お人好しの不幸な子供育成日誌 (ジシェ)
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最初の一人

オリジナル小説読み漁ってたら自分も書きたいな…と思って投稿しました。自分でも馬鹿だとは思ってます。
三つ同時投稿とか全部終わんの何年後になるんだ?
まあ不定期更新増えるから自分の他小説読んでくれてる人には申し訳ない…でも書くの楽しいんですよ。試しでもいいので至らないところは目を瞑って、読んでいただけると嬉しいです。


「うぇーん、うぇーん、」

「………」

 

雨の中、泣き叫ぶ少女の前に、俺は足を止めた。

少女の顔にハンカチを当て、大粒の涙を拭う。

そして、ほぼ無意識に囁いた。

 

「付いて来るかい?」

「…いいの?」

 

思えばこれが始まりだった。

辺りには、雨の音が響いていた。

 

―――――

 

「……そんなに引っ付かなくても、逃げたりしないよ?」

「……」

「……不安なのは分かるけど、それじゃあ何も出来ないから、ね?」

「…うん…」

 

足に引っ付いていた少女は、渋々ながらも離れてくれた。

 

「さてと…何であんなところで泣いてたのかな?親御さんは?」

「……いないの…」

「え?」

「お父さんも、お母さんも、どこにも……」

 

再び泣きだした彼女は涙ながらに説明してくれた。

母親から外で遊んでこいと追い出された。

夕方程に帰ると鍵は開かず、アパート住まいだったため隣家の人が心配して、大家さんを連れて来てくれた。

開いた部屋には誰もいなかった。

しばらく大家さんと待っていたが、一向に帰らず夜になった。

父親が仕事から戻ることもなく、その日は大家さんのお世話になった。

翌日になっても帰ることはなかった。

大家さんが、『捨てたのかい…?』と呟いたのを聞いてしまい、大家さんのもとを飛び出した。

歩き回って途方に暮れて、泣き叫んでいた。

 

「そっか…」

「わたし…捨てられたの…?いい子じゃなかったから…いらない子なの…?」

「ごめんね…お兄さんには、何も分からない。けどね、一晩子供を放っておくのは、酷いことだよ。それぐらいは僕にも分かるくらい当然のことなんだ。ただ…もしかしたら、偶然何か事件に巻き込まれたとかで、帰れなかっただけかもしれない。だから戻ってみよう?僕も確認したいからね。」

「…うん…」

 

それから、その子の家に向かった。

まだ小学生にも満たなそうな幼い少女が、自分の家の場所を分かるのは、それほど追い出されることが多かったのかもしれない。

ただ聡いだけかもしれない。

親に案内されただけかもしれない。

何も分からない。

しかし確定してしまったことがある。

分かってしまった事実がある。

彼女は捨てられたのだ。

それは、大家さんに言われるよりも先に、窓から部屋を見て確信した。

その部屋には、家具も靴も、何もなかったのだ。

 

―――――

 

「お母さん…」

「……」

 

泣きそうな声で呟く少女は、自分が捨てられたことを理解している。

やはり聡い子なのだろう。

扉が開いていることに気が付いた大家さんが、僕達の前に迫る。

 

「あんた誰だい?その子の親はもっと厳つい顔だったような…?」

「この子を保護した者です。少しお話しいいですか?」

「…ああいいとも。しかし…」

 

少女をちらりと見る。

やはり話ずらいのだろう。

捨てられたというのは、子供には辛いどころの騒ぎではない。

気遣える大家さんは、いい大人なのだろう。

もっとも、賢い彼女は既に悟っている。

しかしわざわざ本人の前で話すことではない。

大家さんは、隣家の人を呼び、少し少女を見ているよう頼んだ。

 

「それじゃあ話そうか。」

「はい。」

 

―――――

 

「見ての通り、家具も何もないってことは…」

「夜逃げ…ですか?」

「…多分ね。そもそも結構な博打中毒だったんだよ。」

 

その後は、よく聞く話を淡々とされた。

競馬やスロット、博打ばかりする放置親。

借金だらけでぼろぼろな家庭。

家賃も三ヶ月滞納中。

子供に対して、父親は暴力を振るう。

母親は見てみぬ振り。

 

「酷いですね…」

「だろう?彼女も気の毒な子だよ…」

「……そうですね。」

 

親に愛されることもなく、それどころか暴力を振るわれた。

気にかけるでもなく、放置し続けた。

常人には想像出来ないような生活。

それを受け入れていた。

 

「…なああんた…」

「引き取ってほしい…ですか?」

「…あの子が気の毒でね…勝手とは思うけど、あたしに養う余裕はないんだ。あんた人は良さそうだし、あんたになら預けられる。そう思ってね…」

「……最初からそのつもりですよ。」

 

自分だって気の毒だ。

可哀想だと思う。

一度助けたなら、面倒見るのが責任というものだ。

それに…

 

「僕も…一人は寂しいですから…」

「…ありがとうよ。」

 

―――――

 

「疲れたんだね。」

 

時刻は既に五時を過ぎた。

帰る頃、少女は倒れるように寝てしまった。

今はおぶって帰っているところだ。

大家さんから少しこの子のプロフィールを聞いて、ある程度分かった。

 

名前は柊谷(ひいらぎ)(ひとみ)

年は七、誕生日は三月三日の雛祭り。

身長は114cmと小柄。

髪は切れず、結ぶ物も買ってもらえなかった。

よく大家さんと話していて、家の話もたまにしてくれた。

学校には一応行っていたが、友達を作る心の余裕はなかったらしい。

義務教育で小学校に行かせないのはまずかったのだろう。

勉強は並、聞く限りでは学校でもあまり話さない。

 

これほど大家さんが知っているということは、余程相手をしていたということなのだろう。

 

「苦労したね…これからは明るく過ごせればいいな…」

 

そう自分に言い聞かせる。

 

―――――

 

「ふぅ…」

 

僕は瞳ちゃんを布団に寝かせ、夕飯を作ろうと台所へ向かった。

食材は、豚肉キャベツ人参…もやし。

野菜炒めかな…

 

―――――

 

「んぅ…」

「夢でも見てるのかな?」

 

寝てる彼女の横に座ると、置いた手をその小さな手で掴まれる。

 

「……僕…この子の父親に…なれるのかな…」

 

そう不安になる。

 

「…ならなきゃ…いけないよね…」

 

彼はそう胸に誓う。

しかし彼は知らなかった。

そして気付いていなかったのだ。

自分と周りとの差違に…

自分がどれ程のお人好しなのかを…

 

―――――

 

「うぅ…ん…」

「起きたかい?」

「ん……!?」

 

何かに驚いたように、彼女は飛び起きる。

すぐに理由は分かったが、他にも疑問がある。

 

「……わたし…」

「大丈夫だよ。君は僕が引き取ることにしたんだ。だからもう、安心してほしい。」

「なん…で…」

「うん?」

 

泣き叫ぶ彼女は、何故、何故と繰り返す。

自分は悪い子なのだ。

自分がいても良いことなんてない。

 

「わたしは……!」

 

僕は彼女を抱きしめる。

この子は十分苦しんだ。

これ以上辛いことをさせてどうする。

 

「大丈夫。もう大丈夫だから…」

「……お兄さ…」

「今まで辛かったね…もう大丈夫だよ。」

 

幸せにしなければ、引き取った意味はない。

こんな幼い子を、苦しめていい道理はない。

これからが…この子の始まりだ。

 

「これからは、楽しいことを知っていこう。」

 

それはこの子に言ったのか。

それとも自分に言った(誓った)のか。

今の僕には分からなかった。

 

 




面白そうと思っていただけたら是非次回も…いつになるかな…


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初めての娯楽

時間も固定にしよう…というか予約投稿にしようと思います。多分朝六時位です。


「落ち着いた?」

「…はい。」

 

一頻り泣いた彼女は、やはり少し居心地が悪いのかそわそわしている。

まぁ助けられたことを理解していても、赤の他人に親代わりになると言われて、すぐに受け入れることなど出来ないだろう。

 

「とりあえずご飯…食べよっか。」

 

比較的笑顔に言えたと思う。

優しめな声音と、本心からの笑顔。

これさえ出来れば多少信頼は受けられるだろう。

この子に必要かどうかは分からないが…とりあえず作った野菜炒めは食べてくれた。

 

「ごめんね。今は色々切らしてて…有り合わせの物しか作れないけど…」

「……ぃしい…」

「え?」

「おいしい…です…ぅ…うぅ…」

「え!?ちょ…な、泣かないで…!」

 

夕飯を食べるなり泣きだしてしまった。

僕ははっとなり、この子の生活環境を思い出した。

賭博に金を使うような親が、子供の食事に金をかけるだろうか。

おそらくだが、彼女はろくに食事も取っていない。

体裁を保つため給食がかろうじてある程度だろう。

満腹まで食事をとれるのも、初めてなのかもしれない。

 

「……これからはもっと美味しいご飯、食べさせてあげるからね。」

「ぅ…ひっく…」

 

その後も彼女は、泣きながらご飯を食べるのであった。

僕はそれを眺めながら、次の食事を考えるのだった。

 

―――――

 

「ごちそうさまでした…」

「お粗末様。」

 

食事を食べ終える頃には、涙も収まった。

終始泣きながら箸を口に運び、味わうように咀嚼する。

今の時期は春休み…つまり給食もない。

かなり飢えていたのだろう。

幸い引き取ったのは休みの二日後らしい。

毒親ながら捨てるタイミングは有難かった。

子供を捨てるのは許せないし、暴力を振るうなどもってのほかだが。

 

「今日はもう遅いし、お風呂に入って寝ようか。使ってない部屋が一部屋あるからそこで…」

「……」

 

案内しようとすると、服の端を軽く掴まれる。

 

「えっと…」

「…ごめん…なさい…」

「…ううん。大丈夫だよ。そうだなぁ…」

 

一人は不安なのだろう。

部屋まで服を掴んだまま着いてくる。

それから風呂の方にも案内したが、離してくれない。

 

「うーんと……」

「お礼にもならないけど…せめて、お背中流します!だから…一人に…しない…で…」

 

かすれ声でそう必死に言う。

子供とはいえ女の子と風呂って…大丈夫なのか。

まあ親なら普通か。

 

「いいよ。でもね、お礼とか別にいいんだよ?だって…」

 

『僕も救われているのだから』

 

「…?」

「…ふふっ何でもないよ。」

 

その後は端から見れば犯罪的な光景となるが、ほのぼのした親子の対話となった。

 

―――――

 

「そういえば結構さっきまで寝てたし、寝られるかな?何か眠くなるまでしようか?」

「あ…はい…ありがとうございます。」

「それじゃ…これでもしよっか。」

 

実を言うと休みの日にこの子がいた場所を通ったのは、趣味の買い物が原因だった。

ありきたりの趣味…つまりはゲーム。

僕の場合漫画もアニメも、二次元全般…とまではないが、全て趣味だ。

今回買ったのは64ドン◯ーコング。

古いだろう。

近所のゲームショップが取り扱うゲームの幅が広いため、オタクにはとてつもなく有難い店だ。

なんと徒歩十分、久々やりたいゲームもこの通り。

ということで暇潰しに瞳ちゃんと一緒に遊ぶのだった。

 

―――――

 

「こっちですか?!」

「そうそう…そっち行けばそろそろボスだから…」

「アルマジロですか?」

「以外に強いから気を付けてね。」

 

最初のボスまでやってしまった。

楽しく遊ぶのなども初めてなのだろう。

既に二時間程経っている。

操作が瞳ちゃんだけに、マップを知ってても時間がかかったが、初心者にしては上手い。

一回やられたが、ボスも楽々突破し、仲間を助けられて嬉しそうな顔をしている。

ゲームに感情移入してしまうのだろう。

その気持ち、かなり分かる。

しかしそこまで来て眠気がきたのか、大きくあくびをする。

二時間のプレイ、つまり既に十時程。

子供は寝る時間だ。

 

「眠い?」

「…はい…」

「じゃあ、続きはまた明日にして…今日はもう寝ようか。」

「ん…」

 

おっと目が虚ろで首が傾いている。

僕は今は使っていない親の寝室(・・・・)へ連れて行く。

瞳ちゃんをベッドに寝かし、自分の寝室へ戻ろうとした時、瞳ちゃんの言葉を思い出す。

 

『一人にしないで』

 

その言葉を思い出した僕は、幸いにも広いベッドに入る。

すると不思議なことに、丁度手を握られる。

僕は微笑み、一言囁き眠りにつく。

 

『また明日』

 

―――――

 

一日目

 

一人は不安らしいのでほとんど一緒にいた。

食事も気に入ってくれたようで、ゲームも楽しんでくれた。

学校までは七日間。

その間に少しずつ知っていきたいと思う。

とりあえずゲームは好きになってくれそうだ。

学校ではあまり話さなかったようだが、二年生に上がって友達を作ってほしいと願う。

まずは明るく過ごせる環境にしよう。

 

 




良ければ次回もお願いします。
追記:ドン○ー64の1ボスアルマジロでしたねぇ…やったの三年前だったから間違えてました。何故サイと間違えたのかな?直しておきました。別に二次だから著作権的に変えたわけではないです。


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我が儘と幸せ

結局予約間に合わなかったです…書き終わったの今です…始めたのも今日ですけどね。もっと余裕持って投稿するよう努力します。ちなみに一話二、三時間かかります。始めると楽しくて止まらないですね。同感してくれる人がいたら嬉しいです。


『ピピピピッピピピピッ…』

「んん…」

 

いつも通り五時に鳴る目覚ましを止め、布団を這い出る。

そこでふと気付く。

自分が寝てるのは親の部屋だった。

何故だろうと考えつつ横をふと見ると、瞳ちゃんが小さな寝息を立てて眠っていた。

それから少しずつ意識がはっきりしてきた僕は、昨日のことを思い出し、すぐに朝食の準備に入った。

 

「あ…冷蔵庫なんもないや…」

 

机を見ると、食パンとジャム、バターやピーナッツバター、チョコクリームと、幸いパン関連は揃っていた。

 

「パンしかないな…」

 

呟き冷蔵庫を開くと、卵が二つだけあった。

目玉焼きも追加することが決まった。

 

―――――

 

「……そろそろ起こすか…でもなぁ…うーん…」

 

朝食を作って机に並べたのが十分前。

悩み始めて五分。

悩みの理由は瞳ちゃんを起こすかどうか。

何故悩むか、それは時間だ。

小学生に五時半起きは早いのではないだろうか。

寝たのが遅かったのに、早く起こすのは可哀想ではないか。

実際睡眠時間は七時間程。

子供なら、しかも休みならもっと眠っていたいのではないか。

その自問自答を、更に五分続けるのだった。

 

―――――

 

僕は問うのを止め、起こすことに決めた。

瞳ちゃんのため仕事も今日は休みにしてもらった。

うちがホワイトでよかったと心の底から思った時だった。

まあそれは関係なく、いい加減起こさなければトーストが冷めてしまう。

まあ既に半分は冷めているが、子供は熱いのは苦手だし丁度いいくらいだろう。

六時に近い時間だし、この時間なら起きる子も普通にいる。

可哀想だが起こすとしよう。

 

「…ん?」

「……お、おはよう…ございます…」

 

どうやら自分で起きたようだ。

考えるとこの子の親が、惰眠を貪ることを許すわけがなかった。

普段から早起きなのだろう。

そして悩んでいる姿を目撃されてしまったらしい。

 

「…お、おはよう…」

 

何となく恥ずかしい姿を見られた気分だ。

とりあえず朝食が完全に冷めないうちにと、席に座ってもらい、対面の席に僕も座る。

 

「…えっと…食べていいよ?」

「は、はい!」

 

何故かパンに手を付けようとしない彼女に、食べるよう促す。

食事が珍しいことだったのだろうが、出来れば聞く前にもう食べてほしい。

 

「い、頂きます…」

「沢山食べてね。欲しかったら牛乳もあるよ。いる?」

「…はい!」

 

年不相応に綺麗に食べる。

昨日のように泣きながら食べるということもなく、普通に食事が出来ている分、少しは改善されたのかもしれない。

 

(朝食を食べたら今日何するか…いやしたいかを聞かなきゃな…)

 

自分から言い出すことはないだろう。

彼女は頭も仕草も年不相応だ。

七歳の子供が我が儘を言わないなどあるか。

七歳の子供が人の顔色を伺って自分の行動を制限するか。

まずは彼女に、これが当たり前なのだという常識を教えよう。

やりたいことは言う。

食事は好きに食べていい。

嫌なことは言っていい。

こうゆうことは、子供にとっては当たり前のことなのだから。

 

―――――

 

「ごちそうさま。」

「ごちそうさまでした…」

 

ただのパンなのに凄い美味しそうに食べてくれた。

満足したようで何より。

しかしこれからが本番だ。

 

「瞳ちゃん。今日何かしたいこととかある?」

「え…え、えっと…?」

 

しまった混乱させてしまった。

まさか聞いても何故と考えるのが先とは思わなかった。

 

「あー…んー…どこか遊び行きたいとか…そんな感じのさ…」

「……私…」

「ああいや無理にそうしなくても…まだ部屋から出たくないとかでも全然…」

「違うんです。したいことってゆうのが…分からないんです。」

「あ…」

 

彼女は行動を縛られて生きてきた。

他の子供と同じことなどすることもなかった。

だから、あの環境から逃れただけでもはや満足なのだろう。

そして引き取った僕への負い目。

我が儘を言ってはいけないという遠慮。

それらが再び、彼女のことを縛っている。

 

「…瞳ちゃん。」

「はい…?」

「遠慮とかさ…その…もし僕に何か負い目を感じてたりするなら、そんな必要ないんだよ?」

「!」

「僕は君の親になったんだから、もっと我が儘言って、自分勝手に過ごしていいんだよ。」

 

それからは僕の昔語り。

子供の時は門限を夕方程で決まっていたのに、友達を巻き込んで平気で破った。

買ってほしいものを見つけるたびにねだっていた。

その度に親を見ると、二人はいつも笑顔だった。

 

「親はね。子供が我が儘を言う理由を知ってるんだよ。」

「?」

 

子供が我が儘を言うのは、親に構ってほしいからだと誰かに聞いたことがある。

そして聞いてもらえると、凄く嬉しそうにするのだ。

嬉しそうな顔を見て、親もまた、幸せな気分になる。

 

「僕は親として、君の幸せを見ていたいんだよ。」

「幸せ…?」

「そう。(子供)が幸せそうにしていると、()も幸せになるんだよ。」

「幸せ……私…私も…幸せに…なっていいんですか…?」

「勿論!それが僕にとっての生き甲斐になるんだよ。違うな…これが僕の我が儘かな?」

 

彼女が楽しく過ごすこと、幸せを感じる明るい生活、それを創るのは僕であり、望むこと。

これを彼女に望むなら、それが僕の我が儘だろう。

 

「……」

「それで…何かしたいこと…あるかな?」

「…また…昨日みたいにゲームがしたいです。」

「あれ?もっとこう…公園とかで遊ぶとか…ほら!ゲームならゲームセンターとか…」

「いいんです…私は…」

 

『お兄さんと、もっと触れ合っていたいです。』

 

その言葉を飲み込み、彼女は彼に寄り添う。

彼の膝に乗りゲームを始めた彼女の顔は、とても幸せそうだった。

 

―――――

 

二日目

 

もっと我が儘を言ってほしいと結構直球に言ってみた。

その甲斐あって、瞳ちゃんを膝に乗せてゲームをした。

痩せてて軽いから、少しも重みを感じないのは少し心配だ。

しかし彼女は、初めて自分から何かを言い出すことを知ってくれた。

これから更に改善されることを願いたい。

結局一日のほとんどをゲームに費やしてしまったし、完全なインドアになるのも、まして長時間ゲームをやり続けるのも、健康的によろしくない。

外で出来ることを習慣付けた方がいいかもしれない。

明日も我が儘を言ってくれることを願う。

 




育(主人公)の仕事はホワイト企業のサラリーマンです。特徴のある仕事とか自分まだ学生なんで分からないですごめんなさい。プロフィールは後書きとかでその内書きます。育から一人ずつですね。詳細考える時間が欲しいです。お待ち下さい。


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お買い物

予約上手く出来てなかったのに一時くらいに気付いたので、今投稿しました。やはり時間は未定になってしまいすみません。


私の名前は柊谷瞳、今年で二年生になる小学生です。

私の家庭はそれは辛いところでした。

何か気に食わないことがあれば八つ当たりをするお父さん。

家のことを(奴隷)に押し付け、パチンコへ行くお母さん。

私はいつか殺されてしまうのではないか。

そういう不安を常に持っていました。

学校でも安心は出来ず、震えて過ごす毎日。

しかしその日々は、一つのきっかけで終わりとなりました。

両親は私を置いて家を出ました。

(ゴミ)を捨てたのです。

お金を稼ぐことも出来ない。

体を売れる年でもない。

見るだけでイラつく存在。

そんな私を、とうとう二人は捨てました。

赤の他人にはとても不幸なことかもしれません。

しかし私は、そんな風に捨てられたことにより、本当に自分を想ってくれる人に出会えました。

(奴隷)に無理に働かせない。

(ゴミ)を捨てようとしない。

(子供)を幸せにしようとする。

この人は、()を見てくれる。

それが、見てくれる(それだけのこと)が、とてつもなく嬉しい。

私はこの人の役に立ちたい。

私はこの人の側に居続けたい。

私は――

大人の人は、この感情をこう呼びます。

『依存』と…

しかし、たとえこれが悪い感情だと言われても、なくなることはないでしょう。

『依存』し続けることが、私を支えてくれる。

いずれは離れるべきでしょう。

でも今は…この想いは、失くしたくない。

私はずっと…(お父さん)の側に――

 

―――――

 

「瞳ちゃん。」

「はい?」

「今日はちょっとお買い物に行こうと思うんだけど…一緒に行かない?」

 

思えば彼女の服は、元々着てた一着と、自分の昔のお古しかない。

そのお古も結構古い。

あまり綺麗な服とも、元々僕の服だったから、女の子の服とも言えない。

女の子はお洒落なものだし、いつまでもそんな格好はさせたくない。

それに食糧もあまりない。

どちらにしろ買い物には行かなければ。

彼女は少し渋っていたが、すぐに行くと言った。

 

―――――

 

僕達は、近所のイオンに来ていた。

 

「何か着たい服とかある?」

「服…?」

「えっと…ほら…学校の同級生の着てたものとか…」

「……私…服なんて平気です…」

「えー…」

 

やはりまだ遠慮が残っている。

服がいらないなど余程無頓着でない限りないだろう。

子供とはいえ女の子だ。

 

「そんなこと言わないでさ…可愛い服とか、興味あるでしょ?」

「…あの…本当にあまり興味ない…です…」

「ん…ゲームとかの方が興味強いかなぁ…?」

「は、はい…」

 

