赤銅の対魔忍 (ignorance)
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第一話

以前書いていたもののデータもないので新しく書き直すことにしました。
気に入ってくれたら嬉しいです。
注)誤字、その他あれば書いてもらえると助かります。


白を基調とした部屋に一組の男女がいた。

男女は互いに違う机におり、黒ジャージ姿の男、千鳥の目の前の机には二枚の紙が置かれていた。

その内の一つは書き殴ったように文字が羅列しており、もう一つは名前と日付以外は記入されておらず白紙のままだ。

男は一つ溜息をつくと無記入の紙を握り潰し丸めると部屋の角にあるゴミ箱に向けて投げた。

 

 

部屋にいた女性、井河アサギは、千鳥の行動の一部始終を眺めていた。

アサギが千鳥に渡した紙は二枚あり、一つは報告書。そしてもう一つは始末書だ。

千鳥がそれを受け取ると、一枚目を書き始め、ボールペンが紙を走る音以外は聞こえなかった。

しかし音がピタリと止み、千鳥は何を思ったか二枚目を握り潰し始め、丸めるとゴミ箱へ向け投げ捨てた。

…全く、と思いながら目の前に来た千鳥から報告書を受け取る。

相変わらず文字は汚いが的確に状況と戦果を書き上げていることには脱帽者だ。

アサギ「そろそろ、チームかコンビを決めたらどうなの?千鳥」

 

 

アサギから言われたことは単独行動を控えさせるような物言いだった。

一人で戦果を挙げ、任務を完遂させているにも関わらずそう言われるのは、

…生存確率を上げたいからだろうな。

だからここ最近ずっと言われ続けるのだろう。

千鳥「あなたか不知火さんほどの実力者か、まぁ生存率が格段に高い奴をピックアップしてもらえると助かります」

千鳥はその言葉に対する最適解を答えたつもりだった。

相手を決めて組むか、最悪の場合は逃走も視野に入れての戦闘なら単独行動の方が格段にいいが、自身と相性の悪い相手が出てきたときに対応できるならメンバー行動も悪くない。

だが、肝心なことに組む相手が見つからないのであれば単独行動もやむなしとはいかず、理不尽(こうむ)って新人の尻拭いも数知れず。

その事を思い出し、軽くため息をつくと戸棚からクッションとタオルケットを取り出すと部屋の隅でタオルケットで隠れるように丸まると寝息をたて始めた。

 

 

アサギは千鳥に言われてからは何も言わなかった。

彼が寝付くまで終始見守っていたが、千鳥が無理ではなく無茶を言ったことはわかっていた。

現段階で主戦力を任務に駆り出す事は難しく、むしろ一人でありながら任務を確実に遂行して必ず帰ってくる千鳥の存在は対魔忍にとって貴重と言えるものである。

アサギ「だから…ね。あなたを下手に失うわけにはいかないのよ」

アサギは呟くと、千鳥がこの部屋で眠っていることで思い出した。

…千鳥がこの部屋で寝たときは大体ロクなことが起きない。

学生時代から戦線に立つことの多かった千鳥は報告書ついでにこの部屋で仮眠を取ることがあり、回数こそ少なくとも、良くも悪くも何かしらの火種だった。

体勢こそ入っていても寝てない限りは良い方向で事が起こり、どんな大勢でも寝ていれば大概問題が起こっていた。

そして問題が起こるタイミングは千鳥が眠ってから

大体30分前後と正確ではないが決まっており、普段通りならアサギは警戒する必要はなかった。しかし、以前から千鳥が二車骸佐が反乱を起こす可能性がある事を話していたので、少し警戒していた。

そしてその瞬間を待っていたかのように正面の扉が開かれた。

アサギ「相変わらず危機察知能力が高いわね、千鳥」

寝ているはずの彼を見つめてから、ニヤリと笑って正面に立つ相手と相対した。



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第二話

アサギ「来たわね。予定よりも早い到着だけど想定内だわ」

 

アサギは敢えてのうのうとした態度で骸佐を煽った。彼自身から目的を聞き出すためであったが大体の予想はついていた。

 

骸佐「あんたを殺しに来た。井河アサギ」

 

骸佐がはニヤリと笑って言うが、アサギは声を上げず笑った。その程度の実力で?と言葉を重ね、骸佐の左後方にあるタオルケットの塊が動き出すのを待っていた。

 

 

骸佐は内心苛立っていた。

不意をついた襲撃は失敗し、その上油断ともとれる様子でこちらを馬鹿にしてきた。

確かに実力は勝てるはずはないが、それを覆す策は用意してきた。なおかつそれを相手が知るはずはない。初撃を確実に直撃できるのであれば確実に殺れる、その算段である。

その油断が命取り、確実に仕留める距離まで近づいて大太刀に手をかけた。

 

 

骸佐「!」

 

刀はアサギの首をあと数ミリのところで止まっていた。

それと同時に先程までいなかったはずの気配が骸佐の背後にあった。

 

骸佐「まさ…!」

 

骸佐が言い切るよりも先に体は後方へと引かれ、そのまま部屋から外へと投げ出された。

 

アサギ「おはよう、千鳥。よく眠れたかしら?」

 

アサギは何事もないように言うが、千鳥はどこか不機嫌であった。

 

千鳥「よく寝れた。今は気分がいいからよく殺せそうだ」

 

右手を開いたり閉じたりする千鳥にアサギは静止させようとするが、諦めた。だからこそ、

 

アサギ「確実に生かして連れてきなさい」

 

と、忠告ではなく命令を言い放った。

 

千鳥「…分かった」

 

そう言い残すと千鳥は外へと放り出された骸佐を追って外へと移動した。

 

 

なんだ!?

