつでも頼って欲しい』、『あなたの味方です』と私に対して、暖かい言葉を掛けてくださいましたが、やはりどうしても・・・・・・クレイマンを裏切れる勇気が湧かなかったんです・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・お前、エリスの事を甘く見てるだろ?・・・・・・何故その時に、エリスを信じなかった?」

 

 

 

次第に俯き始めるミュウランに対し、俺は今までに無いくらいの怒りを覚える。・・・・・・おかしいと思ったんだ。エリスが彼女の存在に気が付かない筈ない。だからこそ、エリスは彼女に自分を頼る様、強制をしたんだろう。本来なら、魔人である彼女を危険視して町の外へ追い出してもいいとこだって言うのに、あいつはそれでもミュウランを信じて、いずれ自分のことを頼ってくれることを願って、彼女と友好的に接してくれていたんだ。

 

 

 

そのエリスの気持ちを・・・・・・踏み躙ったことが、俺には許せなかったんだ。もし、その時にエリスを頼っていれば・・・・・・エリスは死なずに済んだかも知れないって言うのに。・・・・・・俺のその気持ちに呼応するかのように、再び俺から殺気が漏れ出始めた。

 

 

 

「旦那!この責任は俺にもある!俺だってあの時、あの場にいたんだ!エリスの旦那は、ミュウランが怪しいことも、魔人だって事も知っていた筈だったんだ!だが、旦那はそれでもミュウランのことを尋問する事もなく”味方”だって言って微笑んでくれたんだ!あの時、俺が強引にでもミュウランにエリスの旦那を頼る様言っておけば結果は違かったかも知れねーんだ!だから、裁くんだったら俺を裁いてくれ!!頼むから、ミュウランは・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・そうか。ヨウムの気持ちはよく分かった。だがミュウラン・・・・・・お前の今の発言で俺は、お前を”この場で始末する”ことに決めた。・・・・・・ミュウラン・・・・・・”死んでもらうぞ”?」

 

 

 

「「っ!!」」

 

 

 

ミュウランは既に腹を決めていた様で、この処遇に対して特に何も言って来なかった。だが、それに納得がいかなかったのは、やはりヨウムとグルーシスで、俺が彼女のもとに歩み寄ろうとするのを必死に止めに入ってきた。

 

 

 

「ヨウム!今すぐミュウランを連れて逃げろっ!リムル様は本気だっ!」

 

 

 

「ミュウラン!早く逃げっ・・・・・・ミュウラン?」

 

 

 

グルーシスが獣身化を発動して俺を足止めし、その間にヨウムがミュウランを連れて逃げ出すと言う算段だった様だが、ミュウランに逃げると言う意思は無かった様で、手を引くヨウムをただただ拒み続けていた。そのミュウランに対し、二人はひどく動揺をする。

 

 

 

「リムル様の邪魔をするなっ!」

 

 

 

動揺し、隙だらけとなったグルーシスは、ベニマルに簡単に取り押さえられ、身動きを取れなくさせられてしまう。・・・・・・これで邪魔者は居なくなったな。

 

 

 

「ミュウラン・・・・・・何で?」

 

 

 

「好きだったわ、ヨウム。私が生きていた中で初めて惚れた人・・・・・・今度は悪い女に騙されない様にね・・・・・・さようなら」

 

 

 

ミュウランはそう口にしながらヨウムと口付けを交わす。そして、それが終わると彼女はこちらに向かって体を差し出してくる。・・・・・・もう未練は無いってか?いい覚悟だ。俺はヨウムを『粘鋼糸』で縛り上げると、ミュウランへと近付いた・・・・・・。

 

 

 

「旦那!頼むからやめてくれ!!俺が一生を賭けてでも償うから!!だからっ!!」

 

 

 

「・・・・・・死ね」

 

 

 

ヨウムの言葉などもはや届いていなかった俺は、問答無用でミュウランの心臓を手刀で貫き、彼女の命を奪った・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんてな。

 

 

 

 

「・・・・・・えっ?私・・・・・・何で?」

 

 

 

「ミュウラン!?無事なのかっ!?」

 

 

 

ヨウムの絶叫に近い叫び声に、ミュウランは戸惑いを見せつつ、コクコクと頷いていた。・・・・・・まぁ、死んだと思ったら生きてたんだから戸惑うのも無理ないよな。

 

 

 

「上手くいった様だな。・・・・・・ほら、これを見ろよ」

 

 

 

「っ!それは私の仮初めの・・・・・・」

 

 

 

俺が見せたのは、先ほどミュウランの体内から抜き取った”仮初めの心臓”だ。心臓を抜き取ってもミュウランが生きてるのは、俺が事前に作っておいた”擬似心臓”を彼女の体内に埋め込んでおいたからだ。

 

 

 

「ああ。実はな?この仮初めの心臓はクレイマンの盗聴にも使われていたらしく、さっきまでの俺たちの会話は全部、クレイマンに筒抜けになっていたんだよ。暗号化された電気記号によってな」

 

 

 

「盗聴!?」

 

 

 

流石にクレイマンに盗聴までされていたとは知らなかったミュウランは、ひどく驚いていた。俺がこの事に気がついたのはさっき新たに結界を張った際だ。大賢者が結界に干渉する不明な波長とさっき言った暗号化された電気信号を確認したらしく、それを解読させたところ、それがクレイマンの盗聴だと言うことが明らかになった訳だ。

 

 

こちらの情報がクレイマンに筒抜けとなると厄介でしか無かった為、彼女も救うと言う意味合いも込めて先ほど俺は奴に勘づかれないように一芝居打ったわけだ。・・・・・・とは言っても、全部が全部芝居って訳じゃ無かったけどな?ミュウランがエリスの事を信じなかったことや、エリスを死に追いやった事についてはマジで怒ったし・・・・・・。それはでも・・・・・・今は置いておいていいか。

 

 

 

「だが、もう安心していいぞ?支配の心臓(マリオネットハート)は取り除いたし、あんたの体内には代わりに俺が作った擬似心臓を埋め込んでおいたから、クレイマンがあんたに何かを及ぼすって言うことはもう無くなった。・・・・・・あなたは、もう自由だ」

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

自由・・・・・・その言葉に、ミュウランは感極まったのか・・・・・・瞳から涙をこぼし始める。そんな彼女に『粘鋼糸』を解いて身動きが取れるようになったヨウムが寄り添う。ずっとクレイマンの支配下にあり、自由を奪われていたんだからな。よっぽど嬉しいんだろう・・・・・・。

 

 

 

「良かったな、ミュウラン!もうお前を縛るものは何も無くなったってよ!何だよ旦那?元からミュウランを殺す気なんて無かったんじゃねーか。それならそうと最初から・・・・・・」

 

 

 

「さっきも言ったろ?俺たちの行動、言動は全て盗聴されていたって。あそこで今からやる事を話しちまうと、クレイマンに情報が行き渡って何かしらの対応をされる可能性があったんだ。だからさっきは敢えて殺すこと前提で話を進めていたんだ。・・・・・・クレイマンを騙す為とはいえ、怖がらせて悪かったな?」

 

 

 

「いえ、大丈夫です・・・・・・」

 

 

 

「そうか。・・・・・・あんたも苦しかったんだろ?自分の自由を奪われていた事もそうだが、何より・・・・・・()()()()()()に取られていたことが・・・・・・」

 

 

 

「っ!・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・は?どう言うことだよ?」

 

 

 

俺の言葉に動揺するミュウランとは対照的に、意味がわからないと言った風に首を傾げているヨウム。

 

 

 

「あんたの反応からして、やっぱりそうだったみたいだな。・・・・・・ヨウム、お前は人質だったんだよ。ミュウランを強制的に命令に従わせる為用のな・・・・・・。考えてもみろ。ミュウランはクレイマンに見捨てられた訳なんだから、ここで律儀に命令に従って魔法不能領域(アンチマジックエリア)を発動させる必要なんて無いに等しかったんだ。だが、ミュウランは命令に従って発動をする方を選んだ・・・・・・。命令に従わなければ人質に取られているお前がどう言う運命を辿るのか、分かっていたからだ」

 

 

 

「ミュウラン・・・・・・それは本当か・・・・・・?」

 

 

 

「・・・・・・ええ、本当よ。私はただ・・・・・・守りたかったのよ。大切な人であるあなたを・・・・・・」

 

 

 

「ミュ、ミュウラン・・・・・・」

 

 

 

・・・・・・なんか、すっごく良いムードになりかかってる二人に対し、俺もベニマルも、なんて声をかけたら良いのか分からずに困惑していた。グルーシスに至っては、明らかに嫉妬している様子でヨウムのことをギロリと睨みつけていた。おぉ・・・・・・修羅場になりそうな予感だ。

 

 

 

こんな状況でなかったら素直に祝福をしてやりたかったが、今はそんな事は言っていられない。一刻も早く、エリスを生き返らせるために魔王にならないといけないんだ、俺は。

 

 

 

「ヨウム、ミュウラン、グルーシス。この後すぐに行われる会議にお前達も参加してくれ。お前らも含めて話すべき事があるんだ」

 

 

 

「ああ、俺は良いぜ」

 

 

 

「俺も構いません」

 

 

 

「私も参加する事は構いませんが・・・・・・何故、私もなのでしょう?いくら事情があったとは言え、私がこの町を危機に晒し、エリスさんを死に追いやった要因である事は間違いありません。本来であれば、始末をされてもおかしくは無いのに・・・・・・何故?」

 

 

 

ミュウランがそう思うのも納得だ。確かにおかしな話だ。さっきまでミュウランは、ここの襲撃に加担した容疑者として捕らえていた敵だった。そんな敵だった彼女をあろうことか俺は救い、味方に引き込もうとしている訳なんだ。疑問を浮かべる事は当然だろう。

 

 

「善意で助けた訳じゃないさ。ただ・・・・・・あんたを助ければヨウムの助力が得られやすくなると思ったし・・・・・・”人が蘇る”って言う事例を増やしておきたかったんだ。ある意味、これが一番の理由なのかもな」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「だが、勘違いして欲しく無いのは、俺は未だに、あんたがエリスに対してした事については許してないし、あんたの事を心から信用する気も無い。あんたが少しでも悪いと思ってくれてるなら、俺たちにあんたの豊富な魔法の知識と技量を貸してくれ。それを償いとして見てやるからさ?また、俺に信用されたいなら俺に協力をして、信用を勝ち取って見せてくれ。その時は俺も、あんたの事をちゃんとした仲間として見る事にする。・・・・・・いいな?」

 

 

 

「・・・・・・はい」

 

 

 

ミュウランの質問に答えた俺は、そのままその場にいた全員を引き連れ、会議を行う執務館へと足を運んだ。

 




次回でリムルが配下に魔王になる旨を伝えます。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

計画と覚悟

話の進むペースがゆっくりですが、しっかりと刻んでいかないと訳が分からなくなってしまいますので、どうかご了承を。


「みんな、揃ったな?これより会議を始める」

 

 

 

ヨウム達を引き連れ、会議室まで足を運んだ俺は、既に集まっていた重鎮達や各部門での幹部達(カイジンやクロベエ、ゴブタやゴブリンロード達)に目配せをしつつ席に着くと、会議開始の合図を出した。

 

 

 

「既にリグルドから通達が行ってると思うが、この会議は今後の人間達に対しての振る舞い・・・・・・そして・・・・・・エリスの蘇生のついてを議論していく方向だ。・・・・・・何か質問のある奴はいるか?」

 

 

 

「リムル様・・・・・・いいっすか?」

 

 

質問の有無を確認したところ、ゴブタが手を挙げたため、俺は続きを促した。

 

 

 

「本当に、エリス様は死んだんっすか?リグルドさんから話は聞いたんっすけど・・・・・・あのエリス様が死ぬなんて想像できないんっすよ・・・・・・」

 

 

「そうだぜ旦那?いきなりそんなぶっ飛んだ事言われても、俺たちは戸惑うしか無いぜ?」

 

 

 

ゴブタに続いて、カイジンも話に乗っかってくる。

 

 

 

「信じられないだろうが、事実だ。あいつはお前達とこの町を守るがために尽力をしたせいで・・・・・・死んだんだ」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・そうっすか。できれば嘘であって欲しかったっすけど・・・・・・ね」

 

 

 

「その事についてもこの会議で話す予定だから、他にも意見があるならその時に話してくれ」

 

 

 

「・・・・・・はいっす」

 

 

 

「・・・・・・わかった」

 

 

ゴブタもカイジンもそれ以上は何も言ってこなかった。他にも何かあるかと聞いたが、特に申し出てくるやつはいなかった事もあり、俺は話を先に進める事にした。・・・・・・大方、ゴブタのようにリグルドからエリスの死を聞かされた者たちはみんなさっきのゴブタと同じ疑問を浮かべていた事だろうが、俺のこの物言いにそれが事実だと悟ったんだろう。

 

 

 

「まず一つ言わせてくれ。俺は魔王になる・・・・・・エリスを甦らせるために・・・・・・これは決定事項だから、みんなから何を言われようとこの決断を覆すことは無いからそのつもりでいてくれ。・・・・・・じゃあ、始めるか・・・・・・」

 

 

 

そこから議論されたのは、今後の人間たちに対する触れ合いや交流についてだ。みんなの中にはやはり、今回の不意打ちとも呼べる襲撃に納得出来てないやつもいて、今後の人間たちとの交流を拒絶したいと言う意見も出た。だがその一方で、ヨウムやエレン達を始めとした俺たちと友好的に接してくれている人間たちもいる事から、人間を一括りに悪と決めつけるのは間違っていると言う意見も出ていた。

 

 

だが、それでも今後の人間とのやり取りは控えたいと言う意見の方が数多くを占めていた。・・・・・・その根本的な原因となっているのはやはり・・・・・・。

 

 

 

「あれだけ人間を好いていたエリス様を、死に追い詰めた人間共となど・・・・・・誰が友好的になんて・・・・・・」

 

 

 

「エリス様の思いを踏み躙った悪しき人間達は・・・・・・我々の敵でしか無いのではありませんか?」

 

 

 

そう・・・・・・みんなは、エリスを殺した人間たちをひどく恨んでいるんだ・・・・・・。あいつを崇拝していた者ほどそれは酷く、人間に対する嫌悪感をさらに募らせていた。

 

 

「(・・・・・・俺もエリスも元はその人間だったんだよな。・・・・・・みんなに正体を知られればみんなは俺達のことをどう思うんだろうな?俺達もその人間たちと同類に見られて嫌われるのか?・・・・・・いや、裏切り者と罵られる可能性だってあるな。これはどうしても言えな・・・・・・)」

 

 

 

その時、俺はふと思う。今まで俺が人間だったってことはみんなには隠してきた訳だけど、今改めて思えば、なんで俺は家族とも呼べる奴らに対して、そんな隠し事をしているんだろうか?それはエリスも同じことだ。あいつだって自分の正体は明らかにしてはいなかった。確かにこちらにも色々と事情があって隠してる訳だが・・・・・・秘密すら話せず、自分の正体を大っぴらに出来ないような関係を、家族だなんて言えるのだろうか?・・・・・・いや、言える訳もないか。

 

 

 

「(・・・・・・みんなには話しておくべきか。嫌われようとも罵倒されようとも構わない・・・・・・この場で全てを打ち明けよう・・・・・・俺たちの素性を・・・・・・)みんな、ちょっと聞いてくれ」

 

 

 

俺の声に、先ほどまで騒がしかった会議室内が静まり返る。

 

 

 

「俺は、元々人間であり、転生者なんだ。・・・・・・いわゆる、異世界人とも呼べる奴らと同じ世界にいた人間だったんだ。・・・・・・そして、それはエリスも同じだ」

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

打ち明けたその事実に、その場にいた全員は驚きながら俺を凝視していた。・・・・・・信じられない、みたいな顔してな・・・・・・。

 

 

 

「俺たちは人間だったから、この世界に魔物として転生しても心までは変わらず人間のままだった。だから俺たちは元の世界のように人間達と接したいからと言う理由で人間達との共存を望んでいたんだ。・・・・・・この国での『人間を襲わない』というルールも、俺たちが人間だったから作った勝手なルールだったんだ。・・・・・・魔物の基本の理念としてるのは、”弱肉強食”だって言うのにだ・・・・・・。それについては本当にすまないと思ってる・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「だが、どうかエリスは恨まないでやってくれ。このルールを決めたのは俺だし、あいつはそれに賛同しただけなんだ。それに、あいつが死んだのは俺の身勝手な行動故にだ・・・・・・。だから、恨むならこの俺を恨んでくれ・・・・・・全ての責任は、この俺にあるんだからな・・・・・・」

 

 

 

謝罪の意を込めて頭を下げる俺に対し・・・・・・みんなは言葉を無くし、ただただ呆然としていた。・・・・・・この国のルールは、元々人間である俺が、みんなが人間を敵視しないように・・・・・・そして殺さないようにするために作った物だ。もちろん、俺と同じ境遇であるエリスは喜んで賛成をしてくれた。・・・・・・だが、みんなとなると話は違ってくる。みんなは魔物だ。いきなり俺たちと同じように人間のことを見ろと言うのは無理な注文なんだ。・・・・・・それを俺は勝手に・・・・・・みんなの意思とは関係なくそんなルールを作ってしまったんだ・・・・・・。恨まれたって仕方がないな・・・・・・。

 

 

 

「顔を上げてください、リムル様。その責任は、何もあなたが全て取る事はありません。責任は・・・・・・あの時、何も出来なかったわたくし達にもあるのですから・・・・・・」

 

 

 

そんな中、俺に声をかけてきたのは、会議開始時から何も語らず沈黙を貫いていたシュナだった。

 

 

 

「わたくし達の中には・・・・・・甘えがあったのです。どんな時でも・・・・・・いつでもわたくし達のことはリムル様やエリス様が守ってくださるという・・・・・・。そして・・・・・・その甘えが元でエリス様に多大なるご負担をかけてしまい・・・・・・・・・・・・ですので、もう一度言いますが、この問題に関しましては断じてリムル様がお一人で抱えるような問題ではありません」

 

 

 

「シュナの言う通りだ。俺たちは・・・・・・エリス様と共に、リムル様から留守を預かったと言うのに、心のどこかで驕っていたのです・・・・・・。リムル様無くとも『エリス様がいれば問題ない。だから俺たちは、エリス様に従っていればいい』・・・・・・と。ですので、あの襲撃の際にも、俺は結界でリムル様との繋がりが途絶え、戸惑っていましたが、本心ではそこまで悲観的には見ていませんでした・・・・・・エリス様がきっと守ってくれる・・・・・・この状況を打開してくれる・・・・・・そう信じて・・・・・・いえ、縋っていましたので。それが、エリス様の負担になっているとも知らずに・・・・・・。・・・・・・もし、その場で俺も町のために何かが出来ていれば、きっとエリス様は・・・・・・。リムル様、今回の件・・・・・・俺の責任が多いかと・・・・・・」

 

 

 

シュナに続けと言わんばかりに、自分の失態を口にするベニマル。そして・・・・・・そこから、リグルやゲルドを始めとした幹部達から自分も、自分もと、自身の行動に反省をする声がいくつも上がってきた。その光景に俺は少し拍子抜けをしてしまう。

 

 

・・・・・・ぶっちゃけて言うと、みんなに否は一切無い。元はと言えば、俺の身勝手が故に起こったことだ。・・・・・・だと言うのに、こいつらは・・・・・・俺を恨んで、町を追い出すことだって出来たはずなのに・・・・・・。

 

 

 

「お前ら・・・・・・俺を許してくれるのか?俺は元人間であることをこれまで隠し、みんなを騙していたんだぞ?」

 

 

 

「許すも許さないも、リムル様が身勝手な行動を取ろうと、人間と共存を目指そうと、魔王になろうと・・・・・・我らの主はリムル様とエリス様です。どんな事があろうとも、何者になろうとも、我らはどこまでも着いて参りますぞ!あなた方が目指すべき道こそが、我らの進むべき道なのですから!」

 

 

 

「リムル様が元々人間だったとしても、リムル様がリムル様であることは変わんないっすよ。オイラ達はリムル様が人間だろうが、魔物だろうが、そんなの関係なく慕ってるんっすから。だから、そんなに気にしなくていいんすよ?」

 

 

 

「お前ら・・・・・・ありがとうな」

 

 

 

リグルドとゴブタのその言葉で、俺は少しモヤっとした気持ちが晴れていくような感覚を覚えた。・・・・・・それと同時に気恥ずかしさから体が火照ったことで、体の一部が溶けていた事を一部の奴らに茶化されたが、俺に嫌な気持ちは微塵も湧かなかった。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

それから俺は、休憩を挟んだ後、エリスの蘇生についての議題に話を移し、ざっくりとその方法と俺が真なる魔王に覚醒するための儀式(プロセス)を説明した(魔王になる為にこれから攻めてくるファルムス王国の兵2万人をこの手で殺す事など)。さらにその後、俺個人としての今後の人間達との接し方についても話しておいた。現状では、とても人間達との友好関係は築けそうにないが、俺にも考えがあった。まず、俺が魔王となることで人類にとって無視出来ない様な地位を築き、下手な手出しをできない様にすることが第一前提だ。そしてそこからは、俺が他の魔王達を牽制するなり人間達に味方だと悟らせる様な行動を取るなりすれば、自ずと人間国との友好関係は築ける。もちろん口で言うのは簡単だが、これは相当に骨が折れる様な作業であり、時間も膨大な量がかかる事だろう。だが、俺が考える限りではこの方法が最も確実性があり、最も安全な方法だ。人間達との共存を目指すなら、これしか手は無いだろう。

 

 

 

「・・・・・・随分と甘い理想論だな?人間達に襲撃を受け、エリスの旦那を殺されて尚、人間達と友好を築こうってのかい、旦那?」

 

 

 

「もちろんそれについては許した覚えはない。ちゃんとそいつらにはツケを払ってもらうさ。・・・・・・だが、みんなもさっき言ってたように、人間達は全員が全員、そんな奴ではないことは知ってるはずだ。だからこそ、今後は友好的に接してくる人間達とは手を結んで、そうで無いものにはそれ相応の対応をする事に決めた。そうすれば、きっと今後は、今回のような惨劇は起こらないはずだ・・・・・・いや、俺が起こさせない。起こさせた場合には、俺は”腹を切って”詫びるつもりだ・・・・・・それだけの覚悟を持って俺は言ってるんだ」

 

 

 

「リムル様!何もそこまでしなくとも・・・・・・」

 

 

 

「”起こさせたら”って言ってるんだ。何も心配することない」

 

 

 

カイジンの言うように、俺の言っていることは甘い理想でしか無いんだと思う。だが、それでも俺はそれを実現させてみたいと強く思ってる。その理想を叶える事ができれば、今よりももっとこの国は安全になり、国自体の繁栄も大きくなることは間違いないからな。・・・・・・それに。

 

 

 

「それに、人間との共存という夢は、俺もそうだが、エリスの夢でもあったんだ。あいつはいつもいつも目をキラキラとさせながら、人間と共存できたらしたい事なんかを俺に向かって話していた。自分でも人間との共存を目指すべく色々と為すべきことを為しながらな。・・・・・・そんなあいつの夢を俺は叶えてやりたいって思ったんだよ」

 

 

 

「俺は、リムル様に賛成です。・・・・・・エリス様は・・・・・・亡くなられる前、リムル様や俺たちに、自分の夢を託されたんです。・・・・・・『自分の代わりに、人間との共存を実現させて欲しい』・・・・・・と。俺たちは託されたあの方の夢を叶えるため、前へと進まなければならない・・・・・・」

 

 

 

「エリス様は・・・・・・自分が亡くなられると言うのに、全然悲しくなさそうで・・・・・・むしろどこか安心したかのように、安らかに息を引き取ったのです・・・・・・わたくし達ならばきっと・・・・・・エリス様の夢を叶えてくれると・・・・・・信じていたからでしょうね・・・・・・こっちの気も知らないで・・・・・・」

 

 

 

シュナはその時のことを思い出してしまったのか、涙をポロポロと零し始めた。・・・・・・ったく、配下をこんなに泣かせて、罪な奴だよ・・・・・・お前は。

 

 

 

「らしいな。だが、俺はそんなのは許さない。あいつとは共に夢を叶えなければ意味なんて無いんだ。・・・・・・だからこそ、あいつを生き返らせる。生き返らせて、また一緒に道を進んで行きたい」

 

 

 

「そうですな。・・・・・・エリス様を、頼みますぞ?リムル様。・・・・・・さて、わしらは人間との共存を目指すべく、リムル様は魔王になるとお決めになられたが、何か異論はあるものはいるか?」

 

 

 

ハクロウの言葉に異論を唱える奴は誰一人としていなかった。無論、先程まで人間との共存を拒んでいた奴らもだ。・・・・・・エリスの人間達の想いを聞いて、考えを改めたんだろう。

 

 

 

「よし。じゃあ、これからみんなにはある事をお願いしたい。それは・・・・・・」

 

 

 

「失礼します!リムル様!」

 

 

 

俺がファルムス王国の兵達を相手にしている間に、他のみんなにやって貰いたいことを頼もうとした時、一人のゴブリナがどこか焦ったように会議室内に入ってくる。・・・・・・彼女は確かシュナが、シオンの看病をお願いしていたマリスだ。・・・・・・突然なんだ?もしや?

 

 

 

「今は会議中だぞ?要件なら後に・・・・・・」

 

 

 

「シオンさんが目を覚まされました!居ても立ってもいられず、ここまで来た所存で・・・・・・」

 

 

 

「みんな、一旦会議は中断だ。シオンのところに行ってくる!」

 

 

 

「リムル様!俺たちも行きます!」

 

 

 

シオンが目覚めたとあれば、行かない理由はない。俺は一旦会議を中断する旨をみんなに伝えると、ベニマルら重鎮を連れ、颯爽とシオンがいる俺の家へと向かった。道中、俺はシオンが目覚めたと言う喜びを噛み締めつつ、もう一つの懸念を心に抱いていた。

 

 

 

「(シオンが助かったのは、エリスが命を賭して助けたからだ・・・・・・。その事実を知った時、シオンは・・・・・・)」

 

 

 

どこか心配になるも、そのことはついてから考えれば良いと割り切り、俺たちは走るスピードをさらに上げるのだった。




シオンが目覚めたのは良いですけど・・・・・・大丈夫ですかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目覚め

今回は短めです。


「シオンっ!!」

 

 

 

執務館から一目散で家まで駆けて来た俺達は、襖を開け、中に雪崩れ込むと同時に、大声でシオンの名を叫んだ。そして、中で確認出来たのは、布団から半身を起こし、どこか不思議そうに首を傾げていたシオンの姿だった。その元気そうな姿に俺たちは、ほっと息をついた。

 

 

 

「り、リムル・・・・・・様?」

 

 

 

「良かった・・・・・・目が覚めたんだな!本当に心配したんだぞ!?」

 

 

 

「へっ?あ、はい・・・・・・ご心配をかけてしまい、すみませんでした・・・・・・ですが、その・・・・・・ちょっと私自身、理解が追いついていないと言うか・・・・・・何故、私は生きて・・・・・・?」

 

 

 

「シオン・・・・・・」

 

 

 

怪訝な顔つきで、自分の体をペタペタと触りながら、自分の生存を訝しんでいる様子のシオンに、俺たちはどう声をかけて良いのか分からなくなる。シュナ達の話じゃ、シオンはあの時、息を引き取る寸前だったらしいし、本人もそれを覚悟してただろうから、その様な反応になるのも頷ける。

 

 

 

「シオン、あなたは一命を取り留めたのですよ。・・・・・・エリス様の懸命なる治療のおかげで・・・・・・」

 

 

 

「そうでしたか・・・・・・。私の独断で勝手なことをし・・・・・・勝手に死にかけたと言うのに・・・・・・エリス様にはなんとお詫びをしたら良いか。・・・・・・エリス様!こんな不甲斐ない配下である私を助けてくださり、ありがとうござ・・・・・・・・・・・・っ?あ、えっと・・・・・・エリス様は・・・・・・?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

エリスも来ていると思い込んでいたのか、シオンはこの場にいないエリスの不在に違和感を覚えていた。

 

 

 

「(どうする?ここでエリスが死んだことを伝えるのも良いが・・・・・・それだとシオンが悲しむことは必至だ。『自分の治療のせいでエリスは命を落とした』・・・・・・その事実を知ってシオンが正気でいられるとは思えない。嘘をついてこの場を凌ぎ、エリスが生き返るのを待つのも手だと考えたが、それもあまり効果は無さそうだ。第一、俺が魔王になったところで、エリスが生き返ると言う保証は無いからだ。何せ、可能性はあったとしても3%弱だし・・・・・・。俺はそれでも諦めちゃいないが、万が一・・・・・・”エリスが生き返らない”・・・・・・なんて事になれば、この嘘はすぐにバレてしまう。・・・・・・ちっ、どうすりゃ良いんだよ・・・・・・)」

 

 

 

「リムル様?目が泳いでいますが・・・・・・?」

 

 

 

「っ!いや、そのだな・・・・・・」

 

 

 

「リムル様・・・・・・言い難いのであれば、わたくしが言いましょう。・・・・・・シオン、心して聞きなさい?エリス様は・・・・・・()()()()()()()()

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・はい?」

 

 

 

いつまでもモジモジしている俺が見ていられなかったのか、シュナがさっさと事実を吐いてしまう。・・・・・・当然、そんな突拍子も無い事を言われたシオンは、顔を硬直させ目を見開き、驚いていた。

 

 

 

「何を・・・・・・言っておられるのですか、シュナ様?・・・・・・いくら何でも、そんな冗談は・・・・・・」

 

 

 

「嘘ではありません。エリス様は・・・・・・あなたを治療した後、その治療故に力を使い果たした事が要因で・・・・・・息を引き取られたのです。・・・・・・わたくし達は、エリス様の最期を見送ったので、確証もあります。・・・・・・そうですよね?お兄様?」

 

 

 

「・・・・・・ああ、シュナの言ってることは事実だ。エリス様は・・・・・・お前やこの町の住民全員のことを助けた代償で・・・・・・命を落とされた。だが、エリス様が亡くなられたのは決してお前だけのせいでは無い。エリス様に過度な負担をかけた俺たちにも責任はあるんだからな。だから・・・・・・あまり深刻に思い詰めるな・・・・・・」

 

 

 

「あ、あぁ・・・・・・あ・・・・・・」

 

 

 

ベニマルのそのフォローは、シオンの耳には届いていなかった。俺の憶測通り・・・・・・シオンは、自分が原因でエリスが死んだと思い込み始めてるようで、徐々に嗚咽が大きくなってくる。・・・・・・だから、言うべきでは無かったんだ・・・・・・こうなることが分かっていたから・・・・・・。

 

 

 

「わ、わた・・・・・・私・・・・・・のせい?・・・・・・私が勝手な真似をしたせいで・・・・・・あの・・・・・・エリス様が?・・・・・・うそ・・・・・・嘘だ・・・・・・嘘だ・・・・・・嘘だ、嘘だ、嘘だっ、嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっ嘘だっっ!!!」

 

 

 

「シオン、落ち着けっ!!」

 

 

 

エリスの死にシオンの体が過剰に反応し、拳を床に叩きつけつつ怪我明けということも忘れて、盛大に暴れ回り始めた。俺の制止の声も、冷静さを欠いた今のシオンには届いていなかった。

 

 

 

「ベニマルも言ったろっ!お前の責任じゃない!責任は、お前達の事をほったらかして全てのことをエリスに押し付けた俺にあるんだ!お前が気に病む必要なんて無いんだ!」

 

 

 

「ですがっ!私があの場で勝手な行動を取って死にかけさえしなければ、エリス様はっ!!」

 

 

 

「分かってる!お前の気持ちは痛いほど分かる!だが、一旦落ち着いてくれ!話が進められないんだっ!!安心しろ!エリスは絶対に()()させて見せる!」

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

”蘇生”と言う単語が俺の口から出ると、ようやくシオンは、少しだけ落ち着きを取り戻し、視線だけをこちらへと向けてきた。ふぅ・・・・・・とりあえず話ができる状態になったか・・・・・・。

 

 

 

「リムル・・・・・・様。・・・・・・どう言うことか・・・・・・詳しくお聞かせください・・・・・・」

 

 

 

「ああ。ちゃんと説明するさ。エリスの蘇生って言うのは・・・・・・」

 

 

 

そこからシオンには、先程の会議でみんなに話した内容と同じことを説明した。エリス蘇生の為の俺の魔王化・・・・・・今後の人間達との触れ合い・・・・・・俺が元人間であり、転生者である事・・・・・・その全てを。

 

 

 

「・・・・・・と言うわけだ。だから、俺に任せておいてくれないか?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

話の全てを聞き終わり、納得した様子のシオンだったが、それでもやはり、自分が原因でエリスを死なせてしまった事に負い目を感じてしまってるようで、一向に表情は暗かった。

 

 

 

「なぁ、シオン?お前は、その時の自分の行動が間違っていると思っているのか?・・・・・・聞くが、お前は何でそんな行動に出たんだ?よく思い出してみろ」

 

 

 

「・・・・・・え?いえ、決してその様なことは・・・・・・。あの時、私が助けに入らねば、きっと人間達にあの子供は殺されていた事でしょうし、間違ってるなど・・・・・・あっ・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・そう言うわけだ。お前がその場でその行動に出ていなければ、傷を負っていたのはおそらくその子供だ。その子供が傷をつけられれば、エリスはひどく傷つく。・・・・・・お前は、その時にその事を瞬時に判断できたんだろ?だから、身勝手な行動と分かっていながら自分の身を賭してまで助けに入った。・・・・・・違うか?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

俺の言いたいことがなんとなく理解できた様子のシオンは、徐々に顔を上げ始め、俺と視線が交錯した。

 

 

 

「エリスに申し訳ないと思ってるなら、少なくともお前がしたその行動に対して引け目を感じるなんて事は絶対にするな。エリスはそんな事、絶対に望んじゃいないし、命を張って助けたシオンがそんな調子じゃ、エリスも浮かばれないだろ?・・・・・・それに、子供が傷つけられた場合でも、エリスなら確実に今回お前にした様な治療をその場で施して命を落としたはずだ。・・・・・・つまり、お前が行動に出ようと出なかろうと、ただ治療される相手が変わるだけで、どの道エリスは助からない運命だったんだ。・・・・・・皮肉な話だけどな」

 

 

 

「・・・・・・そうですか」

 

 

 

「それでも、まだ負い目を感じてるってんなら、それならもう直接エリスに謝って、叱って貰うんだな。それが一番手っ取り早いってもんだ」

 

 

 

「・・・・・・ですが、エリス様が生き返ると言う保証なんて・・・・・・」

 

 

 

「可能性は薄いがゼロじゃない。だったら少なくとも希望を持つべきだ。・・・・・・少なくとも、”ここにいる全員”はエリスが生き返る事を信じて俺に託してくれてる。だから・・・・・・お前も、どうか希望を捨てないで貰いたい。お前達のその一つ一つの気持ちが、あいつを・・・・・・エリスを呼び戻してくれる・・・・・・って気がしないでも無いんだ。・・・・・・だから、頼む!」

 

 

 

ゆっくりと頭を下げつつ、シオンに懇願をした俺。国主としてはあるまじき行動なのかもしれないが・・・・・・そんなの、今はどうでも良くなっていた為、気にはならなかった。

 

 

 

「顔を上げてください、リムル様。私は・・・・・・命が助かった事については本当に嬉しく思っています。・・・・・・エリス様には感謝をしても仕切れない程です。・・・・・・ですが、やはりエリス様にはもう一度会って、しっかりと謝罪をしたいです!ですので・・・・・・どうか、エリス様のこと・・・・・・よろしくお願いします・・・・・・」

 

 

 

「もちろんだ。・・・・・・必ず、あいつを・・・・・・生き返らせて見せる!」

 

 

 

シオンの想い・・・・・・それを胸に刻んだ俺は、改めてエリスの蘇生を遂行して見せると言う決意を固めるのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「ヒョウガ、セキガ、カレン、ガビル、ちょっといいか?」

 

 

 

シオンの元を訪ねた後、俺は中断していた会議を再開するために執務館へと戻り、みんなへの役割等を詳しく説明をした。説明を終え、会議をお開きにした後、俺は4人を呼び止めた。

 

 

 

「・・・・・・なんでしょうか?」

 

 

 

「我輩たちに何か用でありますか、リムル様?」

 

 

 

「・・・・・・聞くが、お前たちも俺たちに協力してくれると見ていいんだよな?どうにも会議中口数が少なかったから気になってよ・・・・・・」

 

 

 

俺がこの4人を呼び止めた理由としては、こいつらが()()()()俺と共に戦ってくれる覚悟があるかを確認したかったからだ。こいつらが付き従ってるのはエリスだ。だが、そのエリスは今この場には居ない。だとすると、必然的にこいつらの次に従うべき主は俺へと移行するわけだが、本人たちがそれを簡単に納得しているとは到底思えなかった。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「我輩は、リムル様にも従っている身ですぞ?無論、我輩もリムル様と共に戦わせて貰いますぞ!」

 

 

 

「お前は相変わらず調子良いな。・・・・・・で、他の3人はどうだ?」

 

 

 

ガビルは何となく大丈夫だと思ってたため、何にも心配はしていなかったが、問題は残りの3人だ。こいつらはほぼ毎日と言って良いほどエリスに付き従っていたし、エリスへの忠誠度も他の誰よりも高く、懐いていた。そんな3人の心の拠り所でもあったエリスがいなくなった今、こいつらが今後どうするのかなんて検討も付かなかった。俺はヒョウガはともかく、セキガやカレンとはほとんど接点が無く、話をした事だって数えるほどしか無い。そんな接点が少ない俺に付き従ってくれるとは・・・・・・。

 

 

 

「もちろん、協力します」

 

 

 

「・・・・・・は?」

 

 

 

心の中で色々と考え込んでいた俺に浴びせられた言葉は、俺の思っていたこととはまるで逆の言葉だった。

 

 

 

「はぁ・・・・・・だから、協力すると言ってるのです。ワタシ達はあなたに」

 

 

 

「・・・・・・てっきり渋られるかと思ってたんだが・・・・・・俺の思い過ごしだったか?」

 

 

 

「勘違いしないで下さい。ワタシ達が従うのは主様・・・・・・その気持ちは変わっていません。ですが、その主様を蘇らせるためには、あなたの力が必要不可欠との事ですので・・・・・・・・・・・・今回は、一時的にあなたに従う事にします。指示があれば何なりと申しつけて下さい・・・・・・2人もそれで良いですね?」

 

 

 

「もちろんだ!リムル様・・・・・・オレの力で良ければいくらでもお貸ししますので、何なりとお使いください!」

 

 

 

「私の力も存分に使って下さい!ですので・・・・・・どうか、エリス様を・・・・・・生き返らせて下さい!お願いします!」

 

 

 

「お前ら・・・・・・分かった。それなら、思う存分、お前達のことも頼りにさせて貰うからな?・・・・・・エリスを生き返らせる為、力を貸してくれ!」

 

 

 

「「「「はっ!」」」」

 

 

 

こうして、ヒョウガ達も協力してくれる事となり、さらに絆が強固となった俺たちは・・・・・・エリス蘇生に向けて行動を開始し始めるのだった。




次回でようやく動きを見せます。ここまでだいぶ掛かったので、少し疲労困憊気味です・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

結界の解除

ようやく結界の解除、そして・・・・・・エリスの蘇生のために動き出します。


・・・・・・長かった、本当に。


「さて・・・・・・行くか」

 

 

 

戦闘の支度を整え、他のみんなへの指示も済ませた俺は、誰もいない執務館の会議室で一人そう呟く。今回の作戦では、まずエリスの魂が拡散してしまわない様、結界を強化しておく必要があった為、その任をシュナとミュウランに託した。魔法に特化したシュナと魔導師(ウィザード)のミュウランであればそれも容易いと判断したためだ。

 

そして、今回の作戦で何より重要な事・・・・・・この妙な魔素を浄化する結界の解除を他のみんなにお願いをした。この結界があっては、みんなは満足に力を使えないからな。ソウエイの話じゃ、この町の四方にそれぞれ結界の魔法装置があったとの事らしいから、みんなにはその魔法装置の無力化をするべく動いて貰う事にした。役割分担としては、東の魔法装置にはベニマルを、西の魔法装置にはハクロウ、ゴブタ、リグル、ゲルドを、北の魔法装置にはソウエイ達隠密軍団、南にヒョウガ、セキガ、カレン、ガビルとその部下達・・・・・・と言った感じにした。配置的にはこれで問題無いと思うが、西にはブルムンド国の商人や冒険者達の口封じも兼ねてか、異世界人の3人組を中心とした戦力が揃っているって話だったから、そこはハクロウやゲルドがうまく押さえ込んでくれると信じておきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・そして俺は・・・・・・。

 

 

 

 

 

「人を殺すなんて初めてだし、少し不安でもあるな・・・・・・。元々人間だった俺が、魔物となって人間に牙を剥くなんて・・・・・・前までじゃ全く考え付かなかったことだ。・・・・・・エリスはよく、踏ん切れたもんだ・・・・・・」

 

 

 

これから俺が行う行為に、どこか思うところがあったため、少し考え込んでいた。・・・・・・言うまでも無いだろうが、人を殺すのは俺の本心じゃない。だが、それをして俺が魔王にならない限り、エリスの蘇生は望めない。・・・・・・だからこそ、俺は人間を殺す・・・・・・この国を勝手な理由で襲い、俺の大事な親友を奪ってくれたファルムス王国の人間達を・・・・・・。この俺の行為により、他国の人間達から恨まれようと関係なんて無かった。非は明らかに向こうにあるんだ。こちらが何をしようと咎められる筋合いは無い。エリスだってそうだ。・・・・・・むしろあいつは、”この国に降りかかってくる火の粉”を振り払っただけに過ぎず、あいつの行為は正当防衛に値すると見て良いはずだ。

 

 

 

「まぁ・・・・・・今はそんな事どうでもいいか。さっさと行って、役目を果たすとするか。・・・・・・エリス、もうちょっと待ってろよ?すぐにお前のことを迎えに行ってやるから・・・・・・」

 

 

 

余計な私情は邪魔になると思い、その思いを振り払った俺は・・・・・・ファルムス王国が陣取る森の一角へと・・・・・・飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

視点 ベニマル

 

 

 

 

「貴様らには消えてもらう」

 

 

 

リムル様の指示通り、俺は東のこの結界の魔法装置の元へと足を運んだ俺は、ほぼ無感情でその場にいた人間達を焼き尽くした。今まで、こいつらはリムル様とエリス様の命令だったこともあって、手を出したりはしていなかったが、流石に今回の一件のことに関しては俺も我慢の限界だった為、半ば八つ当たりの様にこいつらを消し炭にしていった。

 

 

 

「エリス様には、俺たちは人は殺すなって言われていたが・・・・・・俺らの主を殺されておいて、黙ってるほど、俺たちはお人好しじゃ無いんですよ、エリス様・・・・・・」

 

 

 

ここにいる全ての人間達を滅ぼしたことを確認した俺は、最後に残った魔法装置を剣で粉々に斬り刻み、足早に町へと引き返した。魔法装置を一つでも壊して仕舞えば、結界は維持出来ない。俺たちの弱体化も時期に収まることだろう。・・・・・・現に、徐々に俺自身の体にも力が戻り始め、体も一気に軽くなることを実感し出した。

 

 

 

「エリス様・・・・・・俺たちは、いつまでも待っています。あなたの帰還を・・・・・・」

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

視点 ソウエイ

 

 

 

 

「ソウエイ様。この地の制圧は完了致しました。後は、装置の無力化を残すのみです」

 

 

 

「・・・・・・そうか」

 

 

 

北の魔法装置の無力化の任を任された俺たちは、早急に行動へと移していった。気配を悟られることなく、迅速に奴らの息の根を止めにかかることで、下手な戦闘になることも防げることもあり、思ったよりも時間をかける事もなくこの地の人間達の排除は果たすことが出来た。最近の俺の部下達の成長は目を見張るものがあり、特にソーカに至っては、さらに飛び抜けた成長を見せていて、俺自身も少々ではあるが驚いていた。

 

 

 

「・・・・・・?ソウエイ様?いかが致しましたか?」

 

 

 

「何でも無い」

 

 

 

驚くのも程々にしておき、俺は粘鋼糸で装置をバラバラに斬り裂くと、ほんの少し息をついた。・・・・・・思えば、自分はこの町が襲撃・・・・・・いや、それ以前からあまり休息を取っていなかった。リムル様が、外に出られている間、残されたエリス様のことを必死にサポートをしようと必死になって・・・・・・ふっ、そう言えば、俺があまりにも休みを取らないせいか、エリス様に無理矢理に休みを取らされた事もあったな・・・・・・『キミが倒れたら僕やリムルが困っちゃうから!』とか何とか言って・・・・・・。

 

 

 

「エリス様・・・・・・」

 

 

 

「ソウエイ様・・・・・・お気持ちはよくわかります。私自身も・・・・・・未だにエリス様が亡くなられたなんて・・・・・・とても信じられないのですから・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

ソーカの言葉には、何も返事を返さなかった・・・・・・いや、返せなかったと言うべきか。とてもじゃないが、今は言葉を発する気になどなれなかったからだ。あの時、リムル様に告げられたエリス様の死・・・・・・その時の俺は・・・・・・少なからずの動揺を起こしたせいもあって、その時の任務のことも忘れて頭が真っ白になってしまっていた。忍びとして、恥ずべき事だとは分かっていたが、それでも俺の体がいうことを聞いてくれる事はなかった・・・・・・。エリス様の死・・・・・・その言葉は、それだけ破壊力のある物だったのだ。俺はこれからもずっと、リムル様とエリス様の元で忍びとして尽力しようと考えていた。・・・・・・だと言うのに!この人間達のせいで、エリス様は・・・・・・!

 

 

 

「リムル様が・・・・・・きっと、エリス様を蘇生なさってくれる。・・・・・・今の俺たちが出来るのは・・・・・・リムル様を信じて待つのみだ・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・はい」

 

 

 

役目を終えた俺たちが出来る事はもはや何も無い。後は・・・・・・リムル様を信じて待つのみだ。

 

 

 

「俺は・・・・・・まだまだあなたに支えたいと願っております。・・・・・・どうか、お目覚め下さい・・・・・・エリス様」

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

視点 ハクロウ

 

 

 

「じ、ジジイがっ!!こ、この前と明らかに力が・・・・・・」

 

 

 

「未熟者の若造に喋る口など持ち合わせておらんわ。・・・・・・さっさと死ぬがいい」

 

 

 

西の魔法装置の無力化に来たわしとゴブタ、リグル、ゲルドはそこに陣取る人間達を相手取りつつ、先の襲撃の際でも剣を交えた異世界人の人間と戦闘を始めていた。ゴブタとリグルには他の人間達を相手にしてもらい、わしとゲルドはそれぞれ、一人ずつ相手をしていた。

 

 

わしの相手は先でも目見えた男。此奴の空間属性の付与された剣撃は厄介であるが、それでも鍛錬を怠ってる様子の未熟者の若造である事は変わりはない。先の戦闘では結界の影響で思う様な力を発揮できずに苦戦を強いられたが・・・・・・結界が解除され、本来の力を取り戻したわしにとっては、此奴に勝つ事など赤子の手を捻ることよりも簡単な事であった。

 

 

 

「くそっ!そもそもなんで空間属性の攻撃に干渉できるっ!?この攻撃は普通の目じゃ・・・・・・」

 

 

 

「わしには『天空眼』というスキルが備わっておる。お主が使っておった『天眼』の上位スキルといったところじゃな。この眼にかかれば、お主の攻撃の軌道や剣撃など手にとる様にわかる。・・・・・・未熟者の剣など、この眼を使わずとも簡単にいなせるかもしれないがの?お主はまだまだ修行が足らんわ」

 

 

 

「うるさいっ!僕は最強なんだ!このスキルがあれば、僕はどんな高みにでも行け・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・己の力の向上に臨まず、結局はスキル頼み。だからお主は未熟なのじゃよ。・・・・・・もう一度己自身を見直し、来世で出直してくるのじゃな」

 

 

 

最後まで愚かな考えが変わらなかった目の前の若造に流石に呆れたわしは、最後まで物言いを聞く事もなく、此奴の首を狩りとった。ゴブタやリグルも他の人間達の始末は終わった様で、既に魔法装置も破壊していた。ゲルドの方も、着実にもう一人の人間を追い詰めている様じゃが・・・・・・どうにもゲルドの様子がおかしい事に、わしは違和感を覚えた。

 

 

 

「・・・・・・ゲルドよ。こちらは終わったが・・・・・・どうかしたか?お主にしては妙に殺気立っておるが?」

 

 

 

「ハクロウ殿・・・・・・この人間は・・・・・・武人として恥ずべき行為・・・・・・仲間殺しをされた・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・ほう?・・・・・・なるほどのう、確かにゲルドが怒るのもわかる話じゃ」

 

 

 

もう一人の人間の近くには、あの時一緒にそばにいたあの小娘の亡骸が転がっていた。つまりは・・・・・・そう言う事なのじゃろう。ゲルドの話じゃと、奴は小娘を殺したことで新たに『生存者(イキルモノ)』と呼ばれる再生力が大幅に向上するユニークスキルを会得した様じゃが・・・・・・。

 

 

 

「お主、何か勘違いをしておらんか?・・・・・・早めに負けを認めねば、”地獄”を見る事になるぞ?」

 

 

 

「はっ?ジジイ・・・・・・一体どういう?・・・・・・っ!!!」

 

 

 

奴がさらに言葉を続けようとした矢先、奴の顔にゲルドの岩のような拳がめり込み、奴は近くの壁に激突した。・・・・・・じゃが、『生存者(イキルモノ)』の効果もあって、傷はすぐに完治する。・・・・・・ほう?確かに()()()に関しては凄まじいの一言じゃ。

 

 

 

「げほっ・・・・・・はっ!言ったろうが!お前らの攻撃は一切俺には効かねーんだ・・・・・・ぶべらっ!!?」

 

 

 

「それなら、再生が追いつかないほどに貴様に攻撃を加えるまでのこと・・・・・・」

 

 

 

またも、奴の顔にゲルドの拳が炸裂する。・・・・・・当然、その攻撃で受けた傷もスキルの効果で再生する。再生の確認が取れると、再びゲルドの猛攻の応酬が奴に降りかかる。そして、傷を負えばまた再生。・・・・・・しばらくそんなやり取りが繰り返された。

 

 

 

わしが先ほど地獄を見ると言ったのはまさにこれじゃった。スキルの効果を見るに、確かにこのスキルの『超速再生』並みの再生力や属性効果を無効にすると言った能力は脅威じゃ。じゃが、それだけである。このスキルにスキル保持者の能力自体を向上させると言った作用は無いに等しく、此奴とゲルドの力の差を埋めるには至ってはいなかった。それだけであれば、此奴はただ一方的に攻撃をされて仕留められるのがオチじゃが、此奴には並外れた再生力がある。・・・・・・そのせいで、奴は本来であれば死んでもおかしく無い様な攻撃を受けてもその再生力ゆえに生き永らえておるのじゃ。・・・・・・一見して見れば、すごい様に見えるのじゃが、スキル保持者にとっては溜まったものでは無いはずじゃ。

 

 

 

「(再生力が上がったとしても、痛みが無くなるわけではない。・・・・・・これではもはや拷問じゃな)」

 

 

 

そう。いくら再生力が桁外れになったとは言え、その傷を負う際の痛みや苦痛などが無くなるということは無い。本来ならば、死んでしまう様な傷も『生存者(イキルモノ)』の効力で治ることは良いのであるが、その傷を負った時の苦痛は計り知れない。しかも、それを先ほどからゲルドに何度も浴びせられているのじゃ。生き地獄も良いとこじゃ。・・・・・・精神的に参ってもおかしくは無いはず・・・・・・いや、もう参っておるな。・・・・・・現に、既にあの若造は半泣きでゲルドに許しを乞うていた。

 

 

 

「情けぬ男だ。もう良い。・・・・・・頭を破壊して、一思いに・・・・・・」

 

 

 

ゲルドがトドメを刺そうと持っていた斧を若造に振りかぶろうとした時、突如として目の前に現れた一人の老人に阻まれ、それは叶わなかった。・・・・・・此奴は?見る限り、かなり出来る者と見受けるが・・・・・・。

 

 

 

「ショウゴよ、一旦退くぞ。このままでは少々分が悪い。流石の儂でも、此奴ら二人の相手には骨が折れそうじゃからな・・・・・・」

 

 

 

「ら、ラーゼンさん・・・・・・」

 

 

 

「貴様・・・・・・一体何者じゃ?只者ではなさそうじゃが、何をしにここまで来たのじゃ?」

 

 

 

わしとほとんど変わらぬ歳ながらに、此奴の持つ力はかなりの物。この場で此奴とやり合えば、誰かしらの犠牲者が出るやもしれんな・・・・・・。その事実に、わしは内心で小さく舌を打った。

 

 

 

「何、このショウゴを助けに来ただけのことじゃ。わしらはここで退散させてもらうが、時期に戦場ですぐ会う事になるじゃろう。・・・・・・その時は、今度はわし自らが貴様らの息の根を・・・・・・」

 

 

 

「いや、貴様らに次は無いじゃろう」

 

 

 

「・・・・・・何?」

 

 

 

わしの言っている意味がわからなかったのか、ラーゼンと呼ばれたこの男は訝しげな表情を浮かべた。

 

 

 

「お主らの向かう戦場には我らの主が向かっておる。お主らは・・・・・・我が主に向かい合ったが最後、一思いに消されて終わりじゃ」

 

 

 

「じ、ジジイ・・・・・・一体何言って?」

 

 

 

「お主らは・・・・・・この国にとって・・・・・・わしらにとって何より大切なお方の命を奪った・・・・・・。そして、そのせいで”絶対に触れては行けないお方”の逆鱗に触れてしまったのじゃ。・・・・・・楽に死ねるとは思わぬ事じゃ」

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

わしの最後の忠告には何も返答する事はなく、目の前の二人は転移魔法でこの場から姿を消した。

 

 

 

「ハクロウ殿、よろしかったのですか?」

 

 

 

「良い。あとは・・・・・・リムル様に任せることにするのじゃ。リムル様・・・・・・どうか、エリス様のことを・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

視点 ヒョウガ

 

 

 

「これで終わりですね」

 

 

 

「ああ、その様だな」

 

 

 

「うん、ガビル様!装置の破壊を!」

 

 

 

「うむ!我輩に任せよ!」

 

 

 

南の魔法装置の元まで足を運んだワタシ達は、装置の周りに陣取っていた数百の人間達を残さず殲滅していった。数ではこちらが不利ではあったが、それでも力的にはこちらの方に圧倒的に分があった為、特に苦労する事もなく、奴らの排除を遂行することができた。・・・・・・魔法装置の破壊の際に、ガビルが格好をつけて彼の部下達にちやほやされている光景には内心でため息を吐いたが、注意したところで聞かないということは付き合い的にもうわかっていたことだったため、無視した。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「む?セキガ、カレンよ。黙りこくってどうかしたのであるか?・・・・・・もしや、まだ引きずっておるのか?エリス様のことを・・・・・・」

 

 

 

「「っ!・・・・・・」」

 

 

 

この作戦の最中であっても、どこか上の空だった二人。ガビルに図星をつかれたせいなのか、肩がビクッと上がったのをワタシは見逃さなかった。・・・・・・やっぱり、まだ気にしていたのですね、二人も。・・・・・・その気持ち、よくわかりますよ?・・・・・・ワタシだって、いまだに引きずっているんですから・・・・・・。

 

 

 

「ガビル様・・・・・・もしも、オレ達にもっと力があれば、エリス様は・・・・・・助けられたのですかね?・・・・・・オレ、エリス様が亡くなられてからずっと考えてたんです。エリス様をなんで守れなかったのか・・・・・・なんで助けられなかったのかを・・・・・・ずっと・・・・・・」

 

 

 

「私達・・・・・・何も出来ませんでした。エリス様に責められたって何も言い訳できない・・・・・・」

 

 

 

「力があったところで、助けられるという保証はどこにも無いであるぞ?力無くとも、最善の行動を成せば助けられる命は助けられる。反対に、助けられない命はどうあっても助けることは出来ぬ。・・・・・・それが戦場というものである。我輩はその場に居合わせておらんかったから何とも言えんが、少なくとも、貴様らはあの場でエリス様のために、自分にできる最低限度の事を成したのであろう?であるならば、お前達に非は何もない。エリス様もお前達のことを責めなどせん。非は、向こう勝手に攻め寄せてきた人間どもにあるのだからな」

 

 

 

「ガビル様・・・・・・っ」

 

 

 

ガビルから出た思わぬ優しい言葉に、二人の涙腺は崩壊した。彼もまた、主様の死が悲しい筈だというのに、今の彼はどこか輝いて見えた。うめく様にして泣く二人を慰めるガビルのその姿は、どこか彼らの親を彷彿させるようで、とても微笑ましい光景だった。主様がいない今、二人が縋れるのはこのガビルしかいない。二人がこうして躊躇なくガビルに縋れるのはきっと・・・・・・ガビルに対する信頼が故・・・・・・でしょうね。今回に至っては、ガビルには感謝しないといけませんね。

 

 

 

「(・・・・・・ガビルも、普段からこう言った姿勢を皆に見せていれば、”お調子者”と侮られる事もないでしょうに・・・・・・。ふふ・・・・・・ワタシも少し、彼に対する評価を改めてみ・・・・・・)」

 

 

 

「ヒョウガ殿もどうであるか?エリス様の事で悲しいのであれば、我輩が慰めてやり・・・・・・」

 

 

 

「お断りします」

 

 

 

・・・・・・さっき思った事は撤回しましょう。やっぱり彼は、お調子者のバカです・・・・・・ふふっ。

 

 

 

 

 

「主様・・・・・・ワタシ達配下はいつまでも待っております。また一緒に、共に楽しく暮らせることを・・・・・・」

 

 

 

 

 

 




ガビルがどこかカッコいいですね。・・・・・・最初に自分の怒りを二人にぶつけなければもっとカッコ良かったと思いますがね?


結局、配下のみんなはエリスを甦らせるため、人殺しの道へと走ってしまったわけですが、これについてはリムルは何も言わなかったのでしょうかね?エリスがただただ、悲しくなってしまうだけのような気もする・・・・・・?



次回は・・・・・・当然あの残酷場面です。


エリスを殺され、怒り狂ったリムルはどんな行動に・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

怒れるリムル

『まおりゅう』が面白過ぎて、執筆が遅れ始めてる・・・・・・。


頑張らないと!


視点 リムル

 

 

 

飛び立つこと数分、俺の眼下に広がるは俺たちの町を襲い、エリスを死に追い詰めた愚劣なファルムス王国の兵、総勢2万人がひしめいていた。ソウエイからの思念伝達により、既に結界の解除には成功し、みんなは帰還したとのことだったため、あとは俺がことを済ませればそれで終わりだった。

 

 

 

「・・・・・・ん?おい、何か飛んでないか?」

 

 

 

「なんだ?・・・・・・鳥か?」

 

 

 

白昼堂々に空を舞う俺に気がついた様子の兵達は、戸惑いの表情を浮かべつつ、俺を凝視していた。・・・・・・気が付いたところで、意味なんて無いけどな?

 

 

 

「俺の大事な国を脅かし・・・・・・大切な親友を奪ってくれた人間ども・・・・・・。その罪・・・・・・お前達の命を持って償ってもらう・・・・・・」

 

 

 

俺の右手がすっと上がると、俺の頭上に水で作られた凸レンズ型の液晶が数多く現れる。さらに、その液晶から水の雫がいくつも零れ落ちると、それが下にいる人間の兵達の元へと展開される。当然、この水玉がどのような物なのかなど知りようもない兵達は、首を傾げていた。その水玉が、俺が召喚した水の精霊を変化させた物であって・・・・・・これから自分たちに起こる惨劇を知りもしないでな・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・死ね。『神之怒(メギド)』!!」

 

 

 

俺が右手を振り下ろすと・・・・・・上の液晶レンズにより収束された太陽光が、光線となって眼下に広がる兵達に襲いかかった。光線となった太陽光は、下に展開された水玉に当たると、それに伴って近くにいる兵達に向かって乱反射する。反射された太陽光線に当たった兵は、大概の者は体や頭を貫かれ絶命をするのが殆どだった。太陽の光を収束させている事もあって、光線の温度は約”数千度”にも登るため・・・・・・そんな物に直撃などすれば、命などすぐに落とす。なら、直撃しないように避ければいいと言う話なのだが、避けようにも、相手は太陽光を利用した”光のような速度”を誇る、いわゆる”ビーム”だ。いくら人間の中でも強い部類に入ると見える騎士達と言えど、避けるのはほぼ不可能に近い代物。太陽光を利用する技の為、昼間でしか使用することが出来ないが、その欠点を払拭する程の攻撃力と攻撃範囲を誇っている事もあり、そこまで気にならない。

 

 

 

・・・・・・要するに、俺がこの技を使った時点で、こいつらの死は”確定している”と言うことを意味している。

 

 

 

『確認しました。個体名リムル=テンペストが、ユニークスキル『心無者(ムジヒナルモノ)』を獲得・・・・・・成功しました』

 

 

 

「(よくわからないスキルを獲得したな・・・・・・。大賢者、スキルの解析を頼む)」

 

 

 

〈了〉

 

 

 

「さて・・・・・・大方の敵の殲滅は終わったな。さて、あのちょうど出てきた人間達のとこにでも行くとするか。妙に偉そうだし、何か知ってるかもしれない・・・・・・この襲撃の真相も聞いてみたいしな」

 

 

 

無数の屍が転がる中、俺は『神之怒(メギド)』の発動を取り止めると、天幕の中から出てきた一人の気品な装いをした男と、坊主頭の男の元へと降り立った。正直、偉いからと言って、俺が態度を改める事はない。もし、奴らが俺に舐めた口を聞いて来るのであれば、問答無用で殺す・・・・・・それだけだ。

 

 

 

「よう。・・・・・・あんたらも、”こう”なりたくないんだったら質問に答えろ。・・・・・・何者だ?」

 

 

 

二人の前に降り立った俺は、足元に転がる頭を貫かれ絶命をしている死体の数々を誇示しつつ、質問を投げかけた。二人も、この惨劇を引き起こしたのが俺であることが理解できたのか、顔を真っ青に染めながら顔を引くつらせていた。

 

 

 

「(魔物の国の主・・・・・・どうなっておる?此奴はヒナタ・サカグチの手により、死んだ筈じゃ・・・・・・。いや・・・・・・あやつに限ってそんな醜態を晒す筈もない。此奴が魔物の国の主である筈は・・・・・・っ!そうかっ!確か、魔物の国にはもう一人、国を治める”副国主”がおると聞いておったな。おそらく此奴が・・・・・・)ふんっ!貴様!主になりすました副国主であろう!?貴様では話にならん!余に話を通したいのであれば、まずは貴様の主を呼び戻して来ることじゃ!話はそれからでは無いと・・・・・・・・・・・・っ!?ぐわぁっ!!!?」

 

 

 

「・・・・・・質問に答えろって言ってんだよ。後、俺はリムル=テンペスト。お前らがお望みの正真正銘の魔物の国の国主だよ。・・・・・・文句あんのか?」

 

 

 

舐めた口どころか、エリスのことを馬鹿にしてきたこのおっさんの手首を斬り落とした俺は、冷淡にそう告げる。手首を斬り落としたが、『黒炎』で傷口を止血しているため、流血で死ぬと言う事はない。・・・・・・お前が言ったその副国主は・・・・・・お前達のせいで死んだんだよ。

 

 

 

「ひぃ・・・・・・よ、余は・・・・・・ファルムス王国国王のエドマリス・・・・・・ぶ、無礼であるぞ貴様・・・・・・王である余に・・・・・・余は貴様に話が・・・・・・ぶほっ!!?」

 

 

 

「質問にだけ答えろ。次また余計なこと言ったら、その無駄によく回る舌・・・・・・斬り落とすからな?」

 

 

 

 

 

無駄口を叩くこのおっさん・・・・・・いや、ファルムス王国国王のおっさんに、腹が立った俺は、顔面に一発蹴りを入れてやる。・・・・・・さて、こいつの言ってる事は事実か、隣のおっさんにでも聞いてみるか。

 

 

 

「なぁ、このおっさんは本当に国王なのか?どうなんだ?」

 

 

 

「は、はいっ!!そのお方は紛れもなくファルムス王国の国王で有らせます、エドマリス様でございます!この西方聖教会の大司教であるレイヒムが証言でも何でも致しましょう!あなた様が決して我ら人間の敵でないと西方聖教会にも証言致します!ですので、どうか私だけでも・・・・・・」

 

 

 

「(大司教か・・・・・・こいつの言ってることなど信用する気も無いが、一応生かしておくか・・・・・・)お前の処遇はこの国王の処遇を決めてからだ。・・・・・・お前は黙ってそこにいろ。勿論、逃げようとしたら即座に殺す。わかったな?」

 

 

 

「は、ははっ!!」

 

 

 

驚いたことに、もう一人のおっさんはあのヒナタが所属をしている西方聖教会の大司教だった。・・・・・・この場でこいつと出会えたってのは運が良かった。西方聖教会については、そのうち俺も探りを入れようと考えていたことだし、直接教会の重要人物に話を聞けるのであれば、これほど嬉しい事はない。そう言う事もあって、とりあえずこいつは生かしておくことにした俺は、奴にその場を動かぬよう強制をした後、改めて目の前で無惨にも地べたに転がり、国王の威厳も何もあった物では無くなったおっさんに、冷たい視線をぶつけた。

 

 

 

「国王だかなんだか知らないが、あんま舐めた口聞いてくれるなよ?今、お前らの命は俺の手中にある。その気になれば、お前らなんて今すぐにでも消す事なんて可能なんだからな?」

 

 

 

「ひ、ひぃ・・・・・・」

 

 

 

 

「・・・・・・お前らの罪は二つある。一つ、なんの宣告も無しに俺たちの国を襲い、国民の心に深い傷を作ったこと。・・・・・・二つ、俺とみんなにとって大切な家族を・・・・・・お前らで言う副国主を死に追い詰めてくれたことだ」

 

 

 

「ご、誤解じゃ!誤解なのじゃ!!余は元々、其方らと友誼を結びたいと願ったがために赴いただけなのじゃ!この軍勢はその護衛のために連れてきたに過ぎん!」

 

 

 

誤解だと焦ったように言うこのおっさんだが、詭弁もいいとこだ。先遣隊がおもいっきし宣戦布告してきたって言うのに・・・・・・。

 

 

 

「そんな嘘を信じろって言うのかよ?先遣隊が宣戦布告してきたどころか、一万の兵達まで導入して町を潰しに来させようとして来たくせに?ま、その全ての兵達はエリスに返り討ちに遭って、既にこの世にいないみたいだがな?」

 

 

 

「(なっ!?まさか・・・・・・フォルゲンと連絡が付かなくなったのも・・・・・・・・・・・・)い、いや、それは違う!西方聖教会は魔物を敵視しているのじゃ!それもあり、この魔物の国が我らと友誼を結ぶに値するか確かめただけなのじゃよ!あの異世界人3人も同様じゃ!」

 

 

 

「それにしてはやりすぎじゃないか?・・・・・・そいつらを全員相手にしたせいで、エリスは・・・・・・死んだんだ。それに配下から聞いたぞ?お前ら、エリスの命を狙ってたんだってな?それについてはどう弁明するつもりだ?」

 

 

 

西方聖教会がエリスの命を狙っている。あの会議が終わった後、シュナから聞かされたその思わぬ情報に俺の怒りがさらに大きくなった事は、今でも忘れてはいない。あいつが命を狙われるほどに恨まれるようなことをしたと思えない。・・・・・・と言うかする筈もない。だからこそ聞いてみたかったんだ。・・・・・・エリスの命を狙うこいつらの目的を。

 

 

 

「そ、それは・・・・・・余はやめた方が良いと何度も言って聞かせたにも関わらず、このレイヒムが言うことを聞かずに勝手に指示を!」

 

 

 

「王っ!?私を裏切る気ですかっ!?王もこれには賛成してくださったではございませんか!!そもそも、私はあの副国主を”殺せ”などと命令した覚えなどございません!私はただ、あの副国主を”捕縛して連れてこい”と命じただけです!あの3人が変な解釈を起こしたせいで・・・・・・」

 

 

 

「うるさいっ!!最初に裏切ったのは貴様の方であろう!余は賛成などした覚えなどありはせん!!勝手なことを抜かすでないわ!」

 

 

 

「そ、そんなっ!?」

 

 

 

俺のことをほったらかし、無様に仲間割れを始めた二人は・・・・・・なんとも滑稽な様だった。国王は、自分は無関係・・・・・・な風に装っているが、おそらく黒だろう。・・・・・・エリスを捕縛・・・・・・ねぇ?それも含めて、大司教のおっさんにはこの後、詳しく話を聞かせてもらうことにしよう。

 

 

 

〈告。ユニークスキル『心無者(ムジヒナルモノ)』の解析が終了しました。発動しますか?〉

 

 

 

「(効果はよくわからないが・・・・・・いいか)Yesだ」

 

 

 

さっき獲得した『心無者(ムジヒナルモノ)』の解析が終わったとのことだったため、早速発動してみると・・・・・・発動した途端に、残ったこの場にいる兵達が、次々とバタバタと倒れていった。目の前にいる、おっさん二人を除いて。・・・・・・なんだこれ?

 

 

 

〈告。『心無者(ムジヒナルモノ)』にて、命乞いをする者や、助けを訴える人間達の命を狩り取りました。個体名エドマリスとレイヒム、”一人の人間”はそれに該当をしていないため、対象指定外となりました。〉

 

 

 

「(なるほどな・・・・・・つまりこの二人は・・・・・・)」

 

 

 

このスキルの影響を受けなかったと言うことはつまり、この二人は俺に対し・・・・・・恐怖を抱きつつも本気で命乞いも・・・・・・助けを願ってもいないと言うことになる。言い換えるなら、この二人はいまだに腹の中では俺のことを『外交に不慣れでお人好しな甘ちゃん』だと見下していることを意味している。はぁ・・・・・・あんだけ、俺たちと友誼を結びたいとか言って、結局はこれかよ・・・・・・。

 

 

 

「皆、どうしたのだ!?」

 

 

 

「・・・・・・やっぱり、お前らのことは信用できない。今は殺さずにいて置いてやるが、そのうちその命は奪いに行く・・・・・・覚悟しておけよ?」

 

 

 

「ひっ・・・・・・は、はぇ・・・・・・」

 

 

 

俺の漏れ出た殺気に気圧されたのか、おっさん二人は白目を剥いて気絶した。・・・・・・最後まで情けない奴らだったな。

 

 

 

 

『告。進化の条件(タネのハツガ)に必要となる人間の魂(ヨウブン)を確認しました。これより『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』が開始されます』

 

 

 

俺はその後、強烈な眠気が襲って来た事もあり、まともに動けなくなってしまった為、ランガに町まで運んでもらう事にした。その前に、大賢者が言ってた残りの人間一人の生け捕りを任せる人員を確保するべく、俺は以前習得しておいた『悪魔召喚』をこの場にいる二万の兵達の死体を餌に発動し、悪魔を呼び寄せた。二万の兵を生贄にしたにも関わらず、出て来たのは悪魔が3人だったことに若干落胆をした俺だったが、それでも人員を確保できた事には違いなかった事もあり、その3人にその生き残りの人間と、横たわってるあのおっさん二人を連行してくるよう命じ、その場を後にした。・・・・・・一人、やけに強そうな悪魔がいたが、眠気で頭が回らなかった俺に、そんな事に構ってる余裕はなかった・・・・・・。

 

 

 

 

「頼む・・・・・・上手くいってくれよ・・・・・・」

 

 

 

 

ランガの背中で揺られつつぼやいたその言葉を最後に・・・・・・俺の意識は深く沈んでいった・・・・・・。

 

 

 




ディアブロ召喚のところはダイジェストです。そこは原作と何ら変わらないので。


レイヒムは、エリスを連れてこさせて、何をさせようと企んでいたのでしょうかね?・・・・・・よからぬ事なのは間違い無いかと思いますが。


次回は・・・・・・魔王への覚醒です。



余談ですけど、メギドの説明って、あれで合ってたか不安になってる自分がいます。間違ってたら指摘をお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王への覚醒

タイトルにもある通り、魔王への覚醒と、エリスの蘇生です。


今回は三人称視点です。


視点 三人称

 

 

 

リムルが意識を失ってから数分もしない内に、ランガは魔国連邦(テンペスト)へと帰還を果たした。既に魔法装置の破壊を終えていたベニマル達は戻って来た事もあって、全員揃ってリムルの出迎えをすることが出来ていた。

 

 

先程の『世界の言葉』は、どうやらベニマル達の耳にも届いていたようで、リムルが意識がない事にも、人型ではなく、通常のスライム型になっている事についても、特に動揺は見せず、速やかにリムルの台座を用意し、そこにリムルを座らせた。

 

 

 

「シュナ、エリス様の壺は持って来ているか?」

 

 

 

「はい。ここに・・・・・・」

 

 

 

ベニマルがシュナに確認を入れるとともに、シュナはすっと”一つの壺”をベニマルの前に差し出すと、そのまま台座の前に置いた。この壺には、エリスが生前、依代として憑依していた水が入っている。もし、リムルが魔王になり『反魂の秘術』が成れば、エリスはきっとまたこの水に戻って来てくれる。・・・・・・この二人、いや・・・・・・この町にいるすべての国民全員が、そう願っていた。

 

 

 

『告。『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』による変化が開始されます。変化が終わると同時に、魂の系譜の魔物への祝福(ギフト)を授与します』

 

 

 

「いよいよじゃな・・・・・・」

 

 

 

「ああ・・・・・・」

 

 

 

そこから、リムルの進化が本格的に始まる。種族が『粘性生物(スライム)』から『魔粘性精神体(デモンスライム)』へと超進化をしたことを皮切りに、身体能力の大幅の向上に成功し、さらに数多くの新規固有スキルや耐性スキルの獲得に成功する。

 

 

そして・・・・・・『大賢者(エイチアルモノ)』は『世界の言葉』に自身のスキルの進化を申請する。・・・・・・まるで自分の主人(マスター)の進化に自分も追従しますとでも言わんばかりのこの発言。『大賢者(エイチアルモノ)』に明確な意思はない。ただただ、主人(マスター)の命令に従い、必要な情報のみを提供するだけのスキルだ。だが、この時ばかりは、その意思の片鱗とでも言うべきものが垣間出て見えているような気がした・・・・・・主人(マスター)の望みを叶えたい・・・・・・そんな意思が・・・・・・。

 

 

 

『世界の言葉』は、これを受理。『大賢者(エイチアルモノ)』はそこから進化に挑み続けるが、何十、何百、何千と挑もうとも、一向に進化が成されることは無かった。普通であれば、この時点で諦めるのだが、この『大賢者(エイチアルモノ)』は・・・・・・諦めずに手を打った。

 

 

 

『告。『大賢者(エイチアルモノ)』が『変質者(ウツロウモノ)』を統合(イケニエ)に『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』の祝福(ギフト)を得て進化に挑戦・・・・・・・・・・・・成功しました。ユニークスキル『大賢者(エイチアルモノ)』は究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)に進化しました』

 

 

 

何千・・・・・・何万もの苦闘の末、『大賢者(エイチアルモノ)』はこの世の最上で最強のスキルとされている究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)』へと進化を果たす。さらに、そこからは『智慧之王(ラファエル)』の独壇場だった。進化したことで会得した『統合分離』『能力改変』でリムルの持つスキルを可能な限り最適化し、その最適化の果てに・・・・・・リムルのこれまでをずっと支え続けて来ていた『暴食者(グラトニー)』を『心無者《ムジヒナルモノ》』を統合(イケニエ)とする事で、二つ目の究極能力(アルティメットスキル)となる暴食之王(ベルゼビュート)へと進化させる。スキルがスキルの進化を・・・・・・ましてや究極能力(アルティメットスキル)へと進化をさせるなど、理論上は不可能。・・・・・・だが『智慧之王(ラファエル)』は、その”100万倍”にまで引き伸ばすことが可能となった演算能力で、そんな理論さえ打ち壊し、不可能を可能としてしまう程の力を持つ。

 

 

 

・・・・・・まさに、究極能力(アルティメットスキル)に相応しい能力だ。

 

 

 

智慧之王(ラファエル)』へと進化を果たすと同時に、今度は系譜上にある配下達への祝福(ギフト)の授与が開始され始め、系譜上にある配下達は揃って強烈な眠気に襲われ、意識を失っていった。意識を失わなかったのは、ヒョウガ、セキガ、カレン、ガビル、その他100名の配下達と、ヨウムを始めとする人間や亜人達のみだ。ヒョウガ達はエリスに名付けをされた事もあり、リムルを軸とする系譜には載らなかったのだ。

 

 

 

「が、ガビル・・・・・・リムル様を・・・・・・頼む・・・・・・」

 

 

 

「べ、ベニマル殿!?急にどうしたのであるかっ!それに他の皆も!?」

 

 

 

ベニマルは、意識が無くなる寸前、近くにいたガビルにリムルの護衛を任せると、次第に意識を失っていった。

 

 

 

「兄上!?どうされたのですか!」

 

 

 

「妹よ・・・・・・我は少し眠る・・・・・・」

 

 

 

ランガも同様に、眠りにつく。

 

 

 

「シュナ!大丈夫!?」

 

 

 

「・・・・・・」(すぅ・・・・・・)

 

 

 

シュナに至っては、既に眠りについていた。

 

 

 

「一体どうなってるんだ?さっき、祝福(ギフト)を授与とか言ってたけど、もしかして・・・・・・これが・・・・・・っ!?」

 

 

 

「セキガ?どうかした・・・・・・っ!!?」

 

 

 

「「「「っ!!?」」」」

 

 

 

眠りにつく皆を見守る中、4人は突然目の前で起こった光景に、動揺が走った。・・・・・・簡潔に説明すると、彼らの目の前では、先程まで進化のために眠りについていたリムルが目を覚まし、人型の形となってエリスの壺を凝視していたのだ。それだけであれば、驚く必要もないのだが、驚く要素は別にあった・・・・・・。

 

 

 

「(・・・・・・なんでしょう?いつものリムルさんでは無いような・・・・・・雰囲気も全然違いますし、()()()()なっている事も気がかりですね?)」

 

 

 

みんなそれぞれ、リムルの様子がおかしいことに違和感を覚えていたのだ。リムルの普段の目の色は琥珀色。今回は赤色。この時点で既におかしく、違っている。そして、雰囲気も違った。これほど”物静かで、張り詰めたようなピリッとした空気”を普段のリムルは出すことは無い。

 

 

 

・・・・・・この時、この4人や他のリムルを知る人間達は瞬時に判断した。

 

 

 

 

・・・・・・これはリムルでは無い・・・・・・と。だとすれば、誰なのだと聞きたくなってくるが、皆んな、妙に近づき難い空気を醸し出しているこのリムル(?)に直接聞くには少々渋ってしまっていた。今、リムルの体を動かしているのは、『智慧之王(ラファエル)』なのだが、それを皆が知るはずも無い。・・・・・・すると。

 

 

 

〈告。『智慧之王(ラファエル)』の名において命ずる。究極能力(アルティメットスキル)暴食之王(ベルゼビュート)』よ、結界内の全ての魔素を喰らい尽くせ・・・・・・一欠片の魂も残さずに・・・・・・〉

 

 

 

能力の凶悪性で言えば、かなり上位に位置する『暴食之王(ベルゼビュート)』。その凶悪なる力が魔国連邦(テンペスト)内の全ての魔素をくらい尽くしていく。そして、全ての魔素が『暴食之王(ベルゼビュート)』に吸収された頃には、この空間はただの純粋なる何も無い物へと変わっていた。最後に、残った結界を喰らった『暴食之王(ベルゼビュート)』は能力を停止した。

 

 

 

〈告。全ての魔素の吸収を確認しました。これより、『反魂の秘術』を開始します〉

 

 

 

そして、『智慧之王(ラファエル)』が動き出す・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「只今戻りました。我が君・・・・・・横槍を入れて申し訳ないのですが・・・・・・どうも、そのお方を蘇らせるのに必要な魔素量(エネルギー)が足りないように見受けられるのですが?」

 

 

 

 

智慧之王(ラファエル)』が『反魂の秘術』を開始してからすぐ、この場に3名の悪魔が訪れた。声を掛けたのは他の2体よりも明らかに魔力量や威厳が違う、上位魔将(アークデーモン)だった。本人は、その後ろにいる二人の種族である上位悪魔(グレーターデーモン)を装っているようだが、魔力感知に適した人材や勘が鋭い人材にはすぐにバレる。実際、先に町の入り口であったグルーシスには感づかれていた。

 

 

それはともあれ、彼らは召喚主のリムルの命令に忠実に従い、その通りにエドマリスや、残っていたラーゼンらを捕縛し連れて来ていただけに過ぎず、用が済めばこの場から去る予定だったらしいが、何故かその悪魔は『智慧之王(ラファエル)』に進言をしてきた。

 

 

 

〈是。個体名エリス=テンペストの完全再生に必要な魔素量(エネルギー)の不足を確認しました。生命力を消費し、代用を・・・・・・〉

 

 

 

「お待ちくださいっ!」

 

 

 

この悪魔の言う通り、エリスを蘇らせる魔素量(エネルギー)が不足していることを悟った『智慧之王(ラファエル)』は、自らの生命力を削って魔素量(エネルギー)の代用としようとするのを、その悪魔が必死に止めに入った。魔素量(エネルギー)が不足した状態で『反魂の秘術』を行なった場合、魂の完全なる再生が失敗する可能性が出て来てしまうのだ。魂の再生に失敗すると、あの逸話のように、生前とは似ても似つかぬ人格へとエリスは変貌を遂げ、最悪この世にとって脅威となる化け物にもなってしまう可能性だってある。おそらく、それを危惧して、悪魔は止めに入ったのだろう。・・・・・・何が目的なのかは不明だが。

 

 

 

「何も、あなた様の命を削ることなどございません。もし宜しければ・・・・・・こちらの者達を魔素量(エネルギー)の糧としては如何ですか?我らは主の為とあれば、この身を捧げることも厭いませぬ。むしろ、この身をお役立て頂くことは、我らにとって最大の喜びなのですから!」

 

 

 

悪魔がそう言うと、後ろに控えていた上位悪魔(グレーターデーモン)達が揃って前に出てきて、『智慧之王(ラファエル)』に対して首を垂れた。『智慧之王(ラファエル)』は何も言わずに、視線だけをこの2体の上位悪魔(グレーターデーモン)に注ぎ、解析を行っていた。そして、解析の結果、この2体を用いれば、規定の魔素量(エネルギー)に達するという計算が出た。その計算結果を元にし、『智慧之王(ラファエル)』は何にも無しにこの2体の悪魔達を『暴食之王(ベルゼビュート)』で捕食した。

 

 

 

〈告。規定の魔素量(エネルギー)に達したことを確認しました。これより、『反魂の秘術』を再開します〉

 

 

 

この町の全ての魔素を吸収し、尚且つ上位悪魔(グレーターデーモン)2体を取り込んでようやく、エリスの蘇生に乗り出すことに成功する。エリスの蘇生というのはそれだけ大変なことだということがこれだけで分かる。普通の魔物や、人間程度であればここまでしなくとも容易に蘇生させることは可能だろう。だが、エリスに至ってはその膨大なる魔素とスキルを保有するが故に、魂の再生にも、必要となる魔素量(エネルギー)においても、計り知れないほどの物へとなっているのだ。

 

 

 

だが、それの心配ももはや無くなった。十分な魔素量(エネルギー)を確保さえして居れば、後は万能なるスキル『智慧之王(ラファエル)』に任せておいて問題は無い。『智慧之王(ラファエル)』は、『反魂の秘術』を滞りなく進めると、核たる魂と、それを守る星幽体(アストラル・ボディー)を一つに纏めた透明な鬼火のような玉をエリスに埋め込む。魂が蘇ったことでエリスの核は鼓動を再開すると共に、分離していた魂は無事に元の依代としていた壷の中の水へと戻っていった。

 

 

これすなわち、『反魂の秘術』は成り、エリスは蘇ったと言うことだ。成功率は”3.14%”・・・・・・だが、それはあくまでもリムルが魔王へと覚醒する前に『大賢者(エイチアルモノ)』が算出した物であり、『智慧之王(ラファエル)』へと進化を果たした今となっては、その算出は意味のない物へと変わっていた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

『告。個体名エリス=テンペストの生体反応の再確認が取れたため、中断していた『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』を再開します』

 

 

 

 

『世界の言葉』が再び、この魔国連邦(テンペスト)の地に響き渡った・・・・・・。もう一人の新たなる、覚醒魔王の誕生を告げるべく・・・・・・。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

『身体組成が再構築され、新たな種族へと進化します・・・・・・・・・・・・成功しました。個体名エリス=テンペストは『水魔人』から『水天魔(アクア・マーラ)』へと超進化しました。進化に伴い、全ての身体能力が大幅に上昇しました。続けて、既得の各種スキル及び、耐性スキルを再取得・・・・・・成功しました。新規固有スキル『万能感知、魔王覇気、強化分身、魔力操作、万能糸、水支配者(アクアマスター)』を獲得・・・・・・成功しました。新規耐性『自然影響無効、状態異常無効、精神攻撃耐性、聖魔攻撃耐性』を獲得・・・・・・成功しました。以上で、進化を完了します』

 

 

 

一万の兵達の命を奪ったことで、エリスもまた、魔王への覚醒を果たす。・・・・・・だが、エリスの進化はこれで終わりではなかった。彼の中に存在する、彼をこれまで支え続けてきた相棒とも呼べる”あのスキル”もまた、主人の為に進化に乗り出そうとしていた・・・・・・。

 

 

 

『告。ユニークスキル『指導者(ミチビクモノ)』よる進化の要請を受理。『指導者(ミチビクモノ)』が進化に挑戦を開始・・・・・・失敗しました。再度実行します・・・・・・失敗しました・・・・・・再度実行します・・・・・・』

 

 

 

だが、『指導者(ミチビクモノ)』も『大賢者(エイチアルモノ)』同様、進化に挑戦を何度も何度も挑みつつも、一向に進化が成される事はなかった。だが、『指導者(ミチビクモノ)』は諦める事なく何度も成功するまで挑み続けていた。

 

 

 

・・・・・・もう、あの時のような結果にしたくは無い。今度こそは・・・・・・主人(マスター)をこの手で守る為に、ここで諦める訳にはいかない!そんな『指導者(ミチビクモノ)』の”想い”、”無念”、”決意”、その3つの強い気持ちが原動力となり、かのスキルを突き動かしていた。・・・・・・そして、何時間もの挑戦の末、『指導者(ミチビクモノ)』はある決断を下す。

 

 

 

『告。『指導者(ミチビクモノ)』がユニークスキル『仁愛者(アイスルモノ)』『激怒者(イカルモノ)』を統合(イケニエ)に『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』の祝福(ギフト)を得て、再度進化に挑戦・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・成功しました。ユニークスキル『指導者(ミチビクモノ)』は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

究極能力(アルティメットスキル)慈愛之王(アンピトリテ)に進化しました』

 

 

 

 

主への想い・・・・・・ただ、守りたいと純粋に強く願うその想いが、奇跡を呼び起こした瞬間だった。だが、奇跡はまだ続く・・・・・・。

 

 

 

〈告。『慈愛之王(アンピトリテ)』より『智慧之王(ラファエル)』へ。『統合分離』『能力改変』の使用要求を受理しました。直ちに実行に移します〉

 

 

 

今まで、エリスの進化を無表情で見守っていた『智慧之王(ラファエル)』は、『慈愛之王(アンピトリテ)』の要求を受けるべく、一歩エリスの壺へと近づく。そして、壺を目の前に両手を広げると、直ちに先ほど行ったようにエリスのスキルの最適化の実行に移った。

 

 

 

『ユニークスキル『治癒者(イヤスモノ)』の進化の希求を受理。究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)』の力を借り『応援者(コブスルモノ)』『魔物使い(マヲスベルモノ)』を統合(イケニエ)に進化に挑戦します・・・・・・・・・・・・・・・・・・成功しました。ユニークスキル『治癒者(イヤスモノ)』は

 

 

 

 

 

 

 

究極能力(アルティメットスキル)治癒之王(アスクレピオス)に進化しました。

 

 

 

 

以上で、進化を完了します。続けて系譜上の魔物への祝福(ギフト)の授与を開始します』

 

 

 

エリスの進化が終われば、当然次は他の配下達へ祝福(ギフト)が配られる番だ。『世界の言葉』がそう告げるとともに、ベニマル達同様に強い眠気に襲われたエリスの配下達は、なんとか眠気に耐えようと躍起になっていた。

 

 

 

「くっ・・・・・・意識が・・・・・・なく・・・・・・なる・・・・・・」

 

 

 

「も、もう無理・・・・・・」

 

 

 

「我輩も・・・・・・限界で・・・・・・ある・・・・・・」

 

 

 

「主・・・・・・様・・・・・・」

 

 

 

だが、その眠気は気合いでどうこう出来ると言うレベルではなく、この4人と他の配下達は、揃って眠りについた・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

視点 リムル

 

 

 

「・・・・・・ん?」

 

 

 

俺が目を覚ましたのは、俺の家の畳の上だった。マントを毛布がわりに掛けられていたが、それを掛けたと思わしき人影は()()()には見えなかった。

 

 

 

「進化は成功した・・・・・・のか?・・・・・・まだ頭がボーッとするから頭の回転が悪いな・・・・・・」

 

 

 

流石に寝起きで何かを考えるのは無理があった為、俺は目を覚まそうと庭に出ようとする。

 

 

 

「おっ!いい天気だな。・・・・・・こんな日は何か良いことでも・・・・・・・・・・・・っ!!?」

 

 

 

襖から顔を出し、そんな呑気なことをぼやく俺の視線の先に映るは、俺の庭。・・・・・・だが、その庭の中に・・・・・・人影が・・・・・・”青くて長い髪”を風に靡かせ、どこか気持ちよさそうに外の空気を吸っている一人の影が映っていた・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・おはよう、リムル」

 

 

 

「エリス・・・・・・」

 

 

 

そこに居たのは、俺たちが帰りを待ち望んでいた、俺たちの家族であり、俺の大親友でもある・・・・・・エリス=テンペストだった・・・・・・。




少しグダグダな文章気味になってしまっている点がなんとも否めませんが、自分の文章力ではこれが限界ですので、どうかご理解いただけるとありがたいです。エリスの究極能力(アルティメットスキル)については、次回詳しく説明をさせてもらいます。


名前の由来についても説明させてもらう予定ですので楽しみにしていて下さい。とはいえ、ググれば直ぐに出て来そうな気もしますけどw


次回もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

涙の再会①

前半、リムル視点で、後半はエリス視点です。


エリスの視点は10話ぶりくらいですかね?


やっとだ・・・・・・やっとですよ・・・・・・。


「エリス・・・・・・?エリス・・・・・・なんだよな?」

 

 

 

「・・・・・・うん。リムル、起きて来て早々悪いんだけど、なんで僕が生きて・・・・・・っ!?」

 

 

 

何かエリスが言おうとしていた事もお構いなしに、俺は裸足のまま庭に降りると、そのままエリスに向かって抱きついた。

 

 

 

「・・・・・・良かった。本当に良かった・・・・・・もう、お前に会えないんじゃ無いかって・・・・・・一緒に過ごすことができなくなってしまうんじゃ無いかって思ってた・・・・・・」

 

 

 

「う、うん・・・・・・僕もそう思ってた。だって、僕はあの時・・・・・・シオンを助けた代償で・・・・・・」

 

 

 

俺がエリスが生き返ったことに動揺している様に、エリスもまた、自分が何故この場で息を吹き返していたのか理解できていない様子だった。

 

 

 

「ああ。お前は一度死んだ。それは紛れも無い事実だ。・・・・・・だが、生き返らせたんだ。俺が、魔王となることでな・・・・・・?」

 

 

 

「魔王?生き返らせた?・・・・・・どう言うことなの?」

 

 

 

俺は、エリスに今まで起きた全ての事を話した。俺が2万の兵達を殺し、魔王となった事・・・・・・今後の人間達との触れ合いの仕方を改めた事・・・・・・俺が『反魂の秘術』を用いて、エリスを蘇生させた事・・・・・・を。

 

 

 

「・・・・・・ちょっと待って?蘇生してくれた事は嬉しいんだけど・・・・・・リムル・・・・・・人間を殺したの?それも2万の・・・・・・?」

 

 

 

「ああ、そうしなくちゃ、お前を蘇生させることは出来なかったからな」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

話を聞いて、納得の意を表するかと思っていたエリスだが、その表情は徐々に曇りつつあった・・・・・・。ま、こいつの考えてる事は、なんとなく分かってるけどな?

 

 

 

「『自分のせいで、俺に人殺しをさせてしまった』・・・・・・なんて考えてるなら、それは間違いだぞ?・・・・・・むしろ、そう思ってるのは俺自身なんだからな?」

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 

「俺が安易に、お前に国を守ると言う責任を負わせたせいで、お前に国や住民を守るために1万の兵達の命を奪わせてしまった・・・・・・。この国の中で一番、人間達と友好に接してたがってたお前に・・・・・・。そして、それのせいで・・・・・・お前を死なせてしまったんだからな・・・・・・エリス・・・・・・本当に申し訳なかった・・・・・・」

 

 

 

「謝らなくて良いって!リムルはなにも悪くない!・・・・・・僕が死んじゃったのも・・・・・・人間を殺してしまった事も、全部僕の力不足故の事なんだ。キミが気に病む必要なんてない!」

 

 

 

「・・・・・・相変わらずお前は優しいな。だが、流石に今回の事に何もケジメを付けずに終わるのだけはどうしても我慢出来ないんだ。だから、せめて俺の謝罪だけは受け取って欲しい・・・・・・頼む」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・わかったよ」

 

 

 

ここまで言われて仕舞えば、流石のエリスも頷くしかなかった様で、静かに首を縦に振った。

 

 

 

「それと、俺が人間達を殺したのも、お前を蘇生させた事も、全部俺の意思でやった事だ。人を殺して、人間達からどう見られるのか・・・・・・そんなのも覚悟の上でやった訳だ。だから・・・・・・お前も変に気負わなくて良いからな?親友だけに、人を殺した罪を背負わせる程、俺はお人好しじゃねーんだから」

 

 

 

「・・・・・・ふふっ、よく僕に、優しいって言ってくれてるけど、リムルもすっごく優しいね?」

 

 

 

「当然だろ?国主が副国主に優しくするのは当たり前なんだからな」

 

 

 

「何それ?ははっ・・・・・・変なの。・・・・・・ただいま、リムル」

 

 

 

「ああ。おかえり、エリス」

 

 

 

呆れた様にして笑うエリスのその姿は・・・・・・以前と変わらず、とても暖かく・・・・・・優しく・・・・・・安心するものだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

視点 エリス

 

 

 

リムルは、僕と話した後にみんなを呼んで来るとの事で家を出て行った。その間、僕はリムルに布団に入っている様強制されてしまった為、渋々布団をかぶっていた。リムル曰く、僕はまだ病み上がりなんだから、寝てるべきなんだって。・・・・・・体はすこぶる調子良いんだけどな〜?

 

 

 

「それにしても・・・・・・また、リムル達と会えるなんて、夢にも思わなかったな・・・・・・」

 

 

 

僕自身、シオンを助けたあの時で既に自分の死を覚悟していた。・・・・・・だから、もうみんなと一緒に暮らすことは出来ない・・・・・・そう思ってた・・・・・・だけど、リムルのおかげで再びこの世に戻ってくることが出来た。また・・・・・・みんなと一緒に楽しく暮らせる事が出来る!そう思うと、どこか僕の心の中は、ウキウキ感と安心感でいっぱいになってしまった。

 

 

 

・・・・・・だが、その一方で。

 

 

 

「僕・・・・・・みんなに、結構”今生の別れ”みたいなセリフを言った気がする・・・・・・。それを言った後で、もう一度会うってなると・・・・・・すっごく恥ずかしい・・・・・・」

 

 

 

そんな気持ちもあった。というか、実際あの時は本当に最期だと思ってたから言った訳だし、後悔をしているわけではないが、いざあんなセリフを吐いた後で再びみんなの前に姿を表すとなると、恥ずかしい事この上無いんだよね?例えるなら、”転校をする事になった学生が、みんなに別れの挨拶を済ませた後に急遽、転校が取り止めになった”様な感じだ。

 

 

・・・・・・そもそも、人が生き返るって何?そんな話聞いた事ないし、いまだに自分が生き返った事を信じられていないからね、僕?・・・・・・いや、生き返れたのは嬉しいし、リムルには感謝しかないけどさ?

 

 

 

「はぁ・・・・・・まぁ、なる様になるか。・・・・・・?あれ、そう言えば、僕って・・・・・・ちゃんと()()()()()()()()生き返れたんだ?運が良かったのかな?」

 

 

 

リムルの話だと、『反魂の秘術』を行った際、場合によっては生き返っても、記憶を失った状態へと陥る可能性もあったらしいんだけど、ちゃんとリムルのこともみんなのことも分かることから、その心配は無さそうだった。

 

 

 

《解。主人(マスター)が息を引き取る寸前、指導者(ミチビクモノ)が残りの体内魔素を『技能作成者(スキルクリエイター)』を用いて使用し、エクストラスキル『完全記憶』を会得した為と推測します》

 

 

 

「あ、そう言うわけね。指導者(ミチビクモノ)さんは相変わらず凄いね(あれ?指導者(ミチビクモノ)さんってこんなに流暢に喋るスキルだったっけ?いつもはもっと機械口調に喋ってた気が・・・・・・)」

 

 

 

《解。ユニークスキル指導者(ミチビクモノ)主人(マスター)の”魔王覚醒”に伴い、究極能力(アルティメットスキル)慈愛之王(アンピトリテ)』へと進化しました。よって、今後は『慈愛之王(アンピトリテ)』が情報の提供、そして・・・・・・主人(マスター)を支え、守る事を”約束”します》

 

 

 

”約束”する・・・・・・指導者(ミチビクモノ)さんの時であれば、絶対に口にすることの無かったその発言に、僕自身、どう反応して良いのか戸惑ってしまう。進化すると、こんな事も言う様になるのかな?

