俺がカイドウの息子…? (もちお(もす))
しおりを挟む

男主メモと関係性まとめ

↓ストーリーのネタバレ含む可能性あり

読まなくても全然問題ないです。




ーーーーーーーーーーーーーー


名前:レオヴァ

身長:390cm(原作開始時)

戦闘:戦斧・能力で作り出した武器・肉弾戦(暫く後ある刀も使う)

役職:百獣海賊団・総督補佐官 及び ワノ国の鳳皇(国王)

 

一人称:俺(おれ) 

二人称:お前、テメェ、皆

 

 

 

【悪魔の実】

トリトリの実 幻獣種  モデル “サンダーバード“

翼は広げると6~30mほどあり、淡く光っている。

(ある程度大きさは調整可能)

 

【能力】

・高速での飛行が可能。

・雷や天候を操る。

・熱風を起こせる。

・獣化、獣人化ができる。(動物系なので)

・弓、トマホーク、槍を作り出せる

・船など大きな物を運べる

・炎を生み出し操れる(メラメラには劣る)

・火山を噴火させられる(させられるだけで操れない)

(↑上記は伝承を元にした能力含む)

 

・雷を浴びることで体力の回復、細胞の活性化が出来る

(↑上記は不死鳥と近縁種という設定の物語から)

 

・その他、電気や炎の強弱の調整や応用が可能。

 

───────────────────────

【性格など】

・カイドウ及び百獣海賊団を何より優先する男。

 

・文化や自然が好きなのはONE PIECEの世界が見たこともない様な綺麗な世界だったことと、単純にファンタジーものが好きだったから。

 

・珍しいものや不思議なモノを集めるのは前世からの収集癖。

剥製や特産品なども好き。限定品にも弱い

 

・身内に優しいのは好きだから。カイドウの役に立つ奴は好き。

(カイドウを純粋に慕っている相手にはとことん甘い)

 

・普段はカイドウの息子として恥ずかしくないように堂々と落ち着いた所作を心がけているが、本当は好奇心が高く好きな物や事に目がない為、たまにキングやクイーン、ジャックの前で素が出てしまう。

 

 

[言葉遣い]

・部下や周りの目がある場所での基本的な話し方

「……だ。」「……だろう?」「……じゃないか?」「ならば致し方ない」

・素の話し方

「……じゃねぇか?」「……仕方がねェ」「……しやがってェ!」

(言葉遣いが悪いのは元マフィアだった事と根が短気だった為)

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

以下

関係図の様なものや、現状のまとめ。

 

 

【百獣海賊団】

 

・カイドウ

息子として大切にしているし、部下としても信頼している。

出来が良すぎて頼って来ないことが唯一の不満。

レオヴァと共に遠征に行って暴れたり、組み手(素手での殴り合い)をするのが楽しみ。

レオヴァの働きすぎに頭を抱える事が増えてきているが、自分の為に頑張っているレオヴァの気持ちは分かっているので強く言えずにいる。

 

 

・キング

カイドウの息子なので初めは面倒を見ていたが、知略と冷静な判断力に信頼を置くようになった。

キングの“趣味”にも理解がある事と冷徹な面を特に気に入っている。

仕事などに熱中すると休まないレオヴァに気を揉んでいる。

最近は白くま(ベポ)を突撃させれば休むことが判明した為、休息を取らない時は白くまを向かわせている。

 

 

・クイーン

カイドウの命令で世話していたが実力がついたレオヴァを認め、気に入る。

レオヴァとウイルスの開発するのを何気に楽しみにしており、カラクリやウイルスを作る腕を嘘偽りなく褒めてくるレオヴァをますます気に入る。

カイドウの息子自慢に一番付き合わされている被害者。(2番目の被害者はキング)

 

 

・ジャック

初対面時の強さに惹かれ、押し掛けて部下になる。

拾われてから美味しい食事と寝床、勉強まで教えてくれるレオヴァに更に惹かれる。

その後、悪魔の実をレオヴァから授かった事が誇りになる。

(以降レオヴァから悪魔の実を貰っている人間にライバル意識が芽生える)

カイドウとレオヴァの役に立つのが一番の目標。

キング、クイーンと同じくらいレオヴァからの信頼が厚い。

おそらく一番レオヴァから目をかけられている。

ベポが気に食わない。

 

 

・ドレーク

実の父親から奴隷同然の扱いを受け捨てられた。

しかし、その場に居たレオヴァの暖かさに触れ、ついて行く事に決めた。

以後、黒い面なども見たが自分や仲間に向ける感情の暖かさに偽りはないので変わらずレオヴァを慕う。

幼少期の影響で極希に精神が安定しなくなるのでレオヴァと定期的に面談(?)をしている。

 

 

・ロー

全てを恨み珀鉛病と共に生きている所を拾われる。

その後、レオヴァの態度や実力を見て心を開く。

死にたくないと思い始めた時に悪魔の実をレオヴァから授かり死を免れる。

以降はレオヴァを心から信頼し、親愛と尊敬の念を抱く。

カイドウのパワーに純粋に憧れがある。

基本的にカイドウとレオヴァ以外には放任主義だがベポには過保護。

 

 

・ベポ

助けてくれたローに連れられレオヴァに出会う。

大好きなキャプテンの大切な人なので自分も大切にしようと決めた。

その後優しく強いレオヴァが好きになり、ガルチューは欠かさない。

同じ船の仲間だからと誰にでも挨拶のガルチューをしていたが、ローと話していたジャックにしようとして殴り飛ばされて以降はレオヴァやカイドウ、ドレーク、ローなどの一部の人にしかしなくなる。

ジャックが少し苦手。

 

 

・スレイマン

祖国に裏切られた挙げ句汚名をきせられ犯罪者として指名手配されていた。

レオヴァの暗殺依頼を受けるも返り討ちに合う。再戦を重ねていくうちに強さと人柄に惹かれ、最終的には生涯をかけて仕えると誓った。

ワノ国の国民との仲も良好で、ドレークや狂死郎と意気投合している。

過去の事もあり、必要としてくれるカイドウとレオヴァに対する忠誠心が高すぎて直情的になってしまう事がある。

コートの心臓の位置にレオヴァを象ったエンブレムの刺繍がある。

 

 

・うるティ

遠征中のカイドウに喧嘩を売って一撃で伸された。

その後、レオヴァの指揮下に見習いとして入り、懐く。

我が儘かつ奔放な性格だがカイドウとレオヴァの前ではイイコである。

実は弟とお揃いのマントの裏には竜と鳥の刺繍があり、表にはでづらいが忠誠心もある。

一部の過激派(ジャックやスレイマン)から睨まれているが本人は気にしていない模様。

 

 

・ページワン

百獣海賊団においてローに次ぐ苦労人。

真面目なしっかり者であり、ほぼ姉のお()り担当。

たまに脳筋思考になるが、それはカイドウに憧れたゆえの影響である。

ローとは友人のような兄弟のような不思議な関係。

ドレークとも相性がいいのか良く一緒にご飯を食べに出掛けている。

 

 

・ブラックマリア

ちょっとした事故?で船に連れてこられて以降、そのまま流れで百獣に入った。

色々あってカイドウとレオヴァにぞっこん。

皆と円満な関係を築けているが、特にうるティと仲が良い。

遊郭の部下たちとショッピングに出掛けるのが最近の趣味。

日和(小紫)と信頼関係を築く仕事を新しくレオヴァから任されている為、度々獣人島へ赴く。

 

 

・ササキ

レオヴァに敗れワノ国へ……そしてそのまま入団した。

キッパリとした性格なのか色々割きりが上手く、レオヴァに敗北した事も引きずっていない。

初の遠征で見たカイドウの圧倒的な力に惚れ込んでいる。

最近は酒瓶片手にレオヴァを引っ張ってカイドウの部屋に押し掛けるのが楽しみ。

カイドウから結構可愛がられており、ジャックに睨まれている。

 

・フーズ・フー

投獄されていた所をレオヴァに拾われる。

最初は政府の情報を取引材料にして代わりに隠れ場所を提供してもらうというビジネスライクな関係だったが、その後百獣海賊団に入団。

部屋で大きな鯉を飼育しており、休日はその鯉を眺めながら晩酌している。

 

 

 

・ビィクター博士(オリキャラ)

オハラ出身の学者、レオヴァに自分の命と妻を救われた。

バスターコール以降、少し人格が可笑しくなり妻とレオヴァへの執着が酷い。

だが、学者としては優秀かつ熱心。

現在はワノ国にて護衛(見張り)に守られながら生活している。

 

 

・百獣海賊団の船員たち

キング、クイーンと恐ろしい上司と比べ、慈悲の塊の様なレオヴァに縋る。

最近は話のわかるドレークやローのお陰で心労は減った。

ただ、未だにレオヴァへの盲信度は高いままで、カイドウへの忠誠心も高い。

 

 

【ワノ国】

 

・ヒョウ五郎

民を想う心と上に立つ者としての器の大きさに惚れ込む。

決戦にて目の前でレオヴァが斬られると言う経験をしてからは、以前とは比べ物にならぬほどレオヴァを優先するようになった。

現在は正式に部下になり、近衛兼大臣として日々充実している。

 

・黒炭カヅチ(オリキャラ)

レオヴァが死にかけていた所を手当てし助けた。

元々、平民としての身分すらなかったならず者。

拾われ、更に地位まで与えられた事に恩義を感じており、生涯を忠義に捧げると誓った。

黒炭の自分を信じ、側においてくれるレオヴァの全てを盲信している。

 

・ワノ国の民衆

レオヴァこそ国を導く偉大なる王であり、カイドウこそ国を災いから救う守り神であると考える。

百獣海賊団を否定する者は恩知らずな愚か者と言う考えが主流。

 

 

【他海賊団】

 

・ドフラミンゴ

武器の取引を中心にたまに珍しい物をレオヴァに紹介している。

お互いに利害関係を良く理解している為、仲は良好。

 

・ビッグ・マム

レオヴァの有能さを高く評価している。

婿入れ作戦はカイドウとの決裂で終わってしまった。

 

 

 

 

───────────────────────

 

【補足など】

 

・〈鳳皇(ほうおう)

ワノ国の王の称号。ヒョウ五郎発案。

 

・〈近衛隊(このえたい)

レオヴァの側近のような役職。

基本的には1人がレオヴァの側付きをし、残りの者は各々仕事をしている。

 

・〈大名〉

各々の町や村の代表。

レオヴァの指示に合わせ、民衆に指示を出す。

基本的には民衆の声をレオヴァに伝えるのが仕事。

 

・〈鳳皇城〉

将軍城を建て替えたもの。

様々な仕掛けがあるが、屋敷図はレオヴァによって消されたので全てを把握しているのはカイドウとレオヴァのみ。

(カイドウの場合忘れていることもある。)

 

・〈医療施設〉

ワノ国の数ヶ所にある大きな病院。

元百獣海賊団の医師が中心に働いている。

 

・〈水処理場(ろ過施設)〉

上下水道の管理と水のろ過を任されている施設。

ここの物はレオヴァの図案で作られており、難しい操作は必要なく働ける為、国民が雇われている。

 

・〈その他ワノ国の電気タンクで賄われる物〉

テレビ、冷蔵庫、街灯、救急ヘリなど

私生活によく使われるものが多々ある。

しかし、全ての国民が持っているわけではない。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幼少期編
転生したら赤ん坊


俺はマフィアの幹部としてファミリー、そしてボスである父親の為に今日もいつも通り任務をこなしていた。

 

愛用している戦斧を片手に抗争を終わらせた俺のもとに父親から連絡が入った。

 

 

「…はい、俺です。

 この時間に電話とは……何か問題でも?」

 

「いやぁ、急で悪いな 息子よ!

 すぐに○○○○まで来てくれ!大事な用があるんだ」

 

「わかりました。

 直ぐに参ります」

 

電話を切ると早足で指示のあった場所へと向かった。

 

 

この時まで俺は父親のことを少しは愛していた。

金に執着し、母親に愛想をつかれ息子を道具の様に扱う最低な男ではあったが、俺はたった一人の家族に必要とされたかったし、なんだかんだ父も自分を息子として愛してくれていると思っていた。

 

 

 

──── その父親に頭を撃ち抜かれるまでは……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

俺は少しの騒がしさと眩しさを感じながら眠さを押し殺し ゆっくりと…目を開けた

 

 

───── そこは海の上だった。

 

俺はどうやらサークルベッド……と言うには少し荒い作りの木枠の毛布の中にいた。

 

なぜ、俺は此処にいるのか。

なぜ、生きているのか。

全くもって理解が追い付かない状況である。

 

焦り散らす俺の心とは裏腹に

空は澄み渡り、日の光は暖かに降り注ぎ、耳をかすめる海の音も言い様にないほど美しく まるでファンタジーの様に素晴らしい世界だ

……ただ一点、騒がしい野郎どもの声を除けば。

 

 

やっとのことで船の上にいることは理解できたが何故、自分が赤ん坊になっているのか

そして この船が“なんの船“なのかも解らずにいた。

 

このままでは埒が明かないと思った俺は起き上がろうと思ったのだが、どんなに力を込めてもジタバタと足が動くだけに終わった。

次は喋れるか試してみたのだが、言葉にならない声がでるだけである。

 

 

「ぁう あ~……(何もできねぇ…)」

 

「お、なんだ。 起きてるじゃねぇか!」

 

「ぁう!?(なんだ!?)」

 

何も出来ずに落ち込んでいると、急にまん丸でゴーグル?の様なモノを着けた男が俺を見下ろし大声を出した。

 

 

「おい。大声だしてんじゃねぇよ

泣き出したらどうするつもりだ。」

 

「ったく、口うるせぇなぁ キング!

カイドウさんの子なんだろ?

 そんな簡単に泣かねぇだろ。」

 

「クイーン…お前はバカか?

赤ん坊なんてちょっとした事で泣き出すもんだろ」

 

「あ"ぁ"!? 誰がバカだと!

 よし、ぶっ殺す。」

 

「やんのかァ…? 相手してやる。」

 

「オイ! てめぇら、おれは ここで暴れるなと言わなかったか!!」

 

「!?」

 

「「か、カイドウさん…!

 すみません…」」

 

 

さっきまで恐ろしいほどの殺気を放っていた大男二人だったが、今部屋に入ってきた更に大きな男の一声でその殺気は一瞬にして散っていった。

 

カイドウ…さん?……かいどう…クイーン……キング…?

 

───百獣のカイドウ!!?

 

 

そのカイドウと呼ばれた大男は俺が生きていた世界で有名な少年漫画 “ONE PIECE“ に出てくる“百獣のカイドウ“にそっくりであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あれから1週間経ってわかった事を俺は頭の中でまとめている。

 

まず、ここはONE PIECEの世界であるらしいと言うこと

此処は海賊船であるということ

カイドウやキング、クイーンを冷静になって良く見たら俺の知っている姿よりも大分若いということ

たぶん、カイドウは27~30歳くらいではないだろうか?

なので俺は原作開始よりもだいぶ前の世界ではないかと予測している。

 

そして、これが一番驚いた。

いや、未だに信じられないのだが……

 

──俺は百獣のカイドウの息子だった。

 

最初は

『息子!? 俺はヤマトになったのか!!?』などと頭の中が大混乱状態であったがヤマトにしては生まれるのが早い気がするし、何より性別が男であった為

俺=ヤマト説はなくなった。

 

ずっと息子だと言う事実を信じられずにいたのだが

あのクイーンやキングが世話を頼まれているのをみるに、本当に俺はカイドウの息子なのか…と自覚せざるを得なかった。

 

海賊か……

しかも、カイドウの息子…なんかちょっとした事で殺されるんじゃ……と自分の運命を呪っていたのだが、この1週間で少し前向きな気持ちになりつつあった。

 

その理由はカイドウ……父さんにある。

 

 

父さんは1日に数回、俺の様子を見に来る。

それだけでも衝撃的だった……てっきり放置されるか殺されるとばかり思っていた俺にとって様子を見に来る、しかも1日に何回もというだけでイメージは変わった。

 

ただ、それだけではなかった。

父さんは俺が起きていると声をかけてきたり

ゆっくりと、本当にゆっくりと指を俺の方に近付けてくるのだ。

 

最初こそ なんだ!? とパニックになりかけた俺だったが軽くそっと俺の手に触れるとすぐに離れて行ったため危害を加えようとしたのではなく、触ってみた…いや、“つっついてみた“ だけのようだった。

 

 

何日もそれを繰り返し、ふれあい?を続けていたのだが

この前たまたま掴めそうな位置に父さんの指が来た。

 

ほんの出来心でその指を握ってみたのだが……

なんと…あのカイドウが目を見開いたあと微笑んだのだ…!

 

──まぁ、微笑んだと言うには あまりに凶悪さの滲み出る笑いだったが……あの見た目なのだからそれは致し方無いだろう。

だが、俺にとってはずっとあった心の隙間が埋まった様な瞬間だった。

前の世界で必要とされたかった、愛されたかった俺にとってカイドウ……父さんの笑顔は望むモノだったのだ。

 

不器用な父さんとのやりとりは俺に十分に家族愛を教えてくれた。

 

 

結果、俺はカイドウのことを父さんと呼ぶに至った。

………まだ喋れないから心の中での話だが。

 

 

パタパタと足を動かしながらそんな事を考えているとバタンッと大きな音が聞こえた。

 

ん~……この足音は父さんだな?

 

 

思った通りサークルベッドの様な場所で毛布にくるまれている俺を覗き込んで来たのは特徴的な髭のある勇ましい顔だった。

 

 

「レオヴァ、昼飯は食ったのか?」

 

「ぅあ~ まっ!(食べたよ父さん!)」

 

「ウォロロロロ! 減ってはなさそうだなァ!」

 

そう言いながら俺の寝ている場所の隣に腰掛けた父さんの方を向こうと頑張ってみるが、やはり上手く体を動かせなかった。

もだもだしてる俺をみて父さんが変わった笑い声をあげるのを聞いて また、俺は暖かい気持ちになった。

 

 

父さんとのやり取りを通じて俺、

── レオヴァはこの世界で今度こそ後悔のないように生きると誓ったのである。

 

 

 

 

 




補足知識欄

読んでも読まなくても良い転生前のプロフィール
38歳のマフィア幹部
ファミリーの為に率先して戦斧を使い全線にでる為、その世界ではそこそこ名のある男であった。

【前世】
中位に属するマフィアのボスの一人息子で、幹部としてファミリーに貢献していた。
父親はボスであり、たった一人の家族だったが、金使いが荒く組織の利益よりも自分の欲望を優先するタイプだった為、男主が組織の資金調達や部下の不満解消など世話しなく駆けずり回る日々であった。

身を粉にして家族、組織の為に戦い、時には金策を練り実行し働き詰めていたのだが
次期ボスの座を狙っていた別の幹部の思惑により今までの貢献は仇で返される事となる。

父親は欲に目が眩んでいるため幹部の
"男主が消えれば更に組織を拡大化できる"と言う言葉を鵜呑みにし、実の息子である男主をほぼファミリー総出で殺害した。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7歳になった俺と父さんと

前回、ご感想ありがとうございます!凄くやる気が出ました!

ぼちぼちやって行きますのでよろしくお願いいたします。








あれから時は経ち……俺は7歳になった。

 

 

7歳になってからは人生が倍楽しく感じる!

トイレはひとりで出来るし、食事も自分で食べられる!

洋服の着替えもできるし、言葉も話せる!

自由時間も増えて覇気の練習だってはじめた!!

 

……おっと、オムツの取り替えやら介護される気持ちや、居たたまれなかった生活とおさらば出来たことで はしゃぎ過ぎてしまっていたようだ…

 

とにかく最近は本当に色々と楽しい。

 

キングかクイーンがいるのが絶対条件とはいえ外出も出来る。

 

島によって様々な生き物や景色を見れるのは何よりの楽しみになっていたし、父さんと食べるご飯は旨い!

……父さんの酒癖の悪さには度肝を抜かれたが…

 

と、まぁそんなワケで俺は今、船の中を散歩している。

さっき島に上陸したのだがキングもクイーンも忙しそうだったので邪魔しない様にするための散歩である。

 

 

そういえば、まだこの船にはジャックが居ない。

大看板と言えばクイーン、キング、ジャックの三人だったと思うのだが……

まだ父さんは若いしジャックの入団はまだまだ先なのだろうか…?

 

 

ヒュ~~~~  ドガァッン!!

 

 

「!? ぅわッ」

 

 どぷんっ!

 

 

そんなことを考えながら船の後方でぼけ~っとしていると

突然、大きな揺れと爆音が響いたと思ったら

その揺れで俺は海へと落ちてしまった。

 

 

「んぶっ! ハァッ…ハァ……あぶない…しぬかと おもった…」

 

死ぬ気で浜辺まで泳いだ、背泳ぎで。

はじめて泳いだけど…やっぱり死ぬ気になれば7歳でもちゃんと泳げるもんだな…

 

肩で息をしながら周りを見渡すとウチの海賊団が海軍らしき奴らと戦闘を開始していた。

 

 

「おぉ~ すごいなぁ……あ、あれ飛んでるしキングだ。」

 

 

 

『怯むな!賊を捕らえろー!!』

 

『ムハハハ!! 新作の実験にちょうどいいぜェ…!』

 

『ウワァ!? た、たすけてくれ! からだがァ……』

 

『!? 退避だ!』

 

『待て!ここで引いては民間人に被害が……!』

 

『遊んでんじゃねぇよクイーン。

 さっさと片付けろ。やること残ってんだぞ。』

 

 

大混乱状態の戦場を少し離れた所で見ていた俺は近くに来ている4人の人影に気付かなかった。

 

 

「おい……あれ、百獣海賊団にのってるガキだろ?」

 

「似てるな……」

 

「よし、撃つぞ。」

 

「!? 子どもだぞ?」

 

「バカ野郎! ガキでもあの船に乗ってんだヤベェやつに決まってんだろ!」

 

 パンッ パンッ…!

 

2発の銃声が響いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

危なかったッ……!!!!

 

 

いや、まぁ一発当たったんだけども…

 

一発は何とか避けたのだが、二発目が左腕に当たった。

致命傷になるような場所に当たらなくて良かったと安堵したのも束の間、4人の海兵らしき男たちが驚いた顔をしながら近付いて来ていた。

 

 

「おい!ちゃんと狙えよ!!」

 

「いや、狙ったんだが……」

 

「避けたのか?」

 

「偶然動いたから急所外れただけだろ」

 

「まぁいいさ、当たってはいるんだ。捕縛しよう。」

 

「?殺さないのか?」 

 

「そうだ!ガキでも海賊なら殺しちまった方がいいだろ!」

 

「捕まえればあのカイドウを捕縛するのに使えるかもしれん!」

 

「あの化け物がガキで止まるとは思えねぇけどな……」

 

「とにかく捕まえてダメなら殺せばいいさ」

 

 

「よし、新兵いけ!

この押収した宝も納品しなきゃならねぇんだ、急げよ!」

 

 

「あ、はい……そうですね。じゃあ捕まえてきます」

 

 

 

最近、俺は覇気を少しコントロール出来るようになってきていた、気を抜いていたせいで左腕を少し怪我してしまったが、人相手に練習ができないから困っていた所でのこの展開はツいているのでは…?

 

宝も持っているらしいし基地までついて行って他の押収した金品も回収する。

んで、それを持って帰ってこっそり倉庫に入れとけばウチの海賊団の資金にもなるし一石二鳥だ!

 

よし、こどもっぽくして捕獲されよう。

 

 

 

「キミ、動かないで。」

 

 

「……うん。」

 

 

「…ごめんね。大人しくしてくれれば痛い事はしないから」

 

 

「ん、わかった」

 

 

「じゃあ、ついて来てくれるかい?」

 

 

「うん、ついてく!」

 

 

そう言って子どもらしく頷けば、新兵と呼ばれていた男はほっとした様に笑った。

他の男たちも怪我した子ども相手に油断しきっているようだ。

俺は隙を見て殺る……そして金品を奪って逃げる為に男達について行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「あぁ……やべぇ…! 船長に言わねぇと!!」

 

 

海賊団の男が、この島の海軍基地へと入って行くレオヴァを見て焦った様に叫ぶと走り出して行った。

 

 

 

「なんだとォ…!? レオヴァが連れてかれただァ!?」

 

「ヒィっ……!す、すみませ…ッ…」

 

鬼の形相で怒り狂っている大男とそれに怯えだす周りの者達。

 

 

「すぐにキングとクイーンを連れて来い…!!

 はやくしろォオ!!!

 

「は、はいッ…!」

 

「海軍……ふざけやがってェ!!!

 

 

カイドウが棍棒を振り下ろすと地面が割れ周りの岩、そして部下までもが宙を舞った。

 

 

 

 

「カイドウさんッ…!遅くなりました…!」

 

「悪ぃ カイドウさん!!遅れた……!」

 

「キング、クイーン!! 遅ェぞ!!!

今から海軍基地を潰しに行く!

レオヴァもそこに居る…!」

 

 

「急ぎましょう…!」

 

 

「わかったぜェ、カイドウさん!!」

 

 

周りの部下が気を失うのも構わず覇気を放つカイドウとキング、クイーンは海軍基地に向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

たった3人で海軍基地を落とすという常人では考えられないほどの破壊を尽くしたのだが、未だカイドウ、キング、クイーンの苛立ちは収まっていなかった。

 

全く見付からないレオヴァに何かあったのではと焦るキングとクイーン。

 

しかし、海軍基地の人間をほぼ全て殺すことで気配が減り、カイドウが見聞色でレオヴァらしき気配にアタリをつけた場所へ足早に向かった三人を待っていたのは……予想外の展開であった。

 

 

そこには4人の男が倒れており

2人はもう死んでいるようだったが、残りの二人は生きていた。

 

1人は左腕が切り落とされており、出血が多く動けなくなっている様であった。

もう1人は椅子に拘束され指を殆ど失いながらも、くぐもった呻き声を上げていた。

 

その場の中心に居る少年を見て三人は珍しくも目を丸くしたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーレオヴァsideー

 

 

うあぁ……やってしまった。

完全に見られた。それも父さんだけじゃなく、キングとクイーンにもだ。

絶対に引かれた……そりゃそうだ。7歳のこどもがこんな事してたら俺だって引く……

 

しかし、ここで弁解させて欲しい。

俺は別に趣味でこの男を椅子に拘束して拷問しているワケではない。

そこの腕を切り落とした奴だって落し前を付けるためにやった。そいつは俺の左腕を撃ったから俺は左腕を貰っただけだ。前世の世界じゃナメられたら終わり……だから、習慣みたいなものだった。

 

そして、この椅子に固定した男を拷問しているのは押収した宝を何処に置いてあるのかを聞き出す為にである。

ただ思ったよりも時間がかかってしまい、結果 父さん達に目撃されてしまったのだが……

 

 

「ァ…ひゅー……ひゅー………た"、す"…けて"…」

 

椅子をガタガタと揺らしながら父さん達に助けを求める“新兵“

 

俺は気まずさのあまり手を滑らせ指を切るつもりが腕を半分切ってしまう。

腕は落ちはしなかったが肉の間から骨が覗いていた。

 

 

「あ"があ"あ"ぁ"ーーーー!!!!

 はぁッ…はぁ…たのむ…たのむおねがいしますほんとにしらないんですほんとですころさないでくださいころさないでくださいたすけてたすけてくれぇ!!」

 

急に大声を出して発狂した男を見て俺は煩く感じたため、素早く喉を切り付け黙らせた。

 

ただでさえ父さんに見られて怒られるかもしれないのに…騒がれたら更に父さんの機嫌が悪くなるかもしれない……

 

 

「あ~……とうさん、 うるさくて ごめんなさい

しずかに してもらったから ゆるしてほしい……」

 

さっきから、うんともすんとも言わない父さん達に、意を決してまずは煩くしてしまった事を謝った。

 

 

「ウォロロロロロロロ…!!

レオヴァ!これはお前が殺ったのか」

 

「はい……やられたから やりかえした…あと、たから あるっていうから」

 

「そうか、そうか…! やるじゃねぇか!!

見ろ!クイーン、キング、この歳でレオヴァがこれをやったんだぞ! ウォロロロロロ……!!! それでこそ おれの子だァ!!」

 

 

「さすがカイドウさんの子だな。その拷問の仕方はなかなか効率が良い。

人数を絞るのもリスクが減るし良い判断だレオヴァ坊っちゃん」

 

「ムハハハ! 7歳でコレかよ…!先が楽しみになるぜ!

あと、宝の場所なら もう把握済みだぜぇレオヴァ~!」

 

 

思っていたのとは真逆の反応だったが、父さんに誉められるのは凄く嬉しい…!

それにキングとクイーンにも引かれていない様でひと安心だ。

 

その後、クイーンと保管庫に行って宝を奪い船へと帰ったのだった。

 

 

この一件以降、俺は少しずつ子どもらしく振る舞うのを止めた。同時に海戦に参加させて貰えるようになった。

父さん曰く  “死にかければ強くなる“ とのことで結構ギリギリな場面が多く、本当に死にかけたことも一度や二度ではなかった……

 

前世の俺はここまで生命力があった記憶はないから、きっとこれは父さんの遺伝子だろう……

 

無茶苦茶してくる父さんを思い出すと頭が少しばかり痛くなるが、それも全て息子である俺を強くするための愛情だと思えば嬉しいものだ。

 

 

──── そして遂に 俺は12歳になった。

 

誕生日に欲しいものは何かと聞かれた俺は、武器が欲しいと父さんに頼んだところ、クイーンが来てどんな武器がいいんだ?と聞かれたので戦斧を頼んだ

“ムハハハハハ~~!

 おれが とっておきの最高の戦斧を作ってやるぜェ!“

 

と飛び出して行ったクイーンに呆気にとられていたのだが、数日後の俺の誕生日に手渡された その戦斧は言葉通り “最高の戦斧“だった。

 

そんなワケで俺は武器を手に入れさらに父さんとウチの海賊団に貢献するべく海戦へと投じるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでも読まなくても良い補足情報

男主 戦闘スタイル

武器
┗ 戦斧

戦闘スタイル
・斬りつけたり、突き崩すなど。
主に相手の攻撃を受け流して斧の鎌状になっている部分で相手の首や腕、足などを引っ掻けて少しずつ動きを鈍らせる、または受け流した拍子に隙があればそのまま一撃で落とすなどカウンターに寄ったスタイルである。

・先端に重さがある武器であるため、その重心を利用して素早く振り回したり、時には斧頭を蹴り軌道を変えたりなどトリッキーな動きをする。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この、子どもが……?

 

俺は12歳になり戦果も少しずつだが上げていた、その為 キングやクイーンの付き添いはついになくなった!

 

……まぁ、なくなったと言うより断った。が正しいのだが…

 

 

正直ゆっくり町を回ろうにもあの二人が居てはゆっくりなど絶対に無理だと俺は今までの人生で学んだのだ。

 

 

 

クイーンと出掛けるのは会話は楽しいし、食べ歩きも楽しめる…良い事も多いのだが、

 

第一に目立つ、それもそうだ。あれだけの巨漢 目立たないはずがない。

しかも美人を見つけると声をかけにフラッと何処かに消えてしまうのだ。

探し回るのもなかなか面倒である。

 

何回か『一応護衛なんだから何も言わずにいなくなるのは止めてくれないか……』と頼んだこともあったのだが

 

 

 “レオヴァはもう十分 闘れるし

  カイドウさんは心配症すぎるぜェ~~♪“

 

といっていた……直す気はないらしい…

 

それだけなら まぁ、ギチギチに付いてまわられるより良いかと思っていたのだが

 

クイーンの放任主義を知ったキングと喧嘩になり町が壊れるのが一番困りものであった。

2人にとっては軽いどつき合いなのだろうが、終わった後は探索や町の観光など出来ないような有り様だ。

 

 

キングに関しては色々と聞けば教えてくれるし、父さんの命令が無ければ むやみやたらと民間人に手は出さないし、暇になると良い感じの時間潰しなどを提案してくれたりと致せり尽くせりであるが、

チンピラ……柄の悪い奴らに対しての対応が酷かった。

 

 

いや、少し語弊がある。キングはあまり悪くない。

ただ子どもである俺に付き従う…とまでは行かないが世話をする黒尽くめの大男、しかも羽まであり炎も纏っているという異様な光景にただでさえ視線が集まるというのに

更にあれもコレもと散財するキングに俺を何処ぞの貴族のお忍びだと勘違いをする輩が現れるのは仕方がないことであった。

 

 

そして俺を誘拐しようとした輩を、父さんから俺の面倒を見ろと命令を受けている責任感の強いキングが必要以上に痛め付け、ついでに町も被害を被ることになるのは…きっと仕方がないことなのである……

 

 

 

まぁだが、それも前までの話だ。  

 

今では “ひとりで“ 外出も自由にできる。

 

<上陸中の島から出る、24時間以上の外出、1時間に最低1回の連絡をしなければならない>など禁止事項や言い付けは多々あるが俺の年齢を考えればきっと仕方がないことなのだろう。

 

……それに、あの父さんが事細かに決まりごとを考えたと思うと少し微笑ましくもある。

 

 

そんなこんなで自由を勝ち取った俺は一人で島探索をしていた。

…しかし、本当になにもない島である。

 

 

退屈だ。

ほぼ廃墟の様な町に虚ろな目の人々、柄の悪い集団……とても治安が悪い。

 

目新しいモノもとくになく、飽きてきた俺は船へ帰ろうと来た道を戻っていた。

 

 

ログが溜まるまで あと2日はあることに溜め息をつきながら

この退屈な島でどうやって時間を潰そうか考えながら帰路を歩いていると、ギャアギャアと騒ぎ立てる男達の声が聞こえて来た。

 

 

「おい! このガキで間違いないんだな?」

 

「はい、こいつです!」

 

「へい!このガキが新入りを殺って おれらの飯を奪ったガキですぜ旦那!」

 

「…………」

 

「よし ……おいガキィ!黙ってねぇで謝罪の言葉ぐらい言えねぇのか~?」

 

「…………」

 

「ビビっちまって声もでねぇらしいぜ旦那ぁ!!」

 

「こんなことになったのもテメェのせいだ

 恨むならテメェの馬鹿さを恨めよ~」

 

「たく、気色悪ぃガキだ…! さっさと殺せ!!」

 

 

若い男数名と中年とおぼしき男達が、体格の良い子どもに刃物を向け喚き襲いかかる

 

 

(…本当に治安が悪い島だな……)

 

絡まれて相手にするのも面倒だと考えた俺が隣の脇道に進もうとした時だった。

 

 

襲いかかった男達を大柄な子どもが殴り飛ばしたのである。

武器を持った大人に怯むことなく子どもは突っ込んでいく。銃で撃たれても、ナイフが刺さっても構わず進む。

そんな異常な子どもに中年含め、周りの若い男達は驚き……あっさりと その子どもの手によって地に伏せた。

 

 

おれが立ち止まり驚いた顔でその光景を見ていると倒れた男達の上を歩きながら子どもがこっちに向かって歩いてきた…と思ったのも束の間、

地面を蹴るとその大きさに見合わぬ速さで殴りかかって来たのである。

 

 

「!?……おい、なんのつもりだ。」

 

 

「……敵は誰だろうと、たおす……!」

 

 

「おれは通りかかっただけだろう…!」

 

 

 

俺をあの柄の悪い集団の仲間だと思ったのかは わからないが子どもが急に殴りかかってきた。

倒された男達や傷付いた周りの木を見る限りパワーは子どもと侮れないほどのものなのだろう。

 

しかし、攻撃が単調である。

突っ込んで殴る……そんな力任せなやり方は父さんとの組手と言う名の無茶振りをこなしてきた俺には脅威ではなかった。

 

 

その後、息切れを起こし隙ができた子どもを動けなくするべく何発かお見舞いした。

 

──おそらく年下…子ども相手に罪悪感が無いではないが……今の俺は子どもだし、ナメられる訳にもいかないだろうと自分を納得させた。

 

 

「…クソ……こんなとこで…くたばってたまるか…!

 強くなって…ぜんぶ…こわす!!」

 

「おぉ……まだ意識があるのか。

 腕の関節は外したし、急所にも入れたんだけどな……タフだな…いや、おれの力が弱いのか……?」

 

「う……ハァ……ッ…」

 

「まぁ、どっちにしても追ってこられても困るからな、寝てもらおう。」

 

 

父さんの様に力がない自分に少し落ち込みつつも、動けなくなった子どもの頭にまた一発入れ 気を失ったのを確認して船へ戻ったのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「よぉ~~!レオヴァ~~!!

 島はどうだったよ?」

 

「正直なにもない島だった……」

 

「ムハハハ~! だから言っただろ~?

 おれは今からショータイムだ!!やることねぇならレオヴァも見に来いよ~!!」

 

「おい、テメェのアホな遊びに無理やり巻き込んでんじゃねぇよ

そもそもテメェと違ってレオヴァ坊っちゃんはやることがある」

 

「あ"~? アホな遊びだァ!?

テメェの趣味の方が“アホな遊び“だろうが!!変態野郎!!!」

 

「なんだと…? おれのアレは仕事と実益を兼ねてんだ!! テメェの馬鹿騒ぎとは違ぇんだよ…!!」

 

「テメェにゃ盛り上げることなんて出来ねぇからな~? ま!精々じめじめしたところで独りでニヤニヤしとけ!!」

 

「騒ぐことしか出来ねぇ能無し野郎が…!!」

 

 

「はぁ…キング、クイーン…! 落ち着いてくれ!

 ここで暴れたら父さんにどやされるぞ?」

 

「う………そりゃ困るぜェ~ レオヴァ~~」

 

「…確かに此処でやるべきじゃねぇな……」

 

「それにキングは午後から航海術の勉強付き合ってくれる約束だっただろ」

 

「あぁ、そうだったなレオヴァ坊っちゃん。

そういう訳だ、クイーンのアホに付き合ってる暇はねェんだ。

 わかったら、さっさと行け。」

 

「あ"ぁ"!? レオヴァ!そいつと居ると録でもねぇ知識しか付かねぇぞ! おれの部下にも航海術 出来る奴らがいるからそいつらにしとけ!」

 

「…おれよりもソイツらの方が出来るって言いてぇのかァ……?」

 

「ムハハハハハ~~!

だから そう言ってんだろうがよぉ~!!」

 

「クイーン…! キング! 頼むから暴れるな…!!」

 

 

ほぼスイッチが入りかけたキングとクイーンをなんとか収め、おれは航海術の勉強をするべく部屋へ戻った。

 

 

その日は航海術と父さんとの組手で1日が終わっていった。

─── あぁ…身体中が痛い……

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

朝、まだ少し痛む体に気合いを入れ起き上がり部下たちが持ってきてくれた朝食を1人で食べていた。

 

父さんが起きていれば一緒に食べるのだが基本父さんは朝早くから起きていることは少ない。

その為、朝は1人で食べることが殆どである。

 

 

朝食を食べ終え軽く運動でもしに外へ……なんて考えている時だった。

おそらく奪って来たであろう物資を積み込む作業をしている部下たちが少し騒がしかった。

 

 

 

「どうした? なにかあったのなら手伝うが…」

 

「うぇ!? れ、レオヴァ様!?

あー いや、これは、そのッ……!」

 

「ん?」

 

部下の謎の焦りように首をかしげたが、よく見ると何人か倒れている。

誰かと争ったのか物資箱も少し壊れたモノもあるようだ。

 

 

「なにがあったんだ?」

 

 

「その……突然 船の中に入ろうとする奴が現れやして…

 なんの用かと聞いてもロクな返事はねぇし"会わせろ" としか言わねぇもんで…

それで…追い返そうとしやしたが……暴れられちまって……すいやせん……」

 

 

「そうだったのか、災難だったな……被害は少ないんだ。

そんなに気落ちすることもないと思うぞ?

で、その暴れた奴はどうしたんだ?」

 

 

「ありがとうごぜぇます……!

 暴れた奴はなんとか取り押さえたンですが…

ッ…!? おい!お前らなにやってる……!しっかり抑えねぇか…!!!」

 

 

船員が怒鳴り声を上げるも虚しく、取り押さえられていたと思われる者が此方へと突っ込んできた。

 

 

「レオヴァ様……!!」

 

 

「…おまえ……!」

 

 

 

船員は青ざめた顔をし、レオヴァは驚きに目を見開く。

庇おうと前に出ようとした船員だったが『へ?』と間抜けな声を出し動きが止まった。

 

驚くのも無理もない。

先ほどまで暴れていた奴が突っ込んできた…! と思ったら レオヴァの前で止まった。そして片膝をついたのだ。

 

 

 

「さがしてた……! アンタと一緒にいきたい…!

─── この船に乗せてくれ!!」

 

「……怒って仕返しに来たワケじゃないのか?」

 

「? おこる……?」

 

「昨日の事を怒ってないのかって事なんだが」

 

「昨日…! すごかった!今まで おれァ 負けたことなかった!けど、負けた……はじめてだ、アンタはすげぇ!

おれも強くなりてぇ! 力仕事、できる!つれてってくれ…!」

 

「…怒ってはないみたいだな。

  父さん…この船の船長には話してみるが絶対連れて行けるとは限らないぞ?」

 

「あぁ……!それでもいい!だめでも、泳いでついてく…!」

 

「泳いでっておまえ…

 そういえば、名前は? おれはレオヴァ。」

 

「レオヴァ…さん……!

おれは、ジャック!」

 

……ジャック…??

ん? いま、この子どもはジャックと言ったのか?

ジャック、あのジャックか?

大看板の……?

 

いや、確かに原作でも28歳と若かったが…!

だがそう思って見ると、

少年の口元からのぞく歯は尖っており…魚人……にみえる気もする。

俺の知ってる原作の魚人にある水掻きはないようだが、純粋な魚人ではないのかもしれない…

 

 

「ジャックは、魚人なのか?」

 

「……たぶんそう…だ。…海で息、できる。

 …やっぱり…ぎょじんは……だめなのか…?」

 

 

「いや!全ッ然 駄目じゃねぇ!!

…っと、悪い。少し声が大きかったな。」

 

 

子どもの、ジャックの反応をみるに今まで色々とあったのだろう。

軽率に魚人なのかとか聞いてしまった自分を殴りたい…

原作で魚人差別があったのは知っていたが…

 

駄目じゃないと言った途端にほっとした顔をしたジャックを見てさらに罪悪感が押し寄せてきた……すまない…すまないジャック……絶対に父さんは俺が説得するからな…

 

 

「じゃあ、おれは この件について父さんと話してくる。」

 

「え、 レオヴァ様…!?

 本当にこんなガキ連れてくんですかい!?」

 

「まだ父さんの許可がないから、なんとも言えないが……おれは連れて行きたい。」

 

「ま、まぁ…レオヴァ様がいうなら……」

 

「そういう訳だ。他のみんなもジャックを捕えようとしなくて良いぞ。

 そうだジャック! お前は力があるんだし荷運びを ここに居る者たちとやっててくれないか?」

 

「…もちろんだ! 」

 

「了解だぜ坊っちゃん~!」

 

 

意気揚々と荷運びを始めるジャックと周りの船員たちを尻目に 真っ直ぐと父さんのもとへと向かうのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

絶対に父さんを説得してみせる!、と意気込んで向かったのだが、驚くことにジャックを連れて行きたいと言ったら二つ返事で了承された。

 

 

 

「……え、父さん…本当に良いのか?」

 

「レオヴァがそうしたいなら構わねぇ

 お前はおれの息子なんだ、好きにすりゃいい…!」

 

「ありがとう 父さん!

 ジャックの面倒はおれが担当させてもらう」

 

「そうだなァ、お前は歳に見合わねぇくらいしっかりしてる……したいようにやれ。」

 

 

魚人だということも話したが

"強くなりゃ関係ねえ" と差別意識も無い様だった

 さすが父さんだ。

…単に種族に興味がないだけかもしれないが…

 

 

とにかくこれで“ジャック“はウチの海賊団の一員となった。

海賊見習いという形での入団だが、これからどうやって原作の“旱害のジャック“になるのだろうか。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ジャックの入団から1ヶ月がたった。

一緒に過ごすうちにわかったことがある。

まず、ほぼ野生児であること。何でも手で食べようとしてしまうし、わからない言葉も多いみたいで少し意志疎通がしづらい。

 

力加減も上手く出来ていない。

魚人は人の10倍ほどの筋力があると言うのは本当らしく、子どもだが周りの大人をふっ飛ばす姿を度々見かける、あと食器を壊してしまってしょんぼりと佇んでいたこともあった。

 

年齢は5歳ほど……だと思う。

本人に聞いてみたのだがわからないと言われてしまった。

 

 

性格は素直で真面目だ。

最近 俺と始めた基礎の勉強もしっかりと聞いているし、わからない事があれば聞ける。

正直こんなに良い子だとは思っていなかった……

 

原作でのイメージはミンク族?の国で暴れている凶暴な大男だったからギャップが凄いが、ジャックが来てからは弟が出来たようで楽しい。

 

 

そんなことを考えながら今日の分のジャック学習ノートを作っていると扉をノックする音が聞こえた。

 

 

「レオヴァさん……入っていいか…?」

 

 

「あぁ、入って良いぞ。」

 

 

俺が返事をすると『失礼する……ます』と使いこなせていない丁寧語で挨拶し、ペコリと会釈をしてジャックが入ってきた。

 

 

「時間ぴったりだ、ジャック。

…………ずいぶんボロボロだな…今日はキングの日だったか?」

  

 

「はい、キングの兄御にたたかい方教えてもらった……です!」

 

 

「ふふふ…そうか。 手当てしないとな。」

 

 

「これくらいなら、大丈夫だ…です。」

 

 

 

大丈夫だと手当てを受けないジャックを言いくるめ二人で医務室へ向かった。

 

その後 今日の分の勉強を終え、俺はほぼ日課となっている組手をするべく父さんの部屋へと歩き出した。

 

 

 

 

しかし、この時の俺はまだ今後起こる重大なことをすっかり忘れているのだった。

 

 

 

 

 

 

 




アンケートよろしくお願いいたします。
次の話しが投稿出来たらそこでアンケート終了する予定です。

すでにアンケートに答えてくださった皆々様。本当にありがとうございます。とても助かります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思いだした不安と観光

アンケートご協力ありがとうございました!
オリ主のイメージイラストのリンクを貼らせて頂きました。
文章のみで良い方や、固定イメージない方が良い方はスルーでお願いいたします。

ご感想など、全て読ませて頂いております。モチベーションがとても上がります!本当にありがとうございます!



ーーーーーーーーーーーーー


 

─── 俺は今、第2の人生において一番焦っていた。

 

 

 

原作知識にもやがかかってあまり思い出せずにいるのだが、俺の記憶が正しければ……

 

……もうすぐワノ国と父さんが取引をする時期だ。

 

 

まず、ワノ国編の時のジャックは28歳。

そしてワノ国に百獣海賊団が後ろ楯としてついたのがその20年前。

 

 

ジャックは今、5歳(推定±1)だ。

あと2~4年でワノ国へ行くことになる。

 

その時、俺は14~6歳………

 

 

決してワノ国との取引が嫌なわけではない。

 

寧ろ、ワノ国との取引は良いと思う。

うちの海賊団はナワバリを持ってはいるがワノ国ほどの武器は作れないし、海軍やら海賊がよく攻めてくる。それも父さんや俺らがいない時に……

 

そう考えるとワノ国は侵入はされづらいし、中の情報は外に出ない。外からの情報も中にはほぼ入らないと、やり易い条件が揃っている。

 

 

 

ただ、今の百獣海賊団は層が薄く感じる。

人数はまぁまぁ居るのだが…

実力を見ると、父さん キング クイーンの3人の下にくるのが俺…の時点で不安だ……

 

 

 

まだ飛び六胞もいない。

大看板という言葉もない。

……いつ命名されるのだろうか…?

名前など無くともキングとクイーンが幹部であるのは間違いないのだが。

 

 

 

俺はもっと層を厚くしたいのだが部下を鍛えるのにも限界がある。

悪魔の実での強化も考えたが簡単に手に入るモノでもない…

……原作では人工的な悪魔の実を作っていたと思うのだが……誰が作っていたのかド忘れしてしまった…不甲斐ない……覚えていれば連れてきて作らせるんだが…

 

 

 

兎に角、俺は自分と海賊団の強化に邁進していこうと思う。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから1年間俺は悪魔の実の情報を集めたり、クイーンにウイルスについて色々と教えてもらった。

 

 

 

今まであまり思わなかったのだが、おそらくクイーンは“天才”と呼ばれる部類の人間なのではないだろうか?

 

絡繰魂とクイーンが呼んでいる便利なモノを作ったり、殺傷能力の高いウイルスを作り出したりと

“平凡“な人間には到底出来ない芸当である。

 

 

まぁ、第一に平凡な人間はウチで幹部など務まるわけがないのだが……

 

 

 

 

そんなことは さておき 天才クイーンの指導によって少しウイルスについて詳しくなった俺は独自のウイルス開発に勤しんでいた。

 

 

そして、ようやく望む形に近いウイルスが出来たのである…!!

 

 

 

 

あとは実験…なのだが………少し気が引ける…

 

 

 

俺の作ったウイルスは

本人の潜在能力を強制的に引き出し、痛みなどを一時的に感じなくさせ、一定時間が経過するとウイルスが死滅。上記の状態が解除される……はずだ、想定では。

 

 

そう。強化する為のウイルスだ。

なので実験は味方で行うことになっているんだが

……失敗したらどうするんだ…………

 

 

このウイルスの量調整に少し不安が残っている。

多すぎると死滅するまでに時間がかかってしまい後遺症が残る恐れがあり、かと言って少なくても持続時間が減り、単純に体力を消費させるだけで終わってしまう可能がある。

 

 

 

 

量を少な目に調整するか…と考えていたところに、部屋のドアが勢い良く開く大きな音が響いた。

 

 

 

「ムハハハハハ~~♪ よぉ、レオヴァ~~!!

最近籠りっぱなしじゃねぇか!

 カイドウさんとこに顔出してんだろうなァ~~?」

 

 

「クイーン…せめてノックくらいしてくれないか?

突然大きな音をたてられると手元が狂うかもしれないだろ…

 父さんとは少なくとも夜は一緒に食べてるし、組手の相手も時間がある時はしてもらってるから問題はない。」

 

 

「なら良いんだけどよ~~

 な~んか最近、ピリピリしてる気ィするんだよな~」

 

 

「そうか? 昨日の晩飯の時は上機嫌だったが

……いや、あれは笑い上戸だったからか…?」

 

 

「にしても、レオヴァが こう何日も船から出ねぇのも珍しいな

いつも島につくと一番に出てくのによォ。」

 

 

「…なに……?  もう次の島についてたのか…!」

 

 

「えぇーー……気づいてなかったのかよ…」

 

 

「そう言えば確かに島についたみたいな事を言われたような……気がしないでもないな…」

 

 

「何か集中すると周りの声が聞こえなくなるのはカイドウさん似かよ……」

 

 

 

呆れたような顔をするクイーンに笑顔を返す。

父さん似と言われて嬉しくないはずがない……! 

 

だが、わざわざ報告に来てくれた部下の話を聞いていなかったのは良くない事だ……反省しよう。

 

 

「今回の島は変わったデカイ町があるぜ?

島独自の文化とか好きだろ。

 見に行かなくて良いのか?」

 

 

 

「大きな町か…! 地形や気温はどうなんだ? 発展していると言うことは過ごしやすい気候なのだろう?

歴史はどれくらいだろうか……大きいということはそれなりに長い時間をかけて出来た町なはず…なら何か伝統芸能や特産品がある可能性が高いな……!!

よし!早速向かわせてもらおう!

 

…………いや、駄目だ…危ない…誘惑に負けるところだった……

クイーン…教えてくれてありがとう。

 すまないが今日はまだ やることがある……後日にするとしよう」

 

 

 

「お、おぉ……お前急にテンション上がる時あるよなァ

 びっくりするぜ…」

 

 

「す、すまない…恥ずかしい所を……以後気をつける。」

 

 

 

「いいんじゃねぇか?  なにより我慢なんてつまらねぇ…!

やらなきゃならない事ってのは急ぎなのか?

 手伝ってもいいぜ?」

 

 

「急ぎ……といえば急ぎだなぁ……

今度ウイルスの実験をするだろ?

 それの微調整をやってるんだが……」

 

 

「おいおい…! まだやってんのかよ!?

そりゃ調整は大事だが、実験してねぇのに調整したって意味ねぇぞ?

実際使ってみないと効果がどう出るか正確にわかるワケじゃねぇし」

 

 

「それは解ってる。だから少しウイルスの量を減らしてみようとしてたんだ。

多いと危険だしな…」

 

 

「え!? 減らしちまうのかよ?

多い方が絶ッ対おもしろいぜ!?」

 

 

「面白さは求めてねぇ…!!」

 

 

「真面目かよ…!?

いや、けど良く考えてみろよ!

少ない量で実験するより多少、多めな量で少しずつ減らすってやり方のが効率良くねぇか?」

 

 

「まぁ…確かに。」

 

 

「だろ~? そんなに気負うなよ~~」

 

 

「ウチの部下に後遺症が残るかもしれないんだぞ…?

そりゃ慎重にもなるだろ…」

 

 

「レオヴァ……おまえ…」

 

 

 

『優し過ぎじゃねぇか!?頭でも打ったのか!?』とクイーンが叫ぶのと

『足手まといになられちゃ困るだろ…』とレオヴァが呟くのは同時だった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

結局あの後クイーンの理詰めに言い含められ、さらに見張りにジャックがつき……自分の部屋から追い出されたのである。

 

 

見張りといっても俺がまた根を詰めないようにというクイーンの優しさ………と、実験をハデにやりたいという欲だろう。

 

 

 

そんなわけで久しぶりに外に出たのだが……

 

俺の目に飛び込んできたのは

日が沈み終わったばかりの街を 幻想的な光が包んでいる素晴らしい光景であった。

 

俺は船の上で感嘆の吐息を洩らした。

 

 

 

「…おぉ……これは外に追い出してくれたクイーンに礼を言うべきだな…」

 

 

「…クイーンの兄御は葉巻が欲しいそう…です。」

 

 

「そうか! なら観光ついでに探すとしよう。

……それにしても悪いな ジャック。

クイーンとの組手が終わったばかりで疲れてるだろ?」

 

 

「おれが弱ェから兄御たちとは組手にもなってねぇです…

それにレオヴァさんの護衛を任されたんだ がんばれる…!」

 

 

「ふふ…わかった。ジャック、護衛頼んだぞ?」

 

 

「あぁ…! まかせてくれ! 」

 

 

フンッと拳を握り、気合いを入れているジャックを微笑ましく感じながら俺たちは船を降りた。

 

 

 

 

港の近くにある商店街もとても賑わっていた。

様々な販売店や屋台があり、見たことも無いような物や 変わった本に 食べたことのない美味しそうな料理たちがズラリと並んでいて、つい頬が緩んでしまう。

 

 

 

「ふふ……ここまで良い街だとは嬉しい誤算だ…!

……だが………どこから回るべきか悩むな…」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 ~ジャックside~

 

 

 

おれがキングの兄御かクイーンの兄御に鍛えてもらってる所に会いに来ては

 

 

『お、熱心だなジャック。お前は努力家で偉いな。』

 

『その年でそれだけ強い奴もなかなかいねぇさ。焦りは禁物だぞ、ジャック。』と

 

 

弱ェおれを気遣い声をかけてくれていたレオヴァさんが

………最近は来なくなっちまっていた。

 

いつまでも弱ぇおれに呆れて来てくれねぇのか……?と思い、クイーンの兄御に聞いたところ。

 

どうやら “ういるす研究“ とやらにハマっているらしかった。

 

 

 

その時はレオヴァさんに愛想をつかされたワケじゃねぇとわかって安心したが、その後も何週間…下手をすると1ヶ月も、ほぼ部屋からでて来ねぇレオヴァさんを心配していた おれ だったんだが

 

ついさっき、クイーンの兄御からレオヴァさんの護衛をしろと命じられた……!!

 

 

 

急いでレオヴァさんの部屋に向かうとクイーンの兄御と難しい話をしていたので、おれは扉の側で待っていた。

 

しばらくすると話がついたのかレオヴァさんが諦めた様な顔をし、クイーンの兄御は機嫌良さげに笑っていた。

 

 

『ムハハハ~!そう言うことだ!

わかったらさっさと街にでも行けよレオヴァ~』

 

 

『はぁ…そうだな。クイーンの意見は尤もだ。

……じゃあ、街に行かせてもらう。』

 

 

『見張り…ゲフン…ゲフンッ……間違えた、気にすんな…!

 あ~、護衛を呼んでおいたから連れてけ!』

 

 

『聞こえているからなクイーン……!

まったく、本当にもう実験まで弄ったりしねぇってのに…

……あともう護衛はなくて良いって話になっただろ?』

 

 

『まぁ、護衛を見てから決めろよ。

 おい!入ってこ~い!』

 

 

『失礼します…』

 

 

『お、ジャックか……!

 ジャックなら連れていくことにする。』

 

 

 

そうして おれは正式に護衛をさせてもらえることになり、レオヴァさんの一歩後ろを歩きながら外へと向かった。

 

 

 

 

 

街に出てからのレオヴァさんはずっと嬉しそうだ、色んな店に入ってはあれやこれやと買い漁っている。

 

 

 

 

「レオヴァさん、おれが持ちます。」

 

 

「助かる、 他にも見たいモノがあるんだ。

……今度はあの店に行こう!」

 

 

「はい」

 

 

 

 

二人で数十軒以上の店を見て回った。

 

途中おれの服を買おうと言うレオヴァさんを止めたのだが、ほぼ引きずられる形で、今まで人生で一度も入った事のなかった服屋へと入店したりもした。

 

 

 

 

そろそろ帰ろうと声をかけてきたレオヴァさんと屋台の多い通りを食べ歩きしながら帰ったんだが

“ぞうにくの串焼き“は最高にうまかった。

 

それをレオヴァさんに言うと少し驚いた顔をしたあと

『なら今度は一緒にゾウ肉のステーキでも食べてみるか。』

と笑顔で言ってくれた。

 

 

 

 

今日は人生で一番たのしい日だ。

買い物なんてしたことが無かったし、屋台で買って食べ歩くのも初めてだ。

……全部レオヴァさんに払ってもらっちまったのは心苦しいが…

もっと強くなったら宝をたくさん奪ってレオヴァさんにいっぱいご馳走しようと、おれは決意した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

観光は思っていたよりも楽しかった。

 

気がきくジャックは荷物を持ってくれたり、俺が好きそうな物があると教えてくれる。

 

 

まぁ、服を買いに行こうと言った時は凄く拒否されたが無理やり引っ張って行った。

 

 

 

帰りに食べたゾウ肉を美味しいと言うジャックに、

 

マンモスなのにゾウ肉好きなのか……

 

と少し失礼なことを思いはしたが、俺もゾウ肉を美味しいと思ったので、今度は一緒にステーキを食べようと提案しておいた。

 

 

 

 

──こうして俺はまた何気ない日々を過ごした

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勘違いとプレゼント

 

俺は作ったウイルスの実験の為、クイーンが任されている ある島の殲滅任務に参加した。

 

 

何かあっては困るので今回の任務はクイーン以外は入団したての弱い部下で固めてあり、基本的にクイーンは指示と監視のみを行う手筈だった。

その為、3日ほどかかると予想していたのだが……

 

 

──── 島の殲滅は1日半で完了した。

 

 

 

 実験の結果は

     "失敗" である。

 

 

 

 

……一応、強化には成功してはいた。

ウイルスに侵された部下たちは簡単に倒れる事はなく、通常よりも速さも力も上がっている。

さらに長時間の戦闘も可能であった。

 

 

ただし…理性はなくなり、無理矢理引き出した力を28時間ほど使い続けた部下たちは

ほぼ全員が死亡し、生きている者は目が見えなくなったり、音が聴こえなくなったりと使い物にならなくなってしまっていた。

 

なにより理性を失い、敵味方関係なく攻撃してしまう事と命令を聞ける状態じゃない事が一番の誤算である。

 

 

理性が保てないのであればウイルスの量を減らしても強化用としては使用不可能だ。

 

 

 

屍で溢れかえる島を眺めながら俺は大きく溜め息をついた。

 

 

 

「すまないクイーン……無駄に時間を取らせた…」

 

 

「えぇ~~!?

なんでそんなに落ち込んでんだよ?!」

 

 

  「失敗だからな…」

  「成功じゃねぇか…!」

 

 

   「「……え?」」

 

 

二人が疑問の声を漏らしながら相手の顔を見るのは同時であった。

レオヴァは“成功“という言葉に首をかしげ、クイーンもまた“失敗“という言葉に首をかしげた。

 

 

「いやいやいやいや!成功だろ…!?

強化出来てんじゃねぇか!」

 

 

「いや、失敗だろう…!

強化は出来たが生きてる奴いないぞ!?」

 

 

「え? 別に良いだろ 死んでも 」

 

 

「一回の戦闘で毎回大勢の部下が死ぬ様なモン使えるか…!!」

 

 

「えぇ~~……どっちにしろ今死んだ奴らなんて普段の戦闘にでりゃほぼ100%死ぬ程度の奴らだぜ?」

 

 

「いや、それはわかってる。

だから強化出来るウイルスを作りたかったんだが……

……まぁ…仕方がない。このウイルスは破棄する。」

 

 

「待て待て…!? え、それ捨てんの!?

なら、おれにくれ!!」

 

 

「全然構わないが……使うのか?」

 

 

「使う!いい案浮かんだぜ…!」

 

 

「確かにクイーンならもっと凄い物が造れそうだな。」

 

 

「おう! それ使って面白いモン造るぜぇ~~!!

  ムハハハハハ~~!!」

 

 

 

 

さっそくウイルスを持って船室に戻ってしまったクイーンに苦笑いしつつ、引き攣った顔で待機していた部下たちに出港の指示をだすのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

ナワバリについてすぐにキングがレオヴァを呼びに現れた。

わざわざキングが来た理由は不明であったが、カイドウがレオヴァを呼んでいるらしい。

 

レオヴァはクイーンに後の事を頼み、すぐにキングの背に飛び乗って行った。

 

 

 

 

 

 

「父さん、今帰った。」

 

 

「おぉ!! レオヴァ!

 実験はどうだった?」

 

 

「…失敗だ。強化は成功して想定よりも早く終わったが……90%以上が副作用で死んだ……」

 

 

「そうか。 だが、そう落ち込むこともねぇ。

一年でそこまでウイルスを扱えるヤツはいねぇとクイーンも言ってたからなァ…!」

 

 

「ありがとう父さん。

ウイルスはクイーンが何か考えがある様だったから渡した。

きっと使える物を作ってくれると思う!」

 

 

 

「そりゃ良い…!! 出来たらそこらの海軍にでも使わせるか!」

 

 

「それは ぜひ、おれも見学させてもらいたいな…!

……と、そういえば急用だとキングから聞いたんだが。」

 

 

「あぁ……!! そうだ!お前が欲しがってたモンがちょうど手に入った!

おい、キング 持ってこい……!」

 

 

「カイドウさん。

そう言うと思って もう、此処に持ってきてある。」

 

 

 

そう言うとキングは流れる様な動作でカイドウに装飾の施された小さい宝箱を渡した。

 

 

 

「持ってきてあったのか!

相変わらず気のきくヤツだ…! ウォロロロロ!」

 

 

カイドウは満足そうに受け取るとキングを褒めた。

キングはそれに対し軽く頭を下げ、入り口付近まで下がって待機する。

 

 

「ウォロロロロロ……!

これは…お前の欲しがってた

 

 ─── “悪魔の実“ だ……!!!!」

 

 

「……!?」

 

 

レオヴァが目を開き驚愕に固まると、カイドウはドッキリが成功したと言わんばかりの 愉快そうな様子でレオヴァを見ていた。

 

 

 

「悪魔の実…! 

いや、そもそも おれは父さんにその話をした覚えがないんだが!?」

 

 

 

「……レオヴァ坊っちゃんは手間をかけたら悪ぃとカイドウさんに言おうとしねぇから、おれからカイドウさんに話した。」

 

 

 

「ったく、欲しいなら言え…!

お前は息子のクセに全然ワガママも言いやがらねぇ…」

 

 

 

「う……だが父さんも色々と忙しいだろうし…手間取らせんのは……」

 

 

 

「手間取らせる…? 

レオヴァ! おれを誰だと思ってやがる……!?

息子のワガママの 1つや 2つ叶えられねぇとでも言いてぇのか……!?」

 

 

 

「そんなことは思ってない…!!

…寧ろ父さんは絶対に叶えようとしてくれるから…手間になるかと……」

 

 

 

「手間だなんておれが一回でも言ったのかァ……?

おれの事を優先するのは構わねぇが、こればっかりは頂けねぇ!

 おれの息子が遠慮なんかしてんじゃねぇぞ…!!!」

 

 

 

「す、すまない父さん…………ありがとう…

これからは何かあれば一番に父さんに言う。」

 

 

 

「! わかりゃ良い……!! ウォロロロ…!

これからは“おれ“に“一番“に伝えろ!!」

 

 

 

「あぁ、わかった…!」

 

 

 

 

一瞬部屋の温度が下がったと錯覚するほどカイドウの機嫌が下がったことに、キング含め回りの部下たちは冷や汗を流した。

しかし、大事にはならず丸くおさまり、気付かれない程度の安堵の息をもらす。

 

 

 

 

「ところで父さん。

その悪魔の実はなんの実なんだ?」

 

 

「わからねぇ……!!

図鑑にも載ってねぇ様だったからな」

 

 

「そうなのか。

いや、何の実かわかる方が珍しいのか?」

 

 

「まぁ良いじゃねぇか!!

食うも食わねぇも好きにすりゃいい…!

レオヴァが目を掛けてる………ジャック?…だったか?

そいつに食わせてぇなら…まぁ、それでもいいが」

 

 

「それは嫌だ。

父さんがおれの為に手に入れてくれたんだ、他のヤツにやるつもりはねぇ! おれが食う……!!」

 

 

「……良いのか? なんの能力かもわからねぇモンだぞ」

 

 

「構わない! どんな能力だろうと使い方と鍛え方次第だ。」

 

 

「ウォロロロロロ……!!

やっぱりお前はおれの息子だ!!

 よし、食え…!!!」

 

 

「あぁ…!!」

 

 

 

カイドウが宝箱から悪魔の実を取り出し投げ渡すとレオヴァはそれを受け取り、腰のナイフで一口分切り取りシャクシャクと食べた

……と思うと ウ"ッ!! と声を上げ盛大に顔をしかめる。

そして、なんとか飲み込んだのか近くにいた部下に水を頼んでいる。

 

 

「……レオヴァ坊っちゃん…わざわざ悪魔の実を切って食べんのか…」

 

 

 

「…………ここまでマズイとは……」

 

 

 

「で、どうだ レオヴァ!

力を使えるか試してみろ……!!」

 

 

 

「わかった。

……ん、こう……か?」

 

 

 

突然、室内がバチバチッ!という音と点滅する光で埋め尽くされた。

 

 

 

「レオヴァ坊っちゃん…!?」

 

 

「レオヴァ様ぁ~~」

 

 

「痛ぇ……! まぶしい!!」

 

 

「おぉ……!! 」

 

 

 

部下たちが突然のことに慌てそれぞれ驚きの声をだした。

 

しかし、徐々にその音と光が小さくなると

レオヴァが居た場所には“全身が金で創られたかの様な淡い光を放つ巨鳥“がいた。

 

その神々しい出で立ちに部下たちは見入っていたが、カイドウの笑い声にハッとしたように、カイドウの方に顔を向けた。

 

 

 

「動物系か…!!」

 

 

「そうみたいだな。

 父さんと同じなのは嬉しいな…!」

 

 

「ウォロロロ…!!

 なかなか悪くねぇな。」

 

 

「……ところで父さん」

 

 

「どうした…?」

 

 

「…戻り方が……わからないんだが…」

 

 

「……なんだと…?」

 

 

「えぇ~~!? じゃあレオヴァ様ずっとそのまま!?!」

 

 

「うるせぇぞテメェら……!!

レオヴァ坊っちゃん…感覚でわからねぇか…?」

 

 

「おれの時は戻れねぇことなんざ無かったがなァ……」

 

 

「……か、感覚…?

 ………わからねぇ……」

 

 

 

 

その後、合流したクイーンが目が飛び出るほど驚き

何事かと尋ね、カイドウから事の顛末を聞き

珍しくもキングと共に必死の指導を行ったことにより

レオヴァは無事人型へと戻ることができたのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「……クイーン…助かった……

 キングもすまない……世話をかける…」

 

 

「…問題ない……とにかく人型に戻れた様でなによりだ…」

 

 

「いやマジでビビったぜ……

…扉開けたら見たことねぇ様なキラッキラの鳥がいるんだからよォ

それにしても自力で獣化できたのに元には戻れねぇなんてなぁ

 ムハハハハハ~~ 」

 

 

「ぅ……すまない……本当に…返す言葉もない…」

 

 

「…おい、クイーンてめぇ……!

口のきき方がなってねェんだよ…!!

レオヴァ坊っちゃんはついさっき能力を初めて使ったんだ、すぐに使いこなせるワケねぇだろ…!!」

 

 

「あ"~~? んなこたぁ分かってんだよキング…!!

そもそもテメェは…」

 

 

「ったく、よさねぇか…!

まだレオヴァに伝えられてねぇこともあるってのに」

 

 

「すまねぇカイドウさん ………クイーンのマヌケが…」

 

 

「悪ぃカイドウさん…! ………キングのくそ野郎が……」

 

 

 

謝りつつも小声でお互いに罵倒する二人を気にすることもなく、カイドウは先ほどの騒動で肩を落とすレオヴァに向き直り…告げた。

 

 

 

「レオヴァ、お前の指揮力と知識を活かせる新しい仕事をやる……!」

 

 

「…! 新しい仕事!」

 

 

「あぁ。 “ワノ国の工場“を1つ任せる…!!

確かモノづくりにも興味があったよな?

 ウォロロロ…! 悪くねぇ仕事だろう…!!」

 

 

「!? ……わの…くに……?」

 

 

「あぁ、数年前にナワバリになった国だ。

…………この仕事は気に入らねぇか…?」

 

 

「いや…! モノづくりは好きだ!

ぜひ、おれに やらせて欲しい……!!」

 

 

「そうだろう…!!

レオヴァ、お前なら気に入る仕事だと思ったぜ…!

さっそく今からワノ国に向かうぞ。

  キング…!」

 

 

「あぁ、カイドウさん

既に船の準備はできてる 」

 

 

「よし!! レオヴァ、準備の時間は必要か?」

 

 

「いや、身1つで充分だ。」

 

 

「ならすぐに行くぞ

ワノ国には お前の好きな珍しい文化もある…!」

 

 

「! 楽しみだ……!!」

 

 

「本当に珍しいモン好きだよな…レオヴァは…」

 

 

「レオヴァ坊っちゃんが気に入りそうな海鮮系の料理もある。」

 

 

「海鮮か! 他には?」

 

 

「おい、キング  あまり話すな

レオヴァの驚く顔が見れねぇだろう!!」

 

 

「確かに…! すまねぇがレオヴァ坊っちゃん、これ以上は着くまで秘密にさせてもらう。」

 

 

「ん、そうか。 なら着くまで楽しみにさせてもらうことにしよう」

 

 

 

 

そんな会話をしながらカイドウと三人は船へと乗り込みワノ国へと出港したのである。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

……まさか父さんが既にワノ国と取引しているとは思わなかった…

 

この世界は原作とは違う歴史なのでは!?と思い始めて数十分。

 

あの後、自分の船室へ戻った俺は必死に記憶を思い起こしていた。

 

 

 

そして、やっと俺は思い出した

ジャックが8歳の時に取り引きが始まる訳ではないと。

 

……正しくは “おでん“ との戦いである。

 

 

そして確か原作では “おでん“は4~5年ほど裸踊りをする契約をオロチとかわしていたはずだ

 

 

……なぜ裸踊りをしたのかの記憶は曖昧だが、民の為だったか…?

………いや、それとも家族のためだったか…?

 

 

とにかく、原作と全く違う進みでは無いことは分かった

 

 

 

 

 

詳しい事柄を思い出せない事実に少し沈んだが、船はワノ国へと進むので俺は今後やるべき事を考え直すのであった。

 

 

 

 

 




前回に引き続き、ご感想等ありがとうございます…!
大事に読ませて頂いております。
今後とも趣味で書いてる話が一時でも皆さまの暇潰しになれれば嬉しいです。
今回もお読み頂き感謝です!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

国獲り編
編笠村と救いの手


 

 

 

 

 

─────ワノ国 編笠村付近 武器工場。

 

 

そこで俺たちは編笠村から“将軍命令“により連行され無理やり働かされていた。

 

 

工場での労働は極めて過酷であり、支払われる賃金や休憩などあって無いようなものであった。

 

家族に会うこともできず、自由な時間もなく

まさに“奴隷“の様な扱いを受けていた。

 

 

最初はこの過酷な労働に異議を唱える者たちもおり、監視と乱闘まで もつれ込んだのだが…

突如、全身黒づくめの奇っ怪な出で立ちの男が現れ

問題を起こした者たちは瞬く間に制圧されたのだった。

  

 

それ以降は皆、辛く厳しい状況に歯を食い縛り必死に堪え忍んでいた。

 

 

 

 

──── と、言うのも5ヶ月前までの話である。

 

 

5ヶ月前のあの日。

作業開始前に俺たちに召集令がかかった。

 

 

俺たちは、どうせまたオロチからの命令で無理難題を押し付けられるのだろう…と憂鬱な気持ちで見張り達について行くことしか出来なかった。

 

 

俺たちが全員揃うと見張りの中でも、いつも偉そうにしてるヤツが俺たちの前に緊張した面持ちで現れた。

 

 

「おめぇら これで全員だな!」

 

 

「はいッ! 全員連れて来やした……!!」

 

 

「よし……おめぇ達!

くれぐれも!!失礼のねぇようにするんだぞ!!」

 

 

「…………」

 

 

「返事をしろォ…!! ナメた態度を取るなら家族も此処で働かせるぞ!!」

 

 

「ッ……はい…」

 

 

「ったく…

じゃあ、俺は“レオヴァ様“をお連れする!

 おめぇらしっかり見張っとけよ!!」

 

 

「はい! 了解ですぜ!!」

 

 

 

見張りがドタドタと大きな音をたてながら出ていった。

あのいつも威張り倒しているヤツがあれだけ慌てた様子で迎えに行った“れおう"ぁ様“ってのは一体……?

 

 

俺たちはトンでもねぇ化け物が来るんじゃねぇかと大量の冷や汗を流した。

 

 

 

しかし、そこに現れたのは

黒い髪から白い角を生やした年端もいかぬ少年であった。

 

 

角が生えているという珍しき見目や、現れたのが少年だと言うことに俺はたいそう驚いた!

 

皆も同じ思いであったのだろう。

ざわざわと困惑が隠せないようであった。

 

 

見張り達は俺たちがざわついたのを見て怒りの形相で手に持った棍棒を振り上げた。

 

 

 

「おいおめぇらァ!!失礼のねぇようにと言ったよなァ!!!!」

 

 

俺は来るであろう痛みに耐えるべく反射的に目を閉じ歯を強く食い縛った。

 

……だが、すぐに訪れるはずであった痛みはなく、

ただ周りのどよめきが聞こえるのみである。

 

 

 

「レ、レオヴァ様…!?」

 

 

「はぁ……まったく。

…此処ではすぐに体罰を行うのか…?」

 

 

まだ声変わり前の様な幼さの残る声にはっと目を開けた。

 

 

すると、角の少年が俺と見張りの間に立っていた。

見張りが持っていた棍棒は地面に転がっている。

 

…信じられないが、この角の少年は自分よりも大きな見張りの暴力から

俺を庇ってくれたようである。

 

それを理解した俺は咄嗟に礼を口走っていた。

 

 

「あ、ありがとうごぜぇやす…!」

 

 

「ん? いや、礼は必要ない。 

……むしろ、おれの部下が失礼した。すまない。」

 

 

「えぇ!? い、いや、そんな!!」

 

 

「「レレレレ、レオヴァ様ァ~~!?!!」」

 

 

なんと…その角の少年は俺に頭を下げたのだ……!

これには見張り含め、周りの皆も大変驚いた!

 

この工場に連れてこられてから俺たちに真摯な対応をする者など、一人たりとも居なかったこともあり尚更驚きはでかい…!

 

 

あたふたと慌てる見張りや、開いた口が塞がらない状態の俺たちを特に気にする様子もなく

角の少年は元の場所へと戻ると話し始めた。

 

 

 

「 おれの名はレオヴァ。

今日から編笠村と武器工場を正式に仕切らせてもらう事となった。

 以後、よろしく頼む。

さっそくだが、今後この工場の方針はおれの考えた案を基に大きく変更させてもらう。」

 

 

 

堂々とした佇まいでそう告げる角の少年を見て思う所があったのか誰かがポツリと呟いた。

 

 

「……子どもがここを仕切るのか…?」

 

 

「…テメェ! レオヴァ様に言ってやがるのか!?!」

 

 

「! いや、だけどよ…」

 

「こいつは磔だ……!!!」

 

「おら!立てェ!!!」

 

「そんな…! ま、まってくれ…」

 

 

言葉を洩らした男が数人の見張りに掴まれた。

しかしまた 角の少年がその行動を咎めた。

 

 

「落ち着かねぇか……!

何でもかんでも直ぐに暴力で片付けようとするな!」

 

 

「ですが、レオヴァ様……!

こいつはレオヴァ様をガキ扱いしやがったんですぜ!?」

 

 

「それの何が問題なんだ?

そいつはおれを馬鹿にしたワケじゃねぇ、ただ年端もいかぬ者が仕切ることを疑問に思っただけだろう。

 違うか?」

 

 

「まぁ…確かに……そうかもしれやせんが…」

 

 

「は、はい! その、アンタがまだ子どもに見えたもんで……つい…」

 

 

「あぁ…まだ大人とは言えない歳だ。

ここにいる皆の中に、おれの歳に不安を感じた者も少なくはないだろう。

だが、一度おれの方針で働いてもらう。

それでもし不満があるのならば聞こう…!

…あと、人を見た目で判断するのは良くないぞ?」

 

 

「……す、すいやせん…」

 

 

「わかってくれれば良いんだ。

では、方針を発表させてもらおう!」

 

 

その後、角の少年…レオヴァ様の方針を聞いた俺たちは また驚いた。

俺は自分の耳を疑ったほどだ!

 

何度確認してもこの方針で行く。と揺るぎねぇ姿勢を保ち

 

「で、この方針で行くが……文句はあるか?」

 

と俺たちに問うレオヴァ様に

俺も…周りの皆も、藁にもすがる思いで大きく返事をした。

 

 

 

「「「ぜひ!!その方針でやらせて頂きてぇ…!!!」」」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

いやぁ……! 5ヶ月以上前の俺に今の状況を話してもきっと信じねぇだろう…!!!

 

今じゃ、武器工場は編笠村では憧れの職業だ!

 

 

レオヴァ様は俺たちを "武器作りの匠"と呼んで下さる。

 

しかも、しっかりした休憩と少し多すぎじゃないかと思うくらいの賃金も貰えてる。

 

 

一度貰いすぎじゃねぇかと不安になった俺たちは

 

『こんなに多くもらって良いんですかね…

…もっと少なくしてもらっても……』と交渉しに行ったんだが

 

 

レオヴァ様は、

『皆が造る武器はどれも素晴らしい出来だ。

おれはそれに対して見合う対価を払ってるにすぎない。

なにより、おれの考え方は信賞必罰だ。

…誰にでも出来る事じゃねぇんだ、もっと自信を持て。』

と減らすどころか俺たちを励ますお言葉を下さる始末……!

 

その言葉を聞いた俺たちは、この仕事を誇ることにした。

 

 

それからは俺も同志の皆も全力で仕事に挑んだ。

前よりも良い武器をつくる為、そして編笠村の発展とレオヴァ様の為に!!!

 

 

今や、ワノ国の工場の中じゃ俺たち以上に良い武器を造れてる所はねぇ。

それも全てレオヴァ様の指導の賜物だ!

 

 

だがそれだけじゃねぇ……!

あの方は村も大きく変えてくれた!

 

町は、工場から流れ出たモノのせいで川が汚れ始め、その水を飲んだ者が体調を崩すなど

あまり宜しくねぇことになってたんだが…

 

レオヴァ様は工場から出る汚染物質を“ろか“する仕組みを作り、さらに水を綺麗にしてくれる変わった生き物まで連れてきてくれた

そのお陰で川は綺麗な姿にもどり、魚介もまた たくさん捕れるようになったんだ!

 

 

農作業も便利になった…!

“ひりょう“って言う不思議なものを撒くと農作物が良く育つらしい。

俺は農作業はからっきしだが、嫁が言うには昔の倍以上収穫量が増えたってんだから驚きだ。

 

 

こんなに仕事が楽しく、豊かな生活は生まれて初めてだった…!!

 

スキヤキ様の時代は飢えちゃいなかったが、仕事をここまで楽しく感じたことはねぇし、こんなに旨いモンを食べられたこともなかった。

 

 

一時は自害も考えるほど悲惨な毎日だったが、生きてりゃ良いことがあるってのは本当だった…!

 

 

 

しかし、レオヴァ様はあの“カイドウ様“のご子息……らしい。

 

 

最初は海賊の息子だという事実に嫌悪感を感じた者たちも居たようだったが、レオヴァ様の行う善政や人柄に今や嫌悪感を露にする不届き者はいない。

 

 

カイドウ様は恐ろしい方だと聞いていたのだが

レオヴァ様がそんな事はないと、色々とお話を聞かせてくださった。

 

 

なんでもカイドウ様は強く、仲間思いな素晴らしい御仁であるらしい!

 

息子であるレオヴァ様の為に単身で敵に立ち向かい

見事、勝利を収めた事も一度や二度のことではないと

普段は大人の様な態度を取っていらっしゃるあの、レオヴァ様が本当に誇らしげに…そして年相応に微笑むのだ。

 

 

願わくば…俺たちに分け隔てなく接してくださるレオヴァ様がずっとこの村を仕切ってくださるように……

 

俺は嫁と夜の一杯を交わしながら

発展し平和になった村を眺めそう願った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

────── 場所は変わり、ある豪華な部屋。

 

 

 

 

 

「‐‐‐‐‐‐と言うワケで、編笠の武器工場から送られてくる武器は他の工場よりも質が良く、さらには反抗的な者どころか、進んで武器の開発及び改良に勤しむような者ばかりいるようで…」

 

 

「ムハハハハ~~!おいおい!やるじゃねぇかレオヴァのやつ…!!」

 

「レオヴァ坊っちゃんならやってのけるとは思っていたが……ここまで成果をだしてくるか…」

 

「ウォロロロロロロ~~!!

さすがは おれの息子…!!」

 

 

「あの~…カイドウ様……まだあるのですが…」

 

 

「なに…? 聞かせろ…!」

 

「まだあんのかよ!?」

 

「……他にもあるだと…?」

 

 

「編笠村の農業の発展、村の家々の修復。

そして汚染され始めた川の水質改善及び新しい漁業の導入…

……今の所、全て成功している様子でして…」

 

 

「ウォロロロロロ……!

他の工場もレオヴァに任せるか…!?」

 

「おいおい……レオヴァあんまり結果だしすぎんなよ…

……おれたちへのハードル上がるぜェ…」

 

「村まで発展させてるのか…

侍が力を振るえる状況を作るべきじゃねぇ…が、レオヴァ坊っちゃんなら なにか考えがあるはずだ。」

 

「確かに! 健康に生活できちまうと反乱が起きたとき面倒だ…!

カイドウさん レオヴァの方針聞くってのはどうすか?」

 

「…最近ほとんど顔を見せに来やしねぇしなァ。

よし、レオヴァの考えを聞くか。

キング、呼んでこい…!

クイーンは飯を用意させて来い!海鮮系を必ず入れろ!」

 

「了解した。」

 

「カイドウさん毎回言わねぇでも 海鮮はわかってるって…!」

 

 

「ウォロロロ……!

久々にレオヴァも呼んで宴だ!!!」

 

 

 

「いや、情報交換だからなカイドウさん!?」

 

 

 

 

突然の宴発言によって部下たちがてんやわんやになっている中、上機嫌にカイドウは酒瓶を煽りながらレオヴァの到着を待つのであった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

レオヴァの考えと絵巻物語

誤字報告ありがとうございます!
誤字……気を付けて参ります…_(._.)_

ご感想を頂ける機会も増え、最近さらにモチベーションが上がってきております。
ご意見ご感想を下さる皆さまのおかげです!本当にありがとうございます…!!


 

 

 

 

 

 

───── 編笠武器工場にて

 

今日も今日とて武器作りに精を出す職人たちの様子をわざわざ見に来たレオヴァ様。

 

俺たちは付き人としてレオヴァ様に侍っているが、

この人は百獣海賊団の中でも類を見ないほどの“変り者“だ。

 

まぁ、そんな“変わってる“レオヴァ様の下で働きたいと言う者は多いのだが…

 

……もちろん、俺もその中の一人だ。

 

レオヴァ様の付き人になる為に

他の奴らよりも仕事量をこなし、努力を続けた……!

 

結果、今日の付き人という大役の座を手に入れることに成功したのだ。

 

 

そんな事を考え1人胸を張っていると

突然前触れもなく 背後から突風と背筋に焼けつく様なプレッシャーを感じて、思わず飛び退いた。

そして俺は首が取れるのではないかと思うほどの速さで振り返る。

 

 

「うおぉ!? き、キング様!?」

 

空から突如舞い降りて来た炎を纏う恐ろしい黒尽くめの男………キング様に 俺は動揺を隠せずに叫んだ。

 

しかし、キング様は俺になどは目もくれず

まっすぐに職人たちと話すレオヴァ様の下へと進んで行った。

 

…職人たちは昔の記憶があるせいか近付いて来たキング様に少し怯えているみてぇだった。

 

 

「…レオヴァ坊っちゃん」

 

「おぉ、キングか。わざわざ 村まで…どうしたんだ?」

 

「カイドウさんが宴をやる。

……おれは迎えに来た 」

 

「宴…? 報告は受けていないが……何かあったのか?」

 

「……レオヴァ坊っちゃんが編笠村付近の正式な元締めになったことの祝いだ」

 

「…もう5ヶ月以上前のことだぞ……?

宴をやりたいだけの気もするが

 ふふ……まぁ、父さんらしいか 」

 

「そういうワケだ。

レオヴァ坊っちゃん、すぐに行くぞ。

カイドウさんを待たせるのは良くねぇ。」

 

「ん、確かにその通りだ。父さんを待たせるのは悪いな…

 皆、すまないが、急ぎの用が出来た。

色々と話を聞きたかったが…また明日にでも顔を出させてもらいたい……構わないだろうか?」

 

「えぇ…!もちろんですよレオヴァ様!」

 

「ははは!カイドウ様との宴たぁ

…良かったですねレオヴァ様!」

 

「レオヴァ様の就任祝いとありゃ

 ぜひ其方を優先して頂きてぇ……!!」

 

「そうそう…! レオヴァ様はちと働きすぎですぜ?

しっかり休んで頂かねぇと、おれたちも休むのに気が引けちまうってもんです!」

 

「はっはっは!そりゃ違いねぇや…!

レオヴァ様もカイドウ様に会いたがってたじゃあねぇですか。

おれらは気にせず宴楽しんで来てくださいよ!!」

 

「皆、ありがとう。 それじゃあ、久々の父さんたちとの宴を楽しませてもらうとしよう。

皆も熱心なのは感心するが、決して休憩を忘れぬように…!

 では……行くぞ、キング。」

 

「「「レオヴァ様~!いってらっしゃい…!!」」」

 

職人たちの送り出す声を背にレオヴァ様はキング様の背に乗り飛び去って行った。

 

飛び去る間際に

『おれは行く、ここは任せた。

……頼りにしているぞ。』

とお声をかけて下さったレオヴァ様に報いるべく、俺は気合いを入れ職人たちと共に武器工場の運営に精を出した。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

───── 豪華な部屋へ続く廊下にて

 

 

 

「…レオヴァ坊っちゃん。ずいぶんと上手くあいつらを使えてるみたいでなによりだ…!」

 

「使えるってのは聞こえが悪いが……

キングに褒められるのは悪くないな 」

 

少年は黒づくめの男を見上げ微笑んだ。

黒づくめの男も表情は定かではないが、普段の刺々しい雰囲気はなりを潜めている。

 

きらびやかな装飾の施された襖の前へと二人が着くと

スッと静かに襖が開かれた。

 

部屋の中には豪華な食事が並んでおり、

中央には勇ましい顔立ちの大男が座している。

 

 

「思ってたよりも早ぇ到着だな、レオヴァ…!」

 

「あぁ、父さんを待たせる様な真似はしたくないからな

キングに急いで貰った。」

 

「そうか!! にしても久々じゃねぇか……!

たく、全然顔を見せに来やがらねぇで!!!」

 

「……3日前に一緒に飯を食べたと思うのだが…?」

 

「3日“も“前の話だろう…!!! 」

 

「……すまない…

父さんから任された仕事だと思うと、つい村の発展作業に熱が入って…」

 

「……なら仕方がねぇか…! ウォロロロロロロ~!!!」

 

 

 

「…カイドウさんチョロすぎじゃねぇか……?」

 

「……うるせぇぞ、クイーン…聞こえたらどうする……」

 

「いや、まぁレオヴァのアレも素で言ってんのもなかなかだが……」

 

「…黙っとけ………おれに振るんじゃねぇよ…」

 

笑い合い談笑する親子とそれを眺める真っ黒な大男とまん丸な大男。

奇妙な絵面だが、それを指摘する者はこの場所には存在しない……

 

 

 

「そういえば、 確か…武器の生産量も増えたと聞いたぞ。

やるじゃねぇか! さすがだレオヴァ!」

 

「ありがとう父さん…!」

 

「にしても、ずいぶん温いやり方らしいが

なんか理由あるんだよな~?」

 

「ただ、優しくしてるワケじゃねぇ。

クイーンの言う様に理由はある。」

 

「ウォロロロ…やっぱり理由があったか…!

  よし、話してみろ。」

 

「まず、オロチの推し進めていたやり方じゃ ワノ国の奴らは不満ばかり溜め、そのうち内乱が起こる可能が高くなる。」

 

「それは おれも考えていた。

だからこそ恐怖を植え付け 飢餓に喘がせ、反乱する意思を削ぎとるやり方を選んだ。」

 

「キングのその方法は素早く制圧するという意味では効率的で良いんだが…

……生気を失わせすぎるのは作業効率の低下に繋がるし、最悪死人が大量にでて人手不足になりかねない。

何よりワノ国の技術者がいなくなれば武器の製造…

そして何より重要な海楼石の加工技術が廃れる可能が出てくる。」

 

「廃れる…?」

 

「あぁ、技術を持ってる者が次の世代にその技術を教えなければ加工できる者がいなくなる。

劣悪な環境だと継がせようという意思を持つ者や継ぎたいと思う者が減るが

逆に良い環境を作れば自ら継ぎたいと意思の高い者が増え、継がせる者も進んで教えるようになる。」

 

「……合理的だ。」

 

「確かにそうだが……あ"ぁ"~めんどくせぇ~~」

 

「それに長期的に見れば善政を敷き支持を集めれば国の発展もしやすくなる。

例えば────」

 

その後、レオヴァによる説明という名のプレゼンテーションが始まり

カイドウの周りに酒瓶の山が出来るまで続いた。

 

 

 

「ア~~…要するにレオヴァはこの国を発展させてぇってことか」

 

「ん?まぁ、発展はさせて行きたいが…」

 

「なんだ?他にやりてぇことがあるなら言え

遠慮はしねぇ約束だろう…!!」

 

「……今後、この国の後ろ楯としてじゃなく

 父さんをこの国の支配者にしたい」

 

「えぇ!?  カイドウさんを?

 …カイドウさんが国の運営かぁ……」

 

「……運営はおれかレオヴァ坊っちゃんで良いだろ。

カイドウさんが直接支配することには賛成だ。」

 

「ウォロロロロロ…!

おれも後ろ楯で終わるつもりはねぇ……!

……だが、今はオロチが………“将軍“が必要だ。

そもそも、侍共は外から来た奴を簡単に担ぐような奴ァ少ねぇぞ」

 

「もちろん、それは解ってる。

だから“長期的に見た“方針を取ってる。

オロチにはこれからも好きにやってもらおう。

おれは民衆の支持を集める。

おれへの支持が高くなることはウチの海賊団への支持が上がることと同義だ。」

 

「……なるほど…悪くない案だ。」

 

「わかりづれぇな…」

 

 

顔をしかめるカイドウに懇切丁寧に説明を始めるレオヴァとキング。

その側でクイーンはおしるこを啜りながら相槌をうっていた。

 

 

──── そして、説明すること数十分

 

 

「ウォロロロロロロ……!!

レオヴァ!その作戦採用だ!!!

 国の事は任せるぞ。」

 

「任せてくれ。

父さんの望む“暴力の世界“で役に立てるような国にしてみせる…!」

 

 

「……長かったぜぇ…………」

 

「………てめぇは理解出来てんだろうな?」

 

「…そんなの10分目ぐらいで出来てたわ……」

 

少しげっそりしたクイーンとキングに気づくこともなく親子二人は語らいを続けた。

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

──レオヴァ元締め就任1年経過後の編笠村にて

 

 

はしゃぐ子ども達の声が聞こえる ある民家

暖かい光もれる寝室より愛らしく母親にねだる兄妹あり。

 

 

「かあさん! また “えまき“ よんでよ~!」

 

「せっしゃも!一緒にききた~い!」

 

「あなた達は本当にこの絵巻が好きね~」

 

「うん!だって “かいどうさま“も“れおう"ぁさま“も

すごいもん!いっぱい ききたい!」

 

「せっしゃ“きんぐさま“も好き!

強くて黒くてカッコいいでござる!!」

 

「うふふふ……じゃあこの絵巻読んだら寝るのよ?」

 

「「は~い!」」

 

 

 

 

 

───雪が積もる町の外れにて

       “影“を奪われたと騒ぐ男あり。

 

その男が言うには

尖った耳、そして大きな口には刺のような歯がある長剣を持った巨大な男に“影“を取られたそうな。

 

馬鹿げた話だと笑う町人達だが、その男を提灯にて照らし…本当に影がないと気づくと慌てふためく。

 

町人たちは雪をかき分け、都の役人に助けを求めた…… 瞬間である。

 

町外れから影を奪う恐ろしい巨体の男と数百を優に超える蛮族が現れ町を覆い尽くさんとした。

 

役人は戦うも 敵わないと気づくやいなや

直ぐに町人を置いてすたこらと走り去ってしまった。

 

瞬く間に巨漢率いる蛮族たちは町を荒らし…人々を痛め付け、全てを奪うと奇妙な嗤い声を上げながら去って行った。

 

傷だらけで動けぬ者や、材木の下敷きになっている者

 

皆……死を覚悟した。

 

 

その時である。

 

白き角を持つ勇敢な少年が部下を連れ現れたのだ…!

 

その少年はすぐに部下に町人たちの救出を命じ、自らも怪我で動けぬ者を介助し始めた。

 

勇敢な少年に町人たちは次々に感謝を口にし、少年の名前を問うた。

 

 

「拙者、レオヴァと申す者。

……この町の状況をみて感謝など受け取れまい…

…都の役人は何処へ……?」

 

「……役人は…逃げて行ってしまい申した……何処へいったのか…皆目、見当もつきませぬ……」

 

「……なんと…? 逃げたと?

町を守るべき役人が護るべき者達を置いて逃げたと申すか……!

なんと……なんと…不甲斐ない…!」

 

 

──レオヴァ様は町の惨状に心を痛め、義を通さぬ役人に怒りを露にされた。

 

すると、山の奥にて黒々とした煙が上がり空の星達を覆った。

 

町人たちは震え、先ほどの蛮族たちの仕業だと口々にもらす。

 

どうしようも出来ないと泣き崩れた女や子ども達の前に膝をつき優しき声色にて、レオヴァ様は 蛮族を必ず討つとお約束なされた。

 

レオヴァ様は一度、いと強き御仁…カイドウ様を呼びに戻ると仰ると部下に町人を護るよう命を下した。

 

黒い衣に身を包む 翼をたずさえた大男…キング様と

珍妙な眼鏡をかけた丸みの強い大男……クイーン様。

 

二人の部下はレオヴァ様の命に力強く返す。

 

 

ふたりの返事を受けると

きらきらと星の様な煌めきに包まれたレオヴァ様の腕は黄金の翼へと変わり、空高く舞い上がって行った。

 

 

町人がそれに驚き光を目で追っていると

 

突然大きな音と共に蛮族たちが攻めて来た。

 

 

レオヴァ様の強き部下たちは

迫り来る数百、数千の蛮族に立ち向かって行く……!

 

キング様は、炎を背負い空を舞う巨大な鳥獣へと姿を変え敵を素早くも的確に倒して行く。

 

クイーン様は、大樹を超えるほど巨大な偶蹄獣へと姿を変え、その口から摩訶不思議な光線を放ち敵を薙ぎ払う。

 

 

しかし、蛮族たちはいくら切り伏せようとも次々と現れ

ついに、親玉である 不気味な巨漢が現れた。

 

 

倒せど倒せど現れる蛮族と、恐ろしいほど強き 影奪う巨漢は次第にキング様とクイーン様を圧してゆく……

 

町人たちは恐怖に震え仏に神に祈りを捧げた。

 

 

その時、深き闇が支配する大空に

月よりも明るい輝きを放つ神々しい巨鳥

そして、さらに巨大な つぎはなだ色の勇ましき龍が現れた…!

 

勇ましき龍と神々しい巨鳥は蛮族どもに向かい進撃してゆくと人の形に成っていった。

 

なんと、この世のものとは思えぬ神々しき生き物は

カイドウ様とレオヴァ様であったのだ……!

 

 

カイドウ様は蛮族たちがワノ国を破壊したことにお怒りになると

力強く金棒を振り切り、影を奪う巨漢を一撃でふっ飛ばしてみせた。

 

 

いと強き御仁、カイドウ様の参戦により圧されていた事が嘘のように優勢へと戦況は変換していった。

 

 

レオヴァ様は町人たちの元へと降り立つと

二人の部下にカイドウ様の元へと向かうように命をお出しになられた。

二人は凄まじい勢いで前線へと消えゆく……

 

 

暗闇と激しい戦闘に不安が消えぬ町人達にレオヴァ様は優しく微笑むと

安心させるように震える町人たちを目映い光でおおって下さりながらも、前線から溢れた蛮族を軽々と倒す。

 

 

その熾烈な戦いは一晩中つづき……

 

 

─── 見事…! 百獣海賊団の勝利で終わったのだ!!!

 

 

だが戦いで荒れ果て、たくさんの人々が亡くなった鈴後の町は地図から消える…

 

…………筈であった。

 

 

しかし、レオヴァ様と編笠村の職人たちによって村は修復されたのだ。

 

復興までの日々、忙しい身を顧みず…たくさんの食料を携え様子を見に来て下さる慈悲深きレオヴァ様に皆心から感謝をしたのだった。

 

 

そして…!

凶悪な蛮族たちを退け平和を取り戻して下さったカイドウ様を 皆は尊敬の念を込め

 

─────【明王】と呼ぶのであった。

 

 

 

「……めでたし めでたし…

…あら?……ふたりとも寝てしまっていたのね…」

 

 

 

気持ち良さそうに寝息をたてる子どもたちを見て愛おしそうに微笑んだ母親は灯りを消し、共に眠りについた。

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

「いや、この絵巻可笑しくねぇか……!?

“珍妙な眼鏡をかけた丸みの強い大男“って誰だよ!?!」

 

「ハッ! まんまテメェのことじゃねぇかクイーン…!!」

 

「何処がだ!!!

イケメンでモテまくりのクイーン様に対してェ…!!」

 

「ウォロロロロロロ……!!

ずいぶん面白ぇモンが出回ってるらしい…!!!」

 

「レオヴァ…!

このおれの表現どうにかなんねぇのォ!?」

 

「それは……おれに言われても困るんだが…

……まさか絵巻物語にされるとは思わなかった…」

 

「なんだ?それが狙いであの時ゲッコー海賊団を鈴後に誘導したワケじゃねぇのか?」

 

「いや、鈴後に誘導したのは戦闘の被害を減らす為と

鈴後にある小さい村を取り込み、最終的に父さんをワノ国の護り神の様に魅せる為であって…

…絵巻物語にするためにわざわざモリアの部下を買収したわけじゃないんだ父さん……」

 

「まぁ、結果的にはこれは子どもの娯楽の1つとしてなかなか売れているようだし問題はねぇだろう。

……それにクイーンの件も完璧なイイ物語だ…フッ……」

 

「おい!!アホキングてめぇ!!!

今、嗤ったよなァ…!?

くそぉ……カイドウさんとか超絶カッコ良く書かれてんのにおれは…」

 

「所詮はガキ共用に書かれた話だろ!

気にするこたァねぇよ 」

 

「うぐぅ……カイドウさんがそういうなら……

……いやけどやっぱり気になるぜェ…」

 

「…兎に角、父さんを“明王“と呼ぶ者も増えてきたのはありがたい誤算だ。

絵巻物語になったなら子ども達にも自然に浸透させられるだろうしな…

今後も、編笠村を中心に商人たちと取り引きを重ね

“良い暮らし“が出来る民を増やして行くつもりだ。」

 

「レオヴァの考え通りに事は進んでるみてぇだな……

 …引き続き国内は任せるぞ。」

 

「あぁ…!

父さんに良い報告が続けられるよう試行錯誤を進めるつもりだ。」

 

「他のナワバリに手を出して来てるカス共はおれに任せてくれ!カイドウさん……!」

 

「クイーン……てめぇは時間がかかり過ぎんだよ…!

カイドウさん、任せてくれ。

アンタの掲げる旗がある島に手を出しやがったんだ…

 ……おれが地獄をみせてやる…!!」

 

「外のことは引き続き、キングとクイーンに任せる…!

 ウォロロロ! 好きに暴れてこい……!!!」

 

「ムハハハハ~~!!暴れてくるぜカイドウさん!」

 

「もちろんだカイドウさん。

カス共に生き地獄をみせてくる…!」

 

 

 

 

 

 




アンケート内容をメッセージにてご意見をいただいたモノを集計し、結果は次の投稿の後書きにて報告させて頂ければと思います!

思っていたよりもたくさんのご意見を頂き、嬉しさと驚きでいっぱいです。
ご協力くださりありがとうございます…!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ある家族の幸運

誤字、脱字報告ありがとうございます!
前回もでるわでるわ誤字の山……本当に誤字報告助かります<(_ _*)>

ご感想等もニコニコ楽しく読ませて頂いております!
暖かいお言葉や、考察をありがとうございます…!


緑豊かな歴史あるこの島に3ヶ月ほど前に現れ、ワシの家族と共に住み始めた少年がおる。

 

 

この少年の名は レオヴァ。

 

 

子どもとは思えぬ話し方や態度だが、勉強熱心でしっかり礼節をわきまえた少年じゃった。

 

 

 

「あら、アナタ 今日は少し遅いですね

昨日も遅くまで研究してたんですか?」

 

 

「ほっほっほ!研究する時間などいくらあっても足りんからのぅ!」

 

 

「もう歳なんですから、無理したら身体にひびきますよ?」

 

 

「問題ないわい お前の作ってくれる飯を食べればすぐに元気100倍じゃからのぅ!」

 

 

「うふふふ……仕方ない人なんですから…

 じゃあ、これを食べてまた研究頑張って下さいね」

 

 

「フランシュさん……またそうやってビィクター博士を甘やかして…」

 

 

「別に甘やかされてなんぞないわい…!」

 

 

「うふふ…好きな方はどうしても甘やかしたくなるものなのですよ?

レオヴァちゃんがもう少し大人になったらわかるわ」

 

 

「…そうか。 ……まぁ、フランシュさんと博士が仲が良いのはよくわかってるが」

 

 

「ぐぬぬぬ……フランシュもレオヴァもワシの話を無視しおって~!」

 

 

「まぁまぁ…また血圧が上がってしまいますから…

 はい、今日の朝食です。 どうぞ。」

 

 

「うぬ。では、いただこうかのぅ!

 んむ…んむ……今日も最高に美味いぞフランシュ!」

 

 

「喜んで貰えて嬉しいわぁ…!」

 

 

「……おれは書斎を借りる…

 構わないか博士?」

 

 

「好きにしてよいぞ!

ワシはこの後研究会に行くから勉強の続きは夕方からじゃ」

 

 

「わかった。フランシュさん、ご馳走さま。」

 

 

「は~い お粗末様でした。お勉強頑張って下さいね。」

 

 

 

軽くお辞儀をして2階の書斎へと向かって行くレオヴァをしり目にワシは嫁であるフランシュの手料理に舌を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

あの少年…………レオヴァと出会ったのは

3ヶ月前の森の中であった。

 

 

ワシは研究に行き詰まり、気分転換に森で本でも読もうかと入って行ったのだが……

……その帰りに本を持ち上げようと踏ん張ったら腰をやってしまったのだ。

 

 

余りの痛さに声を上げると、この森では見たことが無いような大きな獣がワシに突っ込んで来た。

 

愛する嫁…フランシュの為に死ねん!!と腕に力を入れ

最初の飛び付きは何とか致命傷を避けられたものの、肩の辺りに獣の爪がかすり 出血してしまった。

 

身体も動かず、鈍い痛みに苦しさと悔しさを滲ませた声を出しつつも、獣が再びこちらへ飛んで来たのを見てフランシュの笑顔を思い出していた。

 

 

 

 

しかし、急に光が目の前を遮ったと思ったら

その獣はまる焦げになり倒れていたのだ。

 

開いた口が塞がらないまま動かなくなった獣を見ていると

森の方から出てきた白い角の少年が話しかけてきたのじゃった。

 

 

『大丈夫か?』

 

 

『う、うぬ……助かった…ありがとう

 ……見ない顔じゃが……ヌシはいったい……?』

 

 

『おれは先ほどこの町に来た。

名前はレオヴァ…町まで案内して貰えないだろうか?』

 

 

『そうだったか! では案内してやろう!

……と、言いたい所なんじゃが……腰が………立てんのじゃよ』

 

 

『……腰をやってしまっているのか…

 …治せるかもしれないからやってみるか』

 

 

 

そう呟くと少年はワシの腰の方に手をかざす。

するとピリピリッとした感覚のあと腰が急に楽になった。

驚いて起き上がるが、特に痛みもない!

 

 

 

『おぉ!! 少年!…レオヴァじゃったか?

これは、どうやって!?

それに先の獣を倒したのも……ただの子どもではあるまい?』

 

 

『おれは悪魔の実を食べている。それで少し電気を扱えるんだ。

あの獣には強い電気を放ち、アンタには微弱な電気を流した……まぁ、電気治療みたいなものだ』

 

 

『悪魔の実か……ワシの知っている子にも食べた子がいるが…電気をのぅ……

それに“電気治療“とは聞かぬ言葉じゃ

どういう仕組みなのかね?』

 

 

『……軽い電気を流すことによってその刺激で筋肉をほぐし血行の促進を促して、痛みやコリを和らげる治療だ

…効果は……言わずともわかるだろう?』

 

 

『ほほう……電気でそのような治療ができるとは…』

 

 

『では、町へ案内を頼む

……本はおれが持とう。』

 

 

『そうしてくれると助かるわい…』

 

 

 

なんとも奇妙な出会いであったが、レオヴァのおかげでワシは生き延びることができ

愛しのフランシュにも再会出来たのじゃ。

 

 

その後いろいろと話をしてわかったのは

レオヴァには母親がいないこと、人間の文化の歴史に強く興味があり、長い道のりを経てこの町に勉強しにやってきたと言う事じゃった。

 

 

ワシはその歴史への強い探求心を買い、弟子として迎えた。

嫁もワシの命の恩人である事や、母親が居ない境遇を聞きすぐに共に暮らすことに同意してくれた。

さすがはワシの愛するフランシュじゃ!!

 

 

それからはレオヴァはワシから歴史を教わりつつも研究を手伝ったり、フランシュの家事を手伝ったりと

ワシらの生活に馴染むのは早かった。

 

 

なかなか生意気なレオヴァだが、挨拶はしっかりしているし、困っている隣人の手伝いをしたりと

根は優しく、真面目な子じゃ。

 

 

……まるで本当に息子が出来たようじゃなぁ…と

フランシュと微笑みあったのも一度ではない。

 

 

 

研究を終えて、家に帰りレオヴァに歴史を教え、フランシュと三人で食卓を囲む。

 

 

優しく思いやりに溢れた愛おしいフランシュ

なにかと口煩くもワシを心配し世話を焼くレオヴァ

 

……幸せだった。

 

 

ずっと。

この幸せが寿命で死ぬまで続いて行く生活じゃろうと……愚かにも…あの時のワシは思っておった……

 

 

 

 

 

 

今、ワシら学者たちは燃え盛る炎から書物を守るべく湖へと本を投げ込んでいた。

 

ここで学者は全員殺されるだろう……

……だが、レオヴァが残ると泣きながら縋るフランシュを連れ避難船へ乗り込んだ…はずじゃ

 

 

 

 

一心不乱にワシも他の者たちも本を投げ込み続けた

 

 

 

………………だが、ワシの耳に絶望が届いた……

 

 

…避難船が……愛する者が…海軍に撃ち沈められた…と

 

 

 

 

ワシは止める者たちを振り切り海へと走った

 

 

なぜ、何故 自分たちがこんな目にあわなければならない?

 

 

歴史を知ることが罪? 

ならば何故、なにも知らないはずのフランシュが!!

レオヴァが!!死ななきゃならんのか!!!!!!!

 

許せぬ!憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いッ!!!

 

 

世界政府は神にでもなったつもりか!!!!!

 

 

どうせ死ぬのなら!せめて、せめて奴らの1人は道連れにしてやろうぞ!!!!!

 

 

炎に囲まれ狼狽えている海軍の男どもを見つけ

ワシは拾った剣で切りつけた。

 

 

男たちは仲間が突然斬られた事に動揺していたが

すぐに応戦され、ワシは地面へと膝をついた。

 

 

あ"あ"ッ!!!なぜもっとワシに力がないのか!!

 

この老体では憎き政府の犬の1人を道連れにすることも叶わぬ!!

 

悔しいッ……!!!!!

 

 

男がワシに向かい銃を撃とうとした時だった

 

天から突然、稲妻が降り注ぎ

男たちは全員真っ黒に焼け爛れた肉片へと変わった。

 

 

── ワシはそれを見て大声で嗤った

 

 

憎き者共が惨たらしく死んだことは本当に喜ばしいことだ!!!

 

もっと多くの……全員が死ねば……!!!

…ワシのこの気持ちも……

いや、駄目じゃ!!!

もう……もう…フランシュもレオヴァも居ないッ……!!

 

 

よろよろと立ち上がり、焼けた肉塊となった男たちの首を斬りつけるワシの後ろから声がした。

 

 

「…ビィクター博士」

 

 

ワシはすぐに振り返った…!

 

あ…あぁ……!!

レオヴァが! レオヴァが生きて居たのだ!!

 

ワシは嬉しさの余り涙を流し嗚咽を洩らす。

 

 

「れ、レオヴァっ!!

良"か"った"……!!!!わしは……わしは…!!」

 

 

うまく歩けず転んだワシをレオヴァは優しく抱き止め

しっかりと支えてくれた。

 

 

「いい…わかってる…ビィクター博士……アンタの気持ちはわかってる……」

 

 

……心が落ち着く声だった。

全てを失ったと思ったワシを優しく抱きしめ、声をかけてくれる……

 

 

 

「う"う"ぅ"……!!!レオヴァ!ワシは……!

…ただ……ただ歴史を"知ろう"とっ……

間違っていたのか! ワシの人生は……!

……愛するフランシュを……殺したのは…ワシの身勝手のせいなのか!?」

 

 

堪えきれず叫び出すワシの目を真っ直ぐに見つめ

強い意思を感じる声でレオヴァが返す

 

 

「いや、違う…!! 博士はなにも間違えてなんざいねぇ!!!

ただ歴史を知り、学びを深めることが罪な筈がねぇんだ!!

世界政府がテメェらの都合で権力を振りかざしてる…!

……この世界は間違ってる…関わりの無い人間までも無差別に殺す……そんな奴らが支配する世界……無くなって良いと思わないか?」

 

 

ワシはレオヴァの言葉に大きく頷いた。

自分勝手に全てを奪って行った世界政府が支配する世界など……存在する価値はない!!

 

 

「ぁ…あぁ……!!その通りじゃ!!!

こんな世界は間違ってる…!!」

 

 

「博士…アンタならわかってくれると思ったんだ。

……おれと来てくれるか…?」

 

 

「もちろんじゃ……たとえ死にに行くとしても共に行こう!!」

 

 

「死なせるつもりはない

アンタはこんな所で死んで良い人じゃないんだ

……おれと生きてもらう。」

 

 

レオヴァの言葉に止まったはずの涙がまた溢れる

ワシは共に生きると強く返事をした。

 

 

すると、まばゆい光につつまれた…

レオヴァがワシの目の前で大きな光輝く鳥となる

 

その姿に魅入っていたがレオヴァに背に乗るように言われ、渡されたコートの様なモノを着て

地獄と化したこの島…

 

─── オハラから飛び立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

暫くすごいスピードで飛んでいたレオヴァじゃったが

無人島と思われる島に降り立った。

  

 

すると、目に信じられない光景が飛び込んで来た…!

 

 

「これ…は…そん…な……幻覚、なのか……?

……ふ、フラン…シュ……」

 

 

「アナタ!! 良かった、本当に良かった……!

もう逢えないかと……私…ぅ……ぐす…」

 

 

ワシとフランシュは抱き合い泣き続けた。

泣き止まないワシらに大きな毛布をかけてくれるレオヴァ…

 

 

ワシは……なにも失わずにすんだのだ……!!!

 

 

 

「ありがとう…ありがとうレオヴァ!!!!」

 

「レオヴァちゃんありがとう…!」

 

 

「…良いんだ。二人には本当に世話になった……

……なにより世界政府のやり方は気に入らない…!」

 

 

 

……あぁ…やはりレオヴァは優しい子じゃ……

 

 

 

「…2人に提案なんだが……おれの住んでる国に来るつもりはないか?」

 

 

「レオヴァちゃんの国……?」

 

 

「あぁ、ワノ国だ。」

 

 

「なんと!? ワノ国じゃと!

レオヴァ……おぬし、侍じゃったのか!」

 

 

「いや、侍ではないんだが……」

 

 

「…私はレオヴァちゃんとビィクターさんが居るなら何処にでも行きます!」

 

 

「うぬ……ワシもレオヴァと共に行こう」

 

 

「本当か…!

……ただ、言っていない事がある…

…おれは……海賊の息子で海賊だ。」

 

 

「「!?」」

 

 

「2人に海賊になって欲しい訳じゃない

ただ、ワノ国なら政府も簡単には干渉できない……だから安全だと思ったんだ。

……ついて来て欲しい………海賊が嫌なら、ワノ国に入ったらおれはもう2人に関わらないと誓う」

 

 

「ま、待ってくれ!ワシは海賊でも構わん!

……レオヴァが海賊であろうと…フランシュを……ワシを救ってくれた…おぬしを信じるよ。」

 

「私もですわ。レオヴァちゃんは約束通り私の愛する人を救って下さりました。

だから……私はレオヴァちゃんを信じます…!」

 

 

「フランシュさん……ビィクター博士…

……ありがとう……じゃあ、船でこの島を出よう。」

 

 

 

微笑んだレオヴァにワシもフランシュも微笑みで返し

中型の船に乗りワノ国を目指した。

 

 

 

 

 

ワノ国についてからも歴史の研究は続けられた!

レオヴァがワシらの住む家に研究できる場所と大量の本を持ってきてくれたのじゃ!

 

なにからなにまで全てレオヴァは面倒をみてくれた。

 

……なにか、何か恩を返せないか

 ワシとフランシュは多いに悩んだ。

 

 

なにかさせてくれと願い出てもレオヴァは

 

『見返りを求めて助けたワケじゃない。

……それに恩ならおれもオハラで世話になった恩があるだろ?』

 

と言って眉を下げ笑うだけじゃった。

 

 

 

 

だが、ワシは今までの人生で学んだことで役に立てるからレオヴァに部下として使って欲しいと何度もしつこく頼み込んだ。

 

その甲斐あって、ついにワシは"レオヴァ様"の部下となる。

 

 

まず頼まれたのはレオヴァ様の“古代文字“の学習だった。

やっと恩が返せると意気込んだのじゃが……

……レオヴァ様はほぼ既に古代文字を扱えておった

 

 

何故かと聞くと、レオヴァ様はオハラに来てから地下室に度々入り中で学習を進めていたと……さらに映像電伝虫までしかけワシらの研究を覗いておったと

 

 

さすがはレオヴァ様じゃ……!!!

優れた隠密行動だけではなく、独自に学習を進めていたにも関わらずこれほどの習得率!

 

興奮気味に誉めるワシをいつものようにレオヴァ様は落ち着かせ本題へと持って行ってくださった。

 

 

その後、ほぼ扱えているレオヴァ様に少しの補足の知識を教えて初仕事が終わってしまった。

 

落ち込むワシを見てレオヴァ様は困った顔をしつつも声をかけてくださる。

 

 

『まだまだアンタにはたくさん研究してもらいたいことがある。

これからも頼りにしてるから頼むぞ…博士』

 

 

その言葉に任せてくれぃ!と気合い十分に返し

ワシは家の研究室へと帰った。

 

 

これからの研究は自分の知識欲の為だけではない

……大切な家族フランシュと

恩人であり自慢の生徒レオヴァの為に頑張るのじゃ!

 

 

老い先短い人生で

どれだけの恩を返せるかのぅ……と思うのであった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

俺は前世の記憶を辿り、オハラの悲劇がいつ起こるのかをだいたい把握していた。

 

その為、その前にオハラへ行き“古代文字“を使える考古学者をワノ国へ連れ帰る手筈だった。

 

 

オハラについてから1ヶ月ほど学者たちを調べ

“ビィクター博士”が連れ帰るには最適だろうと目を付けた。

 

 

ビィクター博士は古代文字が扱え、学者たちの中でも上位に入るほどの知識の持ち主であり

……なにより愛する妻がいた。

 

 

研究のみに没頭する者は連れて帰ろうにも歴史と共に消えるなどと言われては面倒だし

無理やり連れて行っても自害したりとコントロールしづらいだろうと考えた。

 

それと比べ、ビィクター博士は何よりも妻を大切にしている様だった、最悪人質に取れば扱いやすいだろうと考え、実行に移した。

 

 

森で1人になった所へ獣をけしかけたのだが

どうやら、腰を抜かしているのか殆ど動けていなかった。

 

半殺しになった状態で助けに行こうと思っていたのだが

このままでは危ないと考え“爆雷砲“を最小限の力で放った。

 

そして、偶然を装い知り合いになり

この3ヶ月で一定の信頼関係を築いた。

 

 

 

バスターコールによってボロボロになっていくビィクター博士を眺め、精神が壊れかけた所で側に寄り優しい言葉をかけ求めていたモノ……フランシュに会わせた

 

 

その後ワノ国に連れ帰り、住む場所と安全と食事を与えた

なにか恩を返したいと言い出した二人にまた舌触りの良い言葉を与え、断り続けた。

 

 

……ついにビィクター博士は“部下“になると言い出し俺の説得を始めたので、言いくるめられるフリをした。

 

恩は忠誠へと変えやすい……だからビィクター博士自らが部下になりたいと懇願してくるのを待った。

 

 

“古代文字”の扱いの最終指導を受け

魚人島に忍び込みポーネグリフを読んだ所、ジョイボーイへの謝罪文を確認でき、俺は古代文字を扱えるようになった。

用済みになった…………のだが、まだ研究者としても知恵者としても使えると考え殺すのは止めにした。

 

ただ、ポーネグリフを読めるモノが此処を出ると困るので、監視は少し増やしておいた。

 

 

 

絶対に“百獣海賊団”を裏切らない俺が古代文字を扱えるようになったのだ

これでポーネグリフも持ち腐れ状態ではなくなる。

 

……父さんこそ海賊王の名が相応しい…!

 

 

そう思いながら

電伝虫の飼育場へと足を運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 




お待たせ致しましたアンケート結果!
キャラ名など打っていたら長くなってしまいましたので、活動報告にて発表させて頂きます!
よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

蝸牛と失敗作

 

 

 

 

 

───── 俺は15歳になった。

 

 

14歳の内に必ず成すべき事リストの“古代文字の習得“も計画通り実現し、今のところは順調だ。

 

 

 

そして、今現在は何をしているかと言うと

 

カタツムリの飼育をしている。

 

 

 

 

 

 

 

……正しくは電伝虫だが。

 

 

 

 

 

 

この世界のカタツムリは本当に便利な能力を持つものばかりだった。

 

その為、今後のことも考え飼育及び繁殖の実験を行っている。

 

 

ワノ国産の親分タニシとスマートタニシの飼育場と、一般的な電伝虫の飼育場をそれぞれ作って生態なども観察しているのだが

 

タニシ達も電伝虫も飼育しやすく、尚且つ扱いやすかった。

 

ほぼ全ての個体が人間から逃げるどころか自ら捕まりにくるし、機械の取り付けにも協力的だ。

 

 

おかげで飼育はとても順調に進んでいる。

 

 

 

何より稀少とされる“白電伝虫“の飼育、繁殖に成功出来たのは大きい。

 

なぜなら白電伝虫は盗聴妨害の念波を飛ばせるのだ。

 

 

 

政府やら裏の住人達からの盗聴を防げるとなれば

俺の今考えている事も少しは楽に進められそうだ。

 

 

それに販売すればそれなりの金になる。

 

 

……まぁ、出回らせすぎると価値が下がる為 量はコントロールするのが大前提だが。

 

 

 

 

 

 

兎に角、俺はワノ国で親分タニシとスマートタニシを流通させようと思っている。

 

 

なぜ、タニシとスマシなのか

 

その理由は念波が“弱い“ことにある。

 

スマシからの情報は一度親分タニシを経由して他のタニシに送られる

電伝虫とは違い大元である親分タニシが駄目になるとスマシが一斉に使えなくなる訳だ。

 

つまり、連絡手段のコントロールがしやすく、何かあれば親分タニシの異常と片付けることができる

なによりワノ国の外との連絡が取れないことが魅力的だ。

 

 

 

外との連絡を断ちたいのなら、そもそも連絡手段を持たせなければ良いと言う者達もいたが

 

連絡手段が無いのは不便かつトラブルを生む可能がある。

 

 

スマシがあれば、わざわざ出向くほどの内容でもない事でも手軽に報告出来るし緊急性のある連絡も移動の時間が短縮できる為、迅速に報告可能だ

 

大きな組織ほど“報告・連絡・相談“が大切…とは前世での教訓でもある。

 

 

 

他にも連絡手段がないとその事に不満を覚えたり、自分達で連絡手段を作り始める可能性が出来てしまう

独自の連絡手段や電伝虫を持たれると大変面倒だ

その手段を取り除くのもコントロールするのも時間と手間がかかる。

 

ならば、先にスマシを流通させ便利な連絡手段と思わせた方が何倍も楽だ。

 

 

 

父さんもこの案を気に入り承諾してくれている。

 

 

もう少しスマシの数が安定したら編笠村にて試験的に運用し広めて行こうと思う。

 

 

 

 

今後の方針を考えながらも生態を紙にまとめていると部下が部屋に入って来た。

 

 

 

 

 

「レオヴァ様、失礼しやす!

例の件の準備が終わりやしたのでその報告に。」

 

 

 

「そうか、ご苦労

では向かうとしよう。」

 

 

 

部下からの報告を受け少し前から計画していた戦力強化に向けて俺は気合いを入れ直した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

今日はレオヴァ様がある取引をなさる日だ。

 

 

なんでも政府関係者との取引らしく俺含めまわりの奴らはピリピリしている。

 

部屋に響くのも時計の針の音とレオヴァ様の紅茶を飲む時に鳴るカップの音だけだ。

 

 

 

 

 

この静けさを破るように扉が開いた。

 

取り巻きを十数人つれた男二人は挨拶もなく座るとさっさと取引の話をし始める。

 

レオヴァ様も特に気にした様子もねぇので俺は無礼を働くクソ野郎どもを怒鳴り付けるのを堪えた。

 

 

その後もトントン拍子に話は進んで行き、こちらの金を確認した男たちは下卑た笑いを浮かべると

取引の品を見せるからと停泊している島の奥へと俺たちを案内した。

 

 

 

 

 

 

 

案内された場所には信じられねぇほど巨大な人間達が拘束されていた。

 

いや…アレは…人間じゃねぇかもしれねぇ…

 

 

意味をなさない音を口から発する巨人の様な化け物どもに俺たちは度肝を抜かれている。

 

足がすくむ俺たちとは違いレオヴァ様は野郎達と

また少し話をしていた。

 

 

しかし、何を思ったのか1人の男が巨人の拘束を解き此方へけしかけて来た。

 

 

 

 

 

「うおぉ!?!」

 

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

 

「ヒヒヒヒ!!おら、失敗作共!

こいつらを殺っちまうんだよぉ!!」

 

 

「くそぉ!てめぇ……!」

 

 

 

 

立ち上がった巨人の様な化け物は数十mはある大きさだ……!

 

なんとしてもレオヴァ様をお守りしなきゃならねぇ!

 

そう思い俺は化け物の振り下ろす拳に向かって行こうとした時だった。

 

 

 

 

「………ほう。 ガタイに見合うだけの力はあるようだ。」

 

 

 

 

俺にぶち当たるハズだった化け物の拳をレオヴァ様はなんともないと言う様に軽い蹴りで防いで下さった。

 

 

 

 

「ジュキッ…!?」

 

 

 

「なにっ…!

失敗作とは言え巨人とほぼ同等のパワーだぞ!?」

 

 

 

「お前はおれの部下に手を出したんだ。

…覚悟はできてるんだろうな? 」

 

 

 

「ちょ、調子にのるな!たかだか一匹相手取れたところで…

おれには まだ9匹残ってる……!!

てめぇらボサッとしてねぇで他の失敗作共の拘束を解けぇ!」

 

 

「え、いや……そりゃワシらも危ねぇんじゃ……」

 

 

「うるせえ!!!早くしろ!」

 

 

「へ、へいっ!」

 

 

 

「…はぁ………皆、下がってろ。」

 

 

「「「 はい レオヴァ様ッ! 」」」

 

 

 

 

俺たちはレオヴァ様に言われた通り浜辺まで下がった。

 

 

クソ野郎どもは合計10匹の化け物を解放し

 

 

 

 

……そしてクソ野郎どもの取り巻きは

 ぐちゃり と潰れた。

 

 

 

 

 

「ひっ……!」

 

 

「ば、バケモンじゃねぇか…」

 

 

「おい、やっぱりレオヴァ様に加勢しに……」

 

 

「バカ野郎! 俺たちじゃあ どう考えても足手まといだろう!?」

 

 

「む…無理だ……」

 

 

 

 

人の原型を留めていない取り巻き達の死体を見て狼狽える奴らをおいて、加勢しに行こうとする俺を数人の仲間たちが止めてくる。

 

 

無理やりにでもレオヴァ様の下へ行こうとした時だ…

 

急にレオヴァ様の周りの空気が変わり、ビリビリと刺々しい圧を放ち始めた。

 

 

 

 

「…少し躾けてから連れて帰るとしよう。

 ……“爆雷砲“ 」

 

 

 

レオヴァ様がそう呟くと目の前が一瞬真っ白になった……かと思ったら、化け物共がそろってその場に倒れている。

 

 

 

 

 

「…これだけ大きいなら堪えられると思ったんだがな

 ……少し加減を間違えたか…?」

 

 

 

 

困った様な表情をしながら腕を組むレオヴァ様は先ほどの圧が嘘のように消え去っている…

俺も仲間達も開いた口が塞がらずにいるとレオヴァ様は倒れている化け物共に歩み寄って行く。

 

 

 

 

「お前たち、おれには勝てないとわかったか?」

 

 

「ジュキ…キ……!」

 

「は…ハチャ~……」

 

「なぎ、ギッ!」

 

 

「うむ、なら良い。

他の者は気絶してしまっている様だが……まぁ力の差は理解しただろう。」

 

 

 

立ち上がれないのか化け物共は必死に頷いている。

 

 

 

 

「よし!では皆、帰りの準備をしてくれ。

彼らが動ける様になったらワノ国へ戻るぞ。」

 

 

「承知しやした…!

…あの、ところでレオヴァ様……お聞きしてぇことが…」

 

 

「ん? どうしたんだ?」

 

 

「その……ソイツらなんなんですかい?」

 

 

「あぁ、彼らはある施設で研究されていた“古代巨人族“の復活……の失敗作らしいぞ」

 

 

「は、はぁ……古代巨人族ですか…」

 

 

「まぁ、あまり難しく考えることはない。

…そうだな……これから仲間になる新人とでも思ってくれ」

 

 

「えぇ…! 仲間ぁ!?」

 

「レオヴァ様……そいつら おれ等のこと食っちまうんじゃ…」

 

 

「…………そこら辺もしっかり おれが教育するつもりだから問題はないだろう

       …………………………たぶんな……」

 

 

 

「「「 すげぇ不安なんですが…!!? 」」」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

港にてカイドウ、クイーン、キングは巨大な化け物の様な生き物を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

「おいおいおい……クソでけぇじゃねぇかよ…」

 

 

 

「……知性はあるのか?」

 

 

 

「戦力を増やす取り引きだと聞いちゃいたが…

こりゃ予想外なモンを持って帰って来やがったなァ!」

 

 

 

「“古代巨人族“ 復活の研究途中で出来たのが彼らだと言っていた

……研究は失敗で終わったようだが。」

 

 

 

「えぇ……古代巨人族の復活とか……アホかよ…

てか、レオヴァの珍しいモン好きもここまで来るとちょっと引くぜ……」

 

 

「…おい、クイーン 別に趣味の為に取引してきたワケじゃねぇぞ……」

 

 

「ほ~? じゃあ微塵も

珍しいから知らない種族の研究結果だから、

  とか“私的“な理由はねぇ~わけだ?」

 

 

「…………ない……」

 

 

「ほんの少しも考えてねぇと?」

 

 

「……ぐぅ…そりゃ少しは考えはしたが……!

基本的には戦力強化のためだ!」

 

 

「ムハハハ~!!ほらやっぱ趣味じゃねぇか!

ほんと“イイ趣味“してるぜェ~…!」

 

 

 

「…完全に趣味ってワケじゃねぇよ……!」

 

 

 

「……で、レオヴァ坊っちゃん

確かにそこらの雑魚よりは使えるだろうが…命令は聞くのか?」

 

 

「あぁ、来る前に軽く躾けてあるから簡単な命令なら何も問題ない。

 ……お前たち、“あいさつ“!」

 

 

 

レオヴァが“挨拶“と化け物達に声を出すと

化け物達は動きはバラバラではあったが膝を突き頭を下げた。

 

 

 

「……ほう?」

 

 

「いや、躾ってペットかよ!?」

 

 

「なかなか面白ェじゃねぇか…!」

 

 

 

「まぁ、こんな感じで簡単な命令ならしっかり聞く」

 

 

 

 

 

物珍しいモノを見物してるかのように巨人達を見るカイドウ達とレオヴァだったが

 

ふと疑問に思ったのかカイドウが口を開く。

 

 

 

 

 

「 何処までが簡単な命令に入るんだ?」

 

 

「そうだな……壊す、運ぶ、待て、進め…とか

1つの内容で完結できる命令ならおおよそ実行できる……とは思うが…」

 

 

 

「……要するにコイツらを使うならある程度条件が揃わねぇと駄目なワケか」

 

 

 

「キングの言う通りだ。

だから敵を残滅する仕事や港で荷物を運ぶ仕事を中心にやらせようと思ってる。

そうすれば今、荷積みと荷卸しをやってる人員を欲しがってるクイーンにまわせるだろ?」

 

 

 

「人手が欲しかったんだよ!

さすがレオヴァ そりゃナイスな考えだぜ~!」

 

 

「相変わらずイイ案だレオヴァ

それなら、手の空いた奴らはクイーンに任せる…!」

 

 

「ムハハハ~! やれる事が増えるぜェ~ 」

 

 

 

「まぁ、その案には賛成だが……コイツらはレオヴァ坊っちゃん以外の命令は聞くのか?」

 

 

「それも実験済みだ。

一度顔を覚えさせればおれ以外の命令もちゃんと聞く」

 

 

「そうか、愚問だったか」

 

 

「いや、キングの疑問も尤もだ

相違がない様に確認するのは大切だからな。」

 

 

 

「ウォロロロロロ~…!

なら さっそく今日からコイツらを使ってみるか!

 レオヴァ、この港の指揮は任せるぞ。」

 

 

「あぁ、父さん任せてくれ。

 お前ら、しっかり働くんだぞ?」

 

 

「ジュキキキ~!」

 

「ハチャッ ハチャ…!」

 

「ゴキキキィ…!!」

 

「ジャキーーッ……!」

 

 

 

 

「……オゥ…やっぱコイツらキモいぜェ……」

 

 

 

それぞれ気合いの雄叫びを上げる化け物達を

引いた顔で見上げるクイーンと、黙ったまま腕を組むキング

 

そして、ただ愉快そうに笑うカイドウを背に

レオヴァは化け物達と部下達に指示を出すのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

~ジャックside~

 

 

 

 

おれは3日前の海戦で怪我をした。

 

 

失血死直前だったそうだが、珍しく海戦に参加していたレオヴァさんに運ばれ何とか一命を取り留めたらしい。

 

今までに見たことがないほど怒ったレオヴァさんから1時間近く説教されたが、傷は癒え もう動き回れる程度には回復した。

 

これは完治したと言っても良いだろう。

 

 

 

…………まぁ…この後の兄御たちからの“指導“で、また動けなくなる可能性はあるが……

 

 

 

 

レオヴァさんに手間をかけさせるなと鬼の形相で見舞い(?)に来た兄御たちを思い出す…

 

 

────────────────────

 

 

『よぉ…ズッコケジャック 死にかけたらしいなァ~?

 

…………おれが鍛えてやってんのに足引っ張ってんじゃねぇぞ……挙げ句レオヴァに手間までかけさせやがって…!

完治するまでは指導は無しってレオヴァが言うから

まぁ、今は休んどけ……完治したらもうヘマしねぇ様に叩き直してやるぜェ……!!』

 

 

『…ぅ……返す言葉もねぇ…クイーンの兄御…』 

 

 

────────────────────

 

 

 

『ズッコケジャック…! テメェ負けたらしいなァ!

しかもレオヴァ坊っちゃんに尻拭いまでさせやがってェ……

…………これからは生ぬりぃ殺り方はしねぇ…傷が癒えたら躾しなおしてやる……わかったな…!!』

 

 

『…す、すまねぇ……キングの兄御…………』

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

…………駄目だ……どう考えても完治と同時に殺られる未来しか浮かばねぇ…!

 

 

 

ベッドの上で頭を抱えながら冷汗を流していると声がかけられた。

 

 

 

「ジャック…?

どうした、何処か痛むのか?」

 

 

「れ、レオヴァさん…………いや、なんでもねぇです…」

 

 

「何でもないってお前……顔真っ青だぞ…」

 

 

「……身体はもう問題ねぇんで」

 

 

「…まぁなら良いんだが……」

 

 

「それよりも おれに何かご用で?」

 

 

 

「ん?用って程でもない。

ただジャックの怪我の様子を見にきたんだ

ちゃんと治ってるみてぇで安心した。」

 

 

「レオヴァさん……ありがとうごぜぇます!」

 

 

 

 

礼を言うとレオヴァさんは軽く笑みを返し、ワゴンをおれの方へと持って来た。

 

ワゴンの上のドームカバーを開けるとゾウ肉の料理が並んでいる。

 

 

 

「やっぱりスタミナつけないとな

…肉料理が良いと思って作ってもらったのを持って来たんだが……食べられるか?」

 

 

「食えます…!!」

 

 

「ん、じゃあ一緒に食べるか。」

 

 

 

久々のゾウ肉におれは上機嫌でかぶりついた。

 

 

ガツガツ食べるおれを咎めるでもなくレオヴァさんはゆったりと食べ進めている。

 

 

 

 

 

全て平らげ満足したおれは傷も治ったし仕事をさせて欲しいとレオヴァさんに頼んだ。

 

 

 

「……もう少し休んでても大丈夫だぞ?」

 

 

「十分休ませてもらったんで、問題ねぇです。

それよりもいっぱい戦闘にでて早く弱ェ自分をどうにかしてぇんだ…!

……駄目か…? レオヴァさん……」

 

 

「………わかった

ちょうど残滅任務を父さんから任されてるからジャックも付いて来い。」

 

 

「レオヴァさん…!

おれ今度は絶対に足手まといにはならねぇ!

 役に立ってみせるから見ててくれ……!!」

 

 

 

「ジャックの歳でそれだけやれれば十分なんだが……

…まぁ向上心は大切だからな。

 期待してるぞジャック! 」

 

 

 

レオヴァさんはおれの頼みを快諾してくれた。

 

全然功績を残せてねぇおれに期待までしてくれてる!

 

次こそは絶対にレオヴァさんやカイドウさんの役に立ち、キングの兄御やクイーンの兄御にも迷惑かけねぇ漢になるべく おれは気合いを入れ直しレオヴァさんと共に部屋からでた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ちなみにジャックはだいたい7歳です
……7歳とは? と混乱する今日この頃。


前回も誤字報告ありがとうございます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

テストと海軍の爺さん

 

 

 

 

俺は気合い満タンなジャックを連れて、最近ウチのシマを荒らした海賊がいる場所へと向かっている。

 

 

 

ジャックには俺がこの任務を受けたと伝えているが

実は今回の任務はジャックに対するテストの様なモノだ。

 

 

 

俺が発案し、そして父さんから許可を得た今回の任務。

ぜひジャックには成功して貰いたいと思っている

弟の様に目をかけていると言うのも有るが、純粋にジャックの生命力は素晴らしい。

 

 

推定7歳で他の船員たちを上回るパワーとタフさは今後きっと父さんの役に立つはずだ。

 

 

 

 

 

そんなわけでジャックの実力を買っている俺は悪魔の実を食べさせようと考え

あの手この手を使いゾウゾウの実 モデル“マンモス“を手に入れた。

 

 

一応、自分で手に入れたとは言っても父さんに許可を得てからジャックに……

 

と、思い父さんに悪魔の実の話をした。

 

 

 

 

──────────────

 

 

動物(ゾオン)系 の古代種か……!

 で、誰に食わせてぇって?』

 

 

『ジャックに食わせようと思ってるんだ。』

 

 

『……ジャックか。

 まぁ、確かにレオヴァが気に掛けてるだけあって見所はあるがなァ………まだガキだぞ?』

 

 

『……父さんの言いたいことは だいたい解るが

 子どもだからこそ長い時間を使って能力を扱えるよう指導できるし

なによりジャックのウチの海賊団に対しての忠誠心は目を見張るものがある。

将来的にみたらこれ以上ない人材だとおれは思うんだが…』

 

 

 

『確かにアイツは仕事も真面目にやってる

……まぁ…キングとクイーンに面倒みさせても生きてるってだけで他の奴らよりも優秀ではあるからなァ』

 

 

 

『あぁ、本当に…真面目で素直な子なんだ

 おれは将来 ジャックは父さんのお眼鏡に叶う漢になると考えてる。

 だから…………駄目だろうか?』

 

 

 

『レオヴァが言うんだ間違いねぇだろう!

それに その悪魔の実は自分で手に入れたモンなんだ好きに使えば良い…!』

 

 

『父さん ありがとう…!!

わかった。 この実は好きに使わせてもらう!』

 

 

 

『ウォロロロロロ…!

 お前はおれの息子なんだ 好きにやれ!!』

 

 

 

─────────────

 

 

 

器の大きい父さんは好きにして良いと言ってくれた。

 

 

だから俺は早速ジャックに悪魔の実を食べさせることにしたワケだが

なにもせずに悪魔の実を渡しては周りの奴らが五月蝿いだろう。

 

ならば手柄を立てさせれば良い。

ついでに実力がどれ程付いてきたかも確かめるいい機会だと考えて今回のテストを行うに至ったのだ。

 

 

 

 

隣で張り切っているジャックを見て和みながらも俺は残滅任務の間どうやって暇を潰すか考えていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

── ジャックのテストの結果は合格だ。

 

 

 

俺が思っていたよりも素早く残滅を済ませ、他の部下たちと物品を船に積み込む手際は子どもとは思えぬほど良かった。

 

 

さすがはジャックだ…!

と緩む口元を抑えられずにいると、仕事を終えたのか俺の方へと走って来る。

 

 

 

「レオヴァさん、 終わったぞ!…です。」

 

 

「あぁ、お疲れ様

 今回の任務はとくに動きが良かったな。」

 

 

「…!  ありがとうございます!」

 

 

「それで任務の褒美として渡したい物があるんだが…」

 

 

「褒美…? おれはカイドウさんとレオヴァさんの役に立ちてぇだけだから……あんまモノとかはいらねぇ、です!」

 

 

「そう言うとは思ってたが……

今回の褒美は強くなる為に使える物だぞ?」

 

 

「強くなるのに使えるモノ…?」

 

 

「まぁ、見てから決めりゃいい」

 

 

 

 

褒美を貰うことを渋るジャックの前に俺は悪魔の実を差し出す。

 

それを見るとジャックは目を見開き驚きを露にした。

 

 

 

 

「!?  悪魔の実……!」

 

 

動物(ゾオン)系の悪魔の実だ。

単身で敵陣に突っ込んで行くジャックにぴったりな能力だと思うぞ?」

 

 

「……本当におれが食っていいのか…?

悪魔の実は貴重だってクイーンの兄御が…」

 

 

「構わない。

それにこの悪魔の実はおれが手に入れた物だから好きにして良いと言われてる

……おれはジャックに食べて欲しかったんだがなァ…」

 

 

「レオヴァさんが…! な、なら おれが食いてぇ!」

 

 

「ふふ……よし、なら早速食べるか

どうする? フルーツナイフで切るか?」

 

 

「いや、かぶりつくんで大丈夫だ、です!」

 

 

 

 

悪魔の実を渡すと勢いよくかぶりついたジャックだったが、一気に顔が険しくなる。

 

 

 

 

「…ゥ"……不味ぃ…!!」

 

 

「ふはははは! 凄い顔だぞジャック…!」

 

 

「聞いてたがこんなに不味いとは思わなかった…です……」

 

 

「ふふふ……いや、すまない。笑いすぎたな…ふふ…」

 

 

「…レオヴァさん……」

 

 

 

複雑な表情のジャックを見てまた笑いが込み上がってくるのを感じながらも平静を保とうとする俺を周りの部下たちが物珍しそうに見てくる。

 

 

……つい大声で笑ってしまった…部下たちが近くにいるのを失念していたな………まぁ悪い印象にはならないだろうから良しとしよう!

 

 

気持ちを切り替え能力者になったジャックに声をかける

 

 

 

「ふぅ……で、どうだ?

能力者になったワケだが……一回試してみるか?」

 

 

「ああ…! 試してみたい!」

 

 

「なら、おれが相手しよう。

 あっち側に行くか。」

 

 

「はい…!」

 

 

 

 

 

その後ジャックの能力の確認の為に船から離れ

軽く試合形式で手合わせをしたが、やはりパワーとタフさが段違いに上がっていた。

 

 

 

一段落つき、船へ戻ろうとジャックに声をかけると困った様な顔……いや、マンモスだから表情は解りにくいが…おそらく困った顔をしたジャックに俺が首をかしげていると

 

ボソリとジャックが呟いた

 

 

 

 

「……戻り方がわからねぇ……」

 

 

「!? ふっ…ふはははははは…!!」

 

 

 

その、身に覚えがありすぎる呟きに我慢できず

また俺は大声で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

──なんてジャックの呟きに笑っていられた時が懐かしい

 

 

 

あれから2日たった今、俺はある島にて常識はずれな爺さんに絡まれていた。

 

 

 

「ぶわっはっはっは!!

なかなかやるのぅ小僧!海軍に入れ!」

 

 

「……断る…!」

 

 

「なら捕まえんといかん…のぅ!!!」

 

 

 

 

殴りかかってきた爺さんを素早く避け距離を取る。

 

そして爺さんが殴った地面が割れた。

…………いや、本当にデタラメなパワーだ…

 

 

なぜ、俺が変わった爺さん……

…もとい“英雄ガープ“に絡まれているのか

 

 

簡単なことだ。

 

 

俺とジャックがワノ国へ帰る途中に寄った島に運悪くも海軍が停泊しており、それを撃退したところ応援に来たのがガープだった。

 

 

本当にツいていない……

 

 

最初は子どもだからと油断していたので逃げられそうだったのだが、部下たちが俺を様付けで呼んだせいで疑いの目で見られ

挙げ句にアホな下っ端が口を滑らせたおかげで百獣のカイドウの“息子“だとバレた訳だ。

 

 

 

……あの下っ端……どんな罰にするか…

 

 

 

 

「戦闘中に考え事するヤツがおるかァー!!!」

 

 

「くっ……馬鹿力ジジィが……!」

 

 

「ジジィじゃと!? ぬおぉ~!

 “ガープさん“と呼ばんかあーー!!」

 

 

 

 

その後も爺さんは瓦礫の山を積み上げていった。

 

……正直、おれたち海賊よりも町に被害出してないか…?

 

なんてことを思いながらもどうやって逃げるか思案していると爺さんの動きが止まった。

 

 

 

「あ! そういえばワシ、センゴクに呼ばれとった…!」

 

 

しまった!という様な顔をした爺さんだったが、すぐに気を取り直したのか

 

 

「まぁ、忘れとったもんはしゃーないじゃろ。

……よし、ワシ本部に帰るから小僧も来い!」

 

とバカな事を言い始める。

 

 

「…は? いや、意味がわからないだろう……

 そもそも行く気もないしな。」

 

 

「ワガママ言うな!!

 まったく…なら、少し窮屈かもしれんが檻の中に入ってもらうしかないのぅ!」

 

 

じりじりと近寄ってくる爺さんに苛立ちを感じながらも雷を数発見舞う。

 

 

雷を避ける為に後ろに跳んだ爺さんに海兵が近寄る。

 

「が、ガープさん! 

センゴクさんからの電伝虫(でんでんむし)が!!」

 

 

海兵の言葉を聞いた瞬間苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

 

「えぇ~~。それワシが出なきゃダメ?」

 

 

「当たり前です!!」

 

 

「……出たくないのう…」

 

 

「駄々こねてる場合じゃないですから!」

 

 

 

爺さんの気が完全に海兵に向いていると思った俺は素早く獣化(じゅうか)しワノ国へ向けて飛び立った。

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

「わっはっはっは! 能力者だとは思ってたが動物(ゾオン)系だったか!」

 

 

飛び立って行く大きな鳥を見て

海兵は驚き、爺さんは豪快に笑っていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

~船の上にて~

 

 

 

 

ジャックは海楼石(かいろうせき)で縛られ、酷く項垂(うなだ)れている。

 

だが、それは拘束されているからではない。

 

 

敬愛している人が独りでデタラメな強さの海兵に挑んでいったから項垂れているのだ。

 

 

 

「……おれは…また、役に立てなかったッ……!!」

 

 

拘束された状態で壁に思いっきり頭を打ち付ける。

 

 

あの時、俺も共に闘うとジャックは言った。

 

だが、敬愛するレオヴァはまだ俺たちじゃ勝てないと言い

共に闘うことを許しはしなかった。

 

 

ジャックだって馬鹿ではない。

敵わないことくらい気付いていた。

ただ、全てを与えてくれた人の盾になりたかった。

 

……役に立ちたかったのだ。

 

 

全て、すべて自分が弱いせいだ。

レオヴァが簡単に殺られるとは思っていない。

 

だが、あの海兵に勝てるとも思えなかった。

 

 

ジャックはただただ己の弱さが憎い。

 

もう二度とレオヴァには会えないのだろうか……

そう考える自分がイヤだった。

 

しかし、その不安も仕方がないことだった。

レオヴァが皆を逃がす為に独りで海兵に挑んでから2日も経っている。

 

 

ジャックだけではなく、船に乗る誰もが通夜(つや)の様な顔をしている。

 

 

 

 

この船はまるで幽霊船の様だった。

 

 

 

 

彼が帰って来るまでは。

 

 

 

 

 

 

誰かが叫んだ。

 

「あ……あぁ! おい!!

 レオヴァ様だ……!!」

 

その声に船員たちは一斉に空を見上げる。

 

 

そこには光輝く黄金の鳥が太陽に負けない眩しさを放ちながら飛んでいた。

 

 

船内から物凄い音と共に海楼石に縛られたままのジャックが船尾へと飛び出る。

 

 

 

「レオヴァさん…!」

 

 

 

 

船の上で人の形に戻ったレオヴァが降ってくる。

 

 

 

「あぁ、ジャック。

俺が留守の間、航海は首尾よく行ってたか?」

 

 

レオヴァの服は所々、破れ汚れていたが

大きな怪我はないようだった。

 

その事にジャックと船員たちは安堵した。

 

 

 

「……航海は問題なかったです。」

 

 

「そうか…皆、ご苦労だったな。

ワノ国まで もう少しだ。頑張ってくれ。」

 

 

「あぁ…!」

 

「「「はいッ!」」」

 

 

柔らかい表情で船員たちに声をかけ、レオヴァは船内の部屋へと向かっていった。

 

 

 

幽霊船の様だった時とは違い、今は皆 活気に溢れている。

きっと、想定よりも早くワノ国に着くだろうと誰もが思った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

侠客と大名

日も沈み町が夜に覆われた頃。

二人の男が質素ではあるが綺麗に整えられた部屋に座している。

 

 

 

1人は大柄で、薄青色の炎のごとき髪を持つ男

 ───“花のヒョウ五郎”

 

 

もう1人は真っ黒な髪につり上がった眉が特徴的な男

 ───“大名 霜月康イエ”

 

 

 

二人は部屋で酒を片手に向き合っていた。

 

 

 

 

「……で、呼び出したって事は"例の件"か」

 

康イエが盃を口に運びながら問いかけた。

 

 

その問いかけに大きくゆっくりと相づちを打ち、答える

「おうよ。信頼の置ける奴らを数名送った。」

 

 

「そうか……それにしても随分早い。」

 

 

ヒョウ五郎は煙管(きせる)をふかすと一段声色を落とした

「おれも興味があった。

……編笠村の元締になった(わっぱ)にな。」

 

 

「やはりか。今じゃ何処の村も編笠村の"レオヴァ"の話を知ってるみてぇだ…」

 

 

 

「年端もいかねぇ(わっぱ)が元締めってだけで噂になんのに…

更には善政ひいて民から愛されてるとあっちゃなァ……気にならねぇ方が可笑しいってモンだ。」

 

 

「あぁ、その通りだな。子どもが仕切るだけでも信じらないってぇのに……

良い評判しかねぇと、ちょいと怪しく感じちまう。」

 

 

康イエの言葉が終わると同時にヒョウ五郎は自分の隣に置いてあった箱を投げ渡す。

 

 

「おれもそう考えた、怪しいってな。

……だが、まぁ結果は"ソレ"だ。」

 

 

康イエは受け取った箱を開くと中には報告書の様な紙の束が入っている。

 

一枚いちまい慎重に目を通す康イエを尻目にヒョウ五郎は静かに酒を煽った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

最後の一枚を読み終わり、康イエは動揺を隠せなかった。

 

 

「お、おい、ヒョウ五郎!

これは……これは本当なのか…?」

 

康イエはバッとヒョウ五郎に詰め寄る。

 

 

「本当だ……諜報に長けた奴もいた。

10人送って10人がその評価だ。

……信じざるをえねぇだろう!」

 

 

ヒョウ五郎も最初、その報告を受けた時信じられずにいた。

だが、送ったどの部下に聞いても返って来る答えは"編笠村を讃える"ものばかりであった。

 

嘘をつくような奴らではない。脅されてヒョウ五郎を裏切る様な部下でもない。

 

 

だからこそ、その報告を彼は信じたのである。

 

 

 

「こんな……年端もいかぬ若者が……本当に…

いや、いや、だが……」

 

 

「信じられねぇのはわかるがな…

だが、こりゃ悪い事じゃねぇ。

もしかしたら…その"レオヴァ"っつう(わっぱ)は……

……御天道様(おてんとうさま)が堕ちたこの国の新しい()になるかもしれねぇぞ。」

 

 

ヒョウ五郎の言葉に康イエは目を見開く。

 

「この若者が!?

違う。この国を照らすべき者は……"光月おでん"であろう!」

 

 

声を荒げた康イエから酒瓶に目を移し、深く溜め息を吐く。

 

「…まったく。らしくねぇな康イエ…

……確かに、おれも おでんに期待していた。

確かにあいつはこの国を統べる事ができるデケェ男だ。」

 

 

「なら、何故その若者のことを…その様に申すのだ!」

 

 

 

「…………いつだ?

いつ、おでんは立ち上がるんだ?」

 

 

「そ、それは……わからないが…

だが絶対におでんは立ち上がり、将軍の座につくはずだ!

あいつは、アイツはそう言う男だ…!」

 

 

 

「だろうな。奴はきっと立ち上がるだろうよ。

けどな……そりゃ何時になる?

今この時だってオロチの野郎に苦しめられてる町人たちゃ山ほどいる……!!

“いつか立ち上がる”じゃ、今生きてる奴らの苦しみはどうなるってんだ…!!」

 

 

康イエは言葉を失った。

そうだ、わかっている。自分の領地の民たちがどれほど辛いか。

だが、信じていたかった……おでんが将軍になる事が彼の今の心の拠り所だったのだ。

 

 

ヒョウ五郎の言葉は"白舞の大名(はくまい だいみょう)"には痛いほど刺さった。

しかし、"霜月康イエ"にとっては光月おでんの存在は大きかった。

 

 

きっとヒョウ五郎もそうだろう。

どうしようもない様なことを仕出(しで)かす男ではあったが、決して志に背くことをする男ではない……そう言う男が光月おでんだと

ずっと思っていた。今もそうであると願っていた。

 

 

ならなぜ、ヒョウ五郎はレオヴァを"ワノ国の(ひか)り"になるかもしれないと言ったのか。

 

 

…そう、ヒョウ五郎は誰よりも民を思っていた。

 

彼は弱きを助け強きに屈せぬ漢である。

 

 

組の者たちを、町の人々を思うが故に。

裸踊りをつづけ各里々を見回る"だけ"のおでんに不満を抱えずにはいられなかった。

 

何か理由があるとはわかっていても、それを話してくれない事にも不満が溜まる。

 

何故、おれに言わねぇんだ……!!

…おれじゃ力不足だってのか……

 

おでんに対する不満と

頼られない事、人々を助けられない自分自身にも不満を感じていた。

 

 

……矢先に"編笠村と鈴後"の噂を聞いたのだ。

 

 

その噂は嘘のような、夢の様な内容であった。

 

二つの村では人々は仕事にも食べ物にも困らず幸せに暮らしていると。

 

 

そして調べた結果、それは嘘ではない様であった。

 

 

不満を溜めていたヒョウ五郎にとっては渡りに船。

 

しかし、懸念があった。

そのレオヴァと言う少年は"百獣の息子"だったのだ。

 

 

悩みに悩んでいるところに、康イエからの頼み。

 

 

どうするかは康イエの話を聞いてからでも遅くはないとヒョウ五郎は考え今日(こんにち)に至る。

 

 

 

 

 

 

 

「康イエ……そろそろ身の振り方を考え直す時が来たんじゃねぇかと おれァ思ってる。」

 

 

「ヒョウ五郎…だが、な……

…こんな子どもに賭けるつもりか……?」

 

 

「まだ完全に決めたワケじゃねぇが、まずは会って話をする。

……少なくとも奴は工場と町の問題を解決した。

このワノ国でいま一番民の事を考えてんのはコイツだ……会う価値はある。」

 

 

「あぁ……この報告書通りならば…そうだろう。」

 

 

「ったく、腹決めろってんだ。

康イエ、おめぇは大名だ!民の事を考えなきゃならねぇ……!

報告書を疑うなら、おれと確かめに行く気概ぐれぇ見せな!」

 

 

ヒョウ五郎の言葉に康イエは力なく頷き、2人の男の"編笠村"行きが決まった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

農作業中の者や、漁帰りの者、チャンバラごっこをして遊ぶ子ども達。

皆、一様に笑顔であった。

 

 

農作業をしている母と息子たち。

4人は談笑しながらみずみずしいキュウリを収穫している。

 

漁帰りの年長者と若者は自慢げに村娘たちに収穫を見せていた。

 

チャンバラごっこをする子ども達は健康的な年相応の笑顔を周りに振りまいている。

 

 

 

 

求めていた理想が其処にはあった。

 

 

編笠村に足を踏み入れてから、ヒョウ五郎も康イエも驚きに言葉を出せずにいた。

 

 

そんな時、小さな女の子が康イエに近づいて来た。

 

「おじさん、はじめて みる わるいひと……?」

 

 

「え、あぁ。商人のヤスってんだ。

レオヴァって人に会いてぇんだが。」

 

 

康イエは変装していた。

大名である康イエが、このご時世に表立って他の里に行くのは不味いからである。

 

 

対して、ヒョウ五郎はそのままであった。

 

その為、彼を見てざわざわし始める町人たちが多くいたのだが……彼はどこ吹く風だ。

 

 

 

 

 

「むぅ~ おじさんたち わるいひとだ

 れおう"ぁさま は わたしが まもる!」

 

子どもは枝を構えながら答える

 

 

すると其処へ母親らしき人影が走り寄る。

 

 

「あぁもう、この子ったら!」

 

母親は女の子を抱き抱えるとヒョウ五郎に向かい頭を下げた。

 

「すみません!

花のヒョウ五郎さま、商人のおひと!」

 

 

 

慌てた様に康イエが返す。

 

「おっと、奥さん!そんな、謝らんでください。」

 

「はっは!元気なのは良いことだぜ。」

 

 

頭を下げる母親を康イエが宥め、ヒョウ五郎は元気な女の子につい頬が緩む。

 

 

 

 

ひと悶着あったが、ヒョウ五郎と康イエはレオヴァの居場所を聞くことが出来た。

 

なんでもレオヴァは仕事終わりの職人たちと話をしに行くらしい。

 

職人とはいえ、身分はただの町人。

わざわざ元締めであり、この国の後ろ楯でもある"カイドウ"の子息が足を運ぶとは…と、二人はまた驚くのである。

 

 

 

武器工場へ向かう二人はその途中の自然にも驚いた。

 

澄んだ水の流れる川、青々とした葉、鮮やかな花。

 

まるで昔のような……いや、昔よりも整備され整えられた美しい自然。

 

工場の近くであるにも関わらずしっかりと根付く自然には舌を巻かざるを得なかった。

 

 

 

「なんとも……」

 

「……なんだって工場の近くでこんなに綺麗な景色がみられるってんだ…」

 

 

康イエは自然の美しさに言葉を詰まらせ

ヒョウ五郎は自然が保たれていることに驚きを露にする。

 

 

「……これも、レオヴァって若者に会えば謎が解けるかね…」

 

「どちらにせよ、会わなきゃ始まらねぇさ。」

 

 

二人は暫し止めていた足をまた、工場へ向け動かしたのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

工場内の食堂は賑わっていた。

 

 

ガヤガヤと1つのテーブルを囲むように職人たちの人集りが出来ている。

 

 

 

 

「レオヴァ様!おれの考えた新しい武器のことなんだが……」

 

「おれの嫁さんがついに三人目の子どもを授かってよぉ!」

 

「最近、腰が悪くてのぅ……レオヴァ様が前にして下さった"低周波治療"をお願いしたいんじゃが…」

 

「昨日うちのガキが足首を怪我しちまって……レオヴァ様の前に田中家のばぁさんにやってた不思議な力で治りを早くしてもらえねぇですかね……痛そうで見てらんねぇんス…」

 

「工場で使ってる工具で古いのが増えて来たんで新しい工具をお願いしたいです!」

 

 

 

次から次へと投げ掛けられる提案や頼み事を

中心にいるその若者は嫌な顔をするどころか

一つ一つ丁寧に答え、対応している。

 

 

 

「おぉ!その発想の武器は今までなかった。

 ぜひ、試作品を作ってくれ。」

 

「三人目か、めでたいな。

祝いにお前の嫁の好物をいくつか送ろう。」

 

「じぃさんは良くやってくれている。

この後にでも時間を作るから腰の痛みは心配しなくていい。」

 

「子どもが怪我を…? それは大変だったな…

怪我の度合いによっては電気療法だけでなく、治療もおれが請け負おう。」

 

「そうか。確認でき次第、新しい工具を手配しよう。

お前はいつも細かい所に気付き教えてくれる、感謝しているぞ。ありがとう。」

 

 

その若者は微笑みながらどんどん要望を解決している。

 

 

 

工場の入り口で会った職人に案内を受け、その場に遭遇したヒョウ五郎と康イエは目を丸くしていた。

 

 

 

 

「おいおい、あの歳でアレか……?

(わっぱ)のくせに随分大人びた態度と話し方じゃねぇか…」

 

 

ヒョウ五郎の小さな呟きに案内していた職人が食ってかかる 。

 

「なんだァ…? いくらヒョウ五郎親分さんだってレオヴァ様のこたぁ悪く言うのは許せねぇ!」

 

 

今にも掴みかかりそうな職人に康イエが慌てて謝る 。

 

「おっとと、兄さん悪いね!親分も悪気はないんだ。

ただ、裏の人だから言い方が良くなくてね……

……あの坊っちゃんは若いのにすげぇって言う意味さ!」

 

 

康イエのフォローに職人は爆発しかけた怒りを収める。

 

「なんだぁ!ヒョウ五郎親分!誤解しちまって悪ぃな~…

そう、レオヴァ様はスゲェのさ!おれらも最初はまだ若いあの人に不安を持ってたんだが……レオヴァ様はその不安を態度と行動で消し去って下さったんだ!」

 

熱く語り始めた職人の下へ食堂で話をしていた別の職人が近寄って来た。

 

 

「おい、与助! レオヴァ様からのお酒お前も貰うだろう!」

 

「え、レオヴァ様からの!?

おうおう! 貰うに決まってるってんだ!

…じゃ、ヒョウ五郎親分に商人さん、案内したからおれはこれで。」

 

 

二人は本当に嬉しそうにレオヴァの方へと走って行ってしまった。

 

 

 

残された二人は顔を見合わせた。

 

「……どうする康イエ。

声をかけるにもあんなに楽しそうにしてる職人たちを退かすのも忍びねぇ」

 

「…そうだな…これは終わるまで待つしかなかろう。」

 

 

 

二人は職人たちの笑い声や談笑が終わるまで近くのテーブルで待つことにしたのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あれから数十分。

やっと人がまばらになって来ていた。

 

康イエもヒョウ五郎も待つ時間は苦ではなかった。

 

それは食堂の設備の良さもあるかも知れないが

何よりも活気に溢れる彼らを眺めていると昔を思い出すからだ。

 

今のように苦しみ笑うことが出来ない人々や、日々死と向かい合わせに働かされる人々。

 

その現実を忘れさせる様な光景だった。

 

だから二人は数十分という(とき)が苦ではなかった。

 

いや、そもそもあっという間過ぎて待ちくたびれるという気持ちにならなかったのかも知れない。

 

 

 

 

二人が夢うつつの様な心持ちでいると、中心にいた若者が周りに声をかけながらも

此方へと歩み寄って来ていた。

 

 

 

 

「お初お目にかかる。

随分と待たせてしまい申し訳ない。

 おれに用と聞いたんだが……?」

 

若者は軽く挨拶をすると会釈し、此方を真っ直ぐに見つめてくる。

 

 

 

ヒョウ五郎と康イエは若者の平凡と言い難い雰囲気に喉を鳴らしたが、すぐに会談の場を取り付けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

会談と思惑

恐ろしい誤植してました……
誤字脱字報告感謝です!


あまり広くはないが手入れの行き届いた部屋に三人は向かい合うように座っている。

 

 

 

「レオヴァさま、お茶です!」

 

こどもが盆に三つの茶飲みを乗せ部屋へ入って来た。

 

康イエはその子の、お茶を一生懸命に運ぶ たどたどしい様子にハラハラさせられていたが

子どもはなんとかレオヴァの下へ茶飲みを届けた。

 

 

「ありがとう。

そうだ……この菓子を後で妹と食べるといい。」

 

レオヴァは柔らかい笑みを浮かべながら礼を言うと、袖から金平糖(こんぺいとう)の入った箱を子どもへ渡した。

 

 

「やった! 妹とたべるね!

ありがとうレオヴァさま~!」

 

子どもは菓子箱(かしばこ)を受けとりお辞儀をすると嬉しそうにスキップをしながら部屋から出て行った。

 

 

 

 

「……酒ではなくて申し訳ないが…」

 

そう言いながらレオヴァは盆の上の茶をヒョウ五郎と康イエの前に置く。

 

 

茶からは上品な落ち着く香りが漂っている。

 

 

「いや、茶も好きでな。ありがたく頂こう」

 

康イエは手を軽く上げ、気にするなと示す

そして良い香りの茶に口をつけた。

 

 

「…おぉ…! これはまた……」

 

茶を飲み感激する康イエを見てヒョウ五郎が片眉(かたまゆ)を上げる。

 

「おいおい、なんだ? 茶がどうかしたのか?」

 

「ヒョウ五郎、お前もひと口飲んでみろ!

今までの茶だと思うと腰抜かすぞ!」

 

(いぶか)しむヒョウ五郎だったが、確かに茶からは良い香りがする。

 

そして、ひと口飲むとヒョウ五郎も目を見開く。

 

「はっはっは!こいつぁ美味い!」

 

 

「言っただろう!この(しっか)りとした茶ならではの旨み……いやぁ…こんな美味い茶は初めてだ」

 

「旨みもそうだが、飲み終わった後の程よい苦味が良い!

これぞ茶だろう、おれぁ気に入った。」

 

 

「だが一体、こんな茶を何処で手に入れたんだ?」

 

「そうさな……茶を作ってる場所なんざ()うの昔に無くなっちまったと思ってたんだが。

若造!こりゃ何処で手に入る?」

 

ヒョウ五郎と康イエがぐっと身を乗りだしレオヴァを見つめる。

 

 

「その茶は、この編笠村で作ってる。

買い取りたいってんなら茶畑の婆さんに、おれから話をつけよう。」

 

 

「ここで作ってる?」

 

「編笠村で茶を作ってるなんざ聞いたこたぁねぇぞ」

 

驚きを露にする二人にレオヴァが説明をする。

 

 

「実は土地を取られた茶葉農家がこの町に来てな……

今は彼らは野菜を作っているが、その合間に茶の栽培も少ししていたらしく、採れた葉で茶を淹れてくれたんだ。それ以来すっかり茶にハマってしまってな。

本人たちも"お茶"に誇りが有るようだったし少し所有地を増やして茶の栽培も出来る様にした…って訳なんだ」

 

 

「……そうだったのか…土地を追われた者たちの……」

 

「そりゃ茶農家も喜んだだろうなァ……」

 

 

レオヴァの説明に二人は深く頷いた。

 

 

「にしても土地を増やしてやるたぁ太っ腹だな

ほかの村人たちゃ文句言わなかったのか?」

 

 

康イエはヒョウ五郎の意見ももっともだと腕を組んだ。

 

「編笠村の領地は決まってる。新しく土地をやるにも他の町人の土地を渡さなきゃならんだろう?

……どう意見をまとめたのか是非聞きてぇもんだ。」

 

 

「いや、二人が考えてる方法で土地を渡した訳じゃない。

この編笠村は領地の大半が竹で覆われているだろう?

だから少し整地して住んだり、畑作(はたさく)に使える割合を増やしただけだ。」

 

 

ヒョウ五郎と康イエはなる程、と納得のいったような顔で頷く。

 

「そう言う事だったか。」

 

「ははは!確かにここはデケェ竹に囲まれてるからな」

 

 

「疑う様な聞き方をして悪かったな……おれはてっきり無理に領地を分けさせたのかと…………いや誤解だった…」

 

申し訳なさそうにする康イエにレオヴァは少し眉を下げた。

 

「頑張ってくれてる皆から奪うような真似はしたくない。

それに誤解されても仕方がないだろう。

…………実際、オロチはそう言うやり方をしているらしいしな…」

 

(うれ)うような顔をするレオヴァにヒョウ五郎が切り込む。

 

 

「…そうだ。あの馬鹿はてめぇの事しか考えずに好き放題やってやがる。

だが、今日この村に来てお前がオロチとは違うやり方で村をまとめてるのを見た。

この村の者たちが幸せなのは揺るぎねぇ事実だ。」

 

 

その言葉に康イエが続ける。

 

「ヒョウ五郎の言う通りだ。

この村は昔と変わらず……いや、昔以上に平和で豊かだ。

……なぜだ? オロチは何も言わねぇのかい?」

 

 

「それだけじゃねぇ、お前自身の考えもわからねぇ。

……余所者の若造が村を平和に保つ事になんの利がある?

邪気は感じねぇ……だが腹が読めねぇ

はっきり言おう、おれぁお前を見定めに来た!

腹をわって話してぇ……本音で、だ」

 

 

覚悟を纏った男の気配に怯むことなく、真っ直ぐとレオヴァは向き合う。

 

 

「そうか…わざわざ大物がおれに会いに来たんだ

なにか理由があるのはわかってた。

………おれも本音で話そう。なにより貴殿(きでん)らに嘘は通じないだろう?

 全てに答えよう、何から聞きたい?」

 

 

レオヴァのこの言葉で三人の本当の対談が始まった。

 

 

 

 

「まず、何故村に良くするのかが聞きてぇ」

 

 

「…逆になぜ酷くしなければならない?」

 

 

「……答えになってねぇぞ」

 

 

「んん……言葉にするのは難しいが、おれは村の管理を任されている。だから村の"為になる"事を成すのは当たり前じゃないのか?」

 

 

「ほう……お前さんはそう言う考えなのか」

 

「…欲がねぇって事か」

 

 

「いや、欲はある。おれも人だからな…

しかし、だからといって皆から無理やり搾り取るのは違うだろう。」

 

 

「その考えにゃ おれも賛成だ。」

 

 

「……だがなぁ…オロチはお前さんのやり方に反発してこねぇのかい?」

 

 

「…………まぁ、文句なり邪魔したりと色々と妨害はあるな…」

 

レオヴァは奴には心底疲れたと言う様な顔で溜め息を吐いた。

 

 

「……ずいぶんと苦労してるみてぇで…」

 

「逆らっても首が飛ばねぇとは」

 

 

「おれは奴よりも、奴の配下よりも強い。

…まぁ…奴が手を出せないのは"百獣の息子"という肩書きのせいだろうがな」

 

 

「そうだった。お前さんカイドウの息子だったなぁ…」

 

「遠くから見たこたぁあるが……若造…お前あんまり似てねぇなァ……」

 

 

 

ヒョウ五郎の言葉で初めてレオヴァの表情が陰った。

 その顔を見て二人は驚く。

 

 

「……似て…ないか……確かに猛々(たけだけ)しく頼りがいのある父さんと比べるとおれは……」

 

 

先ほどまでとはうって変わり、酷く悲しそうな表情のレオヴァに一人は狼狽え一人は笑った。

 

 

「はっはっはっは!!なんだ小僧、気にしてたのか!」

 

ヒョウ五郎は思わず笑ってしまった。

先ほどまで子どもらしさの欠片もなかった少年が、父親と似ていない事に分かりやすく不満を表している。

 

完璧に感じた少年の人間らしさに笑わずにはいられなかったのだ。

 

 

しかし笑われたレオヴァは対照的に、ムッとした顔でヒョウ五郎を見る。

 

「……笑うことはないだろう…誰にでも悩みのひとつや二つあるものだ

………はぁ、この話はいい……他に質問は?」

 

 

「なんだ、いじけるな小僧!

いいじゃねぇか、人間味がある!

なんでも完璧すぎて得体が知れなかったが、なかなかどうして可愛げがあるじゃねぇか」

 

 

「まったく……ヒョウ五郎!

あまりからかってやるな!……だが、意外ではあるな。

と、まぁ次の質問だ。工場での労働内容が聞きてぇ」

 

 

レオヴァはいまだケタケタと笑うヒョウ五郎の言葉を無視し、康イエの質問に答える。

 

 

「編笠村と鈴後の工場では7時間労働、間に1時間昼休憩。午前10時開始の午後6時終わりだ。

少し長引く日もあるが、その場合は長引いた時間の給金(きゅうきん)が出る。

そして、一週間のうち5日作業の2日休みで、有給休暇(ゆうきゅうきゅうか)がある。」

 

 

二人は目を白黒させる。

 

「んんん?仕事の時間がきっちり決まってんのか……いや、そもそもなぜ長引いた分も給料がでる?

それに昼休憩に1時間……20分ありゃ飯は終わるだろう?」

 

「いや、それもそうだが……"ゆうきゅうきゅうか"とは聞き慣れん言葉だ……」

 

 

「うちは歩合制ではなく時給制なんだ。」

 

 

「あぁ…駄目だ。ちょっと待て。

聞き慣れん単語が増えすぎて意味がわからねぇ…」

 

「ぶあいせい?……じきゅうせい?」

 

 

「歩合制は出来高によって給料がかわる。時給制は時間で決まった給料が貰える制度だ。」

 

 

「……ほう。歩合制は商人や農家のような感じか?」

 

「まぁ、そんな認識でいい。」

 

 

「ん?……じぁあ歩合制のがいいじゃねぇか?

やったらやった分だけ稼げる訳だろう?」

 

 

「確かにやった分だけ稼げるが、その分安定しない。

出来が悪ければ給金にならないし、質を良くするよう努めたら給金も上がりづらくなるだろう」

 

 

「……時給制ならば上がりやすいと?」

 

 

「あぁ。時給制に加え、昇給制度(しょうきゅうせいど)もある。

工場に勤めたばかりの新人職人と経験の多い職人が同じ給料だとおかしいだろう?」

 

 

「なるほどな……熟練度(じゅくれんど)で稼げる金額も変わるわけか」

 

 

「そうだ。昇給制度があれば極めた分だけ給料は上がる。

それに時給制なら極める間も安定した給金があるから生活にも困らない。

武器作りも私生活も楽しく過ごせることが一番だろう」

 

 

ヒョウ五郎も康イエも感嘆(かんたん)の声をあげる。

 

 

「……ふむ…理想形だな」

 

「小僧のいう政策は働く者からしたら楽園みてぇな考えだ…!」

 

「ヒョウ五郎の言う通りだ。

…しかし、それだけ手厚い対応をしてお前さん達に利益は出ているのか…?」

 

 

「勿論だ、利益は出ている。ワノ国の職人は(みな)素晴らしいからな。

あれだけの出来なんだ売れないハズがないだろう?」

 

 

「ワノ国でも編笠村の工場の武器は随一だって聞いてる。

……職人の給金を減らせばもっとも利益がでるだろ。

なぜ、手厚い対応を続けるんだ?」

 

 

「そりゃ職人がいるから質の良い物が出来るんだ。

ならば、その職人達を尊重(そんちょう)するのは当たり前だろう。」

 

 

「そうか……そうだな。」

 

康イエは嬉しそうに微笑み、頷いた。

 

 

「なら村人たちに良くするのはなぜだ?」

 

 

「農家は生活には欠かせない存在だ

村の発展において一番重要だとも言える。

そして、村人たちの殆どが農民だ。

…重要な存在を大切にするのは当然だと思わないか?」

 

 

「農民からは大きな利益は出ねぇだろう?

 ……それでも重要だと?」

 

 

「食料がなきゃ餓死(がし)する。

それを防げるだけで既に重要な存在なのは言うまでもないだろう。

それに特産品を作れば利益もでるさ……さっきの茶のようにな」

 

 

ふっと笑って見せるレオヴァに二人はハッとしたように自分の手前にある茶飲(ちゃの)みを見る。

 

 

「……まったく…本当に敵いそうもないな

その歳でここまで経営力があるとは……」

 

 

「ただの小僧じゃねぇことは良くわかった!

……会ったら絶対に聞きてぇと思ってた事がある

 お前の目的だ。」

 

 

「おれの目的…?」

 

 

「そうだ。小僧が村を良くしていってるのは十分見たし、聞かせてもらった。

だが、理由がねぇ。利益を理由にするなら小僧のやり方は不自然だろ?

細かい所を切り詰めりゃもっと利益が出せるんだ。

……例えば工場の近くの自然とかな。あれの整備にも金はかかってるだろ?

そりゃ住む村人にとっちゃ大切な自然だ……けどな、そんなこと余所者には関係ねぇはずだ。

……おれぁ…小僧のやってることの理由(ワケ)が聞きてぇんだ」

 

 

「ヒョウ五郎の言う事、一理(いちり)ある。

おれもお前さんが何故ここまで編笠村と鈴後(りんご)を大切にしているのかが解らん。

善意……とはまた違うのだろう?」

 

 

 

二人は此処に来るまで疑っていた。

だが来てからは此処の素晴らしさに心打たれた。

 

そして、対面した少年レオヴァと話した印象は良かった。

彼は上に立つ者としての素質があるように見えた、それに人格者のようだった。

 

民を思う心、父を慕う純真

そして少し垣間見(かいまみ)えた子どもらしさ

 

二人は彼を"慕って"しまいかけている。

 

 

 

しかし、二人の経験から彼へ疑問が浮かぶ。

 

彼がどんなに素質のある人格者でもワノ国の人間に良くする理由がない。

 

管理を任されていても彼は"あちら側"の人間だ。

わざわざ将軍に睨まれてまで村を大切にする必要があるのか?

 

彼の政策は村人にとって良い事も多いがちゃんと利益が出る仕組みになっている。

そこから汲み取れるのは彼が人格者でありながら合理的な思考もしっかりと持っている人間であると言う事。

 

果たして"合理的な人間"が"善意"で動くのか……?

 

それが二人の疑問であった。

 

 

二人の問いかけに暫し沈黙したレオヴァだったが、

一口茶を飲むと話し出した。

 

 

 

「二人の言いたいことは理解しているが…

……納得させる自信はないぞ?」

 

 

「構わねぇ、おれぁ知りてぇだけだ」

 

「あぁ、納得したい訳じゃないんだ」

 

 

二人の返答にレオヴァは それならばと頷いた。

 

 

「まず、1つがおれ自身がワノ国の文化を気に入ってる事。

そして2つ目は……父さんの役に立ちたいからだ。」

 

 

思っていた返答と違い二人はきょとんとしてしまう。

 

 

「……気持ちは解るがそんな顔をしないでくれ…

……おれは父さんの喜ぶ顔がみたいんだ」

 

 

「父親……カイドウの為か」

 

 

「あぁ、父さんの為になるなら おれは何でもやるつもりだ」

 

「いや、おれたちが聞きてぇのは……」

 

 

「動機が聞きたかったんだろう?

本音で話すと約束したからな……この際だ、はっきり言おう…おれの行動原理は基本、父さんだ。」

 

 

レオヴァの主張にさらに二人は混乱する。

 

 

「いやだから、何故そうなるのかが聞きたいんだ!」

 

「……カイドウがそれを望んでるってことか?」

 

 

「いや、父さんは村の事については完全におれに任せてくれている」

 

 

「じゃあ、やはりお前さんの父親の役に立ちたいって気持ちと村を大切にする事に繋がりは無いんじゃないか…?」

 

「おうよ、それじゃ答えになってねぇ」

 

 

「そうだな、すまない。少し言葉足らずだった。

……少し語弊があるが…分かりやすく言うならば

父さんから預けられたものを大切にしている感覚…だな」

 

 

「あー……さっきよりかは分かりやすいな」

 

「……ふむ…確かにそれなら理由にはなる…か?」

 

 

「もちろん他にも理由はあるぞ?

ワノ国特有の文化や風景が素晴らしかった事

それに住む人々も真っ直ぐで好感が持てた。

……包み隠さず言うなら……気に入ったから大切にしている…という所だ」

 

 

「ワノ国が気に入ったから良くしてるってことか……

普通なら納得できねぇ!……と言う所だが実際、本当に良く村をまわしてるからな…」

 

「変な所で子どもらしいと言うか……だが嘘をつく理由もないか」

 

 

レオヴァの"理由"に二人は" 各々の解釈 "で納得していた。

 

 

 

 

「……腹を割って話す場だからこそ、おれも聞きたい事がある」

 

レオヴァは二人の目を見て再度言葉を発した。

 

 

「ヒョウ五郎親分、康イエ殿

……おれと共にワノ国を変えてはくれないだろうか?」

 

 

 

突然すぎる申し出に二人は息を飲む。

 

 

「おいおい、また突拍子もねぇ…!

……おれにお前の下につけってのかァ……?」

 

ヒョウ五郎は一段下げた声でレオヴァに睨みを利かす。

 

 

「……まったく話が見えんな」

 

康イエは静かに目を閉じ、腕を組む。

 

 

 

「おれの下に付いて欲しい訳じゃねぇ、"共に"今の現状を変えて欲しいんだ

……正直オロチのやり方は目に余る。

事実、おれのやり方でオロチを上回る結果が残せてるんだ

民を(いたずら)に苦しめる政策を続けさせるのは百獣海賊団にとっても不利益かつ不合理だろう」

 

 

 

レオヴァをじっと睨むように見つめたままヒョウ五郎が問う。

 

「……小僧…もし、もしてめぇが国を仕切る事になったら編笠村や鈴後にしたように……利益だけじゃなく、民に利になる政策をとれるのか…?

……仮にだ…民の為になる政策をとるなら、小僧にとっての利益はなんだ?」

 

 

「いや、元より おれが国を仕切るつもりはない。

だが、あらゆる素晴らしい文化をこのまま悪政(あくせい)で失うのは惜しい…!

そして、おれにとっての利益はワノ国の存続(そんぞく)だ」

 

 

「ワノ国の存続……?」

 

「……ワノ国が滅びる…と言いたいのか?」

 

 

「少なくともこのまま民を(ないがし)ろにし続ければ遅かれ早かれ国は終わる。

……民が豊かになれば国も栄える…逆も然りだ。

なにより、国とは民があってこそ。

それを忘れた者に上に立つ資格などない……とおれは考えている。」

 

 

「………………」

 

 

「……お前さんの意志はわかった。

…なら何故ワノ国の存続が利益になる?」

 

 

「逆に考えてくれ。

ワノ国がなくなる事は百獣海賊団にとって損失なんだ、なんたって今ある利益が出なくなる訳だからな」

 

 

「ふむ……存続し続ければそれが利益になると

……確かにその通りだ。」

 

 

「……で、どうだろうか。

おれは百獣海賊団の…父さんの為に現状を変えたい。

そして、ワノ国の文化に惚れ込んだ者として民を守りたい。

ヒョウ五郎親分、康イエ殿……この件について考えてくれるだろうか?」

 

 

「……今ここで答えを聞かぬのか」

 

 

「簡単に答えが出せる内容ではないだろう?

……おれも唐突すぎたとは思っている」

 

 

「…何故おれらに声をかけた…?」

 

 

「民を思い、今に不信を抱いているからだな」

 

 

「……会ったばかりで分かるもんか?」

 

 

「ふふ……少なくとも民の為、希望の噂を確かめようと罠かも知れない場所へたった二人で来るような人達だ。

本当に皆を大切に思って居ないと出来ないことだろう?」

 

そう言うと二人を見て、柔らかくレオヴァは微笑みかけた 。

 

大人のような子どものような不思議な雰囲気だった。

 

 

 

二人は押し黙る。

 

一人は強く腕を組み下を向いている。

もう一人はじっと見定める様にレオヴァを見ていた。

 

 

 

長い沈黙の後に、二人は後日(ごじつ)また会い答えを返すと約束し帰って行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

侠客(きょうかく)と大名が居なくなった部屋で茶をすする。

 

 

今回、二人が俺に会いに来るだろう事は事前に判っていた。

 

何故なら、少し前に花の侠客が放った者たちが来て俺のことを嗅ぎ回っていたからだ。

 

そして、大名である男が花の侠客と繋がっていることも大方予想通(よそうどお)りだった。

 

 

 

あの男たちが現状に不満や焦りを感じているのは火を見るより明らかである。

 

 

 

大名の土地は荒れてゆき、民は飢え始めた。

なのに信じる"王"は何も言わず踊るのみで不安も不信も増すばかり。

だが、大名は信じる他なかった……それだけが希望だときっと信じ込んでいるのだろう。

 

侠客(きょうかく)の周りは華やかだろう、なんたって"花の都(はな みやこ)"だ。

だからこそ、貧困と飢餓に(あえ)ぐ者たちに何も出来ない事が自分の無力を突き付けられ…男を酷く苦しめたのだろう。

 

 

いくらワノ国の侍と言えど、その信頼を揺らがずに保つには希望が薄すぎた。

 

 

 

何も不自由(ふじゆう)の無かった国では"おでん"はきっと輝いて見えていたのだろう。

 

強さ、探求心、行動的な性格、人情の厚さ。

 

 

だが、飢餓(きが)(うめ)く人々にとってはどうだろうか?

 

 

オロチを倒せぬ者の"強さ"など当てになるか?

 

世界をみたいと言う"探求心"から(よど)みゆくワノ国に背を向け、海に出た男を信じられるか?

 

"行動的"であるが故に、考えなしな男に(まつりごと)を任せられるか?

 

 

答えは、(いな)だろう。

 

 

おでんは人情厚いが故に、泥を全て自分(ひと)りで被り続け……そして守りたかった民たちに見限られるのだろう。

 

 

 

 

だが、俺は油断するつもりはない。

 

俺の記憶では、おでんは父さんに並ぶ強さだった。

 

ならば、俺がある程度削る事が出来れば間違いなく父さんの圧勝で終わるだろう。

 

……おでんの影を父さんに残す事だけは避けたい…!

 

 

 

だからこそ新しい人材確保の為、花のヒョウ五郎と大名康イエが俺の下へ来るように噂を流させたのだから。

 

 

本音が6割、嘘が4割。

 

父さんの為に国を良くしたいのは本音だ

そして"役に立つ"ワノ国の民を減らしたくない事も。

 

本音でも言い方を変えるなり、曖昧(あいまい)に伝えるなりすれば"勝手(かって)に"相手が都合の良いように解釈するだろう。

 

そうしたら俺は相手の望む姿を見せる。

 

今回で言うならば、民を思う人格者でありながら皆の利を考えられる者……と言うように。

 

 

 

 

結果は成功とは言えず…失敗とも言えず……だろうか。

 

 

 

おそらく、1人は俺と来るだろう。

信じた王に限りをつけて、人々の為になるならと。

 

しかし、1人は俺と来ないだろう。

昔の輝きを……過去の幸せな記憶を裏切れずに。

 

 

 

 

決戦まで……あと一年と少し。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

共に歩むは…

誤字報告ありがとうございます!

感想もニッコニコしながら読ませて頂いております!


男は酒を片手に庭園を眺め、待ち人の到着までの時間を過ごしている。

 

 

共に歩むと決めてから早1年。

 

 

まるで祖父と孫の様に仲が良くなった二人は度々時間を設けては様々なことを語らい、時には外へ(おもむ)き人々を助けたりなどして過ごした。

 

 

そして、今日は"ある恒例行事"と化した事を成すため、男は縁側(えんがわ)で待っていた。

 

 

 

 

ゆったりとした時間を過ごす男の耳に、二人分の早足に歩いてくる音が届いた。

 

 

襖の向こうから声がかかる。

 

 

「レオヴァ様が到着しやした…!」

 

 

「そうか、入れてくれ!」

 

 

男の許可を得て、屋敷の者が襖を開く。

 

そこにはいつも通り子どもとは思えぬ佇まいの少年が立っており、軽く手を上げ挨拶をした。

 

 

「ヒョウ爺、久しぶりだな。

 かわりないか?」

 

心地いい声と優しい表情にヒョウ五郎もつられて笑顔で返す。

 

「はっはっは!久しぶりだ!

おおう、変わりねぇさ。 お陰さまでな」

 

 

レオヴァは上機嫌に返された言葉にそうか。と頷くと当然の様に縁側で座るヒョウ五郎の隣へ腰掛けた。

 

 

 

「それで……今日もまた九里へ行くのか?」

 

「あぁ、もちろん今日も行く。

 おでんと話がしたい。」

 

「……はぁ、まぁレオ坊が行くってんなら、おれも行くがよォ…」

 

 

 

ヒョウ五郎は大きな溜め息をついたが、止めることはしない。

レオヴァの(おこな)いに間違いはないのだから、きっと重要なことなのだろう。とヒョウ五郎は渋い顔をしながらもついて行く。

 

 

 

 

 

 

彼が渋い顔をするのにも訳がある。

 

 

それはヒョウ五郎がレオヴァと共に歩むと決めてから半年ほど経った時だった。

レオヴァがおでんに会いたいと言い出したのだ。

 

 

『ヒョウ五郎……おでんと話がしたいのだが…付いてきてくれないだろうか?』

 

 

そう神妙な面持ちで告げたレオヴァに理由を聞くと

 

 

『オロチなき後、将軍として上に立つなら おでんと言う男が相応しいんじゃないかと思ったんだ。

……なんせ康イエが仕え続ける男なんだ、きっと器の大きな男なのだろう。』

 

 

と、自分の話を無下にした康イエを買うような言動であったため多少驚いたが、ヒョウ五郎もおでんとレオヴァが組めば直ぐにでも国を取り戻せるのではないかと希望を抱き、九里へ向かった……

 

 

 

─── だが、結果は失望であった。

 

 

わざわざ土産を持ち(みずか)ら出向いたレオヴァに対して、おでんは門前払(もんぜんばら)いしたのだ。

 

 

この国の後ろ楯でもあるカイドウの子息に対して、大名としてあまりにも(よろ)しくない対応である。

 

 

ヒョウ五郎は憤慨(ふんがい)し、()めるレオヴァや門番を押し退け城から出てこない おでんの下へと向かった。

 

 

止めようと掴みかかって来た錦えもんとカン十郎を引きずりながらも襖を壊さん勢いで開けると

そこには一人静かに外を眺めるおでんの姿があった。

 

用事があるようにも見えぬその姿にヒョウ五郎は(まく)し立てる様に何故会わないのかと詰め寄る。

 

 

しかし、おでんは

『あいつにゃ、会わん……帰ってくれ』

 の一点張りである。

 

 

理由も言わぬ おでんにヒョウ五郎が刀を抜きかけた時、後を追ってきたであろうレオヴァが止めに入った。

 

『ヒョウ五郎!

 ()せ、なにをするつもりだ…!!』

 

その強い声に思い止まる。

 

 

 

非礼をレオヴァが謝罪するもおでんは答えることはない。

 

ただ

『……話すことはねぇんだ、帰れ』

と突き放すのみ。

 

 

それにレオヴァは

『すまなかった、礼を欠いた…

 ……また、会いに来る』

とだけ言い残し、怒りのおさまらぬヒョウ五郎を連れ帰ったのだった。

 

 

 

その後も月に一度のペースで土産を手に会いに行くレオヴァだったが、やはり全て門前払いという結果である。

 

 

そう、だからこそヒョウ五郎は苦い顔をするのだ。

 

 

 

おでんはもう駄目だ。視野の広さや器のデカさを買っていたヒョウ五郎だったが、ここ1年ほどの おでんからは昔の輝きは感じられなかった。

いや、むしろレオヴァと出会い共に歩み始めてからは、考えもなしに好き勝手やるただの我が儘な男にすら見えてきていた。

 

 

もし仮におでんが将軍になったとしても俺はレオヴァにつく。そう考えるヒョウ五郎にとって九里へ行くのは無駄足(むだあし)の様に感じているが

他の誰でもないレオヴァの望みならば叶えねばならぬと、"おでんはもう、要らんだろう"と言う言葉を飲み込んでいたのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

二人はヒョウ五郎の部下を数名だけ連れ、九里へと来ていた。

 

 

町へ入るとレオヴァの周りに人だかりができる。

 

 

「あ、レオヴァ様じゃないですか…!

この前はありがとうございました。

あの薬のおかげで……娘はすっかり元気に……!」

 

「おぉ……レオヴァ様じゃ……!

あの治療をして頂いてから体の調子がよくてのぅ

お陰さまで孫たちの面倒をみれて幸せじゃあ!」

 

「レオヴァさま~、あそぼ~!」

 

「れ、レオヴァさま!

実はここ最近、畑の調子がわるくて……どうしたら良いんでしょうか…」

 

 

 

ヒョウ五郎と部下たちは誇らしげに一歩下がった所からその光景を見ている。

 

 

 

「いや~流石レオヴァさまですね、親分!」

 

「たりめぇよ!なんたってレオ坊だからな

あいつァ本当に色んな事を知ってる……あれだけの知識…並大抵の努力じゃねぇだろうさ」

 

「そうですよね!

いつも本読んでますし……ほんとスゲェ人だぁ…」

 

 

部下がしみじみと新しい(ぬし)の凄さを噛み締めていると、話が一段落ついたのかレオヴァが戻ってくる。

 

……いまだに周りには大勢の町人たちがくっついて来ているが…

 

 

 

「ヒョウ爺、皆そろそろ おでん城へ行こう」

 

「……おう、そうだな」

 

「……へい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おでん城へ向かい、話し合いを提示したレオヴァだったが、またしても結果は拒絶であった。

 

 

 

都へ帰る為にまた、下町へと歩むレオヴァの背をヒョウ五郎と部下は悔しさに拳を握り締めながら付いて行く。

 

 

「くそ……なんだってレオヴァ様がこんな扱いをッ…」

 

「バカ殿のくせに…許せないっす……!」

 

「城の下にも降りて来ねぇで門前払いなんざ、あり得ねぇですよ!!」

 

「……おでんのヤツぁ…昔はちっとはマシだったんだがなぁ…」

 

 

 

ざわめき始める皆をレオヴァが止める。

 

 

「いや、まだおれが彼に会うには努力が及ばないだけだろう

皆の気持ちは解っているが、そう悪く言わないでやってくれ」

 

そう困った様に微笑むレオヴァに皆、口をつぐむ。

 

 

 

「毎回 嫌な思いをさせてしまってすまないな…

……皆、いつも付き合ってくれてありがとう。」

 

その言葉にまた皆は心打たれる。

 

 

これだけ無下にされても悪口ひとつ言わず、それどころか自分たちを気遣う優しさに

やはりレオヴァ様こそ…!と心中で強く想うのだった。

 

 

 

 

 

 

町を出る前にレオヴァは土産を町人たちに渡していた。

 

 

「レオヴァ様、こんなに宜しいのですか?!

 本当に、毎度ありがとうございます……!」

 

町人の代表の様な男が頭を下げると次々に人々は礼を口にする。

 

 

人々の前には大量の食料と水、そして薬があった。

 

 

頭が上がらない、と言うような町人たちにレオヴァは優しく声をかける。

 

 

「うちの村で出来たモノでな、とても美味しいからぜひ九里の皆にも食べて欲しかったんだ。喜んでもらえて嬉しいよ」

 

 

にこりと微笑むと町人たちは一概に感無量と言う様な表情でレオヴァを見つめる。

 

 

 

「本当に…どんなお礼をすれば良いのやら……!!」

 

 

「礼など皆の嬉しそうな顔と言葉で十分だ

……うちの村の皆に伝えればとても喜んでくれるだろうしな」

 

 

「れ、レオヴァさまぁ……!」

 

 

町人たちは感激で潤む目元を押さえる他なかった。

 

 

 

そろそろ時間だから、と町から出ていくレオヴァ達を見送る声は、姿が見えなくなっても暫く続いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~花の都城内にて~

 

 

 

大広間で豪勢な宴が開かれている、その場所で

 

たくさんの花魁を侍らせ鼻を伸ばす男、オロチと

黒いジャケットに身をつつむ勇ましい顔つきの大男、カイドウが話をしている。

 

 

 

 

「 カイドウ!

またお前の息子がおでんに会いに行ってるそうじゃないか……!!」

 

 

「ア"ァ"…? それがどうしたってんだァ……ヒック…

レオヴァの自由だろう……!!」

 

 

 

カイドウの声にオロチも花魁もビクリと体を揺らす。

 

 

 

「い、いや確かにそうだが……

…おでんなんかと関わらせるのはお前の息子にとって良くない事

……そうだ!きっと悪影響が……!」

 

 

 

カイドウは酒をあおっていた手を止め、オロチをギロリと睨む。

 

 

「ヒック……なんだとォ……おれのレオヴァがあんな男に影響されるって言いてぇのかァ……!! ウィック…」

 

 

ドスンッ!という音を立て、カイドウが力任せに置いた酒瓶が粉々に砕ける。

所々から悲鳴が上がり、オロチの顔も真っ青である。

 

 

 

カイドウの怒り出した気配を即座に察知したクイーンは少し離れた場所で佇んでいたキングの近くへ避難する。

 

 

「あ~マジか、怒上戸(おこりじょうご)かよ……あれヤベェか~?

……おい、キングてめぇ行けよ!」

 

「知るか、テメェが行け」

 

「冗談じゃねぇ……!

ありゃ完全に酔ってんだろ……飛び火するなんて御免だぜェ…」

 

「分かってんなら、おれにふってんじゃねぇよ」

 

 

クイーンとキングが言い合いをしているうちにカイドウはまた酒をあおる。

 

 

 

 

 

「ウィッ…ク……だからなァ……レオヴァがあんなバカ殿に感化されるなんてことはよォ……!あるわけねぇだろう!!」

 

 

またもやドスンッ!という音と共に酒瓶が砕け、床にヒビが入る。

 

 

 

慌てふためく城の者たちだったが、遅れてやって来た彼の声に少し落ち着きを取り戻す。

 

 

 

「…父さん?

一体どうしたんだ、そんなに荒れて」

 

 

レオヴァは真っ直ぐカイドウの下へ向かい事情を聞く。

 

 

 

「…なるほど。それで父さんは怒ってたのか

オロチ殿、気に病ませてしまって悪いな。

だがオロチ殿の考えている様な事にはならないから安心してくれ」

 

 

真っ青なオロチにレオヴァは柔らかく話しかける。

 

 

 

「う、うむ……そうか!

なら良い!くるしゅうないぞ!」

 

 

レオヴァに対する"くるしゅうない"と言う言葉にキングとカイドウの眉間に皺が寄るが

 

「ありがとう

………では、そろそろ帰らないか?

久々だからおれは父さん達と一緒に晩飯を頂きたいんだが…」

 

 

そのレオヴァの提案で気を持ち直す。

 

 

 

「ウォロロロロ!そうだなァ……!ウィ…ック

ヒック…レオヴァがそうしてぇなら帰るとするかァ…」

 

 

そう言い立ち上がると露台(ろだい)へ出て

そのまま龍となり飛び立って行ってしまった。

 

キングもそれに続いて飛び立って行く。

 

 

 

 

「では、オロチ殿。

顔を出して早々ですまないがお(いとま)させて頂く」

 

「ぁ、あぁ! また来るが良いぞ!」

 

 

軽く挨拶を交わすとレオヴァも露台から巨鳥に変わり飛び立ってしまう。

 

 

そして、そこには独りクイーンが残された。

 

 

 

「え、いやレオヴァおれは…!?」

 

カイドウさんやキングはまだしも、レオヴァまで!?とショックを受けているクイーンだったが、すぐに気を取り直し部下を呼び出して帰るのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

戻って来た三人だったが、着いて暫くするとカイドウは寝始めてしまいレオヴァはガックリと肩を落とした。

 

 

「レオヴァ坊っちゃん…

……カイドウさんを起こすか?」

 

 

レオヴァの落ち込み様にキングも気を使ったのか起こす事を提案したが、レオヴァはそれを断る。

 

 

「いや、父さんも遠征帰りで疲れてんだろう

……それに酔っている父さんを起こすのは至難の技だ…諦めよう」

 

 

「…わかった、なら直ぐに食事を運ばせる」

 

 

そう言うとキングは部下に指示を出し始めた。

 

 

 

 

 

レオヴァが座るとほぼ同時に食事が運ばれて来る。

どうやら料理人たちは既に準備を済ませていたようだ。

 

 

「キングは食べないのか?」

 

「おれはいい、後で別のモノを食べる」

 

「そうか、なら頂こう」

 

 

 

箸を取ると、間髪いれずに襖が開く。

 

 

「おいおいおい……!

レオヴァ置いてくなんざ酷いじゃねぇか!」

 

 

クイーンが文句を垂れ流しながら部屋へ入ってきた。

 

 

「おい、うるせぇぞ

レオヴァ坊っちゃんは今から食事なんだ

 無駄に絡むんじゃねぇよ……!」

 

 

「うるせぇのはテメェだキング…!!

って…ん? 飯食うのにカイドウさん居ねぇじゃねぇか!」

 

 

クイーンが首を傾げるとレオヴァが苦笑いを交えながら答える。

 

 

「父さんは寝てる

……起こすのは色々と大変だからな…」

 

 

「……あぁー…結構酔ってたからなァ……」

 

 

納得、という様にクイーンが相槌をうつ。

 

 

「まぁ、気落ちすんなよレオヴァ!

そうだ、このクイーン様が一緒に食ってやろう…!」

 

 

良い案だ!とテンション高めのクイーンは直ぐに部下に命令し、自分の分を用意させた。

 

 

キング、クイーン、レオヴァで食卓を囲む光景はなかなかに奇っ怪である。

 

それぞれ正反対の大男に挟まれ食事を進めていたが

クイーンが何かを思い出したのか、あっ!と声を上げる。

 

 

 

「クイーン? どうしたんだ急に」

 

「チッ……黙って飯も食えねぇのか…」

 

 

二人はそれぞれの反応を返したがクイーンはキングの言葉を綺麗に右から左へ受け流したようだ。

 

 

 

「いや、前から気になってたんだけどよ…

レオヴァは何でわざわざ九里に馬鹿殿とか言われてるヤツに会いに行ってんだよ?

そもそもアイツはカイドウさんとの契約でレオヴァには会っちゃいけねぇ事になってるハズだよなァ…?」

 

 

 

そう、おでんは3年ほど前に交わしたカイドウとの契約で、レオヴァと一切の関わりを持たないと誓わされていた。

 

内容はレオヴァの担当している区画で作られた食べ物を無償で九里へ配布する代わりに、レオヴァとは一切の接触、会話を禁じると言う内容である。

 

 

これがある限りレオヴァの九里大名への訪問は現状まったくの無駄なのだ。

 

 

挙げ句、その契約をしらない小心のオロチは慌て胃を痛める日々である。

 

 

 

しかし、クイーンの問いにレオヴァはニッコリと笑うと一言、内緒だ。と言うだけであった。

 

 

 

「え~~!!

スッゲェ気になるんだが……」

 

 

「…詮索が過ぎるぞ。

レオヴァ坊っちゃんの意を汲めねぇマヌケが…!」

 

 

「…ア"ァ"?

じゃあテメェはわかるってのかァ……!?」

 

 

「少なくとも言わねぇって事は言うべき事じゃねぇってことだろうが!

フンッ……そんなことも解らねぇのか?」

 

 

「よし、ぜってぇ殺す……!!」

 

 

「テメェがおれを殺れる訳ねぇだろう…!」

 

 

 

 

殺伐とした二人をよそにレオヴァは箸をすすめている。

 

「ん、このウニとか言うヤツ旨いな……」

 

なんて呑気に感想を呟くほどである。

 

 

 

止める者がいない二人がついに暴れだすか、という時に奥の部屋から大男が勢い良く現れた。

 

 

「おい!キング、クイーン…

出来たばかりの城を壊すつもりか…!?」

 

 

カイドウの怒号に二人は殺気を静める。

 

 

「すいませんカイドウさん!キングのアホ野郎が…」

 

「悪いカイドウさん……クイーンのバカ野郎が…」

 

 

「ったく、どっちでも良い!

いいから壊す様な真似はするなよ!」

 

 

「そうだぞ、今朝父さんが壁を1枚蹴破って部屋が大きくなったばかりだからな。

 二人とも気をつけてくれ」

 

 

「おい、レオヴァ……ありゃたまたま壁が壊れただけだぞ」

 

 

バツが悪そうなカイドウにレオヴァはなんとも言えない笑みを返すだけだった。

 

 

 

「それより父さん。

起きたなら何か食べるか?」

 

 

「いや、いらねぇ

……そうだ、例のモノが手に入ったぞ」

 

 

「! 早いな…

そんな直ぐに見つかる物じゃなかったと思うんだが…

 父さんに頼んで良かった…!」

 

 

驚いた顔をする息子に気を良くしたカイドウはそのままレオヴァの隣へ腰掛け、クイーンに持って来るよう声をかける。

 

 

 

「ウォロロロ…!お前が欲しがるって事は役に立つ算段があっての事だろ

あれくらい造作もねぇ…!」

 

 

「本当に父さんには敵わないな

勿論、今後それを使ってワノ国……ひいては百獣海賊団の為に役に立つ物を作る予定だ」

 

 

「お前の考えることは突拍子もねぇことばかりだが…全て良い方に転がってる!

これからも好きにやれ!ウォロロロロ~!」

 

 

「ありがとう父さん

期待に応えられるよう精進する…!」

 

 

和やかに会話を楽しんでいる親子の下にクイーンが帰って来た。

 

 

「持ってきたぜ~ カイドウさん…!」

 

 

クイーンの手には彼の大きさと比べると小さな箱がある

レオヴァはそれを受け取り中を見て目を見開く。

 

 

 

「……おぉ…やっぱり変わった形なんだな……」

 

 

「まぁ悪魔の実なんてどれもヘンテコな形してんだろ」

 

 

「……で、レオヴァ坊っちゃんはそれを誰に食わせるつもりなんだ?」

 

 

「ああ…それはおれも気になってたが…

レオヴァの事だ、誰か候補がいるんだろ?」

 

 

「父さんの言う通り候補はいる。

ただ、食わせるのはもう少し後になるが…」

 

 

 

「ん~? 最近入ったヤツでレオヴァのお眼鏡にかなう様なヤツいたかァ……?」

 

クイーンは自分の記憶を辿るが、それらしき人物の記憶はない

キングも同様に考えていたが思い当たらなかったようだ。

 

 

しかし、カイドウはニヤリと笑いレオヴァに自身が思い当たった人物を告げる

 

「…お前が拾った侍だな?」

 

 

「そうだ。

…父さんにはお見通しだったか」

 

自分の考えを解ってもらえた事にレオヴァは嬉しさを滲ませる。

 

カイドウも読みが当たり上機嫌に笑っている。

 

 

 

 

「……おぉー…まさかカイドウさんが当てるとはなァ…」

 

「…まぁカイドウさんはレオヴァ坊っちゃんの事だけは良く見てるからな……」

 

 

二人小さく呟きあった言葉は、別の話題で盛り上がる親子には届かずに消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去の幕切り

色んな感想ありがとうございます!

考察してくれてる方の感想読んで
「おぉ…!伝わってる!!」と嬉しくなり小躍りしました…!

本当語彙力高い感想に舌を巻くのみ……

シンプルに面白いとも言って頂けたりして、凄い嬉しいです!


そして安定の誤字……申し訳ない…
何回か見直してから上げていると言うのに……誤字にステルス機能でもついてるのか?
わざわざ誤字報告してくれる優しい方々に感謝です!


侍たちは息巻いていた。

 

今から起こる戦闘はレオヴァ様に対する完全なる裏切りであると。

 

 

崩れかけるワノ国を立て直そうと奔走(ほんそう)する

かの御仁(ごじん)の優しさを踏みにじる行為だと。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

息巻く俺たちの下へレオヴァ様が現れる。

 

レオヴァ様のいつもの微笑みはなりを潜め、ただ悲しそうな顔をしていた。

 

 

……あぁ、何故こんなにもお優しいレオヴァ様が辛い思いをなさらなければ ならないのか…!!

 

 

俺も皆も、一様に同じ思いであった。

 

 

 

「……皆…まずは、この戦いに来てくれたことを感謝する…ありがとう。

そして、これから討たなければならない者に思い入れがある者もいるだろう……おれが至らなかったばかりに……すまない……」

 

 

レオヴァ様は目を伏せ、悲痛な声で謝罪なされた…

 

 

「レオ坊…!

シャキッとしやがれ!おめぇが謝る必要なんざねぇんだ!

此処にいる全員……いや、ここに居ない奴らもレオ坊に最期まで付いていく心づもりだ!」

 

 

ヒョウ五郎親分のその言葉に俺も周りの者たちも強く頷きレオヴァ様を見つめる。

 

 

「そうだ…!もう、おれたちゃレオヴァ様に付いてくと決めてんでさァ……!」

 

「レオヴァ様が謝る必要なんてありゃせん!!」

 

「……お優しいレオヴァ様に代わっておれたちが…!」

 

 

皆、口々に思いを吐き出していく。

 

そう、此処にいる者は皆同志……!!

全員がレオヴァ様に救われ、導いて頂いたのだ!

 

 

 

同志たちの声にレオヴァ様の微笑みがやっと戻る。

 

「……ありがとう。

そうだな…ヒョウ爺の言う通りだ。

集まってくれた皆の覚悟、良くわかった……!

共にこの戦いに挑んでくれ…!」

 

 

 

「レオ坊…もちろんだ……!!」

 

「うおぉ~!レオヴァ様!

おれが敵の首を持って参ります……!」

 

「レオヴァ様から受けたご恩……ここで返してみせまする!」

 

「この身に代えてもお守りいたします…!」

 

「おでんなど一捻りにしてみせましょうぞ!!」

 

 

 

レオヴァ様の言葉で皆の闘志が上がっていく。

 

この戦いにて御仁と共に歩めること、これ以上の誉れがあるだろうか……?

いや、ないだろう!!

 

 

今…この戦いで戦果を上げ、裏切り者共の首をレオヴァ様に捧げることで俺は忠義を証明してみせる…!

 

 

数百の侍達の心は一つだ。

 

"レオヴァ様に勝利の栄光を"

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

少し離れた場所から侍たちのやり取りを見ている男が二人。

 

 

「ムハハハ~!ほんっとにレオヴァのあの能力はスゲェわ

少しの間にあれだけ信者を作れんだからなァ」

 

 

愉快そうに笑うクイーンの声を不快だと言う様に目を細めるキング。

 

 

「……レオヴァ坊っちゃんの掌握(しょうあく)の巧さは折り紙つきだろ…

カイドウさんの息子なんだ。人の上に立つ素質があるのは当たり前だろうが」

 

 

「まぁ、カイドウさんの場合は力業(ちからわざ)だけどなァ……」

 

 

 

 

会話する二人の下に侍たちとの会話を終えたレオヴァがやってきた。

 

 

「二人とも、せっかくの宴なのに悪いな…」

 

申し訳なさそうな顔をするレオヴァにクイーンはご機嫌に返す。

 

 

「おいおい気にすんなよ…!

こんなんさっさと終わらせて帰りゃ良いだけだしなァ~!」

 

「問題ねぇさレオヴァ坊っちゃん

……ちょうど、宴より蹂躙(じゅうりん)の気分だった」

 

 

凶悪な雰囲気を醸し出しながら嗤うキングにレオヴァも微笑み返す。

 

 

「二人がそう言ってくれて助かる」

 

 

 

「で、おでんはレオヴァと都の裏の元締めが殺るんだよな?

他の奴らをおれが殺っときゃイイのか?」

 

 

「あぁ、相手の大将はおれとヒョウ爺でなんとかする

他の者の首をクイーンとキングに任せたい。

……おれの連れてきた侍たちでは恐らく体力を削るので手一杯だと思うから、なるべく死なないようにしてやってほしい」

 

 

「ん~~……面倒みるのダリィなァ…

まぁ、一応は頭のすみには置いとくぜ!」

 

「わかった、レオヴァ坊っちゃんの作戦に狂いが出ないよう努めよう

……クイーンのバカは使えそうにねぇからな」

 

 

「……おうレオヴァ、見とけよ!

全部おれが片してやる……キングのマヌケがヘマするかもしれねぇからなァ……!」

 

 

「テメェのようなヘマはしねぇよ……!」

 

「…おれが何時ヘマしたってんだァ……?」

 

 

「……二人とも此処で暴れるな…」

 

 

またか、と溜め息をつくレオヴァの下に1人の侍が駆け寄ってくる。

 

 

(あるじ)、侍たちの準備は滞りなく。

そろそろ出発致しますか?」

 

 

「そうか、準備ご苦労だった」

 

 

「ア? お前が侍の代表になるヤツか?」

 

 

「…お初にお目にかかります、カヅチと申します

レオヴァ様より此度の戦いにて侍の指揮を仰せつかりもうした」

 

 

カヅチと名乗る侍は深々とキングとクイーンに礼をとる。

 

 

「……あ~、お前がねェ……そこそこって感じか?

まぁ、レオヴァの人選だし…戦いで測るわ」

 

「………」

 

クイーンとキングからの不躾な目線に動じることなく、カヅチは強く返事を返す。

 

 

「はい、(あるじ)の期待に応えるべく此度の戦いにて戦果を上げてみせまする

キング様とクイーン様にも敗けるつもりはございませぬ故…」

 

 

「……口だけにならねぇ様にするんだな」

 

 

「勿論にございます」

 

 

 

緊張感走る三人の間にレオヴァの号令が届き、それぞれ持ち場へと戻って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

山を駆け抜ける一行(いっこう)の前に1つの雷が舞い落ちる。

 

 

突然の事に驚きを隠せない一行であったが、空から舞い降りて来た巨鳥を見て全てを察した。

 

 

 

「……なぜ、わかった。

あの無人島で酔って寝ているカイドウの首を取りに行く所だった……兵力戦を想定してねぇ」

 

 

「反逆者に教える義理はないだろう。

そして、上に立つ者ならあらゆる可能性(・・・・・・・)を想定しておくべきだったな…。

……悪いが父さんの首はこの世の誰にも獲らせはしない」

 

 

 

おでん一行を囲む様に侍達が構える。

 

 

「ッ! な、なぜ侍たちが!」

 

「落ち着け、雷ぞう……!

気を散らせばそこまでだ!」

 

「ゴロニャーゴ……!!

どんな相手でも倒さないかんぜよ!!」

 

 

 

花の都侠客の部下500人、編笠村及び鈴後の侍300人。

総勢800人の忠義の臣の闘志に気圧されるおでんの侍たち。

 

 

「お前たち……!

怯むな、押し進むぞ…!!」

 

 

しかし、赤鞘たちはおでんの掛け声にて気を持ち直し瞳に強い意志が宿る。

 

 

おでんの未来をかけた戦い。

そして、レオヴァの未来をかけた戦いでもある。

 

 

両者一歩も退かぬ戦いになると思われた。

 

 

 

 

 

 

が、現状は違った。

 

 

おでんはヒョウ五郎とレオヴァの相手をしているにも関わらず、未だなんとか二人を抑えている。

 

 

しかし、おでんの侍たちは圧されていた。

 

何故か800人の侍たちは想像以上に力を発揮していた。

それに加え、キングとクイーンの猛攻を凌ぐのは至難の技だった。

 

 

 

レオヴァの侍たちが手強かったのには訳がある。

 

5~6人が1人の相手に斬り込み、10人ほどの後衛が弓や飛礫で意識を反らす。

 

この方法をレオヴァの侍達は洗練された動きでこなすのだ。

 

 

いくら実力が離れていようともバラされ、この方法を取られ続ければ赤鞘の侍たちの体力も薄れていく。

 

そして、800人でローテーションを組まれれば体力や集中力の消費から隙が出来てしまう。

 

 

その結果、致命傷に至る傷はないが

細かな傷が血液も体力も奪っていく。

 

じわじわと実力差を埋められていくのだ。

 

 

満身創痍が近づく赤鞘の侍たちを更に絶望させるのは

後方からたまに手を出してくるキング、クイーン、カヅチである。

  

 

赤鞘たちは皆、この侍たちを倒した(のち)に彼ら三人を相手にすることは出来ないのでは、と感じ始めていた。

 

だが、赤鞘たちは忠義の下に諦めず刀を振るっているのだ。

 

 

我らがおでん様がレオヴァとヒョウ五郎の首を獲ってくると信じて……

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

おでんの攻撃を避けながら俺は見聞色の覇気を使って今の状況を把握し、おおかた満足していた。

 

 

予め鍛えておいた侍たちの布陣(ふじん)首尾(しゅび)よく運んでいる事や、ヒョウ五郎の想像以上の強さに笑みが溢れそうなほど順調だ。

 

 

正直、今回の戦い……俺はおでんに敗ける算段であった。

 

 

だが、敗ける事にも意味はある。

 

ヒョウ五郎と共に、おでんを満身創痍にまで追い込めれば、後は父さんがその首を討つ。

 

結果、父さんはまた反逆者を倒した守護者として"明王"の名声も高まり、父さんのおでんへの思い入れ(・・・・・・・・・)なんて言うムカッ腹の立つモノのフラグもへし折れる。

……と言う計画だったが、これは予定変更で良さそうだ。

 

 

このまま此処でおでんを討てば、父さんの記憶にも残らないだろう。

 

何より、俺が敗けるのも計算に入っている事は誰にも話してはいない。

ここはヒョウ五郎の士気を上げ、支援に回ろう。

 

数時間もかければおでんの集中の糸を切るのも容易くなるはずだ。

 

 

俺は見聞色を緩めることなく、戦場の把握とヒョウ五郎の"維持"に努めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

俺は(かつ)て信じていた者と刃を交えていた。

 

 

俺の信じたおでんはもう居ない。

 

俺がこれからを懸けていくべきはレオ坊ただ一人…!

 

 

あの幼さで未来を見据え、多くの者を導くべく努力を欠かさぬレオ坊こそが

この国の上に立つべきだ!!

 

 

鳴り止まぬ刀同士がぶつかり合う音を聞きながら俺は強く思う。

 

 

 

「……ッ…ヒョウさん、なんだってオロチに付く!」

 

 

「っ…馬鹿言うんじゃねぇよ…!!

おれはレオ坊についたんだ!

腐ったってオロチの野郎には(くだ)らねぇ!」

 

 

「じゃあ…ッ! 退いてくれ!!」

 

 

「アホ言うなァ!!

お前は此処で、おれが斬る!」

 

 

「……グッ……ヒョウさんッ…!

ならおれはアンタを斬るしかねぇ……!!」

 

 

おでんの攻撃が激しさを増す。

 

だが、レオ坊の技のおかげで何とか体力を保ててる。

……勝てるかもしれん いや、勝つ…!!

 

気合いを入れた一撃をおでんに見舞った。

 

 

「ぐお……!! く…ッ……」

 

 

膝をついたおでんに俺は勝ちを確信した。

 

こいつの…おでんの外で培った実力は本物だった…

少しでも、少しでもコイツにレオ坊と対話するっつう考えがあったなら……どれだけ早くこの国を取り戻せる…?

 

 

切り捨てた筈の考えがおでんの強さに触れ、俺の頭の中に浮かんだ。

 

 

なんておれァ馬鹿なんだ。

この一瞬の油断のせいで……レオ坊は…

 

 

 

 

 

あの時、急に俺は突き飛ばされた。

 

そして横に飛ばされながら見たのは、生涯ついていくと誓ったレオ坊が斬られる瞬間だった。

 

 

「ぐぉっ……レ、レオ坊ォ!?

 

 

おでんの最期の一太刀が届く前にレオ坊は俺を庇い

その攻撃を身に受けながらも体勢を立て直せるよう、おでんを吹き飛ばしたのだ。

 

俺は血を流すレオ坊の言葉に唇を噛み締めた。

 

 

「ゥ……ヒョウ爺ッ……致命傷は、ないな…良かっ…た!

 …ハァ……あとは、頼…めるか?」

 

 

完全に俺の油断が招いた失態だった。

それにも関わらずレオ坊は俺を責めない。

 

それどころか取り返しのつかないヘマを仕出かした俺を信じてトドメを預けてくれる。

 

この瞬間から俺は完全にこの身全てから"おでん"を捨てた。

 

 

 

俺は走り出し握り締めた刀を振り上げ、吹き飛ばされ体勢が崩れたおでんに渾身の一太刀を浴びせた。

 

 

そして、俺たちはこの戦に勝ったのだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

決戦が終わり、罪人たちを捕らえ(みやこ)へ向かう一同(いちどう)は皆がレオヴァ様のことで頭が埋め尽くされていた。

 

 

何故ならこの戦にてレオヴァ様が大きな傷を負ったからだ。

 

しかも、理由はヒョウ五郎親分の過失らしい。

 

最初はヒョウ五郎親分を責めるような言動をする者も多かったが

 

 

『皆、この傷は俺の油断でもあった…

だから責めるような真似は()してくれ

それに、なによりも皆と勝ち取った勝利を噛み締めたいんだ。

……共に戦ってくれてありがとう。この勝利は皆のおかげだ!』

 

 

『レ、レオ坊! おれァ…!!』

 

『うおおぉ~~!!レオヴァ様~!』

 

『レオヴァ様にこの忠誠を…!』

 

『『レオヴァ様万歳!!!』』

 

 

 

このレオヴァ様のお言葉を賜って以降、責める者も居なくなった。

 

 

それに考えてみれば目の前でレオヴァ様が、憎き罪人に斬られたヒョウ五郎親分の悔しさは筆舌に尽くしがたいだろう。

 

そう考えていたら、罪人を入れた(かご)を運ぶ俺たちの代表であるカヅチさんが本当に嬉しそうに声を発した。

 

 

 

「喜べお前たち!

レオヴァ様のお怪我は別段の問題はないそうだ…!

 

その報告を聞いて俺も周りの者達の表情も明るくなる。

 

 

「良かった…!レオヴァ様!」

 

「そうだ、レオヴァ様があれしきで倒れるはずがない!」

 

「ははは!おでんの攻撃なんぞレオヴァ様には効かんと言うわけじゃ!」

 

「そうか、そうか……!

レオ坊…大事なくて本当に良かった!」

 

「親分、涙拭いてくだせぇ!」

 

「ヒョウ五郎親分気持ちはわかるが、笑わねぇとなァ!

せっかくの勝利だ!レオヴァ様も仰ってただろ?」

 

「っ…おうよ!

よし、てめぇら!早く都へ戻ってレオ坊の顔見ようじゃねぇか…!!」

 

「「「「お~!!」」」」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

派手に包帯を巻き、キングと処刑の段取りを相談していたレオヴァの下にクイーンがドスドスと歩いてくる。

 

 

「よォ~、レオヴァ~!

……って随分ぐるぐるに包帯巻いてんなァ?」

 

 

「ん? あぁ、一応斬られた(・・・・・・)ワケだからな

……戦った感が出るだろう?」

 

 

「戦った感ってお前……まぁ急に傷無くなってたら侍共が驚くか」

 

 

「表面だけ広く斬らせて重傷に見せる意図がわからねぇ…

そもそもレオヴァ坊っちゃんに傷を残すってのが頂けねぇだろ」

 

 

「アレだろ?

お前の為に斬られてやったんだぜェ?っつーアピールだろ?

下っ端の為に体張る頭っての好きそうだもんなァ、アイツら」

 

 

「レオヴァ坊っちゃんが態々(わざわざ)体張んなくても信者どもは問題なく動きそうだがな…」

 

 

「まったく……二人とも人聞きが悪いぞ

おれのこの傷はおでんを倒す為に必要だったから受けただけだ

…まぁ使える要素だから皆からの信頼を得る為にも使いはしたが」

 

 

「倒すのに必要な傷…?」

 

 

「あぁ、おでんは甘い。

おれを斬った時も一瞬隙ができた、敵であっても子どもを斬るのを躊躇(ためら)ったんだろう。

その結果おれの攻撃を受けて体勢を崩した」

 

 

「体勢を崩す為だけならレオヴァ坊っちゃんが攻撃を受ける必要はないだろ。

ヒョウ五郎とか言う老いぼれにでもやらせりゃ良い」

 

 

「斬られたおれを見てヒョウ爺におでんへの未練を吹っ切ってもらう必要があったんだ。

……なんだかんだ想い出は引きずるモノみたいでな」

 

 

「成る程…あの老いぼれには、それだけの価値がある訳か。」

 

 

「ホント…使えるモンなんでも使うよなレオヴァはよォ

あー…けどよ、その傷残ったらカイドウさん怒るんじゃねぇの…?

おれブチ切れたカイドウさんにぶん殴られんの嫌なんだが……」

 

「クイーンのバカの言う通り…確かに責任を問われる可能性はあるか……」

 

 

「……そうだな、父さんには おれから説明しておく

それにおれの能力なら傷痕はいつでも消せるんだ、問題ない……筈だ」

 

 

「ちょ…!スゲェ歯切れ悪ぃな!?

マジで頼むぜレオヴァ~~!!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

今日(こんにち)、ワノ国中はある話題で持ちきりであった。

 

── それは光月おでんとその侍たちの処刑…!

 

 

今朝号外にて知らされたその事実に国民たちはざわついた。

 

 

 

「なぁなぁ!聞いたかよ、処刑の話!」

 

「あぁ、なんでもレオヴァ様を襲撃したとか……」

 

「許せねぇよなぁ!

オロチには屈しておいてッ!

民を助けて下さるレオヴァ様を襲うなんてよ…」

 

「金欲しさに襲ったって話だぜ!?」

 

「いやいや、権力が欲しくなったっておれぁ聞いたぜ?」

 

「レオヴァ様とヒョウ五郎親分のおかげでちゃんと捕まったらしい」

 

「けど、レオヴァ様は怪我をなさったとか……」

 

「それも部下を庇って斬られたらしいぞ!」

 

「おぉ、やはりレオヴァ様はお優しい御方じゃ…」

 

「いや~!それにしてもレオヴァ様と共に戦えた侍たちが羨ましいぜ!」

 

「拙者もレオヴァ様に(つか)えてみたいものよ……」

 

 

おでんの悪行に腹を立てる者

レオヴァの無事に心から安堵する者

戦った侍たちを賛美し、羨む者

 

町のいたるところから、この話が聞こえてくる。

 

そして一様(いちよう)に皆、おでんの処刑を今か今かと待ち構えていた。

 

 

 

 

だが、一方でおでんの処刑を聞き怯える者たちも居た。

 

 

「ど、どうする!?

バカ殿がレオヴァ様を襲って捕まったって…!」

 

「あああ……大恩あるレオヴァ様に報いるどころか……おれらの土地の大名が…反逆者なんて……レオヴァ様に合わせる顔がねぇよぉ!!」

 

「合わせる顔どころか、おれらも反逆者として捕まっちまうんじゃ!?」

 

「そ、そんな!?

おれらは何も知らなかったのに!」

 

「そんな言葉だれが信じるんじゃ……大名の反逆

……その土地の民であるワシらも当然同罪じゃよ…」

 

「冗談じゃねぇ!!

大名っつったって名ばかりだったじゃねぇか!

結局よぉ!飢餓に苦しむおれらを助けてくれたのはレオヴァ様だろ!?

レオヴァ様の為に死ぬならいい!

だけどバカ殿の為に死ぬなんざ御免だ…!!」

 

「お止しなよ!

もう、きっとレオヴァ様にとって私らも裏切り者さ…止められなかったんだ…それも罪さね……」

 

「ちくしょお……おれぁ、惨めに生きてきたけど……

それでも…レオヴァ様はおれみたいなヤツにも優しく接してくれたんだ……なのにっ!

ぅ、うぅ…あの方に裏切り者だと思われるのだけは…嫌だ!!」

 

「レオヴァさまは、ぼくたちのこと……嫌いになっちゃうの…?」

 

「せめて、なにか恩返しを……したかったねぇ…」

 

 

 

九里の村の人々は死刑宣告をされた囚人の様な顔で集まり、話し込んでいた。

 

 

反逆者として殺されるかもしれない恐怖

大恩あるレオヴァに報えなかった後悔

 

泣き崩れる者や、おでんへの怒りで拳を握り締める者

絶望し人形のようになっている者

 

どうしたら良いのか、どうなってしまうのか。

 

そんな不安で埋め尽くされた町に一人の男の声が響く。

 

 

「…九里城に攻め入ろう……!!」

 

 

「な、なにを……?」

 

「あそこには反逆者の残党がいるんだ!

せめて、せめて最期にお役に立ちたい!!

おれは反逆者の残党をレオヴァ様に捧げて死ぬ!

裏切り者としてレオヴァ様に裁かれるのは嫌なんだ…!」

 

「確かに…そうだ!

元を言えば奴らがレオヴァ様のお優しさに唾を吐いたのが悪いのだ!

拙者も助太刀いたす……!」

 

「だが……レオヴァ様がそれを望むのか…?」

 

「あのお優しいレオヴァ様が一家惨殺を望むとは思えんが……」

 

「…じゃあ聞くが

もしこの事件……レオヴァ様が殺されていたらどうする?」

 

「な!? え、縁起でもないことを言うな!!」

 

「レオヴァ様は怪我をなさったそうだ……あり得ない話じゃない…

レオヴァ様を殺そうとした奴らにかける慈悲など無用だ…!

 

「……うむ…そう…か、奴らレオヴァ様を手にかけようとしたんじゃ

許されることではないのぅ……」

 

みんなはどうする!?

このままレオヴァ様へ恩を返さず処刑を待つつもりか!?

 

「……おれは……」

 

「私……病気で倒れていたのをレオヴァ様の薬で助けられた…

だから、討ち入りに参加する…!

最期に少しでもレオヴァ様に報いたい!!」

 

「ワシもどうせ老い先短い人生……最期の命はレオヴァ様の為に使いたい」

 

「おれも…!」

 

 

どんどん賛成の声は広がっていき

九里の民たちは農具や数少ない武器を手に討ち入りの相談を開始した。

 

 

 

─── 光月が過去になるまでの時間はそう遠くはない

 

 




今回出た侍はオリキャラです、ビィクター博士的な感じになります。

詳細
黒炭 カヅチ (男)
元々、平民としての身分すらなかったならず者。
レオヴァに拾われた事に恩義を感じており、生涯を忠義に捧げると誓った。

今後、国開発に少し関わるだけのキャラです…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

処刑とその後

今回人によっては胸くそ展開なのでお気を付け下さい!!