骸佐は空中へ投げ出された時点でさえ、理解が追いついていなかった。

いきなり現れた殺意の塊に近いナニカに投げ飛ばされ、うまく着地はできたが投げ飛ばされた場所を睨むことしか出来なかった。

 

骸佐「何者かは知らんが邪魔をするなら殺すだけだ」

 

意識を保ち、戦闘体勢を構え直し出てきた相手を殺す算段を立て始めた。

 

 

千鳥「馬鹿は来るか」

 

地面に着地し、数十メートル先の骸佐が構えたことにより千鳥もまた戦闘体勢に入った。黒のジャージを脱ぎ捨て、赤銅色のスーツと臙脂(えんび)色の簡易装甲が姿を現す。

腰部右側面の装甲を拳で2回打ち、軽快な金属音が鳴り響き、千鳥は構えた。

一瞬の間が開くやいなや、千鳥は骸佐へと駆け出した。

無鉄砲な突撃。少しずつ距離は縮まり、十数メートルの位置まで近づいていたが千鳥は一向に止まる気配を見せなかった。

 

骸佐「馬鹿か!」

 

少しずつ詰まる距離に骸佐は吠えた。武器を持たない千鳥に対して刃渡り1メートル超の大太刀を持つ骸佐では骸佐が有利であった。

だが、千鳥は約2メートルの地点で両膝を折り畳むように跳躍し、骸佐の顔に向かって両足を鋭く突き出した。

 

骸佐「!!」

 

判断が遅れ、太刀を振るうよりも先にドロップキックをモロに受けた。

 

千鳥「…馬鹿か。優先事項は攻撃より防御だろう」

 

ドロップキックから立ち上がり、砂煙に対して構える。

 

千鳥「それに無防備に構えるやつがあるか。俺が教えたこと何も学んでないのか?」

 

途端、砂煙の中から骸佐が刀を突き出し、突撃してきた。

 

骸佐「あんたかァ!千鳥ィィィ!」

 

千鳥「激昂は良くないな。視野が狭ばるぞ」

 

骸佐の手首を掴み、ヘッドバットを決め、怯んだ隙に大きく投げ飛ばした。

 

千鳥「さて、骸佐よ。死ぬ覚悟はできてるか?」

 

骸佐「死ぬ覚悟だと…!?ふざけんじゃねえ!俺はアンタを殺してアイツを殺す!」

 

千鳥「…そうか。じゃあ、ここから先は殺す気でかかってこい。俺も殺す気でいく」

 

千鳥の両腕の簡易装甲が滑り落ちる。

 

千鳥「桐生!『アレ』の腕だけ飛ばせ!!」

 

瞬間、千鳥が吠える。骸佐も立て直し、もう一度構え直す。

 

骸佐「アレってのがアンタの奥の手ってやつか?」

 

千鳥「奥の手…?フフッ、そんなんじゃねぇよ。もっと簡単で分かりやすいものだ。そう、通常装備ってやつ」

 

そう言い放った千鳥の後方から飛来する物体は千鳥が上げた両腕に装着され、灰色から臙脂色へと変化する。

 

千鳥「空砲装填、最大火力。20が限界か、十分だな」

 

両腕を突き出すように構え、2門の砲口が骸佐に向けられる。見た目だけの間合いは先程と変わらないが千鳥が呟いた言葉が事実なら確実に間合いは千鳥が優勢となった。

 

骸佐「面白ェ!!本気のアンタとやれるンならそれも悪くねェ!!」

 

千鳥「本気ねぇ。フル装備じゃねえけど死なない程度に殺していいって言われてるからな」

 

深く息を吐く千鳥。溜息に近いソレは先程まで感じるはずのなかったドス黒い気配が五感を通して、空間が揺れるような感覚を味わわせていた。

 

千鳥「よく覚えておけ。今までは井河の対魔忍として接してきたが、これからは『赤銅の対魔忍』篠塚千鳥として相手してやる」





赤銅メモ(オリジナル設定等)

峰麻(篠塚)千鳥
千鳥はここ数十年間、養母の峰麻碧の苗字である峰麻を名乗っているためアサギを含めた数名程度しか篠塚の苗字を知らない。

簡易装甲
千鳥が四肢、腰部に装着している日常用の装備。
あくまで簡易的なものなので実質的な攻撃力はないが、実体剣や弾丸を弾くことは可能。


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第三話

骸佐「篠塚だと…?」

 

骸佐は昔に聞いたことがあった。

数ある対魔忍の中で、どこにも属さない異色の存在としてすべての派閥から嫌われているけれど、誰よりも信用をおける一族の名前は確かに“篠塚”だった。

しかしそれは数十年前から姿どころか存在自体が存在していなかったはずである。

……伊達や酔狂で名乗れる名前じゃねぇはずだが?