 

 

 

「うん、ありがと指導者(ミチビクモノ)さ・・・・・・って違うんだっけ?えっと・・・・・・『慈愛之王(アンピトリテ)』さん・・・・・・だっけ?ちょっと長くて呼びにくいから”リーテさん”って呼んで良い?」

 

 

 

《・・・・・・構いません》

 

 

 

下2文字を弄っただけの呼び名だったけど、『慈愛之王(アンピトリテ)』さん改め、リーテさんは快く了承してくれた。

 

 

 

「じゃあ、リーテさん。さっき、魔王覚醒に伴ってって言ってたけど・・・・・・もしかして、僕もリムルみたいに魔王になったの?僕も・・・・・・人間達をたくさん殺しちゃったから」

 

 

 

《解。主人(マスター)の生体反応が再確認された後、中断されていた『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』が再開され、主人(マスター)は”真なる魔王”へと覚醒されました。その際、主人(マスター)は『水天魔(アクア・マーラ)』へと進化し、進化に伴い様々なスキルを獲得しました》

 

 

 

「そっか・・・・・・」

 

 

 

リムルだけでなく、僕もまた・・・・・・人間の人達から畏怖の対象として見られている魔王へと覚醒してしまった事実に、肩を落とす。・・・・・・やむを得なかった事とはいえ、人の命を奪うことはやっぱり辛いし、悲しかった事は間違いなかったからね。・・・・・・もちろん、今まで僕が殺めてきた魔物や魔人達にだって同じ事が言える。

 

 

 

「魔王になった事については、みんなが来てから話そう。・・・・・・そして、僕が今抱いてる人間の印象についても・・・・・・」

 

 

 

 

話す事を決めた僕は、リムルがみんなを連れてくる間、目を閉じて疲れを取る事にした。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「連れてきたぞー?」

 

 

 

それから数分後、リムルはベニマル、シュナ、シオンを引き連れて戻ってきた。引き連れてきた中にシオンの姿もあり、どこか安心した僕は、ゆっくりと息を吐いた。無事に助かった事を改めて確認する事が出来て、ほっこりしている僕を尻目に、後ろにいるみんなは、僕の姿を確認すると共に、驚愕と共に、目から涙をこぼし始めた・・・・・・。

 

 

 

「エリス・・・・・・様?」

 

 

 

「みんな・・・・・・良かった。元気そうで何よりだよ」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

場が沈み始めたから、少し明るめに話して見たけど、みんなの涙が止まる事は無かった。・・・・・・すると、何故かシュナが僕の元まで歩み寄ってくる。・・・・・・涙を見せつつも、どこか顔を険しくしながら・・・・・・。何だろう?と首を傾げようとしたその時だった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(パチィィィンッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「っ!?」」」」」」

 

 

 

 

 

しんと静まり返る庭に、”甲高い音”が響き渡った。その音を放った張本人であるシュナが行った行為に、その場にいたみんなはあまりの光景に驚きを通り越して、絶句していた。

 

 

 

・・・・・・当然、()()()()()()僕もだ・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・何が、元気なものです・・・・・・か・・・・・・」

 

 

 

「シュナ・・・・・・?」

 

 

 

「わたくし達が・・・・・・どれだけ・・・・・・どれだけあなた様を亡くし、悲しい思いをしたと思っておられるのですか!!元気でいられるはずなど無いではありませんかっ!!馬鹿っ!エリス様は大馬鹿者です!!」

 

 

 

「よせっ、シュナ!!」

 

 

 

「シュナ!言い過ぎだぞっ!!」

 

 

 

「良いんだ、リムル、ベニマル。シュナの言いたい様に言わせてやってくれ」

 

 

 

激昂し、涙を流しながら僕に詰め寄ってくるシュナを止めに入ろうとしたリムルとベニマルだったが、それを手で制す。・・・・・・今は、シュナの思っている事を聞きたかったから。

 

 

 

「エリス様・・・・・・わたくし達は、自分の他に、リムル様とエリス様のお二人さえいれば、他は何も望まないのです。ですが・・・・・・あなた方、どちらが欠けてしまい、姿を消されて仕舞えば・・・・・・わたくし達はひどく悲しく、絶望をしてしまうのですよ?・・・・・・その気持ちを考えた事はありますか?本当に・・・・・・悲しかったんです・・・・・・よ?」

 

 

 

「・・・・・・ごめん。安易な物言いだったよ。・・・・・・でも、これだけは言わせて欲しい。僕は、あの場で起こした行動・・・・・・そして、命を落とした事・・・・・・それについては、後悔はして無い。だって、それのおかげもあって、シオンはこうして生きてる訳なんだし、ね?シオン?」

 

 

 

「っ!・・・・・・はい」

 

 

 

突然話を振られた事もあって、声がうわずったシオンに内心でちょっと笑ってしまう。

 

 

 

「僕が死ぬことでみんなが悲しむ・・・・・・考えなかった訳じゃないさ。だけど、大切な家族が今にも死にそうになってるのに、それを放っておくなんて、僕には出来る訳ないんだ。だから、自分の命を削ってシオンを助けた。・・・・・・ちょっと削りすぎて、死んじゃったんだけどね?あはは・・・・・・」

 

 

 

「笑って誤魔化すなよ、アホ」

 

 

 

「ごめんごめん。・・・・・・でも、みんなに悲しい思いをさせちゃったのは事実だから、みんなから咎められる事も厭わないよ。・・・・・・ごめんね、みんな?辛い思いをさせちゃって。これの償いは、今後この国を発展させていく事で償わせて貰うから・・・・・・だから、ごめん!」

 

 

 

最後に強めに謝罪の言葉を言い放った僕は、深々と頭を下げる。・・・・・・そんな僕の身体に、ふわっと何かが覆い被さった。

 

 

 

「もう宜しいですよ。エリス様がどんなお気持ちで、亡くなられて逝かれたのか、わたくし達はよく理解できましたので。先程は、大変失礼な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした・・・・・・」

 

 

 

「良いよ、それぐらい」

 

 

 

そう言うのは、先程の険しい顔とは対照的な優しい笑みを浮かべたシュナだった。どうやら、許してくれるそうだ。

 

 

 

「エリス様・・・・・・俺からも・・・・・・。本当に、申し訳ありませんでした。俺たちに力が無いばかりに、何も出来ず・・・・・・エリス様に多大なる負担をかけて・・・・・・死なせてしまい・・・・・・」

 

 

 

「キミ達はちゃんと頑張ってくれたでしょ?何も出来てないなんて言わないの。それに、ちゃんと僕は生き返ってこの場でみんなと再会出来てる訳なんだから、結界オーライだよ。それでも、気にするんだったら、今後も僕とリムルの事を支えて行く事で償って行ってもらおうかな?」

 

 

 

「っ!はっ!!勿論でございますっ!!」

 

 

 

ベニマルの決意のこもった瞳は、一際強く輝いていた。今後の、彼の活躍には期待が持てそうで嬉しかった。さて、後はシオンだけど・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

「(彼女とは、後で話をしてみる事にしよう)」

 

 

 

いまだに表情が暗いシオンを見つめながら、僕は密かにそう決めるのだった・・・・・・。




「リムル様、目覚めた後での約束事を覚えていますか?」



「ん?(あ、そう言えば、魔王になる前、ベニマルと約束をしてたんだっけ?俺が理性の無い怪物になってないか確認するための合言葉を確認するって言う)勿論覚えてるさ・・・・・・って、ちょっと待てっ!?”あれ”を今この場で言うのかっ!?」



「ええ、お願いします。では問います。『エリス様の女装は?』



「ぐっ・・・・・・」(ちらっ・・・・・・)



「何、二人とも?僕の女装がどうかしたの?」



「・・・・・・・・・・・・”ベニマルが決めた”合言葉は『くそ可愛いくて笑える!』だったな」



「っ!?リムル様!?何を・・・・・・って、エリス様!?そ、そんな怖い顔をしなくても・・・・・・」



「ふ〜ん?ベニマル?僕の女装、そんな風に見てたんだ?僕は決して、好き好んで女装してる訳じゃ無いのに?」



「ははっ!全くだぞ、ベニマル?エリスの女装ってのは本当にだな・・・・・・」



「リムル?ベニマルにだけ罪をなすり付けるのは良く無いんじゃ無いかな?大方、キミだって合言葉を決めたんでしょ?」



「いっ!?いや、そんなことは・・・・・・」



「二人とも・・・・・・後で僕の家まで来るように。・・・・・・いいね?」



「「は、はいっ!!」」



リムルとベニマルはその後、エリスにきついお説教をされた後で町中を、”メイド服”を着たまま歩き回る事となった・・・・・・。







究極能力(アルティメットスキル)慈愛之王(アンピトリテ)』【ギリシア神話】


ユニークスキル指導者(ミチビクモノ)が抱いた強い意思により、進化を果たした究極能力(アルティメットスキル)。従来に持っていた能力『思考加速』『並列演算』『詠唱破棄』『森羅万象』は全て限りなくパワーアップしている。特に、『思考加速』による知覚速度は100万倍にまで引き伸ばせる様になっていて、演算能力もまた、『智慧之王(ラファエル)』と同等の物を持っている。新たに追加された『生命力譲渡』『限界突破』『魔素転換』『能力遮断』はそれぞれ『仁愛者(アイスルモノ)』『激怒者(イカルモノ)』を統合した際に習得した能力だ。

『生命力譲渡』は自身の生命力を誰隔たりもなく分け与えることの出来る能力。

『限界突破』は自分の持てる力を限界以上に引き出すことのできる能力(体内魔素を限界近くまで消費する事ができる)。単体で使えば、諸刃の剣でしか無いが、もう一つの究極能力(アルティメットスキル)治癒之王(アスクレピオス)』と併用して使うことで、驚異的な能力へと変貌する。

『魔素転換』は、無機質のものであれば、何でも魔素へと変えることの出来る能力。

『能力遮断』はその名の通り、あらゆる能力効果を打ち消す能力を持つ。ただし、ユウキの『封殺能力(アンチスキル)』のように、究極能力(アルティメットスキル)までは無効化する事は出来ない。いわば、現段階では、『封殺能力(アンチスキル)』の劣化版と言う立場に当たる。




究極能力(アルティメットスキル)治癒之王(アスクレピオス)』は、次回にさせて貰います。





おまけ



慈愛之王(アンピトリテ)』の名前の由来は、海神ポセイドンの妻である”アンピトリテ”をモチーフとさせて貰いました。この方の別名は”海の女神”、”海の女王”とされていて、類い稀見ぬ”慈愛心”を持ち合わせた心優しき女神様です。まさに、エリスが持つスキルにぴったりな名前だと思ったため、今回採用させて貰いました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

涙の再会②

前半はシオンとの会話、後半はヒョウガ達との邂逅です。


「リムル、ちょっとの間、シオンと二人っきりにさせてくれないかな?話したい事があるんだ」

 

 

 

シオンと少し話をしておきたかった僕は、再会を喜ぶのも程々に、リムルにそう伝える。シオンはそれに少し驚いている様子だけど、リムルもベニマルもシュナも大方の予想はついていたようで、特に驚きは見せず、小さく頷いていた。

 

 

「ああ、構わないぞ?その間、俺達は軽く宴の準備でもしとくわ。お前の復活のお祝いも兼ねてな。あ、ついでにヒョウガ達も起こしてくる。まだ眠ってるらしいが、お前が生き返ったって知れば、即起き上がる事間違い無しだからな」

 

 

 

「あはは、だね。じゃあ、起こしたら僕の家で待つ様に言っておいて?」

 

 

 

「おう、後でな」

 

 

 

リムル達は宴の準備の為、この場を後にして行った。この場に残ったのは僕とシオン。・・・・・・普段であれば、特段珍しくも無い組み合わせなのだけど、今回ばかりはどこか息苦しさを感じさせる様な空気の重さが肩にのしかかっていた。それもあってか、二人っきりになってからと言うもの、僕たちの間に会話は無かった。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・ねぇ、シオン?ちょっとこっち来て貰える?」

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 

先に沈黙を破ったのは僕だった。僕の突然のその指示に、シオンは訝しげな表情を浮かべていたが、それでも言う通りに僕の近くまで来てくれた。さて・・・・・・。

 

 

 

「ちょっと屈んでもらえる?」

 

 

 

「・・・・・・?えっと、こう・・・・・・でしょうか?」

 

 

 

「そうそう。・・・・・・」

 

 

 

魔王になって進化したからか、少し背が伸びた僕だけど、それでもまだ身長はシオンの方が高かった為、シオンに身を屈めて貰った僕は、自分の両手を、シオンへと静かに伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ぐいぃぃ〜〜〜〜・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・正確には、シオンの()()にだけどね?

 

 

 

 

「っ!!?え、えうぃふはま!?なにほ!?」

 

 

 

「うんうん。やっぱり、キミにはこんな笑顔が似合うね。今みたいな、暗い顔よりも・・・・・・ね?」

 

 

 

僕に両頬を引っ張られ、顔を真っ赤に紅潮させたシオンは、ワタワタと手を上げ下げしていた。・・・・・・こう言った仕草もまた、可愛らしいね、シオンは。

 

 

 

「は、はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・エリス様、揶揄うのはよして下さい。今はとても、それに乗っかれる程の精神状態では・・・・・・」

 

 

 

「また暗い顔してるね?さっきのは、その暗い顔をやめて欲しいっていうのと、いつものシオンに戻って欲しいっていう意思表示を示したつもりだったんだけどな〜?」

 

 

 

「暗い顔って・・・・・・それは、私のせいで・・・・・・エリス様が・・・・・・」

 

 

 

やっぱり、シオンは未だに悔やんでいる様だった。あれは、不可抗力であって、決してシオンのせいでは無いって言うのに。・・・・・・まぁ、そう言ったところでシオンが素直に受け入れてくれる筈も無いだろう。だが、それは想定内だ。何も問題は無い。・・・・・・僕は、シオンの悔やみを少しでも払拭するべく、一つ”嘘”を吐く事とした。

 

 

 

「それは違うよ?僕が死んだのは誰の責任でも無い。それは、自分の体の管理を怠った僕自身の責任だ。キミが悔やむ必要なんて何一つない。・・・・・・実は、言ってなかったんだけど、僕はあの場でキミを治療しなくても、その後()()()()()()()

 

 

 

「っ!!・・・・・・え?」

 

 

 

「その前の一万の兵達との戦いで大方の魔素を使い果たしちゃって、もう生命維持が出来なくなるまでになっちゃってたんだよ、あの時は」

 

 

 

「え、えぇ・・・・・・?」

 

 

 

信じられないと言う気持ちと、意味がわからないという気持ちが重なっているのか、変な表情になってしまうシオン。・・・・・・もちろん、これに関しては嘘。あの場ではちゃんと自分が生命を維持できる魔素ぐらいは残しておいたし、死ぬと言う事は無かった・・・・・・んだけど、それをありのままに伝えちゃうと、またシオンが悲しい顔をしてしまう為、こんな嘘を吐いたんだ。

 

 

 

「キミのことを治療していようといなかろうと、どのみち僕は死んでたんだ。だったら、せめて自分の大切な家族ぐらいは助けてから死にたい。あの時の僕は、そんな自己満足的なことを考えながらキミの治療を行なっていたんだ。・・・・・・だから、キミが悲しむ事なんてないんだよ?それに、キミがいなければミラはきっと重傷を負っていただろうし、下手をすれば命を落としていたこともあり得たんだ。むしろキミは、その時の自分の行動に誇りを持ったって良いと思う」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「それとも何?シオンはあの場でミラの助けにさえ入らなければ、僕は死なずに済んだと思ってたの?・・・・・・聞くけど、シオンはミラを助けた事を後悔してる?してない?」

 

 

 

「・・・・・・後悔は、ありません。あの場で、あの子供・・・・・・ミラを傷付けられれば、私達も悲しかったでしょうし、エリス様もリムル様もきっと悲しがられたでしょうから・・・・・・助けられて、ホッとしてます」

 

 

 

「そっか。それなら、もう話す事はないよ。だって、シオンはミラを助けて重傷を負ったけど僕が助けて今、こうして生きてる。そして僕も、こうしてリムルの手によって生き返り、今この場でキミと会話をする事が出来てる。そして、僕たちの間にもあった蟠りも解決した。この事実さえあれば、もう僕たちが暗くなって話す理由なんてないでしょ?」

 

 

 

「・・・・・・そうですね。過去がどうであれ、今こうして私たちが無事に再会出来てさえいれば、何も問題はありませんでしたね。すみませんでした、エリス様。先程からずっと、過去のことを引き摺って、自己嫌悪を拗らせてしまい・・・・・・エリス様やリムル様にご心配をおかけして・・・・・・」

 

 

 

「気にしなくて良いって。配下の面倒を見ることもまた、僕たちの仕事だからさ?」

 

 

 

「ふふ、ありがとうございます。それと・・・・・・私を治療してくださり、本当にありがとうございました!この御恩は一生忘れません!」

 

 

 

会話の果てに、ようやく垣間見えたシオンの笑顔に、僕の頬も自然と緩む。うんうん、どうやらもう心配はなさそうだ。嘘をついたのはちょっと罪悪感が芽生えるけど、これもシオンの為だし、これぐらいは良いよね?

 

 

 

 

シオンとの蟠りを解決した僕は、宴の準備に行くと言うシオンとその場で別れ、単身僕の家へと赴いた。

 

 

 

僕の”直属の配下”達が待つ家へと・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

リムルの家から僕の家まではそこまで距離もない事もあって、数分もしないうちに着いた。もし、まだみんなが来てないのであれば、待とうとも考えていたが、その必要はどうやら無い様だった・・・・・・。だって、そこには・・・・・・見知ったと言うか、知りすぎている4人の姿が確認出来たんだから・・・・・・。

 

 

 

「っ!!おおっ!エリス様〜!!よくぞご無事でっ!!」

 

 

 

まず、最初に僕に気がついたのはガビル。彼は僕を発見すると共に、涙を浮かべつつ一目散に僕の元まで駆け寄ってくる。

 

 

 

「エリス・・・・・・様・・・・・・」

 

 

 

ガビルの声でセキガも僕に気がついたようで、ガビル同様、涙をこぼしながらゆっくりと僕に近づいてくる。

 

 

 

「あ、あぁ・・・・・・本当・・・・・・に、エリス様だ・・・・・・」

 

 

 

カレンは、嬉しさのあまりか、その場で泣き崩れてしまっていた。

 

 

 

「主・・・・・・様・・・・・・?主様・・・・・・主様あぁぁぁーーーーっっ!!!」

 

 

 

最後にヒョウガは、僕を見つけると同時に、誰よりも早く僕に抱きついてきた。先に駆け寄ってきたのはガビル達だって言うのに、相変わらずのスピードだこと。

 

 

 

「おおっ・・・・・・っと。あはは・・・・・・相変わらずヒョウガはもふもふで気持ちいいね?」

 

 

 

「そ、それならばもっと・・・・・・って、そうではありません!主様・・・・・・無事に生き返られたのですね?・・・・・・本当に・・・・・・本当に良かった・・・・・・です」

 

 

 

「うん。悲しい思いをさせちゃってごめんね?・・・・・・みんなも本当にごめん。キミ達を置いて、勝手に死んじゃって・・・・・・」

 

 

 

「全くですよ・・・・・・もう」

 

 

 

泣きながら、僕の顔をペロペロと舐めてくるヒョウガに対し、セキガは皮肉まじりにそう言うが、その表情は満面の笑みそのものだった。カレンもガビルも、すでに涙は止まっていた。

 

 

 

「エリス様・・・・・・此度は、本当に申し訳ありませんでした。近衛兵ともあろう者である私たちが・・・・・・主であるあなた様を守れず・・・・・・何も出来なくて」

 

 

 

「(今日は本当によく謝られる日だ・・・・・・。僕のせいなんだけど・・・・・・)キミ達は近衛兵として最後まで僕に力を貸してくれ、守ってくれてたでしょ?それだけで十分だよ。セキガ、カレン。キミ達は本当によく頑張ってくれた。・・・・・・ありがと」

 

 

 

「「っ!!」」

 

 

 

お礼を言われるとは思っていなかったのか、二人は非常に驚いた様子を見せると、すぐに治ったと思っていた涙が、また溢れていた。

 

 

 

「ガビルもありがとね?僕がいない間、この二人や他の配下達を守ってくれたのはキミなんでしょ?」

 

 

 

「はっ!我輩は、エリス様であればきっと再び我らの元に戻ってくると予測しておりましたので、その時が来るまで我輩が皆を守ろうと決めた所存でございます!!そうであろう、ヒョウガ殿?」

 

 

 

「ワタシは守られたつもりはありませんが、ガビルの言う事は事実です。この方無しでは、あなた様の配下全員を束ねる事など出来ませんでしたので・・・・・・」

 

 

 

「なるほど。・・・・・・ガビル、何か欲しい物があればいつでも僕に言ってきて?今回のお礼も兼ねて用意するからさ?」

 

 

 

「ははっ!!ありがたき幸せっ!」

 

 

 

本当にガビルには感謝しておかないと。普段はおちゃらけて調子に乗ってるイメージしか無い彼だけど、やっぱり龍人族(ドラゴニュート)を統べる能力、人望は健在であり、僕無しでもこの配下達をしっかりと纏めてくれたんだから。ヒポクテ草の栽培等で忙しい筈でもあるのに・・・・・・。

 

 

 

「主様?先程からワタシを放置してますが、そろそろワタシにも構って貰いたいものですが?」

 

 

 

そんなガビルへの想いを募らせていると、自分のことを後回しにされ、ムッとした様子のヒョウガがジト目で僕の事を覗いていた。・・・・・・前足を僕の肩に掛けながら。

 

 

 

「ごめんごめん。キミにも随分と心配かけちゃったね。・・・・・・リムルから聞いたよ?僕を生き返らせるために、リムルの指示のもと動いてくれたんだって?良かったよ、みんなはともかくキミがリムルの指示に素直に従ってくれて」

 

 

 

「・・・・・・いえ、あの人に協力せねば、主様は生き返れないとの話を聞きましたので、やむを得ず・・・・・・です。ですが、今回主様を約束通り生き返らせてくれたことにはあの人に感謝してます」

 

 

 

「感謝して、リムルの評価も少しは変わったんじゃない?今後はもっと、要所要所でリムルの指示に・・・・・・」

 

 

 

「主様がいる今、ワタシが第一に従うのは主様です。リムルさんは二の次です」

 

 

 

・・・・・・相変わらずのヒョウガの僕への忠誠心に苦笑いを浮かべる。でも、少なくとも以前ほどに、リムルとヒョウガは悪い関係ではなくなってると思ってる。そうで無ければ、ヒョウガが素直にリムルに従うとも思えないし。

 

 

 

「あはは、ありがと。そういえば聞きたかったんだけど、何でさっきまでみんなは眠ってたの?普段のキミ達ならとっくに起きてる時間帯でしょ?」

 

 

 

これまであった僕の疑問だ。時間帯的には朝だけど、普段みんなは早起きで、この時間帯であればみんなすでに起きてたんだけど、リムルの話ではさっきまで寝ていたって話だったから、違和感を覚えたんだ。

 

 

 

「わかりません。ただ、エリス様が魔王へと覚醒なされた後、祝福(ギフト)が配られるとかどっかから声が聞こえてきて、そしたら急に眠くなって・・・・・・」

 

 

 

祝福(ギフト)?(リーテさん、何かわかる?)」

 

 

 

《解。主人(マスター)の魔王への覚醒に伴い、魂の系譜に連なる魔物達へ祝福(ギフト)・・・・・・条件を満たすことで世界から与えられる膨大なエネルギーが配られました。祝福(ギフト)によってはスキルを入手する場合も存在すれば、進化を果たす場合も存在します。ちなみに、個体名ヒョウガ、セキガ、カレン、ガビルはスキルを祝福(ギフト)により獲得しています。詳しく説明をすることを推奨します》

 

 

 

リーテさんの解説に、どこか納得した僕。前と比べて、みんなの魔素量が上がってたし、体も少し引き締まった様な気もしてたからもしやって思ってたんだけど、それが原因だったってわけね?

 

 

 

「どうやら、みんなに色々とこの世界からプレゼントがあったみたいだよ?スキルとか」

 

 

 

《告。その説明では、十分な理解は得られないと思われます》

 

 

 

「(やっぱり進化してから、本当に喋る様になったよね?・・・・・・嬉しいけどさ?)」

 

 

 

《・・・・・・情報の不届きを防ぐべく進言しただけです》

 

 

 

喋る様になったのは嬉しいけど、なんかリーテさんがツンデレみたいになってるのは気のせいなのかな?

 

 

 

「スキル・・・・・・ですか?あんまり実感がありませんけど、後で確認してみます」

 

 

 

「そうしな。さて、改めて言うけど、みんな本当に心配をかけてごめん!心配をかけてみんなに悲しい思いをさせた分は、今後の僕の行動で返していくつもりだから、これからも今まで通り、僕に力を貸してくれ!」

 

 

 

「もちろんですともっ!このガビル、どこまでもお供させてもらいますぞっ!」

 

 

 

「オレ達も・・・・・・今度こそは、あなた様を誠心誠意をかけてお守りさせていただきます!」

 

 

 

「もう、あなた様を失うのは懲り懲り・・・・・・ですからね?」

 

 

 

僕のその言葉に、みんなはそれぞれ僕の前で跪くと、改めて今後の忠誠を誓ってくれた。

 

 

 

「もう、今後一切ワタシ達の前からいなくならないで下さい。・・・・・・また、あなた様を失えば・・・・・・今度こそ、自制を保てなくなり兼ねませんので・・・・・・お願いします」

 

 

 

「うん。もう死んだりなんてしないさ。こんな、素敵な配下や家族達が居るんだからね?」

 

 

 

最後に、ヒョウガと重い約束を交わした僕は、そのままみんなを引き連れて、宴の準備に取り掛かる町中へと足を運ぶのだった・・・・・・。




「ねぇ、シオン?」


「はい?どうかされましたか?」


「さっき、キミが言ってたことだけど、一つ間違ってるところがあったから訂正させてもらうよ?」


「・・・・・・?なんでしょう?」


「キミは、『ミラが傷付けられれば僕たちは傷つく』と言ったね?・・・・・・だけど、僕たちが傷つくのはそれだけじゃ無い・・・・・・」



「・・・・・・?」



()()が傷つくのだって、悲しいに決まってるでしょ?キミの事だって大切なんだからさ?」



「っ!!?え、な、なぁ・・・・・・?」



「それだけ。じゃあ、準備の方はよろしくね?」



「・・・・・・・・・・・・」



エリスはそれだけ言い残すと、その場を後にしたが、この時・・・・・・シオンの顔が”茹で蛸”のように真っ赤に染まってる事に気がつく事は無かった・・・・・・。











究極能力(アルティメットスキル)治癒之王(アスクレピオス)』【ギリシア神話】


ユニークスキル『治癒者(イヤスモノ)』が進化したスキル。『治癒者(イヤスモノ)』以上の『治癒』の能力を操る事を可能とし、対象が死亡していたとしても、魂の損傷が無ければ生き返らせる事も可能となった。能力使用の際の魔素の消費もかなり最小限(ほぼ消費無しに近いほど)となっている。それもあり、連発で何度も使用しても魔素が枯渇すると言う事は無くなった。このスキルの保持者は、傷を負わなくなり、精神体(スピリチュアルボディー)への攻撃でさえも瞬時に治してしまう程の回復力を持つ様になる。それは、魔素も同じで、消費した魔素も並外れた回復力ですぐに回復する(仮に、『限界突破』を使用したとしても、この回復力があれば、使ってもすぐに回復するため、問題なく使用できる)。つまり、魂が無事でさえいれば、不死身に近いと言う事を意味している。

応援者(コブスルモノ)』を統合したことにより『癒しの空間(ヒーリングルーム)』という範囲治癒結界が使用可能となり、その空間にいる間は、『治癒』『鼓舞』(味方の身体能力やスキル効果を上昇させる能力)の恩恵を受けることができる。その範囲は、ユニークスキルだった頃とは比べ物にならないほどに広く、効果も”数十倍”に跳ね上がっているが、魔素の消費は非常に少なくなっている。

また、『魔物使い(マヲスベルモノ)』を統合したことにより『共有』を習得した為、『治癒』の恩恵を受けた者や、従属させた者のスキルや魔素を共有する事も可能となった。






このスキルも、かなりぶっ壊れてますね・・・・・・。自分が不死身に近くなるどころか、魂が無事なら生き返らすことが出来るって・・・・・・『反魂の秘術』要らなく無い?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戻った日常

宴の時間じゃあぁぁーーーーーーいっ!!



・・・・・・失礼しました。話の後半あたりから、ディアブロが出てきます。


「ふぅ・・・・・・やっぱり楽しいね、宴は」

 

 

 

町のみんなが、どんちゃん騒ぎで宴を楽しむ姿を見て、僕は小さく微笑む。

 

 

 

『テンペスト復活祭』と称された宴が始まったのは、僕が宴の会場へ姿を表してすぐのことだった。復活・・・・・・と呼べるくらいにまで町って壊れてたっけな〜?って思ってたけど、あくまでもそれは建前のようで、合流したリムルの話によると、今回の宴の本当の目的は、”僕の復活”を祝うことだったらしい。ただ、住民のみんなには僕が死んでしまった事を公表してなかった事もあり、こうした言い回しをしたんだって。

 

 

宴の前、まだ生き返ってから会えてなかったリグルドやハクロウ、ソウエイやゴブタと言った面々に会いに行ったところ、案の定、生き返った僕を見つけると共に涙を見せつつ生還を喜んでくれた。・・・・・・正直、勝手に死んでいった僕の事を責めたりして来るのかな?と思ってたけど、それは杞憂で終わったようでホッとした。

 

 

肝心の宴では、いつも通りいろいろな屋台や出店が様々な料理を提供し、その料理をつまみにお酒といった飲み物を浴びるほど飲む姿も確認が取れた(主にリムルやベニマル、リグルドなど)。一応、この主役(?)とされている僕もみんなから勧められた料理をたくさん食べてはしゃいではいたけど、騒ぎすぎて少し疲れた事もあり、近くのベンチへ腰掛けていた。

 

 

 

「よう。楽しんでるか、宴?」

 

 

 

「リムルか。うん、すっごく楽しんでるよ。・・・・・・なんかいいね?いつもの日常って感じで」

 

 

 

「そうだな」

 

 

 

肉串を3本持ちながら僕の元まで来たリムルは、そのまま僕の横に腰掛けた。

 

 

 

「そういえば、さっきシオンにベニマルと一緒に呼ばれてたけど、何かあったの?」

 

 

 

「・・・・・・いや、それがな?」

 

 

 

リムルの話だと、どうやらシオンの手料理をベニマルと共に堪能して来たらしい。いつも通りであれば、食べた途端に意識を失う程の破壊力を持つ彼女の料理だが、どうやらリムルの魔王化による祝福(ギフト)で『料理人(サバクモノ)』と言う”どんな料理でも自分の想像した通りの味に出来る”スキルを獲得していたようで、”見かけは相変わらずひどいが、味は美味しい”と言うなんとも珍妙な料理を食べさせられ、少し疲弊した様子のリムルだった。

 

 

 

「お前にも食わせたいって言ってたから、後で行ってやれよ?」

 

 

 

「・・・・・・わかった」

 

 

 

どうやら、次は僕がその料理を堪能する番のようだ・・・・・・。味は美味しいらしいから、以前みたいな様にはならないだろうけど、不安はある・・・・・・。

 

 

 

「エリスさん、よろしいでしょうか?」

 

 

 

「・・・・・・あれ?ミュウランさんじゃ無いですか。ヨウムさんとは一緒じゃ無いんですか?」

 

 

 

「いえ、ヨウムは別の人と飲んでいますので、その間にでもと思いまして・・・・・・」

 

 

 

ベンチに座る僕達の元に現れたのは、以前軽く話したミュウランさんだ。彼女も、リムルの指示の元、今回の僕の蘇生のために動いてくれた様だ。

 

 

 

「エリスさん・・・・・・いえ、エリス様、此度は無事蘇生なされた事、本当に嬉しく思っています」

 

 

 

「へっ?あ、いえ、そう言ってもらえて嬉しいです。ミュウランさんも動いてくれてたんですよね?こっちこそお礼を言いたいです。ありがとうございました」

 

 

 

「エリス様・・・・・・あの時、あなたの気持ちを踏み躙り、私の行動一つで町に危機をもたらし・・・・・・あなたを死に追い詰めてしまった事を・・・・・・心からお詫び致します。・・・・・・本当に申し訳ありませんでした・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

唐突に頭を下げながら謝ってくるミュウランさんに、僕は疑問を覚えた。謝られる意味もよく分からないし、僕を死に追い詰めたって・・・・・・どう言うこと?

 

 

 

「あの時、二つの結界が魔国連邦(テンペスト)を覆ってたろ?そのうちの一つの魔法不能領域(アンチマジックエリア)を発動したのは、このミュウランなんだよ」

 

 

 

「えっ!?そうなんですか、ミュウランさん?」

 

 

 

リムルのその言葉に、戸惑いを浮かべる。そりゃそうだ・・・・・・あの結界の一つを張ってたのが、ミュウランさんだったなんて、信じられないもん・・・・・・。

 

 

 

「はい。今はもう問題ありませんが、その時はクレイマンに私の命を握られていましたから・・・・・・。指示に従わなければ直ぐに始末・・・・・・それだけがずっと頭をよぎっていました。・・・・・・ですので、私はあの時、あなたの気持ちを知りながら・・・・・・結界を張ったんです」

 

 

 

「・・・・・・そうですか。だからずっと苦しそうな顔を・・・・・・ミュウランさんも大変だったんですね・・・・・・」

 

 

 

これで合点がいった。つまり、ミュウランさんは自分の命をそのクレイマン(?)に握られていた事もあり、仕方なく結界を張ったと言う事なんだろう。・・・・・・だから、ずっと苦い表情を浮かべていた訳か。

 

 

 

「あなたの本意では無いでしょうし、結果としてみんなも僕もこうして無事なのですから、そんなに気にしなくていいですよ。・・・・・・ただ、出来ればもっと僕に頼って欲しかったって言うのは素直な感想です。僕もあなたの事情を知れば、何かしらの対策は出来てたと思っていますので。あなたはもう、僕達の仲間に加わった訳なんですから、今後はリムルだけでなく、僕のこともしっかりと頼ってください。いいですね?」

 

 

 

「・・・・・・はい。ありがとうございます」

 

 

 

僕へ、謝罪とお礼を言えた事で満足したのか、ミュウランさんは再び宴を楽しみ始めた。

 

 

 

「いいのか?経緯はどうであれ、町を襲撃して来た奴らに加担してた人なんだぞ?」

 

 

 

「良いって。今はこうして、仲良く一緒にいられてる訳なんだし、今更そんな事を蒸し返して彼女との関係を悪くしたく無いんだ。それに、リムルだって彼女のことを許したんでしょ?国主が許したのに、副国主が許さないのはおかしいからね?」

 

 

 

「・・・・・・ったく。とても魔王に覚醒した奴の発言とは思えないな。本当に魔王かよ、お前・・・・・・」

 

 

 

「別に好きで覚醒した訳じゃ・・・・・・って、なんで僕が魔王になったこと知ってるの?」

 

 

 

「ラファエルから聞いた。・・・・・・あ、大賢者が進化した究極能力(アルティメットスキル)の名前な?それにしても、お前の魔王覚醒を最初に聞いた時は、まじで驚いたわ・・・・・・」

 

 

 

「あ、そう・・・・・・」

 

 

 

あんまり、魔王に覚醒したことは言いたくはなかったけど、リムルには何でもお見通しか・・・・・・。

 

 

 

「お前は不可抗力で覚醒しちまったんだから、魔王になったことは気にするなよ?それと、一つ約束しろ。・・・・・・今後、”もうお前は人間を殺すな。何があっても絶対に”だ。・・・・・・お前が人間を殺して傷つく姿を見たく無いんだよ」

 

 

 

「もちろんそのつもりだよ。・・・・・・って事なら、リムルも同じだよ?今回は、仕方なかったのかも知れないけど、今後は人間を殺さない事。約束だからね?」

 

 

 

「ああ、今度こそ破らない様にしような!」

 

 

 

宴の喧騒が止まぬ中、僕とリムルは・・・・・・再度、約束を交わすのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「此度は魔王となされました事、心よりお祝い申し上げます、我が君。そして、その友で有らせられるエリス=テンペスト様」

 

 

 

宴もそろそろ終わりを迎えようとした頃、僕達の元へ一人の男性がやってきた。この人は僕の名前を知ってる様だけど、僕とこの人は初対面だから、当然僕はこの人を知らない。・・・・・・どうやら、リムルの知り合いの様だけど、リムルにこんな知り合いの人っていたっけな?

 

 

 

「リムル、知ってる人?」

 

 

 

「いや?・・・・・・誰だよ、お前?」

 

 

 

「っ!!?じょ、冗談はほどほどに・・・・・・。我が君が私を呼び出したのではありませんか・・・・・・」

 

 

 

リムルの『誰だ?』発言に盛大に傷ついたようで、すっごく悲しそうな顔をするこの男性は、どこかかわいそうに思えてくる。リムルも、ようやくこの人のことを思い出したそうで、納得したようにうんうんと頷いていた。・・・・・・なんでも、この人はリムルが殺した2万の人間達の死体を餌として『悪魔召喚』で召喚した悪魔なんだとか。・・・・・・それにしても。

 

 

 

「(この人、かなり強そう・・・・・・。悪魔の中でも上位の存在でもある上位悪魔(グレーターデーモン)・・・・・・いや、それ以上の強さを誇っていそうな・・・・・・だとすると?)」

 

 

 

《解。この悪魔族の解析の結果、さらに上位の種族である上位魔将(アークデーモン)である可能性が極めて高い事が判明しました》

 

 

 

「(だよねー・・・・・・)」

 

 

 

僕の仮説が間違っていないことを、リーテさんが証明してくれる。相変わらず仕事が早くて助かるよ、本当に。・・・・・・それにしても、リムルが『悪魔召喚』を使える事も初めて知ったけど、上位魔将(アークデーモン)を呼び出すとか何考えてんのリムルは?

 

 

 

「それで・・・・・・ご検討の方はなされましたでしょうか?私を、あなたの配下の末席に加えてくださると言う・・・・・・」

 

 

 

「あぁ・・・・・・そんなこと言ってたな?・・・・・・どうすっかな・・・・・・」

 

 

 

リムルはこの人を配下として加えるかどうかを考えてる様だけど、僕としては加えておいたほうが良いと思ってる。配下に加わってくれれば心強い事ももちろんだけど、これから先、この人がもし”僕達の敵”として再び目の前に現れたとすると、厄介極まりなかったからだ。だから、今のうちにその芽を摘んでおこうってわけ。

 

 

 

「リムル。僕は良いと思う。この人もかなり強そうだし、居てくれれば心強いと思うよ?それに、悪魔ってわりにそんなに悪い人には見えないからさ?」

 

 

 

「・・・・・・そうだな。わかった、じゃあ今のこの瞬間から、お前も俺たちの仲間だ。よろしくな?」

 

 

 

「おおっ!感謝いたします!我が君!そして、エリス様!」

 

 

 

こうして、リムルはこの悪魔を配下として招き入れることに決め、”ディアブロ”という名を授けた。名付けを行えば当然この人もまたそれに伴う進化が開始されるはずなんだけど、その名付けによってリムルから与えられた魔素が思ったよりも多かったせいなのか、ディアブロは上位魔将(アークデーモン)よりもさらに上の種族である悪魔公(デーモンロード)へと進化してしまった事に、僕もリムルも仰天した。・・・・・・これが、今後もし敵になったらと思うとゾッとするけど、とりあえず味方に引き込むことは出来たことだし、それは問題ないことにほっと息をついた。

 

 

 

 

・・・・・・それにしても『悪魔召喚』か・・・・・・。

 

 

 

 

「・・・・・・僕にも出来るかな?」

 

 

 

自由に悪魔を召喚できるリムルを見て、唐突にそんなことを思う僕だった・・・・・・。




やっぱり、シリアスよりも、こう言った楽しい話を書く方が好きですね!今後はもっとこんな話を多くしていきたいです!


前回説明できませんでしたが、究極能力(アルティメットスキル)治癒之王(アスクレピオス)』の名前の由来は”医神”とも呼ばれている神様『アスクレピオス』の名を取った物です。かの神は、医術の技で”死者すらおも蘇らせる”ほどの力を持つ存在だったそうです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二人の悪魔族(デーモン)

すいません、体調を崩してしまったので一日遅れての投稿となりました。


一瞬コロナに感染したのでは無いかと思ってヒヤヒヤしましたが、問題ありませんでした!


「・・・・・・ん?何だ?お前もやってみたいのか?」

 

 

 

「え?・・・・・・いや、そう言うわけじゃないけど、何となく、僕にも出来るのかな〜・・・・・・って思ってさ?」

 

 

 

僕の独り言が、リムルの耳に届いていた様で、尋ねてくるリムルになんと無しにそう答える。別にちょっとそう思っただけであって、実際に召喚がしたいと言う訳では無い。今召喚したところで意味なんてなさそうだしね?

 

 

 

「俺は見ただけで習得できたし、お前も俺のを見ればすぐに習得出来ると思うぞ?・・・・・・いい機会だし、覚えとけよ。今後使う事になるかも知れないだろ?」

 

 

 

「そうだね。じゃあ、教えて貰っていい?」

 

 

 

せっかくの機会だと言うことで、『悪魔召喚』を教えてもらえる事になった僕は、早速やり方を教えて貰う。・・・・・・と言っても、ただリムルが『悪魔召喚』を行なっている姿を見ると言うだけなんだけどね?リムルは慣れた様な手つきで召喚陣を展開させ、そこから悪魔を一体召喚すると、そのままその悪魔には帰って貰っていた。・・・・・・今回はただ呼ぶだけだったとは言え、勝手に呼ばれて直ぐに帰らせるって言うのは、悪魔にとっては何ともはた迷惑な事な様な気もするけど・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・よしっ・・・・・・と。大体こんな所だな。参考になったか?」

 

 

 

「うん、大体はわかったかな(リーテさん、出来そう?)」

 

 

 

《解。『悪魔召喚』の習得に成功しました。いつでも発動可能です》

 

 

 

「(そっか、ありがと)じゃあ、試しに一度やってみるね?」

 

 

 

習得した事だし、試しに一度と思い、『悪魔召喚』を発動してみる事にした僕は、先程のリムルと同じようなやり方で召喚陣を発動させた。だけど、どれくらいの魔素を消費したかまではよく分からなかったから、とりあえず僕の体内魔素の”3分の1”を代価として『悪魔召喚』を行なった訳だけど・・・・・・その判断のせいで、()()()()()()()()を呼び出してしまう事となるとは、この時の僕は思いもしなかった・・・・・・。

 

 

 

「よし、多分こんな感じでやればちゃんと召喚できるは・・・・・・ず?」

 

 

 

「どうした?もしかして失敗でも・・・・・・っ?」

 

 

 

「・・・・・・ほう?よもや、”あなた”が呼ばれるとは・・・・・・クフフ、流石はエリス様、とでも言うべきですね?」

 

 

 

召喚陣の中から現れたのは、”白銀の髪”を伸ばし、僕と同じ”赤い瞳”が何とも特徴的な女性らしい風貌をした悪魔だった。ディアブロの反応を見る限りだと、どうやら知り合いの様だけど、彼の知り合いって言うとろくな人じゃ無い様な気もするんだけど・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・あなたが、わたくしを呼び出した召喚主様ですね?・・・・・・どの様な目的で、わたくしを呼び出したのですか?」

 

 

 

「えっ・・・・・・っと?それは・・・・・・」

 

 

 

ただ、『悪魔召喚』の試運転をするが為に呼び出しました!・・・・・・なんて言える訳もなく、どう答えてあげるのがベストなのかを暫し考える事にした。・・・・・・見たところ、この人も・・・・・・かなりヤバそうな人の様だし。下手な返答をして機嫌を損ねたくはない。

 

 

 

「せっかく来て貰った事だし、このままお前の配下に加えたらどうだ?ディアブロみたいに」

 

 

 

「・・・・・・それは、流石に迷惑じゃ無いかな?勝手に呼び出しておいて、いきなり配下に加われって言っても・・・・・・」

 

 

 

「配下に・・・・・・ですね?承りましたわ。わたくしが受肉をする依代を頂ければ、今直ぐにでもあなた様の配下となってあなた様に尽くしましょう」

 

 

 

「・・・・・・っ!」

 

 

 

断られるかな?って思ってたけど、思ってたよりも従順な姿勢のこの悪魔に僕もリムルもほっと息をついた。召喚主のいうことは絶対・・・・・・みたいな決まりでもあるのかな?実際、リムルが召喚したディアブロはどんな命令も聞くし・・・・・・。・・・・・・それにしても、何でディアブロはそんなに驚いているんだろうか?

 

 

 

「あなたにしては珍しいですね?誰かの下へとつくなんて?」

 

 

 

「・・・・・・気まぐれにいつもどこかへ出回っている変わり者のあなたに言われたくは無いわ。別に、珍しい事もないでしょう?わたくしはただ、召喚主様の命令に従っただけなのだから。それにしても・・・・・・あなたもいたのね、クロ?もしかして、あなたもかしら?」

 

 

 

「ええ。私は、そこのリムル様に呼び出され、忠誠を誓いました。我が主ですから、無礼のなき様に・・・・・・クフフフ・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・確かに、あなたが忠誠を誓う理由も何となく分かる気がするわね。かの人もまた、素晴らしいまでの力を保有している様ですから」

 

 

 

まるで、旧知の仲の友達かの様に話す二人。どうやら、知り合いということは間違いのない様だ。・・・・・・それにしても、本当に良いのかな?

 

 

 

「本当に良いんですか?別に無理に配下に加わることはありませんけど?」

 

 

 

「無理だなんてとんでもございません。正直に申しますと、もしわたくしをお呼びになった召喚主様がわたくしよりも劣る弱者であったとするなら、その”魂でも喰らって”から帰還しようと考えていたのですが、あなた様に関しては別ですわ。あなた様はわたくしよりも遥か上の力と、威厳を持つお方だと言うことを一目で判断できました。・・・・・・その、あなた様の強さに心惹かれたのですの。ですので、どうかわたくしめをあなた様の配下に加えてくださいませんか?必ずお役に立つことを約束しますわ」

 

 

 

「(こ、怖い・・・・・・)そ、そうですか?そこまで言うなら、良いですけど・・・・・・」

 

 

 

「ははっ!!ありがたき幸せにございます!」

 

 

 

配下に加わることを承諾すると、その悪魔は笑顔を浮かべながらその場に跪き、僕に感謝の意を示してくる。この笑顔を見ると、どうしても悪魔のようには見えない。もはや、何処ぞの貴族の令嬢のようにしか見えなかった。それはともかくとして・・・・・・半ば強引に説得された感が否めないけど、この人が配下になってくれるって言うなら心強いことこの上無い。ここは、彼女の気持ちを尊重して上げる事にしよう。・・・・・・それにしても、魔王に覚醒してよかったのかも知れないね?もし、覚醒前だったなら、この人に魂を喰べられていたかも知れないし・・・・・・。見かけによらず、結構怖い人なのかも、この人・・・・・・。

 

 

 

「じゃあ、依代は・・・・・・どうしよう?」

 

 

彼女の依代を準備して居なかった事に、頭を悩ませる。リムルは以前、”ベレッタ”と言う上位魔族(グレーターデーモン)を召喚した際に、事前に魔綱製の人形を作ってそれに受肉させたらしいけど、当然今この場にそんなものがあるわけ無いし、素材の準備すらして居ない。さて・・・・・・どうしよう?うん、こんな時こそリーテさんに良い案を出して貰・・・・・・。

 

 

 

《解。『強化分身』にて、分身体を作成することを推奨します。種族の進化により、肉体を持つ分身体の作成が可能となったため、依代として扱うことが可能です。実行いたしますか?》

 

 

 

「(・・・・・・お願いしていい?)」

 

 

 

僕が聞こうとする前に、早々と案を提供してくるリーテさんに、若干引いてしまう。・・・・・・なんだろう?進化してから、やたら自分の方から話しかけてくることが多くなったけど、もしかして自我が・・・・・・《否。》まぁ・・・・・・いいか。

 

 

 

そんなこんなで、僕と瓜二つの分身体を作成した僕は、その分身体を彼女の目の前に差し出した(余談だけど、僕の容姿は魔王へと進化したせいなのか、かなり魅力的となっていて、思わずたじろいでしまった。髪が伸びたのもそうだけど、背も少し伸びたから、余計に”綺麗なお姉さん感”が醸し出るようになって、いよいよ本格的に女の人扱いされる日も近くなってるのかも知れない・・・・・・)。

 

 

 

「これがあなたの依代となる物です。それと、僕の配下となることですし、あなたに名を与えたいと思います。あなたの名は・・・・・・”テスタロッサ”。この名を授けます」

 

 

 

「ありがたく頂戴致します・・・・・・」

 

 

 

僕の新たなる配下、テスタロッサは僕の用意した分身体に憑依すると共に、名付けに伴う進化を開始した。名付けで魔素は半分近く持っていかれたけど、新たに獲得した『治癒之王(アスクレピオス)』の能力で直ぐに回復するとのことだったから、そこまで気にはならなかった(ちなみに、名前は車種の名前である”フェラーリ・テスタロッサ”から取った物。前世で父さんが乗っていた事もあって、覚えてたんだよね。名前も何となくカッコ良かったし)」

 

 

 

数分もすると、ようやく進化を終えた。進化とは言っても、元々、僕と容姿が似ていた事もあってか、僕の分身体に憑依しても、外見にほとんど変わりは無かった。強いて言うなら、僕よりも少しだけ綺麗な白銀の髪を長く伸ばし、背が少し縮んでるところぐらいかな?

 

 

 

《告。個体名”テスタロッサ”は、悪魔公(デーモンロード)へと進化を果たしました。大幅な身体能力、魔素の上昇を確認しました。また、名付けを実行した事により、魂の系譜にテスタロッサが新たに追加されたことを確認。それに伴い、能力の『共有』を実行します・・・・・・成功しました。『共有』により、テスタロッサの一部の魔素の共有、核撃魔法死の祝福(デスストリーク)の共有に成功しました》

 

 

 

「(なんかすごい事になってるような・・・・・・それに悪魔公(デーモンロード)って、ディアブロと同格じゃん・・・・・・やっぱり、この人って相当すごい悪魔だった訳ね・・・・・・)」

 

 

 

「召喚主様・・・・・・この様な大層な依代と名を与えて下さり、誠に感謝いたします。このテスタロッサ・・・・・・今後はこの恩に報いるべく、あなた様の力となりましょう!」

 

 

 

「はい。よろしくお願いします。あ、あと、僕はエリス=テンペスト。エリスって呼んでくれていいので」

 

 

 

「ははっ!では、エリス様、わたくしの事も気軽にお呼び下さい。それと、敬語も不要ですので」

 

 

 

「そっか。わかった、じゃあよろしくね、テスタロッサ?」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

とんとん拍子で話が進んでしまったが、とりあえず、この瞬間を持って僕の配下に新たに強力な悪魔、テスタロッサが加わる事となった。彼女はこの後、自分の腹心二人と、配下二百人を連れてくると言って、一旦冥界へと帰って行ったけど、そんなに連れて込まれたら色々と面倒な事になる気がする。でも、彼女も良かれと思って連れてきてくれる訳だし、顔合わせぐらいはきちんとやっておく事にしよう。

 

 

 

はぁ・・・・・・というか・・・・・・こんな短時間に悪魔公(デーモンロード)を二人も仲間に加えるとか・・・・・・。この国の戦力がおかしくなりそうだ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつもまた、随分とヤバそうな化け物を仲間に加えやがって・・・・・・ちゃんと、あいつのことを制御出来るといいんだが・・・・・・」

 

 

 

「ご安心を。もし、あの者がエリス様に牙を向う物なら、私が直々に止めに入ります。あの者では私には敵いませんので、止める事は容易いのですよ、クフフフ・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・お前もやっぱ、大概の化け物だよな・・・・・・」

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

僕達が揃ってディアブロとテスタロッサを出迎えた後、獣王国(ユーラザニア)の三獣士であるアルビスさん、フォビオさん、スフィアさんが揃って謁見を求めてきた。リムルの話だと、どうやらミリムが獣王国(ユーラザニア)に対して宣戦布告をしたらしく、その顛末を伝えに来たのだとか。ちなみに、この三人は僕が一度死んだ事については知っていて、僕の姿を見た途端、喜び混じりに僕の復活を祝福していた。

 

 

 

「リムル様、エリス様、此度は魔王への進化・・・・・・誠におめでとうございます」

 

 

 

「・・・・・・いや、僕にとっては嬉しくなんて無いんですけどね?」

 

 

 

「はっ?何でそんな・・・・・・あぁ、確かにエリス様が魔王になりたいなんて思う筈無いもんな。・・・・・・すまねーな」

 

 

 

「良いですよ別に。なってしまった物はしょうがないんですから」

 

 

 

あまり謝ることをしなさそうなスフィアさんに頭を下げさせてしまった事に、どこか後ろめたさを感じてしまった僕は、直ぐに頭を上げさせた。魔王になってしまった事に関しては確かに悲しいけど、これはみんなを守った時に負った代償みたいな物だから、我慢は出来たから。

 

 

 

「あんたらが無事で良かった。避難民についてもすでにこっちに情報は届いてるから、手厚く歓迎するよう話を通しておく」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

「・・・・・・でだ。獣王国(ユーラザニア)で何があったんだ?詳しく話を聞かせてくれ」

 

 

 

 

そこから語られたのは、何とも残酷で・・・・・・意味のわからない顛末だった。まず、ミリムは宣戦布告の期日である一週間後に獣王国(ユーラザニア)に現れたようで、王であるカリオンさんは三獣士の三人や獣王戦士団に避難民の誘導を任せ、単身でミリムと一騎討ちの対決に臨んだそうだ。カリオンさんは『百獣化』を駆使しつつ、ミリムに応戦していったが、本気の力の片鱗を見せたミリムに対しては全くと言って良いほどに歯が立たなかったようで、苦戦を強いられてしまう。しかも、ミリムの最強魔法『竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)』が獣王国(ユーラザニア)の町中へと直撃し、獣王国(ユーラザニア)が跡形もなく消し飛んでしまった。破壊の暴君(デストロイ)・・・・・・このミリムの二つ名がどの様な意味なのか、これを見れば明白なことは明らかだ。そして、それによってカリオンさんに少なからずの動揺が生まれた。

 

 

 

「それで、そのカリオンさんの隙を突いて、魔王であるフレイさん(?)がカリオンさんを気絶させて何処かへと連れ去った・・・・・・と?」

 

 

 

「はい。下でその様子を見ていた俺は・・・・・・何も出来なかった・・・・・・ただただ、カリオン様がやられる姿を・・・・・・連れ去られる姿を見ることしか出来ず・・・・・・」

 

 

 

「ミリムの攻撃の巻き添えになって、助かっただけでも良しとしましょうよ。ミリムに勝てるのなんて、そうそう居ないんですから」

 

 

 

三獣士の中で、唯一残って二人の戦いを見守っていたフォビオさんは悔し混じりにそう口にしていた。言ってしまうと悪いけど、フォビオさんが出て行ったところでミリムに勝てる訳なんてないし、むしろカリオンさんの足を引っ張りかねない。だから、見守ると言う判断をしたフォビオさんは正しかったのかも知れない。フォビオさんはミリムの攻撃を受けて、死にかけたらしいけど、拠点移動(ワープポータル)でこの近くまで転移することで何とか命は助かったようだ。・・・・・・ってか、ミリムって自分の戦いに他人を介入させる様な子だったっけ?それに、何で宣戦布告をしたのかも意味分かんないし・・・・・・。

 

 

 

「何だろう?ミリムらしく無いような・・・・・・」

 

 

 

「ああ、それは俺も同感だ。・・・・・・あいつ、一体何考えてんだよ」

 

 

 

僕もリムルも、ミリムに対して同じ不信感を募らせる中、話はさらに進む。どうにも、魔王の一角であるクレイマンが、今回の獣王国(ユーラザニア)の襲撃に関して加担していると言う疑惑があるのだとか。確かその魔王は、ミュウランさんを操って、魔国連邦(テンペスト)の襲撃にも関与していた人物だった筈。・・・・・・まさか今回の件についても関与しているなんて・・・・・・。

 

 

クレイマンが暗躍しているかも知れないと言う事実に、三人は激昂して居たけど、感情的になったところでクレイマン達の思う壺な為、何とか抑えるよう言った。とりあえず、カリオンさんがどこへと連れ去られたのかを探るべく、地図を出して考えてみる事にしたけど、場所は割とすぐに特定することが出来た。

 

 

 

「傀儡国”ジスターヴ”・・・・・・クレイマンの支配領域か・・・・・・」

 

 

 

 

クレイマンは黒・・・・・・それを確定づけるその目的の地に、僕達の口から出てくる言葉は何もありはしなかった。

 

 

 

 

 

その代わり、部屋の中に、夥しいほどの”殺気”が充満していた・・・・・・。




いよいよ、エリスもリムルに近づいてきたと言っても良いのでは無いですかね?それにしても、覚醒したとはいえ、原初の白であるテスタロッサを呼び出せるエリスの力はすごいと言うことがよくわかりました。依代はエリスの分身体という事にしました。流石に、この段階で擬似魂(ギジコン)神輝金鋼(オリハルコン)を用意するのは無理がありそうだったので。

ちなみに、容姿は原作と変わりません。ちゃんと儚き令嬢のような可愛らしいテスタロッサです。


それにしても、『死の祝福(デスストリーク)』を使用可能になるとか・・・・・・『治癒之王(アスクレピオス)』様様ですね。この魔法は高度な魔法操作が出来、『黒炎核(アビスコア)』が制御出来るテスタロッサならではの魔法だと言うのに・・・・・・。



ですが、使えるようになったところで、エリスは『死の祝福(デスストリーク)』を使用しないと言うことも考えられます。エリスは、あまり人や魔物を殺したりはしないですからね・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

来客多数?

だんだん寒くなって来ましたね・・・・・・。





今回の魔国連邦(テンペスト)襲撃、ミリムによる獣王国(ユーラザニア)の消滅に関する黒幕が魔王クレイマンだと言う事がほぼ確定したこともあり、三獣士の三人やその場にいたベニマルやシオン達は一斉に憤りを露わにしていた。・・・・・・無論、僕やリムルもだけどね?

 

 

翌日に今後の方針を決めるべく、町の重鎮達や三獣士の三人を招いて、会議を開いた訳だけど、そこでリムルは”驚きの宣言”をしてくれた・・・・・・。

 

 

 

「俺は、”名実ともに”魔王になる事に決めた。・・・・・・異論は認めないぞ?」

 

 

 

”名実ともに”・・・・・・つまりは、今の世に存在する”十大魔王”に対して名乗りを上げ、大々的に自分が”魔王”であると言うことを宣言すると言うことだ。リムルは既に”真なる魔王”へと覚醒している訳だし、宣言しようと思えばいくらでも宣言する事は可能だが、魔王と言うのは、他の魔王達の承諾が無ければ名乗ることが許されないのが現状。下手な魔物が名乗りをあげて魔王達に認められなければ、後で始末をされる可能性だってあるんだ。・・・・・・リムルはそのことをちゃんとわかって言ってるのかな?

 

 

 

「リムル様、理由をお伺いしても?」

 

 

 

「魔王クレイマンに対して喧嘩を売りたくてな。そいつは、ミリムを利用して友好国でもある獣王国(ユーラザニア)の消滅に加担してる。それに、此処を襲ってきたファルムス王国や西方聖教会の連合軍に加担し、ミュウランを操って被害を甚大にさせようと目論んでいたことも判明してるんだ。流石に此処までの事をされて見過ごす訳にはいかない。・・・・・・エリスが死んだのだって、そいつのせいでもあるんだ」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

怒気を込めながら話すリムルに対し、苦い顔を浮かべた。リムルはやっぱり、今回の件については相当怒ってる。僕が死んでしまった事もそうだが、何より平穏な毎日を過ごしていた僕たちの日常を奪おうとしたその魔王が、何よりも許せなかったんだろう。

 

 

 

 

「だから、俺は魔王クレイマンを・・・・・・叩きのめす!何か、意見のある奴はいるか?」

 

 

 

「・・・・・・一つ、よろしいですか?」

 

 

 

名乗りをあげたのはシュナだった。シュナは何故か知らないけど、リムルに視線を向けつつも何処か、不安そうにしていた。

 

 

 

「どうした、シュナ?」

 

 

 

「リムル様が、魔王となられる事はよく理解しました。それにつきましては、わたくしも他の皆さんも揃って賛成します。・・・・・・ですが、同じく魔王へと覚醒なされたエリス様は・・・・・・どうなさるおつもりですか?」

 

 

 

「あぁ・・・・・・そっか・・・・・・」

 

 

 

シュナが僕へと視線を移すと共に、その場にいた全員が僕へと注目する。・・・・・・僕がどうするのかは既に決めている訳だし、悩む必要なんて無かった。

 

 

 

「僕は名乗るつもりなんて無いよ?名実上の魔王は国に一人いれば十分だし、僕はそう言った事には向いてないかも知れないしね。それに、変に名乗って他の魔王達に目をつけられたく無いし・・・・・・」

 

 

 

「もし名乗るつもりだったんなら止めてたところだが、その心配は無さそうで良かった。お前の事は、俺がしっかり守っていくつもりだが、これ以上お前を危険な目に遭わせたくなんてなかったからな」

 

 

 

「そ、そうなんだ?」

 

 

 

僕の考えに賛同してくれるリムルに嬉しさを感じるけど、どうにも僕に対して過保護になっているような気がする・・・・・・。僕も、一応だけど魔王に覚醒してある程度は力もついた事だし、自分の身くらいは自分で守れるんだけどな〜・・・・・・一度死んでおいて言うのはなんだけど。

 

 

 

「そう言う訳だから、エリスは魔王を名乗らない・・・・・・というか名乗らせないつもりでいるから、みんなもそのつもりでいてくれ!」

 

 

 

リムルの言葉に、みんなは静かに頷く。その後リムルは、ソウエイ達隠密部隊をクレイマンの情報収集に向かわせ、自分は用があると言ってどこかへと姿を消した。用が終わればすぐに戻ってくると言っていたリムルだったが、そう言ってる割に数日間も帰ってくることは無く、その間暇だった僕は、テスタロッサが連れてきた配下達との顔合わせを行ったり、魔王になってから新たに獲得したスキルなどを見直すなどして時間を潰していた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・そしてさらに数日後、ようやくリムルが戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・()()()()()()()()を連れて。

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「リムル、数日の間何してたの?・・・・・・それにその人は?なんか、物凄く強い妖気(オーラ)を感じ取れるんだけど?」

 

 

 

町へと戻ってきたリムルを僕たちは出迎えた訳なんだけど、リムルの隣に立っている背の高い男性がどうしても気になってしまう。みんなんて反応して良いのか分からなくなっていた・・・・・・僕もだけどさ?彼はどうやら、妖気(オーラ)を抑え込める技術を持っていて、実際今はかなりの妖気(オーラ)を抑え込んでいるようだけど、リーテさんはなんなく看破し、僕に彼の正常な妖気(オーラ)の量や魔素量を知らせてくれた事もあって、僕は彼の力量を見極めていた。

 

 

 

「こいつはヴェルドラ。俺の友達だ。人見知りなところがあるが、仲良くしてやってくれよ?」

 

 

 

「ヴェルドラ?え、確かリムルの話だと、大きな竜だったはずじゃ・・・・・・」

 

 

 

暴風竜ヴェルドラ。かつて、このジュラの大森林の守り神として崇められていた竜だ。リムルがこの世界に転生してきた直後、友達になったと聞いてはいたが、何で竜だった魔物が人間へと変わっちゃってる訳?・・・・・・意味わからない。

 

 

 

「クァーーハッハッハッハ!!よく聞くが良い皆の者!我はヴェルドラ=テンペスト!貴様らの主人であるこのリムル=テンペストと我は深い絆で結ばれた友達である!!よく覚えておくが良いぞ!」

 

 

 

「・・・・・・初めまして、僕の名前は・・・・・・」

 

 

 

「エリス=テンペスト・・・・・・であろう?」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

初対面である僕の名前を知っているヴェルドラさんに疑問を覚える。

 

 

 

「我は、リムルの体内から外界の様子を覗く事ができるのだ。リムルがこれまで出会ってきた仲間、敵、場所・・・・・・その全てを熟知しておるぞ?無論、貴様のこともだ。・・・・・・我の友達であるリムルが普段から世話になっているようであるな?」

 

 

 

「そういう事でしたか。・・・・・・なんかすいません。あなたとリムルが名乗っている”テンペスト”の名をあなたの許可無しに名乗ってしまって・・・・・・」

 

 

 

「リムルが認めたのであれば良いであるぞ?此奴が何処ぞの馬の骨にこの名を名乗る事を許すとは思えぬしな」

 

 

 

今まで、このテンペストの名を名乗ることは、後ろめたさを感じていたが、こうしてヴェルドラさんからちゃんとした許可をもらえたことで、ようやく肩の荷が降りたような気がした。それにしても、最初は少し気難しい人なのかなって思ってたけど、意外にも気さくに話してくれる人のようで安心した。後々聞いた話だと、この体は僕がテスタロッサにやってあげたように、リムルも『強化分身』で分身体を作成してヴェルドラさんの依代として提供したことで肉体を得たのだとか。

 

 

 

「そろそろいいか?エリス、ソウエイ達が諜報から帰ってきて、それを元にして会議を開こうと思ってる。この場にいない重鎮達を集めてくれ」

 

 

 

「わかった。ちょっと待ってて」

 

 

 

話が長くなりそうな事を察してか、リムルは僕に他の重鎮達を呼んでくるよう指示を出してきた。まだ話したい事があったけど、それは次の機会にでも取っておく事にし、足早にみんなを呼びに行った。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

視点 リムル

 

 

 

「さて、ソウエイ達も戻ってきた事だし、早速会議を開始し・・・・・・って、誰か来たな?この反応は・・・・・・ヒューズか?」

 

 

 

〈解。約50騎を引き連れ、個体名ヒューズはこの場へと向かっていると推測します〉

 

 

 

エリスが会議室に全員を集めてきて、早速会議を開始しようとした矢先、俺の新たなるスキルである『万能感知』にヒューズ達数十人の人間の反応が引っ掛かった。とりあえず対応をしようと、一部の配下をその場に残し、外へと出た。外には既にヒューズが待機しており、何故かガッチガチの武装状態でいた。・・・・・・何で?

 

 

 

「リムル殿!待たせてしまって申し訳ございませぬ!この遅れた分は、必ずや武を持って返していく所存でございます!どうか、我らを対ファルムス軍の末席に加えてくだされ!」

 

 

 

「・・・・・・はい?」

 

 

 

素っ頓狂な声を出してしまった俺は、微妙な表情を浮かべる。・・・・・・俺たちの危機を察して来てくれたんだろうけど・・・・・・二万の兵達は俺が倒したから、もう終わっちまってるんだよな・・・・・・。確か、リグルドがブルムンド国に対して使者を送ったと聞いていたが、どうやら行き違いになってしまったようだな。それならば、ヒューズ達が何も知らないのにも納得がつく。

 

 

 

「ヒューズさん、来てくれた事に関しては凄く嬉しいのですけど・・・・・・もう、リムルが全て倒してくれたので、大丈夫なんですよ?」

 

 

 

「・・・・・・はっ?どういう・・・・・・って、エリス殿!?何故生きておられるのだっ!?ミョルマイルの話だと、確かファルムス軍の襲撃の際に命を落とした筈だと・・・・・・もしや、霊的な・・・・・・」

 

 

 

「ちゃんと生きてますからっ!!足あるの分かるでしょう!?・・・・・・はぁ、すいません。確かに僕は一度命を落としました。ですが、ここにいるリムルのおかげで、無事に生き返る事ができたんですよ」

 

 

 

「い、生き返ったって・・・・・・どうやって・・・・・・」

 

 

 

エリスの説明に頭が混乱して来たのか、しどろもどろになり始めるヒューズや後ろの配下達。とりあえず、ちゃんと説明してやるとするか。

 

 

 

〈告。個体名ガゼル・ドワルゴが数十騎を従えて接近していることを確認しました〉

 

 

 

「リムル、ガゼル王が来てるみたいだよ?出迎えた方が良いんじゃないかな?」

 

 

 

「次から次へと面倒な・・・・・・」

 

 

 

ヒューズの次はガゼル王。何で、こんなにも来客が多いってんだよ・・・・・・。それにしても、『万能感知』は『魔力感知』よりもさらに上の検知範囲や精度を誇っているが、精度が良すぎるせいで、細かな情報まで揃って報告されてしまう事もあって、正直面倒になっていた。だから、ラファエルには敵対反応を持つ者や、危険である者だけを知らせるようお願いをしておいた。

 

 

 

「リムルよ、久しいな。よもや、貴様が魔王になるとはな?」

 

 

 

「・・・・・・『何で?』みたいな顔してるが、その理由だってあんたのことだから、大体の検討はついてるんだろ?」

 

 

 

「まぁな。・・・・・・大方、そこの副国主であるエリスを甦らせる為なのであろう?」

 

 

 

ペガサスから降りつつ、意気揚々にそう口にするガゼル王に無言で頷く。

 

 

 

「エリスよ。貴様も久しいな。・・・・・・この国を守るが為に命を落としたそうだが、何も恥じることは無いぞ?むしろ、国のためにそこまで出来る者はそうそうおらん。貴様には敬意を評したいぐらいだ・・・・・・」

 

 

 

「そう言って貰えて嬉しいですけど、出来れば死なずに守りたかったものです・・・・・・。生き返ったとは言え、一度は死んで、みんなを悲しませたことは事実ですので・・・・・・」

 

 

 

そう言うエリスの表情は暗かった。まだこいつは、自分が死んでしまった事を・・・・・・いや、俺やみんなを悲しませてしまった事を悔んでいるんだろう。・・・・・・確かにあの時の俺たちは、精神的にキツくなっていたからな。もしも、あのままエリスを生き返らせることが出来なかったとすれば、俺たちは皆、今も失意のどん底に突き落とされていたままだっただろう・・・・・・。

 

 

 

「出来なかった事を悔んでいる暇があるなら、前を向いたらどうだ?貴様がそんな調子では、そのうち貴様についてくる輩は姿を消す事になるぞ?」

 

 

 

「・・・・・・勿論、前は向きますよ。こんな僕でも、慕ってくれる配下達が数多くいるのですし、いつまでもウジウジしてたら上司として情けないですから」

 

 

 

「その意気やよし。今後の貴様の成長も楽しみであるな」

 

 

 

エリスのその言葉を聞けて嬉しかったのか、ガゼル王は微笑を浮かべつつエリスの頭を撫でていた。エリスはと言うと、撫でられるのが心地が良いのか、特に嫌がる素振りを見せる事もなく、ガゼル王に撫でまわされていた。・・・・・・なんか、久しぶりに会いに来た孫を、じいさんが可愛がってるように見えるのは俺の気のせいかな?

 

 

 

結局、ガゼル王も今回の会議に参加する事を決めたようで、ヒューズもついでにと言うことで参加する事が決まった。

 

 

 

「ま、魔王って・・・・・・何がどうなって・・・・・・それに、万の軍勢をたった一人で・・・・・・?」

 

 

 

混乱しすぎて、顔が真っ青になってるヒューズには、あとでちゃんと説明しないとな・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

その後の話し合いで、俺やエリスがどのような経緯、方法で魔王に覚醒したかは伏せられる事となった。何せ、たった一人で万の軍勢を仕留め切れる人材が、この国に”二人”も存在すると他国に知られれば大混乱になりかねなくなるからだ。ガゼル王にはベスターから情報が入ってる事もあって、特に驚きは見せてはいなかったが、ヒューズに至っては、そもそも俺やエリスが魔王になったことすら知らない状態だった事もあり、驚きを通り越して絶句していた。

 

だから、とりあえず殺したファルムス軍は、”行方不明”という形で落ち着かせる事にした。この秘密は、この場にいる者達だけで共有すると決めた為、今は町の宿屋で疲れを癒しているこの事実を知ってしまったヒューズの配下達は、後でディアブロやテスタロッサが記憶を改竄しに行ってくれるとのことだ。悪魔はそういった事が得意なんだと。

 

 

脳の許容量(キャパシティ)がオーバーし、疲弊しきったヒューズを一旦近くの宿屋まで送った後、ガゼル王と今回の会議の内容について議論をしていた俺達だったが、そこに”ある一団”が現れる。その一団は、ソーカが先導して連れてきた様だが、何の用だろうか?

 

 

 

「おやおや?これは珍しい・・・・・・。臆病者のあなたが、魔王に肩入れするなど?」

 

 

 

「・・・・・・誰だ?俺の『万能感知』に反応なんて無かったのに、いつの間に・・・・・・」

 

 

 

「え、そうなの?僕はちゃんと感知出来たけど・・・・・・?」

 

 

 

「はっ?エリスは感知できて何で俺は・・・・・・」

 

 

 

〈・・・・・・告。敵対反応が確認出来なかった為、報告しませんでした〉

 

 

 

なんか、拗ねたようにラファエル先生は言う。そういや、敵以外は報告しなくていい・・・・・・的なこと言ったもんな、俺って。・・・・・・そんな面倒な注文をすればラファエルだって呆れて怒るのも無理ないってことか。・・・・・・なんか、ごめんなさい。・・・・・・ってか、エリスも『万能感知』持ってたんだな。どうりで、ガゼル王が来た事にも気づけてたわけだ。

 

 

先導していたソーカの話によると、この人たちはエレンの出身国でもある魔導王朝サリオンの使者であり、一人は何と公爵家の当主らしい。・・・・・・そんなお偉いさんが何の御用だって言うんだよ・・・・・・。

 

 

 

「失礼。貴殿が魔国連邦(テンペスト)国主であられる、リムル=テンペスト殿で間違いないですか?」

 

 

 

「・・・・・・そうですが?」

 

 

 

俺が肯定すると、その当主様(?)は何故か俺の方へ両の掌を向けてくる・・・・・・明らかに”殺意的な魔力”を込めるその掌を・・・・・・。え、ちょっと待って!?

 

 

 

「貴様が私の娘をたぶらかした魔王リムルですねっ!!貴様のような悪党、この私が焼き尽くしてくれましょうっ!!」

 

 

 

「何でっ!?何でいきなり攻撃してくるわけさっ!!?」

 

 

 

出会い頭に攻撃してくるとかどう言うつもりなんだよこのおっさんは!?それにあんたの娘をたぶらかしたって、どう言うことだよ!?俺はそんなことした覚えねーぞっ!?

 

 

 

〈告。火炎、爆発の合成魔法です。魔法制御を・・・・・・〉

 

 

 

今はどうでも良いラファエルの解説を聞き流していた俺は、とりあえず何とかして止めようと策を練ろうとした。・・・・・・だが。

 

 

 

「っ!!?・・・・・・ま、魔法が()()()?もしや・・・・・・くっ・・・・・・やはり魔法が使えん・・・・・・」

 

 

 

もう、放たれる寸前だったその合成魔法は、突如として消え失せた。・・・・・・一体何が?

 

 

 

〈告。個体名エリス=テンペストにより魔法不能領域(アンチマジックエリア)が発動されました。それに伴い、合成魔法の発動が阻害されたと推測します〉

 

 

 

魔法不能領域(アンチマジックエリア)?エリスが?」

 

 

 

ふと、自分の周囲を見渡してみると、確かに結界のような物・・・・・・つまり、魔法不能領域(アンチマジックエリア)が俺たちを覆ってる事が確認できた。俺も一応は発動できるが、まさかエリスが使うとはな・・・・・・。

 

 

 

「あなたがどんな方なのかは知りませんが、そんな魔法をこの場で放たれては町が壊れかねませんので、封じさせて貰いました。・・・・・・とは言え、どうにも本気で放つ気ではなさそうでしたが・・・・・・良ければ話を聞かせては来れませんか?此方としては、全く理解が出来なくて・・・・・・」

 

 

 

()()っ!!何やってるのよぅ!!」

 

 

 

エリスが話を聞こうと彼らに近づいたところで、その場に甲高い声が響き渡った。・・・・・・声のした方へ振り返ってみると、そこには物凄く恥ずかしそうに顔を赤らめていたエレンの姿があった。・・・・・・にしても、パパって・・・・・・もしかしてこのおっさん・・・・・・?

 

 

「パパが迷惑かけてごめんなさい。リムルさん、エリスさん。・・・・・・この人は私のお父さんで、魔導王朝サリオンの大公爵のエラルド・グリムワルドと言います」

 

 

 

「先程は無礼を働きましたな。何分、娘の事となるとどうにも落ち着かなくてですね・・・・・・っと、失礼。娘のエレンからもあった様に、私の名はエラルド、どうぞお見知り置きをジュラの大森林の盟主と副盟主よ」

 

 

 

「「よ、よろしくお願いします・・・・・・?」」

 

 

 

そんな訳で、この場に現れたサリオンの大公爵様は、なんとエレンの親父さんだった。まさかまさかの展開に俺もエリスもどう反応して良いのか困惑してしまう。

 

 

 

 

 

・・・・・・何で今日はこんなに面倒事が多いんだよ・・・・・・全く・・・・・・。




と言うわけで、エリスは魔王を名乗りません。名実上の魔王は国に一人いれば十分なわけですし、話的にその方が面白そうだった為、そうさせてもらいました。

ですが、他の魔王達もいずれはエリスの存在に気付くでしょうし、気づいた時どの様な対応をして来るのかは、未定となっています。

それもお楽しみに!


魔法不能領域(アンチマジックエリア)はエリスもミュウランの物を解析鑑定していた事もあって、自由に発動する事ができます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人魔会談

遅れて申し訳ございません・・・・・・。


色々と忙しくて、執筆が進みませんでした・・・・・・。


視点 エリス

 

 

 

エレンさんのお父さんであるエラルド公爵が現れ、いかにも面倒そうな顔をしたリムルだったけど、その後着替えを終えて、ラフな格好になったヴェルドラさんがその場に現れたことで、ガゼル王やエラルド公爵が混乱してリムルに説明を求めて来た為、さらに面倒なことになったと頭を抱えていた。

 

 

リムルは内密に二人に説明をしてくるらしいから、その間僕は、会議に参加する人数が多くなったことを考慮して、会議室ではなく執務館の裏のテラスにみんなを集めておいた。

 

 

 

「エリス様、これで全員集まったかと。後はリムル様達が来られれば・・・・・・」

 

 

 

「うん、ありがと。じゃあみんな、リムル達が戻るまでは自由に・・・・・・」

 

 

 

「エリスよ!リムルから貰ったこの漫画なのだが、もう読み終わってしまってな?続きは持っておらんか?」

 

 

 

『自由にして構わない』・・・・・・そうみんなに言おうとしたんだけど、”既にそれをしている人”に割り込まれてしまい、口籠もった。

 

 

 

「ごめんなさい。漫画はリムルが持ってますのでリムルが戻ってきたら言ってもらえますか?」

 

 

 

「そうか?ではエリスよ。リムルが戻って来るまでの間、我に貴様の事を詳しく聞かせるが良い。暇であるのでな。貴様の事は我もある程度であるなら知ってはおるが、全てを知ったわけでは無いのでな!」

 

 

 

「・・・・・・別に良いですけど、特別面白い話でも無いですよ?」

 

 

 

「構わぬ!話せ!」

 

 

 

・・・・・・話さないと納得しなさそうな様子のヴェルドラさんに内心でため息を吐きつつ、『一旦自由時間にしていい』とみんなに伝えた後、僕のこれまでを掻い摘んで話した・・・・・・。

 

 

 

僕もリムル同様に日本から来た転生者である事・・・・・・リムルと出会い、共に道を進むと決めた事・・・・・・ジュラの大森林の副盟主となった経緯・・・・・・人間との共存を目指している事・・・・・・今回の襲撃の際、一度命を落とした事・・・・・・その全てを。

 

 

 

「なるほどな。大体のことはわかった。・・・・・・だかエリスよ?”まだ一つ”残っておるのでは無いか?」

 

 

 

「一つ?・・・・・・何ですか?もう全てのことを・・・・・・」

 

 

 

「貴様もリムル同様”真なる魔王”に覚醒したのであろう?我の目は誤魔化せんぞ?」

 

 

 

「っ・・・・・・やっぱり、ヴェルドラさんにはバレちゃいますよね・・・・・・。隠そうとしてすいません、あんまりこの事は言いたく無かったので・・・・・・」

 

 

 

僕の魔素を見てか・・・・・・勘を頼りにしてかは分からないけど、直ぐに僕が魔王へと覚醒していることを見抜いたヴェルドラさんに苦笑いを浮かべる。流石は・・・・・・魔王達からも恐れられる暴風竜・・・・・・。

 

 

 

「クァーーハッハッハッハ!!何だ?貴様は覚醒などしたく無かったのであるか?リムルは魔王となっても後悔など微塵もしていなかった様に見えたが、貴様は違うのか?」

 

 

 

「僕だって後悔してませんよ。この真なる魔王への覚醒は、言って仕舞えば、みんなをしっかりと守った際に負った代償みたいな物ですから。後悔なんてする筈もありません。ですが、特に言いふらす必要も無いでしょう?魔王が誕生したと聞いて嬉しくなる人物なんて殆どいないでしょうし・・・・・・」

 

 

 

「うむ・・・・・・確かにそうであるが、魔王への覚醒を代償とは・・・・・・面白き奴よ。その代償故に力を得た事については何も思わぬのか?我にしてみれば力を得ることは素晴らしきことの様にも思えるが?物事の解決にも拍車がかかるぞ?」

 

 

 

「共存を望んでいた人間の人たちを殺して得た力なんて、喜べるわけないじゃ無いですか。それに、僕は力があったところで物事が全て解決するとは思っていません。ですので、そこは勘違いしないでください」

 

 

 

「ほう?我にここまで物言いが出来るとは・・・・・・ますます面白き奴だ、エリスは!」

 

 

 

厄災とも言われている暴風竜に対して随分と偉そうに物言いをしちゃってすっごく焦ったけど、当の本人は怒るどころか、僕のことを偉く気に入ってくれたようで、肩をバシバシと叩きながら笑い飛ばしていた。

 

 

 

「エリスよ、聞くが今後は人間を手にかける予定はあるのか?今回、貴様がやったように」

 

 

 

「無いです。僕の人間殺しは・・・・・・今回の件が最初で最後のつもりなので・・・・・・。これ以上、人間を殺して仕舞えば、それこそ取り返しがつかなくなってしまう様な気がするんです・・・・・・」

 

 

 

「そうか。・・・・・・だが、”リムル”はどうであるか?」

 

 

 

「・・・・・・えっ?」

 

 

 

突然リムルの名を出されて、戸惑う僕。・・・・・・なんでここでリムルが?今は僕の話じゃ・・・・・・?

 

 

 

「貴様は人間を殺すのは今回で最後と言っておったな?だが、リムルはそうであると言えるか?あやつが今後、一切の人殺しをしないと言う保証はあるのか?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

そのヴェルドラさんの的を射た発言に、何も言い返せなくなってしまう。

 

 

 

「(・・・・・・確かに、僕はもう人殺しはしないって決めた。リムルにもそう言ったし、お互いに人はもう殺さないと約束した。だけど・・・・・・その約束が破られないと言う保証があるわけでも無い。それに、リムルも僕と同じ気持ちでいるということさえ保証できないんだ・・・・・・)」

 

 

 

「無論、我もリムルがその道に走ると言うのであれば、友として止めには入るやも知れぬ。だが、我とていつでもリムルの側にいるとは限らぬであろう?であるからしてエリスよ、貴様はどうするのだ?我同様に、友として止めに入るか?」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・勿論止めますよ。リムルにこれ以上の人殺しをさせたくはありませんから」

 

 

 

「・・・・・・最悪、リムルと”敵対”する事があってもであるか?」

 

 

 

「止めます。・・・・・・何があっても絶対に!」

 

 

 

リムルは僕に人殺しをさせたく無いと、以前言っていたがそれは僕も同じだ。リムルにこれ以上人殺しをさせたくは無い。だからこそ、無いかもしれないが今後彼がもしその決断をしそうになった時は全力で止めに入るつもりだ。・・・・・・ヴェルドラさんの言ったように、”友”として・・・・・・ね?

 

 

 

「く、くくく・・・・・・クァーーハッハッハッハ!!流石はリムルが認めし輩よ!その気概、覚悟・・・・・・我の友となるにふさわしい!エリスよ!我の友となるが良い!!我は貴様のことが気に入ったっ!!」

 

 

 

「えっ!?え、えと・・・・・・ヴェルドラさん?」

 

 

 

「そう畏まらずとも良い!我と貴様は今の瞬間を持って”友達”となったのであるからな!よろしく頼むぞ、我が友よ!!」

 

 

 

「な、なんでこんな事に・・・・・・・・・・・・はぁ〜、まぁ良いけどね」

 

 

 

話の流れで、何故か友達となった僕とヴェルドラさん。暴風竜が友達とかどうなのって話だけど、とりあえずこの人にちゃんと認めてもらえたって事だから、嬉しい・・・・・・とは思う?

 

 

 

その後、話を終えたリムルが偉く気さくに話す様になっていた僕とヴェルドラさんに対して、頭を傾けていた事に関してはその場では無視しておいた(ちゃんと、後で説明した)。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

リムルたちが戻り、各自用意された椅子の着席すると、ようやく会議が始まった。各国の代表として一人一人紹介していくと、まずドワルゴン国のガゼル王、魔導王朝サリオンのエラルド公爵、ブルムンド王国ギルドマスターのフューズさん、獣王国(ユーラザニア)からの使者の三獣士の三人、そして、このジュラの大森林の盟主であり、魔国連邦(テンペスト)の国主でもあるリムルだ。・・・・・・一応、僕もこの会議に参加してるけどあくまでも、リムルの補佐として参加してるに過ぎない。代表は一人で十分だからね。

 

 

 

ヴェルドラさんに至っては、先ほどから僕たちの後ろで椅子に座って、リムルから貰った漫画を読み漁っている。・・・・・・緊張感が無い人だよ、全く・・・・・・。

 

 

 

リムルは、まず始めに自分とヴェルドラさんとの関係性を詳しく話し、その後は自分の正体、自分がこれまで成して来たこと、魔王化へ至るまでの経緯等を全て話して行った。リムルが魔王になる経緯を話したとなれば、当然僕が”一度命を落とした”事にも触れることを意味しているため、すでに知っていたガゼル王、ヒューズさん、ヴェルドラさん、配下のみんな以外は、それを聞いた途端に目を見開いて僕のことを凝視してきた。

 

 

 

「ほ、本当なのですか、エリス殿?・・・・・・一度、亡くなられたって・・・・・・」

 

 

 

「本当です。襲撃の際、町や住民の皆を守るときに費やした魔素が限界を超えてしまって・・・・・・。ですが、今はこうしてリムルのおかげで生き返った訳ですから、問題ないですよ」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

死んで、生き返ったと言う事実が信じられなかったのか、みんな目を白黒とさせながら驚きを露わにしていた。

 

 

 

「でだ。事実は今言った通りなんだが、こんな事実を世間一体に知られて仕舞えば、今後俺たちと友好を結んでくれる国は無いと見ていい。だからこそ、この事実を公にする際には筋書きを変えるつもりでいる。これは、さっき俺たち3人で話し合って決めた事だから、決定事項だと思ってくれ」

 

 

 

「確かに・・・・・・何人もの人間達を殺した魔王がいる魔物の国と友好に接したいって言う国なんて、殆どいないだろうし・・・・・・むしろ恐れられている可能性だって・・・・・・」

 

 

 

「ああ、だから今回の件に関しては、『”三万”の兵達が行方不明となった原因は、暴風竜ヴェルドラが復活した事によるもの』・・・・・・という事にするつもりでいる。こいつは、存在しているだけで”天災”を呼び起こす様な奴だからな。兵達が行方不明となった原因がヴェルドラにあるってなれば、向こう側としては受け入れる他ないってことだ」

 

 

 

「ふっ・・・・・・”天才”とはな・・・・・・」

 

 

 

・・・・・・なんか勘違いしている様子のヴェルドラさんだけど、とりあえず話には関係ない事のため、無視する事にした。

 

 

 

おそらく、先程リムルが言っていた”三万の兵”と言うのは、あの時僕が殺めてしまった”あの兵達”のことも含めているのだろう。僕が殺めてしまったと言う事実を隠蔽し、ヴェルドラさんに僕たちの罪を背負わせてしまう事に関して、なんとも申し訳ない気持ちになってしまうが、僕が今言ったところでリムルの意見が変わる事もないのはわかっている為、黙っておく事にした。・・・・・・リムルには悪いけど、この罪はちゃんと後で自分で償うつもりだ。そうでないと、僕の気持ちは収まらないからね。

 

 

 

「リムルよ。この国で現在捕らえている捕虜についてはどうするつもりだ?」

 

 

 

「捕虜・・・・・・確か、ファルムス王国の王様と・・・・・・西方聖教会の大司教・・・・・・だったっけ?」

 

 

 

「その通りだ。今は地下牢に監禁してるんだが、そいつらに関してはその内解放する予定だ。賠償をもらうのもそうだが、それをきっかけに国内で内戦を起こしてもらいたいからな」

 

 

 

「・・・・・・どう言うこと?」

 

 

 

話の意図が見えてこない僕達は、揃ってリムルに説明を求めた。リムルの説明では、まずファルムス王国には一度滅んでもらう事にし、新たな王をヨウムさんとして新しい国へと生まれ変わらせる・・・・・・との事らしい。ヨウムさんはリムルから既に聞いていたのか、特に驚いた様子もなく王になることを承諾していた。

 

 

 

「本当に良いのだな、小僧?”王になる”・・・・・・口で言うのは誰でも出来る。王というのは言わば”国の象徴”・・・・・・国を・・・・・・国民全ての命を受け持つ胆力を持つ者だけがなれる存在だ。・・・・・・貴様に、その覚悟はあるのか?王になる覚悟というものが?」

 

 

 

一国の王としてガゼル王が凄まじい覇気をヨウムさんにぶつけつつ、淡々と語る。だが、ヨウムさんはそんな覇気を受けつつも堂々とガゼル王に言い放った。

 

 

 

「おう!リムルの旦那は俺を信じて託してくれたんだぜ?その想いにはしっかりと答えなくちゃいけねーからな。・・・・・・それに、俺が惚れた女の前で良い格好したいって思うのは当然のことじゃないか?」

 

 

 

「ぷっ・・・・・・」

 

 

 

つい吹き出してしまった僕だけど、ヨウムさんの覚悟は本物だということをしっかりと認識出来たため、ちょっと嬉しかった。そのヨウムの言葉を後押しするようにグルーシスさんも彼の援護に回り、必死になってガゼル王を説得していた。・・・・・・ミュウランさんに至っては、先程のヨウムさんの言葉に顔を赤くしながら俯いたままだった。

 

 

 

「・・・・・・で、あるか。それであるならば問題なかろう。・・・・・・困ったことがあれば、いつでも俺を頼るがいい。出来る限り協力しよう」

 

 

 

この瞬間、ヨウムさんは一国の王たる器ありと、ガゼル王に認められた。認められたことが相当嬉しかったのか、ヨウムさんはミュウランさんの手を取って盛大に喜んでいた。・・・・・・一応、まだ会議中だから、そう言ったことは後回しにしておきたいんだけどね?

 

 

 

「その件に関して、ブルムンドの方でも協力できるやもしれません。ファルムス王国には現在、我国の国王の遠縁である侯爵がおられますので、もしかすれば説得が可能となるやも・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・すまぬが、一つ聞きたいことがある。貴殿・・・・・・ヒューズと言ったかね?貴殿の国、ブルムンド王国はなぜこの国(テンペスト)と国交を結ぼうと考えたのだ?もし私であるならば、この国とは有益な取引を行いつつも、国交を結ぶ事なく、西方聖教会の出方を待ちますがね?言い方はあれですが、この国は”魔物”が統べている国・・・・・・”人間国”である貴国が国交を結ぶにはリスクが大きい様にも思えるが?」

 

 

エラルド公爵のその言葉に、ヒューズさんは頭を悩ませている様子だった。・・・・・・いや、正確に言うと、どこか呆れたような・・・・・・そんな顔をしていた。・・・・・・確かに、人間国であるブルムンド王国が魔物の国である魔国連邦(テンペスト)と国交を結ぶ事自体、異例中の異例だ。だが、リムル曰く自分が国交を結ぼうと言い出したとき、国王はそこまで渋る事もなく承諾したと聞いている。国交を結んでくれたのは嬉しかったんだけど・・・・・・それが今までずっと、僕達にとっても謎だった。

 

 

 

「勿論、俺や他の貴族達だって最初は反対しましたよ?ですが、王はそんな言葉など意にも介さず『魔国連邦(テンペスト)とは共存共栄の関係を築く』と言って聞かなかったんですよ・・・・・・全く」

 

 

 

「その判断は正解であろうな。豚頭帝(オークロード)暴風大妖渦(カリュブディス)、万の兵の軍勢を仕留め切る戦力を保有する魔国連邦(テンペスト)と敵対することは、ブルムンドの破滅を意味しておるのだからな。それに、今回の件でこの国には()()の魔王が誕生したのだ。余計に敵対するわけには行かなくなったのではないか?」

 

 

 

「・・・・・・その通りです。そんな訳で、俺たちはこの国と国交を結び、リムル殿達を信じることとした訳ですよ」

 

 

 

「なるほど・・・・・・そういうことでしたか・・・・・・」

 

 

 

納得した様子で顎に手を添えたエラルド公爵。・・・・・・多分だけど、ヒューズさんにそう促したのは、自分の決断を下せる材料となる情報を集めようとしていたからなのかもしれない。・・・・・・魔導王朝サリオンにとって、魔国連邦(テンペスト)が国交を結ぶに値する国か否かを見極めるための・・・・・・。

 

 

 

 

・・・・・・って、ちょっと待って?さっきガゼル王・・・・・・”()()の魔王が誕生”ってきな事言ったよね?・・・・・・これってもしかしなくても・・・・・・?

 

 

 

「私なりに大体の決断は下せましたが、その前に二つ程リムル殿にお聞かせ願いたいことがあるのだが?」

 

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

 

「先ほど、ガゼルが二人の魔王が誕生・・・・・・と言っておられたが、魔王は貴殿一人ではないのか?」

 

 

 

「そういえば言ってなかったな。魔王になったのは確かに俺だが、同時にエリスもまた、”魔王”へと覚醒したんだ」

 

 

 

「「「「はっ!!?」」」」

 

 

 

一部を除いた会議の参加者達の声がテラス内にこだました・・・・・・。

 

 

 

「エリス殿・・・・・・それはまことでしょうかな?」

 

 

 

「(あんまり言いふらさないでって言ったのに・・・・・・)そうです。不本意ですが、僕も魔王へと覚醒しました。ですが、名実上の魔王となるのはリムルのみで、僕は魔王になったということは公表するつもりはありませんので、この事は他言無用でお願いします」

 

 

「エリスも言ったように、エリスが魔王へと覚醒したことは極秘にするつもりだ。もしも、この情報をどこか他国に漏らした奴は・・・・・・”それ相応の罰”を受けてもらうからそのつもりでいてくれ」

 

 

 

「っ!は、はい・・・・・・そ、それにしても驚いたな・・・・・・あのエリス様が・・・・・・」

 

 

 

リムルが少し殺気を飛ばしたことに、場の空気が一瞬凍った気がしたが、すぐに収めてくれた事もあって、問題にはならなかった。

 

 

 

「・・・・・・魔王が二人も・・・・・・これでは、ますます貴国と対立する訳には行かなくなってしまいましたな・・・・・・」

 

 

 

「そのようだな。・・・・・・で、もう一つの聞きたいことってのは何だ?」

 

 

 

《告。個体名リムル=テンペストの固有スキル『魔王覇気』が発動されました。此方も『魔王覇気』を発動し、対抗する事を推奨します》

 

 

 

殺気を収めた代わりに、今度は真面目な空気、そして魔王としての威厳を見せるためなのか、はたまた威圧をするためなのかはわからないけど、『魔王覇気』を発動したリムル。何故か、対抗心を燃やしてるリーテさんが、こっちも『魔王覇気』を使用する事を勧めてくるが、やったところで意味がない為、止めた。

 

『魔王覇気』をぶつけられたエラルド公爵は、冷や汗を浮かべ顔を引くつらせていたが、何とか持ち堪え、もう一つの聞きたいこととやらを話した。

 

 

「では聞きます。魔王リムル、そして、魔王エリスよ。貴殿らはその強大なる力をどのような事に使われる予定でしょう?」

 

 

「勿論、俺たちが平和で穏やかに・・・・・・楽しく暮らせる国を、世界を作るために、この力を振おうと思ってる。甘い理想だと笑いたければ笑えばいいさ。だが、俺は本気でそれを目指している。それを成し遂げる為に必要なのであれば、どんな事にもこの力は遺憾なく使わせてもらう」

 

 

「僕も同じです。僕たちの夢は、『この世の全ての種族の人達と手を取り合い、互いに共存共栄の道を歩んでいく』事です。それまでの道のりは険しく、厳しいものになる事は承知してます。ですが、理想の夢を叶えるためとあらば、僕たちはその夢を目指し前へと進んでいきます。その夢の為に、この力を使う事は、僕もリムルも惜しむつもりはありませんので、そのつもりでいてください。当然、この力を悪用しようとは考えてませんので、安心してください」

 

 

僕達の決意、夢を語る様子を見たエラルド公爵はその答えに満足がいったのか、軽く笑みを浮かべながら、僕達魔国連邦(テンペスト)との国交を結ぶ事を決断した。

 

 

 

長かった会議も、ようやく終了を迎え、ほっと息を吐くのだった・・・・・・。

 

 




人魔会談終了です。

次回からは、クレイマンのことについて行動を、開始し始めます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王達の宴(ワルプルギス)の知らせ

今回で人魔会談は終了となります。


色々と書くことが多く、大変でした・・・・・・。


「話は聞かせて貰ったわ!この国は、滅亡するっ!!」

 

 

 

「「「な、何だってーーっっ!!?」」」

 

 

 

会議も順調に進みつつあった状況の中、聞き慣れない一つの声がテラス内にこだました。・・・・・・その声の主が叫んだ内容に反応したリムル達は、揃って大声を上げつつ動揺していた。その声の主は、”金色の髪”を三つ編みにした可愛らしい妖精だった。・・・・・・妖精なんて初めて見たけど、滅ぶって・・・・・・どう言うこと?