昨日投稿したばかりなのに凄いたくさん感想頂けて嬉しさの極み……!
1日5回しかgood押せなくてつらい……
頂いた感想読んでニヤニヤするのが日課になりつつあります……本当にありがてぇ…!!

感想で知性の塊みたいなオーラ発してる方が沢山いるので私は震えております……やべぇ…やべぇよ……スゲェ人達が感想欄にいるって……

後書きで来てた質問に答えてますので是非に……


 

 

 

 

── "おでん一行の処刑は釜茹での刑で執り行われる"

 

 

 

それを聞いて私は都の死刑場へ急いだ。

 

おでん様を……助けたい!

 

 

 

みんなが倒れ、捕まった時

おでん様は薄れ行く意識の中で嘘をついてまで私を逃がしてくれた

 

本当はおでん様と共に死にたかった…

 

だけど、今わかった…!!

 

私が今捕まらずにいる意味……

それはおでん様を救出するためなんだ!

 

 

 

 

 

「おい、急げ!バカ殿の処刑始まっちまうだろ!?」

 

「ははは!釜茹でだってよ!

滅多にねぇ処刑法だろ?楽しみだなぁ!」

 

「釜茹でにする前におれに斬らせて欲しいぜ…

レオヴァ様に傷をつけた裏切り者をよォ……!」

 

「っとに、今さら刀を握ったかと思えば……

あのバカ殿…斬る相手間違えてんだよ

よりによってレオヴァ様にッ…! 斬るべきはオロチだろ!?」

 

 

 

 

 

あぁ…!イヤだ!!

どいつもコイツもおでん様を悪く言う!!

 

違う!

おでん様は今までみんなを守ってきたんだ!

 

オロチに騙されて……

 

 

私は頬を涙が伝うのを止められなかった。

悔しいっ…!!

 

確かにレオヴァとかいう子どもと手を組めば上手く行ってたかもしれない……だけど組まなかった。

 

何か理由があったに決まってる!!

 

 

…きっとオロチだ……オロチがまた汚い手を使って(おとしい)れたに違いない!

 

 

 

都の中を歯を食い縛りながら走る。

 

 

助けるんだ、おでん様を!

 

だけど、どうやって?

 

私一人で見張りを倒してみんなを救えるの…?

 

 

……無理…きっとすぐに捕まっちゃう

どうすれば……どうすればいいの?

 

イヤだよ…おでん様……

 

 

視界がボヤけ、嗚咽が抑えられない。

 

 

 

「おい、お前」

 

 

突然かけられた声に後ろへ飛び退いた

 

完全に油断した…!

さっきまでこの路地に人の気配なんてなかったハズなのにっ…

 

 

私はクナイを構え、声の主を見た。

 

 

「え、……こ、こども?」

 

 

そこには身体は大きいが、確かに幼さの残る子どもがいた。

 

ムスッとした、ふてぶてしい佇まいだけど悪意は感じられない

 

 

「……おまえ、ニンジャだろ」

 

 

「へ? な、なんでそう思うの!?」

 

 

突然現れた金髪の子どもに忍者だと言い当てられ私は動揺した

 

 

「…かわった服だ……それに手にへんな武器もってる」

 

 

……どうやら私の服とクナイを見てそう思ったみたいね

 

確かに布を羽織っただけだから動くと中が見えちゃうし……もっと変装できそうな服を手に入れ……

 

 

おい、 ムシするな…!

 

 

私の思考を邪魔するように子どもが叫んだ。

 

 

 

「…忍者じゃないわよ」

 

「………そうか…じゃあ何してるんだ?」

 

「あなたこそ、子どもがこんな所で何してるの」

 

「泣きながらぶつぶつ言ってたへんなヤツには、はなさない」

 

「そう……ならいい、私急いでるから…」

 

 

 

そうだ、こんな所で子どもの心配をしてる場合じゃないんだ!

早く、おでん様の下へ行って……

いや……その前に何か解決作を考えなきゃ…

 

 

 

子どもに背を向け歩き出そうとしたけど私は立ち止まってしまった

 

 

だって…何も浮かばないんだ……!

 

味方なんてこの国には居ない…みんなおでん様を反逆者だと悪く言う…

 

誰も…………私の話を聞いて協力しようなんて人は……

 

 

 

「レオヴァさんは "びょうどう" だぞ」

 

 

子どもの口から発せられた名前に驚き、私は振り向いた。

 

 

「……あなた……何者?

なぜ、私にそんな事言うの……?」

 

 

「レオヴァさんは最後まで おでんを

そんちょう しようとしてた

だけど、それをムシしたのは おでんだ

……バカ殿とよばれても、しょうがないヤツだな」

 

「っ……違う!!

おでん様はバカ殿なんかじゃないっ……!」

 

 

気づいたら私は激情のまま子どもを押し倒して叫んでた

 

押し倒された子どもは呻き声1つ上げず、私をじっと見つめる。

 

 

 

「レオヴァさんは、"びょうどう" だ」

 

 

 

レオヴァ……あの真っ直ぐな目の子ども…

おでん様を倒した相手…

 

だけど、最初はおでん様と対話を望んでたって……

……本当はおでん様を処刑するなんて望んでないのかもしれない

 

だって……だって殺したいなら、あの時に気を失ったおでん様を部下に命令して殺させれば良かったんだ

…なのに殺さなかった。

 

 

───彼は……"平等"…なの?

 

 

 

「あなた、彼が……何処にいるのか分かるの?」

 

「……会うのか?」

 

「会う……会って、頼みたいの……」

 

 

「そうか、レオヴァさんが喜ぶ」

 

「……え?」

 

 

 

そこで私の意識は途切れた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

目を覚ますと私は知らない天井に見下ろされていた

 

意識がまだハッキリしない……なんで、私は…?

 

 

 

「おはよう……しのぶ…だったか?」

 

 

優しい、落ち着く声だった。

 

私は痛む頭を押さえながら起き上がる。

 

 

「……あなたは……レオ、ヴァ…?

なんで……ここに」

 

 

「話がしたかったんだろう?

……ジャックが手荒な真似をしてすまなかった

痛むなら氷を持って来ようか?」

 

 

綺麗な顔をした少年は申し訳なさそうに眉を下げている

 

 

「ジャック……?」

 

「あなたと話してた子の名前だ

……おれの弟のような子なんだが、少しやり方が荒くてな…」

 

 

少年の隣で無愛想に佇む、あの大きな子どもに私は連れて来られたみたいだ。

 

この少年は柔らかい雰囲気だ……けど本当に信用できる…?

いや、迷ってる暇はない……言うなら今しかない!

 

なにより私は殺されずに生きてる……!

きっとこの少年なら話を聞いてくれるはず!

 

 

私は心配そうにこちらを覗き込む少年に息をするのも忘れて話した。

 

 

「聞いて……!

おでん様はオロチにハメられてたの!

オロチは人質をとって……それでっ……おでん様はみんなを守るために裸踊りをしてっ…!

バカ殿に見えるように振る舞って……誰にもそれを言わずに!

ずっと…ずっっと一人で抱えて戦ってたんだ……!

それなのに…っ…!オロチは約束を、無かったことにッ……

だからぁ……う"ぅ"……おでん様の処刑をっ…取り止めて!

きっと………いや絶対に!おでん様がいれば、オロチなんてすぐに倒せるんだ!!

あなたもオロチを倒したいって……民を思う気持ちはッ…おでん様と同じ…だから……!…ふっうぅ……ぅ"う"」

 

 

もっと言いたいことはあるのに

私は嗚咽で言葉が紡げなくなっていく。

 

駄目だ、ちゃんと言わなきゃ……!

おでん様の処刑は間違ってるって……!!

 

 

だけど思いと裏腹に涙は止まってくれない。

 

嗚咽で震える私に彼はそっと毛布をかけて優しく背中をさすってくれる。

 

 

 

「……そうか……おでん殿は…脅されていたのか」

 

 

「そ"う"なの"……!!」

 

「それは…皆知ってるのか?」

 

「っ……う"うん……知"らな"い"っ…!

おでん様は一人でっ……ずっと"…かかえ"て"……」

 

「じゃあ、しのぶとおでん…

2人だけしかこの事実を知らないんだな(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)…?」

 

「う"ん"っ……だって…おでん様が……黙ってた"ことを"…私が周りに言う"なんて"っ……できなくて……!」

 

「そう、か……辛いのに良く耐えたな…

……誰にも言わずに……本当に…」

 

 

 

ずっと、ずっと欲しかった言葉だった。

誰にも言わず、光月家を裏切った忍者軍たちに追われながらも耐えてきた。

やっと支えられると思ったおでん様は捕まり……一緒に逝くことすらも許されず。

 

 

 

だから彼の態度に心から私は安堵した。

 

だって彼は私の話を聞いてくれた!

おでん様の本当を知ってもらった!

 

 

──この少年なら、おでん様を助けてくれる…!!

 

 

 

 

 

涙で薄れる視界で必死にレオヴァを見ると

──── 彼の微笑みは消えていた。

 

 

 

「……侍や忍者ってのは本当に忠義に厚くて助かる。

ずいぶんと手間が省けそうだ」

 

 

「……えっ…」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ジャックは久々のレオヴァからの仕事に喜びが抑えられずにいた。

 

最近は兄御たちの遠征に付き添うばかりで、レオヴァとの時間は以前の半分以下だ。

 

決して兄御たちとの遠征が嫌なワケではない

なによりジャックは真面目な性格だ

戦闘経験を積むことに余念はない。

……ただ、少しレオヴァの役に直接立ちたいという欲があるだけなのだ。

 

 

そして、昨日のおでん討伐にも呼ばれず気落ちしていた時だった。

 

突然戦闘から戻って来たレオヴァがジャックに仕事を任せたのだ。

 

 

 

『ジャック、この女を探してくれ

おそらく都の処刑場から500メートル以内に潜伏している

……無理やりじゃなく、おれに会いたいと言わせるんだ』

 

『わかったレオヴァさん…!!

……でも、どうやって会わせたいって…』

 

『そうだな……まず、おでんを悪く言って怒らせろ

そうしたら女はヒステリックになるだろう。それが本人確認にもなる。

……で最後におれは平等だとでも言えば誘導できる可能性が上がる筈だ』

 

『おでん悪くいう…レオヴァさんはびょうどう……?』

 

『そうだ。あまり難しく考えなくて良い

なにもしなくとも、どうせ心身共に限界だろうからな』

 

『うん、わかった

任せてくれ、レオヴァさん!』

 

『あぁ、頼むぞジャック』

 

 

 

レオヴァからの久々の任務にジャックは張り切った

直ぐに城を飛び出し捜索を始めた。

 

 

そして、開始から2時間かけボロボロの女を発見。

 

その後一時間ほど観察し、ほぼ確信へ変わった。

 

 

「……レオヴァさんの言ってたヤツだ…まちがいねぇ……」

 

 

女が路地裏に入ったタイミングを見計らい声をかけた。

しかし、上手くいかず女は立ち去ろうとしてしまう。

 

 

そこで焦ったジャックは思わず言われていた言葉を口走ってしまった。

 

 

『レオヴァさんは "びょうどう" だぞ』

 

 

しまった!順番を間違えた……!

と焦るジャックだったが、女は立ち止まり此方を見た。

 

今しかないと、ジャックは畳み掛けるように おでんを悪く言った

 

 

そして、あれよあれよと言う間に

気づけば女はレオヴァに会いたいと言ったのだ。

 

 

(やっぱりレオヴァさんはすごい……!

なんでかわからねぇが、言った通りになった!)

 

と喜んだジャックは目にも留まらぬ早さで頭部を殴り気絶させ

ぐったりした女を担いでレオヴァの下へ向かった。

 

 

 

 

 

そしてレオヴァからの指示で、無様に泣き崩れながら毛布にくるまり

此方に気付きもしない警戒心のない……女の首を落とした。

 

 

 

 

「……よし、ジャック 完璧だ。

これであとは九里へ向かいキングに合流すればいい」

 

 

ジャックの頭を撫でながら満足げに笑うレオヴァ。

 

褒められジャックも満更でもないようだが、1つ疑問があった。

 

 

「…レオヴァさん、なんでこの女だけ別でつかまえたんだ?

まとめて処刑すれば楽だ…です!」

 

「ん…? ジャックもこの女の話を聞いてただろ?

外に洩らされちゃ困る話(・・・・・・・・・・・)を知ってたんだ、無闇に口が利ける状態で大衆の面前にはだせねぇ…

それに他の人間に話してる可能性もあった

確かめる為には個別で話す必要があったんだ…わかるだろ?」

 

「たしかに…作戦がダメになるのは良くない

…そうか、それでレオヴァさんは…」

 

 

納得いったという様に頷くジャックを見て、理解力の高い弟分の姿に嬉しげに微笑みながら、またレオヴァは少し下にある頭を撫でた。

 

 

「万が一ってこともある、念には念をだ。

なにより侍にこの仕事は頼めない…ジャックだから頼んだんだ」

 

「おれだから…?」

 

「あぁ、身内の前でなら取り繕う必要もないだろ?

皆の前でだったら、この女を殺すのにも理由をつけないと…だからな」

 

「…? 殺したいなら殺せばいい

それでレオヴァさんに文句いうヤツがいるなら、おれが…!」

 

「ふふ……ジャックありがとう。

おまえは本当に優秀だな、おれも鼻が高い。

けど、そうもいかねぇ…まぁコレも父さんの役に立つ為なんだ、多少の面倒は請け負わないとな」

 

「そう…なのか

レオヴァさんはムズかしいこと考える…」

 

「ジャックももう少し大きくなれば解る

……と、そろそろ行くか

後片付け任せるぞ、ジャック」

 

「あぁ、キレイにする!

いってらっしゃい、レオヴァさん」

 

「行ってくるよ、ジャック」

 

 

レオヴァは張り切るジャックに微笑みながら声をかけると九里へと向かって飛び立って行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

光月おでん

その男の最期は見るに堪えないものだった。

 

 

釜茹での刑を言い渡され、処刑台に上がれば民衆からの大バッシング。

 

 

最期の頼み

 

『チャンスが欲しい…!

十人全員で釜に入る

もし決めた時間耐えきった者がいたら

 …解放してくれ!!』

 

 

その言葉を聞いた周りの民衆は石を彼に投げつけた。

 

 

『往生際の悪い…!!』

 

『最期までみっともねェぞ!』

 

『早く罪を償え…!』

 

『レオヴァ様への謝罪もねぇのかッ!』

 

 

口々に民衆は彼を罵倒する。

 

オロチは笑い、カイドウは不快さを露にした。

 

 

『ムハッハッハ~!馬鹿か!一瞬で死ぬ処刑だぞ!?』

 

『……おれの息子を斬りつけておいて…ふてぶてしい野郎だぜェ…』

 

 

 

だが、おでんは折れない。

 

『おれは生きねばならない』

 

 

『…………フン…おい、時計をもってこい!

 …1時間だ、耐えて見せろ…!!』

 

 

その言葉を合図に光月おでんの1時間に及ぶ公開処刑が始まった。

 

 

 

そして、1時間後

民衆の怒り、憎しみを一身に受け

皆に死を望まれながら息を引き取ったのだ。

 

 

 

主君の死と引き換えに赤鞘たちは処刑を免れ民衆を掻き分け走り出す。

 

だが、民衆はそれを良しとしなかった。

 

 

(みずか)らの主君を足蹴にする武士の恥じめ……!』

 

『カイドウさまっ…!どうか赤鞘に天誅(てんちゅう)を!!』

 

『おれが斬り伏せてやるっ!』

 

『ワノ国始まって以来の最低の犯罪者どもだ!』

 

 

民衆の意思はひとつ。

反逆者を裁き、平和な国を……!

 

 

カイドウは猛々しく笑う。

 

『ウォロロロロ~!さすがレオヴァ…愛されてやがる

…国中が望むなら……罰を与えるべきだよなァ…!!』

 

 

龍となり飛び立つカイドウを民衆の歓声が送り出す。

 

 

『カイドウさま~!!』

 

『我らが明王…!

どうか悪人どもの首を!!』

 

『おお~!さすが明王さまじゃ!

ワシらの声にお応えくださるとは…!』

 

 

 

遠くなる龍をオロチは唖然と眺めていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

釜茹で地獄から生還した彼らは死に物狂いで走った。

 

速く、速くトキ様たちの下へ…!

 

 

だが追ってくるカイドウとその部下たち相手に数名が離脱。

 

なんとか森の中を必死に走り抜けた赤鞘たちが九里へ行きつくも、目に入ったのは燃え盛るおでん城であった。

 

 

 

『と、トキ様ぁ~!』

 

『モモの助さまっ…!』

 

『ひより様ァ!!』

 

『なぜっ!どうなって…!?

康イエ殿たちが此処を守ってくださっていた筈ではないのか!?』

 

『狼狽えるよりも探すのが先だろう!?』

 

『やめぬか!言い合っている時間が惜しい!』

 

 

 

 

城の瓦礫をかき分け進んだ赤鞘が目にしたのは

無惨に殺された霜月康イエの遺体を(なお)も斬りつける町人たちであった。

 

 

『っ…!?

な、なにをしている!』

 

『康イエ殿から離れぬかァ…!』

 

 

町人たちを体当たりで突き飛ばす。

 

康イエの遺体は僅かに纏う服でのみ本人だと確認できる酷い有り様だ、顔は原型を留めず…さらには五体不満足の状態である。

 

 

 

『な、なんと惨いことを……』

 

『康イエ殿っ……!』

 

『お前たち!

なにをしたのか解っているのか!?』

 

 

 

赤鞘たちの叫びに

町人たちの顔が怒りに満ちる。

 

 

『なにをしたのか……だと?

それはお前らだろう!?』

 

『そうだ…!!

レオヴァ様への反逆などと……恩知らずめ!』

 

『恩を仇で返した貴様らと違い我らは恩に報いるべく戦っているんだ!』

 

『貴様らのせいで……おれたちはァ…!!

レオヴァ様にっ…見放されるんだ……死んで償えよォ!?』

 

 

焦点の合わない町人たちが農具を手に襲いかかる。

 

 

『っ……く!』

 

『…こうなれば……致し方あるまい!』

 

赤鞘の一人が床に刺さっている刀を抜き構えた。

 

 

『おい!?斬るつもりか!?』

 

『…どうしようも…ないだろう!?』

 

 

赤鞘の男は町人たちを次々と切り捨てる。

 

 

『グゥ……痛ェ……!』

 

『ちくしょう……ちくしょ…すま、ねぇ…レオヴァ様ァ……』

 

『お前らなんぞ…にっ……』

 

『呪ってやる……ぜったいに…ィ!!』

 

 

斬られた町人たちは口々に呪詛を吐く。

 

 

赤鞘たちは拳を握りしめながらも奥へと進む。

 

 

喉が焼けるような煙を吸いながらも歩み続けると

怒鳴り声と泣き叫ぶ声が聞こえてくる。

 

 

赤鞘たちは走り出し声の下へと急いだ。

 

 

 

『『モモの助さまっ…!!』』

 

 

そう叫びながら部屋へ飛び()ると

そこでは必死にモモの助とひよりを庇うトキの姿があった。

 

町人たちは囲む様に立っており責めるようにトキを怒鳴りつけている。

 

 

『反逆者の残党め…!』

 

『楽に殺すな!

しっかり苦しませてからだ!

これは“罰”なんだ!』

 

『レオヴァ様への懺悔がまだだ!』

 

『トキ様はバカ殿とは違うと思ってたのにっ…!

あんたも裏切り者だ!あんたらが居なきゃ私たちはレオヴァ様に守って頂けてたんだぁ!!』

 

『貴様らの首を持っておれたちはレオヴァ様へ恩を返す…!』

 

 

ジリジリとにじりよる町人たちを赤鞘は後ろから斬りつける。

 

 

『貴様らァー!!

トキ様たちから離れろ…!!』

 

『トキ様っ……遅くなり申し訳ございませぬ!!』

 

『な、なんとお痛わしいッ…!

貴様ら、よくもっ!』

 

 

部屋にいた町人たちを全て斬り倒し、赤鞘はトキたちの下へと走り寄る。

 

そして、赤鞘の一人が腕を失い立つのがやっとだったトキを抱き抱える。

 

『みんな……ごめんなさい…ぅ……』

 

『母上ぇ~~!!』

 

『うえ~~んヤダよ、母上しなないで~!!』

 

『『『トキ様っ…』』』

 

 

『き、聞いて……まだ、逃げる場所はある、の…

……みら、い……あなたたちを…未来へとばすわ

…わたしの、最期の……力で』

 

『それは…!?』

 

『未来!?トキ様、一体なにを!』

 

『さ、最期……そんな…母上!』

 

『うう……やだ、やだよ……母上ぇ……』

 

 

トキは優しく子どもたちを抱き締めると

最期の力を振り絞り、希望を未来へと託した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「………赤鞘の死体がない…か」

 

 

九里へ到着したレオヴァは頭を抱えた。

 

報告によるとキング達が攻め入る前に、(すで)に町人達による討ち入りがなされていたと言う。

 

 

これは想定外の事態であった。

 

本来であればレオヴァは此処で赤鞘を全員殺し、少しでも不安要素を消すつもりでいたのだ。

 

 

不安要素は少しでも減らしたい。

だからこそレオヴァはわざわざ出向き女忍者を処分したのだ。

 

だが、それが裏目にでた。

 

 

キングならば問題ないだろうという油断もあったのかもしれない。

 

 

キングも町人(もろ)とも殺す事も考えたが、レオヴァが積み上げた信頼を自分が崩して良いのだろうか?計画を狂わせることになるのではないか?

という考えが先行し、結果後手に回ってしまったのだ。

 

 

 

最初の一言以降真顔で黙り込んだレオヴァにキングは瞳を揺らした。

 

 

「……すまねぇ…レオヴァ坊っちゃん」

 

 

キングの謝罪に今度はレオヴァが瞳を揺らす。

 

 

「いや、キングが謝ることじゃねぇ…!

ここまで考えが至らなかったおれの落ち度だ

民衆の暴走も予め視野に入れられた筈だ…

…にも関わらず、そのパターンの指示を伝えられなかった…

キングが動けなかったのはおれの作戦を案じてなのは理解してる

おでん、トキ、康イエの死体はあるんだどうにでも出来る(・・・・・・・・)

……それにこの暴走を上手く使えば今後に役立つ可能性すらある…

…そうだ、問題ない……プラスに変えればいい…それだけの事だ」

 

 

「……レオヴァ坊っちゃん。

フッ…敵わないな…」

 

「ありがとう、キング

では、挽回させてもらうとしよう…と、その前に隠蔽工作だな」

 

「隠蔽工作…?」

 

「あぁ、赤鞘の死体が出なくても不思議じゃない状態にする」

 

「なるほど、現場を作り替えて都合の良いように事実を魅せるわけか」

 

「そうだ

キングは話が早くて助かるな」

 

「なら、カイドウさんに頼むのが一番…か」

 

「そうだな、父さんに頼もう。

……なにより明王の(おこな)いならば民衆も喜ぶだろう」

 

「一瞬でその考えが出来るのはレオヴァ坊っちゃんくらいだろうな」

 

「そんなに褒めないでくれ、照れるだろう…」

 

 

流石だとマスクの下で笑みを浮かべたキングに、レオヴァも小さく笑みを返す。

そして、次の行動が決まったレオヴァはカイドウの下へ行き、隠蔽工作について話しをした。

 

 

「そうか…!

なら、おれに任せてレオヴァは次の策に行け!

……キング、お前はおれと来い!」

 

「あぁ、カイドウさん…!」

 

 

「父さん、キングあとは任せる」

 

 

二人の背を見送ると、レオヴァは城から運ばれた瀕死の町人らが集まる場所へ向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

下町の広場は屍のような人間で溢れかえっていた。

 

怪我で呻く者、この後の絶望へ身を震わせる者

……皆さまざまだ。

 

もちろん俺もその一人だ。

 

 

討ち入りに参加したが結局、赤鞘に討たれ…

討ち取れた残党は康イエだけだった

 

斬られて内臓が見えかかった脇腹を押さえ、耐える。

 

 

何故怪我人含め町人全員が広間に集まっているのか

その理由はただ一つ。

 

─── レオヴァ様が此処にいらっしゃるからだ。

 

 

城で倒れてた俺たちはキング様の連れている部下の人たちに避難させてもらった。

 

なんでもカイドウ様が直々に罪人を罰しにくるらしい。

……そう、罪人を罰する。

 

 

俺たちはきっとこの後訪れるレオヴァ様から罰を言い渡されるんだ…

 

みんなレオヴァ様を心から敬愛している

だからこそ屍の様になるのだ……

 

 

だけど、俺はレオヴァ様に裁かれるなら本望だった。

 

……赤鞘の攻撃で死ぬなんて御免だ…!

せめて、レオヴァ様の手で…なんて思う俺は強欲なんだろうな…

 

 

 

燃え盛る九里城の鳥居の上に黄金に輝く美しい巨鳥が現れる。

 

キラキラと美しいその生き物は鳥居の前へ降り立ち、いっそう輝いたかと思うと人の姿へと変わった。

 

 

ああ……レオヴァ様だ!!

 

 

俺もみんなも涙を流しながらレオヴァ様をただ見つめていた。

…俺たちに相応しい処分を下していただける瞬間を待つように。

 

 

 

 

だがしかし、罰を下される瞬間はついに訪れなかった。

 

レオヴァ様は俺たち怪我人を見るや否や血相を変えて手当てしてくださったのだ。

 

数十人もの怪我を必死に手当てし、優しいお言葉をかけてくださる…

 

みんな、これは夢なのではないかと思った。

 

実際、自分の顔を殴り現実か確かめている者もいた。

レオヴァ様は、そんな自分の顔を殴りつけた者の側へ行き、優しく語りかけ、あのいつもの痛みを和らげる力を使ってくださってすらいた。

 

『自分を傷つける真似は止してくれ…大丈夫、大丈夫だ。

皆の不安に気付けなかったおれを許して欲しい……すまなかった…

もう、なにも恐れなくて良いんだ

これからは、おれが皆を守る……おれと共に来てくれるか?』

 

 

そう言うと微笑み、安堵から泣き崩れた町人の背を優しくさすっていた。

 

 

俺は目がおかしくなるほど泣いた。

いや、周りに泣いてないヤツなどいなかった

大人も子どもも脇目もふらず泣いた。

 

レオヴァ様は俺たちを本当に、本当に大切に思ってくださっていたんだ…!

 

バカを止めることもできない、討ち入りすら成功させられない…どうしようもない俺たちをレオヴァ様はっ…!!

 

 

止めることの出来ない涙が枯れるまでレオヴァ様は俺たちに寄り添い、怪我人の体を労りながら側にいてくださった。

 

 

そして、俺たち九里で生きるすべての者はレオヴァ様の民となった。

 

そう、これ以上ない幸福だ。

 

 

レオヴァ様が九里を治めてからは、昔が嘘のように食べ物とみんなの笑顔に溢れる町になった。

 

 

近くには武器工場ができ、町の男たちはこぞって参加した。

工場にはあの有名な編笠村の職人が多数きて素晴らしい技術を教えてくれる。

 

 

まぁ、俺も例に洩れずに給金もよく、みんなから一目おかれる職人という仕事に憧れている。

 

最近なかなか筋がいいと編笠村の職人さんに言ってもらったんだ!

 

 

しかも様子を見にいらっしゃっていたレオヴァ様にお褒めのお言葉を頂けたこともあった…!!

 

 

『真面目な良い職人になりそうだと聞いたんだが

……言葉通りみたいだ、この刀…始めて1ヶ月半とは思えない出来だな』

 

『そ、そんな!

おれなんて!まだまだヒヨっこで……けどレオヴァ様に報えるように、もっと良い刀作れるよう頑張ります!』

 

『…ふふ、謙虚だな

 お前の自信作を見れる日が今から待ち遠しい…楽しみにしているぞ?』

 

 

あぁ……間違いなく俺の人生において最高の瞬間だった。

 

 

とにかく地獄は去ったのだ…

いや!去ったと言うのは正しくないな……

正確にはレオヴァ様が地獄から引き上げて下さった。

 

そう、レオヴァ様が俺たちを救い上げ守ってくださるからこその平和なんだ…!!

 

 

なにも恐れることはない。

だってレオヴァ様が俺たちを守ると約束してくださったんだから。

 

 

 

…いつかレオヴァ様がこの国の上に立ってくれりゃ……

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

── 処刑執行後、数日のワノ国にて。

 

 

やはりどこもかしこも話題は同じである。

 

 

 

 

「おいおい聞いたか!

カイドウ様の一撃で赤鞘たちは木っ端微塵だとよ!」

 

「へっへっへ 聞いたぜ!

流石は明王様だよなァ…!城も跡形もねぇんだと!」

 

「そりゃ良い!あんな城が残ってちゃ腹が立ってしょうがねぇよ」

 

「ハッハッハッ…!そりゃ違いねぇ!」

 

 

 

 

「カイドウ様は怒りで加減を忘れちまったとか……」

 

「そりゃそうじゃ!レオヴァ様に刃を向けたんだ

ワシだって怒りで可笑しくなりそうだと言うのに……

カイドウ様からすれば自分の息子じゃろ?

そんなの計り知れないほどの怒りにきまっとる!」

 

「本当にレオヴァ様もカイドウ様もお互いを大切にしてる良い親子だよなぁ!」

 

「そうそう!

レオヴァ様はカイドウ様の話をなさる時ほんとうに嬉しそうな顔するんじゃ!

いやぁ、普段との差が……つい可愛く見えてしまうのぅ」

 

「お前も歳だなぁ!

まぁ、そりゃお前から見りゃレオヴァ様は孫くらいの年齢だしなぁ!はっはっは」

 

 

 

 

「九里の奴ら無罪だとよ!」

 

「えぇ!?いいのかよ……

あいつらバカ殿の謀反知ってたんじゃないのか…?」

 

「知らなかったらしいぞ…

それにあのバカ殿の城に討ち入りまでしたとか」

 

「討ち入りぃ!?

…なら知らないってのも本当かもな……」

 

「けど討ち入りは失敗して男どもは、みんな死にかけだったそうだ……」

 

「え、じゃあ九里の人間は殆ど死んじまったのか?」

 

「いや、レオヴァ様は怪我の手当てして全員の話聞いて回ったんだってよ!

もう大丈夫だって優しく声までかけて下さったと九里のおっさんが言ってたの聞いたんだよ!」

 

「おお……流石はレオヴァ様だ……なんてお優しい!」

 

「しかも、これから九里を治めるのはレオヴァ様になるって話だ!」

 

「えぇ!? くそぉ!羨ましいなぁ!」

 

「だよな!?

あ~…おれ九里に住もうかな……」

 

「編笠村がいっぱいで駄目だったからって次は九里かよ!」

 

「なんだよ、お前も九里行きたいだろ?」

 

「………そりゃ…九里行きてぇよ…」

 

 

 

 

 

この話は人伝(ひとづて)に次々と広まって行き、ワノ国に知らぬ者は居なくなっていた。

 

 

光月は過去の卑しい反逆者の名となり

 

カイドウ、レオヴァの名は希望として広がっていった。

 

 

 




質問お返しコーナー

Q.レオヴァのおでん様への評価はどんな感じなんでしょうか?

A.考えの足りない甘い人物、しかし強者。
レオヴァ的には絶対的にカイドウと関わらせたくない人物でしたが
死んでしまったのでレオヴァの記憶からは“ほぼ”消えました。
レオヴァは生きていて、価値のある人物以外には基本無関心なので


Q.現時点でのレオヴァ様の強さってどれくらいですか?

A.おでん処刑時点で16歳なのですが、実力はヒョウ五郎の7割ほどです!
悪魔の実のタフさと狡猾さ、得意の見聞色でじわじわ攻めておでんを落とした感じでございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

任命式

圧倒的感想の物量……!!文字数の暴力…!!
ゆ、夢か……? いや、夢じゃあない……!!
……たくさんの感想本当にありがとうございますっ…!

前回もしっかり誤字ってしまっておりました
報告してくださる方はきっと聖人なんだろうなぁ……
誤字脱字報告、感謝です!



※今回の話しにでる小半刻とは昔の時間の単位の事で、だいたい30分のことです(本来は季節により上下するらしいです)



 

 

 

 

 

 

朝からワノ国の民は皆喜びに溢れている。

 

なんてったって、今日はワノ国1目出度(めでた)い日だ……!

 

 

あの、レオヴァ様が百獣海賊団

 "総督補佐官(そうとくほさかん)"に任命される日なんだ!

 

 

カイドウ様を補佐するっつーことは事実上、百獣海賊団の2番目に偉い人ってことだろ!?

 

 

 

そして今日、花の都にレオヴァ様が来て正式発表されるんだ。

俺は親分に必死に頼み込み、なんとか休みを手に入れた!

 

…けどそりゃ、みんな同じらしい

見たことねぇほど都は人で溢れかえってる。

 

 

夕方から行われる任命式が楽しみでならねぇよ……!!

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

~ある村にて~

 

 

 

村人たちは集まりどよめいていた。

 

何故なら目の前に見たこともないようなご馳走

そして薬や織物まで山のようにあるのだから。

 

 

どうして平民には手の届かない物たちが目の前に積まれているのか……

 

村人たちは動揺を隠せずザワザワと騒がしい。

 

 

しかし、村人の集まりの中にいた老人がついぞ声を上げる。

 

 

 

「こ、これは……いったい……

なんだってこんな辺鄙(へんぴ)な村に………上納金もギリギリでございますゆえ……このような高価なもの…買えませぬ……」

 

 

「買う……?

わはっはっは…!! 違うぞ?

これは、いと素晴らしき御方(おかた)…レオヴァ様のお優しさである!!」

 

 

「……はぁ……れおう"ぁ…様……?」

 

 

「そうだ!

本日は、レオヴァ様が百獣海賊団・総督補佐官という名誉あるお立場に立たれる素晴らしき日……!

もちろん総出でお祝いしようと皆が意気込んでいた!

しかし……!

お優しいレオヴァ様は御身(おんみ)の祝いの資金をお使いになられず……

それどころか我々民の為に祝いの資金を使うと仰られたんだ……!!!」

 

 

 

高々と語る編笠村の男の言葉に、村人たちは驚きを露にした。

 

 

レオヴァ様といえば、カイドウ様のご子息……

そんな身分の高い方が上納金(じょうのうきん)もほとんど上げられない村にこんなに物資をくださったのか……?

 

何故(なにゆえ)の行動なのかわからずに村人たちは側にいる者とボソボソと話し出す。

 

 

 

 

「……偉い奴ってのは祝い事はハデにやるんじゃないのか…?」

「あぁ……オロチがまさにそうだろ」

 

 

「え、いや……どういうことだ?」

 

「なぜレオヴァ様って人のお祝いでワシらに食料が…」

 

「薬まであるぞ…! おれの息子の傷を手当てできる!」

 

「……怪しいだろ………なんでおれら平民なんかに…」

 

 

 

いつまでもザワつく村人たちに編笠村の男はまた語りかける。

 

 

「お前たちの動揺はおれにも分かる……

だが、聞いたことぐらい有るだろう

レオヴァ様が編笠村、鈴後…そして九里をお救いになった話を……!!

おれはその編笠村から来た!

あの話は全て事実……おれがこうして生きてるのもレオヴァ様が手を差しのべて下さったおかげなんだ!」

 

 

 

「……編笠村の村人か」

 

「聞いたことあるわ…!

オロチの圧政に潰れかけてた編笠村を助けたって……」

 

「鈴後に現れた蛮族たちを明王と退(しりぞ)けたんだよな…!?」

 

「知ってるぞ!

そのあと村の復興も手伝ったって話を絵巻物で読んだんだ……!」

 

「じゃ、じゃあ……ほんとにこの食料に薬…貰えるのか?」

 

 

 

困惑で覆われていた村人たちの瞳に光が宿る。

 

 

しかし、一人の若者が声を上げる。

 

 

「なぁ、待ってくれ編笠村の人!

これを受け取ったら……おれたちはレオヴァ様って人になにか要求されるんじゃないのか…?

……それにおれたちだけ、なんて怪しすぎる!!」

 

 

 

若者の言葉に他の村人は止めに入る。

 

「お、おい!よせよ!

あんま失礼なこと言っちゃいけねぇ!」

 

「そうだ!……それにうちのガキは昨日も飯を食ってねぇんだ…

……なにを要求されたって構わねぇ!

このままじゃ、どちらにせよ飢え死んじまう!」

 

「おれの息子の怪我には薬がいるんだよ……!

どんな理由でおれらの村が選ばれたんであれ、今はこの施しを頂こう……!」

 

 

 

騒がしくなった村人たちに困った顔をしながら編笠村の男は止めに入る。

 

 

「あんたら落ち着いてくれよ!

このレオヴァ様からの食料たちはワノ国中に配られてんだ

あんたらだけ特別ってわけじゃねぇさ」

 

 

 

その言葉に村人は目を見開いて問いかける。

 

 

「え……ワノ国中!?」

 

「け、けどそんなの凄い金がかかるだろ!?」

 

「そんな大金……どうやって?」

 

 

 

「レオヴァ様はお祝いの資金だけじゃ皆に配れねぇと

ご自分のお金を使ってまで、ご準備して下さったんだ…!!」

 

 

「自分の金を……」

 

「金持ちは金使わねぇって話は嘘か!?」

 

「わざわざ下人なんかの為に…」

 

 

「驚く気持ちもわかる…!

けどよ…レオヴァ様って御方はそういう方なのさ……

いつだって民を想ってくださる…」

 

 

編笠村の男のしみじみとした言い方からは嘘は感じられなかった。

 

それに国中に広がる噂でレオヴァという男の悪い噂を聞いたことのある村人などいない。

 

 

最初に声を上げた老人が編笠村の男の前に行き、深々と頭を下げる。

 

 

「……ありがたい……!!

その食料たち、ぜひ頂戴したい…!」

 

 

頭を下げる老人を必死に編笠村の男は上を向かせる。

 

 

「おいおい……!爺さんよしてくれ!

おれはレオヴァ様に頼まれて運びに来ただけださ

それに貰ってくれりゃ、おれも嬉しいんだ

なによりレオヴァ様がお喜びになる……!

……っと!忘れてた!」

 

 

老人に優しく声をかけ終わると、何かを探す様に自分の着物をさわり……懐から綺麗な貝を取り出した。

 

 

村人たちは見たこともない貝を不思議そうに見ている。

 

 

「編笠村のお人……それは…なんだい?」

 

 

「これは音貝(トーンダイアル)ってんだ」

 

 

「とーん…だいある……?」

 

 

「レオヴァ様から頂いたモンでな!

なんと……これに入れた音を好きな時に流せるんだよ…!」

 

 

「貝に音を…? そんなモンがあるのかい?!」

 

 

「おおう!おれも初めてみた時は驚いたさ!

……で、この音貝(トーンダイアル)にレオヴァ様からのお言葉が入ってるから聞いて欲しいんだ!」

 

 

「レオヴァ様からのお言葉……?」

 

「……なにを言われるんだ?」

 

「どんなお声なのかねぇ…?」

 

 

 

 

「まぁまぁ、いいから聞いてくれよ

 …よし、流すぞ~!

 

『……え~と……よし、レオヴァ様!どうぞ!』

 

『…はじめましてだな、おれはレオヴァと言う

本日より百獣海賊団の総督補佐官という役職につかせてもらう者だ。

祝いの日と言ってくれる皆の優しさと、共に歩んでくれる民に報いるべく…なにか出来ないかと考た結果、食料など物資を配ることに決めた。

今回配る食料はおれが遠征で手に入れた物と編笠村、鈴後、九里で栽培された物だ。

おれの自慢の民たちの作る野菜や果物は絶品だ

 ぜひ堪能してほしい』

 

『へへ…!レオヴァ様、絶品なんて褒めすぎですよ……!』

 

『ふふふ…本当のことだろう?

お前たちが汗を流し頑張ってくれているからこそ素晴らしい食べ物たちが出来るんだ……いつもありがとう』

 

『そんなッ…!もったいねぇお言葉っ……!

おれもっと、もっと頑張りますぜ!』

 

『まったく、働きすぎだぞ?

ちゃんと休んでくれ……体を疎かにするな』

 

『そりゃレオヴァ様もですよ!!

働き詰めで……心配ですよ…』

 

『おれは良いんだ、上に立つ者が皆の為に奔走(ほんそう)するのは義務だ。

……いけない、話がずれた』

 

『レオヴァ様っ……

と…そ、そうでした…!

では、続きをお願いいたしやす!』

 

『あぁ、……今日くらいは満足いくまで腹を満たしてほしい。

薬や着物も好きなように使ってくれ

……これからおれはワノ国中の民が飢えずにすむ様に努力するつもりだ

信じられない者が大半だろう……信じてくれとは言わない。…口でならなんとでも言えるからな。

 だからこそ、おれは行動で示す……見ていて欲しい。』

 

 

以上だ!……間におれとレオヴァ様の会話が入っちまってるが、それは気にしないでくれ!へへへ…

とにかく、そういうワケだから物資は好きに使ってくれよ!」

 

 

 

 

 

レオヴァの言葉を聞き終わった村人たちは呆然とした。

 

思っていた数倍…幼さの残る声

そして上に立つ者として毅然(きぜん)とした声の強さの中にある優しさ。

 

どれもが今まで一度として体験したことのない事だった。

 

 

 

 

「これが……レオヴァ様…」

 

「編笠村のお兄さんはただの農家なんだよね……?

なんで、レオヴァ様はこんなに平等に…優しく接してくださるんだい?」

 

「オロチはおれらを人とも思ってねぇのに

…共に歩む民か…おれらも、レオヴァ様には民だと思ってもらえんのかな……!」

 

「……ずいぶんと若ぇ声だぁ…ワシの孫くらいか?」

 

「とっても優しい話し方をする人なのねぇ~…」

 

「おれたちが飢えずにすむように努力……努力なんて言葉を偉い人がおれらに使うなんてよ……」

 

 

 

皆、驚きと感激を口々に洩らしていく。

 

 

 

「レオヴァ様のお優しさが少しでも伝わっておれは嬉しいぜ……!

…はっ…いけねぇ!

おれはレオヴァ様の任命式を見てぇからそろそろ行かせてもらう!」

 

 

「ちょ、ちょっと待って編笠村のお兄さん!」

 

「そうだよ!レオヴァ様の任命式っていったいどこで……!」

 

「おれらもお会いしてぇよ……」

 

 

 

「あー……任命式は都で開かれるんだよ…」

 

 

 

(みやこ)と聞いて次々に村人は肩を落とす。

 

 

「……都じゃあ…無理だねぇ……」

 

「残念だ……」

 

「ま、まぁみんな!行けなくてもそれぞれでレオヴァ様をお祝いしようぜ!」

 

「そうね……死ぬまでにお会いしてみたいわねぇ…」

 

 

暗い村人を励ます様に編笠村の男は言う。

 

 

「今日夕方か夜に空を見上げりゃレオヴァ様を見れるかもしれねぇさ!」

 

 

だが、皆わけがわからず首をかしげた。

 

 

「そ、空……?」

 

 

「あぁ!レオヴァ様は特別なお力を持ってらっしゃるんだ!

そのお力で、見たこともねぇような神々しい(イカヅチ)のお鳥様のお姿になられるんだが…

今日の式の後、ワノ国の空を飛ぶって話を聞いたんだよ

だからきっと空を見上げてりゃレオヴァ様を見れる!」

 

 

「雷のお鳥様……?」

 

「レオヴァ様はそんなお力まであるってのか……!?」

 

「そりゃ一度は見てみたいな~!」

 

「ママ!夜おきてていい?」

 

「良いわよ。 一緒にお星さま見ながら待ちましょう!」

 

 

 

レオヴァが見れるかもしれないと喜ぶ者や、不思議な力に驚く者。

 

様々な反応ではあるが、皆の心の中は今日の夜空を待ち遠しむ気持ちで溢れていた。

 

 

「それじゃあ!」

 

 

手を振り都へ急ぐ編笠村の男を村人たちは笑顔で見送った。

 

これだけの食料があれば今日だけと言わず、しばらく飢えることはないだろう。

 

着物や薬を大切そうに抱える村人たちの顔は、今までにないほど喜びで彩られていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

任命式を控えるレオヴァの下にクイーンがおしるこの鍋を抱えながら近づいてくる。

 

 

 

「よォ~!レオヴァ~~!

ついに、任命式だなァ……!

カイドウさんもスゲェ張り切ってるぜ!!」

 

 

カイドウの機嫌が良いおかげで暇を手に入れたクイーンは満面の笑みを浮かべながらレオヴァの正面に座った。

 

レオヴァも他でもないカイドウから直々に役職を与えられた事を心から喜んでいる。

 

 

「任命式で直接父さんから言葉を貰えるのが楽しみだ…!

………またあんこを飲んでるのか」

 

 

「あんこって……

これは お・し・る・こ…!!!

ただの小豆とは、ぜんっぜん違ぇからァ……!!!」

 

 

「そ、そうか。悪かったな

……が、その量は多すぎないか?」

 

 

「わかってくれりゃ良いぜ!

あと、これは少ない方の鍋だからな?

あと4つ分作らせてる……!

ああ~!早く来ねぇかな~おしるこ~~!」

 

 

 

早くも何も既に鍋を抱えてるじゃねぇか……!

という一言をレオヴァは飲み込んだ。

 

クイーンはおしるこの事となると面倒だというのをレオヴァは良く知っていた

わざわざ藪をつつく真似はしない。

 

 

 

 

「……で、クイーンは何してるんだ?

おれに何か用でもあったのか?」

 

 

「ん、そうそう!

レオヴァの任命式だってのに派手にやらねぇのもったいなくね?って話しに来たんだよ…!

 大々的にいこうぜ!

これって、言っちまえばレオヴァのお披露目会みたいなところもあンだろ?

こんなに質素な式じゃ馬鹿な華族(かぞく)士族(しぞく)どもにナメられちまうぜ……」

 

 

 

クイーンのいう通り、今回のレオヴァの任命式はあまりにも予算がかけられていなかった。

 

任命式と言っても城の前の広間で部下たちを隊列させ、そこにカイドウとレオヴァが現れ任命する。

 

……それだけなのだ。

 

 

ワノ国の一般的常識では

身分の高い者たちがなにか大衆の前でする時は、部下だけでなく花魁であったり、きらびやかな装飾を施した服や道具をふんだんに使い自分の財力と権力を示すものだ。

 

 

にも関わらずレオヴァは

舞台を作るわけでもなく、見目のいい女も使わず

本当にただ任命を皆の前でするだけ。

 

 

クイーンはレオヴァの為に派手で、尚且つ誰もが驚く様な式を用意してやりたかった。

 

が、任されたのはキングだった。

 

 

最初は納得いかずにキングと揉めたがカイドウからの指示でしぶしぶ引き下がった。

なんだかんだ言いはしたが、キングならばまぁまぁな出来にはなるだろうと考えていたクイーンだったが蓋を開けてビックリしたのだ。

 

 

盛大に祝うべき事をキングは簡素……いや、みすぼらしくしてしまっていたのだ。

 

 

当然、クイーンはそれを知るや否や楽しみに待っていたおしるこを置き去りに、キングの下へ向かい文句をつけたが……それはレオヴァの意思だと言い返されてしまった。

 

 

納得いかないクイーンは出来上がったおしるこ鍋片手にレオヴァの下へ問いに来たのだ。

 

 

 

 

 

「クイーンの言う通り、これはお披露目の意味もある

……第一印象は人間関係を築く上で大切だからな」

  

 

「だったらもっと派手にいこうぜ…!

この式じゃ第一印象で見くびられちまうだろ?」

 

 

「そうだな。

見栄や金を気にするような華族や士族はおれを下に見る様になるだろうな

だが、民を思う者や町人たちからの考えは違ってくる筈だ

……その為に、全ての村や町に贈り物を届けさせてるわけだしな」

 

 

「あー…………え、そういう事かよ…!?

なんだよレオヴァ…最初から言っといてくれりゃ

おれもゆっくり おしるこ食ってたのによ~!」

 

 

「ふふふ……すまないな

その話をしている時、クイーンは遠征に行っていたから言いそびれたんだ」

 

 

「っとによォ~

てかキングもそれならそう言えよ……!!

あの野郎……絶対わざと言わなかっただろ……!」

 

 

「おれが人前でこういう話はしないでくれと頼んだからな

あまり喧嘩はよしてくれ」

 

 

「どうだかな~……あいつマジで性格悪ぃからなァ……

ま、レオヴァの考えはわかったし良いわ!

でも言われてみりゃ確かに"馬鹿"を見つけるのにも使えそうだし

……レオヴァもなかなか性格悪ぃな~?」

 

 

「人聞きの悪い言い方は止してくれ。

……ただおれは民の為に資金を使いたかっただけ、そうだろクイーン?」

 

 

「ムハハハハハハ~!!

そうだな!"レオヴァ様は民想い"だからなァ……!」

 

 

「ふふ…そういう事だ。」

 

 

 

 

任命式の件に納得がいったクイーンの(もと)へ新たなおしるこが運ばれてくる。

 

レオヴァはそれをなんとも言えない顔をしながら眺め

任命式までの間、クイーンと雑談を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

1日の終わりが近くなり日は沈み、辺りは暗くなり始めていた。

 

 

しかし、都にある城の前は大勢の人で溢れかえっている。

 

城前の広場へ続く大通りにも人は溢れ、少しでもカイドウとレオヴァを見ようという意志が感じられる。

 

 

 

「はは!やっとだ!

そろそろ任命式ってのが始まる時間だぜ!」

 

「楽しみだなぁ!」

 

 

 

「おれ実はレオヴァ様見たことあるんだ

鈴後に行った時なんだけどよ!」

 

「本当かよ!? 羨ましいぜ!

ま、おれも今日見れるけどな

あ~!はやく始まらねぇかな!」

 

 

 

「明王様って龍になるらしいが本当かよ?」

 

「さぁ? あの処刑の時に龍になって飛んでったって話は聞いたぜ?

けどトンでもなく強いってのはきっと本当だ!

おれは遠目で見たことあるがあん時は腰抜かしたからな……」

 

「ええ……?そんなにかよ…」

 

 

 

「あ~!くそ!

前に陣取りたかったのによ……!

これじゃレオヴァ様にお会いできねぇよ…」

 

「落ち着けって!

……けど、確かにこの距離じゃお会いできねぇよな…」

 

「カイドウ様にもおれァお会いしてぇのによぉ!」

 

「しょうがねぇよ……

今日は目出度い日なんだ問題起こすのは止そうぜ」

 

「……そうだな…」

 

 

 

 

「面白そうだし見てくか!」

 

「いいな!

おれもカイドウって奴がどんな奴か見たかったんだよ

強いっての本当かわかんねぇもんなぁ」

 

「ははは!たしかに!

レオヴァってのもガキだろ?

ちょっと見て、そしたらかわいい花魁にでも会いに行くか~!」

 

「そうしよう!」

 

 

 

 

 

カイドウとレオヴァを待ちわびる人々の下に大きな音が届く。

 

 

広間の前に整列していた百獣海賊団の者達が隊列を変えると

二人の対照的な大男が現れる。

 

 

 

「よォ~!お前らァ~~!

お待ちかねの任命式の時間だ!」

 

 

奇っ怪なサングラスをかけた大男

── クイーンの呼び掛けに大衆が答える。

 

 

 

「「「「うおおぉーー!!」」」」

 

「やっとレオヴァ様に……!」

 

「待ってたぜーー!」

 

「明王様ぁ~!!」

 

 

 

溢れかえった人々の大歓声にクイーンは楽しげに笑い

キングは鬱陶しそうにマスクの下の顔を歪めた。

 

 

 

響きつづける歓声に答えるかのように空の雲が蠢き出した。

 

暗くなり始めていた空に突然眩い光が走り雲が消え去る。

 

 

雲一つない大空に神話に出てくるような大きく勇ましい龍と

その龍に寄り添って羽ばたく黄金の巨鳥が現れた。

 

 

 

 

都に集まった人々は呼吸も忘れその現実とは思えない光景を見ていた。

 

 

 

圧倒される人々の前に龍と巨鳥が降り立つ

そして黄金の巨鳥の放つ輝きに民衆が目蓋(まぶた)を閉じ、再び目蓋(まぶた)を開けそこを見ると

髭を蓄えた逞しい御仁と側に立つ凛々しい少年の姿があった。

 

確かな自信を宿した瞳と黒い髪、そこから伸びる猛々しい角が二人が親子であることを物語っているようだ。

 

 

 

 

いまだ声も出せずに見入ってしまっている民衆に

カイドウの力強い声が響く。

 

 

「ウォロロロロロロ~!

おめぇらよくぞ集まった!!

今日は他でもねぇ…おれの自慢の息子、レオヴァを総督補佐官に任命するめでてぇ日だ!

他にも言いてぇこともあるが、時間もねぇ……早速任命式開始だァ!!

 

今、この瞬間からァ…!!

レオヴァをこの百獣海賊団の総督補佐官に任命する!!!

異議のある奴ァ前へ出ろォ!

 

 

 

カイドウの宣言に止まっていた民衆は動き出す。

 

   

 

「「「レオヴァ様万歳~~!!!」」」

 

「おめでとうございますレオヴァ様ぁ!!」

 

「レオヴァ様にしか勤まらぬ素晴らしき役職よ……!」

 

「カイドウ様!異議などあろう筈がございませぬ!!」

 

「キャ~!レオヴァ様~!」

 

「ハハハハ~!こりゃ目出度い……!」

 

「うおぉお~!やったぜ!レオヴァ様ァ……!」

 

「流石はカイドウ様!わかっていらっしゃる…!

 レオヴァ様にこそ相応しい地位だ……!」

 

 

 

レオヴァの任命を喜ぶ声で溢れかえる民衆にカイドウは満足そうに口角を上げた。

 

 

 

 

「ウオロロロロロ!!

異議はねぇようだなァ…!

よし、レオヴァ!

お前からも何か言ってやれ」

 

 

カイドウに促されレオヴァは民衆へ向け一歩前に出る。

 

 

 

「皆、ありがとう

おれは この総督補佐官という役職に恥じぬ働きをすると誓う…!

そして、これからも皆と歩んで行きたい

……付いてきてくれるだろうか?」

 

 

レオヴァの問いかけに鎮まったはずの民衆の熱が上がる。

 

 

 

「「「「もちろんです!レオヴァ様……!!」」」」

 

 

「何処までも付いて行きまする…!!」

 

「レオ坊!死ぬまで付いてくに決まってんだろう!」

 

「ずっと…!貴方に付いていきます……!」

 

「この身すべてをレオヴァ様の為に!!」

 

「う、うぅ……レオヴァさ"ま"~!生涯を"か"けてっ……つ"いていきます"!!」

 

 

レオヴァは民衆の声を聞くと、微笑みで返した。

 

 

 

 

「 今日初めておれを見た者、初めて知った者も多いだろう。

だからこそ、その皆の心にある疑問や不満を消すと誓おう!

…これからのおれの行動を見ていて欲しい!

そうすれば今感じているモノの答えが出るはずだ

 

 以上だ、話を聞いてくれて感謝する…ありがとう 」

 

 

 

 

 

レオヴァを知らなかった者たちは息を吞んだ

子どもだと侮っていた者たち、所詮は噂だと思っていた者たち。

 

皆、その堂々とした所作と民衆に対する心遣いに度肝を抜かれた。

 

 

レオヴァはそれを知ってか知らずかカイドウと共に大空へと飛び立ってしまった。

 

 

この一瞬の任命式の話はすぐに他の人々へと伝わっていき

そして、その話と共にレオヴァが町や村に物資を送った話も広がっていく。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

─── 任命式から数ヶ月

 

 

 

 

オロチは焦っていた。

 

当初の予定では任命式でレオヴァは恥をかくハズだったのだ。

 

 

舞台もない、綺麗な女もいない、装飾もない

きらびやかなモノなぞ何一つとしてなかった。

 

 

 

それに時間においても最小限しか与えなかった。

 

 

『城の前を何時間も占領されるのは困る……!』

 

『そうか

では、オロチ殿……どれくらいなら良いだろうか?』

 

『そうだなぁ………小半時(こはんとき)だけなら譲歩しよう!

どうだ? まさかこれ以上とは言うまいなぁ…?

(ふんっ……小半時(こはんとき)なんぞで何ができる……!

ワノ国のやつらの前での式など取り止めろ!)』

 

『……了解した。

オロチ殿の心の広さには痛み入るばかりだ

では、小半時(こはんとき)の時間…門前を貸してもらうということで』

 

『あ、え? や、やるのか?

小半時(こはんとき)だぞ……!? その為だけに!?』

 

『あぁ、おれの管理している村の皆が楽しみにしていてな

いや、本当にオロチ殿から許可が出てありがたい限りだ』

 

『許可などっ…!』

 

『ん? 小半刻ならば良いとオロチ殿は仰ってくれただろう?

……そうだ、オロチ殿も参加なさるか?』

 

『(こヤツめっ……)

いや、ワシは忙しいからな!

残念だが行けそうにもない……!』

 

 

『それもそうか

忙しいオロチ殿のことを考えるべきだった

…申し訳ない……

では、そろそろ失礼させてもらう』

 

『あ、あぁ!ではな!

 くるしゅうないぞ』

 

 

 

そう、確かにオロチは小半時(こはんとき)しか与えていない

だからなにも出来ないだろうと高を括っていた。

 

だが予想と裏腹にレオヴァは自身の能力を使い、光や自身の能力の見た目できらびやかさを補ってしまった。

 

しかも短い時間の間にレオヴァを初めて見た者達からの関心も手に入れる周到さだ。

……言ってしまえば任命式は大成功だった。

 

 

しかし何故オロチは焦っているのか。

 

 

実は元々、オロチはレオヴァを良く思っていなかったのだ。

 

名目上はオロチの土地の管理と言われているが

事実上ヤツは編笠村、鈴後……忌々しい九里を手中に収めている。

 

 

 

それだけなら何の問題もないのだが

奴は手に入れた全ての村を発展(・・)させているのだ。

 

それはオロチにとって最悪な状態だ。

 

全ての人々が苦しめば良いと思っているオロチにとって編笠村、鈴後…九里の村人が幸せそうに暮らしているのが何よりも許せなかった。

 

……自分を虐げて来た者どもに救いがあることが許せないのだ。

 

 

 

それに3つの村は花の都(はな みやこ)と同等と言っても差し支えない豊かさだと言う。

いや、場合によっては花の都よりも発展しているという捉え方も出来る。

 

レオヴァを慕う……もはや信者とすら言っても過言ではない勢力すらいる始末。

 

 

 

それに加え、権力欲しさにオロチを囲っている家臣たちはレオヴァに媚を売り始めている。

 

自分の全てをかけて作り上げたこの地位すら危うい…!

 

だからオロチは焦っているのだ。

 

 

 

血が出ても爪を咬み続ける将軍の側に控えていた せみ丸がそれを止める。

 

 

「落ち着きなすって…オロチ様」

 

「落ち着いていられるか!!

あ、あのカイドウの息子っ…!

おれを……殺すつもりに決まってる!!」

 

 

「……じゃあ、どうするってんです

カイドウの息子であるレオヴァに手を出せば……ただじゃあ済まないでしょう

…それに民衆や…手強い侠客共も黙っちゃいない……今レオヴァの支持率はあの頃のおでんなんて比じゃねぇでしょうな」

 

 

「ワシとて、それはわかっておる!!

だから悩んでるんだ……あぁ……どうすれば…

…そうだ……婆さんの能力でなんとかアイツの評価をさげれば……!」

 

 

「バカ言うんじゃないよ…!!

わしの能力はバレちまってんだよ?

あの小童…顔に触れるどころか近付くことすらさせないよ!」

 

 

「ううむ……確かに

言われて見れば、レオヴァという男…ワシらと一定の距離を保つのが上手ぇ……しかもそれを自然とやってのけちまってる」

 

 

「そうじゃ!あやつの警戒心は異常じゃ!!

わしの力じゃ顔を奪うのは至難の技……下手なことをしてバレでもしたら…………」

 

 

「っ……な、ならどうする!?

このままではレオヴァはこの国を…ワノ国を良くしちまう!!!

そんな事は絶対にあっちゃならない!そうだろう!?」

 

 

 

黙り込む二人を見てオロチは更に焦る。

 

 

「なにか……絶対になにか方法があるはずだ…!

相手はたかだか十代のガキだぞ!?」

 

 

必死の形相で叫ぶオロチの下に更に追い討ちをかける様にレオヴァの新たな政策の報告がくるのは

このあと直ぐの出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想でおでん様生存ifの話しがあって確かに面白そう!と思いました!
他にもカン十郎の話しだったり、民衆目線の感想も……!
ONE PIECEの世界観から考えた考察兼感想だったり……もう博識者の方です?としか言い様のないほど濃い感想もありました!
ナチスドイツとか歴史の話を織り込んで感想くださる方々頭良すぎません?読むの楽しすぎてお昼休みが一瞬で溶けました(^^)

本当に貴重なお時間使ってまで感想くださりありがとうございます!
 
この嬉しさをエネルギーに書き溜めていた案をどんどん固めて行けるよう頑張ります!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

行動で示した男

ONE PIECEの世界の住人の単純さにニッコリな今日。

前回も感想、誤字報告感謝です……!!


 

編笠村、鈴後、九里の3つの村は発展していた。

 

工場では意欲のある職人たちにより日々多くの武器が作られ

農場では健康的な汗を流しながら農民が笑顔で野菜や果物を栽培し

守護隊(しゅごたい)は日々訓練に励みながらも子どもたちに勉強を教えている。

 

3つの全ての村は豊かで平和だ。

 

 

 

まるで俺たちの村だけ別の国のようであると訪れた商人たちが口々に言うほどだ。

 

 

 

しかし、この3つの村にも4ヶ月前まで問題があった。

 

豊かであるがゆえに、山賊や盗っ人が後を絶たなかったのだ。

 

ワノ国は夕方を過ぎると日が落ち暗くなる

そうすると、どうしても悪い輩が行動しやすくなってしまう…

 

村人たちもなんとか出来ないかと策を練ったが、どれも上手くいかなかった。

 

 

 

ある時、様子を見に来て下さっていたレオヴァ様に子どもが

 

 

『レオヴァさま……よるね、こわい人くるのっ…!』

 

 

と泣き付くとレオヴァ様は真剣な面持ちで話を聞いて下さった。

 

 

 

『そうか、そんな事になっていたとは……

だが大丈夫だ、直ぐにおれが何とかしよう

 …今まで怖いのによく頑張ったな、偉いぞ。』

 

 

全て聞き終えるとレオヴァ様は子どもを優しく撫でる

不安で泣いていた子どもはすっかり安心して笑顔をレオヴァ様に向けていた。

 

 

 

 

 

そしてレオヴァ様は言葉通り直ぐに村人たちの不安を解消した。

 

 

なんと3つの全ての村に "街灯(がいとう)" という摩訶不思議な光を作って下さったのだ!

 

 

初めて見た"街灯"に村人たちは大変驚いた。

 

夕方はまだしも、夜になると足下を見るのがやっとだった村の道を街灯は明るく照らすのだ。

 

女や子どもは特にこれを喜んだ。

 

 

 

それに燃料はレオヴァ様とカヅチ殿が電気タンクなる物に補充して下さっているらしい……

 

 

なんでもカヅチ殿はレオヴァ様から直々に不思議な力を授かり……電気を扱えると言うのだ。

 

流石はレオヴァ様……気高き雷を司る鳥の化身様……!

まさか電気の力まで授けられるとは…

 

カヅチ殿もレオヴァ様の近衛(このえ)として選ばれるとはなんと名誉な事か……!

 

 

 

更に街灯のみに留まらず、レオヴァ様は"守護隊(しゅごたい)"なる職業を作られた。

 

守護隊は山賊や盗っ人などの悪人から村を守り、子どもたちに勉強を教えるのが仕事だ

他にも困っている者を手伝うこともある。

 

 

この、"街灯"と"守護隊"のおかげで怯える夜は綺麗さっぱり無くなった。

 

 

今では職人に続く憧れの職業の1つにすらなっているのだ。

 

 

 

平和になった夜道を歩きながら、俺は今日もレオヴァ様に感謝の祈りを捧げるのであった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

あの任命式から、私たちの村はすっかり変わった。

 

 

 

 

 

 

工場の周りの自然は枯れ果て、水は飲むだけで体を壊してしまうほど汚れていた。

 

近隣の生き物も汚染され、肉や魚なんて食べられない。

 

農場の作物も汚染された水では満足に育たず、奇跡的に実をつけたとしても、それは汚染されており食べた者は三日三晩寝込んだ。

 

 

原因のわからぬ感染病も広まった。

 

モノノ怪と契約したからだと謂れのない罪を被せ感染者を酷く扱う者すらいた。

 

皆が限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

けど、今は違う。

 

周りの自然は取り戻されつつあり、水も綺麗になった。

 

生き物たちの汚染も確認されなくなり、肉や魚を食べられるようになった。

 

 

流行っていた感染病もなんと特効薬が配られたのだ。

そう、配られた……無償だった…!

 

私たちは喜びのあまり涙を流しながら抱き合った。

 

 

 

いつから変わったのか。

それはワノ国の全ての工場の管理権がレオヴァ様のものになってからだ。

 

 

 

レオヴァ様は工場管理の統括になるやいなや方針を180度変更し、働いていた者たちの現状や工場付近の村の環境を改善。

 

ほぼ全ての村で流行っていた病気を何とかしようと

船医さん達と特効薬を開発し、さらに再発を防がなければならないと宣言すると

ワノ国全ての水に変革をもたらした。

 

レオヴァ様はこれを上下水道と呼び

汚い水と綺麗な水を完全に分け、汚水を"ろ過"する施設を御作りになられたのだ。

 

 

それによって、あの感染病は一切見なくなり

安全な水が手に入るようになった。

 

 

ひと月に一度"水賃"という対価を払うことになったが、それが驚くほど軽かった。

 

それに対価を払えない者は1日レオヴァ様から頂けるお仕事をこなせば良いともされており。

綺麗な水を提供するから対価を…と言われて震えていた全ての者は呆気にとられた。

 

 

本当にこんなに軽い対価で……と狼狽える私たちにレオヴァ様は仰られた。

 

 

『水は生きていく上で絶対に必要なものだ。

その水に高価な対価を求めたら皆の生活はどうなる?

…本当であれば無償化したい……だが、ろ過施設で働く者にも賃金が必要なんだ。

完全な無償化は無理だ……しかし、これからより良くしていく為の資金だと思ってほしい』

 

 

私たちは直ぐに答えた。

無償化が無理なことなど重々承知していると……!

私たちだけでなく施設で働く者のことも考える素晴らしいレオヴァ様に預ける資金ならば喜んで払うと!

 

 

レオヴァ様は驚いた顔をしたあと、すぐに微笑み

 

 

『ありがとう

 必ずや皆の期待に応えよう』

 

 

そう真摯に返して下さった。

 

私たちはレオヴァ様の言葉を希望に日々生きているのだ。

 

 

 

しかし、私たちの村はオロチ直属の大名たちによって管理されている

その為、上納金や村の方針などをレオヴァ様が決めることは出来ない。

 

 

だけど、レオヴァ様は"工場の管理"の名を掲げ

あらゆる手段を使い私たちを助けて下さっている。

 

 

裏でオロチとの攻防があることは誰が言わずとも皆が気づいていた。

 

救おうと懸命に頑張ってくださるレオヴァ様の邪魔をするオロチとその大名。

 

 

そんな圧力や嫌がらせさえ気にせずレオヴァ様は私たちの生活を支えて下さっている。

 

 

 

 

どうにか……どうにかレオヴァ様のお役に立てないのか…

 

私たちはレオヴァ様に、役に立てることがあれば言って欲しいと懇願した。

 

だってレオヴァ様は身を粉にしてまで、あのお言葉を守るべく行動して下さっているんだ。

 

なにもせずに見ているだけなんて私たちには出来ない……!

 

 

 

けれど、レオヴァ様は私たちを労ってくださるだけだった

 

 

『ありがとう。

皆のその気持ちだけで十分だ

工場管理統括として出来ることは少ないが…

……出来る限りのことはしていく』

 

 

俺のやれることは少ない、苦労を減らしてやれず…すまない

と申し訳なさそうな顔するレオヴァ様を私たちは必死に否定した。

 

少なくなどない!レオヴァ様が謝る必要などないのだと!

 

 

 

…本当になんと慈悲深い御方なのだろう……

 

 

 

 

確かに未だにオロチから課せられる上納金は重く大名や、その家臣たちからの扱いはゴミのようだ。

 

 

しかし、あの頃はゴミのように扱われるだけでなく、水も食べ物も何もかもが無かった。

 

それと比べれば今は楽園のようだ!

 

綺麗な水に餓えずに済むほどの食べ物…

…そして私たちを"人"として尊重してくださるレオヴァ様という存在。

 

 

味方でいて下さる方がいると言うことが、どれ程の救いか…!

どれだけの安心を私たちに与えているのか…きっとレオヴァ様は知らないのだろう

 

私たちがどれ程までにレオヴァ様の存在に救われているのかを。

 

 

 

今日も私はレオヴァ様のあの優しさに満ちた幼さの残る微笑みを思いだし…感謝を捧げながら眠りについた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

浪人笠を被った男が逃げ惑う男達を次々と斬り倒しながら追い詰めて行く。

 

 

とうとう、崖へ追い込まれた生き残り達は必死に声を上げる。

 

 

 

「ま、まってくれ……!!

おれたちゃ言われた通りッ……ちゃんと仕事はしたぞ!?」

 

「そ、そうだ……!しっかり村を襲って……!

奪ったもんの半分だって、しっかり渡したよなぁ!?」

 

「話がちがう……簡単な盗みをすりゃ…おいら達を雇ってくれるって……!」

 

 

 

何とか助かろうと叫ぶ男達の首を浪人笠を被った男は容赦なく斬り、海へと投げ捨てた。

 

 

「馬鹿な奴らめ…

…あぁ…だが主の役に立ったのだ!

奴らのような(ごみ)共には余りあるほどの名誉よ……!」

 

 

刀を握った手に力を込めながら浪人笠の男はうっとりと呟く。

 

 

「斬るべきものは斬った…

……主の下へと急ぐか……おれがお守りしなければ…そう、おれが……」

 

 

崖に背を向け林の中へと消えていく。

 

そこには首のない遺体だけが無惨に転がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、レオヴァ本当にあの野郎に任せて良かったのかよ?

絶対に話を洩らさないようにするならキングのマヌケ

…まぁ、どうしてもっつーならおれ様が殺っても良かったしよォ」

 

 

大丈夫なのかァ…?とおしるこを啜りながら心配するクイーン

 

ジャックもクイーンの言葉に賛同するように続ける。

 

 

「……おれだって、できる…です!

兄御たちが いそがしいなら言ってくれりゃ……」

 

 

二人は今回の人選に不安や不満があるようだった。

 

しかし、レオヴァは二人の視線を気にするでもなく応える。

 

 

「いや、洩れた時のリスクを考えているからこそ

彼に……カヅチに任せたんだ。」

 

 

ジャックはわからないと言うように首を傾げる

クイーンも話の続きを促すように無い顎をしゃくった。

 

 

「キングやクイーン、ジャックに任せた場合

もし仮に話が洩れたら誤魔化すのも手間だろう?」

 

 

「けどそりゃ、あの野郎も同じだろ?

近衛(このえ)とかいうレオヴァの側近なんだぜ?」

 

 

「あぁ、近衛としてカヅチは有名だ

誰よりも早くおれに見込まれ、誰よりも忠義に厚いと皆が噂している

…忠義に厚い部下がおれの意志を"勘違い"して迷走してしまう…それならば皆に言い様があるだろう。

……なにより忠義に厚いのは事実……だから拾ったんだ」

 

 

そう言って微笑むレオヴァにクイーンは声を上げて笑った。

 

 

「ほんっと!よくやるぜレオヴァ~!

けど今回はずいぶんとリスク高ェやり方だよなァ」

 

 

「リスクは高かった……だが成果は上々だろ?

 守護隊は早く作っておきたかったしな」

 

 

「レオヴァさん……しゅごたい、作らなくても

おれたちを村に向かわせてくれれば…けいび、できる!」

 

 

「このズッコケジャックがよォ……!!

レオヴァが本当に村の治安のためだけに面倒なことするワケねぇだろ~?」

 

 

「クイーンの言う通りだ、もちろん村の治安は大切なのは言うまでもない…が、それだけじゃない。

ワノ国の人間でウチの為に戦ってくれ、かつ強い者は多い方が良いだろう?」

 

 

「……?

けど、しゅごたい関係なくレオヴァさんの為なら

死ぬ気でたたかうような奴ばっかだ

……九里のやつらがそうだった…です!」

 

 

「確かにそうだが……強い者が欲しいんだ

強くて百獣海賊団を良く思っている集団…

今後には欠かせなくなってくる……国家的な権力を作りたいからな」

 

 

「こっかてきな?…けんりょく……」

 

「あ~ダメダメ……ジャックにはわかんねぇって!

ま、その話は今じゃなくていいだろ~」

 

「それもそうか…

この話はもう暫く先の話だからな」

 

 

突然終わってしまった話にジャックは不満を露にするが、二人に軽くあしらわれて終わってしまった。

 

 

クイーンはこの国が百獣海賊団のモノになる時を楽しみにしている。

 

そして、カイドウの考える"とある案"を知りレオヴァが驚く顔を想像して更に楽しい気持ちになるのだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

カイドウの機嫌はここ最近で一番と言っていい程良かった。

 

 

邪魔であった光月の排除に続き、総督補佐官への任命

そして、全ての工場管理権のレオヴァへの譲渡。

 

全てがカイドウとレオヴァの作戦通りに進んだ。

 

自慢の息子の先読みの強さにカイドウは更に気を良くする。

 

 

おれの息子にかなう奴がいるか……?

 いや絶対にいねェだろう……!!

 

そう豪語できるほどにカイドウの息子の出来は良かった。

 

なにより、その出来のいい息子は誰よりもカイドウを慕い尊敬している。

 

 

 

いつもの数倍は美味く感じる酒を呷りながらカイドウはキングに話を続ける様に促した。

 

 

 

 

「……と言うワケで3つの村全ての守護隊が完成形に近い出来になった様で… 

侍は部下として質がイイらしい……ヘタなウチの部下共じゃ歯が立たねぇ強さだ

…カイドウさんの言ってた戦力増強もレオヴァ坊っちゃんは恙無(つつがな)く進めてる」

 

 

「ウォロロロロロロ~~!!

ワノ国連中(れんちゅう)掌握(しょうあく)がそのまま戦力を増やすのに使えるっつってたレオヴァの言葉通りか…!

 

 確かに侍の強さは目を見張るモンがあった

強さ・技術・性格…全てが理想形だとレオヴァが言ってたのも頷ける」

 

 

「レオヴァ坊っちゃんは相手の内側に入るのが巧いようで…

任命式後すぐに動き出したのも今回の為の布石だった様に思う

……オロチの耳障りな声が減ったのもレオヴァ坊っちゃんの根回しの結果だろう」

 

 

「言われてみりゃ……前まで煩くレオヴァのことに口を出してきたってのに、最近じゃ大人しくなったな」

 

 

「えぇ、侍共の睨みに怯えてんのかと

なにせ今カイドウさんが敵になっちまうと縋るもんが無いのがオロチの現状なんで」

 

 

「……そろそろ殺っちまっても良い頃合いじゃねぇのか」

 

 

「おれもカイドウさんの意見にゃ賛成だが……

レオヴァ坊っちゃんはもう少しあの馬鹿を野放しにしときたいと」

 

 

「そうか、なら構わねぇ!

レオヴァの役に立つうちは生かしておいてやれ…!

 ウォロロロロロ~!」

 

 

「はい。……ただオロチの側近のババァは殺すべきかと」

 

 

「ババァだぁ…?

……あぁ、レオヴァがおれたちに注意しろと言ってた奴か 」

 

 

「マネマネの実の危険性を考慮すると……消すのが得策かと」

 

 

「……あんな弱ェババァがか」

 

 

「万が一があるだろ、カイドウさん」

 

 

「お前もレオヴァも心配性だなァ……!

まぁだが、構わねぇ…キングが言うなら消すのが一番だろ

 

………で、今度の遠征は問題ねぇだろうな?」

 

 

「えぇ問題なく

レオヴァ坊っちゃんの仕事も暫くなんとかなる様に割り振った

一番懸念していたワノ国連中のレオヴァ坊っちゃんがいない間の管理は守護隊と近衛が請け負う手はずになってる

カイドウさんとレオヴァ坊っちゃんが遠征に行く間はおれとクイーンがワノ国に残って下手な真似はさせねぇよう動く」

 

 

「だいぶ時間がかかったが…やっとか……!」

 

 

 

空になった酒瓶を投げ捨てカイドウは立ち上がる。

 

 

「キング……今すぐレオヴァを呼べ

 出港するぞォ……!!」

 

 

船へと向かって進み出したカイドウは

久々の親子での遠征に思いを馳せた。

 

 

 

 




[補足]
守護隊→レオヴァに選ばれた者だけで構成された部隊
犯罪の取り締まり、子どもの教育、細かい雑務をこなす。
武装色の覇気を扱えるのが最低条件の部隊でもある。


黒炭カヅチ→近衛に昇進、レオヴァから雷の悪魔の実を食べさせられる
ワノ国で唯一レオヴァから特別な力を与えられたと喜び更に盲目的な忠誠を誓う。
(汚れ仕事や雑用を担っている)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遠征と拾い物

感想感謝です(^^)
豚もおだてりゃ木に登る…まさに私の今の状態!
感想やお気に入りをしてくださる皆様のお陰で筆が進みます、ありがとうございます!








 

 

 

雲ひとつない晴れ渡る空、光が反射してキラキラと輝く水面の上に浮かぶ船に

白い角を持つ二人の親子は穏やかな雰囲気を漂わせながら談笑している。

 

 

 

 

「ウォロロロ~~!!

内政ばかりやってたとは思えねぇ腕じゃねぇかレオヴァ!」

 

 

そう言いながらカイドウは隣に立つレオヴァの頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

レオヴァは照れたように笑いながら、カイドウの力強(ちからづよ)すぎるスキンシップを受け入れている。

 

 

 

「ふふっ……内政ばかりでも戦えるのは、誰よりも強い父さんが組手の相手をしてくれるおかげだろうな」

 

と、はにかみながら言うと

撫でられぐしゃぐしゃになった髪を直さずにレオヴァはカイドウを見上げる。

 

 

レオヴァの心からの賛辞にカイドウは更に笑みを深め

またレオヴァの髪をぐしゃぐしゃにするべく手を伸ばした。

 

 

 

「そうか…おれとの組手か……!!

なら、もっと組手の時間を増やしてやる」

 

「良いのか父さん…!」

 

「当たり前だ…!

そこらの奴とやるよりレオヴァのが楽しめるからなァ!」

 

「次の組手が楽しみだ……!

あ…だが、父さんとやるのは死にかけるからな…

 次の日の仕事が午後からの時だけしかできないな……」

 

「そんなもん、キングかクイーンに頼みゃ良いだろう!

ウォロロロロ……組手するための施設を作るのも悪くねぇか…!」

 

「組手の為の施設か……部下たちの育成にも使えそうだ…

戻り次第キング、クイーンと検討して丈夫な施設を作ろう……!」

 

「よし、レオヴァ任せるぞ!!」

 

「万事、任せてくれ父さん!」

 

 

 

二人の親子はお互いの顔を見合ってまた楽しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、仲睦まじい親子を眺めている周りの部下たちの表情は憔悴(しょうすい)しきっていた。

 

 

「……これがこの状況じゃなきゃ…理想の家族の図なんだけどなぁ」

 

「ハァッ…ハァ…戦闘……終わってすぐだぞ……?

カイドウさまも…レオヴァさまも……体力やべぇな…」

 

「レオヴァ様はカイドウ様とおられると普段より戦闘が派手になるから…」

 

「…それよりカイドウ様の攻撃の巻き添え食らわずにすんだことを喜ぼうぜ………レオヴァ様が軌道反らしてくんなきゃ今頃消し炭だ…」

 

「おれ……百獣海賊団で良かった…

 あのお二人が敵じゃなくて本当に良かったァ……!」

 

 

 

部下たちが疲れきってしまっているのも無理はない

何故なら前日の朝から、この昼間まで何十時間にも及ぶ海軍との戦闘が行われていたのだ。

 

 

消せども消せども現れる海軍の増援

永遠にわき続ける軍艦を意気揚々と二人仲良く沈める親子。

 

 

なにより部下たちを疲れさせたのは父親……カイドウの攻撃だった

彼は戦闘範囲が広く部下たちは幾度となく死に目をみていた

……いや、レオヴァが見聞色の覇気で部下の危機を察知し軌道をずらさなければ今生きている部下など居なかったかもしれない。

 

 

海軍よりも恐ろしい飛び火に怯えながら丸1日以上戦い続けた部下たちは満身創痍なのだ

立てずに屍のようになっている部下も少なくないのも致し方あるまい。

 

 

 

しかし、部下の状態を知ってか知らずかカイドウから号令がかかる。

 

 

「てめぇらァ……!

さっさと出港の準備をしねぇか!!」

 

 

「「「へ……へい…カイドウ様!」」」

 

 

せっかく上機嫌なカイドウを怒らせまいと鉛のような体に鞭を入れて部下たちはヨロヨロと動き出す。

 

 

 

その光景を見かねたレオヴァが手を前にだすと、部下たちの周りが一瞬光ったかと思うと不思議そうな顔で自分の体を確かめ始める。

 

 

「え、あれ? 動けるな……」

 

「痛みがマシになってる……?」

 

「脚……動くようになった…?」

 

「おぉ!こりゃレオヴァ様の……!」

 

 

部下たちはペコリと頭を下げ感謝を伝えた。

 

 

「皆、筋肉疲労と痛みを和らげただけだから無理はするなよ?

それと、重傷者はおれが手当てするから此処に運んで来てくれ」

 

 

レオヴァの言葉に返事を返すと先ほどより幾らか機敏な動きで部下たちは動き出した。

 

 

 

 

「なんだレオヴァ、飯はいいのかァ?」

 

「あぁ、先に皆の怪我を手当てするよ」

 

「そうか……なら部屋で酒でも飲んで待ってるか」

 

「父さんを待たせるのもな……先に食べていてくれ」

 

「せっかくだからなァ、終わるまで待ってやる

 ……早く済ませろよ? 」

 

「!……ありがとう。すぐに終わらせるよう努める…

 一緒に食べよう、父さん!」

 

「ウォロロロロ……おれァ部屋にいる

コックには戻る前に声をかけとく、終わったら呼びに来い」

 

「わかった…!」

 

 

カイドウは返事を聞くと満足げに頷き、踵を返した

レオヴァもどんどん運ばれてくる部下たちの手当てをテキパキとこなしていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

百獣海賊団は補給とレオヴァの趣味を兼ねて島に停泊していた。

 

 

 

 

「いや~…レオヴァ様の趣味が町巡りで助かったよなぁ!」

 

「ほんとにな!

でなきゃ今頃また島の占領で戦わなきゃならなかったもんな~!」

 

「おめぇらアホかよ!

この島の町クソ小せぇだろうが…レオヴァ様もたいして興味ねぇよ!」

 

「え…けどレオヴァ様が町巡りするからってカイドウ様がよォ」

 

「だからアホだっつーんだよ!

俺らが休めるようにわざわざ町巡りするって言ってくれてんだろ!?」

 

「そうなのか……!ほんと優しいよなぁ…レオヴァ様は」

 

「い、言われてみりゃ……いつもなら一番に飛び立ってくのに、まだ船にいるよなレオヴァ様…」

 

「なんでも重傷者の回復が早まるように、あの光のヤツやって下さってんだとさ!」

 

「アレか……!

おれもやってもらった事あるけど、なんかわからねぇが疲れがとれるし痛みも少し楽になるんだよ」

 

「マジかよ~……レオヴァ様は優しいうえに何でも出来ちまうなぁ」

 

 

 

部下たちは揃ってカイドウの一人息子の万能さに感動していた。

 

レオヴァがいれば今回の遠征も平和に終わるだろう。

 

 

そう思いゆったりしすぎたのかもしれない。

 

 

 

動物でも狩ってレオヴァに献上しようと出掛けた部下たちは、居合わせた他の海賊団により倒され捕まってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「船長……!

こいつら変わったモン持ってますよ!」

 

「服や装飾もそれなりだ!」

 

「おぉ? そいつァ嬉しい誤算だぜ!

コイツらの拠点聞き出せばもっと良いモン手に入るだろ

……おい!てめぇ、口を割らせとけ」

 

「へい船長っ!」

 

 

 

数名の男共が百獣海賊団の部下たちの口を割らせるべく、準備を始めた。

 

 

 

「ぐ……やべぇ、カイドウ様にブッ飛ばされる…」

 

「それは生きて帰れたらの話だろうが…」

 

「ど、どうする……? 場所言うか?

どうせカイドウ様やレオヴァ様には絶対勝てねぇだろうしよ……」

 

「ばか野郎……!

おれらが弱ェからこうなったのに、カイドウ様やレオヴァ様に尻拭いさせるつもりか!?」

 

「あ~くそ……ケガが完治してりゃ…」

 

 

 

騒がしくなった部下たちの下へ準備を終えた男共が戻って来た。

 

 

男共は場所を聞き出すため容赦なく痛め付けた。

 

気を失えば冷水をかけ、1時間以上に渡り拷問を続けたが1人として口を割ることはなかった。

 

 

 

「おい!まだ終わらねぇのか!?」

 

 

苛立ったように船長と呼ばれる男は怒鳴り、いつまでも場所を聞くことが出来ない男共を蹴り倒した。

 

 

 

「す、すいません船長っ……」

 

「けど、こいつら……ほんとに強情でして…!」

 

 

蹴り倒された男の必死の言い訳に、船長と呼ばれる男は大きく顔をしかめ

 

「っとに役立たずが……!!

てめぇらのせいで気分が悪ィ……!」

 

 

と大声で言うと百獣海賊団の部下たちに銃を向ける。

 

 

 

 

 

「あぁ、本当にそうだな。

大切な部下を痛め付けられ、おれも気分が悪い…………不愉快だ」

 

 

 

突然の声にハッとしたように船長と呼ばれる男は左に銃を向け直した。

 

 

「な、なんだァ……!?」

 

 

驚きで目を見開き言葉の出ない男共と打って代わり、部下たちは申し訳なさと喜びの入り交じった顔で声を出す。

 

 

「おぉ……れ、レオヴァさま…」

 

「すまねぇ……レオヴァ様…おれたち……こんな…」

 

「肉を…狩りにきてたら、コイツらに……」

 

 

 

レオヴァは部下たちを縛っているロープを切ると、近くにいた男共をあっさりと仕留め

そのコートなど、体を暖められる物を部下たちに投げ渡した。

 

 

「皆、体をそれで暖めていろ……すぐに終わる。

 帰ったらワノ国で教わった豚汁を作ったから、一緒に食べようか」

 

 

そう言ってにこりと微笑んだレオヴァに部下たちは安堵し、頭を下げた。

 

 

 

「レオヴァさま……だぁ?

随分偉そうな態度のガキじゃねぇか……!」

 

 

船長と呼ばれる男が銃を向けたまま怒気を含んだ目でレオヴァを睨み付ける。

男が引き金を引こうとした時だった。

 

 

 

「せ、船長……!

対岸にっ…百獣の海賊船が……!!」

 

 

血相を変えた男の言葉に船長と呼ばれる男は顔を蒼白くさせた。

 

 

「ひゃ百獣だとォ!?!

撤退、撤退だ!!急げ、死にたくなきゃなぁ!!」

 

 

 

慌ただしく逃げ出し始めた海賊団の前にレオヴァが手を(かざ)そうとした時だった。

 

 

「おいっ……ど、ドリィ……!

てめぇがシンガリを努めろッ……おめぇは根性はねぇがおれらの中じゃ一番腕が立つ……!

てめぇは役立たずの穀潰しなんだ…たまには役に立ってみせろォ…!!」

 

「…わ、わかったよ……父さん」

 

 

少年と言えるほどの年齢の男がレオヴァの前に出る

他の男共は脇目も降らず逃げることのみ考えているようだった。

 

 

レオヴァの手の動きに反応したように少年は構え、斬りかかった。

 

少年の素早い行動によりレオヴァの手から放たれた雷の軌道が少し外れ丸焦げになったのは手前の数人だけで、船長と呼ばれる男は助かったようだった。

 

 

 

「ほう、あの中じゃ一番強いみたいだ

……攻撃へのその反射神経は目を見張るものがある」

 

 

レオヴァは逃げ出した男共に向けていた視線を少年へと変え微笑んだ。

 

 

「っ……!」

 

 

少年はすぐに飛び退きレオヴァを必死に観察する。

 

 

「距離を取って良いのか?」

 

 

レオヴァの言葉に少年はぐっと手に力を入れて答える。

 

 

「……雷よりアンタの方が……あぶない」

 

 

少年の言葉を聞くとレオヴァはまた微笑んだ。

 

 

「本当に優秀だな…あんな海賊団には惜しい………おれと来るか? 」

 

 

一瞬少年は驚いた顔をしたがすぐに警戒を強めレオヴァの提案を断った。

 

 

「そうか……お前が命をかけるほどの奴らとは思えなかったが……

…その心意気も素晴らしい、良い船員(クルー)だなお前は

だが、急がせて貰おうか……皆を早く手当てしてやりたいんでな」

 

 

 

一瞬で距離を詰めてきたレオヴァに反応出来ずに少年は鈍い痛みを感じながら崩れ落ちる。

 

 

「…おれは……やく、たたず……か」

 

 

そう溢して気を失った少年を抱えあげるとレオヴァは部下たちに応急処置を施し船へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めるとオレは暖かな毛布にくるまれていた。

 

今朝、父さんに怒られて出来た傷には包帯や薬が塗ってある。 

 

 

ワケがわからない……なんでオレは此処にいるのか

 

確か森でレオヴァという年の近い…

…けど実力がかけ離れた少年に…手も足も出せず、負けて……

 

 

 

そうだ……

船に……船に戻らないとまた怒られるっ…

 

足止めも出来なかったし……百獣海賊団が対岸にいるなら急がないと!

 

オレがもたもたしてたら父さんたちが出港できない…

 

 

 

オレは居心地の良いベットから立ち上がると窓を開け飛び降りた。

 

 

そして自分のいた場所を見て一瞬呼吸が止まった。

 

 

 

 

 

 

…………百獣海賊団の船に…オレはいたのか……

 

 

見上げると大きな船に恐ろしい海賊旗がはためいていた。

 

 

焦りと恐怖からオレはすぐに走り出した。

 

 

早く早くッ…急がないと……!

 

また父さんに怒鳴られる……また昔みたいに父さんに優しくして貰うには役に立たないといけないのに…

 

 

オレは全力で山を駆け抜け、バレルズ海賊団の船を泊めた場所へと急ぐ

 ついに、森が終わり海岸が見える。

 

 

 

 

 

 

 

── だけど、そこに船はなかった。

 

 

オレはひどく狼狽えた。

 

 

まさか殺られたのか……!?

 

それなら船の残骸があるはずだけど残骸は見当たらない

……じゃあ船は…どこに?

 

 

 

オレは頭に浮かんだ答えから目を背けた。

 

 

いや、いや……そんなはずないんだ。

 

だって父さんは昔はすごい海兵で……優しくて、強かったんだ

 

そんな父さんがオレを、オレを置いてくなんて有り得ない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

有り得ない……?本当に?

オレはわかってたハズだ。

父さんはもうオレの好きだった父さんじゃない

変わったんだ、いつからかなんて思い出せないけど

怒ってばかりになった父さんはオレを叩くしスゴく怖くて

 ………実はあんまり好きじゃなかった

 

 

 

 

けど、そうしたらオレはどうする……?

 

行く場所なんてない。

 

 

昔は父さんのような海兵にと思ってたけど…

 

海兵にはもうなれない、オレは海賊なんだ

……海兵もたくさん殺した。

 

 

 

 

 

 

 

砂浜で船があった場所を見つめ、ただ佇んでいた。

 

父さんに置いていかれ、これからどうやって生きていくのか……

 

 

 

 

不安と悲しみでぐちゃぐちゃな頭の中にさっきの光景が浮かぶ。

 

 

 

『あんな海賊団にいるのは惜しい…おれと来るか?』

 

『その心意気も素晴らしい、良い船員(クルー)だなお前は』

 

そう微笑みながら言った彼の顔が頭から離れない。

 

 

 

彼はオレを……褒めてくれた。

 

なんの取り柄もないオレを……

 

 

 

 

それに彼は下っ端のような部下が寒さで震えてるのを見ると、すぐに体を暖められるようにと敵を倒し衣服を奪った

 

……まるで絵本で見た正義の味方のようだった。

 

 

 

その後も部下を手当てするためにと一撃でオレを沈めたり…

…オレと同じくらいの歳とは思えない人だ

 

けれど…オレは彼の差し伸べてくれた手をはね除けてしまった。

 

 

 

誘いを断らずに頷いていたら…………?

 

 

今さら都合のいい考えをする自分自身を嘲笑する。

 

 

「……ははっ……おれは、結局…」

 

 

つい口から溢れた言葉を止めるため、オレは強く唇を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「探したぞ、此処にいたのか」

 

 

柔らかな声にオレはゆっくりと後ろを向いた。

 

どうやら気が動転していて側に人が来たことに気付けなかったようだ。

 

頭から離れない声の主は隣まで来ると心配そうな顔でオレの頬に触れた。

 

ビクリと体を強ばらせたが、その優しい手つきに振り払う気は起きなかった。

 

 

 

「……どうして泣いている?」

 

 

 

泣いてる……? 誰が?

 

そう思い自分の頬を触ると確かに濡れていた。

 

彼に言われるまで気付かなかったが、オレはどうやら泣いているらしかった。

 

それに気付いた途端に次から次へと目から水が溢れだす。

 

自分でもコントロール出来ない涙腺に戸惑いながら力任せに顔を拭うオレの前に彼はそっと布を出した。

 

 

 

「擦ると腫れるぞ?

こういう柔らかい布で軽く押さえれば腫れずにすむ」

 

 

 

そう言ってオレの手に肌触りの良い布を握らせた彼は、そのままオレの手を取ると近くの岩場まで連れていき座らせてくれた。

 

 

 

 

高級そうな布を本当に使って良いのかと迷っていると彼は隣に座り

嗚咽の止まらぬオレの背をさすってくれる。

 

 

「ほ、本当に……使っていいのか?」

 

「あぁ、その為に渡したんだ」

 

 

おずおずと尋ねたオレの言葉に当たり前だという様に彼は答えた。

 

 

 

オレはキレイな色の布を使い流れる水を止めようと頑張りながら彼の隣で嗚咽を殺していた。

 

 

 

「……それでは逆効果じゃないのか…?

いっそ声を出して泣いた方がスッキリするかも知れないぞ?」

 

「…っ……おれ、声うるさいから……」

 

「問題ないだろう

町は遠いし、ここら辺に人は居ない

 ……気にしなくて良いと思うぞ?」

 

「アンタが、いる……っ…」

 

「おれは気にしないが…………あぁ。

確かに知らない奴がいたら気まずいか…

すまない、そこまで気が回らなかった」

 

 

 

立ち上がってしまった彼の服をオレは咄嗟に掴んでしまう

彼は不思議そうにオレを見ていた。

 

 

どうする……なんて言えば彼は隣に居てくれる…?

そもそも何でオレなんかに……

 

考えがまとまらないオレが出した言い訳は

 

「…っ…ぬ、ぬのを……渡したいから、まだ居てほしい」

 

と言うずさんなモノだったが

彼はそうか、と呟くとまた隣に座った。

 

 

 

 

彼に言われた通りに声を我慢するのをやめ暫く泣くと

少しスッキリとした気分になった。

 

 

 

「落ち着いたか」

 

「……うん、えっ…と、ありがとう……ございます」

 

礼を言って頭を下げると彼は気にするなとオレの肩をポンとたたいた。

 

 

 

「突然部屋から居なくなったから心配したんだ」

 

「心配……?」

 

「お前身体中に怪我していただろう

一応手当てはしたが、まだしっかり寝てなきゃ駄目な状態だったんだぞ

 ……その腕の怪我、痛まないのか?」

 

 

 

今朝父さんに怒られた時の傷を彼は心配そうに見つめてくる。

 

 

「ぜ、全然大丈夫だ……これくらい、別に…」

 

 

 

彼の暖かい雰囲気はオレをふわふわした気持ちにさせた。

 

なんだろう? とても懐かしい気がする……

 

 

……そうだ、父さんが優しかった頃の気持ちに似てるんだ

 

…………優しい暖かな幸せな気持ち。

 

 

 

 

 

 

……オレは気付き深く絶望した

だってこの気持ちは彼が船に戻って、オレが一人きりになったら感じられない気持ちだからだ。

 

 

これ以上彼を隣へ留め続ける理由は浮かばない。

 

震える手を握りしめオレは下を向いた。

 

 

 

震えるオレの隣に座る彼は、そう言えばと話し出す。

 

 

「お前の船長はどうした?

……その、島から気配を感じないんだが」

 

「父さ……船長は、いない

 もう出たんだ…海に、おれは…っ…」

 

「…………そう言うことか」

 

「だ、だから、おれ……」

 

 

また溢れだしそうになる涙を堪えるため、きつく目を閉じる

そんなオレの頭上に暖かい手のひらが乗った

その手はわしゃわしゃと軽くオレの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

気付けばオレは彼……レオヴァさんに今までの事を全て話していた。

 

優しく憧れだった海兵の話、怒ってばかりで恐かった海賊の話

好きなもの、辛かったこと………ほんとはずっと逃げ出したかった事

 

上手く話せないオレの言葉を怒るでもなく、優しく相づちを打ちながらレオヴァさんは最後まで聞いてくれた。

 

そうして全て話し終えた時には日は沈みすっかり暗くなってしまっていた。

 

 

 

冷たい夜風に体を震わすと立ち上がったレオヴァさんが微笑みながらオレに手を差し伸べる。

 

 

 

 

「ドリィ……おれと来るか?」

 

 

 

 

オレは差し出された暖かな手を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 




感想にて黒炭を百獣に入れた目的を的確に当てられている方がいてニッコリしました。
それと、前回久里と九里を誤植する大事件を起こしていた事が、優しい方の報告で発覚……申し訳ない!!
そして報告下さった方の優しさに震える……ありがとうございます!
他にも読むだけで嬉し楽しい感想頂け感謝の気持ちでいっぱいです!

感想にもありましたが麦わらの一味……どうするべきか悩んでおりまして…なんパターンか下書きあるのですが私の中の
『徹底的にやるべきだ……至高は百獣海賊団のみ、危険分子は消せ』というレオヴァと
『我らが麦わらを簡単に消すなァ……!!主人公ぞ!?』というファンの私が争ってるのでどうするか未定です…
あと、純粋にビックマム海賊団好きなのでソコも迷い中です(^-^;


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

下準備

前回感想にてレオヴァと同じカイドウさん過激派がいらっしゃりニッコリさせて頂きました|^▽^){カイドウさんがNo.1)

たくさんのご感想ご意見ありがとうございます!
本当に1日5回しかgood押せないのがつらい……!

後書きまで読んで下さってる方もありがとうございます(*´-`)
今回の後書きは少しの補足と
一番最後に質問であった今後の引き入れ予定キャラのネタバレあるので嫌な人はお気をつけて!







 

 

ここ最近カイドウから任された仕事に押し潰されていたクイーンの機嫌は最底辺だったが、今やその影もないほどの上機嫌っぷりだ。

 

のし掛かっていた面倒な仕事はレオヴァの帰還により全てなくなり、好きな時に好きなだけおしるこを食べられる生活がクイーンの下へと戻ってきた。

 

 

鼻歌まじりにおしるこを抱えたクイーンがレオヴァの部屋の襖をあけると

そこには目当ての人物ではなく、最近入った子どもがいた。

 

 

「ア"? お前レオヴァの部屋でなにしてンだァ…?」

 

「……レオヴァさんに待ってる様に言われて…」

 

 

クイーンに睨まれた新人は困ったように眉を下げた。

 

沈黙が流れる二人の間に戻ってきたレオヴァの声が届く。

 

 

「クイーン、早かったな」

 

「お、レオヴァ~!

ったく、呼んどいて居なくなるなよな~

おれ様に頼みっつうから来たんだぜ?」

 

「あぁ、すまない

電伝虫(でんでんむし)たちの調子を見に行ってたんだ

で、頼みなんだが……今度の遠征にドリィを連れて行って欲しいんだ」

 

「新入りを?

てか、そいつ戦えんのかよ…」

 

「問題ない

元々使えていた見聞色の強化と武装色の習得まではいったんだ

あとは実践で武装色の練度を上げさせてやりたいんだが……

おれは内政で出られないだろう?」

 

「へぇ~……覇気くらいは使えんのか

んじゃまぁ、レオヴァの頼みだしイイぜ!

おい、足引っ張んなよ新入りィ~……!」

 

「頑張ります…」

 

「…………レオヴァ~…なんか、こいつ暗くね…?」

 

「少し内気な性格でな…

……ドリィ、大丈夫だ。

クイーンは気の良い奴だから、そんなに堅くなるな

 遠征の土産話楽しみにしてるぞ?」

 

「は、はい! レオヴァさん!」

 

 

ドレークの返事を聞くとレオヴァはクイーンと少し予定を話した後、休む間もなく次の仕事へと向かった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

レオヴァはここ最近で一番忙しかった。

 

ワノ国中に"電力"を普及させるための機械開発に実験

そして開発後の運用範囲から利益の計算……使わせる者の選定。

 

それと同時に普段から行っている村や工場への顔出しに、小さな問題の解決

国民のメンタルケアや病気の治療

船員のローテーション管理と相談役に加え、遠征の物資の配分や賞罰の采配。

 

他にも世界各国の情報収集に人員確保の為の情報分析

ワノ国内の情報操作に守護隊の行う学舎の指導及び教科書作りなど

 

さらにはカイドウも望む組手のための施設の建設

…即ち闘技場の建設作業。

 

 

これらを同時進行するレオヴァは文字通り休む間もなく動き回っている。

 

そして、今日もまたギチギチに詰めた予定をこなし、研究所へと戻っていった。

 

研究所にて開発した様々な物を眺めながらボソリと呟く

 

 

「テレビも必要か…」

 

おもむろに紙に案や構造の走り書きを始めたレオヴァの下へキングが食事を持って現れた。

 

 

「……レオヴァ坊っちゃん…」

 

 

目線はこちらへ移しながらも手は一向に止まる気配のないレオヴァに溜め息を漏らしたキングは発案書や設計図などが山のように積み重なった机の隣にワゴンを並べ仁王立ちをした。

 

 

「持ってきたんだ、食ってもらわねぇと困る」

 

 

腕を組んで見下ろすキングにレオヴァは眉を下げる。

 

 

「手間をかけさせて すまなかった

これが終わったら食べるから、そこに置いて…」

 

「駄目だ。今、おれの目の前で食べてもらう…!」

 

 

レオヴァの言葉が全て終わる前に、珍しくもキングの言葉が割りいった。

 

 

「………キング…おれはまだ仕事中なんだが?」

 

「だからなんだってんだレオヴァ坊っちゃん

百獣海賊団のNo.2が1日1食なんざ許されねぇだろう」

 

「……昼は鈴後で貰ったもんを食った、今日は2食だ」

 

「ほぉ? レオヴァ坊っちゃんは、たかがミカン2つ程度が1食に入ると…?」

 

「…なんで知ってんだ………」

 

「聞かなくとも、どいつもコイツもレオヴァ坊っちゃんの話ばかりだからな

昨日もろくに食ってねぇことも判ってんだ…

そんなモン後にして飯を食ってくれ」

 

「…もう少しで頭の中にあるモノをまとめ終わる」

 

「……はぁ…たまにカイドウさんに似て変な所で意見を聞かなくなるのはどうかと思うがな」

 

「父さんは構わねぇだろう、おれたちの上に立つ人なんだ

あの人が望むことは全て確実に実行されるべきだ」

 

「レオヴァ坊っちゃん、それは当たり前のことだろ

……おれが言ってんのは"変な所"で頑固って話だ

 

まぁ、おれが"わざわざ"運んだ飯がどうしても食いたくねェってんなら仕方がないが…

まさか食ってくれねぇなんてこたァねぇよな…レオヴァ坊っちゃん…?

もしそうなら…レオヴァ坊っちゃんには悪いが、火の粉がそこの紙束に飛んじまっても責任とれそうにねぇなァ……」

 

「……わかったキング、おれが悪かった

 先に飯にするとしよう」

 

「流石レオヴァ坊っちゃんだ、話が早くて良い」

 

 

 

勝ち誇ったような目でレオヴァを見ると近くの机にワゴンの上のものを移動させる。

 

どんどん美味しそうな料理が運ばれてくる机の前に移動し、観念したようにレオヴァは箸を手に取った。

 

 

「……いただきます」

 

「どうぞ、レオヴァ坊っちゃん」

 

 

キングに見られながらもレオヴァは次々と皿を空にしていく。

 

 

「…最近は忙しさに拍車がかかってると聞いたが、そんなに急いでやるべき事なのか?」

 

「言うほど忙しくはないぞ?」

 

「……食事の時間も取れない状態が忙しくねぇと?」

 

「…明日(あす)からは気を付ける……

多少忙しくはなったが、早急にこの案を実現させておきたいんだ」

 

「理由を聞いても?」

 

「今やってる人材育成は完全に形になれば村を任せられるようになる

電力の普及や電気タンクも民衆の心を掴むのに使える

なにより生活を助けるものは"百獣海賊団"から出る事が重要なんだ

……一度便利になった生活を手離すのは難しい事だろう?」

 

「今を乗り越えればレオヴァ坊っちゃんの時間が取れるようになって、尚且つ更なる民衆の掌握にも繋がると……」

 

「あぁ、少しの手間で今後が楽になる

……クイーンから聞いたが、おれが父さんと遠征に行っている間面倒な事が多かったんだろう?

今やってる事を一通り終えれば全部やりやすくなる

キングの分の内政を楽に出来れば趣味の時間も増やせるだろう?」

 

「…お優しい"レオヴァ様"が、おれのアレを後押しして良いのか?」

 

「構わねぇ

おれにとって大切なのは父さんとキングやクイーンたち…百獣海賊団だけだからな」

 

 

いつもとは違う種類のレオヴァの微笑みにキングはマスクの下の口角を上げ、背の炎を揺らめかせた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

オレがレオヴァさんに拾われてから1年と数ヶ月が経った。

 

 

レオヴァさんは言うまでもなく優しいのだが、

意外だったのはカイドウさんも良く人を褒める人だった事だ

遠征で多くの敵を倒した時、珍しい物をレオヴァさんにと手渡した時

カイドウさんは豪快に笑いながら褒めてくれた。

 

『ウォロロロ~

なかなかやるじゃねぇか……!』

 

『これをレオヴァに…?

お前は良く気が利く奴だなァ、レオヴァも喜ぶ…!』

 

カイドウさんの強くて豪快な所をオレは更に好きになった

流石はレオヴァさんの尊敬する人……懐が深かった。

 

 

この1年数ヶ月でオレはたくさんのモノを貰った。

 

たくさんの美味しい食事、やり甲斐のある仕事、気の合う仲間

暖かい居場所、レオヴァさんという家族

全て失ったオレは欲しかった全てを貰ったんだ。

 

百獣海賊団こそ、オレの全てを懸けるべき場所だ。

 

 

レオヴァさんは戦闘だけでなく、内政も素晴らしい腕を持っていた。

事実、オレが来た時よりもワノ国は発展している。

 

この2年でオレが知っているだけでも

テレビ、救急ヘリ、学舎(まなびや)、スマシ、冷暖房機など

生活を豊かにする物を次々とレオヴァさんは作り普及させている。

 

"電力"というエネルギーをオレはよく知らないが

そのエネルギーのお陰でテレビや救急ヘリ、冷暖房機などが動くらしい。

 

ワノ国の人たちは皆がレオヴァさんを尊敬し、信頼していた

オレも同じ気持ちだから彼らの想いはよくわかる。

 

他にもオレは休みの時は編笠村や鈴後、九里へと赴き村人たちの手伝いもしているのだが、ここでオレはレオヴァさんの昔の話を聞いた。

人々を助け、導く彼の話はオレの心に深く刻まれた。

 

 

 

ただ彼は優しいだけの人じゃないとオレは少し前に気づいた

……いや、レオヴァさんがそう言う面を見せてくれ始めたと言うのが正しいだろう。

 

あの人は手の中にいる人間には際限なく優しい

それこそ優しさだけで人間を駄目に出来そうなほどに……

 

だが、その優しさに付け上がり手の中から出るような事があれば今までが嘘のように冷たく処理される。

 

初めて現場を目撃した時はオレは夢を見ているのではないかと思ったが、全て現実だった。

 

 

あの時、それを知ったオレは恐怖に震えた。

やっと見つけたレオヴァさんと言う"オレの全て"に捨てられるかも知れない恐怖……

一度知ってしまった暖かい居場所が失くなる事が何よりも怖かった。

 

 

それからオレは元々頑張っていた遠征での戦闘に今まで以上に参加し、死に物狂いで敵をなぎ払った。

 

自ら戦闘を始めることも増え

以前とは比べ物にならないほど覇気を鍛えた。

 

絶対にオレはレオヴァさんに必要ないと思われたくなかった……!

 

 

しかし、無茶な戦闘は覇気を鍛えるのには向いていたが身体はすぐに悲鳴を上げた。

結局、オレは遠征先で深傷を負ってしまったのだ。

 

なんとか目標の物は手に入れ、相手を倒しはしたが

自分も重症という体たらく……

 

ワノ国への帰路の途中オレは不安からほとんど寝ることも出来ず、怪我もろくに手当てせずにいた。

 

 

そしてワノ国に着き、ボロボロになった体を部下に支えられながらレオヴァさんの下へ謝りに行ったとき

出会って初めてレオヴァさんの顔から表情が消えた。

 

 

纏う雰囲気もいつもの暖かく優しいものではなく

重々しいプレッシャーを感じるものへと変わっている。

 

 

部下もそんなレオヴァさんを初めて見たのか動けずにいるようだ。

意を決したものの、震える唇からは弱々しい声しか出なかった

 

 

『れ、レオヴァさん……すま、ない…もうヘマは……ガハッ』

 

 

最後まで言いきる前に限界を迎えている体は血を吐いた。

 

レオヴァさんの部屋を汚してしまった……!

どうすれば良いかわからずオレは狼狽えた。

 

支えてくれる部下の顔からも血の気が引いており、震えが伝わってくる。

 

合わせる顔のないオレは思わず下を向いた。

 

 

『……なぜ怪我をしっかりと手当てしねぇ…!!』

 

レオヴァさんの聞いたことがないほど怒気を含んだ声に、反射的に顔を上げると目の前に立っていた。

 

 

一人で歩くことが出来ないオレを部下から受け取ると部屋のベッドへ優しく寝かせた。

 

ベッドが汚れるからと起き上がろうとするオレの肩を軽く押さえ付けて睨む。

 

 

『ドリィ……動くな!

これ以上の出血はまずい、大人しく寝てろ

おれは今から輸血用の道具を取りにいくが安静にしてろ

絶対にだ、わかったな…!』

 

凄い剣幕で言われたオレは力なく頷き返した。

 

 

『お前たち、ドリィを見ておけ

起きようとしたら必ず止めろ……必ずだ』

 

普段よりも口調のキツいレオヴァさんに二人の部下は首が取れるのではないかと言うほど素早く頷いた。

 

返事を確認するやいなや、気付くとそこにはレオヴァさんの姿はなかった。

 

この時オレは初めて怒った姿を見たせいで気が動転してレオヴァさんが何故怒っているのか理解していなかった。

 

5分も経たないうちにレオヴァさんは部屋に戻って来るとオレの身体の怪我の手当てをすごい早さで終わらせ、輸血を行ってくれた。

 

痛み止めも流れるような手付きで飲ませてくれる。

 

重々しい雰囲気とは違い、優しく思い遣りを感じる所作に困惑するオレや部下を気にせずに今度は怪我とは関係ない身体部分の汚れを濡れタオルで落とし始めていた。

 

こんなことまでレオヴァさんにさせられないと思ったオレは止めようと声を出した。

 

 

『レオヴァ、さん……こんな、汚れを……アンタが…やらないでください』

 

『黙って大人しく寝ていろ』

 

『すいませ、ん……おれ、相…討ちに

…もう、負け ません…つぎは、役に……』

 

『…はぁ………お前は…』

 

 

オレの言葉を聞くとレオヴァさんの重々しい雰囲気は消え去った。

代わりに呆れたような顔でオレを見ていた。

 

なんと言えば良いのかわからず目を泳がせていると

二人の部下にレオヴァさんは声をかけた。

 

 

『お前たち、遠征帰りに悪かったな

ドリィの怪我を見て気が動転してしまったんだ…

もう治療も出来たから戻って休んでくれ』

 

『へい!ではお任せしやす!』

 

『ドレークさん、お大事に…

それじゃ、レオヴァ様…失礼しやす!』

 

 

いつもの雰囲気に戻ったレオヴァさんに安堵したように笑うと、二人の部下は下がっていった。

 

二人が出ていくとレオヴァさんはオレの顔の汚れを落としながら話しかけて来た。

 

 

『ドリィ…お前が本当のおれを見てから無茶ばかりし始めたのは知ってる

……お前の望むおれじゃないと、嫌だったのか?』

 

 

オレはその言葉に泳がせていた目を見開き固まる。

 

嫌……?

オレがレオヴァさんを嫌だと思う筈がない…!

 

確かに最初の印象とは変わったが、レオヴァさんがオレに手を差し伸べてくれた事実は揺るがない

 

なにより本心からレオヴァさんに大切にされるカイドウさんやキング、クイーン、ジャックが心から羨ましく思えた。

 

 

オレはレオヴァさんの言葉を否定するべく口を開いた。

 

 

『レオヴァさんは、レオヴァ…さんだ

嫌だな、んてこと……あり得ない』

 

『なら、何故そんな不安定な状態になったんだ』

 

『役に、立ちたくて……おれも、

アンタの、信頼が…欲しかった……もう用無しになるのは、嫌だ』

 

『……おれが"うっかり"で信用してない奴に素を見せると思うのか?』

 

『………え……それは、レオヴァさん…

…いや……そんな、はず…おれなんかを……』

 

『ドリィ、お前は実力があって優秀だが

その卑屈すぎるのは直らないな…』

 

『っ……おれ…ほんと、に?』

 

『見ただろドリィ

…もし、おれからの信頼がないならお前は死んでる

 そうだろ?』

 

 

そうだ

レオヴァさんは思慮深い性格……オレが不要品ならもう消されてるはずだ。

なにより、うっかりで目撃させるような人じゃない。

 

レオヴァさんの特別に入れていたことにオレは嬉しさのあまり微笑んだ。

切れた唇が痛むが勝手に表情筋が動いてしまう。

 

オレの顔を見たレオヴァさんはまた大きな溜め息をついた。

 

 

『まったく……

ニヤつく前に心配をかけた事を謝らねぇのかドリィ?』

 

『ふ、ははっ……すまな、い……レオヴァさん…!』

 

『死ぬのはずっと先まで後にしろ

"今後必ず"おれにはお前が必要なんだ』

 

『っ! あぁ、もちろん……アンタに、死ねと言われ…るまで、生きるさ……!』

 

『おれがお前に死ねと言う未来は来ないが……

ふふ…まぁ元気になったなら良い』

 

『おれの人生で…いち、ばん…元気になった…よ、レオヴァさん!』

 

『ならもう無茶は二度とするなよ?

…おれは仕事に行くが、ドリィは暫く寝ていろ』

 

『わかった…あり、がとう……レオヴァさん』

 

優しい笑顔でオレの肩をぽんと軽くたたきレオヴァさんは仕事へと向かって行った。

 

 

この一件以来、オレは卑屈な考え方を止めるよう努めた。

彼からの信頼を受けられるオレを否定することは彼を否定することにもなる。

それだけは駄目だ、彼を否定することは許さない。

 

 

しかし、性格が簡単に変えられるはずもなく

オレはぐるぐると思考の迷路にハマっていた。  

 

そうなったオレの隣にレオヴァさんはあの時のように座り、背をさすると優しく声をかけてくれる。

 

 

『慢心はよくない事だ、足をすくわれる。

だが自信は必要だ……自分を認めることは大切なんだ

 ドリィ、お前は戦闘の腕は良い

ただ精神面の脆さが心配だ、それさえ克服出来れば……

大丈夫だ……おれやお前の部下たち、村の皆だって何があってもドリィの味方だ

おれと一緒に少しずつでいい……自信をつけて行こうな』

 

 

この言葉を胸にオレは遠征で結果を出し、少しずつ自信を持てるようになった

もう、卑屈で役立たずなオレは存在しない。

 

存在するのは強靭な百獣海賊団の"ドレーク" だ

 

オレが百獣の旗に捧げるのは勝利のみ……!

 

 

自信を手に入れたオレは部下たちと次の遠征へと赴いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

カイドウとキングが外のナワバリについて話しているとクイーンが慌ただしく現れた。

 

 

「カイドウさん悪い、遅れた……!!」

 

「クイーンか、よく来た……!

気にするな、ちょうど今キングとの話が終わった所だ」

 

 

申し訳ねぇ~!と叫ぶクイーンにカイドウは気にするなと豪気に笑う。

 

クイーンが座ったのを見計らうとキングが報告書を手にした。

 

 

「じゃあ、カイドウさん

レオヴァ坊っちゃんからの報告書を読ませてもらうが…」

 

「ウォロロロ…!

最近やっと落ち着いたと言ってたからなァ…

よし、報告を始めろ」

 

 

 

カイドウの一言でキングはレオヴァの報告書を朗読し始めた

 

 

 報告書

【内政A-261】

 

・スマシ普及の完了報告

ワノ国全土でのスマシの使用確認 <済>

国民のスマシの使用法理解度、満足度調査 <済>

└理解度80% 満足度89%

 

 

・電力の普及、支払い制度の確立完了報告

電気タンクの完全版の現地使用確認 <済>

国民への認知度、使用家庭率、満足度調査 <済>

└認知度87% 使用家庭率36% 満足度90%(使用者のみ回答)

 

 

・救急ヘリ、医療施設の成果報告

出生率の増加、乳児の死亡率低下

病気または怪我によるワノ国全体の年間死亡者数の低下

└年間16万6540人 → 年間5万3917人に低下

維持費・人件費・その他費用は利益から賄える範囲である。

なお救急ヘリの設備費は含まない。

 

 

・学舎の設立報告

現時点での教科は4種類であり

それぞれを守護隊の隊員が教えている

計算:足し算やかけ算など

国語:文字習得や読み聞かせなど

道徳:祖国愛や、忠義の美しさ、連帯感など

歴史:ワノ国や百獣の歴史、外海の"一部"の歴史など

 上記の教育を無償で開始。

守護隊のメンバーによって運営

現在4箇所の学舎が開校済み。

 

 

・編笠・鈴後・九里での援助制度、出生届の義務化

出生届の義務化の利点

└人口増加と今後の国民の把握など

援助制度その1

└出生届を提出した家庭へ1年間の補助金の贈呈

[ただし、乳児が死亡した場合はそこで打ち切る]

援助制度その2

└高齢、難病により働けなくなった物への補助金及び世話人の契約補助

援助制度その3

└身分証を発行した者のみかかった医療金の10%が戻ってくる 

 上記の援助制度は村人からの上納金により賄われるため、実質負担はなし。

 

 

・上納金などの内容の詳細

上納金の回収によるメリット

└百獣海賊団の財源及び経済の安定化など

 

相互金

└治安維持や公共物の維持費など

福利金

└援助制度などの権利のための費用

改革金

└発展や環境改善、より良くするための費用

 上記が上納金の詳細である。

その他

水賃、電気タンクの電賃、点検費、品質保証費など

以上が村からの徴収金である

なお、国単位になれば数十倍を見込める計算である。

 

次のページからは……」

 

 

 

「あ"~…ストップストップ……!!

いやマジかよそれ!? 聞く限りクソ良い国じゃねぇか!

なに?レオヴァの奴は住みたい国No.1でも獲るつもりなの?」

 

「うるせぇぞクイーン……!

まだ報告書残ってんだ最後まで黙って聞けねぇのかァ…?」

 

 

「……おいキング」

 

「…なんだ?カイドウさん」

 

「それは後何枚ある」

 

「残りあと11枚はあるが」

 

「…………あとでレオヴァに直接聞く、要点だけ話せ」

 

 

 

カイドウはレオヴァの報告書の内容の多さに頭を抱えたが、それも無理はない。

本来海賊の報告書など航海ルートと、せいぜい何処で何を手に入れたとか、敵を倒したくらいしか書かれていないのだ。

 

キングの様に真面目な性格の男でも1枚で報告書は終わる。

 

それが合計12枚ともなればカイドウの反応も頷ける。

 

 

内容と量にクイーンも引きつった笑みを浮かべる始末だ。

 

 

なんとも言えない雰囲気の中、キングは予めレオヴァから渡されていた要点がまとめられた紙を懐から取り出し読み始めた。

 

 

「この約2年の間でほぼ全ての人間の掌握

スマシ、救急ヘリなどの全土普及、百獣海賊団の印象向上及び武器生産率や種類の増加、工場増築。

レオヴァ坊っちゃんの管理下にある村で、ワノ国入手後に予定の経済実演、法の試用、電力や新しい事業の発足、見込める収入の逆算…など

下準備は完全に整えたってことらしいぞ、カイドウさん」

 

 

「なるほどなァ。そりゃ、こんだけ働いてりゃ休む間もねぇ訳だ…!

……キング、クイーン……今後レオヴァに長期で休みを取らせるぞ」

 

「レオヴァは仕事中毒すぎるぜェ……」

 

「おれもカイドウさんの意見に賛成だが……」

 

「なんだキング、問題でもあんのかァ?」

 

「……当の本人が休みたがらねぇんだカイドウさん…」

 

 

 

キングの言葉にクイーンが珍しく同意を示す。

 

「レオヴァの奴カイドウさんに喜んで貰うのが趣味みてぇなところあるじゃないスかぁ~

……長期間休めなんて言った日には……どんなヤベェ目になるか……」

 

「…この2年カイドウさんと殴りあ……組手を続けてたレオヴァ坊っちゃんは内政の腕だけじゃなく、戦闘の強さも桁違いに上がってる………無理やり休ませるのは至難の技なんだ」

 

 

二人の発言にカイドウが首をかしげる。

 

 

「んなもん、おれが休めって言や休むだろう」

 

 

「休んでるって言いつつ、レオヴァの奴細かい仕事こなしてんスよ……!!」

 

「休みだってのに、レオヴァ坊っちゃんは目を離すと村なり医療施設なりでウチの好感度を上げに行っちまう…」

 

 

「……そんなことしてんのかレオヴァは

ダラけるって考えがねぇことに困る日がくるとは思わなかったが…

よし、おれが細かく休みの日にやっちゃならねぇ事を決めて言っておいてやる……!

キング、やらせねぇこと一覧作っとけ……!」

 

 

「了解した」

 

「カイドウさんが言えばレオヴァも大人しく休むだろ~」

 

 

カイドウはレオヴァの長期休みに合わせて遠征に行こうと密かに企んでいたがキングもクイーンも知る由もなかった。

 

 

 

 




ちょっとした補足
・今回以降はドレークは原作に近い口調(性格?)になる
(元々悪い奴ではないので、部下や村人との関係は良好
レオヴァからは村人たちの相談役も任される)

・品質保証費とは消費税のようなモノで、買い物するときに自動的に回収される。
(品質保証費の回収制度がある)

・いつもはカイドウさんは基本的に報告書は読まずにレオヴァから直接聞いている
今回はたまたまレオヴァが来られない日だった。



以下キャラネタバレ?




仲間に引き入れる基準は"扱いやすさ"と実力を第一に考えております! 
以下、下書き段階で引き入れ予定のメンバー(原作で身内のメンバーは除く)

ドラム医者、シーザー、Mr.3、ダズ、ジンベエです


シャーロット家のみんなが凄い好きなんですが引き入れられる未来が見えない……カタクリさん最高に好きなんですが…最強の家族セコムなので諦めました……女の子最推しブリュレちゃんもセコムだらけで諦めた……別でビッグマムの小説書くかもです。
白ひげのオヤジも好き…マルコも好きでONE PIECEのキャラ最高なんですが
レオヴァは白ひげのオヤジを生かすのを認めないやろなぁ……と断念
トラファルガーはイケそうなので思案中です。
ハンコック姉妹は恋愛要素入りそうなので断念……恋するハンコックの可愛さは最強なんですけどね……
テゾーロも便利能力なので思案中……時間軸間に合うか計算します。

ちなみにティーチは死にます……申し訳ない……
レオヴァが
『人の下に着けない野心家……百獣海賊団がコントロール出来ない能力二つ持ちを生かすな、殺せ。』
と囁くので………あと、私怨が……オヤジの件が……黒ひげ、てめぇは俺を怒らせた!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嗤う取引相手

前回も感想やご意見ありがとうございます~!!
いや、本当に嬉しすぎて!
夜勤の休憩時間全部これにつぎ込んでます!笑

後書きにて今作の恋愛について言及しております。
あんまり中の人を感じたくない人はスルーして頂ければ…!

私はカイドウパパを幸せにするんだ……




 

 

 

 

 

 

 

広く豪勢な部屋で数人の男たちが取引相手を待っていた。

 

 

「んね~んねぇ~~ ドフィ~

今回の取引相手はわざわざ~ おれたちが出迎える価値のある奴なのか~?」

 

 

べちゃべちゃと音を立てる男の言葉に独特なサングラスを掛けた金髪の男……ドフラミンゴが答える。

 

 

「あぁ…! 今までで一番デカい取引だ

これを成功させりゃ他とは比べ物にならねぇほど上質な武器が手に入る

……そいつの背負う"名"も他とは別格だ」

 

 

「確かに、ドフィの言う通り…!

だが、今日来るのはガキの方だろ?

ここまでの出迎え準備をするまでもねぇさ」

 

 

背の高いヒラヒラした男の言葉を咎める様にドフラミンゴは言う

 

 

「侮るな、むしろその歳で独自に高性能の武器を生産するだけでなく……売買のルートを作り、このおれにまで話を持ってくるような奴だぞ?

フフフフ…ただのガキな筈がねぇ……!」

 

 

周りの男たちは確かに…と言うように頷いた。

 

神妙な面持ちの男たちの下へ一人の少女が走りよる。

 

 

「若さま~! お客さんまだ…?」

 

「ベビー5か……あぁ、まだ約束の時間まで少しある

……どうかしたのか?」

 

「ううん、ただお客さんに出すのはお茶かコーヒーか聞きにきたの!」

 

 

問いに少し考える素振りを見せた後、ドフラミンゴはベビー5の頭を軽く撫でながら、紅茶にしろと指示を出した。

 

指示をもらったベビー5は笑顔でまた部屋から出て行く。

 

 

 

しばらくファミリーで雑談をしていると約束の時間が迫る。

 

 

 

ドフラミンゴは屋敷の中に入ってきた取引相手の気配に口角を吊り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の扉が開くと同時に元気な声が響く。

 

「若~~ お客を連れて来ただすや~ん…!!」

 

 

声の主であるバッファローは後から入ってくる客人の為に扉を押さえる。

 

少年と青年の間のような顔立ちの角のある黒髪の男は微笑みを浮かべながら正面に座るドフラミンゴに声をかける。

 

 

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ。取り引きに応じてくれた事、礼を言う。

改めて…おれはレオヴァ、ぜひ実りのある時間にしよう」

 

 

「フフフフ……ドフラミンゴで構わねぇさ、レオヴァ…!

さて…立ち話もなんだ、そこに座ってくれ。」

 

 

ドフラミンゴに促され、向かい合うように置かれたソファーにレオヴァとその連れは腰掛けた。

 

 

お互いに軽い世辞を言い合うと、すぐに本題に入った。

 

二人はテンポよく商談をまとめていき、今後の話をしようとドフラミンゴが口を開いた時だった。

 

 

ベビー5が用意し、運んできた紅茶を机に置こうとして

手を滑らせたのだ。

 

 

ドフラミンゴ含め他の男たちも気付いたが既に遅く、綺麗な装飾の施されたティーカップは地面へ触れる直前だった。

 

 

「…っ……!!」

 

 

誰かわからぬ息を飲む音にベビー5はきつく目を瞑ったが

いつまでも硝子の砕ける音はしなかった。

 

恐る恐る瞼を上げると地面とぶつかり砕ける直前だったティーカップを手に微笑むレオヴァがいた。

 

 

なぜ割れていないのかわからずに、きょとんとするベビー5の耳にレオヴァの声が届く。

 

 

「良い香りだな……なんて言う紅茶なんだ?」

 

 

ベビー5と目線を合わせるように屈んだレオヴァの瞳をじっと見つめながら小さい声で答えた。

 

 

「えっと、ローズティーって…言うの」

 

 

「ローズティー…?

初めて聞く飲み物だ……ずいぶんと可愛らしいんだな」

 

 

「!……そうなの! 紅茶にね!かわいいお花を入れて、あと甘いお砂糖もね!それから……」

 

「べ、ベビー5……そこまでざます…!!」

 

 

レオヴァが紅茶を褒めたことが嬉しかったのか、はしゃぎ始めたベビー5をジョーラという奇抜な女性が止めに入る。

 

 

「ごめんなさいね、この子ったら本当に……!」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

うつ向いてしまったベビー5の頭を優しくレオヴァは撫でる。

予想外の行動に周りの人間は目を見開く。

 

 

「気にしなくていい

寧ろおれは珍しいモノが好きでな……もっと聞かせて欲しいくらいなんだが

…ドフラミンゴ、構わないだろうか?」

 

 

「フフフ……もちろん、構わねぇ!

ベビー5、さっきの話を聞かせてやれ」

 

 

「はい若さま!」

 

 

元気よく返事をするとベビー5とレオヴァは暫く紅茶の話を続けた。

 

 

途中でドフラミンゴが話を引き継ぐように代わり、武器の商談の他に、紅茶の取り引きも新たに加えられた。

 

 

 

「フフフフッ……予想以上に話のわかる相手で嬉しいぜ

今後も互いに良い話ができそうだ」

 

「ふふ…おれとしても思っていた以上に良い商談がまとまって嬉しい限りだ

……紅茶楽しみにさせてもらうぞ、ドフラミンゴ」

 

「あぁ……!

とっておきのヤツを用意するさ!」

 

 

 

二人は笑顔で次の予定を決めると、別れの挨拶を済まし

ドフラミンゴの声を背にレオヴァは屋敷をあとにした。

 

 

 

 

「優しい人だったね~!」

 

「危なかっただすやん!

あの人じゃなかったらベビー5の首は飛んでただすやん!!」

 

「……思ってたのとは印象が違ぇが」

 

「べへへへへ~…あいつドフィを凄く気に入ってたみたいだね~

ドフィなら上手く使えるよ~ んね~!」

 

「……………」

 

「若の交渉の腕は流石だ…!」

 

「今回の取引も完璧だったイ~ン!」

 

 

喜ぶファミリーたちに囲まれドフラミンゴはほくそ笑む。

 

 

「とんでもねぇ奴なのは間違いねぇが……

逆にああ言う奴なら利益関係が有る限りは信用できる…

フフフフフフッ…良い取引相手が手に入った……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レオヴァとドレークは大きな取引を終わらせ船へと急いでいた。

 

 

「レオヴァさん……せっかくの休みに取引なんて…

またキングが五月蝿いんじゃ?」

 

「大丈夫だ。

今回は珍しい紅茶の取り引きの"ついで"に武器の話もしただけだ

なにより父さんから渡された

"休みの日にやっちゃならねぇ事一覧表"には

新しい取引先を増やすなとは書いてないからな」

 

 

そう言ってニッコリと笑うレオヴァにドレークは苦笑いで返す事しか出来なかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

僕は今日ほど巡回に来たことを後悔した日はない。

 

 

どうせ今日もいつもと変わらず、海賊がいると知っている島を知らんぷりして横を通りすぎるだけのはずだったんだ……

 

 

まさか、まさか百獣海賊団と戦闘になるなんて……!!

 

 

 

 

僕は目の前に転がる真っ黒な人だったモノをみてただ震えていた。

 

 

ああ……こんなことなら…海軍なんてさっさと辞めればよかった!!

 

 

そこかしこから聞こえる悲鳴に可笑しくなりそうな気を保ちながらも電伝虫を探した

 

なんとかして、応援を呼ばなければ……僕は殺されるっ!

 

 

必死に探し回りなんとか見つけた電伝虫に手を掛けた時だった。

 

突然の銃声に後ろを振り返ると帽子をかぶった少年が立っていた。

 

 

「あぐぁ……い、いてぇ……」

 

撃たれた背中の痛みに呻く僕に近づくと

その少年は僕の眉間に銃を向け言った。

 

 

「……海軍も、みんな死ねばいい」

 

 

僕が最期に見たのは憎しみに染まった少年の目だった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

オレは地獄を見た、そして人間の汚さを見た。

 

こんな世界…………ぜんぶ壊れれば良いんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの地獄からでて、全て壊すと誓った。

 

オレの残り時間はあと3年と少し

それまでに出来る限りのモノを壊したい。

 

 

色んな船に潜り込み、移動を重ねた

途中で手榴弾や銃も手に入れた。

 

そして、次の移動をどうするか考えてる時だった

……オレは海軍に捕まったんだ。

 

 

 

捕まってすぐに珀鉛病だとバレて殺されそうになった時だった。

 

 

海兵たちが慌ただしく叫び始める。

 

 

「うわぁあ~……!!

ひゃ、百獣海賊団だ……!!!」

 

「うそだろ!

なんでこの島に…!?」

 

「ここはドンキホーテファミリーの島じゃないのか!?」

 

「そんなことより逃げるのが先だ……!」

 

 

 

 

隙ができたのを見逃さずオレは目の前の男を刺して逃げ出した。

船から飛び降りようかと考えてると

俺を追ってきていた男が目の前で雷に打たれて死んだ。

 

肉の焦げた嫌な臭いだけ残して物言わぬ屍になった男を鼻で笑う

 

そうだ、オレを痛め付けた海兵なんて死んで当然だ。

 

 

どんどん倒れて行く人間の中心に変わった服の男が立ってた。

 

 

その男はまるで魔王みたいだった。

 

黒い髪に角……それに表情ひとつ変えずに海兵を次々殺して行く。

 

オレも……あんな力が欲しい

ぜんぶ壊せるような絶対的な武器が欲しい……!

 

 

 

魅入られたようにその人を眺めていると目の端に人影が映った。

 

 

「はぁっ…はぁっ、しにたく、ない!

おうえ、応援を、よばないと僕、殺されっ!」

 

 

そう言いながら船室へと入って行った海兵を見てオレは唇を噛み締める。

 

死にたくない?

ふざけんな……お前らは散々殺してきたくせにッ……

 

 

拳銃を手に握ると海兵の後ろを静かについて行った。

 

 

 

そして油断していた男を殺して、電伝虫を壊した。

 

 

オレは死んだ海兵の首をナイフで切るとそれを引きずって魔王みたいな人を探した。

 

 

増援を呼ぼうとしてた奴を殺したんだ

これを手柄にいっぱい壊せる方法を教えて貰おう……

 

 

首をずるずると引っ張りながら船室の扉を開け外に出ると

眼帯のようなマスクをつけた顎に傷のある男がオレに刃物を向けた。

 

 

「っ……なんだ!?

下がってくれレオヴァさん…この子ども……生首を…!」

 

 

 

傷のある男に凄まれると足が震えた

だけどオレにはやらなきゃならない事がある

死ぬのは怖くない……

 

そう思うと動かなかった足が動いた。

 

少しずつ前に出るオレについに傷のある男が刃物を振り上げた。

 

 

 

 

「ドリィ、待て」

 

 

 

オレ目掛けて下ろされた刃がピタリと数ミリのところで止まる。

 

傷のある男は一瞬で魔王の隣まで下がると何か話をしていたが、そのまま何処かへと行ってしまった。

 

 

今なら聞けると思って重い首を引っ張って

魔王の前まで持っていき、足下に置いた。

 

 

「こいつ、応援呼ぼうとしてたから殺した…手柄だよな?

 おれにいっぱい壊す方法教えてくれよ」

 

 

 

じっと魔王を見つめて答えを待っていると

不思議そうな顔をしながらも魔王はしゃがんでオレと目を合わせた。

 

 

 

「…何を壊す方法が知りたい?」

 

「目にはいるものを全部壊したい……!!」

 

「…何故?」

 

「町も…!家も……!人間も……!!……全部壊したい

おれは"白い町"で育った……もう長くは生きられねェ…!!」

 

「…………そうか、教えても良いが…

お前だけでは到底無理だ」

 

「無理じゃねぇ!

方法さえわかればっ……おれだって!」

 

「なら教えよう、必要なのは実力と冷静な判断力だ

……お前にそれがあるのか?

少なくとも冷静な判断が出来る奴とは思えねぇが…」

 

「っ……出来る!出来るようになる!

おれは、壊すんだ……ぜんぶッ……!!」

 

「盲目だな……

だがまぁ、白い町で育ったんだ……仕方がないことか」

 

 

 

そう言うと魔王の雰囲気が変わる

 

オレは一瞬で全身冷や汗が止まらなくなった

 

やっぱり魔王だったんだ…………殺される…

くそ、まだ全然壊せてないんだッ……!!

 

こんな所じゃ死ねねぇ…!

 

オレは全身を刺すような恐怖に襲われながらも銃を構えた。

 

 

魔王はそんな俺を見て目を細めると

 

「ふふ……素質は十分だ」

 

と言って綺麗に微笑んだ。

 

 

突然のことにビックリすると同時にオレは気を失った。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

目を覚ますとオレは魔王に抱えられ運ばれていた

 

わけがわからずポカンとするオレに魔王が声をかけてくる。

 

 

「ん、目が覚めたか?

もうすぐ、おれの船につくが晩飯はどうする?」

 

「……は…?」

 

 

 

意味がわからねぇ!! なんだコイツ……!

 

さっきの魔王の双子か!?

 

 

あの時オレに殺気を向けて来た奴と同一人物とは思えないほど、

おおらかに微笑む魔王にオレは混乱した。

 

 

 

「だ、誰だよお前!」

 

「……殺気を当てすぎたか?

まさか…記憶が飛ぶとは……」

 

「記憶はある……!!」

 

「じゃあ判るだろう

お前がおれに声を掛けてきたんだ」

 

「雰囲気が別人じゃねぇか!!

魔王のくせに変な笑い顔やめろよ!」

 

「……魔王…?」

 

 

つい口が滑り魔王と呼んでしまってオレは固まる

魔王も歩いていた足を止めた

しまった……怒らせた!?と思ったオレの思考とは裏腹に魔王は笑いだした。

 

 

「ふ、ふはははは…!!

ま、魔王……ふふふ……なんだ随分と……ふふ、子供らしい事を」

 

「な…! う、うるせぇ!!

だってお前角あるだろ!」

 

「ふふふふ……角があると魔王なのか…」

 

「そ、それに!いっぱい海兵殺してた!」

 

「海賊なら海兵と会えば大体ああなる」

 

「なんか変わった服きてるし!」

 

「これはワノ国の衣装、着物だ」

 

「ぐっ……えっと、……なんか黒いし…」

 

「お前も黒髪だろう?」

 

 

 

くそ!!コイツぜんぶ論破してくる!!

 

 

 

 

「ふぅ……いや、こんなに笑ったのは

ジャックの悪魔の実事件以来だ…ふふふ……」

 

「ちくしょうっ……バカにすんな!

てか離せよ!何処に連れてく気だよ!?」

 

「なんだ…お前が色々壊したいと言うからウチに連れて行こうかと思ったんだが

……嫌なら構わないぞ?

おれの腕から抜け出すことも出来ないお前が全て壊せると思うならな」

 

 

…………ムカつくけど確かに魔王の言う通りだ…

何回も抜け出そうと踠いてたけどびくともしない

……オレは弱い…………強かったら、最初からみんな死ななかった…

 

 

黙ったオレの耳に魔王が囁く。

 

 

「どうする……?

おれは海賊だ。一緒に来ればきっと色々壊せるだろう

…だが普通の幸せは掴めないぞ」

 

 

 

魔王と……この人と行けばきっとたくさん壊せる!

 

普通の幸せ…? そんなのもう失くなったッ……!!

 

どうせあと数年で死ぬんだ……ただで死んでやるもんか

ぜんぶぜんぶぜんぶ壊してやるッ……!!

 

 

 

「お前と行く…!

死ぬまでにいっぱい壊すんだ…!

幸せなんてもう失くなった!!!」

 

「……そうか

オレはレオヴァ……お前の名前は?」

 

「ロー……トラファルガー・ローだ」

 

「良い名前だな」

 

「ッ…!………フンッ…」

 

 

 

オレは魔王……レオヴァの腕の中で船へ着くのをただ黙って待っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

着いたぞと声をかけられ顔を上げると大きな船が目の前にあった。

 

船の上からは男たちが声を上げている。

 

 

 

「おぉ~!レオヴァさま~~!」

 

「野郎ども!レオヴァ様のお帰りだァ……!!」

 

「飯の準備は完璧ですぜ!

レオヴァ様の好きな海鮮中心にしやした!」

 

「レオヴァさま、風呂も入れますよ!」

 

「いや~!今回の海戦もレオヴァ様とドレークさんいたから

 おれたちゃヒマでしたぜ!?」

 

 

 

魔王はたくさんかけられる言葉に笑顔を返すと

高くジャンプして、船に飛び乗った。

 

危うく舌を噛むところだった!

……声くらいかけろよな…

 

 

 

周りに集まっている男たちを退けて顎に傷のある男が魔王の隣に立つ。

 

 

「レオヴァさん遅いから心配して…って

……れ、レオヴァさん?

その子ども……連れてきたんですか…」

 

 

「新しい船員だ…まぁ暫くは海賊見習いだな

 皆よろしく頼む。」

 

 

「おい!話がちがう!

おれは見習いなんかやってる時間ねぇんだ…!」

 

 

オレが魔王に怒ると周りの男たちが怒りの形相で睨み付けてきた。

 

 

 

「おいおい……このガキ、誰にそんな口きいてんだァ?」

 

「レオヴァさま…そいつ一回教育が必要かと……」

 

「クソガキが! レオヴァ様になんつー態度だ!」

 

 

 

「そこまでだ。

子ども相手にムキになるな…」

 

 

呆れたような魔王の声に周りの怒りオーラが少しずつ消えていく。

 

 

無意識にほっと息をついたオレの耳に聞きたくない言葉が飛び込んで来た。

 

 

 

 

「ちょ、おい!おまえら!

そのガキ……は、珀鉛病じゃねぇか…!?」

 

 

 

男のその一言に周りはどよめきだした。

 

 

 

「珀鉛病…って……し、白い町の……!?」

 

「やべぇ!うつる!死ぬぞ!?」

 

「え!?死ぬのか!?

れ、レオヴァ様……!」

 

「レオヴァさま!ガキ離してくだせぇ……!」

 

「海に放り捨てるぞ……!」

 

「そうだ!レオヴァ様になにかあっちゃ、ワシらは生きて行けん!」

 

 

 

 

魔王から引き剥がそうと伸びてくる悪意ある沢山の手にオレは体を強張らせた。

 

 

 

「いい加減にしねぇか……!!」

 

 

 

この一言で全員の動きが止まる

魔王はさっきまでの微笑みが嘘のように眉間に力が入っていた。

 

 

 

「珀鉛病は中毒……他人への感染なんざ根も葉もねぇ噂だ…!

…おれは言った筈だよなァ………ローは新しい船員(クルー)だと。」

 

 

 

オレは驚いた

会う奴はどいつもコイツも移るからとオレを殺そうとしたりバイ菌のように扱った

海軍に白い町の生き残りだと引き渡されそうになったのも一度や二度じゃない

 

なのに……魔王は、レオヴァはオレの病気は移らねぇって…アイツらに怒ってる……

 

魔王の顔をじっと見ていると目があった。

 

 

 

「……ロー、悪かった…」

 

 

 

そう言ってオレの頭を帽子ごと撫でる魔王は悲しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

「っ……す、すまねぇ……レオヴァさん

おれたち……勘違いで…」

 

 

この世の終わりのような顔をした男たちが魔王に頭を下げた。

 

それを見た顎に傷のある男が怒鳴る。

 

 

「お前たちは正しくない情報に踊らされて

身内に手を出そうとしたんだぞ…!

…謝るべきはこの子にだろうが……!!!」

 

 

 

っ……べつに、今さら気にしてなんかいない

そう言おうと思ったけど上手く声がでなかった。

 

男たちは怒鳴られてハッとした様に顔をあげた。

 

 

 

「ドレークの言う通りだ

……2度と噂で決め付けて身内を傷つけるような真似だけはするな

…いいな?」

 

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

 

 

でかい声で返事をすると男たちは次々にオレに謝りながら頭を下げた。

 

……どうしたらいいかなんて分からねぇからオレは魔王の結われた長い髪で男たちと壁を作った。

 

 

 

「……皆、オレは少し部屋で休憩する

出港してくれ……ドレーク、後は任せるぞ」

 

 

「はい、レオヴァさん。

あとは任せてゆっくり休んでくれ」

 

 

 

 

色々あってつかれた……最近ずっと食べてないし寝てない

……揺れる魔王の腕の中でオレはついに睡魔に負けた。

 

 

 

 

 

 

 

 







感想欄にてレオヴァの恋愛について何個かありましたので答えます!
『私は…推しの女の子に酷いことは出来ん…!!以上!!』ドドンッ

まぁ、アンケートにて恋愛は無しになったので
女の子キャラは身内には入れても恋愛はなしですかね~

今作ではカイドウパパと言う最大の推しの幸せに邁進しやすぜ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王と白い子ども

幼少期ロー動かしやすくて更新が捗る……!

前回、前々回と引き続き沢山のご意見ご感想感謝!
皆さまがバチバチにやる気を充電する燃料を下さるので絶好調です……!
6月下旬までは夜勤パラダイスの休息時間に続きを書くのでハイスペースに行く予定です|゚ー゚)ノ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 

 

 

 

 

 

あれから2ヶ月オレは船の上で魔王と眼帯のようなマスクをした顎に傷がある奴に剣術と体術を学んだ。

 

銃や斧、槍や鞭……色んな武器を使ったけど剣が一番殺りやすかった。

 

 

魔王いわく、全てを極められるのは理想的だがイタズラに時間を使うくらいなら、数を絞って極める方が効率的らしい。

 

たしかにオレもそう思う。

 

 

実際、銃とかを闇雲に使ってた時は一人も殺れなかったけど

魔王と眼帯に剣を教わった後に起こった海兵との衝突では一人殺れた……!

 

 

そのあと海に落ちそうになったのを魔王に拾われたのは最悪だったけど

オレだって壊せる証明だ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、魔王の国……ワノ国についた。

 

船を降りるとすぐに魔王は嫌がるオレを抱えて、服屋みたいな所に連れてった。

 

そこで着物とか言う魔王と同じ変な服に変えさせられた

なんかオバサンはたくさん魔王に小さいサイズの着物を押し付けてた。

最初は悪いからと断ってた魔王もあのオバサンの押しには勝てなかったみたいだ

 

へへ…魔王が負けるのは初めて見たからちょっと気分は良かった!

 

 

 

 

けど、そのあと魔王に連れてかれて

百獣海賊団の船長に会ったが…………大魔王(だいまおう)だった…

 

 

魔王の言ってた意味を一瞬で理解した。

 

『……破壊か…

それなら父さん……ウチの海賊団の総督以上にその言葉が似合う人はいないと思うぞ?』

 

そう言って笑ってた魔王の言葉が痛いほどわかった。

 

 

 

色んな奴に会わせられた後、部屋に案内されたり町を歩き回ったりしてたら1日が終わってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして魔王のいる海賊団に入ってからだいたい1年半が過ぎた。

 

 

本当はずっと剣の練習をしたいけど魔王のせいで出来ねぇ……

 

 

戦術基礎やら航海術……医術までやらされてる。

 

 

なにが

 

『剣を振るだけじゃお前はいつか負ける

いいか、考えて戦え。力がないなら知恵をつけろ

そうすれば勝てる場面は増える……選択肢を増やせ』

 

だ!!

 

 

 

 

けど、魔王にそんなの死ぬオレには関係ない!って言っても

 

 

『なにを言ってる…ロー。

お前はもうウチの船員なんだ

おれが筋の良い奴をたかが病気で手離すと思うのか?』

 

『お前のことなんか知るか…!

わかってるんだ、おれはあと約1年半で死ぬ』

 

『アレがもうすぐ手に入る、ローは病気を治すことを考えろ。

そうだな……今度ジャックに会わせようか

良い友人になれるかもしれない、ローは昔のジャックと思想が似てる』

 

『はぁ!? アレってなんだよ、意味わかんねぇ……!

てかジャックって誰だよ!似てるとか知らねぇし…』

 

『ジャックも初めて会った時に、強くなってぜんぶ壊すって言ってたんだ……確か5歳くらいの時だったなァ…』

 

『そんなの聞いてねぇよ!』

 

『ジャックって誰だって言ったのはローだぞ?』

 

『聞きたいって意味じゃねぇし……』

 

『そうか?

なら話が脱線したが、次のページから再開だな』

 

『だから勉強なんか良いから、剣を……!』

 

『12ページは壊血病についてだが……』

 

『おれの、話をッ……聞け~!!』

 

 

 

いつもこれだ。

 

魔王は他の奴らの話はちゃんと聞くのにオレの話は全然聞かない…

 

魔王が駄目だから座学をサボって眼帯に頼んだこともあったけど

アイツも駄目だ…あんな奴……ただの忠犬だ!

 

口煩くて最悪な奴だった…

 

 

 

『おい!眼帯、剣の練習付き合ってくれよ』 

 

『…トラファルガー、歳上に頼む態度がなってないぞ

お前が無作法だとレオヴァさんの印象も悪くなるんだ。

ちゃんと礼儀を覚え、レオヴァさんを敬え!』

 

『……別にすぐ死ぬし礼儀とかいい』

 

『っ……心配するな…

レオヴァさんは"おれ達"との約束は絶対に破らない

あの人が治すと言ったのなら何も問題ないんだ

もっとレオヴァさんを信じろ!』

 

『…ふん……おれは、もう何も信じてない』

 

『トラファルガー……お前…』

 

 

その時、眼帯がムカつく顔をしたからすぐに頼むのは止めて外に行こうとしたけど、捕まって魔王の所に戻された。

 

……そのせいで魔王にその日は2時間も多く座学をやらされたんだ……眼帯許さねぇ…

 

 

 

 

 

とにかく、毎日剣術だけじゃなく座学もやらされるのは嫌だった……オレは強くなりたいのに、座学なんて…

 

 

あと、魔王はしょっちゅう声をかけてくる

……忙しいんじゃないのかよ…オレに会いに来る時間休めばいいのに

 

 

……他にも、毎日風呂に入る魔王に付き合わされるし、飯だって無駄にいっぱい口に詰め込まれる…

 

 

『たくさん食べろ、ウチのコックの料理は美味いぞ。

これは編笠村でおれが捕ってきた魚を塩で焼いたやつだ。

おれも好きな焼き魚なんだが…ほら食え、ロー。

 ふふ……どうだ美味いだろう?

 

…あぁ…言っておくが強くなるには食べる事も大切だからな。』

 

『もぐ、んもぐ……食べて強くなるとか嘘だ』

 

『そうでもないぞ? 体作りは大切だ。

それに父さんを見ろ……凄い量食べてるだろう』

 

『……大魔王はそもそも大きいじゃねぇか

それに食ってるより飲んでるイメージのが強いし…』

 

『ロー…大魔王じゃないだろ、カイドウ"さん"…だ。

 ……わかったな?』

 

『…………わかってる…!』

 

 

 

魔王は魚とか貝とか海の食べ物が好きらしくてオレの食事もそんなんばっかりだ!

……まぁ、焼き魚は悪くなかったけど。

 

 

夜もオレは床で寝るって言ってんのに布団に連れてかれるし

魔王の奴は本当にオレの意見を無視ばっかりする……!

 

 

 

けど、まぁ……実力はある。

 

それに遠征に付いて行った時に化け物扱いしてきた奴らを跡形もなく消し去ってくれた時は……少し、ほんの少しだけ嬉しかった。

 

 

『化け物だと……? 

ローはおれの大切な部下だ……貶すなら容赦しねぇ…!

 

 

鬼の形相で一瞬で終わらせた姿はまさに魔王だったな…

 

 

 

 

あと、遠征の帰りに大きな国に寄った時は魔王の意外な一面も知った。

 

 

『ワノ国の統一感のある町並みも素晴らしいが

このカラフルな町並みもいい……それに変わった文化もあるようだ。

そもそも何故、建物の色が高さごとに違うんだ?

歴史的な背景があるのか…いや、先代の王の意向という線も…

…歴史についてもこれは詳しく調べる必要が…』

 

『……まお…レオヴァ!

さっきからなにブツブツ言ってんだよ

早くしないと店閉まるぞ…!』

 

『…………すまない、少し考え事をしていた』

 

『……ぜんぜん少しじゃなかったけどな』

 

 

どうやら魔王は町並みとかそういうのが好きらしい

他にも買い物に行ったときに珍しい物を嬉しそうに買っていたから、

収集癖もあるのかもしれない

 

 

……まぁ、珍しい町があったら壊さずに少しくらい魔王に見せてやってもいいかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

百獣海賊団とワノ国の奴らはまぁまぁだ、珀鉛病の皮膚をみても最悪な顔をしないし…

 

眼帯も……そこそこ強いし、悪いヤツじゃない…いや海賊だし悪人だけど

 

ジャックはおれと少ししか違わねぇのにいっぱい壊せんのは、まぁ凄いと思わなくもねぇかな…

 

総督……大魔王のデタラメな強さにはちょっと憧れる……ほんとにちょっとだけな!

……オレもあれだけ強ければ…

 

 

魔王はムカつくけど…少しだけ好きだ、少しだけ。

いつもオレを子ども扱いするのがムカつくけど、

そのうち一人前だって、お前になら任せられるって言われて……

 

 

 

 

 

 

……………………無理だってのはわかってる。

 

 

だってオレには時間がねぇんだ……魔王に認めてもらえるくらい強くなる時間なんてない

 

 

最近、苦しさが酷くなってる

 

魔王には言ってないけど、オレの診断よりも

……早く珀鉛病は進んでるみたいだ

 

このままだと……1年…いや、早ければ半年でオレは終る

 

 

……魔王が来年開くと約束してくれた紅葉祭りを見れないのは、

 …ほんの少し残念、だな……

 

 

 

オレは魔王の"治る"と言う言葉を信じられてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ここ暫く魔王に会ってない。

 

 

魔王に半ば無理やり海賊団に入れられてから1年半とちょっと

ほぼ毎日連れ回されてたから……変な感じだ。

 

 

『魔王……忙しそうだったしな…』

 

 

 

布団に潜りながら、オレは魔王に押し付けられた真っ白なクマのぬいぐるみを強く抱きしめた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

オペオペの実を手に入れるために、ある根回しをした。

根回しの内容は至極単純、バレルズ海賊団に俺の部下を紛れ込ませる……ただ、それだけだ。

 

 

 

ドリィにバレルズ海賊団の根城や、過去の活動範囲を聞き大まかな場所を特定。

 

その後、俺は諜報に長けた部下を連れ目当ての奴らをこの目で確め、部下を放った。

 

 

 

 

その手間の甲斐もあり、オペオペの実を手に入れたと言う話を直ぐに知ることが出来た。

 

俺がオペオペの実について認知した段階ではまだ、取引までは行っていない様だった

だから、部下に指示を出し外にその情報を洩らすのを遅らせるように仕向けた。

 

 

結果、無事にオペオペの実を手に入れることに成功した。

 

 

 

……これで、ローの病気は治る

 

俺には何も言わなかったが…

隣の布団で寝ている時に苦しさで小さく呻いていたり、肌の白い部分の増加具合で俺は、珀鉛病がローの身体を侵食する早さが計算より進んでいることは解っていた。

 

急がなければ…と少しばかり焦っていたが

ここ最近の心配ごとが1つ消え、安堵の息をつく。

 

 

 

ジャックにとってローは良い友人になりそうなんだ

それだけでも頑張った甲斐がある。

 

 

 

それにローは鋭い。

だからこそ俺はいつもの望む姿になると言うスタンスを止めて、

素に近い状態で接しているわけだが……

 

 

俺は原作のコラソンの様に心から同情して泣いてやることは出来ない

……偽りでいいならいくらでも演じられるが、きっとローは嘘だと気づくだろう

それでは意味がない。

 

だから俺はローとの会話に嘘は混ぜない

……まぁ、多少の言葉遊びはあるが嘘は言っていない。

 

 

 

 

俺はローを気に入っている。

 

医者としての確かな知識や、吸収力

あの歳での戦闘センスの高さ

 

一番はあの性格だ。

 

 

一筋縄ではいかないが根は素直で優しい性格…

…あれなら敵に寝返る可能は低く、騙される可能もほぼ0だろう。

 

……まぁ逆を言えば、あの性格だから俺はウチに取り入れるのに苦戦しているわけだが…

 

 

 

だが万事問題はない

何故ならローは父さんに憧れている節があるからだ。

 

憧れるのも無理もない……

父さんは強い上にカリスマ性も十分すぎるほどある……!

それに認めた部下には思い遣りの心も持っている 懐の深い人だ

 

父さん以上に、人の上に立つに相応しい人物はいないだろう。

 

ローは本当に見る目がある将来有望な子だ。

 

 

 

 

大切なのは"俺に"尽くせるかどうかじゃない。

 

大切なのは"百獣海賊団"に尽くせる存在かどうかだ。

 

 

 

俺はオペオペの実と、ほぼ同時期にドフラミンゴが手に入れる予定だった実

計2つの悪魔の実を手土産にワノ国への帰路を進んでいた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

本当に久しぶりに魔王が帰って来た。

 

帰ってくるや否やハート?の変な果物を食べろと俺に迫ってくる。

 

 

『ほら、ロー……我が儘を言うな……食え。』

 

『いや、食え。……じゃねぇから!

絶対なんかやべぇ果物だ!へんな色だし形だし……』

 

『おれがローに害のあるものを食べさせると思うのか…?』

 

『……それ、は…思わねぇけど……』

 

 

そう、この瞬間オレは完全に油断してた。

 

気づいたら口に小さく切ったへんな果物を突っ込まれてたんだ……!

 

 

オレは驚いた、そしてあまりの不味さにまた驚いて

……そのまま飲み込んじまった…

 

 

『ふふ……驚くほど不味かっただろう?』

 

 

普段とは違う魔王の意地の悪い笑みにムッとした

この人たまに、こう言うことするんだ

ジャックもやられてるの見たし…!

 

 

『嫌がらせで変なもん食わすなよ……!』

 

『嫌がらせじゃない

……よし、じゃあ先ずはオペの練習だな』

 

『…………は?』

 

 

 

 

 

 

 

そのあと三日間ずっと魔王はオレに付きっきりで

オペの方法、"能力"の使い方を指導してくれた。

 

 

そして、オレは魔王から貰った"悪魔の実"で手に入れた能力を使い、直接メスで肝臓を切り刻み……蓄積された鉛を引っこ抜くっていう荒療治で珀鉛病を治した。

 

 

最初は上手く出来たか半信半疑だったけど

数日間の経過観察によって無事、完治したことがわかった。

 

 

オレはすぐに花の都で仕事をしてる魔王の所まで走った。

 

 

 

『……で、こうなる。

皆、分からないところはないか?

…ヒョウ爺もちゃんとわかったか?』

 

『おいおい、レオ坊!おれだけ名指しか!?

確かにおれァ細けぇことはアレだがよ……』

 

『はははっ!親分はよくレオヴァ様が持ってきた機械壊しちまうからなぁ!』

 

 

 

いつものように爺さんたちと和やかに話してる魔王に向かって突撃する様に飛び付いてオレは言った。

 

 

 

『…っ…治った!…かんぜ…んに、治"っ"た"……!!』

 

 

『…そうか!完全に…治ったか…!ロー言っただろう……!

お前なら治せると……! 来年の紅葉祭りはお前の好きなおにぎりを沢山作らせよう!楽しみだなァ…!』

 

 

オレの言葉に目を見開いて驚いたあと、嬉しそうに笑うとオレを抱えあげてレオヴァさんは喜んでくれた

── この日をオレはきっと忘れねぇ。

 

……この時の笑顔は少し、レオヴァさんに笑いかけるカイドウさんの笑顔に似てた。

 

 

 

 

喜び合うオレたちの側に居る眼帯……ドレークと爺さんは泣いてたし、周りのワノ国の奴らなんてオレとレオヴァさんよりはしゃいでた。

 

レオヴァさんに抱えられ周りから治って良かったなと乱暴に頭を撫でられる。

 

 

夜にはレオヴァさんの号令で鬼ヶ島は一晩中宴でどんちゃん騒ぎだ。

 

 

大魔王……カイドウさんもオレの病気が治ったと聞くと上機嫌に笑った。

 

『言った通りだろ、レオヴァに任せりゃ問題ねぇと!

 優秀な船医はいくら居てもイイ……!

レオヴァから聞いてるぞ、医者としての腕が良いってなァ…

ウォロロロロ~!期待してるぜェ…!』

 

 

 

そう言ってオレの身長より大きな酒瓶を呷るカイドウさんの隣でレオヴァさんはオレに微笑みかけた。

 

 

 

オレは百獣海賊団でこれから生きていく……!

 

 

 




呼んでも読まなくても問題ない補足

主要メンバーのローへの印象など

[レオヴァ]
性格能力共に好ましい
ジャックと仲が良い(?)ので更に気に入る
ロー自身がカイドウに憧れが有る事がレオヴァの中で一番好印象になっている模様。
カイドウ好きな奴には甘い判定下しがちなレオヴァ坊っちゃん。

[カイドウ]
レオヴァが連れてきた優秀な船医候補なので少し目をかける。
オペオペの実の有用性をレオヴァとキングから小一時間語られたので一応遠征などではローの安否を確認している。
印象はそこそこ良い。


[キング]
ガキだが、使える。印象はとくに良くもなく悪くもない。
オペオペで何か新しい拷問が出来るのではないかと思案中
レオヴァが連れてきたので、その他大勢と比べると優先はしている。

[クイーン]
生意気なクソガキ、ジャックを見習え…!!
印象は悪いが、使える能力なのは間違いないとは思っているので怒りを抑えて手は出さない(シバかないとは言っていない)

[ジャック]
歳が近い、小さな頃の破壊衝動、根は真面目…そしてレオヴァから悪魔の実を授かった、共通点の多い二人は何かと張り合って切磋琢磨している。
組み手や殲滅任務はジャックの全勝、頭脳戦や隠密任務ではローの全勝と正反対。
印象は悪くない。
何だかんだ任務中にお互いの苦手な部分を補うなど、行動を共にすることも少なくない。たまに喧嘩する。

[ドレーク]
白い町出身のローに同情しつつも、レオヴァと共に剣術を教えていた。
病気が治ってからは礼儀もそこそこ身に付け始めたローを微笑ましく見守っている。
任務でたまに無茶をするローを叱ることも忘れない。
トラファルガーからは口うるさい奴だと嫌がられていることに気づいていない。

[ワノ国の民]
レオヴァが引き取った子ども本人から治らない病気だと聞き嘆くが、
レオヴァの働きにより治ったことを知り民衆大歓喜。
流石は我らがレオヴァ様……!!
ローへの印象は難病に負けずに頑張った、夢は医者の可愛らしい小生意気な子ども


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白熊の出逢い

前回もご感想ありがとうございます……!
有難いコメントをたくさん頂け本当に嬉しいです!
頂いたもので何個か書きたい話も出てきたのでドンドン進めて参ります…!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 

 

 

 [小さなベポの大冒険]

 

 

~ロー治療後のとある1日~

 

 

 

 

 

 

もふもふとした真っ白な毛におおわれた熊

──彼の名はベポ。

 

 

 

彼の真っ白なはずの毛がすっかり汚れてしまっている状態が今の彼の苦労を表しているだろう。

 

 

ベポは兄弟……兄を探すために祖国を離れ広い世界へと飛び出した…

…のだが。

 

間違えて北の海(ノースブルー)に向かう船に乗ってしまい、スワロー島へと流れ着いた。

 

 

初めての知らない土地に目を輝かせていたが、

すぐにベポを世知辛い現実が襲った。

 

 

スワロー島に住む悪ガキに虐められたのだ。

 

必死に耐え、隙をみて逃げ出し

海岸に見えた船になんとか潜り込むことに成功した。

 

 

……が、その船の停泊中に船員に見つかり鍋にして食べられそうになったのだ。

 

 

またベポは必死に逃げ回った……そして船から飛び降り

頑張って近くの岸まで泳ぐと、フラフラになりながら島の森へと隠れ入ることに成功する。

 

 

2日も森に隠れ住んでいた彼だったが

ついに我慢が出来ないほど腹がへってしまった。

 

魚も動物もボロボロの彼が捕まえるのは至難の技である。

 

なんとか小さな木の実を食べて生き長らえてるベポだが

その日は変なキノコを食べてしまう。

 

 

突然の腹痛にベポは死を悟る。

 

 

「うぅ……おれ、死ぬのかな…

……い、イヤだ~! うぅぅ…兄ちゃん~…」

 

 

溢れる涙を拭う気力もないベポの意識が薄れ始めた時だった。

 

 

 

「……なんだ…これ…………クマか?」

 

 

白に斑模様(まだらもよう)の目付きの悪い少年がひょっこりと岩影から現れた。

 

 

人間…また虐められるかも……と怯えるベポだが、立ち上がれない…

どうしようもない彼は震える声で少年にお願いする。

 

 

「お、おれ……わるいクマじゃない、よ……

おなか…痛いんだ、いじめ……ないでっ……」

 

 

そう言って力尽きた白クマを少年はじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ベポが目を覚ますと痛かったお腹が嘘のように治っていた

腕や足にあった怪我も痛くない。

 

ベポは嬉しさに声を上げた。

 

 

「やった~! 痛いの治った……!

お腹痛かったけど、死ななかった!」

 

 

「はぁ…腹が痛かったのは食中毒のせいだ。

……そもそも腹痛いだけで死ぬわけねぇだろ」

 

 

喜びに拳を突き上げるベポの耳に呆れたような声が聞こえた。

 

 

「え、わぁ!?

あれ、キミ……さっきの帽子の

しょくちゅうどく……治してくれたの…?」

 

「…別に……お前で能力の練習しただけだ」

 

「す、スゴイ……!

小さいのにお医者さんなんだね!」

 

「小さいは余計だ……!!」

 

 

 

少年と小さな白クマが戯れる姿はまるで絵本のようだ。

 

 

 

 

昼時をすぎ、少年は持たされていた弁当に手をつけ始めた。

 

焼き魚に玉子焼き、ポテトサラダに沢山のおにぎり

久しく見ていなかった美味しそうな食べ物たちに

ベポの口からは大量のヨダレが溢れだしている。

 

 

「はわわ~~……おいしそ~…」

 

 

 

目をキラキラさせて見つめてくる白クマに少年は乱暴に数個のおにぎりを渡した。

 

 

「え、えぇ……! いいの!?」

 

「レオヴァさんはいつも無駄に沢山弁当を持たせてくるんだ

……どうせ食べきれないからやるよ」

 

「あ、ありがとう……!!」

 

 

 

お礼を言うとすぐにパクりとかぶり付き、ベポは感動した。

 

香る海苔…噛めば噛むほど旨味のあるお米、直火で焼かれた甘めの鮭……

 

あまりの美味しさにベポは言葉も忘れておにぎりを堪能した。

 

貰ったおにぎりを全てキレイに平らげるとベポはやっと言葉を発する。

 

 

「んん~っ……!美味しい~!!」

 

 

 

少年は少し自慢げに笑った。

 

 

「これはレオヴァさんの手作りなんだ

旨いに決まってんだろ」

 

「レオヴァさんか~……こんなに美味しいおにぎり作れるなんて

スゴくスゴい人なんだね!」

 

「まぁな…!

……もう少しだけだったら分けてやっても良いぞ」

 

「ほんとう!?

えっと……じゃあ、おにぎりと~…玉子焼き!

それから、そのサラダも食べてみたいな!」

 

「遠慮なしかよ……!!

おれは少しと言ったよな!?」

 

 

 

1人と1匹はわいわいやいやいと騒ぎながら時間を共にした。

 

 

 

 

 

 

 

色んな話をした2人は。

……いや、正しくはベポが一方的に話していただけだが

 

お互いを知り2人はローのレオヴァからの仕事を終わらせるべく町へ降りた。

 

 

 

 

 

しかし、そこで問題が起きた。

 

町人たちは喋るベポを見ると気味悪がり追い払おうとしてきたのだ。

 

最初は三人ほどしか居なかった町人が次々にあつまり

ベポを迫害した。

 

 

 

「お、おい……獣だ!銃をもってこい!」

 

「喋るなんて…化け物だ!!」

 

「急げ…!早く人を集めろ!」

 

「化け物め!ワシらの町から出ていけ……!」

 

 

 

 

ベポは瞳を潤ませながら襲おうとしてくる町人たちから逃げようとしていると、ローは町人の1人を吹っ飛ばし、帽子を深く被る。

 

 

 

「……こういう奴らは……大嫌いだ…」

 

 

 

そう呟くとローは悪魔の実の力を使い町人たちを怖がらせ、逃げ出させることに成功した。

 

 

ベポはそれを見て呆気にとられていたが

気を取りなおすと笑顔でお礼を言った。

 

 

 

「ありがとう!強いんだね……!

キャプテンって呼んでもいい!?」

 

「別にお前の為じゃない…

って、はぁ? キャプテンってなんだよ……

変な呼び方するな!」

 

 

 

そう言ってどんどん先に行ってしまう少年の後を追いかけた。

 

 

少年は一通り仕事を終わらせると日が沈み始めた空を見て、急いで帰路についた。

 

 

 

 

 

 

「……いや、待てよ!

なんでお前付いてくるんだ…」

 

「だ、だっておれ帰り方もわからないし……一人だと寂しいし…」

 

「……おれは海賊だって言ったよな?

一緒に来ても良いことねぇから、あっち行けよ」

 

「や、やだよ!

……キャプテン以外の人ってみんな怖いし…

おれ……おれ、もう怖いのやなんだ…」

 

 

「…………海賊は大変なんだぞ」

 

「キャプテンがいるなら、おれがんばるよ……!」

 

「………すげぇ性格悪い丸いデカイのと黒いデカイ奴もいるぞ」

 

「な、仲良くできるようにする…!」

 

「……戦いにだっていっぱい出るんだぞ」

 

「強くなるよ!

…ほんとは怖いけど……キャプテンと一緒なら…!」

 

「…はぁ……もう勝手にしろ……

けど、決めるのはレオヴァさんだからな」

 

「きゃ、キャプテン……!ありがとう!

 感謝のガルチュ~…!」

 

「え? …おわ!?」

 

 

 

急な突進に押し倒されたローは怒ったが、怒られながらも嬉しさが滲み出る顔を隠しもしないベポに諦めたように立ち上がると船へと帰るために歩きだした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

森を抜け海岸に出ると、そこは戦闘の真っ最中であった。

海賊と海軍の激突をみて、おろおろするベポに溜め息をつくローは

空を舞う黄金の鳥を視界におさめて、この戦いが直ぐに終わるだろうと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

「きゃ、キャプテン……あの、なんかその、一瞬で海軍?がこっぱみじんだよ…?

さっきまで、激戦だったのに……」

 

「部下がやられるのをレオヴァさんが黙って見てるわけないからな

…レオヴァさんが参加すりゃ海軍なんて一発だ」

 

「えぇ……魔王さまってお料理するって言うから

…コックさんだと思ってたのに…」

 

「……お前絶ッ対にレオヴァさんの前でソレ言うなよ!!」

 

 

 

怖い人なの?とビクビクするベポを無視してローはボロボロになった軍艦の上に立つレオヴァの下へ向かった。

 

ベポも渋々付いていき、息を吞んだ。

 

 

 

真っ黒な髪から生える白い角と、ベポの見たことのない凄い衣装に身を包み威風堂々と佇む青年は

良く通る力強い声で周りの大人たちに指示を出している。

 

 

ローに引っ張られながらその青年の前まで連れていかれた

心ここに有らずなベポが、ぼけーっと突っ立っていると

大きな青年はローを見て微笑む。

 

 

 

「おかえり、ロー。

どうだ、目当てのものは手に入ったか?」

 

「問題なく手に入った。

……あと見たことない食べ物あったから買っといたけど」

 

「そうか、ご苦労だったな

…で、どんな食べ物なんだ?

やはりこの地域独自の植物か?それとも生息している生き物を使った肉系の料理か?

……いや、少し寒い地域だからな……変わった香辛料の可能性も…」

 

「……レオヴァさん、後で食べよう

今は積み荷の指示だしだろ?」

 

「……それもそうだ。

ふふ…ローはジャックと同じで優秀だなァ……

ところで、おれが前に渡した縫いぐるみに瓜二つな二足歩行のクマはどこで拾ったんだ?」

 

「…拾ってねぇ……付いてきたんだ

なんか、ウチに入りてぇって言うからレオヴァさんに会わせる為に連れてきたんだけど」

 

 

 

そう言ってローは固まったまま動かないベポを小突いた。

 

 

 

「おい、ベポ!レオヴァさんに失礼な態度とるなよ」

 

「あいてっ……ごめんよ~ キャプテン……」

 

「……キャプテン?

ふふ……そうか、白くまはローの部下なのか」

 

「ち、違っ…!

こいつが勝手に変な呼び方するだけで……!」

 

「良いじゃないか、別に構わないぞ

ジャックやドリィも専属の部下を持ってるんだ

その白くま……ベポ、だったか?

ローの専属の部下ってことにするか?」

 

「いや、別におれ部下とか……」

 

 

 

ローの専属の部下と言う言葉にベポはつぶらな瞳をキラキラと輝かせる。

 

専属ってことはずっと一緒だよね…!

そんな単純な考えの下、ベポはこの機を逃すまいと声を出す。

 

 

「キャプテン、キャプテン……!

おれいっぱい頑張るよ!

えっと、……あ!おれ結構力持ちだし……あと!」

 

 

 

ベポの必死のプレゼンをレオヴァは微笑みながら見ていたが

一向に首を縦に振らないローにベポの瞳に雫が溜まる

みかねたレオヴァは助け船を出してやることにした。

 

 

 

「ロー…こんなにお前を好いてくれてるんだ

一度部下にしてみるのも良いじゃないか?」

 

「………わかった、レオヴァさんが言うなら」

 

「や、やったぁ~!

キャプテンに魔王さまありがとう~~!!ガルチュ~!」

 

「あ、おい!ベポ……!」

 

 

ベポはローを巻き込むとそのままレオヴァに突撃していく。

 

レオヴァは軽く2人を受け止めるとくすくすと笑いながらローに話しかけた。

 

「…ふふふ……なんだ、ロー

まだおれを魔王呼びしてるのか?」

 

「ち、違う! たまたま昔の話をしてただけで!

ベポも もうその呼び方やめろよ!

この人はレオヴァさんだって教えたよな!?」

 

「アイアイ!キャプテン~!

レオヴァさま!感謝のガルチュー!」

 

 

 

珍獣の物凄いはしゃぎように困惑する周りの部下たちに

子どもと珍獣を抱えたレオヴァが指示を出す。

 

 

 

この日から白クマ……ベポは一人じゃなくなった。

 

 

 

その後ローからある程度、海賊団のルールを聞き

さらにレオヴァから航海術を教わり

 

ベポは百獣海賊団の一員となったのだ。

 

 

 




今回から我らが百獣海賊団にカイドウパパに続くマスコットキャラクターが加わりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

台本作り

ご感想、誤字脱字報告ありがとうございます……!

今回は前後編に分かれます~!


 

 

 

 

オロチはほんの数年前まで酷く焦っていた。

 

レオヴァと言う何よりも恐ろしい存在に命を狙われて居ると思っていたからだ。

 

……事実、黒炭ひぐらしと黒炭せみまるは“行方不明”になっている。

 

 

孤軍となり、もはや誰一人味方はいないのか!?と絶望したオロチだったが

今ではその絶望など欠片も感じさせぬ豪遊っぷりである。

 

 

 

 

「ぐふふふふ…!飲め飲め~!

もっと花魁を連れてこんかぁ!

そうだ!“狂死郎”、新しく入った娘はどうした!?」

 

「勿論、連れて参りました!

 おい、小紫……!!」

 

 

両脇に花魁を侍らせ馬鹿騒ぎするオロチに仮面の様な笑みを浮かべる狂死郎は答える。

 

襖が開き呼ばれた小紫という花魁は優雅に部屋へと踏み入って来た。

 

 

まだ幼さの残る顔立ちだが、それすらも気にならぬほどの美貌を兼ね備えた少女がオロチの前で慎ましやかに微笑む。

 

周りの男も女も

そのあまりにも美しく儚い笑みに心奪われた。

 

 

「お、おおぉ~~!?愛い!愛いぞぉ!!

もっとこちらへ近ぉよらぬか……!!」

 

 

興奮したように小紫を凝視してくる大人を怖がるでもなく、小紫は微笑みを崩さずにオロチの側へ腰をおろした。

 

 

城には天に日が昇るまで馬鹿騒ぎの音が続いていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

夜の宴を終え布団に入りながらオレは笑いが止まらずにいた。

 

あぁ……あの地獄のように生きた心地がしなかった生活と終わりを告げられてどれ程嬉しいか……!

 

 

あのババァたちの様に行方不明なんて御免だ!!

 

 

 

オレは馬鹿じゃない……だからこそ今の生活を勝ち取れた。

 

この地位も金も女も全て!オレの努力と実力なんだ…!

あんな餓鬼に易々と奪われてたまるか……

 

 

ぐふふふふふ……だが、もうその心配もない…!

 

 

 

新しくオレには狂死郎と言う男がついた……!

コイツは使える奴だ。

女に金に武力……全て用意できる有能な手下。

 

本人の刀の腕もたしかと来た!

非の打ち所がない完璧な道具よ……

 

 

 

 

そして…! 何よりも大きな盾も手に入れた。

 

オレは“カイドウ”を味方に付けたんだ

あの餓鬼だって手出し出来やしねぇ……!!

 

 

 

 

いつ思い出してもあの宴の時の餓鬼の狼狽えようは良い肴よ!

 

 

何かとオレと衝突していた偉そうな餓鬼は、あの日もオレと対立していた。

 

 

遠回しに嫌みや悪口を言ってもいつもの余裕を崩さぬ餓鬼はオレの精神を逆撫でる…!

 

 

オレはつい、直情的に罵倒を口走った。

 

そして、オレの言葉に反応して睨み付けてくる金髪のデカイ腰巾着にも罵倒を浴びせた。

 

 

 

『誰を睨んで……!おれは将軍だぞぉ!?

腰巾着風情がわきまえぬか……!』

 

 

『………オロチ殿、ジャックがすまない

少しばかり目付きが悪いだけで、決して睨んでいるわけではないんだが…』

 

 

『いや!その顔はおれに敵意のある顔だ……!!

どいつもっ……こいつも……!

そうだ!そいつは魚人と聞いたぞ!!魚人は外海じゃ奴隷らしいなぁ?

そんな外海で買った奴隷をおれの城、に……っ…!?』

 

 

『…おれのジャックを…今、奴隷だと言ったのかァ……?』

 

 

 

普段のあの餓鬼からは想像出来ない様な荒い口調になると同時に小刻みに屋敷が揺れ始める。

オレの口からはガチガチと上下の歯が当たる音しかでなかった。

 

鬼に見間違うほどの形相と化した餓鬼の周りにはバチバチと光が跳ね始めた。

 

殺されるっ……!

そうオレが感じるのとほぼ同時に救いの声が部屋に響いた。

 

 

 

『そこまでだァ……!!

総督補佐……オロチに手ェ出す事を誰が許可したァ!?

ったく! せっかくの宴をぶち壊すつもりか…?』

 

『っ……総督…申し訳ない……

その…つい、カッとなってしまい……意向に背くつもりは…』

 

 

『か、か、カイドウ……!

危うくお前の息子におれぁ殺られるところだぞ!?!』

 

 

『…今後一切手を出さねぇよう言ったんだ

もうこんな事ァねぇよ……そうだよなァ総督補佐!!』

 

 

『……あぁ、申し訳なかった

総督からの言葉だ……2度と“オレ”はオロチ殿に手出ししないと誓う……』

 

 

 

その後、餓鬼は宴から追い出された……!

 

ぐふ、ぐふふふふ……本当にいい気味だったわ!!

 

カイドウに睨まれ肩を落とす姿は傑作と言わずしてなんと言おうか……!!

 

 

格上に牙を剥こうなんざ思うからそうなる!

カイドウにとってオレは絶対に必要な存在。

“将軍”であるオレを消せる奴ぁいねぇのよ……!

 

 

 

戻ってきた天下を満喫しながらオレは眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

つり上がった目と貼り付けた様な笑みが特徴的な男

 ──狂死郎は焦っていた。

 

 

花の都にて両替屋

……侠客として幅を利かせる狂死郎一家の持つ遊郭に

あの百獣海賊団の“レオヴァ”と“クイーン”が来ると言うのだ。

 

 

「……っ…何故わざわざ

おれの仕切る遊郭に来ると言うんだ…!」

 

 

来させてはならないと理解している。

狂死郎は馬鹿ではない、必ずこの訪問は嵐を呼ぶだろうと予感していた。

 

しかし、百獣海賊団を拒絶したと知れた日には忠義に厚いワノ国の民衆は黙っていないだろう。

 

 

訪問の真意を思考力を総動員させ考えるが

どれも想像の範疇を出ないものばかりである。

 

焦りは更に強くなる

狂死郎の背は冷や汗でじっとりと湿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

だが、ここまで狂死郎が焦るのには理由がある。

 

 

まず1つ、狂死郎一家は黒炭オロチの配下のような位置づけにある。

なにより、将軍オロチと総督補佐官レオヴァが犬猿の仲であることは今や誰もが知る事実なのだ。

 

その謂わば将軍の敵と言っても過言ではない相手を

配下である者が遊郭にて接待するなど、悪い事を考えていると思われる可能性が高い。

 

 

2つ、百獣海賊団クイーンの機嫌を損ねた場合の損害。

総督補佐官であるレオヴァは仁義に反せぬ限りはめったな事で怒らないと言う話だが、クイーンは機嫌を損ねると酷く恐ろしいと言うのがもっぱらの噂だ。

……百獣の配下ではない狂死郎一家に因縁をつける可能性すらある。

 

 

 

 

そして最大の理由……それは他ならぬ狂死郎の秘密に起因する。

 

彼、狂死郎の正体は

───光月家の家臣 傳ジローなのである。

 

 

 

狂死郎は公開処刑の後、仲間を先へと行かせる為にアシュラ童子と共に百獣海賊団の兵士たちと戦ったのだ。

 

カイドウを止めることは出来なかったが

その部下を討ち取り瀕死のアシュラ童子を抱えながらも、なんとか逃げ延びたのだ。

 

傳ジローは主君を失った悲しみと“憎きオロチ”への復讐心から形相は変容し、髪の色も変わった。

 

このままでは死んでも死にきれぬ!と、一矢報いる為に花の都に戻り

この数年間じっくりと策を練り、オロチの首を睨み付け屈辱に血反吐を吐きながら耐え忍んでいたのだ。

 

やっと手に入れた復讐の為の地位を奪われてなるものか…!

狂死郎は強く机を殴り付けた。

 

 

 

「……傳ジロー…?」

 

 

ハッと振り返ると、そこには狂死郎の唯一の光である美しい少女が箱を持ちながら心配そうに見つめてきていた。

 

 

 

「ひ、日和さま……!なぜ此方に!?

今晩のクイーンとレオヴァの訪問の為、模様替えに行かれたはずでは…?」

 

「ごめんなさい……傳ジローが怖い顔してたから心配で…」

 

「っ…日和さま……なにも、なにもご心配なさらず!

今晩もこの傳ジローがお側で御守り致します故……

危険だと判断致しましたら即座に!!

……血糊はお忘れなき様お願いいたします!」

 

「うん……わたし頑張るから」

 

「お辛いでしょう……!

ですが、もう少しお待ちください…

必ず…必ずあの憎き男の首を獲って参ります故…!!」

 

「えぇ、わかってる

……大変ね傳ジロー“も”  …じゃあ、わたし着替えてくるわ」

 

 

頭を畳に擦り付ける勢いで深々と礼をとる狂死郎に声をかけると美しい女性は部屋から走り去ってしまった。

 

 

今の地位と主君の忘れ形見を護ることで手一杯な狂死郎は大切な少女の違和感に気付けなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

狂死郎の懸念とはうって変わり、遊郭での宴自体は平穏であった。

 

 

クイーンは十数人の花魁相手に面白可笑しく遠征での話を聞かせたり、キングの悪口を言ったりして盛り上がっている。

 

 

「ムハハハ~!!

てか、小紫ちゃんがもう少し大人ならなァ…

いやけど…マジでか~わいいぜェ~~!」

 

「可愛いなんて……

ウフフ…クイーン様はお上手でありんすえ」

 

 

 

鼻の下が伸びきったクイーンと対照的にレオヴァは2~3人の花魁と静かに話している。

 

 

「レオヴァ様もお酒を飲みますのね」

 

「あぁ、嗜む程度だが」

 

「普段はどんなお酒を…?」

 

「果実酒や、焼酎……なんでも飲む」

 

「果実酒……初めて聞きますわ…!」

 

「甘いものからサッパりしたものまで、色んな種類があって美味いぞ」

 

「そうなんですのね!」

 

「きっと素晴らしいお酒に違いありませんわ!」

 

「あぁ……けれどそれでは…

こちらのお酒はレオヴァ様のお口には合わないでしょうか…?」

 

「そんなことはない

むしろ、皆のおかげで普段よりも美味く感じるほどだ」

 

「まぁ…レオヴァ様……!」

 

「あら、お上手ですこと…!」

 

「レオヴァさまは本当にお優しいんですね」

 

 

 

肩を落としていた花魁たちにレオヴァは微笑みかける。

 

 

 

「皆といると酒が進み過ぎてしまうことだけが難点だ

……少し、酔い醒ましがしたいな」

 

 

 

そう言って狂死郎に目線を移す。

 

すぐに察した彼は立ち上がりレオヴァの下まで来るとスッと頭を下げた。

 

 

「でしたらレオヴァ様、別室を用意してありますので其方へご案内致しましょうか?」

 

 

「悪いな、狂死郎殿

では、案内を頼もう」

 

 

立ち上がってしまったレオヴァを見て、残念そうに花魁たちが声をあげた。

 

レオヴァはそれにいつもの微笑みで返している。

 

「皆、すまないな。

長く男ばかりの場所で育ったので、どうやらおれは美人に弱いらしい。

今度は果実酒を土産に来る……楽しみにしていてくれ」

 

 

「レオヴァさま~……寂しゅうございますぅ」

 

「また、いらして下さいまし…!」

 

「わちき、ずっとお待ちしておりんす…!」

 

 

遊女たちの惜しむ声に軽く手をふって答えると狂死郎と共にレオヴァは別室へと向かっていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

綺麗に整えられた部屋にレオヴァを通すと狂死郞は頭を下げ、戻ろうとした。

 

しかし、それをレオヴァが呼び止める。

 

 

「狂死郎殿、少し話し相手になってはくれないか?」

 

「……ははは!

おれのような男より、美人の方が華もありましょう

…すぐに静かな品のある者を…」

 

 

角を立てないよう遠回しに断る狂死郎にレオヴァはニコりと笑いかける。

 

 

「確かにこの遊郭の女性たちは皆、華がある

…だが先ほども言ったが育ちが育ちでな

どうやらおれは“美人に弱いらしい”んだ」

 

 

 

平然と言ってのけるレオヴァに狂死郎は内心の焦りをひた隠し、笑顔を張り付けた

美人に弱いなど嘘だとわかりきっている。

 

この遊郭に来てほんの少しの時間で花魁たちを手玉にとり、印象をうなぎ登りに上げた男が何を…!

そう叫びたい気持ちを抑え考える。

 

 

美人に弱い……その言葉を聞いてしまった以上、女を側に付けることはできない

そして、この遊郭に狂死郎以上の身分の男はいない。

 

 

実質、あの一言で狂死郎の逃げ道は閉ざされていたのだ。

 

断って狂死郎以下の身分の者を側に付ける事は、上の者に対しての無礼にあたる

見くびっている又は下に見ていると言っているのと同義になってしまう。

 

かと言って狂死郎がレオヴァと別室で話をしていたなどと知れれば、せっかく手に入れたオロチからの信頼が揺らぐ。

 

 

 

考えの読めない男の提案に腹を決め、狂死郎は頷いた。

 

 

 

「では、おれで良ければ付き合いましょう…レオヴァ様」

 

「ありがとう、狂死郎殿。

噂は良く聞いていた……是非話してみたいと思っていたんだ

……おでんを肴に一杯どうだ?」

 

 

了承するのは始めから わかっていたように笑うレオヴァに狂死郎は息をのむ。

 

二人はクイーンから声がかかるまでの間、妙な緊張感の中雑談を続けていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後の鬼ヶ島、地下室にて。

 

 

 

 

「ま、待ってくだされ……話が違う…!

わしは言われた通りにやったぞ!?

こんなっ……れ、レオヴァ様を呼んでおくれ!」

 

 

 

 

「はぁ……うるさい奴だな…キング、舌も取るか?」

 

「駄目だ、このあと使うのに声が出ねぇんじゃ興が削げる」

 

「…悪趣味な奴……

で、そいつの腕は焼却炉で良いのか?

…そもそもなんで右腕を取ったんだ」

 

「それで良い。

…聞いてないのか?

マネマネの実は右手で顔に触れた相手に化けられるようになるとレオヴァ坊っちゃんが」

 

「あぁ…なるほど

…触れた相手にとしか聞いてなかった

じゃあ、俺は残りの2人の手足だけ取り外してから戻る」

 

「……手足くらいおれがやっておくが?」

 

「駄目だ…レオヴァさんから綺麗な状態でって言われてる

アンタがやったら精神壊れて終わりだ

……レオヴァさんから貰ったソレで十分だろ」

 

「フン…生意気なガキだ。

…まぁ…久々のレオヴァ坊っちゃんからの褒美なんだ

コレは好きに殺らせてもらう

他はお前が切り取ってクイーンの馬鹿に回しとけ」

 

「わかってる」

 

 

 

鎖に繋がれた者の言葉を無視し、2人の男は会話を進めると1人が立ち去って行く。

 

 

 

 

光月おでんに瓜二つの囚人は鎖をじゃらじゃらと鳴らしながら黒尽くめの大男、キングから距離を取ろうと足掻いた。

 

 

「れ、レオヴァ様は……わ、わしの能力を必要としておられるのじゃぞ……!!

あの時…貴様に殺されかけていた わしを助けたのが誰か忘れたわけではあるまい!?

わしに何かすることは計画を…

…レオヴァ様の人生を狂わすこと…に"ィっ…ぅ"ぅ"あ"!!」

 

 

 

見た目と中身がチグハグな囚人の足に杭を突き立て

その鉄の杭を炙りながらキングは目を細める。

 

 

「馬鹿が……テメェなんぞがレオヴァ坊っちゃんの人生にほんの少しでも影響が出せると思ってんのかァ…?」

 

 

 

足に深々と刺さり、じわじわと焼けるように熱くなっていく杭に呻きながら囚人は狂ったように助けを呼ぶ。

 

 

 

「ぁ"あ"く"~!

レオヴァ様れおう"ぁ様…レオヴァさまァ……!!

お助けを……なぜ、なぜこんな…

殺さぬと…共に来るかとレオヴァさまは仰ったんじゃ!

必要とされるっ…わしが殺されるはずがない!!

レオヴァさまは寛大な御方じゃきっとすぐにわしを助けてくださるレオヴァさまはァ…!!」

 

 

「…チッ…せっかくのレオヴァ坊っちゃんからの褒美だってのに…早々に壊れてんじゃねェよ……!」

 

 

 

苛立ったように、もう片方の足に杭を打ち込む。

骨の砕ける音と囚人の呪詛と苦しみの混じった声が地下室に響く。

 

 

「…あぁ…舌、取らなくて正解だったなァ…」

 

狂喜に揺れる瞳は囚人を愉しげにとらえ、歪につり上がった口元はマスクが覆い隠していた。

 

 

 

黒炭ひぐらしの声は届かない。

 

 

 




ご質問ありましたので答えます~!



Q.引き入れ予定にボンちゃんいないのは何故?

A.ボンちゃん良い人過ぎるので裏切りのリスク高いかな~と…
もしかしたら……悪魔の実を手に入れる為に動く…かも?


Q.ドフィとコラさんどうなるのか問題

A.コラさんガッツリ潜入捜査中です!
実はコラさんvsドフラミンゴファミリー事件の下書きあったのですが本編と関係ないので投稿するかは今後の展開で忖度します(*´-`)


コメントで鬼の跡目欲しいみたいな話があって私も欲しくなりました……映画2回も見に行ったからな~

今回もお読み下さりありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人形劇

思ったより長くなりそうなので、前中後編になります(^^;
今回は中編です!
前回もコメントやご感想ありがとうございます!!

コメントにて気になっていらっしゃる方がいましたので、後書きにて赤鞘たちからレオヴァへの印象など書いております。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 

 

 

『そ、そんな…!? おれは…またッ…日和さまァ…!!

 

嘘だ…貴女まで……貴女まで失ったら……おれはッ……!』

 

 

あの時のオレは馬鹿だった。

オロチへの復讐心に捕らわれ、憎しみで曇った(まなこ)

本当に大切な護るべき存在を見えなくしてしまっていた。

 

あの人の忠告をうけ、初めから大切な人を護ることだけ考えていれば

……日和様はあんな目には遇わなかったと言うのに。

 

 

懐かしいおでん様の太陽の様な笑顔が脳裏に浮かぶ。

 

 

おれは、優しいおでん様の侍には相応しくなかったんだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ピクリとも動かなくなった日和様を抱き抱えながら路地裏を歩く。

裏切り者だとバレ、彼との討ち入りの作戦も駄目になった。

……今は逃げる他ない。

 

オロチのお庭番衆相手に日和様を庇いながら戦うのは無理だ。

 

 

「日和様…ひよりさ、ま……どうか、目を…お覚まし下さいっ……」

 

何十回何百回と声をかけたが、日和様の美しく澄んだ瞳を見ることは叶っていない。

 

 

もう、日和様は……

 

腕が震え、目眩がし胃液が逆流してくる。

 

いや、駄目だ。そんな事があってはならぬ!!

息はある……息はあるはずなんだ…オレは医者じゃないんだ決めつけるのは早い……そうだ大丈夫、だいじょうぶ…

 

ふらふらと隠れ家まで歩くオレの肩に何かが当たった。

 

 

「……オロチの野郎の犬がこんな所でなにしてやがるッ!」

 

「ウチの村に来るんじゃないよ…!

レオヴァ様に酷いことしようってんじゃないだろうね!」

 

「おい、ガキ抱えてるぞ!?

なぁ、まさか拐ったんじゃ……!?」

 

「た、大変だ…おまえ、その子を離せ」

 

「れ、レオヴァ様にすぐに知らせろ!」

 

 

石を投げつけてきたであろう男の声で

わらわらと村人が集まり始めた。

 

まずい……だが両手が塞がっている…………やはり逃げる他ないのか……

 

オレは素早く屋根上へ飛ぶと、そのまま走り去った。

 

 

なんとか隠れ家まで辿り着いた。

 

日和様を丁重に布団へ寝かせ、刀を握る。

 

 

……許さん…絶対にッ!!

 

憎きオロチ……必ずアイツだけはオレの手で地獄に送ってやるッ……!

おでん様を罠にハメるだけでなく……清く心優しい日和様に対する惨たらしき仕打ち…!

 

 

怒りのまま将軍城へと討ち入りをしようとした時に

ふと、我に返る。

 

オレが敵であることはもうバレている…

…城の見張りを倒し、お庭番衆相手に勝利をおさめ……オロチの下へと辿り着けるのか?

 

それが難しいと解っていたから屈辱にまみれながらも泥水を啜ったんじゃないのか……?

 

死ぬことなど怖くはない……おでん様が処刑されたあの日にオレは死んだも同然なのだから。

 

だが、ここで眠る日和様はどうなる?

 

オレが死ねばこのまま…ずっと一人で眠り続けるのか…?

 

 

駄目だ、日和様をこんな場所でお一人にするなどッ……!

 

オレの心はオロチへの憎しみと日和様への忠義で板挟みになっていた。

 

愛した主の仇討ちに出て死ぬことさえ許されぬ

……我が身はなんと醜く惨めだろうか…

 

 

「ひより様……どうか、どうか……お声をお聞かせ下さい…」

 

冷えきった日和様の手を握り、ただ声をかけ続けた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「狂死郎の首を早く持ってこいッ!!

なぜたかが一人の男の首を直ぐに持って来れぬのだ!?」

 

喚き散らすオロチに大名や城の侍たちは頭を下げる。

 

 

「も、申し訳ございません……

まさかあの狂死郎親分が…裏切るなど誰も思わず……!」

 

「ええい!うるさい!!

言い訳など聞きとぉないわ……!

くそっ……カイドウさえいれば奴に頼むと言うのに…

なぜこんな時に限って遠征などに行っておるのだ!?」

 

「お、オロチさま……!?

明王様を悪く言うなどッ…お止めください!」

 

「黙るのはお前だ……!

お前らがさっさと狂死郎を殺して連れてくれば良い話なんだ!

……ぐぅ…ちくしょぉ…小紫も盗まれたなどと……役立たずどもめ!

あれはオレのモノだと言うのに……狂死郎ォ~…ただでは済まさぬぞ……」

 

 

オロチは怒り狂っていた。

せっかく手に入れた安泰を狂死郎などという平民ごときが奪おうとした事に。

 

しかも狂死郎は小紫まで奪って行ったのだ 。

 

やっと、やっと"完成"した小紫……誰にも渡したくなどない。

 

オロチの血眼(ちまなこ)の捜索は3日間に及んだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

狂死郎が隠れ家についてから3日が経っていた。

 

あれから丸1日も目を覚まさなかった日和は

今は起き上がってちょこんと椅子に座っている。

 

 

「日和様! 今日は美味しそうな果物をお持ち致しました!

すぐに切り分けます故…少々お待ちを!」

 

「………………」

 

「…どうぞ!お食べください!」

 

 

狂死郎は切り分けた果実をそっと日和の口元へと運んだ。

薄く開いている口の中へ入れると少しずつだが、日和が咀嚼する。

 

 

「……今晩は寒いですし、鍋にいたしましょう!

日和様の御体が冷えてしまってはいけませんからね!」

 

「………………」

 

「………ひよりさま、」

「……」

「……申し訳…ありません……ぅ、うぅッ……も、申し訳あ、りませんっ……」

「……」

 

「ふっ……うううぅ……ッ……」

 

 

狂死郎は泣き崩れた。

 

日和は"作った様な"微笑みを浮かべながら椅子に座っているが、全く話さず焦点も合わない。

 

 

そう日和は目覚めた……目覚めただけなのだ。

 

食事も口の中に入れなければ食べず、表情もまるでその顔しか出来ないかのように微笑みつづけるだけで、言葉も話さない。

 

狂死郎は意識があるのかも解らぬ日和の世話をつづけた。

 

しかし、このような姿になってまで生きるのは日和の誇りを汚す行為なのでは……

…これは最後の(つか)えるべき(あるじ)を失いたくないオレのエゴなのか……

 

 

……武士の娘として…殺してやるべきなのだろうか?

 

そう、実は狂死郎は将軍の城で見たのだ。

日和が受けた仕打ちの全容が書かれた書類を……

 

 

────────────────────────

花魁 - 日和 手術内容 担当者Dr.ウォルタ・フリー

 日和以下Aと記入

 

Aに局部麻酔を施す。

意識のある状態で手術は進めなければならない。

 

まずはオロチ様の要望通りの表情にするために

頬や目元の筋肉を切り、一定の表情で固定されるようにつなぎ合わせた。

 

その後、局部麻酔を追加し頭部を切り開き、微弱な電気を流す為の針を数本さし、状態を視ながら通電。

数時間後、Aの精神一定化を確認。

最終段階として、調合薬RBTMを脳全体に注入。

 

1時間後、Aの完成度実験

精神の動きなし、表情も固定。

自立的な動作もせず、声も出さない。

結果、手術は無事成功。 

────────────────────────

 

 

これを目にした狂死郎は将軍城で寝かされていた日和の頭をすぐに調べた

……そして縫いあとを見つけたのだ。

 

憎悪と嫌悪感でぐちゃぐちゃになった心にのし掛かる自分への途方もない怒り。

 

自分がオロチの首ばかり狙っていたせいで日和の不在に気付くのが遅れたのだ

もっと早く日和の下へと来ていれば……!

 

後悔に溺れる狂死郎はあの言葉を思い出していた。

 

 

『傳ジロー、本当に優先すべきものは見えているか?

……おでんの娘から絶対に目を離すな。』

 

『は…? いったい何を……レオヴァ殿…

言われずとも、見ておりますが…

……それよりもオロチとおでん様の密約の件、詳しくお聞かせ願いたい!

討ち入りの作戦の内容も詳しく!

オレのこの立場が生かせるやも知れませぬ故…!』

 

『………わかった、話そう。』

 

 

誰からも気付かれなかった狂死郎を

傳ジローだと見抜いたレオヴァが会談中に溢した一言。

 

きっと…あれは日和様こそ本当に大切なものだと言うことだったんだ……それなのにオレはッ……!

 

と、後悔から抜け出せぬ狂死郎は責任を取ろうと刀を鞘から抜いた。

 

何年も心をすり減らし、時には削りながら復讐にしがみついた彼にもう冷静な判断ができる心など残っていなかったのだろう。

 

 

「日和様……申し訳ありません…

すぐにオレも仇討ちに向かい、オロチ共々地獄へと参りますので……日和様は天国にておでん様と…」

 

震える手を振り上げ

せめて苦しめぬ様にと首を一太刀で切り落とすべく

渾身の力を込めて振り下ろした。

 

 

そして、瞬きの瞬間に……宙に舞うと壁にぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……な、何奴(なにやつ)…!?」

 

 

狂死郎は突然の衝撃に痛む体に鞭を打ち臨戦態勢を取る。

 

 

「すまない、傳ジロー

だが、あのままでは……彼女の首が飛んでいただろう」

 

隠れ家の入り口で仁王立ちしているレオヴァに狂死郎は驚き、臨戦態勢のまま固まった。

 

 

「な、何故……レオヴァ殿が……」

 

「数日前に子どもを狂死郎親分が誘拐したと言う話を聞かされてな…

その後何かあったのではと探し回っていたら、この鈴後にはない筈の家を見つけた…と言うわけだ。

…しかし、お前ほど忠義に厚い男がその子に手をあげるとは…何か理由があるんだろう?

……それに、何故その子は……微笑んだまま動かない…?」

 

「お、おれは……日和様はッ……もう、」

 

 

握っていた刀を落とし、崩れ落ちる狂死郎の下にレオヴァが駆け寄る。

 

 

「傳ジロー…!?

どうした、冷静なお前らしくもない……落ち着いて話してくれ

おれなら何か力になれるかも知れない。」

 

「……レオヴァ殿……もう、知っているだろうが…おれは

…持ちかけられた作戦を実行できる地位にいない……おれの裏切りはバレてしまってたんだ…

…せっかくの討ち入りの作戦を駄目にしてしまった……申し訳ないっ!」

 

「討ち入りの件は手を打ち直した、案ずるな。

それより、日和と言う少女の話の方が先だろう!

あれだけ優しかった少女が……何故こんなに追い込まれたお前を見ても少しも声をかけないんだ…?」

 

 

狂死郎は血が出るほど唇を噛みしめた。

 

 

「日和様は……いないんだ…レオヴァ殿……もう居ない」

 

「何を言って……そこに…」

 

「違うッ……!!あんなっ!

日和様ではない!もう日和様の心は失くなってしまわれたんだ……おれが…おれが貴方の忠告を守らなかったばかりにッ……」

 

「……傳ジロー……まさか、おでんの娘から目を離したのか…!?」

 

「…ッ………

…おれ、が…オロチの城の屋敷図を手に入れる為に

…出掛けていた隙に……ひ、日和様は…」

 

「…………傳ジロー…立て。」

 

「レオ……ヴァ…殿……?」

 

「絶望し歩みを止める事が報いる事になると思うのか?

 ……立て! 

この後、ヒョウ五郎一家と守護隊による討ち入りがある。

……そこでおれと皆と共にオロチを討て 」

 

「討ち入り……?

……さ、作戦はおれのせいで帳消しになったのでは…?」

 

「お前の正体がオロチに知れたと聞いた後、すぐに次の手を打ったと言っただろう。

……討ち入りの作戦はまだ生きてる…!

傳ジローお前の力を貸してくれ……共にオロチを討つぞ」

 

 

力強く差し伸べられた手を傳ジローは震えの止まらぬ手で掴んだ。

 

レオヴァはそのまま、ぐいっと引き上げると

傳ジローを立たせ落ちていた刀を拾い、手渡した。

 

 

「……共に前に進むぞ、傳ジロー」

 

「おれの全てをかけて討ち入りへお供させていただきます

  ……レオヴァ殿」

 

 

刀を受け取った傳ジローの手の震えは止まっていた。

 

 

「……近くにちょうどローという子がいる

彼はおれの信頼のおける部下であり…医者だ

討ち入りへ行っている間におでんの娘……日和の容態をみさせよう」

 

「ッ…!? いいのですかレオヴァ殿……!

ローと言えば特別な力のある少年だと……」

 

「だからこそだ。ローの能力なら……」

 

「ありがたき心遣い……!

なればこそ、おれは首を取ることだけに集中させてもらう!」

 

 

レオヴァと傳ジローは日和をローに任せ、決戦の地へと赴いた。

 

後にこの戦いは絵巻となり語り継がれて行くのだが

……まだそれは誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ローは任せられた少女を運び、当初の予定の部屋へと寝かせた。

 

 

「レオヴァさん……アンタやっぱり魔王じゃねぇか」

 

そう言って笑うローを見たものは居なかった

 

 

 

 

 

 




申し訳ない……後書きがめちゃくちゃ長くなってしまいました。

赤鞘のレオヴァへの心象

錦えもん
九里城訪問の際に傳ジローと共に毎回話したり土産を貰ったりしていた。(おでん一家の食事はレオヴァの土産でほぼ賄われていた)
そのため、印象はとても良い。
しかし、オロチを討つために立ちはだかった為、戦うしかなかった。
今も話し合えばレオヴァならば解ってくれると思っている。
おでんの処刑場にいたカイドウに対しても恨みはない。(息子であるレオヴァを殺そうとした自分たちはカイドウから恨まれても仕方がないと思っている)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

カン十郎
光月を自分たち黒炭と同じ様な目に合わせてくれたレオヴァに感涙するほど感謝している。
レオヴァに幕引きを頼もうかとすら考えている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

雷ぞう
カイドウのことを恨まずにはいられない。
なぜレオヴァは処刑を止めなかったのかと半ば逆恨みもしている。
ワノ国全国民を恨む。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

菊の丞
味方だと思っていたレオヴァに討ち入りを邪魔されたことを恨んでいる。
民衆のおでんへの態度にも心から憤慨している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アシュラ童子
レオヴァは板挟みになり仕方がなくおでんを処刑したと思っている
城下の村の話を聞いてレオヴァは優しい人物だとも思っており恨んではいない。
ただ、カイドウは恐ろしい男だとは認識している
キングには嫌悪感がある(討ち入り時に痛め付けられた為)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

河松
傳ジローがレオヴァに討ち入りを洩らしたのではないかと疑い、オロチとレオヴァは実は協力関係なのではないかと考えている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

傳ジロー
赤鞘九人の中でも一番レオヴァと接点があった。
(おでんに代わっての謝罪や、レオヴァが持ってきた手土産の引き取りや統治の相談など)
レオヴァとの対立はお互いの立場上致し方なかったと思っている。
何よりもオロチや民衆への復讐心が高く、盲目になってしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

イヌアラシ
クイーンとオロチを憎んでいる。
(決戦の時にクイーンに散々な目に合わされたため)
レオヴァやカイドウのことも良く思っていない。
(クイーンを従える者はろくな奴じゃないとの考え)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ネコマムシ
過去にレオヴァからもらったラザニアが好物になって以来、よく城下でレオヴァに猫じゃらしで遊ばれていた。
国中おでんの航海の話をまともに聞いてくれなかったが、彼は思い出話をしっかりと聞き
『そうか、ネコマムシがそんなに大好きな人なら
きっとおでん殿は本当に立派な侍なのだろうな
……おれが会おうと努力しているのは間違いじゃないみたいだ』
と微笑んだ顔を忘れられずにいる。
レオヴァもカイドウも恨んでいない。

その他

おでん
ネコマムシや傳ジロー、錦えもんらとの話を聞いて一度しっかり話したいと思ってはいた。
討ち入り時の周到さに普段との違和感を感じたが、ヒョウ五郎を庇い傷をおったレオヴァを見て、やはり仲間思いの少年だったのか。と少し動揺してしまい隙をみせ、負けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

モモの助
一度も会った事がない。
ただ、きっと鬼の様に強く怖い人なんだろうと想像している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

日和
後に解るので省略

ーーーーーーーーーーーーーーーー
頂いたご質問へ返答

Q.手術の記載する個体名が「日和」となっているのは何故か?
オロチは小紫=日和だと知ってるのですか?

A.手術の過程が書いてある書類は狂死郎に読ませる為にレオヴァ達が偽装したものです!
実際、オロチは外界の医術力で性格を変更できると口頭説明&実践(ローの力を応用)を見ただけですので、書類の日和記入はワザとです~!
(何故わざわざ日和記入なのか→狂死郎から見ればオロチに日和の存在がバレていたと誤認する→復讐も兼ねてこんな残忍な手術をしたのかと深読み→憎悪爆発)
あと誤字がなければ、オロチは一貫して小紫と呼んでいるのも何も知らないよ、と言うのを表したくてそう記入しております…

Q.何故将軍城にあったのか
A、カイドウとひと芝居打って追い出された時に仕込みに行っていた


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閉幕

コメント・感想をありがとうございます!

後書きにて捕捉などありますので、よろしければ~!

今回オロチの能力のネタバレ(?)っぽい内容が含まれております。
(中の人はジャンプ買ってるので、知らない間にジャンプの内容洩れてたら申し訳ない…m(__)m)







テレビにて流れる一大報道にワノ国の民衆は怒りと恐怖に震えた。

 

 

将軍・オロチの悪行と本性が次々と公開されていく 。

 

外界の人間との人身売買で花の都の民を売りさばいていた事、自分の欲望を叶えるために行った少女に対する非道な手術、罪の無い村人たちへの処刑の事実。

 

そして、オロチの根本にある民への復讐心。

 

 

華族は家で、平民は広間に集まって見ている。

皆が衝撃の事実にテレビから目を離すことは出来なくなっていた。

 

 

──────────────────────

 

『オロチ殿……これはどういう事だ…!

都の民を国外に奴隷として売り渡すなど、許されることではないだろう!?』

 

『黙れ……!!貴様に口を出す権利なんざねぇんだ…!

ワノ国は将軍である、おれのモノ……!!

どうしようが勝手だ……海賊の息子ごときが…わきまえろ……!』

 

『ッ……それが国の頂点に立つ者の発言か…!?

国とは民あってこそ……民がいない国などただの土地だ!

上に立つ者とは己の利益ではなく、皆の利益を考えるべきなのではないのか!?』

 

『いいか、おれにとっては

この国の奴ら全員が!黒炭を虐げた罪人たちだ!!

皆、いつ死んでくれてもかまわねェ!

おれが "将軍" の座についたのは!

 この国を滅ぼすため……復讐するためだ!!!』

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

国の頂点に立つ将軍は復讐の為に生きていた。

そして今も民を苦しめ悪行の限りを尽くしている。

 

オロチを止めようとするレオヴァの姿に誰もが心打たれた。

 

テレビに映るカヅチと言う男は高らかに告げた。

 

 

『以上が極悪人オロチの本性である!

 

我ら近衛隊(このえたい)守護隊(しゅごたい)、ヒョウ五郎一家、狂死郎一家

 そして総大将にはレオヴァ様が!

 

この総戦力にて!

我々を…ワノ国を苦しめる最大の悪を討ち取ってくださる……!!

民衆よ!! この国は…ワノ国は救われるのだ…!!!

もう既に、討ち入りは始まっている……!!』

 

 

ワノ国の国民は歓喜した。

 

ついに! ついにレオヴァ様が我々を救ってくださる……!!

始まっている討ち入りが無事、勝利で終ることを皆が祈った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

レオヴァ、狂死郞、ヒョウ五郎の三人はオロチを追い詰めていた。

 

 

「おいおい、どうなってやがる!

確かにレオ坊がアイツの首を落としたよなァ…!?」

 

「何故オロチは死なない!?」

 

「落ち着け二人とも……冷静さを欠くな。

説明しただろう、奴も特殊な能力持ちだ」

 

「そうだった……頼もしいぜ、レオ坊…!」

 

「えぇ、レオヴァ殿……一度で駄目なら何度でも引導を渡すまで…!!」

 

 

血で濡れた着物を纏ったオロチは息も絶え絶えに喚く。

 

 

「ハァッ……ハァッ……ち、ちくしょう!きさまら!!

よ、よくも将軍であるおれにッ……カイドウが黙ってないぞォ……!」

 

 

「父さんがお前のような外道を助けると思うのか?」

 

「カイドウ様は明王様だ……!

翳った国をレオ坊と照らしてくださる御仁よ

……貴様なんぞに力など貸すものか!」

 

「……レオヴァ殿の父が貴様のような下衆の言葉に耳など傾ける筈も無し…!」

 

 

じりじりと焼けつくような殺気に飲まれながら

オロチは頭の"7つ"ある大蛇へと変貌を遂げた。

 

 

「なめるなァ……!!

貴様など…おれ自らの手で葬っ…て…」

 

雄叫びをあげながら突撃してきたオロチの6つの首がレオヴァとヒョウ五郎、そして狂死郎の手によって一瞬で切り落とされる。

 

 

「う"ぐあがぁ"……!!!」

 

痛みに悶えるオロチとそれを冷たい目で見つめる三人の男。

 

 

「狂死郎……お前の手で引導を渡してやれ」

 

「レオ坊が総大将だぜ?…なんだってその若ぞうに…」

 

「レオヴァ殿……俺で良いのか…?」

 

「あぁ、狂死郎こそ相応しい

……お前が彼の意思を継ぎ…オロチを討て」

 

「ッ……!? 御意!!」

 

 

レオヴァの言葉に強く頷くと悲鳴をあげるオロチの最後の首を切り落とした。

 

顔を手で覆い俯きながら、色んな感情が混ざり涙を流す狂死郎の肩をレオヴァは優しくたたき、周りに聞こえぬ様に耳元で小さく囁いた。

 

 

「……彼を死なせたおれが言うべき言葉ではないかも知れないが…

傳ジロー…よく今まで折れずに頑張った……

 お前は誰にも負けぬ素晴らしい侍だ。」

 

 

その言葉に涙も拭かずに狂死郎が顔を上げる。

 

夕日を背に、隣に立つレオヴァの笑顔が狂死郎には"かの太陽"のように暖かく見えた。

 

 

「おい、皆が待ってるぜ!

勝鬨(かちどき)を上げるに相応しいのはレオ坊だろ!」

 

ヒョウ五郎の言葉に、城下に集まっている民衆の下へとレオヴァと狂死郎は歩み出した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ワノ国の国民はテレビに映った勝鬨(かちどき)を上げるレオヴァを見て喜びと感動の雄叫びをあげる。

 

同じくテレビに映る城下の民衆も大歓声でレオヴァを迎えている。

 

 

『オロチはおれと狂死郎、そしてレオ坊によって完全に討ち取った……!!

いま、この瞬間より……ワノ国の夜は終わった!!』

 

 

ヒョウ五郎に続くように狂死郎も声を上げる。

 

 

『長らくこの国を苦しめていた男は消えた!

やっと、やっとだ……ワノ国の夜は明けた…!!』

 

 

二人の言葉が終るとまた大きな歓声が響く。

 

 

『レオ坊、なにか言葉を……!

ワノ国中の人間がレオ坊の言葉を待ってんだ!』

 

 

ヒョウ五郎に促されレオヴァは二人の前に出る。

 

 

『まず、礼を言わせてくれ。

ヒョウ爺、狂死郎…そして今日討ち入りに共に来てくれた皆。

ありがとう、 この勝利は皆が共に来てくれたからこそだ!

 

そして、謝らせて欲しい……

オロチの悪行を全て突き止めるのに時間がかかりすぎた……その間辛い思いを皆がしていた筈だ

もっと早く行動に移せず……すまなかった。』

 

 

レオヴァの謝罪に城下にいる民衆もテレビの前の民衆も口々に叫んだ。

 

 

「レオヴァ様が謝る謂われなどございませぬ!!」

 

「レオヴァ様がいたからこそワシらは頑張れたんじゃ!」

 

「貴方が立ち上がって下さったから今があるのです!」

 

「そんな!?お顔をお上げください!感謝はあれど怒りなど!!」

 

「オロチに売り払われた嫁は帰ってきました!

それは貴方様が連れ戻して下さったからです!!

どうか、謝らないでください!」

 

「苦しめられている間寄り添って下さったレオヴァ様を誰が責めましょうか!!」

 

「レオヴァさま……なんとお優しく…偉大な方……!!」

 

 

民衆の叫びが響く中、ヒョウ五郎の手によってレオヴァは頭を下げるのを止めさせられる。

 

 

「レオ坊……これが皆の答えだ…!!

今日は希望の日だ……暖けぇ言葉をおれたちにくれ!」

 

 

そう言って笑うヒョウ五郎に礼を言ってレオヴァも微笑み返す。

 

 

「皆……ありがとう。

そうだな…今日は希望の日だ。

未来について語ろう……!

今、この国には将軍が……王が居ない

だが、オロチのような王ならば必要ない…そうだろう?

国を……民を想える者が王になるべきだ!」

 

 

レオヴァの言葉に賛同するように民衆は声を上げていく。

 

 

「……皆も賛同してくれるようだな

ならば、次の王は

 ヒョウ爺…ヒョウ五郎が相応しいとおれは思う!」

 

 

レオヴァの予想外の言葉に民衆がざわめき、ヒョウ五郎も驚きに声を上げる。

 

 

「おいおいおい!!レオ坊なんだっておれが!?」

 

「誰よりも優しく、強い。

ヒョウ爺の優しさに触れた者も多いだろう

そんな男が王ならば、皆も安心出来る筈だ。」

 

「待ってくれレオ坊……!

優しさってんならレオ坊の右に出る奴ァいねぇ!

それに、今までの民を救う考えだって全部レオ坊が休む間も惜しんで実行してきたじゃねぇか!」

 

「それなら王になったヒョウ爺をおれが補佐しよう。

おれはワノ国の生まれじゃない…海賊なんだ……

…そんなおれが王になるわけにはいかない」

 

「んな事ァ全員知ってる!!

今さらレオ坊の生まれで文句言う奴ァいねぇさ!」

 

「……ヒョウ爺…

おれじゃ……駄目なんだ。

……わかって欲しい」

 

「レオ坊…………おめぇがそこまで気にするってんなら

 …おれが王になってやる。」

 

 

二人のやり取りにワノ国中が息を飲み、レオヴァ様は権力を求めぬ御方だと皆が感動した。

 

普通であれば、我こそがと声を上げる場面だと言うのにレオヴァ様は民の心を考え、欲に目が眩む事なくヒョウ五郎を次の王にすると仰った。

しかも、それだけでなく補佐まですると言うのだ。

明王カイドウ様のご子息という地位にいながら

威張らず、民の為ならば平民であるヒョウ五郎の下とも言える補佐につく。

 

民衆は感激に言葉を失う。

 

ヒョウ五郎は目に涙を浮かべながら声を上げる。

 

 

「皆、聞いてたな……!!

おれが将軍に……王になった!

そして、今おれァ初仕事をしようと思ってる

……レオ坊、将軍の言葉にはどれくらい効力があるっつー考えでいくんだ?」

 

「そうだな……民の意見が第一だとおれは思ってる。

だから、基本的には皆の反対が多い場合は将軍の言葉だろうと効力は失くす方針だが」

 

「そうか! ならおれの初仕事にゃ問題ねぇ!

いいか、みんな良く聞けェ!

 おれァ…ワノ国将軍ヒョウ五郎!

今、この瞬間この国の将軍と言う地位を…

─── レオヴァへ継承するッ…!! 」

 

「ヒョウ爺……!?」

 

静まっていた民衆たちは、まるで希望の光を見つけたかのように歓声を上げる。

城下の人々もテレビの前の人々も抱き合って喜びあっている。

 

焦ったようなレオヴァの横で、してやったりとヒョウ五郎が笑う。

 

 

「何故そうなるんだヒョウ爺…!

こんなデタラメな……この継承は無効だろう!」

 

「んん…?

なんだレオ坊!

さっき民の意思を尊重するって言ってたじゃねぇか……!

見ろ! これが民の意思だ……!!」

 

 

 

「さすがヒョウ五郎親分……!!」

 

「レオヴァさま~!どうかお導きください!」

 

「やった!夢じゃないんだ!!」

 

「レオヴァ様万歳ッ……!」

 

「我らがレオヴァ様!貴方以上に将軍に相応しい者などおりませぬ!」

 

「親分よくぞ言ってくれた……!」

 

「おれらはレオヴァ様の国で生きてぇんです!」

 

 

響き続ける民衆のレオヴァを求める声にヒョウ五郎は嬉しそうに笑った。

レオヴァの肩にヒョウ五郎が手を置くと民衆は黙り、二人の行く末を見守る。

 

 

「オロチはこの国で生まれたが、国を滅ぼそうとした。

レオ坊は外海で生まれたが、国を守ろうとした。

レオ坊……生まれなんて関係ねぇのさ。

おれァ…死ぬまでにレオ坊が治める国を見るのが夢だった。

どうか、この老いぼれの願い……叶えちゃくれねぇか?」

 

 

そう言って真剣な表情で真っ直ぐとレオヴァを見るヒョウ五郎に観念したように微笑む。

 

 

「他でもないヒョウ爺の夢か……

わかった、おれは将軍の地位を受け取ろう …!

……皆、おれは国を豊かにするよう全力を尽くす!

しかし、おれは完璧じゃない…

…共に国を良くしてくれるだろうか?」

 

 

ワノ国全土の民衆から今世紀最大の歓声が溢れた。

 

すべてのワノ国の民が望んだ景色が広がっている。

長く辛く苦しい夜は終わったのだ。

 

民衆は訪れた夜明けに止まぬ歓声を贈り続けた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

戦いと新たな将軍の着任式が終わり、狂死郎とレオヴァは鬼ヶ島のある部屋へと向かっていた。

 

 

部屋の近くまで着くと腕を組み、深く帽子をかぶったローが部屋の前で壁にもたれ掛かっている。

 

 

「ロー殿……!!

ひ、日和さまは……日和様はどうなったんだ!?」

 

狂死郎はローの下へと駆け寄ると懇願するように問いかけた。

 

 

「酷い状態だった

……だが、出来る限りのことはしたつもりだ。

二の腕から顔に筋肉を移植したから、表情を動かせるようになった。

脳に入れられてた薬もほぼ全て除去することにも成功はした。

ただ、精神的なショックから記憶の混濁がある。

まぁ、話せるようにもなったし、あとはリハビリだな。」

 

 

ローの言葉を聞き狂死郎は安堵の表情を浮かべる。

 

 

「良かったッ……!!

なんと、なんと礼を言えば…!ロー殿、レオヴァ殿!!

この恩は必ず……必ず返します!」

 

 

深々と頭を下げる狂死郎にレオヴァが声をかける。

 

 

「狂死郎……あの子の側に居てやれ。

ロー、構わないだろう?」

 

「あぁ、もう動けてるし問題ねぇよレオヴァさん。」

 

「かたじけない……!」

 

 

部屋の襖を開け、中へ入ると鬼灯の花を持った少女がいる。

少女は入り口を振り返り、狂死郎を見ると花を手放して駆け出し抱きついた。

 

 

「傳ジロー……!!

無事で良かった…ロー様から討ち入りに言ったって聞いて…!

けれど、貴方とレオヴァ様なら必ずオロチを討ってくれると心から信じていました……!

やっと……やっと父上の無念をっ……ありがとう傳ジロー!」

 

 

安堵と喜びから涙を流す日和を見て狂死郎もたまらず涙を流した。

 

 

「日和さまッ……! 良かった…本当に良かった!!」

 

「で、傳ジローも……泣いてるの?」

 

「おれが不甲斐ないばかりに……日和様…申し訳ありませんでした!

もう、おれは大切なものを見失ったりなど致しませぬ!

オロチを討ち取った今、この時から!

おれは日和様の幸せの為に生きます……!」

 

 

勝利を心から喜んだ二人はその3日後、レオヴァから屋敷を与えられた。

 

 

『日和殿は怖かった記憶を全て忘れているようだ。』

 

『それは喜ばしいのですが……いったい何故…?』

 

『自衛本能だろう……心が壊れるのを防ぐ為の人間の本能のようなものだ

つまり、それほど辛い目にあったと言うことだろうな…

……彼女の為にも暫く穏やかな場所で過ごしたらどうだろうか?』

 

 

日和を心配するレオヴァの優しさを素直に受け取り、狂死郎は田舎へと移り住んだ。

 

辛かった日々を忘れる様な和やかな時間を二人は過ごしている。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ついにレオヴァ坊っちゃんが将軍になったか」

 

「いや、けど侠客のジジィを将軍にって言い出した時ァまじでビビったけどな!?

継承するって言い出さなかったらどうするつもりだったんだよ…?」

 

「ヒョウ爺はおれを好いてくれてるから、問題ない。

……名乗り出るよりワノ国の民から一目置かれる男に懇願された方が体裁も良いだろう?」

 

「ウォロロロロロ~!!

レオヴァの台本通りってことか!

だが、これでレオヴァも本格的に外にも出られるわけだ」

 

「最初は少しバタつくと思うがすぐに問題なく国は回る算段だ」

 

「なら、レオヴァが使えると考えてる他のナワバリも本格的にイジってく感じかァ?」

 

「あぁ、使えるナワバリは良くしていく

そして、今後は防衛の人材も同時に集める予定だ。」

 

「そうだなァ……!

レオヴァの言う通り、強ぇ奴ァ集めて損はねぇ!

キングとクイーンも引き入れは続けろ……!」

 

「任せてくれよ、カイドウさん!」

 

「了解した。」

 

 

 

数十分ほど今後のレオヴァの方針案を聞き、大方決め終わった4人は雑談を始めていた。

 

 

「てかよォ……狂死郎と小紫って生かしといて良いのかよ?」

 

「狂死郎は内政が出来て腕も立つ、かなり便利だ。

小紫は普段は使い道がないが……今後の赤鞘への対策用だな。

……人材が集まり次第処分も視野に入れている

わざわざ不安要素を全て残す理由もねぇ。」

 

「なーるほど! スペアみてぇなもんか!

不安要素ってほどの奴らとは思えねぇけどな~…」

 

「……念には念をだ。」

 

「ま~たそれかよ!

念に念を重ねて……また念……ゲシュタルト崩壊するぜェ…」

 

「徹底的にやるレオヴァ坊っちゃんのやり方は良い。

なによりカイドウさんに盾突くやつは邪魔なだけだ」

 

「ウォロロロ……!

レオヴァらしくて良いじゃねぇか!

好きにやりゃ良いんだ、おれの息子なんだからなァ……!」

 

 

その後も続く雑談は、ほぼカイドウの息子自慢大会となり……クイーンは引きつった笑いを浮かべた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

今回、オロチ処分の為に俺はまず大義名分を作ることにした。

その為に、黒炭ひぐらしを手に入れる事は必須条件だった。

 

 

『ひぐらし……お前の能力は何よりも必要だ。

オロチを捨て、おれと来るなら安全と身分を約束しよう

 

……お前もわかっているんじゃないか?

オロチは民衆を蔑ろにしすぎた……遅かれ早かれ力を付けた民衆が暴動を起こすだろうな。

それに巻き込まれオロチと共に死ぬのか?