可能性の話であれば、派閥のなくなった今の対魔忍の状況なら形だけで属することができる。

その中で抑止力として存在するために敢えて名前を変えているというのならおかしな話ではない。

ならば、目の前の男が本物かどうかを確かめることなど容易いことである。

…全力で相対すればいい!

大太刀を再び構え、恐怖に勝る好奇心を全面に曝け出して骸佐は思う。

……誰よりも何よりも強い……!

 

 

千鳥は、名乗った後からの骸佐の態度を改めて評価していた。

今までは癇癪を起こしている餓鬼が馬鹿みたいに暴れている程度にしか捉えていなかった。だが、刃を構え直した男は、

…目標を定めたか。

先程までの無鉄砲さよりも、冷静に目の前の事に真剣に相対しようとしている。

だからこそ、正面から叩きつぶす理由になる。

ハナから叩く事に変わりはない。だが餓鬼と見ていた男が覚悟を決めたというのなら話は別だ。

…還付なきまで徹底的に!!

先程までの体術だけの戦闘である程度の戦闘力は理解できている。

ならば、自分らしく畳み掛ける戦い方に切り替える。

ニヤリと笑って両足を交差させて地面に鋭く爪先を立てて半身になる。

 

千鳥「こっからは素早く行くぜ、遅れるなよ」

 

 

遅れるな、とよく言ったものだ。

これから始まるのが一方的な戦闘だというのに、この男はまだ教育者としての意識が抜けていない。

おかしな話、と言うまでもない。今までの訓練が体たらくに感じるほどの前線における戦い方のレクチャーを実戦経験方式で行おうとするのだ。

…とんでもねぇバカだ…!

骸佐は思う。バカだと思った男は剣戟にすら意識を持たしていない。こっちの間合いの中に入り、殴りこんでくる。追い打ちをかけたら即座に間合いから離脱する。

単純だが、難解なことを当然のように行ってくる。それも斬撃を下手に回避するよりも先に前に出るように突っ込んでくる。それだけならまだしも斬撃に対処してくる。避けたように見せて斬撃に合わせて両腕の装甲をぶつけて刀身を弾く。がら空きのボディに重い一撃を叩き込み、衝撃の弾を撃ち込んでくる。そして、その衝撃を利用して離れていく。

 

骸佐「………っ!」

 

一撃離脱を容易くやってのける。それもこちらの体力を削るやり方で、だ。

普通、自らの間合いにいれたのならできる限り相手に隙を見せないように連撃を叩き込む。それが結果として高打点となる。

それを切り捨て、打点は低いが確実に入る一撃を叩き込む。そしてその一撃を何度も同じ場所に当てることで打点を稼ぐ。

…対人戦で最もやられたくねぇ戦い方だ……!

同じ場所を何度も叩かれることで、そこに意識が集中する。それで不意に別のところを叩く。そしてまた意識が逸れたところでもとの位置に戻す。集中を削ぐことで相手の行動を単純化させる。

そして、先に自分が動くことでこちらの動きを制限させるところが、

(たち)の悪い野郎だ…!

骸佐は跳ぶ。直線的な立ち会いでは不利を悟り、宙を舞うように飛び、確実に一撃を、されど相手の間合いから外れるように身体を捻る。

 

千鳥は含み笑いを隠しながら迎撃した。

しかし単に腕を上げるのでは既に宙にいる骸佐を捉えることはできない。

だが、千鳥は気にしない。

それどころか右足を大きく後ろに振り上げると、

 

千鳥「おや、こんなところにバナナの皮が」

 

勢いよく蹴り上げた。

だが、実際にはバナナの皮なんてものはこの戦場に存在するはずはなく、たとえあったとしてもなんの効果もない。しかしそれが喩えだとしたら話は別である。

大きく蹴り上げたことで千鳥は転んだのだ。単に蹴り上げるのではなく勢いをつけたからこそ出来る芸当である。無論、足が上がるということは流動的に頭は下がるということになる。それを利用して千鳥は骸佐を射線上に無理矢理入れ込んだ。

 

骸佐「なっ!?」

 

無慈悲にも両腕の砲門から放たれた衝撃波は骸佐を捕らえ、墜落させた。

 

 

一瞬の出来事だった。衝撃が骸佐の身体を大きく吹き飛ばし、地面へと叩きつけられた。

骸佐が立ち上がるよりも先に骸佐に影が落ちた。

 

骸佐「……!!」

 

顔を上げた先には砲門を向けた千鳥が立っていた。

 

千鳥「惜しかったな。だが、時間切れらしい」

 

骸佐「時間切れだと…?ふざけるな!俺はまだ…!」

 

千鳥「いいや、終わりだ。ちょうど現当主(ふうま小太郎)が来た」

 

千鳥の視線の先には二人の生徒を連れたふうまの現当主がこちらを見ていた。



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