これは結構まずいかもしれない。

うちの子が完全なインドアのオタクになってしまう。

服に頓着しないのは明らかだ。

これでは女の子らしさがなくなってしまう。

かといって女の子の服など僕には分からない。

自分の服でさえセンスがないと言われたのだ。

他人の服を考えるのは無理だ。

 

(どうしたものか…)

「あー…ちょっと…ごめん。電話するから待っててもらっていいかな?」

「電話?」

「うん。知り合いに協力してもらおうと思ってね。」

「………」

「あ、大丈夫!絶対置いていったりしないから!数分電話するだけだしね。」

「…はい…」

 

少し離れるというだけで結構な衝撃を与えているようだ。

かなり依存しているのかもしれない。

会ってまだ三日だというのに…これまでの生活が窺える。

僕は同僚の一人に電話した。

自分は元々今日は休みだったので、電話がかかってきても然程不自然さはないだろう。

確か彼女(・・)も休みだったはず。

 

「………あ、もしもし?」

『育さん!?ど、どうしたんですか!?』

「いや…ちょっと協力してほしいことがあって…」

『何でも言って下さい!育さんのためなら何でも…』

「そ、そこまでは…」

「今どこですか!?すぐに行きます!」

 

彼女は同僚の東雲 (しののめ )杏佳(きょうか)

実を言うと、僕は彼女に告白された。

彼女はとてもいい人柄をしているし、外見も可愛らしい。

ただ僕は、彼女を振った。

振る理由なんてない。

ただ僕は、彼女を作る気にはなれないのだ。

まあ彼女は諦めずにいつもアピールしてくるのだが。

女の子のことを聞くならこれ程丁度いい人はいない。

好意を利用したくはないので、あまり協力を求めるのも気が引けるが、彼女以外の女性とは接点がない。

結局は利用してしまうことは、悪いことかもしれない。

僕は居場所を伝え、瞳ちゃんのもとへ戻った。

 

―――――

 

「お、お嬢ちゃん…ひ、一人かなぁ…?」

「え…?えっと…?あの…?」

 

少し小汚ない男性に絡まれていた。

俗に言うロリコンの類いか。

そう思った僕の行動は早かった。

 

「うちの娘に何か用ですか?」

「お、お兄さん…」

 

少しきつめに言うと、その男性はすぐに逃げて行った。

瞳ちゃんを恐がらせた罪は重い。

 

「大丈夫だった?ごめんね。すぐに来なくて…」

「だ、大丈夫です…お兄さん…戻ってくれた…」

 

余程不安だったのか、瞳ちゃんは人目も憚らずに抱き付いた。

それから十分程待ち、東雲さんが来た。

 

「お、お待たせしました!」

 

黒髪で長髪、身長は小さいくらいで、少し後輩のような雰囲気を纏った職場の同僚が、そこにはいた。

 




予約ちゃんと出来るよう次からは確認します。


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着せ替え瞳ちゃん

予約出来た\(^^)/(わーい)


東雲さんは息を切らして謝罪をしている。

別に平気と言っても頭を下げ続けてしまう。

これだけでも相当良い子だ。

世の中謝ることも出来ない大人もいる。

まあ逆に謝り続けられても困るが。

 

「大丈夫だから…ほら、人目も…」

「ご、ごめんなさ……!?」

 

謝りながらふとこちらを見た東雲さんは、目を見開いて驚いている。

瞳ちゃんがいることに困惑しているようだ。

僕には家族がいない。

親戚との交流がないことも、職場の人は知っている。

彼女からすれば、何の関係もない少女が、僕に引っ付いているようにしか見えないことだろう。

隠し子か、それともロリコンとでも勘違いしたのか、本当に混乱しているようだ。

 

「ああああの……そ、そそその子…は…?」

「ああえっと…とりあえず一から説明したいし…少し早いけどお昼にしようか?」

 

時刻は十一時。

昼食の時間としては、微妙なところだ。

彼女は承諾し、一階のフードコーナーで食事にする。

僕はうどん、そして二人は…まさかのうどん。

他にも色々あるというのに、三人全員一緒の食事だ。

まあ考えていることは何となく分かる。

 

(育さんと一緒に食事…!)

(……美味しそう…)

(本当に…分かりやすいなぁ…)

 

二人とも凄い笑顔だ。

話しかけるのを躊躇ってしまう。

しかしチラチラと瞳ちゃんを見る東雲さん。

そろそろ説明した方がいいだろう。

 

―――――

 

「成る程…」

「うん。納得いったかな…?」

「ふむ…育さんらしいですね!」

「へ…?」

「恋愛している人は相手の人のことをよく知ろうとするものですよ!でも…」

「?」

「優しいところは、育さんを知る人なら皆分かってます。ね?瞳ちゃん。」

「はい!」

 

優しいとか他人に言われると少し恥ずかしい。

瞳ちゃん凄い笑顔だし、東雲さんちょっとにやけてるし。

 

(でも、優しいって言われて、嫌な人はいないね。)

「ありがとう。」

 

―――――

 

食事を終えた僕達は、すぐに服屋へ向かった。

それからは僕は特に出来ることもない。

二人が選び終えるのを待つばかりだ。

 

「これとかどうでしょう?」

「うん可愛いね。まあ素材が良いから当然だね。」

 

薄青のワンピースに麦藁帽子。

よくアニメとかで見るスタイル。

何となく僕を意識して東雲さんが選んだのが分かる。

リアルで見てみたいっていったことあったな…そういえば…

でも季節的にちょっと早い。

そして次の服。

 

「やっぱり女の子だし、ピンクは似合うね!」

「うん。それもいいね。」

「あ、あの…」

「よし!次は…」

 

―――――

 

アニメとかで着せ替えされてぐったりする女の子とか、たまに見るよね。

リアルで見るのは初めてだよ。

ということで着せ替え終了。

最初の二つ、ワンピとピンク貴重の白線の入ったシャツ、そして麦藁帽子は購入。

他にもいくつか購入して、その日はお開き…とはいかない。

東雲さんがイオンのゲームコーナーに寄ると言った。

瞳ちゃんがゲームを気に入っていることも話したので、おそらく一緒に遊ぼうと思っているのだろう。

当然『一緒に遊ぶ』の中に僕もいる。

ゲームコーナーに着いた。

時刻は、およそ三時。

服選びに三時間近くかけていた恐ろしい現実。

女の子は凄い。

 

「何やろっか?」

「んー育さんはどれが好きですか?」

「まあ太鼓はいつもやるかな。」

「やっぱりそうですよね…」

「太鼓…?」

「あれのことだよ。」

 

そうして僕が指指す先には、太鼓とバチが設置されている。

太鼓の○人と呼ばれるリズムゲームだ。

せめてゲームでも少しは運動しないとね。

 

「子供がやるにも向いてるし、やってみる?」

「は、はい!」

 

―――――

 

「育さん流石に上手いですね…」

「あはは…結構やってるからね…」

「瞳ちゃんも上手だったよ!難しいをクリア出来たし、普通なんてフルコンだし!」

「うん。でもなぁ…」

「…あ…」

「?」

「う、ううん!何でもないよ!瞳ちゃん!」

 

インドア派への道のりは短い。

 

―――――

 

「今日はありがとう。」

「いえいえ~こちらこそ楽しかったです。」

「あ、ありがとう…ございます…お、お姉さん…」

「!お姉さん…ふふ…」

「じゃあまた仕事で…」

「はい!でも…またお休みには誘って下さいね!」

 

東雲さんは駅へ向かう。

僕達は徒歩なので、イオンで別れる。

 

「じゃあ行こっか。」

「はい。」

 

―――――

 

「…今日はありがとうございます。」

「うん?」

「私に気を遣ってくれたんですよね…?」

「ああ、うん。瞳ちゃんは女の子だし、お洒落は好きでしょ?」

「……」

「…楽しかった?」

「……はい!」

 

―――――

 

三日目

 

同僚の東雲さんに協力してもらい、瞳ちゃんの服を買った。

とても可愛い瞳ちゃんが見れて、僕も嬉しく思う。

ゲームコーナーでも楽しそうな瞳ちゃんが見れて、瞳ちゃんにとっても楽しい一日に出来たみたいだ。

ただ少しゲーム中毒の心配をする生活。

気を付けることにしよう。

育児は大変だなぁ。

 

 

 




前の話と分けた意味ない気がしました。作中の一日=作品の一話にしようと思ってます。当然何日かで一話とかもやらなきゃ一年間の話終わりまで365話とか長過ぎてまずいのでします。でも学校まではこのスタイルで。


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約束

もしかしたら一番いい加減なのはタイトルかもしれない。


翌日、有給を使い更に休む。

東雲さんが職場に事情説明をしてくれたようで、かなりスムーズに許可を貰えた。

一応明日からは普通に出る。

学校が始まるまで、今日を含め四日。

流石に一週間の休みは同僚に悪い。

とはいえ瞳ちゃんが心配なのも事実。

家に一人にするのも、誰かに預けるのも不安。

どうすればいいかとても悩んだ。

しかし瞳ちゃんは大人びていた。

七歳でありながら、僕に迷惑をかけまいと、常に考えていたようだ。

 

『自分は大丈夫。』

『心配なんて平気。』

『一人でも…』

 

そう言う彼女の体は、怯えたように震えていた。

 

―――――

 

「……ごめんなさい…」

「大丈夫だよ。悪いことじゃない。大体低学年の子が一人で留守番なんて、不安だよね。」

「でも…」

「瞳ちゃんはただでさえ大変だったんだ。ごめんね。」

「お兄さんが謝ることじゃ…!」

 

しかし仕事はしなければならない。

生活のために必要な、当たり前のこと。

となれば選択肢は二つ。

 

:一人で家にいてもらう

:誰かに預ける

 

この二つくらいしか思いつかない。

いや、職場に連れて行くという選択肢もありはする。

まあ流石にそれは出来ない。

一人で留守番はこちらが不安だ。

預けると言っても誰に?

ゲームで言うなら詰みだ。

どの選択肢でもバッドエンドのようなものだ。

どうしたものやら…

 

―――――

 

以外にも選択肢はちゃんとしていた。

瞳ちゃんが度々厄介になっていた大家さん。

この人はとても頼りになる。

思い出して連絡をし、聞いてみたら二つ返事。

瞳ちゃんと過ごした時間も長いし、面倒を見てくれていた人。

今の瞳ちゃんも見たいということで、僕が仕事の時は預かってくれるとのことだ。

解決してよかった。

 

―――――

 

「瞳ちゃん、昨日はお買い物に行ったけど、今日はどうしようか?」

「…遊んでばかりだと……少し…」

「子供は遊ぶのが仕事だよ。」

「でも…私…」

「…やっぱり気が引けるよね…今までを考えれば当然ではあるけどさ…前も言った通り、遠慮とかはいらないんだよ。」

「…それでも遊ぶばかりはなんだか…人としてどうかと…」

 

これが七歳の言うことだろうか。

下手な中高生よりも真面目ではないか。

学級委員とか向いてそうだ。

まさか人として駄目と思うとは…

 

「うーん…じゃあ少し勉強でもしよっか?」

「はい…!」

 

―――――

 

二年生が習うこと…九九とかかな。

一年だと時間や足し算引き算、国語は朗読、理科などアルコールランプの使い方など。

簡単な英会話もあったか。

二年生とはいえ、あまり変わりはない。

簡単なことを教えるとしよう。

 

―――――

 

「今度は鳥…?ですか…?」

「多分…」

 

勉強は二時間程でやめた。

九九の計算、英語の簡単なもの。

英語は暗記も多いし、子供の集中力で二時間は長い。

そしてゲームに行き着くのだ。

最初に教えた娯楽のレベルが高過ぎた。

二面ボスとか来るの結構早いな。

うちの子ゲーム上手い。

結局その日、ほとんどゲームをして過ごしたのだ。

昔を思い出す光景だが、教育にはよろしくない。

でも自由にさせたい。

楽しむ姿が可愛いのだ。

結局適度に遊ぶのが、一番いいことなのだ。

 

―――――

 

「夕飯は青椒肉絲(チンジャオロース)だよ。」

「チンジャオ…?」

「簡単に言うと、ピーマンと肉を炒めたもの?まあほぼインスタントだけどね。ピーマン切って炒めるだけ。」

「…料理…してみたい、です。」

「え…」

「あ、その…何か…役に立ちたいから…」

 

良い子過ぎて泣ける。

普通手伝いとか言ってもやらない子が多いだろうに。

 

「でも火とか包丁とか危ないから、もっと簡単なものを作る時に教えてあげる。」

「は、はい!」

 

料理を教えてあげる約束をした。

これからのことを考えるのは、凄く嬉しいことに思う。

 

「…幸せだな…」

「?」

「何でもないよ。」

 

―――――

 

四日目

 

学校の勉強を軽く行った。

考えるとかなりの予習になるのではないか。

テストとか見るのが楽しみだ。

勉強を終えた後は、結局ゲームをした。

インドアに染まるのが少し…いや凄く心配だ。

でも料理を覚えたいと瞳ちゃんは言うから、女子力的には平気かもしれない。

裁縫なども教えてみれば嵌まるかもしれない。

それも今度聞いてみよう。

 




間違えて投稿しちゃいました。書いて出すタイミングばれますねこれ。もっと早く書きます。そして予約します。


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普通

短い。もしかしたら今夜の6時にも更新するかも。瞳ちゃん視点より育視点の方が都合がいいんですここから。
なので切ったんですけど…凄く短くなっちゃった。基本平均2000文字にしたい。


「ん…ふぁ…」

 

私は世界一幸せ(世界一不憫)な少女こと柊谷瞳。

私の朝は早い。

いや、世間的というよりは子供にしては早い。

朝五時には起き、掃除…家事をしなくてはならない。

いや、ならなかった。

私の常識は変わった。

それが良いことなのかは分からないが、今の私の常識は、起きたら必ず挨拶をすること。

『おはよう。』と、ちゃんと言う。

そしてその後は、お兄さんが作る美味しいご飯を食べる。

それからは自由。

これが今の私の生活。

この四日間、その短い時間で、私の生活は変わった。

家事は手伝うくらいでいい。

殴るような怖い人はいない。

外に逃げる必要もない。

お腹一杯にご飯が食べられる。

私は幸せだ。

この世界の誰よりも…

 

―――――

 

「今日はどうしようか?」

 

お兄さんは朝、絶対に聞いてくれる。

今はもう昼だが…

私が何をしたいかを尋ね、させてくれる。

ただ…私がやりたいことなど、本当にない。

ゲームはしたいけれど、あまりやり過ぎるのもよくない。

 

「…………」

「う~ん…まあやりたいことがないなら、のんびりしてようか。今日はいい天気だし、日の当たる所でお昼寝でもいいかも。」

 

お兄さんに気遣わせてしまった。

したいことがないのもよくない。

 

「……少し…」

「うん?」

「運動したい、です。」

 

この四日間、外に行ったのも買い物だけ。

私くらいの年の子供は、公園で遊ぶのか普通。

学校が始まって、どんくさいといじめられるのも…嫌だ。

少しぐらい体を動かすべきだ。

 

「運動か…僕は運動したいとか思ったことないな~」

「あ…ご、ごめんなさい!私だけで公園に…」

 

お兄さんを付き合わせることが当たり前だと思ってしまった。

お兄さんが運動が得意でないのも、見ればわかるのに。

私の我が儘に付き合わせるわけにいかない。

そう思ったのに。

 

「大丈夫だよ。別に運動が苦手なわけじゃないから…それにそんなに辛いことする気?それなら部屋から出さないよ?」

「そ、そんなことは…」

「しないでしょ?それじゃ、近い公園にでも行こうか。」

「…はい!」

 

やっぱりお兄さんはとても優しい。

お兄さんだけじゃない。

昨日のお姉さんも、大家さんも、私は両親以外の人には恵まれている。

でも両親が捨てなければ、お兄さんには会えなかった。

捨てられたのがあの時でなければ。

拾われたのがお兄さんでなければ。

だからきっと、私は凄く運もいい。

 

「どうかしたの?」

「何でもないです!」

 

その時の私は、とても笑顔だっただろう。

 

―――――

 

近くの公園まで来た。

歩いて五分程度だから本当に近い。

大きな公園、奥には…美術館(?)…まあとにかく大きい建物がある。

なんだか凄く広い芝生。

大きい滑り台。

私が届かない程高い鉄棒。

私以外にも、たくさんの子供が遊んでいた。

 

「久しぶりに来たな…」

「え?」

「子供の時よく来たんだよ。思うと一番楽しかった時かもね…瞳ちゃんも、ここで楽しい思い出を作れたらいいな…」

「……」

 

私にとっては既にもう、楽しい思い出は出来ている。

それをお兄さんに伝える必要は…どこにもないだろう。

いつか楽しかったと言えたなら…そっちの方がいい。

思い出は、思い出すものなのだから…

 

 




タイトル入れ忘れてた。


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信頼と疑惑

何故育視点が書きやすいか。もう出だしで分かるよ。


僕には友達はいない。

家族も、親戚もいない。

お金も、服も、家でさえ。

僕には何もない。

だから誰も見向きもしない。

ただ子供が遊んでいるようにしか見えない。

羨ましい。

眼前に見える何もかもが、ただ…

 

「羨ましい…」

 

そう思うのは、今日で最後なのかな…

 

蹲る僕に、少女を連れた優しげな男性が話しかけた。

 

「こんなところでどうしたの?」

 

―――――

 

「あの滑り台とか、横の柱登ったりしたなぁ~…あ、危険だからしないでね!」

「怖いから出来ないです…」

「それならいいけど…」

 

瞳ちゃんは大人しい子だ。

わんぱくな子供のように恐怖を知らないわけじゃない。

しかし臆病な方ではある。

滑り台の上まで登るのに少し怖がっている。

高い所は苦手かな。

僕も一緒に滑る。

すると年相応に笑ってくれる。

近くには形式の違う滑り台が他にもある。

少し小さいくらいなため、怖くはないようだ。

この公園はかなり広く、噴水も多い。

時間になると、全てから水が吹き出る。

丁度その時間になり、噴水を見に行った。

次に奥にある広間に行った。

そこにはまた違う遊具がある。

そこでも同じくらいの子供が何人も遊んでおり、人の数も多い。

そこで遊んでいた女の子達の一人がこちらを見て、瞳ちゃんに声をかけた。

 

「……見てるだけじゃなくて、一緒に遊ぼ!」

「え…えっと…」

 

瞳ちゃんは自分のことか分からず、自分に指を指している。

それを女の子は頭を縦に振る。

少し戸惑った顔でこちらを見る瞳ちゃんに、僕は笑いかける。

同じくらいの年の子と遊ぶことも、大事なことだろう。

瞳ちゃんはその子の元にかけていく。

僕はそれを少し離れたところから見るのだった。

 

―――――(端から見たらロリコンの図)

 

「楽しかった?」

「はい!でも…やっぱりお兄さんと過ごす時間が、一番安心します…」

「はは…そう思ってくれると嬉しいな…」

 

時刻は夕方。

子供達も皆帰り、僕達も帰ることにした。

そうして帰る途中、一人の子供を見つけた。

とても暗い雰囲気で蹲っており、服もぼろぼろ、髪にもゴミだらけ、どこからどう見てもホームレスだ。

高学年、もしくは中学生程の少年が、ぼろぼろの容姿で蹲っていた。

 

「……」

「お兄さん?」

「…ああ、いや…あの子…」

「?……!?」

 

瞳ちゃんも驚いていた。

子供ながらに、大人びた瞳ちゃんには分かるのだろう。

ホームレスという存在が。

それを見た僕も瞳ちゃんも、放っておくなど出来はしない。

僕も瞳ちゃんも、同じになったかもしれないのだから。

だから僕は、僕らは声をかけた。

笑顔で優しく、問うように。

 

「こんなところでどうしたの?」

 

―――――

 

「……あの、」

「どうしたの?」

「いや、おかしいでしょ?俺ホームレスだよ?ストリートチルドレンだよ?なんで…」

 

僕達は家の風呂に浸かっていた。

何故と聞くのは当然だろう。

普通は近づかないだろう。

路上で暮らす子供を連れて、家に向かう。

そんなことは普通はない。

利用しようと考えるか、見てられなくなったか、もしくは…

 

「…あんた…馬鹿だろ?」

「ひ、酷いね…なんでそう思ったの?」

「…路上暮らしの役立たずのガキ連れてきて、するのはまず風呂に入れる…なんでだよ!」

「いや…ぼろぼろで嫌だったでしょ?」

「だけど…はぁ…いいや。それで?何すりゃいいの?」

「?何が?」

「は?」

 

彼が聞いているのはつまり、連れて来た理由は何か。

しかし育は、全く理解していない。

純粋に、育は善人なのだ。

だからこそ、出る言葉は決まる。

 

「何も?」

「え…?」

「君が不憫に見えたからじゃ…駄目かな?」

「……っんでだよ…!」

「え?」

「なんで連れて来た!あんたはなんなんだ!路上で蹲るガキ連れて風呂入れて、特に何も求めてない?不憫に思った!?ふざけんな!あんたに何が分かる!?不憫なんざ思うか!所詮あんたも同じだろ!?無視して…汚い物見る目で見て…助けるとか言ってサンドバッグにした奴もいた…!お前も同じだろ!?この偽善者が!」

「…………」

「……助けた代わりに盗みでもしてくりゃいいのか?それとも体目当てか?さっきのガキのお守りなら楽だな…」

「……辛かったね。」

「……は?」

「怒らせるのも嫌だけど、少し聞いてくれるかい?」

「……何を…まあいいや。話せよ。」

「ありがとう。…僕はね、自分が善人とか悪人とか、そんなこと考えたこともない。偽善者とか、そういう物差しで考えたこもないんだ。個人個人で違う。善とか悪とか、枠を作る意味なんてないよ。両方あってこそ人間なんだから…」

「…今関係ねえだろ。それがなんだって言うんだよ。」

「…君を助けることが偽善なら、僕は別に構わない。助けられるなら、偽善者という謗りを受けてでも、僕は自分を貫くよ。その考えが邪道であるなら、僕は悪であろう。」

「…なんだよ…貫いた結果が、助けた相手に罵られるってのに…何で平気なんだよ…」

「『助けたい』。ただそれだけだよ。」

「んだよ…罵るこっちが惨めじゃねぇか…」

 

彼は浴室を出る。

その直前に、小さく囁いた。

 

「……助けたんなら、面倒見てくれんだよな?」

「……ふふっ…当然だよ。」

「…言質は取ったぞ。」

 

その日、家族が一人増えた。

 

―――――

 

「あの、」

「…んだよ。」

「お兄さんは…優しいですよ。」

「…これから見極めてやるさ。」

「………」

 

彼はお兄さんの用意した服をちゃんと着て、ソファに転がる。

私も…お兄さんに会わなければ…

 

少女は年不相応に、物憂げな様子を醸し出していた。

 

―――――

 

五日目

 

瞳ちゃんを連れて公園へ出掛けた。

とても楽しそうにしていたので、行ってよかった。

しかし帰りにぼろぼろの子供を見かけ、放っておけず連れて帰った。

その後は罵られたが、僕も一歩間違えば……

昼食も夕食も、三人で食べた。

名前は教えてくれたが、今までのことはまだ話してはくれないようだ。

想像はつくが、話したくないなら聞かないでおこう。

これからの生活で、心を開いてくれれば嬉しい。

瞳ちゃんとも、本当の兄妹のようにしてくれれば…

いつか…

 

 




名前は次回!
追記:仕事は午前で切り上げてたことにして下さい。前々話での話忘れてた…そのために時間も合わせたのでお許しを…!