おれは"身内は"大切にする……それが初めは敵だった者だとしてもだ

一緒に行こう、ひぐらし……お前の力を貸してくれ』

 

 

いつ終るかもわからぬ天下への不安、オロチの何も考えなしの態度

そして、キングから受けた拷問。

全てが限界だった黒炭ひぐらしは目の前の救いに飛び付いた。

 

引き入れてすぐに映像の作成や大名達の前での証言など全て(おこな)わせた。

 

他にも、光月日和の場所も特定し、河松と離れさせ狂死郎と合流させたり

狂死郎の動向把握とオロチの不信を煽らせる為に度々"老婆"と入れ替えた。

 

光月日和には老婆が入れ替わっている間、ドレークやビィクター博士と話をさせ時間を稼いだ。

 

 

光月家への憎しみを抱いた民衆に強い恐怖を感じていたり、侍の娘としての誇りの揺らぎ、少女の花魁としての不安、親の仇オロチへの接待のストレスも相まって不安定な光月日和に赤鞘は生きていると教えてやり、慰めた。

 

リスクと手間が大きいが、狂死郎のコントロール以外で彼女には今後"大切"な役割がある…

それまでは健康に生きてもらわなければならない。

 

 

証拠集めや大義作りの合間にもヒョウ五郎や守護隊へオロチの様々な話を流し、反感を更に高めた。

近頃、俺の政策もあり苦しむ民が減ったので、適度な憎悪を()めるには必要な作業だった。

 

それから、以前よりオロチが取り引きしていた者はマークしていたのでワノ国の人間を回収してまわった。

 

何処からどんな情報が漏れるかわからない以上、躾の終わっていない人間を外に長く出したくはない。

……まぁ、それに外での奴隷経験は良い楔になるだろう。

事実、売り捌かれた者たちは外での体験をよく皆に話してくれている。

 

 

オロチの悪行の証拠、売られた民の救済、我慢の限界へ達した民衆。

必要なものが整えられたので、俺は開始の為の準備に取りかかった。

 

光月日和の顔に手術を施し、頭部に縫い目を付け、声帯を一時的に使えなくした。

その後、偽造の手術報告書を作らせる。

 

脳を弄るようなことはしていない。

ただ狂死郎に罪悪感を抱かせるための偽りだった。

 

なにより壊れた精神や、脳の回復は難しい

どうせ治すのにわざわざ壊すなど二度手間だろう。

最近忙しいローに無駄な手間はかけさせたくもない。

 

 

しかし、偽造書類だけでは少し弱い。

そのため、Dr.ウォルタ・フリーと言う鬱病などを治す医師を選び連れて来た。

治療方法に問題がある事で有名な彼なら信憑性も高い。

 

彼をキングに暫く預けたのち、老婆と一芝居うたせ映像を手に入れた。 

 

 

日和を欲しがるオロチに

手術を受けさせれば全て受け入れる素直な性格にできると説明し、実演もさせた。

 

実演内容はオロチの連れて来た性格のキツイ美女が、手術後に大人しく素直になる、と言うものだ。

……実態はローの能力でこちらで用意した女と中身をすり替え演技させただけに過ぎないのだが、オロチはそれを信じた。

 

その後、役割を終えたDr.ウォルタ・フリーを狂死郎と鉢合わせする様に仕組み殺させた。

 

これで今、手術の有無の事実を知るのは俺とキング、ローだけとなった。

 

 

廃人演出の為に、老婆を器として完成している光月日和の中に入れた。

老婆はキングに渡しておいたお陰で精神異常を起こしていたので、問題なく"予定通りの光月日和"が準備できた。

 

 

光月日和の中身は安全な方の器へ移すことも成功し、

これで討ち入りは開始できる状態となった。

 

細かい事を言うなら、予め民衆が見れる様にテレビを普及させる、準備中にオロチの気を反らす為に老婆に父さんの姿を真似させ一芝居うったり、狂死郎との会談などあるが……まぁ大した手間ではなかった。

…手間ではなかったが……あんな老婆が父さんの形をとった事もオロチのジャックへの暴言も腸が煮えくり返る思いだったが………致し方がない…

 

 

兎に角、舞台は整え終わった。

 

俺はヒョウ五郎と狂死郎を連れ、オロチを討った。

 

思っていた以上に弱いオロチに加減が大変だったが、民衆的には問題ないようなので良しとする。

 

敵を討ち取った事を民衆にヒョウ五郎、狂死郎と共に告げた。

 

次の王にヒョウ五郎を推薦する。

彼の性格的にあの場で俺に地位を譲ることは解っていた。

 

民衆に求められ、上に立つ……この目標は無事達成された。

録画され一部始終は残る、次のワノ国の国民の教育にはうってつけの教材になるだろう。

 

計画の核の部分を知るのは俺含め三人のみだ、この部分さえ洩れなければ問題ない。

 

 

俺は父さんの喜ぶ顔を見ながら笑った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

おまけ

 

~ 日和 ~

 

 

 

日和は傳ジローと"偶然"の再会を果たしてから、花魁の従者として経験を積まされていた。

 

蝶よ花よと育てられた日和にとって今の生活は辛いことばかりだ。

だが、もっと辛そうな傳ジローを見て黙る他なかった。

 

正体が周りにバレたら殺されるかもしれない恐怖から友人を作ることもできない…

悩みや不安を相談できる相手もいない日和の心は少しずつ閉じていった。

 

 

ある日、従者の仕事が急遽なくなり、暇を持て余していた日和は少し散歩していた。

 

曲がり角からはしゃぐ声が聞こえ、気になった日和は声の下へと向かった。

そこには沢山の子どもたちが綺麗な見た目の菓子を食べていた。

 

 

「可愛いあんこ美味しいね!」

 

「ちがうよ!水ようかんだよ~?」

 

「あれ?見たことない子だ……はやくおいでよ!

お菓子なくなっちゃうよ?」

 

 

突然声をかけられた日和は慌てたが、子どもたちは気づかずに日和の手を引いて進んでいく。

 

 

「レオヴァさま~

新しい子きたよ!この子にもお菓子くださいな~」

 

「え……れ、レオヴァさま!?

わ、わたしはお菓子いらない……!」

 

 

日和は驚きに声を上げた。

 

自分は何度かネコマムシに連れられて会った事がある……バレたら処刑される!

そう思った日和は手を引く子どもたちから逃げようとしたが、急に抱き上げられてしまう。

 

 

 

「きゃっ……!」

 

「ほっほっほ!

遠慮するでないわ小娘…!

レオヴァ様発案の羊羮はうまいぞ~!

見た目も美しくてフランシュも大好きでのぅ」

 

「あ、ビィクター博士だ~!」

 

「おじいちゃん!またれきし教えてよ~」

 

「そうじゃな!おやつ食べ終わったら歴史の授業するかのぅ!

レオヴァ様~、ワシとこの子に羊羮お一つ下され……!」

 

「博士はもう3個目だろう。

最近甘いものを食べすぎて太ったと聞いたが?

……フランシュに言いつけるぞ」

 

「フランシュに怒られるのは勘弁じゃ…

レオヴァ様は厳しいのぅ…」

 

「菓子は子ども達に食べて欲しくて持ってきているんだぞ?

……それに博士には健康に長生きして欲しいからな」

 

「れ、レオヴァ様ぁ~!

ワシは……ワシは世界一の幸せ者じゃっ……!」

 

「博士はレオヴァさま大好きだもんね!」

 

「レオヴァさまもだよ~」

 

「仲良しさんだよね!」

 

 

その言葉に感動のあまりうち震える博士を見て苦笑いしているレオヴァ。

二人を見ていつもの事だと子どもは笑う。

日和は懐かしい暖かさに肩の力を抜いた。

 

しかし、レオヴァと目が合った瞬間に息を呑む。

 

レオヴァが日和の顔を見て驚きの表情になったのだ。

日和はやはりバレてしまったと小さく震えた。

 

ビィクター博士の腕からは既に離れたというのに足が動かない。

こちらへ歩み寄ってくるレオヴァをただ呆然と見ていることしか出来なかった。

 

目の前に来たレオヴァに死の覚悟を決め瞳を閉じる。

 

 

だが、痛みは訪れず

手のひらに何か乗せられる感覚だけがあった。

 

瞼を開けると、目の前に膝をつき優しく微笑んだレオヴァが日和の手に小さなお皿を乗せていた。

 

皿の上のお菓子は日の光を反射して天の川の様にキラキラと光輝いている。

まるで夜空をそのまま切り出してきたかのような美しい羊羹に先程の恐怖を忘れて日和は感動した。

 

 

「わぁ……きれい…」

 

 

思わず呟いた日和の頭をレオヴァが優しく撫でる。

 

 

「おれがウチの料理人と相談しながら作った羊羮(ようかん)だ。

なかなかの自信作でな……味も保証しよう。

そこで皆と一緒に食べるといい。」

 

 

そう言って日和を長椅子に案内するとレオヴァは他の子ども達の所へと行ってしまった。

 

 

悪意どころか善意しか感じないレオヴァの態度に日和の警戒心は緩む。

 

それに手の上にある美しい羊羮を食べたい気持ちが強かった。

 

 

星空を閉じ込めた様な綺麗な一口サイズの羊羮を菓子ようじを使い口に運ぶ。

 

味甚羹(みじんかん)小倉羮(おぐらかん)の二層になっている羊羮のあっさりとした上品な味わいに日和の顔から久方(ひさかた)ぶりの笑顔が溢れた。

 

 

それから帰ろうとするレオヴァを日和は引き留めた。

 

 

「……お話が…」

 

「お前…………おれが…憎くはないのか?」

 

「っ!……やっぱり、気づいていたのですね…」

 

 

その後、人払いをし二人は話した。

 

レオヴァの昔と変わらぬ穏やかな姿に日和は安堵した。

やはり父上との戦いはレオヴァ様が自分の親を守る為の戦いだったのだと。

そして、やはり悪はオロチであると。

日和はそう確信した。

 

 

そして、そこでドレークと言う男を紹介され、日和は親しくなった。

ドレークと言う男は真面目かつ遊びのない男だったが

それが日和にとっては好ましく映った。

 

毎日何十人と欲にまみれた人間を相手にしている日和にとって、真摯に悩みを聞いてくれるドレークはレオヴァと同じように年の離れた兄のような存在になった。

 

 

数年が経ったある日、重要な話があると呼び出されドレークの護衛にてレオヴァの下へと向かった。

 

そして衝撃の事実を聞かされる。

 

ずっと可笑しいと思っていたのだ。

急に始めた裸踊りもレオヴァへの門前払いも。

 

 

『今、おれは様々な情報を集めている。

そこで判明した事なんだが……オロチはおれと会ったら民を更に国外へ売りさばくと…そう言っておでん殿を脅していたようなんだ。

……すまなかった…………おれは、おでん殿を…』

 

 

手で顔を覆いながらの悲痛なレオヴァの言葉に日和は涙を流しながら首を振った。

 

 

『謝らないでください……あの戦いは父上も覚悟の上でした…

父上ならば勝っても負けてもレオヴァ様を恨むことはなさらないはずです…!

武士の誇り高き戦いに貴方は勝利した…それだけのことですわ……

それにレオヴァ様もご自分のお父様の命のため、必死だったことは解っております……

もし、わたしが同じ立場なら家族のために全力を尽くし戦ったでしょう…

…憎きはオロチ……ただ一人にございます……!』

 

 

日和の言葉にレオヴァは驚き、日和を見つめる。

 

 

『…日和殿は……強いんだな…

 ……ありがとう。』

 

『光月おでんの……父上の娘ですもの』

 

 

二人はオロチへの1ヶ月後の討ち入りを強く誓いあった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

俺はドレークの成長の為に日和を任せた。

 

 

ドレークは私情を抑えるのが上手い

必要とあれば周りに合わせることも、嘘をつくことも出来る。

それに人の心の機微を察するのも得意だ。

 

おそらくは幼少の頃の扱いが原因だろうが、今はそれを本人が武器として使えている。

 

 

この諜報向きな能力を伸ばせば今後さらなる活躍が期待できると考えた俺は、任務としておでんの娘との信頼関係を築くように伝えた。

 

結果、ドレークは見事におでんの娘の信頼を勝ち取った。

父さんが気に入るのも納得の有能さだ。

 

だが、一つだけ予想外な事があった。

それは光月日和の……精神面の強さだ。

 

狂死郎でさえ精神の安定を保てなかったと言うのに

あの女は揺れることはあれど、崩れることなく…自身を律していた。

……面倒この上ない。

 

 

なにより利益の少ない者に割く消費や時間は惜しい…

早めに選別を終え、処分をどうするべきかと俺は羊羮を食べながら考えていた。

 

 

 




補足とレオヴァへの現時点での印象など

現時点での他海賊などからの印象

ビックマム
赤ん坊の頃に一度会った事がある。
珍しいモノを作っているという噂や英雄ガープとやり合ったと言う噂を聞き、気になっている。
レオヴァが17の時に縁談を一度送ったがカイドウからの返事は酷いものであった。
二人の手紙の内容を要約すると以下の通りである。
───────────────
『息子の噂は聞いてるよ、優秀らしいねぇ。
ウチの娘と結婚式させりゃ互いの利益になる。
断ったりしねぇよな?お前はおれに借りがあるよねぇ…?』
『ふざけんなババァ、レオヴァは俺の息子だ。
どこの誰にもやらねぇ……殺すぞ。
借りは昔の話だ、もう関係ねぇ。』
────────────────

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
白ひげ
まだ、おでんの事を知らない。
カイドウとか言う暴れん坊小僧の息子がレオヴァ、程度の認識。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
海軍本部(世界政府こみ)
カイドウの息子であることは認知しているが、目立った争いを起こしていないので注目度は低い
[現時点(26話)でレオヴァの懸賞金:1億5000万]
┗何も事件(被害)がないので、カイドウの息子と言う肩書きのみでこの金額。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガープ
あの時は手配犯ではないし、強そうなので海軍に連れて帰ろうとした。
懸賞金がついた今は、あれじゃ金額が低いと騒ぎたてている。
しかし、事件を起こしていない(知られていない)ので懸賞金は上がらなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ドフラミンゴ
レオヴァの異常性(カイドウ至上主義)を何となく感じているがハッキリとはわからない
だが、利益を出し続ければ良い取引相手だと理解している。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コラソン
百獣と兄が取引し始めるきっかけを作ったレオヴァの実力を警戒している。
だが、ベビー5への対応を見て根は悪人ではないだろうとも思っている。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
モリア
ワノ国へ攻めいったが大敗。
その後部下の無惨な姿を見せつけられるなどして屈辱を味わった。
レオヴァの印象はあまりないが、カイドウへの憎しみはある。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

わかりずらい所の捕捉など

・ローの討ち入り前のシャンブルズについて
黒炭ひぐらし→完成済みの日和の体
光月日和→前回手足をローに取り外された男の体
四肢のない男→拷問部屋にいるひぐらしの体

計三人を入れ替えていた
その後は元に戻して、黒炭ひぐらしは死亡済み。
日和の入っていた体は昏睡状態なので記憶なし。

・テレビについて
普段は録画済みのモノを流しているが、討ち入りの時は生中継だった。
事前に大きな発表があると知らされ工場などは休みになっていた為、多くの民衆が中継をみれた。

・近衛隊のメンバー
黒炭カヅチ、トラファルガー・ロー、ヒョウ五郎の元3名を隊長に各々数人の部下あり(ヒョウ五郎のみ例外)

・ヒョウ五郎の立ち位置
討ち入り前はレオヴァと対等な同志(世間的には)
レオヴァの将軍就任後に正式に部下となる。

・狂死郎、日和の現在
えびす町にて村の指揮をまかされ、大名の様な立場にいる。
基本的にのんびり日和と過ごしている。
たまにレオヴァと飲みながら語り合う。
ドレークは未だに日和と文通にてやり取り中。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

はぐれ鬼

前回も誤字報告にコメントや感想ありがとうございました!!




レオヴァ様がワノ国の頂点に立ってから様々な変化があった。

 

 

まず、将軍と言う地位の名前はなくなり“鳳皇(ほうおう)”という称号へと変わった。

 

この鳳皇とは天の王を意味する。

 

これの発案者であるヒョウ五郎親分はこう語った。

 

 

『将軍って言葉はレオ坊には相応しくねぇ…

天より舞い降りた、仏よりも慈悲深ェおれたちの王なんだ!

 そうだな……鳳皇ってのはどうだ!?』

 

 

この話を聞いた民衆は口々に賛同した。

将軍という名は破棄され、ワノ国の王は鳳皇と呼ばれることとなった。

 

 

 

そして、次は法令の全面改変である。

 

過去のものは、将軍や華族など一部の者だけを優遇する制度や、生まれた家の仕事しか出来ないと縛る内容だったり、下人という人と認められぬ身分や重い上納金などと悲惨なものばかりだったが

 

レオヴァ様の新しき法令は皆を驚かせるほど素晴らしいものばかりだった。

 

 

まず、驚いたのはこの一文だ。

 

『国民とは国の宝である。

他に迷惑をかけぬ限りは自身の幸福を追及する権利があり、それを奪われることはない。』

 

 

レオヴァ様は身分関係なく民衆を宝だと仰るのだ。

これには誰もが感動に震えた……!

 

やはりレオヴァ様だけが我らの王なのだ。

 

 

 

他にもある!

援助制度というレオヴァ様の慈悲深い法令だ。

年寄りや怪我で働けない者を助け、子どもを育てやすい環境まで出来た。

出生届けを出せば1年間子どもの為に使っていい資金まで下さるというんだ。

 

レオヴァ様の案には素晴らしい点しかなかった。

 

 

それに法令を決める時も、全ての内容を公開し

民衆の賛否を聞いてからお決めになられた。

 

…本当に懐が深く、聡明なお方なのだ。

 

 

 

医療、食事、仕事、治安、土地……何から何まで安心できる今に不満を持っている奴などいないだろう。

 

 

 

それに娯楽も増えた。

 

温泉宿は昔からあるが、(みやこ)にしかなかった。

それに金額が高く頻繁に行けるわけじゃない。

 

多くの民衆が基本的には家で濡れタオルで体を清めるか、本当にたまに水を沸かして樽に入れて浸かるくらいだ。

 

 

だが、最近レオヴァ様がお作りになった“銭湯”ってのは温泉宿より安くて色んな町にある通いやすい最高の娯楽だ。

 

泊まることは出来ないが、仕事終わりに行く銭湯は格別だ

サウナやマッサージ機がオレの一押しだな。

それに風呂上がりの牛乳ほど美味く感じるものもない!

 

 

 

あとは“大技館(たいぎかん)”も面白い。

決められた日に、剣術・体術・総合の3種目の大会がある。 

 

審査さえ合格できれば男も女も子どもでも参加できる

しかも、ここで力を認められると守護隊や近衛、百獣海賊団に入れるかもしれない一世一代のチャンスが手に入るのだ。

 

ちなみに、大会での怪我の治療費は全てレオヴァ様が負担してくださっている。

 

ワノ国の猛者はこの大会に向け、日々励む者たちばかりだ。

 

 

他にも良くなった点は上げればキリがない!

 

 

 

それに今後は町や村への手早い移動手段の作成も進めているって話だ。

 

レオヴァ様は誰であろうと実力を認めれば雇ってくれると聞く

オレもいつか…どんな形でも良いからお仕えしたいものだ……

 

 

 

 

サウナで熱くなった体を水風呂で冷やしながらレオヴァ様に想いを馳せた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

山奥で暮らす男は目的がなくなり、迷走していた。

 

主も仲間も失いたった独り、山で野宿し生き延びる生活。

 

 

生きる意味であった仇討ちも、もう出来ない。

 

 

食料を盗みに村へ下りた時に村人たちの話で討つべきオロチの死を知ったのだ。

 

アシュラ童子はオロチの死に喜びの涙を流したが、同時に進むべき道も失った。

 

 

 

生きる屍の様なアシュラ童子の近くで二人の足音と話し声が聞こえた。

 

 

 

「ロー殿、報告で妖怪が出ると言われてたのはこの辺だ。

恐らくは山賊か……外海からの侵入者かと」

 

「わかってる。

さっさと終わらせてレオヴァさんに引き渡すぞ」

 

 

 

おそらく自分の事を話しているであろう二人組から離れようと歩きだした時、腑抜けてしまっていたアシュラ童子は枝を踏み大きな音を出してしまった。

 

 

 

「…そこか……ROOM(ルーム)、“シャンブルズ”」

 

 

 

「な!? 一体……!?」

 

「うおぉ!?」

 

 

 

ローが小石とアシュラ童子の位置を一瞬で入れ替える。

 

突然、目の前に巨漢が現れたことに狂死郎は驚き

突然、目の前の景色が変わったことにアシュラ童子は驚く。

 

そして、狂死郎は巨漢の姿を見て更に驚いた。

 

 

 

「なっ…! あ…アシュラなのか……!?!

お前……やはり生きていたか!」

 

 

驚きと嬉しさの混じった表情で狂死郎が声を上げた。

 

しかし、アシュラ童子は訝しむように狂死郎を睨む。

 

 

 

「一体なぜ……おいどんの名前を…!」

 

「おれだ……今は狂死郎と名乗っているが…傳ジローだ!」

 

「で、傳ジロー…!?

おまえ、その顔……いや……本物なら、おいどんの好物わかるよな?」

 

「きんちゃくもち…だろう!

…よく、熱くて食えんと怒るネコを笑ったものだ」

 

「っ……ほ、本当に傳ジローなのか……!」

 

「あぁ! アシュラ……よく生きていてくれた!!」

 

 

 

再会の喜びに肩を抱き合う二人にローが声をかける。

 

 

 

「おい……その名は外で呼ぶなと言われてるだろ。

見聞色とROOMの併用で周りに人が居ないのは判ってるが、万が一がある。

……レオヴァさんに迷惑かけるつもりか?」

 

 

「それは…すまない。ついアシュラに会え、気が緩んだ様だ

……以後気を付ける。」

 

「れ、レオヴァ殿っていや……あのレオヴァ殿なのか?

傳ジロー……なぜお前が…」

 

「アシュラ……討ち入りのことは知らないのか……?」

 

「う、討ち入り?

おいどんはオロチが死んだとしか……」

 

「なら、一から話そう。

…あとおれのことは狂死郎と呼んでくれ」

 

 

 

その場で話し込み始めた二人にローは溜め息を吐きながらも静かに待っていた。

 

 

狂死郎が全て話し終わった頃にはアシュラ童子の顔は涙でぐちゃぐちゃになった。

 

 

 

「ひ、日和さまっ……良かった…!

おいどんは…なにも、なにも出来んかった……!!

ロー…殿! ありがとう、ありがとう!!

日和様を……どう礼をして良いのかわからん程の恩だど!!」

 

 

「別に、レオヴァさんに言われたから治しただけだ。

礼ならレオヴァさんにすればいい。」

 

 

「……兎に角、一度レオヴァ殿の下へ行こうぞ!」

 

「レオヴァ殿か……おいどん一度も会ったこたねぇど…

いや、だけども…腹は決めた……!

あの時…討とうとしたんは事実だど。どんな罰も受ける……」

 

「大丈夫だアシュラ……!

レオヴァ殿ならば解ってくれる。」

 

 

オロチのおでんへの密約、あの時のレオヴァが対立した理由、そしてオロチの首を獲るまでの経緯など……

全てを聞きアシュラ童子の瞳には今朝までの虚ろさは無く、昔の強い瞳へと戻りつつあった。

 

 

3人は、えびす町で待つレオヴァの下へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

活気と笑顔溢れる えびす町の下町を抜け、狂死郎がレオヴァから授かった屋敷へと三人は足を踏み入れた。

 

 

「……よし、アシュラ

もう笠をとっても問題ないだろう」

 

「まったく……おれが笠を持って来なかったら

ソイツどうやって連れてくるつもりだったんだ」

 

「悪い…ロー殿……」

 

 

呆れたように言うとさっさと歩いて行ってしまうローを見て、肩を落とすアシュラの背を軽くたたき、狂死郎が慰める。

 

 

「そう落ち込むなアシュラ…!

ロー殿は少し口はキツいが優しい方だ。

事実、さっきもアシュラが民衆に見つかれば危ないと

一番に気付き笠を買いに走ってくれたではないか!」

 

 

アシュラ童子はそうだな、と頷くと

先へ行ったローを狂死郎と共に追った。

 

 

 

 

 

 

最上階の奥の部屋の襖を開け、そこに広がる光景にアシュラ童子は衝撃を受けた。

 

 

 

 

「レオヴァ様もドレーク様も酷いです!」

 

 

そう言って頬を愛らしく膨らませる日和を見て二人の男と一匹は笑う。

 

 

 

「真剣勝負と言ったのは貴女だ。

おれは女、子ども相手でも手は抜かん。」

 

「いや、確かに大人げなかったか。

……だが日和殿が本気でと言っただろう?

ふふ…ドレークは少しばかり容赦が無さすぎるとは思うがな」

 

「レオヴァ様もドレークさんもスゴいや!

読んだ瞬間には取ってるんだもん!」

 

「むぅ~! もう一回やりましょう!

次こそ、一枚は取ってみせます……!」

 

 

三人と一匹はカルタを並べながら

わいわいと楽しそうにはしゃいでいる。

 

 

暖かい光景にアシュラ童子の目に涙が伝う。

 

カルタを並べていた日和はふと振り返り、アシュラ童子を目にすると驚くと同時に走りだし抱きつく。

 

 

「アシュラっ……!!

良かった!生きていてくれたのね……!」

 

「ひよ、日和さま!

お元気そうで!おいどんは……」

 

 

 

喜び合う二人を見て狂死郎の目にもうっすらと涙が光る。

 

再会を喜び今までの事を話し終わった二人はレオヴァへ向き直る。

 

 

 

「……おでん殿の侍……アシュラ童子か。」

 

 

「…いかにも。

おいどんは、あの時確かにアンタの敵だった。

腹は決まってる……罰は受けるつもりだ。

もう、これ以上おでん様に顔合わせできねェ生き方はやめる」

 

「アシュラ…貴方…! レオヴァ様、どうか!」

 

「おれからも頼みたい!レオヴァ殿……!」

 

 

頭を下げる三人にレオヴァは待ったをかける。

 

 

「皆、落ち着け

もとより罰など考えていない。

なにより…あの戦い、おれは譲れないものがあった…

だが、それはお前たちも同じだったはずだ。

終わった戦いを蒸し返し、泥を被せるつもりはない。

 

…アシュラ童子におれと戦う意志がないのならば

おれが彼に危害を加える道理もない。」

 

 

レオヴァの言葉に三人は顔を上げる。

 

 

 

「……おいどんは…アンタたちを討とうとしたんだど…?」

 

 

「……おれも父の為にお前たちを討ったんだ。

お互いに覚悟の上での戦いだった……それを持ち出すつもりはない。

……なにより、おでん殿のあの覚悟を(けな)したくはない」

 

 

「…っ…!」

 

 

止まった筈の涙が溢れる。

両脇にいる日和と狂死郎が優しく背をなでた。

 

 

 

「狂死郎たちと共に此処に住むのもいい。

外海へ出たいのならば支援は惜しまない。

他に何かあるなら、出来る限りを尽くそう。

………それがおれに出来る、おでんへの敬意の示し方だ

お前たち赤鞘の侍は尊敬すべき男達だとおれは思っている。」

 

 

 

この言葉をきっかけにアシュラ童子の口からは次々と想いが溢れた。

 

レオヴァは全てを包み込むようにアシュラ童子の話を優しく受け止め、お互いの想いを語り合った。

 

 

 

「そうか……お前の気持ちはわかった。

ならば、名を変える必要があるな…

……何か思い付くものはあるか?」

 

「いや……おいどんは…そう言うのは得意じゃないんだ

……レオヴァ殿…アンタから貰いてぇど!」

 

「……おれで良いのか?」

 

「あぁ!

おでん様と“同じ”意志を持ってオロチを討ったアンタなら…!」

 

「わかった。

……そうだな…酒呑童子(しゅてんどうじ)はどうだ?」

 

「酒呑童子……気に入ったど!

レオヴァ殿、これから世話になる……!」

 

「あぁ……よろしく頼むぞ、酒呑童子」

 

 

深々と頭を下げた酒呑童子にレオヴァは微笑みかけた。

 

 

 

 

 

 

──── これで三人目。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

元将軍城……改め鳳皇城へ戻った三人はレオヴァの淹れた紅茶を飲んでいた。

 

 

「ロー、この紅茶…ベポも飲めると思うか?」

 

「ミルクを入れれば飲めると思う……あと砂糖だな。」

 

「そうか!

なら戻ってきたらミルクティーにして出してあげるとしよう。

ドレークはどうだ? ストレートだから甘さは問題ないと思うが…」

 

「美味しく頂いてるよ、レオヴァさん」

 

「なら良かった。

そうだ、ドフラミンゴがオマケだと言って渡してきたクッキーも出しておこう。

きっとベポが喜ぶ。」

 

 

そう言って立ち上がったレオヴァにローが声をかける。

 

 

「レオヴァさん……今回の妖怪退治……初めからわかってたのか?」

 

「なんでそう思うんだ?」

 

「普段なら、おれとドレークで行かせるだろ」

 

「ドレークには娘の相手をしてもらいたかったんだ。

……一人だと少しばかり大変でな」

 

「…狂死郎を連れて行けば良いと言い出したのはレオヴァさんだった。

……おれも、そろそろ解るようになってきたんだレオヴァさん。」

 

 

そう言ってニヤリと笑うローにレオヴァも微笑む。

 

 

 

「そうか、ローも気付けていたんだな」

 

「“も”…?

他にも気付いてた奴が…………ドレークか」

 

「当たり前だ。

レオヴァさんは明らかに何か狙ってたからな。」

 

 

「まぁ、だが一つ誤解がある様だから言っておくが

アシュラ童子が来ると初めから分かっていた訳じゃない」

 

「……?

アシュラ童子が来たときレオヴァさん驚いた顔を“作ってた”じゃねぇか」

 

「あぁ……おれもそれで分かっていたからの反応だとばかり…」

 

「妖怪の正体は赤鞘の誰かだろう、程度の読みだった。

分からないからこそ、ドレークとローを念のために連れてきたんだ。

……来たのが話のわかる相手で本当に助かったな。」

 

 

いつもと違う笑い方のレオヴァに……

ドレークはそれでこそレオヴァさんだと微笑み、

ローは今日何度目かわからぬ溜め息を吐いた。

 

 

 

 

「ほらみろ……やっぱり魔王だ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

部屋へ戻ってきたベポは沢山のクッキーに目を輝かせる。

 

 

「レオヴァ様~!食べていい?食べていい~?」

 

「あぁ、好きなだけ食べていいぞ」

 

「やった~!!

あ、キャプテンにも少しあげるね!」

 

「少しかよ!?

いや、まぁ別にいらねぇけど……」

 

 

ウキウキでクッキーを頬張るベポにドレークが問う。

 

 

「……レオヴァさんに頼みごとがあったんじゃないのか?」

 

「うむぐ! ンモグ…ンム……そうだった!」

 

 

思い出した!という様に声を上げたベポはキラキラした瞳でレオヴァを見つめる。

 

 

「おれ……1回ゾウに帰りたいんだ!」

 

「……は?」

 

「…ア"?」

 

「…ん?」

 

 

 

 

この一言でレオヴァの次の遠征先が決まった。

 

 

 

 

 

 




ちょっとした捕捉

・アシュラ童子(以後、酒呑童子)
えびす町に住む日和の護衛として留まることになった。
おでんを尊重する発言が多い、かつ日和を守ったレオヴァへの好感は上がった。
ローへの感謝の想いも強い。


・ロー
原作よりも性格は歪んでいる。
レオヴァの引き入れ劇場を見ても「巧いな」くらいにしか感じない。
(自分はレオヴァから本当の信頼を得て入る自信がある)
最近はドレークの愚痴をたまに聞いてあげている。


・ドレーク
レオヴァからの任務なので日和との友人関係を頑張っている
正直少し文通が面倒に感じているが、真面目なのでこまめに返す。
クイーンからの当たりがキツくなって来たので早く日和担当から降りたい。
(クイーンに担当を譲りたいが、レオヴァから頼まれた仕事なので手離せずにいる)


・ベポ
圧倒的癒し枠
レオヴァの怖い部分には全く気付かないほど可愛がられている。
最近仲間だからと誰かれ構わずガルチューをしてはいけないと学んだ。
(ローと話していたジャックに挨拶代わりのガルチューをしようとしたら殴られ壁を突き抜けた)
レオヴァに休みを取らせたい時に突撃させる要員としてキングに目を付けられたりしている。


・元将軍城(現在は鳳皇城)
討ち入りでの戦いで荒れたこともあり、建て直された。
昔よりも丈夫な作りになり、色々な仕掛けが追加された。
(屋敷図は全てレオヴァにより処分された)
鳳皇としての仕事中のみレオヴァが滞在→寝泊まりは鬼ヶ島へ帰ってしている


ー追伸ー
呼び名ヤバイのでは!?というコメントございましたので変更いたしました!
へへ……カッコいいの思いついちまったぜ…(中二病)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

外海編
災いに覆われた国


[男主メモと関係性]を更新いたしました!
↑設定などまとめたものです。

前回も感想やコメント楽しく読ませて頂きました、ありがとうございます!
誤字報告も助かります、感謝です!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 

鬼ヶ島の一室にて。

 

 

「……と言うわけなんだが…

父さんに頼んでも良いだろうか?」

 

 

「上手くいきさえすりゃ、これ以上ねぇほどの手柄じゃねぇか!

ちょうど良いのを知ってる、準備は任せてレオヴァはそれに集中しろ」

 

 

「ありがとう、父さん。

こんな事……父さん以外には頼めねぇから助かる!

出来るだけ良い割合になるよう手を回すことに専念させて貰おう」

 

 

「ウォロロロロロロ……!!

それぐれぇ大したことじゃねぇよ…!

レオヴァの発想にゃ毎度驚かされるがなァ…

だが、油断するな…アレは中々やっかいだ。

 

……まぁ、レオヴァには言うまでもねぇことか!」

 

 

「勿論だ、今回はジャックも連れていく…油断はない。

……ふふ、父さんに心配されるなんて何時振りだ…?

 

あと、おれが戻って来たら例の発表をする手筈で良いのだろうか?

それによってジャックの仕事を増やそうかと思うんだが…」

 

 

「ガキの頃からレオヴァは危なっかしさの欠片もねぇからなァ

 

あぁ、それで構わねぇ。

戻って準備が終わる頃にはキングとクイーンも揃う様になってる」

 

 

「了解した。

では、おれはそろそろ向かうことにする。

……土産を楽しみにしていてくれ」

 

 

「ウォロロロロ~!

お前からの土産だ、楽しみにしてるぜレオヴァ!」

 

 

カイドウの言葉に微笑むとレオヴァはそのまま船へと向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ベポは目の前の光景に驚愕の声を上げた。

 

 

「え、えぇ~~!?

レオヴァさま!船で行くんじゃないの!?」

 

「どうしたベポ?

これも船なんだが…」

 

「いや、レオヴァさん…これは船とは別モンだろ…」

 

 

驚きと物珍しさにピョンピョンと跳ねているベポの隣でレオヴァが首をかしげた。

ローは更にその後ろで頭を抱えている。

 

そして、固まっている者を気にする事なくジャックは黙々と船へ食料など必要なものを積んで行く。

 

 

 

「れ、レオヴァ殿……これは一体……?

おれの知る船とはだいぶ違うようなのだが……」

 

「わぁ~!

わたし、こんなに大きな船初めて見ました…」

 

 

固まっていた狂死郎と小紫がやっと声を上げる。

 

 

「この船はおれの図案を元に、ワノ国の素晴らしい職人たちのお陰で完成した…謂わば空を行く方舟(はこぶね)だ。

これで、普通に海を渡るより速く移動できる。

…危険な外海に長く小紫を置くのは狂死郎も困るだろう?」

 

 

「確かに…!

奴隷として外海にいた者たちから話は聞き及んでおります。

小紫の安全を考えたら最善の策かと…!!

それにしても…まさかレオヴァ殿は船まで作れるとは

……流石は…鳳皇(ほうおう)の名を冠する御仁……恐れ入りました!」

 

「本当ですね……こんなに凄い船をお作りになってしまわれるなんて…!

ドレーク様のお話の通り、とても博識なのですね!」

 

 

「いや、二人とも待ってくれ。

これはワノ国の職人の皆の腕があってこそ作れた船だ。

おれが凄いわけではない。」

 

「はははっ! レオヴァ殿、ご謙遜を!」

 

 

 

話している三人の元へ荷積みを終えたジャックが降りてくる。

 

 

「レオヴァさん、全て運び終わった。

……連れて行くのはその4人で良いのか?」

 

「ジャック、荷積みありがとう。

そうだ、今回はおれを含めた6人で行く

……狂死郎と小紫の正体を知っている者は少ない。

なにより、二人の心を考えると他の者が居ては安心出来ないだろう。」

 

 

「わかった。

レオヴァさんが決めたことなら、おれはそれで良い。」

 

 

「……レオヴァ殿…お気遣いありがとうございます。」

 

「はい、わたしもまだ…慣れておりませぬゆえ…」

 

 

「いや、二人にとってもゾウは気になる場所だったのだろう?

気にしないでくれ。

元よりおれも可愛いベポの頼みで行く予定だったからな。」

 

 

「えへへ……レオヴァ様にお願い聞いて貰っちゃった!」

 

「ったく…里帰りが終わったらちゃんと働かせるからな!」

 

「アイアイ!キャプテ~ン任せてよ!」

 

 

 

まるで遠足に行くような気軽さの一匹をよそに、皆が船へと乗り込んだ。

 

 

 

「では、離陸する。

多少揺れるから小紫は狂死郎に支えてもらってくれ。」

 

 

レオヴァの言葉に頷くと狂死郎は小紫へ手を貸す。

 

 

その大きな方舟はレオヴァの操作に合わせて浮き上がると、そのまま輝く海の上を滑るように進み始めた。

 

皆は心地よい風を感じながら眩しい朝日に目を細める。

 

 

 

ゾウへのビブルカードを見つめるレオヴァの瞳を見たものはいない。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

数ヶ所の島を経由し、想定よりも早くゾウへと辿り着いた。

 

 

ゾウの背の上に船を浮かばせ終わると、モコモ公国を見下ろす。

 

 

「…ベポから聞いてはいたが予想以上だ……!

巨大なゾウの上に本当に町がある…

だが、何故川や森が……魚も食べると聞いているが養殖はしていないんだったな…?

ならそれは、どうやって海から何百メートルも上の土地へ届く?

いや、そもそも地質は……他にも何百年以上もゾウは皮膚の上に島を乗せて体に異常はないのか?

獣人族が住み始めた経緯と文明の発達の道筋も……」

 

 

 

レオヴァの突然の饒舌さに小紫と狂死郎は呆気にとられていたが、ローが説明に入る。

 

 

 

「……レオヴァさんは自然とか文化に目がないんだ。

初めて見るものを前にすると大体ああなるから、気にしなくていい。」

 

「そうだったのですね…!

わたしも初めて見る光景には気持ちが高ぶりますし、レオヴァ様にもそう言う所があると知れてなんだか嬉しいです…!」

 

「いやはや……! あれほど楽しげな姿は初めてお目にかかったが。

レオヴァ殿のその性格が、あの博識さや素晴らしき(まつりごと)の才として発揮されていると…!」

 

 

 

ローの話を聞き納得した二人を無視するかの様にジャックはレオヴァの下へと一直線に歩いていく。

 

 

 

「……レオヴァさん、どうせなら下に降りて直接遺跡を見に行った方が面白ェかと」

 

「…っと、それもそうだな。

見ているだけでは全て仮説にすぎない…

では、降りるとしよう。

船は空中にて待機させる、皆はおれの背に乗って地上へ行くぞ。」

 

 

「……?

レオヴァ殿は確かに6mほどの大きさの鳥になるが我らが乗るのは…

 ……な!?」

 

 

狂死郎の言葉の途中でレオヴァが黄金の巨鳥の姿へ変わる。

 

翼を広げたその姿はいつもの大きさの5倍はあるようだ。

あまりにも大きなその姿に言葉を失った狂死郎と小紫をローが能力で背の上へと移動させた。

 

 

 

「レオヴァさん、失礼します。」

 

「全員乗ったぞ、レオヴァさん。」

 

 

ペコリと律儀に頭を下げてから背に乗るジャックにレオヴァは微笑んだ。

そして、ローの言葉でゆっくりと地上へ舞い降りる。

 

 

 

地上に着くと、皆を下ろしたレオヴァの姿が元に戻る。

 

それと同時に姿が見えぬ何者かから声がかかった。

 

 

 

「貴様らは何者だ……!?

ここはモコモ公国、勝手な侵入は許さん!

名を名乗れ……!!」

 

 

「勝手に立ち入ってしまい申し訳ない。

おれはレオヴァ、後ろの者はおれの部下と連れだ!」

 

 

「……何をしに来たのかは知らんが立ち去れ…!!

今、この国には災いが降り注いでいるのだ」

 

 

「……災い?」

 

 

「えぇ!?そんな……!

災いって……こ、怖いよキャプテン……お化けかな?」

 

 

 

ジャックの後から覗いたベポの姿と声に何者かが反応する。

 

 

「……もしかして…ベポか!?」

 

 

ガサガサっという音と共に目の前にヒョウの獣人が現れた。

 

 

「あれ?……パンサルくん?」

 

「べ、ベポ!!

心配したんだぞ!?

兄を探しに行くと言って勝手に出ていって……!

まだ幼いお前には無理だと思っていた……もう、帰って来れないのではないかと…」

 

「ごめん…パンサルくん……」

 

 

大きなヒョウの獣人……パンサルが強くベポを抱き締める。

 

 

状況が掴めない中、レオヴァが声を上げる。

 

 

 

「……ベポが故郷へ一度戻りたいと言うから訪れたんだ。

なにか特別な用事があるわけではない……滞在は可能だろうか?」

 

 

「うん!レオヴァ様はとっても優しいし……ぜんぜん危ない人じゃないよ!

それにキャプテンと一緒におれを助けてくれたんだ!

美味しいご飯も作ってくれるし、強いし、とにかくスゴいんだよ~!」

 

 

レオヴァとベポの話を聞いたパンサルは軽く頭を下げた。

 

 

「まさか、おれの家族同然のベポの恩人とは知らず…失礼した!

……だが…滞在は勧められぬ……」

 

 

「な、なんで……?

レオヴァ様は本当に優しいのに……キャプテンだって凄いお医者さんで…」

 

 

「……災いとやらが関するのか?」

 

 

「……そうだ。

ここ数年……謎の病にミンク族が次々と倒れている…

原因も治療法もわからず……っ…ひつギスカン公爵様に続き……数日前にネコマムシ様までもついにッ……!」

 

 

「え、ネコマムシちゃんが……?!」

 

「ネコマムシが……よ、容態は……!?」

 

 

突然話に飛び付いた二人にパンサルは驚いた顔をする。

 

 

 

「ネコマムシ様を知っているのか?」

 

「あぁ……!

知っているもなにも共に同じ主に仕えた身だ!

……レオヴァ殿…名乗っても良いだろうか?」

 

「構わない。

ネコマムシが心配だ……やむを得ないだろう。」

 

 

「ありがたい、レオヴァ殿!

おれの名は傳ジロー……そして此方が日和様だ…!

ネコマムシから聞いたことはないか!?」

 

 

「な、なんと……!

日和様といえば……光月家の……?」

 

「そうだ!

どうか、頼む。ネコマムシに会わせて欲しい……!」

 

「…………証拠はあるだろうか?」

 

「おれの背に家紋がある。

……これで証拠は問題ないな?」

 

 

狂死郎が着物を脱ぎ、背の刺青を見せるとパンサルは目を見開き…そして頷いた。

 

レオヴァとその一行はヒョウの獣人の案内でネコマムシに会いに向かうこととなった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

たくさんのミンク族が集まる場所で、レオヴァと皆は紹介を受けた。

 

 

そして、そこでモコモ公国が今、二つに割れている話を聞いた。

 

日が昇っている間はイヌアラシが王として束ね

日が沈んだ後はネコマムシが王として束ねていると言う。

 

 

二人の仲がとても悪いと聞かされた日和と狂死郎は驚き、悲しそうな顔をした。

ベポの慰めもあり、一度会わなければ始まらぬと気を取り直しネコマムシが居る場所へ急いだが

そこで悲惨な状態を目の当たりにする。

 

 

 

病室のような場所は、呻き声をあげながら寝そべるミンク族で埋まっていた。

時折、叫び声まで聞こえてくる。

 

息を呑みながらも、足を進める。

 

 

奥の部屋の扉を開けるとそこには苦し気に寝息をたてるネコマムシが居た。

 

 

「……ね、ネコマムシちゃんっ……」

 

 

 

日和はその姿に思わず悲痛な声を上げた。

 

声にぴくりと耳が動いたかと思うと、ゆっくりとネコマムシの瞳が開かれる。

 

 

「……なんじゃあ……わしは夢見ゆうか…?

…いや、夢でも構わんき……日和さまぁ…

わし……なんも……おでんさまに返せんかった……

……オロチも……討てんと…情けのぉて……」

 

 

 

ぼんやりとした瞳で日和を映しながらネコマムシはゆっくりと手を前に出した。

 

日和はすぐにその手を掴むと涙汲みながら答えた。

 

 

「っ……そんなことない…

ネコマムシは父上の自慢の侍よ!

オロチは傳ジローとレオヴァ様が討ったわ……仇はとったの!

母上と父上のお墓も……レオヴァ様が綺麗な桜の側に立てて下さったわ……だから元気になったら、一緒にお墓参りに行きましょう?」

 

 

「暖かいにゃあ……日和さま…

……傳ジローと、レオヴァにゃ……礼言うきに…

…今…治しちゅうからのぉ……日和さまぁ…泣くことないき…」

 

「ネコマムシちゃんっ……」

 

「ネコ……!」

 

 

またゆっくりと閉じられていく瞼に焦ったように二人が声を出す。

しかしネコマムシの瞼は閉じたままだ。

 

それから、1時間ほど側で見守っていても、声をかけても起きることはなかった。

 

 

ネコマムシの手を握りながら、何も出来ぬ歯痒さに唇を噛み締めている二人の元にレオヴァたちの話し声が届く。

 

 

 

 

「……ジャック。

今、ローと共にミンク族の医者の話を聞き、患者の内部を見た所……寄生虫のようなモノが見つかった。

ここに入院している者を30人ほど見たが、全員からその虫が発見されている。

おそらく、この災いとやらは寄生虫が原因だろう。

おれが昔訪れた村の歴史書に、過去これと同じ様な症状で壊滅した町もあった。

…ジャックはおれと共に感染源の調査に向かおう。

ローは残り、ここの皆の症状と寄生虫の解析を頼む。

……一応、感染症の可能性も視野に入れながら進めてくれ。」

 

 

「了解だ、レオヴァさん。」

 

「わかった。

寄生虫と患者の症状でなにか分かれば、すぐに電伝虫で連絡する。」

 

 

 

 

「……レオヴァ様…!

ネコマムシやミンク族の方を……治せるのですか?」

 

 

「まだ確実な事は言えない。

だが、治せる可能性はある……!

ネコマムシとは良く色々な話をする仲だった…あの頃おれは勝手に友人の様に思っていたんだ。

……彼を死なせたくはない。

 

…二人は此処で食事などしないでくれ、寄生虫の感染源が分かるまではローの指示に従うように。

それから感染症の可能性も0じゃない。

気を付けてくれ………行くぞ、ジャック。時間が惜しい!」

 

 

 

一通り話し終えるとレオヴァはジャックを連れて、感染源を探しに向かって行った。

 

ローもミンク族の医者に囲まれながら研究を始めた。

 

 

病院にいた全てのミンク族がすがるように彼らを見つめている。

 

 

日和はミンク族の医者たちの手伝いを申し出て、シーツの交換や、食事を運んだ。

狂死郎もあらゆる事を手伝った。

 

 

 

そして、レオヴァたちがモコモ公国に着き、1ヶ月がたった。

 

仮説がほぼ確定となり

レオヴァ、ジャック、ローによる感染源の撲滅兼ワクチンの接種が始まろうとしている。

 

 

床に伏せる王2人と全てのミンク族の無事を祈り、日和は手を合わせた。

 

 

 




捕捉と質問返し

『人物』
パンサル(チーターのミンク族) 
ベポの兄の友人で、兄が海に出てからも面倒を見ていた。
数年前に居なくなったベポを心配する日々を過ごしていた為に毛並みが悪い。


『状況』
イヌアラシとネコマムシの帰還から1年後にこの病の様な症状が流行り始め、謎の病をミンク族はイヌアラシとネコマムシの不仲によって起こった災いではないかと噂していた。

現状、イヌアラシはまだレオヴァ一行には会っていない。
ネコマムシもあれは夢だと思い込んでいる。
ミンク族の人々は二人にレオヴァ達の事を話していない。
(病院内は患者と医者しか入れない為、医者は忙しく話す暇がない。
何より本人達があまり余裕がない)


Q.現状のローやドレーク、ジャックの身長は?
ドレーク:約192cm
ロー:約171cm
ジャック:約401cm
レオヴァ:約324cm


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

前を向く者には幸せを

モコモ王国とモコモ公国を誤植する大罪を犯しました、もちおです。

前回も誤字、誤植報告ありがとうございます!!
コメントに感想もありがたき幸せ……!!


今回、ジャンプにて出てたカイドウさんの能力のネタバレ?っぽいのありますのでご注意を…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 

おれにとって弟の様に大切な存在のベポが帰って来てから1ヶ月半が経った。

 

それまでモコモ公国は最大の危機に陥っていたのだがベポの連れてきた人間によって、この危機から救われた。

 

 

彼らはベポの恩人であり、そして我らの恩人となったのだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

モコモ公国は朝と夜に別れていたが、前代未聞の事態により朝も夜も関係なく皆は活動していた。

 

しかし、一向に解決の兆しは訪れず

皆が災いと呼び、半ば諦めていた。

 

 

だが、たまたまベポの里帰りに付き添いで来た人間達の必死の看病や研究により

なんと、特効薬と原因の究明に成功したという……!

 

 

皆はその報告に沸き上がった。

 

 

して、今まさにレオヴァと言う御仁と

その方に仕えるローという御仁から説明があると聞き、多くのミンク族が集まった。

 

 

 

『えー…ゴホンッ…では皆々様!

レオヴァ様とロー様がこの災いの正体を説明して下さりますので!

……お願いします!』

 

 

『あぁ、では研究の結果を報告させてもらおう。

まず、この災いの正体は

寄生虫が静脈内に寄生することで生じる疾患だ。

 

獣人の皮膚より寄生虫の幼虫が寄生、寄生された宿主は皮膚炎などの初発症状がみられる。

その後、高熱や消化器の異常といった急性症状が発現し成虫へと成長した寄生虫が血管内部に住み着き慢性化、寄生虫は血管内部で生殖産卵を行い、多数寄生して重症化すると肝硬変による黄疸や腹水を発症し、最終的に死に至ると言うのが

おれとローで患者たちと寄生虫を調べて解った。』

 

 

 

 

レオヴァの言葉に多くのミンク族が首をかしげた。

 

それに気づくと横にいるジャックがレオヴァに進言する。

 

 

『……レオヴァさん、もう少し簡単に説明した方が良いんじゃねぇかと。』

 

『確かに……少し複雑だったな。

 

…羊の医者よ、中間宿主などの説明は大幅に省いても構わないか?』

 

 

『えぇ!

我々医師は説明を受けましたので!

みなに分かりやすく伝わるのであれば、そちらの方が宜しいかと』

 

 

『承知した。

では、もう少し簡潔にまとめると。

 

災いの正体は寄生虫だ。

そして、その寄生虫はおそらく外から来ている。

ジャックと共に全て見て回ったが、寄生虫の生体は昼の王の住む泉周辺にのみ生息していた……その為、今後は泉に住む生体の一掃が終わるまでは近づかないように。』

 

 

レオヴァの簡潔にまとめた報告にやっと理解が追い付いたミンク族の者達は驚きに声を上げる。

 

 

『寄生虫……!?』

 

『い、泉ってあの……イヌアラシ様の泉か?』

 

『おれ……その泉の魚食っちまった……どうしよ…』

 

『寄生……って、治るのか?』

 

 

 

ざわざわとし始めたミンク族達にレオヴァの優しい声が響く。

 

 

『安心してくれ、この寄生虫はPGカンテと言う薬の単回投与で治せる。

重症化している場合もこの薬で寄生虫は殺せるから、あとは後遺症が残らぬ様に個別に治療すれば問題はない。

 

そして、この寄生虫を撲滅するためにミンク族全員の検査を行う。

大切な部下であるベポの故郷と友であるネコマムシを失いたくないんだ……どうか協力して欲しい。』

 

 

そう言い頭を下げて頼むレオヴァに

集まった全ての者たちは心打たれ、その優しさに天を仰いだ。

 

 

 

 

それからは怒涛の2週間だった。

レオヴァは宣言通りにモコモ公国の全国民の検査をし、患者たちを特効薬で次々と治していった。

 

 

だがそれだけではない、寄生虫が死んだ後の治療も全て自ら率先して行い

さらに後遺症の様な症状で苦しむ者に優しい言葉を掛け支えた。

 

 

そして最終的には後遺症も残ることなく、皆が普通に生活できるまでになったのだ。

 

 

 

イヌアラシ様の泉は完全になくなったが撲滅のためには仕方ないだろう、それに泉は他にもあるのだから魚の心配はない。

 

レオヴァは食料の事を心配して、珍しい食べられる植物の種と育て方まで教えてくれた。

 

全くもって至れり尽くせりである。

 

 

 

今や、レオヴァやロー達が歩けばガルチューの嵐で前に進めぬ程だ。

 

………ジャックは人見知りで挨拶が好きではないとレオヴァが言っていたので感謝のガルチューが出来ずにいる事は凄く残念だが…

 

 

 

 

 

オレはすっかり元気になった仲間達とレオヴァのくれた果実酒を味わった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ネコマムシは完全に調子が戻った身体をゆらゆらと振りながら日和と猫じゃらしで遊んでいた。

 

 

「うふふふ…ネコマムシ楽しい?」

 

「ゴロニャニャッニャ!

こんなに楽しいのは久々やき~ 日和さまぁ!」

 

 

「はっはっは ネコ!

もうそんなに動いても平気なのか?」

 

 

「おお!傳ジロー……!

もう完全に治っちゅう!

日和さまに傳ジローが居るき……寝てられんぜよ!!」

 

 

満面の笑みで二人を見つめるネコマムシとそれを微笑ましく眺めるベポ。

その後からローが部屋に入ってくる。

 

 

「みんな元気になって本当によかった~!」

 

 

「ベポ、入り口で止まるな。邪魔だぞ。

 

……レオヴァさんから頼まれてたミンク族の医師たちの指導がそろそろ終わりそうだ。

それが終わり次第、ワノ国に…」

 

 

「おんしは…ロー!

ゴロニャニャ…感謝の~…ガルチュ~!!」

 

 

ドスンと物凄い音と共にローはネコマムシの下敷きになる。

 

 

「ろ、ロー殿!?

おい!ネコ……!お前自分の大きさを自覚しろ…!!」

 

 

狂死郎の叫び声と共に部屋にレオヴァが入ってくる。

 

 

「……今、凄い音がしたが……何事だ?」

 

 

 

レオヴァの登場と共にネコマムシの空気が変わる。

 

 

 

「…………レオヴァか…

ちょうど話を…と思いよった所ぜよ。」

 

 

 

先程とは打って変わったネコマムシはドスドスと歩いて行きベッドへと腰掛けた。

 

彼はベポに人払いを頼むと重々しく口を開いた。

 

 

 

「……レオヴァ、全部日和さまと傳ジローから聞いたぜよ

おんしの事情も…憎きオロチん事も……日和さまん事も……全て聞いちゅう…

 

…………じゃが、わしは謝らんき。

 

 

 

「ね、ネコマムシちゃん……!」

 

「ネコ、お前……!」

 

 

ネコマムシの言葉に二人は顔を青くしながら声を上げた。

 

 

 

 

「…そうか、全て聞いたのか。

……おれもネコマムシに謝るつもりはない。」

 

 

「れ、レオヴァ殿……?」

 

 

 

困惑する日和と狂死郎をおいて二人は真っ直ぐと互いの目を見ている。

 

 

 

 

「おれには守りたい人がいた…だからあの戦いに全てをかけた。」

 

 

「あぁ……わしも守りたかった。

じゃき、仲良ぉしてくれちょったレオヴァに牙向けたがや……」

 

 

「お互いに全てを懸けたんだ……謝罪は相応しくない…

……ネコマムシ…元気になってくれて嬉しいよ」

 

 

 

本当に安心した様に微笑むレオヴァを見て、感極まった様にネコマムシは目にも止まらぬ早さでレオヴァに突っ込んで行った。

 

 

 

 

「ニ"ャ…"ニャ"ア"~~!!!

レオヴァ!日和さまを……皆を…!!

本当に感謝してもしきれんき……!!

わし……わしは……!!」

 

 

「ふふ……気にするな…

…おれに友だちだと言ってくれたのは今まででネコマムシだけだった。

本当に……元気になってよかった。」

 

 

 

巨体の突進を優しく受け止めたレオヴァはネコマムシの背を優しくたたいていた。

ネコマムシは感謝の言葉と会えた嬉しさを延々とレオヴァにぶつけている。

 

 

 

狂死郎と日和は邪魔しないようにと、残ろうとするローを引きずりながら部屋から出ていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

数時間ほど部屋でレオヴァと心を通わせたネコマムシはミンク族の皆が集まる広場へと向かっていた。

 

 

「ネコマムシ様、おはようございやす!!

……あれ?…ネコマムシ様……目元が赤く…」

 

 

「……気のせいやき!

わしは何があっても泣かんきのぉ……!」

 

 

目元を指摘されても先程のレオヴァに見せた雫の事はシラを切るネコマムシの元に気に入らぬ声が届く。

 

 

 

「……ならば、その植物をあちらへ。

なに?……レオヴァからの物だというのか?

…それは本当に害はないんだな?」

 

 

「えぇもちろん!

レオヴァさんが害のあるものなど渡してくるはずないじゃあないですか、イヌアラシ様!」

 

 

「……解らぬだろう。

しかと調べてからでないと、植えることは出来ん。」

 

 

「そ、そうですか……

わかりました、イヌアラシ様…」

 

 

 

嬉しそうに種を抱えていたミンク族の男が項垂れる。

 

 

 

 

「……国を救ってくれちゅうレオヴァからのモノを害扱いやが?

礼儀も恩も欠片もない態度じゃき……!」

 

 

「…ネコか……いつまでも寝ていてくれて構わなかったが…

忘れているようだから言っておくが奴は海賊だぞ?

海賊などいつ裏切るかも知れぬ輩だ。

国のため細心の注意を払うのは当たり前だろう!」

 

 

「なんじゃあ……?

海賊が皆、そういう奴らばかりじゃなき事は

おんしも良ぉ知っちゅうはずぜよ!!

……日和さまから話を聞いちゅうのに…まだ、そがな態度とるがか!?」

 

 

「っ……!

奴は……あのクイーンを従えているんだぞ!?

信用などできるものか!」

 

 

「部下にどがな奴おってもレオヴァはレオヴァぜよ!!

この国を……日和さまを救っちゅうことは事実じゃ……!

前に進まないかんのに、おんしは後ろばかり見ゆう!!

おでん様はそがなこと望んどらん……!」

 

 

「おでん様の想いを……貴様が知ったように語るな……!!」

 

 

 

広場の近くで、ついに二人のギリギリで保たれていた関係は殺し合いと言う形に変わってしまった。

 

まわりのミンク族の民たちは逃げるようにその場を離れていく。

 

 

 

「大変だ……!!

王たちが…あの時以来の……殺し合いを始めてしまった……

誰も……二人を止められない……!!」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

二人の争いは思わぬ展開を迎えていた。

 

 

息をきらすイヌアラシとネコマムシの間にジャックが立ち塞がっている。

 

 

「…退かぬか! レオヴァの部下……!!」

 

「下がっちょれ、ジャック……!!」

 

 

「お前たちの言葉を聞く義理はねぇ。

……お前らが傷つくことをレオヴァさんは望んでねぇんだ。

そろそろ寝てもらうぞ…!」

 

 

 

ジャックは二人の攻撃をさばいている。

ネコマムシはイヌアラシへ攻撃を向け、イヌアラシはジャックとネコマムシに攻撃を続けた。

 

 

ネコマムシもイヌアラシも攻撃をジャックがさばいている為に大きな怪我はないが、ジャックには複数目立つ傷があった。

 

 

寿命の縮む思いで見守っていることしか出来ぬミンク族の民たちはジャックを尊敬すると同時に心配していた。

 

 

 

「ジャックさん……すげぇな…イヌアラシ公爵とネコマムシの旦那相手に……」

 

「けど二人を傷つけないようにしてるせいで……ジャックさん血がたくさん出ちまってる…」

 

「たしかに……このままじゃ…」

 

「止めにはいるか……?」

 

「馬鹿いうなよ!

おれたちじゃ足引っ張って終わりだ……」

 

「あんなにジャックさんは王たちの為に体を張ってくれていると言うのに……わしらは…」

 

 

「あぁっ…!

じゃ、ジャックさんが……!!!」

 

 

悲鳴に近い叫び声にミンク族の民たちは息を呑む。

 

 

ジャックは膝を突いたネコマムシを庇おうと咄嗟に動いた。

 

そして、そのままイヌアラシのサーベルはジャックの身体を貫いたのだ。

 

 

 

「じゃ、ジャック…!!?

イヌ…おんし…ジャックになにしちゅうか!!」

 

「……間に割って入った時点で、奴も貴様も敵だ!」

 

 

「ぐっ……舐めるんじゃねぇ…おれは百獣のジャック…!!

この程度で…レオヴァさんの“二人を頼む”っつー言葉を完遂出来なくなるとでも思ってんのかァ……!」

 

 

 

ジャックの雄叫びと共にイヌアラシは殴り飛ばされた。

そこへ追撃しようとするネコマムシをジャックが見逃すことなく押さえ付ける。

 

 

しかし、殴り飛ばされたイヌアラシが再びサーベルを握り立ち上がる。

 

だが、素早く放たれたサーベルの突きがジャックにもう一度刺さる事はなかった。

 

 

 

「……貴様、戻って来ていたのか」

 

「レオヴァ帰ってきちゅうか!?」

 

「レオヴァさん……」

 

 

驚く三人に構わずレオヴァはイヌアラシの手からサーベルを奪うと、バチバチッと言う音と共に跡形もなく溶かしてしまった。

 

 

 

「……おれが皆の食べ物を集めに他の島へ行っている間に何があればこうなる?

 

家は壊れ、皆は怯え………おれのジャックに傷まで負わせて…

それが一国の王がやることなのか?」

 

 

 

ネコマムシは強張っていた肩を落とした。

 

 

「……言う通りぜよ……すまんき……レオヴァ…

わしは…皆んこと考えちょらんかった……」

 

 

「……海賊に王としての立場を諭されるつもりはない。」

 

「な!?

イヌ! レオヴァになんちゅう言い種じゃ!」

 

 

 

イヌアラシはその言葉に何かを返すでもなく、背を向け歩いて行ってしまった。

 

 

数時間に及ぶ二人の戦いは決裂という形で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

そして、その2週間後にネコマムシは正式に夜の王の座を高齢のひつギスカン公爵へと譲った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あれから3ヶ月が過ぎ、現在。

ネコマムシはワノ国に新しく“出来た”島に多くのミンク族を連れて移り住んでいた。

 

 

初めは不安を抱いて居るものも少なくなかったが、新しい島は自然が多くモコモ公国の環境に似ていたことや、百獣海賊団のコックが振る舞うあまりに美味い料理に心掴まれ、すっかり馴染んでいた。

 

 

好きな時に起きて、好きな時に寝ることができ

更にはネコマムシとワノ国の王であるレオヴァの仲は素晴らしく良かった。

 

今まで国のトップ同士の憎しみ合いともいえる対立に心痛めていた者たちは、移住した事は正解だったと喜んだ。

 

 

他にもゾウでは外の物など滅多に手に入らなかった為、レオヴァが運んでくるモノやワノ国でのお祭りなど物珍しいものや娯楽も、皆の移住生活を前向きにさせた理由の1つだろう。

 

 

 

 

 

 

ネコマムシは満足していた。

おでんとの想い出の地…ワノ国での生活に。

 

なにより此処には大好きな日和さま、傳ジロー、アシュラ、レオヴァがいる。

 

おでん様の死は言い様のない程に悲しかったが、

彼ならば前を向き進めと言うのだろうとネコマムシは思い

 少しずつだが確かに前を向き…進み始めた。

 

 

 

そして今暮らすこの島での役割は“ポーネグリフ”を守ること。

 

日和さまからの命にネコマムシは奮い立った。

土地は変われど、成すべきことは変わらず。

 

 

ネコマムシとミンク族は新たな土地で平和に暮らしながらも重要な役割を忘れることなく、日々励んでいる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「まさか鬼ヶ島の隣に動物ランドができるとは予想外だったぜェ……」

 

 

そう言うクイーンに俺は訂正をする。

 

 

「あれは、獣人島(じゅうじんとう)だ。

変な名で呼ぶのは止してくれ、ミンク族は穏和だが怒ると大変なんだ。」

 

 

「……まぁスゲェ化け猫もいるしなァ~…

カイドウさんが能力で島運んできた時は思わず叫んだが……移民連れてくる為だったのか」

 

 

「いや、あの島は研究の為に欲しかったんだ。

……まぁ結果、ミンク族の皆の住む場所になった訳だが。」

 

 

にこりと笑って見せるとクイーンは悪い笑みで俺を見る。

 

 

「そりゃミンク族の奴らツイてて良かったな!

“たまたま”レオヴァが気に入った島のお陰で移住場所には困らなかったワケだもんなァ…!」

 

 

 

ケタケタと笑うクイーンを無視してキングが呟く。

 

 

 

「ミンク族の件よりも……ポーネグリフだ。

まさか赤いモノを持って帰ってくるとは……」

 

 

「ウォロロロロ……!

まさか2つも手土産を持って帰ってくるとはなァ

それも……その内の1つがロードポーネグリフ…!!」

 

 

「これで2つは父さんのモンになったわけだが。

……問題は残り2つだ。

1つは…ビッグ・マム海賊団、もう1つの行方はわからねェ」

 

 

「……あのババァが持ってんのは厄介だなァ…」

 

 

「ビッグ・マムは追々として…

まずは最近手を付け始めた外の縄張りの強化を終わらせたい。

その後に……」

 

 

 

父さんやキング、クイーンと今後の予定や作戦のすりあわせを行い

俺は夜の宴までミンク族について思考していた。

 

 

 

 

 

今回のモコモ公国への訪問は急遽決めた事だった。

……それはクイーンのある発言が理由だ。

 

 

『……赤鞘で一番気を付けたいのがイヌとネコマムシだったんだが…』

 

『まァた悩んでんのかよ?

そんな気にしなくても、どうせ犬の方は死ぬだろ』

 

『……何故、イヌが死ぬと言いきれる?』

 

『おでんとの戦いの時に一発打ち込んだんだよ……レオヴァの失敗作をな!

ムハハハハ~! 経過を観れねぇのが残念だぜェ~!』

 

『クイーン……お前……!

あれは捨てろと言ったハズだが…?』

 

『…………いやぁ? おれは聞いてねぇなァ~…

…あんな面白ェの捨てるとか……』

 

『ハァ……人に使えないから失敗作だと言っただろう』

 

『だから動物に使っただろ?』

 

『まったく…クイーンも大概だ。

キングの趣味をとやかく言えないぞ…

……1つ聞くが…その話は他に話したか?』

 

『まさか……!

レオヴァのそう言うのは詳しくは、おれしか知らねぇよ!

カイドウさんは研究してんのは知ってるが内容までは聞いてこねぇし』

 

『なら、良いか…

いや待て……あれから数年か………使えるかもしれねぇな…』

 

『レオヴァお前また自分の仕事増やす気かよ!』

 

 

クイーンの

休んでまた遊郭行こうぜ!?と言う言葉を背に俺はあの寄生虫の特性を思い出していた。

 

そして、今ならまだイヌアラシは死んでいないと計算してモコモ公国へ行くことを決めた。

 

 

更に、このタイミングでのベポの願いは嬉しい誤算だった。

これで“ベポの里帰り”と言う隠れ蓑も手に入った。

 

 

 

その後、すぐにモコモ公国へ行き

ミンク族に恩を売り、ネコマムシとの仲を光月の女を使い戻した。

 

 

 

あとは勝手に二人の王は争い…決別した。

 

 

ジャックがあそこまで深傷を負ってもネコマムシを庇ったのに驚き、些か早く二人の前にでてしまったが……まぁ上手く行ったから良しとしよう。

……少し俺はジャックの真面目さを甘くみていた。

 

 

 

 

 

その後、怪我を治療するとネコマムシはおでんの娘と俺について行くと言い出し

夜の王国の民は皆がネコマムシに付いていくと決めた。

 

他にも数十人の昼の王国のミンク族も加わり、国の半数より少し多いくらいの民がワノ国へ来ることになった。

 

 

結果、多すぎず少なすぎず “良い割合” で戦士が手に入った。

 

 

 

 

 

その決定の後ネコマムシは、ポーネグリフはワノ国でおでんの娘と共に自分たちが守ると騒ぎだした。

 

 

 

『国の戦士は皆がワノ国に行く言うちょるき!

こがな手薄な場所で護れるとは思わんぜよ……!』

 

 

ネコマムシと多くの戦士達の言葉に

ひつギスカン公爵はついに折れ、ポーネグリフはネコマムシに任せると正式に決めた。

 

 

 

それからはトントン拍子に進み、父さんに予め頼んでおいた島に移り住ませ、友好関係が築けるように努めた。

 

今のネコマムシはワノ国の鳳皇兼、総督補佐官である俺の友人と言う立ち位置であり

獣人島の守り神という地位にいる。

 

 

そして、おでんの娘である日和も獣人島にアシュラ童子と共に移り住んだ。

 

狂死郎は

『……ワノ国の国民を恨んでいないと言えば嘘になる。

だが、レオヴァ殿への想いに嘘はない。

えびす町の大名としてこれからも使ってくれ……!』

 

と強い意志があったため、引き続き大名として働いている。

 

 

 

今回も予定と大きくズレることなく上手く話が進んだ。

 

 

良い結果に上機嫌な父さんの隣で俺は心から微笑んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その日、宴で百獣海賊団の船員達に大きな発表をした。

 

これはモコモ公国へ行く前に父さんと決めた事だ。

 

 

 

 

 

『皆、この度……百獣海賊団に新しく幹部制度を作った。

実力のある者や、手柄を多く上げたものは平等に幹部になる権利がある。

上を志す意志のある者はぜひ目指してほしい。

 

それでは、百獣海賊団初の幹部の発表をしようと思う。

……任命は百獣海賊団総督が行う…!

父さん、よろしく頼む。』

 

 

 

『あぁ、後は任せとけ

レオヴァの話は聞いたなァ、お前ら!

ウチの人数もだいぶ増えてきた…

今後は実力さえありゃ幹部にすることに決めた…!

 

…でだ、その幹部の中で一番上の地位は“大看板(おおかんばん)”とする……!

 

そして、その大看板の席は3つ。

 

 1人目に、キング……!

 2人目に、クイーン……!

 3人目に、ジャック……!

 

この3人を今から百獣海賊団幹部、大看板に任命する…!!!

 

今から1ヶ月間はこの3人に昼夜問わず挑む事を許可する。

 勝てば即幹部だ……!

 

だが、1ヶ月後からは指名挑戦制になる。

手柄を立てた奴が3人から1人を指名して、挑戦する制度だ。

まぁ、要は弱肉強食……欲しけりゃ1ヶ月の間に奪ってみろォ…!!

ウォロロロロロロ……!!!』

 

 

 

『『『『うおぉお~~!!』』』』

 

 

『幹部……おれもカイドウ様の役に立ちてぇ!』

 

『キング様は無理だな……ジャックの奴にしよう!』

 

『流石はクイーン様ァ…!!』

 

『……チッ…ジャックの餓鬼には勿体ねぇ肩書きだろ…』

 

『キング様が大看板……当然の抜擢だ…!』

 

『こりゃ、レオヴァ様の案だな~!

俄然やる気でるぜぇ!』

 

 

 

その後、1ヶ月間大看板への挑戦は続いたが誰一人として敵わず

改めて正式にキング、クイーン、ジャックの3人が大看板に決定した。

 

 

おそらく一番首を狙われたであろうジャックはピンピンしている。

この1ヶ月でジャックの強さは皆に証明されただろう。

 

……これでジャックをナメる馬鹿が居なくなって一安心だ。

 

 

 

 

 

しかし、俺は新たな幹部候補の一覧を見ながら溜め息をついた。

 

 

「今の百獣海賊団の中に…飛び六胞候補の目ぼしい人材はなしか……」

 

 

 

目の前で悩み事など1つもないと言う様な顔でクッキーを頬張りながら首を傾げるベポを俺は軽くつついた。

 

 

 

 

 

 

 




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き

カイドウにもガルチューするベポに凄いと言うコメント多かったので解説を!

・ベポ
おっきくて強いカイドウに憧れる。
最初は怖かったがお酒が入ってない時は優しい事を知ってからは匂いで判別してからガルチューしに行く。
乱暴ではあるが撫でてくれるので好き。


・カイドウ
第一印象はレオヴァが愛玩してるクマ。
ベポがオヤツを食べる時にレオヴァの所で食べさせると休むとキングから聞いたので、まぁまぁ気に入っている。
レオヴァの真似をして時おり撫でてやっている。
基本的にある程度実力のある相手には寛容なのでガルチューも気にしていない。
レオヴァがミンク族に揉みくちゃにされていた時は暫く笑いが止まらなかった。


・カイドウパパの島運びについて
原作にて“島”を能力で丸ごと移動させていたので、こちらでもやって頂きました(^^)

・持って来た島の立地について
島の位置気になる方は画像にてご確認ください。
↓これが大雑把な島の位置です!

【挿絵表示】




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

国を追われた者

毎度、誤字報告に感想感謝です……!!

コメントにてありましたのでアンケート実施しました~!
答えても良いよと言う方はお答え頂けたら嬉しいですm(__)m
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 

 

あれから獣人島の件が一段落つき、外のナワバリの調整もほぼ終わらせた。

 

使えるモノが有るナワバリは多めに人員を送り、少しの期間滞在し友好関係を築く……その繰り返しだ。

どの島でも似たようなやり取りばかりで少し疲れたが、百獣海賊団の発展の為には必要な事…手間は惜しめない。

 

他にもナワバリ維持のための船員の教育も手を抜くわけにはいかなかった。

 

なんでもかんでも暴力で解決しようとする者がどうしても多い……

友好関係を築けるように出来るだけ性格に問題のない者を中心に振り分けたが……やはり人手が足りない。

 

 

俺は少しばかり遠くまで遠征へと向かうことに決めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

長らく続いていた争いが幕を閉じた。

 

 

このディアス海戦終幕までの間

王から与えられた勲章を身に付け、俺は祖国の為に戦争の処刑人として尽くした。

 

汚れ仕事だという事は理解していた。

だが、愛する祖国の役に立てるなら構わなかった。

 

数百…数千人の人間の首を祖国の命に従い……捧げた。

全て……すべては祖国の為に。

 

幾千もの敵の首を刎ねる俺を海戦中は王も国民も英雄と呼んだ。

……しかし、海戦が終わった今は誰もが俺を蔑んだ。

 

 

──── ディアス海戦のA級戦犯

         “首はね スレイマン”

 

全ての者がそう呼び、俺を憎んだ。

 

そして、愛していた祖国に裏切られ……犯罪者という汚名をきせられながら国を追われた。

 

犯罪者として手配書が出回ってしまっている以上、まともな仕事など出来る筈もなく

傭兵や殺し屋のような仕事をしながら生きていた。

 

生きることに意味を見出だせず……かと言って自ら命を絶ち死ぬ事も出来なかった。

 

 

暫く後、俺は雇い主からある仕事を受けた。

 

『いくらでも払う、百獣海賊団カイドウの息子を殺せ。

アイツにナワバリを奪われたんだ……首をカイドウに送り付けてやる……!

……テメェには1年間も仕事をやった恩があるんだ…断らねぇよな?』

 

 

復讐心に顔が歪んだ男の言葉に俺は頷いた。

 

“レオヴァ”と言う青年は百獣のカイドウの息子だと言うが

死に場所を探す俺にはカイドウほど良い相手はいないだろうと、リスクを承知で受け入れた。

 

 

 

……だが、俺は間違っていた。

カイドウに辿り着くどころか目の前の青年に手も足も出ない。

 

傷1つ付けることも出来ずに膝をついた俺に止めを刺すでもなく彼は告げた。

 

 

『…悪いが自殺に付き合ってやるつもりはない

何を思い詰めているのかは知らないが……

…再戦を申し込みたいと言うのなら受けて立とう、出直して来い。』

 

実力、誇り、自信、知恵

彼は俺に無いものを全て持っているように見えた。

 

俺はその後も幾度となく再戦を申し込み……全敗した。

 

初めての事だった…

かの海戦でもこれ程までに敵わない相手などいなかった

……そして、俺に優しく微笑みかける人間もいなかった。

 

処刑人……それは国の命を受けた人殺し

敬遠対象とされ…処刑人は忌まわしい者として扱われてきた

だからこそ俺は身に付けた2つの勲章を誇りに想ってきた。

 

だが国に裏切られた今、この勲章など何の価値もない飾りである。

 

……俺は身に付けていた勲章を捨て去り、今一度彼に再戦を申し込んだ。

 

 

『……それは捨てて良いモノなのか?』

 

『構わない…

もうアレは俺には不要なものだ。

今まで縋ってきたが……それは間違いだった。

俺は……ただの男、スレイマンとして貴方に挑みたい…!』

 

『そうか……ならば、お前の心意気に応えよう。

百獣海賊団総督補佐官レオヴァ……この戦い受けて立とう…!』

 

『感謝する……! 』

 

 

ふっと柔らかく笑った彼は俺の申し出を受け入れてくれた。

今までの戦いで彼には敵わないことは分かりきっていた。

それでも、俺の全力を……俺自身の想いと力の全てを彼に見て欲しかった。

 

…亡霊のような姿を晒して終わるのだけは嫌だったのだ。

 

 

── しかし、俺の全てを懸けた戦いはすぐに幕を閉じた。

 

彼は何もかも、あらゆる格が違う。

……何もない俺が5分も刃を交えられたのだ…上出来だろう。

 

 

『……見事だ、敵わないな……貴方には…』

 

『…楽しかったぞ、スレイマン。』

 

『フッ……おれには……勿体ない…言葉だ……』

 

 

戦いを楽しかったと言ってくれる彼を最後に視界に収め、俺は崩れ落ちた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

目が覚めると俺は宿にいた。

どうやら彼は、また止めを刺さずに宿へ届けたらしい。

 

包帯や縫い痕のある体を見て、彼が治療してくれたのだろうと苦笑いが洩れた。

 

 

『……薬代くらい…おれの財布から抜いてくれれば良いというのに』

 

呟きながら俺は肩の傷を撫でた。

 

全てを懸けた戦いで敗けたが、清々しい気分だった。

どうやら本当にあの国に囚われすぎて視野が狭くなっていた様だ。

 

俺の叫びに答えた彼の言葉を思い出す。

 

 

『…祖国を想う気持ちは素晴らしいが……

それに縛られ身動きが取れなくなるくらいなら

 祖国への想いなど捨ててしまえばいい

 

……お前のそれは依存だ、忠義じゃない。』

 

 

…確かにあれは依存だったのだろう。

 

処刑人という立場上周りから距離をとられ、必要とされなかった俺は……海戦で必要とされた時に嬉しさを感じた。

 

 

“見返りは要らない”

その自分が王に誓った言葉は嘘だったと今になって自覚した。

 

俺は尽くす代わりに信頼や人との繋がりが欲しかったんだろう……

 

今さら気付いた事実に俺は情けなさに頭を抱えていたが

部屋に訪れた気配に、思考に沈んでいた意識を浮上させる。

 

ベッドから立ち上がるのと同時に、荒々しく扉が開かれた。

 

 

「動くな……!!

ディアス海戦A級戦犯…“首はねスレイマン”!!」

 

「本物だ……手早く捕縛するぞ!」

 

「抵抗する場合は武力行使に出る…止まれ……!!」

 

 

部屋や外には囲むように海兵たちが集まっている。

俺は未だ痛む傷を庇いながらも、海兵たちを掻い潜り雇い主の下へと走り抜けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

流石に彼との戦いの後に、あの数の海兵は荷が重かった様だ。

 

雇い主の下へと着いた時には歩くのがやっとの状態になっており、(ろく)な抵抗も出来ず地に伏した。

 

……俺はまた、裏切られたのだ。

 

まさか、海兵を仕向けて来たのが雇い主だったとは…

 

 

『役立たずが……テメェら!早くコイツの首を持って海兵から金をもらってこい!!

カイドウの息子を殺せなかったんだ、せめておれの資金源になってもらうぞ…ディアスの戦犯…!!』

 

 

全くもって酷い笑い話だ。

数えるのも億劫になるほど首を切りつづけ “首はね” と呼ばれた男の最期が裏切られ首をはねられて終わるのだから…

 

因果応報……瞼を閉じると同時に、その言葉が過った。

 

 

「もう、テメェは必要ねぇ……!」

 

 

その言葉と同時に、雇い主は雷に打たれ炭と化した。

 

衝撃に固まった俺や雇い主の部下たちの後ろにいつの間にか青年が立っている。

 

 

「そうか、要らないなら貰っても構わないよな……?」

 

 

彼はそう言うと手から光る槍を“作り出し”、周りで呆ける男の部下たちを一掃した。

 

 

俺はただ、彼の行為をずっと見ているだけだった。

 

そして、周りに立っている者が彼だけになる。

縛られ膝立ちになっている俺の前に来ると彼は光るトマホークを作り出し、投げた。

 

 

縛るものは切れ、俺は自由になった。

 

 

 

「おれはお前に勝った。

……敗者は勝者のものだと思うのだが…

 …スレイマン、お前はどう思う…?」

 

 

「貴方の言う通りだ。

勝者には敗者の全てを握る権利がある。」

 

 

 

「なら、スレイマン……おれと共に来てくれるか?」

 

 

「……従えと言えば良いのに、疑問形なのか…?」

 

 

「おれは無理やりに意思を曲げさせて部下にしたい訳じゃない

それに、お前のことが気に入ったんだ。

……あぁ、断っても手は出さないから本心から答えて欲しい。」

 

 

「…貴方は天使の様でもあるし悪魔の様でもある……」

 

 

「それは…褒めているのか……?」

 

 

きょとんとした顔で首を傾げた彼に俺は笑った

本当に悪魔か天使か分からない青年だ。

 

……だが1つだけ確かな事がある

彼は俺を一人の人として尊重し、必要としてくれている。

 

 

彼と共に行きたいと叫ぶ俺の心に嘘はつけない。

 

 

 

「勿論、褒めている。

……貴方と共に行かせてくれ…おれの生涯を捧げると誓おう。」

 

「生涯か……少しばかり誓いが重いなァ…スレイマン」

 

「こういう性分なんだ……レオヴァ様」

 

「呼び捨てで構わないのだが…?」

 

「仕える主を呼び捨てにするなど、有り得ない事だ。」

 

「……分からない奴だな」

 

「貴方も大概だろう?」

 

 

そう言って笑ってみせるとレオヴァ様も笑う。

 

傷だらけの俺は主に支えられるという不甲斐ない姿のまま、レオヴァ様の船へと向かった。

 

 

国を追われてから今まで笑うことも出来なかった俺は

レオヴァ様に会い、笑えるようになった。

 

彼に全てを捧げ、尽くすことこそが残りの人生の生きる意味だ。

 

 

レオヴァ様は見返りを与えてくれる。

 

俺が望んだ人との繋がり、生きるための金、尽くせる主君たち

そして……揺るがぬ大きな“信頼”

 

 

彼は見返りを求める卑しい俺を肯定してくれる。

祖国ではただひたすら尽くすことが美徳とされていたが

レオヴァ様は寧ろ、見返りは当たり前だと俺に説いてくれる。

 

『お前はおれの為に動いてくれているんだ

その働きに見合う対価を貰うことの何が悪い…?

もっと欲しがれ…お前は海賊である、おれの大切な部下だ。

無欲は時に仕える相手を不快にするぞ…スレイマン?』

 

そう言って俺に笑いかけてくれるレオヴァ様がどれ程眩しかったか……

 

俺は沈まぬ太陽と共に歩む資格を得られた。

 

 

そして、彼は更に俺への信頼を表すかのように

 “悪魔の実”を授けてくれたのだ。

 

 

それは超人系の悪魔の実……ゴルゴルの実だった。

 

資金源としても戦闘能力としても使える この力をレオヴァ様は手ずから俺へ与えてくれた。

 

“最大級の信頼”

 

ずっと俺が欲しかったものだ。

 

いつもレオヴァ様は俺自身を見てくれる

───彼こそが全てであり世界……!

 

 

俺は百獣海賊団に敵対する愚かな者共を黄金で縛り付け処刑を行いながら、胸に輝く彼を象ったエンブレムに触れた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

報告書を読みながらレオヴァは満足げに笑う。

 

思わぬ拾い物であった “首はねスレイマン” は予想以上の働きをみせているのだ。

 

実力も申し分なく、更には政略にも強い。

 

元々、国に仕えていた為か民衆への態度や部下の使い方も悪くなかった。

 

 

過去に余程おざなりな扱いを受けたのか、レオヴァが普通に接するだけで初めは狼狽えていた。

 

しかし、今では要望も口に出すようになり、笑うことも増え

仕事以外ではレオヴァの側近のような態度をとるまでになった。

 

そして、スレイマンのその態度や仕事振りを見たレオヴァは保管していたゴルゴルの実を与えたのだが

それ以降、更にスレイマンの盲信のような忠誠は加速した。

 

 

『アレ、部下ってより信者じゃねぇの……?

ずっとレオヴァレオヴァうるせぇし…あんなのが側にいて疲れねぇのかァ?』

 

と、クイーンに精神的なストレスを心配されるくらい

スレイマンのレオヴァへの忠誠は病的なほど高かった。

 

 

だが、レオヴァは重すぎるスレイマンの忠誠を受け止め続けている。

彼にとって大切なのは人格ではない。

どれだけ百獣海賊団……カイドウに尽くせるのかだ。

 

 

レオヴァは今日も仕事をおえたスレイマンに微笑みながら労りの言葉をかける。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

酒瓶を手に頬杖をつくカイドウと、おしるこ鍋を片手に抱えたクイーンの前で部下が報告を続ける。

 

 

「……と言う訳で、スレイマン入団から半年が立ちましたが奴はなかなか優秀です…!

レオヴァ様の横を我が物顔で陣取ってるのは羨ま……ゴホゴホッ

…頂けねぇですが、戦闘だけでなくナワバリの調整の腕もいいようです。

 

なによりゴルゴルの実の力で資金に困らねぇのが大きいかと…!」

 

 

カイドウは報告を聞き終わると、部下に下がるように言い

部屋にはクイーンとカイドウが残る。

 

 

「レオヴァがあんな物理的に金になる実を持ってたとは思わなかったぜ……!」

 

「オペオペの実と一緒に悪魔の実を手に入れたとは言ってたからなァ…

金策に使えるものだと上機嫌だったのは、こういう事だったか」

 

「……欲のない奴に食わせるってのは良いけどよォ…

カイドウさん的にはアイツ……良いんスか?」

 

「ウチによく尽くしてるじゃねぇか

役に立つ奴だとレオヴァも言ってる。

……何か報告にねぇ問題でもあったのかァ…?」

 

「……いや、カイドウさん的に問題ないなら良いっす。」

 

 

首を傾げたカイドウにクイーンは苦笑いで返す。

 

あの金魚のフンの如くレオヴァに付きまとう狂信者を

役に立つからと言う理由で盲信をスルーした器が大きいのか

ただ気にしないだけなのか分からぬ性格に

クイーンは血は争えねぇなァ……と独り言ちた。

 

 

 




後書き
↓スレイマン捕捉

・スレイマン
現在は資金作りとナワバリを襲う賊を消す仕事をしている。 
仕事人間だが、最近は休むことも覚えた。
ドレーク、狂死郎とは相性がいいが、クイーンとは微妙。
一度、獣人島にてレオヴァに飛び付いてきたネコマムシに驚き剣を抜く事件はあったが、すぐに和解した。
休みの日はワノ国の民の手伝いをドレークと共にしているので民衆から人気がある。
本人は民との交流を嬉しく思っており、根は善人寄りである。
レオヴァとカイドウの事となると少し直情的になりやすい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

捨てる者あれば拾う神あり

今回、最後に小話あります!(part2で終わる予定です)

感想、誤字報告助かります!コメントなどもありがとうございます~!!

アンケートのご回答もありがとうございます!
男女比や新人類の方々や超越者さまに驚いております(^^)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 

 

 

 

大海原を船が漂っている。

 

 

大きな船は流れに任せ揺れるだけで、操舵手は見当たらない。

 

晴れ渡る空とは対照的なその船は、まるで幽霊船のようであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

今、船に乗っている私たち146人はいつ餓死してもおかしくない状態だった。

 

大きな鉄の船……私たちにとっては監獄だ。

 

何故こんな思いをしなければならないのか…

……私はただ人を救いたい……その一心で医者になったと言うのに…

 

 

 

この地獄が始まったのは先代の国王が亡くなり

その後継者として王になったワポル国王が原因だった。

 

 

ワポル国王は就任してまもなく、“医者狩り”を始めたのだ。

そして、私たち146人は捕まり……海へと放り出された。

 

 

この船に航海士などいない

居るのはワポル国王を拒んだ医者のみ。

 

ワポル国王は十分な食料も積ませずに私たちを海へと捨てたのだ。

 

名目上は追放と言う形だったが、こんなもの…死刑となんら変わらないじゃないか……!

 

 

少なかった食料はすぐに底をつき

私たちは生きるために、雨水や革靴、皮ベルトなどを食べて過ごした。

だが……もうそれも残りわずかだ………

 

 

 

4人の仲間が死んだ。

……生きるためには、亡骸を食べるしかないと言う者も出始めている。

 

 

── もう、限界だった。

 

 

 

 

しかし、私たちを乗せた船は偶然にも島へ漂着出来たのだ。

 

皆、喜びに震えた……!!

 

島にある葉や木の実を無我夢中で貪った。

ただ問題があった……その島は小さな無人島なのだ。

生きるにはあまりに過酷…

 

けれど、私たちは諦めずに1ヶ月間 何もない島で生き抜いた。

 

そうして、死に物狂いで生活していると

無人島に船が現れ、人がやって来たのだ。

 

 

私たちは直ぐに助けを頼むべく船の下へと向かった

十代の若者や老人だっていた……皆限界を超えて生きてきたんだ…

これ以上はきっと耐えられない…

 

縋る思いで船から降りてきた男達に駆け寄って行った私たちの代表は…………撃ち殺された。

 

 

 

「貴様ら!なぜ、この島にいる!?

この島が誰のものかわかっているのか!

……お前達、この小汚ない者共を捕らえろ!」

 

 

代表を殺した男の掛け声に答え、多くの兵士が私たちに向かってくる。

 

 

ギリギリの生活を続けていた私たちに抵抗など出来る筈もなく……

生き残っていた私たち138人は縛り上げられ、一人ずつ鞭で打たれ、何故この島に居るのかと問いただされた。

 

遭難者であることや国を追われた事も話したが兵士達は信じてなどくれない。

 

 

…人を救うために日々努力し、医者になったと言うのに……

国を追われ…人とは思えぬ生活を強いられ……挙げ句にこの仕打ちだ…………もう、耐えられない…

 

私は辱しめを受けるくらいなら、舌を噛み切って死ぬつもりだった。

 

 

……だが、突如その必要はなくなった。

 

 

私たちを痛め付け、侮辱を与えたもの達は海の藻屑と化したのだから……

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

私たち元ドラム王国の医者の生き残り138人は

角の生えた青年とその青年に付き従う騎士風の青年

斑模様の帽子を被った少年、そして人語を喋るクマに助けられたのだ。

 

 

この3人と1匹の方々は兵士たちを一瞬で制圧すると、張り付けにされた私たちを次々と解放し

さらに手当てまでしてくれたのだ。

 

 

私たちは泣きながら必死に頭を下げて礼を述べた。

 

彼ら……レオヴァ様、スレイマン様、ロー様、ベポ様のお三方と一匹は私たちに何を求めるでもなく休めるように毛布などを配ってくれる。

 

 

毛布にくるまり、今までの生活と長時間に及ぶ拷問に疲弊しきった私たちの下に大きなワゴンが運ばれてきた。

 

とても良い匂いのするワゴンに私たちは目が釘付けになる。

口を開けたまま動かない私たちにベポ様が声をかけてくれた。

 

 

「みんな~!

レオヴァさまがご飯作ってくれたよ!

えっとね……スープとおこめ!

レオヴァ様の作るご飯はスゴい美味しいんだよ!」

 

 

笑顔でお皿を準備してくれるベポ様の補足をするようにスレイマン様が告げる。

 

 

「カボチャ豆乳スムージーと、鮭とほたての出汁粥だと言われただろう、ベポ。

お前たち、これはレオヴァ様が作ったものだ。

味も栄養も全てが完璧……心して食べるように。」

 

 

用意されたお皿にスープとお粥を注ぎながら教えてもらった料理名を皆が呟き、目の前のご馳走を目元を押さえながらも味わった。

 

 

スムージーはカボチャや蜂蜜……それから、すりおろした生姜などが入っている様だった

ほんのりとした自然の甘さが舌を優しく包み、腹と心を満たしてくれる。

 

私はあまりの美味しさに直ぐに平らげてしまった。

 

そして、温かな粥もゆっくりと口に運んだ。

ホタテのうま味たっぷりの出汁とほぐされた焼き鮭が全身に染み渡る……

しっかりと煮込まれているのか、ホタテも鮭も口の中でほろほろと崩れた。

 

皆、美味しすぎるスープと粥を味わい尽くしている

 

 

私が空になった皿を握りながら皆の粥を見ているとレオヴァ様が現れ、空の皿におかわりを注いでくれた。

 

 

「皆、ゆっくり食べてくれ。

食材はまだまだある

無くなっても、またおれが作ろう。

……ベポ、欲しがっている者の皿に注いで回ってやってくれ

スレイマンはおれと共に寝床の準備を、ローはベポの面倒を見ておくように。」

 

 

レオヴァ様は私たちが安心出来るように優しく言うと、スレイマン様と共に空へと飛び立って行った。

 

 

 

暫くすると島の上空に大きな船が降りてきた。

 

私たちは余りの出来事に言葉も出せずにいると、船はそのまま海岸へと降り立った。

 

中から出てきたスレイマン様に誘導され

私たちは船の中にある、ふかふかなベッドで一夜を過ごした。

夢のような出来事だったが、私は助かったのだと心から喜んだ。

 

 

 

次の日の朝も、食べ進める手が止まらぬほど美味しい朝食をレオヴァ様が作ってくれた。

そして、食べ終わった私たちはロー様に呼ばれ

船の中の広間に集められた。

 

 

「昨日は良く休めただろうか?

おれ達は、やるべきことを終えたので国に帰るのだが

一度乗りかかった船だ、途中で放り出すつもりはない。

皆を望む場所まで送って行こう……して、何処の国出身なんだ?」

 

 

レオヴァ様の言葉に皆が押し黙った。

そう、レオヴァ様達には遭難したとしか伝えていなかったのだ……

帰る国などない…

いや、帰れるとしても二度とあの土地に踏み入ることなどない!!

 

国王は勿論、国民たちとて見ているだけで私たちを助けようとしてくれなかった……

そんな人間たちの居る国など御免だ…

 

押し黙った私たちにロー様が話しかけてくれた。

 

 

「…黙ってたんじゃ分からねぇよ、何かあるならハッキリ言え。

レオヴァさんは差し伸べた手を引っ込めるような真似はしねぇから…大丈夫だ」

 

 

ロー様の言葉に私は覚悟を決めた。

 

 

「れ、レオヴァ様!

実は……私たちは国を追い出されたのです…」

 

 

レオヴァ様は驚いた顔で問いかけてくる。

 

 

「追い出された…? 何故だ。

何か罪を犯したのか?」

 

私は力なく項垂れ、首をふる。

 

 

「罪など……罪など犯しておりません…

医者だから……追い出されたのです…」

 

「医者だから……?

すまない、辛いだろうが…詳しく聞かせてくれるか?」

 

 

項垂れた私の肩に手を置き、レオヴァ様は優しく話を聞いて下さった。

 

 

嗚咽混じりに全て話し終えると、スレイマン様が怒りに震える声を隠そうともせず呟いた。

 

  

「……身勝手が過ぎる…!

そんなもの王でも国でもない…愚か者の巣窟だ……!」

 

 

ベポ様も私たちに同情し泣きながら怒ってくれる。

 

 

「そ、そんなの……酷すぎる…ぅう……

…皆すごい頑張ってお医者さんになったのに!

勉強たいへんなの、おれも知ってる……なのに!」

 

 

ロー様は帽子を深くかぶり表情が見えないが、ベポ様の背を優しく撫でながら呟いていた。

 

 

「……どこにでもクズは居るもんだ…」

 

 

私たちを想い怒って下さる優しさに、嬉しさと安堵が沸き上がった。

力が抜け床に座り込みそうになった私をレオヴァ様は優しく支えてくれた。

 

 

「……よく分かった。

なら、暫くおれが皆の住む場所の面倒を見よう。

ワノ国には医療施設がある

そこで働きながら、今後どうするかを考えるといい。

何処か移り住みたい場所が出来たら、そこまで送って行こう。

……だからもう、安心してくれ」

 

 

私は無礼だと分かっていたがレオヴァ様に抱きつき、安堵から泣き続けた。

周りの皆もお互いに抱き合い泣いていた。

 

レオヴァ様は泣く私に 

『今までよく耐えた……頑張ったな』

と優しい言葉をかけ続けてくれた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あれから私たちはワノ国の医療施設の仕事をもらった。

 

ワノ国は素晴らしい……!

住む人々は優しく、礼儀正しい。

それに国全体の治安もよく、食べ物も他とは比べ物にならない程の旨さだった。

 

 

医療施設での給金はとても多く、生活には困らない

それに清潔さと設備が段違いだ。

 

レオヴァ様自身が船医だったらしく、私たちの知らぬ病気の治し方や対処方なども教えてくださる。

 

ロー様に至っては天才と呼ぶのが相応しいほどの医術の腕…!

 

私はロー様に教えを乞い、更なる医術の進化に貢献しようと奮起した。

 

 

ワノ国での医者としての生活は順調だ。

私たちをお医者様と言って尊敬し、感謝の気持ちを常に伝えてくれるワノ国の皆さん

 

忙しい中、わざわざ時間を作ってまで土産を手に様子を見にきて下さるレオヴァ様。

海賊や外の穢れから私たちを守ってくださるカイドウ様。

他にも手伝いに来て下さるスレイマン様やドレーク様

そして可愛らしい笑顔で元気を下さるベポ様。

 

 

レオヴァ様は何処か移り住みたい場所が出来たら送ると行って下さったが

私たちはワノ国から出るなんて考えられなくなっていた。

 

外は穢らわしい人間で溢れている…

そんな人間を治すのも関わるのも御免だ。

 

私たちはワノ国の皆さんと百獣海賊団の御仁様方だけを

怪我や病気から救えればいい。

 

 

 

 

レオヴァ様が土産といって渡して下さったクッキーを食べながら私は幸せを噛み締めた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

クイーンは報告書を見て驚きを通り越して笑ってしまっていた。

キングはそれにマスクの下の顔をしかめる。

 

 

「うるせぇぞ、クイーン……!」

 

「ムハハハハハ……!!

いや、もうこんなの笑うしかねぇだろ…!

あの医療で有名なドラム王国の医者を100人以上連れ帰ってきたんだぜ!?

しかも当初の目的の貴族の持ってた悪魔の実も回収出来てるしよォ…!」

 

「レオヴァ坊っちゃんが遠出したら必要以上に成果を上げんのはいつもの事だろうが」

 

「どう考えても“必要以上”のレベルが高ェんだよ!?

そうだよなァ!カイドウさん……!!」

 

「ウォロロロロロ……!!

国に居ても外に出てもレオヴァの成果にゃ驚かされる…!

流石はおれの息子だぜ、レオヴァ!!」

 

 

そう言ってカイドウは声高らかに笑った。

 

 

レオヴァにとって、手に入ったら上々程度に考えていた医者はカイドウやキング、クイーンを驚かせるには十分な利益だった。

 

 

そもそも何故、レオヴァはあの島にいたのか……?

 

それはあの島の所有者である貴族の持つ悪魔の実を手に入れる為だった。

そして、その島は偶然ドラム王国の側にあった為に追放された医者たちも手に入ったと言う話だった。

 

偶然とは言ってもレオヴァの行っている情報収集で

追放された医者が周辺に居ることは予め分かってはいたが……

 

レオヴァはなに食わぬ顔で“偶然”助けた医者たちの面倒を見続けるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

【おまけ小話 part1】

 

  ~ 俺こそが ~

 

 ジャック&ドレーク編

────────────────

 

[ジャック編]

 

 

持っていた木枠のジョッキを砕いてしまうほどに、ジャックはイラついていた。

 

少し前に入ってきた男が敬愛するレオヴァから悪魔の実を授かったことは百歩……いや千歩譲って良いとしよう。

しかし、我が物顔でレオヴァの横を陣取っている事はいただけなかった。

 

 

『レオヴァさんがあそこまで手をかけてやる程の実力者ってわけでもねぇ…』

 

そう思ってしまうのも仕方ないだろう。

現に今、ジャックの実力は百獣海賊団の中では上から数えて5番目なのだ。

スレイマンではジャックを倒すことは出来ない。

 

だがしかし、その男の忠誠心や働きをジャックは悔しいが認めざるをえなかった。

ゴルゴルの実を与えられたと言うことはレオヴァに気に入られている。

その事実が見えないような馬鹿ではない。  

 

何より奴はジャックには出来ない“内政”という面でレオヴァの負担を減らしているのだ。

妬ましくはあるが、仕事ばかりで休む間もないレオヴァの仕事量が減るならば……と容認する他なかった。

 

 

けれどもジャックは自分が負けたとは思っていない。

確かに自分は内政や細かいことは苦手だが

カイドウやレオヴァの敵を叩きのめす為の実力があるのだ。

 

それにカイドウ直々に “大看板” という地位まで貰っている。

 

ジャックは広い心でスレイマンを見逃してやる事にした。

なんせ自分は“一番最初”に拾われ、レオヴァから直接戦闘を教わり

尚且つ、“弟のようだ”とまで言われたのだ。

 

 

『……おれが他の奴に負ける筈がねぇんだ!

おれは百獣海賊団 “大看板”のジャック……!!

 なんの問題もねぇ…!!』

 

ジャックは自分がレオヴァから

この中で一番頼られる男だと信じて疑わない。

 

 

 

────────────────

 

[ドレーク編]

 

 

ドレークは新しい仲間であるスレイマンとは息が合った。

 

何せ二人は共通点が多い。

スレイマンは国に裏切られて捨てられ

ドレークは親に裏切られて捨てられた。

 

そして、最初はレオヴァの敵であり

一切敵わなかったという所まで一緒だったのだ。

 

二人は夜通しレオヴァの素晴らしさを語り合いすっかり意気投合した。

 

 

他にも仕事がない時や早く片付いた時は二人で村や町に赴き、人々の手伝いを進んでやった。

 

どうやら二人は尽くす性分という所までも同じ様だった。

 

同志と呼べる間柄になった二人だったが、ドレークは少しの焦りがあった。

それはスレイマンがレオヴァの側近を自称し、我が物顔で隣を占領している事だ。

 

ただでさえ、ローやジャックは悪魔の実を直接レオヴァから貰っているというのに

スレイマンまでもが貰ってしまい、益々ドレークは焦った。

 

だが、ドレークはレオヴァの言葉を思いだし自分を落ち着かせる。

 

 

『ドリィ、お前のその諜報能力は百獣海賊団随一だ。

それに周りを見てサポートする能力にも長けてる…

ウチは()が強い奴らばかりだからな……頼りにしてるぞドリィ』

 

そう、自分にはジャックにもローにもない能力がある。

スレイマンにもあるにはあるが、彼はレオヴァやカイドウの事になると冷静さに欠ける所がある……

 

自分の周りを見て合わせる能力は過去の出来事が原因だったが、今はもう吹っ切れている。

 

この個性を伸ばして行けば自分こそがレオヴァに頼られる存在なのだと、ドレークは確信していた。

 

 

─────────────────────

 

 




後書き

Q、ローやベポ、ドレークの現在の立ち位置は?

A、ローはレオヴァの近衛隊、ベポはローの部下、ドレークも近衛隊です。

今後もう少しメンバーが増えたら、近衛隊から真打ちや飛び六胞になります~!

小話次回はロー、ベポ、スレイマンの3人を書く予定です。
気が向けばネコマムシ、ヒョウ五郎、狂死郎編もかくかもです(^-^)/


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

掴みかけた希望

前回も誤字報告と感想ありがとうございます!!
読み返して下さっている方までいて嬉しさの極み……!
絶賛スランプ中なので更新遅くなります|゚ー゚)ノ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 

 

ワノ国の医療技術発展に“図らずも”貢献したレオヴァにカイドウからの休暇命令が下った。

 

 

 

 

『最低でも1ヶ月は休め……!!

上手いもん食って、好きに島巡りをする…

それがおれからの命令だ…!絶対に休め!!

 

本当ならおれも行くつもりだったが、外でナメた真似しやがる馬鹿共に灸を据えてやらなきゃならねぇ…

……これは、今回の禁止リストと監し…護衛メンバーだ、目を通しとけ。』

 

 

 

『1ヶ月も休み…?

………しかし…命令なら…そうだな……了解した…

いつも気を配ってくれてありがとう、父さん。

 

…だがそうか、父さんは一緒には来れないのか……』

 

 

『そう、落ち込むんじゃねぇレオヴァ!

次は絶対に時間を作る。

そうしたら2人で海軍基地でも潰しに行くぞ…!』

 

 

『それは楽しみだ……!!

………ところで…父さん、禁止リストの内容が増えているんだが…?

それに、こんなに護衛は必要ない。

おれに付けないで他の任務をやらせた方が父さんの面倒事も減ると思うんだが……』

 

 

 

『いや、監…ン"ン"ッ……護衛役は必須だ。

特にジャックは楽しみにしてんだ…連れてってやれ。

 

で、まぁ……ジャックが行くと言ったらわらわらと集まっちまってなァ…

一人として譲らねぇんだ、五人連れて行ってこい。

 

禁止リストは少しばかり増やしたが、問題ねぇだろ?

休む上ではなんら支障はねぇ筈だからなァ。

 

あと、任務はキングとクイーンもいるんだ、気にすんじゃねぇ

……いいか、しっかり休め。

船の操作も航空士としての役割も、なにもするな!

全部その五人にやらせろ。

お前は命令だけして美味いもんでも食いながらゆっくりするのが任務だ……いいな?』

 

 

『ジャックが楽しみにしてたのか……ふふ、なら連れて行くとしよう。

 

だが、何もしないのも手持ち無沙汰だな……』

 

 

 

『我慢しろ…!

暇なら前に買い込んでた医療書なり歴史書でも見て、島に着くまではゆっくり過ごせ。

……命令だ。

レオヴァ、休むのが任務だってことを忘れるんじゃねぇぞ…!』

 

 

『…父さん、わかってる……そんなに念を押さなくてもゆっくりしてくるよ。』

 

 

『土産もいつもの変な置物とかで構わねぇからな?

成果を出して帰ってくる必要はねぇ……休め。』

 

 

『…父さん、あれは変な置物じゃなくてだな

イアモと言うタスーイ島の歴史的な石像で未だに謎が多く不思議かつ独特な造りを…』

 

 

 

タスーイ島の石像について説明を始めたレオヴァを見て

また始まったか、とカイドウは笑いを溢しながら楽しげに酒を呷った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

父さんからの禁止リストを片手に船室で、俺は暇を持て余していた。

 

なにせ、本当にやることがない。

 

 

船の操作や指示出しはジャックがやってしまうし、電気タンクの充電は国を出る前にカヅチが完璧に終えていた。

 

料理も父さんが選んだコックが居る。

 

他にも掃除など全てドレークとスレイマンが器用にこなしている様だった。

 

 

…………これは、本当に暇すぎる。

 

 

 

今後の方針や遠征先、取り組み案などをまとめようかとも思ったが…

禁止リストに乗っている為、断念せざるを得なかった。

 

……このリストの増えた部分はキングの進言だろうな…

全く…俺の行動を予測する有能さに喜ぶべきか悲しむべきか……

 

 

 

暇になったときにでも読もうかと思い持ってきた本があったが、想像以上にやることがなく……すべて読み終わってしまった。

 

 

 

目的の島に着くまで俺はローとベポの漫才の様なやり取りを微笑ましく眺めながら過ごした。

 

 

 

…………父さんへの土産は何にしようか…

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

深海にある綺麗な島についた六人は船を降りた。

 

 

来る途中は海王類に怯えて静かだったベポが元気を取り戻し、満面の笑みでレオヴァに抱きつく。

 

 

 

「うわぁ~!!

海の中はハラハラしたけど、スゴいキレイな島だね!

レオヴァさま、おれレストラン行きたいよ!!」

 

 

「おい、レオヴァ様のやりたい事が何よりも優先に決まっているだろう。

はしゃぐ気持ちはわかるが、優先順位を違えるな…ベポ。」

 

 

「うん、わかったよ~…

あ! かき氷食べたいね、レオヴァ様!」

 

 

「返事だけか貴様……!」

 

 

「まぁ、落ち着けスレイマン

ベポには言うだけ無駄だ。」

 

 

「……まったく…ロー、しっかり躾けておけ。」

 

 

「なんで おれなんだ……ネコマムシに言えよ」

 

 

 

「てめェら騒がしいぞ……!

…レオヴァさん、どうする……島巡りからするのか?」

 

 

 

ベポを叱るスレイマンをドレークが宥める。

 

ローはベポの保護者の様な扱いを受け、不満気味に眉をしかめた。

 

 

その賑やかな四人にジャックは渇を入れると

すぐにレオヴァの要望を聞くべく、くっついたままのベポを剥がして横に並んだ。

 

 

そんな五人のやり取りに笑いながらもレオヴァはジャックに掴まれたままのベポを助けてやると、少し考える素振りを見せたあと微笑みながら答えた。

 

 

 

「…実は魚人島に来るのは2度目でな。

観光はあとにして、レストランに行こう

…その後に珊瑚の仕入れにも行きたい」

 

 

「カイドウさんから仕事はさせるなと言われてる。

…珊瑚の仕入れは仕事かレオヴァさん…?」

 

 

「内政にも少し使う予定はあるが、装飾加工用や民たちへの土産だ。

あとは少し実験にも使いたくてな…まぁ趣味の範囲だ。」

 

 

「……わかった、土産や趣味なら問題ねぇ。

レオヴァさんのやりたい事を優先させろとも言われてるからな」

 

 

「ジャックがこの遠征の指揮役だったな。

……わかってるとは思うが観光に来ただけだから争い事は避けるんだぞ?」

 

 

「勿論、わかってる。

今回はおれが指揮するんだ、絶対にレオヴァさんの休暇は邪魔させねぇ……!!」

 

 

「…気合い入れすぎじゃないか? ジャック……」

 

 

 

 

目をギラギラさせながら気合いに拳を握りしめるジャックにレオヴァは苦笑いを溢した。

 

 

二人の相変わらずの会話にドレークとローはやれやれと言った様にお互いに目を見合った。

 

 

そして、レオヴァの掛け声で見た目も個性もバラバラな六人はレストランへ向かったのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

広間では魚人島の王妃である“オトヒメ”の演説が延々と続けられている。

 

 

それを聞きに集まっている魚人や人魚たちの表情は明るく希望に浮き立っているように見えた。

 

 

 

次々と署名を箱に入れていく魚人島の国民たちを嬉しそうに眺めるオトヒメを守るように立っている三人の息子たちも広場で国民たちに挨拶をしながら笑っている。

 

 

 

 

レオヴァはそれを眺めながら隣にいるドレークに小声で命を出した。

 

 

「……ドレーク、あの魚人を見張ってくれ

嫌な話が聞こえた……何かあれば報告して欲しい」

 

 

「了解だレオヴァさん。

……“動く”と言う認識で良いのだろうか?」

 

 

「いや、確定じゃない……がそれも想定に入れてくれ」

 

 

 

レオヴァの言葉に頷くと、ドレークは人混みに紛れて見えなくなっていった。

 

 

少し離れた売店を見ていたローが目を細める。

 

 

「…また何かするのか………おれに言ってくれりゃいいのに」

 

 

「キャプテ~ン!

かき氷食べようよ~…!」

 

 

 

ローの呟きはベポの呑気な呼び声にかき消された。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その日も私は子どもたちや島の未来の為に多くの署名を募っていた。

 

 

一週間の地上での説得を終えて、この魚人島に戻って来て以来、たくさんの……本当にたくさんの署名が集まっている。

 

 

みんなが笑顔で箱へと希望をどんどん入れていってくれる。

 

私はみんなの希望や想いを“感じとって”いた。

 

 

 

もう少し……もう少しなの…!

 

 

 

きっと全て上手く行くわ。

 

可愛い私の天使たち…貴方たちの未来はこの母がきっと明るく素敵なものにしてみせる……!!

 

 

私はいっそう活動に励んだ。

 

 

 

 

 

 

……そう、ありとあらゆる事が順調に進んでいたの…

だからきっと私…油断しちゃったのね……ごめんなさい…

私の天使たち……貴方たちを泣かしちゃうなんて、お母さんダメダメね……けどもう大丈夫だから…泣かないで……

 

 

 

……あぁ、私の愛おしい彼にも…また怒られちゃうわ…

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【おまけ小話 part2】

 

 

  ~ 俺こそが ~

 

 

 ロー編

 

──────────────────────

 

 

 

ローはスレイマンが入団して以降の、ジャックやドレークの焦りが手に取るように分かっていた。

 

 

特にドレークは自分はまだ悪魔の実を貰っていないと項垂れている時があり分かりやすい。

 

 

そんな二人にローは溜め息をつく。

 

 

なにも焦らなくともレオヴァが自分達を捨てるなどあり得ない。

レオヴァは他とは圧倒的に違うのだ。

 

なによりあの優しさを受けているのに不安になるのは

レオヴァを信じていないと言っている様なものではないのか?とローは思っていた。

 

 

しかし、口には出さない。

 

 

張り切ってナワバリを増やそうとするジャックも

諜報活動でレオヴァの利を増やそうとするドレークも

 

自分の価値には追い付かないだろうとローはほくそ笑む。

 

 

ジャックは一番レオヴァとの時間が長いとマウントを取るが

ローの方が最近では側にいるし、今後時間などいくらでも作っていけるのだ。

マウントにすらならないとローは鼻で笑った。

 

 

ドレークは周りに合わせ、上手く事を運ばせる力や諜報活動に長けていると言うが

おれも諜報活動くらいできる……周りに合わせるのは癪だが、仕事なら我慢しよう。

そう、ドレークにやれるなら自分だって上手くこなせるのだとローはニヤリと笑う。

 

 

スレイマンはゴルゴルの実さえなけりゃ敵じゃない。

…だが、レオヴァの行う事に資金は必須。

それを理解しているからこそ、スレイマンの我が物顔の行いを許してはいるローだが…面白くはなかった。

 

 

ベポは…………論外だ。

あれはもふもふしたマスコットだとローは認識している。

寝るときに一緒に寝ているが、あれはベポが勝手についてくるだけなのだ。

決してローがもふもふに弱いわけではない……そう、別にベポを可愛がってなどいない。

 

 

 

 

 

 

だが、ローはなんだかんだ皆の事が嫌いではない。

 

 

ジャックは何も考えずに突っ込んで行くし、粗暴かつ偉そうな態度を取る奴だが

人一倍責任感が強く、必要であれば周りの話を聞ける。

 

ドレークは真面目すぎてたまに暴走するが

お人好しで、面倒見が良く補佐業務も上手い。

 

 

ベポはいると騒がしいし、ワガママも多いがレオヴァに休憩をとって貰うには必須要員だ。

……それにまぁ、可愛いところもある。

 

 

スレイマンは融通が聞かないし、いつもレオヴァの横を陣取って周りに睨まれているが

幅広くなんでも器用にこなすし、仕事も早い。

 

 

なにより全員がカイドウとレオヴァを尊敬し、慕っている同志の様なものだ。

 

 

なにかと競いあってはいるがローにとっては兄弟のような存在だった。

 

 

 

 

 

 

だがしかし、ローは内心では一番自分がレオヴァに必要な存在だと思っているのだった。

 

 

 




めちゃくちゃスランプで筆が石像レベルで重い……だがしかし!!感想のお陰で元気はいっぱいです!!
本当にありがとうございます~!!
[ いつもの数倍語彙力消失しております お許しを!]


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

阻まれた悪意

 

燃え盛る署名箱から飛んできた火の粉を受けて手に大きな火傷を負ったオトヒメ王妃は元来の体の弱さもあり

大量の煙を吸ってよろめいてしまっていた。

 

広場にいる魚人や人魚は全員が突然の火災に目をとられオトヒメ王妃の異常に気づかない……火傷の痛みと煙で意識が朦朧とした彼女は石の演説台の端から下へ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、彼女を一人の人間が抱き止める。

 

 

周りがオトヒメ王妃の落下と人間に気付くと同時に銃弾が王妃を襲った。

 

 

守備についていたジンベエが悲鳴に近い声をあげる。

 

 

「ッ!! オトヒメ様っ……!」

 

 

 

三発の冷たい銃声音が響く。

 

 

 

 

そして、そこにいた誰もが驚愕に目を開き固まった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

広間で鎖に縛られ掴まっている五人の若い魚人を広場中の者たちが睨み付けている。

 

 

 

 

「よりにもよってネプチューン軍の兵士がオトヒメ王妃の命を狙うなど…!」

 

 

「許せねぇよ……オトヒメ様を撃ち殺そうなんてっ!」

 

 

「……しかもそれを人間のせいにしようとしてたって…」

 

 

「こんな奴ら……いなくなった方がみんなの為じゃないか?」

 

 

「オトヒメ様のお気持ちを踏みにじる行為じゃねぇか!!」

 

 

 

皆が口々に怒りを溢していく。

中には死刑と言う言葉まで出始める始末だ。

 

 

怒りに染まる民衆に凛とした声が響く。

 

 

「皆さん……!! 怒りにとらわれないで!

確かに彼らのやろうとしたことは大きな過ちです……

けれど、過ちを認め……やり直すチャンスは誰にでも必要です……!」

 

 

手から肩にかけて痛々しく包帯を巻いたオトヒメ王妃が呼び掛ける。

 

 

黙ってしまった民衆たちの上から今度は別の声が降ってくる。

 

 

 

「オトヒメ…

チャンスの前にまずは反省の期間と罰が必要じゃもん!

……兵士たちよ、こ奴らを牢屋へ…!」

 

 

「彼らと話を……!」

 

 

「もう、奴らと話すことはないんじゃもん!!

……体験も意思もない空っぽの憎しみにとらわれたナニカ……それが奴らじゃもん…」

 

 

 

険しい顔のネプチューン王にオトヒメ王妃も口をつぐみ、泣き腫らした顔の子どもたちを優しく抱き締めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

『何故こんな真似を……!

過去、貴様らの身に何があった…!?

人間に何をされたというのじゃもん…!!』

 

 

『下等生物共になんざ、なにもされてねぇさ……!

おれたちは人間に裁きを与えるべく天によって選ばれた……!!

……オトヒメの人間と共になんて言う考えは最低な消えるべき思想だ!!』

 

 

 

ジンベエとジャックと言う男に捕まったネプチューン軍の兵士

……ホーディはそう言い放ったのだ。

 

 

 

その言葉にジンベエもネプチューン王も王子たちも

そして居合わせた民衆も皆が言葉を失った。

 

妄想に取り憑かれた男とその取り巻き達の手によって

あともう少しで魚人島の光であるオトヒメ王妃が消されてしまう所だったのだ。

 

 

あの時、もしも居合わせた人間がオトヒメを身を挺して守っていなければどうなっていたのか……

 

それだけではない、ジャックと言う魚人がホーディを取り押さえなければ事実すら闇へ消されていただろう。

 

それに身体の弱いオトヒメ王妃の大火傷を手早く処置していた少年もいなければ……最悪オトヒメ王妃は腕を切り落とさなければならない可能性もあった。

 

 

 

 

 

 

 

それから、この最悪の事件を救ってくれた彼らはとても変わった一味だった。

 

 

人間が三人と魚人が一人、さらに熊までいるという見たこともない組み合わせだ。

 

さらには、その一味の人間と魚人は兄弟の様にお互いを想い合う強い絆で結ばれてすらいた。

 

 

 

ジャックという魚人はホーディが撃った弾が人間

……レオヴァに怪我を負わせたと、凄まじい形相で狙撃場所へと突撃し、一瞬で犯人を捕らえた。

 

 

 

 

『魚人が下等生物に使われやがって……!!

人間の奴隷でいることで満足なのかァ…!?』

 

 

その後、捕まったホーディの悔しさの滲む醜い叫びに

 

 

 

『レオヴァさんが下等生物だァ…!!?』

 

『おれの弟同然のジャックが奴隷だとォ……?』

 

 

と同時に返し、その怒りを周りに(なだ)められていた。

 

 

 

 

なによりも皆を驚かせたのは駆けつけたネプチューン王と、身を挺してオトヒメ王妃を救ったレオヴァの会話だった。

 

 

 

『ありがとう人間の青年よ……!

なんと礼を言ったら良いか…

そうじゃもん!城に招待しよう……!

宝もある、酒や食べ物も…ぜひ礼をさせて欲しいんじゃもん!!』

 

 

『その申し出は身に余る光栄だが……

先にそちらの王妃のちゃんとした治療と燃えてしまった広場の復旧を優先させてはくれないだろうか?

他にも、あの火災で怪我をした者たちもいるようだ…おれはその治療を手伝わせてもらいたい。

 

……王からのせっかくの誘いを無下にしてしまい申し訳ない…』

 

 

 

そう言って頭を下げたレオヴァを見た皆が驚いた。

 

自分も怪我をし、疲れていると言うのに

人間の彼が魚人や人魚たちの為にまだ協力してくれると言うのだから。

 

 

 

『……お、おぬし…!!

感謝の言葉しかないんじゃもん…!!

ぜひ、手伝ってほしい!』

 

 

感激に涙汲むネプチューン王に微笑むと、レオヴァは少年を連れて多くの魚人や人魚を手当てし

瓦礫や燃えかすなどをジャックやクマ、他の二人の人間を連れて片付けまで手を貸してくれたのだ。

 

 

 

オトヒメ王妃を狙った恐ろしい犯罪者たちは捕まり、荒れていた広場も片付き

民衆は少しずつ日常を取り戻して行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あの事件から4日が経ちネプチューン王とその家族たちは、やっと感謝の食事会を開けると大いに喜んだ。

 

 

そして、その食事会場に向かう途中の会話にてレオヴァの今の立場を聞き、驚きの声をあげた。

 

 

 

「なんと…!

海賊でありながら王まで務めていると言うのじゃもん!?」

 

 

「あぁ、今はワノ国の王をやらせてもらっている。」

 

 

「しかもワノ国……!?

さらにはあの百獣の息子で…海賊団のNo.2…?

お、驚きすぎて疲れたんじゃもん…」

 

「ち、父上様……!

母上様の命の恩人であるレオヴァにそんな失礼な態度を…!」

 

 

「いや構わない。

むしろ先に海賊だと言っておくべきだったな……

海賊と言えばあまり良い印象もないだろう…せっかくの招待だったが辞退させて……」

 

 

 

申し訳なさそうに眉を下げ、辞退すると言い出そうとしたレオヴァの声を遮るようにネプチューン王の慌てた声が降ってくる。

 

 

 

「ま、待ってほしいんじゃもん!

わしは海賊にも色々いると知っている……!

現に大海賊時代以降この島が平和になったのも“白ひげ”と言う海賊の助けあってこそ……

……不躾な言い方をしたのはすまなかったんじゃもん…」

 

 

大きな身体を曲げて謝るネプチューン王にレオヴァは困った顔をしながら答えた。

 

 

「止してくれ、ネプチューン王

貴方に頭を下げられては困ってしまう…」

 

 

 

 

なんとも言えない空気の二人を見たしらほしは目を潤ませながら、おずおずと声を出す。

 

 

「お父様…わたくし……皆さまと一緒にご飯食べるのを楽しみに…ぐすっ……レオヴァ様は帰ってしまわれるのですか…?」

 

 

 

「し、しらほし!

泣かなくても大丈夫じゃもん!」

 

「おれも今日の食事会を楽しみにしてたんだ。

……帰ったりしないから泣かないでくれ」

 

 

 

ネプチューンとレオヴァの前でぽろぽろと泣き出した。

しらほしを二人は一緒に泣き止ませようと声をかけた。

 

 

 

そんな光景をネプチューン軍のジンベエや兵士たち、オトヒメ王妃も王子たちも微笑ましく見守っていた。

 

 

 

 

 

その日の食事会でレオヴァとその部下たちと、ネプチューン王とその家族や兵士たちは

まるで昔からの友のように和やかに楽しい時間を過ごすのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

レオヴァたちが宿へと帰った後、ネプチューン王とオトヒメ王妃、ジンベエの三人で話をしていた。

 

 

 

「財宝を少しも受けとらんとは……

しかも、代わりに求められたのがバブリーサンゴと加工用のサンゴの貿易…

………礼をしたいと言うのにこれでは、わし達に利益が出てしまっているんじゃもん!!」

 

 

 

「財宝を受けとるどころか魚人街の改革の提案書までくれとる……この案が上手く行けば…あの無法地帯を変えられる…!

ネプチューン王……!わしはレオヴァ殿との貿易に賛成したい!

今後も彼なら信頼できる……それに国同士の関わりを作るのも大切だとわしは思う!」

 

 

 

「無論、わしもレオヴァとの貿易には賛成じゃもん!

……ただ礼をさせて欲しいだけだというのに…」

 

 

 

レオヴァから手渡された改革案を大切そうに抱えたジンベエと、礼を受け取って貰えずに落ち込むネプチューン王にオトヒメ王妃が微笑む。

 

 

 

「彼のお陰もあり、島のみんなが人間への前向きな気持ちを持てるようになりました。

彼との縁は大切にするべきですわ!

 

…彼は本心から魚人であるジャックさんを大切にしているようですし、とても良い人に見えます!」

 

 

 

「本心から……と言うと、オトヒメ王妃のあのお力で?」

 

 

「はい、一度だけですけど!」

 

 

「いや、逆に聞こえたのはいつじゃもん……?」

 

 

「…ホーディと言う若者がジャックさんを悪く言ったときですわ。

彼は本当にジャックさんを大切に思ってるみたいで、とても怒っていらしたの…

ジャックさんも本当に怒ってましたわ。

 

…皆が彼らのように種族など関係なくお互いを想い合える……そんな世界になれば!

きっとわたしと貴方の可愛い天使たちの未来も明るいわ!」

 

 

 

力強く理想を語るオトヒメ王妃を優しい瞳でネプチューン王は見つめた。

 

 

 

 

その横でジンベエはレオヴァの態度や言葉を思い出し、ただひたすら心打たれている。

 

 

 

 

 

『王と言う立場は大変なんじゃもん……

レオヴァはその歳で王になって大変なことはないのか?

わしが相談に乗るんじゃもん……!』

 

 

そう言って胸を張るネプチューン王に笑いながらレオヴァは返す。

 

 

『ふふふ…ありがとう、ネプチューン王。

だが、特に苦労はないんだ。』

 

 

『そうか……

国の頂点に立つことは大変だが、それを苦に感じないのは凄いことなんじゃもん…!

……もとからレオヴァは素質があるのかも知れん。』

 

 

『いや、おれが目立った苦労なく王としての責務をこなせるのは支えてくれる者たちが居るからだ。

皆がおれを助けてくれるからこそ、おれは民の為に成すべき事を成せる。

……それに何かあれば相談できる頼れる父もいる』

 

 

 

 

このやり取りがジンベエの中に特に印象深く残った。

 

 

どれだけの者が権力を手に入れて尚、感謝を忘れずに謙虚な姿勢を保てるのだろうか…

 

少なくともジンベエは、ネプチューン王と白ひげ以外に権力…または膨大な力を手に入れても変わらず思いやりを持てている者を知らなかった。

 

 

海賊だということが信じられない程に柔らかい物腰と王としての威厳のある立ち振舞いの切り替えの上手さ。

そして、周りへの気配りや人情厚さに親しみやすさまで、ありとあらゆる面がジンベエには眩しく映ったのだ。

 

 

 

「……レオヴァ殿か…」

 

 

 

そう呟いたジンベエの顔には笑みが浮かんでいる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

あの食事会から1ヶ月半が経ち、魚人街の改革をある程度手伝ったレオヴァたちはこの後の新たになる魚人街の為にスレイマンを残し

ワノ国を見たいと言うジンベエとフカボシを連れて一度ワノ国へ帰る手筈となった。

 

 

 

 

 

しかし、コーティングされた船の前でネプチューン王たちは困り果てていた。

 

 

何故なら、しらほし姫がワノ国へ帰ろうとするレオヴァにしがみつき離れないのだ。

 

 

 

「ひっく……ぅう…わたくしもっ……連れていってくださいませ!

うっ…ぐす……居なくなっちゃいやですっ…」

 

 

 

そう言ってレオヴァの上着を掴んで離さないしらほし姫にレオヴァは助けを求めるようにネプチューン王を見たが、当の本人は眉を下げて首を横に振るだけである。

 

 

微笑ましげに笑うジンベエの横で慌てたようにフカボシが説得を始めた。

 

 

「し、しらほし……!

これは異文化を勉強するために行くのであって、決して二度と会えなくなるわけではないんだぞ?」

 

 

「ぐすっ……なら…わたくしも行きます…!

……もうレオヴァ様と遊べないなんて悲しいですっ!」

 

 

「いや、だからな?

4ヶ月ほど待てばレオヴァはまた戻ってくるんだ…!」

 

 

「よ、4ヶ月もお会いできないなんてっ……お兄様もレオヴァ様も一緒にいてくださらないとイヤです…!」

 

 

「うぉお!?…しらほし!」

 

 

 

側まで説得に来たフカボシは突然引っ張られ体勢を崩した。

そしてそのままレオヴァと共にしらほし姫に抱き抱えられる形で捕まってしまった。

 

 

「うぅ…お兄様もレオヴァ様もずっとここに居てくださいませ~!うぇ~ん!!ひぐっ……ぐす…」

 

 

「しらほし……レオヴァも困っているだろ…?」

 

 

「だって……だってぇ…うぅ~……」

 

 

 

その後も30分ほどしらほし姫は泣き続け

皆が困り果てていたが、オトヒメ王妃の説得によりなんとかレオヴァと一行は魚人島を出発することが出来たのだった。

 

 

 

 

「レオヴァ……妹がすまなかった…」

 

「いや、気にしないでくれ。

…兄想いの良い妹じゃないか」

 

「…! そうなんだ!

しらほしは母上様に似て優しくて、本当に良い子で!

レオヴァの父上殿に会うのも楽しみだ!」

 

「ふふ…おれもフカボシに会わせるのが楽しみだ。」

 

 

 

二人はそのまま紅茶を飲みながら自分の家族自慢を続けるのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

夜のレオヴァの船室内にドレークは音を立てずに入って行く。

 

 

部屋の中には昼間の様に紅茶を注ぐレオヴァの姿があった。

 

 

「……レオヴァさん」

 

 

ドレークが声をかけるとゆっくりとレオヴァは振り向き微笑んだ。

 

 

「ドレークか…

そろそろ来るだろうと思って紅茶を入れておいたんだが…飲むか?」

 

 

「ぜひ、頂きたい」

 

 

 

促されて目の前の椅子へと腰掛けたドレークは一口、紅茶を飲むとレオヴァに向き直り報告を始めた。

 

 

 

「…デッケンという男はレオヴァさんの言う通り姫を狙っているようだった……が、もうそれは解決してある。

あと、指示のあった男もあの火事で亡くなったようだ。

……これで全部知ってるのはおれとレオヴァさんだけになった。」

 

 

「流石だなドレーク。

まさかもう、デッケンの問題を解決しているとは思わなかった。

……事実を知るのがおれとドレークだけになる事がなにより大切だ…

今回も完璧な仕事振りだ、よくやってくれた。」

 

 

「レオヴァさんの指示があってこそだ。

……しかし、ホーディとか言う魚人はあのままで良いのだろうか…

何かあってはレオヴァさんの考えに支障が……」

 

 

「ホーディ?……あぁ、あの狙撃手か。

それは心配しなくていい……その為にスレイマンを置いてきたんだからな」

 

 

首を傾げるドレークにレオヴァはニッコリと笑いかけた。

 

 

 

「まぁ、次に魚人島に行くときにはわかるさ」

 

 

 

 

 




応援のお言葉が嬉しすぎて頑張ってしまいました!(*´-`)
感想や誤字報告もありがとうございます!


補足など
 ↓
[レオヴァへの印象]

ネプチューン
優しく強い人間。王としての素質もあるとレオヴァの能力も人格も大きく買っている。
幼いしらほしや兄弟たちの相手をしてくれるレオヴァを信用している。
[レオヴァとは王と言う対等な関係性]
ーーーーーーーーーーーーーーーー

オトヒメ
レオヴァとジャックの関係性を心から喜んでいる。
いつか現れる正しい心を持ち人魚姫を導く存在とはレオヴァの事なのではないかと考え、ネプチューンと共に話し合いレオヴァがそうだという結論へ至った。
子どもを笑顔にしてくれるレオヴァにますます希望を抱いている。
ーーーーーーーーーーーーーーーー

フカボシ
母を救ってくれた事を心から感謝している。
人柄や強さを知ってからは尊敬の念が強まった。
レオヴァに稽古をつけて貰うことが最近の喜び。
将来、レオヴァや皆に認められる戦士になることを夢見て努力を続けている。
[レオヴァとは友人というポジション]
ーーーーーーーーーーーーーーーー

リュウボシ
博識なレオヴァに憧れがある。
もの作りが得意なレオヴァから様々な事を教わった。
自分も稽古をつけて貰うのが夢。
ーーーーーーーーーーーーーーーー

マンボシ
レオヴァの作る料理が大好きになった。
王として威厳も強さもあるレオヴァに憧れる。
ベポと特に仲良くなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー

しらほし
人見知りだったが恩人であり優しいレオヴァに懐いた。
本を読み聞かせてくれたり、外の世界の話をしてもらうのが好き。
レオヴァが滞在中はフカボシと共に寝るまで読み聞かせをしてもらうのが日課だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー

ジンベエ
レオヴァや王子たちのやり取りを見て、彼らこそがタイガーの望んだ未来だと影で涙を流した。
オトヒメを守り、さらに魚人街を良くしようと尽くしてくれるレオヴァにこれ以上ないほどの恩義を感じている。
真面目だがなんだかんだ冗談の通じるレオヴァを更に気に入る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー

【ホーディ一味】
今回の暗躍は全てバレており、レオヴァによって利用された。
ドレークの追跡もあり細かい所まで把握されていたが、本人たちは気づいてすらいない。

【デッケン】
レオヴァの命によりドレークにマークされる。
その後、幼女を付け狙う汚さと今後の作戦に邪魔であるというドレークの独断により消された。

【魚人街】
レオヴァによってテコ入れされた。
初めは暴力で対抗していたが、レオヴァとジャックの圧倒的な力と、二人の信頼関係を目の当たりにして反抗するものは減った。
その後のレオヴァとの対話によって大半の者が改革に協力的になった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

若き王子、ワノ国へ

誤字報告ありがとうございますッ!!
感想やコメントなども本当に嬉しいです!(*´-`)
ーーーーーーーーーーーーーーー





 

 

 

 

 

 

 

フカボシのワノ国到着から数日後の事…

 

 

町へ出たレオヴァとフカボシ、ジンベエの三人は多くの町人たちに囲まれている。

 

そして、フカボシとジンベエは王であるレオヴァのあまりの好かれ様に圧倒されかけていたのだった。

 

 

 

 

何十、何百と声をかけられる中

レオヴァは嫌な顔をするどころか、笑顔で一人一人丁寧に対応し、問題があればその場で解決するか部下を呼び即座に対応しているのだ。

 

 

そして、なにより二人を驚かせたのはレオヴァの記憶力だった。

 

 

 

 

 

『レオヴァ様、この前はありがとうございました…!!』

 

『与助か。

ばぁさんは元気になったか?

あまり無理して重いものは持たないように言うんだぞ?』

 

『はい! すっかり元気になって!

へへへ…ほんと、強く言い聞かせときます!』

 

 

 

 

『あれ!レオヴァ様!?

お久しぶりでさぁ! いやぁ、外海へお出かけなさってると聞いて寂しかったんですよ~!』

 

『久しぶりだな。

おれもお前の作る茶漬けが恋しくてな……昼に寄っても構わないか?』

 

『えぇ!もちろんでさぁ!!

そりゃもう大盛りにしちまいやすぜ!』

 

『ふふふ……またお鶴にどやされるんじゃないか?』

 

『はははは!

レオヴァ様になら逆にお鶴さんが大盛りにしろって言いやすよ…!』

 

 

 

 

 

『あ~!レオヴァさまだ!

わたしね、あれから頑張ったよ!』

 

『そうか、ちゃんと頑張れて偉いぞ…!

…それじゃあ、あの絵本は完成したのか?』

 

『えへへ…!

うん、できたよ! いっぱい頑張ってかいたんだ~

レオヴァさま今度みにきてよ!』

 

『それは楽しみだ。

今度おやつを配りに行ったときに見せてくれ』

 

『やったぁ!わたし楽しみにしてるね!』

 

 

 

 

 

驚く事に町人たちとの前回のやり取りを、しっかりレオヴァは覚えていたのだ。

 

それも一人二人ではなく、何十何百のやりとり全てを…

これにはフカボシもジンベエも開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

 

『…レオヴァは国民とのやり取りを全て覚えているのか?』

 

 

『基本的に国に居る時は毎日の様に民と会話しているからな……全てと言われると自信はないが…

 覚えられる様に努めてはいる。』

 

 

『凄いな……母上様も国民と沢山対話をしているが…

レオヴァのこれは…………

わたしも国民の言葉や想いを大切にできる王族でありたいんだ…ぜひ秘訣を教えて欲しい!』

 

 

『フカボシのその心意気は流石だな。

と言っても…秘訣などないんだが……

…あえて言うなら一人一人との会話に集中する……だろうか?』

 

 

『ふむ……一人一人の話をしっかり聞いて、真摯に対応すると言うことか…

言葉にするのは簡単だが…実践するのは難しそうだ

……わたしにそれが実践出来るかどうか……』

 

 

『確かに簡単な事ではないかもしれないが

民と国を想う気持ちのあるフカボシなら大丈夫だ。

最初から完璧である必要はない、ゆっくり少しずつでも理想へ近付ければいいんじゃないか?』

 

 

『レオヴァ……ありがとう!

そうだ…少しずつでも努力を続けることが大切だな…

本当に目から鱗が落ちるばかりだ…!

ワノ国へ……レオヴァと共に来て良かった!』

 

 

 

満面の笑みで感謝を伝えるフカボシにレオヴァもまた微笑みながら返す。

 

ジンベエはそんな二人を本当に嬉しそうに後ろから見守り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、また別の日の事。

 

 

レオヴァに過去の政策予算案などを見せて貰いながらフカボシは勉強をしていた。

 

 

 

 

『こ、こんなに予算を使ったのか!?

これでは予定の金額より高くなってしまうぞ…大丈夫だったのか?』

 

 

『あぁ、確かに多くの予算を使いはしたが……それによって助かる民は多くなった。

民の為なら、おれの身を削ってでも予算を増やし、安全や住みやすさを優先するべきだと考えてる。』

 

 

『そこまでして国民を……

…何故、そんなに優先しようと思うんだ?

もちろん、国民が大切なのは分かってはいるんだが…わたしは国の維持を優先するべきかと思ってしまって……』

 

 

『国の維持も大切だ。

しかし、土地や建物だけ維持しても意味がないだろう?

そこに住む人々が居なければただの建造物の密集地に過ぎない

一番大切なのは民たちだ。

 

……それに民を大切にすることを忘れなければ自ずと国も安定していくものだ。』

 

 

『……確かに…

住むものが居なければただの大地か…

流石はレオヴァだ…!

もっと教えて欲しい!……おれはまだまだ勉強不足で…』

 

 

『おれで良ければ何でも聞いてくれ。

…ただ、おれの考えを鵜呑みにするな。

これは一つの考えであって、正解ではないんだ。』

 

 

『正解じゃない…?

けれど、レオヴァのこの政策で上手く行っているようにみえるが…』

 

 

『上手くは行っているが、それを真似するだけでは意味がないと言うことだ。

そこに住む人の生活や求めるものが同じとは限らない。

民の声を聞き、その場所にあった政策や保証をすることが大切なんだ。』

 

 

『なるほど…!

だからレオヴァは頻繁に町へ足を運んでいるのか!』

 

 

『そう言うことだ。

生の声を聞くことは大切だからな』

 

 

『そうか、だからなのか…

今ならあの国民たちからレオヴァへの厚い信頼も頷ける!』

 

 

 

 

その後も丁寧に一つ一つレオヴァは過去の政策内容や実施までの動き、その後の成果などを分かりやすくフカボシに教えていった。

 

その度にフカボシは驚きや感嘆の声を上げ、その後ろでジンベエも目を丸くするのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ワノ国の鳳皇城に用意された水の張られた一室にて

フカボシはふわふわと漂い、ジンベエは岩の様に動かず椅子に腰かけている。

 

彼の周りにはレオヴァお手製の彫り物や変わった機械も一緒に浮いていた。

 

 

 

「防水加工……凄い技術だ…

ジンベエ親分は何処かの外の世界で見たことがあるか?」

 

 

「いやぁ…フカボシ様……わしも初めて見る機械じゃ…」

 

 

「そうか、ジンベエ親分も初めてなんて本当に凄いオモチャだ!

…これなら島の子どもたちも喜ぶと思わないか?

レオヴァに貿易内容に入れて貰えないか頼んでみようと思うんだ!」

 

 

「わっはっは!そりゃ良い考えじゃフカボシ様…!

……そうじゃ、しらほし姫様にお土産なんちゅうのはどうですか?」

 

 

「しらほしにお土産か……!

レオヴァに頼めば何か良さげな物を探すのを手伝ってくれるだろうか…?」

 

 

「レオヴァ殿ならきっと進んで手伝ってくれるでしょうな!

また新しい物を見せてもらうのが楽しみじゃ……!」

 

 

 

フカボシが彫り物を手で転がすのを眺めながらジンベエは穏やかな時間をゆったりと過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

色々と変わり始めた魚人街を歩きながら、オレはジャックさんとレオヴァさんに出会った時の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの二人は突然、魚人街に現れてオレ達と話をしに来たと言い出したんだ。

 

 

もちろん、オレ達が“例の事件のヒーロー”として

はやし立てられてる奴らと大人しく話などするハズもねぇ。

 

 

この魚人街では力こそ全てだ…! 

 

ポッと出の外から来た魚人と人間なんかに簡単にやられねぇし、話を聞くつもりなんざ無かった。

 

そして、オレ達と二人の男は話し合いどころか殺し合いへともつれ込んだんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

……が、結果はオレ達の惨敗。

 

 

しかも、人間は俺たちの手当てをした挙げ句に炊き出しまで始めやがった。

 

 

『動いたあとは腹が減るな…お前達も食べるだろう?』

 

 

そう言ってにこりと笑う人間に周りは驚いたが

結局…誰一人として食べず、二人に負け惜しみを言うだけだった。

 

 

 

『……たまたま勝ったからって調子にのるなよ人間!!』

 

 

『そうか、なら明日も来よう

……まぁ、おれとジャックが負けるなどあり得ないがな』

 

 

『っ! 言ってろ!!

次はてめぇらの息の根止めてやるからなァ!!

そうだろ!?おめぇら!』

 

『そうじゃ! 明日はわしらが勝っちゃる!』

 

『魚人の底力を見せつけてやるっき……!』

 

 

 

『それは楽しみだ……なぁ、ジャック?』

 

『フン……レオヴァさんとおれの敵じゃねぇ!』

 

 

 

 

今思えばわざとオレ達を煽るような事をレオヴァさんは言ったんだろうが、あの時のオレ達はすっかり乗せられちまってた。

 

 

そのあと、二人が置いていった炊き出しはオレが毒味をして、街のチビ達に食わせてやった。

 

……あんな美味いワカメスープは初めてだったなァ…

 

 

 

 

 

次の日も二人は同じくらいの時間に魚人街に現れた。

 

……そして、オレ達は前日と同じように惨敗した。

 

 

 

更にまた次の日……また次の日…と日を重ねるごとに挑むものは減っていき

逆に炊き出しをレオヴァさんやジャックさんと共に食べたり話したりする奴らが増えて行った。

 

 

 

とうとうオレは七日目まで意地を張ってレオヴァさんに挑み続けちまった…

 

止め時なんて分からなかったし

 

『お前はずいぶんと意地っ張りだな……

ふふ…だがその強い意思は凄いことだ。

……ますますお前と話がしたくなった』

 

 

こう言ってオレを認めてくれる奴なんざ今まで居なかったから、どうして良いのか分からなかったんだ……

 

 

 

けど、七日目の最後にオレは恥を捨てて声をかけた。

 

 

 

『…………なぁ、炊き出しに貝ねぇのかよ…』

 

『…貝が好きなのか?』

 

『…………お、おう、悪いかよ……』

 

『いや、オレも貝は好きなんだ……明日の炊き出しで持って来よう!

そうだ、海老のグラタンならあるぞ

おれの自信作なんだが………食べてみないか?』

 

 

 

レオヴァさんはそう言って微笑みながらグラタンをオレに手渡してくれた。

 

オレは少しの気恥ずかしさと大きな喜びで

自分がどんな顔をしてたかなんて覚えちゃいないが、温かい海老グラタンの優しい味は今もよく覚えてる。

 

……それ以来、オレは海老も好物になったんだ。

 

 

 

 

 

 

あの突然の訪問から8日目。

オレ達はレオヴァさんと一緒に瓦礫の掃除や、飯も食べれねぇ様な奴らに炊き出しを配って回った。

 

 

最初はオレも仲間たちも渋々やってたが

生まれて初めて貰った感謝の言葉は思いの外悪くなかった。

 

 

それから一週間。

新しく三人の人間と一匹のクマも魚人街の手伝いに来た。

 

最初はオレと仲間たちは良く思って居なかったが、流石はレオヴァさんの仲間…

面白れぇし、話の分かる良い奴らだった…!

 

 

 

ローは生意気なガキだけど、仲間たちや魚人街の奴らの怪我や病気を魔法みてぇに治してくれる。

 

 

ベポは素直でなんでも信じちまうお馬鹿な奴で、からかうと反応が面白れぇ!

 

 

ドレークって奴は馬鹿真面目なお人好し野郎だが、なんだかんだ色々と話しやすいし、困ってると手伝ってくれる良い奴だ。

 

 

スレイマンは辛い過去がある奴だった……

魚人街の仲間やオレも国に捨てられたって思ってたが、コイツの話を聞いて考えが変わった。

 

オレならとっくに暴れて馬鹿な事をするような目にあってんのにスレイマンは前を向いてる。

それはスゲェことだとオレは思った!

 

なんでもレオヴァさんが救ってくれたとか……

 

 

オレ達もレオヴァさんと会ってから色々変わった。

……救われたっつったら大袈裟に聞こえるかもしれねぇけど…

 

今まで魚人街ってだけで周りからの偏見があった……

町へ出て盗みがありゃ疑われたし、ちょっと喧嘩すりゃいつも悪くされんのは決まってオレ達だった。

 

……周りが悪く言うからオレもどんどんひねくれちまって…

 

 

けど、今は違ぇ!

レオヴァさんに会ってからは良いことも沢山したし、自信がついたんだ!

 

だから……スレイマンとオレ達は一緒なんだ。

 

レオヴァさんに救われて、前を向けるようになった。

 

 

 

 

『おれはレオヴァ様と共に歩んでから自分が好きになった。

 

前までは自分に価値はないのだと……おれは誰からも望まれない人間だと思っていた…

だが、レオヴァさんにおれ自身を見て貰えて変わったんだ。

 

…“価値は他人が決めるんじゃない、自分で決めるんだ”

 

この言葉はレオヴァ様に怒られた時の言葉なんだが……これはお前たちにも言える事だ。

 

生まれた場所や環境で卑屈になることはない。

この世の全ての者から認められる必要なんてなかったんだ…

自分自身と認めて貰いたい人にだけ、分かって貰えればいい……そう、おれは思う。』

 

 

 

この一緒に飯を食った時のスレイマンの言葉にオレ達は涙ぐみながら頷いた。

 

 

そう、認められたかったんだ……オレも仲間たちも。

 

 

オレは魚人街で生まれ育った。

ガキの頃から奪って奪われて……恨み恨まれて…………

そんな生き方しか知らなかった。

 

 

だから……だからかなァ…レオヴァさんが真っ直ぐオレらを見てくれんのが堪らなく嬉しいんだ。

 

あの人はオレの種族だとか、魚人街の生まれだとかちっとも気にしねぇ。

 

ただ、オレ自身を見て……真摯に向き合ってくれた…

 

 

スレイマンの言葉は本当に良くわかる。

 

 

 

 

で、それもあってオレ達とスレイマンはすっかり意気投合したんだ……!

 

 

 

どんどん人数も増えて魚人街に散らばる瓦礫は無くなり、レオヴァさんの協力のお陰で建物も新しいのが沢山建ち始めた。

 

 

ニ、三週間が経った頃には

魚人街でも有名なジンベエ親分まで手伝いに来てくれた…!

 

レオヴァさんとジンベエ親分は本当に仲が良さそうだった。

 

あのジンベエ親分が大口あけて笑ってた時は周りも驚いたもんだ!

 

 

 

レオヴァさんとジャックさん達、加勢しにきてくれたジンベエ親分の手伝いで本当に魚人街は変わって行ってる。

 

荒れてた街並みは整えられたし、仕事のない無法者ばかりだったが

レオヴァさんが新しい仕事をくれたり、ジンベエ親分がネプチューン軍への推薦をくれたりして働ける奴らも増えた。

 

 

レオヴァさんの船に乗りてぇって奴らも沢山いたが

 

『…好き好んで海賊になる奴がいるか…!

皆が仕事につけるよう手は尽くす……だから海賊は止めておけ

……平和な暮らしを捨てる様な真似はするな…』

 

 

オレ達を心配するレオヴァさんに無理を言うことも出来ねぇと仲間たちは口をつぐんだ。

 

 

 

……けど、オレは諦めちゃいねぇ!

 

腕には自信がある……それに何よりオレはレオヴァさんと広い世界を見てぇ!

 

オレは魚人街っていう小さな世界が全てだと思い込んでたが、世界はもっともっと広いと教えて貰った。

 

レオヴァさんが話してくれた外の世界や文化に興味があるんだ!

 

あの人があんなに楽しそうに語る世界をオレも感じてみてたい…!

 

 

 

……もう、絶対にやりてぇ事は諦めねぇと決めたんだ。

 

 

 

ま、だけど先に魚人街をもっと良くしねぇとな!

 

 

レオヴァさんは一度、ワノ国に戻っちまってるから

今のうちにスレイマンと成果をだして、思い残すことなくレオヴァさんと広大な海へ出るんだ。

 

 

 

オレは変わり始めた街と笑顔で走り回るガキ達を眺めながら、午後の仕事の為に気合いを入れた。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

絡繰魂仕掛けの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究室兼、絡繰魂製作部屋(からくりせいさくへや)から出たクイーンの足取りは軽かった。

 

 

 

「ヤベェ~! マジでおれって天才すぎじゃねェ…?

ムハハハ~!  レオヴァの驚く顔が目に浮かぶぜぇ~!!」

 

 

 

鼻歌交じりにドスン、ドスンっと大きな音をたてながらスキップをするクイーンの手には棒のようなモノが握られている。

 

 

上機嫌に横を凄いスピードで過ぎ去っていく丸い残像に多くの部下たちが腰を抜かした。

 

 

 

 

「うお!?

え……今のクイーン様…だよな…?」

 

「な、なんかご機嫌だったな……」

 

「今日のライブでやる新しい振り付けでも思い付いたんじゃねぇかぁ?」

 

 

 

いつもの数倍はテンションの高いクイーンに一度は皆が首を傾げたが、彼のテンションの起伏はいつもの事だと言いすぐに気にするのを止めたのだった。

 

 

上機嫌なクイーンは踊るように鬼ヶ島から出ていくと鳳皇城へと急いだ。

 

 

「パーティータイムの前に……最高のブツを届けるぜェ~~!!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

フカボシとジンベエと共に下町にて土産を選び終わったレオヴァは、自室で大臣達から送られてきた書類を一枚ずつ確認する作業をしていた。

 

 

次々と書類に目を通し、解決案や労りの言葉を返信用の紙へと書いていくレオヴァを感心するようにヒョウ五郎が見守っている。

 

 

しかし、一時も休むことなく仕事を続けるレオヴァを見かねたヒョウ五郎が急須(きゅうす)を片手に声をかけた。

 

 

 

 

「レオ坊、そろそろ茶でも飲んで一休みしたらどうだ?」

 

 

「そうだな…そこの山が終わったら一休みしよう。」

 

 

「……一刻前もそう言ってなかったか?

このままじゃズルズルと一日経っちまうぜレオ坊

おれも茶が飲みてぇし、休憩だ!」

 

 

「なら、ヒョウ爺は先に…」

 

 

「おいおい…他の奴らには休む様に決まりを作ったってのに

まさか……一番上の立場のレオ坊が決まりを破るなんて真似しねぇだろ?」

 

 

「…………おれは皆の倍働く義務があるから良いんだ。」

 

 

「いや、おれァ…そんな義務しらねぇな。

ほら、茶持ってきたんだ。飲め飲め…!!」

 

 

無理やり目の前の書類を退かして茶を置くヒョウ五郎にレオヴァは困った顔をするが、そんなことは関係ないとばかりに茶菓子まで置き始めた。

 

 

「このレオ坊発案の羊羮は格別だなぁ…!!

ほれ、早く食わんと温くなっちまうぜレオ坊?」

 

 

「…少しばかり強引すぎやしないか、ヒョウ爺…?」

 

 

すっと目を細めたレオヴァの圧にも屈せず、ヒョウ五郎は自分の前にある羊羮を美味しそうに食べながら言う。

 

 

「はっはっは!

レオ坊はこうでもしねぇとテコでも休まねぇからな!」

 

 

 

大口を開けて笑うヒョウ五郎を見て諦めたようにレオヴァは茶を啜ると、眉を下げつつも笑顔で礼を述べた。

 

 

「………茶と菓子を用意してくれてありがとう

ヒョウ爺の淹れてくれた茶、美味かった。」

 

 

「ははは!レオ坊にそう言って貰えると嬉しいなァ…!」

 

 

 

そのあとも茶を片手に和やかに会話していた二人の下へ大きな音が聞こえ始める。

 

 

 

「……レオ坊、なんだか…どすん、どすんと外が騒がしくねぇか?」

 

 

「……あー…クイーンだな。

…今日は随分と機嫌が良いらしい。

鼻歌を歌いながらスキップしてるぞ……」

 

 

「レオ坊の見聞色は外がわかるから便利だなァ!」

 

 

 

流石はレオ坊だ!と嬉しげに茶を飲むヒョウ五郎の目の前の襖が勢い良く開く。

 

 

 

「よォ~~ レオヴァ~!!

待・た・せ・た…なァ……!!!

クイーン様の登場だぜぇ~~~~!!!」

 

 

 

勢い良くポーズをキメたクイーンをヒョウ五郎は呆れ顔で眺めているが、レオヴァは楽しそうに笑っている。

 

 

 

「ふははは…! なんだ、クイーン?

今日はいつもの数倍ご機嫌じゃねぇか……!

…ところで、そのポーズは新作か?」

 

 

「そうそう……!このポーズは最新作だぜ!

なんてったって今来る途中にビビッと来たポーズだからなァ…!

レオヴァ良くわかってんじゃねぇ~かよ~!!

最っ高に~!エキサ~イトゥッ……!!!」

 

 

 

ニヤリと笑いながらポーズを見せつけるように決め続けるクイーンをレオヴァは当然のように褒める。

 

 

 

「そうだったか、良く決まってるぞクイーン!

流石だ、舞台の上で即興で場を盛り上げられる才能は伊達じゃないな。」

 

 

「ムハハハハハハ~~!!

もちろんよ! ほんっとに、レオヴァは分かる男だぜ~~!!

 

……って、危ねぇ…!!

おれが凄いっつー分かりきった話をしに来たんじゃねぇんだった!

出来たんだよ……! 例のアレが…!!」

 

 

「例の……?

あぁ…! クイーンに頼んでたヤツか!

もう完成したのか?」

 

 

「そうそう! おれに掛かればちょちょいのちょい…!

100…いや!200%の出来栄えだぜェ…!!!

 

いや~!レオヴァの発想は本当面白ェよなぁ~

…けど…まぁ、それも~?

この天才クイーン様がいるからこそ実現しちまってるワケだけどぉ?

ムハハハハハハハ~~!!!」

 

 

「ふふふ……昔もクイーンに頼んだからなァ…

さっそく、試してみたいんだが……大丈夫だろうか?」

 

 

「おうよ!

そう言うと思って試験場は準備万端…!!

 

レオヴァの発想と要望を基に、このおれ様の天才的なアイディアも詰めに詰め込んだんだ

もう、最高にシビレル出来だぜ?レオヴァ~~!!

よし、早く試験場でぶっ放すぜ……!」

 

 

 

現れたときと同じく嵐の様に去っていったクイーンの後に続くようにレオヴァも立ち上がった。

 

 

 

「この休憩の時間で少しクイーンと出てくる。

ヒョウ爺も引き続きゆっくり休憩を取っていてくれ。」

 

 

「そりゃわかったが……

…レオ坊、一体……何を頼んだんだ?」

 

 

「おれの護身用の武器を頼んだんだ

……詳細は後で話すとしよう、ヒョウ爺。

では…クイーンは待たせると拗ねるから、おれはもう行くとする。」

 

 

「おう、気をつけてなレオ坊!」

 

 

 

手を軽く上げて見送るヒョウ五郎に笑いかけると、そのままレオヴァは試験場へと向かって行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

試験場に並べられていた機械たちは見るも無残な姿の鉄クズへと変わり果てていた。

 

しかし、その鉄クズの全ての切断面は真っ直ぐキレイに斬られており、大きさもまるで測ったかのように均一である。

 

 

その異様な鉄クズに囲まれたレオヴァを見てクイーンは笑い、部下たちは感嘆の声を上げる。

 

 

「すげぇ……レオヴァ様、機械みてぇに一瞬で……」

 

「機械を豆腐切るみてぇにパッパと…!流石だぜ!」

 

「クイーン様の新作の実験って聞いてたが、まさかレオヴァ様を見られるとはなぁ!」

 

 

 

 

はしゃぐ部下たちの声を尻目に、鉄クズの中心で刃の部分が電気の様に変わった戦斧を持つレオヴァが満足げにクイーンを見遣る。

 

 

「クイーン……おれの注文以上の出来だ…!

だが、まさか本当におれの体内の電気を利用出来る戦斧を作るとは……」

 

 

嬉しさと感心の入り交じった表情をしているレオヴァの方へと、ドヤ顔を隠しもしないクイーンがドスドスと寄って行く。

 

 

「そうだろそうだろォ~!?

レオヴァの新しく分かった武器を作れる能力と元からあった電気を使える能力を最大限生かせるこの仕様……

あ~~!マジでおれ天才過ぎィ?

 

カッコ良くて強くて…頭もキレちまう……完璧すぎて悪ィな…」

 

 

 

そうオーバーリアクションを混ぜながらナルシズムに浸っているクイーンを見て部下の数人が苦笑いするが、突っ込める者など存在しなかった。

……いや、一人レオヴァだけが突っ込める立場なのだが、彼はクイーンを肯定することはあっても否定はしないのだ。

 

 

 

「天は二物を与えず…とは言うがクイーンにおいてはその限りではないな。

ちょうど父さんから貰ったコートで隠れる大きさなのも良い…!」

 

 

突っ込むどころか更に褒めそやすレオヴァにクイーンの口角は上がったまま下がらない。

 

 

 

「ムハハハハハハ!!

そりゃサイズもしっかり調整したからなァ…!

レオヴァは背も伸びてガタイも良くなって前のじゃ

もう戦斧っつーか斧って感じだったしよォ…

 

けど、自由に武器作り出せんだよな?

周りに見えないように武器持ちてぇなら、その場で作りゃ良くね?」

 

 

 

クイーンの意見は尤もであった。

元々、レオヴァは戦闘以外では目立たずに仕舞える武器が欲しいとクイーンに相談していたのだ。

 

前に使っていた戦斧は腰に下げられるほど小さくなってしまっており、レオヴァはそれをトマホークと同じ要領で使っていたが、どうしても戦闘スタイルに違いが生じてしまう。

 

かと言って、自分の身長に近い大きさの戦斧を常日頃(つねひごろ)背負っているのは、レオヴァの思い描く未来に不利に働く可能性があった。

 

 

結果的に、レオヴァの新しい武器を作る能力での武器の瞬間補正と電気を利用した切れ味を生かせる絡繰魂作りになった訳だ。

 

 

 

だが、最近のレオヴァの戦闘スタイルは雷を軸にした中距離戦だ。

近距離戦においてもカイドウに鍛えられた肉弾戦と作り出す武器で十分過ぎる以上の腕である。

 

正直、最初にレオヴァから武器を頼まれた時

クイーンは

『え、レオヴァ別に今のままで十分じゃね?』

と首をかしげたが、レオヴァの頼みであると言うことや

レオヴァからの

『武器は絶対に信頼のおけるモノを使いたいんだ。

今までもクイーンの作った武器を使ってきた……お前以上におれの信頼に足る武器を作れるヤツがいるか?』

と言う言葉を聞いた次の瞬間には二つ返事で引き受け、サムズアップまでして見せる気の変わり様であった。

 

 

が完成させてみて、当初の希望を通すならやっぱり作る必要あったのか?

とクイーンは疑問に思ったのだった。

 

そのクイーンの疑問にレオヴァは首を振る。

 

 

 

「いや、確かにおれは武器を作れるがアレは槍やトマホークの様な形状のモノしか作れないんだ。

なによりクイーンの作るものと、おれの能力で作る武器では性能が格段に違うだろう?

使い捨て用に作るのと、今後ずっと使っていく武器は別だ。

前も言ったが、信頼出来る武器が欲しかったんだ。

 

……この出来栄え…本当に頼んで良かった。

忙しい中、完成させてくれてありがとうクイーン。」

 

 

 

嬉しそうに新しい武器を握るレオヴァを見てクイーンも満足そうに笑う。

 

 

「ま! レオヴァが気に入ったならミッションコンプリートって感じだなァ……!!!

ってなワケで…レオヴァ、遊郭行こうぜェ…!!!

やっぱ一仕事終えたあとは休まねぇとなぁ~~!」

 

 

 

小躍りしそうな勢いでレオヴァに詰めよったクイーンにレオヴァは笑いを溢しながらも答えた。

 

 

 

「あぁ、そうだな。息抜きは大切だ。

……おれはこの後も仕事があるから一緒には行けないが

小紫に久々に顔を出すようにとだけ言っておこう。

では、クイーン……楽しんで来てくれ。

 

そうだ、皆の分の酒代もおれが持とう。

クイーンと一緒に好きなだけ飲んでくると良い。」

 

 

「えぇ~!?! ちょ、ま…!?

おれレオヴァと行きてぇっつってんのに仕事優先すんのかよォ!?」

 

 

「「「うおぉ~!レオヴァ様!ゴチになりやすぜ!!」」」

 

 

 

良い笑顔でクイーンの肩を軽く叩くとレオヴァは

クイーンの部下たちの歓声を背にスタスタと書類仕事をするべく戻っていってしまった。

 

 

瞬時に仕事モードに切り替わったレオヴァに置いてかれたクイーンは大袈裟に落ち込む素振りを見せたが、部下たちのクイーンコールによって気を持ち直すと、上機嫌に遊郭へと向かって行くのであった。

 

 

 

「ムハハハハハハハ~~!!

小紫たん!待っててくれよォ~!!

 

てめぇら、全速前進だァ……!!」

 

 

「「「「Yeah!クイーン様ァ……!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回も感想ありがとうございます!

そして無くならぬ誤字脱字……いつも報告下さる方に感謝ですm(__)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

計画された覚醒

 

 

 

 

フカボシはレオヴァと別れの握手を交わしていた。

 

 

「レオヴァ……本当に世話になった、ありがとう!

外の世界や国の運営の難しさを沢山知ることが出来た。

わたしはレオヴァのくれた経験を生かして、この魚人島をワノ国の様な良い国にして見せる!」

 

 

 

決意に満ちた顔のフカボシを真っ直ぐに見つめながら、レオヴァは強く頷いた。

 

 

 

「フカボシならきっと素晴らしい国に出来る。

何かあれば言ってくれ。

フカボシの為ならば、友としていつでも手を貸そう。」

 

 

「レオヴァ……君には本当にッ!

…わたしもレオヴァに呼ばれればいつでも友として駆けつけると誓う!

お互いに民のためにこれからも励もう。」

 

 

「あぁ、お互いに皆の為……良き王に成れるよう努力を続けよう。

フカボシという友を得られておれは幸せだ。

また、土産話でも持って会いに来る。」

 

 

「っ……勿論だ!

わたしもレオヴァと出逢えて良かった。

いつでもレオヴァ達ならば歓迎する、土産話楽しみにしているよ」

 

 

 

名残惜しげなフカボシへ、ふっと人好きのする笑顔を見せるとレオヴァは船へ向かって歩きだした。

 

 

見送りに来ていたネプチューンや、魚人街の者たちが大きく手を振りながら送り出す。

 

 

どんどん小さくなって行く船から、レオヴァとスレイマンは軽く手を振り返し、帰路へとつく。

 

 

 

 

 

 

 

深海を進む船の中で久々にレオヴァに会えて興奮気味なスレイマンを見て船員たちは苦笑いを禁じ得なかった。

 

 

 

「いつもの比じゃないくれぇスレイマンさん、レオヴァ様にべったりだな」

 

「船の中くらいレオヴァ様をそっとしておいて差し上げれば良いのになぁ?」

 

「バァカ!スレイマンさんは四ヶ月振りなんだぞ!」

 

「いやいや……四ヶ月だけじゃねぇか…

おれらなんて半年くれぇお会い出来ねぇ時もあんのに……」

 

「スレイマンさんは前、二ヶ月レオヴァ様と別の任務だっただけでアレだったんだぞ……

この四ヶ月よく持った方だって」

 

「まぁ、レオヴァ様が嫌な顔してねぇなら何でも良いだろ」

 

「……スレイマンさん居ると、おれらが直接レオヴァ様から仕事頂ける機会が減るじゃねぇかよ…」

 

「…しょうがねぇよ、あの人が優秀すぎるンだもんよォ」

 

 

 

真っ暗な海を進む船でやることのない男達は肩を落としたのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

あれから数日が経ち、ワノ国へ帰るべく進んでいた船は補給の為にある島へと停泊していた。

 

 

食料の調達の為に“何度か訪れた”この島で、スレイマンは数人の部下を連れ買い物をしていた。

 

 

一通りの買い物を終え、船へ向かおうと準備をしていた時だ。

スレイマンは二人の部下がいつまでも戻らないことに違和感を覚えた。

 

 

それは小さな違和感だったが、スレイマンは嫌な予兆を感じ取る。

 

周りにいる数人の部下に先に戻るように指示を出し、二人の部下が向かった市場へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市場の入り口付近まで来たスレイマンは眉間に皺を寄せた。

 

 

 

なんと、売場の奥にある浜辺付近で海兵の様な服を着た若者達が部下を縛り上げていたのだ。

 

 

 

10人ほどで二人の海賊を連れて行こうとしている若い海兵達の下へ、音もなく迫るとスレイマンは黄金で彼らの身動きを封じてしまった。

 

一瞬の出来事に目を白黒させながらも、身動きが取れない状態で口に入り込んでくる金を何とかするべく踠いていた海兵たちだったが、結局どうすることも出来ずに意識を失いぐったりとしてしまっている。

 

 

突然の事に周りの売場の市民たちもどよめき、距離を取り始めた。

 

 

 

捕まっていた二人の部下はスレイマンを見ると表情が明るくなる。

 

 

「スレイマンさんっ!た、助かったァ…」

 

「す、すみません!

買い物してたら急に殴られて……」

 

 

縛られたまま頭を下げる二人にスレイマンはため息をつくが、すぐに縄をほどいてやると二人を立たせた。

 

 

 

「全く、油断が過ぎるぞ。

レオヴァ様に迷惑を掛ける事にならなかったから良いものを…

今後は細心の注意をはらって行動しろ、いいな?」

 

 

「「はい、スレイマンさん! 気を付けます!」」

 

 

言い聞かせるような言葉に二人はしっかりと返事をした。

スレイマンはその返答に頷きで返すと船に戻ろうと踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てェ…! おれの生徒に……なにしやがった!!」

 

 

 

背後からの怒声と強者の気配にスレイマンは瞬時に戦闘態勢へと切り替わる。

 

相手の力量を即座に見極めたスレイマンは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

 

 

「お前たち、先に船へ戻りレオヴァ様に報告を

……あの男はおれでは手に負えん。」

 

 

そう呟くスレイマンの顔を一筋の汗が滑り落ちた。

 

 

 

 

目の前に突如現れた紫髪を短く切り揃えた屈強な初老の男は鋭い眼光をスレイマンに向けながらも、黄金に覆われた若い海兵たちの下へと走り寄る。

 

 

若い海兵たちが息が出来ずにいる事を知るや否や

その初老の男は誰の目にも留まらぬ早さでスレイマンを地面へと殴り付けた。

 

 

「ぐぁ…!?」

 

 

 

地面へ叩き付けられたスレイマンへ怒涛の追い討ちを仕掛ける初老の男の近くへ、騒ぎを聞き付けたであろう若い海兵たちがわらわらと集まってきている。

 

 

スレイマンは飛びかける意識の中、なんとかレオヴァがこの男と戦う前に少しでも削がなければと思考を巡らせ、まずは男を自分から引き剥がすべく行動を起こす。

その行動とは未だに黄金を纏ったままの海兵達から、側へ近付いている別の海兵へと、その黄金を伸ばす事だった。

 

 

初老の男は思惑通り、その気配を即座に察知すると若い海兵を庇うようにスレイマンから離れて行く。

 

 

そして、その一瞬をスレイマンは見逃さなかった。

 

男の眼球へ尖らせた(きん)を全力で投げたのだ。

 

 

若い海兵を襲う黄金に気を取られていた男は、自分の眼球に向かって飛んでくる金属への反応が少し遅れる。

 

 

次の瞬間、海兵たちの悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スレイマンは生死の淵を彷徨うほどの傷を負っている。

 

 

そう、あの時投げた金属は男から視力を奪う事が出来なかった。

 

初老の男は間一髪の所で金属を避けたのだ。

結果、男の眉間を軽く抉るだけで終わってしまった。

 

 

 

その男は周りの海兵達から“ゼファー先生”と呼ばれているようだった。

 

スレイマンはすぐに少ない情報から初老の男の正体が“黒腕のゼファー”であると気付く。

 

 

 

 

元海軍大将だ。

勝てる相手ではないと判断力の高いスレイマンは分かっている。

 

 

だが、今彼は逃げるという選択肢など持ち合わせていない。

 

黒腕のゼファーをほぼ無傷の状態でレオヴァと対峙させるなど、スレイマンの忠誠心が許さないのだ。

 

 

 

時には剣となり、時には盾となる。

レオヴァの役に立つことこそがスレイマンの誇りであり全てだ。

なにせ、その想いだけを抱えてこの最悪な状況下でも彼は踏ん張り続けているのだから。

 

 

 

 

 

「…お前をここで捕らえ、二度と出られん様にしてやるぞ!

そして…おれの生徒は誰一人死なせはしねぇ!

覚悟は良いなァ…!ディアス海戦のA級戦犯“首はね スレイマン”!!

 

 

 

「ハァ…もう、()うの昔に…その下らぬ名は捨てた…ッ…

おれは、百獣海賊団のスレイマンだ……!!」

 

 

 

 

大切な生徒への想いをのせた大きな拳にゼファーは覇気を込めた。

一方、スレイマンは揺るぎなき忠誠を極限まで研ぎ澄ました様な鋭い覇気をサーベルへ纏わせる。

 

 

 

二人の男の覚悟がぶつかり合う音が響いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

ゼファーは黄金の呪縛から解き放たれた可愛い生徒たちの下へと駆け付けた。

 

周りにいた生徒たちも倒れている仲間の下へ行き、手を貸している。

 

 

少し息が上がっていたゼファーは軽く深呼吸をして息を整えると生徒達へ声をかけた。

 

 

 

「よし、お前たち。無事だなァ!?」

 

 

「「「 はいッ!ゼファー先生! 」」」

 

 

 

生徒たちの揃った返事に安心したように笑うとテキパキと指示を出し始める。

 

 

そのゼファーの指示を受け皆が動きだす。

ある者は散った瓦礫を浜辺へと移動させ、ある者はスレイマンを拘束するべく海楼石の錠を持って来ていた。

 

 

 

 

 

しかし、スレイマンに海楼石を巻き付けようとしていた三人の海兵の卵たちが一瞬のうちに崩れ落ちる。

 

 

何があったのか分からずに固まってしまった生徒たちにゼファーが叫ぶ。

 

 

 

「お前たちッ……退避だ…!

今すぐ建物の下へ身を隠せェ!!」

 

 

 

必死の叫びに数人は反応し建物や岩影へと退避したが、間に合わなかった生徒たちは次々と赤黒い塊へと変貌していった。

 

 

ゼファーも数発の雷が直撃したが、そんな事など関係ないとばかりに怒りに染まった顔で天を睨み付けた。

 

 

「よくもッ……おれの生徒をォ!

赦さん、赦さんぞ!!」

 

 

地面を強く蹴りあげ、宙へ飛んだゼファーを複数の光る槍が襲った。

 

 

体勢を崩し地上へと落ちていくゼファーを見て生き残った生徒達の口から悲鳴が漏れる。

 

 

天を睨み付けたまま落下するゼファーの目に、同じく怒りに染まった青年の瞳が映った。

 

 

 

「それは、おれの台詞だ……

ウチの大切な部下に手を出したんだ…覚悟は出来てるんだろうなァ……」

 

 

恐ろしく怒気を含んだ声に身を隠していた者達は震え上がった。

まさしく、そこには修羅の形相と言える青年が居た。

 

 

 

 

 

黒腕のゼファーと百獣海賊団のレオヴァの衝突は

その島に人が住めない状態になる程、激しいものであった。

 

 

 

 

 

 

戦闘が始まったばかりの時はゼファーがレオヴァを圧す形となっていたが、時間が進むにつれ少しずつレオヴァが優勢となっていった。

 

 

何故かレオヴァは雷に当たるとまるで回復するかのように疲れが消えているのだ。

 

老いで体力が減りつつあったゼファーが、空が有る限り雷を落とし回復し続けるレオヴァと長期戦をやるのは圧倒的に不利だ。

 

 

 

しかし、そんなことはゼファーも途中で気が付いていた。

 

彼の長年実践で培ってきた勘は、長期戦に持ち込まれては危ないと告げていたのだ。

だが、どんなに早く決着をつけようとしてもレオヴァはそれをさせなかった。

 

 

怒りに染まった雰囲気からは信じられないほど、レオヴァは冷静かつ着実に距離を取りじわじわとゼファーの体力を削って行く。

 

 

中距離から飛んでくる無数の電撃を避けながら近付けば神出鬼没の雷に打たれ、かと言って間合いを取りすぎれば尽きぬ槍やトマホークの的になる。

 

近距離戦になんとか持ち込もうにも空へと飛ばれては、生徒を気にしながら戦うゼファーに下手な動きは出来なかった。

 

 

なにより、レオヴァという男は相手の独擅場へは決して降りてこないと言うのに、自分の独擅場へと引きずり込むことはやけに上手い。

 

 

しかし、だからと言ってゼファーはただやられている訳ではない。

距離を取るのが上手いレオヴァの少しの隙を見逃さずに致命傷になり得るような数発を見舞ってはいた。

 

けれども動物(ゾオン)系のタフさと雷鳥(サンダーバード)の能力による超回復を超える一撃は与えられていなかったのだ。

 

 

それらの結果がレオヴァの優勢を作り上げていた。

 

 

 

 

 

 

もう、この戦況は変わらないのでは?

 

そう思い始め震える生徒達だったが、突然聞こえた声に目を丸くする。

 

 

 

 

「動かないで!

お前が動けば……首はねスレイマンをここで処刑するわ!!」

 

 

 

その声にゼファーもレオヴァも動きを止めた。

 

 

ゼファーの猛攻により身体を動かすことの出来ないスレイマンの首に、女海兵が剣を押し付けている。

 

スレイマンも意識を取り戻しているようで、血反吐混じりに声を出す。

 

 

「…レ"オヴァ様"の……あ"、足を"引っ張る"のなら……お"れ"は死に"ま"す」

 

 

剣へ首を押し当て自害しようとするスレイマンの頭を女海兵が阻む。

 

 

 

スレイマンを盾に取られレオヴァはピタリと動きを止めた。

 

 

「スレイマン、自害は赦さん……そのまま動くな。

 

……わかった…おれが動かなければいいんだな?」

 

 

 

そう言って止まったレオヴァにゼファーの強烈な一撃が入った。

 

肋骨の砕ける音にスレイマンは目を見開く。

 

 

 

「レオ"ヴァ様っ……あ"ぁ"…駄目だ……頼む"、お"れ、な"んてッ…どう"でも良い!!」

 

 

 

スレイマンは動かない筈の腕を必死にレオヴァに伸ばした。

しかし、その腕も女海兵の剣で貫かれてレオヴァへは届かない。

 

 

揺れる瞳にはスレイマンへ静かに微笑みかけるレオヴァに止めを刺そうと襲いかかる憎い男が映った。

 

 

 

 

 

 

レオヴァは自分の為に勝てた筈の戦いで(やぶ)れようとしている。

 

 

 

スレイマンの頭の中に最悪の光景が浮かぶ。

 

血に染まり動かないレオヴァとそれを運ぶ目の前の憎い男と自分を取り押さえる煩わしい女。

 

 

その時、スレイマンの中は今までにない程の怒りと憎しみで溢れかえった。

 

彼が傷つく事などあってはならない。

彼が負けることなどあってはならない。

彼が見下ろされるなどあってはならない。

彼が自分の世界から消えることなどあってはならない。

 

そうだ、今この状況すべてあってはならない……赦されざる事なのだ。

 

 

 

 

 

急にスレイマンから漂い始めた異様な空気をゼファーは感じ取った。

それ故、レオヴァへ向けていた注意が一瞬緩む。

 

 

その一瞬の隙をレオヴァが見逃す筈もなかった。

スレイマンを押さえ付けていた女海兵の身体が槍で貫かれ、後方へと倒れ込んで行く。

 

 

 

「ぜ、ゼファー…せ、んせぃ……ごめ…なさ……」

 

 

「アインッ…!!?

ううおぉおおおおぉぉぉ!!!」

 

 

 

けたたましい叫び声と共にゼファーは再びレオヴァへと距離を詰めようとした。

 

 

 

だが、ゼファーの足は動かない。

 

気付くとレオヴァがいつの間にか手に握っていた不思議な戦斧で左手を切り落とされている。

 

 

ゼファーは激痛と困惑の入り交じった呻き声を上げながら、自身の脚を見て全てを理解した。

 

 

 

地面から腰にかけて黄金が纏わり付いている。

 

無理やり黄金を破壊してでも進もうとするゼファーの周りの地面がぐずぐずと沈んでいく。

 

抜け出そうと身を捩ったゼファーの右腕も宙を舞う。

 

 

 

どんどんと黄金へ沈んで行くゼファーが最期に見たのはボロボロになりながらも立ち上がっていたスレイマンの自分を睨み付ける憎悪に染まった表情だった。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

レオヴァ様は一瞬の隙を突き、俺を人質にしていた女海兵を葬った。

 

 

その瞬間、俺が感じたのは喜びだった。

 

 

本来であれば無能な自分を恥じなければならないと言うのに、レオヴァ様があのとき、目の前の男を殺す事よりも俺を優先してくれた事に歓喜してしまったのだ。

 

 

あの瞬間、レオヴァ様が男を殺していれば女海兵は間違いなく俺へ剣を振り下ろしていただろう……それを分かっていたレオヴァ様は俺の命を優先して下さった…

 

 

どうしようもない俺の心にレオヴァ様への想いが溢れる。

そして、それと同時に男への憎悪も倍増した。

 

 

レオヴァ様へ突撃していくあの不届き者を許して良い筈がない!!

 

 

 

気付くと俺は立ち上がって能力を使っていた。

 

初めての感覚だった…

自分ではない周りの物を金に変える感覚。

 

 

 

俺は全神経を集中させ、男を葬る為に“覚醒した力”を使った。

 

 

そして、男の身動きを止めるとレオヴァ様はその隙を逃すことなく、男の腕を切り落とす。

 

 

……見惚れるほどの手際だった。

 

流石はレオヴァ様…と、上がる口角をそのままに

どんどん地面を金へと変えていく。

 

窒息死……それが今、サーベルを握る力の残っていない自分の出来る処刑方法だ。

 

完全に金へと溺れて行く男をじっと睨み付けた。

 

 

 

しかし、処刑を終えた俺の身体は限界だったようで力が全く入らずに視界に映る地面が近付いて行った。

 

だが、傾いていく身体が支えられる。

 

 

「レオ、ヴァ…さま……」

 

 

なんとか声を絞り出した俺の背をレオヴァ様は労るようにトントンと優しくたたいた。

 

 

「……お前の予想以上の負傷具合に少々冷静さをかいた…

スレイマン、お前が無事で良かった、本当に……

…それに能力の覚醒も出来たんだ、上々だ。」

 

 

「…レオヴァ…様への、想いと……奴ら、への……憎し…みが」

 

 

言いたい言葉が紡げず俺は眉をしかめたがレオヴァ様は察してくれたのか、頷いているのが肩から伝わる振動でわかった。

 

 

「そうか……感情の爆発でも覚醒する場合があるんだな…

それにしても…今日は疲れた……帰ろうか、スレイマン」

 

 

「は……い…」

 

 

 

 

レオヴァ様は倒壊した売場の日除けとして使われていたシートの上に俺を優しく寝かせると巨鳥の姿となってシートごと俺を運んでくれた。

 

 

 

俺はそれから二日ほど意識を失っていたと、目覚めた時にベットの横で看病してくれていたレオヴァ様から聞いたのだった。

 

 

その後、足手まといとなった事を謝る俺を優しく言い(すく)めて呟いた。

 

 

 

「……あれは“必要”な経験だった。

おれに取っても、スレイマンにとってもな…

 

ふふふ、これから覚醒した能力を更に伸ばして行こう。

楽しみだなァ……スレイマン。」

 

 

 

ベットから起き上がれぬ俺を見下ろしながら愉しげに笑うレオヴァ様を見て

やはり俺では考えの及ばない様な未来を見据えているのだと確信しながら、俺は強く頷く。

 

 

 

 

船室の窓から差す光に照らされるレオヴァ様の微笑みは天使のようだったが、瞳に映る色は悪魔のように愉しげに揺らいでいた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

レオヴァはこの海域周辺に海軍の演習艦が通ると言う話を聞いた。

しかも、その演習艦にはあの黒腕のゼファーが乗っているという事も。

 

 

 

直ぐに、その話の真偽を確かめたレオヴァはその島へ何度か補給と言う名目の下立ち寄っていた。

 

しかし、一回目二回目三回目と補給で二日ほど滞在したにも関わらず目的の演習艦は通らなかった。

 

 

しかし、四回目……ついに演習艦がこの島へ立ち寄っていたのだ。

 

 

空からそれを確認して船へ戻ったレオヴァは上機嫌で部下に声をかけた。

 

 

「すまない、スレイマンと共にこのリストの買い出しに行ってきてくれ。」

 

 

「了解です、レオヴァ様!」

 

 

 

久しぶりに直接命令を受けた部下は満面の笑みで返事をすると元気よく外で作業しているスレイマンの下へと飛び出して行った。

 

 

それを見送るとレオヴァは部屋にある机の引出しに入っていたウイルスと特効薬を手に取り、すっと懐にしまった。

 

 

 

「そろそろ、おれも経験を積むべきか……弱者ばかり相手にしてもしょうがねぇ。

スレイマンにも早く覚醒してもらう必要もある、ちょうど良いタイミングだ。

 

……“死にかければ強くなる”……ふふ、父さんの言葉は本当に為になるなァ…

 

 

 

愉しげに呟いたレオヴァの言葉は誰に拾われることもなく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ーーーーーーーーーーーーーーー

後書き兼補足

【スレイマン】
今までの戦闘などで溜まっていた経験値と今回の感情の爆発で能力が覚醒した。
治療後のレオヴァの反応を見て、今回の戦闘が想定内の事だったと気付く。
先を見通す力に流石はレオヴァ様!!と忠誠をさらに高める盲信っぷりである。
(自分が死にかけたことはまったく気にしていない、寧ろ助けて貰った事しか頭に無い)

【レオヴァ】
今までスレイマンの能力を覚醒させるために側に置いていた。
しかし、実力は伴っているのに覚醒しないスレイマンに頭を悩ませていたが
尊敬する父の『死にかければ強くなる』と言う言葉を思い出し、強引な手段に走った。
(そうやってカイドウから育てられた為、レオヴァは効率的だと思っているが、かなりの脳筋的荒療治方法である。)
そして無事覚醒したスレイマンを見て、流石は父さんだなァとニッコリしている。


【レオヴァが懐に入れたウイルス】
万が一、ゼファーが優勢になったら使って殺すつもりだった。
割ると煙が出て吸うと脳に異常が現れ、10分もせずに死に至る代物。
無論、使えば島も滅びるがスレイマンと部下たち、そして自分さえ生きれれば言いという考えだった。

【戦いのその後】
ゼファーは黄金によって窒息死。
周りの部下はレオヴァによって全員炭になっており、生存者はいない。
この戦闘を隠蔽する為に島の住人も皆殺しとなった。
(尚、その皆殺し作業中は部下達は他の島へ退避している)

現在、演習艦は行方不明扱いであり、島はレオヴァによって沈められた。

【ゴルゴル覚醒について】 
原作では操作範囲の超拡大&その操作している黄金に何かあれば分かる能力だが、今作品では能力者が違うので、覚醒の方向も変化。
(今作品で覚醒内容を変えた理由は、ゴルゴルの実を資金源にしたいから&能力者が原作とは違うから)


前回もご感想やコメントありがとうございました!!
いや~、スタンピードの小説読んだのですが……バレットめっっちゃ良いキャラだなぁとしみじみ思いました!
……バレットの小説も書きたいですね…

後書きまでお読みくださりありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

父の手土産

 

 

 

 

 

 

鬼ヶ島にて今夜のショータイムの準備をしていたクイーンは目の前の光景に口を大きく開けたまま固まってしまった。

 

 

 

 

 

カイドウが船と部下達を置き去りに一人、龍の姿で早く戻ってくる事は多々ある事だ。

今さら予定よりカイドウが早く帰還してもクイーンは驚きもしない。

 

 

しかし、今日のカイドウの手には二人の子どもが握られているのだ。

 

いかにクイーンが様々な事に慣れていると言えど、驚くなというのは無理な話である。

 

 

 

あのカイドウに限って誘拐などあり得ないとは分かってはいるが、何故ボロボロで瀕死の状態の子どもを連れているのかが全く分からない。

 

 

思考が纏まらず固まったままカイドウを凝視しているクイーンの前に、ドサッと子どもが落とされる。

 

 

 

「あ~、えっと…?……カイドウさん?」

 

 

 

意味が分からないとクイーンが尋ねる。

 

 

「レオヴァに土産だ。

確か、新しく作る“飛び六胞(とびろっぽう)”とかいう幹部の候補が足りねぇと嘆いてただろ?

だからたまには、おれからレオヴァに土産をやるのも悪くねぇと思ってなァ!」

  

 

「…そ、そりゃレオヴァも喜ぶんじゃないっスかね~?

は、はははは……はぁ……」

 

 

 

良いアイディアだろ?とばかりにドヤ顔でボロボロの子どもを連れ帰って来たカイドウに

『いや、土産で死にかけのガキ渡されても微妙じゃないッスか?』

と言う言葉をクイーンはグッと飲み込んだのであった。

 

 

クイーンの乾いた笑いに気づいた素振りもないカイドウは、もうじき帰ってくる自慢の一人息子の喜ぶ顔を思い浮かべて笑う。

 

 

 

「ウォロロロロロ……

おれが気に入ったんだ、レオヴァも気に入るぞ…!!」

 

 

 

サプライズで持って帰って来た手土産を早く見せたいと浮き立っていたカイドウだったが、目の前でぐったりと横たわる血塗れの子どもを見て、死なれンのは困るなァ…とピクリとも動かない子どもを医務室へ運ぶようにクイーンに命を出した。

 

 

「レオヴァへの土産なんだ、死なすなよ…?」

 

 

「トラファルガーのガキも居るんで問題ないッス」

 

 

ひょいと子どもを持ち上げるとクイーンはそのまま医務室へと向かっていき、カイドウは返り血を流すべく大浴場へと向かって行った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

目覚めた二人の子どもは部下達では手に終えないほどに凶暴だった。

 

……姉が一人で暴れまわっていたと言うのが正しいのだが。

 

 

 

しかし彼女は何を言われても、キングやクイーンに倒されても

次起きればまた暴れ回るのだ。

 

唯一、大人しくなったのはカイドウが怒気を纏った時のみだった。

 

 

おかげで鬼ヶ島の屋敷はここ最近修理のためにずっと職人達が寝泊まりする始末である。

 

 

 

姉の傍若無人な振る舞いに、弟は眉を下げる。

 

 

「あ、あねき……またあの黒い奴来ちまうから暴れんのやめろって!」

 

「やめろ…だとォ!?

お姉ちゃんへの口の利き方がなってねぇなぺーたん!!」

 

「んぐ…!」

 

 

馬乗りになってぺちぺちと頭を叩く姉に、困り顔の弟は下敷きになりながら踠くが抜け出せない。

 

ぐったりとした弟を無理やり立たせると姉はビシッと指を差して宣言した。

 

 

 

「今日こそ、“レオヴァ”とか言う奴の部屋を探索するぞぺーたん!」

 

 

「いやダメだろ!!

前に入ろうとしてカイドウさまに怒られたじゃん!」

 

 

「ふん!

べ、別にカイドウさまが怒っても怖くないし……!

わたしはお城をぜんぶ冒険するって決めたんだ、ぺーたんも一緒に行くの~!!」

 

 

必死に嫌だと抵抗する弟を引っ張りながら姉はルンルンと歩みを進めた。

 

 

「うぐ~…離せよあねきぃ~!

おれは絶対怒られるのヤダからなぁ!!」

 

 

 

弟の悲痛な叫びが聞き入れられる事はなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

フカボシを送り届けて帰って来たレオヴァとスレイマンを見た部下達から悲鳴があがる。

 

歩くことさえままならずに担がれている傷だらけのスレイマンと破損している服から見える鎖骨から脇腹あたりまで痛々しいアザのあるレオヴァは医務室へと問答無用で運ばれた。

 

 

 

 

そして医務室当番であるローの鬼の形相にレオヴァは眉を下げたまま、余計な事を言っては火に油を注ぐと口を閉じ

スレイマンは苦々しい顔をしたままローに治療されている。

 

 

忙しなく治療に手を動かしながらもローの小言は止まらない。

 

 

「なんで送り届けただけで全身至る所を骨折なんて大怪我をするんだ!?

レオヴァさんが適切な処置を施してるみてぇだから何とかなってるが、最悪の場合は骨が筋肉とくっついて大変な事になるんだぞ!!

しかもレオヴァさんまでデカい怪我してんじゃねぇか!」

 

 

「いや、大した怪我じゃ……」

 

 

思わず少し口を挟んだレオヴァにローは睨み殺さんばかりの目を向ける。

 

 

「おれは誤魔化されねぇからな!

スレイマンを担いで涼しい顔してっから周りの奴らは大丈夫だとかほざいてるが、“スキャン”したら肋骨と鎖骨が粉砕骨折してたぞ……隠し通せると思うなよ…?

おれは医者なんだからな、嘘つくの無駄だからやめろよ!」

 

 

「……“スキャン”の手際が良くなってるな、流石ローだ。

では、おれはそろそろ……」

 

 

「褒めて話を反らせると思うな、そんな手が通じんのはクイーンの馬鹿だけだからな!?

治療が終わるまでは絶対に医務室から出さねぇぞ…

 

……やっと来たかジャック、レオヴァさん捕まえとけ」

 

 

「…ジャック!?」

 

 

「すまねぇレオヴァさん、怪我の手当て終わるまでじっとしててくれ。」

 

 

 

腰を上げたレオヴァの後ろからジャックが肩を掴み座らせる。

 

まさかの連携プレーにレオヴァは観念したように笑うと、自分の治療の番になるまでジャックとの雑談を始めた。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、クイーン様、大変ですよ!

レオヴァ様が遠征で大きな怪我しちまったらしいですぜ…おれもう…心配でッ……」

 

 

「おいおい、おれの聞き違いだよなァ……レオヴァが怪我なんてするはず…」

 

 

「いやだからクイーン様!!レオヴァ様がお怪我をッ……!!」

 

 

「…えぇ まじかよ!?聞き違いじゃねぇの? レオヴァが大怪我ぁ?!」

 

 

 

一方その頃、幼少以降大きな怪我のなかったレオヴァの負傷を聞いたクイーンは止まらぬ冷や汗をかいていた。

 

この、十年ほどレオヴァはカイドウとの組手や計画に必要な傷以外では怪我などしていないのだ。

 

それはもうクイーンは驚き、焦った。

心の中では

『レオヴァが怪我って……マジかぁ~

計算?……いやいや、レオヴァなら計画でそういう事になるなら予め言ってくるしなァ……

や、やべぇ……まじ大丈夫かよ……』と頭を抱えた。

 

 

 

「レオヴァが……おれはどうすりゃ…」

 

 

 

そう重々しく呟くクイーンを見て部下達は心打たれる。

あの普段ハイテンションなクイーンがレオヴァの為にこんなにも心痛めているのか、と。

 

 

 

「クイーン様……そんなにもレオヴァ様を……」

 

「そうだよなぁ…クイーン様はレオヴァ様が赤ん坊の時から知ってんだもんな……そりゃ、お辛いぜ……」

 

「あんなに心配なさってるクイーン様を見ると…心が張り裂けそうだッ……」

 

 

 

 

 

しかし、クイーンはレオヴァの容体は一切心配してなどいなかった。

それはレオヴァに敗けや致命傷など…ましては死ぬなんて絶対に有り得ないという確信があるからだ。

 

 

では何故こんなに焦っているのか。

 

 

 

それは簡単かつ大きな理由……

 

カイドウがブチ切れて暴れるのではないかという懸念だ。

 

 

 

つい二日程前にレオヴァの自室を漁ろうとした拾ってきた子ども二人に対してカイドウはキレたのだ。

 

そして、その怒りにより嵐よりも甚大な被害が出ている。

 

 

 

息子の自室を子どもが荒そうとしただけで、このキレ具合だ。

そんなカイドウが、溺愛する息子に大きな怪我を負わされたと聞けばどうなるだろうか?

 

もちろん、前回の比ではないほどにブチ切れるだろう。

それこそ火を見るより明らかである。

 

 

 

クイーンは今までの長い付き合いから、そのとばっちりが自分に飛んでくると身をもって存分に理解していた。

 

 

 

そんなクイーンの出した答えはこうだった。

 

『……これカイドウさんに言わなきゃ良くね?

レオヴァなら分かってくれるだろうし……ジャックは黙らせりゃいい……うん、そうしよう!』

 

 

無理やり過ぎる答えを導きだしたクイーンは

さっそくレオヴァと口裏を合わせるべく、医務室へと向かうための行動を起こした。

 

 

 

「よォ~し!!

おれは今から医務室で治療中のレオヴァの所に行ってくる……あとの仕事はお前たちでやっとけよ!」

 

 

 

ドドンッという音が見えそうなほどのキメ顔で指示を出したクイーンは、勢い良く出ていこうと扉を振り返り思わず叫んだ。

 

 

 

「うぉお!? カイドウさんッ……!?

いいいいいいつからそこに!?」

 

 

「……おい、クイーン…レオヴァが治療中ってのはどういう事だァ…?」

 

 

 

 

そこには鬼なんて可愛く見えるほどに恐ろしい顔をしたカイドウが仁王立ちしている。

 

周りの部下は次々と泡を吹いて倒れていき……ついに立っているのは全身冷や汗でびっしょりなクイーンと眉間にこれでもかと皺を寄せながら覇気をビリビリと放っている爆発寸前のカイドウだけだ。

 

 

クイーンは今だ(かつ)て、自分が気を失えない事をこれ程までに憎んだことはない。

 

 

出来ることは一つ、ここには居ないレオヴァに心の中で必死にSOSを出すことだけだった。

 

 

 

 

 

鬼ヶ島にカイドウのブチ切れた怒鳴り声が響いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

とある部屋にて、上機嫌にカイドウはレオヴァの注いだ酒をぐいぐいと飲んでいる。

 

 

 

先程まで

『どこのどいつだァ……!?

 おれが行って殺してやるッ…!!!』

と誰の手にも負えぬほど暴れていた男とは思えない変わりっぷりである。

 

もはや、夢だったのか?と首を傾げるレベルだ。

 

 

しかし、地獄絵図が嘘のように歓談する親子の側に控える二人を見ると、あの光景が現実だったことをまざまざと感じさせる。

 

 

憔悴しきったクイーンは大好物のおしるこを食べる手が全然進んでおらず、キングもマスク越しですら疲れの滲み出る顔が隠せていなかった。

 

 

あの場面に出くわした部下達はきっと口を揃えて言うだろう。

キングとクイーンはあの時確かにヒーローであった、と。

 

 

レオヴァが騒ぎを聞きつけてカイドウを諌めるまでの空白の七分間の攻防たるや、それは凄まじいものであった。

 

普段協力の“きょ”の字もないキングとクイーンが息ピッタリな連携を見せる程には地獄だったのだ。

 

 

レオヴァが現れた時のクイーンの表情は何にも例えられぬほど、哀愁と歓喜に満ち溢れていた。

あのキングでさえレオヴァを呼ぶ声に安堵が滲み出ていたのだ、本当に辛い攻防だったのだろう。

 

 

 

地獄を必死に食い止めるべく戦ったヒーロー二人は、目の前で呑気に晩御飯はレオヴァのどの好物にしようかと腕を組んで考える親バカを見て大きな溜め息をついた。

 

 

 

大騒ぎを引き起こした張本人であるカイドウは、まるで先程のことなどなかったかのように楽しげにレオヴァに声をかけた。

 

 

「そうだ、レオヴァ。

お前に土産を用意してたのをすっかり忘れてたぜ!

なかなか面白ぇのを持って帰って来れたんだ。」

 

 

「土産?

父さんからの物なら喜んで受けとろう!

ふふふ…楽しみだ。」

 

 

「ウォロロロロロ……待っとけ、連れてきてやる。」

 

 

「……“連れてくる”?

土産は物じゃなくて生き物なのか…?」

 

 

 

きょとんとした顔をするレオヴァに意味ありげにカイドウは笑うと、そのまま部屋を出ていってしまった。

 

レオヴァはせっかくの父さんのサプライズだからと、見聞色を使わず楽しみに待つことにした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

カイドウに連れてこられた二人の子どもを見ると、珍しくレオヴァは目を丸くして驚いた。

 

そして、そのレオヴァの顔を見てカイドウは成功だとばかりに喜ぶ。

 

 

 

「ウォロロロロロ……

遠征先の島にいた生きの良いガキ共だ。

実力はまだまだだが、タフさが桁違いでなァ

姉の方は能力者だ。」

 

 

そういって前に押し出されたうるティが騒ぐ。

 

 

「なんだよ!

せっかくぺーたんと遊んでたのに急に捕まえられて…

カイドウさま最悪ッ……!!」

 

 

「バカッ……やめろって、あねき!

カイドウさまに失礼なこと言うなよぉ…」

 

 

 

カイドウをポカポカと殴るうるティをページワンが必死に止める。

 

 

レオヴァはその光景に笑うと、カイドウに声をかけた。

 

 

 

「まさか父さんが新人を連れてきてくれるとは!

次の幹部候補メンバーの中に入れる……と言う考えで良いだろうか?」

 

 

「あぁ…!

ちょうど候補がいねぇと言ってたのを思い出してなァ

殺さずに土産にしたんだが……どうだ?」

 

 

「助かる、本当に困っていたんだ……

父さんが連れて来てくれたんだ、きっと強くなるだろう。

…面白い土産をありがとう父さん、嬉しいよ。」

 

 

「ウォロロロロロ!!

そうか!気に入ったなら良い。

今後はこのガキ共はレオヴァに一任する!」

 

 

 

サプライズが成功し、ご機嫌に指示を出すカイドウと父からの思わぬ手土産に上機嫌なレオヴァ。

 

そして、その指示を聞いて

やっとガキのお守りとおさらばだとキングとクイーンは喜んだ。

 

 

だが、どんどん勝手に進んで行く話にうるティは不満げな表情を隠しもせずに噛みつく。

 

 

 

「わたしは認めないぞ!

カイドウさまは強ぇから言うこと聞くけど

そのへらへらしてる奴の言うことは聞かないからな!!」

 

 

腕を組んでフンッと鼻を鳴らしたうるティの頭に拳骨が降ってくる。

 

 

「んに"ゅ"ッ…!?」

 

 

突然の痛みに変な声を出したうるティは頭を押さえながらカイドウを見上げて固まった。

 

 

「レオヴァはテメェらの上だ。

上下関係ぐれぇそろそろ覚えねェかガキ!」

 

 

 

怖い顔をして見下ろしてくるカイドウに、しゅんとするうるティを庇うようにレオヴァが二人の間に立った。

 

 

「まぁ、父さん。

まだ子どもなんだ……これから少しずつ覚えれば良いさ。」

 

 

「……レオヴァが言うならそれで構わねぇ。

今日からそのガキ共は好きにしろ。

それと怪我の事もある……二ヶ月はレオヴァの遠征は無しだ。」

 

 

「わかったよ、父さん。

心配させてすまなかった……ありがとう。」

 

 

 

親子がそのまま夕御飯の準備の指示を出す後ろで

うるティはじっとレオヴァを観察し、ページワンは心配そうに姉の頭にレオヴァから渡された氷をそっと宛てていた。

 

 

この日から二人は“連れてこられた子ども”から

 “百獣海賊団 海賊見習い”となった。

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

逆鱗と娯楽

 

 

 

 

ページワンはここ最近の怒涛の出来事に頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

そう……姉であるうるティが突如島に現れた屈強な大男、カイドウに喧嘩を売ったのが事の発端であった。

 

 

一撃で沈められた姉を見てページワンは敵わないと分かってはいたが、この世でたった一人の大切な姉弟(きょうだい)を独りで死なせるわけにはいかないと果敢に挑み……これまた一撃で伸された。

 

 

 

 

 

 

そして気付けば知らない天井を見上げていたのだ。

 

 

体の全てがズキズキと痛む中、最初に聞こえたのは

『離せよ~~!!ぶっ殺す!

そのヘンテコサングラス割ってやるぅ~!!』

と言う、姉の大絶叫である。

 

 

ページワンはまた頭を抱えたい衝動にかられながらも、姉を止めるべく体を引きずりながらベッドから起き上がったのだった。

 

 

 

 

その後1週間ほど鬼ヶ島と言う場所にあるらしい城にて軟禁状態だった二人がトランプやブロックで遊んでいるとカイドウが現れ、そのまま荷物の様に持ち運ばれた。

 

そして、そこで出会ったのがカイドウの息子だというレオヴァであったのだ。

 

 

青年はカイドウや周りの者たちとは違い物腰が柔らかく、常ににこやかだ。

 

ページワンは少しほっとした。

 

 

その後の姉の噛みつきにもヒヤヒヤしたが笑って受け流すレオヴァを見て、またほっと息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

カイドウの号令により正式にレオヴァの指揮下に入ったページワンとうるティだったが

当初、信じられないほどうるティはレオヴァに喧嘩を売り続けた。

 

そして、そのうるティの態度を目撃した過激派ジャックとスレイマンに殺されかけたのもページワンの記憶に新しい。

 

あの時、焦ったように駆け付けたレオヴァが止めに入らなければスレイマンの黄金で身動きの出来なかった姉弟はマンモスの姿で荒れ狂うジャックに踏み潰されていただろう。

 

 

 

それでも懲りずに毎日のように多方面に喧嘩を売っていく姉にページワンは胃の痛みとハラハラで参ってしまっていたほどだ。

 

 

しかし、一度あの何をしても怒らなかったレオヴァを激怒させて以降はうるティはレオヴァに噛みつくことはなくなった。

 

ページワンも元々、優しくしてくれるレオヴァにわざわざ歯向かう気など微塵もなかったが、あのレオヴァを見て以降さらに歯向かう気など消え失せた。

 

 

 

 

 

そんな穏和な彼を怒らせたのは、うるティが報告に来ていたハデな服の船員に放った一言が原因であった。

 

 

『なァ…ぺーたん、アイツの話し方きもい!』

 

 

 

この一言を聞き、一瞬眉を困ったように下げたハデな服の船員が話し方を少し“直した”時だった。

 

レオヴァから今まで一度も聞いたことのない様な低い声が出たのだ。

 

 

 

『……うるティ…お前、わざわざ報告に出向いてくれてるおれの大切な部下を侮辱したのか?』

 

 

 

ページワンはこの瞬間、生きた心地がしなかった。

まるで部屋が氷に覆われたのではないかと言うほど寒く、体が無意識に震えた。

 

…きっとうるティも同じだったのだろう。

信じられないものを見るような目でレオヴァの方を向いたまま固まっていた。

 

 

 

『おれはお前に聞いてるんだ、うるティ……その口は飾りかァ…?』

 

 

『…………だ、だって…男なのに……へ、へんな話し方だったからっ…』

 

 

 

どもりながらも渇いた口から必死に言葉を紡いだうるティだったが、それがまたレオヴァの怒りに油を注いだ。

 

 

 

 

『男だからなんだ?

男が女が好む傾向にある言葉遣いや物を身に付けちゃならねぇのかァ?

…いや、そんな決まりウチにはねぇよなァ?

 

ウチではちゃんと仕事さえできりゃ、好きなように自分らしく生きて良いんだ。

それをお前は勝手な価値観で否定したんだぞ、わかってンのかァ…!?』

 

 

 

怒らないと思っていた人物が突然怒った驚きと、肌に刺さるビリビリとした覇気にうるティは涙目のまま一切動けなかった。

 

しかし、そんな雰囲気を何とかしようと報告に来ていた部下がレオヴァに声をかける。

 

 

 

『ちょ、ちょっとレオヴァさま顔怖いわよ!?

わたし全っ然気にしてないわ~!

確かにレオヴァさまに対して軽すぎる口調ですし?…今後は少~し気を付けないと……なぁ~んて思ったりしてましてぇ!

 

…うるティちゃん教えてくれてありがとうって感じよ!

ほら、そんな顔しないで~?ね?』

 

 

 

笑顔でうるティを励ましながら必死にカバーする部下にレオヴァの怒気が少し緩む。

 

 

 

『…ふぅ……お前に気を使わせるとは…すまなかった。

だが、その話し方もお洒落も辞める必要は一切ない。

軽い口調でも固い口調でも おれは構わねぇんだ。

大切なのは互いへの敬意だ、それさえありゃあ他の細かいことは気にしねぇよ……今まで通り話しかけてくれ。

 

おれは皆が自分らしく自由にやっているのが好きだし、何よりそういう場所がここだと思ってもらえるように努力している。

……おれたちは“百獣海賊団”だ、自由に生きられねぇなんざ父さんの掲げるモンと違ってきちまう。

 

……うるティ、お前の価値観や個性もおれは大切に思っている。

けどなァ…それが周りを否定することになンなら話は別だ。

 

皆、一人ひとりに素晴らしい個性がある。

全員と無理に仲良くしろとは言わねぇが、個性は互いに尊重し合え。

喧嘩や軽い揉め事は構わねぇが、身内の根本を否定するのは駄目だ。

 

……おれは可愛い部下を傷つけられる事だけは我慢ならねぇ…わかったな?』

 

 

 

いつもよりも口調は荒いがレオヴァらしい言葉に部下は嬉しげにはにかみ、うるティはこくりと頷いた。

 

 

 

そろそろ持ち場へ戻ると手を振る部下にレオヴァは皆と食べるようにと袋詰めにした菓子を手渡した。

 

最後に二人に手を振って出ていこうとした部下に小さく呟くように、うるティが声をかける。

 

 

 

『……もう絶対にあんなこと言わない…ごめん……』

 

 

 

うるうると濡れた瞳で真っ直ぐに見つめて謝った少女に嬉しそうに部下は笑うと、快く答えた。

 

 

 

『うふふ!もう、別に怒ってないわよ~!

本当にうるティちゃんったら素直で可愛~いんだからぁ!』

 

 

 

じゃあね~!と元気よく投げキッスをする部下を見てやっと、うるティは笑う。

そして、しっかりと謝れたうるティを見てレオヴァとページワンも笑った。

 

 

 

『……謝れて偉いぞ、うるティ。

もう、二度と身内を傷つける真似はするなよ?』

 

 

『うん、ごめんなさい…』

 

 

 

レオヴァは優しくうるティの頭を撫でると、そのまま二人のおやつを用意をする為に立ち上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの事件以来うるティは口は悪いが身内の個性を否定する発言は一切なくなった。

 

……その代わりに語尾に何かを付けると言う変なブームが来たことに、再度ページワンが頭を抱えることになったのだが。

 

 

 

しかし、その後のレオヴァとの生活の末、今では昔の面影を一切感じないほどに懐いていた。

 

 

その姉の変わりように何とも言えない気持ちになったページワンだったが、あの島で生きるのに精一杯だった頃と違い、毎日楽しそうに笑う姉を見て

『ほんと、しょうがねぇな』と嬉しげに呟きながら今日も後ろを付いていくのだ。

 

 

 

 

「あ…! レオヴァさまだ♪

いくぞぉ、ぺーたん!!白くまを蹴散らせぇ~!……ナリ!」

 

 

「あ、ちょ!!あねき何すんだよ!?!」

 

 

「うわぁー! うるティがぺーたん君投げてるよ!?」

 

 

 

掛け声と共に弟をクマに向かって投げたうるティ。

ページワンとベポはお互いに悲鳴を上げた。

 

 

二人が衝突する一歩前でレオヴァは危なげなくページワンを抱き止めると呆れた様にうるティを見る。

 

 

 

「うるティ、おれは昨日も“ぺーたん”を大切にしろと言わなかったか?」

 

 

「アァ!? ぺーたんだけずるいぞ!!

わたしも~ レオヴァさま~抱っこ!!」

 

 

「おい、あねき!獣化して飛んでくんなよ!

ず、頭突き当たったらおれ死ぬぞ!?」

 

 

「あわわわ…!」

 

 

 

直属の上司の話を右から左に流しながら獣化したうるティは猛突進していく。

 

レオヴァは苦笑いしつつも、抱えていたページワンを左手に抱き直すと、そのまま突っ込んできたお転婆娘の強烈な勢いをすっと()なし右腕で抱き上げた。

 

 

 

「えへへへ……ぺーたんぺーたん!

レオヴァさまに抱っこしてもらうと景色が高いナリ!」

 

 

「あ~ハイハイ……そうだな…」

 

 

「ぺーたんなんだ、その雑な感じ~!!

わたしお姉ちゃんだぞ!」

 

 

「知るか……疲れた…」

 

 

「知・る・か……だとォ!?

ちゃんとお姉ちゃんをかまえ!!」

 

 

「コラ、うるティ。

人の腕の中で喧嘩は止せ……暴れるなら降ろすぞ?」

 

 

 

喧嘩を始めそうな二人にやれやれとレオヴァが眉を下げる。

 

うるティはせっかくの機会を逃すまいとページワンの胸ぐらを掴んでいた手を離した。

 

 

 

「レオヴァさま、わたし今日もいっぱい仕事手伝って良い子にしてたナリ!

だから一緒にあまいお菓子たべるナリ~!」

 

 

「ふふふ…そうか、仕事を沢山手伝って偉いなァ…うるティ。

なら今日はケーキにしようか?」

 

 

「やった~!

ぺーたんケーキだって!めっちゃ楽しみ~!……ナリっ!」

 

 

「……あねき…忘れるくらいなら、その語尾やめりゃあいいのに…」

 

 

 

キャッキャと騒ぐうるティとそれに引っ張り回されるページワンにレオヴァは優しく笑いかける。

その後ろでベポは今日のおやつのケーキに心を馳せた。

 

 

 

そんな微笑ましい三人と一匹を見る部下たちの視線は今日も優しい。

 

 

 

「今日もうるぺー姉弟元気だなぁ……」

 

「ははは!にぎやかでいいぜ!」

 

「レオヴァ様達みるとマジ癒される……」

 

「おれ今日、キング様担当だから今のうちに癒されとこ…」

 

「おれもそうしよ!」

 

 

 

「「「「「いやぁ、ほんと今日も平和だなぁ」」」」」

 

 

 

ほのぼのと呟かれる言葉は三人と一匹に届くことなくふわっと晴れ渡る青空へと消えていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「では、第一回模擬札(もぎふだ)の入賞者への賞品授与をはじめる!

 

優勝…トラファルガー・ロー

ローは記念コインを集めるのが好きだと聞いたからな…今はない国の記念コインを賞品とした。」

 

 

 

舞台上にて、ローは恥ずかしさと嬉しさから、すっと帽子で顔を隠す。

 

そして、黒に綺麗な金の装飾の施された箱に並べられた三枚の細かい作りの硬貨をしっかりとローは受け取り軽くお辞儀をした。

 

 

 

「ありがとう、レオヴァさん……気に入った。」

 

 

「ふふふ…気に入ってくれたなら、おれも嬉しい。

大会での優勝、おめでとう。

特に決勝戦の盛り上がりは素晴らしかった…

次の大会も出ると聞いてる……期待しているぞ?」

 

 

「あぁ、見ていてくれレオヴァさん……次もおれが優勝する」

 

 

 

そう不敵に笑うローにレオヴァも楽しげに笑った。

 

下からは今回の参加者から次に勝つのは自分だとヤジが飛ぶがローはどこ吹く風である。

 

 

 

わいわいと騒がしくなった参加者たちをレオヴァが一声で静かにさせ、次の者を呼ぶ。

 

 

 

「次は、準優勝…ページワン。

前にこう言う服が欲しいと絵を見せてくれたのを覚えているか?

……一流のデザイナー達を集めてつくらせた一張羅(いっちょうら)だ。

耐久性も高いから任務でも着ていける。」

 

 

「え!? すげぇ!

本当におれがイメージしてたまんまだ……かっけぇ…

ありがとうレオヴァさま!」

 

 

ページワンは満面の笑みを浮かべながらレオヴァから手渡された洋服一式を抱き抱えた。

大喜びで受け取ったページワンの頭を軽く撫でると、レオヴァは続ける。

 

 

 

「決勝戦での型破りな戦術……見ていて面白かったぞ。

参加者数十人を倒し決勝戦まで駒を進めた実力も見事だ。

……次も得意の速攻で存分に皆を驚かせてくれ」

 

 

「へへへ…もちろんだぜ、レオヴァさま!」

 

 

ぐっと拳を握って意気込みを表すページワンに、レオヴァも答える様に頷く。

 

そして、後ろからはページワンと同じくらい嬉しそうな姉の声が響く。

 

 

 

「きゃ~ ペーたんスゴイ!!……なり!

 

ロー次勝つのはぺーたんだかんなァ!? 首洗って待っとけ!!

おい、ちゃんと見てるかドレーク!

わたしのぺーたんがレオヴァさまから褒められたぞ!?

さ~すがぺーたんナリ~~♪」

 

 

 

舞台上からでも分かるほどピョンピョンと跳ねるうるティにページワンは顔を赤くしながら叫ぶ。

 

 

「あねき、少しは静かにしろって!!」

 

 

「ア"ァ"……静かに“しろ”だとォ!?」

 

 

 

いつもの様に始まった姉弟喧嘩に周りの者たちは笑う。

 

にぎやかな皆にレオヴァは微笑むと、騒がしいうるティを気にせずに締めの言葉を始めた。

 

 

第一回、模擬札(もぎふだ)大会の賞品授与式は楽しげな声が溢れる中、終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

賞品授与式を遠目で眺め、部屋に戻ったジャックは溜め息をつく。

 

ドスッと椅子に座り、机の上にある特殊なカードを手に取り眉間に皺をつくる。

 

 

そう、今回の模擬札(もぎふだ)大会での戦績が悪かったことにジャックは悩んでいたのだ。

 

 

 

 

この“模擬札(もぎふだ)”とはレオヴァの考案兼監修の下、クイーン開発により作られた俗に言うカードバトルゲームである。

 

武人札・守備札・罠札・補給札…などを用いて相手の陣地を落とす戦略型のゲームなのだ。

 

しかも派手好きなクイーンの嗜好も取り入れられており、レオヴァの作ったスクリーンにて様々な演出や戦況をリアルタイムで観戦できるという娯楽性まで兼ね備えていた。

 

 

 

その為、この模擬札は百獣海賊団の船員たちの中で

とてつもない一大(いちだい)ブームを巻き起こしていたのだった。

 

更に最近ではワノ国の民衆にも簡易化した模擬札が発売され始め、そちらでもブームを巻き起こしている。

 

 

 

結果、人気の娯楽である模擬札はついに大会までも開催されたのだ。

 

 

 

しかし、本来ジャックはあまり娯楽に興味などなかった。

 

ならば何故、模擬札(もぎふだ)とにらめっこしているのか……

 

 

 

その理由はカイドウとレオヴァである。

…何を隠そうジャックは二人から褒められたかったのだ。

 

 

 

 

壮大なグラフィックで繰り広げられる戦略戦。

派手なパフォーマンスや船員たちの盛り上がりや熱狂具合。

そして最大の決め手は“レオヴァ発案”という事実。

 

これらの要素からカイドウは、宴で酒を飲みながら楽しめる娯楽として大会を開くことをレオヴァに進めたのだ。

 

 

勿論レオヴァがカイドウからの提案を断る筈もなく、二つ返事で頷き、あっという間に大会が開催される事が決定した。

 

 

 

 

……そう、カイドウとレオヴァが楽しみにしていた大会でジャックは良いところを見せようと、ブームに乗り遅れながらも模擬札(もぎふだ)を集めルールを短時間で頭に詰め込み、大会に向け出来る限りを尽くしたのだ。

 

 

 

だが、結果は二回戦目での敗退……

 

現実の戦闘であれば力でゴリ押しすれば良いが、戦略ゲームではそうはいかない。

 

 

それに何より、あのローの勝ち誇った顔と言葉にジャックは腹が立ってしょうがないのだ。

 

 

 

『…ジャックにはこういうのは向いてねぇよ

別にお前は遠征で結果出してんだし良いだろ…?

 

……まぁ、おれはレオヴァさんに“期待されてる”から次の大会も出るがな。

それに“カイドウさんからも”次の大会も宴で(さかな)にするから気合いを入れろと言われてんだ。

 

あぁ…悪いが“レオヴァさんから貰った”記念コインをコレクションに追加しなきゃならねぇから、そろそろ戻る。

…じゃあな、ジャック。』

そう言いニヤリと笑って颯爽と賞品を抱えながら消えて行ったローの顔を思い出し、ジャックは思わず机の上のジョッキを握りつぶした。

 

 

 

 

「……次は絶対に勝ち進んで、おれがカイドウさんとレオヴァさんに…!!」

 

 

 

 

鬼気迫る顔でカードと睨み合いながら次の大会への調整や作戦を練ったジャックだったが、次の大会も三回戦目で宿敵ローに敗れたのだった。

 

 

これでもかと遠回しに煽ってくるローとそれを止めるドレークに背を向けながらジャックは悔しさを圧し殺した。

 

 

 

 

大会後にガックリと肩を落とし、とぼとぼと歩いているジャックを見つけたレオヴァは、そのあまりにも哀愁漂う背中に思わず笑ってしまう。

 

 

 

「ふふ……まったく、真面目すぎるなァ…ジャックは。

大看板として十分すぎるほど働いてんのに、まだ頑張ってんのか」

 

 

 

カイドウとレオヴァに自分を見て欲しい一心で慣れないことを頑張っているジャックに、人知れずレオヴァは何か褒美をやろうと考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回も誤字報告と感想ありがとうございます!
うるティの圧倒的人気にニッコリしております!笑

後半は日常回的なオマケ話でした。

ー後書きなどー

・模擬札
仕事がシフト制でしっかり休みがあるばかりに暇をもて余してしまった部下達の娯楽及び知力向上の為にレオヴァが考案したゲーム。
専用の機械に札(カード)を読み込ませてスクリーンで大迫力の戦闘シュミレーションバトルを行う。
(予算はレオヴァのポケットマネーから出ていたが、現在は札の購入代や専用機械から利益が出ているので切り替わった)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・うるティ
すっかりカイドウとレオヴァ大好きっ子に。
カイドウは世界一強いと思っている(自分を一撃で伸した為)
かなり生意気だったが、カイドウを慕っていた事と直々の手土産だった事からレオヴァには大切に扱われていた。

事件以降は実力もあり、カイドウとレオヴァの前ではとてもイイ子なのでレオヴァに部下として気に入られた。
ジャックとスレイマンとは未だに仲良くない。
レオヴァに可愛がられるベポをライバル視している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・ページワン
姉想いの苦労人、とても真面目。
酷い環境で育ったので、今の三食美味しい食事とふかふかの布団、無理のない仕事に大満足。
多すぎる報酬の使い道がなくて困っていたが、最近は模擬札や城下町での食べ歩きにハマっている。


姉以外ではレオヴァを一番信用しており、そのレオヴァの尊敬するカイドウの事を尊敬している。
その為未だにカイドウの前に出ると何時もの何倍も姿勢が良くなる。
(百獣に入れてくれた事にも感謝している)
ドレークと特に仲が良く、自分のせいで姉に絡まれてるのを見ては申し訳ない気持ちになっている。
スレイマンのポジションを狙っている。
ローとは馬が合うと思っていても互いに警戒心が強い為なかなか距離が縮まなかったが、模擬札関連で仲良くなれそうで少しそわそわしている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

アンケート回答して下さった皆様ありがとうございました!
色んな方がいらっしゃる事がわかって嬉しみです~!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

糸と出逢い

 

 

 

髪飾りのような綺麗な赤い角を携えた美人は鬼ヶ島の一室にて侍女に囲まれながら、初めて身に纏う着物を楽しそうに選んでいる。

 

そして、気に入ったモノを選び終わるとすっと立ち上がった。

 

 

「うふふ……みんな着替えを手伝ってくれて、ありがとう♡」

 

 

そう言って軽く手をゆらゆらと振りながら礼を言うと、4m以上はあるであろう背の高い美女は部屋の外で待っている人の下へと向かった。

 

 

 

 

廊下を進んで少し(ひら)けている広間へと歩みを進めると、美女は目的の人物をすぐに見つける事ができた。

 

 

彼は相も変わらず部下の相談に乗りながらも仕事を進めている。

仕事熱心な彼に美女は笑う。

 

 

「レオヴァ様、今日はお休みだと仰ったのに……

またカイドウ様に怖いお顔をされてしまいますわ。」

 

自然な所作(しょさ)で横に並び、書類をすっと取り上げた美女を見上げてレオヴァも笑う。

 

 

「…ブラックマリア、もう着物を選び終えたのか。

だがこの程度、仕事には入らないから気にしないでくれ。

 

それにしても良く似合っているな。

黄金の髪が黒い着物に良く映えていつもにも増して綺麗だ。」

 

 

「あら、もう……レオヴァ様は本当にわたしを喜ばせるのがお上手なんだから♡」

 

レオヴァの言葉に照れて赤くなった頬を隠すようにブラックマリアは顔を(おうぎ)で覆った。

部下達はそのブラックマリアの艶やかな所作に目をハートにして固まる。

 

 

「では、準備も出来たならワノ国を案内しよう。」

 

「はい。

レオヴァ様と国を回れるなんて……わたし幸せ…♡」

 

「ふふ……ブラックマリアもおれを喜ばせるのが上手だな?」

 

「うふふふ……レオヴァ様ほどじゃないわ」

 

 

微笑み合いながら言葉を交わす二人を邪魔せぬ様にとヒョウ五郎は部下達を別の仕事へとつかせるべく動いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ブラックマリアはレオヴァ達との楽しい時間を終え、与えられた広くきらびやかな部屋で寛いでいた。

 

宴で正式に百獣海賊団に入団することが発表され、同時に“真打ち”への任命までも行った。

 

新しい仕事も与えられ、てんやわんやな1日だ。

しかし、ブラックマリアは疲れなど一切感じていなかった。

 

カイドウとレオヴァに仕えられる!

その喜びが溢れるばかりで、新しい環境や仕事に不安など覚える暇すらない。

 

 

そう、ブラックマリアは心底カイドウとレオヴァを愛しているのだ。

だが、それは恋愛感情ではなかった。

憧れや信仰に近い愛情である。

 

 

なぜ、彼女がここまでカイドウとレオヴァに溺れているのか……

 

それは彼女の人生の分岐点で負った、“歪み”が一つの理由であった。

 

 

 

彼女は生まれてから、ほどほどに貧しく、この世界では在り来たりな不幸な人生を歩んでいた。

 

生きていく為ならば、あらゆる手段を幼い彼女は尽くした。

 

暫くは順調に進んでいた日々であったが、彼女には少し珍しい特徴があった……それは角と身長である。

 

彼女の身長は成人する時には5mを優に超えていたのだ。

 

いくら美しいと言えど、5mを超える長身の彼女を側に置こうと言う者はなかなか現れなかった。

 

 

だが、少しずつ荒む彼女の心の支えになる男が現れた。

 

彼女は初めてその男に恋をし、恋人となった。

 

 

付き合ってから男は、金が無くなれば愛してるから金をくれと頼み、浮気がバレればお前だけを愛していると言って謝った。

彼女は辛く悲しい気持ちを押し殺しながら、自分を好きだと言ってくれる男を信じ続けた。

 

 

それから、彼女は知らずに食べた悪魔の実の力で蜘蛛となってしまう。

 

周りの人間に恐ろしい怪物だと襲われ、逃げ惑いながらも八つの脚を必死に動かし、男の下へと向かった。

……彼ならば愛してくれると信じていたのだ。

 

だって、彼はいつも“愛してる”と言ってくれていたから。

 

 

 

しかし、彼女を見た男が放った一言は残酷であった。

 

 

『ば、バケモノじゃねぇか……!!』

 

 

男は叫ぶと、彼女に向かって腰から出した銃を二発放った。

その男の行動は彼女の中の何かを切るには十分過ぎる衝撃を与えた。

 

彼女は逃げ惑う男を糸で縛り上げ、拳を振るった。

 

 

『なんでッ……ねぇ、アンタ……わたしを好きって言ったじゃないか! 

好きだと言ってくれたからわたしは我慢してっ…ずっと稼いだ金も時間も……

なぁ、好きだろう? わたしの事……愛してるよね?』

 

 

泣きながら拳を振り続ける。

 

暫くすると虫の息になった男が命を乞うように囁く。

 

 

『ゴホッ……ぁ、いして、る……だから…も、う』

 

『……愛してる?

わたしを愛してるのかい?』

 

『…あぁ……ぁ…て、る』

 

 

その言葉にブラックマリアは花のように可憐に微笑んだ。

 

そう、この時から彼女の“歪み”が出来たのだ。

 

自分を好きだと言った男を完全に自分の支配下に置くという歪み。

裏を返せば男を信頼できないと言うブラックマリアの心の傷の様なものでもあった。

 

そのままブラックマリアは男の屋敷を住み処に、どんどん獲物(おとこ)を増やしていった。

 

増えていく獲物(おとこ)たちは愛してる、好きだと譫言の様に繰り返す。

 

悲鳴の混じる愛の言葉に囲まれながらブラックマリアは生活していた。

 

 

 

そんな生活を数年続けていたブラックマリアだったが、ある海賊を獲物にしようと襲ったのが全ての始まりであった。

 

糸をぐるぐると巻き付け、引っ張って帰ろうとしたブラックマリアは今まで感じたことのない恐ろしい気配に身震いした。

 

 

『おい、そりゃあ……レオヴァの気に入ってる新入りだぞぉ…ウィック…

殺してねぇだろうなァ?』

 

 

恐る恐る振り返ると、そこには自分よりも巨大な大男が酒瓶を片手に立っていた。

 

本能的に危機を察知したブラックマリアは糸を出し、大男の視界と動きを制限すると、その場から逃げ出すことに全てを注いだ。

 

しかし、海賊を繋いだ糸を切らずに逃げようとした為に、大男の鋭い拳が横腹を貫いたのだった。

 

 

『ウィ…ック…っとに、この新入りぃ…手間かけさせやがってェ!!ヒック…』

 

酒気を纏っている大男は糸でぐるぐる巻きにされている部下に怒鳴ると、そのまま糸を手で掴み引き摺るように持ち帰った。

……そう、カイドウは酔っていた為気付いていなかったのだ。

その引き摺っている部下に絡んでいる糸にはブラックマリアも付いている事に。

 

 

それからのブラックマリアは目が回るほど騒がしい日々であった。

 

まず、一度寝て酔いが醒めたカイドウに

『……オイ、おれの部屋で何してやがる。

さっさと出てかねぇか!