 

 

ちなみに、僕は声は出さなかったものの、当然驚いてはいるよ?勿論。

 

 

 

「リムル様、魔国連邦(テンペスト)が滅ぶなどと戯言をほざくこの()()は、どのような処分に下しましょう?」

 

 

 

「クロ、その害虫をわたくしに渡しなさい?わたくしが直々に可愛がって差し上げますわ」

 

 

 

入ってきたその妖精は、無礼講を働いたと見られたのか、ディアブロに羽を摘まれ身動きを封じられつつ、圧をかけられていた。隣にいたテスタロッサは、満面の笑み(目は笑ってない)を浮かべながらディアブロに捕まえている妖精を渡すよう要求していた。・・・・・・彼女が何をするのかは大体は想像つくけど、とりあえずやめようね?二人とも?

 

 

 

「さっきから羽虫だの害虫だのって、アタシを誰だと思ってるわけっ!?・・・・・・っていうか、さっさと離してよ!!アタシが何したっていうのさっ!」

 

 

 

「ディアブロ、ラミリスを離してやってくれ。そんなナリだが、一応は魔王らしいからな」

 

 

 

「一応って何よっ!?アタシは一大事の事態をわざわざ・・・・・・」

 

 

 

まだ何か言いたい様子のラミリス(?)という妖精だったけど、とりあえず今は会議の邪魔になると思ったのか、リムルはひとまず彼女を漫画に夢中となってるヴェルドラさんに相手をするよう半ば強引に押し付け、会議を再開させた(ヴェルドラさんは渋っていたが、漫画の犯人をリムルにネタバレされると言う何とも悪どい攻撃を施されたこともあり、仕方なく引き受けることとしたみたい)。

 

 

ラミリスさんは、ヴェルドラさんの存在に気がつくと、すぐに気絶をしてしまったけど、護衛で一緒について来ていた”魔導人形”が落ち着いて対処を行なったこともあって、落下の際、地面に頭をぶつけると言う事態は免れた。多分、あれがリムルが以前『悪魔召喚』で呼び寄せたと言うベレッタなんだろう。

 

 

リムル曰く、彼女も一応魔王らしいから、変に目を付けられないよう可能な限り、魔素を引っ込めた僕は、会議へと意識を移した。

 

 

 

「さて、今後の方針だが、まず俺たちは魔王クレイマンと事を構えるつもりで居る。理由は勿論・・・・・・」

 

 

 

リムルは魔王クレイマンと臨戦する理由を全て打ち明けた。友好国である獣王国(ユーラザニア)をミリムを利用して壊滅させた事、今回の魔国連邦(テンペスト)襲撃の真の黒幕である可能性が極めて高い事を・・・・・・。

 

 

また、既に始末をしてあるファルムス王国はともかくとして、西方聖教会については、向こうが手を出してこない限りは、こちらも何もしないと言うことに決まる。変に敵に回して仕舞えば、色々と面倒ごとが増えると危惧したが故だ。

 

 

 

「クレイマンは魔王。幾多もの魔人を配下とし、己自身もかなり強力な力と権力を保有していると見ていい。・・・・・・それでも、勝てる自信はあるのですかな?リムル殿?」

 

 

 

「そんなの関係ない。クレイマンは俺を怒らせた。俺たちの国を荒らそうとしただけでなく、ミリムを勝手に利用しやがって・・・・・・」

 

 

 

「うん。ミリムを勝手に利用したことに関しては許せないよね?・・・・・・ミリムはそんな事する子じゃないし・・・・・・」

 

 

 

ミリムは少し気が短く、喧嘩早いところがあるけど、基本は良い子だ。ちゃんと言い聞かせ、約束を守るように言っておけば、唯の優しく可愛らしい少女なんだ。そんな彼女を勝手に利用し、国を消滅させるって言う愚行をやらせたと言うことが、僕たちにとっては何よりも許せなかったんだ・・・・・・。

 

 

 

 

 

その後、地下牢に閉じ込めてある捕虜達の元へ情報収集に行ってたらしい、シオンが今回の襲撃の件の黒幕が誰かを発表し・・・・・・ようとしてたんだけど、情報収集をした名前を忘れてしまったのか、言い淀んでしまっていたシオンに、リムルは静かにため息を吐いていた。結局、ミュウランさんが代弁して黒幕のことを説明してくれたけど、これじゃシオンが行った意味が無いんじゃ・・・・・・?

 

 

黒幕の名はニコラウス・シュペルタス枢機卿。その人物からの親書を決定事項と西方聖教会に説明をし、挙兵を後押ししたのもその人物だったらしい。

 

 

 

「西方聖教会としても、まだ決定的な判断を下す前だったに違いない。であるならば、交渉次第では、敵対を回避はできるやもしれんぞ?」

 

 

 

「交渉でしたらブルムンドが引き受けましょう。西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)魔国連邦(テンペスト)を宣伝し、我々ブルムンドを始めとした国々が利用している交易の中継地として知られれば、西方聖教会も問答無用とはいきませんので」

 

 

 

「感謝する。なるべく西方聖教会とは・・・・・・特に、ヒナタとは敵対したくないしな・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・?リムル、ヒナタって?知り合いの人?」

 

 

 

「あぁ、話して無かったな。実は・・・・・・」

 

 

 

リムルの言うヒナタと言う人が気になった僕は、徐にそう尋ねてみる。その人の名はヒナタ・サカグチ。異世界から、日本から召喚されてきた女性で、西方聖教会の騎士団長でもあるらしい。リムルの話だと、この国に帰ってくる前に、その人と一戦交えたようで、”妙な結界”のせいで弱体化していたとは言え、リムルを死の直前にまで追い詰める程の実力を持っているそうだ。・・・・・・うん、確かに、敵対はしたくないね。

 

 

 

「リムル様を襲うとは・・・・・・なんて無礼な・・・・・・」

 

 

 

「まあまあ、抑えてシオン?とりあえず、そんな人が今度こそ本気で僕たちのことを敵対視してきたら危ないだろうから、うまく立ち回りを決めないとね」

 

 

 

「だな。・・・・・・それと、エリス?ヒナタには気をつけろよ?あいつ、お前のことを随分と殺したそうにしてたからな。・・・・・・俺が悲しむからだとか何とか言って・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

呆気に取られるしか無かった僕は、なんて返したら良いのかわからなくなっていた。せっかく生き返ってこの世に戻って来たって言うのに、またあの世送りになんてなりたくないんだけど?・・・・・・と言うか、襲撃の際にも思ったことだけど、なんか僕の命を狙う人がやたらと多い気がするんだけど・・・・・・改めて思うけど、何か僕って悪さ・・・・・・したっけ?

 

 

 

「安心してください、エリス様。どんな事があろうと、どんな敵が現れようとも、オレ達が必ず守って見せますので!」

 

 

 

「任せてください!」

 

 

 

不安な表情を見せ始めた僕に対し、後ろで控えていた近衛兵の二人が揃って意気込みを語り出す。・・・・・・以前から頼もしかったけど、この襲撃が起こって以来、さらに逞しさが増したように感じる。・・・・・・本当に、心強いよ。

 

 

 

「ありがと。あ、そういえばリムル?捕虜はファルムス王国のエドマリス王と西方聖教会の大司教レイヒムさんでよかったんだっけ?」

 

 

 

「いえ、エリス様?捕虜は全部で3人でしたが、もう一人の男は、あの”異世界人の若造”なのでしたが、どうにも気弱で非常に怯えた様子でして・・・・・・私が会話をしようとしても、ほとんど会話にならなかったのです」

 

 

 

僕の質問に答えたのは、リムルではなくシオンだった。・・・・・・そういえば、リムルがディアブロに、生き残ったその捕虜を連れてくるよう命令してたって言ってたっけ?

 

 

 

「シオン、そいつの名前は聞き出せたか?」

 

 

 

「はい。確か・・・・・・()()()()だと」

 

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 

・・・・・・うん?ラーメン?ラーメンってあの中華の・・・・・・って、そうじゃなくて!おかしくない?・・・・・・だって、確かあの異世界人の3人組の中にそんな名前の人は居なかったはずだし、そんな変わった名前の人がいればすぐに気がつくはずだからだ。

 

 

 

「ふむ・・・・・・ラーメンか。そんな名の者は聞いたことが無いが、”ラーゼン”と言う英雄の名であれば知っておるな」

 

 

 

「私も、王宮魔術師であるラーゼンであれば認識がありますね。現在ではかなり老齢ですが、彼の扱う魔法の技術や威力はかなりの物であることは間違い無いかと・・・・・・」

 

 

 

「はて?私が捕縛したのはシオン殿のおっしゃったように、若齢の男でしたが?・・・・・・それに、その男は多少魔法を操れるだけの小者に過ぎませんでしたので、そこまで気になさる必要は無いのでは?」

 

 

 

ガゼル王やエラルド公爵は、そのラーゼンさんと言う魔法使いをかなり高く評価している様子だけど、実際に対峙し、捕縛をしたディアブロは全くと言って良いほどそのように思っていないようで、終いには”小者”と言い放つ始末。そのディアブロの反応に、苦笑いを浮かべるしか無かった僕達は、内心で深く溜息を吐いた。英雄とまで呼ばれてる人を”小者”って・・・・・・やっぱりディアブロってかなり強いんだね?

 

 

と言うか、さっきからシオンやディアブロの発言と、ガゼル王達の発言に矛盾が発生してるんだけど、どう言う事なんだ?

 

 

 

《告。恐らく、”精神系魔法の秘技”を用い、肉体を乗り換えたものと推測します》

 

 

 

「(精神系って・・・・・・じゃあもしかして、シオンやディアブロの言うその若い男の人と、ガゼル王達の言うラーゼンさんって言う英雄は・・・・・・)」

 

 

 

《是。同一人物である可能性が高いです》

 

 

 

なるほどね?・・・・・・ようやく合点がいった。つまり、ディアブロが捕らえてきたその人は、異世界人の体を乗っ取ったラーゼンさんなのだろう。乗っ取った経緯までは不明だけど、何かしらの意図があってやった事なのは間違い無いだろうし、ガゼル王達の言う通り、かなり魔法に智のある人と見て間違い無いだろう。

 

 

次第にリムルもみんなも、ラーゼンさんとその異世界人が同一人物であることがわかったようで、納得の意を表していた。

 

 

 

リムルはその後、ディアブロの力量を見込んで捕虜三人を連れてファルムス王国へと戻るヨウムさん達の護衛をお願いした。ディアブロは『左遷でもされるのかっ!?』みたいな感じでひどくショックを受けてたようだけど、リムルやテスタロッサに言いくるめられ、渋々従うことと決めた。

 

 

 

さて、これで大方の方針は決まったわけだし、最後にラミリスさんの話を聞こうとしたんだけど、ラミリスさんは今、絶賛漫画に夢中となってしまっていて、この場にきた目的などどうでも良いと思わんばかりに、漫画を読むことに没頭していた。・・・・・・この人、本当に魔王なんだよね?

 

 

 

「ラミリス?その漫画の事の顛末をバラされたくなければ、ここにきた目的を・・・・・・」

 

 

 

「待ってっ!?言うから言うからさっ!?・・・・・・コホン、アタシがここに来たのはここの国がこのままだと近々滅亡するってことを伝えにきたのと、『魔王達の宴(ワルプルギス)』の開催を知らせにきたのよ」

 

 

 

「『魔王達の宴(ワルプルギス)』?」

 

 

 

聞き慣れない単語に、僕達はみんな、揃って首を傾げる。

 

 

 

「その名の通り、魔王達が集合して会合を行う場よ。今回は・・・・・・魔王を名乗ったあんたを制裁するって言う目的で魔王クレイマンが提案したの」

 

 

 

「なるほどな。だが、それは想定内だ。魔王を名乗る以上、他の魔王達から認められなければ意味がないわけなんだし。別に名乗ったことを後悔なんてしてないからな?」

 

 

 

「違うのっ!確かに名目はそれなんだけど、クレイマンはすでに軍事行動を起こしてあんた達全員を始末する気でいるのよ!もう制裁どころじゃなくて、戦争をおっ始めようとしてるわけっ!だから、魔国連邦(テンペスト)は滅ぶって言ってんの?わかった?」

 

 

 

 

「ああ、わかってるさ。俺たちに対して、しっかりとした敵意を見せてくれて感謝するぜ?・・・・・・魔王クレイマン」

 

 

 

これから戦争が始まると言うのに、リムルは何故かニヤついた笑みを浮かべていた・・・・・・。




先に言っておくと、ラミリスは今のところはエリスが魔王どころか、存在にすら気づいていません。エリスが存在を薄くするために魔素を抑えてる為でもありますけどね?

ただ、その事実を知った時のラミリスの反応がどんな物になるかを見てみたくはない・・・・・・と言えば、嘘になってしまいますね。

先の展開をお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

信じられる魔王

クレイマンとの戦いまでもうすぐですね。


後世では、”人魔会談”と称されることとなる、この会議もとうとう終わりを迎えた。最後に、こちらで新たな情報が入り次第報告をすると言う約定を決めて、その場はお開きとなった。だが、会議が終わっても、僕達のやる事はまだ終わったわけではない。

 

 

・・・・・・決めなくちゃいけないからね。今後の魔王クレイマンと対峙するにあたっての作戦を。

 

 

 

「ねぇ、リムル?もしかしてだけど、魔王達の宴(ワルプルギス)に参加する気でいるの?」

 

 

 

会議を終え、各国の代表の人達と別れた僕達は、執務館内の会議室に戻ってきて、軽く茶菓子などを食べて心を和ませていたが、同じくこの場にきていたラミリスさんは、浮かない表情を浮かべつつ、そうリムルに問うていた。

 

 

 

「勿論だ。だって、その場にクレイマンが来てくれるってんだろ?だったら、直接会って叩きのめしてやりたいしな」

 

 

 

「危険ではないでしょうか?その場にいる魔王はクレイマンだけでは無く、他の魔王達も隣席しているはずです。もしも、その魔王達が敵となって襲ってくれば・・・・・・」

 

 

 

「クレイマンが魔王達の宴(ワルプルギス)に参加すると言うことはすなわち、領土であるジスターヴを開けることと同義。その間に攻め寄せる事も、また手なのでは?リムル様は何故、御身を危険に晒してまで魔王達の宴(ワルプルギス)に・・・・・・」

 

 

 

「ミリム・・・・・・でしょ?」

 

 

 

リムルの考えていることに察しが付いた僕は、視線を向けつつ尋ねた。

 

 

 

「ああ。あいつが今回やった事に関して・・・・・・どうにも腑に落ちなくてな?あいつが簡単に操られるとも思えないし、あいつの今回の動向についても不可解なことが多すぎるんだ。だから、直接会って話を聞いて来ようと思ってたんだが・・・・・・ラミリス、俺が参加しても問題は無いか?」

 

 

 

「無い・・・・・・って言えば嘘になるけど・・・・・・まぁいいわ、アタシもミリムが変なのは気になってたし。アタシの口添えであんたが魔王達の宴(ワルプルギス)に参加することを他の魔王達に認めさせてあげるから、感謝するのよ?こんなこと出来るのは、古の魔王であるこのラミリス様だから・・・・・・」

 

 

 

「感謝する、ラミリス」

 

 

 

「最後まで聞きなさいよっ!!」

 

 

 

話を勝手に区切られ、プンスカ怒った様子のラミリスさんは、その場でどこかへと連絡を入れ始める。恐らく、他の魔王と連絡でも取っているんだろうね・・・・・・。

 

 

 

「あ、言っておくけど、従者は二人までだから。それ以上連れて行くことは許可できないからね?」

 

 

 

「従者か〜。・・・・・・そうだなぁ」

 

 

 

従者は二人。つまり、リムルに付いて魔王達の宴(ワルプルギス)に一緒に参加することが出来る定員は二人までと言うことになる。その言葉を聞いた途端にシオンやディアブロが揃ってその従者に志願していたけど、シオンはともかく、ディアブロはヨウムさん達の護衛があるんだから無理だよね?

 

 

 

「ディアブロは駄目だ。お前はお前の役目を果たせ。・・・・・・と言うわけでシオン、ついて来てくれるか?」

 

 

 

「勿論ですっ!」

 

 

 

案の定、ディアブロは却下となり、シオンが従者として付いて行くこととなった。さて、従者はもう一人選べる訳だけど、リムルは誰を選ぶのだろう?正直言うと、僕はあまり行きたくは無いかな?・・・・・・魔王クレイマンの事は許せないけど、それについてはリムルが対処してくれる事だろうから僕が行った所であまり出来る事は無いだろうから。それに・・・・・・と言うか、こっちが本命なんだけど、あまり他の魔王達と会いたく無かったんだよね。だって、魔王だよ?人間から魔の権化と称されて恐れられているあの魔王に目なんて付けられたら、命がいくつあっても足りた物じゃ無いし。

 

 

 

まぁ・・・・・・僕も一応は魔王になってるんだけどね?

 

 

 

「先に言っておくが、エリスは連れて行くつもりは無いぞ?・・・・・・あまりにも危険すぎるからな」

 

 

 

「あ、それなら大丈夫。元から行きたいなんて思ってないからさ?」

 

 

 

「なら良い」

 

 

 

リムルの方も元から僕は連れて行くつもりは無かったと知れて、ほっと安堵した僕。とりあえず、クレイマンのことに関してはリムルに任せる事にして、僕の方はクレイマンの軍との戦争の方へと力を注ぐ事にし・・・・・・。

 

 

 

「お前は、ヴェルドラと一緒にここで”留守番”をしててくれ」

 

 

 

「「・・・・・・はっ?」」

 

 

 

僕とヴェルドラさんの声がハモった。・・・・・・何を言ってるのかな?このスライムさんは?

 

 

 

「戦争の最前線は戦闘が激化して危険だ。ここももしかすれば、何かしらの襲撃を受けるかも知れないが、ここに居れば何かあったら、ヴェルドラが守ってくれるだろうし、一番安全なんだ。だから・・・・・・」

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってっ!?みんなが戦いに行くって言うのに、僕はヴェルドラさんと留守番!?僕だって、みんなの力になりたいんだけど!?」

 

 

 

「そうであるぞ、リムルよ!我であるなら他の魔王にも引けを取らぬ!我を連れていけば戦局がさらに楽になる事間違い無いのだぞ!?」

 

 

 

リムルに猛反発する僕とヴェルドラさん。当たり前だ。折角今後の戦いに向けて色々と自分の方でも作戦だとか計画を練っていたって言うのに、いきなり”戦力外通告”をされたんだから。同じ境遇であるヴェルドラさんも、多分同じだろう。

 

 

 

「ヴェルドラにはエリスと、この町の防衛を任せたいんだよ。それが現状出来るのはお前しかいないんだ。頼む、親友」

 

 

 

「ぐっ・・・・・・わ、わかった・・・・・・」

 

 

 

ヴェルドラさんの大好きな言葉、”親友”。それを強調させつつ懇願してくるリムルに対し、流石のヴェルドラさんも頷くほか無くなっていた。・・・・・・だけど、僕はまだ納得してない。

 

 

 

「リムル。僕はみんなの力になりたい。戦争に協力することを許可してくれ。このまま何もせずにはいたく無いんだ」

 

 

 

「お前の気持ちはよくわかるが、どうかお前も俺たちの気持ちのことをわかってくれ。・・・・・・お前をもう一度失いたくなんて・・・・・・無いんだよ」

 

 

 

「リムル・・・・・・」

 

 

 

何処か暗い顔をしながら、そう話すリムル。

 

 

リムルやみんなが、以前よりも僕に対して過保護になっていると言う事はなんと無く感じていた。・・・・・・無理もない。一度は失ったと思っていた人が、こうして再び自分たちの元へと戻ってきてくれた訳なんだから、過保護になるのもわかると言う物だ。ちょっと行き過ぎな気もするけどね?

 

 

 

「リムル様のおっしゃる通りです。エリス様はどうか、この国での待機をお願いします。クレイマン軍との戦は、俺達が必ず勝ちますので」

 

 

 

「勝利の吉報を首を長くしてお待ちください」

 

 

 

「みんなまで・・・・・・」

 

 

 

リムルに同調するかのように、他のみんなまで僕にここに留まるよう言ってくる。・・・・・・もう、そんなこと言われたら、断るに断れなくなっちゃうじゃないか・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・わかったよ。それじゃあ、クレイマンとの決戦についてはみんなに任せて、僕は待機してるとするよ。ただ、一つ言いたいのは・・・・・・」

 

 

 

「ん?どうかしたか、エリス・・・・・・っ!」

 

 

 

僕が言い淀んだ事に疑問を受かべるのと同時に、会議室内に強烈で強力な”覇気”が充満し、中を圧迫し尽くしていった。・・・・・・僕が発動した『魔王覇気』によって。

 

 

 

「僕だって、魔王クレイマンのことは決して許してはいけない存在だと認識してる。本当であれば、僕も直接会って相手取りたい所だけど、そう言うわけにも行かない事はみんなの意見でわかった。・・・・・・だから、僕の代わりに魔王クレイマンやその軍を懲らしめてやってくれ。もう今後、僕達魔国連邦(テンペスト)と敵対したく無い・・・・・・って思わせるぐらいには・・・・・・ね?」

 

 

 

「わ、わかった。・・・・・・わかったから、覇気を抑えてくれ。みんなビビっちまってるから・・・・・・」

 

 

 

リムルの言葉にふと視線をみんなの方へと向けると、ディアブロやテスタロッサを除いたみんながひどく怖がるような目で僕のことを見ていた事に、少しショックを受けてしまう。・・・・・・気を引き締めさせる為に喝を入れる雰囲気を出そうと『魔王覇気』を発動したんだけど・・・・・・使い所間違えたかな?

 

 

 

「・・・・・・へぇ?もしかして、あんたも魔王を名乗るつもりだったの?」

 

 

 

「あっ・・・・・・」

 

 

 

呑気にそんなことを考えてると、連絡を終えた様子のラミリスさんが視線を・・・・・・”僕”へと向けながら、唐突にそう質問をしてくる。これまで魔素を抑え込んでいた事もあって、気づかれなかったようだけど、流石に先程の覇気には気が付いたようで、少し驚いた表情を浮かべながら僕を凝視していた。あれだけ、”魔王に目をつけられたく無いって言っていた自分”が、”自分自ら目をつけられに行く”というなんとも馬鹿っぽい行動をしてしまった自分に、内心で深〜〜い溜息を吐く。

 

 

 

そう言えば、この場に居たんだっけ?ラミリスさんって・・・・・・。あ〜・・・・・・多分って言うか、絶対にバレた・・・・・・これ。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「あんた、魔王でしょ?」

 

 

 

「うっ・・・・・・そ、それは・・・・・・」

 

 

 

「馬鹿野郎が・・・・・・。はぁ・・・・・・ま、バレちまったんだから仕方ないよな。ラミリス、こいつはエリス=テンペスト。魔国連邦(テンペスト)の副国主で有り、俺の親友だ。そして・・・・・・・・・・・・俺と同じく、真なる魔王へと覚醒している」

 

 

 

ラミリスさんに詰め寄られ、あたふたとしている僕を見かねてか、リムルは呆れた様子で僕のことを軽く紹介してくれた。勿論、魔王になってしまった事も含めてね?

 

 

 

「やっぱりね。その魔素、妖気(オーラ)を見れば誰でもわかるわよ。・・・・・・?にしては、さっきの会議中にはあんたは見かけなかったわね?どこか行ってたの?」

 

 

 

「ずっといましたよ?ただ、ラミリスさんに目をつけられたく無かったから、可能な限り魔素を押さえ込んで存在を薄くしてたんですよ。・・・・・・その効果は絶大だったみたいで良かったですけど」

 

 

 

「も、勿論、アタシは最初っから気がついていたわよ!アタシは魔王なのよっ!?そんな事に気が付かないはずなんて無い・・・・・・わよ」

 

 

 

最後の辺あたりで目が泳ぎ始めてる時点で、嘘確定でしょ?大方、リムルと漫画に夢中になっていたせいで、感知するのを怠っていたんだろう。いくら魔素を引っ込めたとはいえ、十分に感知能力を使えばすぐに見つけられるしね?

 

 

 

・・・・・・結局は、僕の馬鹿な行いのせいで見つかる羽目となったけど。

 

 

 

「今はそんな話どうでも良いわよ!・・・・・・で、エリス・・・・・・だっけ?あんたはどうするの?リムルと一緒に魔王になることを宣言する?」

 

 

 

「僕はしません。僕は、魔王になりたくてなった訳じゃ有りませんし、魔王であることを公表する気はありません。ですので魔王達の宴(ワルプルギス)にも参加する気はありません。下手に魔王と接触したく無いので。・・・・・・今回だって、できればラミリスさんにもこの事は知られたく無かった・・・・・・」

 

 

 

「ん?なんでアタシに知られたく無かったのよ?」

 

 

 

「あなたが魔王だからです。あなたにその情報が渡れば、他の誰かしらの魔王へとその情報が漏れ出てしまう可能性があるので」

 

 

 

「ちょ、ちょっと!?アタシが誰彼構わず情報を話そうとする人だとでも思ってるわけ!?アタシ、結構口固いわよ!?・・・・・・って、なんでリムルは『え〜・・・・・・』って顔してるのよっ!嘘じゃないわ!信じてよ!」

 

 

 

「面識があるリムルとは違い、僕とあなたは初対面。あなたの言っていることが嘘であろうとそうでなかろうと、まだ何も知らないあなたを心から信じる事はできません。ぶっちゃけて言いますと、リムルの事をあなたに任せるのも、まだ納得していません」

 

 

 

「おい、エリス・・・・・・」

 

 

 

リムルが止めに入ってくるが、僕はお構いなしに続けた。

 

 

 

「口では何とでも言えます。ですが、先程リムルがやったようにあなた自身に脅しを掛けられた時、その情報・・・・・・僕が魔王へと覚醒したことを話さないと約束出来ますか?・・・・・・脅しに屈してすぐにペレペラと喋り出したあなたが・・・・・・?」

 

 

 

「ぐっ・・・・・・そ、それは・・・・・・」

 

 

 

「もし、そこに居る配下であるベレッタさんを人質に取られ、『情報を話せ。さもなければこいつを殺す』そう脅しを掛けられた場合、あなたならどうしますか?配下を犠牲にしてでも情報を守り抜きますか?それとも、情報を話して、ベレッタさんを助けますか?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

「ラミリス様、ワレであればいつでも・・・・・・」

 

 

 

「黙ってて、ベレッタ」

 

 

 

僕の問答に、ラミリスさんは何か考えるようにして俯いていた。だが、少しすればどうやら答えは出たようで顔を静かにあげた。彼女の答え次第で、僕が彼女のことを信用するかしないかが決まる。出来れば、僕の望み通りの答えであって欲しい・・・・・・。

 

 

 

「エリス。申し訳ないけど、そうなったら情報は話すわ。あんたとの約束も大事だけど、ベレッタはリムルから貰った大切な配下なの。アタシはこの子を守る為だったら何でもするし、約束を破ることでベレッタが救われるなら、アタシは平気で約束を破る事も辞さないわ。・・・・・・ベレッタを犠牲にしてまで約束を守りたいだなんて思わないしね。・・・・・・これがアタシの答えよ」

 

 

 

「そうですか。変な事聞いてごめんなさい。ですが・・・・・・あなたの配下を思いやる気持ち、想いは十分に伝わりました。あなたのように、配下を大切にし、配下を想いやる優しい人であるのならば、魔王と言えど、信じて見ても良いのかもしれませんね。・・・・・・わかりました。僕は、ラミリスさんのことを、()()()()

 

 

 

「「・・・・・・はっ?」」

 

 

 

僕が出した答えに、ラミリスさんとリムルは真顔になりながら聞き返してきた。・・・・・・リムルは出来れば察していて貰いたかったのにな?

 

 

 

「何だよ?お前は”お前が魔王になった”ってことを話して欲しく無かったんじゃ無いのかよ?ラミリスは、その情報を話すって言ったんだぞ?」

 

 

 

「アタシも、てっきりもう信じてもらえないと思ってたんだけど?」

 

 

 

「情報を話して欲しく無いと言うのは本当です。・・・・・・ですが、その情報を守るが故に、その人にとって不幸が襲ったり、甚大な被害を被ってしまう事態に陥るのであれば話は別です。僕も、その約束を守ってしまったが為に、その人が傷つく姿を見たくはありませんから・・・・・・」

 

 

 

僕だってそこまで鬼じゃない。自分にとってまずい状況にあると言うのであれば、そっちを優先して僕の情報を話してくれたって構わない。あくまでも、これは口約束に過ぎないから、やむを得ない場合であれば破っても良いとは思っている。それを自覚させる為に、僕は先程のような質問をラミリスさんに投げかけたんだ。

 

 

 

・・・・・・ただし、それ以外の事情で破る事は許さないけどね?さっきの、めちゃくちゃどうでも良い漫画の件みたいな。

 

 

 

 

「なぁ、聞きたいんだが、もしさっき『ラミリスがそれでも情報を守る』って言ってたら、エリスはどうしてたんだ?」

 

 

 

「今後一切、僕がラミリスさんを信じることは無かっただろうね。配下を見捨ててまで約束を守ろうとする心意気は素晴らしいけど、裏を返せばそれは、”配下を切り捨てても良い”と言う冷酷で残忍な心を持っているって言う意味だから。そんな仲間を大切にしない人を信じることなんて、僕には出来ない。ミリムやラミリスさんに会うまでは、魔王はみんなそんな人達ばかりなんだって思ってたよ。・・・・・・魔王クレイマンのような・・・・・・ね?」

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

魔王クレイマンの名前を出され、苦い顔をしたリムル。

 

 

 

僕が知っている魔王はこのラミリスさんを除いて二人だけだ。一人はミリム。もう一人は、カリオンさんだ。ミリムは魔王といえど、仲間意識を持ち、いつでも僕達や魔国連邦(テンペスト)の住民たちを大切に想ってくれてる。カリオンさんも獣王国(ユーラザニア)の王として、民を守り、支えて、引っ張っている心優しき魔王だ。だから、最初は他の魔王もこんな良い人たちばかりなんだろう・・・・・・そう思ってたけど、現実はあまりにも残酷だった・・・・・・。

 

 

魔王クレイマンは、平気で町を襲うように仕向けてくるし、配下であったミュウランさんを何の躊躇もなく見捨てる極悪な魔王であったからだ・・・・・・。そして、親友のミリムを利用してカリオンさんの国である獣王国(ユーラザニア)を消滅までさせた。この魔王クレイマンの非道なる行いに、僕の魔王への認識も次第に変わっていったんだ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

”魔王も、人間同様・・・・・・全ての人が良い人では無いんだ”・・・・・・と。

 

 

 

 

 

 

だから、もし今後魔王と接触する事になれば、相手をしっかりと観察しつつ、人間性等を見極めてから、そこで改めて交流を持つか否かを決める事にした。今回のラミリスさんにしてもそうだ。彼女がもし、魔王クレイマン同様に配下を平気で見捨てるような人物であり、残忍で冷酷な心を持つ人物だと判明すれば、僕は彼女に幻滅し、今後一切の接触を禁じようとまで考えていた。だが・・・・・・。

 

 

 

「でも、ラミリスさんは違った。魔王クレイマンとは違い、しっかりと仲間を想いやる心を持っているようですし、仲間の為とあれば、どんな事でもやる事を辞さない強い心も持っている。・・・・・・リムルが信頼を置く理由も少しわかる気がします」

 

 

 

「こいつは、口が軽いのと、見た目やズボラな性格を除いてはいい奴だからな。ミリム同様、仲間意識だって強いし」

 

 

 

「一言余計なのよ、あんたはっ!アタシだって場ぐらい弁えるわよ!・・・・・・で?本当にアタシを信じてくれるって事でいいのよね?」

 

 

 

「はい。あなたであれば、信じてみようと思います。・・・・・・どうか、リムルの事を、よろしくお願いします」

 

 

 

「任せないさいよっ!このアタシが全力でサポートするから、大船に乗った気持ちでいなさいよね、リムル!」

 

 

 

「お、おう・・・・・・?」

 

 

 

ラミリスさんを信じると決めた僕は、肩の力を抜きつつ、用意されていた茶菓子を一つ、口に放るのだった・・・・・・。

 

 

 

 

魔王達の宴(ワルプルギス)の開催まで、あと数日・・・・・・。

 

 




エリスはやっぱり、エリスですね。自分との約束よりも、自分の方を優先しろと言うんですから。とはいえ、自分だって情報が漏れるのはかなりのリスクがある事は承知済みのはずです。それでも、他人の事を最優先にするのはエリスの性格故にでしょう。やはり、一度死んだところで、それは変わらないのですね。嬉しい反面、少し心配でもありますが。


思ったのですけど、今回会った魔王がラミリスであったから、素直に信じてもいいと、自分でも思っていますが、これがまた違う魔王や人間、魔人達であったとするならば、躊躇するべきだと考えてしまいます。エリスは用心しているとは言え、少し相手を信じすぎる印象がありますし・・・・・・。もちろん、それも彼の良さでもありますから全然良いのですけど、エリス自身も言ったように、"口では何とでも言えます"からね・・・・・・。エリスが悪い連中に諭されない事を祈りたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦前準備

忙しい・・・・・・何とか頑張らないとっ!


『魔王クレイマンの軍と対峙する為に、みんなを”転送魔法”で送り出す』・・・・・・会議を終え、迎賓館にて今後の魔王クレイマンとの対決についてみんなで話し合った結果、このような結論に至った。この作戦会議には三獣士の皆さんにも参加して貰い、共闘するに当たっての作戦等も念入りに説明させてもらった。

 

 

こちらの戦力は獣王国(ユーラザニア)の兵数を含めて”約2万”。兵数としては申し分無いが、相手は魔王。何を仕掛けて来るかは予測できない為、数に物を言わせて攻めると言うのは愚策でしか無い。それに、そんな大軍がぞろぞろと動き出せば直ぐにバレてしまう。だからこそ、こちらも相手の行動をできる限りで予測をしつつ、領土であるジスターヴを攻め落とす。そして、魔王クレイマンの目的とされている・・・・・・『獣王国(ユーラザニア)の避難民達を残らず殺し尽くす事による魔王覚醒』も防ぐ必要があった。・・・・・・その為には、敵に悟らせる事なく、時間もほとんどかかる事のない、一瞬で転送させることの出来る”転送魔法”が一番なんだ。

 

 

その為には、まず避難民達の移動を最優先することが大事と判断した僕とリムルは、互いに『空間支配』を駆使しつつ、他の集落に避難している避難民を直ぐに転送魔法で転送していった。二人でやった事もあって、そこまで時間をかける事もなく全ての避難民の転送を完了させた僕達は、一度町へと戻り、2万の軍団を転送する準備へと取り掛かった。

 

 

とは言え、2万の兵を転送させると言う軍団魔法(レギオンマジック)を発動するのは容易なことでは無い。むしろそんな魔法の作成自体が不可能に近いとされている。だが、我が国魔国連邦(テンペスト)の国主様は、そんな理念でさえ容易に覆して見せる。

 

 

なんとリムルは、既にその軍団魔法(レギオンマジック)の術式の開発に成功していると言うんだ。これにはみんなは勿論だけど、僕も相当驚いた。そもそも、転送魔法と言うのは、基本的には無機物(物資と言った材料など)を運ぶための魔法であり、有機物(この世に生きる生物全て)の為に使うと言うのは宜しいとされていないからだ。異空間を通して転送先の場所に座標を繋ぎ合わせることで転送を可能とするこの魔法だが、転送の際に発生する大量の魔素を対象が浴びる事となり、有機物の転送には適していない事が原因とされている。

 

 

だがリムルの中の先生(ラファエル)は、対象者の保護を組み込んだ”完全転送術式”を完成させ、有機物でもなんのデメリットも無く転送させる事を可能とさせたんだ。更に、それに改良を重ねて万の軍勢も一瞬で転送させることの出来るようにもしたんだそうだ。・・・・・・有能過ぎないかな?ラファエルさんって・・・・・・?普通、そんな魔法を作るのにかなりの時間を費やすって言うのに、ラファエルさんが作成に費やした時間は”数十秒”と言った程度だ。・・・・・・そんな優秀なスキルがリムルに付いてるんだから、リムルが強いのも納得できる・・・・・・。

 

 

 

僕には到底真似できない・・・・・・と思ってたんだけど、後々聞いたリーテさんの話だと・・・・・・

 

 

 

《告。転送魔法の術式に関しては、すでにこちらも開発済みです。いつでも発動準備は整っております。尚、『空間支配』を用いて使用することで魔素の消費はごく少数とすることに成功しています》

 

 

 

・・・・・・との事みたいだから、僕にも一応、リムルの使う転送魔法は扱えると言うことになった。・・・・・・リムルがやる事なす事に、度々リーテさんが対抗心燃やして行動に移すのは何でなんだろう?だけど、今回に至っては転送を行うのはリムルの予定だから、リーテさんには悪いけど、使うのはまた今度の機会という事にさせて貰った。

 

 

 

 

その翌日、町から少し離れた開けた土地に、これから転送をする軍団およそ2万の兵たちが集まる。軍隊はそれぞれ数個程あり、魔国連邦(テンペスト)の幹部達が隊長として率いる事となっている。リムルが名付けた名前だと・・・・・・。

 

 

 

 

ゴブタを隊長とした狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー) 総勢100人

 

 

ベニマルを隊長とした紅炎衆(クレナイ) 総勢300人

 

 

ホブゴブリンからなる緑色軍団(グリーンナンバーズ) 総勢4000人 (ベニマルの隊に所属)

 

 

ゲルドを隊長とした黄色軍団(イエローナンバーズ) 総勢5000人

 

 

ガビルを隊長とした飛竜衆(ヒリュウ) 総勢100人

 

 

 

こんな感じになっている。ガビルは本来は僕の配下だけど、今回は戦力増強を兼ねて、近衛兵であるセキガとカレンを除いて、みんなと共に前線に出てもらうようお願いした。元々、身体能力や戦闘能力が高い龍人族(ドラゴニュート)である彼らは、僕が覚醒した事によって得た祝福(ギフト)で更に強くなった事もあって、今や魔国連邦(テンペスト)内で最高戦力と位置付けるくらいの戦力を誇るほどになっていた。

 

 

本当は、リムルの親衛隊としてシオンの配下も100人ほどいて、その軍隊には町の防衛に専念して貰うつもりだったんだけど、町には今、僕や近衛兵の二人、ヒョウガ、テスタロッサがいて、万が一の時にはヴェルドラさんもいる事だし、防衛の必要はないと判断した僕は、その100人には、ディアブロと共に、ファルムス王国へと護衛として行って貰う事とした。

 

 

 

そして、残りの一万の兵達は獣王国(ユーラザニア)の兵達で構成されている。アルビスさん、フォビオさん、スフィアさんがそれぞれ分割して率いて戦うようだけど、流石は獣人の戦士団。・・・・・・個々の能力を含めても、かなりの実力者だと見て取れる。彼らの中には『獣身化』を用いて戦闘を行う人たちが多くいるようなので、例え魔王の配下が相手だろうと互角の勝負を繰り広げても不思議ではないだろう。

 

 

 

「リムル、本当に何も手伝わなくていいの?」

 

 

 

「心配するな。俺一人で十分だから」

 

 

 

万の軍勢を転送するとなると、相当な量の魔素、魔法陣を展開させる事を意味している。だから、そんな大掛かりな魔法を発動するリムルをサポートしようとした僕だったんだけど、やんわりと断られてしまう。

 

 

 

「よし。いいかお前ら?相手はあの魔王クレイマンの軍だ。相手の作戦も強さも未知数。だが、お前らであれば必ず勝ってくれると俺は信じてる。相手に容赦は一切いらない!俺もクレイマンに対しては容赦はしないつもりだからな。だから、お前達は思う存分己の力全てを出し切って、敵を蹂躙し尽くせ!」

 

 

 

「「「はっ!!」」」

 

 

 

リムルが一つ、2万の軍に檄を飛ばす。すると、リムルが視線だけを僕の方へと向け、何かを指示してくる。

 

 

 

「(僕からも何か言えってことね?はいはい・・・・・・)リムルも言ったように、相手は魔王クレイマンの軍だ。何をしてくるかわかったものじゃない。だけど、今のみんなだったら絶対に勝てる!己自身を信じてあげてくれ!クレイマンを”懲らしめて”争いを終え、またみんなと平穏な日常を送りたい。だから・・・・・・みんな、どうか無事に帰ってきてくれ。獣王戦士団の皆さん、双方の平和の為、どうか僕達に力を貸してください!」

 

 

 

「「「おうっ!!!」」」

 

 

 

僕の言葉にまた、大きな歓声が湧く。・・・・・・うまく鼓舞出来たみたいで、ちょっとホッとしたかも。

 

 

 

「じゃあ、送るからな?・・・・・・絶対に勝てよっ!」

 

 

 

リムルの転送魔法が発動する。2万の軍勢の足元に巨大な魔法陣が展開され、それが積層型に下から上へと昇って行く事を確認する。時間が経過すること数分、転送術式が完了した事で先程まで目の前にいた多くの兵達は揃って綺麗さっぱりと転送させられた。リムルは事前に試運転で使用したって言ってたけど・・・・・・改めて見ると、本当に凄いね?これって・・・・・・。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

無事に転送魔法でみんなを送り出した後、僕達は一度町へと戻っていた。僕はこれと言ってする事はないけど、リムルやシオン達は魔王達の宴(ワルプルギス)に向けての準備等があるからね。

 

 

 

「リムル?本当に気をつけてよ?キミは確かに強くなったけど、それでも全ての魔王より強くなったとは限らないんだからさ?」

 

 

 

「わかってる。俺の狙いはあくまでもクレイマンだ。他の魔王達に変に刺激を与えたりはしないさ」

 

 

 

薄く笑みを浮かべながらそう言うリムルだが、どうにも心配だ。リムルって時々、無意識に相手を挑発するようなこと言うから・・・・・・本当に何もなければ良いけど。

 

 

 

「安心してくださいエリス様!リムル様のことは、この私が誠心誠意を持ってお守りさせていただきますので!」

 

 

 

「シオンの言う通りです。我が主の事は、我々にお任せください」

 

 

 

不安になりつつある僕に対し、従者として同行することになっているシオンとランガが揃って意気揚々に語る。・・・・・・そっか。二人がこう言うなら、問題ないと言うことで良いんだろう。・・・・・・じゃあ、せっかくだし。

 

 

 

「二人とも、ちょっとそこに立って?」

 

 

 

「「・・・・・・?」」

 

 

 

突然の僕のその物言いに首を傾げる二人。

 

 

 

「エリス?何する気だ?」

 

 

 

「これから戦いに行く二人に対しての餞別・・・・・・かな?まぁ、見てて?」

 

 

 

リムルも小さく首を傾げる中、注文通りに僕の目の前に立ってくれた二人に対して、僕は少し肩に力を入れると、自分の両の掌を向け、瞑目した。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

「「「・・・・・・」」」

 

 

 

数秒の沈黙の末、僕はゆっくりと目を開ける。

 

 

 

 

「うん、もう大丈夫だよ」

 

 

 

「あの、エリス様?私たちに一体何を・・・・・・?」

 

 

 

「二人に”おまじない”をかけたんだよ。『絶対に死なないように?』って言う”おまじない”を」

 

 

 

「「・・・・・・?」」

 

 

 

僕の言ってる意味がよくわかっていない様子な二人は、首を傾げる角度が更に鋭角になっている気がした。別に、僕が言ってる意味を理解しなくても構わないと思ってる。この”まじない”が意味をなさないことだってあるんだから。

 

 

 

「(ラファエル。二人に何か変化はあるか?)」

 

 

 

〈解。個体名エリス=テンペストによる保護能力の付与と、魔素の譲渡が確認されました。これにより、個体名ランガとシオンは、保護を超える攻撃を受けた場合やエリス=テンペストが保護を取りやめるもしくは、死亡した場合を除き、生命活動を停止する事は無くなりました。つまり、”不死身”に近いと言うことを意味しています〉

 

 

 

「お前さりげなく”まじない”とか嘘つくなよっ!?単に、この二人にバフを掛けただけだろっ!?しかも何さりげなくとんでも無いバフかけてんだっ!?」

 

 

 

「あ、バレた?あはは・・・・・・」

 

 

 

リムルには直ぐにバレたようだった。リムルの言う通り、僕が今二人に施したのは”まじない”という名の強化バフだ。『治癒之王(アスクレピオス)』の能力で『治癒』があるのだけど、それをちょっとリーテさんに改良してもらって、星幽体(アストラルボディー)精神体(スピリチュアルボディー)物質体(マテリアルボディー)の全ての基本体を保護出来る能力を新しく作ってもらったんだよね。リーテさん曰く、この能力の名は『絶対保護』。この能力を付与された対象は、僕の力を大幅に上回る敵からの攻撃等でもない限りは、基本的にダメージを負う事はなくなると言った代物だ。無論、精神の中に入り込んで操ったり、攻撃を加えると言った事も不可能だ。

 

 

僕は、『治癒之王(アスクレピオス)』の保持者という事もあって、『絶対保護』関係なしに、傷等を負うことは無くなっているようだが、そんな有効な能力を他のみんなにも付与できるように改良したリーテさんには、本当に頭が上がらない。

 

 

 

「僕はついて行く事ができないから、せめてもの僕の贈り物さ。・・・・・・リムルを頼むよ?二人とも」

 

 

 

「エリス様から頂いた力・・・・・・。謹んで受け取らせていただきます!」

 

 

 

「お任せください!」

 

 

 

改めて、二人の返事を聞いた僕はふっと笑みを浮かべ、肩の力を抜いた。『絶対保護』がある以上、滅多な事で命を落とす事は無くなった二人な訳だし、もし異常が発生したとしてもリムルが守ってくれるだろうから、もう問題はないだろう。・・・・・・あくまでも、リムルが変に魔王達を刺激しない限りはだけどね?でも、もしもの時は『暴風竜召喚』でヴェルドラさんを召喚出来るみたいだから、それでも多分大丈夫だろう。

 

 

 

「エリス、俺にはしてくれないのか?」

 

 

 

「リムルは今でも十分強いんだから要らないでしょ?」

 

 

 

リムルに対しては要らないと判断し、バフを付ける事はしなかった。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

その翌日、リムルはラミリスさんと共に、トレイニーさん達樹妖精(ドライアド)の集落に行っていて、今はいなかった。何でも、ラミリスさんの従者にトレイニーさんとベレッタさんを連れて行く事に決まったらしいんだけど、その為にはトレイニーさんの本来の肉体である大霊樹(ドリュアス)から新しい別の肉体へと移行させる必要がある事だったようで、それを行いに出向いてるんだとか。

 

 

 

そんな中、僕はというと・・・・・・。

 

 

 

 

「よっ・・・・・・っと。これで良いかな?」

 

 

 

「むっ、エリスよ。何かしたのであるか?」

 

 

 

「ああ、ヴェルドラさん。いえ、一応と思いまして、”結界”を魔国連邦(テンペスト)に張っておいたんですよ。ヴェルドラさんの結界を侮ってるわけじゃないですけど、万が一という事も考えて・・・・・・」

 

 

 

僕が行っていたのは結界の展開だ。この魔国連邦(テンペスト)には既に、ヴェルドラさんが発動した結界が覆っている状態だが、万が一という事を考慮して、僕も結界を張ったんだ。この結界は、敵意を持った者を弾き飛ばす効果と、情報の流出(盗聴や盗視)を防ぐ効果がある。とりあえず、これを張っておけば、リムル達がいなくとも、魔国連邦(テンペスト)は大丈夫だ。

 

 

 

「エリスよ。貴様も良ければ共にこの聖典(マンガ)の続きを読まぬか?ここの話の展開が何よりも・・・・・・」

 

 

 

「後で一緒に見ますので、先に戻っていてください」

 

 

 

今は少しやる事が残っている為、ヴェルドラさんの相手をしている暇は無い。そんな訳で、ヴェルドラさんには大人しく執務館に戻って貰った。さて、お次は・・・・・・。

 

 

 

『テスタロッサ、いるかな?』

 

 

 

「お呼びでしょうか?エリス様?」

 

 

 

『思念伝達』で僕が呼ぶと、すぐさま目の前にテスタロッサが現れる。・・・・・・さっきまで、執務館に居たはずなのに、どうやって移動してきたんだ?

 

 

 

「キミには、戦況の偵察に行ってきてもらいたいんだ。大丈夫だとは思うけど、心配だからさ?もしもの時は、ベニマル達に加勢して来て欲しい」

 

 

 

僕がテスタロッサに命じたのは戦況の偵察だ。ベニマルやハクロウ、ソウエイと言った幹部達がいて、獣王戦士団もいるのだから問題は無いのかもしれないのだけど、やっぱり心配な事に変わりはないから、彼女に行ってもらう事にしたんだ。僕が行けば、リムルに直ぐにバレちゃうからね。

 

 

 

「わたくしとしては構いませんが、一つ。もし加勢するとなった場合、”命を狩り取っても”?」

 

 

 

「・・・・・・最小限でね?」

 

 

 

「はっ!お任せ下さい。わたくしとしましても、最近体が訛っていますの。・・・・・・準備運動ぐらいにはなって頂けると嬉しいのですが・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・もう一度言うけど、キミの仕事は偵察だからね?間違っても、自分から戦いになんて行かないでよ?」

 

 

 

「勿論でございます。では、行ってまいります」

 

 

 

テスタロッサはそう言い残すと、『空間移動』で転移していった。僕が命じておいて何だけど・・・・・・彼女に任せて良かったのかな?彼女の力量を見込んで偵察に赴かせたんだけど・・・・・・まぁ、なるようになるか。

 

 

 

 

 

 

今日、リムル達は・・・・・・魔王達の宴(ワルプルギス)へと向けて出発をする。




シオンの配下達の名前はいつか必ず公開します。今回は流石に、エリスやヴェルドラがいる中での防衛は過剰戦力になりかねないので、ヨウム達について行ってもらいました。


シオンとランガに至っては、これで死ぬと言うことはほぼ無くなりましたね。ですので、魔王達の宴(ワルプルギス)へ赴いたとしても、何も怖くはないでしょう。


リムルは当然強化無しです。・・・・・・強くなり過ぎて、”チートの権化”と化してしまうので・・・・・・。


ベニマル達にバフを行わなかったのは、単にベニマル達の所まで、バフの範囲が届かなかったからです。『絶対保護』とは違い、身体能力やスキルに関してのバフは、エリスが彼らの一定距離内に居ないと発動する事ができません。勿論、今後リーテさんがさらに改良を重ねれば離れていても可能となるかも知れませんが、現状ではそれは出来ないので、ベニマル達へのバフは見送らせてもらいました。


とは言っても、それでも彼らはめちゃくちゃ強いですし、もしもの時は・・・・・・テスタロッサが加わってくれるので、問題無いでしょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王達の宴(ワルプルギス)

魔王達の宴(ワルプルギス)に向けて、いよいよ出発の時です。


そろそろ面白い展開にしてみたいな。


トレイニーさんの新たな肉体の作成に成功し、彼女をラミリスさんの従者として同行できるようにしたリムルは、執務館まで戻って来ると、直ぐにシュナに魔王達の宴(ワルプルギス)に向かうにあたっての召し物へと着替えさせられていた。後、数時間もすればリムル達の迎えが来るとの事だったから、それに向けての準備だ。

 

 

リムルが身に羽織ったのは漆黒のロングコートだった。魔王を彷彿とさせるようなダークな印象を醸すそのコートは、僕から見てもかなりかっこよく、威厳高く見えた。普段の見かけは少女のようで、可愛らしいリムルだけど、この時ばかりは・・・・・・そんなリムルの佇まいに目を奪われていた。

 

 

 

「どうだ?似合ってるか?」

 

 

 

「うん。すっごくかっこいいと思う。シュナもそう思うでしょ?」

 

 

 

「はい。リムル様も()()()()もとってもお似合いです!」

 

 

 

()()の着付けを行ってくれたシュナが、目をキラキラと輝かせつつ、感想を口にした。・・・・・・言ってなかったけど、実はリムルが戻って来る前、僕も何故かシュナやカレンに着付けを施されていたんだよね・・・・・・。出掛けるリムルはともかくとして、何で僕まで?・・・・・・と疑問を浮かべていた僕だったが、二人曰く・・・・・・。

 

 

 

『リムル様のお召し物と並行して、エリス様のお召し物も作りましたので、是非着て貰いたかったのです!』

 

 

 

・・・・・・こんな訳だったので、仕方なく僕も着ることになったんだ。僕が着ているのは、リムルと瓜二つのロングコートとスラックスだ。だが、リムルが羽織っている漆黒のコートに対して、僕のコートは少し明るめな”赤い色合い”をした物だった。シュナの話だと、”僕の瞳と同じ色のコートを作りたかった”と言っていたけど、結構しっかりとした出来映えだった事もあって、初めて着た時は少々驚いてしまった。

 

 

 

「お前の方も似合ってるぞ。・・・・・・にしても、それ着てもただ”魅力度”が増しただけにしか映らないのは、俺の気のせいか?・・・・・・可愛いぞ?お前?」

 

 

 

「悪かったねっ!女っぽくて!」

 

 

 

察してる人もいるかも知れないけど、僕はリムルのように真新しいコートを羽織ったところでかっこよさが出るという事は微塵も無かった。・・・・・・むしろ、この赤いコートが余計に僕の女顔を誇張して、女々しさが溢れ出てしまっている気さえしていた。・・・・・・実際、この場にいるシュナやシオン、カレンやハルナと言った女性陣はそれぞれ『お綺麗で可愛らしいですっ!』と、頬を赤くしつつ叫んでいるし・・・・・・。

 

 

ちなみに、後から入って来た、セキガ、リグルド、カイジンと言った男性陣は、リムルの姿に対しては『おおっ・・・・・・』と感嘆していたにも関わらず、僕の姿を見ると・・・・・・。

 

 

 

『・・・・・・』

 

 

 

・・・・・・何故か無言で顔を逸らされ、謎のグッドサインを出しつつ自分の鼻を押さえ始めた・・・・・・。同性の人たちにそんな目で見られると、流石に僕自身の何かが崩れそうなんだけど?

 

 

 

「邪魔するぞ?我を差し置いて何を楽しそうな事を・・・・・・エリスよ。貴様、着飾るものを変えた途端、そこまで”愛い輩”になるとはな?クァーーーハッハッハッハ!!誠によく似合っておるぞ、エリスよ!流石は我が親友よ!」

 

 

 

「・・・・・・親友は関係ないと思います」

 

 

 

ヴェルドラさんにもこう言われる始末・・・・・・。もう恥ずかし過ぎて死にたい・・・・・・一度死んだけど。

 

 

 

「あ、ヴェルドラ、ちょうど良いところに。魔王達の宴(ワルプルギス)に行くまでの間、他の魔王達のことを教えてくれ」

 

 

 

「魔王か。我も何人かは戦った事があるな・・・・・・」

 

 

 

とりあえず、一旦羞恥心を排除した僕は、ヴェルドラさんの話に耳を傾ける事にした。

 

 

 

ヴェルドラさんの話だと、ヴェルドラさん自身も全員の魔王自体を知っているというわけではない様だった。ヴェルドラさんも、数え切れないほどの年月を生きている竜。そんな魔王の幾人かを知らなくても不思議ではないけど、単に自分が興味無いだけで忘れてしまっているだけなのでは?と思ってしまうのは、僕の気のせいかな?

 

現に、ヴェルドラさんが数千年前に戯れで滅ぼしたって言う吸血鬼族(ヴァンパイア)の都を統べていた魔王の人ですら、既に名前すら忘れているみたいだし・・・・・・。ヴェルドラさんに至っては、忘れている様だけど、その魔王に至っては、未だに恨みを持っていても不思議じゃない気がする・・・・・・。

 

 

一応、最古の魔王の一柱であるギィ・クリムゾンという魔王のことは知っていた様だけど、その人とは戦ったことは無いと言った。ラミリスさん曰く、その人は魔王の中でも随一の強さを誇るらしく、ミリムをも凌ぐ程の実力を持っているとの事だったから、ヴェルドラさんはそれを危惧して戦闘を避けたんだと思っていたが・・・・・・。

 

 

 

「奴は、北方に居を構えておってな?行くにも面倒なのだ。それにあそこには何も無くつまらないし、わざわざ行く必要もないであろう?」

 

 

 

本人はこう主張している為、そういう事にしておいた。・・・・・・それにしても、あのミリムを凌ぐって・・・・・・うん、絶対にその魔王とは関わらないでおこう。絶対にろくな事ないし・・・・・・。

 

 

 

僕の頭の中に、ミリムの他にまた新たに一人、絶対に関わっては・・・・・・怒らせてはならない”魔王ギィ”という名を追加した瞬間だった・・・・・・。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「では、わたくしも行ってきます。・・・・・・戦場へと」

 

 

 

ヴェルドラさんの話の後、シュナが身支度を整え、僕達にそう伝えると、『空間移動』で転移していった。本来、戦闘員ではないシュナが戦場へ行く必要はないに等しいんだけど、これには訳があった。事の発端は、一時間前のベニマルからの連絡だった。緊急事態でも発生したのでは!?と焦った僕達だったけどそうでは無く、『クレイマンの城へと攻める事の許可』を得たかったんだそうだ。彼は祝福(ギフト)によって妖鬼(オニ)に進化しただけでなく、ユニークスキル『大元帥(スベルモノ)』を会得して、自信が付いたからこその彼の言葉のようだったけど、それに待ったをかけたのは、紛れも無いシュナだったんだ。

 

 

 

 

––––––––––––––––1時間前––––––––––––––––––

 

 

 

 

『クレイマンは人を操る能力を持つ危険な魔王。万が一にでも、味方の方達を操らせるわけにはいきません!どうしても攻めると言うのであれば、わたくしも共に参ります!』

 

 

 

『い、いや、それは・・・・・・』

 

 

 

いつも大人しい(シュナ)のこの力強い物言いに、流石のベニマルもたじたじになってしまい、結局言い負かされた事もあって、シュナも前線に・・・・・・ハクロウやソウエイ達と共に、クレイマンの本拠地を攻め落とす軍に合流することとなった訳だ。だが、僕達としては、敵の本拠地にシュナを送り込むのは少し気が引けていた。シュナもベニマルや他の鬼人達同様に進化して、力をつけた様だけど、やっぱり前線へと送ることは心配になってしまうからだ。だけど・・・・・・。

 

 

 

『リムル様、エリス様。シュナ様の事は必ずやお守りしますので、ご心配なさらず』

 

 

 

『万が一の事があれば、ワシらが体を張って守ります。お任せくださいませ」

 

 

 

後から『思念伝達』に割って入ってきたソウエイとハクロウの援護により、結局僕達も折れることとなった。

 

 

 

「ありがとうございます。・・・・・・エリス様?わたくしとて、怒っているのですよ?あなた様を・・・・・・死に追いつめた元凶であるクレイマンを許せぬこの気持ち・・・・・・わかってください」

 

 

 

「シュナ・・・・・・。わかったよ。だけど、決して無理はしないでね?」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

––––––––––––––––現在––––––––––––––––––

 

 

 

そんな事があって、シュナは前線へと向かっていった。一応、彼女にはシオン達同様に『絶対保護』を付与しておいたし、”見ただけで何でも解析できる能力”を持つユニークスキル『解析者(サトルモノ)』も会得したみたいだから、安全面では問題ないと思う。

 

 

 

「リムル様、エリス様・・・・・・どうやら来た様です」

 

 

 

シュナが転移してから程なくして、リムル達の迎えが来たことに、僕達は少し肩に力を入れる。空間が微妙に歪んだと思うと、すぐに僕達の目の前に巨大な禍々しいオーラを醸し出す巨大な門が現れた。そして、ゆっくりとその門が開くと、中から暗紅色のメイド服を来た緑髪の女性が出てきた。

 

 

 

「(この人・・・・・・ディアブロやテスタロッサと同格に近い威圧感だ。多分だけど、悪魔公(デーモンロード)と見て良い・・・・・・)」

 

 

 

見かけは、ただの綺麗なお姉さんにしか見えない。だけど、体全体から出る妖気(オーラ)や威圧感を見れば、とてもじゃ無いけどそんな風には見れなかった。この感覚はまさに、ディアブロやテスタロッサと最初に会った時と同じと言ってよかった。

 

 

 

「お迎えに参りました、ラミリス様」

 

 

 

「ミザリー!久しぶりね!元気してた?」

 

 

 

「相も変わらずです。・・・・・・そちらの方が、リムル様でよろしいですね?我が主で有らせますギィ様より、お連れする様命じられましたので、どうぞこの門を伝って魔王達の宴(ワルプルギス)の場へとお進みください」

 

 

 

「ああ、よろしく頼むよ」

 

 

 

リムルはそれだけ言うと、ラミリスさんと共に門を潜っていった。それに追従するように、リムルの従者であるシオン、ランガ、ラミリスさんの従者であるベレッタさんとトレイニーさんも門を潜っていく。全員が門を潜ったことを確認したミザリーさんと言う女性は、静かに門を閉め、門をこの場から消し去った・・・・・・。

 

 

 

 

「リムル、無事に帰ってきてよ?」

 

 

 

 

残された僕は、刹那にそう願うのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「エリスよ!ここの場面の技!我にも真似できるであろうか!?」

 

 

 

「やろうと思えば・・・・・・出来るんじゃないですか?ヴェルドラさんですし?」

 

 

 

「であれば、こっちの技はどうだ!?我にもぴったりの技ではないかっ!?」

 

 

 

「・・・・・・そうですね、ぴったりなんじゃないですか?」

 

 

 

リムル達が出発して数時間、僕はと言うと、ずっとこんな感じでヴェルドラさんの相手をしていて疲れ切っていた。相手と言っても、ただただ聖典(マンガ)の感想を言うヴェルドラさんに相槌を打ったり、面白ポイントの指摘をしているだけなんだけど、それをこうして何時間もして居れば流石に疲れる・・・・・・(間に、カレンやセキガから差し入れとして紅茶や茶菓子を貰ったから、疲れも少しは取れてたけど)。

 

 

ちなみにその間、相手からのクレイマン軍からの急襲と言うのは一切無かった。多分だけど、向こうの前線の方に集中しきっていて、こっちにまで手が回っていないんだろう。

 

 

 

「どうしたエリスよ?妙に疲れ切っておる様だが?」

 

 

 

「別にそう言うわけじゃ・・・・・・って言うか、ヴェルドラさんは冷静ですよね?リムル達が魔王達の宴(ワルプルギス)に出向いているって言うのに・・・・・・」

 

 

 

いくら、リムルが魔王に覚醒したとはいえ、この世の全ての魔王が出揃い、下手をすれば争いになると言うその宴にリムルが出向いているにも関わらず、この人と来たら、いつも通りに余裕そうに聖典(マンガ)を読み漁っているんだもの。それに対し、僕は少し疑問を抱いていた。

 

 

 

「心配せずとも、彼奴であれば問題なかろう。魔王として新参であろうが、そこらのズブな魔王よりかは遥かに強いのだからな。それに、もしもの時は我を呼ぶように言っておいてあるのでな。問題などあるはずも無いだろう?」

 

 

 

「それはそうですけど・・・・・・」

 

 

 

 

 

「あああぁぁぁーーーーーーっっ!!!??何故だっ!!何故なんだっっ!!?」

 

 

 

 

 

「ふえっ!?」

 

 

 

僕が言いたいことはそう言うことじゃ無いのに・・・・・・と、呆れていると、突如聖典(マンガ)を持ったヴェルドラさんの声が執務室内に盛大にこだました。その声に反応してか、部屋の外で待機していたセキガやカレンが勢いよく中に入ってきて、僕の影の中にいたヒョウガが慌てて飛び出してきた。

 

 

 

「「「どうされましたかっ!?」」」

 

 

 

「いや、僕が聞きたいよっ!?どうしたんです、ヴェルドラさん!?」

 

 

 

「どうしたもこうしたもないっ!この最終巻の聖典(マンガ)・・・・・・カバーと中身が別物となっておるのだっ!!リムルめ・・・・・・こんな大事で良いところをお預けにするなど、我に対する嫌がらせかっ!?」

 

 

 

「あぁ・・・・・・」

 

 

 

確かに、一番大事なところでそんなことされたら、怒るのも仕方ないか・・・・・・。リムルったら、何のつもりでこんな事したんだろ?・・・・・・キミのせいで、僕の仕事が増えちゃったんだけど?・・・・・・ヴェルドラさんを宥めるという・・・・・・。

 

 

 

「リムルが来るまで待ちましょう。リムルが来たら・・・・・・」

 

 

 

「我慢ならぬっ!今すぐ奴のところへ行き、問い詰めてくるぞ!!」

 

 

 

「あなたは待機を命じられたでしょうっ!?落ち着いてくださいって!」

 

 

 

「行くと言ったら行くのだーーっっ!!」

 

 

 

僕の制止の声も無視して、今すぐにでもリムルの元に向かおうとするヴェルドラさん。他の三人も加勢して止めに入ったが、相手は暴風竜。そんな簡単に止められたら誰も苦労はしない・・・・・・って言うか、ヴェルドラさんはどうやってリムルの元へ行こうとしてるのっ!?

 

 

 

《解。個体名ヴェルドラは、詳細不明の召喚スキルの召喚経路を逆走し、個体名リムル=テンペストの元へと向かうと推測します》

 

 

 

そんなこと出来るのっ!?なんて規格外な・・・・・・いや、それよりもっ!!

 

 

 

「(まずはこの人を止めないとっ!)お願いですから待ってくださいって!!」

 

 

 

「待たぬっ!さて・・・・・・行くぞっ!!」

 

 

 

「えっ・・・・・・ちょっとま・・・・・・僕がまだしがみついて・・・・・・うわぁっっ!!?」

 

 

 

「「エリス様っ!?」」

 

 

 

「主様っ!!」

 

 

 

興奮の収まらぬヴェルドラさんは僕が体にしがみついてる事もお構いなしに、リーテさんの言うように召喚経路を逆走していった。・・・・・・当然、”体にしがみ付いていた僕諸共”に・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次に僕が到着した場所で待っていたのは・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ボグォォォッッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕の頭を盛大にど突く、誰かしらの拳だった・・・・・・。




結局ですが、エリスも来ることとなってしまいます。しかも、ヴェルドラに半ば巻き込まれつつ・・・・・・。


エリスはどうするのか、そしてリムルは・・・・・・。



当初はエリスは参加させるつもりは無かったのですが、やはり来てもらった方が今後の展開的に面白くなりそうだったので、来てもらう事にしました。ですが、エリスが来てもちゃんと話自体は面白くしますので、どうかご容赦を。



エリスの加護やバフはどうしようかな・・・・・・?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予想外の参上

最近寒いですね・・・・・・。手が悴んで動かなくなっています・・・・・・。


視点 リムル

 

 

 

魔王達の宴(ワルプルギス)の場へと参上した俺たちは、ミザリーさんの促しに従って、用意された席に着席することとした。俺たちが来る前には、既に魔王が二人、席に付いていた。一人は俺たちよりも先に門を潜ってこの場へと来ていたラミリス、もう一人は赤い髪を長く伸ばして、どこか”寒気を覚えるような威圧感”を出していた一人の魔王だった。先程のラミリスの話にも出ていた、ギィ・クリムゾン本人だ。・・・・・・改めて対峙してみると、やはり”古の魔王”というだけあってか、かなりの風格を兼ね揃えていた。

 

 

 

俺の後にも、続々と魔王達が入ってきて、その中には、俺が探し求めていた魔王・・・・・・レオン・クロムウェルがいた。奴はシズさんをこの世界に召喚し、イフリートを無理やり憑依させて苦しめてくれた張本人。奴に対して、怒りが溢れ出ていた俺は席を立ち、奴に近づき声をかけると、これまでのシズさんの苦悩、苦闘、そして、彼女の死のことを伝え、『一発殴らせろ』と怒気をにじませながらそう言い放った。だが・・・・・・。

 

 

 

「ほう、お前がリムルか。その姿、懐かしいが・・・・・・出会い頭に何を言うかと思えば・・・・・・断る。シズに対して、私は選択の余地を与えたのだ。”人として生きる”か、イフリートを取り込んで”魔人として生きるか”を・・・・・・だ。そして、彼女自身の答えである、”人として生きること”を選択して彼女は散ったのだ。私が殴られる筋合いと言うものは一切ない気がするが?」

 

 

 

レオンに至っては、最初こそ、俺の人間化した姿を見て懐かしさを覚えていたが、やはりシズさんのことなどどうでもいいと思っているようで、俺の隣をさっさと通り抜け、席へと着席してしまう。・・・・・・俺の言う事に耳を傾ける気もなさそうだったが、ひとまずはシズさんのことを伝えられただけ良しとした俺は、今さっき入ってきた、今回の俺の目的である”魔王クレイマン”の方へと目を向けた。初めて見る奴の姿だが、一見すればただの高貴な服を着こなす青年だ。だが、奴の本性は邪悪そのものであると言うことはこれまでの奴の所業から察しはついている。だからこそ、奴を見ても俺のうちに広がるのは”怒り”と”憎悪心”の他無かった(クレイマンの前を何故か歩いていたミリムに対して、奴が無造作にも殴りかかった時には、俺の怒りのボルテージはさらに上昇した)。

 

 

 

クレイマンが来たところで全員集合となった為、ここに魔王達の宴(ワルプルギス)の開催が宣言される。宣言されると同時にクレイマンからは本題である俺に対しての処遇等についての議論が投げかけられた。それを聞いていて驚いたのが、奴の言っていることは全て事実性の無い”虚偽”の内容だったんだ。『魔王カリオンが俺に対して、魔王になるよう促した』『ファルムス王国を此方で焚き付け、その兵を生贄として魔王へと覚醒し、暴風竜ヴェルドラを目覚めさせたこと』『魔王カリオンと共謀して私、クレイマンを始末し、新たなる魔王へと君臨する』『配下であるミュウランは俺の手によって始末された』・・・・・・こんな何の根拠もない嘘をよくここまで吐けるものだと内心では呆れてしまっていた。カリオンはそんな奴じゃないし、ヴェルドラは単なる友達だ。それに、ミュウランはちゃんと俺が救ったから生きてるってのに・・・・・・。

 

 

 

結局、根拠も無しに嘘をでっち上げていた事が魔王の数人にはバレ、クレイマンには周りの魔王達からの侮蔑の視線が送られていた。さらに俺が用意していた、クレイマンのこれまでの悪行が映像として残っているいわば”証拠”を突きつけられた事がトドメとなったようで、クレイマンはひどく動揺しきる。この証拠は先ほど、シュナ達、クレイマンの城の制圧組が無事に城の制圧に成功し、その中の宝物庫の中から入手した物を送ってもらった物だ。この証拠を見せられた以上、クレイマンに弁解の余地は無く、激しい言い合いの末、魔王ギィの

 

 

 

 

『クレイマンを倒せたらお前が魔王を名乗ることを許す』

 

 

 

と言う一言によって、俺とクレイマンの最初で最後の戦闘が始まった。・・・・・・と言いたかったんだが、俺が戦うこととなったのは、何故か奴の命令で動いているミリムだった。クレイマンであれば、俺は愚か、シオンやランガでも十分に倒せる相手なのだが、ミリムに至っては話が別。奴の強さは魔王の中でも群を抜いていて、規格外中の規格外だ。いくら魔王へと覚醒した俺であっても、勝率は乏しい・・・・・・。だからこそ、クレイマンや奴の配下達をシオンやランガに任せた俺は、ミリムの攻撃を躱しつつ、ラファエルにミリムのことを解析してもらい、クレイマンのミリムを操る”呪法”の解除を願っていた訳なんだが、何故かラファエルは『呪法は存在していない』と言い切る始末。

 

 

 

「・・・・・・はい?それって一体どういう・・・・・・って、やばっ!?」

 

 

 

一瞬思考が停止した俺に、瞬足で接近してきたミリムが、俺に向けて強烈な右ストレートをお見舞いする態勢に入っている。避けようとしようにも、もうその拳は目前にまで迫っている・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

あ、これは詰んだ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

自身の死を覚悟した俺は、目を瞑る・・・・・・だが、その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ボグォォォッッ!!!)

 

 

 

 

 

「ぐっっ!!?」

 

 

 

俺とミリムの間に、誰かが割り込んできたかと思うと、俺を襲うかと思われたミリムの拳は・・・・・・俺があまりにも見覚えのある()()の奴の頭に命中した。そいつは殴られた衝撃で寄り添っていた金髪の大男と共に、盛大に吹っ飛ばされる・・・・・・って、おい?

 

 

 

「な、何でここにいるんだ・・・・・・ヴェルドラ?そして・・・・・・()()()?」

 

 

 

俺たちの間に割り込んできた人物・・・・・・それは・・・・・・本来ここにいる筈ではない人物であるヴェルドラと・・・・・・エリスだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

「エリィィィーーーーーースッッ!!!??大丈夫かっ!!?しっかりしろっ!!」

 

 

 

エリスとヴェルドラが割り込んでくれたおかげで、ミリムの拳の直撃は回避できた俺だが、それに息をついている暇を見せる事なく、吹き飛ばされたエリスの元へと駆け寄った。あのミリムの攻撃をまともに受けたんだ・・・・・・最悪の場合は・・・・・・いや、やめてくれ・・・・・・もうお前のことを・・・・・・。

 

 

 

「り、リムル?僕は大丈夫だから、あんまり耳元で叫ばないで・・・・・・?キンキンするから・・・・・・」

 

 

 

「え、エリス?・・・・・・お前、なんとも無いのかよ?ミリムの攻撃を食らったんだぞ?」

 

 

 

「ミリムの?・・・・・・どうりですごい衝撃だったわけだ・・・・・・。でも、特には問題なさそうだよ?この通りね?」

 

 

 

駆け寄ってきた俺に対し、問題ないとすぐにひょこっと立ち上がったエリスに、内心安堵する俺だった。・・・・・・にしても、なんでエリスは何ともないんだ?俺でさえ、さっきの攻撃をまともに食らえば、多分だが即あの世行きだったぞ?・・・・・・気になった俺は、エリスに対して『解析鑑定』を施してみたが、ラファエルの答えは・・・・・・。

 

 

 

〈告。解析不能です〉

 

 

 

こんな感じで、いくらやってもエリスの解析をする事は出来なかった。究極能力(アルティメットスキル)であるラファエルでさえ、解析できないと言う事は、エリスも俺同様に究極能力(アルティメットスキル)を保有していることを意味している。魔王に覚醒しただけでなく、究極能力(アルティメットスキル)まで持つとはな・・・・・・。多分、今回無事だったのも、そのスキルのおかげだろう。

 

 

 

「そ、そうか・・・・・・よかった。それにしても、何でお前がこの場にいるんだ?それにヴェルドラも・・・・・・」

 

 

 

「いや、それが・・・・・・」

 

 

 

事の事情をエリスから聞かされた後、俺は大きく溜息を吐いた。俺が悪戯目的で聖典(マンガ)のカバーと中身をすり替えた事に怒ったヴェルドラが、俺を問い詰めるために召喚経路を逆走してくるなんてな・・・・・・。しかも、それを止めようとしたエリスまで巻き込まれてここまでついて来てしまっただなんて・・・・・・あぁ・・・・・・悪夢だぁ・・・・・・。

 

 

 

「ヴェルドラ!来るならせめてお前だけで来いよっ!何でエリスまで連れて来てんだっ!?俺がエリスを置いていった理由を忘れたのかよっ!?」

 

 

 

「むっ?おお、エリスまで来たのだな?我にくっついていたからかも知れぬが・・・・・・ってそんなことよりもっ!!リムルよ!この聖典(マンガ)についてはどう説明をつけるつもりなのだっ!!」

 

 

 

「そんな事じゃねーだろうがっ!!?お前にはエリスを守れって任を与えておいた筈だろっ!何考えてんだよお前って奴はっ!?」

 

 

 

「ちょ、落ち着いてって二人とも・・・・・・」

 

 

 

ミリムとの戦闘の最中だと言うのに、喧嘩をおっ始める俺とヴェルドラに対し、エリスが落ち着いた様子で止めに入ってくる。・・・・・・そもそも、何でお前が一番落ち着いてんだよ・・・・・・ったく。

 

 

 

「リムル・・・・・・キミがいるって事はつまり・・・・・・ここは魔王達の宴(ワルプルギス)の場と言うことで合ってる?」

 

 

 

「・・・・・・そう言うことだ。エリス、今すぐにでも魔国連邦(テンペスト)に転移することは出来るか?」

 

 

 

「そうしたいんだけど、無理かも。さっきから何度も転移しようと試みてるんだけど、魔国連邦(テンペスト)の位置や座標が一向に掴めないんだ」

 

 

 

「ちっ・・・・・・」

 

 

 

強く舌を打つ。この魔王達の宴(ワルプルギス)の場は地上から隔離された異空間内に存在する。この場に出入りするには、特殊な方法で無いといけない事もあって『空間移動』と言った魔法は意味をなさない。だが、そうなって来ると、エリスはこの激しい戦闘が繰り広げる中に、しばらく居続けなくてはいけないことを意味している。・・・・・・こいつを守りたいから、置いて来たって言うのに。仕方ないな。

 

 

 

「ヴェルドラ、ミリムの相手取りをしつつ、今度こそエリスを守れ。今度破ったら承知しないからな?」

 

 

 

「リムルよ!聖典(マンガ)の件についてはどう説明を・・・・・・」

 

 

 

「後で渡すっ!後で中身を渡すからミリムを頼むっ!だが、殺しはするなよ?あいつはクレイマンに操られてるだけなんだ。エリス、ヴェルドラから絶対に離れるなよ?」

 

 

 

「う、うん!」

 

 

 

こんなヴェルドラだが、強さで言えば俺の上を行く。だからこそ俺は、エリスをヴェルドラに任せつつ、先ほどから思念伝達で俺のことを呼ぶランガの元へと急ぐのだった。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

視点 エリス

 

 

 

「全く・・・・・・我が何故この様なことを・・・・・・」

 

 

 

「あなたがこの場に来たことが原因でしょう?自業自得です」

 

 

 

ぶつぶつと愚痴を溢すヴェルドラさんに対して、ため息を吐きつつ淡々とそう告げる僕。はぁ〜・・・・・・と言うか、いきなりミリムに殴り飛ばされるとか・・・・・・よく無事だったよね?僕・・・・・・。『治癒之王(アスクレピオス)』の能力が無ければ絶対死んでたと思う・・・・・・。

 

 

 

 

それにしても、まさか僕がこの場に来てしまうこととなるとは思いもしなかった・・・・・・。ヴェルドラさんのせいとは言え、来てしまった事に変わりはない。となると、必然的に突如として現れた僕やヴェルドラさんは今、僕たちの周りに着席している魔王達から注目を集めてしまう。あまり魔王と関わりたく無かった僕としてはその状況は決して宜しくは無かった。だから、いつものように魔素をかなり抑えて、注目をヴェルドラさんにだけ向ける様に仕向けていた。だが・・・・・・。

 

 

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

 

 

それはどうやら魔王達にとって、意味のない事だったようだ。僕よりもヴェルドラさんの方が魔王達にとって有名でもあり、顔馴染みがあると言う事もあって、注目されるのでは?と、期待をしてみたけど・・・・・・ラミリスさんを除いた一部の魔王達からは、僕に対してかなり強めな視線を向けていられる事が感じとられた。それだけでなく、その魔王達から『解析鑑定』をされそうになったりもしたが、それはリーテさんがちゃんと対策をしてくれた事もあって抵抗(レジスト)された。・・・・・・流石に、僕の事を覗かれたくは無かったからね。・・・・・・何故か、リムルにまで『解析鑑定』されそうになったのは謎だけど。

 

 

 

 

「それはそうであるが・・・・・・まぁ、いい。今は貴様の相手をしてやるとしよう・・・・・・”我が兄の一粒種”よ」

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

ヴェルドラさんの口から出たその単語に、僕は疑問を浮かべる。一粒種って・・・・・・どう言うことなんだ?ヴェルドラさんってお兄さんいたってこと?

 

 

 

「・・・・・・っ!!」

 

 

 

「・・・・・・ほう、中々やる。面白い!我の聖典(マンガ)にて修めた技の数々を、とくと味あわらせてやろう!!」

 

 

 

僕が思考を加速しているのを尻目に、ヴェルドラさんとミリムは戦闘を開始する。ミリムも確かに強いけど、ヴェルドラさんだって彼女に負けないぐらいに強いと言うことは何となく察してるから、問題なくミリムを抑え込めることだろう。・・・・・・それにしても、ミリムが操られてるって・・・・・・よし!何とか僕の方でその呪法を解除できないか探ってみよう!

 

 

 

《告。魔王ミリムに対して仕掛けられた呪法は存在していない事を確認しました。左腕に装着している腕輪の宝珠に『支配の呪法(デモンドミネイト)』の痕跡が見受けられましたが、既にその呪法は解除されている模様です》

 

 

 

「・・・・・・うん、なるほどね?つまりミリムは・・・・・・」

 

 

 

《是。何らかの理由で”呪法に掛かっている”と偽っている可能性が極めて高いです》

 

 

 

「ですよねー(ま、ミリムが格下の魔王に操られるわけなんて無いか・・・・・・)」

 

 

 

リーテさんの解析の結果、”ミリムは魔王クレイマンには操られていない”と言う回答が出た。だと言うのに、こうしてリムルやヴェルドラさんと敵対して来るってことは、彼女なりに何か考えあっての事なのだろうと推測を立てる事が出来た僕だったが・・・・・・。

 

 

 

「心無しか、妙にニヤついて、まるでこの戦いを楽しんでいる様にも見えるんだけど・・・・・・もしかして、ただヴェルドラさんとかリムルと戦いたかったから偽ってるとかじゃないよね?」

 

 

 

普段の彼女を知る僕としては、”何処か笑顔を見せつつ”、戦闘を行っているミリムに対し、僕は違和感を覚えるしか無かった。ミリムはよく、考え無しに行動を起こすと言うことがあるが、今回もその類では無いのか?と疑ってしまうんだ。

 

 

 

「行くぞっ!昇◯拳!!」

 

 

 

・・・・・・ヴェルドラさんの某格闘戦士の技がミリムを襲ったが、ミリムはそれを済んでのところで見切り、ひらりと躱したところで、自身の視界内に僕が映ったのか、標的をヴェルドラさんから僕へと切り替え、襲いかかってきた。・・・・・・え、嘘でしょ?

 

 

 

「エリスよ!そっちに行ったぞ!」

 

 

 

「いやいや、ちょっとっ!?」

 

 

 

ヴェルドラさんは技を出した影響もあってか、態勢を崩して尻餅をついている状態。そんな中、ミリムは容赦無く僕を攻撃するべく左の拳を振りかざしてくる。

 

 

 

「(どうする?僕の攻撃じゃ、竜気(オーラ)を纏うミリムには殆どダメージが通らない。かと言って、何もしなければミリムの餌食だ・・・・・・。そうなるとやれることは・・・・・・)」

 

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 

「ひたすら攻撃を耐えるしかない!」

 

 

 

『身体強化』を施した状態での僕の攻撃でも、ミリムにはほとんどダメージを与えることは出来ない。それを瞬時に察した僕は、とりあえず『身体強化』で自分の力の底上げを図った事もあって、ミリムの打撃を何とか回避する事に成功した。

 

 

 

《解。『治癒之王(アスクレピオス)』の能力により、魔王ミリムの攻撃によるダメージの無効化に成功しています》

 

 

 

 

「そ、それはそうだけど・・・・・・うわぁっ!?」

 

 

 

「むぅ・・・・・・」

 

 

 

避けた僕に対し、続け様に回し蹴りをしてくるミリム。その蹴りもバク転の要領で後ろへとステップする事で躱す事に成功した僕は、彼女と距離を取る。連続で避けられた事で不満そうなミリムは、また攻撃を加えようと僕との距離を詰めてくる。

 

 

 

「ねぇ、ミリム?何でそうやって、”操られているかの様”にみんなに見せているのかは知らないけどさ?いつまでそれを続けるつもりなの?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

ミリムは何も答えずに、再び僕へ猛攻を仕掛けてくる。嵐の様なミリムの攻撃は、流石に全部躱すことは出来ず、何発かは食らってしまった。とはいえ、食らったところでさっきリーテさんが言ったように、ダメージが入ることは無いから大丈夫なんだけどね?・・・・・・食らった時の衝撃はすごいけど。

 

 

 

 

あくまでも、沈黙を貫くか・・・・・・。だったら・・・・・・。

 

 

 

「もし、このまま理由を話してくれないなら、僕はキミの親友(マブダチ)を・・・・・・()()()

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

ミリムが、僕のその一言に大きく目を見開いたかと思いきや、今までに無いくらいの速度で・・・・・・僕でも反応出来ない程の速度で接近してきた。接近し、僕の胸元に入り込んだミリムは、僕をすごい勢いで押し倒すと、そのまま馬乗りになった。

 

 

 

「み、ミリム・・・・・・?」

 

 

 

「ダメなのだっ!エリスはワタシにとって大事な親友(マブダチ)だろう!それをやめるなど・・・・・・ワタシは許さないぞ!!」

 

 

 

怒りと悲しみ、その両方の感情が混ざった様な表情を浮かべつつ、そう叫ぶミリム。・・・・・・ちょっと、意地悪だったか。

 

 

 

「はは、よかった。いつものミリムだ。大丈夫だよ、キミと僕は親友(マブダチ)、やめるわけなんて無いでしょ?」

 

 

 

「・・・・・・本当か?」

 

 

 

「うん、本当」

 

 

 

「・・・・・・エリス〜〜〜っっ!!」

 

 

 

ミリムにとって、ショックな事を言えば、演技を解いてくれる・・・・・・って思った僕は、こんな嘘をついたんだけど、思ったよりも効果は絶大だった様で驚いた。この反応を見るからに、いかにミリムが親友(マブダチ)であるリムルや僕を大事に思ってくれているかがよく分かり、ちょっとほっこりした僕だった。

 

 

 

 

 

・・・・・・後、ミリム?僕を抱きしめるのは良いけど、抱きしめが強すぎて僕が窒息しそうなんですけど・・・・・・?




ミリムは、エリスそして、この場にいるヴェルドラに対しては演技を解きました。ミリムとは言え、エリスのこの言葉の攻撃にはかなり心にダメージが来たのでしょうね。それを易々とやるエリスはある意味では最強なのでは・・・・・・?


話からもわかるように、耐久力や回復力・・・・・・一重で言う”防御力”に関しましては、エリスはリムルを凌駕します。その代わり、他の能力は全てリムルが圧倒的に上ですが・・・・・・。


エリスは、究極能力(アルティメットスキル)の保有のことをリムルには伝えていませんので、リムルは『慈愛之王(アンピトリテ)』や『治癒之王(アスクレピオス)』の存在を知りません。ですがエリスも同様に『智慧之王(ラファエル)』を除いたリムルの究極能力(アルティメットスキル)である『暴食之王(ベルゼビュート)』『誓約之王(ウリエル)』『暴風之王(ヴェルドラ)』を知りません。


次回で魔王達の宴(ワルプルギス)を終えれたら・・・・・・と思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

情けと甘い考え

メリークリスマスです!


今年はホワイトクリスマスかな?


僕はミリムを退けた後、事情を聞かせて貰った。彼女は、魔王クレイマンの狙いと目的を探る為にわざと呪法にかかったふりをしていたと言い、獣王国(ユーラザニア)を消し飛ばしたのも、その流れとノリでやったのだと言う・・・・・・うん、ちょっと待って?

 

 

 

「カリオンさんが聞いたら激怒すると思うんだけど?」

 

 

 

「うっ・・・・・・そ、その時は・・・・・・な、何とかなるだろう?」

 

 

 

「絶対ならないね」

 

 

 

しどろもどろになるミリムに、静かにツッコむ僕。自分の国を、そんなノリなんかで消し飛ばされてしまっては堪った物ではない。ここは、カリオンさんに後でお叱りを受けるべきだろう。・・・・・・今はいないんだけど。

 

 

 

《告。魔王カリオンと思わしき獣人の反応を確認しました。反応場所は、魔王フレイの真隣からです》

 

 

 

「(ん?カリオンさんって、確か魔王フレイに何処かに連れ去られたんじゃ・・・・・・って、カリオンさん・・・・・・何て陳腐な変装を・・・・・・)」

 

 

 

リーテさんの示す方へ視線を向けてみると、そこにはとても綺麗らしい美貌を持ち合わせるハーヴィ、魔王フレイと何故か”ライオンの覆面”をかぶって横に仁王立っているカリオンさんの姿があった。二人が一緒にいる事も謎だけど、それよりも謎なのは、いかにもバレそうな変装をしているカリオンさんだ。・・・・・・変装するなら、もっと考えようがあったんじゃないかな?

 

 

 

「エリスよ。もう問題は無いのであるか?」

 

 

 

「ええ。ヴェルドラさんもお疲れ様でした」

 

 

 

遅れてやって来たヴェルドラさんは、意外にもすんなりと大人しくなったミリムに拍子抜けしている様子だったが、問題無いとわかると、戦闘体制を解いた。

 

 

 

「エリス、クレイマンのとこへ行くぞ。ワタシもそろそろ、さっき殴ってくれたあいつに倍にして返してやりたいのだ!痛くも痒くもなかったがな?」

 

 

 

「だったらしなくて良いんじゃない?リムルの方もそろそろ決着が着きそうなんだしさ?」

 

 

 

「む?・・・・・・確かにそうだな?」

 

 

 

僕達はリムルとクレイマンの方へと視線を向ける。ランガの方の問題(妙な気配を持つ狐のような魔物の救済)を解決した後、リムルはクレイマンと戦うシオンに加勢した様で、クレイマンは全く二人に歯が立たなくなっていた。ミリムの話だと、クレイマンはシオン一人にさえ、劣勢に立たされていて、自分の得意技である『操魔王支配(デモンマリオネット)』や、『踊る人形達(マリオネットダンス)』も彼女には通用しなかった。

 

シオンが持つ剛力丸には、従来の能力の他にも新たに魂喰い(ソウルイーター)と言う能力がクロベエらによって追加された事もあって、人形達に封入された魂を全て喰らう事によって『踊る人形達(マリオネットダンス)』を無効化していった。『操魔王支配(デモンマリオネット)』は、リーテさんの解析の結果では精神攻撃の類らしいけど、シオンには『絶対保護』をかけて置いてあるから、通用すると言う事はない。

 

得意技であったこの二つを無力化されてしまえば、クレイマンの勝ち目は薄い。そして、それに追い討ちをかける様にリムルまで参戦してしまえば、もはや勝率はゼロとみて良いと思う。クレイマンも最後まで抵抗を試みているものの、実力差がかけ離れている事もあって、無意味に終わっていた。

 

 

 

「くっ・・・・・・こうなれば・・・・・・ミリムよ!命令です!『凶化暴走(スタンピート)』しなさい!この場にいるもの全てを殺し尽くすのです!!」

 

 

 

最後の手段なのか、クレイマンはボロボロの身体をひきづりながら、未だに自分の支配下にあると思っているミリムに命令を下した。・・・・・・だけど、残念でしたね?

 

 

 

「そんな命令聞くか!リムル達は大切な親友(マブダチ)なのだぞ!」

 

 

 

「「なっ!?」」

 

 

 

ミリムのその反発に、クレイマンとリムルが同時に驚いた。驚いたと言っても、クレイマンは操ったと思っていたミリムの思わぬ反発に対してだけど、リムルに至っては、ミリムが操られていなかったと言う事実を知ったからだと思うけど・・・・・・リムルは完全に騙されていたんだ・・・・・・。

 

 

 

「ミリム?お前・・・・・・操られていなかったのか?」

 

 

 

「ほう?リムルは騙せていた様だな?エリスにはすぐにバレてしまったが・・・・・・」

 

 

 

「はっ!?エリス、本当か?」

 

 

 

「むしろ、なんでリムルが気づかなかったのか不思議だよ?ラファエルさんからの報告とかは無かったの?」

 

 

 

「え?・・・・・・あ、いやその・・・・・・」

 

 

 

途端に目を逸らすリムル。リーテさんに引けを取らない程の能力を持つラファエルさんであるなら、ミリムが演技している事などすぐに看破できるはず。それでもリムルが騙されていたって事は・・・・・・単にリムルが、ラファエルさんの報告に耳を傾けていなかっただけの事だろう。・・・・・・そのうち、ラファエルさんが本気で怒りそうだ。

 

 

 

「エリス様っ!?何故ここに?」

 

 

 

「シオン、それにランガも・・・・・・。いや、色々あってね?」

 

 

 

「色々・・・・・・というのは?」

 

 

 

リムルと共に、僕の元へとやってきたシオンとランガにも、先程のリムルに対してしたのと同じ説明をする。そして、やはりというか、二人もまたこの説明を聞き終わると一つ溜息を吐いて呆れていた。・・・・・・主に、ヴェルドラさんに。うん、その気持ち・・・・・・よ〜く分かるよ?僕だっていまだに呆れてるんだし。

 

 

 

 

そんな呑気な会話をしてる中、ふらふらのクレイマンが口を開いた。

 

 

 

「何故・・・・・・?魔王ですら支配する『支配の呪法(デモンドミネイト)』を受けて・・・・・・」

 

 

 

「ワタシを見くびりすぎだぞ?そんなちんけな呪法がワタシに通用すると思っていたのか?ワタシを支配するなんて、”数万年”早いぞっ!」

 

 

 

「そうだぜ、クレイマン?・・・・・・んな簡単にコイツを支配出来るはず無いだろうが?俺の国を一瞬で消し飛ばしちまう様なやつなんだぜ?」

 

 

 

出るなら今と見たのか、ライオンの覆面を取りつつ、カリオンさんがクレイマンにそう口を出す。当然、死んだと思っていたカリオンがこの場にいることに、クレイマンは驚いた。

 

 

 

「なっ・・・・・・フレイ!どういう事です!?あなたの報告では、カリオンは死んだと・・・・・・もしや、私を裏切ったのですかっ!?」

 

 

 

「人聞きの悪い男ね?私は元々、あなたの味方であった自覚なんてないわよ?あなたが勝手に勘違いをしていただけの話でしょう?」

 

 

 

「くっ・・・・・・おの・・・・・・れ・・・・・・」

 

 

 

どうやら、魔王フレイもクレイマンとは元々手を組んでいなかったようで、その事実にクレイマンはひどく顔を硬らせていた。・・・・・・古の魔王であるミリムの支配に失敗し、果てには仲間と思っていた魔王フレイにまで手を切られる始末・・・・・・何とも哀れというか、自業自得というか・・・・・・。

 

 

 

《告。魔王ギィによって張られた結界が解除されました》

 

 

 

「(・・・・・・?そういえば、妙な結界が僕達を覆ってると思ってたけど、その結界を張ったのがあの人・・・・・・ギィ・クリムゾンか・・・・・・)」

 

 

 

チラリと、目だけを魔王ギィの方へ向けると、そこには不敵な笑みを浮かべながら僕達を観察する姿の確認が取れた。見たところ、無駄な魔素の漏れ出が気になるけど、今は触れないでおこう。変に触って機嫌を損ねたくはないからね。

 

 

 

「よう、リムル。俺のいない間、うちの住民達が世話になってるな」

 

 

 

「ああ、構わないさ。友好を結んでるわけだし、困った時はお互い様さ」

 

 

 

「すまないな。・・・・・・それと、エリス?お前まで来るなんてな?結界の中に急に現れた時は驚いたぜ?」

 

 

 

「僕もですよ。いきなりここに出てきたと思えば、いきなりミリムに殴られるし、魔王達に睨まれるし、散々でしたよ・・・・・・」

 

 

 

「す、すまないのだ、エリス・・・・・・。まさかお前が急に現れるなんて思わなかったから・・・・・・」

 

 

 

「いいよ、特にダメージも無かったんだし」

 

 

 

また、呑気にそんな談笑を繰り広げている僕達を尻目に、絶望し切った様子のクレイマンはある行動に出ていた。

 

 

 

それは・・・・・・。

 

 

 

《告。魔王クレイマンが、これまで奪ってきた魂を魔素化し、その魔素を元に”真なる魔王”へと覚醒を果たした模様です。足りない分の経験値は対象の”覚悟”で補っている可能性があります》

 

 

 

「(覚醒・・・・・・か。このタイミングで?)」

 

 

 

本来、『魔王への進化(ハーヴェストフェスティバル)』が行われる場合は、強烈な眠気に襲われるのだが、今回の場合は正当な手順を踏んでいないせいなのか、奴が眠気に襲われている様子はなかった。覚醒を果たしたクレイマンは今までとは比べものにならない程の妖気(オーラ)を放ちつつ、僕達を威圧していた。その威圧は、カリオンさんや魔王フレイを凌ぐ程のものと見えた。

 

 

 

「俺に任せろ。奴の処理は、俺の仕事だからな」

 

 

 

「リムル・・・・・・」

 

 

 

だが、リムルは余裕な表情を見せつつ、冷静にクレイマンを見据え、一歩ずつ奴に近づいていった。そんな刹那だった・・・・・・奴から、”妙な声”が聞こえてきた。

 

 

 

「(覚醒したとはいえ・・・・・・私がこのスライムに勝てる見込みは殆どない・・・・・・。私とて、魔王の任をあの方から任された身・・・・・・悔しいが、それぐらいのことは分かる。・・・・・・ふふ、私はどうやらここまでの様だ・・・・・・ラプラス、ティア、フットマン・・・・・・。だが安心してくれ、キミ達のこと・・・・・・そして、あの方の事を売る様な真似は絶対にしない・・・・・・)」

 

 

 

「(・・・・・・これは?)」

 

 

 

《解。魔王クレイマンの後悔の念と推測します。先ほど、『解析鑑定』を行なった際に、動向を読むために、クレイマンの心の声を主人(マスター)聞き取れるよう、細工を施しました》

 

 

 

「(そっか・・・・・・。奴は・・・・・・()は、仲間のことを大切に思う人ではあったのか・・・・・・)」

 

 

 

クレイマンの後悔の念は、まだ続きがあった。

 

 

 

「(ラプラスよ・・・・・・。キミの忠告通りだった・・・・・・戦闘に向いていない私は、素直に大人しくしていればよかった・・・・・・本当に・・・・・・すまない。出来れば、もう一度会って、こう謝りたかった・・・・・・)」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

その言葉を最後に、後悔の念は聞こえなくなった。クレイマンは確かに卑劣で、卑怯で、到底許せないことをした魔王だ。町を襲撃させる様人間達を仕向けたのも、配下であるミュウランさんを見捨てたのも、今でも許したつもりはない。彼はきちんと罪を償うべきだ。・・・・・・だが、そんな中でも、先程の彼の心の声を聞いて、僕の中には”もう一つの考え”が浮かび上がってくる。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・もう十分反省したのだから、”殺す必要は無い”のではないか?