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切るつもりなかったけど時間なかった…既にこの一日の話は出来ているのに…ごめんなさい。


―偽善者

類似した言葉は、言われ慣れていた。

本心からの救い。

無意識での手助け。

教師の手伝いをすれば良い子ぶってると陰口を。

溺れた人を引き上げたら触れるなと。

轢かれた人を見て病院に連絡をしたら遅いと。

思えば酷く不運だろう。

稀とはいえ、『助ける』ことが僕にとっては『罵り』だった。

それでも腐ることがなかったのは、お礼を言ってくれる人がいたから。

逆に助けてくれる人がいたから。

罵る人に、それは違うと言ってくれる人がいたから。

それが…僕の心だったから。

もしかしたら、この子達に出会うために、運命がそうさせてたのかもしれない。

まあどんな過去があろうと、今が幸せならそれでいい。

 

「さて…職場に連絡しなきゃ…」

 

そのために…せめて、来たばかりの彼のためにも、一緒にいてあげよう。

そうして仕事を休むのだ。

いっそ一気に有給を使い切ってもいいかもしれない。

 

―――――

 

「………」

「あ、起きた?この家が無駄に広くてよかったよ。よく眠れたかな?」

「おはようございます。」

「……夢じゃねえのか…」

「そうだよ。僕が今日から君の親代わり。」

「一緒に朝ご飯…」

「食うよ。世話になるって…言ったしな。」

 

彼は少し意地っ張りかもしれない。

言ったことに責任を持つ良い子だ。

そうして三人でご飯を食べた。

彼には何も聞かない。

どんな過去があろうと構わないが、話したくないことを無理矢理聞くのは、傷を抉ることになる。

名前くらいは教えてほしくて聞いたが、教えてくれない。

心を開くのは長くなりそうだ。

 

―――――

 

「瞳ちゃんは、今日はどうしたい?」

「……」

「…んだよ。」

「い、いえ…!」

 

二人が仲良くなるのも難しそうだ。

当然だが、もう少し気さくに接してほしいとも思う。

 

「…今日は三人でお喋りでもしようか?それとも三人で遊ぼうか?」

「…俺まで巻き込むんじゃねぇ。」

「え、ちょっと…」

 

そう言い残して彼は家を出てしまった。

家出ではなく、単純に出掛けたのだろう。

どこへ行くかも予想出来ない。

止める権利も、僕にはない。

無事に帰ってくるのを祈るばかりだ。

そう思っていると、瞳ちゃんが何か思い付いたかのようにはっとした。

 

「お兄さん…今日は…」

 

瞳ちゃんがやりたいことを聞き、僕も強く賛同した。

そのために、また買い物に行かなければ。

それからの行動は早い。

僕は出掛ける準備をし、瞳ちゃんには家の準備をしてもらう。

短い時間とはいえ、一人で留守番させるのは怖いが、入れ違いになったら困る。

僕は瞳ちゃんを家におき、買い物に出掛けた。

 

―――――

 

一刻も早く買い物を済ませ帰宅する。

折り紙で作られた飾りが、色とりどりに飾られている。

ここまでで分かるだろう。

彼の歓迎会の準備をしていたのだ。

喜んでくれるといいなと思いながら、僕は料理を、瞳ちゃんは飾り付けを続けるのであった。

 

―――――

 

「……帰ってこない…」

「…大丈夫でしょうか…」

 

夕方になっても、彼が帰ることはなかった。

流石に心配になった僕は、瞳ちゃんに家にいてもらい、再び家を出た。

 

―――――

 

「どこに……すみません!子供を見ませんでしたか!?黒髪で中学生くらいの…ああ…えっと…!」

 

黒髪の中学生などいくらでもいる。

どう説明すれば…

 

「……そうだ!首からロケットをかけた子なんですが…」

 

誰の写真か分からないが、ロケットをずっと首から提げていた。

それだけで見つかるかは分からないが、どうにか見つかってほしい。

僕は道行く人に聞き込みを続け、彼を探し続けた。

 

 

 



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友達は癒し

「どこに行ったんだ…!」

 

探し始めて一時間、時刻は既に七時。

これほど長く出掛ける場所があるとも思えない。

何かに巻き込まれたか、もしケガでもしたら…

 

「……」

 

不安が大きい。

僕は彼のことを何も知らない。

だからたったこれだけのことでも心配になる。

中学生くらいの年の子なら、七時まで帰らないくらいあることだろう。

しかし心配という感情一つで、『よくあること』が、『あってはならないこと』になる。

ただただ心配であり、不安なのだ。

どうか無事でいてほしいと願いながら、僕は市街を駆ける。

 

―――――

 

「はぁ…はぁ…」

 

息を切らして走り続けるが、やはり彼は見つからない。

時刻は既に八時を過ぎた。

瞳ちゃんには僕の携帯の番号を教えてある。

帰って来たら連絡するようにも伝えておいた。

連絡がないということは、帰ってないということだ。

使い方が分からない…のもあるかもしれない。

とにかく探し続ける。

ひたすらに聞き込み、ひたすらに走り回る。

それしか出来ることはないのだから――

 

―――――

 

九時程になり、ようやく見かけた人がいた。

路地に何かこそこそと入って行ったと。

それが大体五分前くらいになる。

僕は急いでそこまで行き、携帯で照らしながら歩き始めた。

時間が時間のために結構暗い。

いたとして気付けるか…

 

『――ぁ…』

「…?」

 

声が聞こえた気がした。

 

『――ねぇか……』

 

確かに聞こえる。

 

『お前も一緒ならなぁ…』

「…猫?」

「!?」

 

そこにいたのは彼だった。

目の前には猫、どうやら猫と話していたようだ。

 

「な…な…!?」

「あー…なんか…ごめんね。」

「う…うあぁぁ!」

 

悶絶、彼に今一番合う言葉だろう。

どうやら心配は杞憂だったようだ。

 

―――――

 

「ぐぅ…!」

「…大丈夫だよ。猫と話すくらいするって…」

「うるせぇ!」

 

今まで何をしていたかを聞くと、思いの外すんなりと話してくれた。

以前からよく撫でていた猫を探していた。

その猫も捨て猫で、しかし人に慣れていたそうだ。

偶然見つけて、一緒に過ごすことが多くて、唯一の癒しだったようだ。

 

「だから…一緒にいたかったんだよ…」

「にゃあ。」

「…可愛いね。」

「…ん…」

 

そこは同意するんだ。

とにかく見つかってよかった。

後は猫をどうするか…

 

「ね…その子が嫌がらないなら…一緒に行く?」

「え…?」

「勿論世話は大変だし、散歩に出して帰ってこないとか…病院で少し見てもらわなきゃもいけないし、大変なことばっかりだけど…」

「いいの…?」

「いいよ。」

 

彼は猫を抱え、僕に付いて帰宅を始める。

猫は嫌がる様子もなく、心地良さそうに抱かれている。

瞳ちゃんに連絡をしたら、猫が来ることを喜んでいた。

あまり表には出さないようにしていたが、声が少し高揚していた。

帰りに猫の餌を買って帰る。

その時僕は、少しにやけ顔でいたことだろう。

 

―――――

 

「お帰りです!」

 

と同時に発されるクラッカー。

彼は唖然としている。

猫もビックリさせてしまったのは少し可哀想だった。

当然歓迎会は始める。

そのために、買い物もしてきたし、飾り付けも行った。

僕が探している間、瞳ちゃんは準備をしていた。

 

「どう?嬉しい?」

「……何だよこれ…」

「歓迎会。料理はこれから作るけどね…」

「……あり…がとう…」

『……』

 

少し泣きながら、彼は感謝の言葉を言う。

僕達は笑って顔を見合せた。

喜んでくれたようで何よりだ。

それからはパーティーを楽しみ、疲れて寝てしまった二人をベッドに寝かせ、僕は日記を書く。

 

―――――

 

六日目

 

彼が中々帰らないことに心配で探し回ったが、何事もなく過ごせてよかった。

彼が今まで一緒にいた猫も連れて帰ったから、家族が更に増えた。

猫はやはり可愛い。

パーティー中に彼は名前だけは教えてくれた。

ついでに猫の名前も教えてくれた。

彼の名前は陰都 光希(かげみや こうき)

猫の名前はヒイロらしい。

偶然見かけた時に、夕焼けで赤くなった姿から付けた名前らしい。

名前を教えてくれるくらいにはなってくれてよかった。

 




予約投稿失敗していたので18時…過ぎてるけど急いで出しました。基本朝6時か18時のどちらかで投稿します。もし投稿されてなかったらリアル時間がなかったのでしょう。とにかく朝出さずにごめんなさい。


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仲間と家族

この時間にも投稿するという試しで投稿しました。毎週読んでくれる方…いたらいいなという願望ではありますが、朝なければこの時間にも確認してみて下さい。それでもなければ投稿しないと判断して頂ければ間違いないです。


()はこの家にお世話になっている。

まだ()日だが、既に返し切れない恩がある。

事情も聞かずに家に置いてくれた。

無二の親友を一緒に連れて来てくれた。

温かいご飯、寝床、そして…家族。

汚ならしいホームレスに、手を差し伸べてくれた。

しかし反面、誰かに恨まれていたりするのではないかとも思ってしまう。

家もなく、家族もいない、そんな状況での暮らし、当然似た境遇の知り合いも出てくる。

自分だけが幸福な道を選んでいいのか。

この『幸せ』は、彼らにとっての『嫉妬』に繋がるのではないか。

自分はまだ、路上で暮らす方がいいのではないか。

そう考えてしまう。

だから、僕は家を出た。

いや家出ではない。

ただ出掛けただけだ。

過去に助けられた人達に、せめてお礼の一つ、報告の一つでもしなければ、僕の『幸せ』は、『罪』として残り続ける。

せめて、いくら罵られようと、暴力を振るわれようと、彼らにお礼をしなければ。

今の自分は確かに幸せだ。

しかし前の生活でも、確かに幸せだった。

たとえ食事が貧しくても、道行く人に汚ないと罵られようと、あの頃の生活も、確かに幸せだった。

親のような接してくれたよき隣人達。

彼らも間違いなく、一つの家族の形だった。

だから、罵倒や暴力が怖くとも、彼らの元へと向かうのだ。

 

―――――

 

僕が暮らしていたのは、あの公園じゃない。

近くの河川敷に、ホームレスの集まりみたいな場所がある。

そこで暮らしていたというのは少し違い、日によっては路地やそれこそ公園にいたりした。

僕は今、その河川敷にいた。

見知った顔、よく知る場所、誰だという疑念の視線。

しかしそれは、一人のおじさんの一言で消えた。

 

「お前…光希…か?」

「…おじさん。」

 

ホームレスとして一年の間、彼はずっと、僕を守ってくれた。

彼もまた、僕の父親だった。

だから怖い。

彼に拒絶されることが。

嫌われることが。

妬まれることが。

しかしそれは…そう思っていたのは…僕だけだった。

 

「…光希…よかったな。」

「…え?」

「身なり見りゃ分かるだろ?誰か引き取ってくれる人でもいたか?それとも仕事でも貰えたか?何にしろお前は、この生活から抜け出したんだ。」

「…僕は…」

「お前のこった。どうせ自分だけ…みたいな感じで少し負い目でも感じてんだろ?なぁ?」

「………」

 

図星だった。

信じた人に責められることが怖いから、自分が裏切ったから、幸福になることが怖かったから…僕は、泣いた。

静かに、涙を滴らせた。

彼らは責めるどころか祝ってくれた。

なけなしのはずの食料を、少ない体力を、ごみ溜めを掃除してまで、僕を祝う。

 

「どうして?」

「ん?何だ?」

「だって…僕は自分だけが救われたんだよ?皆を置いてきぼりにして、僕だけが…」

「…ははは!何言ってんだ!ガキが大人に遠慮するもんじゃねぇぜ?なあ?」

『そうだそうだ(笑)』

「俺らは自分の意思でここにいる。勉強サボって、学校サボって、働くのも嫌で、こんなごみ溜めに落ちて来た。」

「ごみ溜めじゃねぇだろ~」

「一緒にすんじゃねぇよ~」

「同じだろーが。まあ、それでもな…お前みたいにそれしか道がなかった奴なんて、ここにゃ一人もいねぇよ。何せガキはお前だけだからな!ははは!」

 

そう言い彼らは笑う。

河川敷を通る一般人が引く程に、大声で笑う。

まるで面白いものでも見たかのように。

事実そうなのかもしれない。

僕は彼らにとって、珍妙な生物に近かったのかもしれない。

 

「俺らは言えば敗北者だ。努力しないでただ敗けたプレイヤーだ。でもお前はまだ、プレイヤーにもなってない。勝利も敗北も自分次第、真っ白なキャンパスだ。」

「かっけぇ言い回しだな!」

「似合わねぇ~」

「うるせぇよ。…で…ああ何だったか?まあとにかく、これからどうなるかはお前次第。どうしたいか、どう進むか、お前の道はお前が決めろ。ほら、お前はこれから、どう生きたいんだ?」

「僕は……」

 

何をすればいい。

何も思い付かない。

勿論世話になるあのお兄さんや少女に、少しでも恩返しをしなければならないだろう。

今ここにいる仲間達にも、何かお礼をしたい。

 

「……悩んでんなぁ~どうせ恩返しでも考えてんだろ?」

「必要ねぇよ!聞いたろ?俺らは自分の意思でここにいんだ!何なら将来酒驕れよ!?がははは!う、おぇ…」

 

一人の男性が酒を吐いた。

随分飲んだから酔ったのだろう。

でも…やりたいことは分かった。

 

「お?決まったか?」

「…ふふ…そうだね…将来お酒でも驕るよ。」

「…はは!楽しみにしてるぜ!」

僕はまた、彼らと過ごしたいんだ。

 

―――――

 

「ここにいたんだな。ヒイロ。」

 

路地で一匹の猫を見つけた。

彼は僕の友達だ。

ホームレスのおじさん達が親なら、彼は親友だ。

ずっと一緒にいてくれた、唯一無二の親友だ。

彼も一緒にいたら…それが口に出ていた。

 

「言葉分からないよなぁ…知ったことじゃねぇか…」

 

それでも言ってしまう。

 

「お前も一緒ならなぁ…」

「…猫?」

「!?」

 

そこに来たのは、俺を探していたお兄さんだった。

いや…そこにいたのは…()の家族だ。

 

 




前瞳ちゃんでもやった閑話です。彼の過去はもっと先で考えてるので、話展開のためまだ出しません。『俺』と『僕』の使い分けの理由もその時。何話かは自分も分からないけど。


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普通の一日

「………」

 

静かな空間に、マウスを押す音が木霊する。

キーボードをタップする音、ホイールを回す音、するのはその三つの音のみ。

発生源は当然パソコン。

理由は、小学生に必要なランドセルや授業で使う物の準備のためだ。

瞳ちゃんの以前の物は、親によって捨てられてしまった。

瞳ちゃんは身一つでここに来たのだ。

ランドセルや筆記具も何もない。

準備が遅いと思うだろうが仕方ない。

売っている場所に寄ることがなかったのだ。

それに光希君のこともある。

時間が少なかったのもあるだろう。

 

(しかし色々あるな…)

 

昔は赤と黒くらいだった気がする。

今は形も違えば色も様々だ。

僕がパソコンを弄っていると、部屋の扉が開く。

瞳ちゃんが来たみたいだ。

 

「お兄さん…ご飯一緒に食べませんか?」

 

実は起きた後、朝食だけ用意して調べていたのだ。

そこに『先に食べてていいよ。』と書いた紙は置いておいたのだが、瞳ちゃんは一緒に食べたいようだ。

 

「うん。一緒に食べよっか。」

 

これを断れる親はいないだろう。

僕はとりあえず調べるのを止めて、朝食を摂りに行った。

 

―――――

 

三人(と一匹)で食べる朝食、しかしあまり話すことはない。

瞳ちゃんは食事中に会話する行儀の悪さを理解、光希君はまだ心を開いてくれてない、僕は元々食事中に話すタイプじゃない。

結局あまり話さず朝食の時間は過ぎていった。

 

―――――

 

「光希君、今日はどこかに行くかな?」

「…あ?別に…そんな予定ないけど…」

「ならよかった!瞳ちゃんの学校に行く準備で買い物行かなきゃだったんだ。」

「ふーん…留守番してりゃいいの?」

「一緒に来たくなければ、家で自由に過ごしていいよ。でも一緒に来れば、好きなもの買ってあげるよ?」

 

ちょっとずるいかもしれない。

子供が何でも買ってあげるなんて言われたら絶対来る。

しかし光希君は留守番してると言い、部屋に戻っていく。

 

「…まだ話してくれませんね…」

「うん…まあ気長に過ごしていけばいいよ。」

 

僕と瞳ちゃんは以前のデパートへ向かった。

 

―――――

 

「本当に色々あるな~」

 

色とりどりのランドセルが並ぶ場所に到着した。

ネットで見た通り、昔より種類が多い。

どれを買うか悩む程数が多く、瞳ちゃんに選んでもらうことにした。

僕にセンスは期待しないでほしい。

 

「瞳ちゃんはこれがいいとかある?」

「えっと…あまり分からなくて…」

「まあそうだよね…」

 

そもそも以前はランドセルを買ったわけじゃないだろう。

あの親達だ、ゴミ捨て場のを拾っててもおかしくない。

 

「すみません。」

『はい!どうされました?』

「何か…おすすめのランドセルとかありますか?軽い物や容量の大きい物を探しているんですが…」

『そうですね…こちらなどいかがでしょうか。容量はほんの少し小さいだけで、とても軽い物になります。』

「…確かに軽いですね。小さくもないし…瞳ちゃんはどう?」

「……いいと思います。本当に軽い…」

「よし、じゃあこれ買います。」

『…えっと…失礼ですが…お子様ですか?なんだか他人行儀で気になってしまって…』

 

店員からしたら娘と敬語で話すのはおかしいだろう。

不審者とでも思われているのだろう。

 

「少し事情がありまして…この子の親がいなくなったので、親代わりとして預かっているんです。」

『あ…も、申し訳ございません!私好奇心が強くて…』

「大丈夫です。不審に思われるのも無理ないので…」

 

しかし毎度怪しまれるのも辛い。

やはり瞳ちゃんに頼むべきかもしれない。

親として、敬語はやめてほしいと。

ランドセルを買った後、筆記具や雑巾などの必要な物を買って帰宅する。

 

―――――

 

家への帰路、瞳ちゃんに話しかける。

 

「瞳ちゃん、少し話しがあるんだ。」

「はい…?」

「あ、大丈夫!そんなに深刻なことじゃないから!あのね…敬語をやめてほしいんだ。」

「え…」

「外で敬語を話すの、結構不審者と思われてるみたいだからね…」

「あ…ご、ごめんなさい!私のせいで…」

「違う違う!むしろ悪いの僕だから…」

 

その後二人で責任の擦り付け合いならぬ受け合いをしたが、数分したら家が見えてきたのでやめた。

玄関を開けると、ヒイロが出迎えてくれた。

少し遅れて光希君も来てくれた。

 

「なんかヒイロ、あんたになついてるんだよな。」

「なんでだろ?」

「ヒイロにもなんとなく分かんだろ。ゴマ刷って得する相手っての。」

「ああ…そういうことかな。」

「お兄さんの優しさが伝わってるんですよ。」

 

ヒイロは歩き回って頭をぶつけていく。

足にもふっとする感触がくる。

皆でその感触を少し堪能していた。

 

―――――

 

その後は各々好きに過ごした。

学校の準備のため僕と瞳ちゃんは色々ランドセルに詰めていく。

光希君はそれを見ながらヒイロを撫でている。

 

「出来れば光希君も学校に通ってほしいな…」

「俺はいい。色々面倒くせぇし…」

「将来のために学校に通うのは必要なことだよ。近いうちにどこか近い中学校に手続きするよ。」

「……」

 

―――――

 

まあ準備が終わったらゲームする辺り、瞳ちゃんは染まってきている。

このまま中毒みたいになったら困るが、瞳ちゃんはしっかりわかっているようだ。

制限するだけ僕の子供の時よりえらい。

学校前だからと予習をし、夕飯を食べ早めに就寝。

特に何があるでもなく、普通の一日が終わった。

 

―――――

 

七日目

 

学校の準備をするため、買い物に出掛けた。

瞳ちゃんが『あれを買いたい』などあまり言わないため、特に他のものは買わずに帰った。

我が儘は言ってほしいと思うのは、親ならあることなのかな?

帰ってきてからも特に何をするでもなく、いつも通りゲームをしたりヒイロを撫でたりと、特別なことは何もなく終わった。

明日はとうとう学校。

瞳ちゃんはこの七日でかなり変わった。

友達も出来るだろう。

頑張れ、瞳ちゃん。

 

 




味ない一日ですね…仕方ないんですけど。


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初めての友達

今回は瞳ちゃん視点です。あと18時に更新か6時に更新どっちかに統一した方がいいですかね?


今日からとうとう学校が始まる。

お兄さんと光希さんは一緒でいられて少し羨ましいが、学校に通わせてもらうのだ。

文句は言わない。

お兄さんに『行ってらっしゃい』と言われ、私は通学路を一人歩いていた。

正直私はとても不安だった。

虐められたりしないか。

友達は出来るか。

私が通う学校は以前からいる所…つまり以前の私を知る人は当然いる。

同い年の子が家庭のことなど知るはずもない。

以前の私のイメージは、暗くて近寄りずらい、いつもぼろぼろの服を着てて汚ない、喋らないから障がい者と思われているなど…良いイメージは皆無。

小学一年生ながらに、これほどの悪いイメージを与えてしまった。

お兄さんがいないだけで、何もかもが悪く見える。

通学路を一人で歩くと、見知った道のはずなのに、知らない場所をさ迷うような感覚がする。

お兄さんはいない。

頼れる人はいない。

まだ私は、一人になることが出来ない。

本当は光希さんを探しに行った時も、一人残されて辛かった。

平気な感じを装って、内心凄く怖かった。

体から聞いたこともないほどの音が響いて、泣き崩れそうになった。

一人は…怖い。

 

―――――

 

(何組だろ?)