おれは今からレオヴァと飯なんだぞ。』

 

と、気を失っているうちに引き摺って連れてこられたのにも関わらず、怒鳴られるという理不尽な目に合い。

 

更に騒ぐカイドウの声に駆けつけたスレイマンに暗殺者だと誤解され殺されそうになり、またその騒ぎを聞き付けたうるティの登場により一層収拾が付かない状態になった。

 

 

ブラックマリアは訳がわからず混乱することしか出来ない。

 

ついに騒がしい部下達に痺れを切らした寝起きのカイドウが天井をぶち壊すという暴挙に出た時だ。

 

 

『おはよう父さん、朝早いのに随分と賑やかだな?』

 

と場にそぐわない穏やかな声にブラックマリアは振り向いた。

 

 

その青年の登場により混沌と化したカイドウの寝室は落ち着きを取り戻す。

 

落ち着いた部下たちの視線を一斉に浴びる事になったブラックマリアは気まずさに視線をさ迷わせた。

 

そんなブラックマリアの心情を知らずか親子は呑気に話し始める。

 

 

『……で、父さん

この女はどこで拾って来たんだ?』

 

『拾った覚えなんざねぇぞ……

確か……昨日そこの新入りを回収しに行ったんだったかァ?』

 

『何故、研修中の部下を回収しに行って父さんの部屋に女が……

すまないが、そこのお前…事情を話してもらえるか?』

 

 

青年は困ったように眉を下げながらブラックマリアに事の顛末を聞いた。

 

ブラックマリアは逆らっては大変な事になると、全てを正直に話した。

 

 

その後、青年……レオヴァと数人の部下たちを屋敷に招いたり、カイドウの酌をしたりと謎に親交が深まっていきブラックマリアは何故こうなったのかと首をかしげた。

 

しかし、百獣海賊団は居心地が良かった。

 

 

お転婆少女うるティは

『背が高いのもめちゃ可愛いナリよ!

あ、でもわたしのが可愛い!!』

と言いながらブラックマリアに甘いおやつを分け与えた。

 

 

仕事人間スレイマンは

『……まぁ、趣味嗜好は人それぞれだ。

カイドウ様とレオヴァ様に害がないのであれば好きにすれば良い。』

そう言ってブラックマリアの糸でぐるぐるになった獲物達を見ても軽蔑することはなかった。

 

 

酒を飲みながら豪気に笑うカイドウは

『ア"ァ"…?

別に構わねぇだろう。

勝者には敗者を自由に出来る権利がある!

だから…おまえのそれを否定できんのは、おまえより強い奴だけだ。

ウォロロロロ……悩むなんざ馬鹿らしいだろォ!』

と、ブラックマリアの今までの行いや迷いを笑い飛ばした。

 

 

珍しい木彫りを嬉しそうに眺めるレオヴァは

『ん?……ふふ、なら角は父さんや、おれとお揃いだなブラックマリア。

ジャック?……あぁ、ジャックのアレはマスクに着いてるんだ。

おれと父さんと同じ角が欲しいと言うから任務の褒美に、おれが作った。

……まぁ、一人ひとり色んな人生がある。

お前の過去は知らねぇが……今を好きにやれりゃ良いんじゃないか?』

と優しく笑い、ブラックマリアの角も人生も肯定した。

 

 

百獣海賊団には本当に色んな人々がいた。

魚人族にミンク族、巨人族までもいるのだ。

 

今までの小さな世界で培ったブラックマリアの価値観は大きな改革を迎えた。

 

そして、カイドウとレオヴァとの時間がブラックマリアに癒しを与えたのだ。

まず、カイドウは良くも悪くもブラックマリアへ無関心であった。

 

けれど、落ち込んでいたり無理をすれば声をかけてくれる。

 

『…そこにいると邪魔だ、具合悪ぃなら寝とけ!』

 

このぶっきらぼうな優しさがブラックマリアには暖かかった。

 

それにブラックマリアを女としてではなく、一人の戦闘員としてありのままを見てくれることも嬉しかったのだ。

 

 

そして、レオヴァは更に桁違いに優しかった。

 

小さな変化や、細かい事にも気付きブラックマリアを労った。

まるで底無し沼のようなレオヴァの作り出す心地のよい暖かさにブラックマリアはどんどん惹かれていったのだ。

 

しかし、何よりもブラックマリアにとって魅力的だったのは二人の圧倒的な強さだった。

全てを破壊する圧倒的な力と隙のない素早い動きに敵の先を行く戦略。

まさに二人で完成形と言わんばかりの親子の戦闘はブラックマリアの心に深く刻まれた。

 

強さに対する憧れからくる信仰心と、本当に暖かく接してくれる事への嬉しさ。

 

様々な感情が溢れた。

 

カイドウとレオヴァだけでなく、皆が暖かいこの場所に……百獣海賊団に居たいとブラックマリアは願ったのだった。

 

結果、ブラックマリアは自分の歪みを前向きに受け入れつつも、大好きな人々と生きていく事になった。

 

 

レオヴァから手渡された新しい仕事の内容が書かれた書類を読みながら微笑む。

 

 

「うふふふ

遊郭の運営…カイドウ様とレオヴァ様の為に、わたし頑張っちゃうわ♡」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

小話

【ジャックのマスク】

 

 

 

任務を終えワノ国へと向かう船の中の自室でジャックは夕飯を待っていた。

 

 

そして、指示した時間通りに運ばれてきた食事に満足げに頷く。

食事を運んだコック達はメニューを軽く説明だけすると、そのまま部屋を素早く出ていった。

 

そう、ジャックはあまり大人数で食事はしないのだ。

 

良く開催される宴もカイドウやレオヴァにキング、クイーン……他にローやドレークなと幹部数名だけだ。

他の部下達は大広間でどんちゃん騒ぎしている。

 

 

しかし、人と食事をするのが嫌な訳ではない。

ただ、不特定多数との食事が少し好きではないだけだった。

 

実際、カイドウとレオヴァの食事に呼ばれた時には、一日中そわそわしているとクイーンは証言している。

 

 

兎に角、ジャックは船の船室にてゆっくりと食事を楽しむべくマスクを外した。

 

 

しっかりとした歯応えのジューシーなゾウ肉ステーキに豪快にかぶり付きながら、ふとジャックは昔を思い出した。

 

 

「そう言や……カイドウさんとレオヴァさんがマスクくれた時も、このメニューだったな…」

 

 

 

あれは数年前の事だった。

 

ジャックはカイドウの命令により

クイーンと共に敵対している海賊を、そいつらのナワバリごと消し去る仕事に向かっていた。

 

 

元々、その海賊たちはチョロチョロと動き回りクイーンを苛立たせていたこともあり、見るも無惨な最期を迎えた。

 

危なげなく任務を終えたクイーンとジャックは帰りの船でなんとなしに欲しい物の話をしたのだ。

 

ジャックから欲しい物はあるのかと聞かれたクイーンは考える素振りを見せた後に、予想外な物を欲しがった。

 

 

『金は腐るほどあるからなァ……欲しいモンか…金で買えねぇモンっつうと~?

……あ! アレだ、レオヴァお手製の寄生虫とか欲しいよなァ!

マジで最高にCOOLなんだよレオヴァのヤツぅ!

あの掛け合わせのエゲツなさ流石だぜェ…!』

 

 

まさかの寄生虫と言うチョイスにジャックはなんとも言えない顔をするが、レオヴァが凄いという事には強く頷いた。

 

 

『けど、前に勝手に寄生虫使ったから

クイーンの兄御にはもう渡さねぇって言われてなかったか…?』

 

 

思い出したように呟くと、クイーンの流れるような鉄拳が飛んで来る。

ジャックが悶絶している隣で何事もなかったかのように話は進んでいく。

 

 

『で? ジャックは何欲しいんだよ。

いっつもレオヴァが褒美やろうとしても断ってるよなァ?』

 

『そりゃ……おれはカイドウさんとレオヴァさんの役に立てんのが一番嬉しいんで』

 

『ハァ~~……っとに、だからおまえは“ズッコケ”ジャックなんだ!

んなもん、褒美貰うのも仕事だと思えよォ~』

 

 

褒美を貰うことが仕事だと言う言葉にジャックはきょとんと首をかしげた。

 

全く意味がわからない。

百獣海賊団における褒美とは、仕事を成功させて貰える報酬とは別で更に追加で与えられるモノだ。

 

それを貰うことも仕事だという意味が理解出来なかった。

 

 

意味がわからないと顔に書いてあるジャックにクイーンが呆れたように言う。

 

 

『レオヴァは信賞必罰を掲げてんのは分かってるよなァ?』

 

クイーンの言葉に頷く。

結果を残した者や努力した者には褒美を、決まりを破った者や裏切り者には罰を。

それはレオヴァがずっと徹底している方針だ。

 

ジャックとてそれは良く理解していた。

 

 

『信賞必罰ってのは“賞罰を厳格に行う”ことなんだぜ?』

 

『げんかく…?』

 

『ア~…っと、要するに絶対にやるとか必ずってニュアンスでいい。

でだ、良い者には必ず賞を与え、悪い者には必ず罰を与えるってのがレオヴァの方針なのに

褒美を貰わねぇってのはレオヴァの方針に逆ってるのと同義じゃねェ?って言ってンのよおれはァ!』

 

『っ!……確かに…』

 

 

まさに目から鱗である。

 

褒美を貰わないことが、あろうことかレオヴァの方針に逆らう事だとは!

敬愛するレオヴァの計画や理想は全てを懸けて実現させねばと意気込んでいた自分が、レオヴァの方針であるにも関わらず褒美を望まぬと言う相反する行動を取ってしまっていた事実に酷くジャックは狼狽えた。

 

そして、そのジャックを見てクイーンはニタリと笑う。

 

 

『……そんなワケで!

ジャック、お前この任務での褒美……受け取らねぇなんて言わねぇだろォ?』

 

『貰う、レオヴァさんから!』

 

 

食い気味に答えるジャックにクイーンは満足げな顔をする。

 

 

『どうせなら、欲しいモンをレオヴァに頼めよ。』

 

『頼む?

……クイーンの兄御…レオヴァさん忙しいのに頼むなんて悪ぃよ…』

 

『今までほとんど貰わなかったんだから

今回からは貰うって意思を見せるためにも何かねだっとけ!』

 

 

乗り気でないジャックに畳み掛ける様にクイーンは魔法の言葉を使う。

 

 

『普段欲しがらねぇお前が何か言えば “レオヴァが喜ぶ”のになァ……』

 

『!……レオヴァさんが…』

 

 

魔法の言葉で完全に乗り気になったジャックにクイーンは心の中でガッツポーズを決める。

 

 

『なに頼むか決めとけ。

んで~…候補とかねぇの?』

 

『…………欲しいもの…』

 

 

必死に眉間に皺を寄せて案を絞り出そうと頑張るジャックを見てクイーンが呆れたように言う。

 

 

『なんでも良いからなんかポンッと出るもん言ってみろ!』

 

『……角?』

 

『へ? つの……?

つのって、あの頭から生えてる角の事言ってンのか?』

 

 

コクりとジャックは頷く。

クイーンは斜め上過ぎる答えにサングラスの下の目を丸くした。

 

 

『角って……なんでまた…』

 

『カイドウさんとレオヴァさんの角……』

 

『あっ! えぇ!?

そう言うことかよ!!

ムハハハハ~!!ジャックぅ~、それ絶っ対にレオヴァに頼めよォ!』

 

『……他のにする…』

 

 

大笑いされた事で恥ずかしくなり、拗ねたように部屋に戻ると歩き出したジャックをクイーンの笑い声が見送った。

 

 

ジャックの居なくなった部屋でクイーンは鼻歌交じりに呟く。

 

 

『レオヴァからの任務はこれで完遂かァ?

それにしても……ムハハハハ!!

これ帰ったらカイドウさんとレオヴァにバラしちまお~♪』

 

良い土産話ができると悪い顔でクイーンはおしるこを啜った。

 

 

 

大きな一室の上段の()に並ぶように置かれた座椅子にどっしりと構えているカイドウとレオヴァはクイーンの報告を聞き、目を丸くした(のち)に二人揃って上機嫌に笑った。

 

 

『ジャックのヤツがそんな事を!

ウォロロロロ……何かそれらしいモンでも見繕ってやるか!』

 

 

『ふはははは…!!

随分と可愛らしい物を欲しがったなァ?

ちょうどジャックが新しい鉄仮面を探してると聞いて作っている最中だったんだ。

それに角の装飾を施す……ってのはどうだろうか、父さん。』

 

『そりゃ良い案だ!

なら、その装飾に使う材料はおれが獲って来てやる!!』

 

『父さん手ずから獲ってきた素材ならジャックも喜ぶだろうなァ…!

ふふふ……渡すのが楽しみだ。』

 

『ウォロロロ……ジャックは良く働くからなァ

何より、レオヴァが作ったと聞きゃあ飛んで喜ぶだろう!』

 

ジャックへのサプライズに燃える二人にクイーンも楽しげに笑った。

 

 

 

 

褒美の授与だと聞き、クイーンと共にカイドウとレオヴァの下へ集まったジャックは思わぬ褒美に固まった。

 

目の前には、今一番欲しかった口を覆う為のマスクがある。

更に、そのマスクには更に長い角のような装飾までしてあるのだ。

 

マンモスの牙の様にもカイドウとレオヴァと同じ角の様にも見えるその装飾は

ジャックにとって、そこいらの財宝よりも素晴らしく輝いて見えた。

 

 

普段ではあり得ないほど目をキラキラさせたジャックが、カイドウの手からその褒美を恐る恐る大切そうに受け取った。

 

見るからに喜びにうち震えるジャックを見てカイドウとレオヴァは成功だとお互いを見合って笑う。

 

 

『ウォロロロ!!

どうだジャック、気に入ったか?』

 

『勿論だカイドウさん!!』

 

『そうか…!

それはレオヴァの手製だからなァ、簡単には壊れねぇから飾らずに使えよ?』

 

『毎日これ使いますッ!

レオヴァさんもありがとうございます!』

 

『ふふふ……こんなに喜んで貰えたんだ、作った甲斐がある。

あぁ…そうだ、実はその角は父さんが獲ってきたモノを使ってあってなァ……希少な獣の丈夫な部位を加工したモノだから耐久性も保証しよう。』

 

『っ! か、カイドウさんが獲ってきたモンを使ってあるのか!?

そんなスゲェ物を……カイドウさん、レオヴァさん…おれ大切に使う…ます!!』

 

 

興奮のあまり、昔の様に言葉遣いがちぐはぐになったジャックにレオヴァは優しく微笑み、カイドウは豪快に笑った。

 

 

そんな三人を尻目にクイーンはおしるこを啜りながらどや顔で言う。

 

『ンン~♪

今回も完璧かつイイ仕事をしちまったぜェ……!!』

 

 

そんな自分に酔うクイーンの姿にキングは呆れながらも、ジャックの喜び様を見て

『まぁ……今回の件“だけは”良い仕事だったかもな…』

と呟くのであった。

 

 

 

 

 




ー後書きなどー

ブラックマリアさんのサンジフルボッコ描写から過去を捏造した結果こんな感じに……
飛び六胞の過去編でるのだろうか……フーズフーは出そうで出なかったので残念です(´・ω・)
(ワンチャンあるかもですが!)

・真打ち
遂に実装されました!
メンバーは
【ドレーク、ロー、スレイマン、ブラックマリア、その他強めの部下】です。

いつもご感想に誤字報告ありがとうございます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悩みと企み

 

 

レオヴァは鳳皇城(ほうおうじょう)にある研究室にて溜め息をついた。

 

今、力を入れている研究が幾度も実験を繰り返していると言うのにあと一歩成功に届かないのだ。

 

 

(……根本から見直すべきだってのか?

この世界のモンを使えば不可能な筈はねぇのになァ……)

 

 

こんなにレオヴァが普段の穏やかさからは想像もつかぬ程、険しい顔をするのにはある悩みが関係していた。

 

 

父であるカイドウの望みを叶える為に戦力増強を考えたレオヴァだったのだが、ワノ国の侍を使うにはまだ年月が必要であった。

だからこそ、外から目ぼしい人材を見つけては引き入れて来たわけなのだが……。

それだけでは駄目だとレオヴァは理解していた。

 

幹部以外の部下たちも屈強でなければ、根本的な戦力増強にならないのだ。

いくら幹部が部下の数百倍の力があろうとも、人数を確保出来なければナワバリや遠征に多く割くことが出来ない。

 

だからこそ原作では“スマイル”が使われたのだろうとレオヴァは予測してはいるのだが…。

 

 

しかし、真面目に良く働いてくれる“可愛い部下たち”をロシアンルーレットさながらの危ない賭けで消費したくない。と言うのがレオヴァの本音である。

 

一部の忠誠のない者たちがどうなろうとレオヴァは少しも気には止めないのだが、百獣海賊団…延いてはカイドウを心から慕い、忠誠を誓った部下に関してレオヴァはこの世界の基準では例外的過ぎるほど、本当に大切に扱っている。

 

スマイルの様に即座に力を手に入れられるモノは魅力的ではあるが、如何(いかん)せんデメリットが頂けなかった。

 

 

泳げなくなるだけならばレオヴァもここまで試行錯誤して悩まなかっただろう。

だが、表にでる感情を固定してしまう……そんな可愛い部下たちの感情を殺すも同義な副作用をレオヴァは受け入れることなど出来なかった。

 

 

その為、忙しい日々の中

寝る間も惜しんでスマイルの代替案の為に、外から連れてきた海兵や敵海賊達を被験者として実験を重ねているのだ。

 

 

 

台の上で理性を失くし吠える海兵へ電撃を手早く流すと、死体になったソレを腹を空かせて口からキチキチと音を鳴らす巨大な百足(ムカデ)のケージへと投げ入れた。

 

 

「……はぁ…独学じゃあこの程度もままならねぇのか……

これさえ上手く行きゃジャック達の負担も減らしてやれるってのになァ……」

 

苦々しく呟くと、少しずつ刺々しくなっていくレオヴァの雰囲気にガラス越しに並べられている珍しい生き物達がざわざわと怯えるように蠢きだした。

 

やはり、最近やっと居場所を特定し関係を結び始める事が出来た“彼”がいなければ成功までいけないのか……とレオヴァが気落ちしていると研究室に無遠慮に入って来る音が響く。

 

 

この場所までのルートを知るのはたった三人…カイドウ、クイーン、キングのみである。

…まぁ、その中の一人であるカイドウが複雑なルートをちゃんと覚えているかは定かではないが。

 

 

レオヴァが失意と疲れから、ゆっくりと気だるげに顔を上げると、そこには気配通りクイーンが立っていた。

 

 

「よぉ、レオヴァ~!!

……って、おいおい…外じゃ見せられねぇ様なツラになってんじゃねぇか!」

 

「あぁ……クイーン、悪ィ…

失敗が立て続けに起こってなァ……少し気が立ってンだ」

 

「おおぅ……こりゃ重症だな…

睡眠時間減らしすぎなんじゃねぇのォ?

……行き詰まってんなら、このクイーン様の天才的な頭脳を貸してやってもイイんだぜェ?」

 

 

おどけたようなクイーンの態度や言葉にレオヴァの表情がふっと緩む。

 

 

「ふふ、そうだなァ……クイーンに相談するのが一番か…」

 

「そうそう!

こういう研究ってのは色んな角度から見るのが重要なんだぜ~?

一人で唸ってるより、おれのエキサイティングでナイスな意見を聞くのが一番ってわけよ!!」

 

 

身振り手振りで騒がしい程に主張してくるクイーンを見て、レオヴァの表情もいつの間にやら穏やかなモノに戻っていく。

 

 

「じゃあ、クイーンの意見を聞かせてくれ。

実は……宿主と寄生虫に互いに対する耐性を獲得させ、進化的軍拡競争(しんかてきぐんかくきょうそう)を起こすことで宿主と寄生虫両方が進化を続ける……と言う現象に近いモノを再現したいんだ。

 

今まで、それによって多様な種類へと分化する例があった事が多数の研究者によって証明されているだろう?

 

それと似た現象を利用して人に様々な生き物の特徴を与える事が出来るのではないかと、おれは仮説を立てて進めているんだ。

 

今のところは目ぼしい虫や爬虫類のサンプルを軸に実験を繰り返しているんだが……成功に近い個体でも体に新しく脚が生えたり、鱗が出るだけだったりとあまり芳しくない……

 

と、言うわけなんだがクイーンの視点からはどう考える?

やはり根本のロジカルから見直すべきだろうか…」

 

 

「oh…クレイジー……メチャ生命の理を無視した代物を作ろうとしてんじゃねぇか…

相変わらず発想がぶっ飛びすぎだろォ……」

 

「…それを言ったら、おれたち能力者がいる時点で自然の理なんざ役に立ってねぇだろ?」

 

「あ、それ言っちゃう感じか~……。」

 

 

予想以上に複雑な研究を進めていたレオヴァに思わずクイーンの口からは本音がもれる。

 

なにか凄く難しい事で悩んでいるのだろうとはクイーンも予想していた。

何故なら、色んな島に行く度に博識な学者たちや研究者達から手解きを受け、気に入れば連れ帰り共に学ぶ…

貪欲なまでに知識をあらゆる方面から吸収しながら独学を進める、あのレオヴァが溜め息をつくほどの内容だ。

難しい事であると予想するのは容易い。

 

しかし、だ。

まさかの生命の起源やら、進化の深みやら……あまりにも複雑かつ壮大な悩みにクイーンはつい本音を溢してしまったのだ。

 

もし、この話を聞いたのがカイドウであったならば、この複雑すぎる悩みを聞いて

『……………まぁ、レオヴァの考えなら問題ねぇだろ

 好きに実験してみりゃ良い。』

と、きっと丸投げしていたに違いない。

 

 

日頃キングからは

『騒いで踊るしか脳のねぇデカいボール』

などと散々な言われようなムードメーカーであり茶目な大男。

 

だがしかし、クイーンはやはり百獣海賊団の中でも指折りの天才であった。

なぜならば、ぶっ飛びすぎだろォ…と溢しながらもレオヴァの言いたいことを瞬時に頭でまとめ、理解することができるのだから。

 

 

「アー………要するに……動物系(ゾオンけい)の悪魔の実の再現に近いモンを作りてぇって事でイイんだよなァ?」

 

「平たく言えばそうなるな。

今のところ継承しやすいのが虫や爬虫類なんだが…

どうしても上手くいかねェ……

何より副作用が酷い。

今後、見込みのある部下に使って行くモノだからこそ、あまり副作用の酷くねぇモノを作りたいんだが。」

 

「ん~……リスクを抑えるなら、同時に効果を抑える他ねぇかもなァ

例えば出現する能力を生き物そのものにするんじゃなくて、一部のみ使用できるようにするとかな!

…ピンポイントでも能力があるとないじゃ戦闘力も変わってくると思わねェか?」

 

「ほう……なるほど、生き物の一部の能力だけ付与する形にすればやり易さも変わるか…?」

 

「そそ!そんな感じだな~

良い例を上げるなら、レオヴァのペットの蛇の毒のみ継承させるとかだな……あとは~」

 

 

お茶目な大男から研究者モードに入ったクイーンの話にレオヴァは真剣に聞き入った。

 

二人は熱い議論を交わしながら、次の研究の方針を固めて行くのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「なッ…これは……!!」

 

 

ドレークはレオヴァから渡された箱を部屋で開け、驚愕のあまり固まってしまっていた。

 

この箱を手渡されたのは、つい数時間ほど前の事だ。

 

 

 

いつも通り遠征から戻りキングに報告書を渡し、カイドウに挨拶を終え、一刻も早くレオヴァの担当へ戻ろうと鳳皇城(ほうおうじょう)御用部屋(ごようべや)……いわゆる執務室へ向かった。

 

声をかけると、担当の近衛隊員(このえたいいん)がスッと(ふすま)を開いた。

 

襖の向こうには書類の山に囲まれたレオヴァが、近衛隊員の尊敬の眼差しを一身に受けながら、テキパキと書類を片付けている。

 

 

『…レオヴァさん、手伝いに来たんだが』

 

 

控えめに声をかけると、レオヴァは書類から目を離しドレークに柔らかい笑みを向ける。

 

 

『おかえり…ドレーク、今回の遠征でも大事ない様でなによりだ。

それにしても遠征終わりぐらい、ゆっくり休んだらどうだ。

おれへの近衛業務は明日からだろう?』

 

 

自分の事は棚に上げて休むことを進めるレオヴァにドレークは眉を下げる。

 

 

『レオヴァさんが休む時に、おれも休む。

……手伝わせてほしい。』

 

レオヴァの座っている場所の正面に並ぶ文机(ふみづくえ)に腰かけると、ドレークは一つの書類の山を目の前に移動させた。

 

淡々と書類仕事を始めたドレークを見てレオヴァは礼を述べる。

 

 

『ありがとうドレーク、助かる。

……終わったら一緒に茶でも飲もうか。』

 

『レオヴァさんを手伝えるのは、おれにとっても嬉しい事なんだ……気にしないでくれ。

茶の淹れ方も習った……いつもレオヴァさんに淹れて貰ってばかりだったから…』

 

『茶まで淹れられる様になったのか…!

ふふふ…本当にドレークは勉強熱心だな。

…楽しみだ、手早く終わらせてドレークの淹れてくれる茶で一服しよう。』

 

『フッ……レオヴァさんに喜んで貰えるような茶を淹れるよ。』

 

 

互いの目を見て二人は穏やかに笑い会うと、どちらからともなく作業へと戻った。

 

 

その後二人は書類仕事を近衛隊員(このえたいいん)が驚く勢いで終わらせ、ゆっくりと茶を啜りながらドライフルーツとナッツの盛り合わせを堪能した。

 

そして、そろそろ自室に戻ろうかと腰を上げたドレークにレオヴァは思い出したと言う様に声をあげる。

 

 

『そうだ、ドレークに渡したい物があったんだが』

 

『おれに?』

 

 

レオヴァは頷き立ち上がると、銀とダイヤ鉱石で細やかな飾りの施された木箱を持ち出してきた。

ドレークはなんだろうか?とまじまじと綺麗な木箱を見つめる。

 

 

『今までの情報収集の褒美と真打ちへの昇進祝いだ。

お前の仕事振りには感謝している…いつもありがとう。

ドレークに似合うモノを選んだんだ、受け取ってくれ。』

 

 

突然の褒美の嬉しさから硬直したドレークの手の上にレオヴァはそっと綺麗な木箱を置いた。

 

はっと意識を取り戻したドレークは慌てたように声を上げた。

 

 

『そんなっ……レオヴァさん…本当に良いのか!』

 

『あぁ。むしろ受け取って貰えない方が悲しいんだが…』

 

『ッ…この喜びをなんて言葉で表せばいいのか……!

………あぁ…駄目だ、上手く出てこない!

ありがとうレオヴァさん、わざわざおれの為に…これ以上の嬉しさはない!』

 

『ふふふっ…まだ中身も見ていないのにか?』

 

『レオヴァさんが、おれの働きを認めてくれて……褒美を考えてくれた事が何より嬉しいんだ!』

 

 

珍しく昔の様に無邪気にはしゃぐドレークにレオヴァも嬉しそうな顔をする。

暫くの間、歓喜のあまりテンションが上がったドレークはレオヴァに気持ちを伝えようと、スレイマンがカイドウの使いで現れるまで喋りつづけた。

 

 

スレイマンの登場で冷静になったドレークは自分のはしゃぎ様に恥ずかしくなりながらも、優しく声をかけてくれるレオヴァと少し会話を交わしてから自室へと戻った。

 

 

そして、その後自室にてワクワクする気持ちを抑えられずに、浮き足立ったまま木箱を開けて冒頭の状態となったのだ。

 

木箱の中には“悪魔の実”とメッセージカードにレオヴァの文字で

『親愛なるドリィへ

爬虫類マニアなお前が喜んでくれそうな物を選んだ。

きっとお前なら上手く使いこなせるだろう。

頼りにしている。

これからも、よろしく頼む。

        レオヴァより 』

 

という言葉が書かれている。

 

 

さらっと渡された、あまりにも凄すぎる褒美にドレークは絶句する。

箱の中で怪しくも圧倒的な存在感を放つコレは、間違いなく“悪魔の実”である。

少なくとも仕事終わりに、ポンと軽く渡して良い物ではない。

 

 

だがドレークが絶句するのには驚きだけではなく、理由があった。

 

実はドレークには少し前から、ほんの小さな悩みがあったのだ。

それは自分は“レオヴァから悪魔の実を貰えていない”と言う嫉妬心からくる悩みだった。

 

ジャック、ロー、スレイマンの三人が貰えて自分は貰えていないと言う事実。

何より自分より後に入団したスレイマンがレオヴァから悪魔の実を授かったことが、ドレークの焦りに火をつけた。

 

自分は役に立てていないのだろうか?

レオヴァにとって、もう必要なくなってしまったのでは?

…何故自分はこんなに貪欲なのだろうか?

身内の喜ぶべき褒美を喜べないなんて…なんと醜いのか……

 

レオヴァは部下を蔑ろにするような人ではないと理解しているドレークだったが、少しの嫉妬心からどんどん思考は沈んでいく。

 

それをなんとか、ドレークは定期的にレオヴァが設けた“面談”を依り代に心の平穏を保っていたワケだが。

 

そんな中、まるでドレークの全てを理解しているとでも言うような絶妙なタイミングでのレオヴァからの褒美。

 

 

『やはりレオヴァさんは、おれをちゃんと見てくれているんだ!!』

 

と、心中に渦巻く歓喜にドレークが言葉を失うのも仕方のない事であった。

 

 

今までの褒美の嬉しさとは桁違いの感情に震える手でドレークはメッセージカードを持ち上げた。

 

思い遣りの滲み出る丁寧なレオヴァの字を見てドレークの目元が更に緩む。

失くさぬ様にと部屋にある鍵付きの箱の中にしっかりと保管すると、悪魔の実の前に戻った。

 

手に取った悪魔の実は想像よりも軽い。

 

ドレークはゴクリと息をのみ、一気に禍々しい実へ食らいついた。

 

想像を絶する不味さに顔を歪めながらもレオヴァからの褒美だという想いから、実の全てを体の中に収めた。

 

この日、X・ドレークは

リュウリュウの実 モデル“アロサウルス”の力を手に入れたのだった。

 

 

だがこの時、幸福感に満ちたドレークはまだ知らなかったのだ。

悪魔の実をレオヴァに手ずから渡された者が例外なく課された試練

……レオヴァとカイドウとの“組み手”と言う名の地獄が待っている事を。

 

 

『死ぬ気で殺り合えば能力の使い方も自ずと身に付き、更に死にかければ強くなる…と、おれは父さんから教わった。

一度に複数の目的をこなせる……これぞ、まさに一石二鳥。…そうだろう?

ふふふ……流石は父さんの教えだ、利にかなっている。』

 

という、カイドウ仕込みの謎理論かつ脳筋論理をレオヴァが持っていると言う事実をドレークは知らないのである。

 

ドレークが医務室でローの世話になる未来は、確実に近付いて来ていたのであった。

 

 

 

 

 




ー後書きー
前回もまたもや誤字祭り……報告本当にたすかります!!

感想も頂けて嬉しさの極み…!いつもありがとうございます!
読み返してはニヤニヤさせて頂いております~!

今月、ワンピの一番くじでカイドウさん欲しさに散財しましたので来月激務で更新頻度が下がるかもです……m(__)m
次の一番くじはキングとクイーンが来るので残業祭りに入って参ります!!
百獣海賊団万歳!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

岩山の月見酒

 

 

 

ある島で勃発した海賊同士の抗争は百獣海賊団が劣勢に陥っていた。

 

確かに今戦っている百獣海賊団に幹部クラスの船員はいなかったが、決して他の船員が弱い訳ではない。

 

 

肩まである黄緑色の髪に大きな牙が特徴的な敵船の船長が桁違いに強すぎるだけなのだ。

 

 

 

『船長ッ!

このまま、百獣を落として名を上げやしょう!』

 

『黄金の船ですぜ!

きっと中も財宝だらけですよ、船長。

楽しみっすね~!!』

 

 

『おう!

テメェら気を抜くんじゃねぇぞ!!』

 

 

『『『船長~!やっちまおうぜぇ!!』』』

 

 

 

あの百獣を圧倒していると言う事実が敵海賊団の士気をどんどんと上げていく。

 

 

百獣海賊団の船員達は敵の船長には勝てぬと悟っていたが、引くと言う選択肢など微塵も浮かびはしない。

 

何故ならば、今守っている船は我らがレオヴァ様直々に頼まれているのだから。

 

 

 

『たとえ死んでもこの船には手を出させねぇ!!

戻ってきて船が荒らされてるなんて事がありゃレオヴァ様にも姉貴にも合わせる顔がねぇ。

必ず死守するぞ…!!』

 

 

『『『うおおおぉ~!!』』』

 

 

雄叫びを上げながらぶつかり合う二つの海賊団は一晩中戦い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵船の船長……ササキは困惑していた。

 

もう、とっくに限界を迎えているはずの百獣の部下達が一向に諦めず戦い続けている事に。

 

 

何度かササキは彼らへ投降するように呼び掛けたりもしたのだが、答えは拒絶である。

 

彼らは“レオヴァ様”と言う名を祈るように発しながら、文字通り肉壁(にくかべ)となって船を守り続けていた。

 

 

 

最終的に日が昇るまで戦い続けた百獣の部下達の中で自力で立てている者は、ササキの目の前の少年一人だ。

 

 

ボロボロになりながらもササキを睨み付け、船を守るように仁王立ちする少年にササキは声をかける。

 

 

 

『もう終いだ。

投降すんなら見逃してやる、テメェを殺っても名は上がらねぇからな。

……そこを退け。』

 

 

わざわざボロボロの少年に止めを刺すこともないと、少しの優しさと戦いの疲れからくる面倒だという気持ちから放った言葉に、少年は食いかかる様に返す。

 

 

『ナメんじゃねぇ……!

おれはレオヴァ様から ここを任されてる…死んでもテメェらに船は触らせねぇぞォ……』

 

 

血反吐を吐きながら睨み付けてくる少年の言葉にササキはまたも眉を寄せる。

 

 

『チッ……また “レオヴァさま” かよ。

なんなんだソイツは、教祖か何かかよ。

百獣の息子だってだけで億がついた七光りだろ?』

 

 

なん度目か解らぬほど百獣の部下から発せられる男の名に嫌気が差した様にササキは吐き捨てた。

 

だが、その言葉を聞いた瞬間に

立つのがやっとだった筈の少年が猛スピードでササキに飛び掛かってくる。

 

 

 

『何も知らねぇテメェがレオヴァさまを侮辱すンじゃねぇ!!!』

 

 

死にかけているのが嘘のような、凄まじい打撃の連打に一瞬ササキは驚きに反応が遅れる。

 

しかし、幾度も死線をくぐり抜け新世界へ足を踏み入れた実力は伊達ではなかった。

 

守りを全て捨てササキを殺ることのみに特化した攻撃を仕掛けてくる少年を軽く()なし、斬り飛ばす。

 

 

 

『うぐぅ……くそォ"…!!』

 

 

真正面から一太刀を食らった少年は呻き声を上げながら膝をついた。

 

 

『あんだけの傷を負っても引き下がらねぇ、その忠義は認めてやる。

……さっきの発言も撤回だ、おれは知らねぇからなァ…その“レオヴァさま”とやらを。』

 

 

ササキの発言に少年は驚いた様に目を丸くする。

 

 

『……少しは話の分かるオッサンだな』

 

 

『おい、ガキ……誰がオッサンだァ…!?

おれァまだ二十代だぞ!!』

 

 

怒りの形相で振り下ろされたサーベルを間一髪で少年は躱す。

 

 

少年がササキを引き付けた事もあり、他の部下達もよろよろと立ち上がっていく。

 

 

『……!?

まだ殺るってのか、まるでゾンビ兵だな…』

 

 

 

忌々しそうに吐き捨てたササキの言葉を合図に海賊達のぶつかり合いが再び勃発した。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その戦いは長くは続かなかった。

百獣の部下達はやはり限界だったのか、次々と倒れていってしまう。

 

 

だがこの戦況は良くない、と早めにケリを付けるべくササキは“奥の手”を使おうと部下を下がらせる。

 

 

部下達は不満そうな顔をしたが、他でもない船長命令の為、渋々引き下がるしかない。

 

何故、こんなにも善戦しているというのにササキが焦っているのか部下達には皆目見当もつかなかった。

 

 

 

 

しかし、焦るのも無理もない状況だ。

 

こんなにもササキ達が押し続けているのにも関わらず“落とせていない”。

 

その事実こそがササキを焦らせる。

 

 

最初こそ、人数は百獣側が倍以上いると言う不利な状況ではあったが、今はその有利性は完全に逆転している。

 

 

だというのに、今立ち上がって戦い続けている百獣の部下たちは

一人倒れると別の一人が立ち上がり、そしてまた他の者が立ち上がり……と本当にゾンビの如く食らい付いてくる。

 

 

それに押しているとは言ってもササキの部下達も体力の限界が近付きつつあるのだ。

 

ここまで様々な戦闘を経験してきたササキだからこそ、すぐに終わらせなければならないと勘が告げた。

 

 

少しの慢心から戦況が一転してしまう可能性を潰すべく、力を込めたササキを見て百獣の部下達は驚きに目を見開いた。

 

 

 

『…の、能力者なのか!?』

 

『しかも…動物系(ゾオンけい)…こ…古代種……れ、レオヴァさまっ…』

 

 

狼狽える百獣の部下達に少年が叫ぶ。

 

 

 

『落ち着け!

倒す事より守る事に集中すりゃ良いんだ。

……カイドウ様と比べりゃあんなの亀みてぇなもんだろ!!』

 

 

誰よりも前線に立ち続ける少年の背中に、皆が鼓舞されたように気を持ち直した。

 

 

『そうだ、カイドウ様と比べりゃ大したことねぇ!』

 

『必ずレオヴァ様がお戻りになられる……それまで耐えればいい話だ。』

 

『ばか野郎!!

カイドウ様と比べるなんておこがましいだろ?!』

 

『ははは、そりゃ…違いねぇ……!』

 

 

 

生意気にも、口々に啖呵を切る百獣の部下達へ恐竜の姿へ変わったササキが迫っていく。

 

次々と薙ぎ倒される満身創痍の部下達。

 

 

 

 

 

ついに、ササキは船の前へとたどり着いた。

 

そして、その船に触れようとした時だった。

 

 

 

誰かがササキのズボンの裾を掴んだ。

 

 

 

『船に"は"……ぜってぇ…触"ら、せね"ぇ…

レオヴァさ、ま"… の指示"…まも、る"ッ……』

 

 

はっと振り返るとそこには地面を這いながらもササキを止めようと手を伸ばした少年がいた。

 

 

 

『殺すには惜しいガキだが……

これだけ忠誠心が高ぇんだ、ウチには来ねぇか…』

 

 

残念そうな顔をしたササキがサーベルを少年の上で振りかぶった時だった。

 

 

異常な気配を感じ、本能的に大きく飛び退く。

そして弾かれるように空を睨み付けた。

 

 

突如現れた青年は、砂浜に倒れる少年をかかえ上げると船の手前に置かれている物資箱の上へと優しく寝かせ、声をかけた。

 

 

 

『ページワン、皆……良くここまで耐えてくれた。

もう大丈夫だ、あとは おれに任せて少し休め。』

 

 

その声を聞くとページワンは安心したように体の力を抜いた。

 

 

『レ"オヴァさ"ま"……お"れ…ふね 守っ、た"』

 

 

掠れる声で呟かれた言葉にレオヴァは優しく微笑みかける。

 

 

『あぁ、ページワン……良くやった。』

 

 

 

優しく頭を撫でながら与えられた一言に嬉しそうな目をするとページワンはゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

突然現れた青年の顔を見てササキの部下達が騒ぎだす。

 

 

『お、おい!

あれカイドウの息子じゃねぇのか!?』

 

『間違いねぇ、手配書の顔と同じだぜ!』

 

『マジかよ……ど、どうする?』

 

『おいおい、アイツは1億5000万ベリーで船長よりも金額は下だ!

ビビることねぇよ!』

 

『船長~!やっちまってくださいよ!!』

 

『へへ…また船長の名があがるぜ!』

 

 

 

ガヤガヤと騒ぐ部下達はササキの勝ちを確信している。

なんてったって我らが船長はレオヴァよりも一億以上も賞金が上なのだ。

 

カイドウの息子と言うだけで懸賞金をかけられた男と数々の死線を生き抜いてきた船長とでは格が違う。

 

何より目の前の あの男からはちっとも威圧感を感じない。

本当に怖がる要素が何もないのだ。

 

そう、船長が負ける要素など微塵も存在しないと信じて疑わない。

 

 

 

 

 

しかし、ササキは流れる脂汗を止めることが出来ずにいた。

 

目の前に突如現れたレオヴァから何も感じられない。

 

強さも威圧感も怒りも殺気も何も感じないのだ。

 

端から見れば今のレオヴァは弱い一般市民にも思えるだろう。

 

 

だが、ササキは理解してしまっていた。

……自分とレオヴァの実力差が大きく開いていることに。

 

感じないのはレオヴァが それだけ気配のコントロールが上手く、ササキの見聞色の覇気が及ばぬ域に達しているからなのだ、と。

 

 

レオヴァが一歩を踏み出した。

 

 

 

そして、次の瞬間にはササキとその部下達は吹き飛ばされている。

 

 

 

訳が解らず動揺する部下たちを他所に、ササキは驚愕で目を見開きながらもレオヴァだけを見続けていた。

 

 

あの一瞬でレオヴァと言う男は敵を一斉に弾き飛ばすだけでなく、自分の部下たちを物資箱の方へと移動させていたのだ。

 

 

まるで時が飛んだかの様な現象に狼狽え始めたササキの部下達が騒ぎだした声を聞き、レオヴァは目を細めた。

 

 

『まったく……耳障りだ。』

 

 

そう呟かれた声がササキの耳に届くのと同時に全身が貫かれたのかと錯覚する程の覇気が襲う。

 

 

 

『ぐぅ"…!?』

 

バタバタと倒れていく部下達の中で何とかササキは耐え抜いた。

 

 

荒くなった息を整えながらも警戒するため、レオヴァに目を向け……固まった。

 

 

一人耐えたササキを見据えるレオヴァの口元は良いモノを見つけたとでも言う様に“三日月”を描いている。

 

思わず凝視してしまったササキにレオヴァは歩み寄る。

 

 

 

『あれで気を失わない奴は珍しい。

ドリィでも万全じゃなけりゃ気を失うんだがなァ……』

 

 

独り言かも解らぬ呟きを溢しながら近付いてくるレオヴァにササキは先制するべく構えた。

 

獣化して構えるササキを視界に入れても尚、レオヴァの雰囲気は先程の覇気が嘘の様に穏やかなままだ。

 

 

 

『おれの可愛い部下達が受けた分の痛みはしっかりお前にも受けてもらうとしよう。

簡単には死なねぇだろう?…動物系(ゾオンけい)はタフだからなァ…』

 

 

 

 

目にも留まらぬ速さで先制を仕掛けたササキが地獄を見るのはすぐのことだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

レオヴァとの戦いで一方的な展開を迎え、無念にも敗北したササキは兎丼の採掘場で働かされていた。

 

 

あの戦闘後、部下には手を出さない事を条件に大人しく捕虜となったササキは、ワノ国でどんな仕打ちをされようとも耐え抜いてみせると意気込んでいたが、あまりにも予想外すぎる毎日に呆気にとられている。

 

 

 

 

まず、ワノ国に着くまでに全身に負っていた怪我をレオヴァ自らに手当てされたのだ。

 

ササキの部下達も手当てを受けたようでピンピンしている。

 

海楼石(かいろうせき)で拘束されながらも、

ササキは『意味がわからねぇ…』と仏頂面を隠しもせず不躾な視線をレオヴァに送った。

 

 

ササキと目が合ったレオヴァはまるで心が読めるかのように答える。

 

 

 

『お前との約束だろう?

ササキが大人しく捕虜となっている間は部下には手出ししねぇと』

 

 

なんでもない事の様に言ってのけるレオヴァに更にササキは困惑する。

 

 

 

『……そりゃ、そう口約束(くちやくそく)はしたがよ…

手当てまですンのは意味がわからねぇ。』

 

 

ササキの困惑はもっともである。

 

海賊同士の約束など、本来ならばササキを海楼石で縛り上げた時点で破られてもおかしくはないのだ。

 

むしろ何故殺されずに捕虜にされているのかも理解出来ない。

 

悶々とするササキ相手に何でもない事のようにレオヴァは言う。

 

 

 

『ササキの部下を手当てしたのも約束を守る為だ。

あのまま放置すれば重症化し、最悪死んでしまうだろう?

……またササキに暴れられては困るからな。』

 

 

ニッコリと笑いながら言い放つレオヴァにササキは苦々しく呟いた。

 

 

 

『……嫌みかよ。』

 

渋い顔をしたササキと、相も変わらず笑顔を向けているレオヴァ、と言うチグハグな現状を遠目に眺めるササキの部下達も困惑していた。

 

 

 

 

 

そして、いよいよワノ国に到着し、ササキとその部下達の緊張も高まっていた。

 

何をさせられるのか。

どんな非道な目に遭わされるのか。

生きていけるのか。

 

 

最悪な想像がどんどん膨らんでいく部下達の気配を感じながらもササキはレオヴァの言葉を待った。

 

 

じっとりと嫌な汗を滲ませるササキ達にレオヴァが告げた内容はこうだった。

 

 

 

『お前達には採掘場で働いてもらう。

ササキには賃金は無しだ、捕虜だからな。

だが、他の部下達にはササキが大人しく捕虜になっている間は賃金を支払い、雇うという形を取る。

 

………まぁ、仕事内容については兎丼(うどん)にて説明をしよう。

実際に見た方が早いだろうしな。』

 

 

 

この時点で既に予想と あまりにもかけ離れた内容にササキ達は付いていけて居なかった。

 

 

賃金が支払われる……?

雇うという形……?

 

 

 

正直なササキ達の感想は

『コイツ、なに言ってんだ?』である。

 

問答無用で奴隷のような扱いをされるのだろうと想像していた彼らには、レオヴァの言ってる意味が理解出来ないのも無理はない。

 

 

いや、だが採掘場とは とても治安が悪く薄汚いところで、賃金も名ばかりのものだろうと言う考えにササキ達はすぐさま至った。

 

 

見たことのない乗り物で空を移動させられた彼らがたどり着いた兎丼(うどん)の採掘場は想像の倍は大きかった。

 

大きな門をくぐり、中へ通される。

 

そして説明を受けながら実際に採掘されたものを運ぶ仕事が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

あれから二ヶ月半が経った現在。

 

ササキはすっかり順応してしまっている自分と部下達に苦笑いせずにはいられなかった。

 

 

 

この採掘場は朝から夕方までの7時間作業が行われている。

 

侍や元海賊たちが主にこの場所で汗水流しながら働いているのだが、あまりにも皆の仲が良く、風通しの良い場所であった。

 

 

もし合わない相手がいればブロックの変更……即ち現場を変えてもらえる制度もあり、他にも一時間の昼休憩には食堂が開放されるのは勿論のこと、定期的にある水分休憩、更には宿舎まで完備されているのだ。

 

 

ササキも部下達も宿舎で寝泊まりしているのだが、その宿舎がまるで旅館を思わせる作りなのである。

 

仕事から帰ってくれば、晩御飯は用意されており部屋も綺麗になっている。

大浴場は勿論、岩山を利用した高台に露天風呂や宴会場まである始末だ。

 

 

部下達もササキも

『……おれたち旅行にでも来てんのか?』と首をかしげたくなるのも致し方ないだろう。

 

 

そんな日々ですっかり部下達は今の仕事を気に入ってしまっている。

 

 

そして実のところササキはレオヴァと仲良くなってしまっていたのだ。

 

 

 

きっかけは些細なことだった。

 

部下達やレオヴァとの約束の事もあり真面目に働いていたササキの下へ、様子を見に現れたレオヴァに酒が欲しいと愚痴ったのが発端だ。

 

 

その夜、山のように積まれたアスパラをかじりながら自室のバルコニーで月を眺めていたササキの前に突如、黄金の鳥が現れたのだ。

 

思わずアスパラを気管に詰まらせ咳き込むササキを心配するようにバルコニーへ踏み込んできた鳥は人の姿となって背を叩き、アスパラを出すのを手伝った。

 

 

 

何しに来たんだと(いぶか)しむササキに美味い酒があるんだと笑顔で酌を押し付けてくるレオヴァの話術に、あれよあれよと話は進み、二人は月を肴に晩酌する流れとなったのだ。

 

 

次の日が休みだと言うことや、久々の酒に気分があがっていた事もあり、ほどよく酔ったササキはレオヴァと夜が明けるまで飲み明かした。

 

 

その結果、すっかりササキはレオヴァに絆されていたのだった。

 

 

 

 

 

そして明日が休日である今日も、ササキは自身の好物であるアスパラとレオヴァの好物である魚介類を用意し、バルコニーで月を見上げながら到着をゆったりと待っていた。

 

 

上機嫌にアスパラを口に放り込んでいると空が光りだす。

 

レオヴァの到着にササキは慌ててアスパラを飲み込み、大きな口をいっぱいに開き笑顔を見せる。

 

 

「おぉ~!レオヴァさん、待ってたぜ!

刺身も炙りもあるけど……どうする?」

 

 

「ふふ、待たせて悪かった。

そうだな……刺身から頂こうか。」

 

 

酒瓶を抱えながら部屋へ入ってきたレオヴァを嬉しそうにササキは迎え入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

半分以上の酒瓶を空にしても二人は談笑を続けている。

 

ほとんど、ほろ酔い状態のササキが喋り続けているのだが、レオヴァも楽しげに話を聞いていた。

 

 

どんな話をしても上手くさばくレオヴァがササキは好きだった。

 

 

最初の出会いこそ、長時間生かさず殺さずな戦闘を続けられて散々な目に遭わされてはいるが、自分もレオヴァの部下を散々な目に遇わせたのだ。

 

それは互いに敵だったのだから当たり前だとササキは割り切っていた。

 

 

 

 

 

 

実験に失敗し、あわや大爆発だったというレオヴァらしからぬ話を聞き、ケタケタと大声でササキは笑う。

 

 

今日もいつも通り楽しく酒を飲む二人だったが、不意にレオヴァの雰囲気が変わった。

 

 

「……実は今日、ササキに提案をしに来たんだ。」

 

 

真剣味を帯びたレオヴァの声にササキもすっと姿勢をただした。

 

 

「んで、レオヴァさん……その提案ってのは。」

 

 

固唾(かたず)を飲むササキにレオヴァはゆっくりと口を開いた。

 

 

「ササキ……お前ウチに入らねぇか?」

 

 

「……へ?」

 

 

重々しく告げられた言葉とは裏腹な内容にすっとんきょうな声を漏らしたササキだっだが、レオヴァの話は続く。

 

 

 

「正直、最初は強さと悪魔の実の珍しさから捕虜として連れ帰ったのが本音なんだが……

ここ最近の晩酌を通して捕虜としてではなく、身内としてササキと共に歩みたいという考えが強くなってな…

 

……今の立場のササキにこんな事を言っても困らせるだけだろうか…?」

 

 

 

眉を下げながらこちらを伺うレオヴァを他所にササキは口を開けたまま(ほう)けていた。

 

 

 

てっきりササキはもう捕虜としてではあるが百獣海賊団に入ったと思っていたのだ。

 

そもそも、戦いで負けた時点で普通ならば問答無用で勝者に従う他ないのがこの世界。

 

だというのにササキの意見を尊重しようとするレオヴァの態度に、出会ってから何度目か解らぬ衝撃を受ける。

 

 

固まったままのササキにレオヴァは物悲しそうに目を伏せた。

 

 

 

「……すまない、唐突すぎた。

今の話は忘れてくれて構わない……」

 

 

沈黙を否定と取ったのかレオヴァが引き下がってしまう。

ササキは慌てて叫んだ。

 

 

 

「まっ、待ってくれレオヴァさん。

勿論、喜んでその話 受けさせて貰うぜ!」

 

 

机から身を乗り出す勢いで提案を受け入れたササキに、驚いた表情になったレオヴァがその言葉に続ける。

 

 

 

「……受けてくれるのか?」

 

 

「おう!

レオヴァさんの下だったら、おれも文句ねぇ!

それにやっぱり戦闘の方が性に合うみてぇだ。」

 

 

にっと牙のある大きな口を“三日月”形にして笑ったササキを見て、レオヴァも嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あの晩酌の二日後にササキは “真打ち” に就任した。

 

 

そして、初めての遠征でカイドウに同行して帰って来たササキの態度に皆が驚いた。

 

 

 

『カイドウさん、飲むなら おれも誘ってくれよ~!!』

 

良い笑顔でカイドウの周りをドスドスとササキは付いて回っている。

 

 

そう、ササキはすっかりカイドウの強さに惚れ込んでしまっている様だったのだ。

 

 

 

たった二ヶ月の遠征でササキに惚れ込まれたカイドウを見てレオヴァは誇らしげに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 





ー後書きー

【現時点、真打ちメンバー】
・ドレーク、ロー、スレイマン、ブラックマリア、ササキ、うるティ

【レオヴァ】
・懸賞金額1億5000万ベリー
・カイドウの息子という肩書きで懸賞金がついていると思われている(実際に政府もその理由からこの金額をつけているので事実ではある)

【兎丼・採掘場】
原作と違い人を雇っている。
外から連れてきた海賊も此処で働いているが、基本的には自分の意思で働いている。
ササキの部下も半数が残って採掘場の作業員になることを望んだので、ワノ国の国民として働いている。


いつもご感想に誤字報告ありがとうございます~!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

憧れと決意を示すもの

 

花の都にある自分の屋敷の美しい縁側で、町の活気溢れる音を背景音楽にレオヴァからの仕事を淡々とこなしていたヒョウ五郎に部下の声がかかる。

 

 

 

「親分、お客がお目見えでさぁ。」

 

 

部下は部屋の前で(ふすま)越しに来客を伝える。

 

 

「客……?

今日は人が来る予定はねぇと思うが……通せ。」

 

 

開かれた襖の向こうに無愛想に立っている青年を見て、ヒョウ五郎は珍しい訪問者に眉を上げた。

 

 

少年から青年へと立派に成長した小生意気で、けれど努力家な彼に中へ入れと声をかける。

 

 

 

「おうおう、ずいぶんと珍しいじゃねぇかロー!

お前さんがわざわざ おれに会いに来るなんざ……何かあったのか?」

 

 

自分の前に座ったローに心配半分好奇心半分で問う。

 

 

少しの間を空けて答えられた言葉にヒョウ五郎は驚きに眉を上げた。

 

 

 

「……良い彫師を紹介してくれ。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あれからローは休みの日にヒョウ五郎から紹介された彫師の下へと通い続けた。

 

 

ローのデザイン案を見て微笑ましげに笑うヒョウ五郎の顔を思い出すと腹が立つが、紹介された彫師の腕は確かだった為、ローは口をつぐんだ。

 

 

そう、ローは相手を立てる事が出来る男なのである。

 

 

 

 

手や鎖骨から腹まで、そして背中にも…と範囲が広かった為に半年以上かかったが

全身が終わり、ついに手も肌の感覚が戻った。

彫り終わってからも長らく手入れなど、大変ではあったが……完成したものを見れば、その大変さも吹っ飛んだ。

 

ローは思わず頬を緩ませる。

 

 

 

今までレオヴァに

 

『……怪我をしたのか?』

『また包帯が増えているが……大丈夫なのか?』

『…まぁ、ローが言いたくないのならば詮索はしないが……何かあれば言うんだぞ。』

 

などと有らぬ誤解をさせてしまっていたのだ。

 

やっと事情を説明出来るという安堵と、レオヴァの反応がローは少し楽しみであった。

 

 

 

 

 

 

 

そもそも、何故ローがタトゥーを入れようと思ったのか……それはレオヴァの背にある百獣の印について聞いた事がきっかけだった。

 

 

『レオヴァさんはなんで背中に入れたんだ?』

 

 

何気ない会話にポツリと溢したローの言葉にレオヴァは少し驚いたあと、ふっと微笑み…答えた。

 

 

『実はこう言ったモノには柄は勿論だが、入れる場所にも意味があるんだ…

 

おれで言うなら背中だな……そこは自分にとっての称号、座右の銘だったり大切なものを彫る者が多い。

だから、おれは背に百獣を刻んだ。

……おれの全てだからな。』

 

 

決意と優しさの灯った瞳で笑うレオヴァの言葉はローに新たな価値観を与えた。

 

誓い、意思や覚悟。

それを体に刻む。

 

 

ローはレオヴァに彫物について色々と教えて欲しいと頼み、知識を得た。

 

そして、自分でデザインや場所を考え……今日やっと念願叶い完成したのだ。

 

 

最後に彫った手はまだ少し違和感が残っているが、ほぼ問題ない。

 

 

 

今頃、仕事の虫になり、晩御飯を食べて下さいと部下たちに懇願されているであろうレオヴァの下へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「れ、レオヴァ様……そろそろお夕食をお食べになられては…」

 

 

おずおずと言う様に切り出した近衛隊(このえたい)である部下にレオヴァは手を止めずに答える。

 

 

 

「……そうだな、もう少ししたら頂こう。

お前たちはそろそろ退勤時間だ、戻ってくれ。」

 

 

「そ、そんな!

レオヴァ様が実務をしていらっしゃるのに帰るなど!」

 

 

「いや、皆が遅くまで付き合う必要はない。

勤務時間以外の時間は好きなように休んで欲しいとおれは思っているんだが……」

 

 

「「「ならば、レオヴァ様のお側に仕える事こそ我々の好きな事にございまする!!」」」

 

 

ピッタリと揃って声を上げた部下にレオヴァは困ったように眉を下げた。

 

 

しかし、一番困り顔をしたいのは部下たちである。

 

このまま自分達が帰ればレオヴァが延々と飲まず食わずで働き続けることは今までの経験上明らかだ。

 

現に、レオヴァは“もう少ししたら”と言う言葉を使い既に三時間も夕食を食べずに仕事を続けているのだから…。

 

 

 

なんとかレオヴァを休ませようとする部下と、文机(ふみづくえ)から動かざること山の如し…とでも言うようなレオヴァとの攻防は続いていた。

 

 

 

しかし、彼の登場で戦況は一気に部下達に追い風となる。

 

 

 

「レオヴァさま~! お腹空いたよぉ~…

一緒にご飯食べよ~!」

 

 

白くもふもふした彼を見た部下達は勝ちを確信した。

 

彼……ベポさえいればテコでも動かないレオヴァを休ませられる!!

 

 

部下たちは、ベポを部屋へ向かわせたであろうキングの素晴らしい采配に深く感謝した。

 

 

 

 

最初こそ、“もう少ししたら”とベポに先に食べるように言うレオヴァだったが

 

 

「お、おれ……頑張って川でレオヴァさまの好きなお魚釣って…それ料理してもらったから……一緒に食べたくて……

……………けど…レオヴァさまが忙しいなら我慢する…」

 

 

この世の終わりを告げられたと言っても信じそうなほど落ち込んだベポに、先ほどまで動かなかったのが嘘の様にレオヴァは立ち上がった。

 

 

「ベポ…すまない。

おれが頑固だった……一緒に夕飯にしよう。」

 

 

2m以上ある大きな体を小さく丸めているベポは、そのレオヴァの言葉に目を輝かせた。

 

 

「ほ、本当!?

レオヴァさま一緒に食べてくれるの…?

お仕事……いいの?」

 

 

「あぁ、仕事は夕飯のあとにしよう。

……どんな魚を釣ったんだ?」

 

 

「やった~~!!レオヴァさま、ガルちゅ~!

えへへ、レオヴァさまの好きな…なんとかマグロ! 二匹も釣れてね~

あとね、あとね!他にも……」

 

 

勢いよく飛び上がったベポはレオヴァに抱き付くと、たくさん釣った魚の話を始めた。

 

レオヴァはそれを『凄いな』やら『偉いぞ』と相づちを打ちながら聞いている。

 

 

部下たちはチャンスだと言わんばかりに料理人達に連絡をとり、すぐさま夕飯を運ばせるのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ベポと言う、対レオヴァ休憩最終兵器により

無事夕飯を終え、安堵した部下たちはやっと各々の部屋へと帰って行った。

 

 

部下たちがいなくなった鳳皇城(ほうおうじょう)で次々と書類をさばくレオヴァの下に、休日である筈のローが現れる。

 

 

 

「ロー…?

どうした、今日は休みだったと思うが……何かあったのか?」

 

 

一瞬心配そうな顔をしたレオヴァだったが、ローの手を見て目を丸くした。

 

 

「……そうか、ここ最近の包帯はソレの為だったのか」

 

 

 

今までのローの行動から一瞬で答えに辿り着き微笑むレオヴァに、ローも笑い返す。

 

 

「レオヴァさんに一番に見せたかったんだ。」

 

 

ローは文机の側に腰を下ろした。

 

レオヴァはローの手に彫られたトライバルを見て嬉しそうに笑う。

 

 

「竜に…鳥か。

ふふふ……これはまた思いきったなァ。」

 

 

「カイドウさんとレオヴァさんだ。

……まだ他にもある。」

 

 

 

喜ぶレオヴァの顔に上機嫌になったローは身体にある他の彫物も見せた。

 

 

思っていた数倍は多い彫物にまた少しレオヴァは驚いた顔をした。

 

 

 

「ローも背に百獣を彫ったのか。」

 

 

「レオヴァさんと同じにしたんだ。

……おれも百獣が全てだから。」

 

 

 

真っ直ぐな強い目でレオヴァに告げ、微笑んだローの頭に優しく懐かしい感触があった。

 

ぽんぽん、と軽く触れると離れて行った手に気恥ずかしげに帽子を深くかぶったローをレオヴァは優しい瞳で見つめた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ページワンは久々に姉の居ない静かな日々を過ごしていた。

 

姉こと、うるティは船の前で小一時間(こいちじかん)駄々をこね続け、挙句の果てに暴れまわると言う力業(ちからわざ)にて、カイドウの遠征に付いて行ける権利を奪い取り、現在は遠征中である。

 

 

あまりにも我が儘かつ、傍若無人な振る舞いに恐ろしい殺気を放つジャックにページワンは冷や汗を流した。

 

しかし、レオヴァが

『ふはははっ……父さんとの遠征に行く権利を見事 “奪い取った” んだ。

そんなに怖い顔をしてやるな、ジャック。

海賊らしくて良いじゃねぇか……ふふふ…』

 

と、可笑しそうにジャックを宥めた為、なんとか事なきを得た。

 

 

 

 

『えへへ……カイドウ様と遠征ナリ~!!

バンバンぶっ潰してやるぅ!!

あ、レオヴァ様にはヘンテコなお土産持ってくるナリよ!

 

……あ!カイドウ様待って~~!!…なり!』

 

 

弟の気苦労など知らずに上機嫌にカイドウに付いていく姉にページワンは遠い目をする他なかった。

 

 

 

 

日々、姉の撒く火の粉を消す……そんな生活であったが、たまの心休まる一時にページワンは羽を伸ばしていた。

 

 

だが、そんなページワンの下にレオヴァからの呼び出しがあった。

 

 

「……姉貴いねぇのに呼び出し?

しかも……レオヴァ様か……

ど、どうしよう……これ怒られんのか…?」

 

 

ページワンは震えた。

 

そう、今までのカイドウ……正確にはキングやクイーンからの呼び出しでは悪い知らせ、または説教ばかりだった。

 

内容は毎回 “テメェの姉だろ、なんとか(しつ)けろ!!!” である。

 

 

あまりにも理不尽な内容だ。

部屋に戻る度に毎度頭を抱えて唸るページワンの苦労は凄いに違いない。

 

 

 

しかし、一応警告で済ませていると言う時点でキングとクイーンには(すこぶ)る珍しい事なのだ。

 

 

きっと二人はレオヴァからの

『うるティの奔放さを失わせるような指導は行うな。

あれもうるティの個性……可愛らしいものだろう。

…………そうだなァ、確かに問題を起こしがちではあるからな…叱るのは構わねぇが。』

 

との言葉がなければ、トラウマレベルの拷…いや、指導をしていただろう。

 

 

クイーンに関しては一度、声を出せなくするウイルスを作り、うるティで試そうとしてレオヴァを怒らせた前科持ちである。

 

 

 

そんな記憶しかないページワンは焦り散らした。

 

姉が居ない今、呼び出される……即ち自分が何か重大なミスをしたのでは…?

 

 

わたわたしながらもレオヴァを待たせてはならないと、ページワンは鳳皇城へと急いだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ページワンは目の前の現実が上手く呑み込めていなかった。

 

 

まるで機械のような、ぎこちない動作でレオヴァから包みを受け取る。

 

 

 

「……ア、アリガトウゴザイマス…。

が、がんばり……マス……」

 

 

「ふふっ…あぁ、お前なら使いこなせる。」

 

 

緊張と動揺からカタコトになっているページワンに、思わずと言う様にレオヴァは笑う。

 

 

「急に呼び出して悪かったな。

午後の編笠村の管理も頼んだぞ。」

 

 

「は、ハイ!」

 

 

 

ページワンのぎくしゃくとした動きをレオヴァは優しい顔で見送ったのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

編笠村の座敷までの廊下を歩きながら、やっとページワンの頭は先程の出来事に理解が追い付き始めた。

 

 

レオヴァからの褒美……包みの中には悪魔の実………期待しているとの言葉……。

 

 

少しずつ頭を整理し座敷に入り、襖を閉めると同時にページワンは叫んだ。

 

 

「~~~~っ しゃあッ!!!

やったぜ!!!レオヴァ様からついに!おれも!!!」

 

 

ぴょんぴょんとページワンは部屋を跳ね回った。

 

 

 

「へへへっ……やべぇ…マジで嬉しい……。」

 

 

包みの前に膝を突いてニヤニヤと呟く。

 

そっと包みを開くと中から禍々しい実が現れる。

ページワンは大切そうに持ち上げて実を観察した。

 

 

 

「一口かじって残りは飾るか?

……いやけど、部屋だと姉貴に壊されっかなァ…」

 

 

ウンウンと頭を悩ませていたページワンだったが、とにかく一口食う!と決め、齧りついた。

 

 

 

「…ング!?………う"うぇ!! ま、不味ィ……」

 

 

これでもかと顔を歪ませながら、なんとか一口呑み込んで呟く。

 

 

「……これでおれも…姉貴やレオヴァ様と同じ能力者か…!

へへへ……絶対使いこなしてやるぜ!!」

 

 

嬉しげに笑って気合いを入れるページワンはこの後の地獄をまだ知らないのである。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

容赦のない電撃と槍の雨にページワンは二週間前の浮かれきっていた自分を殴りたい気分になっていた。

 

 

 

 

「ウォロロロロ……まぁまぁ良いんじゃねぇかァ?」

 

 

「いや…武装色が甘い分、もう少し見聞色を強めるべきじゃないだろうか?」

 

 

 

息も絶え絶えに喋る間もないページワンの数十メートル先で電撃を放ち槍を創り続けるレオヴァと、その槍を弾丸のような速度で投げてくるカイドウは本当にほのぼのした雰囲気で話し合っている。

 

 

 

「(……いやいやいや…談笑してるけど隙がなさすぎんだよ!?)」

 

 

叫びたいが声を出す体力も温存したいページワンは内心で理不尽を叫んでいた。

 

 

そんなページワンがカイドウの手の動きに合わせて槍を避ける。

……しかし、狙っていたのかそのタイミングでレオヴァの電撃がページワンの眼前へ迫っていた。

 

 

「~ッ!? ヤベッ……!」

 

 

 

物凄い破壊音と共に煙が舞い上がった。

 

 

レオヴァはにっこりと笑う。

 

 

「……流石だ、先を読むのが上手いなァ……ロー。」

 

 

 

舞い上がった煙が晴れたそこには2メートルほどの槍が刺さり、床が無残に砕け散っているだけであった。

ページワンは数メートル後ろのローの隣で目を白黒させながら礼を述べている。

 

 

「前に出過ぎだ……こっちの動きは全部読まれてる前提で動くって話だっただろ

……無駄に消耗すりゃ終わりだ」

 

「わ、悪い……つい、イケそうだったから…

…次は気ィ付ける」

 

 

ギロりと睨んでくるローに申し訳なさそうにページワンは俯いた。

 

 

 

そう、現在進行形でページワンとローは “組手”……と呼ばれているが組手とは程遠い形式でカイドウ、レオヴァから指南を受けているのだ。

 

 

毎度、形式の違う “組手” だが、今回の勝利条件はカイドウ達の30メートル前にある旗を抜く事…だった。

 

ルールとしてカイドウとレオヴァは旗の半径15メートル以内には入れないなど、不利なものが多数ある。

 

 

当初、ページワンは何故ローが虚ろな瞳で説明を受けているのか解らず首を傾げたが、今ではローの気持ちが痛いほど良く解る。

 

 

二人は本当に手加減して……いや、寧ろ遊び相手になってくれてるぐらいの感覚なのだろうが、ページワンとローにとっては命懸けである。

 

 

事実、たった一時間で動物系(ゾオンけい)の能力者であるページワンですら満身創痍に近い状況だ。

 

ローがなんとか動けているのは、これが数十回目の“組手”だからだろう。

 

 

肩で息をする二人は前方数十メートル先で談笑している親子を見てなんとも言えない顔をする。

 

 

 

「父さん、そろそろ……」

 

 

「そうだなァ。晩飯もある、終わらせるか。

……ページワン、ロー…最後を耐えきったら褒美だ!」

 

 

「二人とも、ちゃんと避けるんだぞ?

悪いが父さんのは当たったら死ぬからな。」

 

 

ニッと楽しげに口角を上げたカイドウと、いつも通り微笑むレオヴァの言葉は二人に今日一番の緊張を走らせるに十分な威力であった。

 

 

 

「……ページワン!」

 

 

「わかってる!」

 

 

二人は顔を見合わせ頷くと、叫んだ。

 

 

「「 旗は無視だ!! 」」

 

 

 

 

勝ちなんて端から眼中にない!というような二人の叫びが終わると同時に槍が降り注いで来る。

 

 

いっそ、芸術的なまでの槍の雨にページワンとローは顔をひきつらせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ーー 後書き ーー

今作のローのタトゥーは原作とは違う感じになっております~!
柄が気になる方は図をご覧下さい。

いや、自分でイメージあるんで!
と言う方はスルーして頂ければと( ・ω・)ノ

↓ローのタトゥーイメージ図

【挿絵表示】


感想と誤字報告いつもありがとうございます!!

とんでもない暑さ……皆様も熱中症などお気をつけ下さいませ…
パピコうめぇ……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

笑顔の果実

最近“ここすき一覧”という機能が有ることを知りました(´∀`∩)
投票?して頂いた箇所を見てはニヤニヤさせて頂いております!
意外な台詞がここすき されていたりしてびっくり……ありがとうございます~!






 

 

 

とある島の研究所にて。

 

 

大きな爆発音と共に謎の気体が撒布された。

 

突然の事態に研究員達は慌ただしく走り回る。

 

 

「ッ……シーザー、なんという事を!!」

 

「おれは誰より人を殺せる兵器を作ってるんだぞ!!?

ベガパンク……お前の邪魔さえなければ…これは起動しなかったんだよォ!!」

 

 

多くの者に取り押さえられながら叫ぶシーザーを見てベガパンクは顔を歪めた。

 

 

「……やはり、お前の奇行は庇いきれん…」

 

 

静かに呟いたベガパンクを数人の男たちが()かす。

 

 

「早く此処から避難してください!!

直にここにも毒ガスが……!」

 

「貴方に何かあっては我々も困るのです!」

 

 

ベガパンクを守るように男たちは外へと誘導してゆく。

その姿をシーザーは怨みがましく睨み続けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ちくしょうぉ……

よくもこの天才科学者シーザー様をッ!!

ベガパンク……許さねぇぞぉ…。」

 

拘束され政府の船へと乗せられたシーザーが騒ぐ。

 

事の発端はベガパンクが政府の人間と共にシーザーの前に現れ、追放を告げたことだった。

 

シーザーからすれば政府の人間達が求める“殺戮兵器”を誰よりも作っていたと言うのに、この仕打ち……裏切られた思いであった。

 

 

「ベガパンクさえ……あいつさえ居なけりゃ!!」

 

 

怒りに囚われベガパンクへの恨み辛みを吐き続けていたシーザーだったが、三時間ほど経った時だ。

看守の様な男に煩いと棒で殴り付けられたのだ。

 

その瞬間、シーザーは自分の現状をやっと理解し、怒りに染まっていた顔がだんだんと焦りで埋め尽くされ始めた。

 

 

(おいおい……まさか、監獄に連れてかれるのか?

牢屋なんてごめんだ!?

……あいつ、さっきインペルダウンとかなんとか…)

 

 

事の重大さに気付き絶望するシーザーは壁にもたれ項垂れた。

 

 

(くそぉ……こんな事ならレオヴァの誘いに早く乗っときゃ良かったんだ…)

 

うおぉ~ん!と聞くに堪えない泣き声を船内の独房に響かせながらシーザーは夜を過ごした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

甲板にいる男二人を除いて、船内は屍で溢れかえっていた。

 

黄金で縛られ言葉を失っている男の首にサーベルが触れる。

 

 

「まったく…長い任務だった……。

全ては懸念材料であるお前の首を取るためだったとはいえ……レオヴァ様に六ヶ月以上も直接仕えられなかったんだぞ!?」

 

 

そう憎々しげに呟くと男はベガパンクと呼ばれる者の首を刎ねた。

言い掛かりといってもなんら差し支えない内容である。

 

男はベガパンクの胴体と頭を黄金で包み込むと、血の臭いが充満する船を見て呟いた。

 

 

「レオヴァ様が到着するまでに、まずは掃除だな。」

 

 

ビブルカードを辿って飛んでくるであろうレオヴァをこの船では迎えられないと、男は死体を海へと放り始めたのだった。

 

 

 

まるで最初から人など居なかったかの様に静まりかえった船内全てに、モップ掛けを終えた男は甲板の上で空を見上げている。

 

だが、直立姿勢を保ったまま、ピクリとも動かなかった男の顔に光が差した。

 

 

「レオヴァ様…!!!」

 

そう叫びながら本当に嬉しそうに笑顔を浮かべる男の下へ、黄金の翼を持った人間が舞い降りてくる。

 

甲板に着くと同時に完全に人の姿へ戻ったレオヴァは微笑みながら呼び掛けた。

 

 

「スレイマン、久しぶりだな……変わりないか?」

 

「はい、異常なく。」

 

 

そう言って礼を取るスレイマンにレオヴァは笑う。

 

 

「ふふ……いつもより少し固いな、スレイマン」

 

「…久々のレオヴァ様との会話だ……固くもなる…」

 

 

レオヴァは眉を下げたスレイマンの肩をぽんと軽く叩いた。

 

 

「長期任務は好かないと言っていたのに悪い事をしたな…

だが、スレイマンだからこそ頼んだんだ。

お前の察知能力と集団戦闘において的確に目標を捕らえられる実力が今回は必須だった……」

 

「いえ、レオヴァ様が謝る必要など…

任務であればどんな事だろうと、何をしても遂行するのは至極当然。

……今回の任務、レオヴァ様から抜擢頂けた事はこの身に余る光栄だった。」

 

 

お互いに相手を思いやる気持ちから、二人はそのまま少し雑談をしていたが、スレイマンが話を本筋に戻すようにレオヴァの前に今回の目標を運んで来る。

 

四角い黄金が溶けるように流れ落ちると中から男の胴体と首が現れた。

スレイマンはおもむろに首を持ち上げ、レオヴァに差し出す。

  

 

「……おれの方にある情報の男で間違いないな。

ベガパンクは要注意人物だった…ここで討ち取れたのは大きい。

スレイマン、完璧な仕事ぶりだ。よくやってくれた。」

 

 

首を持つスレイマンにレオヴァは上機嫌に笑いかける。

スレイマンも嬉しげに目を細めると、誇らしげに礼を取り、首をまた胴体と共に黄金で覆った。

 

一つの目標を達成したレオヴァは二つ目の目標の下へ向かう前にスレイマンに指示を出し、飛び立った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

シーザーは独房で身を縮ませて震えていた。

 

ほんの数分前まで何事もなく護送船は海を進んでいたというのに、突然の嵐で通常では考えられないほど船が揺れ始めた。

 

その度にシーザーは壁にぶつかり更には格子に頭を打つわで、てんやわんやだったが、急に船内に悲鳴や怒号が響き始め、体を強張らせたのだった。

 

最初は嵐に慌てているのだろうと思っていたシーザーだったが、慌ただしく動き回る政府の人間達の会話から、戦闘という単語や侵入者という単語が聞こえてくる。

 

そう、船が襲われているのだ。

 

政府のクソ野郎共がどうなろうが知った事ではないが、拘束されて身動きの取れないシーザーは自分の身だけが心配でしょうがなかった。

 

侵入者に自分の居場所がバレれば殺されるに違いないとシーザーは息を殺して潜み続けた。

 

 

しかし、二十分もしない内に静かになった船内に、ほっと息をつく。

恐らく侵入者は捕まり、一段落ついたのだろう。

気を緩めるシーザーの下にドタドタと走る音が聞こえてくる。

 

 

「……チッ…看守のやつ……戻って来やがった。」

 

また殴られてはかなわないと、隅で丸くなろうとしたシーザーは現れた看守を見て驚いた。

 

 

「ゼェ…ゼェ……ころ"、殺さな"いでく"れェ!!」

 

 

両腕を落とされ、ありとあらゆる体液でぐちゃぐちゃになった看守が、シーザーの檻の前で無様に転びながら入り口方面に向かい命乞いを始めたのだ。

 

腕がないせいで上手く起き上がることも出来ずに床を汚しながら這いずる看守にシーザーは震えた。

ガチガチと歯が鳴る音を洩らしながらシーザーと看守は入り口の方を凝視する他なかった。

 

 

コツ…コツ……と、ゆったりとした足音に看守は恐怖と極度の緊張から胃の中のモノを吐き出してしまっている。

 

ボトボトと口から溢れる汚物を拭う腕すら無い芋虫の様な惨めな看守に

シーザーも自身の胃液が逆流してくる感覚を感じ、必死に堪えた。

 

 

しかし、暗闇から現れた男は場にそぐわぬ穏やかな声を出した。

 

 

「あぁ、シーザー……ここに居たのか、探したんだぞ?」

 

「……へ?……レ、レオヴァ?」

 

 

穏やかに微笑みながら、挨拶するように手を上げ独房へ歩いてくるレオヴァにシーザーはすっとんきょうな声を上げた。

 

レオヴァが独房の前に来ると同時に発狂し始めた看守が一瞬で炭と化し、肉の焼けた臭いと例えがたい異臭が鼻をかすめた。

 

 

「…ヒェッ……」

 

 

思わず出かかった悲鳴を手で押し込んだシーザーの目の前の格子がゆっくりと開く。

 

鍵を持ったレオヴァは、にこやかにシーザーの隣に腰掛け、親しげに話しかけてくる。

 

 

「シーザー……だから政府は辞めてウチに来たほうが良いと言っただろう?

……友人の助言に耳を傾けるのも大切だと思わないか?」

 

 

まるで子どもに言い聞かせる様な優しげな声で言うレオヴァにシーザーは必死の形相で頷き返した。

 

 

「れれれれ、レオヴァの言う通りだった!!

ベガパンクの馬鹿のせいで捕まっちまうし、政府の野郎共にはもううんざりだ!

も、ももちろん、おれは最初からレオヴァの誘いに乗るつもりだったさ!

ただ、い、今やってる研究が終わったらと思ってただけでっ…

ここ、断ろうなんてこれっぽっちも思ってなくてだなぁ…!」

 

次から次へと言い訳の様な事を言い始めたシーザーの言葉をうんうん、と穏やかにレオヴァは聞く。

 

 

シーザーは長々と一通りの弁明を終え、乱れた息を整える。

ふぅ、と息をつくと、ジャラジャラと纏わり付いていた鎖が外れた。

 

驚いてレオヴァを見ると、どうやら鍵で鎖を解いてくれたようである。

 

 

「で、どうする?

おれと来るなら資金と安全を保障するが……

あぁ、もちろん無理には誘わねぇさ……友人だもんなァ…?」

 

 

好きに決めてくれ。と優しく判断を委ねてくるレオヴァにシーザーは間髪いれずに答えた。

 

 

「れ、レオヴァと行くさ!

おれは百獣に入る!!」

 

 

その答えに

『そうか…これからよろしく頼む。』と笑うとレオヴァはシーザーを暗い檻から外へと連れ出した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

俺は帰りの船で今回の件をまとめていた。

 

計画にあったベガパンクの処理とシーザーの引き入れは大きな問題もなく終わった。

 

六ヶ月ほど前から、予め把握していた研究所にスレイマンを潜伏させ、シーザーの研究内容がベガパンクや政府の人間の目に入るよう工作させた。

 

そうして、意図的に原作にあったシーザーの追放を早めたワケだが。

本当に政府の詰めの甘さには助かるばかりだ。

あれだけ重要な研究施設にも関わらず警備が薄く、守りが緩いのだ。

ベガパンクという男を守るべき船にも腕の立つものは数人しかおらず、他は有象無象の護衛のみ。

 

念には念をと、スレイマンに任務を任せたが……本当にすまない事をした…

この長期任務ではさぞ、スレイマンには物足りなく感じただろう。

 

正直、短期任務にする……もしくは俺自身が直接手を掛けても良かったほどに、政府連中はお粗末な管理体制を敷いていた。

まぁ、そのお陰もありアクシデントもなく終えられたのだから良しとするべきか…。

 

シーザーを引き入れるにあたって、一度クイーンの反対もあったがそれもなんとか納得してもらえているし、研究所の設計図を基に施設も建て終えた。

 

クイーンから助言を受け、進めていた研究もシーザーが加われば直ぐにでも形になるだろう。

 

 

他にも形にしていきたい研究は山ほどある。

シーザーの知識は俺にはないものばかりだ。

きっと新しい発見や成果を出していける筈だ。

 

 

「ふふふ…クイーンと三人で研究するのが楽しみだ」

 

俺はこのあと待ち構えるクイーンの不機嫌ムーヴも知らずに呑気に呟いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ワノ国の研究所で働き始めて数ヶ月。

シーザーは完全に今の生活を満喫していた。

 

初めこそ、カイドウやレオヴァに怯え震えていたが

今ではそんな影など微塵もない。

 

そう、シーザーは気付いたのだ。

“やることやればレオヴァはめちゃくちゃ甘い” と言う事実に。

 

実際、任されているモノさえ終わらせれば夜通し遊郭で遊び呆けても文句は言われない……いや、一部の小うるさいレオヴァ信者には言われるが、レオヴァとカイドウの怒りさえ買わなければ良いのだ。

 

シーザーは無駄にこずるい考えには頭が回る男だった。

 

 

しかし、同時にレオヴァのヤバさも理解していた。

 

 

『シーザーを酷い目に合わせたんだ……当然だろう?』

 

そう言ってベガパンクの死体に処置を施すレオヴァは、いつも通り優しい微笑みを浮かべていたが、シーザーは冷や汗と体の震えが止まらなかった。

 

 

(裏切ればおれもああなるっ…!!!)

 

シーザーが絶対に怒らせないと誓うには十分すぎる体験である。

同時に、カイドウとレオヴァの下に付き続ければ安泰だと言う事実もシーザーはしっかり理解している。

 

だからこそ、任されているモノは真面目にこなしているのだ。

 

 

最近ではクイーンの顔を見なくて良いようにレオヴァが調整した為、研究所内はすこぶる快適だ。

それにワノ国の者は大賢者様やシーザー様と呼び、丁寧に扱ってくる。

自尊心が高く見栄っ張りなシーザーも大満足な扱いだ。

 

 

最近完成させた “SMILE” の事もあり、待遇は本当に良い。

好きに兵器や毒ガスを作っても文句を言われることがないのもシーザーにとってはストレスフリーである。

 

何よりレオヴァは話がわかるのだ。

研究においてもシーザーの考えを理解し、良く付き合ってくれる。

 

他にも、三ヶ月ほど前に資金を横領し遊郭に行っていた事が判明した事件で、シーザーはレオヴァの甘さを身を以て体験した。

 

ローに体をバラバラにされ、スレイマンやササキ達の射殺さんばかりの視線を浴びながら焦り散らすシーザーの下へ現れたレオヴァの下した罰はこうだ。

……“三日間の謹慎”のみである。

 

これにはロー達含め、シーザーも驚いた。

これは確実に殺されるだろう、と思っていたシーザーは首だけの状態で涙目になりながらレオヴァを仰いだ。

 

外野が次々と進言したがレオヴァは困ったように笑うだけだった。

 

 

『シーザーの性格をしっかりと理解していなかった、おれの落ち度でもある。

それに任せていた研究事態は問題なく行っていた様だしな……

今回ばかりは皆も許してやってくれ』

 

 

他でもない彼の言葉に渋々頷いたドレーク達に礼を言うとレオヴァは微笑んだ。

 

 

なんとか体を元に戻してもらったシーザーは三日間の謹慎を、それはもう本当に大人しく過ごした。

そして、謹慎明けにレオヴァから届いた通達に驚きと喜びの声を上げたのだ。

 

 

『シーザー専用の遊郭スペースを設けた。

ここでならば金はかからないから、二度と横領は止してくれ。

支払われる賃金以外で必要な金は、その都度おれに相談するように。

今後もシーザーの研究成果を楽しみにしている。  

     レオヴァ 』  

 

 

この時、シーザーは “レオヴァの身内への甘さ” にガッツポーズを決めた。

 

そして、此処……カイドウとレオヴァの下こそ一番生きやすいのでは!?

という結論へ至ったのだ。

 

 

唯一、仕事で “人の役に立つものを作らなければならない” のは不満ではあるが、今の地位と命の安全を確保する為ならば安いものだとシーザーはきっぱりと割り切った。

 

それに自尊心が高く、承認欲求が人一倍強いシーザーにとって

大きな成果は勿論のこと、小さな成果でさえ褒美だけでなく言葉でもシーザーを労り、的確にシーザーの構想を理解し共感を示すレオヴァは好ましくもあった。

 

さらに世話係としてレオヴァから与えられたカヅチという侍も懇切丁寧にシーザーを扱い、天才科学者としていつもシーザーを誉めそやした。

 

もうここまでの待遇さえあれば不満などシーザーからは出なかった。

 

 

今日もシーザーはノルマを終え、遊郭へと消えていく。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

カイドウは上機嫌に目の前にある果実を見ていた。

リンゴのような形をしたソレは最近百獣に入ったシーザーと言う男とレオヴァの協同研究の成果である。

 

 

「ウォロロロ…人工的に悪魔の実を作っちまうとはなァ!」

 

「そうなんスよ!!

マジでレオヴァのぶっ飛び思考には毎度驚かされるぜ!」

 

「いや、発想力もそうだが、レオヴァ坊っちゃんの実現力はどうなってんだ……」

 

 

愉快そうに笑ったカイドウの前でクイーンも笑い、その横でキングは腕を組んで唸った。

 

 

「この、“SMILE” の完成で戦力増強のスピードは今までとは比にならねぇ。

レオヴァ坊っちゃんは、あと数年あれば製造数も倍以上に出来ると言ってる…

……カイドウさんの言ってた能力者だけの部隊も実現できそうだ。」

 

「いや~…正直おれもレオヴァがここまで構想通り、完璧に仕上げちまうとは思わなかったぜ……

レオヴァの奴、カイドウさんの事になると普通は無理な事を実現させちまうからなァ……」

 

 

キングとクイーンはレオヴァの規格外さに遠い目をした。

 

この人造悪魔の実は確かに能力のランダム性や、泳げなくなると言うマイナス面があるが、それを補える利点があった。

 

この実……発現率が100%なのだ。

齧りさえすれば必ず何かしらの能力が手に入り、通常よりも多少打たれ強くなる。

しかも、製造方法も確立されており安定供給が可能なのだ。

 

本物の悪魔の実と比べると能力は劣るかもしれないが、この人造悪魔の実の “数” と言うアドバンテージの強さは言うまでもないだろう。

 

 

それに、“SMILE”  のランダム性は強みでもあった。

 

脚だけ馬のように変化させられる者も居れば

一時的に上半身に、とある毒グモの特性を“全て” 出現させられる者もいるのだ。

 

他にも羽を生やして飛べる者や、手だけ狼に出来る者など……本当に様々な能力が発現している。

 

最近、あるカエルの毒液を両腕から出すことが出来るようになった者がいるが、戦闘だけでなく医療でも活躍している。

その毒液は依存性のない鎮静剤を作る材料になるのだ。

 

この様にランダム性は単純な強化だけでなく、戦闘以外の副産物を産み出す可能性も秘めている為、一概にマイナス面と言えないのである。

 

 

これほどのスペックがある人造悪魔の実を協同開発とは言え造り出したレオヴァに、キングとクイーンが遠い目をしてしまうのも致し方ないのかもしれない。

 

 

なにより、レオヴァがこれを作ろうと心血を注いだ理由が、またキングとクイーンをなんとも言えない顔にさせるのだ。

 

戦力増強は勿論ではあるが、そもそもの要因はちょっとしたカイドウとの会話が切っ掛けであった。

 

 

『ウォロロロ…ヒック、レオヴァ~!!』

 

『ん? なんだ、父さん。』

 

『おれァ、思い付いたぞぉ…ウィッ、ク。

ウチの奴ら全員がァ…ウィ~……能力者になりゃあ良いんだ!!』

 

『確かにそれなら戦力としても十分だなァ…。』

 

『そうだろう!? ウィッ、ク~

ヒック…そうなりゃ、面白れぇぞ!

レオヴァ!おれたちが最強だァ……!!』

 

『ふふ……流石父さん、完璧な理論だ。

そりゃ、皆が能力者なら戦力倍増どころの話じゃないからなァ…

まぁ、なんであれ父さんが最強だと言う事実は揺るぎないが。』

 

『ウォロロロロ……!!!

ヒック、やっぱりよォ、レオヴァはおれの息子だァ…うぃ~

よく話がわかるぜぇ…ヒ…ックゥ!』

 

『……父さんの理想はおれの理想だからなァ…。

…楽しみにしていてくれ。』

 

 

そう、この久々のレオヴァとの晩酌で嬉しさからベロベロに酔っ払ったカイドウの何気ない思い付きが息子を突き動かしたのだ。

 

たった一人の愛する父の不可能とも言える理想。

しかし、レオヴァは不可能だろうが“カイドウ(父さん)” の望むことは全身全霊を持って実現させる男であった。

 

今回も例に漏れず実現させた張本人はカイドウの

『良くやったぞレオヴァ、流石はおれの息子だ!!

おい!キング、クイーン見ろ!!』

とはしゃぐ様子を見て微笑み

その後、喜ぶ部下達を見て満足げにまた笑っていた。

 

挙げ句には

『父さんの完璧な理論あってこそだ。』

と自慢げに話し出すレオヴァに

キングとクイーンは、この似た者親子には敵わないと肩をすくめ、カイドウはそんな自慢の息子の顔を思い出して、また豪快に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ーー後書きーー

↓シーザーへの印象など

・カイドウ
あまり印象にないが、レオヴァが役に立つと言っていた事だけ覚えている。

ーーーーーーーーーーー
・キング
シーザーと言う人間には興味はないが、重要人物という認識はある。

ーーーーーーーーーーー
・クイーン
消したいほどと気に入らないが、重要度を理解している為手は出さない。(嫌がらせはする)
最初はシーザーの入団には反対だったがレオヴァの説得(褒め殺し)を受け、あっさり了承した。

ーーーーーーーーーーー
・ジャック
レオヴァに対して馴れ馴れしいシーザーを一度殺しかける事件を起こした。
用済みになれば自分が止めを刺すと決めている程嫌い。
自分が優秀な研究者になればシーザーを処分できるのでは?と思って頑張っていた時もあったが、適材適所だとクイーンに諭され諦めた。

ーーーーーーーーーーー
・ドレーク
横領事件以降、一切信用していない。
しかし、利用価値はある為フレンドリーに接している。
スレイマンやジャックを止める係になりつつある。

ーーーーーーーーーーー
・ロー
実はレオヴァから言われてシーザーの心臓を持ってる。(普段はとある場所に隠してある)
ムカつく事はあるが、所詮はただの道具だと割りきっているため表上は普通に接している。

ーーーーーーーーーーー
・ベポ
あまり話したことがないので解らないが、臭いが嫌い。
(ローとレオヴァの手回しによってシーザーとあまり会えていないが、本人は知る由もない)

ーーーーーーーーーーー
・スレイマン
横領事件の時から物凄く当たりがキツイ
次、何かレオヴァを裏切る真似をしたら確実に息の根を止める予定でいる。
何かある度にドレークに話を聞いてもらい、殺意を抑え込んでいる。

ーーーーーーーーーーー
・うるティ
うざい奴、嫌い。
レオヴァとたくさん会話しているのが特に気にくわない。

ーーーーーーーーーーー
・ページワン
横領事件の話を聞いてから警戒している。
そもそも態度が気にくわない。

ーーーーーーーーーーー
・ブラックマリア
何の感情もないが、横領事件のことは許していない。
仕事上、一番接点が多いがそこは上手くやっている。
なにか有れば、自分が躾を担当しても良いかと考えている。

ーーーーーーーーーーー
・ササキ
どーでもいい奴。
横領事件の時は腹を立てていたが、レオヴァが許したので怒りを静めた。
カイドウとレオヴァの役に立つなら良いか!くらいの考え。

ーーーーーーーーーーーーー


前回もご感想ありがとうございます~!!

たくさんの方にタトゥーの絵を褒めて頂け嬉しさの極み!
色々調べて描いたのでカッコいいとのお言葉頂けてニッコリでございます(*´-`)

誤字報告も感謝です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

休暇命令

 

 

 

 

 

二年ほど前に魚人島のスラム街から百獣にやってきたオレ達はレオヴァ様直々に特殊部隊へ任命された。

 

何でも新しく作られた、この特殊部隊は “SMILE” を授けられた者とオレ達の少数精鋭で構成されているらしい。

 

奴らはギフターズや真打ちと呼ばれる地位を持ってるが、偉ぶらないし気の良い奴ばっかりだ!

 

 

新しく作られた部隊への初メンバーと言う大役……必ずレオヴァ様にご満足頂ける結果を出さねぇとな。

 

それにオレ達が遠征で結果を残せばワノ国の奴らも喜ぶ。

 

……なんて、昔じゃ他人の為なんて…ましてや人間の為にとか微塵も思わなかったんだがなぁ……。

 

 

 

 

元々、オレ達はあんまり人間に良い印象はなかったんだ。

 

それこそ、レオヴァ様やスレイマンさんにドレークさん、あとローさん達以外の人間なんて話すのも癪だと思ってた。

 

魚人だから人魚だからと変な目で見てくる人間ばっかりだと思ってたし、実際にワノ国に着くまでに石を投げつけられたり、気分の悪くなる経験も沢山したんだ……。

 

 

けど、その度にレオヴァ様、スレイマンさんやドレークさんはオレ達を慰めてくれた。

 

 

レオヴァ様の怒った姿を、オレはこの時初めて見た。

正直、泣きそうなぐれぇ嬉しかったなぁ…。

 

 

 

あの時は悪目立ちしちまったから、レオヴァ様に

『すいません、おれらのせいで……問題起きちまったみてぇで…』

と謝ったが

 

レオヴァ様はオレの肩に優しく手を置いて

『謝る必要は一切ない……辛い思いをさせたな…。

人間だとか魚人だとかは関係ない、皆が大切な部下だ。

おれァ…身内が謂われのない扱いを受けて黙ってるつもりはねぇ。』

と力強く言って下さった。

 

 

あぁ、やっぱりオレ……この人に付いてきて良かった。って、そんな嬉しさとか忠義とか色んな気持ちでいっぱいになったんだ。

 

 

だから、他の人間全員から嫌われようが、レオヴァ様達だけが味方でいてくれりゃ良い!……そう思ってた。

 

 

けど、ワノ国に来てまた考えが変わったんだ。

 

 

ワノ国の奴らは全然オレらを“気にしなかった”。

本当に普通にオレ達と接してくる。

 

 

今まで、悪い意味で特別扱いされてきたオレ達にとって、その“普通”がすごく嬉しかった。

 

それでオレ達は決めたんだ。

百獣とワノ国の奴らの為に遠征でもなんでも頑張ってやるぜ!ってな。

 

 

 

……話がずれすぎたな。

 

とにかく、新しい部隊への配属が嬉しかったんだ。

 

 

オレ達の中には SMILE が欲しい!ギフターズになりてぇ!と言っていた者達も多かったが。

 

レオヴァ様の

『お前達は海を自在に泳げる素晴らしい力を既に持ってるじゃないか。

おれにはない良い個性だ。

……おれが溺れた時は頼むぞ? 』

と冗談交じりのお言葉を頂いてから、SMILEを欲しがるやつは居なくなった様だった。

 

 

やっぱし、みんなSMILEっつーか、レオヴァ様から何かを貰いたくて騒いでただけみてぇだ。

…まぁ…気持ちはすげぇ分かるけどな!

 

 

今考えれば、レオヴァ様の周りのスレイマンさん達はみんなが能力者だ。

…だからこそ、オレ達は海を泳げるっつー強みを持ち続けるべきだよな!

 

陸はカイドウ様とレオヴァ様達が居れば怖いもんなし!

んで、海はオレ達が完璧にサポートするんだ!

 

 

オレ達は気合い十分で新しい部隊での遠征へと出発した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

レオヴァは長期休暇と言う命令をカイドウから受け、偉大なる航路(グランドライン)前半へ来ていた。

 

 

楽園と呼ばれる地ならレオヴァもやることがない筈だ、と言うキングとクイーンの助言をカイドウが嬉々として採用していた姿を思い出し、苦笑いを溢す。

 

 

「……別に連休なんざ、いらねぇんだがなァ」

 

 

そう呟き、禁止リストをじっと見つめるレオヴァの乗る空船の進む方向には、のどかすぎる景色が広がっている。

 

 

やることがないと困り顔のレオヴァとは裏腹に、ドレークは溢れる笑みを抑えることが出来ずにいた。

 

 

 

今回、レオヴァの休暇の護衛……と言う名の“仕事させない係”の枠は1名のみであった。

 

それに対して、志願者は8名。

 

誰がこの褒美とも言える任務を勝ちとるか……ピリピリとした志願者達に告げられた選別方法は

 

“カイドウとの組手” であった。

 

 

この瞬間、志願者たちの脳裏には、あの地獄の光景が走馬灯のように駆け巡った。

 

 

『……は、旗抜き…ゲーム…ウッ、頭が……』

 

『…カイドウ様と棍棒耐久……また動けな…い……』

 

『あうぅ…鬼ごっこはもうイヤだぁ……海楼石(かいろうせき)きらいナリぃ…』

 

『…槍の雨……落雷……』

 

『…ク、クミテ…?……あ、あぁ、組手か………あれは組手なのか…?』

 

『ア"~~……シヌ……カイドウさん相手は…シヌゥ……』

 

『カイドウさんとの組手は久々だ……!』

 

『組手?  おれカイドウさまと組手するの初めてだ~!なにするのかなぁ?』

 

 

約2名を除き、全ての志願者達は幾度も繰り返された地獄を思い出し顔を引きつらせた。

 

しかし、志願を取り下げる者は居らず皆が決死の思いで“組手”へ挑んだ。

……約1名、ベポを除いて。

 

 

 

当初、ジャックが圧倒的有利ではないかと言われていたが、結果は意外にもドレークの勝ちで締め括られた。

 

 

なんと、今回の“組手” はレオヴァが参加しない代わりに、クイーンによる特別ルールが設けられていた。

 

単純ないつもの“組手”であれば、ジャックの勝ちは揺るがなかったのだが、頭脳戦とも言えるルールを追加された事によりドレークは志願者達の裏を取り、見事勝ち残ったのだ。

 

 

ローとページワンはドレークの行動を読めてはいたが、如何せん体力が保たず敗北。

 

うるティとササキはそもそもドレークの動きに気付けず敗北。

 

スレイマンは普段であれば気付けた筈だが、レオヴァとの遠征と言う褒美に目が眩み、隙を突かれ敗北。

 

ジャックはカイドウとの戦闘に意識を向けすぎていた為、裏を取られ優勢だったが敗北。

 

 

全体を冷静に見据え、勝ちにのみ固執した動きをしたドレークは見事カイドウから今回の護衛を仰せつかったのだった。

 

 

カイドウから褒められるだけでなく、更にはレオヴァとの休暇遠征という、百獣海賊団の人間なら誰もが羨むセットを手にしたのだ。

嬉しさを隠しきれないのも無理はないだろう。

 

 

 

……ちなみに、この “組手” には

『レオヴァは部下にめちゃくちゃ甘いし、厳しい条件を勝ち上がって喜んでる部下がいりゃ無下に休暇を断れないんじゃね?』

というクイーンの思惑から開催された。

 

流石は百獣海賊団屈指の天才である。

 

思惑通りレオヴァは普段であれば休暇を、長期ではなく短期にしようと何かと理由をつけてカイドウやキング、クイーンを丸め込むのだが

『今回の休暇遠征はカイドウさんから おれが護衛を頼まれた。

レオヴァさんとの遠征は本当に久し振りだ……楽しみにしてる、全て任せてくれ…!』

と言う、ドレークのあまりの喜び様にレオヴァは今回は素直に連休を受け入れた。

 

 

頑なに長い休みを取らないレオヴァの新しい弱点の発見にクイーンとカイドウは思わずニッコリである。

 

 

 

そんなこんなでレオヴァとドレーク、それと料理人などの数人の部下たちはキラキラと光る海の上をのんびりと進んでいたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

三つの無人島での生き物採集を終え、岸壁にひしめくように並び立つカラフルな家が特徴的な島へ観光に来ていた。

 

島についたばかりの午前中はレオヴァの付き添いで街をくまなく探索し、ドレークは多くの写真を撮った。

 

最近はレオヴァの収集癖によって集められたヘンテコな……いや、少し風変わりな物が増えすぎ自室を圧迫してしまっており、レオヴァは かさ張らない写真を好むようになり始めたのだが、それを知るのはまだカイドウとドレークのみである。

 

 

ドレークが写真を撮る度にレオヴァはそれを見て

『ふふ、ドリィの撮る写真は綺麗だなァ

おれにも焼き増してくれるか?』

と上機嫌に声をかけるので、ドレークは嬉しそうにまた沢山写真を撮る……そんなほのぼの観光だ。

 

 

歴史についても街の露店や、食事処などでレオヴァは色んな人に聞いて回るなど本当に楽しそうであった為、ドレークは本当に嬉しかった。

 

なにせ、今回の準備も遠征ルートも全てドレークが行っているのだ、嬉しくない筈がない。

 

 

 

 

1日の終わりも近づき、晩餐はこの島の名物料理である沢山の魚介フルコースだった。

この食事もレオヴァは喜び

『これは凄いな……ん、美味い。

島独自の料理は必ず食べたいと思っていたんだ。

何から何までありがとう、ドリィのおかげで楽しい休暇だ。』

と微笑みながら優しく礼を述べてくれる。

 

ドレークは普段の何倍も美味しく感じる食事を十分楽しんだ。

 

 

 

そして、無人島で捕まえた様々な爬虫類を眺めながら、島名物の甘いワインを嗜みドレークは楽しげに目を細める。

 

 

 

 

「珍しい種が捕まえられて良かったな。

……その、蛇がお気に入りか?」

 

 

後ろから聞こえた声にドレークは振り向き答えた。

 

 

「まさかスケールレスのボール蛇まで捕まえられるとは思ってなかった。

レオヴァさんが見つけてくれて良かった!」

 

 

笑みで返すドレークからの聞き慣れない単語にレオヴァは首をかしげた。

 

 

「スケールレス…? 初めて聞く単語だが……」

 

 

「スケールレスとは鱗のないものを言うんだが。

そう…だな……突然変異や品種と言うのが近いかも知れない。

肌触りも見た目も往来の蛇とは全く違うんだ!

……レオヴァさんもハンドリングしてみるか?」

 

 

そう言ってケージから蛇を取り出したドレークにレオヴァも興味を示した。

 

 

「それは気になるな。

…………おぉ…これは……ふふ、面白い感触だなァ。

色が明るいのも可愛らしくて良い。

スケールレスは皆、明るい色なのか?」

 

 

ドレークから受け取った蛇を腕に這わせながらレオヴァは疑問を口にする。

 

 

「いや、スケールレスは暗い色の個体も確認されてる。

レオヴァさんの飼ってる個体と交配させれば暗いスケールレスが生まれる可能性もある……試すのはどうだろうか?

色んな柄や色のスケールレスを揃えるのも、また飼育の楽しみだと思う…!」

 

 

「確かに、ドリィの言う通りだな。

……あぁ…だが、蛇は魅力的な品種が多すぎて困る……

全てを揃えようと思うと規模が大変だ…」

 

 

「はははは…!レオヴァさんの気持ちは おれも良く分かる!

いっそ、専用の飼育館でも建てたいくらいだ!」

 

 

二人はワイン片手に爬虫類の話題に遅くまで花を咲かせたのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

とある島で生まれた、この少年は昔から気が弱く、何かされても言い返せないような子どもだったが

同時に優しく真っ直ぐな子どもでもあった。

 

 

そんなコビー少年の夢は、海軍に入り悪い奴らを取り締まることだ。

 

 

 

 

だが、目の前のこの光景はなんだろうか。

 

必死に子どもを庇う母親を寄って集って痛め付ける海兵たち。

 

 

…これが少年の夢見た理想の姿だと言うのだろうか?

 

 

 

 

「どうか……娘は…!

この子は何も……なにも知らないのですっ…」

 

 

涙ながらに訴える母親を取り囲む海兵たちの間を割るように現れた海軍大佐はめんどくさそうな顔をしながら銃を取り出した。

 

 

「知ってるか知ってないかじゃねぇ……

犯罪者のガキってだけで罪なんだよぉ…!!

んでもって、そのガキを庇うテメェも同罪だ!」

 

 

ドンドン……と2発の銃声に力なく母親は倒れ、子どもは泣きながら骸にすがり付いた。

 

 

 

「っとに……面倒な仕事を増やさせやがってよぉ!!」

 

 

血溜まりの中で咽び泣く子どもの頭を正義を背負った男が撃ち抜いた。

 

 

子どもだったモノに唾を吐くと海軍大佐は海兵をぞろぞろと連れながら海軍基地へと戻って行く。

 

 

残された者たちはただ震えながら惨い現状から目を反らすことしか出来なかった。

 

 

コビー少年は目の前の出来事を信じられずに、ただ呆然と立ち尽くした。

 

 

 

「……こんな………こんなの…正義なんかじゃないっ……」

 

 

 

その少年の呟きに答える者は一人としていなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

楽園と呼ばれる海の上を進む空船の横を、並ぶように神々しい巨鳥が飛んでいる。

 

 

大きな鳥は雲の上をどんどんと進みながら溜め息をつく。

 

この大きな鳥は現在、とても困っていた。

 

 

ドレークの練った遠征案をやりつくし、いざ帰還と言うタイミングで、まさか休暇の延長期間を設けられるとは思ってもいなかった。

 

 

光る鳥は出発前の光景を思いだし、また溜め息をついた。

 

 

 

 

『レオヴァ坊っちゃん…

次の休みこそ絶対に、何もせずにゆっくり過ごしてもらうぞ……』

 

 

そう気合いの入った声で宣言するキングにレオヴァは苦笑いを溢した。

 

 

『キング……なにをそんなに意気込んでるんだ…』

 

 

『前回、前々回も……休みの間に利益を上げてることは割れてんだよレオヴァ坊っちゃん。

クイーンの馬鹿のサボり癖も目に余るが、レオヴァ坊っちゃんの仕事病も大概だ……!

……だが、今回は完全に休める様な場所を用意した。』

 

 

『…休みなのに場所を指定されると…?

…それは本当に休みと言えるのか…キング』

 

 

『無駄だ、レオヴァ坊っちゃん。

舌戦(ぜっせん)に持ち込ませる気はさらさらねぇ……勝てねぇからな…。

それに、すでにカイドウさんにも話は通してある…!』

 

 

『……随分と周到じゃねぇかキング…』

 

 

『フッ……今度こそ絶対にしっかりと休んで貰うからなァ…レオヴァ坊っちゃん。』

 

 

 

キングの休ませたいと言う思いと、レオヴァの働きたいと言う思いの(せめ)ぎ合いの結果、レオヴァの偉大なる航路(グランドライン)前半での休暇が決まったのだが、休暇の延長まで仕組んでいたとは流石のレオヴァもこの時は読めなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

目的も特にないレオヴァは

適当に海軍基地を減らしながらゆっくり帰るか……と目下に見えた海軍基地のある島の森へと潜水艦を下ろし、人の姿へと戻る。

 

 

そして、その潜水艦から出てきた部下たちへ

問題さえ起こさなければ好きなようにしていいと命をだしてから、レオヴァは街へと歩いて行く。

 

 

「…空から見た感じは良くある街並みだったが……

ふふ……だが初めての街…楽しみだ。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

コビー少年はこの島での生活に耐えられなかった。

 

今まで憧れていた海軍の実態……日々怯える子どもたち…

どれもが少年を憂鬱な気持ちにさせる。

 

 

誰かがこんな日常を壊してくれたら……そんな夢物語を妄想するばかりの自分にも嫌気がさしていた。

 

なにより、不平や怒りを独り呟くだけで何も出来ない自分が情けなかった。

 

 

 

「いやだけど……なにか文句を言ったら殺されちゃうし…

しょうがないよ……うん、しょうがない……」

 

 

少年はそう呟いては、自分がどんどん嫌いになっていく。

 

 

 

 

 

また、大通りで悲鳴が聞こえる。

 

 

「あぁ……また、か。

なんで、なんで……守るべき市民を…傷付けるんだろう……

ぼくならそんなこと…絶対にしないのに……!」

 

 

 

震える腕を少年は無理やり押さえつけながら悲鳴が聞こえなくなることを願った。

 

 

 

 

暫くたつと、悲鳴は消えたが市民たちのざわざわと騒がしい声が聞こえてくる。

 

 

少年が首をかしげながら路地裏から広間へと出ていくと、そこには数十人の海兵が倒れていた。

 

驚きに目を白黒させていると、その横で母親と父親を手当てする大男たちが目に入った。

 

 

一人は泣く子どもを泣き止まそうとあたふたしていたが、もう一人が手当てを終えると、あたふたしている男を見て笑った。

 

 

「ふふっ……何してるんだドリィ

それでは怖がらせるだけだぞ?」

 

「れ、レオヴァさん……笑うことないだろう…」

 

 

落ち込んだドレークと言う男の前にいた少年に優しく微笑みかけながらお菓子を渡すレオヴァと呼ばれた男に、手当てを受けた親二人は頭を下げた。

 

 

「ありがとうございます……!

息子と嫁を助けて頂いてなんと礼を言ったら良いのか…」

 

「ありがとうございます……

で、ですがその……お二人が今……倒してしまった人たちはこの島の海兵でして……貴方様方も狙われてしまうかと…

ぜ、善意で助けて頂いたのに……お礼どころか……

…本当に申し訳ありませんっ……申し訳ありません……!」

 

 

 

頭を下げて一心不乱に謝る母親をドレークが落ち着かせる。

 

 

「お、おい…落ちついてくれ。

せっかくの散歩中に嫌な気分にさせられたから伸しただけだ

貴方が謝ることはない…!」

 

 

「ドリィの言う通りだ。

それに、おれたちは元から海軍と仲は良くなくてな…

この件があってもなくても目を付けられるさ」

 

 

大男二人は心身ともにボロボロな家族を労るように優しく声をかけていた。

 

 

コビー少年はその姿に息を呑む。

 

 

「……ヒーローだ………カッコいい……」

 

弱き者を助ける優しい二人組……少年の夢見た姿は目の前にあったのだ。

 

 

その日、コビー少年は寝る前までずっとあの二人を思い出しては心が震えるのを感じた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あのヒーロー達との出逢いから4日が過ぎていた。

 

 

コビーは釣りの帰りにまた、彼らの噂を耳にする。

 

 

 

「……聞いたかよ、あのレオヴァさんって人がまた病人を治してやったって…」

 

「聞いた聞いた!

他にもドレークさんが市場を襲ってた山賊を追い払ってくれたとか……」

 

「それおれも聞いたぜ!……すげぇよなぁ…」

 

「私、昨日薬を安く売ってもらったのよ!

……この街の医者はあの大佐の息がかかってるから高くてねぇ…」

 

「おいおい、ばぁさん……そりゃ口に出しちゃヤベェよ」

 

 

町人たちはこそこそと小声で話している。

 

ここ最近、彼らの話題を聞くのがコビーの楽しみでもあった。

 

山賊を倒したり、病人を救ったり、小さい子の困り事を解決したり……。

本当に彼らの話題はコビーの理想のヒーローそのものであった。

 

 

本来であれば全て、この島に拠点を構える海軍の仕事だが、海兵たちは威張り散らすだけで、普段はダラダラと何をしている素振りもない。

 

 

(……なんで、正義を背負うはずの海兵たちはみんなを助けないんだ…なにが正しいんだろう……)

 

 

そう考えながらとぼとぼ下を向いて歩いていたコビーは露店で買い物をしていた人にぶつかって尻餅をついてしまった。

 

衝撃で手に抱えていた魚籠(びく)がひっくり返り、中から魚が落ちる。

 

 

「…ぅわ!?

いてて……あ、す、すみません!!」

 

 

顔を上げた先にいる人物の洋服は、ばらまいた魚や水で汚れていたため、コビーは顔を青くした。

 

見るからに高級そうな服である。

 

 

(どどどどうしよう!?!

べ、弁償……いやけど、そんなお金ないよ!?)

 

 

尻餅をついたまま顔面蒼白で狼狽えるコビーの目の前に手が伸ばされる。

叩かれる…!と目を強くつぶったコビーの耳に、想像とは違う声が届いた。

 

 

 

「すまない、気付かなかった。

…怪我はないだろうか?」

 

 

 

こちらを心配するような声色にコビーは恐る恐る目を開き、その人物の顔を見た。

 

 

「……えぇ!?!れれれれレオヴァさん!?」

 

 

驚きに思わず叫んだコビーにレオヴァは不思議そうに顔をかしげた。

 

 

「…初対面だと思うが……まぁ、まず立ってはどうだろうか?」

 

 

伸ばされたままの手をおずおずと掴むと、すっと引っ張られコビーは立ち上がった。

 

しかし、コビーの脳内は混乱と恥ずかしさでいっぱいである。

 

 

(どう、どうしよ!?

つい、いつも噂でレオヴァさんって呼ばれてるから呼んじゃったけど……ぼ、ぼく初対面だよ!?

知らない奴にレオヴァさんとか呼ばれたら怖くないかな!?

いやいや、それよりぼくレオヴァさんの洋服を汚しちゃったの!?

あ、あわわわ……あ、憧れのヒーローになんてことを……)

 

 

立ち上がって以降、一人百面相を続けるコビーをレオヴァはじっと見つめる。

 

 

やっと視線に気付いたコビーは、それは綺麗な直角を(えが)いた姿勢で謝罪した。

 

 

「す、すみませんでしたぁ!!!」

 

 

泣きそうな情けない顔でオロオロとするコビーにレオヴァは目線を合わせる。

 

 

「いや、おれも露店に夢中で注意不足だった。

せっかくの魚も……すまない。」

 

 

「え、いや、そんな……別に魚は自分で釣ったやつですし、お気になさらず!

それより、その……お、お洋服が…」

 

 

「ん?……あぁ、別に服はいいさ、気にしないでくれ。

それより、その籠…すまなかった…弁償させてくれ。」

 

 

「いやいやいや!

それこそ、この魚籠(びく)なんてぼくの手作りですし……」

 

 

「手作り?自分で作ったのか……凄いな。

珍しい作りの物に見えたがこの島の伝統品だったりするのだろうか?

いや、それとも君の家は漁師でその関係の伝統的な作りなのだろうか……それとも」

 

 

突然、興味津々と言うように質問攻めを始めたレオヴァに目を白黒させるコビーを助けるように後ろから声がかかる。

 

 

 

「……レオヴァさん何してるんだ。

矢継ぎ早に聞かれて、そこの少年も困っている様だが?」

 

 

「…ドリィか、早かったな」

 

 

現れた男の言葉にレオヴァは確かにと、眉を下げコビーに詫びた。

 

 

「…すまない、つい……珍しい物に目がなくてな…

で、弁償の件だが。」

 

 

「弁償?

レオヴァさんが何かしたのか?」

 

 

「え、いえ!

ぼ、ぼくの不注意で……」

 

 

「いや、おれの不注意で彼の持ち物を破損させてしまってな…」

 

 

 

延々とお互いに譲り続けるコビーとレオヴァの姿に呆れ顔でドレークが間を取りに入った。

 

結局、コビーは釣った魚を2匹レオヴァに渡し、レオヴァはコビーに弁償代だと小袋を渡すことで解決となった。

 

 

 

思わぬアクシデントとは言え、憧れの二人と話せたコビーは上機嫌だ。

 

鼻歌交じりに部屋へ帰り、小袋を開けて……驚愕した。

 

 

「えええぇ~!!?

ちょ……えぇ!?」

 

 

驚きの余り叫んでしまったコビーは隣の部屋から壁がドンッと叩かれた音にハッと口を塞いだ。

 

 

両手の平くらいの大きさの小袋には大粒の宝石が六つも入っていたのだ。

 

慎ましやかに暮らしているコビーには考えられない金額になるであろう宝石に動揺は隠せない。

 

 

(も、もしかして……レオヴァさん渡す袋間違えちゃったんじゃ…?

……大変だ、返さなきゃ!)

 

 

普通であればラッキー!と思い懐に入れるであろう物をコビーは明日(あす)探して返そうと誓ったのである。

 

そう、コビー少年は根が優しく真面目な少年なのだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

レオヴァからの宝石を肩掛け鞄につめ、街を歩き回っていたコビーは途方にくれていた。

 

街の全ての宿を回ったと言うのに、どこにもレオヴァが居ないのだ。

 

 

大金になる宝石を持っていると思うと胃の痛さがコビーを襲う。

 

 

(は、早く返さなくちゃ……

けど、レオヴァさん何処で寝泊まりしてるんだろ…)

 

 

ため息をつくコビーの耳に助け船が届く。

 

なんと噂話によるとレオヴァは森の方へといつも消えていくらしい。

 

そこでコビーは思い至ったのだ

『レオヴァさんは船で寝泊まりしてるのでは?』

という考えに。

 

 

よくよく考えれば外からレオヴァは来たのだ。

船で寝泊まりは当たり前かもしれない。

 

単純な答えになぜ気付けなかったのだろう、とコビーは苦笑いを溢しながら頭をかいた。

 

 

 

 

 

 

森を進み海岸へと出たコビーは首をかしげる。

船らしき影が見当たらないのだ。

 

岩影などにあるのかと、海岸沿いを歩いていたコビーは1隻の船を見つけて息を呑んだ。

 

海賊船である。

 

 

 

早く、街のみんなに知らせなければ!と慌てたコビーは足をもつれさせ、躓いてしまった。

 

その音に反応した海賊たちはコビーを取り押さえる。

 

ガタガタと震えながら連れていかれた先の光景にコビーは言葉を失った。

 

 

この島の海軍大佐が海賊と話していたのだ。

 

 

「……おい、なんだぁ?そのガキは」

 

 

「こっちを見てやがったんで連れて来たんですよ

どうします?」

 

 

「ったくよぉ…今それどころじゃねぇんだよ!!

最近は百獣のナワバリがこっちまで出てきて忙しいってのに……」

 

 

「それより、街を襲う話が先だろうよぉ」

 

 

「それもそうだ。

アンタが昇進してくれりゃ、おれたちもやりやすいからなぁ!」

 

 

 

縛り上げられたコビーを無視して続けられる海賊と海軍の会談を、信じられないというような面持ちでコビーは聞いていた。

 

 

 

 

 

 






ーー後書きーー

ご感想、誤字報告ありがとうございます~!!

最近、Twitterにて“ #俺がカイドウの息子ss_まとめ ”
と言うタグを作りました!
後書きなどで書いたものを、まとめておりますので気が向きましたら是非~!

前回、感想にてシーザーの心臓を握ってる理由を的確に当てている方が居てニッコリしました!
他にも嬉しいコメントたくさん頂けて嬉しいです~!!
何だかんだシーザーは皆さんから愛されている…のか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

基地攻略と少年の夢

 

 

 

あれから身動きの取れない状態で海に投げ捨てられたコビーは死を覚悟する他なかった。

 

どんどん沈んでいき、少しずつ息も苦しくなっていく。

 

 

暗い、苦しい、怖い。

 

 

パニックになりそうな自分と

あぁ、死ぬんだなと冷静に思う自分がいてコビーは混乱する。

 

縛られているために、踠くことも出来ずに海の中を沈む。

 

ついに、肺の中の空気が無くなったコビーの意識はプツリと途絶えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ガヤガヤと騒がしい音にうっすらと少年は目を開く。

 

 

 

「お、コイツ起きたぞ~!」

 

「どうする?

おれらじゃ手当てとかわかんねぇし……」

 

「レオヴァ様に頼むか?」

 

「いや、レオヴァ様のお手を煩わせる訳にはいかねぇだろ!

レオヴァ様は休暇中なんだぜ?」

 

「そうそう、レオヴァ様は休暇中だからな!

船医のじぃちゃん戻ってくるまでそっとしとけば良いだろ」

 

 

 

周りにぞろぞろと集まった男達の声に少年…コビーの意識は少しずつ覚醒していく。

 

 

(……あれ?……ぼくは海に投げられて…それで……)

 

 

ぼんやりとした思考の中、コビーはあの事を思い出し飛び起きた。

 

 

「ま、まちが…襲われちゃう……!!」

 

そう叫んで飛び起きたコビーに周りの男達が驚く。

 

 

「うぉ!? な、なんだ?」

 

「うははは!人間のガキ、元気だな~!」

 

「バカか!急に立ち上がんな!

お前、死にかけてたんだぞ!?」

 

 

心配するような男の叫びと同時にふらっとコビーの体が傾く。

 

顔から倒れ込んだコビーは、来るであろう痛みに備えて体を強ばらせた。

 

 

……しかし、来るはずの痛みはなかった。

 

 

「なぜ、子どもが此処にいる?

……また、レオヴァさんが連れてきたのか?」

 

突如現れた眼帯の男の問いに周りの男達は答える。

 

 

「あ……いや、そいつはおれらが…」

 

「すいやせんドレーク様…その人間のガキ溺れてたんでつい助けちまって……」

 

「冷えてたし……外に放っておいちゃ死んじまうかと思いやして…」

 

 

申し訳なさそうに言う男達にドレークは溜め息をつく。

 

 

「……助けるのは良い事だ、責めるつもりはない。

だが、報告もなく部外者を船に乗せるのは良くない行為だ。

レオヴァさんも普段から、報告連絡相談の三つが大切だと口酸っぱく言っているだろう。」

 

 

「「「…すいません……。」」」

 

 

項垂れる男達にドレークは少し声のトーンを明るめに言う。

 

 

「次からは報告を忘れない様に

……少年を助けた行動自体は素晴らしい事だ、誇れ。」

 

 

「「「はい、ドレーク様!」」」

 

 

項垂れていたのが嘘のように元気な返事を返した男達にドレークは軽く笑みを溢しながら、腕の中で弱っている少年を見て……驚いた。

 

 

「……お前は確か……コビー…だったか?」

 

 

「は、はい……」

 

 

問われた少年は力の入らぬ声で答えた。

 

 

 

あれからコビーはドレークに船内の医務室へと運ばれ、戻って来た船医から治療を受けたのち、また眠りについていた。

 

 

そして、目覚めて驚愕したのである。

 

 

「え、……えぇ!?!

ドレークさんって……か、海賊だったんですか!?

れれれレオヴァさんも!?」

 

「あぁ。 一応、おれもドリィ…ドレークも手配書が出ているから変装はしているが、その手配書の通り海賊だ。」

 

海賊とは思えぬ所作で優雅に紅茶を口に運ぶレオヴァを見てコビーは更に混乱する。

 

 

「あ、いや、確かに言われて見ればドレークさんは髪型が違うだけで手配書と同じ顔ですけど……レオヴァさんの手配書、写真ないですし……なんか、あの……海賊って感じがしないと言うか…」

 

「……まぁ、お前の言いたいことも分かる。

レオヴァさんは一般的に想像される海賊のイメージとは噛み合ってないからな……。」

 

「そうか?

おれは生まれた時からずっと海賊なんだが…」

 

眉を下げながらも優雅にティーカップを置くレオヴァに、そう言う所作のせいだとドレークは思ったが口をつぐんだ。

 

しかし、コビーは未だに混乱し続けている。

 

 

怖くて悪い人達の集まりである筈の海賊は見ず知らずの自分を助けてくれた。

更にレオヴァさんやドレークさん達は街の人々と友好的な関係を気付いている。

 

頭を抱えるコビーに優しくレオヴァは話しかける。

 

 

 

「心配せずともお前には危害は加えないぞ?

…おれたちが怖いなら この部屋から出ていくが……」

 

「い、いえ……その、レオヴァさんは怖くないです!

ただ……何が悪で何が善でとか…分からなくなっちゃいまして……

……海賊は悪い人……海軍は正義…とかそう言う常識がひっくり返ってしまいそうと言うか……

ぼく、正義のヒーローみたいな……困ってる人を助けられる人になるのが夢で……

レオヴァさんやドレークさんみたいな、優しい強い男になりたいなって……でもお二人は海賊で………

け、けど海軍も…さっき、た、大佐が海賊と取り引きしてるし……ぼく…」

 

レオヴァは、ぼそぼそと小声で話し始めたコビーの話ひとつひとつに相づちを打つ。

馬鹿にするでもなく、しっかりと話を聞くレオヴァの姿に安堵しコビーは色んな思いが口から溢れていった。

 

 

「……って、すみません!

なんか…変な話しちゃって……」

 

「いや、構わない。

そうだな……おれの価値観だが、正義なんて言うモノは立場によって180度変わる。

…例えば、男が戦争で敵兵を倒したとしよう。

倒した側から見れば男は国のため戦った勇敢な戦士だが、殺された敵兵の家族にとっては愛する者を奪った人殺しだ。

コビー、お前はどちらが正義か決められるか?」

 

「それは…………そうですね……いや、ぼくには……決められない…」

 

「勿論、おれにも決められない。

コビー……価値観は人それぞれだ。

お前の誰かの為にと言う考えは素晴らしい考えだ、否定したい訳じゃない。

……だが少なくとも、おれはお前の考える様な正義の味方ではないと断言できる。

薬を安く売ったと言うが、あれはワノ国での定価で売っただけだ。

それに、海軍から親子を助けたと言うのも誤解だ、ドリィとの散歩の邪魔をされたから海軍を伸し、その結果たまたま親子が助かったに過ぎない。

……おれは善人じゃない。」

 

 

言葉尻に一瞬気配の鋭くなったレオヴァに息を呑む。

そのまま黙りこくってしまったコビーにレオヴァは

『……今日は此処で休んで行くといい』と一言告げるとドレークを連れて部屋を出ていった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

部屋を出たレオヴァはドレークに指示を出した。

 

 

「……さっきのコビーの話が本当なら、岩壁沿いに海賊船がある筈だ。

どこの海賊か偵察してきてくれ。

基地潰しの邪魔をされると面倒だ。」

 

「了解だ、レオヴァさん。

……あの少年は?」

 

「せっかく部下達が助けたんだ、客人として扱ってやれば良い。」

 

「わかった、ならその様に手配する。

レオヴァさんは部屋で休んでいてくれ。」

 

「ありがとうドリィ、任せる。」

 

 

足早に外へ向かって行くドレークを見送りレオヴァは思考を巡らせた。

 

 

コビーの潜在能力は魅力的だ。

数年鍛えられて、あの実力を手に入れたのならば、今から鍛えれば百獣海賊団でも戦力として申し分なく成長するだろう。

 

だが、性格に難がある。

……彼は優しすぎるのだ。

 

キングの“趣味”を知れば全力で止めに入る可能性も大いにある、それにシーザーとの相性も最悪に違いない。

 

 

正直、レオヴァにとってシーザーはどうでも良いが、キングの趣味を否定するような真似をされれば怒りを抑える事は難しいだろう。

 

そう、数少ないレオヴァの地雷をコビー少年は踏む可能性があるのだ。

 

 

しかし、だからと言って野放しにすれば原作の様に海軍の戦力になりかねない存在だ。

せっかく“ゼファー”という男を消すことで後の若い海兵の質を下げる事に成功したというのに、海軍の希望になり得る少年を野放しにするのは得策ではないとレオヴァは考える。

 

ならば、殺せば良いのでは?

とも考えたが、部下達と親しくなったコビーを殺すことに躊躇(ためら)いを覚える。

 

……そう、レオヴァはカイドウに対して忠誠心の高い者にすこぶる甘いのだ。

 

 

普段からカイドウを称え、仕事もしっかりこなしている部下達がわざわざ助け、親しくなった人物をこの場で理由なく殺すのは少し可哀想に感じた。

 

しかし、無策で野放しにする……見逃すなんて言う優しさはレオヴァは持ち合わせて居なかった。

 

その為、レオヴァは頭にある幾つもの案の中から一つの案を採用した。

 

 

 

「……まぁ…アレとの接点を消せば良い話か。

ドリィとも相性が良さそうだしなァ…。」

 

一人きりの部屋で呟いたレオヴァの声に答える者はいない。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

海岸付近の森に面した街は見る影も無くなっており、街中の至る所が荒らされ、血痕の跡がある。

 

そんな街の少し開けた場所に海兵達は亡骸を山積みにしていく。

 

 

 

「……あ~、汚ねぇ……」

 

「後片付けが面倒だよなぁ……」

 

「しょうがねぇよ、放置すりゃ腐ってもっと面倒だ」

 

「片付けは海賊にさせりゃ良いのによ」

 

 

海兵達は不満を漏らしながら町人だったモノを一ヶ所に投げ捨てていく。

 

その光景を見ている生き残った町人達の目は虚ろだ。

彼らは先ほど街を襲った海賊と海軍大佐の

 

『コイツらはてめぇらにやる。

っとに、ネズミみてぇに増えやがるから、人口の増えすぎを管理するのも大変なんだよ…。』

 

『海軍大佐も大変だなぁ!

けど、ちょうどヒューマンショップ用のモンが欲しかったんだ……へへへへ、いつも助かるぜ大佐さん。』

 

と、いう死刑宣告に近しい会話を聞いてしまったのだ。

 

それに、目の前で家族や友人、隣人が弄ばれ殺されていく様をまざまざと見せられ続けた者が気をたしかに持っていられる筈もない。

 

 

縛られた状態の町人達は、ぶつぶつと許しを乞い続ける者や声もなく涙を流す者、廃人の様に焦点の合わなくなった者で溢れている。

 

 

見るに堪えない現場へ、海賊の船長と思わしき男が部下を引き連れ戻って来た。

 

 

「よぉ、海兵ども!

奴隷を受け取りにきたぜぇ。」

 

 

「そこの奴らを持ってけと大佐が」

 

 

「よしよし……結構な数いるな、儲けモンだ!

テメェら、さっさと運んじまうぞ!」

 

 

船長と思われる男の上げた声と同時に轟音が響いた。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「おい、基地から火が!!」

 

「待て、計画にはねぇ。聞いてねぇぞ!?」

 

 

ざわざわと騒ぎ始める海賊と海兵。

そして、音の方へと目をやった男達が見たのは燃える海軍基地であった。

 

意味がわからず狼狽える男達。

 

そんな中、船長の様な男はいち早く此処を退避するという考えに至ったのか、部下へ指示を出そうと動いた。

 

 

「くっ…と、とにかく奴隷をぉっ」 

 

 

しかし、船長の様な男の声は最後まで紡がれることはなかった。

 

ぼとり……と落ちた首だったモノを部下達は理解できずに眺めた。

まるで時が止まったと錯覚しそうな程、誰も動かない。

 

 

 

「一番重要な男は仕留めた、次は残りの処理か。

…レオヴァさんはもう基地の処理が終わりそうだな……急ぐとしよう。」

 

場にそぐわぬ凛とした声にやっと男達は動き始めた。

 

 

「こいつ誰だ!?」

 

「せ、船長っ……どうすりゃいい!?」

 

「おまえら、戦闘準備を!」

 

「あれは……百獣のドレークか!?」

 

「と、捕らえるぞ!」

 

 

構えだした男達を気にするでもなくドレークは縛られた町人達を解放すると告げた。

 

 

「逃げるか戦うか選べ。

絶望し、立ち止まっているのは死んでいるのと変わらん。」

 

 

戸惑う町人達の中に居た少年が呟く。

 

 

「……ぼく、戦います……こんなところで死にたくないっ!」

 

 

ドレークは少年を見て笑みを浮かべた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

海軍基地を歩くレオヴァの後ろには屍が築かれている。

 

先ほどの喧騒とは打って変わり、静まり返った基地の内部を散策し、大佐室へと入る。

 

様々な書類に目を通し、レオヴァは頭を抱えた。

 

 

「……コーラが燃料になる世界だからな…木の実が燃料にもなり得るか……。

いや、だが本当に意味がわからない……どういう原理だ。」

 

 

そこには島由来の種である木の実が燃料になる裏付けとも言える内容が書かれていた。

 

もとより、基地を作る場所は何かしらの利点や資源などがある場所が多く、今回も何かしらあるだろうと予測していたレオヴァだったが木の実……それも食べられるフルーツが資源になるとは思っても居なかったのだ。

 

この世界のトンでも理論に遠い目をしつつも、海軍内の情報やその他の情報が書かれた紙を(ふところ)へしまう。

 

外で海軍基地内にあった貯蓄を船へ運んでいる部下達や、百獣海賊団のナワバリにちょっかいを掛けていた海賊を処理しているドレークの気配を読みながら出口へと向かう。 

 

屍の溢れる帰路だが、レオヴァの進む場所には血一つ流れていない。

 

 

扉が壊れ、開け放たれている出入口から外へ出るとレオヴァは大きな(いかづち)を一つ落とした。

 

恐ろしい程の轟音が辺りに響くと同時に海軍基地から火が上がる。

 

 

「…そろそろドリィと合流するか……」

 

きっと人々を上手く誘導してるであろう優秀な部下を思い、薄く笑った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ドレークさんの言葉と少年の宣言に背を押される様に、海賊と海兵たち相手に死に物狂いで戦った私たちは助けに駆け付けてくれたレオヴァさんのお陰もあり、命を拾うことができた。

 

 

奴隷として売られかけていた私たちの怪我を手当てしながらレオヴァさんは

『よく、耐えたな……今はゆっくり休んでくれ』

と優しく声をかけ、布団へと寝かせてくれた。

 

お父さんもお母さんも殺され、怖くてなにも出来なかった地獄の様な時間は去った。

……けれど大切な家族は戻って来ない。

 

安心できて初めて私は、失った悲しみに声を殺して泣いた。

 

次の日も悲しみから無気力に襲われ、呆ける私にレオヴァさんは倒壊した家から拾ってきたと言う一つの宝物を手渡してくれた。

 

…………写真立てだった。

優しく笑うお父さんとお母さん……そして、私。

 

 

人目も(はばか)らず私は泣いた。

 

顔は色んな体液でぐちゃぐちゃだったし、言葉にならない嗚咽も止まらなかった。

 

きっと見苦しい姿だったと思う。

周りにいるみんなも泣きそうな顔をしてたのをぼんやりと覚えてる。

 

でも、レオヴァさんはずっと私の背をとんとんと優しく叩き、側に居てくれた。

その優しさはお父さんを思い出させるような暖かさだった。

 

 

 

暫く、レオヴァさんとドレークさんは街の復興を手伝うと言ってくれて、部下の人たちも来た。

 

レオヴァさん達が海賊だと言うのは聞いていたけど、私には関係なかった。

確かに海賊にも襲われたけど、彼らは金品を漁っていただけで、実際に街の人たちを品定めしながら殺していったのは海軍だ。

 

なにより、仇であるあの大佐を殺してくれたレオヴァさんには感謝しかない。

 

 

復讐は駄目だと言うが、そんなもの大切な人を無残な形で奪われた事がないから言えるのだ。

 

 

けれど、この街から海軍の庇護がなくなったのは事実。

……本当はもとより庇護などなかったに等しいけれど…。

 

 

でも、それも心配ない。

だって、レオヴァさんがこの島をナワバリにすると言ってくれだのだから。

 

この街で一番のお爺さんと数十人の町人の懇願をレオヴァさんは受け入れてくれたのだ。

 

 

『わかった、そこまで言うのならば此処をナワバリにしよう。』

 

『ほ、本当ですか!?』

 

『しかし、だ。

おれ達は海賊だ、なんの利益もなしに島を守るつもりはない。』

 

『は、はい……仰る通りかと…。』

 

『だから、この島特有の、森にある木の実を定期的におれ達に譲ってくれ。』

 

『……へ? あのフルーツですか?』

 

『あぁ。

その木の実を供給できるなら、おれはこの島を守る理由が出来る。

……どうだ? そこまで理不尽な取り引きではないと思うが。』

 

『ぜ、ぜひ!!

そのフルーツでしたら生産できますし、レオヴァさんの望む量を献上させて頂きます!』

 

『よし、取り引きは完了だ。

元々海軍基地のあった場所におれの部下を住ませる家を建てさせてもらうが、それも構わないだろうか?』

 

『はい、もちろんでございます!』

 

 

 

聞いたことがあるだろうか、フルーツを代価に島を守ると約束してくれる海賊の話を。

 

 

そして、なんやかんやと復興作業を海賊のみなさんと一緒に進めている間に、空を飛ぶ見たこともないようなナニカが現れ、レオヴァさんと似た服を来たおじさん達が海軍基地の跡地に新しい建物を建ててしまった。

しかも、そのおじさん達はついでだからと、私たちの家まで直してくれたのだ。

 

 

『『『ありがとうございます!!』』』

 

 

町人一同で礼を述べるとおじさん達は照れたように笑い

 

 

『気にしなさんな。

おれたちゃレオヴァ様のお優しさを真似ただけよ!』

 

『そうさなぁ。

レオヴァ様がお助けになられた島の復興をお手伝いするのは、あたりめぇよ!』

 

『 “お互いを思いやり助け合う” …これレオヴァ様からの受け売りなんだが、良い言葉だろ?

……まっ!礼なんかいらねぇってことよぉ!』

 

 

と、頭を下げる町人達に気の良い言葉をかけてくれた。

私たちはワノ国という遠い国から駆け付けてくれたおじさんに心から感謝した。

 

 

他にも真打ちと呼ばれる不思議な力を持つ人達も来た。

 

この人たちも私たちの惨状を聞くと眉を下げ、手伝える事があれば言ってくれと気遣ってくれた。

 

 

『っとに、海軍なんてクズばっかだ!』

 

『世界政府は信用できねぇよ!

って、海賊のおれたちが言ってもあれだよなァ…』

 

『まぁまぁまぁ、安心しろよ!

レオヴァ様は約束守る奴には優しいし、寛大だからな!』

 

『レオヴァ様から任された以上、我々があなた方の安全を保証しましょう。

……ところで、なにか手伝える事はありますかな?』

 

 

 

個性的で親しみやすい彼らに、みんなもすっかり打ち解けている。

 

 

あの地獄が嘘のように平和な毎日を私は大切に過ごしていた。

 

……けれど来週、レオヴァさんが島から離れてしまう。

ずっとこの島にいて欲しい……なんて考えながら私は掛け布団を深く被った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

レオヴァとその一味が出発する数時間前、コビーと言う少年は海賊たちと賑やかに話しており、町人たちや防衛として残る真打ちたちと話終えたレオヴァも合流し、コビーと話し込んでいた。

 

 

 

「いつかぼくもレオヴァさんみたいな人に……なんて 

あ、あははは……へ、変なことを聞かせてしまってすみません!

ぼくなんかが、レオヴァさんみたいになんて失礼ですよね!」 

 

慌てたようにコビーはレオヴァへ頭を下げた。

しかし、レオヴァは優しい声で返す。

 

 

「いいんじゃないか?

何を目指すかなんて人それぞれだろう。

 

かく言うおれも……父さんの様な男になりたいとがむしゃらだった時もあった…

まぁ、今では “父の隣に立つに相応しい男” がおれの理想だが。」

 

 

「レオヴァさんのお父さんかぁ……

きっと本当にカッコ良くて凄い人なんですね!」

 

「あぁ、強くて優しい自慢の父だ。

昔、オレが海賊の息子だと言うだけで海軍に連れていかれた時もな……」

 

 

懐かしむ様に話す想い出はどれも噂に聞く百獣のカイドウとはかけ離れていたが

レオヴァが嬉しそうに楽しそうに話す姿をみて話が嘘ではないと、コビーは何故か強い確信を持てていた。

 

 

誰かの為に戦う漢……それは別に “正義” でなくても良いのだ。

 

何故なら自分の信念さえあればいいのだから…!!

 

 

コビーは隣に立つ“理想の漢”の眩しさに目を細めた。

 

 

 

絶対に届かないかもしれない、すぐに死んでしまうかもしれない。

 

けれど構わなかった。

 

自分の夢の為に命をかける……その意味を心で理解したコビーは強い眼差しをレオヴァに向ける。

 

 

 

「レオヴァさん……ぼくも連れていってもらえませんか?

変わりたいんです……!

もう、ムリだって諦めてばかりの自分は嫌なんです!!

強くなって……夢を叶えたいんです!」

 

「…はっきり言おう、コビー……

今のお前では海で生き残れるかすら怪しい。

おれと来るのは死にに行くようなものだぞ…」

 

「構いません……!!

たとえ死ぬことになってもっ……!

自分の目指す理想の為に死ねるなら良いんです…!

だから……だからぼくを…船に乗せてくださいッ…!!!」

 

勢い良く頭を下げたまま、顔を上げないコビーをレオヴァがじっと見据える。

 

 

お願いしますの一点張りで動かない彼に根負けしたかのようにレオヴァは膝をつき、コビーの肩に手をおいて語りかけた。

 

 

 

「コビー…お前をすぐに海に出してやる事は出来ない。

……おれは死ぬと分かっている場所に気に入った奴を送り出すような真似はしたくないんだ……分かってくれ。」

 

 

申し訳なさそうなレオヴァの声に、ゆっくりとコビーは顔を上げた。

その顔は彼の落ち込み様をありありと物語っている。

 

 

「そう……ですよね…ぼく…弱いですもん…ね………

…だ、だけど…レオヴァさん、ぼくっ……」

 

ついに彼の瞳から一粒の涙が流れ落ちた時だった。

レオヴァは優しく笑いかけた。

 

 

「…すぐに海には出せない……が。

ウチで鍛えてからなら海へ出られるかもしれないな」

 

 

レオヴァの言葉にコビーは弾かれたようにレオヴァの顔を見た。

 

 

「え……え、じゃあ……!!

連れていってもらえるんですか!?」

 

「あぁ、一度おれとワノ国へ来い。

そこで鍛えて……話はそれからだ。」

 

「"れ、レ"オヴァさ"ん"ん"っ…!!!」

 

 

コビーはレオヴァの手を両手で握ると、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら感謝の言葉を伝え続け、レオヴァは優しく彼の背をたたいた。

 

 

 

そして、それを離れたところで見守っていた周りの船員もたまらず泣いていた。

 

 

「ぐすっ……さすがレオヴァ様だぁ……!」

 

「コビーとか言う奴、弱っちくて好きじゃねぇと思ったけど根性ある奴じゃねぇか…!」

 

「うおぉ~!!!コビー!

鍛えるならおれも手伝うからなァ!!」

 

「レオヴァ様~ コビ~!!うおぉお~ん!」

 

「レオヴァ様のクルーで良かった……!

おれもコビー鍛えるの手伝うからなぁ…!!」

 

「てめぇら!泣いてねぇでコビーの歓迎会の準備するぞ!!

……おれたちで面倒見てやろうぜ!!」

 

 

「「「「おお~!!!」」」」

 

 

その後ろでドレークは盛り上がる部下達に溜め息をついていた。

 

「……奴を身内にする気はないだろうに…本当にレオヴァさんの思考は読めん。」

 

 

 

 

 

 

 

 





ーー後書きーー

前回もご感想ありがとうございます!!
ここすき一覧も見させて頂いてます…嬉しみ(*´-`)




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小鳥と研究成果

 

 

 

 

休暇報告書を見たクイーンは思わず叫んだ。

 

 

いや、海軍基地潰してナワバリ増やしてるし、挙句の果てに新しい燃料の取り引きまで!?!

……あれ? レオヴァってもしかして休暇の意味知らなかったりします?カイドウさん。」

 

 

「……あ~…まぁ、そこもレオヴァの可愛げじゃねぇか」

 

 

「今回の作戦も失敗だったか……いっそのこと今後はおれが監視につくか…?」

 

 

ふいと目をそらしながら酒を呷るカイドウにキングも諦めたように溜め息をつき、クイーンもお汁粉をすすり出した。

 

レオヴァは今回もあっさり決まり事の穴を潜り抜け、成果を持ち帰ってきたのだ。

 

正直、新しい燃料だけなら大した事はないのだが、その燃料を用いた大砲の製作に、それを売る取り引き先まで提示してくる周到さだ。

それはもうしっかりと百獣海賊団の利益になってしまった。

 

加えて、どういう経緯かは知らないがナワバリにした島の人間からの信頼も勝ち得ていた、他にもワノ国の大工達の只でさえ高い信頼を更に高める始末。

…しかも、戻ってきた大工達がそれを色んな場所で話し、また百獣の株が上がっていくというオマケつきだ。

 

ナワバリの基地作りや復興に使った予算は、海軍基地から押収した物で賄えているため、事実百獣海賊団からの負担は無しである。

 

たいした土産もなくすまない、とカイドウに言うレオヴァにクイーンが突っ込んだのは言うまでもないだろう。

そして、本当に利益のみ生み出した本人はやっと仕事に戻れると上機嫌に御用部屋へと消えていった。

 

 

沈黙する三人だったが、カイドウの

『…まぁ、観光写真も楽しげに見せて来たんだ。

今までと比べりゃ少しは休めただろ……。』

と言う苦々しい顔と共に告げられた言葉に、同じ様な顔で二人も頷く他なかった。

 

 

レオヴァ絶対休ませたい同盟の三人は、成功とも失敗とも言える結果になんとも言えない表情のまま持ち場へと戻って行くのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

レオヴァは鳳皇城にある防音室である人物と電伝虫を通して会話していた。

 

 

「……と、言うわけなんだが。

人柄も良いし、正義感も人一倍だ。

海賊にするには少し気が引ける……そちらで引き取る気はないか?」

 

 

「ふむふむ……好青年のようだが…

本人の意思はどうだ? 」

 

 

「沢山の人を助けるのが夢だと語るような子だ。

きっと、弱きを助けると言う其方の行動方針の方が性に合うだろう。

………海賊は知っての通り、綺麗な事ばかりじゃない、寧ろ……

…少年の志を曇らせるような真似はしたくないんだ。」

 

 

「素晴らしい夢ではないか!

……優しい君らしい申し出だな、わかった。

だがしかし! まったくの無力な少年を彼に紹介することはできんぞ?」

 

 

「それは理解している。

暫くはおれが面倒を見るさ。

最低限度の戦闘を行えるようになったら会って欲しい。」

 

 

「それならば問題ない。

我が友ジンベエが絶賛し、尚且つ恩人である君をわたしは心から信用している!

ぜひ、また連絡をくれ。」

 

 

「あぁ、彼にも貴方達の話はしておく…ありがとう。」

 

 

「はっはっは! 恩人の頼み、断る筈も無し!

では……!」

 

 

 

ジンベエからの紹介で知り合った男との会話を終えて、手元にある実を見る。

 

それは、レオヴァ自身から摘出したデータを元に少しの外部データを混ぜて作った“実”である。

 

今現在、編笠村でドレークや守護隊から訓練を受けているコビーにどう食べさせるか……とレオヴァは思考を巡らせた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ドレークは目の前の光景に吹き出しそうになる自分をなんとか戒めた。

彼は至極真面目であるのだ、努力している彼を絶対に笑ってはいけない。

そう自分に言い聞かせる。

……ドレークは何だかんだ優しい男だった。

 

 

だが、そんなドレークの前では、ふわふわした白っぽい小鳥が必死に空を飛ぼうとパタパタ動いている。

 

 

「うぅ~んん!!」

 

 

唸りながら羽をバタつかせ、1ミリも浮かばない真ん丸な小鳥からドレークは目を反らす。

そして、伺うようにレオヴァを盗み見れば、彼もそっと小鳥から目をそらしていた。

 

 

その光景に、数年前にレオヴァがあわや大爆発を起こしかけた事件の時の発言をドレークは思わず思い出していた。

 

 

『………………ゴホンッ、実験に失敗はつきものだ。

今回の失敗は次に繋げるとしよう。』 

 

すっと視線を下げながら告げたレオヴァに、炭まみれになったキングはじっとりとした目線を送る。

 

 

『レオヴァ坊っちゃん…それで誤魔化せると思ってんのか?』

 

『………すまない、迷惑をかけた……以後気をつける…。』

 

『………まったく。

レオヴァ坊っちゃんのコレは昔からだが…

一度、熱が入ると周りの声が聞こえなくなる所はカイドウさん譲りだな。

……おい、レオヴァ坊っちゃん、頬が緩んでる様だが…褒めてんじゃねぇからな?』  

 

『あぁ、すまない……つい。』

 

『はぁ……レオヴァ坊っちゃん、言わせてもらうが…』

 

 

それからキングの小言にひたすら頷き、レオヴァは誠心誠意苦言を聞いているようであった。

 

それは、初めてドレークが目にした“レオヴァが言い負けた”瞬間だった。

……しゅんとしたレオヴァを見て慰めようと、海鮮料理や大量の酒を用意させながら、あたふたしていたカイドウもドレークには印象的であったが…。

 

…と言う事もあり、目の前の光景は即ち“そう言う事”なのでは?とドレークは考える。

 

本人は真面目に体力をつけようと、飛ぶ訓練をしているつもりなのだろうが、まったくもって彼が飛んでいるビジョンが浮かばない。

 

……“失敗”

この2文字がドレークの頭に浮かぶ。

 

恐る恐るドレークは小鳥に聞こえない様な音量でレオヴァに声をかけた。

 

 

「……レオヴァさん、あの…あれは……どういう経緯で…」

 

「…………一応、完成品……なんだが…

試作段階を終え、他の者でも問題は…」

 

「本人の力量が足りなすぎる為に起こった不具合の…可能性は…」

 

「…ドレーク、それだ!

実力が一定以下の者に使うのは初めてだった…

………確かに能力は鍛え方次第とは言うが、その逆も然りだったか……」

 

「レオヴァさん……」

 

「……………すまない、おれが責任持って面倒を見よう。」

 

 

苦笑いするドレークにレオヴァは、すまなそうに眉を下げた。

 

一方、小鳥は疲れたのか地に伏している。

レオヴァはそんな小鳥を手で優しく持ち上げた。

 

 

「…レオヴァさん……ぼく、飛べないかもです……」

 

「いや、まぁ…そうだな…鍛えれば獣化の姿も変わる………筈、だが。

兎に角、元に戻れるまでは暫くおれと行動を共にしよう。」

 

「はい、すみません…」

 

 

申し訳なさそうに、そっとレオヴァの肩に乗り

小鳥こと、コビー少年は必死にバランスを取った。

 

ドレークは小鳥が、ジャックやうるティに殺されない様にと祈ることしか出来なかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

この小鳥騒動からコビーは一気に成長を遂げた。

 

 

動物系(ゾオンけい)の“人造悪魔の実”だったことでタフさが上がって居たことはコビーにとって救いだっただろう。

 

何故なら、顔を合わせる度に追いかけ回してくる狂暴な者がいたのだ。

……その名は、うるティ。

 

 

発端は小鳥騒動である。

コビーを甲斐甲斐しく世話する所をうるティが目撃してしまったのだ。

 

最初は

『またレオヴァさま新しいペット~?

……その小鳥あんまり可愛くないなり。』

 

ぐらいだったのだが、それが人間だと分かると態度が豹変。

 

 

『わたしだってあんまり遊んで貰えないのにっ…!!

てめぇゴラァ!!どこの隊所属だァ……!?

レオヴァさまにベタベタすンなぁ!!!』

 

鬼のような形相と共に体を変化させたうるティ。

もちろん、訳がわからずコビーは涙目である。

 

 

『え、いや、えぇ!??

ちょ……ど、どどどドレークさん助けてっ!!』

 

『ドレークゥ……?

アイツっ……ただでさえ、わたしとぺーたんとレオヴァさまでのお休み旅行の権利奪ってんのに!!

部下の躾も出来てないとかありえねぇ…!』

 

 

コビーは良くしてくれるドレークの名を咄嗟に叫んだのだが、それが更にうるティを怒らせたのだ。

……まぁ、もちろんドレークの件は逆恨みである。

 

そんなこんなで編笠村で暴れかけたうるティは駆け付けたドレークに捕まり、レオヴァにお説教を食らう事となった。

 

 

『……うるティ、何故怒られているかわかるか?』

 

『え……っとぉ…ドレークの部下虐めたから?』

 

『あぁ、まぁそれもだが。

村に被害を出すような行動を取ったから、おれは怒っているんだ。

……なんの落ち度もない(たみ)に危害を加えることは許さんと、おれが決まりを作ったのを忘れたのか?』

 

 

すっと表情が消えたレオヴァに、うるティははわはわと狼狽え出す。

 

 

『…ご、ごめんなさい……けどけど…!

アイツがレオヴァさまを一人占めしてたからぁ!』

 

『うるティ……おれは謝る時に言い訳は挟むなと、再三注意してきたよなァ?』

 

『…ンニュ!?…ごめんなさい!もうしない!です!!』

 

 

低くなった声にうるティは即座に謝った。

そう、うるティは良く知っているのだ。

一段声が低くなった時に言い訳をすると本気でレオヴァを怒らせる事になると。

…そして、レオヴァは怒るとめちゃめちゃに恐いと言う事実を身を以て体感しているのだ。

 

その謝罪を聞くとレオヴァはいつも通りの雰囲気に戻り、うるティはほっと息をつく。

 

 

『……だが、確かに最近うるティと出掛けられてなかったな…。

それに関してはおれも悪い……うるティ、すまなかった。

そうだな…明日(あす)、ページワンも連れて三人で出掛けるか?』

 

『ほんと!? 行く行く!ぺーたんとレオヴァさまとお買い物するぅ~!!!』

 

『ふふふ…決まりだな。

……うるティ、これで少しは許してくれるか?』

 

『えへへ…レオヴァさま許すナリ~!』

 

『……はぁ、現金な奴だ。

レオヴァ様も甘やかしすぎぬ様。』

 

 

先ほどの落ち込む姿が嘘の様にはしゃぐ、うるティに沈黙を貫いていたスレイマンが声を上げた。

それにレオヴァは苦笑いを返し、うるティは舌を出してスレイマンを挑発するのだった。

 

 

そう、この話だけ聞けばコビー助かったな…と思うだろう。

しかし、うるティは暴力的……いや、お転婆娘(てんばむすめ)なのである。

 

 

『…レオヴァさまから鍛えてもらうなんて贅沢、わたしは許さないからなァ……

このわたしが鍛えてやる!感謝するナリ!!』

と言う免罪符を掲げ追い回す日々。

対してコビーも死ぬわけにはいかないと必死に逃げ回り続けた。

 

 

その結果、程よく死に目に遭い続けたコビーは逞しく成長していった。

 

 

これにはドレークも

『……カイドウさんとレオヴァさんの“死にかければ強くなる理論”がまさか…こんな形で実証されるとは……』

と遠い目をし、レオヴァはそんなドレークの隣で

『当たり前だ、父さんの理論が間違っている筈もない』

と、にっこりと微笑んだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ワノ国の国民と百獣海賊団の船員達はある話題で大盛り上がりであった。

 

 

それは “レオヴァ様が医療の世界を次の段階へと進めた” と言うものである。

 

 

内容は失った手足や肝臓など、体の至る箇所の部位を移植することが出来ると言うものであった。

 

 

もとより移植手術は難しく、成功率は20%にも満たなかったのだが……

ローの助言やレオヴァの構想を基に作られた機械により、成功率は80%以上に跳ね上がった。

 

 

だがしかし、この機械が(かす)む程の事をレオヴァは成し遂げた。

 

移植する部位の “製造” である。

 

本来、移植手術とはドナーと呼ばれる提供者が現れなければならない。

しかし、他人に自分の体を譲ると言い出す者など殆ど居らず、いたとしても患者と適合しなければ意味がないのだ。

 

そこでレオヴァはある男が発見した “ 血統因子 ” を元に、患者の皮膚のほんの一部から移植したい部位を作り出す事に成功したのだ。

 

 

しかし、移植手術の成功率の安定化と、拒否反応を消すと言う偉業を同時に成し遂げたと聞いても、最初は皆が一様に信じられずに、または意味を理解出来ずに目をパチクリさせていたのだが。

 

もう、助からないだろうと言われていた者達が次々と手術を受け回復して行く姿や、脚を取り戻した者達などを見て、やっと事の凄さを理解したのだ。

 

 

国民達や船員達は驚きや感動の声を上げた。

そして、レオヴァのテレビでの演説放送で更に国民や船員達のボルテージは上がっていく。

 

 

『多くの大切な民達や部下の不安を少しでも取り除ければと思い、研究を進めて来た。

戦いで体の一部を失った者や、重い病に苦しむ者……今回の研究成果が、そんな者達を少しでも幸せに出来れば嬉しい。

 

この移植手術は身分や人種は関係なく、ワノ国の国民か百獣海賊団の船員であれば皆が平等かつ、良心的な金額で受けられる様に決まりを作った。

手術への不安や疑問などがあれば構わず声を上げてほしい。

おれやロー……そして国の医師たちが全力でその不安や疑問を払拭すると誓おう!

そして、これだけに留まらず、ワノ国の鳳皇として…そして百獣海賊団総督補佐官として、これからも皆の支えを頼りに精進して行く所存だ。

 

こんな若輩の身である おれを信じ、支えてくれる部下たちや(たみ)には感謝してもしきれない。

至らぬ所ばかりだが……これからも共に歩み、支えてほしい。

最後まで、おれの話に耳を傾けてくれたことを感謝する。

……それでは皆、良い一日を。』

 

 

最後の一言を終え優しく微笑むとレオヴァの演説は終了し、画面が切り替わる。

 

広間で集まりレオヴァの演説を見ていた者達は少しの間、静まり返っていた。

誰もがレオヴァの慈悲深さに感動し、その余韻に浸っていたのだ。

 

 

「レオヴァ様っ……わ、わたし達の幸せをここまで!」

 

「すげぇ、すげぇよ!

体の一部を作れるなんて、レオヴァ様は神様だ!」

 

「病気を恐れずに生きていけるとはのぅ……ほっほっ!

老いぼれにも優しい国じゃあ……レオヴァ様……」

 

「あ"あ"~! おれも鳳皇城で働きてぇよぉ!!

レオヴァ様のお側でお役に立ちてぇ!」

 

「流石はレオヴァ様……なんと…なんとお優しく気高き考え……」

 

「ワシには難しい事はわからんが……レオヴァ様が慈悲深くワシらを想ってくださってる事はわかる。」

 

「…凄いと言う言葉で済ませられることではないぞ!?

レオヴァ様はやはり神であらせられたのだ!!

我々を救い導いてくださる慈悲深きお方……!

レオヴァ様とカイドウ様こそがワノ国の光よ!!!」

 

 

国民達は各々、レオヴァへの思いを語り合っていた。

 

 

 

一方、百獣海賊団の船員達も鬼ヶ島のモニターにてレオヴァの話を聞き、感動にうち震えている。

 

 

「うおおおぉ~!スゲ~!レオヴァさま!!」

 

「おいおい、じゃあ戦いも無茶できるなぁ!

ドンドン戦ってカイドウ様とレオヴァ様に貢献してみせるぜ!」

 

「……マジで?

え、レオヴァ様天才じゃねぇか……流石だぜ…」

 

「しゃー!!好きなだけ遠征で暴れまわってやるぜ!!」

 

「レオヴァ様……レオヴァ様がわたしに良い一日をって!

きゃ~!!嬉しすぎ~!!!」

 

「はぇ~……もう、レオヴァ様は神の領域にいるんだなぁ」

 

「はははは!! カイドウ様は戦の神でレオヴァ様は知恵の神…!

おれらにゃ怖いもんなしだ!!」

 

「やはりあのお方はカイドウ様のご子息だ……」

 

 

大盛り上がりの船員達はガヤガヤとカイドウとレオヴァの素晴らしさを語り合っていた。

 

 

 

そんなレオヴァの演説の少し前。

 

レオヴァから、この移植技術や培養の話をカイドウ達は聞いていた。

長々と理論や構想、実用化後に考えられるメリットやリスク……エトセトラを語るレオヴァにカイドウの傍らに空き瓶の数は増えていく。

 

 

「…と、そんな感じだ。

リスクやデメリットもあるが、この医療技術の発展は間違いなく父さんの役に立つはずだ。」

 

「まぁ……もう、レオヴァ坊っちゃんのソレには突っ込まねぇが…

治療費を安くする理由は聞きてぇ。」

 

「高くしたら気軽に受けられないだろう?

誰でも気軽に治療を受けられると言う事実はワノ国の民と部下達のモチベーション向上や、信頼に繋がる。

資金ならばもとより困っていないし、必要ならば外から調達すれば良いだけの話だろう?

身内やワノ国の民達からは金よりも信頼や忠義を貰うべきだ。」

 

「…なるほど…レオヴァ坊っちゃんらしい考えだ。

それなら、おれからは言う事はねぇ。

で、カイドウさんは……」

 

「良いじゃねぇか。

レオヴァの言うケットウインシは分からねぇが、クイーンの(ツラ)を見るに凄い研究成果みてぇだしなァ!」

 

「いや……カイドウさん…スゲェとかのレベル超えてるっつーか……

ベガパンクの野郎の残りモンだけでコレやられちゃ堪んないッスよ~…」

 

「クイーン、何を言ってるんだ。

ベガパンクの残した物だけでなく、クイーンの助言があったからこそ上手く行ったんだぞ?」

 

「いや、おれ助言しかしてねぇしィ…?

もっと色々聞けよォ~! おれも研究誘えよォ~!!」

 

 

研究に呼ばれなかった事を不満だと騒ぎだしたクイーンを苦笑いのみで(かわ)したレオヴァは、キングと新しい決まりについてや、デメリットなどについて深く議論を始めた。

 

ドスンドスンと音を立てて抗議するクイーンを笑いながらカイドウは、自慢の息子の研究発表会をBGMに酒を呷った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

俺は今回の成果に安堵していた。

 

多くの捕虜たちを費やし、やっとの思いで完璧な状態に研究をもって行けた時の達成感は例えがたいものだ。

 

 

この研究を数々の試行錯誤を重ね、睡眠時間を削ってまで重要視し、急いだ理由は1つ。

 

 

父さんの健康問題……である。

 

いや、今現在父さんはなんの病気もなく至って健康そのものなんだが、如何せん、あの酒豪ぶりだ。

 

この世の誰よりも強く優しい自慢の父が戦闘で倒される事など万が一にもないが、病気で倒れる可能はゼロではない。

 

 

その考えに至った俺の冷静さは一瞬で消え失せた。

通常であれば海軍基地内の物資を奪ってから潰すと言うのに

思わず、目先にあった海軍基地を跡形もなく消し飛ばすほど混乱してしまっていたのだ。

 

普段ではあり得ない俺の行動に、遠征に同行していたジャックは狼狽えていた。

船へ戻ると心配するように駆け寄ってきたジャックを見て少し正気を取り戻した俺は、船内の自室へと戻り思考を巡らせる事にしたのだ。

 

そして考え付いたのが移植手術である。

 

万が一、父さんが酒などにより臓器や他の部位の機能が死んでしまったとしても、健康な臓器があれば良いのだ。

 

俺はこの瞬間、心に決めた。

父さんの死因となり得る物は寿命以外全て排除すると。

 

 

その思いから研究を続け、まずは機械の製作や改良を続けた。

……一度製作部屋にて爆発しかける事件を起こし、キングが炭まみれになった事もあったが……まぁ、研究や開発に失敗はつきものだ。

恐れていては先になど進めない!

…………いや、だがキングには本当に申し訳ない事をした……あの時、文字通り笑い転げていたクイーンは少しばかり憎らしかったが、まぁそれもクイーンの愛嬌だろう。

 

 

とにかく、機械は早めに完成形へとたどり着いていたのだが……

体の一部を培養……または作り出すことは難しかった。

 

しかし、ベガパンクの残した “血統因子” が手に入ってからは、今までの苦戦が嘘のように進んだ。

もとより、前世の記憶にあった“ゲノム” を構想に取り入れていた事もありスムーズに進んだのだろう。

 

 

“ヒト” を作る研究も進めていたが、これは俺には無理だと理解した。

何より、あまりイメージも良くない。

 

人員ならばワノ国の民からも、外からも募集は可能だ。

人造人間を使役していると言う悪い印象で積み上げてきた物を壊すこともないだろう。

 

 

機械を用いた手術ならば成功率は80%ほどだが、ローがいる限り成功率は100%だ。

 

これで気兼ねなく父さんとの晩酌を楽しみ、土産で父さんの好きな酒も躊躇うことなく献上できる!

 

 

今度は、様々な国や島の酒を作れる工場をナワバリに建設するのも良いかもしれないな……

俺は酒の飲み比べをするのも楽しいとササキと語っていた父さんを思い出して、小さく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 




ーー後書きーー

前回もコメントやご感想、ご意見ありがとうございます!!
読むのが楽しい!
そして、ここすき一覧も感謝です!
誤字報告下さる方々も助かります~!


以前、コメントでローのタトゥーについての他の人の印象が知りたいとあったので答えます~!

ーーーーーーーー
・カイドウ
レオヴァが嬉々としてローを連れていき見せた。
愛息子が喜んでいるのでカイドウもニッコリ。

ーーーーーーーー
・キング
カイドウから話を聞いた。
まぁ、レオヴァが喜んでるなら良いかくらいの印象

ーーーーーーーー
・クイーン
いや、レオヴァおれ様のタトゥーも褒めろよ!?と詰め寄る。
タトゥーやダンスを褒められてホクホクなのでローのタトゥーにも肯定的。

ーーーーーーーー
・ジャック
先を超された…!と怒る。
実は自分も百獣のタトゥーを入れる予定であったが、今入れるとローに続いてだと思われそうで嫌。
ローの入れたデザインは実は凄く良いと思ってるが口には出さないが、顔に出ている為(解る者は少ないが)、クイーンには散々からかわれ、キングにも比喩られた。

ーーーーーーーー
・ドレーク
純粋にローのタトゥーを褒める。
自分ももう少し強くなったら入れたいと考えているが、タトゥーを入れた場所を怪我する=百獣やカイドウ、レオヴァをキズ付けられると同義では?と言う謎理論を展開しており、一人で悶々としている。

ーーーーーーーー
・ベポ
キャプテンかっこい!!!
おれも!と思ったが毛深くて見えない&痛そうと言うことで断念。

ーーーーーーーー
・スレイマン
象徴を背負うと言う考えに強く同意を示している。
本人は紋章を胸に掲げているので、タトゥーを入れる気はない。
しかし、新しくカイドウやレオヴァを象った刺繍を増やそうかと模索中。
内心ではエンブレムをレオヴァに褒めてもらいたいと言う野望を掲げている。 

ーーーーーーーー
・うるティ
ローはうざいけど、タトゥーは良いかも!
お洒落な感じに百獣のタトゥーを入れようかと考え中
彫る場所はぺーたんと一緒にする~!とはしゃいでいる。

ーーーーーーーー
・ページワン
ロー、それスゲェいいな!!と本人と会話済み。
俺が入れる時はローがデザイン考えてくれよ!と仲良しである。
姉も入れたそうにしてるので、場所合わせてやるか……とも思っている。

ーーーーーーーー
・ブラックマリア
レオヴァから話を聞き、微笑ましく感じている。
自分も彫りたいからとレオヴァと彫り物の話をした。
ローには合った時にカッコいいわね♡と言葉を投げた。

ーーーーーーーー
・ササキ
飲んでいる時にカイドウから話を聞いた。
その後、見せてもらい
お、良いじゃねぇか!とニカッと笑いながら褒めた。
なんだかんだ、ローとは仲が良い方である。

ーーーーーーーー
・船員
え、それめちゃくちゃカッケェ~!!
この後、皆が百獣のタトゥーを次々にいれた。
しかし、何故か背中に彫る者は一人もおらず……何故だろうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

龍王祭と金色神楽

今作では火祭りは無く、龍王祭となっております~!






 

 

 

 

ワノ国の全国民が開催間近の、年に一度の“ 龍王祭(りゅうおうさい) ”を心待にしている。

この“龍王祭(りゅうおうさい)”は、ワノ国の“明王(みょうおう)”であるカイドウを(あが)める祭りだ。

 

 

祭り当日は、花の都(はなのみやこ)にて盛大に屋台や見せ物などの露店が出ることはもちろん、花火やライトアップなどのイベントが(おこな)われる。

 

他にも、花の都まで来られない者達の為にと、レオヴァの案でワノ国中の村や町に守護隊(しゅごたい)近衛隊(このえたい)が出向き露店(ろてん)を展開するなど、国民の楽しみが詰まった祭りなのである。

 

 

が、しかし。

国民達が楽しみにしている“最大の理由”は露店(ろてん)や花火ではないのだ。

 

では、いったい何を一番楽しみにしているのか…?

その答えは……“パレード” である。

 

祭りの始めに行われるパレードを、全国民が心待ちにしているのだ。

 

そのパレードとは、カイドウとレオヴァが鳳皇城(ほうおうじょう)から飛び立ち、兎丼…編笠村……と順々にワノ国の空をぐるりと一周。

その後、また花の都の城へと降り立ち、城下町を百獣の部下達を連れ、刃武港(はぶみなと)まで練り歩く……というイベントである。

 

 

レオヴァは度々国民の下へ現れる為、その姿を拝む事が出来るが、カイドウが国民の前に現れる事は滅多にない事なのだ。

カイドウ様とレオヴァ様にお会いしたい!と言う気持ちの強い国民達は、祭りで空を優雅に進む姿や、大勢の部下を連れ闊歩する姿を見れる事を何よりも楽しみにしている、と言う訳だ。

 

 

今年の“龍王祭”もきっと大いに盛り上がるだろう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ヒョウ五郎は年に一度の、この祭りの準備で大忙しであった。

 

花の都の祭りでの出店を仕切り、当日の配置や花火などのイベントの段取りなどなど。

やることは山積みである。

 

しかし、そんな多忙なヒョウ五郎の顔には笑顔が浮かんでいる。

 

この祭りは全国民を想うレオヴァ、そして国を災いから守るカイドウ、二人の素晴らしい御仁と国民のふれあいの場なのだ。

そんな大切な祭りを仕切る立場の一人に選ばれ、嬉しくないはずがない。

 

しかも、この祭りは花の都だけでなく、全ての村や町の事もしっかりと考えられているのだ。

 

ヒョウ五郎はレオヴァの言葉を思い出す。

 

 

『国全ての村に祭りの様に屋台を!?

レオ坊……そりゃ確かに皆が喜ぶだろうが、予算がなァ…』

 

『ヒョウ爺、予算は問題ない。

おれが貿易で出した利益を使えば良いだけだ。』

 

『貿易の…?

そりゃ百獣海賊団の分だろうよ、使っちまっていいのか?』

 

『あぁ、おれが作ったモノの貿易分は好きに使えるんだ。

…おれは皆の喜ぶ顔がみたい。

だが、(みやこ)に来れぬ者は多いだろう?

せっかくの祭りだ、皆が楽しめるように努めるのも王の役目だと思うのだが……。』

 

『レオ坊ッ……っとに、お前ってやつぁ!』

 

 

本当にレオヴァは全国民を想える素晴らしき王だ!と、ヒョウ五郎はこの会話を思い出しては頬を緩める。

 

 

 

『……よし、今頃レオ坊も頑張ってんだ!

おれも、もう一踏ん張りと行こうか!』

 

 

気合いを入れたヒョウ五郎は、部下が帰った部屋で黙々と段取りの再確認をしていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

一方、鬼ヶ島では。

百獣海賊団の船員たちが、龍王祭の夜に行われる“ 金色神楽(こんじきかぐら) ”へ心弾ませていた。

 

その日は鬼ヶ島にある城の大広間にて盛大な宴が(おこな)われるのだ。

レオヴァの粋な計らいで、豪華な食事も逸品の酒も飲み放題である、楽しみでない筈がない。

 

更に、金色神楽ではクイーンの公演(ライブ)もある。

船員達にとって飲んで食って騒げる最高の一大イベントなのだ。

 

 

 

 

 

 

クイーンは張り切っていた。

 

金色神楽の目玉イベントの主役という、自分にピッタリな配役。

 

年に一度の最高にエキサイティングなイベントで、目立ちまくりモテまくる……そんな未来を描いていた。

 

その為に舞台の設置や音響をレオヴァの協力の下、全て新調した。

今年は更に盛り上げる……!!!

 

そんな意気込みをひしひしと感じる気合いの入り方だ。

 

 

『テメェら、今年も最高に盛り上げていくぜぇ~!!!』

 

 

『『『『うおおぉ~!もちろんですQUEEN様ぁ!!』』』』

 

 

 

 

 

 

キングは宴会の為の段取りを組んでいた。

 

大方の案はレオヴァから指示があった為、問題なく進んでいる。

 

大勢でのバカ騒ぎがあまり好きではないキングだが、他の誰でもないカイドウの楽しみの1つとあっては、手を抜くことはできない。

それに普段休まず働き詰めのレオヴァが、ゆっくりカイドウと食事を楽しめる、と嬉しそうに言うのだから更に手が抜けない。

 

クイーンがはしゃぐ姿に舌打ちをしつつ、金色神楽の準備を恙無(つつがな)く進めるのだ。

 

 

『カイドウさんと、レオヴァ坊っちゃんの為だ…仕方がねぇ。』

 

 

 

 

 

 

ジャックは大量の調味料を乗せた船に乗っていた。

 

もうすぐ行われる金色神楽の料理には大量の調味料が必須である。

 

どんちゃん騒ぎは好きではないが、カイドウとレオヴァが喜ぶ姿を見るため、各地を回り調達作業に全力を尽くしていた。

 

それに、宴の後半には幹部達だけの部屋で、共に旨い食事や酒を楽しめる。

 

数名煩いのがいるが、カイドウとレオヴァと食事が出来る機会をジャックが楽しみにしていないワケがない。

 

久しぶりにゆっくり話が出来るだろうか、と浮き足立つ心を隠しながらジャックは帰路へとつく。

 

 

『……カイドウさんと、レオヴァさんと飯だ…!』

 

 

 

 

 

 

ドレークは沢山の動物を生け捕りにしていた。

 

鎖で縛ったり、檻に入れたり、水槽で泳がせたり……と大忙しである。

 

しかし、これも金色神楽を楽しみにしているカイドウとレオヴァの為ならと、嬉々として食材になり得る動物を確保している。

 

それに部下たちも宴を楽しみにしているし、何を隠そうドレークも楽しみにしているのだ。

 

今年こそ、レオヴァの隣の席を陣取る……!

そう、心に決めたドレークは帰りに珍しい魚介も手に入れようと考えを巡らせる。

 

 

『一昨年はキングが陣取り……昨年はジャック…今年こそは、おれがレオヴァさんの横を取る…!』

 

 

 

 

 

 

ローとベポは電気タンクの設置のためワノ国中を回っていた。

 

レオヴァとカヅチによって大量に補充された電気タンクをライトアップや出店に使えるように、指定の位置へと運んで行く。

 

ベポは色んな屋台で美味しいものが食べられると、ルンルン気分で宴と祭りを待ちわびており、ローも何だかんだ宴が楽しみだが、表には出さずに準備をテキパキと進めていた。

 

去年のようにベポとレオヴァと屋台を回りたいと考えながら、ローは作業を続けるのだ。

 

 

『ん、あとは編笠村と縛羅町(ばくらちょう)で終わりだな。』

 

『アイアイ、キャプテ~ン!

終わったら一緒にレオヴァさまの所行こうよ!』

 

『フッ……そうだな。』

 

 

 

 

 

 

スレイマンは多忙なレオヴァの国務(こくむ)の補佐をしていた。

 

少しでも早く今期の国務を終わらせ、金色神楽へ向けてレオヴァの負担を減らしたいと尽力しているのだ。

 

宴の席で楽しげにカイドウと話すレオヴァを見るのがスレイマンの癒しでもあり、今年も全力で宴を成功させるべく動いている。

 

そして、今年は自分がレオヴァの酌をするべく、陣取り合戦の作戦もしっかりと練っていた。

 

 

『レオヴァ様とカイドウ様の酌をするのは、おれだ。

……ジャックの奴、今年は抜け駆けはさせんぞ。』

 

 

 

 

 

 

 

うるティはページワンと外のナワバリの様子見に出ていた。

 

金色神楽が楽しみでしょうがない!と、早く帰ろうと急かす姉を(なだ)めながら、弟は予定どおり数ヵ所のナワバリを回った。

 

うるティはレオヴァとページワンと鬼ヶ島の屋台を遊び尽くすのだと、ワクワクが抑えられていない。

ページワンはそんな姉に溜め息をつくが、宴が楽しみなのは事実だった。

 

今年こそレオヴァとくじ引きや、食べ歩きを楽しめたら良いな……とページワンも(はや)る心を抑えながら、帰路へとつく。

 

 

『ぺーたん、ぺーたん!急ぐなり~!

レオヴァ様とおっまつり~♪ふふんふふん♪』

 

『わかってるって!

姉貴は、はしゃぎすぎなんだよ…』

 

『またまた~

ぺーたんだって楽しみなくせに~!』

 

『た、楽しみじゃないとは言ってねぇし…』

 

 

 

 

 

ブラックマリアは遊女達と龍王祭の事で盛り上がっていた。

 

カイドウを讃える祭……なんて良い祭りなのだろう。

それがブラックマリアが初めて龍王祭を知った時の感想である。

 

そして、今ではすっかり龍王祭のライトアップや、金色神楽の賑やかさに心奪われている。

それに、愛するカイドウとレオヴァと無礼講の下、共に酒を飲み談笑出来るのはブラックマリアにとって何よりの褒美だった。

 

遊女達が楽しみだと顔を綻ばせる。

ブラックマリアは自分もだと綺麗に笑ってみせた。

 

 

『うふふふ…♡

私も本当に楽しみだわ。』

 

 

 

 

 

 

ササキは酒の飲み比べと言う、褒美のような仕事をこなしていた。

 

最近、レオヴァが始めた酒造の試作品の味見をしながら、金色神楽に思いを馳せる。

 

毎年、極上の酒が用意されるが、レオヴァの手作りとなれば、きっとカイドウは比にならぬほど喜ぶだろう。

そう考えながらササキはソレの味見を任された事に嬉しさを滲ませる。

 

“カイドウの為の酒”の味見と言う大役。

普段からカイドウと酒を飲む機会が多いからこその大抜擢だ。

ササキはレオヴァから渡された、“試作品意見シート”と言う紙にすらすらと筆を走らせた。

 

 

『お、これも美味ぇな!

だが、まさかレオヴァさん、酒造まで手ぇだすとは…。

本当にカイドウさん大好きだよなァ…』

 

 

 

 

 

 

カイドウは四隻もの軍艦を海に沈めながら、ワノ国へと急いでいた。

 

最近では晩酌も、たまにしか出来なくなってしまった愛息子(まなむすこ)が、仕事に追われることなく一日共に過ごせる大切な日が近づいているのだ。

 

最初、龍王祭と言う祭りを作ったのだと、カイドウを讃える素晴らしい行事なのだと喜ぶ愛息子の姿に、喜んでいるならば良いかと、たいして意識していなかったカイドウだったが

朝から共に町を回ったり、花の都を闊歩したり、鬼ヶ島にて時間を気にせず酒を片手に語り合える……と言う体験をしたカイドウは、龍王祭ならびに金色神楽を大いに気に入ったのだった。

 

勿論カイドウは、流石はおれの息子!素晴らしい祭りだ、とそれはもう手放しにレオヴァを褒めた。

レオヴァも端正な顔を綻ばせ、心からカイドウの言葉を喜んだ。

 

以降、レオヴァの祭りへの力の入れ具合は、カイドウの思う数倍跳ね上がったのだが、それを知る者はキングくらいである。

 

 

そういう背景もあり、カイドウはワノ国への帰路を急いでいるのだ。

 

群がる海軍をなぎ払い、現れる海王類を引きちぎり、目の前を塞ぐ海賊を踏み潰す。

道を塞ぐ全ての者を海の藻屑(もくず)に変えながら、カイドウは愛息子の待つワノ国へ急ぐ。

 

 

『ウォロロロロロ……!

レオヴァとの宴だ、さっさと帰るぞォ!!』

 

『『『『はい!カイドウ様!!』』』』

 

 

 

 

 

 

レオヴァは龍王祭と金色神楽の為に万全を期すべく、部下達に細かく指示を出していた。

 

世界一強く優しい大切な父の喜ぶ顔の為。

普段から頑張ってくれる可愛い部下達の為。

完璧で皆が楽しめる祭りと宴を……!

 

部下達のシフトの組み合わせ、多くの部下が抜けた場合の警備の穴を埋める方法、国中に開く露店の人員と資金の調達と調整。

ほかにも、幹部メンバーの好物などの仕入れに、一流品質の酒の確保から、他ナワバリへの龍王祭特別支給品の選定などなど……。

 

ありとあらゆる業務を、国務と同時進行している。

 

スレイマンやヒョウ五郎の手伝いもあり、国務は少し減ったが、恐ろしいほどの仕事内容だ。

 

しかし、レオヴァの機嫌は良かった。

 

何故なら、この重すぎる仕事さえ全て片付けば、敬愛する父と共に過ごせる“素晴らしい日”が待っているのだ。

カイドウと一日、何にも追われることなく過ごせる。

これ以上の褒美はレオヴァにとってない。

 

常人ならば卒倒する量の書類と雑務を前に、レオヴァは鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌に筆を握っていた。

 

 

『ふふふ……これが終われば父さんと宴だ。

…本当に楽しみだなァ……。』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

熱狂に包まれた花の(みやこ)の大通り。

そこに居る全ての国民が大歓声をあげている。

 

 

 

「きゃ~~!!カイドウ様ぁレオヴァ様ぁ!!!」

 

「待って!! 今、レオヴァ様がこっちを振り返ったわ!」

 

「カイドウ様!!うちの息子にお言葉を!!!」

 

「クイーン様ぁ~!こっち見てぇ!

あぁっ!なんてかっこいいの!?」

 

「嘘っ! いま、カイドウ様が手をお振りにっ!?」

 

「レオヴァ様ァ~! どうか、おれの息子に名前を!!」

 

「ジャック様だ! 今日も最高に漢らしいぜ!!」

 

「すげぇ……!! カイドウ様とレオヴァ様を二人一緒に拝めるなんてよぉ!」

 

「見て、ドレーク様よ!!あぁ……なんて凛々しい…」

 

「きゃ~!ベポ様かわいい~~!!手を振ってるわ!!」

 

「カイドウ様じゃ!この国の守り神……明王様を拝めるなんて良い日か…ありがたや……ありがたや……」

 

「ロー様だ! また一段と頼もしくなっていらっしゃる!」

 

「あ!ササキ様だぞ!  また、うちに飲みに来てくだせぇ!

今日もキマってますぜ~!!」

 

「やったぁ!!レオヴァ様が投げたお花とれたよ~!」

 

「おいおい!見たかよ!?

おれ、カイドウ様と目があったぜ!!!」

 

「おおおぉ……あのキング様もいらっしゃるぞ!?」

 

「あ~~……ブラックマリア様…なんて美しいんだ!!」

 

「うるティ様が一番可愛らしいぜ!!うおぉ~!」

 

「かっこいい……!おかあさん! ぼくも百獣海賊団に入りたいよ!」

 

「ページワン様だ! おれ、あの人好きなんだよ!

暴れるうるティ様を止める姿はまさに英雄だった……!」

 

「ありゃ、真打ちの人たちじゃねぇか!

いつも世話になってるが、今日は一段と格好いいねぇい!」

 

「スレイマン様ぁー!! レオヴァ様と共にいつでもウチの村へ!

……あぁ!手を上げて答えて下さったぞ!!」

 

 

「「「「「「「カイドウ様にレオヴァ様、百獣海賊団 万歳!!!」」」」」」」

 

 

大通りを闊歩する百獣海賊団の行列は、見るものを圧倒させる凄みに溢れていた。

 

先頭はキングとクイーンが受け持ち、その後ろを真打ち達が続き

中央は大本命であるカイドウとレオヴァが輿(こし)に乗り、民衆の声へ答え、その後ろにジャックと他の真打ちが並んでおり

後方はギフターズがズラリと並び、ピッタリと足並みを揃え一糸乱れぬ動きをみせていた。

 

 

年に一度、龍王祭でしか見られぬパレードだ。

 

民衆は国を守る明王と、その屈強な部下達、そして国を導く鳳皇の姿に感動と熱狂の渦に巻き込まれた。

 

 

大歓声に溢れる花の都を進む百獣海賊団。

 

刃武港へとつき、大船へ乗り込んだ明王と鳳皇、その部下達は鬼ヶ島へと揺られゆく。

 

 

民衆は船が見えなくなるまで歓声を送り続けた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

無事パレードを終わらせた一同は、鬼ヶ島にて金色神楽の開催をカイドウから告げられ、大いに盛り上がっていた。

 

 

 

「レオヴァ様、ぺーたん!

次、あの屋台に行くなりよ!!」

 

「あっ、ちょ……姉貴ひっぱるなよ!」

 

「ふふ……うるティ、屋台は逃げないから、そう急ぐな。

人にぶつかったら危ないだろう?」

 

 

ぐいぐいと笑顔で、ページワンとレオヴァの腕を引っ張る うるティにレオヴァは優しく微笑んでいる。

 

その後ろではベポが大量の屋台の食べ物を抱え、ローは呆れたように溜め息をつく。

 

 

「まったく……ベポ、お前ちゃんと全部食べられるんだろうな…?」

 

「キャプテン!大丈夫~!

おれ腹ペコだし、全部食べられるよ~!」

 

 

 

ガヤガヤと活気溢れる鬼ヶ島城内。

 

レオヴァの(そば)の屋台ではササキが部下を連れ、沢山の串焼きを買っている。

 

 

「ササキ様、そんなに買って食いきれます~?」

 

「おうよ!! 今日は金色神楽……!

死ぬほど食って死ぬほど飲むぜ!!」

 

「ハハハハ~!ササキ様らしいっすねぇ!

よっしゃ!おれらも、その串焼き買うっすよ!」

 

「待て待て…! 串焼きぐれぇ、おれが奢ってやる!

おやじ、コイツらの分もくれ!」

 

「あいよ、ササキ様!」

 

「「「ササキ様、ご馳走になりやす~!!」」」

 

 

 

部下と楽しげに串焼きを頬張るササキの数メートル先では、ドレークが屋台の男と話していた。

 

 

「それは本当か……!」

 

「えぇ、レオヴァ様がドレークさんの好物だからとチキンライスの露店をやりてぇってんで、おれぁ呼ばれたんですよ!」

 

「レオヴァさんが……そうか!

なら、味は期待させてもらうぞ?」

 

「はははっ!もちろん、期待してくださいよ!

レオヴァ様に認めて貰った、おれの腕をみせますよ!」

 

 

 

なんとなしに好物に引かれてやって来た屋台で、予想外のレオヴァの優しさに触れたドレークは嬉しそうに、大盛りのチキンライスを手に側のベンチへ腰かけた。

 

 

そして、そのすぐ近くの屋台では、スレイマンがくじ引きに興じていた。

 

二等のブロマイドがどうしても欲しい…!

その一心でスレイマンは60枚目のくじを開いた。

 

 

「……っ! 二等だッ!!」

 

「おぉ~!おめでとうございます、スレイマン様!」

 

「やりましたね!スレイマン様、流石でございます!」

 

「あぁ、その言葉ありがたく受け取ろう。」

 

 

 

見守っていた直属の部下達は喜びを露にしており、スレイマンも笑みが隠せていない。

屋台主から渡されたブロマイドを仰々しく受け取り、スレイマンは天を仰ぐ。

 

その、ブロマイドには豪気に笑うカイドウと、楽しげに微笑むレオヴァが写っている。

 

 

「ッ……カイドウ様とレオヴァ様のこのお姿ッ!

なんと素晴らしい一品か……!!」

 

 

そう感極まるスレイマンの後ろでは、自分も欲しいと船員達の長蛇が出来上がっており、屋台主は嬉しい悲鳴を上げていた。

 

 

一方、くじ引き屋台の数メートルほど後ろでは、ジャックが大苦戦を()いられていた。

 

それはボール(すく)いである。

小さなカラーボールを“ポイ”と言う道具で掬い、その数に応じて景品が貰える……という仕組みだ。

 

一見、簡単な屋台ゲームなのだが、ジャックにとっては恐ろしく難しいゲームなのだ。

 

まず、力加減が絶妙に難しい。

そしてなによりジャックにとって、ポイとボールがとても小さいのだ。

あまりにもジャックに対して小さすぎるポイに、陰ながら見守る部下達は心を痛めていた。

 

人差し指と親指をプルプルと震わせながら、小さなポイを壊さぬよう全神経を指先に集中させるジャックの気迫は、屋台主をたじろかせるには十分である。

 

四苦八苦しながら、何とか30個のボールを集めたジャックに、部下達は涙ながらにガッツポーズを決めた。

 

 

「「「っしゃー!!やったぜ!ジャック様~!!」」」

 

「…!? て、てめえら……いつから見てやがった!!」

 

「う、ぐすっ……諦めねぇジャック様かっこいいぜ!」

 

「流石ジャック様だ!圧倒的不利でもボールを集めきっちまうなんてよぉ!!!」

 

「最初からずっと、おれら応援してたンすよ!」

 

「~~ッ…! こそこそ見てんじゃねぇ!!!」

 

 

 

ドスンと強く地面を踏み締めた振動で倒れる部下達だが、皆一様に微笑ましげな顔を崩さなかった。

恥ずかしさを誤魔化すように怒るジャックだったが、屋台主から渡された景品を見て、静かになる。

 

 

「………………」

 

「「「良かったっすね、ジャック様!!」」」

 

「……うるせぇぞ…!!」

 

 

ジャックはカイドウとレオヴァがイメージされた模様の彫られた景品をそっと懐に仕舞うと、未だニコニコと嬉しげな部下達を置いてドスドスとレオヴァの下へと歩きだした。

 

 

 

そんな賑やかな大広間を見下ろしながら、ブラックマリアはカイドウへ酌をしていた。

 

普段ならばレオヴァも此処に居るのだが、今年はうるティが屋台を回りたいと言った為、少し席を空けている状態である。

 

 

「まぁ……広間の露店は毎年本当に凄い盛り上がり…♡」

 

「そりゃあ…レオヴァが主催だ、盛り上がらねぇ筈がねぇ!!

行きてぇなら、好きにしろ。」

 

「露店も素敵ですけれど、私はカイドウ様とお話ししたいですわ♡

レオヴァ様の昔のお話、また聞かせて頂けます……?」

 

「ウォロロロロ……レオヴァの話ならいくらでもしてやる!

レオヴァは昔から頭が良かった!初めてねだってきたのも……」

 

 

カイドウの息子自慢をブラックマリアは本当に楽しそうに聞いていた。

 

 

 

一方、その頃。

クイーンは舞台裏で公演(ライブ)の最終確認を済ませていた。

 

「よぉ~し!

じゃあ、行くぞ……そうそう、おれが乗ったらその機械のボタン押せよ。」

 

 

 

舞台前には屋台を満喫した船員達が酒や料理片手に、我らがクイーンの登場を待ちかねていた。

 

そして突如、光が消え、広間には一瞬の静寂が訪れる。

 

 

しかし、次の瞬間には目が眩むほどカラフルな光と大音量と共に、皆から待ちわびられていたクイーンが舞台に颯爽と現れた。

 

 

「FUNK!! エキサ~~~イト!!

待たせたなゴミクズ共ォーーーーーー!!!」

 

 

 

「「「「「「うおおおおおぉーー!!!QUEEN様ァ!!」」」」」」

 

 

 

ズムズムズムズムズム……とさっそく始まった公演(ライブ)に船員達が大いに盛り上がる。

皆が立ち上がり、リズムに合わせ体を揺らす。

 

そんな、軽快なクイーンのパフォーマンスに酔いしれる船員達をしり目にキングは吐き捨てる。

 

「……チッ…騒がしいボール野郎だ……。」

 

 

 

金色神楽の夜はまだまだ明けない。

 

 

 

 






ーー後書きーー
誤字報告ありがとうございます!!
感想やコメントも励みになります!
毎回、楽しく読ませていただいております~!ありがたや…(*´-`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

前代未聞の侵入者

 

 

 

 

 

「いったい何がどうなってるんだッ…!!?」

 

 

 

そこにいる男達の叫び声や怒号に、この声は掻き消された。

 

 

凪の海(カームベルト)の海の上にあるこの場所で、誰も予想だにしなかった事態が起こってしまっていた。

 

 

 

 

 

「よォ~し、ドンドン行くぜ!!」

 

「おい、貴様! 一人で先走るな…!」

 

「ア"? お前は今回の指揮権ねぇだろうが!」

 

「あぁ…まったく! 二人とも、喧嘩は後にしろ!!」

 

 

この騒動を巻き起こした三人はガヤガヤと言い合いながらも、取り押さえようと襲ってくる男達を口喧嘩の片手間に一人、また一人と打ち倒してゆく。

 

 

そんな姿を見た男達は顔を歪める。

 

 

「お、おい……くそ、嘘だろ!どうやって此処に!」

 

「無理だ……敵わないっ!…ぞ、増援を」

 

「クッ……これ以上、進ませるな!死守するんだ!!」

 

「こんな事が…ありえん!!」

 

 

必死の男達の守備を横目に見つつ、騒動の渦中にいる三人はそれぞれの反応を示していた。

 

 

中心で一番派手に暴れている男

百獣海賊団のササキは

 

「はははは…! 最近ヒマだったんだ!

思う存分暴れてやる…!!」

 

と、楽しそうに男達を薙ぎ払っている。

そんなササキの少し後ろで溜め息をつく男は

百獣海賊団のドレークだ。

 

「初めの30分は隠れつつ各個撃破する予定だったと言うのに……はぁ…。」

 

彼はササキの自由奔放さに気疲れしている様であった。

そして暴れまわるササキの右側では、黄金で男達を締め上げながら

百獣海賊団のスレイマンが

 

「せっかく、ドレークが考えた案を無駄に…

ササキめ……アイツは本当によく風紀を乱す…!」

 

と、呟きながら睨みをきかせている。

 

 

 

既に、この騒ぎが起きてから10分ほどが経過していた。

その為、あらゆる場所に力尽きた男達が転がっている。

 

 

焦りを隠せない男達だったが、ある人物の登場で表情が一転する。

 

 

「これ以上、被害は出させんぞ…!!!」

 

 

そう言いながら現れた男。

彼こそ、インペルダウン監獄副署長…マゼランである。

 

彼の登場に男…看守達は歓声を上げた。

 

 

「副署長ぉ…!!」

 

「マゼラン副署長さえいれば!」

 

「これでやっと奴らを捕らえられるぞ……」

 

 

しかし、看守達の考えとは裏腹にマゼランの登場に侵入者達は狼狽えるどころか、不敵に笑って見せた。

 

 

 

「っし!! ドレーク、やるぜ!」

 

「……予定より早いが、どうする?ドレーク。」

 

「いや、早いが問題ない。

レオヴァさんの言う通りにやれば、間違いないだろう。

……おい、ササキ突っ込み過ぎるなよ。

渡されてる解毒剤は限られてる。」

 

「わかってる!」

 

 

三人は頷き合うと、マゼランから距離を取った場所でそれぞれ臨戦態勢へと入った。

 

看守達もマゼランの邪魔にならぬ様にと、門前まで警備網を下げる。

 

 

そして、ついにマゼランの体から溢れる猛毒が、侵入者へ襲いかかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

時は遡り……大監獄インペルダウン、最上階の地上部で騒動が起きる少し前のこと。

 

 

監獄内部LEVEL-2猛獣地獄。

そこへの侵入をレオヴァとローは成功させていた。

 

 

物陰へ隠れている二人は小さな声で会話を交わしている。

 

 

「…いつも思うがローの能力は本当に便利だな。

地上から一瞬で此処まで来れたのは大きい。」

 

 

褒められたローは嬉しさを隠すかの様に、話を変える。

 

「…それよりレオヴァさん。

此処からどうするんだ?

映像電伝虫(えいぞうでんでんむし)のせいで移動も難しい。

……また、おれの能力で移動するか?」

 

ローの提案にレオヴァは首を横に降った。

 

 

「いや、実は新開発した道具があるんだ。

それを試したい。

ローの能力は帰りに絶対に必要だからな…ここでは温存しよう。」

 

「それはそうだが……レオヴァさん、その新作試したいだけじゃねぇのか?」

 

「…………では、使い方だが」

 

「いや、図星なのかよ…!」

 

 

指摘を笑顔で誤魔化し、話を進めるレオヴァに思わずローはツッコんだ。

敵地であるのにも関わらずマイペースなレオヴァに呆れつつも、ローはレオヴァの説明を聞く。

 

 

 

「……と、いうわけだ。

まぁ、兎に角これを至る所へ投げてくれればいい。」

 

「わかった。

じゃあ、1分後にまた此処に戻って来れば良いのか」

 

「あぁ、頼んだぞ。」

 

 

その言葉が終わると同時に二人は一瞬でその場から消えた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ローはレオヴァから渡された謎の玉を電伝虫(でんでんむし)の近くや通り道に投げていた。

 

 

正直、レオヴァから説明を受けたが原理は良く分かっておらず

ただ、RIN酸第ニテツを主とした成分で作られていると言う事しか理解出来ていない。

 

そんなローにとって、手の中にある謎の玉で電伝虫(でんでんむし)を無効化出来るというのは信じがたいことだが、他の誰でもないレオヴァの手造りなのだから問題ないだろう、と無心で謎の玉をばら()いているのだ。

 

 

この謎の玉は投げて(しばら)くすると、うっすらと見える程度の煙となって消えていく。

 

そして、ローは見たのだ。

壁についている電伝虫がコロリと地面へと落ちる瞬間を。

 

 

「…おぉ……本当に効いた…。」

 

ローは感心したように呟きながらも手は休めない。

 

能力を使いつつ、1分間である程度の数を撒き終わり、約束の場所へ戻る。

 

レオヴァと合流したローは大監獄インペルダウンLEVEL-3へと続く小さな穴を開けた。

その穴の前で、二人は最終確認を行う。

 

 

「ロー、移動前に確認だ。

続く3階も今と同じ作業を繰り返し5分以内に4階へと移動し、4階にある職員用エリアを破壊……そして監獄署長をおれが海楼石(かいろうせき)で捕縛する…ここまでは良いな?」

 

「あぁ、問題ない。」

 

「ん、では次だ。

一応、暴れられぬように麻酔もあるが、万が一おれが捕縛を失敗(また)(いちじる)しく手間取った場合には、今回の目的を最優先とし……おれも陽動(ようどう)側として動く。」

 

「それも了解だ。

捕縛が予定通りいかなければ、レオヴァさんがフロア内を破壊し囚人を放ち…そのまま監獄署長の相手……だろ?」

 

「ん、しっかりと理解出来ている様で何よりだ。

問題が起きた場合は臨機応変な対応を頼む……が、第一に優先すべきは彼の回収だ。

最悪、時間が掛かりすぎた時は彼を連れて先に船を出してくれ。

ドレーク達は俺が回収する。」

 

「……了解。」

 

「ふふ…そう、不満そうな顔をするな。

最悪の場合の話だろう?」

 

「わかってる……レオヴァさんなら最悪の場合はまずないだろうしな…。」

 

 

レオヴァはローの頭を帽子ごとポンと軽くたたくと、穴を通って下の階へと降りた。

ローも帽子を被り直すと続くように下の階へ足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

時は戻り、現在。

大監獄インペルダウンLEVEL-4にて。

 

 

署長含め、数十名の看守を捕らえたレオヴァは牢獄の鍵を物色していた。

 

山のようにある鍵の中から目当てのものを手に入れ、予定通り食料庫を壊して来たローに声をかける。

 

 

「ロー…そっちも予定通り行ったようだな。」

 

「……レオヴァさんも思った以上にあっさり終わったみてぇだな。」

 

「先手必勝の不意打ちだったからなァ……

まぁ、常日頃(つねひごろ)気を張り続けてる奴は少ない…ローも気を付けるんだぞ?」

 

血塗れで気を失っている監獄署長の側で呑気に話すレオヴァにローは苦笑いしつつ、事前に話していた次の動きを思い出す。

 

 

 

「レオヴァさん、監獄署長と署長室は押さえられたんだ。

LEVEL-5の極寒地獄からは普通に壁壊して行くんだろ?」

 

「そうだ、一応事前作戦ではその手筈だが……何かあるのか?」

 

「いや、鍵があるなら壊さず行くのもありだと思う。

壁を壊すとどうしても看守共が集まる…それに囚人を出しながら行けば撹乱もしやすいんじゃないか?」

 

「ふむ……確かにな。

事前作戦ではこんなに鍵が手に入る予定はなかったから、壁を壊すつもりでいたが……ローのその作戦の方が良いな。」

 

「じゃあ……」

 

「あぁ、それで行こう。」

 

 

レオヴァは手に持っていた鍵の一部をローへ渡すと、監獄署長を引き()りながら、牢獄へと足を進めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

同時刻。

インペルダウン監獄、最上階の地上部にて。

 

 

マゼランは手も足も出せぬ苦戦を強いられていた。

 

 

侵入者三人の実力が高いことも苦戦の理由ではあったが、それだけではない。

 

もとよりマゼランはこの監獄にて、数多の凶悪かつ凶暴な犯罪者を相手取って来たのだ。

いくら侵入者の実力が高いとは言え、手も足も出せぬことなどまず有り得ない。

 

しかし現状、マゼランは侵入者に一撃を与える事も叶わず防戦一方を()いられている。

 

 

まず、ササキはあのパワーと巨体だけでも手強いと言うのに、動きが速い……いや、正しくは加速力が桁違いなのだ。

通常時はそこまで速くない分、その緩急や突然の加速にマゼランは振り回されていた。

 

更にその横から絶妙(ぜつみょう)に反応しづらいタイミングでドレークが横槍を入れてくる。

それも、一撃加えてすぐ下がると言う徹底ぶりだ。

決めの一手を焦らぬその動きからは、絶対的な自制心の高さを感じさせる。

 

しかし、苦戦を()いる何よりの理由は、ありとあらゆる角度から襲うマゼランの猛毒を弾くスレイマンだった。

黄金を操り、中距離攻撃をしかけつつも、ササキとドレークの死角の毒を弾くという芸当を完璧にやってみせるスレイマンこそが、マゼランを苦しませる一番の理由なのだ。

 

 

そんなマゼランの焦りを嘲笑(あざわら)うように、ササキが切り込む。

続いて、その焦りを助長させるかのようにドレークが声をかけてくる。

 

 

 

「マゼラン…そろそろ限界も近いんじゃないのか?」

 

「なにを…お前たちを捕まえるまで限界なぞ来ん!!」

 

「そうか……あとどれだけ“活動時間”が残っているのか見物だな。」

 

「ッ……そんなもの存在せん!

お前たち犯罪者は必ず牢に入れるぞ…!!」

 

 

マゼランの鬼気迫る叫びにも少しも怯むことなく、ドレークは口元に笑みを浮かべた。

 

 

だが、事実マゼランの限界は近付いていた。

ドレークの言った通り彼には“活動時間”があるのだ。

 

ドクドクの実という強い力の代償のようなもので

マゼランは能力の反動による下痢で約10時間はトイレに拘束されるのだ。

他にも睡眠や食事などを差し引けば、実際の活動時間は4時間ほどしかない。 

 

しかも、この襲撃はまるで狙ったかの様に、マゼランの勤務交代時間直前に起こったのだ。

 

やっとトイレに籠れる…というタイミングでの襲撃。

色んな意味でマゼランの限界が近いと言うのは事実なのだ。

 

 

そんな防戦一方の戦いを看守達は息を呑んで見守ることしか出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

一方、ドレークは予定通り進んでいる作戦に笑みを溢す。

 

最初こそ、ササキとスレイマンが内輪揉(うちわも)めを起こしそうで胃を痛めていたのだが、流石は百獣海賊団幹部である。

作戦が始まればしっかりと“指揮権”を委ねられているドレークの指示を確実にこなしている。

 

 

今回、ドレーク、ササキ、スレイマンの三人に任されたのは大監獄インペルダウン内の看守の誘導兼、副署長であるマゼランの足止めである。

 

レオヴァ(いわ)く。

『今回の作戦において一番厄介なのが、ドクドクの実の能力者マゼランだ。

確実性を増す為にも、数名で“封じる”事に専念してもらいたい。』

とのことであった。

 

 

始め、ササキは俺一人でやってみせる!と意気込んでいたがレオヴァの、毒がどれ程厄介なのかという説明を受けて納得。

 

その後、レオヴァの選出により。

機敏性があり、頑丈かつ経験豊富なササキ。

状況判断力と自制心に優れ、パワーのあるドレーク。

防御性能が高く、中距離戦闘も行えるスレイマン。

の三人が選ばれたのだ。

 

そして、丸1日に及ぶレオヴァからの“指導”を受け、相手に直接触れずに封じる立ち回りを確立させた。

 

 

その結果、予めレオヴァから注意されていた点や、貰った情報を基に優勢を築けているのだ。

 

 

ドレークは監獄内のレオヴァからの連絡を待ちつつも、現在の有利かつ完全な状態を維持すべく全力を尽くす。

 

 

「……レオヴァさんから任されたんだ…絶対に油断はしない。」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

インペルダウン監獄内、LEVEL-6 無限地獄にて。

 

 

 

目の前に現れた人物を見てドフラミンゴは目を見開き……そして笑った。

 

 

 

「フッフッフッフッ…!!

おいおいおい……いったい此処でなにしてる!?」

 

四股に海楼石を付けられたドフラミンゴは笑っている様な怒っている様な顔でレオヴァを見た。

 

 

「それは、おれの台詞だ。

ドフラミンゴ……悪いが牢獄休暇は今日までだ。」

 

 

レオヴァはそう言うと鍵を使って牢屋へ入って行き、ドフラミンゴに幾つも付けられている海楼石を外した。

 

ドフラミンゴは立ち上がると、動きを確かめるように手を動かし。

次の瞬間、牢獄が砕け散った。

 

 

 

「…!? レオヴァさん!

ドフラミンゴどういうつもりだ…」

 

ローが突然レオヴァへ攻撃をしかけたドフラミンゴを睨み戦闘態勢へ入るが、それをレオヴァが手で止める。

レオヴァの周りの牢屋の壁は無惨に切り裂かれているが、当の本人は無傷だ。

 

 

「フフフフフフ……どういうつもりか…だと?

そりゃあ、おれが聞きてぇよ。

わざわざこんな場所まで何しに来たレオヴァ……」

 

口は()を描いているが眉間にはこれでもかと皺を寄せ、殺気を放つドフラミンゴにレオヴァは苦笑いを溢す。

 

 

 

「お優しい聖人君子の百獣の息子……その株上げにおれを使おうってのかァ…?」

 

「ドフラミンゴ……おれが株上げなんていう事の為にこんな所まで来ると思うのか?」

 

「なら、傘下に入れってか?

このおれに人の下につけ……と。」

 

「はぁ…本当に深読みがすぎるぞ……。

疑う気持ちは解るが、冷静になれ。」

 

 

レオヴァの言葉にドフラミンゴのこめかみがピクリと動く。

 

 

「フフ…フフフフフフ…ふざけてんのか?おれはいつだって冷静だ…。

さっさと目的を言ったらどうだ、レオヴァ?」

 

「目的はお前の脱獄だ。」

 

 

弧を描いていたドフラミンゴの口がへの字に変わる。

 

 

「……てめぇ…いい加減に……」

 

ドフラミンゴが言いきる前にレオヴァが続ける。

 

 

「はぁ……さっきからお前は有りもしない おれの裏の目的を聞こうとするが普段のお前なら解る筈だ。だが解っていない…

…それだけで今のお前が怒りから冷静ではないのは一目瞭然だ。

 

そもそも、お前がいなければ武器や兵器の利益がパァだ。

それに他にも日用品や薬もお前に任せて捌いて貰っている物も多い。

 

そんなに納得いかないならハッキリ言おう。

ウチの利益の為にお前には此処から出てもらう、以上だ。

悪いが暴れるなら無理やりにでもシャバに連れていくぞ…。」

 

 

普段よりも低い声で捲し立てるレオヴァに一瞬面食らった様な顔をしたドフラミンゴへ、更に釘を刺すように告げる。

 

 

「あぁ、それとお前のファミリーはウチで既に“保護”してある。」

 

その一言でドフラミンゴは冷静になったのか、レオヴァが言外(げんがい)に匂わせた事を察した。

 

 

「……本当に食えねぇ野郎だ。」

 

「ありがとう、褒め言葉として受け取っておく。」

 

 

刺々しい雰囲気だが殺気を完全に収めたドフラミンゴと、先ほどの圧が嘘のように穏やかに返すレオヴァにローは冷や汗をかきながら溜め息をついた。

 

渋々大人しくなったドフラミンゴの(そば)からローの下へと歩いて来るとレオヴァは指示を出す。

 

 

「ロー、ドフラミンゴを連れて地上へ。

その後、誘導班と囚人だった皆を回収し船へ戻っていてくれ。」

 

レオヴァの言葉にローは怪訝そうな顔をする。

 

 

「待ってくれ、レオヴァさん。

なんで別行動みたいな言い方なんだ…まさか……」

 

「……あぁ、すまないが おれは少し野暮用だ。」

 

「…………」

 

「ロー、わかってくれ。

すぐに合流するから…」

 

「…………わかった、何かあればすぐ連絡してくれ。」

 

 

任せたぞ。と言い残すと奥へ進み “牢屋の中の誰か” と会話を始めたレオヴァを見てローはまた溜め息をつく。

 

 

「フッフッフッ……アイツが嫌ならうちにくりゃ良い」

 

「……黙れ、さっさと出るぞ。」

 

「…可愛くねぇガキだ。」

 

 

ローがドフラミンゴを睨むと同時に、LEVEL-6 無限地獄から二人の姿が一瞬で消えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

インペルダウン監獄内、拷問室。

 

 

そこでは日々囚人への拷問が行われている。

 

 

左向きに寝かされ、台にくくりつけられている男のボサボサな桃色の髪の間から見える瞳は絶望で色褪せていた。

 

とある失態から罪人としてインペルダウン監獄に幽閉され水責めや虫責め、電気椅子……

体の至る箇所を少しずつ削がれたりなど、あらゆる拷問を受けた。

 

そんな彼の全身は傷のない場所はないのではないかと思うほど痛々しい見目(みめ)をしている。

 

手や足の指は拷問での過程で ちぎれてしまっているか、潰れており、全ての指の長さがちぐはぐだ。

 

太ももや二の腕の肉は、削がれては治ってを繰り返したせいで歪にもり上がってしまっている。

 

 

拷問官によってまた繰り返される地獄に彼は呻き声を上げる人形の様になって、ただひたすら悲痛な音を口から吐き出していた。

 

 

 

「ヒッ…ぐぁあッ……ウゥ…や"め"…てく、れ……」

 

 

彼の懇願を聞き拷問官は笑う。

 

 

「ヘッヘッヘ……助かりてぇナら“太陽の神”にでも祈れヨぉ!

まぁ、助けなんザこねぇけどナぁ!ヘッヘッヘッヘッヘッ……」

 

 

拷問官の嘲笑を受けながらも彼は祈った。

 

誰でも良い……その太陽の神だって…いや悪魔でも構わない。

この地獄から助けて欲しい。

最悪の日々から救われるならなんだってする。

 

どうか…どうか……どうか…………助けてくれっ……

 

 

 

心の中で祈り続ける彼の横たわる拷問台へ、薄ら笑いを浮かべた拷問官の手がのびる。

 

 

バチバチッ

 

 

その音と共に倒れていく拷問官を彼は唖然と目で追っていた。

 

地面をズルズルと這いつくばる焦げたソレは、喉が焼けて声が出ないのか、静かな部屋にヒュウ…ヒュウ……と空気を吸う音が響いた。

 

 

「……な………にが…」

 

長らく続いた拷問と死の恐怖でカラカラだった喉から、なんとか絞り出すように発せられた声は しわがれている。

 

張り付け台から動くことも出来ず、固定された視界にグチョグチョと(うごめ)く拷問官を捉えながら彼は震えていた。

 

何故なら、自分の背後に気配を感じるのだ。

この後ろにいる“誰か”が、目の前の拷問官をこの姿にしたのは明白。

 

死にたくない。

けれど、一方的な暴力に晒され続けるのは嫌だ。

 

 

彼が震える唇を動かそうとした時だった。

 

 

「……お前は元政府の人間で間違いないな?」

 

後ろにいる誰かが、そう声を発した。

 

彼はすぐにそうだ。と答えようと口を動かしたが、ボロボロの体は言うことを聞かない。

 

だが、極度の緊張でパニックを起こしそうになっていた彼の頭と首の拘束具が外された。

 

急に楽になった頭と首に驚く彼のすぐ後ろから、優しい声がかかる。

 

 

「すまない、声が出ないとは思っていなかったんだ。

今、拘束具の一部を外した……肯定なら首を縦に、否定なら首を横に動かしてくれ。

……あぁ、傷に響くだろうから、ほんの少しでいい。」

 

 

その声に彼は小さく頷いた。

 

 

「では、先ほどの質問を繰り返すが……元政府の人間か?」

 

彼は首を縦にゆっくりと動かす。

 

 

「そうか……では、次に。

その情報をおれに売るつもりはあるか?

内容によって報酬は上下するから、今この場で金額は確約できないが……少なくとも此処からは出すことを約束しよう。」

 

彼は目を見開いた。

此処から出られる……?

その可能性に飛び付かずにはいられなかった。

彼は痛む体も忘れて大きく首を縦にふった。

 

 

「ふふ、契約成立だ……一緒に此処から出ようか。」

 

彼の後ろで“誰か”が微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

あのインペルダウン監獄騒動から4日後のワノ国にて。

 

 

監獄襲撃を終え、ワノ国にいたドレークとスレイマンは新聞を読んでいた。

その隣では更新された手配書を手に、ササキが不満げに騒いでいる。

 

 

「はぁ!? なんでレオヴァさんの懸賞金上がってねぇんだよ!!

政府の奴らは馬鹿しかいねぇのか!?」

 

そんなササキの手に握られる手配書は、自分の物とドレーク、スレイマン、ロー……そしてドフラミンゴの5枚である。

そこにレオヴァの手配書がないのだ。

 

それもそうだろう、レオヴァの懸賞金は変動していないのだから。

金額の変更がなければ新しく発行されることもなく……。

 

 

さらに今回の事件はそもそもニュースにすらなっていない。

ただニュースクーの朝刊に値上がりしたササキ達の手配書が混ざっているのみである。

 

納得いかねぇ!と騒ぐササキにスレイマンは言う。

 

 

「そんなに懸賞金額にこだわる必要などないだろう。

金額がイコール強さではないんだ。」

 

「けどよぉ……作戦から実行までほとんどレオヴァさんのモンなのに…

おれらが上がって、レオヴァさんは無しとか納得できねぇだろ」

 

 

ムッとした顔で反論するササキにドレークが溜め息混じりに返す。

 

 

「スレイマンの言う通りだ。

実際、レオヴァさんは故意に懸賞金が上がらないようにしている様にも思えるしな。」

 

「なんでわざわざ?

レオヴァさんなら数十億くらい余裕だろ?

それに低いとナメられちまうしよ」

 

「問題ない、レオヴァ様にふざけた態度を取る輩はおれが始末する。」

 

「……スレイマンは話になんねぇ。

で、ドレーク!なんでレオヴァさんが懸賞金低く保ってると思うんだよ。」

 

 

レオヴァ過激派のスレイマンに呆れたような顔をしながら、ササキがドレークへ詰め寄る。

 

ドレークは一瞬考える素振りを見せたが、ササキの疑問に答えるべく口を開いた。

 

 

「いや、おれがそう思ってるだけでレオヴァさんが言ったワケではないんだが……」

 

「そう勿体ぶらずに教えてくれてもいいだろ?」

 

「……わかったよ。

じゃあ、第一に懸賞金が上がる事のメリットはなんだと思う?」

 

突然の問いかけに少し唸るササキだったが、思い付いたのか声を上げた。

 

 

「あれだろ、(はく)がつく!

それにナメられづらくなるしな。」

 

「おれもササキの言う様に、メリットはそれぐらいしか思い付かん。

……で、次はデメリットだが。

まず、政府から狙われやすくなる事。

そして、海軍本部の面倒な奴らにマークされやすくなる事だ。

他にも細かい事で言うなら、民間人から通報される可能性が上がることや、マイナスな印象を持たれたり悪い噂を流される可能性……と、上げれば多々ある訳だ。」

 

「うっ……まぁ、確かに。

おれも身に覚えのねぇ噂流されてた時もあったしなぁ」

 

「そうだろう?

で、ここからがおれの予測なんだが。

レオヴァさんがこれだけのデメリットを抱えてまで箔だなんだに拘ると思うか?」

 

「…いや、思わねぇ。

そもそもレオヴァさん自身が噂とか他人からの評価とかアテにしてねぇもんな…。」

 

「元よりレオヴァ様には懸賞金など関係なく、素晴らしい貫禄をお持ちだ。

噂や手配書の額でどんな印象を抱こうとも、実際に会えばナメた態度などとれまい。」

 

 

会話に割って入り、レオヴァ様自慢を始めたスレイマンの言葉にドレークも相槌を打つ。

 

 

「スレイマンの言う通り、懸賞金でデメリットを背負ってまでレオヴァさんが箔をつける意味はないんだ。

レオヴァさんの風格は初めから素晴らしい……っと、少し逸れたがそう言う訳で おれはレオヴァさんが金額が上がらないように立ち回ってるんじゃないかと考えてる。」

 

「は~……レオヴァさんもお前も小難しい考え方するよな。

けどそれなら納得だ。

理由もレオヴァさんらしいしな!」

 

「まぁ、全て憶測だがササキが納得いったなら良いか。」

 

「おう!

んじゃ、おれは部下と懸賞金上がった祝いで飲んでくるぜ!

ドレークも来るか?」

 

「いや、おれはまだ仕事が残ってる。

また誘ってくれ。」

 

「おれも断る。」

 

「いや、スレイマンは誘ってねぇよ!!

……んじゃ、ドレークまたな!」

 

 

ご機嫌に去っていくササキを尻目にスレイマンも持ち場へと歩きだし、ドレークも苦笑いを溢しつつも残っている仕事を片付けるべく動き出した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

同時刻、鬼ヶ島内の城にて。

 

 

 

目の前でレオヴァに付き従うように並ぶ珍獣達を見てクイーンが顔を引きつらせていた。

 

 

「いや、いやいやいや……レオヴァ…お前の珍しい物好きは知ってるけどよォ……それでもなァ……。」

 

 

そんなクイーンが苦々しく放った言葉が聞こえているのかいないのか、レオヴァは興味ありげなカイドウに珍獣の説明をしていた。

 

 

「そのバジリスクってのはニワトリがヘビを生んだ結果って事なのか。」

 

「あぁ、普通ではあり得ないことで珍しい生き物なんだ。

他にも、この白いオオカミは軍隊ウルフと言うんだが、高い攻撃性と集団性を兼ね備えているんだ。

しっかり躾ければ鈴後の護衛として役立つと思う。

品種改良を重ねれば、民の家庭での荷物運び要員としても使える可能性もあるんだ。

それからこっちの生き物は……」

 

 

生き生きと語るレオヴァの話に楽しげに相槌を打つカイドウを見てクイーンは口をつぐんだ。

 

既にカイドウとレオヴァ、二人だけの世界状態である。

この時に何を言おうと無駄なのは周知の事実。

 

 

インペルダウンへの侵入の成功や、連れ帰った囚人達、手に入れた政府関係の情報などについては簡単にのみ説明し

『まぁ、あとは報告書の通りだ。

…で 父さん、この動物達についてなんだが……』

と、まるで世間話の如く簡単に済ませたレオヴァにクイーンはツッコみたい気持ちをグッと抑えた。

 

 

世界一の海底大監獄を、貿易の利益の為だけに攻略して帰って来たレオヴァに対するこの叫びたい気持ちは夜にまでとっておこう。

そうクイーンは決めたのだ。

 

 

一方、キングに至っては驚きを通り越して“()”になっていた。

()わば諦めの境地とも言える領域だ。

この親子には今さらツッコむだけ無駄。と言わんばかりの雰囲気を漂わせている。

 

カイドウの桁外れの暴れっぷりも、レオヴァの予想外の手柄も

……そう、今さらなのだ。

 

 

後で突っ込もうと(りき)んでいるだろうクイーンを横目にキングは報告書に目を通すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 







ーー後書きーー

前回も感想に“ここ好き”の投票ありがとうございます~!!
誤字報告も助かります!

更新頻度早かったり遅かったり疎らで申し訳ないですが、頂いた感想を糧に邁進致します~!

ONE PIECE100巻おめでとう!!
百獣海賊団最高~! ビブルカード発売もおめでとう!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

手負いの獣

 

 

 

 

鳳皇城(ほうおうじょう)にある御用部屋(ごようべや)文机(ふみづくえ)の前に座っているレオヴァが、訪れた男に話し掛ける。

 

 

 

「フーズ・フー、遠征終わりに呼び出してすまない。

正式発表はまだなんだが、先に話したい事があってな。」

 

「構わねぇよレオヴァさん。

今回の遠征もたいした敵も居なかったしな。

……で、その内容ってのは?」

 

 

文机の前に胡座(あぐら)をかいたフーズ・フーにレオヴァは微笑みながら告げた。

 

 

「新しく作る幹部候補、“飛び六胞(とびろっぽう)”にフーズ・フーを指名したい。

この話……受けてくれるか?」

 

 

フーズ・フーは息を飲んだ。

きっと仮面に隠れて見えない目は、見開かれているだろう。

 

(しば)し、動きの止まった彼から発せられた言葉は力強かった。

 

「……もちろんだ。

カイドウさんとレオヴァさんを失望させねぇと約束するさ!」

 

 

この言葉を聞いたレオヴァは満足げに笑ってみせた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

大監獄インペルダウンから連れ出された100名以上の囚人達の中でも、特にフーズ・フーの損傷は酷いものであった。

 

精神的なものから、身体の機能に至るまで多くの傷を負っていたのだ。

 

日々、世界政府の追っ手に追われる悪夢や妄想に取り憑かれていたフーズ・フーは、脱獄後も精神が安定しなかった。

 

しかし、そんな状態でもレオヴァと言う男との取引は続けた。

少しでも生き長らえる為に、少しずつ自分の知り得る情報を小出しにして売り続けた。

 

自分の関わった任務、知っている政府内の能力者、政府の隠し持っている島々……

ほとんど全ての情報を出しきってしまったフーズ・フーは焦りに焦った。

 

 

このままでは、用無しになってしまう……!

 

 

世界政府の諜報機関として働いて来た経験から、最悪な精神状態でもなんとかレオヴァと取引を続けていたフーズ・フーだったが、限界を感じずにはいられなかった。

 

どうする?

もう有力な手札はない。目ぼしいものは出しきった。

おれには何が残ってる?

どうすればいい?打開策を……なにか…なにか!!

 

そう必死に考えているフーズ・フーの焦りとは裏腹にレオヴァとの次の取引の約束は近付いていた。

 

 

 

そして、良い打開策を思い付かぬまま迎えた6度目の取引でフーズ・フーは隙を見せるという失態を犯したのだ。

 

終わった……。

 

処分される。そう思い体を固くしたフーズ・フーにレオヴァは予想外な行動を取った。

 

 

『…海軍内や、政府の人間の給料や採用方法がしりたい。

他にも労働環境も気になっていたんだ。

……その情報を売ってくれるか?』

 

 

一瞬、フーズ・フーは呆気にとられた。

そんな事が情報としての価値があるなど思わなかったのだ。

それに、謂わば助け船の様な真似をしてきたレオヴァの考えも読めなかった。

 

だが、逆らうと言う選択肢はない。

多くの拷問によって四肢に深い傷を負っている自分が敵う相手ではないのだ。

 

フーズ・フーはレオヴァの問いかけに素早く答えを返した。

 

 

『そんな情報でよけりゃ売ってやるさ…。』

 

 

 

 

 

その後も幾度か取引を続けていたフーズ・フーだったが、ついに本当になにも取引出来るものがなくなった。

 

しかし、レオヴァはそんなフーズ・フーに新たな提案をしたのだ。

 

 

『一度、おれに雇われてみないか?

フーズ・フーは書類仕事も出来るんだろう?

国務が出来る者が少なくてな……待遇はしっかりとしていると自負しているし、悪くない提案だと思うが。』

 

『……は?』

 

 

フーズ・フーは理解に苦しんだ。

国務というのは重要な仕事だ。

それを直接決めるでないにしろ、事務作業として内容を見れるポジションに余所者の自分を置くと言うのか、と。

 

まるでフーズ・フーが断るなどと微塵も思っていなさそうな振る舞いのレオヴァに、苦い顔をしつつも返事を返す。

 

 

『……契約内容を聞いてからじゃねぇと、決めらんねぇよ。』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

それ以降、フーズ・フーは鳳凰城(ほうおうじょう)のある一室にて生活する事となった。

 

一室とは言うが、やたら広く。

部屋の中に仕切りがあり、生活スペースも確保されつつ、仕事部屋も……と言うような作りの綺麗な部屋であった。

 

挙げ句、頼んでもいないのにレオヴァの手によって、室内に小さな自然まで造られてしまった。

ししおどしと、そこに泳ぐ鯉。

そして、青々とした苔と小さな名も分からぬ白い花。

 

フーズ・フーはそれを見て、なんとも言えない顔をすることしか出来ない。

 

 

無理やり部屋に自然を造った張本人は自慢げに笑うと

 

『自然の緑には安らぐ効果があるんだ。

それに鯉は縁起物でな……見目も良くておれは好きなんだ。

フーズ・フーはあまり外に出ないだろう?

部屋に自然があるのも良いと思ったんだ。』

 

と、悪びれるどころか楽しげに話し出した。

 

そして、軽く相槌を打つフーズ・フーに

『餌はこれをあげてくれ。』

と言い残すと消えて行ったのだ。

 

 

『……いや、おれが面倒みんのかよ!!』

 

そう、突っ込んだフーズ・フーの言葉はレオヴァには届かなかった。

 

 

自分勝手な野郎だな……と悪態をつくフーズ・フーだったが、結局は鯉の面倒をみてやることにしたのだ。

 

それに、たまに仕事以外で鯉の様子を見に来るレオヴァとの会話は悪くはなかったし、レオヴァの手土産に持ってくる上手い酒を飲む為だと思えば、なかなか鯉も悪くはないかもしれない、とさえ思い始めていた。

 

 

 

 

 

そして、いつしかフーズ・フーの精神状態は、ほぼ全盛期の頃と変わらぬ程に持ち直していた。

 

精神が安定していくにつれて、少しの不満が心の中で膨らんでいく。

 

“おれはなにやってんだ……?”