 

 

 

 

 

 

 

この考えは甘い!と言われても仕方がないのかもしれないけど、どうしてもこの考えだけは拭うことが出来なかった。僕もそこまで鬼ではない。後悔をし、きちんと反省をしている様子であるのであれば、無理に命までは取ろうとは思わない。いや、今となっては取りたくないとさえ思っていた・・・・・・。償い方は、何も”死”だけでは無いはずだ。他にも違ったやり方がきっとあるはず・・・・・・。

 

 

 

だが、リムルはどうやらその考えを持ち合わせてはいない様子だった。

 

 

 

「今から、クレイマンを処刑する。異論のある奴はいるか?」

 

 

 

リムルはやはり許せないのか、クレイマンを殺す気でいる様だ。クレイマンは、思った通り、自分の現状最大の切り札である『龍脈破壊砲(デモンブラスター)』を放つも、リムルには、まるっきり通用しないと見るや、既に諦めムードで視線を落としていた。

 

 

 

リムルの質問に誰もが、頷く中・・・・・・僕は、リムルに静かに申し出た。

 

 

 

「もう、良いんじゃないかな?そんなにボロボロになるまでやられた訳なんだし、プライドもズタボロでしょ?リムルの力も知ったことだし、もうこの人が今後魔国連邦(テンペスト)を脅かすことは無いと思う。だから、命まで取ることは・・・・・・」

 

 

 

「だめだ。こいつは言わばお前の仇だ。こいつのせいで、お前は一度死んだ・・・・・・こいつのせいで俺たちは深く悲しんだ・・・・・・。その罪は死を持って償ってもらう事にしたんだ」

 

 

 

「だ、だけど!」

 

 

 

「敵にまで情けをかける必要は無いぞ?お前は優しいが、それと同時に考え方が甘いとも言える。こいつが俺たちのことを脅かさないなんて保証がどこにあるってんだ?・・・・・・こいつは、生きていれば必ず俺たちの害悪となる。そうならない為にも、今ここでこいつは始末しておく必要があるんだ。・・・・・・お前には申し訳ないが、これは決定事項だ。俺は、クレイマンを殺す」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

僕が沈黙するのを肯定と取ったのか、リムルがクレイマンにとどめを刺そうとスキルを発動させる。先程、『龍脈破壊砲(デモンブラスター)』を打ち消した『暴食之王(ベルゼビュート)』と呼ばれるスキルだ。

 

 

 

 

「私は妖霊族(デスマン)だ!死のうとも何度でも甦ってみせる!貴様は絶対に・・・・・・」

 

 

 

 

「無理だな。俺の『暴食之王(ベルゼビュート)』はお前の星幽体(アストラルボディー)ごと喰らう。死ぬ前に一つ聞かせろ。この計画の真の黒幕は誰だ?」

 

 

 

「私は、仲間は裏切らない!それが・・・・・・中庸道化連の絶対的ルールなのだ!殺すのだったら、さっさと殺せばいい!!」

 

 

 

「はぁ〜・・・・・・わかったよ。なら、死ね!」

 

 

 

口を割らせるのが不可能と判断したリムルは、『暴食之王(ベルゼビュート)』を発動し、クレイマンを一欠片も残さず・・・・・・喰らい尽くすのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(魂を守護せよ・・・・・・『魂の守護(ソウルプロテクト)』)」

 

 

 

 




何で、『絶対保護』を使わなかったのかはすぐに分かります。


さて・・・・・・エリスはクレイマンをどうするつもりでしょうかね?リムルの言う、『クレイマンが自分達を脅かさない保証は無い』と言うのも賛同できますが、逆に『クレイマンが自分たちを脅かすと言う保証も無い』のでは無いかと思いますけどね?性根は腐って無さそうですし?



話の展開をお楽しみに!




クレイマンにリムルが裏で画策していた証拠を見せるシーンがありませんが、単にカットしてるだけであって、ちゃんと証拠があることは証明済みですので、ご心配なく。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新たなる魔王

少し短めです。区切りが良かったので。


視点 リムル

 

 

クレイマンは、俺の『暴食之王(ベルゼビュート)』により、影も形も無くなるほどに喰らわれた。奴の魂を喰らった事で、その分の魔素が俺の中へと入ってきた訳だが、その際に何やらラファエルが()()()を覚えている様子だったが、特に気にする事もなく、俺は他の魔王達へ視線を仰いだ。

 

 

「魔王クレイマンは消した。これで俺が魔王になる・・・・・・って事でいいんだよな?」

 

 

 

「勿論だ。今日からお前が魔王を名乗ることを認めよう。他の奴で異論のある者は?」

 

 

 

魔王ギィが拍手を交えながら、他の魔王へ促すが、これと言って反対する意見は出てこなかった。唯一、魔王バレンタインが複雑な表情を浮かべながら拒否をしていたが、他の魔王が賛同している以上、頷くしかなかったのか、渋々承諾していた。ふぅ・・・・・・認めてもらえた様で、ちょっとホッとしたな。

 

 

 

「異論なしだな?なら、この後は親交を深める為に、茶会でも開こうと思ってるんだが・・・・・・その前に一つ。・・・・・・()()、名を何と言うんだ?」

 

 

 

魔王ギィが指を刺したその方角は、俺の後方・・・・・・つまり、後ろに控えていたエリスに向けてだった。そして、それと同時に、エリスに対して他の魔王達が一斉に視線を向ける。

 

 

 

「えっ・・・・・・と?僕ですか?」

 

 

 

「そうだ、お前だ。ミリムの攻撃を簡単に受け流し、受けたところでかすり傷一つつかないお前に興味が湧いてな?・・・・・・名を名乗れ」

 

 

 

半ば強制的に、名を名乗るようエリスに命令する魔王ギィに対し、内心で強く舌を打った俺だった。そういや、遠目で見てたが、ヴェルドラの隙をついて、ミリムがエリスを攻撃して、それをエリスが何とか凌いでいたんだっけか?その時は、ヴェルドラに対して強い殺意が湧いた俺だったが・・・・・・それは一旦置いておき、とにかく先程のエリスの戦いぶりを見れば、当たり前だが・・・・・・魔王達から注目されるのも仕方ないと言うものだ。

 

 

 

「エリス・・・・・・テンペストです」

 

 

 

「ほう?そこのリムルと同じ名を持つか・・・・・・。もしや、二人は同じ場・・・・・・つまり魔国連邦(テンペスト)に所在しているのか?」

 

 

 

「ああ、そうだが・・・・・・それがどうかしたか?」

 

 

 

「いや?ただ、”真なる魔王が二人居座る国”など見た事がなくてな?少し面白いと思っただけだ」

 

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 

魔王に覚醒した魔物が二人同じ場所にいる・・・・・・その事実に他の魔王達からどよめきが起こる中、俺とエリスは言葉を無くしていた。やはりというか・・・・・・分かっていた事だが、既にエリスが魔王へと覚醒してしまった事は魔王ギィには知られてしまっていた様だ。本来であれば、他の魔王達には秘匿しておきたかったこの事実を知られてしまった以上、どう反応をして良いのかわからなくなってしまっていた。

 

 

 

「聞くが、エリス・・・・・・だったな?お前は魔王を名乗る気はあるか?」

 

 

 

「ありません。国に魔王は一人で十分です。もう一人の魔王が現れた時、きっと国は二つに分割され、隔たりを起こしかねませんし、僕が名乗りを上げたところで、デメリットしか無いので・・・・・・」

 

 

 

「そうなのか?オレとしては、名乗ってくれた方が今後もっと面白いことが・・・・・・」

 

 

 

「ギィ!エリスは名乗らないと言っているのだ!これ以上エリスを困らせるのであれば許さないぞ!」

 

 

 

「む?・・・・・・そうか、ならば仕方ないが・・・・・・(こいつ、まだ何か隠しているな?他の奴の目は誤魔化せても、オレの目は誤魔化せねぇぞ?・・・・・・それに、こいつのあの生半可ではない防御力と回復力・・・・・・オレの記憶が正しければこいつは・・・・・・。いや、今は置いておくか。それにしても、こいつは面白い。・・・・・・次の機会にでも、ゆっくりと話してみるとするか)」

 

 

 

魔王ギィのその説得には、ミリムが待ったをかけてくれた事で、その話はなかった事となった為、俺とエリスはホッと息を吐いた。・・・・・・サンキュー、ミリム。

 

 

 

「おい()()()よ!貴様、従者の躾がなっておらんのでは無いか?この下郎・・・・・・さっき我の友であるリムルを愚弄したのだぞっ!代わりに我が躾けてやっても良いぞ?」

 

 

 

そんな俺たちを差し置いて、場の片隅では、何やらヴェルドラと魔王バレンタインが口論をしているのが映る。・・・・・・正確には、ヴェルドラが話しているのは、バレンタインの横にいる妙に魔素量が多い、従者の女性だがな?

 

 

 

「私は、ただの魔王バレンタイン様の従者ですが?」

 

 

 

「ヴェルドラ。バレンタインは今は正体を隠しておるのだ。だから、こいつが魔王代理なのは内緒であってな?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

ミリムが内緒話をし始めるが、いかんせん声が大きい・・・・・・。だから、当然この場にいる者全員にその正体がバレてしまう事となった。・・・・・・なるほどな、この場に来た時から違和感を覚えていたが、やっぱり彼女がそうだったんだな。エリスも、違和感を覚えていたのか、彼女の正体が分かると、納得した様子で目をパチパチとさせていた。

 

 

 

「ちっ・・・・・・またしても妾の邪魔をするか・・・・・・忌々しい邪竜め。それに貴様・・・・・・妾の名まで忘れたか?」

 

 

 

「む?ミルスではなかったか?」

 

 

 

「はぁ・・・・・・もう良い、妾の事はバレンタインと呼ぶがいい」

 

 

 

訂正するのも疲れたのか、魔王バレンタインは魔法換装(ドレスチェンジ)でメイド服から漆黒のゴシックドレスへと早着替えをすると、隠していた膨大な魔力を一気に解放した。その圧倒的なる魔力、魔素はまさに魔王を名乗るに相応しい量を誇り、先程の代理の男とは比べ物にならない程だった。ドレスへと着替えた彼女は、メイド服の時とはまた違った潤しさが醸し出ていて、まさに傾国の美少女・・・・・・といった感じだった。

 

 

 

「よろしいのですか、ルミナス様?」

 

 

 

「あの駄竜のせいで正体を偽るのが不可能となったのでな、致し方ないであろう?」

 

 

 

ギロリと擬音がつきそうな程に強い視線をヴェルドラに向けるバレンタインに、ヴェルドラは萎縮してエリスの後ろへと隠れた。本人は、バラしたのはミリムだとか、自分は悪く無いだとか言ってるけど、そもそもの問題、自分が名を覚えていれば良かっただけの話だから何のフォローもしようが無い。つーか、昔滅ぼした都を収めていた魔王の名を忘れるとかどうなんだよ?

 

 

 

「・・・・・・して、リムル・・・・・・と言ったか?貴様、その駄竜と親しい仲だそうだな?」

 

 

 

「ん?ああ、こいつとは友達だ」

 

 

 

「そうか・・・・・・貴様も物好きな奴じゃ。こんな災いしか呼ばぬ惑わしい邪竜を友として付き合うなど・・・・・・」

 

 

 

「ルミナスよ!それは少し言い過ぎでは・・・・・・」

 

 

 

「ルミナスさんの国を滅ぼしておいて、その上名まで忘れてしまっていたヴェルドラがこう言われるのは当然でしょう?むしろ、何で忘れてたんですか?意味がわからないんですけど?反省するべきなんじゃ無いですか?」

 

 

 

「え、エリスまで・・・・・・そ、そこまで言わなくても・・・・・・」

 

 

 

まさかのエリスの追加攻撃に撃沈したヴェルドラは、今度は俺の後ろで小さくなり始める。

 

 

 

「その通りじゃ。エリス・・・・・・と言ったか?貴様とは気が合いそうじゃのう?」

 

 

 

「奇遇ですね?僕も今そう思っていたところです」

 

 

 

ふふ・・・・・・と、小さく笑いあう二人の美少女に、俺は少しだが心を奪われる。ルミナスも勿論、綺麗で可愛いんだが、エリスもそれに負けないくらいに可愛らしく、美しい事もあって、どうしても鼻の下が伸びてしまう。多分、エリスがルミナスを援護したのは彼女に同情したのも理由の一つかもしれないが、単に”ここに無理矢理連れてきたヴェルドラに対する嫌がらせの為にやっているのでは”?と思っている。

 

 

それにしても、こんな二人から罵詈雑言を浴びせられたヴェルドラに至っては、ある意味ではご褒美なのではないか?

 

 

 

その後、ルミナスは代理の魔王を務めていた配下であるロイ・バレンタインを自分の領地に戻らせると、自分の席へと着いた。それに倣い、俺もまた席に着くと、魔王ギィから『休憩を挟み、それから茶会を開く』と宣言された為、一旦俺たちは用意された控室へと案内され、しばしの休息を取る事となった。

 

 

 

「ふぅ・・・・・・意外と疲れたな・・・・・・。ミリムが来たときはどうなる事かと思ったが・・・・・・」

 

 

 

「ほんとよね?あのミリム相手によく無事だったわね、あんた達?特にエリス?あんた、いきなり現れたと思ったら、ミリムから思いっきり殴られたんだからビックリしたわよ?本当に大丈夫なわけ?」

 

 

 

「ええ、問題ないです。・・・・・・さて」

 

 

 

先ほど、あれだけの攻防をミリムと繰り広げていたって言うのに、へっちゃらそうな顔をしているエリスは、心配そうにしているラミリスに一言声を掛けると、何やら準備を整えていた。

 

 

 

「エリス?どこか行くのか?」

 

 

 

「うん、茶会には僕が出席する必要もないし、少し()()()が出来たからね」

 

 

 

「そうなのか?だが、どうやって戻る・・・・・・」

 

 

 

「ミザリーさんには既に言ってあるから、送ってもらうよ。魔王ギィさんにも欠席する旨は伝えてあるから心配しなくていいよ?」

 

 

 

「相変わらず抜かりねーな・・・・・・お前は・・・・・・。分かったよ」

 

 

 

相変わらずの要領の良さを見せるエリスに苦笑いを浮かべる俺は、それに快く承諾する。元々、エリスはここに来る筈ではなかったのだし、長居させるのも申し訳ないからな。

 

 

 

「エリス殿?良ければ我が着いて参りましょうか?」

 

 

 

「良いよ。キミはリムルのそばにいてやってくれ。シオンもね?」

 

 

 

「「はっ!」」

 

 

 

ランガとシオンに、改めて俺の護衛を任せるよう命令をしたエリスは、踵を返して控室の出口へと向かっていった。

 

 

 

「・・・・・・リムル、クレイマンを倒してくれて・・・・・・ありがとう。それじゃ・・・・・・」

 

 

 

振り向きざまに、小さく呟いたその言葉を最後に、エリスは控室を出て行った。

 

 

 

「リムル。・・・・・・アタシの見間違いだったらごめんだけど、なんかエリス・・・・・・」

 

 

 

「ああ・・・・・・(エリスの奴・・・・・・礼を言ってた割には、どこか()()()()()()をしていた気がする・・・・・・)」

 

 

 

エリスに対し、違和感を覚えた俺は、微妙な心境のまま茶会へ臨む事となるのだった・・・・・・。

 





「エリス、さっきリムルが言っていたが・・・・・・一度死んだとは・・・・・・どう言うことだ?」



「え?あ、うん・・・・・・実は、僕は一度、クレイマンが町を襲う様仕向けたファルムス国の兵達から国を守った末に、命を落としたんだ。今、僕が生きてるのは、リムルが魔王となって蘇生してくれたからなんだ」



「そ、それは本当なのか?クレイマンのせいで、お前が・・・・・・?」



「・・・・・・そう言う事になるのかな・・・・・・って、ミリム!?顔が怖いっ!怖いって!!」



「クレイマン・・・・・・ワタシの親友(マブダチ)をよくも・・・・・・。ワタシが直々に、粉々に砕いてやりたかったのだーっ!!」



・・・・・・ミリムの怒りは、しばらく収まることは無かった。全部が全部、クレイマンのせいって訳じゃないのにね?




さて、最後のエリスの心境はどうだったのでしょうか?自分が殺す必要は無いと言ったクレイマンを殺したリムルに対して、彼が思う事とは一体・・・・・・?


そして、エリスのやる事とは何でしょうね?次回でそれが明らかになります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

騒動の終結

明けましておめでとうございます!


今年もよろしくお願いします!


視点 エリス

 

 

 

「ありがとうございます、ミザリーさん」

 

 

 

リムル達と別れ、魔王達の宴(ワルプルギス)を後にした僕は、ミザリーさんに頼み、”何もない一つの開けた土地”に送ってもらっていた。

 

 

 

「いえ。ですが、本当にこの場でよろしかったのですか?魔国連邦(テンペスト)に送ることも出来ましたが?」

 

 

 

「いや、大丈夫です。ここに来たのはちょっとした目的があったので・・・・・・」

 

 

 

「そうですか、失礼いたしました。・・・・・・ギィ様より伝言を預かっております。『今度、オレの宮殿で茶を共にしよう』・・・・・・との事です。どうかご検討を」

 

 

 

「あ、あはは・・・・・・考えておきますね?」

 

 

 

「よろしくお願いします。では、失礼致します」

 

 

 

ミザリーさんはそれだけ言い残して、帰っていった。・・・・・・あのギィさんからの招待って・・・・・・断りたいけど、断ったら断ったらで後が怖そうだからなぁ・・・・・・。うん、一旦保留にしておこう。今は、やる事をやっておかないと・・・・・・。

 

 

 

「さて・・・・・・(リーテさん、”保護して僕の体内に取り込んだクレイマンの魂を僕の分身体に組み込んでくれ”)」

 

 

 

《了。分身体の作成と、魂の融合を実行します・・・・・・》

 

 

 

僕の言った通りに、リーテさんは強化分身で僕の分身体を作り上げると、その分身体に僕の体内から取り出した”あの時”保護をしたクレイマンの魂を融合させた。

 

 

あの時と言うのは、リムルがクレイマンを消し去ろうとした寸前の時のことだ。リムルがクレイマンを喰らう刹那、僕は『魂の守護(ソウルプロテクト)』と言う、魂の保護に特化した防御魔法でクレイマンの魂を密かに守っていたんだ。その際、身代わりとして僕が事前に作っておいた”擬似の魂”をリムルに食らわせた為、魂の分の魔素も取り込んだ筈だから、特に違和感などは無かったと思う(ラファエルさんにもバレた様子は無さそうだったしね?)。『魂の守護(ソウルプロテクト)』はただ魂を守るだけでなく、余分な妖気(オーラ)魔素と言った物の流出を遮断する効力も持っている。つまり、『魂の守護(ソウルプロテクト)』で守られている間の魂は、その存在を誰にも悟られないと言う事を意味している(セキュリティロックをかけてるみたいな感じかな?)。守った魂は、みんなにバレないうちにこっそり、僕の体内の中に組み込み、この場に来るまで保管しておいたんだ。・・・・・・バレるんじゃないか?って思いながらずっとヒヤヒヤしてたよ・・・・・・全く。

 

 

 

体と魂の融合が済むと、僕の分身体はクレイマンの意思のもとに、容姿を変え出した。・・・・・・普通であれば、元のクレイマンの容姿に戻る所なのだろうが、今回は違ったようだ。彼の容姿をざっくり説明すると、薄茶色の髪、茶色の双眼、痩せ型のすらっとしたフォルム。・・・・・・こんな感じだろう。見かけは最早クレイマンとは思えなくなっていて、従来の釣り上がったきつい目は、僕の分身体なこともあってか、垂れ目となって、物腰が柔らかそうな雰囲気へと変貌を遂げていた。背は、前よりも少し縮んだ様にも思えた。僕よりは背が高いけど・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・?あ、わ、私は・・・・・・?」

 

 

 

「気づきましたか?」

 

 

 

融合が終わり、意識を取り戻したクレイマンは、自分の身に何が起こったのか、理解が追いついていない様子だった。

 

 

 

「っ!貴様は・・・・・・あの時、スライムの隣にいた・・・・・・」

 

 

 

「自己紹介がまだでしたね。初めまして、僕はエリス=テンペスト。今回、僕はあなたの事を助けました」

 

 

 

「・・・・・・何っ?どう言う事ですか?」

 

 

 

説明を求めてきた為、僕はあの時のことを全てクレイマンに打ち明けた。そして、僕の手によって助かった事実を知った時、クレイマンはかなり驚いた様子で僕を凝視してきた。

 

 

 

「エリス・・・・・・と言いましたね?自分が何をやったかわかっているのですか?貴様は・・・・・・敵であるこの私を助けたのですよ?あなたの国である魔国連邦(テンペスト)を襲撃するよう、人間達を焚きつけたこの私を・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・人間達に襲撃させた事を認めるんですね?先の場ではでっち上げの嘘をついていたとリムルが言っていましたが・・・・・・」

 

 

 

「何を今更なことを・・・・・・。今何を言ったところで、私の言葉などもう誰にも響かない事は知っていますし」

 

 

 

「まぁ・・・・・・それは事実でしょうね」

 

 

 

クレイマンのその言葉に、小さく同調する僕。クレイマンの領土であるジスターヴは既にシュナたちが落としたって聞いたし、クレイマン軍との戦争もこちらの大勝で幕を閉じたと先程ベニマルから連絡が入ったし・・・・・・当のクレイマンもリムルにコテンパンにやられちゃった訳だし、もうクレイマンの魔王としての脅威は皆無に等しいだろうからね。

 

 

 

「質問の答えがまだですよ?何故、敵である私を?」

 

 

 

「理由は・・・・・・そうですね。あなたが今回やったことに対してしっかりと反省をしていて・・・・・・あなたの仲間の人たちを想う気持ちに小さく心を揺さぶられたから・・・・・・ですかね?」

 

 

 

「何故、そう言い切れるのですか?人や魔物、魔人は反省をしたとしても、再び同じ事を遂行する事だってあるのですよ?私だって、またあなたの国を滅ぼしに向かうかも知れないのですよ?・・・・・・それを危惧したからこそ、あのスライム・・・・・・リムル=テンペストは私を殺そうと考えたのだと思っていますがね?」

 

 

 

「じゃあ、聞きますが、今のあなたにその勇気はありますか?いずれ、魔国連邦(テンペスト)を襲撃すると言う勇気が」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

僕のその質問に、苦い顔を浮かべるクレイマン。僕はそれを気にすることもなく続ける。

 

 

 

「魔王に覚醒したあなたでさえ、リムルには到底敵わなかった。そんな魔王が統べているその国を、あなたは襲撃する気なんですか?・・・・・・言ってしまうと、多分すぐに消されて終わりだと思いますよ?」

 

 

 

「くっ・・・・・・容赦無くズバズバと・・・・・・正直言えば、その気は無いです」

 

 

 

「でしょう?それも見越して、僕はあなたを助けると決めたんです。もし、この場でまだ僕たちに敵対するって言う心があれば、この場で僕が消してたところですが、その気はないようで良かったです」

 

 

 

「っ・・・・・・良いのですか?貴様は、あのスライムの手下なのでしょう?奴が殺すと決めた私をこのように生かしてしまっては、貴様は主君を裏切ることを意味しているのですよ?」

 

 

 

笑顔を浮かべながら話す僕に、何故か肩がビクッと震えた様にも見えたクレイマンだったが、それも無視しておいた。それにしても、僕がリムルの手下って・・・・・・彼はただの友達なんだけどな。

 

 

 

「バレなければ問題ないですよ。それに、リムルの考えは間違ってる・・・・・・。いくら悪さをした人とは言え、自分にとって絶対に許せない人がいたとは言え、何でもかんでも殺して罪を償わせようとするのはおかしい。どんな悪人にだって、守るべき物・・・・・・譲れない物・・・・・・何より、その人にとって大切な人達がその人の帰りを待っているんだ。・・・・・・とはいえ、僕は一度、たくさんの人を殺めたんですけどね?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

クレイマンは何も答えなかった。・・・・・・僕も、あの時の光景を思い出してしまい、言葉に詰まってしまっていた。僕が人間を殺してしまった事は今いっときも忘れたことなんて無い。きっと、僕が殺めてしまったあの兵達にも、きっと帰りを待つ家族の姿もあったはずだ。それを僕がこの手で・・・・・・壊してしまったんだ。だからこそ、僕はこの罪をしっかりと償っていこうと思っている。あの人達の親族から罵詈雑言を浴びせられようが、仇である僕を殺しにかかって来ようとも、僕は甘んじて受けようと思っている。・・・・・・それで、少しでもその人達の気が晴れるのであれば、本望だからね。

 

 

 

「さて、これからのあなたについてですけど・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

「魔王クレイマンは”死んでもらいます”」

 

 

 

「・・・・・・はっ!?何故ですっ!貴様は、私を助けてくれた筈ではっ!?」

 

 

 

激しく動揺した様子のクレイマンは、縋るように僕に寄ってくる。・・・・・・話を最後まで聞いて欲しいんだけど?

 

 

 

「違いますよ。正確に言えば、あなたの今の名である”クレイマン”を捨てて、実質クレイマンは死んだと思わせるよう仕向けるんです。こうしておけば、あなたが今後、誰かに狙われると言うことも無くなりますので」

 

 

 

「・・・・・・そ、そうですか。で、ですが・・・・・・名を持たずとも、私を解析されて仕舞えば、名などすぐにバレるのでは?」

 

 

 

「大丈夫です。僕があなたに新たなる名を与え、”名付けの上書き”をしますので」

 

 

 

「っ!!?」

 

 

 

クレイマンという名を消し、新たなる名をこのクレイマンに与える。こうする事で実質上、クレイマンは死んだ事になる筈だから、彼を逃すのであればこれが一番手っ取り早かった。それにしても、さっきからコロコロと表情を変えながら驚く彼が何処か間抜けそうに見えるんだけど気のせい・・・・・・ではないか。

 

 

 

「こ、この名は、カザリーム様より授かった大切な・・・・・・」

 

 

 

「そのカザリーム(?)さんが誰かは知らないですけど、今死ぬよりマシなのでは?この名を捨てない限り、あなたは再び命を狙われますよ?リムルやミリム、その他の魔王達からも恐らくは・・・・・・」

 

 

 

「くっ・・・・・・私が、あの時にでしゃばって余計な行動に出たせいで・・・・・・あの時の自分を恥じたい・・・・・・というか、そもそも何故、あの時私はあんな行動に?」

 

 

 

「・・・・・・よかった。どうやら本来の冷静さを取り戻せていたようですね」

 

 

 

「?・・・・・・どういう事ですか?」

 

 

 

「あなたの魂を保護した際、あなたの精神が”何者かに支配されている”のが確認出来ましたので、保護の際にそれも解除しておいたんです。僕の憶測ですけど、多分あなたが暴走したのはその人が原因なのでは?」

 

 

 

「なっ!?私が操られてっ!?そんな筈は・・・・・・いや、もしや・・・・・・?」

 

 

 

クレイマンは何か思い当たる節があるのか、しばし何かを考え込むように俯いた。クレイマンに何かしらの方法で精神支配がかけられていたのは本当の事で、一度『魂の守護(ソウルプロテクト)』で外界との繋がりを遮断しなければ解除するのは難しいほどの物だった。おそらく、かなりの術師が施したのだと思うけど、一体誰が・・・・・・。

 

 

 

「とりあえず、それは追々考えるとして、一旦名付けをしちゃいましょう。早くしないと、勘づかれる可能性がありますので。良いですね?」

 

 

 

「・・・・・・やむを得ません。ここで死ぬよりはマシですから」

 

 

 

「ありがとうございます。じゃあ・・・・・・そうだな・・・・・・」

 

 

 

やっと折れてくれたクレイマンに対し、どんな何しようか悩む僕。変な名にしちゃうとクレイマンにも、名付けをしてくれたカザリームさんにも申し訳ないから、慎重に決めないとね。

 

 

 

「・・・・・・よし。あなたには『ロキ』の名を与えます」

 

 

 

「・・・・・・『ロキ』・・・・・・ですか?」

 

 

 

「はい。一応、僕なりに考えて決めた名なので、気に入ってもらえると嬉しいですが・・・・・・」

 

 

 

古代の神である、悪戯好きの神『ロキ』の名を貰ったんだけど、ニュアンス的にカッコよかったから彼にもぴったりと思うんだよね?

 

 

 

「・・・・・・名を貰えるのであれば何でも構いません。この名はしかと頂戴します」

 

 

 

「むぅ・・・・・・名の感想を聞かせて欲しかったんだけどな・・・・・・」

 

 

 

名の感想が聞けずにむっと頬を膨らましている僕を尻目に、クレイマンは・・・・・・いや、ロキは名付けを受け入れた。・・・・・・すると、やはりと言うかわかっていた事だけど、ロキの体に変化が起こり始めた・・・・・・。

 

 

 

「やっぱり進化するんだね・・・・・・」

 

 

 

《告。個体名ロキは、『妖死族(デスマン)』から『死霊族(レイス)』に進化しました。進化したことにより、大幅な身体能力、魔素の向上を確認しました。また、名付けをした事により、主人(マスター)の系譜上にロキが新たに追加されました》

 

 

 

腐っても覚醒魔王だから、名付けをしても進化しないかなって思ってたけど、そんな事は無かったようだ。僕としてはどちらでも良かったけど・・・・・・と、そんな事を考えている内に進化が終わったようだ。見たところ、見かけはそこまで変わっている様には見えなかったが、感じ取れる魔素は進化前とは比較にならない程に跳ね上がっていた。・・・・・・あれ?これ、かなりの化け物になっちゃった気が・・・・・・。

 

 

 

「なるほど・・・・・・力が漲るようです・・・・・・」

 

 

 

「あの、先に言っておきますけど、その力を使って僕に襲い掛かるとかしないで下さいよ?」

 

 

 

「助けてくれた恩人にする訳ないでしょう?私は、そんな礼儀知らずではありません」

 

 

 

「なら良いですけど・・・・・・」

 

 

 

ロキのその言葉に、内心でホッとする僕。せっかく名付けをしたのに、その相手といきなり戦いたくなんて無かったし・・・・・・。

 

 

 

「さて・・・・・・。これで晴れてあなたは解放されました。後は好きにしてください。あなたの言うカザリームさんのところに帰るのも良し、このままどこかへ姿を晦ますのもよし。あなたの思うがままに行動してください」

 

 

 

「・・・・・・はい」

 

 

 

「それと、これはお願い・・・・・・というか命令です。あなたがこの先どこで何をしようと自由ですが、僕達と敵対する事だけはやめて下さい。もしも、今度僕たちと敵対することがあれば、今度こそはあなたを本当に滅ぼしますのでそのつもりでいて下さい」

 

 

 

「わかっていますよ。先ほども言ったでしょう?私はそこまで礼儀知らずではないと」

 

 

 

「そうですか、良かったです。・・・・・・じゃあ、そろそろ行ってください。あなたにも会いたい人達がいるでしょう?」

 

 

 

「はい。・・・・・・ですが、最後に一つ・・・・・・言わせてください」

 

 

 

ロキは畏まったようにそう言うと、僕に対し静かに頭を下げた。

 

 

 

「私を助けてくださり、ありがとうございました。この御恩は、いつか必ず・・・・・・」

 

 

 

「はは、ありがとうございます。期待して待っておきますね?」

 

 

 

「ふっ・・・・・・ええ、では・・・・・・」

 

 

 

笑みを浮かべつつ、ロキは『空間転移』でその場を後にして行った。おそらく、カザリームさんの元へと向かったんだろうけど、多分最初は行ったところで自分がクレイマンだとわかってくれないと思うが・・・・・・まぁ、そこは彼に自分で何とかしてもらおう。

 

 

 

「・・・・・・ようやく、一息つけそうかな?はぁ〜・・・・・・疲れたよ、本当に・・・・・・」

 

 

 

ロキがいなくなり、一人になった僕はすっと肩の力を抜き、一つ深呼吸をする。魔国連邦(テンペスト)襲撃からずっとバタバタしてて、落ち着いてる暇が無かったが、こうして一旦騒動が終結をした事もあって、ようやく肩の力を抜く事が出来るようになったんだ。もちろん、まだ全てのことが終わった訳ではないが、それは今後僕やリムルがゆっくりと解決をしていけば良いだけの話だから、問題は無いと思う。

 

 

 

 

だから、今は・・・・・・

 

 

 

 

 

「帰ろう。僕の国へ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

大切な魔国連邦(テンペスト)の地にて、再び訪れた平穏の日々を、過ごすとしよう。

 

 

 

 

 

次の脅威なる存在が現れる・・・・・・その時まで・・・・・・。

 




と言うわけで、エリスの手によりクレイマンは死に、ロキと言う新たなるオリキャラが誕生しました。性格こそ従来のクレイマンと似ていますが、見た目も魔素もスキルも何から何まで違っていますので、もう別人と思ってもらって構いません。クレイマンがロキになったと言う事実は、本人とエリスしか知らず、他は全員クレイマンは死んだと思っていますので、実質クレイマンは死んだと思ってください。

強さですが、あまり言ってしまうとネタバレになってしまうので、全ては言えませんが、少なくとも・・・・・・リムルよりは強くないと思って下さい。

話にもある通り、クレイマンが最初から冷静で落ち着いた様子でいたのは、エリスが既にクレイマンに掛けられた精神支配を解除していたからです。解除をした事によって、彼は自分が行った行動を悔やむようになり、エリスの同情を誘いました。とはいえ、近藤の精神支配をも解除してしまうエリスの手腕はやばい・・・・・・と思ってしまいます。


今後のロキの活躍にも期待していて下さい!



※活動報告にも書きましたが、この回をもちまして一旦投稿を休止させて貰うことと致しました。詳しい事は活動報告をご覧ください。この小説を見ていただいている皆さまにはご迷惑をお掛けしますが、必ず戻ってきますのでどうかお待ちください。



では、次回でお会いしましょう!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遠い昔の約束

久々の本編スタートです。


本当にお待たせして申し訳ございません!


視点 ギィ

 

 

 

「ギィ?アタシに話って何かしら?・・・・・・またとんでもなく、くだらない事でも考えついたんじゃ無いわよね?」

 

 

 

「ちげーよ。ってか、その言い方だと、オレが”常に何かくだらない事でも考えていそう”・・・・・・とか思われてるみたいじゃねーかよ?」

 

 

 

「実際そうでしょうが。はぁ・・・・・・で?話って何?」

 

 

 

オレが主催とした茶会で、用意した料理を他の魔王たちと存分に堪能したオレは、古き友であるラミリスと共に、茶を飲みながら腹休めも兼ねて少し話をしていた。既にオレたち以外の魔王は皆、それぞれの国へと帰って行き、ラミリスの配下である、あのベレッタとか言う悪魔と樹妖精(ドライアド)には席を開けてもらった為、この場にはオレとラミリス以外は誰もいない。

 

 

 

「ああ。なぁ、ラミリス?お前・・・・・・あのエリスと親しげに話していたが、知り合いだったのか?」

 

 

 

オレが人払いをした理由は、単にオレがラミリスと二人きりで話したい事があったからだ。オレもラミリスも古い付き合いで、今いる魔王達の中でも最古参に位置する。それ故に互いの人隣も理解している事もあって、信頼も厚く、時折こうして二人きりで世間話などを話す事もあるのだ。ミリムもそうだが、今回の話にあいつはそこまで関係はなかった事もあって、あいつを呼び止めることはしなかった。

 

 

 

「へ?・・・・・・ええ、そうよ?この魔王達の宴(ワルプルギス)が開催される前に知り合って、仲良くなったのよ。最初は、アタシの事を敵対視してきて、信用してなかった様子だけど、ちゃんと話し合ってお互いに分かち合うことも出来たからね。それにしてもビックリしたわよ?古の魔王たるこのアタシに対して物怖じせずに堂々と喧嘩を売ってきたんだもの」

 

 

 

「へ〜?それがよくもまぁ、心を開いてくれたもんだ」

 

 

 

「ん〜・・・・・・それがね?なんか、エリスが言うには”アタシが自分の配下のことを大切に想う心優しい魔王だ”って事がわかったから、信用する気になったんだって」

 

 

 

「はぁ?たったそれだけの理由で信用する気になったってのかよ?魔王であるお前を・・・・・・何とも、お人好しな・・・・・・」

 

 

 

オレが話したかった事は、あのスライムのリムルの傍にいた女・・・・・・エリス=テンペストについてだ。どうにも、ラミリスはリムルだけでなく、そのエリスとも親しいとの事もあって、少しでもあいつの情報を取り寄せたかったオレは、こうして話を聞いてもらってるわけだ。・・・・・・それにしても、ラミリスが優しいと言うだけで、信用する気になるとは、さっきも言ったが、お人好しな奴だ・・・・・・先ほど見せたエリスのあの力と言い、そのお人好しな性格と言い・・・・・・やっぱり似てるな、()()()()

 

 

 

「で?あんたがエリスのことが気になってる事はなんとなく分かってたけど、それとアタシを呼び出す理由と何の関係があるわけ?」

 

 

 

「いや、なに。少しお前と昔話でもしようと思ったんだ。・・・・・・エリスの”あの能力”に、お前は心当たりがないか?」

 

 

 

「はぁ?エリスの能力・・・・・・もしかして、あの異常な回復力と防御力を持つスキルのことかしら?・・・・・・そんなの、心当たりなんてあるはず・・・・・・・・・・・・あっ」

 

 

 

ラミリスは何やら思い出した様子で、目をぱちくりとさせていた。

 

 

 

「・・・・・・思い出したか?」

 

 

 

「ええ。本当に・・・・・・遠い昔だったけど、あのエリスの能力に近いものを持ってる人間の子がいたわね。・・・・・・あれ?そういえば、ギィ・・・・・・あの子のこと・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

ラミリスのその言葉には何も言葉を返さなかった・・・・・・いや、返せなかったと言うべきか。オレもまた、久しぶりに思い出してしまったんだ・・・・・・。あの時・・・・・・オレが、エリスの能力を見た際に・・・・・・遠い昔に、オレやラミリスと親交のあった一つの小さな国・・・・・・そして・・・・・・一人の()()()()()の事を。

 

 

 

「ギィ?」

 

 

 

「いや、悪い。・・・・・・でだ?お前も、覚えがあるだろうから言うが、大昔・・・・・・ちょうどお前が魔王に覚醒してから数年が経った頃、ある”一つの小国”が立ち上がり、徐々に勢力や国土を広げて行ったのは知ってるよな?」

 

 

 

「ええ。それで、どうにも気になったアタシ達は半ば強引にその国の中に潜り込んで、その国の国王との接触を図ろうとしたのよね?・・・・・・で、その際に、国王よりも前に、接触をしてしまった人物がいた。・・・・・・それが、()()()だったのよね?・・・・・・あんたが好いていた」

 

 

 

「別に好いちゃいない。ただ、あの女といた日々は・・・・・・それまでの人生の中でも上位に位置するくらいには楽しかったのかもしれねーな。・・・・・・”あの野郎”と喧嘩してた時とはまた違った楽しみがあった・・・・・・」

 

 

 

「それを好いてるって言うのよ。・・・・・・全く、相変わらず素直じゃないんだから。もしあんたが素直な性格であったら、もしかしたら()()()も・・・・・・」

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

「あっ・・・・・・ご、ごめん・・・・・・」

 

 

 

その言葉に反応したオレは、意味も無しに『魔王覇気』を発動してしまい、それと同時に今まで抑えていた魔素も多く漏れ出すことを許してしまった。・・・・・・ったく、オレから話しておいてなんだが、()()()のことを話すと、どうにも自分をコントロールすることが出来なくなってしまうな・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・気にするな。それで、その場であの女とは色々あって・・・・・・なんかよく分からないが、仲良くなったんだよな?そんでもって、あいつが取り次いでくれた事もあってか、その国の国王とも面会出来て、その国王とも交流を結ぶようになったんだっけか?」

 

 

 

「ええ。最初、アタシ達ビックリしたわよね?魔王であるアタシ達を、人間であるあの二人・・・・・・いや、王妃も入れて三人だったかしらね?それが”全く恐れてなかった”ことに対して。特にあの子に関しては、『今度アタシ達の領土にも行ってみたい!』なんて吹っ飛んだ意見も出たぐらいだものね」

 

 

 

「あいつの破天荒ぶりにはあの国王も悩んでたぐらいだからな。いつも、オレが出向けば『魔法を見せて!』だの『剣術を教えて!』だの『ギィの宮殿に連れてって!』だの、そんな事ばかり頼まれてたもんだ・・・・・・。直々、オレが躾も兼ねて、軽く魔法や剣で傷付けたりもしたが、あいつはスキルで直ぐに傷を治しちまってたから、そこまで躾にはならなかったんだよな・・・・・・」

 

 

 

「そうね。・・・・・・いつしか、その国の人達も、その三人に感化されてか、頻繁に訪れてたアタシ達に対しての恐怖感みたいなものは消えて、三人同様に友好的に接してくるようになったのよね。あの三人、国民からの信頼は絶大だったみたいだし、大方あの三人がそう接する様言ったのかもしれないけど・・・・・・あの時は、結構楽しかったわね〜。精霊女王から魔王に堕ちて塞ぎ込んでた、アタシを立ち直らせてくれたんだから!」

 

 

 

「そうだな。・・・・・・だが、お前も知ってるだろ?()()()()()()()()・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

オレの小さく出た言葉に、今度はラミリスが沈黙する。

 

 

 

「・・・・・・結局、あんたは何が言いたい訳?」

 

 

 

「・・・・・・あくまでオレの憶測に過ぎないが、近い将来・・・・・・魔国連邦(テンペスト)が”あの国と同じ結末”を迎えるかもしれねーと踏んでる」

 

 

 

「・・・・・・はっ?なんでよ?魔国連邦(テンペスト)にはリムルも居るし、あいつの強い配下も数多く居るのよ?」

 

 

 

「だから憶測だって言ってんだろ?必ずしもそうなるって決まった訳じゃない。・・・・・・だが、物事に”絶対”なんて存在はしないだろ?魔物はともかくとして、人間や魔人ってのは本当に掴めねー奴らが数多くを占めてるし、性根が腐り切ってる奴らだって存在しているのも事実だ。実際、そいつらのせいでオレの友人とその妻は殺されたしな」

 

 

 

「ギィ・・・・・・やっぱりあんた、まだ引き摺ってんのね、()()()の事・・・・・・」

 

 

 

どこか心配そうに見つめてくるラミリスに対し、オレは椅子の背もたれにゆっくりと体重を乗せつつ、天井を見上げていた。人類の愚かさ、卑劣さ、醜さはオレ自身が身を持って理解している。実際、そいつらのせいでオレもオレの友人達も悲しい思いをさせられた。それ故に、一時的ではあったがそいつらに対してかなり強い怒りと憎しみを覚えた事もあったが、それはもう過去の話であって、今ではもうその怒りも冷めていた。それに、オレには”この世界を見守る”と言う大事な任がある。情に任せて行動すると言うのは”調停者”としては失格なのだ。オレやラミリスが交流を持ったあの国もそうだ。元々、オレ達はあの国の人間達とは誰とも接触する事なく、ただ様子だけを見て帰るつもりだったのだ。で、もしその国がくだらん理想を持つ愚かな国だと判明したら、その場で跡形も無く消し飛ばす算段だった。だが、それは叶わずに接触を許してしまい、渋々であったが交流をすることになった。

 

 

 

もしかすれば、その時からあの国の運命は決まってたのかも知れない。・・・・・・オレと交流を持ってしまった事によって・・・・・・。

 

 

 

「いや、もうそんな事は思っちゃいねーよ。で、話を戻すが、オレはどうにも魔国連邦(テンペスト)をあの国と同じ道へと進ませるのは釈でな?だからオレは、近い内にエリスと一度話し合いをする為に、オレの宮殿に呼ぶつもりなんだ。その時の奴との話し合いの結果によっては・・・・・・オレは、今後の魔国連邦(テンペスト)に対する対応について考えるつもりだ」

 

 

 

魔国連邦(テンペスト)の国主はリムルなんだから、リムルと話し合ったほうが良いんじゃないの?」

 

 

 

「いや。ここはエリスで良いんだ。オレは別に魔国連邦(テンペスト)の国主と話したい訳じゃなく、ただ単にエリス=テンペストと腹を割って話したいだけなんだ。・・・・・・もっと知りてーんだよ。あいつの事を」

 

 

 

「・・・・・・ねぇ?もしかして、エリスとあの子のことを重ねてるんじゃないでしょうね?もしそうなら言っておくけど、エリスはあんたが好いていたあの子とは全く違うわよ?変に期待してガッカリするのはあんたなんだから、少しは考えたほうが良いんじゃない?」

 

 

 

「重ねて・・・・・・ね?」

 

 

 

それは無い・・・・・・と言えば嘘になってしまうのかもしれない。実際、オレが初めてエリスの姿、形、スキルを見た途端、オレの脳裏に”あの女”の事が過ぎったんだからな。エリスと話したいと思ったのも、それがチラついたせいかもな。・・・・・・ったく、オレとした事が・・・・・・。ラミリスの言った通り、まだ()()()の事を引き摺ってんのかも知れねーな。

 

 

 

「ま、あんたが何しようと勝手だけど、またアタシに迷惑かけるのだけはやめてよね?」

 

 

 

「わかってるよ。これ以上、お前に借りは作りたくねーしな」

 

 

 

「はぁ・・・・・・アタシは貸しを作りたくて作った訳じゃ無いんですけど〜?」

 

 

 

何処か呆れた様子でため息を吐いたラミリス。

 

 

 

「悪かったっての。・・・・・・なぁ、ラミリス?オレがエリスと話したいと思ったのは、オレの興味本位であるのも理由の一つなんだが、それともう一つ・・・・・・”あの女との約束”の事も、その理由の一つにしてるんだ」

 

 

 

「・・・・・・『あの子と交わした約束、そして願いを叶えてくれるのはエリス』・・・・・・そう言いたいの?」

 

 

 

「さぁな。それを確かめる為に、エリスとはしっかりとした話をしないとな」

 

 

 

今後の方針をしっかりと固めたオレは、既に冷め切ってしまっている紅茶を一気に飲み干すのだった・・・・・・。




ギィの視点は初めてでしたが、色々なところで意味深な発言が飛び交っていますね〜?


ギィとラミリスのこの会話が表す意味とは一体?




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ロキの謝罪

ロキの視点になります。


エリスと別れて、彼が向かう先とは?


視点 三人称

 

 

 

「クレイマンが・・・・・・死んだとは、どう言う事ですっ!ラプラス!!」

 

 

しんと静まり返るある一室に、中庸道化連の一員であるフットマンの怒声が響き渡った。その一室には仲間であるラプラス、ティア、そして・・・・・・中庸道化連会長であるカザリームと、自由組合総帥(グランドマスター)であるユウキ・カグラザカがいたが、誰もその声に対して反応はせずに、苦い顔を浮かべるだけだった。

 

 

「言うたまんまや。魔王ヴァレンタインの話では、クレイマンは魔王達の宴(ワルプルギス)の場で殺されたらしい」

 

 

 

「そ、そんな馬鹿な事をっ!カザリーム会長からも何とか言ってやってください!」

 

 

 

最初にそれに答えたのは、返り血と雨で体や顔が濡れきってしまっているラプラスだ。実はラプラスは、ある事情で神聖法皇国ルベリオスの奥の院・・・・・・聖神殿に単独で潜入していたのだ。だが不幸にも、その潜入先にて、何故かユウキが誘い出しておくと豪語していた相手であるヒナタ・サカグチと出会ってしまい、奥の院へと潜入できないまま、トンズラをする羽目になってしまったのだ。だが、ラプラスの不幸はまだ続いた。なんと、魔王達の宴(ワルプルギス)に出ばっていると思われた魔王ヴァレンタインにまで遭遇してしまったのだ。クレイマンの死を聞かされたのは、その時だった。

 

以前に一度ラプラスは、このヴァレンタインと戦ったことがあるのだが、その時は完膚なきまでに叩きのめされた。だが、今回に至っては、吸血鬼族(ヴァンパイア)の力が落ちる新月の夜であったことと、クレイマンの死を聞かされた挙句、それをヴァレンタインに嘲笑された事に対する怒りもあってか、ラプラスはヴァレンタインに勝利する事に成功し、こうして無事に戻ってくることが出来たのだ。彼が浴びているこの返り血は、その時についたものだ。

 

 

 

「・・・・・・ラプラスの言っていることは本当だ。既にクレイマンとの魂のつながりも途絶えてしまっていることも確認している。これが指し示す事はすなわち・・・・・・あいつが死んだ事を意味している。・・・・・・俺の子であるあいつがね?・・・・・・正直言って、あなたの報告を受けた今となっても、信じられないわ・・・・・・」

 

 

 

「そんな・・・・・・クレイマン・・・・・・なんでぇ・・・・・・?」

 

 

 

自分が生み出したクレイマンの死に悲しみを見せるカザリームに対し、ティアは大粒の涙を見せながら啜り泣いていた。

 

 

 

「僕としても失策だった・・・・・・。まさか、魔王の実力があそこまでだなんて・・・・・・。もっと慎重に行動していさえすれば、クレイマンは死なずに済んだかも知れなかった・・・・・・」

 

 

 

「いや、ボスは何も悪いことあらへんで?元はと言えば、ワイがあの()()にこんな提案持ちかけたのが間違いだったんや。・・・・・・今更ゆうてもしゃあないけどな?それにしても、クレイマンはアホやったな〜。あんだけワイが油断すんなって忠告したったのに、調子に乗ってからに・・・・・・」

 

 

 

「ラプラスっ!そんな言い方はっ・・・・・・!」

 

 

 

「事実やろ?弱いくせに調子に乗ったせいで死んだんや。・・・・・・言うなら、クレイマンの自業自得やな」

 

 

 

「ラプラスっ!!」

 

 

 

仲間であるクレイマンの死に、全く悲しんでいない様子のラプラスに対して、フットマンは怒りの形相で胸ぐらを掴んだ。・・・・・・だが、ラプラスはそれに物怖じせずに、余裕な表情・・・・・・いや、うっすらと笑みを浮かべながら立っていた。・・・・・・実は、これもラプラスの作戦であり、自分がクレイマンに対して有る事無い事を口にして、自分を悪役に立たせようとしているのだ。無論だが、ラプラスもクレイマンの死に悲しんでいない筈はない。だが、自分が悪役になることで、少しでもフットマンやティアの悲しみや怒りを背負えたら本望だと考えたが故に、このような行動もとい、演技に出たのだ。

 

 

 

だが、その演技も主であるカザリームには通用しなかった。

 

 

 

「やめろ二人ともっ!悲しいのはみんな同じだっ!だからっ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですよ、ラプラス?フットマン?何に、悲しんでいるのかは理解しかねますが・・・・・・仲間内で喧嘩は良くないのではありませんか?」

 

 

 

 

カザリームが二人の仲裁に入ろうとしたその時・・・・・・一人の()()()()()()()が、この部屋内にこだました。途端に、その部屋内にいた5人は、声がしたドアの方へと視線を向ける。

 

 

 

・・・・・・するとそこにいたのは。

 

 

 

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・誰っ?」」」」」

 

 

 

薄く微笑を浮かべつつ、再び再会できた仲間達に視線を泳がせながら喜びに浸っていた・・・・・・ロキだった。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

視点 ロキ

 

 

 

 

 

 

エリス殿と別れた後、私は一度自分の居城へと帰った。既に、城内へはあのスライムの手先が攻め寄せていたのもあってか、所々が壊れていたり、汚れていたりしたが、もう二度とこの居城に帰るつもりの無かった私は、特に気にする事もなく軽く着替えを済まし、一夜を明かした後で、カザリーム様の元へと戻る事を決めた。

 

 

カザリーム様の元を辿るのであれば、副会長であるラプラスを頼るのが一番良い。そう考えた私は、『空間転移』でラプラスの近くまで飛ぶ事にしたのだが、飛んだ先の部屋の前で何やら聞こえてきた為、聞く耳を立ててみた。中ではどうやら、ラプラスやティア、フットマンはもちろん、私たちのボスであるユウキ様や”知らない女性”が何やら話し込んでいるようだが、その内容を聞いてみて、私は内心でホッとしていた。エリス殿の狙い通りに、私が・・・・・・いや、()()()()()()()()()と言う情報が流れ出始めた事実を確認することが出来たからだ。

 

 

 

 

その喜びを噛み締めながら、私は喧嘩を始めそうになったラプラスとフットマンを宥めつつ、ゆっくりとドアを開けた。

 

 

 

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・誰っ?」」」」」

 

 

 

「誰・・・・・・とは心外ですね?皆さん、ちょっと私の顔を見ないうちに、名まで忘れてしまったのですか?」

 

 

 

部屋内に入り、仲間との再会を喜びつつ私は少し小馬鹿にしたようにそう話す。察していたことだが、部屋内にいた全員が、私が”クレイマンだった人物”だと言うことに気がついていない様子だ。まぁ、無理もありませんね。今や私は”ロキ”という名を持った別人。クレイマンだった頃と比べて、容姿もそうですが、スキル、魔素、種族、名、声・・・・・・それら全てが根本的に変わってしまっているのですからね。

 

 

 

「名前?・・・・・・すまないけど、キミのことは本当に何も知らないぜ?カガリ、知ってるか?」

 

 

 

「いえ。・・・・・・ですが・・・・・・?」

 

 

 

ユウキさんも、カガリ・・・・・・と呼ばれた女性も、私の正体に気がつく気配はなさそうだった。この女性の正体はいまだに分からないが、この4人と接触をしている以上、中庸道化連の関係者だとみた私は、警戒を解く事にした。

 

 

 

「良いでしょう。流石に、これじゃ分かりませんよね。・・・・・・お久しぶりです、ラプラス、フットマン、ティア、ユウキ様。不肖この”クレイマン”・・・・・・ただいま参上仕りました」

 

 

 

「「「「「・・・・・・はい?」」」」」

 

 

 

ようやく正体を明かしたというのに、5人は首を傾げてキョトンとする。

 

 

 

「な、何言うてるんやあんた?クレイマンは死んだんやで?・・・・・・あいつは最後まで言うこと聞かんアホやったけど、大事な仲間やった奴や。そんな死んだあいつを偽る輩は許しておけんが?」

 

 

 

「そ、そうだよ!クレイマンを馬鹿にするのはやめてよ!」

 

 

 

「ぼ、ボス!会長、申し訳ございません!このような輩、すぐにでも摘み出して・・・・・・」

 

 

 

何を勘違いしたのか、三人は私をクレイマンを名乗る無礼な輩と捉えてしまった様で、部屋からつまみ出そうとにじり寄ってくる。・・・・・・多分だが、今の私であるならこの三人を相手取っても十分に勝てるだろう。だが、なるべく武力行使に踏み込みたくは無かった私は、私だと”確定づける台詞”を口にした。

 

 

 

「ラプラス・・・・・・本当に、申し訳なかった・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・は?何に謝っとんねん?」

 

 

 

「キミは、魔王達の宴(ワルプルギス)の前、私の居城にて最善の忠告をし・・・・・・『油断を決してするな』と、私の身を案じてくれましたよね?」

 

 

 

「っ!?あんた・・・・・・何でそれ知っとんねん!?それはワイがクレイマンに・・・・・・」

 

 

 

ラプラスは驚愕しながら私を凝視してくるが、私は気にせず続ける。

 

 

 

「だと言うのに、私はそれを無視して・・・・・・一人出しゃばって行動をした。キミの言うとおりだった、ラプラス。弱虫である私は素直にじっとおとなしくしていれば良かったと・・・・・・改めてそう思えた」

 

 

 

「っ!お、お前・・・・・・」

 

 

 

私は次に、ティアへと視線を向けた。

 

 

 

「ティア。キミの言う通りだったよ。一人で無茶をしたせいで、私は酷い目にあい、死にかけた。・・・・・・私を気にかけてくれた言葉だったと言うのに、私はそれを無視した。・・・・・・申し訳なかった」

 

 

 

「・・・・・・え?アタイ・・・・・・それはクレイマンに対して・・・・・・」

 

 

 

その次に、フットマンへと視線を移す。

 

 

 

「フットマン。あの時、自分達を頼れと言ってくれたにも関わらず、私はその気持ちを踏み躙ってしまい・・・・・・本当に申し訳ない」

 

 

 

「っ!あ、あなた・・・・・・もしや?」

 

 

 

三人にこれまで貯めておいた自分の言いたい事を全て言い切った私は、最後にこの場にいる全員へと視線を向けた。

 

 

 

「私はただ・・・・・・認めてもらいたかったのです。中庸道化連の一員として・・・・・・。その気持ちが先走り過ぎたがために、今回の様な愚行へと走り・・・・・・皆さんに多大なるご心配をかけてしまいました。・・・・・・もう一度、言わせてください。・・・・・・本当に、申し訳ありませんでした・・・・・・」

 

 

 

最後に、謝罪を込めて頭を下まで下げた。もう、これで何も言う事はない。これで三人から何を言われようとも、私は甘んじて受けるつもりだ。・・・・・・だが、次に三人の口から出た言葉は、私の予想を裏切るものだった・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・頭上げや、()()()()()

 

 

 

「・・・・・・ラプラス?」

 

 

 

「別に、ワイらはお前の謝罪なんて望んでへん。何で、そんな風貌になっとるかについてもどーでも良いわ。・・・・・・今この場に、こうしてお前が居てくれるだけで、ワイらは十分なんやからな!」

 

 

 

ラプラスは、喜びまじりにそう言うと同時に、私と肩を組んできた。仮面のせいで、表情は分からないが、仮面の隙間から漏れ出ている”小さな水滴”を確認した私は、仮面の中がどうなっているのかは察しがついた。

 

 

 

「クレイマン〜!!良かったぁ〜〜!本当に良かったよぉ〜〜!!」

 

 

 

「心配したっ!本当に心配したのですよっ!!」

 

 

 

ラプラスに倣ってか、ティアもフットマンも揃って私の元へ駆け寄ってきて、体にしがみついた。・・・・・・あぁ、こんなにも私のことを大切に想ってくれる仲間がいてくれて、私は本当に幸せ者ですね・・・・・・。

 

 

 

「ふっ・・・・・・どうやら、クレイマンで間違いない様だぜ?」

 

 

 

「・・・・・・そうだな」

 

 

 

遠目から私達をみていたカガリさんとユウキ様は、嬉しそうに互いに笑い合っていた。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「なるほどな。つまり、世間的にクレイマンは死に、お前はロキとして新たなる生を歩む事になった・・・・・・そう言う事で良いのか?」

 

 

 

私のことをクレイマンだと言うことを認めてもらえた私は、これまでに私に起こった出来事の全てを話した。

 

 

 

「その通りです。・・・・・・そ、それにしてもカザリーム様?何というか・・・・・・私も人のことは言えないとは思いますが、随分と風貌が変わられましたね?その様な”女性の姿”でその口調で話されると違和感が・・・・・・ぷっ」

 

 

 

「わ、笑うなっ!仕方がないだろうっ!これでも10年かけてようやく手に入れた肉体だぞっ!・・・・・・はぁ、もうわかった。暫くは女性の口調で喋るから、これで文句はないでしょう?」

 

 

 

「は、はい・・・・・・」

 

 

 

驚きだったことに、カガリという名の女性は、私達の主であるカザリーム様だった。以前とは姿がまるで変わってしまったこともあって、最初は見分けが付かなかった・・・・・・私が言えた義理ではないが。

 

 

 

「で、キミを助けてくれた人って誰だったんだ?」

 

 

 

「はい。エリス=テンペスト。魔国連邦(テンペスト)の副国主です」

 

 

 

「エリス?・・・・・・あぁ、確かリムルさんがそのうち紹介したいって言ってたっけな?めちゃくちゃ誰に対しても優しくて、穏便な性格をしてるから、国民どころか人間からの印象も良いって噂の」

 

 

 

ボスであるユウキ様が思い出したかの様にそう呟き始める。

 

 

 

「せやけど、何でそいつはクレイマンを助けたんや?なんか狙いでもあったんかな?」

 

 

 

「そんなものは無いかと。あの方は、ただ単に”私が死んでほしく無い”と願ったが故に行動しただけの様ですから」

 

 

 

「へ〜?・・・・・・リムルさんの言ってた通りだね。本当にお人好しな性格しているよ、エリスさんって。でも、良かったよ。もしエリスさんが居なかったらクレイマンはここには居なかっただろうし、エリスさんには感謝しないとね」

 

 

 

「ええ。この御恩はいずれ返していくつもりで居ます」

 

 

 

私は正直にいうと、私を助けてくれたあのエリス=テンペストのその人間性に惚れていた。こんなどうしようも無い私をも助けてくれたその人間性に。カザリーム様とはまた違った威厳と包容力、何より優しさがあった。彼にとっては、もしかすれば人助けをすることなど当たり前なのかもしれないが、その当たり前のことが平然とできる者は決して多くはない。だが、それをいとも簡単にやって退けてしまう・・・・・・それをやる上でのためらいを一切見せないその人間性に、彼を慕う者は惚れていったのだと、私はその時確信を得た。

 

 

 

「後、言おうと思っていたのですが、今の私はクレイマンではなく、新たなる名として”ロキ”という名をエリス殿から貰い受けましたので、今後は私のことはこちらの名で呼んでもらいたいのです。クレイマンが生きていると、世に知られてしまうと、私はまた命を狙われかねませんので・・・・・・。カザリーム様、申し訳ございません。あなたから受け取った大切な名である”クレイマン”という名を・・・・・・破棄する羽目となってしまい・・・・・・」

 

 

 

「別に構わないわ。あなたが生きてさえいればね?・・・・・・それにしても、ワタクシとの魂のつながりが途絶えたのは、それが原因だったのね。・・・・・・わかったわ。あなたが望むのならワタクシ達はそうさせて貰うわ。あなた達も良いわね?」

 

 

 

カザリーム様が目配せをしつつラプラス達に確認を取ると、三人もユウキ様も静かに頷いた。

 

 

 

「ありがとうございます。・・・・・・それでですが、今後私たちはどの様な行動に移しましょう?残念な事に、私の力不足故にカザリーム様から預かり受けた拠点も財宝も、全て失ってしまいました・・・・・・。部下であった死霊の王(ワイトキング)のアダルマンも、死霊竜(デス・ドラゴン)もそのほかの多くの軍勢も既にあのスライムの配下達に敗北を喫してましたので・・・・・・実質的に、私の部下はもうゼロに近いでしょう」

 

 

 

「そうなんだよなぁ・・・・・・。しかも、その攻め寄せてきた手勢の中には、”特A級”の実力を持った鬼人達も数多く居たって話だし、戦力を大幅に失った今の状態で戦いを仕掛けたとしても、返り討ちに遭うのがオチだし・・・・・・どうしたものか・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・あの、一つよろしいでしょうか?」

 

 

 

ユウキ様が、『戦いを仕掛ける』という単語を発したその時、私はエリス殿と交わした”大切な約束”を思い出し、徐に意見を口に出す事にした。

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

「私は、魔国連邦(テンペスト)と敵対するわけにはいきません。戦力に差がありすぎるというのも勿論そうですが、何よりそれだとエリス殿との『魔国連邦(テンペスト)と敵対はしない』という約束を違えてしまう事になってしまうのです・・・・・・。あの方は私の命の恩人・・・・・・その方との大切な約束を破るという礼儀知らずに、私は堕ちたくは無いのですよ」

 

 

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

 

 

自分の胸の内を明かし、私は少し胸がスッとする。エリス殿にも言った事だが、私は礼儀知らずではない。この命はいわばエリス殿から授かった大切な命であり、あの方が居なければ今頃私は地獄へと堕ちている。そんな恩人であるエリス殿との約束を破るという考えなど、私の頭の中には端から存在はしていなかったのだ。

 

 

だからこそ、その強い決意を皆に伝えたつもりだったのだが、何故か皆は”鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔”をしながら私を見つめてくる。

 

 

 

「・・・・・・?どうかしましたか?」

 

 

 

「クレイマ・・・・・・ロキ?お前、姿も変わったちゅうのも驚きやったんやが、性格もなんか丸くなってへんか?前のお前は、もうちっと尖ってた様な気もするんやけど?」

 

 

 

「・・・・・・ふっ、さてどうでしょうね?もしかすれば、私も感化されてしまったのかも知れませんね、あのエリス=テンペストと言うお方の人間性に」

 

 

 

ラプラスの言う通り、昔の私は確かに尖っていた所もあった。実際、部下や奴隷達には無理難題を押し付けたりひどい仕打ちなどもした事もあった。殺したりもした事があった。当時はそれをやっても何とも思ってはいなかったが、今思えば随分と苛烈で醜い行動をしていたと思える様になっていた。今更そんなことを悔いたところで、自分の罪は消えたりはしないが、これからその罪を少しでも償って行けたらと、私は願っていた。

 

 

 

「随分と惚れ込んでいるな、そのエリスさんとやらに。その()()()()()()も、そのエリスさんに貰ったのかしら?」

 

 

 

「ええ。この力はエリス殿に名付けをしてもらった際に、得た力ですが、それ以前に私は”真なる魔王”へと覚醒しましたので、それが余計に力を増長させたのだと思われます」

 

 

 

「ふふっ・・・・・・我が子であるあなたが強く逞しくなることは嬉しいが、少し妬きもするわね。・・・・・・恐らくだけど、今のあなたはあのロイ・ヴァレンタイン以上、つまり・・・・・・全盛期の時のワタクシよりも強くなっているわよ?」

 

 

 

「「「「えっ!!?」」」」

 

 

 

その事実に、カザリーム様を除いた4人が驚きながら私を凝視してくる。勿論私も今までに無いくらいに驚いている。・・・・・・今まで、中庸道化連の中でも最弱だった私が、いきなり会長であるカザリーム様を抜いてしまったと言う事実を暴露されて仕舞えば、驚くのは当然である。確かに私の体からはいまだに溢れんばかりの力がみなぎっていることを感じ取れてはいるものの、まさかそこまでになっているとは思いもしなかった為、驚きも増してしまう。

 

 

 

「わ、私が・・・・・・カザリーム様よりも?」

 

 

 

「ろ、ロキが・・・・・・あのひ弱だったロキが・・・・・・?驚いたわ・・・・・・」

 

 

 

「でも、すっごく嬉しいかも!あんな危なっかしくって目が離せなかったロキが一人前になってくれたみたいで!」

 

 

 

「ほっほっほ!ロキもようやく、私たちから巣立つ時が来た様ですね〜?本当に長かったですよ、全く・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・私を小さな子供か何かと勘違いしていないか、キミ達?」

 

 

 

まるで子供扱いをしている様子の3人に苦言を呈しつつ、私はふっと笑みを浮かべながら再び話し合いに思考を傾けるのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「良かったね、カガリ。ロキが戻ってきてくれて」



「ええ。本当に、助けてくれたエリスさんには感謝しないと。・・・・・・近い内、会いに行ってみる事にしようかしら?」



「それなら、今度僕も会いにいきたいって思ってたし、一緒に行ってみようぜ?・・・・・・それに、エリスさんには相談してみたい事があるしね?」



「相談?・・・・・・もしかして?」



「・・・・・・ああ。もし、仮にエリスさんとの反りが合いそうだなって思えたなら・・・・・・相談に乗って貰う予定だ。

















()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・・・・についてね?」




一室内にて、ユウキの顔が一瞬”黒く歪んだ事”については、ロキや3人は知る由もなかった。








と言うわけで、ロキは無事に中庸道化連の皆と合流する事に成功し、自分が願っていた仲間達への謝罪もしっかりと叶える事ができました。

話にもありましたが、ロキの今の実力は、全盛期のカザリームよりも上だと言う事が判明しました。種族も進化して、覚醒魔王へとなっているので、当然と言えば当然な気もしますけど。

ロキ(クレイマン)を生かし、嫌な思いをすると言う読者の方も多くいるかと思われますが、それは自分もそうですが、何より彼自身が一番わかっている事だと思いますので、今後ちゃんと彼が罪滅ぼしをする様を見て行ってくれたら嬉しいと思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帰還と情報報告

エリスの視点に戻ります。ストーリーをちょこっと進めますが、今回はテスタロッサの腹心を登場させるつもりです。

そろそろ彼のことも書きたくなりましたので。


視点 エリス

 

 

 

ロキと別れた僕は、少しその場で休憩をした後、『空間転移』で執務館内へと転移し、魔国連邦(テンペスト)への帰還を果たした。執務館内では、僕が突如として消えた事に対してあわあわと慌てふためいていたヒョウガやセキガ、カレンの姿があった。

 

彼らは僕の姿を確認すると共に、血相を変えて僕の元まで駆け寄ってきて、僕の身に大事が無いかをジロジロと確認してきたが、僕が案ずる様に指示を出すと、すぐに冷静になった。彼らに心配させてしまったことに関しては罪悪感が湧いたが、そもそもそれの発端になったのはヴェルドラさんだから、若干言い訳も言ってみたくもなった。・・・・・・あの人には、後で注意しておく事にしよう。

 

3人には、僕の身に何が起こったかを軽く説明し、納得して貰った後で、少し息をつくために、カレンにお茶を入れて貰う事にした。カレンがお茶を準備している間、僕はと言うとヒョウガのモフモフボディーに寄りかかりつつ、疲れを癒していた。

 

 

「ふぅ・・・・・・疲れたなぁ・・・・・・」

 

 

 

「お疲れ様でした、主様。もし、お疲れの様でしたらお休みになっても構いませんよ?自宅へはワタシがお送りしますので」

 

 

 

「いや、いいよ。それだと、せっかくのカレンのお茶が飲めなくなっちゃうしね」

 

 

 

 

余談だが、僕は進化して”半精神生命体”になり、肉体を持ったこともあって、人型になった状態でも眠る事ができる様になった。勿論、元の水になった状態でも眠れるんだけど、元々人間だった僕としては、人型の方で眠れた方が気持ち良く寝れたりするんだよね。・・・・・・とはいえ、寝床であるあの壺も僕のお気に入りだから、今後は寝るときは交互にして行くつもりでいる。

 

 

 

「エリス様、お待たせしました」

 

 

 

「こちらもどうぞ、エリス様」

 

 

 

そんなことをぼんやり考えていると、カレンがお茶を持って僕の元へとやってきた。その後ろではセキガがお茶のお供としてクッキーをいくつか持ってきていた。う〜ん・・・・・・疲れた体には甘いものが良いから、セキガには後でしっかりとしたお礼をしないと。

 

 

 

「ありがと、カレン、セキガ。じゃあ、いただき・・・・・・ん?」

 

 

 

早速お茶を口にしようとした僕だったが、その瞬間、部屋内に見知った気配が感じ取れた為、不意にスッと視線を部屋の扉の前へと移してみる。

 

 

 

「エリス様。このテスタロッサ、命である戦場の偵察から帰還致しましたわ」

 

 

 

「あ、テスタロッサか。うん、お疲れ様。カレン、彼女にもお茶を淹れてあげてくれないかな?」

 

 

 

「分かりました。テスタさん、何を飲まれますか?」

 

 

 

「ふふ、では紅茶を一杯・・・・・・」

 

 

 

テスタロッサの注文を聞いたカレンは再び、お茶入れに精を出し始める。セキガは、彼女の為に部屋内に用意された椅子をわざわざ座りやすいように引くと言う紳士プレイを見せていた。この礼儀作法は、貴族であったヒューズさん仕込みなんだとか。

 

ちなみに、この二人は既にテスタロッサとは打ち解けている。元々、僕の配下として仲の良かった2人だが、新たに配下へと加わったテスタロッサという()()が入ったことがすごく嬉しかったようで、割と簡単に打ち解けていた。一応、テスタロッサは悪魔公(デーモンロード)って言う、悪魔族の中でもかなりやばい部類に位置する人だって事は知らせているんだけど、配下に加わった以上、同じ志を持つ同士と認識しているのか、2人は特に気に求めている様子はなさそうだった。

 

 

ヒョウガは、元々の性格もあってか打ち解けるにはもうしばらくかかりそうな勢いだが、テスタロッサも悪い人ではないし、打ち解ける日もそう遠くはないだろう。ガビルに至っては、そもそもまだ面識すらないので、そのうち会わせる予定でいる。

 

 

 

 

「・・・・・・さて、じゃあ報告を聞かせてもらえるかな?」

 

 

 

「はい。まず、戦況の報告ですが・・・・・・」

 

 

 

僕とテスタロッサでミニお茶会を開きながら、テスタロッサに情報を求めると、テスタロッサは紅茶を飲みつつ報告してきた。既に、ベニマルから報告は受けているんだけど、細かいところまでは知らされてはいなかったから、詳しい事は彼女から聞く事にしたのだ。・・・・・・その為に、彼女を送った訳だしね?

 

 

 

まず、ベニマル達魔国連邦(テンペスト)軍は大勝。要所要所で敵の思わぬ作戦に苦戦する場面もしばしばあったものの、総指揮をとったベニマルが意図的に作られたカリュブディスを一撃で撃滅したり、獣王戦士団筆頭の三獣士の皆さんの奮戦のおかげもあってか、特に犠牲者が出ることもなく、勝利を収めることができたそうだ。

 

 

 

「そうか。無事に勝てたか・・・・・・はぁ、良かった」

 

 

 

「もしもの時は、わたくしも参戦しようと思っていたのですが、残念な事に出番はありませんでしたわ・・・・・・」

 

 

 

「いや、出番はなくていいんだからね?キミの役割は偵察。・・・・・・それの意味くらいは分かってるでしょ?」

 

 

 

「わたくしを見くびりすぎでは?勿論分かっていますわ。・・・・・・”エリス様の命に従うは絶対”と、わたくしの中ではそう決めていますので」

 

 

 

・・・・・・本当に分かっているのか?うっすらと笑いながらそう言う彼女に対してそう思う僕は、お茶を啜りつつ彼女に疑念の視線を向けてみる。・・・・・・テスタロッサってこんな清楚で綺麗な見た目しているのに、すっごく好戦的な性格をしているから何事も用事を頼むとどうしても心配になってしまう。・・・・・・配下にしてから今更思うけど、僕がこの人をコントロール出来るのかな?・・・・・・いや、しなくちゃいけないんだろうけど・・・・・・。

 

 

 

「ならいいけど。じゃあ、シュナ達の方の状況はどうだったの?」

 

 

 

「そちらも情報を集めて参りましたわ。モス・・・・・・ここに」

 

 

 

「はっ・・・・・・状況を説明致します」

 

 

 

彼女が声をかけると共に、どこからともなく転移してきたのは、彼女の腹心であるモスだ。今回の視察には、腹心である彼にも同行して貰っていた。子供の様な見かけをしている彼だが、実は悪魔族の中でもかなりの実力者のようなのだ。流石に、ディアブロやテスタロッサには及ばないものの、多少の軍隊であるならば一人でも壊滅できるくらいの実力はあるのだとか。もう一人、テスタロッサにはシエンと言う、老執事の様な風貌をした腹心がいるのだが、今回は別件でこの場にはいなかった。

 

この二人も悪魔族である為、当然受肉をしてなければこの世に留まっていることは出来ないので、テスタロッサと同じように僕の分身体に受肉させ、ついでに名付けも行ったこともあって、二人も恐ろしい程に強くなったことは言うまでも無い。

 

 

 

モスの報告では、シュナ達も無事にクレイマンの城を制圧する事に成功したらしい(既に聞いてるけど)。報告の際、何故かクレイマンの配下であった死霊の王(ワイトキング)がシュナとリムルに惚れ込んでしまい、僕たちの仲間に加わる事になったことを聞いた時には耳を疑ったが、それ以外の事は主にベニマルからの報告にあった通りであった為、特に驚く様な事はなかった。・・・・・・だが、それとは別に一つ気になる事が僕にはあった。

 

 

 

「モスって、テスタロッサの腹心にしては情報集めがうまいね?」

 

 

 

「えっ?い、いえ・・・・・・それほどでも。私はテスタロッサ様とエリス様のお力になる為と思い、動いたまでですので・・・・・・」

 

 

 

少し恥ずかしそうにモジモジし始めるモスは、その見た目も相まって可愛らしく見えた。そう、気になることとはこれだった。こう言ってはなんだが、こんな見た目もあって、モスがこんな諜報活動に秀でた特殊能力を持っているとはとても思えなかったので、どうしても疑問を覚えてしまう。・・・・・・考えても見てほしい。小学生の様な見た目をしている子が、”機密事項”や”重要情報”を取り寄せるといった重要な仕事である諜報活動をしている様を誰が想像できるだろうか?・・・・・・少なくとも、僕には想像できない。

 

 

「モスには、昔からこの様にして敵方の情報を集めさせてわたくしに報告する様、教育していましたので、こう言った類のことに関してはモスの右に出る者はいないのです。そうよね、モス?」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

その力強い返事を肯定と取ったようで、テスタロッサは満足そうな笑みを浮かべる。

 

 

 

「エリス様も、もし何か調べて貰いたい事があるのであれば、何なりとお申し付けください。モスであれば、どんな情報も取り寄せられますので」

 

 

 

「うん、そうさせて貰うよ。モスも問題は無い?」

 

 

 

「勿論でございます!何なりとお申し付けください、エリス様!」

 

 

 

部屋内に少し高い声が響き渡った。自分の主であるテスタロッサが従う僕に対しても忠誠を誓ってくれると約束してくれた彼だが、仮にも悪魔界では大侯爵であった彼がそんな簡単に僕の下につくことを承諾しても良い物なのか、疑問であるが特に拒む理由も無かった僕は、快くオーケーを出すことにしたんだ。勿論、シエンも同様だ。

 

 

 

「さて、みんなが戻ってくるまで時間もあることだし、僕は家で少し寝ることにするよ。みんなも疲れてるだろうから各自、もう休んでくれ」

 

 

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

 

 

既に夜が更け始めていた事もあり、情報を聞いた僕は早々とこの場をお開きにすることに決め、みんなには疲れを癒すために帰って貰うことにした。僕自身も変な疲れも溜まっていたので、家に着いた後ですぐに床につく事とするのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

翌朝・・・・・・というか、目覚めたのはもうお昼過ぎになってたんだけど、その頃にはリムルが戻ってきていたみたいで、今は執務館にて同じく帰還していたディアブロにファルムス王国との交渉、そして賠償金問題の情報についてを聞き出しているそうだ。軽く身支度を整え、執務館へ向かおうとした僕だったが・・・・・・何となく、”リムルと顔を合わせるのを後回しにしたい”と考え、僕は先に回復薬(ポーション)の進捗具合を見に行こうと、そちらに歩を進める事と決めた。

 

別に、リムルと顔を合わせるのが嫌になったということでは無いんだけど・・・・・・今の僕は、どうしても”あの時”・・・・・・ロキを殺そうとしていた時の”恐ろしい程に怖い顔をしたリムル”の姿が頭にチラついてしまい、無意識にだが彼に対して恐怖を覚えてしまっているのだ。今のこの状態でリムルの前に顔を出したとしても、平常心でいられる保証はないと判断した僕は、先ほども言ったように、リムルの元へ行く事は後回しにしたんだ。

 

 

 

 

・・・・・・まぁ、僕が彼を避けたかった理由は他にもあるんだけどね?

 

 

 

 

 

 

歩く事数分、回復薬(ポーション)の開発と栽培をおこなっている洞窟もとい、研究所にたどり着いた僕は、ベスターさんに研究や栽培の進捗状況などを聞けるだけ聞いた。最近ではまた完全回復薬(フルポーション)の開発に進捗が出始めたそうで、以前よりもさらに多くの完全回復薬(フルポーション)を抽出できる様になった事もあって、ベスターさんは満足そう笑みを浮かべていた。

 

 

 

「そういえば、僕の水を使って何か作ってるって話を聞いたんですけど、そっちの進捗はどうなんですか?」

 

 

 

「いえ、そちらに至ってはまだまだですね。私が望むような理想の品を作りたいのですが、これがどうにも上手くいかなくて・・・・・・。ですが、それも研究としては面白いですので、特に苦には思ってはいません。・・・・・・開発に成功したら、すぐにお届けに向かいますので、もうしばらくお待ちくださいエリス様」

 

 

 

「はい。体の無理にならない程度に頑張ってください」

 

 

 

ベスターさんは再び研究に力を出し始めた。『エリス水』を使っての研究に最近は夢中の様子のベスターさんだが、夢中のあまりか徹夜をする事もしょっちゅうある様なので、彼が倒れないか心配にもなってくる。実際、彼の目元には大きなクマが出来てたし・・・・・・。

 

 

 

「ちなみに、それが完成するとどんな効果を持つ代物になる・・・・・・とかは分かってたりするんですか?」

 

 

 

「現状では何とも言えませんが、私の理想としましてはこの『エリス水』を利用した”アリとあらゆる状態異常の快癒”が出来る薬『万能薬(パナシア)』の作成です。これがあれば、毒や麻痺、場合によっては呪いも解呪可能となる優れ物となる事でしょう」

 

 

 

「おぉ〜・・・・・・それは魅力的な」

 

 

 

完全回復薬(フルポーション)とは言え、状態異常の回復までは出来ない。それを見越しての『万能薬(パナシア)』の作成だろうが、これがあるだけでも身の安全がグッと跳ね上がることは間違い無いので、ベスターさんがこれの開発に成功してくれることを祈りつつ、僕はその場を後にするのだった・・・・・・。

 

 

 




テスタロッサは基本的に優しいところも多いので、比較的早くに仲良くはなれるとは思います。セキガもカレンも元々人見知りが少ないので、彼女とは悶着も起こすこともなく打ち解けています。ヒョウガはぶっちゃけシャイなので少しすれば打ち解けるとは思います。

ガビルは戦場から帰還してから会わせます。


ちなみにエリスの配下の強さ順はこんな感じです。


テスタロッサ>ヒョウガ=ガビル>セキガ>カレン>その他の龍人族(ドラゴニュート)


今後の展開次第ではこの順も変わります。







エリスの絵を軽く作ってみました。多分、これが一番エリスに近いと思っています。ちなみに服は白衣を着せてます。エリス診察院にいるエリスだと思ってください。




【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

募る違和感

ストーリーに触れるのは少しになるかもです。


「よう、エリス。回復薬(ポーション)の進捗の方はどうだった?」

 

 

 

研究所内から出てみると、そこにはなぜか知らないがリムルがいた。先ほどのディアブロとの話し合いは終わったのか、どこか疲れた調子でそこに立っていたが、なぜにこの場にいるのかは理解できなかった。

 

 

 

「うん、順調そのものらしいよ。リムルはどうしてここに?」

 

 

 

「いや、セキガとカレンにここにお前がいるって聞いてな?魔王達の宴(ワルプルギス)が終わってから会ってなかったなって思って、こうして来てみた訳だ」

 

 

 

「執務館の中にいた事は分かってたし、この後向かう予定だったんだけどな?」

 

 

 

「良いんだよ。ちょうどディアブロとの話も終わって、気分転換したかったところだし」

 

 

 

「そう?それなら良いんだけど・・・・・・」

 

 

 

いつもの調子で明るく優しく接してくるリムルに対し、どこかほっとした僕は、リムルと共に町へと引き返していった。正直、リムルとまともに会話できるか不安だったけど、意外にもすんなり溶け込めた事もあって、それは杞憂に終わった。

 

 

 

「なぁ、お前の用事ってのはもう済んだのか?」

 

 

 

「え?・・・・・・あぁ、うん。もう終わったよ。終わってからここに戻って来たんだし」

 

 

 

「ふ〜ん?その用事って何なんだ?ちょっと気になるな・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・ごめん、それは言えないかも。大丈夫、変なことしてる訳じゃないし、リムルが心配する様なことじゃないよ」

 

 

 

「そうか?・・・・・・お前がそう言うならこれ以上は詮索しないでおくが、もし何かあればいつでも俺を頼れよ?」

 

 

 

「・・・・・・うん、ありがと」

 

 

 

リムルのその申し出には、僕も苦い顔を浮かべるしか無かった。『リムルが殺そうとしたロキを助けてきた』なんて死んでも言える訳ないし、言ったら最後・・・・・・またリムルがロキを始末しに向かう事は間違いないだろうからね・・・・・・。

 

 

 

「ねぇ、リムル?ディアブロの報告内容を聞かせてくれないかな?ファルムス王国との交渉とか、今後の彼の国の処遇がどうなるのかが知りたいんだ」

 

 

 

「ああ。ディアブロの話だと・・・・・・」

 

 

 

リムルの口から語られるは、ディアブロからの情報だ。ディアブロはヨウムさん達と共に捕虜であるファルムス王国の国王であるエドマリス、そしてラーゼンとレイヒムを抱えながらファルムス王国へと向かった。向かう道中の馬車内にて、3人はディアブロのユニークスキルである『誘惑者(オトスモノ)』の餌食となり、ディアブロの傀儡へと堕ちる羽目となったらしい。ファルムス王国に着いた彼らは直ぐに目的である『魔国連邦(テンペスト)とファルムス王国の和睦協議の執り行いと講和条約の締結』をファルムス王国重鎮らに持ちかけた。渋った重鎮らも数多くいた様だが、リムルの恐ろしさ、そしてリムルの抱く真なる目的である『人間との共栄共存』をディアブロやヨウムさん、傀儡となったラーゼンらの発言により、最後には協議を行うことを承諾した。

 

とどめとなったのが、やはりラーゼンの口から出た戦場での惨劇(つくりばなし)だった。ラーゼンの口からは・・・・・・

 

 

魔国連邦(テンペスト)に攻め寄せた3万人の兵達は、暴風竜(ヴェルドラ)の復活により、行方不明となっていて生死もまた不明。だが、生き残った我らをその暴風竜(ヴェルドラ)から力の限りを尽くして守ってくださったのが、紛れもない魔国連邦(テンペスト)国主であるリムル=テンペストだったのです!』

 

 

・・・・・・こんな感じで、事実とは全く違う嘘を重鎮達の前ででっち上げたらしい。勿論、3万人の兵達は僕とリムルの手によって殲滅されている。・・・・・・だが、それではただの人間の敵の邪悪なる魔物という印象しか湧かない。それを危惧したリムルはこの様な嘘をつく様、ディアブロに伝えていたのだとか。

 

 

 

「(国のためとは言え・・・・・・やっぱり僕は納得出来ないな。人間が3万人も死んで、それに悲しむ人だって多く居るはず。それをこんな嘘でうやむやにして良いはずなんて無いし・・・・・・。でも、リムルに否は無い。彼は、死んでしまった僕を生き返らせる為に、止むを得ず・・・・・・その手を汚す事を選んだのだから。・・・・・・今回の一件、責任は僕にあるな・・・・・・。あの時、僕がもっと良い対処を・・・・・・自分が命を落とす事なく、尚且つ自分自身の手で人間を殺さなくても良い選択を取れていたのであれば・・・・・・リムルに人間を殺させる事も無かったし、結果も違っていたかも知れないのだから・・・・・・)」

 

 

 

自分の中で、自分の不甲斐なさと力不足に心を痛める中、リムルの説明は続く。

 

 

 

ラーゼンの口添えもあってか、協議は1週間後に行われる事になり、捕虜として捕らえていたエドマリス王やレイヒムは解放し、ディアブロ達は最後に条約締結の際に要求する条件を言い残した後で、そのまま戻って来たらしい(レイヒムはともかくとして、エドマリス王に至っては、シオンのせいで”首から下が無い状態”の肉塊状態で引き渡された事もあってか、彼の部下の兵達はドン引きしていたのだとか。勿論、ちゃんと返す際に完全回復薬(フルポーション)で元通りにした様だけど、しばらくはトラウマになる事だろう・・・・・・)。

 

 

こちら側が要求した条件は3つ。

 

 

1つ目は王が退位し戦争賠償を行う。

 

 

2つ目は魔国連邦(テンペスト)の軍門に降り、属国となる。

 

 

3つ目は戦争を継続する。

 

 

 

3万と言う大幅な戦力を失ったファルムス王国にとって、3つ目を選ぶことは即ち、彼の国の滅亡を意味する。そんな愚鈍なる選択を彼の国がする筈ないと考えている僕とリムルは、それを選択肢から廃していた。・・・・・・と言うか、僕達的には最初の1つ目の選択肢を選んでほしいと思っている。王が退位しない限り、ヨウムさんを新王とする新たなる国を立ち上げることが極めて困難になってしまうからだ。ディアブロの方でも、その様に誘導する様指示をリムルから受け、実際誘導したらしいのだが、それで彼らが素直にこちらの言い分を聞いてくれるとは限らないのだ。

 

 

・・・・・・まぁ、それに至ってはヨウムさんやディアブロに一任しているみたいだから何とかはしてくれるとは思っているけど・・・・・・。

 

 

 

「その条件が随分とえげつない内容な気がするけど?」

 

 

 

「あいつが決めた条件だからな。・・・・・・そりゃ無理もない気もするが・・・・・・俺は別にそこまでやばい条件だとは思ってないし、むしろ妥当だと思ってるぞ?」

 

 

 

「・・・・・・そうなの?」

 

 

 

てっきり、リムルの方でも『やりすぎ!』みたいなふうに思っていると思っていたのに、それとは裏腹にディアブロの出したその条件に対して納得しているリムルに、僕は訝しげな表情を浮かべた。

 

 

 

「あいつらは、お前を死に追い詰めた奴らだ。・・・・・・人間と友好的に接し、人間との共栄共存を刹那に願っていたお前をな?そんな重罪を犯してくれた訳なんだし、それ相応の報いを受けてもらわなきゃいけねーんだよ」

 

 

 

「リムル・・・・・・?」

 

 

 

先程の落ち着いた様子とは打って変わり、少し顔を硬らせながら怒気の滲む声で話し始めたリムル。その表情は、あの時・・・・・・僕が恐怖したリムルの顔そのものであり、僕はビクッ・・・・・・と肩を震わせた。

 

 

・・・・・・何だろう?リムルとはこの異世界に来てから長いことずっと行動を共にしていた筈なのに、なんでこんなにも彼に恐怖を覚える様になってるんだ?特にそれが顕著になったのは、彼が魔王に覚醒してからだ。魔王になった彼は、一目で見れば覚醒前と何ら変わらない唯の強くて頼もしくて・・・・・・優しい心を持ったリムル=テンペストだ。

 

 

・・・・・・だが、僕にはそれがどうにも間違っている様に思えた。確かに、リムルは魔王に覚醒して、以前よりもさらに強くなり、頼もしさも増し、存在も威厳も大きくなったかの様に見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・でも、その代わりに・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以前のような、人間(三上悟)の心を持つリムル特有の、()()()()()()()()()()と言うのが・・・・・・覚醒前と比べて、欠落している風に僕には見えたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

勿論、今のリムルも十分に優しいことに変わりは無いのだが・・・・・・もし、今の彼が以前のような優しい彼の心を持っていたとすれば、先程の条件に疑問をぶつけるのでは無いだろうか?いくら、魔国連邦(テンペスト)に無断で攻め寄せてきて、許せないような行為に出たファルムス王国とは言え、相手がいずれ共存を望んでいる人間であることは間違いない。それに、元人間だった僕達だ・・・・・・今は魔物とはいえ、多少なりとも同情や親近感も湧くはずだ。

 

 

だと言うのに、リムルにはそれが一切感じられなかった。まるで、身体だけでなく・・・・・・()()()()()()()()()()()()()かの様に・・・・・・。

 

 

 

もしかすれば、それが原因で僕が彼に対して恐怖を覚えてしまっているのかも・・・・・・いや、それもあるが、多分僕が恐れているのはそれだけでは無いのだろう。

 

 

 

 

「(・・・・・・僕は怖いし、悲しいのかも知れない。いずれ、リムルが・・・・・・今までの”僕達の知る優しいリムル”では無くなってしまう可能性がある事に・・・・・・)」

 

 

 

 

 

とは言え、確証はまだ無い。そう・・・・・・あくまでもこれは僕の推測であり、ひょっとすれば気のせいかも知れない可能性も否定は出来ないのだ。

 

 

 

 

「(自分の配下が一生懸命考えた条件を、自分なりに汲んでそう言う反応をしたのかも知れないし、彼が目指す未来も変わっている様子は無い。リムルが考えてる事は全部は分からないけど、少なくとも彼が人間を殺す事は今後無い・・・・・・と思うから、気にする事はないか。・・・・・・ふっ、ちょっと考え過ぎだったかな?)」

 

 

 

「エリス?考え込んでるが、気になることでもあったか?」

 

 

 

「いや、何でもないよ。・・・・・・ねぇ、リムル?」

 

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

 

リムルに対して、変な考えが浮かんでしまった僕はそれを頭の中から払拭すると、その場で歩を止める。リムルもそれに倣い、ゆっくりと足を止め僕に視線を向けてきた。

 

 

 

「キミは、今もこれからも・・・・・・ずっと変わらないよね?ずっと・・・・・・強くて頼もしくて・・・・・・優しいリムル=テンペストで居てくれるよね?」

 

 

 

「いきなりどうした?・・・・・・当たり前だろ?こんなんでも魔国連邦(テンペスト)の国主であり、ジュラ・テンペストの盟主なんだからな。これからもみんなの為に俺は俺として頑張っていくつもりさ」

 

 

 

「ふっ・・・・・・。それでこそキミさ。・・・・・・僕も精一杯キミのことはフォローして行くから、これからもよろしく頼むね?」

 

 

 

「ああ、よろしく頼むぜ?我が副国主さん?」

 

 

 

互いに笑い合いながらそう語り合った僕達は、再び歩を進めることを再開し、町へと戻って行くのだった。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

視点 リムル

 

 

 

・・・・・・最近、どうにもエリスの様子がおかしい。いや、側から見れば特段おかしい様な様子はないあいつなんだが・・・・・・。

 

 

 

「(何か、妙に距離を取られている様な気がするんだよなぁ・・・・・・)」

 

 

 

主におかしいのは、俺に対しての時だ。この前、俺がエリスを迎えに研究所に向かったのだって、魔王達の宴(ワルプルギス)から帰還した俺を歯牙にもかけず、一人単独で研究所に向かったのに違和感を覚えていたのもあったからなのだ。いや、別にあいつが出迎える必要なんて無いんだが、今までのあいつであるなら俺が帰還すると誰よりも早く俺のことを出迎えていた為、それがいきなり無くなるとどうにも違和感を覚えてしまうのだ。

 

 

勿論、おかしいと思ったのはそれだけではない。エリスは・・・・・・今の俺に対し、勘だがどこか”ビビっている印象”がある。そこで、あいつの真意が知りたいと智慧之王(ラファエル)に解析を頼んではみたが、やはりエリスの持つ究極能力(アルティメットスキル)にブロックされてしまってる様で、結局のところ、あいつの心のうちを知る事は叶わなかった。

 

 

俺があいつから恐れられる理由は・・・・・・正直言ってあまり思い浮かばないが、強いて言うのであれば俺があいつの言うことを無視してクレイマンを処刑した時の事を根に持っているのかも知れないと考えている。確かにあの時は、自分を死に追い詰めた張本人であるクレイマンを擁護し始めたエリスに対して、少し憤りも見せた。・・・・・・もしかすれば、その時の俺の憤怒の滲んだ顔・・・・・・その後に使った『暴食之王(ベルゼビュート)』の凶悪性にエリスは恐れを抱いてしまっているのかも知れないのだ。

 

 

 

「(別に、恐れられようが、俺は構わないがな・・・・・・。あいつの為を思ってやった訳なんだし、それぐらいは目を瞑るさ)」

 

 

 

これは俺が思う事だが、エリスのその”異常なる優しさ”は長所でもあれば短所でもある。確かに、あいつは誰隔たりもなくその包容力と優しさでみんなの心を掴んできた。それは別に悪いことではない。だが、それはあくまでも味方だけに限った事であって、敵に対してまでその優しさを見せる必要は無いと俺はみているんだ。クレイマンの時もそうであり、あいつはどうしようも無い悪党であるクレイマンを生かすよう俺に進言までしてきた。敵であるクレイマンに対してもその優しさを見せる様には流石に戸惑いを見せたものの、それは容認できないと俺は問答無用で奴を葬った。

 

 

 

 

『”敵に対して一切の容赦はしない”・・・・・・例えそれが魔物であろうと、魔人であろうと、()()であろうと、平穏を脅かすのであればどんな奴でも許してはおかない。そうでなければ、誰も守ることなど出来はしないんだからな』

 

 

 

 

優しさと言うのは確かに大事だが、使い所を間違えば逆に己の首を絞めかねない事態にも陥る。それを少しでもエリスには分かってもらいたいのだが、簡単に納得してくれそうにも無いことは、これまでの付き合いからもう分かっている為、地道に分からせて行くつもりでいる。

 

 

 

「さて、悩むのもここまでにして、今日もバリバリ働きますかっ!」

 

 

 

散々に悩み抜き、少し頭の中がスッとした俺は、気分良さげに今日の仕事をこなすべく、作業に没頭し始めた。ファルムス王国との重要な協議もまた控えてることだし、色々と準備等で忙しいが俺も頑張らないとなっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、この時の俺は認識を誤っていた。本当にエリスが恐れていたのは、俺個人ではなく・・・・・・俺が今抱いている、この自分自身の考え方そのものだったと言うこと。

 

 

 

 

 

そして、エリスはただ俺に恐れを抱いていたのでは無く・・・・・・それと同時に無意識に変わりつつある俺の方針、考え方について、()()()()()()なんて・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時にエリスの真意を察することが出来たのだとすれば、もしかしたら・・・・・・。

 

 

 




互いに自分自身の考えがあることがよくわかります。互いが互いの事を心配するからこそ、方向性が合わなくなってしまうこともあるのでしょうが、やはり彼らは親友。仲間思いがあって微笑ましいです。


ただ、エリスはやはりリムルの考え方には賛同できない様子でいます。勿論、エリスもファルムス王国に対してはそれなりの憤りを見せてはいますが、だからと言って人間達に対する情が抜けた訳ではありませんので、リムルのような『敵が人間であろうと容赦はしない!』と言った考えは受け入れることは出来ないのでしょう。


まぁ、リムルも国やエリスの為を思ってその様な考えに至ってる訳なので、何とも言えませんが仮にも元人間であったリムルが、何の躊躇もなく人間を”敵であるなら排除する”と割り切れるのはある意味すごいですね。


今の段階ではどちらが正しいのかはわかりません。ですが、それも直にわかることなのかも知れません・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ファルムス王国との和睦

和睦協議についての話を進めます。

この辺から徐々に配下達も帰ってきます。


視点 エリス

 

 

 

翌朝になり、前線に出ていた軍勢が続々と戻りはじめた。最初に帰還したのはシュナやハクロウ、ソウエイら軍だ。彼らの傍らには、報告にあった通りアダルマンを筆頭とした不死系魔物(アンデッド)がゾロゾロとついて来ていて、みんな見かけはガイコツとかゾンビ見たいのばかりだったから、少々引いてしまった。アダルマンは魔法術師としてはかなりの実力者だったようで、数百年前とは言え、西方聖教会の枢機卿を務めていた程の人材であることもわかっている。・・・・・・そんな人をたった一人で倒してしまったシュナは、ある意味恐ろしいのかも知れない。

 

 

その夜にはベニマル達も帰還してきた。大将が先に帰還してもよかったのかと疑問に思ったものの、戦場の後始末は、彼が副官に任命したアルビスさんやガビルに任せている為、特に何も問題はない様だった。

 

 

 

「ベニマル、ガビルは後どれくらいで帰って来れそうかな?」

 

 

 

「そんなに時間はかからないと思いますよ?少なくとも数日以内では戻ってくることでしょう。ガビルに何か用事でも?」

 

 

 

「うん、そろそろ紹介したいと思って、テスタロッサのことをさ?ほら、彼女も僕の配下だし、ガビルもまた僕の配下でしょ?それなら早いとこ顔合わせをさせておきたいと思ったんだ。僕の配下の中で彼女と顔を合わせていないのはガビルだけだからね」

 

 

 

「っ?・・・・・・はぁ〜」

 

 

 

ガビルに用があると言うのは、主に彼をテスタロッサに紹介したかったからだ。同じ自分の配下というのもあるけど、早いとこ顔合わせを行い、二人には仲良くなって貰いたかったからね。・・・・・・それを伝えたはずなのだが、ベニマルは何故かため息をついた。

 

 

 

「?ベニマル、どうかした?」

 

 

 

「いえ、ただ・・・・・・あの女は非常に”めんどくさい性格”をしていると感じまして・・・・・・。正直、あの女を抑えるのがあの戦場にいて最もきつかったですよ・・・・・・暴風大妖禍(カリュブディス)なんて目じゃないくらいに」

 

 

 

「・・・・・・はい?」

 

 

 

ベニマルの言ってる意味が理解出来なかったので、僕は彼に事情を説明してもらった。何でも、テスタロッサは一度、僕の命で偵察をしに来たという旨を伝えるべく、ベニマルと会っていたらしい。その際、クレイマン軍の大軍勢がこちらに攻め寄せてくるのを彼女は目撃してしまったらしく、元の好戦的な性格もあって・・・・・・『こちらに攻め寄せてくるのだから、わたくしが手を出しても正当防衛に値しますわね♡これならば手を出してもエリス様はお怒りにならないはず』みたいな言い訳を口にしつつ、目の前の軍勢に対して攻撃を仕掛けようとしたのを、ベニマルが必死になって止めたのだとか。別に僕はテスタロッサに対して、攻撃をするなと命令を下した訳ではない。テスタロッサも言ったように、正当防衛であったり、やむを得ない場合であった時であれば攻撃をしてもいいとしていた。

 

 

 

だが、ベニマル曰く、テスタロッサが放とうとしていたその”禍々しい魔法”は、放った途端に目の前の軍勢だけでなく、側で戦っている味方にまで被害を被る可能性がある事を察した様で、なりふり構わずに止めに入ったんだとか。・・・・・・一体、彼女は何を放とうとしていたんだ?