 

玄関口に張られたクラス分けの紙を読み、自分のクラスを探す。

一組から順に…一組だった。

私は人が多いのに少し慣れないので、足早に教室へ向かった。

 

―――――

 

一年の時に一緒だった人も何人かいる。

私には気付かず、友達と騒いでいる。

 

(いいなぁ…)

 

ああやって気軽に話せる人がいて。

一緒で楽しいと思える人がいて。

友達がいて。

私には凄く、羨ましかった。

数分経つと先生が来た。

あまり見ない女性の先生だった。

先生の挨拶に、教室の大半が返事をする。

 

「おはようございま~す♪」

『おはようございます!』

「良い返事だね~皆元気で先生嬉しいな~」

 

結構緩い先生のようだ。

それから何言か言っていたが、ずっと言葉の最後は伸びていた。

それからすぐに自己紹介が始まった。

出席番号順に確認されていく。

私の番が来た。

一人だけ立って名前を言うこの状態は少し恥ずかしい。

 

「柊谷 瞳です。好きな食べ物は野菜炒めです。よろしくお願いします。」

 

ここまで好きな食べ物や趣味を言っていってたので、私は食べ物にした。

初めてお兄さんに食べさせてもらったもの。

やはり好きな食べ物ならこれになる。

本当はお兄さんの料理全部だけど…さすがに言えない。

無難に皆紹介を終え、自由時間が来た。

初日だから授業もないので、始業式まで自由時間が五分程出来る。

始業式が終われば帰宅。

関係ないけど始業式ってとても眠くなる。

 

―――――

 

自分から話しかけるのは私にはハードルが高い。

だから話しかけることは出来なかったが、帰る直前に話しかけられた。

 

「柊谷ちゃんもう帰るの?」

「え?うん。」

「どうせなら一緒に帰らない?」

「…う、うん!あ…でも道…」

「お家どっち?」

「駅の方向だけど…」

「あれ?もしかして近いのかな!?わたしもそっちなんだ!」

 

偶然だが、一緒に帰ることは出来てよかった。

他の人と話すこともなく、二人で帰宅を始める。

 

―――――

 

「わたしね…ちょっと人見知りなんだ。」

「え…でも…」

「前同じクラスだった人皆友達が一緒で、話せなかったの。でも柊谷ちゃんだけ一人で、話しかけられそうで…」

「私…前のクラスの時…」

「暗かったね。でも全然違うんだもん。前は話しかけたらだめな雰囲気だったし。今は凄く話しやすいの。」

「…ありがとう。」

「どういたしまして♪」

 

友達が出来た。

それが嬉しい。

これからも仲良くしていけたらと思う。

 

―――――

 

「わたしの家ここなんだ。」

「……凄い偶然…お隣さん…」

 

私の家の隣だった。

今まで…まあ七日だが会わなかったことも凄い。

本当に凄い偶然だった。

 

「ほんと!?凄い偶然!休みの日でも遊べるね!」

 

人見知りとは思えない程ぐいぐい来る。

私にはありがたい。

隣とはいえ家は違うのだ。

私達は少しはしゃいだ後、家に入った。

 

「また明日ね!明日は一緒に行こ!」

「う、うん!」

 

初めて出来た友達は、とても明るい女の子だった。

 

―――――

 

「学校どうだった?」

「楽しかったです!」

「友達も出来たみたいだしね。声聞こえてたよ。」

 

どうやら聞かれてたようだ。

私は少し恥ずかしくなったが、赤くなりながらも、顔は笑顔だった。

明日からも憂鬱に終わっていくと思っていた学校が、今は楽しみになっていた。

あの子…笹原さんに感謝だ。

 

 




彼女の名前は笹原 恵ちゃんです。


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とある一家の日常

日常回って…書くの難しいね…でも何故か思いつく~何故なら楽しいから~…それでも内容薄いけどね?細かく書き過ぎるのも長くなり過ぎてよくないし、かといってイベントだらけなのも『波乱万丈過ぎる…』てなるし、調整ですね。こうゆう回も自分は好きです。じゃなきゃ書かないし。


「行ってきます…!」

「行ってらっしゃい。」

「行ってら~」

 

緊張した様子で瞳ちゃんが学校へ向かう。

今日は学校の始業式、僕は光希君と家にいる。

仕事は明日から行くことにした。

光希君も昨日から少しは話してくれるようになったし、付きっきりでないといけないという程、心は疲弊していない。

流石に年が四歳以上離れた子より、感情が安定するのも早い。

でも今日は一緒に過ごすことにした。

検査入院のような感覚だ。

ということで…

 

「光希君は何かしたいこととかあるかな?」

 

瞳ちゃんにもよく聞く…というかほぼ毎日聞く言葉だ。

子供のしたいことを好きにさせる。

やって駄目なことは叱る。

あくまで僕の持論だが、子供は好きに過ごすことが大事だと思う。

叱り続けてグレる子もいれば、放っておいて暗くなる子もいる。

将来が心配だからと無理に勉強をさせたり、娯楽を禁止するなどもっての外だ。

だから僕は、なるべく子供のしたいことに、自分も付き合うようにしたい。

適度に勉強を薦め、世間一般による可不可を教える。

そうすれば、子供は好きに生きることが出来て、比較的良い子に育つ。

勿論希望的観測ではあるが、少しでも親として『強制』をしてしまったら、その子は親の言いなりになってしまう。

『好きにさせる』こと、それが一番大事だと思う。

もう一度言うが、あくまで持論だ。

さて、そんな僕の考えから出た質問への光希君の回答は…

 

「寝る。」

「あ…そっか…お、おやすみ…」

「おやすみ。」

 

…これも好きなことだろう。

 

―――――

 

「光希君…起きないな…」

 

あれから三時間程、起きる気配もなし。

今まで安心して寝ることが出来なかったのだろう。

その分寝貯めてるのかもしれない。

もっと好きなことをさせてあげたいのだが…

そう考えながら、僕は家事を終わらす。

時刻は十一時、そろそろ瞳ちゃんが帰るころだろう。

始業式だけなら午前中には終わる。

せめて帰るまでに起きてはほしいのだが…

 

「なぁ~ん」

「ヒイロ、どうしたの?お腹空いた?でももう少し後だよ。」

「なぁ~」

 

ヒイロは僕の足元で丸くなる。

これから昼食を作るのに、足元にいられるとさすがに邪魔だ。

僕はヒイロを抱き上げてソファに置く。

そうじゃないという顔をするが、気紛れな猫はそのまま寝てしまった。

そうこうしている内に昼食が完成した。

それから瞳ちゃんの帰りを待っていると、外から子供の声がした。

片方は瞳ちゃんの声、そしてもう片方はおそらく友達だろう。

 

『ほんと!?凄い偶然!休みの日でも遊べるね!』

 

もう一人の子は結構元気な子みたいだ。

僕にまで聞こえる声量で喋っていた。

聞けば明日一緒に学校行こうと言っている。

友達がすぐに出来てよかった。

その内家に遊びに連れて来たら、お礼を言おう。

帰って来た瞳ちゃんは凄く笑顔だった。

 

「学校どうだった?」

「楽しかったです!」

「友達も出来たみたいだしね。声聞こえてたよ。」

 

瞳ちゃんは少し顔を赤くしている。

学校が楽しくなりそうで本当によかった。

その後は昼食なので少し悪いと思いつつ、光希君を起こして昼食を食べる。

昼食を食べ終わり、やはりやるのはゲーム。

しかし今回は光希君も一緒にやってくれるそうだ。

パーティーゲームもあるからね。

結局三人で二時間くらいゲームをして過ごした。

もしかしたら子供が一番好きなことは、こうやって家族と楽しく騒げる時間なのかもしれない。

そう思う僕は、大人げなく一位を取るのだ。

もう一回と二人で言う。

僕らは更に二時間程、ゲームに費やすのだ。

これが僕達の今の日常なんだ。

 

―――――

 

――日目

 

始業式の一日、学校は午前で終わる。

そのために瞳ちゃんが友達を作れるか心配だったが、無事に友達と帰って来た。

これからの学校生活、一年生の時よりも楽しくあってほしいと思う。

光希君は昼過ぎまで寝ていた。

睡眠が最もな娯楽になることは悪くはないが、話す時間が減って少し悲しい。

これからは話す時間がもっと増えるよう、切に願う。

 




ここからは日数は分からなくなることもあるので――日目と書きます。


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昔話

スマブラやってて遅れましたごめんなさい!昨日一昨日は時間なかったので…カズヤ楽しいです。…いやごめんなさい…


「それじゃあ僕は仕事に行くけど…光希君一人で大丈夫かな…?」

「平気だから早く行けよ。」

「……行って来ます。」

「行ってら~」

 

少し複雑だ。

嫌われたわけではないと思うが、必要ないって言われたみたいで…

これが瞳ちゃんなら結構つらい…光希君でも少しへこむけど。

男の子と女の子に言われるのは違うから、まだ光希君で…良くはないけどましだった。

しかし一日光希君は何をするのだろうか。

また出掛けるのだろうか。

家の鍵は渡してあるし、瞳ちゃんが帰る頃にはいてほしいとも伝えてあるから心配はないだろうけど…

 

「やっぱりもう少し休むべきだったかな…」

 

生活のためそんなに休むわけにはいかない。

有給も多いわけではないし、同僚にも迷惑だ。

既に八日も休みをもらってるのだ。

そろそろ行かなければ仕事にならない。

不安な気持ちを抱えながら、僕は職場へ向かう。

 

―――――

 

「ふぅ…」

 

二人が出たことを図って、()はヒイロに振り返る。

 

「二人共心配性だよね…僕のことやっぱり役立たずだと思ってるのかな…」

「なぁ~ん」

「どうしよっか…」

 

特にやることを言われたことでもなく、自分でやりたいことがあるわけでもなく、暇をもて余す。

ヒイロは僕といてくれるけど、喋りもしなければ暇潰しを提案してくれるわけでもない。

やっぱり寝るのが一番かもしれない。

ゲームは…一人だとやる気が起きない。

 

「…おじさんのとこ行くか…」

「なぁ~…ぁぁ~…」

 

ヒイロは大きな欠伸をする。

ヒイロは寝たいようだ。

 

「薄情な奴。一緒にお世話になった人のとこに行く気もないの?」

「…………」

「もう…」

 

―――――

 

「おじさん!」

「ん?おう!光希じゃねえか!」

「一昨日ぶりだね!」

「そうだな。ますます健康そうな顔になってきたな。」

「うん…」

「辛気臭ぇ顔はやめろよ!幸せでいいじゃねぇか!それとも何か?お前は俺らみたいな底辺生活戻りたいってか?今の家族止めて、俺らと同じとこに落ちるのか?」

「…ううん。僕は皆にお酒を奢る約束したからね。」

「……お前が元気なら、俺は…俺らは嬉しいんだよ。お前は俺らにとって、ガキみてぇなもんだからな。」

「おじさん…」

 

僕は、今も昔も、恵まれたところにいたんだ。

他にもホームレスの溜まり場なんていくらでもある。

その中で、仲間の幸せを喜んでくれる場所なんていくつあるだろうか。

そんなところで暮らすストリートチルドレンを拾う物好きなんて、何人いるだろうか。

僕は恩返しをしなければならない。

(目の前)の家族と、(お兄さん達)の家族、二つの家族に。

それが僕の目標だ。

 

―――――

 

「おじさん達元気にしてたよ、ヒイロ。お前も来ればよかったのに…」

「な?」

「僕の言葉分からないよね…」

 

家にいるのは僕とヒイロだけ。

お兄さんも瞳ちゃんも帰ってない。

おじさん達と世間話をしてから帰ったが、そこまで時間は経ってなかった。

瞳ちゃんは昼過ぎには帰ると思うけど、一体何をするというのだろう。

お兄さんがいない今、二人だけで話すのもいいかもしれない。

 

「そろそろ嫌な思いさせるのも止めよう…」

 

意図的ではなかったにしろ、嫌な思いさせたのも事実。

これからは気を付けなきゃ…

 

「ただいまです。」

「おかえり~」

 

瞳ちゃん…瞳が帰って来た。

 

「……」

「……」

 

…話しが続かない。

お兄さんがいないと気まずい。

あまり二人で話す話題などはないために、沈黙が続く。

 

「……」

「あ、あの…」

 

瞳が口を開く。

 

「…な、なんだ?」

「突然ごめんなさい。でも…あまり話すことなかったから…少し話してみたくて…」

「…俺もそう考えてたよ。話さなきゃな…と思いながら気まずくてな…悪い。」

「い、いえ!…私…凄く酷い人達に育てられてて、もしかしたら、私も光希さんと同じように、道端で暮らすしかなかったかもしれなくて…お兄さんが拾ってくれなきゃ、いつ死んじやうかも分からなくて…」

「…そうか…」

「はい…だから、話してみたかったんです。光希さんと…」

「…そうか…なら…俺らが拾われるまでのことでも話すか?」

「え?」

「俺らの話すことなんで、それくらいしかないしな。」

「…そう、ですね…教えて下さい。光希さんのこと…」

「ああ。代わりにお前も教えろよ?」

「…はい!」

 

育に内緒の俺の昔、瞳には話してもいいかもしれない。

出来れば育にはばれたくない。

だから…

 

「育には内緒だぞ?」

 

口止めはするべきだ。

 

「はい…」

 

この子は良い子だ。

内緒と言えば言わないだろう。

俺はぽつぽつと、昔の話しをしていった。

 




次は昔話…ではなく育視点です。読者さんは育視点で話を見て頂きたいので、昔話は育に話す時に一緒に聞いて下さい。


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兄妹

用事があってここ三日書く時間ありませんでした遅れてすみません。一応以前から言う通り水曜中には更新するので時間に更新されてなければ木曜にお読み下さい。


「ただいまー」

 

帰宅したが、二人からの返事はない。

鍵が開いてるので少なくとも光希君はいるはずなのだが…

普段ゲームを置いてる居間の方から声が聞こえる。

光希君はゲームをしているのだろう。

まだ心を開いてくれない…と少しへこみながら居間に行く。

そこでは、ソファーに座りゲームをしている光希君と、肩にかかりながら寝る瞳ちゃんの姿があった。

 

「あ、おかえり。」

「ただいま。……」

「…あ」

 

瞳ちゃんが寄りかかっているのを見られたくなかったのか、少し赤面している。

どうやら僕がいない間に、瞳ちゃんには心を開いてくれたようだ。

しかしすぐに瞳ちゃんが倒れないよう、支えながら肩から降ろす。

起こさないよう気を遣う優しさが滲み出ている。

 

「……見んな。」

「ふふっ…」

「笑うな!」

「いや…仲がよくてよかったと思ってね…」

 

誰から見ても微笑ましい光景だ。

兄妹のようで凄くいい。

この調子で、僕も父親として接することが出来ると尚いいが、それはまだまだ難しいみたいだ。

 

「僕は夕飯を作るけど、瞳ちゃんベッドに連れて行こうか?」

「…俺が連れてくから飯作ってろ。」

「そう。それじゃあお願い。」

「おう。」

 

さて、僕は夕飯の支度をしなければ。

今日の夕飯は炒飯だ。

 

―――――

 

「瞳ちゃんは起こさないんだね。」

「いいだろ。腹減りゃ起きて来るだろうしな。」

「しっかりとお兄ちゃんしてるみたいだね。」

「…っ!うるせぇ!」

 

赤面しながら炒飯を掻き込む。

瞳ちゃんに関することだとからかい甲斐がある。

二人で食事を済ますも、瞳ちゃんが起きてくることはなかった。

代わりのようにヒイロが余った椅子に乗った。

 

「なぁ~ん」

「ヒイロもご飯食べようか。」

「……(てしっ)」

「はいはいすぐあげるって…」

 

手で餌を用意する僕の腕を軽く叩く。

肉球がいい感触だ。

光希君は風呂に、瞳ちゃんはまだ起きず、ヒイロはご飯を食べる。

僕は特にやることないのでゲーム。

星のカー○ィ鏡の大迷宮のRTA開始だ。

 

―――――

 

100%攻略は時間が掛かるためボスのみ狩る。

TA○は25分弱、僕は32分。

いつか勝つのが目標だ。

一番の改善点はリセットだ。

 

「もう一回…」

(ガチャ)

 

繰り返し始めようとすると、不意に扉が開いた。

瞳ちゃんが起きてきたようだ。

同時に風呂の戸が開く音もする。

光希君も長風呂から上がったらしい。

二人とも元の環境が環境だっただけに風呂は好きなのだ。

 

「おはよう瞳ちゃん。」

「…おはようございます…」

 

目を擦っていかにも寝起きのようだ。

まだ目が覚めてない時は寝惚けて空腹感はないが、出来れば食べる方がいい。

僕はフライパンに残っている炒飯を温め皿によそう。

ゆっくりでいいから食べるように言うと、瞳ちゃんは少しのろく食べ始めた。

その間に光希君は冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注いでイッキ飲みしていた。

 

―――――

 

「行って来ます。」

「行ってらっしゃい。」

 

瞳ちゃんはしっかり起きた。

前日に長く寝ていても、しっかり起きてくる。

本当にしっかり者だ。

瞳ちゃんが学校に行くのを見送り、僕も家を出る。

光希君はまだ寝ていたので、書き置きをしておいた。

僕の見送りはヒイロだけみたいだ。

少し悲しい。

しかし悄気てる暇はない。

今日も一日仕事を頑張ろう。

僕は気合いを入れて仕事場へ向かった。

 

―――――

 

――日

 

瞳ちゃんと光希君が仲よくなっていた。

その輪に入れないことが少し…いや凄く悲しいが、仲がいいことはとてもいいことだ。

しかし恥ずかしがらずともいいのに。

ヒイロは平常運転…猫だからずっと寝てるけど。

三人は仲がいいというのに…僕も入りたいな。

 

 

 




さぁ時間が空いた!ap○xだ!


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お兄さんとお父さん

「えーと…じゃあ瞳ちゃん、7×6は~?」

「42です。」

「さすが~♪九九はちゃんと覚えてね~♪それじゃあ次は~…そこで喋ってる三人~?続けて答えてね~?」

 

『うげっ』

『えー』

 

お兄さんと予習しているおかげで、教科書の最初の方は完璧だ。

とても自信がある。

それも全教科予習をしているのだ。

テストはまだまだ先だけど、絶対にいい点を取って、お兄さんに誉めてもらう。

チャイムが鳴って授業が終わった後は、笹原さんと駄弁る。

学校が始まって三日程経つが、友達は彼女しかいない。

笹原さんは他にも前からの付き合いの人がいたから、行ってしまうと少し寂しい。

でも私を優先してくれる。

だから私は、笹原さんのことが…勿論友達として好き。

 

「ママがご飯好きにしていいっていうから、野菜炒めって言ったんだけど――」

 

『あら?恵の嫌いな人参もたっくさん入るわよ?』

 

「て!酷いと思わない!?」

「美味しいよ?」

「瞳は野菜好きだもんねーあたしあんまり好きじゃなーい。」

「なら何で野菜炒めって言ったの?」

「だって瞳が一番好きなんでしょ?あたしも好きになりたい!」

「笹原さん…嫌いなものは嫌いでいいんだよ?」

「何か冷たい!?」

 

同い年の子と笑い合う。

今まで得られなかったものを素直に得る。

当たり前を享受する。

それがこんなにも幸せだと、大人になっても思いたい。

 

(お兄さんは…そう思えたの…かな…)

「瞳?」

「……ふぇ?」

「どしたの?」

「う、ううん!何でもないの…そうだ!お兄さんが作る野菜炒め、一緒に食べない?」

「え!?いいの!?」

「うん!」

 

ぼーっとしてて咄嗟に言ってしまった。

心からの本音だから後悔はないが…

 

(勝手に…)

 

お兄さんに了承も得ずに勝手に言った。

 

(どうしよう…)

 

―――――

 

結局、隠し事が出来るような性格じゃない私は、正直に話した。

勝手に言ったことをお兄さんに怒られるか、無理だって笹原さんに謝るか、私にはその二択があった。

 

《本当に?》

 

(……え?)

 

《本当にそう思うの?》

 

(どうして…)

 

《まだ…信用出来ないの?》

 

(信…用…?)

 

《まだ…人が怖いの?》

 

(違う)

 

《違う?》

 

(違うの…お兄さんは違う…光希さんも…笹原さんも…皆いい人なの…!)

 

《それでも…この程度のことで怒られると思ってるの?少し頼めば作ってくれるよ?》

 

(分かってる…分かってるよ…!)

 

《お父さんが…怖い?》

 

私は理解した。

何故こうも心臓がうるさくて、息も辛くて、何が怖いのか。

勝手なことをしたことなど、お兄さんはどうでもいい。

ただ笑って、やってくれる。

私のしてほしいことをしてくれる。

その当たり前なことが、その優しさが、怖いんだ。

お兄さんが、お父さんになることが…

自分を育てることが当たり前で、優しくするのが当たり前で…違う。

私のお父さんは…当たり前なことは…暴力だ。

 

『別にいいよ。いつでも連れておいで。』

 

(止めて)

 

『お隣だし、親御さん達も許してくれるよ。』

 

(いや…)

 

『恵ちゃんにもお礼を言わないとね。』

 

(お父さんに…ならないで…!)