 

世界政府の追っ手を恐れ部屋で淡々と事務をこなす日々。

 

何故、おれが怯えて暮らさなきゃならねぇんだ。

何故、おれが世界政府なんかの為に人生を駄目にされなきゃならねぇ。

何故、何故……。

 

そんな怯えよりも怒りがふつふつと沸き上がっていく、フーズ・フーの心を見透かすかの様にレオヴァから新しい仕事をしないかと誘いが掛かった。

 

 

『海軍がウチのナワバリに手を出してきているらしくてな……その討伐遠征に一緒に来る気はないか?』

 

 

フーズ・フーはその遠征に参加したかった。

だが、今の自分は右脚が不自由だ。

それに左手に至っては、指どころか手の半分が拷問によって壊死してなくなってしまっている。

 

ハッキリ言って戦力にはならないだろう。

それをフーズ・フーは自覚していた。

 

『おれが行っても足手まといだ。』

そう口から言葉を溢したフーズ・フーの仮面の下の目を真っ直ぐに捉えたレオヴァが強い声で言った。

 

『今のままなら……な。』

 

 

意味が分からずレオヴァの目を見つめ返しているフーズ・フーに新しい取引が差し出された。

 

 

『ウチに……百獣海賊団に入るなら、その手足はおれが治そう。

フーズ・フー……おれと来るか、逃げ続けるか選べ。』

 

 

ゴクリ…と、息を飲んだフーズ・フーだったが、(すで)に答えは決まっていた。

 

 

『アンタについて行く。

……おれは百獣に入る。』

 

 

その答えを待っていたかの様にレオヴァは目を細めた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

その後、フーズ・フーはあり得ない現実に息を飲んだ。

 

レオヴァは何でもない様な顔でフーズ・フーの体のパーツを作りだし、ローと言う青年を呼び出してあっという間にフーズ・フーの四肢を治してしまったのだ。

 

信じられない出来事に言葉を失っているフーズ・フーにレオヴァは笑いかけると一言

『では、討伐遠征……楽しみにしてるぞ。』

と、言って部屋を後にしていった。

 

 

 

その後は言うまでもなく、フーズ・フーは元に戻った体と今までの戦闘経験を大いに()かし、討伐遠征にて最良の結果を残した。

 

身体(からだ)も心も、あの地獄のトラウマから解放されたフーズ・フーの働きぶりは周りも目を見張るものがあった。

 

もとより戦闘や指揮の才能があったフーズ・フーは、すぐに多くの遠征で勝ち星を上げ続け、実力社会である百獣海賊団で地位を確かなものへとしていったのだ。

 

 

 

 

過去の自分がなぜあんなにも政府…サイファーポールに固執していたのか。

今となっては過去の自分が馬鹿馬鹿しく感じてしまっていた。

ここ、百獣海賊団での生きやすさ。

何より上に立つカイドウとレオヴァの偉大さと強さを前にしたら、全てが霞んで見える。

 

そういう考えに至る程に、フーズ・フーは百獣を気に入っていた。

 

 

そして、ついにレオヴァからの幹部候補への抜擢。

 

フーズ・フーは新たに強く決意した。

 

 

『もう、この場所は何があっても手放さねぇ』

 

 

仮面の下の瞳には強い光が灯っている。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

俺は新しく作る幹部候補、飛び六胞のメンバーをどうするか頭を悩ませていた。

 

 

ロー、ドレーク、スレイマン、うるティ、ページワン、ササキ、ブラックマリア、フーズ・フー

候補はこの8人だ。

 

皆、一人一人に素晴らしい戦闘力と個性がある。

 

だが、父さんが“飛び六胞”と名付けたのだ。

選べるのは6名のみである。

 

飛び六胞とは別に、近衛隊の隊長も増やそうと考えている為

この8名の昇級は決定事項なのだが、誰を何処の地位に就けるべきか……それが悩みどころであった。

 

 

何かあれば父さんに、一番に相談するのが決まりだ。

勿論、すぐに父さんへこの話を持って行った。

 

 

ローは判断力、サポート能力共に申し分なく、遠征においても内政においても高い処理能力がある。

それに、誰と組ませても(うま)くやっていける処世術も強みだ。

 

ドレークは指揮能力と部下の管理能力が高く、遠征だけでなく取引なども任せられる逸材だ。

感情を抑えて任務を優先できる自制心も持っているし、部下からの信頼も厚い。

 

スレイマンは統率力、集団戦において良い結果を数多く残しているし、能力自体も汎用性が高い。

……稀に直情的になることがあるのは欠点だが、それも父さんを思ってのことだと思えば可愛らしいものだろう。

 

うるティは……………そうだな……戦闘力と打たれ強さ、この2点にはとても光るものがある。

……いや、まぁ少し上に立つ者としては不安要素もあるが………今後きっと成長してくれる……筈だ。

何より、駄目だと決めつけてはうるティの成長を妨げるからな。

 

ページワンは連戦での立ち回りや、機転は目を見張るものがある。

何より、あの忍耐力は素晴らしい。

……が、姉であるうるティと共に行動するとよく振り回されてしまっているのを見るから心配ではあるが、仲が良いのは良いことだろう。

 

ササキは部下とのコミュニケーション能力は勿論、耐久戦での安定感もあり、遠征や輸送などでの護衛能力が高い。

少しぬけている……天然な所が少し不安ではあるが、それもササキの愛嬌だ。

 

ブラックマリアは相手の懐に入るのが上手く、戦闘においても自分のやりやすい場を作れる才能がある。

ただ、現在任せている仕事柄あまり遠征は出られないが……。

…たまには遠征へ行かせてやるのも悪くはないだろう。

 

フーズ・フーは高い機動力と隠密行動の上手さが高く評価出来る点だ。

任務と私情をきっちり分けられる所も強みだろう。

……少し慢心気味な所があるのは否めないが、今後の“組手”でそれは改善出来る筈だ。

 

 

と、一通り俺の意見を言ってみた所で父さんの返答はこうだった。

 

 

『……よし、レオヴァの好きにしろ。』

 

 

結果的に父さんの要望などはなく、俺の好きにして良いとの事だった。

 

振り出しに戻った俺は執務をこなしながら考え続けた。

 

 

そして、キングの助言もあり6人を絞り込むことに成功したのだ。

 

 

俺は5日後の正式発表までに、6人全員に飛び六胞への昇進を受けるか否かの返答を聞くべく立ち上がったのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

鬼ヶ島にて開かれた宴でカイドウより、新しい幹部の発表が行われた。

 

その幹部の名称は“飛び六胞”

 

カイドウより任命されたのは

ドレーク、ササキ、うるティ、ページワン、ブラックマリア、フーズ・フー

の6名である。

 

 

 「以上が飛び六胞のメンバーだ。

次に近衛隊の新制度についてだが……それはレオヴァから発表がある。」

 

 

画面いっぱいに映っていたカイドウがフェードアウトしていくと、入れ替わるようにレオヴァが現れ、話を引き継いだ。

 

 

 

「守護隊の人数増加や、仕事量の増加を受けて、近衛隊(このえたい)の制度を新しくする運びとなった。

元々、3名の隊長に数名の部下のみだったが

今後は隊長の人数を増やすと同時に、近衛隊の隊員も増やす事となる。

 

して、近衛隊隊長は引き続き、ヒョウ五郎、ロー、カヅチ。

そして、新たにスレイマンを任命し

計4名の隊長の下、数十から数百の隊員という規模になる。

 

船員の皆にはあまり近しくない話題だとは思うが、ここで発表させてもらった。

おれからは以上だ、では……父さん。」

 

 

スクリーン上のレオヴァは軽く微笑むと、カイドウと入れ替わった。

 

既に飲んでいたのか、酒瓶を片手に持ったカイドウがまた話し始める。

 

 

「そういうわけだ!

近衛隊隊長も飛び六胞と同等の地位の幹部とする。

 

……まぁ、もう細けぇことはいいだろ。好きに飲め!!」

 

 

カイドウのこの言葉を皮切りに船員たちは盛り上がり、本格的に宴が始まった。

 

 

わいわいと楽しげに酒を飲み、料理を口に運ぶ船員たちとは別室にいるササキ達も上機嫌に酒をあおっていた。

 

 

 

「へへ……カイドウ様とレオヴァ様に指名されんのは嬉しいな…」

 

「ふふ~ん!

さっすがカイドウ様とレオヴァ様ナリ!

ぺーたんと一緒に明日の遠征も頑張るッ!」

 

 

 

「カイドウさんに任命されっと、レオヴァさんにされるのとは別な喜びがあるよな!」

 

「……喜ぶのはいいが飲み過ぎるなよ、ササキ。」

 

「わかってるって!

ほら、ドレークも飲めよ!

本当は死ぬほど嬉しい癖によ~!!」

 

「う……嬉しくないはずがないだろ。

……まぁ、めでたい日だ。一杯頂くとしよう。」

 

 

 

「うふふ♡

でもスレイマンやローちゃんの近衛隊隊長への任命も羨ましいわよね。

レオヴァ様直属……なんて素敵な響きかしら♡」

 

「ローちゃんって呼ぶんじゃねぇ…!

……直属っつっても、いつも一緒に仕事できる訳じゃねぇよ。

レオヴァさんは色んな所飛び回るからな。」

 

 

「近衛隊だろうとなんだろうと、おれのやる事は変わらん。

カイドウ様とレオヴァ様の役に立つのみだ。」

 

「スレイマンは固いわね……けどそんな所も私好きよ♡」

 

 

 

「けどよ、フーズ・フーまで幹部に選ばれるとはなァ…」

 

「ウチは結果を出せれば誰だろうと上へ行ける。

フーズ・フーは確かに最近入ったばかりだが、ここ最近の功績を見れば頷ける結果だろう。」

 

「……へっ。そりゃどうも。」

 

 

 

別室で各々が好きに飲み食いをしながら、会話を夜中まで続けていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

【懐かしのラザニア】

 

 

 

自然豊かで綺麗な小島を、今日もネコマムシは散歩している。

 

これは島のパトロールを兼ねた大切なネコマムシの日課なのだ。

 

 

「ニャンニャニャニャ~~ン!

今日も獣人島は平和ぜよ!」

 

 

腕としっぽをゆらゆらと左右に振りながら、鼻歌交じりに散歩コースをドスドスと歩く。

 

 

ぐるりと島を一周して、中心にあるミンク族が住む町に戻ってきたネコマムシは親友と呼べる男の匂いを感じとり、弾かれたようにその場所へ突撃していった。

 

 

突然、物凄い勢いで現れたネコマムシにミンク族の町人達は目を丸くする。

 

 

ドゴォ…!!

 

凄まじい音を立てて突っ込んだネコマムシに、側にいたベポが声を上げる。

 

 

「えぇー!?レオヴァさまが潰れちゃった!?

ネコマムシの旦那危ないよぉ!!」

 

 

ベポの心配を余所に、土煙が晴れたその場所ではレオヴァが易々とネコマムシのタックルを受け止めていた。

 

 

「ガルチュー!!

レオヴァ、会いたかったぜよ!

全然顔を見せに()んきに……ずっと待っちょったき!」

 

「ガルチュー、ネコマムシ。

すまなかった……忙しくてなかなか会いに来れなくてな…」

 

「レオヴァはいつも働き詰めやか……

たまには、ここでゆっくりしゆうのも()か!

町の皆もレオヴァが居ると喜ぶきに。」

 

 

レオヴァに引っ付いたまま、ほのぼの会話を始めたネコマムシを周りのミンク族の町人たちは優しい顔で見ている。

 

 

 

「今日はラザニアの材料を持ってきているんだ。

久しぶりに、おれがネコマムシに振る舞おうと思ってな。」

 

 

ガルチューガルチューと言いくっついたまま一向にレオヴァから離れないネコマムシだったが、この一言で満面の笑みで跳ね上がった。

 

 

「レオヴァのお手製ラザニアやが!?」

 

「あぁ、今から作るから少し時間を貰うことになるが……」

 

「いくらでも待っちゅうきに!

ニャンニャニャ~ン ラッザニャ~ン!!♪」

 

 

喜ぶネコマムシのラザニアの歌を聞きながら、広間に設置してあった屋台のような料理器具台でレオヴァは手早く調理を始めた。

 

玉ねぎやセロリ、にんじんなどを、それぞれ皮や筋を除いてみじん切りにしていき、炒める。

途中でローリエと言うハーブを加え香りを付けつつ、きつね色になるまで火にかける。

いい頃合いで挽き肉を加え、白ワインを少々。

 

食欲をそそる匂いにネコマムシはレオヴァの周りをくるくると回る。

 

 

「レオヴァ!いい匂いぜよ~!

まっこと楽しみにゃあ!」

 

「ふふ……まだ作り始めたばかりなんだがな。

火が危ないから手を出しては駄目だぞ。」

 

「わかってるぜよ~!!

ン、ニャニャ~ン♪」

 

 

トマトソースを作りつつ、ホワイトソースも同時に作り終えたレオヴァはミルフィーユ状にラザニア用パスタとソースを盛り付けていく。

 

最後にこれでもかとチーズを上にトッピングし、オーブンへと投入した。

 

 

「焼き上がりが待ちきれんにゃあ!」

 

「レオヴァさまのご飯楽しみだよ~!!」

 

「あと20分は待たないとだからな。

……ベポ、オーブンは熱いから触っては駄目だぞ?」

 

「アイアイ、レオヴァさま~!」

 

 

「「 ラッザニャ~ン!♪ 」」

 

 

オーブンの前ではキラキラした瞳で、またラザニアの歌をネコマムシとベポが歌っている。

 

レオヴァはそれを横目に、他のミンク族の為にまたラザニア用のパスタをミルフィーユ状に敷き詰める作業に戻っていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ネコマムシの目の前には大好物のラザニアが置かれている。

 

早く食べたい!待ちきれない!とばかりにネコマムシがレオヴァを見た。

 

 

「どうぞ、召し上がれ。

ネコマムシは猫舌だったな……熱いから気をつけてくれ。

ほら、ベポも前掛けをしてから食べないと駄目だろう。」

 

 

「は~い、レオヴァさま!

んっ……と。前掛けしたよ!

いただきま~す!」

 

「ゴロニャニャニャ!いただくぜよ~!!」

 

 

微笑みながら召し上がれと声をかけてくれたレオヴァに笑顔で答えたネコマムシとベポは、出来立てのラザニアを火傷に気を付けつつ頬張った。

 

とろとろのチーズに旨味たっぷりのソース。

そして、もちもちの歯応えのパスタ。

 

大好きな味のラザニアにネコマムシの顔は緩みっぱなしである。

 

昔、レオヴァが初めて作ってくれた時と変わらぬ美味しさに、ネコマムシはどんどん平らげていった。

 

 

「美味しいにゃあ!

レオヴァの作ってくれゆう ラザニアが一番ぜよ!!」

 

「そうか?

ネコマムシがそんなに喜んでくれるなら、作った甲斐があったな。」

 

 

優しく笑うレオヴァとはしゃぐネコマムシを、周りの皆は暖かく見守りながら、手元にある美味しいラザニアを頂くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ー後書きー
前回もご感想、ここ好きありがとうございます!

感想にて数件、マゼラン副署長の世間体を心配してくださっている紳士の方々がいて少し笑ってしまいました。笑
マゼラン副署長はトイレに間に合っていたのか……それは本人のみぞ知る……。

誤字報告も助かります!

ここまで読んでくださりありがとうございました~!!ヾ(・ω・*)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入り込んだが最後

気が向きましたらアンケートよろしくお願いしますm(__)m


 

 

 

私は元帥の命令で、ある海賊団に潜入する事となった。

 

その名は百獣海賊団。

 

近年、信じられぬ速さでナワバリを増やし、戦力拡大を続けている凶悪な海賊団だ。

 

しかも、つい最近では大監獄インペルダウンを突破するという暴挙にまで出ている。

 

世間では、この海軍の失態とも呼べる事態は報じられる事はなかったが、政府や海軍内部での百獣海賊団への警戒度は一気に跳ね上がったのは言うまでもないだろう。

 

 

それに元帥には気になることがあるらしかった。

 

私を呼び出し、任務を任せると告げた元帥との会話での事だ。

 

 

『百獣海賊団は……何かが変わった。

10年以上前から百獣のカイドウ及び、その部下2名の凶悪さは危険視されていたが……。

 

今回のインペルダウンでの事件は違和感を覚える。

百獣のカイドウであれば、破壊を尽くすはずだ。

だが、今回の件では上部に囮を置き、別動隊が最短時間で脱獄囚を連れて消えるという手際の良さ。

 

明らかに百獣海賊団に“異分子”と言える存在が加わり、この事件の指揮を取っていたとしか思えん!』

 

 

そう言って険しい顔をする元帥に私は強く言葉を返した。

 

 

「元帥!任せてください。

世界の平和の為、必ず私が情報を持って参ります!」

 

 

任せるぞ。と肩を叩かれ、私は強く頷いた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

潜入事態は至極簡単であった。

 

 

雑用としてでもいいから連れていって欲しいと、百獣海賊団の下っ端に取り入ったのだ。

 

女である私に鼻の下を伸ばしていた愚かな下っ端は

 

 

「ふへへへ、よ~し!

なら、ドレーク様に会わせてやるよ。

そこで簡単な試験を受けて、受かったらウチに入れて貰えるぜ?」

 

と簡単に百獣海賊団の幹部、X・ドレークに会わせると言い出したのだ。

 

トントン拍子に進む入団への道にほくそ笑みながら、私は下っ端に笑顔で礼を述べた。

 

 

 

必ず、この入団試験で受かって見せると気合いを入れていた私だが、内容は拍子抜けする様なものだった。

 

まず、本当にすぐにX・ドレークに会わされた。

こんなに簡単に幹部が出向くの!?と驚いたのは言うまでもない。

 

それだけでなく、X・ドレークの態度も想像とはかけ離れており、更に私は驚いた。

 

 

「おれはドレークと言う、よろしく頼む。

話は部下から聞いている……ウチに入りたいらしいな?

 

まず、始めにウチでは簡単な試験を受けて貰うのが決まりでな。

…あぁ、そう気負う必要はないぞ。

まぁ、とにかく付いてきてくれ。」

 

 

私は言われるがまま付いて行き、部屋に通された。

椅子に座るように指示をされ、X・ドレークと対面状態となる。

 

何が始まるのかとひっそりと警戒を強めた私の前で、X・ドレークは紙とペンを持つと話し始めた。

 

 

「……では、今からおれの問い掛けに思ったまま返してくれ。」

 

「はい。」

 

「持病やアレルギー……絶対に生理的に受け付けない物などはあるか?」

 

「……はい…? え、……え?」

 

 

予想だにしなかった質問に混乱する私に、X・ドレークは怒る事もなく、慣れているのか淡々と説明を始めた。

 

 

「今後、ウチで生きていく上で持病があれば治療を受けることになる。

それと、アレルギー持ちの者は特定の食べ物と別で作られている食べ物を選べる様になっているから、その申請をするかしないかの為の確認の質問だ。

そして、蛇だったり虫だったりと生理的に無理な物があると分かっている現場に出なくて済むように予め聞いている。

以上が、質問の詳細だ。

答えたく無いものは、今後も無回答で構わん。」

 

 

ポカンとしてしまった私だが、すぐに気を持ち直して返事を返す。

 

 

「な、なるほど…分かりました。

持病もアレルギーもありません。

生理的に無理な物も特には……。」

 

 

「了解した。

……アレルギーと言う言葉の意味がわかるとは、お前は随分と物知りだな。」

 

「……医学の知識が少しありまして。

簡単な手当てや、看病ならできます。」

 

「ほう……そうか、わかった。

お前が希望するのであれば、ウチで医学を学んでナワバリの島で医者をやるか、船医として働くか選べるが……どうする?

まぁ、これは後からでも申請さえすれば変更はできるから今すぐ決めなくても良いが。」

 

「え……医学の勉強…ですか。

船員として働きながら勉強……という事でしょうか?」

 

「そうだ。

だが、他の船員とは活動内容は異なる。

2時間ほどは雑務をこなし、それが終わり次第、5時間の医学手解きを他の志望者と受けて貰うことになるな。」

 

「そ、そうなんですか……。

ぜひ、船医として働きたいのですが…勉強資金はどれほどあれば足りますでしょうか?」

 

「いや?

雑務の時間は給金がでるが、医学の手解き中は給金がでないだけで、お前が支払うような事はない。」

 

「え…? 無償で受けられる……んですか?」

 

「あぁ、今後のお前がウチに貢献してくれれば良いだけだ。」

 

 

まったく意味がわからない。

医学書だけでも高価だと言うのに、指導者までつけて無償で医学が学べるなんて。

しかも、それを言ってるのが海賊だという事実が更に意味がわからない。

 

その後も趣味や志望した動機、座右の銘……何故聞かれるのかわからない事もたくさん聞かれ続けた。

 

20分ほどの質問責めを受け終わると、X・ドレークは私の入団を認めた。

 

 

「お前は戦闘より補佐向きか。

……じゃあ、大まかな仕事の流れは彼……いや彼女に聞いてくれ。

トネグマ、彼女への今後の指導は任せる。」

 

 

トネグマと呼ばれた派手な服装の屈強そうな大男は、その見た目からは考えられない様な高い声で返事をしながら近寄ってきた。

 

 

「はぁ~い♡

ドレーク様、任せてちょうだい!

んふふ、可愛らしい子が増えて嬉しいわ~!

名前は何て言うの? 私はトネグマよ。」

 

「あ……よ、よろしくお願いします。

私はトゥレ・チェリーです。」

 

「あらあら!見た目通り可愛い名前ね!

トゥレちゃんよろしくね~♡」

 

 

きゃっきゃと楽しげに話すトネグマに連れられ、私は仕事を教えられた。

本当に簡単な雑務ばかりで拍子抜けだったが、トネグマはその度に私を褒めたり、労ってきた。

 

 

『えぇ~!もう出来ちゃったの!?

トゥレちゃん優秀すぎよ~!』

 

『あらやだ! トゥレちゃん働きすぎ!

休憩時間はちゃんと休まなきゃダメよ!

ほら、それは私に任せて休憩取りなさい。』

 

 

そんなお節介なトネグマに付きまとわれつつ、私の百獣海賊団への潜入が始まったのだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

潜入開始から5ヶ月が経った。

 

百獣海賊団での生活は、私の予想を(ことごと)く裏切った。

 

一番驚かされたのは、女であるからと見くびられることがなかった事だ。

 

ここでは性別や見た目、種族などに対して差別的な言葉を“身内”に吐くことは禁止されているらしかった。

なんでも、レオヴァと言う百獣のカイドウの息子が決めた取り決めらしい。

 

百獣の船員たちは、何故かその言い付けを忠実に守っていた。

……寧ろ、言い合いに発展する姿すら見たことがない。

 

奴らは仲間意識がだいぶ強いようだった。

 

 

潜入から一ヶ月ほど経った時に、百獣海賊団の制度を聞いたとき、私は耳を疑ったりもした。

 

“シフト制”と言う聞き慣れない制度や“有給休暇”、他にも“傷害保険”など……

 

内容を詳しく知りたいと言った私にトネグマは

『申請所の受け付けに行けば貰えるわよ!

大きめなナワバリにはだいたいあるから、次の停泊の時にでも一緒に行く?』

と言うので、私は頼むことにした。

 

そして、資料を手に入れて、内容をしっかりと隅々まで読み言葉を失った。

こんな手厚い保障が受けられるのか!?…と。

 

 

いや、どんなに豊かな国でもここまでの制度がある国なんて、世界政府加盟国ですら聞いたことがない。

 

しかも、この制度を実施しているのが、あの破壊の化身カイドウ率いる百獣海賊団なのだ………一体。どうなっているのか……。

 

私は、元帥の懸念が現実になっている可能性を強く感じていた。

 

 

懸賞金額2億ベリー……百獣の息子、レオヴァ。

この男こそ怪しいのではないかと、私は睨んでいる。

 

懸賞金額とは、世界政府に対する“危険度”を指標にかけられる金額だ。

単純な戦闘力の高さだったり、世界政府への敵対行為や民間人に多大な被害を出すなどすると、その金額は上がっていく。

そして、数億ベリーを超えた辺りから海軍大将などからもチェックされるようになる。

 

…が、私は百獣の息子であるレオヴァの懸賞金額が、億を超えているから警戒しているわけではない。

 

なにせ、百獣海賊団には億超えの海賊が数多く所属しているし、カイドウの息子であるレオヴァよりも懸賞金が高い者は何名もいる。

 

事実、2億という懸賞金額も百獣海賊団総督であるカイドウの息子だという事と、総督補佐という地位という理由でのみ付けられた金額だ。

政府には百獣の息子レオヴァが、何かの大きな事件を起こした話は一切入ってきておらず、まったく危険視はされていない。

 

……のにも関わらずだ。

 

レオヴァという男は、百獣海賊団の中で圧倒的な人気があるのだ。

 

真打ちであるトネグマや下っ端たちは、毎日の様にレオヴァの話をしている。

それも全て良い話ばかりだ。

 

怪我を治療してもらった。

壊れてしまった大切なものを直してくれた。

労りの言葉をもらった。

ご飯をご馳走してもらった。

 

……などだ。

 

幹部ならまだしも、いち下っ端に対してもレオヴァと言う男は気さくに声をかけるらしい。

 

 

私は、このレオヴァが元帥の危惧している百獣海賊団の“異分子”だと、確信に近い感情を抱いてた。

 

きっと、レオヴァという男は百獣のカイドウの息子でありながらも、人格者なのだろう。

 

今まで大きな事件を起こさなかったのは、戦闘能力があまり高くなかった事と、その性格が合わさった結果なのではないかと、私は予測したのだ。

 

事実、レオヴァという男は基本的にはワノ国から出ないと聞いた。

なんでもワノ国のナワバリをカイドウ直々に任されているとか。

 

あの破壊の化身が自分の子どもを大切にするとは到底思えないが、トネグマやX・ドレークの会話を聞く限り、百獣のカイドウは息子を溺愛しているらしいのだ。

 

おそらく、カイドウは自分の息子が海軍に捕らわれぬ様に手回しをするため、総督補佐官と言う地位を渡してワノ国へ軟禁状態にしているのだろう。

 

 

……と言うのが5ヶ月間で掴めた情報だ。

 

 

私はこの情報を元帥へ送るため、専用の鳥の足に文書をくくりつけた。

 

 

次の報告日までの5ヶ月間の間に、必ずレオヴァという男との接点を作ってみせる。

 

その男こそ、百獣のカイドウを討てる可能性に繋がる鍵かもしれないのだから。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

4ヶ月前にトゥレちゃんと言う新人が入ってきた。

 

ドレーク様に言われて、私が面倒見ることになったのだけれどトゥレちゃんは物凄く美人で、仕事もバリバリにできちゃうからビックリ!

 

愛想も良いし、聞き上手だし良い子なのよね~。

 

 

本当に“出来すぎなくらい”可愛いくて良い子。

 

 

……けど、私って温度の変化に敏感なのよ。

レオヴァ様から頂いた“SMILE”のおかげなんだけど。

 

蛇のSMILEの能力……これがあると嘘が良くわかるの。

 

人間って嘘ついたり、焦ったりすると温度が上がるんだもの、分かりやすいわよね~。

 

 

トゥレちゃんは優秀なんだけど……あの子良く嘘つくのよ。

 

休みの日に一緒にお買い物したり、お話を沢山聞いてくれるトゥレちゃんの事は嫌いじゃないわ。

 

けど、レオヴァ様とカイドウ様の事が好きじゃない子は要らないのよね……。

 

 

そんな事を思いながら、私はロー様が待っている部屋へと早足で向かっていた。

 

部屋の前につき、ノックをしようと手を上げると同時に声がする。

 

 

「……入れ。」

 

「失礼します~!」

 

 

せっかちなロー様の部屋に入り、一礼する。

…あら?既にドレーク様もいらっしゃったみたい……私ったらお二人を待たせるなんて!

 

 

「ロー様 ドレーク様、お待たせしてしまったみたいで申し訳ないわ…」

 

 

「気にしなくていい。

おれが早く来すぎただけだからな。

……そこに座ってくれ。」

 

「謝罪はいい……さっさと、例の話を。

おれも暇じゃないんだ。」

 

 

優しいドレーク様とツンデレなロー様の前に、進められるまま座り、私は話を始める。

 

 

「では、お話を始めさせて頂きますね。

単刀直入に言わせてもらいますと

新人のトゥレ・チェリー……おそらく何処かの組織の回し者かと。」

 

 

「…スパイ、か。」

 

「……少し優秀すぎるとは思っていたが、やはり…。」

 

 

「えぇ、ドレーク様の言い付け通りに監視してたのですけれど……嘘ばかりつく子でしたわ。

中でも、カイドウ様に対して見せた嫌悪感は無視できない…!

……オホン…ごめんなさい、少し感情的に……。

とにかく、どこの回し者にせよ……カイドウ様に対して負の感情を抱くものは排除すべきかと。」

 

 

私の意見に、ドレーク様もロー様も頷いて同意を示している。

その後も疑わしいあの子の特徴や、行動などを事細かにお二人に伝えていった。

 

 

「カイドウさんに対しての嫌悪感か…。

共同生活への順応の早さ…それに戦闘時に見せた、その女の攻撃方法といい……政府の犬じゃねぇのか?」

 

「トラファルガーの言う通り、その可能性は高い。

…が、加盟国などからのスパイの可能性も否定できない。

近年、ウチの技術を盗もうとする輩は増えている。

レオヴァさんが寝る間も惜しんで開発した物を奪おうなどと考える馬鹿は早急に排除するべきだ。」

 

 

お二人の話はトントン拍子に進んでいく。

 

 

「…おおかた流れは決まったか。

まぁ、証拠確保は任せろ。」

 

「あぁ、頼む。

黒だと確定した場合は、おれが処分するとしよう。

……トネグマ、引き続き監視は続けてくれ。」

 

「はい!

ドレーク様、任せてちょうだい!」

 

 

仕事に戻ると立ち上がったドレーク様に続くように、私も部屋を後にする。

 

 

……カイドウ様とレオヴァ様を害することは、誰であろうと絶対に許さないわ…。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

情報を預けた伝書鳩を空に放ってから、一週間が経っていた。

 

今日も、朝2時間の仕事を終えて、医学の指導を5時間ほど受けた。

 

百獣海賊団のナワバリの中にある、船員専用の宿へ向かって帰路を進む。

 

私は今まで2つのナワバリを見てきたが、どこも気が抜けるほど平和だった。

 

島にすむ人々は飢えている様子もなく、百獣海賊団を恐れるどころか歓迎すらしていた。

港に着けば村人がわらわらと集まり、声をかけてくるのだ。

 

 

「おい、百獣の皆さんが来たぞ!!」

 

「本当だ…!」

 

「ドレーク様、お元気そうで!」

 

「お久しぶりです、ホールデム様!

今夜はウチに飲みにいらっしゃいますか?」

 

「わ~!ドレークさま~!

ぼく、おっきくなるやつ見た~い!」

 

 

海軍でさえ、ここまでの歓迎を受ける事は滅多にない。

挙げ句には、町の子どもたちと遊んでやっている部下たちまでいる始末だ。

 

何故こんなにも百獣を歓迎するのか、私は聞き込みを開始した。

 

村人たちが言うには、元々この島は新世界に浮かんでいる事もあり、天候が安定しない島だったらしい。

その為、作物も不作だったりすることが多々あり、食料はギリギリしか手に入らない。

にも関わらず、海賊や海軍に食料を奪われることが頻繁にあったとか。

 

……海軍が食料を奪ったと言う話は衝撃だった。

どうやら補給に訪れて、無理やり金品を握らせ、そのまま食料や水を積んで出港してしまったらしい。

……それも少しの金品のみであったと言う。

 

村人のお爺さんは

『少しの金なんかあっても……買う食料が島にないんだからね…

金じゃあ、腹はふくれないってのが嫌ってほど分かる日々だったよ。』

と昔を懐かしむ様に話してくれた。

 

そして、そんな飢餓に苦しむ村人たちの前に現れたのが、カイドウの息子だったと言うのだ。

 

カイドウの息子とその部下ドレークは、あっという間に町に上陸していた海賊達を倒し、村人たちに提案をしたという。

 

 

『この島をウチのナワバリにしたい。

もし、提案を飲んでくれるのならば、島の治安と食料問題は百獣海賊団が面倒をみると約束する。

……おれ達は4日ほど滞在する、それまでに話し合って答えを出してくれ。』

 

この提案はほぼ満場一致で、受け入れる形となった。

 

村人のお婆さんの話では、最初は皆が百獣の名に恐れ戦き、断ると言う選択肢はなかったらしい。

 

 

だけれど、実際に百獣海賊団のナワバリになってみると生活は良い方へ変化したと言うのだ。

ビニールハウスなる物が設置され、新しい作物の栽培方法も教えられたそうだ。

他にも、守備拠点が島に建てられ、襲い来る海賊たちを百獣の部下達が追い払った事で治安も安定。

更には島に病院まで建ち、良心的な金額で薬の調合や診察などをしてくれる……という厚待遇まで。

 

 

その後も、村人たちが恐れていた多額の献上金も要求されることはなく。

要求されたのは、島の特産品を決まった数献上する事と、百獣海賊団の補給地点になることだけだったらしい。

 

 

……私は正直、百獣海賊団を“海賊”と呼んで良いのか分からなくなっていた。

 

 

どうやら、本当に私の読み通りレオヴァと言う男は百獣海賊団の“異分子”であるようだ。

 

どこで誰に話を聞いても、その人物像は一言で表すならば “人格者”…である。

 

一刻も早く、百獣の息子であるレオヴァと接触し、情報を集め懐に入り込まなければ……。

 

 

 

そう思っていた私に転機が訪れた。

 

百獣海賊団の幹部……トラファルガー・ローから声がかかったのだ。

 

噂ではトラファルガー・ローは、レオヴァ直々に拾って育てた幹部らしい。

……近づくには、この幹部を使うのが手っ取り早いはず。

 

年齢も幹部たちの中では若く、サポート型だと言う話もある……きっと戦闘能力も幹部の中では下の方だろう。

最悪、問題が起きればトラファルガー・ローを消し、潜入を続ければ良いのだ。

 

私は手に入れた情報を整理しながら、その幹部へ呼ばれた場所へと向かって行った。

 

 

 

そして、幹部の待つ部屋に入る。

 

部屋の中には目の下に濃いクマのできた青年が、気だるげにソファーに腰掛けていた。

 

 

「……お前がトゥレ・チェリーか。」

 

恐ろしく感情の籠っていない声色に私は息を飲んだが、返事をせねば不味いと声を出す。

 

「っ……はい、トラファルガー様。

私がトゥレです。」

 

 

灰色の瞳がゆっくりと私を捉えた。

その瞳に宿る感情に身構えたが……遅かった。

 

 

「……お前に対する慈悲はねぇ。

全て洗いざらい吐いてもらうぞ。」

 

 

この言葉を最後に私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

薄暗い部屋の中心で、何かがもぞもぞと動いていた。

ソレはよく見ると人の様な形をしている。

 

上半身しかない女の形をしたソレの顔は苦痛で歪み、まるで泣き叫んでいるかの様だ。

しかし、一切ソレから声は出ておらず、部屋ではカタカタという小さな音だけが聞こえていた。

 

 

だが、そんな異様過ぎる光景には似つかわしくない、ハキハキとした声がする。

 

 

「ロー、お前も忙しいだろ。

おれがキングにソレを渡しておこうか?」

 

 

「聞きたいことは聞けたしな…これはキングに譲るか。」

 

 

ドレークはソレを袋に詰めると部屋を出て歩き出した。

袋の中でもぞもぞと動いているソレに、不快そうに眉を潜めながら電伝虫を取り出す。

 

プルプルプル……ガチャッ

 

 

「……なんの用だ。」

 

低く唸るような声に怯むことなく、ドレークは用件を伝える。

 

「百獣海賊団の周りを嗅ぎ回ろうとしてた鼠を捕まえた。

……レオヴァさんから処分は好きにして良いと言われてるんだが。」

 

 

この説明だけでキングは察したのか、電伝虫越しにニヤリと笑う気配をドレークは感じた。

 

「レオヴァ坊っちゃんが“好きにしていい”と指示だすとはなァ……

随分と怒りを買ったらしい……ククク…おれが貰うとしよう。」

 

珍しく愉しげな声を出すキングに、すぐに持っていく。と伝えてドレークは電伝虫をきった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

レオヴァはドレークとローから報告を受けていた侵入者の情報をまとめていた。

 

しかし、海軍から送られてきたことまでは掴めたが、海軍全体の指示で来たのか、個人的な指示を受けて来たのかまで吐かせることは出来なかったと言っていた。

……どうやら、今回の侵入者は忠義高い性格らしい。

 

 

これ以上の情報はトゥレ・チェリーからは得られないだろうと、処分をどうするか聞いてきたドレークに指示を出す。

 

「“好きにしていい”……キングなら喜んで引き受けてくれるだろうしな。」

 

「…了解した、キングに処分を頼む方向で進める。」

 

 

みなまで言わずとも察してくれる優秀なドレークに、レオヴァの先ほどまでの怒りが和らぐ。

 

普段であれば手早く始末し、苦しませる事はあまりしないのだが。

トゥレ・チェリーと言う女は別だった。

この女は見事にレオヴァの地雷を踏み抜いていたのだ。

 

実は、報告の為に放たれた伝書鳩(でんしょばと)は、女を警戒していたローによって回収されており、その中身はレオヴァ達の預かり知る所となった。

 

が、その内容がレオヴァの怒りに触れたのだ。

 

 

これが、その密告書の解読された内容の一部である。

 

『レオヴァは指揮官要員であり、戦闘力は高くないと予想されるが、穏和な話の分かる人物である可能性は高く、七武海の地位またはその他の利益を提示することで、百獣海賊団内部の分裂を起こすことが出来る可能性あり。

 

百獣海賊団内部でのレオヴァの評判は高く、カイドウ対レオヴァの構図になった場合でも、多くの幹部や部下がレオヴァ側につくと予想。

カイドウを討ち取るまでは行かずとも、多大なるダメージを負わせることが出来ると推測。

 

レオヴァ陣営にカイドウを討たせる動きをさせるのが、現在の最善策であると提案します。』

 

 

他にもカイドウに対する物言いなどもレオヴァの怒りに触れる一因ではあったが

 

“レオヴァにカイドウを討たせる”

 

この一文を見た瞬間のレオヴァの表情は、外部には見せられぬほど恐ろしい顔だった。

体の周りにはバチバチと電気が漂い、拘束されていた女に数多の裂傷や火傷を作った。

 

今にも女を殺さんばかりの雰囲気にまでなったレオヴァだったが、側にいるドレークとローの気配で、自分の能力で二人に怪我を負わせてはならぬと己を律し、告げたのだ。

 

 

『手段は問わない、どこの人間か吐かせておいてくれ。

……おれは少し頭を冷やす。』

 

 

その後ローとドレークは、女から出させられる情報を吐かせて今に至る。

 

 

海軍が差し向けてきた侵入者……

レオヴァはおそらく組織全体の意向ではなく、個人の……元帥や大将などの差し金だと踏んでいた。

 

最初に頭に浮かんだのは、昔絡んできた馬鹿力爺さん……ガープだったが

その可能性は薄いのではないかと思い、その近しい人物が怪しいのではないかと考えた。

 

結果は誰の差し金かは判らず、情報が出て行かなかった事で良しとしたのだが。

 

 

 

 

情報をまとめ終え、国務も片付けたレオヴァは、百獣海賊団員の御意見箱に手を伸ばし、一枚一枚目を通して行く。

 

今頃、久々の玩具に口角を上げているであろうキングを思いながら、レオヴァは船員達の要望や困り事の内容を見ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

日が落ち、きらびやかな街灯に照らされた小道を狂死郎は歩いていた。

行き交う人々が会釈してくるのに対して、軽く目線で返していると、後ろから明るい声がかかる。

 

 

「おぉ、狂死郎じゃねぇか!

お前もレオヴァさんに誘われたのか!」

 

 

振り返ると満面の笑みで手を振りながらササキが歩いて来ている。

狂死郎はくるりとササキに向き直ると、普段のニヤリとした笑みとは違う笑顔を向けた。

 

 

「ササキか…!

そうか、じゃあお前もレオヴァ殿に?」

 

「そうそう、おれもレオヴァさんに誘われたんだよ。

狂死郎もいるなんて、今夜も旨い酒を楽しめそうだ!」

 

「レオヴァ殿とササキと飲めるのは久方(ひさかた)ぶりだ。

おれも今夜は純粋に楽しませてもらうとするか!」

 

 

ご機嫌に狂死郎の背をバシバシと叩きながら、レオヴァの待つ店へとササキは歩きだした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

この二人……正反対な性格の様だが、実はとても気の合う者同士だ。

 

狂死郎とササキの出会いは、レオヴァからの個人的な飲みの誘いだった。

 

レオヴァと二人で酒を酌み交わすのだと思っていた狂死郎とササキだったが、実際にレオヴァに言われた飲み屋へ入ると其処には接点のない男が居たのだ。

 

だが、お互いに話した事はなくとも、存在は知っていた。

 

ササキは真打ちの中でも指折りの強者であるともっぱらの噂であったし、元は敵船の船長であったがレオヴァに認められた男だ、との噂も狂死郎は耳にしていた。

 

一方ササキも噂や人伝に狂死郎の話は聞いていた。

 

なんでもレオヴァと共に悪名高い黒炭オロチという男を討ち取り、ワノ国の夜明けへの一歩を担ったとか。

他にも大名としても有能でレオヴァから厚い信頼を寄せられているとも聞いていた。

 

 

居る筈のレオヴァの代わりに現れた存在に狂死郎もササキも呆気にとられていたが、狂死郎の立て直しは早かった。

 

初対面……しかも真打ちという百獣海賊団幹部相手に突っ立っていては礼を欠くと、自己紹介を始めた。

 

 

「……お初お目にかかる、ササキ殿。

お噂はかねがね聞き及んでおりまする……。

拙者…狂死郎と申す者。以後お見知りおきを。」

 

「おー……おれもよくお前の話は聞いてたぜ。

まぁ、よろしくな。」

 

 

ササキは狂死郎の堅すぎる挨拶にさらっと返すと、呼び出した張本人であるレオヴァを二人で待つ流れになった。

 

 

そのあと、五分ほど経ってからやってきたレオヴァと、三人で酒を酌み交わすことになり、店が閉まるまでの数時間を共にしたのが初めての顔合わせだった。

 

 

 

狂死郎のササキへの第一印象は“単純な男”…である。

 

ササキは、レオヴァが褒めれば大きな口に弧を描かせ、嬉しげな顔になり

レオヴァが政策について話すと明らかに難しい顔をして、腕を組んで唸るのだ。

 

狂死郎は思った。

『……なんて分かり易い奴だ…扱い易過ぎる……』

 

 

パッと見でどんな感情なのか分かり易過ぎるササキの第一印象が、単純な男になってしまったのは仕方がないのかもしれない。

 

 

一方、ササキの狂死郎への第一印象は“物知りな奴”…である。

 

一見、何を考えているのか解らぬ笑みを浮かべている狂死郎だが、レオヴァの連れて来た男だと言うこともあり、ササキは狂死郎への警戒心はほぼゼロだ。

 

その為、いつも通り楽しくレオヴァと飲んでいたのだが、狂死郎とレオヴァの会話は少し難しかった。

 

そこで、ササキは思った。

『コイツ、レオヴァさんの話に付いていけるのかよ!

すげぇ頭良いんだろうなァ。』

 

 

……本当に単純な男である。

 

して、狂死郎はササキからの第一印象が物知りな奴に決定されたのだ。

 

 

 

二人はその後もレオヴァの誘いや金色神楽……ちょっとした宴などで度々、酒の席を共にした。

 

 

ササキは聞き上手で、話題の引き出しも沢山持っている狂死郎をすぐに気に入り、色んな話をするようになった。

ついには、狂死郎が大名として任されている町に自ら足を運ぶまでになっていたのだ。

 

 

狂死郎は裏表のない、気さくなササキと飲むのがストレス発散になっていた。

 

日頃から、傳ジローとしてではなく狂死郎として生きることに気を遣い、他の大名との小さな腹の読み合いなどにも神経を使う生活を送っている狂死郎にとって、本当に何も深いことを考えずに付き合えるササキは好ましかった。

 

 

それに、ササキが放ったある一言は、狂死郎を謀らずも救う形となっていた。

 

 

実は、狂死郎にはレオヴァに隠している事があり、それが自らを追い詰めていたのだ。

 

その秘密とは……モモの助と赤鞘が20年後に飛んでいる事だった。

 

ただでさえ、狂死郎は良くしてくれたレオヴァをお互いの立場上仕方がなかったとはいえ、討ち入りという形で裏切ったと負い目を感じている。

なのに、レオヴァは不満一つ漏らさず、ワノ国の民から おでんの娘と赤鞘を匿い続けてくれるのだ。

 

 

……20年後、モモの助が現れた時は事情を説明し、外へ逃がす…または共に逃げるという選択肢を狂死郎は取るつもりなのだ。

 

だが、やっと心からの笑顔を取り戻した日和をワノ国の外に連れて行くのは残酷な事ではないか…とも狂死郎は思っていた。

 

なにせ最近では、キャロットと言う小さなミンク族の友人が出来たと嬉しそうに話をする程、馴染んでいるのだ。

 

 

そんな色んな想いや20年後に現れる仲間達への対応を考え、いつも狂死郎は気を張り詰めていた。

 

しかし、狂死郎もひとりの人間なのだ。

 

普段のストレスとササキの裏表のない性格に、つい口から想いが溢れた。

 

 

『ササキ…おれが昔、レオヴァ殿からの恩を仇で返した(たわ)け者だとしたら……どう思う?

………償えると思うか?』

 

狂死郎らしからぬ話の振り方にササキはきょとんとしたが、すぐに笑いながら答えた。

 

 

『ははははっ!狂死郎…!

そりゃおれに対する嫌みかよ!

おれなんてレオヴァさんとの出会いは殺し合いだぜ?

……まぁ、殺し合いっつーか…レオヴァさんにボコボコにされたんだけどよ……

今なら、レオヴァさんがブチキレてた理由も分かるけどなぁ。

……ページワンをボコッちまったのが運の尽き……ん?

けど結果的には、今楽しいから運の尽きではねぇのか?』

 

 

豪快にケタケタと笑うササキは、空になった狂死郎の盃に酒を注ぐ。

狂死郎は並々に注がれた酒を見ながら、珍しく芯のない声で返した。

 

 

『……答えになってないぞ、ササキ。

おれは……どうしても昔の事を…………いや、すまない。

せっかくの美味い酒を濁すような話だった。

忘れてくれ……それより…』

 

 

パッと顔に笑顔を戻した狂死郎が別の話題を言うより早く、ササキがバシッと小気味良い音を立てながら狂死郎の背を励ますように叩いた。

 

 

『昔は昔、今は今だろ!

昔の事をぐるぐる考えるより、今後どうやって行くか考える方が、おれは好きだ。

 

狂死郎は先を読むのが上手ぇじゃねぇか、おれァ…お前のそう言うとこ……尊敬してんだぜ?』

 

と、笑ったササキの顔は眩しく見えた。

一瞬、ササキの方を見て目を大きく見開き、また目線を下げて狂死郎は渇いた笑いと自嘲を溢す。

 

 

『ハハッ……全てを話せぬ、後悔ばかりのおれでもか。』

 

 

『何でもかんでも全部知っとく必要ねぇだろ。

狂死郎の過去は知らねぇけど……今、お前と飲むのは楽しいし、おれにとってはそれで十分だ。』

 

 

狂死郎もおれと飲むの楽しいだろ?

そう冗談交じりに告げ、狂死郎にササキは笑顔を向け続ける。

 

……この時オロチを討って以降、狂死郎にとって初めて友と呼べる存在が出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

そんな親友二人は、楽しげに話しながらレオヴァの待っている店の扉を開けた。

 

 

「レオヴァさん!悪い、待たせた!」

 

「レオヴァ殿、すまぬ…遅くなった!」

 

 

二人一緒に店に入ってきた姿を見て、レオヴァは相変わらず仲が良いと笑う。

 

 

「いや、おれもさっき着いたばかりなんだ。

……少し不快な事があってな…付き合ってくれ。」

 

 

「ははは、レオヴァ殿でも嫌なことがあるとは!」

 

「よし! レオヴァさん、朝まで付き合うぜ!」

 

 

三人は机に向き合うように座り、ササキが店員に注文を頼む。

 

 

「とりあえず酒と~……メニューの食いもん全部!

あ、あとアスパラ巻きは3皿で!」

 

 

「「いや、それは頼みすぎだろう!」」

 

 

狂死郎とレオヴァからの突っ込みにササキは口を大きく開けて笑った。

 

三人の小さな宴が今日も始まったのだった。

 

 

 

 

 

 





ー後書きー

前回も暖かい感想から鋭いコメントまで、ありがとうございます!!
誤字報告下さる優しき頭脳派の皆様にも感謝ですッ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最高傑作同士の邂逅

 

 

とある貿易での事だった。

 

レオヴァは通常通り賃金と品物の交換を終え、ナワバリの異常がないかを視察していた。

 

すると、馴染みの町長が声をかけてきたのだ。

いつもの様に軽く世間話をしていたレオヴァだったが、ある話題に食い付いた。

 

 

『変わった自然現象の起こる島で採れる…光る砂糖?

それは見たことも聞いたこともないな……』

 

『えぇ、その島でしか取れない特産品でしてなぁ。

レオヴァ様は珍しい物がお好きだと聞きまして、その島の友人に譲って貰ったんですよ。

これがその特産品です……ささ、どうぞ!』

 

『…ほう、その島でしか取れぬ特産品か。

これは随分と綺麗だな……ありがとう。』

 

『いえいえ!

レオヴァ様には数えきれぬ程お世話になってますからねぇ。

気に入って頂けたなら、わしも嬉しいですよ。』

 

 

レオヴァはキラキラと光る不思議な砂糖の入ったビンを懐にしまい、礼を述べると町長と別れた。

…勿論、別れ際にその島の場所を聞くのを忘れずに。

 

 

面白い特産品に島特有の自然現象……レオヴァの興味を引くには充分すぎる内容だった。

 

レオヴァはすぐに、この砂糖の可能性を模索する。

 

 

「(スイーツへの使用……トッピングやコーティングに使えば見た目を良く出来そうだ。

いや、寧ろ金平糖のような形で素材その物の良さを際立たせるのも有りか…?

 

まずは試作品をワノ国内で販売……好感触であれば他の国への貿易に加える事も視野に入れるか。

……金平糖などにすればワノ国の菓子としても商談の時に良い効果も期待できる可能性もあるしな……

 

最近手を出し始めたカクテルにも使えるかもしれない

……光る酒か…父さんの反応が気になるな…

あまり甘過ぎる酒は父さんの口には合わないだろうが、辛口の焼酎の合間にアクセントとして飲むのは有りだな……よし、まずはカクテルに使えるかの実験を…

 

……いや、先にこの特産品を作っている島に商談を取り付けるか。

試作品を作るにしても量は必要だからな。)」

 

 

思案を巡らせながら船へと戻ってきたレオヴァは、すぐに行動に移した。

 

 

「ロー、少し寄りたい場所が出来た。

出港準備は問題ないか?」

 

珍しく早く出港しようとするレオヴァにローは少し首を傾げたが、また何か思い付いたのだろうと察し、読んでいた医学書を机に置くと答えた。

 

「…お帰り、レオヴァさん。

今すぐにでも船は出せるが…何処へ?」

 

「ただいま、ロー。

……光る砂糖の商談を取りに行く。」

 

「…光る砂糖?」

 

 

またレオヴァさんの珍しい物好きか、とローは笑った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あれから、あっさりと光る砂糖の貿易を取り付け、更にはナワバリにするという成果を残したレオヴァは3度目の視察へ向けて準備をしていた。

 

 

ナワバリには常駐(じょうちゅう)している百獣の部下がいる。

その為、基本的に何か有れば連絡が来る手筈になっており、問題があったら幹部やレオヴァが向かうのが流れだったのだが。

 

ここ数年では、定期的に重要度の高いナワバリに赴き、現地の改善や、そこで働く部下達の意見などを聞くのはレオヴァの仕事になりつつあった。

……逆に重要度の低いナワバリは幹部がたまに見回りに行くのみだが。

 

治安維持や流行り病の防止、食料などの確保……その他諸々。

ナワバリをしっかり維持することは大切だというレオヴァの方針によって、最近では “ナワバリ検定” と言う資格が出来たほどだ。

 

この“ナワバリ検定”は基本的には取りたい者のみの受講であるが、ナワバリに常駐する船員を纏める立場の“真打ち以上”の地位の有るものは受講が必須である。

 

内容としては、ナワバリでの人々の扱いや緊急時の対応を中心に干魃(かんばつ)や洪水の対応、原因不明な病が流行った場合の応急措置など

様々なナワバリ統治に役立つ知識である。

 

ちなみに、ナワバリ検定は初級・中級・上級の3つのランクがあり、そのランクに応じて給金が増える仕組みがある。

その為、多くのギフターズが中級以上を狙って受講する傾向にあり、最近ではレオヴァが授業を受け持った日は講義室に人が入りきらなくなるのも名物の様になってしまっている。

 

 

して、ナワバリ巡回と言う名の視察の準備をしているレオヴァの側には、ハイテンションな一匹が出発を今か今かと待ちかねていた。

 

 

「レオヴァ様との遠征久しぶりだ~!

一緒にいっぱい食べ歩きしたいなぁ。」

 

荷積みをするでもなく、レオヴァの周りをピョンピョン跳ねているベポに鋭い声がかかる。

 

 

「おい、ベポ!

レオヴァさんにやらせてんじゃねぇ。

食べ物の事ばかり考えてねぇで荷積みやれ!」

 

「ご、ごめんよ…キャプテン。

おれつい、楽しみで……レオヴァ様!それおれが持つよ!」

 

 

怒られたベポはレオヴァが運んでいた荷物を受けとると手早く荷積みを始めた。

最初からやれよ…と呆れているローにレオヴァは笑いつつ、航路の確認作業を始める。

 

 

 

しかし、今回の遠征で起こる大きな問題を、平和に遠征準備を進めるレオヴァは知る由もなかったのだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

レオヴァは目の前の船と、その船に乗っていた男を見て思考をフル回転させていた。

 

 

小豆色の短髪に、鋭い目付き。

顔半分を隠すマフラーと体に刻まれたピンクのタトゥーが印象的な大男は、間違いなくシャーロット・カタクリだろう。

 

一切、隙を感じさせぬその佇まいは、一筋縄では行かぬ気配をひしひしと感じさせた。

 

 

「(……ビッグ・マムとの抗争は避けたいが…

相手に引く様な動きはない……ナワバリに仕掛けて来たと言う事は“そういう事”なのか?

ここで交戦するのはウチにとって不利益だ。

ナワバリも荒れるし、特産品の生産にも関わる。

尚且つ、住民を守りながらなどと言う甘い戦闘で追い返せる様な相手ではないだろう……どうするべきか……)」

 

警戒態勢は崩さぬまま、思考を巡らせるレオヴァ。

 

 

一方、カタクリも顔には出さぬが焦っていた。

 

目の前には百獣のカイドウの息子。

しかも、親の七光りであり大した実力はないとの噂を耳にしていたと言うのに、実際は違った。

 

隙のない動きに、部下には手出しさせないと言う威圧感。

聞いていた噂とは180度違うその姿にカタクリは警戒心を強める。

 

 

「(……ペロス兄やダイフクの噂話は当てにならねぇな…

百獣との抗争は避けるべきだ……だが、ママが所望する例の砂糖を持ち帰れないのはマズい…!

おれだけならまだしも…妹達に被害が出ちまう。

なら、やはり此処で倒し……狙いの物を奪って帰るか……いや、そもそもなぜ此処に百獣海賊団がいる?

なにか見落としてるのか……ブリュレも回収しなきゃならねぇってのに…!)」

 

 

 

両者睨み合い一歩も譲らぬ姿に部下達は息を呑む。

 

緊張感がピークに達した海岸で、部下達が自身の武器を手に取ったと同時に、レオヴァとカタクリの声が響く。

 

 

「待て、お前達……船へ戻れ、おれがやる。」

 

「あの男の相手はおれがする。

……皆、一先ずナワバリ拠点に戻っていてくれ。」

 

 

ビッグ・マム海賊団の船員たちは、普段よりも重々しいカタクリの命令に素直に頷くと後ろを警戒しながら下がっていった。

 

百獣海賊団の船員たちも、普段とは雰囲気の違うレオヴァの言葉に素直に従い、拠点へ向かうべく少しずつ下がって行く。

 

 

 

「(相手の動きを見るべきか……いや、手の内を知っているのなら先制を許す必要はねぇ。

()れずとも、ウチのナワバリからは撤退させる…!)」

 

「(また雰囲気が変わった……これは後手に回れば圧しきられるか…。

討ち取るまで行かなくとも、撤退させ……その隙に砂糖を手に入れ万国(トットランド)へ戻る……!)」

 

 

奇しくも、二人の選択は “先手必勝” であった。

 

同時に地面を蹴ったレオヴァとカタクリの衝突は、付近の浜辺の木々を吹き飛ばす程の衝撃を起こした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ブリュレは久しぶりに賑やかな町を堪能していた。

 

この島には兄であるカタクリと共に、ビッグ・マムの求める光る砂糖を仕入れに来たのだが、優しい兄はたまには羽を伸ばせと休憩時間をくれたのだ。

 

街中からは甘くて良い香りが漂っている。

至る所にあるスイーツ工房にブリュレの頬は緩みっぱなしだ。

 

先ほど買った可愛らしい見た目の砂糖菓子をパクりと食べながら町を歩く。

 

暫く歩くと視界の先に目当ての店を見つけてブリュレは喜んだ。

 

 

「…やっとドーナツ売ってるお店を見つけたわ!」

 

 

大好きな自慢の兄の大好物をたくさん買うべく、ブリュレは財布を片手に小走りに店に入った。

 

今頃、部下に指示を出しつつ光る砂糖の取引を、取り付けに行っているであろう兄へのお土産だ。

とびきり美味しい物を買ってあげようと、ブリュレは色とりどりのドーナツをじっくりと見つめる。

 

 

どれも美味しそうだと悩んでいると、お店の扉が開き元気な声が聞こえた。  

 

 

「おばあさ~ん!

ドーナツ買いに来たよ~!」

 

大きな声にブリュレが思わず振り向くと、そこには真っ白なクマが二足歩行で立っていた。

 

「(クマ!?……ペコムズと同じミンク族かしら?)」

 

そんな事を思いつつも、ドーナツ選びの方が重要だとブリュレはまた吟味を始めた。

 

いっそ全ての種類を買って帰ろうかと思い始めたブリュレの下へ、店のおばあさんと話していたクマが声をかけてきた。

 

 

 「ここのドーナツ全部美味しいからオススメだよ! 

キャプテンもレオヴァさまも美味しいって言ってるし!」

 

「あらあら~…ベポちゃんは嬉しいこと言ってくれるねぇ。」

 

「えへへ…おばあさんのドーナツ本当に美味しいから。」

 

 

ほのぼのした雰囲気の一人と一匹にブリュレもつい、絆され結局本当に全種類のドーナツを購入したのだった。

 

 

「(まぁ…お兄ちゃんならこれくらいペロッと平らげちゃうわよね。)」

 

大量のドーナツを抱え、帰路についたブリュレだったが、まだ隣にいるベポに思わず突っ込む。

 

 

「いや、アンタいつまでついて来んのよ!!」

 

「うわぁ!

急におっきな声出さないでよ~

びっくりするでしょ!」

 

「びっくりしてんのは私の方よ!

なんでついて来るの……。」

 

「おれも帰り道こっちなんだ~」

 

「……一緒に帰る必要ないじゃない。」

 

「え……だって、せっかく友だちになったから」

 

「いつアンタと私が友達になったのよ!?」

 

「さ、さっき一緒にドーナツ食べた時……」

 

「あ、あれは…あのおばさんが紅茶を出してくれたから」

 

 

友達なんかじゃない。

そう言おうとしたブリュレだったが、ベポの顔を見て思わず口をつぐんだ。

 

ブリュレより少し小さなクマはつぶらな瞳をうるうると濡らし、ブリュレを悲壮感溢れる表情で見つめていたのだ。

 

幼さの残るクマの哀愁漂う姿を見て、ブリュレは溜め息をつく。

数多くの弟や妹の面倒を見てきたブリュレはこの顔に弱かったのだ。

 

 

「まぁ……途中までなら一緒に来てもいいわ…。」

 

「……本当に!? ありがとう~!

ブリュレさんは優しいね!おれブリュレさん好きだなぁ」

 

「べ、べ別に優しくはないわよ…!

いいから早く歩かないと置いてくからね!」

 

「は~い!

あ、そうだ。おれ面白い乗り物あるんだけど!」

 

 

良くわからぬ歌を口ずさみながら、乗り物の場所を教えるとテクテク歩くベポをしり目にブリュレは帰路をゆったり進んだ。

ドーナツを見て嬉しそうな顔をするであろう、兄を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

カタクリは困惑していた。

 

短期決戦で決着をつけるつもりだったのに一向に倒れぬ相手に。

そして、それを少しでも楽しいと感じてしまっている自分自身に。

 

 

「……血を流したのなんざ…いつぶりだ?

まさか此処までやるとはな……」

 

 

額から流れる血を拭って目を細めるカタクリに、同じく額から血を流すレオヴァが答える。

 

 

「こっちの台詞だ……まさか父さんとの組み手以外で…。

このまま続けるなら…そちらも相応の被害を覚悟して貰うぞ…」

 

 

おもむろに腰から見慣れぬ武器を取り出したレオヴァに答える様に、カタクリは変形させた体の中から槍を取り出した。

 

 

 

「……その言葉…そのまま返そう……!!」

 

 

「悪いが、やられてやるつもりはないぞ。」

 

 

 

武器同士がぶつかる音が辺りに響く。

 

カタクリは戦闘に全神経を注いでいた。

だが、それは恐らくレオヴァも同じであろう。

 

拮抗する二人の実力は、お互いを消耗させ続けた。

 

 

気の緩みの許されぬ攻防を続けていた二人だったが、少し動きがあった。

 

レオヴァの仕掛けた策にカタクリがハマったのだ。

未来が見えようとも避けられぬ必至の一手であった。

 

 

「…ぐっ……!!」

 

 

顔を歪めたカタクリだったが、彼の戦闘センスはレオヴァの想定を上回っていた。

 

レオヴァの仕込んだ槍の攻撃の方向を腕を貫かせることで変え、致命傷を避けたのだ。

 

 

「……っ…!? 」

 

 

今度はレオヴァが顔を歪める番であった。

仕掛けた槍にカタクリを追い込む為に、前に出過ぎていたレオヴァをカタクリは渾身の力で蹴り飛ばしたのだ。

 

崖に思い切り叩き付けられたであろうレオヴァをしっかり視界に収めながら、カタクリは腕に刺さった槍を引き抜く。

 

 

「ぐぅ…ハァッ……フー……同じものが見えてる相手は…初めてだ。」

 

 

マフラーの下で口角を上げたカタクリは息を整えながら崖の方を向き、構える。

 

砂埃が静まったそこには、思った以上にダメージの入っていないレオヴァが立っていた。

 

 

「…ハァ…ッ……その見聞色…まったくもって厄介だ。」

 

「お前も同じだろう。

……ウチの傘下にくだるなら………フッ…そうか。」

 

「断る。

カタクリがウチに来るなら歓迎だがな」

 

「答えは…言わずとも、だろう。」

 

「あぁ……だろうな。」

 

 

言い終わると同時に雷が襲う。

だが、時速72万Kmで落ちる雷を危なげもなくカタクリは避けた。 

 

 

「…“無双ドーナツ”…!!

 

「……ドーナツ…?」

 

 

レオヴァの呟きを、かき消す速度の拳が繰り出される。

しかし、レオヴァはそれを舞うような動作で避けていく。

 

 

武具載天(ぶぐたいてん)”…!!

 

「ずいぶん便利な能力だ…“餅吟着”!!

 

 

レオヴァが雨のように降らせる数多の槍を、カタクリは数十のモチを作り出し受けきった。

 

カタクリとレオヴァは、互いに互いの技を防ぎきってしまう。

泥試合になる予感を感じ始めたレオヴァがバチバチと光を纏った。

 

少し驚いた様に目を見開いたカタクリだったが、レオヴァから距離を取る。

 

 

 

「……なんでもありか…お前のその能力は。」

 

永劫快気(えいごうかいき)

……おれから言わせればカタクリのその能力もだが…?」

 

 

爆音と共にレオヴァに降り注いだ雷にカタクリは眉を寄せ、呟いた。

雷に打たれたレオヴァの息切れはすっかり回復しており、少しの余裕さえ感じる。

 

長期戦は圧倒的に不利だ。

そう即座に感じ取ったカタクリはズレ始めていたマフラーを軽く直す。

  

 

「…これ以上、時間はかけねぇ。」

 

「おれは長期戦に持っていかせてもらう。

……つもりだったんだが……ふふ、父さんの気持ちが良くわかる。

カタクリ、おれがお前を倒したら…」

 

「……あぁ、構わねぇ。

が、その逆も考えておくんだな。」 

 

「おれは百獣の名を背負ってる…敗北はない。」

 

「それは、おれも同じだ……将星に敗北は許されねぇ。」

 

 

二人の纏う雰囲気が荒々しくなっていく。

大地がひび割れ、空は重々しい雷雲に覆われている。

 

カタクリとレオヴァはほぼ同時に行動に移した。

 

 

「フッ……行くぞ、レオヴァ…これで決めるッ!

“斬・切・餅”!!!

 

 

「ふははは!…カタクリ、受けて立とう…!

……迅雷壊裂(じんらいかいれつ)!!!」

 

 

レオヴァの武装色を纏った禍々しい戦斧と、カタクリの武装色を纏った刺々しい腕が振り下ろされようとしていた。

 

二人はお互いのことだけを見据えていた。

 

だからこそ、気付かなかったのだ……猛スピードで二人に近付く人影に。

 

 

二人の強者のぶつかり合い……その狭間に予想だにしなかったものが現れた。

 

 

 

ギャ~~!!!

このアホ白くまぁ!!呪ってやるぅ!!」

 

うわあぁ~~!!ごめんよ~!!

と、止まらないんだ~!!」

 

 

スクーターの様な乗り物に乗って現れたベポとブリュレに、カタクリとレオヴァは目を見開いた。

 

 

なッ…!? ブリュレ!?

 

ベポ!? なぜ此処に!?

 

 

この瞬間、二人は敵であるお互いの事が思考から消え去った。

今、頭にあるのは目の前の大切な者をどうすれば助けられるか、という考えのみである。

 

ベポとブリュレを乗せた乗り物は故障しているのか、止まる気配はない。

このままではカタクリとレオヴァの戦闘の巻き添えになってしまう。

 

 

焦ったカタクリだが、この攻撃は全身の遠心力を利用した物だ。

おいそれと簡単に止められるものではない。

仮に少し位置をずらせたとしても、その衝撃は大切な妹を傷つけてしまうだろう。

 

いや、だが直接当たるよりは……そう思いなんとか振り下ろす位置を変えようと踏ん張りを利かせた。

 

 

一方、レオヴァも焦っていた。

カタクリとレオヴァの軌道線上に突っ込んでくる未来が見えたのだ……このままでは確実にベポは死ぬ。

 

父に懐いている可愛い部下を手にかける事になる可能性を感じると同時にレオヴァは動いた。

 

カタクリへ向けていた戦斧へ全身の電気を流し、無理やり回転させ、スピードを上げた。

そして、そのままカタクリの腕に向かって振り上げたのだ。

 

 

ドゴォ…!!

 

 

あり得ない爆音と共にカタクリとレオヴァは吹っ飛んだ。

 

 

レオヴァは気が逸れて隙を見せたカタクリの首よりも、ベポの命を選んだ。

 

あの一瞬でレオヴァは振り下ろされるカタクリの腕をピンポイントで戦斧で弾き、その衝撃波を分散させる為、自分も流れのまま吹き飛ばされたのだ。

 

だが、それはカタクリとて同じであった。

 

明らかに自分への注意がそれ、ブリュレと謎の熊に意識が向かったレオヴァよりも、妹の無事を選んだのだ。

 

レオヴァが目にも留まらぬ速さで戦斧を回転させた時はカタクリも身構えそうになったが、敵であるレオヴァの熊を案ずる気配を信じて、身構えずにそのまま振り下ろした。

 

カタクリの読み通りレオヴァはブリュレと謎の熊に危害を加える可能性の高かった腕を上手く弾いて見せたのだ。

 

 

スクーターの様な乗り物はそのまま、もと二人が居た場所に激突したが、幸いそこは砂浜だ。

大きな怪我はなかったが、二人は叫んだ。

 

 

「お、お兄ちゃんっ!!」

 

「レオヴァさまぁ!!」

 

 

ブリュレとベポは互いに反対の方へと走り出した。

 

 

「お兄ちゃん…あ、頭から血が!!

う、腕も……早く手当てしなくちゃ!」

 

「……ブリュレ、怪我は…」

 

「怪我はしなかったけど……それより、お兄ちゃんの怪我が!」

 

 

ポロポロと涙を溢しながら心配するブリュレを、カタクリは慰める。

 

 

「これくらい問題ねぇ………泣くな、ブリュレ。」

 

「ひっぐ……うぅ、だって……お兄ちゃん…!

わた、私のせいで……」

 

「別にブリュレのせいじゃねぇ……おれの鍛練不足だ。」

 

「ふえぇ~!! そんなことないもん!!

おに、お兄ちゃんは…ぐすっ……世界一だもん……」

 

 

泣き出したブリュレの頭をぎこちなくカタクリは撫でた。

 

 

 

一方、ベポはレオヴァの見たことがない姿に泣きながら飛び付いた。

 

 

「うわぁ~ん!!

れ、レオヴァさまぁ……死なないでぇ~!!

嫌だよぉ……レオヴァさま…グスッ…きゃ、キャプテン…レオヴァさまを治して~…うぅ…ぐす……」

 

「……ベポ、勝手に殺さないでくれ。」

 

「レオヴァさまっ!!

ごめんなさい……おれのせいでっ…」

 

「いや、ベポのせいじゃない……カタクリが強かったからなァ……ふふ、もっと鍛えないとだな。

怪我はないか、ベポ?」

 

「…っ……うん!グスッ…怪我してないよ!

レオヴァさま…早くキャプテンに見てもらおうよ…

血もいっぱいでてるし……し、死んじゃうよ!」

 

 

泣きながらも、ハンカチで必死にレオヴァの血を止めようとするベポの頭をレオヴァが優しく撫でる。

 

 

「……すまない、ベポを不安にさせるつもりはなかったんだが…

つい、はしゃぎ過ぎたな。」

 

「う…グスッ……おれレオヴァさまが楽しいのは嬉しいけど……怪我するのは嫌だよ…」

 

 

抱き付いて鼻をすするベポの背を、レオヴァは優しくなでた。

 

 

 

 

 

 

なんとか、カタクリはブリュレを泣き止ませ

レオヴァはベポを落ち着かせる事ができた。

 

が、此処で問題が生じた。

 

 

なんと、ブリュレとベポは友人になったとか。

さらには此処は百獣海賊団のナワバリであると言う情報まで入って来たのだ。

 

 

カタクリは今回は引くしかないと言う結論を出していた。

 

何故なら、此処がナワバリでなければ軽い小競り合いで済む話だ。

しかし、此処は紛れもなく百獣海賊団のナワバリなのだ。

 

ナワバリに手を出したとあっては、ビッグ・マム海賊団と百獣海賊団の抗争にまで発展しかねない。

 

なんなら、ビッグ・マム海賊団の方から手を出してきたと難癖を付けられ、他のビッグ・マムのナワバリを荒らされかねない。

 

引くにしても、どうやって抗争にさせずにこの場を去るか。

カタクリはあらゆる方法を模索した。

 

 

 

同時に、レオヴァもどう終わらせるかを悩んでいた。

 

本音を言えばカタクリともう少し殺り合いたい気持ちはあるが、ベポがいる以上危険なことは出来ない。

 

なにより、レオヴァもカタクリもすっかり臨戦態勢が崩れてしまっているのだ、仕切り直しも難しいだろう。

 

そして、レオヴァの懸念していたビッグ・マム海賊団による宣戦布告でないこともカタクリの反応を見れば一目瞭然であった。

 

明らかに穏便に、尚且つ自分の海賊団に不利にならぬよう考えを巡らせているカタクリ相手に、喧嘩腰で行く必要も感じられなかった。

 

しかし、かと言ってナワバリに、ほいほいと招くわけにはいかない。

レオヴァはカタクリを気に入ったとは言え、彼は敵である。

身内にならぬ限りは油断は出来ない。

 

 

 

だが、完全に冷戦状態になったレオヴァとカタクリの下にモコモコな天使が舞い降りた。

 

 

「レオヴァさま……えっとね…ブリュレちゃんが砂糖買いたいって言ってて…」

 

おずおずと申し出たベポの言葉にレオヴァは興味を示した。

 

 

「砂糖?

それは、この島特有の光る砂糖のことか?」

 

「うん!ブリュレちゃんはそれの取引しに来たんだって。」

 

 

ベポの言葉でレオヴァは大方理解した。

 

 

「(なるほど……要するにカタクリ達はスイーツの材料になる砂糖の取引をしに来たのであって

この島を占領しにきた訳ではないのか……たしかに、占領するつもりなら町は荒らされてる筈だしな……)」

 

 

ふむ……と考え込むレオヴァだったが、(おもむろ)に口を開いた。

 

 

「…カタクリ、おれはビッグ・マム海賊団と揉めるつもりはない。」

 

「それはおれも同意だ。

ママの命令も無しに、わざわざ面倒な相手と敵対するのは非効率的だ。」

 

「話が分かるようで助かる。

そこで、だ。

このまま手ぶらで戻ることになれば、そちらも困るだろう?

……貿易という形でやり取りする気はないか。」

 

「…………貿易か。」

 

「こちらからは、光る砂糖は勿論。

あらゆる砂糖菓子も提供できる。

……ワノ国独自の和三盆という菓子は万国(トットランド)にはないんじゃないか?」

 

 

聞き慣れぬ菓子の名前にカタクリの眉が動く。

 

 

「わさんぼん…?

確かに、万国(トットランド)でも聞かねぇ菓子だが…どういう…」

 

 

「盆の上で砂糖を三度も研ぐという、ワノ国で工夫された独自の精糖工程によって選別された高級砂糖のみを使って作られた菓子だ。

……きめ細かな砂糖を使っているから極上の口溶けを楽しめる。

味はすっきりとした甘さが売りでな…渋めの茶と合わせるとまさに逸品だ。」

 

 

レオヴァの細かい説明にカタクリは興味をそそられ、ブリュレはゴクリと息を飲んだ。

 

畳み掛ける様にレオヴァは提案する。

 

 

「船にワノ国から持ってきた菓子がある。

今話した和三盆以外にも、紙ふうせんや羊羮もあるんだが……一度試食してみるか?」

 

「え? し、試食?」

 

 

レオヴァの話にキョトンとするブリュレ。

カタクリは少し考える素振りを見せたが、レオヴァの目を見て答えた。

 

 

「……おれとしては悪くない取引だと思うが、ママの判断を仰いでからじゃねぇと決められねぇ。

百獣との取引となるとな……。」

 

 

「勿論だ、寧ろその方が助かる。

後から、やはり取引は解消だと言われても困るからな。

……まぁ、まずはワノ国の菓子を食べてみてくれ。

美味ければビッグ・マムの説得にも使えるだろう?」

 

 

 

数十分前までの殺伐さは消え去り、テンポ良く取引の内容をカタクリとレオヴァは話し始めたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あれから、レオヴァのワノ国菓子や特産品スイーツのプレゼンテーションを終え、ビッグ・マムと話し合いを始めたカタクリだったが思いの外あっさり取引をすることを許された。

 

余程、レオヴァの紹介した様々な菓子が魅力的に映ったのだろう。

 

事実、ブリュレもカタクリもレオヴァの持ってきた菓子と緑茶の美味さには舌を巻いたのだから。

 

菓子一つ一つに饒舌に感想を述べるカタクリを見て、思わずレオヴァが笑ってしまうアクシデントはあったが、概ね問題なく取引が開始された。

 

 

一方、レオヴァもカタクリがビッグ・マムと話し合っている間にカイドウに許可を…と、電伝虫を繋げた。

 

 

『ウォロロロロロ……あのババァか!

構わねぇ、売れるだけ売り付けてやれ!

……だが、レオヴァは直接ババァとは話すな、そのカタクリとかいうリンリンのガキとだけ話せ。

…またあの話を掘り返されちゃたまらねぇからなァ……』

 

と、謎の一言を残しはしたものの、カイドウは比較的取引には前向きであり、此方もあっさりと許可が降りた。

 

レオヴァはカイドウの言いつけ通りカタクリと取引内容を固めて行き、無事に両者同意の下で複数の菓子と光る砂糖の取引が成立したのだった。

 

 

しかし途中、ブリュレとベポの謎の自慢合戦が始まり、それが喧嘩にまで発展していた。

 

 

『ふん!

カタクリお兄ちゃんなんて、無敗の男よ!!

それもただの無敗の男じゃない……〝超人〟なのよ!!

いつも気高く冷静で強く……全てが完璧!

それが私のカタクリお兄ちゃんなんだから!!!』

 

『むぅ!

レオヴァさまだって、カイドウさまに並ぶくらい強くて!

しかも、優しくて料理も上手でカッコいいんだよ!!

いつだって凄いこといっぱい考えてて頭も良いんだ!

何でも出来るスッゴくすごい人!

それが おれとキャプテンのレオヴァさまだもん!!!』

 

 

船の前で大声で言い合うベポとブリュレを、レオヴァとカタクリが止めに入るのは同時だった。

 

 

『…よせ、ブリュレ……』

 

『ベポ……止してくれ…』

 

しかし、頭を抱える二人はお構い無しに暫く言い合いは続いたのだった。

 

 

 

その後、大量の砂糖を船に積み込んだカタクリとブリュレは契約通り素早く島を後にした。

 

ワノ国の菓子は後日、別の島への配送が決まっており、レオヴァはその手筈を整えるべくワノ国にいるブラックマリアに伝言を頼んだ。

 

 

船へ戻ろうと、ベポと歩くレオヴァはまだ知らなかった。

ナワバリ拠点から戻ってきたローに怪我が見付かり、小言攻めに合う未来を。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

カイドウはレオヴァの作った風変わりな菓子を物珍しげに眺めていた。

 

丸々な形の青や黄色のその菓子は、薄くキラキラと光っている。

 

カイドウ用に作られたのであろう、それは通常の何十倍も大きいサイズだった為に、一層キラキラと美しく見えた。

 

 

人差し指と親指で軽く摘まんで、眼前までもってくるが、やはり薄く光るそれは綺麗だ。

 

 

「また変わったモンを作ったなァ……」

 

しみじみと呟くカイドウの隣で、レオヴァはにこにこと楽しげにカイドウの反応を見ていた。

 

 

「ボンボンと言う種類の菓子なんだ。

周りは上質な砂糖で、中身は酒が入っていてワイン、ブランデー、リキュール、純米酒など色々な酒を試してみた。

……父さんの口に合えばいいんだが。」

 

 

そう言うレオヴァの頭を軽くポンと撫でるとカイドウは摘まんでいたボンボンを口に入れ、笑った。

 

 

「……悪くねぇ。

辛口の焼酎の合間に食うのも良いな…!

ほら、レオヴァも食え。」

 

 

カイドウがレオヴァには少し大きく感じる青色のボンボンを口に放り込む。

 

 

「ん……父さんが喜んでくれたなら良かった。

他にも最近開発した、そば焼酎もあるんだ!」

 

 

喜んで貰えて嬉しげに微笑むレオヴァは、次から次へと変わり種を用意し、カイドウも見たことのない酒やツマミを楽しんでいる。

 

 

そして、そんな互いに酒を酌み交わしつつ、談笑を続ける親子の側ではクイーンがボンボンを一気に4つも頬張っていた。

 

 

「おぉ…これ結構イケるぜ!!」

 

光るボンボンをぱくぱくと平らげていくクイーンにキングは眉をしかめる。

 

 

「……ボールがボールを食いやがって…共食いじゃねぇか。」

 

 

ボソリと呟かれた言葉に、側にいたササキ、ドレーク、ローは思わず吹き出した。

 

 

「はははははっ!!

今回ばかりはキングの言う通りだ!」

 

可笑しくてしょうがないと言う様に腹を抱えてササキは笑う。

その横ではドレークが下を向いて小刻みに肩を揺らした。

ローは誤魔化すようにずっとグラスに口を付けて離さない。

 

クイーンは額をぴくぴくさせながら叫んだ。

 

 

「おい、ササキ!!

てめぇには言われたくねぇんだよ!!

てか、ドレーク!おめぇも笑ってんじゃねぇー!!

……キング、てめぇは一旦表でろや…」

 

空になったおしるこの鍋をひっくり返すクイーンを見て、カイドウと話していたレオヴァが笑い、カイドウも笑った。

 

 

「ウォロロロロロ…あっちも盛り上がってるみてぇだなァ…!!」

 

「ふははは! 仲が良くてなによりだ!」

 

 

クイーン達の喧騒を肴に、また親子二人は酒を呷った。

 

 

 

 

 

 




ー後書きー
感想いつもありがとうございます!
なんかテンション上がってスラスラ書けてしまった……皆さんがくれるガソリンが凄い…
アンケートも回答下さった方ありがとうございます~!
レオヴァに入れたいと言って頂けたコメントもあって嬉しみ!!
そして、圧倒的カイドウぱぱ……流石は父さん!!っていうレオヴァの声が聞こえるぜ…

『以下簡単な補足』
(ナワバリ検定)
・カイドウ→検定なし
・キング→検定なし ・クイーン→検定なし
・レオヴァ→上級  ・ジャック→上級
・ドレーク→上級  ・ロー→上級
・ベポ→初級  ・スレイマン→上級
・うるティ→初級 ・ページワン→中級
・ブラックマリア→初級 ・ササキ→中級
・フーズ・フー→上級
ーーーーーーーーーーーーーーー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

見逃された幼子

 

 

編笠村はちょっとした混乱に陥っていた。

 

なんと、村人と守護隊の前には巨大な金糸雀色(かなりあいろ)の狛犬がどっすりと構えているのだ。

 

警戒する村人達だったが、とある少女に必死に説得され、攻撃はせず じっと観察するに(とど)めていた。

 

狛犬は暴れるでもなく、その場に座っている。

時おり少女が撫でてやると嬉しそうな鳴き声を上げる姿には、敵意など一切感じない。

 

しかし、敵意がなくともこの大きな猛獣を町には置けないと困った村人達と守護隊は、百獣海賊団の真打ちに相談する事にしたのだった。

 

 

 

だが、百獣の皆さんに頼めば大丈夫だ。と

安心した村人を余所に、ひっそりと焦る夫婦がいた。

 

 

「ど、どうしましょう……お玉のアレが皆にバレてしまうわ…」

 

「うむ……しかし、百獣の皆さんなら無下には…」

 

「そうでしょうけど…

うちの村の人たちや百獣の皆様は大丈夫だとしても、他の村の人には気味悪がられないかしら?

……もし、私たちの可愛いお玉が虐められたりしたらと思うとっ…」

 

「……それは……いや、もしもそうなっても

おれたちが可愛いお玉の味方で居続けてやるしかないだろ。

少しずつ、おれたちで誤解を解いていけば良いさ!」

 

 

項垂れる妻を夫は優しく抱き締めた。

 

これからどんな困難があろうと、愛する娘は必ず守って見せる。

そんな強い決意を夫婦は滾らせ、現れるであろう百獣の幹部を待った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

数十分前まで、大きな猛獣の出現に不安そう顔をしていた村人だったが、すっかりその影をなくしていた。

 

寧ろ、今回の件に現れた御仁の姿に皆が喜びを露にしていた。

 

 

「おぉ……なんと!レオヴァ様じゃ!」

 

「お久しぶりにございます、レオヴァ様!」

 

「まさか、レオヴァ様直々にっ……!

ありがとうございます!」

 

 

黄金の翼を携えたレオヴァが編笠村に降り立つと同時に、村人も守護隊の隊員もわらわらと駆け寄って行く。

 

いつも通りの微笑みを浮かべながら、皆に挨拶をしたレオヴァは本題へと話を持っていった。

 

 

「暫くぶりだな。

このところ皆の顔が見れず寂しかったのだが……元気そうで良かった。

今回、村に猛獣が現れたと聞き心配で駆け付けたんだが……その犬が?」

 

 

大きな狛犬を見て、すっとレオヴァが目を細める。

 

すると、先ほどまで大人しく座って居た狛犬が飛び起き、グルグルと唸りだした。

 

慌てふためく村人と、レオヴァを守ろうと狛犬の前に立ち塞がる守護隊達。

 

一触即発の事態を前に、幼い声が響いた。

 

 

「や、やめるでやんす、狛ちよ~!!」

 

菫色(すみれいろ)の髪を頭の上でお団子の様にして結っている年端もいかぬ少女の声に、大きな狛犬の動きがピタリと止まった。

 

 

「…クゥ~ン……」

 

「狛ちよ、レオヴァさまに ごめんなさいするでやんす!」

 

 

少女が大きな狛犬にそう命令すると、狛犬は大きな体をすっと低い体勢にし、レオヴァを見やった。

 

この景色に村人はざわざわと話し出す。

 

 

「……やっぱりお玉の言うことを聞いてるねぇ…」

 

「ありゃ、一体どうなってんだか……」

 

「お玉ちゃんは妖術が使えんのかね?」

 

「いや~……ちょっと怖い気もするよなぁ…」

 

 

周りの大人達の不安の混じる目線に少女は俯いてしまった。

 

 

「(なんか皆がいつもと違うでやんす…

……れ、レオヴァさまにも狛ちよのこと言わなきゃ…

こ、狛ちよが……みんなに殺されちゃうでやんすっ…!)」

 

幼心に周りの変化を察した少女は手を強く握った。

なんとか言葉を(つむ)ごうとする少女だったが、思いとは裏腹に上手く言葉が出ない。

 

だがそれも当然だろう。周りには沢山の不信感を向けてくる大人たちがおり、更に今声を掛けようとしているのは、この国の王なのだ。

萎縮するなと言う方が無理がある。

 

 

そんな、少女を庇おうと親が人波をかき分けるより早く、少女は優しく頭を撫でられた。

 

少女がはっとして顔を上げると、そこには膝をつき目線を合わせてくるレオヴァが居た。

 

 

「お玉……そんなに緊張しなくていい。」

 

「れ、レオヴァさま……なんで、おらの名前……」

 

「ん?  編笠村に試作品の菓子をおれが持って来てた時の事を忘れたのか?

お玉はいつも一番に並びに来てただろう。

それに、お前の父は良くおれに娘の話ばかりしてきていたからな。」

 

「わぁ……ま、まさか…おらレオヴァさまに覚えてもらえてるなんて思わなかったもんでやんすから…びっくりして」

 

 

もじもじと嬉しそうにするお玉の下へ父親と母親が現れ、レオヴァに頭を下げた。

 

 

「レオヴァ様!

娘の起こしたことで、御足労おかけいたしまして……

あの、出来ればうちでお話を…」

 

申し訳なさそうに言う母親にレオヴァは笑顔を返した。

 

 

「わかった。

少し場所を変えるとしよう。

……皆も もう大丈夫だ。

その犬は、おれの部下たちが見ているから仕事に戻ってくれ。」

 

その言葉に安心した顔になった村人たちは、わらわらと持ち場へと戻って行く。

レオヴァは連れてきたギフターズ2名に指示を出すと、お玉を抱き上げて、母親と父親の後ろを付いて歩いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

座敷にて、事の全てを話し終わった夫婦はレオヴァの言葉を待った。

 

変な実を食べて妖術が使える様になってしまった娘は、どんな目に合う事になるのか…と母親は泣きそうになり。

父親はレオヴァ様ならば慈悲を下さる筈だと、縋るような眼差しで見つめている。

 

今回の事件の渦中である、お玉も項垂れるような姿でレオヴァから下される処罰を待っていた。

 

しかし、レオヴァの言葉は親子の想像とは違うものであった。

 

 

「ふむ。これが、言っていた…きびだんごか。

お玉の力についてはわかった。

……が、そんなに気負う様なものじゃない。

そうだな…SMILEの様な物だと思ってくれればいい。

お玉のそれは、動物と仲良くなれる力だと考えてくれ。

それから、お前達が気にしている周りからの偏見だが、それも心配するな。

おれの方から皆に説明しよう。

どうしても気になるのであれば……SMILEを食べた事にしても良いが…。

 

兎に角……お玉、お前のその力は悪いものじゃない。

寧ろ、動物たちと仲良く出来る素晴らしい力なんだ。

下を向くことはない……胸を張れ。」

 

 

そういって、優しくお玉の頭にぽんと手を置いたレオヴァから夫婦は目が逸らせなくなった。

 

手間をかけさせた事を怒ることもなく、娘の力を気味悪がることもせず。

それどころか、夫婦の不安を解消出来るように取り計らうと約束をし、不安がる娘に優しい言葉をかけてくれたのだ。

夫婦は思わずにはいられなかった。

『レオヴァ様以上に素晴らしき王など存在しない』…と。

 

 

一方、お玉も感激に震えていた。

レオヴァは頬っぺたが落ちそうなほど美味しいお菓子を作れるだけでなく、こんなにも優しくて寛大な心をもっているのかと。

 

お玉が抱えていた先ほどまでの漠然とした不安はすっかり消えている。

 

 

その後、緊張もほぐれた夫婦とお玉はレオヴァと今後の事を話していく事となったのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あの事件から、1週間。

 

お玉はほとんど今までと変わらぬ、平和な毎日を過ごしていた。

 

 

あれからレオヴァは本当に言った通りに、村人達のお玉への不信感を払拭した。

 

しかも、レオヴァから目を掛けられている子どもとして、周りの友だちからも一目置かれるようにすらなったのだ。

 

 

 

お玉はレオヴァとの会話を思い出す。

 

『……おら、みんなと違う変わった子になっちゃったでやんすか?』

 

“普通じゃない”

そんな不安に押し潰されそうだったお玉の問い掛けにレオヴァは優しい声で答えた。

 

『お玉、皆と違うことは決して悪いことじゃない。

皆、一人一人個性があるんだ。

その動物と仲良くなれる個性は、素晴らしい事だとさっきも言っただろう?

……お玉は特別なんだ、落ち込むことはない。』

 

『とくべつ…でやんすか?』

 

『あぁ……おれはお玉のその個性、似合っていて良いと思うぞ。

友だちを作るのが得意なお玉にピッタりだ……そう思わないか?』

 

『おらに…ピッタリ?…えへへへ…!』

 

お玉は嬉しかった。

以前、レオヴァに友達を作るのが得意だと話した事を覚えてもらえてた事も、それをピッタリだと言ってもらえた事も。

 

レオヴァの言葉は、後ろ向きになりそうだったお玉に大きな自信を与えた。

 

 

前よりも自信が付き勉強も頑張る様になり、父も母も褒めてくれる。

 

そんなお玉はレオヴァとした約束を胸に今日も頑張るのだ。

 

 

「おら、もっといっぱい頑張って……絶対、近衛隊(このえたい)になるでやんす!!」

 

 

『お玉とワノ国の為に務められるのを楽しみに待っているぞ』

と、太陽のように微笑んだレオヴァの姿を思いだし、お玉はやる気に満ち溢れるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あの事件から数日たった、ある日の昼。

 

レオヴァは休日にも関わらず、実験に付き合ってくれたダイフゴーに礼を述べる。

 

 

「ダイフゴー、ありがとう。

……ところで、きびだんごの味はどうだった?」

 

「へへっ、レオヴァ様。

これぐれぇ、お安いご用ですよ!

味っつっても……まぁ、でもレオヴァ様が作った団子のが美味いッスね~。

でも、不味くもなかったですぜ!」

 

6本ある脚を忙しなく動かしながら、ダイフゴーは答えた。

 

 

「……そうか、普通にきびだんごだったか…」

 

「?…なんか、マズイっすか?」

 

「いや、寧ろ良い結果だ。

……そうだ。

この後予定がないなら、一緒に昼でも食べに行くか?」

 

「えっ!? 良いんスか!?

もちろん、行きますよレオヴァ様!!」

 

「ふふ……良かった。

そうだな…せっかくの休みに付き合わせたんだ、奢らせてくれ。」

 

「いやいやいや!!

おれァ好きで来てるんで!」

 

「ダイフゴー、ここは おれに見栄を張らせてくれないか?

ちょうど、ダイフゴーが好きそうな飯屋も知ってるんだ。」

 

「~っ……れ、レオヴァ様ッ!!

お言葉に甘えてご馳走になりやすッ!」

 

 

嬉しさを微塵も隠すことなくレオヴァの後ろを歩きながら、ダイフゴーは食事処へと向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

う、美味ぇ~!

いや、レオヴァ様めちゃくちゃ美味いっすねコレ!!」

 

「ふふふ…ダイフゴー、喜んでくれるのは嬉しいんだが、周りにも昼休憩の人がいる。もう少し声のトーンを落としてくれるか?」

 

「あ…!す、すいません……

ついテンション上がっちまって。」

 

「いや、おれも喜んでくれて嬉しい。

ここの調理人の爺さんもきっと厨房で笑ってくれてるだろうな。」

 

 

申し訳なさそうに頭を掻くダイフゴーにレオヴァは笑いかける。

 

周りの村人達もその光景に優しい笑顔を浮かべて、小声で話し出した。

 

 

「見ろよ…レオヴァ様だ。

いつ見てもあの方の周りは賑やかだよなぁ」

 

「そりゃレオヴァ様とご一緒出来りゃ、おれもはしゃいじまうさ!」

 

 

「あれ、ダイフゴー様じゃない?

レオヴァ様とお食事なんて羨ましいわねぇ……」

 

「きっと、そんだけ普段からダイフゴー様は頑張ってらっしゃるんだよ。

レオヴァ様はいつでも働きをしっかり見てくれてるからね!」

 

 

レオヴァとダイフゴーの食事を邪魔せぬ様に小声で村人は話している。

 

 

しかし、そんなことは露知らずダイフゴーはレオヴァが次から次へと頼む料理をせっせと平らげつつ、会話を楽しんでいた。

 

 

「…って事があったんですよ!

本当にクイーン様って盛り上げるの上手くて、マジでカッコよすぎっスよね!!

……アッ、またおればっかり話しちまった!」

 

 

「ふははは…!クイーンが即興でそんなに歌ったのか!

それはおれも聞きたかったなァ…

ダイフゴーの話は面白い、もっと聞かせてくれ。

そうだ、ところで前から聞きたかったんだが…何故ダイフゴーはいつも能力を出現させたままにしているんだ?」

 

 

「へへへっ…レオヴァ様のご要望でしたらいくらでも喋りますよォ!

…って、おれの能力っすか?

いや~!このレオヴァ様から貰った能力便利なんですよ。

壁も歩けるし移動も普通に歩くより速いんで基本、寝る時と風呂以外は能力使ったまんまッスね!」

 

 

「そうだったのか。

確かにそれは便利だな……そう言えばダイフゴーは器用に尻尾を使えているな。」

 

 

「慣れるまではドアにぶつけたり大変だったんスよ~

けど、今じゃもう完っ全に体の一部ですよ!

一応毒針が危ないんで、帽子被せてますけど。」

 

 

「すっかり使いこなせてるようで感心するな…。

周りを考えて毒針に帽子を被せてるのか……ダイフゴー、お前は仲間思いだなァ。

……そうだ、不便なら おれが毒針用の防具を作るが。」

 

 

「いやいや!

そりゃ、身内に毒針当たっちまったらおれも嫌ですんで!

…れ、レオヴァ様お手製…ゴクリ………や、けどレオヴァ様めちゃくちゃ忙しいのに悪いッスよ。

九里に飲み仲間の職人のオヤジがいるんで、そこで相談します!」

 

 

「そうか? おれは構わないんだが……。

まぁ、何かあれば気軽に言ってくれ。

防具の件は必要経費だ、申請してくれればウチで出すから忘れずにな。」

 

 

「はいッ!ありがとうごぜぇます!」

 

 

元気に返事を返したダイフゴーに、レオヴァは頷くと机の上いっぱいに並べられた食事を丁寧な所作で、どんどんと口へと運んで行くのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

俺は鳳皇城の実験室に戻って今回の結果を纏めていた。

 

それは、お玉と言う子どもが食べた超人系(パラミシアけい)の悪魔の実である“キビキビの実”についてだ。

 

 

俺はこの()の能力を、おでんの討ち入り()と同じくらい警戒していた。

 

なぜならば、ウチにはSMILEによって沢山のギフターズ達がいる。

もし、能力を行使されたら面倒な事になるのは火を見るより明らかだ。

 

この最悪の事態を防ごうと、幾つか事前に仮説を立てSMILEの製造に挑んだ。

 

その努力が報われたのかは定かではないが、今回の実験で懸念は払拭出来た。

 

 

お玉と言う子どもの協力の下、数名のギフターズに “きびだんご” を食べさせた後に、お玉に『その場に座れ』など幾つか命令させてみたが、誰一人として命令を聞くことはなかった。

一応、真打ちであるダイフゴーにも協力してもらったが、何の実験か解らないと首を傾げるのみであった。

 

他にも数個食べて貰うなど、何パターンもの状態でも実験を(おこな)ったが、結果は同じだった。

 

 

 

俺が立てていた仮説はこうだ。

 

“きびだんご” は動物にしか効かず、人間には使えない。

 

よって、原作のSMILEは能力が出現し続けており、動物の血統因子が色濃く出てしまった結果、“動物”と言う判定になってしまい効いた。

 

しかし、俺とクイーンの構想の下に、シーザーと作ったSMILEは能力の切り替えが可能だ。

その為、動物の血統因子もあるが人間の血統因子が多少強く、“人間”と言う判定で効かない。

 

同じく、純粋な悪魔の実の動物系(ゾオンけい)能力者に効かないのも似たような原理であり、“人間”だから効かない…または、そもそも悪魔の実は動物の血統因子を体内に作成する作用ではないのではないかと考えた。

 

例外的存在である、ヒトヒトの実を食べた“例のトナカイ”に使ってみれば、また何か発見があるかも知れないのだが…。

 

……まぁ、全て憶測に過ぎないが可愛い部下達を裏切り者として切り捨てる未来を回避出来たのは嬉しい結果だ。

 

 

もし、“きびだんご”が効いてしまっていたら、あの子どもを生かさず殺さずの状態で外のナワバリに閉じ込めておく予定だったが、それもせずに済みそうだ。

 

それに、俺の飼っている珍しい動物や遺伝子組み換えで作った動物を手懐けさせて、ワノ国で働かせるのも悪くはない。

 

なにより下手に悪魔の実の状態で保管し、悪意のある者に奪われ利用される可能を鑑みれば

百獣海賊団に好意的かつ、何か有れば対処のしやすい場所に居る弱者の方が管理しやすいだろう。

 

 

手始めに軍隊ウルフでも手懐けさせてみるか……そう、思考を巡らせつつ、俺は新しい実験に手を付けることにした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

── 百獣海賊団船員、専用宿舎前にて。

 

 

 

なんだと…!!?

レオヴァ様と一緒に食事をしただと!!」

 

「あ……ちょ、声デケェよ!」

 

 

驚きに声を荒げたババヌキを、ダイフゴーが止めに入る。

 

そんな、ギャイギャイと騒がしい2人の前を通りかかったスピードが訝しげに声をかけた。

 

 

「何を騒いでいるんだ二人とも…まさか喧嘩か?

ここは宿舎前だぞ、周りに迷惑をかける行為は他所でやるんだな。」

 

キリッとした顔で告げたスピードに、ババヌキは食いぎみに答えた。

 

 

「喧嘩じゃない!

ダイフゴーの奴が、レオヴァ様と二人で食事に行ったとか言うからよォ!」

 

「な、なに…!?

レオヴァ様と“二人きり”で食事だと!?

ダイフゴー……貴様…なんて羨ましいッ…」

 

 

じっとりと睨んでくるスピードとババヌキに、ダイフゴーは言い返す。

 

 

「いや、オメェらだって!

おれを置いてレオヴァ様との食事会行ってたじゃねぇか!」

 

「私とババヌキの時は他にも数十人の真打ちとギフターズがいた。

……二人きりじゃなかった…!!」

 

「順番を待たずにレオヴァ様とゆっくり話せるなんて…

……ぐぅ…ダイフゴーお前羨ましすぎるぞ!!」

 

「へへへっ……羨め羨め!

あ~……おれはもう今日の思い出でめちゃくちゃ頑張れるぜ~」 

 

 

したり顔でマウントを取るダイフゴーに、スピードもババヌキも悔しげに唇を噛む。

 

 

「くそぉ……見ていろ。

おれも今にお前より手柄立てて、レオヴァ様と二人でのお食事の権利を頂いてみせるからなァ!!」

 

「負けぬぞ、ダイフゴー…ババヌキ……!

次にレオヴァ様と二人きりで食事の場を共にするのは私だ!!

カイドウ様とレオヴァ様がお喜びになって下さる程の手柄を立ててみせる!」

 

「言ってろ…!

おれァ、絶対にお前らより手柄立ててカイドウ様とレオヴァ様のお役に立ってみせるぜ!」

 

 

バチバチと火花を散らす3人は、競うように訓練所へと走り出した。

 

 

「よしっ!

まずは、鍛えねぇとだよなァ!!」

 

「ババヌキ、訓練所でまずは“組み手”だ!

私の鍛練の成果をみせてやるぞ!」

 

「ふん!…パワーならおれは負けんぞ、スピード!」

 

「お前ら組み手すんなら、おれも入れろよ!」

 

「「いや、ダイフゴーは駄目だ」」

 

「仲間はずれはご法度だろォ!?」

 

 

ダイフゴーの叫びにババヌキとスピードは笑いながら訓練所へと入って行く。

 

 

「あ~くそっ!!マウント取って悪かったって!

スピード、ババヌキ…おれも入れろよ~!!

レオヴァ様の話すっからさァ!」

 

 

結局、スピードもババヌキもダイフゴーの語るレオヴァの話に食い付き、組み手は3人でやる事となったのだった。

 

 

後日、この話を聞いた他の真打ち達が、次は我こそがと訓練所で普段の数倍励み始めたのだが、当の本人は知らずに国務に追われていたのだった。

 

 

 

 

 

 





ー後書きー
前回も感想頂け感謝ですッ!!
いや、本当に筆が進む……ありがたや…m(__)m
カタクリさん人気で私もニッコリ……本当に格好いいぜ……
アンケートも沢山の投票ありがとうございます!
今回も読んで下さりありがとうございました~!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

円満な関係の為の籌策

 

 

 

編笠村付近の海岸の海は、朝日をキラキラと反射させ、美しい自然の景色を醸し出している。

 

穏やかな小鳥の鳴き声と村の子ども達の笑い声が響き、平和を象徴するかの様な景色だ。

 

 

しかし、この光景に相応しくない異物が混ざり込んでしまっていた。

 

砂浜に漂着したとみられる大きな海賊船。

そして、近くには無数の倒れている男達。

 

 

そんな不穏なこの光景を目撃した守護隊の対応は驚くほど迅速であった。

 

 

まず、この砂浜付近に村人が来ないように封鎖し、村人達の安全を確保。

更には同時進行で倒れている男達を拘束し終えると、村に散らばる守護隊員の出動要請をかけた。

その後、スマシにて近衛隊に連絡し指示を仰いだ。

 

これは定期的に行われている “非常時訓練” の成果と言って差し支えないだろう。

 

 

やるべき事を終えた守護隊達は警戒を崩す事なく、もうじきレオヴァの指示でこの場所へ来るであろう人物を待った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

“海岸に賊が打ち上げられておりまする!”

と、驚きの連絡が入り急いで現場に向かったドレークだったが、そこにいる青年を見て思わず目を見開いた。

 

 

 

「っだぁ~~!

もう、だから!おれはワノ国の奴を送ってやっただけだって!

お前らと殺り合うつもりはねぇんだ、武器をしまえよ!」

 

拘束を自力で解いたのであろう青年が炎の壁を作りながら、守護隊と睨みあっている。

 

 

「ならば、おぬしが先にこの炎をなんとかせぬか!!」

 

何人(なんぴと)たりともレオヴァ様のご許可なしに、この国には入らせんぞ!」

 

「話し合いはレオヴァ様の使者がお越しになってからだ……大人しくそこに直らんか、小僧!」

 

 

武器を納めるどころか、隙なく構える侍達に青年はイラついた様に叫んだ。

 

 

「くそっ……お前らと下らねぇ言い合いしてる場合じゃねぇんだ!

こっちは仲間が病気で死にかけてる…。

お前らが退かねぇなら……おれは力尽くでも医者の所へ行くぞ!」

 

 

青年の纏う炎が一層激しさを増した時だった。

身構えた守護隊達の後ろから、聞き馴れた声が響く。

 

 

 

「待て…!! そこまでだ!

これ以上は村へ被害が出かねん、両者武器を()ろせ!」

 

 

響いた制止の声に守護隊(しゅごたい)は一斉に動きを止め、青年の注意もドレークへと向けられた。

 

 

 

一方、注目を浴びながらドレークはどうするべきか悩んでいた。

目の前の男は間違いなく、ポートガス・D・エースだ。

レオヴァが何度かその名を口にした事をドレークはしっかりと記憶している。

 

 

「(確か火拳はレオヴァさんが何かと気にしていた海賊だ…

おれは、どう出るべきだ?

…捕虜として拘束し、レオヴァさんに渡す……いや、敵対は愚策か。

友好的に出ればレオヴァさんも後にやりやすいだろう。

それに、こちらが好意的に出たにも関わらず暴れる様であれば大義名分はこちらのモノだ……守護隊と揉めたようだが、なんとかするしかあるまい。)」

 

 

瞬時にあらゆる可能性を考慮し、ドレークは思考をまとめた。

 

 

目の前ではメラメラと灼熱の炎が燃え盛っている。

守護隊を下がらせ前にでたドレークを、エースはじっと目を離す事なく見ていた。

 

両者からは警戒心を崩さぬ張り詰めた空気が漂っていたが、苦し気な呻き声にハッとしたようにエースが後ろへ振り向いた。

 

 

 

「ガハッ……ぅ、エース…船長ぉ」

 

「ガンリュウ…!?

くっ……待ってろ、すぐに医者を!

おい、そこの眼帯退いてくれ。

このままじゃ仲間が死んじまう……この通りだ!!」

 

 

「え、エースせんちょ…!?」

 

「船……長…おれらの、為にっ……よ、よしてくれ!グゥ…」

 

「ハァ…ぐ……エ"ースさ"ん"っ……」

 

 

頭を下げたエースを見て、縛られている船員達が口々に船長を呼ぶが、その声に力はない。

 

 

エースは海賊船の船長というプライドを全て捨て、ほかの海賊団の人間に頭を下げたのだ。

 

仲間の命より優先するべきものなどない。

その想いを胸に、エースは今出来る精一杯を尽くした。

 

そんな彼の真摯な態度に守護隊も口をつぐむ。

 

 

静寂が包んだその場にドレークの声は良く通った。

 

 

「……わかった、お前の言葉を信じよう。

そこに居る奴らを治療できるように医者を呼ぶ。

しかし、その代わり…この国では大人しくしてもらうぞ。」

 

 

ドレークの言葉にエースが顔を上げる。

 

 

「っ…本当か!?…ありがとう!!

おれの仲間を……みんなを頼むっ!」

 

 

もう一度頭を下げるエースにドレークは言う。

 

「止めろ。

いち海賊団の船長がそんな風に頭を下げるな。

……だが、一応上には報告はさせてもらう。」

 

「構わねぇ!

みんなの病気が治るなら……」

 

 

レオヴァに報告すべく、少し離れたドレークを見つめるエースに守護隊達が近寄って行く。

 

一瞬、警戒したように構えたエースだったが、守護隊の雰囲気を見て少し力を抜いた。

 

 

「ドレーク様が助けると仰ったなら、おれらも手伝う。

……鎖を外すからそ奴らを横に寝かしてやれ。」

 

「おい、一応毛布を持って来たぞ。

寝かす前に敷いてやるってのはどうだ?」

 

「ドレーク様が医者をお呼びになるまでに必要な物が有れば言え。

ワシらで用意できる物は融通してやるぞ、小僧。」

 

 

エースは先程の険しさが和らいだ守護隊達に礼を述べると水や毛布片手に倒れている仲間達を介護してゆくのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

静寂が支配している病室で、濃い隈のある青年の冷たい言葉がエースを貫いた。

 

 

「こいつら全員、小腸がほぼ機能してねぇ。

このまま行けば1ヶ月もしない内に必要な栄養が摂れなくなって餓死だ。

……薬で治せるような簡単な病状じゃねぇ。」

 

 

その言葉にエースは目の前の青年の肩をガッと掴み叫んだ。

 

 

「う…嘘だろ……

どうすりゃいい…どうすりゃみんなを救える!?

 

 

普段は強い光を灯しているエースの瞳は不安で揺れていた。

 

やっと手に入れた大切で、かけがえのない仲間達。

エースにとって、仲間が心の支えであり居場所だったのだ。

それが目の前のどうしようもない現実に奪われようとしている。

 

エースは唇を血が滲むほど噛み締めた。

 

もう二度とあの時の様な事が起こるのは絶対に嫌だった。

……あの“大切な兄弟(サボ)”を失った時の喪失感など、二度と味わいたくはない。

 

 

けれど、自分にはどうすることも出来ない“病”が仲間を蝕んでいっている。

 

ベットの上で脂汗を滲ませながら苦し気に息を吐く仲間の姿に、エースは自分の無力さを叩き付けられていた。

 

 

 

 

「……1つだけ、治せるかもしれねぇ方法がある」

 

 

目の前の青年の言葉にエースは勢い良く顔を上げた。

 

 

「ほ、本当か!!?」

 

 

縋る様な顔で迫るエースに、青年は淡々と告げる。

 

 

「あぁ……だが、その手術はワノ国の国民と百獣の船員にしか使わない。

…他の海賊団に機密を漏らす事になるから、おれの一存で手術は行えねぇしな。」

 

 

エースは青年の言わんとする事を理解した。

 

要するに“身内でもない相手を情報漏洩のリスクを犯してまで救う気はない”…と言う事だろう。

 

 

自分の夢……仲間の命…………

エースにとって、答えを出すことは簡単であった。

 

“仲間”

 

“大切な仲間達より優先するべきモンなんざねぇ!!”

それがエースの導き出した答えだった。

 

 

 

傘下に下る。

その言葉を紡ごうとエースは口を開いた。

 

 

 

「おれは…!」

 

 

「おい、トラファルガー!

これはすぐにレオヴァさんを呼ぶべき案件だろう!?

なにを火拳と話し込んでいるんだ!

感染症の対策も取らなければならないのではないのか?

 ………指示にないだろう…余計な真似は止せ

 

「チッ、うるせぇな……ドレーク。

…いちいち叫ばなくても聞こえてるし、わかってる。

感染源は押さえてるし、接触した守護隊共の検査も終えてる。

 …………もう少しだってのに邪魔しやがって…

 

 

 

だが、エースの決意はドレークの怒鳴り声によってかき消された。

 

話をしようにもドレークとローはバタバタと慌ただしくエースを置き去りに作業を始めてしまっている。

 

 

「あ……お、おい…!

おれの話を……」

 

 

その呼び掛けは虚しく宙を舞ってゆく。

 

エースは忙しそうな二人に声を掛けるのは諦め、ただひたすらビニールカーテンの奥で眠る仲間達を憂う事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

仲間達を助ける為なら全てを投げ打つ。

一週間前に、その覚悟を決めたエースは思ってもいなかった展開に目を丸くし叫んだ。

 

 

 

「え………本当におれの仲間は治ったのか!?

 

 

「あぁ、問題なく皆の治療は終わった。

ただ、あと2週間はゆっくり療養させて様子をみる必要はあるが、峠は越えた…もう心配の必要はない。」

 

 

「~っ!! ありがとう!!!

アンタ……本ッ当に良いヤツだな!!」

 

 

驚きと安堵から、エースは正面に立つ角のある青年の肩を力強く掴み何度も礼を述べた。

 

しかし、その姿に後ろから地を這うような低い声が掛かる。

 

 

「……おい、いつまでレオヴァさんにベタベタしてんだ。

手を切り落とされたくなきゃ離れろ。」

 

「火拳、貴様レオヴァさんに無礼を働くな!

事前にこの国の王だと伝えただろう!!」

 

 

「あ!……これは失礼。

えー……ほうおうさま、ありがとう!…ございます!!」

 

 

鋭い目付きで睨み刀に手をかけるローと、怒気を含ませるドレークの言葉に怖じけることもなく、エースは姿勢を正すとレオヴァに再度礼を述べた。

 

気にするなと微笑みながら、ローとドレークを宥めるレオヴァにエースは更に好印象を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

あれから、感染症の治療を終えた仲間達の療養中の間

エースはありとあらゆる雑務を手伝っていた。

 

何十何百回と断られたが、諦めずに何か手伝わせてくれと詰めよったエースにレオヴァが折れ、村や町の手伝いを任される様になったのがきっかけだ。

 

 

 

 

『頼む! おれにも何かさせてくれ!!』

 

『いや、何回言わせるんだ。

エース……お前はおれの部下を助けてくれた。

だから、おれはお前の仲間を治した……それで貸し借りは無しだ。』

 

『それじゃあ、おれの気持ちが収まらねぇんだ。

治療もだけどよ…仲間の飯代に包帯とかもスゴい金かかってるじゃねぇか……

なのに何もしねぇってのは、性に合わねぇっつーか…

だから、頼む! 体力には自信あるし……なんでも任せてくれよ!』

 

 

毎日鳳皇城に現れては頼み込むエースに、ついにレオヴァは根負けしたのだった。

 

 

 

 

そんなこんなで、今日もエースはドレークと町や村に赴き困り事を解決する作業を進めていた。

 

猛獣退治に荷物運び、竹林の開拓……大きな問題なく仕事をこなして行った。

………まぁ、竹林の開拓で炎が燃え広がりかけたアクシデントがあったのはここだけの秘密であるが…。

 

 

 

 

 

ドレークから落とされた拳骨で出来たコブをさすりながら、エースはレオヴァの下へと向かっていた。

 

理由はレオヴァとワノ国で最後の食事を共にする為だ。

 

 

エースは穏やかで平和な町を歩きながら思いを巡らせた。

 

 

仲間が倒れ不安でしょうがなかった時、レオヴァは自分にたくさんの思い遣り溢れる言葉をかけてくれた。

 

それに忙しいにも関わらずローと共に長時間の手術も、嫌な顔をするどころか

『エースは部下を助けてくれたんだ。

ならば、おれもお前の仲間を必ず助けよう』

と、頼もしい言葉で安心させてくれた。

 

手術を終えた後も療養中の仲間達に声をかけたり、みんなの好物を用意したり……レオヴァは本当に優しく接してくれたのだ。

 

 

エースの中のレオヴァとの記憶は、どれも暖かく楽しいものだった。

 

 

恩人であり、友人。

そんなレオヴァとの別れが明日なのだ。

 

エースには夢がある、目指すべきものがあるのだ。

 

ワノ国は心地よい。

皆が優しく、お互いを尊重し合える人々ばかりだ。

 

 

だが、止まるわけにはいかない。

仲間達とこの広く険しい海を渡っていき、夢を実現させるその時まで……

 

 

エースはレオヴァが待っている部屋の襖を勢い良く開いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

鳳皇城(ほうおうじょう)の客間でエースとレオヴァは大量の料理に囲まれながら、とりとめのない会話をしていた。

 

初めこそ

『どこにそんなに大量の食べ物が入っていくんだ!?』

と驚愕していた近衛隊や料理人たちだったが、最近ではすっかり順応し

『まぁ、エースだからなぁ』

との反応で済ませる程度だ。

 

 

 

だが、ほのぼのとした穏やかな空気の中、急にエースがポツりと呟くように爆弾の様な発言を溢した。

 

 

「実を言うと……おれァワノ国には、カイドウの首を取るつもりで来たんだけどよ…。」

 

「…………ほう、父さんの首を。

…そうか……だが、それはおれを殺してからの話だなァ…エース。」

 

 

スッと表情が消え、押し潰されるのではと錯覚する程の威圧感を漂わせ始めたレオヴァを見て、エースは慌てて両手をブンブンと振りながら弁解した。

 

 

「あ…いやいや!レオヴァちょっと待ってくれ!

もう、レオヴァの親父さんの首は狙ってねぇよ!

暫く滞在して分かったけどよ、噂と違ってカイドウって優しいって言われてスゲェ慕われてるっぽいし…

なによりレオヴァはおれの仲間を助けてくれた恩人だ。

そのレオヴァの大切な人に戦争しかける真似はしねぇよ。」

 

 

その言葉で威圧感は消え、いつもの笑顔が戻ったレオヴァに ほっとエースは息を吐く。

……普段笑顔で優しい相手ほど怒らせると怖い。

そんな事を思いながらエースは机の上のご馳走を胃の中へと運んだ。

 

 

「……だが、エースは名を上げたいんだろう?

おれとしてはウチに危害を加えるつもりがないなら、エースにはおれの部下を助けて貰った恩がある……手を出すつもりもないが…」

 

「ング…モグモグ…んん、それは大丈夫だ!

おれは白ひげの首を取って名を上げることにした。」

 

「白ひげか…厳しい戦いになるだろうが…武運を祈ってるぞ、エース。」

 

 

微笑むレオヴァの言葉にエースは意外そうな顔をする。

 

 

「………無理だって笑わねぇのか?」

 

「人の目標や夢は笑うものじゃないだろう。

それに不可能だと決めつけて他人の可能性を否定する様な事は、おれはあまり好まない。」

 

「はははははっ!

おれ、やっぱりレオヴァ好きだな。

一緒に海賊やろうぜ!?」

 

「ありがとう、エース。

だが、何回も言った通り おれはずっと昔から百獣海賊団に骨を(うず)めると決めてる。」

 

「え~……絶対楽しいのによ~!」

 

 

引き下がらないエースに、レオヴァは困った様に眉を下げた。

 

その後も何度誘っても首を縦に振らぬレオヴァにエースはガックリと肩を落としながら、骨付き肉にかぶり付く。

どうやらレオヴァの百獣への想いを聞いた事があるエースは渋々諦めたようだった。

 

 

また暫くワノ国の話やエースの弟の話をしていた二人だったが ふいにエースが口をつぐみ、その場に沈黙が流れた。

 

突然止まったエースにレオヴァは首を傾げ、刺身を掴んでいた箸を下げた。

 

 

「…エース?

どうした、何か苦手な物でも入っていたのか?」

 

 

少し下を向いていたエースを覗き込み、心配そうに尋ねたレオヴァに答えるように、エースは突然パッと顔を上げた。

その顔は緊張しているのか強ばっている。

 

 

「……なぁ、レオヴァ。」

 

「…なんだ、急に真剣な顔をして。」

 

 

エースの変化にレオヴァが怪訝そうな顔をする。

何を言うのかと身構えるレオヴァの耳に届いたのは、拍子抜けする内容だった。

 

 

 

「おれの夢は前に話したよな?

…おれさ……“大海賊”になったら……

……またワノ国に、レオヴァに会いに来る!!」

 

 

「…………あ、あぁ。全然それは構わないが?」

 

 

レオヴァの沈黙に不安そうな顔で『来たら駄目なのか…?』とわたわたするエースだったが、困惑したような顔で答えたレオヴァの言葉に、にっと白い歯を見せて笑った。

 

 

「よっしゃあ!

すぐに大海賊になってまた来るからな!

その時はまたいっぱい冒険の話もして……あ、あとレオヴァに珍しいモンも土産で持って来るから楽しみにしててくれよ?」

 

「いや、まぁ…土産は嬉しいが……それだけか?」

 

「へ? それだけって?」

 

「はぁ…エース……ならさっきの沈黙はなんだったんだ…」

 

「あ……へへ…悪い悪い。

レオヴァは友達だけどワノ国の王様だろ?

立場とかあるしよ……来んなって言われるんじゃねぇかな…とか考えてたんだ。

まっ!考えてもしょうがねぇから来るって言っちまったけど、来るなって言われなくて良かったぜ!」

 

 

満面の笑みで告げたエースに、レオヴァは呆れた様に言う。

 

 

「なにか困った事でもあるのかと心配した おれの気持ちを返してくれ…

まぁ、そもそもエースは来るなと言っても来るだろう。

それに何者だろうとエースはエースだ……大海賊になってもならなくても、好きに遊びに来れば良い。」

 

 

レオヴァの言葉にエースは嬉しそうに益々笑みを深めた。

 

 

「ははははは!

なぁ、レオヴァ……やっぱりおれと来いよ!!」

 

「……はぁ…おれの夢は話しただろう。

エースとは行かない、諦めろ。」

 

「ちぇ~……絶ッ対楽しいのに」

 

 

拗ねたように口を尖らせたエースを見て、レオヴァは何度目か分からぬ溜め息を吐きつつも笑っていた。

 

 

ワノ国出発前の晩餐をエースは心から楽しんだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ポートガス・D・エース率いるスペード海賊団がワノ国を出港した日の深夜。

 

 

昼間のエース達に向けていた暖かな笑顔の面影など微塵も感じられぬ程に冷たい表情のレオヴァが其処(そこ)に居た。

 

目の前にはボロボロな女が惨めに這いつくばりながらレオヴァへ腕を伸ばしている。

 

 

「ア……グア"ァ"…レオヴァさまッ……なぜ…

わ"…たし、を……許し"て"下さる"と"…………ッぉごお!?」

 

 

最後まで言い終える前に女の伸ばしていた手にサーベルが深く突き刺さった。

 

女は血反吐を吐きながら、サーベルを握っているドレークを睨んだ。

 

 

だが、そんな女にとって神に等しい存在であるレオヴァから無慈悲な現実を突き付けられる。

 

 

 

「任務遂行の為にターゲット諸とも死ぬ事すら(かえり)みない気概は悪くなかったんたがなァ……まぁ、父さんを侮辱した時点で生かすつもりはねぇが。」

 

 

「レオヴァさん、おれも百獣の為なら命なんて幾らでも捨てられる。

……ソレがレオヴァさんから言葉を貰えるなんて贅沢が過ぎる、もう処分させてくれ。」

 

 

死にかけている惨めな女に張り合うように言うドレークにレオヴァは少し驚いた顔をしてから、眉間に皺を寄せた。

 

 

「ドリィ、お前は使い捨てのソレとは違う。

おれにとって家族同然のお前が死ぬことは絶対に許さん。

例えどれ程惨めでも…這いつくばってでも生きろ。

……いいな、ドリィ。」

 

 

「っ……わかった…!

すまない……二度と言わないよ、レオヴァさん。」

 

 

「約束だぞ…ドリィ、自分を軽視する真似だけはしないでくれ。」

 

 

「あぁ、絶対に。

おれが死ぬのはカイドウさんかレオヴァさんに殺される時だけにする。」

 

 

「ふふふ……それだと、ドリィは不老不死になる事になりそうだなァ?」

 

 

「……レオヴァさん、あまり喜ばせないでくれ。」

 

 

「おれしか居ないんだ、取り繕う事もねぇだろう?」

 

 

「レオヴァさんの前だからこそ、取り繕いたいんだ!」

 

 

「ふはははは…!

ドリィ……お前は本当に…ふふ…。」

 

 

「わ、笑うことないだろう、レオヴァさん……

…………そうだ、まだ生きてたんだった。

レオヴァさん、そろそろ処分して良いか?」

 

「……あぁ、ついドレークが驚かせる様な事を言うから存在を忘れていた。

ドレークのペットの餌として有効活用するとしようか」

 

 

レオヴァの言葉に頷くとドレークは惨めな女の脚を掴んで持ち上げ、檻の中へと放り込んだ。

  

 

投げ込まれた衝撃で固い床に打ち付けられながら、女は信じられぬ現実に声にならぬ叫び声を上げる。

 

 

その叫び声に不快そうに眉をひそめるレオヴァを見て、女は震えながら絶望に涙を流す。

 

 

 

この女は元々は世界平和の為、スパイとして百獣に潜入していた。

だが、それは直ぐにバレてしまい……キングという男にこの世の地獄の様な拷問を繰り返されていたのだ。

 

そんな己の人生に絶望し、救いを求め続けた女……トゥレ・チェリーの前に渇望していた救いの手を差し伸べたのがレオヴァだった。

 

あれ以来、女はレオヴァに全てを捧げると誓った。

そして、レオヴァも自分を許し、信頼してくれていると信じきっていたのだ。

 

女は思っていた。

レオヴァ様は、一度は敵だった自分を地獄から救い出し優しく介抱し、なんども私の能力が必要だと求めて下さったのだから……きっと誰よりも私は特別で…信頼を頂けている!!

 

 

 

しかし、現実は違った。

 

 

惨めな女は使い捨ての道具の様に扱われ、敵視してきたドレークが自分の望む扱いを目の前で受けている。

 

女は泣き喚き、ドレークへ言葉にすらなっていない呪詛を吐きつづけた。

 

 

私がレオヴァ様の“特別”なのだ

私がレオヴァ様の信頼を受けるべき人間なのだ

私が、私こそがァ……!!!

 

 

女は必死にレオヴァの方へ手を伸ばした。

 

あの瞬間(とき)の様に、レオヴァの慈悲に溢れる優しき手が自分を救ってくれると信じて。

 

 

「レオヴァ、さま……私こそが貴方様の…とく…」

 

 バクンッ!

 

 

巨大な蜥蜴の口を閉じる音に女の声は押し潰され、そこには卑しくもレオヴァへと伸ばされていた腕のみが残されていた。

 

 

 

「ふふふ……ドレーク、この子は相変わらず食べるのが下手なんだな。」

 

「そうなんだ、アルビノというモルフの性質上目が悪いみたいで…上手く口の中に入れられないんだ…

……ほら、残ってるぞ。」

 

 

檻の中へ入り、残った腕を蜥蜴の口へ投げ入れてやるドレークを見終えるとレオヴァが思い出した様に呟いた。

 

 

「……処分してしまったから、キングの趣味用の人材を用意してやらないとだなァ…

外のナワバリで捕らえた海賊を土産にするか……」

 

 

鬼ヶ島の飼育室にはレオヴァの独り言と、ドレークが檻の中で水を出して血を洗い流す音だけが聞こえていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

俺は何事もなくワノ国からポートガス・D・エースを出港させられた事に、ほっと息をついた。

 

計画に使った女も処分でき、一安心だ。

これで今回のエースの件の詳細を知るのは俺とドレーク、ローのみとなった。

 

 

しかし、本当に編笠村を一番に取り込んだのは正解だった…。

 

父さんが工場を任せると言ってくれたあの時、俺はすぐに編笠村が良いと頼んだ。

 

 

その理由は3つある。

1つ目は不法入国が可能な滝が近くにあること。

2つ目は“優秀な刀鍛冶”がいること。

そして、3つ目がポートガス・D・エース及びお玉の件だ。

 

この3つの理由から、俺は真っ先に編笠村を取り込む方針を選んだ。

……どの村よりも厚い忠誠心を得る為に。

 

 

結果、編笠村は“一番にレオヴァに救われた村”としてワノ国内でも一目置かれる存在になっているし、俺もなにかと村に顔を出せるように気を遣っている。

 

思っていた通り飛徹の刀はどれも素晴らしい名刀で、ウチには刀を使う部下が多く、飛徹率いる刀鍛冶達は絶対に手放せぬ人材だ。

 

 

その甲斐もあり、編笠村の村人達は忠義心溢れるワノ国の中でも屈指の心酔具合だ。

 

 

 

 

予め処分する予定だった女を手懐け、感染源としてスペード海賊団に拾わせられたのも大きい。

 

狙い通り半数以上が病気にかかり重症……その結果エースとの関係も良好なものに出来た。

 

先を読んだローが傘下に下させようとしていたと聞いた時は少し焦ったが、阻止したドレークの英断にはつい頬が緩む……ドリィも本当に自慢の部下だなァ…。

 

 

…兎に角、彼を傘下に入れることは絶対にあってはならないのだ。

 

エースは実力も伸びしろも申し分ないほど才気溢れる人材だが、性格に難がある。

俺はわざわざ爆弾を抱えるつもりはないし、何よりエースには重大な役割があるのだ。

 

それは……白ひげの死である。

 

 

白ひげは俺の手に負えぬ程強く、多くの者の心を掴む王者の風格も持つ男だ。

……だがそれも、エースさえ居れば解決できる。

 

この海の王者は“百獣のカイドウ(父さん)”だけで良いのだ。

 

何人も覇王などいらない。

海賊王という称号こそが、唯一無二である父さんに釣り合う称号だろう。

 

 

どんな汚い手段だろうが構わないんだ。

 

俺は“百獣のカイドウ(父さん)”を海賊王にする為ならば手段は問わず、あらゆるモノを利用すると決めている。

勝ち続けた者こそが、正しい……それが現実なのだから。

 

 

信頼するキング、クイーン、ジャック……そして大切な可愛い部下と共に、俺が誰よりも敬愛する“百獣のカイドウ(父さん)”を王に……それが俺の唯一無二の願望だ。

 

 

 

朝日が昇り始め光を反射させる綺麗な海を横目に、俺は思考の海から浮かび上がり、目的地へと向かった。

 

 

 

 

 

 




ー後書きー
今回も読んで下さりありがとうございました!
感想、ここ好き一覧、誤字報告感謝です!!!

レオヴァの新規絵です!
(最初のイメージ図にプラスしようと思って書いた物なので、レオヴァの見た目は変わりません)
特に見ても見なくても支障はありません( ・ω・)ノ


【挿絵表示】



いつも感想読み返してニヤニヤさせて頂いております!
アンケートもご協力ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

傑作達の兄と弟による吟味

 

 

新世界の海を揺蕩(たゆた)う海賊船の一室。

そこで、カラフルな服装に長い舌が特徴的な細身の男が優雅に椅子に腰掛けていた。

 

細身の男は丁寧な所作で上品にティーカップを口元へと運び、香りを楽しんでいる。

 

 

「ん~、ベルガモットの爽やかな香り……そして、甘く…ほのかな紅茶の香り……実に有意義なメリエンダだ、ペロリン♪」

 

 

「ペロスお兄ちゃん、すっかりその紅茶がお気に入りね。」

 

 

上機嫌なペロスペローにブリュレが微笑む。

 

 

「これを作った百獣の息子は気に入らないが…

…まぁ、紅茶に罪はねぇ…美味しく頂くさ、ペロリン♪」

 

「レオヴァはムカつく奴だけど、ペロスお兄ちゃんの言う通り紅茶の味は格別ね!

あ、そうそう!

紅茶に合うお菓子作ってみたの、ペロスお兄ちゃんも食べてみて!」

 

「おぉ……ブリュレ、お前は本当に気が利いて可愛い妹だ!

ぜひ、食べさせてくれ!」

 

「うふふ。待っててねペロスお兄ちゃん!

すぐに持ってくるわ!」

 

 

嬉しそうな顔をしながら部屋を出ていったブリュレを横目に、ペロスペローはまた紅茶を口へ運んだ。

 

 

シャーロット家にとって、心休まる大切な時間……それがメリエンダである。

 

だが、そんなメリエンダの時間にも関わらず、ブリュレの去った部屋でペロスペローは眉間に皺を寄せた。

 

この眉間の皺の原因にはペロスペロー自慢の弟……カタクリが関係していた。

 

 

そもそもの発端は1年ほど前の出来事だった。

 

あの完璧であり、超人。

シャーロット家の最高傑作とまで言われるカタクリが怪我を負って帰って来たのだ。

それも、かすり傷などと言う軽いモノではなかった。

 

 

あのカタクリが怪我をしたと聞きペロスペローは驚きに声を上げた。

いったい誰がおれ達の自慢のカタクリを!!

と、弟本人を問い詰め、やっと聞き出せた名こそが “レオヴァ”

── 百獣の息子であった。

 

 

ペロスペローは、また驚きのあまり声を上げた。

 

お茶会やらで兄弟の中でも情報通なペロスペローの知っている百獣の息子の噂はこうだ。

 

 

一、百獣のカイドウの一人息子である。

 

ニ、とあるナワバリに軟禁状態であり、カイドウの許可が無ければ出られない。

 

三、カイドウの贔屓により地位を与えられただけの男である。

 

四、百獣では穏健派であり、病弱である。

 

五、戦闘員ではなく、学者である。

 

六、変わり種が好きなコレクターである。

 

などなど……と。

ペロスペローが知り得る限り海賊として恐れられる様な噂が1つもない、それが百獣の息子であった。

 

そんな男が自慢の弟に傷を付けたのだ。

ペロスペローの腸は煮えくり返る思いだった。

 

カタクリの過去も想いも努力も……全て知っている。

血の滲む様な努力を続け、普段も完璧であろうと気を張り続けている可愛くも自慢の弟だ。

 

その大切な弟が、大した結果も何も残していない無名と言って差し支えない男に傷を負わされた。

 

ペロスペローは握っていたキャンディーの杖を思わず折ってしまうほどに、百獣の息子への怒りを感じていた。

 

 

 

『ッ…!! 百獣の息子が…!』

 

 

ペロスペローはバッと怒りに任せ顔を上げて叫ぶつもりだった。

しかし、頭上にあるカタクリの顔を見たら口から出る筈だった声は宙に消えていってしまった。

 

 

『ダイフク達との噂話と違って、レオヴァはなかなか面白い奴だった。

ペロス兄もきっと気に入る……誘ってもウチには来ねぇと言ってたが取引相手としても十分な男だ。』

 

そう言って目を細めるカタクリがいたからだ。

 

『…っ………そうか。』

 

結局、ペロスペローはその場でニッコリと笑顔を作り一言告げるに止める他なかった。

 

事実、カタクリが百獣の息子と取引して持ち帰った様々な菓子や紅茶は、どれも素晴らしい物ばかりだった。

なにより、それを女王であるビッグ・マムも甚く気に入ってしまっている為、無闇に百獣の息子に手が出せなくなってしまったのだ。

 

 

その後も何度も百獣の息子との取引の為、カタクリは所定の島へと遠征へ出ていた。

 

相手がカタクリを指名していたと言うのもあるが、それだけではないだろう。

 

何故なら、カタクリはビッグマム海賊団の誇る将星なのだ。

いくら相手の指名だとしても、そんなもの幾らでも断れる。

たかだか貿易なんぞに我らが自慢のカタクリが絶対に出向かなければならぬ事などないのだ。

 

確かに、百獣との取引では他で手に入らぬ様々な物がある為に、護衛の意味も含まれているが、そもそもビッグ・マムの船に手を出そうなんて馬鹿はいないし、護衛ならばカタクリでなくとも務まる。

 

けれど、カタクリは毎回その取引へ赴いていた。

 

…………それも自ら進んでだ。

 

 

ペロスペローは心底複雑であった。

 

昔から“ある理由”で友人が出来なかった兄妹想いの弟に、友人のような存在が出来た事は“兄として”喜ばしいことだ。

 

しかし、だ。

 

それがカイドウの一人息子という事以外に、箔もなにもない男となれば話は別である。

 

カタクリの友人になるのならば、せめて足下くらいには及ぶ人物でなければペロスペローは認められなかった。

 

 

例え、その遠征での話をカタクリが楽しげにオーブンやダイフクに話していたとしても。

例え、その百獣の息子から貰ったと思われる黒く鋭い装飾を気に入って身に付けていたとしてもだ。

 

この目で見て、納得いくと思える存在でなければ

お兄ちゃん(ペロスペロー)”は認める訳にはいかないのだ。

 

 

ペロスペローは香りも味も完璧すぎる紅茶を飲み干し、呟いた。

 

 

「……百獣の息子…おれが見定めてやろう。」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

レオヴァは取引地として使っている島へ、ビッグ・マムとの恒例の貿易の為に空を進んでいた。

 

品物も航路も全て恙無(つつがな)く整え、準備は万全であった。

 

しかし、船の中にある自室にてレオヴァは電伝虫(でんでんむし)の前で眉を下げていた。

 

 

「…そう、か……来れなくなったのか。」

 

あからさまに声のトーンが下がったレオヴァに、電伝虫の先の相手は申し訳なさそうな声で謝った。

 

 

「すまない……二日前に馬鹿な王がママの機嫌を損ねてな…

おれがその国を消しに行くことになったんだ。」

 

「いや、カタクリ。謝らないでくれ。

ビッグ・マムの名をナメた国を消す仕事は重要だ、カタクリが駆り出されるのにも納得がいく。

……また、次の機会を楽しみにしてる。」

 

「…分かってくれて助かる。

次に会う時には、おれが最近気に入っている絶品のドーナツを馳走すると約束する。」

 

「ふふふ……カタクリが絶品と言うなら、本当に美味いんだろうなァ…益々楽しみだ。」

 

「味は おれが保証する。

マリトッツォドーナツと言うんだが、ふわふわで軽い食感のドーナツにたっぷりのとろける様な濃厚な味わいの生クリームが筆舌に尽くしがたい一品だ!

更に、これにレオヴァがくれた例の豆を深煎り珈琲にして合わせた日には……」

 

「…くっ…ふふふふ。」

 

 

どれだけ素晴らしいかを語り始めたカタクリに思わずレオヴァが笑うと、電伝虫がはっとした様な顔をする。

 

 

「……ンンッ、話が逸れたな。

今回、おれの代わりにペロス兄が取引を受け持つ事になってる。」

 

「ペロスにぃ?……あぁ、ペロスペローか。

カタクリが良く自慢している長男だろう?」

 

「そうだ、ペロス兄はおれよりも取引馴れしているから問題はない。

……ただ、小豆はペロス兄ではなくブリュレにそれとなく渡しておいてくれ。」

 

「わかった、カタクリの自慢の兄に失礼のないように努めよう。

ブリュレに?

おれが言うのもアレだが…ブリュレは少し抜けているだろう?……失くしそうで不安なんだが…」

 

 

レオヴァの不安にカタクリは暫し沈黙し悩む素振りを見せると、困った様に口を開いた。

 

 

「……完璧に完成させるまでは秘密にしたかったが…」

 

「おれからすればカタクリの作るあんこ餅は十分すぎる出来栄えだが…」

 

「いや、まだ駄目だ。

ペロス兄や可愛い弟妹達には完璧でうまい物を食べさせてやりたいんだ。

……レオヴァもカイドウに何か作るとなれば完璧を求めるだろう?」

 

「成る程、確かに。

父さんに完璧な物を用意するのは至極当然。

…なれば、カタクリにとって兄妹の為ならばそれが当然か。」

 

「そういう事だ。

兄妹達へ振る舞う菓子において、手を抜くなど万に一つもあってはならない事だ。

……だからこそ、レオヴァに試作を手伝ってもらうと言う話だったってのに…馬鹿な王がママを怒らせさえしなけりゃ……。」

 

 

はぁ、と溜め息をつくカタクリの心中を察し、レオヴァは思考をフル回転させる。

 

大切な者の為に全力を尽くす事も、それを発表まで秘密にしたい心境もレオヴァは痛い程に理解できた。

なにせレオヴァも父の喜ぶ顔の為に努力し、それをギリギリまで隠す事はよくあるのだ。

 

兄妹想いなカタクリのサプライズの為、レオヴァはある提案をする事にした。

 

 

「……カタクリが消しに行く国の近くにウチのナワバリがあるのを知っているか?」

 

「あぁ、確か変わったカカオ豆が特産品だという島だろう?

ママも狙っていた島だから記憶しているが……」

 

 

急にどうした?と首を傾げる電伝虫にレオヴァが笑いかける。

 

 

「この貿易が終わり次第、その島まで出向こう。

カタクリなら国ひとつ程度すぐに片付くだろう?」

 

「…! いいのか…?」

 

目を見開く電伝虫にレオヴァは優しく声をかける。

 

 

「構わねぇさ、おれには羽がある。

それでその時に小豆を渡せばペロスペローに勘繰られる事もないだろ。」

 

「…ありがとう、レオヴァ。」

 

「ふふふ……まぁ、いつもの見返りは求めるがな。」

 

「問題ない。

…手は抜かねぇぞ、今回もおれが勝たせてもらう。」

 

「2勝3敗だが……連勝させるつもりはねぇよ、カタクリ。」

 

レオヴァは愉しげに笑い、電伝虫の先のカタクリは自信を滲ませている。

二人はまた少し会話を交わすと電伝虫を切り、お互いの仕事に向かっていった。

 

 

 

机に向き直り、静かになった部屋でレオヴァは書類に手を伸ばす。

 

 

「ペロスペローか……確か、特に紅茶が好きだとカタクリが言っていたな…」

 

手に持った書類に目を通しながら、レオヴァは船にある茶葉を思い浮かべていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ジャックは、最近とある男を気にしていた。

 

それはビッグ・マム海賊団幹部、シャーロット・カタクリである。

 

将星カタクリと言えば、余程馬鹿な海賊でない限り知らぬ者などいない猛者である。

 

しかし、ジャックが気にしているのは強いからではない。

……確かに四皇の幹部である彼をまったく気にしていなかったと言えば嘘になるが、ジャックが強い関心を持ち始めたのはそれが理由ではないのだ。

 

 

基本的に()に興味のないジャックが気にする理由など多くはなく、概ねカイドウかレオヴァ、またはジャックが兄御と慕う2人が関係する事くらいである。

 

 

そして、今回の理由はレオヴァだった。

 

あの身内以外には素など全く見せぬレオヴァが、楽しげに電伝虫で話しているのをジャックが目撃したのが切っ掛けだった。

 

 

『ふははははっ!

カタクリ、お前の妹は面白いなァ…!』

 

『……あまり笑ってやるな、ブリュレは真面目にやってるんだ。』

 

『ふふふふ。

いや、そうだな…すまない…ふふ。』

 

『……断る!』

 

『ウチに欲しいな。

……先を読んで答えるな、せっかちな奴め。』

 

『お前も、おれがレオヴァの部下を…』

 

『あぁ、断る。

絶対におれの可愛い部下はやらん。』

 

『…だろうな。

その言葉そのまま返そう。』

 

『ふふ、悪かった。

ベポもブリュレを気に入っているから、つい…な。』

 

 

この親しげな会話を聞いたジャックは心底驚いた。

『あのレオヴァさんが…身内以外に…!?』

そう拳を握りしめたジャックのカタクリへの印象は最悪である。

 

いくら四皇の息子であり貿易相手とはいえ、馴れ馴れしくレオヴァに電伝虫をかけるなど、ジャックは許せなかった。

……本心は嫉妬なのだろうがジャックに自覚はない。

 

 

日々忙しく、幹部であるジャックはレオヴァとの時間が取りづらいと言うのに、久方ぶりにレオヴァの部屋に向かったらカタクリとか言う他人が親しげにしていたのだ。

ムカつくなというのは無理がある……と、ドレークとスレイマンはジャックを肯定した。

 

他にも、あのフーズ・フーやトラファルガーさえムカつく事には強い同意を示したのだ。

 

彼らレオヴァ過激派にとって、カタクリへの心象があまり良くないのは言うまでもないだろう。

 

 

そして、そのレオヴァ過激派がいつまでも何もせずに手をこまねいているだけなのか……答えは、否だ。

 

行動に移した結果ジャックはレオヴァの弱点を突き、今回の取引に同行する事に成功したのだ。

 

最初こそ、渋るレオヴァだったがジャックの

『……褒美としてでも駄目か、レオヴァさん…』

という言葉と、大きな体をショボくらせる哀愁漂う姿に負けたのだ。

 

レオヴァは優しくジャックの背を叩き

『わかった。

そんなに来たいなら今回はジャックにおれの護衛を任せる、一緒に行こう。』

と微笑んだ。

 

『レオヴァさんッ…!』

そう純粋に喜ぶジャックにレオヴァは何故そんなに喜ぶのかと首を傾げながらも、正式にジャックを連れていく手筈を整えた。

 

 

そう、レオヴァは普段から真面目で努力家な弟同然のジャックの“頼み事(おねがい)”にめっぽう弱かったのだ。

 

 

かくして、ジャックは図らずもカタクリに会えるであろう機会を手に入れたのだった。

 

 

「ふん……将星だかなんだか知らねぇが、レオヴァさんに馴れ馴れしくしやがる野郎は許さねぇ!

……ここは おれがしっかり牽制してやる…!」

 

 

ドレーク、スレイマン、トラファルガー、フーズ・フー。

4人の“想い”を託されているジャックは船の上で一人気合いを入れるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

新世界にある百獣海賊団のナワバリの…ある島にて。

 

 

ビッグ・マム海賊団の船の前で、キャンディーの杖を持つカラフルで細身な男と、着物を着た白い角に黒い髪が特徴的な男が笑顔で談笑していた。

 

 

「ふふふ…それは大変だったな。

…おっと、ペロスペローとの話が楽しくてつい長く立ち話を……。

座ってゆっくりと会談できる場所を島に用意してあるんだが、移動しても良いだろうか?」

 

「ペロリン♪

もちろんさ、では案内を頼めるかね?」

 

 

お互いに顔に笑顔を浮かべ和やかな二人は歩き出した。

……が、それは(はた)から見ればの話だ。

 

 

ペロスペローは笑顔の下で、内心舌打ちしていた。

 

「(この百獣の息子……あれだけの嫌みを笑顔で全てスルーだと!?

しかも、大看板まで連れてやがる……軽く怒らせてどんな奴か見るつもりだったが、やりづれぇ。

この貿易はママの気に入り具合を見る限り破棄できるモンでもねぇ…

まだ時間はある、あからさますぎるのは止めて……じっくり遠回しにやるとしよう…ペロリン♪)」

 

 

一方、ろくでもない事を思案しているペロスペローを案内しているレオヴァの内心も、顔に張り付けている笑顔ほど優しい物ではなかった。

 

 

「(…カタクリから聞いていた話のイメージ通りだなァ、ペロスペロー。

身内に甘く、他者はじわじわと痛め付け排除する…という感じか。

あのカタクリが絶賛する理由は分からないが……まぁ、身内でもねぇ相手にそうそう優しさなんざ出ないのはお互い様か。

おそらく、カタクリの件でおれが気に入らねぇんだろうが…今回は適当にあしらって早めに帰らせよう……部下達が噴火しかねねぇ。

……後でジャックには美味いゾウ肉ステーキも用意してやらないとな。)」

 

 

お互いに内心で相手を食えない奴だ、と思いながらも笑顔で目的地へと向かっていく。

 

 

そんな二人の心境など知らぬ、ビッグ・マム海賊団の船員は冷や汗を流していた。

今回、ペロスペローに同行している大半が何度もレオヴァに貿易で会った事があるメンバーだ。

 

レオヴァが他には類を見ぬ程の穏和な性格なのは理解しているが、先ほどのペロスペローの嫌み攻撃に胃を痛めるなというのは無理な話であった。

 

このまま行けば、いつかはレオヴァの堪忍袋の緒が切れ、四皇幹部同士の戦闘になってしまうのではないか!?と震えるのも致し方ないだろう。

それに、不安にトドメを刺すように大看板であるジャック及び百獣海賊団の船員達のイラつきも、ひしひしと感じとれてしまっている。

 

ビッグ・マム海賊団の船員達はペロスペローに心の中で祈るように必死に頼み込んだ。

 

「「「「「(ペロスペロー様っ!どうか、どうか穏便に!!)」」」」」

 

 

一方、ジャック及び百獣の船員達のイラつきはピークに達していた。

なにせ目の前のクソ野郎は我らがレオヴァ様にぐちぐちと嫌みを言い続け、挙げ句にあの尊大な態度だ。

そんな事が許される筈がない……いや、例え誰が許そうとも我々が許さない。

と、全員が同じ思いであった。

 

ジャックに至っては既に殺せそうな眼差しをペロスペローに向けている。

なんとか爆発しないでいられるのは、他でもないレオヴァが平和に話を進めようとしている気配を察しているからだ。

 

おそらく、ここに居るのがスレイマンであったのならば、怒りに任せペロスペローに斬りかかっていただろう。

 

それほどまでに、ペロスペローの嫌みは鋭く的確に怒らせるツボを突いていたのだ。

 

 

ペロスペローは、殺意と祈りを一身に背負いながら、レオヴァの準備した会談場所へと入って行くのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

【番外 ~ジャックの為の~】

 

 

 

ジャックは殲滅任務を終え、遠征先からワノ国への帰路を進んでいた。

 

何故か今回は空船で行くようにとカイドウから命を受けていた為、早めにワノ国に着きそうだとジャックは報告書を書きながら思っていた。

 

 

「(帰ったら、まずカイドウさんに報告書を出して…

そのあとレオヴァさんの所に挨拶しに行って……訓練所で部下を鍛えるか。)」

 

 

 

百獣海賊団では遠征後は数日の休みが設けられているが、真面目なジャックは休日も部下を鍛えたり草刈りをしたりと百獣海賊団に貢献しているのだ。

 

部下達はそんなジャックを尊敬し、慕っていた。

 

 

ジャックは強い。

この強さだけでも周りからは尊敬されるには十分すぎる程だ。

 

しかし、それだけが理由ではなかった。

 

カイドウやレオヴァ、百獣海賊団への忠誠心の高さ。

そして、なによりジャックの優しさだ。

 

そう……ジャックは優しいと部下達に思われているのだ。

 

まず、理由なくジャックは部下を罰する事をしない。

百獣では当たり前に思われることだが、これは世の中では当たり前ではない。

世界の至るところで地位のあるものは下の者を虐げているのが現実なのだ。

 

だが、ジャックが慕われている理由はそれだけではない。

 

部下がやられれば戦車の如き勢いで現れ、敵を薙ぎ倒し

新人が殴り合いの喧嘩を起こせばひと睨みで収束させ

日頃から訓練所での鍛練も欠かさない真面目さに、どんな敵にも怯まぬ漢らしさ。

 

しかも、大看板という地位を持ちながらも数多の雑用を自主的にやっており。

あのキングやクイーンでさえ顔を引きつらせる酔ったカイドウの相手も、嫌がるどころか喜んで対応している。

 

 

若くして努力と忠誠心と真面目さで大幹部の座を手に入れた、そんなジャックを部下達は慕っているのだ。

 

 

だからこそ部下達皆が、2日後を心待にしている。

……が、ジャック本人は気付いてすらいなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ワノ国、鬼ヶ島の城にて。

 

 

レオヴァは電伝虫に向かって地を這うような声で告げた。

 

 

「クイーン……どんな手を使ってでも絶対に3日以内には帰って来い。

もし当日にお前がいなかったらジャックが寂しがるだろう!」

 

滅多に聞くことがないレオヴァの鬼気迫る声にクイーンも力強く告げる。

 

 

「分かってるぜ、レオヴァ。

このクイーン様がいないなんてなれば、ずっこけジャックは泣いちまうかもしれねぇからなァ?

…なんとかこの不測の事態を片付けて前日には戻れるよう調整する……そっちは任せるぜ。」

 

「……クイーン…必ず間に合わせてくれ。

公演(ライブ)の準備は出来る限りおれがやって、最終確認で済むようにはしておく。」

 

「おう!まぁ、任せとけ。

テキトーに全員ぶっ殺してさっさと帰るからよぉ」

 

「頼むぞ、クイーン。

……最悪アレを使っても構わねぇ。」

 

「……えっ、マジ?

うおぉ~~っし!使うぜェ~~!!」

 

「クイーン、最悪の場合の話だ!」

 

 

電伝虫の向こう側ではしゃぎ出したクイーンをレオヴァが咎める。

 

その少し後ろでレオヴァの姿を見つめながら、うるティが首をかしげた。

 

 

「レオヴァ様はなんであんなに張り切ってるの?

なんかカイドウ様関係であったっけぺーたん!」

 

隣に座る弟にぎゅむっと抱き付きながら、うるティは問いかけた。

 

 

「うぐっ……あれだろ、ジャックの誕生日。

カイドウ様もレオヴァ様もそれで張り切ってんだよ。

……つーか、重いし退けよ姉貴…」

 

「なるほど!さ~すがぺーたん♡

………って、“重い”? しかも…今“退けよ”って言ったのかァ!?

訂正しろ~~!!

お姉ちゃんは羽のように軽くて可愛い”って言え~~!!!」

 

「うぉお!?

ちょ、姉貴!おれの上で暴れんじゃ…ぐぉ!?」

 

お姉ちゃん大好きって言え~~~!!!

 

 

ページワンをがくがくと揺さぶりながら叫ぶうるティを見てフーズ・フーが口をへの字に曲げる。

 

 

「……チッ、本当にうるせぇクソガキ共だ。」

 

「「誰がガキだ!!ぶっ飛ばすぞ!?」」

 

声を揃えた姉弟にケタケタとササキが笑う。

 

 

「ははは!

あっちにレオヴァさんも居るんだ、喧嘩は止めとけ!

んなことより……ジャックへのプレゼントってお前ら用意してんのかよ?」

 

 

ササキの言葉に三人はきょとんとしてしまった。

 

 

「……はァ?

なんで、おれがジャックの野郎にモノをやらなきゃなんねぇんだよ。」

 

「そうそう!

どうせジャックなんて何渡しても意味ないナリよ!

あいつ、レオヴァ様とカイドウ様以外から何貰っても反応ないし……あ、キングとクイーンなら話は別かもだけど?」

 

「……おれは毛皮用のブラシにしたけど。」

 

 

「「え、ぺーたん用意してんのかよ(してるの)!?」」

 

 

「ぺーたんって言うな!!」

 

 

ササキもフーズ・フーもジャックへの誕生日プレゼントを用意していたページワンに驚きを露にした。

うるティに至っては驚きすぎて固まってしまっている。

 

 

「……お前、なんだかんだジャックと仲良いんだな。」

 

「いや、全然仲良しじゃねぇし……

ただ…ローがジャックにあげるモン買いに行くっつーから、そのついで的なあれであって別に友だちとかそう言うんじゃねぇし……っておい!ササキ笑うなよ!!」

 

「くっ…はははは!

まぁまぁ、怒るなよ“ぺーたん”。

ジャック喜ぶといいなァ…?」

 

「くそ……ササキお前、ちょっとあの青リーゼントに似てきたんじゃねぇの。

てか、別にジャックが喜ぶかどうかとかどうでもいいわ!

前のおれの誕生日に物貰ったから、借りつくるの嫌だってだけだし……」

 

「おれが狂死郎に似て来ただァ…?

……いや、けど体重は変わってねぇと思うが…」

 

「見た目の話じゃねぇわ、ササキこの野郎!!

ぺーたん、なんで……なんでジャックなんかにプレゼントあげるナリかぁ~~!

やだやだやだぁ~!私もぺーたんからプレゼント欲~し~い~!!!」

 

 

ドタバタやいやいと騒がしいササキ、ページワン、うるティの三人に溜め息を吐くとフーズ・フーは立ち上がった。

 

 

「無駄な時間だ、おれはレオヴァさんに任された仕事を終わらせる。

テメェらもさっさと動き出せ。」

 

それだけ言い捨てるとスタスタと早足でフーズ・フーは部屋を出て行った。

残された三人もそろそろ向かうかと腰を上げ、電伝虫を終え書類に目を通すレオヴァの背を横目に歩き出したのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

遠征から戻ったジャックは肩を落としていた。

 

カイドウとレオヴァに挨拶と報告書を出しに行こうとしたが、二人は忙しいらしく会うことが出来なかったのだ。

 

そんな、数週間ぶりに二人と話せる!と楽しみにしていたジャックの落ち込みぶりに構うことなく、隣に座るローは無情な言葉をかける。

 

 

「おい、いつまでヘコんでるんだ。

レオヴァさんが忙しいのはいつもの事だろ。

……カイドウさんが忙しいのは珍しいが。」

 

「そんなことはわかってる!

……お前は近衛隊だから、おれの考えがわからねぇんだ。」

 

「はぁ…大看板が情けねぇ面してんじゃねぇよ。」

 

「……情けねぇ面なんざしてねぇ。

おれに構ってねぇで、さっさとレオヴァさんの手伝いでもしに行けばいい。」

 

 

フンッと顔を背けたジャックに気付かれぬようにローは溜め息をついた。

 

 

「(ジャックの奴、また完全に自分の誕生日を忘れてやがるな…

レオヴァさんに鬼ヶ島の宴会場にジャックを近付けさせねぇように言われてるから、離れる訳にもいかねぇし……)」

 

 

黙ったまま隣に座り続けるローにジャックの眉間の皺が深くなる。

 

 

「……なにか用でもあるのか、トラファルガー。

ねぇなら、離れろ。」

 

「用はあるにはある……が。

もう少し経ってからじゃねぇと駄目なんだよ。」

 

「…ア"?

意味がわからねぇ、まどろっこしい真似するな!」

 

 

ギロリと鋭い目線が突き刺さるがローはどこ吹く風である。

他の者ならば卒倒するほどの剣幕だが、ローとジャックは子どもの頃からの付き合いである。

この程度の睨みなど、すっかり慣れてしまっているのだ。

 

刀の手入れを始めたローに不満を露にするジャックだったが、この態度を見て諦めた様に椅子に座り直した。

 

長い付き合いから、こうなったローは何を言っても無駄だとジャックはよく知っている。

 

 

「(……トラファルガーの奴、本当になんのつもりだ…)」

 

まったく意味がわからねぇ奴だ、と独り言ちながらジャックは目の前にある新人の情報に目を通すことに専念するのだった。

 

 

 

 

一方その頃。

 

鬼ヶ島の大宴会場では、ガヤガヤと忙しなく動く百獣の船員やコック達の中心でレオヴァとカイドウが最終確認をしていた。

 

 

「今、ローにジャックを足止めさせている。

10分後にここに来る手筈になっているから……父さん、話した通りに頼む!」

 

 

レオヴァの言葉に大きく頷くと、カイドウはどすりと音を立てながらその場に座った。

 

 

「大事な部下……ジャックの祝いの日だ、盛大に行こうぜ!!」

 

 

カイドウの言葉に部下もコックも元気よく答えた。

 

 

「「「「 はいっ!カイドウ様!! 」」」」

 

 

部下とコックの返事にカイドウは満足げに笑い、レオヴァは頷き指揮を取る。

 

 

「よし、万事抜かりないな。

では……ローに連絡を入れる。

皆で祝いの道具を持ってジャックを迎えるとしよう。」

 

 

「「「準備万端です、お任せを!レオヴァ様!!」」」

 

 

部屋を飾り付けた部下も料理を大量に運び込んだコックも、この後にくるジャックへ向けて気合いを入れ直した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「「「「ジャック様ァ~!!おめでとうごぜぇますッ!!!」」」」

 

「…………ア"ァ"?」

 

ひらひらと大量の紙吹雪を浴びながら、予想外の出来事にジャックは思わず目を見開いた。

 

目線の下には見慣れた顔の部下達が、次々に笑顔で祝いの言葉をかけてくる。

 

そして、眼前にある上段の間ではカイドウとレオヴァがジャックの驚きの表情を見て、成功だと楽しげに笑い合っている。

 

 

「さっさと、カイドウさんとレオヴァさんの所に行け。」

 

ローに背中を押されて歩きだし、ジャックはカイドウとレオヴァの側の中段の間へ通される。

 

 

「ウォロロロロロ…!!

ジャック、お前今年も自分の誕生日を忘れてやがったな?」

 

 

愉快そうに大口を開けて笑うカイドウにジャックは申し訳なさそうに口を開いた。

 

 

「すまねぇ…カイドウさん、レオヴァさん。

すっかり忘れちまってました…」

 

 

「謝ることはねぇさ、ジャック。

その真面目過ぎる所もお前の美点だ。

そうだろう、父さん?」

 

 

「あぁ、レオヴァの言う通りだ!

それにお前が自分に頓着しねぇおかげで、毎年サプライズをするとレオヴァがはしゃげるワケだからなァ…!」

 

 

「ふふふ…父さんだって毎年気合いを入れてるじゃないか。

…と、積もる話もあるがまずは父さん…」

 

 

「そうだなァ…!先に始めちまおう。

野郎共!今日はめでてぇ日だ、好きなだけ飲んで騒げェ!!

 

 

「「「「うおぉお~!!ジャック様の日だぜ~!!!」」」」

 

 

カイドウの号令に大盛り上がりな部下達にジャックが嬉しさと呆れを滲ませていると、レオヴァに名前を呼ばれる。

 

すぐに振り向くと上段の間から降りてきたレオヴァがすぐ側に居た。

 

 

「…ジャック、誕生日おめでとう。

今年も1年…おれはお前の幸せを願ってる。

来年もまた父さんと皆で、この日を迎えよう。」

 

「ありがとう、レオヴァさんッ…!」

 

昔と変わらぬ微笑みを向けてくれるレオヴァに、ジャックは自分の頬が緩む感覚に襲われた。

 

そして、嬉しさが溢れだしそうなジャックの横から、酒を呷るカイドウがニッと笑いながら声をかける。

 

 

「ジャック、期待してるぞ。」

 

「ッ…あぁ!

任せてくれカイドウさん!!!

 

周りの喧騒に負けぬほど大きな声で、掛けられた言葉に答えたジャックに、カイドウもレオヴァも笑った。

 

 

「ふはははは…!

気合い十分だなァ、ジャック!」

 

「ウォロロロロロロ…!!

いい返事じゃねぇか、ジャック!」

 

 

暖かな二人の笑い声に包まれながらジャックは幸せを噛み締める。

 

 

2人は身寄りのないガキだった自分を拾い育ててくれた。

しかも、それだけでなくこんなにも自分に期待して、大切にしてくれているのだ。

 

 

「カイドウさん、レオヴァさん……おれァ、幸せだ。」

 

小さく溢れた言葉に2人は、大袈裟な奴だなァとまたジャックに笑い掛ける。

 

 

 

その後、レオヴァに言われジャックは一度広間側にいる者達の下へと向かい、直属の部下達やページワン、ローから大量のプレゼントを押し付けられながら、ジャックは周りにバレぬ様に小さく笑った。

 

 

「……こんなに沢山いらねぇよ。」

 

そんな不器用な彼の照れ隠しに皆が気付かないフリをしながら、ジャックの為の大宴会が始まったのだった。

 

 

 

 

 




ー後書きー
前回もいろんな感想やコメントありがとうございました!嬉しいです!
ここ好き一覧や誤字報告くれる方にも感謝しております~!m(__)m

9月28日はジャックの誕生日なので、おまけとして番外編でお祝いを!
ーーーーーーーーー
『百獣の誕生日事情』 

・カイドウ
毎年レオヴァ主催で盛大なお祭り状態の祝いの席が用意される。
本人も宴が好きなので乗り気。
部下達も楽しみにしていて、イベントになりつつある。

・キング
誕生日とかどうでも良いタイプだが、当日はカイドウとレオヴァと三人で晩酌し、何かしらを貰うのが恒例になった。

・クイーン
花魁も呼ぶし、部下もめちゃくちゃ集めて賑やかな誕生会を開く。
小紫に会えるので、なんだかんだ楽しみにしている。

・ジャック
仕事の事ばかりなので、毎年忘れるがレオヴァとカイドウによって、直属の部下と志願者のみ集めて宴会を開いて貰える。

・ドレーク
毎年カイドウから祝いの言葉を貰い、その後レオヴァと二人で晩酌する。
次の日などにササキやスレイマン達が飲み会で祝ってくれるのが恒例。
直属の部下達も後日に祝いやプレゼントを渡している(ドレークの邪魔しない様に)

・ロー
ジャックと同じくカイドウとレオヴァ、直属の部下と志願者のみ集めて宴会を開いて貰える。
乗り気じゃない顔をしているが、内心毎年楽しみにはしている。
ちなみに、ジャックとページワンは毎年参加する。

・ベポ
ローとレオヴァがパーティーを開き、数人の仲良しなロー直属の部下とドレーク&ページワンが来る。
毎年楽しみすぎて、1週間前からはしゃいでいる。

・スレイマン
カイドウから言葉を貰い、レオヴァとドレークと晩酌する。
次の日に部下達と食事に行き祝われる流れが恒例。
前日あたりから、少しそわそわしだす姿を部下は微笑ましく見守っている。

・うるティ
レオヴァに毎年誕生会を開いてもらっており、カイドウからも祝いの言葉を貰う。
ページワンやトネグマなど志願者のみ集めて開かれる。
毎年本人が一番張り切っている。

・ページワン
うるティとレオヴァ主催で誕生会をやるのが恒例。
直属の部下以外にも結構な数の別隊の部下も参加する姿から、ページワンの好かれ具合がわかる。
毎年こっそりカイドウの下へと行き祝いの言葉をもらってニヤニヤしているが、姉には内緒。

・ブラックマリア
カイドウとレオヴァ、可愛がっている遊女を呼んで誕生会を開く。
自分の誕生日なのに毎年カイドウとレオヴァをもてなして嬉しそうにしている。
当日の昼に、うるティやササキ達から祝いの言葉を貰うのも恒例。

・ササキ
狂死郎とレオヴァ三人で晩酌をし、ちゃっかりカイドウに祝いの言葉と酒も貰いにいく。
前日に直属の部下や慕ってくる別隊の部下を連れて飲みにも行っており、当日の昼はドレークやページワンから祝いの品を貰う。
毎年数日前からレオヴァや狂死郎には楽しみオーラを出している。

・フーズ・フー
誕生日会なんざやらねぇ。と主張し続けているが、毎年レオヴァに丸め込まれる形で祝われている。
カイドウもさらっと祝いの酒を手渡すなどしている模様。
なんだかんだレオヴァから貰った物は誰にも触れられぬ様に保管してあるらしい。

・その他真打ちなど
真打ちは総じてレオヴァから祝いの言葉や物を貰える。
幹部でない部下は誕生日月の給金に祝い金がプラスされる。
配属される部隊によっては上司から祝いの言葉を貰える場合もある(ドレークやササキ、スレイマンなどは直属の部下の誕生日は祝う傾向にある。)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

蓋を開ければ

 

埃ひとつない整えられた部屋にペロスペローは数人の部下を、レオヴァはジャックを連れて入室した。

 

この部屋は貿易の話や取引などによく使われている部屋で、きらびやかではないが美しく整えられている。

 

 

「(……部屋にケチつけられそうなモンはねぇな…

百獣の息子……コイツ、本当に交渉は上手そうじゃねぇか。

この部屋の綺麗さといい、さっきのおれの嫌味への対応といい……本当にあの粗暴な男のガキかァ?)」

 

 

表情には微塵も出さずに粗を探すペロスペローだったが、レオヴァの声に意識を戻す。

 

 

「ペロスペロー、そこのソファーに掛けてくれ。

おれは茶でも淹れよう、ちょうどそれに合う菓子もある。」

 

にこやかに告げたレオヴァにペロスペローはここぞとばかりに仕掛ける。

 

 

「おぉ!まさか“百獣の息子”が茶を淹れられるなんて思わなかった!

是非とも味わわせてもらいたいぜ、ペロリン♪」

 

 

とても良い笑顔で落とされた特大の爆弾は見事、ジャックに被弾した。

 

ビキィッ…!

 

あまりの怒りにジャックは床を踏みしめ、割ってしまったのだ。

ペロスペローは笑みを深めたが、後ろに控える部下は顔面蒼白である。

 

 

先ほどからずっとペロスペローはレオヴァが名乗っているにも関わらず、“百獣の息子”と呼ぶのだ。

普通はレオヴァと名で呼ぶか、百獣海賊団総督補佐または総督補佐官と呼ぶのが取引相手としての礼儀である。

 

これ即ち

『百獣のカイドウの“息子”と言う肩書きが重要であって、テメェには興味ねぇよ。』

というペロスペローの遠回しな攻撃であることは明白であった。

 

 

茶を淹れると言ったレオヴァの優しさへの仕打ちと、礼儀を欠いた呼び方に、ついにジャックは大噴火を起こしかけたのだ。

 

 

「…テメェ……レオヴァさんにナメた口を!!」

 

ドスンと音を立てながら一歩前に出たジャックに、余裕の笑みを浮かべているペロスペローが言葉を紡ぐ。

 

 

「くくく……おれは何か悪い事を言ったか?

……ん~、思い当たらねぇなァ…ペロリン♪」

 

嗤うペロスペローに眉間の血管がはち切れそうになったジャックだったが、レオヴァに軽く肩をたたかれ、ハッと我にかえる。

 

言われている当の本人はニコニコと笑顔を崩さず紅茶片手にジャックの前に出て、そのままペロスペローの座るソファーの前に腰掛けた。

 

 

「いや、こう何度も百獣の息子と呼ばれるのは久々だ。」

 

「おっと、そりゃ失礼。

嫌だったかね?」

 

「まさか…!

おれは父さんを心から尊敬してる。

その父さんの息子という呼ばれ方に嬉しさはあれど、嫌な気持ちなどない。

逆に聞くが、ペロスペローはビッグ・マムの息子と呼ばれたら腹が立つのか?」

 

「………いいや、おれもママが誇りだ。

おれだけじゃねぇ、弟や妹達だってそうだからなァ。」

 

「だろう?

近い価値観を持ってるみたいで嬉しいよ、ペロスペロー。」

 

 

微笑むレオヴァにペロスペローは固い表情で返した。

 

そんな二人のやり取りにペロスペローの部下は胸を撫で下ろし、ジャックは感心していた。

 

 

「じゃあ、そろそろ本題に入ろう。

今回から今までの貿易の品に加えて……薬も新しく貿易内容に加えたいと言う話を事前に聞いていたんだが、変更はないか?」

 

「事前通りだ。

ママの決定は揺るがねぇ、取引金額についてだが……」

 

 

やっと貿易の話に辿り着いた二人の表情は真剣なものへ変わった。

貿易する品の数や値段交渉……お互いに探りを入れながらの絶妙なラインの駆け引きが始まる。

 

 

突如始まったお互いの海賊団の利益を掛けた舌戦に、ビッグ・マム海賊団の部下もジャックも思わず息を吞み、黙って事の行く末を見守ることに徹するのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

美しく整えられていた部屋は見る影もなく、疲れきった顔のペロスペローの部下達は、目の前の光景にただただ言葉を失っていた。

 

壁にはヒビや穴が空いており、天井からは一部の隙間から眩しい日が差し込んできている。

 

装飾品達は砕け床に転がり、ソファーも傷だらけだ。

きっと、この部屋は今日限りで解体になるだろう。

 

数時間前のあの部屋と、同じ部屋とは到底思えぬ惨状であった。

 

 

そんなボロボロになった部屋に佇む部下達の前で、ペロスペローは饒舌家の本領をこれでもかと発揮していた。

 

 

 

「深味のあるアッサムティーのやさしい甘味に、後からくるビターチョコのような心地よい渋み…!

そしてこの豊潤なカカオの香り……画期的な紅茶だ!!

チョコと言う強い個性を、まさかここまで上手く紅茶にブレンド出来るなんて誰が思う!?」

 

 

素晴らしい!と大きな身振りでこちらへ身を乗り出すペロスペローに、レオヴァは笑いながら答える。

 

 

「ふふふ…そこまで喜んで貰えるとは思わなかった。

これは、夏島でとれる深い渋みのあるアッサムティーに特別なカカオピールをふんだんにブレンドした、自信作である紅茶の1つでな。

テオブロミンというリラックス効果のある成分も含まれているんだ。

一杯目はストレートで本来の味を楽しんでもらい……二杯目はミルクや砂糖を入れてマイルドに味わうのがお勧めだな。」

 

 

「なるほど…なるほど……。

特別なカカオってのも気になるな。

…と、その前に是非レオヴァおすすめの2杯目を貰っても?」

 

 

「勿論だ。

ミルクも砂糖も準備は万端、好きなだけ味わってくれ。」

 

 

新しく紅茶を注ぐと、ペロスペローの前にミルクと砂糖を置きレオヴァは微笑んだ。

 

流れるような手つきでペロスペローは紅茶にミルクを注ぎ入れて一口。

想像を超える美味さに感嘆の溜め息を吐く。

 

 

「実に、実に素晴らしい……!!

よし、次は砂糖を入れてみるとしようか、ペロリン♪」

 

砂糖を入れるために美しい小箱を開き、ペロスペローは目を見開く。

 

 

「…なっ!? これは……」

 

 

小箱の中には色とりどりに光るシュガースティックが入っている。

 

キラキラと輝いていながらも派手すぎず、透明感溢れる白や黄色に桃色などの砂糖はまるで宝石の様だ。

さらに簡素だが高級感のある持ち手の棒が、その輝かしさを存分に引き立たせている。

 

ペロスペローは丁寧にそこから1つを取り出すと、まじまじと眺めた。

 

 

「……この白色のシュガースティック、真珠に勝る美しさだ…

これは例の光る砂糖を使って作られてるのか…

…ふむ、菓子のトッピングやコーティングとしてはウチでも利用しているが、シュガースティックにする発想はなかった!

確かにこれなら見た目も楽しめ、メリエンダをさらに彩ってくれるなァ…!」

 

 

紅茶を彩る素晴らしいアイディアにペロスペローは笑みを浮かべ、レオヴァを見やった。

 

 

「わかってくれるか、ペロスペロー。

ウチには紅茶を飲む者が少なくて振る舞う機会がなかったんだが……この成果の理解者が居てくれて嬉しいよ。

……しかし、そのシュガースティックの魅力はまだある。」

 

「……なに?

これにはまだ仕掛けがある、と?

くくくく、面白い!

教えてもらえるかね、ペロリン♪」

 

「ふふふ……では、それを紅茶に使ってみてくれ。」

 

「使う…?

味になにか劇的な変化を起こすものなのか?」

 

 

疑問を持ちながらも、強い好奇心に駆られペロスペローはシュガースティックを紅茶に浸け、ゆっくりと丁寧な手つきで回した。

 

温かな紅茶に砂糖は消えるように馴染んでいく。

 

 

「……っ!? くくくく…!

レオヴァ、お前はまた予想を超えてくるか!

こりゃカタクリの肩入れ具合も頷ける…」

 

 

ペロスペローの持つカップの中ではキラキラと淡い光が見え隠れし、ミルクティーの優しい白茶色の中に星屑が煌めくような美しさであった。

 

レオヴァは狙い通りだ、という様な顔で笑いかける。

 

 

「無論、見た目だけでなく味も存分にこだわっている。

さぁ、飲んでみてくれペロスペロー。」

 

促されるまま優雅な所作でカップに口をつけ、ペロスペローは満足げに笑った。

 

 

「……まったくもって、文句の付けようがねぇ。

レオヴァの様な紅茶だな、ペロリン♪」

 

「ふふふ、1時間ほど前までさんざ文句は付けられていたと記憶しているがな、ペロスペロー。」

 

「くくくく、まぁ水に流せ。

あれはおれの誤解……いや、レオヴァの戦略が優れすぎていたせいとでも言おうか。」

 

 

そんな、和やかに紅茶を楽しむ二人の姿に、部下達もジャックもなんとも言えぬ顔をした。

 

 

ほんの2時間前まで

『ママはこの世で一番強く美しい女性(ひと)だ!!』

『父さんはこの世で誰よりも強く優しい人だ、異論は認めん!』

と、睨み合い部屋を壊した張本人とは思えぬ変わり様だ。

 

ペロスペローの部下たちは気疲れから憔悴しきっていたが、穏便に落ち着いて良かったと胸を撫で下ろし。

ジャックはこの会談が終わったら勉強をしようと、共用書斎に紅茶関連の本があったか記憶を辿っていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

どうやら、ペロスペローはこの1日でレオヴァを気に入ってしまっていた。

 

あらゆる事を上手く持っていく雰囲気作りの巧さも、人を退屈させぬ話題を提供し続ける博識さも、全てが(この)ましかった。

 

そして、あのゾクッと背筋を伝うような殺気……レオヴァが噂とはかけ離れた人物であると確信するには十分すぎる1日だったのだ。

 

 

 

『これだけの実力を何年いや、何十年と隠し続けてきたと?

全てを完全に隠蔽するということは、かなり残虐な手段を使う場合もある筈だろ……くくくく。

綺麗な(ツラ)、そして人畜無害な表情とは裏腹に随分と海賊らしい野郎だ!

間違いなくカイドウの息子だな、ペロリン♪』

 

 

そう言うペロスペローは、レオヴァの持つであろう狡猾さに笑みを深めた。

 

狡猾さや残忍さは海賊として生きる上で必要なモノだとはペロスペローの持論である。

 

敵を煽る様な言動も、絡めとりじわりじわりと殺す手法も、この持論あってこそだ。

 

そんなペロスペローにとって、レオヴァのやり方はなかなかに愉快かつ感心するものがあった。

 

ペロスペローのやり方とは違うようで…どこか根本は同じなのだ。

 

身内の為ならば何処までも敵に非情に成れる性格であり、仮面を被ることも巧い。

 

 

同時に自慢の弟との共通点も少し感じていた。

……まぁ、それをペロスペローが口に出すことはないだろうが。

 

 

兎に角、この貿易でペロスペローはレオヴァを認めた。

いや、認めざるをえなかった。

 

四皇ビッグ・マムの取引相手として、可愛い弟の友人として…。

 

 

 

ペロスペローは華のある紅茶の香りに包まれ、帰路を進む。

 

会談が終わる前に

『……で、この紅茶とシュガースティックを心休まるメリエンダのひとときの供に是非どうだろうか?』

と笑顔で売り込み、ちゃっかり貿易内容に追加してきたやり手のレオヴァを思い浮かべ愉しげに笑いながら、ゆったりと船に揺られるのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

目の前で必死に“紅茶の楽しみ方”と書かれた本を読むジャックを横目に見て、俺は気付かれぬ様に笑みを溢す。

 

 

珍しく歯切れ悪く

『……レオヴァさん。

おれが淹れられるようになったら、一緒に…午後休憩とか……』

とジャックは言っていたが……本当に可愛い奴だ。

紅茶くらい、いくらでも淹れてやると言うのに……

 

そんな昔から変わらぬ性格に頬が緩むのも仕方ないだろう。

 

これだけの愛嬌だ。

弟気質なジャックをキングとクイーンが可愛がるのも納得がいく。

流石は俺の自慢のジャックだ。

父さんからも目を掛けられているし、本当に鼻が高い。

 

 

ジャックの可愛さと先日のペロスペローとの貿易の事で上機嫌な俺は、カタクリとの約束の島へ向かうべく準備を整えていた。

 

と、言っても。

ジャックがいるから特に大きな準備はない。

大まかな進路と、ワノ国についてからの荷積みされている物の移動場所などの細かなものだ。

 

指示が一目で分かるよう、紙に簡単な流れを書き記しながら、思いを馳せる。

 

 

 

今回のペロスペローとの貿易は思いの外、有意義なものだった。

……つい、父さん関連の話になり過熱してしまったのは反省点だ…

…短気な性格は簡単には治らないらしい。

ジャックの前でみっともない姿を晒してしまった。

 

……が、それを差し引いても良い取引だった。

ペロスペローはカタクリの言う通り取り引き慣れしており、とてもやりやすく無駄な説明をする必要もなく話がまとまった。

それに、新しく俺がブレンドした紅茶と開発したシュガースティックも追加で貿易に加えられた事は大きい。

 

ビッグ・マムはよくお茶会を開くと聞く。

そこで俺の商品が出れば、まだ取り引きの無い他の国も貿易を求めるだろう。

なにせビッグ・マムのお墨付きなのだから。

 

そうなれば、武器や薬以外にも貿易の幅が増え、資金や人脈が広がり……掌握も進みやすくなる。

 

1つの島のみで全てを自給自足するのは難しい。

だからこそ、同盟国や貿易などで互いに支えあっているのだ。

そして、それらの1つである薬や食品、娯楽関係や趣向品などにウチが介入することが重要なのである。

 

恐怖によって支配することも悪くはない。

だが友好的に近づき、ゆっくりとその国にとって無くてはならぬ存在に成れれば、恐怖よりも強い楔を打ち込めるのだ。

 

恩があるから裏切りづらい。

いなくなられては生活がままならない。

他の同盟国も彼らと関わりがあるからヘタに出られない。

国民からの人気があるから無下に出来ない。

 

など、様々な思惑や想いが混ざり合い……簡単には百獣に逆らえなくなるだろう。

 

その状況を少しでも多く作るため、何年も掛けて外のナワバリにも人員と金を割き、様々な物を生産しているんだ。

 

……まぁ、ビッグ・マムのお茶会にウチの物が出れば、四皇の同盟の可能性に政府が慌てるかも知れないが、それでは時既に遅し。

 

同盟は組んではいないが、貿易……謂わばちょっとした協力関係に有ることはバレても問題ない段階になったからこそ、ビッグ・マムとの取り引きを拡大しているんだ。

せいぜい、政府の上の人間は会議室で責任を互いに擦り付けあっていればいい。

 

何年も何年も“1”を積み上げ掌握を続けて来たウチと、保身に走るばかりで荒れゆく島々を見なかった者が集まった組織の差など、語るまでもない。

 

……最後に笑うのは “カイドウ(父さん)” と “百獣海賊団(俺たち) ” だ

 

 

全てを紙に書き終わった俺はゆっくりと席を立ち、出掛けるために甲板へ歩みを進めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

──カカオが特産のある島にて。

 

 

通常の何倍も大きなキッチンに、二人の大男が立っていた。

 

一人は真剣な面持ちで餅を練りその餅であんこを優しく包んだり、あんこと餅を一緒に練っていたりと忙しなく手を動かしている。

そして、もう一人はその男を遠い目をしながら眺めており、顔色は優れていないようだった。

 

 

 

「……カタクリ、おれはそろそろ…あんこを食べるのが辛くなって来たんだが…。」

 

緑茶を片手に顔を青くするレオヴァに、カタクリは首をかしげる。

 

 

「まだ100個しか食べてねぇだろう。

……具合でも悪いのか?」

 

 

「いや……具合は、悪くはねぇんだが…

……その、カタクリ。

お前の家では普通なのかも知れないが、あんこ餅は1度に100個も食べるもんじゃないと思うぞ?

…………まぁ、クイーンなら食べるだろうが…。

 

 

なんとも言えない顔で告げたレオヴァに、カタクリは腕を組んで考える素振りを見せた。

 

そんな何かを考えるカタクリを横目に追加の茶を注ぐ。

レオヴァはとにかく口の中に延々と残るあんこを流してしまいたかった。

どんなに美味くとも、甘いものを食べ続けるのは至難の技だ。

顔色ひとつ変えずに食べ続けるカタクリにレオヴァが頬を引き攣らせるのも仕方ない事だろう。

 

 

「……そうだな、確かにずっとあんこを食べるのは辛いか。」

 

カタクリの呟きにレオヴァの表情が和らぐ。

分かってくれたか…と、安堵するレオヴァにカタクリは冷蔵庫から何かを取り出し、手渡した。

 

 

「ずっと同じ様な味だと飽きてしまうのは当然だ。

一度、これを食べて口をリセットしてくれ。」

 

そう言って手渡されたものにレオヴァは固まった。

しかし、カタクリはそれに気付く様子もなく作業に戻る。

『気が利かずに悪かったな。』

と見当違いな事を言いながら餅をこねるカタクリにレオヴァは絞り出すように声を出した。

 

 

「……これは?」

 

「?……スフレチーズケーキだが?」

 

何を分かりきった事を、と言うような顔で告げたカタクリにレオヴァは思わず大きな声を出す。

 

……勘弁してくれ…!

 

レオヴァの心からの叫びにカタクリは目を点にした。

 

 

「レオヴァはスフレパンケーキが好きじゃなかったのか…」

 

「……そうじゃねぇだろう、カタクリ……」

 

 

見聞色じゃ気持ちはわからないからな……と溜め息を吐くレオヴァに、カタクリは心底意味が分からないという様に顔をしかめるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あれから2時間。

 

大きなキッチンの前にあるテーブルで二人は満足げに休んでいた。

 

そんな、カタクリの目の前には三種類のあんこ餅が並べられている。

 

 

「レオヴァの言う通り、レアチーズとあんこの相性は完璧だった。

それにあんこ餅を焼くというアイディアも……おれ一人ではなかなか思い付かねぇ発想だ。

三種類あればそれぞれ好みに合わせて楽しめる、弟妹達も喜ぶだろう。

……ありがとうレオヴァ、感謝する。」

 

兄妹を思い浮かべ表情が緩むカタクリにレオヴァも笑い掛ける。

 

 

「確かに、レアチーズの案を出したのはおれだが

その案だけで完璧な配分を割り出したカタクリの努力あってこそだろう。

焼くという発想もカタクリがおれに何十個と食べさせてくれたから、味変えとして思い付いただけだ。

それに結局は、焼く用の餅生地の作成も全てカタクリの経験からくるものだっただろう。

たいした事じゃねぇ、気にするな。」

 

 

レオヴァの言葉に、フッと笑うとカタクリは立ち上がった。

 

 

「…レオヴァ、約束通り“組み手”に付き合おう。

今回のルールはどうする。」

 

「そうだな……前回は左手のみの2点先取だったからな…

……今回は足技なしの3点先取でどうだ?」

 

 

レオヴァの提案に頷き、カタクリは思い出したように問いかけた。

 

 

「……確か、連勝したら何か1つ貰える約束だったな。」

 

「1年ほど前の話をよく覚えてたな、カタクリ。

そうだ、そう言う約束だった。

が………連勝させると思ってるのか?」

 

 

愉しげに細められたレオヴァの瞳を真っ直ぐに見つめ返し、カタクリは自信のこもった声で答えた。

 

 

「フッ……なら言葉を返そう。

……初めから敗北を考えて挑む様な真似を……おれがすると思うのかレオヴァ。」

 

「…ふっ、ふはははは!

それはそうだな、カタクリらしい返しだ。

まぁ、負けるつもりはおれも無いが、約束の事は了承している。

早速、島の裏手に行こう。」

 

 

足取りの軽いレオヴァに案内されながらカタクリは前回の組み手を思い出し、対策を立てているのだった。

 

 

…この二人の組み手を知るものはいないだろう。

 

 

 




ー後書きー
今回も読んで下さりありがとうございます~!
感想やコメントも頂け嬉しいです(*´-`)
そして前回ビッグマムを誤植する大事件が……誤字報告くださった方ありがとうございます、助かります!!

↓前回コメントでありましたので!
・レオヴァの誕生日事情
一週間前からレオヴァはカイドウと遊びに(海軍を潰して回りに)行き、その間にキング&クイーンの指揮の下準備が行われ、当日は1日中どんちゃん騒ぎになる。
(金色神楽と違って船員全員は集まらず、毎年順番がある。しかし、幹部は全員意地でも鬼ヶ島に帰ってくるので皆勤賞)
ちなみに、ワノ国は鳳皇誕生祭とし休日。
後日、鳳皇城で大名など主要人物が謁見しに来て、軽く一緒に食事をする行事がある。
(狂死郎とヒョウ五郎は鬼ヶ島の宴も呼ばれているが、こちらも参加する。)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アオザメは泡沫漂う

 

 

 

今日も平和なワノ国にて。

 

鬼ヶ島に建っている大きな城の中をレオヴァは休憩を兼ねて闊歩していた。

……何故か大量のあんこ餅を片手に。

 

 

もちろん、レオヴァが行き交う部下達と軽い会話をしつつ、去り際にあんこ餅を渡すという話はあっという間に広がった。

 

その為、昼を過ぎた辺りから部下はそわそわと落ち着きなく仕事を進めていた。

 

 

そして、鬼ヶ島前の鳥居にて監視業務を続ける三人の男たちも例にもれず、地に足がつかぬ心持ちであった。

 

 

「……レオヴァ様こっちにもいらっしゃると思うか?」

 

「いや~…おれら鬼ヶ島前の監視だし、流石によォ。」

 

「あ~……今日城内警備の奴らはいいよなァ、レオヴァ様とお話出来るんだぜ!?」

 

「そう言うお前は、この前レオヴァ様の食事会行ってたじゃねぇか!

おれも遠征さえなけりゃ……いや、まぁ仕事は第一だけどよォ。」

 

「そりゃ2ヶ月以上前の話だろ!?

てか、テメェもドレーク様とよく飯行ってんじゃねぇか、羨ましい!」

 

「へへっ……まぁな!

実はそん時にドレーク様から貰った茶々丸が最近10メートル超えてさ!

そろそろ戦闘に一緒に出られそうだぜ!」

 

「「ちゃちゃまる…?」」

 

「蛇だよ、蛇!

ドレーク様すげぇ色んな爬虫類増やしてるだろ?

その中からお供にできるヤツ譲ってもらったんだよ!」

 

「あぁ!

最近流行ってンな。

おれもペット兼お供…ドレーク様に相談してみっか…」

 

「確かにいいよな!

荷物運びとかにも使えるって聞くしよォ。

……ただ、世話とか出来る気しねぇわ。

躾とかも大変じゃねぇの?」

 

 

お供の話に興味を示す二人に、男は満面の笑みで答える。

 

 

「いや、ドレーク様が躾け終わったヤツを譲ってくれるから大変じゃねぇよ。

それに世話っつーか…意志疎通もちゃんと出来るから、世話するってより一緒に暮らしてるって感じ?

とにかくスゲェ可愛いし、ドレーク様は見学だけでも良いっつってたから興味あるならお願いしてみろって!」

 

「まじかよォ!頭良いんだなぁ。」

 

「レオヴァ様も前から軍隊ウルフとかバジリスク飼ってるって聞くし…

おれもちゃんと説明聞いてチャレンジしてみるか!」

 

「そうそう!

話聞くだけじゃアレだし、今日の勤務終わりにでもドレーク様に声かけようぜ!

レオヴァ様も言ってたじゃねぇか、“ひゃくぼんはいっけしかず”ってさ。

やっぱりちゃんと自分で見ねぇとな!」

 

 

「…良い心掛けだ。

やはり、ただ話で聞くよりも己で見て感じる方が経験として活きやすい。

ちなみに正しくは “百聞は一見に如かず” だ。」

 

「「「!!?」」」

 

 

突然の背後からの声に三人の男は首が取れるのではないかと思うほどの速度で振り返った。

 

そこには大きな袋を片手に微笑むレオヴァの姿がある。

三人は大きく目を見開き、思わず叫んだ。

 

 

「「「れ、レオヴァ様~~!?!」」」

 

三人の叫び声に他の部下がわらわらと集まりだす。

 

 

「え!?レオヴァ様だぞ!?」

 

「やべ!?おれ昨日も風呂入ってねぇ!

なぁ、臭くねぇか!?」

 

「臭い気にしてねぇで、先に挨拶だろうが!

ゴホンッ…えぇー……レオヴァ様、ご機嫌うるわしゅう……」

 

「アホか!

最近やったワノ国の礼儀のやつも中途半端じゃ失礼だろうが!!

…レオヴァ様、今日もお疲れっす!」

 

「「「失礼なのはテメェだ、馬鹿野郎!!」」」

 

「おめぇら騒ぐな、レオヴァ様の前だぞ!?」

 

 

突如、わいわいと慌ただしくなった鳥居の上の部下達に怒るでもなくレオヴァは笑いながら声をかける。

 

 

「ふふふ…急に訪ねてすまなかったな。

だが、皆が完璧に門番の務めを果たしてくれているようで安心した。

これからも頼りにしているぞ?

……と、話は変わるが、あんこ餅を休憩の時にでもと思って持って来たんだ。

甘いものが好きな者はいるだろうか?」

 

「「「「「「 甘いモンすげぇ好きです!! 」」」」」」

 

 

問いに食いぎみで答えた部下達にレオヴァは一瞬きょとんとしたが、すぐに嬉しそうにあんこ餅を配り始めた。

 

部下達はまるで宝でも渡されているかのように、三種類のあんこ餅が入っている箱を受け取ってゆく。

 

そして、レオヴァはそこに居る全員に配り終えると巨鳥の姿で飛び立って行くのだった。

 

 

どんどんと小さくなる輝く鳥を見送ると、部下達はほくほくした顔で勤務へと戻って行く。

 

 

「レオヴァ様わざわざここまで来てくれるなんてよォ…

うるせぇおれらの事を見ても笑ってくれるし、本当に器のデケェお方だよなァ…。

…っもぐ……って、やべぇ!これ美味くね!?

おれ今日からあんこ餅好物にするわ!」

 

「「いや、休憩前に食ってんじゃねぇよ!!」」

 

 

周りの部下達は、仲の良い三人組のやり取りに笑いながら砲台の点検を始めるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

魚人島は朝から賑わっていた。

 

何故なら今日はワノ国の貿易船が来る日なのだ。

 

 

約6年ほど前に始まったネプチューンとレオヴァの個人的な取引は、数年後には国同士の貿易となっていた。

 

そして、それは魚人島の人々が様々な珍しい物を見たり、手に入れられる貴重な機会をもたらしている。

 

外の世界から入ってくる物は人々に外の世界に行きたいと言う夢を更に強く抱かせ、前向きになれる要因として一役買っておりオトヒメも貿易船が来る日を楽しみにしていた。

 

 

 

「なぁなぁ、今日って百獣の人が来る日だよな!?」

 

「そうだぜ!

今回の貿易船また焼き貝ヒモあるかなぁ…あれ好きなんだよ。」

 

「ほんと楽しみだよな!

……レオヴァさんとジャックさんも来んのかな、また会いてぇよ。」

 

「オトヒメ様を救ってくれた大恩人だもんなぁ!

お前話した事あるんだっけか……羨ましい奴だなぁ。」

 

「ヒヒヒ!まぁな!

おれ魚人街出身だから、あん時にレオヴァさんと話してんだ!」

 

「そっか、そういやお前って魚人街出身だったなぁ。

なるほどなぁ、それでジャックさんの事も好きなのか!」

 

「そうなんだよ。

ジャックさんマジで格好いいんだぜ?

スゲェ強いし、レオヴァさんにも頼りにされてるし……それによォ!」

 

 

そんな盛り上がる二人の男の横を通り抜けながら、鮫の人魚はマーメイドカフェへと向かっていた。

 

 

「(誰も彼もみんなが百獣の話ばかりね。

……まぁ、気持ちはわかるけれど。)」

 

そんな事を思いながら裏口から店内へと入り、鮫の人魚はソファーへと腰掛ける。

 

5メートルを超える身長に鋭い目付き。

そして美しい青みがかった黒髪の鮫の人魚。

彼女はマダム・シャーリーと呼ばれ、魚人島で一目置かれる存在だ。

 

その理由は彼女の性格や生まれもあるだろうが、一番の理由は“未来予知”である。

 

そう、彼女は未来を断片的ではあるが見ることが出来るのだ。

更にはその的中率も恐ろしいほど高く、王であるネプチューンも彼女の言葉に度々耳を貸すほどである。

 

 

彼女は子どもの頃からずっと未来を予知してきた。

そしてその予知は外れた事などなかったのだ。

 

……6年ほど前のあの日まで。

 

 

 

今や魚人島では知らぬ者などいない、あの“オトヒメ様暗殺騒動”の日。

 

最近感じる胸騒ぎの不安から、思わず占いをしてしまったシャーリーは恐ろしい未来を予知したのだ。

 

燃え盛る炎、慌ただしく駆け回るネプチューン王の兵隊達……そして血を流し子どもへと手を伸ばしながら息を引き取るオトヒメ王妃。

 

あまりの光景にシャーリーは暫く動くことが出来なかった。

しかし、このままでは不味いとネプチューン王の下へと向かったのだ。

 

水中でない為に、速く移動できぬもどかしい思いを抱えながら必死に王城へと急いだ。

 

しかし、道中にある広場に広がる光景を目にして、崩れ落ちたのだ。

 

広場には火柱がたち、兵士達も民衆もざわざわと落ち着きがない。

 

まさにシャーリーが予知で見た通りの光景が眼前に広がっていた。

 

 

『(間に……合わなかったんだ…。

まさか今日あの“未来”が起こるなんて……)』

 

だが、絶望に肩を震わすシャーリーの耳に力強い声が届いた。

 

 

『ロー!

すぐに王妃の手当てを!

火傷が酷い……スレイマンはすぐに酸素を送る機械を持ってきてくれ!』

 

『了解した。』

 

『わかった、レオヴァさん。

…まずはそいつを横にしてくれ。』

 

 

その声に弾かれるように、シャーリーは人波をかき分け進んだ。

 

そして、そこには予知では死んでいた筈のオトヒメ王妃がおり、横には予知では居なかった男が腕から血を流しながらも、自らの羽織を地面に敷きオトヒメ王妃を優しく横たわらせていた。

 

近くにいた少年は血を流す男を心配そうな顔で見つつも、オトヒメ王妃の火傷を二人で手早く治療していく。

 

シャーリーは驚きに言葉を失った。

 

今までずっと自分の未来予知は外れることなどなかった。 

良いことも悪いことも全てが、だ。

 

しかし、今目の前で生まれて初めて予知が外れようとしている。

それも、オトヒメ王妃が助かると言う一番嬉しい形で。

 

 

シャーリーは予知には居なかった存在をじっと見つめた。

彼が……彼があの最悪の結末を変えたのだろうか…。

 

気になる、彼が何者なのか。

この纏う雰囲気はいったい何なのか。

 

見つめ続けるシャーリーと、顔を上げた男の目線が合う。

 

『…っ!』

 

息を吞んだシャーリーだったが、男の目線はすぐに隣の少年へと向けられる。

 

 

『良くやった、ロー。

これで王妃は大丈夫だ。

……それにしても突っ込んで行ったジャックが戻って来ないな…』

 

『んな事より、レオヴァさんの手当てが先だ!!』

 

 

男は帽子を被った少年の声に眉を下げて困った様に笑う。

 

 

 

その後犯人は捕まりネプチューン王が現れ、騒動は収束していった。

 

犯人捕獲後も、広場にいる兵士や人々の手当てをして回る男に更にシャーリーは興味を引かれた。

 

……知りたい…彼の事が!

 

 

広場から去っていく男を眺めながら、シャーリーは水晶へと手を伸ばした。

 

そして頭に流れ込んでくる予知の衝撃で気を失ったのだ。

 

 

 

 

 

煙管(キセル)を片手に過去の記憶を思い出していたシャーリーだが、此方へ向かってくる足音に現実に戻された。

 

今日、訪ねて来る予定があるのはたった一人だ。

 

控えめに扉をノックする音に返事を返す。

 

 

「…開いてるよ、入りな。」

 

カチャリと音を立てて開いた扉から角の生えた男が入ってくる。

 

 

「久しぶりだな、シャーリー。

今回も変わり種のジャムを持ってきたんだが…」

 

「久しぶりだね、レオヴァ。

……まぁ、そこにお座りよ。」

 

にこやかに挨拶をするレオヴァにシャーリーが座るよう促すと、綺麗な所作でソファーに腰掛け持ってきていた箱を開く。

 

 

「……黄色くて可愛らしい花だね。

薔薇以外の花を使ったジャムは初めてだよ。

いつもの説明を頼めるかい?」

 

「勿論、紹介させてもらおう。

これは金木犀というワノ国にある花を使ったジャムで優しい甘味とほのかな花の香りが売りなんだ。

紅茶と合わせれば通常よりも香りが楽しめ、ヨーグルトなどに合わせれば見た目が存分に楽しめる一品になっている。

……実演用に紅茶の葉もあるが、どうする?」

 

「本当にいつも思うけど、アンタって売り込みが上手いね。

実演前に買っちゃいそうだよ。」

 

「ふふふ、ありがとう。

シャーリーにそう言われると悪い気はしないな。」

 

 

お互いに軽口を叩き笑いながら、話を進めていく。

 

二人は30分ほど談笑と交渉を続けつつも紅茶とジャムを楽しみ、レオヴァの持ってきた品をシャーリーが全て購入する手筈となった。

 

可愛らしいジャムや良い香りの茶葉たちに囲まれながらシャーリーは立ち去ろうとするレオヴァへ思い出した様に声をかけた。

 

 

「…レオヴァ、結局アンタはどっちなんだい?」

 

ピタリと手を止めたレオヴァはシャーリーに微笑みかけた。

 

「………懐かしい問いだな、シャーリー。

5年ほど前も同じ事を聞かれたと思うが……」

 

「そうだね……5年前聞いたさ。

けれど、返事はもらってないよ。

…インペルダウンの脱獄の件もアンタなんじゃないのかい?」

 

 

一瞬の沈黙にぷかぷかと煙管(キセル)からシャボンが漂う。

シャーリーの真っ直ぐな瞳を正面から見つめ返しレオヴァは答える。

 

 

「……ずいぶんと意地の悪い聞き方だな、シャーリー。

また占ったんだろう?」

 

「なんで私が占ったなんて思うんだい?」

 

「“脱獄”の件と言っただろう。

インペルダウンで何か問題が起こった事は噂になっているが、脱獄なんて話は出ていなかった。」

 

そうだろう?と笑うレオヴァにシャーリーは諦めた様に溜め息をついた。

 

 

「……私のミスだね。」

 

「シャーリー、友人に疑われるのは気分の良いものじゃない。

……お前ならわかるだろう?」

 

レオヴァの言葉にシャーリーは言葉を詰まらせる。

 

幼い頃から予知のせいで色んな不信を向けられた経験のあるシャーリーは疑われる辛さを良く知っていたのだ。

 

 

「そう言うつもりじゃなかったのよ。

ただ……レオヴァとは6年の付き合いなのに、アンタが良くわからないから。

良い人間にも悪い人間にも思えて……いえ、それこそ失礼ね。

…ごめんなさい、忘れて。」

 

額に手をやり、目線を下げたシャーリーにレオヴァは優しい声で答えた。

 

 

「気にしないでくれ、おれも少し言い方が悪かった。

まぁ、だが一つ言えるのは良い人ではない……ということだ。

そもそも、おれは海賊だからなァ…シャーリー。」

 

良い人が賞金首になると思うか?と、くすくす笑いながら言うレオヴァを見て傷付けてはいなかったと内心ほっとしつつシャーリーは返した。

 

 

「そういう意味じゃないことくらい、わかってる癖に。」

 

「さぁ、おれには分かりかねる。

では……可愛い部下を待たせているから、失礼する。」

 

 

そう言って今度こそレオヴァは部屋を後にした。

閉まった扉を見ていたシャーリーはすっと目線を下げた。

 

 

「……やっぱり今回もちゃんと答えてはくれないのね、レオヴァ。」

 

小さく溢れたその言葉に答える者は居ない。

 

 

シャーリーはレオヴァが解らなかった。

 

優しくそしてユーモアも持ち合わせた誰からも好かれる彼と、恐ろしいほど完璧で隙がなく何を考えているのか解らない彼。

その人物像のギャップがシャーリーを悩ませる。

 

この6年間の付き合いを信じるのならば、レオヴァは公私をしっかり持った優しく強い男……だろう。

とても気が利き話は面白く、聞き上手。

もし、欠点を言えと言われても困るだろうと思う程にはレオヴァの性格は良かった。

 

だからこそ、シャーリーはあの未来予知で見た光景が信じられなかった。

 

未来予知では細かいことまでは分からないが、その見た目や特徴から知り合いや有名な人物であれば、ある程度特定出来るのだ。

その為、あの未来予知に出てきた人物がレオヴァだとシャーリーは考えていた。

 

だが、彼はそんな人じゃないと思う自分がいる。

けれど、彼は大切な人の為ならば鬼にだってなるだろうと思う自分もいるのだ。 

 

……信じたい。

それがシャーリーの想いだった。

 

彼がオトヒメ王妃の大恩人であると言うのも理由ではあるが、なによりも6年来の友人に疑念を向けたくない……レオヴァの優しさまでを疑いたくなかった。

 

数年前にレオヴァから貰ったティーカップを指先で優しく撫でると、翳りのある表情で呟いた。

 

 

「……信じてるわ、レオヴァ。」

 

シャーリーの儚げな瞳は美しいティーカップに注がれていた。

 

 

 

 

 

 

レオヴァはマーメイドカフェを出て路地を歩きながら溜め息をついた。

 

その原因は予知が出来る人魚である。

 

数年も前からその能力に目を付け関係を結んでいたが、ある予知のせいで未だに探りを入れられるのだ。

 

正直な話、探られて困る案件に関しては全てが処理済みであり、身内の本当に信頼を置く者の記憶にあるのみなのでボロが出る筈もないのだが、未知の能力相手に必要以上に警戒してしまうのはレオヴァの性格上仕方のない事なのだろう。

 

 

予知の出来る者を懐柔する利益と、その能力による危険性の間でレオヴァは揺れ動いていた。

 

6年近くもわざわざ手を掛けた相手を殺すのは損失なのではないかと考える反面、百獣に害をなす可能性が1%でもあるなら……と考えてしまい、またレオヴァは大きな溜め息をつく。

 

せっかく友好的関係を築けたネプチューンとの繋がりに万が一を引き起こすリスクは控えるべきだ。とレオヴァは思考し直し、帰路につくのだった。

 

 

 




ー後書きー
前回もご感想に誤字報告、ここすき一覧ありがとうございますッ!!
いつも読み返してやる気に変換させて頂いてます!感謝です!!

↓ツイッターに上げた幼少期ロー&レオヴァの絵(ローお誕生日おめでとう用に描くつもりだったもの)

【挿絵表示】



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

三人寄れば…

 

 

 

整頓された部屋で、机に腰掛け頭を抱えているセンゴクが本日何度目か分からぬ溜め息をつく。

彼は日々あらゆる問題に悩まされているのだが、今回の件は普段の問題とは比にならぬ内容であった。

 

だが彼の気苦労など知らぬ様な顔で、ソファーに腰掛け菓子袋を開けようとしているガープは呑気に呟く。

 

 

「だから言ったじゃろうセンゴク。

あの小僧にあの懸賞金じゃあ低すぎる!

……お、今日のおかきは詰め合わせか~」

 

ご機嫌におかきを口へと流し込むガープをセンゴクは忌々しそうに睨み付け、立ち上がると菓子袋を奪い取った。

 

 

「……他人事のように言いおって…

あとそれは私のおかきだ、勝手に食べるな!!」

 

「あっ!おいセンゴク何をするんじゃ!!

ワシまだ半分しか食べれてないぞ!」

 

「貴様には食べる権利なんぞないわ!

……って、もう半分も食べたのか!?

ガープ……貴様ァ…」

 

「お、おい……センゴク!

ワシに当たるのは筋違いじゃろうが!」

 

 

そんな睨み合うガープとセンゴクの雰囲気に目に見えて慌てている男は、なんとか場を収めようと立ち上がり……大きな音を立て派手に転んだ。

 

 

「ロシナンテ…!」

 

「うぉ!? びっくりしたのぅ。

なんじゃ、大丈夫か?」

 

「痛たた…す、すみません。

ドジっ子なもんで……。」

 

「ぶわっはっは!ドジっ子ならしょうがないのぉ!」

 

「……相変わらずだな、ロシナンテ…」

 

 

突然目の前で大きな音を立てて転んだロシナンテをセンゴクは心配し側に寄り、ガープは少し驚いたあと笑っていた。

二人から注目され、少しの気恥ずかしさから頬をかいていたロシナンテだったが今がチャンスだとばかりに口を開く。

 

 

「そ、そろそろ本題に入りませんか?

ガープ中将の持っている情報と、おれが潜入中に手に入れた情報。

この2つを合わせてどうにか新しい対策を…」

 

 

打って変わって真面目な顔でソファーに座り直し喋り出したロシナンテだったが、ガープは気の抜けた声で返す。

 

 

「いや~、ワシの情報なんて何年も前じゃしなぁ…

それに今までずっと、ワシはあの小僧は強そうだってセンゴクにはちゃんと言っておったし?

なのに全然懸賞金上げてくれんしのぉ~」

 

「貴様の報告の仕方にも問題があるわ!

…そもそも百獣の息子と言う時点でそこそこやれるだろうと予想し、1億以上もの懸賞金はかけてはいた。

それに貴様は子ども相手だからと気を抜いて逃げられたと言っただろう。

“油断しきっていた貴様”から逃げられたと聞いただけでは懸賞金の上げようもない……よってガープ、貴様にも責任はある!!」

 

「うっ……センゴク、今日は良く喋るわい…」

 

「せ、センゴクさん……落ち着いてください。

今は誰に責任があるかではなく、ビッグ・マムと百獣の動きについての今後の方針と百獣の息子への認識改めを…」

 

 

一向に進まない会談にロシナンテは先ほどのセンゴクの様に頭を抱えたい気持ちだったが、大恩人と英雄の前で非礼な真似は出来ぬとぐっと気合いでもちこたえる。

 

たとえ頭を抱えたい原因がその二人であったとしても、ロシナンテは口に出さないと言う賢さを持ち合わせていた。

 

 

 

そもそも、この会談を開くことになったのは百獣海賊団とビッグ・マムの同盟疑惑(・・)がきっかけであった。

 

ある日もたらされた政府側の諜報員からの報告、それは大混乱を招きかねないものだったのだ。

 

 

『ビッグ・マムのお茶会にて、百獣海賊団と取引したと言う紅茶や菓子が振る舞われていました。

そしてシャーロット家8女が百獣の息子やその部下と親しげな関係にあるような発言をしており…確定ではありませんが同盟またはそれに近い関係を築いている可能性が高いと思われます。』

 

と、いう内容だ。

にわかに信じがたい報告内容ではあったが、この諜報員は長年スパイを務めており、ビッグ・マムからも度々お茶会の招待状を貰うなど大きな功績もある信頼できる人材なのだ。

 

“そんな事はあり得ない!”と切って捨てるには情報に信憑性が有りすぎた。

 

なにより、ここ最近ワノ国が頻繁に貿易をしていると言う話はある程度の情報通であれば知っている話であり、ワノ国をナワバリにしている百獣海賊団が裏で指揮を取っていると考える者も少なくはない。

だが、“何か怪しい”と感じてはいても百獣海賊団の動きが、まさかこんな結果を生むと予測できる者はいなかったのだ。

 

 

四皇はそれぞれが不可侵に近い距離感を保っていると政府は考えており、事実その認識は大きく間違ってはいなかった。

それぞれ強大な力を持つ者達が互いに牽制しあって海の均衡が取れていたと言うのに、その内の2つの海賊が手を組んでは均衡などなくなってしまうだろう。

 

あの、百獣のカイドウとビッグ・マムが暴れまわればそれこそ地獄絵図だ。

 

それに、百獣海賊団にもビッグ・マム海賊団にも凶悪な幹部達が何人もいる。

船長だけでも手が付けられないと言うのに、その幹部達も一筋縄ではいかぬ曲者揃い。

政府の人間が諜報員からの報告を信じがたく思う気持ちも理解できるだろう。

 

 

しかし、一部の政府の人間はただ狼狽えるだけではなかった。

事実確認をするべきだと行動に移したり、新しい対策を考えるべきだと会議を開いたりと迅速な対応で各々が平和の為に動いたのだ。

 

そして、今部屋に集まり会談をしているセンゴクやガープ、ロシナンテもまた狼狽えるだけの人間ではない。

 

 

センゴクはこの事態を非常に重く考えていた。

百獣海賊団の動きが変わってきていると言う些細な事実に気づいていた数少ない切れ者であり、強い正義感を持つ彼は本格的に対策が必要だと直感的に感じていたのだ。

そして、その原因が百獣の息子なのではないかと怪しんだセンゴクは数少ない情報保持者であるガープとロシナンテを選んだ。

 

ガープは百獣の息子との戦闘経験がある。

口には出さないが、いざとなれば誰よりも頼れる男だともセンゴクは思っている。

 

ロシナンテは潜入捜査中にレオヴァと接触するだけでなく、百獣のナワバリにも赴いた経験があり、尚且つセンゴクは厚い信頼をおいている。

 

この二人から話を聞き百獣海賊団の動きを把握し、出来るだけ多くの民間人や世界を守る術をセンゴクは考えだそうとしていたのだ。

 

 

 

「……と言う感じです。

正直、百獣の息子……レオヴァは根っからの悪人には見えず…

実際にナワバリに住む人々は豊かでしたし…ドフラミンゴの船にいた子ども達やナワバリの子ども達にも好かれていたのを良く覚えてます。」

 

「ワシもあの小僧が根っからの悪人だとは思わんなぁ…

じゃが、あれから成長した小僧は知らんからのぅ。

ロシナンテの話を聞く限りでは、あのまま成長した様にも感じるが…

どちらにせよ、海賊はワシが取っ捕まえてやるわい!」

 

「…噂では腑抜けだの、七光りなどと言われている様だったが……

ロシナンテの話を聞く限りでは取引上手な男であり、人間関係を円滑に進める才能もある…か。

ガープの話では部下を逃がす為に無謀にも一人で挑んだりと……まったく、良くわからん男だ。」

 

 

大方の情報交換を終えた三人は静かに茶を啜る。

その場に少しの沈黙が流れたが、センゴクがそれを破った。

 

 

「百獣の息子、奴は私が知る限りでは大きな事件は起こしていない。

そう、奴には父親であるカイドウとは違い悪名と呼べるものが一つとしてない。」

 

センゴクの言葉に二人は頷く。

 

 

「確かに、小僧が事件を起こしたなんてワシも聞いたことないわい。」

 

「おれもレオヴァが何か起こしたと言う話は潜入中も聞いたことはないです。

新薬開発や新しい食べ物のレシピを開発したなどの話なら良く聞きましたが…」

 

「お前達も聞いたことはないか。

……この事実に違和感を覚えないか?」

 

センゴクの問い掛けにガープはきょとんとし、ロシナンテは考え込む素振りを見せる。

 

 

「あの百獣の息子だと言うのに、凶暴性もなにもない少し頭が良いだけの優しい男に成長すると?」

 

「そりゃあ、色々じゃろう。

親は親、子は子だと思うがなぁ。」

 

のんきな返事を返すガープに鋭い目線を送りながらセンゴクは返す。

 

 

「私も親で子が完全に決まるとは考えてはない。

だが、育つ環境でだいたいの人格や価値観は決まる!

百獣海賊団と言う暴力性の強い集団で育てられたと言うのに、暴力を好まず対話を望むだけの男になったと言うのが信じられんのだ。

それだけではない……過去、百獣の息子を捕えた海軍基地が見るも無惨な最期を迎えた話は知っているか?」

 

「……いや、おれは初耳です。」

 

「ワシは覚えとる、新世界にある結構デカイ基地じゃろう?」

 

「そうだ、その基地だ。

ロシナンテが知らぬ様だから簡単に話そう。

あそこは新世界の海軍基地の中でも屈指の大きさと人員を誇っていた。

海賊から押収した宝の保管庫や捕えた囚人を一時的に拘束する部屋もある本当に大規模な基地だった。

そんな基地がほんの1時間程度で落とされ、生存者は1人のみだ。

……その1人も百獣海賊団幹部であるキングに拷問された事で精神を病み…自ら命を絶ってしまったが…」

 

「そんな…ことが……」

 

悔しさの滲む声で話された内容にロシナンテはぐっと唇を噛み締めた。

 

 

「…そして、その襲撃の原因は百獣の息子を捕えた事だった。

息子を奪われたと怒り狂った百獣のカイドウの進撃を止める術はなく、さらにはその時からの幹部……キングとクイーンも連れてくる始末だ。」

 

この話にハッとしたようにロシナンテは顔を上げ、センゴクを見た。

 

 

「…なるほど!

だから、センゴクさんはレオヴァを捕えると言ったおれを止めたんですね!?」

 

「そうだ。

百獣の息子である奴が百獣海賊団の幹部の中で最弱である可能性が高いとしても、奴を捕まえれば間違いなく災害など甘く見える化け物共が進撃を始めるだろう。

そうなれば海軍と百獣海賊団の全面戦争になりかねん……だから止めたんだロシナンテ。」

 

「そんな事件があったと知らず……センゴクさん、すみません。

おれもう少しで大変なことを…」

 

「いや、あの時は時間がなくて私もしっかり説明できず……すまなかったな。」

 

落ち込むロシナンテの肩にセンゴクは優しく手を置き、微笑んだ。

そんな二人にガープは奪い返したおかきを貪りながら言い放つ。

 

 

「ワシはあの小僧が弱いとは思わんけどのぉ。

あの年であれだけ動けて、判断も悪くなかった。

もし小僧が部下を引かせず全員で向かって来てたら、小僧は無理だったとして場にいた半数の百獣海賊団は捕まえられたじゃろうしな!」

 

 

ガープの発言にセンゴクが同意を示す。

 

 

「そう、それなんだ。

今、多くの者は百獣の息子は戦闘向きではない……つまり弱い又は非戦闘員だと考えている。

理由は多々あるが、まず毎度遠征では幹部クラスの護衛を付けている事。

基本的にナワバリであるワノ国に軟禁状態である事。

そして、一番が戦闘を避ける動きが多く一切事件を起こしていない事だ。

……正直、百獣のカイドウが弱い息子を大切にするとは考えられん。

あの海賊団は結成当時、弱肉強食という理念が強かった筈…」

 

「確かに無条件であのロックスにいたカイドウが息子を大切にするとは思えんが……父親になって変わったとも考えられるしのぉ…」

 

「私は何か価値があるからこそ、息子を奪われることを嫌がり護衛をつけたり軟禁状態にしていると思うんだが…

実力を隠しているか……いや、可能性が高いのは知略か特別な力や悪魔の実の能力か。

確かガープが言うには動物系(ゾオンけい)の能力だったな?」

 

「そうじゃ、やたらキラキラした鳥になっとったぞ。

…ありゃ幻獣種じゃろうなぁ。」

 

 

様々な憶測を交えながら話すセンゴクとガープの側で少し考え込んでいたロシナンテが口を開く。

 

 

「本当に単純にただ家族だから…じゃないですかね。」

 

「ロシナンテ……優しいお前ならばそうかもしれないが、相手はあの百獣のカイドウだぞ。」

 

 

あり得ないだろうと小さく首を振るセンゴクにロシナンテはおずおずと話し出す。

 

 

「その、カイドウはどうかは分からないのですがレオヴァは凄く慕っている様子でしたので…」

 

「…慕っている? 百獣のカイドウをか?」

 

「はい。

レオヴァはどちらかと言うと話を聞くタイプの人間で自分の事などは殆ど話さないのですが、カイドウの話題となると満面の笑みで普段の数倍饒舌に…」

 

「ほう……どんな話を聞いたんだ?」

 

 

センゴクに促されるままに、ロシナンテは二人に記憶にある会話を伝えていく。

 

 

 

ある取引の日。

いつもとは違う羽織と着物を着たレオヴァにベビー5が声をかけていた時の事。

 

『わぁ~!

レオヴァ様それすごい素敵ね!

綺麗な水色……レオヴァ様にぴったり!』

 

無邪気に笑うベビー5の言葉を聞くと普段よりも少し子どもっぽい笑みを浮かべ、目線を合わせながらレオヴァは答える。

 

 

『ふふふ……ありがとう、嬉しいよベビー5。

実は父さんからの贈り物なんだ。』

 

『そうなの!?

カイドウ様ってオシャレなのね!』

 

『…父さんがオシャレ?』

 

『うん、だってこんなに素敵な服を選べるんだもん!

オシャレさんじゃなきゃ無理よ!』

 

『ふっ…ふははははっ!

確かに、お洒落さんなのかもしれないなァ。

いつも父さんが選んでくれる物は素晴らしい物ばかりだ……きっとベビー5の言う通りだな。』

 

『えへへ…あ、そうだ!

レオヴァ様はどんな色が好き?

やっぱりカイドウ様と同じ色なの?』

 

『そうだな、おれが好きな色は……』

 

と、その後も好きな色や花の話をベビー5としていたのだ。

好きな色や花の情報などくだらないと思うかも知れないが、レオヴァが答えていることこそが珍しい事なのだ。

 

例えば普段であれば、好きな食べ物は?と聞かれれば

『好きな食べ物か、色々ありすぎて決められないな……

そうだ、コラソンは何が好きなんだ?』

と、話題をふって来て答えようものならばそのまま、その好物が美味しいレストランの話や豆知識などを披露されて終わってしまい、結局レオヴァの事は知れないのだ。

 

そう考えるとカイドウの話が絡むと饒舌になると言うのは間違った認識ではないだろう。

 

ロシナンテは他にもレオヴァが話していた、紅茶をカイドウが好まない話やカイドウに上手い物を飲ませたいから酒造を始めたと言う話を聞いた事などをどんどん二人に伝えて言った。

 

 

そして、それを聞いていた二人は更に百獣の息子が解らなくなっていった。

何故ならば、どれもこれもレオヴァの父親自慢や親孝行をしている話ばかりだからだ。

人物像が見えた気もするが、それが素顔なのか定かではない。

唯一、確かなのは百獣の息子がある程度博識であり、モノづくりが好きであるという事だけだ。

 

 

この未だ終着点の見えぬ会談はガープが寝落ちするまで続くのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

とある場所で(おこな)われている三人の会談とほぼ同時刻の鬼ヶ島にて。

 

 

クイーンは目の前で酒瓶片手に荒れているカイドウを見て遠い目をしていた。

 

 

「(キングの野郎遠征を言い訳に自分だけ上手く逃げやがってェ~!

めちゃくちゃカイドウさん機嫌悪いじゃねぇか!!

絡み酒からのとばっちりは本当に勘弁だぜェ…

……キングの馬鹿には絶対し返す…!!)」

 

 

内心キングへの呪詛を撒き散らすクイーンの正面で、カイドウは座椅子に腰掛けぐいぐいと酒を飲み干していく。

一方、ジャックは空になった瓶がカイドウの邪魔にならぬ様に回収係の方へと瓶を転がしていた。

 

 

 

「うぃ~…ック…レオヴァはまた仕事かァ

ったく!おれと仕事どっちが大切だってんだァ!?ヒック!」

 

力任せに酒瓶を割っている鬼の形相のカイドウに口元を引きつらせつつもクイーンはなんとか言葉を紡ぐ。

 

 

「いや~まぁ、レオヴァが頑張ってんのも全部カイドウさんの為っすから…」

 

慰めに入ったクイーンの言葉を遮るようにカイドウが怒鳴る。

 

んなこたァわかってる!!おれの息子だぞ!?

レオヴァの事ァ誰よりもおれが一番よく分かってんだよォ……!!そうだろ!!?

 

「あぁ、カイドウさん以上にレオヴァさんを分かってる奴なんかいねぇ!…です。」

 

ジャックの心からの言葉に鬼のように吊り上がっていたカイドウの目元が緩む。

 

 

「そうだ、そうだぞジャック!!

ウォロロロロロ……おめぇは本当に良くできた野郎だ!

レオヴァが手塩にかけるのもわかるぜ。ヒッ…ク」

 

「……!

ありがとうございます、カイドウさん!」

 

予期せず褒められ嬉しげなジャックとコロッと機嫌がなおったカイドウを見てクイーンは小さくため息を吐く。

 

 

「(……計算なしでカイドウさんの機嫌なおせちまうなんて、レオヴァ除けばジャックぐれぇだよな。

いやぁ、マジで助かったしレオヴァに今回の手柄伝えてやるか~!)」

 

ナイス、ジャック!と心の中でサムズアップしつつ、おしるこを食べる事を再開したクイーンを置いて二人は話し始める。

 

 

「ウォロロロ……おれァ今ちょうど気分がいい!

ジャック、おめぇにレオヴァの話を聞かせてやる!!

聞きてぇだろ?……聞きてぇよなァ!?聞きたくねぇ訳がねぇ!

 

どんどん声が大きくなるカイドウの言葉にジャックは身を乗り出す勢いで答えた。

 

 

「勿論だカイドウさん!

今日はどんなレオヴァさんの話を聞かせてくれるんです?」

 

自分の知らぬレオヴァの話が聞けると目を輝かせるジャックの顔を見て、満足げに笑うとカイドウは新しい酒瓶を手にしながら話し出した。

 

 

「そうだなァ……レオヴァが赤ん坊の時の話にするか!

あいつは赤ん坊の頃からおれを怖がるどころか……」

 

 

また始まったと素知らぬ顔でおしるこを啜るクイーンとは違い、ジャックは姿勢を正して昔話に耳を傾ける。

 

 

カイドウはここにはいないレオヴァの昔話を日が昇るまでジャックに語るのだった。

 

 

 

 

 

 

 





ー補足ー

・今回の補足
[ロシナンテ]
今作ではローとは出会っていないので作戦は成功し生きている。
ドフラミンゴ投獄の功績などにより中佐から大佐へ昇進。
現在は海軍に戻り部下を連れ海を回っている。
レオヴァとは何度も面識があり、筆談したりと色々探っていた。
最近の悩みは脱獄したドフラミンゴが送ってくる刺客が多いこと。

・その他の補足
『コビー』
修行後、とある組織に引き渡されており、現在はそこのメンバーとして行動中。
ドレークとの仲はいまだに良好。

『小紫』
獣人島にてキャロットと姉妹のような友人関係を築き、ネコマムシ達と平和な日常を過ごしている。
が、たまに宴などに出席しクイーンの相手を勤める。


今後、話に出てない補足や裏設定など後書きでぼちぼち書いて行きます~!
今回も読んで下さりありがとうございました!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

巣立っても鳥は親を想ふ

 

 

少し幼さを残した顔立ちのブロンドの青年は、午前の激しい戦闘員訓練を終えシャワーを浴びていた。

 

体を洗うと先ほど出来た傷が少し痛むが、期待の後輩が成長している証と思えば嬉しいものである。

 

青年はささっと手早く汚れを落とし、身支度を済ませる。

 

服も着て、いつも通りの姿に戻った青年は空腹を満たすために廊下を歩き始めた。

 

「ん~……今は肉の気分だな!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

昼時になった基地では皆がわいわいと食事を始めている。

 

だが、そんな中1人の少年を囲むように輪が出来ていた。

 

「いやはや!

まさか料理まで出来るとは知らなかったぞ!」

 

「そうだよ!

こんなに上手いのになんで隠してたの?」

 

手放しに褒める白い髭の魚人と、不満げに頬を膨らませる若い女の言葉に少年は照れながら答える。

 

 

「あ、いや!そんな!

ぼ、ぼくなんてまだまだですよ!

その、隠していた訳ではなく…ここの料理人の方のご飯が美味しくて作ってなかっただけでして…」

 

あははは…と頭をかきながら謙遜する少年に周りは笑う。

 

 

「もう!

コビーくんがまだまだだったら私はどうなるのよ。

もっと自信持ちなよ、こんなに美味しいんだから!」

 

「うむうむ。

コアラの言う通り!

……ところで、おかわりを貰っても?」

 

「えへへ……ハックさん、コアラさんありがとうございます!

お代わりも沢山ありますのでどんどん食べて下さい!」

 

笑顔でハックの皿におかわりを入れていくコビーの後ろからブロンドの青年がヒョコっと顔を出す。

 

 

「お!旨そうだなコビー!

腹減っちまって……おれの分あるか?」

 

「うわっ!?

さ、サボさん!急に後ろから現れないで下さいよ~……びっくりしたぁ…

あ、もちろんサボさんの分もありますよ!」

 

「ははは、悪ぃ悪ぃ!

んじゃ、大盛りで頼むぜコビー!」

 

「はい、わかりました。

………どうぞ!」

 

「おう、ありがとう!」

 

ニカッと笑いながらおかずと白米の乗ったお盆を受け取り、サボはコアラとハックの側に腰掛け食事を始めた。

 

空腹と旨い食事が(あい)まって黙々と食べ進めるサボの隣に、配膳を交代してもらったコビーが腰掛ける。

次々平らげるサボの側で三人はのんびり会話をしつつ食事を進めていた。

 

 

「へぇ~!

じゃあ、この料理もあのレオヴァさんに教わったんだ。」

 

「はい!レオヴァさんには本当に色んな事を教えて貰いました!

料理の仕方や航海術……他にも食べられない物の見分け方や、よくある病気などの対処方法まで!」

 

懐かしむ様に話すコビーにコアラは優しく笑う。

そんな二人の話にサボも交ざっていく。

 

 

「お前が良く話す、そのレオヴァって奴は生き残る為の知識を中心にコビーに教えてくれたのか。」

 

「えぇ、レオヴァさんは僕によく言ってくれていたので。

“生き延びる事にこそ意味がある……おれは何より身内を失う事が怖い。

……だからコビー、修行で大変だと思うがこういう知識をおれと共に身に付けて欲しい”……と。

本当に、本当にレオヴァさんは…!」

 

いつもの様に発作を起こすコビーにハックとコアラは苦笑いし、サボは大きく口を開けて笑う。

 

 

「はははは!

本当にコビーはレオヴァって奴の事が好きなんだな。」

 

「もちろんです!!

レオヴァさんは、僕の憧れですから!

いつか僕もレオヴァさんみたいに人に手を差し伸べられる偉大な男に…!」

 

ぐっと拳を握り目をキラキラさせるコビーを三人は微笑ましげに見つつ、話を続ける。

 

 

「じゃあ、コビーくんに戦闘を教えたのもレオヴァさんって人なの?」

 

コアラの問いに一瞬きょとんとしたコビーだが慌てた様に否定する。

 

 

「そそそ、そんな!

レオヴァさんと“組手”なんてしないですよ!?

大怪我になっちゃったら大変ですし……

僕を鍛えてくれたのはドレークさんです!

……一応、うるティさんもですけど…あれって八つ当たりのような…

 

ぶつぶつと独り言を溢すコビーの側で、うんうんとコアラは相づちを打つ。

 

 

「そっか、確かに百獣のカイドウの息子であるレオヴァさんって人に怪我させちゃ大変だもんね…」

 

「ほほう、ドレークと言えば百獣で幹部を務める実力者!

コビーの腕が立つのも頷ける。」

 

「え~…っと、確か恐竜になる奴だっけ?」

 

「もう~!サボくん、百獣の幹部には恐竜になる人いっぱいいるでしょ!

コビーくんが言ってるのは、“異竜”X・ドレークだよ!

そうでしょコビーくん?」

 

コアラの問い掛けに自分の世界に入り独り言を言っていたコビーがハッとしたように顔を上げる。

 

 

「は、はい?」

 

「だから、コビーくんの言ってる“ドレークさん”って、“異竜”って異名のあるあのドレークでしょ?」

 

「そうです!

ドレークさん本当に強くて!

組手でも一回も勝ったことないですし……あ!でも凄い優しくて頼りになる人でですね!」

 

嬉々として想い出を語るコビーの声をBGMに三人はまた食事を進めるのであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

革命軍での1日を終えたコビーは基地の外れに来ていた。

 

「(……よし!周りに気配なし!)」

 

鍛えた見聞色で周囲に自分だけな事を確認し、電伝虫へと手を伸ばしたが、ある事に気付き慌てて鞄を開く。

 

「あ、危ない!白電伝虫(しろでんでんむし)忘れてた!

ふぅ……ドレークさんに怒られちゃう所だった…」

 

レオヴァから貰った白電伝虫(しろでんでんむし)を側に置き、気を取り直して受話器を取る。

 

プルルルルル……プルルルル…

 

『……おれだ。』

 

久しぶりに聞くドレークの声にコビーの頬が緩む。

 

 

「も、もしもし!コビーです!

ご無沙汰してますドレークさん。」

 

『フッ……相変わらず元気そうだな、コビー。』

 

目の前の電伝虫が小さく笑うのにつられて、コビーの笑みが深くなる。

 

 

「はい!ドレークさんもお元気そうで良かったです!

……その、レオヴァさんもお元気ですか?」

 

『あぁ、レオヴァさんも変わりない。

いつも通りおれ達や国の為に働き詰めだ……まったく、もっと自分を労って欲しいもんだ…』

 

困ったようなドレークの声にコビーも苦笑いを溢す。

 

 

「あはは……相変わらずですねレオヴァさん…

そこに居なくても休まず動き回るレオヴァさん想像出来ちゃいますもん。」

 

『おそらく、お前の想像通りだ。

……昨日も昼休憩を取って貰う為にどれだけ手段を尽くしたか…』

 

「……最終的にベポくん突撃ですか?」

 

『………あぁ、結局最後はベポだ。』

 

「本当にレオヴァさんいつも通りみたいですね…あ、あはははは…」

 

渇いた笑いを溢したコビーに、話題を変えるようにドレークが問う。

 

 

『…ところで、今日はどうした。

何か報告でもあるのか?』

 

「そ、そうでした!

ついドレークさんと話すのが楽しくて……すみません。」

 

『いや、構わない。

おれもお前と久しぶりに話せてつい関係ない話を……で、本題は?」』

 

ドレークの声にスッとコビーの雰囲気が真面目なものへ変わる。

 

 

「……3週間後、海軍へ諜報員として向かう事になりました。」

 

目の前の電伝虫が目を細める。

 

 

『海軍へ…

もうそんな危険な任務を任されるようになったか。

だが、それをおれに話して良いのか?」』

 

「問題ありません。

…何より伝えておかないと海で会ったらドレークさんと殺し合いになっちゃうじゃないですか!