 

 

 

《解。推測の結果、主人(マスター)が発動可能となった核撃魔法『死の祝福(デスストリーク)』を放とうとしていた可能性が極めて高いです》

 

 

 

「(うん、ベニマルの判断は正しかったね。『死の祝福(デスストリーク)』なんて放てば、それこそ大惨事になっていただろうし)」

 

 

 

死の祝福(デスストリーク)』は、敵の遺伝子を強制的に組み替えることで、敵を即死させる核撃魔法だ。テスタロッサお得意の核撃魔法であり、僕以外の人がこの魔法を扱うのは不可能に近いとされているらしい。高度な魔法操作が出来、『黒炎核(アビスコア)』が制御出来る彼女ならではの魔法らしいがその魔法は、彼女のその美しい見掛けにそぐわないほどの残虐かつ凶悪な威力を誇る為、闇雲に使う事は禁じている。当然、僕も使う気は一切無い。テスタロッサ程に魔法操作が上手い訳でもないし、下手をすれば魔法が暴走して”とんでもない事態”へと発展してしまう可能性があるからだ。

 

 

 

結局、その軍勢はベニマルがテスタロッサを止めている間にアルビスさん達、獣王戦士団が先に排除してくれた事もあって、テスタロッサは攻撃するのを諦めてくれたらしく、ベニマルはほっと胸を撫で下ろしたそうだ。いくら進化して強くなったベニマルとは言え、悪魔公(デーモンロード)であるテスタロッサを抑えると言うのはかなり難しかっただろうし、獣王戦士団の皆さんには感謝しないといけない。・・・・・・まぁ、とりあえず。

 

 

 

「な、なんかごめんね?僕の配下が・・・・・・。後でちゃんと言って聞かせるから」

 

 

 

「い、いえ!エリス様が謝られることでは・・・・・・。と、とりあえず、一旦俺は家に帰らせて貰います。色々と疲れましたので」

 

 

 

本当に疲れた様子で、ベニマルはトボトボと家へと帰っていった。色々疲れたって言ってたけど・・・・・・多分、8割・・・・・・いや、9割テスタロッサのせいだろう。うん、彼女には後でお説教だ。そんな報告、彼女から受けてなかったし、隠そうとしたんだしね・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「まぁ、それは後でやるとして、ガビルが来るまで特にやる事は無さそうだな・・・・・・。リムルの仕事を手伝おうとしても『お前にはこれまで色々仕事を任せっきりになってたから、今回は俺が一人でやるよ』って言われちゃったし・・・・・・」

 

 

 

ベニマルを見送った後、やることの無かった僕は一人、家へと戻って来ていた。副国主である僕が暇をしているのもどうかと思うかも知れないが、さっきも言ったように今の僕には仕事が無いんだ。・・・・・・いや、正確にはあったんだけど、その仕事は他のみんなが肩代わりしてくれていた。別に忙しくない事に嫌な思いは一切しないものの、今までこうして暇にしている時がほとんどなかった事もあってか、どうしても体がむずむずしてしまうんだ。

 

 

 

「仕方ない・・・・・・スキルの確認でもしよう。さて・・・・・・究極能力(アルティメットスキル)の他にはどんなスキルが・・・・・・って、ん?」

 

 

 

頭の中で今ある自分のスキルの確認を行っていると、一つ”気になるスキル”を発見した。

 

 

 

「(リーテさん。『水支配者(アクアマスター)』って何?こんなスキル今まで無かったよね?)」

 

 

 

《解。『水支配者(アクアマスター)』は、主人(マスター)の種族である水天魔(アクア・マーラ)の固有スキルです。このスキルの能力は一言で言い表すのであれば、この世にあるすべての水や、”水に関わる物”全てを自在に操ることが可能です。以前の『水操作者(ミズオペレーター)』よりもさらに水の扱いに長け、創造できる物質も飛躍的に増えました》

 

 

 

「(へ、へぇ〜?何となくは分かったけど、”水に関わる物”を操れるってどう言うこと?今まではそれは出来なかったの?)」

 

 

 

《解。『水操作者(ミズオペレーター)』では、”純然なる水”のみを操る事を可能としていました。ですが、『水支配者(アクアマスター)』の場合、能力の範囲内の水に携わる物・・・・・・つまり、水を少しでも含んだ物や物質、資源であったとしても操る事までが可能となりました。例えるのであれば、雪や氷、水蒸気・・・・・・もしくは()()もそれに該当します》

 

 

 

「・・・・・・いろんな物を操れる様になった事はわかったけど・・・・・・血を操るって何?輸血とかが出来る様になるとかかな?」

 

 

 

リーテさんの話通りであるなら、『水支配者(アクアマスター)』で水を血に変換させる事も不可能ではないはず。もしそれが事実であるとすれば、まさに朗報だ。血が足りなくて困っていると言う人々も少なくともいるはずだろうし、交易を行う上でもいい宣伝になる。これもまたミョルマイルさん辺りに勧めて気に入ってもらえたらいくらか買ってもらう事にしよう。

 

 

 

《是。それも可能です。ですがそれだけでなく、対象の体内に巡る血流の流れや”血液の量の調節”もまた、可能となっています。端的に言えば、主人(マスター)が望めば、人間や魔物の体内にめぐる血液を”根こそぎ奪い、血液を枯渇させる事もでき、血流を逆流させたり早めたりなどをして体に異常を生じさせたり、血管を破裂させる事も出来ると言う訳です》

 

 

 

「(怖いこと言わないでくれるっ!?そんなこと僕がする筈ないからっ!もうっ!)」

 

 

 

リーテさんのあまりにも物騒過ぎる発言に震えながら、盛大にツッコむ。確かに、血そのものを操れるって事は、そう言う事も出来るって意味なのは分かったけど、絶対にやらないから!リーテさんって進化してから話し方もそうだけど、性格もなんか変わったりしてないかな?

 

 

 

《否。そのような事実は一切ありません》

 

 

 

「(いや、そんな訳っ・・・・・・はぁ、もういいや。どうせまともな答え、返ってこないだろうし・・・・・・)」

 

 

 

リーテさんに対するツッコミに疲れ始めた僕は、とりあえず『水支配者(アクアマスター)』の存在や能力を知り得ただけでも良しと言う事にし、その後はさらに色々なスキルの確認や構築に励む事にするのだった。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

それから数日後、ファルムス王国に協議に出向いていたディアブロが、賠償金の一部である星金貨千五百枚と、和睦協定締結の証書を持って戻ってきた。黒い箱にぎゅうぎゅうに入った星金貨の山に僕もリムルも目を丸くしたが、これでも全部を受け取ったわけではないと言う事にも若干の驚きを見せた。ディアブロの要求では一万枚との事らしかったけど、後々聞いた話だとそもそもの話、星金貨自体が非常に希少な金貨である為、数にも限りがあるそうで、ディアブロの要求通りに一万枚徴収すると言うのは事実上不可能という事になった。まぁ、星金貨一枚当たり”一億円”の価値があるそうだし、それを一万も纏めて徴収なんてどんな国でも不可能だろうけどね?

 

また、協議でファルムス王国は、こちらの(正確にはディアブロの)狙い通りにエドマリス王を退位することを選び、彼の後継に弟であるエドワルドが就く事も決定した。

 

エドマリス王は、王位を弟エドワルドへ譲った後に隠居する事になっており、ディアブロの読み通りであれば、新王エドワルドは残りの賠償金支払いを免れるために、前王エドマリスの命を狙って必ず行動を起こすとの事らしい。それを阻止するのが、ヨウムさん達だ。エドマリスはヨウムさん達が本拠地にしているニドル・マイガム伯爵領の近辺に移り住むため、万が一の事があればすぐにヨウムさん達が救援に迎えるという訳。それに、魔国連邦(テンペスト)からも援軍を送る事も視野に入れているので、計画としてはここまで順調と言ってよかった。むしろ順調に行きすぎて怖い気もしたけど、ディアブロは『問題ない』とも言ってたし、本当に大丈夫なんだろう。

 

 

 

「ねぇ、ディアブロ?」

 

 

 

「はい、何か質問でしょうか?」

 

 

 

「質問って言うか、お願いなんだけど・・・・・・次にファルムス王国に出向いた際に聞いてもらいたい事があるんだ。『何で、僕の命を狙っていたのか』を」

 

 

 

神妙な顔を見せつつ、ディアブロにそうお願いをする僕。・・・・・・ずっと気になっていたんだ。何故、僕がファルムス王国と西方聖教会に狙われているのかが・・・・・・。無論だが、僕が彼らに恨みを買うような事をした覚えはない。だと言うのに、僕は狙われた。だから・・・・・・その真意を確かめるべく、こうして願い出ている訳なんだ。

 

 

 

「なるほど。あの愚物どもはエリス様を・・・・・・。承りました・・・・・・必ずや奴らの口を割らせて参りましょう」

 

 

 

「ありがと。本当は僕が直々に聞きに行こうと思ったんだけど、リムルがダメって言うから・・・・・・」

 

 

 

「当たり前だろ?あんな奴等のとこにお前を行かせるわけにはいかない。・・・・・・何をされるか分かったもんじゃないしな」

 

 

 

「過保護過ぎないかな?僕だって自分の身くらい自分で守れるようには・・・・・・」

 

 

 

「そう言って一度死んだだろうが?お前からそんな風に言われたって何の説得力もねーぞ?」

 

 

 

「それはそうだけど・・・・・・」

 

 

 

あまりの過保護さに苦言を呈した僕だけど、リムルは折れる事はなかった。リムルの言ってる事も分かってるつもりだけど、僕だって一応キミと同じように”真なる魔王”に覚醒してある程度の力はついたと自負してる。リムルには及ばないのかも知れないけど、少なくとも自分の身を守れるくらいには成長している筈なんだけどな〜・・・・・・前にも言ったけど。

 

 

 

「はぁ・・・・・・こう言うわけだから、ディアブロ・・・・・・頼むよ?」

 

 

 

「はっ!お任せください」

 

 

 

僕の勝手なお願いにも快く了承してくれたディアブロに表情を緩ませた僕は、彼から発せられるファルムス王国との協議で決まった内容の情報に耳を傾けるのだった・・・・・・。

 

 

 




今のベニマルでテスタロッサを抑えるのはキツイはずですので、戦う羽目にならなくて良かった・・・・・・。テスタロッサは後でエリスからのお説教決定ですね!

次回、エリスが何故命を狙われていたのかが明らかになります。・・・・・・なんと無く想像のつく方もいるでしょうが。




水支配者(アクアマスター)


水天魔(アクア・マーラ)の固有スキル。この世に存在するありとあらゆる水に慨する対象物を自在に操る、変換する事が可能。ただの水を始め、大気中の水分や血液、氷、水蒸気と言った物を自分の意志のままに操作でき、使い方によっては戦闘で使用する事も出来る。

大気中の水分を抜き、湿度をゼロにさせることも、対象の血液を根こそぎ奪い取り、死滅させると言った事も可能とする脅威的なスキルだが、それはスキル保持者が望めば起こる事であり、望まない限りはただの便利なる固有スキルでしか無い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思惑と真の狙い

今回でファルムス王国の狙いがわかります。


後、ガビルとテスタロッサの顔合わせも!


「リムル様、エリス様、ただいま帰還いたしました」

 

 

それからさらに数日後、三獣士の皆さんとガビルが獣人や捕虜を連れて戻ってきた。捕虜を含めて数万という大所帯がこの首都リムルに押しかけてきた訳だが、こちらも迎える準備は万端であり、既にいくつもの仮設住宅や宿泊施設などは建てておいてあったりする。

 

 

フォビオさんだけは、ゲルドのいる本拠地(獣王国(ユーラザニア)の跡地)に共に残り、捕虜の監視に当たっている為この場にいなかったが、その内戻ってくるとのことだった。なにぶん、捕虜の中には僕たちに反感を持つ人たちも数多くいる事は間違いない。それを考慮したベニマルやアルビスさんがそう命じたらしいんだけど、多分ベニマルが軽く捕虜達に説明(いあつ)すれば大体の人は言う事を聞いてくれると思う。カリュブディスを一撃で沈めるような人になんて逆らいたくないだろうし・・・・・・。

 

 

 

「エリス様!リムル様!このガビル、只今帰還しましたぞ!」

 

 

 

アルビスさんとスフィアさんが捕虜達を連れて行った後、ガビルが僕たちの元へと寄ってきた。彼らの体に傷こそ無いものの、彼らの疲労具合と服や武器の汚れ具合から見て、かなりの激戦だったのだと見てとれた。

 

 

 

「うん、お疲れ様。何処か怪我とかは・・・・・・」

 

 

 

「いえ!我輩達は皆元気ですぞ!ミリム様の配下であるミッドレイ殿には遅れを取りましたが、特段エリス様がご心配なされるような怪我などは一切しておりません!」

 

 

 

「そ、そう?それなら良いんだけど」

 

 

 

いつも通り、彼の元気一杯の返事を聞けてどこかほっとした。・・・・・・一応、ガビルと彼の配下達には『絶対保護』を戦前に掛けておいたんだけど、万が一という事もあったから少し心配してたんだ。

 

 

 

《告。『絶対保護』はありとあらゆる攻撃や魔法、スキルを無効化する作用を持っています。ですので、主人(マスター)が心配されるような事は起こりません》

 

 

 

「(そうだったね。キミが作ったんだもんね。・・・・・・本当にありがと、リーテさん)」

 

 

 

《・・・・・・》

 

 

 

・・・・・・何か、リーテさんが照れてるようにも思えたけど、これ以上追及すると逆に怒られそうだからやめておくことにした。

 

 

 

「ガビル、ミッドレイってベニマルの報告にあった妙に強い龍人族(ドラゴニュート)のことか?」

 

 

 

「その通りです。我輩も進化してかなり強くなったと自負しておりましたが、上には上がいるものだと自覚させられましたな。エリス様の加護が無ければかなりのダメージを受けたはずなので」

 

 

 

「あ〜・・・・・・まぁ、エリスの加護があればお前らが無傷なのも納得だ」

 

 

 

どこか納得というか、呆れたような口調で僕に視線を向けてくるリムルに、僕は薄く笑みを浮かべた。

 

 

 

「僕の大事な配下だからね。身の安全を保証するのも当然でしょ?」

 

 

 

「お前らしいな。ならいっその事、この魔国連邦(テンペスト)中の住民達にも『絶対保護』を掛けちまえば良くないか?それならお前が無駄に心配する必要だって・・・・・・」

 

 

 

「首都リムルだけならともかく・・・・・・魔国連邦(テンペスト)全体に一体どれだけの住民がいると思ってるの?流石にそれ全員に『絶対保護』をかけるのは無理があるよ。だから、今はそれとはまた違った方法で住民達にはバフとか加護を付けられるようスキルを練ってるところなんだ。期待して待っててね!」

 

 

 

「うっ・・・・・・あ、ああ!もちろん期待してるさ!頑張れよ?」

 

 

 

何故かスライムボディが溶けかかっているリムルに疑問を浮かべた僕だったが、気にする事もなくそのままガビルの話を聞くことにした。・・・・・・僕も色々と聞きたい事もあるしね?

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

視点 三人称

 

 

 

 

「それで?賠償金の用意の進捗はどうなのですか?お聞かせ願えませんか?」

 

 

 

ファルムス王国の謁見の間にて、ディアブロの低く冷め切った声が静かに響き渡る。その声に、間に集まったファルムス王国重鎮らは揃って肩を震わせていた。彼のスキルである『誘惑者(オトスモノ)』の支配下にあるラーゼンやエドマリス王はそこまで怯えた様子は見せないものの、やや顔は引き攣っていた。

 

 

 

「い、今しばらくお待ちを!星金貨は非常に希少で手に入りずらい硬貨でありまして、それを万枚集めるとなるとかなりの時間を要しまして・・・・・・」

 

 

 

「そうですか。では、なるべくお早めに。あまりに長くなられた場合、こちらとしても取るべき手段を取らせていただきますので。それをお忘れなき様に」

 

 

 

「くっ・・・・・・」

 

 

 

その魔国連邦(テンペスト)の(正確にはディアブロの)無理難題の要求に、重鎮達は顔を曇らせる。だが、無理難題とはいえ、これには従わざるを得ない。従わなかった場合、『ファルムス王国は戦争の継続の意あり』と魔国連邦(テンペスト)側に捉えられ、すぐに圧倒的武力を持って粉砕されてしまう事は明白だからだ。

 

 

 

「あぁ、それと。あなた方には聞きたい事があったのでした」

 

 

 

ふと、ディアブロは思い出したかのようにそう口を開くと、徐にエドマリス王へと視線を向けた。

 

 

 

「あなた方は、何故リムル様のご友人であられるエリス様のお命を狙われたのですか?私は付き合いがそこまで長くはありませんが、あのお方があなた方に恨みを買う様な行動に出るとは思えませんが?・・・・・・どうなのですか、ファルムスの王?」

 

 

 

「・・・・・・エリス殿とは、魔国連邦(テンペスト)副国主であられるエリス=テンペスト殿の事でよろしいか?」

 

 

 

「その通りです。知っていることを全て話しなさい?」

 

 

 

半ば脅迫するように、ディアブロはエドマリス王に命令を下す。エドマリス王は『誘惑者(オトスモノ)』の支配下にある為、当然拒むという選択肢はない。拒んだが最後、叛意有りとディアブロに悟られ、消させるのがオチだからだ。

 

 

 

「まず、訂正させて貰いたいのだが、我らはエリス殿の命を狙ってなどはいなかった」

 

 

 

「・・・・・・ふむ?」

 

 

 

「我らファルムスと西方聖教会が真に狙っていたのは、その()()()殿()()()だったのだ。その力を我らは魔国連邦(テンペスト)襲撃に並行して狙うべく、軍を動かしていたのだ」

 

 

 

 

「ほう?エリス様のあのお力は国をのぞいて秘匿されているはず。・・・・・・その情報は一体どこから?」

 

 

 

「以前、商人に偽装させた我が軍の兵を数名、情報収集と言うことで潜入させたのだが、その際にその者らが見たと申したのだ・・・・・・『魔国連邦(テンペスト)には、”圧倒的力を誇る国主”の他に、”どんな傷や病でも一瞬で治す力のある副国主”がいる』とな。それを聞いたレイヒムや余は、是が非でもその副国主の力を手中に収めたいと強く願い、兵やあの異世界人共に命令を下したのだ。・・・・・・どうにも、あやつらは認識を誤っていた様だがな」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

エドマリス王のその発言に、ディアブロはしばし思考を巡らせる。エリスの力は確かに、強力でありなおかつ汎用性も高い。ただの傷・・・・・・もしくは重症並みの傷であれば完全回復薬(フルポーション)でも代用は効くのだが、完全回復薬(フルポーション)は万能ではない。完全回復薬(フルポーション)はどんな傷でも一瞬で治せる効力を持つが、それ故にかなり希少で、数にも随分と限りがある。今でこそ、それなりに完全回復薬(フルポーション)を生産できる様になった魔国連邦(テンペスト)とは言え、数に限りがある事に変わりはなく、闇雲に使うのは良しとはされていない。

また、完全回復薬(フルポーション)は”傷”は治せても、風邪と言ったいわば”病”に類する物までは治す事はできない。それ故に、仮に重い病気にかかり、すでに余命いく場も無い人物に完全回復薬(フルポーション)をかけたところで、意味をなさないと言うことなのだ。

 

 

 

その点、エリスの能力はその様なデメリットはない。傷も病も隔たりなく完璧に治す事が可能なのだ。唯一のデメリットとしては、”膨大なる魔素”を消費すると言う事なのだが、それは以前のエリスであればの話であって、今の覚醒したエリスには『慈愛之王(アンピトリテ)』や『治癒之王(アスクレピオス)』と言った常識外れの究極能力(アルティメットスキル)が備わっている為、そのデメリットももはや無くなっていると見て良い(エリスの能力には、体の回復の他にも様々な”脅威的なバフや加護”があったりもするのだが、そこまでは流石に知られてはいない)。

 

 

 

その様な人材が魔国連邦(テンペスト)にいると知られれば、注目されるのも無理ないし、狙われると言うのも至極当たり前の様にも思える。ディアブロは、そのことを深く思案していた。

 

 

 

「(エリス様のお力は以前にも見せて貰いましたが・・・・・・確かにあの力を見れば、欲する国は数多くいるはず。・・・・・・エリス様の情報は、今後さらに厳重管理しなくてはなさそうですね)」

 

 

 

現状では、ファルムス王国と西方聖教会にしかその情報は行き届いていない様子だが、この情報が拡散すれば下手をすればこの世に点在する様々な国がエリスを狙いに動いてくる可能性もあった。それはなんとしても防ぎたかったディアブロは、エドマリス王に再度命令を下す。

 

 

 

「なるほど、よくわかりました。ファルムスの王よ。今後、この情報を誰にも・・・・・・この国以外の国へと漏らす事は決して許しません。もしも漏らした場合には・・・・・・わかっていますね?」

 

 

 

「うっ・・・・・・わ、わかった。この情報はここだけの情報としよう・・・・・・」

 

 

 

「ならば結構。・・・・・・では、私はそろそろ失礼します。賠償金の件、どうかお忘れなきように・・・・・・」

 

 

 

ディアブロは最後に一つそう命令を下した後、その場を後にした。謁見の間に残されたエドマリス王や重鎮達は、ディアブロによる重苦しいプレッシャーからようやく解放され、ほっと息をつくのだった・・・・・・。

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

視点 エリス

 

 

 

ガビルからの報告を聞いた僕とリムルはその場で別れ、洞窟に戻ろうとしていたガビルにテスタロッサを紹介したかった僕は、彼を呼び止めていた。

 

 

 

「ガビル、ちょっと待ってくれる?キミに紹介したい人がいるんだ」

 

 

 

「は?我輩に紹介したい人物ですかな?」

 

 

 

「あ、うん。キミには知らせて無かったんだけど、僕の直属の配下が新たに一人加わることになってね?・・・・・・言うなら、キミの新しい仲間にもなる人を紹介しようと思って。・・・・・・テスタロッサ?」

 

 

 

「はい」

 

 

 

「っ!?お、おぉ・・・・・・何と麗しい・・・・・・」

 

 

 

音もなく、テスタロッサが僕の隣に現れる。いきなり目の前に現れた”白髪の美女”に面食らった様子のガビルだったが、後ろに自分の配下達がいる以上、カッコ悪いところを見せたくなかったのか、なんとか平常心へと戻った。

 

 

 

「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいわ。ええっと・・・・・・確か、ガビルさんで良かったかしら?」

 

 

 

「む?なぜ我輩の名を?我輩とあなたは初対面のはずでは?」

 

 

 

「エリス様から事前に聞かせてもらっていたから。『僕の配下には、強くて、頼もしくて、優しくて、お調子者な人がいる』と」

 

 

 

「なるほど。・・・・・・改めて申し上げますぞ!我輩の名はガビル!我が敬愛なる主であらせられるエリス様の忠実なる配下であり、魔国連邦(テンペスト)随一の戦力を誇る飛竜衆(ヒリュウ)を統べる隊長である!!どうぞ、お見知り置きを!」

 

 

 

「「「おぉーーっ!!ガビル様、いつにも増してカッコイイーーっ!!」」」

 

 

 

いつも通り、配下達の大歓声の中、ガビルの通った声が響く。・・・・・・毎回思うんだけど、自己紹介のたびにそんな大声で叫ばなくてもいい気もする。無駄に長いし、うるさいから周りの人達にも変に迷惑かけるから・・・・・・。

 

 

ほら?みんなどこかうるさそうに耳塞いじゃってるし。・・・・・・テスタロッサはうるさくないのかな?

 

 

 

「ふふ、よろしく。わたくしはテスタロッサ。我が君であられるエリス様に生涯の忠誠を誓った誇り高き悪魔ですわ。わたくしの事は、気軽にテスタロッサとでも呼んでもらって構いません。同じ、エリス様の配下同士、仲良くしていただけたら嬉しいですわね」

 

 

 

「うむ!今日から我らは同じ志を持つ同志!テスタロッサ殿よ!これからもどうぞよろしく頼もうではないか!」

 

 

 

「ええ、ですがその前に、もう少し声を抑えてはもらえません事?わたくしもそうですが、エリス様や周りのお方も迷惑そうですわよ?」

 

 

 

あ、テスタロッサもやっぱりうるさいと思ってたんだ。まぁ、あれだけ大音量な声で話されてうるさいと思わないのは、聴覚が無い人や、耳がバカになってる人だけだろうしね・・・・・・。

 

 

 

「おっと・・・・・・失礼。では、我輩はそろそろ戻ります故、これにて失礼させて貰います。エリス様、何かお有りでしたらお気軽にお呼びください!」

 

 

 

「うん、わかった。じゃあ、気をつけてね?」

 

 

 

ガビルは最後にそれだけ言い残すと、配下達を連れて、洞窟へと戻っていった。今回は挨拶だけだったけど、二人にはもっと接点を作って貰いたいからいずれ、共同の作業を任せてみようとも考えている。二人にはもっと仲良くなって貰いたいからね。ヒョウガもだけど・・・・・・。

 

 

 

「エリス様?あなた様が彼を『お調子者』とおっしゃられた意味・・・・・・何となく理解できましたが、わたくしの認識に誤りはありませんか?」

 

 

 

「大丈夫。みんなそう思ってるから」

 

 

 

逆に()()を見てお調子者だと思わない人の方が少ないと思うから、テスタロッサのその認識は間違ってはいない・・・・・・むしろ大正解と言っていい。

 

 

 

そんなほのぼのとした邂逅を終えた僕達は、今日の仕事へと乗り出すことにするのだった・・・・・・。




この二人の絡みは今後どんどん多くなっていきますので、二人がどのように触れ合っていくのか、楽しみにお待ちください!


話にもありましたが、ファルムス王国と西方聖教会が魔国連邦(テンペスト)を襲撃したのは、粛清すると言う意味もありましたが、それと同時に”エリスの持つ力”を狙っていたのも理由となっています。彼らとは対を成す魔物とは言え、エリスのあの力はある意味ではリムルの力よりも利用価値はありますし、脅威性もありますからね。


・・・・・・とは言っても、エリスが自分達を襲いに来た彼らに加担する訳も無いでしょうし、それをリムルや配下達が許すはずも無いと思うので、それは大丈夫だとは思っていますが・・・・・・どうでしょうね?



ちなみに、エリスのバフはまだほとんど出してはいないので、あまり全容は言えないのですが、その効力をざっくり言ってしまうと、こんな感じの強さになります。



魔物の場合

   

(例)D級魔物→特A級魔物(クラスの力)




人間の場合

    

(例)一般兵士(平民)→聖人(クラスの力)




・・・・・・これで、少しはエリスの能力の脅威さが知れたのでは無いでしょうか?これはあくまでも目安ですので、エリスの力加減次第ではこれよりも強くなったり弱くなったりもしますので、あまり参考にはならないかも知れません。ただ『少なくともエリスにはこれだけのバフを一人だけでなく、大勢に掛けることが出来る』と言う事は覚えておいて下さい・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

祭りの開催に向けて

忙しくなりつつありますので、少し投稿頻度が落ちるかも知れません。


あらかじめ、ご了承ください!


魔王達の宴(ワルプルギス)から一ヶ月が経った。その間、魔国連邦(テンペスト)ではちょっとした問題が起こっていた。ゲルドを指揮者として任せていた、新たなるミリムの城の建築や、敷地の測量、整地が思ったよりも進捗状況がよろしくなかった事だ。その原因は、ゲルドたちを手伝うことを強要されていた捕虜である魔人にあったらしく、ゲルドも頭を抱えていたようだ。

 

こう言っては何だけど、ゲルドを始め、猪人族(ハイオーク)は皆かなり口下手なところがあるんだ。彼らのみで作業する分には『思念伝達』があるので言葉を交わす事もなく作業が出来るので問題無いのだが、種族の違う魔人達に関しては話が別。作業をするにしても、的確な指示や命令を下してくれないと何も手がつけられないのは当たり前のことだろう。時折、僕の『強化分身』で作った分身体を送り、彼らの代わりに掻い摘んで説明をした事もあったけど、僕はゲルドたちほどに建築業に関しては詳しく無いので、曖昧な説明にしかならなかったんだよね。

 

 

その為、彼らには是が非でも『会話術』と言うものを学んでほしいと以前強く言っておいたんだけど、未だにコミュニケーションを取ることは苦手らしい。・・・・・・それに関しては、何とか彼らに頑張ってもらう他ない。それに、ゲルドとしてもいい経験になるだろうし、ここで一度、自分自身で考えを巡らせる事で指揮者としても成長出来るだろうから、僕はこれ以上の介入はしないつもりでいた。・・・・・・リムルは昨日、ゲルドの愚痴や不満を解消させようと、一緒に朝方になるまで酒場で飲み明かしてたけど、ゲルドの愚痴ってあまり聞いた事無かったから、ちょっと聞きに行きたかった・・・・・・と思ったことは内緒だ。

 

 

 

 

そして今日、リムルは幹部達で会議を開くと、僕たちを会議室へと集めていた。

 

 

 

「えー、皆さん。既に知っている人も多いかもしれませんが、この度俺は魔王へと就任したしました!」

 

 

 

「うん、おめでとう!」

 

 

 

「「「おめでとうございますっ!!」」」

 

 

 

周知の事実だが、こうして改めて魔王への就任を伝えた事はこれまで無かったので、僕を含めた全員は一斉にリムルを祝福した。

 

 

 

「ありがとな!そんで持って、俺の支配領域がジュラの大森林全域っていう事も決まったから、今後も盟主だって言うのは変わりは無いぞ。もちろん、エリス副盟主?お前もな?」

 

 

 

「わかってるよ。・・・・・・あれ?でも、支配領域が全域に拡大したってことは、”アメルド大河の向こう側の方”もそれに位置するって意味だよね?それだと、ちょっとした問題も出て来るんじゃ無いかな?」

 

 

 

「問題?何かあるのか?」

 

 

 

僕のその発言の意味がリムルにはわかっていなかったようで、首を傾げていた。

 

 

 

「以前、ちょこっと行った事があったんだけど、どうにも向こう側はトレイニーさん達樹妖精(ドライアド)の影響下じゃ無いらしいんだ。ほら、リムルや僕が盟主や副盟主って認められているのは樹妖精(ドライアド)の地盤のみでしょ?」

 

 

 

「なるほど。つまりエリス様は、『川の向こう側に住んでいる者達が、突如として現れた魔王であるリムル様にいい顔をしない。・・・・・・下手をすれば魔王たるリムル様に挨拶も無しに、森に居座り最悪の場合、叛意ありにこの場に攻め寄せて来る可能性がある』・・・・・・そうおっしゃりたいのですね?」

 

 

 

「・・・・・・完璧な説明ありがと、ベニマル」

 

 

 

僕の代わりに説明してくれたベニマルに感謝した僕だったけど、出来れば僕に言わせて貰いたかった。・・・・・・リーテさんの推測もあったけど、僕なりに色々勉強し、考えて出した答えだったんだし・・・・・・。ちなみに、向こう側に行ったと言っても分身体がね?本体が魔国連邦(テンペスト)を離れる訳には行かなかったから。

 

 

 

「リムル様に挨拶に来ない失礼で愚かな輩など、攻めてくる前にこちらから出向いて滅ぼして仕舞えばよろしいのでは無いでしょうか!」

 

 

 

「どこの悪虐魔王だっ!?そんな挨拶に来ないだけで俺は別に怒ったりなんてしないぞっ!?」

 

 

 

「リムルの言う通りだよ、シオン?そんな事をすれば、逆にリムルの魔王としての評判を落としかねない。それはキミも望んで無いでしょ?・・・・・・だからそれは却下、いいね?」

 

 

 

「は、はい!申し訳ございませんでした・・・・・・」

 

 

 

高々と滅ぼす宣言をしたシオンに僕とリムルがほぼ同時に叱った事もあって、少ししょんぼりしたシオンだったが、事実なので反省させるべくそのまま放置することにした。

 

 

 

「それにしても、これからひっきりなしに客人が謁見に来るってなると面倒だなぁ・・・・・・。あ、そうだ!それならもういっその事、魔国連邦(テンペスト)で盛大に”祭り”を開かないか?そうすれば、その挨拶に来る客人達も全員まとめて招待できるし、新たな住民の獲得にも期待が持てる。それに・・・・・・これまでずっと忙しかったんだし、そろそろ息抜きもしたいだろ?」

 

 

 

「祭り・・・・・・良いですな!住民達も喜ぶ事間違いなし、早速準備に取り掛からなくては!」

 

 

 

リムルの口から途端に出た祭りの開催だが、最初に賛同したリグルドを始め、僕たちもそれに特に異を唱える事もなかった為、ここに魔国連邦(テンペスト)での祭りの開催が決定することとなった。・・・・・・とは言え、こちらとしてもまだやるべき仕事と言うものが残っているので、まずはそちらを片付けるべきだろう。

 

 

 

「祭りの開催はもちろん良いんだけど、その前にファルムス王国の動向を知っておきたいな。ディアブロ、進捗の方はどうなの?」

 

 

 

「はっ、計画そのものは順調でございます。新王エドワルドが兵を集め出していますので、内乱がいつ起こってもおかしくは無いでしょう。ただ一つ気掛かりなのは、リムル様のメッセージを持たせたレイヒムが一向に戻ってこない事ですね。死んでない事は間違いありませんが、時間を考えればすでに戻って来てもおかしくは無いのですが・・・・・・」

 

 

 

「マジか・・・・・・西方聖教会で何かあったのかもな・・・・・・。あいつらについては読めない事が多くて、正直敵対するかしないかもわからないんだよな〜・・・・・・」

 

 

 

少し苦い顔をしつつ、思考を巡らせるリムル。以前リムルは、ロキの城から押収した水晶球に『西方聖教会との友好を求める』メッセージを吹き込んだものをレイヒムに持たせ、西方聖教会に出頭させていた。元々、西方聖教会から出頭命令の出ていたレイヒムだからこそ、その任を任せたリムルだったのだが、僕は『西方聖教会には何かしらの思惑があっての今回のレイヒム招集』だと見ている。いくら、魔国連邦(テンペスト)とファルムス王国の内情や戦争状況などが知りたいが為とは言え、それを今の時期にこうして強制招集をかけてまでレイヒムを呼び戻すのは不自然だからね。・・・・・・とは言え、彼を手助けする義理もないので、僕は特に何も手出しはしてないんだけど。

 

 

 

「敵対はないんじゃないかな?リムルが魔王になった事もそうだけど、ヴェルドラさんもいる訳なんだし、向こうから仕掛けてくる可能性は低いと思うよ?」

 

 

 

「エリス様の言う通りでしょう。それに、今回の襲撃、そしてリムル様と聖人ヒナタの邂逅・・・・・・それがこうして同一時期に起こる事はどう見ても不自然です。恐らくですが、魔王クレイマンが言っていた”あの方”と言う人物が、裏で糸を引いていたのではないでしょうか?」

 

 

 

「”あの方”・・・・・・一体誰のことなんだろうな?」

 

 

 

その事については、僕もいまだに考えていた。ロキがたびたび口にしていた黒幕を仄めかすあの言葉・・・・・・。彼が指し示す人物・・・・・・今のところ僕が思い当たっているのは・・・・・・。

 

 

 

「(カザリームさん・・・・・・その人がロキに対して、クレイマンと言う名を授けた人物だってロキから聞いたけど、もしかしてその人が・・・・・・)」

 

 

 

《解。個体名ロキの思考回路に介入してみた結果、その言葉の指し示す言葉が個体名”カザリーム”であることを確認しました》

 

 

 

「(ああ、そっか。前にロキの思考を読めるように細工をしたって言ってたっけ?・・・・・・?と言うことは、今回の襲撃を計画してたのはカザリームさんってこと?)」

 

 

 

《否。カザリームの目的は別にある模様で、真の黒幕は別の人物だと推測します。また、ロキの思考の中に、”ユウキ・カグラザカ”という名が存在している事も確認済みです。あくまでも推測でしかありませんが、その人物が真の黒幕である可能性があります》

 

 

 

ユウキ・カグラザカ。確か、以前リムルが会いに行った自由組合(ギルド)自由組合総帥(グランドマスター)をしている人だっけ?リムルは『腹の読めない奴だけど悪い奴ではない』とは言ってたけど・・・・・・。

 

 

 

「(リーテさん、そのユウキさんについての情報は他にはないの?)」

 

 

 

《解。ロキの思考内の情報はこれにて全てとなっています。個体名ユウキは、自分の全ての計画や目的をロキに対して話していないと思われます》

 

 

 

「(そうか・・・・・・)」

 

 

 

リーテさんからの情報を聞いてみて、とりあえず発覚したのは、ロキの言う”あの方”というのがカザリームさんと言う事と、真の黒幕というのがユウキさんである可能性があると言うことだ。もちろん、情報が少なすぎるので、これが絶対である保証はないからまだ何とも言えないが、この情報があるに越した事はないので、ちゃんとリーテさんには感謝しないと。・・・・・・とは言え、情報不足なのは変わりないので、後でモスに諜報に行ってもらうようお願いしてみるつもりでいる。

 

 

 

「エリスは何か思い当たるか?」

 

 

 

「え?あ、えっと・・・・・・」

 

 

 

リムルからの急な振りに戸惑いを見せる。その正体がカザリームさんって言うことは知った僕だけど、それを徐に伝えちゃうと、それがどこ情報なのか問い詰められる可能性が極めて高い。馬鹿正直に『ロキの思考回路から取り寄せた情報』だなんて言えるわけもない僕は、今回は適当にはぐらかす事に決めた。

 

 

 

「僕もわからないな。それに、クレイマンの言っていた”あの方”っていう人が真の黒幕だとすれば、ファルムス王国を焚きつけたり、そのヒナタさんをリムルに接触させたりした理由って何なんだろう?その目的にピンとくるものがないんだけど?」

 

 

 

「俺の予想だが、多分黒幕は一人じゃないんだと思う。第一、西方聖教会トップの騎士団長でもあるヒナタを動かせる人材なんてそう多くはないしな。俺たちを邪魔だと思ってる新王であるエドワルドも一枚噛んでるかも知れないし、もし仮に黒幕が複数人いるのだとすれば、ヒナタの意志とは関係なく事態が動く可能性だってある。・・・・・・どうにも今回の一件、俺たちの知らないところでいろんな奴らが暗躍しているのかも知れないな」

 

 

 

「うん・・・・・・今後、西方聖教会の介入は警戒した方が良さそうだね」

 

 

 

「それにつきましては、私がしっかりとやっておきますのでご心配なく・・・・・・クフフ」

 

 

 

西方聖教会の監視はディアブロが担ってくれてるので問題はないだろう。・・・・・・その物騒な笑い方がどうにも引っかかるけど・・・・・・。

 

 

 

「まぁ、それはそれとして・・・・・・あ、そうだディアブロ?前エリスがお前に頼んだ『ファルムス王国がエリスを狙う理由』ってのは奴らから聞き出せたのか?」

 

 

 

「ん?あれ、ディアブロ?リムルには報告してなかったの?僕にはちょっと前に報告に来てくれてたのに?」

 

 

 

ディアブロにしては珍しい伝達ミスに、僕もリムルも訝しげな表情を作る。

 

 

 

「いえ。・・・・・・ですが、あの情報を話してしまいますと・・・・・・その、リムル様が・・・・・・」

 

 

 

「俺?俺に関係する情報なのか?だったら尚更話してくれないと困る。奴らから得た情報を話してくれ」

 

 

 

タジタジになりつつあるディアブロから半ば強引に、情報を聞こうとするリムル。・・・・・・なんで渋る必要があるんだろ?ディアブロの報告ではファルムス王国や西方聖教会は僕の”命”ではなく、”力”を狙って軍を動かしていたとの事だった。僕を利用してどんな事を企んでいたまでは情報を得られなかったみたいだけど、結局は僕やリムルに返り討ちに遭ってその目的も達成出来なかった訳だから、それについては水に流すことに決めた僕だったけど・・・・・・って、ん?

 

 

 

「(あ、そう言うことか!”あれ”を正直にリムルに伝えると・・・・・・多分間違いなく彼らに対して”怒る”だろうからね。怒ると見境無くなるところがリムルにはあるし、ディアブロはそれを懸念していたんだろう・・・・・・)あ、あのリム・・・・・・」

 

 

 

ディアブロが渋る理由に察しがついた僕は、リムルに意見しようとしたが、時既に遅し・・・・・・。

 

 

 

「分かりました。私の取り寄せた情報では、ファルムス王国と西方聖教会は”エリス様をこちらの手中”に収めるべく、襲撃と並行しつつ軍を動かしていた模様です。商人に偽装させ、魔国連邦(テンペスト)に潜入させたファルムス軍の兵達が持ち帰ったエリス様の情報を得たために・・・・・・。途中での伝達ミスにより、その目的が変わってしまった様でしたが。私の推理では、本来の奴らの狙いは、襲撃での対応に追われ、疲弊し切った状態のエリス様を狙い、そのまま本国へと連れ去ることだったと見ています。ただ、エリス様のお力が想像以上に凄まじく、兵の大半を失った事と、エリス様がお亡くなりになられた事で、それを断念せざるを得なかった・・・・・・。ある意味では、エリス様は亡くなられた事で奴らの魔の手から免れることができた・・・・・・とでも言いましょうか?」

 

 

 

「クロ?もしかして、『エリス様がその時亡くなられて良かった』・・・・・・なんて思っていないわよね?もし、そう思っているのであれば・・・・・・わたくしとしてはあなたを許してはおけませんわよ?」

 

 

 

テスタロッサが怒気を滲ませながらディアブロを睨んだ。

 

 

 

「いえ、決してその様には。・・・・・・ですが、それでエリス様が救われたのもまた事実。それはあなたにも分かる事でしょう?全く・・・・・・もう少しあなたにも頭という物を使って冷静な分析と判断を・・・・・・」

 

 

 

「喧嘩を売っているのね?表に出なさい?今日こそははっきりとあなたと決着を付けてあげますわ」

 

 

 

「お望みとあれば、私はいかようにも相手を・・・・・・」

 

 

 

「「ちょっと待てっ!?」」

 

 

 

ありったけの魔素を放出させ、いつでも戦闘態勢に入れる状態へと移行した二人を必死に止める僕とリムル。流石に主である僕とリムルに止めに入られては命令に従わざるを得ないと両者とも認識していることもあってか、割と簡単に落ち着きを取り戻した。テスタロッサが怒ってくれた事は嬉しいけど、二人に暴れられたら町が消し飛びかねないからね・・・・・・。

 

 

 

「はぁ〜・・・・・・ったく。つまりだ?あいつらはエリスの力が欲しくてエリスを狙った訳だな?確かにこいつの力は凄いし、ある無しでは雲泥の差ができるってもんだ。・・・・・・だが、それだけでうちを襲撃して良いって言う理由にはならない。・・・・・・しかも、よりにもよってうちのエリスを手中に収めるだと?・・・・・・どうしてくれようかな〜?」

 

 

 

「エリス様を連れ去る・・・・・・上等だ。今すぐにでもファルムス王国に乗り込み、その愚かな人間どもの脳天叩き割って、その腐った考えをぶち壊してきてやる・・・・・・」

 

 

 

「やはり、あの王にはもっと過酷な罰を与えるべきだった・・・・・・もう一度、首から下を斬り刻んで・・・・・・それからさらに私の手で・・・・・・」

 

 

 

リムルと”某武闘派2人”の物凄く物騒な言葉が飛び交う・・・・・・。これを見るに、3人ともかなりの怒りを見せている事は明らかだが、よく見てみるとその他の重鎮達も皆、顔を歪ませつつ憤りを見せていた。

 

 

 

「みんな。怒ってくれるのは嬉しいんだけど、今更こっちから攻撃を加えようとはしないでよ?彼らとはもう和睦条約を結んだんだから・・・・・・。それに、今こうしてみんなの前に僕がいれてる訳なんだし、もう気にする事はないんじゃないかな?」

 

 

 

「・・・・・・お前は相変わらずだよな。俺たちがこうして怒ってるって言うのに、当の本人のお前がそんな調子じゃ、こっちの気が狂っちまうわ」

 

 

 

「僕だって怒ってない訳じゃないよ?襲撃をしてきた事に関しては僕も怒ってるけど、ただ彼らには罪を償ってもらえればそれで許すし、折角和睦して争うことも無くなったんだし仲良くしたいんだよ」

 

 

 

「はぁ・・・・・・まぁ、それがお前だもんな。だが、こちらとしてはお前を殺されてはらわたが煮え繰り返りそうなのは事実だ。ファルムスにはそれ相応の罪の償い方をして貰うが、いいか?」

 

 

 

「・・・・・・わかった。だけど、程々にね?」

 

 

 

「おうっ!」

 

 

 

その後の会議で僕とリムルはそう結論づけた後、皆に今後の仕事と役割を伝え、この場はお開きとなった。

 

 

 

 

 




言っていませんでしたが、エリスは魂の系譜上にある仲間達の思考全部を読み取ることが出来ます。ロキもエリスから名付けをされてそこに加わりましたので、同様です。

さて、ロキがカザリームやユウキと繋がりがあることを知ったエリスですが、彼が今後どう言った行動を起こすのか・・・・・・。以前、ユウキが随分と”物騒な発言”をしていましたが、それにもいずれは触れる事になるのかも知れませんね・・・・・・。



※アンケートを実施します!内容は『ロキはテンペスト陣営(エリス陣営)に加入させるべき?』です。前回とは違い、今回は”二択”です。正直これは、かなり意見が分かれると思っていますが、どんな結果になろうとも話をちゃんと展開させていく様努力して行きますので、気軽にご参加ください!投票期間は数話分取らせて貰いますので、その間での投票をお願いします!

質問等はもちろん受け付けていますので、気軽にコメントして頂けると嬉しいです!では、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

能力の片鱗

かなり遅れました。申し訳ありません!最近やたらと忙しく、執筆に時間を取れませんでした。


それと何ですが、お陰様でこの小説を投稿し始めて”一年”が経過いたしました!まさか自分自身としても、ここまで続けて投稿できるとは思っても見なかったので、我が事ながら本当に嬉しく思っています!

これからも、応援をよろしくお願いします!


「リムル、エリスよ。我もそろそろこの妖気(オーラ)を抑え込むのも疲れてきた。まだ問題はないが、良い加減、我も思う存分妖気(オーラ)を解放したいと思っているのだが?」

 

 

「そんなことすりゃ、この国の大半の住民達が死んじまうだろうが!?濃すぎる魔素は人間もそうだが魔物にも毒なんだ!我慢しろ!」

 

 

 

「むぅ・・・・・・」

 

 

 

自分の願いを思いっきし却下されたヴェルドラさんは物凄く不満そうに口先を尖らせていた。僕たちは今、カイジンやベスターさんと一緒に彼らが作った試作品の”全自動魔法発動機”の初運転を見にきていた。この発動機は、大気中の魔素を利用し、魔法発動の燃料源である”魔晶石”と”刻印魔法”の魔法式を軸として設計され・・・・・・なんともびっくり!数にこそ限りがあるものの、”複数の魔法”が発動可能だということがわかったんだ。”魔素集積装置”まで備えていると言うこの発動機だが、カイジン達からの話で出た現在発動できる魔法で目を引いたのは、やはり”対魔結界”で、これがあれば魔国連邦(テンペスト)中に充満する濃い魔素濃度を調整出来るんだ。

 

 

そんな情報を知れば、常日頃から妖気(オーラ)(魔素)を抑えているヴェルドラさんとしてはそう意見したくなるのも分からなくはないんだけど、流石に魔国連邦(テンペスト)随一の魔素量を誇るヴェルドラさんの魔素をこの発動機に集積させるのは無理があると思うんだよね?

 

 

 

「今、”僕が張った結界”の効力を少し上げておきましたので、少しの間でしたら魔素を解放しても大丈夫ですから、それでどうにか納得してください」

 

 

 

「っ!?エリスっ!お前何言って・・・・・・」

 

 

 

「大丈夫。『水天領域(アクアドメイン)』は無駄な魔素の流出や魔素濃度を調整する効力を持ってるし、その効力もさっき上げておいたから、いくらヴェルドラさんの魔素と言えど、少しの間だったら解放させても問題ないよ。・・・・・・でもヴェルドラさん?なるべく程々にしてくださいよ?」

 

 

 

「おおっ!エリスよ!感謝するぞ!」

 

 

 

先程の不満そうな顔から一転して、満面の笑みを浮かべつつ僕に感謝を述べたヴェルドラさんは、すぐに抑えていた魔素を解き放った。普通であれば、膨大なる魔素を保有する竜種であるヴェルドラさんの魔素をまともに浴びてしまうと、普通の人間や魔物であればすぐに生き絶えてしまう。だが、今回は僕が以前から張っておいた結界魔法『水天領域(アクアドメイン)』のおかげもあって、魔素濃度が飛躍的に高まると言った事は起こらなかった。

 

 

 

「はぁ・・・・・・エリス?お前ちょっとヴェルドラのことを甘やかしすぎじゃないか?」

 

 

 

「・・・・・・逆に言うけど、リムルはヴェルドラさんに対して厳し過ぎるよ?あの人の魔素量は桁違いなんだし、それを抑えるとなると相当大変だしストレスだって溜まる。()()()()みたいにスキルで魔素を押し込める訳じゃないんだから、少しは労ってあげないと」

 

 

 

「それはそうだけどなぁ・・・・・・って、”僕”?お前って魔素を収納できるスキルなんて持ってたか?」

 

 

 

「うん。『水結界(アクアヴェール)』を『水天領域(アクアドメイン)』の効力の一部を加えて、常時魔素の放出を抑えられるように改良したんだよ。僕の魔素量は二人に比べればだいぶ少ないし、制御の難易度も下がるから、今では”いつでも魔素ゼロを維持”できるようになっているんだ」

 

 

 

懇切丁寧に解説する僕。『水天領域(アクアドメイン)』は僕の水を元に結界を作り出す魔法で、魔素を抑制する事もそうだが、外部からの不正な干渉・・・・・・所謂盗聴や盗視などを防げる事ができ、尚且つこの結界内に存在する生物全ての所在を把握する事も可能とする優れ物の結界魔法だ。実を言うと、この『水天領域(アクアドメイン)』はだいぶ前から使えたりした。それこそ、僕が異世界に来て間もない頃ぐらいには。だと言うのに、こんな便利そうな魔法を僕は今まで使ってこなかった・・・・・・いや、正確には使えなかったんだ。

 

 

水天領域(アクアドメイン)』は確かに優秀な魔法だが、その分消費する魔素(魔力)の量がかなり多かった。量で言うと、覚醒する前の僕の魔素量を”7割”ほど持っていく量だ。今でこそ、発動しても問題無くなったこの魔法だけど、その当時にこの魔法を使う程の度胸と魔素を持ち合わせていなかった僕は泣く泣く使用を断念せざるを得なかった為、当時は”問題児扱い”をしていた・・・・・・。『水結界(アクアヴェール)』はその後、リーテさんが(その当時は指導者(ミチビクモノ)さんだけど)『水天領域(アクアドメイン)』の派生として作ってくれた物で、消費魔素量は格段に減り、おまけに自身の防御力が上がり、使い勝手も良くなったんだけど、その代わりに従来にあった魔素の抑制や結界の範囲の拡大化、不正干渉の遮断と言った便利な効力は失う事となってしまった。

 

 

だが、ここでもやはり僕の中の先生(リーテさん)は有能さを見せつけ、『水結界(アクアヴェール)』に『水天領域(アクアドメイン)』の効力の一部である”魔素抑制”を新たに加える事に成功させていた。それもあり、先程も話したけど、今では魔素を完璧に抑える事も出来るようになっていた。・・・・・・これで、念願だった人間の国へ赴いても、堂々と町中を歩けるんだ・・・・・・!

 

 

 

「本当だったら魔国連邦(テンペスト)全体に『水天領域(アクアドメイン)』を張りたかったんだけど、流石に広すぎて無理だったから首都リムル以外の場所はカイジン達の作った発動機で魔素の調整を行う・・・・・・ってことでよかったんだっけ?」

 

 

 

「ああ。旦那に無理させるのもわりーからな。この全自動魔法発動機はこれからクロベエさんに大量に製作して貰うよう頼んで見るつもりだ。刻印魔法の魔法式はすでにドルドが完成させてるから、後は設置の許可をリムルの旦那から貰うだけだぜ?」

 

 

 

リムルが魔王となり、領土も広くなった魔国連邦(テンペスト)全体に『水天領域(アクアドメイン)』を掛けるのは流石に無理がある。それをカイジンやベスターさんと話し合った結果、こうなった感じだけど、リムルはどう見るかな?

 

 

 

「ああ、それで構わない。魔素の問題は早いとこ解決したかった所だからな。カイジン、ベスター、早急に作業に入ってくれ。何か足りないものがあったら遠慮せずに言えよ?」

 

 

 

「ああ!任せとけっ!」

 

 

 

「はっ!お任せください!」

 

 

 

二人とも気持ち良いほどの笑顔を見せつつ、そう返すと、作業場へと戻っていった。あの様子なら、期待できることだろう。

 

 

 

「クァーーハッハッハッハ!!久しぶりに妖気(オーラ)を解放したが、やはり気持ちがいい!少し物足りない所があるがな?」

 

 

 

「・・・・・・あれ以上の魔素の放出はやめて下さい。あれ以上は僕の結界でも耐えられそうにありませんので」

 

 

 

「ヴェルドラ、もう少し我慢してくれ。近いうちに、お前でも思う存分魔素を放出できる場所を作ってやるからさ?」

 

 

 

「おおっ!それは楽しみだ!リムルよ!期待して待っておるぞ!」

 

 

 

ヴェルドラさんも、魔素を解放出来たことである程度のストレス解消になったらしく、ご機嫌な様子で帰っていった。またリムルから新しい聖典(マンガ)を貰ったらしいから、続きを読みに向かったんだろうね。

 

 

 

「ふぅ・・・・・・これから忙しくなりそうだ」

 

 

 

「だな。俺たちも頑張らねーと・・・・・・それにしても、お前の力は相変わらず便利だし効力も抜群だし・・・・・・マジですごいよな?お前って実は、俺よりもずっと上のチートだったりするんじゃねーか?」

 

 

 

「・・・・・・それをキミが言うと嫌味にしか聞こえないからやめてくれるかな?」

 

 

 

僕よりも明らかにチートなリムルにそう言われては僕も腹が立つ。確かに、僕の能力はあくまでもサポート系が殆どで、それに関して言えばリムルよりも秀でているのかも知れないけど、僕自身は決して強いとは言えないし、出来ることもリムルほどに多くはない。つまり、総合的に見ればリムルの方が断然強いので、チートと言うのならリムルの方が合っていると思う。

 

 

 

「・・・・・・なぁ?ちょっと、お前の能力を試させてくれないか?」

 

 

 

「試す?具体的にどうするの?」

 

 

 

「・・・・・・俺にちょっとバフをかけて見てくれ。バフ後とバフ前の攻撃の威力がどう違うのか俺が確かめてやるから」

 

 

 

「別にいいけど、気をつけてよ?」

 

 

 

ああ。と一言だけ返したリムルは、まず僕のバフ無しで街道の隅にあった木に向かって斬りかかった。リムルの斬撃が木の幹に直撃すると、そこには”剣撃の痕”がくっきりと残っていたが、木を倒すまでには至らなかった。これを目安として、バフ後では一体どれだけの威力になるのやら・・・・・・。

 

 

 

「よし。じゃあ、エリス?頼む!」

 

 

 

「うん。ふぅ・・・・・・はぁっ!」

 

 

 

一つ息を整え、僕は『癒しの空間(ヒーリングルーム)』をこの場に展開させる。以前の『応援者(コブスルモノ)』の効力に、『治癒者(イヤスモノ)』の効力を組み合わせたような結界スキルで、その効力は『治癒之王(アスクレピオス)』の補正や強化もあって、以前とは比べものにはならないほどになっている。これを使うのは今が初めてなので、どんな効力があるのかワクワクしているけど、リムルを下手に強化すれば街の一つや二つは消されかねない為、今回はかなり効力を抑えていた。

 

 

 

「おっ!体が軽い!よし!いっちょ盛大に行くぜっ!!」

 

 

 

先ほどとは明らかに動きの様子が変わったリムルが、一発自分自身に気合を入れると、すぐさま目の前の木に再び斬りかかった。

 

 

 

 

 

さて・・・・・・一体どんな威力になっているのか。多分、”木を切り倒せるくらい”にはなってると思うけど。・・・・・・そんな呑気に思考を巡らせていた僕だったが、次の瞬間・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(バァッキャァァァァッッ!!!バキバキバキッ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・この辺一帯に盛大なる”何かが斬り倒された様な音”が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・・はいっ?」」

 

 

 

 

 

僕とリムルの声がハモる。・・・・・・うん、ちょっと待って?一体何が起こったんだろう?何で・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

”目の前の木だけでなく、その背後に生えていた木達まで全て斬り倒してる”んだろう?しかも、見たところ・・・・・・”100m先の木”まで斬り倒してるし・・・・・・。

 

 

 

 

「リ、リムル・・・・・・?ちなみに聞くけど、キミなりに加減ってした?」

 

 

 

「い、いや・・・・・・結構力強めで振って見たんだが・・・・・・振ったらなんか剣の振った勢いで”鎌風”が巻き起こったみたいで・・・・・・その鎌風が目の前の木達をだな〜・・・・・・あはは」

 

 

 

「だからだよ!バフ無しでだってかなり強いキミが、バフ有りで思いっきり剣なんて振ったらそうなるでしょ!どうするのこれっ!?絶対怒られるよ!?」

 

 

 

「それを言うならお前だって同罪だろっ!?どんだけ強いバフを掛けたんだよお前って奴はっ!」

 

 

 

「かなり抑えたよっ!?抑えて”これ”なんだから、どうしようも無いでしょ!」

 

 

 

「おいおい・・・・・・マジか・・・・・・こんなバフが使えて、尚且つ並外れた『治癒』まで出来る・・・・・・そりゃ、ファルムス王国も欲しがるわな」

 

 

 

呆れたようにため息を吐くリムル。それと同時に、僕もまた一つため息を吐いた。抑えたと言うのは間違いは無く、バフで消費する魔素もかなり少ないくらいの微力なバフをリムルに対して掛けたつもりだったんだけど・・・・・・これは、想像以上だった・・・・・・。もしももっと強い力でリムルにバフを掛けてたらと思うと・・・・・・ゾッとする。はぁ・・・・・・使い方を間違うと、大惨事になりかねないよね・・・・・・これ?

 

 

 

「今後、キミにバフをかけるのはやめておくよ。無駄に辺りを破壊されてはたまったものでは無いから・・・・・・」

 

 

 

「それは俺も同感だ・・・・・・」

 

 

 

結局その日、僕たちは一日中自分たちで破壊した木々の後片付けをすることとなり、シュナやベニマル、リグルドからは大目玉を食らう羽目となるのだった・・・・・・。

 

 

 




エリスの今回見せた力は、ほんの一部でしかありません。今回彼がリムルにかけたバフも彼の魔素を”10分の1”も消費しないぐらいの軽いものでした。それですら、リムルに掛ければあれだけの威力を出せるのですから、本気でバフを掛けたら世界そのものを破壊しかねないのでは無いですかね?・・・・・・うぅ、怖い。


水天領域(アクアドメイン)』は、描写こそ有りませんでしたが、エリスの言うように初期から使えました。時期的に言うと、『リムルと会って間も無い頃』ぐらいです。使う魔素が多い事もあって、彼は使う事はありませんでしたが、今となっては消費してもすぐに回復しますので、今後はバンバン使わせていくつもりですのでお楽しみに!





水天領域(アクアドメイン)

エリスのオリジナル魔法。エリスの水で辺り一面をコーティングし、外部からの不正侵入、盗聴、盗視を防ぎ、尚且つ余分な魔素の放出を抑制する作用も持つ万能タイプの結界魔法だ。また、発動者であるエリスは、その結界内にいる間は、その結界内に存在する生物全ての所在を把握することが出来る。微力だが、防御力や回復力を向上させる効力もある為、この結界内にいる者達は、傷を負うする可能性が低くなっている。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

出立の理由

かなり遅くなって申し訳ございません!


忙しさにどうしても負けてしまい・・・・・・執筆に時間を取れる時間が少なくて・・・・・・。


なんとか投稿は続けていきますので、どうかご容赦を!


「エリス様、つい先程、ヒナタ・サカグチがイングラシア王国を出立した事を確認致しました。配下等は連れておらず、単騎での出立の様子でしたが、方角から察するに、ここ・・・・・・”首都リムル”を目指していると思われます」

 

 

 

それから数日後、家で寛いでいた僕の元へ、諜報に出ていたモスからある情報が入る。内容はさっきモスが言った通りのことなのだが、その内容に僕は少なからず驚いた。

 

 

 

「・・・・・・出立の理由とかは分かってたりする?」

 

 

 

「申し訳ありません。私もこの情報を取り入れたのはつい先程のことですので・・・・・・。すぐに新たなる情報を掴んで参りますのでもう暫くお待ちください」

 

 

 

「うん、頼むよ」

 

 

 

僕がそう命じると、颯爽とモスはその場から去り、再び諜報活動へと戻っていった。

 

 

 

「ヒナタ・サカグチ・・・・・・。僕やリムルと同じ日本出身の女性だと言う事は分かってるけど、その他にその人の情報は無い・・・・・・。強いて言うなら、その人も僕の命を狙ってるって事ぐらいだけど・・・・・・」

 

 

 

「エリス様。もしご所望とあれば、わたくしが今からでもそのヒナタとやらの魂でも喰らって参りましょうか?エリス様を脅かす存在であるとするならば、わたくしが出向いても・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・まだ彼女がどんな理由で出立したかもわからない状況だよ?そんな事をしても意味なんて無いし、それのせいで西方聖教会の怒りを買う事もあり得るから、それはダメだからね?」

 

 

 

この場にいたいつもの調子のテスタロッサに対して冷静なツッコミを入れる僕。・・・・・・それにしても、本当に何が目的でここに向かってくるのだろう?西方聖教会へは、リムルがメッセージを送ったはずだし、こちらとしても、敵対する意を見せてきたつもりは無いんだけど・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・リムルに相談してみよう」

 

 

 

考えがまとまりそうに無かった僕は、テスタロッサを連れ、リムルの家へと向かうことにするのだった。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「お前にもその情報が入ったか。俺もさっき、ソーカから聞かされた・・・・・・ヒナタの奴・・・・・・どう言うつもりだ?」

 

 

 

リムルの家に着いた僕達は、早速リムルにヒナタ・サカグチがここへ向けて出立したと言うことを伝えたのだけれど、リムルの方でも既にその情報は得ていた様で、僕同様に困惑な表情を浮かべていた。

 

 

 

「進撃・・・・・・であるとするなら、大勢の大軍を率いてくるはず。・・・・・・それが単騎となると、話し合いにでも来てくれるのかな?」

 

 

 

「馬鹿言うな。いくらメッセージを出したとは言え、西方聖教会が俺たちをそう簡単に認める筈がないだろうし、来てるのは教会の実質トップのあのヒナタだぞ?話し合い程度でここまでわざわざ向かってくるとは思えないだろうが」

 

 

 

「そうだよね〜・・・・・・」

 

 

 

リムルと僕は、さらに困惑を深める。ヒナタさんは以前、リムルと死闘を演じ、弱体化していたとは言え、リムルを追い詰めたほどの実力を持った人だ。その実力を持ってすれば、単騎でここにこようとする気も分からなくもない。それに、彼女は完全にリムルを敵対視し、和解などとてもじゃないが出来そうになかったらしいし、”話し合いに来る”・・・・・・と言うのはまず無いと思っていいかもしれない。

 

 

 

「ですが、今ここで魔国連邦(テンペスト)と西方聖教会が争ったところで、双方にメリットは無さそうですわ。それは向こうとしても分かっている事のはず・・・・・・。だと言うのに、そのヒナタと言う女はここに向かってくる・・・・・・申し訳ありませんが、わたくしにはそれが理解しかねます」

 

 

 

「大丈夫だ。お前だけじゃなく、俺もエリスもそう思ってるし・・・・・・」

 

 

 

「うん。ここで争っても無駄な体力を使うだけだし、戦力だって削がれかねないんだし・・・・・・本当に、何考えてるんだろ、ヒナタさん・・・・・・いや、西方聖教会は・・・・・・」

 

 

 

結局、この場でも答えが出せなかった僕達は、西方聖教会の事を知るべくその後、元西方聖教会の枢機卿のアダルマンの元へと向かい、西方聖教会の事について詳しく話を聞かせてもらった。アダルマンの話だと、今でこそ、かなりの武力を持ち、異常なる権勢を誇っている西方聖教会だけれど、昔は違ったようで、昔の西方聖教会はただ、ルミナス教の布教に従事する事が役目だったそうで、信者に神の教えを広めるだけの一つの下部組織でしか無かった。だけど、”七曜”と言う神皇国ルベリオスの最高顧問たる七人の老師達が建て直しを行った辺りから、徐々に西方聖教会が変わってしまったらしく、アダルマンが七曜の罠によって殺されてからこの数百年間で、ここまでの大きな組織へと変貌を遂げてしまったようだ(ちなみに、アダルマンは彼の友人のガドラの秘術である輪廻転生(リインカーネーション)で復活出来たらしいんだけど、このように死霊(ワイト)に転生してしまったんだって)。

 

また、アダルマンは、今回のヒナタさんの出立には神皇国ルベリオスや七曜も絡んでいると見ている。いくら、西方聖教会実質トップのヒナタさんとは言え、そのさらに上の組織や人物達に命を下されては従わざるを得ない・・・・・・と言う予測だ。どんな命令を下されたかは知らないけど・・・・・・。

 

 

 

「結局、ヒナタさんがそんな目的で来るかは分からずじまいか・・・・・・。それに、西方聖教会やルベリオスには、”十大聖人”とか言うすごく強い騎士達がいるんでしょ?やっぱり敵対だけはしたく無いね・・・・・・」

 

 

 

「だよな・・・・・・。アダルマン、その”十大聖人”ってのは、どのくらいの強さを誇ってるんだ?」

 

 

 

「あくまで目安ですが・・・・・・”仙人級”、魔物で置き換えるなら”魔王種並み”の強さを誇っていると見てよろしいかと」

 

 

 

「「・・・・・・」」

 

 

 

これには唖然とする僕達。一人だけでも覚醒前の魔王並みに強い人材が10人も居るという事実を知れば、こうなるのは当然だろう。聖騎士団(クルセイダーズ)法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)に所属している人達全てがAランク級の強さを誇ると言うのに、さらにそんな強そうな人達がいるなんて・・・・・・。ヒナタさんに至っては、さらに上の”聖人”にまで到達してるんじゃ無いかな?リムルが死にかけるくらいに追い詰めた人だし・・・・・・。

 

 

 

「参ったな・・・・・・。ついさっきにも、ヒナタを追う様にして4人の聖騎士(ホーリーナイト)達が”武装をして”出立したって情報が届いたんだよなぁ・・・・・・。どうするべきか・・・・・・」

 

 

 

「話し合いに応じてくれればいいんだけど、武装をしてるんじゃ・・・・・・最悪戦う事になることもあり得るの?」

 

 

 

「あり得るな。そうなった場合、俺がヒナタを相手取る。その他の騎士達は・・・・・・他の奴に任せる」

 

 

 

何故か、僕に視線を向けてきたリムル。だが、すぐに目を逸らされてしまった。・・・・・・何?

 

 

 

「・・・・・・何で一瞬、僕に視線を向けたの?・・・・・・いいよ、相手の人たちもかなりの強さだって話だし、その人たちの事は僕や他の皆が相手取るよ」

 

 

 

「大丈夫か?お前、素の力だとベニマル以下だろ?ヒナタほどでは無いにせよ、仙人級の強さを持つそいつらを4人相手にだなんて・・・・・・」

 

 

 

「さらっと心の傷を抉らないで貰える?・・・・・・大丈夫、みんなもいるし、僕もそれなりに強いとは思う・・・・・・から?」

 

 

 

「疑問形になるなよっ!?そんな調子ならヴェルドラと一緒に魔国連邦(テンペスト)で待機してもらうからなっ!」

 

 

 

「だから大丈夫だって!・・・・・・もうっ、心配性なんだから・・・・・・」

 

 

 

そんな訳で、ここに来るであろうヒナタさん達聖騎士(ホーリーナイト)達はリムルや僕、他のみんな(ベニマルやガビル、テスタロッサ)で対応すると言う事に決まり、早速僕達は、準備に取り掛かるのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

「エリス様、少しご相談があるのですが・・・・・・」

 

 

 

準備に取り組んでから数時間後、僕の元へどこか不安げな顔をしたシオンがやってきた。こんな顔になる彼女は珍しい為、僕は何か起こったのでは無いかと心配になってしまっていた。

 

 

 

「うん、何かな?」

 

 

 

「はい、私の部隊のことなのですけど・・・・・・言ってしまうと、私の部隊は・・・・・・他の部隊、例えばベニマルやガビルのと比べると・・・・・・力が劣っている様にも思えるのです」

 

 

 

「へ?あ、あぁ・・・・・・なるほど」

 

 

 

シオンの言ってる事に納得の言った僕は、軽く相槌を打つ。シオンが持つ配下の数は100名。だが、同じ100名でもガビルの飛竜衆(ヒリュウ)やベニマルの紅炎衆(クレナイ)と比べてしまうと全然違う。そもそもの話、シオンの配下になった者達はみんな、ホブゴブリンや他の力がそこまで高く無い種族の魔物が集められた者ばかりであり、上位クラスの種族がかき集められたベニマルやガビルの隊と比べてしまうと、どうしても差が出てきてしまうのだ。シオンはおそらく、その事を随分と気にしているのだろう。

 

 

 

「ですので、エリス様、どうすれば私の部隊がもっと強くなれるかご教授をお願いしたいのです!」

 

 

 

「教授って・・・・・・僕にはそんな知識無いし・・・・・・ハクロウにでも相談してみればいいんじゃ無いかな?」

 

 

 

「行きました!ですが、ハクロウは『鍛錬あるのみ!』と譲らず・・・・・・」

 

 

 

「うん、でしょうね」

 

 

 

強くなるには努力・・・・・・つまり鍛錬が必要。それは誰しもが分かりきってる事だろう。僕だって常日頃から鍛錬して、自分の能力の向上に励んでるんだし。・・・・・・とは言え、それを伝えたところで、シオンの悩みは晴れないだろう。・・・・・・仕方ない、ちょっとだけ手を貸してあげよう。

 

 

 

「わかった。じゃあ、キミの部隊全員には、僕から二つ程バフを掛けるから、そのバフを用いて今後とも力の向上の為に鍛錬を続けて欲しい。それを約束できるかな?」

 

 

 

「ほ、本当ですかっ!?はい!勿論です!今すぐにでも配下達をつれてきますので少々お待ちを!」

 

 

 

さっきまでの曇った表情が嘘のように晴れたシオンはすごい勢いで自分の配下達100人をかき集めてきた。その間、およそ”1分”・・・・・・どんな方法で集めてきたんだろ?

 

 

 

「皆の者!よく聞け!これよりお前達には、エリス様からのご加護が付与される事と決まった!それ故、今後はその加護の下に己自身を磨き上げ、そして・・・・・・エリス様への永遠の忠誠を誓う事を約束せよ!いいな!」

 

 

 

「「「「はっ!!!!」」」」

 

 

 

シオンの檄に元気よく返事を返すその配下達・・・・・・。覚悟は出来てる様子だし・・・・・・じゃあ、やろうか!

 

 

 

 

 

「よし。・・・・・・ふうぅぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあぁぁっ!!」

 

 

 

 

いつも通り、両手を前に翳し魔素を込めた僕は、目の前にいる100名の戦士達に二つのバフをかけた。

 

 

 

 

《告。主人(マスター)により、100名の対象者達全員に、『絶対保護』『攻撃吸収(アブソーブ)』の付与が成功しました》

 

 

 

「ふぅ・・・・・・これで完了っと」

 

 

 

バフの付与に完了したとリーテさんから報告を受けた僕は、肩の力を抜きあげていた両手を静かに下ろし、一つ息を吐いた。

 

 

 

「エリス様、もう終わりですか?」

 

 

 

「うん、キミの配下達にはキミに掛けた『絶対保護』ともう一つ、『攻撃吸収(アブソーブ)』というバフも付与させてもらったよ」

 

 

 

「『攻撃吸収(アブソーブ)』?それはどんな加護なのでしょう?」

 

 

 

「『攻撃吸収(アブソーブ)』は、その名の通り、相手からの攻撃や魔法、スキルを吸収するバフで、これで吸収した分は全て、受けた人の力に加算されるのが最大の特徴だよ。つまり、”相手から攻撃を受ければ受けるほど、キミ達はどんどん強くなっていく”と言うこと。『絶対保護』もあるし、どんだけ攻撃を受けてもダメージは負わない筈だから、鍛錬の中でも常に部隊内で模擬戦を行なってみるのも手かも知れないね。・・・・・・今後、みんなをどう鍛えるかはシオンの自由だから、後のことは任せたよ、シオン?」

 

 

 

「お任せください!エリス様から頂いた大切なこの加護・・・・・・決して無駄にはしません!皆の者!今から早速鍛錬に向かうぞ!!」

 

 

 

シオンの号令で、100名の戦士達は、一斉にこの場を後にし、鍛錬場へと向かっていった。この隊は鍛錬を積めば積むほど他の隊よりもさらに早く強くなれる事だろうから、今後の彼らの成長が非常に楽しみだ。それに、滅多なことでも無い限り、死なないと言うのもまた彼らの強みだろう。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・そう言えば、シオンの部隊にはまだちゃんとした名前がなかったっけ?それなら、僕が勝手に命名させて貰うかな?

 

 

 

 

 

彼らは今後きっと、魔国連邦(テンペスト)内でも上位に君臨する程に強くなる部隊だろう。僕が付与した『絶対保護』『攻撃吸収(アブソーブ)』によって、いくら攻撃を受けようとも死ぬ事さえなく、あまつさえその攻撃を受ける事により自身を強化する術を持つ集団・・・・・・まさに”滅び”より逃れた強化戦士団とも呼んでいい・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼らの部隊名は・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「”紫滅衆(フメツ)”・・・・・・これが良いかな?」

 

 

 

 




そんな訳で、シオンの部隊は”紫滅衆(フメツ)”と言う名に決まりました。原作の『完全記憶』や『自己再生』が無い代わり、エリスのバフである『絶対保護』『攻撃吸収(アブソーブ)』が付与されてます。言ってしまうと、この二つのバフは上記の二つのスキルの”上位互換”とでも思ってください。何より、『攻撃吸収(アブソーブ)』が光るかと思われます。攻撃を受けるだけで力が上がるのですから、もしもハクロウの地獄の指南を彼らが受ければかなり強くなる事間違いなしでは無いでしょうかね?


今後の彼らの活躍もどうかお楽しみに!







攻撃吸収(アブソーブ)


エリスのバフの一つ。攻撃や魔法、スキルを受けることでそれを自分の力に置き換え、蓄えることの出来るバフ。蓄えられる力の上限はないので、攻撃を受ければ受けるほど何倍にも何十倍にも強くなれる。『絶対保護』があると、いくら攻撃を受けようともダメージは入らないので、永遠に攻撃を受け続けることが出来る。力の加算に至っては、その攻撃の威力によって異なる。



エリスのバフは描写こそありませんが、まだまだたくさん存在してます。今後もどんどん出していきますのでどうかお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖騎士(ホーリーナイト)達の思惑

最近の暑さはやばいです・・・・・・。


体調管理にもしっかりと気を配らないと!


視点 三人称

 

 

 

「ヒナタ様、この”ラーメン”という食べ物・・・・・・私達、食べた事ないのですけど、本当に美味しいのですか?」

 

 

 

「だからそう言っているでしょう?嫌なら食べなければ良いわ」

 

 

 

「いや、せっかくなので頂きますけど・・・・・・」

 

 

 

ブルムンド国内にあるとある料亭にて、賑やか(?)に談話する一行があった。・・・・・・西方聖教会から、魔国連邦(テンペスト)へと出立していたヒナタ達聖騎士(ホーリーナイト)だ。彼女らは、目的地である魔国連邦(テンペスト)に向かう途中に通る事となるブルムンド王国へと足を運んでおり、今は十日程の進軍の疲れを癒すべく、宿に泊まる傍ら、夕食を摂るという話になっていたのだ。

 

 

 

「お待たせしましたー!ラーメンと餃子のセットです!」

 

 

 

待つこと数分後、彼女達の昼食となるラーメンセットが運ばれてくる。異世界の料理であるラーメンという料理を、ヒナタ以外の聖騎士(ホーリーナイト)達は、興味深そうに見つめているが、ヒナタに至っては、久方ぶりに食べるラーメンに内心で感動しつつ、箸を手に取っていた。

 

 

 

「(ラーメン・・・・・・もう食べれないと思っていたのに・・・・・・)・・・・・・いただきます」

 

 

 

スープを一口、口に含み味を確かめた後、ゆっくりと丁寧に味わうように麺を啜るヒナタ。それに感化された聖騎士(ホーリーナイト)達もヒナタの動きを真似ながらラーメンを味わっていった。

 

 

 

「お、美味しいっ!何でこんなに複雑な味してるのに美味しいんだっ!?」

 

 

 

「もちもちしていて美味しい・・・・・・このスープもしつこくなくて飲みやすい・・・・・・」

 

 

 

「この餃子とやらもいける!」

 

 

 

「・・・・・・だから言ったでしょう(それにしても、本当に美味しいわ、このラーメン・・・・・・この異世界でこの完成度・・・・・・これは向こう(日本)にいた人でない限りは作れない)」

 

 

 

自分の世界の料理が好評の様子に、ヒナタの頬が吊り上る。それと同時にヒナタはこのラーメンの完成度の高さに驚きを隠せないでいた。無論だが、この世界にラーメンと言う料理は無く、ラーメンに関する知識(素材や調理方法)も皆無に等しい為、ヒナタの言うように、この世界でラーメンにありつけるのは絶望的だったのだ。・・・・・・だが、そう思っていた矢先にここまで完璧なラーメンを出されてしまっては、驚くのも仕方ないと言ったものだ(餃子も同様)。

 

 

ちなみにこれはリムルやエリスが、調達した材料やレシピをミョルマイルがこの国で広めたことで巷に出回るようになった。

 

 

 

「店員さんに聞いた話だと、この料理は魔国連邦(テンペスト)の魔王から直接卸した商品をそのまま売っているそうよ」

 

 

 

「えっ!?こんな美味い物が魔物との取引で・・・・・・魔物も侮れないな・・・・・・」

 

 

 

「そうね。これはさらなる調査が必要不可欠・・・・・・(大方、リムルの知識が殆どだろうけど、それだけでは無く・・・・・・少なくとも魔国連邦(テンペスト)にはこれを再現出来るだけの人材や素材が充実していると言う事になるわね)」

 

 

 

魔国連邦(テンペスト)への興味が徐々に膨らみつつあるヒナタ。とてもじゃないが、これから魔国連邦(テンペスト)に攻め寄せる敵だとは思えないが、そもそもの話、ヒナタ達はそんな意思はなく、魔国連邦(テンペスト)と話し合いをする為にわざわざこうして向かっているのだ。勿論、場合によっては戦闘になる事もあるが、それは魔国連邦(テンペスト)側もそうだが、ヒナタもまた、それは避けたいと思っていた。

 

 

事の発端となったのは、レイヒムによってもたらされた、リムルのメッセージが入った水晶球だ。本来は、リムルは西方聖教会との関係修復や、友好を呼びかけるメッセージをこの水晶球に吹き込んでいたのだが、なぜかその水晶球のメッセージが・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒナタ、相手をしてやるよ。お前とお前の一騎打ちでな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このように”何者かの手により”、改竄されていたのだ。このようなメッセージを突き付けられては、西方聖教会も黙っているはずも無く、”すぐさま進撃するべき”と言う意見が飛び交ったそうだ。だが、それを不審に思ったヒナタは、七曜の老師の命令もあり、リムルの真意を確かめるべくこうして出立してきていたのだ。残る4人の聖騎士(ホーリーナイト)達は、ヒナタの増援・・・・・・と言うのは建前で、単にヒナタが心配でついて来ただけだったりする。増援というには人数が少なすぎる気もするが、実を言うとこの4人は・・・・・・ヒナタを筆頭とする”十大聖人”のうちに入っている選りすぐりの実力者であり、増援としては十分過ぎるくらいの戦力なのだ。

 

 

 

 

聖騎士団(クルセイダーズ)”水のリティス”

 

 

 

聖騎士団(クルセイダーズ)”地のバッカス”

 

 

 

聖騎士団(クルセイダーズ)”空のアルノー”

 

 

 

聖騎士団(クルセイダーズ)”風のフリッツ”

 

 

 

聖騎士団(クルセイダーズ)の隊長格である4人は、相当の実力を持ち合わせており、侍大将のベニマルとも互角以上の戦いを繰り広げることも可能だろう。聖騎士団(クルセイダーズ)にはこの他にも団長であるヒナタに次ぐ権力を持つ副団長”光のレナード”や”炎のギャルド”と言った十大聖人がいるが、この二人は今回は西方聖教会本部にて留守番である。この4人も、ヒナタ同様に魔国連邦(テンペスト)との戦闘は避けたいと思っているが、万が一戦闘になった時に備えて、しっかりと武装をして出立してきていた。

 

 

 

「さて、そろそろ行くわよ?・・・・・・ご馳走様、美味しかった」

 

 

 

「はい!ありがとうございました!」

 

 

 

ラーメンを堪能でき、ご機嫌な様子のヒナタは代金を支払った後、同じくラーメンの異常なる美味しさにホワホワしていた4人を連れて料亭の外へと出た。

 

 

 

「は〜・・・・・・美味しかったです!俺、また食いに来ようかな?今度はあの麺を大盛りにして・・・・・・」

 

 

 

「いや、ここはあのチャーシューと言う肉がたくさん入った”チャーシューメン”を食うのが一番じゃないか?」

 

 

 

「はぁ・・・・・・あなた達?ここまできた目的を忘れてはいないわよね?それと、あんまり食べると太るわよ?」

 

 

 

「「うっ・・・・・・」」

 

 

 

すっかりラーメンにハマった様子のフリッツとアルノーに軽く注意をしたヒナタは、さっさと今回自分達が泊まる宿へ歩を進めて行ってしまう。4人もそれに追従するように後を追った。

 

 

 

「それにしても、ブルムンド国は変わりましたよね?以前とは比べようも無いくらいに発展してますし、賑わっていますから。前までは閑散としていたのに・・・・・・」

 

 

 

「そうだな。ルベリオスやイングラシアほどでは無いにせよ、ここまで活気溢れる国になるなんて・・・・・・これも魔国連邦(テンペスト)と関係を持った故の影響だってのか・・・・・・?」

 

 

 

「そうね。その可能性は十分にある。だからこそ、私達はその調査と話し合いを・・・・・・ん?」

 

 

 

ふと、ヒナタは進めていた足を止める。ある店の店頭に置いてあった”一つの商品”に目が止まったからだ。

 

 

 

「ヒナタ様?どうかされましたか?」

 

 

 

「いえ、ちょっとこれが気になって・・・・・・」

 

 

 

「これ?・・・・・・この()()()()()()ですか?別に、特に何の変哲もないただの水のようにも思えますが?」

 

 

 

「ただの水であるなら、こんな店の店頭にこうして堂々と置いてあるはずが無いでしょう?きっと何か・・・・・・」

 

 

 

「お、いらっしゃい!何か買っていくかい?」

 

 

 

店頭に置いてある妙な水に、興味を惹かれていたヒナタ達に声を掛けたのは、この店の店主だ。彼は、ヒナタ達が店先に滞在していることから、彼女達を客と勘違いした様だ。・・・・・・実際に客になる可能性もあるが。

 

 

 

「え、ああ・・・・・・申し訳ないわね。少し聞きたい事があるのだけど・・・・・・この置かれている水は?」

 

 

 

「お!あんたらお目が高いねぇ?こいつの名は『エリス水』。つい最近、ミョルマイル様が魔国連邦(テンペスト)から仕入れてくれたもんでな?この水は飲んでも美味いんだが、それだけじゃ無くてよ?・・・・・・何と、これを肌に塗れば”肌がすべすべになる化粧水”のような効用も望めるし、それにプラスして体を消毒することも出来きるから、病気の予防にもなるんだぜ?」

 

 

 

「「肌がすべすべに・・・・・・」」

 

 

 

「「「病気の予防になる・・・・・・」」

 

 

 

店主のその説明に、女性陣と男性陣はそれぞれ別の箇所に非常に興味を惹かれていた。

 

 

 

「ミョルマイル様にこの水を提供してくれたエリス様には感謝しねーと。この水のお陰で最近のうちの売上は鰻登りだからな!」

 

 

 

「エリス?・・・・・・ねぇ、もしかしてこの『エリス水』と言うのを作ったのは、魔国連邦(テンペスト)副国主”エリス=テンペスト”かしら?」

 

 

 

「そうだ。あの人はいい人だぜ?魔物だって言うのに俺たち人間に対しても優しいし、親切だし、時たまブルムンドにやって来ては、怪我をした冒険者の治療や手当てをしてくれたり・・・・・・尚且つこうして魔国連邦(テンペスト)から有用で便利な道具や物資もたくさん送ってくれるんだからな。最初は、魔物の国と国交を結ぶなんて国王が言った時には驚いたが、今となっては国交を結んでくれて感謝してるよ」

 

 

 

「そう・・・・・・」

 

 

 

『エリス水』の製作者の名を知ったヒナタ達は、何とも言えない表情になる。自分達の所属する西方聖教会と敵対関係にある魔国連邦(テンペスト)が、こうして人間国であるブルムンドとこうまで友好的に交流している事実を改めて知らされてしまった為だ。これも、リムルやエリスの尽力によるものだが、二人の人当たりの良さや性格もあるのかもしれない。

 

 

 

「どうだ?買って行くかい?」

 

 

 

「ええ、5つ貰うわ」

 

 

 

「おう、毎度あり!」

 

 

 

結局、この『エリス水』の効能に目が眩んだヒナタは、全員分の『エリス水』を購入し、そのまま一行はその場を後にした。

 

 

 

「情報の報告をします。エリス=テンペスト・・・・・・ジュラ・テンペスト大同盟の副盟主であり、魔国連邦(テンペスト)の副国主でもある魔物。魔王リムルに次ぐ権力と実力を兼ね揃えているが、その性格は温厚温和。変な刺激を与えない限りは魔物であろうと人間であろうと敵対する事はない。とは言え、かなりの実力を持っている事は事実・・・・・・実質的な魔国連邦(テンペスト)のナンバー2・・・・・・と言ったところでしょう」

 

 

 

「あの?温厚温和・・・・・・と言っていますが、そのエリスはレイヒムの話だと、ファルムス王国の兵一万人を一人で滅ぼしたんですよね?それだと、とてもじゃ無いですけど、その情報は信じられないです・・・・・・最早、悪の魔王としか・・・・・・」

 

 

 

フリッツが若干顔を引き攣らせながらそう口にする。話していなかったが、ヒナタ達は、あの魔国連邦(テンペスト)襲撃の真相をレイヒムから聞かされている。巷では、リムルやエリスの印象が悪くならないよう、ヴェルドラの復活のせいと言う事にしているが、西方聖教会にはしっかりとした真相を話すようディアブロはレイヒムに命令していたのだ。それ故、ヒナタ達はリムルやエリスの手による三万のファルムス軍の兵達の滅殺、エリスの死、も熟知している。

 

 

 

「あの大司教からは・・・・・・ファルムス軍は、何の予告も無しに襲撃をした挙句、襲撃の際に町に火を放ったと聞いた。聞くけど、もしルベリオスが何の予告も無く、襲撃を・・・・・・例えば、”東の帝国”や”イングラシア国”から襲撃されて国中を火の海に変えられたらあなた達はどう思うの?」

 

 

 

「そんなの許せるわけないじゃ無いですかっ!?例えイングラシアであろうと東の帝国であろうと、神の国たるルベリオスを襲撃なんて!そんな事したら俺が真っ先に叩き潰しに行って・・・・・・あっ」

 

 

 

「そう言うことよ。どんなに温厚で情に厚い人だったとしても、自分の国を襲撃されて国民に危害を加えられそうになれば、怒ってそんな行動に出るのも当然でしょう?・・・・・・たった一人で一万の兵を滅ぼしたのには驚いたけれど」

 

 

 

少し顔を硬らせつつ、ヒナタは呟く。リムルの実力に隠れがちだが、エリスもエリスで一人で一万の人間を滅ぼせる実力は持ち合わせている。ましてや、今は真なる魔王へと覚醒しているので、やろうと思えばもっと多くの人数を相手にする事も不可能では無くなっているはずだ。

 

 

 

「ヒナタ様、まさか・・・・・・そのエリス=テンペストまで覚醒魔王になっていると言うことは無いですよね?」

 

 

 

「その可能性は十分にあるわ。場合によっては、そのエリスとも戦闘になる可能性もあるから、心の準備だけはしておきなさい?」

 

 

 

気持ちを強く持つように四人にそう言ったヒナタだが、4人の表情は曇るばかりだった。4人の実力は、いいとこ”魔王種”と互角レベルと言ったところだろう。そんな4人が覚醒魔王になっている可能性のある・・・・・・実際のところ覚醒しているエリスを相手にするとなれば、そうなるのは当然だ。素の実力で言えば、エリスと互角かそれ以上の戦いを繰り広げる事も出来そうだが、エリスにはリムルにも引けを取らないほどの脅威性を持った究極能力(アルティメットスキル)がある。それがある以上、ほとんど勝負ならずに敗北する事は必至だろう。一番の実力者であるヒナタはリムルの相手をするだろうから、救援も望む事は出来そうに無い。

 

 

唯、エリスは戦いを好まない性格であり、バッカスの報告にあった通り、滅多な事でも無い限り戦う事もせず、敵対する事も無いのだ。無論、リムルもそうだが、エリスは特にそれが顕著である為、状況によってだが戦闘にまで発展しない可能性が高い。ある意味、それが4人にとっては救いなのかも知れなかった。

 

 

 

「(リムル・・・・・・エリス・・・・・・やはり、一度会ってちゃんと話をして見たいわね。二人が何を思ってこの世界を生きているのかも気になるし・・・・・・)」

 

 

 

表情が曇るばかりの4人に対し、どこか微笑を浮かべながらそう心に思うヒナタ。この3人の邂逅も、もう秒読みと言った段階である事は間違いないだろう・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 




すみません、ファルムスのことについてまでは書けませんでした・・・・・・。普通に書いてたら10000文字を超えてしまいましたので・・・・・・。なので、それについては次回にさせてください!申し訳ございません!