 

「瞳ちゃん?」

「……ひっ…!」

「ど、どうしたの!?」

 

お兄さんの声を聞いてなかった。

またぶたれる、また蹴られる。

いつの間にか私は、大粒の涙をこぼしていた。

 

「ひ、瞳ちゃん…?」

「違…うん、です…お兄さんは…何も…」

「……何か怖いことがあったのかな?」

「違う…違う…お父さん(・・・・)は…何も…!」

「…瞳ちゃん!」

「…!」

「何があったのか分からないし、何を怖がってるのか分からないけど、大丈夫だよ。瞳ちゃん、怖いことは何もない。落ち着いて…」

 

お兄さんは私を抱きしめる。

優しい。

暖かい。

何を怖がる必要があるのだろうか。

お兄さんはお兄さん。

たとえそれがお父さんになったとしても、前のお父さんとは違う。

私は泣いた。

しかし悲しみや恐怖からじゃない。

お兄さんに抱かれている安心感からだ。

私は年相応に泣きじゃくり、いつの間にか意識を失っていた。

 




瞳ちゃんごめん…ただの日常はもはや物語じゃないんだ…心苦しい…あ、作者はロリコンではありません。勘違いしないで下さい。


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親と子供

似たタイトルになるな…タイトルあんまり見ないで…


やはり瞳ちゃんはまだ不安なようだ。

光希君のように堂々とすることは難しそうだ。

以前の環境を、以前の両親を、以前の学校を、思い出しては泣いている。

今回だけではなく、小さいことでも泣いていることが多い。

根付いた恐怖はそう簡単に消すことは出来ない。

昨日のことも相まって、流石の僕にも分かる。

彼女は、父親という存在に怯えている。

僕が『お兄さん』から『お父さん』に変わることに恐怖している。

 

「僕は…親にはなれないのかな…」

 

僕がお父さんになってしまったら、彼女とは話しも出来ないだろう。

なら親を目指すことは、止めるべきなのかもしれない。

 

―――――

 

「ただいま……何してんの?」

「あ、光希君おかえり。」

「寝てんの?ソファーにでも寝かせりゃいいのに…」

「あはは…そうだね…」

「………」

 

光希君は部屋を出た。

何も言わずに、僕達を放ってくれた。

不器用ながらに気遣ってくれたようだ。

何があったか分からないのに、僕が落ち込んでいることも、瞳ちゃんが泣いていたことも悟ってくれた。

 

「ありがとう。」

「…別に…」

 

今は…少し休みたい。

 

―――――

 

「ううん…」

「あ、おはよう瞳ちゃん。」

「お兄さん…?…!」

 

瞳ちゃんは僕から飛び退いた。

恥ずかしいや失礼など、理由は色々だろう。

 

「私…」

「怖いのは分かるよ。前が酷かったんだから…だからね、瞳ちゃん。僕は『お父さん』にはならない。」

「……違うんです…私は…優しいお父さんが欲しかった…構ってくれるお母さんが欲しかった…でもお兄さんには…『お兄さん』でいてほしかった…!」

「うん。」

「お兄さんが大好きで…光希さんも優しくて…夢が叶ったみたいで…いつも楽しくて…」

「うん。」

「お兄さんがお父さんを目指しているのは分かっているのに…『お父さん』になることは怖かった…」

「うん。」

「だから…今はまだ…『お兄さん』でいてくれますか…?」

「当たり前だよ。瞳ちゃんや光希君を…あとヒイロもね、幸せにするために引き取ったんだから…瞳ちゃんが『お兄さん』でいてほしいと思うなら、僕はそれを尊重する。」

 

子供の幸せを願う親も当たり前であれば、妹や弟を守る兄も、当たり前のことだろう。

 

《光希視点》

 

「……当たり前か…」

 

育が兄なら俺は次男か、少し曖昧なものだ。

でも確実なのは、瞳は俺にとっては妹だ。

そして育は俺にとっては父親だ。

ならば、瞳を守るのは、育だけじゃない。

俺も一緒だ。

 

「幸せを願うってのも悪くないな…」

 

苦しむ瞳を横目に、おじさん達が僕の幸せを願ってくれる気持ちを、少しながら理解した。

これが、親心という物なのだろう。

 




親心って言っても光希君は兄だけどね。光希君はいいこなんですよ~瞳ちゃんもね?最初の子達だから…ねぇ?(ノープラン)。


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路上生活者の過去と今

自覚なくて遅れましたすみません!


「行ってきます!」

 

笑顔でそう言う瞳ちゃんへの返しはいつも同じ。

 

「行ってらっしゃい。」

 

僕もまた、笑顔でそう返す。

見送りにはヒイロが大体いる(何故だろう?)。

光希君は基本昼まで起きることはない。

 

「…ヒイロは散歩とか行かないの?」

「なん?」

 

―――――

 

「んー…!」

 

休みだからとゲームばかりしていた体を思い切り伸ばす。

5,6時間していたせいでばきばき鳴る。

やはりRPGは長い時間黙々とやるのに凄く向いている。

F○9のカードゲームのシステムはコンプしたくなる。

盗むも何気に楽しい。

8のようなレベル上げ地帯(地獄に一番近い島)がない分レベル上げも楽しめる。

体を伸ばしていると、光希君が起きて来た。

時間は昼過ぎくらい。

 

「……あ、光希君おはよ~」

「はよ…何してんの?」

「F○」

「なにそれ?前のパーティーゲームみたいの?」

「ああ違うよ。RPGって言って、物語を自分で進行出来るゲームだよ。」

「へぇー…」

「あ、昼御飯は置いてあるよ。そろそろ起きると思ったから…」

「…ありがと。」

 

実はストーリー進行中に昼を作って置いておいた。

僕も一緒に食べることにする。

 

「先食べてねぇの?」

「一緒に食べようと思って…」

「……ヒイロ~」

「にゃーん!(テッテッテッ)」

 

皆で昼御飯を食べ始めた。

 

―――――

 

「なぁ…」

「?どうしたの?」

「……そろそろ一ヶ月くらいだろ?俺が来てから…だから…そろそろ…話さなきゃと思って…」

「話す?」

「俺が何で路上で生活してたのか…」

「!」

「そんなに隠さなきゃいけないようなことじゃないんだ!ただ……育が…親になろうとしてるのを知ってるから…どうしても…」

 

こう言うということは、おそらく彼は…親に捨てられたなどという理由で、あそこで暮らしていたわけではないのだろう。

もしかしたら…

 

「両親は…生きているの?」

「………」

 

こちらが何となく分かったことに気付いたのだろう。

無言で首を横に振る。

 

「俺…普通の家で暮らしてたんだ…ここみたいに…ちゃんと親から愛されて…楽しく暮らしてた。」

「……ご両親の死因は…?」

「…浮浪者の快楽殺人に巻き込まれた。父さんも、母さんも、目の前で…!」

「……」

 

もしかしたらニュースで僕も見ているかもしれない。

よくある話しではあるが、目の前に被害者がいて、その子も浮浪児として暮らしてきた。

 

「皮肉だよ…路上で生活してた奴に親殺されて、自分も路上で生活してんだから…それに、今なら分かる。なんであんなことしたのか…結局俺も同じだからさ…」

「……」

 

悲しそうに…しかし笑い飛ばすように、彼をそう言う。

 

「親戚に預けられたけど、殴る蹴るは当たり前、飯作らなきゃ縛られて納屋に放置、ろくに飯も貰えない。」

「……瞳ちゃんの話しは聞いたかな?」

「…ああ。似てた。それも俺より小さい女の子が、生まれてからずっと…」

「…そっか…」

「俺も逃げたんだよ…そんな環境から…でも、正解だった。道端で暮らすごみ溜めのじいさん達は、いつも楽しそうに笑ってた。一番小さい俺を何かと気にかけてくれたし、次は育が来た。」

「…今は、幸せかな?」

「ああ!瞳も毎日楽しそうだしな。だからさ…話しといて何だけど…過去なんて気にしないでほしい。俺は両親が好きだった。でも同じくらい、じいさん達や育、瞳が好きだ。父さんって呼ぶのは時間がかかるかもだけど…改めてよろしくな!」

「うん。こちらこそよろしく!」

 

終わり良ければ全て良し。

今が幸せなら、過去はどうでもいい。

彼は凄く強い子だ。

 

(光希君のご両親…この子は立派に生きてます。安心してお眠り下さい…)

 

深く黙祷を捧げた。

 

―――――

 

――日

 

光希君の過去を聞いた。

瞳ちゃんと同じで虐待されていた。

両親にではなく親戚だが、そこから離れて浮浪児として路上で生活していたらしい。

でも今は…心底楽しそうに暮らしている。

おじさん達にも近々挨拶に向かうつもりだ。

光希君の話しからすると、良い人達なのだろう。

それと…会話してるとき…時々自分を僕と呼んでいたのだが…どうやら虚勢を張るための演技だったらしい。

まあそれに慣れて、最近は素がそっちになっている。

帰って来た瞳ちゃんともこの会話を少しした。

知っていたからか、そこまでの狼狽は見せなかった。

僕はこれからも、この子達に幸せを与えていこうと思う。

 

 




ちなみに最初から最後までヒイロは光希君に寄っ掛かって寝てました。


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お隣さん家の相談事

ワクチン二回目辛かった…持病持ちだから早めだったけど辛かった…治りは早かったけど。皆も頑張って~苦しいよ~


(遅くなったな…)

 

仕事が終わり帰る頃には、既に十一時を過ぎていた。

二人(と一匹)が来てからは早めに帰るよう気を付けていたのだが、当然こういったこともある。

 

(二人とも平気かな…)

 

二人が心配な僕は、走って帰ることにした。

 

―――――

 

「ただいま…」

「お兄さん!おかえり!」

「………」

「…おかえり。で…こいつなんだけど…」

 

ソファーに座る二人と…瞳ちゃんの膝に頭を乗せて眠る女の子。

年は高校生程、茶色がかった髪が瞳ちゃんの足を隠している。

 

「その子は…?」

「…お隣のロリコン。」

「え…?」

「えっと…恵ちゃんのお姉さんです。」

 

恵ちゃんとは隣に住む瞳ちゃんのクラスメイト。

そのお姉さんが何故ここに…

 

「んー…ん?あ、おかえり~」

「起きたならいいけど…こんな時間だよ?隣とはいえ帰った方が…」

「んーいやーちょっと恵と喧嘩しちゃって~顔合わせずらいっていうか~…」

「すぐばれる嘘やめろ。」

「あっはっは!ごめんごめん!育さんに会いに来たのに全然いないから…」

「僕に?」

「うん。」

 

そもそも恵ちゃんに姉がいたことも知らなかったというのに、何の用で来たのだろうか。

 

「もう!JKを一時間も待たすなんて!そんなんじゃ女の子に好かれないよ~?」

「待たせるもなにも…それで、何の用で来たの?」

「何か淡白だなー…ん、でもとりあえず、改めて自己紹介!私は笹原(ゆたか)!恵の姉です!」

「はあ…僕は唐荷島育です。それでこんな時間まで何で家に…」

「そうだった!育さん…正直に言って下さい…」

「何を…?」

 

一呼吸入れて叫ぶ。

 

「…恵をどう思いますか!?」

「…はい?」

 

誰もが疑問に思うだろう。

夜更けまで家にお隣の子がいて、その子は家の子の膝で寝ていて、起きたと思ったら妹をどう思っているか。

はっきり言って意味が分からない。

第一恵ちゃんには二度しか会っていない。

 

「最近恵が恋する女の子みたいになってるの!それで時々呆けてる時もあるし…学校では瞳ちゃんと一緒のことが多いって聞くからもう育さんくらいしかいないじゃないですか!?」

「…えーと…?」

 

どう思うかと言われても、娘の友達としか…

 

「まあ正直寂しいんですよ~大好きな妹がお姉ちゃんに構ってくれない~」

「はあ…」

「何だそれ…」

「恵ちゃんが誰かが好きとか聞いたことなかった…」

「あ、瞳ちゃんでも話さないんだ。」

「……要は恵ちゃんが構ってくれないから、僕達に相談に来たっていうこと?」

「そそ!ここは大人の知恵というものを見せて頂きたいですね~…」

「……そんなこと言われても…」

 

かなり面倒なことを振られた。

というか僕にどうしろと。

あまり僕の話は参考にならないだろう。

 

「…ごめんね。僕じゃ参考にならないし…知り合いに連絡するから…その人に相談に乗ってもらえると…」

「むぅ…まあありがたいけどー…」

「とりあえず今日は帰った方がいいよ。もしかしたら恵ちゃんも心配してるかも…」

「おお!確かに!それじゃ今日は帰ります!…恵は渡さないからね~?」

「小学生相手は犯罪だよ…」

「それじゃまたね~!」

 

そう言って彼女は、嵐のように去って行った。

 

―――――

 

「そういえば何でロリコンなの?」

「いきなり瞳に飛びついて鼻息荒くなったから。」

「……」

 

世の中変な人がいるものだ。

 



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仲良しな子供達

「全然恵ちゃんが構ってくれない~!」

「……何でまた…」

 

昨日の今日で、豊ちゃんは家に来ていた。

一応東雲さんの電話番号を教えたし連絡もしたようだが、東雲さんもお手上げらしい。

というか口頭だといまいち分かりずらいこの子の説明では、原因の欠片さえ分からなかったそうだ。

『恵ちゃんに会って話してみたら分かるかも…』という東雲さんの言葉で会う約束もしたのに、構ってもらえないという状況に耐えられず、また来たらしい。

 

「どうにかならないかな…?」

『うーん…正直に言うとよく分からないんです…会ったこともない子のことを聞かれても…』

「そうだよね…」

『子供ですし、本当に誰かが好きになったとか…子供は想像力が凄いから何か妄想してたり…いじめ…とか…』

「…とにかく何か出来ることないかな?この調子だと豊ちゃん毎日来るし…しかも夜に…」

『……今更ですが育さんか瞳ちゃんが話しを聞いてみるのは…』

「正直に話してくれるかな?」

『身近な人には話し難いことかもしれませんね…』

 

二人で電話で相談していると、豊ちゃんが部屋に来た。

今まで三人には一緒に遊んで待ってもらっていた。

しかし時間も時間なので帰ると、挨拶にだけ来たようだ。

 

「ということで帰ります!色々ありがとうございます!」

「…案外直接聞いたら終わるんじゃ…」

「?何ですか?」

「…構ってもらえなくて寂しいなら、直接聞いてみたらどうかな?」

「直接…」

「もちろん本人が話したくないなら無理やりは止めた方がいいかもしれないけど…聞かれるのを待ってるのかもしれないよ?」

「おお!それは盲点でした!聞かれるのを待つなんて思い付かなかった!」

「………」

 

もしかしたら間違いかもしれない。

本当に悩みに悩んでいて、誰にも話たくないという状態なのかもしれない。

 

「でも…思い付いたこと全部やらなきゃ、分からないことの方が多いかも…」

 

―――――

 

「たっだいまー!め・ぐ・み・ちゃ~ん!何か最近悩みでもある?お姉ちゃんに話してごらん?」

「ちょっ…お姉ちゃん抱きしめないで…!」

「ほらほら~さっさと白状なさい?」

「……悩みじゃないんだ。実はね…」

 

―――――

今回の話しのオチ

―――――

 

「瞳ちゃん!遅くなったけど、誕生日おめでとう!」

「……え?」

 

恵ちゃんがぼーっとしていたのは、瞳ちゃんをどう祝えばいいかを、ずっと考えていたようだ。

誕生日自体二ヶ月近く前のこと。

しかしこの子は、そのことでずっと悩んでいたらしい。

入学式の後数日経ってから、瞳ちゃんの誕生日を知った恵ちゃんは、ずっとどう祝おうか考えていたらしい。

それにどうやら本人曰く、『友達記念』も兼ね揃えているようだ。

 

「恵ちゃん…私何も用意してない…」

「いいのいいの!勝手にやってるんだもん♪ね、瞳ちゃん…去年は話さなかったけど…今年からよろしくね!」

「…うん!」

 

子供ながらに記念のようなものをしてしまう恵ちゃんは、いつまでも楽しく生きられそうだ。

そんな友達に出会えてよかった。

 

「いや~小学生二人のほのぼの百合絡みは尊いの~♪」

「……今すぐ帰ってほしいな…」

「やっぱロリコンじゃねぇか。」

 

離れて話す保護者達、その場には…二人の笑い声が透き通っていた。

 

―――――

 

――日

 

初めて会ったお隣さんの子は、二人とも特徴的な性格をしていた。

でも二人とも、絶対にいいこだと断言出来るぐらいいいこ達だ。

豊ちゃんも恵ちゃんも、瞳ちゃんに負けないぐらい仲良しだ。

僕はこの光景をいつまでも心に留めておきたいと思った。

 



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傷だらけの行き倒れ

基本文字数1000~1500だから短く感じるでしょう。作者に丁度いいのです…


『――次のニュースです。昨夜―』

 

最近僕の生活は一変した。

仕事に行き、帰って来てはゲームをし、そして眠る。

そんな生活がずっと続いていた。

だが今は、朝は見送りをし、仕事に行き、帰って来ては皆で遊び、夜が更けるまで騒ぎ通す。

次の日は買い物、その次の日は公園に出掛け、また次の日は勉強したり、飽きることのない日常。

だから思うのだ。

この『当たり前』が幸せだと。

だから思うのだ。

その裏に、必ず『不幸』はあるのだと。

 

『――地下に閉じ込められた少女が発見されました。』

 

―――――

 

「はっはっ…!」

(怖い怖い怖い怖い…!嫌だ嫌だ嫌だ!もうあんなところにいたくない…!)

 

吐いてでも走り続ける。

でなければ追いつかれてしまう。

逃げなければ、また苦しくなる。

痛くなる、苦しくなる、吐き気がする、痛い痛い痛い…

 

「うっ!」

 

足が縺れて転がる。

どうやら挫いたようだ。

それでも…

 

「…逃げ…る…!」

「………」

(だ……れ…?…助…け…)

 

私の意識はそこで途絶えた。

 

―――――

 

「……」

(倒れて気絶したからつい連れて来ちゃったけど…この子は誰だろう?)

 

道端で倒れた子を見つけて、家の近くということもあって連れ帰った。

茶髪を肩辺りで切り揃え、服装は白シャツ…体は傷だらけの高校生くらいの少女。

そこで悟った。

僕はまたこうゆう子を見つけたのかと。

 

「…最近治安悪いな…」

 

―――――

 

「うぅ……」

 

目が覚めると…家?にいた。

見覚えのない天井、人も誰もいない。

 

「逃げ…なきゃ…」

 

体を起こそうとしても動かない。

痛みが全身に走る。

場所は変わっているが、またあの男(・・・)に捕まったと思った。

逃げなければ苦しい。

捕まったら痛い。

閉じ込められて日を浴びることもない。

そんな絶望感が、再び私を侵し始める。

涙を流しながら助けを求める。

そこには誰もいないというのに。

 

「助けて……」

「……」

 

―――――

 

(僕はどうすればいいの…?)

 

起きたのはよかったけど、怯えていて話せる状態じゃない。

こうゆう時に思い付く方法は…

 

「お兄さん?」

「あ」

「!」

 

瞳ちゃんに話して来てもらうことだったのだが…

 

「嫌!来ないで!」

 

叫び、蹲る。

そんな少女にどう接すればいいのだろうか。

 

「お、お兄さん…?」

「うーん…瞳ちゃん、少しお願いなんだけど…」

 

―――――

 

今瞳ちゃんには、彼女と話してみてもらっている。

僕だと警戒されてろくに話せないだろう。

しかし子供に対して警戒の強い人はそういない。

瞳ちゃんなら話しを聞いてくれるだろう。

 

「何してんの?」

「光希君…実は…」

 

「…またそうゆうの拾ってきたのか。」

「拾ってって…」

「…平気そうか?」

「?平気って?」

「何か手伝うことないかってことだよ。」

「……今は瞳ちゃんに任せるしかないよ…」

 




8/25追記:編集時間今もなくて今日中に更新出来ませんので来週に回します。ごめんなさい。暇が出来るの明日からなんです…来週のはちょっと長くします。


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監禁少女

遅れました…時間は…あったんですよ…ダンカグがね?楽しくて…ね?…サボりですごめんなさい。今日中に更新したのでお許し下さい。時間出来てやっとダンカグ出来たのでお許し下さい…音ゲーなのにガチャとその他機能しか出来なかったんや…


「あの…」

「………」

 

この人は無言で震えてる。

何かに怯えているように。

私の声も聞こえていないようで、涙まで流している。

どうすれば聞いてもらえるか。

何で震えているのかや、どうして倒れていたのか、何で傷だらけなのか、全部気になる。

しかし…

 

「…あの…」

「………」

 

取り付く島もない。

光希さんとはまた違う反応なだけに、会話すら出来ないこの状態で、何故と聞く方法も思い付かない。

光希さんは喚き散らしてくれたから会話は出来た。

対してこの人は口を開くことさえしない。

 

「えーと…うぅ…」

 

私も迷い過ぎて涙が出てきた。

どうすればいいのか全く分からない。

 

「……瞳。」

「!光希さん…」

「……」

 

光希さんが部屋に入ってきて、私に声をかける。

私が駄目だったことを把握した光希さんは、自分でも声をかけてみる。

 

「なあ……」

「……」

「…聞こえてないのか?」

「……」

「……」

 

光希さんは聞こえていないことを確認した後、私に振り返った。

 

「瞳…抱き着いてみな?」

「……え…?」

「触られたら反応するだろ。育が連れてきた奴が普通とも思えないし…叩くのはまずいだろうしな…思いきり抱き着いてみれば動くんじゃないか?」

「……やってみます。」

 

何となく私もそう思った。

それぐらいすればきっと声を上げるくらいするだろう。

言われた通り抱き着いてみることにした。

 

「…失礼します…!」

「…!?」

 

凄く震えて押し退けられる。

直後この人は、初めてこちらを向いて、私達を視界に捉えた。

 

「瞳!」

「だ、大丈夫…」

「あ…」

 

そこでようやく私達に気付いたようだ。

 

「…子ど…も…」

「おい!いきなり押し退けることはねぇだろ!?」

「大丈夫…光希さん…あの…お姉さん。私達は、あなたと話したいんです。だから…」

「…ごめんなさい。色々あって…その…言い訳だね。子供に当たるなんて…」

『……』

 

お姉さんは本当に反省しているみたいだ。

とりあえず落ち着いてくれてよかった。

 

「…最後に覚えてるの…倒れたことなんだけど…二人が運んでくれたの?」

「いえ…お兄さんが…」

「俺らの親が運んだ。」

 

私が『お兄さん』と言おうとすると、遮るように光希さんが親と言う。

確かにあまり公表しない方がいいかもしれない。

 

「そう…その人にお礼を言いたいから、呼んでもらえないかな?二人もありがとう。」

「じゃあ呼んでくるから待ってろ。」

「うん。」

 

二人で呼びに部屋を出た。

後はお兄さんに任せるべきだろう。

 

―――――

 

「二人に任せて正解だったみたいだね。」

「はい!」

「…育、あいつの傷…」

「傷?」

「…見やすい所のほとんど、それに切り傷火傷刺し傷、色々だった。俺の元いた所にも、そんな怪我して帰る奴いたからなんとなく分かったけど…あの数は普通じゃない。」

「…そっか…」

 

やっぱり何か事情のある子を抱えたらしい。

一刻も早く話しを聞く必要がある。

 

「二人は来ない方がいいかもね…二人はこっちにいて。少し…生々しい話しになるかもしれないから…」

「…はい…」

「…俺は平気だから、後で教えてくれ。瞳が聞かないように見張ってる。」

「瞳ちゃんごめんね?」

「私のこと考えてくれてるの、分かります。お姉さんが辛いのも…分かるから…私も何か出来るなら、言って下さい。」

いい子で良かった。

あまり辛いことをこれ以上聞かせる必要はない。

 

「じゃあ行ってくるよ。」

「おう。」

「はい。」

 

―――――

 

「…二人に呼ばれたんだけど…入って平気かな?」

『どうぞ。』

 

許しを得てから部屋に入る。

 

「……怪我は平気かな?」

「あーこれは…大丈夫…」

 

腕を擦りながら応える。

ぱっと見で分かるくらいの傷が平気なわけがない。

 

「とりあえず倒れてた理由が知りたいんだけど…」

「…はい…」

 

その後の話しは最早二人で聞き慣れた内容ではあった。

この子が高校生という時分でなければ。

 

「……」

「自分の親にこんなことされて…普通じゃないよね…」

「……」

 

―――――

 