……あ、レオヴァさんにも伝えておいて貰えたら嬉しいです!」

 

『わかった、レオヴァさんにも伝えておこう。』

 

「逆にレオヴァさん以外には内密にお願いします……特にうるティさんとか…」

 

『わかってる、この件はおれとレオヴァさんだけで共有するさ。』

 

「ありがとうございます!

潜入開始してからも何かあればお伝えします。」

 

『頼んだぞ、コビー。

……で、そっちでは友人は出来たのか?』

 

「は、はい!

そのコアラさんとかハックさん……あとサボさんにお世話になってます!」

 

『……なるほど。

普段はどんな話をするんだ?」』

 

「そうですね~…最近だと……」

 

久々の恩人との会話にテンションが上がり饒舌になったコビーに優しくドレークは相づちを打つ。

懐かしい暖かい空気にコビーは疲れが吹き飛ぶ気持ちであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

受話器を置き、ドレークは壁掛け時計を見遣る。

 

「…2時間も話していたのか。」

 

お喋りがすぎたな…と反省しながら机の上にある書類に手を伸ばす。

今日中にレオヴァへ提出しなければならない報告書を手に立ち上がり、軽く伸びをする。

 

 

「(遅くなってしまったが……きっとレオヴァさんの事だ、まだ仕事をしているだろうな…)」

 

働き過ぎてしまうという大切な人の性分に溜め息を吐きつつ、ドレークは部屋を出てレオヴァの下へと向かうのだった。

 

 

 

鬼ヶ島にある自室からレオヴァのいる執務室へと向かう途中にある部屋で、茶葉と急須を用意しドレークは顎に手をあて考える。

 

「……茶菓子も必要だな…」

 

ドレークの小さな呟きに仕事終わりに在庫確認に寄っていた、顔見知りの派手な服の部下が答える。

 

 

「うふふ!

ドレーク様、レオヴァ様でしたらこのお茶菓子とかどうかしら♡」

 

目の前に出された変わった煎餅にドレークは目を遣る。

 

 

「初めて見る煎餅(せんべい)だな……いや、その前におれはレオヴァ様だとは一言も…」

 

「もう、ドレーク様が楽しそうに茶葉を選ぶなんてレオヴァ様の時だけじゃないですか~!」

 

「そ、そんなに顔に出ていたか?」

 

「うふふふ~…それはもうスッゴくでてましたわ!

私もレオヴァ様にお茶をお出しする時はつい色々考えちゃうし、ドレーク様のお気持ちよく分かるわ~!」

 

どや顔で答える部下にドレークは眉を下げて笑う。

 

 

「フッ…そうか、皆同じだな。

……それで、何故その煎餅を?」

 

「実は最近、コック達が作った新しい煎餅なんですけど

確か、今日レオヴァ様あまり食事をお召し上がりにならなかったから……煎餅ならお腹にも溜まるし、これ甘いクリームも入っててお茶にも合うのでピッタリだと思って!」

 

どうかしら?と瞳を輝かせる部下の言葉にドレークは頷き、笑顔で煎餅の入った皿を受け取った。

 

 

「ありがとうトネグマ、助かる。」

 

「いえいえ~!

レオヴァ様が食べて下さったって聞けばコック達みんな喜ぶわ!

ドレーク様もぜひ、食べてゆっくりして下さいね。」

 

「いつも悪いな。

では、そろそろおれは行くが、在庫確認よろしく頼む。」

 

「えぇ、ドレーク様任せてちょうだい!」

 

部下の笑顔と元気な声に見送られながら、茶葉と茶菓子たちを持ってドレークは歩きだした。

 

カツカツカツ……と音を立てながら廊下を進み、執務室の前へ着く。

空いている左手で軽く扉を叩き声をかける。

 

 

「レオヴァさん、おれだ。」

 

「…ドレークか、開いてるから入ってくれ。」

 

失礼しますと声を出しながら部屋へ入る。

 

そこには予想通り卓上に沢山の書類や開発案を広げているレオヴァの姿があった。

静かにレオヴァの前にある客用の机に茶と菓子を置き、未だペンを走らせるレオヴァの側へ行く。

 

 

「レオヴァさん、今日の報告書だ。」

 

「……ん、ありがとう。」

 

書類を受け取り、素早く目を通すとレオヴァは確認印を押していき、終わるとまた何かの開発案とおぼしき書類にペンを滑らせる。

 

そんなレオヴァを横目にドレークは勝手知ったる執務室の湯沸かし器で茶の準備を始める。

さらさらと紙の上をペン先が忙しなく走る音を聴きながら、ドレークとレオヴァの間に親しんだ心地よい沈黙が流れる。

 

沸騰しきったお湯を湯冷ましで良い塩梅(あんばい)まで冷まし、急須(きゅうす)へと注ぐ。

こうすることで渋みの少ない甘くまろやかな茶を淹れられる為、ドレークはこのひと手間を欠かさない。

レオヴァには渋い茶ではなく、心休まる茶を出したいと言うドレークの真心(まごころ)だ。

 

来客用の机に茶飲みを2つ用意し、ソファーへ腰掛ける。

頭の中できっかり40秒数え終えたドレークが、ゆっくりと急須を回す。

しっかりと味を出す為に必要な作業を終えて、2つある茶飲みに慣れた手つきで均等に注ぎ分けていく。

 

ほわほわと湯気を立てる茶飲みに満足げにドレークは頷き、レオヴァへ声をかけた。

 

 

「レオヴァさん、休憩にしないか?

茶も淹れたし、少し話したいこともある。」

 

「……そうだな、そろそろ休憩にしよう。」

 

その言葉で席を立ちレオヴァは軽く伸びをする。

先ほどの自分と同じ動きにドレークは笑みを溢す。

 

 

「…?なんだドレーク。

おれは何か変な動きをしたか?」

 

急に笑われきょとんと首を傾げるレオヴァに、ドレークは笑みを絶やさぬまま違うと首を振る。

 

 

「フフッ……いや、違うんだレオヴァさん。

ただ、さっきのおれと同じ動きだったからつい…」

 

「成る程……ふふふ!

ドリィ、少しばかり事務のやり過ぎじゃないのか?」

 

「その言葉、そっくりそのままレオヴァさんに返すよ。」

 

「おれは良いんだ。」

 

間髪入れずに答え、ニッコリと笑顔で誤魔化すレオヴァにまた笑いつつ、ドレークは本題へ入る。

 

 

「……で、話したいことなんだが。

先ほどコビーから連絡があって、3週間後海軍に潜入を開始するらしい。」

 

ドレークの言葉にレオヴァは口角を上げる。

 

 

「ほう?

成る程、革命軍はそう動くのか。」

 

「他にもコアラと言う女や、サボと言う革命軍において地位のある者の話もコビーから聞いたが、役に立ちそうな情報はあまりなかった。」

 

「……コビーはその2名と親交を深めてるのか?」

 

「なんでも、レオヴァさんの紹介で会ったハックと言う男とこの2名は関係性が強かったらしい」

 

「そうか……確かにハック経由ならばそうなるか…

どんな事でも構わない、コビーから聞いた話をおれにも教えてくれ。」

 

「勿論だ、レオヴァさん。

……まずはサボと言う男の話だが…」

 

 

ドレークはコビーから聞いた話を寸分違わずレオヴァへ伝えてゆく。

ひとつひとつの話に興味深げに相づちを打ちながら、レオヴァは茶を啜る。

 

全てを伝え終わり、ひと息つくドレークにレオヴァは笑いかける。

 

 

「ふふふ、コビーとも上手くやれてる様でなによりだ。

ドリィには“色々”と任せてしまっている事が多いが……大丈夫か?」

 

「何の問題もないさ、レオヴァさん。

それにコビーは真面目で素直だからな……あのお転婆娘よりいくぶんか親しみやすい。」

 

「確かに、コビーは良い子だからなァ…

“人造悪魔の実の件”もある、大切にしたい……ドリィなら分かるだろう?」

 

「あぁ、レオヴァさんの言いたい事は分かる。

……優秀な弟子の面倒はしっかりみるさ。」

 

目を細めて不敵に笑うドレークにレオヴァは満足そうに頷き、煎餅を口へ運ぶ。

 

 

「…美味いな、初めて食べる味だ。」

 

「最近、コックが作った新しい煎餅だとトネグマが」

 

「流石だ、トネグマの交友関係の広さには頭が下がる……

ほんのりとした甘さの煎餅とクリームの相性が実に素晴らしい。

煎餅が硬すぎないのも良い点だな……クリームも淡い甘さで調整がとれている…」

 

「クッ…フフフ……レオヴァさん、まるで評論家だな。」

 

吹き出したドレークにレオヴァが眉を下げる。

 

 

「評論家のつもりはなかったんだが……誰かさんのが移ったか…

兎に角、ドリィも食べてみれば美味さが分かるだろ……ほら。」

 

「んぐっ……これは…確かに美味いな!」

 

突然レオヴァに口へ煎餅を放り込まれたドレークは一瞬驚くが煎餅の美味さに感心し、2枚目に手を伸ばす。

 

美味い茶と菓子を片手に二人はのんびりとした一時を過ごすのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

革命軍総司令官であるドラゴンへの報告を終え、サボは自室へと戻っていた。

 

薄暗い廊下を進みながらサボは新しい仲間の事とある方針について考える。

 

少し前にサボも世話になったハックの紹介でコビーと言う少年が入って来た。

彼は一見すると気弱なただの一般人のような雰囲気であったが一度戦闘が始まるとまるで別人のように冷静に敵を倒し、サボ達を驚かせた。

 

実力も申し分なく、更には素直で努力家な性格もありすっかり革命軍のメンバーとも馴染んでいるコビーだが、何故かドラゴンは彼をよく観察するようにサボに命じた。

 

サボはドラゴンが何故コビーを見張るような真似をさせるのか首を傾げたが、他でもないドラゴンの(めい)に素直に従った。

 

そして、数週間後にサボは何故ドラゴンがあのような指示を出したのかを理解した。

……コビーはあの百獣海賊団にいた経歴があったのだ。

 

 

百獣海賊団と言えば破壊を尽くす姿と様々な島をナワバリにしては個性を残しつつ豊かにさせ、差別意識もないという二面性を持った変わった海賊団であり、ドラゴンが注目しているレオヴァと言う男が所属する海賊団だ。

 

 

革命軍とは世界政府を……延いては天竜人打倒を掲げ日々活動する組織である。

政府に奴隷労働をさせられている者を助けたり海賊に襲われているところを救ったりなど、人助けも(おこな)うのだが、そんな組織のトップであるドラゴンはレオヴァと言う男に強い興味を持っていた。

 

 

レオヴァと言う男は魚人島を危機から救い、更には魚人島の闇であった魚人街に革命をもたらしただけでなく、そこに暮らす人々を豊かにし、オトヒメ王妃には人と魚人を繋ぐ存在(・・・・・・・・・)だと言わせるほどであった。

 

他にも対話のみで島同士の争いを終わらせた話や、貿易を通じて敵対ではなく協力の素晴らしさを説いたという話まである。

 

 

暴力ではなく、対話を重視するその姿勢にドラゴンは興味を示した。

 

今現在、革命軍は政府に対し実力行使に出ている。

しかし、世界政府を倒した後、混乱する人々を導かねばならぬのだ。

導くにあたり、様々な反感や戸惑いなどを実力行使で説き伏せるなど言語道断である。

……そこでドラゴンはレオヴァと言う男の“対話力”に目を付けた。

 

 

ドラゴンの集めた情報や新人コビーの証言の限りでは、レオヴァと言う男は他人の意見を受け止められる人間であり、人々の生活を豊かにするための努力を惜しまぬ性格らしかった。

 

今後の事を考えるのならば、是非とも勧誘したい人材だとドラゴンは考え色々と探りを入れていたのだ。

 

そして、それを聞いていたサボは何か情報を得られないかと言う理由でドラゴンがコビーをよく観察するように指示を出したのだと瞬時に理解した。

 

 

だが、情報を探れば探るほどレオヴァと言う男を勧誘することは不可能だとドラゴンもサボも考え始めていた。

 

まず、レオヴァと言う男は百獣海賊団を大切に思っているらしい事。

次にワノ国を治めている可能性が高い事。

そして最後にして最大の理由は、百獣のカイドウがレオヴァを軟禁するほど気に入っているらしい事であった。

 

もし仮に勧誘が成功したとして、無理矢理にでも取り返そうとあのカイドウに進撃してこられた日には、どれだけの損害がでるかわかったものではない。

 

だからこそ、ドラゴンとサボは思考を切り替える事にした。

 

レオヴァと言う男が情報通りの人間だろうが、全く違う人間だろうが、敵対せず干渉しない又は協力的な関係に持っていく…という方針へ変更したのだ。

 

ドラゴンは協力的な関係を築く事に乗り気であったが、信頼を置くサボが干渉しない方針を推していた為、現在は情報だけ集め干渉しない方針へ傾いている。

 

 

サボは百獣のカイドウを見たことがあり、あの破壊を尽くす獣の姿を、地獄のような光景を嫌というほど覚えていた。

…だからこそ、藪をつつくような真似を避けたかったのだ。

 

サボの意見は

現状、レオヴァと言う男の実力も人格もわからぬ状態であるのに、深く関わってしまうのは負うリスクが高すぎる…というものである。

 

これにドラゴンも同意し、サボの情報収集はコビーから得られた情報を伝えるのみとなったのだ。

 

 

 

長い廊下を進み終わり、自室の扉を開けたサボは思考の海から浮かび上がった。

 

 

「……百獣海賊団かぁ。

…関わったらなんかヤバそう(・・・・)な感じするんだよなぁ……。」

 

思わず溢れた溜め息混じりの言葉は深夜の静けさに溶けていった。

 

 

 

 

 




ー補足などー

今回ドレークの異名が赤旗から異竜に。
理由→この話のドレークは赤旗(革命思想)を掲げていないので変更しました!……格好いい異名思い付かなかった…すまないドレーク…

↓感想欄にて頂いたもの
Q. ローや他のメンバーは原作と同じ服装ですか?
というご質問を頂きましたのでこちらで答えます!

【原作通り組】
カイドウ、キング、クイーン、ブラックマリア、ササキ、フーズ・フー、シーザー

・カイドウ
基本的には原作通りだが、たまにレオヴァの選んだ着物を着たりする。
 
・フーズフー
休日に自室で過ごす時は着物が多いが、基本的には原作の服装。
ーーーーーーーーーーーーーーーー

【原作と違う組】
ロー、ドレーク、スレイマン、うるティ、ページワン

ドレ、スレ、うる&ペーは軍服の様なものをそれぞれアレンジして着ている。
が、ワノ国内にいる時とレオヴァの護衛の時以外は原作通りの服も着る。
ローは幼少期からずっと着物で、ベポも変わった着物を着ている。
ただ、原作(新世界編)のような服も持っており、たまに着る。
うるティは色んな服を沢山もってるので、気分で色々着飾る。
ページワンも姉セレクションの服を沢山持たされている。

※原作の服がいい!と言う方は全然スルーしていただいて大丈夫です!
服装のみのイメージ図↓
【挿絵表示】


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

英雄であり化け物であり

 

 

 

 

コンポスト王国とウィード公国は1年以上もの間争いを続けていた。

しかし、その戦争の内情は一方的なものであった。

 

 

コンポスト王国は土壌豊かな環境の恵まれた土地を持つ王国であり、外部との取引で武器も戦力である奴隷も豊富であった。

一方、ウィード公国は広い土地を(ゆう)してはいたが土壌は貧しく自国(じこく)でのみの食料の調達が難しい国であり、人口(じんこう)もコンポスト王国を下回っていた。

 

(はた)から見ても2つの国の力関係は明らかなものであったのだ。

 

 

ならば、何故1年以上も戦争を続けられているのか。

それはウィード公国が貿易関係にある“ある国”の手助けがあったからであった。

 

ウィード公国を治める貴族であるグラース公爵とその国の王は友人関係にあり、貿易の食料の他に薬品なども多めにウィード公国へ送っていたのだ。

 

取引内容よりも多い食料と薬品にグラース公爵はいつも驚き、その優しさと自分の無力さに静かに涙を流していた。

 

 

ある時、様子を見に訪れたその国の王であり友人にグラース公爵は深く、深く頭を下げた。

 

『すまない…この様な現状にも関わらずっ……取引を続けてくれること、なんと感謝を表せばよいか…!』

 

その悲痛な感謝の言葉を公爵の友人はしっかりと受け止め、優しく声をかける。

 

『こんな現状だからこそ助け合うんだ、グラース。

友人の危機を見過ごすなど、それでは鳳皇(ほうおう)の名がすたる。

……共にこの窮地を乗り越えよう。』

 

友より差し出された手を、流れる涙も拭かずにグラース公爵は(すが)る思いで強く握った。

 

グラース公爵……否、ウィード公国にとって現在頼れるのはこの国のみであったのだ。

 

他の貿易国や取引相手はウィード公国が劣勢と見るや否や次々に手のひらを返した。

しかし、グラース公爵はそれを恨んではいない。

何故ならば勝敗が見えきった戦争の、それも敗戦するだろう国に手を貸し続ける者などいないのは当然だと理解していたからだ。

 

だからこそこの絶望的状況で手を差し伸べてくれる、かの国に大きな感謝を抱かずにはいられなかった。

 

 

けれど、グラース公爵はもうすぐ戦争は終わるだろうと予感していた。

それも国民の大半が死に、ウィード公国の敗戦と言う形で。

 

 

理由は今朝訪れた騎士長(きしちょう)からの通達であった。

なんと、コンポスト王国が他国に同盟を申し入れたという情報が入って来たのだ。

 

ただでさえ防戦一方の状態だというのに、そこに(ほか)の国まで攻め入られたら守りきれぬのは火を見るより明らかだった。

 

 

降伏は選べない。

何故ならばコンポスト王国に隷属(れいぞく)すると言うことは労働力として、大切な国民が奴隷同然の扱いを受ける事になることをグラース公爵は知っていたからだ。

 

コンポスト王国が豊かなのは()属国(ぞっこく)から安く労働力や食料、資源を手に入れているからなのは周知(しゅうち)の事実。

 

だからこそ、負け(いくさ)とわかっていてもグラース公爵と国民達は戦い続けているのだから。

 

 

最悪の未来を予測し、グラース公爵は悲痛な面持ちで目蓋を下げた。

 

 

「友の助けだけでは……駄目だ。

……得るには何かを犠牲にしなければならぬ、綺麗事では国民を守れない。

神に背こうとも、悪魔に魂を売ろうとも……国を守ることが私の務めだ。」

 

自分に言い聞かせるように呟き、グラース公爵は友へ電伝虫(でんでんむし)を繋げた。

 

ブルルルルルル……プルルルル…

 

静かな部屋に電伝虫の音だけが響く。

 

 

『……おれだ』

 

『友よ、夜遅くにすまぬ……どうか、どうか、助けて欲しいっ……』

 

掠れて弱りきった助けを求める声に公爵の友は答える。

 

『…もちろんだ。

全て、任せてくれ……友を苦しめる者はおれ達が片付けよう。』

 

『ぁ…あぁ……ありがとう、ありがとう……私は必ずこの恩に報いる、全てを差し出す覚悟はできている。』

 

グラース公爵の言葉に電伝虫の向こう側にいる友は気付かれぬように笑い、優しく語りかけた。

 

 

『グラース、差し出す必要などない。

……おれとお前の関係はなんだ?』

 

『わ、私と貴方の…?

……友人だ…貴方は私のただ一人の。』

 

『そうだグラース、お前は“おれの友人”だ。

だから、なにも心配しなくていい…大丈夫だ。

おれは信頼には信頼で答える……2日後には着く、それまで堪えてくれ。』

 

『っ……ありがとう、待っている…友よ。』

 

ガチャりと切れた電伝虫の前でグラース公爵は大きく息を吐き、そして脱力した。

彼を包んでいたのは大きな“安心感”であった。

あの友が大丈夫だと、心配しなくて良いと言ったのだ、もう何も恐れる必要はない。

 

グラース公爵の頭の中で友の声は繰り返される。

“大丈夫” “大丈夫” “心配しなくていい”

何故かはわからないが友の声は酷くグラース公爵を安心させるのだ。

 

ここ最近、ストレスと不安から寝付けなかったグラース公爵は訪れた安心を抱き、ゆっくりと眠りについた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あの電伝虫でのやり取りからぴったり2日後、ウィード公国の質素すぎる城の広間でグラース公爵とワノ国の王は再会を果たしていた。

 

すっかり憔悴(しょうすい)し痩せ細ったグラース公爵や国民にワノ国の王は酷く心を痛めている素振りをみせていた。

 

持参した薬品や食料を国民に配り歩き、時には怪我を手当てして回る友の姿にグラース公爵は目元を抑え、そんな公爵の背をワノ国の王は優しくさすっていた。

二人の姿は騎士や兵士達に希望を持たせ、国民の虚ろな瞳に(わず)かな光を灯す。

 

 

しかし、国を回り終わりワノ国の王との話し合いを始めるグラース公爵の瞳には大きな怯えがある。

それはワノ国の王である友の側に立つ鉄仮面を着けた8メートルを超える大男の存在が原因であった。

 

グラース公爵は友であるレオヴァには絶対的な信頼を置いている。

それは彼が話のわかる優しく誠実な青年であり、他の貴族達も認めるほどの教養があるからだ。

 

だが、レオヴァの所属する百獣海賊団の(おさ)、百獣のカイドウとその三人の腹心は違う。

 

破壊の化身や最強生物と言われ恐れられるカイドウ。

そして、その腹心達も畏怖の念を込め“災害”と呼ばれている。

 

そんな災害の一人、旱害(かんがい)のジャックが目の前にいるのだ。

恐れるなと言う方が無理だろう。

 

レオヴァの優しく暖かな瞳とは違い、冷たい瞳で此方を射抜くように見てくるジャックにグラース公爵の背筋に冷や汗がつたう。

 

グラース公爵は体の震えを隠し、レオヴァを真っ直ぐ見つめ言葉を(つむ)ぐ。

 

 

「……是非、このウィード公国を百獣海賊団のナワバリに入れて欲しい。」

 

すっと頭を下げようとするグラース公爵をレオヴァは手で止めた。

 

 

「止してくれ、グラース。

今まで通りの関係でおれは構わないんだ。」

 

レオヴァの優しい言葉に力なく笑いながらグラース公爵は首を横に振った。

 

 

「いや、レオヴァ……国を見て回ったときから気付いているだろう。

この国はもう自国の力だけで立ち上がるのは無理だ…

私という弱い統治者では国民に“安心”は与えられぬ。

……これは私個人の意見ではない…我々の意見なのだ。」

 

国の上に立つ者として、大切な事をグラース公爵は解っている男であった。

そんな男の言葉にレオヴァはゆっくりと頷く。

 

グラース公爵はありがとうと小さく笑い、手の震えを止めるかの様に強く握った。

 

 

「ジャック、国の守りはおれと彼らでやる。

コンポスト王国へ出向き……お前のやり方でこの戦争を終わらせて来てくれ。」

 

「わかった、任せてくれレオヴァさん。」

 

先ほどから一言も発しなかった石像のような巨大な男が、返事をすると同時に立ち上がった。

 

ジャックと言う男のギラついた瞳に、その場にいたグラース公爵とその騎士たちは息を呑んだ。

破壊を(つかさど)る男の腹心は公爵達には目もくれず、城を出ていく。

 

 

暫くの沈黙の(のち)、それを穏やかに見送っていたレオヴァが口を開いた。

 

 

「では……防衛を固めようか、グラース。

うちの部下達は既にある程度配置についているが、損害は少なければ少ないほど良い……共に乗り越える為の作戦会議を始めよう。」

 

そう言って微笑むレオヴァの声は、その場にいる者を酷く安心させる力強さがあった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

コンポスト王国の国王であるドメスティ・アニマは同盟国との契約もあり、やっとまた広い土地と無賃金で働かせられる労働力が手に入ると笑みを深めていた。

 

この約1年間、地形を利用しなんとか必死に生にしがみつこうと(もが)き続けているウィード公国も、三日後に来る同盟国の援軍さえいれば何の問題もなく片付くだろう。

 

新しい資源のある土地をどう利用してやろうかと考えを巡らすドメスティ国王を、家臣達はこれでもかと褒め称えた。

 

 

 

……のは、4日前の話である。

 

 

 

両足が潰れ立つことも出来ずに地に伏しているドメスティ国王を見る家臣達は言葉が出なかった。

 

昨日まで、コンポスト王国の勝利は揺るぎないものだったのだ。

圧倒的な兵力差に豊かな物資。

負ける事の方が難しいとさえ思える程の絶対的な国力と自信がコンポスト王国の王と貴族達にはあった。

 

だが、戦況はたった一人の大男の登場で一変したのだ。

 

災害と呼ばれるジャックと言う男は易々(やすやす)城郭都市(じょうかくとし)と呼ばれているコンポスト王国の鉄壁であるはずの城壁を破り、正面から攻め入って来たのだ。

 

 

数百の兵士達の剣は届かず、数万の銃弾もジャックに傷を付けることは叶わなかった。

 

誰にも止めることの出来ぬ、まさに災害を体現した男の追撃は何十時間にも及んだ。

 

ある兵士は振り下ろされる刀に気付くことなく真っ二つに切り捨てられ、またある兵士は災害の歩みに蟻の様に呆気なく潰され、ついには誰一人として立ち向かう事はなくなり、兵士達は“恐怖(ジャック)”に背を向け逃げ出し始めた。

 

他国から来た増援部隊も同じである。

圧倒的な暴力(ジャック)”の歩みの前に出れば呆気なく葬られ、逃げ出しても壁に囲まれた都市に逃げ場などない。

 

 

災害を(かん)する男はただひたすらに城へと歩み続ける。

瞳に映るものを全て破壊し、背後に屍の道を作りながら。

 

 

 

そして、半日かけて破壊を尽くしたジャックは城へとたどり着き、重要人物達を見つける事に成功していた。

 

想定外だった事といえば、城に穴を空けるために投げた家屋の瓦礫(がれき)が国王に当たり、目の前で蛆虫(うじむし)同然の姿で()いつくばっている事ぐらいであろう。

 

だが、それも大した問題ではない。

ジャックにとって王だろうと平民だろうと、敵対する者はただ壊すだけなのだから。

 

レオヴァからの命令は

『ジャックのやり方でこの戦争を終わらせて来てくれ』というものである。

 

ジャックは考えた。

圧倒的な恐怖と暴力を刻み、最後に“上に立っている馬鹿(王族や貴族)”を消し去れば終戦になる…と。

この考えに至ったジャックはすぐに行動に移し、そして現在に至る。

 

 

 

聞くに堪えぬ悲鳴を上げる目の前の蛆虫の様な王と、その貴族達にジャックは眉をひそめながら刀を持った腕を振り上げる。

 

簡単に切断出来た肉と骨にジャックは特に目をやる事もなく、次の目標を捕らえた。

 

次々に肉片と()す者達の織り成す阿鼻叫喚(あびきょうかん)を一身に受けながらジャックは思う。

 

「(……キングの兄御が喜びそうな光景だな。)」

 

兄御の趣味は自分には解らねぇ…と思いながら最後に残っていた王子に向き直り、刀を振り血を落とす。

 

 

「ヒュッ…た、たす……て…くださ、ぃ」

 

惨めに震えながら命を乞う青年の言葉など聞こえていないかの様にジャックは刀を振り切った。

 

青年は死に際に『バケモノめ…』と溢していたが、それすらもジャックに届いたのかは分からない。

 

 

ジャックだけになった城には血が滴っている。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

グラース公爵とワノ国の鳳皇様の宣言が国中に伝わった。

 

私達、ウィード公国の国民は抱き合い勝利を心から喜んだ。

 

グラース公爵様の友人であるワノ国の鳳皇様は国を全身全霊で守り抜いて下さり、その部下である旱害のジャック様は憎きコンポスト王国を()って下さったのだ。

 

もうこれで、餓えることも恐怖に震えて眠れぬ夜を過ごすことも……そして何より大切な家族を戦争に連れ去られる事もない。

そう思うだけで私は涙が止まらなかった。

 

 

グラース公爵様の声明によると、私達の国は百獣海賊団のナワバリになるらしいが、あのワノ国の鳳凰レオヴァ様のお父上様がまとめていらっしゃる組織なのだ。

そこまで不安に思う事はなかった。

 

確かに少し前ならば、百獣海賊団と聞けば恐ろしい海賊団だと身を震わせていたかもしれないが、今は違う。

 

レオヴァ様もその海賊団に所属していらっしゃるし、噂に聞いていたジャック様もそんなに恐ろしい方ではなかった。

 

寧ろ、たった一人で私たちの仇である王国を討って下さる程お強いジャック様こそ“英雄”だと私も私の家族も称えている。

 

荒らされた国も、既に百獣海賊団の皆々様の協力で建て直され、以前よりも住みやすい街になりつつある。

 

ワノ国との貿易も以前より増えたり、温泉なる施設が建てられたりと今までの不幸の分、一気に幸せが舞い込んだ気分だ。

 

それに、今後は百獣海賊団の皆様が国を守って下さるらしく、防衛基地も建てられた。

 

初めこそ、どんな人達が来るのかと少し不安もあったが、ウェイターズやギフターズの皆さんも真打ちさん方も話しやすい人ばかりで初めの不安は杞憂だった。

 

町ではギフターズの方が子どもを笑わせてくれたりと、戯れる姿も珍しくない。

前のような平和な……いや、前よりも素敵で平和な日々が始まったのだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

グラース公爵に仕えている、騎士団をまとめる役職である騎士長(きしちょう)は百獣海賊団が……鳳皇と呼ばれるレオヴァが恐ろしかった。

 

騎士長はいまだに夢に見る。

あの地獄の様な光景を。

 

 

あの日……戦争が終わった日の事だった。

 

騎士長はグラース公爵と爵位(しゃくい)のある者達、その騎士達を連れコンポスト王国へ(おもむ)いた。

 

理由は単純、勝利宣告の為だ。

 

勝ちを宣言し、戦争を終わらせ……コンポスト王国の土地を百獣に譲渡(じょうと)する。

そんな形式的な儀式の為、国へ足を踏み入れた騎士長は酷く狼狽(うろた)えた。

 

豊かであっただろう国は終戦から1日が経ち、そこかしこに転がっている日光で照らされた死体は腐り始め、腐敗臭が漂っていたのだ。

 

騎士長はせり上がってくる胃液を気合いで押し止め、歩みを進めた。

 

入り口から城までの道は赤黒く、しかし真っ直ぐ開けている。 

だが、その道を歩こうとする者などいない。

 

少し回り道をして城にたどり着き……ついに騎士長は胃液が逆流することを止めることは出来なくなった。

 

ぼたぼた…と汚物が床に広がる音と嗚咽に、屍の中心に立っている大男が不快そうに眉間に皺を寄せ、騎士長を見下ろした。

 

大男の視界に捉えられた瞬間、騎士長は心から恐怖した。

長らく仕えてきた恩人グラース公爵を置き去りにしてでも逃げ出したい程に。

 

緊張と恐怖と不快感がごちゃごちゃになった騎士長が上手く呼吸出来ずにいると、後ろから優しく背をさすられる。

 

 

「落ち着け、ゆっくり息を吐くんだ。

……まず、目の前の光景をどうにかするべきか…。」

 

優しい低音に騎士長の呼吸が落ち着き始めると同時に、レオヴァが宙に手を伸ばした。

 

響く轟音と共に天井(てんじょう)が崩れ落ち、見るに堪えない死体が目前から消える。

 

騎士長は助かったと思いながら、周りの人間が息をつくのを感じていた。

 

だが、まだ目の前にはこの惨状を作り出した張本人である大男がいる。

騎士長はどうしようもなくこの場を立ち去りたかったが、体は動かない。

 

誰一人として身動きが取れぬ空気の中、場違いな程穏やかな低音が騎士長の鼓膜を揺らす。

  

 

「ジャック、怪我はないか?」

 

未だ返り血を残す恐ろしい大男に躊躇(ちゅうちょ)なく近づき、まるで弟や妹を心配するような優しい口調で話しかけるレオヴァを、騎士長は信じられないものを見る様な目で凝視した。

 

 

「問題ないです、レオヴァさん。

任務は無事…完了だ。」

 

「そうか、怪我がないならいい。

良くやった、ジャック。」

 

膝を突き礼を取る大男と、それをさも当たり前のように受け取るレオヴァを見る騎士長は思った。

 

あの大男は恐ろしい、無惨に殺した死体の側で表情1つ変えない所も此方をなんの価値も無いモノの様に見る瞳も、全てが人間としてナニか可笑しいと騎士長に強く感じさせ、厭忌(えんき)させた。  

 

しかし、その大男よりもレオヴァが恐ろしかった(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

言葉を選ばぬのならば、“バケモノ”と呼ぶに相応しい大男を当然の様に受け入れ、大切に扱う精神が分からない。

 

優しく、他人の為に心を痛められるレオヴァが何故あの大男と“同じ場所”にいられるのか。  

 

騎士長は思う。

誰よりも可笑しいのは……恐ろしいのはレオヴァなのではないかと。

 

何故、血溜まりの上に立つジャック(バケモノ)を恐れない?

何故、まるで可愛い弟を心配するような声で話しかける?

何故、惨たらしく殺された死体を前にして動揺しない?

何故、何故、何故…?

 

答えは騎士長の中で簡単に出た。

それはレオヴァがジャック(バケモノ)を超えるモノである…というものだ。

 

そうでなければ可笑しい。

ジャック(バケモノ)がただの善良な人間を前に膝を付く筈がない。

 

 

騎士長は恐ろしかった。

レオヴァの場を和ませる微笑みも 

酷く安心させるあの低く心地よい声も

周りを魅了してやまないあの人格も

全てが恐ろしく、奇妙に映った。

 

レオヴァに恐怖を抱くことは、同時に騎士長にとって国の人々の事も理解できない存在になることを意味した。

 

皆が口を揃えて、“ジャックとレオヴァ(人とは思えぬモノ)”を称える。

 

『レオヴァ様はお優しく、素晴らしい人格者だ』

『ジャック様こそ英雄なる武人だ』

『聡明なレオヴァ様に任せれば…』

『力持ちなジャック様が手伝って下さった』 

『レオヴァ様は…』『ジャック様が…』

 

 

どんなにレオヴァの“奇妙な点”をグラース公爵や周りの騎士達に伝えても、誰も同意を示してくれなかった。 

それどころか、寧ろ諭されるのだ。

 

「レオヴァ様をそのように言うなど、何を考えている!?」「止してください、騎士長殿。気でも違ったのですか?」「可笑しいのは騎士長では…」「レオヴァ様を狂人扱いなど!」「レオヴァ様こそ…」「レオヴァ様だけが…」「レオヴァ様」「レオヴァ様は」

 

騎士長は頭をかきむしりたい衝動にかられた。

 

ついには、自分が可笑しいのではないか?とすら思えてくる。

自分には味方も理解者もいない……そんな思考が頭を支配する。

 

得体(えたい)の知れない能力で周りが操られて居るのではないかと言う妄想は膨らみ、強い恐怖は騎士長を(むしば)み苦しめた。

 

だが、レオヴァの恐ろしさを感じていても尚、あの声を聞くと安心してしまう自分が何よりも理解できず恐ろしかった。

 

 

『騎士長、最近顔色が優れないようだが…何か悩みがあるのか?

おれで良ければ聞かせてくれないか?』

 

レオヴァのその声は心からコチラを案じていると感じさせるほど心配を滲ませた声だった。

 

 

『騎士長がおれを避けている事は知っている。

…なんだ?ずいぶんと驚いた顔をして。

別に誰にでも好き嫌いや、合う合わないはあるだろう?

……ふふふ、おれ個人としては騎士長とは仲良くしたいがな。』

 

無理強いする気はない、と微笑むレオヴァの声は穏やかなものだった。

本当に穏やかな……それこそ疲れきっている騎士長をほっとさせる様な声色だったのだ。

 

 

普段は物腰柔らかく誰にでも礼を示し、いざと言う時は的確な指示を出し皆をまとめる……上に立つものとして理想の姿だろう。

 

しかし、それがより騎士長を追い詰めた。

 

まるでナニかが化けの皮を被っているようだ、と騎士長は思う。

 

 

けれど、もうじき騎士長はこの悩みとは暫くおさらば出来る。

何故なら、明日には“ジャックとレオヴァ(人とは思えぬモノ)”はワノ国へ帰るのだ。

 

やっと日々背中を這う嫌な空気と、あの嫌悪感とも言える感情から解放される。

騎士長は全身に入れていた力を抜いた。

 

 

「……やっと、心休まる日々に戻れる…のか……。」

 

呟く声は驚くほど弱々しかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

レオヴァとジャックだけになった荒城(こうじょう)の中を月が淡く照らしていた。

 

物言わぬ肉片となり地面に転がる王だったモノを確認するように眺めるレオヴァをジャックは見つめている。

 

ジャックには今のレオヴァの瞳には何の感情も宿っていない様に見えた。

レオヴァにとって、これは本当にただ殺すべきだった者の死を確認する為の作業なのだろう。

 

 

 

ジャックは幼い頃からずっとレオヴァの(そば)に居た。

 

包み込む様な暖かい優しさや胸を満たすほどの信頼、時にはジャックを強くするための厳しさ……これら全ては、レオヴァの愛情ゆえのものだ。

 

ジャックは惜しみなく愛と信頼をくれるレオヴァを心から尊敬し親愛の念を抱いていた。

 

だが、冷たく無慈悲なレオヴァの事もジャックは好きだった。

 

百獣海賊団(カイドウ)に逆らう者や邪魔する者に向ける一切慈悲のない圧倒的な暴力も、価値が無いと思った者に対する無関心さも、全てがジャックにとって憧れるほど(この)ましいモノだった。

 

同時に、この非情さはレオヴァからジャックへの情を強く感じさせ、無意識にジャックの中に強い優越感を与えた。

 

 

だからジャックはレオヴァが破壊する姿、壊れたモノや用済みになったモノを視る瞳が好きだ。

感情の込もらぬ表情が好きだ。

 

 

「レオヴァさん」

 

「……なんだ、ジャック?」

 

 

何の感情もなかった顔に優しさが灯る瞬間が好きだ。

 

自分にだからこそ向けられる暖かさはジャックの心を満たすのだ。

 

 

「いや、特に用はねぇんですが……冷えてきたんで」

 

「そうだな、そろそろ戻ろう。

……久々の破壊は楽しめたかジャック?」

 

「あぁ、満足だレオヴァさん。」

 

 

満足だ、という返事に嬉しげに『そうか』と言って笑う姿にジャックはまた心が満たされる感覚を覚えた。

 

 

城の出口へと進みだしたレオヴァの背をいつもの様にジャックは追う。

 

 

いつまでも追い付けない“カイドウとレオヴァ(恩人)”の頼もしい背がジャックは好きなのだ。

 

 

 

 




ー後書き&補足ー

今回はレオヴァのナワバリを増やしている日常の1コマのお話。

・補足
ウィード公国は統率者はグラース公爵のままだが、法令など一部をレオヴァがテコ入れ。
ナワバリになったが大きな変更などはなく、前よりも貿易内容が増え、定期的に鉱石を百獣に渡すと言う決め事が増えたのみ。
 
コンポスト王国は農業に適した土地だったので更地になり、大農園と化した。
今は他のナワバリから来た人々がそこで農業に励んでいる。

コンポスト王国の先住民について
終戦の日に城の遠くにおり、目撃してない人々はジャックの進撃の後に百獣の部下によって捕虜となる。
その後は農園にて働く者が大半。
一方、城の近くにおり惨劇を見た者は真打ちによって確保され、別の場所へ。
その後は“様々な道”へ進むことに。

貴族や王族は全員死亡確認済み。
ーーーーーーーーーー
・ジャック
恐らく百獣でも数少ないレオヴァの本性をしっかり“理解”できている人物であり、キングやクイーンに次ぐほどの厚い信頼をレオヴァから受けている。
良くも悪くも育ててくれたレオヴァと価値観が似ている。
(仕事人間な所や、カイドウ至上主義な所など)
ーーーーーーーーーー

前回イラストにたくさんのお褒めのお言葉ありがとうございます!
ご感想やコメント、ここすき一覧など励みになります!!感謝です!
誤字報告もありがとうございました~!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

X・ドレークの手記

 

 

 

すっかり日も落ちた海の上を大きな海賊船がゆったりと風任せに進んでいる。

 

遠征先へ向かう船の上、ドレークは任務に必要な一通りの作業を終え自室へと戻り、椅子に腰掛けた。

 

眼前の机の上には1冊の手帳がある。

 

ドレークはその手帳をまるで大切な物に触れる様に手に取ると、おもむろに引き出しから羽ペンを出し、インクをつけ始める。

 

外にいる百獣の部下達の賑やかさから切り離されたかのように静かな部屋に、ペン先の擦れる音だけが流れている。

 

 

────────────────────────

 

 

【 Ⅰ 】

レオヴァさんから新しい提案を受けた。

それは未だ残る不安定さを改善し、俺の精神面を安定させる為の案だ。

どれほどの効果が出るかはわからないが、俺はこの手帳一冊分は文字で埋めようと思う。

なにせレオヴァさんが俺の為に考えてくれた案だ、それだけで試す価値があると言うものだろう。

 

この手帳に今まで自分の考えた事や感じた事を書き、読むことで客観的に自分を捉えられるようにするのが1つの目的だ。

心が乱れ、良くないことばかり思い浮かぶ時は客観的な視点が必要だとレオヴァさんから教わった。

今回のこれも、過去を(しる)していくことで客観的に自分を分析する事に繋がるだろう。

 

 

【 Ⅱ 】

先日は経緯を書くだけで終わってしまった。

正直何から書けば良いのか分からない。

こういうもの

 

1人で悩んでいても駄目だろうとレオヴァさんに連絡して相談した。

色々話したが、結局初めから書くことにした。

自分だけしか読まないのだから、全て正直に書く。

それが重要な筈だ。よくわからないが。

聞くところによるとレオヴァさんも今まで感じた事などをまとめて記していると言う、それがあれば手本になるのだが

という様なことを言ったら、それでは意味がないと諭された。

 

“ こういう物は他人の真似をして書くものじゃねぇ。

ドリィの思いを書くからこそ、意味があるんだ。

良いか? ドリィの思いだからこそ価値のある作業になる。

他人の真似をして書くのはドリィの心の成長には繋がらねぇ。

特にお前は他人の機微に敏感だからな、手本に引きずられる可能性が高い。わかるか? ”

という事らしい。

 

俺の思いだからこそ価値のある作業になる。

全くもってレオヴァさんの言葉は他とは重みが違う。

 

早速だが、手探りながらも(しる)していこうと思う。

出来るだけ自分が読み返しやすい様に書くつもりだが、仮に上手く書けなくとも読むのは自分だ。

謝罪は必要ないだろう。

 

 

【 Ⅲ 】

海兵の男 海兵の父に憧れていた。

いや、父と記すのは本当に不快だが正しく(しる)す為に必要な事だ。読み返す時も相当に不快だろうが必要な事だ、おそらく。

 

兎に角、元々“海の戦士ソラ”という物語が好きだったのもあり、悪を倒す正義であるはず(・・・・・)の父に憧れるのは必然だったように思う。

だが、それも本当に幼かった頃までだ。

海賊になった父は人が変わり、機嫌が良くないという理由で俺を蹴り飛ばすような男になった。

褒められようと何か俺が上手くやって手柄を上げれば、それも気に食わないらしく手酷く殴られた。

当時は全て俺が悪いと思っていた、愛されない理由が俺にあるのだと。

父はよく言っていた。

“ 何もかも上手くいかねぇのはテメェのせいだ。

迷惑をかけてんだから、役に立て。

いつまでも役立たずなテメェの面倒なんざ御免だからな ”

と、毎日の様に聞かされていた。

だから俺は周りの空気を読む事を覚えた。顔色を伺う癖がついた。

戦闘では適度に損失を減らし、目立ちすぎず父を立てた。

子どもの実力で出来る事は全てやっていたと思う。

 

結局、全て俺のやっていた事は無意味だったが。

必要とされたい愛されたいと願う事は悪い事だったんだろう、あの場所では

 

 

【 Ⅳ 】

気分が悪くなったので、日を跨いだ。

もう10年以上前の事だと言うのに、ここまで気分が悪くなるとは思わなかった。

トラウマ、と言うとあの男 父に負けるようで癪だが、否定は出来ない。肯定するほど引き摺ってはいないが。

 

あの何もなかった日々から意図せず抜け出せた事は俺の人生において何よりの幸福だろう。

 

だが、今でこそ俺を置いて逃げた父には感謝に近い思いがあるが、あの当時は絶望といって差し支えない思いだった。

馬鹿なことだが、あの時はまだ父に期待していた。

いや、期待していないと自分の心が保てなかった、が正しいか。

恥ずかしい話だが、俺はまた父が昔のような男に戻ってくれると期待していたんだ。

 

結果は書くまでもないだろう。誰よりも俺が一番理解している。

俺はひとり敵海賊の下に置き去りにされ、船があった浜辺で泣いた。

悲しさだとか、不安だとか色々な感情が溢れた事を覚えている。

まだ15だった、仕方がないと思いたい。

 

現実を受け止めきれてなかった俺は、現実逃避を始めた。

レオヴァさんの言葉や行動を思い返し、あの時手をとっていたらと、もしもの妄想を始めたんだ。

今思い出しても馬鹿らしい妄想をするものだと思う。

だが、それだけレオヴァさんの存在は衝撃だった。

 

実際、その後浜辺まで俺を探しに来てくれたレオヴァさんの行動は“海賊として”あり得ないものだろう。

たかが子ども1人の為に、しかも敵対していた子どもだ。

その子どもに寄り添い、話を聞き、ハンカチを手渡してくれた。

何度思い出しても、この記憶は心を穏やかにしてくれる。

いや、少し違うな。“レオヴァさんとの記憶は”、が正しい。

 

レオヴァさんは俺の妄想を現実のものにしてくれた。

手を差し伸べてくれた、なんの取り柄もない俺に。

上記は取り消そう。また卑屈(ひくつ)な事を言うなとレオヴァさんに怒られてしまう。

 

俺はこうして百獣に入った。

 

 

【 Ⅴ 】

前回から2日ほどあいてしまった。

だがナワバリでの仕事が最優先だ、仕方ない。

 

今日は百獣に入った後の事を書く。

 

まず、俺は浜辺から百獣の船に戻った。

そこでカイドウさんと初めて顔を合わせた。

正直に言うなら、怖かった。

レオヴァさんに挨拶に行くと言われた時、震えたのを覚えている。

破壊を体現する様な男だという噂を沢山聞いていたんだ、恐れるなというのは無理だろう。

 

けれど、初めて会ったカイドウさんは思ってた様な人じゃなかった。

レオヴァさんが部屋に入って来たのを見て嬉しげに笑うカイドウさんは、失礼かもしれないが“優しいお父さん”の様に見えた。

レオヴァさんが優しい人だと言っていた通りだった。

ボサボサの頭と貧相な服の俺を見てもカイドウさんは嫌な顔をしなかった。

 

“ レオヴァが目を付けたなら、間違いねぇだろう。

そこのガキ、期待してるぜ。”

そう言って笑うカイドウさんを俺は思わず凝視した。

 

こんなに強そうな人が俺に期待してくれる。

嬉しかった、本当に嬉しかった。

そして、この人は本当にレオヴァさんの“”なのだと理解できた。

一見、似ていない様に見えるが本質的な所は似ている親子だと思う。

どこか人を惹き付ける様な所や、この人と居ればという安心感とか上手く表せないが、似ている。

 

カイドウさんとレオヴァさん、この二人の為に生きようと思った、心から。

 

次に会ったのはキングだった。

ワノ国に着いて、レオヴァさんが俺に部屋をくれると鬼ヶ島を歩いている時だ。

関わっては駄目なタイプの男だと思った、人を物を見る様な目で見ていたから。

だが、レオヴァさんはキングに信頼を置いているようだったし、俺よりも上の地位の人間だ。

失礼のないよう努めたことを覚えている。

 

“ レオヴァ坊っちゃんにしては随分とつまらねぇのを拾ったな。”

それがキングからの初めての言葉だった。

当初はなんとも思わなかったが、今思い出すと少し腹が立つ。

しかし、キングという男は言葉を選ばない性格だ。

腹を立てるだけ無駄だろう。

それに仕事振りは大看板の地位にいるだけあり、流石と言わざるを得ない。

 

3人目に会ったのはクイーンだ。

当時、まだ内向きな性格だった俺とクイーンの相性は最悪だった。

いや、訂正しよう。“当時”ではない。

なにせ未だに相性は良いとは言えないからな。

 

常日頃(つねひごろ)騒ぎ続け、部下にもハイテンションを強要する奴との遠征は酷いものだった。

レオヴァさん直々の(めい)でなければ心が折れていたかもしれない。

それに適度に仕事をサボろうとする姿勢も俺とは合わなかった。

カイドウさんやレオヴァさんから任された事をサボるなど信じられない。

この時、俺は久々に他人に対して怒りと言う感情を持った。

今思えば、それも感情がふさぎがちな俺を変える為の事で、全てレオヴァさんの狙い通りだったのかもしれないが。

 

クイーンからの初めての言葉は覚えていない。

なにせ、奴はベラベラと良く喋る。

だが

“ 趣味もなんもねぇとかつまらねぇ奴だなァ

そんなんじゃ、そのうちレオヴァにも飽きられるぜ? ”

と言われたのはしっかりと覚えている。

 

15だった俺の酷く狼狽える姿を楽しんでいたクイーンの顔を思い出すと本当に腹立たしい。

しかし、それのおかげで天体物理学と爬虫類と言う趣味を発見できた事は確かだ。感謝するつもりは一切ないが。

 

4人目はジャックだった。

当初の思いを本当に嘘偽りなく書くのであれば、俺はジャックが嫌いだった。妬ましく思っていた。

俺よりも幼いながらに手柄を立て、カイドウさんやレオヴァさんから可愛がられていたジャックがどうしようもなく羨ましかった。

 

今思えば本当に幼稚な嫉妬心だった。

あの時はまだ、俺は酷く卑屈でレオヴァさんからの信頼に気付けていなかったんだ。

 

だが、今は嫌いではない。

確かに少し羨ましくなる時もあるがジャックはジャックであり、俺は俺だ。

 

“ 人には人の、ドリィにはドリィの良さがある。

前置きするならば、決して他人と自分を比べる事は悪い事じゃない。

寧ろ、他人の優れている点や真似してはならぬ点を見て学ぶことは有意義だと、おれは思う。

だが、その違いを気にしすぎて自分を追い込むくらいなら、比べる事はやめればいい。

成長する方法は他にも沢山あるんだ、自分が傷付く方法をとる必要はない。

それを“逃げる”と表現する者もいるが、逃げることは悪い事じゃねぇ。

自分を、大切なものを守る為に“逃げる事”を選ぶ勇気を、おれはドリィに持って欲しいんだ。

そして、もしドリィが自分で自分の良さが分からないなら、おれに聞け。

何回でも何個でも答えよう。

おれは本当に数え切れないほどドリィの良い所を知っているからな。”

と言うレオヴァさんからの言葉もあり、俺は妬むのはやめた。

真面目な優しい声でこの言葉をくれたレオヴァさんの表情を今も覚えている。

救いとは、あの瞬間の事だろうと、そう思うほどに俺にとって大切な記憶の1つだ。

 

それにジャックは真面目だ。

カイドウさんとレオヴァさんの為ならどんな事でもするだろう。

いわば、同志だ。

それに身内を尊重するという意思をレオヴァさんは望んでいる。俺はその考えが好きだ。

 

長くなった、続きは明日書く。

 

 

【 Ⅵ 】

一度読み返してみたが、これであっているのだろうか?

いや、そもそも書き方に正解などないのかもしれないが、気持ちのまとめと言うより、日記や記憶の記録ではないだろうか?

 

だが、レオヴァさんの言葉で今の俺にピッタリなものがある。

 

涓滴岩を穿(けんてきいわ うが)

一滴ずつのほんの僅かな水でも途切れることなく落ち続けたら岩に穴を開けられる。

少しの力や物事でも絶えず前進の意思を持って続ければ、何かを為せると言う言葉だ。

ドリィはいつも、自分なんかのやり方では駄目だと、自分がやっても意味がないのではないかと悩んでいるが、そんな事はない。

必ず意味はある、ドリィの今までの努力は価値のあるものだ。

おれはそんな努力を続けられるドリィを尊敬しているし、同時に自分も頑張ろうと思わせてくれるドリィに感謝もしている。

いいか、自分を褒めてやる事を忘れるな。

自分を肯定することは大事なことなんだ。

もちろん、天狗になりすぎて身内を下に見るのは良くない事だが。”

 

という この言葉通り自信を持って、このまま書き進めることにする。

 

 

5人目、トラファルガーについて書く。

鋭い目をした子どもで、海軍の軍艦に居たのをレオヴァさんが連れ帰って来た。

孤児にも関わらず食事作法などしっかりしており、更には医学の心得まであるという変わった少年だった。

当時、俺は彼が裕福な家庭だったのだろうと推測したりしていた。

 

後にわかった事だが、珀鉛病をトラファルガーは患っていた。

死亡率が高く、酷い偏見を持たれていた病気だ。

 

あの時のトラファルガーは自分は死ぬのだとよく口にし、破壊を好んだ。

少しも同情しなかったと言えば嘘になる。

だが、それはトラファルガーの境遇に同情したワケじゃない。

レオヴァさんの“大丈夫だ”という言葉を信じたくても信じられぬ姿に同情し、共感していただけだ。

今では、そんな姿など想像できぬ程に変わったが。

 

トラファルガーへの感情は良いもの、だと思う。

本人には言ったことはない、いや言うつもりも微塵もないが、彼のことは弟の様に思っている。

俺に弟などいたことはないが、きっとこの思いは兄弟に向けるものに近い、筈だ。

 

レオヴァさんが未だにジャックに対して世話を焼くのは、きっと俺がトラファルガーを気にかけるのと同じ思いなんだろう。

 

6人目はスレイマンだ。

彼は百獣の中でも特に話の分かる人間で、友人の様に俺は思っている。

少し直情的になりやすい所はあるが、決まりを守り部下を導く姿には俺も学ぶ事が多い。

 

数ヶ月レオヴァさんに会えないと情緒が可笑しくなる持病(・・)を持っているが、俺も似たようなものだ。気持ちは痛い程にわかる。

 

一時(いっとき)は、レオヴァさんから最重要とされる悪魔の実の1つであるゴルゴルの実を、友人であるスレイマンが貰った事に、卑しくも嫉妬する自分に嫌気がさしていたが、今はもう問題ない。

 

レオヴァさんから俺は素晴らしい実を貰った。

包み隠さず言うのであれば、俺の為にレオヴァさんが探し求めてくれた実を貰った事に少し優越感すらある。

 

包み隠さなすぎたな。あまり良くないことだ。

だが、本心だ。あの悪魔の実を貰えた時は本当に嬉しかった。

死ぬほど不味かった実を全て胃に収めるほど、嬉しかったんだ。

他にも、刀を貰えた事も余裕を持てるようになった要因だと思う。

この貰った“閻魔”という刀は、あの本気を出したレオヴァさんに傷をつけた名刀だという。

最初はそんな刀(・・・・)を受け取りたくないと言うのが本音だったがレオヴァさんの言葉を聞いて考え直した。

 

“ これは弱いものには扱えない刀だ。

使い手の武装色の覇気、ワノ国でいう流桜を吸い放出する特性がある。

事実、普通の刀では怪我すらしない おれの体もこれで斬れた。

その顔、おれが言いたい事が分かったみたいだなドリィ。

そうだ、これはおれを、いや最悪の場合父さんを斬れる刀に成る(・・)可能性を秘めている。

だからだ。だからこそ、お前に託したい。

ドリィ、お前は武装色の覇気が得意だろう。

そして悪魔の実のこともありタフさも申し分ない。

分かるな?おれはお前なら使いこなせると信じている。

そして、ドリィにならこの刀を任せられると思っている。

これは、この刀は絶対に信頼のおける相手にしか任せられないんだ。

いずれ仕舞い、隠し続けることは困難な状況になる(・・)、ドリィ頼まれてくれねぇか? ”

 

この時レオヴァさんは本当に真剣な顔で俺を真っ直ぐ見つめて話していた。

ここまでの信頼に応えないという選択肢は俺にはなかった。

レオヴァさんを、カイドウさんを斬れる刀を放置するなど出来る筈もない。

ならば俺がそれを使いこなし管理(・・)する。

そう決めた時から今まで、その為の努力は惜しまなかった。

剣と刀の二刀流になった俺を褒めてくれたカイドウさんとレオヴァさんの言葉も鮮明に思い出せる。

 

同時に、この刀を持っているのを見た小紫の言葉も印象に

 

 

【Ⅶ】

レオヴァさんから貰った悪魔の実や刀の事を思い出し、少し気持ちが荒ぶったので一度ペンを置いた。

少し日にちが空いたが、また書いていく。

 

7人目は

7と8人目はうるティとページワンにする。

二人はとても仲の良い姉弟だと思う。

少しばかり互いに依存し過ぎている様に思うが、価値観はそれぞれだ。何も言うまい。

 

弟のページワンは勤勉で飲み込みも早く、共に仕事もしやすい。

だが、姉であるうるティは真逆だ。

所構わず暴れる、カイドウさんやレオヴァさんに我が儘を言う、部下を困らせる

書き始めたらキリがない。

 

正直、最初の印象は最悪だ。

レオヴァさんに毎日の様に噛みつく姿にどれ程イラ立ったか。

ジャックやスレイマンが尋常じゃないほどキレてくれたおかげで、逆に俺は冷静になれたが2人がいなければ爆発していたのは俺だろう。

 

しかし、うるティもページワンも実力は本物だ。

カイドウさんやレオヴァさんを尊敬しているのも、しっかり伝わってくる。

姉であるうるティは未だに俺に何かと噛みついてくるが、気にしない事にした。

ページワンはなかなか可愛げがあるし、俺はどうやら面倒を見るのは嫌いじゃないらしい。

 

これは新しい発見だ。

こうやって考えてみると、俺は世話を焼くのが好きらしい。

レオヴァさんが俺は教育係に向いていると言っていたのは、当たっているみたいだ。

流石はレオヴァさん、俺をよく分かってくれている。

 

9人目はブラックマリアにした。

彼女とは仕事上あまり関わりがない。

関わるのは金色神楽や少し大きめの宴の時ぐらいだろう。

決して嫌いな訳ではないが、苦手意識は否めない。

 

俺は女体が不得手だった。それを克服する為にブラックマリアが指揮をとる遊郭に世話になったのが理由だ。

クイーンに無理やり連れていかれ散々な目に合わされた時の嫌な記憶が、俺に彼女への苦手意識を持たせたのは間違いない。

ページワンがレオヴァさんに告げ口してくれなければ、克服する為という名目でクイーンに遊ばれ続けただろう。

 

不幸中の幸いは女体を見て倒れる事はなくなった事だ。

思い出してもクイーンに遊ばれた事が情けなくて、恥ずかしい。

レオヴァさんに知られたのが何より辛かったが

 

関係ないことを書いてしまった。

兎に角、俺の知るブラックマリアの事を書こう。

彼女は気が利くし、話を聞くのも上手い。

百獣の中でも屈指の優しさがある。

前に例外的になる事もあるのを見たことがあるが、他言は無用だろう。

女性の秘め事に首を突っ込むのは野暮だとレオヴァさんも言っていた。

 

遊女達からの信頼も厚い所を見るに、仕事も真面目にやっているのだろう。

カイドウさんやレオヴァさんに向ける信仰に近い様な愛情も、見ていて好ましく思う。

彼女もまさしく、俺の同志と呼べる相手だと思っている。

百獣の幹部クラスは皆、同志の様なものだが。

 

10人目はササキだ。

最初の印象は単純そうな男、だった。

正直今もそう思うが、裏表のない性格は好印象だ。

たまに一緒に飲むが、ササキは場を適度に盛り上げるのが上手(うま)いのもあり、楽しく酒を飲める。

ただ、人前で酔っ払う事が多いのは心配でもある。

遠征先では気を付けているとは思うが。

 

だが、最初からササキとは親しかったワケじゃない。

寧ろ、敵対視されていた様に思う。

彼は野心家だったから、上を見ていた。

だから俺を敵対視していたのだと思う。

親しくなった切っ掛けはカイドウさんとレオヴァさんとの組手だった。

 

その時は確かカイドウさんの手に繋がっているボールを取れればクリア、と言う組手のルールだった。

正直、あれが組手なのかは謎だが誰もそれには突っ込まない、あのキングとクイーンもだ。

 

この話は置いておくとして、俺とササキは決死の覚悟で組手に挑んだ。

降り注ぐ雷と目の前に渦巻く竜巻、楽しげなカイドウさんとレオヴァさん、既に満身創痍な俺とササキ。

いつ思い出しても組手の時の記憶は冷や汗をかかせてくれる。

本筋に戻そう。あの死線を共に越えて以降、ササキは俺を睨むことはなくなった。

寧ろ、飲みに誘われるようになったし、俺もササキを好ましく思うようになった。

 

実は、ササキの性格が羨ましい時があった。

裏表なく、思った事は言う。

他の奴らよりカイドウさんと飲みたいと素直に言える性格が、1人で飲むよりレオヴァさんと飲みたいと部屋に押し掛けられる性格が、羨ましかった。

 

どうしても、俺は周りを見てしまう所がある。

カイドウさんと飲みたいとしても、レオヴァさんと飲みたいとしても、他に人が居れば入れてしまうし、忙しそうなレオヴァさんには我が儘を言うようで言い出せなかった。

別にカイドウさんもレオヴァさんも無理なら無理と言うし、もし二人で飲みたいと言っても我が儘だなんて思う人達じゃないと言うのに

まったく俺のこの性格はなんなんだろうか。

 

 

【 Ⅷ 】

酷く気分が落ち込んだので、少し時間を置いた。

 

11人目はコビーのことを書くとする。

彼への第一印象はレオヴァさんに相応しくない、だ。

尤も、レオヴァさんに相応しい人などカイドウさんぐらいだろうが。

 

相応しい人と言うのは少し表現が不適切だった。

兎に角、コビーはレオヴァさんとは合わないと思った。

弱くて、なのに綺麗事だけを見ている少年は、はっきり言って不快だった。

一番愚かだった頃の自分を見ているようで、本当に不快だった。

レオヴァさんが人造悪魔の実を授けたのも、最初は理解出来なかった。

 

だが、暫くレオヴァさんからの指導(・・)を受けたコビーは見違えるほど変わっていった。

普段の気が弱く、おどおどした態度は変わらなかったが、戦闘になった時の目が、敵だと認識した相手に対しての対応が変わった。

 

コビーはスポンジの様な感性を持つ少年だったと思う。

吸収が早く、絞れば古い思考を消すことが出来る少年だった。

理想の為に“悪”を切り捨てられるようになったコビーは、俺にとって不快な存在ではなくなった。

レオヴァさんから世話を任されていた事もあって、部下のような、後輩のような存在になった。

比較的、手のかからないコビーへの印象は日に日に良くなった。

師匠と崇められるのは少し、照れくさかったが。

 

コビーの事で大変だと思ったのは、うるティに驚くほど絡まれているのを助けなければならない事ぐらいだ。

今、思い出しても哀れみさえ感じるほどだ。

 

これを書いている時点で、彼は別の場所に所属しているが、俺の弟子であり同志であることには変わりない。

 

最後はフーズ・フーだ。

彼もササキ同様、向上心の強い男だ。

自分の部下以外とは、あまり接点を持ちたがらず、素顔を知っているのはレオヴァさんぐらいじゃないかと思う。

素顔という点においてはキングも同様で、カイドウさんやレオヴァさんぐらいしか知らないだろう。

いや、クイーンは知っているのかもしれないが。

 

ともあれ、謎が多い男という印象だ。

インペルダウンからレオヴァさんが連れ帰ったが、何故捕まっていたのか、元々何処の組織だったのか俺は知らない。

しかし、六式の様な技を使っていたのを見たことがある。

本音をそのまま書くのであれば、政府関係の人間だった可能性が高いのは気掛かりだ。

だが、信用していない訳ではない。

 

レオヴァさんと話していた時の笑い方は嘘の様には見えなかったし、何よりレオヴァさんが選んだんだ。

問題ないだろう、と思う。

それに過去は変えられない。俺もそうだ。

 

レオヴァさんも言っていた。

 

“ 過去に固執し過ぎるのはあまり良い事じゃねぇだろう。

重要なのは、“今”であり“未来”だ。

過去から学ぶ事や過去を尊ぶことは良いことだが、固執したり過去に(おこな)ったことで偏見を持ち続ける事を おれは(この)まない。

過去は変えられない、なら変えられる今や未来の為に動く事が有益だ。と、おれは考えている。

例えば、元は敵だったとしてもドリィの様に今はおれや父さんを支えてくれる者もいれば、1ヶ月前の奴の様に百獣を裏切り今は亡き者になっている者もいる。

過去を参考にするのは良いが、今は変化し続けている。

あまり過去ばかり見ていては遅れを取る事になりかねないからな。

まぁ長々と話したが、これは“おれの価値観”だ。

ドリィも参考程度に聞いてくれ。”

 

どうしても諭すような、先生の様な言い方になってしまうと苦笑いしていたレオヴァさんの言葉だ。

俺はレオヴァさんの価値観や知識を話す時の喋り方も説得力があり好きなんだが、レオヴァさんは気にしているらしい。

 

また本筋からそれた。フーズ・フーの続きを書く。

俺が書きたかったのは、フーズ・フーが政府の人間だったとしても構わないということだ。

元政府の人間となれば怪しいと思わないでもないが、彼が入団してからの貢献を過去に囚われて無視し、敵視し続けることは、“良くない事”だろう。

だから、俺はフーズ・フーを信用している。

彼の百獣への貢献を、レオヴァさんやカイドウさんに対して見せる敬意を信用することにした。

 

主要な人間関係はこ

 

 

【 Ⅸ 】

海軍からの奇襲のせいで前回は中途半端に終わってしまったし、日もあいてしまった。

何を書こうとしていたか少し忘れてしまったが、主要な人間関係はこれで(しる)し終わったと思う。

だが、これ以降何を書けば良いかわからない。

まだ半分以上も手帳のページは残っているというのに

 

レオヴァさんに相談したが、焦る必要はないらしい。

今までの事が書き終わったなら、これからを書いていけばいいとレオヴァさんは言っていた。

日記のようなものだろうか。

 

一度読み返してみたが、とても人に見せられる内容じゃなかった。

もとから見せるようには書いていないが、本当に厳重に管理しなくては駄目だ。

クイーンやうるティに見つかった日には酷い事になるだろう。

 

読み返して、嫌にならない事も書いていこうと思う。

カイドウさんや、レオヴァさんの言葉を記していけば未来の俺が読み返した時に心を穏やかに保てるだろう。

何より二人の言葉は身になるものばかりだ。

 

カイドウさんとの遠征に行った時の

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

静かだった部屋に部下の訪れる気配を感じて、ドレークはペンを置いた。

手早く机の引き出しの奥へと手帳を仕舞い込み、インクに蓋をする。

 

ちょうど、それが終るとノックする音と共にドアの向こう側から部下の焦った声が響く。

 

 

「す、すいやせんドレーク様!

外に海軍の野郎共が!!どういたしやしょう!?」

 

「落ち着け、すぐに行く。

お前は外にいるウェイターズに交戦の指示を伝えてくれ。」

 

立ち上がり扉の外にいる部下に声をかけ、ドレークは剣と刀を取る。

 

「はいっ!了解しやした!」

 

大声で返事を返した部下の慌ただしく走り去る音に続くようにドレークは扉へと歩みを進めた。

 

 

「…続きはまた明日だな……」

 

呟いた声は扉が閉まる音にかき消された。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

酒は飲んでも呑まれるな

 

 

 

部下たちは現れたクイーンとキングの姿に困惑していた。

 

普段のハイテンションさは身を潜め、側にいるキングに噛みつくことすらしないクイーンなんて見たことがなかったからだ。

それに部下たちから見ても2人の姿は心なしかげっそりしている様に見える。

 

 

下手に動けば機嫌の悪そうな2人が爆発するのではないか…と、部下たちは表情を強ばらせた。

だが、そんな部下たちの警戒を余所にキングはその場から飛び立ち、クイーンは普段とは違うハリのない声で指示を出す。

 

 

「ア~~…大工共に幹部訓練所の修理の申請しとけ。」

 

「え、あ…はい!了解しやしたクイーン様ぁ!」

 

部下の返事を聞くとそのまま歩き去っていくクイーンの背中を、部下たちはあり得ないモノを見るような目で送ったのだった。

 

 

 

「お、おい……なんでキング様とクイーン様が訓練所から一緒に出て来んだよ…!?」

 

「おれが知るか!!

下手に首突っ込むとキング様に……こ、この話はやめよう!」

 

「気になるだろうがよぉ~!

クイーン様もいつものテンションじゃねぇし…具合が悪かったりしたらどうすんだよ!?

おれもクイーン様のいちファンなんだ!

絡繰魂公演(カラクリライブ)が見れねぇなんて堪えられねぇよ…」

 

「まぁ、クイーン様の公演(ライブ)見れねぇのが辛いのは死ぬほど分かるけどなぁ……」

 

「いやいや!病気とかだったらレオヴァ様もロー様もいるんだから、それこそ心配する必要ねぇだろ?」

 

「ばか野郎!!病気ぐれぇでクイーン様が参っちまうワケねぇんだ!

クイーン様は我らが大看板なんだぜ!?

あれは具合悪いとかじゃねぇ……きっと何かスゲェ問題があって疲れてらっしゃるんだ!」

 

「それこそあり得ねぇだろ!

クイーン様とキング様が困っちまう様な問題なんざあるわけ…………か、カイドウ様か?」

 

「げっ! カイドウ様がご乱心とかヤベェだろ!?

ん?けど今はレオヴァ様いらっしゃるから問題ねぇんじゃ…?」

 

「いやだから、お前らやめろって……詮索すんのは止せよぉ…

てか、早く大工達の所に修理の話を……」

 

 

過ぎ去ったクイーンを見送った部下たちは、そのまま通りかかったババヌキに噂話を怒られるまで談義を続けるのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ア"ァ"~~!マ~ジで疲れたァ!!

カイドウさんはまだしも…レオヴァまでよォ。

くそぉ、明日ウイルス研究付き合わせてやるからなァ…」

 

自室に戻ったと同時にベットにダイブしていたクイーンは愚痴を溢した。

 

もうすぐ来るであろうお汁粉を想いつつ、バキバキになっている体をふかふかな特大のベッドに横たわらせたままメンテナンス用の器具に手を伸ばす。

しかし、結局届かずに宙をさ迷う手に盛大に舌打ちをして、のそりと起き上がった。

体を起こし、器具を手にしたクイーンは思い出した様に葉巻に手を伸ばす。

腕をメンテナンスする前に、おもむろに葉巻を咥えると火をつける。

 

口から煙を吐きながらドライバーを握り、ギギッ…と軋む手から解体していく。

ちょっとやそっとではビクともしない筈の自慢のアームをいとも簡単に軋ませる2人を思いだし、クイーンは疲れきった顔をした。

 

 

クイーンがこれ程までに疲れ果てている理由の発端は、先日の夜まで遡る。

そう、あの夜に突如始まった“組手(・・)”が全ての原因なのだ。

 

だが、今までであれば“組手”とはカイドウとレオヴァが2人(・・)で行うのが基本だった。

 

たまにレオヴァの意向で見込みのある部下が“組手”に参加させられる事はあるのだが、基本的にはレオヴァとカイドウの親子同士のコミュニケーションであったのだ。

カイドウもレオヴァも他者にこの時間を邪魔される事を極度に嫌っている(ふし)もあり、部下を育てる以外のことでは“組手”は2人で時間を合わせては夜な夜な(おこな)うのが習慣だった。

 

だからこそクイーン…そしておそらくキングも予想していなかったのだ。

まさか自分達があの地獄に巻き込まれる事になるなど、考えたことすらなかった。

 

確かに時々カイドウは

『お前らも交ざるかァ?』と、酔った呂律の回らぬ声で聞いてくることもあったが

その度に

『父さん、二人まで捕まえたら報告に来る部下達が困るだろう?

それにおれは父さんと2人で手合わせしたいんだ。』

と言い、レオヴァはそれをやんわりと止めていたのだ。

 

 

しかし、今回は違った。

ほどよく酔っ払って機嫌の良いカイドウが言った

『よォ~し…キング、クイーン!!

ウィ~…組手だァ、付き合え!

おれとォ…レオヴァ、んでキングとクイーンで

闘技場でやってた“ちーむ戦”とやらをやろうじゃねぇか!!!』

という言葉をレオヴァは止めなかったのだ。

 

それどころか、カイドウと同じく上機嫌だったレオヴァはにこにこと笑いながら大きく頷いていた。

 

『ふははは…!!

父さん、そりゃあいい!

面白そうだ、共闘なんて久し振りだなァ…

ほら……キング、クイーンなに呆けてる、行くぞ?

あぁ、そうだ!幹部訓練所なら思う存分出来る、どうだろうか父さん。』

 

『ウォロロロロ!!流石はレオヴァだぜぇ…ヒック…ゥ

いいじゃねぇか!そこに行くぞォ…!!

キングにクイーン、遅れるんじゃねぇぞォ!?』

 

そう言ってバルコニーから飛び立って行ったフラフラな竜と、それを支える様に飛ぶ黄金の鳥をキングとクイーンはポカンと眺めるハメになった。

 

一瞬、理解が追い付かず棒立ちになっていたクイーンだったが、大きな溜め息とともに二人を追うように飛び立って行った真っ黒なプテラノドンを見て我に返り、2人を追ったのだった。

 

そして、幹部訓練所についてからはまさしくあの時(・・・)の地獄絵図の再来であった。

 

久々に親子で晩酌を楽しんだこともありテンションが高いカイドウとレオヴァにより、あれよあれよと“組手”のルールを決められて地獄が幕を開けた。

 

酔っているせいで容赦のないカイドウの猛攻と、なんとか終わらせようと動くキングとクイーンの動きを先読みして組手を長引かせるレオヴァ。

 

2人の親子はそれはもう楽しげに笑っていたが、それに比例するようにキングとクイーンは疲弊しきっていた。

カイドウ1人でさえ手が付けられないと言うのに、普段であれば気遣ってくれるレオヴァまで楽しげに攻撃を仕掛けてきており、本当に助けなど期待できぬ状態だったのだ。

 

あの時以来、数年振りに2人は嫌々ながらも協力した。

カイドウとレオヴァをぶっ飛ばすという心意気で、遠慮なく攻撃を仕掛けこの地獄の8時間を生き延びたのだ。

 

『カイドウさんだから、レオヴァだからって遠慮してたらマジにヤべぇ…!!』

とクイーンは開始早々に察していた。

 

 

『おいおいおいおい…!?

レオヴァまでノリノリじゃねぇかよ!!!

気を抜いたら一発アウトだぞ!?

ア"~!くそっ!キングてめぇわかってんだろうなァ!?』

 

『うるせぇ、ボール野郎ッ…!ンな事ァ言われなくてもだ。

無駄口叩いてる暇あるなら、その汁粉(しるこ)で緩みきっただらしねぇ体を動かせ!』

 

『誰の体が緩んでるだとォ~!先にてめぇからしばくぞ!?

…って、うおぉ!?!っ危ねぇ!!!

ちょっ、レオヴァそれおれに当たったらホントにヤベェからなァ!?

……おい、笑ってんじゃねぇぞキングゥ!!』

 

 

(いが)み合いながらも2人は酔っぱらいを倒すべく、全力を尽くした。

だが、誰も全力で挑んだクイーンを責められないだろう。

なにせ化け物レベルの親子が協力して襲ってくるのだ、地獄絵図だろうことは想像に容易い。

 

と、そんなことを思い出していたクイーンだったがある可能性に思い当たる。

 

それはレオヴァが実は“酔っていた”という可能性だ。

クイーンはこれは間違いないだろうと、確信を抱いていた。

 

何故なら、あのレオヴァ(・・・・・・)だ。

いくら信用し気を許しているとはいえ、キングとクイーンに無茶振りする事は常時であれば まずあり得ない。

さらにあの晩、レオヴァは5ヶ月振りのカイドウとの水入らずの晩酌で浮ついているように見えた。

それはカイドウも同様であり、普段よりも早く出来上がってしまう程だったのだ。

レオヴァの酒のペースも早く、酔っていたと考えるのが妥当だろう。

 

百獣海賊団で……いや、この世でレオヴァの酔っている姿を見たことがある者は少ない。

その理由はレオヴァがある程度酒に強いと言うのもあるが、なによりも本人が酔うまで酒を飲まない様に気を付けている事が大きいだろう。

 

そして、もう一つの理由としてレオヴァの酔った状態は非常に分かりづらい、というのもある。

 

レオヴァは完全に酔うと口調が素に戻る特徴があるのだが、カイドウや気を許した幹部たちと飲む時は素の話し方でいる時が大半なのである。

顔に出ないレオヴァが酔っているのか、そうでないのかの判断は非常に難しい。

的確に判断出来るのはカイドウを除けば、ジャックやドレークくらいであろう。

 

 

酒が強い部類に入るとはいえ、カイドウと同じペースで飲んでいたレオヴァが酔ってしまうのは必然と言えば必然である。

 

なにせ、あのカイドウですら酔っ払ってしまうのだ。

自分の半分はある酒瓶をいくつもいくつも空にし、上機嫌で酌を進めていたレオヴァを思い出し、クイーンは呟く。

 

 

「……今日、午後にでもレオヴァにちょっかいかけに行くかァ…?」

 

今頃、酔いが覚めて頭を抱えているであろうレオヴァを想像し、クイーンはニヤリと笑った。

今回の件をジャックにバラしてやろうという悪巧みを抱えながら。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

幹部訓練所前から真っ直ぐに部屋へ戻ったキングはドサリと音を立てながらソファーに腰掛けた。

伸びをするように軽く黒い翼を広げればボキボキと嫌な音がすることに小さな溜め息をつく。

 

 

「…カイドウさんは変わらねぇな。

いや、それはレオヴァ坊っちゃんもか……手が付けられねぇ…」

 

酷く疲れの滲み出た(おのれ)の声にキングはマスクの下の眉間に皺を寄せた。

 

 

確かに、あの親子は一度スイッチが入ると周りの声が聞こえなくなる所もそっくりだと前々からキングは思っていたが、まさかこんな形で再び思い知らされるとは思ってもいなかった。

 

だが、疲労感はあれど嫌と言うわけではない。

何せキングは数十年前のあの日、カイドウの強さに惹かれて付いていく事を決めたのだ。

唯一自分の上に立つ事を認めた男の強さを感じられるのは、なかなか悪いものでもないとキングは感じていた。

 

それに最初こそ、カイドウの息子だからと渋々面倒を見ていたのだが、自我を見せ始めた幼少のレオヴァはキングの御眼鏡(おめがね)に適った。

その後もどんどんと成長し、父親譲りのタフさとカリスマを存分に発揮するレオヴァをキングは認めており、信用も置いていた。

 

 

だからこそだろう。

まさか組手に巻き込まれるなど思いもせずに、8時間ほど前までキングがレオヴァと言葉を交わしていられたのは。

 

 

 

『何故、せっかく情報の入らないワノ国に外の情報を与える?

それは面倒な厄介事を招く種にならねぇのか、レオヴァ坊っちゃん。』

 

『ん…そりゃあキング。

人間ってのはどんなに良い暮らしをしていても、いずれは慣れて不満を持ち始める強欲な生き物だからだ。

(ゆえ)に共通の危機感や敵を持たせ、この平和は“当たり前にあるモノ”じゃなく“維持しなければ()くなるモノ”だと自覚させ続けなきゃならねぇ。

そして、危機感を覚えている間は“平和”を維持しているのが誰なのか…ってのも強く意識するようになるだろう?』

 

『ほう……成る程、レオヴァ坊っちゃんらしい方針理由だ。』

 

 

このレオヴァの考えにキングは感嘆した。

力で従わせ、恐怖で支配するやり方で不自由なく生きてきたキングにとってレオヴァの意見は新鮮で面白いものだった。

 

途中、クイーンからの横やりが入った時の意見もそうだ。

 

 

『けどよォ、レオヴァ。

なにもホントの事をワノ国の奴らに教えてやる必要なくねぇか?

別に敵を作りてぇなら、情報の入らねぇ国なんだしいくらでも好きに作れるだろ。

なんでわざわざ手間かけてまでよォ~……』

 

 

レオヴァとの会話に勝手に割って入ってきた風船野郎にキングは舌打ちをしたが、一理ある疑問ではあった。

()で起こっている真実を手間をかけてまで教えてやる必要などあるのか?

レオヴァやカイドウの言葉であれば嘘だろうと盲目的な民衆は全てを疑うことなく信じ込むだろう。

なのに、わざわざレオヴァの時間を取ってまで真実を厳選(・・)し、民に伝わるよう瓦版の文字起こしまでやる必要があるのだろうか。

 

そんな疑問にレオヴァは少し不思議そうな顔で答えた。

 

 

『嘘より真実の方が使い勝手が良いから…以外に特に大きな理由なんざねぇんだが…』

 

『ンンッ~?

…いや、全ッ然意味わかんねぇよレオヴァ!!

お前のそういう理由の中身を無意識に省略しちまうの、スッゲェ悪い癖だぜ!?』

 

おいおいおい!と身を乗り出すクイーンにレオヴァは眉を下げる。

 

 

『悪ィ、クイーン。

おれはついキングやクイーン相手だと気が利かなくなっちまう…気を付ける。

……おれの言いたかった使い勝手が良いってのは、リスクが少ないって意味だ。

一度嘘をつけば、その後はそれを隠す為にずっと嘘の上塗りをしなけりゃならねぇ。

そして、塗り固めた嘘ってのはちょっとした矛盾や、他人の思わぬ発言などで簡単にボロがでる。

暴かれた嘘ほど面倒な事はねぇだろう?

一度、嘘つきのレッテルを貼られれば後に何を言ったって説得力は皆無だ。

信頼ってのは築くのにも維持するのにも本当に長い時間や努力が必要だが、崩れるのはほんの一瞬……崩れた信頼はもう二度と“同じ”には戻らねぇ。

……と、おれは考えてるわけで、それと比べれば真実を使う労力もリスクも小さいもんだろう。

勿論、おれも全て包み隠さず教える必要はねぇと思ってる。

使える情報をピンポイントで流す。

それが今のところ一番有用だと思う……クイーンやキングが反対なら新しい案を考えるが…』

 

『ほぉ~~…相変わらずっつーかなんつーか……こりゃ信者もできるよなァ?』

 

『いや、それを聞いておれに反対する意思はねぇよレオヴァ坊っちゃん……いつも通りに良い案だ。』

 

『良かった、キングからの太鼓判があると自信が持てる……が、クイーンのそれは褒めてねぇだろう…』

 

『ムハハハハハ~♪

こりゃ褒めてんだぜレオヴァ~!!』

 

ニヤニヤとレオヴァの背を叩いているクイーンにキングから制止の声が飛び、軽いひと悶着はあったがこの時まではいつも通りの宴だったのだ。

……この時までは。

 

 

この数十分後、カイドウの突然の提案にレオヴァが満面の笑みで賛成するなどキングですら予想できなかった。 

 

幹部訓練所にて、珍しく浮かれきり普段とは違うカイドウ似の獰猛な笑みを浮かべるレオヴァと、ベロベロに酔っぱらい上機嫌に笑い声をあげる話の通じないカイドウの2人を全力でぶっ飛ばしにいく事になるなど、誰であろうと予想できるはずもないのだが。

 

 

20分ほど前までボロボロのキングとクイーンを尻目に、愉しかったと陽気に笑いあっていた規格外な親子を思い出しまた小さく溜め息をつくが、ふとマスクの下の口角が緩やかに上がる。

 

 

「……フッ…酔いが覚めたレオヴァ坊っちゃんの反応が見物(みもの)だな…」

 

 

きっと眉をこれでもかと下げて詫びにくるだろうレオヴァを想像し、ひっそりとキングは笑みを溢した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

昨晩から今朝方まで幹部訓練所で“組手”に興じていたレオヴァは部屋に戻り、睡眠をとっていた。

 

4時間ほど寝ていたレオヴァだったが、ふと目が覚めて寝台の横にある水を飲むと、そのまま風呂へ入ってゆく。

 

部屋にある風呂場でアロマの香りに包まれながらシャワーを浴びると、部下の心遣いで花びらがたゆたう浴槽に体を沈めて、レオヴァは小さく呟くと手で顔を覆った。

 

 

「……おれは、何をしてるんだ…」

 

大浴場とまではいかぬとも、広く美しい浴室に立ち上る湯気に浮かぶレオヴァのシルエットは、項垂れると言う言葉がピッタリと当てはまるだろう。

 

すっかり酔いが覚め、睡眠によって思考力が完全に戻ったレオヴァは昨晩の自分の行動を思い出し赤面した。

 

 

そう、昨晩のレオヴァは非常に浮かれていたのだ。

なにせ、久し振りの愛する父との晩酌に、更には組手の約束までしていたのだ。

 

カイドウを中心に世界が回っていると言ってなんら過言ではないレオヴァにとって、カイドウとの晩酌も組手も楽しみでしょうがなかった。

あけすけに言うのであれば、そう。

“はしゃいでいた” のだ。

 

 

近年、レオヴァが始めた酒造業にて作り上げた力作を飲んで

『こりゃいい!

そこらの酒とは全然違うじゃねぇか、流石はおれの息子だぜェ…!!

味も喉越しも申し分ねぇなァ……おれ好みだ。

ウォロロロロ…レオヴァ、お前もどんどん飲めェ!』

と、豪気な笑顔でべた褒めするカイドウの姿で完全にレオヴァのストッパーは外れた。

 

普段であれば己の限界値を把握しているレオヴァは、カイドウのペースに合わせれば酒に飲まれてしまうと理解している為、父の酌をしたりツマミを食べたりとほどほどに酒を嗜むのだが、昨晩はそのストッパーはすっかり外れていたのだ。

 

 

酒造業を始めてから、その裏で何年もかけてカイドウの好みにのみ合わせた酒をレオヴァは密かに作っていた。

その集大成というべき酒を褒められた事や暫く晩酌の時間が取れなかった事も相まって、レオヴァは有頂天になっていた。

 

上がりに上がった気分は、カイドウの“レオヴァもどんどん飲めェ!”という言葉におおいに加勢したのだ。

 

 

結果、レオヴァは嬉しさと楽しさから言葉通り浴びるほど飲むカイドウのペースに合わせてしまい、数年振りに酔っぱらうという事態に至ったわけだ。

 

だが、それだけならばレオヴァも頭を抱えることはなかっただろう。

『少しハメを外しすぎたな…』と軽い自戒のみで済んでいたに違いない。

 

 

けれど、レオヴァは酔っても記憶がしっかりと残るタイプの人間であった。

その為、昨晩のやつれきって少し痩せたようにすら見えるクイーンの顔を、滅多に見ることのないキングの疲れ果てた暗い瞳をよく覚えていた。

 

あの時はカイドウが楽しそうだった事と、久々に手加減せずとも潰れない相手を得られた事に喜び、容赦なく“組手”を仕掛けたレオヴァだったが、酔いが覚めた今は申し訳ない気持ちが胸の大半を()めていた。

 

一方で、カイドウと2人で協力して戦うことが楽しかったのも嘘偽りない事実であり、その記憶を思い出すと口角が自然と上がってしまうのだが、それは表に出しては2人に申し訳が立たないだろうと、レオヴァは緩む口に力を入れた。

 

無論、隠していたとしてもキングとクイーンには楽しんでいた事など全てバレているのだが、恥ずかしさと罪悪感でいっぱいになっているレオヴァはその事実を失念している。

 

 

花びらが浮かぶ温かな湯をパシャリと顔にかけながら、午後にでもキングとクイーンに迷惑をかけたことを謝罪に行こう、とレオヴァは思案するのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

レオヴァとの晩酌と組手を満喫してから3日が経ち、カイドウは遠征の為に港へと来ていた。

 

暫く振りの晩酌では(ひさ)しく見ていなかった酔った息子の姿を見ることができ、組手では珍しく派手に暴れる息子も見れた。

 

真面目すぎるレオヴァがありのままに振る舞う姿もカイドウは気に入っている。

キングとクイーンはだいぶ疲れている様ではあったが、これくらいで参るほど柔ではないと知っているカイドウは全て笑って済ませた。

もとより、2人は長年の付き合いでカイドウの性格は理解している為、何か言ってくることもないのだが。

 

後日、はしゃぎすぎたと眉を下げていた生真面目な愛息子(まなむすこ)

俺の息子なのだからそれくらい気にするな、好きに振る舞え。

と声をかけたのもカイドウの記憶には新しい。

 

 

そんな事を思い出しながら、未だに機嫌の良いカイドウはレオヴァお手製の酒を片手に船へと乗り込む。

 

今回の遠征はナワバリ付近を彷徨(うろつ)く馬鹿共を蹴散らすという、まったくもって退屈な内容なのだが、それも面子(メンツ)を保つ為には必要な作業だ。

 

馬鹿共をのさばらせてしまっては、際限なく新しい馬鹿が増える。

それをカイドウはよく知っていた。

 

だが、そんな退屈な遠征にカイドウは少しのサプライズを思い付いていた。

 

部下の話によると、のさばる馬鹿共の中に“能力者”がいるというのだ。

カイドウはそれを息子への手土産にしてやろうと考えた。

 

理由は晩酌でのレオヴァの言葉である。

 

超人(パラミシア)系は本当に興味深い…!

スレイマン以外の能力者も色々と調べたいんだが……うちは動物(ゾオン)系は多いが超人(パラミシア)系は少ないからなァ…

覚醒前後の比較や、覚醒後に影響を及ぼす範囲や対象も調べたいな。

他にもローに頼んで中身の入れ替えをしたら覚醒後の力を発揮できるのかも実験してみたいが、被験体がなァ……スレイマンには手酷い真似はしたくねぇ…』

と、クイーンと長々と話していたのだ。

 

正直カイドウからすれば、その実験や検証は何が楽しいのかさっぱりである。

しかし

『…知識欲と言えばいいのか…

実験が楽しいというより、“知りたい”んだ。

超人(パラミシア)系の覚醒を知れば動物(ゾオン)系の覚醒の新しい可能性も探れるかもしれないだろう?

特におれの食べた悪魔の実もそうだが、幻獣種は少し変わった“技”が使える場合が多い。

だから、覚醒において新しい何か(・・)を見付けられるかもしれない……という仮説を立てていて、それで超人(パラミシア)系の覚醒にヒントを得られないかと…』

と目を輝かせて語るレオヴァの姿を見て、納得した。

 

レオヴァの思考回路はなかなかに理解しがたかったが、生き生きした表情で語るレオヴァの姿はカイドウを納得させるには十分であった。

 

カイドウはいつも通り

『レオヴァが楽しそうなら、それで構わねぇか。』

という結論に至ったのだ。

 

結果、今回の遠征で能力者が超人(パラミシア)系ならば手土産にしよう、という考えを思いつき退屈な遠征にひとつの目標を掲げた。

 

 

船長室にて、思い(ふけ)るカイドウを乗せた海賊船が動き出す。

 

面白い土産を手渡せばレオヴァはいつもの様に微笑みながら、大袈裟なほどに喜ぶだろうとカイドウは息子の姿を脳裏に浮かべ、ひとり笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 




ー補足ー

・幹部訓練所
飛び六胞や近衛隊隊長、大看板(おもにジャック)が組手をする為の施設。
定期的にカイドウとレオヴァの親子同士のコミュニケーションと言う名の組手にも使われており、頻繁に修繕工事をやっている。

・訓練所(一般訓練所とも言われている)
一般部下とウェイターズから真打ちまでの部下が訓練する時に使える施設。
ジャックやドレーク、スレイマンなどは部下を鍛えるためにこの施設にも来る。
ササキもたまに来るが鍛えるより、頑張ってる部下の様子を見に来る意味合いが大きい。頑張ってる部下には酒を奢っている。

・レオヴァの酒事情
ある程度は強いが酔わないわけではない。
基本的にカイドウやキング、クイーン以外の前では酔うほど飲まない。(普段から仕事詰めなので取引相手や国同士の会合以外ではあまり飲まない)
過去、ジャックの前で酔って構い倒してしまって以降は特に気を付ける様になった。
(弟の様なジャックに情けない所を見せなくない為)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

78から最善を見る者

 

 

 

その日、島にのさばっていた海賊達は震え上がることになった。

 

 

港に停めていた海賊船は全てが無惨な瓦礫へと成り果て、乗っていた船員も海の底へと沈んでいった。

そして、その上空では巨大な龍が蜷局(とぐろ)を巻いている。

 

恐怖で立ち竦む海賊達が最期に目にしたのは、龍の口から目も眩む様な光が放たれた瞬間であった。

 

 

この海岸の上に生きて立っている者は1人もいない。

あるのは荒れた砂浜と残骸たちだ。

 

まさにこの海に伝わる噂通り、その龍の姿は破壊を体現していると言えるだろう。

 

 

そんな一方的な破壊を行った龍は地上へと近付き、人の形に成る。

 

 

「うぃ~…

なんだぁ? 海賊共はどこだ…ヒックゥ…」

 

酒気を帯びた大男、カイドウの言葉に慌てて追いかけて来ていたギフターズが空から降りてきて答える。

 

 

「あ、あの……海賊共でしたらカイドウ様の一撃で木っ端微塵に…」

 

恐る恐る答えたギフターズの方をギロリとカイドウは見やり、大声を出す。

 

 

なんだとォ…!?

あれぐれぇで死んじまったってのかぁ?

うおぉぉ~~ん!なんて弱ぇんだ!!

せっかくレオヴァの土産にしてやろうってのに…ヒッ…ク

 

泣き上戸になっているカイドウに部下は顔を強張らせながらも、この場をなんとかしようと口を開く。

 

 

「か、カイドウ様の一撃を耐えられるような奴いませんよ!

今回は諦めましょう、他にレオヴァ様への…っ!」

 

部下の諦めましょうと言う言葉を聞くと同時にカイドウの目が一気に吊り上がる。

 

 

「諦める……諦めるだとォ!?

このおれに!!他でもねぇレオヴァへの手土産を妥協しろってのかぁ!? 」

 

ドスンッ!という音と共に荒れ果てた砂浜に地割れが起きる。

部下は全身から冷や汗を流しながら、必死に次の言葉を探した。

 

 

「で、ででですがその……全員死んじまってますし…」

 

蚊の鳴く様な声で発せられた言葉を怒号が(さえぎ)る。

 

 

だからなんだってんだよ~~!!

ここにいねぇならよォ…うぃ~……新しいのを見つけりゃいい話だよなァ…そうだろォ!?!

 

「は、はいッ!!そ、その通りですぅ!」

 

わかったならここら一帯の情報をかき集めろォ!!

今すぐにだァ…!!!

 

カイドウの恐ろしい剣幕に半泣きになっていたギフターズは翼を生やし、空へと飛び立った。

すぐに船にいる仲間達にこの事を報告せねば、と一心不乱に翼を動かす姿がどんどんと砂浜から離れていく。

 

そんな部下を見送るでもなくカイドウは砂浜に腰を下ろし、酒瓶を呷った。

 

 

こいつらが弱いばっかりに!レオヴァの喜ぶ顔が見れねぇなんてあっていい筈がねぇ!!!

こんな簡単に死んじまうなんてよぉ~…弱ぇってのは罪だよなァ!?ウオオ~~~!!

 

怒り上戸からまた泣き上戸に移り変わったカイドウは部下達が情報を持って帰るまで、荒れ地と化した砂浜で息子お手製の酒を飲み続けた。

 

 

 

 

 

暫くが経ち、すっかり酔いが醒めたカイドウは情報を持ち帰ってきたギフターズに上機嫌に声をかける。

 

 

「そうか!この島の隣にある造船所に例の能力者がいるんだな?

ウォロロロロロロ~!よく突き止めたなァ!

 

「へい!ありがとうございます!

準備は出来てますので、いつでも造船所へ出港出来ますぜカイドウ様!」

 

「よォし…死んでなかったなら、さっさと捕まえに行くぞォ!」

 

 

今し方(いま がた)届いた吉報(きっぽう)に意気揚々と船に乗り込むカイドウの姿に部下達は大きな安堵のため息をつき、持ち場へと戻る。

 

飛べるギフターズ達を中心に動きの素早いギフターズ達の血眼の情報収集によりカイドウの機嫌が直り、船内に平和が戻って来たのだ。

 

ウェイターズ含む部下達と真打ちは今晩はギフターズを(いたわ)ってやろうと心に決め、各々の仕事に精を出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

北の海(ノースブルー)にある腕利きが数多くいると噂の造船所に十数人の男達が立ち寄っていた。

 

なんでもこの造船所のある島では百獣のナワバリである、ワノ国から来たと噂の親方が中心となり国や企業などの船造りを請け負っているという。

 

船の造形は勿論、頑丈さも申し分ない素晴らしい出来であり、他にも聞いたことのないような独創的な注文でも完璧に依頼者の希望を叶えると評判な素晴らしい造船所である。

……ただし、ここが百獣のナワバリであるということを除けばだが。

 

 

ここの造船所で船を作りたいと願う海賊は星の数ほど居れど、その望みが叶うことはまず無い。

 

 

しかし、ここに立ち寄った男達はリスクを犯してでも船を手に入れようとしていた。

 

海賊としての新しい旅立ちにおいて、頑丈かつ利便性のある船は必要不可欠。

何より命を預ける船を妥協するわけにはいかなかったのだ。

 

 

「おれ達が船を手に入れられる確率は79%だ。」

 

そして、男達は船長であるブロンドの髪の男のこの言葉を信じ、なんとか造船所に赴き船の注文を取り付けた。

 

あらゆる手を尽くして辿り着いた造船所にて、船のカタログからどれにするかを選び、大まかな造りはそのままに細かな外見や内部の作りを船大工に指示を出した。

 

完全に要望を伝え終え、料金も支払い終わった男達はあとは出来上がるまでの(とき)を待つのみであった。

 

 

だが順調に進んでいたのは昨晩までである。

今朝、造船所の隣の島に一番遭遇を避けたかった人物……百獣のカイドウが現れたというのだ。

 

男達は大いに狼狽えた。

海賊である自分たちがナワバリに入っていると知れれば大変な事になるのは目に見えている。

 

すぐにでも島から逃げ出すべきだと荷物をまとめ始めた男達を他所に、この海賊団の船長であるブロンドの髪の男は微動だにしなかった。

 

彼はいつもの様にカードを見つめ、呟くように話す。

 

 

「……今、行動を起こせば裏目に出る確率86%」

 

そんなこと言わずに早く逃げましょうと、急かす部下の言葉に首を横にふるブロンドの髪の男に周りの部下達は諦めた様にその場に留まるのだった。

 

 

 

 

 

あのやり取りから2時間後、造船所のある島の外れにて。

 

 

黒い頭巾に十字のネックレスを首から下げている男達はガタガタ震え、正気を失いかけていた。

目の前にいる大男と自分たちの絶望的なまでの力の差を本能的に感じ取ってしまったのだろう。

 

恐怖から落ち着きを失い混乱状態に陥っている部下達に、船長であるブロンドの髪の男が声をかける。

 

 

「……落ち着け、お前達。

狼狽えたところで現実は変わりはしない…

ここはおれが行く、お前達は乗ってきた船へ逃げろ。」

 

額に一筋の冷や汗を流しながらも冷静さを保つブロンドの髪の男を見て、正面で仁王立ちしている大男が興味を持った様にこちらを見下ろす。

 

押し潰されてしまうと錯覚する程の威圧感を放つ大男と、狼狽える部下達の間に立つブロンドの髪の男は無理やり自らの手の震えを押さえ込んだ。

そして部下を守るように半歩前へ出る。

 

ブロンドの髪の男が刀に手をかけるのと同時に、大男の棍棒が振るわれた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

造船所のある島の外れで、俺は致命傷を負った。

この男との戦闘では俺の持つ“ストック”など意味を為さないらしい。

一瞬飛びかけた意識を既の所(すんで ところ)で保ちながら、距離を取ろうと動き血を吐く。

 

 

「受けた傷を余所に移せる能力か…?

おれからすりゃあ闘いに死のリスクがねぇなんて退屈な能力だと思ったが……どうやら受け流せる傷の量には上限があるらしいなァ?

ウォロロロロロ~!

だが、てめぇの能力もそのくたばってたまるかって目も…悪くねぇ!

…ウチに入るってんなら、おれのナワバリで勝手に彷徨(うろつ)いてた事も全部水に流してやる。

見込みのある奴ァ、何人いてもいいからなァ…!!

てめぇもそこの部下共もな……選べ。」

 

 

こちらを見下ろしそう言い放った大男の前に、俺は為す術もなく片膝をついていた。

 

敵わない……まさに人間ではどうしようもない天災と表すのが的確だろう。

 

今朝の占いで引いたカードは “死神” だった。

カード “死神” は強制的な終わり消滅を意味する……まさに今の現状だ。

…だが、絶望ではない。

 

そう、カードにおいて悪いカード(・・・・・)と言うものは存在しない。

どんなカードだろうと、その占い結果を読み間違わずに行動する事が出来れば“道”は開かれるのだから。

 

 

そして、“死神” のカードの“終わり”には意味がある。

この“終わり”は新しい“出発”を迎える為の消滅なのだ。

……今日俺に死相は出ていない。

 

ならば、やるべき事はひとつ。

今までの俺を……俺のやって来たことを終らせる“覚悟”を持つことだ。

 

終らせる事を受け入れるのは難しいことだ。

体力的にも精神的にも強い疲労を伴うだろう。

だが、そんな事を言っている場合ではない。

俺の決断……“選択”には少なくない部下達の“”がかかっている。

最良の選択を選ぶことこそが、俺の責任であり使命…!

 

 

俺はボヤける視界の中、改めて深く膝を折り目の前の男を見上げて声を発した。

 

 

「……百獣の傘下に下りましょう。」

 

男は独特な笑い声を上げ、俺の入団を歓迎している様であった。

 

 

いい判断だ、歓迎するぜ!!

賢い奴はレオヴァが好むからなァ。

海賊歴は浅い様だが、てめぇはなかなか素質がある。

……なんだったか?レオヴァの良く使う言い方で……タナカラボタ…いや違ぇ…そうだ!掘り出し物だ!!ウオロロロロ!!!」

 

 

意識が朦朧としている俺の頭上で愉快そうに話す男の言葉が上手く頭に入って来ない。

どうやら出血が多いらしい。

 

……だが、生き延びられた……のだろう。

 

意識が暗転する寸前に、部下達の悲鳴のような呼び掛けが聞こえた気がした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

カイドウが上機嫌に笑っていると、目の前でブロンドの髪の男が倒れる。

部下と思わしき男達が悲痛な声を上げながら駆け寄って、抱き起こしていた。

 

その光景を見たカイドウはしまった、と言う様な顔をする。

 

せっかく見つけた新しい戦力兼息子への手土産が死にかけているのだ。

これは非常に不味い事態だ。

つい加減が分からず痛め付けてしまったが、死なれては困る。

 

さっさと船に連れ帰って手当てさせるか、と考えたカイドウは部下に囲まれているブロンドの髪の男をガシッと乱雑に掴んだ。

 

部下達はアァ…と情けない声を上げたが、カイドウの耳には届かない。

 

 

「中央の港に船がある、来たい奴は来い。」

 

部下達に目もくれずに、そう言い放つとカイドウは龍の姿になりその場を後にした。

 

どんどん空へ登って行く龍を部下達は唖然と見つめていたが、数秒後ハッとしたように走り出した。

 

 

「「「「「ほ、ホーキンス船長っ…!!」」」」」

 

 

 

 

 

百獣海賊団の船の上空に現れた龍をローは出迎えた。

 

能力者を見に行くと上機嫌で出掛けて行って2時間以上帰って来なかった理由でも聞こうかとローが口を開いた時だった。

 

ローの言葉よりも早く、人に戻ったカイドウが甲板に男をドサリと置いて告げたのだ。

 

 

「ロー、こいつを治しとけ!」

 

「は!? ちょ、カイドウさん誰だよコイツ!!」

 

突拍子もなく死にかけの男を渡されたローの疑問は(もっと)もだろう。

しかし、その混乱混じりの問い掛けにカイドウはニッと豪気な笑みを浮かべる。

 

 

「能力者だ、レオヴァへの土産にちょうど良いだろう!

ウオロロロロ……反応が楽しみだなァ!!

 

「いや、そういう意味で聞いたんじゃ……

…はぁ、カイドウさんもレオヴァさんも急に変なモン拾ってくるからな……」

 

見当違いな答えに呆れつつも、諦めたように謎の男の手当てを始めたローを見るとカイドウは満足げに目を細め、船内へと歩きだす。

 

今回の遠征の目的を全て終え、晴れ晴れとした面持ちのカイドウは船長室に入ると、新しい酒瓶の蓋を開けた。

 

ゆっくりと酒を口に含むとガツンとした辛口の強さと癖のない旨みが広がる感覚に、飲み進める手が早まる。

飲み飽きせず、(ひや)でも常温でも楽しめる酒にカイドウの口角が上がる。

 

なんでもレオヴァが言うには米と水、そして醸造方法にこだわり抜いた一品らしい。

 

 

『並行複発酵と呼ばれる独特の醸造方法を採用している。

味は勿論、父さんの満足いく度数になるように試行錯誤した結果なんだ。

デンプンの糖化とアルコール発酵の2つの工程を同時進行させて作られる複発酵酒にしたのも、飲みやすさと味を追及する上で……』

 

と、まるで呪文の様に次々と言葉を連ねるレオヴァを思い出し、カイドウは思わず笑みを溢す。

今も昔も変わらず純粋に自分を慕い、喜ばせようと全力で突き進む息子を見て悪い気はしない。

 

赤ん坊の頃からずっと慕ってくる愛息子への手土産を予定通り手に入れ、さらにはその手土産の思っていた以上の素質にカイドウの気分は上がるばかりであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

俺は近くに人の気配を感じて、重い目蓋を開いた。

ゆっくりと瞬きをして、視界に映ったのは見慣れぬ天井だ。

 

……あぁ、そうだった…負けたんだ、俺は。

 

言葉に出来ぬ感情を消化しようとして、人の気配を思い出す。

 

(おもむろ)に目線を横にずらすと、目付きの悪い帽子を深く被った男が居る。

その男は此方に気付くと気だるげに声を発した。

 

 

「……目が覚めたか。

お前、自分の現状をどれくらい理解できてる?」

 

帽子の男に抑揚のない声で言われ、俺は今の状況を整理した。

 

まず、百獣の傘下に下った事。

恐らく怪我を手当てされている事、そして腕に能力を使えなくする枷が付けられている事…………部下達が…見当たらないこと…

 

俺は感情を殺して声を出した。

 

 

「…おれは、百獣のカイドウに敗れ傘下に入った。

現状は、海楼石をはめられており、治療も施されている。

……抵抗する意思はない。」

 

あれだけの怪我を負ったにしては痛まない体を不思議に思っていると、帽子を被っている目付きの悪い男の眉間にシワが寄り、雰囲気が重々しいものに変わった。

 

 

「概ね理解出来てるらしいな。

……だが、1つ訂正だ。

百獣のカイドウ…じゃねぇ、“カイドウ様”か“カイドウ総督”だ。

ウチに入った以上、カイドウさんに対する非礼は“死”だ……覚えとけ。」

 

「……忠告、感謝する。」

 

素直に礼を述べると、帽子の男に漂っていた重々しい空気がすっと消え去る。

 

 

「…トラファルガー・ローだ。

お前が完治するまでは、おれが担当医になるから覚えろ。

カルテに名前を書く……名乗れ。」

 

「バジル…ホーキンスだ。」

 

答えた俺の言葉に何を返すでもなく、帽子の男は机に向き直るとペンを握った。

 

俺は沈黙が続く部屋で、一番重要なことを思考していた。

 

部下達はどうなったのだろうか…

殺されてはいない……筈だ。

あの時、俺も部下達にも死相は出ていなかった。

それに百獣のカイドウ…提督はわざわざ有象無象に止めを刺す男には見えなかった。

なにより傘下に下れと言って来た時、部下たちもその中に入っていた。

……だから、殺されていない筈だ…

 

 

俺は思案する。

部下たちの事を聞くことは許されるのか、と。

どこまでが俺に許されているのか……もし仮に部下達もここにいるとすれば、下手な真似をして怒りを買ってしまっては巻き込んでしまう可能性が高い。

慎重に……慎重に動かなくては…

 

どう出るべきか悩んでいると、俺の横たわるベッドと反対側にあるドアが勢い良く開かれた。

俺は突然のことに、体を固くする。

 

 

「キャプテ~~ン!!

カイドウ様が新人くんの様子はどう?って聞いてたよ!」

 

人語を話す真っ白な熊をつい、不躾に見てしまった。

だが、熊は俺の視線に気付く素振りもなく帽子の男に飛び付いている。

…恐らくあの熊は俺の部下と同じミンク族なのだろう。

 

 

「ベポ、病室では静かにしろって言ってるよな!?

…ったく……ほら、新しい奴だったら目も覚めてる。

カイドウさんがやったデカイ傷はほぼ回復してるし心配ねぇって伝え…」

 

抱きついている熊を押し返しながら答える帽子の男の言葉を遮るように、熊は声を上げた。

 

 

「あ、本当だ!

初めまして新人くん!おれベポって言うんだ~。

わからないことあったら、なんでも聞いてね!

そうだ!新人くんは名前何て言うの?」

 

捲し立てるように話す熊に俺は一瞬、呆気に取られる。

 

 

「……ホーキンス…バジル・ホーキンスだ。」

 

「バジル!?美味しそうな名前だね~。

あっ!そうそう!

ホーキンスくんの友だち…じゃないや、部下の人たちも心配してたよ!」

 

「っ……部下達も居るのか…?」

 

「うん、みんなカイドウ様に運ばれたホーキンスくんのこと追いかけて来たみたい。

今は一緒に荷積みしたり、船の掃除してるよ~。

そうだ、キャプテン!

ホーキンスくんの友…部下の人達連れてきてもいい?

ずっと心配してるんだ……具合もよくなったみたいだし面会してもいいでしょ?」

 

熊の提案は俺にとってこの上ないものだった。

部下達の安否や待遇を知る事、これより重要な事項は今の俺にはない。

帽子の男の顔を静かに見つめていると、熊に対して呆れたような声で告げた。

 

 

「……そいつらの仕事が終わったタイミングでなら、面会してもいい。」

 

「やった~!ありがとうキャプテン!

みんな喜ぶよ!」

 

「それよりベポ、早くカイドウさんに伝言を…」

 

「そ、そうだった!

じゃあ、キャプテンあとでね~!」

 

 

走り去って行った熊に内心感謝しながら、ベッドの上で俺はまた重くなり始めた目蓋を閉じた。

どうやら部下の無事を確認し少し気が緩んだらしい。

 

微睡み始めた俺に気付いたのか、帽子の男がベッドについているカーテンを閉めようとしていた。

 

 

「…体力回復にも睡眠は重要だ、寝てろ。

昼飯の時間になったら起こす。」

 

用件だけ伝えると、帽子の男はシャッとカーテンを閉めた。

俺は薄暗くなったベッドの上で、再び眠りについた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

俺たちはホーキンス船長が目覚めた事を知り、抱き合って喜んだ。

 

3日間も眠ったままだった……本当に不安だった。

俺たちを逃がそうと体を張って庇ってくれたホーキンス船長はもう、目覚めないんじゃないかと…

けど、ベポが言うにはもう問題ないらしい。

今日の仕事が終われば面会も許された…!

 

安堵に包まれながら、俺たちは面会時間まで一日中そわそわして過ごした。

 

 

 

 

待ちに待った面会。

3日ぶりに見たホーキンス船長は、思っていたよりも元気そうだった。

確かに少し痩せたようにも見えるが、あの時の腹の傷も綺麗に治っているようだし、食事も取らせてもらえてるみたいだ。

 

ホーキンス船長の無事を泣いて喜ぶ俺たちに、気を利かせてベポがロー様とか言う目付きの悪い人を連れて部屋から出てくれた。

 

俺たちは足手まといになった事、見ていることしか出来なかった事を謝った。

けど、そんな俺たちにホーキンス船長はいつものトーンで返してくれる。

 

 

「…構わない、お前たちが詫びる必要はない。

それよりも……」

 

珍しく言い淀むホーキンス船長に首を傾げつつも、俺たちは言葉を待つ。

少しの沈黙の後、言われた言葉に俺は固まった。

 

 

「……おれは百獣の傘下に下ったわけだが…お前たちはどうする。

望まぬのならば、おれが…何とかしよう。」

 

つまり、ホーキンス船長と共にこのまま百獣の傘下に入るのかどうかって事を聞きたいらしい。

 

俺は間髪をいれずに答えた。

どんな運命だろうとも最期までホーキンス船長と共に行きたい、と。

 

……それは周りの皆も同じだったようだ。

次々に船長に付いていくと答えた。

 

ホーキンス船長は目を少し見開くと、ほんの少し眉を下げて答えた。

 

 

「…もう、船長ではなくなるんだ……ホーキンス船長呼びは止せ。」

 

それはきっと遠回しな、付いてきて良いというホーキンス船長……いや、ホーキンス様なりの答えなんだろう。

 

俺たちは消灯時間だとロー様が来るまでこの3日間のことを話し続け、ホーキンス様はそれを静かに聞いてくれた。

 

これから、いかなる扱いを受けようとも俺は…俺たちはホーキンス様に付いていく。

 

路頭に迷っていた俺たちを救ってくれたのは間違いなくホーキンス様なのだ。

どんな場所だろうと、ホーキンス様の居る場所こそが俺たちの居場所なんだ。

 

冷たく見えるホーキンス様だが、本当は一番に部下の命を思ってくれる真面目な性格だと俺たちは知っているのだから。

 

 

 





前回もご感想にここすき一覧ありがとうございます!!
誤字報告も感謝です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

藁人形は百獣と共に

バジル・ホーキンス及び、その部下達が百獣海賊団の傘下に下ってから2週間と5日の時が経っていた。

慣れぬ場所で過ごす時間とはあっという間である。

 

百獣海賊団での掟、珍しい仕事、慣れぬ立場、新しい同僚達。

全てが一新された環境、普通の海賊であれば疲れきっているだろう状況だが、ホーキンスもその部下達も周りが思うよりも早く百獣海賊団に適応していた。

 

理由はおそらく、根の生真面目さだろう。

 

どんな仕事であれ、迅速かつ的確にホーキンスは片付けて行った。

もちろん、部下達もホーキンスの足は引っ張るまいと素早く仕事を終わらせている。

 

一種の軍隊の様な動きでホーキンスの指示通り動く姿に、感心したように他の百獣の部下たちが感嘆の声を上げたのも1度ではない。

 

 

そして、そんなホーキンスはワノ国へ戻る道すがら、幾つかの手柄を立てていた。

 

現れた海軍の軍艦共の一隻を元部下を連れ10名ほどの少数で短時間撃破した事や、酔って何処かへ消えたカイドウの居場所を占いにて言い当てたりなど、その功績は多岐に渡る。

 

見事、ホーキンスは戦闘だけでなく日常的な問題においても、その真価を発揮して見せたのだ。

 

百獣海賊団ではレオヴァの意向もあり、戦力以外の能力も大幅な追加点となりうる。

 

 

結果、カイドウ直々にホーキンスは“真打ち”と言う幹部の地位を預けられた。

…とてつもないスピード出世である。

 

ここ、百獣海賊団は実力主義だ。

その為ホーキンスの戦場での活躍や、日常的な活躍を見ていた他の百獣の船員は驚くことはなかった。

寧ろ、やっぱりな!といった顔で頷いている。

 

きっと誰よりもこの昇進に驚いていたのはホーキンス自身だろう。

 

たったの2週間ほどで幹部になれるなど、想像してすらいなかった。

 

勿論、ホーキンスは上を目指すつもりではあったのだ。

理由は幾つかあるがその中でも大半を占めていた理由は2つ。

まず1つ目は幹部になれば専属の部下(・・・・・)が持てると言うこと。

そして2つ目は自分が上に行けば元部下達の待遇も良くなり、少しは楽をさせてやれるだろうと言うことだ。

 

共に来ると言ってくれた部下達を早く自分専属にして、常に守れる範囲に入れてしまいたい。

あわよくば、尽くしてくれる部下の待遇も良くしてやりたい。

それがホーキンスの今一番の望みであった。

……が、その内の1つはあっさりと叶った。

 

 

あの任命の時。

周りの船員達から色々と声をかけられながら、ホーキンスはカイドウの下へ向かっていた。

 

 

『お!ホーキンスお前やっぱり昇格かよ!!』

 

『馬鹿野郎!ホーキンス“さま”って呼ばねぇとだろぉ?

ははは!けどカイドウ様から直接なんて贅沢なヤツだぜ~!』

 

『海軍の野郎共との戦い見てたから、おれはそろそろだなと思ってたけどな?』

 

『おいおい、そりゃワシだって思ってたわ!

ま!真打ちになっても頑張るんじゃぞホーキンス!…様!』

 

『……あぁ。』

 

そんな、わいわいと騒がしく見送ってくる男たちに一言のみ返し、船長室へ向かったホーキンスは洋式と和式の混ざった作りの大きな部屋の中心でどっしりと座椅子に構えるカイドウに告げられたのだ。

 

 

『おぉ、来たか…!

ローから話は聞いてるぜ。

海戦での戦績も、珍しい趣味の話もなァ。

ま、早ぇ話……お前に真打ちの称号をやろうって事だ。』

 

ホーキンスは珍しく酔っていないカイドウの言葉に深く礼を取り、言葉を紡いだ。

 

 

『ありがとうございます、総督……拝命いたします』

 

『おう、その調子でどんどん暴れてけ。

……そういや、お前部下がいたよなァ?』

 

突然部下の話を振られ、ホーキンスは思わず下げていた頭を上げた。

しかし、その動作を気にするでもなくカイドウはついでとばかりに告げた。

 

 

『真打ちになったんだ、専属の部下を付けてやる。

元々お前が連れてた奴らを専属にするかァ?

10人以上となると真打ちとしては、ちょっとばかし多い気もするが…まぁ、構わねぇ!

おれァ実力とやる気のある奴ァ嫌いじゃねぇ、好きに選べ。』

 

『っ……で、でしたら、総督の提案通りに。

おれと共に来た者達を部下にしたく存じます。』

 

『ウオロロロロ……よし、わかった。

他に欲しいモンはあるかァ?』

 

『いえ……既に身に余る褒美でございます、総督。』

 

『無欲な野郎だ。

……これで用件は済んだ、戻っていいぞ。』

 

『はい、失礼致します。』

 

朱色の瓢箪(ひょうたん)を手に取ったカイドウへ一礼し、ホーキンスは持ち場へと戻った。

 

そして、その日の夕方には配属が変更になり、元部下達は正式に専属の部下となった。

 

仕事内容も少し変わりウェイターズやギフターズの指示なども追加されたが、船長をやっていた彼にとっては苦ではなく、逆に嫌がらせやホーキンスの命令を聞かないなどの事態を懸念していたが、それも杞憂に終わった。

 

そして現在、任命から5日たった今も特に問題もなく、以前からの部下達と共にワノ国への道を進んでいた。

 

 

「ホーキンス様~!

ワノ国には温泉という文化が栄えてるらしいですよ!」

 

「あ、おれはレオヴァ様とか言う人が珍しい家具などを沢山持ってるって話聞きました!」

 

「ワノ国には動物占いと言うものもあると私は聞きました。」

 

「…そうか、少し楽しみではあるな。」

 

「「「そうですね、ホーキンス様!」」」

 

少しばかり呑気すぎる部下達の言葉だが、ホーキンスを思って聞き込みをしたことは分かっている為、咎めずに軽く返事をする。

 

ほぼ自然体に戻ったホーキンスに嬉しげに部下達は微笑んだ。

 

ワノ国に居る幹部達や百獣のNo.2でありカイドウの息子のことで不安もあるが、きっと乗り越えていけるだろう。

そう思いながら、ホーキンス達は到着までの日々を過ごした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ワノ国では、レオヴァが王として国務中は近衛隊が側仕(そばづか)えとして護衛につく決まりがある。

更に、百獣海賊団の総督補佐官として働いている間は側仕えとして真打ちや飛び六胞、近衛隊隊長がつくのが定例にもなっていた。

 

もちろん、どちらもレオヴァが決めた決まりではない。

ワノ国の決まりはヒョウ五郎が制定し、百獣海賊団の決まりはカイドウが始め、そのまま暗黙の了解となったのだ。

 

 

そして、その決まりによってホーキンスはここ数ヶ月間、百獣海賊団のNo.2と共に過ごす事となっていた。

 

だが、これは珍しい事である。

基本的には側仕えは日替わりであり、たまに少しの間同じ時もあるが、長くて2週間ほどだ。

それも遠征が少ないローやベポが主である。

 

ならば、なぜホーキンスが長く側仕えを任されているのか。

それは最近の百獣海賊団の内部事情にある。

 

 

以前から広げ続けていたナワバリの数が増えに増えた結果、治安維持や管理が大変になったのだ。

 

その為、レオヴァによって改革案や更なる島のテコ入れが発案された。

幹部クラスの者達は全員がその任務に就くこととなり、手が空いてるのが一部のナワバリ検定を持たぬ真打ちのみとなった。

 

そしてその真打ちの中で唯一、ホーキンスだけがレオヴァに丸め込まれる事なく休憩を取らせる事に成功した為、暫くの間側仕え専属としてキングに指名されたのだった。

 

 

だが、当初ホーキンスは気が気ではなかった。

 

なぜ百獣海賊団のNo.2の側仕え……謂わば護衛に自分が就かされるのか、下手を打っては部下共々首が飛ぶかもしれない……そんな緊張が胸を占めていた。

 

けれど今現在、数ヶ月も側仕えをこなしたホーキンスはそれが杞憂であったと思い知っていた。

 

 

レオヴァは穏やかで、どこまでも身内に甘い男だったのだ。

 

ホーキンスの部下が失態を演じた時も、占いの結果の為に()む無くとは言え無礼と思われる態度をとった時もレオヴァは罰を下すどころか、声すら荒らげなかった。

 

それどころかヘマを踏んだ部下の落ち込みようを気にかけて、茶を用意し慰め

更に占いに理解を見せて、ホーキンスに穏やかに話題をふったりもしていた。

その行動は彼らをおおいに驚かせたのだが、本人はそれが自然体である様であった。

 

よって、ホーキンスは大きな悩みを1つ、杞憂で終わらせる事に成功した訳である。

 

 

そして同時に、ホーキンスの中の大きな疑問も1つ解決したのだ。

 

その疑問、それは “何故、レオヴァが重宝されているのか” である。

 

カイドウとは違い、穏やかでおおらかな……言い換えれば海賊としては頼りなく見えるレオヴァが百獣海賊団において重宝される理由がホーキンスは理解出来なかった。

 

おおらかなことも穏やかなことも悪いことではないが、海賊を指揮する者としてはやはり頼りないだろう。

 

最初こそ、噂に聞いていたカイドウの息子だから地位を得ているという話が有力だろうと考えていたホーキンスだったが、すぐに違うと気付いた。

 

カイドウという男は徹底的に実力主義であったのだ。

息子だからと優遇するとは考えられなかった。

 

そんな中、ホーキンスが辿り着いた答えは…政策力と人望、である。

レオヴァの持つ知力と人柄からくる人気を気に入られ、重宝されているのだろう。

 

そう言う、答えに辿り着いたのだ。

 

事実、レオヴァの海賊とは思えぬような静かで穏やかな雰囲気はホーキンスにとっても嫌なものではなかった。

 

無関心ではないが深入りしすぎる訳でもない、そんな会話の距離は居心地が良く

仕事中や趣味の時間、レオヴァとの間に流れる沈黙も悪くなかった。

羽ペンが紙の上を滑る音も、器具が掠めた音も

何故かひどく穏やかで、心地よく感じたのだ。

 

レオヴァの側にいる間は、まるで時間がゆっくりと流れているようだ……そうホーキンスは感じた。

同時に、この雰囲気だからこそ好かれるのだろうとも思っていた。

 

海賊になった人間には感じることが難しい、暖かく穏やかな空気をレオヴァは発しているのだ。

 

例え、鬼のように強くなくとも

この人ならば重宝されるのも頷ける。

……そう思っていたのだ。

 

 

 

「……そ、う……思っていたんだが…な…ハァ…ッ」

 

無駄口を…叩いてる暇はないぞッ…ホーキンス!

 

痛む横腹を抱えながら呟いていたホーキンスの頭上に迫るトマホークを、ドレークが尻尾で払い除ける。

 

肩で息をするスレイマンの黄金に巻き取られる形でホーキンスは後方にさがり、それをドレークが恐竜の巨体を生かし庇いながら援護する。

 

 

「何をしてる…!

あれだけ…ハァ…油断するなと言っただろう。」

 

「わる、かった…フゥ…レオヴァさんに気を取られた…ゴホッゴホッ…」

 

「戦闘中のレオヴァ様に……っ、見惚れる気持ちはわかるが、死にたくなければ気を付けろ!」

 

「……ッガハ…いや…見惚れ、てはいないのだが」

 

血を吐きながら否定するホーキンスの言葉を遮るように、カイドウに吹っ飛ばされたドレークが真横の崖に激突する。

 

 

「グッ……ぅう…お前達……何を呑気に話してるんだ……」

 

ガラガラと崩れる崖の中から出てきたドレークに二人は申し訳なさそうに謝る。

 

 

「悪かった、ドレーク!

レオヴァ様の話をされたから、つい答えてしまっていた…」

 

「…すまない。

今の場面は…後退したおれ達が援護するべきだった。」

 

「……まったく…呑気がすぎるぞ、カイドウさんもいるんだ…このままでは3人仲良くベッド生活になると思え…」

 

ドレークの言葉に2人は真剣な表情で頷く。

 

だが、そんなヘトヘトになっている3人の下に無数の風の刃が考えられぬ速さで迫ってくる。

 

ドレークはいち早く気付くと獣人化して素早く避け、スレイマンは自分とホーキンスの前に何重にも黄金の障壁を作り出しなんとか耐えきった。

 

風の刃に気を取られていた3人の前には、一息つく暇もなく獣化しているレオヴァが帯電した状態で飛行している。

 

バチバチと音を鳴らしながらレオヴァが尾を振ると同時に、3人の体に激痛が走る。

 

声もなく悶える3人を頭上から見下ろし、レオヴァは追い討ちをかけるべく槍を作り始めた。

 

 

「なんだァ、立てねぇのか?

こりゃ終わっちまいそうだなァ…」

 

レオヴァの背後で酒を呷りながら、つまらなそうにカイドウがつぶやいた。

 

その声を背に、造り出した3本の槍をレオヴァが尾で(はた)くと目にも留まらぬ速さで槍が飛び出て行く。

 

 

「ッ…!!」

 

「…しまった、」

 

避けられぬと身構えたホーキンスとドレークだったが間一髪の所で地面に沈み、事なきを得た。

見上げると50センチほど上には槍先が突き出ている。

 

 

「すまん、スレイマン助かった。」

 

「あぁ……危なかった…礼を言う。」

 

「構わん、それより次の作戦だ。

暫くはこのまま地面の下を黄金に変えつつ、移動し策を練るとして……」

 

既のところで地中に黄金の空間を築き2人を助けたスレイマンは、冷静に次の出方を問う。

 

 

「……どちらにせよ、ここは地中。

長く空気は保たない…まぁ、カイドウさんとレオヴァさんが悠長に空気が絶えるまで待ってくれるとも思わんが…」

 

「ドレークの言う通りだ……やはりここは守りに徹するしかあるまい?

…おい、貴様もカードを見ていないで何か案を…!」

 

話し合いを繰り広げている中、カードを手に何かしているホーキンスをスレイマンが睨み付ける。

 

 

「防衛成功確率9%、進軍成功確率11%……奇襲奪還成功確率…35%

…おれは奇襲することを推そう。」

 

「………カードで決めるつもりか?

貴様、現状をわかっているのか!?遊んでる場合ではないんだ!

言っておくが、今回はカイドウ様もいる……下手な作戦をすれば機嫌を損ねて延長戦になり……大変な事になるぞ…」

 

「…スレイマンの言っていることは尤もだ。

ホーキンス、お前はまだ知らないかもしれないがレオヴァさんに奇襲は通じない……先の動きは全て見られてしまっているものとして動かなければ…」

 

2人の言葉をホーキンスが手を前にかざし止める。

 

 

「…おれも分かっている、レオヴァさんとカイドウさん相手に小細工が利かない事など……

だが、未来が見えるなら……見える未来を利用しよう。」

 

「……どういう意味だ?」

 

「レオヴァさんの力を逆手に取ると?

……そんなことが出来るのか…」

 

眉を顰める2人にホーキンスは案を告げた。

 

 

 

 

一方、地上ではレオヴァとカイドウが楽しげに地面を見ていた。

 

 

「ウォロロロロ…あの一瞬で地面に避難するとはなァ!

スレイマンの奴、なかなか機転が利くじゃねぇか!!」

 

「ふふふふ、おれもまさか地中に潜るとは思わなかった!

ドレークの2人を後退させる時の手際も、スレイマンのこの機転も評価点だなァ……」

 

「破壊力不足は否めねぇが、スレイマンの技はなかなか面白ぇ

ドレークもありゃもう少し死線をくぐりゃ化けるんじゃねぇか?」

 

人の形に戻り談笑しているが、カイドウもレオヴァもしっかりと足下に近づいている気配は察知していた。

 

 

「………父さん、後方4メートル後ろだ!」

 

「よォし、交代だレオヴァ!旗を守っとけェ…!俺が行く!!」

 

レオヴァの声と同時に地面がどんどん黄金へと変わり、何本もの黄金の柱が生成されていく。

 

スレイマン“達”に棍棒を振り下ろすカイドウを後目に、レオヴァは未来を見て……驚いた。

 

居るはずのない“4人目”の影にレオヴァは腰に下げている刀を抜いて、斬りかかる。

 

刀の交じり合う音が響くのとカイドウがレオヴァへ声をかけるのは同時だった。

 

 

レオヴァ、そっちにいやがるぞ…!!

 

カイドウの言葉が終ると同時にレオヴァは二撃目を見舞う。

しかし、それは人影を斬り倒すには至らない。

 

レオヴァの斬撃を二双の刃で受け止めたのは、黄金の柱の影に潜んでいた獣人化したドレークであった。

 

 

「ゥぐ……やはりレオヴァさんには読まれていたか!だがッ…!」

 

藁人形ッ(ストローマン)藁備手刀(わらびでとう)

 

ドレークと斬られた黄金に隠れて見えていなかったホーキンスが“旗”に向けて進撃する。

 

このままでは確実に“旗”を抜かれる…!

それに気付いたレオヴァはホーキンスに向き直そうとしたが、ドレークの邪魔が入り数秒切り替えが遅れた。

 

しかし、数秒の遅れはあってもレオヴァはすぐにドレークを吹き飛ばし、自分の射程範囲にホーキンスを捉えた。

すっと刀を構え鋭い斬撃を数発繰り出すと……驚いた顔をし、小さく笑った。

 

レオヴァの放った無数の斬撃はホーキンスに命中し、大きな音と砂埃を巻き上げさせた。

 

 

それを見ていたカイドウが攻撃の手を止める。

スレイマンは悔しげに眉を顰め、ドレークもその場に力尽きた様に膝をつく。

 

 

「ゼェッ……ゼェ…やはり、レオヴァ様は躱せぬか…」

 

「ハァ…ッ……惜しかった、が…な。」

 

「ふははは!!やるなァ…ホーキンス!

まさか、取られるとは思ってなかった…!」

 

スレイマン、ドレーク、レオヴァが声を発したのは同時であった。

 

レオヴァの言葉に驚いた様に2人がホーキンスを見る。

 

砂埃が晴れたそこにはレオヴァから受けた斬撃でバックりと開いた肩から溢れる血を、手で押さえ眉を顰めるホーキンスと、旗を掴んだ藁備手刀(わらびでとう)の姿があった。

 

2人は旗を取れていた事実に大きく目を見開き、そして嬉しげに笑う。

 

 

「あの状態で防御を捨てて旗を取っていたのか…!?

まさか、本当にカイドウさんとレオヴァさんから旗を取れるなんてッ……

 

やるではないか、ホーキンス!

あの状態から旗を取るとは見上げた根性だ!!

 

「…ッ…フゥ……運が、味方…した、ようだ……」

 

はしゃぐ2人に疲れきった顔をしたホーキンスが小さく途切れ途切れに答えた。

 

ゆらゆらと歩きながら旗をレオヴァに差し出すと、限界だったのかふらっと倒れ込んだ。

そのまま気を失ったホーキンスを危なげなく抱き止め、レオヴァは笑う。

 

 

「“見ていた”ことが裏目に出て気付くのが遅れるとはなァ…!

……ホーキンスがあれほど大胆に仕掛けてくるのも想定外だった。」

 

「ウォロロロロ……スレイマンが黄金で人影を作ってたのもレオヴァみてぇな奇策だった。

やるじゃねぇか、てめぇら!

旗も取れたんだ、褒美は何がいいか考えとけ…!」

 

「父さんの言う通りだな。

ドレークの反応速度もタフさも想定以上だった……任務を3人組でやらせるのも良さそうか…

……よし、今日はお開きとしよう。2人はこのままおれと医務室へ行くぞ。

父さんは風呂場を使える様に手配してあるから使ってくれ、あとで部屋に酒を持って行くよ。」

 

「「はい…!」」

 

「そりゃあいい!

さっさと手当てさせて戻って来い。」

 

 

カイドウが龍になり空に消えて行くのを見送ると、気を失っているホーキンスを抱き上げたままレオヴァが歩き出す。

ドレークもスレイマンに肩を貸し、足を引きずりながら付いて行った。

 

始めた頃は真上にあったはずの太陽はすっかり傾いていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ゆっくりと目蓋をあけると、そこは医務室の天井だった。

ホーキンスは疲労から石の様に重い体を起こし、ベッドの脇にある水へ手を伸ばす。

 

 

「目が覚めたのか、ホーキンス。」

 

「……ドレークか、ここで何をしている。」

 

水を飲み終え、コップを脇へ置きながらホーキンスは入り口から声をかけてきたドレークへ目線をやる。

ドレークはベッドに歩みよると、側の椅子に腰かけた。

 

 

「目が覚めているか様子を見に来た。

それと、カイドウさんからの伝言もある。」

 

「カイドウさんからの……内容は。」

 

「いい組手だった。褒美を考えとけ…だ、そうだ。

……問題はないか?」

 

「なるほど……褒美を、か。

体に異常はない、おれの担当はトラファルガーだったからな。」

 

「…もう痛まないか、と言う意味だったんだが……

まぁ、トラファルガーが手当てしたなら愚問だったか。」

 

小さく笑うドレークを横目に、ホーキンスはレオヴァに斬られた肩に触れる。

数時間前まで大きく裂けていたはずだったのだが、今やすっかり綺麗に塞がっている。

 

 

本当に百獣海賊団は医療技術が高い。

病気だけでなく怪我も綺麗に治せると知った時に、とても驚いたのが懐かしく感じるな

……と、思い耽っていたホーキンスにドレークが何かの袋を手渡した。

 

 

「……なんだ、これは?」

 

「レオヴァさんからだ。

もしかしたらホーキンスが気に入るかもしれないから、と。」

 

ドレークの目線に促されるまま、袋をあける。

中にはよく分からない物が幾つかとカードが入っていた。

 

“ 温泉ボム、船キャンドルセット

これで少しでも組手の疲れを癒して欲しい。

最後の奇策と根性には本当に驚いた、次も楽しみにしている ”

と、カードには書いてある。

 

 

「……出来れば、もう次は勘弁願いたいものだ…」

 

げっそりとした表情で呟いたホーキンスの言葉にドレークは苦笑いのみで返す。

 

少しの沈黙の後、ホーキンスは袋の中から丸いものを取り出し、首をかしげた。

 

 

「それにしても…温泉ボムに船キャンドル?

聞いたことがないが……何に使うんだ…」

 

思わず溢れたホーキンスの言葉に、ドレークは楽しげに笑う。

 

 

「フッ…やはり初見はそう言う反応になるか!」

 

「……お前は知っているのか?」

 

「あぁ、それはレオヴァさんが作った物なんだが。

温泉ボムは浴槽にいれると、湯がそのボム特有の色や匂いになるんだ。

しかも、血流をよくする効果もあって疲労回復に良い。

船キャンドルは浴槽で使う蝋燭で

浮かぶ作りになっていて、香り付きの物から無臭の物まであってリラックス効果が期待できる。」

 

意気揚々と説明を始めたドレークの言葉を聞きながら、ホーキンスは手に取っていた温泉ボムをまじまじと見つめる。

丸いそれは、深い緑と鮮やかな青い色をしていた。

 

 

「随分と、詳しいんだなドレーク。」

 

「おれも貰った事があってな。

その時のレオヴァさんからの受け売りだ。

……風呂が楽しくなるのは保証しよう、おれ自身の体験だ。」

 

「そうか、今晩にでも使わせてもらうとしよう。」

 

「あぁ、レオヴァさんも喜ぶ!

そうだ…気に入ったら言ってくれ、風呂関係の物を売ってる店を知ってるんだ。」

 

「…分かった。」

 

「っと、すまない……長居してしまった。

用は済んだし、おれは戻るとしよう。

……組手での作戦も最後の動きも良かった。

旗を取れたのはホーキンスのおかげだ、ありがとう……では。」

 

言うだけ言うと足早に去って行ったドレークの背をきょとんとホーキンスは見つめていたが、ボソリと呟く。

 

「……旗を取れたのは、おれのおかげ…だけではないだろう。」

 

味わった事がないような感覚にホーキンスはむず痒さを感じながら、ベッドから立ち上がった。

 

まだ怠さを感じるが、痛みはない。

ドレークから手渡された袋を持つと、部屋に戻る事を告げにトラファルガーの下へと歩き出したのだった。

 

 

 




ー後書きー

私の中でホーキンスは自分の部下は大切にしてるイメージなので、それを元に書いてます!
原作(漫画)では“自分の部下”をライフにしてるっぽい描写ないですし(百獣の部下やワノ国の人間はしてた気がしますが…)
アニメや映画版だと部下もライフにする非情な人になってる時もあり…少し悲しい
私はホーキンスは身内は大切にしてるに一票!!

いつもご感想やコメント、誤字報告にここすき一覧ありがとうございます!!

ー補足ー
レオヴァ今回の組手で刀を使用。
カイドウさんも普段とは違う棍棒を使用

ホーキンスの呼び方の変化
カイドウ:総督→カイドウさん
レオヴァ:総督補佐殿→レオヴァさん


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

養蜂箱作り

目の前でニコニコと楽しげに質問を繰り返すレオヴァにホーキンスは押され気味であった。

 

 

「ではその78枚のカードを使って占っているのか……

更にカードは大まかに大アルカナと小アルカナに分かれていると……成る程、ずいぶんと奥深い…

おれの知っている動物占いとは複雑さが桁違いだ…覚えるのも一苦労だったろう?」

 

「いえ、おれにとっては体に染み付いている常識なので、大変に思ったことはなかったのですが…

確かに、レオヴァさんの言う通り慣れぬ者には少々複雑かと。

……大アルカナのみで占うことも可能ではありますが。」

 

「大アルカナのみでも占えるのか?

興味がある、ぜひ教えて欲しい!」

 

「えぇ、構いません……ではまず、カードの柄は覚えていますか?」

 

「あぁ、カードの絵も名前も全て記憶した。」

 

「…! もう、覚えたのですか…?」

 

この短時間で覚えたと言われホーキンスは目を見開いた。

直属の部下達でさえカードについては曖昧だというのに、この雑談の合間に覚えたと言うのだ。 

驚くのも仕方のない事だろう。

 

目を丸くしたホーキンスにレオヴァは笑いかけながら、数枚のカードの名と絵の特徴を答えて見せた。

次にホーキンスが絵の特徴を言い、名を聞いてもレオヴァは難なく答えて見せる。

 

本当に全て覚えたのか…と感心しているとレオヴァは笑顔を絶やさず言葉を続ける。

 

 

「ホーキンスの話は初めて聞くものだったからな。

つい聞き入ってしまって、カードの名も覚えてしまった。

だが、本当にその占いも興味深い…!

どういう歴史なのか……そのカードの絵の起源、占いの出来た経緯…ホーキンスの能力との相互性もぜひ知りたい、他にも……」

 

「レ、レオヴァさん……」

 

瞳をキラキラさせながら矢継ぎ早に質問を繰り広げるレオヴァにホーキンスは動揺が隠せない。

 

この人はこんなにもテンションが高い人物だっただろうか…?

とホーキンスは困惑する。

 

少なくともホーキンスが知っているレオヴァは冷静かつ穏やかで、この百獣の中では抜きん出て静かな…奥ゆかしい人物であると記憶している……組手中は例外ではあるが…

 

兎に角、今まで一度も声を荒げる姿など見たことがなく、いつでも穏やかでゆっくりハッキリと言葉を紡ぐ人物だった。

……が、目の前では普段よりも幾分幼くみえる笑顔を整った顔に浮かべながら、間髪いれる隙もない早さで言葉を紡いでいる。

 

生き生きした表情でホーキンスを真っ直ぐ見据え楽しげに話を広げるレオヴァに、どう対応するべきかと、頭を抱えそうになっているホーキンスの側にある(ふすま)が突然音を立てて勢いよく開かれた。

 

 

レオヴァさん、準備できたぜ!!

 

牙が特徴的な大男が、人好きのする笑顔を携えてドスドスと音を立てながら中へ入って来る。

 

 

「ササキ、わざわざ呼びに来てくれたのか?

ありがとう、では行くとしよう。

…すまないホーキンス、話の途中だったが……準備は問題ないか?」

 

「えぇ、問題なく。

すぐにでも、出られますが。」

 

「よし、んじゃあ行こうぜ。

ドレーク達ももう船で待ってる。

レオヴァさんいねぇと、うるティが煩くてしょうがねぇよ。」

 

 

レオヴァが立ち上がり、ホーキンスは質問攻めから解放されたことにほっと息を吐き、3人は部屋から出る。

 

去り際にホーキンスは後ろ手で襖を閉め、レオヴァの背へ続いた。

 

 

 

今回の遠征、実はホーキンスは少し気を張ってしまっていた。

それはレオヴァに命じられた内容が大きな理由であった。

 

その理由とは

“今回の遠征では、ライフのストックを使ってはならない”

と言うものだ。

 

レオヴァ曰く。

『ホーキンス、お前は少しその能力に頼り過ぎている様に思う。

この前の検証で、ストックした人間の欠損部位は反映されず、自身がダメージを負うと言う結果が出ただろう?

ストックした人間が知らぬ間にそうなっていて、重要な場面で自身に大きなダメージを負わせてしまう可能性は高い。

だからこそ見聞色を鍛え、臨機応変に避ける避けないを選べる戦法をおれは勧めたい。

他にも藁人形(ストローマン)状態の新たな可能性の模索も悪くないとおれは考えている。

藁備手刀(わらびでとう)との親和性についても……』

ということらしかった。

 

 

正直、レオヴァの発想はホーキンスの思考にはないものばかりである。

 

レオヴァから言われ、検証を行うまで足が欠損しているストックの場合や腕が欠損しているストックの場合など、どうダメージが反映されるかを深く考えた事はなかった。

後からストックした人間が欠損状態になった場合もそうだ。

ストックした人間のことなど、ろくに考えた事などなかったのだ。

 

だがどうだ?

実際、検証してみれば欠損部位へのダメージはストックではなく自身が負う仕組みになっているではないか。

 

その事実はホーキンスにとって目から鱗であった。

それこそレオヴァの言った

『己の能力は自身が一番理解しているべきだ。

ありとあらゆる可能性を思考し、検証する。

そうすることで弱点や強みを理解し、最大限実力を発揮出来るようになると、おれは考えている。』

という言葉への信憑性が増したようにホーキンスは感じたのだ。

 

 

本音を言うのならば、最初こそ何故おれの戦闘スタイルに口出しされなければならないのか…と渋い思いがあったのは否めない。

 

確かにレオヴァは強いが、それとこれは別であり、戦闘スタイルが全く違うレオヴァの意見が何の役に立つのだろうか?

そう言う思いが強かった。

…が、検証を(おこな)い、その結果を含めた改革案を全て聞いた今はホーキンスにとっても納得のいくものになっていた。

 

だから、今回のレオヴァの出した戦闘において不利とも言える条件に、自分の更なる成長の為になるならばと、首を縦に振ったのだ。

 

 

この遠征までの間ドレークやローと共に、レオヴァ相手に幾度となく組手を繰り返した。

今回の遠征でも上手くやれる筈だ。

そうホーキンスは自身に言い聞かせ、船へと歩みを進めたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

はぁ~~!?弱すぎなんだよ!

せっかくぺーたんとレオヴァ様に褒めて貰おうと思ったのに、これじゃ褒めて貰えねぇだろうがッ…!」

 

気を失った男をゲシゲシと踏みつけながら叫ぶうるティに待機場所に居るページワンが頭を抱える。

 

 

「はぁ…なにやってんだよ姉貴……

勝負ついた相手に追い討ちしてねぇで戻って来いって!」

 

戻って来い(・・・・・)だとォ!?

お疲れ様おねぇちゃんって言え~!!!」

 

「ッ!…オイまじでやめろって!!」

 

「チッ、本当に騒がしいガキ共だぜ。」

 

「誰がガキだ、誰が!」

 

「フーズ・フーてめぇ聞こえてっからなァ!?」

 

飛び付いてきたうるティに絡まれながら叫ぶページワンの側にいたフーズ・フーが口をへの字に曲げる。

 

 

「ふふっ…流石だ、うるティ。

3分もかけずに倒すとはな、また腕を上げたな。」

 

「えへへへ~…あんな奴、相手にもならないでごんす♡

レオヴァ様もっと褒めて~!!」

 

「うげっ…ちょ、姉貴…く、首絞まってるっ……」

 

ページワンを捕まえたままレオヴァに満面の笑みで飛び付くうるティをドレークが咎める。

 

 

「レオヴァさんが困るだろう!

それと苦しそうだからページワンを放してやれ。」

 

ア"ァ"?なんだよドレークゥ!

なんで私がお前に指図されなきゃなんねぇんだァ!!」

 

「あぁ、もう!

ドレークに絡むなよ姉貴!」

 

ぺーたんは黙ってろ!!

 

そんな、わいわいぎゃいぎゃいと騒ぐレオヴァと一行の周りに居る海賊達が、少しずつざわめき始めていた。

 

 

「……お、おい、負けちまったぞ…」

 

「どうなるんだ?おれらの旗を取られちまうのか?」

 

「も、もう一回初めからやりゃあ!」

 

「くそっ……なんだってあんな奴らに」

 

周囲にどよめきが広がって行く。

そんな動揺が隠せない男達の間にレオヴァの声が響いた。

 

 

「これで“デービーバックファイト”の結果は出たな。

……条件通りこの島、海賊島の元締めの地位を渡して貰おうか。」

 

男達の動揺が収まらぬ間に告げられた言葉に、元締めを務めていた大海賊団の船長の顔が歪む。

 

ギリッと歯を食い縛る音が聞こえたかと思うと、ゆっくり男は口を開き宣言する。

 

 

「………わかった、敗けは敗けだ…

今、この瞬間……レオヴァに元締めの地位を渡す!

 

「あぁ、確かに。

元締めの地位を譲り受けよう。」

 

島で一番大きく豪華な城と呼べる建物に、シンボルの如く飾ってあった海賊旗が下ろされる。

 

大海賊団の船長は下ろされたそれを悔しげな顔で引ったくる様に受けとると、新しく掲げられた海賊旗を睨み付け、叫んだ。

 

 

野郎共ぉ!!ここにいる百獣の馬鹿どもを潰して、またおれたちの島に戻すぞぉお~!!

テメェらは、デービーバックファイトでナワバリを奪ったが、おれたちゃ力尽くで奪わせて貰うぜ!!

…泣き言は聞かねぇ!これが海賊のやり方だ若造共ぉ!!!」

 

観客として周りにいた海賊達が一斉に武器を取り出す。

大海賊団の船長は勝ち誇った笑みを浮かべ、レオヴァ達を見下ろした。

 

 

一方、そんな中であってもレオヴァ達は焦る様子もなく言葉を交わしている。

 

 

「っとに、大人しく渡したかと思えば…これだもんなァ?

酒もゆっくり飲んでらんねぇよ。」

 

「周りの者たちが囲む様に動き始めた時点で、薄々こうなるとは思っていたがな…

あとササキ、任務中に酒を飲むな。」

 

「まぁ、どちらにせよ歯向かう奴は全員殺っちまえばいいだけの話だ。

三下共なんざ、相手にもならねぇよ。」

 

「なにコイツら!?弱いクセに生意気でごんす!!

行くぞ~、ぺーたん!!皆殺しだァ…!!」

 

「姉貴……その“ごんす”いつまで使うんだよ…

あと、レオヴァ様から指示ねぇのに勝手に殺すなよ!?」

 

「奴らの敗北確率99%、強行突破を試みる確率は95%だった……分かりきっていた当然の結果だ、驚きなどない。

任務通り、処理するだけのこと。」

 

「ふふふっ、海賊らしくていいじゃないか。

父さんから話でしか聞いた事がなかったデービーバックファイトを経験出来たのは良かった。

ドーナツレース?とか言うのも楽しかったしなァ。

たまには戦闘ではない形で勝敗を決めるのも面白い!」

 

「ほんとにレオヴァさんは楽しんでたよなァ…

海に沈みかけた時は流石に肝を冷やしたけどよ。」

 

「沈みかけたのはササキのせいだろう!

あれだけ樽船の上で動くなと言ったのに…

まぁ、レオヴァさんが楽しかったのなら良いんだが。」

 

「レオヴァ様がはしゃいでるの私初めてみたかも!

私なら沈まなかったし、レオヴァ様とぺーたんとドーナツレース出たかった~!!」

 

「あ、姉貴!失礼な言い方すんなって!!

つーか、あれは確かにササキのせいで重量オーバーしてたのが原因っぽいよな…」

 

う"っ……いや、重量もドレークがいなきゃギリギリセーフだったかもだろ!?

てか、ドーナツレース勝ったんだから細けぇこと言うな!!

 

「「勝てたのレオヴァさんのおかげだろ」」

 

「レオヴァ様いなきゃ沈んでたよなぁ…」

 

「…てめぇら……クソっ、二度とドーナツレースはやんねぇからな……」

 

 

いつまでも此方を無視して話し続けるレオヴァ達の様子に、堪えきれぬとばかりに大海賊団の船長が叫ぶ。

 

 

もういい!!降伏すりゃ見逃してやろうとも思ってたが、容赦しねぇ!

行くぞ、野郎共ぉ!!血祭りに上げてやれぇ!!!

 

「「「「「うおぉおお~!!!」」」」」

 

 

数千はいる海賊達が雪崩(なだれ)れ込んでくる姿を横目に捉えたレオヴァにより、号令がかかる。

 

 

「皆、樽船でのササキをからかうのはそこまでだ。

……今回は武力行使で構わない、沈静化させるぞ。」

 

「了解だ、レオヴァさん」

 

「う"~…レオヴァさんたまに意地悪ぃよな…

ま、さっさとコイツら片付けて酒だ、酒~!!」

 

「承知した……新しい藁備手刀の応用の役に立ってもらうとしよう。」

 

「私に任せるナリ~!行っくぞ~ぺーたん!

オラァ!!テメェらド(たま)カチ割れろォ…!!

 

「うお!?姉貴、突っ走んなって!」

 

「…チッ…勝手に前線に出やがって、手のかかるガキ共だ。

ここはレオヴァさんが出るまでもねぇ。

アンタはそこら辺で見物でもしててくれよ。」

 

「そうか?

なら、言葉に甘えて…フーズ・フー達に任せる。」

 

 

(ソル)の様な動きで消えて行ったフーズ・フーを見送り、レオヴァはゆったりとした所作でソファーに腰掛けた。

 

海賊達がうるティによって宙を舞う広場を見て、クスりと笑いつつレオヴァはホーキンスの動きを観察し、藁備手刀と最近つかみ始めた見聞色を上手く使い、立ち回っているホーキンスの姿に満足げに頬を緩める。

 

今回も問題なさそうだと、一息つきながら電伝虫(でんでんむし)を取り出し、船へ連絡を取る。

 

 

「……こちらスレイマン。」

 

「おれだ、浜辺は変わりないか?」

 

「っ…レオヴァ様…!

えぇ!今朝となんら変わりなく。

そちらで何か問題でも…?」

 

「なら良かった。

こちらはちょうど戦闘が始まった所でな……平和的解決は望めなさそうだ、非常に残念(・・・・・)だが致し方ない。

いつもの様に黄金で島を檻にしてくれ。」

 

「了解した、任せてくれレオヴァ様!」

 

「あぁ、いつも重労働ばかり頼んでしまって悪いな…。

……誰一人として許可なく島から出させないでくれ。」

 

「無論!何人たりともレオヴァ様の許可なしに島からは出させはしない!!」

 

「あぁ、スレイマン。頼りにしている…任せたぞ。」

 

「はい…!」

 

 

重要任務を任されたことに歓喜に声を震わせるスレイマンの返事を聞き終えると、ガチャリと音を立てて切れた電伝虫を懐に仕舞い、レオヴァは広場を再び見下ろした。

 

 

「…皆が優秀すぎると、やることがない……贅沢な悩みだ。」

 

言葉とは裏腹にとても嬉しげな声色は、血飛沫(ちしぶき)が飛び交う晴れ渡った空に消えて行った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

先ほどまで叫び声と喧騒で溢れかえっていた広場はすっかり静かになっている。

 

 

レオヴァ様~~!!

このウルトラ馬鹿野郎どうするでごんすぅ~?

 

豪華な服に身を包んでいた船長だった男は見る影もなく、気を失った状態でうるティにズルズルと引きずられている。

 

自分よりも屈強そうな大男を引きずりながらも、笑顔でうるティはレオヴァの下へと軽やかに駆け寄っていく。

 

 

「桀で見せしめ?さらし首?

レオヴァ様が決めたら私が殺るナリ~!」

 

「はしゃぐのは勝手だが、レオヴァさんにその汚ねぇのを近付けんじゃねぇよクソガキ。」

 

「ア"ァ"…?」

 

キャッキャとはしゃいでいたうるティにフーズ・フーが吐き捨てる様に言い放ち、二人が睨み合う。

 

ページワンは慌てて姉を止めに入り、ホーキンスは呆れたように距離を取った。

 

「あ~も~!姉貴!!

フーズ・フーよりそいつの処理が先だろ!」

 

「……無為なやり取りだ。」

 

「終わったぜレオヴァさん!

島の奴らも納得させたし宴にしようぜ?

またレオヴァさんの作ったアスパラベーコンとかいうの食いてぇ!」

 

「ササキお前、またレオヴァさんにツマミを作らせる気か!?

コック達がいるんだ、そっちに頼め!

…あぁ、それとうるティとフーズ・フーも喧嘩はあとだ。

先にやるべき事をだな…」

 

はぁ~?ドレークてめぇ指図すんな!!

…うぇ~んぺーた~ん!ドレークがうざい~!!私かわいそう~!」

 

「いちいち仕切るのが好きな野郎だな、ドレーク。

言われずともわかってる……ムカつく野郎だ。」

 

そんなピリピリし出した3人を見てレオヴァは笑う。

 

 

「ふふっ…仲が良いのはおれとしても嬉しいんだが、じゃれあいは今度にしてくれ。

せっかくの新しいナワバリが駄目になるだろう?」

 

「全ッ然仲良くないからぁ!!」

 

「姉貴!?レオヴァ様に噛みつくなよ!!」

 

ビシッとレオヴァを指差すうるティにあたふたするページワン。

そんな2人を見てレオヴァは微笑むと、切り替えるように話を続ける。

 

 

「兎に角、様々な理由(・・・・・)から欲しかったこの島が手に入ったことは大きい。

ドレーク、フーズ・フー、ササキ、うるティ、ページワン、ホーキンス…皆、良くやってくれた。

今から2日ほど滞在し、調整が終わり次第ワノ国へ戻る。

……ドレーク、お前は出港後もスレイマンと暫くは島に残り微調整を頼む。」

 

了解したと頷くドレークを確認し、レオヴァも軽く頷く。

 

 

「では、船へ戻ろう。

ササキの提案通り宴にしようか、珍しい種類の美味い酒もある。」

 

レオヴァの言葉にフーズ・フーとササキは揃って口角を上げる。

 

 

「はははっ!流石レオヴァさんは話がわかるぜ!!」

 

「レオヴァさんの言う美味い酒に外れはねぇからなァ……今晩の酒は期待できそうだ。」

 

「私スイーツ食べた~い!お腹ぺこぺこ~!

ぺーたん、一緒に食べようっ!」

 

「はいはい…わかってるって

……おれは甘いもんよりナチョス食いてぇのに…

 

「…大丈夫だぞ、ページワン。

ナチョスも用意させてある。

……あとで持って行くからうるティとケーキでも食べてやっててくれ。」

 

「レオヴァ様…!」

 

 

レオヴァがコソッと耳打ちをすると落ち込んでいたページワンはキラキラと目を輝かせ、感動したようにレオヴァの名を呼んだ。

その姿を見て小さく笑い、ページワンの頭を帽子の上から軽くポンとたたくと、レオヴァは船に戻るべく踵を返した。

 

そんなレオヴァの後ろをドレーク達は各々言葉を交わしながら付いて行くのだった。

 

 

 

 




ー後書き&補足ー
引き続きたくさんのご感想、ここ好き一覧などありがとうございます!
度々読み返してはやる気に変換させて頂いております!!
誤字報告も感謝です!
誤字脱字の見逃し多いので助かります…m(__)m

・補足…?
スレイマン:港の船にて待機&空船の護衛。
乱闘勃発後は島を包囲し、海賊達の拘束に努めた。
なんやかんや一番能力フル稼動で動き回って大変だった人。

ドレーク:口には出さないがドーナツレースにレオヴァと参加したのはイベントの様で楽しい!と内心はしゃいでいた。 
帰ったら手帳に書こうと、コッソリわくわくしてる。

フーズ:乱闘開始直後など、なんやかんやうるぺーの面倒を見てくれている最年長。
取り零しないように立ち回れるし雑魚は自分で処理するなど、しっかりレオヴァの顔を立てる気の利く出来る人。

ササキ:ドーナツレースで樽の船を沈没させかけた張本人。
レオヴァとドレークとわちゃわちゃするの楽しくてはしゃいでたら重さも相まって沈みかけた。
帰って久々に飲もう!と狂死郎を誘ったらドレークから話を聞いたと、船の件でからかわれた。

うる:久々のぺーとレオヴァとの遠征でめちゃめちゃ張り切った。
最終種目のコンバットにて相手を瞬殺し、レオヴァに褒められてホクホクである。 
任務後はぺーとスイーツ食べまくったし、ぺーのナチョスも奪って食べた。

ぺー:デービーバックファイト祭りみたいで楽しいな~と思っていた。
今回も例にもれず姉に振り回される。挙げ句にナチョスも奪われ踏んだり蹴ったりである。
(その後、コッソリとレオヴァが新しいナチョスを渡してぺーを慰めた)

ホー:今回はストックを消費せず任務完了した。
任務後、捕虜となった海賊達をレオヴァからのススめでストックにした為、減っていた分を取り戻した。
(百獣やワノ国の人間はストックにする事を禁じられている&ホーキンスは一般人はストックにしないのでストックが減っていた)

レオヴァ:父から話に聞いていたデービーバックファイトが出来た&欲しかったハチノスを手に入れられてご満悦。
帰ってからジャックに土産話をルンルンで話していた。

ジャック:レオヴァから話を聞いて行きたかったと悔しがっている所をキングとクイーンに暫くの間いじられた。

ロー:ドレークから散々自慢話をされてキレた。
ワーカーホリック気味でレオヴァに心配されている。

カイドウ:レオヴァが楽しそうに話すのでニッコリ
イベントが好きならデスゲームでも作るか…と斜め上な事を考えていたがクイーンにやんわりと止められた。

クイーン:面白そうだし俺も行けば良かったぜ、とレオヴァに溢す
ササキが船を沈めかけた話を聞いて笑い転げた。(自分のことは棚に上げる系)

キング:ハチノスを獲ってきたと軽く報告されたことに遠い目をしたが、レオヴァ坊っちゃんだしな…と諦め顔になる。
その後酔ったカイドウに延々と息子自慢された。もちろんクイーンも巻き込んだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

龍の子は鯉と偽る

百獣海賊団が海賊島ハチノスを獲ったと言う話は瞬く間に広がっていた。

 

ある者は

「チッ…また百獣かよ!!

どんどん侵略して来やがってよぉ…やりにくいったらありゃしねぇ!」

と酒場で愚痴を溢し

 

ある者は

「おいおい!!こりゃ海賊島に行きゃあ百獣に入れちまうんじゃねぇか…?

傘下でもかまわねぇ!乗れる波にゃ乗らねぇとなぁ!?」

と意気揚々と海賊島ハチノスを目指し

 

またある者は

「ふざけるな…!海軍の奴らは何をしてる!?

これではまた海賊共が勢い付いてしまうではないか!!」

と豪邸で部下相手に声を荒げている。

 

 

だが、広まった噂はこれだけではなかった。

海賊達の溜まり場となっているハチノスを百獣が獲ったことの他に、謎多い人物についても話が上がっていた。

 

その人物こそ、百獣海賊団総督補佐官レオヴァである。

 

 

百獣海賊団大幹部という並々ならぬ“地位”や、最強生物と名高いあの男の“血筋”であるという強大な肩書きとは違い、当の本人は大きな事件や話題などまったく無いに等しい平凡な人物である。

ではそんな彼が何故、様々な人々の興味を集めたのか。

 

もとより、あのカイドウの息子という事も相まって、親の七光りやら病弱だなどと言う噂で少しの間話題には上がってはいたのだ。

だが、特に話題性の欠片もない“レオヴァ”という人物に人々はすぐに飽きてしまい、触れる者も減っていた。

 

しかし、今回のハチノス攻略において指揮を取った人物こそカイドウの息子レオヴァであると、そのハチノスから命からがら生き延びたという男達が言うのだ。

 

その話に人々は多様な反応を見せた。

 

やはりカイドウの息子は油断出来ぬと危険視する者。

どうせただの噂だろうと取り合わぬ者。

指揮を取っていただけだろうと気に止めぬ者。

前々からの疑念を確信に変える者。

やはりレオヴァが関わっていたかと笑う者。

 

まさに三者三様の反応であった。

 

 

少しずつ確実に動いている世界の流れは、“あの大事件”の始まりへと進んで行くのだが……それはまだ誰も知らない未来の話。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

とある海賊団の新世界に浮かぶ国にて。

 

 

「お兄ちゃん…!!

カタクリお兄ちゃ~ん!ちょっと見てよ!!

レオヴァの懸賞き…んっ!?」

 

ドタドタとカタクリへ向けて一直線に走っていたブリュレが盛大に(つまず)く。

 

しかし、見越していたのかカタクリは漫画のように綺麗に転んだ妹を餅で受け止めると、小さくため息をついた。

 

 

「ブリュレ、廊下は走るなとあれほど…」

 

「う…ご、ごめんなさいカタクリお兄ちゃん……

って、違うのよ!!レオヴァの懸賞金額がね!」

 

「レオヴァ?

…レオヴァの懸賞金額が低いのは前からだろう。」

 

「逆よ、逆!!カタクリお兄ちゃんこれ見て!!」

 

押し付ける様に手渡された手配書を見て、カタクリは目を見開いた。

 

まず、今まで全く似ていない似顔絵だった手配書が写真になっている事に驚いた。

手配書には前方にあの白くまと思わしき後頭部が見切れており、それにレオヴァが微笑んでいる写真が印刷されている。

 

あれだけ情報を隠したがっていたレオヴァがうっかり撮られるはずもない……そう思いながら目線を少し下げ、またカタクリは驚いた。

 

出会ってからずっと上がる事のなかった懸賞金額が上がっているではないか。

 

“5億6千万ベリー”

 

億単位で上がっている、この上がり方はカタクリでなくとも驚く額である。

 

今さら動いたのかと政府に呆れつつも、カタクリはマフラーの下の口角を上げた。

 

 

「フッ…5億程度じゃレオヴァには少なすぎる額だ。」

 

「お兄ちゃんなに笑ってるのよ~!

レオヴァの奴、こんな無防備な表情を写真で撮られちゃってるし……ベポが居たみたいだし気が抜けてたのかしら…」

 

レオヴァが隠蔽(いんぺい)に失敗したのではと心配するブリュレにカタクリは普段より少し明るい声で話す。

 

 

「ブリュレ、レオヴァが本当に隠蔽を失敗すると思うのか?

あのママの注文に全て完璧に応え、ペロス兄にも気に入られる男が……たかが政府に出し抜かれると?

ありえんな…レオヴァはうっかり撮られるなんて言うミスをする男じゃねぇ。

……整ったということなんだろう。」

 

「…整った?」

 

わからないとキョトンとしているブリュレの方を見て、カタクリは楽しげな声色で続ける。

 

 

準備が整った(・・・・・・)と言う事だ。

自分の実力や動きを知られても、もう問題ない段階に来たと示してんだろう。

こうやって遠回しに伝えてくるとは……フッ、相変わらずだなレオヴァの奴は。」

 

「そ、そう言うことなの!?

なによレオヴァのやつ!……心配して損したわ…

 

「…?

レオヴァの心配をしてたのか。」

 

「え!……し、してない!言葉のあやみたいなのでっ…」

 

「あいつに心配は不要だろうな。

何も気に揉む必要はねぇ…貿易の事もあるんだ、すぐにまた会える。」

 

「……そ、そうよね!

って、ごめんねお兄ちゃん!遠征前に引き留めちゃって…行ってらっしゃい!」

 

「気にするな、ブリュレ……行ってくる。」

 

少しズレた答えでブリュレを慰めたカタクリは手配書を懐に仕舞うと、遠征の為に船へと歩き出す。

 

 

「(レオヴァ……おれも胡座(あぐら)をかいてはいられんな。)」

 

心なしか楽しげに見えるカタクリの背を見送り、ブリュレは嬉しげに笑った。

 

「お兄ちゃんったら、嬉しそうなの隠せてないわね。」

 

優しげな兄を想う瞳は、晴れ渡る空よりも澄んでいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

とある政府の執務室にて。

 

 

「全て後手へ後手へと回りすぎた…!!」

 

頭を抱えるセンゴクを側に座るガープが笑う。

 

 

「ぶわっはっはっは!!

あの小僧、やはり実力者じゃったようじゃな!

いや~!やっぱりワシは見る目あるのぅ~。」

 

ボリボリと呑気に煎餅を頬張るガープを鋭い目線が貫く。

 

「呑気にバクバクと……この阿保は…!

懸賞金額を上げるための証言や証拠集めに、私やロシナンテがどれ程苦労したか!」

 

「大変じゃったらしいな~?」

 

「貴様も少しは手伝おうとは思わんのか!!!」

 

怒り始めたセンゴクを見てもケラケラとガープは呑気に笑うだけである。

 

その姿を見て、言うだけ無駄だと大きなため息をついたセンゴクはまた頭を抱える。

 

今回、レオヴァの懸賞金額の増額において新事実の発覚やら、上からの小言やらでセンゴクは疲れきっていたのだ。

 

 

特に新たに発覚した事実は見過ごせぬものであった。

それは、インペルダウン監獄署長…マゼランからの証言だった。

 

内容はあの忌々しいインペルダウン襲撃事件(・・・・・・・・・・・)の話だ。

当時、副署長であったマゼランの話によると飛び六胞と呼ばれる男達は確かに脅威であったが、その男達に的確にマゼランの攻略を教えたであろう人物がいたのではないかと言う。

 

100%確実とは言えないが、レオヴァと呼ばれた男が怪しい……そうマゼランは口にした。

 

 

『スレイマンと呼ばれる飛び六胞の男が、しきりに“レオヴァさん”と言う男を気にする発言をしておりまして…

他にも飛び六胞のササキと言う男も、まるでおれの能力を把握しているかの様な発言も……更にそれはその“レオヴァさん”と呼ばれている男が指示を出したと思われる発言も見受けられました。

……言い訳になるようですが…その攻略にまんまと……申し訳ありません、センゴク元帥…』

 

責任感の強い真面目な男であるマゼランは、本当に申し訳なさそうにセンゴクに告げたのだ。

 

 

そして、更には当時署長だった男を倒したのもレオヴァではないかと言う疑惑が持ち上がった。

 

監視室にいたバラバラの状態で何故か生きている瀕死の看守を治療したところ、なんとか一命を取り留めた。

しかし、彼は酷い目にあった反動で心を壊してしまっており、ブツブツと独り言を発する様になってしまっていた。

だが、センゴクは彼の独り言に目を付けたのだ。

 

『しょ、署長は……角の…角のある男っ……黒い髪の!

ヒト、ひ、ひとじゃなくなるぅあにあ化け物鳥がぁ!!

ああぁあ!!おれ、おれは食べられたくないぃ殺してくれ殺してくれェ!!!

アンタもみんな殺される!署長がクロくて!ハッハッハッハ!!あ~れうばさまぁ~~!!!』

 

狂人になってしまったのだろうと皆が哀れむ中、センゴクは角のある黒髪の男という言葉、そして化け物鳥という言葉に注目した。

 

あの時のメンバーで黒い髪の男は確認出来ている限りトラファルガー・ローのみであった。

そして、おそらく看守をバラバラにし、食料庫を破壊したのも彼であると予想されていた。

 

しかし、トラファルガー・ローには角などない。

黒い髪に角、そして鳥。

この3点がそろう人物こそ、レオヴァではないか。

そうセンゴクは深読みしたのだ。

 

レオヴァは黒髪であり、カイドウと同じく角がある。

そしてガープの証言にあった、レオヴァは空を飛べる“翼”のある能力者であると言う情報がセンゴクの中で決め手となった。

 

無論、狂人になってしまった看守の言葉だけでは証拠足り得ない。

当時署長だった彼に話を聞ければ一番手っ取り早いのだが、彼はあの事件以降行方不明(・・・・)なのだ。

 

よってセンゴクはインペルダウンへと(おもむ)き、マゼランや他の看守達に話を聞いて回った訳である。

 

そして、LEVEL-6にいる囚人達にとある条件を出し、情報を吐かせたところ。

なんと本当にあの場所にレオヴァが居たと言うではないか。

 

それだけでなく、囚人達の証言ではあのドフラミンゴの攻撃も涼しい顔で捌いていたと言う。

 

 

センゴクは何故、その話が此方に回ってこないのかと苛立ちを覚えた。

 

しかし、看守達に事情を聞いた所によると、報告は上げていたという。

ただ、上がった情報を上層部が揉み消したらしいのだ。

 

ただでさえ、体面がよくない事件を隠すのに手間が掛かるというのに、更に煽る様な……監獄署長が七光りと噂の息子に封じられたなど認めては大変だ、という事に違いなかった。

 

結果、上層部はレオヴァがいた事実は証拠不十分であるとして、囚人の戯言と片付けた。

 

センゴクは強く拳を握りしめることしか出来ない。

一部の馬鹿な上層部のせいで、回り回って自分たち海軍が被害を(こうむ)るのだ。

海軍の立場からすれば冗談ではないと、怒りが込み上げるのも無理もない話だった。

 

そこからセンゴクは至急ロシナンテに協力を仰ぎ、あらゆる場所や人から情報を集めたのだ。

なんとしても百獣の息子が脅威であると示すために。

 

そして、やっとのことで苦労は実り、今回レオヴァの懸賞金を上げる事と本人の写真を手に入れる事に成功したのだった。 

 

 

センゴクは本来であれば12億は付けたいと掛け合っていたのだが、突然懸賞金額が5倍以上になるなど不自然だと突っぱねられてしまったのだ。

 

結局センゴクは5億という、想定よりも少額だったとしても懸賞金を上げられた事で妥協し、今後少しずつ上げて行けばいいと前向きに考えることにした。

 

けれど、それでセンゴクの懸念が消えた訳ではない。

世間が少しでもあの男の危険性を意識し始めたのは良いことだが、根本的な解決にはならないのだ。

 

一刻も早く、百獣海賊団の進撃を押さえなければ…!

そう焦る気持ちを落ち着かせるように、センゴクは机の上の茶飲みを手に取った。

 

 

「以前より龍であるカイドウから鯉のごとき凡庸(ぼんよう)な子が生まれたと比喩する馬鹿達が多数いたが……まったく、鯉だったらどれ程良かったか…

奴はまさしく龍の子だ……きっと、嵐を呼ぶだろう……」

 

苦々しい顔で呟かれた言葉は、居眠りを始めたガープのイビキにかき消された。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

とある海底の美しい島にて。

 

 

ジンベエの持ってきた手配書を前に数人の人魚が集まっていた。

 

 

「これはレオヴァの手配書!?

ジンベエ、1枚私にくれないか!?」

 

「おぉ…レオヴァか!!

って懸賞金額が上がってるんじゃもん!?

…お人好しなレオヴァが変な事件に巻き込まれてなければいいが…」

 

「うふふふ、そう言えば彼は海賊でしたね!

あらあら、本当にカッコよく写ってるわ。

しらほしにあげたいから、私も1枚…」

 

「お、オトヒメ王妃もフカボシ王子も待っとくれ! 

この手配書は手持ちは1枚だけで…」

 

嬉しげに手配書を眺めるフカボシとオトヒメ王妃にあわあわとジンベエが慌て、困り顔をした。

そんな直ぐ側ではネプチューン王はそれを微笑ましげに眺めながら、フカボシを止めるべく口を開いた。

 

 

「まぁ、フカボシ。それはジンベエに返すんじゃもん。

またレオヴァが来たときにでも一緒に写真は取ればいい。

そうじゃもん!レオヴァとワシ達で記念撮影をしよう!」

 

「はい……ジンベエ、無理を言ってすまなかった。

父上、その案は良いですね!!

弟妹たちも喜びます!」

 

「あら!記念撮影なんて楽しみね!」

 

「わっはっは!ネプチューン王、それじゃあワシがカメラ役を!」 

 

「何を言ってるんだジンベエ、一緒に写ろう!

レオヴァもきっとそう言ってくれる。」

 

「わ、ワシも?

……いやぁ、ワシのような荒くれもんが王家の人らと一緒ちゅうのは」

 

渋るジンベエの言葉をネプチューン王もオトヒメ王妃も笑顔で否定する。

 

「なにを言うかジンベエ!

王族なんて立場関係なく、ワシらは身を粉にして国の為に共に歩む同士じゃもん!」

 

「そうですよ、ジンベエ親分さん。

それにみんなで撮った方がきっと楽しいわ!

そうよねアナタ?」

 

「オトヒメの言う通りじゃもん!」

 

「ネプチューン王…オトヒメ王妃……ありがたい…」

 

嬉しさと気恥ずかしさの混じった笑顔で礼を述べたジンベエに三人は優しい表情で応えた。

 

平和な時間がゆっくりと流れる海の中の城には、レオヴァがフカボシの為に作った人工メンダコがふよふよと泳いでいる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ワノ国、鬼ヶ島にて。

 

「ムハハハハハ~!

よく写ってんじゃねぇかレオヴァのやつゥ!」

 

上機嫌に新しい手配書を見て笑うクイーンの周りでウンウンと部下達が頷く。

 

「手配書でもレオヴァ様のオーラを感じるぜ!

……ってベポのやつちゃっかり後頭部が写り込んでやがる…」

 

「やっぱ格好いいよなァ!

佇まいがそこらの奴らとは比べものにならねぇもんよ!」

 

「これいつの写真だろうな?最近っぽいけど。」

 

「やっぱりレオヴァ様の笑顔素敵~!」

 

それぞれ楽しげに反応する部下を見て、何故かクイーンが満足げに頷く。

 

 

「いや~!やっぱり日々イケてる男No.1として、レオヴァを指導してきたこのクイーン様のおかげだな!!

ガキの頃から指導してきたおれ様の手にかかれば……まぁこんなもんよォ!」

 

渾身のどや顔を決めるクイーンに部下達は一気に盛り上がる。

 

「「「「うおぉお!!さすがQUEEN様だぜ~!!!」」」」

 

 

 

 

一方QUEENコールが巻き起こっている頃、百獣海賊団の別ナワバリにて。

 

 

その場にいる男や女から巻き起こる阿鼻叫喚に包まれながらも表情一つ崩さぬ全身黒尽くめの大男は、先ほど部下から手渡された手配書を見て、呆れた様にため息を吐いていた。

 

「……レオヴァ坊っちゃんに対して、たかだか5億程度だと?

フンッ、政府の馬鹿共は話にならねぇな。

まぁ…それだけレオヴァ坊っちゃんの隠蔽力が高い証明にもなるわけだが……」

 

小さく呟いた独り言だった筈の言葉に、後ろから返事が帰ってくる。

 

 

「キングの兄御、政府の奴らが無能なのは今に始まったことじゃないぜ。

そんな奴らにレオヴァさんの凄さが理解できるはずねぇよ。」

 

マンモスの姿で破壊を終え、ドスンドスンと音を立てながら近付いて来たジャックを見上げてキングはそれもそうかと鼻で笑う。

 

 

「ジャックにしては的を得た事を言うじゃねぇか。

…政府の馬鹿共にレオヴァ坊っちゃんのことが理解できる筈もなかったな。

所詮、無能共の集まりだ。」

 

足元に転がる死にかけの男の頭蓋を踏み潰しながら言うキングにジャックは大きく頷いて同意を示すと、人の姿に戻ると同時にキングに紙を手渡した。

 

 

「兄御、一応例の書類に署名をさせておいた。

海岸へ逃げた奴らも始末済みだ。」

 

「……クイーンの馬鹿と違って気が利くじゃねぇかジャック。」

 

書類を確認すると普段よりも上機嫌にキングはジャックを見やった。

それにジャックは軽く頭を下げて応えると、キングは船へと踵を返す。

 

歩きながらも、後ろを続く弟分の熱い視線が手元に向いている事に気づいたキングは薄く笑い、ジャックに手配書を押し付けた。

 

 

「…っ…あ、兄御…?

これ、貰っちまって良いのか?」

 

「物欲しそうにジロジロ見てきたのはお前だろう。」

 

「っ……そんなに顔に出してたつもりはねぇんだが…」

 

「ハァ…ずっこけジャックが……テメェは分かりやす過ぎる。

クイーンの馬鹿じゃなく、もっとレオヴァ坊っちゃんのポーカーフェイスを見習え。」

 

「うっ…すまねぇ兄御……ありがとう。」

 

レオヴァの手配書を大きな手で破かぬ様大切そうに持つ弟分に、やれやれと半ば呆れながらキングは進むスピードを速めたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

鬼ヶ島城内のレオヴァの寝室にて。

 

 

 

父さんとの組手を終えた俺はローから恒例の小言を聞かされながらも治療を受け、血と汗まみれになった体を風呂で流し、ボロボロになった服を着替えて自室へと戻っていた。

 

ローと百獣海賊団の医療技術をもってしても、俺の体は未だに軋んでいる…流石は父さんだ。

集大成の医術を使おうとも、簡単には治せぬ深い傷を相手に付けられるのだから……と父さんの素晴らしさに頬が緩んでいたが、やらなければならぬ事を思い出し、切り替える。

 

 

昨日、俺の手配書が更新された。

それも賞金額が倍額以上になり、今までは似顔絵だったものが写真になると言う大更新だ。

……突然のことに驚いた……と言うのは表向きだけだ。

 

政府の人間、いや正しくは海軍の人間がこそこそ動き回っていた事は知っていた。 

少し交流のあったコラソン……今はロシナンテか。

彼が中心になって情報を至る所からかき集めている、と言う話はすぐに俺の元に届いた。

 

何より俺もそろそろ頃合いだろう、と考えていたのもある。

だから写真を撮った男も見逃したし、情報も流れる様にした。

……まぁ、まさかベポとの会話中の写真を使われるとは夢にも思っていなかったが…

 

 

…インペルダウンのLEVEL-6で任務を(まっと)うしてくれている可愛い部下達も近いうちに迎えに行くとしよう。

百獣の為なら死も(いと)わない……そんな忠義高い部下を見捨てるつもりは微塵もない。

それに近い未来……あそこでやらなければならぬ事もある。

 

 

だが10年以上情報を遮断し隠蔽し続ける事は大変だった。

キングやジャック、他の皆にもその為に本当に沢山苦労をかけてしまった……無論、かけた苦労は今後の百獣の発展と拡大でしっかり返すつもりだが。

 

それにしても、今後は俺について必要以上に隠さなければならない手間が省けるのは大きい。

費やしていた時間も人員も他に捌けるのだ、開発やナワバリ拡大を更に早く進められるだろう。

 

やっと、百獣海賊団の内部制度もほぼ完璧に整えられ、重要ナワバリの維持の為の制度と強化も終えた。

 

契約をしている国々や島々との関係も、外からは崩せぬ様に何重にも伏線を張り、必要であれば百獣に依存するようにも仕向けた。

 

今さら世界政府や他の海賊団に話がいっても、どうしようもない現状にまで完成させたのだ。

 

 

あとはこのまま焦らず、慢心せずに確実に一歩ずつワンピースを手に入れるべく行動をし続けゆくゆくは“俺の夢”を。

……父さんを海賊王にする(・・・・・・・・・・)夢を叶えられる筈だ。

 

世界の頂点に父さんが君臨し、俺と皆でそれを支えることが出来れば……きっとどれ程楽しい日々になるだろう。

 

父さんの好きな暴力の世界も、百獣の皆が笑って過ごせる世界も両立できる。

なにせ、戦争ってのはコントロールができるのだから。

 

父さんが頂点に立とうとしている理由はきっと、その座を狙いに来る猛者と戦いたい……と言うような理由なのだろうが、それも叶うはずだ。

……いや、必ず父さんの望みは叶える。

最悪、父さんに挑もうと言う根性のある者が居なければ育てれば良い(・・・・・・)のだ。

 

 

………俺は思わず小さく笑ってしまった。

獲る前から、獲ったあとのことを考えていてもしょうがないだろうに。

 

少しばかり浮かれてしまっている自分を戒めながら、俺は紅茶を一口飲んだ。

 

そして、文机の上にあるハチノスで見つけた有望そうな人材をまとめた書類を手に取り、選別作業を再開するのだった。

 

 

 

 




ー後書き&補足ー

人工・メンダコ:レオヴァ作った防衛兼監視ロボット
迷彩機能を搭載しており隠密性も高く、水中移動も素早く可能。
口から捕縛用の網と攻撃専用の痺れ玉を出せる。
ただし、陸上では上手く移動できない欠点もある。
竜宮城を守る為だけにレオヴァが好意(?)で作ったらしい。

人工・オウム貝:レオヴァが作った護衛ロボット
とにかく防御性能が高くオトヒメ王妃が3匹、しらほし姫10匹連れている。
何かあると数匹が変形し、対象者を包み込み防御壁となりつつ逃げる様に作られており、スピードは人魚に匹敵する。
意志疎通のようなことも少しならば可能で、しらほし姫は一匹ずつ名前をつけている。
欠点は同じく陸上で上手く活動できない事。
これもレオヴァが好意(?)で作ったらしい。

今回も読んでくださりありがとうございました~!
感想にここ好き一覧、お気に入り感謝です!!
誤字報告も助かります~!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その1枚は心動かす

 

 

 

数日前に発行された、百獣海賊団総督補佐官レオヴァの手配書は大きな話題を呼んでいた。

 

様々な国の人々、ナワバリの町人たち、数多いる海賊団達…良くも悪くも本当に多くの者の話題に上がっていたのだが…

特に百獣海賊団の船員達の反応はレオヴァの想定とは違うものであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

穏やかな昼下がり。

遠征先からワノ国へ戻り、休日を堪能していたページワンは遠くの廊下から響く足音に体を強ばらせた。

 

真っ直ぐこちらに向かって走ってきているであろう、この足音、そして大きくページワンを呼んでいるだろう声……間違いなくアイツ(・・・)である。

 

 

自室でゆったりと模擬札(もぎふだ)のデッキを作っていたページワンは慌てて片付けを始めた。

 

そう、模擬札の価値を分からぬ奴に踏み荒らされては困るのだ。

今までさんざん、それでレアな(ふだ)を失ったページワンの行動は目を見張るほど素早かった。

 

部屋の引出しにページワンが模擬札BOXを仕舞うと同時に扉が開く…いや、吹っ飛ばされた。

 

 

ぺーたん、ぺーたん~!!!

これ見て、これこれこれ~!!!

 

「ウブッ…な、なんだよ姉貴!」

 

扉をぶち破りそのままページワンを押し倒し下敷きにしながら、うるティは興奮冷めやらぬ表情で手に持っていたものをページワンの顔面に押し付けた。

 

 

「ちょっ……近い!!近すぎるんだよ姉貴!!

なんも見えねぇよ……ぅぐ…てか、早く上から退けって!」

 

ガバッと起き上がったページワンの動きで、うるティは床へ落とされる。

 

 

…痛~い!…お姉ちゃんかわいそう…

…………おい、ぺーたん!!なんか言え!

お姉ちゃんを落とすなんて、なんて酷い事するんだ!!!

 

「毎回、毎回弟の部屋を壊すのは酷い事じゃねぇのかよ!!」

 

うるせぇ~~!!

嫌ならお姉ちゃんと一緒の部屋で寝ろ!!

 

絶ッ対ェやだ!!!

 

なんだと!?

前までお姉ちゃんと寝てただろ!!」

 

「ちょ…!それデケェ声で言うなって!」

 

言うな(・・・)…だとォ!?

 

 

そこから数十分に渡り喧嘩と言う名の、うるティによる一方的な攻撃が続いた。

…が、それは騒ぎを聞き付けたキングにより何とか終わりを告げたのだった。

 

 

「チッ……ガキ共が…余計な仕事を増やしやがって。」

 

そう吐き捨てたキングにうるティとページワンはムッとした顔で噛みつく。

 

 

「「ガキじゃねぇ!!」」

 

「……これ以上仕事を増やすってんなら、レオヴァ坊っちゃんに報告するぞ。」

 

「うっ……れ、レオヴァ様を出すなんて卑怯だ…」

 

「ううぅ~!レオヴァ様に怒られるのは嫌ぁ…

けどキングはムカつく~!!

 

地団駄を踏むうるティと睨むページワンを相手にしてられるかと言わんばかりの態度でキングは二人を無視し、仕事へと戻っていった。

 

未だ、その後ろ姿を憎々しげに睨んでいるうるティにページワンが思い出したように声をかける。

 

 

「あ、そうだ。

姉貴そういえば、何を見せに来たんだよ。」

 

首を傾げるページワンの言葉に、うるティの表情がパァッと明るくなる。

 

「んふふふ~!ぺーたんよくぞ聞いてくれたでごんす♡

…じゃじゃ~ん!レオヴァ様の手配書~なり~!」

 

「レオヴァ様の手配書?

…あの、全然似てねぇ似顔絵のやつの事か?」

 

何をはしゃいでいるのかと、ページワンは高々と掲げられた手配書を見て口を開けたまま固まった。

 

「えっ…!」

 

「海軍潰してる時のレオヴァ様も好きだけど、私このレオヴァ様も好き~!!

ぺーたんもでしょ!?

クイーンの馬鹿にコピーしてもらったから、一枚あげる!!

えへへへ…お姉ちゃん優しい……」

 

一人でうんうんと頷いているうるティに手渡された手配書を握り、ページワンはハッとして今度は手元の手配書をじっと見つめた。

 

手配書にはいつも自分たちと話す時に見せる、優しい表情で楽しげに笑うレオヴァが写っていた。

 

ページワンは無意識に口角が緩んでいることも気付かずに、うるティに礼を述べた。

 

 

「へへへっ…姉貴、ありがとう。

……本当レオヴァ様カッコいいよなぁ~…ベポ一緒とか羨ましいな…」

 

へっ!?

ぺ、ぺーたん…今ありがとうって言った!?

~~っ!!ぺーたんぺーたん可愛い~!!!

 

「お、おいっ…!?

危ねぇって姉貴!!手配書が…!」

 

 

久々のページワンの素直な反応に我を忘れたうるティの暴走により、本日2度目のキングによる鉄拳制裁が行われたのは10分後の話であった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

フーズ・フーは先ほど押し付けられる形で渡された物を手にしたまま、長考(ちょうこう)していた。

 

 

少し前までクイーンの馬鹿が何やら大騒ぎしていると聞き、またか…と呆れるのみで“何故騒いでいる”のかに興味を持っていなかったフーズ・フーだったのだが。

 

クイーンと共にあのうるティまではしゃいでいる姿を見てしまったフーズ・フーは、少し…ほんの少しだけ騒ぎの理由に興味をそそられたのだ。

 

 

そう、フーズ・フーは昔の名残の情報収集癖が治っていなかった。

無論、その癖はレオヴァから高く買われており、当の本人も治すつもりなどはないのだが。

 

けれど、今回はその癖がフーズ・フーを困らせる事となってしまった。

 

 

気になってしまった以上知らなければ気が済まないと、騒ぎの方へとカツカツ音を立てながら早足で近付いていく。

…とほぼ同時にこちらに気付いたクイーンに絡まれた。

 

 

よぉ、ナイスタイミングだぜ~♪

いつもシケた面してるテメェに~

このクイーン様がスペシャルで~…グレイトな施しをくれてやるぜ!!

ほらよ!受けとれ!……あ!そうそう、レオヴァには言うなよ。」

 

その巨体からは考えられぬほど軽やかなステップを踏みながら近寄り、フーズ・フーに1枚の紙を押し付ける。

上機嫌に笑っているクイーンをマスクの下から睨み付け、フーズ・フーは吐き捨てた。

 

 

「ハッ…!

ツリーに飾り付けるクーゲル見てぇなヤツにうだうだ言われたくねぇがな。」

 

「聞こえてんぞ、ヘンテコマスクぅ…!!」

 

「聞こえるように言ってんだよ。」

 

よ~し、そのシケた面かせ。

上下関係ってのを教えてやる!

 

「ちょうどいい、そのままおれが大看板に…」

 

フーズ・フーいらねぇなら私に寄越せ~!!!

あ~!レオヴァ様最高でごんす~♡

…おいクイーン、ぺーたんの分も早く渡せ!!

 

ピリピリした雰囲気を醸し出す二人だったが、すぐ隣でうるさいほど騒ぐうるティに気を削がれたのか、ため息をつく。

 

 

「はぁ~…生意気すぎてムカつく超えて笑っちまうぜ。

レオヴァが甘やかし過ぎなんだよなァ……

ほら、もう一枚やるからあっちいけ!」

 

「ガキが何を騒いで…」

 

ぺーた~~ん!!すぐ持ってってあげるナリ~!!!

 

フーズ・フーの言葉が終わるより早くうるティは新しい1枚を受け取り、凄まじいスピードで消えて行ってしまう。

 

相変わらずの人の話を聞かぬ姿勢にフーズ・フーは眉間に青筋を立てた。

 

レオヴァが甘やかしすぎると言うクイーンの言葉に内心で賛同しつつ、煙草を取り出し火を付ける。

 

うるティが駄目ならばクイーンに騒ぎの理由を聞こうとして振り向くと、あの巨体はすっかり向こうの方でまた別の者と騒いでいるではないか。

 

わざわざ追いかけて聞くのも癪だな…と思っていたフーズ・フーは先ほど渡された物の存在を忘れていた事に気付く。

 

それを見れば少しは何か分かるのでは?と、咥え煙草のまま左手に持っていた紙を見やった。

…そして、時は冒頭に戻る。

 

 

手元には見慣れた表情のレオヴァとベポのものと思われる後頭部が写った紙が1枚。

 

見た瞬間、奴らがはしゃいでいた理由をフーズ・フーは理解した。

 

そりゃ部下共が欲しがってクイーンに群がるわけだ…と納得すると同時に問題が発生したのだ。

 

“この手配書をどうするべきか”…という問題だ。

 

結果、フーズ・フーはあらゆる事を頭の中で思考する事となった。

 

 

長考を続けていたフーズ・フーだったが、おもむろにレオヴァから貰った携帯灰皿に吸い殻を入れると自室に戻るべく歩きだした。

 

 

「……まぁ、押し付けられたモンは仕方ねぇ。」

 

いったい、小さく呟かれた言葉は誰に向けてなのか。

捨てるのも忍びないしな…と早足で部屋に戻ったフーズ・フーを見たものは居ない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ドレークはナワバリの巡回任務中であった。

 

ナワバリ護衛任務をしている部下達とコミュニケーションを取りつつ、情報の交換や問題の解決をテキパキとこなしている。

 

百獣海賊団の中で、こういった任務を迅速かつ丁寧に遂行できると言う(くく)りではドレークはトップクラスの幹部である。

 

 

その為、こう言う任務を中心に任されているのだが、ドレークは嫌ではなかった。

むしろ、世話焼きなドレークに取ってはやり甲斐のある仕事だ。

 

それにカイドウとレオヴァから仕事の出来に、お墨付きを貰えている。

この仕事が誇らしくない訳がなかった。

 

ナワバリで離れて働いている部下へのヒアリングや、ナワバリで生活している町人達との関係維持もドレークに取っては難しい事じゃない。

なにより、ドレークは大切な人(カイドウとレオヴァ)の為の苦労を苦労とは思わないタチだった。

 

 

そう、ドレークは部下や町人達も皆が認める“頼りになる人物”なのだ。

仕事も悩みも、困り事もなんでも助けてくれるドレークは、皆に取ってまさにヒーローと呼べるだろう。

 

 

そんなドレークが、手渡したニュースクーの朝刊を開いて暫くした後に、頭を抱えて黙り込んでしまったのだ。

 

船内にあるドレークの自室へ朝刊を持ってきた部下は狼狽(うろた)えた。

一体どんな大変なニュースが入っていたというのか!?…と。

 

だが、声をかけられる雰囲気ではない。

あの百獣海賊団幹部の中で指折りの優しさ溢れる人物であるドレークの…あんなにも険しい表情を部下は初めて目にしたのだ。

 

 

緊張感から部下が、ゴクリ…と喉をならしてしまった。

思いの外静かな部屋に響いてしまった音に部下が慌てていると、ドレークがハッとしたように顔を上げて声をかけてくる。

 

 

「…悪いな、少し思案していた。

朝刊を届けてくれて助かった、仕事に戻ってくれ。」

 

普段の声色と表情で告げられた言葉だったが、追及を許さぬ雰囲気を感じ取った部下は軽く頭を下げて部屋を後にした。

 

 

 

………何故こんな写真が…

 

部下が完全に離れた気配を感じ、ドレークは独り言ちた。

 

朝刊に挟まっていた手配書には本当に優しげに笑うレオヴァ(・・・・・・・・・・・・・)が写っている。

きっとベポが釣って来た魚を褒めていた所を撮られた写真だろうとドレークは推測した。

 

 

この写真は良い写真だ、とドレークは思う。

それこそドレークが遠征先やワノ国で度々撮っている写真たちに負けず劣らず、レオヴァの自然体を捉えた素晴らしい一枚だ……と。

 

だが、これが全世界に出回っているのかと思うとドレークはモヤっとした気持ちを抱かずにはいられなかった。

 

ドレークにとってレオヴァとは良い意味で複雑な存在だ。

家族あり、同志でもあり、師のようでもあり…絶対的な存在でもあった。

 

カイドウとレオヴァこそが

ドレークの世界を作り上げ彩る(かく)であり、同時に心を支える柱であるのだ。

 

 

ドレークの見たカイドウの手配書は敵に向ける顔であった。

だから、手配書を見た時の気持ちは

『写真でもカイドウさんの勇ましさは滲み出るな…流石、百獣海賊団の頂点に君臨する人は他とは違う!』

と感心と誇らしさだけであった。

 

しかし…だ。

手配書に写るこのレオヴァの表情は身内に向ける顔ではないか。

 

このレオヴァさんは、おれが……おれたち百獣海賊団の人間だけが知っていればいい姿だ…そう言う感情を抱いてしまった結果の長い沈黙だったのだ。

 

 

「…いや、おれは何を考えて……

この手配書が出回ろうともレオヴァさんが他へ行ってしまうわけでもないというのに…

……はぁ…おれのこれは、どうにかならんのか……

 

落ち込んだような表情で手配書を見つめた。

 

暫く眺めていたドレークだったが、引出しにそれを大切そうに仕舞うと考えを振り切るように立ち上がった。

 

 

「駄目だ、ひとりで考えていても負の連鎖だ。

…今日のナワバリ巡回が終われば帰れる、速く終わらせてカイドウさんとレオヴァさんと飲もう……そうだ、それが良い!」  

 

ドレークは笑顔を取り戻すと、勢い良く任務へと向かって行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ローは鳳皇城(ほうおうじょう)にある側仕(そばづか)え専用の休憩室で昼食を食べていた。

 

今日も午前はレオヴァと執務を行い、ワノ国の見回りもサポートした。

午後からは急ぎの予定がない為、医術の勉強でも進めるか…とレオヴァお手製のおにぎりを頬張る。

 

普通のサイズより大きく形の良いおにぎりは、昔からローの胃袋を掴んでいた。

 

小さい頃は2個も食べられれば御の字であったが、今では6個も平らげている。

 

焼き鮭おにぎり、塩むすび、イクラおにぎり、エビマヨおにぎり…などなど。

毎回多種多様な様々なおにぎりが楽しめるのだ。

 

 

側仕えの任務になるとレオヴァは必ずおにぎりを握って手渡してくれるのだが、ローはそれが(ひそ)かな楽しみだった。

 

極希に、これをおにぎりの具にするのか!?と言うような変わり種があったりするのだが

レオヴァ曰く

『おにぎりに合わないだろうと決めつけて食べないのは良くないぞ、ロー。

どんなことでも試さないと分からないからな。

…ん?昨日のアジの天ぷらのおにぎり?

なんだ?ちゃんと味見はしてから渡してるぞ。

味は良かっただろ?……なに?おにぎりから尾が出ていた…?

………まぁ、あれだ。斬新なアイディアだと思ってくれ。』

と言うことらしい。

簡単に言うと、料理も冒険なのだそうだ。

 

 

だが、なんだかんだ言いつつもローはそんなおにぎりが好きだった。

レオヴァが色々と試行錯誤し、新しい具を探してくれている事も、早朝からローの為に調理場で黙々と握ってくれている事も嬉しかった。

 

 

だから、ローは側仕えの日の昼食は邪魔されぬように専用の休憩室でゆっくり食べるのだ。

 

そんなローの憩いの時間に、終わりがやってきた。

おにぎりの最後の一口を頬張った時、部屋の外から自分を大きな声で呼ぶのが聞こえたのだ。

 

声の主をすぐに察したローは、おにぎりを飲み込み茶をすすった。

 

もうじき部屋に入ってくるであろう人物が茶を飲めるように、もう一つの湯のみを準備しようと立ち上がると、部屋の襖が勢い良く開く。

 

 

キャプテ~ン!!

これ見てよ~!おれね、レオヴァさまと一緒に写ってるんだ!!

えへへ…有名になっちゃうかも!」

 

「ベポ、部屋に入る前は一言かけろといつも言ってるだろ。」

 

「あ…!忘れてた……キャプテンごめん…」

 

予想通り声かけもなく部屋に押し入ってきたベポに注意しながらローは茶飲み片手に座布団の上にもどった。

 

入り口でショボくれているベポに手招きをし、座れと自分の正面を指差す。

 

大人しく座布団の上に座ったベポの前にお茶と、この部屋に常備してある茶菓子を差し出し、頬杖をつく。

 

 

「…で?

何をそんなに、はしゃいでたんだ?」

 

「お茶とお菓子ありがとう、キャプテン!

実はね、これなんだけど…」

 

ベポの持っていた紙の束を見て、ローは驚きに目を見開いた。

そこには数十枚のレオヴァの手配書があった。

それも似顔絵ではなく、写真の手配書だ。

 

そうして、少しの間驚いていたローだったが思わず吹き出した。

 

 

「…ック…ははは!

レオヴァさん凄い笑顔の所を撮られてるじゃねぇか!

手前にいるのがベポか?」

 

「うん、おれだよ!

たぶんこれ、前回の遠征でアザラシみたいなのが釣れたときのやつ!」

 

「…あぁ!レオヴァさんが鍋にしたやつか。」

 

ローが思い出したと言うように頷く。

 

確かにあの島にいる間、妙な気配に付けられていた。

だが、レオヴァが構わないと言ったからローは見逃してやったのだが…

まさか何枚も撮っていたであろう写真から、これが選ばれるとは思わなかったとローは笑う。

 

 

ローの記憶が正しければこの写真はベポが釣り上げたマダライッカクという生き物を、初めて見る生き物だ!とレオヴァが興奮し、ベポを褒めちぎっていた時のだろう。

 

 

「レオヴァさん、追尾者気にせずに楽しんでたもんな…」

 

珍しいものや初見のものに目がないレオヴァを思うローの口角は上がったままだ。

 

 

「これがあれば、レオヴァさまにいっぱい褒めて貰ったのいつでも思い出せるよ~!

キャプテンにもあげる!2枚?…10枚くらいいる?」

 

「いや、そんなにいらねぇよ!」

 

「そっか、なら…はい!キャプテンのぶんね!」

 

手配書の束から2枚をローへ渡すと、目の前のお菓子を口に詰め込みベポは立ち上がった。

 

 

「ん、モグモグ…ばいふぁい、きゃふてん!

おれ、しほとあるはら!」

 

「おい、ベポ!

口にもの入れたまま喋るな、飛ぶだろ!」

 

「もぐ、むぐむぐ…ごくん

えへへ…ごめんよ、キャプテン。

おれ、仕事戻るね!

…勝手に抜けて来ちゃったからヒョウ五郎さんに怒られちゃう。」

 

手を振って出ていったベポを見送り、ローもそろそろ休憩は終わりにするかと立ち上がった。

 

そして、机の上にベポが置いていった手配書をそっと手に取り、また小さく笑う。

 

 

「……カイドウさんも喜びそうな写真だ。」

 

羽織のうちポケットに手配書を仕舞い、ローは襖に手をかけた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ホーキンスはワノ国への帰路を進んでいた。

 

百獣海賊団にて見事、真打ちから近衛隊(このえたい)隊長に昇進したことにより、昔からの部下達とホーキンスのみで遠征に出られるようになったのだ。

 

飛び六胞と並ぶ幹部である、近衛隊隊長になったことで念願だった船も手に入れた。

 

しかし、船を渡された時、予想外の出来事にホーキンスも部下達も目を見開いて驚いた。

 

何故ならその船はホーキンス達があの時リスクを犯してまで造ろうと百獣海賊団のナワバリに侵入し、なんとかもうすぐ完成…という状態だった“あの理想の船”そのものだったのだ。

 

 

なぜこの船が…と言葉を詰まらせたホーキンスにレオヴァは事も無げに告げた。

 

『あのナワバリにいる船大工とは、おれがワノ国に来たばかりの時からの付き合いでな。

たまたま話を聞いて、ホーキンスが欲しいと思っていた船ならばそのまま完成させてくれと頼んであったんだ。

……実を言うとホーキンスと初めて組手をした3日後には完成していたんだが、せっかくなら何かの祝いに渡そうと思って隠していた。』

 

驚いただろ?ちょっとしたサプライズだ、と目を細めてレオヴァは楽しげに笑った。

 

本当にそういう所(・・・・・)はカイドウさんに似ているな…とホーキンスは脱力しつつも、あの時望んだ船が手に入ったことを素直に喜ぶ事にしたのだ。

 

 

そんな思い入れのある船に揺られながら、甲板で空を見上げた。

 

そこには当初掲げようと思っていた旗とは違う旗が優雅に潮風になびいている。

 

 

「……この旗も、悪くはない…か。」

 

微かに口角を上げたホーキンスだったが、空を飛ぶ見慣れた鳥を見つけて腰にあるベリーの入った袋を開けた。

 

ニュース・クーは慣れたようにホーキンスの目の前の手すりに降り立つと、ひょいと新聞を掲げた。

交換するように、指定分の金額のベリーを手渡すとニュース・クーはホーキンスの手に新聞を置いて、飛び立って行った。

 

 

さっそく目を通そうと、右手にある新聞を開くと数枚の手配書の中に見慣れた顔を見つけた。

 

 

「……これは、レオヴァさん…?」

 

思わず手配書をまじまじとホーキンスは見つめたが、どうみてもそこに写っているのはレオヴァだ。

 

海賊とは思えない表情で写っている写真に、またほんの少しホーキンスの口角が上がる。

 

 

「フッ…まったく、いつも予想の斜め上を行く人だ。

……ドレークがまたうるさそうな写真だが、スレイマン辺りは舞い上がっているだろうな。」

 

比較的、交流の多い二人を思い出しホーキンスは呟いた。

 

ワノ国に戻ったらうじうじと面倒な状態になってそうなドレークの話くらい聞いてやってもいいか、とホーキンスは考えながら後ろで遠慮がちに手配書を見たがっている部下へその手配書を手渡した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その日の午前、レオヴァはドレークとフーズ・フーがハチノスで有望そうな人材をまとめた書類を確認していた。

 

文机の上に山のように積まれていた書類を3時間ほどで選別を終え、次の作業員に移ろうというタイミングで現れた部下に休憩を取って欲しいと懇願され、やむなく休息を取る事に。

 

 

なんとなしに鬼ヶ島城内を散歩していると、なにやら部下達が騒がしい。

レオヴァは今日は何か催し物があっただろうか?と首を傾げたが、その理由はすぐに発覚した。

 

前方30mほど前でクイーンが何かを配り歩いていたのだ。

何かを貰い嬉しげに笑っている部下達を見て、またクイーンが催し物をしているのかとレオヴァは笑う。

 

 

しかし、そちらに歩みよりつつ目を凝らしてレオヴァは固まった。

クイーンとその部下達が小脇に抱える紙の束…あれは自分の手配書ではないのか?

それを理解した瞬間、レオヴァは頭を抱えた。

なぜ、それ(手配書)を配り歩いているのかがまったく理解できない。

 

クイーンの方へ歩く道すがらも、レオヴァに挨拶をしてくる部下の手には手配書がある。

なんなら、数枚持っている者も見受けられた。

 

レオヴァはそっとクイーンの背後へ近付き、笑顔を作ると明るい声で話しかけた。

 

 

「…クイーン、ずいぶんと楽しそうだな。

何をしているのか、おれにも教えてくれないか?」

 

ぅおっ!?レ、レオヴァじゃねぇか~!

あ~…っと~、今仕事中じゃなかったか?」

 

ビクリと肩を揺らし、凄い速さでレオヴァを振り返ったクイーンの額に一筋の汗が伝う。

 

相も変わらずニコニコと笑顔なレオヴァは動揺するクイーンをしり目に周りにいる部下達に声をかけられ、それに答えている。

 

完全に作っている(・・・・・)笑顔で再度クイーンの方へ向いたレオヴァにクイーンの思考はフル回転していた。

 

 

「すまないクイーン、話の途中だったな。

おれは今ちょうど休憩時間中なんだ。

クイーンはその様子だと休みなんだろ?

ゆっくりと二人で(・・・)話がしたいんだが……時間、取ってくれるよなァ…クイーン?」

 

「……オォ…ワカッタゼ、レオヴァー!!」

 

目の笑っていないレオヴァの有無を言わせぬ圧力に、涼しい室内でダラダラと汗を流しながらクイーンはやけくそで返事を返した。

 

無論、レオヴァの手配書を自慢半分おもしろ半分で配ったクイーンの自滅なのだが。

 

 

レオヴァは周りの部下達に少しの間借りていく、と笑顔で対応し静かになったクイーンを連れて去って行ったのだった。

 

 

 

 

あれから少しの時間クイーンと楽しく(・・・)話をしたレオヴァは自室で再度頭を抱えていた。

 

 

クイーンの話によるとあの手配書はかなりの数配り歩いたと言うではないか。

挙げ句、カイドウにも数枚手渡してあると言う。

 

レオヴァは深いため息をついた。

 

普段であればこんなにも頭を抱えることなどないのだが、今回の手配書は別である。

……あの写真(・・・・)が問題なのだ。

 

よりによって遠征先で初めて見た生き物にはしゃいでいた写真を手配書に採用されるなど、誰が予想出来ようか。

 

あの時、尾行していたコラソン…いや、ロシナンテからドフラミンゴを脱獄させた事の仕返しの嫌がらせなのではないかと深読みしてしまいそうな選出だ。

…と、レオヴァが思っていた矢先だった。

 

クイーンが満面の笑みでその問題の手配書をバラ撒いていたのは。

 

先ほど話をしたので、これ以上鬼ヶ島内にバラ撒かれる心配はないだろうと安心しつつ、レオヴァはロシナンテへの小言を溢した。

 

 

「…コラソン、お前は本当におれにとって都合の悪いことばかりするなァ……食えないところは兄弟揃って同じか…」

 

今さら写真について考え込んでも仕方がないと割りきったレオヴァは仕事に戻ろうと立ち上がった。

 

……懲りずにまたクイーンが幹部達に手配書を配り歩く未来を読めずに。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

時は遡り、手配書発行日早朝。

 

新しく刷られた手配書数枚を見て、一人の男が大声で叫んだ。

 

 

や、やっちまった…!!

 

どうしよう…と頭を抱えるこの大男こそ、海軍に所属するロシナンテ大佐である。

 

あのドフラミンゴの捕縛に大いに貢献し、さらにあの百獣海賊団レオヴァの写真を撮ることに成功した実力者なのだが……彼は生まれながらのドジっ子だった。

 

その“生まれながらのサガ”は今回の大仕事でロシナンテに大きなミスを犯させたのだ。

 

その大きな失態こそが…“写真の送り間違い”である。

 

 

2日間、遠征先に滞在していたレオヴァを尾行し数十枚の写真を撮ることに成功していたロシナンテ大佐は、さっそくそれを印刷所へと送った。

 

そして、あとは写真だけで完成予定だったこともあり、再度の確認もなく手配書は大量に刷られ、朝刊と共に全世界へと配られた。

 

 

本来、ロシナンテが使いたかったのはレオヴァの他海賊との戦闘中の1枚であり、あの手配書に使われてしまった写真は“ボツ”として別に封筒に入れていたものであったのだ。

 

しかし、ロシナンテは気付かずに“ボツ”の封筒を送ってしまっていた。

きっと一番の原因は、採用する写真とボツの写真を同じ色の封筒に入れて保管していた事だろう。

 

案の定、印もなにもないそれをロシナンテは間違えて送ってしまったのだった。

 

髪をぐしゃぐしゃにしながら頭を抱えていたロシナンテの電伝虫がプルプルと震える。

ロシナンテは観念したように恐る恐るガチャリと受話器を取った。

 

 

「ロシナンテ!なんだあの手配書の写真は!?」

 

「す、すみませんセンゴクさんっ!!!」

 

受話器から聞こえた叱りの声にロシナンテはおもいっきり頭を下げた。

ゴツリと机に頭をぶつけつつもセンゴクの小言に耳を傾ける。

 

 

「はい……本当にすみません…ドジっちまって……」

 

「ロシナンテ……お前のそれはなんとかならんのか…

そもそも、同じ封筒に入れたならどちらかにバツ印でも付ければ良かっただろうに。」

 

「ハッ…確かに!!」

 

「……ロシナンテェ…」

 

「うぅ…センゴクさん……すみません…次からは気を付けます。」

 

「はぁ……もう、世に出てしまったものは仕方ないか。

…次からは頼むぞロシィ、体の怪我にも気を付けなさい。」

 

「っ…はい!センゴクさん!

また、次の定期連絡で。」

 

そっと受話器を戻したロシナンテは自分の頬を軽く叩いて立ち上がった。

 

 

「…よし、もうドジらねぇぞ!

センゴクさんに心配ばかりかけられないもんな!」

 

今の任務の遂行の為に情報を集めるべくロシナンテは部屋から意気揚々と飛び出した。

 

そして、階段でいつもの様にツルッと足を滑らせて転げ落ちるのだった。

 

 

 

 




ー後書き&補足ー
何件か『他の幹部の反応もみたい!』とご希望ありましたので、急遽前回の続編の様な形で書きました!
オマケ回なので軽く読める感じに……全員は無理でしたm(_ _)m

↓【補足】
・船について
飛び六胞クラスの幹部から専用の船を持てる。
(例:ジャックならマンモス号など)
大看板になると専用の空船が作られる。
(空船はそもそも幹部クラスがいなければ動かせない決まりあり)

↓【質問返答】
質問:海軍三大将のレオヴァへの認識など

赤犬:海賊という時点で印象は最悪。
近年海を騒がせている百獣海賊団を早く消すべきとの考え。海賊は皆殺し一択の過激派
ーーーーーーーーーーーーーーーー
黄猿:センゴクの意見も踏まえた上で、泳がせておきたい派。 
現状、民間人に大きな害を与えていない事と、捕まえる為のリスクが高く、百獣海賊団との全面戦争は海兵と民間人に被害が出過ぎると考えてい為。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
青キジ:ある意味では四皇よりも危険な存在ではないかと考えており、独自に情報収集中。
出来れば大々的な衝突は避けて、時期をみたいと思っている。
ーーーーーーーーーーーーーーーー

質問:レオヴァの手配へのリアクション

カイドウ:悪くねぇ写真だ!と喜ぶ。
しかし、金額には少しご立腹な様子。
その後は鬼ヶ島の自室に置いてある。

キング:ジャックにあげた。
手配書はただの紙切れ、レオヴァはレオヴァという思考。
カイドウに対してもレオヴァに対しても本人そのものにしか興味ない。

クイーン:騒ぐだけ騒いで手配書は欲しがる部下にバラ巻いた。
(コピーして沢山保持していた)

ジャック:キングからもらった。
あのあと部屋で額縁に移した。
飾ろうか悩んだが、レオヴァに見られては気恥ずかしいので、カイドウの手配書と一緒にそっと隠してある。

スレイマン:新聞に入っていた手配書を見て数十秒固まる
コピーして一枚は持ち歩き、数枚を自室にしまってある 
街中でレオヴァの手配書を見つけると回収しており、それをうるティに引かれている事に気付いていない。

ブラマリ:遊女から手配書をもらった。
部屋にある棚の上に額に入れて置いてある。
(カイドウ含め、幹部達の手配書は全部ある)  

ササキ:部下達と大盛り上がり。
後に自分専用の船にレオヴァの手配書を部下達とノリノリで飾った。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

子の心親知らず

※ジャッジが好きな人は注意





 

 

 

悪の代名詞として名高いジェルマ66(ダブルシックス)と、破壊の化身と恐れられるカイドウ率いる百獣海賊団は取引関係にある。

 

それは数年前からの知る人ぞ知る事実であり、2つの組織は利害が一致した良好な関係であると思われていた。

 

…そう、思われていた(・・・・・・)のだ。

 

 

しかし、水面下では違っていた。

 

ジェルマ王国の国王であり、科学戦闘部隊ジェルマ66の総帥ジャッジは百獣海賊団を裏切る算段を立てていたのだ。

 

 

理由は(いく)つかあった。

 

百獣海賊団の“技術力の提供”によって息子達の大幅な強化に成功した事。

ワノ国から大量に質の良い武器を手に入れられた事。

取引によって得た情報で新たな武器の開発や、セント・ジェルマン号の大幅な改造を終えられた事。

 

様々な理由からジャッジはもう後ろ楯は必要ないと考え、取引関係を断ち切ろうと思い至ったのだ。

 

 

何故なら北の海(ノースブルー)にも百獣海賊団のナワバリがある。

それを渡してくれと言っても、おいそれと渡す筈もない。

 

百獣と取引を続けていては悲願である“北の海(ノースブルー)全土”を取り戻す野望が叶わないのだ。

…と、なれば。

もはや敵対は必須であった。

 

ジャッジにとって北の海(ノースブルー)全土を再びジェルマの支配下に置くことこそが、何よりも重要なのだ。

 

それに、いくら百獣海賊団が強力と言えど。

北の海(ノースブルー)を即時制圧し、全勢力で迎え撃てばジェルマ王国が引けを取る筈がない!!

そうジャッジの頭は答えを出した。

 

 

そして、答えが出てからジャッジの行動は早かった。

ジャッジは百獣海賊団に気付かれぬ様に少しずつ、関係を断ち切る為の作戦を実行していったのだ。

 

 

……それがあんな結果を生むとも知らずに。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

夜闇の中にいる2人の男を月明かりが照らす。

 

 

総帥であるジャッジの命令を遂行する為に暗躍していたイチジだったが、今回ばかりは一人で動いていた事を後悔せざるを得なかった。

 

 

「ぐっ…ギ……なる、ほど…実力は…理解し、た。

噂ってのは…ハァ…役に立たねぇな…」

 

ボタボタと血を流しながらも感情のこもらぬ声でイチジは呟く。

こちらを見据えたまま動きを見せぬレオヴァを目で捉えながら、深く息を吸うとイチジは続けた。

 

 

「ハァ…フ…ぅ…確かにおれでは……いや、父上でも敵わないか。

それで、裏切りを企てた…ッ…一族のおれを殺さない理由はなんだ?

見せしめや拷問にしては……これはユルすぎる。」

 

呼吸を整えながらのイチジの問い掛けにレオヴァは微笑みを返す。

 

 

「ふふっ……流石だイチジ、やはり勘がいいな。

お前はあの一族の中で話が通じる相手だと思っていた。

…おれがトドメを差さない理由……それは手を組まないかと言う申し入れがしたかったからだ。」

 

「………手を組む…だと?

ハッ、傘下に下れの間違いじゃないのか?

…ずいぶんと馬鹿にしてくれる、例え敗北しようとも…」

 

「「王には王たる条理がある」」

 

「…だったか?

それに逆に聞くが、傘下に下れと言ったら死を選ぶだろう?」

 

 

イチジは自分が発した声とレオヴァの声が被ったことに目を見開いた。

 

出会ったばかりの頃に、世間話の中で一度言っただけの言葉をレオヴァはこのタイミングで出して来たのだ。

冷静なイチジが驚くのも仕方のない事だった。

 

イチジは驚きを隠すように表情筋を動かし、口角を上げて見せた。

 

 

「……おれにだけ話を持ってきたと言うことは、父上達は皆殺しか?」

 

「いや、一度は対立することにはなるが、最終的にはイチジと共に同盟として関係を再構築したいと考えている。」

 

「言っておくが、父上には父上のプライドがある。

関係を再構築など……」

 

イチジの言葉に被せるようにレオヴァは言う。

 

 

「わかっている。

ジャッジには“ジェルマの王(・・・・・・)”としてのプライドがある。

だから捩じ伏せた後に再構築しようなど、無理だと言いたいんだろう?」

 

「…わかっているなら何故…」

 

「だからだ。

だからおれはイチジ(・・・)と話がしたかった。

…ウチの技術力なら、お前達兄弟にかかっている“ジャッジへの絶対服従の枷(・・・・・・・・・・・・)”を取れる…と言ったら?」

 

「父上からの…枷…?

……いや…おれは、たいしてそれに魅力は感じないな。」

 

イチジは心底興味なさげに首を横にふった。

だが、その答えをレオヴァは分かっていたとばかりに話を続ける。

 

 

「それはそうだろう。

この話にイチジ、今のお前(・・・・)が魅力を感じるはずがない。

まぁ、だがそういう風に設定(・・)されているんだ、無理もない。

お前達兄弟はジャッジに都合の良い様にフィルターのかかった思考回路でしか判断できない……息子なんざ名ばかりの、謂わばジャッジの“人形”だ、違うか?」

 

いつもの笑みを消し、出会ってから一度も見たことがない表情と背筋が凍るような感情のこもらぬ声でレオヴァは問うてくる。

 

未だに“あのレオヴァ”とは思えぬ瞳で、狼狽えるこちらを見下ろしてくる姿にイチジは一瞬言葉を失くす。

 

 

そんなことはない、違う。

そう否定しようとしたが、無意識にイチジは口を閉じた。

 

 

本当にレオヴァの言葉に違うと言える…のか?

俺は、俺たちは父上の悲願の為に生きている(・・・・・・・・・・・・・)

だがそれは俺たちが望んだ……そうか、最初からその思いを…いや、違う……違わない…のか?

 

イチジの頭の中では、今まで一度も疑問に思わなかった事がグルグルと回っている。

 

普段であれば、どんなことも素早く答えを導き出せる筈の自分の脳が長考していることに、イチジは意図せずギシリと歯を鳴らした。

 

しかし(うつむ)くイチジの耳に、先ほどとは打って変わって酷く穏やかなレオヴァの声が届く。

 

 

「イチジ、難しく考え込む必要があるのか?

一度そのフィルターを取ってみれば、その頭にあるだろう疑問は解決するんじゃないか?

おれはイチジの実力を高く買ってる、だからジャッジにも見せてない顔を“今”見せたんだ。

施術をして…それでも、おれと組むのが嫌ならそれでも構わない。

イチジ、“お前自身の価値観(・・・・・・・・)”でおれと組むか答えて欲しいんだ。

生涯を借り物の価値観で終わらせるのは惜しいとは思わないのか?

今、イチジがやっている研究もフィルターを外せば新しい案や道が開ける可能は0じゃない…違うか?

……おれを…ウチの技術力を利用してみるつもりはないか?」

 

 

思考の海に沈んでいたイチジはゆっくりと顔を上げて、レオヴァを見た。

サングラスの下の瞳は無感情にも見えるが、揺らいでいるようにも見えた。

 

 

「……レオヴァ、お前の言うフィルター(・・・・・)とやらを…外そう。

未知のモノを感じても尚、おれがおれであると断言するために。」

 

「イチジ…やはりお前は話がわかる。

……では、少しの間寝ていてくれ。」

 

ゾッとするような気配を感じると同時にイチジの視界はブラックアウトし、体は崩れ落ちた。

 

意識を失ったイチジを横目に、レオヴァは上機嫌に電伝虫の受話器を握った。

 

 

「…あー、こちらクイーン…」

 

「クイーン!おれだ!

さっそくで悪いが例の施術の準備を始めてくれ、ローはもう向かわせてある!」

 

いつにも増してテンションの高いレオヴァに電伝虫の向こう側にいるクイーンは驚きつつも、返事を返す。

 

 

「れ、レオヴァ~?

そのテンションの上がり方って、もしかして…?」

 

「そうだ…!

クイーンとやってきた“研究の成果”を存分に使う時だ。

ふっ…ふはははは!!楽しみだなァクイーン…!!

クイーンこそが誰よりも優れた研究者だとジャッジに教えてやれるじゃねぇか!!

 

楽しみでしょうがないと言うようなレオヴァの声色に、手元の電伝虫の顔も笑みをたたえる。

 

 

ムハハハハ~!!!

おいおいおいおい…!マジかよレオヴァ!?

ジャッジのせがれを手に入れたのかよ!!!

どれだ?赤いのと青いのと緑のが居ただろ!?

 

「イチジ……色で言うならば赤いのだ!

本人が施術を受けると言ったんだ、ジャッジも文句なんざ言えねぇだろう?ふふふ…」

 

レオヴァの言葉に笑いが止まらないとばかりにクイーンは腹を抱えて笑う。

 

 

ハハハハハッ~!!

っとにレオヴァ、マジでお前は最高にイカす野郎だぜェ~~!!!

流石はカイドウさんの子だよなァ!?

あのジャッジの(せがれ)を誘導しちまうんだからよォ。

ア~…今からジャッジのマヌケ面が楽しみでしょうがねぇ!!

…よし、準備はこのクイーン様が完璧に整えておくから、レオヴァはその赤いジャッジのせがれを運ぶのを頼むぜ!」

 

「これ以上ない最高の褒め言葉だ、クイーン!

勿論、万全の体制でイチジはナワバリまで連れていくさ。」

 

クイーンの鼻歌を最後に切れた電伝虫を懐に仕舞い、レオヴァは倒れているイチジを掴むと船へと歩きだす。

 

 

この日から、ジェルマ王国の王子であるイチジは消息不明になったのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

イチジの行方不明騒動から、2ヶ月後。

 

ジェルマ66(ダブルシックス)が百獣海賊団との取引先として停泊していた島は見るも無惨な姿へ変わっていた。

 

あらゆるものが瓦礫となった島の中央では、ジェルマ王国の王であるジャッジが驚きと悔しさを滲ませた顔で百獣海賊団の幹部達を睨み付けた。

 

 

「ゼェッ…ゼェ…ぐぉ…それは……我がジェルマの科学ッ…」

 

「“ジェルマの”…だと?

フンッ! 笑わせるな。

てめぇらごときが作れるモンをクイーンの兄御が作れねぇとでも思ってんのか?」

 

「ク、イーン……あいつが…ハァ……ぐぐ…だが、こんなところで貴様らにやられる、つもりはない!!!」

 

 

力を振り絞り立ち上がったジャッジの横腹が貫かれる。

言葉にならぬ呻き声を上げながら再び倒れたジャッジを見下ろし、その後ろにいたホーキンスにジャックが不機嫌な顔で声をかけた。

 

 

「……おい、ホーキンス!

余計な真似しやがって、てめぇの獲物はそっちの女だと言ったよなァ!?

 

「…申し訳ありません、出過ぎた真似とは思いましたが

どうやら、ドレーク達の方も終わったようですので。」

 

淡々と告げられたホーキンスの言葉にも一理あるかと考え、ジャックは喉元まで出ていた文句を飲み込んだ。

ジャックにとって、今なによりも優先すべきは敬愛するレオヴァを待たせぬ事なのである。

 

ジャックは不満げな態度を隠す事なく(きびす)を返し、ホーキンスに指示を出す。

 

 

「そいつらを運んで来い。

おれがレオヴァさんに報告に行く。」

 

「…承知。」

 

大きな足音を立てながら船へ戻るジャックを横目に、倒れた男と女を馬に乗せながらホーキンスが呟く。

 

 

「まさか、絵物語の悪の軍団…ジェルマ66と相見えることになるとは……

本当にレオヴァさんの下では話題に事欠かんな。」

 

小さく笑いながら、ホーキンスは狛鹿(コマしか)の手綱を引き寄せ歩きだした。

 

 

 

 

一方、島の海岸付近の施設にて。

 

ローとドレークは互いに興奮を隠せぬ様子で顔を見合わせていた。

 

 

「あの悪の軍団“ジェルマ66(ダブルシックス)”を相手にすることになるとはな…!

レオヴァさんといると予想外な事ばかりだとは思っていたが、絵物語の登場人物と戦闘することになるとは!

絵物語通り…本当に空を飛べるんだな……それにレイドスーツか…悪くない。」

 

「あぁ、あの話の通りの能力だ。

足の加速装置もマントを強固な盾として活用するのも……全部が話、そのままじゃねぇか。

あの缶みたいなヤツで変身出来るのか……なるほど。

取引中は戦闘の様子なんざ、見れなかったからな。

…まぁ、レオヴァさんが予想外な事ばかり引き寄せるのは昔からだろ。」

 

 

心なしか楽しげに話している様に見える二人の前では、変わったスーツに身を包んだ青髪の男ニジと、緑髪の男ヨンジが故障箇所を見て諦めた様に笑っている。

 

 

「ア"~…駄目だ、右手が完全にイカれちまった。

あのトカゲ野郎の馬鹿力のせいだ!!

ハハハ!こりゃ父上の計画通りには行かなそうだな。」

 

「クソッ!おれは足がイカれた…!!あのトラファルガーとか言う奴の能力、面倒だぜ。

イチジもいねぇし、こりゃお手上げか?ハハ…」

 

あり得ない方向にネジ曲がった足と腕をニジとヨンジは無理やり元の方向に曲げ直し、どうするかと思考する。

 

だが、ローとドレークは余裕を崩さず、冷静に再び戦闘態勢へと入った。

 

 

「…だが、しかし。

悪の軍団ジェルマ66もこの程度だとはな……絵物語ではもっと強かったんだが?」

 

「無理もねぇ。

さんざんカイドウさんやレオヴァさんと組手やってきたんだ、悪の軍団相手じゃ物足りなくもなるだろ。」

 

「フッ…それもそうだな。

ジャックの方も終わる頃だろう…名残惜しいが、おれたちも終わらせるとしようか。」

 

「…もう少し見たかった気もするが……レオヴァさんを長々と待たせる訳にもいかねぇからな。」

 

動きを見せたドレークとローに、ニジとヨンジは警戒を強める。

しかし、その警戒もむなしく、瞬きの瞬間に全身がバラバラになり宙を舞っていた。

 

 

「……!?どうなってやがる!!!」

 

「なんで首と胴が離れて喋れてるんだ…!?

さっきのトラファルガーとか言う奴の能力か!

だが、今“例のサークル”は見えなかったぞ!?」

 

 

混乱するニジとヨンジに呆れ顔でローが告げる。

 

 

「おれが戦闘中にうっかりで手の内を晒すと思うのか?