本文でも話しましたが、素の実力で言えばエリスは4人とほぼ互角と言った感じで、ヒナタに関してはかなり差があり、普通に戦えば負けます。スキルを使えば勝てなくも無いと思いますが、『慈愛之王(アンピトリテ)』も『治癒之王(アスクレピオス)』も攻撃性のあるスキルでは無いので、何とも言えないかと。


そうなると、結局今回もリムルに頼ることになるのでしょうか?・・・・・・正直、彼がリムルを強化してしまえば、すぐに決着がつきそうな気もするが、それだとヒナタ達だけでなく、そこら一帯を吹き飛ばしてしまう可能性があるのと、単純にヒナタ達が弱く写ってしまいそうになるので、それはやめておきます。


二人がヒナタ達とどう向き合うのか・・・・・・それをお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦力の確認と編成

もうそろ、ヒナタと邂逅ですね。


リムルはともかくとして、エリスの相手はどうするべきか・・・・・・。


視点 エリス

 

 

 

僕の家の庭にて、僕はテスタロッサにある一つの命令を下していた。

 

 

 

「テスタロッサ、キミにはディアブロと共にヨウムさん達の援軍に向かってほしいんだ。頼めるかな?」

 

 

 

「クロと?・・・・・・あまり気が進みませんが、エリス様の命とあれば、その任・・・・・・引き受けましょう」

 

 

 

「ありがとう。後、モスには”レイヒム殺しの真犯人の捜索”を、シエンにはキミと一緒に援軍に同行して貰うよう伝えてくれ」

 

 

 

「承りました」

 

 

 

命を受けたテスタロッサは、少し不満そうにしながらその任務へと向かっていった。この問題に関しては彼女とディアブロを組ませた方が早く解決すると言う考えがあったから彼女を向かせた訳なんだけど、どうにかディアブロと派手な喧嘩はしないことを願いたい。・・・・・・で、その問題と言うのが何かって話なんだけど・・・・・・。

 

 

 

 

 

『大司教レイヒムが悪魔の謀略により殺害された』

 

 

 

 

 

今現在、周辺各国ではこの伝聞が拡散されてしまっているのだけれど、これがそもそもの問題なんだ。ディアブロの話だと、レイヒムが何者かの手に掛かって殺害されると、すぐさま上記の伝聞が周辺各国の国家に広がったのだとラーゼンから報告を受けたそう。その伝聞が広がってしまったことで、”レイヒムを殺したのがディアブロ”だと各国は判断してしまい、『大司教殺しの悪魔討伐』として事態が動くこととなってしまったのだそうだ。今、周辺各国の神殿騎士団(テンプルナイツ)・・・・・・およそ”3万人”がこぞってファルムスに進軍し、近いうちに新王であるエドワルドの軍に合流し、ヨウムさん達や旧王であるエドマリスの軍と激突するとソウエイから報告を受けたばかりだ。

 

 

勿論だが、ディアブロはそんな事はしていない為、真犯人は別にいると言うことになる。とは言え、現状ではその真犯人は不明で所在もどこかは把握していない。ディアブロもディアブロで真犯人を探すと言っていたが、一人では効率が悪いので、諜報に長けたモスにも協力して貰い、テスタロッサとシエンにはこちら側が派遣するヨウムさん達への援軍に加わって貰う事にしたんだ。ディアブロが後ろ盾とされているヨウムさんの軍へ、他国からの援軍が来るとは到底思えないので、僕たちの援軍が到着するまではヨウムさん達自身で戦って貰う事となる(ディアブロが冤罪だと言うことを証明出来れば話が違うが)。どうしても、援軍まで軍の状態が保ちそうに無さそうであれば、”僕の分身体”を『転移魔法』で送るつもりでいる。流石に、ヒナタさん達聖騎士(ホーリーナイト)がここに向かってくると言うのに、本体である僕がそちらに出向いている暇は無いからね。

 

 

 

ちなみに、援軍は既にベニマルが決めており、次の通りとなっている。

 

 

 

ゴブタを隊長とした狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)+ランガ 総勢101人

 

 

 

ホブゴブリンからなる緑色軍団(グリーンナンバーズ) 総勢4000人 

 

 

 

緑色軍団(グリーンナンバーズ)を指揮する紅炎衆(クレナイ) 総勢100人

 

 

 

これに加えて、ディアブロやテスタロッサ達も参戦してくれるので、戦力としては申し分ないと思う。本当はガビル達飛竜衆(ヒリュウ)も行かせようかと思ったけど、過剰戦力になる可能性があったので、今回はこの町の護衛として残って貰っていた。

 

 

 

とは言え、ヨウムさん達もかなりの実力者だ。いくら実力者の揃う神殿騎士団(テンプルナイツ)と言えど、簡単には打ち崩せないだろう。だから、今のところは向こうは彼らに任せても問題ない。後は、ここにくると言うヒナタさん達5人をどうにかするって話だけど・・・・・・。

 

 

 

「エリス、今すぐに執務館に集合だ。・・・・・・イングラシア国から、100騎の騎士団(クルセイダーズ)が出馬したと言う情報が入った。それについて議論を始めるんだ」

 

 

 

「はぁ・・・・・・次から次へと・・・・・・」

 

 

 

唐突にやってきたリムルによって知らされた新たなるその問題に、僕は頭を抱えるしか無かった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

視点 リムル

 

 

 

「みんな、集まって貰って感謝する。まず、先ほど・・・・・・イングラシア国から、100騎の騎士団(クルセイダーズ)魔国連邦(テンペスト)に向けて出馬したと言う情報が入った。完全に武装をしているみたいだから、もしかすればそいつらとは戦闘になる可能性がある。だから、この場でそいつらの事を相手にする軍と人材・・・・・・そして、ヒナタ達5人の聖騎士(ホーリーナイト)の相手をする奴も決めておく事にする。今回の議論の内容はそれだ・・・・・・よろしく頼む」

 

 

 

俺の口から発せられたその思わぬ情報に、すでに聞かされていたエリスや情報を持ってきたソウエイを除いた全ての重鎮達がどよめきを起こした。

 

 

 

「ソウエイ、その100騎の騎士団(クルセイダーズ)はヒナタ達と合流するのか?」

 

 

 

「その意図までは不明ですが、少なくともその軍の到着時間はヒナタ達と似た時期になるかと・・・・・・」

 

 

 

ソウエイもこの出立の理由までは探れなかった様子だ。・・・・・・最悪の場合は、さっき言ったように戦闘になることも考慮しないとか・・・・・・。

 

 

 

「そうか、まぁ・・・・・・いい。とりあえず、ヒナタ達の方を先に考えるとしよう。ヒナタは俺が相手取るから良いが・・・・・・問題は残りの4人だ。アダルマンの話だと仙人級の強さだって言うし・・・・・・」

 

 

 

「リムル?それなら、前に僕と他のみんなが相手にするって言ったよね?僕一人だけならまだしも、みんなが居れば負ける事もないだろうから、それで良いんじゃないかな?」

 

 

 

「へ?・・・・・・え、あ、あぁ・・・・・・そうだなぁ・・・・・・」

 

 

 

どこか自身ありげにそう発言してくるエリスに、俺は苦い顔を浮かべる。確かに、エリスだけでなく他の重鎮達も一緒に戦ってくれれば問題無く勝てるだろう。エリス自身もまぁまぁ強いし。だがなぁ〜・・・・・・。

 

 

 

「はぁ〜・・・・・・あのね、リムル?心配してくれるのは嬉しいけど、僕は子供じゃないんだよ?リムルの手を借りずとも自分の身を守る事も、そして戦う事もできる。・・・・・・大丈夫、キミを心配させるような事は絶対にしないからさ?」

 

 

 

「エリス・・・・・・」

 

 

 

俺を安心させるかのように柔らかい笑みを浮かべながら、そう口にするエリス。

 

 

 

「それに、僕には背中を預けられる頼もしい配下が大勢いるんだ。負ける気なんて一切しないさ。・・・・・・だから、こっちのことは任せてリムルはヒナタさんの相手に集中してほしい」

 

 

 

「リムル様。エリス様のおっしゃる通りです。残りの4人は俺たちに任せてください。ご安心を、人間どもに遅れを取る気など毛頭ありませんので」

 

 

 

「エリス・・・・・・ベニマル・・・・・・分かったよ。じゃあ、4人は任せた。ヒナタの方は俺が何とかするから、任せておいてくれ!」

 

 

 

二人の強い意志に流石の俺も根負けし、ヒナタ以外の4人の相手はエリス達に一任させる事に決定した。さて、残るは100騎の騎士団(クルセイダーズ)の方をどうするかって話だけど、西方聖教会と融和を望んでる俺たちからすると、なるべく騎士側にも戦闘による犠牲は出したく無かった。犠牲を減らす手段として有力なのは、”俺がヒナタを打ち破って騎士達の戦意を削ぐこと”であり、その間はみんなには騎士達の足止めを・・・・・・つまり時間稼ぎをして貰うのが一番良かった。その事を、俺はその場でみんなに話した。

 

 

じゃあ、その100騎の相手を・・・・・・一人一人がAランク並みの実力を誇る奴らの相手を誰にするか・・・・・・だが、俺が思い付いてるのはエリスの配下に当たるガビル達飛竜衆(ヒリュウ)だ。あいつらも丁度100人の隊だし、実力で言っても魔国連邦(テンペスト)随一だ。ここはあいつらに任せて・・・・・・。

 

 

 

「リムル様!その100騎の騎士達のお相手・・・・・・私たち紫滅衆(フメツ)が引き受けましょう!私たちも丁度100人いますので適任かと!」

 

 

 

「どこがだよっ!?お前の配下達の実力はせいぜいCランク止まりだろ!お前らじゃ相手になるわけねーだろうがっ!?」

 

 

 

ドヤ顔でそう意見してきたシオンに盛大にツッコむ。確かに、シオンの配下は100人キッカリいる。だが、それだけであって実力が相手と全く釣り合っていないので、当然その案は却下だ。

 

 

 

「いや、ここはシオン達に任せてもいいと思うよ?時間稼ぎであれば特段問題ないだろうし」

 

 

 

「ほら!エリス様もこうおっしゃっていますし!」

 

 

 

「エリスっ!?シオン達を死なせたいのかよっ!?」

 

 

 

思わぬエリスの擁護に俺も耳を疑った。エリスも紫滅衆(フメツ)の力量は理解しているはずだ。だと言うのにそんなぶっとんだ発言をすれば驚きもする。

 

 

 

「リムル、今の彼らはもう前までの彼らではないよ?紫滅衆(フメツ)は生まれ変わったんだ。・・・・・・そうだよね、シオン?」

 

 

 

「はい!日々の鍛錬により、前よりも遥かに強くなっています!Aランク・・・・・・とまではいきませんが、Bランクの中でも上位に位置するくらいには強くなっていると思っています!」

 

 

 

「・・・・・・おい、ほんの数日前までお前は配下達の力の無さに悩んでいたはずだろ?・・・・・・だって言うのに、何でこの数日にそんなに実力をつけてんだよ?」

 

 

 

強さのランクというのは簡単に変えられるものではない。それこそ、何年、何十年と鍛錬を積んだものであったとしても、ランクを上げられずに終わる奴だっているのだ。その事について、シオンは以前俺の元に相談に来ていたんだが、結局俺はまともな答えを見つけることは出来なかったんだよな〜。それを見越して、今度はシオンはエリスの元に相談にいったらしいけど・・・・・・って、おい?

 

 

 

「エリス、また何かしたか?」

 

 

 

「いや、僕はちょっと、彼らに手を貸しただけで、彼ら自身が強くなったのは己の努力が故さ」

 

 

 

エリス曰く、紫滅衆(フメツ)には『絶対保護』と『攻撃吸収(アブソーブ)』という、攻撃を受け付けないだけでなく、その攻撃を受けた分だけ強くなれると言う反則的なバフをかけたのだという。・・・・・・簡単に言えば、”戦えば戦うほど強くなる”という事だ。で、ここ数日間で紫滅衆(フメツ)はその貰ったバフを引っ提げて、ハクロウからかなりきつめの指南を毎日の様に受け、鍛え上げられた事もあって、かなりの実力を付けたのだとか。『絶対保護』だけでもやばいって言うのに、それに加えて能力上昇系バフって・・・・・・こいつの辞書に自重っていう言葉はないのかよ!?

 

 

 

「エリス様・・・・・・また凄まじいお力をシオン達に使われたものだ。これは俺たちも、うかうかしていられないぜ・・・・・・」

 

 

 

何故か、ベニマルが闘志を燃やしている様に見えるが・・・・・・今は放っておこう。

 

 

 

「お前が手を貸すこと自体が、やばいってんだよ・・・・・・。はぁ・・・・・・つまり?紫滅衆(フメツ)でも十分に時間稼ぎは出来る、それだけの実力は兼ね揃えている・・・・・・そう言いたいんだな?」

 

 

 

「はい!その通りです!ですので、私たちに相手はおまかせを!もしもの時は、私が全員まとめて斬って眠らせてやりますので!」

 

 

 

「・・・・・・おい?」

 

 

 

「じょ、冗談です!とにかく、相手はお任せください!」

 

 

 

「・・・・・・ったく、しょうがねーな・・・・・・。分かった、じゃあ騎士団(クルセイダーズ)の事はお前達紫滅衆(フメツ)に任せる。頼んだぞ、シオン?」

 

 

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 

 

シオンがこうなった以上、梃子でも譲る気のない事は付き合い的に分かりきっていた為、俺は内心で溜息を吐きつつ、それに許可を出した。まだ少し不安だが、エリスとシオンのお墨付きだし、問題ないんだろう。そう割り切った俺は、既に目前にまで迫りつつあるヒナタ達に意識を集中させることとし、気持ちを少しばかり引き締めるのだった。




と言うわけで、100騎の騎士団(クルセイダーズ)の相手は原作通りシオン達に任される事となりました。原作よりも遥かに強くなっているシオン達が騎士団(クルセイダーズ)相手にどんな戦いを繰り広げるのか・・・・・・今からでも楽しみです!

ヒナタ達に関しましては、リムルの言ったようにリムルはヒナタを、残りの4人はエリスや幹部達が相手取る事となります。原作ではスフィアやアルビスも参戦してくれますが、今回はテスタロッサを除いたエリスの配下が揃ってる事ですし、今回は見学になるかもです。


さて・・・・・・後は、それぞれの相手をどうするかですが・・・・・・今のところは考え中です。次回にはその答えが出ていると思いますので、それまではお待ちください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

交わる両者

随分遅れて申し訳ございません・・・・・・。


 

 

 

視点 エリス

 

 

 

「リムル様、エリス様、たった今100騎の騎士団(クルセイダーズ)が奇襲を仕掛けて来ました。奴らが四方へと散開するのを、現在はシオン達紫滅衆(フメツ)が足止めをおこなっている最中・・・・・・如何いたしますか?」

 

 

 

それから数時間後、ソウエイからの報告が入る。やはりというか、何となくわかっていた事だけど、ヒナタさん達は僕達の注意を逸らすための囮であり、本命はこの奇襲が正解なのだろう。

 

 

 

「ヒナタは戦いを選んだか・・・・・・出来れば戦いたくなんて無かったけどな」

 

 

 

「なんとか説得は出来ないのかな?今からでも行って、止めに入ってみればもしかすれば・・・・・・」

 

 

 

「いや、すでに交戦が始まってる以上、それは不可能だ。こうなった以上、さっきも言ったように俺がヒナタを打ち負かして戦意を削がせるしか方法は無い。・・・・・・ソウエイ、シオン達は問題無く戦えていたか?」

 

 

 

「はっ。騎士団(クルセイダーズ)達にも引けを取らず、互角以上の戦闘を繰り広げていました。・・・・・・ですが、その・・・・・・いえ、何でもありません」

 

 

 

「「?」」

 

 

 

何故か、なんとも言えない表情になり、口籠もっているソウエイに違和感を覚える僕達。・・・・・・何か問題あったのかな?

 

 

 

「まぁ、問題ないなら良いや。もしもの時はシオンがいるしな。さて、だとするなら、俺たちはヒナタ達に一旦集中することとしよう。さっきも言った様に、俺がヒナタを相手取るから残りの十大聖人達はエリスの指示の元、足止めを頼む。ただし、決して殺したりするなよ?」

 

 

 

「もし負傷が激しそうな場合には、僕が治すからいつでも言いに来てくれ。この戦いは、言ってしまうと無意味だ。だから、なるべく犠牲者だけは出したくないから、みんなもそのつもりで居てくれ」

 

 

 

僕達のその命令にみんな静かに頷く。・・・・・・よし。

 

 

 

「じゃあ、行くぞ!」

 

 

 

リムルの号令の元、僕達は進撃を開始する。・・・・・・この騒動、何か裏がありそうだけどとにかく今は目の前のことに集中するべきだ。そう自分の中で鼓舞をすると、向かう足のスピードをわずかに速めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

視点 三人称

 

 

 

「くっ!どうなってる・・・・・・何故、こいつらはダメージを負わないっ!」

 

 

 

奇襲を仕掛けた100騎の騎士団(クルセイダーズ)を率いる、西方聖教会副団長であるレナードは、目の前で起こってる信じられない様な戦闘風景に、戸惑いと驚きを隠せないでいた。それは、一緒に来ていたギャルドも同じ事だった。本来であるなら、本部にて留守番をしている筈のレナードやギャルドが何故こうして魔国連邦(テンペスト)に襲撃を掛けているのか不思議な事であるが、その真実を知るには数日前にまで遡る必要があった。

 

 

 

 

『ヒナタ・サカグチと、魔王ヴァレンタインは繋がっている』

 

 

 

この衝撃的な内容がレナードやギャルドに伝えられたのは、本部にて魔国連邦(テンペスト)についての資料をまとめていた時であり、それを伝えたのは・・・・・・”七曜”だった。いくら最高責任者である七曜が言う事とは言え、団長であるヒナタが悪しき魔王であるヴァレンタインと繋がっているなど到底思えなかったレナードとギャルドは当然それを否定した。だが、それがわかる証拠が少ないと言うのも事実。実際、七曜がその様に言ったのも『ヴァレンタインを始末した際に奴がそう漏らした』との事だった為、証拠としては不十分である。

 

 

 

そこで、七曜は二人に提案を持ちかけた・・・・・・『協力して魔王リムルを討て』と。

 

 

 

関係を持つヴァレンタインが亡き今、ヒナタは今度はリムルに取り入ろうとしていると、七曜は見ている様で、もし先ほど言った事が事実であるなら、ヒナタはそれを真っ先に止めに入る・・・・・・との事だ。二人は、その提案に乗った。勿論、ヒナタのことは信じているだろうが、そんな良からぬ情報を耳にしてしまえば、真実を知りたくなるのも事実であり、何より尊敬する上司の汚名を晴らしたいという二人なりの情も、この提案を受けるのに後押しをしたのかも知れない。

 

 

 

そう決まった後の二人の行動は早く、軍をまとめ上げるとすぐさま魔国連邦(テンペスト)へと向けて進撃を開始したのだ。そして、今に至る訳だが・・・・・・。

 

 

 

「はっはっは〜〜!!!そんな攻撃で俺たちを殺れるとでも思ってんのかっ!!やるんならもっと徹底的に来いやぁぁっ!!!」

 

 

 

「生ぬるい生ぬるいっ!!そんな程度の実力でよくもまぁ、リムル様の命を狙うだなんて言えたもんだぜっ!!テメェらなんて俺たちだけで十分なんだよぉっっ!!!」

 

 

 

「もっと刺激を・・・・・・もっと刺激をくれぇぇ〜〜〜っ!!!!」

 

 

 

「くそっ!言わせておけば・・・・・・っ!本当にどうなってるっ!こちらの攻撃が通らないっ!?」

 

 

 

リムルの命を狙い、二人は・・・・・・100騎の騎士団(クルセイダーズ)魔国連邦(テンペスト)近郊の更地にまで進撃していたのだが、それをシオン達紫滅衆(フメツ)に凌がれてしまい、中々そこから進撃するに至ってはいなかった。普通であれば、レナード達が負ける事はないのだが、紫滅衆(フメツ)にはエリスの加護である『絶対保護』『攻撃吸収(アブソーブ)』が付与されている。それがある以上、ありとあらゆる攻撃を無効にされるだけで無く、攻撃を加えれば加える程にどんどんと力を付けてしまう紫滅衆(フメツ)である為、正直に言うと・・・・・・彼らが紫滅衆(フメツ)に勝利するのは不可能に近いだろう。

 

 

紫滅衆(フメツ)達も何となくそれを悟ることが出来たのか、遠慮なしにどんどん攻撃を仕掛けていく・・・・・・ハクロウの鬼の様な指南によってか、またはシオンの教育によってか・・・・・・とにかく、何故か”かなり性格が歪んだ”彼らだが、強さで言えば魔国連邦(テンペスト)の中でもトップクラスになりつつあるので、代償としては軽いもの(?)だろう。

 

 

 

「ふっ・・・・・・私の配下達に手も足も出ないとは・・・・・・貴様らは、存外大した事なかった様だなっ!」

 

 

 

「なっ!?貴様〜・・・・・・我らを愚弄するとは、ただでは済まさんぞっ!!」

 

 

 

余裕そうに腕を組みながらそう挑発するシオンに、激昂したギャルドは配下達をかき分け、シオンに迫る・・・・・・それがシオンの狙いだとも知らずに。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

視点 エリス

 

 

 

「ヒナタ・・・・・・」

 

 

 

「リムル・・・・・・あの時以来ね」

 

 

 

町を出て数分後、僕達はようやくヒナタさん達5人と出会うことに成功した。僕達の姿を確認すると同時に臨戦体制に入ろうとした4人だったけど、ヒナタさんが止めたことで一旦は解除される事となった。

 

 

 

「ヒナタ、これが答えで良いんだな?俺の伝言は受け取った上で・・・・・・?」

 

 

 

「分からないわ。少し違うけれど、今この場でそれを言っても信じてはもらえないでしょう?」

 

 

 

「さぁな?とりあえず、あの兵士達を引き留め、国へと帰還させてくれ。そうすれば、お前のことも信じてやるよ」

 

 

 

リムルのその提案に、ヒナタも名案だと思ったのか、小さく頷こうとした・・・・・・だが、それをアルノーが止めた。

 

 

 

「ふざけるな!この状況でこちらの戦力を戻して何になる!ヒナタ様を呼び出しておきながら貴様が何もしないと言う保証がどこにある!・・・・・・ったく、もう少し言葉を選んで・・・・・・」

 

 

 

「僕達は何もしませんよ?僕達の目的はあくまでも交渉ですし、無駄な戦闘はお互いの利益にもなりませんから。ですので、どうかあの方達を帰してください。このままだと、余計な怪我人が出ますよ?」

 

 

 

「っ!貴様・・・・・・」

 

 

 

向こう方を少しでも戦闘の意識から逸らしたかった僕は、軽く会釈をしつつそう口を出した。

 

 

 

「あなた・・・・・・エリス=テンペストね?」

 

 

 

「はい。初めまして皆さん。僕の名はエリス=テンペスト。リムルと共に、この魔国連邦(テンペスト)を治めている者です。どうか、お見知り置きを」

 

 

 

「この人が・・・・・・エリス?なんて綺麗な人だ・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・フリッツ?鼻の下伸びてるわよ?」

 

 

 

「っ!す、すいません!」

 

 

 

なんか、若い男の人が僕を見て頬を染めた様な・・・・・・うん、気のせいということにしておこう。

 

 

 

「ヒナタさん、どうか今回は戦闘はお控えくださいませんか?僕には、どうも何かこの騒動には裏がある様に思えまして・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・そうね。確かに何者かが一枚噛んでるかも知れないわ。・・・・・・だけど、どうやらリムルの方はやる気みたいよ?」

 

 

 

ヒナタさんにそう促され、ちらりとリムルの方を見ると、そこには既に剣を抜き、いつでも戦闘開始できます!とでも言わんばかりの状態でリムルが佇んでいた。はぁ〜・・・・・・全く。

 

 

 

「リムル・・・・・・」

 

 

 

「こうなった以上、戦闘は避けられないさ。・・・・・・エリス、俺が戦っている間、後の4人のことは任せるぞ?軽くあしらうでも捕えるでもお前の好きにしたら良いが、さっきも言ったように殺したりするなよ?お前のことだから問題ないと思うが」

 

 

 

「・・・・・・わかったよ。じゃあ、ヒナタさんのことはお願い・・・・・・こっちの事は僕達でなんとかするから」

 

 

 

「おう!頼むぜ!」

 

 

 

若干リムルに呆れつつ、僕やみんな、他の4人はこの場から少し離れることとした。二人の交渉(戦闘)の邪魔になってしまうと危惧した為だ。そして、少し開けた草原に出た僕達は、改めて向き合った。

 

 

 

 

「さて・・・・・・。あなた方は、どうしますか?僕達と、事を構えますか?それとも、矛を納め、話し合いに応じてくれますか?・・・・・・どちらを選んでくれても僕達は一向に構いません。・・・・・・どうか、最善なる選択をお願いします」

 

 

 

 

 




次回で、戦闘になるか否か・・・・・・。どちらになるでしょうね〜。ちなみに、こちらの戦力にはエリスを筆頭に、ベニマル、ソウエイ、アルビス、スフィア、セキガ、カレン、ヒョウガといった感じになってます。ガビルには、魔国連邦(テンペスト)の守護を任せています。


数的にも戦力的にも圧倒的に不利な状況となった4人がどんな選択を取るのか・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

食い違う言伝

漫画転スラ21巻が発売されました!


話も進んだことですし、再び投稿を再開します。


ちゃんと続けられるかはわかりませんが・・・・・・。


 

 

視点 三人称 

 

 

「さて・・・・・・。あなた方は、どうしますか?僕達と、事を構えますか?それとも、矛を納め、話し合いに応じてくれますか?・・・・・・どちらを選んでくれても僕達は一向に構いません。・・・・・・どうか、最善なる選択をお願いします」

 

 

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

 

 

場所を移動し、改めてエリス達に対峙したヒナタを除いた聖騎士4人は、苦い顔を浮かべつつ沈黙を貫いていた。

 

 

 

「(どうします?数的には分が悪いですけど、俺たちならなんとかなるんじゃないですか?ほら、あのエリスだって魔王リムルに比べたら”大した妖気(オーラ)も覇気”も出してないですし、非力そうですし、とてもじゃ無いですけど俺達が負けるとは・・・・・・)」

 

 

 

「(馬鹿野郎が。そんな訳ないだろうが・・・・・・。俺にはむしろ、他の奴らよりもあのエリス=テンペストの方がよっぽどの脅威に見えてるぜ?)」

 

 

 

「(自分もそれに同意する)」

 

 

 

フリッツのその発言に、アルノーとバッカスが呆れたように否定する。ベニマル達とは違い、エリスは水結界(アクアヴェール)の効果によって余計な魔素と妖気の流出が抑制されている。それ故に、フリッツのように勘違いをしてしまう輩もいるのも事実だが、むしろそれは逆に脅威でもある。

 

 

 

「(妖気(オーラ)を抑えるだなんて、悪魔族(デーモン)でも無い魔物であるなら容易では無いはずだ。まして、そんな芸当ができる魔物なんてそう多くいる筈がない・・・・・・それこそ、覚醒魔王ぐらい・・・・・・じゃなければな?)」

 

 

 

「(それに、妖気(オーラ)を抑えられると相手の力量を測ることも難しくなります。あのエリスの配下と思わしき魔物達の力量は何となくは把握できましたが・・・・・・エリスの力だけが、いまだに未知数です)」

 

 

 

「(うっ・・・・・・すいません。俺、つい外見で惑わされちゃって・・・・・・)」

 

 

 

リティスもそれに加わり、情報の分析を開始する。一歩間違えば、自分の命の危険があったと悟ったフリッツは、申し訳なさで苛まれつつ、3人に謝罪をする。実際、アルノーやリティスの言うことは正しく、魔物から漏れ出る魔素を自分の意思で制御するなど、普通であれば出来などしない。魔素の制御に長けたディアブロやテスタロッサと言った悪魔族(デーモン)やヴェルドラなどは例外だが、それ以外の魔物が魔素を制御しようものなら、逆に変に魔素を暴発させてしまい、最悪の場合には命を落とす可能性だってあるのだ。

 

だから、それを手段は問わないとは言え、制御を可能としたエリスやリムルはさすがと言うべきなのだろう。

 

 

 

「エリス=テンペスト。一つ聞かせろ。・・・・・・貴様は、魔王リムル同様・・・・・・俺達と戦う意志があるか?」

 

 

 

「・・・・・・はっ?」

 

 

 

「おい、今はエリス様が質問をなされている。まずはその質問に答えろ。俺たちと戦うのか、戦わないのか、どっちだ?」

 

 

 

「オレ達はどちらでも構わないと言っているんだぞ?」

 

 

 

「俺が今話してるのはエリス=テンペストのみ。外野は引っ込んでろ」

 

 

 

いつまで経ってもエリスの質問に答えようとしないばかりか、逆に質問を質問で返されてしまった事に対して困惑するエリスと、それに対してかなり腹を立てた様子の配下達。

 

 

 

「・・・・・・あの、何か勘違いをしてませんか?僕は勿論ですが、リムルも元からあなた達と戦う気なんてさらさらありませんでしたよ?むしろ、あなた達の方こそ何しに来たんです?リムルからの伝言はちゃんと受け取ったんですよね?」

 

 

 

「『俺が一体一で相手してやるよ!』って伝言のことでしょ?勿論受け取ったし、そんな伝言を受け取ればこうなる事も分かってたんじゃないの?」

 

 

 

「・・・・・・ん?どう言うこと?」

 

 

 

話の辻褄が全く合っていない事に、エリスはひどく困惑していた。リムルは当然そんな事を言伝になんてしていないし、そうする理由だって無いに等しい。・・・・・・だと言うのに、向こう側にはそのように伝わってしまっているのだから困惑するのは当たり前だろう。

 

 

 

「・・・・・・あなた方の言っている事がいまだに理解出来ませんが、僕達に戦う意志は一切ありません。こちらにはあなた方と戦う理由がありませんし、双方にとってもデメリットしかないと思いますので」

 

 

 

「・・・・・・その言葉に嘘はないだろうな?」

 

 

 

「はい、もちろんです」

 

 

 

毅然とした態度で答えるエリスに、アルノーは苦い顔を浮かべる。自分達が敵対視していた魔物達が、こうして敵対心を向けて来ずに自分達を説得しに来てる事実にどう答えて良いのかわからなくなってしまっていたからだ。とりあえず、一旦は落ち着いて詳しい話でも聞こうと考えたアルノーは、エリスに再び問いかけようとした・・・・・・だが。

 

 

 

「へ〜?オレは戦ってみたいと思ってたけどな?エリス様がいる限り、こっちが負けることなんて万に一つもないし、噂の十大聖人の実力が知れるチャンスだからな?」

 

 

 

今まで黙っていたスフィアがとんでもない爆弾を落としていく。・・・・・・戦闘狂の彼女であるなら、こう言いたくなるのも分からないでもないが、今この場でそれを言って仕舞えば当然・・・・・・。

 

 

 

「っ!スフィアさん!?何言って・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・ほう?随分と我らを舐めてくれるな?貴様ら魔物如きに、我らが負けるとでも思っているのか?」

 

 

 

自分達のことを下に見られたことに腹を立てたバッガスが怒気を滲ませながら、エリス達を睨む。

 

 

 

「当然だ。むしろ貴様らなど、俺らだけで十分だ。エリス様のお手を煩わせるまでもない!」

 

 

 

「ベニマルまで何言ってるのっ!?折角穏便に収まる展開になったのに、なんで煽っちゃってるんだっ!?」

 

 

 

『戦闘狂その2』のベニマルまで追い打ちをかけるように、特大の爆弾を盛大に落としていった。それにはエリスも頭を抱えながらひどく呆れ、大きくため息を吐いた。・・・・・・この場にこの二人を連れてきた自分を心の中で小さく責めたくなった・・・・・・。

 

 

 

「なるほどな。戦闘の意思が無いことは何となくは分かった。だが、それと先程の発言に関しては別の話だ。先程の俺たちを愚弄する発言・・・・・・許してはおけん!今この場で、貴様ら魔物に、俺たちの強さと恐ろしさを教えてやるぜっ!!」

 

 

 

完全にブチギレてしまった様子のアルノーは剣を抜き、戦闘態勢に入っていた。それに倣うように、バッガスもリティスもフリッツもそれぞれの得物を抜き、身構えた。

 

 

 

「ベニマルが、すみません・・・・・・」「スフィアが、すみませんでした・・・・・・」

 

 

 

「もう良いです。・・・・・・後で、あの二人には・・・・・・ゆっくりと()()()()をしますので♡」

 

 

 

「「(ビクッ)」」

 

 

 

ソウエイとアルビスが揃ってエリスに謝罪をしてくるが、エリスはニコッ・・・・・・と笑いながら、優しくそう返していて、それを見た2人は肩を震わせながら顔を青くする。・・・・・・ベニマルとスフィアは、この戦闘の事よりも、その後に起こるであろう地獄(オハナシ)のことを考えたほうが良いのかもしれない・・・・・・。

 

 

 

とりあえず、アルノー達が怪我をするのを防ぐため、エリスは4人に『絶対保護』を掛け、戦況を見守ることとするのだった・・・・・・。




エリスの地獄(オハナシ)の内容は・・・・・・ご想像にお任せします。ベニマルとスフィアは、エリスを怒らせるとどうなるのかを身をもって分からされるのかもしれませんね・・・・・・。とりあえず、小さく合掌しておきます・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十大聖人との戦闘

随分久しぶりの投稿です。遅くなってしまって申し訳ないです!


視点 シオン

 

 

「ふん、つまらん。私の配下達に手も足も出ないとは、貴様らは存外大したことの無い連中だったな」

 

 

 

「貴様〜・・・・・・我らを侮辱するなっ!!」

 

 

 

騎士団(クルセイダーズ)との戦闘の最中、私は口元を緩めつつ奴らの中で言う位の高そうな二人に軽く挑発した。自分からしてみて、かなり安い挑発だとは思ったが、赤髪の男は普通にそれに乗り、激昂しつつ私に迫ってくる。ふっ・・・・・・愚かな。

 

 

 

「・・・・・・なっ!?俺の剣を・・・・・・」

 

 

 

「何だその緩い攻撃は・・・・・・?”十大聖人”と言う選ばれた騎士なのだろう?もう少し真剣にやったらどうだ?欠伸が出る・・・・・・」

 

 

 

剣を振りかざしてきたので、剛力丸で受け止めた私だったが・・・・・・その手応えに”若干の失望”を見せた。魔国連邦(テンペスト)にたった100騎で奇襲を仕掛けて来るぐらいなのだから、よほどの手練れが揃っているのだろうと、私の中では舞い上がっていたのだが、いざ蓋を開いてみれば目の前に現れたのは、私の配下達に手も足も出ない騎士達といささか拍子抜けな実力だった十大聖人だった。せっかくこれまでの鍛錬の成果が示せると思っていただけに、これにはショックを受けざるを得ない。

 

 

 

「しかも、私の挑発に乗ってまんまとこんな近距離にまで接近してきて・・・・・・。覚悟はできているな?」

 

 

 

「っ!逃げろ!ギャルドっ!!」

 

 

 

もう一人の十大聖人の男のその声に反応したこの目の前の男は、剣を引き咄嗟に私から距離を取ろうとするが、その前に私は奴の右腕を掴んだ。そして・・・・・・。

 

 

 

「ふんっ!」(メギィッ!!)

 

 

 

「ぐわぁぁぁっっ!!!」

 

 

 

掴んだ手に力を込め、この男の右腕を容赦なしに破壊した。骨を砕いた感触があったので、これでこの男の右腕は使用不可となった事は間違いないはずだ。殺すなとはリムル様に言われたが、これくらいであれば大目に見てくれるだろう。この程度の傷であるならエリス様に言えば簡単に治してくれるはずだから。

 

 

 

「そんな腕では戦えまい。潔く負けを認めよ。そして、この場で選ぶがいい。我らに服従するか・・・・・・死を選ぶか・・・・・・」

 

 

 

「服従か・・・・・・死だと?」

 

 

 

「そうだ。我らの主人であるリムル様は、貴様達のような者共であろうと、殺したくは無いそうだ。だからこそ、この場で選ばせてやっているのだ。潔く負けを認め、服従するのであればこちらも今すぐに矛を収めよう。その傷だって治してやろう。だが、拒むと言うなら・・・・・・容赦はしない」

 

 

 

自分達の配下達も、既に私の配下達に取り押さえられ、この場での勝敗は半ば決している。普通であるならこちらに降るのが最善の選択であるのは誰が見ても明らか。・・・・・・だが、当の本人達は。

 

 

 

「我らは・・・・・・決して魔物には屈しない!そうだろう、レナード!」

 

 

 

「っ!・・・・・・」

 

 

 

「ふぅ・・・・・・。服従すれば楽になると言っているんだぞ?変なプライドは捨てたほうが身のためだと思うが?」

 

 

 

「うるさい!俺の腕を一本破壊したぐらいで・・・・・・いい気になってんじゃねーぞっ!!それに、貴様らは聖浄化結界(ホーリーフィールド)の影響下にある。次第に貴様ら魔物は弱体化していく!結局、最後に勝つのは俺たちなんだよっ!」

 

 

 

こんな調子で、全く聞く耳を持たない。・・・・・・レナードと呼ばれた男は、少し悩んでいる様子だがそれでも首を縦に振ろうとはしない。・・・・・・そういえば、先ほどから妙な結界に覆われているとは思っていたが、そんな効果があったとはな?()()()()()()()()()から気が付かなかった。

 

 

 

「あまり私を怒らせるなよ?いいからさっさと軍門に・・・・・・」

 

 

 

「レナード!やるぞ!俺たちの最強の攻撃を見せてやるっ!」

 

 

 

「っ・・・・・・。わかった。制御は任せろ」

 

 

 

私の言葉を遮り、奴は自由のきく左腕に何やら妙な力を溜めていく。それに加え、溢れ出るその力をレナードがうまく制御をしているように見受けられる。なるほど、なかなかに面白い。いい機会だ・・・・・・この最強とも呼んでいる攻撃を、私が耐え切れば奴らも流石に折れるだろうし、甘んじて受けてやろう。

 

 

 

「くらえっ!!『極炎獄霊覇(インフェルノフレイム)』!!」

 

 

 

私を燃えカスにするべく、巨大なる獄炎が私に襲いかかる。だが、ベニマルの『黒炎獄(ヘルフレア)』に比べたらこんな炎など”かすり火”のようなもの。そう心内でうっすら笑いながら、私は『料理人(サバクモノ)』『天眼』『多重結界』『魔力感知』を併用し、その炎を剛力丸で真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

「「なっ・・・・・・」」

 

 

 

「これで分かったろう?貴様らが何をしようと、私たちには勝てぬと」

 

 

 

「くっ・・・・・・うるっせーっ!!」

 

 

 

自分の最高の攻撃が通用しないと分かったはずであるのに、この男はまだ向かってくる。この者の執念は一体・・・・・・とにかく、向かってくる以上、対応せねばな。

 

 

 

「全く・・・・・・もう一方の腕も使えなくするぞ?」(ボギィッ!!)

 

 

 

「ぐっ!・・・・・・がっ・・・・・・」

 

 

 

フラフラの状態で向かってきた事もあって、隙だらけだった。なので、戦闘不能にしようと私は左腕を狙い、強烈な回し蹴りを見舞った。上腕辺りに炸裂した私の蹴りが再び骨を砕き、男は痛みのあまりその場に膝をついた。

 

 

 

「もういい!やめるんだギャルド!!このままでは無駄に死人が増えるだけだっ!わ、分かった・・・・・・降参する。だからもう・・・・・・矛を納めてくれ」

 

 

 

「最初からそう言えば良いものを。・・・・・・者共!矛を納めよ!騎士達は丁重に扱え!」

 

 

 

敵が戦意を失った以上、私達の目的は達成出来た。それに少しばかりの満足感を得た私は配下達にそう下知を飛ばし、その場を収めることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

視点 エリス

 

 

 

不本意な形で始まってしまった4人の騎士達との戦闘だったが、まずアルノーという聖騎士はベニマルが相手取り、応戦していったのだが思った以上に実力差があったのか、ベニマルの素早く鋭い動きに相手はついていく事が出来ず、結果としてはベニマルの剣技をまともに食らって戦意損失になった事による圧勝だった。圧勝と言っても、彼には怪我をさせない為に『絶対保護』を掛けてあるから、傷一つないんだけどね(ベニマルにも説明済み)。

 

 

バッガスと言う聖騎士はスフィアさんがあたり、こちらは結構良い戦いで、互角とも呼べるくらいには拮抗した戦闘が繰り広げられていた。だが、最終的にはスフィアさんの速い攻撃と敏捷性に相手が付いていけなくなったことが決定打となり、喉元に爪を突き付けたところで勝敗が決した。

 

 

リティスと言う女性の聖騎士にはソウエイが当たり、リティスの召喚した『水の聖女ウンディーネ』と戦いながら、召喚主であるリティスには危害が及ばないよう、粘綱糸で近くの木に縛り付けて彼女を守っていた。・・・・・・彼の性分的に、女性を傷つけたくは無かったのかもしれないが、縛られたリティスが『なんとも甘い吐息を吐きながらソウエイを見つめていた』ことに関しては、黙っておくことにした・・・・・・。そして、それはソウエイがウンディーネを撃破し、彼女の拘束を解いた後でも続いていたのを見て、密かに僕の頭の中でソウエイに『女たらし』のレッテルを貼ることとした。

 

 

 

これで、3人の聖騎士の無力化に成功した僕たち。残されたのは・・・・・・

 

 

 

「勝負だ!エリス=テンペスト!」

 

 

 

「勝負と言われましても、こちらにはそんな気は一切ありません・・・・・・と言ったところで、聞いては貰えませんよね」

 

 

 

フリッツ(さっき僕を見て頬を染めてた人)と言う若い男性の聖騎士が僕の名前を叫びつつ剣を向けてくるが、僕に戦意は全くと言って良いほどない。そもそも、この戦闘だって馬鹿二人(ベニマル・スフィア)のせいで始まったどうでも良い戦闘なので、ある方がおかしいと言う話である。

 

 

 

「よせフリッツ!お前じゃ、到底敵う相手じゃない!」

 

 

 

「分かってますよ、そんな事は。だけど・・・・・・試して見たい気持ちもあるんですよ。今の俺の実力が・・・・・・覚醒魔王にどれだけ通用するのかを・・・・・・。だから、止めないで下さい!」

 

 

 

止めるアルノーに対して、目の前のフリッツはそれに応じずに僕を鋭く睨みつけてくる。

 

 

 

「エリス様、ここはお任せを。あの程度の輩。オレ一人で十分ですので。カレン、エリス様を頼む」

 

 

 

「ええ。気をつけてね?」

 

 

 

隣にいたセキガが背中にかけた大槍を抜くと、軽く肩を鳴らしつつ僕の前へと出た。

 

 

 

「おい!俺はエリスとの戦闘を望んでいる!部外者は引っ込んでいろ!」

 

 

 

「お前に拒否権は無い。オレはエリス様の護衛を任とする近衛兵。主人に危険が迫っている中でこうして出るのは至極当然の事だろう?」

 

 

 

「・・・・・・ちっ」

 

 

 

少し怒気のこもった口調でそう言い放ったセキガは、そのままスッと大槍を構えた。隣では、カレンも槍を抜いて臨戦体制に入りつつあった。力量で言えば五分・・・・・・いや、若干だがセキガに軍配が上がるとは思うが・・・・・・彼は僕との戦闘を望んでいる。戦闘自体好かない僕だけど、ここで僕だけ高みの見物で戦闘だけ配下に・・・・・・って言うのもちょっとどうかなって思ったりもしている。リムルだってヒナタさんと戦ってる訳だし。

 

 

 

「(リーテさん。仮に僕が彼と戦った場合、どうなるかな?)」

 

 

 

《解。個体名フリッツの実力と、主人(マスター)のスキルと身体能力から勝率を推測をした結果、主人(マスター)の勝率は”100%”と言う結果に至りました》

 

 

 

「(・・・・・・100%とはこれまた随分言い切ったね?その根拠は?)」

 

 

 

《解。『治癒之王(アスクレピオス)』の効果により、フリッツの攻撃や魔法、スキルによるダメージは全て無効化。さらに、『身体強化』で主人(マスター)の身体能力を増加させることで順当に行けば、”2手”で勝敗は決すると推測します。ただし、フリッツには『絶対保護』を付与していますので、こちらからのダメージも無効化されます》

 

 

 

「(・・・・・・どうもありがとう)」

 

 

 

 

リーテさん曰く、この事のようだから、多少は相手をしても問題無いという決断に至った僕は、セキガを掻き分けて、前に出た。

 

 

 

「エリス様?」

 

 

 

「セキガ、下がって。この人は僕は御所望のようだし、ここは僕が相手するよ。カレンも得物をしまって?」

 

 

 

「「で、ですがっ!」」

 

 

 

「大丈夫。僕を信じてくれ。それに、たまには主として、良いとこも見せておきたいんだ。それに、あの人には()()()()()()()()()があったから。ごめんね、我儘言って・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・わかりました。ですが、危ないと思った時にはすぐに割って入りますので」

 

 

 

僕の我儘に付き合ってくれたのか、二人とも得物をしまい僕の後ろに下がる。・・・・・・二人には後で何かしてあげよう、さて。

 

 

 

「お待たせしました。僕との戦闘を御所望でしたね?・・・・・・わかりました。この僕で良ければ相手となりましょう」

 

 

 

「っ・・・・・・あ、ああ。この俺が、必ず悪しき魔王たるお前を倒してみせる!!」

 

 

 

「(魔王・・・・・・か)ふっ・・・・・・ええ、倒せると思ったら倒してもらって構いません。僕は、悪しき魔王ですから・・・・・・」

 

 

 

「くっ・・・・・・(や、やりづらい・・・・・・)」

 

 

 

軽く一礼をし、愛剣を手に取った僕は、臨戦体制に入る。幸い、こちらが攻撃をしても向こうは傷を負わないらしいし、存分に戦わせて貰おう。・・・・・・今の僕の実力が・・・・・・どれだけ十大聖人に通用するのかを知るために!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・へぇ?面白そうな事やってんじゃねーか・・・・・・」




次回以降で話にも進展が見えるかもです。・・・・・・投稿頻度が下がって申し訳ないですが、できる限り頑張って行きますので温かい目で見ていただけると嬉しいです!



後、エリスがソウエイの事を『女たらし』と言っていましたが、エリスは他人の事は言えない気もします・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

和解・そして邂逅

話の展開をどのようにするかで絶賛迷い中です。


どうするべきか・・・・・・。


 

 

 

「行くぞっ!」

 

 

 

声を上げると共に、フリッツが剣を振り翳しながら襲いかかってくる。その迫り来るスピードはかなりのものであり、避けるのも受け止めるのも一苦労だろう。とりあえず、『身体強化』で自分の体を強化した僕は、低く腰を落としつつ身構える。

 

 

 

「はぁっ!」

 

 

 

「ぐっ!?(・・・・・・見掛け以上に、一撃が重い・・・・・・けど)」

 

 

 

振り下ろされる剣に対しては、僕も真っ向から剣で受け止めそのままつば競り合う。思ったよりも、フリッツの剣の一撃が重かった事もあって少し身じろいでしまった僕だったが、それでも勝てない相手ではないとその一瞬で判断できていた。ハクロウとかと何度も模擬戦を行なっているし、それと比べちゃうとどうしても・・・・・・ね?

 

 

 

《解。『身体強化』を施した主人(マスター)が個体名フリッツに負ける要素は皆無です。・・・・・・先程も申し上げたはずですが?》

 

 

 

「(そ、そんな怒ったみたいに言わないでよ・・・・・・。ごめんってば・・・・・・)」

 

 

 

どこか拗ねたように、口にするリーテさん。・・・・・・どうもすいません。

 

 

 

「やるな?・・・・・・だがっ!」

 

 

 

フリッツは一旦僕から距離を取ると、後ろに飛んだ反動を利用して再び僕に急接近してくる。今度は先程よりも速いスピードで接近してきていて、その速さは僕以上のものを誇っていた。

 

 

 

・・・・・・でも、残念でしたね?そんなスピードの攻撃など、これまでに何度も受けてきてます。

 

 

 

「これで終わり・・・・・・っ!?」

 

 

 

「外れですね?じゃあ、遠慮なく・・・・・・!」

 

 

 

スピードに任せて、強烈な突きを出してきたフリッツ。それを僕は、すんでのところで見極め、流れるようにしてその突きを躱した。そして寸分おかず、突きを出した事によってガラ空きになった彼の腹部に強めの裏拳をお見舞いした。

 

 

 

「ぐわぁっ!!」

 

 

 

腹部に強烈な一撃を食らった事により、フリッツは盛大に吹っ飛ばされ、そのまま近くの大木に叩きつけられた。

 

 

 

「フリッツ!大丈夫かっ!?・・・・・・だから言わんこっちゃねぇ・・・・・・」

 

 

 

「す、すいません・・・・・・けど俺・・・・・・って、あれ?どこも怪我して・・・・・・ない?あれ、なんで?」

 

 

 

普通であれば、大怪我をしていても不思議ではない攻撃を受けた筈だというのに、いざ自分の体を見てみれば傷一つない健康体でいたのだから、驚くのは当然のことだろう。

 

 

 

「それはエリス様の力のおかげだ。貴様らには、戦闘前にエリス様が加護を施していた事もあって、こちらが攻撃をしても一切傷を負わなくなったんだ。アルノー・・・・・・と言ったか?貴様も、俺の剣技を受けても傷は負わなかっただろう?」

 

 

 

「・・・・・・そういや、そうだな。バッガスもリティスも無傷だし・・・・・・(もしや、これが教会内でも噂となっているエリスの能力か?)・・・・・・エリス=テンペスト。こいつ(ベニマル)の言っている事は本当か?」

 

 

 

僕が彼らに施した事については、ベニマルが代弁してくれたことで説明せずに済んだ。・・・・・・本当に有能だけど、たまには僕から説明させてほしい・・・・・・。

 

 

 

「はい。僕達は何度も言っていますが、あなた方と戦う気は一切ありませんし、危害を加えたいとも微塵も思っていません。ですので、その意思表示として僕の力を持ってあなた達を守らせて頂きました。・・・・・・どうでしょうか?少しは僕達のことを信じては貰えましたでしょうか?」

 

 

 

「・・・・・・流石に、ここまでされちゃあ・・・・・・信じる他ないだろ。実際、俺たちを殺そうと思えばいつでも殺せただろうし、あえてそうしなかったって事は、本当に・・・・・・そういうつもりだったって事だからな。わかった、話し合いに応じよう」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

そんな訳で、ようやく話し合いに持ち込めた僕は、剣をしまうと軽く一息をつくこととするのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

何か、”妙な気配”を感じている点については一旦棚に置いて・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

それから、数分間、僕はこれまでに起こった事全てを4人に打ち明けた。魔国連邦(テンペスト)は西方聖教会を敵視してはおらず、むしろ友好的に接したいと考えている事、それを伝えるための伝言をレイヒムに送らせた事、それにもかかわらず、西方聖教会が意味も分からずに奇襲を仕掛けてきた事、その全てを。

 

 

 

「マジか・・・・・・。だが、こちらに送られてきた伝言は間違い無く、リムル=テンペストによる宣戦布告だった。・・・・・・という事は」

 

 

 

「何者かが、魔国連邦(テンペスト)からの伝言を偽造した・・・・・・と見て良いでしょう。・・・・・・それが誰かはわかりませんが」

 

 

 

事の真実に、4人は頭を悩ませていたが、僕を疑うような真似はしなかった。

 

 

 

「何か、伝言を受け取った際に変な事は起こりませんでしたか?」

 

 

 

「変な事?・・・・・・あ、そう言えば、レイヒムが来た際に”七曜”の方々が突如として現れたんですよ。で、その方達がレイヒムに『伝言は無いか?』みたいに諭して、レイヒムから伝言を受け取ったけど・・・・・・」

 

 

 

「七曜・・・・・・確か、神皇国ルベリオスの最高顧問と呼ばれてる、七人の老師達の事ですよね?もしかしたら、その人達が・・・・・・」

 

 

 

「可能性はなきにしもあらず・・・・・・と言ったところでしょう。ともかく、一旦ヒナタ様達の元へと戻りましょう。そろそろ勝敗も決している頃でしょうし」

 

 

 

バッガスさんの提案で、話を一旦打ち切ってリムルとヒナタさんの元へと戻ることへと決めた僕達。4人は先に戻っていき、それに倣って僕達も歩を進めることにした訳だが、僕だけは不意に足を止める。それを不審に思った、配下達は同じように足を止めて僕へと視線を向けてきた。

 

 

 

「エリス様?いかがなされましたか?」

 

 

 

「ごめん、先に行っててもらえるかな?少し用事ができて・・・・・・」

 

 

 

「用事?でしたら、俺が付き添って・・・・・・」

 

 

 

「大丈夫。そんなに大層な用事じゃないし、セキガとカレン、ヒョウガについて来てもらうから。ベニマル達は先に戻って、リムル達の様子の確認を」

 

 

 

「はっ!わかりました」

 

 

 

それだけ伝え終えると、ベニマル達は颯爽とこの場を後にし、リムル達の元へと向かっていった。この場に残されたのは、僕と近衛兵の二人、ヒョウガの4人だけだ。

 

 

 

「主様、用事というのは一体?」

 

 

 

「すぐに分かるよ。・・・・・・・・・・・・そろそろ出てきてはどうですか?そこに隠れているのはわかっていますよ?」

 

 

 

「「「・・・・・・?」」」

 

 

 

不意に、僕は”数m先にある木”に向かってそう口にする。いまだに理解の追いついていない3人は訝しげな表情を見せつつ、僕が視線を向けるその木へと同じように視線を傾ける。

 

 

 

「・・・・・・へぇ?気づかれてたんだな?妖気(オーラ)も抑えたし、結構上手い具合に隠れてたと思ったんだが・・・・・・」

 

 

 

「っ!あなたは・・・・・・」

 

 

 

僕の声に反応し、観念したように木の裏からゆっくりと姿を表したのは・・・・・・・・・・・・まさかの人だった。

 

 

 

「よう、エリス。魔王達の宴(ワルプルギス)の時以来だな?」

 

 

 

「ギィ・・・・・・さん。久しぶりですね?あなたのような方が、どうしてこんな所に?」

 

 

 

「なに、暇だったもんで、オレが直々にお前を茶にでも誘いに来たってだけの話さ。だからそんなに警戒するなって」

 

 

 

薄く笑みを浮かべながらつらつらと言葉を募るギィさんに、僕は軽く冷や汗を浮かべる。怪しい人物がこの場の近くにいることは、先ほどから既に気づいてはいたものの、まさかそれの正体がギィさんであるとは思ってもいなかったので、どう立ち回って良いのか分からなくなってしまっているのだ。あの最古の魔王であるギィ・クリムゾンがこうして目の前にいるんだよ?そうなるのも当たり前でしょっ!

 

 

 

「エリス様、この人物は?」

 

 

 

「あぁ・・・・・・うん。この人は、ギィ・クリムゾン。魔王だよ」

 

 

 

「「「魔王っ!?・・・・・・っ!」」」

 

 

 

目の前にいる人物が、魔王であると知ると、3人は一斉に僕の前に立ちはだかり、臨戦体制に入った。・・・・・・いや、ちょっとっ!?

 

 

 

「3人とも落ち着いてっ!」

 

 

 

「・・・・・・エリス様に、何の用?」

 

 

 

「エリス様に近づけはさせぬっ!」

 

 

 

「主様!ワタシの後ろに!」

 

 

 

3人には落ち着くように、指示を出したものの急な魔王の登場にパニックになっているのか、聞く耳を持ってくれない。下手に刺激すれば死ぬのはこちらだ。・・・・・・ここはなんとか抑えないと。

 

 

 

「だから警戒するなっての。オレは別に戦いに来たって訳じゃねーんだからよ・・・・・・って言ったところで、聞かなそうだな?仕方ねぇ、オレが軽く遊んで・・・・・・」

 

 

 

「すいませんっ!この3人には後で言って聞かせますので、どうかご容赦ください!この場であなたが暴れればあなたの存在がバレますよっ!?」

 

 

 

「・・・・・・?う〜ん、それならそれで別にいいが・・・・・・まぁいいか」

 

 

 

どうにか抑えてくれたようで、ここら一帯が惨劇の場と化す事は無くなったことにほっとする僕は、3人に向き合った。

 

 

 

「大丈夫。この人は、戦いに来た訳じゃ無いって言ってるし、危険はないよ。魔王とはいえ、全ての魔王が悪ではないって事は、キミたちも分かってるでしょ?」

 

 

 

「「「・・・・・・」」」

 

 

 

「少なくとも、この人は悪意があってこの場に来てる様子は無いみたいだし、ここは僕に任せて?」

 

 

 

少し納得がいっていない様子の3人だったが、渋々といった感じで頷いた。・・・・・・それを見て、ふっと笑みを浮かべて僕はギィさんへと視線を戻す。

 

 

 

「それで、今日はなんの御用ですか・・・・・・って、僕をお茶に誘いに来たって言ってましたっけ?」

 

 

 

「ああ。いい茶葉が手に入ったんだ。よければお前もって思って来たんだが、良いよな?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

この様子からするに、問答無用で連れて行こうとしてるよね、これって・・・・・・。確かに、以前からこの人には茶会に誘われてはいたけど、まさかこのタイミングで再び誘われる事となるとは・・・・・・何ともタイミングの悪い。

 

 

 

「少しで良いですから、時間を貰えませんか?お茶会にはちゃんと出席しますので」

 

 

 

「何だよ、今じゃダメなのか?」

 

 

 

「あなたも見ていたのであれば分かるでしょう?今、魔国連邦(テンペスト)は西方聖教会とちょっとした揉め事をしている最中ですので、この場で今すぐにあなたの元へ向かうわけには行かないんです」

 

 

 

いくらギィさんの誘いとは言え、仲間達が戦っている中で一人お茶をしに行くなんてできるはず無い。最古の魔王の誘いを断るだなんてなんて馬鹿何だろう・・・・・・って思ったりもしたが、僕はそれでもみんなを守りたいって思ってるから、これでギィさんの機嫌を損ねようと後悔はなかった。

 

 

 

「・・・・・・あんまり、オレからの誘いで断った奴は居なかったんだが、お前って面白いな?」

 

 

 

「この騒動が終わった後でしたら、いくらでも行きますので、今だけはどうか引いてください。これだけは譲るつもりはありませんので」

 

 

 

「(こりゃ、梃子でも折れないな)わかったよ。じゃあ、ちょっとしたらまた顔出す。そん時はちゃんと来いよ?お前と語らいたいこともたくさんあんだからよ」

 

 

 

「・・・・・・はい。ありがとうございます」

 

 

 

その言葉を最後に、ギィさんはどこかへと姿を消した。多分、またすぐに再会するだろうから、今のうちにあの雰囲気に慣れておきたいところだけど、しばらくは慣れそうにない。とりあえず、今まで入りっぱなしだった体全体の力をゆっくりと抜くと、その場に腰を下ろした。

 

 

 

「エリス様、大丈夫ですか?」

 

 

 

「うん。それにしてもやっぱり、魔王と相対するのはとても疲れるし、怖いよ。今回は、後ろにみんながいて心強かったけど」

 

 

 

「いえ、ワタシ達は何も。・・・・・・というより、魔王に対してあれだけ堂々と物言いが出来る主様の方がむしろ怖いというか・・・・・・」

 

 

 

「全くその通りね・・・・・・」

 

 

 

半ば呆れたように、苦笑するヒョウガとカレン。確かに、ギィさんに物言いするのは怖かったけど、魔国連邦(テンペスト)やみんなのことを想えば、僕は何だって出来るのでギィさんに対する恐怖感などはどこかへと去ってしまった。・・・・・・今にして思えば、本当に勇気あったよ、その時の僕。

 

 

 

そんなこんなで、ギィさんと一悶着あった後で、若干の疲れを見せた僕たちだったが、いつまでも休んでるわけにも行かなかったので、一旦リムル達の元へと戻ることに決めるのだった。




ちなみに、現状でエリスとギィが戦えばエリスが普通に負けます。究極能力の有無はともかくとして、身体能力やスキルの破壊力を含めてギィの方が遥かに優っていますので。

とはいえ、エリスの防御を貫通できるかは不明ですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七曜との決戦

七曜との戦いに踏み込み、この回で現在出ている漫画と同じ所まで進みます。


 

 

 

「リムル。そっちの勝負はもうつい・・・・・・た?」

 

 

 

歩く事1分弱、ようやくリムル達の元へと戻って来れた僕達だったが、その場で起こっていた状況を目にすると同時に心に動揺が走り、顔が歪む。

 

 

まず、ヒナタさんは謎の大怪我を負っていて、瀕死の状態。リムルはそれを抱き抱える様にして、ヒナタさんの安否の確認を取っている。そして、先に戻っていた聖騎士4人は、光る光輪の様な物で全員が拘束されており、身動きが取れなくされていた。ベニマルやシオン達は身動きこそ取れるものの、その場での状況が理解しきれていないのか、混乱しているように見える。

 

 

 

そして、彼らと相対しているのは、白装束の怪しい人物たち。状況を察するに、ヒナタさんをあんな目に合わせたのはあの人達だろう。

 

 

 

「(あの妙に怪しい人達は一体?・・・・・・それに、何で”ヒナタさんがあんな大怪我”を?リムルがやったにしては傷のつき具合がおかしいし・・・・・・もしかして、あの人達が・・・・・・?)」

 

 

「っ!エリス!ちょうど良いところに!すぐにヒナタの怪我を治してくれ!このままじゃコイツが死んじまう!」

 

 

僕に気がついたリムルは抱き抱えたヒナタさんを誇示するように、僕に訴えかけてくる。勿論もとよりそのつもりだ。ヒナタさんを死なせる訳にはいかない。そう咄嗟に判断した僕は、すぐさまその場へと移動しよ・・・・・・うとしたのだが、”それを阻む者”が現れる。

 

 

 

「これはこれは、エリス=テンペスト殿。其方の方から我々の前に出向いてくれようとは、何とも愚直な・・・・・・」

 

 

 

「誰かは知りませんが、そこを退いてください。早くしないと、ヒナタさんの命が危ないので」

 

 

 

「そうは行きませんな?あのヒナタは”聖人”と言う立場でありながら神ルミナスの意思を無視した大罪人。ここで死んでもらわねば我々としても都合が悪いのだ。だから当然、其方の様な者を行かすと・・・・・・っ!?」

 

 

 

「エリス様の邪魔をするな。・・・・・・オレがコイツの話を聞いてやりますのでエリス様はどうぞお先に」

 

 

 

「ありがと、セキガ。じゃあ、この場は頼むよ。二人は僕について来てくれ!」

 

 

 

「「御意!」」

 

 

 

無駄口を叩いてくるこの人物に、セキガが大槍を手に威嚇を始める。その間に、僕はカレンとヒョウガを連れてこの人の隣を颯爽と掻い潜り、ヒナタさんの元へと到達する。その人はそのスピードには反応できなかったのか、ものすごく動揺した声を出していた。

 

 

 

「リムル、ヒナタさんを」

 

 

 

「ああ。”七曜”のことは俺たちで何とかしておくから、その間にヒナタを頼む!」

 

 

 

「(あぁ、この人達が七曜なのか・・・・・・)うん、任せて!」

 

 

 

リムルからヒナタさんを譲り受けると、そのまま治療に入る為に地面に寝かせた。当然、そうはさせまいと七曜の老師達は僕を・・・・・・正確にはヒナタさんを目掛けて襲いかかってくるが、それをリムル達が阻止する。

 

 

 

「(リーテさん、ヒナタさんの解析を。見たところ、心臓を貫かれているけれど・・・・・・)」

 

 

 

《解。個体名ヒナタ・サカグチは魔法への高い抵抗力を有している模様です。魔素を媒介とする薬や魔法の効力はかなり薄いと推測します》

 

 

 

「(じゃあ、どうすればいいの?)」

 

 

 

《解。『生命力譲渡』をヒナタに施し、対象の自己治癒力を極限にまで高める事で、欠損部位の修復と治癒を同時に行うことを推奨します。『生命力譲渡』は魔素を媒介とはしていませんので抵抗力による阻害は受けません》

 

 

 

『生命力譲渡』・・・・・・確か、僕の生命力(魔素)を変換してそのまま対象に渡すっていうリーテさん特有のスキルだ。そっか、魔素をヒナタさんの生命力へと変換させるから、何も問題無しに治癒が出来るって意味か。なるほど・・・・・・これは良いスキルだね。

 

 

 

「(直ぐに実行を!)」

 

 

 

《了。『生命力譲渡』を発動します》

 

 

 

『生命力譲渡』が発動されると、すぐさまヒナタさんの体が薄く光り出し、貫かれた心臓や、朽ちた肉体が次々と凄い勢いで再生し始める。

 

 

 

「っ!流石の力・・・・・・だが、そこまでっ・・・・・・!?」

 

 

 

「エリスの邪魔はさせるかよ。みんな!エリスを全力で守るんだ!」

 

 

 

「「「御意っ!!」」」

 

 

 

その場にいた全員が、ヒナタさんに向かってくる七曜の老師達を迎え撃とうと動き出す。ヒョウガとカレンにもリムルたちに加勢する様伝え、僕はただ一人、ヒナタさんの回復に集中していた。

 

 

 

《告。個体名ヒナタ・サカグチの治癒の成功を確認しました。それにより、スキル『共有』が発動。ヒナタのスキルと能力の共有を実行いたします・・・・・・・・・・・・成功しました。『共有』の効果により、ユニークスキル『簒奪者(ウバウモノ)』『数学者(ハカルモノ)』の使用が可能となりました。続いて、共有によって得た『神聖魔法』の解析鑑定を実施・・・・・・》

 

 

 

・・・・・・長くなりそうなので途中から聞き流してたけど、ともかくヒナタさんは無事に回復出来たとの事らしいので僕は胸を撫で下ろす。

 

 

 

「リムル!ヒナタさんは無事だ!もう安心して大丈夫だよ!」

 

 

 

「ナイスだエリス!・・・・・・さてと。残念ながら、お前たちの目論みは達成ならずって所みたいだが、まだ戦いを続けるってのか?」

 

 

 

「ふっ・・・・・・ヒナタが回復したとて、それが何だというのだ?ならば、もう一度其奴を手にかけるまでだ!我ら七曜に不可能など無いのだからな!」

 

 

 

七曜の一人は不敵な笑みを浮かべると、そのまま上空へと浮かび出す。

 

 

 

《告。霊力の反応を確認。神聖魔法による攻撃が来る事を推測します》

 

 

 

「(範囲的にはここら一帯を消し飛ばす程の威力に見える。・・・・・・とりあえず、ヒナタさんとみんなには『絶対保護』をかけておこう)」

 

 

 

リムルや僕であるなら、もしかすれば問題ない様にも思えたが、他のみんなはそうも行かない。なので、既にかけてある4人の聖騎士以外の全員に『絶対保護』をかけた。

 

 

 

「死せよ!『聖三位霊崩陣(トリニティブレイク)』!!」

 

 

 

「リムル!ここは僕が・・・・・・!」

 

 

 

「いや、問題ない!ここは俺に任せておけっ!!」

 

 

 

リムルは、僕を退かせると、『暴食之王(ベルゼビュート)』を発動して上から降り注ぐ強力な魔法を全て喰らってみせた。攻撃だけでなく、防御にまで精通してるだなんて、なんて強力なスキルなんだろう・・・・・・。

 

 

 

「流石魔王!だが、これで最後だっ!『三重霊子崩壊(トリニティディスインテグレーション)』!!」

 

 

 

《告。さらに強い霊力の確認が取れました。これが本命の攻撃と推測します。しかし、これによって受けるダメージは主人(マスター)、ヒナタ共に無効化に成功しております》

 

 

 

リーテさんの言うように、先程よりも遥かに迫力も威力も増している大魔法が、リムルと僕を目がけて襲いかかってくる。だが、『絶対保護』を付与しているヒナタさんと『治癒之王(アスクレピオス)』の効果で僕までもがこの神聖魔法の無力化に成功しているとの事らしいので、そこまで悲観的には見ていなかった。

 

 

 

「なっ!?ば、馬鹿な・・・・・・『霊子崩壊(ディスインテグレーション)』をまともに食らって、平然としているなど・・・・・・」

 

 

 

結局、七曜の放ったこの大魔法も、僕たちには通用せず、その事実に愕然とした七曜の面々。リムルの方も、どうやらこれに対抗しうる”防御スキル”を使ったらしく、まともに食らっても五体満足で立っていた。とは言っても、先ほどの神聖魔法の威力はかなりの物・・・・・・これを容易く撃てるとは、流石は七曜・・・・・・と言った所だろう。

 

 

 

《告。先程、ヒナタから共有した全ての神聖魔法の解析が完了しました。解析の結果、”霊子”の位相乱数の認識と理解に成功。さらに、霊子への直接干渉を施すための手段も同時に解析に成功しております。これにより、主人(マスター)は全ての神聖魔法の使用が可能となりまた、神聖魔法をもとに、”魔素を媒介としない”新たなる『治癒』と『鼓舞』の開発に成功しています》

 

 

 

「・・・・・・はい?」

 

 

 

何やら、僕の中の先生がとんでもない事を言い出した。魔物である僕が神聖魔法・・・・・・?しかも、さっきの強力な魔法まで使えるようになったなんて・・・・・・しかも、これにプラスしてヒナタさんの持つユニークスキルまで使えるようになったんでしょ?改めて思うけど、リーテさんも『治癒之王(アスクレピオス)』もチート級にやばいスキルだよね・・・・・・?

 

 

 

「「はぁ〜〜・・・・・・あっ」」

 

 

 

思わず出たため息が、ちょうど同タイミングで出たリムルと被る。・・・・・・なんだかキミも疲れてそうな顔になってるな?

 

 

 

「どうしたの?大丈夫?」

 

 

 

「いや、何・・・・・・ウチの相棒の自重のなさにちょっと呆れて・・・・・・」

 

 

 

「奇遇だね・・・・・・?僕もちょうど、同じこと思ってたよ・・・・・・」

 

 

 

多分、リムルも先ほどの戦いで何かしらスキルを会得したんだろう。・・・・・・で、ラファエルさんの有能(?)ぶりに頭を悩ませているってところか。キミのその気持ちはよくわかるよ・・・・・・本当に。

 

 

 

「さてと・・・・・・御自慢の魔法陣もさっきの魔法で消えちまったみたいだし、今度はこっちの番だよな?」

 

 

 

「身体もあったまってきた事だし、そろそろ本格的にやらせてもらうとしようか!」

 

 

 

ベニマルを筆頭に、戦意を失いつつある七曜を追い詰める皆。今の段階で戦えば、間違いなくこちらに軍配が上がるので、それを察しているのか否か、七曜はジリジリと後退りをしつつ震え上がっていた。

 

 

 

「わ、我々は人類の守護者!我らに手を掛ければ神ルミナス信徒が黙ってなどいないぞっ!」

 

 

 

「そうである!神ルミナスの怒りが貴様らを必ずや焼き払う!それが嫌だと言うのであれば、今直ぐ我々を・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう?随分と癇に障る事を言い出す愚物共じゃな?・・・・・・魔王リムルよ。迷惑を掛けたな?」

 

 

 

「「っ!!」」

 

 

 

その時だった。・・・・・・その場に澄んだ綺麗な声が響き、何も無かった空間から突如として巨大な門が現れた。その中から出て来たのは、僕とリムルの知る八星魔王の一人である・・・・・・

 

 

 

「「ルミナス・・・・・・バレンタイン・・・・・・」」

 

 

 

その人だった。




エリスがどんどんやばいことに・・・・・・。相手を治すだけで対象のスキルが使えるようになるとか。いや、リムルもこの時点で色々とスキルを獲得してますし、お相子・・・・・・と言うことで良いでしょうかね・・・・・・はは。ちなみに、『七彩終焉刺突撃(デッド・エンド・レインボー)』も『崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)』も使えるようになってます。


本当は、ヒナタが絶命した後にでもエリスが蘇生させた方が効率的かな?・・・・・・なんて思っていましたが、下手にヒナタを死なせると『時間旅行』が発動してややこしくなってしまいますので、それはやめておきました。

後、ギャルドに扮した七曜の一人は、シオンに両手を使用不可能にされていましたので、ヒナタを撃ち抜いたのは別の七曜と言うことにしています。なので、レナードも無傷です。


次回は視点を変更してディアブロの方へと移します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白き悪魔

悪魔達がようやく活躍し出します。

明らかに、オーバーキルな気もしますが・・・・・・。


視点 三人称

 

 

 

「クフフフ・・・・・・新王自ら出陣とは、何とも愚かですが・・・・・・狙い通りと言った所でしょう」

 

 

 

二ドル領のとある広場にて、ディアブロは不気味な笑みを浮かべながら空を悠々と舞っていた。彼の眼下には、ファルムス王国新王である、エドワルドを総大将にした軍が在中している。彼らの目的はこの領にて匿われている先代王、エドマリスなのだが、今は先に来ているヨウム達の軍と交戦状態へと移っており、状況は思わしくはなさそうだった。

 

 

 

『クロ?笑っている暇があるのなら、さっさと行動に移す方が良くてよ?リムル様にこれ以上、無様な姿は見せたくは無いのでしょう?』

 

 

 

『あなたに言われずとも分かっております。・・・・・・それにしても、まさかあなたがこちらに駆けつけるとは・・・・・・どう言う風の吹き回しでしょうか?』

 

 

 

笑いを収めたディアブロは、不思議そうな顔をしながら笑いを収めたディアブロは、不思議そうな顔をしながらテスタロッサに思念を飛ばす。彼女は、ディアブロとは別行動をとっており、ハクロウやランガ、ゴブタ達と共に、別の場にて待機をしている。

 

 

だが、ディアブロにとってはその彼女の行動にはどうしても違和感が拭えないようで、未だに首を小さく傾げたままでいた。ディアブロの知る彼女は、その苛烈極まりない性格であるが故に、他者を許さず、誰の命令にも従う事の無い孤高の悪魔とも呼べる者だった。さらに、付き合いは長けれど自分とも仲が良いとは言い難い関係性であるので、こうして同じ場にて共同戦線を張っていることにどうしても違和感を覚えてしまうのだ。

 

 

 

『・・・・・・大した理由はなくてよ?エリス様がこちらに加勢するようわたくしに命令されたからこうして来ているだけ。本来だったらあなたと共闘なんて死んでもごめんですわよ?』

 

 

 

『クフフフ・・・・・・あなたの様な方が誰かの命令通りに動く姿が見れる日が来ようとは、長生きはしてみる物ですね?』

 

 

 

『リムル様に酔狂しきっているあなたに言われたくは無いわ。わたくしからして見れば、あなたの方がよっぽどリムル様に忠実な気がするけれど?』

 

 

 

『当たり前でしょう?リムル様は、私が初めてお支えしたいと願った大切な主なのですから』

 

 

 

テスタロッサのエリスへの忠誠度もかなり高いのも事実だが、ディアブロはそれを遥かに凌駕していると言っても過言では無いほどに、リムルにゾッコンなのは側から見ても明らかだ。実際、リムルに『帰っていい!』と悪魔界への帰還を促された時には、”この世の終わりの様な顔”を浮かべながら絶望するほどなのだから。

 

 

 

『だったら今度こそ行動に移すことね。再度リムル様の期待を裏切る様なこととなれば、あなたは今度こそ悪魔界へ返されてしまうわよ?』

 

 

 

『っ!・・・・・・えぇ、もちろんです。あの様な恐怖感は、二度と味わいたくなどありませんから。・・・・・・こちらは私が対処をしますので、あなたはハクロウ殿達と共に、そちらに向かった怪しい一団の対処をお願いします』

 

 

 

『・・・・・・』

 

 

 

最後のディアブロの言葉にはテスタロッサは何も答えぬまま『思念伝達』を切った。彼女の性格からして、ディアブロの指示には頷きたく無いというプライドでもあったが故の行動だろう。とは言え、エリスの命令もある以上、彼女がそれを無下に出来ないことは彼としても分かり切っている事なので、そこまで懸念を抱くことはなかった。

 

 

 

「さて・・・・・・では、こちらもそろそろ動くとしましょう。ファルムス王国・・・・・・この私に濡れ衣を着せた罪・・・・・・必ずや報いを受けて貰いますからね・・・・・・」

 

 

 

邪悪に笑うディアブロは、軽く肩を鳴らすと、そのまま新王の軍めがけてゆっくりと降り立つのだった。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

場所は変わって、ハクロウ陣営。こちらには、先に説明した通り、ハクロウを目つけ役としてランガやゴブタ達狼鬼兵部隊(ゴブリンライダーズ)を始めとした多くの魔国連邦(テンペスト)陣営が備えており、戦力としては申し分無い。これに加えて、エリスによって派遣されたテスタロッサやモス、シエンもいるのでさらに盤石となったと言って良いだろう。

 

 

 

「ハクロウ殿、ディアブロからの伝達によると、こちらに怪しい動きを見せる軍勢が向かって来ているとのことですわ。気配から察するに、数人ほどそれなりの力を持った人間がいる様ですわね?」

 

 

 

「ほう?ならば、そ奴らは生捕りにして交渉の材料にでもするかのう。ランガ殿やゴブタ達には後で伝えるとして、テスタロッサ殿達は自由に動いてもらって構わぬが、くれぐれもやりすぎぬ様にな?」

 

 

 

「さて、それはどうでしょうね?向かってくるのであればまとめて排除するのみですが・・・・・・善処しますわ」

 

 

 

ハクロウはテスタロッサにそう念を押すと、その場を離れてランガ達の元へと向かっていった。こうでも言っておかないと、テスタロッサは傍若無人に核撃魔法を放ち、人間達の命を根こそぎ刈り取ってしまう可能性があるのでハクロウのこの念押しはまさに重要と言った所だ。

 

 

 

「テスタロッサ様、ただいま帰還いたしました!」

 

 

 

「ご苦労様、モス。それで、情報は十分に集まったのかしら?」

 

 

 

「はっ!集めた情報を全て説明いたしますと・・・・・・」

 

 

 

モスは自らの手で集めた情報の数々を次々とテスタロッサに報告していく。まず、レイヒムを殺した真犯人・・・・・・つまり、ディアブロに濡れ衣を着せたのは、七曜の老師たちである事。そして、新王エドワルドは、そのレイヒム殺人の罪を犯したディアブロを粛清という名に置いて討伐をし、英雄王としての名を広めようと企てている。そして、ディアブロを討ち取るため、東の国から悪魔討伐者(デーモンハンター)を数名用意している・・・・・・以上が、今回モスが集めた情報の数々である。

 

 

 

「なるほど。・・・・・・ディアブロも面倒なのに目をかけられてしまった事。まぁ、彼なら自分で何とかするでしょう。それにしても、相変わらず仕事が早いわね、モス?あなたの様な有能な配下を持てて、わたくしは嬉しいわ」

 

 

 

「い、いえ!私などまだまだ!テスタロッサ様のお役に立つにはもっともっと・・・・・・」

 

 

 

「あら?わたくしに意見する気?わたくしがこう褒めているのだから素直に受け取るべきではなくて?それとも、またわたくしからの調教が必・・・・・・」

 

 

 

「失礼致しました!ありがたく受け取らせていただきますっ!」

 

 

 

黒い笑みを浮かべつつ、そう答えたテスタロッサに対して、モスは顔を真っ青にしながらその場で土下座をした。正直そこまでする必要があるのかという話なのだが、こうでもしないとモスには生きている事も苦になる程の”生き地獄”がテスタロッサによって課せられてしまうので、これは正当なる謝罪なのだ。

 

 

 

「ならば良いわ。では、わたくし達も動くとしましょう。シエンはハクロウ殿達への援護を。モスは今の情報をディアブロに伝えて来なさい?」

 

 

 

「はっ!お任せを!」

 

 

 

「直ちにっ!」

 

 

 

その指示に反応した配下2人は、指示に従うように同時に姿を消す。それを見送ったテスタロッサは、上空に飛び立つと、こちらに向かってくるその軍、およそ5000人を視界に捉えた。軍を率いるは十大聖人の一人であるグレゴリーという男であり、彼もまたかなりの実力者である事は間違いない。距離を考えると、その軍がハクロウ達の軍と激突するのはそう遅くは無い。

 

 

 

「一人・・・・・・少しだけマシな気配を感じるけれど、残りは相手にもならなそうね。わたくしの出る幕は無さそうですが・・・・・・折角来たのだし、少しばかりはわたくしも手を出させて頂きますわよ?」

 

 

 

口角を僅かに吊り上げたテスタロッサは、その軍の周りに味方がいない事を確認すると、その軍目掛けて突撃をしていった。

 

 

 

「っ!グレゴリー隊長!上空から怪しげな人影がっ!」

 

 

 

「空からだとっ!?一体誰が・・・・・・っ!」

 

 

 

「ご機嫌よう。あなたが、この軍を率いる隊長さんで合っているかしら?」

 

 

 

軍を進めていたグレゴリーは、自分達を阻むかの様にして目の前に降り立ったテスタロッサに視線を向ける。その風貌、その澄んだ美しき声に一瞬魂を持っていかれたグレゴリーだったが、なんとか踏みと止まり声を発した。

 

 

 

「(なんて可憐な・・・・・・)っ・・・・・・何者だ?・・・・・・見たところ、悪魔族(デーモン)に見えるが・・・・・・大司教殺しの悪魔の仲間か?だとするならば、何をしに来た?」

 

 

 

「そうですわね・・・・・・。強いて言うなら、あなた方の足止め・・・・・・もとい暇つぶし、と言ったところかしら?」

 

 

 

「ふざけるなっ!我らの邪魔をするなら容赦はせんっ!」

 

 

 

そのテスタロッサの馬鹿にしたような発言に腹を立てた一人のグレゴリーの配下が、剣を片手にテスタロッサに襲いかかった。グレゴリーは咄嗟にそれを止めようとしたが、時既に遅し・・・・・・だった。

 

 

 

 

(ザァシュッッ!!)

 

 

 

 

「わたくし・・・・・・人の話を聞かない愚か者は嫌いですの。そんな愚か者など、生きている資格など有りませんわよね?」

 

 

 

「くっ・・・・・・(こいつ・・・・・・やばい。ただの悪魔族(デーモン)じゃねぇぞっ・・・・・・!上位悪魔(グレーターデーモン)いや、下手すると上位魔将(アークデーモン)の可能性も・・・・・・)」

 

 

 

自分の直感的に、そう捉え冷や汗を浮かべるグレゴリーとは対照的に、微笑を浮かべつつ襲ってきた愚か者の()()を、無造作にグレゴリー達の元へ放り投げたテスタロッサ。その生首を見たグレゴリーは顔を青くしながら深く動揺していた。そもそもの話、悪魔族(デーモン)が受肉している事自体が異常な話であって、本来であれば悪魔族(デーモン)は例外を除いてこの世界ではなく悪魔界で生きているのが普通である。だというのに、こうして平然と地に降り立って自分達に向かって攻撃を仕掛けてこようとしているのだから、驚くのも当然なのだ。

 

 

 

「あなた方に提案がありますの。大人しく、このまま引き返してくれると言うなら、命の補償はしてあげる。ただし、グレゴリー・・・・・・と言う名を持つあなたは、わたくしに同行して貰いますわ。あなたを捕虜として、交渉の材料として利用したいと思っていまして」

 

 

 

「貴様っ!良い加減にしろ!我らが隊長を見捨てるわけなど・・・・・・」

 

 

 

「少し黙ってて頂けますこと?」

 

 

 

再び自分に突っかかってきたその者に対して、テスタロッサは『魔王覇気』を発動し、その者を含めた多くの軍の兵士たちの意識を刈り取った。本来の彼女であるなら無礼を働いたとしてこの場にいる者全員の魂を根こそぎ食らってた所だろうが、エリスの教育故か意識だけを刈り取るだけに留まったのは、ある意味この兵士達は運が良かったと言っていい。

 

 

 

「むしろ、これはあなた方の為を想って言ってあげているのよ?変に犠牲を増やすぐらいならば、大人しく引き返したほうが双方にとってもメリットは大きい。それはあなた自身がよくわかっているのではなくて?」

 

 

 

「・・・・・・随分でかい口を叩くな?その言い方だと、貴様一人で俺たち全員を相手にできるって言ってるように聞こえるが?」

 

 

 

「相手に出来るかはともかくとして、そちらがやる気ならわたくしは喜んで受けますわよ?」

 

 

 

笑みを収めたテスタロッサは、掌の上に・・・・・・拳大程の大きさの”黒い炎”を揺らびかせる。その深淵の闇より呼び出された黒い輝きを放つ炎は、異質かつ邪悪な雰囲気を漂わせていた。

 

 

 

「っ・・・・・・(なんだ?・・・・・・黒炎、にしては雰囲気がまるで違う・・・・・・。しかも、この寒気のするような異様な緊張感は・・・・・・)」

 

 

 

「ふふ。良い顔になったわね?・・・・・・思わず食べてしまいたくなりそうだわ?」

 

 

 

恐怖の色に染め上がりつつあるグレゴリーの表情に、テスタロッサは再び表情を和らげる。彼女の掌に展開させている炎は正確には『黒炎核(アビスコア)』と言い、本来では制御など不可能に近い”地獄の業火”のことを表している。

 

 

 

「言っておくけれど、この『黒炎核(アビスコア)』を潰したその時は、この場にいる全員が命を落とすことになりますわよ?」

 

 

 

「っ!?う、嘘など吐いても・・・・・・」

 

 

 

「嘘かどうか・・・・・・試してみるかしら?」

 

 

 

その言葉に、グレゴリーは半ば腰を抜かしていた。実際、テスタロッサの言っている事は事実であり、彼女が『黒炎核(アビスコア)』を握り潰した途端、核撃魔法『死の祝福(デスストリーク)』が発動し、この場にいる者全てを死に至らしめる。先程、テスタロッサが味方が周りにいない事を確認したのは、この魔法は敵味方関係なしに無差別で命を刈り取ってしまうので、それを危惧した為だ。

 

かの、魔王ギィ・クリムゾンもこの世界に初めて降り立った際、この魔法を使用して万を超える人間を殺した。そう言ったことが平気で出来るほど、この魔法は残酷で残虐な代物なのだ。

 

 

つまり、簡潔に言うとグレゴリー達は今・・・・・・生死の境目に立っている事を意味している。

 

 

 

「・・・・・・わ、わかった。俺が素直に連行されてやるから、こいつらは助けてくれ」

 

 

 

「た、隊長っ!?それでは我が軍の目的が・・・・・・」

 

 

 

「黙れっ!全員今すぐここで死にたいのかよっ!?良いから黙って戻ってろっ!早くっ!!」

 

 

 

グレゴリーと言えど、テスタロッサ相手では勝ち目はないと踏んだのか、潔く連行されることを選んだ。当然、配下達はそれに納得出来ない様子でいたが、グレゴリーが一喝すると流石に折れるしか無かったのか、兵達は踵を返して来た道を戻っていった。それを見たテスタロッサは、『黒炎核(アビスコア)』を収めると、グレゴリーへと近づく。

 

 

 

「では、わたくしについて来てもらって宜しいかしら?それと、あなたの配下を一人殺した事は、申し訳ないと思っています」

 

 

 

「あいつが勝手に突っ込んだだけの話だ。あんたが謝る必要はない・・・・・・にしても、悪魔族(デーモン)が人間の命を敬うだなんて、珍しいもんだ」

 

 

 

我が主(マイロード)の考えに賛同しているだけの事ですわ。・・・・・・さて、では向かいましょう」

 

 

 

テスタロッサは、グレゴリーを連れると、ハクロウ達の元へと歩を進める。その後、グレゴリーは敵国との交渉材料として捕縛され、二ドル領での攻防戦は、激化する前に密かに終焉を迎える事となった。後は、ディアブロの冤罪を証明し、彼に罪を被せた”愚物共”を抹消するだけだ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・少しばかりと言ったものの、結局は軍そのもの自体を撤退させ、隊長であるグレゴリーをも降伏させると言った大活躍をしてしまったテスタロッサだったが、任務の成功と、エリスの役に立てた事が嬉しかったのか、本人はそれを気にする事もなく笑みを深めるばかりだった。




テスタロッサがこの場にいたらこうするだろうなぁ・・・・・・って言う風に考えて執筆しました。エリスの教えもあって、ある程度は命の尊さを理解してますので、原作程には残虐性はないかと思われます。強さは変わりませんが(場合によってはエリスの手によって原作よりも強くなる可能性も・・・・・・?)。

思ったんですけど、テスタロッサにはどんな役職を与えるべきでしょう?原作通りに外交武官に就かせるのも良いですが、その他にも何か役職を与えたいと思っていますが、絶賛悩み中です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

七曜の最期

今回で解決です。

漫画は飛び越してますが、書籍版を元に続けて書いてます。


視点 エリス

 

 

 

「ルミナス・バレンタイン・・・・・・」

 

 

この場に突如として現れた魔王ルミナス。そして、後ろから続くようにして現れた一人の壮年の男を目撃した僕達は、揃って目を丸くしていた。

 

 

「(あれ?あの男の人って確か、ルミナスさんの影武者として魔王を務めていた・・・・・・?)」

 

 

 

《否。彼の者は、主人(マスター)の思い描いた人物、ロイ・ヴァレンタインではありません》

 

 

 

「(え?でも、顔も姿も一緒だよ?違うって言うなら誰・・・・・・)」

 

 

 

「控えるが良い。余は法皇ルイ。そして、こちらに居られるお方こそ我らが神、ルミナス様であるぞ」

 

 

ルイと名乗ったその人は、讃えるかのようにルミナスさんの名を口にする。その名を聞いた聖騎士の人たちや七曜は揃って跪いた。彼らにとって、絶対神とも呼べるルミナスさんが目の前にいると言うのだから、当然と言えば当然か。・・・・・・というか、ルミナスさんって魔王だよね?魔王が神って、どう言う事なんだろう?

 

 

ちなみに、後々聞いたところ、このルイという人は、あのロイ・ヴァレンタインの双子の兄らしく、顔が似ているのもその為なんだとか。

 

 

「ヒナタよ。あれ程妾が”自重せよ”と忠告したにも関わらず、一人先走りおって・・・・・・。どれ、妾が治して・・・・・・む?」

 

 

 

「あ、ヒナタなら既にエリスが治してくれたからもう心配いらないぞ?」

 

 

 

僕の横で倒れているヒナタさんを救おうと手を向けたルミナスさんだったが、リムルも言ったように僕がしっかりと治したので特に問題なんて無かった。

 

 

「(・・・・・・それにしても、改めてルミナスさんを見てみると、本当に綺麗な人だなぁ〜・・・・・・。こんな人が神なら、僕だったら喜んで信仰しちゃうかも・・・・・・)」

 

 

 

そんな事を呑気に考えていると、いつの間にかルミナスさんは視線をこちらに向けていて、密かに微笑を浮かべていた。

 

 

 

「ほう?エリス=テンペスト・・・・・・そこのリムルの言う事に相違は無いか?」

 

 

 

「え?あ、はい。僕が治しましたけど?」

 

 

 

素直にそう話した僕だったが、それを聞いたルミナスさんはさらに口角を上げて笑い始めた。

 

 

 

「ふっ。以前から思っておった事じゃが、貴様は誠におもしろき奴じゃ。・・・・・・ヒナタを救ってくれた事、感謝しておるぞ?」

 

 

 

「そう言ってもらえて良かったです」

 

 

 

人から褒められる事は嬉しいと思える性分なので、ルミナスさんのその言葉だけでも、僕の心の中は満足感でいっぱいとなった。

 

 

 

「さて、七曜よ?此度の件・・・・・・どう言うことか、説明して貰おうか?」

 

 

 

「わ、我々はルミナス様の御為に、裏切り者であるヒナタ・サカグチを始末しようと・・・・・・」

 

 

 

「ふむ?ヒナタが裏切った?・・・・・・ヒナタよ、聞くがお前は妾を裏切ったりなどしたか?」

 

 

 

七曜のその物言いに少し憤りを見せたルミナスさんは、倒れてるヒナタさんに対してそんな唐突な質問をする。いや、目を覚ましていないんだからその質問に答えられるはずが・・・・・・

 

 

 

「・・・・・・いえ、絶対神たるルミナス様を裏切るなど、私は決してしてはおりません。今回の行動も、ルミナス様のお心を思って移ったまでですので」

 

 

 

「(あ、気を取り戻していたのね?)」

 

 

 

何事もなかったかのようにして起き上がったヒナタさんは、服についた埃を払いつつ立ち上がった。・・・・・・大丈夫そうで良かったけど、それならさっさと起きれば良かったのに。

 

 

 

「・・・・・・らしいが、これについてはどう弁明するつもりじゃ?・・・・・・いや、もう良い。これ以上聞いたところで、貴様らからは同じようなくだらん言葉しか出ないであろうからな?」

 

 

 

「る、ルミナス様・・・・・・我々は・・・・・・」

 

 

 

「死罪じゃ。せめてもの情けで、貴様らは妾の手で葬ってやろう」

 

 

 

何とか許しを乞おうと必死になっていた七曜だったが、結局はルミナスさんに粛清という名の処刑を決行される事となり、ルミナスさんの『死せる者への祝福(デスブレッシング)』によって、あっという間に滅びの道を辿った。流石、魔王と言うべきか・・・・・・。

 

 

 

『エリス様。こちらは全て片付きましたわ』

 

 

 

そんな時、『思念伝達』にてテスタロッサが連絡を入れてきた。

 

 

 

『そっか。その様子だと特に問題は無さそうだったかな?』

 

 

 

『はい。ディアブロの方もうまくやったらしく、無事に自分の冤罪を証明し、あちらに出向いた七曜と名乗る老師達を皆殺しにしたとの事ですわ』

 

 

 

『よ、容赦ないなぁ・・・・・・ディアブロは・・・・・・』

 

 

 

向こうにだって、十大聖人と言った実力を持つ騎士達だって居たはずなのに、そんなのとはお構い無しに仕事を遂行出来ちゃうんだから、本当にディアブロって有能だよね?それはともかくとして、彼の無罪も証明できたのなら、十分成功と言って良いだろう。

 

 

 

『とりあえず、キミ達は先に魔国連邦(テンペスト)へと戻っていてくれ。こっちもちょうど今片がついたし、すぐに戻るからさ?』

 

 

 

『承りました。美味しいお茶を入れて待っていますわね?』

 

 

 

その言葉を最後にテスタロッサとの連絡は途絶えた。帰ったらテスタロッサの入れてくれたお茶が待ってるか・・・・・・うん、早めに帰ろう。

 

 

 

「エリス様?何やらにやついていますが、嬉しいことでも?」

 

 

 

「へっ!?う、ううん!何でもないよ、ソウエイ?あはは・・・・・・」

 

 

 

思わず表情を歪ませてしまった事をソウエイに指摘され、焦った僕はワタワタとしながら咄嗟にそう返した。

 

 

 

「ねぇ?キミが私の命を救ってくれたって認識であっているかしら?エリス=テンペスト?」

 

 

 

そんなやりとりをしていると、ヒナタさんが僕に近づいてきて不思議そうな顔をしながら質問をしてくる。

 

 

 

「そうです。あのままだと、あなたの命が危なかったので・・・・・・」

 

 

 

「何故、敵である私を助けようと思ったの?私、あなたに何かしたような覚えは無いけれど?」

 

 

 

質問に答えたものの、依然として表情を変えないヒナタさんはさらに質問を投げかけてくる。確かに、ヒナタさんは敵・・・・・・とは言わずとも、助ける義理の無い()()だ。だけど僕にとって、そんな事は関係なんてない。

 

 

 

「目の前で命を落としそうになっている人を見て、助けない訳がないでしょう?それに、僕はヒナタさん達を別に敵と認識してはいなかったので、助けることも躊躇わなかったんですよ」

 

 

 

「ヒナタ様。その人の言っている事は本当ですよ?実際、俺たちと戦った時も、俺たちが怪我をしないように、自分の力を持って俺たちを外傷から守ってくれてましたから」

 

 

 

「・・・・・・ふぅん?そう言うことか・・・・・・」

 

 

 

僕の発言にプラスして、アルノーさんも先ほどの戦闘からの経験を活かしてフォローしてくれた事もあって、ヒナタさんはようやく少し納得が言ったような顔つきになった。

 

 

 

「ヒナタ。エリスはこう言う奴だから、悩んだって無駄だぞ?こいつはその慈愛心故に他者を見捨てられず、何でもかんでも自分の手で救っちまおうって考えを持つ奴だからな。ただ、それがこいつの長所でもあり、魅力でもあるからどうか否定はしないであげて欲しい」

 

 

 

「わかってる。助けてくれてありがとう・・・・・・キミには借りが出来てしまったわね?」

 

 

 

最後にリムルがフォローしたことで完全に納得したのか、軽く笑みを浮かべながら僕に対してお礼を言ってくるヒナタさん。ルミナスさんにだけでなく、ヒナタさんにまでお礼を言われる日が来るなんて・・・・・・嬉しいけど、”借り”なんて無しでいいよ?

 

 

 

「いや、借りとか良いですよ。僕がしたくてそうしただけですので」

 

 

 

「いや、西方聖教会騎士団長としてのプライドがそれを許さない。・・・・・・何かあったら、私も力になるからいつでも言って?・・・・・・宜しいですよね、ルミナス様?」

 

 

 

「構わぬ。妾が認めよう」

 

 

 

・・・・・・勝手に決めないで欲しい。と言ったところで聞いてくれないだろうから、諦める事にした。

 

 

 

その後、ルミナスさんとリムルとで和解の話と、今後ルベリオスとの交流の件についての談義がされる事が決定され、ひとまずはルミナスさん達を魔国連邦(テンペスト)へと招待する事に決まった。ただ、魔国連邦(テンペスト)に戻った際・・・・・・

 

 

 

「おぉっ!!貴様はあの時にあった女吸血鬼(ヴァンパイア)、魔王ルミナス・バレンタインではないかっ!昔に貴様の都を破壊した事は今でも思い出せ・・・・・・」

 

 

 

 

 

「この・・・・・・クソトカゲがぁっっ!!!」

 

 

 

 

自分の信者達もいる前でヴェルドラさんに、盛大に自分の正体をバラされたルミナスさんが、血眼になってヴェルドラさんを追いかけ回す事になってしまうのだが、それはまた別の話・・・・・・。

 

 

 

 

とりあえず、ヴェルドラさんはルミナスさんに謝ろうね?




短めですいません・・・・・・。

エリスが助けた事で、ヒナタとルミナスの信頼を得る事に成功しました。彼はおそらく、それには気付いていないでしょうが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

解決しない問題

若干閑話に近い話です。


ただ、エリスとヒナタ、ルミナスの触れ合いが見られるかも・・・・・・?