彼女の両親はとても普通の家だった。

普通の家庭、普通の職種、親も当然の如くこの子を愛し、幸せな普通の暮らしをしていた。

しかし…ある日父親が急変した。

母の死を境に、父親は『良い親』から『駄目な親』に変わった。

仕事にろくに行かず、酒を飲み漁り、賭け事にのめり込み、とても良い父親と言える人ではなくなった。

ある日その父親は、更に駄目に…いや、最低になっていった。

それは娘の彼氏の存在。

高校生の子供に恋人がいるくらい何もおかしくないだろう。

父がたまたま外にいる時に、隠していた彼氏の存在が露呈し、その後は悲惨なものだった。

改めて彼氏を紹介したものの、もう彼はまともではなかった。

その彼氏の子をいきなり酒瓶で殴り付けた。

朦朧とする意識の彼氏を、更にめったうちにし、死亡するまで殴りつけた。

当然止めに入るも押し退けられ、涙を流し呆然と見てるしかなかった。

何故と言うも、父の凶行はまだ終わらない。

今度は実の娘を、性的に襲ったのだ。

それからは更に悲惨なもの。

監禁されて日の目を見ることもなくなった。

更には性的暴行、暴力も当たり前、たまに買ってきた拷問器具は簡単に扱われ、傷の原因は主にこれ。

三ヶ月の監禁を受け、出前の隙に何とか逃げた。

それからは半年間色々な人の家を渡り歩いた。

時に体を捧げ、酷い性癖の人に当たることもあった。

それでも父親よりましだと自分に言い聞かせ、何とか生活していた。

しかしある日、またその父親は現れた。

お世話になっていた家の人は、スタンガンと包丁で殺された。

それからは連れて行かれ、更に酷い仕打ちを受けた。

暴力暴行はより過激になり、もはや人としてまともとは思えないほどだった。

監禁も更には地下になり、拷問器具は増え、体に付く傷も増えていく。

その中、再びチャンスが訪れる。

家に強盗が入りこんだのだ。

地上に急いで行く父を放り、急いで家を出る。

急ぎ過ぎていたのか、地下の鍵が開いていたのだ。

それからというもの、一時間近く走り続け、倒れた所を育に拾われ、今に至る。

 

―――――

 

「……辛かったよね…ごめんね。思い出させて…」

「…大丈夫です。それより…迷惑かけることも理解してます。それでも…放り出されたら次はいつ捕まるか…お願いします!私をここに置いて下さい!何でもやります!家事も奉仕も、二人の世話だって…働きも…だから…」

「…追い出すわけないよ。偶然にもここにいるのは、皆訳ありの人間なんだ。瞳ちゃんは虐待の末に置いて行かれた。光希君も、ホームレスと一緒に生活していた。僕も…だから、君がいても平気だよ。その父親のことも、どうにか出来ないかやってみる。好きなだけいるといい。」

「……ありがとう…ありがとう…ございます…」

 

泣きながら感謝する。

その時僕はその話に同情すると同時に、確かに怒りを覚えていた。

 

 




宣言通り長くはしたけどね…次はちゃんと予約しよう…


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発露

彼女の話しを聞いた僕は、その父親に怒りを越え、殺意まで抱いていたことだろう。

この子の受けた教育は、自分の子供にする仕打ちではない。

この子の父親を見つけたのなら、とても正気ではいられないだろう。

それ程までの怒り。

光希君と瞳ちゃんから彼女のことを聞かれるが、僕は特に聞かず、家を出てしまった。

その時の僕は、一体どんな顔をしていたのだろう。

 

―――――

 

彼女には住所と父親の容姿だけ聞いておいた。

その家に向かっていた。

警察に連絡することは当然だ。

しかしその前に、どうしてもその人に話しを聞く。

もう取り返しの付かないことを、父親はしている。

だからこそ聞くのだ。

娘のことをどう思っているのかと。

だから…見つけた側から声をかけた。

 

「どこに行くんだ?」

「あ~?」

 

似合わない口調も出てしまう。

不良のような荒々しい口調。

ずっと抑えていた怒り。

それがその対話を作りだす。

 

「とっとと警察に出頭しろ!」

「なんだ~?察~?何言ってんだ~?」

「お前だろ?娘を監禁した挙げ句に何件も殺人を犯しているくそ野郎は!」

「あ~?ひひっ…何だよ…あいつの次の男か~?」

 

男はポケットからカッターを取り出す。

それだけではなく反対のポケットからは何かの道具…話しにあったスタンガンだ。

それがこいつの必勝法なのだろう。

 

「お前も殺してやるよ~ひひっ…」

 

男はそれを突き出しながら近付く。

早くもないが遅くもない速さで飛び掛かってくる。

僕はそれを、思い切り殴る。

顔面を強打された男は大袈裟とも言える程吹き飛ぶ。

その拍子にスタンガンを落とす。

それを逃さず、僕は腹に踏み込む。

 

「がひっ…き…あぁ!」

「ぐっ!?」

 

奇妙に呻いた男は、そのままその脚にカッターを突き刺す。

そのまま僕を押し倒し、馬乗りになった。

攻守交代とでも言うかのように、奇妙に嗤っている。

カッターとは反対の手で思い切り殴られる。

僕はその時、明確な殺意を感じた。

しかし…それは僕も同じことだった。

馬乗りになられたまま、僕は男の首を締める。

服の左右を逆に引くようにして無理やり締める。

たまらず暴れる男は、そのままカッターも落とす。

どれぐらい経ったのか。

いつの間にか男は意識を失っていた。

殺す直前まで、僕は男の首を掴んでいたようだ。

脚は血だらけになり、まともに歩ける痛みではなかった。

とりあえず警察に連絡をし、その場で待つことにした。

 

「…はぁ…はぁ……何で娘に…そんなことが出来るんだ…!」

 

意識のない男に、僕は問いただす。

警察が来るまで、僕は男に問い続けた。

 

―――――

 

警察が来た後は早かった。

まず僕は、警察が呼んだ救急車で運ばれた。

男は殺人未遂の現行犯で逮捕され、パトカーに連行された。

その後、何があったか濁しながら光希君と瞳ちゃんに説明することの方が難しかった。

その後僕は取り調べを受けていた。

勿論脚の治療はその前に行った。

早くても二週間は包帯は取らないように言われたが、その程度で済んでよかった。

取り調べは一時間以上続き、夜は更けていった。

帰る頃には十一時を過ぎていた。

 

 




モンハン2g久々やってる。楽しい。あ、次の回は取り調べの話しとかします。


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似た境遇の子供達

「さて…色々聞かせてもらおうか?」

「…はい。」

 

自分は悪いことをしていないとは言えない以上、目の前の警官はとても恐ろしく思えた。

突然の暴力、罵倒、殺人未遂、これが僕の罪。

たとえ相手が子供を虐げた殺人犯とはいえ、罪に問われないとは言い切れない。

 

「まず聞きたいのは…喧嘩の理由だな。近くにはスタンガンもあったし、男はナイフを持っていた。まあただの喧嘩ではないんだろう?」

「はい…実は……」

 

これまでのことを包み隠さず話した。

それを警官は、適当に相槌を打ちながら聞いていた。

男のこと、争いの経緯、武器の所有、本当に様々聞かれる。

 

「……」

「ふむ…洗えばもう少し出そうだな…まあ十分聞かせてもらったし、確認が取れてから改めて聞くこともあるから、今日はもう帰ってくれていい。脚は平気か?」

「大丈夫です。入院する程でもないですし…」

「送って行こう。怪我人一人帰す訳にも行かんからな。」

「…ありがとうございます。」

 

こうして帰ることになった。

 

―――――

 

「あんた、子供はいるかい?」

「はい?」

「いやなに…親が怪我して帰ったら驚くだろう。あんたの親でも子供でもな…」

「……います。二人…」

「そうか…今あの男の娘もいるんだよな?…しばらく預かってくれる気はあるか?話しの限り一人はまずそうだ。子供と接すれば、少しは癒えるだろう。」

「勿論…可哀想ですから…」

「…よし。そうと決まれば早く行かないとな!」

 

パトカーは加速する。

法廷速度ギリギリだが…

―――――

 

「そんで怪我してきたのか?」

「………」

「…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

泣きじゃくる瞳ちゃんは僕に抱き付き、光希君には詰問され、女の子はひたすら謝る。

男が何をしてきたかを除き、三人には何があったかは話した。

脚のことがなければ隠せたが…流石に隠せなかった。

 

「…無茶すんなよ。お前がいないと…困る…」

 

少し濁して言う。

やはり素直ではない。

 

「心配かけてごめんね。でも…もう、きっと大丈夫。君ももう、平気だよ。」

「………」

「お姉さん…」

 

彼女の手は震えている。

親が捕まった喜びより、親の復讐に怯えている。

まだ完全には治らない。

ただ、優しく接して、少しでも心の傷が癒えていくのを願うしかない。

 

―――――

 

「育。」

「どうしたの?光希君。」

「…聞かないつもりだったけど………あいつの親、何したんだ?」

 

光希君は軽口に聞いてきた訳ではない。

話したらまずいのは瞳ちゃん、光希君には話しても平気だろう。

そう思い話している途中だ。

肩は震え、怒りが分かりやすくなっていく光希君。

男を許すつもりもないというのが見える程だ。

出会えばすぐにぼこぼこにするだろう。

 

そうだ…彼女も、彼も、境遇にさほど差はない。

どちらも虐げられていたのだから…

 



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偽物の幸せ

視点情報――――から下は新しい子の視点です。読めば分かるけど一応ね?


僕の家に、また一人人が増えた。

家族…とはまだ言えない。

彼女が望まない限り、家族にはなれない。

二人も分かっているらしく、客として接するように接している。

簡単に言えば、遠巻きに眺める…ようなものだ。

父親が捕まって丸一日、彼女が部屋から出ることもなかった。

未だに名前も分からないのだ。

果たしてどうすればいいのか。

そんな疑問を抱きながら、ヒイロとソファに横たわる。

 

―――――

 

「私…これからどうすればいいの…?」

 

そう自問する。

それに答えたのは、恐らく自分だ。

しかしその声は、他人の言葉のように聞こえてくる。

 

『この家に住めばいいじゃない。今までと…何も変わらない。』

「変わらない…?」

『そうよ。また安い女に成り下がって、渡り鳥みたく逃げればいい。』

「……」

『どうしたの?今までと同じじゃない♪』

 

私を嘲笑するように、目の前の私は上機嫌だ。

今までは、確かに渡り歩いて来た。

自分を売って、逃げ続けてきた。

 

「そうだね…何も変わらない…」

『そう。そうやって臆病者であるのが、一番幸せよ♪』

 

(…本当に?)

 

何故思ったかは分からない。

しかし私はそう思った。

それが…幸せと呼べるのか。

逃げ続けることに意味もなければ、その先に幸せなどないのではないか。

塞ぎこんで自分を貶め、周りさえも悪戯に傷付ける。

これが本当に幸せなのか。

 

「…違う。」

『ん?』

「違うよ…そんなの…ただ苦しいだけ…生きることに何も価値をなくして、ただ苦しい道を進むだけ…そんなの…幸せじゃない…!」

『…そう?いいじゃない?辛いことから逃げて、あんなクズの親を忘れて、何もなかったように振る舞えば、貴女は普通の女の子になれるのよ?辛いことは忘れなさいって言うじゃない。貴女は、幸せになりたくないの?』

 

彼女は…私は苦しみたくないだけ。

楽しい思いで一杯にして、辛いことに蓋をする。

そんな偽物の幸せを目指している迷い人。

でも…

 

「それだけが…幸せになる方法じゃない…!」

『………』

「全部乗り越えて、初めて本物になるの…!貴女のそれは、ただの現実逃避!私は、貴女にはならない!父親にされたことも…これまで失ったものも…全部含めて、私の人生なの!」

『…な~んだ。分かってるんじゃない?私は貴女。だから私も、貴女の姿。貴女は…どんな貴女になれるのかしら?』

「…私は…絶対に、失わない!もう何も…」

 

助けてくれた人に報いるために。

私を戻してくれた子達のために。

空から視てくれてる母のために。

今私は、蓋を開ける。

私が、十和田 (とわだ)(あかね)であるために。

今、部屋の扉を開く。

 

「…おはよう。」

 

優しい言葉をかけてくれる彼に。

 

「…ありがとう…!」

 

涙ながらに感謝をする。

私が泣いたことにあたふたする彼は、とても頼もしくは見えなかった。

 




名前初出し。


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未来

茜ちゃんが来て翌日、警察から親に関する説明を受けた。

茜ちゃんが受けたのは、暴行、監禁、虐待、おおよそはこの程度の罪らしい。

そして殺人…しかも二人を殺めている以上、死刑、もしくは無期懲役でもおかしくないそうだ。

他にも麻薬が家から発見され、僕には対する傷害罪もある。

 

「詳しい判決は…何分昨日のことだからな。まだだが…あの男の娘に…もう親と会えないことを覚悟するよう伝えた方がいい。」

「……はい。」

「もうあの男は手遅れだったんだ。狂った人間は、簡単には戻らないよ。」

 

もう戻らない。

時間も、人も、罪も、その全てが変わらない。

たった一つ、茜ちゃんだけは何もかもが変わる。

責任を持つのが大人というものだ。

戻ることのない時間を越え、新しく与える。

親になるのが、この場合の責任だ。

 

―――――

 

「お兄さん…」

「うん?どうしたの?」

「茜さんは…どうなるんですか…?」

 

不安なのだろう。

行き場を失うというのがどうゆうことか、この子にはよく分かるから。

でも、不幸中の幸いというべきか、彼女には僕達がいる。

共に過ごせる人がいる。

許されるのなら、あの子の親になろう。

 

「警察の人次第…かな。」

「……」

「…大丈夫だよ。身元引き受け人としては親戚が選ばれるけど、決めるのは茜ちゃんだから…きっと大丈夫。」

 

警察次第であり、茜ちゃん次第。

警察が見つけた居場所に、茜ちゃんが付くかどうかは、結局本人次第。

僕達は、ただ茜ちゃんが今の居場所に、残ることを願うだけ。

誰よりも切実に願っているのは、瞳ちゃんだろう。

 

―――――

 

「茜さん。」

「…はい。」

「君の父親が何をしたかは…もう分かるね?」

「……はい。」

「子の君に罪はないよ。でもね、親兄妹もいなければ、君は生きることすら難しい。」

「……」

「高校生なら…分かるね?……君はこれから選ばなきゃいけないんだ。親戚を探すのはこっちでやるし、交渉もする。そこで暮らしたいか、もしくは…今の…彼らのところに残るか。」

「!」

「孤児っていうのはそこら辺融通が多少は聞くんだ。親戚に当てがなければ、特に書類などの手続きがなくても、ほぼ自由に居場所を探せる。」

「…それじゃぁ…!」

「…ふふ…彼らのもとに残る選択肢もあるってこと。選ぶのは君だ。まあもっとも……どうしたいかは…もう決めてるんじゃないのかな?」

「………」

 

―――――

 

後日談

 

茜ちゃんは残ることにした。

とはいえ、最初はどこかへ行こうともした。

世話になり過ぎたことに負い目があったらしい。

一人で生きることを考えてもいたようだ。

しかし瞳ちゃんに引き留められ、光希君に認められ、呑気な僕は笑顔で迎えた。

彼女は一度、家族を失った。

同じ家族は戻らない。

幸せだった昔は戻らない。

しかし、苦しんだ過去も、もう戻らない。

これから彼女が享受するのは、偽りの家族(本物の家族)と、苦しい未来(幸せな未来)だ。

それを与えるのは、僕達家族だ。

 




わりと40話くらいで終わらせるかも…ノープランできる書いてるから予測付かないんだよね~ま、裏話はその内しよか~ではではまたね~


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面倒見の良い大人達

スマブラにソラ参戦ー!皆!大乱闘しよう!…待ち時間にでも読んで頂ければ幸いです。


茜ちゃんは二人よりも受け入れる…られるのが早かった。

高校生だからか、逆に落ち込み続けたり断り続けるのも迷惑だと理解しているようだ。

それから一週間程、暗い性格は少し回復し、最近だと瞳ちゃんと実の姉妹のように接せている。

最も瞳ちゃんは未だ敬語、さん付けだが…

 

「…よし!」

「茜さんどうしたんですか?」

「バイトでもしようかなって…二人はまだ子供だけど、私はもう高校生。もうすぐ大人なのに学校も行かずに引きこもりなんて…生活費だって、四人分を一人で工面してる育さんにも申し訳ないし…せめて私の分くらい自分で出せるくらいにならなきゃ!」

「…もう…大丈夫なんですか…?」

「…大丈夫…とは言えない、かな…でもね、くよくよしてても意味ないよ。」

「お兄さんには話したんですか?」

「しーっ…バイト先決まってから話すつもりなの。育さんは絶対反対するからね。優しいから、説得すればすぐに折れてくれるだろうけど…」

「…頑張って下さい!」

「うん!」

 

育がこの話しを聞くのは、その三日後だった。

 

―――――

 

「茜ちゃんはどうだ?塞ぎ込んでたりしないか?」

「大丈夫です。瞳ちゃんともよく一緒にいるし、光希君とも一緒にゲームしてるの見ましたよ。」

「そうか…それならよかった…こういう仕事してるとな、行き場のない子供もたまに見るんだよ。そういう子は親戚に連れていかれるが…二度程、更に環境が悪化した子を見たことがある。そういう時は思うんだよ。この警察の対応は間違っているんじゃないかってな。」

「…だから茜ちゃんを、僕達に任せてくれたんですか?」

「ああ…そうだな…戸籍上親族の親兄弟に引き渡されるのが普通だが…こっちが…事情を知る側が放っておけば、後は戸籍を自分で変更可能な年まで隠しておく。それで親戚との繋がりを絶てば、特に問題なくその子のしたいようにさせられる。本当は問題だがな…」

「…リスクを負ってまで…ありがとうございます。」

「何、俺は結構不真面目な方でな。そうゆう面倒事を避けたいだけさ。…まあ、最悪バレてくびになろうと、田舎のばあさんとこで畑でも耕すさ。それにあの子が初めてでもないしな。」

 

話しは終わりとばかりに、彼はその場から立ち去ろうとする。

僕は、立ち去る背に深々と感謝して、帰ることにした。

ちなみにここは彼の好きなbarだ。

店主とも顔見知りらしい。

話しを端から聞いていた店主も、『相変わらずだ』と言い、店を閉め始めた。

 

「また来な。歓迎するよ。」

 

そう言い残し、僕の帰路とは逆に歩いて行った。

時刻は六時。夕飯の用意をしなければ。

そう思い、早足に家へ向かう。

 

―――――

 

「ただいまー…」

「お帰りなさい!」

「お帰りー」

「育さんお帰り!」

 

それぞれが口々に言ってくれる。

家に人が多いのは、とても安心する。

さあ、今日は何を作ろうか?

 

―――――

 

――日

 

警察の人…流人(ると)さんにはとても感謝している。

それに茜ちゃんが元気になったこともよかった。

家族が増えるが、衝突することもなく、皆良い子だといつものことながら思う。

不幸な子供を助けることが趣味というわけでもないのだが、こういう子に遭遇する確率本当に凄いと思う。

でも…その度に、思い出が増えていくような気がして、皆には申し訳ないけど、よかったとも思う。

これからも…皆で一緒に…過ごせることを、神様にでも祈るとしよう…

 

 




法律分からん。軽くは調べたけど…深く調べるのも…ね?なのでわりと適当です。でもどこぞの小説でもあった感じの設定…設定?なのでまぁ…簡単に言うと…細かい事は気にしない!あと最終回みたいな終わりだけど終わんないよ!?勘違いしないでね!?