サークルの展開が必要だと思わせる為の策に決まってんだろ。

……初めからこの島全体(・・・・・)が、おれの“ROOM”の中だ。」

 

「「…!?」」

 

驚きに目を見開いたニジとヨンジだったが、次の瞬間強い衝撃を受け、意識を手放した。

2人に最後の一撃を与えたドレークはローを向き直り口を開いた。

 

 

「まったく、わざわざタネ明かしをしてやる必要もないだろうに。」

 

「百獣を馬鹿にした奴らの間抜け面だ……悪くねぇだろ?」

 

「…否定はしないがな。」

 

「いい子ぶりやがって。」

 

「ロー、お前は本当に昔から口の利き方が…

……って、おい。聞いてるのか!?」

 

「はいはい……んな事より、さっさと運ぶぞ。

レオヴァさんも、施術したくてうずうずしてる頃だろうしな。」

 

まだ何か言いたそうな顔をしたドレークだったが、任務を優先すべきだと考えたのか大人しくバラバラになっているニジとヨンジを袋にしまう作業を開始したのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

戦いに敗れたジャッジ、ニジ、ヨンジ、レイジュは拘束されていた。

目の前には消息不明だったイチジがいつもと変わらぬ無表情でこちらを見ている。

 

少しの沈黙の後、静かな冷たい石造りの建物の中に落とされた爆弾発言に4人は大きく目を見開いた。

 

 

イチジ…な……何を言っている!!

 

拳を握りしめながら叫んだジャッジを見下ろし、イチジは告げる。

 

 

「言葉のままの意味だ。

父上、アンタのやり方じゃいつまでたっても“国”を手に入れることなど出来ないと気付いた。

おれたちが“王”だと言うのならば、この体たらくは許されることじゃない……違うか父上。」

 

冷たく放たれた言葉にジャッジは顔を歪ませながら苦々しげに言葉を紡ぐ。

 

 

「わかった様な口を……

だからこそ、おれは北の海(ノースブルー)を再び手にする為に全てをかけてッ…!!」

 

「“国土を追われ故郷の土を踏むこともできずに亡くなってしまった先祖たちの無念を晴らす為”…だろ?

父上、その話はいい加減聞き飽きた。」

 

「イチジ、貴様…っぐぅ!!」

 

 

怒りに満ちた表情で、叫びながら立ち上がろうとしていたジャッジをイチジは素早い動きで蹴り飛ばし、イラついた様に言葉を続けた。

 

 

「海遊国家とは名ばかり…結局、おれたちは国土を持てていない、それが現状だ!

それを打開する為には暴力だけでは駄目だ…緻密な戦略と人脈が必要になってくる。

北の海(ノース)全土に盲目に拘り続けるのではなく、まずは国土を……領地を手に入れ、1つずつ進めなくては話にならないんだ。

……今までそんな簡単な答えに気付けずに、何も疑問を持たず父上に従うだけだった自分が愚かで恥ずかしい。」

 

「ハァ……ぐぎ…貴様…先祖の…想っぐあ!!」

 

「……もう喋らないでくれ、父上。

見苦しいだけだ。」

 

 

強烈な一撃を浴びせたイチジは気を失ったジャッジを一瞥(いちべつ)すると、黙ったまま固まっているレイジュ達の方を振り返る。

 

 

「ニジ、ヨンジ……レイジュ。

お前達も“フィルター”を一度外せ。

そうすれば、世界の見え方も変わるだろう。」

 

先ほどよりも柔らかい声色で話すイチジにレイジュは目を見開き、ニジとヨンジは訝しげに眉を潜めた。

 

 

「……イチジ、あなた…」

 

「本気で言ってんのかよイチジ…?

父上を裏切るつもりなのか!?」

 

「ア"ァ"~!くそ、何がどうなってんだよイチジ!!

百獣の野郎共に頭でも弄られたのか!?」

 

取り乱す三人を見て、ため息を吐きつつイチジは口を開く。

 

 

「施術を受けたことは事実だ。

だが、それはフィルターを取り外しただけにすぎない。

おれたちは父上に絶対服従のコマンドが施されているだろう?

それを取り外し、自分の価値観や思考を取り戻しただけだ。

……まぁ、今のお前達に何を言っても無駄だろう。

施術前の俺と同じだ(・・・・・・・・・)

なにせ、父上の害になる可能性がある事に賛同する思考は排除される訳だからな。」

 

ゆっくりと歩み寄ってくるイチジを三人は信じられないものを見る様な目で凝視した。

 

 

「安心しろ。

フィルターを外してもなお父上と共に居たいのなら、おれはそれを否定はしない。

…共に自由になろう、姉弟達。」

 

イチジは三人に素早く手刀を繰り出し、意識を奪った。

そして倒れた三人を確認し、死角になっていた入り口に立つレオヴァの方を見やる。

 

 

「おれの方は終わった。

弟達のフィルターを外し、おれと共に来ると言うなら引き続きジェルマ王国の一員として迎えるが……対立した場合はおれが責任を持って片付ける。」

 

「お疲れ様、イチジ。

だが、大切な家族だろう?

おれは多少のことには目を瞑るが…」

 

「…レオヴァのそれ(・・)は理解に苦しむ。

兎に角、今後はおれがジェルマ王国の代表として関わらせてもらう。

父上は反逆者として、百獣海賊団に引き渡す……好きにしてくれて構わねぇ。」

 

「そうか?

では、引き続きよろしく頼む。

ジャッジはこちらで、しっかりと管理すると約束しよう。」

 

ニコリと笑うレオヴァから目線を外し、イチジは三人を担ぎ上げると施術の準備が(おこな)われている船へ向かって行くのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ジェルマ王国の企てていた裏切り計画阻止から2週間。

 

イチジはジェルマ王国の人工的な国民達の統率権を全て握り、百獣海賊団との関係も良好に進めていた。

これは、王として完璧な仕事振りだと言えるだろう。

 

 

だが、そんな仕事に追われていたイチジも一段落つき始め、余裕を持てるようになっていた。

今まで食事もゆっくりと出来なかったが、今日からは優雅に食事を楽しめる予定になっている。

 

未だに慣れぬ“疲れた”という感覚に小さく溜め息を付きながら、昼食の用意された部屋へ入った。

 

 

 

「んもぐ!?…モグモグ…よぉ、イチジ!遅せぇよ、先食ってるからな!モグ…」

 

大量にパンを頬張りながら叫ぶヨンジにイチジは手を眉間にやりながら低い声を出した。

 

 

「ヨンジ……口に物を入れながら喋るなと何度言わせる気だ?」

 

考えられんと頭を抱えるイチジの姿をニジが笑う。

 

 

「ハハハ…!無駄だぜ、イチジ。

今さらヨンジのこれは治らねぇよ!」

 

「もぐもご…ん、これ美味ぇぞ、イチジ!」

 

「はぁ……話にならん。」

 

諦めた様な顔で席に座ったイチジに、レイジュが心配そうに声をかけた。

 

 

「引き継ぎとか忙しいのはわかるけど…食事は大切よ、イチジ。

それに睡眠も……今の私たちには必要なんだから。」

 

「…分かってる。

今日からは睡眠も食事も問題なく取れるようスケジュールに余裕が出来る。」

 

「あら?そうなの。

なら、余計な心配だったわね。」

 

良かったわと、微笑むレイジュを横目にイチジは食事を始めた。

 

そんなイチジにニジが少し気だるげに話を振る。

 

 

「なぁ、手術してから頭はスッキリしたけどよ。

この疲れる?っつー感覚とか、寝たい…とか言う感覚は面倒だよなぁ?」

 

頬杖を突きながら同意を求めるニジの言葉に、レイジュが割って入る。

 

 

「これが“普通”の感覚なのよ。

確かに慣れない感覚かもしれないけれど……私は嫌じゃないわ。」

 

「…レイジュには聞いてねぇし。

なぁ、イチジはどうだよ?慣れたか?」

 

興味深げに聞いてくるニジの方に目線をやり、そっと口を拭うとイチジは答えた。

 

 

「まだ完全に慣れてはいない…が、順応しつつはある。

“色々な感情”が増えたのは面倒だが、それによって新たな思考の可能性が広がったのは事実だ。

強化された力や痛覚の鈍さはそのままなんだ、戦闘には影響は出ないだろう。」

 

「まぁ、確かにそうだけどよ~…

ヨンジが最近、動物にハマッてて夜中に鳴き声うるせぇしさぁ」

 

んぐ!?…モグモグ…ニジ!何バラしてんだよ!?

 

「……動物?」

 

「ヨンジ、あなたペット飼ってるの?」

 

 

初耳だとレイジュとイチジが反応を示し、ヨンジを見る。

本人は目に見えて焦っており、隣に座るニジを睨むと椅子を蹴った。

 

 

「止せ、ヨンジ。

食事中に暴れるな。」

 

「それより、なんの動物なの?

私…すっごく気になるわ♡」

 

「ぅ、いや……ペットとかじゃねぇ…

勝手に居着いてるっつーか…」

 

歯切れの悪いヨンジにイチジは首を傾げる。

 

 

「居着いてる?

なら駆除すればいい。」

 

え!?

い、いや、駆除とかは駄目だ!!!

 

「うふふふ…なになに?本当にあのヨンジがペットを?

…ちゃんとお世話出来てるの?私が手伝ってあげようか?」

 

だぁから!違う!!

あれだ…あの……そう!実験してるんだ!」

 

いい案を思い付いたとばかりに表情が明るくなったヨンジに、思わずニジとレイジュは笑う。

 

しかし、ヨンジはそれに気付かずに話を続けた。

 

 

「フィルターを取ってから感情増えただろ?

だから、動物使って実験してるんだ。

…わかったら、勝手に駆除とかするなよ?」

 

完璧だとばかりに胸を張るヨンジに、イチジは眉をしかめる。

 

 

「動物を使って自分の感情の実験…?

……その実験の内容は?

その動物と感情には何か繋がりがあるのか?

具体的に、その動物を使うと何が検証出来るんだ?」

 

「あ……ぇ、え~っと…」

 

イチジの純粋な疑問によって、また困り顔に戻ったヨンジをレイジュが笑う。

 

 

「うふふふふ……イチジ、あなたにはまだ早い実験かもね。」

 

「……おれには早いだと?」

 

「えぇ。

だってあなた、犬とか…小動物とかを“可愛い”って思う?」

 

レイジュの質問にイチジは更に眉をしかめる。

 

 

「かわ…いい…?

……犬は犬であり、小動物は小動物だ。

そこに思う所はないだろう。」

 

「でしょうね、そう言うと思ったわ。

可愛いと思えるようになったら、ヨンジの実験に参加すればいいんじゃない?

ね?ヨンジ♡」

 

レイジュ…!!余計な事を言うな!!

 

「……かわいい…と思えるようになったらか…

その感情はまだ良く理解出来ていないが、知らないと言うのも癪だ…善処しよう。」

 

「ハハハハ!

おれならイチジは一生分からねぇに、8億ベリー賭ける!」

 

「あら、わからないじゃない。

可能性が0じゃない限り、絶対(・・)はないわ。」

 

「……そう言うニジはどうなんだ?」

 

「おれ…?」

 

 

新しい感覚や、見え方に驚きの毎日を過ごしている兄弟達の囲む食卓は賑やかだ。

なにせ話題は尽きない。

 

彼らは新しく手に入れた北の海(ノースブルー)自分たちの国(・・・・・・)で、これまた新しく建てられた城の中、会話を楽しむのだった。

 

 

喜怒哀楽、全てを取り戻した彼らはどんな人生を歩むのか。

父親を切り捨てた子ども達の行く末は、楽園なのか地獄なのか。

 

 

しかし、きっと地獄を回避することは簡単だろう。

たったひとつ、それ(・・)を守れば良いのだ。

 

“青龍の逆鱗に触れない”

 

ただ、それだけなのだから。

 

 

麦わら帽子の少年の旅立ちまで、あと少し。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

鳳皇城(ほうおうじょう)の見える下町に店を構える個室のある酒屋にレオヴァ達は立ち寄っていた。

 

 

「へぇ~!“海の戦士ソラ”か、初めて聞いたぜ。

おれには馴染みのねぇ話だなァ。」

 

どっしりと座椅子に腰掛けているササキは酒瓶を呷りながら答える。

そんな姿にレオヴァは笑い、スレイマンも同意するように頷いていた。

 

一方、話をふったドレークは意外そうな顔をしつつも話を続ける。

 

 

「スレイマンもササキも知らないのか…

てっきり、トラファルガーもホーキンスも知っていたから有名な話かと思っていたんだが……」

 

「いや、おれの生まれた場所では聞いたことはないな。

……国務に関係ある本しか読ませて貰えていなかったから知らんだけかもしれないが。」

 

スレイマンの言葉が終わり、そうなのか…と腕を組むドレークの方を向きレオヴァが思い出したように口を開いた。

 

 

「確か、その話は北の海(ノース)で有名な話だったからな。

南の海(サウス)出身のスレイマンと、偉大なる航路(グランドライン)出身のササキが知らないのも無理もない。」

 

「なる程…!

おれやトラファルガーとホーキンスは同じ北の海(ノース)だから知っていたのか。」

 

「流石はレオヴァ様…!!

瞬時にその考えに至る思考の速さ、感服せざるを得ません!!」

 

「…スレイマン、大げさだ。

少し落ち着いてくれ…」

 

興奮し始めたスレイマンを苦笑いを浮かべながら落ち着かせるレオヴァを見て、ササキが大口を開けて笑う。

 

 

「はははは…!

スレイマンの気持ちも分からなくねぇけどなァ!

けど、そうすると……前回の任務は北の海(ノース)の奴ばっかだったワケか、そりゃ盛り上がるよなァ!」

 

「確かに、そう言われるとそうだな…

あの任務の後の帰りの船ではトラファルガーとホーキンスと話も弾んだ。」

 

楽しげにそう言うドレークに、少し落ち着きを取り戻したスレイマンが続ける。

 

 

「懐かしの…といった所か。

おれは物語のようなモノにはあまり興味がないのだが…

ワノ国で町人たちから貰った“夜明けの物語”と呼ばれる絵巻物語、あれは素晴らしいぞ!」

 

またもや興奮気味に話すスレイマンの言葉に、ササキも声をあげた。

 

 

「おぉ…!それなら、おれも知ってるぜ!!

前に飲んでる時に狂死郎から貰ってよ。

第3部まである絵物語だろ?」

 

「そう、それだ!

1部ではカイドウ様とレオヴァ様が賊を倒す姿が描かれ、最後の3部でワノ国が豊かな素晴らしい国になった姿が描かれていた……あれは本当に素晴らしい絵巻だ。」

 

「そうそう!

2部では狂死郎も出ててよ!

レオヴァさんとヒョウ五郎のおっさんと一緒にオロチとか言う野郎を“セイバイ”するんだよなァ!

ワノ国独特?…の言葉とかあって分からねぇからよ、狂死郎に解説してもらいながら読んだぜ。」

 

「あぁ…!2人はあの絵巻のことを言ってるのか!

おれもあの絵巻物語なら持っている。

無論、1部から3部まで全て初版だ…!」

 

「マジかよドレーク!?

初版って、今すげぇプレミアついてるって狂死郎が言ってたぜ?」

 

「流石だなドレーク!!」

 

 

わいわいと盛り上りを見せ始めた3人の会話にストップをかける様にレオヴァが口を開いた。

 

 

「……待ってくれ、その絵巻物語は影を奪う男が出てくる話か?」

 

「おう、それだよレオヴァさん!

登場人物本人なのに、読んだことねぇのか?

おれ、部屋にあるから読むなら持ってくるぜ!」

 

満面の笑みで答えられた内容にレオヴァは首を傾げた。

 

 

「おれの知ってる限りその絵巻は第3部まであるような長い話じゃねぇんだが…」

 

眉を下げたレオヴァの言葉に、スレイマンが意気揚々と答える。

 

 

「なんでも、2部からはヒョウ五郎が率先して作ったという話を聞いたことがあります。

その後第1部に続くように2部が飛ぶ勢いで売れたことで、3部も制作することになり、今は4部が作られているとか!」

 

「ヒョウ爺が…?いや、待て……4部?

まだ新しくその絵巻は作られているのか?」

 

「はい…!

おれは無事に予約も取れました。」

 

普段の数倍生き生きした表情で答えたスレイマンにレオヴァは上手く言葉が返せずにいた。

 

 

ただでさえ、あの絵巻物語が流行ってしまった時も頭を抱えたと言うのに

まさかそれの続編が出されていたなど思いもしなかったのだ。

 

 

もちろんワノ国内の情報について、レオヴァは抜かりなく集めている。

だが、優先度が高いのは緊急性のある情報や問題が起きたなどの情報だ。

 

巷で流行っている本、それも絵物語の情報はレオヴァまで届いていなかった。

いやそもそもの話、この情報は届ける必要はないだろうという認識だったに違いない。

 

だからこそ、レオヴァは知らないうちに増えていた絵物語の話に驚きを露にしたのだから。

 

 

 

あの場面が良い!やら、この瞬間を描いた絵が好きだ!やらと盛り上がる3人を前になんとも言えぬ表情をしながら、レオヴァは久々の酒を呷った。

 

 

だが、奇しくもこの宴の次の日、謀ったようなタイミングでヒョウ五郎から第一部から第三部までの絵巻を受け取ることとなる。

 

そして、自室で受け取った絵巻を読み、大いに活躍するカイドウの姿にレオヴァは絵物語も悪くないと頬を緩めるのであった。

 

 

 

 




ー後書き&補足ー

[レオヴァ]
父さんが選んだクイーンこそが世界一の科学者だと思っている過激派。
絵巻物語の件で、ヒョウ五郎に詰め寄ろうかと思っていたがカイドウが称えられている内容だった為
「いい物語だ」と、褒めて終わった。

[クイーン]
ジェルマの科学力を再現したモノを色々と作り、ドレーク達に持たせた
ジャッジに吠え面かかせる為なら徹夜も厭わない。
今回の件で最高に気分が上がっており、おしるこの消費量が2倍に増えた。

[北の海組]
なんだかんだ悪の軍団との戦いにはしゃぐ。
帰りの船ではその話で盛り上がり、珍しくホーキンスも席を共にしていた。

[ジャック]
悪の軍団とか分からずにおいてけぼり。
とにかくジェルマが裏切りを企てた事に腹を立てていた。
クイーンの兄御こそ最高の科学者だと信じて疑わない。

[スレイマン]
絵巻物語の正当な読者。
レオヴァの預かり知らぬ所でこの物語を布教しており、ナワバリの島にも配っているほどである。
最近ではヒョウ五郎と共に“夜明けの物語”の関係の小物制作の監修も務めた。

[ササキ]
物語などは読まないタイプだったが
狂死郎に勧められ、カイドウとレオヴァの話だということもあり読んだ。
しかし、ワノ国特有の言葉がありよく分からなかったので結局は狂死郎に朗読を頼んだ。

[イチジ]
ジェルマ王国としてレオヴァと契約し直し土地を手に入れた
王としての仕事も、ジェルマとしての仕事も滞りなく進められている完璧人間。
あらゆる感情を取り戻しはしたが、他に対してのプラスの感情は上手く理解出来ていない。
百獣とは利害関係を保つ必要があると強く感じている。

[補足]
・ローのRoomについて
組手という過酷な修行により、原作よりも通常のRoom可能範囲が大幅に広がった。

・ジェルマに渡した土地について
北の海にあった百獣と敵対していた国を更地にして渡したもの。

・イチジとの関係について
現在は北の海にある百獣のナワバリとジェルマ王国は同盟関係になっている

・クイーンが作ったジェルマ系絡繰魂
攻撃を跳ね返し透明になれるマントや、加速装置など
持たせた理由はジャッジに吠え面かかせる為であり、本来はドレーク達用ではなく真打ち用に開発された。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

始まり前夜

 

 

久々の連休を手に入れ獣人島(じゅうじんとう)で和やかな休日を過ごした狂死郎は、大名の仕事を再開すべく領地へと戻って来ていた。

 

文机の前に座ると筆を手に取り、窓から外を眺める。

大名城から見えるワノ国の景色は自然豊かで活気に溢れていた。

 

狂死郎は獣人島で久々に話したアシュラ童子やネコマムシの楽しげな顔、そして昔のようなおてんばさを取り戻した元気な日和を思い出しながら執務を進める。

 

 

「……このワノ国の平和を…日和様の幸せを守らなくてはな…」

 

そう自分に言い聞かせるように狂死郎は呟いた。

 

 

 

 

あの憎き黒炭オロチを討ってから数年の月日が流れていた。

少しずつではあるが日和や狂死郎達の心の傷は、この穏やかで平和なワノ国での生活で癒え始めている。

 

未だに光月おでんを悪く言う(たみ)はいるが、狂死郎達はそれを無視出来るほど心に余裕も出来ていた。

 

誰がなんと言おうとも、光月おでんの素晴らしさを自分達が忘れなければ良い……そう思えるようになったのだ。

 

 

外の(すさ)んだ世界とは違い、このワノ国は昔と比べ物にならぬほど美しく心地の良い国になった。

 

それは紛れもなく民を豊かにした鳳皇(ほうおう)と称されるレオヴァ、そしてワノ国の守り神である明王(みょうおう)と崇められているカイドウのおかげだろう。

 

 

しかし、そんな穏やかで平穏な日々を手に入れた狂死郎だったが、実は人知れず大きな焦りがあった。

 

あと数年……あと数年もすれば…この平和を失ってしまうかもしれない。

そんな強迫観念にも近しい不安が狂死郎を苦しめるのだ。

 

 

理由は1つ。

今此処にいない赤鞘と呼ばれる仲間達と、我らがおでん様の跡取り光月モモの助様が“過去”からやってくる……はずなのだ。

 

 

狂死郎は日和からこの話を聞いたとき、にわかに信じられなかった。

なにせ、未来に飛ぶ妖術があるなど聞いたこともなかったからだ。

 

だが、レオヴァから赤鞘の遺体はなかったと言う話を聞き、それは確信に変わった。

 

日和から聞いたトキの最後の言葉(・・・・・・・・)

百獣海賊団の捜索ですら見つからない赤鞘と光月モモの助。

 

狂死郎が未来に飛んだと言う話を信じるには十分な内容だったのだ。

 

 

 

狂死郎は今此処にいない仲間達、そして光月モモの助に会える事は心から嬉しく思っていた。

生きていてくれている、それだけで嬉しくてしょうがなかった。

 

だが、同時にそれは不安にも繋がる。

 

過去から来ると言うこと。

それは即ち、討ち入りまでの記憶しかない(・・・・・・・・・・・・・)と言うことだ。

 

あの時の昂る思いのままに、もし百獣海賊団への討ち入りを続行してしまったら…? 

 

そう考えると狂死郎は胃を握り潰される思いだった。

 

 

狂死郎はせっかく平和に幸せを見つけ始めた日和から、またこの日常を奪う結果になる事が恐ろしかったのだ。

 

あの時、日和を守れなかった事実は病的なまでに狂死郎を“日和贔屓”にさせていた。

 

今度こそ、何があっても日和様を……おでん様の忘れ形見を守る。

それが狂死郎の今の存在意義であった。

 

 

だから、狂死郎は考えた。

 

未来から仲間達と光月モモの助が来ることはレオヴァや百獣海賊団の者には話していない。

ならば、その事実が露見する前に共に外海へ逃げようと。

 

今までの全てを。

オロチを討った事、レオヴァが国の為にしてきた事、カイドウがどれだけ国を守っているかという事、全てを話し説得してみせる。

そう狂死郎は誓った。

 

そして、外海でまた皆でモモの助様と日和様をお守りするのだ…と。

 

もし仮にレオヴァならばバレても、きっと見逃してくれる。

外でならば生きることを許してくれる、そう信じて疑わなかった。

 

なぜなら今、自分もネコマムシもアシュラ童子も日和様も生きているのだ。

きっと、モモの助様達のことも分かってくれるだろう。

……そう、縋る事でしか今の狂死郎は安眠できないのだ。

 

 

狂死郎は心底不安だった。

 

もし、その時が来たら平和に話を付けられるのか?

みんなを説得できるだろうか?

モモの助様の御心は大丈夫なのだろうか?

ワノ国にいる以上に、日和様を幸せに出来るのだろうか?

 

……落ち込み、追い詰められていた自分を立て直してくれたササキ(親友)と、レオヴァ殿(頼れるあの方)の支えなくして、しっかりと務めを果たせるのだろうか?

 

 

 

嫌なことなど忘れてしまいそうになるほど穏やかな小鳥の歌声が部屋に届く。

 

狂死郎は数年後の再会が、この平和を壊さないよう今日も思案する……いや、せずにはいられない。

 

 

おそらく、錦さんなら話を聞いてくれる筈だ…

おでん様が健在だったあの日々、おれと共にレオヴァ殿と多くの言葉を交わしたのだ。

そんなレオヴァ殿の優しさを知っている錦さんなら……

 

狂死郎は、そう強く自分に言い聞かせる。

 

 

「……こんなにもみんなとの再会が苦しいものになるなんて思わなかった…

おでん様…必ず、日和様の幸せはおれが……たとえ、何を犠牲にしても。」

 

そう呟いた狂死郎の鬼気迫る雰囲気に、窓際で歌っていた綺麗な青い小鳥は逃げるように羽ばたいて行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ワノ国の美しい木々に囲まれた九里にある、山の上の平地……そこは九里城跡地と呼ばれる場所である。

またの名を、“おでん城跡地”と言う。

 

ここは亡霊が現れると多くの噂が囁かれ、鳳皇直々に侵入不可令が出た土地だ。

 

 

しかし、実は侵入不可令が出た理由は噂だけではない。

そこに建てられた光月家の墓への民達のイタズラの多さが大きな原因だった。

だが、それを知るのはレオヴァを始め狂死郎やヒョウ五郎、そして九里に住む一部の人々ぐらいであろう。

 

 

そんな人の寄り付かぬ九里城跡地に、人影がひとつ。

 

その人影は手に持っていた魚にかぶり付くと、ペッと硬い頭を吐き出した。

 

九里の川で捕れた脂の乗った魚の身を(しょく)しながら、人影は忌々しげに呟く。

 

 

「……百獣に囚われる日和さまをお救い出来ないとは…なんたる不甲斐なさッ…!

傳ジローさえ…あやつがおでん様を裏切らなければ全て失わずに済んだと言うのに!!」

 

憎しみに染まった表情を(あらわ)にし、そう叫んだこの人影こそ

長らく死んだと思われていた人物、河松であった。

 

 

あの公開処刑の日、誰よりも尊敬していた主君の声に背を押され生き延びた河松は、今日(こんにち)まで川の魚や木の実を食べ命を繋いでいたのだ。

……この、想い出深いおでん城跡地で。

 

河松は焼け落ちたおでん城の瓦礫の間を根城にしながら、毎日仇討ちを心に誓っていた。

 

オロチが討たれた今、河松の憎悪は百獣海賊団とワノ国の民…そして傳ジローに向けられていた。

 

 

だが、最初から河松は傳ジロー……いや、狂死郎(・・・)に憎しみを抱いていた訳ではない。

大切な仲間であり、おでん様を想う同志…だったはずの狂死郎への裏切りの確信が河松の意識を変えたのだ。

 

 

あの日、あの討ち入りをレオヴァへ漏らしたのは狂死郎ではないのか……それが始まりだった。

 

狂死郎は赤鞘の誰よりもレオヴァと(した)しい、それは皆が思っていた。

 

レオヴァが食べ物を渡しに来た時、必ず錦えもんと共に歓迎しており、更には何やら二人で話し込んでいる姿も度々見受けられたのだ。

 

 

ネコマムシの

『傳ジロー!

いつもレオヴァと話しちゅうが、なんの話しちゅうが?』

と言う問い掛けに狂死郎は

(まつりごと)についての議論をな…

レオヴァ殿の発想は面白い!この九里でも使えるものばかりだ!』

と笑顔で答えていた。

…が、今思えばあの時から既に狂死郎は裏切っていたのだ…と河松は思っていた。

 

 

全てを失い悲しみと憎しみに溺れてしまっている河松の表情に昔の面影はない。

鋭くなってしまった目付きと(やつ)れた姿は、ワノ国の国民から亡霊と見間違われるほどだった……

 

 

今日も亡霊は怨みがましく美しいワノ国を睨み付けた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

最近、百獣海賊団にて新たな武器が普及していた。

その名も、絡繰魂武装(カラクリアームズ)

 

なんとクイーンが真打ちやギフターズ達を中心に、部下を大幅強化出来る武器やアイテムを大量生産したのだ。

 

今までも絡繰魂(カラクリ)武器なるモノをつくり出し大看板や飛び六胞に渡してはいたのだが、強力であることの代償にそれは大量生産できる代物ではなかった。  

 

しかし、今回の絡繰魂武装(カラクリアームズ)は高性能な上に大量生産を可能にした、最新型の武装装備である。

 

 

これにはカイドウも大幅な戦力の増強になったと大いに喜び、宴まで開いた。

そして、研究所にすし詰め状態だったクイーンを労る意味を込めて、大きな休みを取らせたのだった。

 

 

そんなこんなで、遊郭で遊びまくるぜ!と意気込むクイーンの横で、カイドウはもう一人の功労者を待っていた。

 

絡繰魂武装(カラクリアームズ)を造るにあたって、ある技術力を手に入れる必要があったのだが

それを危なげなく手に入れ、クイーンの補佐をした功労者こそレオヴァであった。

 

 

優秀な部下と良くできた息子の大手柄にカイドウの酒を進める手は止まる所を知らぬ、状態である。

 

10瓶目の酒を飲み干し、カイドウが次の瓶に手を伸ばすのと同時に部下によって正面の(ふすま)が開かれた。

 

 

「すまない父さん…!

寝ていたから身支度で遅くなった!」

 

よほど父を待たせまいと急いだのだろう。

珍しく着物が着崩れしてしまっているレオヴァを見て、上機嫌にカイドウは笑う。

 

 

ウオロロロロ…!!たいして待っちゃいねぇ!

ウィ~…だが、寝てたにしては早ぇじゃねぇか

そんな所に突っ立ってねぇで、早くこっちに来いレオヴァ!

 

手招きされるまま定位置であるカイドウの隣の座椅子に腰掛け、レオヴァは自然な動作で自分の服の乱れを直した。

 

 

「…で、父さん。

大事な用があると部下から聞いたんだが…」

 

見上げて問うレオヴァの言葉に答えずにカイドウは手を伸ばした。 

 

突然頭上(ずじょう)に大きな手が伸びて来たことに驚くこともなく、レオヴァはただ不思議そうにきょとんとしているとカイドウは優しいとは言い難い動作で髪を掴んだ。

 

 

「ヒック…なんだァ、レオヴァ。

今日は髪を編んでねぇのかァ?」

 

珍しいものを見るような顔で言われた言葉に、ハッとしたようにレオヴァはカイドウの手に収まっている自分の髪を見た。

 

 

「…父さんに会うことばかり考えて、結うのを忘れてたみたいだ……」

 

身なりを整えられていなかった事に気付き申し訳なさそうにするレオヴァを見て、また楽しげにカイドウは目を細めた。

 

 

「そんなことで落ち込むんじゃねぇレオヴァ!

お前はおれの息子だ、どんな見た目だろうがそれは揺るがねぇ!

そうだなァ……気になるってんなら、また昔みてぇにキングに編んでもらうか?ウオロロロ!」

 

「そうだな…ありがとう父さん!

だが、もうキングに頼むような歳じゃねぇ…」

 

からかう様な笑い声に少し気恥ずかしそうに身を縮めたレオヴァの頭をわしゃわしゃと手荒く撫でると、カイドウは新しい酒を呷った。

 

 

そうだ、レオヴァ!!

忘れてたぜ……お前また最弱の海にでも休暇に行ってこい!

 

「…休……暇?

ちょっと待ってくれ、父さん。

なんでおれが休暇を……」

 

眉を下げたレオヴァの言葉が終わるより先にカイドウの口が開く。

 

 

「クイーンから話は聞いたぞ。

新しい武器の開発で働き詰めだったってなァ。

それにハチノスと北の海(ノースブルー)の件でも休暇を取らなかったらしいじゃねぇか!!

今回はそれを含めた休暇だ、ローでも連れてけ!

あいつも“仕事の虫”だとジャックが言ってたからなァ…」

 

有無を言わせぬカイドウの雰囲気にレオヴァは少しの沈黙の後に答えた。

 

 

「……今回の休暇、父さんは一緒に来れないんだろ?」

 

「おれァ…ドレスローザに行く!

次の休暇にはおれも行くんだ、んな顔しねぇで今回はローを連れてってやれ。

ウオロロロロ!休暇明け、楽しみにしておけよ!!」

 

「わかったよ、父さん。

休暇明けを楽しみに、今回の休暇はローと楽しんでくる。」

 

笑顔が戻ったレオヴァの顔を見て、満足そうに頷くとカイドウはおしるこを啜るクイーンに声をかけた。

 

 

おい、クイーン!!

今晩は宴だ!さっさと準備させろォ…!!

 

えぇ~!?

カイドウさん、宴はこの前やったばっかじゃ…」

 

「だからなんだァ…?ヒック~

宴ってのはやりてぇときにやるモンだ!!

そうだよなァ!?レオヴァ!

 

「その通りだな。

やりたいときに、やりたいことをやる……それでこそ父さんだ!!」 

 

ウオロロロロロロ…!!

わかってんじゃねぇかレオヴァ!

それでこそ、おれの息子だぜェ!!!

 

楽しげに笑い合う親子を前に、クイーンは諦めたように部下に指示を出す。

 

 

「あ~…ありゃダメだわ、レオヴァもカイドウさんいるとテンション高ぇからな…

おい!てめぇら!!聞いてただろ!?

今夜は宴だ!食いモンと酒……そしておれ様の最高にFUNKな公演(ライブ)の準備を始めやがれ~!!!

 

「「「イエッサー!お任せをQUEEN様ァ…!!」」」

 

 

ドタドタと慌ただしくなり始めた部下達と共にクイーンも準備をするべく部屋をあとにする。

 

笑い合っていた親子はそれを見送ると、また楽しげに会話の続きを始めるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

カイドウとレオヴァが会話を弾ませていた頃。

鬼ヶ島にある医務室でローは薬を調合していた。

 

 

この鬼ヶ島には通常の医務室の他に幾つか専用の医務室があるのだが。

この医務室にはカイドウと大看板を除くと、レオヴァとローだけしか入室出来ぬ様になっていた。

 

中には珍しい薬品や貴重な薬草、精密な機械など様々な物が保管されている。

 

 

そんないつでも仕事に没頭出来る条件が揃った医務室はローの居着く場所と化していた。

 

結果、ロー自身の医療技術や医学の知識は百獣海賊団でも屈指の実力になったのだが

…言わずもがな、オーバーワークである。

 

 

誰にも邪魔をされないのを良いことに医務室に籠り、延々と医学の勉強や新しい薬品の開発、そして解剖まで行うローの姿は周りを心配させるほどであった。

 

そんな中、ベポはもちろんドレークやページワンを中心に部下たちも心配で胃を痛めていたのだが、今回やっと長期休みを取らせる事になったと聞き胸を撫で下ろした。

 

 

一方、ローはそんな周りの者達の心配など気付くこともなく、休暇までに終わらせておきたい調合を進めていた。

 

しかし、いつもとは違い薬品を手に作業を進めるローの表情は明るい。

 

その理由は、数時間前に休暇を取れと呼び出された時にカイドウから言われた言葉だった。

 

 

『ロー、お前休みを全く取ってねぇらしいじゃねぇか!!

っとに……仕事にたいして頑固すぎる所はレオヴァに似ちまったなァ…

いいか、今度レオヴァにデカい休みを取らせる。

それにお前も同行してこい!暫くは医学書に触るんじゃねぇぞ…!!』

 

ローが全然休んでいないとジャック達から報告を受けたカイドウは口をへの字にしながらローに言い放ったのだ。

 

 

“仕事にたいして頑固すぎる所はレオヴァに似てしまった”

という言葉は、カイドウからすれば苦言のつもりであった。

 

レオヴァはもとよりカイドウのタフさを色濃く受け継いでおり、尚且つ動物(ゾオン)系の能力者だ。

普段のあのオーバーワーク気味な生活でも健康的でいられるのは、そのおかげとも言えるだろう。

 

しかし、ローは一般的に見ればタフなのは間違いないのだが、レオヴァほどではないのだ。

そんなローがレオヴァまでとは行かずとも、それに近いほど働き詰めれば健康を害しても可笑しくはない。

 

現に、常日頃(つねひごろ)ローの目の下には濃い隈がある。

きっとあのままでは成長に悪く、デカくなれないだろう。

そうカイドウは考え、苦言を呈したのだ。

 

 

だが、そんなカイドウの心の内など知らずにローは“レオヴァに似た”と言う言葉に喜んでいた。

 

他の誰でもない、この世の誰よりもレオヴァを理解しているカイドウから似ていると言われたことは

ローにとって、何よりも嬉しい言葉だった。

 

それもそうだろう。

何せ、本人には言わないがローにとってレオヴァは命の恩人であると同時に、尊敬している憧れの人物だ。

そんな人に似ていると言われ、嬉しくないはずがなかった。

 

 

そんな内心が噛み合わない2人はお互いのすれ違いに気付かずにいるのだが、それを知っているのはその場にいたクイーンのみである。

…が、クイーンもめんどくさがり口を挟むことをしなかった為、この勘違いが正されることはないだろう。

 

 

 

ローは上機嫌に棚から次の薬草を手に取り、手順通り機械に入れていく。

 

誰よりも強く頼りになるカイドウから貰った言葉を頭で繰り返すと、自然と口角が上がってしまうが誰も入って来ない医務室では気にする必要もなかった。

 

 

「レオヴァさんとベポと休暇遠征か……フッ、久しぶりだな…」

 

嬉しげに呟かれた言葉は作動している機械の雑音に紛れていった。

 

 

 

 




ー後書きー
前回もご感想にここすき一覧ありがとうございます!!
誤字報告も感謝です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原作突入編
時は満ち、少年は夢へと漕ぎ出す


東の海(イーストブルー)にある、とある島にて。

 

大勢の町人たちに見送られ、一人の少年がこの大海原へ漕ぎ出した。

 

 

 

青々とした空には何羽かのカモメが優雅に舞っている。

さんさんと降り注ぐ太陽の光を浴びながら少年はのんびりとした様子で呟いた。

 

 

「や~

今日は船出日よりだな~」

 

小舟に樽を1つ乗せ、広い海をゆったりと少年は進んでいた。

 

しかし、そんな平和な航海の途中。

目の前の波が突如逆巻いたかと思うと、そこには数十メートルはあるだろう海王類が現れた。

 

 

海の真ん中で海王類と出会うなど普通の者であれば死を覚悟する場面だが、少年はニッと不敵に笑ってみせる。

 

 

「出たか、近海の(ぬし)!!

…けど、相手が悪かったな。

10年鍛えたおれの技を見ろ!!

ゴムゴムのぉ……

 

しかし、少年の声など聞こえないとばかりに近海の主と呼ばれた海王類は大口を開けて小舟へと飛び掛かった。

 

万事休すか…そう誰もが思うだろう光景だった。

 

 

グゥアガァ~!!!

 

(ピストル)…!!!!

 

近海の(ぬし)の雄叫びと少年の声は同時に海に響いた。

 

そして、最後にそこに立っていたのは少年だった。

大きな音を立てながら沈んでいく海王類に少年は勝ち気な笑みを浮かべながら告げる。

 

 

「思い知ったか魚め!!

……んん!よし、まずは仲間集めだ。

10人は欲しいなァ!!あ、あと海賊旗!!」

 

本当に楽しげに呟いた少年は服に付いた水しぶきを軽く手で払うと真っ直ぐ海の奥を見据え、今度は逞しさを感じる表情で口を開いた。

 

 

よっしゃ、いくぞ!!

海賊王に おれはなる!!!

 

かくして、少年の大冒険は幕を開けた。

まだ見ぬ彼の仲間達を巻き込まんと、小さな船は海をゆく。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

東の海(イーストブルー)に休暇遠征に来て1週間がたった現在

とある島でローは部下達と共にレオヴァとベポの帰りをのんびりと待っていた。

 

だがなぜ、レオヴァとベポがいないのか。

それにはローが呆れ顔になってしまう様な理由があった。

 

 

 

数日前、ベポは大好きなキャプテンとレオヴァ様の為に新鮮な魚を手に入れようと作戦を立てていた。

 

何を隠そうローの好物は焼き魚であり、レオヴァの好物は海鮮系の料理なのだ。

 

魚が手に入ればいつも仕事で忙しい2人の笑顔がみられる!

そう考えたベポは備え付けの小舟でこの広い海へと、美味しい魚を求めて旅立った……のが全ての始まりであった。

 

 

ベポが乗り込んだ小舟は、普段であれば親船にロープをくくりつけて離れない状態で使用する釣り専用の小舟だ。

しかし、そんな小舟でベポは意気揚々とロープを付けずに釣りに行ってしまったのだ。

 

…もちろん、結果は言わずもがなである。

ベポは小舟と共に沖に流されてしまい行方不明となった。

 

 

そこで慌てたのがローとレオヴァだった。

 

この東の海(イーストブルー)でベポが敵わないような者などそうそう居ないが、海で遭難したとあっては話は別である。

 

小舟で沖に出てしまうなんて、脱水状態や渦潮などの危険にさらされるに違いない。

そう考えたローとレオヴァは焦った。

 

 

『ベポの奴…!!

あれだけ1人で釣りに行くなと言い聞かせてあったのに、何やってんだ…』

 

『……すまない、ロー

しっかりとベポを見ていなかったおれの落ち度だ。

今頃不安で泣いてるに違いねぇ……心配だ…』

 

『レオヴァさんのせいじゃねぇよ。

本当にベポは世話がやける……おれは部下達に指示を出すからあとは任せていいか、レオヴァさん?』

 

『勿論だ。

おれなら空から探せるしな……ベポを連れて帰って来るから待っていてくれ。』

 

『頼む、レオヴァさん。

……っとに、ベポの奴帰って来たら暫くおやつ抜きだな。』

 

 

と言うやり取りを終え、レオヴァが飛び立って行ってから5日が経っていた。

 

しかし、飛び立ってから数時間後にはベポが見つかったとの連絡は来ていたのだ。

 

 

 

とある海賊が休息地として利用している島でレオヴァはベポを見つけ、すぐに電伝虫を取り出し

 

 

『…こちら、トラファルガー』

 

『ロー、おれだ。』

 

『レオヴァさん…!

ってことは、ベポが見つかったのか?』

 

『あぁ、見つけた。』

 

『そうか!

まったく…ベポの奴、手間掛けさせやがって…』

 

 

安堵の混じった悪態を聞き、レオヴァもベポが無事に見つかった安心感から小さく笑った。

 

 

『ふふ…まぁ、そう怒ってやるな。

アクシデントもたまには悪くない。』

 

『……レオヴァさん、あんまりベポを甘やかすなよ…』

 

『ローほどベポを甘やかしてはいないぞ?」』

 

『っ…別におれも甘やかしてねぇよ!

とにかく、島で待ってるからベポと早く合流…』

 

電伝虫から聞こえるローの言葉を遮るようにレオヴァは口を開いた。

 

 

『すまない、ロー。

その事だが、合流は数日待ってくれ。

……興味深いものを見つけたんだ。』

 

『興味深い…?

……はぁ、わかったよレオヴァさん。

5日くらいは滞在する手筈を整えとく。』

 

『ありがとう、ロー。

それまでには合流出来るよう努める。

面白いものがあれば土産に持って帰るよ。』

 

『もう、ヘンテコな置物やタペストリーは要らねぇよレオヴァさん。』

 

『ヘンテコとは心外だ!あれはジャヤの歴史ある……っと、ベポを回収するのが先だな。

また連絡する、そっちは任せるぞ。』

 

『フッ……あぁ、待ってるよレオヴァさん。』

 

 

と、いうやり取りを2人はしていたのだった。

 

そして、ローはまたレオヴァが珍しいモノか生き物でも見つけたのだろうと気長に待つべく船を停泊させる指示を出し、現在に至る。

 

 

 

東の海(イーストブルー)のあまりにのどか過ぎる空気にローは少しの手持ち無沙汰を感じながらも、そろそろ帰って来る頃ではないかと甲板に出た。

すると突然頭上に大きな影が落ちて来る。

 

その影の形にハッとしたように上を見上げると、ローの顔に笑みが溢れた。

 

 

「レオヴァさん…!」

 

そのよく見慣れた姿の巨鳥は脚に掴んでいた中型の船を海に下ろすと、人の姿に戻りローの乗っている船の甲板へと着地した。

 

 

「お帰りレオヴァさん。

そろそろだと思って紅茶の準備出来て……って何かあったのか?」

 

「ただいま、ロー…紅茶まで準備してくれてたのか

……お前は本当に偉いな…仕事は出来るし人の話もしっかりと聞ける。

それに機転も利くし周りをよく見て気立ても良い……本当に大きく立派に育ったなァ、ロー。」

 

「なっ……なんだよレオヴァさん、急に!!」

 

 

疲れきった顔をしていたのを心配し、声をかけたローだったのだが

レオヴァはローを見るとゲッソリとした表情から一変し、優しい表情で帽子の上からローの頭をこれでもかと撫でた。

そして、ローは褒められた嬉しさ半分、突然なんだと驚き半分に声を上げた。

 

しかし、耳を赤く染めながらも驚くローを気にせずにレオヴァはローの頭を一頻(ひとしき)り撫で終えると満足したのか部屋へ歩きだした。

 

 

「…気分転換に父さんから貰った藍色の着物に着替えてくる。

シャワーと着替えが終わったらベポと三人でお茶にしよう。

……こんなに疲れたのは…久しぶりだ……

 

「ちょ…レオヴァさん!

答えになってねぇ…!!」

 

 

ローの叫びに疲れを滲ませた微笑だけを返し、レオヴァはお気に入りの着物に着替えるべくその場を後にする。

 

 

わけもわからず目を白黒させていたローの背中に、レオヴァが運んできた中型船から降りたベポがガバッと抱きついた。

 

 

「キャプテ~ン!!会いたかった~!!!

もう、本当に失礼な奴にあって大変だったんだよぉ…」

 

ぐりぐりと頬っぺたを押し付けて騒ぐベポを引き剥がすことはせずに、眉間にシワを寄せたローが口を開いた。

 

 

「ベポ…お前その前におれに言うことがあるよなァ?」

 

「あ……きゃ、キャプテンごめんよ…

おれ、キャプテンとレオヴァさまを喜ばせたくて……」

 

「それはわかってる。

いつも言ってるが、1人で勝手に海には出るな!

ベポが心配かけるからレオヴァさんスゲェ疲れてるじゃねぇか!

クイーンのバカのおしるこ語りを数時間聞かされてもレオヴァさんはあんな疲れきった顔しねぇのに…」

 

 

ローの言葉にしゅんとしていたベポが違うと慌てたように首を降る。

 

 

「違うよキャプテン!

レオヴァさまが疲れてるのはおれのせいじゃなくて…!

あ、でもいっぱい心配かけたのは本当だよね……それはあとでちゃんと謝るよ

でも、疲れてるのは“麦わら帽子の奴”のせいなんだ!」

 

ローから離れて身振り手振りで必死に訴えるベポを見て、ローは首を傾げる。

 

 

「麦わら帽子の…?聞いたことねぇが…

こんな場所でレオヴァさんが疲れるような奴がいたのか?

……いや、だがレオヴァさんに傷なんかあったか…?」

 

手を顎に当てて考えるローにベポはブンブンと首を横に振る。

 

 

「レオヴァさまに敵う人なんてカイドウさましかいないよ!?

そうじゃなくて!スッゴい失礼な奴なんだよ~!!

けど、エースくんの弟だからレオヴァさまも手は出すなって言うし……」

 

「エース…火拳か。

アイツそう言えば、よく仕事で疲れてるレオヴァさんに延々と弟の話聞かせてたな…

確か何か“約束”もしてたな……チッ、レオヴァさんに面倒事押し付けてたら容赦しねぇ」

 

 

一気に人相が悪くなったローの言葉に同意するように頷くと、ベポは話し足りないと言うように言葉を発した。

 

 

「もう本当に人の話を聞かないやつだったんだ!

それでレオヴァさんも振り回されて…」

 

「……それだけ聞くと、まんま火拳だな…

ベポ、レオヴァさんが戻ってくるまでに おれが居なかった時の話をしてくれ。」

 

「わかったよ、キャプテン!

実はおれも話したくてうずうずしてたんだ!」

 

 

船の中の部屋へとローに連れられながら、ベポはずっと話したかった数日間の出来事を語りだしたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ベポは休暇遠征に来ていた。

 

大好きなキャプテンに大好きなレオヴァ様、この二人と一緒に遊びに行けることにベポは心から喜んだ。

…そう、本当に飛び跳ねるほど喜んだのだ。

 

その結果、はしゃぎすぎで二人とはぐれる未来など知るよしもなく。

 

 

 

案の定、はぐれてしまい孤島の様な場所でベポは一人しょぼくれていた。

 

 

「うっ…うぅ…ぐすっ……キャプテン~…レオヴァさまぁ~

お、おれこれからひとりぼっちで…どうしたらいいの…

もう、昔みたいに ひとりぼっちは嫌だよぉ……」

 

悲壮感漂う白クマは砂浜で小石を投げながら、瞳にたくさんの涙をためて途方にくれていた。

 

ひとつ、またひとつと小石を投げていると、海から漂着していた樽に当たる。

 

その小石がコツン…という音を立てたかと思うと、その樽が突然破裂したのだ。

 

 

えぇ…!?

 

予想だにしなかった展開に

思わずベポが驚きの声を上げると、それに続くように中から現れた少年が叫んだ。

 

 

あーー!!

よく寝たーーっ!!!

いやぁ、なんとか助かったみたいだなァ

目ェ回って死ぬかと思った!!

にっしっしっしっ!!

……ん?なんだ、クマか!ちょうど腹減ってたんだ!」

 

「お…おれは食いものじゃないぞ!!!

 

「うおぉ!?クマが喋ったぁ!?」

 

ヨダレをたらしながら此方を見てきた少年にベポが怒ると、少年は驚いたのか後ろにひっくり返った。

 

 

「アルビダとかいう怖いおばさんやっつけたのに…

た、食べようとしてくる人もいるし…

うわ~ん!キャプテン、レオヴァさま助けて~!!

 

わたわたとその場で足踏みしているクマを見て、砂まみれになったまま少年は可笑しそうに腹を抱えて笑った。

 

 

「あっはっはっはっ!

喋るクマなんて初めてみた!おもしれぇ…!!

なぁ!お前、ここで何してんだ?」

 

立ち上がった少年を訝しむように見ながら、ベポは答える。

 

 

「お、おれはキャプテンとレオヴァさまとはぐれちゃって…」

 

「迷子かー!

おっちょこちょいだな、クマなのに喋るし本当におもしれぇ奴!」

 

 

「樽から出てきた人に言われたくねぇよ!!!

何があったら樽に入ることになるのさ…」

 

 

考えられないというようにベポが首を振ると、少年はなんでもないように答えた。

 

 

「渦巻にのまれちまってよ~!

あ、そうだ。

おれはルフィ、お前小舟とか持ってるか?」

 

「え、あ…おれはベポ!

小舟は持ってるよ、おれそれで釣りしてたら流されちゃったから…」

 

「はっはっはっ!まぬけだなー!」

 

「いや、渦巻にのまれちゃった人に言われたくないけど…」

 

 

ムッとした顔で言うベポを気にする風もなく、ルフィと名乗った少年はビシッと海に指を指しながら口を開いた。

 

 

「小舟ありそうな島までおれを連れてってくれ!」

 

「めちゃくちゃ偉そうな頼み方だな…!?

おれはここでキャプテンとレオヴァさまのお迎え待つから嫌だよ!」

 

「おれは小舟が欲しいんだ!!」

 

「ワガママか!!」

 

 

船を出す出さないでわいわいと騒いでいた二人だったが、突然ルフィが森の方を見て静かになったことにベポは首をかしげた。

 

 

「…そこにいるお前、誰だ?」

 

ルフィが呼び掛けると森の中から変わった服を来た長身の男が姿を表した。

その男の姿をみるとベポは満面の笑みで走り出す。

 

 

「あっ…!

レオヴァさまぁ~!!

おれ、おれっ…ずっとひとりで寂しかった~!!」

 

2mはあるベポよりも大きいその男は抱き付いてきたベポを優しい表情で見やると、口を開いた。

 

 

「ベポ、流されたと聞いて本当に心配したんだぞ!

釣りに出る時はローと一緒にって約束だっただろ?

誰にも言わずに1人で釣りにでるな…おれ達がどれだけ心配したか分かるか?」

 

「ごめんなさい…

おれ久しぶりにキャプテンとレオヴァさまと一緒で嬉しくて…」

 

「ん、ちゃんと反省したならいい。

ベポ…無事でよかった。」

 

「れ、レオヴァさまっ!

うっぐす…ごめんなさい、もう一人で海には出ないよぉ…!」

 

優しく諭す様な声色で声をかけていた青年は、暫くベポの背とんとんと叩いていたが、ハッとしたようにルフィの方を向いた。

 

 

「……そこにいる少年は…

さっきベポと話していただろう?」

 

少しの警戒心を滲ませた青年の言葉に、ベポではなくルフィが答える。

 

 

「おれはルフィ!海賊王になる男だ(・・・・・・・・)!!

今、クマに船乗せてくれって頼んでんだ。」

 

 

ニッと笑顔で答えたルフィを見てベポは苦々しい表情をして青年を仰ぎ見る。

青年はほんの一瞬瞳にある感情を灯らせたが、それを隠すように明るい表情で返事を返した。

 

 

「ッ……ほう…ルフィか。

挨拶が遅れてすまない、おれはレオヴァという。

ところで、自分の船はどうしたんだ?」

 

「船壊れちまったんだ。

ちょっと進んだところでこ~んなデッカい渦巻によ!」

 

両手を広げて渦巻きの大きさを表しているルフィを見てレオヴァと名乗った青年は笑顔を作る。

 

 

「そりゃあ災難だったなァ。

次の島までなら、おれの乗ってきた船に乗せてもいいが…」

 

レオヴァが言い終わるより早く、ルフィは満面の笑みで答えた。

 

 

「良いのか…!?

ツノ()、お前良いやつだなぁ!!」

 

「…ツノ()

それはおれの事…なのか?」

 

「おう!

ツノがあるからツノ男だ!」

 

「……本当にエースから聞いてた通りの男だな…」

 

「え…!?エース!?

ツノ男はエースのこと知ってんのか!?」

 

 

少し呆れ顔をしていたレオヴァから出た“エース”と言う名前にルフィは大きく目を見開いた。

 

エースとはルフィにとって2人いる大切な兄の内のひとりである。

 

 

「エースとは数年前に知り合った。

豪気で気の良い奴だったが……嫌と言うほど“弟”の話を聞かされてな…

その弟は麦わら帽子を被った少年で名前はルフィだった……その反応を見るに、お前がエースの弟なんだろう?」

 

「エースがおれの話を?

にしし!そっか!

ツノ男はエースの友だちか!!」

 

「友だち…か……まぁ、そうだな。

似たようなものだ…今はな。

エースの頼みで、弟に会ったら“一度だけ”助けると約束した。

おれは()に誓った約束は破らない主義でな。

ここの対岸におれの乗ってきた船がある…付いてきてくれ。」

 

「そうなのか!!

困ってたんだ、ありがとうー!!」

 

「えぇ!?

レオヴァさま本当に連れてくの!?」

 

「あぁ、エースとの約束だからな。」

 

 

喜ぶルフィと驚くベポの声に笑いながら、レオヴァは2人を先導するべく歩きだしたのだった。

 

 

 

あれからレオヴァに付いていき、食事をご馳走になったルフィは変わった作りの中型船の中で満足げに寝そべっていた。

 

 

は~~!美味かったぁ~!!

なぁ、ツノ男!お前おれと行こう!

コックまだいねぇんだ、おれの海賊団は!」

 

笑顔で勧誘してくるルフィの言葉にレオヴァは呆れた様に返す。

 

 

「コックどころか、船も旗もないだろう…」

 

「にしししし…!まぁな!

けど、すぐに旗も船も手に入れる。

絶対楽しいからツノ男も行こう!!」

 

「その自信どっから来てるんだよ!!

あとレオヴァさまをツノ男って呼ぶな~!」

 

「ふふ、その自信…流石は“麦わらのルフィ”か…」

 

怒るベポに笑うレオヴァ。

その目の前でお腹をパンパンに脹らませて寝転がっているルフィというなんとも言えない光景が、そこに広がっていた。

 

 

レオヴァからの提案で次の島まで共に行くことになったルフィは船へと乗り込み

そして、船の中で美味しい食べ物を口いっぱいに頬張りながらレオヴァとエースの話で大いに盛り上がった事で、すっかりルフィは打ち解けていたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

海軍基地のある小さな島につき、ルフィは嬉しさを全身で表していた。

 

 

ついたぞ~!海軍基地の島!!

ツノ男とクマありがとう!」

 

無邪気に笑うルフィに答える様にレオヴァは笑みを返すと口を開いた。

 

 

「どういたしまして。

だが、おれとベポは海軍と仲が悪くてな…この島には長居できない。」

 

「そうなのか?

ん~…じゃあ、おれはツノ男が言ってたヤツ見に行ってくる!

どこだ~!!

 

「……待て!

その前に小舟を調達するのが先だろう!

 

制止の声よりも早く走り去って行ったルフィをレオヴァは言葉に表せぬ様な顔で見送ることしか出来ずにいた。

 

 

「……れ、レオヴァさま…大丈夫?

甘いの食べる?」

 

「…あぁ、ベポ……悪いな、少し素が出た。

あの、人の話を聞かない姿勢は本当にエースそっくりだなァ…」

 

 

ニコリと笑顔に戻ったレオヴァの顔を見て一息つくとベポは船に残っていた作業を終らせに戻って行き、その傍ら レオヴァは変装の為の着替えも終えていたこともあり、そのまま島巡りを開始したのだった。

 

 

 

その後、島がモーガンという海軍大佐により苦しんでいると聞かされ、薬などを高くない金額や物々交換などでやり取りしていたレオヴァとベポだったのだが。

 

なんと、レオヴァ達がやり取りしていた数時間の間にルフィがそのモーガン大佐を倒したと町人から聞かされ、ベポは大いに驚いた。

 

 

レオヴァはオオカミのせいで怪我をした少女の治療をしたこともあり、その母親に昼食をご馳走になる運びとなったのだが

そこにはルフィと見知らぬ腹巻きをした男がいた。

 

 

食堂では怪我をしていたロロノアの手当てをレオヴァが買ってでたりと、なんだかんだありつつもベポは船でローと連絡をしていた為、結局三人でご馳走になったのだ。

 

 

 

はァ食った…!!!

流石に9日も食わないと極限だったぜ!!

 

「じゃあ、ゾロはどうせ1ヶ月は無理だったんだな!」

 

「うるせぇ!

それよか何でおめェはおれより食が進んでんだよ」

 

「んぐもぐ…これうめぇなぁ!

ツノ男も食えよ!!」

 

「無視かてめえ!?」

 

「麦わら、口に物をいれたまま喋ると飛ぶだろう。

……ん、確かに美味い。

おれまで馳走になってすまないな。」

 

「いや、お前はルフィの母親か!!

おれを無視してまったりしやがって…」

 

 

ゾロと呼ばれた腹巻きの男のツッコミを気にせず食べ進めるルフィと、少女の母親に軽く会釈(えしゃく)するレオヴァ。

まったく違うタイプの三人組はありえない量の食事を平らげていた。

 

 

しかし、そんな平和だった食堂に海軍が現れたことで、和やかな昼食は幕を閉じたのだ。

 

 

三人はガヤガヤと海軍と揉める町人を見て席を立ち、町からでて港へとのんびり歩いて行った。

 

 

 

「ツノ男、本当にこの小舟貰っていいのか!?」

 

港で歓喜の声をあげたルフィにレオヴァは疲れたような表情で頷く。

 

 

「あぁ、構わない。

何よりお前に船の調達を任せては何週間かかるかわかったもんじゃないからな…」

 

「アンタ……ルフィのこと良くわかってそうだな…」

 

「ロロノア、ひとつ予言しよう。

お前は今後いろいろと苦労することになるぞ…」

 

「…嫌な予言だな

けど、本当にそうなりそうなのがなァ……」

 

イヤッフ~~!!

ゾロ!新しい船だぞ~!!

 

 

レオヴァとゾロの会話を聞かずにはしゃぐルフィは本当に嬉しそうであった。

 

そんな姿にゾロは呆れつつも、顔には隠せない笑みを浮かべ小舟に乗り込む。

 

 

「では、おれは人を待たせているから行くが…」

 

レオヴァの言葉にゾロが目を見開く。

 

 

「なんだよ、お前もルフィの仲間じゃねぇのか?」

 

そうだぞ、ツノ男!

一緒に行くって言っただろ!!

 

おれは一度も行くなんざ言ってねぇ…!!

……はぁ、本当に話を聞かない奴だ…」

 

 

頭を抱えたレオヴァをゾロは同情の眼差しでみつめた。

 

 

「ルフィは本当に話が通じねぇからな…

んじゃ、まぁ…色々と世話んなった!

…と、そういえばアンタの名前聞いてなかったな」

 

「確かに…すっかり名乗るのを忘れていた。

おれはレオヴァだ、また会えるのを楽しみにしてるぞロロノア。

じゃあ、おれは先に行かせてもらう。」 

 

「あっ…!ツノ男本当に一緒に行かねぇのか!?

それに何だその羽!おもしれぇ~!!

まぁ、また会えるだろうしいいか!船ありがとう!!」

 

「ちょ、待てよ!!

その名前にその羽っ…!」

 

 

腕を翼に変えて飛び立って言ったレオヴァをルフィとゾロはそれぞれの反応で見送った。

 

レオヴァの姿が見えなくなるとルフィは手を振るのをやめ、出向の準備をしようと一歩前にでた。

だが、そんな呑気なルフィの腕をゾロが掴む。

 

 

おいルフィ!!

 

「なんだ、ゾロ?」

 

「なんだ?…じゃねぇよ!!

お前、ツノ男があのレオヴァ(・・・・・・)だって知ってたのか!?」

 

「…?ツノ男はツノ男だぞ?

確かにクマにレオヴァって呼ばれてたけどよ」

 

「おまっ……知らねぇのか!?

レオヴァっていや、あの百獣海賊団幹部だぞ…

しかも最強生物の息子だって話も有名じゃねぇか!

 

必死の形相で詰め寄ってきたゾロの言葉に、ルフィはきょとんとした顔で答える。

 

 

「ツノ男って有名なのか~!」

 

「馬鹿野郎!

有名もなにも百獣の名を知らねぇ奴なんかいねぇぞ!?

特に、レオヴァと言えば最近急に懸賞金があがって話題にもなってたしな…

ナワバリになった島を豊かにするって話も良く聞いた。」

 

「そうなのか!

やっぱりツノ男はいい奴なんだな!」

 

おれが言いたいのは、そうじゃねぇよ!!

 

自分の頭をむしゃくしゃした様にかきながらゾロは叫んだ。

けれど悲しいかな、ルフィにはその必死さは伝わる事はなく、2人は急に現れた大勢の人に見送られながら旅を再開するのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

時は戻り、現在。

 

レオヴァは下がりに下がった気分を上げようと最愛の父から渡された着物を取りに部屋に来ていた。

 

箪笥(たんす)から立派な龍の刺繍が施された着物を手に取り、バスルームの扉を開く。

 

 

頭からシャワーを浴び、気の利く部下によって湯がためられた浴槽に体を沈めた。

 

 

「……本当に危なかった…うっかり殺してしまう所だった…」

 

そう小さく呟き、レオヴァは天井を見上げ目蓋を閉じた。

 

 

船に戻るまでの数日間、レオヴァはここ数年で一番と言ってよいほど感情を圧し殺していた。

 

それは麦わらのルフィとの遭遇が原因であり、始まりだった。

 

 

出逢う前まではレオヴァにとって麦わらのルフィとは、時が来たら消さなければならない存在であって

そこにレオヴァ自身の感情は伴っていなかった。

 

ただ、夢の前に立ち塞がる存在ならば消す。

それだけで深い意味などなかったのだ。

 

しかし、ルフィとの出会いはレオヴァの感情に変化を与えた。

 

 

 

『おれはルフィ!海賊王になる男だ』

 

このたった一言がレオヴァの感情を激しく揺さぶったのだ。

 

それは、おでんがカイドウの首を取るべく剣を握ったという情報を手に入れた時以来の激しい感情の高ぶりだった。

 

 

しかし、麦わらのルフィの存在は今後“ワンピースを手に入れる上で必要になる可能性”が高く

エースとも、出会ったら“一度だけ”助けるという約束を結んでいた為、レオヴァは爆発しかけた感情に蓋をし友好的な顔を作ることに努めた。

 

その結果、レオヴァは数年ぶりに強い精神的な負担を感じ、気分転換を試みるに至ったわけだ。

 

 

レオヴァは腹が立った時やイラつきを覚えた時、必ず自分で自分の機嫌を取るように努めて来た。

 

それは負の感情で大切な者たちに理不尽に当たるわけにはいかないと言う想いと、同時にカイドウの息子として毅然とした態度を崩さぬ為である。

 

 

そして今回もその例にもれず、ローの顔を見て自分を落ち着かせ、最愛の父から貰った着物を着ることで自分自身の機嫌を取っていたのだった。

 

 

暖かい湯によって気分を切り替えたレオヴァは浴槽から立ち上がり、バスタオルを手にしみじみとつぶやく。

 

「ワンピース……おれ達はいったい“何”をそうよんでいるのか…」

 

 

この世の全てと称された“それ”に対してレオヴァは色々と予想を立てていた。

空白の歴史に関するポーネグリフや古代兵器と呼ばれるナニカ、世界地図など

あらゆる可能性を思考した。

 

世界を揺るがす秘宝が、ただの金銀財宝なわけがないのだ。

しかし、それの正体は皆目見当もつかなかった。

 

だが、それで良いとレオヴァは思考を止めた。

ワンピースの全容を次に“知る”のは、カイドウ(父さん)でいいのだ。

 

レオヴァはいつもの精神状態を取り戻すと着物を羽織り、ローとベポの下へと歩みを進めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一方、ベポから一通り話を聞き終わったローは目付きだけで人を殺せそうな顔をしていた。

 

ベポを食べようとし、更には恩人であるレオヴァにまで散々失礼な態度を取った麦わら帽子の少年の話は見事にローの怒りに触れた。

 

これでもかと眉間に皺を寄せていたローだったが部屋に入ってきたレオヴァの姿を見て、表に出していた不快感をしまう。

 

 

「レオヴァさん、大変だったらしいな。

ベポから話は聞いた……甘いもんでも食うか?」

 

ベポが既に空にしてしまった皿の上に新しくクッキーを置きながらローはレオヴァを振り返った。

 

 

「ありがとう、ロー。

甘いものはストレスに効くとアイツも言っていたからな…」

 

ローが淹れた紅茶のある席に座ると、レオヴァはベポの口についていたクッキーのくずを拭った。

 

 

「んむ、ありがとうレオヴァさま!

そうだ!髪の毛乾かすの、おれがやるよ!」

 

「いいのか?

それじゃあ、ベポよろしく頼む。」

 

 

レオヴァは笑顔で席を立ち上がったベポに髪を任せて、紅茶をひとくち飲む。

 

 

「……美味い、疲れがとれるな…」

 

「茶葉の他にも色々ハーブを混ぜてみたんだ

気に入ったなら、レオヴァさん用として作る。」

 

「ハーブか……ハーブティーと紅茶の良いとこ取りになるのか…?

面白い発想だな、ロー。

今度、作る所を見せてくれるか?」

 

「いいぜ、休暇中はやることないしな。」

 

 

少し嬉しそうにしているローにレオヴァは笑いかけると、後ろで髪を乾かしてくれているベポに話し掛ける。

 

 

「ベポは何がしたいとかあるか?

もう暫くは休暇が続くからな……なにかあるなら言ってくれ。」

 

レオヴァの問い掛けにベポは目を輝かせた。

 

 

「ほんと!?

じゃあ、おれまたバラティエ行きたいよ!」

 

「あぁ…あのとんでもねぇ爺さんがやってるレストランか」

 

ベポの言葉に思い出したようにローは呟く。

その横でレオヴァは一瞬固まっていた。

 

今、この時期にバラティエに行くのは“あれ”と遭遇する可能性が高い。

出来れば暫く麦わら帽子は見たくない…そうレオヴァは思っていた。

 

だが、ワクワクした表情でこちらを見つめるベポのお願いを断ることなどレオヴァには出来なかった。

 

 

「……よし、なら久しぶりにゼフに会いに行こうか。

義足の具合も聞きたかったしな。」

 

「やった~!!

コックのおじいさん怖いけど、凄く美味しいんだよね!

キャプテンは何食べる?」

 

「何食うかはあっち着いてから決めればいいだろ。

レオヴァさん、まだ髪乾かないならストーブ持ってくるか?」

 

「いや、今日は寒くないからストーブはいい。

…少し伸びたし切るか、乾かすのも手間だからな。」

 

「え!?切るの!?

きっと、またスレイマンがうるさいよ」

 

「……少しなら問題ないだろう」

 

 

いつかのスレイマンを思い出し、なんとも言えない顔をするローとベポを見てレオヴァは苦笑いをした。

 

2人と1匹の休暇はまだ始まったばかりである。

 

 

 

 




ー補足ー
↓ルフィ&ゾロとレオヴァの関係図

【挿絵表示】


↓今作で死亡していると明記されているキャラ一覧

【挿絵表示】


レオヴァ:休暇遠征のはずが仕事している時よりお疲れモードだったが可愛いロー&ベポのおかげでメンタル回復。
バラティエに行くことに嫌な予感を禁じ得ない。

ロー:なんだかんだ一番休暇を満喫してる。
少し目の下の隈が薄くなった気がしている。
内心はバラティエ行くの楽しみ。

ベポ:今回のやらかしMVP
ローとレオヴァを喜ばせたかっただけなのに…状態。
バラティエでたくさん食べるぞ!と気合い十分

よろしければアンケートのご回答よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

浅い川も深く渡れ

 

 

「せっかく遠征から帰って来たのにカイドウ様もレオヴァ様もいないなんて最悪ッ!!

私だってぺーたんと一緒にレオヴァ様のお休み遠征行きたかったぁ~!!!」

 

 

鬼ヶ島にある部屋で地団駄を踏みながら叫ぶうるティを見て側に居た部下達はいそいそと距離を取った。

その横でソファーに腰かけているフーズ・フーは顔をしかめる。

 

 

「っとに、カイドウさんとレオヴァさんがいねぇくらいでいちいち騒ぐな。」

 

「ア"ァ"~?

お前だってレオヴァ様の護衛したくて自分の仕事めちゃくちゃ詰め詰めにしてたじゃねぇか!!」

 

「うるせぇクソガキ!!

いや…そもそも、それ誰から聞きやがった!?

 

「はぁ~あ~

ぺーたんもクソドレークの所いっちゃったし…

ひまひまひまぁ~!

 

「うだうだ騒いでねぇで質問に答えろ…!!」

 

 

フーズ・フーの地を這うような低い声など、どこ吹く風でうるティはツイストポテトをつまんだ。

 

机の上に山盛りに盛られたツイストポテトをモグモグと頬張るうるティを暫く問いただしていたフーズ・フーだったが、答える気がないと見ると舌打ちをし、立ち上がった。

 

 

「なんだい、フーズ・フー。

せっかく久々に会えたのに、もう行っちまうのかい?」

 

「あぁ、このガキがいちゃあ煩くて休まるもんも休まらねぇ」

 

 

煙管(キセル)をふかしながら首をかしげたブラックマリアの言葉にフーズ・フーは短く返し、部屋を後にした。

 

ブラックマリアはそれを目線で見送ると、いまだにふて腐れているうるティの方にすっと近寄って悪戯な笑みを浮かべる。

そのまま優しい手付きでうるティを側まで引き寄せると、楽しげな声で話しかけた。

 

 

「うふふふ♡

うるちゃん、二人だけになったし……“女子会”しない?」

 

「…! する!

じゃあ、お菓子とジュース持ってくるナリ!」

 

「実はね、うるちゃん来るっていうから準備しておいたの♡」

 

「ほんと!?」

 

「えぇ…ほら、こんなにいっぱい持って来ちゃったわ、」

 

「ん~!ブラックマリア好き!」

 

抱き付いてきたうるティに優しい笑顔を向けながらブラックマリアは机の上に準備していた、たくさんのお菓子たちを広げた。

 

 

「それでね、うるちゃん。

前の話の続きなんだけど…」

 

「浴衣の話~?」

 

「そう!

うるちゃん絶対似合うから着てみない?

きっとカイドウ様もレオヴァ様も褒めてくれるわ」

 

「あれ動きにくいし…

レオヴァ様がなんであんな動けるのかわかんない!」

 

「う~ん…確かにそうね、慣れないと少し動きにくいかもしれないわね……

けど、龍王祭の時なら少し動きにくくても良いんじゃないかしら?

一緒に可愛い浴衣きて屋台まわりましょう!

ぺーたんにも着せて…ね?」

 

ブラックマリアの提案にうるティの表情も肯定的なものに変わり、ウキウキしたような雰囲気を発している。

 

 

「ぺーたんにも浴衣……めっちゃ良い!!

それなら、ブラックマリアと私とぺーたん…あとカイドウ様とレオヴァ様も浴衣着てみんなで屋台まわりたい!」

 

「うるちゃん、それ凄く素敵♡

カイドウ様とレオヴァ様の浴衣……選び甲斐があるわ!

うるちゃんとぺーたんはお揃いの柄にするとして…

カイドウ様は紫紺(しこん)色かしら?

レオヴァ様は清藍(せいらん)色…?」

 

楽しそうな顔で試行錯誤しているブラックマリアに、うるティは良い案が浮かんだとばかりに声をかけた。

 

 

「ベースは白…!

カイドウ様とレオヴァ様の浴衣は白がいい!」

 

「……白色?」

 

「うん!

それで大きめの刺繍して、帯もスッゴく派手なやつにしたい!」

 

「カイドウ様もレオヴァ様もあまり白着ないから……新鮮でとっても素敵なアイデアだわ♡

小物も少し派手な色にするのもいいわね!」

 

「でしょ~!!

あと、カイドウ様とレオヴァ様はお揃いで髪に飾り付けして…」

 

うるティとブラックマリアの話はどんどん盛り上がっていく。

 

和気あいあいとした2人の女子会は、このまま夜遅くまで続くのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ところ変わり、東の海(イーストブルー)にて。

 

レオヴァ達は想定よりもバラティエ到着が大幅に遅れていた。

 

 

予期せぬ風邪のような病気で部下達の体調が悪くなってしまったのだ。

 

最初に病気になった部下は周りに迷惑はかけられないと、無理をして調達など仕事をこなしていた。

そして、その真面目さが災いし一緒に作業していた他の部下達に移り、ねずみ算式に船内に病気が流行してしまったのだ。

 

だが、船にはレオヴァとローという医者がいる。

部下達の病状は悪化することはなく、1日多く島に停泊した後には全員がピンピンした様子で仕事に戻れていた。

 

その後、使ってしまった食料などの調達やレオヴァの部下達への気遣いなどもあり追加で2日ほど滞在した結果、予定より3日ほど出発が遅れてしまったのだ。

 

 

甲板でわいわい話しながら掃除をしている部下達は通り掛かったレオヴァを見ると顔に笑顔を浮かべ、明るい声で挨拶をした。

 

 

「レオヴァ様、おはようごぜぇやす!」

 

「「「おはようごせぇやすッ!!」」」

 

「皆、おはよう。

…こんな早朝から船内の掃除をしてくれているのか?」

 

「えぇ、そりゃレオヴァ様が乗ってる船ッスから!」

 

「そうそう!

それに、おれらのせいで出港も遅れちまいましたし…」

 

「おれら迷惑かけちまった分、しっかり働きますぜレオヴァ様!」

 

「ピッカピカにしますんで、レオヴァ様はゆったりしててくだせぇや」

 

 

レオヴァは次々に口を開く部下達の言葉ひとつひとつに相づちを打ち終えると、微笑みながら口を開く。

 

 

「出港の件は気にする必要はない。

おれにとって皆が元気でいてくれることが何よりだからな。

それに今回は休暇だ、これと言って急ぐ用もない。

皆が船内を綺麗にしてくれたおかげで気持ちの良い朝だ、ありがとう。」

 

レオヴァのお礼の言葉に部下達は照れたような、嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

 

「へへへ…レオヴァ様のお言葉に勝る褒美はねぇなァ…」

 

「よっしゃ、おれァ張り切って雑巾掛けしやすぜ!」

 

「ホコリっつーホコリ、全滅させやすんで!」

 

「うおぉ~!やるぜぇ!!モップもう1つよこせ~!」

 

更にやる気をみせた部下達を見てレオヴァは目を細めて笑う。

 

 

「ふふふ…やる気十分だな。

綺麗にしてくれるのはありがたいが、皆もしっかり休憩をとるんだぞ?

朝食もしっかり食べるように。」

 

「「「「へい!わかりやしたレオヴァ様ァ!」」」」

 

 

揃って元気な返事をした部下にまた優しく微笑むとレオヴァは当初の目的であった珈琲を取りに行くべく、食堂へと歩き始めるのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

海に浮かんでいる風変わりなレストラン。

 

そこの調理室でメカニカルな義足を着けた老人と呼べる年齢の男が、大量の魚や甲殻類などの食材を品定めしている。

 

彼こそ、このバラティエというレストランにてオーナー兼料理長を担う男…ゼフである。

 

 

彼は数日前から、ある男を待っていた。

 

その男はバラティエの内装や船を設計した人物であり、ゼフの義足の製作者でもある。

 

 

そんなゼフにとって馴染み深い存在である男は突然連絡をしてきたかと思えば

 

『久しぶりだな、ゼフ。

実は今、東の海(イーストブルー)にいてな…

5日後に義足の様子見ついでにレストランに寄らせてもらう予定なんだが

ベポがそこで食事をするのを楽しみにしているんだ、席を空けておいて貰えないだろうか?』

 

などと、此方が断るなど微塵も思っていないような声色で聞いて来た。

 

最近は全然連絡も寄越さず、いざ来たと思えばまた急な訪問の知らせだ。

相変わらず自由な振る舞いの男に、ゼフは口をへの字に曲げながら答えた。

 

『2年以上も顔を見せに来ねぇで、久々に連絡よこしたかと思えば…

チビナスもお前がいつ来るのかとうるせぇからな…まぁ、来るなら勝手に来い。

……席は気が向いたら空けといてやる。』

 

素っ気ない返事を返したにも関わらず、電伝虫の向こう側で微笑む男の気配を感じながらゼフは受話器に耳を傾けた。

 

『ふふ、サンジか……また腕を上げてるんだろうなァ…久々に顔を見せに行かせてもらう。

では、ゼフとサンジの天下一品のコースを食べられるのを楽しみにしている。』

 

『フンッ……口の減らねぇ若造が。』

 

と、言うようなやり取りをしていた。

 

 

そして、このやり取りの後また連絡がきたかとおもえば、今度は少し遅れる事になると言うではないか。

 

もうすぐ来るだろうとシチューの下拵えを済ませてしまっていたゼフは、さっさと来ねぇか!!と電伝虫に向かって怒鳴ったのだった。

 

 

結局予定日を大幅に遅れ明日到着すると言うので、ゼフは待ちくたびれたという表情を隠しもせずに新鮮な海鮮を仕入れ、そのどれを男に振る舞うかの厳選を行っていた。

 

前回に続き魚介のグリルと刺身を中心にコースを考えながらゼフは待ち人であるレオヴァの事を思い出していた。

 

 

計算高いようでいて、けれど何処か人情的な不思議な青年。

それがレオヴァへの印象だった。

 

 

百獣のレオヴァと言えば海賊でありながらも数多(あまた)の交易の実績を持っているとの話をゼフは良く聞いていた。

それに話してみれば、なかなかどうして若いなりに話が出来る奴ではないか。

 

こいつなら少しは信用できるかもしれん、そうゼフは思い義足とレストランの建設についての取引を始めた。

 

そして取引を終えてわかったのだが、レオヴァはすこぶる変わった男だった。

 

ゼフの経験上、人間というものは地位が高くなれば高くなるほど他人に頭を下げず、認めることをしなくなる。

そう思っていたし、そういう人間を多く見てきた。

 

 

今まで出会ってきたどの相手より、遥かに高い地位にレオヴァはいた。

彼は地位も力も金もあり、なにより“あのカイドウの息子”という強い肩書も持っていた。

 

だが、それにも関わらず彼は

『ありがとう』やら『すまない』、『おれには出来ない料理だ!』などと他人を尊重する言動ばかりとるのだ。

 

 

正直、初めの頃ゼフにはレオヴァが心底理解できなかった。

自分とは全く違う思考回路の人間だ、そう思わずにはいられなかった。

けれど、不思議と彼とのやり取りは嫌ではない。

 

それはきっとレオヴァの言葉が上っ面だけではない、そう思えたからだろう。

 

レオヴァは理性的でありながらも、どこか暖かい印象をゼフに与えたのだ。

 

それになにより、取引に対する真摯さをゼフは気に入った。

 

この世界では悲しいかな、騙そうとする輩が多いのが事実。

騙される方が悪い、そんな世の中においてレオヴァは公平かつ、こちらが満足がいくまで要望や取引金額のすり合わせを行ったのだ。

 

裏があるのではないかと疑いたくなるほどに、レオヴァは丁寧かつ真摯な対応を徹底してくる。

 

こちらが何故そんなに真摯な対応なのかと問えば、心底不思議そうな顔でレオヴァは答えた。

 

 

「おれは対価を貰いゼフの思い描くレストランを造る、そういう取引だろう?

百獣の名の下に請け負った取引においては

俺は絶対に半端な真似はしない、やるなら完璧を求める。

ゼフもおれも、双方が納得のいく取引にならなきゃ意味がない。

互いに満足できなきゃ、それは取引が成立した(・・・・)とは言えないだろう?

……そう、おれは思っているんだが…ゼフは違うのか?」

 

 

なんでもない事のように、まるでそれが当たり前だと言わんばかりに “互いに納得できる取引をしたい” と言ったレオヴァの言葉にゼフは心打たれた。

 

確かにそうだ。

互いに納得できる取引、それが“理想”だろう。

 

しかし、現実はどうだ?

誰もが自分の利益を優先し、他人を蹴落とし這い上がろうとする。

だが、それはごく普通(・・)のことである。

そうしなければ地位や金が手に入らない。

此処はそういう世界(・・・・・・)なのだ。

 

しかし、レオヴァは本当にゼフの満足いくモノを造った。

それも、指定した期日内と希望した金額でだ。

 

便利すぎるくらいな義足と、チビナスと思い描いた夢のレストランは完成したのだ。

それも全てが理想通りに。

 

これは、この厳しい世界ではなかなか無いことである。

 

けれど、レオヴァはそれを当たり前のように振る舞う。

彼は本当にお互いに満足出来る取引でなければならない、そう思っているのだろうとゼフは感じた。

 

 

『変わった坊主だ、もっと金を取っていきゃあ良いってのに』

 

『建てるための建材費と運搬費、人件費や手数料に見合う対価は貰った、これ以上は貰いすぎになる。』

 

『……馬鹿真面目か、てめぇは。

金は貰いすぎたって困らねぇだろう。』

 

『いや、そんなに金に執着するつもりはない。

それより取引に満足してくれたなら、次もまたおれに声をかけてくれ。

その方がおれとしては嬉しい。』

 

『物好き小僧め……』

 

『サンジとの喧嘩で暴れて店が壊れたらいつでも連絡をしてくれていいからな』

 

優しい笑顔で冗談交じりに告げたレオヴァにつられるように、ゼフも小さく笑う。

本当に変わり者だ、そう溢したゼフの表情は心なしか穏やかであった。

 

 

 

昔の事を思い出しながら下準備を始めたゼフは、店が終わってもまだ厨房にいるサンジに声をかけた。

 

 

「おいチビナス!

明日、あの席(・・・)空けとけ。」

 

ゼフの声に厨房の奥から顔を覗かせ、サンジは答えた。

 

「わかってるよ、クソジジイ!

今日、それ言うの3回目だぞ。」

 

「うるせぇってんだ、チビナス。

わかったなら、仕込みに戻れ!!」

 

「チッ……はいはい」

 

夜の厨房には包丁と鍋の音だけが鳴り続けている。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

海上に浮かぶレストランは今日も繁盛しており、裕福そうな夫婦や恋人など多くの人で溢れている。

 

そんな穏やかな時間が流れているレストランの扉が勢い良く開いた。

 

 

「やっとついたね!キャプテン、レオヴァさま!

おれお腹空いたよ~!」 

 

なんと、入り口から2メートルを超える白くまが喋りながら入店してきたのだ。

 

突然の意外な訪問者に席で料理を楽しんでいた人々は驚きに目を見開く。

 

 

「「「「く、熊が喋ってる!?」」」」

 

「へ?

しゃ、喋ってスミマセン…?」

 

「「「「あ、いや……」」」」

 

揃った叫び声にクマが謝ると、客たちはまた声を揃えてどもってしまった。

 

なんとも言えない空気が流れる中、クマの影から出てきた男にまた周りは目を見開いた。

 

 

「おい、ベポ!なんでもかんでもすぐに謝るな。

周りなんざほっとけ。」

 

「あいあい、キャプテン!

急に大きな声出されたからつい……えへへ。」

 

ほのぼのと会話する1人と1匹を見て、ざわざわと客が騒ぎ始める。

 

 

「お、おいおいおい…!?

あれって、死の外科医……トラファルガー・ローじゃないのか!?」

 

「う、うそ……なんでこんな所にっ…」

 

「ヤバイだろ!?

死の外科医と言やぁ、あの百獣の幹部……」

 

「おい、ウェイター!!

か、会計…早く会計を!」

 

ガヤガヤと騒がしい人々の声にローと呼ばれた男は眉を顰める。

 

 

「うるせぇな、食事に来ただけだ。

いちいち騒ぐな……黙れねぇなら、口を縫い合わせてやろうか?」

 

向けられた鋭い視線に客たちは息を呑んだ。

誰ひとり声を発せられない状況の中、入り口から場違いなほど穏やかな声が響いた。

 

 

「ベポ、前かけを忘れてるぞ…!

また風呂に入るのは嫌なんだろう?」

 

「あ、レオヴァさま!

ありがとう~!おれすっかり忘れちゃってたよ。」

 

後から入ってきた角のある青年は子どもの世話をするかのように白くまに前かけを着けてやっている。

青年はそれをつけ終わると白くまをわしゃわしゃと撫で、優しく微笑んだ。

 

客たちはボケッとそれを見ていたが、青年の顔を見て思わず叫んだ。

 

 

「「「「ひゃ、百獣のレオヴァ…!!?」」」」

 

百獣の名を背負う海賊の登場に客たちの間に大きな恐怖と動揺が走った。

 

しかし、その周りの反応とは正反対に中央付近の席に座っていた老夫婦の夫が嬉しげな笑みを浮かべて席を立った。

 

 

「おぉ~!これはレオヴァ様!

まさか、この東の海(イーストブルー)でお会いできるとは…

あなた様の下さった薬のおかげで、妻はこの通り元気に!」

 

「バルクか、1年ぶりぐらいだったか…?

奥方が元気になったようでなによりだ。」

 

レオヴァがバルクと呼ばれた老人の妻に軽く会釈すると、妻も車椅子に座った状態で深々と頭を下げた。

 

そのやり取りを見守ると、バルクは嬉しそうにまた口を開く。

 

 

「この世の何よりも大切な妻の病気を治して頂き、なんとお礼を言えば良いのか…!

凡才なワシでは報いる手段が浮かびません……

是非ともなんでも申し付けてくだされ!

このワシに出来ることなら何でも致しましょうぞ!」

 

「止してくれ、バルク…

良き友であるバルクの愛する人を救えたのなら、おれはそれだけで十分だ。

……そうだな…だが、どうしてもと言うなら

バルクと奥方で美味しい茶菓子を準備して、おれの茶会に付き合ってくれるか?」

 

微笑みながら放たれたその言葉に、感激に涙ぐむバルクへレオヴァはハンカチを差し出す。

 

 

「あ、ありがとうございますっ…

ぜひ…是非とも妻と共にそのお茶会に参加させていただきますぞ!

とっておきの茶菓子も…!

……あぁ、せっかくレストランに来ていたところをお邪魔してしまい申し訳ない。

つい、レオヴァ様にお会いできて年甲斐もなくはしゃいでしまいました。

…では、ごゆっくり…」

 

「ありがとう、バルク。

また茶会の時にでも、ゆっくりと話そう。」

 

「はい、レオヴァ様!

その時を妻共々、心待ちにさせて頂きます!」

 

気品を感じさせる素振りで深くお辞儀をすると席へ戻ったバルクを見計らって、奥からウェイターの様な男がこちらへ歩いてくる。

 

 

「いらっしゃいませ、お客様。

ご予約ありがとうございます……が、クソ遅刻です。」

 

咥えタバコでレオヴァの前に行った男に周りはまた冷や汗を流したが、周りの心配とは裏腹にレオヴァは笑った。

 

 

「久し振りだな、サンジ。

予定を遅れたのはすまなかった、色々あってな…」

 

「久し振りだな、じゃねぇよレオヴァ!

クソジジイが全然顔出しに来ねぇってうるさくてしょうがねぇ」

 

サンジと呼ばれた男は文句を言いつつも、楽しげな顔をしていた。  

 

 

「ま、いつもの席空けてあるから座っとけ。」

 

「空けておいてくれたのか、ありがとう。

……で、サンジがウェイターのような真似をしていると言うことは…」

 

「ご名答。

またウェイターは逃げちまって、相変わらずの人手不足だぜ。」

 

「ふふふっ…いつも通りでなによりだ。」

 

「ったく、ウチにとっちゃ笑い事じゃねぇよ。

…あぁ、そうだ!レオヴァがウェイターやってくれてもいいぜ?」

 

片眉を上げて冗談交じりにいうサンジにレオヴァは笑い、隣にいるローは不機嫌さを全面に出す。

 

 

「おい、レオヴァさんがウェイターだと……」

 

刀に手を置いたローを見てサンジは詰まらなそうに煙を吐いた。

 

 

「相変わらず、冗談の通じねぇ野郎だな…

レオヴァ、ここはクソジジイの店だ。暴れさせるなよ。」

 

「ローは優しい子だ、ところ構わず暴れたりしない。

…が、あまり煽るのは止してくれ。」

 

「……レオヴァさん、そいつは放っておいて席に行こう」

 

眉を下げたレオヴァはサンジに軽く手を振ると、先に席に向かって歩きだしたローの後に続いた。

 

 

レオヴァ達のやり取りをみて滝のような冷や汗を流していた客達だったが、緊張が解れたのかレストランには穏やかな空気が戻りつつあった。

 

 

「…一時はどうなるかとおもったが、百獣のレオヴァの噂は本当かもしれないな」

 

「確かにそうね。

乱闘騒ぎにならなくて良かったわ…」

 

 

「あの老夫婦って、すげぇ大富豪だろ!?

そんな人に様付けで呼ばれるって……いったい…」

 

「馬鹿!レオヴァといや、あの百獣の息子だぞ。

様付けで呼ばれるだろ!

……でも、思ってたより…怖い雰囲気じゃねぇな」 

 

「あぁ、おれも思った!

海賊っつーか……どこぞの王族みてぇな雰囲気だな」

 

 

小声でちらちらとレオヴァ達を伺いながら話す客達を気にせずにレオヴァとベポは料理を待っていた。

 

ローは周りの反応にうざったさを覚えたが、のんびりとした雰囲気のレオヴァとベポにすっかり毒気を抜かれたのか深く椅子に腰かけると二人の会話に耳を傾けた。

 

 

すっかり平常に戻ったレストランの窓際の席でレオヴァ達は運ばれてきた料理を楽しんでいた。

 

そんな和やかにテーブルを囲む3人の元に長いコック帽の老人がカツカツと近寄ってくる。

 

 

「おれに挨拶するより先に飯か、小僧。」

 

人相の悪い老人を瞳に捉えると、レオヴァは笑みを浮かべ上品な所作でナフキンを手に取り軽く口を拭くと、老人の方に向き直った。

 

 

「久しいな、会えて嬉しいよゼフ。

挨拶を先にしようかとも思ったんだが、この相変わらずの盛況具合だろう?

後にした方が良いかと思ってな。」

 

「相変わらず良く回る口だぜ。

これくらいで参るほどウチのボケナスどもはヤワじゃねぇ。

……で、どうだ。」

 

ゼフと呼ばれた老人は椅子にドカッと座ると編まれた長い髭を右手で撫でながらレオヴァを鋭い目で見上げ、返答を待った。

 

 

「もちろん、変わらず最高に美味い。」

 

「フッ…あたりめぇだ、小僧。

デザートはチビナスがやる。

まぁ、ゆっくりしていけ。」

 

「サンジが…?そりゃあ楽しみだ。

…ところでメンテナンスなんだが、夜まで待った方が良いか?」

 

「なんだ、今回は急ぎじゃねぇのか?

ゆっくりしてるなんて、いつも(せわ)しねぇ小僧にしちゃあ珍しいじゃねぇか。」

 

「実は休暇中なんだ。

急ぎの用もない、昼でも構わないなら昼にメンテナンスするが…」

 

レオヴァの提案に少し考える素振りを見せたゼフだが、首を横に振った。

 

 

「小僧の連れまで待たせることになりそうだからなァ…

もう少しすりゃ客足も落ち着くだろう。

夕方前には時間を取る。」

 

「そうか? なら、それで頼む。

早いなら早いに越したこともないからな。」

 

その言葉を聞き終えるとゼフは立ち上がり厨房へと戻って行く。

そして、レオヴァ達はそのままデザートを待つのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あの楽しい昼食から数時間が経過した現在。

レオヴァは天井に大きな穴が空いた部屋でゼフと向き合っていた。

 

 

「…………まぁ、なんだ…そう言う訳だ。

小僧、メンテナンスの他にレストランの修理の依頼も頼まれちゃくれねぇか。」

 

「……そう…だな。

すぐに連絡して、3日以内には到着するように手配しよう。」

 

「…休暇中に悪いな、仕事の話なんざ……」

 

「いや、気にしないでくれ。」

 

「「………」」

 

どちらともなく口を閉じ、沈黙が訪れる。

 

ゼフは息子のように可愛がっていたサンジの旅立ちに色々な想いが心に渦巻き、熱くなった目頭をどうにか誤魔化しており 

レオヴァは数時間の間で見るも無残な姿になったバラティエと、ゼフの想いを察して口を閉じていた。

 

 

なんでも、レオヴァが時間を潰すために離れていた数時間の間にこのレストランに、海賊艦隊を指揮している首領(ドン)・クリークとその部下達が来襲したと言う。

更には世界一の剣士と名高い“鷹の目のミホーク”まで現れる始末。

 

あわや大惨事だったのだが、たまたま居合わせた“麦わら帽子の少年”と仲間達によって見事危機を脱出。 

その後、ゼフの息子同然のサンジもその少年と共に海へと旅立って行ったと言うではないか。

 

その話をコック達やゼフから聞かされたレオヴァは大層驚いた顔をしてみせた。

 

そして、詳しい話を聞きつつ義足のメンテナンスを終え、レストラン修理の為の手配を進めていた。

 

 

 

「メンテナンスも修理の連絡もついたから、そろそろおれは帰らせてもらう。

……では、また。」

 

軽く会釈をして歩みを進めてたレオヴァの背に声がかかる。

 

 

「…この広い海でもし…もしチビナスに“敵”として会ったら……」

 

出口へと進んでいたレオヴァは言い淀むゼフの方を振り返った。

 

 

「言いたいことはわかる。

血の繋がりがなくとも、ゼフとサンジは“家族”だからな…

“家族”がどれ程大切か、それはおれも痛いほどに理解出来る。

……善処しよう。

だが、ゼフも海賊だったんだ……わかるだろう?」

 

すっと目を細めたレオヴァの言外に匂わせた意味を察したゼフは口を開く。

 

 

「……あぁ、わかってる。

小僧、お前の口から善処って言葉が出ただけで十分だ。

チビナス…あの馬鹿もお前の旗にゃ手を出さんだろう。」

 

「そう願ってる。

別におれも好き好んで知った親子を引き離したりはしない…おれの“誇り”に手を出さない限りは。

では、ロー達を待たせてるのでな…」

 

「引き留めて悪かったな。

修理代、上乗せしとくぜ。」

 

「気を遣わないでくれ、提示金額以上は突き返すように部下に頼んでおくからな?」

 

「フッ……おれに突き返せるもんなら、突き返してみな。」

 

「……まったく…」

 

一瞬、呆れた様な表情をしたあと小さく笑い、今度こそレオヴァはバラティエから出港する為に船へ向かった。

 

ゼフはそのレオヴァの後ろ姿を見送ると、すっかり風通しの良くなった部屋のベッドに横になるとまるで祈るように瞼を下ろした。

 

 

「海賊王になると意気込む小僧と、父を海賊王にすると意気込む小僧…か

どっちも心底本気で叶うと思ってる青二才……ぶつからねぇ事を祈るしかねぇとはなァ」

 

ゼフはどんな困難でもぶち破って行けると周りに思わせる嵐のような希望溢れる眩しい少年と、あらゆる事を巧く進め仏にも鬼にもなる青年を思い浮かべる。

 

片や、無計画だが周りを引き込み、皆から支えられつつ全てを良い方へと運べる天性の素質を持つ少年。

 

片や、計画的かつ理性的でありながら非情ではなく、皆をまとめ上げ導く素質を持つ青年。

 

そんな正反対の2人がぶつかる未来がないよう、ゼフは願った。

くそ生意気なチビナスが、あの麦わらの小僧達と笑顔で海を進めるようにと。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ロー達を乗せた船はバラティエを出発し、ワノ国へ向けて空を飛んでいた。

 

普段よりも数倍大きな鳥の姿で船を掴みながらレオヴァは翼を羽ばたかせる。

夜の星空をキラキラと照らしながら進む巨鳥の表情は明るい。

 

それは1時間ほど前にカイドウから戻って来いとの連絡があったからだ。

 

レオヴァはその連絡に、満面の笑みを浮かべ即答した。

 

 

『もちろんだ父さん!すぐに帰る!』

 

『そうか!

見せてぇもんがある、待ってるぜレオヴァ!!』

 

その後少しの談笑を挟み、受話器を置いたレオヴァの行動は素早かった。

即座に部下達に指示を出し帆を畳ませ船の揺れを軽減する装置を作動させると、いつも通りの大きな鳥の姿になり船を掴んで大空へと羽ばたいたのだ。

 

カイドウとの会話で上機嫌になったレオヴァは普段の2倍近いスピードで空を進む。

 

やっと東の海(イーストブルー)から離れられる事への安堵と愛する父からのサプライズの為、レオヴァは寝ずに翼を動かし続けるのだった。

 

 

 




ー後書きー
いつもご感想やここ好き一覧、誤字報告感謝です!
前回アンケートに投票してくださった皆様もありがとうございます。

番外編の章を作ろうと思っていたのですが、1話ずつ別々に出来なかったので諦めて新しく番外編専用を作ることにしました!

番外編では今回の うる&ブラマリのような本編にあまり関係ない、ゆる~い話を上げる予定です。
またちゃんと番外編専用を作ったら後書きなどでお知らせしますので、見てやるぜ!と言ってくださる方はもう少々お待ちくださいませ~!

『補足』
女子会という単語を使うようになったきっかけはレオヴァが2人に休暇を取らせる時に言った
「たまにはブラックマリアとうるティで女子会でもするのも良いんじゃないか?」
という一言。

レオヴァ:嫌な予感がしたので食事後すぐにレストランから離れる。
案の定、戻って来たらレストランがボロボロになっていたので笑顔が引き吊る。
浅い川も深く渡れ精神が役に立ち、麦わら帽子との再会を回避。

ロー:東の海でのレオヴァの変装の服を選ぶのが楽しかった。
が、変装しても角や顔でバレバレだよな…と思いつつ黙っている。
一応、ローも和服じゃない服を着ている。

ベポ:レストランの料理美味しい!!!
ゼフとの約束の時間までレオヴァとローと釣りが出来たのが楽しかった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

知れば地獄、知らねば天国

↓番外編・俺がカイドウの息子?
https://syosetu.org/novel/279322/
アンケートで頂いていた、番外編用の話を作りました。
ご回答ありがとうございました~!


 

ここは愛と情熱と繁栄の国、ドレスローザ。

 

 

そんな美しい街並みの中にそびえ建つ大きなお城に、前触れなく珍しい訪問者が現れた。

 

 

 

こちらの予定などお構い無しに目の前に現れた男を視界に捉え、ドフラミンゴの額を汗が伝う。

しかし、すぐにその動揺を隠すように普段の笑みを張り付け彼は口を開いた。

 

 

「フッフッフッ……まさかこんなに早く来るとはなァ、カイドウ。」

 

「おう、ジョーカー!!ひっく…

ウオロロロロ!なかなかこの国の酒も悪くねぇ!

ウィッ…ゥまぁ、レオヴァの造った酒にゃあ負けるがなァ!」

 

「……気に入ったなら何よりだ。

それで来たのは例の件の…」

 

「おれァ今飲んで気分がいい!!

座れェジョーカー!ヒック…お前にもレオヴァの手製を少し飲ませてやるぜ!!」

 

「いや、おれは…」

 

「ウィ……なんだァ…?飲まねぇってのかァ!!?

おれのレオヴァが造った酒に文句あるってのかよォ!!!

 

ドカンッという音と共に砕け散った大理石の机を見て、ドフラミンゴのこめかみがピクリと動く。

 

目の前で尋常ならざる怒気を(まと)い始めたカイドウにドフラミンゴは後ろの部下が息を呑むのを感じ、軽く息を吐く。

 

そしてすぐにニヤリとした何時(いつ)もの笑みを浮かべ、砕けた大理石を横目にソファーへドカりと腰かけた。

 

 

「おいおい…レオヴァの造った酒といやぁ天下一品(・・・・)

ぜひ、一杯貰いてぇもんだ!」

 

わざとらしい程に手を広げ声高らかに告げられた言葉に酔っているカイドウの機嫌はコロッと変わった。

 

 

「ウオロロロロロロ!そうだろう!!

飲みたくねぇわけがねぇ!ヒック…!

なんてったってレオヴァの手製だからなァ!!!

キング、持ってきてたヤツよこせ。」

 

「……カイドウさん、あんまり飲みすぎると帰りの分が無くなるぞ…」

 

「おれァ全然飲んじゃいねぇよ!!!」

 

「………」

 

キングはなんとも言えない瞳でカイドウを見つめたが、諦めたような素振りを見せると大きな酒瓶を3つカイドウの傍らに置いた。

 

カイドウはそれに上機嫌に手を伸ばすと酒を注ごうとして眉をしかめた。

 

 

「ジョーカー…!机がねぇじゃねぇか!!ヒック

ウィ~…これじゃあ、酒も注げやしねぇ!!!

 

「………フッフッフッフッフッフッ!!

おい、すぐに新しい机を持ってこい…!」

 

「レオヴァの酒はいつ飲んでも美味ぇ。

キング、お前も飲むかァ?ウィックぅ……」

 

「せっかくのレオヴァ坊っちゃんの酒だ。

飲むなら帰りにカイドウさんと2人で飲みてぇ。」

 

「そうか、レオヴァからお前の好きそうな酒も渡されてるからなァ!!

さっさと帰ってレオヴァと飲みてぇぜぇ…ヒック」

 

腹心であるキングと会話を始めたカイドウを見て気付かれぬようにドフラミンゴは本日何度目かわらかぬ溜め息をついた。

 

このカイドウという男は他の“大きな取引相手”と比べるとそこそこ話の通じる相手だが、酔っているとなると話は別である。

 

現に今も、自分で駄目にした事を忘れて机がないと不満げな顔をしてくる。

全くもって迷惑極まりない。

 

900万ベリーはくだらないオーダーメイドの大理石の机だった物を見てドフラミンゴは血管をピクつかせる。

こんなことなら新調する話を持ち越すべきだった、と考えつつもサングラスに隠れた瞳でカイドウを伺った。

 

めんどうな酔っ払いとはいえ、あの百獣のカイドウだ。

下手な真似は出来ない。

ここで暴れられるのが厄介なことはもちろん、彼を怒らせるということはレオヴァとの取り引きも全てがパァになる事を意味している。

 

ドフラミンゴの闇取引と表稼業、どちらにもレオヴァと取引した物や人脈が大いに使われている。

むざむざ手放す訳にはいかないのだ。

 

 

「(まったく、面倒なことになった。

レオヴァもレオヴァで“(くせ)”があるが…こっちの相手をした後じゃあ可愛く見えるぜ……)」

 

砕けた大理石が片付けられ、新しくセットされた机を横目に見ながらドフラミンゴは手早く済ませる為の案を思考していた。

 

 

 

 

あれから数時間、上機嫌なカイドウの息子自慢に付き合わされたドフラミンゴは疲れきっていた。

 

口を開けば

『おれの息子は…』『リンリンのガキ共なんて比にならねぇ…』『レオヴァが…』『部下共もレオヴァを…』

等々、息子の自慢話のレパートリーは無限大であるようだった。

 

そして、下手にドフラミンゴが

『分かるぜ、レオヴァは他とは違う。

この前の取引では…』

なんてレオヴァとの話を語ろうものなら

『レオヴァの事ァおれが一番分かってる!!』

と意味が分からないキレ方をされるのだ。

かと言って、カイドウの息子自慢に同意を示さなければ不機嫌になる。

 

口元を引き攣らせはしたが、血管がブチギレなかった事は流石はドフラミンゴと言わざるを得ないだろう。

カイドウは誰もが認める、面倒くさい酔っぱらいであった。

 

しかし、ドフラミンゴはなんとか地獄の接待を乗り越えて用件を済まさせ、ドレスローザから帰らせることに成功したのだ。

 

しかし、今回の取引内容はドフラミンゴにとって大きな痛手である。

いや、寧ろ初めての不利益な内容だったとも言えるだろう。

 

 

『面白ぇのがいるじゃねぇか!よこせ!』

その一言でカイドウはドフラミンゴの物になる筈だった“駒”を取って行ったのだ。

 

 

ドレスローザを手に入れる為に“火災”と呼ばれる男の手を借りた事が間違いだった。

そうドフラミンゴは考えた。

 

この国を手に入れるにあたり、小人族がいるという事を事前にドフラミンゴは知っていた。

そして、その情報は勿論キングの耳にも入っており、そのキングから話を聞いたカイドウの一言により取引が決定した。

 

取引内容は

極秘にキングが手を貸す代わりに、小人族をよこせ。

というものだった。

 

インペルダウンの一件などで、七武海に入る為の計画や国取りの算段に大きな狂いが出ていたドフラミンゴは背に腹はかえられぬと渋々取引を飲んだ。

 

小人族という優秀な労働力は惜しいが、レオヴァとの貿易の品があれば資金には困らない。

それに労働力なら奴隷(・・)オモチャ(・・・・)もある。

たいした損害ではないだろう、とドフラミンゴは考えていた。

 

 

だが、蓋を開ければどうだ?

小人族の姫は有能と言う言葉では片付けられぬ程の“能力(・・)”を持っているではないか。

それを知ったドフラミンゴはなんとかその姫だけは手の内に仕舞おうと画策した。

 

しかし、そんな事をキングが見逃す筈もない。

こちらの思惑などお見通しと言わんばかりに、その姫の存在を認知していることを匂わせて来たのだ。

 

 

『レオヴァ坊っちゃんが好きそうな“面白い能力(・・・・・)”の小人族がいるらしいな。

そういえば、小人族の中身は見たことがねぇなァ…その能力があれば殺さずに調べられそうだ。

…カイドウさんを騙そうってんなら、お前の部下で解剖しても死なねぇか試させてもらうが……覚悟出来てるんだろうな?』

そう不気味さが混じった低い声で言うキングに、ドフラミンゴは隠すのは無理だったかと悟った。

 

そして、すぐにドレスローザに来ては極秘でキングが手を貸した事がバレかねないと数年の間を開けて、今回取引にあった小人族を引き取りに来たという訳だった。

 

 

惜しい駒をなくした、そう思いながらもドフラミンゴは気持ちを切り替えた。

 

少なくとも百獣との取引がなければ、七武海の地位も国取りも年単位で長引いていただろう。

それを差し引けば、痛手ではあるが完全なマイナスではない。

 

寧ろ、小人族をレオヴァが気に入ったとなれば取引相手としての立場を確固たるものに出来る材料にもなる。

 

カイドウが喜べばレオヴァが喜び、レオヴァが喜べばカイドウが喜ぶ。

この図式に間違いはないだろうとドフラミンゴは確信に近い思いを持っていた。

 

それを(かんが)みればカイドウに小人族を渡すことは、やり方によってはプラスになり得るのだ。

 

先を見据える力のあるドフラミンゴは今回の取引は、踏んだり蹴ったりでは終わらないだろうと予感していた。

 

 

「…そう考えりゃあ、大理石の机がパァになったのも悪くはねぇか。」

 

すっと口角を上げたドフラミンゴのサングラスはカーテン越しに夕日に照らされていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ドレスローザからワノ国へ戻る船はキラキラと光る海を行く。

 

あの取引から1日が経ち、何事もなく海を進めている事に胸を撫で下ろしていた部下達はカイドウに食事を運んでいた。

 

機嫌がいいカイドウのお陰で平和な毎日に心を撫で下ろす部下達だったのだが、カイドウの部屋に入ると同時にピシリと固まった。

 

 

「わあっ!すごいれす!

こんなに献ポポしたのに動けるのれすか!?」

 

「龍になれる大人間(だいにんげん)はすごいれすね~!」

 

「みょうおう様の献ポポのお陰で怪我治ったれすよ!

ありがとうれす~!」

 

「私の知ってる大人間(だいにんげん)よりもおっきいれすね!

みょうおう様は大大大人間(だいだいだいにんげん)なんれすか?」

 

「おい、うろちょろするんじゃねぇ。

レオヴァに会わせる前に踏んじまうだろうが!」

 

部下達は目を疑った。

あの百獣のカイドウの周りにファンシーな可愛い小人達が群がっているではないか。

 

しかも、何人かはカイドウの体に乗って楽しそうにはしゃいでいる。

 

部下達はお互いに目配せすると小声で話し出した。

 

 

「ちょっ……これどうなってんだ!?」

 

「なんでカイドウ様の部屋に小人がよぉ…」

 

「大丈夫かよこれ…カイドウ様が怒ったらみんな潰されちまうんじゃ…?」

 

「いや、さすがにカイドウ様もそこまで……」

 

「酔っ払っちまったら小人全滅もあり得るかもなぁ…墓作っといてやるか?」

 

「「ばか野郎!縁起でもねぇこと言うな!!」」

 

思わず叫んだ部下の声にカイドウの顔が扉の方を向いた。

 

 

「何をぶつぶつやってんだ、さっさと運んで来ねぇか!」

 

「「「へ、へい!カイドウ様!!」」」

 

慌てたように部屋に食事を次々と運び込む部下達を小人族は不思議そうに見ていた。

 

 

「こんなにおっきなお皿初めて見るれすよ~!」

 

「みょうおう様が大きいからお皿も大きいんれすね!」

 

「僕、お腹空いちゃったれす…」

 

「みょうおう様!

我々も食べたいのれすが……」

 

わちゃわちゃとまた周りに集まりだした小人族にカイドウは肉をかじりながら答えた。

 

 

「構わねぇ、好きなだけ食え。

だが、皿には乗るなよ。間違えて食われたくなきゃなァ。」

 

カイドウは機嫌が良いのかお世辞にも優しそうには見えない笑みを浮かべながら、冗談交じりに食べることを許可した。

 

 

「「「ありがとうれす~!」」」

 

「もうお腹ペコペコだったんれすよ~」

 

「ドレスローザじゃご飯は全然食べられなくて…」

 

 

「あっ…カイドウ様の食う発言は気にしねぇんだ……」

 

ポツリと呟いた部下の言葉を気にせずに食事に飛んで行った小人族を見て、周りの部下は小さく笑う。

 

 

「……小人族ってなんか可愛いなぁ」

 

「カイドウ様もお心が広いぜ!」

 

「早くレオヴァ様の反応がみてぇよな。」

 

「カイドウ様が連れてきたと聞けば、レオヴァ様すげぇ喜ぶだろうな!!」

 

部屋の入り口付近で談笑している部下達の前では、小人達とカイドウが凄い勢いで大量にあった料理を平らげていく。

 

小人のどこにそんなに入るのかと目を丸くする部下達を他所に、キングの指示で新しい料理がまた運ばれてくる。

 

部下達は綺麗に空になった皿をキッチンに戻すべく部屋を後にするのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

小人族のワノ国到着から5日後の鳳皇城の客間にて。

 

 

「わしはガンチョ。

トンタッタ王国で一番偉いトンタ長れす!

やー、みょうおう様と同じでレオヴァ王も立派なツノれすな!」

 

「ふふふ、父さんと同じか…これ以上ない褒め言葉だ、ありがとう。

おれはレオヴァ。

まだまだ王として未熟な身だが、皆に支えられワノ国の民の代表として日々精進している。

トンタ長であるガンチョ、貴方に会えて光栄だ。」

 

威圧感を感じさせない丁寧な所作でレオヴァは礼を取り、優しげな表情で微笑んだ。

ガンチョもそれに答えるように礼を取り二人の王の会談はとても穏やかに進み、ワノ国とトンタッタ王国の“同盟”が結ばれた。

 

 

同盟内容は簡易化すると以下の通りである。

ワノ国は全面的にトンタッタ王国の手助けをし、外の“あらゆる危険(・・・・・・)”から保護する。

その対価として、トンタッタ王国の国民には植物園の管理を任せる。

ワノ国とトンタッタ王国は互いに助け合い、外界からの攻撃があった場合には自国が攻撃されたものとして共に立ち向かうと誓う。

百獣海賊団は両国の仲介人として相応の発言力があるものとし、どちらかが同盟を一方的に破棄した場合は処罰を百獣海賊団に一任するものとする。

 

と、いう内容である。

 

トンタッタ王国の人々はその同盟内容を快く受け入れワノ国、そして百獣海賊団と手を結ぶ事となった。

 

 

同盟も無事に結ばれ、レオヴァの提案により植物園へトンタッタ王国の人々を下見に連れていくことに。

さっそく、案内しようと立ち上がったレオヴァの肩や髪には小人族の者達がわらわらと集まって来ている。

 

その光景に同席していたドレークは慌てたように声を出した。

 

 

「おい、レオヴァさんは乗り物じゃないぞ!」

 

 

「わ~!レオヴァ様の肩から見る景色高いれすね~!」

 

「ほうおう様、植物園とはどのような植物を育てているのれすか?」

 

「えへへ!髪の毛でブランコ!

みょうおう様のお髪よりふわふわれす~!」

 

「はえ~!ツノってこんなに固いんれすか!?」

 

ドレークの焦った声など聞こえていないのか、小人達はわいわいとレオヴァに登って好き放題に動き回っている。

 

その光景に困った様に眉を下げるドレークにレオヴァは機嫌良さげな声色で告げた。

 

 

「ドリィ、気にしなくていい。

父さんの時もこうだったんだろう?

楽しそうな姿を見せられれば悪い気もしない。」

 

「レオヴァさんがそう言うなら構わないんだが…」

 

ニコニコと上機嫌なレオヴァを見て気を緩めたドレークに小人の影が近づき、気付いた時には10人以上の小人がくっついていた。  

 

 

「ドレーク様も変身できるんれすか?」

 

「眼帯カッコいいれす!!」

 

「レオヴァ様は黒くてふわふわで、ドレーク様はオレンジでカチカチれすね?」

 

「植物園、どんな所なんれすか~?」

 

「へ、変身…?獣化のことか?

それなら出来るが…

いや、ちょっと待ってくれ一気にそんなに質問されても答えられん!」

 

肩や頭にいる小人達が落ちても大丈夫な様に手を添えるドレークの真面目な姿にレオヴァは思わず笑い、肩を揺らした。

 

 

「はわわっ…!」

 

「姫!危ないれすよ!

ちゃんとレオヴァ様の髪に掴まるれす!」

 

急に揺れた肩から落ちそうになったマンシェリーを抱き止め、レオは呆れたような表情をする。

 

 

「レオ!

こ、このまま支えてくれてよくってよ♡」

 

「自分で掴まるれすっ!」

 

「いや!!レオが支えてくれないなら落ちます!」

 

「ムッ…本当にわがままな姫れすよ!」 

 

レオがそのまま支えるとマンシェリーは愛らしい笑顔を咲かせて見せた。 

 

 

しかし、レオヴァは肩の上でロマンスを繰り広げられている事など気にせずに歩きだす。

 

 

「さっそく植物園に行こう。

おれの趣味で世界中の色んな花や植物を集めた場所なんだ。

喜んで貰えたら嬉しいんだが…」

 

「ほっほっほ…!

自然豊かな場所と聞いてるれす!

楽しみれすなぁ!」

 

トンタ長はレオヴァの手の平の上でおおらかな笑顔を浮かべた。

 

少し早足で歩き始めたレオヴァに小人達相手に質問攻めに合っていたドレークは慌てて後ろに続いたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

レオヴァがドレークと共にトンタッタ王国の国民達とワノ国を回っていた頃。

 

鬼ヶ島の一室でカイドウはササキと大量の酒を飲んでいた。

 

もともとはクイーンが呼ばれていたのだが、あまりのカイドウのテンションの高さに生け贄(話し相手)としてササキを呼び出したのである。

 

そんな事は露知らずササキはカイドウと飲める!と満面の笑みで駆け付けたわけなのだが、何事も適材適所だ。

 

ササキは美味い酒とカイドウから聞けるレオヴァの話に満足しており、クイーンにとって耳にタコが出来るほどに聞かされた息子自慢でも楽しげに聞き入っていた。

 

 

「(いや~、カイドウさんがレオヴァの自慢したくなるのも分からなくはねぇけど…

正直、何時間もぶっ続けはキッツいぜぇ…)」 

 

疲れた様子でおしるこを啜るクイーンは、今頃トンタッタ一族を上手く丸め込んでいるであろうレオヴァの事を思う。

 

 

実は休暇遠征から帰って来たレオヴァはクイーンの目から見ると、少し疲れているように見えた。

 

それに久々にあったジャックを捕まえてレオヴァは怒涛の勢いで褒めちぎると言う謎の行動に出ていたのも、クイーンを心配させる一因であった。

 

努力を惜しまぬ姿勢が凄いだの、大看板として素晴らしい仕事振りだのと10分以上もレオヴァはジャックを褒め続けていたのだ。

 

仕舞いには

『本当にジャックは逞しく成長したなァ……おれの自慢だ。』

とまで言ってのけたのだ。

 

とんでもない褒め言葉にジャックは思わず持っていた回覧板を握りつぶしてしまったのだが、これは誰も責められやしないだろう。

 

まさか酔っているのでは?と疑いたくなるほど饒舌なレオヴァ相手に、たじたじになっていたジャックだったのだがカイドウからの呼び出しがあり、褒め殺しはそこで終了したのだった。 

 

 

どうみても明らかに情緒が可笑しい。

そうクイーンが思っても仕方がないほどレオヴァのテンションは普段と違っていた。

 

その為、クイーンは密かにレオヴァの心配をしていたのだが、カイドウから土産を渡されたレオヴァの嬉しそうな声を聞き、心配する必要はなかったかと考えを改めた。

 

 

「(まぁ、どんな事があってもカイドウさんがいりゃあレオヴァのメンタルは一発で全快だろうしなァ……)」

 

クイーンは、カイドウからトンタッタ王国の話を聞き目を輝かせていたレオヴァを思いだして苦笑いをした。

 

目の前では相変わらずカイドウがササキにレオヴァの話を続けている。

 

 

「で…レオヴァも小人族は見たことがねぇってんで連れて来てやったんだが…

ウオロロロロロ!!

あのレオヴァの喜びよう、なんど思い出しても良い気分だぜ!!」

 

「はははは!!

そりゃ見たことねぇ人種ってなりゃレオヴァさんはしゃぐだろうなァ!

しかも、カイドウさん直々だろ?

前もカイドウさんの土産でレオヴァさん喜びすぎて放電しちまって部屋駄目になったしな」

 

「そういや、そんな事もあったなァ!!

今回はレオヴァの周りの床が焦げただけですんだが…」

 

「床焦げたのかよ!!?

あれ以来、すげぇ気をつけてるみたいだったけど

やっぱカイドウさんからだとレオヴァさんの喜びようも桁違いだな…」

 

「ウオロロロロロ…!!」

 

満更でもなさげな笑顔でカイドウは新しい酒瓶に手を伸ばし、ササキも口を大きく開けて楽しげに笑っている。

 

そんなカイドウとササキの姿を見てクイーンは息子自慢からようやく免れたことに、ほっと息を吐きながら新しいおしるこの鍋が到着するのを待つのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

1ヶ月振りにワノ国のほうおう様であるレオヴァ様とトンタッタ王国のトンタ長であるガンチョ様はキレイな庭園で和やかにお話をしていた。

 

私はそんな2人を見ていると嬉しい気持ちでいっぱいなのだ!

 

怖いドレスローザの王達(・・)と違い、レオヴァ様はとても優しいれすし!

なにより新しくトンタッタ王国になる土地も凄く素敵な所れす!

 

新しいお仕事も暗くて怖い人達がいる工場じゃなくて、綺麗な植物がたくさんのお庭れす。

あの時、みょうおう様に助けて頂けて本当に良かったれす…

 

お仕置き部屋もなくて、おやつも美味しい!

とっても良い場所なのれす!

 

 

実は最初はお庭に毒草がいっぱいあってビックリしたのれすが、レオヴァ様はお薬にすると言っててまたビックリ。

 

 

『レオヴァ様、これとっても危ない毒草れすよ!』

 

『ん…?あぁ、それか。

確かにそれは毒草と呼ばれている種類だが、隣の花壇の花と一緒に煎じると痛み止めになるんだ。』

 

『えっ…!そうなのれすか!?

知らなかったれす…』

 

『おれも最近やっとそれに気付いたんだ。

まだ外界でもあまり知られていない薬だから、驚くのも無理はない。』

 

そう言ってレオヴァ様は色々なことを教えてくれるのれす!

 

物知りなレオヴァ様はガンチョ様やマンシェリー姫からも頼りにされている凄い人で、私も大好きなのれすが…とても忙しい人でたまにしか会えないのが悲しいれすね……

 

 

少し落ち込みながら育てたお花を眺めている私の上に大きな影が落ちてきて、優しい声がふってくる。

 

 

「どうしたんだ、キウイ。

なにか悩み事があるのか?」

 

心配そうに私を見ているレオヴァ様に驚いて私はシュバッと立ち上がる。

 

 

「はわわわ…!

レオヴァ様、だ、大丈夫れすよ!

私元気いっぱいで!」

 

「そうか?

少し落ち込んでいるように見えたから…

元気ならいいんだ、何かあればいつでも声をかけてくれ。」

 

慌てて立ち上がったせいでズレてしまった帽子を人差し指でそっと直してくれたレオヴァ様の優しい動作とお言葉に、私は本当に元気いっぱいになった。

 

 

「えへへ…ありがとうなのれす!」

 

私のお礼にフワッと優しい笑みを返して、レオヴァ様はお庭を後にする。

 

お話し出来た嬉しさで暖かくなった心で、私はまたお花に水やりを始めた。

 

次はもっと上手くお話出来るように頑張るれすよ!!

 

 

 

 




ー補足ー

トンタッタ一族:獣人島にある植物園付近の土地を国土として貰う
ミンク族と交流しつつ、植物を育てる平和な日々を送っている。
 
植物園:もともとは自動水やり機などを取り入れながらレオヴァが手入れしていた。
珍しい薬草やら様々な種類の植物がある。
電伝虫の飼育所もここにある。

ドレスローザ:ドフラミンゴが治める国。
数年前にリク王の“大量虐殺”から民を救った“正統なる王”ドフラミンゴのおかげで豊かな国となった。

ドフラミンゴ:投獄されたことで計画が狂った為、百獣の手を借りたりと苦労した。
事の原因であるロシナンテを早く捕まえて罰を与えたい。

キング:ドレスローザの件で暗躍
“レオヴァからの助言”もあり数人を百獣のナワバリへ持ち帰った。
レオヴァからの案で、暗躍中はバレぬように普段とは違うマスクと服装で行動し変声機を使用。

ロー:キングとドレスローザの件で暗躍。
元々はキングだけの予定だったのだが、キングの指示で“ある任務”をこなした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

光は影に気付かない

ー前書きー
【!注意!】
・人によっては残酷に感じる描写あり
・主にヴィオラちゃんに過酷(好きな人ごめんない!)
・人によっては胸糞展開に感じる話
上記を踏まえた上で大丈夫な方だけお読みください。

今回の話は読まなくても今後の展開が分からなくなる事はないと思います。
が、この世界のスカーレットやキュロスなど
ドレスローザの状況を知る&補強する為のお話です。

ヴィオラちゃん辛いのは嫌だけど、内容はおおざっぱに知りたい!
という方がいれば“後書きだけ”でも大体わかるかと思います。



 

 

辺り一面に花が咲き誇り、花びらが舞う丘に1人の女性が木を背に腰掛けている。

 

爽やかな風になびく黒髪は美しいが、その女性は綺麗な布で目を覆っていた。

隠れきれていない肌から察するに、恐らく火傷のような怪我を負っているのだろう。

 

しかし、そんな盲目な彼女の口元には柔らかな微笑みがあった。

強い女性を思わせる、そんな表情だ。

 

 

丘に咲く甘い花の香りに包まれ静かな時間を過ごしていた盲目の女性は、走っているような足音に気付き振り返った。

 

 

「ヴィオラ、そろそろお昼の時間よ?」

 

凛とした佇まいの芯の強そうな女性の声に、ヴィオラと呼ばれた盲目の女性は立ち上がった。

 

 

「ごめんなさい、スカーレットお姉さま。

最近、この丘の花が満開になったとレベッカが言っていたから…

香りを楽しんでて時間を忘れちゃったみたい。」

 

スカーレットと呼ばれた女性は優しい笑みを浮かべると、ヴィオラの手を取った。  

 

 

「なら、食事が終わったらみんなで丘に来ましょう!

また昔みたいに花冠をつくって…」

 

「そうね、お姉さま。

それは楽しそう…うふふ!」

 

笑ったヴィオラを見て、嬉しそうな顔をするとスカーレットは繋いだ手をそっと引いて歩き出した。

 

丘の下に見える町には百獣海賊団の旗が揺らめいている。

 

 

 

花が咲く丘からスカーレットとヴィオラは家への道を並んで歩き、住み慣れた場所へと戻って来た。

 

可愛らしい2階建ての家の扉をスカーレットとヴィオラはくぐる。

 

綺麗に掃除されている家の中からは楽しげな2人分の笑い声が響いている。

 

 

「 おとうさん、もう一回やって~!」

 

「はははは!

よ~し、レベッカ!いくぞ……高い高~い!!」

 

「わ~!」

 

「どうだ、レベッカ!

もう一回しようか?それとも大好きな“夜明けの物語”の絵本でも読もうか!」

 

きゃっきゃっと和やかな雰囲気で戯れる父と娘の姿にスカーレットはとても優しい笑みを浮かべた。

 

 

「キュロス、ご飯だから絵本は後で読んであげて?

レベッカもお片付け始めてね。」

 

「あ、おかあさんにヴィオラお姉さま!」

 

「スカーレット、おかえり!

ヴィオラも!」

 

満面の笑顔で出迎えるキュロスとレベッカにヴィオラとスカーレットはクスりと小さく微笑んだ。

 

 

キュロスとレベッカは片付けを始め、スカーレットとヴィオラは昼食をテーブルへと運んでいる。

 

穏やかな昼下がり、この家には暖かくゆったりとした時間が流れていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

オレはドレスローザ王国のスラム街で生まれた。

親も金もなく、あるのは“キュロス”と言う名だけだった。

 

あの頃のドレスローザは豊かとは言えず貧富の差も大きく開いていた。

王国の中心の町は平和だったがオレの住む町は争いが絶えず弱くては生きて行けない、そんな場所だった。

 

子どものオレでさえ、あの町では強くなければ奪われるだけだと理解できていたし、物心ついた時から寝る場所も服も食べ物も全て奪って手に入れて来た。

 

この世の中は奪い奪われることが当たり前だと思っていた。

 

 

そしてオレは十代の頃、唯一の……大切な友を奪われた。

 

 

たった一人の友が乱闘騒ぎに巻き込まれた話を耳にし、その場所へ着いた時にはもう何もかも遅かった。

 

ボロボロになった友は揺すっても声をかけても、ピクリともしなかった。

冷たく蒼白い肌は鉄のように硬くなっている。

 

おそらく、オレは人生で初めて声を上げて泣いた。

腹にふつふつと沸き上がるドス黒い感情を雄叫びに変え、ひたすら叫んだ。 

 

この世は理不尽だ。

産まれた瞬間から地位のある人間と、産まれた瞬間から地を這う人間。

 

自分では産まれる場所なんて決められやしないのに、貧しい親に産み捨てられただけで争いの中生きることを定められ、やっと見つけた心許せる友まで奪われて…

 

オレは感情のままに友を殺した男達を殺すことを誓った。

奪われたら奪い返す、そんな生き方があの頃のオレの常識だったんだ。

 

 

だが、友を殺した男達は海へ出て行ってしまっていた。

オレと友とで少しずつ貯めていた金を使い、船を手に入れたようだった。

 

オレは絶対に復讐してやると強い憎悪を抱え、自力で船を作り後を追った。

奴らの向かうと言っていた場所の情報は掴んでいたので、そこを目指せばいいだけだった。

 

そして、船を出しオレは奴らの後を追った。

……が、辿り着ける筈もなかった。

 

なにせオレには航海の知識などない。

食料もろくに積まずに感情だけで海へ出たオレを待ち受けていたのは“遭難”の2文字だった。

 

突如、荒れ始めた気候によって現れた大きな波を最後にオレの記憶は途絶えた。

 

 

目を覚ますと島に流れついており、オレの周りには何人もの男達が立っている。

 

 

『お、目ぇ覚めたみたいだな?』

 

『なんだ、大丈夫そうじゃねぇか!丈夫な奴だぜ。』

 

『おい、ガキ!お前名前はなんつーんだよ。』

 

ガラの悪そうな男達に声をかけられたオレは側にあった棒を握り、襲いかった。

 

今思えば彼らは漂着したオレを看病してくれていたのだから、しっかり礼を述べ名前を名乗るべきだったのだが……

 

あの頃のオレは自分以外の人間、即ち敵…と言う思考だったんだ。

だから看病されてたなんてこと思いもせずに、彼らを攻撃した。 

 

 

そして、海岸で立っているのがオレだけになった時、空から声が聞こえて驚いて顔を上げた。

 

 

『ウオロロロロ…

ガキの割には悪くねぇ動きじゃねぇか。』

 

頭上に現れた大きな龍の姿にオレは言葉を失った。

圧倒的な存在とはまさに、今目の前にいる存在のことだろうと思った。

 

言葉を発することも(まばた)きをすることも忘れて、オレは龍を見上げていた。

 

動かないことを気にする素振りもなく大きな龍は人の姿に変わると、オレの前へ降り立ち口を開いた。

 

 

『ここはおれのナワバリだ。

そこで暴れた奴を見逃すつもりはねぇ。

だが…おれの部下になるってんなら話は別だ!

ガキ、選ばせてやる。』

 

鬼のような男の言葉にオレは叫んだ。

あの時のオレは誰の下にも着く気はなかったんだ。

 

 

『ふざけるな!!

どいつもこいつも下にみやがって!

おれは、もう…!』

 

叫びながら決死の突撃をしたオレを鬼のような男は簡単に払い除けて、踏みつけた。

 

 

『っうぐ…あ!!』

 

『いつまでもキングのやつにレオヴァの世話ばかりをさせるわけにもいかねぇ…

戦力を増やせば適任が見つかるかと思ったが、ガキにやられるようなのが増えた所でかァ?』

 

鬼のような男はオレの存在など気にした様子もなく、倒れている部下を眺めて溜め息をついていた。

 

ドレスローザ王国のあのスラム街では大人相手にも引けを取らなかった自分が手も足も出ない、そんな現実に悔しさが溢れたが踏まれているせいで声も出ない。

 

少しずつ息苦しくなり、またオレの意識は途絶えた。

 

 

そして、次に目を覚ましたのは船の上だった。

この頃のオレは暴れることしか知らない子どもだった為、また看病してくれていたであろう相手へ殴りかかった。

 

色々と問題を起こしたオレは殺される覚悟も決めていたが、意外に咎められることはなく

鬼のような男も口を出してくることはなかった。

 

逃げることも出来ず、結局オレは百獣海賊団で見習いとして生活することになったのだった。

 

 

見習いになってから半年でオレは少しずつ変わっていた。

百獣海賊団はあのスラム街よりも暖かな場所だったのだ。

 

寝る場所も食べ物にも困らないし、周りの船員も気の良い者達ばかりだった。

 

最初に変わった理由はオレの教育係だったトネグマさんだろう。

海戦中にトネグマさんはオレを庇って怪我をしたんだ。

 

初めて他人に庇われたことや

『無理な戦闘ばっかりだし!

アンタ、私より年下のクセに生き急ぐ真似するのは止めなさい!!

見ててムカつくのよ!!!』

と血まみれで怒られた時、オレの中で何かが変わった。

 

少しずつ、確実にオレの価値観は変化していった。

……ただ、この時でさえ友を殺された憎しみだけは()せることはなかったが…

 

 

そのままオレは百獣海賊団で生活していた。

行く場所も帰る場所もなかったから、居心地の良いこの場所にとどまっているうちに幹部にまでなった。

 

“真打ち”と言う幹部になると同時に、オレはカイドウ様のご子息……レオヴァ様との対面を果たした。

 

このレオヴァ様との出会いはオレに“更なる変化”を与えた。

 

カイドウ様のご子息らしく、レオヴァ様は本当に強かった。

オレ達が海軍や他の海賊団相手に苦戦していると、いつも助けて下さるんだ。

 

『大丈夫か?

よくここまで持ちこたえてくれた、後はおれがやろう。』

そう言って、まだ幼いにも関わらず敵を薙ぎ払うレオヴァ様はカイドウ様の血筋を強く感じさせた。

 

だが、背中で語るタイプのカイドウ様とは違い

レオヴァ様は良く声をかけて下さる人だった。

 

側仕えや遠征やらでレオヴァ様との時間が増えていくにつれて、オレは他人を想いやる気持ちを知っていった。

 

穏やかな日々の中でオレは徐々に復讐を忘れつつあったのだが、あの日は訪れた。

 

ナワバリに居たのだ、友を殺した男達が…

それも今度は百獣の船員を、オレの部下に手をかけようとしていた。

 

オレをキュロスさんと呼び慕ってくれる大切な部下がボロボロの姿で地に伏している姿と、友の姿が重なって見える。

怒りで目の前が真っ赤になった。

 

 

そして、気付けばオレは男達をめった刺しにしていた。

剣にも手にもべっとりと赤い血がつき、部下はそんなオレの姿を見て目を見開いている。

 

肉片と化した男達から目を反らし、絞り出すようにオレは声を出した。

 

 

『……すぐに戻って手当てをしてもらえ。』

 

『っ…はい!』

 

足を引きずりながら消えて行った部下を横目にオレは立ち尽くした。

ぼんやりしたまま浜辺に行き、剣と体を洗った。

何度も何度も何度も、オレは血を洗い流した。

 

部下を救い、友の仇をとった。

しかし、心は晴れなかった。

 

この感情はなんと表せばいいか分からない。

 

殺したことを後悔しているのか?と問われれば、違うと答えるだろう。

 

矛盾…のような感情が胸を占めていた。

そして、オレはこの日を境に悪夢を見るようになった。

 

今まで海戦で敵を討ったことはあった。

だが、その時はこんな感情にはならなかった。

何が原因なのか、復讐を終えた今……何をするべきなのか

全て分からなくなっていた。

 

少し前までは忘れられそうだった筈なんだ、復讐という薄暗い感情を。

この感情を思いだし実行してから、悪夢と無気力な日々に苛まれていた。

 

 

周りから心配されたが、それもオレの心にある矛盾のような感情に拍車をかけた。

 

お前は心配されるような人間なのか…?

と言う問い掛けが聞こえる気がした。

 

 

だが、悶々とした日々に終わりが来たのは突然だった。

 

遠征先でレオヴァ様に呼び出しを受けたのだ。

 

オレはここ最近の仕事への態度を咎められるのだろうと思い、重い足取りで向かった。

 

しかし、レオヴァ様はオレを咎めなかった。

 

ただ何時ものように穏やかに

『何かあったのか?

言いたくないなら言わなくても良い。

だが、キュロス……お前は真打ちだ。

指揮する立場のお前が不安定では部下に危険が及びかねない。

…休んだらどうだ?

お前は十分すぎるほど働いてくれてる、少しくらい休んでも誰も文句なんざ言わないさ。

いや、おれが言わせない。』

そう言って下さった。

 

レオヴァ様の優しい雰囲気に、毎晩の悪夢で不安定だったオレは気付いたら目から涙を流していた。

 

そんな挙動不審なオレを気味悪がることもなくレオヴァ様はハンカチを手渡し、涙が止まるのを静かに待ってくれた。

 

オレはポツポツと思いを溢した。

生まれた国のことや昔の自分のこと、そして友のこと。

 

何時間そうしていたかは分からないが、話すのが上手くないオレの話はきっと酷いものだっただろう。

要点も話の筋もなにもない。

ただ今までの思いを吐き出すように、次から次へと脈絡なく語り続けた。

 

そして、オレの言葉を最後まで聞き終えたレオヴァ様はゆっくりと口を開く。

 

 

『友の仇を取って何も無くなったように感じると言っていたが、今はそれでいい。 

無理に何かを見つける必要はない。』

 

レオヴァ様の言葉にオレは顔を上げた。

 

 

『……いい…のですか?

なにもなくても……』

 

『あぁ、それで良い。

キュロス、今のお前の心には少し休憩が必要なんだ。

また何かを見つければ真摯なお前はそれに向かって突き進むだろう。

だから何もなくてもいいんだ、今は。

ずっと張り積めていた分、ここで休めばいい。

休んで、気持ちが落ち着いたら行動を起こせばいいんだ。

真面目な者ほど、人生とは歩み続けなければならないと思っている様に思う。

だが、おれは寄り道や休息も大切だと考えている。

無理をして自分を追い込む必要はないんだ。

キュロス、お前の人生の主役はお前自身なんだぞ?

自分を一番大切に考えるべきだ、もっと自分に甘くていいんだ。』

 

 

休んでいい、その言葉にオレは声が詰まった。

そんな事言われたのは初めてだったし、必死に生きてきたオレはその言葉になんて返せば良いのか分からなかったんだ。

 

口を開いたり閉じたりしながら戸惑うオレにレオヴァ様は本当に、本当に優しく笑いかけて下さった。

 

 

『突然、こんな事を言って困らせたか…?

……そうだ、今度ドレークと休暇遠征に行くんだがキュロスも来ればいい。

まずはおれと一緒に休むことを覚えるところから始めよう!

実を言うとおれも休暇が苦手なんだ。

…何もしていないと言うのが、なんとも変な気分でな……父さんの役に立てない時間がどうも駄目らしいんだ。』

 

そう言って眉を下げたレオヴァ様をオレは驚きで見つめた。

 

何でも出来て悩みもなさそうなレオヴァ様もオレと同じ様な事を思っている、その現実に驚いたんだ。

 

オレもカイドウ様やレオヴァ様、百獣の為に役に立っている間は安堵のような感情があり

逆に休日や怪我をした時などは、何にも貢献出来ていない焦りや不安のような感情があった。

 

レオヴァ様が休暇が苦手なのはオレと同じ様な感覚ではないだろうか?

そう思うと少し力が抜けた気がした。

 

 

『レオヴァ様でも、そんな風に思ったりするんですね…』

 

『おれも人間だからな、色々と思う時はある。

苦手なものも好き嫌いも…な。』

 

心外だというように告げられた言葉にオレは少し申し訳なく思った。

そうだ、どんなに完璧に見えてもレオヴァ様も1人の人なんだ。

オレと同じ…というのは失礼だが、神のような存在だと勝手に祭り上げるのは良くないことだった。

 

なにせ、あのカイドウ様ですら酔って泣いたり笑ったりするのだ。

レオヴァ様だって…

そう思ううちに少し気持ちは軽くなっていった。

 

まだ無気力感やモヤモヤは完全に消えた訳ではなかったが、一人で抱え込んでいた時よりはいくぶん楽になっていた。

 

その後レオヴァ様の休暇遠征などに付き添い、数ヶ月の休みを経てオレは悪夢を克服した。

 

百獣海賊団にいれば、オレはもっと変われる。

そう思ったんだ。

 

 

 

そして、百獣海賊団になってから約十数年。

オレはレオヴァ様から任された護衛任務で、初めて愛おしいと思える人に出会った。

 

彼女の名前はスカーレット。

 

あのドレスローザ王国の王女だったらしいのだが、追われる身となり百獣海賊団に匿われていた。

 

しかし、ドンキホーテファミリーと百獣海賊団は取引関係にあり大手をふって匿うことは出来ない。

 

結果レオヴァ様とドフラミンゴのひと悶着の末、ドレスローザ国民には死んだ事にする運びになり、

同時にスカーレットとヴィオラの二人を小さな百獣海賊団のナワバリに隠れ住まわせることになった。

 

だが、二人だけにすることは出来ない。

いくら百獣のナワバリとはいえ100%安全とは言いきれないだろう。  

 

その為、レオヴァ様は二人の為に護衛を付けると宣言した。

そして、最初の護衛を任されたのがオレだった。

 

どうやら美女や金に頓着しない性格を評価されたらしい。

確かに色恋沙汰も金銭欲もなかったオレが適任だと思われる任務内容だった。

 

なにせ、スカーレットもヴィオラも美人という言葉では足りないほど美しい。

 

ヴィオラは顔に大きな怪我をしていたが佇まいや所作が美しかったし、スカーレットは影があったがとても綺麗な瞳をしていた。

 

オレ以外の男達は皆が目をハートにしていたこともあり、選ばれたのは必然のようにも思えた。

当たり前の話だが、護衛任務で護衛が対象を襲うことがあってはならないのだから。

 

初めこそ綺麗な人たちだ、くらいにしか思わなかったオレだが

年月を重ねて行くうちに気付けばスカーレットに惹かれていた。

 

最初は暗かったスカーレットの笑顔を見たのが切っ掛けだったと思う。

 

『ありがとう、キュロス!』

そう言って笑った彼女の笑顔から目が離せなかった。

 

それから影のあった彼女が少しずつ明るく活発になるにつれて、オレの気持ちも強くなった。

 

もう、あんな悲しそうな顔はしてほしくない。

……幸せにしたい。

そう思うようになった。

 

それを自覚したオレは頭を抱えた。

護衛対象に特別な感情を抱かないだろと、レオヴァ様から任されたというのに

オレは彼女に、スカーレットに特別な感情を持ってしまったのだ。

 

 

迷いに迷ったがオレはレオヴァ様に全てを話した。

 

レオヴァ様は急に呼び出したと言うのに最後まで静かに話を聞いてくれた、あの時のように。

 

ぐっと唇を噛み締め答えを待つオレの肩に暖かな手が置かれる。

 

 

『スカーレットの様な“穢れなき人”の側に居たいと思うと自分では釣り合わない、などと考えてしまう気持ちは分かる。

だが世の中そんな綺麗事で生きていけないことも、お前なら身に染みて分かるだろう?

誰もがスカーレットのように“美しい理想”だけを掲げて生きている訳じゃない。』

 

レオヴァ様の鋭い言葉にオレは返す言葉が見当たらず、沈黙を続けた。

悪意と飢えの中で育ったオレにとって、レオヴァ様の言い分は痛い程にわかるのだ。

だからこそ、綺麗でまっすぐなスカーレットに惹かれているのだから。

 

俯くオレへレオヴァ様は言葉を続けた。

 

 

「キュロス、だからこそお前がスカーレットの側に居るべきなんだ。」

 

「れ、レオヴァ様……仰っている意味がおれには…」

 

言葉の真意がわからず顔を上げたオレにレオヴァ様は真面目な表情で話す。

 

 

「この厳しい世界で綺麗なスカーレットを守りたいなら、誰かが汚れなくちゃならない。

彼女はドレスローザの国民達から憎悪を受ける身だ。

誰かが側で支え守らなければ、いつかはその憎悪や悪意に汚され……最悪、命を落とすだろう。」

 

オレは息を呑んだ。

スカーレットが悪意のある者によって奪われる光景を想像するだけで全身に怒りが溢れる。

誰だろうと、優しくも厳しい彼女を傷付けることは許せない。

思わず口から叫びが溢れた。

 

 

「駄目だ!!

スカーレットが幸せになれないなど、そんな未来があっていい筈がない!!!」

 

拳を握りしめるオレの隣にレオヴァ様は腰掛け、同意を示してくれる。

 

 

「その通りだ。

圧政と虐殺を行ったのはリク王であって彼女ではない。 

むしろ彼女は圧政を止めようとさえしていた。

そんな彼女には幸せになる権利がある……そうだろう?

だが、キュロスが彼女の側を離れるとなれば…」

 

難しい顔をするレオヴァ様を見て、慌ててオレは口を開く。

 

 

「お、おれ以外の護衛を付けてはくださらないのですか…!?」

 

「いや、もちろん護衛は付ける。

……しかし、キュロス以上に彼女に対して誠実(・・・・・・・・)な護衛となると難しい…

なにせスカーレットとヴィオラは美しいだろう?

…変な気を起こさず、尚且つ腕の立つ者となるとな……」

 

珍しく考え込むレオヴァ様の隣で、オレも考えを巡らせた。

 

スカーレットに恋心を持ってしまった自分以外が護衛についた方が安全だと思ったのだ。

恋心を自覚してしまってからはスカーレットの笑顔や少しの仕草に心揺すられる自分では、いつの日か間違いを起こしてしまうのではないか…それだけが不安だった。

大切な人を傷つけたくなかったし、信じてくれるレオヴァ様を裏切りたくなかった。

 

だが、レオヴァ様の話を聞いて狭くなっていたオレの視界は開けた。

護衛を替わったとして、その新しい護衛が彼女に手を出さない保証があるのか…?

レオヴァ様の命令であれば“彼女の命”は守るだろう。

けれど、他はどうだろうか?

レオヴァ様は忙しい、一人の女性の為に多くは時間を割けない。

そんなレオヴァ様に護衛につく部下の動向を全て押さえて欲しいということは、無理難題だ。

 

……なら、自分が守った方がいいのではないだろうか?

自分ならば絶対に何があっても彼女を見捨てることはしない。

揺れ動く心なんて無理矢理にでも縛り付け、側に…

 

そういう考えに至ると同時にオレは顔を上げ、隣のレオヴァ様の方へ顔を向けた。

振り向いた先では既にレオヴァ様が此方を見て小さく笑っている。

キュロスはその表情に今から言う言葉が悟られていることに気付いたが、構わず口を開いた。

 

 

「申し訳ありません、レオヴァ様!

やはり、先ほどの申し出は無かったことにして頂けないだろうか。

スカーレットは…おれが守りたい(・・・・・・・)!!」

 

「もちろんだ、キュロス。

お前以上にこの護衛が適任な奴はいない。

……なにより勝手にお前を護衛から外したとなれば、スカーレットが暴れそうだ。」

 

「そっ…そ、それはどういう…?」

 

小さく笑うレオヴァ様の隣でオレは顔が熱くなるのを感じたが、切り替えるように立ち上がり宣言した。

 

 

「レオヴァ様!

このキュロス必ずやヴィオラ、そしてスカーレットをお守りして見せます…この命に代えても!!」

 

「迷いが消えたなら良かった。

任せるぞキュロス、幸せになってくれ。」

 

「はい!敵を退け、幸せにしてみせます!!

……へ?いや、なってくれ?

えっとそれは、おれがでしょうか…?」

 

ギクシャクした動きで首をかしげたオレを面白いものを見るような目でレオヴァ様は見やり、口を開いた。

 

 

「そうだ、キュロス。

相手を幸せにしたいなら、まず自分が幸せになれ。

不幸な顔をした人間が他人を幸せにできると思うな。

お前が幸せそうな顔をすれば、スカーレットもきっと嬉しいだろうからな。

……尽くしてくれるお前を側に置けなくなるのは、おれにとって痛手だが…

女に一切興味を示さなかったお前にそんな顔をさせられる相手にくれてやるなら、それも存外悪くはない。」

 

フッと笑ったレオヴァ様の前で膝を降り、オレは涙が滲む顔を隠した。

 

 

「カイドウ様に拾われ…レオヴァ様に教えを頂いた日々がおれの宝です!

百獣海賊団としての最後の任務、必ず生涯をかけて全う致します…!!

 

頬を伝い地面にポタポタと数滴の雫が溢れる。

レオヴァ様は震える肩にまた優しく手を置くと柔らかな声で告げた。

 

「真打ち、キュロス。

お前ならこの任務最高の形でやり遂げてくれると、おれは確信している。

……今までよくやってくれた、ありがとう。」

 

「っ…は"い"っ!!」

 

この日からオレの最後の任務、スカーレットの護衛が正式に決まったのだった。

 

 

 

そして、これは後日談なのだが…

隠れ家に来ていたレオヴァ様は帰り際にスカーレットに爆弾発言をして帰って行ったのだ。

 

その発言にスカーレットは顔を真っ赤にして怒り、ついには泣き出してしまった。

 

 

『キュロスのバカ!!

なによ!護衛止めるなんて…私、一言も聞いてない!!

ずっと…ずっと守ってくれるって言ってたじゃない!!』

 

そう言って胸板を叩くスカーレットにオレは動揺した。

なんて言えば良いか分からず、けれど何か言わなければと口を開いた。

 

 

『す、すまない……

だが、レオヴァ様も言っていた通り護衛は引き続きおれが担当する。』

 

そういう問題じゃないの!!

なんで、護衛を止めようと思ったのよ…』

 

『そ、それは君を好きになってしまって!

それでその!おれは護衛失格だと思いレオヴァ様に!』

 

『すっ……好き?』

 

『え、あっ…!いや!その…違うんだ!!

 

『違うの…?』

 

『ちっ、違わないが……』

 

悲しそうな表情で俯いてしまったスカーレットの姿にオレは言わなくて良いことを口走ってしまった。

……いや、今思えば言って良かった事なんだが

それからはてんやわんやだった。

 

オレもスカーレットも混乱し、お互いに会話にならなくなったんだ。

 

最終的には見かねたヴィオラが間を取り持ってくれたおかげで、オレはスカーレットに気持ちをしっかりと伝えられ……今では夫婦となった。

 

目に入れても痛くないような可愛いレベッカも産まれた。

出産後はレオヴァ様が大量のオムツやお尻拭きなどを抱えて訪問してくれたりもした。

 

オレはこんなに沢山悪いと断ろうとしたのだが、その言葉を遮ってレオヴァ様は口を開いた。

 

 

『こういう消耗品は毎日使うからあるだけ役立つんだ、受け取っておけ。

なによりこれはキュロスへの土産じゃなく可愛いレベッカへの土産だからな、無理やりでも置いていくぞ。』

 

『ふふふっ。

レベッカへのお土産なら私達が断るのも変だわ。

キュロス、ありがたく頂きましょう?』

 

『れ、レオヴァ様っ…!!

ありがとうございます!』

 

『……ずいぶんと涙脆くなったなァ、キュロス。

お前なら良い父親(・・・・)になれる、そうだろうスカーレット?』 

 

『えぇ、私が選んだ人だもの。

世界一のお父さんになってくれるわ。』

 

この時、オレの視界に移るスカーレットとレオヴァ様の微笑む顔は涙で滲んでいた。

 

幸せすぎて少し怖くなったが、それでは駄目だと自分を震い立たせた。

これからはスカーレットとヴィオラだけでなく、レベッカもオレが守って行かなければならないんだ!

 

オレは絶対にこの幸せを守り抜くと決めた。

何があっても手離しはしない、それがオレの新しい生きる意味だ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ドレスローザ王国の第2王女ヴィオラの過去は壮絶だった。

 

まず、ギロギロの実の能力。

これによって多くの嘘や嫌なものが見えてしまうようになり、少し人見知りな性格になった。

 

次に、ある時を境に愛し尊敬していた父親が別人のようになってしまった。

娘達とは目も合わせず、言葉も殆ど交わさない。

あれだけ優しく大切にしてくれていた父親の豹変はまだ若いヴィオラの心に深い傷を付けた。

覗いた父の心には自分達への想いなど一切なかったからだ。

 

そして、その後まもなく最悪の出来事が起こる。

 

 

父リク・ドルド三世の圧政で一部の国民により反乱軍が結成され、反乱が起こったのだ。

 

幸い、ここ数年の“方針変更”により強い軍隊があった為、反乱はすぐに沈静化されたのだが……リク王は止まらなかった。

突如、反乱とは関係ない民にも言われなき罪を被せ、刃を向けたのだ。

 

 

そこからは地獄だった。

逃げ惑う国民とそれを追い詰めるリク王と王国軍。

どんなにスカーレットとヴィオラが止めるようたのんでも、あの優しかった父は虐殺を止めなかった。

 

それどころか民を庇うように前にでたスカーレットを斬り付けた。

 

血を流すスカーレットをヴィオラは泣きながら抱き締めた。

 

『お姉さまっ…お姉さま死なないで!!』

 

悲痛なヴィオラの叫びにも父は見向きもしなかった。

この時、“優しいお父様”を信じていた心はヴィオラの中から消えたのだった。

そして、若いヴィオラに残ったのは悲しみと恐怖だ。

 

だが、その父の対応はこの後に起こるヴィオラへの仕打ちを鑑みればまだマシな仕打ちであったのかもしれない。

 

 

本当の地獄はその後だった。

 

ドンキホーテファミリーによって、殺戮を尽くした王とリク王軍は捕らえられたのだ。

 

その事にはヴィオラは胸を撫で下ろした。

これでもう、罪のない人たちが死なずにすむ……そう思ったからだ。

 

しかし、厳しい現実は心優しいヴィオラを襲った。

 

リク王の一族としてスカーレットと共にヴィオラも捕まったのだ。

そして、牢獄から全身を布で覆った白衣の大男に引きずられながら暗い部屋に連れて行かれた。

 

 

その部屋には母がいた。

ヴィオラは恐怖と不安から母を呼んだ。

 

だが、部屋の光が点くと同時にヴィオラの母を呼ぶ声は絶叫にかわる。

吊るされ、両手を潰されて歯を抜かれた母の瞳は虚ろで、なにも写してなどいなかった。

ヴィオラは強く目を閉じた、何も見たくない(・・・・・・・)!と強く思ったのだ。

 

手探りで逃げようと踠くヴィオラを吊るされた母親の方へ投げ、白衣の大男は抑揚のない声で言った。

 

 

『あんなに会いたがってた娘に会わせてやっても反応はなし…か。

チッ、もう駄目だな……これならボール野郎のウイルスでも使って長持ちさせるべきだったか?』

 

独り言を呟く白衣の大男から後退るヴィオラだったが、脚を捕まれ宙吊りにされる。

 

 

『おいおい……母親を置いて逃げるのか?

随分と薄情な子どもがいたもんだ。

……そういえばお前、目を見た相手の思考が見えるんだってなァ?

ドフラミンゴが欲しがってたぞ。』

 

逆さまな状態で、背後の白衣の大男が嗤っている気配を感じてヴィオラは悪寒を抑えられなかった。

 

恐い恐い恐い恐い…!!

恐怖で震え強く瞳を閉じる姿を見て少し考える素振りを見せたあと、白衣の大男は台に叩き付けるようにしてヴィオラを寝かせ、拘束した。

 

 

『相手の目を見ると思考が見えると聞いたが、他にも衣服の中を見ることも出来るらしいな。

で、いつまで目を閉じてるつもりだ?

お得意の力で見てみたらいいじゃねぇか、おれの思考を。

今から何をされるのか(・・・・・・・)知らなくていいのか?

おれの顔もお前の力なら見れるんじゃねぇのか?』

 

愉しげに嗤う白衣の大男の言葉にヴィオラはただガタガタと震えることしか出来なかった。

暫くぎゅっと強く瞼を閉じていると、白衣の大男が離れる気配を感じた。

 

思わず少し力を抜くと同時に想像を絶する痛みと熱さを感じ絶叫した。

(もが)く動きに合わせてガシャガシャと拘束具の音が鳴る。

 

ヒュウ…ヒュウ……と肩で息をするヴィオラの耳に少し弾んだ声が届く。

 

 

『残念だったなァ…さっきのが目を開ける最期のチャンスだったんだが……

かけた薬品のせいで皮膚が溶けてくっついてる。

もう2度と目は開けられねぇだろうなァ?

ところで……見えないなら眼球も無くても良いと思うんだが…どう思う?』

 

『ヒュッ…』

 

息をするのすら辛いヴィオラは白衣の大男の言葉が理解出来なかった。

痛みと拘束具から逃れようと暴れだしたヴィオラに低い声が突き刺さる。

 

 

『……おい、なんの為に口は残してやったと思ってる。

答えろ、眼球は必要かそうでないか。』

 

苛立ちを感じさせる声にヴィオラは震える声で答えた。

 

 

『ッ…ひつ、必要……です』

 

『そうか、必要か。』

 

白衣の大男の手の動きが止まる気配に安堵していると、右手の拘束具が外される。

意味が分からず混乱していると何かを握らされたのだが、それはとても重かった。

思わず落としそうになると吐き気を覚える低い声が降ってくる。

 

 

『眼球、必要なんだろ?

それを落としたら眼球は失くなると思え。

せっかくの好意をまさか無駄にしねぇよなァ…第2王女サマ。

おれが戻ってくるまで堪えられてたら父親と姉のいる牢屋に帰してやる。

堪えられなかったら母親と仲良く、おれの相手だ。』

 

クツクツと嗤いながら白衣の大男が部屋を出ていく気配を感じたと同じに、ヴィオラの口からは嗚咽が漏れる。

 

誰でもいいから助けて!

心からの叫びはただひたすら冷たい部屋にこだまするだけだった。

 

 

あれから何時間たったのか、もしくは1日たったのか。

時間の経過は分からなかったが、ヴィオラの腕には限界が来ていた。

 

手はだんだん力が入らなくなっており、脂汗のせいで少しずつ握っているものは滑っていっている。

 

そして、ついにヴィオラの手からそれは滑り落ちた。

ガチャンッと言う音と共に頭に何かの機械が設置されたようだった。

 

次の瞬間、ゆっくりと爛れた皮膚に鋭い何かが突き刺さる感覚を感じヴィオラは必死に踠いた。

だが、頭は固定されておりビクともしない。

 

その機械はゆっくり時間をかけてヴィオラの瞳を奪っていった。

 

 

本当に地獄だった。

しかし、いつまでも終わらないこの苦痛にヴィオラが死を望むようになった時だ。

幼い頃から知っているタンク軍隊長がヴィオラを地獄から連れ出したのは。

 

 

『ああッ…!こんなっ……なんてことだ!!!

ヴィオラ様…もっと、もっと早くお助け出来ていればッ…』

 

泣きながらヴィオラを抱えてタンク軍隊長は走った、全力でドレスローザ王国の小さな浜辺へと。

後ろからは追手の気配が迫っている。

 

浜辺にある船に辿り着くとタンク軍隊長はスカーレットにヴィオラを預けた。

 

ヴィオラの姿にスカーレットは声を出せずに泣いていたが、タンク軍隊長の言葉で船を動かし始めた。

 

 

『スカーレット様、ヴィオラ様。

ここは私が時間を稼ぎます!!

どうか……どうか遠くへお逃げください!

ドレスローザの国民とドフラミンゴの手の届かぬ場所へ…!!!

 

なんとか出港した船からタンク軍隊長が迫りくる民衆へ突撃していく姿を最期にヴィオラの意識は途絶えたのだった。

 

 

その後瀕死のヴィオラを救ったのは百獣海賊団のトラファルガー・ローであった。

 

最初は身分を隠していたのだが、ドンキホーテファミリーから情報が流れていた為に全てバレてしまった。

 

地獄へ戻るのならば死ぬ!

そう思い自害しようとしたヴィオラをローと共にいたベポが止め、話を聞き付けて来たレオヴァの意向によって保護が約束された。  

 

それからは信じられないほど平和な日々だった。

地獄を夢に見て魘される事がないと言えば嘘になるが、それでも平和な毎日だった。

 

穏やかでのんびりとした日々だ。

 

それにヴィオラには新しい家族が出来た。

それは優しく頼りになるキュロスと天使のように可愛く優しいレベッカだ。

 

たった一人の家族、スカーレットお姉さまの幸せはヴィオラにとって何よりも嬉しかった。

 

これからも、もう争いもなく平和な日々が続くようにヴィオラは願った。 

……心に潜む薄暗い感情を圧し殺して。

 

 

 

 




ー後書き&補足ー

↓にて番外編始めました
https://syosetu.org/novel/279322/

ドレスローザの件、レオヴァは“全容”は知らなかった。
(カイドウがレオヴァに小人をサプライズしたかったので言わないようにキングとローに釘をさしていた。)
キングへの助言もドレスローザとは知らずに新しいナワバリへのマッチポンプとして、重要人物の確保や変装の案を出していた為、拷問などはキングの独断。
(危険性の高いヴィオラは殺すよりも使えなくして飼殺しにしようとキングは考え、スカーレットは自殺を防ぐ為の要因として健康な状態で生かしていた。)
ただし、その後キュロスをスカーレットに会わせようとしたのはレオヴァの意思。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー
キュロス:十代の頃にカイドウに拾われ百獣に入団した
スレイマンと仲が良く、トネグマには頭が上がらない
定期的に極秘連絡ルートを使いレベッカやスカーレットが可愛いと言う手紙をレオヴァに送っている
このまま彼は“いい父親”として生涯を過ごすだろう

スカーレット:護衛として共に過ごすうちにキュロスと恋に落ち心からの笑顔を取り戻した
鳳皇の大切な部下と結ばれたことで彼女の幸せは約束された、このまま幸せな世界に“だけ”留まれば


レベッカ:原作より年齢も性格も幼い。
この先きっと彼女が暗い未来に怯えることはないはずだ、麦わら帽子の少年と出会わなければ

ヴィオラ:拷問により失明した。
全神経を注いで能力を応用すれば景色は見えるが、瞳がない為心を見るなどの力が使えなくなった。
精神的な事もあり簡単に能力を使えなくなったことも大きく影響していると思われる。
姉の幸せを望んでいたい気持ちに偽りはない…筈なのだ


白衣の大男:全身黒の服ぐらいしかもっていなかったのでボール野郎に作らせた
普段は出ている炎は引っ込めて趣味とお仕事に全力投球
拷問の件は坊っちゃんには話していない
(バレてないとは言ってない)

レオヴァ:百獣の為に死ぬもの狂いで働いたキュロスの幸せを願っている
レベッカにも慈愛を、なんせ部下の愛娘だ
彼が“良い父親”になったことは微笑ましい


リク王:「殺人を犯さなければ生きてはいけんというのなら、私は進んで死を選ぶ!!!」
この考えは素晴らしいが、この世界はその理想で生きるのは難しい環境だった
人を殺すことは時代によって善にも悪にもなるのだ

[原作とプロットの関係で2月から此方の更新頻度下がります…]


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

策を弄すれども変えられぬ未来

 

 

 

「申し訳ありません…若君ッ…!!」

 

 

電伝虫から、今にも自害しそうなほど悲痛な声が響く。

 

優秀な工作部隊の隊員から告げられた“失敗”の二文字にレオヴァは手に持っていた筆を思わず折ってしまった。

 

少しの沈黙が続き、電伝虫越しの部下がこの世の終わりのような顔をしたのと同時にレオヴァの返事が返ってくる。

 

 

「そうか、奴は逃げ仰せたか…」

 

「はい…その日の夜に護衛対象を殺し、例のモノを奪い逃走したようです……

護衛対象は死亡が確認され、二番隊隊長がケジメの為だと偉大なる航路(グランドライン)を逆走して行きました…

白ひげや他の隊長達も制止していたのですが、止めきれず……若君の指示通り、二番隊隊長にあの機械を取り付けることには成功したのですが…

……本当に申し訳ありません!

此度の失態、命を以て償わせて頂きたくッ!!」

 

必死の部下をレオヴァは優しい声で止める。

 

 

「止せ、お前は良くやってくれた。

今回は護衛対象を見張り、いつ動くかわからないマーシャル・D・ティーチを警戒するという途方もない集中力を要する長期任務……全て任務内容通りに行かない事もあるだろう。」

 

「若君っ……で、ですが!

おれは保護対象を見失い…その結果監視対象には逃げられるという失態を……」

 

声が震える部下を諭すようにレオヴァはゆっくりと話す。

 

 

「大丈夫だ。

二番隊の隊長にアレを取り付けられさえしているなら、他はたいした事じゃない。

5年以上も任務の為に身を粉にしてくれたお前を誰が責められる?」

 

「グズッ……あ、あ"りがとう"ございま"す"ッ…」

 

「お前は次の指示があるまで、引き続きそこで上手くやっていて欲しい……頼めるか?」

 

「は"い"!! お任せ"ください"!」

 

「任せたぞ。」

 

電伝虫の受話器をガチャリと置くと同時にレオヴァは深い溜め息をついた。

文机の上には無惨に折れた筆が転がっている。

 

 

「…麦わらといい……まったく考え通りには運ばないな…」

 

ナワバリの政策とは違い、計画通りに行かなかった事にレオヴァは苦々しげに笑う。

 

今回の作戦が上手く行けば麦わらに次ぐ要注意人物である“黒ひげ”の大幅な弱体化が狙えたのだが、それは失敗に終わった。

 

 

レオヴァにとって五体満足でいられると目障りである“黒ひげ”は厄介な悪魔の実を手に入れて海へと飛び出してしまい、四番隊隊長も助かることはなかった。

 

当初のレオヴァの考えでは四番隊隊長を黒ひげに殺害させるところまでは良かった。

しかし、そこで悪魔の実を回収もしくは海へ破棄し、後に能力者ではない黒ひげをエースに追わせる。

 

その後、黒ひげとエースどちらが勝とうがエースを海軍に捕らえさせ戦争を起こす……というのがレオヴァの打てる安全策であったのだ。

 

 

黒ひげは油断できぬ実力があるとレオヴァは仮定している。

 

その理由は白ひげから奪った能力を即座に使って見せたあのシーンである。

 

実力がない者であれば手に入れたばかりの能力をすぐにあそこまで引き出せないだろうとレオヴァは考えた。

 

結果、黒ひげに悪魔の実を食べさせない事が一番確実に処理できる方法だと考え、数年も前から工作部隊の隊員を白ひげの四番隊に入団させていたのである。

……が、現実は上手くはいかなかった。

 

黒ひげは悪魔の実を手に入れてしまったのだ。

 

 

折れた筆をレオヴァは炭に変えると屑籠(くずかご)へと投げた。

ピリピリと張りつめている部屋の空気が、レオヴァの深呼吸と共に元に戻る。

 

先ほどまでの圧ですっかり怯えてしまっている狛デーンの子どもを優しく撫でる。

 

落ち着いた狛デーンを膝から下ろすと、レオヴァは思考を完全に切り替えた。

 

 

もとよりレオヴァはこの失敗を見越して、ウイルスの開発と平行してある機械の開発を進めていたのだ。

それも昨日には完全に完成しており、保管していた能力者を使って作動も開始している。

 

確かに一番理想的な展開にはもって行けなかったが、その後の為の準備はできている。

そう思考を進め、レオヴァは感情を静めた。

 

 

「おれの夢を邪魔する奴は誰だろうと絶対に野放しにはしねぇ。

父さんの上に立とうなんざ、虫酸が走る……そんな存在は消えて然るべきだ。」

 

静かな熱の籠った声は誰に聞かれる事もない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

青々とした空の下に大きな船が一隻。

 

その大きな船から飛び出して行ったエースを見送った後、白ひげはあの事を思い出していた。

 

 

オヤジ…!この手配書見てくれよ!!

このレオヴァってヤツ、おれの友だちなんだ!

スゲェ強くてスゲェいいヤツで、キラッキラ光るんだぜ!!

 

そう言って百獣海賊団のNo.2の手配書を持ってきたエースに白ひげやイゾウは思わず何とも言えない顔をしてしまった。

 

しかし、エースはそれに気付かず話を進める。

 

 

『ワノ国もレオヴァみてぇにいい国だった!

自然は綺麗だし、みんなニコニコ笑顔で…』

 

その言葉を聞いたイゾウは驚いた顔をして、口を開いた。

 

 

『自然豊か!? ワノ国がか…?

工場とかばかりじゃなかったか? 水の汚染は!?』

 

『……? おう、ワノ国だ!

確かに工場はあったけど、そんないっぱいって感じじゃなかったぜ?

川もスゲェ綺麗だったし、そこで捕れるシャケがうめぇんだよ!!』

 

信じられないというような顔のままイゾウは続けた。

 

 

『……百獣海賊団が支配している割には平和そうだな…

強制労働や餓えに苦しむ民はいなかったのか?』

 

今度はエースが信じられないというような顔をして口を開く。

 

 

おい、なんだよイゾウ!!

レオヴァは支配とかそんな事しねぇ!!!

まぁ、レオヴァのオヤジには会った事ねぇけど…

でも!レオヴァは海賊で敵になるかもしれねぇ、おれの仲間の病気だって治してくれたしワノ国のヤツらにも鳳皇サマっつって頼りにされてたんだぜ?

おれはワノ国の色んな町を見せてもらったけど餓えてるヤツなんて見たことねぇよ。』

 

ムッとした顔で答えたエースにイゾウはハッとしたように口をつぐんだ。

 

暫く2人の間に沈黙が流れたが、マルコが切り替えるように声を発した。

 

 

『それで、エース。

そのレオヴァってのがいいヤツなのは何となくわかるが、どんなヤツなんだよい?

……おれは結構…興味あるねぃ。』

 

ズイッと近づいて来たマルコの問い掛けにエースの顔に笑みが戻る。

 

 

『お!じゃあ、マルコには教えてやるよ!!』

 

『エースの弟の話並みに詳しく聞きたいねい。』

 

嬉しげに話し始めたエースの言葉にマルコは相づちを打ち、白ひげは静かにそれを聞いていた。

エースの話を聞くことで、今まで集めていた情報との合致が進みワノ国の現状がおおよそ掴めたのだ。

 

 

 

白ひげにとって“兄弟分”という代わりのいない唯一の存在、それが“おでん”という男だった。

 

だが、それはワノ国にて処刑されたと言う。

……そう、処刑された(・・・)のだ。

助けに行く事が出来なかったことは、白ひげの中で“後悔”になっていた。

 

報復に行こうにもワノ国の立地や百獣海賊団の戦力を見れば、おいそれと簡単に手出しは出来ない。

 

自分の怒りや悲しみの感情の為に突き進むには、白ひげには守るべき者が増えすぎたのだ。

 

 

しかし、それでも諦めきれずワノ国の情報は集めていたのだが、如何せん信憑性に欠けるものも多かった。

しかし、エースの話を聞いていく内に自分の中のイメージと現実に差があることを白ひげは感じ始めていた。

 

 

まず、先に手を出したのはおでんだったと言う事。

白ひげはワノ国の将軍が仕掛けたと思っていた為、少し驚きがあったのだが『開国する!』と、言っていたおでんを思い出し納得した。

 

そして、処刑を実行したのは将軍だったオロチであり

おでんを下したのはカイドウではなく、その息子レオヴァであると言う事も驚きであった。

 

おでんは将軍オロチをなんとかする為には、その後ろ楯であるカイドウを倒さなければ開国は出来ないと踏んだのだろう。

その結果、父を深く慕う息子が立ち塞がってしまった。

……それも、国を想う同志になれたかもしれない相手が。

 

ここまで白ひげが集めていた多くの情報とエースの話は噛み合っていた。

 

なによりエースが嘘を言っているようには見えないし、エースが嘘をつくとも思えない。

 

あるとしたら、エースが騙されている可能性(・・・・・・・・・)だ。

 

けれど、それも薄いだろうと考えた。

何故なら今まで集めた情報も多くはエースの言うような話だった。

信憑性のある筋から得た情報も少なくはない。

その情報と一致している……即ち、それは事実に近い内容と言えるだろう。

そう白ひげは考えたのだ。

 

 

ワノ国が豊かであり、発展していると言う話もそうだ。

エースの話は勿論、集めた情報や他の百獣海賊団のナワバリを見る限り、その話の信憑性はとても高かった。

 

なにせ、今では自ら百獣海賊団のナワバリにして欲しいと乞う国まであるのだ。

ワノ国が豊かであり平和なのは、おそらく事実だろう。

 

 

だが、こうなって来ると白ひげはワノ国に攻め入る事をさらに躊躇せざるを得なくなった。

 

兄弟分を失ったこの思いをぶつける相手は、将軍オロチとレオヴァという事になるのだが

オロチはレオヴァによって討たれていると言う。

 

さらにレオヴァはワノ国の王として、民を大切にし善政を敷いていると言うではないか。

更には百獣海賊団のナワバリを豊かにするのもレオヴァの方針だと言う。

 

もし、そんなレオヴァを討てばどうなる?

 

仇討ちにいけば百獣海賊団と全面的に敵対することは白ひげも覚悟はしているが

おでんの故郷や深海の友人がいる島、他の平和になった島々や国も混乱に陥るだろう。

 

白ひげの記憶にあるカイドウは、少なくとも善政を敷くような良識ある人物ではない。

そうなれば、息子であるレオヴァがストッパーの様な役割を果たしているのは明確である。

 

……それにレオヴァは古い友の伴侶を救い、更には荒れていた魚人街を良い方へ変えたという実績があった。

この話は他でもないジンベエからの話である為、嘘偽りはないだろう。

 

 

直接おでんに手を下した訳ではないにしろ、そのきっかけになったレオヴァを完全に恨まないと言うのは無理だった。

 

だが、レオヴァの立場も白ひげには理解出来た。

おでんは未来と信念の為に戦い、当時の幼いレオヴァは父親を守る為に戦ったのだ。

……その全てを考慮した結果白ひげは矛を収めた、収める他なかった。

 

戦争を起こしては失うものが多く、仮にその首を討ち取ったとして

その代償に起こる混乱や、次の戦争の規模を考えれば手を出すと言う選択肢はなかったのだ。

 

だから、あの時白ひげは静かにエースの話を聞くに留めたのだから。

 

 

ケジメをつける為に海へと消えて行った息子を思い、白ひげは息をつく。

 

この胸騒ぎが、どうか当たらないようにと。

…もう、家族を失わなくて済むようにと。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

これはワノ国が豊かになる前の、昔の話である。

 

九里にある城に住む、おでんと言う大名がバカ殿と呼ばれ始めて少し経った頃だった。

 

身分の低い民達の間では暗い話題しかなかったワノ国に、明るい話題が広がっていたのは。

 

 

 

『レオヴァ様という仏のごとき神童がいる。』

 

『かの御仁は若いにも関わらずオロチに反発し、編笠村の餓えを無くした。』

 

『素晴らしい知恵の持ち主で、汚染され荒れた畑すら蘇らせた。』

 

『あのカイドウの息子だと言うのに、偉ぶらず謙虚であり慈悲深い。』

 

 

その少年の話は貧困と餓えで喘ぐ者達の間でどんどん広がっていく。

 

ついには

『おでんはもう駄目だ、縋るのならあの少年に…!』

という思考の民も少しずつながらも、確実に増えていた。

 

 

そして当然その話は九里にも、おでんの耳にも入っていた。

 

少年を持ち上げ自分を貶す内容だったが、おでんは嬉しかった。

何故なら、ワノ国の民が折れずにいられる理由になっていたからだ。

 

自ら命を絶つ者も増えていた中、少年の話題が密かに広がってからはそんな者も減っていた。

 

 

『そのカイドウの息子を支えに生きれるならよし!

おれを恨めるのは、まだ生きる気力がある証拠だ!』

と、おでんは思ったのだ。

 

例えどんなに恨まれても、数年後にオロチとカイドウが出ていくその日まで少しでも多くの民達に生きていてほしい。

それが、おでんの願いだった。

 

おでんは愛する故郷の人々を想う人情深い男だったのだ。

 

 

だが、おでんの侍達…後に赤鞘と呼ばれる男達の思いは違った。

 

何故、我らがおでん様が貶され、あのカイドウの息子が讃えられているのか。

 

そして、赤鞘達は思った。

きっとその少年はカイドウの持つ財に物を言わせ、民を(たぶら)かしているのではないか?と。

 

カイドウに命令され、民を操る少年。

それが赤鞘達のレオヴァへの印象であった。

 

 

そして、そんな日々が続いている中、九里に驚きの話題が入って来たのだ。

 

『あのヒョウ五郎親分が百獣に下った。』

 

これには赤鞘だけでなく、おでんもたいそう驚いた。

 

脅されているのか? やむを得ない事情があるのか?

と心配するおでんと赤鞘達であったが、あのヒョウ五郎が脅されたくらいで門下に下るとは思えなかった。

 

あの陰湿で狡猾なオロチの嫌がらせや脅しを全て突っ返すような男だ。

そう簡単に心が折れる筈がない。

 

 

しかし、おでんが確かめに行くより早くヒョウ五郎がやって来た。

……あの話題の少年、レオヴァを連れて。

 

 

 

ある晴れた日の午前。

城にやって来たヒョウ五郎を赤鞘の傳ジローと錦えもんは笑顔で出迎えた。

 

 

「「ヒョウ五郎親分殿!!」」

 

「おう、てめぇら元気そうじゃねぇか!

今日はおでんに会わせてぇ奴がいてな。

まぁ、いつもみてぇに軽く話したら帰るぜ。

オロチがグダグダうるせぇからなァ。」

 

ヒョウ五郎はニッと男らしい笑みを浮かべて傳ジローと錦えもんの肩を強く叩いた。

 

そしてヒョウ五郎が後ろを振り返ると、侠客の部下達がサッと道を開ける。

2人がそちらに注目していると、開かれた場所から角の生えた端正な顔立ちの少年が前へと進んで来た。

 

ヒョウ五郎は嬉しげに2人の前に少年を促すと口を開いた。

 

 

「レオ坊、コイツらが前に話した錦えもんと傳ジローってんだ。

錦えもんは中々気合いが入ってやがるし、傳ジローは頭がいい!

おでんの自慢の侍共だ。」

 

そんなヒョウ五郎の声を聞きながら2人は困惑していた。

この目の前にいるのは噂の少年レオヴァではないのか?と。

 

 

錦えもんは考えた。

この者をおでん様に会わせて良いのか?

おでん様の御心を傷付ける結果にならないだろうか?

しかし、ヒョウ五郎親分を追い返す訳には……

 

ぐるぐると思考を回すが錦えもんの頭には答えは出なかった。

助けを求める様にすっと横の傳ジローに目線を飛ばす。

 

しかし、傳ジローも考えているようだった。

この者はおでん様に何をしに来たのか?

なぜ、ヒョウ五郎親分という断りづらい人物のツテでやって来た?

何か確実に会わせてはならない予感がする…

 

そう考えていた傳ジローだったが、独断で断るという選択は選べなかった。

 

言葉を選びかねていると、少年が一歩前に出て口を開いた。

 

 

「お初にお目にかかる、錦えもん殿に傳ジロー殿。

おれはレオヴァ、百獣海賊団に所属している。

此度は前もった連絡もなしの訪問で困惑させてしまった事、深く謝罪する。

オロチに悟られると、邪魔をされると思っての行動だったのだが…

それはこちらの我が儘だ。

何かおでん殿に予定があるのなら出直すので、取り次ぎだけでも頼めないだろうか。」

 

深々と頭を下げて頼むその姿に錦えもんも傳ジローも呆気にとられた。

 

あのカイドウの息子がただの侍に頭を下げている。

その事実を飲み込むのに2人は数秒を要した。

 

何故なら、今この国ではカイドウは国を守る存在であり

あの将軍に意見できる唯一の人物なのだ。

 

その息子となればこの国の大名、いやそれより上の地位と言っても過言ではないだろう。

 

そんな人物が丁寧に頭をさげ年貢もギリギリしか納められない大名の予定を優先し、あまつさえまた自ら出向いてくると言うではないか。

 

 

強い衝撃を受けた2人だったが、なんとか言葉を紡いだ。

 

 

「し、暫しお待ちを…」

 

「おでん様に取り次ぎますので、そちらで…」

 

ギクシャクした動きになりながら答えた2人にレオヴァは明るい表情で返した。

 

 

「取り次いでもらえるのか!ありがとう。

急な訪問にも関わらず対応してくれたこと、感謝する。」

 

また頭を下げ、笑顔を向けてくるレオヴァにイメージとのギャップを受けながら傳ジローは城の中へと踵を返した。

 

 

一方、残った錦えもんは困っていた。

 

レオヴァから土産だと言って大量の食料を渡されたからだ。

 

最初こそ、ろくに食事も出来ず惨めだと言いたいのか!!と目を吊り上げた錦えもんだったが、続くレオヴァの言葉と表情に怒りの言葉は口から出る事はなかった。

 

 

「これは編笠村の皆が作ってくれた自慢の野菜なんだ!

やっと川の汚染問題も回復することが出来て、川魚も捕れるようになってな。

最近では編笠村は食料が余り始めていて、それなら他の村の人たちにお裾分けしたいと言う話になったんだ。

おれも編笠村で人生初めての畑仕事をしたんだが、あれは大変だな…

そんな大変な仕事を皆が頑張ってくれた結晶……ぜひ、おでん殿に食べて貰いたく思ってな!」

 

そう話すレオヴァの表情は生き生きしていた。

錦えもんには、悪意も同情もそこから読み取ることは出来なかった。

 

“純粋な善意” それを感じた錦えもんは困る他なかった。

 

食料も財政も厳しい九里には、これは喉から手が出るほど欲しい物だ。

しかし、それを百獣海賊団の人間から受け取ったとなると話が拗れる。

それこそ、“おでんは百獣海賊団にも媚を売り始めた”などと言う根も葉もない噂を流されかねない。

 

なら、断れば良いのか?

しかしそれもそれで問題であった。

 

もしこの手土産を断ったとしよう。

そうなれば、おでんは食料をドブに捨てたやら

仏のごとき少年の善意を突き返したやら好き放題言われかねない。

 

最悪、百獣海賊団に逆らったとしてカイドウが攻め入ってくる可能性もあるのだ。

 

 

錦えもんは目の前で微笑む優しげな少年に、なんと答えれば良いか分からなくなっていった。

 

 

「(だ、駄目だ……こんな重大なこと、拙者ひとりでは決めかねる!!

傳ジロー早く戻って来~い!!)」

 

錦えもんの心の叫びが通じたのか、ゆっくりと門が開く。

 

待ってましたとばかりに勢いよく振り向いた先に居る傳ジローの青ざめた表情に、錦えもんは嫌な予感を感じ取った。

 

 

「おぉ、戻ったか傳ジロー!

それじゃあ、おでんの所まで案内頼むぜ。」

 

待ちくたびれたと門の方へ進むヒョウ五郎に青ざめた顔の傳ジローが掠れた声で言う。

 

 

「……お、おでん様は…カイドウの息子(・・・・・・・)とは絶対にお会いにならないと。

せっかく足を運んで頂き申し訳ないのたが……どうか、お帰り願いたいっ!」

 

ガバッと頭を下げた傳ジローの言葉に錦えもんやヒョウ五郎の部下達は驚いた。

 

そして伺うようにレオヴァを見ると少し悲しげな表情をした後、必死に笑顔を作っているようだった。

 

 

「……そう、か。

傳ジロー殿、顔を上げてくれ。

こういう事(・・・・・)は慣れているんだ…あまり気にしないで欲しい。

土産は置いて行く、おでん殿に急な訪問で申し訳なかったとだけ伝えておいて貰えるだろうか?」

 

「は…はい。伝えておきます。」

 

眉を下げながら笑顔で傳ジローを気遣う少年の姿に周りは心を痛めた。

こういう事…海賊だからと遠忌されることは慣れていると眉を下げて笑う子どもを見て、心痛まぬ冷たい者などその場には居なかったのだ。

 

 

「では、帰ろうか。

ヒョウ爺に皆、手間をかけさせてすまなかったな…

帰りに料理をご馳走するから、それで許してくれ。」

 

相変わらず気丈に振る舞うレオヴァの姿に黙っていたヒョウ五郎がついに爆発した。

 

 

「おでんの野郎、ふざけてんのかァ!!!

なんだってレオ坊が謝らなくちゃならねぇってんだ!?

下まで降りてきて話はしねぇとのたまうなら、まだしも…

自分は降りて来ねぇで、傳ジローに全部丸投げたァいい度胸じゃねぇか!!

退けてめぇら、おれがおでんを引きずり出して来てやらぁ!!!」

 

「ひょ、ヒョウ五郎親分殿…ぐぅ!」

 

「おま、お待ちくだされ!!」

 

「ヒョウ五郎…!? 待て!」

 

レオヴァの静止も虚しく、ヒョウ五郎は傳ジローを突き飛ばすと門を蹴破り城の中へと消えて行った。

部下達も雪崩(なだ)れ込むように進み始めたが、レオヴァが待ったをかける。

 

 

「皆、止さないか!!

来たのはおれの勝手な都合!

それでおでん殿に迷惑をかけたくはない、止まれ!!」

 

10名ほどはヒョウ五郎と共に行ってしまったが、続くように進んでいた残りの侠客の部下達が止まりレオヴァを振り返った。

 

レオヴァ殿をコケにされて黙っていろと言うのか!と息巻く男達にレオヴァは落ち着いた声色で語りかける。

 

 

「今の皆はおれを知ってくれたから、そう言ってくれるだろう。

だが、おれを知らない者からすれば百獣のカイドウの…海賊の息子だ。

信用を得られないのも仕方がない……違うか?

皆も初めてヒョウ爺がおれを連れてきた時は警戒していただろう?

その時の事を思い出し、相手の立場になって一度考えてみてくれ。」

 

その言葉に侠客の部下達は口を閉じた。

暗くなった雰囲気を変えるようにレオヴァは明るい声を出す。

 

 

「だから皆のように、おでん殿にもおれを知ってもらえば良いだけの事だ!

おでん殿を責める真似は止めてくれ。

おれは対話をしに来たんだ、オロチのように権力を押し付けるやり方をしたい訳じゃない……皆にもそれを分かって欲しい。」

 

レオヴァの言葉に感激したように侠客の部下達は強く頷いた。

 

それを見ていた傳ジローは感心した。

あの幼さでここまで周りを見ることが出来るのかと。

そして、ここまでの思いやりを持てるのか…と。

 

レオヴァという少年に興味が湧いた傳ジローだったが、大きな破壊音に城を見上げる。

 

 

「な、なんの音だ…!?

まさか、おでん様っ…!!」

 

「傳ジロー殿、おれはヒョウ爺を止めたい!

城の中を案内してくれないだろうか?」

 

「わ、わかりました!

おれに続いて下さい!!」

 

 

 

あれから一悶着はあったが、なんとかヒョウ五郎を帰らせる事に成功した赤鞘達は胸を撫で下ろした。

もし、あそこでレオヴァが止めに入らなければ最悪城は半壊していただろう。

 

疲れた表情を隠しもせずに赤鞘は畳の上に座り込んだ。

 

 

「いや、レオヴァという少年がいなければ危なかった。」

 

「話が分かる少年で助かりましたね…」

 

「それにしても、おいどんヒョウ五郎があんなに怒ってるの始めてみたど。」

 

「見たところ、ヒョウ五郎親分は百獣に下ったと言うよりはあの少年……レオヴァ殿に惹かれているようだな。」

 

傳ジローの言葉に周りは納得したように頷く。

 

 

「うむ、確かに傳ジローの言う通りだろう。」

 

「しかし、なぜおでん様はお話しになられんのだ?」

 

「それはっ…!

きっと何か大きな理由があるに決まっておろう!!」 

 

「それにしちゅーも、礼儀正しい子どもにゃ…

案外話せば悪くないかもしれんぜよ!」

 

「はぁ…ネコ、確かにそうかもしれないが

その話す本人のおでん様が拒否してるんだぞ?」

 

「にゃ……そがやった…」

 

赤鞘達は疲れと、置いてかれたレオヴァからの手土産を持て余しながら夜を迎えるのだった。

 

 

 

一方おでんは部屋で空を眺めていた。

 

噂には聞いていたが、レオヴァという少年は何処までも真っ直ぐ強い目をしていた。

 

それに仕方がないとは言え、失礼な態度をとった自分にも怒ることはなく、寧ろ逆に頭を下げてくるような人間だった。

 

まだ子どもだと言うのに、人格者の手本のような振る舞いをするレオヴァにおでんは関心と興味を持った。

 

しかし、会話は許されない。

 

飢えた民達の為にどんなにヒョウ五郎を怒らせようとも、レオヴァに失礼を働こうとも話す訳にはいかないのだから。

 

 

あのカイドウとの契約時の会話を思い出す。

 

 

『おれの息子に好きなようにしろとだけ言って編笠村を任せてる。

そこで出来た食料なら分けてやっても構わねぇが……条件がある。』

 

『条件……わかった。

ウチの奴らに飯を食わせられるならなんでも飲もう!!』

 

『なら話が早ぇ…

てめぇは今後一切おれの息子、レオヴァと会話をしねぇと誓え。』

 

おでんは首をかしげた。

そんな簡単な条件で良いのか…と。

そもそも会話する機会もないだろうと怪訝そうな顔をするおでんにカイドウは続ける。

 

 

『おれの息子は昔から“珍しいモン”に目がねぇ。

それにワノ国を気に入っちまってやがる…

もし、レオヴァがワノ国を回ってる時に会ったとしても

大名と話したいと言っても……てめぇは断れ。

この条件が飲めねぇなら、この話はナシだ!!』

 

『わかった!

カイドウ、お前の息子とは話さんと誓おう……これで良いか。』

 

『ウオロロロロ……それで良い!

食料は編笠村の出来によって、レオヴァの采配で届けさせる。

話は終わりだ…出て行け。』

 

と、いうような会話だったとおでんは記憶していた。

 

この時、おでんはカイドウがレオヴァと話すなという条件を出した事を自分なりに勝手に解釈していた。

 

まず、カイドウの息子はワノ国を気に入っていると言う。

だが、カイドウは数年後に出ていくのだ。

 

あの話しぶりから見るに、カイドウは息子を可愛がっているのだろう。

そうなると、まだワノ国を出ていくという話はしていない可能性がある。

 

カイドウの息子が編笠村の発展に全力を注いでいるのが、その証拠だとおでんは考えた。

 

と、なると導き出される答えは1つ。

おでんの口から“ワノ国を出ていく”という事実が漏れないようにするため、ではないだろうか。

 

その思考に至ったおでんは、勝手に納得し九里へと戻った。

 

だが結局、会わないだろうと高を括っていたレオヴァはヒョウ五郎と意気投合し、親しくなっていた為に多くの接点が出来てしまったのだった。

 

 

 

あのヒョウ五郎とレオヴァの突然の訪問から1年。

 

未だにレオヴァは諦めることなく、食料片手にヒョウ五郎と九里を訪れていた。

 

この頃にはおでんはカイドウの言っていたレオヴァの“珍しいモン好き”を十分過ぎるほど分からされていた。

 

“変わった珍しい大名”である自分にレオヴァが興味を寄せるのは必然だったか…と頭を抱えつつ、一方でレオヴァを嫌いにはなれなかった。

 

会話は禁止されていたが見てはいけないとは言われていないと屁理屈をコネて、おでんは自分の侍達と話しているレオヴァをたまに眺めていたのだ。

 

 

傳ジローに水を綺麗にする方法について聞かれれば

 

『水のろ過はある程度なら、機械などなくても出来る。

小石や砂、布などがあればろ過できるんだ。

これは自然の水がろ過される仕組みを真似て作るんだ。

だが川の水はオロチの工場の汚染が酷い……やるなら雨水でやった方がろ過率は高くなる筈だ。

傳ジローさえ良ければ、さっそく一緒に作って試してみよう!』

 

と快く答え、その後2時間ほど傳ジローに水を綺麗にするノウハウを伝授していた。

 

まったくもって賢い子どもだと、おでんが感心していればネコマムシにカイドウの話をふられた時は目を輝かせ子どもらしくはしゃいでいることもあった。

 

 

『父さんは強いだけじゃないぞ!!

凄く優しい人で、おれが海へ落ちて海軍に連れてかれた時もすぐに助けに来てくれた!

それに珍しい生き物を探すのも手伝ってくれるし、本当に優しいんだ!

小さな時は龍になった背にも乗せてくれた事もあったなァ…

あと父さんの笑った顔が一番好きだ、おれも嬉しくなる。

…ネコマムシもきっと仲良く出来るぞ。

なにせ父さんは懐も深い!』

 

と自慢げに話し続けていた。

キラキラと光る瞳はまるで自分の話をトキから聞いているモモの助のように感じ、大人のようなあの少年も1人の子どもなのだと感じさせた。

 

また別の日には錦えもんに将来の目標を聞かれ、ハッキリと答えていたのも印象的であった。

 

 

『いつかは父さんの隣に立てるような、百獣の息子として恥ずかしくない男になりたい。

そして、父さんと百獣の皆が笑顔でいられる世界にしたいんだ。

今のおれではまだまだこの目標には届かないが、いつか必ず父さんのくれた名に恥じぬ男になる!

それがおれの目標だ。』

 

そう語るレオヴァの声は力強く、絶対になってみせると言う強い気概を感じた。

同時に本当に心からカイドウを、父親を尊敬しているのだとおでんは思ったのだ。

 

 

そんなレオヴァを観察するうちに、おでんは少しずつ理解していった。

 

大人のように振る舞うのは、その名に恥じぬ為。

知識に貪欲なのは自らの守るべき身内の為。

努力を欠かさぬ姿勢は少しでも早く父に近づく為。

 

知れば知るほどレオヴァという少年とおでんは話がしてみたかった。

 

多くの人々と話をしてきたが、レオヴァはまた違う価値観を持っているように思えたのだ。

 

しかし、カイドウとの約束があり会話は出来ない。

 

その事を歯痒く思いつつも、おでんは約束を守り続けたのだ。

 

あの、討ち入りの瞬間まで。

 

 

 

討ち入りを決め、山道を走っていたおでんの前にレオヴァは現れた。

まるでここを通る事を知っていたかのように。

 

暗い夜空に目映い光を放ちながら宙を舞う黄金の鳥は、半分人の形になる。

 

おでんの何故わかったという問い掛けに、教える義理はないとキッパリと答えたレオヴァの瞳には怒りの感情が見えた。

 

 

その後、レオヴァやヒョウ五郎と武器を交えていくうちに少しの疑念がおでんの中に湧いた。

 

こちらの動向の把握に、侍達や幹部への指示の速さ。

おでんと赤鞘を分断する手際の良さ。

それらがあまりにも上手すぎる。

まるで全てが分かっているかのようだと、おでんは感じた。

 

……謀られていたのか?

そう、おでんが思い始めた後の事だった。

 

激しい戦闘の途中にヒョウ五郎の警戒が一瞬、緩んだのだ。

 

その隙を見逃すまいと、おでんはヒョウ五郎から重い一撃を受け膝をついていたが、負けられぬという強い想いを糧に刀を振るった。

 

 

“この一撃が当たればヒョウ爺は越えて行ける!”

それほどまでに力を込めた一太刀であった。

 

おでんの頬に返り血がはねる。

 

 

だが、その一太刀はヒョウ五郎に当たることはなかった。

後方で支援に回っていた筈のレオヴァがいち早くおでんの覇気に気付き、ヒョウ五郎を庇ったのだ。

 

おでんは驚きに目を見開いたが、その瞬間体に電撃が走った。

 

どうやらレオヴァは斬られた衝撃のまま体を回転させ、鋭い鉤爪のある脚でおでんを蹴り飛ばしたようであったのだ。

 

 

ヒョウ五郎に斬られた胸の傷を鉤爪で抉られた痛みと、体に走る電気におでんは脳を揺さぶられた。

 

だが、気付けばレオヴァに庇われたヒョウ五郎が鬼気迫る顔でおでんへ刀を向けている。

 

 

この時、おでんの疑念は消えた。

レオヴァという少年はやはり仲間想いな子なのだと。

だからこそ、あのヒョウ五郎がここまで肩入れしているのだろうと。

 

 

その思考に辿り着くと同時にヒョウ五郎の斬撃を受け、おでんの体力は尽きた。

そんな中でもなんとか1人の忍を逃がしてやることに成功し、おでんの意識は完全に途絶えたのだった。

 

 

 

次におでんが目を覚ましたのは牢屋の中だ。

すぐに周りを確認すれば大切な家臣達も捕まっている。

 

駄目だったか…と落ちる心をおでんは震い立たせた。

 

“まだ、おれにはやることがあるだろ!!”

そう強く思い返し刀をトキへ託して、処刑へ挑んだ。

 

 

そして、おでんは想いを自慢の侍達に預け

多くの叱責や憎悪と共に釜の中へと沈んでいったのだ。

 

 

 

かの男は最後まで真っ直ぐ未来を見据えていた。

 

必ず来るであろう“ジョイボーイ”の為。

ワノ国の夜明けの為に。

 

 

これが語られぬ男の想いの一部だ。

 

 

かの男を更に知るには、その男が(つづ)った“航海日誌”を読むことが一番の近道なのだが

それは燃えてしまい、殆どが解読不能な有り様である。

 

 

何より黒焦げた航海日誌を手にした少年は、かの男の想いなど(かえり)みないだろう。

重要なのは少年の“夢”を叶えるための情報だけだったのだから。

 

 

 




ー後書き&補足ー

白ひげ:レオヴァに対しては深い恨みというより複雑な心境
ある情報ではレオヴァは処刑には反対したなどの話もあり、本当に扱いがわからない

イゾウ:エースの話で複雑な心境
返り討ちにあった以上、死は免れないと理性では理解できても心がそれを強く拒んでいる状態

マルコ:おでんの死は悲しい
が、理性的にレオヴァという男を知るべきだと話を聞いた
一度、見極めが必要じゃないか?と思っている


『狂死郎達と河松達の違いや未来組』

狂死郎達:10年以上の時を平和なワノ国でゆっくりと過ごしていた為、だいぶ心に余裕ができ百獣海賊団に対しての恨みがほぼない
更に狂死郎についてはオロチを自らの手で討てたことで、おでんを失った心の傷も少し癒えている。

河松達:悲しみを抱いたまま10年以上を過ごしており、生活も豊かではないので心に余裕はあまりない
百獣海賊団や民への恨みはおそらく強いく、未来からくるモモの助達が心の支え。

未来組:それぞれが過去の心のまま来るので、どうなるかは未知数。

これから番外編の方を更新しつつ、此方は少しずつ更新になります!
理由:原作においついてしまいそうで、書けないシーンが増えた。
(原作から重要な条件など後だしで来たら困る為)
あとは番外編はほぼプロットなしで書いてるので、更新しやすいことと
本編の補完や、更新までの暇潰しになれば嬉しいです!
↓番外編
https://syosetu.org/novel/279322/


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

科学は神への冒涜か?

 

 

“SMILE”とは、シーザーとレオヴァの共同研究によって開発された人造悪魔の実であることは百獣海賊団の船員ならば誰もが知る事実である。

 

しかし、それとは別にレオヴァが開発したもう一つの人造悪魔の実について知っている者は少ない。

 

 

その人造悪魔の実はレオヴァのとある仮定から産み出された代物(しろもの)だ。

 

“SMILE”はランダムにあらゆる生物の能力を出現させるのだが、レオヴァの作った人造悪魔の実は違う。

 

悪魔の実の能力者の体の一部分がないと作ることが出来ないと言う非効率さの代わりに、その能力者の力と似通った能力(・・・・・・・・・・・・・・・)が使えるようになるという人造悪魔の実である。

 

 

これを作るにあたりレオヴァの考えはこうだった。

 

まず、ベガパンクが発見した血統因子と知識にあるDNAというものを重ね合わせたのだ。

そしてレオヴァは互いに少し違う点や合致点など、“生命の設計図”についての理解を深めて行った。

 

その後、レオヴァは研究や実験を進めるうちに、例の仮説を立てたのだ。

 

 

悪魔の実を取り込んだ人間、即ち能力者はその設計図に大きな変化が起こっている筈だと。

そして、その設計図を分析し“別の生き物”にも同じ変化を起こすことが出来たとしたら…?

完璧に同じとまではいかなくとも、似たような変化さえ起こせれば同じ系統の能力が使えるようになるのではないか?

 

悪魔の実とは生命の設計図に大きな変化を起こすモノだからこそ、2つ目を食べたら“通常の作りの人間”はその変化に適応出来ずに死に至るのでは?

 

能力の覚醒とは能力を使う訓練を積むことで生命の設計図の変化が自身に馴染んだ結果、更なる進化を遂げたことを意味するのではないか…?

 

悪魔の実の能力には“可能性に違いがある”としたら?

例えば同じ悪魔の実を食べたとしても、食べた人物によって少し違う能力になる可能性があると考えたのだ。

 

それは生命の設計図に違いがあることや、能力の使い方によって悪魔の実が生命の設計図のどこに影響を与えるのかが変化することで

人によって完全に同じ能力になる訳ではないのではないか?

 

そうレオヴァは仮説を立て、実験をどんどん進めて行った。

 

 

しかし結論から言うのであればレオヴァは結局、悪魔の実が何なのかを理解することは出来なかった。

 

何故食べると不思議な力が手に入るのか、何故能力者が死ぬとまた()が現れるのか。

そして、何故同時に同じ悪魔の実は存在しないと思われているのか。

何一つとして、確信には辿り着けなかった。

 

しかし、人造悪魔の実の開発には半分成功していた。

……そう、半分である。

 

レオヴァ自身の細胞や何人かの能力者の体の一部を活用することで研究はスムーズに進み、その人物に近いような能力を出現させる人造悪魔の実の開発に成功したのだ。

 

 

だが、半分しか完成していない。

レオヴァは構想通りのモノに近付ける為に作り出した人造悪魔の実を何種類か利用し、ベガパンクの持っていた知識を少しずつ取り入れているのが現状だ。

 

このままベガパンクの知識や考え方をモノにし、応用出来るようになれば更に百獣海賊団を強化できるとレオヴァは確信していた。

…このベガパンクから知識を得るという手段の為に、あの時わざわざレオヴァ自ら死体に処置を施したのだから。

 

 

 

そして、レオヴァには研究を進める上で重要な“成功例”の被験体もいる。

 

その被験体はレオヴァとある海賊の血統因子を組み合わせて作った人造悪魔の実を食べて、見事能力を発現させたのだ。

 

ただ、能力は発現したのだが2人の人間の血統因子を利用した為かどっちつかずの能力を被験体は手に入れた。

 

その能力は第一に、巨大な孔雀のような見た目の鳥になること。

第二に、羽で周りの人間を回復させられること。

第三に、雨を降らせることが出来る。

という、3つの能力である。

 

この成功はレオヴァに大きな可能性を感じさせた。

なにせ能力を混ぜることが出来るのならば、それこそ無限の可能性がある。

 

しかし、その可能性は悲しくも実現は難しかった。

 

レオヴァは自分の生命の設計図と他の能力者を合わせる実験を繰り返したのだが、あれ以降1度として成功することはなかった。

 

何故、上手くいかないのか。

その疑問に苦しむレオヴァはある仮説に辿り着いた。

 

それはレオヴァとあの海賊の能力の相性が良かったからこそ上手く混ぜ合わせられた、というものだ。

 

レオヴァとその海賊の能力は動物(ゾオン)系であり、尚且つ幻獣種。

しかも、同じ鳥のような形の生き物であった。

 

その仮説に行き着いたレオヴァは自身を納得させ、能力を混ぜ合わせる実験を一時的に中止せざるを得なかった。

 

レオヴァには他にもやらなければならない研究は山のようにあり、更にこの実験を続けてしまうといずれ厄介な事を招きかねないという懸念もあった為だ。

 

最終的にレオヴァは今いる被験体の様子を数十年単位でしっかりと記録することにした。

急いては事を仕損じる。

慎重に進めなければならぬ内容であると、レオヴァは正しく認識していた。

 

 

レオヴァは被験体の心に自分が強く残るように接し

更にはドレークに“良い兄貴分”であることを命じることで、被験体が百獣海賊団での想い出を美化するように仕向けた。

 

現に被験体…コビーは巣立ってもなおレオヴァとドレークに連絡を取り、百獣海賊団との繋がりを大切に抱えている。

 

レオヴァはコビーを友と呼び

そのコビーが食べた人造悪魔の実の能力に

動物(ゾオン)系幻獣種“シームルグ”と名付けた。

 

 

 

 

果たしてレオヴァの進めるこの研究は続けて良いものなのだろうか。

あの天才ベガパンクは何故、研究を()めたのか。

 

この科学の進む道は“神”への冒涜に繋がるのだろうか。

 

 

だが、レオヴァは後悔しないだろう。

何故なら彼は“神”を想わない。

彼が全ての想いを捧げるのは、たったひとりの“龍”だけなのだから。

 

例え世界の均衡が崩れようとも、百獣海賊団さえ笑えれば良いのだ。

 

自分を息子と呼び、独特な笑い声をあげるあの人の幸せがレオヴァの幸せなのだから。

 

 

 

どの時代でも、どの世界でも

人間という生き物の根本的には強い自己愛があり

所詮、人生とはその人間の主観で送られるのだろう。

 

……きっと、それはレオヴァだけでなく

あの無邪気な麦わら帽子の少年も例にもれず。

 

百獣の息子も麦わら帽子の少年も自らの信念を高々と掲げ、己の為に持てる力を振るうのだ。

それが誰を幸せにし、誰を不幸にするのかは深く考えずに。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

久々にワノ国に戻って来ていたドレークは休暇の日課になっている記録付けをしていた。

レオヴァから貰った手帳に任務が上手く行った事や、少し困った出来事などを包み隠さず書いていく。

 

綺麗な所作でさらさらとペンを走らせていたドレークだったが、廊下に響き渡る聞き慣れた声にすぐに大切な手帳を引出しの奥へ仕舞い込んだ。

 

ドレークがペンを置くと同時に部屋の扉が吹き飛ばされる。

 

すると間髪入れずに壊れた部屋の入り口から目を吊り上げ、怒り心頭だという様な顔のうるティが無遠慮に踏み入って来た。

 

 

「ドレークぅ!!

あの馬鹿、海軍に入ってたでありんす!!

レオヴァ様に世話になっておいて…許せない!!

お前がちゃんと指導しないからぁ!

ねっ!ぺーたんもそう思うでありんしょう!!?」

 

あ~も~!姉貴、ドア蹴破るとか何してんだよ!!

ど、ドレーク悪い!!部屋のドアは弁償すっから…

またレオヴァさんに迷惑かけちまう……」

 

今にも部屋で暴れそうなうるティを押さえながらページワンは申し訳なさげな顔でドレークを見た。

 

ドレークは蹴破られた扉、そして木屑が散らばった床とソファーを見て大きく溜め息をつくと口を開いた。

 

 

「ページワン謝らなくていい、気にすることはない。

それと主語がないぞ、うるティ。

レオヴァさんにも再三言われているだろ。」

 

「うるせぇー!!

レオヴァ様に言われるのはいいけど、お前はムカつく!

私が言ってんのはお前がレオヴァ様から任されてた弱虫が海軍に入ってたってこと!!

どういう教育してたでありんすかァ!?」

 

「それはおれに言われても困る。

レオヴァさんからおれが任されていたのはワノ国にいる間の世話だ。

そのあとに海兵になろうが何をしようがコビーの人生だ、おれには関係ない。」

 

「っ~~!!

なんでそんな冷静なんでありんすか!

あの弱虫、レオヴァ様から手作り悪魔の実貰ったり

さんざん世話になったのに海軍に入って…挙げ句に私に攻撃してきたんだぞ!

ムカつくムカつくムカつくぅ~!!!

 

「姉貴、落ち着けって!

アイツはムカつくけど、ドレークに文句言ってもしょうがねぇだろ。」

 

「……まぁ、うるティは攻撃されても仕方がないくらいに嫌がらせをしていたしな…

コビーの気持ちも分からなくはないが。」

 

「はァ~?

私は嫌がらせなんてしてないでありんすけど~?

あの弱虫が弱くてナヨナヨだったから、鍛えるの手伝ってあげてただけ!

とにかく、お前責任とってあの弱虫の首持ってくるでありんす!

レオヴァ様に恩を仇で返すなんて、絶対…絶対許せないッ!!

 

「…コビーはレオヴァさんの作った悪魔の実を食べてるんだ。

レオヴァさんの許可なく殺すことは賛成しかねる。」

 

「そっ……それは、そうでありんすけど…

あの弱虫のやってることは裏切りだし…ムカつくし…」

 

「それには同意しよう。

おれからもレオヴァさんに指示を仰いではみるが、うるティも腹が立つならレオヴァさんに聞いてみたらどうだ?」

 

「む~…ドレーク、この役立たずぅ!

行こ!ぺーたん!!

レオヴァ様にあってイライラふっ飛ばすでありんす♡」

 

「ちょっ…おい、姉貴!!」

 

ドレークをキッと睨み付けると走り出したうるティにページワンは頭を抱えた。

とにかく1人ではまた暴走しかねない姉を追おうとページワンは部屋の出入口の方へ進み、出る直前にドレークの方を振り向いた。

 

 

「ドレーク、マジでごめん!

せっかくの休日に…

今度、1階のレストランでチキンライス奢るから!

それじゃあ、おれは姉貴止めに行く……またな。」

 

「あぁ、お前も大変だな。」

 

軽く手を振って出ていったページワンを見送りドレークはまた椅子に腰かけた。

 

 

ここ最近のコビーの噂はドレークの耳にも入っていた。

“海軍の期待の星”と呼ばれ、入隊後少しの期間で大佐まで上り詰めた実力者だと噂になっていたのだ。

 

その噂は百獣海賊団にも入って来ており、ドレークの部下達は親しくなった弟分のような存在のコビーが敵になってしまったと落ち込んでいた。

……が、ドレークはこれが革命軍に入ったコビーの潜入捜査だと知っている。

しかし、それは口外すべき事ではないと察し、先ほどの様に知らぬ振りをする他なかった。

 

何せ、コビーは海軍で手に入れた情報を革命軍だけでなくレオヴァにも回しているのだ。

潜入がバレて、コビーからの情報が入って来なくなるのは小さいとはいえ損害である。

 

今後も、またうるティが何かと騒ぐだろうとドレークは遠い目をしながら壊れた扉に目をやった。

 

 

「……今日中に修繕の手配をしないとな…

ゆっくり記録もつけていられない。」

 

ドレークは懐のスマシに手を伸ばすのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ニュースクーの届ける朝刊に手を伸ばしたレオヴァは小さく呟いた。

 

 

「…もう、そこまで航海を進めているのか。」

 

レオヴァがそう呟いたのは今日の新聞の一面を飾るスクープが理由だった。

新聞には七武海クロコダイルの悪事の露見と、海軍大佐によって捕らえられたという内容が記されていたのだ。

 

 

「という事はベンサム…ボン・クレーもインペルダウン行きか。

今度また、声をかけるのも悪くないな。」

 

レオヴァはマネマネの実と変わった武術を武器にしていた新人類(ニューカマー)を思い出す。

 

実は前に一度百獣へ誘ったことがあったが、断られていたのだ。

 

 

 

それはレオヴァがボン・クレーと知り合って数年が経った頃だ。

 

 

『ベンサム、話がある。』

 

そう言って見つめてくるレオヴァにボン・クレーは口をへの字に曲げた。

 

『ちょっとレオちゃん!

ベンサム呼びじゃなくて、ボンクレちゃんとかボンちゃんって呼んでっていつも言ってるじゃな~い?』

 

『あぁ、すまない。

ボン・クレー、真面目な話なんだが……』

 

ンンッ!華麗なスルー!!あちしビックリよう!?

でもぉ~? そんなレオちゃんも最高~!

…で、お話って?』

 

すっと真面目な眼になったボン・クレーにレオヴァは切り出した。

 

『ウチに……百獣海賊団に来る気はないか?』

 

ボン・クレーはレオヴァの言葉を聞くと驚いた顔をした後、身振り手振りで思いを表現した。

 

レオちゃんっ…!

あの百獣海賊団に誘ってもらえるなんて、あちし感激よう!!

でも…でも今のあちしは雇われの身……

恩人であるレオちゃんの誘いに乗りたいのは山々だけど

任されてる仕事を途中で放棄するなんて半端な真似はあちし絶対イヤ!

だから…ごめんねい!!

でも何かあったら言って!

あちし、必ずレオちゃんの力になるから!』

 

力強く答えたボン・クレーにレオヴァは少し残念そうな顔をした後、微笑んだ。

 

 

『残念だ……だが、とてもボン・クレーらしい言葉だ。

その仕事へのプライドと責任感は、数多あるボン・クレーの美点の1つだな……おれも頭が下がる。

そうだな、もし何かあったら助けてくれ。』

 

『がっはっはっは!

もう、レオちゃん相変わらず褒めすぎ!もっと言ってくれていいのよう?

まぁでもレオちゃんが困るような事なんて、あちしには想像出来ないけど……いつでも呼ばれたらすっとんで行くからねい!』

 

嬉しそうに笑うボン・クレーにレオヴァもまた笑い返した。

…と言うことがあり、勧誘は失敗に終わっていたのだ。

 

 

 

レオヴァはボン・クレーの能力を気に入っている。

なので例の作戦を実行する際には、また誘ってみようかと思案していたのだ。

 

同時に、麦わらのルフィの成長にも目を見張っていた。

もし、レオヴァの知識通りならばクロコダイルは麦わらのルフィが倒したのだろう。

 

約1ヶ月ほど前に会った時の実力ではまったく歯が立たない筈なのだが、事実クロコダイルは倒されている。

 

間違いなく麦わらのルフィは急成長を遂げている。

 

あのドフラミンゴでさえ一目置いていた。

それほどの実力者、それがクロコダイルだった。

 

知っている話の流れとは言え、それを討ち取ったとなればレオヴァの心境も穏やかではない。

 

短期間に死闘を繰り返していたのであろう麦わらのルフィを思い、レオヴァは警戒心を更に強めた。

 

 

そして、もう一人の警戒人物であるロロノア・ゾロの事も思い出していた。

 

アラバスタで恐らくMr.1…ダズ・ボーネスを倒したであろうロロノア・ゾロも捨て置けない人物だ。

 

レオヴァはロロノアにも麦わらと同じくらいの警戒心を持っていた。

それはロロノアの麦わらに劣らぬ成長速度と潜在能力である。 

鷹の目に見込まれ、無自覚だがワノ国との接点を持つ男をレオヴァが見逃すはずもない。

麦わらと同じく、甘く見ては足をすくわれるだろう。

 

能力者ではないロロノアにはとれる手段が限られるな…とレオヴァは目を細めた。

 

 

いつもの様に延々と思考を続けるレオヴァだったが、騒がしくなってきた廊下に気付き立ち上がった。

このままソファーに腰掛けていたら自室の扉が砕け散る未来が見えたからだ。

 

レオヴァは部屋の扉の前に立つと、タイミングを見計らい扉を開いた。

 

 

「レオヴァ様ぁ~!聞いて欲しいでありんすっ!!」

 

叫び声と共に目にも留まらぬスピードで突っ込んで来たうるティをレオヴァは綺麗に受け止め、引きずられていたページワンも一緒に優しく受け止める。

 

先ほど見た未来の様に砕け散らなかった扉をそっとレオヴァは閉めると、ソファーまで2人を運んだ。

 

レオヴァが優しくふわっとソファーに下ろすと、ページワンは大人しくその場に座った。

しかし、うるティはレオヴァの腕にしがみついている。

 

 

「うるティ、おれは乗り物じゃないぞ。」

 

「………」

 

「姉貴、レオヴァ様困ってるだろ…」

 

「………………」

 

無言でレオヴァの腕を強く掴むうるティにレオヴァは困った様に笑うと、そのままソファーに座った。

 

じっとこちらを見るうるティの頭を優しく撫でながらレオヴァは口を開く。

 

 

「何か言いたいことがあったんじゃないのか?

うるティ、おれに聞かせてくれ。

その顔は嫌なことがあったって顔だ……そうだろ?」

 

穏やかなレオヴァの声にうるティはもう我慢出来ないとばかりに口を開いた。

 

 

そうなんでありんす、レオヴァ様!

あいつ……あの弱虫が裏切ったんでありんすぅ~!!!

ムカつくムカつく!!

レオヴァ様にあんなに良くしてもらっといてっ…!」

 

先ほどの静けさが嘘の様に叫ぶ姿にページワンはわたわたしているが、レオヴァは優しい顔でうるティの話を聞く。

 

 

「ドレークもドレークでありんす!!

私よりあの弱虫の肩持つし…

それにあの弱虫のせいでぺーたんと私の船にキズがついて本当に最悪!!!

せっかくレオヴァ様が設計してくれた大事な船なのに!!許せないでありんす!!!

 

怒りの言葉を最後まで聞くとレオヴァは本当に優しくうるティの頭を撫で、眉を下げて微笑んだ。

 

 

「優しいうるティが怒る気持ちは、おれにもよく分かる。

それにあの船を大切にしてくれていることも、しっかり伝わった。

……けれどコビーはな…」

 

ここからレオヴァのうるティへの説得は数時間に渡って(おこな)われた。

 

 

 

その後、説得を受けたうるティが暫くヘソを曲げ、レオヴァがツイストポテトを山のように作るという事態に陥ってしまい

 

「……暫く揚げ物はいいな…」

と呟いたレオヴァの声はうるティには届かなかった。

 

 

 

 





ー補足ー

レオヴァ:ベガパンクを再活用
“SMILE”を作る工程で人造悪魔の実の着想を得る
クイーンもびっくりの研究者魂である

ドレーク:日和に引き続きコビーとの交友関係でも苦労している
せめて休日は手帳を書き進めながらゆっくりしたいと儚い思いを抱えている第一の苦労人

うるティ:コビーぶっ殺すウーマン 
遠征帰りもずっとイライラして大変だったがレオヴァの手作りツイストポテトでご機嫌に
実は結構すぐ機嫌は直っていたのだが構って欲しくてムクれたフリをしていた

ぺーたん:コビーに攻撃されるわ、姉に八つ当たりされるわで散々な日だった第二の苦労人
あの後ドレークにチキンライスを奢りつつ、少し愚痴った
だが、なんだかんだ姉は憎めない良い弟である

シーザー:レオヴァの作った人造悪魔の実はSMILEの改造版だと思っている(内容を知らされていない為)
相変わらず研究に兵器開発、遊郭で豪遊と悠々自適な毎日を過ごしている

コビー:知らぬうちに被験者になっていたが、こういう事は知らぬが仏である
レオヴァ&ドレーク大好き少年
最近は青キジとガープに指導を受けている

ボンちゃん:鰐社長に雇われていた為、レオヴァの誘いに乗れなかった
能力も性格も良い新人類
レオヴァとの出会いは新世界編で明らかになるかも…?

人造悪魔の実:レオヴァ曰く構想の半分の出来らしい
生命の設計図があるモノに対して悪魔の実の能力を伝達する法則はなんとなく理解できたが、無機物に対する能力の伝達の方法が難しいというのがレオヴァ談
この人造悪魔の実は食べた生き物に“元になった能力者”に似た、または同じ系統の力を発現させる
デメリットは造る為の素材確保の難易度と、適合しない場合があることなど多岐に渡るため
レオヴァは製造を一時的に中止した。
造った実の幾つかは利用している。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“疫災”による遊戯

ー前書きー

今回登場するキャラの前説明
イネット(オリキャラ)
クイーンの助手兼部下であり、元々は政府で研究していたベガパンクのチームの助手の1人。
百獣に生捕りにされたが、クイーンに目をかけてもらい生き残った。



比較的大きな島にある、裕福な街ラントン・ラヴールシティ。

 

人口20万人を軽く超える巨大な街はもはや1つの国と言ってもなんら差し支えないだろう。

 

 

そんな大きな街ラントン・ラヴールシティが豊かになった切っ掛けは4年前から始めた百獣海賊との貿易だ。

 

実はこのラントン・ラヴールシティには様々な毒草とあるウイルスを持つ厄介な猿が多く生息していた。

その猿達は様々な疫病を人間に運び、毒草はあらゆる人の命を奪っていく。

 

だが、そんな不利益どころの話ではないその2つを百獣海賊団は買い取ろうと申し出たのだ。

 

勿論、ラントン・ラヴールシティの代表を務めるブライアンは二つ返事で答えを出した。

 

 

邪魔でしかないモノを引き渡すだけで金も物資も手に入るのだ、悩む時間も惜しかった。

その頃のラントン・ラヴールシティは貧しく日々毒草の花粉や猿の持つウイルスによって倒れる人々が後を絶たなかった為、薬品不足が深刻な死活問題にまで発展していたのだ。

 

このままでは自分がもし(やまい)に感染したら助からないと考えたブライアンは前例がないほどの素早さで取り引きへの同意書を準備し、街の有力者達の賛同を得てみせた。

 

結果、その日のうちに百獣海賊団との貿易が開始する事となる。

 

 

取引成立後、すぐに百獣海賊団の人間達は街のあらゆる毒草を摘み取り余分なモノは除草剤によって駆逐することで毒草の被害を無くし、一番厄介であった猿…T(ティー)・モンキーを全て捕獲して、新しく建てた建物で飼育するという形で疫病の蔓延を食い止めて見せた。

 

そして、貿易の交渉を務める百獣海賊団総督補佐官であるレオヴァは大量の物資と膨大な金塊をラントン・ラヴールシティに手渡した。

 

 

『契約通り、この島特有の植物と数十匹の動物はウチが貰い受けた。

これで取り引きは終了……なんだが、1つ提案がある。

残りのあの珍しい猿達は飼育施設に入れることは出来たが、施設自体の管理や生態の監視及び飼育も大変だろう?

もし、あの大きな猿が不手際で脱走した場合一般市民では太刀打ちも難しい…

そこで、だ。

この街に百獣海賊団の研究施設(・・・・・・・・・・)を建てさせて欲しい。

勿論、土地を使わせてもらうんだ。報酬は払わせてもらうし、そちらが約束を(たが)えない限りあの猿達の管理も責任を持って請け負うと約束しよう。』

 

優雅に腰掛け、どうだろうか?と笑顔を向けてくるレオヴァにブライアンはまたも深く考えずに“YES”という答えを返した。

 

それにレオヴァはニッコリと笑うとブライアンの握手に応じてみせる。

 

 

『……あぁ、ブライアン。

お前のような人物(・・・・・・・・)と取り引きできること、嬉しく思うぞ。』

 

そう言って嗤うレオヴァは男であるブライアンでも見惚れるほどに美しかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あの取り引きから数年。

ブライアンは今の状況に絶望していた。

 

街は荒れ果て、至るところにバケモノ共(・・・・・)が闊歩している。

 

そして、助けに来てくれたと思っていた百獣海賊団はブライアンを助けなかった。

……否、ラントン・ラヴールシティの人々全員を助けなかった。

 

それどころか島全体が黄金の障壁に阻まれており、海へ逃げ出すことも叶わない。

 

 

「こ、こんな筈じゃなかったんだぁ!!」

 

そうこんな筈ではなかったのだ、ブライアンは叫びながら頭を掻きむしる。

爪には頭皮と血がこびりつき、指には引き千切れた毛が纏わりついている。

 

 

だが、全てはブライアンとラントン・ラヴールシティの有力者達の欲深さが招いた結果だった。

 

 

あの取り引き以降ラントン・ラヴールシティは百獣海賊団のナワバリにはならず、貿易相手として関係を続けていた。

 

最初こそ、有力者達は病が消えてゆき豊かになる街を見て百獣海賊団に一定の感謝を示していた。

 

しかし、本当にそれは最初だけであった。

街が豊かになるにつれ、有力者達はさらに上を夢見るようになっていった。

毒草と邪魔な生き物を捨てるだけで大量の財が手に入ったことで、苦労をして金を得ることが馬鹿馬鹿しく思えてしまったのだ。

 

百獣海賊団は施設での実験を許すだけで、金と物資を提供してくる。

……良いカモではないか。

 

やはり所詮、海賊は海賊。

ろくに学もない人間なのだ。

我々の頭があれば奴らを有効活用出来るに違いない。

そして、更なる利益を出すのだ。

 

もっと多くの富を、最高の娯楽を。

贅沢を追い求める有力者達の欲求は壊れた蛇口から流れ続ける水のように際限なく溢れ続けた。

 

 

最初こそ納められた金塊を少しちょろまかし、残りを街の為に使う。

その程度の小さな事だったが、彼らは止まらなかった。

 

食料3、医療品5、その他2の割合で物資を受け取っていたのだが、その中でも高額であろう医療品に目をつけたのだ。

 

何年も経ち病人が大幅に減ったことで、百獣海賊との話し合いを経て全てを使わずに薬品などは保管し、万が一に備えようという話になっていたのだが

ブライアンと有力者達は街の人々と、百獣海賊団を欺くことにしたのだ。

 

 

なんと、保管する筈の薬品を高値で戦争中の島々にこっそり売り捌いていったのだ。

 

戦争で苦しむ島々の足下を見て、どんどん薬の値段を上げていく。

百獣製(ひゃくじゅうせい)の薬は素晴らしいと有名な事もあり、かなりの高額でふっかけても面白いほど売れていくではないか。

 

すっかりブライアンと有力者達はこの転売に味を占めてしまった。

 

土地を提供しているだけで手に入る物資と金。

加えて、その物資の中の薬品を売りさばくことで更に莫大な金が舞い込んでくる。

 

まさに笑いが止まらないとはこのことだった。

 

それだけでなく、悪い事をしている自覚もどんどん薄れていく。

 

百獣製の薬を高額で売り捌いているとはいえ、これらは自分たちが貰ったものだ。

それをどうしようとも、こちらの勝手であり文句は言われないだろうと考え

島で決定した今後のもしもの為に薬を貯めておこうと言う取り決めも、これだけ金があれば薬品の貯蓄などなくてもどうとでもなると高を括っていた。

 

 

だが、ブライアンと有力者達は失念していたのだ。

レオヴァと交わした貿易においての決め事を。

びっしりと文字が敷き詰められていた契約書の内容(・・・・・・)を。

 

 

“百獣製のモノを商品として扱う場合は許可が必要であり、百獣の指定する金額以上での売買を禁ずる。

これは品質と価格をある程度一定にすることで百獣製への信頼を崩さぬ為であり、百獣製の製品を買う人々への気遣いでもある。”

 

“この取り引きにおいて金塊は土地への使用料などを含む支払い金であるが、物資は百獣からの“善意”である為余った場合はラントン・ラヴールシティの“人々”には返還の義務があるものとする。

しかし、例外として将来の為に保管したいと言う切な願いがある場合は百獣は深い心でそれを認め、書類の提出をラントン・ラヴールシティの人々に義務付けることで無償提供を(おこな)うものとする。”

 

“万が一、この契約書にある規約を破った場合

百獣海賊団への宣戦布告と見なし、相応の対価をラントン・ラヴールシティの人々全員(・・・・)に支払わせるものとする。”

 

等々、契約書に()されている重要な事柄をブライアン達はしっかりと把握していなかった。

 

レオヴァからの

『確かに契約書の文章量は多いが、必ず目を通しておいてくれ。

良い取り引きの為、お互いに契約を(たが)えないようにしよう。』

という忠告を守らなかったのが、最初の過ちだろう。

 

 

そして、自分の欲望に忠実に行動し続けた結果が今の現状である。

 

街には目を覆いたくなるようなバケモノ達のオンパレードだ。

 

ブライアンはほんの数週間前に起こった疫病の蔓延が、こんな結果になるとは思ってもいなかった。

まさか人間があんなバケモノに変わる(・・・・・・・・)なんて想像もしていなかったのだ。

 

 

だが、まさかあの百獣海賊団がこの疫病を蔓延させたなんてブライアンは微塵も思いもしなかった。

 

故に、疑いもせず必死に百獣海賊団に助けを求めたのだから。

 

 

騒がしい音と共にブライアンの豪邸の完全に閉ざしていた筈の扉がほんの少し開く。

 

その隙間から何匹ものおぞましい呻き声が響き、虫が這っている異臭を放つ腕が必死に部屋に入ろうと踠いている。

 

恐怖から震えが止まらないブライアンはこの絶望の中、百獣海賊団を裏切ったことを心底後悔した。

 

 

凄い物音と共に何匹ものバケモノが雪崩れ込んでくる光景がブライアンの最期の記憶だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ラントン・ラヴールシティの代表者であったブライアンの死をモニターで見ていたクイーンが声をあげる。

 

 

「おいおい…!?

なんの抵抗もなしに噛まれて感染しちまうのかよ!?

あ~…もっと無様に逃げ惑うショーを楽しみにしてたのによォ

結局、さんざん部屋に(こも)って最期がアレ!

せっかくレオヴァに許可もらって“あのウイルス”使ったってのに拍子抜けだよなァ?」

 

つまんねぇ~!と叫ぶクイーンに部屋の扉の側に立っていたスレイマンは顔をしかめ、反対にイネットというクイーンの助手は笑みを浮かべる。

 

 

「クイーン様の仰る通り!

あの死に様では興を削がれますねぇ。」

 

「……おれには何が面白いのか理解できん。

レオヴァ様が普段コレの使用を禁じている事には納得だが。」

 

「っとに、イネットと違ってお前やドレークは遊び心がねぇ!!

百獣海賊団をナメた野郎には死ぬよりも最ッ高に辛い思いをさせなきゃあなァ?

……それにブイアンだかブロインだかしらねぇが、このクソ野郎。ウチのNo.2っつっても過言じゃねぇレオヴァを軽視しやがってたんだぞ…」

 

スレイマンとイネットの方を振り返ったクイーンの顔からは先ほどの笑顔は消え、眉間に血管が浮き上がっていた。

 

 

「ただ殺すなんて生ぬりぃ罰じゃ、腹の虫がおさまらねぇだろうがよォ…!」

 

数秒前とは打って変わって低い声で告げるクイーンの迫力にイネットは息を飲み言葉を失い、隣のスレイマンは少し納得した様に頷く。

 

 

「確かに、レオヴァ様を軽視したのならば“死”という罰では軽すぎる…という事は理解できる。」

 

「…だろ?