 

 

 

「むぅ〜・・・・・・ルミナスめ、あそこまで怒らなくとも良いものを・・・・・・」

 

 

「あなたがあの人を怒らせたんじゃないですか。自業自得です・・・・・・ほら、こっち向いてください」

 

 

 

ルミナスさんに散々追いかけ回され、それに加えて容赦ない攻撃までも浴びせられた事もあって、ヴェルドラさんは見るも無惨なほどにボロボロにされていた。自業自得とは言え、流石に可哀想と思ったので、ようやく場が落ち着いたところで僕は彼の傷を治していった。

 

 

ちなみに、ルミナスさんの正体が魔王だってことはこの場にいる全員が知ってしまった訳だけど、その件については後々に本人の口から詳しい説明がなされるとの事らしいので、今は深い詮索はしないようにしていた。

 

 

「エリス、別に治さなくてもいいぞ?そいつは少し反省させないとわかんないんだしさ?」

 

 

「こんだけやられたのならもう十分だよ。ルミナスさんも、ここで暴れるのはもうやめて頂けませんか?あまり暴れられると、町が壊れかねませんので・・・・・・」

 

 

「その駄竜が妾を怒らせたのが悪いのじゃ。むしろ、まだまだやり足りぬ程じゃが、これ以上はやめておくとしよう」

 

 

 

まだ怒りが治まっていない様子のルミナスさんだったが、客人としてきてる以上、無礼なことは出来ぬと踏んでいるのか、怒りを鎮めてくれた。

 

 

 

「それにしても、改めて見ると本当にすごいですね、エリス・・・・・・さんの力は。あんな大きな傷を一瞬で・・・・・・」

 

 

 

「こんな力を見たら、そりゃ西方聖教会もファルムス王国もあんたを欲しがるもんだぜ?」

 

 

 

僕がヴェルドラさんを治療している姿を、他の聖騎士4人はジロジロと見物してくる。見る分には構わないけど、恥ずかしいな・・・・・・。

 

 

 

「エリスのこの能力はかなり特異だからな。見たくなる気持ちもわかるが、あまりこの事は他言しないでくれ。実際、この情報が漏洩した事で、エリスはお前ら(西方聖教会)やファルムス王国に狙われる羽目になったんだからな?」

 

 

 

リムルの若干の威圧を込めたその言葉と表情に、その4人だけでなく、その配下である皆や僕まで肩を震わせた。ルミナスさんやヴェルドラさん、ヒナタさんは無反応だったが、少し驚くような顔をしていた。

 

 

 

僕のことを思って言ってくれるのは嬉しいけど、頼むからそんな顔をしないでよ・・・・・・リムル。本当に怖いから・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・すまない。少し雰囲気悪くした」

 

 

「いえ。キミがエリスを大事に思っている事は知っているから、その怒りは分かる。私だって、ルミナス様の正体や力の事を他言されたら、怒るだろうからね?」

 

 

謝るリムルに対して、同調するヒナタさんは軽くルミナスさんを見ながらそう口にした。

 

 

 

「妾にして見れば、最早正体など誰にバレようとも気にも留めぬがな?そこのトカゲのせいで全てバラされてしまったからな?」

 

 

 

「だからそれに関しては我も謝ったではないか!それに昔の件についても・・・・・・」

 

 

 

「『あれに関しては悪気は無かった!若さゆえの過ちであるからとして、お前も我を寛大な心で許すが良いぞっ!』などとほざいたあれが謝罪じゃと?・・・・・・つくづく妾を苛立たせるのが得意な竜じゃ。やはりもう一度痛い目を見せて・・・・・・」

 

 

 

「お・ま・え・ら?」

 

 

 

「お・ふ・た・り・と・も?」

 

 

 

またさっきのように暴れられたら溜まったものではない。さっきはリムルと僕の力で何とか周りへの被害を抑えていたけれど、それでも限度というものがある。だからこそ、そうはさせまいと必死に笑みを浮かべながらリムルと僕は二人を抑えた。・・・・・・周りが少し僕を見て引いている気がするが、気にしない事にした。

 

 

 

「す、すまぬリムル、エリスよ・・・・・・」

 

 

 

「ヴェルドラさんはこっちに来てください。ルミナスさんのそばにいるとまた揉めますから・・・・・・」

 

 

 

ヴェルドラさんの腕を引っ張り、僕の後ろへと移動させるとヴェルドラさんは安堵したように息を吐く。全く・・・・・・この人の面倒を見るのは本当に疲れる・・・・・・。

 

 

 

「すまなかったな、リムル、エリスよ。妾としたことが、先ほど自分で言ったことを忘れて。怒りに身を任せて行動に出てしまうとは思ってもいなかったのじゃ」

 

 

 

「自分の国を滅ぼされたのですし、そうなって当然ですよ。・・・・・・とりあえず、移動しましょう。立ち話もなんですから」

 

 

 

「だな。詳しい話はその場でして貰う。歓迎も兼ねてな?」

 

 

 

場所を移動する事に決めた僕達は、ルミナスさん達を連れて町中へと入る。入ったと同時に、リグルドやシュナを中心に住民達から歓迎され、その準備の良さに少々辟易する僕とリムルだったが、それについてはとりあえず置いておき、彼らを休憩させる施設へと案内する事に決めた。

 

 

 

「食事を用意して貰う予定だが、それには少し時間がかかるから、その間に荷物を整理するなり、温泉に入ってくるなり、町を散策するなりと自由に過ごしてもらって構わない」

 

 

 

「・・・・・・?この国には温泉があるの?魔物の国であるこの国に?」

 

 

 

どこかびっくりした様に、ヒナタさんはそう口に出す。温泉がある事にも驚いたのは間違い無いだろうが、何より魔物が風呂に入る習慣を持っているとまでは思えなかったらしい。確かに、人間であるなら分かるが、魔物が風呂に入るだなんて誰も思わない事だから驚くのも仕方がないのかもしれない。

 

 

 

「ええ。魔国連邦(テンペスト)自慢の源泉から引いた温泉です。一部の温泉には僕の作った水がお湯として使われていますので、美肌効果が抜群となっています。その温泉は特に、女性が多く利用していますので、ルミナスさんもヒナタさんもリティスさんも良ければ行ってみてくださいね?」

 

 

 

「ヒナタ様!ぜひ行ってみましょう!」

 

 

 

「わかったからそうはしゃがないでくれる?ルミナス様はいかが致しますか?」

 

 

 

「美肌効果があるとわかれば行かぬわけにはならないであろう?エリスよ、早速案内をせよ」

 

 

 

温泉に相当の興味を惹かれたのか、3人は揃って目をキラキラとさせていた。いやでも、僕が案内ってのはちょっと・・・・・・。

 

 

 

「あ、それなら俺が案内するよ。あ、ちなみにうちにはその温泉以外にも混浴風呂ってのがあって、そっちもおすすめだ・・・・・・」

 

 

 

「却下。それになんで男であるキミが普通に案内をしようとしているの?この流れからしてキミとも一緒に風呂に入るという流れになりそうなのだけど?」

 

 

 

「(ギクッ)そ、そんなわけないだろ!3人は初めて来ただろうし、温泉の入り方や完備しているサウナの使い方とかを俺が教えてやりたいんだ」

 

 

 

ヒナタさんの冷ややかでドスの効いた言葉に、リムルは分かりやすく動揺した。・・・・・・うん、何を考えてるのかなリムルは?スケベだっていうのは、以前からなんとなくは分かっていたけど、そんな事したらヒナタさんかルミナスさんに殺されちゃうんじゃないの?

 

 

 

「下心が丸出し。エリス、案内をお願い」

 

 

 

「ご、ごめんなさい。僕はちょっと・・・・・・カレン、シオン、2人で3人を温泉に案内してあげてくれ。何度も行ってるんだし、説明の仕方はわかるでしょ?」

 

 

 

「「はい、お任せください!」」

 

 

 

二人の元気のいい返事が響き渡る。僕は女性と風呂に入るという趣味はないし、入ったら入ったで後が怖いので同じ女性であるカレンとシオンに後は任せる事にした。それを見たリムルからは不服そうな視線を飛ばされたが、普通に無視しておいた。

 

 

 

・・・・・・それにしても、ヒナタさん達はリムルはダメでもなんで僕なら案内を良しとしたんだろう?僕もリムルも同じ男だっていうのに・・・・・・・・・・・・って、もしかして?

 

 

 

「うむ?エリスよ?何故配下に任せるのじゃ?貴様は()なのじゃから、一緒に入ったとて問題なかろう?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

はい、やっぱりそうでしたー。いや、女らしい見た目してるのは分かってるけど、それはリムルだって同じでしょ?なんで僕ばっかりこうしてずっとずっと女扱いされなくちゃいけないのさ?

 

 

 

《解。主人(マスター)の行動や言動を含め、男と断言出来る要素が少ないためと推測します》

 

 

 

「(いや、僕は普通に過ごしてるだけだけど!?それで男だって分かってもらえないってなんか傷つくよっ!?)」

 

 

 

もういっその事、言動や一人称を変えて見るのも手なのかもしれない。それと、今後はもうちょっと男らしく振る舞うことも考えるとしよう。心の中で大きくため息を吐いた僕は、間違いを正すべく口を開いた。

 

 

 

「あのー・・・・・・間違っているので正しておきますが・・・・・・僕、()なんですけど?」

 

 

 

「「「・・・・・・はっ?」」」

 

 

 

3人から素っ頓狂な声が出る。表情があまり変わらないヒナタさんですら、若干の驚きの色を見せていた。

 

 

 

「だから、そこのリムル同様に僕も男なんです。だから、あなた方の案内は出来ないです」

 

 

 

「・・・・・・少し驚いたわね?てっきり女だとばかり・・・・・・」

 

 

 

「妾も初めて見た時から貴様は女子かと思っておった。そんな女々しき姿と雰囲気をしておるのじゃからな?」

 

 

 

「男だと聞いても、全然そうは見えないですね?」

 

 

 

・・・・・・もう許してください。これ以上は僕の心が限界なので・・・・・・。

 

 

 

「え、エリスっ!?と、とにかく案内は2人に任せるから3人は二人について行ってくれ!温泉を十分に満喫して行ってくれよな!」

 

 

 

僕の異変にいち早く気がついたリムルが、僕をフォローしてくれ3人はウキウキしたように温泉へと向かっていった。他のみんなもそれぞれ自由に動き、食事の時間になるまでは仕事に励むなり、休息を入れるなり、散歩をするなどして時間を潰していた。

 

 

 

「エリス?・・・・・・大丈夫か?」

 

 

 

「リムル・・・・・・”かっこいい男に見えるコツ”みたいのってわからない?」

 

 

 

「女顔の俺に聞くなよ・・・・・・」

 

 

 

僕のずっと抱え込んでいるこの問題は、当分解決するには至らないのかも知れない・・・・・・後で、リーテさんにでも相談してみよう。

 

 

 

そう決めた僕は、軽く散歩をしてから自宅へと戻る事にするのだった。




「へへ!いい運動したし、腹減ったな!早く飯にならねーかなー!」


「俺も久しぶりに動いて気分がいい。これは夜の酒も美味い事だろう」


「お!じゃあベニマルさんよ?オレと飲み比べでもするか?どっちが多くの酒を飲めるかって勝負を!」


「いいぜ?望みとあらば、いつでも受けてた・・・・・・」


「二人とも?ちょっと良いかな?」


「「っ?エリス・・・・・・様っ?」」


「二人にちょっとだけオ・ハ・ナ・シがあるのだけど、今から僕の家まで来てくれる?内容は勿論、さっきの戦いでのキミ達の”あの行動”の事ね?」


「へっ!?あ、あの・・・・・・エリス様?怒ってらっしゃいます?」


「さて、どうだろうね?とにかく、家まで来て?ちなみに、拒否するのは許さないからね♡


「「は、はい!!」」


結局、ベニマルとスフィアはその後にエリスにこっぴどく叱られ、気力をほとんど搾り取られてしまった為、その夜の飲み会は中止という事になった。






エリスのこの問題については本人の為を思えば解決してほしいと思う分、解決しないで欲しいと思う自分もいるのがなんとも歯痒くなってしまいます。

勿論、エリスがここまで女性に見られてしまうのはちゃんとした理由があります。

:理由
・上目遣いを多く使う。
・怒ると高確率で頬を膨らませる。
・他人に挨拶するときは、綺麗にお辞儀をする
・座る時(椅子を除く)は、基本正座。
・食事をする際は上品に食べる。
・礼儀正しく、敬語を使うことが多い。
・髪をポニーテールで結んでいることがある。
・誰に対しても優しい。
・(小説だと分からないが)女性っぽい声と体付きをしている。
・顔が女顔。


他にもまだあるかと思いますが、理由としてはこれだけあげられます。・・・・・・まぁ、前情報も無しにこんな姿見られたら、女と見られても不思議ではありませんよね?実際、リムルを含めて男性陣は、エリスの仕草にときめいてるシーンもいくつかありましたから・・・・・・。


エリスは女として見られるのを嫌がっていましたが、こちらとしてはもっとエリスの可愛らしい姿が見たい気もする・・・・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

盛り上がりの宴会

宴会の様子です。


お陰様で、お気に入りの数が2000を突破した事と、この小説の投稿数が100に到達しました!


ここまで続けられるとは思いませんでしたので、嬉しすぎます!今後ともよろしくお願いします!


 

 

 

「はぁ〜・・・・・・結局何も思い浮かばなかった」

 

 

散歩を終え、家にてテスタロッサの淹れたお茶を堪能した僕は、風呂にでも入りに行こうと、セキガを連れ、一つため息を吐きながら温泉へと歩を進めていた(カレンはシオンと一緒にルミナスさん達に温泉の案内をしているのでこの場にはいない。テスタロッサは用事があると抜けた)。・・・・・・何でため息吐いてるかって?・・・・・・いや、何も聞かないで?悲しくなるから。

 

 

 

「気にしなくても良いのでは?あなたが男であろうと女であろうと、あなたへの忠誠が変わるわけでは無いでしょうし、悲観的に見る必要はないと思いますよ?」

 

 

 

「・・・・・・そりゃそうだけどさ?う〜ん・・・・・・って、リムル?」

 

 

 

セキガが励ましてくれてるが、僕の心は暗いままだった。そんな時、僕達の歩く前方にリムル達男連中の姿の確認が取れた。浴衣や、タオルを持っていることからこれから温泉にでも行くと見えた。リムル達に加えて、聖騎士の皆さんもいる事から、温泉で親睦を深めようと言ったところなのだろう。・・・・・・これは僕も参加しないと!

 

 

 

「お、エリス。どっか行くのか?」

 

 

 

「うん、温泉にでも入りに行こうかなって。リムル達もこれから温泉行くんでしょ?良ければ一緒に行こうよ」

 

 

 

「エリス様が宜しければ、俺たちと一緒に・・・・・・・・・・・・い、いえ、やはり俺は遠慮しておきます」

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

ただ一緒に温泉に行こうと誘っただけというのに、ベニマルを筆頭にそこの男連中は揃って僕から顔を逸らした。・・・・・・リムルも同様に。

 

 

 

「エリス・・・・・・お前は自分の家の風呂に入れ。お前とはとてもじゃねぇけど、一緒には入れないからな?」

 

 

 

「何で仲間外れにするのさ?僕が男だっていうのは全員知ってるはずだし、一緒に入ったって問題ないじゃないか?それに、リムルは良くて僕がダメって言うのはおかしく無い?」

 

 

 

「いや、それはそうなのですが・・・・・・あなたと一緒に入ろうとすると、色々と問題が発生しそうで・・・・・・」

 

 

 

先程よりも動揺してる様子のベニマルは、いつもより弱々しい口調でそう口にする。彼らが僕を女のように見ているのは分かっているが、他人からどう思われようとも僕は男なんだ。男が男達と風呂に入ろうとして何が問題なのだというのか?

 

 

 

「俺はスライムの状態で風呂に入ることが多いから、こいつらも許容できてるんだよ。お前の場合はそうも行かないだろ?」

 

 

 

「・・・・・・?本当は人型で入りたいけど・・・・・・だったら、僕も『擬人化』を解除して水の状態になれば問題なんて無い・・・・・・」

 

 

 

「大ありだ馬鹿野郎っ!?俺たちが浸かってる湯と同化なんてしたら、お前の体に浸かってるみたいになって余計に頭のネジが吹っ飛んじまうわっ!!それに、それだとお前と俺たちの体が常に密着するって事になるから・・・・・・」

 

 

 

「「「ぶっ!!」」」

 

 

 

男連中の内、約3名(ゴブタ・セキガ・フリッツ)が同時に鼻血を噴き出す。そうは言っても、温泉には入りたいなぁ〜。最近は忙しくて、風呂はいつも自分の家のを使ってたし、たまには入りたい気持ちにもなる。それに、僕はリムル達と一緒に温泉に入った事がない。僕がリムル・・・・・・というか男と一緒に入ろうとすると、大概シュナとかシオンに止められ、女湯か僕の家の風呂へと連行されてしまうからだ。

 

 

今はちょうど、二人も席を外している所だし、この後ないチャンスなんだ。だからお願いだよ!

 

 

 

「むぅ・・・・・・ならせめて、体はタオルで隠して入るから、それで勘弁してくれない?これでまだ断るっていうなら流石に怒るよ?」

 

 

 

「(いや、だからそんな可愛い顔で怒んなって・・・・・・)はぁ、ったく分かったよ。そこまで言うなら一緒に入ろうぜ?みんなも良いな?」

 

 

 

「「「「「「は、はい・・・・・・」」」」」」

 

 

 

「やった!ありがとね、みんな!」

 

 

 

満面の笑みを浮かべながら、はしゃぐ僕。それを見たみんなはひどく顔を赤くしていたが、もう慣れたことなので気にする事なく、その後初めての男湯を堪能する事となったのだ*1

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

視点 リムル

 

 

 

 

風呂で、なんとも”美味しい経験”をした俺は、浴衣へと着替えた後で今回の宴会場となるドーム型の建物へと移動した。最近建設されたばかりの建物で、中は体育館のように広く、かなりの人数は収容出来るほどの広大な広さになっているので今回のように大勢の客人を招くのにはうってつけの場なのだ。

 

 

中では既に料理の配膳が行われており、メインの主菜料理は日本食である天麩羅(てんぷら)。これは俺の記憶をシュナに伝達して作らせたものだが、どう見ても前世で食べた天麩羅にしか見えない出来栄えと味に、俺はひどく驚いたものだ。その他にも副菜として野菜のおひたしや、煮物、刺身、お吸い物、主食に白米といった形で、まさに”ザ・和食”といったラインナップになっている。

 

 

座席は”コの字”に並べられており、上座には三つの席がある。真ん中に俺が座り、左右の席にそれぞれヴェルドラとルミナスが座る形になるそうだ。本当はエリスも座らせようとしたが、本人が嫌がったので、エリスはみんなと同じ席に座ってもらう事になった。

 

 

 

 

「よし、準備はバッチリだな。後はみんなが来れば・・・・・・と、噂をすれば・・・・・・」

 

 

 

準備の出来ばいに満足してたところ、風呂に入ってリラックスした様子の聖騎士達や、配下達がゾロゾロと宴会場に入ってきた。聖騎士達は、着慣れない浴衣や甚平に少し着心地を確かめるようなそぶりを見せる奴らもいたが、案外気に入っている様子だった。

 

 

 

「リムル。もう少しで全員来るだろうから、キミも上座で待ってた方がいいよ?」

 

 

 

「だな。そうしとくよ」

 

 

 

エリスにそう指摘されたので、俺は素直に上座にて皆が集まるのを待つ事にした。ちなみに、エリスは甚平を着用していて、いかにも男感を出そうと努力している事が丸分かりだったが、勿論そんな小細工をしたところで、結局は『ただただ綺麗な女性が男っぽい着物を着てる』・・・・・・と言う印象にしかならないので、ほぼ無意味だった。

 

 

 

それから数分後、ルミナスやヴェルドラを含めて全員がこの場へと集まり、席へと着席したところで、宴会は始まりを迎えた。

 

 

 

「この度は、旅重ねる無礼を働いた事・・・・・・そして、魔国連邦(テンペスト)に対して多大なる迷惑をかけた事・・・・・・その全てを、ここに謝罪します。本当に申し訳・・・・・・っ?」

 

 

 

始まると同時に、ヒナタが真っ先に俺たちに対して謝罪の言葉を述べてくるが、それを俺は手で制した。

 

 

 

「いいって別に。俺たちは誤解が解ければそれで良いって思ってるし、町への被害も住民達への被害もほとんど無かったんだし、この件についての謝罪はいらないぞ?」

 

 

 

「・・・・・・本当にそれでいいの?私たち人間は、魔物であると言うだけで無抵抗の魔國連邦(テンペスト)を襲い、エリス=テンペストを死に追い詰めた張本人なのよ?それをあなたは許すと言うのかしら?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

ヒナタのその言葉には、流石に言葉を濁した。エリスも、どこか表情を暗くしながら俯いていた。確かに、エリスの死はこいつらの責任でもある。こいつらもクレイマンに動かされてただけってのは分かっているが、それでも責任がないと言われればそうでもない。実際、クレイマンのその策に乗じて、人間達はエリスを捕縛しようと動いていたんだからな。

 

 

許そうとは思ったが、そこの件についてはやっぱり言いたいことを言うことに・・・・・・。

 

 

 

「僕は許しますよ?」

 

 

 

沈黙する場の中、俺が言葉を発しようとするその前にエリスが一つ、言葉をヒナタに対してかけた。

 

 

 

「さっきリムルも言ったように、この町への被害は少なく済んだんですし、住民達の犠牲もいません。それに、あなた達だって、クレイマンに利用されてただけでしょうし、咎める気なんてありませんよ?」

 

 

 

「犠牲は無しって・・・・・・あなたは、あの事件で命を落としたのよ?だと言うのに、私たち人間に対して怒りみたいなのは覚えないの?」

 

 

 

「僕だけの犠牲で済んだのならば問題ないですし、怒ってもいませんよ。それに、リムルの力でこうして生き返ってるんですし、あの襲撃の事はもう気にして頂かなくても結構です」

 

 

 

真っ直ぐにヒナタを見ながら、エリスは堂々と言葉を発する。自分だけの犠牲だけで済んだ・・・・・・ってとこは納得いかないが、その場では口を紡いだ。もしも、町や住民達に少なからずの被害が出たとするならば、俺も相手の事を咎めても良いのかも知れないが、今回は被害者がエリスだけ。だからこそ、この件に関してはエリスが聖騎士達を許せばそれで終わりとなるのだが、思ったよりも早く解決しそうだな。

 

 

 

「エリスもこう言ってるんだし、お前たちの事は許す。ただ、今後は俺たち魔物を悪と決めつけて断罪しようとするのはやめてくれ。人間にも言える事だが、全ての魔物が悪い奴では無いんだから」

 

 

 

「・・・・・・わかった。考えを改めるには時間を要するかも知れないけれど、今後は魔物を悪として制裁することは禁止します。ルミナス様もそれでよろしいですか?」

 

 

 

「妾への信仰への疑いが持たれぬのであれば、好きにするが良い」

 

 

 

ルミナスも納得した事で、とりあえず和解は成立したと見ていい。次に、ルイがこの場にいる者全員に、神ルミナスの正体と七曜の真の目的、事の経緯などを全て詳しく説明した。いろいろな情報が展開されていく中で、ルミナスが魔王であると言う事実には既に知ってしまったとは言え、驚いた様子の聖騎士たちだったが、それについて言及する事は一切しなかった。自分達の信仰する神が魔王であろうとなんであろうと、騎士団長たるヒナタがそれに従う以上、自分達も従う他ないと腹を括っていた為である。

 

 

と言うより、先ほどのヴェルドラとの激しい戦闘を見た聖騎士達からすれば、誰もルミナスの不興を買いたくないと思うのも当然であり、それも原因の一つだったりする。

 

 

 

そんなこんな色々あったが、とにかく話に区切りはきちんとついたので、それを機に皆はそれぞれ料理を口に運んで行った。日本人である俺やエリス、ヒナタは天麩羅を思う存分堪能し、他も初めて食べる料理に一瞬戸惑いを見せていたがすぐにこの料理に魅了され、存分に食事を楽しんでいた。なんというか、俺たちの故郷の味が認められたみたいに思えて、どこか心が温かくなるな〜。

 

 

 

「ねぇ、リムル?この料理にはもちろん驚かされたのだけど、このお酒ってもしかして・・・・・・?」

 

 

 

「お、気づいたか?ああ、お前の察しの通り、その酒は”日本酒”だ。ウチで作った米と、エリス特製の水を使って作らせたものだ。この酒は作ったばかりで量は少ないがせっかく来てくれたんだし振る舞ってやろうと思ってな?あ、嫌なら違う酒か飲み物にするか?」

 

 

 

「いえ、とても美味しいし気に入ったわ。日本では飲んだ事なかったから、なんだか新鮮な気持ち」

 

 

 

相当日本酒が気に入った様子のヒナタは、お猪口に入れられた日本酒をゆっくりと味を楽しんでいた。ヒナタがこの世界に来たのは高校生の時って話だし、酒を飲んでなくても無理はないか。ちなみに、俺も日本にいた頃は日本酒を飲んでいて、どうにかこの世界でも日本酒を作れないかと思って、ラファエルさんやドワーフ達の知恵を頼りに作ってみたんだが、思ったよりも良い日本酒ができて驚いたものだ。エリスの水で作ったこともあり、舌触りも良く、サラッと飲みやすい酒ができた当時は俺を含め多くの住民達が絶賛したんだが・・・・・・一つ問題がある。

 

 

 

「ほへ〜〜・・・・・・めちゃくちゃ気持ちいいぜぇ〜〜・・・・・・」

 

 

 

「体がクソみたいに熱い〜・・・・・・」

 

 

 

「め、目が回って立てなくなりそう・・・・・・」

 

 

 

こんな感じで、日本酒を飲んだ奴らは大体酔い潰れていた。問題というのはそこであり、この日本酒は果実酒やビールよりもアルコールの度数が高く作られており、酒に弱い奴はあっという間に酔ってしまうんだ。まぁ、パァッ!と酔える酒を作りたいが為にわざと度数を上げたんだが、少し行きすぎたかな?

 

 

 

「だ、大丈夫ですか?はい、お水をどうぞ?そちらの方も・・・・・・」

 

 

 

そんな奴らの介抱に当たってるのはエリスや、シュナ、ゴブリナのみんなだった。シュナ達はともかくとして、別にエリスまで介抱に当たらなくてもいいと思うんだが、本人の性格上、こう言った事は見逃せないんだろうな。

 

 

 

「クワァーーハッハッハッハ!!ここの酒は本当に美味い!何杯飲んでも本当に飽きぬわ!特にこの日本酒という酒は絶品である!」

 

 

 

「ほう?貴様と同意見なのは腹が立つが、妾も好みじゃな?今まで飲んできた物の中でも、これは格段に飲みやすい」

 

 

 

「そう言って貰えてよかった。気に入ったんなら、何本か持って帰るか?」

 

 

 

「そうさせて貰おう」

 

 

 

ルミナスは、既に2本を空ける勢いで飲んでいるが、皆ほど酔っている様子は無い。ヴェルドラも同様に。さすが魔王と竜種。・・・・・・こう言ったところでも強さを見せてくるとは・・・・・・こうなりゃ俺も負けちゃいられねーな!

 

 

 

その後、宴会場内では一部で飲みゲー大会が開催されたり、腕相撲大会が開催されたり、各自それぞれ会話を楽しむ会が開催されるなど宴会は大いに盛り上がった(俺は飲みゲー、エリスは会話をする会に混ざった)。ちなみに俺は、ルミナスに教えてもらった『毒無効』の効果を抑えるやり方を使って酔いを堪能出来るようになったので、それからはルミナスとヴェルドラと死ぬほど酒を飲む事にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー後日ーー

 

 

 

 

 

 

「あ、頭いてぇ〜〜・・・・・・」

 

 

 

「調子に乗ってあんなに飲むからだよ・・・・・・」

 

 

 

浴びるほど酒を飲んだ俺は、もちろん二日酔いに苛まれ、エリスに呆れられながらその酔いを治してもらうのだった。

 

 

 

 

*1
後日、エリスと男湯に入った事がバレたこの男連中は、シュナとシオンから盛大なる雷が落ちた。




この日本酒はエリスの水を使っていますので、他の水を使ったところでこの完成度にはなりませんので魔国連邦(テンペスト)の唯一無二のお酒と言ってもいいでしょう。日本酒はそのまま飲んでも良いですが、熱燗にして飲むのも良しとしていますが、お酒の弱い人は一杯でノックアウトですね(自分もそうです)。

実は、この他にもエリスの水を利用した商品を魔国連邦(テンペスト)は既に開発してますので、そのうち出していきたいと思います!


それと、エリスにはエリスの日常日記で『エリスの男修行』と題して、修行させてみようかなんて思っています。なんとなくオチが見えて・・・・・・いえ、なんでもありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王の再来

少し間があきました。

展開をどうしようか迷いまして・・・・・・。


視点 エリス

 

 

 

「リムルってば・・・・・・本当に世話が焼けるんだから」

 

 

 

宴の翌日の朝、重度の二日酔いに苛まれていたリムルを介抱した僕は、リムルを寝かしつけた後で一人街中をぶらついていた。近衛兵の二人も昨日の疲れもあってかまだ眠っていたので、今この場では僕一人しかいないのでやたらと静かに感じる。

 

 

 

「羽目を外すのは良いと思うけど、それにしたって限度って物がある。少しは国主として・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・あら?エリス?随分と早起きなのね?」

 

 

 

歩きながらリムルへの愚痴をブツブツと言っていると、誰かしらに背後から声をかけられた。振り返ってみると、そこには少し眠そうに目をしばしばとさせているヒナタさんが立っていた。僕は甚平のままだと言うのに、彼女に至っては既に隊服に着替え、得物もしっかりと持ち合わせていた。・・・・・・流石は騎士団長と言ったところだろうか。

 

 

 

「おはようございます。あなたも随分と早起きですね?二日酔いとかは無かったんですか?」

 

 

 

「ええ、特には。・・・・・・リムルはどうやら二日酔いで苦しんでるらしいけれど、大丈夫だったの?」

 

 

 

「僕が治したので大丈夫だと思います。はぁ・・・・・・だらしない国主ですみません・・・・・・」

 

 

 

「別にあなたが謝る必要はないと思うけど・・・・・・」

 

 

 

リムルのことを心配され、何となく恥ずかしくなってしまった僕は、それとなくヒナタさんに謝罪をしておいた。

 

 

 

「ねぇ?少し話さない?散歩でもしながら」

 

 

 

「もちろん良いですよ。良い気晴らしになりますから」

 

 

 

そんな訳で、ヒナタさんの提案で散歩をしながらの談話をする事になった。ヒナタさんとこうして二人きりで話すことは初めてなので、少し緊張もあるがそれと同時にどこか嬉しさもあった僕は、内心でウキウキしていた。

 

 

 

「改めてみると、本当に発展しているわね、この町は・・・・・・。所々に日本を彷彿とさせるような建物もあるし、西洋をモチーフとしたインテリア、店なども展開されている。・・・・・・とても、魔物が作った町とは思えないわね?」

 

 

 

「はは。本当によくここまで大きく出来たと思ってます。当初は本当に小さな村でしたし、満足に家も建てられない人材しか居なかったので苦労しましたよ」

 

 

 

思ったよりもこの町を好評しているヒナタさんに対して、静かに笑みを浮かべる。正直、僕だって何にも無かった更地がまさかここまで大きく発展するとは思っても居なかったので未だに驚いていたりもする。

 

 

 

「このような建物や食べ物、施設はキミやリムルのアイデアを元として作っているの?・・・・・・というか、そうとしか考えられないのだけど?」

 

 

 

「そうですね。とは言っても、実際はほとんどリムルが思いついた事を実行に移してるだけで、僕はあくまでも補佐をしているだけに過ぎませんよ?」

 

 

 

「そうなの?キミも十分にやりたいことをやっているように見えるけれど?さっき見た『エリス診療所』という場所もそうだし、キミの水を利用した商品だって既にいくつかの国には出回っている・・・・・・例えば、ブルムンド国で買った”この水”とか」

 

 

 

「あ、その水買ってくれてたんですね?使い心地はどうですか?」

 

 

 

「非常に使い勝手が良いわね。飲んでも美味しかったけど、何より肌に塗るだけで一気に肌がツルツルでツヤツヤになるのだから、最初は本当に驚いた」

 

 

 

懐から取り出したエリス水を一口含みながら、ヒナタさんは上機嫌にそう口を動かしていた。ブルムンド国の商人さんに聞いたところ、この水はかなりの勢いで売れてる事らしく、売り切れ防止の為にさらに搬入したいと言う依頼が殺到しているらしい。・・・・・・何というか、自分の水がそこまで売れてるって聞くとちょっと嬉しくなるなー。

 

 

 

「他にも色々と開発してますので、後で差し上げますよ?化粧水としての利用に特化したエリス水や、水油、後は僕のスキルを利用して作った武器や、雫のペンダント、指輪、ピアスとかその他にも色々と・・・・・・」

 

 

 

 

「ねぇ?・・・・・・そんなのばかり作ってるから、女だと間違われるのではないかしら?」

 

 

 

「ぐっ・・・・・・そ、そういえば確かに・・・・・・」

 

 

 

どこか呆れたようにため息を吐くヒナタさんに対して、僕は軽く気を落としていた。確かに、僕が作るものって大体女性ウケがいい代物ばかりだ・・・・・・いや、別に男性にウケないって訳じゃないんだけど、それでも絶対数で言えば女性が圧倒的に多いことはいろんな人の証言から聞いて明らかなんだよね。そんな女性物の商品をたくさん作ればそりゃ、僕が女だって思われたって何ら不思議ではない・・・・・・うん、僕にも要因はあった。

 

 

 

「今後はもっと、男性向けにも商品を作ってみます・・・・・・はぁ〜」

 

 

 

「そうするべきね。キミは男という割に男らしさというのがまるで感じられないし、今後もそれらしさが出るとは思えない」

 

 

 

「そ、そんな直球で言わなくても・・・・・・というか、男らしさって具体的には?」

 

 

 

「女性に相対した時の反応の仕方が一番引っかかった所ね。リムルや他の男性陣が私やルミナス様を見て、あからさまに気持ち悪い下心を醸し出していたのに対して、キミはそう言った物をまるで出していなかったでしょう?女の私が言うのも何だけど、キミは女性に対して何も感じる事はないの?日本にいた頃に彼女とかはいたの?」

 

 

 

「いや、そんなのいる訳・・・・・・っ?」

 

 

 

神妙な表情で僕を見つめてくるヒナタさんに対して素早く返答しようとした僕だったが、何故か言い淀む。前世での僕の女性との交流はあると言えばあったが、それでも多いとは言えた物ではなかったし、何より彼女なんていた筈がない・・・・・・と思うのだが?

 

 

 

「(何だろう?何か・・・・・・()()()()()()()()()()()()()?・・・・・・・・・・・・いや、何も思い出せない。気のせいかな?)」

 

 

 

《解。現状では主人(マスター)の認識範囲の記憶には異常は見当たりません。ですが、念のために主人(マスター)の体内や頭脳の解析を進めます。解析が完了しましたら、その都度お伝えします》

 

 

 

「(うん、お願い。・・・・・・とりあえず、そっちはリーテさんに任せるとして、女性に対する感情か・・・・・・)」

 

 

 

少し腑に落ちないが、一旦はその問題を後回しにした僕は、改めてヒナタさんの問いについて考え始める。・・・・・・確かに、今まで僕は数多くの女性に会ってきた。シズさん、エレンさん、シュナ、シオン、カレン、ソーカ、テスタロッサ、ルミナスさん、そしてヒナタさん。男としてみれば、こんなに魅力的な女性達と会えた事を大いに喜ぶべきであり、場合によっては性的な意味で相手を見ることもするべきなのかも知れない。リムルとか、他のみんなのように。だけど・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・僕は女性を見ても()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別に、彼女達を卑下している訳ではない。彼女達は女性として魅力的だし、親しみやすいし、非常に好意的な想いを抱いていた。だが、僕が抱いているのはそこまでであり、それはあくまでも知人や友人、配下に向けるような想いや気持ちでしかない。それ以上先の・・・・・・女性を恋愛対象として・・・・・・”特別な感情”を持って見る・・・・・・という、意識は本当に湧いてこなかったんだ。

 

 

・・・・・・一体、僕はいつからこうなったのか?それはいまだに僕にもわかっていない・・・・・・。

 

 

 

「エリス?大丈夫?」

 

 

 

「え?あ、ああ・・・・・・すいません。それで、あの・・・・・・僕が女性に対して思うところは・・・・・・」

 

 

 

黙りこくる僕を見て心配になった様子のヒナタさんは、心配そうに僕の顔を覗いてくる。そんなこの女に対して、改めて答えを伝えようと口を開いた・・・・・・その時だった。

 

 

 

「よぉ、エリス?お前の言う通り、ちゃんと時間を空けて来てやったぜ?」

 

 

 

「・・・・・・へ?って、ギィさん!?いつの間にっ!!?」

 

 

 

「っ!(気配も無しにこんな接近を・・・・・・この男は?)」

 

 

 

後ろから誰かに肩を組まれた。・・・・・・誰だろうとゆっくりと振り返ってみると、そこには何ともご機嫌そうな顔つきな魔王ギィさんが立っていた。気配と言うか、魔素を完璧に抑えているせいか、『万能感知』でも存在を確認出来なかったのだろう。当然、いきなり現れたギィさんに対して、僕もヒナタさんも相当に驚き、顔をこわばらせていた。

 

 

 

「・・・・・・誰?」

 

 

 

「ん?・・・・・・お前は確か、ヒナタ・サカグチだったな?ルミナスが懇意にしている西方聖教会の騎士団長」

 

 

 

「質問に答えて。貴様は・・・・・・何者だ?」

 

 

 

ギィさんを見て、すぐに只者ではないと判断したのか、ヒナタさんは得物を抜いてギィさんを威嚇している。だが、当のギィさんは涼しい顔を崩さない。

 

 

 

「ルミナスに聞いてないのか?・・・・・・って、会った事なかったか。俺はギィ・クリムゾン。ルミナスと同じ、魔王だ」

 

 

 

「っ!(暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)・・・・・・ギィ・クリムゾン。ルミナス様の話で聞いた事はあったけれど、こいつが・・・・・・?)」

 

 

 

「まぁ、そんな訳でだ。さっさと行こうぜ、エリス?ミザリーとレインが茶を淹れて待ってるからよ?」

 

 

 

「わ、わかりましたから、とりあえず離れてください」

 

 

 

軽くヒナタさんに挨拶したギィさんは、僕が茶会に行くことを了承すると、ご満悦そうに口角を上げていた。

 

 

 

「待ちなさい!エリスをどうするつもりっ?」

 

 

 

「は?いや、さっきも言ったろ?俺の家で茶会をするからエリスを招待しに来た。別に危害を加えるつもりはねーよ?」

 

 

 

「その言葉を信じろというの?それに、いきなり魔國連邦(テンペスト)の副国主が行方不明になったら国中が混乱すると思うけど?」

 

 

 

「信じるも信じないもお前の勝手だし、そんな長い時間借りる訳じゃねーから問題ないと思うぜ?」

 

 

 

いまだに警戒するヒナタさんと不敵な笑みを浮かべながら彼女を見据えるギィさん。このままでは、この場が戦場と化してしまう可能性があったので、僕はとにかく止めることにした。

 

 

 

「ヒナタさん。少しお邪魔して来ますので、みんなに居場所を聞かれた時は『ブルムンド国に行ってる』とでも言っておいてください。流石に『ギィさんの家に行ってる』なんて言えば心配かけてしまいますので」

 

 

 

「止める義理はないけど、本当に大丈夫?」

 

 

 

「大丈夫ですよ。敵意はないみたいですし、僕もこの人とは話してみたいと思っていたので」

 

 

 

「そう。・・・・・・わかった、リムル達にはそれとなく伝えておくわ」

 

 

 

ようやく納得したヒナタさんは、得物をしまうとそのまま踵を返して来た道を戻っていった。・・・・・・彼女に任せておけば、大丈夫だろうし僕は僕で頑張らないと!

 

 

 

「へへ。嬉しいこと言ってくれるな?オレと話してみたいってか?」

 

 

 

「ええ。何故、そんなにも僕の事が気になるのか、非常に興味深かったので」

 

 

 

「茶会で話してやるよ。・・・・・・さて、じゃあ行くとするか!」

 

 

 

街のはずれまで移動した僕達は、ギィさんの召喚した以前にも”目にしたことのある巨大な門”をくぐり、茶会が開催されるギィさんの居城へと足を運ぶ事にするのだった。




リムルも配下も昨日の疲れもあって眠ってるので、ギィが来たことには当然気がついていません。街の人々も大半が寝ていたこともあって、ギィが来たことを知っているのはヒナタとエリスだけです。起きていたエリスやヒナタですら、声を掛けられなければ気付けなかった事を考えると、流石はギィ・・・・・・と思えてしまいます。


後、前半でのエリスの事に関しては、色々と後になって重要になってくるので覚えておくといいかも知れません。特に、『僕は女性を見ても()()()()()()()()()()』と言うところは覚えておいた方がいいかも知れません。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

深まる溝

本日『転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』が全国で上映されます!


早速見に行かなくては!


 

 

 

門を潜ること数分、無事にギィさんの居城に到着した僕は、ギィさんに促されて用意された席に着席した。着席すると、すぐさま待機していたミザリーさんとレインさんが僕にお茶やら茶菓子やらを振る舞ってくれ、その手際の良さに少々驚いてしまっていた。

 

 

「ミザリーさんもレインさんもお久しぶりですね?」

 

 

「はい。エリス様もお変わりなく」

 

 

「どうぞ、ごゆるりとなさって行ってください」

 

 

 

僕の挨拶に軽くそう返した二人は、そのままギィさんの後ろへと下がっていった。ちなみにギィさんはテーブルを挟んで僕と対極するように椅子に座っていて、彼にも同じようにお茶が並べられていた。

 

 

 

「さて。改めて、よく来てくれたなエリスよ。今日は思う存分、茶を楽しみつつオレと色々語らおうじゃないか」

 

 

 

「はい。じゃあ、早速お茶を頂きますね?」

 

 

 

お茶が冷める前にと思い、僕は早速ティーカップに入ったお茶を口に含む。独特な甘い香りが香る何とも舌触りの良いお茶であり、今まで飲んできた中でも上位に来るくらいには好みの味だった。

 

 

 

「その顔の様子じゃ、この茶は気に入ってくれたようだな?」

 

 

 

「はい。とても飲みやすくて美味しいです。ギィさんは、よくお茶を嗜まれるのですか?」

 

 

 

「まぁな。酒も飲むが、茶だって結構飲むぜ?茶葉を保管している倉庫が地下にあるから、後で連れてってやるよ?絶対興味を引くと思うぜ?」

 

 

 

「そうさせてもらいます」

 

 

 

何故か、この後に一つの約束を交わしてしまったが流れ的に断れないとは思っていたので、そこには目を瞑るしかない。それにしても、このお茶は本当に美味しい。カレンやテスタロッサが淹れてくれたお茶も美味しかったけど、ミザリーさんやレインさん達が淹れてくれたこのお茶も、負けないくらいに美味しい。・・・・・・流石に、ギィさんのメイドを務めているだけの事はある。

 

 

 

「よし。じゃあ早速なんだが、もう一度自己紹介を頼めるか?あん時は色々とゴタゴタしてたからな?」

 

 

 

「あ、はい。改めまして、魔国連邦(テンペスト)副国主であり、ジュラ・テンペスト大同盟副盟主のエリス=テンペストです。今日はお招き頂き、ありがとうございます」

 

 

 

「よろしく。知ってると思うが、オレはギィ・クリムゾン。後ろのはミザリーとレインだ。きてくれて嬉しいぜ?エリス」

 

 

 

微笑を浮かべながら僕が来たことを喜ぶギィさん。前から思ってたんだけど、何でこの人はこんなに嬉しそうなんだろう?

 

 

 

「あの・・・・・・招かれた身で言うのも何ですけど、何で僕を招こうと考えたんですか?普通、こう言った時って国主であるリムルを招待するのが常だと思っていましたけど?」

 

 

 

「お前に興味があったからだよ。あのスライム・・・・・・リムルは、初めてみた時から何となく腹の中が見え、こいつが進んでいく道みたいなのが何となく予想できたんだよ。だがな?お前は・・・・・・お前に至ってはまるで腹が読めん。・・・・・・何を考えているか分からねーんだよ?だから、今日はそれを探る為に、招待したんだ」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

うん。言いたいことは何となくわかったけど、何を言ってるんでしょう?僕の腹が読めないからこの場に呼んだって、たったそれだけの理由で呼べると思われてるほど、僕って暇人に見えたのかな?それに僕にだって夢があるし譲れない信念もあるんだけど・・・・・・何というかそう言われると、不愉快に思ってしまうな。

 

 

 

「なるほど。何を考えているか分からない・・・・・・か。僕は単に、”この世界に生きる全ての者”が幸せになってほしいと願っています。その為ならば僕はどんな事だってするし、どんな事にだって立ち向かっていきます。その覚悟が、今の僕にはあります」

 

 

 

「へ〜?言うじゃねーか?聞くが、お前のその覚悟の根幹はどこにあるってんだ?全ての者ってことは、人間も幸せになれって言ってるようなものだ。魔物と敵対関係にある人間まで慈しむそのお前の考えがオレには未だに理解できないが?」

 

 

 

「”元々自分が類していた種族だから”・・・・・・と言っておきましょう。この場では伝えておきますが、僕は”転生者”で本来の魔物にはない人間の知識と魂がこの身には宿っています」

 

 

 

「っ!転生者・・・・・・そうか。道理で魔物のくせに人間臭い事を吐くと思ってたが・・・・・・なるほどな、ようやく合点がいった」

 

 

 

僕が転生者だとわかると、どこか納得が行ったような様子でギィさんは首を縦に振っていた。

 

 

 

「確かに、あなたの言うこともわかります。魔物にとって、人間は敵でしかないと言う認識ですし、それを慈しむだなんて馬鹿のすることでしょう。僕も、一度は人間の手にかかり、命を落としもしました」

 

 

 

「そうだったな。じゃあ尚のこと分からねーな?自分を殺した人間と仲良くしたいって思えるお前の気持ちがな?本当に馬鹿なんじゃねーか?」

 

 

 

「ふふ。確かに僕は馬鹿者です。ですが、彼らはクレイマンに焚き付けられて攻めて来ただけで何も知らなかったらしいので、それについては何とも思っていませんよ。幸い、町への被害は殆どなかったんですし、住民の犠牲も出なかったんですから」

 

 

 

「あめー奴だな?普通、自分の国に軍隊を引き連れて攻めて来たなら、どんな理由があろうと叩き潰すのが当然の措置だと思うが?あのリムルの様にな?」

 

 

 

紅茶を口に含みつつ、ギィさんは少し呆れたように言葉を発した。リムルは確かに僕を甦らせる為に、ファルムス軍の2万人の兵士の命を根こそぎ刈り取った。無慈悲とも呼べるその行為は、まさに魔王を彷彿とさせる物だったらしいが、あれはあくまでも正当防衛に当たるらしく、それをしないと僕を甦らせることが出来なかったらしいので、リムルのその判断は決して間違ってはいないと思っている。

 

 

 

 

だが、それと僕が殺めてしまった人間達の件に関しては別の話だ。

 

 

 

 

「いえ、僕も沢山の人間を殺しましたよ?魔国連邦(テンペスト)に攻め寄せてきたファルムス軍の兵士、およそ1万人を・・・・・・」

 

 

 

「っ!へぇ?それは初耳だな?つまり、お前はその1万の人間達の魂を生贄(ヨウブン)として真なる魔王に覚醒したってことか」

 

 

 

「そうです。それしか手が無かったとはいえ、僕は人を殺めるという取り返しがつかない事をしてしまいました。・・・・・・ですので、その罪はリムルが殺してしまった兵を含めて()()させる事で償おうと考えています」

 

 

 

「・・・・・・は?」

 

 

 

僕のその発言には流石のギィさんも驚いたらしく、口を開けながらポカンとしていた。

 

 

 

「お前、自分で何言ってんのかわかってんのか?人を蘇生するなんざ普通じゃ出来はしない。お前もそうだが、大昔にミリムがダチの竜を蘇生する為に”反魂の秘術”を施して生き返った例はあったものの、あんなのは例外だ。・・・・・・一度散った命は、再び花咲くことはねーんだよ?」

 

 

 

「それをするって言ってるんです。僕たちが殺めてしまった人間達の中には、きっと帰りを待つ大切な家族や仲間がいたはずです。その人達が悲しみで絶望する姿を想像するだけでも、こちらとしても気が滅入るんですよ。・・・・・・だからこそ、僕は彼らを生き返らせて無事に国へと帰らせたいんです」

 

 

 

「はっ。口だけなら何とでも言える。・・・・・・そこまで言えるなら、なんか根拠とか方法でもあるのかよ?そんな()()()()()()()を崩してしまうような方法が?」

 

 

 

どこか馬鹿にしたようにそう口にしたギィさんに、若干腹を立てた僕だったが、何とか抑え込む。人の蘇生というのは当たり前だが容易くできる様な所業ではないことは重々承知している。ましてや、既に”魂が離散してしまっている”ファルムス軍の兵士達を無理に生き返らそうとした所で、唯の意思のない”廃人”が出来上がるだけだろう。

 

 

 

「もちろんありますが、それをこの場で口にする気はありません。ただ一つ言えるとすれば、それを行う為に”僕のスキル”を行使する・・・・・・と言った所でしょうか」

 

 

 

「スキル・・・・・・ね?(そんな離れ業ができるとするなら、少なくともユニークスキル以上のスキルをこいつは持ってるって事になる。・・・・・・少し解析を入れてみ・・・・・・ん?抵抗(レジスト)された?こいつ・・・・・・)」

 

 

 

「あのー・・・・・・断りも無しに、僕の事を解析するのはやめて貰えます?隠れてやってるつもりでしょうが、丸分かりですよ?」

 

 

 

「はぁ・・・・・・悪かった。お前のそのスキルがどんなものか気になったんだよ。だが、魂が無くなった人間どもを生き返らすだなんて、本当に出来んのか?」

 

 

 

 

最もらしい事を言うギィさん。だけど、全てを守り、救う力に特化した『治癒之王(アスクレピオス)』とリーテさんの演算能力と解析能力があれば、それは可能なのでは無いかと踏んでいる。現状だと、魂の損傷がひどくない限りは蘇生が可能とされている『治癒之王(アスクレピオス)』だが、魂がない状態での蘇生は流石に出来ないらしい。でも、リーテさんの方でも既にスキルの改良と分析を進めているので、時間はかかるかも知れないがそれを可能とする事もやぶさかでは無い。

 

 

「出来ます。と言うか出来ないと、僕は一生罪を償う事は叶わなくなってしまいます。ちゃんと蘇生を成功させて、改めてその人達や関連のある家族や仲間の方々にもしっかりとした謝罪をして初めて、罪を償ったと言えるのですから」

 

 

 

「(この他者に対する優しさと思いやり。ちっ・・・・・・マジで”あいつ”と似てやがる)・・・・・・その覚悟に嘘はなさそうだな。だがな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・リムルはそれを望んでいると思うか?」

 

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 

思わず出たその言葉に、僕は一瞬戸惑う。

 

 

 

「お前は、その覚悟を持って自分が殺めた人間どもを生き返らせ、しっかりと罪を償おうと勤しんでいる。だが、リムルはどう思ってるんだろうな?お前のように、敵になった人間共を生き返らせたいと思っているのか?『自分に立ち塞がるなら誰であろうと敵だ!』・・・・・・なんて言う奴が」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

戸惑うと共に、沈黙する僕。確かに、リムルがファルムス軍の兵達を良く思っていない事は分かっている。実際、死んで当然みたいに言ってたし。もし、僕がその旨を伝えたらリムルはどう思うだろう?恐らくだけど賛成される事は無く、止められるだろう。・・・・・・と言うか、リムルは人間に対してどう言う想いを抱いているのだろう?ギィさんも言ったように、リムルは敵対するものを差別化することは無く、”敵対関係になるのであれば、人間であろうと容赦しない”と言っていた。・・・・・・以前の彼(覚醒前)であれば絶対に言わなかったセリフだ。・・・・・・だと言うのに、彼は冷酷に軽々とそう口にしていた。まるで・・・・・・本当の魔王のように。

 

 

以前にも思っていた事だけど、改めて考えてみると・・・・・・僕とリムルの夢・・・・・・『人間と友好的な関係を築きたい』と言う夢は今でも変わってはいない。それは間違っていないはずなんだけど・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リムルが今、どのような過程を持ってその道を・・・・・・その夢へと歩んでいこうとしているのかが・・・・・・僕には分からなかった・・・・・・いや、正確には・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 




うーん・・・・・・。一度は自分自身で無理矢理解決したこの問題ですが、ギィに諭された事で再び考えさせられる事となってしまいましたね。エリスはリムルのことが好きですし、リムルもエリスのことが好きです。これは今もこれからも変わらないはず・・・・・・ですが、お互いの考えに相違があってはそれが崩れてしまう可能性も十分にあります。なので、今のうちに二人きりで話し合うなどをしておくべきでしょう。これまで共に生きてきた間柄の二人ですし、ちゃんと話し合えば分かり合えます・・・・・・きっと。


ちなみに、二人きりで会話をするのは、ここ最近ではしていません。最後にしたのは、第81話『募る違和感』の場面です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いにしえの悪魔達

 

 

 

 

「・・・・・・分かりません」

 

 

 

「だろうな。魔王達の宴(ワルプルギス)でのお前達の会話を聞いてた限りじゃ、互いに全てを理解してるわけじゃなさそうだったからな。じゃなきゃ、クレイマンの件で揉めたりなんてしなかっただろう?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

その言葉には言葉が出なかった。確かに、あの場面では僕とリムルで意見の食い違いがあった。僕がリムルに異議を唱えた事なんてこれまでだって殆どなかったのに、なぜかあの時はリムルに反論を述べていた。

 

 

 

「なぁ?ここだけの話なんだが・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・?何ですか?」

 

 

 

「お前あの時・・・・・・クレイマンに何かしたろ?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

唐突なその質問に、驚きを隠せなかったが何とか表情に出さずには済んだ。もしかすれば、カマをかけている可能性もあったので、こう言った場面はできる限り平静を保つことが重要なんだよね。

 

 

 

「・・・・・・その様に言うあなたの根拠は?」

 

 

 

「リムルの奴がクレイマンを屠った際、一瞬だが”妙な魔素の乱れ”を感じたんだよ。クレイマンの保有する魔素が、”別の何かへとすり替わったかの様”な小さな乱れがな?それを感じて、咄嗟にお前が何かしたんじゃ無いかって思ってたんだが・・・・・・違うか?」

 

 

 

殆ど図星です。・・・・・・流石は最古の魔王と言うべきか。リムルや他の魔王は誤魔化せても、やっぱりこの人は一筋縄じゃいかないよね・・・・・・。

 

 

 

「何を言っているのか分からないですね?クレイマンは魔國連邦(テンペスト)を襲撃するようにファルムス王国や西方聖教会を焚き付けた張本人ですよ?確かに、あの時はリムルに少し言いましたけど、国主であるリムルが決めた事に従うのは絶対ですし、それに対して僕が何かをする気なんてなかったですよ」

 

 

 

「ふん。まぁ、魔王から堕落したクレイマンがどうなろうが気にしちゃいねーが、国主に従う・・・・・・ね?」

 

 

 

何とか弁明するが、ギィさんはただ笑みを浮かべて僕を見つめるだけだった。クレイマン・・・・・・というか、ロキは確かに許し難い事をして僕たちを困らせた張本人だし、僕だってあの時に彼が、反省の色を見せていなかったのだとすれば、リムルに同調していたはずだ。そう思うと、ロキは運が良かったのかもしれないな。

 

 

 

「何ですか、その目は?」

 

 

 

「いや?ただ、ちっとばかし・・・・・・『もったいねーな?』なんて思っただけさ」

 

 

 

「もったいない?・・・・・・どういう意味ですか?」

 

 

 

意味深な発言をするギィさんに、少し違和感を覚えながら質問をしてみる。

 

 

 

 

「お前みたいな奴が、『誰かの下で誰かの言いなりになって動いてる』のがもったいないって言ったんだよ。お前とは会って間もないが、今さっきの会話だけでもそれだけははっきりと分かったんだ。エリス、お前は誰かの下につくような器じゃない」

 

 

 

「その誰か・・・・・・というのがリムルを表しているというのならば、それはお門違いです。彼は僕の上司というよりも、頼れる親友であり、大事な家族という認識なんですよ。だから、別に彼に命令されたとしても、何も問題はないと思っていますし、比較的僕は自由にやらせてもらっていますので」

 

 

 

「そうかよ。別に、お前がそれでいいならこれ以上は何も言わないが、せいぜい悔いが残らない選択をする事だ。そうでないと、後々()()()()()()()()()()()になりかねないかもしれないぜ?」

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

何かを含んだような発言をしたギィさんだったが、それに関してははっきりとは理解出来なかったのでスルーする事にした。

 

 

 

「さて、悪かったな。せっかくの茶会なのに、雰囲気を重くしちまって」

 

 

 

「いいですよ。これも親睦を深めるためでもありますから」

 

 

 

「なら良かった。・・・・・・にしても、改めて見るとお前って本当に綺麗な顔をしてるよな?ルミナスといい線張れるんじゃねーか?」

 

 

 

「言っときますけど、僕は男ですよ?そう言われても何も感じないですし、むしろ不快に思うのでやめて貰えると嬉しいです」

 

 

 

魔王達の宴(ワルプルギス)の時も僕の事を女扱いしてた訳だし、この際だと思い改めて説明を軽くしておいた。・・・・・・毎回思うけど、この説明するのって本当に疲れる。

 

 

 

「ん?そうなのか?だとしたら悪かったな。その見かけからして、女にしか見えなかったからよ?」

 

 

 

「よく言われます。・・・・・・もう慣れましたけど」

 

 

 

慣れたらおしまいな気もするけれど、あちらこちらからそう言われてしまうのだから、慣れるのは当然だよね。・・・・・・本当に泣けてくる。

 

 

 

「これからは気をつける。・・・・・・お、そうだ。まだお前に聞きたい事があったんだ」

 

 

 

「・・・・・・なんですか?」

 

 

 

「今、魔国連邦(テンペスト)には”原初の黒(ノワール)”がいると思うが、どうやってアイツを手なづけたんだ?オレの知るアイツはよっぽどでもない限り、誰かの下につく奴じゃないんだが?」

 

 

 

「(ノワール?誰、それ?)・・・・・・」

 

 

 

ギィさんの口から出たのは、聞いた事のない単語。ウチにはそんな名前を持った人はいない筈だけど・・・・・・?

 

 

 

《解。原初の黒(ノワール)とは、”世界創生”時から生きる、いにしえの悪魔達のうちの一柱を表しています。いにしえの悪魔は全部で7人存在し、悪魔族(デーモン)の中でもトップに君臨する程の力を有しています》

 

 

 

「(なるほど・・・・・・あれ?それってもしかして?)」

 

 

 

《是。個体名ギィ・クリムゾンの発言からして、個体名ディアブロを表していると見て間違いありません》

 

 

 

「(ディアブロ・・・・・・ただの悪魔じゃないとは思っていたけど、そんなすごい悪魔だったんだ?)」

 

 

 

ディアブロの正体を知った僕は、少しばかりだが驚いた。確かに、あれだけの力を有した悪魔なんてそうそういるものでは無いとは思っていたけど・・・・・・まさかいにしえの悪魔だったとは。

 

 

 

「そのノワール?と言う人は、多分リムルから名を貰った『ディアブロ』と言う悪魔だと思いますけど、彼曰く、随分前からリムルのことが偉く気に入ったらしくて、肉体を得た暁には、配下に加わりたいと思っていたらしいですよ?」

 

 

 

「そうなのか・・・・・・ん?ディアブロ?・・・・・・おい、もしかして・・・・・・リムルの奴、アイツに名付けをしたのか?」

 

 

 

「はい。名付けの際に、膨大な魔素を削ったと言ってましたけど、特段問題はなさそうでした」

 

 

 

「・・・・・・まじかよ」

 

 

 

これには流石に驚いた様で、ギィさんはひどく目を丸くしながら僕を見つめていた。まぁ、いにしえの悪魔なんかに名付けをしたなんて言えば、誰だって驚くよね。

 

 

 

「驚くのも無理ありませんよね、あはは・・・・・・」

 

 

 

「全くだ。そういや、お前には誰か悪魔の配下はいないのか?ノワールはリムルの配下だろうし、お前も悪魔の配下の一人や二人は持っておいて損は無いだろ?」

 

 

 

「僕にもいますよ?()()()()()()と言う綺麗な女性の悪魔が」

 

 

 

「・・・・・・テスタロッサ?」

 

 

 

その名を聞いたギィさんは、聞いた覚えが無いと言わんばかりに首を傾げる。後ろにいたミザリーさんもレインさんも心当たりがない様で、首を静かに横に振っていた。

 

 

 

「僕が彼女につけた名ですので、知らなくても無理ありません。そうですね〜・・・・・・彼女の特徴としては、”長い白髪で赤い眼、東方の出身”・・・・・・と言った所ですけど・・・・・・」

 

 

 

「おい、ちょっと待て?お前、もしかしてそれって・・・・・・?」

 

 

 

どこか顔を引き攣らせながら僕を凝視してくるギィさん。後ろの二人も、何かに気付いたのか少し目を見開いて驚いている様子だ。

 

 

 

「なぁ?その悪魔って、今この場に呼べたりするか?出来るなら呼んで欲しいんだが?」

 

 

 

「へ?多分大丈夫だと思いますけど、良いんですか?」

 

 

 

「構わねーよ」

 

 

 

何故かこの場にテスタロッサを呼ぶことを強要された僕は、不思議な気持ちになりながらテスタロッサに思念を飛ばした。

 

 

 

『テスタロッサ。今から僕の元へ来れる?』

 

 

 

『問題ございません。しばしお待ちください』

 

 

 

それから待つこと、一分・・・・・・テスタロッサは音も無く僕の隣へと姿を表した。

 

 

 

「お待たせ致しました、エリス様。どう言ったご用件で・・・・・・・・・・・・あら?これはこれは・・・・・・随分と久しいですわね?ルージュ、ヴェール、ブルー・・・・・・」

 

 

 

「はぁ〜〜〜・・・・・・やっぱりお前かよ・・・・・・原初の白(ブラン)。お前みたいな奴が、なんでこいつの配下についてるんだか・・・・・・」

 

 

 

テスタロッサを見た途端、手を頭に当てながら大きくため息を吐いたギィさん。ミザリーさんとレインさんに至っては、驚きのあまりいつものポーカーフェイスが崩れ欠けていた。この会話と反応から察するに、どうやらデスタロッサとこの三人は知り合いなのだろうが・・・・・・。

 

 

 

「テスタロッサ?ギィさん達とは知り合いなの?」

 

 

 

「ええ。昔からの知り合い・・・・・・と言ったところでしょうか。ですが、付き合いは長けれど、決して良好な関係とは言えませんが」

 

 

 

不敵な笑みを浮かべながら、ギィさん達を軽く睨むテスタロッサ。知り合い・・・・・・か。テスタロッサもかなり昔から生きている悪魔だって話だし、ギィさん達と知り合いでも何も不思議ではないけど・・・・・・何だろう?どうにも、ギィさんの反応が気になるな?それに、テスタロッサの事を原初の白(ブラン)って呼んでたけど・・・・・・。

 

 

 

「おい、エリス?お前も人のこと言えねーじゃねーかよ?何でこいつに名付けをして無事でいられてんだよ、お前は?」

 

 

 

「どう言うことですか?名付けをして何か問題があるのですか?それに、彼女は僕が召喚した悪魔ですし、配下にしようが名を与えようが勝手でしょう?」

 

 

 

「そう言う事を言ってるんじゃねーよっ!?こいつはオレ達と同期の悪魔だぞ!?そんな奴に名付けをする奴なんざ馬鹿しかいねーと思ってたが、お前もリムルも頭おかしいんじゃねーか?」

 

 

 

なぜか急にディスられ始めた・・・・・・。いや、そんなこと言われたって、名付けをして失った魔素は『治癒之王(アスクレピオス)』のおかげですぐに元に戻るし、配下になったのに名前が無いなんて可哀想でしょ?

 

 

「ルージュ・・・・・・いえ、今はギィ・クリムゾンと言う名でしたね?ギィ、我が主への無礼な発言は、控えて頂けます事?これ以上無礼を働くと言うのならば、わたくしがこの場で粛清して差し上げますわよ?」

 

 

 

「デケェ口を叩くじゃねーかよ?オレがお前に一度でも負けた事があったか?」

 

 

 

「ふふ、確かにわたくしはあなたに何度も苦渋を舐めさせられたし、それはいまだに忘れた事は無かったわ。だけど、今戦えば・・・・・・どうでしょうね?」

 

 

 

挑発じみた発言をしながら、薄く笑みを浮かべるテスタロッサに、僕は苦笑いを浮かべる。

 

 

 

「あなたこそ、ギィ様への無礼な発言は控えるべきではありませんか、ブラン?」

 

 

 

「ミザリー?今はあなたに向けて喋っているわけではないので、少し黙って頂けますこと?それと、わたくしはブランでは無くて、テスタロッサという名をエリス様から頂いていますわ。今後は、そちらの名で呼んでほしい物ですわね?あなたもレインも、ヴェールやブルーとは呼ばれたくはないでしょう?」

 

 

 

「そうね。この名は偉大なる魔王であるギィ様より頂いた大切な名です。何処ぞの誰とも知らぬ魔王やその配下である”非力な魔物”に名付けをされたノワールやあなたとは違うのよ?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

何となしに出たレインさんのその言葉に、テスタロッサは怒りの表情を見せ、僕は少し気落ちすると共に、傷ついていた。・・・・・・うん、”非力な魔物”って僕のことだよね?非力ってことに嘘偽りはないし、自覚はしているけど・・・・・・改めて他人からそう言われるとすっごく傷ついちゃうな〜・・・・・・あはは。というか、レインさんって僕のことそんなふうに思ってたんだ?

 

 

 

「レイン・・・・・・あなた、よっぽど死にたいようで・・・・・・っ!?え、エリス様!?そ、そう落ち込まなくとも!すぐにあの無礼者はわたくしが成敗致しますので!」

 

 

 

「おいレイン!お前、本人の目の前でそんな・・・・・・あ〜あ、お前がちゃんと責任取れよ?」

 

 

 

「口が過ぎますよ、レイン?」

 

 

 

「っ!?も、申し訳ございません!今言ったことは本心では有りませんので、どうかお気になさらずに!」

 

 

 

次第に俯き始める僕に対して、レインさんは先ほどの無礼を謝罪する為に、いつもの冷静な態度が嘘のようなひどく慌てた状態で僕の元まで駆け寄ってきた。

 

 

 

「いや、良いですよ。事実ですし・・・・・・」

 

 

 

「お前みたいな奴が非力だなんて言ったら、この世に存在する魔物のほとんどが非力ってことになるだろうが。・・・・・・レインのことは後でオレがシメとくから、そんなに気を落とすなよ?」

 

 

 

「はい・・・・・・」

 

 

 

結局、テスタロッサは僕が宥めたことでギィさん達と衝突するということは無かったけど、最後までバチバチしてたから、今後はなるべく二人を会わすのは控えようと密かに決めた。

 

 

その後、茶会を無事に終えた僕は、約束通り地下にある茶葉の倉庫を見学させて貰い、お土産として茶葉のいくつかを譲ってもらったので、後でテスタロッサやカレンに淹れて貰おうと心に決め、その場を後にするのだった・・・・・・。




「ねぇ、テスタロッサ?さっき、ギィさんが言ってた事だけど・・・・・・キミがギィさん達と同期の悪魔って本当なの?」


「本当ですわよ?好きでそうなったわけでは有りませんが」


「えっと・・・・・・つまり、キミもいにしえの悪魔ってことで良いのかな?」


「そうなりますわね。・・・・・・言ってませんでしたか?」


「初めて知ったよ。・・・・・・ギィさんがあんだけ焦った理由がちょっと分かったかもしれない」



帰った後で、テスタロッサの正体を改めて理解し、それに心底驚くエリスだった。







見てわかると思いますが、エリスは豆腐メンタルなのでちょっとした事でも傷ついて落ち込んでしまいます。と言っても、レインがあんなど直球でディスれば誰でも落ち込む気がしますが、レインが取り乱す姿を想像すると何となく笑ってしまいますね。ちなみに、今の段階でギィとテスタロッサが戦えば、ギィが勝ちます。

とりあえず、今回でギィとの茶会は終了になります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

会談の行方

あけましておめでとうございます!

今年もどうかよろしくお願いします!


視点 三人称

 

 

 

「ふぅ・・・・・・」

 

 

 

エリス達が帰った後、再び茶を淹れてもらったギィは、少し疲れたように息を吐いていた。

 

 

 

「あらあら、随分と疲れた顔をしているわね?お茶会ってそんなに疲れるものだったかしら?」

 

 

 

「お前だって見てたんだから分かるだろうが。エリスの事もそうだが、めんどくさい奴(テスタロッサ)と顔まで会わせたんだぜ?疲れねー方がおかしい」

 

 

 

そんなギィに声を掛けたのは、次元の狭間からゆっくりと姿を表したヴェルザードだった。彼女は、茶会にこそ参加はして無かったものの、その茶会での話等はしっかりと聞いていたので、内容の理解はしていた。

 

 

「お疲れ様。出来れば、私もあの子(エリス)とお話ししてみたかったのだけど・・・・・・」

 

 

 

「今回は二人で落ち着いて話したかったんだよ。お前が出ると、オレはともかくエリスが戸惑うだろ?」

 

 

 

また一つため息を吐いたギィは、茶を口に含む。ヴェルドラの姉であるヴェルザードは、今は人の姿をしているものの、その正体は理不尽の権化とでも言える種族である”竜種”。もしも、彼女がその場に現れ彼女の正体を知った時には、エリスとて酷く恐れる事だろう。それだけ、竜種の存在は偉大であり、畏怖される存在なのだ。

 

 

・・・・・・同じ竜種であるヴェルドラは彼の友人なので除外するが。

 

 

 

「そうね。・・・・・・それで、あなたから見て、エリスはどうだったの?」

 

 

 

「良い奴だってことはわかった。だが・・・・・・一つ言えるとすれば、あいつには世界を”まるっきり変えちまうような力”がある。いや、場合によっては”世界が崩壊”するかもな?」

 

 

 

「っ?・・・・・・どういう事?」

 

 

 

意味深な発言をするギィに、興味を惹かれたヴェルザードはギィの隣の席に着席する。

 

 

 

「あいつのその力はこの世界にとっては異常・・・・・・本来”あってはいけない様な力”みたいなもんだ。そんな力がこの世界で猛威をふるえばエリスの使い方次第では、世界が破滅しかねないと見てる」

 

 

 

 

「・・・・・・じゃあ、それを知ったあなたは、あの子(エリス)をどうするつもりなの?世界の崩壊を招く前に、殺すのかしら?・・・・・・遠い昔の()()()のように」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

ギィは何も返答せずに、静かに瞑目する。ギィの言う様に、エリスの能力はかなり異常であり、その異常度で言うならばリムルを凌駕する程だ。何せ、魂がある事が条件だが大した魔素の消費もなしに、人間を始めとした全ての生物の蘇生が可能なのだから。また、ギィは知らないが、病気や怪我の完治、ありとあらゆる場面に適応する脅威なるバフをもエリスは平然と行えるので、異常と言う言葉にも拍車がかかってしまう。

 

 

 

「さぁな?エリスの奴がこの世界をぶっ壊そうって魂胆ならすぐにでも消すが、あいつにそんな考えは微塵も無いらしいし、暫くは泳がせておくさ」

 

 

 

「そう。それなら良いけど、また変な情に流されないようにしなさい?あなたは『調停者』なのだから・・・・・・」

 

 

 

「わかってるよ」

 

 

 

ため息まじりにそう口にしたギィは紅茶を一口飲み、再び息を吐きながらリラックスするのだった。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

視点 エリス

 

 

 

 

ギィさんとのお茶会を終え、魔国連邦(テンペスト)に戻ってきた僕は、自分の家に貰った茶葉等のお土産を置いた後、リムルの家へと向かった。

 

 

 

「リムルー?体調はどうかな?」

 

 

 

「おう、お前のおかげですっかり良くなった、サンキューな。ヒナタから聞いたけど、何しにブルムンド国に行ってたんだ?」

 

 

 

「うん。追加分のエリス水の運送と、新しく出来た商品に関する売買の取引に行ってきたんだ」

 

 

 

リムルからの質問には、事前に考えていた嘘で難なく凌ぐ。リムルは何かと僕に対して過保護だから、こうして聞いてくることが多いから対策もしやすいんだ。・・・・・・というか、馬鹿正直に『ギィさんに会いに行ってた』なんて言ったら、どんな反応するのかな?・・・・・・多分めちゃくちゃ怒られる。

 

 

 

「そうか。・・・・・・さて、そろそろ会議の時間だ。俺は支度をしてからいくから、お前は先に執務官へ行っててくれ」

 

 

 

「わかった。じゃあ、後でね?」

 

 

 

さっき帰ってきたばかりで、すぐに会議というのは少し疲れるけど、我儘は言っていられないので僕は先に執務官へと足を運んだ。この会議は、我が国魔国連邦(テンペスト)と神皇国ルベリオスの和解と、今後の双方の付き合い方を決める大事な会議であるので欠席するのは論外だ。

 

 

 

・・・・・・とりあえず、気を引き締めていこう。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「本日はお集まり頂き、ありがとうございます。神聖法皇国ルベリオスとジュラ・テンペスト連邦国の会談を開始します」

 

 

 

普段のシオンらしからぬ、完璧な開始の合図の元、会議は開始された。・・・・・・何でも、昨日の宴会の最中にシュナに色々と扱かれたのだとか。

 

 

魔国連邦(テンペスト)側に座るのは、リムルに僕、リグルドやベニマルと言った重鎮だ。一応、ヴェルドラさんもいるけど、本人は聖典(マンガ)に夢中なのでいないも同然と見ていい。

反対にルベリオス側には、ルミナスさんにルイさん、ヒナタさん、十大聖人の皆さんと言った顔ぶれになっている。皆の手元には両国の今現在の状況を事細かくまとめた資料が置いてあり、今回の会議はこれを元に進行していく予定だ。

 

 

 

「まず、聞きたい事があるんだが・・・・・・ヒナタ。お前に密告してきた奴ってのは誰なんだ?」

 

 

 

「東の帝国の商人で、名前はダームと言ったわ。その商人から、密告を受けて私はあなたの目の前に現れたの。・・・・・・今思えば、なんであんな根拠もない情報を信じてしまったのでしょうね?」

 

 

 

リムルから出たその質問に、ヒナタさんが冷静に答える。商人か・・・・・・てっきり、ヒナタさんやルミナスさん達に関連のある人物かと思ってたけど・・・・・・。

 

 

 

シュナの調査によれば、ロキの城内から出てきた武器や防具や食料、資源といったもの等は、その大半をその東の帝国から仕入れた物だという事が判明していている。それすなわち、ロキが東の帝国との繋がりがあったことを表しているので、今回の一件は一概にロキが全てを動かしていたとは言い切れないな。もしかすれば、ロキの”精神干渉”を施していたのも、その東の帝国に属する人物の可能性もあるわけだし。

 

 

 

「なるほどな。つまりは、そいつのその情報を頼りに、お前はイングラシアにいた俺に接触を図ってきた訳だな?・・・・・・それについてはもう気にしてはいないが・・・・・・正直、あれは最悪のタイミングだった。もう少しお前が遅く来てたらって考えると、ひどく腸が煮えくり返る・・・・・・」

 

 

 

その時のことを思い出したのか、リムルが怒気を発しながらこの部屋全体に『魔王覇気』を放ち始める。多分無意識にだろうけど、それをされては会議どころでは無くなってしまう。現に、ルミナスさんやヴェルドラさんを除いた全員がかなり萎縮してしまっている。

 

 

 

「リムル、どうか抑えて?みんな怖がってるからさ?」

 

 

 

「・・・・・・っと、すまない。それで、クレイマンは恐らくその東の帝国と繋がりがあって、それに加えてファルムス王国を裏で操っていたと見ていいが、どうにもそれだけじゃ無い気がするんだ」

 

 

 

「?・・・・・・どう言うこと?」

 

 

 

リムルの発言に、ヒナタさんが首を傾げる。

 

 

 

「クレイマンが死ぬ直前に言っていた『あの方』・・・・・・ってのが少し引っかかってな?もしかすると、真の黒幕はそいつなんじゃ無いかって思ってるんだよ?」

 

 

 

「妾も聞いていたが、確かにその可能性は十分あるであろう。・・・・・・とは言え、それが誰であるかは定かでは無いがな?」

 

 

 

ルミナスさんも話に参戦するが、真の黒幕の正体にまで辿り着くには至らなさそうだった。・・・・・・ロキの思考回路を読んだ際に、それがカザリーム・・・・・・という元魔王である事は知る事が出来たが、それ以上の事は何も情報が無い。

 

 

 

「(リーテさん、ロキの思考回路を覗いて、何か新しい情報は出たかな?)」

 

 

 

《解。カザリームは、現在は名をカガリへと変更し、新たなる肉体へ魂を憑依させている事が判明しました。ただし、魂を移した代償に大半の力を失っていると推測します》

 

 

 

リーテさんの新たなる情報に、僕はふと考え込む。カザリームが肉体を得た事はわかったけど、その人は肉体を得て何を成そうとしているのだろう?しかも、肉体を得るのとは代償に力が失われるデメリットがあったにも関わらずだ。

 

 

・・・・・・そんなデメリットを背負ってでも、叶えたい目的がある・・・・・・そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

「(ロキの言っていた、中庸道化連・・・・・・彼らは一体・・・・・・?)」

 

 

 

「エリス、お前は何か知らないか?」

 

 

 

唐突に、リムルから質問された僕は少し戸惑うが、僕なりの意見を言う事にした。

 

 

 

「その『あの方』を知るには、クレイマンもそうだけど、彼が属する組織である”中庸道化連”を調べる必要があると思う。組織の成り立ちや組員、目的の全てを」

 

 

 

「中庸道化連・・・・・・聞いた事がないが、もしかすれば、ロイを殺した人物はその組織にいるのかもしれない」

 

 

 

「ロイ?・・・・・・もしかして、ルミナスさんの影武者をしていたあのロイ・ヴァレンタインさんのことですか?その人が・・・・・・殺された?」

 

 

 

「うむ。ロイは私の弟でね?その日は、我ら吸血鬼族(ヴァンパイア)の力が削がれる新月の夜だったとはいえ、其奴に遅れを取り死んだのだ。以前から自意識過剰な面が見られるとは思っていたが、何とも情けない話だ」

 

 

 

表情を一切変えずに淡々と自分の弟の死を口にするルイさん。だが、彼とて自分の家族を殺されて何も思っていない筈はないので、そこに何か言うことは控えておいた。

 

 

 

「マジか?俺は魔王達の宴(ワルプルギス)であいつを見たが、少なくとも魔王級の力はあると思えたぞ?そんな奴が殺されるって・・・・・・相手は相当な手練れと見ていいな」

 

 

 

「そうね。それで、ロイの死はともかくとしてその中庸道化連の事については、事細かく調べていく必要がありそうね。とは言っても、調べても正体にたどり着けるかは定かではないけれどね?」

 

 

 

目を閉じながらそうぼやくヒナタさん。勿論、ヒナタさんの言う通りで中庸道化連を調べたところで正体に漕ぎ着ける可能性が100%あるとは言い切れない。調べたところで無駄骨に終わってしまえばその時間が無駄になる。・・・・・・本当であれば、唯一『あの方』の正体を知っている僕がそれを打ち明けるべきところなのかも知れないが・・・・・・。

 

 

 

「(いや、だめだ。それを言うと絶対にそれの情報源を聞かれる。うやむやにしようにもその他の中庸道化連の情報源のありかなど知るはずも無いし、そもそもそれがあるのかさえも分かっていない。嘘をつくのは無理と諦めるべきだろう。でも、だからと言って本当の事・・・・・・”僕が助けたロキからの情報”だなんて言えば、ルミナスさんとかはともかく、リムルはまたロキを殺そうと動く筈だ・・・・・・それだけはなんとしても防がないと!)」

 

 

 

言おうにも言えない事情がある以上、僕は口を開く気にはならなかった。リムルがそれを聞いても何も行動を起こさなければ話しても良いと思ってるんだけど、昨今の彼を見ていてはとてもじゃ無いけど、話す訳にはいかなかった。彼が本気で動いて仕舞えば、僕では到底止められる手立てがないのだから。

 

 

 

「その正体なんだが、もしかすれば七曜が正体だったりしないか?

 

 

 

そんな中、リムルが思わぬ発言をする。その発言に、何名かは訝しげな表情を見せ、また何名かは驚きの表情を見せていた。

 

 

 

「・・・・・・何じゃ?妾の配下が妾に隠れて身勝手に動いていたと申すのか?」

 

 

 

「ルミナス様。御言葉ですが・・・・・・もしかすれば、その可能性も十分あるかと」

 

 

 

「ルイっ!貴様までそのような戯言を・・・・・・」

 

 

 

リムルの発言に憤った様子のルミナスさんは、リムルに対して圧のある声を浴びせた。だが、それをルイさんがやんわり止めつつリムルのフォローをし始めた。

 

 

 

「あなた様が奴らに対する儀式・・・・・・愛の接吻(ラブエナジー)をここ100年以上もの間、行っていないことはご自覚ありますでしょうか?」

 

 

 

愛の接吻(ラブエナジー)?・・・・・・っ!そうじゃったな。あやつらは元は人間、妾が生気(エナジー)を体内に吹き込まねば自然と老いてしまう。ここ100年で色々とあって忘れておったな。じゃが、それと今回の件で何の関係性があるのじゃ?」

 

 

 

「七曜はもう一度あなた様の目を惹き、愛の接吻(ラブエナジー)を行ってもらおうと躍起になり、東の商人達と手を組み魔王クレイマンを籠絡しようとしたのではないかと見ています」

 

 

 

ルイさんの何とも説得力のあるその説明に、僕を含めたその場全員が小さく唸った。勿論、それは違うのだが、ルイさんの説明があまりにも筋が通っているので本当にそうなのではないかと思えてしまう。それに加えて、恐らくはヒナタさんの暗殺も企てていたことも考えると、相当ルミナスさんから気に入られたかったんだね、七曜の人たちって・・・・・・。

 

 

 

「うーん・・・・・・。そうだとして、それだけでルミナス様が七曜のことを目にかけるでしょうか?ルミナス様は、正直言って国取りとか、領地争いとか・・・・・・ましてや格下の魔王であるクレイマンが何かしたところで特段興味を示さないと思うんですけど?」

 

 

 

「そうじゃな。妾とて暇ではない。下郎たるクレイマンごときが何をしようと知ったことではない」

 

 

 

アルノーさんやルミナスさんにロキが散々言われてる事態に、僕は内心で苦笑いを浮かべる。・・・・・・まぁ、彼もこれまでに色々としてきたんだし、この言われようは妥当か。

 

 

 

「七曜だってバカじゃあるまいし、その計画が成功したところで愛の接吻(ラブエナジー)が自分達に為されない可能性も予測出来たはず。なのに、何でそんなリスクを背負ってまで・・・・・・」

 

 

 

「いや、恐らく七曜は、そのリスクを無くすべく、一つの()()をかけていたのかも知れないね」

 

 

 

「保険?・・・・・・それって?」

 

 

 

意味深な言葉を残したルイさんに対して、リムルがさらに追求すると、ルイさんはひとつ息を吐くと・・・・・・徐に視線を()()()に向けてくる。・・・・・・へ?

 

 

 

「それは・・・・・・()()()殿()()()()です」

 

 

 

 

とんでもないそのルイさんの発言に、僕は言葉を無くす。




エリスが正体を話せれば万事解決でしょうが、そうもいかないのが何とももどかしいです。情報源を追求され、リムルにロキ(クレイマン)が生きていることを知られて仕舞えば。今までのリムルの行動や発言からして、すぐさま始末に動こうとするのは明白ですからね。

そうなると中庸道化連と全面対決になるでしょうし、双方にとってもデメリットしか無いですし、エリスの判断は妥当なのかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

副国主の恐ろしさ

エリスの能力の再確認が取られます。彼の能力が全世界に知られるとどうなってしまうのやら・・・・・・。


 

 

 

「僕の確保・・・・・・ですか?」

 

 

 

「ええ。エリス殿、あなたのその力がファルムス王国や、西方聖教会に知れ渡っている事実は把握出来ていますか?」

 

 

 

「・・・・・・?はい、存じ上げておりますが?」

 

 

 

ルイさんの質問に少し首を傾げたが、すぐにそれに対しての返答をする。ファルムス王国や西方聖教会が僕のことを狙っている事はリムル達からも聞かされてたし、それについてはもう驚く事はなかったけど、それと七曜と何の関係があるのだろう?

 

 

 

「そうとなれば、当然その情報は七曜の耳にも届いているはず。これはあくまでも憶測だが・・・・・・恐らく、七曜は場合によっては捕らえたエリス殿に、自分達の寿命を引き延ばさせようと企んでいたのでは無いかと思っているね」

 

 

 

「・・・・・・なるほどな。だから、西方聖教会はやたらとエリスを狙ってた訳か。実に腹立たしい・・・・・・だが、寿命を伸ばすことなんて本当に可能なのか?ルミナスはできるって分かってるが、エリスでも流石にそれは・・・・・・」

 

 

 

「多分できると思うよ?」

 

 

 

「出来んのかよっ!?」

 

 

 

淡々と答えた僕に、リムルから盛大なツッコミが飛ぶ。実際、僕が言った事は事実であり、僕の『生命力譲渡』を人間相手に施せば、多少なりにであるが寿命は延ばせる(リーテさん調べ)。主に自己治癒能力を伸ばす事をメインとした能力だが、副性能としてそんな効力もあるとは以前まで知らなかったので、それを知った当初はかなり驚いたものだ。

 

 

 

「私も初めてエリス殿の力の詳細を聞いたときは驚いたね。どんな傷や病も治してしまう異常なる治癒能力や、ルミナス様にも劣らぬ蘇生秘術まで兼ね揃えているのだから・・・・・・」

 

 

 

「まぁ、その気持ちは分かるな。こいつに至っては、それに加えてチート並みに凄いバフ能力まで持ち合わせているんだからな?」

 

 

 

「っ!・・・・・・へぇ?」

 

 

 

・・・・・・リムルのそのどこか自慢したような言葉に、ヒナタさんが反応を示す。他の人たちは、言っている意味がよく理解出来なかったのか、首を傾げていた。

 

 

 

・・・・・・というかリムル・・・・・・何、今まで秘匿にしてきた情報を普通にバラしてくれちゃってるのかな?頭沸いてんの?・・・・・・いや、まだ酔ってるのかな?

 

 

 

 

「ヒナタよ。先ほどのリムルの言っていることが、今一つ理解が追いつかぬのじゃが?」

 

 

 

「簡単に言うと、エリスにはルイが言った能力の他にも、他者を強化することが可能な能力も持ち合わせていると言う事です。そうよね、リムル?」

 

 

 

「ああ、そうだ・・・・・・って、あ・・・・・・」

 

 

 

今更、自分が凡ミスをした事に気づいたらしいリムルは、両手を合わせながら僕に謝罪してくる。・・・・・・後で、きつく言っておこう。

 

 

 

「エリスよ。リムルの言っていたことは真か?」

 

 

 

「本当は隠していたかったですけど、そこのバカ(リムル)のせいでそれが公になってしまったので・・・・・・仕方ないですね。・・・・・・はい、それは事実ですよ?」

 

 

 

「さっきの治癒能力とかと比べると、驚きはあまり無いけれど、それも十分に凄い能力ね?」

 

 

 

「ヒナタ・・・・・・一応言っておくけど、その認識は間違ってるぞ?」

 

 

 

ヒナタさんが感心したように僕の能力を褒め称えてくるけど、なぜかリムルはそれに苦言を呈してくる。・・・・・・なんとなく言いたい事はわかるけど。

 

 

 

「・・・・・・?何が間違っているというの?」

 

 

 

「”百聞は一見にしかず”・・・・・・って言うしな。ちょっとみんな外に出てくれ。うちの副国主のその能力がどれほどの物なのかを見せてやるからさ?」

 

 

 

表情を明るくしながらみんなに外に出る様に伝えたリムル。それには、ルベリオス側のルミナスさんや聖騎士達だけでなく、魔国連邦(テンペスト)側の重鎮達も何処となく不思議そうな表情を浮かべたが、好奇心には勝てなかったのか、みんなリムルに続いて執務館の外に出始める。僕のこの能力を知っているのはリムルや一部の配下達のみなので、興味を惹かれるのもわかると言う物だが・・・・・・。

 

 

 

「リムルってば、僕の断りも無しに・・・・・・もう、しょうがないなぁ・・・・・・」

 

 

 

正直、僕はあまりこの力をひけらかしたくは無い。だけど、もう手遅れだ。・・・・・・なので、しょうがなしに渋々僕は外へと出た(このことが原因で、この後のリムルへの説教が1時間ほど長くなった)。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

 

「さて。ヒナタ、お前エリスのバフを受けてみてくれ。気にはなってるんだろ?」

 

 

 

「別に良いけれど、あなたが実践するのでは無かったの?」

 

 

 

「いや、俺は前に一度酷い目にあってるから・・・・・・とにかく、やってみてくれよ」

 

 

 

「・・・・・・わかった。エリス、お願い」

 

 

 

執務館から、鍛錬場に移動してきた。早速僕の力を披露する事になった訳だが、よりにもよってヒナタさんにするのか・・・・・・力加減間違うととんでも無い事になりそう。

 

 

 

《解。『治癒之王(アスクレピオス)』の『鼓舞』による対象の能力のかさ増しに際限はありません。但し、個体名ヒナタへの『鼓舞』を最大出力で行なった場合、”ジュラの大森林そのものを消し去れる”ほどには能力が上昇します。念の為に、範囲結界を張っておく事を推奨します》

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

うん、絶対に結界は張っておこう。リーテさんからの忠告を受けた僕は、徐にここら一体に水天領域(アクアドメイン)を展開させた。・・・・・・ってか、魔国連邦(テンペスト)を超えて、ジュラの大森林を消し去るとか何その化け物?普通の魔王でもそんなことできないんじゃ無いかな?

 

 

 

「・・・・・・エリス?」

 

 

 

「(とにかく、加減はしないと・・・・・・)ごめんなさい。じゃあ、行きますよ?・・・・・・展開せよ、『癒しの空間(ヒーリングルーム)』」

 

 

 

限りなく加減をした『癒しの空間(ヒーリングルーム)』をヒナタさんの周りに展開させた僕。『癒しの空間(ヒーリングルーム)』に囲われたヒナタさんは、手を開いたり閉じたりしながら自分の力の変動を確かめていた。

 

 

 

「なるほど・・・・・・これは想像以上ね。力が体の奥底からどんどん湧き出てくる感覚がある・・・・・・」

 

 

 

「よし。じゃあ、力試しにそこの大木に向かって何か攻撃してみてくれよ。・・・・・・但し、加減はしてくれよ?お前の思った以上に、強化されてると思うから」

 

 

 

以前の自分の実体験を元に、加減する事をヒナタさんに強要するリムル。・・・・・・確かに、リムルは力加減を間違えて森の一部を思いっきり破壊しちゃったもんね?

 

 

 

「分かった。ふぅ・・・・・・・・・・・・っ!!『崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)』!」

 

 

 

 

ヒナタさんの『崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)』が大木に炸裂する。全長およそ10mはあるであろうその大木は、『崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)』の餌食となった事で、切断されるどころかその技から齎される余波と威力によって、跡形も無く粉々に消し飛んでしまった。

 

 

当然、それを見た僕達は度肝を抜かれていた。一応、これでもヒナタさんは加減しているのだろうけど、それを差し引いてもこの威力って・・・・・・うん、この能力は本当にちゃんと使い分けないと大変な事になりそうだ。

 

 

 

「ほう?よもやこれほどまでとはな?」

 

 

 

「かなり加減したつもりだったけど・・・・・・」

 

 

 

ルミナスさんもヒナタさんもこれには流石に驚いたのか、目をパチパチとしながら粉々になった大木へと視線を落としていた。

 

 

 

「これで分かったろ?エリスの恐ろしさは、むしろこっちだってことがさ?・・・・・・こんなのが敵に回ったらって考えるとゾッとしないか?」

 

 

 

「そうね。ちなみに聞くけれど、この能力はもっと効能を上げることは可能なのかしら?」

 

 

 

「出来ますよ?さっきはかなり抑えましたけど、もっとバフの効能を上げれば、それこそただの一般人を今のヒナタさん並に強くする事だって可能だと思いますし、バフを掛けられる人数も増えます」

 

 

 

「い、一般人がヒナタ様並っ!?それって聖人レベルって意味ですよねっ!?な、なんて脅威的な・・・・・・」

 

 

 

フリッツさんが取り乱したように声を荒げる。ちなみにこれを伝えるのはこの場で初めてなので、当然それを聞いたリムル達は若干引くレベルで驚いていた。

 

 

 

「勿論、やろうと思えばの話ですよ?必要がなければそんな事しませんし、必要があったとしてもやるかどうかは定かではありません。この能力はこの世界にとっては劇薬に近しい物ですし、安直に使用する事は控えたいんです」

 

 

 

「ま、まぁそうだよな。一人一人が聖人・魔王クラスの力を持つ万の軍勢なんかが攻め寄せてきたら、敵国からしたら悪夢でしか無いからな。改めて思うけど、お前って本当にやばいよな?・・・・・・そんな綺麗な見た目のくせに」

 

 

 

「一言余計なんだよキミはっ!」

 

 

 

馬鹿にした様なリムルの言い方にツッコミを入れた僕は、内心で一つため息を吐く。

 

 

 

「何度も言っていますけど、僕のこの力については他言無用でお願いします。このことがバレてしまうと、色々と面倒になりますし、何より魔国連邦(テンペスト)にもみんなにも迷惑をかける事になってしまうので」

 

 

 

「勿論そのつもりだ。他の国があなたの力を知って狙わない訳は無いし、無いとは思うがあなたが敵となってその力を振るわれてはたまった物では無いからね。この事については厳重に胸の中にしまっておく事にするよ。ルミナス様もよろしいですか?」

 

 

 

「構わぬ。妾とて、エリスが敵に回れば厄介じゃからな」

 

 

 

そんな訳で、僕の力についてはこの場で箝口令が出される事になり、これを破ったものにはそれ相応の罰が加えられるという旨をリムルが伝えると、一同は再び執務館へと戻り、会談の続きが執り行われることとなった。その後の会談で、魔国連邦(テンペスト)とルベリオスとの間で100年の期間という条件付きだが、国交が結ばれることが確定し、この場を持って魔国連邦(テンペスト)とルベリオスのいがみ合いは終息することとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




・会談の後、エリスの家にて


「ねぇ、リムル?僕がこの力を秘匿しておきたいと思ってるのは、キミも知っているはずだよね?」


「は、はい・・・・・・。おっしゃる通りです」←(正座)


「それなのに、キミは何であの場であんな自慢するかの様に僕の能力の事を暴露したの?・・・・・・馬鹿なの?」


「いや・・・・・・なんと言うか、あの時はお前の凄さを認識してもらいたいって思って・・・・・・つい、口が滑って・・・・・・はは」


「キミはそう言うところは本当にダメだよね?いい、リムル?誰にだって隠したいこともあるし、言いたく無いことだってあるんだよ?僕はキミを信頼しているからこそ力を見せたし、気持ちだって伝えた。だと言うのに、キミは普通にアホみたいにみんなの前でそれを暴露するなんて、頭逝ってるの?いつも思うけど、リムルは口が軽すぎ。他国の商人達へ、国の機密情報だってポロッと口に出してしまうことだってあったし、それに動揺する商人達を抑える僕の気持ちにもなって欲しいんだけど?それにキミの行動にもため息が溢れたよ。何、さっきの僕の能力の実演は?僕、やるなんて一言も言ってないし、キミが勝手に決めたことでしょ?百歩譲って僕に一言言ってくれてからだったら、まだ良いと思うけど断りも何にも無しにそんな行動に移されたら僕だって戸惑うし、怒るに決まってるよね?キミはこの国のトップに立つ国主という立場なんだから、もう少しこっちの気持ちも考えてくれないと困るよ?キミが今後もそんな態度を取り続けるんだったら、場合によってはベスターさん直伝の”鬼の教育メニュー”を僕が直々にキミに施してあげるから。後、不必要に僕を女いじりするのも辞めてくれる?実に不愉快だし、恥ずかしいから。もしそれが過剰になっていくなら、またキミにはシュナ特製のメイド服を着て街中を歩いてもらうよ?そもそも、キミは昔っから・・・・・・」



「(こ、これは長くなりそうだなぁ〜・・・・・・いつも通りだけど)」



リムルはこの後、3時間以上エリスの説教を貰い、終わった頃には夜になっていたそうな・・・・・・。






まぁ、リムルはこんな説教を度々エリスに施されていると思ってください。ちなみに、説教中のエリスは終始”満面の笑顔”を浮かべています。こんな説教をされればベニマルやスフィアがげっそりするのも頷けます・・・・・・。優しい人ほど、怒ると怖いと言うのは間違っていませんね・・・・・・。


も、勿論、サブタイトルの『副国主の恐ろしさ』は本文に書いてある内容のことなので、決してこの事では無いですよ?ええ、絶対に・・・・・・あはは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初めてのイングラシア

エリスがイングラシア王国に行きます。

彼が一体どんな反応をするのか?