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運動会

時間飛ばしは仕方なし!と言っても一月くらいフルで消えただけなんで…日常回カットって感じですかね?日常はたまに挟むくらいで頼みます…


「瞳ちゃ~ん!絶対行くからね!待っててねー!」

「は、はい…」

 

瞳ちゃんが来ておよそ五ヶ月。

季節は夏真っ盛り。

つまり…運動会の時期だ。

瞳ちゃんは五ヵ月、光希君は三ヵ月、茜ちゃんは二ヵ月、これが一緒に過ごした時間。

もう瞳ちゃんが来て半年になる。

これだけ過ごせば、瞳ちゃんも普通の家の子と同じように…いやそこまでではないが、多少我が儘を言ってくれるようになった。

光希君のホームレスのおじさん達との交流も変わらず、時にお酒を持って行きたいとも言い、口調も優しめになった。

茜ちゃんは恐怖の感情もほぼなくなり、僕達に対する遠慮も少なくなりそして…重度のシスコンになった。

瞳ちゃんに抱きつく、顔を擦り付ける、などは当たり前。

それから…後から知ったが、カフェでバイトを始めたらしい。

上司もいい人で、環境としても良い方らしい。

などなど…変化は良い方に、元々良かった所は変わらなく、現状最良の状態で生活している…と思う。

 

「…何がそんなに楽しみなんだ…?」

「そりゃ瞳ちゃんが頑張ってる尊~い姿をこのカメラに永遠に残すのが楽しみなのよ~♪ね!育さんもそうでしょ!?」

「まあそれは楽しみだけど…自重してね?」

「瞳に対する態度うぜぇ。」

「二人とも辛辣ぅ!でも他にもたくさん――で――の―」

 

一人語り始めた茜ちゃんを無視し、光希君は台所に向かう。

瞳ちゃんは小学校、茜ちゃんはバイト、僕はもちろん会社、一人だけ何もしてないことが気になった光希君は、家事をほとんどしてくれる。

運動会の弁当を作ってくれているのだ。

まあいつも料理は頼まないが…光希君の弁当を、瞳ちゃんも食べたいだろう。

いや…皆で作った弁当を、だ。

 

「育が作った方が旨いけど…いいのか?」

「皆で作るのを瞳ちゃんに食べてもらおう?喜んでくれるよ。」

「そうそう♪」

 

運動会に持って行く弁当は完成した。

少し早めだが家を出よう。

 

―――――

 

「………あ!居たよ!」

 

開会式から瞳ちゃんを探していた。

やはり人数が多く見つけるのは難しかったが、茜ちゃんが見つけてくれた。

同学年の子と綺麗に並び、しっかりした行進で校庭の真ん中まで歩く。

瞳ちゃんだけでなく、小さい子供達の可愛らしい姿。

もう茜ちゃん大興奮である。

 

「きゃ~!可愛いー!(パシャパシャッ)」

「…なんで育以外の年上は、変態ばっかなんだ…」

「……」

 

苦笑いするしかない。

瞳ちゃん達子供達は、宣誓を終え、入場門まで戻って行った。

 

―――――

 

「…うーん…瞳ちゃんの出番遠いなー…」

「大人しく待てないのかよ…」

「まあまあ…気長に待とう?えっと…一時間位…」

「ま、可愛らし~い子供達を眺められるのはいいけどね~♪」

 

と茜ちゃんが呟いていると、隣から似たことを言っている、しかも聞き覚えのある声が聞こえる。

 

『眼福眼福♪―ん?』

 

お互い見つめあい、同士を見つけたように手を組んだ。

 

「分かってるねあんた…」

「そっちこそ…」

「変態同士が会っちまった…」

「あんまり言わないでね…」

 

外野の仲が深まりながら、運動会は始まった。

 



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午前の部

運動会のプログラムは自分の小学生の時のを何となく思い出しながら書いてます。


「瞳ちゃんがやるのなんだっけ?」

「えーと…百メートルとクラス対抗リレーだね。たしか対抗リレーって五十メートルの速い人が選ばれてたなぁ。」

「あたしの時も同じ!じゃあ瞳ちゃん速いんだ~。」

「後は全員参加の綱引きと…玉入れ?」

「あれ?応援と大縄は?」

「玉転がすのもないな。」

「応援は上級生、大玉と大縄飛びは三、四年生だね。」

「ふーん…」

 

瞳ちゃんの出番は当分先。

となればと恵ちゃんの居場所を豊ちゃんに聞く。

どうやらテンションからは想像出来ないぼど運動が苦手らしい。

そしてそうゆう子が取る選択といえば、全員参加以外休むことである。

だが小学生はそれを許されない。

どれか一つ確定で参加させられる。

運動が苦手な子が選ぶ競技の定番といえば…

 

「てことで障害物走だよ!」

「そんな『分かるよね?』みたいに言われても…」

「百メートルでもいいだろ。」

「ま、恵の出番は瞳ちゃんより後だし、私も瞳ちゃんの応援するかな~♪」

 

そう話している間に、最初の競技が始まった。

 

―――――

 

『次は―二年生による百メートル走です。』

 

アナウンスからすぐ、百メートルの選手が入場する。

それからクラス別に横並びになり、最初の子が走り出した。

四人ずつ走り、ついに瞳ちゃんの番が来た。

先生の掛け声で走り出した瞳ちゃんは、確かに速かった。

 

「きゃー!瞳ちゃ~ん!頑張って~!」

『…頑張れー!』

 

流石に茜ちゃん程堂々と叫ぶのは嫌だ。

ゲーム好きはこういうイベントは苦手なのだ。

光希君は少し面倒そうだから違うだろうが…ちゃんと応援してくれている。

 

「頑張れ瞳ちゃん!負けるな負けるな瞳ちゃん!」

 

なんか一人応援団混ざってるし。

その甲斐あって瞳ちゃんは一着でゴールした。

終始カメラのシャッター音が凄かったのは言うまでもないだろう。

 

「瞳ちゃん一位!凄~い!」

「運動得意だったんだな…」

「…ふふ…」

「?どうしたの?」

「いや…何でもないよ。」

 

一度だけ、帰宅途中の瞳ちゃんが走るのを見たことがある。

それ以外にも遊びに行く時は走って行ったり、子供が急いで遊びに行く時や早く帰りたいときのような行動を何度か見た。

そんな性格でもないのに。

 

(頑張ってたんだね。)

 

その後も他学年の競技などを見ながら、全員参加の競技を待った。

障害物も対抗リレーも最後の方だからだ。

 

「そろそろ綱引きだよ。」

「お、じゃやっと恵の出番か~♪」

 

そう言う彼女の手には、瞳ちゃんの競技の時から、ずっと大きいカメラがあった。

わりと何万かする奴だ。

 

「さあさあ…大人になっても見られる思い出にしてあげようか~?」

「……」

「瞳の消しとけ。」

 

光希君の反応もおかしくないほど、何故か不安を煽る行動をしていた。

 

―――――

 

残念ながら綱引きは最初で負けて三位決定戦。

しかしそれも負け、最下位という結果になってしまった。

 

「残念だったけど…クラス対抗だし、仕方ない。」

「頑張る姿は写真に撮ったし、負けてもいい思い出だよ!」

 

昼になり、瞳ちゃんと恵ちゃんと合流して、弁当を食べ始めた。

二人も負けて残念そうだったが、めげずに頑張ろうとしていた。

落ち込む様子もなく、恵ちゃんなんていつもよりテンションが高い。

 

「…!」

「あ、それ光希君が作った卵焼きだね。」

「え?光希さんも作ったんですか?」

「三人で作ったんだよ。これを食べて、また頑張ってね。」

「…ありがとうございます!」

 

「恵~!お姉ちゃんも、お弁当作ったんだよ~!ほらほらお食べ?」

「お、お姉ちゃん…」

 

皆で作った弁当を食べ終え、運動会午後の部が始まった。

二人とも、気合い十分に向かっていった。




組体操は最近はやる場所ないって聞いたからカットで。


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午後の部

さあさあお昼休みを挟んで始まった午後の部。

最初は上級生の応援団。

鉢巻をきつく絞めた一組の団長は、よく響く声で叫ぶ。

負けじと全クラスの団長が叫ぶ。

皆大きな声で迫力満点だった。

とは言え子供だからそんなにはいかないけど。

 

「凄いね~あんな声出ないよ。」

「僕も無理かな…歳的に…」

「まだ若いだろ。」

「いや…デスクでの作業が増えるとね、動くことがほぼない分、運動量も相当減ってね…勿論肺活量とかも退化するんだよ…」

 

多分若い人でもよくあることだと思う。

特にオタクの人は気を付けなきゃ腰や首を真っ先に痛める。

だからこれ以上光希君と瞳ちゃんがゲームで動かなくなることはないよう願う。

 

―――――

 

途中大玉転がしを挟み、下級生による玉入れが始まった。

僕の身長から見れば高くなく見えるが、子供からすれば大人一人分大きいのだろう。

頑張って玉を投げる姿は、言ったら悪いかもしれないけど猫がじゃれてるように見える。

つまり小動物のようで可愛い。

瞳ちゃんのクラスの番になり、一組の子が走り込んで来た。

相手は四組の子達。

 

「頑張ってー!」

「あれ考えて投げる方が入るし、瞳は得意なんじゃね?」

「そうだね。でも…こうゆうのは、考えないから楽しいんだよ。」

「―――――!!!(止まらないシャッター音)」

 

現に瞳ちゃんも、取っては投げるを繰り返している。

考えるより、楽しむことを選んでいる。

横には恵ちゃんもいる。

笑い合って投げている。

 

(楽しそうだね。)

 

楽しんだもん勝ちとは言ったもの、一組は見事一位になった。

 

『わー!』

 

「瞳が勝った!」

「そんなクラ○みたいに…」

「ポイント一組高いな。」

 

競技の順位毎に入るポイントで最終順位が決まる。

そのポイントは赤、青、黄、緑の四つで全学年共通のポイントとなる。

今は中でも赤が高い。

そこから上級生のダンスを挟み、更に大縄飛びも挟み綱引きへ。

 

「これで勝てばほぼ勝ち確だね!」

「瞳ちゃんあんまり力はないんだけど…」

「(ああ、恵も弱いんだよなぁ…)」

「……元々男子の競技だろ…」

 

ただクラスの男子達もあまり腕力に自信はなかったようで、結果としては三位。

以外にも赤と青の一騎討ち状態となった。

クラス対抗で勝った方の勝ち。

緑と黄色は…残念ながら逆転は不可能だ。

 

「瞳ちゃん頑張れー!ここで勝ったらヒーローだよ!」

「女の子にヒーローって…」

「…頑張れー」

 

「(応援してくれてる…!最初で離す!)」

 

本当に瞳ちゃんは早く、トップで二番の人に渡すことが出来た。

 

「が、頑張れー!」

 

チームメンバーを応援する瞳ちゃん。

その甲斐あってアンカーがギリギリ一位でゴール、結果は対抗、全体共に優勝。

 

「やったー!写真も百枚越えてるし…ふくく…」

「キモっ!」

「終業式終わったらすぐ行こっか。」

 

こうして瞳ちゃんの運動会は幕を閉じた。

 

―――――

 

「おめでとう。瞳ちゃん。」

「さっすが私の妹!」

「…おめでと。」

「ううん。皆で勝ったんです。お兄さん達の応援のおかげで頑張れたし…」

「でも瞳が一番頑張ってたよ!」

「恵もだよ~?」

「わっ!お姉ちゃん!」

 

よく楽しめた運動会でした。

 

―――――

 

――日

 

前半から後半にかけて、運動会は順調に勝ち越し。

瞳ちゃんも恵ちゃんも凄い頑張っていて、正直とても可愛かった。

この写真は、大事にパソコンにバックアップも入れて本体にも残しておくことにしよう。

仕事で来れなかった東雲さんにも、何枚か送るとしよう。

 




描写無理…てか――日の久しぶりだなぁ。
追記:時間ありませんので次回更新無し。申し訳ありません。書こうとすると水曜過ぎます…


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奴隷のお嬢様

金持ちって嫌い。二人知ってるけど小学の頃人の筆箱捨てた。もう一人は少年院行った…そいつは嫌いじゃなかったな…まあ相対的には嫌い。


『あそこのお嬢様の噂聞いた?』

『あー凄い悪い性格らしいわねー?』

『まあ尾ひれも付いてるけどさー…にしてもねぇー?』

 

「……くだらない。」

 

あんな噂どうでもいい。

屋敷の動植物を全て焼いた。

屋敷に来た友達を拷問して殺した。

夜な夜な屋敷を出て男漁り。

薬の材料を栽培している。

実の家族を奴隷にした。

殺した焼いた奪った貶した苦しめた捨てた。

…全て虚構に過ぎないのに。

 

「白馬の王子様に憧れる年でもないのにね…」

 

誰でもいい。

この場所から救ってほしい。

 

―――――

 

それは、目も開けられない程の豪雨の中……

 

「――」

「――」

 

少女との初めての出会いだった。

 

―――――

 

「もうないと思ってたのに…」

「ずぶ濡れじゃない!早く入って!」

「お兄さんお風呂入って下さい!風邪引いちゃいます!」

「あはは…ありがとう。でもお風呂にはこの子から入れて…」

「必要ありません。」

 

おぶっていた少女は、背から降りて出口へ向かう。

台風の中平気で帰るつもりだ。

 

「待った待った!」

 

茜ちゃんが前を遮る。

全員帰すつもりはない。

 

「とりあえずお風呂入って服着替えて。私の貸すから。」

「それにこんな台風の中出て、どこ行くんだ?」

「……知りません。目的地なんてありませんから。ここがどこかも知らないのに、行く宛などありません。それがどうしました?私には必要ありません。」

『………』

 

正直何故この少女がここにいるかも分からない。

そもそも台風の中傘も指さずに歩いているのもそうだし、服もやたらと高そうに見える。

髪は金髪、先が少し赤みがかった長髪。

偏見だが金髪は外人か金持ちかぐらいに思う。

流暢な日本語からして日本人のようだが…

 

「…ならホームレスのおじさんとこ行くか?」

「……そうですね…まだマシそうですね。」

(マシ…?)

 

そう言う彼女は外に…出ることもなく茜ちゃんに捕まる。

 

「逃がさないよ?」

「…逃げるも何も…帰るだけですが?」

「それが駄目なの!いいから、お風呂入る!」

 

そしてそのまま無理矢理連れて行かれた。

 

―――――

 

「お風呂に入れて頂いたのは感謝します。しかし私はここにいてはいけないのです。家から出して下さい。」

「いちゃいけないの?」

「また茜みたいなやつか?」

「それとも光希君みたいに素直じゃないだけかな?」

「殴るぞ育。」

「ごめんごめん。」

「……同じ筈がないでしょう。…貴方達に迷惑はかけたくないんです。」

「迷惑ねぇ…」

「お兄さんは慣れてますよね…」

「確かにね…」

「どういうこと…?」

 

困惑した表情を見せる少女。

それも当然だろう。

なにせこちらの事情も知らないのだから。

 

「瞳ちゃんは捨てられたし、光希君は逃げ切った。茜ちゃんは守られた。僕らは全員、多少の闇を抱えてる。」

「……そう…ですか…」

興味深そうに、少女は光希君に顔を向けた。

 

「何故逃げられたの…?」

「何故って…育に会えたから…?」

「そんな…ことで…?」

「育は…馬鹿でお節介で、親切が迷惑になるような奴だけど…」

(あれ!?貶されてる!?)

「他とは違う優しさも、諦めない根性も、誰かのための行動力も、全部自慢出来る兄貴分だ。」

「……拾われたことではなく、拾った人が重要だった…?」

「私もお兄さんに助けられて、凄く感謝してます。捨てられて身寄りのない私を…赤の他人の筈なのに連れて行ってくれて…」

「あたしの時なんて、助けるのに命掛けてくれたしね!」

「……育さんは…何故自分の行動に疑問を抱かないのですか?そんな慈善行為を、何故好き好んでやるのですか?」

「何故って…うーん…難しいけど…疑問がないっていうことは、そうしたいからしてるんじゃないかな?」

「したいから?」

「三人を引き受けた時、僕が思い出せるのは…何も考えなかったことだからね…」

「…根っからの親切の塊ね…」

「それが育だな。」

「うんうん。」

「育さんは、とってもいい人です!」

 

全員に肯定されると少し照れる。

少女は納得したような…しきれないような顔をしながら、自分のことを話し始める。

 

「…私は、とある一家の奴隷なの。そんな私でも…助けてくれるのかしら…?」

 

 



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帰らず

もうそろ育の昔話入るな~


「奴隷…?」

 

この日本において、そんな突拍子もないことを言われるなど想像していなかった。

だが、他者の所有物として暮らしてきたということなら、瞳ちゃんと茜ちゃんも同じだろう。

現に二人共、思い出しで吐きそうにしている。

 

「……育。」

「うん。悪いんだけど…僕だけに話してくれないかな?さっきも言った通り、三人も録な生活してなかったんだよ。特に瞳ちゃんと茜ちゃんは…君と似てる。」

「…そう。確かに子供に聞かせることでもないわね。」

 

そうして僕と少女はリビングを出た。

 

―――――

 

「よし…とりあえず聞かせてくれるかな?」

「…私が奴隷という話し以外、特に説明することはないわ。詳細は…話すつもりにはならないわ。」

「……せめて何であんな雨の中歩いていたかを―」

「…私の唯一の…友達が、身代わりに逃がしてくれた…それ以上…話したく…ありません…」

「…無理に聞くつもりはないよ。光希君も、最初は何も話してくれなかったしね。話す決心が付いたら、いつでも話してね。」

「…私はここをすぐに去ります。」

「…帰るのは…まずいんでしょ?また…奴隷にされる…」

「けれど貴方達に迷惑はかからない。私をここで見逃すことが、貴方達の最もいい選択。」

「…君をここに置くことで、僕らがどんな迷惑を被るのかはしらない。けど…見捨てることで後悔するのが分かっているのに、最悪な場所に君を戻すことを良しとする程、悪い性格してないよ。」

「自分達が死ぬことになっても…たった一人見知らぬ子供のために、身を犠牲にしてもいいの?」

「…それでも、君を助けることに後悔はしない。」

「…人のためにそう言える人は…多くないでしょうね…」

 

少女は助けを求めていた。

僕は助けることを望んだ。

少女は迷惑をかけまいと自分を犠牲にしている。

それでも尚、僕は彼女を助けようとしている。

お互いに考えているのは、自分でさえ犠牲にしても、目の前の人を助けること。

僕とこの子は、根が似ている。

 

「気持ちは嬉しい…けど、やはり関わるべきではないわ。」

「……そうか…」

「…私は…『唐荷島』家の奴隷ですもの…」

「!?」

 

(唐荷島!?まさか…そんな…)

「?どうかしたかしら?」

「…ぁ…君の…名前は…?いや…父親の…名前は…?」

「…?唐荷島胡桃(くるみ)よ。父親は…唐荷島(こがね)よ。」

「……はは…本当に…クズだ…ああ…本当に…許せない…!」

「…?貴方は唐荷島の関係者か何かなのですか?」

「…そうだね。僕も…唐荷島だから…」

「!?」

 

少女はすぐに逃げだそうと立ち上がる。

強引に、僕はその手を掴む。

 

「あの男は…まだそんなことを続けていたんだろう…?なら、君を帰すわけにはいかない…!」

「…貴方も唐荷島なのでしょう!?よくも一人だけまともを装うなんて…」

「君を同じ目に…僕以上に酷い目に合わせてたまるか!」

 

この子だけは絶対に守る。

たとえただの親戚でも、彼女だけは…

そして、あの男だけは…

 

《許さない》

 

 




胡桃ちゃんは従姪…つまりいとこの子供です。ここでの釛は、育のいとこに当たります。


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探究心

最初から考えてたシナリオ…この小説に関しては一切なし!ストーリー考えてから書けってね?皆は気を付けよう!


「同じ…?」

「!ご、ごめんね!痛くなかった!?」

「いえ…それは平気ですが…その…同じというのは…?」

「……あまり気分がいいものでもないけど…君は聞いた方がいいかもしれない。」

 

釛という人物が、過去にした罪の数々。

現在進行形で犯している悪行。

そのどれも、始まりは僕だった。

 

「昔の彼は…まあ僕は子供の彼しか知らないけどね。別に悪人でもなかったんだ。中学二年までは。」

 

それが日を経る毎に、変わっていった。

始まりは虫を潰した程度。

でもその瞬間から、彼の何かが刺激された。

蟻からより大きい虫へ。

やがて動物を意図して殺すようになった。

その対象は、更には人間にさえ届いた。

死に触れた彼の行動は、快楽的殺戮。

殺すことに溺れ、殺すことを悦んだ。

何故捕まらなかったか、簡単な話しだ。

『ばれなかった』ただそれだけ。

彼は持ち前の頭脳を生かして、ひたすらに殺し続けていた。

そしてその殺害現場に、僕の両親が偶然居合わせた。

見つかった彼が何をするかは明白だろう。

口封じ、つまりは…殺すことだ。

しかし彼がやったなど、誰もが知り得ることはなかった。

謎の死を遂げた死体として、両親は発見されたのだ。

僕は保険金などと親戚に世話になったことで生きてきたが、一歩間違えばあの子達のようになっていたかもしれない。

彼も僕も歳だけなら大学生になり、しかしどちらも大学にはいかなかった。

僕は金銭に余裕がなかったから。

そして彼は…充分な金銭と、有り余る『材料』…死体を使い、研究を始めていた。

 

「その研究…それが彼がはじめから目指していたものだったんだ。」

「研…究…?」

「…そう。彼の家の人も、使用人も、彼にとっては実験台でしかなかったんだ。君も、そして…僕も。」

「その研究って…?」

「……『死への探求』。簡単に言えば、不老不死、死者の蘇生、そういった人間が求めてきた『永遠』の研究だよ。」

「……なんで貴方がそれを…」

「知っているか?そうだね。普通はあり得ない。それはね…僕が実験の成功者だからだよ。」

「…え?」

 

僕は様々な薬を投与され、およそ一月、意識のない人形として好き放題されていた。

結果的に完成したのは、半永久的な生と、体の半分のつぎはぎ。

 

「よく見たって、誰にも分からないね。僕の体の半分は、『死体』の切り取りだなんて。」

「…そんな…物語のようなこと…」

「僕にはあった。そしてそれは、彼にも…」

 

彼の知能、それはまともでもなければ天才でさえ届かない。

生まれつきあったような超能力。

彼にはじめからあったのは、全ての答えを知り、どんな難問でも瞬時に導くもの。

 

「彼はそれを使って、殺し、隠し、研究してきた。彼が求めているのは、答えのないものへの挑戦。彼はそのためなら、どんな残忍なことでもするだろうね。」

「………」

 

唐荷島釛が行った悪行の数々は、そのどれもに証拠がない。

故に捕らえることも、例えば改心させることだって出来ない。

止める方法はただ一つ。

 

「殺すことだけだ。」

「……」

「…僕は彼を止める。やっと決心が付いた。止めていることを願っていたが、もう、帰れない場所まで行ってしまった。」

「…殺人で捕まりますよ…」

「そうだね…僕の全てを置いていくよ。贅沢しなければ、この家であの子達と生活は出来る筈だ。困ったら僕の同僚に頼ってほしい。」

「……貴方は…自分を犠牲にしてでも止めに行くのですね。死ぬかもしれないのに…」

「…そうかもしれない。でも、止めることが出来たのは、僕だけだ。それなのに…止められなかった。その責任を取るだけだよ。」

「…お人好しが過ぎますね…それでも…頼ることしか出来ないんです…どうか…」

 

僕は部屋を出た。

そのまま玄関まで行き、釛の元へ――

 

「…育。」

「……光希君…」

「なんとなくさ…俺だけは聞いてたんだ…扉の前で。悪いとは思ってたけど…」

「…そっか。…ねえ光希君。任せたよ。」

「お前も早く帰れよ。」

「うん…」

「……ゲームじゃいつも、お前みたいな立場の奴が最後に勝つんだ。ぶん殴ってこい!」

「…おう!」

 

柄にもないやり取りを終え、僕は釛の元へ向かう。

居場所は分かっている。

なにせこちらも、ほぼずっと監視していたのだから。

唐荷島に不信感を持った親しい警官の協力で。

 

「待ってろよ…釛!」

 

―――――

 

「せめて生きて帰れよ…育…」

 

―――――

 




さてと…育の話しでさえ思いつきでその場その場考えてる辺り自分馬鹿だと思う。育の過去隠しておけば何か使えるかなー…結果これ。完っっ全に最終回むかってる。でも…五人(と一匹)で終わりかは自分の気分次第!てことでではでは~
12/1追記:ネタが思いつかなかったから休みです。ごめんなさい。


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決着

前回はゲームのやりすぎでネタが思いつきませんでした!定期なのに休みがあってすみません!


「…まだここにいたんだね…」

 

唐荷島家は所謂富豪の家柄だった。

故に、その土地には屋敷があり、豪華な庭園もあった。

そんな屋敷から、僕は逃げだした。

両親が暮らしていた家を、子供の頃の思い出を、その全てを捨ててきた。

釛とまだ一緒に過ごせていた屋敷。

僕は、久方ぶりに実家へ帰って来たんだ。

 

「釛まで素通り出来れば……よかったな…」

「ならよかったじゃないか。俺はここだぞ?」

 

門を開けて現れるのは、僕にとって十数年も前から会っていなかった親戚…唐荷島 釛だった。

目付きは鋭く、髪は白、その髪をオールバックにしているスーツ姿の男。

ぱっとみヤクザだ。

 

「とても頭脳キャラには見えないな…」

「……来て早速だが…お前の用を済ませよう。」

「分かるだろ?」

「…そうだな。…なあ育。俺の実験は…この十年程で、完成したと思うか?」

「…さあ?」

「ふっ…したさ…完璧に。俺の望んだ通り、俺はもう死ぬことはない。」

「どうして?」

「お前と同じつぎはぎの体、それだけでは足りなかった。かといって魔術など非科学的な物の存在は、流石の俺でも知り得ない。」

「それでも完成出来たと?」

「『ホムンクルス』…それが何か分かるか?」

「…?」

「ホムンクルスとは錬金術師パラケルススの研究結果さ。最古の人造人間…その知識は膨大であり、神の遺物のような扱いを受けている。パラケルスス以降、制作に成功した者はいなかった。」

「…ホムンクルスはパラケルススでさえ、フラスコから出すことは出来なかっただろ?そんなもので何を…」

「察しが悪い…俺の能力を忘れたか?」

「…まさか…」

 

彼の能力は全てに答えを出す。

それが敵わない『死』という概念の研究を続けていた。

ホムンクルスの研究、それがその過程に成っているということは…

 

「フラスコから出す方法も、融合(・・)する方法も分かるのさ。今の俺は、無数の俺が融合された塊だ。意識が分裂し、体中に点在するだけのな。」

「何で…人間を止めてまで…そんなことを続けるんだ…」

「俺の目的は変わらない。死への探究。それ以外に何もない。だけどな……」

「!?」

 

目の前にナイフが飛んでくる。

 

「何を…」

 

釛は腕を広げ何かを待つ。

その体制では、そのナイフで自分を刺せとでも言うようだ。

 

「俺を殺しに来たんだろう?やれよ。もう死にたいんだ。俺はもう人間じゃない。首を落とそうが心臓を貫こうが死ぬことはない。しかしそのナイフは、それらを全て滅ぼすための…ホムンクルス専用の殺傷ナイフだ。」

「……今更後悔でもしたのか?」

「…はは…違うな…後悔はないさ…研究は完成した。俺は死をも越えたんだ…もはや人造人間である俺は、心臓も動いてなければ血も通わない。だが…この死をも捨てれば…どうなるのだろうな?」

「死んでも研究するつもりなのか…」

「そうだ。その辺の凡百が天国や地獄を夢見るように、俺はそれら以外の世界を想像する。」

 

こいつは戻る気もなければ、進む意志しかないのだ。

研究の行き着く先は、誰にも分からない。

そんな『分からないこと』を目指しているんだ。

 

「……」

「…育?」

 

僕はナイフを拾わない。

こいつに、ただ死を与えるのでは足りない。

自己満足のために、何人もの人生を狂わせた。

そんな奴のために、ただ望む通り殺すなど…赦されない。

 

「…せめて…もっと苦しんでから逝け。」

 

遠くから鳴るサイレンの音。

僕の携帯には、警官を呼ぶための機能を付けてある。

押せばその人の携帯が鳴るように設定をして。

釛が出てきた時点でこれは押していた。

それがやっと来たようだ。

 

「…警察か…なるほどな。お前は手を出すつもりがないわけだ…」

「寿命がお前にあるかは知らないけど…永遠に牢屋で籠っててくれ。」

「……そうか…ふっ…死後の研究の前に、俺の寿命を試すのも悪くない。」

 

殺す覚悟でやって来た僕の時間は、それを嗤うようなあっさりとした終わりを迎えた。

 

―――――

 

「……お前はどうなんだろうな?」

 

連れて行かれる直前に、あいつはそう言った。

 

 




さーて…次からは日常書けそうだ…AP◯Xやろ…


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居場所

間に合わなかったー!少し遅れてすみません!


釛は警察に連れて行かれた。

お手柄だったと褒められる。

僕にはそれが、褒めるという行為に思えなかった。

釛と僕は、別に仲がよかったなど言える関係ではなかった。

それでも…あいつが連れて行かれて、酷い喪失感に教われたのだ。

何故…何故こうも…言葉に出来ない感情が溢れるのだろう。

目的を見失い、自分のことも分からず、生きているかも分からないこの体を持って、一体何をすればいい。

 

「……違う。」

 

自分のことなんてどうでもいい。

目的なんてなくていい。

死んでいたって構わない。

 

「あの子達が…待ってるんだ。」

 

自分よりも子供を優先するのが、親なのだから…

 

―――――

 

「……ただいま。」

「……おかえり。」

 

唯一事情を知る光希君が玄関で出迎えてくれる。

僕達の性格では、こんな時に泣きながら抱き合うなんて感動シーンにも出来やしない。

簡素な挨拶。

たった四文字の、いつも通りの台詞。

光希君はそれだけ言って部屋に戻って行く。

何も聞くことはないと言うように。

 

「…ありがとう。」

 

―――――

 

それからはいつも通り。

皆で…胡桃ちゃんも含めた全員で食事を摂り、騒がしくゲームで遊び、皆眠る。

違ったのは、胡桃ちゃんが新しくこの家に来たこと。

こうした普通が…普通の日常を、僕はやっと手に入れたんだ。

 

―――――

 

「釛はどうなったんですか?」

「ああ…親戚とは言え同じ血の通った人物なんだ。お前には言いづらいんだが……」

「お願いします。あいつがしてきたことは…とても赦されることじゃない。どんな罰を受けていても、俺が悲しむことも、あいつを憐れむこともない。」

「…そうか。悲しいな…お前、もう実の家族は…一人もいないんだろう?親戚も繋がりがなくて、唯一の繋がりが今はムショだ。酷い運命持ったもんだ。」

「……そうかもしれません。でも…僕には、あの子達がいますから…」

「違いない…釛は…このまま行けば、少なくとも死刑か無期懲役は免れない。もう永遠に会えないと思った方がいい。」

「そうですか…」

「館を調べたらな、想像以上に溢れてきやがった。余罪が止まらねぇよ。あんなのが普通に生活してたとは…もはや尊敬するよ。」

「………」

「…お前さんにはこれ以上は必要ないな。」

「…ありがとうございます。…満足しました。これで…僕は進めそうです。」

「…これからも、いくらでも頼ってくれていいぜ。」

 

そう言って話しを切った流人さんは、そのまま帰っていく。

心の中で深々と感謝して、僕も家へ帰る。

やっと本当の意味で手に入れた平穏な…普通の日常に。

僕の居場所へ…

 

 




最終回ではないですよ?日常系のもので日常から外れたまま最終回向かえられますかい!まだ続くよ~
12/22追記:apexランク変更前滑り込みのため時間なかったです。バイトのシフトも増えて本当に時間なかったので今週更新なしです。ごめんなさい。


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赤ん坊

クリスマスはap◯xで過ごしました!てか忘れてた…


色んな騒動、過去の因縁、家族も一人増えてから早一月。

あれから胡桃ちゃんは、正直茜ちゃんと同じ感じに閉じ籠った。

いや籠ったというより、まだ少し警戒されている。

…僕だけ。

 

「そりゃ叔父に当たる人警戒しないわけないよな。」

「だけど…やっぱりちょっと寂しいかな…」

 

僕以外には普通に接してくれるんだけど…

 

―――――

 

「…あっ胡桃ちゃん…」

「ひっ…!」

「あ…」

 

―――――

 

(あれ結構来るんだよな…)

 

小動物に逃げられる感覚。

この場合『お父さん嫌い!』と言われた父親感覚かな。

一月あって会話はほぼなし。

食事時も胡桃ちゃん一人部屋で食べる始末。

そろそろどうにかしないといけない…

 

―――――

 

「そう思っていたというのになー……」

「………そろそろ部屋ないぞ?」

 

胡桃ちゃんが来て一月。

新しい子がやって来ました。

しかも今回は会話すら出来ない。

何故なら……赤ん坊だからだ。

 

「それで…今度は何で連れて来たんだ?」

「可愛いぃー!」

「(小さい…)ふふ…」

「ああ…うん…実は――」

 

―――――

 

「……」

 

僕は光希君のお世話になったおじさん達と交流があった。

だから時々おじさん達の元へ行き、お酒と食事を少し持っていっていた。

勿論光希君の方がよく来る。

おじさん達は『別に気を遣わなくていい』って言ってくれるけど、手土産くらい必要だろう。

 

「ああそうだ…育さんや、一つ頼みがあってな。」

「?何でも言って下さいよ。」

「いや…結構頼っててすまないんだが…一人…赤ん坊を引き取ってくれないか?」

「…赤ん坊?」

「ああ。」

 

この人達の誰かの子供だろうか。

いや、そんな無責任な人達じゃない。

じゃあ可能性は…

 

「仲間の一人が山で茸採りしててな。その入り口付近に…この箱に、紙とこの子が入ってたんだと。」

「えーと…」

 

『この子を拾って下さった方へ。私にはこの子を育てるだけの暮らしの余裕がありません。親は居らず、子が出来たと判った途端に私を捨てた夫。私にはもう、自分一人でさえ生きることが苦しいのです。無責任にこんなことをしたこと、許してほしいとは思いません。ですが、どうかその子だけでも、助けてあげて下さい。』

 

それからも手紙には懺悔の言葉が数々と。

そしてこの子の名前と、元々の住所と親の名前。

 

「……」

「酷ぇ話しだよな?育てられないからって山の入り口に捨てるなんて…」

「…自分が捨てたことを、拾った人以外にはばれないようにしたんでしょう。でも…本当は、こんなことしたくなかったように思います。」

「確かにな…文字が掠れてるってことはインクも少なかったんだろうし、この子が抱えてた車の玩具。これも唯一の贈り物だったんだろうな。」

「わざわざ自身の名前も、住所も書く必要はありません。この人は、本当に大変な現状なんでしょう。」

「たく…この子の父親はとんでもねぇ奴だな!」

「……この子…引き取ります。」

「おお…!ありがとうな!赤ん坊に生きられる環境じゃないからなここは!本当に助かるぜ!それじゃあ悪いけど任せた!」

「はい。」

 

―――――

 

「てことがあって…」

「……相変わらずだな。」

「可愛いからよし!」

「わ、私がお世話します!」

 

以外に受け入れが早い。

その様子を聞いて、胡桃ちゃんもリビングに来た。

 

「……赤ん坊?」

「うん…ちょっと色々あって…」

「……可愛い(小声)」

 

胡桃ちゃんもお気に召したようで。

しかし赤ん坊を抱えているのが僕なので、近づくこともなく遠巻きに見ている。

こうしてまた、新しい家族が一人増えた。

 




まだ続ける。けどまぁ…十話も続けないと思います。気分投稿は終わりに迷うんですよね~…
追記:諸事情により来週投稿なし。ごめんなさい。


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初めての育児

最近――日って書いてない。理由は日で区切って話しを終えないからですね~


「あぁあーーん!」

「わ!どうしたの!?」

「赤ちゃんが泣くのなんて…オムツかお腹減ったかじゃない?」

「だ、大丈夫だよ~…」

「確かオムツに線があるんだっけ?平気ならお腹減ったんだと思う。」

「う、うん…」

 

今光希君がオムツやミルクを買いに行ってくれている。

オムツも三枚程しかなく、ミルクはあと五杯分くらい。

少しの間だが、お世話しててくれたおじさん達に感謝だ。

 

「…大丈夫。漏らしてると黄色らしいけど青いし、匂いもしないから…お腹減ったんだね。」

「すぐに作ってきます!」

 

小学生にして赤ん坊の世話とは…あまり見ない光景だ。

 

―――――

 

「人肌くらいの温度でいいんですよね?大体これぐらいだと思って…」

「………大丈夫だと思う。…でも少し心配だからもう少し冷まそう…」

「買って来たぞー」

「あ、光希君。どうだった?」

「以外と高いな。オムツとミルク。店の人おすすめらしい。」

「ありがとう。」

「どうだ?」

「うん。飲んでるよ。」

「はぁ~…瞳ちゃんも可愛いけど、赤ちゃんってなんだか小動物感して凄く可愛いなぁ~」

「皆こんな時があったんだよ。」

「今は可愛くないの?」

「勿論可愛いよ。僕にとっては皆可愛い子供達だからね。」

 

勿論胡桃ちゃんも…

しかし胡桃ちゃんは親とも兄とも思ってくれない。

 

「……」

「…胡桃ちゃんも…」

「…!」

「……はぁ…」

「話せないね。」

「育だけだしな。」

「お兄さん…」

「僕も分かってるんだけどね…やっぱり少し…くるよね…」

 

きっかけがあっても話せない程の溝。

どうすれば話しが出来るだろうか。

赤ん坊がキューピッドになってくれないか。

突拍子もないことを考える程度には、僕は悩んでいた。

 

―――――

 

「じゃあ僕は仕事に行く…けど…任せても大丈夫?」

「何かあったら電話するっての。他も出る時心配してたけどさ…最悪胡桃もいるし。」

「うん…」

 

心配ながらも仕事に行かないわけにもいかない。

他の皆もそれぞれ出かけ、家にいるのは二人だけ。

 

「本当に何かあったら電話しなよ!?」

「しつこい。」

 

―――――

 

「……」

「…育さんどうかしたんですか?何だかずっと上の空みたいで…」

「ああえっと…」

「また誰か増えたんですか?」

「うっ…」

 

東雲さんにはある程度話している。

どんな子が増えたとか何歳だとか、大抵は彼女も把握している。

度々協力もしてもらっているし、今回も少し聞いてみようか。

そう思い、赤ん坊のことを話した。

 

―――――

 

「なるほど…心配なら午後から帰宅したらどうですか?私が変わりますよ。」

「いや…それは悪いし、光希君達なら問題ないとも思うよ。」

「本当ですか?うーん…」

「…何かあったら電話かけるように言ってあるから、電話が来たら頼むかも…」

「!任せて下さい!育さんのためなら残業上等ですよ!」

「…あまり無理しちゃ駄目だよ。」

 

そう会話してから、特に何もないまま定時となる。

僕が帰る頃には日も暮れていて、何人か既に帰宅していた。

少し上の空だったことも自覚しているから、作業がいつもより遅れていたのだ。

 

「早く帰ろう…」

「あ、育さん!私ももう上がりなので…その…お家に行ってもいいですか!?」

「え…」

「あ!いえ!駄目なら大丈夫だけど…赤ちゃん私も見たいかな~…とか瞳ちゃん元気かな~…て思って…決して疚しい気持ちは…」

「大丈夫だよ。別に疑ったりしてないから…でも帰りが凄く遅くなっちゃうし…せめて休みが合った日の方が…」

「明日休みですし、歩きで帰りますよ。そんなに遠くもないし、いい運動です!」

「遠くないって…確か五駅分じゃ…」

「大丈夫です!それより行きましょ!子供達が待ってますよ!」

「そうだね。とりあえず行こうか。」

 

そうして東雲さんを連れて帰ることになった。

終電過ぎていたら泊めることも考えよう。



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協力

風邪引いた…


東雲さんを連れて帰る帰路、頭の中は赤ん坊のことで一杯だった。

 

東雲さんは見てみたいと言ったが、やはり日を改めるべきではなかったか。

 

それに面識があるのは瞳ちゃんぐらい。

 

突然連れて行っては驚くのではないか。

 

 

 

(一応連絡しよ…)

 

 

 

先に電話一本でも入れておこうと思い、僕は携帯を取り出した。

 

三度程のコールの後、出たのは予想外にも胡桃ちゃんだった。

 

 

 

『……』

 

「………あの…」

 

『…ごめんなさい。』

 

「え?」

 

『私は…ただ名字が同じというだけで…一方的に嫌って…』

 

「や…別にいいよ。当然の反応だと思うし…」

 

『面と向かって話すのは…怖いんです…それでも…育さんが…お兄さんが私のために色々やったのも…全部知ってて…』

 

「うん。」

 

『それでも…本当は…こんな態度取りたくなくて…』

 

「…無理しなくていいんだよ。怖い物は怖い。そう区切るのが一番。怖くて怖くて…それでも話してくれた。それが僕は嬉しいんだから。」

 

『……あの…面と向かって話すのは…まだ少し…怖い…ので…時々、こうして、電話で話してもらえませんか?』

 

「…勿論!まあ…出来れば顔を見て話しが出来たらいいからね。徐々に慣れてくれたら、それも嬉しいかな。」

 

 

 

それから少し話し込む僕らを、東雲さんは放っておいてくれた。

 

電話を終えた直後に平謝りしたのは言うまでもない。

 

 

 

―――――

 

 

 

「ただいまー」

 

「お、お邪魔します。」

 

 

 

家に入った東雲さんは、何故か凄く緊張していた。

 

…考えると東雲さんを家に連れて来たのは初めてだった。

 

好きな相手の家に来るとこういう反応になるのが自然か。

 

家にいるのは親じゃなくて子供だけど。

 

 

 

「…あれ?」

 

 

 

普段なら誰かが出迎えに来るのだが…

 

 

 

「…もしかしたら赤ん坊に夢中で気付いてないのかな?静かに行こうか。」

 

「はい……」

 

 

 

過呼吸になりそうな息遣いをしながら、東雲さんはついてくる。

 

そーっとリビングを見てみると、そこには癒しの空間が。

 

赤ん坊を中心に、抱えた胡桃ちゃん、ソファーに光希君、瞳ちゃんが寝ており…

 

 

 

「(止めどないシャッター音)」

 

「…何してるの?」

 

「ひゃあ!?」

 

「あ…」

 

「ん…」

 

 

 

写真を撮る茜ちゃんに声をかけると、突然の声に驚いて声を上げてしまった。

 

その声に反応したのは瞳ちゃんだけだったが、起きることはなかった。

 

三人で安堵の息を吐いた。

 

 

 

(お、おかえりなさい…)

 

(何してるの?)

 

(それより…その人誰?もしかして…彼女さん?)

 

「ひゃ、ひゃの!初めま…!」

 

(もう少し静かにー!)

 

(は!ご、ごめんなさい…初めまして。東雲杏佳です!)

 

(会社の同僚だよ。度々協力してもらってるの。子供のことだと僕より詳しいからね…)

 

(が、頑張ります…)

 

 

 

三人で自己紹介を軽くして、これまでのことをかいつまんで東雲さんに説明した。

 




17時に更新して間違えたって一回消したごめんなさい。
追記:風邪で三日程寝込んだ分曜日感覚狂って忘れてました。一応書き終わったんですが間に合わなかったので来週予約投稿します。


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警戒

先週はごめんなさい。忘れることはいつもないんですが…完全に火曜だと思ってました…それはそうとポケモン発売(これは発売前の投稿)ですね!……忘れません…よ……?


(手伝ってもらいたいのは山々なんだけど…)

(うん…)

 

眠る三人を見て頷き合う。

光希君の草臥れた顔、一日中見ていてくれたのだろう。

瞳ちゃんの安らかな顔、多分釣られて寝たな。

そして寝ている間は平和な育児…とも言い切れないが、手伝うこともないだろう。

 

(また別の日に来てもらう方が…)

(泊まりじゃ駄目かな?お兄さん…駄目?)

(僕はいいけど…)

(す、少し待ってて下ひゃい!)

(?)

(育さん…)

 

茜ちゃんが東雲さんのことを感情的に心配する中、あわただしく、しかし静かに東雲さんが戻ってくる。

 

(あ、あの!泊まってもいいって!許可貰いました!)

(そういえば実家暮らしなんだっけ。)

(はい!でも大丈夫です!)

(…ありがとう。)

(…育さん!私出掛けてくるねー!)

「えっ!?ちょっとどこに…)

(……)

 

彼女なりのちょっとした気遣いがされたようだ。

とはいえ二人きりになろうが眠る子供の近くで出来ることなどなく…

 

(…僕は夕食作ってくるから…三人のこと見てて。)

(分かりました…)

 

茜ちゃんの望むようなことは起こりそうもない。

 

―――――

 

「ん……」

「あっ」

「あれ…?俺…寝てたのか…」

「おはよう光希君。もうご飯出来てるから、一緒に食べよう?」

「んー…そんな寝てたか…瞳は?」

「少し前に起きて、もうご飯食べてるよ。一日ありがとう。お疲れ様。」

「あー…何か凄い疲れた…なんか寝てる間にあったか?」

「まあ…子供はすぐに泣くからね…」

「お疲れ…世の母親は全員やってのけることなのか…」

「本当にね…」

 

そんな風にお母様方の世話能力を認識しながら、僕らは頷き合った。

その後光希君も東雲さんがいることに疑問を持ち、茜ちゃんのように説明をした。

 

「手伝ってもらえるのはありがたいけどさ…あまり来るのは出来ないんだろ?それだと意味なくないか?」

「う…」

「まあ僕より知り合いが多いし、同じ子供のいる人が、赤ん坊の頃はどうだったか聞けるしね?ネットよりもよほど信頼出来ると思う…」

「でもそれなら会社で十分だし、来る必要はないな。」

「うう…」

「えと…僕があまりに疲れたら任せられる大人がいても…」

「そもそも瞳の世話んなった大家さんがいるだろ。」

「……」

 

中学生に言い負かされる大人二人。

というか…

 

「光希なんでそんな意地悪なの?」

 

茜ちゃんが代弁してくれたそれだ。

光希君にしては対応が酷い。

まるで東雲さんを近づけたくないような…

 

「いや…育に告って振られた人って瞳に聞いたことあるから…ストーカー紛いのことしてて、育は言いづらいと思ってな…」

「……」

「……」

「そうなのぉ!?いや~そうゆう恋ばなはJKの本領よ~?で?で?どうだったの?てゆうか家まで連れて来るのになんで振ったの!?」

「…うざい。」

 

光希君の一言に衝撃を受けた茜ちゃんは、すぐに態度を変え、正座した。

しかしなるほど…そう見える人はいると思う。

そう納得した僕らは、弁明した。

なんとか誤解を解いて、光希君の了承も得た。

 

―――――

 

「色々悪かった…今までも陰ながら助けてもらってたんだな…」

「いいよいいよ。私も…会ったこともないのに、知らない人がいたら警戒するのは当然だしね。」

「はあ~…育さんに春が来たと思ったのにな~…こんないい人いて駄目ならもういっそ…私か瞳ちゃんが結婚するしかないね!」

「…お兄さんがいいなら…」

「!!そそ、それは駄目ぇ!」

「…僕は結婚する気ないからね…ごめん。それに子供に手は出さないよ。」

「ざ~んねん。でも…まだまだチャンスはあるよ~?」

「からかうのは止しなさい。」

「はーい。」

 

夕食を食べながらのそんな会話は、仲のいい一家の光景のようだった。

 

―――――

 

――日

 

いつも協力してもらっている東雲さんに、赤ん坊のお世話も手伝ってもらうことになった。

まあ光希君と瞳ちゃんに赤ん坊はなついているようで、やっぱりお世話は二人がすることになった。

東雲さんは、主に赤ん坊を育てる方法を聞いて教えてくれる役だ。

それ以外に僕が数日いない時や、早く上がっていたら来てくれたり、とてもありがたい。

大人になるまで大切にすることを、僕は密かに誓った。

 

 




赤ん坊の名前出してないのは呼ぶタイミングがなかったからです。のでここで出します。母親の名字は到離(とうり)。ですが手紙に子供は名前だけということにしてたので、この際名字は唐荷島として、名前は了(りょう)。ちなみに男の子です。母は廻(めぐる)です。

追記:書く気が起きないのと終わりをどうするか思い付かない。そこまで切り悪くないしもう完にしときます。
ここまでありがとうございました。
気が向いたら何年後みたいなのは書くかもしれないです。これの続けて何年後かの奴書くかもしれないから小説情報は未完です。


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