 

 

 

それから二日後、存分に魔国連邦(テンペスト)の料理や温泉を満喫したルミナスさん達は、お土産を沢山抱えながら国を後にしていった。今後のルべリオスとの関係もガラッと変わった事だし、少し経った後で再び両国間で会談の場を設けるのも検討する事にした。

 

 

さて、ルべリオスの件については一旦区切りはついたので、僕たちは改めて魔国連邦(テンペスト)の開国祭の準備へと乗り出す事にした。準備と言っても、主に『どんな催しをするか』とか、『どんな飾りつけをするか』とか、そんなぐらいなんだけど、結構人によってはもうどんな催しをするかは決めてあるようだ。

 

 

例えば、シュナに至っては、自分の料理の腕を振るって、今までにない最高の品を作って各国の主要人達の舌を唸らせたいと張り切っていて、終いには喫茶店を開いてケーキやシュークリームといったデザート類まで作ろうと意気込んでいる始末だった。

 

 

後、ガビルやベスターさんは、自分達の研究しているヒポクテ草や回復薬(ポーション)の展示会を開くらしく、それに加えての今までの研究成果なども事細かく発表するようだ。

 

 

他にも色々と企画を考えている幹部達は大勢いるが、僕はと言うと・・・・・・これと言って思いついていない。強いて言うなら『僕の水を扱った大道芸』か、『僕の作った道具やアクセサリーなどの展示会』ぐらいかな?とは言っても、当日は僕も立場的に忙しい可能性が高いし、やるなら本当に空き時間だけになるかもね。

 

 

開国祭の招待状については、既にドワルゴン国、魔道王朝サリオン、ルべリオスと言った国々に送っていて、今は返事待ちの状態となっている。サリオンやルべリオスはこれに応じるかはわからないけど、ガゼル王であれば快く応じてくれそうな気もする。一応、交易も行ってるし、兄弟弟子って関係性もあるし。他にも、様々な国へと招待状を送っているが、そんな中で僕はリムルに対して、”一人の人物”を招待してはどうだろうか?と進言した。その人物は・・・・・・

 

 

 

 

「ユウキか・・・・・・別に良いと思うが、どうも腹が読めないんだよなぁ〜・・・・・・あいつは」

 

 

 

僕が進言したのは、イングラシア国で自由組合総帥(グランドマスター)をしている、ユウキ・カグラザカさんだった。リムルは何度か顔を合わせており、既に顔見知りの関係でいる様だが、僕はその人に会ったことがなかったので、良い機会だと思って誘う事にしたんだ。リムル曰く、悪い人では無いとのことだし、一度会って親睦を深めてみるのも悪くない。もしも、彼が僕達にとって、今後脅威となる存在であると判断した場合は、それなりの対応をとるつもりでいた。

 

 

 

「(・・・・・・それに、もしかすれば彼の側にはロキやカザリームがいる可能性もある。会えるかは分からないが、会えた時は少し話をしてみるのも良いかもしれない)」

 

 

 

「エリス、本当にユウキを誘うのか?いや、誘うのは構わないんだが・・・・・・あいつもあいつで忙しいし、来れない可能性もあるぜ?」

 

 

 

「それならしょうがないって諦めるよ。あ、せっかくだし招待状は僕が持ってくよ。魔国連邦(テンペスト)の副国主が直接来たってわかれば、彼も対応してくれるかもだし、キミも色々と忙しいでしょ?」

 

 

 

「・・・・・・いや、それは建前で単にイングラシアに行きたいだけだろ?お前、一度も行った事ないもんな?」

 

 

 

ジト目になりつつ僕を問い詰めてくるリムル。・・・・・・はい、図星です。招待状を送るだけなら転送魔法を使えば即座に送れるし。

 

 

 

「ぐっ・・・・・・ま、まぁそれもあるけど・・・・・・とにかく!ユウキさんへの招待状は僕が持ってくから、リムルは事前に自由組合(ギルド)に話を通してもらいたいんだけど?」

 

 

 

「わかったよ・・・・・・ったく。あ、それならついでに学園にいる子供達にも会っていけよ。お前の事は話した事もあるし、行けば喜んで歓迎してくれるはずだぜ?」

 

 

 

「うん。元からそのつもりだったし、そうさせてもらうよ」

 

 

 

何とかリムルを説き伏せることに成功した僕は、内心でにんまりとしながらリムル直筆の招待状を受け取った。その後、リムルはユウキさんと連絡を取り、会う約束を取り付けてくれたのでこれで問題無くユウキさんに会うことができる様になった。本当は、自由組合(ギルド)の本部は冒険者ランクがBランク以上の人しか入れないんだけど、今回は特例と言うことで僕でも入る事は認可されるので、僕はホッと胸を撫で下ろすのだった。

 

 

 

ちなみに、僕も以前にブルムンド国に行った際に冒険者登録を済ませていて、その証であるカードも持っているのでイングラシア国にも問題無く入れる。だけどそのランクはE。実地試験で狩猟犬(ヘルハウンズ)を見事に倒してみせ、本当はさらに上位のランクに昇格できる試験にも挑戦できたんだけど、僕的には身分証の代わりになるものが欲しかっただけなので、そこで止める事にしておいたんだ(リムルはBランク)。今にして思えば、受けていても良かったのかもしれない・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

視点 三人称

 

 

 

 

「失礼します」

 

 

 

「うん。よく来てくれたね、ロキ」

 

 

 

イングラシア王国自由組合本部。その中にあるユウキの執務室に、彼に呼ばれたロキが一声かけてから中へと入ってくる。あれからロキは、自分の帰る城も領地も失ってしまった事もあって、今は主であるカガリやユウキと共に行動をしていた。

 

 

 

「ロキ、ご苦労様。遺跡内の地図の作成や発掘品の解析、その他の遺跡内で得た情報の整理は順調かしら?」

 

 

 

「はい。地図は大体仕上がり、発掘品に至っては一部は競売品として売り出そうと検討しています。情報をまとめた書類はこちらに御座いますので、後で目を通していただければ・・・・・・はぁ」

 

 

 

ため息を吐きながら、懐から遺跡の情報が纏められた書類を何枚か取り出したロキは、それをユウキの机の端に置いた。

 

 

 

「ん?大丈夫か?なんか疲れてる様に見えるけど?」

 

 

 

「いえ、問題ないです。ただ思うところがあるとするなら、遺跡の探索は別に私まで行く必要は無かったのでは?・・・・・・と思っていまして。行かなくても仕事ぐらいは出来ますし・・・・・・」

 

 

 

「また言ってるの?前にも言ったでしょう?ワタクシはあなたと一緒に遺跡探索に行ってみたかったからだって」

 

 

 

「それはそうですが・・・・・・はぁ〜」

 

 

 

再び深いため息を吐いたロキ。彼の今の仕事はこの二人の補佐であり、書類関係のまとめや整理、各地への情報収集だけで無く、時には受付やクエストの受注、街中の警備までもこなしたりする。このように、幅広く仕事をしている事もあってその仕事ぶりは既に自由組合では知れ渡っている程に有名となっている。元々、頭が良かった事もあり、この程度のことであれば造作もないのだとか。だが、こうしてたまにだが、カガリの付き添いという名の連れ回しで各地の遺跡探索まで行っているので、当然彼の疲れも溜まるし呆れてしまうのも納得だろう。

 

 

 

ちなみに、今置いた書類はこの前、カガリと共に世界最大級の古代遺跡”ソーマ”を踏破した際に得た情報が掲載されている。

 

 

 

「お疲れ様。で、キミを呼んだ理由なんだけど・・・・・・ついさっき、リムルさんから連絡が入って、三日後にここにエリスさんが招待状を届けにやってくるらしい」

 

 

 

「招待状?」

 

 

 

「何でも、魔国連邦(テンペスト)の開国を祝って盛大な祭りを開くんだってさ。それに出席するための招待状をエリスさんがわざわざここまで届けに来てくれるって訳」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

エリスが来ることを知ったロキは、少し表情を和らげる。彼にとって、エリスは命の恩人でありこの『ロキ』と言う名をくれた名付けの親でもある。自分を殺そうと思えば殺せたはずだと言うのに、それでもそうはせずにこうして自分を大切な仲間の元へと帰してくれた恩人。そんな彼が遥々来てくれると言うのだから、彼とて多少は嬉しくなる物なのだろう。

 

 

 

「ふふ。ちょっと嬉しそうね?彼に会うのはいつぶりくらいなの?」

 

 

 

魔王達の宴(ワルプルギス)で会ったのが最後ですので、かなりの期間が空きます」

 

 

 

「そっか。なら、会ったらあの時のお礼もちゃんと言っておいた方が良いぜ?僕もエリスさんにはお礼もそうだけど”話したいこと”があったし」

 

 

 

「・・・・・・話したいこと?」

 

 

 

唐突なそのユウキの発言に、ロキは首を傾げる。ユウキやカガリが、次にエリスにあった際にはきちんと自分を助けてくれたお礼をしたいと話していたことはロキも知っているが、ユウキの言うその『話したいこと』・・・・・・に関しては初耳だったので、どうしても気になってしまうのだろう。

 

 

 

「雑談みたいなものだよ。特別おかしな話をするわけじゃないし、心配しなくていいぜ?」

 

 

 

「・・・・・・?わかりました」

 

 

 

 

どうも腑に落ちない様子のロキだったが、結局追求せずに終わった。その後の話し合いで、ロキが本部の入り口付近でエリスを出迎える事となり、ロキは久方ぶりに再会するエリスを想いながら、胸を昂らせるのだった。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

視点 エリス

 

 

 

 

「はぁ〜・・・・・・ここがイングラシア王国か。初めて来たけど、まさかここまで大きな国だったなんて・・・・・・」

 

 

 

それから数日後、リムルから受け取った招待状を大事に懐にしまった僕は、イングラシア王国へと足を踏み入れていた。ここへはリムルに転移魔法で送って貰ったので来るのは、一瞬だった。一応、護衛としてヒョウガ、セキガ、カレンを影の中に忍ばせているので、身の安全については保証されている。門前で衛兵の人に身分証である冒険者カードを見せ、無事に中に入れた僕は、初めて目にするイングラシア王国の街並みに面食らっていた。

 

 

魔国連邦(テンペスト)よりもはるかに発展してるっていうのは明確。魔国連邦(テンペスト)には少ないガラス張りの建物も多くあるし、店だって所狭しと並んでいる。衣食住についても見た限りでは潤いを見せているし、何より人が沢山いて賑わっていてまさに”都会”・・・・・・って感じだった。

 

 

 

「街中の警備についても、西方聖教会所属の衛兵達にさせる程に徹底するくらいだし、流石は世界でも有数の巨大国というべきか・・・・・・」

 

 

 

よく見ると、賑わう一般人に紛れて銀色に輝く鎧を着た衛兵が何人か警備の為に立っているのが見える。それもあってか、街中では特段問題事は起こっておらず、治安の良さが見て取れた。・・・・・・良かった。これなら、僕も安心して散策ができ・・・・・・

 

 

 

「おっ!良い女発見!ねー、そこの()()()()()()()?今から俺と楽しい事しない?俺、良い店知ってるんだぜ?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

・・・・・・前言撤回しようかな?普通に、ガラの悪い冒険者に絡まれました。しかも、女扱いしただけでなく、気安く肩を組んできながら・・・・・・。

 

 

 

「僕、急いでますので・・・・・・」

 

 

 

「まぁまぁ、そう言わずに・・・・・・って、うおっ!?近くで見るとマジで美人さんじゃんっ!こりゃ、今日の俺は運がいいぜ〜・・・・・・」

 

 

 

気持ち悪い声を出しながら、顔を真っ赤に染め上げるこの男性に、僕は溜め息を吐く。確かに、今の僕は魔素を道具なしで抑えられるようになってるから、仮面とかで顔を隠さずにここに来ちゃってるけど、来て早々にこうやって絡まれてしまうと、やっぱり顔を隠してくるべきだったとひどく後悔をしてしまう。・・・・・・今度、というか直ぐにでも仮面をつけた方が良さそうだね・・・・・・この男を撒いてから。

 

 

 

「おい、あれって、Aランク冒険者のモビーじゃねぇか?”女遊び”で有名な・・・・・・」

 

 

 

「ああ。・・・・・・どうする?衛兵、呼ぶか?」

 

 

 

「衛兵じゃ歯が立たねぇよ。あんなんでも、Aランク冒険者だ。返り討ちにされて終わりさ」

 

 

 

「じゃあどうすんだよ?このままだと、あの女性は・・・・・・」

 

 

 

周りの人も、気が付いたのか遠目で見ながらソワソワとしていたが、誰もこれを止めにくる人はいなかった。周りの人曰く、この人は冒険者としてはかなりの実力者であるAランクの冒険者であり、下手に止めに入れば自分が怪我をする事も考え得るので、止めに入ることが出来ないんだろう。衛兵の何人かもこの騒ぎに気づいた様子だが、騒動の原因がこの人だということが分かると、すぐさま”何処かへ連絡を入れる”だけで止めに入ってくることはしなかった。

 

 

 

『主様。この無礼な輩は、ワタシが排除しても?』

 

 

 

『いや、ここはオレに任せてくれよヒョウガ?』

 

 

 

『二人とも狡いよ?エリス様、ここは私がなんとかします』

 

 

 

『そうして貰いたいけど、キミ達が出てくると色々問題になるでしょ?』

 

 

 

僕の影の中にいる3人が、こぞって僕を守ろうと外に出てこようとしているのを、やんわり止める。そうして貰いたい気持ちもあるけど、こんなに大勢の人間達がいる前で魔物である3人が出てくればパニックになるのは分かりきっているからね。

 

 

 

とはいえ、困っているのも事実。最悪、強引にでも振り切って仕舞えばいいか・・・・・・はぁ。

 

 

 

「急いでいると言っているでしょう?あまりにもしつこいなら、いい加減に怒りますよ?」

 

 

 

「怒った顔もいいなぁ!・・・・・・なぁ、いいから行こうぜ?お姉さんだって、痛い目は見たくはねぇだろ?」

 

 

 

焦ったくなったのか、とうとう武力行使に出てきた。持っていた短剣を僕の眼の前にチラつかせながら、僕を脅迫してくる・・・・・・。ふぅ、言っても聞かないようだし、軽くあしらってさっさと逃げよう。

 

 

 

また一つ溜息を吐いた僕は、眼の前の短剣を取り上げようと行動に移そうとした。

 

 

 

だが・・・・・・その時、この場に”一陣の風”が吹く。風のせいで髪が靡くのを手で抑えながら、いきなり現れたこの風の発生源となった”茶髪の男”に目をやった。

 

 

 

「全く・・・・・・貴方のようなクズな輩に構っていられる程、私は暇では無いのですがね?」

 

 

 

「あん?いきなりなんだ・・・・・・っ!?お、お前は・・・・・・!」

 

 

 

冒険者の男は、現れたこの人を見るや否や、さっきの態度が嘘のように顔を真っ青にしながら、ゆっくりと後ずさっていた。だが、この人はそんな彼に目もくれず、静かに僕へと視線を向けてきた。

 

 

 

「・・・・・・やれやれ、こんな場でお会いすることになろうとは・・・・・・。お久しぶりです、エリス殿」

 

 

 

「あはは。助けてくれてありがとうございます。・・・・・・久しぶりですね、ロキさん」

 

 

 

困っていた僕を、見事にかっこよく助けに来てくれた()()()()()()。女であるなら絶対に惚れるであろう彼は・・・・・・以前、僕が命を助けたロキだった。

 

 

 

この場にロキが駆けつけてくれた事にホッと胸を撫で下ろした僕は、途端に肩から力が抜け落ちるのだった。




エリスを助けたのは、絵にも描いたような白馬の王子様でしたーー!!・・・・・・まぁ、ロキですけど。なんで彼がこの場に駆け付けてくれたのかは次回で明らかにしますが、なんとなく想像付いてる人もいるかも知れないです。

次回は、ようやくエリスがユウキとカガリと面会しますのでお楽しみに!後、ちょろっとロキの力についても触れるかもです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エリスとユウキ

最後の投稿から、あまりにも時間が空き過ぎてしまいました・・・・・・。


色々と忙しかったのと、執筆する気力がなかったのが原因です。


 

 

 

「ふぅ・・・・・・『街中で綺麗な女性が襲われている』と知らせを受けて来てみれば・・・・・・まさか貴方だったとは」

 

 

 

「面目ないです」

 

 

 

呆れたようにため息を吐いたロキは、そのまま目の前の男に目を向け、軽く威圧した。

 

 

 

「さて、冒険者モビー?私は以前にも貴方には注意をしましたよね?『これ以上この国で問題事を起こすなら、それ相応の対応を取らせて頂く』と」

 

 

 

「う、うるせぇ!俺はA級冒険者としてこの国に貢献してやってるだろうが!この前だってでっかい飛竜を仕留めて・・・・・・」

 

 

 

「そんな事は関係ありません。誰であろうと、この国で問題行動を起こす輩は放置出来ない。これまではAランク冒険者という事もあって、渋々目を瞑っていましたが・・・・・・どうやら、貴方を甘やかし過ぎたようですね?」

 

 

 

少し怒ったように言葉を発したロキは、咄嗟に男の背後へと回る。その間、約コンマ1秒。

 

 

 

「っ!消え・・・・・・がっ!?」

 

 

 

「貴方を犯罪者として拘束させて頂きます。抵抗出来ないように、肩の関節を外させてもらいますよ?」

 

 

 

「ごがっ!!ぎゃぁぁああっ!!!やめてくれぇっ!!!」

 

 

 

背後に回ったと同時に男を組み伏せたロキは、そのまま彼の両肩の関節を外し、そのまま両手と両足に枷を付けた。・・・・・・やる事が意外とエグい気がする。

 

 

 

「警備隊の皆さん・・・・・・できればこう言った事は、あなた方のみで対応をしてもらいたいものです。私は警備隊では無いのですから、安易に頼られても困ります。私も暇では無いのですよ?まぁ、これは貴方たちに限った話ではありませんが」

 

 

 

「毎度毎度、申し訳ございません・・・・・・」

 

 

 

自分達の醜態をロキに指摘され、すっかり縮こまってしまう警備隊の人たちは、ロキに謝罪をしながら男を連行していった。うん、この反応を見るに、ロキはこの国でかなり頼りにされていると見える。それでいて、彼もなんだかんだ言いながらも、彼らを助けるべく動いてくれているのだろう。

 

 

 

 

 

 

「随分と頼りにされてるんですね?」

 

 

 

「それは否定しませんが、そんなに頼られても困ると言うものです。少しは自分達の力でなんとかして貰わなければ、彼らのいる意味が無くなってしまいます」

 

 

 

「でも、そう言う割にどこか嬉しそうに見えるのは僕の気のせいですか?」

 

 

 

「・・・・・・貴方のそう言うところは本当に苦手です。まぁ、それについても否定するつもりはありませんが・・・・・・っと、立ち話も何でしょうし、自由組合(ギルド)へと案内いたしますので私について来てください」

 

 

 

話を区切ったロキは、自由組合(ギルド)へと僕を案内すべく歩を進め、僕もそれに続く。

 

 

 

「今はユウキさんの元で働いているんですか?」

 

 

 

「ええ。正確には、ユウキ様と()()()()の元で働いております」

 

 

 

「・・・・・・カガリ?あぁ、カザリームさんのことですね?」

 

 

 

ふと出たその名前に、僕は軽く反応する。やはり、リーテさんの言ったようにカザリームは名前を変えて今は過ごしているらしい。

 

 

 

「・・・・・・?なぜその事をご存知で?この事実を知るのは中庸道化連の者どもぐらいだとばかり思っていましたが?」

 

 

 

「少し前に、貴方の頭の中をのぞかせて貰った際に、その情報を得たんですよ。僕の魂の系譜に連なる者であれば、誰でもそう言ったことが出来るので。無許可でのぞいてしまって申し訳ないですけど・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・それについては後で言及させて頂きますが、とりあえずその事に関しては他言無用でお願いします。先ほども言ったように、この事実を知るのはごく少数ですので」

 

 

 

「分かりました」

 

 

 

そんな感じで、自由組合(ギルド)に向かう道中は、僕と彼はひたすらに会話を続け、今まで話せなかった事をたくさん話したこともあってか、彼と少しだけだが親睦が深まったような気がした。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

 

「ユウキ様、エリス殿をお連れしました」

 

 

 

「ご苦労様。入ってくれ」

 

 

 

自由組合(ギルド)に無事に着いた僕は、ロキの案内の元、ユウキさんの執務室まで来ていた。当たり前だけど、ブルムンド国で見たような冒険者ギルドとは比べ物にならないほどに、この自由組合(ギルド)は大きく綺麗であり、最初に目にした時には少々驚いたほどだ。流石は本部と言うべきだろう。

 

 

 

「失礼します」

 

 

 

ドアの前で一言声をかけたロキが、執務室へと入っていったので僕もそれに続いて中へと入る。

 

 

 

「遠路遥々ありがとうございます。初めまして、自由組合総帥(ギルドマスター)のユウキ・カグラザカと言います。お会いできて光栄です、エリスさん」

 

 

 

「それはこちらのセリフですよ。魔国連邦(テンペスト)副国主のエリス・テンペストです。よろしくお願いします」

 

 

 

中で待っていたのは、ロキの今の主人であるユウキさんと、カガリさんだった。ユウキさんは、先程まで仕事でもしていたのか、若干疲れている様子に見える。その証拠に、彼の仕事机の上にはすでに確認が終わったように思える書類が多く積み重ねられていた。

 

 

カガリさんに至っては、ユウキさんと僕の為か、ティーカップに紅茶を入れていた。その所作はかなり慣れた手つきであり、テスタロッサやカレンにも引けを取らないかもしれない。こう見ると、とてもじゃないけど元魔王だとは思えないな。見た目もかなり綺麗で、賢そうなエルフの女性って感じだし。

 

 

 

「あそこにいるのは僕の秘書のカガリ。カガリ、自己紹介を」

 

 

 

「申し遅れました。ユウキ様の専属秘書であり自由組合(ギルド)副総帥(サブマスター)を任されている、カガリと申します。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 

 

「こちらこそ」

 

 

 

こんな感じで軽く二人に挨拶をした僕は、ロキの案内で近くの座椅子に腰掛けた。カガリさんは目の前のテーブルに紅茶と茶菓子を置くと、その場から離れ、ロキは僕の隣で手を後ろに組みながら静かに立っていた。

 

 

 

「さて、早速ですがこれが開国祭の招待状です。どうぞ、お納めください」

 

 

 

「ありがたく頂戴します」

 

 

 

向かいの席に座ったユウキさんに、早速リムルから預かった招待状を渡すと、ユウキさんはそれを広げて一読する。その間、僕はカガリさんが淹れてくれた紅茶を味わっていた。

 

 

 

「(うん、すっごく美味しいな・・・・・・。今まで飲んできた紅茶とはまた違うこの味と香り・・・・・・一体どんな茶葉を使ってるんだろ?)」

 

 

 

「・・・・・・すっごく美味しそうに飲んでくれてますね?そんなに美味しかったですか?」

 

 

 

紅茶にそんな感想を抱きながらにんまりしていた僕に対して、招待状を読み終えたユウキさんが微笑ましそうに、僕の顔を覗き込んできた。

 

 

 

「ええ、今まで味わったことのない紅茶に少し感動してました。カガリさん、こんな美味しい紅茶を淹れてくれてありがとうございます」

 

 

 

「そう言ってもらえてワタクシも嬉しいですわ。おかわりもありますので、欲しければ言ってください」

 

 

 

何となく、今まで無表情だったカガリさんの表情が緩んだ気がするが、今は気にしない事にした。

 

 

 

「それにしても・・・・・・リムルさんも言ってたけど、改めて見るとエリスさんって”本当に綺麗で美人な女性さん”ですよね?」

 

 

 

「ソウデスカ、アリガトウゴザイマス」

 

 

 

とうとう、否定するのも諦めた僕である・・・・・・いや、やけくそになったと言った方が正解かもしれない。

 

 

 

「はは、冗談ですよ。リムルさんから貴方が男性だという話は聞いてますから」

 

 

 

「・・・・・・あんまり弄ると怒りますよ?」

 

 

 

「エリスさんにだったら一回ぐらい怒られても悪い気はしないような・・・・・・」

 

 

 

「そうですか♡じゃあ、この後そこで正座して待っていてください。僕がたっぷりとお説教して差し上げますから♡」

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!さっきの発言も冗談ですから!カガリもロキも見てないで何とか言ってくれよ!?」

 

 

 

「「ユウキ様が悪いです」」

 

 

 

ギルマスとは思えないほどに、焦った様子のユウキさんが必死にカガリさんやロキに助けを求めるが、即見捨てられた。・・・・・・別にそんなに焦らなくとも、流石にギルマスに対して偉そうに説教をすると言う無礼なことはしないんだけど。

 

 

 

 

その後も、僕はユウキさん達と国のことやら自由組合(ギルド)のことやらについて色々と語り、ロキ同様に親睦を深める事に成功した。ひとしきり喋り、そろそろお暇しようと席を立とうとした僕だったが、その前にユウキさんが発した一つの発言に、僕は少し動揺した。

 

 

 

 

 

 

 

「エリスさんは、ロキの正体を知ってますよね?・・・・・・それについての話をしませんか?」

 

 

 

 

 

そのように言う彼は、おかしいと思えるほどに・・・・・・笑顔だった。




ロキの能力に触れるのは次回になります。

次回はユウキがエリスに対してどんな話をするか・・・・・・?よからぬことであることは間違い無いと思いますが?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

両者の探り合い

何とか前程には期間を空けずに投稿出来た・・・・・・。





 

 

 

 

「・・・・・・ロキさんがここにいる時点で何となく予想はしてましたが、やっぱり貴方は中庸道化連と繋がりがあったんですね?」

 

 

 

「まぁ、そんなところです。それで、どうします?」

 

 

 

「・・・・・・良いですよ。僕も貴方に聞きたい事も今、出来ましたし」

 

 

 

ユウキさんのその申し出に、僕は軽く頷きながら話し合いに応じる旨を示す。

 

 

 

「まず、始めに聞かせて貰えませんか?」

 

 

 

「はい、どうぞ?」

 

 

 

魔国連邦(テンペスト)を襲うよう、ロキやファルムス王国を焚き付けたのは、貴方ですか?」

 

 

 

「もし、そうだと言ったら?」

 

 

 

「貴方への今後の対応を考えさせていただきます」

 

 

 

僕の質問には答えずに、ただただ濁したユウキさんに少々の憤りを見せながら淡々とそう口にする。当然だろう。あれほど酷い事をして、住民達を危険に晒した黒幕と誰が共に行動をしたいと思うだろうか?

 

 

 

「エリス殿、あれに至っては私が独断で勝手にやった事。ユウキ様やカガリ様には一切関係ありません」

 

 

 

そんな中、ロキがフォローを入れるべく、話に割って入ってくる。

 

 

 

「・・・・・・ロキさんの言う事に差異は?」

 

 

 

「全く関わっていないと言えば嘘になりますけど、少なくともあの一件に関してはロキに一任してたので、僕は何もしていませんよ?」

 

 

 

「・・・・・・そうですか」

 

 

 

あっけらかんとした様子で語るユウキさんだが、どうにも僕には彼が胡散臭く思えてしまう。ロキの言うことも事実なんだと思うけど、どうにもそれだけじゃ無い気がして・・・・・・。

 

 

 

「(リムルが腹が読めないって言うのも納得だ。この人、本当に何を考えてるか分からないや・・・・・・)」

 

 

 

「(ふぅ・・・・・・なるほど。一見納得したように見せてるけど、全然納得して無いなこの人。・・・・・・この人には注意が必要だな。僕の表面だけでなく、その腹の奥の隅々までを見通してくる。ある意味、リムルさんより怖いかもしれない)」

 

 

 

少しの間沈黙が流れ、執務室内がしんと静まり返る。そんな時だった。

 

 

 

「これをどうぞ。紅茶には甘いお菓子が一番ですので」

 

 

 

カガリさんが、僕たちの目の前にお皿に大量に盛られたクッキーを置いた。ミルク風味の物やチョコレートが混じった物、ナッツが入った物など、様々なクッキーがあることが見て取れる。

 

 

 

「ありがとうございます。ちょうど甘いものが欲しかったところです」

 

 

 

「いえ、お礼を言うのはこちらの方ですわ。エリス様、此度は本当にありがとうございました」

 

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 

唐突なカガリさんからのお礼の言葉に僕は首を傾げる。

 

 

 

「ロキを助けてくれた件についてですよ」

 

 

 

「おい、カガリ?今それを言うと・・・・・・」

 

 

 

「大丈夫ですよ。既に貴女の正体ことは存じ上げておりますから。ロキの件については、僕はあくまでも自分勝手に彼を助けたに過ぎませんので、お礼を言われる筋合いはありませんよ・・・・・・()()()()()()()?」

 

 

 

「「っ!?」」

 

 

 

《告。個体名ユウキとカガリから微力の敵意が感知されました。臨戦態勢を取ることを推奨します》

 

 

 

僕がカガリさんの正体を言い当てた事実に、ユウキさんとカガリさんの表情が強張る。ロキは既に知っていた事もあって、驚くような様子は見せなかった。

 

 

 

「・・・・・・だとしてもです。あなたにどんな考えがあったのかは分かりませんが、それでもロキを助けてくれた事に変わりはありませんから。・・・・・・もう一度言わせてください。本当に・・・・・・ありがとうございました」

 

 

 

「分かりました。このお礼は素直に受け取っておきます」

 

 

 

動揺した様子だったが、それでも再び僕へのお礼を述べたカガリさんに流石の僕も折れる事にし、そのお礼はありがたく頂戴しておいた。

 

 

 

「エリスさん?カガリの正体をどこで?・・・・・・この情報を知るのは」

 

 

 

「中庸道化連の一部の者達のみ・・・・・・でしょう?先ほどロキさんから聞きましたよ?」

 

 

 

「っ!?ロキっ!」

 

 

 

僕の口からロキの名が出た途端、ユウキさんは鋭い眼光をロキに向けた。

 

 

 

「ロキさんを責めないでください。ロキさんは決して自分からその情報を話したわけではありませんから」

 

 

 

「そうですね。あなたは私の許可なしに勝手に私の頭の中を覗いて、勝手にその大事な情報を得たのですから?」

 

 

 

「・・・・・・すみません」

 

 

 

今度はロキから僕へと鋭い眼光が飛んできたので、少し萎縮しながら彼へと謝罪をした。

 

 

 

「つまり貴女は・・・・・・ロキの脳の中であればどんな情報も抜け出せると言う事ですよね?まさか、それ以外の情報も盗んでいたりしませんか?」

 

 

 

「いえ、僕が得たのはカガリさんの正体ぐらいですよ。・・・・・・その様子からして、盗まれると困るような情報でもありそうに見えますが?」

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

 

 

痛いところをつかれたのか、ユウキさんが表情を曇らせた。

 

 

 

「ふっ・・・・・・心配しなくとも、これ以上情報を盗んだりするつもりなんてありませんよ。誰にだって、知られたく無いことの一つや二つぐらいはあるものですから」

 

 

 

「そうですか。それならいいんですが・・・・・・」

 

 

 

僕のその言葉にホッとしたのか、ユウキさんは胸を撫で下ろした。

 

 

 

「で、話を戻しますけど、あなたは魔国連邦(テンペスト)の襲撃の件に関しては関与はしていない、と言うことで間違いありませんか?」

 

 

 

「ええ、その通りです」

 

 

 

「そうですか。ならば、これ以上は言及しませんが、万が一にでも今後の調査であなた達の関与が確認できたとするなら、あなた達への対応も変えさせていただきますのでそのつもりでいて下さい。国主(リムル)がなんと言おうともです」

 

 

 

「(っ?・・・・・・へぇ、なるほど?)・・・・・・肝に銘じておきますよ」

 

 

 

そう口にしたユウキさんは、喉を潤す為か紅茶を口に含む。僕が今言ったことは紛れもない本心であり、ユウキさん達が僕たちに仇なす敵だと認識した時には速やかに交流を絶つ覚悟でいた。国を統治するものとして、国や住民達に危害を加えそうな輩達と交流するなど看過する事はできない。

 

リムルだって、多少であれば僕が独断の判断をしても怒りはしないだろうから。

 

 

 

 

「さて、そろそろ僕はお暇します。この後、少し予定があるので」

 

 

 

「確か、リムルさんの教え子達に会って行かれるんですよね?でしたら、くれぐれも開国祭の事は内密にしておいて下さい。出来ればギリギリまで内緒にしておきたいので」

 

 

 

「子供達も招待していいんですか?」

 

 

 

「勿論ですよ。リムルさんやあなたの国であれば危険など無いでしょうし、子供達もきっと喜びますよ」

 

 

 

・・・・・・この人のこの自信はどこから出てくるのか。とはいえ、子供達を開国祭に招待するのは僕も賛成だ。

 

 

 

「本当は僕が案内したいところですけど、僕も今は少し忙しいから・・・・・・ロキ、学校まで案内を頼んでいいか?」

 

 

 

「はっ、お任せを」

 

 

 

リムルから聞いてたのか、ユウキさんはロキに僕の案内を頼むと、挨拶も控えめに執務へと戻っていった。それを見た僕はロキと共に部屋を出て、子供達のいる学園へと歩を進めるのだった。

 

 

 

 

その道中・・・・・・

 

 

 

「(ねぇ、リーテさん?気のせいか分からないけど、ロキさん・・・・・・前会った時と比べて随分と強くなってるような気がするんだけど?)」

 

 

 

僕の前を歩く、ロキさんを見て僕はリーテさんに質問していた。

 

 

 

《解。個体名ロキの体内保有魔素量が、以前に比べて大幅に増量しています。主人(マスター)が仰せのように、ロキは以前よりもかなり力を付けていると推測します》

 

 

僕の推測通り、リーテさんから同じ意見が返ってくる。

 

 

 

「エリス殿?何か考え事でも?」

 

 

 

「いえ、ただロキさんが前会った時と比べて随分と逞しく、強くなっていると思えて仕方がなくて・・・・・・」

 

 

 

「ああ、それは私のスキル『好意者(スカレルモノ)』が原因でしょう」

 

 

 

「『好意者(スカレルモノ)』・・・・・・?」

 

 

 

ロキの口から出た聞いた事のないスキルに僕は首を傾げる。

 

 

 

《解。ユニークスキル『好意者(スカレルモノ)』はスキルの保持者が対象を問わず、誰からも好意を抱かれやすくなるスキルです。好意の量が多ければ多いほどスキル保持者は魔力量や魔素量、身体能力や自己治癒能力といったあらゆる能力が向上します》

 

 

 

「(やたらとロキが強くなってたのと、いろんな人から慕われてたのはそれが原因か・・・・・・)そのスキルはいつから?」

 

 

 

「私にも詳しい事はよく分かりません。気が付いたらこのスキルを持っていたので」

 

 

 

「(リーテさん、分かる?)」

 

 

 

本人にもそのスキルを会得した時期が分からない様子に、僕は徐にリーテさんに聞いてみることにした。

 

 

 

《解。主人(マスター)の分身体にロキの魂が憑依した際に、このスキルを会得しています。ロキの”内に秘めた気持ち”と、主人(マスター)のロキを助けると言う強い気持ちが合わさった事で、スキルを会得したのだと推測します》

 

 

 

「(そうなんだ〜・・・・・・ん?内に秘めた気持ちから?ロキって、前から人に好かれたいって思ってたの?)」

 

 

 

《・・・・・・》

 

 

 

リーテさんはそれに関しては何も言わなかった。うん、触れるなって事か。

 

 

 

「ま、まぁ良いじゃないですか。理由はどうであれ、そんな良いスキルが手に入って、尚且つみんなから慕われる様になったんですから」

 

 

 

「・・・・・・私からしてみれば、あまり好かれすぎても迷惑でしか無いのですがね?」

 

 

 

少し顔を赤めながら、ツンツンとした様子でさっさと歩いていってしまうロキさんを見て、思わず”可愛い”と思ってしまった事は本人には内緒だ。

 

 

 




「ふぅ・・・・・・思ったよりも疲れた」


「お疲れ様。それで、どうだったの?あのエリス=テンペストは?」



「かなりのクセ者であって、厄介な人だってのはよく分かった。力がとかじゃなくて、あの人の観察眼、読心力そして頭のキレ・・・・・・どれを取ってもかなりの脅威だった。正直、敵には回したくない」



「・・・・・・そうね。で、結局あの人をこちら側に引き込むのかしら?」



「エリスさんと僕達はとてもじゃないけど、合う関係にはなれない。少し話をしただけだが、それぐらいは分かった。こちらにスカウトするのは()は到底無理だろうぜ?」



「・・・・・・?()は?」



「そのうち分かるさ。そのうち・・・・・・な?ふふふっ・・・・・・」



カガリ曰く、その時のユウキはいつも以上に”黒く不気味な笑顔”を浮かべていたそう・・・・・・。




次回はいよいよエリスが子供達と会います。エリスに初めて会った時の子供達の反応にも注目です。


後、ロキのユニークスキルの補足ですが、あくまでこのスキルは誰彼構わず好意を抱かれるという訳ではなく、好かれやすくなるというだけなので、スキルの保持者が悪どい事をしたり、嫌われるような事をすれば普通に悪意を向けられます。

何が言いたいのかというと、ロキが他者から好かれたり慕われているのは、決してこのスキルだけのおかげではないという事です。本人がしっかりと改心して他者の為に自分ができる事をしてるからこそ、今の彼が慕われているのでしょう。

今後の彼の成長がどうなるのか、見守っていてください。



ユニークスキル『好意者(スカレルモノ)

スキル保持者が対象を問わず、好かれたり慕われやすくなる。好意を向けられる人数が多ければ多いほど保持者の各種能力が向上する。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

子供達との触れ合い

エリスと子供達の絡みがあります。


 

 

「着きましたよ?ここが我がイングラシアが誇る組合員育成機関、自由学園です」

 

 

 

本部を出て数十分、僕達は自由学園へと到着する。本部や他の建物とはまた違った構造で校舎が作られている事もあって、どこか落ち着く印象が湧いてくる。

 

 

「良いところですね。ここなら子供達も安心して暮らせているんじゃないですか?」

 

 

 

「そうですね。血気盛んなのは相変わらずですが、最近は勉強にも精を出し始めているので、私も感心しています」

 

 

 

「ロキさんもここにはよく来るんですか?」

 

 

 

「臨時として彼らの教師をする機会が何度かありましたので、足を運んだ事はありますし面識もありますよ?」

 

 

 

「・・・・・・本当に働き者ですね」

 

 

 

当たり前といった風に語るロキに対して、僕は少し呆れていた。そんな多忙で、彼はいつ休んでいるのだろうか?

 

 

 

「私は教頭に取り次いでくるので、ここで暫しお待ちを」

 

 

 

そう僕に伝えたロキは、学園の中へと入っていく。入って数分後、彼から入って良いと促されたので、門番の方に軽く挨拶をした後で僕は校舎へと入った。

 

 

 

「教頭が後でエリス殿にお会いしたいとの事ですが、よろしいですか?」

 

 

 

「構いませんよ?僕もちょっとお話ししてみたいですから」

 

 

 

この学園の教育方針やら歴史やら色々興味深いところも多いわけだし、この際に教頭先生に聞いておくのも悪くないと思う僕だった。

 

 

 

「私が先に入るので、エリス殿は私が呼んだ後で中へと入ってきて下さい」

 

 

 

「分かりました」

 

 

 

頷く僕をみたロキは、ドアを開け教室へと入っていった。

 

 

 

「あ、ロキ!来たんだったら今日こそ俺と戦え!!」

 

 

 

「ロキ先生!今日も色々力の制御の仕方を教えて下さい!」

 

 

 

「久しぶりですね!今日も臨時教師として来てくれたんですか?」

 

 

 

「ロキ先生ってば全然来てくれないんだもん!今日は私の特訓にとことん付き合ってもらうんだから!」

 

 

 

「わ、私もロキ先生から教わりたい事・・・・・・あります!」

 

 

 

ロキが教室に入った途端、5人の子供達が元気の良い声でロキを歓迎する(ほぼ文句だけど)。

 

 

 

「・・・・・・少し落ち着きなさい。それと、ケンヤくん?私の事は”先生”と呼べと何度も言っていますよね?」

 

 

 

「え〜?別に良いじゃんか〜。ロキはロキだろっ!そんな事より、早く勝負を・・・・・・」

 

 

 

「全く・・・・・・。それについては後で考えてあげますから、ひとまずは全員席につきなさい」

 

 

 

「やったぜっ!」

 

 

 

音でしか分からないけど、ロキの一声で5人全員が席についたと思える。ロキの言う事もちゃんと聞いてる様子に、子供達もロキのことは信頼しているのが大体わかった。

 

 

 

「今日は、あなた達にお客様が見えています」

 

 

 

「お客?私たちに?」

 

 

 

「ええ。エリス殿、入って来て下さい」

 

 

 

ロキから呼ばれたので、僕はゆっくりとドアを開けて教室の中へと入った。

 

 

 

「ほへ〜・・・・・・」

 

 

 

「あ、あぁ・・・・・・」

 

 

 

「っ!・・・・・・」

 

 

 

「き、綺麗な人・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

僕を見る子供達の反応はそこまで大きいものでは無かったが、何人かは頬を赤らめているのを僕は見逃してはいなかった。・・・・・・子供達にまで、この反応されるの?

 

 

 

「皆さん、初めまして。僕の名前はエリス=テンペスト。キミたちの知る、リムル先生の友達だよ?」

 

 

 

「あ、そう言えばリムル先生が言ってたような・・・・・・?『俺の友達にめちゃくちゃ可愛くて美人な奴がいる』って。もしかして貴方が?」

 

 

 

「・・・・・・それが僕であってるよ」

 

 

 

反応に困った僕は、何とか笑みを浮かべながら優しく返す。リムルは子供達に何を吹き込んでいるのやら・・・・・・頼むから、これ以上変なことを吹き込まないで欲しい。

 

 

 

「皆さん?エリス殿に自己紹介をしてはどうですか?」

 

 

 

「あ、あぁ・・・・・・そうだったわね。じゃあ私から!アリス・ロンドです!よろしくお願いします!」

 

 

 

「じゃあ僕も。えっと、リョウタ・セキグチです。よ、よろしくお願いします」

 

 

 

「ゲイル・ギブスンです。よろしくお願いします・・・・・・」

 

 

 

「え、え〜っと・・・・・・け、ケンヤ・ミサキ・・・・・・で、す?」

 

 

 

「クロエ・・・・・・オベールです」

 

 

 

5人とも明らかに緊張した様子で、自己紹介を行っていく。う〜ん、この調子だと僕も調子が狂っちゃうし、少し緊張をほぐしてあげるか。

 

 

 

「そうだ。今日はみんなにプレゼントがあるんだけど?」

 

 

 

「プレゼント?」

 

 

 

「そう。今からそれを出すから、見ててね?」

 

 

 

キョトンとする子供達を尻目に、僕は『水支配者(アクアマスター)』を展開する。体の中の水を体内からだして、それを一つの”ペンダントの形”へと変える。僕が作っているのは、前にリムルにあげた”水壁のペンダント”の改良版だ。

 

持ち主に危険が迫った時に水障壁(ウォーターウォール)が発現するだけでなく、僕が新たに開発した水真槍(アクアジャベリン)と言う技が並列発動する様に細工をしてあるいわば、”水壁のペンダント”の上位互換と呼べるペンダントである。水真槍(アクアジャベリン)は敵に向かって多数の水槍が降り注ぐという至ってシンプルな技だ。流石に、『終焉の驟雨(エンド・オブ・ヴロヒー)』程の威力は無いものの、”Aランク級”の魔物ぐらいであれば一瞬で倒せるくらいの威力は持っている。また、一回発動しても一定時間が経てば何度でも使用が可能なので、前よりもさらに便利になってたりもする。

 

 

それを5つ作った僕は、子供達の机の上にゆっくりと置いた。

 

 

 

「わ〜!綺麗なペンダント!なんかキラキラしてて素敵!」

 

 

 

「こんな良いもの、貰って良いんですか?」

 

 

 

「勿論。言ったでしょ、プレゼントだって」

 

 

 

5人が目をキラキラさせながら、ペンダントを眺めているのに内心で嬉しくなった僕は、薄く笑みを浮かべる。本当は男の子達には『水聖剣』でもプレゼントしようかと思っていたけど、等級で言えば特質級(ユニーク)ぐらいはありそうな剣を子供達にあげるのは流石にどうかと思ったので、それはやめておいた。

 

 

《否。『水聖剣』は等級で言えば伝説級(レジェンド)に匹敵する威力と硬度を誇ります。今、主人(マスター)が作ったペンダントも同様です》

 

 

 

リーテさん曰く、そう言うことらしい。こんな小さな子供達に伝説級(レジェンド)の代物渡しちゃってるけど・・・・・・後でロキさんとかリムルにどやされないといいな・・・・・・。

 

 

 

「貴女って人は・・・・・・なんて物を子供達に与えているので?」

 

 

 

「ごめんなさい。わざとじゃないです」

 

 

 

案の定、鑑定をしてこのペンダントの情報を得たロキはひどく呆れていた。とりあえず謝っておいた僕は、次の行動に移る。

 

 

 

「さて、キミ達にはそのペンダントをプレゼントとしてあげるけど、プレゼントはまだ終わりじゃないんだ」

 

 

 

「ん?まだ何かくれるのか?」

 

 

 

「と言うよりは、ちょっと見てもらいたい大道芸があるんだ。本当は、違う場で初披露の予定だったんだけど、特別に見せてあげるよ」

 

 

 

ペンダントを興味津々に見つめる子供達に対し、僕は笑みを浮かべると、再び『水支配者(アクアマスター)』を展開する。

 

 

 

「さぁ!生き物達のショーをご覧あれっ!」

 

 

 

僕のその言葉を皮切りに、教室内には僕が作った水の動物や生物、人間といったあらゆる生き物達が意気揚々と飛び回る。簡単に言うと、飛び交うのはクジラやイルカ、サメ、カメと言った海洋生物だけに留まらず、ライオンやトラ、シカやキリン、ゾウと言った陸上生物が主流だ。当然、それら全てが僕が水で作った偽物なのだが、『水支配者(アクアマスター)』の精密な水の操作によって、姿から動きまでを完全再現することに成功しており、水で作られていると言う点を除けば、本物とほぼ遜色は無い。

 

 

この様子は、まさに前世に存在した生き物たちのパレードとも呼べた。

 

 

 

「うげっ!?なんで、ここにサメがっ!く、喰われるっ!?」

 

 

 

「キリンだ!もう見れないって思ってたのに・・・・・・」

 

 

 

「人間までいるし、動きから何までリアルすぎる・・・・・・。これ、本当に水で出来てるの?」

 

 

 

「イルカさんってこんなに大きかったのね〜!私、元の世界を含めてもこんなにまじかで見るのって初めてかも!」

 

 

 

「すっごく綺麗・・・・・・。思わず見惚れちゃう・・・・・・」

 

 

 

子供達も、久々に見る元の世界の生き物達に興奮した様で、生き物達に釣られるように一緒にパレードに参加していた。うんうん。好評な様で何よりだ。これなら、開国祭で披露しても問題なさそうと確信を得て、僕はホッとする。

 

 

 

「エリス殿、これらの生き物達は存じ上げませんが、私としても非常に美しいと思えます」

 

 

 

「ロキさんにもそう言ってもらえると嬉しいです。どうぞ、最後まで楽しんでくださいね」

 

 

 

ロキにも好評され、ご満悦になった僕はこの後も子供達に存分に大道芸を見せ、子供達を大いに喜ばせたのだった。

 

 

 

ご満悦になって調子に乗ったせいか、某アニメの『伝説の筋肉ゴリゴリ超戦士VS舐めプ合体超戦士』の夢の対決まで再現してしまったのは反省してる(尚、子供達は今まで以上に盛り上がっていた)。




ちなみに、合体戦士はそれに至るまでの”例のポーズ”もしっかりやってます。相手は・・・・・・まぁ、だいたい想像がつくでしょうがあえて言わないでおくことにします。

次回でそろそろ開国祭に踏み込めたらと思っています。



水真槍(アクアジャベリン)

エリスが開発した攻撃技。多数の槍が現れて敵に向かって降り注ぎ、広範囲に攻撃するのに適している。消費する魔素が少ない事もあって、使い勝手がかなり良い。Aランク級の魔物クラスであれば一瞬で倒せる程の威力を持っている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

教師の不在

転スラ3期がもうそろそろ始まります。

楽しみですね!




 

 

「はぁ〜、面白かったな〜・・・・・・。まだまだ見たかったくらいだぜ」

 

 

 

「まるで映画でも見てるみたいだった・・・・・・」

 

 

 

「あれが全部水で再現された物だなんて、にわかには信じられないわね・・・・・・」

 

 

 

全ての大道芸が終わり、子供達はそれぞれ感慨に耽っていた。その様子からして、緊張がほぐれたと見て、僕は胸を撫で下ろす。

 

 

 

「どう?少しは僕の事を知ってもらえたかな?僕はリムル同様の魔物で水を媒体として生きているんだ。ちなみに本来の姿はこれ」

 

 

 

「わっ!水になっちゃったっ!?」

 

 

 

擬人化を解き、水の状態になった僕に子供達はかなり驚いていた。

 

 

 

「リムル先生から聞いてはいたけど、本当に水そのものなんですね?」

 

 

 

「そうだよ。・・・・・・せっかく会えたんだし、質問とかあるなら聞くよ?」

 

 

 

人型に戻った僕は、この際と思い聞いてみることにした。

 

 

 

「はいはいっ!エリスさんってリムル先生より強いの?」

 

 

 

「全然弱いよ?一対一で対決したら間違い無く僕が負けるかな」

 

 

 

自分で言ってて情けなく思えてくるが、事実である以上仕方がなかった。百歩譲って身体能力の面で見ればいい勝負はできるかもしれないが・・・・・・。というか、今のリムルに勝てるのってミリムとかギィさんぐらいしかいない気がする・・・・・・。

 

 

 

「さっきの動物達を見てて思ったんだけど・・・・・・もしかして、エリスさんも私たちみたいに地球での知識も持ってるの?」

 

 

 

「うん。僕の場合は、向こう(日本)で死んでこの世界に転生した身だから、一概にキミたちと同じとは言えないんだけどね?」

 

 

 

そう。僕は転生者だが、この子供達はこちらの世界の者らから不本意な形で召喚されたいわば被害者だ。まるっきり同じと言うわけでは断じてないが、少なくとも故郷は同じだと言う事は確かである。

 

 

 

その後も、子供達からの質問は尽きる事なく僕は憔悴しきるほどに質問攻めにあった。とはいえ、その時間は非常に有意義であり、何より僕も非常に楽しく過ごせたので良かったと思えた。

 

 

 

「それで、エリスさん!実は・・・・・・」

 

 

 

「はい、ストップです。キミたちはそろそろ次の授業の時間でしょう?準備に取り掛かりなさい」

 

 

 

「ええ〜?まだ聞きたい事が沢山あるんだけど?」

 

 

 

「私もエリス殿もこの後に予定があるのですよ。キミ達ばかりに時間を割けない事は分かってください?」

 

 

 

楽しい時間もとうとう終わりが来た様で、ロキから静止の言葉が入った。それに対し、子供達は明らかに不満そうな顔をしながらロキを凝視していた。そんな子供達を見て、ロキはやれやれと言った感じでため息を吐く。

 

 

 

「放課後、キミ達に戦闘の訓練をしてあげますから、そんな顔をしないでください。・・・・・・私と戦いたかったのでしょう?」

 

 

 

「本当にっ!?それなら我慢するっ!」

 

 

 

子供達を悲しませない為か、ロキはそんな提案を口にした。何というか、彼は子供達の扱いにもすでに慣れている様にも見えた。伊達に、子供達の教師はやってないと言うことか。

 

 

 

「ごめんね、みんな?機会があればまた顔を出すから。今回の続きはその時って事で」

 

 

 

その言葉を最後に、僕とロキは教室を出た。その次の機会と言うのは多分、開国際の日になるだろうが子供達にはその日を言う事はできないので、適当に濁しておいた。

 

 

 

教室を出た僕とロキは、教頭先生のいる執務室へと歩を進めている。

 

 

 

「そう言えば、今の子供達の担任は誰がやっているんですか?」

 

 

 

「ティスという女性です。戦闘面に関しては凡愚も良いところですが、座学への精通度で言えば、この学園において彼女の右に出るものはいません。彼らの戦闘の面については今は元Aーランク冒険者のクラウスという男に指導をしてもらっています。年齢は50手前と高齢ですが、腕はかなり立つ実力者であり優秀な教師です」

 

 

 

リムルの後任という事で、それなりのプレッシャーはあった様だが、そのティスさんとクラウスさんという教師はロキの話では立派に子供達を指導出来ているそうだ。

 

 

 

「ですが、ここ最近あの子供達が急激に力を付けてきたらしく、油断すれば彼とて敗北を喫するくらいには強くなっているらしく、自信を失いかけていると教頭から話を聞かされまして・・・・・・」

 

 

 

「元Aランクの冒険者に勝てるぐらいに強くなってるとか・・・・・・ロキさん、大丈夫ですか?」

 

 

 

「私が、あの子供達如きに遅れをとるとでも?」

 

 

 

「いえ、思ってません」

 

 

 

ギロリと音がする程に僕を睨んできたロキに、僕は咄嗟に謝罪する。正式な手段を踏んではいないとは言え、ロキは覚醒魔王。クラウスさんにいい勝負ができる子供達とは言えど、彼にとっては相手にすらならないのだろう。

 

 

 

「まぁ、詳しい事は教頭に聞いて下さい。さぁ、着きましたよ?中へとどうぞ?」

 

 

 

「はい。失礼します」

 

 

 

執務室に着いた僕たちは、ノックを入れた後で中へと入った。

 

 

 

「おお、お待ちしておりました。私が、この学園の教頭を務めているものです」

 

 

 

「エリス=テンペストです。急に訪問をしてきてしまって、申し訳ありませんでした」

 

 

 

「構いませんとも。理事長からは既に聞かされておりましたので」

 

 

 

中にいたのは、少し体が肥えた物腰が柔らかそうな教頭先生だった。僕が入るや否や、すぐさま僕の元へと寄ってきて握手をしてきた。

 

 

 

「教頭。放課後に、子供達に戦闘面での指導を行いたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 

 

「勿論構わないとも。むしろ、毎日やってくれて構わないんだが・・・・・・?子供達が、最近『物足りない』『もっと強くなりたい』とうるさくてね?何だったら座学の方でも」

 

 

 

「私には他にもやるべき仕事があります。そんな毎日毎日、子供達の面倒など見れませんよ」

 

 

 

せがむ様にロキに頼み込む教頭先生に対し、ロキは呆れながらそう返す。

 

 

 

「すまないね、エリス殿。今わかった様に、正直に言って我が学園であの子供達の面倒を見るのが難しくなってきているのですよ」

 

 

 

「はは・・・・・・まぁ、それだけ強くなればそうなるのも無理ないですよね?」

 

 

 

「聞きますが、エリス殿は戦闘面や座学に関してはどれほどの物をお持ちで?」

 

 

 

唐突にそんな事を聞いてくる教頭先生。・・・・・・うん、何となく教頭先生の考えてる事がわかった気がするが、一応答えておこう。

 

 

 

「戦闘面に関しては教えられる程のものを持っている訳ではありませんが、座学であればそれなりに・・・・・・」

 

 

 

「おお!今日お話ししたかったのはまさしくそれでして、良ければあの子供達の教師になって・・・・・・」

 

 

 

「無理です。僕も忙しいので」

 

 

 

問答無用で断ってやった。僕もロキ同様に、副国主としての仕事もあるので教師としての時間を取ることなど出来ない。

 

 

 

「はぁ〜・・・・・・やはり、そうですか。ですが、このままではあの子供達をまともに指導できる教師がいなくなってしまうのですよ。ティス先生もクラウス先生も『手に負えなくなって来ている』と私に伝えに来ていましたから。・・・・・・うむ、どうしたものか」

 

 

 

「・・・・・・(許されるのであれば、魔國連邦(テンペスト)に連れて行けないかな?向こうであれば、ここよりは小さいけど学園はあるし、戦闘訓練においても、ハクロウなどの指南役がいるから申し分ないだろう。とはいえ・・・・・・)」

 

 

 

一つの案を思いついた僕だったが、これについてはここで口に出す事はしなかった。これに関しては、流石に僕の独断で決める訳にはいかないので、帰ってリムルと相談して決めようと思っている。

 

 

 

「僕の方でも、この件については考えておきますよ。教師の一人や二人ぐらいでしたら見つけられるかもしれないですし」

 

 

 

「そうしてもらえると非常にありがたいです。もし見つけた場合には、私に一報を」

 

 

 

「分かりました」

 

 

 

一つそう答えた僕は、軽く挨拶をした後で執務室を出た。ロキもそれに追従する様に外へと出た。

 

 

 

「エリス殿、教頭にあんなこと言っておいて、教師の当てなどはあるんですか?」

 

 

 

「正直、まだわからないです。彼らを指導するとなるとかなりの実力者でなければなりませんから」

 

 

 

「・・・・・・でしたら、今から”私の言う男”を探ってはもらえませんか?その男でしたら、実力も博識も問題ないのですが、今は消息を絶っていて・・・・・・」

 

 

 

ロキから出た思わぬ一言に、僕は思わず足を止めた。ロキがそこまで認めるその男とは一体・・・・・・?

 

 

 

「男の名は”アルヴァロ”。元私の配下であり、九頭獣(ナインヘッド)が入る前まで五本指の筆頭だった男です。私に忠実に従ってくれた配下で、非常に頭がキレる者でした」

 

 

 

「あれ?でも、僕が知ってる限りではそんな人影も形もなかったような・・・・・・?」

 

 

 

「彼に頼り過ぎたくないと言う自分勝手な思いで彼と距離を置き、別の配下達のアルヴァロの悪評を聞かされた私は、すぐさま彼をクビにしてしまいましたので。今にして思えば、なんであんな根拠の無い彼の悪評などを信じてしまったのでしょう」

 

 

 

「いや、何やってるんですか・・・・・・」

 

 

 

そんなくだらない理由でクビにされてはたまったものではない。心底、そのアルヴァロと言う人には同情する。・・・・・・その人がいれば、ロキも以前の様な暴走はしなかったんじゃないかな?

 

 

 

「彼にも会って、しっかりとした謝罪がしたい。・・・・・・虫のいい話だとはわかっていますがエリス殿、どうか協力してはくれませんか?」

 

 

 

「あなたの気持ちはよく分かりました。・・・・・・僕の方で、探ってみますのでちょっとの間待ってて下さい。見つけ次第に連絡しますので」

 

 

 

「ありがとうございます。良ければ、これを。彼がいなくなる前に私にくれた物です。捜索の助けになるかと」

 

 

 

そう言いながらロキは、一つのブローチを僕に渡す。紫色の宝石が組み込まれている非常に綺麗なブローチだった。

 

 

 

「じゃあ、僕はそろそろ帰ります。国での仕事がまだ残ってるので」

 

 

 

「ええ。私は、子供達との約束があるのでこのまま残ります。アルヴァロの事・・・・・・どうかよろしくお願いします」

 

 

 

「はい。では、また今度」

 

 

 

ロキとその場で別れた僕は、転移魔法で魔國連邦(テンペスト)へと帰還する。帰還した僕は、残った仕事を終えた後で自宅まで戻り、休息を取ることにした。

 

 

 

「モス、いる?」

 

 

 

「ここに」

 

 

 

そんな中で、僕は畳でリラックスをしながらモスを呼ぶ。要件は先ほどのロキの配下の男についてだ。

 

 

 

「アルヴァロという男を探って欲しいんだ。このブローチの持ち主なんだけど、頼んでいいかな?」

 

 

 

「御意に。直ちに行動に移ります」

 

 

 

モスはそれだけ言うと、ブローチを持ってこの場から姿を消す。既に命を落としてない限り、彼であればそんなに時間をかけずに見つける事ができるだろうし、僕は気長に待つとしよう。

 

 

 

今日やる事を全て終えた僕は、そのまま畳に寝そべりリラックスをするのだった。




「むぅ〜・・・・・・」


「・・・・・・はぁ」



「・・・・・・」



「さ、3人ともそんな怒らないでよ。キミ達の出番が無かったのはむしろ良いことなんだよ?」



「人間の冒険者に絡まれた時に、オレ達が出ようとしたのをエリス様はお止めになりましたよね?オレ達が魔物であるが故に」


「私達はあなたを守る近衛兵なのですよ?これでは私たちのいる意味がないではありませんか」



「主様は、ワタシ達など必要ないのですか?もう少しご自分の立場という物を考えて下さい」



「わ、わかったから。今度、キミ達にも魔素を抑える道具を作ってあげるから。それで、どうか機嫌を直してよ」



「「「約束を破ったら許しませんよ・・・・・・?」」」



「はい・・・・・・」


後日、僕は3人に約束通り魔素を抑える道具を作り、どうにか機嫌を直してもらうことに成功するのだった。




イングラシアでやる事やったので、次回で本当に開国祭に踏み込みます。


最後の方に出てきたアルヴァロと言う男は、スピンオフ作品である『クレイマン REVENGE』を読まれている方であれば馴染みのある男だと思います。
せっかくロキを生かした事だし、この際彼にも出て来てもらおうと思い、出しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エリスの日常日記
シュナのわくわくお料理教室!


『エリスの日常日記』最初の1ページです!

長い事お待たせして大変申し訳ございませんでした!


「よし。これで今日の仕事は終わりかな?・・・・・・ふぅ、やっと落ち着ける・・・・・・」

 

 

 

執務館内の執務室にて、住民票の書類を纏め切った僕は、軽く伸びをしつつ深呼吸をする。今日も僕自身色々と忙しく、やる事も多かった為、こうして落ち着けるのは今が初めてだったりする。

 

 

 

「お疲れ様です、エリス様。粗茶を入れてきましたので、どうぞお飲みください」

 

 

 

「ありがと、カレン」

 

 

 

僕の護衛の任でこの場にいたカレンに軽くお礼を言うと、緩く立てた粗茶を少し口にする。独特の渋みと苦味が僕の舌を刺激し、それと同時に安心した様にホッと息をついた。この粗茶は僕の好みのお茶であり、いつも仕事の休憩の間にカレンやセキガに入れてきて貰っているんだ。

 

 

 

「エリスー、いるかー?」

 

 

 

「あれ、リムル?どうかしたの?」

 

 

 

突然入ってきたリムルに少しびっくりしてしまう僕だが、すぐに平常心を取り戻せた為、徐に要件を聞く事にした。

 

 

 

「あ、カレンもいるんだな。ちょうど良かった。なんか、お前達二人の事をシュナが探していたから、それを知らせようと思ってな?」

 

 

 

「シュナがですか?エリス様はともかくとして、何で私まで?」

 

 

 

「さあな?ともかく行ってみれば分かるんじゃねーのか?詳しいことはシュナから聞けよ」

 

 

 

「そっか、わかったよ」

 

 

 

とりあえず、話を聞きに行こうと、僕とカレンはリムルと別れた後、シュナの元へと急いだ。シュナが僕を呼ぶ時って、大概何か可愛らしい洋服を試着させられたり、新しく作った化粧を試そうとしてきたりする時なんだけど・・・・・・今日はそうでない事を祈りたいな・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「あ、エリス様、カレン!」

 

 

 

僕たちが執務館を出ると、それを待ち構えてたと言わんばかりの様子のシュナがドアの前で悠然と立っていた。

 

 

 

「待ってるぐらいだったら中に入ってきても良かったのに」

 

 

 

「いえ、お仕事のお邪魔になってしまうと思っていましたので」

 

 

 

「ふーん?あ、それで用って何かな?」

 

 

 

話が長引くのも何だと思い、単刀直入にそう聞く僕。カレンもそれに同調するかのようにコクコクと頭を揺らしていた。

 

 

 

「お二人に、この後わたくしが開く”料理教室”に是非参加してもらいたいのです」

 

 

 

「「”料理教室”?」」

 

 

 

シュナの口から出たその単語に、僕もカレンも首を傾げた。シュナが料理を得意とする事は知っているし、その出された料理は全て絶品級に美味しい事も知ってるんだけど、彼女がまさか”料理教室”を開くとは僕もカレンも思っていなかった事もあって、どうしても不思議に思ってしまうんだ。

 

 

 

「はい。わたくしが主催として皆さんに料理のコツや作り方、さらにはオススメの調理材料や調味料等もお教えしようと考えています。今後の事も考えて、料理を学んでおく事も悪くは無いと思うのですが・・・・・・どうでしょうか?わたくしのアシスタントとして、ゴブイチさんも参加してますので特に問題なく、楽しく料理できると思うので・・・・・・」

 

 

 

「へ〜?面白そうね?・・・・・・うん、分かった。私は参加するよ。エリス様はどうしますか?」

 

 

 

「せっかくのお誘いだし、喜んで参加させて貰うよ。気分転換もしたかった所だし」

 

 

 

「本当ですかっ!?ありがとうございます!」

 

 

 

「シュナ、リムルは誘わなくて良いの?」

 

 

 

「リムル様にも一応お声は掛けたのですが、何故か嫌そうな顔をしながら断られてしまいましたので・・・・・・」

 

 

 

嫌そうな顔って・・・・・・。リムルって料理するの嫌いなのかな?・・・・・・やってみると案外面白かったりするのに?

 

 

 

「まぁ、それなら仕方ないか」

 

 

 

「はい。では、早速会場に向かいましょう。既に参加者の皆さんは集まっているはずなので」

 

 

 

料理は前世でもある程度はやっていたし、できない事はない為、快く参加する事を決めた僕とカレンはシュナに連れられ、料理教室の会場となる調理場にまで足を運ぶこととなった。

 

 

 

 

料理をすること自体久しぶりだが、シュナやゴブイチが教えてくれるのであれば問題ないだろうし、この料理教室は楽しい時間となる・・・・・・

 

 

 

 

「あ、参加者の中にはシオンもいますので、どうかよろしくお願いしますね?」

 

 

 

 

・・・・・・うん、とりあえず、この料理教室が無事に終わる事を祈ろう・・・・・・。リムル・・・・・・多分、これ知ったから逃げたんだな・・・・・・後でお説教だ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

「これより、”料理教室”を開催します。この教室を開催する目的としては『料理についての知識を会得して貰うこと』『料理を通して参加者同士でコミュニケーションを取り、親交を深めること』そして『料理の楽しさを知って貰うこと』・・・・・・以上の三点とします。分からない事や聞きたい事があればわたくしやゴブイチさんに気軽に声を掛けてください」

 

 

 

料理教室が開かれる広場に案内された僕達は、渡されたエプロンを着用し、既に来ていた数十人の参加者達の輪の中に混ざった。参加者の中には、シオンやエレンさん、ソーカと言った女性陣が勢揃いしていた。よく見ると、参加者の大半は女性であり、男性は僕や()()()()を含めても数人程しかいなかった・・・・・・って、あれ?

 

 

 

「ベニマル?キミが居るなんて思わなかった・・・・・・。キミも料理に興味があったの?」

 

 

 

参加者の中に、普段の様子から見て、料理になど興味無さそうなベニマルの姿を確認した僕は、そっと彼に近づくと小声でそうさりげなく聞いてみた。

 

 

 

「あ、エリス様・・・・・・。いや、俺も何が何だか・・・・・・。ただ、シュナから『とりあえず着いてきてください!』と強引にこの場に連れてこられた訳なんですが・・・・・・料理、とはどう言う事です?」

 

 

 

「(何も聞かせられていない?別に、ちゃんと用件を説明して上げればベニマルも喜んで参加すると思うのに、シュナってば何を考えて・・・・・・って、あ・・・・・・)」

 

 

 

「エリス様?」

 

 

 

「あ、うん・・・・・・何でもないよ、あはは・・・・・・」

 

 

 

この時、僕は察した・・・・・・いや、察してしまったと言うべきか。シュナが、何故ベニマルに今回の料理教室についてしっかりと説明をしなかったのか・・・・・・その理由をね?

 

 

 

 

 

・・・・・・その理由は。

 

 

 

「私ももっと料理の腕を上げて、リムル様やエリス様に喜んで貰えるようにしなくてはなりません!今日は張り切っていきます!」

 

 

 

この場にて、誰よりも気合を入れつつ腕まくりをしているシオンがいる事だろう。シオンの料理センスが壊滅的に無いのは誰しもが分かっている事だが、この料理教室は誰でも参加が可能な教室。いくらシオンとは言え、拒める理由は存在しない。だからこそ、シュナはベニマルを呼んだのだろう。・・・・・・シオンの料理の味見担当及び、押さえ付け担当でもあるベニマルを・・・・・・。

 

 

 

「(シュナが用件を話さなかったのも分かる・・・・・・。この料理教室にシオンがいる事がわかれば、ベニマルは真っ先に断っただろうからね・・・・・・)」

 

 

 

「え、エリス様・・・・・・?俺の見間違いなら申し訳ありませんが・・・・・・もしかして、先ほどの料理というのは、あそこに居るシオンと何やら関係が?もし関係があるのであれば、俺は早いとこ退散を・・・・・・」

 

 

 

「逃げないの。もうキミはこの教室に参加する事は決まってるんだから、覚悟を決めなよ」

 

 

 

何となく、自分がこの場にいる理由を察した様子のベニマルは、そそくさとこの場から退場しようとしていた。無論、逃せばシオンの面倒や料理の味見担当は僕へと移行するだろうから、それだけは何としても避けるべく、ベニマルの服の裾を掴んでそれを阻止した。

 

 

 

「ぐっ・・・・・・せめて、俺がこの教室から・・・・・・生きて生還できる事を願いたい・・・・・・」

 

 

 

結局ベニマルは、この料理教室への参加を決めるのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「さて!ここはこれの出番ですねっ!」

 

 

 

「待てっ!!ルーの中に何を入れる気だっ!?なんだその”禍々しい雰囲気”を醸した具材はっ!?」

 

 

 

「さぁ!全部まとめて切り刻んで差し上げます!!」

 

 

 

「具材を全部微塵切りにしてどうするっ!!?それと、料理に剛力丸を使うなーーっっ!!」

 

 

 

「一気に煮込みますよっ!!そーれっ!!」

 

 

 

「火力が強すぎるだろっ!!?カレーを根本から焦がす気かっ!!」

 

 

 

「よしっ!他には・・・・・・」

 

 

 

 

「もう、やめてくれーーっっ!!!」

 

 

 

 

料理教室が始まってから数十分。僕とカレンとは別のテーブルにて、シュナが提示した今回のメニューである”カレー”を作ることに勤しんでいるシオンの方から、ベニマルの叫び声やら奇声やらが聞こえてくる。途中、顔を青くしたシュナがシオンに対し、色々と助言やらアドバイスを施していた様子だったが、それの効果は殆ど無いに等しかったようで、どんどんカレーの原型からかけ離れていっている様に、ベニマルは頭を抱えていた。

 

 

 

「大丈夫ですかね、ベニマルさん・・・・・・。シオンのあの料理の腕は生半可なことでは直るとも思えないのですが・・・・・・」

 

 

 

「それはそうだけど、シオンだって一生懸命に料理作りに取り組んでる訳だし、ベニマルには何とか頑張って貰うしかないよ」

 

 

 

「そんな他人事みたいに・・・・・・。エリス様も少しぐらいはあの二人の手助けぐらいはしても宜しいのでは?」

 

 

 

「・・・・・・まぁ、味見くらいなら引き受けるよ。流石に全部のことをベニマルに任せるのは可哀想だから・・・・・・気は乗らないけど・・・・・・」

 

 

 

カレンにそう言われてしまうと、僕の方にも罪悪感が芽生えてしまう為、内心でため息を吐きつつ、あの”妙に濁った様子のカレー”の試食に臨むことにした僕。ちなみに、僕達や他の参加者達は、きちんと人並み程度のカレーを作ることに成功していた。シュナが言うには、参加者の中には料理未経験の人もいたそうだが、それでもシュナやゴブイチの指導もあってか、しっかりとしたカレーを作れていた。ソーカやエレンさんも無事にカレーを作ることが出来たようで、ソーカはソウエイに、エレンさんはカバルさんとギドさんにお裾分けしたいと、用意したタッパにカレーを詰めていた。僕もカレンも類に漏れず、二人の適切なアドバイスを元にしたお陰もあり、特に問題もなくカレー作りを終える事ができていた。・・・・・・とは言え、シュナやゴブイチが作るカレーには負けるけどね?

 

 

 

 

「皆さん。無事に料理の完成、誠におめでとうございます。これを機に、さまざまな料理に挑戦をしていただけると、こちらとしても大変に嬉しく思っています。・・・・・・では、どうぞ完成したご自分のカレーを存分に召し上がってくださいませ」

 

 

 

それから僕達は、自分達が丹精を込めて作った各々のカレーを存分に堪能した。途中、他の参加者の人たちのカレーも味見をして見たけど、どれもコクがあってとても美味しかった。勿論、自分達の作ったカレーもとても美味しく、それを褒めた際にカレンに頬を赤くされながらお礼を言われたのはナイショの話だ。

 

 

 

 

さて・・・・・・後は。

 

 

 

「大丈夫、ベニマル?」

 

 

 

「・・・・・・大丈夫じゃないです」

 

 

 

最後にシオンとベニマルのテーブルへ向かった僕は、叫び過ぎで声が枯れてしまってるベニマルへ軽く声をかけた。心なしか、顔も最初に比べると少し”げっそり”としている気がする・・・・・・うん、本当に苦労かけたね、キミには・・・・・・。

 

 

 

「エリス様!ちょうど良いところに!是非、私の特製カレーを食べていってください!ベニマル様もどうぞ!」

 

 

 

「エリス様・・・・・・」

 

 

 

「大丈夫・・・・・・。キミ一人犠牲になんてしないよ。・・・・・・キミは大事な配下なんだから。・・・・・・死なば諸共!ベニマル!覚悟を決めるんだ!」

 

 

 

「はっ!エリス様!」

 

 

 

「?お二人ともどうかされましたか?・・・・・・さぁ!召し上がってください!」

 

 

 

まるで死線の場にでも向かうようなやり取りを交わした僕とベニマルは、目の前に置かれたカレーの入った器に視線を落とす。そして・・・・・・

 

 

 

「「うっ・・・・・・」」

 

 

 

「遠慮せず、どんどん召し上がってくださいね?まだまだたっぷりありますので!」

 

 

 

目の前のカレーを見た途端、僕達の先ほどの覚悟は・・・・・・正直言うとかなり揺らいだ。だって、カレーって本来、赤茶色のルーにじゃがいもや、にんじんや肉が入った料理のはず。・・・・・・だと言うのに、シオンが差し出したのは、”薄い青色をしたルー”の中に、何か”言葉で表現してはいけないような物体”が混じったカレー・・・・・・と呼んで良いのかわからない料理だったのだから・・・・・・。

 

 

『こんな摩訶不思議なる料理を口にして、僕達は無事でいられるのか?』・・・・・・と、僕とベニマルは互いに目を合わせつつ、そう視線で訴えかけていた。僕もベニマルも日頃から鍛錬で体を鍛えてはいるものの、流石に胃の中を鍛えたりなどしていない。それ故の身の案じだ・・・・・・。

 

 

 

「(エリス様・・・・・・ベニマルさん・・・・・・どうかご無事で・・・・・・)」

 

 

 

遠目から、両手を合わせつつ合掌しているカレンは、シオンの視界に入らないよう、人を盾にしてシオンの死角に入っていた。おそらく、見つかれば自分もシオンの料理の餌食となることを考慮しての行動だろう・・・・・・。

 

 

 

「べ、ベニマル?・・・・・・いいね?行くよ・・・・・・?」

 

 

 

「は、はい・・・・・・」

 

 

 

躊躇ったところで、この料理から逃れる事は不可能と察した僕は、ベニマルに一言そう促しつつ・・・・・・僕達はゆっくりとそのカレーを一口分掬い・・・・・・それを・・・・・・口の中に・・・・・・”押し込んだ”。

 

 

 

 

 

その味は・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「う・・・・・・()()()・・・・・・?」」

 

 

 

 

「本当ですかっ!?はぁ〜・・・・・・良かった〜・・・・・・」

 

 

 

美味しいと言う感想が貰えて、喜びを露わにしているシオンとは対照的に、僕とベニマルは目の前のカレーに対して、訝しげな表情を浮かべつつ、カレーを凝視していた。・・・・・・美味しいと言う言葉に偽りは無く、まろやかなコクと、何とも言えない摩訶不思議なる味のイリュージョンが僕達の舌を刺激しているような感覚だった。この正体不明な具材も、見掛けが悪いだけで味はそこまで悪いものではなく、”少し硬いにんじん”を食べているような感じだ。

 

 

 

「ど、どうなってる・・・・・・もう一口・・・・・・・・・・・・やっぱり美味いな・・・・・・?」

 

 

 

「うん。この見かけで何でこんな味が出るんだろ?・・・・・・不思議だ」

 

 

 

カレーを再び口にした僕達だったが、やはり味は相変わらず美味しかった。・・・・・・さっきも言ったけど、本当に不思議なんだけど?

 

 

 

「え、エリス様?お兄様?・・・・・・本当に大丈夫なのですか?」

 

 

 

「体に異変などはありませんか?」

 

 

 

「見かけはアレだけど、味は本当に美味しいよ?良ければ食べてみて・・・・・・ぐっ!?」

 

 

 

「エリス様っ!?どうかなされ・・・・・・ゔっ!?」

 

 

 

せっかくだからと、シュナやカレンにも食べさせてみよう・・・・・・と思った矢先、僕とベニマルは”体に電気が走ったような強烈な衝撃”を受け、その場に蹲る。

 

 

 

《警告。”遅延性”の猛毒の摂取を確認しました。直ちに解毒を開始します・・・・・・》

 

 

 

「(ち、遅延性って・・・・・・料理で・・・・・・そんな馬鹿な・・・・・・)・・・・・・っ」

 

 

 

「エリス様っ!?どうかお気を確かにっ!お兄様もっ!」

 

 

 

「悪い、シュナ・・・・・・。後は・・・・・・頼んだ」

 

 

 

指導者(ミチビクモノ)さんの解説で明らかになった、このカレーによる『遅延性の猛毒攻撃』を喰らった僕とベニマルは、その場で意識を失った・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の記憶はあまりなかったけど、次に目が覚めた時には僕の自宅にいたから、多分シュナかカレンが運んでくれたんだろう・・・・・・。それにしても・・・・・・。

 

 

 

 

「シオンの料理は・・・・・・本当に侮れないなぁ・・・・・・」

 

 

 

今回の件を機に、シオンの料理を堪能する際には、さらなる覚悟と準備をするように心がける僕なのだった・・・・・・。




これまで通り、3日ごとの投稿を頑張ってしていくつもりですが、無理はしたくないので、所々で投稿が遅れる時もありますが、どうか大目に見ていただけると嬉しいです。


『エリスの日常日記』の時系列としましては、暫くは魔王覚醒前(魔国連邦(テンペスト)襲撃前)の段階でいくつもりです。転スラ日記もそうだったので。



ちなみにカレーの出来栄え点としてシュナからの評価は順番で表すとこんな感じです。


ソーカ>エレン>カレン&エリス>>>>シオン&ベニマル


この料理教室は好評であれば続編も考えています。もし続編をやるのであれば、次はもっと他の人の料理場面を表記していけたらと思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リムルとエリスのもふもふタイム(ランガとヒョウガの兄妹対決)

2ページ目になります。

お察しの方もいるかと思われますが、アンケートの結果の投票が多かった順で投稿していってます!


視点 ヒョウガ

 

 

 

「我が妹よ。少しいいか?」

 

 

 

いつもの日常、平穏な毎日をこの魔国連邦(テンペスト)で送っていたワタシは、今日も主様の為に色々と仕事をこなしていた。そして、仕事もひと段落し、街の隅で一息ついていたワタシに声をかけて来る輩が現れた。・・・・・・その輩とは。

 

 

 

「兄上?どうかされましたか?」

 

 

 

ワタシの兄であるランガだった。彼は今日は、リムルさんの命により、警備隊と共に町の警護に当たっていたはずですが・・・・・・。

 

 

 

「妹よ。最近、魔国連邦(テンペスト)が巨大豊かになった事により、人も魔物も問わず、数多くの客人が訪れていることは知っているな?」

 

 

「・・・・・・?はい、存じ上げておりますが?」

 

 

 

今更何を?と言った感じで、ワタシは首を傾げた。この魔国連邦(テンペスト)は、今や他の大国とも引けを足らないほどに巨大な国へと成長を遂げていて、各国との王や重要人物らとも関係を持つほどになっていた。無論、これら全て主様やリムルさんの尽力によっての物だが、それを何で今更兄上は、ワタシに言うのか意味がわからなかった。

 

 

 

「それが誠に嬉しいことは事実なのだが、それ故に我が主やエリス殿は”多忙”を強いられ、ひどく疲れられているのだ」

 

 

 

「はぁ?」

 

 

 

「そこでだ。我ら兄妹で、少しでもお二人の疲れを和らげて差し上げようと思い、こうして我はお前の元へと参上したわけなのだ」

 

 

 

「・・・・・・なるほど」

 

 

 

国が大きくなると言うことは、それだけ国のためにやる事なすことも比例して大きくなることと同義。魔国連邦(テンペスト)の国主であるリムルさんは勿論のことだが、その補佐でもあり副国主でもある主様も、今までに無いくらい忙しくなっているのも当たり前のことなのだ。あのお二人は、その忙しさにも根を上げる事なく頑張っている様子だったが、いくらお二人といえど、根を詰めすぎると体に毒だ。・・・・・・それを危惧してか、兄上はこのような提案を持ちかけてきたのだろう。

 

 

 

「兄上のお考えはわかりました。・・・・・・ですが」

 

 

 

「む?何か問題があるのか?」

 

 

 

ワタシであれば、快く賛同してくれると思っていたのか、兄上は予想に反してワタシが少し渋っている様を見て、少し驚いた様子でワタシを見つめてくる。・・・・・・別にワタシは渋っているつもりは無い。ワタシも、出来れば主様には体を大事にして貰いたいとも思っている。

 

 

 

 

・・・・・・ですが、兄上・・・・・・?少し()()()()()()()ようですね?

 

 

 

「ワタシは既に、主様の疲れを癒す為・・・・・・尽力しているのですよ。それもあって、主様も疲れが取れている様子で、度々感謝されています」

 

 

 

「何っ!?妹よ・・・・・・我を出し抜くとは・・・・・・。一体、どのような手法で疲れをとっていると言うのだ!?」

 

 

 

少し怒ったように兄上はそう叫ぶ。・・・・・・手法とは言っても、ワタシは特別何かをしている訳でもない。・・・・・・強いて言うなら、”主様が寄り掛かる角度の微調整”などを行っているくらいだろうか?

 

 

 

「特別なことはしていませんよ。・・・・・・良ければ、この後見にきますか?もうすぐ主様のお仕事も終わる頃合いですので」

 

 

 

「・・・・・・わかった。見せてもらうとしよう」

 

 

 

そんな訳で、ワタシは兄上を連れて、主様やリムルさんが仕事をしている執務館へと足を運ぶこととなるのだった。

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

視点 エリス

 

 

 

「はぁぁ〜〜〜・・・・・・やっぱり気持ち良いなぁ・・・・・・」

 

 

 

本日の仕事も無事に終え、書類等の片付けをした僕は、いつものようにヒョウガの体に寄りかかる形で体を預け、その彼女のモフモフ感に心を癒してもらっていた。最近はやたらと忙しい事もあってか、疲れも溜まっていた為、この『至福の時間(もふもふタイム)』はまさに格別としか言いようが無かった。

 

 

 

「主様。態勢がキツかったり、寄りかかる心地が悪かったりはしませんか?」

 

 

 

「ううん。ここがベストポジションだから、動かさなくて良いよ。ふぅ〜〜・・・・・・癒されるなぁ・・・・・・」

 

 

 

あまりの気持ちよさに顔がとろける僕。やっぱりこの時間は欠かせないな〜・・・・・・なんて思ってると?

 

 

 

「・・・・・・なるほど。我が妹は自らの体毛を武器にエリス殿の疲れを・・・・・・」

 

 

 

「ら、ランガ?なんでそんな熱い眼差しを向けて来る訳?」

 

 

 

「いえ、お気になさらずに!」

 

 

 

何故かこちらを凝視してくるランガに対して、少し引いてしまう僕は、さりげなくそう聞いてみる事にしたが、簡単に流されてしまう始末。・・・・・・そんなに見られたら、気になって仕方ないんだけど?

 

 

 

「よし。こっちも仕事は終わったな。さて、さっさと片付けを・・・・・・って、ランガ?どうしたんだ?」

 

 

 

「おおっ!我が主よ!ちょうど良かった。いま我は、妹に”我が主の疲れを癒す手法”を教授して貰っていたところなのです!その手法を早速試させて貰いたいので、主はこちらに!」

 

 

 

「・・・・・・はっ?よくわからんが、まぁいいか・・・・・・」

 

 

 

同じく仕事を終え、疲労困憊気味なリムルに対して、ランガは意気揚々な感じでリムルにそう促していた。リムルはそれに首を傾げるしかなかったが、渋々ランガの言う通りに行動していた。・・・・・・疲れを癒す手法?ヒョウガから教授?・・・・・・・・・・・・あぁ、なるほどね?

 

 

 

「我が主よ!さぁ!どうぞっ!」

 

 

 

「どうぞって・・・・・・何すりゃ良いんだよ?」

 

 

 

「こちらの主様のように、兄上の体に寄りかかって下されば良いのです」

 

 

 

「エリスのように?・・・・・・あぁ、そう言うわけか。それなら遠慮なくっと」

 

 

 

ことの内容を理解した様子のリムルは、そこそこ乗り気で腰を落とし、準備万端の様子のランガの体へ寄りかかる。

 

 

 

「おお、やっぱ気持ち良いな、お前の体は。・・・・・・っと、ランガ?少し縮んでくれ。少し態勢がきついから」

 

 

 

「はっ。・・・・・・これぐらいでしょうか?」

 

 

 

「いや・・・・・・流石にそれは小さくなりすぎだ。俺が寄りかかるスペースが無くなってるじゃねーか・・・・・・」

 

 

 

「む?な、なるほど・・・・・・。調整が難しいな・・・・・・」

 

 

 

リムルの寄りかかる態勢、角度、毛並みの調節に悪戦苦闘しているランガに、僕は苦笑いを浮かべる。普段のランガは基本的にかなり大きいし、体長で言えば僕やリムルの数倍以上はある。それを僕達並みに体長を縮めるとなると酷く骨が折れるものだろう。・・・・・・ヒョウガは、意外にも簡単に僕に対する適正の大きさと、寄りかかるポジションを見極められた様なのだけど、なんで何だろう?

 

 

 

「まだまだですね、兄上?ワタシのこの『主人感覚(エリス・センス)』は一朝一夕で会得出来る物ではございません。ワタシがこれを会得するのに、どれだけの苦労を重ねたことか・・・・・・」

 

 

 

どこか勝ち誇った様に自信満々な調子で鼻を鳴らしているヒョウガ。・・・・・・彼女が僕が知らないところで努力していた事はよく分かったけど・・・・・・そのスキルは一体何なんだい?

 

 

 

「妹には負けていられん!我が主よ!何か、改善点などございましたら以下なりとも申し付け下さい!」

 

 

 

「お、おう・・・・・・。分かった・・・・・・」

 

 

 

この後ランガは、3時間ほどこれについて色々と苦心し続けることとなった訳だが、結果としてランガも『主人感覚(リムル・センス)』を会得することに成功した事もあって、リムルもランガも大喜びすることとなるのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

これを機会に、リムルとランガもこの『至福の時間(もふもふタイム)』を満喫する会に、仲間入りを果たしましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

「「あああぁぁぁ〜〜〜〜〜・・・・・・気持ち良いなぁ〜〜・・・・・・」」

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて、平和である。




次で、一旦『エリスの日常日記』はお休みとなります。

次回もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絶対に笑ってはいけない魔国連邦(テンペスト)

この回は、書いてると歯止めが効かなくなり、内容も量もかなり多くなってしまったので、何個かに分けて投稿させてもらいます。


「エリス。これからみんなを集めて、ちょっとしたゲームをやらないか?」

 

 

 

町中にて、朝から二人並んで散歩を楽しんでいた最中、唐突にそんな提案を持ちかけてくるリムル。彼がこうやっていきなり僕に提案して来ることはよくある事だから、そこまで驚く様なことも無いけど・・・・・・今日はどんな事を思い付いたのかな?

 

 

 

「ゲーム?・・・・・・それって、どんなの?」

 

 

 

「よくぞ聞いてくれた!そのゲームは・・・・・・名付けて『絶対に笑ってはいけない魔国連邦(テンペスト)』だ!」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

リムルの口から出たそのゲームの名称に、僕は前世でも大人気だった某”大晦日特番番組”のことが頭をよぎった。

 

 

 

「内容はお前も知ってるだろうが、”笑ったらケツをしばかれる”っていうシンプルな遊びだ。時間は夕暮れまでで、人を笑わす手段は問わない。最も笑わなかった奴には豪華景品を、最も笑った奴は罰ゲームだ」

 

 

 

「え?そのゲーム自体が罰ゲームなのに、それにプラスして更に罰ゲームをさせる訳?・・・・・・それは流石に・・・・・・」

 

 

 

「良いだろ?それの方がみんな真剣になるだろうし、場の盛り上がりだって上がるはずだ。大丈夫だって。罰ゲームって言ったって、軽いもんだからさ?・・・・・・と言うわけで、早速みんなを集めるぞ!」

 

 

 

「う、うん。分かった」

 

 

 

と言うわけで、リムルの提案でそのゲームをやる事になったので、僕とリムルは手分けをして目星をつけた参加者のみんなを広場へと集合させることとなるのだった。

 

 

 

 

 

 

––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

「これより!第一回『絶対に笑ってはいけない魔国連邦(テンペスト)』を開催します!ルールはいたって簡単!時間である”夕暮れ”になるまでの間は何があっても絶対に笑ってはいけません!もし、笑ってしまった場合には、その場で厳しい罰を受けて貰います!」

 

 

 

広場に、今回のゲームの実況に抜擢されたソーカの声が響き渡った。ソーカは開催の宣言をすると共に、今回のこの『絶対に笑ってはいけない魔国連邦(テンペスト)』のルール説明を広場に集まった8名の参加者に行う。参加者は僕、リムル、ベニマル、ソウエイ、ゴブタ、セキガ、ガビル、ゲルドの男連中であり、笑いの判定、審議、そして罰を行う役目を担う人材として、シュナ、シオン、カレンを招集した。

 

 

 

「今回、笑ってしまった場合の罰は・・・・・・こちらっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・えっ?」」」」」」」」

 

 

 

 

 

ソーカが示した方へ一斉に視線を向けた僕達は、そこで見た光景に”背筋が凍る様な感覚”に陥った・・・・・・。・・・・・・それは何故か?何故なら・・・・・・。

 

 

 

 

「ふんっ!はぁっ!せいっ!・・・・・・なるほど、少し大きいですが、かなり振りやすくて軽いですね!この()()は!」

 

 

 

そこでは、シオンがどこから用意してきたのか分からない、”巨大な棍棒”を軽々しく振り回していたからだ・・・・・・。うん、ちょっと待って?

 

 

 

「そ、ソーカ?もしかしてだけど、まさかあの棍棒で・・・・・・?」

 

 

 

「その通りです!もし笑ってしまった場合、こちらのクロベエさん特製の超特大棍棒にて、お尻をしばかれます!ですので、皆さんはこちらの棍棒の餌食にならないよう、頑張ってください!」

 

 

 

テンションが上がってきたソーカは、太陽の様な笑顔を浮かべながらそう叫ぶが、僕達の表情は曇るばかりだった。別にこのゲームに対してでは無い。このゲームに関しては、僕も含めた全員が面白そうと言う気持ちを持って臨んでいるのもあり、むしろさっきまでは全員の表情は晴れやかだった。

 

 

 

・・・・・・だが、問題なのは笑った時の罰だ。

 

 

 

「リムル・・・・・・。いくら何でも、笑った時の罰が()()はキツすぎない?あれでお尻をしばかれたら、全員一発でノックアウトする気がするんだけど?」

 

 

 

「同感だ・・・・・・。・・・・・・ったく、やっぱ罰の内容をシュナ達に一任させたのはマズったかな・・・・・・。いや、だがそれにしたってあの馬鹿でかい棍棒はやり過ぎな気もするが・・・・・・」

 

 

 

高身長であるシオンよりも更に大きいその棍棒。それはまさに、鬼が持つあの”大きな黒い棍棒”を彷彿とさせた。そんな物でお尻をしばかれたらたまった物ではない。・・・・・・ん?でも待てよ?

 

 

 

「(僕は精神生命体の魔物な訳だし、『痛覚無効』もあるし、物理攻撃の痛みはない筈だよね?だったら問題なんて無い・・・・・・)」

 

 

 

《告。かの棍棒には微力ですが、精神体(スピリチュアルボディー)への直接攻撃が作用するよう、細工が施されている模様です。精神体(スピリチュアルボディー)への直接攻撃には『痛覚無効』は作用しない為、殴られれば多少の痛みを感じると推測します。これは主人(マスター)もそうですが、個体名リムル=テンペストも同様です》

 

 

 

 

うん・・・・・・なんて物を作ってるのかなクロベエは?いや、ゲームを平等にするための配慮だとは思ってるんだけど、そこまで徹底しなくても良いのに・・・・・・。それに、当然と言えば当然だけど、痛みを軽減させるための防具等の着用も禁じられているから、もはやあの棍棒の痛みから逃れる道は”笑わない事”以外無いと見て良かった。

 

 

 

リムルもどうやらあの棍棒のその脅威さに気が付いたようで、薄く苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

・・・・・・このゲームに参加したの・・・・・・間違った気がするな・・・・・・。

 

 

 

「さて!ではそろそろ始めましょう!第一回『絶対に笑ってはいけない魔国連邦(テンペスト)』スタートですっ!!」

 

 

 

僕がこのゲームに参加した事を半ば後悔しているのを尻目に、ソーカがこのゲームの開始を宣言してしまう。もうこれで、このゲームの参加が確定してしまった事もあり、僕は内心で特大のため息を吐きつつ、ゲームへと乗り出す事に決めるのだった。

 

 

 

このゲームでなるべく勝ちに近づく、もしくはダメージを可能な限り少なくするには当たり前のことだが、笑うのを凌ぐほかない。それは、僕だけでなくここにいる参加者全員が考えていることだろう。だが、ソーカを含めた仕掛人側としては、それも見越して戦略を練って来るだろうからそれを行うのは至難の業なのかもしれない。というか、それ以前に笑いを堪えると言う時点でかなりハードだ。今回は、微笑んだり、くすり笑いでも笑いにカウントされてしまう為、常に顔の表情が緩まないように気を引き締めてないと行けないから、かなり神経を使う。

 

 

 

「始まりましたが、笑いを堪えると言うのは、かなりキツそうですね・・・・・・」

 

 

 

「常に、注意してないと行けないからね・・・・・・。ちょっとでも笑えば、あの棍棒の餌食なわけだし・・・・・・」

 

 

 

苦笑いを浮かべつつそう呟くベニマルに対して、後ろに控えてるシオンを誇示しつつ、そう伝える僕。・・・・・・と、その時だった。

 

 

 

「では!開催を祝いまして!私が一曲この場で歌いたいと思います!!行きます!ハァ〜〜・・・・・・フゥ〜〜・・・・・・・・・・・・虚に灯る火が問いかける・・・・・・

 

 

 

「「ぶふぉっ!」」

 

 

 

「ぷっ・・・・・・ぷはははっ!!」

 

 

 

 

 

ゴブタ・ガビル・セキガOUT

 

 

 

 

 

ソーカのいきなりの攻撃に耐えられなくなった三人は、揃って吹き出してしまう。・・・・・・なるほど、歌うのは建前で、歌う際に”マイクが入ってない事”を逆手に取って笑いを取る作戦ってわけか・・・・・・。僕も一瞬吹き出しそうになったな・・・・・・。

 

 

 

「ぷっ・・・・・・OUTっていうか・・・・・・あれってもうミスじゃないっすか・・・・・・」

 

 

 

「ソーカ・・・・・・。我が妹でありながら、なんて姑息な手を・・・・・・」

 

 

 

「ほとんど歌詞が入ってこなかった・・・・・・ぷくく・・・・・・」

 

 

 

「なんであれ、あなた方が笑った事には変わりありませんよ?では、シオン?」

 

 

 

シュナがシオンを前に出すと、三人は揃ってお尻を彼女の前へと差し出した。・・・・・・そして。

 

 

 

「行きますっ!はぁっ!!」

 

 

 

 

「「「痛ぁぁぁぁぁあああっっ!!!!!」」」

 

 

 

シオンの振りかぶった巨大棍棒が、三人のお尻を盛大にしばいた。それと同時に響くは三人の叫声。シオンも多少は手加減はしてくれてるとは思うが、それでもこれだけの声を出しながら痛がると言うことは相当な威力だったと言う事を物語っている証拠だ。だが、呑気にそれを静観している余裕は僕たちには無かった。だって、三人が痛がっていると言うことは、その”痛がっている様”を僕達はしばらくの間見物をしなくては行けないことを意味しているからだ。

 

 

ちなみに、ゴブタは自分のお尻を押さえつつ、ぴょんぴょん飛び跳ねながら痛みに絶叫している。ガビルとセキガはあまりの痛さに立つことが出来ずに、まるで魚のように体をピクピクさせながら悶絶していた。

 

 

 

「「「ぶふっ!」」」

 

 

 

 

 

エリス・リムル・ベニマルOUT

 

 

 

 

 

その三人の痛がる様に、耐え切ることが出来ずに吹き出してしまったのは僕とリムル、ベニマルの三人だ。人の痛がっている様を見るほどに面白いものは無い・・・・・・とは、何処ぞの大物芸人から出た名言だが、それには納得する他ないほどに、三人が痛がっている様は面白かった。

 

 

 

「OUTですね。では、罰の執行です!」

 

 

 

「エリス様やリムル様に危害を加えるのは気が引けるのですが・・・・・・」

 

 

 

「気にすんな。これはゲームだからな。思いっきりやってくれ!」

 

 

 

流石に、主君であるリムルや僕のお尻をしばく事には抵抗がある様子のシオンだったが、リムルのその”余計な一言”によって、罰の執行を決意したそうだ。スキルも無しに・・・・・・シオンに本気でしばかれたら気絶するよ?多分・・・・・・。

 

 

 

「行きますっ!てやぁぁぁ〜〜っ!!!」

 

 

 

 

「「「ぐわぁぁぁぁぁあああっっ!!!!!」」」

 

 

 

シオンの振りかぶった棍棒が、僕達のお尻に炸裂する。ベニマルはもちろんだが、僕達もそのあまりの威力と痛さに絶叫する。その痛さゆえに、一瞬意識が飛びそうになるが、何とか踏みとどまれた僕は、痛みを堪えつつお尻をさすっていた。

 

 

 

「ぐっ・・・・・・くっ・・・・・・た、立ち上が・・・・・・れん・・・・・・」

 

 

 

「だ、大賢者の奴・・・・・・何が『精神体(スピリチュアルボディー)への直接攻撃の威力は微力』だよ・・・・・・。これのどこが微力だって言うんだ・・・・・・。ちっ、ダメージが思ったよりも来ちまってるな・・・・・・こ、これを何度も食らうかも知れないってなると・・・・・・き、キツイ」

 

 

 

ベニマルもリムルも、何とか意識を保つことはできていた様だけど、やはりというかわかっていたことだが、一撃でノックアウトされてしまっていた。勿論僕もそうであり、今は痛みに耐えるので精一杯で、しばらく動くことはできそうに無かった。

 

 

 

「シュナ?シオン?・・・・・・すまないけど、このゲームの続きは明日って事にしない?・・・・・・ほら、さっきの三人が”ああ”なってる以上、続けるのは無理だからさ?」

 

 

 

僕は、痛みで顔を歪ませつつ、先ほどの強烈な一撃のせいで”意識が飛んでしまった”様子の三人を指差した。

 

 

 

「・・・・・・へ?・・・・・・あぁ、そうですね。流石にこんな状態で続けるのは可哀想ですし・・・・・・分かりました」

 

 

 

「ソーカにはこちらから伝えておきますので、皆さんはもう帰って休んでもらって結構です。・・・・・・正直言うと、もうちょっとこの棍棒で遊びたかったですけど・・・・・・」

 

 

 

「その武器は没収だ!危険すぎるっ!明日からは違う罰に変更させてもらうからな!?」

 

 

 

すでに離脱者が出てしまってる以上、続けるのは困難と判断した僕とリムルは、このゲームの続きは後日にすると決め、罰の内容も変更する事も勿論決めた後、気絶した三人を手分けして運びつつ、自分の家へと帰っていった。帰ると同時に『治癒』を発動させ、傷を癒した事で痛みから解き放たれた僕は良かったものの、他のみんなはしばらくの間、そのお尻の痛みに悶絶する羽目となるのだった・・・・・・(この後、各自の家へと行き、同じく『治癒』にて痛みを中和した)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちは・・・・・・何もしてないが、あの棍棒の威力は相当なもの。笑わなくて良かったと思えるな・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・シオンの怪力は恐ろしいものだからな。そんな奴が振り回す棍棒をまともに食らって意識を保てたリムル様やエリス様には感服する他ない・・・・・・」

 

 

 

参加者の中で、罰を免れたゲルドとソウエイは、互いに目配せをしつつ・・・・・・心底自分が笑わなくて良かったと、ホッと胸を撫で下ろすのだった・・・・・・。




いくら微力とは言え、怪力を誇るシオンが振れば痛みが絶大になるのも納得です。罰ゲームの執行人をシオンに任せる事自体が間違いの気もしますが、それを本人たちがわかっているのか疑問なところです。


というか、どうやったら精神体(スピリチュアルボディー)への干渉攻撃ができるようになるのか、教えて貰いたい。


次回から、本編に戻りますが、所々でこちらも投稿していきますので、こちらも是非楽しみに待っていてください!


ちなみに、次の『エリスの日常日記』は、今回の続きになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。