マァ~ジでムカつくぜ…

このクソ野郎も有力者だとかほざいてたクソ野郎共もなァ!!」

 

殺気を放っていたクイーンだったが、切り替えるように新しい葉巻を手にする。

 

じっくりと葉巻の先を炙り、煙を吸い込むとリング状の煙を口から吐き出す。

 

 

「ふぅ~~……まぁ、だが?

これでラントン・ラヴールシティの富豪気取りのクソ野郎共はめでたく全員がおれ様のウイルスに感染した。

テメェの島にあったウイルスを売っぱらったってのに、それが強化されて戻ってきたってのが皮肉で笑えるぜェ。

んで、これから1ヶ月はあのクソ野郎共はウイルスが体内で暴れてる状態でも意識は保ったままなワケだから本当の地獄はこれからだぜ!

体内から溶けていく激痛と恐怖…!!

自分の見た目が醜いバケモノになる嫌悪感…!!

そして親しかった者を食べたいという衝動!!!」

 

楽しげなクイーンの声が部屋に高らかに響く。

 

 

「バケモノになって初めに襲うのは誰だろうなァ!?

親友か? 婚約者か? それとも自分の子どもか!?

意識があっても衝動は止められねェ!!

…せいぜい、百獣に逆らったことを後悔しながらバケモノになって処分されりゃあいい。」

 

今にも身振り手振りで踊り出しそうだったクイーンだったが、ハッとした様にイネットを振り返る。

 

 

「ヤベェ!

ウイルスでテンションをブチ上げてる場合じゃなかったぜ!!

レオヴァに報告しねぇと次のゲーム(・・・・・)に進めねぇんだった!

イネット、電伝虫(でんでんむし)寄越せ!」

 

次のゲームとはなんなのか、という疑問を抱えながらもイネットは電伝虫をクイーンに手渡した。

オリジナルカスタムを施してある電伝虫を受け取るとクイーンはさっそくソレを、机の上の映像電伝虫(でんでんむし)に接続した。

 

プルル…プルプルプル…と少し長めの呼び出しの後にガチャリと受話器を取った音が部屋に響くと同時に、映像電伝虫が映し出すスクリーンにレオヴァが現れる。

 

 

「こちら、レオヴァ。

映像連絡をするなら事前に言ってくれクイーン……」

 

困った顔のレオヴァにクイーンは気にした様子もなく笑い、オリジナルカスタムの自慢を始める。

 

 

「ムハハハハ~!

スゲェ高画質だろ、レオヴァ~!

おれ様の特別カスタム電伝虫のおかげなんだぜ?」

 

「……言われて見れば、本当にクイーンの姿の映りが良いな。」

 

まじまじと見ているのかスクリーンにいるレオヴァが少し手前に近付いてくる。

その様子に満足そうにクイーンは口角をあげると、本題に移る。

 

 

「契約違反のクソ野郎共への制裁はほぼ終わったぜ。

あとは完全に感染が進み、バケモノになった所を駆除するだけだ。」

 

「思ったより早かったな…

“あのウイルス”、実験時よりも感染速度が早かったのか?」

 

興味津々というような顔をするレオヴァにクイーンは嬉々として口を開いた。

 

 

「それがよォ、レオヴァ!

“あのウイルス”やっぱ最高クラスの出来だったぜ!?

感染速度も感染後の症状も丸っきり想定通りに出来上がってる…!

早かったのは予定より多めのウイルスをバラ撒いたからだな。

いや~!なかなか禁止ランク(・・・・・)のウイルスをぶっ放せる機会ねぇからスゲェ楽しいぜ。

帰ったら録画したヤツ見せるから、おしるこ飲みながら鑑賞会だなァ~!」

 

「なるほど…!!

この目で録画を見て、ウイルスの実践での出来を確認出来るのが楽しみだなァ…!」

 

クイーンとレオヴァは大いに盛り上がった。

このウイルスの研究はクイーンが主導し、レオヴァがサポートを務めていたのだ。

クイーンの成功の喜びは、レオヴァにとっても同じである。

 

2人は暫くスレイマンやイネットの思考の及ばぬレベルの会話を繰り広げていた。

 

 

「…って、話しすぎたぜ!

レオヴァはこのあとカイドウさんと用事あるんだよな。」

 

「あぁ、父さんに例の研究の成果報告をな。」

 

「んじゃあ、報告も終わったし

そろそろお開きにするかァ~。」

 

「そうだな……つもる話もあるが、それはクイーンが帰って来たらじっくりと聞くとしよう!」

 

「あ~~!

実験結果を見たレオヴァの見解が楽しみすぎるぜ!!

終り次第、ソッコーで戻るから予定空けとけよ~?」

 

「勿論だ、それじゃあ…」

 

 

映像電伝虫での通話を切ろうとしていたクイーンが突然ワザとらしく身振り手振りを付け加えながら声を上げる。

 

 

お~~とっと!

一番大事な要件を聞き忘れるとこだったぜレオヴァ~!

本当はウイルス実験が成功したってめでたい時にこんなこと言いたくはなかったんだがァ……おれの部下にも裏切り者がいてよォ。」

 

クイーンの裏切り者という言葉にスレイマンとレオヴァは眉をひそめ、イネットは信じられないという様な顔で驚いている。

 

 

「裏切り者…か。

それは前にクイーンが怪しいと言っていた奴か?」

 

「そう、ソイツだよ!

本当に…せっかく拾ってやったってのに裏切るなんてムカつく野郎がいたもんだぜ!!

なぁ!ブラザー イネット、お前もそう思うだろ!?

 

突然話を振られ、一瞬固まったがイネットは慌てて口を開く。

 

 

「クイーン様を、百獣海賊団を裏切るなんて馬鹿は考えられません…!!

そんな者には罰を与えるべきです!!」

 

厳しい表情で叫んだイネットの言葉にクイーンは頷き、スクリーンに映るレオヴァが話し出す。

 

 

「あぁ、イネット……お前の言う通りだ。

クイーンからの恩を仇で返しウチを裏切った奴を、おれは身内とは思えねぇ。」

 

「レオヴァ様の仰る通りかと…!!」

 

強く同意するイネットをスクリーンに映るレオヴァが見つめる。

 

 

「なら、お前は罰を受ける覚悟があるんだな…イネット?」

 

「………は、はい…?」

 

完全に固まったイネットに畳み掛けるようにレオヴァが口を開く。

 

 

「おれはお前がクイーンの研究内容を勝手に外部に持ち出していた事も、研究室にある生物兵器を何匹か連れ出していた事も全て把握してるぞ?

許可なく勝手な真似をしていたようだが……これは裏切りじゃねぇのか、イネット。」

 

「っ……それは…その……ち、違うのです、レオヴァ様!」

 

裏返った声をあげるイネットにレオヴァは優しい声で問い掛けた。

 

 

「違う…?

違うってことは、何か弁明があるのか?」

 

「は、はい!!

ワタシは、う、裏切るつもりなど…なく!」

 

どもるイネットの言葉にレオヴァが被せる。

 

 

「…裏切ってないと言い切れるんだな?

もし、それが欺瞞であればお前への慈悲はないぞ…イネット。」

 

スクリーン越しにこちらを見据えるレオヴァの瞳にイネットは隠し通せないことを悟った。

しかし、レオヴァならまだ慈悲を受けられる可能性があると見たイネットはその場に跪き、深く頭を下げた。

 

 

「レオヴァ様、申し訳ありませんッ…!!!

ワタシ…このイネットが愚かだったのです!!」

 

全身全霊でレオヴァに謝罪を始めたイネットにスレイマンもクイーンも不快感を露にしている。

 

 

「イネット…なぜ、おれに謝る?

おれよりもクイーンの方が怒り心頭なのは一目瞭然だろう?」

 

目の前で殺気を放つクイーンとは違い、穏やかに聞いてくるレオヴァの姿にイネットは確信した。

 

やはり読み通りクイーンよりもレオヴァに縋ることが賢明であったと。

 

罰を受けなくて済む抜け道への確信を手に入れたイネットは下げている頭を更に石畳に打ち付ける勢いで深々と下げながら悲痛な声を作り、同情を買うような姿で叫んだ。

 

 

それはワタシも痛いほど理解しております!

ですが、まずはやはり百獣海賊団においてNo.2である総督補佐官を務めるレオヴァ様に謝罪をと!!

全てはワタシが欲望を抑えられぬ未熟者だったが故の(あやま)ち……本当に申し訳ありません!!」

 

 

「成る程……つまりそれは、クイーンよりおれが上だと思うからイネットは今おれに許しを乞うているワケか。」

 

レオヴァらしくない歯に(きぬ)着せぬ物言いにイネットは一瞬困惑したが、真意ではあるため遠慮気味に小さく頷いた。

この場で変に取り繕っては逆効果だろうと踏んでの行動であった。

 

 

「い、言い方は少々アレですが……

レオヴァ様にお許しを頂くことが最優先かと思い…」

 

言い淀むイネットの言葉に被せるようにレオヴァは口を開く。

 

 

「ほう、最優先…か。

ならイネットはおれへの謝罪を何より優先すべきだと思ったと言うことか?」

 

穏やかな声で問いかけられイネットは少し落ち着いてきた心で、先ほどよりもスラスラと答える。

 

 

「はいッ…!

レオヴァ様はカイドウ様のお隣に立つ素晴らしき御仁!

そのレオヴァ様に自分の過ちを深く謝罪することこそ重要だと思い…」

 

「止せ、イネット……もういい。」

 

熱弁するイネットの声をレオヴァの冷たい声が止めた。

 

イネットは映像電伝虫によって映し出されているレオヴァの表情を見て思わず固まる。

 

そんな口を閉じられずに震え始めたイネットに構わずレオヴァは背筋が凍るような低い声で話し出す。

 

 

「お前が最優先ですべきことはクイーンへの謝罪(・・・・・・・・)だった。

クイーンは殺す予定だったお前を拾い、良くしていた……にも関わらずお前はおれに頭を下げた。

それもお前が勝手な主観で決め付けた“地位”を理由にだ。」

 

「……っ…」

 

スクリーンに映るレオヴァは言葉を紡げずにいるイネットを射殺さんばかりに睨み付けてきている。

 

 

「クイーンは父さんが選んだウチの大看板…!!

おれが生まれるよりも前から父さんを支え、さらにおれにとっては科学の教えを()いてくれた師も同然の存在!

それをお前は勝手にクイーンをおれの下だと決めつけたんだぞ……こんなに腹が立ったのは久方ぶりだ!!

そもそも、おれとクイーンの間に上下関係なんざあるわけねぇだろう!?」

 

映像に映されているレオヴァの周りには、まるで怒りを表すかの様にバチバチと電流が火花を散らしている。

 

完全に助かる道を絶たれたと絶望するイネットを他所(よそ)にクイーンが心なしか上機嫌にレオヴァへ声をかける。

 

 

ムハハハ~!おいおい~レオヴァ、お前がキレてどうすんだよ!

まぁ、だが?

その様子ならコイツを“ゲーム”に使っても文句ねぇよな?」

 

ウキウキした様子のクイーンの姿にレオヴァは落ち着きを取り戻した声で返す。

 

 

「はぁ……すまない、冷静さを欠いた…

ンンッ…そうだな、クイーンの提案通りソレは好きにすれば良い。

…もとよりクイーンの部下だしな。

おれから何か言うつもりはねぇ……が、生きて連れて帰って来られたら手を出さねぇ自信はないな。」

 

「お~~?

なんだよ、“身内に甘々なレオヴァサマ”とは思えねぇ発言だなァ?」

 

クイーンのからかった様な声にレオヴァは眉を下げながら答える。

 

 

「おれにとって身内ってのは百獣に忠誠を誓い、共に父さんを支え同志を“尊重”し合える人間だ。

テメェの私利私欲だけを考え……挙げ句にウチの自慢の大看板を軽く見るような奴は必要ねぇ。」

 

最後の言葉を鋭く言い放ったレオヴァにクイーンはそれでこそ“レオヴァ”だと満足げに笑う。

 

 

「それじゃあレオヴァ、忙しいってのに時間とらせて悪かったなァ!

おれはこれからQUEENプレゼンツの最高のゲームをおっ始めるとするぜェ~!!」

 

「ふふふ…クイーンが楽しそうなら何よりだ。」

 

「帰ったらおれ様の解説つきで録画見せてやるから楽しみにしとけよ、レオヴァ~!」

 

「クイーンの解説つきか!

なら、その娯楽を楽しみに仕事に戻るとするか。」

 

「おうよ!!

まっ、根詰めすぎて実験室爆発させねぇようにな?」

 

「う……そ、それは気を付ける。

では。」

 

 

プツンッと電伝虫の映像が消える。

 

固まっていたイネットの方を凶悪な笑みを浮かべたクイーンが向き直る。

心底逃げ出したいと言うのに、まるで氷のようにイネットの体は動かない。

 

 

「ムハハハハハハハ~~!

そんな顔すんなよブラザー!!

おれ様特製の昇天しちまうほど楽し~いゲームだぜ?

…言っとくが、これはお前にとっちゃ最後のチャンスだ。

このゲームをクリアできりゃあ、殺さないでやるよ。

やっぱり、ゲームっつーからにはチャンスがねぇと盛り上がらねぇだろ?

なァ、イネット……やるよなァ!」

 

「ぁ……わた、ワタシは…」

 

「あぁ、悪い。

もとから拒否権はねぇし、答えは聞いてねぇんだ。

楽しませてくれよ、ブラザー イネットォ!!

 

クイーンのその言葉を最後にイネットの視界はブラックアウトした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

薄暗く悪臭の漂う部屋でイネットは目を覚ました。

意識が覚醒すると同時に飛び起き、辺りを見渡す。

 

おそらくこの建物の作りから見るに、ここはラントン・ラヴールシティだろう。

 

次に自分の体を確認する。

腕も脚も、しっかりと付いており動きに違和感はない。

 

少しホッと息を吐いた、その時だった。

イネットの腕にあるブレスレットが光ったのだ。

 

驚いて腕を突き出すような動きをしたイネットを笑う声が響く。

 

 

「ムハハハハハ~!

ブラザー、そりゃあビビりすぎだろ!?

まだゲームは始まってもいないんだぜ?」

 

ブレスレットから響く声は間違いなくクイーンだ。

イネットは震える声でブレスレットに話しかけた。

 

 

「く、クイーン様……ゲームとは一体…

本当にクリアしたら殺さないで下さるんですか!?」

 

「まぁまぁ、そう急ぐなよブラザー イネットォ。

もちろんクリアすりゃ、約束は守るぜ?

結果が分かりきった一方的なゲームなんて面白くねぇだろ。」

 

クイーンの約束を守るという言葉は一切信用できないとイネットは思ったが、今はそれに縋るしかないと小さく頷いた。

 

やはりクイーンは何かしらの方法でイネットを監視しているらしく、頷いたイネットの後にすぐ音声が入ってくる。

 

 

「よォ~し、納得したならルール説明と行こうか。

まずはコレをしねぇとな!」

 

クイーンの掛け声と共に、イネットのブレスレットをはめている腕に針が突き刺さる。

 

 

「いっ…!?

なな、なに、なにを!?」

 

イネットは酷く狼狽えた。

この針の感覚は間違いなく、何か良くないモノを入れられたに違いない。

しかも、それを起動したのがクイーンとなれば最低最悪な代物(しろもの)なのは確定だ。

 

絶望感を漂わせるイネットを励ますようにクイーンは声をかける。

 

 

「今打ち込んだのは、この街にバラ撒いたのと“ほぼ同じ”ウイルスだ。

少し違うのは、すぐに感染が始まらねぇって所とかだな。

今から始まるゲームをクリアすりゃあ、それの治療薬をくれてやるよ!!」

 

「ち…治療薬そんなモノは……あっ!」

 

思い出したように声を出したイネットにノリノリなクイーンの言葉が続く。

 

 

「思い出したみてぇだな。

そう、レオヴァが作った治療薬(・・・・・・・・・・・)だ!!

いや~、まさかあんなあっさり治療薬作っちまうなんてホントにレオヴァの規格外さにはビックリだぜ。」

 

明るい声で話すクイーンを遮るようにイネットが口を開く。

 

 

「そ、そんな話はいい!

はやくゲームを…!!

ウイルスが進行したらゲームどころではありませんよ!!?

 

必死の形相でブレスレットに叫ぶイネットの姿に笑いながらクイーンが答える。

 

 

「ムハハハハ!

普段のゴマすってるテメェより、今の方が好きだぜブラザー!!

ご希望通り、ゲームを進めるとするか。

まず、そのウイルスは約20時間でステージ3まで進む。

治療薬が効くのはステージ4までだから、そこそこ時間には余裕がある作りになってる。

あぁ、でも感染者に噛まれたりすると進行は少し速まるから気を付けろよ……ってそれは知ってるか!

ゲームの内容事態は簡単だ。

今、お前がいるその最上階から地下の保管室まで辿り着けたらゲームクリア!!

そこに治療薬も置いてある。

使える武器はその部屋に置いてあるモンだけだ。

それじゃあ、頑張っておれを楽しませてくれよブラザーイネット!!」

 

クイーンが言いたいことを言い終えるとブレスレットの光が消え、部屋に静寂が戻ってくる。

 

ふざけた奴だと怒りに唇を咬みながら、イネットは視界に映るアタッシュケースに近付いた。

 

この部屋で目につくのはこのアタッシュケースぐらいだ。

きっとこの中に武器が入っているに違いない。

そう読んだイネットは苛立ちのまま乱暴にアタッシュケースを開いた。

 

 

「ぐあぁぁあ!!?」

 

開くと同時に謎の液体がイネットに噴射される。

その液体に触れてしまった肩や腕は皮膚がグジュグジュと溶けている。

 

なんとか足でアタッシュケースを蹴飛ばすことで、液体の噴射から逃れたイネットは痛みと悔しさに思わず叫んだ。

 

 

「ア"ァ"~~!!クソッ…!!

ふざけるな、なんでワタシがこんな!!!」

 

痛みに震える腕を庇いながらアタッシュケースを睨むと、蹴った先でもまだ液体を噴射しているようである。

 

無駄に頑丈な作りだと苛立っていると、あることに気がついた。

 

その液体は壁に向けて噴射されているのだが、壁の一部に溶けている場所があるではないか。

 

イネットはそれに気付くとアタッシュケースに駆け寄り、体に液体が掛からないように位置をずらしていく。

そのまま溶けていた壁の方に液体をかけていると、溶けて崩れた隙間に隠されていた引出しが露になった。

 

もしや?と今度は警戒しながら引出しを開けると、中には2丁の銃と予備の弾と思われるものが入っていた。

 

そっと手に取ってみたが、これには何も罠はないようである。

1丁の銃を右手に持ち、もう1丁の銃と弾丸は腰のポーチにしまう。

 

戦闘が得意ではないイネットにとってはあまりにも心もとない武器だが、ないよりはマシだと自分に言い聞かせ扉の方に歩いて行く。

 

するとブレスレットの青いボタンが光り出した。

ビクッと体を揺らし、身構えるイネットの耳に機械的な音声が届く。

 

 

「武器の入手を確認、青いボタンを押せ。

青いボタンを押せ、青いボタンを押せ……青いボタンを」

 

繰り返される機械的な音声にイネットは不信感を抱きながらも、青いボタンを押した。

 

するとブレスレットの上に映像が映し出される。

なにかの地図のようだ。

 

注意深く観察するとどうやらこれはこの建物の地図であるらしく、赤い点はイネット自身だと推測できた。

 

地下室への最短ルートを確認したイネットは、今度こそ扉を開き部屋から目標に向けて進み始めたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あれから16時間ほどの間バケモノに成り果てた人間や動物達、数多の罠を血反吐を吐きながらくぐり抜けたイネットは目的地の扉を開く。

 

すると待ってましたと言わんばかりに目の前の巨大なスクリーンの電源がつき、ご機嫌なクイーンの姿が映し出された。

 

 

「おぉ~~~!!

やるじゃねぇか、ブラザーイネット!

ま~さかクリアしちまうなんてよォ!?」

 

 

「ゼェ……ッ…くす"、薬を"……ワタシはクリ、アしたんだ…」

 

「もっちろ~ん!

おれ様はゲームのルールは守るぜェ?

ほら、お前の前にある薬()クリア報酬だ。

本当だったら…」

 

「こ、これで……助"…か"る!」

 

クイーンの言葉が終るのを待たずにイネットは縋る思いで注射器を二の腕に刺した。

 

 

「ぃ……ぐあッ!…ううぅううう!!?」

 

治療薬を打った筈の体が焼けるように熱くなっていく。

イネットが激痛に立っていられずに床へ崩れ去った姿を見てスピーカーからはクイーンの爆笑が響く。

 

 

「おいおいおい……ブラザーイネットォ…!

人の話は最後まで聞くもんだぜ?

治療薬はお前が今使ったウイルスの置いてあったケースの一段下に入ってんのになァ?

つってもこりゃあ、そのウイルス使っちまったら治療薬あっても手遅れかァ!?

ムァ~ハハハハハハハ~!!!」

 

「ゥググ…だ、騙……し…ぃがあぁあ!!

いだぃやけるゥウウグア!!!」

 

「騙すなんて人聞き悪いぜェ~!

おれはちゃんとお前の前にある薬“も”って言っただろ!?

ウイルスはおれ様からの大盤振る舞い……いわばスペシャルプレゼントってだけの話だ!

……って、あ~…もうこりゃ聞こえてねぇか。」

 

人とは思えぬ咆哮のような叫び声を上げるイネットを見ながらクイーンは笑みを浮かべる。

 

 

「おれ様の役に立てる最期の実験だせ、ブラザー イネット!!

最高にCOOLなバケモノになってくれよォ?」

 

想像を絶する痛みに悶えるイネットに、楽しげなクイーンの声を聞き取る余裕はなかった。

 

 

部屋は細胞が壊れ、また再生することで激しい痛みにのたうち回るイネットの声にならぬ絶叫と異臭で満たされている。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ワノ国、鬼ヶ島にて。

 

 

クイーンから今からワノ国に戻ると言う連絡を受けたレオヴァは机の上の電伝虫を手に取った。

 

暫く呼び出しの音が流れていたが、スッと電伝虫の表情が切り替わる。

 

 

「……よぉ、レオヴァ。

お前から連絡が来たってことは、あの件(・・・)を受ける気になったってことで良いのか?」

 

受話器の向こうで不敵に笑う相手にレオヴァは笑顔で答える。

 

 

「そうだ、ドフラミンゴ。

お前からの提案を受けることにした。」

 

「フッフッフッフッ…!

相変わらず話が早くて嬉しいぜ、レオヴァ!

それじゃあ、日時決めと行こうか。」

 

 

この日、ドフラミンゴとレオヴァの取引に新しい契約が加わることとなる。

 

それはドフラミンゴにとっては大きな財を生む契約であり、レオヴァにとっては未来への対策の1つであった。

 

互いに契約の書面にはない思いを抱えながら、ドフラミンゴとレオヴァは結束を強めるかのように会話を弾ませた。

 

 

 




ー後書き&補足ー

イネット:下書きではバケモノと戦ったり必死に逃げるシーンがあったのだが、あまりにも長くなってしまったので強制全カットされた可愛そうな人
兵器開発の腕は良かったが、欲を欠きすぎた結果酷い目にあった

クイーン:自信作のウイルスを使って遊べて大満足
大量の犠牲者が出たがそんな事は気にしない
おれ様の役に立てて良かったなァ…!精神 

スレイマン:実験の為に人々が逃げ出さぬ様、黄金の檻を作る要員としてクイーンに連れてこられた
かなり残忍かつ悪趣味なショーを見せられてゲッソリしたが、百獣を裏切った相手なので同情心はない

レオヴァ:クイーンをナメられてブチギレ
家族や身内を馬鹿にするやつに慈悲はない
今度のドフラミンゴとの食事会で出るロブスターが楽しみ

ドフラミンゴ:前にレオヴァに持ちかけた話が通ってご機嫌
海鮮好きなレオヴァに今度の食事会で美味いロブスターを食べさせると約束したので調達に力を入れている
レオヴァが持ってくると言っていたワインが楽しみ


T・モンキー:ある種類の元祖とも言えるウイルスと共存関係にあり、その影響で怪力を手に入れたが性格は凶暴になった
この島にしか生息していないという珍しさと、ウイルスの特殊さでレオヴァに目をつけられた
現在は十数匹のみ飼育されている

今回の“あるウイルス“:T-モンキーから摘出したウイルスを改造したもの
本来は人間が感染すると体が変形していって死ぬのだが、改造によって死ぬまでの期間を伸ばすことに成功
更に他のウイルスと掛け合わせると、適合した者は死なずに済むという研究結果もあるとか…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

訪れるはシャボンディ諸島

ぽわぽわと特大のシャボンが天へ舞ってゆく、幻想的な景色のこの場所の名はシャボンディ諸島。

 

今、このシャボンディ諸島には数多(あまた)の海賊達が上陸している。

 

 

 

 

──とあるレストランにて。

 

きらびやかなシャンデリアが照らす良い雰囲気のレストラン内には似つかわしくない食器のぶつかる音や咀嚼音が響く。

 

その音を放つのは無作法にもテーブルの上に座り、ばくばくと食べ物を口に詰め込む女海賊

大食(おおぐら)い” ジュエリー・ボニー であった。

 

そして、その女海賊から少し離れた席で不快そうに眉を顰める男の名は

カポネ・“ギャング”ベッジ である。

 

 

「下品な女め…

 こっちの食事が不味くなる。」

 

上品に口元を拭きながら忌々しげに呟いたベッジの声は、口に食べ物を入れたまま騒ぎ立てるボニーの声量でかき消された。

 

 

「おかわりまだか!?

 なくなりそうだ!!!」

 

「今、全力で作ってるそうで…船長。」

 

「間に合わねぇだろ!!!

 ピザお~か~わ~り~!!!」

 

ダンッダンッとかかとで机を鳴らすボニーに周りの船員達は少し困り顔になっていたが、その隣でボニーは不満そうな顔をしながらもどんどん平らげてゆく。

 

 

一方、出口付近では退店しようとしていた海賊達の1人がウェイターの不注意によってパスタで服を汚され、怒りを露にしていた。

 

 

「おいッ…てめぇ、よくもおれの服に!」

 

「も、申し訳ありませんっ……」

 

そんなウェイターに掴みかからん勢いの海賊を長髪の男が止めた。

この無表情なブロンドの長髪の男は

魔術師(まじゅつし)” バジル・ホーキンス だ。

 

 

「何故です!?

こいつ、おれがホーキンス様に選んでもらった服にスパゲティを!」

 

「服ならまた選んでやる。

今、起きたことはその服の運命(さだめ)……諦めろ。」

 

「っ……ホーキンス様がそう言うなら…」

 

拳を収めた部下に向けていた目線をウェイターに移すとホーキンスは抑揚のない声で告げた。

 

 

「脅かして()まなかったな。

今日は殺生(せっしょう)をすると運気が落ちる日なんだ。」

 

ウェイターが訳も分からず声を出せずにいると、ホーキンスはベリーの入った袋をレジカウンターに置き店の出口へと歩きだし、後ろにいた男達もホーキンスに続くように店を後にする。

 

 

その光景を横目で見ていたベッジがおもむろに口を開いた。

 

 

「……百獣海賊団は一般人には手を出さないって噂はあながち間違いでもないってワケか。

海賊が、善人気取りかァ?」

 

頭目(ファーザー)、百獣はあの悪の軍団(・・・・・・)と手を組んでるって噂もあるし善人なわけないレロ!」

 

「ヴィト、お前のジェルマ関係の噂への耳の良さは相変わらずだな。」

 

「ニョロロロ~!」

 

葉巻を取り出したベッジにすかさずジッポを差し出しながらヴィトは笑った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ドガシャァ~ッン!!

という大きな破壊音がシャボンディ諸島のある場所に響き渡り、また海賊達だと一般人は逃げるようにその場から離れていく。

 

その爆発を起こした張本人は食えない笑みを浮かべながら黒煙をあげている建物の方へ声をかける。

 

 

「ケンカなら“壁”の向こうへお預けにしようぜ。

なァおい、お前オラッチの強さ知らねェな?」

 

煽るような動きと声を発する男の名は

海鳴(うみな)り” スクラッチメン・アプーである。

 

そのアプーの目線の先にある瓦礫と化した建物からは真っ赤な髪を逆立てた目付きの悪い男が出てくる。

 

 

「だったらジロジロ見てんじゃねェよ

ムナクソ悪ィ野郎だぜ………今消してやってもいいんだ。」

 

(かしら)っ!!

ダメですよ!!!」

 

部下の静止の声を聞かずに臨戦態勢を取るこの男の名は

ユースタス・“キャプテン”キッドだ。

 

 

「やべぇよ…アプーさんマジでやる気かよ!?

大事(おおごと)になっちまいますよ!?」

 

「あ~…キラーさん居ないし、こりゃおれらじゃ(かしら)を止めらンねぇよ…」

 

キッドとアプーは部下の困りきったような声を背に、お互いへ向けて一歩前へ踏み出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

またシャボンディ諸島の別の場所でも騒ぎが起きていた。

 

 

怪僧(かいそう)が暴れてる!」

 

そう叫ばれている笑顔が不気味な屈強な男こそ

怪僧(かいそう)” ウルージである。

 

そしてそのウルージの巨大な六角(鉛筆)を華麗な動きで避けているマスクの男の名は

殺戮武人(さつりくぶじん)” キラーだ。

 

だが、そんな街中にも関わらず派手な戦闘を繰り広げる2人の間に素早い動きで別の男が割って入ってくる。

 

ガキンッ…!

と、武器がぶつかり合う大きな音が響く。

 

 

「ここは街中だぞ!

暴れたいのなら、“新世界”へ!!」

 

ウルージとキラーの衝突を止めて叫んだ男の名は

異竜(いりゅう)(ディエス)・ドレーク

 

 

「あの百獣海賊団幹部のドレークか……

ふふ、命を拾いなさったな…マスクの人。」

 

「…………」

 

キラーはウルージの言葉に返事を返すことなく、さっと刃を仕舞うと踵を返してゆく。

 

そんなキラーの対応に怒るでもなくウルージも背を向け当初の目的の場所へと歩みを進め始める。

 

二人が完全に戦闘を止めたことを確認すると、今度はドレークが武器をしまった。

そして心配そうにこちらを眺める部下の方へ戻って行くと、木箱に腰掛けていた男が口を開いた。

 

 

「今、いいところだったってのに…

そのなんでもかんでも首突っ込む性格、直したらどうだ…ドレーク。」

 

ウルージとキラーの戦闘を薄ら笑いを浮かべながら静観していた男の名は

死の外科医(し げかい)” トラファルガー・ロー

 

 

「必要だから手を出したに過ぎない。

別に何でもかんでも首を突っ込むワケじゃあない。」

 

少しムッとした表情で言い返してきたドレークをローは鼻で笑いつつ、腰掛けていた木箱から立ち上がった。

 

 

「ま、見せ物も終わったならお開きだろ…おれは行く。」

 

「どこに行くんだ?

そもそも、何故ローがここに……

レオヴァさんの護衛は今、誰が担当している!」

 

「いちいち声がでかい奴だな…

レオヴァさんの護衛ならホーキンスが担当してる。」

 

「なるほど、ホーキンスが……

なら問題ないか、あいつは真面目だからな。」

 

「そもそも、レオヴァさんに護衛なんて必要ねぇだろ。

おれらの中で一番強いのはレオヴァさんなんだ。」

 

「…それはそうだが、カイドウさん直々の命令である以上軽視などもっての他だ。」

 

「カイドウさんは心配性すぎなんだ。

……いや、アレは心配とはまた違うか。」

 

未だにレオヴァには護衛(休ませ係)をつけろと毎回命令を下すカイドウを思い出し、ローは思うところがあったが口を閉じた。

 

昔からカイドウとレオヴァには少し変わった親子の決まりがあるのは幹部ならば知っている事であり、ローも今さらそれに口を出すつもりは微塵もないのだ。

 

今度こそ、歩きだそうとしたローをまたドレークが呼び止める。

 

 

「待て、ロー。

結局レオヴァさんの所に行くわけじゃないのなら、何処へ行くんだ?」

 

「そんなモン決まってんだろ。

……“シャボンディパーク”だ。」

 

「「「「楽しみだぜ、シャボンディパークゥ!!」」」」

 

ローの言葉の後に部下達がワッと興奮を抑えられぬ様子で叫び声を上げた。

それを見たドレークは小さく溜め息をつく。

 

 

「まったく……遊びに来ているわけじゃないんだぞ…」

 

「別におれも好きで行くんじゃねぇよ。

レオヴァさんが数年前に百獣で作った“遊園地”と比べたいから、その偵察に行けって言われて行くだけだ。」

 

「そうだぜ、ドレーク様!

おれたちゃ遊びに行くわけじゃないんスよ!」

 

「えへへ~!そうだよ!

キャプテンとみんなで偵察に行くだけだよ!」

 

ノリノリで答えるローの部下達になんとも言えない表情をしながらドレークは答える。

 

 

「はぁ…なるほど。

レオヴァさんからの命令だったのか。」

 

「そう言うワケだ、じゃあなドレーク。

おれ達はおれ達の仕事があるんだ……行くぞ、お前ら。」

 

「「「「イエッサー、キャプテ~ン!!

レッツゴー!ジャボンディパークゥ~!!」」」」

 

「いや、お前達めちゃくちゃ遊ぶ気だろう!!?」

 

ドレークの突っ込みなどどこ吹く風のように流し、ローはワクワクを抑えきれない部下達に担がれ凄い早さでシャボンディパークの方向へ消えて行った。

 

 

「……あの感じだと、ローも満更じゃないな…」

 

まったく、と頭を抱えるドレークだったがソワソワし出した部下達に気付き後ろを振り返ると数人の部下達は小声で会話していたが、ドレークが振り返ったことに気付きピシッと背筋を伸ばす。

 

 

「…言いたい事があるなら言え。」

 

ドレークの言葉に暫し沈黙を続けていた部下達だったが、おずおずと口を開く。

 

 

「あ~……いや、その…」

 

「べ、別に大したことじゃなくてですね…」

 

「なんだ?

ハッキリ言ってくれ、別に怒ったりはしない。」

 

部下達はその言葉で気持ちを決めたのか、揃って口を開いた。

 

 

「「「お、おれらもシャボンディパークに行ってみたいです!!」」」

 

「……なんだって?」

 

予想になかった答えにドレークが目を見開くと、部下達は恥ずかしそうに口を開く。

 

 

「その…おれらガキの頃は生きるのに必死で遊園地なんてモン興味なかったんですけど……

なんか百獣入って余裕が出来てきたら、気になるようになってしまったというか…」

 

「そうなんスよ!

ガキの頃はなんとも思わなかったんスけど~…」

 

「レオヴァさんが作った遊園地にも行きたかったんですが、おれらもういい年した男なんで…

なかなか休暇の日も行きたいって言いづらくてっ…!」

 

「百獣海賊団入って、ドレーク様といるうちにテーマパークとか、そういう金とか女じゃない平和な娯楽も悪くねぇかなァ……なんて思ってやして…」

 

モゴモゴと口ごもりながら思いを吐き出した部下達にドレークは間髪入れずに答えた。

 

 

「お前達…!

そうか……よし、わかった!

今任されている任務を完了し次第レオヴァさんに許可を取り…

おれ達もシャボンディパークへ向かうぞ!!!

 

ドレークのその宣言に部下達はパァッと明るい表情になり、元気よく答えた。

 

「「「「はい、ドレーク様ァ…!!!」」」」

 

そして、ドレーク達は迅速に任務を完了させるべく走り出したのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

昼休憩にレストランへ食事に出ていたホーキンスがレオヴァの下へ戻ると、少しバタついているようであった。

 

その事にホーキンスは小さく首を傾げつつ、近くに寄ると気付いたレオヴァが笑顔で声をかけてくる。

 

 

「おかえり、ホーキンス。

シャボンディ諸島の食事はどうだった?」

 

「可もなく不可もなくですね、百獣の料理には敵わないかと。

……ところで何故、空船を上空へ?

守備が必要ならおれが。」

 

ホーキンスの船の見張り番の申し出にレオヴァは首を横にふる。

 

 

「守備を考えていると言うよりすぐに出港できるように手筈を進めているだけだ。

ほら、空船は浮かび上がるまで少し時間がかかるだろう?」

 

「出港……何か問題でも?」

 

「いや、特に今なにか問題が起きたわけじゃないんだが……この後に起こるだろう(・・・・・・)からな。」

 

「この後に起こる…?

またレオヴァさんの予言(・・)ですか。」

 

「ふふふ、予言なんて大層なものじゃない。

まぁ、念のためというやつだ。

あまり気にしないでくれ。」

 

「わかりました。」

 

ホーキンスはレオヴァの行動ならば良い方に転ぶだろうと考え、それ以上の追及を止めた。

 

部下達にホーキンスは積み荷を手伝うように指示を出し、自分はレオヴァの側に立つ。

 

レオヴァが迷いなく部下達を動かしているいつもの光景を見つつ、周りの警戒も怠らない。

護衛を任された以上、レオヴァの手を煩わせないという静かな覚悟をホーキンスは持っているのだ。

 

 

そしてレオヴァが指示を出し終え、シャボンディ諸島へ買い物にでも行こうとホーキンスを振り返ろうとした時だった。

プルプルプル…と電伝虫が鳴る。

 

 

「…おれだ。」

 

電伝虫を取ったレオヴァが声を発すると、ハキハキとした声が返ってくる。

 

 

「レオヴァさん、こちらドレーク。

()ドフラミンゴ経営の人間(ヒューマン)オークション会場での仕込みは完了した。」

 

「そうか…!

早かったな、さすがドレークだ。」

 

レオヴァの言葉に電伝虫の口元が緩んだが、それを誤魔化すようにドレークは咳払いをすると続ける。

 

 

「ンンッ…だがレオヴァさん、ひとつ想定外なことが…」

 

「想定外……それは今日売られる予定の奴隷についてか?」

 

電伝虫の向こうでドレークが驚いた顔をする。

 

 

「まさか、もうレオヴァさん情報を?」

 

「ドレークの言う想定外の報告が“冥王”についてなら、おれも情報は握ってる。」

 

「フッ…レオヴァさんの情報網には敵わないな!

レオヴァさんの予想通り、あの冥王が今回のオークションにただの老人として出品される予定らしいんだ。

それにしても、レオヴァさんはその情報何処で手に入れたんだ?」

 

海軍の人間の連絡を少し盗み聞き(・・・・・・・・・・・・・・・)してた時にな…

まぁ冥王といっても隠居した身、面倒事は嫌うはずだ。

なにか大きなアクションは取ってこないとは思うが……一応、そちらの対策もおれが練っておこう。」

 

「了解した。

 それと…任務とは関係ない話なんだが……」

 

突然、言いにくそうにし出したドレークにレオヴァが不思議そうな声を出す。

 

 

「どうした、ドレーク?

なにか他に問題でもあったのか?」

 

「いや!問題はないんだ。

 ただ、その……今から部下を連れてシャボンディパークに行っても良いかという…許可を貰えないかと……」

 

「シャボンディパーク…?あの遊園地のか?」

 

レオヴァの驚きを含んだ声にドレークは恥ずかしさが限界を超えそうになったが、大切な部下達の願いの為に声を振り絞る。

 

 

「そ、そう……その、遊園地に部下達と行きたいと……思っていて…」

 

真っ赤になっている電伝虫を見てレオヴァは笑いながら返事を返す。

 

 

ふははははっ…!いいじゃねぇかドリィ!

任務が終わったらあとは自由時間なんだ、好きにすれば良い。

出来れば後で感想でも聞かせてくれ。

…そうだ、今度の休暇に部下達を連れてウチが経営してる遊園地にも行って来るといい!貸し切りに出来るよう都合を付けておこう!」

 

「ありがとう、レオヴァさん!

だが…その、貸し切りは勘弁してくれ……フーズ・フーやクイーンがうるさいのが目に見える…」

 

「ふふふふ…それもそうか。

まぁ、部下達とゆっくり楽しんで来てくれ。

オークションでの担当はローだから、今から行くなら遊園地で鉢合(はちあ)うこともねぇだろう。

たまには部下達とハメを外してくればいい。」

 

「れ、レオヴァさん!

もうおれはハメを外すような歳じゃ…」

 

電伝虫越しにわたわたしているドレークにレオヴァは笑い、部下達との休憩時間を楽しむようにと告げ通信を切る。

 

そして後ろで話を聞いていたであろうホーキンスに満面の笑みで振り返った。

 

 

「ホーキンス達もこの後はフリーだろう。

行ってきたらどうだ?」

 

「いえ、おれはそういうものに興味はないので。」

 

「ふふっ…そうか。

じゃあ、オークションの時間まで買い物に付き合ってくれ。

ホーキンス以外の皆は船で待機だ、船番は任せたぞ。」

 

「わかりました。」

 

「「「「はい、レオヴァ様!!」」」」

 

部下達はレオヴァとホーキンスが街へ歩きだしたのを見送ると空へ船を浮かせて待機しながら、いつでも出港できるよう準備を始めたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

レオヴァ達がシャボンディ諸島で活動していたのと、ほぼ同時刻のワノ国にて。

 

 

カイドウに報告に来ていたクイーンが顔面蒼白な状態で声を荒げていた。

 

 

「おいおいおいおい!?

どうなってんだこの状況はよォ…!!!」

 

カイドウとキングがいる筈の部屋には誰もおらず、壁に大きな風穴が空いているという大惨事。

これはカイドウが龍になって開けた穴であるのは明白であった。

そして、カイドウが飛び出して行ったということは……

 

レオヴァから頼まれていたにも関わらず怒り心頭のカイドウから目を離してしまったことを後悔しながらクイーンは叫ぶ。

 

 

「これヤベェ~~だろォ!!?

あ"~~も"~~!!なんてレオヴァに報告すりゃいいんだよ!?

てか、キングのヤツちゃんとカイドウさん抑えとけよなァ!?!」

 

さらっとキングに責任転嫁しつつ、クイーンは思考をフル回転させる。

どうすれば飛び立っていったカイドウを止められるだろうか…と。

 

しかし、いくら考えても答えは出ない。

そもそも地面にいてもカイドウを止める手段などほぼ無いに等しい。

だと言うのにそれが空を飛んでいるとなれば、もはやクイーンの手には負えないだろう。

 

こうなっては、どうしようもない。

クイーンの天才的な脳はそんな非情な答えを弾き出した。

 

 

「…オワッタァ……これ絶対レオヴァに詰められるヤツゥ~……」

 

 

カイドウの部屋の前で呆然と立ち尽くすクイーンに瓦礫だらけの入り口からピョコッと顔を覗かせたバオファンが話しかける。

 

 

「クイーン様~~、電伝虫で連絡があって~!」

 

「ムリムリ……今、おれ様は深ぁ~~く絶望してんだ…フーズ・フーにでも回しとけ……」

 

オーバーリアクションと言っていいほど、大袈裟に頭を抱えているクイーンを気にする様子もなくバオファンは軽い足取りで瓦礫の山から出てくる。

 

 

「そっか~~!

緊急だって、キング様だったんだけど~…」

 

「なんだとォ…!?

よし、今すぐかせ!!!」

 

「はわっ!」

 

バオファンの掲げていた電伝虫を凄いスピードで奪い去るとクイーンは受話器を手にして叫ぶ。

 

 

「おいコラキングてめぇ…!!!

今どこだよ!!カイドウさん居なくなっちまってるじゃねぇかァ!!!」

 

クイーンの叫びに電伝虫がグッと顔を歪める。

 

 

「うるせぇぞ、ボール野郎…!

こっちは飛べねぇテメェと違って、カイドウさんを追ってる最中(さいちゅう)だ。」

 

「追ってる…?

ってことは、カイドウさんの居場所わかるのか!?」

 

希望が見えたというようにクイーンの表情が明るくなるが、キングの声は相変わらず低いままだ。

 

 

「居場所どころか100メートル前にカイドウさんが飛んでる。」

 

「よしっ…!

お前なら一瞬で追い付く距離じゃねぇか!

そのままどっかの島でカイドウさん引き止めとけ!!」

 

ガッツポーズを決めるクイーンにキングが苛立ったように唸る。

 

 

「馬鹿かテメェ…

カイドウさんが話を聞ける状態なら、そもそも部屋から出ていくのだって止められてるに決まってンだろ。」

 

「え……じゃあ、もしかして今…カイドウさん……」

 

「もしかしなくてもだ、マヌケ。

完全に出来上がってる(・・・・・・・)以外の可能性があると思ってんのかァ…?」

 

苛立ちを隠しもせず全面に押し出すキングの言葉にクイーンはまた絶望する。

 

キングがいるのならワンチャンどっかの島で止めて時間稼ぎができるかもしれないというクイーンの僅かな希望が打ち砕かれたのだ。

 

 

「…あ~……ところでカイドウさん今、なに上戸(じょうご)?」

 

恐る恐るという感じに問い掛けるクイーンにキングは間髪入れずに答える。

 

 

「飛び出す前までは泣き上戸だったが、今は完全に怒り上戸だ。」

 

「やっぱ怒り上戸かよォ~~

そんじゃもう完全に手ェつけらんねぇじゃねぇかァ…!!!」

 

膝から崩れ落ちるクイーンをキングは言葉で切り捨てる。

 

 

「黙れボール野郎。

ゴチャゴチャ言ってても状況は好転しねぇんだ、テメェもさっさと船を出せ。

ちんたらやってるは暇ねェ、レオヴァ坊っちゃんの改造した空船を使え。」

 

「生意気言うなアホキング…!!それくらい分かってるわ!!

てか、やっばカイドウさんが向かってんのって……」

 

「……あぁ、いつも誕生日前にあるレオヴァ坊っちゃんとの遠征…その予定を潰した奴ら(・・・・・・・・・・)を殺すと息巻いてる。」

 

「やっぱそうだよなァ~!?

マァ~ジで全部レオヴァの予想通りになってんじゃん!!

レオヴァもこの未来読めてたなら作戦後回しにしてカイドウさんと遠征行けよォ…」

 

半分泣き言混じりなクイーンとはうって変わって、キングは冷静に言葉を紡ぐ。

 

 

「今さら言ってもしょうがねぇだろうが…!

レオヴァ坊っちゃんは、今回の作戦は“絶対(・・)”だと言ってる。

それにレオヴァ坊っちゃんがカイドウさんとの遠征を先延ばしにしてまで取り組むと言い出した作戦ってことは、実行する“時期(・・)”が大切だってことだろ。

カイドウさんの目的地は分かってんだ、テメェは空船を出して真っ直ぐそこへ向かえ。

……それでも止められなきゃ、レオヴァ坊っちゃんに連絡する他ねぇ…」

 

「ぐっ…命令口調なのがスゲェムカつくがそんなこと言ってらんねぇか……

よし、キングてめぇしっかり定期的に連絡よこせよ!」

 

「言われなくてもだ。」

 

ガチャンッ!と乱暴に電伝虫の受話器を置くとクイーンはバオファンの方を振り向いた。

 

 

「バオファン!

今すぐササキとフーズ・フーに連絡して空船のある港まで来るように伝えろ!!」

 

「は~い!

分かったよ、クイーン様~~!」

 

バオファンの返事を聞くと同時にクイーンは空船へ向かって早歩きで進み始めると、同時にスマシで部下に連絡をする。

 

 

「…ダイフゴー、こちらクイーン!!

今すぐ空船にありったけのお汁粉を積み込んどけ!!出航するぞ!!!」

 

「えぇ…!?出航ッスかクイーン様!?

りょ、了解しやした!すぐに準備を…」

 

「急げよダイフゴー…!フルスピードだ!!」

 

そういってスマシを切ると更にクイーンは歩く速度を上げていきながら、憂鬱そうな表情でボソリと呟いた。

 

 

「超絶機嫌悪いカイドウさんの相手とか……したくねェ~…」

 

その呟きは心からのクイーンの本音であった。

 

まさに死地に出向くような顔で空船のある場所へ進むクイーンの背中にはこれでもかと哀愁が漂っていたと、(のち)にその姿を廊下で見掛けた部下達は語る。

 

 

そうして、あの事件(・・・・)へのカウントダウンが始まったのだった。

 

 

 

 

 




ー後書き&補足ー
公式設定でウルージさんの武器が鉛筆だと知って震え上がる今日この頃。
そりゃ鉛筆であれだけ戦えたらウルジストも増えますわな…

・超新星の人数変更ついて(最悪の世代とは別)
[メンバー一覧]
ベッジ・ボニー・ウルージ・キッド・キラー・ルフィ・ゾロ・ホーキンス・アプー

[理由]
数名は既に百獣海賊団の船員としてやや早めに名が売れてしまっていた為、原作と時期がずれた。
ホーキンスは入隊後暫く近衛隊として暗躍していた為、他よりも名が売れるのが遅れたので超新星にメンバー入りした。


ベッジ:ほぼ原作通り、今は誰の傘下でもない
未来には良きパパフラグが立っている…?

ボニー:こちらもほぼ原作通り
過去などについてレオヴァの部下が色々探り中

キッド:原作通りの暴れん坊。
ただ、過去にレオヴァとの接点あり

キラー:原作通りキッド海賊団の保護者
同じく過去にレオヴァとの接点あり

ウルージさん:原作通りの破戒僧。
今後どんな活躍をするのか一番気になる人物

アプー:ほぼ原作通りの食えない奴
実は今、考えてることがありこっそり動いている

ルフィ:我らがワンピの主人公、実力は原作と少し違う(エネルが自然系の能力者じゃないなど、他一部の人間との戦闘がなかった為)
一方、持ち前の伸び代と豪運は健在
レオヴァがどの相手よりも警戒している男

ゾロ:ほぼ原作通りで相変わらずのプロ迷子
剣の腕の伸び代が半端ではなく、こちらもレオヴァから最大に警戒されている
剣と刀の二刀流であるドレークに興味がある


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オークション会場

──ワノ国での緊急事態から数時間後のシャボンディ諸島にて。

 

 

ローはレオヴァからの指示を受けベポ以外の部下を船へと戻らせ、人間(ヒューマン)オークション会場へとやって来ていた。

 

そして、後方の席にドカッと腰掛けながらオークションの開始とレオヴァの到着を待っていた。

 

 

「キャプテン~…なんかここ変な臭いだよ……

 雰囲気もすごいイヤな感じだし。」

 

回りをキョロキョロと見渡しながら訴えてくるベポにローはため息を吐く。

 

 

「だから言っただろベポ。

 面白いモンじゃねぇから先に船に行ってろって。」

 

「そうだけど…」

 

目をうるうるさせて此方(こちら)を見るベポの頭をペシッと軽くはたきながらローが口を開く。

 

 

「可愛こぶるな!

もうすぐレオヴァさんも来るから大人しくしてろ。」

 

「アイアイ~、キャプテ~ン…」

 

ベポはローの刀をキュッと握りながら大人しく座り直した。

 

そして、ローとベポが舞台へ向き直ったと同時に近くから狼狽えたような衛兵達の声が聞こえてくる。

 

 

「っ…!!

あいつ…“南の海(サウスブルー)”のキャプテンキッド!!」

 

「ま、マジかよ……暴れられたら大事(おおごと)じゃねぇか…!」

 

どよめく衛兵達(えいへいたち)になど目もやらずにキッドは仲間を連れてオークション会場の中へと歩みを進める。

 

 

「面白ェ奴がいたら買っていくか」

 

悪い笑みを浮かべながら、肩で風をきりつつ進むキッドにヒートが声をかける。

 

 

「キッドの(かしら)、アレを……」

 

「ん?」

 

ヒートに促されるまま座席の方へ目をやったキッドはそこに座っている男を見て、ニヤリと更に口角を吊り上げた。

 

 

「見た顔だな

“百獣海賊団”2億5千万の賞金首トラファルガー・ローだ…

色々と過激な噂を聞いてる。」

 

キッドが知っている情報を仲間達に教えていると、座席に腰掛けていたローが振り向き中指を立てた。

 

 

「………。

行儀が悪ィ野郎だ…」

 

キッドは獰猛な目付きで笑うとローへ向けていた目線を横にずらし、入り口側の壁を陣取ろうと仲間達を連れて動き始めた。

 

 

そんな億超えの男達のやり取りが何事もなく終わったことに会場の衛兵達がほっと胸を撫で下ろした時だった。

入り口からまた億を超える男が入って来たのだ。

 

(あら)たな大物の登場に、衛兵達は目玉が飛び出す勢いで入り口を凝視した。

 

 

そして、その人物の存在にキッドと仲間達も即座に気付き目を見開く。

 

 

「なっ…!?」

 

思わず声を漏らしたキラーの気持ちを代弁するかのようにキッドが言葉を続けた。

 

 

アイツ、レオヴァじゃねぇか…!?

なんだって百獣のNo.2がこんな場所に居やがるんだ!」

 

キッド達の存在に気付いたらしく、レオヴァがそちらへ顔を向ける。

 

突然のことに身構えたキッドとキラーだったが、レオヴァは2人にニコッと笑いかけ軽く手を振るとそのまま席が並ぶ方へと歩いて行ってしまった。

 

 

「チッ……相変わらず馴れ馴れしい野郎だぜ。」

 

レオヴァの行動にキッドが壁に寄り掛かりながら吐き捨てるように言うと、仲間達が不思議そうにキラーに問いかけた。

 

 

「相変わらずって……キッドの(かしら)とキラーさんはあの百獣のレオヴァを知ってんスか?」

 

「……昔に、少しな…」

 

歯切れ悪く答えたキラーに続けて、キッドが眉間に皺を寄せながら口を開いた。

 

 

「おい、キラー!

ありゃ少しどころか、結構しつこかっただろ…!!

理屈っぽくて、口煩い野郎だったぜ。」

 

「…だが一応、世話になったとも言えなくもない相手だ。」

 

「…………1万歩ぐれぇ譲りゃあ…まぁ、そう言えなくもねェ…」

 

キラーの言葉を聞き嫌そうな顔で言うキッドに仲間達はこれ以上追及するのは()めようと決め、別の話題を振ることにしたのだった。

 

 

 

 

所変わり、キッドとキラーに軽く挨拶をしたレオヴァはまっすぐにローとベポの下へと歩いていった。

 

 

「ロー、ベポ。

 待たせて悪かった。」

 

一言謝りながらローの隣に腰掛けたレオヴァにベポが嬉しそうな声を出す。

 

 

「レオヴァさま!」

 

「別に待たされてねぇよ、レオヴァさん。」

 

快く迎えてくれたローとベポに笑いかけながら、レオヴァは正面の舞台へ目を向けた。

そこにはピエロのような見た目の男がマイクを持って立っている。

 

 

「それでは、みなさん。

長らくお待たせ致しました!!

まもなく、毎月恒例1番GR(グローブ)人間(ヒューマン)オークションを開催したいと思います!

司会は勿論この人!!

Mr.(ミスター)~~~~~アッ!!ディスコ!!!

 

 

ピエロのような男が名を叫ぶと、舞台へ星形のサングラスをかけた男が現れ会場がドッと盛り上がる。

 

ディスコと呼ばれた男は慣れたようにマイク片手に司会としての仕事を始めた。

 

 

「今回も良質な奴隷を取り揃える事ができました。

皆様…ラッキーですよ!!

実は本日、超目玉商品も!!

お好みの奴隷をお持ち帰り頂けますことを心よりお祈りしております!!!

それでは早速、競売(オークション)を始めましょう~!!!

 

司会者ディスコの声を合図に最初の奴隷が絶望の舞台へ一歩を踏み出すのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

表の入り口から、盛り上がるオークション会場へ意気揚々と乗り込む者達の姿があった。

 

 

「私達の友達を奪い返せるのならいくらかかろうとも構わない!!

文句ないでしょ!?」

 

「勿論だ!!

金の話じゃねぇよなーーっ!!!」

 

ヒールの高い音を鳴らしながら険しい表情で言い切ったナミに、人の形に変形していたチョッパーが間髪いれずに力強く答えた。

そして、その後ろではハチがナミの言葉に心打たれて小さく震え、パッパグが泣きながら感謝をのべている。

 

ナミ、チョッパー、フランキー、ハチ、パッパグの5人は入り口の階段下でメロリン状態のサンジを置いてオークション会場の扉を開いた。

 

5人が中に入ると、素早くサンジがナミの側に飛んでくる。

 

そうして6人になった彼らがオークションに参加する為、空いている場所を探そうと歩き出した時だった。

座席の方を見たハチが驚いた声を上げたのだ。

 

 

「えっ…!!」

 

「どうしたんだ…?」

 

驚き固まったハチにチョッパーが声をかけ、他のメンバーも何事かとハチへ振り返った。

 

 

「まさか……レオヴァさんか…!?」

 

「「れおう"ぁさん…??」」

 

「えっ…レオヴァ!?」

 

ハチの言葉にチョッパーとナミは首を傾げたがサンジはその名前に大きく反応し、フランキーは腕を組んでクエスチョンマークを浮かべている。

 

 

「おいタコ野郎…!

今、レオヴァって言ったのか…!?どこだ!!」

 

「あ、あれ!あそこだ!!」

 

ハチが指を指した方向へサンジはすぐに視線をやり、驚きに目を見開いた。

 

 

「……ありゃ…マジでレオヴァじゃねぇか……」

 

「ちょ、ちょっとサンジくん!

さっきから、そのレオヴァって誰なのよ!」

 

ワケが分からないという表情で言うナミにサンジは笑顔で答える。

 

 

クソほど頼りになる野郎さ…!!

ジジィの店を設計したのもレオヴァだ!」

 

サンジの返答にナミが声を上げる。

 

 

「えっ…!?

サンジくんのいたバラティエを!?」

 

レオヴァの座っている席へ向けて歩き出したサンジとハチの背を、他のメンバーが慌てて追う。

 

 

「レオヴァ…!」

 

「レオヴァさん!」

 

サンジとハチの同時の呼び掛けに座っていた男がゆっくりと振り返る。

 

 

「サンジと……ハチ?

どういう組み合わせだ?

そもそもなんでこんな場所にいるんだ。

特にハチ、こう言う場所は危ないと教えただろう。」

 

「ニュ~…すまねぇ、レオヴァさん……けどそうも言ってらんなくて…」

 

ハチに優しく諭すように声をかけるレオヴァにサンジが間に入り、口を開く。

 

 

「それよりレオヴァこそ、こんな気分悪ィ場所でなにしてるんだよ。」

 

「それはサンジもだろう?

おれはちょっとした用事(・・・・・・・・)で来てる。

……で、なんでハチと一緒なんだ?」

 

首を傾げるレオヴァにサンジが言葉を続ける。

 

 

「用事か……まぁ、おれ達も用事があって来てるんだ。

ケイミーちゃんって子が人攫いにな……」

 

悔しげに唇を噛むサンジのその言葉だけでレオヴァは察したようで、不快そうに眉を寄せた。

 

 

「成る程……確かケイミーはたこ焼き屋で働いているハチの友人だったか。

海軍のお膝元だかなんだか知らないが、相変わらずここの治安は最悪だな。

……ところで、そのハチの友人を取り戻す為の資金はあるのか?」

 

心配そうな声を出すレオヴァにナミが答える。

 

 

「えぇ、2億ベリーはある。

絶対にケイミーは取り戻すわ。」

 

強い眼差しでキッパリと言い切ったナミにレオヴァが優しく笑いかける。

 

 

「そうか…!

何かあれば手を貸そう。

ハチはジンベエの大切な仲間だ。

その友人を助ける為の助力は惜しまない。」

 

「ニュ~~~!レオヴァさんっ!」

 

感激だと胸を押さえるハチの隣でサンジはニッと笑い、ナミも軽く返事を返した。

 

その時、扉をくぐった天竜人が奴隷へ文句をつけ騒ぐと同時に、舞台にいた男が血を流し倒れたせいでオークション会場が一気にザワザワと騒がしさを増す。

 

司会は瞬時に空気が悪くなった事を感じ舞台の幕を一度閉じて、意気揚々と目玉商品の紹介を始めた。

 

 

「──多くは語りません。その目で見て頂きましょう!!

魚人島からやってきた!!!

“人魚”のォ…ケイミー~~~!!!!

 

司会者の声と共に現れた若い人魚、ケイミーの姿に一気に会場が沸き立つ。

 

活気を取り戻した会場一帯に満足そうな笑みを浮かべながら司会者がマイクを口元へ持っていく。

そして、競りをいくらから始めるのかを宣言しようとするよりも早く会場に大きな声が響いた。

 

 

5億ベリーィ~~~!!!

5億で買うえ~~~~!!!

 

会場は一瞬にして静まり返り、愕然(がくぜん)とした表情をうかべている。

そして、誰もが相手が悪いと諦めたように項垂れた。

 

 

「……何それ…!!いきなり

 全然足りない……!!」

 

予想外の展開にナミが絶望したような声を出す。

けれど、無情にも司会者は落札を確定させるために言葉を紡いでいく。

 

 

「えー…一応!!

5億以上!!ありますでしょうか!?

なければこれで早くも打ち止めという事に!!」

 

静まり返る会場にチョッパー達が切羽詰まった様子で声を出す。

 

 

「何とか出来ねぇかな!何か方法ねぇかなァ~~!!

こんなのねぇよ!金で友達連れてかれるなんてイヤだよ!!」

 

取り乱すチョッパーの横でサンジは険しい顔をしながら、ケイミーを真っ直ぐ見ている。

 

 

「…マズいな……!!

これは予想だにしてなかった。

金で解決出来るならと身を引いたら状況は悪化しちまった。」

 

「ニュ~~おれこうなったら力強くであいつを海へ…!」

 

慌てて止めるパッパグを、ハチが振り切って前へ出ようとした時だった。

 

 

…6億だ。」

 

「へ……ろ、6!?………6億ベリー!!

後の席の御仁が6億ベリー入札!!

他の方で6億以上の入札希望ありますでしょうか…!?

 

司会者の声が裏返りながらの問いかけに、会場にどよめきが起こる。

 

辺りがザワつくなか、6億と宣言したレオヴァの方をサンジ達が驚きの表情で振り返った。

 

 

「ろ、6億って……そんな金あんのかよ!?」

 

思わず声を上げたサンジにレオヴァは何でもなさげに言って見せる。

 

 

「6億程度をおれが準備できないと思うのか、サンジ?」

 

「っ……そう言えばレオヴァは海賊とは思えねぇくらい商売ばっかりしてたな…!」

 

思い出したというようにサンジが笑ったのも束の間、会場にまた天竜人の声が響く。

 

 

7億ベリー出すえっ~~!!

 

「ななっ……7億にて世界貴族のチャルロス聖様っ!ご入札!!」

 

会場に響く驚きの声を背に天竜人であるチャルロスは勝ち誇ったようにレオヴァを振り返り、司会者も額に汗を浮かべながらレオヴァの方を伺った。

 

 

10億ベリー。

 

良く通る声でハッキリと告げられた膨大な金額に会場の人間も司会者も目を点にして固まる。

そして数秒の沈黙が流れていたが、それを破るようにガタッと音をたてながら天竜人が立ち上がった。

 

 

「お、お前っ……!

下々民(しもじみん)の癖に邪魔をするなんて生意気だえ!!」

 

癇癪を起こしている天竜人を見て、レオヴァは眉を潜め不快そうな表情で答える。

 

 

「邪魔…?

生憎なにを言っているのか分かりかねる。

ここはオークション会場、競り合うのは当たり前だと思うがな。

それとも何か?天竜人ともあろう者が下々民との競り合いにも勝てないほど金がないのか?」

 

っ~~!!

無礼…!無礼にも程があるえ~~!!

ムカつくからお前はここで死刑にすると…今、決めたえ!!!

 

顔を真っ赤にしている天竜人が銃口をレオヴァに向けた。

 

その行動に隣に座っていたローが素早くベポから刀を受け取り、天竜人に狙いを定めた時だった。

 

 

ドガァァン!!

という、けたたましい音と共にオークション会場に何かが降ってきた。

 

騒然となる会場だったが、そんな中でも降ってきた人物をいち早く発見したサンジが叫ぶ。

 

 

「ルフィ!!!」

 

しかし、そのサンジの呼び掛けは不時着直後でゴタゴタしているルフィとゾロには届かなかった。

そして、ケイミーを見つけたルフィが舞台の方へ走り出してしまう。

 

 

ケイミー探したぞ~~!!よかった~!!!

 

嬉しそうに叫ぶルフィの行動を不味いと判断したハチが誰よりも早く行動に移した。

なんと走り出したルフィを止めるべく、飛び付いたのだ。

 

 

「ちょっと待て麦わら!!何する気だよ!!」

 

「何ってケイミーがあそこに!!!」

 

「いるけど爆薬首輪がはめられてるから、そのまま連れ出せねぇんだ!!

今、レオヴァさんが落札しようとしてくれてるから待てッ!!!」

 

言い合いながら引きずられていたのだが、ハチの言葉にルフィが足を止める。

 

 

「えっ…!レオヴァって…

 ツノ()がいんのか!?

 

「そうだ!レオヴァさんが……って麦わらツノ()なんて呼び方失礼だぞ!?

って、そうじゃなくて!お前レオヴァさんを知ってんのか?」

 

ルフィの言葉にハチも驚きを露にしていたが、急に座席から悲鳴が上がった。

 

 

きゃああ~~~~!!!

魚人よ~~!!気持ち悪い~~~~!!!

 

「なにッ!?

ここの警備はどうなっているんだ!!」

 

「魚人!?嘘だろう!?」

 

座席にいた裕福そうな人間達の拒絶を示す態度にハチはしまったと、慌て始める。

どうやら先ほどルフィを止めようとした時に隠していた2つの腕を無意識に使ってしまったようだった。

 

次々に酷い言葉と物を投げ付けられるハチの姿にサンジ達が動揺している中、ルフィが怒った顔で前に進む。

 

 

おい、やめろよ!!

なんでハチに物を投げるんだ!!!

 

前の方の席から飛んできた物を叩き落としながらルフィは前に進む。

しかし、その進行を止めるようにオークション会場の衛兵達がルフィを押さえ込もうと掴みかかった時だった。

 

ハチに向かって何発もの銃弾が襲い掛かったのだ。

 

それはほんの一瞬の出来事だった。

息を飲んだナミ達の前で嬉しそうに天竜人が笑う。

 

 

「むふふふ むふーん むふーん♪

当たったえ~~っ!!魚人を仕留めたえ~~~!!

 

鼻歌を歌う天竜人の周りでは人間達がハチが倒れたことに安堵したような言葉を交わしている。

 

そんな惨劇を前に舞台上の水槽に閉じ込められているケイミーは泣きながらガラスを力一杯叩いた。

大好きなハチが撃たれた現実は彼女の心をどれ程抉ったかは計り知れない。

 

だが、ケイミーの叫びなど聞こえぬ天竜人は嬉しげに声を上げ続ける。

 

 

「自分で捕ったからこれタダだえ?

得したえー 魚人の奴隷がタダだえ~~~~!!

タ~ダ タ~ダタコがタダ~!!

 

その瞬間、踊る天竜人に向かってルフィが一歩を踏み出した。

 

怒りを纏ったルフィはそのまま階段を上り倒れたハチの横を通りすぎて、どんどん近づいて行く。

そのルフィの姿にパッパグが慌てたように声を振り絞って叫んだ。

 

 

やめろムギ!!!

おめェらもただじゃ済まねェぞ!!!

 

パッパグの叫びでも、(いか)るルフィの足を止めることは出来なかった。

 

そのまま天竜人へ距離をつめていくルフィに周りは嘘だろ!?と目を見開き、様子を見ていたキッドも本気か?と驚きを隠せない。

 

 

「なんだえ、その顔は!

お前もムカつくえ~~~!!!

 

そう言って近付いて来るルフィへ天竜人はまた引き金を引いた。

……が、銃弾がルフィに当たることはなかった。

 

そして代わりに気付けば天竜人であるチャルロスが凄い音と共に殴り飛ばされていた。

 

 

「悪いお前ら……

コイツ殴ったら海軍の“大将”が軍艦引っ張って来んだって」

 

数秒、世界が止まったかのように静まり返った。

そして起こった事をやっと周りの人間が理解すると同時に、チャルロスと同じ天竜人が怒りを露にしながら銃を乱射したことでオークション会場は大混乱に陥った。

 

だが、麦わらの一味はルフィの行動に満足そうに小さく笑みを溢した。

その勢いのままサンジは銃を乱射する天竜人を蹴り、ゾロと共に衛兵達を簡単に()していく。

 

会場にいた人間達はどんどん逃げ出して行き、麦わらの一味の残りのメンバーが屋根を壊しながら参戦して来たためオークション会場は混沌と化した。

 

大混乱を極める会場の中でも勢い付いていく麦わらの一味だったが、いつの間にか舞台の上に1人の天竜人が上がりケイミーへ銃を突き付けていた。

 

絶対絶命のピンチに麦わらの一味がそれぞれ動こうとした時だった。

 

 

ROOM(ルーム)”……“シャンブルズ”

 

会場にいた人間達が舞台からケイミーが一瞬で消えた事に困惑した直後、後から嬉しそうな声がこだまする。

 

 

は…はっちん!!良"か"った"あ"~~~!!

死んじゃったかと思ったよぉ~~!!!

 

「ニュ~~…

け、ケイミー静かにってレオヴァさんに言われたのに!」

 

何故か無傷なハチに抱き付いてケイミーは安堵の涙を流している事に麦わらの一味が目を見開く。

 

 

えぇ~~!?どうなってんだ!?

 ハチ無事なのか~~!?

 

そう叫ぶルフィを気にせずにレオヴァはケイミーの首輪に手をかけた。

突然の事に困惑しながらも、首輪が爆発してしまっては不味いとナミが声をあげる。

 

 

「ちょっと待って…!!その首輪は…!」

 

ナミが言い終わるよりも早く、爆発音が会場に響いた。

 

唖然とする一味だったが、煙が晴れたそこには何事もなくケイミー達がいる。

 

何がなんだか分からずに大きく目を見開いたままの麦わらの一味を余所にレオヴァが口を開く。

 

 

「すまないが、もうすぐここは爆発する予定なんだ。

そろそろ解散してもらっても構わないか?」

 

「爆発…?」

 

何を言ってるのかと言うような顔でレオヴァを見るサンジ達へ言葉を続ける。

 

 

「元々、おれはこの場所を潰す為に来たんだ。

本来は奴隷を全員買い取ってから爆発させる予定だったんだが……まぁ、この際それはいいか。

海賊らしく破壊していくことにした。」

 

「レオヴァの用事って人間(ヒューマン)オークションを潰すことだったのかよ…

相変わらず無茶苦茶やってんな。」

 

少し笑いつつも呆れたような顔で言うサンジにレオヴァは心外そうな顔をして口を開く。

 

 

「サンジ……お前の所の船長の方が無茶苦茶やってると思うが?」

 

「「「……ひ、否定できない」」」

 

サンジとナミとウソップの声が思わず揃う。

一瞬、気が抜けていた三人に衛兵達が襲い掛かろうとした時、舞台を仕切る壁代わりの布がビリビリと大きな音を立てながら破けた。

 

今度はなんだと衛兵達がそちらを振り向くと、巨人と老人が舞台の奥から現れた。

この場にいる全員の注目を浴びている老人は呑気に呟く。

 

 

「ん?

何だ、ちょっと注目を浴びたか。」

 

ゆったりとした老人とは真逆に衛兵達が商品が脱走したと騒ぎ、更には巨人なんか止められないと動揺し始めた。

 

一方で狼狽える衛兵達を気にする素振りもなく老人は辺りを見渡し、ある人物を見つけると嬉しそうな顔をして口を開いた。

 

 

「おお!?

ハチじゃないか!?そうだな!!?久しぶりだ。

何しとるこんな所で!!」

 

大きな声で問いかけた老人だったが、周りを見て何かを察したのか言葉を続ける。

 

 

「あ~…いやいや言わんでいいぞ。

……ふむ………ふむふむ……成る程。

…まったく、酷い目にあったなハチ。

どうやら、君たちが助けてくれたようだな。」

 

老人は優しい声で言うと、ふぅと息を吐きまた小さく呟いた。

 

 

「──さて…」

 

そう言うと同時に老人から凄まじい威圧感が放たれ、バタバタと衛兵達が倒れていく。

 

 

「え……え!?

何で!?何した今!?」

 

「何だこのじいさん…!!」

 

「………!!」

 

あまりの威圧感にルフィ達がうっすらと汗をかいていると老人が徐に言葉を紡いだ。

 

 

「その麦わら帽子(・・・・・)は……精悍(せいかん)な男によく似合う……!!

会いたかったぞ、モンキー・D・ルフィ。

そして……百獣海賊団総督補佐官レオヴァ。

 

真っ直ぐとルフィとレオヴァを見据える老人を見て、サンジやゾロ達はルフィに知り合いかと問う。

 

 

「おれ知らねェって、本当に!!」

 

ブンブンと首を横に振るルフィに仲間達も困惑が隠せずにいるとレオヴァが口を開く。

 

 

“冥王”シルバーズ・レイリー…!

伝説はいくつも聞いていたが……」

 

「めいおう…?」

 

レオヴァの言葉にルフィが首をかしげていると、レイリーが軽く眉を下げながら口を開いた。

 

 

「この島ではコーティング屋の“レイさん”で通ってる。

下手にその名を呼んでくれるな。

もはや老兵……平穏に暮らしたいのだよ。」

 

 

「それはすまない…

で、“レイさん”はハチと知り合いなのか?」

 

「「「いや、フレンドリーかよっ!!」」」

 

思わず突っ込みを入れたウソップとゾロとナミにレオヴァは首を傾げつつ答える。

 

 

「本人にそう呼んで欲しいと言われたからそうしただけだったんだが……

相手にも事情や立場があるだろう?」

 

「相変わらず真面目っつーかズレてるっつーか…」

 

呆れ顔で呟くサンジの正面で、思わずと言ったようにレイリーが笑う。

 

 

はっはっはっはっ…!

噂通り面白い男だな、百獣海賊団総督補佐官くん!

実は前々からぜひキミにも会いたいと思っていたのだよ。」

 

「ありがとう。

しかし、その呼び名は長いからな……レオヴァでかまわない。」

 

「そうか、ではレオヴァくんと呼ばせてもらうとしよう。

……だが、せっかく会いたかった2人に会えたと言うのに、どうやら時間がないようだな。

話は後にして、まずはここを抜けねば…」

 

レイリーの言葉尻に被せるように外からの呼び掛けが響く。

 

 

犯人は速やかにロズワード一家を解放しなさい!!

直、“大将”が到着する。

早々に降伏する事をすすめる!!どうなっても知らんぞ!!!百獣海賊団に、ルーキー共!!

 

スピーカーからの音声が終わるとレイリーがまた口を開いた。

 

 

「あー…私はさっきの様な“力”はもう使わんのでキミらで頼むぞ。

海軍に正体がバレては住みづらい。

まぁ、キミらならば問題なさそうだが。

私はハチや奴隷にされそうだった彼らを連れて先に行かせてもらうよ。」

 

ニコリとルフィとレオヴァ達に笑いかけるとレイリーは何人もの人達を連れて行ってしまった。

 

すると、一部始終を壁によりかかって眺めていたキッドが出口へ向かって動き出す。

 

 

「もののついでだ。

面白ェもんも見れたし、お前ら助けてやるよ!

表の掃除はしといてやるから安心しな。」

 

ヒラヒラと手を振りながら外へと歩いて行くキッドの方へ、むっとした表情でルフィが飛び出して行く。

 

 

「……レオヴァさんは座っててくれ、すぐに片付けてくる。」

 

「あぁ、任せたぞロー。

おれは本来の目的に取り掛かからせてもらう。」

 

ルフィとキッドの背を睨み付けながら立ち上がったローをレオヴァはクスりと笑いながら見送った。

 

 

「海軍大将……今、シャボンディ諸島に近いのは黄猿だけだな。」

 

そう呟いたレオヴァは懐から電伝虫を取り出し、連絡を取り始めたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

───ほぼ同時刻の聖地マリージョアにて。

 

 

険しい表情で頭を抱えているセンゴクが唸るような声を出していた。

 

 

「……また百獣海賊団と…あの小僧か……!!

次から次へと……!」

 

忌々しげに呟くセンゴクに、報告に来ていた部下が続ける。

 

 

「情報では“百獣海賊団”と“麦わらの一味”に加え、海賊ユースタス・キッドと仲間数名。

さらに現在シャボンディ諸島内に賞金首は10名以上、億超えも多数確認されているとのことです!

主犯格は当然“天竜人”に危害を加えたモンキー・D・ルフィと、奴隷解放に動いた百獣の息子レオヴァと見られています。

人間屋(ヒューマンショップ)”……あっ……いや、“職業安定所”の衛兵達とも連絡が断たれており…

おそらく全員やられてしまっているのではと……

とにかく、天竜人を人質にとった前代未聞の凶悪事件と判断しております!」

 

苦虫を噛み潰したような顔で報告を終えた部下にセンゴクが間髪入れずに問う。

 

 

「──何か奴らから要求はあるのか?」

 

「いえ、今の所は……!!」

 

この最悪の事態に低く唸るセンゴクの姿を見て、ソファーに座っていた黄猿ことボルサリーノが声をあげた。

 

 

「何がどうであれ世界貴族に手を出されて我々が動かん訳にはいかんでしょう~…センゴクさん。」

 

「黄猿……」

 

「わっしが出ましょう。

それに“ベガパンク(・・・・・)”が造ったパシフィスタ(・・・・・・)の性能を知らしめるのに持ってこいの場面でしょうよ~?」

 

ボルサリーノの口から出たパシフィスタと言う単語にセンゴクは一瞬難しい顔をしたが、ゆっくりと頷いた。

 

 

「確かに、一理ある…

この後に控えた戦争の件もあるんだ、頼んだぞ。」

 

「えぇ~。すぐに戻りますんで……まぁ、ご安心なすって。」

 

そう言ってボルサリーノはシャボンディ諸島に向かうべく進み始めた。

 

そして、電伝虫にて指示を出す。

 

 

「もしも~~し、聞こえてるか~い?

今回はあっしが出るよぉ~。

パシフィスタも持って行こうと思うんだけど……そうだねぇ~2体でいいよ~。

この後の戦争で使うからほとんど、あっちに送られてるみたいだしねぇ~…

すぐに行くから、それまで頼むよ~~?」

 

ボルサリーノは電伝虫からの返事を聞くと、軍艦へ向けて光になって消えていったのだった。

 

 

 

 




ー補足ー

・人間オークション会場
数年前にドフラミンゴが捨て、他の貴族の経営になっている。
レオヴァはここを潰す為に来ていた。
理由はこの場所が前にワノ国の人間を売ろうとしていたので記録など諸々を抹消する為。
(実際にはワノ国の人間は売り飛ばされる前にレオヴァが交渉して買い取っている)

ベガパンク(?):遺体はレオヴァが管理しているはず…
ならば黄猿の言っているベガパンクとは…?

ハチ:ジンベエとも仲が良く、魚人街を豊かにしてくれたレオヴァの事を恩人と呼び慕っている
今作ではレオヴァの指示によってローがRoomで助けたので大きな怪我はない

アーロン:ハチや魚人街の人々経由でレオヴァとは知り合っている
人間は下等種族!という思想は持っていだがレオヴァは“鬼”だと言い、魚人と同じく優れた“種族”だと発言している
口には出さないが大切な魚人街の奴らを助けてくれた事で多少信頼を置いていた
(同じ魚人達への情は厚い男)

ルフィ:相変わらず考えなしだが、数ヵ月前より何十倍も強い
レオヴァがケイミーの首輪を取ってくれたので「やっぱり、レオヴァいい奴だ!」となっている

ロビン:“レオヴァ”という名前に少し思う所があるがあるが、同姓同名だろうと思うことにした

ナミ:レオヴァと初遭遇だが、昔にハチ達が話していた内容は本人は忘れているようだ

レイリー:ルフィに会いたかった理由とレオヴァに会いたかった理由には大きな違いがある
今の“時代”に手を出す気はないようだが、果たして…

ディスコ:今回の騒動で確実に全てを失う男
ドフラミンゴから見限られていた時点で死亡フラグ確定演出だったが、気付かずに今日まで仕事を続けた

キッド&キラー:相変わらずレオヴァの財力どうなってんだ?と呆れたように競り合いを後から眺めてた
実は伝説の男“冥王”に会えてテンションあがっている

フランキー:レオヴァを少し警戒している
こいつ、ウォーターセブンであいつと…?

レオヴァ:本当はオークション終了と同時に奴隷を解放して、会場を爆発させる予定だった
そして瓦礫の下敷きになった天竜人を一匹ほど拐って行こうと謀っていたが、果たして天竜人を持って帰れるのか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シャボンディからの脱出

「い、一体どうなってるんだ…!?」

 

「駄目だ…!!奴らに迫撃砲はきかない!!

三人共…能力者だ…!!!」

 

そう叫ぶ海軍の前衛は三人の億越えの賞金首達によって完全に崩壊させられている。

 

ほんの少しの間に陣形も士気も崩された海軍が唇を噛んでいる間にオークション会場から一味が現れ、現場は大乱闘状態と化した。

 

 

「行くぞ、お前らァ!!」

 

前線を崩壊させた内の1人であるキャプテン・キッドの掛け声でキッド海賊団が道を阻む海兵達をなぎ払って行く。

 

ローが前進を始めたキッド海賊団を横目に入れていると、正面の数十人の海兵が一瞬で雷の餌食となる。

 

 

「な、な、なんで雷が…!?」

 

「今は晴天だぞッ…!?」

 

混乱する海兵達など気にせずにローは雷を落とした張本人を振り返った。

 

 

「レオヴァさん、もう例の用は済んだのか?」

 

「あぁ、この袋に入れてある。

おれはホーキンスとドリィを迎えに行くから、コレを持って先に船で待機していてくれ。」

 

満足げなレオヴァから袋を受け取るとローは頷いた。

 

 

「わかった。

コレは船で解体して、先に帰還する奴らにワノ国に持って帰らせるんだよな?」

 

「そうだ。

この後に一番重要な仕事(・・・・・・・)があるからな…

死なれたら回収した意味がなくなるだろう?

…運び(にく)いなら、今解体しても良い。

生きた状態で船に運んでくれ。」

 

「了解。

適当にバラして運ぶことにする。

……ベポ、行くぞ…!!」 

 

「アイアイ~!キャプテン!

じゃあ、レオヴァさま!おれ達船で待ってるね!」

 

「すぐに戻る、頼んだぞ。」

 

「うん!任せてよ!!」

 

指示を受けたローとベポは海兵を振り払うように走り出した。

 

レオヴァは飛び交う銃弾を気にすることもなく、先ほど流れで解放した奴隷に声をかける。

 

 

「…で、海賊キャプテン・ジャンバール。

どうだ、おれと来るか?」

 

その問いにジャンバールは周りの海兵を大きな拳で潰しながら答える。

 

 

「もちろんだ!!

天竜人から解放されるなら、喜んでアンタの部下になろう!!!」

 

ジャンバールの答えを聞いてレオヴァは嬉しそうに笑うと、ローとベポの背を指さした。

 

 

「なら、さっそくで悪いが…初仕事だジャンバール。

ローとベポ……あの2人について行き、さっきおれが回収したアレを無事船まで運んでくれ。」

 

「あんなのを回収した意味は分からねぇが……まぁ、任せてくれ。

あの2人の道を塞ぐ奴らをなぎ払えば良いんだろ?」

 

「いい返事だ……2人を頼むぞ。」

 

「あぁ…!

解放してもらった恩は返す!!」

 

そう言うとジャンバールは大きな音を立てながらローとベポの下へ向けて走り出す。

 

それを止めようと動く海兵達だが、ジャンバールの巨体はそれをものともせずに進んで行った。

レオヴァはジャンバールにロー達に追い付く勢いがあることを確信する。

そして目線を横に移し麦わらの一味を目の端に捉えると、彼らも海兵達に押し負けることなく、しっかりと退路を確保していた。 

 

 

そんな大乱戦の中で息の合った連携を見せながら走っている一味だったが、突然ルフィがレオヴァの方を振り向いて叫んだ。

 

 

「お~~い、ツノ()~~!!

ケイミーを助けてくれてありがとう…!!!」

 

後ろ向きに走りながら手を振ってくるルフィにレオヴァはニッコリと表情を作って返す。

 

 

「気にするな…!!

それよりも今は仲間を守ることを考えた方がいい!」

 

「おう…!わかった!!

またな~~!!!」

 

元気よく手を振るとルフィは仲間達と共にどんどん遠くへと走って行く。

 

そんな海賊達がいなくなった広場に1人残ったレオヴァへ海兵達が目標を定め、一斉砲撃をしようとした瞬間だった。

 

ドガァッン…!!

という爆発音が鳴り響き、オークション会場が吹き飛んだのだ。

 

唖然とする海兵達にレオヴァの声が届く。

 

 

「天竜人を助けに来たんだろう?

おれ達に構っていないで、瓦礫の下敷きになっているかもしれない天竜人を捜索することを勧めるが。」

 

告げられた言葉を受け、ハッとしたように海兵をまとめている男が指示を出す。

 

 

ろ、ロズワード一家の捜索にかかれ…!!

事は一刻を争うぞ!!!」

 

顔を真っ青にしながら崩れたオークション会場へ向かって走り出した海兵達が必死に瓦礫を掻き分けている姿を後目(しりめ)に、レオヴァは腕を翼に変えた。

 

そして空へ舞うと、小さな火の玉を数個作り出す。

 

 

その火の玉はレオヴァの翼の風圧で瓦礫の方へふわふわと舞って行った。

レオヴァはその火の玉が着地するのを見届けずに、ドレークの気配がする方へ空を進んで行く。

 

 

小さな火の玉たちはそっと瓦礫へと降り注いだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

オークション会場から船へと向かっていたロー達は追手を振り切るべく、橋を壊すことに成功していた。

 

 

「橋を壊すのはいい判断だな。」

 

そう言ってニッと笑うローにジャンバールが軽く頷いて答えていると、追手がある程度撒けたことで余裕を見せ始めたベポが横につき、口をひらいた。

 

 

「なぁ、名前なんて言うの?」

 

「ジャンバールだ。」

 

「そっか、よろしく!

あとお前新入りだから、おれの下ね!」

 

「奴隷でなきゃなんでもいい…」

 

気の抜けた会話をしていたベポとジャンバールだったが、いち早く何かに気付きベポが声を上げる。

 

 

キャプテン、アレ…!!

 

ベポの緊張感のある声にローがそちらを見て、少し目を見開いた。

 

 

「……!?

ユースタス屋と……アレは…!!」

 

ロー達がそのまま走って行くと、七武海バーソロミュー・クマの様な男(・・・・・・・・・・・・・・)がキッド達と戦闘を繰り広げている。

 

 

「トラファルガー・ロー……」

 

七武海と思われる男がローを視界に捉えながら呟いた。

 

自分を前にしながらローへ目線を向けた目の前の男にキッドが苛立ったように叫ぶ。

 

 

「手当たり次第かコイツ!!

トラファルガー、てめぇ邪魔だぞ。」

 

「消されたいのか?

命令するなと言った筈だ。

……それにコイツとはやりあって情報を得る必要がある。」

 

「チッ……てめぇ、足引っ張んなよ…!!

 

「…こっちの台詞だ。」

 

キッドとローが同時に構えると七武海と思われる男の口から光線が放たれる。

 

2人はそれを危なげなく躱すと、各々攻撃を始めた。

 

そしてローとキッドに続くようにキラー達とベポ達も光線を放つバーソロミュー・クマのような男へ向かって行くのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

───シャボンディ諸島のある広間にて。

 

 

懸念通り現れた大将と七武海バーソロミュー・クマの様な男(・・・・・・・・・・・・・・)に挟まれる形で海賊達が死闘を繰り広げていた。

 

 

 

そんな中先ほどまで満身創痍に見えたウルージが突然巨大化し、物凄いパワーで七武海であるクマの様な男を吹き飛ばす。

 

その光景を見たホーキンスは驚いた表情で呟いた。

 

 

「今の今までくたばり損ないだった男が……巨大化した上にこの(パワー)……能力者なのか?」

 

そう呟くホーキンスはウルージの正体を計りかねていた。

 

しかし、ウルージの強烈な一撃を受け、崩れた建物の方向から急に光線が放たれた。

 

 

「ぐわァ!!()つ…!」

 

肩に風穴が空き、ドサリと倒れ込んだウルージを見下ろすように砂埃から現れたクマのような男はピンピンしているように見える。

 

 

一方、今までの一連の状況を見ていたドレークは冷静にクマのような男をじっと見据えていた。

 

 

「(あれがレオヴァさんの言っていた平和主義者(パシフィスタ)…!

レーザー光線の設置も成功しているようだな……)」

 

考え事を終えるとドレークはクマのような男、パシフィスタ(・・・・・・)に向かって走り出した。

 

ウルージに追撃を与えようとしていたパシフィスタだったが、その突撃に気付いたのか左手をドレークに向ける。

 

 

その頃、この光景を建物の上から見物していたアプーが面白そうだと声を上げていた。

 

 

「うっは!!

コリャまた面白ェ展開になってきたじゃねぇか…!

百獣海賊団幹部VS七武海…!!

だが、黄猿もいるとあっちゃ…ちょいとアンフェアすぎるかァ?」

 

「ちょ、アプーさん!

冗談抜きにそろそろ逃げねぇと…!!」

 

焦ったアプーの部下が叫ぶのと、それは同時だった。

 

 

「おぉ…!!」

 

ウルージの感心したような声が上がると、パシフィスタの左手がボタッと地面に落ちたのだ。

斬られた左手首からは赤い液体がポタポタと草の上に垂れている。

 

 

「ほォ……貴様にも赤い血が通っているとは驚いた!」

 

パシフィスタとの戦闘でも少しの余裕を覗かせるドレークの姿にウルージは感心したように笑う。

 

 

「流石はあの百獣海賊団の幹部と言った所か…!」

 

しかし、その一瞬の隙にウルージの背後に回っていた黄猿ことボルサリーノが口を開いた。

 

 

「わっしもいると言ったハズだよォ~…」

 

振り返るよりも早くボルサリーノの重い蹴りが横腹を貫き、その一撃でウルージは幾つもの建物を突き抜けて行ってしまう。

 

すると側にいたホーキンスの体を藁が覆っていき、怪物のような姿でボルサリーノに攻撃をしかけた。

 

 

「どいつもこいつも…“億”を越える様な輩は化け物じみていてコワイね~……」

 

「ッ……グ…!」

 

そう言いながらホーキンスの攻撃をさらっと躱し、何発もの光線を浴びせる黄猿からは余裕が伺える。

 

 

「ホーキンス…!!

それ以上は攻撃を受けすぎだ!」

 

叫びながら助けに入ろうとするドレークの耳に賑やかな音が届く。

 

 

届いてるかーー!? この音楽(ミュージック)

聞こえてたらステイチューン!! 海軍大将黄猿ゥ~!

 

建物の上から小気味の良い音を響かせるアプーを思わず一同は見上げた。

 

 

「あいつは……“海鳴り”」

 

そう呟くドレークの声がかき消される勢いで音楽は続く。

 

 

エッビバーリー!!聞いてけ“戦う音楽(ミュージック)”♪

スクラ~~~~ッチ!!“(シャーン)♪”

 

アプーの音楽と同時にボルサリーノの左腕が斬られたかのように飛んで行く。

さらに畳み掛けるようにアプーが長い腕で自分の胸を叩いた。

 

 

(ドーン)”♪

 

その音楽と同時に激しい爆発がボルサリーノを襲い、その体は地面に音を立てて倒れていく。

 

 

「アッパッパッパッパ!!

チェケラァ~~~~~~っ!!!

 

ビシッと楽しげにポーズを決めるとアプーは続ける。

 

 

「ま!こんなもんでやられてちゃ海軍本部“最高戦力”とは呼ばれねェだろうがなっ!!

面白ェモンも見れたし、ほんじゃトンズラこくぜ!!あばよっ!!」

 

 

高笑いしながら建物の上をピョンピョンと走り去って行くアプーだったが、おもむろにボルサリーノは立ち上がり光が集まるようにして元の体に戻っていく。

 

 

「お~~~~……びっくりしたね~~…」

 

あれだけの爆発を受けてもなお、無傷なボルサリーノがそっと手で円を作る。

 

 

「“八咫鏡(やたのかがみ)”」

 

その声と共に一瞬でボルサリーノが消え、突然遠くにいたアプーの視界が(まばゆ)い光で遮られた。

 

次の瞬間、物凄い音と同時にアプーが真下へ蹴りおとされている。

 

あまりに一瞬の出来事で目を見開いていたドレークとホーキンスだったが、アプーを蹴りおとした筈のボルサリーノがまた視界から消えた。

 

そして、気付けば目の前に移動してきていたボルサリーノにドレークは防御が間に合わないことを悟る。

 

 

「しまった…!!」

 

 

ドレークが避ける間もなく、衝撃音が広間に響き渡った。

 

 

 

「おっかしいねェ~~…

今、そこの賞金首の頭を文字通り消し飛ばすつもりだったんだけど~……これ止められちゃうのは想定外だよ~~~~?」

 

ボルサリーノはサングラス越しにジロリと突然現れたレオヴァを凝視した。

 

レオヴァはボルサリーノの蹴りを同じく蹴りで弾き返し、ドレークとホーキンスの前に立つといつも通りの物腰柔らかな態度で答えた。

 

 

「これ以上、おれの大切な部下に手を出すのは止めてくれ。

ここからはおれが相手になる。」

 

言い終えると同時に黄猿を蹴り飛ばしたレオヴァは、こちらへレーザーを放とうとしてくるパシフィスタの首を造り出した槍で切り落とすと、そのままドレークとホーキンスに向き直り眉を下げながら声をかけた。

 

 

「迎えが遅くなって済まなかった。」

 

謝るレオヴァにドレークとホーキンスが申し訳なさげに答える。

 

 

「……もう少しストックを保てるよう立ち回れなかったおれのミスです…」

 

「大将相手とはいえ不甲斐ない姿を…!

すまない、レオヴァさん!!」

 

深刻そうな顔をする2人にレオヴァは小さく笑う。

 

 

「いや、大将相手に倒されずにこれだけ時間を稼げたのは凄いことだ。

ロー達には“アレ”を持たせて船に向かわせた。

ドレークとホーキンスも船へ戻って次の“本命の任務”の準備を進めていてくれ。」

 

「承知しました。」

 

「了解だ、レオヴァさん。」

 

ドレークとホーキンスは頷くと即座に船に向かって踵を返した。

 

 

「億越の賞金首を逃がす訳にはいかんでしょ~~…」

 

いつの間にかドレークとホーキンスの正面に回っていたボルサリーノに2人は驚きに目を見開いたが、レオヴァの振り下ろした刀によってボルサリーノは後退を余儀なくされる。

 

ドレークとホーキンスはボルサリーノを抑えるレオヴァの背を見ると、そのまま指示通り船への帰路を走り出した。

 

 

「“天叢雲剣(あまのむらくも)”」

 

ボルサリーノは光で剣を造り出し、レオヴァの刀を受け止める。

 

 

「フー……困ったねェ~~

百獣のカイドウの息子は病弱で指揮しか取れないって話じゃなかったか~い…?

う~ん…ルーキーと数名の若い幹部を捕える簡単な仕事だった筈なんだけどね~……」

 

「おれは1度も自分で病弱だと宣言したことはない。

それとウチの幹部を簡単に捕えられると思っていたなら……それは楽観視がすぎるな。」

 

会話しながらも戦闘を続ける2人の周りの建物や木はどんどん無残な形へと変わり、街が廃墟と見紛う姿になり始めていた。

 

そしてボルサリーノの斬撃と光線をレオヴァが易々と往なし、反撃の為に一歩踏み込んだ時だった。

 

 

ガキィッン…!

と鋭い音と共にレオヴァとボルサリーノの攻撃が止められる。

 

2人の間に割って入って来た男、レイリーが男らしい笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 

「そこまでにしないか、2人とも。

このままキミらが戦闘を続けてはシャボンディ諸島がめちゃくちゃになってしまう。

…ここは私の顔を立てて剣を収めてはくれないかね?」

 

涼しい顔で攻撃を受け止めているレイリーにボルサリーノが驚いた表情を浮かべた。

 

 

「あんたがこの島にいる事は度々耳にしていたけどねぇ……本当だったんだねぇ~~」  

 

ボルサリーノはすっと少し距離を取ると、悩むような仕草のあとに言葉を続けた。

 

 

「わっしとしても……ここでレイリーさんと情報とは違う(・・・・・・)カイドウの息子相手にするのは避けたいけど…

報告では病気がちで指揮のみの存在だと聞いていたのに、実物は親と同じで怪物じみているし……本当に困ったねェ~~…」

 

ポリポリと頭をかくボルサリーノにレイリーが笑顔で話しかける。

 

 

「私もレオヴァくんの噂以上の実力には驚かされたよ!

……だが、この場所でまだ戦闘を続けると言うのなら

私はレオヴァくんとの共闘もやぶさかではないがね。」

 

レイリーはボルサリーノからレオヴァに目線を向けてニッと笑った。

 

レオヴァは少し困った顔で笑いつつ言葉を繋げる。

 

 

「冥…“レイさん”が言うなら協力しよう。

おれは大切な部下達さえ無事に連れ帰れればいい。」

 

「……と、いう訳だが…

どうするかね、黄猿くん。」

 

ニッコリと笑顔で問うレイリーにボルサリーノは肩をすくめる。

 

 

「まったく、腐っても海賊って訳なのかいレイリーさん…!

今回の事件、百獣海賊団と麦わらの一味が主犯だと報告が上がってるんだけどね~~…

………んー、まぁ~…“百獣海賊団”からは一旦手を引くとするよ~~…」

 

そう宣言するとボルサリーノは光になって一瞬で消えて行き、その場にはレイリーとレオヴァだけが残った。

 

 

「……黄猿が居なくなったのなら、おれは船に戻らせてもらう。」

 

踵を返そうとしたレオヴァにレイリーが声をかける。

 

 

「ここに来る前、少しルフィくん達と話をしてきたよ。」

 

突拍子もない会話を降られたレオヴァは足を止め、それを見てレイリーは話を続ける。

 

 

「彼もまた“海賊王”を目指しているそうだ。

……まっすぐで、どこまでも自由な男だと私は感じた。」

 

優しく目を細めるレイリーへレオヴァが振り返った。

レイリーはそのレオヴァの目を真っ直ぐ見ながら言葉を続ける。

 

 

「ルフィくんは“自由”を体現したような男で、どこまでも自信に満ち溢れていた。

レオヴァくん……キミの立ち振舞いからはルフィくんとは少し違うが、確かに揺るぎない自信を感じる。

……だが、いまいちキミは分からないな。

大将相手にも引けをとらない圧倒的な力を持っていながら、自らが(・・・)他を支配しようという欲を感じない。

かと言って、自由……とは違うようにも思う。

ルフィくんとは違う意味で、私はキミを注目しているんだ。

レオヴァくん、一体キミは何処を目指しているのかね?」

 

こちらを見据えるレイリーにレオヴァは少し困ったように眉を下げた。

 

 

「……質問の真意を計りかねるな…

何故、おれに注目しているのかも疑問だ。」

 

「うむ…あまり深い意味などないのだがね…

ただ実力と正体をおぼろげにしていた(・・・・・・・・・)キミの情報が何故ここ最近で一気に出回ったのか……まるで情報を隠蔽しているのかと思う程に少し前まではキミの情報は噂程度のものしかなかったというのにだ。

謎多い男は魅力的だがレオヴァくん、キミの情報の少なさは異質に感じる。」

 

全てを見透かすような瞳で、いまだ此方を見据えるレイリーにレオヴァは少し目を細める。

 

 

「確かに、一理ある。

おれの情報が少なかったのは事実だ。

しかし、情報が少ない事とおれに注目することは別の話じゃないか?

世の中、話題にもならず情報も少ない者の方が多いと思うが…」

 

尤もなレオヴァの言葉にレイリーは笑ってみせる。

 

 

「はははは!

レオヴァくんの言う通りだな。

この広い世界では情報が多い者の方が少ないのは確かだ。

だが、そうだな…ならばキミに注目する理由を何と言えばいいか……」

 

少し考えるような素振りをみせたレイリーだったが、すぐにまた言葉を紡ぐ。

 

 

「勘…そう、年寄りの勘というヤツさ。

こう長く生きているとピンとくるものがあるものでね。

キミの“ある噂”を聞いた時に感じるものがあって、それからずっと注目していたのだよ。

けれど、なかなか情報が得られなくてな。

それでキミの情報の少なさに小さな違和感を感じいて、先のような話をふってしまったんだ。

不快にさせたのなら、謝ろう……すまなかったね。」

 

「いや、謝ってもらうようなことじゃない。

おれも少し意地が悪かった…奴隷になりそうだった彼らを誘導してくれた恩ある相手に対する態度ではないな……申し訳ない。」

 

真摯な対応で返して来たレオヴァを一瞬推し量るような目で見たあと、レイリーは心なしか申し訳なさげに眉を下げてみせる。

 

 

「いやはや、まったく噂通りだ。

突然、踏み込んでしまって悪かったね。

キミの目指す場所……目標が気になってしまって遠慮を忘れていたようだよ。」

 

そう小さく呟き一呼吸おくレイリーにレオヴァは口を開いた。

 

 

「……おれの目標が知りたいと言うなら、オークション会場での件もある。

しかし、聞いて面白いものでもないと思うが……」

 

遠慮がちに言うレオヴァにレイリーは小さく目を見開く。

 

 

「レオヴァくんが良いのなら、ぜひ聞かせて欲しいな…!」

 

またレオヴァの目を正面から見据えながら聞きたいと言うレイリーの為におもむろに言葉を紡いだ。

 

 

「……一言で表すなら…親孝行だ。」

 

「…親孝行?」

 

少し驚いた表情のまま、おうむ返しで聞いてきたレイリーにレオヴァは頷く。

 

 

「そうだ。

育ててくれた父さんに恩を返したい。

おれは笑ってる父さんが特に好きなんだ。」

 

きっぱりと言い放ったレオヴァの瞳をまじまじと見つめ、レイリーは困ったように笑った。

 

 

「……まったく、キミを知ろうと思って1度此方へ来たんだが…

まさか更に分からなくなるとは思わなかったよ……」

 

肩をすくめながら言うレイリーにレオヴァが少し不満そうな顔をする。

 

 

「聞かれたから答えたと言うのに、そんな反応をされても困る…」

 

「はっはっはっ!

それもそうだな、悪かった!」

 

思いの外素直なレオヴァの表情にレイリーは笑った。

 

その反応にレオヴァが少し文句でも言おうかと口を開いて、ハッした表情で話題を変える。

 

 

「冥お……“レイさん”、どうやら黄猿は麦わらのルフィ達の所に行ったようだが…?」

 

「レイさん呼びが言いづらいなら別に無理はしなくて良いぞ?

……っと、そのようだな。

先ほどの戦闘を見るにレオヴァくんは武装色が得意だと思っていたんだが、見聞色もずいぶんと鍛えているようだ。

話の続きはまた今度にしようか!百獣製の酒は美味いと聞いているよ…?

では、私はルフィくん達を少し手伝いに行くとする!」

 

次が楽しみだなと、言い残しレイリーは一瞬でその場を後にした。

 

ほぼ一方的に話すだけ話して去っていったレイリーに小さく溜め息をつくとレオヴァは今度こそ船へ戻るべく踵を返したのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

不本意ながらもキッド海賊団と共闘しパシフィスタを破壊したロー達は無事船にたどり着いた。

 

その後、すぐローはベポとジャンバールに甲板で見張りをするように指示を出し、船の一番奥にある倉庫へと来ていた。

 

 

ドサリとレオヴァから預かった袋を台の上に置き1つずつ中身を取り出し、台の下にある箱へ移していく。

袋の中身はバラバラになった人間だが、どうやらローの能力らしくしっかりと息がある。

 

頭以外の部位を箱に入れ終わり、ローが施術用の針を取り出した時、コンコン…と控えめなノックの音が聞こえた。

 

ローは扉の前にいる男の気配を察知して振り向きもせずに答える。 

 

 

「…鍵は開いてる。」

 

返事を聞くとスッと扉が開き、ドレークが部屋の中へと入ってきた。

 

 

「レオヴァさんから預かったアレは無事か?」

 

台の方へ歩みを進めながら聞いてくるドレークにローは当たり前だというように首だけになったソレを持ち上げて見せた。

 

生首状態のソレが息をしている事を確認するとドレークは口を開く。

 

 

「相変わらず、生き物を解体して持ち運べる能力は便利だな…」

 

「まぁな。

…だが、天竜人を解体して持ち運ぶ日が来るのは予想外だった。」

 

ローの言葉に小さくドレークは笑う。

 

 

「フッ…そりゃ誰だって予想出来ないだろう。

……で、ソレの名前はなんだ?

生きたまま箱詰めするならラベルを貼らないとだろう?」

 

「確か……ロズワード聖、とレオヴァさんが言ってたな。」

 

「なるほど、ならラベルはT・R01だな…!」

 

どや顔で言うドレークにローは呆れ顔で返す。

 

 

「…お前……そうやって暗号みたいにするの好きだよな…」

 

「うっ……お前も薬に色んな記号を付けているだろう。

そ、それと同じだ!」

 

「それは研究用と医療用にレオヴァさんとクイーンも分かるように統一した記号だ。」

 

「そうだったのか…?

てっきりカッコいいからかと……」

 

「お前……」

 

ローは嘘だろ?と言うような表情でドレークを見やった。

 

ドレークはそのローの目線に堪えられなくなったのか、軽く咳払いをすると話題を変えるべく口を開く。

 

 

「ンンッ……そ、そんなことより!

パシフィスタとは戦闘したか?」

 

話題をすり替えたドレークにローは溜め息を吐きつつ、答えを返す。

 

 

「あぁ、ユースタス屋のせいで詳細なデータを取る間もなかったが…一応な。」

 

「そうか…

おれもホーキンスと共にデータを取るべく対峙したんだが、大将黄猿の襲来で詳しいデータは取れなかった…」

 

大きく肩を落とすドレークにある怪我を見て、ローは納得したような顔をする。

 

 

「珍しく怪我してるなとは思ったが、大将と鉢合わせたのか。

まぁ…少しの情報しか手に入らなかったとは言え、パシフィスタの構想(・・・・・・・・・)はレオヴァさんなんだ。

そこまで神経質になる必要もねぇだろ。」

 

「…確かにそうだな。

海軍の開発できる兵器の大半をレオヴァさんがコントロール出来ている現状があるのは事実……少し気負いすぎだったか。

今回パシフィスタのデータはあまり取れなかったが、もうすぐ起こる戦争で好きなだけ記録は取れるしな。」

 

「……ドレーク、また自称弟子からの情報か?」

 

「…あまり嫌な顔をしてやるな、コビーからの情報も役には立ってるだろう。

“別の案件”を任されているから今回の戦争には出られないそうだが、情報は握っていたようでな。」

 

「へぇ……まぁ一応使える奴ではあるみてぇだな。

レオヴァさんが生かしておいてる時点で利用価値があるのは分かってたが…」

 

ローの言葉にドレークは苦笑いし、話を続けようと口を開いた時だった。

 

 

~~っ!!?

な、なんだえ!?これはどうなって……!!

 

首だけになっていたロズワード聖が目を覚まし、騒ぎだしたのだ。

 

ローは思い出したかのように施術用の針を再度手に取った。

 

 

「口を縫い合わせる所だったのを忘れてた。」

 

「ぬ、ぬい……合わせる?

何、を……く…来るな!!近づくんじゃないえ…!!!

そんっ、そんな事してただで済むと…」

 

喚きたてるロズワード聖を気にせずにローは慣れた手付きで針に糸を付け、台の前に立つ。

 

 

「悪いが麻酔は使わない。

お前相手じゃ、薬の無駄遣いだからな。」

 

そう言ってローはロズワード聖の頭を抑え唇に針を刺していく。

 

尋常ではない叫び声に反応することなく、ローは淡々とした動作で唇を縫い合わせた。

 

そしてモゴモゴと何かを訴える頭を箱に投げ入れるとローはドレークを振り返った。

 

 

「なぁ…ドレーク、話は変わるが……

レオヴァさんがリスクを取ってコレを手に入れてまで調べたいって言うマリージョアには…一体何があるんだろうな?」

 

ニヤっとした顔で問いかけて来たローに、ドレークは少し考える素振りをみせた。

 

 

「……正直、まったく予想もつかん。

だが、レオヴァさんがそれを望むのなら…おれはそれを邪魔する奴らを排除するだけだ。」

 

キッパリと言い切ったドレークの言葉にローは笑うと同意するように口を開いた。

 

 

「だよな。

レオヴァさんがやるってんなら、おれもやる。

……邪魔する馬鹿共は切り捨てる。」

 

ローは縫合に使った針をゴミ箱に捨てると、箱にラベルを貼って出口へと歩きだした。

 

 

「行くぞ、ドレーク。

そろそろレオヴァさんも帰ってくる頃だ。」

 

「そうだな…!」

 

ローとドレークは重い扉を開き、甲板へと向かって行った。

重い扉で閉ざされた部屋に何重にも鍵をかけて。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

シャボンディ諸島から出航し、大空をゆったりと進む船に向かってキラキラと光る大きな鳥が向かってきていた。

 

その鳥は船の更に上まで飛んでくると、一瞬で人の姿になり甲板に着地する。

 

 

「レオヴァさま、おかえり~!」

 

「ただいま。」

 

飛び付いてくるベポを受け止め、船の中から出てきたローとドレークとホーキンスに目線を移す。

 

 

「ロー、箱詰めは終えたか?」

 

「さっき終えた所だ。

一応、口は閉じさせてあるから…あとは管を通せば持ち運びには問題ねェ。」

 

レオヴァはローの返事に満足げに頷く。

 

 

「よし、なら島に着いたら二手(ふたて)に分かれる。

ローとドレークはおれと共に捕まっている部下の救出へ。

ホーキンスはここにいる部下達全員を連れワノ国へ帰還して回収したアレを研究室に運び、おれが戻るまで監視してくれ。

…皆、今回のシャボンディでの任務はこれで完了だ。

予定通り進められたのは皆のおかげだ、ありがとう。」

 

その言葉に笑顔を浮かべる者や頭を軽く下げる者など各々の反応を返す。

 

レオヴァは締めの言葉を終え、真面目な顔からいつもの表情に戻るとパンッと軽く手を叩いた。

 

 

「じゃあ、島までは時間もあるし皆で茶でも飲んで一息つこうか!」

 

「いや、暢気(のんき)すぎるだろレオヴァさん…!!」

 

思わず声を上げたローをドレークが宥める。

 

 

「まぁ、島に着くまではやることもないんだ。

…おれは茶を用意してくる。」

 

「ドレーク……お前も悠長(ゆうちょう)なこと言いやがって…」

 

ムッとした表情をするローにホーキンスが口を挟む。

 

 

「時間はある、気を張り詰めすぎることもないだろう。

……お前はあの監獄に行くのは2度目と聞いているが…

それにレオヴァさんもいると言うのに、何を焦る必要があるんだ?」

 

「はぁ…ホーキンス、お前だいぶ変わったな。」

 

「……否定はしない。

ここに来てから少し価値観は変わったからな。」

 

話すホーキンスとローの背からレオヴァは声をかける。

 

 

「仕事熱心なのはローの良い所の1つだな。

しかし、メリハリも大切だぞ?

……と、いう訳でロー、甘くない塩味クッキーもあるしお茶にしよう。」

 

とても良い笑顔で懐からクッキーを取り出したレオヴァにローは悟ったような顔をする。

 

 

「……いつの間にクッキーなんて買ってたんだ…」

 

「ホーキンスと買い物に行ったんだ。」

 

「レオヴァさんは他にも幾つか菓子を買っていたぞ。」

 

「完全にレオヴァさんがその菓子試したいだけじゃねぇか!」

 

「流石はロー、おれの思惑がバレたか…

……だが、甘くないクッキーは珍しい(・・・)だろう?

ローも気に入るかもしれない!

そろそろドレークが茶を淹れ終わる頃だろうし、行くぞホーキンス。」

 

言い終わるとレオヴァはローの腕を掴んで船内へと歩き出した。

 

 

「ちょっ……レオヴァさん、おれ行くなんて…!」

 

腕を引かれて慌てるローをレオヴァは歩きながら首だけで振り返る。

 

 

「……じゃあ、一緒に茶をしないのか?」

 

「…………いや、まぁ飲むけど…」

 

ローの返事にレオヴァは嬉しそうに笑うと船の中の会議室へと歩みを進めるのだった。

 

 

 




ベガパンク(?):レオヴァが企てたシーザー引き入れの際に本人は確保された
このベガパンクの代役として送り込まれた人物はサイボーグであり、脳部分にも改造が施されている。
定期的にとある方法で脳のアップデートが行われることで、軍にて研究成果を出すことが可能に
本編でベガパンクが殺害されたと騒がれているシーンがなかったのは、政府が入れ替わりに気付いていない為(襲撃されたことは把握している)

シーザー:例の襲撃の際に政府からは死亡したと思われている為、手配書などは出ていない
今はワノ国で贅沢を満喫しており、少し太った

パシフィスタ:構想→レオヴァ、製造→ベガパンク(?)
作りや性能は原作とほぼ同じだが、所々で違うところがある
とある人造悪魔の実の能力者の力とレオヴァ渾身の研究成果を使い、本物のベガパンクの頭を覗くことで性能を原作に寄せることに成功
本来レオヴァの思い描いていた“パシフィスタ”とは別物になったが、結果原作通り七武海であるバーソロミュー・クマが犠牲になる

レオヴァ:昔からのクイーンの指導&知識欲のおかげでかなり優秀な脳を持っていたが、ベガパンクの頭を覗いたことで更に成長
しかし、全てを正しく理解出来ているとは限らない

クイーン:レオヴァとの共同研究と突拍子もないレオヴァの注文で科学者としての腕前が上がっており、専門分野以外のスキルも大幅レベルアップ
最近ではレオヴァの勧めで生物関係の研究も幅広く始めたことでウイルス兵器の強化も捗っている

ロズワード聖:体がバラバラになった状態で箱に入れられているが命に別状はなく、意識もある。
この後、ローによって栄養補給と排泄の為の管を入れられることを彼はまだ知らない…

ジャンバール:奴隷だったがレオヴァが首輪を壊したことで解放された
元々海賊だったという実績もありレオヴァに勧誘され、それを快諾
この後、レオヴァの指示によりローの直属の部下になる
ベポに弟分扱いされているが適当に合わせている辺り、彼はいい奴なのかもしれない


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再び巻き起こる脱獄事件

ー前書き ー
・パンサル(オリキャラ)
今回登場2回目、ベポの兄貴の友人であり
ベポの兄貴が出ていった後世話をしていたヒョウのミンク
“ゾウでの一件”からネコマムシと共にワノ国へ移住し、百獣海賊団の船員になった。




その場を支配する重い空気を前に、報告へ来ていた海兵はダラダラと冷や汗を流している。

 

そんな海兵からの報告を受けたセンゴクは仕事机の上で頭を抱え、忌々しそうな瞳で数枚の手配書を睨み付けた。

 

 

「天竜人に手を出されたというだけで、前代未聞だと言うのに…!

数日もの間2000人以上の人員を割いて捜索してもなお、その内の1人であるロズワード聖の行方(ゆくえ)が不明とは一体どういう事だ!!」

 

ドスッと机を拳で叩いたセンゴクの剣幕に完全に圧されながらも海兵はおずおずと口を開く。

 

 

「わ、我々が“人間屋(ヒューマンショップ)”……いや、“職業安定所”にお迎えに上がった時には既に完全に賊に制圧されており…

その後、謎の爆発によりオークション会場が倒壊。

そして突然の火災により全焼……なんとか天竜人である御二人の救出には成功し……様態は安定してはいるのですが、まだ目覚めておらず……ロズワード聖だけはどれだけ捜索してもご遺体すら見つかりません…」

 

項垂れる海兵にセンゴクは疑問を問いかける。

 

 

「これだけシャボンディ諸島を捜索しても見つからんと言うことは、連れ去られた可能性があるんじゃないのか?

その方面の捜索はどうなっている?」

 

「は、はい!

その元帥の仰っていた可能性についての捜索も同時並行で進めてはいたのですが……」

 

「…なんだ、まさかまた何か問題が起きたのか…?」

 

言い淀む海兵にセンゴクは勘弁してくれと言わんばかりに額を押さえた。

 

 

「いえ、その…問題という事ではなく……

そもそも目撃情報すらないのです。

もし、ロズワード聖が誘拐されているのならば麦わらの一味、キッド海賊団、百獣海賊団のどこかだと思いあらゆる方面から情報を集めたのですが……どの海賊団も逃亡中にロズワード聖と思われる人物を連れておらず…

この海賊団たちではないとすると……大将黄猿の報告にあった…“冥王”がやったと言うことに……なるかと……」

 

「……なに?冥王…シルバーズ・レイリーだと!?」

 

センゴクは驚愕に目を見開いたが、すぐに首を横に降った。

 

 

「いや、そんな…有り得ん!

あの“冥王”が何故、天竜人を連れていく!?

奴はとうの昔に隠居した身……今さら大きな事件を起こすなど考えにくい。

我々は重大な“何か”を見落しをしている筈だ!

なにより数日後には奴の公開処刑も控えているんだぞ…!!

同時に2つの伝説を相手取るなど、不可能だ!!!

 

部屋に響くセンゴクの鬼気迫る声に海兵は返す事が出来ずに俯く。

 

 

───これはエース処刑の数日前の出来事である。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

行方不明になった天竜人の件で海軍が頭を抱えていた日から約5日後の空船にて。

 

必要な準備を終え監獄に潜入させたカメラで状況確認を行っていたレオヴァ達は、獄中の状況に各々の反応を見せていた。

 

 

「何故、“麦わら”がここに…!?」

 

「……天竜人の件といい…麦わら屋はおれ達の邪魔ばかりするな…」

 

カメラに映った麦わら帽子がトレードマークの少年の姿にドレークは驚きに声を上げ、ローは眉間にシワを寄せる。

 

2人は想定外の現状になっている監獄を目の当たりにし、レオヴァの意見を仰ぐべく振り返った。

 

 

「…レオヴァさん、どうする?」

 

「突入を遅らせるという手も…」

 

指示を待つ2人にレオヴァは迷う素振りもなく答える。

 

 

「いや、予定通り監獄に突入する。

この作戦の為におれは父さんとの遠征を断腸の思いで延期にしたんだ…

父さんをこれ以上待たせる訳にはいかない…!!」

 

「……カイドウさんが暴れてワノ国が潰れる前に戻らねェとだしな。」

 

「レオヴァさんなら、そう言うと思ってはいたが…」

 

 

作戦を実行すると宣言したレオヴァの言葉を受け、ドレークは再びカメラの映像へ目線を移す。

 

 

「……こんな状態の場所で作戦を実行できるだろうか…」

 

「こんな状態だからこそだ、ドレーク。

これだけ混乱しているなら潜入ではなく、正面から突破出来るだろう。

気を付けるべきはマゼランの毒だけだ。

今回はスレイマンが別の任務でいないからな…」

 

「確かにレオヴァさんの意見は尤もか…

先ほど少し睨み合っただけであっさり手を引いた黒ひげ(・・・)も気になる……時間はかけられないな。」

 

ドレークの発言にレオヴァは頷き、言葉を続ける。

 

 

「あの程度の威嚇で簡単に身を引くという事は、必ず何が考えがある筈だ。

…大方の予想はついてはいるのだが、奴の行動は毎回斜め上を行く。

早めに部下を救出し勧誘を終え、奴の動きを阻止することが重要になってくる。」

 

「レオヴァさんが仕掛けたアレ(・・)があれば居場所は分かるからな。

……だが、戦争の召集を無視してまでの用事を少し睨まれただけで…あんな簡単に諦めて引き返す意図がわからねェ。」

 

腑に落ちないと眉をしかめるローの肩を軽くたたきながらレオヴァは更に言葉を続ける。

 

 

「少なくとも奴は今、この付近には居ない。

兎に角、まずは監獄での任務を終えることに集中しよう。」

 

ドレークとローがレオヴァの言葉に頷く。

 

 

「では、作戦を開始する。」

 

その声と同時に3人は空船から飛び降りた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

───LEVEL-1紅蓮地獄にて。

 

 

たった3人だ!!

“百獣海賊団”を止めろォ~~!!!

 

看守達による一斉射撃を気に止めることなくレオヴァ達はインペルダウンを突き進む。

 

 

「想像以上の手薄具合じゃねェか。」

 

前線にいた看守達を吹き飛ばしたローが呟くと、レオヴァが口を開く。

 

 

「相変わらず政府関係の場所は人材不足だな。

言っては悪いが、これでは所長であるマゼランに全てを背負わせ過ぎだろう。

おれなら少なくともあと3名ほど実力のある人間を配置し、定期的な視察を送って問題解決に動くんだが…」

 

「レオヴァさんの案は素晴らしいが……そもそも優秀な人材が政府にはいないんじゃないのか?」

 

ドレークの返事を受けてレオヴァは確かに、と小さく頷いた。

 

 

「それもそうか…

政府にウチと同じく優秀な人材がいるとは限らないな。

そう考えるとおれは本当に恵まれている…

ロー、ドレークいつもありがとう。」

 

少し先を進む2人にレオヴァが場違いなほど穏やかに笑いかける。

 

 

このタイミングで…!?

いや、もちろん嬉しいのは嬉しいんだが!」

 

「レオヴァさん、そのほのぼのした空気引き締めてくれ…!!

こっちまで気が抜ける!」

 

進むべき扉の前に立ち塞がっていた看守達を全員沈め終えたローとドレークが叫ぶ。

 

監獄の中だと言うのに相変わらずいつも通りのやり取りを繰り広げていた3人だったが、目の前の扉が開いたことで皆の纏う空気が引き締まる。

 

刀を腰にさげ葉巻を咥えた男が扉から現れる。

 

その男はレオヴァを視界に捉えると口を開いた。

 

 

「その(ツラ)……間違いねェ。

百獣海賊団総督補佐官…レオヴァだな?」

 

「そう言うお前は……看守長シリュウ。

…いや、()看守長だったか?」

 

ニコリと口元だけ笑って見せたレオヴァを相変わらず視界に捉えながらシリュウは続けた。

 

 

「そう、“元”だ。

……おれァ、お前と話がしたかった。」

 

此方に向かって歩みを進め出したシリュウにドレークが声を上げる。

 

 

待て、それ以上レオヴァさんに近づくな…!!

 

ドレークの声にシリュウはピタリと動きを止める。

 

 

「“異竜”ドレーク…何年も前にマゼランを止めたっていう海賊だな。

…おれは知ってるぜ。

あの事件では重要人物としてドレーク・ササキ・スレイマン、そしてトラファルガー・ローが上げられていたが……一番危険視すべき男の名(・・・・・・・・・・・)がここ最近まで上がってなかった事をな。」

 

シリュウの言葉にローとドレークの警戒心は強まっていく。

 

その雰囲気を察したのかシリュウは小さく笑った。

 

 

「おいおい……そう警戒するな。

おれも馬鹿じゃない。

何の利も出さずに、ただ話をしてくれって訳じゃねェ。」

 

 

そう言うとシリュウは瞬きの間に自分が入って来た扉を破壊した。

 

突然の動きにドレークとローがレオヴァを守るように後方へ飛び退く。

そしてシリュウへ攻撃を仕掛けようとしたが、壊された扉の奥から現れた人物に2人は目を見開いた。

 

 

「レオヴァ様!」

 

「鳳皇レオヴァ…!

アンタが来てくれたと聞いていてもたってもいられなかった!!」

 

レオヴァの名を叫びながら此方へ走ってくる巨人とミンク族の顔には喜びが溢れている。

 

 

「ハイルディン、パンサル…!

迎えが遅くなったな……また会えて嬉しいぞ!」

 

巨人族であるハイルディンとミンク族であるパンサルにレオヴァは満面の笑みを向ける。

 

2人はそのレオヴァの姿に更に感極まった様子で走り寄って来た。

 

ハイルディンとパンサルが既に檻から脱獄していた事により、今回のレオヴァ達の目的の1つである部下達の救出は思いも寄らぬ速さで終わりを告げた。

 

想定していた状況とは違うが、これはレオヴァにとっては良い想定外である。

 

しかし、この状況を作り出したシリュウという存在がレオヴァ達にとってプラスとなるのかは判断に迷うのが現状だ。

 

レオヴァはハイルディンとパンサルをまずはこの監獄から完全に脱獄させる為にローに声をかける。

 

 

「ロー、先に二人を船に連れて行きその後合流してくれ。」

 

ローは頷くと2人を連れて一瞬で消え、レオヴァは3人の気配が上へ行った事を確認すると、シリュウに向き直り口を開く。

 

 

「……シリュウ。

まずは部下をここまで連れてきてくれた事、感謝する…ありがとう。

確か、おれと話がしたいんだったな?」

 

「あぁ、聞いて損はさせねェよ。」

 

ニッと笑うとシリュウはレオヴァに話を始めるのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

レオヴァ達の侵入から約10分後のLEVEL-4焦熱(しょうねつ)地獄にて。

 

 

 

LEVEL-3に繋がる扉の前で、ボロボロになりながらもふらふらとハンニャバルは立ち上がろうと踏ん張っていた。

 

 

「ハ、ハンニャバル副所長…!

もう立たないで下さい…死んじまいます!!!

 

悲痛な部下の声が響く中、薙刀(なぎなた)を杖にハンニャバルは息も絶え絶えに立ち上がる。

 

 

「ハァ…っ…何を……貴様らシャバで悪名上げただけの…ハァ…“海賊”に“謀反人”…!!!

何が兄貴を助けるだ!!綺麗事抜かすな!!!

貴様らが海へ出て存在するだけで、庶民は愛する者を失う恐怖で夜も眠れない!!!

か弱き人々にご安心して頂く為に凶悪な犯罪者達を閉じ込めておく、ここは地獄の大砦!!!

それが破れちゃこの世は恐怖のドン底じゃろうがィ!!!

出さんと言ったら一歩も出さん!!!

 

今にも倒れそうな男から発せられるとは思えぬほど力強く鬼気迫る声に、そこにいた者達は息を飲む。

 

しかし、ルフィには助けたい人がいる。

ハンニャバルにこれ以上、この場に止められ続ける訳にはいかないのだ。

 

 

おれはエースの命が大事だ!!!だからどけ!!

 

「……!!

バカには何を言っても…」

 

ハンニャバルが顔をしかめた時だった。

 

背後の階段で構えていた筈のバズーカ部隊がバタバタと倒れてく。

 

その光景に驚き、ハンニャバルは目を見開いた。

 

 

「な!?おい、どうしたお前達!!」

 

困惑するハンニャバルの目に、倒れたバズーカ部隊を踏み越えて来る男達が映る。

 

背後から現れた男達の顔を認識すると同時にハンニャバルは驚愕の声を上げた。

 

 

「え……えぇ!!?

 

「職務、そして自らが掲げた庶民を守ると言う信念の為に立ち上がるその姿勢……感服する。」

 

そう言いながら階段の扉から現れたレオヴァは穏やかな笑みを浮かべ、ハンニャバルを見た。

 

 

ツノ()…!!?

 

何故、アイツがこんな場所に…!

 

一方、ハンニャバルや看守達だけでなくレオヴァの登場に周りの海賊達も驚きを露にしていた。

 

混乱する皆を置き去りにレオヴァはハンニャバルの方へ向かって行くと、柔らかい声色で話し掛ける。

 

 

「確か、副所長の……ハンニャバルだったか…?

この監獄はマゼランだけと思っていたが、おれの思い違いだった。

まさか、お前の様な男がいるとは…!」

 

ニコニコと笑顔で話し掛けてくるレオヴァにハンニャバルは戸惑いながらも薙刀を構える。

 

 

「な、なんだ貴様…!!

馴れ馴れし過ぎてビックリしたァ!!

 

「すまない、唐突だった。

おれはレオヴァ、百獣海賊団に所属している。」

 

「それは知ってるわ!!」

 

軽く頭を下げ、丁寧に自己紹介をしてきたレオヴァに叫ぶように返しながらハンニャバルは薙刀(なぎなた)を振るう。

 

しかし、その攻撃はレオヴァに当たる前にドレークによって弾かれた。

それにより満身創痍であったハンニャバルの手は握力を失い、薙刀は背後へ舞って行ってしまう。

 

しまった!と冷や汗を流すハンニャバルに穏やかにレオヴァは言葉をかける。

 

 

「1つ提案なんだが……百獣に入る気はないか?」

 

あまりにも突然過ぎる提案に周りの看守達は目が飛び出す勢いで驚くが、ハンニャバルは強い意志を持って返した。

 

 

「なめるな、海賊…!!!

どんな状況であろうとも、貴様らに(こうべ)を垂れる真似はせん!!

何故なら私はこの大監獄の副所長!!

いつ如何なる時も庶民の皆様の“味方”でなきゃならない!!!

海賊に下るなんざ、笑わせるなァ…!!!

 

大海賊の幹部相手に臆することなく言葉を紡いだハンニャバルにレオヴァの目が珍しい物を見る時のように興味深げに細められる。

 

 

「ますます惜しい人材だ…!

……だが、それだけの覚悟がある者をこれ以上誘うのは失礼か…

ではハンニャバル、少し道を譲ってもらうぞ?」

 

「譲るワケに行くか…ッ…!?」

 

レオヴァの纏う雰囲気が一瞬重々しくなったと思うと、ハンニャバルは気を失いその場に倒れ込んだ。

 

全てが唐突すぎた出来事に看守や海賊達は言葉を失っていたが、一歩前へ出たジンベエが声を発する。

 

 

「レオヴァ。」

 

驚いた表情のジンベエにレオヴァは向き直る。

 

 

「ジンベエ、LEVEL-6まで会いに行こうと思っていたんだが…

まったく、無茶をしたな。」

 

「親父さんやエースさんの一大事じゃ、動かん訳にはいかん!

じゃが、レオヴァは何をしにわざわざ…?」

 

「部下を迎えに来たんだ、その時にジンベエも連れていこうと思っていたんだが……その様子なら余計なお世話だったようだな。

あとは、昔した“約束”を果たしに」

 

「レオヴァ、心配かけたようですまん…!!

…約束か……深掘りはせんが、急ぐことを勧める。」

 

「ありがとう、ジンベエ。

だがお前も魚人島の皆や、お前を慕うおれの部下達の為に無茶は控えてくれ。」

 

「仁義の為、この身を削ることを躊躇することはない!!

が……レオヴァからの言葉胸に刻んでおくとしよう。」

 

「ジンベエらしい…

一応、次の階へ上がる道は綺麗になってる。

……間に合うと良いな。」

 

「感謝する…!!

ルフィ君、先を急ごう!!」

 

「わかった…!

ツノ()、ありがとう!!」

 

ルフィはニカッと人好きのする笑みでレオヴァに礼を述べた。

 

 

「気にするな。

流れ上、偶然手助けする形になったに過ぎない。」

 

「そうなのか…?

わかんねェけど、助かった!

じゃあ、おれ急いでるから!!」

 

走り出したルフィ達と入れ違うようにレオヴァは最下層に向けて進み出す。

 

すれ違いざまにレオヴァはクロコダイルと目が合ったが、お互いに言葉を交わすことはなかった。

 

 

 

そうして、奥へ進もうとするレオヴァとドレークの目の前に瞬間移動のようにローが現れる。

 

 

「…っと、レオヴァさん遅くなった。

おれの能力で一気に降りよう。

船のカメラで確認したら、マゼランがこの階に向かって来てた。」

 

「なに!?

レオヴァさん、ここは予定より早いがローの能力で下へ…!」

 

ドレークとローの言葉に頷くとレオヴァは鳥の姿へと変化する。

 

 

「よし、やってくれロー。

穴を開けたら、おれの背に飛び乗れ。」

 

「わかった。

ROOM(ルーム)”…“切断(アンピュテート)”!」

 

ローの技で炎の海に穴が空き、その穴は更に深くまで続いているようだった。

 

レオヴァは翼で穴の周りの炎を吹き飛ばすと、その空洞へ向けて降下していく。

 

ローとドレークはその背に飛び乗ると、風の抵抗を減らすように身を屈めた。

 

 

「レオヴァさんとローがいると要塞攻略も力業だけで終えられるな…」

 

「まぁな。」

 

ドレークの呟きにローは心なしか自慢げに返し、巨大な鳥になっているレオヴァの背に掴まる。

 

 

そして、空洞が途切れた場所にレオヴァが着地すると2人は地面に降り立った。

レオヴァは2人が降りたと同時に人に戻り、辺りを見回して眉間に皺を寄せた。

 

 

「……少し薬品の臭いがするな。」

 

「睡眠系統の薬品だな。」

 

ローの言葉にドレークが反応を示す。

 

 

「睡眠系?

ならマスクが必要か?」

 

「いや…この薄さじゃ効き目はねェし、殆ど流れちまってるから問題ねェ。」

 

「そうか、ローが言うなら間違いないか。」

 

会話する2人を後目(しりめ)に監獄へ目線をやっていたレオヴァは目的の人物を見つけ、嬉しそうに微笑む。

 

 

「ロー、ドレーク。

おれは話をしてくる、2人は予定通り動いていてくれ。」

 

「了解した…!」

 

「分かった。

そうだ…レオヴァさん、鍵渡しとく。」

 

「ありがとう、ロー。

じゃあ、頼んだぞ。」

 

ローから鍵を受けとるとレオヴァは目的の人物がいる檻の前に立つ。

 

檻の中の人物はレオヴァを見ると口を開いた。

 

 

「まさか、本当に来るとはな…」

 

「当たり前だろう。

おれは名に誓った約束は守る。

それで前の件だが、考えてくれたか?

……バレット。」

 

バレットと呼ばれた男は立ち上がり、柵の前まで来るとレオヴァの目を見据える。

 

 

「考える時間は無限にあったからな。

貴様の持ち掛けてきた話は確かに悪くなかった。

この場所に居続ける必要性も、もう感じねェ。」

 

「なら…」

 

口を開きかけたレオヴァの声をバレットは遮る。

 

 

「だが、ここでその話を二つ返事で受けるつもりはねェ…!

……おれと勝負しろ。

貴様が勝てば、あの話は飲んでやる。」

 

「ほう……では、負けた場合は?」

 

「その時はお前におれの目指す場所への…“道”を作る道具になってもらう!!」

 

告げられた言葉にレオヴァは笑うと、牢屋の扉を開いた。

そして、手錠の鍵をバレットに投げ渡す。

 

 

「いいだろう、バレット。

お前のその提案を受けよう…!!

海賊らしいやり方は好きだ。」

 

上機嫌に答えたレオヴァを少し意外そうな顔で見ながらも、バレットは渡された鍵で手錠を外した。

 

 

「……細かいルールはねェ。

やり合って、先に倒れた奴の負けだ。」

 

「分かった。

……と、少し待ってくれ。

ドレークとローに連絡だけしておく。

何も言わずに始めたら、おれに加勢するかもしれないからな。」

 

「勝手にしろ……準備できたら言え。」

 

バレットはそう言うと牢屋の中で腰を下ろし、電伝虫を手にしたレオヴァを横目で眺めた。

 

 

「…おれだ、ドレーク。

バレットと話し合った結果、お互いの実力を計る為に組手をすることになったんだが…」

 

レオヴァの言葉に驚きを見せた電伝虫は何かを訴えている。

その姿に困ったように眉を下げながら、少しの時間レオヴァはドレークと、その隣にいるであろうローの説得をするのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

一方、とある島にて。

 

カイドウを追っていた筈のキングとクイーンは何故かずっと戦闘を続けていた。

 

その戦場にカイドウの姿は見当たらない。

 

 

だあ~~~!!クソッ…!!

しつけェんだよ!!

こちとら、テメェらに構ってる暇ねェんだっての!!

 

苛立ったように叫びながら首長竜の姿で暴れるクイーンの周りの男達が次々に吹き飛ばされていく。

 

 

「おっと……お前ら少し下がれ!

ルウ、行くぞ…!!」

 

「よ~し……おれに合わせろよ!」

 

ラッキー・ルウに合わせようと動いたベン・ベックマンの前にキングが立ち塞がる。

 

 

「テメェの相手はおれだ。

逃げられると思うな…!!」   

 

振り下ろされた刀を避けながら、ベックマンはクイーンへ数発の玉を見舞う。

 

 

「…っぶねぇ!?

おいコラ、キングてめぇこの野郎!!!

そいつ一匹くれェ、ちゃんと押さえとけよ!?」

 

「うるせぇぞ、ボール野郎…!

グダグダやってねェで、さっさと片付けてカイドウさんを追うぞ…!!」

 

「分かってる!!

…つーワケだ、さっさとくたばれ!!!

 

島を破壊する勢いで暴れるキングとクイーンだけでも厄介極まりないと言うのに、フーズ・フーやササキに加え真打ち達の勢いも衰える未来が見えない状況下でも、一歩も遅れを取らずに赤髪海賊団は応戦していく。

 

 

「はははは…!

いや~カイドウ1人だと思ってたら、まさか幹部がこんなに来るとはな!」

 

能天気に笑っているシャンクスにヤソップは呆れ顔になる。

 

 

「頼むぜ、お(かしら)……こりゃ簡単にはいかねェぞ?」

 

「そうだな、ヤソップ。

……気合い、入れて行くか…!!

 

クイーンに向けて飛び出していくシャンクスの背をヤソップ達は頼もしげに見送るのだった。

 

 

 

そもそも何故、百獣海賊団と赤髪海賊団が衝突することになったのか。

 

それは数時間以上、前に遡る。

 

 

カイドウは何日も何日も空を飛び続けていた。

たまに地上に降りる時はあったが、それは食料と酒を補給する為だけであり、憎い奴らがいる場所へ進む事こそが何よりも重要だった。

 

その日もカイドウは酒を浴びるほど飲みながら空を駆けていた。

 

 

うおおぉ~~ん…!!

なんでレオヴァとの遠征が先延ばしにされなくちゃならねェってんだよぉ~~~!!!うおぉ~~!!

 

「カイドウさん…その気持ちは分かるが……」

 

泣き上戸のまま空をゆくカイドウの側をキングも飛び続けていた。

ここ数日同じような愚痴を聞かされながらも、キングは出来る限りカイドウを落ち着けようとあらゆる手を尽くしたが、状況は一向に好転しない。

 

 

キング、てめぇもムカつくだろ!?

憎き海軍共とあの馬鹿(・・・・)のせいで!!

おれがレオヴァの為に整えた手筈が全部パァになったんだぞォ!!?

レオヴァの誕生日前に公開処刑なんざ予定しやがって、海軍の野郎ォ…

レオヴァもレオヴァだ!

テメェの誕生日と仕事、どっちが大切だってんだァ!!?

 

泣き上戸から怒り上戸に移り変わったカイドウに、遠い目をしながらキングは言葉を紡ぐ。

 

 

「海軍の無能共に腹が立つ気持ちは分かる。

だが、カイドウさん…レオヴァ坊っちゃんはアンタの役に立ちたい一心で……」

 

そりゃ分かってる…!!!

そうだ、レオヴァは悪くなんざねェ!!分かってんだ!!!

全部、海軍…そしてあの馬鹿野郎のせいだ!!!

マリンフォードだかなんだか知らねぇが、おれが沈めてやる…!!

キング、お前なら分かるよなァ!!

 

「…………そうだな、カイドウさん。

(駄目だ、止まる未来が見えねェ……すまねぇレオヴァ坊っちゃん…)」

 

内心で頭を抱えながらキングは進んでいた。

 

しかし、後を追ってきている筈のクイーンに内心でほぼ八つ当たりの様に呪詛を吐いていたキングを更なる厄介が襲う。

 

それが赤髪海賊団だった。

彼らは何故かカイドウを足止めしようとしているようであった。

しかし、カイドウへの手出しをキングが許す筈もない。

 

その結果、赤髪海賊団VSキングが幕を開けた。

 

この時、カイドウは酔っていた為に独り先に進んでしまっていた。

キングがカイドウを呼び止めなかったことも起因していたが、兎に角カイドウは進み続けてしまった。

 

 

更にその後、キングが激しい戦闘を繰り広げている所にワノ国から追ってきていたクイーンと幹部達が合流し、百獣海賊団VS赤髪海賊団へと構図は変化した。

 

そして、疲労困憊だったキングはクイーンから渡された“ある回復薬”により持ち直し、この戦いは泥沼化していったのだ。

 

 

 

時は戻り、現在。

 

未だに小競り合いを続ける両者だったが、赤髪海賊団の部下達に強い疲労が見え始めていた。

 

 

動物(ゾオン)系のタフさは異常すぎるな……押さえるにも一苦労だ。」

 

眉をひそめるベックマンを見下ろし、キングは口を開く。

 

 

「押さえるだと…?

テメェらごときが本当に押さえられると思ってんのか?」

 

翼竜の姿でベックマンを吹き飛ばしたキングを見て、クイーンと対峙していたシャンクスが微かに眉を動かす。

 

相対してクイーンは、そのシャンクスの様子に笑みを浮かべた。

 

 

「あの野郎の頑丈さは動物(ゾオン)系以上だからなァ!

自慢の右腕らしいが、助けに行くかァ!?」

 

嫌味ったらしく言うクイーンにシャンクスは爽やかに答える。

 

 

「いや、助けは必要ないさ。

おれの仲間は強いからな。」

 

「ムカつく野郎だぜ…!

テメェの首持って帰って、レオヴァにプレゼントすりゃ喜ぶかもなァ!

…よっしゃ、首よこせ!」

 

ドスンと大きな音を立てながら襲い来るクイーンの攻撃をヒラリと華麗に躱しながら、シャンクスは呟く。

 

 

「……にしても、困ったなぁ。

本当に止めたかったのは百獣のカイドウだったんだが…」

 

「笑わせんな!!

テメェがカイドウさんを止められるワケねェだろ!!?」

 

怒ったような表情で光線を放つクイーンへ一瞬で距離を詰めると、シャンクスの顔から笑みが消える。

 

懐に入られたクイーンが不味いと顔を歪めるよりも早くシャンクスの一太刀が襲った。

 

斬り飛ばされたクイーンの姿に驚く百獣海賊団の面々を前にシャンクスは凛とした声で告げた。

 

 

「……そろそろ、本気でやらせてもらおうか。」

 

ただならぬ、その雰囲気に百獣海賊団の面々は息を飲む。

 

シャンクスが反撃の一歩を踏み出した。

 

 

 




ー補足ー

ジンベエ:レオヴァとは長い付き合いの中で、敬称を付けずに呼ぶようになるほど親しくなった。
本当はエース救出を手伝って欲しいという思いがあるが、レオヴァにはレオヴァのやる事があるのだろうと言葉を飲み込んだ。

クロコダイル:ドフラミンゴ経由でレオヴァから武器を購入した過去がある。
レオヴァへの警戒心は高め。

ルフィ:今はエース救出のことしか頭になく、レオヴァ云々どころではない。

ハイルディン:レオヴァに恩があり、百獣海賊団に加わった。
鳳皇レオヴァと呼び、絶大な信頼を寄せている。
詳しい過去編はそのうち…

パンサル:とある証言をする為にワザと捕まって時期を見つつ、指示通りセンゴクに情報を流したりしていた。
結構辛い役回りだったが、流石の忠誠心である。

黒ひげ:インペルダウンに向かっている途中にレオヴァと遭遇して睨み合いになった結果、踵を返した。
インペルダウンでの用事よりも、“最も優先すべき用事”の方へ向けて作戦を変更したと思われる。

シリュウ:檻から一時的に解放された事を最大限利用している模様。

レオヴァ:思いの外早く部下を回収出来たので上機嫌。
今回、ドフラミンゴ救出の時に話していたのはバレットだった事が判明。

バレット:レオヴァから“ある話”を持ちかけられていた。
強さだけを信じる男はレオヴァを試すべく、勝負を申し込んだ。
出来ればレオヴァを野望の為に使いたい(有能なのは理解している為)

シャンクス:真意が謎。
ただ、カイドウを追い返したかったのは事実。
彼の動き次第で色々起こるかも…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海賊ならば力で示せ

 

ボン・クレーの暗躍により、あと一歩の所で麦わら達を逃してしまったことを後悔している暇もなくマゼランは次なる問題を解決すべく動いていた。

 

この混乱に乗じて現れた百獣海賊団を今度こそ捕らえる、そう意気込んでいたマゼランだったがある男の登場で侵入者達がいる階に到達することすら出来ずにいた。

 

 

「ハァ…ハァ……シリュウ、貴様…!!」

 

そう叫び、睨み付けてくるマゼラン相手にシリュウはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「悪いな、マゼラン。

お前でおれの有用性をアイツに示させてもらうぜ…」

 

刀を構え直したシリュウにマゼランは最終手段を取ることを決意する。

このままではどちらにせよ監獄は終わりを迎えてしまうだろう、そうマゼランは感じたのだ。

 

 

「“毒の巨兵(ベノムデーモン)…地獄の”……」

 

マゼランが力を発動させようとした時だった。

 

尋常ではない揺れと共に建物がガタガタと崩れて行く。

予想だにしない事態にマゼランとシリュウは目を見開いた。

 

 

「何が起きているんだ…!?」

 

「どうなってやがる!?」

 

思わず驚きの声が漏れる2人の側の床が弾けるように粉砕された。

 

 

ウオオォォ~~!!打ち落としてやる!!!

どれだけ耐えられるのか見せてみろォ!!!

 

ッ……ははははは!!

 この破壊力…想像以上だ、バレット…!!!

 

砕け散った床の下から現れた巨大な鎧を纏うバレットは、腕を翼に変えて宙を舞うレオヴァへ拳で怒涛のラッシュを放っている。

 

レオヴァは下から突き上げる様に無限に繰り出される拳を楽しそうに受け流しながら、バレットの纏う鎧に隙間を作るように槍を蹴り入れている。

 

 

そんな2人の猛攻にマゼランとシリュウは言葉を失っていた。

しかし、マゼランとシリュウに目もくれることなくバレットとレオヴァは天井(てんじょう)を突き破り更に上へ消えて行く。

 

あまりに一瞬の出来事にマゼランとシリュウは固まる他なかった。

そして、その2人に出来た一瞬の隙が勝負の決め手となる。

 

強大な力のぶつかり合いが真横で起こっていたせいで、普段ならば気付ける筈の敵の接近にマゼランは気付く事が出来なかったのだ。

 

強い衝撃と共にマゼランは思い切り吹き飛ばされ、ぽっかりと空いていた穴に落ちて行く。

 

未だに音を立てて崩れている穴へシリュウが思わず目線をやっていると、声がかかった。

 

 

「おい、こっちはボン・クレーの回収は済んでるんだぞ。

マゼランの無力化にいつまで時間かけてんだ。

まさか。渡した道具を失くしたのか?」

 

そう言って不機嫌そうな表情で近付いてくるローにシリュウは向き直る。

 

 

「……簡単に無力化できるほど楽な相手じゃねェ。

お前らはマゼランを甘く見積り過ぎだぜ…」

 

シリュウの言葉にドレークが反応を示す。

 

 

「確かに、マゼランの毒は強力だ。

この時間まで倒れずに押さえられていた事は十分な功績。

……ローの言葉はあまり気にしなくていいぞ。

それと使わなかったなら、アレは返してくれ。」

 

ローは何か言いたげな表情になるがドレークはシリュウから、預けていた道具を受け取ると言葉を続ける。

 

 

「今の一撃でマゼランに海楼石(・・・)をつけることに成功したんだ。

レオヴァさんの指示通り、この瀕死のボン・クレーを船へ連れて行こう。

一応解毒はしてあるが、絶対安静だ。」

 

「それもそうだな、レオヴァさんの指示が先か。

……お前も来い。」

 

ローの言葉にシリュウは読めない表情で口を開く。

 

 

「…来いって事は、おれの実力はお眼鏡に適ったってことでいいのか?」

 

「及第点だ。

最終的に、お前の提案を飲むかはレオヴァさん次第だけどな。」

 

「そうか。」

 

ローの言葉に苛立った素振りもなく、シリュウは薄く笑ってみせる。

 

 

「ローはあぁ言ってるが、今回の功績は大きいとおれは思う。

それにレオヴァさんの懐は深い!

最初から拒むような真似をする人じゃないからな、気を揉む必要はないさ。」

 

「あぁ、そりゃありがたい情報だ。」

 

ドレークのフォローに返事を返すと、シリュウは歩きだしていたローの背に続く。

 

ドレークはシリュウに対して少し刺のあるローに小さく苦笑いしつつも、ボン・クレーを抱えて2人の後を追った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

戦闘を開始してから暫く経ち、バレットもレオヴァも勢いが衰えて来ていた。

 

事実、能力で外装を固めていた筈のバレットはレオヴァの猛攻により鎧を潰されたことで生身の状態にされ、己の武装色のみで応戦している。

 

同じくレオヴァも雷での超回復を繰り返してはいたが、この技は大量のスタミナを消費するため回数を重ねるごとにスタミナも減り、雷から得られるスタミナだけでは賄えなくなっていた。

 

 

2人はこの闘いの決着をつけるべく冷たい監獄の床を蹴り、飛び上がる。

そして、バレットは鍛えぬいた武装色を全身に纏い、レオヴァへ怒涛の攻撃を浴びせながら言葉を放つ。

 

 

この海を……ひとりだからこそ勝ち続ける!

己のみを信じ、ひとりで生き抜く断固たる覚悟にこそ無敵の強さが宿る!世界最強はおれだァ!!

レオヴァ、お前にはおれの“道”を作ってもらうぞ…!!

 

「この海をひとりで生きる、か。

だが、こうやって()り合うのだって“相手”がいなきゃ楽しめねェ…!

この世界でひとりだけで生きてる奴なんていねぇよ、バレット!!

 

 

両者がぶつかり合っている、ほんの一瞬。

何故かバレットに少しの隙が出来る。

 

その一瞬、どこかバレットの瞳はレオヴァを捉えているにも関わらず、何か別のものを見ているようであった。

 

しかし、レオヴァがその刹那の隙を見逃すはずもない。

連続で激しい拳を繰り出していたバレットの巨大な拳を流れるような動きでいなして、横へ弾いた。

 

大きく見開かれたバレットの瞳には獣人化したレオヴァが雷の龍を纏っている姿が映っている。

 

 

龍星皇頂(りゅうせいこうてい)ッ…!!」

 

レオヴァのその声と共にバレットを巨大な雷の龍が呑み込む。

 

バレットが鋭い衝撃に飛びかけた意識を戻そうとすると、雷の龍と共に動き始めていたレオヴァの強靭な足の鋭い爪が鎖骨に食い込んだ。

 

 

「ぐぅ…ぅおおおおおッ!!?」

 

引き剥がそうとバレットが獣人化しているレオヴァの脚を掴むより速く全身を想像を絶する痛みが襲う。

 

感電などという生易しい表現では済まぬほどの電流がバレットの全身を駆け巡り、筋肉の動きを阻害した。

 

一方、レオヴァは蓄えてある全ての電流をバレットに注ぎ込む勢いで放電を始めている。

 

 

「おれの中の雷が尽きれば終わりだが……お前との楽しい殴り合いに下らねぇ小細工はなしだ!!

ここで、確実に落とす…!!!

加減はいらねェだろ、バレット!!

 

ギ、グ…ゥオォオ~~~!!!

 

強い電撃により痙攣して思うように動かない筋肉をバレットは意地だけで、無理やり動かしてみせる。

 

筋肉の繊維が切れる感覚と肉の焼ける激痛をものともしないバレットに今度はレオヴァが大きく目を見開いた。

 

動けない筈のバレットがレオヴァの脚を掴む。

ビキッ…と骨から嫌な音が鳴ったがレオヴァが脚の鉤爪の力を緩めることはなかった。

 

バレットは力の限りレオヴァの脚を拳で締め上げる。

 

 

「っ…グッ……このまま脚を千切られるのは…ゥ…困るなァ」

 

そう呟く間にもレオヴァは急降下していき、バレットを監獄の石畳に叩き付ける。

 

ぐゥオォッ…!!」

 

凄まじい衝撃によってバレットの体の更に奥深くにレオヴァの鉤爪が肉を切り裂きながら沈んでいく。

 

 

「ハァ……ぅ、これがおれの残りの()だ……行くぞバレット!!!

お前ならおれの全てを出しきっても死なねぇだろう!!?

 

その瞬間、レオヴァとバレットを中心に凄まじい電気エネルギーの大爆発が起こった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

空船から戻って来ていたローとドレークは突然の大爆発に驚き、今にも崩れそうな監獄へ向かって走り出した。

 

至る所に穴が空き空が見えてしまっている監獄の入り口辺り一帯に、途轍もない電撃が渦巻いていることに2人は驚き目を見開いた。

 

そして離れた場所にレオヴァとバレットがいる事を目視したドレークとローが悲鳴に近い声をあげる。

 

 

「な…!?

あんな量の電気をつかったら……レオヴァさん!!!」

 

「レオヴァさん、なんであんな無茶な技を…!?」

 

2人は思わずそちらへ走り出したが、近づくことは困難に等しかった。

 

レオヴァの放電の嵐は爆発地点を中心に、無差別に周りを傷付けているのだ。

 

この状況にドレークとローは迷った。

きっとレオヴァはドレークやローがこの放電で怪我をしたと知れば、酷く落ち込むだろう。

それにレオヴァからは、手出し無用であり危険なので離れているようにとも言われていた。

 

しかし、このまま見ているだけなどドレークとローには出来そうにもなかった。

 

体が電流でズタズタになろうとも構わない。

そう2人が決心したその時、レオヴァの放電が収まったのだ。

 

道が開かれたと同時に、衝撃でモヤがかかっている戦場へ2人は走り出した。

 

 

 

 

体内に蓄積させていた全ての()を放電し終え、レオヴァが脚を持ち上げると生々しい音と共に鉤爪がバレットから抜けた。

 

よろつくレオヴァはなんとか地面に折られた脚をつくが、そのまま立っていることが出来ず地面に膝をついてしまう。

どうやらバレットによってレオヴァの脚の骨は砕かれてしまっているようであった。

 

レオヴァは意識が朦朧としているのか膝をついてしまったまま、一向に立ち上がる素振りも見せない。

何度も浅い呼吸を繰り返し、レオヴァはボンヤリと地面を眺めている。

 

しかし、レオヴァは(おもむろ)にバレットの方を向くと血を吐きながら小さな声で呟くように話し掛けた。

 

 

「ハァ…言い、そびれたが…

せ、かい……最強は…おれの父、さんだ……っ」

 

限界が来たのか膝だけでは体を押さえられず、レオヴァは地面に右手をつく。

 

片腕で体を支えてはいたがそれでもふらふらと揺れ、レオヴァの意識はついに限界を迎えた。

 

ゆっくりとレオヴァの体はそのまま重力に引かれるように倒れていく。

 

 

 

ROOM(ルーム)”…シャンブルズ!!

 

ローの声と同時にレオヴァは地面ではなく、獣化しているドレークの背中に倒れ込んだ。

 

 

ロー…!レオヴァさんの容態は!!?

 

「おい!ドレーク、動くな!!

レオヴァさんが背に乗ってる事を考慮した動きをしろ!」

 

「す、すまない……」

 

ピタッと動きを止めたドレークの背の上でローはレオヴァに“スキャン”を使った。

 

 

「……上半身は簡単な処置でなんとかなりそうだが…クソッ…

左足脛骨と腓骨はすぐにでも施術しねぇと元の状態に戻すのが難しいくらい骨が砕けてるし、骨盤にも損傷がある…

時間が経っちまったら最悪レオヴァさんの下半身を“アレ”つかって移植しなきゃならなくなるかもしれねェ…

おれはレオヴァさんをバラすなんて絶ッ対に御免だぞ!!」

 

動揺を隠せずに叫ぶローにドレークの焦りも加速していく。

 

 

「な、なら今すぐ船に!!」

 

「あぁ、早くしねぇと……

だが揺らさないでくれ、脚の骨もそうだが鎖骨も折れてる…下手に揺らしたら皮膚を突き破って出てくるかもしれねぇ!!」

 

「…!? そ、そそうなのか!?

わかった……ゆ、揺らさないようにだな…」

 

強い動揺から普段の冷静さを失いかけている2人の耳に掠れた声が届く。

 

 

「……ゥ…落ち…着け……ドレー、ク……ロー…」

 

「「レオヴァさん…!?」」

 

手足を動かす気力はないのか、瞼と瞳だけ動かしレオヴァはぼんやりとローの方を見る。

 

 

「大、丈夫…だ。

エネルギーである…雷を、ハァ……使いすぎた…だけ……だ。

…バレットも…ふ…ね…連れ、て……ぃ……」

 

また気を失った様子のレオヴァをローはドレークの背から落ちないように支え直す。

 

 

「レオヴァさんッ!

い、息は大丈夫そうだな…だが出血が増えてる……輸血パックは確か…」

 

ぶつぶつと手当てのことをひとり呟くローを横目にドレークは小さく息を吐く。

レオヴァの落ち着けという言葉で自分を律すると、地面に横たわるバレットを掴んだ。

 

ローはそれに気付くと複雑そうな表情になる。

 

 

「ドレーク……そいつを連れてくつもりか?」

 

「…レオヴァさんが連れてくと言ったんだ、是非もない。

何よりさっきの闘いはレオヴァさんの勝ち……即ちこの男も今からおれ達の身内だ。」

 

「……そうだな。」

 

 

ドレークの言葉に一瞬ローは何か言いたそうな顔をしたが、短い返事だけ口にすると黙り込む。

 

ドレークはゆっくりと、大股で船へ向かって歩き始めた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

『こうやって()り合うのだって“相手”がいなきゃあ、楽しめねぇんだ。

この世界でひとりだけで生きてる奴なんていねぇよ、バレット!!』

あの時のレオヴァのこの言葉はバレットの古い記憶を呼び起こした。

 

 

 

まだ青く、一人前とは言いがたかったあの頃。

今とは比べ物にならぬほど弱かった。

けれど、どこか居心地が良かったあの船での記憶だ。

 

 

なにが切っ掛けかはもう覚えてはいなかったが、バレットはロジャーの何かしらの言葉にムカつき噛みついていた。

 

 

おれァ、ひとりで生きてるんだ!!

それは今までもこれからも変わらねぇ!!!

 

そう叫んだバレットをロジャーは笑う。

 

 

『はっはっはっはっ!

バレット!まだまだガキのクセして生意気なこと言うじゃねぇか。』

 

バレットはガキと言われムッとした顔で睨み付けたが、構わずロジャーは続ける。

 

 

『確か、バレットは料理出来ねぇよな?』

 

『……だからなんだ、そんなことさっきの話とは関係ねぇ。』

 

『はっはっはっ!

ほら見ろ!ひとりは無理じゃねぇか!』

 

また笑われ、ぶすっとした表情のバレットの後ろからレイリーが声をかける。

 

 

『おいおい、ロジャー。

またバレットをからかってるのか?

そう言うお前だって料理はからっきしだろう!』

 

そのレイリーの言葉にロジャーはニッと笑いながら答える。

 

 

『おう!

料理も…あと医学もおれには出来ねェことばっかりだぜ!!』 

 

『まったく……自慢げに言うことか、ロジャー?』

 

呆れたような、けれどどこか楽しげな表情で言うレイリーにロジャーは笑いかける。

 

 

『そりゃ自慢げにもなるぜ、相棒…!

出来ねぇことがあっても、こうやっておれが生きてられんのはお前らが居てくれるからだ!

だからよ、バレット。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

こうやって喧嘩すんのも“相手”がいなきゃ、出来ねぇしなァ!はっはっはっはっは!!』

 

そう言って豪快に笑うロジャーの言葉にこの時のバレットは何も返さなかった。

何を返すべきか分からなかったのだ。

 

 

自分はひとりで……独りで生きて来た…筈だ。

仲間なんていつ裏切ってくるか分からねぇ。

弱い奴らは特にそうだ。

だからずっと独りで闘って、殺して…

己の力だけを信じて生きて来た。

 

だが、今の自分はどうだ?

……本当に独りなのか?

 

 

バレットはそんな葛藤を抱えた。

 

だが、それでもロジャーの側は居心地が良かった。

挑んでも挑んでも勝てない。

けれど何回でも何百回でもロジャーは変わらぬ強さでバレットの闘いを正面から受けてくれる。

 

そう、ただの一回もロジャーはバレットを拒まなかったのだ。

周りに呆れられるほど闘いを挑んでも

『いつでも来い、バレット』

と海賊らしい笑みを浮かべ、バレット自身をまっすぐ見てくる。

 

バレットにはなかった“強さ”をロジャーは持っていた。

 

それにバレットは少しずつ気付き始めていた。

 

 

だが、バレットにとっての安息はすぐに去ってしまう。

…ロジャーは不治の病にかかっていたのだ。

 

 

ロジャーの余命が残り僅かだと言う事実はバレットを酷く(あせ)らせた。

 

早く、もっと早く強くならなければ…!!

その心の焦りは、バレットが仲間意識を持ち始めていたロジャー海賊団の面々との間に大きな亀裂を生み始めた。

 

心に芽生えていた“仲間を守らねば”という気持ちも、バレットは戦闘中に気を散らさせる邪魔な思考だと考えてしまう様になった。

 

それからまた迷走を始めたバレットは最終的にロジャー海賊団から抜けたのだ。

 

 

そして、独りにならなければ強くなれないと自分に言い聞かすことで心の内にある気持ちを殺し、争いの日々に戻った。

 

やっと見つけた心許せる、尊敬できる人を失う現実から目を反らすように、バレットは闘い続けた。

早く強くなって越えなければ、ロジャーはこの世から居なくなってしまうのだ。

 

 

そうやって血にまみれる生活を送っているバレットを嘲笑うように、世界中にあのニュースが響き渡った。

 

“海賊王ゴールド・ロジャー、東の海(イーストブルー)にて公開処刑!!”

 

 

バレットの目の前は真っ暗になった。

目指すべき目標が……進むべき“道”がなくなったのだ。

 

そうして、全てを失ったバレットは無差別な破壊を繰り返すだけの存在になった。

 

目標を失くし怪物となったバレットは最終的に海軍、そして今まで潰した海賊達の手によって投獄されることとなる。

 

 

押し込められた暗い牢獄でバレットは黙々と鍛練を続けながら思考し続けた。

どうやったら最強だった男を……あのロジャーを越えられるのかと。

 

そして辿り着いた答えが、この海の強者全てを殺して海賊王になるという物だった。

それこそが唯一あのロジャーでさえ無し得なかった事であり、彼を越えられる方法だとバレットはまた強く自分に言い聞かせ、無理やり新しく進むべき道を作り出したのだ。

自分ひとり(・・・・・・)で最強になる為の道を。

 

 

だが、現在の自分はどうだ?

何十年もの間ずっと鍛練を続けたのにも関わらず、あのロジャーと似たような事を言ってのけた若造の重い一撃に沈んだ。

 

……強い決意だった筈だ。

ロジャーを越える為だけに、ずっとやってきた。

そんな自分が揺らぐわけがない。

進むべき“道”は見えている…筈なのだ。

 

 

 

 

バレットの意識がゆっくりと覚醒していく。

 

継続的に機械の音が聞こえ、独特な消毒液の臭いが鼻をかすめる。

 

ゆっくりと目を開き辺りを見渡すと、隣のベッドに見覚えのある角のある男……レオヴァが横たわっていた。

 

 

何故、自分は拘束もされずにレオヴァの隣で治療を受け寝かされているのか理解出来ず、バレットは一瞬固まった。

 

すると隣のベッドで横になっているレオヴァの目が開き、こちらを見て笑った。

 

 

「バレットも起きたのか、おはよう。

さっきは楽しかったなァ…」

 

機嫌良さげに話し掛けてくるレオヴァからバレットは顔を反らし、天井を見上げる。

 

そんなバレットの態度を気にした様子もなくレオヴァは言葉を続ける。

 

 

「さっきの闘いはおれの勝ち…と言いたいんだが

実はバレットが気を失ったあと、おれもすぐに気を失ったみたいでな。

勝敗を決めあぐねている。

おれはバレットと共に海へ出たかったんだが……これから身内になるかもしれない相手に嘘を吐くのは違うだろう?」

 

困ったような声色で言うレオヴァにバレットはぶっきらぼうに返した。

 

 

「…レオヴァ、貴様の勝ちでいいだろ。

どんなに言い募ろうが、先に倒れたのはおれだ。」

 

「…!

バレット、本当にそれで良いのか?」

 

「勝った方の話に乗るって条件だっただろうが

……二言はねぇ、ただし。」

 

言葉を句切るとバレットはゆっくりと起き上がりレオヴァの方を向いた。

レオヴァもゆっくりと起き上がるとバレットに向き合う。

 

 

「ただし…おれは弱ェ奴に雇われてやるつもりはねぇ。

また()って、おれが勝ったらそこで契約は終いだ。」

 

そうキッパリと告げると、バレットの予想とは裏腹にレオヴァは満面の笑みを浮かべる。

 

 

「もちろんだバレット!

お前は本当に強い、いつでも何度でも相手になるさ!

また()ろう、本当に楽しかった…!!」

 

そんなはしゃぐ姿にバレットは面を食らったが、レオヴァは嬉しそうに微笑むと口を開いた。

 

 

「これから、よろしく頼むバレット!

お前ほどの男が身内になったら組手も盛り上がる!!」

 

「おい!

身内になるとは言ってねぇ、雇われてやるって話だっただろう!!」

 

「父さんと三人で組手するのが楽しみだなァ…」

 

おれの話が聞こえてねぇのか!!?

 

叫ぶバレットの声が船に響き渡る。

 

数秒後、その声で病室に現れたドレークとローによって更に騒がしくなるのだが

その喧騒を耳障りだと思わぬ自分にバレットは小さく困惑した。

 

だが、考える暇もなくドレークによって新たな爆弾が投下される。

 

 

「…って、それどころじゃないんだレオヴァさん!!

カイドウさんが…!」

 

「………何故、今父さんの名が出る…ワノ国で休暇中の筈だろう…?

まさか……酔ってるのか!?」

 

レオヴァがハッとしたように顔を上げるとローがドレークに変わって答えた。

 

 

「…レオヴァさんの想像通りだ。

かなり酔っていてクイーン達が手が付けられなかったらしい。」

 

「そうか……そうだな、父さんを止めるのは無理だったか…

いや、だが今回はキングも居ただろう?

まさか父さんを1人にしたんじゃないだろうな…?」

 

レオヴァの問いにドレークが間髪入れずに答える。

 

 

「キングが飛び出したカイドウさんを追っていたみたいなんだが……急に現れた赤髪に応戦し、カイドウさんは一人で飛んでいってしまったらしく…

現在はキングとクイーン、ササキ達が交戦中とのことだ。」

 

「「レオヴァさん、どうする…?」」

 

今度はドレークとローがレオヴァに問いかけた。

 

レオヴァは二人の目を見た後、バレットを見る。

 

 

「おれとバレットは満身創痍だが…

生憎、おれの中には父さんを迎えに行かないという選択はない。

構わないか、バレット?」

 

「…おれも満身創痍だと勝手に決めつけるな。

なんの支障もねぇ、お前と契約後の初仕事が少し早まったに過ぎん。」

 

「そうか…!

なら問題はないな、頼りにさせてもらうぞバレット。」

 

「……フンッ」

 

笑いかけてくるレオヴァからバレットは顔をそらす。

 

ドレークとローはある程度話が分かるバレットに内心ほっとしつつ、レオヴァの言葉を待つ。

 

 

「この船は空船だからな、その強みを生かすか…

いつものように潜水艇も出し、空と海で分かれて帰りも問題ないように進めよう。

…まずは進路を変更してくれ。

赤髪海賊団の件はキング達に任せれば問題はないだろう。

一応、おれの方で増援の手配はしておくが。」

 

レオヴァの言葉に分かっていたというような顔でドレークとローが口を開く。

 

 

「レオヴァさんならそう言うと思って、既にローによって進路は変更済みだ。

増援の手配も進めてある。」

 

「あぁ。

このまま空を進むなら約25分後に到着予定だレオヴァさん。

増援も既に出港済みとの連絡も来てる。」

 

「…ロー、ドレーク……流石だ、頼りになる!

それなら、おおまかな作戦だけ決めよう。

酔っている父さんは止められないとみて良い……正直、何が起きるかは未知数だ。」

 

未知数と言う言葉にローとドレークは真面目な顔で頷いた。

 

レオヴァは次々にあらゆる可能性とその場合の行動について説明をしていく。

 

バレットはそのレオヴァの横顔を見ながら、次の闘いに備え呼吸を整えた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

レオヴァ達がインペルダウンを出港してから、暫く後のマリンフォードにて。

 

 

海軍本部であるこのマリンフォードは完全な戦場へと変貌を遂げている。

 

処刑される筈だったエースは麦わらの手により解放され、海賊達の勢いは激しさを増していた。

 

そんな中、白ひげの放った“最後の船長命令”に白ひげ海賊団の船員達は涙を流しながら船へ向けて走り出した。

 

白ひげを慕う海賊達にとって、この船長命令は何よりも辛い事であった。

しかし、愛する船長の覚悟や想いが分かるからこそ、海賊達はどんなに辛くとも白ひげの言葉に従って走るのだ。

 

空のように大きな器を持ち、海のように深い愛を自分達にくれた“オヤジ”の大きな愛に報いるには、ここから“生きて帰る”ことが一番重要なのだ。

だから、この場で足を止める訳には行かなかった。

 

 

 

愛する息子達の為に白ひげは残る全てを出し尽くすことを決めた。

 

数えきれぬほどの海兵が押し寄せてくるが、白ひげの敵ではなかった。

背中に守るべき愛する息子達がいる彼の気迫は、鍛え上げられた海兵でさえ思わず息を飲むほど凄まじい。

 

誰もこの怪物の進撃は止められない。

そう思った時だった。

 

 

「エースを解放して即退散とは…とんだ腰抜けの集まりじゃのう白ひげ海賊団。

だが船長が船長……それも仕方ねェか…!!

“白ひげ”は所詮…

先の時代の“敗北者”じゃけェ…!!!

 

「ハァ……ハァ……“敗北者”…?」

 

そのサカズキの言葉にエースは小さく呟くと足を止めた。

 

そして怒りに満ちた表情で振り返るとエースはサカズキを睨み付けた。

 

 

取り消せよ…!!!今の言葉……!!!

 

色々な感情が溢れ出しているエースを周りの仲間達が必死に声を上げて止める。

 

しかし、エースは敬愛する人を貶された怒りで止める仲間達を振り払って一歩前へ出た。

 

その姿を見るとサカズキは畳み掛けるように言葉をぶつける。

 

 

「“王”になれず(じま)いの永遠の敗北者が“白ひげ”じゃァ。

どこに間違いがある…!!

オヤジ、オヤジとゴロツキ共に慕われて……家族まがいの茶番劇で海にのさばり」

 

「…やめろ……!!」

 

「……何十年もの間海に君臨するも“王”にはなれず…何も得ず!!

(しま)いにゃあ口車に乗った息子という名のバカ(・・)に刺され…!!それらを守る為に死ぬ!!!

実に空虚な人生じゃありゃあせんか?」

 

「やめろ……!!」

 

「のるなエース!!戻れ!!!」

 

怒りで支配されたエースを止めようと仲間達は叫ぶが、彼の足はサカズキの方へ進んで行く。

 

 

オヤジはおれ達に生き場所をくれたんだ!!!

お前にオヤジの偉大さの何がわかる!!!

 

「人間は正しくなけりゃあ生きる価値無し!!!

お前ら海賊に生き場所はいらん!!!

白ひげは敗北者として死ぬ!!ゴミ山の大将にゃあ(あつら)え向きじゃろうが」

 

白ひげはこの時代を作った大海賊だ!!!

 

エースの心は完全に怒りに支配されていた。

“おれを救ってくれた人を馬鹿にすんじゃねェ!!!”

その強い想いが胸を占め、衝動のまま拳を振りかぶった。

 

 

この時代の名が!!!“白ひげ”だァ!!!

 

ドゴォン!!

という大きな衝突音が響いた次の瞬間、腕を焼かれたエースが地へ倒れ込む。

 

火であるエースが焼かれたという事実にどよめく海賊達をサカズキは見下すように口を開いた。

 

 

「お前はただの“火”…わしは“火”を焼き尽くす“マグマ”じゃ!!

わしと貴様の能力は完全に上下関係にある!!!」 

 

声高らかに告げたサカズキは、すぐ側でエースを呼ぶルフィに少し目線を移す。

 

 

「“海賊王”ゴールド・ロジャー、“革命家”ドラゴン!!

この2人の息子達が義兄弟とは恐れ入ったわい…!

貴様らの血筋はすでに“大罪”だ!!!

誰を取り逃がそうが、貴様ら兄弟だけは絶対に逃がさん!!

……よう、見ちょれ…」

 

「……おい!!待て!!」

 

麦わらのルフィへと攻撃の目標を変え、サカズキはマグマ滾る拳を振り下ろすべく力を込めた。

 

 

ルフィ…!!!

 

ビブルカードに気を取られ、更には疲労困憊だったルフィにサカズキの一撃を避けることは不可能だった。

 

目の前に迫るマグマにルフィは目を見開き、たった一人の大切な弟に迫る命の危機にエースは悲痛な叫びと共に痛む体のことも忘れ飛び出した。

 

 

そして次の瞬間、その光景に海賊達も海軍達も大きく目を見開いた。

 

灼熱のマグマから助けられたルフィの瞳は大きく見開かれ、サカズキの攻撃から守ってくれた人を驚愕に染まった表情でただ見ている事しか出来なかった。

 

一瞬、静まり返ったその場に男の声だけが響いた。

 

 

 

ウィ~……せっかく潰しに来てやったってのによォ!!

なんでもう壊れちまってんだァ!?ヒック…

 

酒気を帯びているその大男はサカズキを殴り飛ばしたことなど無かったかのように朱色(しゅいろ)瓢箪(ひょうたん)を煽る。

 

しかし、中身が空になっていたのか真上に上げても朱色の瓢箪からは酒は一滴も流れ出てこない。

 

大男は何度かその場で瓢箪を振ったかと思うと鬼の形相で怒鳴り出した。

 

 

なんだって、おれの酒がねェんだよォ~!!!

……どれもこれも全部、テメェらのせいだろ!!?ふざけやがってェ!!!

 

大男は怒鳴りながら海軍に向かって瓢箪を投げつけた。

その瓢箪はまるで凶器のように飛んでいくと、数人の海兵を亡き者にしてしまった。

 

突然の事態に誰もが固まる中、ルフィを庇おうと立ち上がっていたエースが驚いた顔のまま言葉を溢した。

 

 

「……百獣の…カイドウ……?」

 

呟き程度の声だったが、カイドウは気付きジロリとエースを見るのだった。

 

 

 

 




ー後書きー

レオヴァ:バレットとの闘いにギリギリで勝利。
満身創痍だったが雷の補充と“ある薬”の効果でだいぶ回復した。
バレットとカイドウと三人で組手するの楽しみだな!とワクワクしていたがカイドウがワノ国から飛び出すという緊急事態に。

バレット:レオヴァを試す為の闘いで敗れたが、思いの外引きずっていない。
何年経とうとも無意識に“彼”の背を追ってしまっているが、変われるかもしれない未来もある。

シリュウ:レオヴァにある話を持ち掛けた。
マゼランの足止めに成功したこともあり、現在船に同乗中。

カイドウ:激怒酒乱状態。
楽しみにしてた息子との遠征を潰した奴らを潰す、その為だけに遠路はるばるワノ国から飛んで来た。
マリンフォード着いたら赤犬がなんかしてたのが目に入ったので苛立ちのまま殴り飛ばした。

サカズキ:敗北者敗北者と煽っていたらカイドウにぶっ飛ばされた。

センゴク:今回の騒動で間違いなく胃に穴が空く。

ガープ:エースが助かりそうで内心ほっとしている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

止められぬ厄災

大乱戦の最中(さなか)に空から降ってきた怪物、カイドウにより広場は大混乱に陥っていた。

 

前触れもなく現れたカイドウは大将サカズキを殴り飛ばし、その後も怒りの形相で恐ろしい程の威圧感を放ち続けている。

 

 

そんな中エースが思わずカイドウの名を溢すと、カイドウは鋭い目付きで睨みを利かせた。

 

 

…なんだァ?

おれとやろうってのかガキ!?今、虫の居所が悪ィんだ!!容赦しねェぞォ!!

 

金棒(かなぼう)を構えたカイドウに慌てたようにエースは言葉を発する。

 

 

「ちょ、待ってくれ!

レオヴァの親父に何かするつもりはねェ!!」

 

「……レオヴァだとォ…?」

 

今にも襲い掛かって来そうだったカイドウの動きがピタリと止まり、エースを観察するように目を細めた。

 

 

「テメェ、そのレオヴァってのが誰だか分かってんのかァ?

おれの息子の名前を軽々しく呼びやがってェ…!」

 

「あ、いや…おれ前に世話になってんだ。

ワノ国で色んなことも教えて貰ったし、大海賊になったら会いに行くって約束もしてる…!

レオヴァはおれの友達だ(・・・・・・)…!!

 

エースの言葉にカイドウは僅かに目を見開くと、少し考えた素振りの後に口を開いた。

 

 

「……名前を言ってみろ。」

 

「エース……ポートガス・D・エースだ!」

 

ハッキリとエースが名前を告げると同時にカイドウの顔が険しくなる。

 

 

エース…だとォ!?

 

叫ぶカイドウにエースは訳が分からず困った表情を浮かべる。

 

 

どうりで見たことがある(ツラ)だ…!

この処刑騒動とあの馬鹿のせいで半年も前から準備してたレオヴァとの遠征がパァだぞ!!どう償うつもりだァ!!?

 

ドスンと大きな音を立てて一歩前に出たカイドウに、少し離れた場所にいたジンベエが駆け足で現れ、慌てた様子で叫ぶように声を上げた。

 

 

ま、まってくれレオヴァの親父さん!!

この処刑は海軍が決めたこと…!

エースさんに非はない筈じゃ!!」

 

「…お前、ジンベエか。

確かに処刑を決めたのは海軍…

……くそったれがァ、じゃあ結局海軍の野郎とあの馬鹿のせいじゃねェか!!

おれがどれだけ今回の遠征の為に準備を費やしたのかテメェらにわかるかァ!!?

レオヴァの好きな“大水蟹(おおみずがに)”も用意したが無駄になっちまったんだぞ!?

今回の遠征を逃したら来年まで捕れねェってのに…!!

 

 

エースに向けていた鬼の形相を海軍へ向け始めた姿に周りの海賊達はホッとしたように胸を撫で下ろし、海兵達は意味の分からぬ怒りに困惑しながらも顔を真っ青にしている。

 

 

しかし、当人達にしか分からぬ内容で怒り狂っていたカイドウへ、突然いくつものマグマの塊が熱を発しながら飛んでくる。

 

多くの海賊達がそのマグマに驚き目を見開くことしか出来ない中、カイドウはそれを全て金棒で打ち落とすと不快そうに先ほど殴り飛ばしたサカズキに視線だけ移した。

 

 

「ハァ……ハァ……とんだ邪魔が入ったのう…

じゃが、その兄弟だけは逃がさん!!」

 

そう言ってルフィの方へ飛んでくるサカズキにエースは身構えたが、カイドウの金棒がその行く手を阻んだ。

 

またしてもなす術なく殴り飛ばされるサカズキを視界に捉えエースは驚き、思わずカイドウを見上げた。

 

サカズキへ向けていた目を今度は驚いた顔のエースに向けるとカイドウはムッとした顔のまま口を開いた。

 

 

「……お前がレオヴァと親しいってんなら、その証拠を見せてみろ。」

 

「証拠…?」

 

「レオヴァから聞いた話でも、レオヴァから貰ったモンでも何でもいいから証拠を見せろってんだよォ!!

……一時の嘘でおれのレオヴァの名を使ったってんなら、まずはテメェから潰す。」

 

目を見開いてキョトンとするエースにカイドウは苛立ったように語気を荒らげたかと思うと、静かな怒りの籠った声で言葉を締めた。

 

だが、エースはそんなカイドウに怯むことなく真っ直ぐ見つめ返す。

 

 

「…ガキの頃にアンタが作らせた龍の刺繍の入った着物が小さくなって着れないから巾着袋にしたんだって言って…いつも懐に入れてた。

で、巾着袋の中身は初めて任務を成功させた時にアンタから貰ったって言う金貨の中から一番大きい1枚と菓子が入ってた!」

 

自信満々に告げられた言葉は戦場とは思えぬほど静まりかえっていた広場に思いの外響く。

 

そんな中カイドウはカイドウであまりに詳しい内容に少し驚いたのか眉間に入っていた皺が減っており、逆に興味深いと言うようにエースの方へ少し体を向け始めていた。

 

 

「……その金貨ってのはどんな柄だった?」

 

「確か……表が龍で裏に羽みてぇなのが彫ってあった。

大きさはおれの手ぐらいデカかったぜ。」

 

エースは自分の手を開いてカイドウに見せるように向けた。

すると、険しかったカイドウの表情が一変する。

 

 

ウオロロロロロロ!!確かにその金貨はおれがやったモンだ!

レオヴァの奴、あんな昔にやった金貨を使わずにまだ持ってやがるのか!

で…そりゃいつの話だ、最近か?

まさかまだ持ってるんじゃねェだろうなァ?」

 

カイドウは笑みを隠す様子もなくエースに尋ねた。

 

 

「ん~……2年くらい前だったか?

でも、レオヴァはアンタから貰った物はどんな物より価値があるからとかなんとか言って大切にしてるみてェだったし…」

 

この言葉にカイドウは満更でもなさげに相づちを打つと、エースに向けていた威圧を消して言葉を紡いだ。

 

 

「…なんだってレオヴァがテメェに目を掛けてるかは知らねェが、逃がしてやる。

おれァ元から海軍と、あの馬鹿(・・・・)を潰す為に来たんだからなァ!

それに、これだけ大々的に処刑すると意気込んで結局逃げられたとありゃあ……

ウオロロロロ…海軍共をいい笑いもんに出来るじゃねェか!!」

 

上機嫌にそう言うとカイドウは巨大な龍の姿に変わっていく。

 

カイドウが獣型へ変身したことで静かだった広場にどよめきが走ったが、そんなことを気にする(ふう)もなくエースに言葉を投げた。

 

 

「分かったらさっさと消えろ小僧。

おれァ暴れる…!!弱ェてめぇに足下でチョロチョロされちゃあ目障りだ。」

 

弱いと言う言葉に一瞬ムッとしたエースだったが、横にいたジンベエが割り込むように口を開く。

 

 

恩にきる、レオヴァの親父さんッ…!この借りは必ず!!

行こう、エースさん!その腕も治療せんといかん!!

レオヴァの親父さんは不器用でああいう言い方しとるが逃げろと言うてくれとる!!

それにルフィ君も限界が近い……!」

 

「そうだな、ジンベエ……

レオヴァの親父、ありがとう。」

 

頭を下げるとエースはルフィに目線で合図を送り、走り出した。

去り際に此方を見ていた白ひげを視界に入れながら。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

熱息(ボロブレス)…!!

 

カイドウが放った灼熱の一撃により何百もの海兵が吹き飛ばされ、広場に破壊の跡を残していく。

 

この事態に強い焦りを海軍は抱えていたが、他にも同じ思いを抱えている男達がいた。

 

その者達こそ、黒ひげ海賊団であった。

 

彼らは5人という海賊団と言うには少ない人数であったが、実力は確かだ。

 

しかし、そんな5人でさえ暴れまわるカイドウを前には二の足を踏まざるを得なかった。

 

 

世界最強の男白ひげと最強生物カイドウ。

今、2人が立っているこの戦場こそ間違いなく世界一危険な場所だろう。

 

 

「(どうなってやがる……レオヴァの次はカイドウだと…!?)」

 

苦虫を噛み潰したような顔で広場を睨む黒ひげことティーチだったが、覚悟を決めたように船員(クルー)達を見た。

 

 

「行くぞ、お前ら…!

この作戦まで諦めちまったら、完全におれ達の道は閉ざされる!!」

 

そう声を上げたティーチにバージェスが驚いたような顔で口を開く。

 

 

「本当に行く気かよティーチ船長…!!

確かに白ひげは死にかけだが、もう一人の四皇はどうすんだ!?」

 

「ホホホ……落ち着きなさいバージェス。

船長が行くと言うことは何か策があるからでしょう。」

 

声を荒げるバージェスをラフィットは上品な声で止め、ティーチを見た。

 

 

「策ってほど立派なモンじゃねェが……現れたのがカイドウだったのは不幸中の幸いだ!

アイツはオヤジの恨みを買ってる(・・・・・・・・・・・)からな、一か八かそこを突くしかねェだろ。

まぁ、逃げたきゃ逃げりゃあいい強制はしねェさ…だが、おれは行く!

これがどう転ぶかは賭けだが、やってみなきゃ始まらねェだろう!?」

 

そう言って不敵に笑い広間に向けて歩きだしたティーチに、船員(クルー)達も後に続くのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

逃げる海賊を追おうとする海軍だったが、2人の怪物にそれを阻まれていた。

 

しかし、更にはそれだけでは(とど)まらず、白ひげは大地を割り海軍が追えぬよう地形すら作り替えてみせたのだ。

 

 

逃げる海賊達は後方から感じる激しい戦闘の気配に、足は止めずに何度も後ろを振り返っていた。

 

そこには身命を()してまで自分達を守ろうとする白ひげの姿があり、思わず加勢しに行きそうになる足を必死に海賊達は船へ向けた。

 

だがそんな中、白ひげの怒りと驚きに満ちた声が海賊達の耳に届く。

 

 

……ティーチ…!!

 

突如現れた黒ひげことティーチは4人の部下を引き連れながら、大袈裟に両腕を開いてみせる。

 

 

ゼハハハハ!!久しいな!!

…死に目に会えそうでよかったぜオヤジィ!!!

 

鋭い眼光で此方を見る白ひげに怯む素振りもなく、ティーチは笑っている。

 

黒ひげ海賊団の登場に広場全体が注目する中、センゴクは苦虫を噛み潰したような顔で拳を握り締めた。

 

 

黒ひげ、貴様なにをしに来た!?

 

「なにをだって?

ゼハハハハ……七武海としての仕事をしに来てやったってのに、ずいぶんな言い種じゃねェかよ!!」

 

ふざけるな…!!!

かけた召集に音沙汰もなく、今さら現れて七武海としての仕事をしに来ただと!?

 

センゴクが叫び終わるとほぼ同時に、マリンフォードが大きく揺れティーチを潰す程の衝撃が襲い掛かった。

 

 

ッ……!!

容赦ねェな…!!いや、あるわけねェか!!

 

ティーチは瓦礫から這い出ながら、この衝撃波を放った白ひげを見た。

 

 

「…ハァ……てめぇだけは息子とは呼べねェな!!ティーチ!!

おれの船のたったひとつの鉄のルールを破り……お前は仲間を殺した。」

 

ティーチへ向けて一歩前にでた白ひげにマルコ達が声をあげる。

 

 

「「「オヤジッ…!!」」」

 

「手ェ出すんじゃねェぞマルコ!!

4番隊隊長サッチの無念!!このバカの命を取っておれがケリをつける!!!」

 

死にかけているとは思えぬほどの威圧感を放ちながら前へ出た白ひげから距離をとるようにティーチは飛び退くと、大声で言葉を投げかけた。

 

 

「待てよ、オヤジ!!

そしてマルコにイゾウ!!」

 

マルコとイゾウは名前を呼ばれるとは思っていなかったのか、驚きと不快感の混ざりあった表情でティーチを見た。

 

ティーチは此方に目線が向いたことにニヤッと笑うと、言葉を続ける。

 

 

「おれァ、確かに鉄のルールを破りサッチを殺した!

そのおれが憎いのは分かる。

……けどよォ、“おでん”を殺したカイドウも憎いハズだろ!?」

 

おでんと言う名に白ひげ達は目を見開くと、その反応を待ってたとばかりにティーチは言葉を続ける。

 

 

「おでんはワノ国で殺された…!!

だが、オヤジは仇討ちに行かなった。

それは何でだった?

……ワノ国の入国が難しく、カイドウの持つ戦力が多すぎたからだろ!?

だが、今は違う!!!

ワノ国から出てきてカイドウ一人でこの場所にいる!!

殺るなら今じゃねェのかよ!マルコォ!イゾウォ!!」

 

マルコはティーチを鋭い瞳で睨み、イゾウはティーチの言葉に思わずカイドウを見た。

 

ずっと心の奥底にあったイゾウの想いがゆっくりと首をもたげてくる。

 

あの方を……おでん様を死に追いやった男、恨む気持ちがない筈がない。

その想いがふつふつと沸き上がってくるイゾウは無意識に広間の方へ足を向けていた。

 

 

オヤジィ……サッチの仇は取ろうとすんのに、おでんの仇は取らねェ気かよ!?

 

「ティーチ、てめぇにそんな事を言われる筋合いは…」

 

白ひげが怒りに満ちた瞳で言葉を紡いでいると

次の瞬間ティーチが無数の風の刃で斬られ、体から鮮血が溢れだした。

 

 

ぐぉッ…!痛ェ……!!なんだってんだッ!?

 

ドサリと倒れ混み呻くティーチを、人の形に戻ったカイドウが鬼の形相で視界に捉えている。

 

 

「レオヴァとの遠征が延期になった最大の元凶(・・・・・)はテメェだ!!!

挙げ句、ウチの貨物船(・・・・・・)にも手を出しやがってェ…!」

 

叫んだカイドウはそのまま黒ひげに向かって前進するが、その行く手を白ひげが塞ぐ。

 

 

なんのつもりだ白ひげのジジイ…!!

 

怒鳴りつけるカイドウを見据え、白ひげは小さく息を吐いた。

 

 

「ずっと考えてた、おれァ兄弟(おでん)の事を忘れた日はねェ。

……何年も前にオロチとかいう野郎に処刑されたって話を聞いた…その場にお前もいた事もな。」

 

それは大きな声ではなかったが、強く想いのこもった声だった。

 

マルコ、そしてイゾウも息を飲んで白ひげとカイドウを見守る。

 

 

「おでん……あの侍か。

アイツはおれの息子を斬りつけやがったからなァ…覚えてるぞ。

確かに処刑場にいたが……ジジイ、テメェはおれの息子を殺そうとした野郎がすぐそこに居るってのに黙ってろってのかァ…?冗談じゃねェぞ!!

 

怒りの声と共に金棒(かなぼう)が振り下ろされたが、白ひげは薙刀でそれを受け止める。

すると2人を中心に爆風のような強い風が巻き起こり、辺りにいた人々が木の葉のように薙ぎ倒されていく。

 

カイドウの重い一撃を受け止め、そのまま力任せに白ひげは弾き返した。

 

押し返されたカイドウは特に体勢を崩すことなく、少し後ろへ着地すると苛立ったように金棒を地面に突き立てる。

 

 

だが、眼前(がんぜん)で怒りを(あらわ)にするカイドウとは正反対に白ひげは落ち着き払っていた。

 

今のカイドウの答えを聞いた瞬間、白ひげは腹を決めたのだ。

 

白ひげは兄弟(おでん)について前々から情報を集めていたが、エースから聞いた話やジンベエから聞いた話で仇討ちについては殆ど諦めていた。

 

おでんは自分の生き様を貫き、相対したレオヴァは自分の守るべき者の為に敵を討った……それだけのことだ。

けれども、そう言い聞かせたところで人の気持ちというものは完全に割りきれるものではない。

 

先ほどのティーチの言葉で、確かに仕舞った筈のおでんへの想いが顔を出したのは事実だった。

だから、白ひげは前へ進むカイドウを阻み声をかけたのだから。

 

 

そして、カイドウの答えはまさに“今の自分”である。

 

自分の息子を害した相手へのケジメ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

それをカイドウはしたに過ぎなかった。

 

なにより、そんな言葉があの暴れん坊小僧だったカイドウの口から出たことが白ひげを驚かせたのだ。

 

怒りや恨み言がまったくないと言えば嘘になる。

だが、白ひげは“納得”を得た。

 

 

一方、黙り込んでカイドウと対峙する白ひげを見たティーチは気付かれぬように笑った。

 

そして数ヶ月前に百獣海賊団の貨物船を襲って手に入れた武器を仲間達と共に構える。

 

 

 

それはほんの一瞬の油断で引き起こされ、数秒の間に行われた集中射撃。

 

その音が止むと、まるで時が止まったかのような静寂が訪れる。

 

白ひげの体から止めどなく流れる血が地面に垂れると同時に白ひげ海賊団の悲鳴のような叫びが、その静けさを破った。  

 

 

「「「「オ、オヤジッ…!!?」」」」

 

その場で立ったまま、おびただしい量の血を流す白ひげの姿を見てティーチは引き吊った笑みを浮かべた。

 

 

ッ…ゼハハハハ!!

野郎共、例の準備を……

 

ティーチが仲間を振り返る。

その時何百発もの弾丸を浴びせられ、死んだ筈の白ひげの口がゆっくりと開いた。

 

 

「……お前じゃねェんだ…ハァ…ッ…」

 

…!?

まだ生きてんのか!?

この弾は特別な火薬と毒薬で出来てんだぞ!?

 

予想外の展開に腰を抜かしたティーチを白ひげは見下ろす。 

既に生き絶えていても可笑しくないほどの怪我を負いながらも、白ひげは言葉を紡ぐことを止めなかった。

 

 

「ハァ…ロジャーが待ってる男は……少なくともティーチ、お前じゃねェ……ハァ…」

 

「あ!?」

 

「ロジャーの意思を継ぐ者達がいるように…

“血縁”を絶てどもあいつら(・・・・)の炎が消えることはねェんだ……

…そうやって遠い昔から脈々と受け継がれて来た…!!

そして未来……いつの日かその数百年分の“歴史”を全て背負って、この世界に戦いを挑む者が現れる…!!

センゴク、お前達“世界政府”は…いつか来る……その世界中を巻き込む程の“巨大な戦い”を恐れている!!!

 

白ひげの言葉にセンゴクの顔が確かに歪む。

 

 

興味はねェが…あの宝を誰かが見つけた時……世界はひっくり返るのさ…!!

誰かが見つけ出す。その日は必ず来る。

ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”は実在する!!!

 

「「「!!?」」」

 

この宣言はマリンフォードに居た人間だけでなく、中継を見ていた全ての人々に大きな衝撃を与えた。

 

もっとも海賊王に近いと言われていた大海賊から告げられた言葉はどんな人間の言葉よりも真実味を帯び、人々の耳へ届いたのだ。

 

 

 

「(……許せ息子達…とんでもねェバカを残しちまった……おれはここまでだ。

…お前達には全てを貰った。

感謝している…さらばだ息子達…!!)」

 

ゆっくりと白ひげの瞼が閉じられた。

 

 

 

死してなお、その体屈することなく。

敵を薙ぎ倒す姿は、まさに“怪物(かいぶつ)

 

この戦闘によって受けた刀傷、実に二百六十と七太刀(たち)

受けた銃弾、ニ百と五十二発……受けた砲弾四十と六発。

 

さりとて、その誇り高き後ろ姿には

 …あるいはその人生に

 一切の“逃げ傷”なし!!!

 

 

「「「オヤジィ……!!…っ…うぅ…!!」」」

 

「し、死んでやがるのか……」

 

壮大なその死に(さま)に、ただ今は全ての者が息を飲むことしか出来なかった。

 

 

享年(きょうねん)七十二歳

かつてこの海で“海賊王”と渡り合った男。

白ひげ海賊団船長“大海賊”エドワード・ニューゲート、通称“白ひげ”。

マリンフォード湾岸にて勃発した白ひげの海賊艦隊VS海軍本部、王下七武海連合軍による頂上決戦にて…死亡。

 

 

悲しみに溺れる白ひげ海賊団達だったが“最後の船長命令”を守るために再び動き出す。

 

一方、呆けていたティーチもやっと事態を飲み込み声を発した。

 

 

「ハァ……ハァ…ゼハハハハ……さァ始めるぞ!!

 

その掛け声と共にティーチの仲間達が真っ黒い巨大な布を白ひげに覆い被せる。

 

その意味の分からぬ行動に周りの人間が眉を潜めた。

 

 

「あいつらまだ何かする気だ!!」

 

「ティーチの野郎、死んだオヤジに何を…!!!」

 

「これ以上、何かオヤジにやろうってのか!?」

 

白ひげ海賊団の人間は怒りに血走った目でティーチを見るが、地形が変形し真っ二つに裂かれた向こう岸での事に手出しが出来ずにいた。

 

悔しさや怒りに震える白ひげ海賊団、そして警戒と困惑に満ちている海軍にティーチは不敵に笑って見せ、黒い布に手をかけた。

 

 

ゼハハハハ…見せてやるよ最高のショーを!!

 

そう言って黒い布の中にティーチが入ろうとした時だった。

 

空から大量の槍が白ひげの亡骸付近に次々と降り注いだのだ。

 

 

「なんだ!?なにが起こってる!?」

 

「ティーチ船長、大丈夫か!?」

 

「不味いですね…!一旦下がってください船長!!」

 

 

黒ひげ海賊団は槍の雨から逃れる為に後ろへ飛び退いた。

 

 

「なんだありゃ!?」

 

「おい、オヤジの遺体が危ねェんじゃ!?」

 

「陣形を維持したまま、一時退避せよ!」

 

 

黒ひげ海賊団だけでなく、海賊達も海軍も突然降り注いだ槍に動揺し慌て始める。

 

広場の人間達が混乱を極める中、カイドウだけは槍を見て笑った。

 

 

槍は数百本もの数降り注ぐと、ピタリと止まる。

そんな唖然とする広場で誰かが言葉をこぼした。

 

 

「…白ひげの遺体にだけ……槍が当たってないぞ……」

 

その言葉にハッとした顔でティーチが遺体を見る。

そして、近付こうと動いた時だった。

 

何かが風を切る音に周りの人間が気付いたその瞬間、ティーチとその仲間達が吹き飛び瓦礫の山へと打ち付けられていた。

 

そして、ティーチがいた場所には着物を着た凛々しい青年が立っている。

 

次々に起こる出来事に周りの人間がついて行けずに固まっていると、瓦礫を払いのけ起き上がったティーチが声を荒げた。

 

 

てめェ……レオヴァ!!

 

レオヴァと呼ばれた青年は周りの槍を消滅させると、普段の微笑みが消えた険しい表情で口を開いた。

 

 

「この白ひげの遺体、お前には指一本触れさせねェ。」

 

低い声で告げたレオヴァの顔には覚悟があった。

 

海軍と海賊達は流れに付いて行けずにポカンとするが、レオヴァに気付いたエースが叫ぶ。

 

 

…レオヴァ!!

 

その叫びにレオヴァは振り返ると少し眉を上げた。

 

 

「エース、生きていた(・・・・・)のか…!?」

 

「あぁ、レオヴァの親父が助けてくれたんだ!」

 

「……父さんが…?」

 

珍しく驚いた顔になったレオヴァは少し先にいるカイドウへ顔を向けた。

 

カイドウは自分を驚きの目で見ているレオヴァに大きな足音を立てながら歩み寄ると、心なしか弾む声色で告げた。

 

 

「あのジンベエが庇うってことァ見所もあるんだろ…その小僧は見逃してやることにした!!」

 

「…なるほど……父さんが見逃す(・・・)と決めたなら…

 

レオヴァの最後の言葉は誰にも聞き取れぬほど小さかったが、すぐに普段の顔に戻るとカイドウを見上げる。

一瞬、難しい顔をしていたレオヴァにカイドウが小首を傾げ、理由を尋ねようとした時だった。

 

 

なんだってテメェがオヤジの肩を持つ!!?

インペルダウンの一件といい、カイドウのこのタイミングでの襲撃といい……まさかオヤジと組んでやがったのか!!

 

血を吐きながら叫んだ黒ひげをレオヴァは冷たい目で見下ろした。

 

 

「白ひげとは手を組んでなどいない。

……だが、敵であろうとも敬意を払うべき相手とそうでない相手がいる。

そして白ひげは敬意を払うべき相手…と言うだけだ。

黒ひげ、お前とは違ってな。

それにしても父さんの言葉を遮るとは……」

 

 

殺気立つレオヴァの後ろで、カイドウは立ったまま勇ましく生涯を終えた白ひげを真っ直ぐに見ていた。

そして、徐に口を開く。

 

 

「…レオヴァ、おれァ白ひげのジジィにはひとつ借り(・・・・・)がある、最後に墓くれェならくれてやってもいい。」

 

珍しく静かな声で告げられレオヴァは驚いた顔でカイドウを見たが、すぐにいつもの笑みを浮かべると言葉を返した。

 

 

「勿論だ、父さんが言うなら立派な物を用意しよう…!」

 

その言葉に満足げな顔になるとカイドウは金棒を握り直した。

 

 

そうと決まりゃあ、レオヴァ!

まずはあの馬鹿と海軍を潰し、ここを更地にしちまおうじゃねェか…!!

手始めに一発、デカイのを見舞うぞ!!!

 

「“アレ”をやるのか…!

父さんとの海賊業は久々だな!!」

 

ご機嫌に金棒を地面に突き刺すとカイドウは再び巨大な龍の姿となり、レオヴァも巨大な鳥の姿へと変貌を遂げる。

 

明らかに異様な威圧感を放ち始めたカイドウとレオヴァに広場にいた人間は慌て出すが、時既に遅し。

 

 

「行くぞレオヴァ、合わせろよォ!?」

 

「任せてくれ、父さん…!!」

 

巨大な龍と巨大な鳥はその巨体に見合わぬ速さで(くう)を切る。

 

 

「「天落十祇(あまおとし)…!!!」」

 

カイドウとレオヴァの声が重なった。

その瞬間広場にカイドウが巻き起こした大竜巻きが無数に現れ、レオヴァの造り出した槍を何万とその中に(たずさ)えながら進んでゆく。

 

じわりじわりと進行する大竜巻はその風力で海兵を呑み込み、何万本もの槍は海兵達の体を貫いていく。

 

だが、それだけでは終わらなかった。

 

鼓膜を破るようなけたたましい音が響くと、その竜巻に無数の雷が降り注いのだ。

 

その雷は電流となると

何万本もの槍の間を駆け巡りながら無数にある大竜巻の間を飛び交い、竜巻に呑み込まれていなかった海兵達も丸焦げにしていった。

 

そしてカイドウとレオヴァが人の形に戻り地に立つ頃には殆どの海兵が黒く焼け焦げ、空からは槍の刺さった海兵がボタボタと降り注いだ。

 

 

たった一回の技だ。

そのたった一回のニ人の技で広間は屍の海と化したのだ。

 

生き残っていた海兵達は言葉を失ってしまい。白ひげの作り出した亀裂のおかげで運良く対岸にいた海賊達も同様に言葉を失っている。

 

まさに圧倒的であり、理不尽な“力”であった。

 

 

逃げ惑っていた海兵達が肩で息をしている音が妙にクリアに聞こえる中、いつの間にか出来ていた瓦礫のドーム状の何かが破裂し、その穴から四人の男が現れた。

 

 

「おい、レオヴァ…!

てめェが中継を止めろと言うから船から降りたってのに、結局自分で電伝虫を壊してんじゃねェか!!」

 

「おい、バレット…レオヴァさんへの口の利き方を改めろ!」

 

「小僧…口の利き方を改めるのは貴様だ!

おれァ部下になった覚えはねェ…!!」

 

「バレット、ロー……落ち着け!」

 

「……今の技、おれたちも食らってたらタダじゃあ済まなかっただろ…

バレットのドームがなきゃあ、危なかったぜ。」

 

現れた男達を見て、海兵達は思わず声を上げた。

 

 

「あ…あれは!?」

 

「百獣海賊団幹部のX・ドレークにトラファルガー・ロー!?」

 

「待て…何故シリュウ看守長が!?」

 

「そ……そんな…馬鹿な!?

ダグラス・バレットがなぜ百獣といる!?」

 

ざわつく海軍を無視してズカズカとバレットは歩き出し不満げな顔で口を開こうとしたが、それよりも先にレオヴァは言葉を発した。

 

 

「悪かったバレット、父さんとの合わせ技は久々でついな…」

 

「つい、じゃねェ…!!

だったらおれも最初から暴れさせろ!!!」

 

怒鳴るバレットの威圧をレオヴァが笑顔で受け流しているとカイドウが眉間に皺を寄せる。

 

 

「レオヴァ、コイツはなんだ?」

 

「そうだ、紹介が遅れてすまない父さん…

あそこにいるシリュウはウチに入りたいらしい。

バレットとは契約したんだ……まぁ、新しい身内だ!」

 

だから身内じゃねェと散々…!!

 

レオヴァの言葉に噛み付くバレットにカイドウは笑う。

 

 

「ウオロロロロロ…!なかなか強そうな奴じゃねェか!!

こりゃ組手も盛り上がる…!!」

 

……親子揃ってか…!

 

レオヴァと同じような事を言うカイドウにバレットはゲッソリした表情で呟いた。

 

 

 

だが、新たな大物の登場に動揺が隠せない海兵達の後ろからセンゴクが声を上げた。

 

 

「シリュウ…!貴様!!

マゼランはどうした!?インペルダウンはどうなった!?

何故貴様が百獣と共にいる!?」

 

叫ぶセンゴクを目線だけでチラッと見ると、シリュウは葉巻の煙をゆっくりと吐く。

 

 

「インペルダウンの状態はてめェらで後で確認しな…

落ち目の奴らに監獄で拘束され続ける余生なんてのは御免だ……おれにチャンスをくれると言った、てめェらと違って話の分かるレオヴァに付いていくことにした。

…以後、よろしく。」

 

そう言い捨てたシリュウをセンゴクは鋭い目付きで睨み付ける。

 

 

「う、嘘だろ……シリュウ看守長は裏切ったのか!?」

 

「いや、それよりあのバレットをどうやってまた捕まえるんだ!?」

 

「百獣のカイドウと幹部達を今から相手にするなんて…無理だろう…」

 

 

どんどん士気が下がっていく海兵達に、突如サカズキの声が届く。

 

 

 

「ハァ…ハァ…貴様ら…何故海賊に背を向けようとしちょる?」

 

ボロボロになりながらも睨みを利かせるサカズキに海兵達は思わず息を飲んだ。

 

 

「サッ…サカズキ大将……その…」

 

「無理ですよサカズキ大将…!あんなっ…勝てるわけない!!」

 

「立て直す為にも撤退を……」

 

「帰らせてくださいっ……おれを待つ家族のもとへ!!」

 

恐怖や絶望が入り交じった震える声で口々に海兵達はサカズキに訴える。

だが、サカズキはそんな海兵達をゴミを見るような瞳で見下ろすとマグマを滾らせた。

 

 

海賊に背を向けるような……正しくもない兵は海軍にはいらんッ…!!!

 

サカズキが腕を振ると、必死に訴えていた海兵達は溶岩の餌食となった。

 

狂気的とも言えるその惨状を見ていた海兵達に一気に緊張が走る。

 

多くの海兵が注目する中、サカズキはカイドウやレオヴァ達へ向けて歩き出すと鬼気迫る剣幕で叫んだ。

 

 

「海賊という“悪”を許すな!!!」

 

その叫びはまるで呪文の様に辺りの兵士達を動かした。

血走った目で百獣海賊団へ突撃を開始した海兵の目には怯えが浮かんでいるが、止まることは出来ない。

 

正面には百獣海賊団という地獄が構え、かといって後方に下がれば待つのは焼死という絶望だけだ。

 

海兵達はただ前進する肉壁と化した。

 

 

 

まさにこの世の終わりの様な顔で突撃を始めた海兵達横目に、レオヴァはローに耳打ちをする。

 

 

「……分かった。

じゃあ、おれはアイツを回収したら先に船に戻る。」

 

そう言って消えたローの気配を追いつつ、レオヴァはカイドウに目をやった。

 

するとカイドウは楽しげな顔で口を開いた。

 

 

「ウオロロロロロ……バレットにシリュウだったか…?

ちょうど良いじゃねェか。

このマリンフォードで実力を見せてみろ!!」

 

「……フンッ、言われずともレオヴァとの契約がある。」

 

「ここで実力を示せば、そこそこの地位も期待していいのか?」

 

バレットは勝手に飛び出して行ったが、シリュウはカイドウに質問を投げ掛けた。

 

質問にカイドウは豪気な笑みを浮かべ言葉を続ける。

 

 

「ウチは実力主義だ!!

てめェが強けりゃすぐに幹部にしてやってもいい…!」

 

「そりゃ、俄然やる気がでるってもんだ。」

 

ニヤリと口角を上げ、刀をシリュウが抜いた時だった。

 

カイドウを中心に広範囲を凄まじい衝撃波が襲った。

足場が砕ける音と巻き起こる突風に海兵達は目を見開き、歓声を上げる。

 

 

「センゴク元帥だ…!!」

 

「凄い…!直撃したぞ!?

百獣海賊団の奴らもただじゃ済まない!」

 

「そうだ!元帥や大将もいる!!

このまま行けば負けるはずないんだ!」

 

海兵達の下がっていた士気がまた戻ろうとした時だった。

 

辺りを包んでいた砂埃が風により一瞬で散ったかと思うと、そこには巨大な鳥がカイドウ達を守るように翼を大きく広げていた。

 

 

百獣の息子…!

まさかこれ程とは……甘く見ていたか!!

 

大仏の様な姿で顔を歪めるセンゴクとは対照的に、レオヴァの翼の内側にいたシリュウは少し驚きの混じった声を出す。

 

 

「……レオヴァを選んだおれの目に間違いはなかった訳だ。

まさかセンゴクの奴の一撃を防ぎきるとはなァ……」

 

「今の一撃…!

おれたちには砂埃ひとつかからなかった…!!」

 

流石だと感激したような顔で巨大な鳥になっているレオヴァを見上げるドレークの斜め前では、カイドウが口をへの字に曲げる。

 

 

「おいレオヴァ…!

ったく、わざわざお前が受ける事ァねェだろう!!」

 

「すまない、父さん。

不意の一撃が見えた(・・・)から咄嗟に……」

 

また人の形に戻ったレオヴァの顔をじっと見るとカイドウは少し目を細めた。

 

 

「……レオヴァもあのバレットとか言う奴も疲れが見えるが、やれるのか?」

 

「勿論だ、その為に来た。」

 

「そうか…!

レオヴァ、それでこそおれの息子だ!!」

 

間髪入れずに答えたレオヴァに満足げに笑うとカイドウは金棒を担ぐ。

 

 

行くぞ、レオヴァ…!!久々に楽しもうじゃねェか!!!

 

前進を始めたカイドウに、レオヴァも楽しげな笑みを浮かべながら続くのだった。

 

 

 

 




ー後書きー

白ひげ:戦死、最期まで強く勇ましい漢だった。

カイドウ:突然現れて好き勝手し出した黒ひげにイラつき殴ろうとしたら、レオヴァが先に蹴り飛ばしたのでニッコリ。『流石はおれの息子だぜ…!』

レオヴァ:“ある回復薬”によって復活したが、完全復活ではない。
着いた瞬間黒ひげが“アレ”をやろうとしていたので、いの一番に船から飛び降りて蹴り飛ばした。
今回の遠征はやむを得ず延期にしたが本当はめちゃくちゃ遠征楽しみにしてた。

ロー:レオヴァから最重要任務を頼まれた。

黒ひげ:カイドウとレオヴァの地雷の上でタップダンス
その後2人の合わせ技が直撃し気絶中、何とか直撃を免れ意識を保っているラフィットが黒ひげを担ぎ逃走を試みている。

センゴク:あらゆる意味で大ピンチ。

【中継について】
レオヴァの指示で止めるべく4人は動いていたが、結局レオヴァの降らせた槍で壊れていたので骨折り損である。

【エースについて】
カイドウ:レオヴァの友人だと言うので見逃してやることにした。
今のところエース本人には、さして興味はない。

レオヴァ:父さんが見逃してやると言うので逃がすことにした。
元々エース本人には恨みはないので生死に興味はない。
ただ、将来的に麦わら側の人間になる可能性が高いので警戒はしていた。

結果:カイドウとレオヴァの小さなすれ違いによりエース生存。
ルフィは力尽きてジンベエに担がれている。


ー追記ー
ご質問等を下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio

既にレオヴァの手料理を初めて食べたカイドウさんの反応や、レオヴァがキングの素顔を知った年齢など様々なご質問に答えさせて頂いておりますので暇潰しにでも覗いて頂けたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします~!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新しき伝説

ー前書きー
↓番外編にてカイドウさんの誕生日回を更新しました!
https://syosetu.org/novel/279322/8.html
いつもご感想や、ここ好き一覧などありがとうございます!





 

 

 

 

 

「あんな化け物共をどうやって止めれば良いんだ!?」

 

絶望に染まった叫びを上げる海兵の目の前には瓦礫と屍の山、そして常人では目で追えぬほど激しい戦闘を繰り広げる化け物達がいた。

 

 

 

大将三人相手に一歩も引けを取らぬバレットと、それを援護するような動きを見せるドレークとシリュウ。

 

大暴れするバレットに巻き込まれることなく獣人の姿で俊敏に動き回るドレークも脅威であったが、海兵達にとっては大将との戦闘の合間に近くにいる者をついでの様に斬り殺していくシリュウの方が恐怖の対象となっていた。

 

しかし、海兵の絶望の理由はそれだけではない。

 

あの仏のセンゴクと英雄ガープが押されはじめていたのだ。

 

 

 

ウオロロロロロ…!

英雄ガープ…!殴り合いでおれに勝てると思ってやがるのかァ!?

面白ェ!おれは二度は負けねェ(・・・・・・・)ぞォ!!

 

「ぐぅ……小僧め…!舐めるでないわい!!フンッ!!!」

 

己の拳1つで凄まじいパワーを発揮するガープの猛攻をカイドウは真っ向から受け止め楽しげに笑う。

 

そのカイドウの姿には強者への歓喜があり、同時にそれを捩じ伏せてやろうと言う海賊の本能が滲み出ていた。

 

 

そして、そのすぐ横ではレオヴァが普段の雰囲気とは違い、勇ましい笑みを浮かべながら()をふるっている。

 

 

「ふははははは…!

流石は元帥か!でたらめな戦い方だなァ!!」

 

「ハァ…でたらめなのは貴様だ…!!

まさか雷で回復をするとは……これでは埒が明かん!」

 

「英雄ガープの支援に行きたいんだろう?

だが、1つ言っておくが余所見をしながら勝てるほどおれは弱くない。

そして……おれにそんな遅い大振りな攻撃は当たらん。」

 

大仏の姿となり衝撃波を放つセンゴクを脅威ではないという表情でレオヴァは素早い攻撃を繰り返し翻弄している。

 

なによりレオヴァの言葉通り、先ほどからセンゴクの衝撃波はほぼ全て避けられてしまっているのだ。

 

数発当たった攻撃も、全てセンゴクがガープを援護しようとカイドウに向けたものをレオヴァが防ぐ為に自ら当たりに行ったというだけであり

センゴクがレオヴァを狙って放った衝撃波は一回たりともレオヴァには直撃していなかった。

 

確実に消耗していっているセンゴクとガープとは裏腹に、カイドウとレオヴァは闘えば闘うほどに調子を上げて行っている。

 

 

「ウオロロロロロ…!!

楽しいじゃねェか!なぁ、レオヴァ!!!」

 

「ふはははははは…!!

あぁ、本当に楽しいなァ父さん!!!」

 

カイドウとレオヴァはまるで互いに呼応するように速さも力も上がっていく。

 

 

「ッ……ガープ!!

もう被害がどうのとは言ってられんぞ!

マリンフォードのことは気にせず全力でやるしかない!!」

 

「分かっとるわい!!

なんならもう、わしは全力じゃ…!!!」

 

センゴクとガープは狂暴な笑みを浮かべながら猛攻を仕掛けてくるカイドウとレオヴァを相手に必死の攻防を続けた。

 

 

 

一方、バレット達を相手にしている大将達も疲労が強く現れている。

 

 

「ゼェ…ハァ……お、おんどれェ……舐めた真似しよって…!」

 

「ちょっとサカズキ~……君下がってた方が良いんじゃないか~い?」

 

「馬鹿を言うな、ボルサリーノォ…!ゲホッ…ハァ……」

 

「いやいや……サカズキ、限界でしょ?

死んだら元も子もないじゃない、一旦下がりなよ。」

 

 

カイドウの攻撃で既に満身創痍だったサカズキを心配するボルサリーノとクザンだったが、当の本人に下がるという選択肢はないらしかった。

 

だが、そう言うボルサリーノとクザンにもサカズキ程ではないにしろ外傷が目立ち始めている。

 

 

「う~~ん……カイドウとレオヴァの首さえ取れれば状況は変わるんだけどねぇ~~…」

 

そう言ってボルサリーノは瞬き程度の一瞬の隙にレオヴァへ光線を放つ。

 

だが、その光線は巨大化したバレットの腕に遮られた。

 

 

「おれがいるのに他に目をやる余裕が、貴様らにあるのかァ…!?」

 

その声と共に怪獣といってなんら差し支えない姿のバレットの拳がボルサリーノを襲った。

 

その攻撃をボルサリーノは間一髪で躱したが、それを見計らっていたかの様に背後から剣撃が襲いくる。

 

 

「ッ……と~~…危ないねぇ~!」

 

「腐っても大将と言った所か。

不意の一撃にも対応するとは流石……だが…」

 

ボルサリーノと剣を交えていたドレークが何故か飛び退き、身構えた。

 

何事かとボルサリーノが訝しげな表情をした瞬間、肩に鋭い痛みが走る。

ボルサリーノを切り裂いた斬撃はそのまま直線上にいるドレークへと飛んでゆくが、彼は予め分かっていたのか刀と剣で巧くその斬撃を横へと流してみせた。

 

 

「…っ……やってくれたねェ~…!!」

 

ボルサリーノがギロリと目を後方に向けると、センゴクと向き合っていた筈のレオヴァが笑っていた。

 

 

「さっきお前がやろうとしていたことだ。

おれの場合はバレットが防いでくれたが……どうやら元帥殿は防げなかったようだな。」  

 

その言葉に顔を歪めたのはボルサリーノだけではなかった。

 

会話もなしにこれ程の連携を見せてくるレオヴァとドレークにセンゴクは唇を噛む。

 

 

「レオヴァ!!

大将はおれの獲物だぞ!?横取りする気か!!

 

「悪かったバレット。

やられたらやり返せと言われて育ったもんでな…」

 

「……確かに一理あるが、もう手ェ出すなよ!?」

 

「あぁ、バレット…約束する。」

 

呑気に会話をする余裕を見せる二人に海兵達は愕然としていた。

 

 

海軍の総戦力と言っても過言ではない、これ程の男達を相手にしているというのに百獣海賊団は押されるどころか楽しんでいるようにすら見えるのだ。

 

それに最新兵器であるパシフィスタに関しては眼中にないと言わんばかりに、簡単に破壊して見せた。

 

海賊達を翻弄する能力を持っていた筈のパシフィスタが百獣海賊団が相手ではただの案山子(かかし)扱いだ。

 

 

勝てる未来が見えない。

その事実は戦場に立つ者達にいったいどれ程の絶望を与えるのだろうか。

 

勝ち目の見えない戦いほど苦しいものはないに違いない。

 

ひとり、またひとりと海兵達は力なく崩れ落ちていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

大乱戦となっている広場の対岸で言葉を失っていた白ひげ海賊団達の前に、瞬間移動のような動きで男が現れた。

 

前触れもなしに現れた男に周りの海賊達の中には腰を抜かす者もいたが、エースはその男に近づくと声をかけた。

 

 

「お前……ロー!?」

 

驚いた顔をするエースを、ローは愛想のない表情で見やる。

 

 

「火拳、お前をこの場から逃がし……腕を治療するようレオヴァさんから言われて来た。

分かったら、おれと来い。」

 

無愛想に告げたローに付いていこうとするエースの姿を見て、イゾウは咄嗟に腕を掴んでしまう。

 

 

「待て、エース…!

百獣の船に乗る気か!?」

 

「……?

…あぁ、イゾウは知らねェのか!

ローはスゲェ医者で…」

 

「違う…!!そういう意味じゃ…!」

 

何かを圧し殺したような声を上げるイゾウの言葉を遮るようにローは冷静な声を出す。

 

 

「おい、早くしろ。

気絶してる麦わらもそのままじゃ危険だ。

どうやったかは知らねェが、だいぶ体に負担がかけられてる。

さっさと安静にさせて点滴を射たなきゃ最悪死ぬか……死ななくても後遺症が残る可能性もある。

おれにはまだやること(・・・・)があるんだ、揉めるなら後にしろ。」

 

ローのルフィが危ないと言う言葉にエースの目の色が変わる。

 

 

「ッ…分かった!ジンベエ…!ルフィを!」

 

「あぁ、エースさん!

ローくん、わしも連れて行ってくれ!」

 

「あぁ、ジンベエなら構わねェ。

レオヴァさんからお前を気にかけるように言われてたしな…

おれの能力で一気に()に行く、動くなよ。」

 

その言葉にエースとジンベエが頷くと三人の姿が一瞬にして消え、その場に小石が三つ転がった。

 

消えた三人がいた場所を白ひげ海賊団の人間は唖然と眺めていたが、また別の声がその場に響いた。

 

 

「お~い!白ひげ海賊団の人~!」

 

大声で呼ばれ、マルコ達が振り向くと真っ白なクマが手を振りながら走って来ている。

 

 

「ここ危ないよ!?

キャプテンが海軍の船いっぱい奪ったからそれで早く逃げよう!」

 

「まさか……おれ達の為に…軍艦を奪ったってのかよい?」

 

驚きに目を見開くマルコ達にベポは当たり前だというような表情で頷いた。

 

 

「うん、だってレオヴァさまがエースくんの仲間の退路を確保するようにって。

今はハイルディン達が奪った船の見張りしてくれてるけど、早くしないとまたパシフィスタがくるかもしれないし急いで!!」

 

そう言って誘導を始めたベポに白ひげ海賊団の船員達が付いて行こうとした時だった。

 

 

「……罠じゃないのか?

なんで、なんで百獣がおれ達を…!」

 

苦しそうな声を出すイゾウに事情を知らぬ仲間達は首をかしげ、知っている者は彼の気持ちを想い同じように苦しげな表情になる。

 

 

「おれは…!百獣に助けられるくらいなら…!!」

 

そんなベポに掴みかかりそうな勢いのイゾウが突然、気を失い倒れた。

 

驚く周りの白ひげ海賊団の船員達は、イゾウを気絶させたマルコを見た。

 

マルコは無言でイゾウを担ぐと、落ち着いた声でベポに話し掛ける。

 

 

「……悪い、世話になるよい。」

 

「気にしないでよ!

レオヴァさまの友だちの仲間を助けるのは当たり前(・・・・)だから!」

 

何かを決めたような顔をするマルコにベポは屈託のない表情で返した。

 

 

「そう…なのかよい……」

 

「うん!

あ、あとエースくんの心配もしなくて大丈夫。

なんたってキャプテンは世界一のお医者さんなんだ!!エースくんの腕も綺麗に治してくれるよ!

じゃあ、みんな走るよ~!付いてきて!」

 

走り出したベポに半信半疑ながらも白ひげ海賊団の船員達は付いて行く。

 

他に逃げる方法もないという事も関係していたが、何よりベポからは何の悪意も感じない。

それが白ひげ海賊団の船員達を無意識に安心させていた。

……が、当の本人であるベポにその自覚はないのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ローとベポが白ひげ海賊団を離脱させることに成功したのを感じ取ったレオヴァがカイドウの方へ目線をやる。

 

同じくカイドウもそれに気付いたようで、レオヴァを見て口を開いた。

 

 

「ローの奴、しっかりやってるみてェじゃねェか!

あとは白ひげのジジイを巻き込まねェような場所に移動させりゃ完璧だ…!!」

 

「父さんならそう言うだろうと思って、既にローには伝えてある。」

 

「ウオロロロロ……気が利きすぎだァ!レオヴァ!!」

 

嬉しげにカイドウが笑っていると、背後にあった白ひげの遺体がローの“ROOM(ルーム)”によって姿を消す。

 

あまりにもドンピシャなタイミングに、またカイドウとレオヴァは笑った。

 

 

「ウオロロロロロ!話をすれば…か!」

 

「はははは!まるで図ったかのようなタイミングだ!」

 

仲良さげに話す2人の親子だが、相も変わらずガープとセンゴクへの猛攻は続いていた。

 

 

「ぜぇ…小僧共、随分と余裕をかましてくれるわい!!…はぁ……」

 

「ッ…はぁ……一対一からニ対ニに持ち込んだが……悪手(あくしゅ)だったか…!!ハァ…

ただでさえ手がつけられんというのに、こうも完璧に連携をとられては…ろくに攻撃も通らん!ゼェ…」

 

「わしらの方が付き合いは長いはずなんじゃがなァ…」

 

「最近はまったくだっただろう…!

ここに来てブランクがこうも顕著に……」

 

猛攻を受けつつも何とか耐えている2人の会話などお構い無しに、カイドウは金棒をレオヴァは()を振るう。

 

 

 

 

 

そうこうしてカイドウ乱入から1時間ほどの時が経った。

 

三人の大将は肩で息をし、バレット達の進撃を押さえきれなくなり始めており

センゴクとガープもカイドウとレオヴァの連携に少しずつ追い付けなくなってきている。

 

この光景に誰もが確信せざるを得なかった。

 

このまま百獣海賊団が海軍に勝利するのだ、と。

 

 

しかし、震える海兵達が残酷な現実に瞼を下ろそうとした時。

バレットの巨体が何者かによって吹き飛ばされ、広場にいる者達の注目がそこへ集まる。

 

三人の大将にそんな力は残っていない、ならば誰が?

そう疑問に思いカイドウとレオヴァが振り返った先には、マントをはためかせ刀を構える男を先頭にずらっと海の強者が立ち並んでいた。

 

 

「……ここまでだ、百獣海賊団に…海軍!

おれ達はこの戦争を終わらせに来た…!!!」

 

バレットを斬り伏せた男が声を上げると、広場にどよめきが起こる。

 

 

「「「あ、赤髪海賊団だァ~!!!」」」

 

「赤髪!!?

ルフィを海賊の道に引きずり込んだ男…!」

 

「何故、“赤髪”のシャンクスが…!?」

 

「待て、奴は百獣海賊団の大看板達と小競り合いを起こしていたんじゃないのか!?」

 

ざわざわと騒がしくなる海兵達とは裏腹にカイドウとレオヴァは静かな瞳でシャンクスを睨んだ。

 

 

「……キング達が応戦していたと聞いていたんだがな。」

 

冷静な声色で言うレオヴァをシャンクスは見上げる。

 

 

「あぁ、本当に手強かった。

おかげで来るのがこんなにも遅くなった…!!」

 

「キングが付いて来ねェと思ったら……赤髪ィ…てめェか!?」

 

ガープからシャンクスに向き直ったカイドウの表情は険しい。

 

 

「……カイドウ、マリンフォードは更地になり……白ひげも死んだ。

これ以上、ここで暴れる理由があるのか?

このまま続けても無念に沈む魂が増えるだけ……

なによりこれ以上戦い続けたところで百獣海賊団に利益などないはずだ…!!

 

カイドウの怒りのオーラを正面から受けていながらも、怯む様子もなくハッキリとシャンクスは言葉を紡ぐ。

 

 

海賊が暴れる理由に、気にいらねェ以上の理由が必要かァ…?

それにおれァ…殴り合いに利益なんざ求めねェ!

闘いってのはなァ、楽しいか楽しくねェか…それだけだァ!!

 

その言葉にシャンクスは眉を顰めると刀を構えなおした。

 

 

「…そうか。

なら悪いが、百獣には力尽くでもこの場から撤退してもらう…!!

本能のまま暴れる怪物に付き合っては、無益に被害が広がるだけだ!!

 

このおれを撤退させるだとォ…?

赤髪…てめェはおれを誰だと思ってやがる!!!

 

シャンクスの言葉にカイドウは目を吊り上げると、隣にいるレオヴァへ言葉を投げ掛けた。  

 

 

「おい、レオヴァ!!おれァ…()だ!?」

 

カイドウの呼び掛けにレオヴァは間を空けず、強い想いを感じる声色で答える。

 

 

「百獣のカイドウ……この世の誰よりも強い男だ…!!」

 

レオヴァの言葉にカイドウは満足そうに猛々しい笑みを浮かべ、前へ出る。

 

「そうだ、レオヴァ…おれァ百獣のカイドウ…!!

このおれを止められるもんなら、止めてみやがれってんだァ!!!」

 

捉えられぬほどの速さで(くう)を切る金棒はシャンクスを目掛けて振り抜かれた。

 

咄嗟に剣を構え体への直撃は免れたが、桁外れの腕力でシャンクスはそのまま数十メートル後方へと弾き飛ばされていく。

 

 

「「「お(かしら)…!!?」」」

 

「なっ…赤髪を…!?」

 

 

唖然と口を開いたままの周りの者達がカイドウを凝視する。

そして、真っ直ぐ前を見るカイドウの目線を皆が追うと土煙が開けたその場所に、シャンクスはしっかりと両足で立っていた。

 

 

「……なるほど、やはりこうなったか。

レオヴァ、お前もカイドウと同じ答え(・・・・)ということで良いんだな…?」

 

シャンクスはカイドウの隣にいるレオヴァへ鋭い目線を向ける。

 

 

「答えるまでもない。

父さんの言葉は、おれ達百獣の意思(・・・・・)だ。」

 

 

「……そうか、話が通じる相手だと思っていたんだが…とんだ勘違いだったようだな。

レオヴァ、お前が一番話が通じそうにない(・・・・・・・・・・・・・・)…!!

 

シャンクスの振り抜いた剣は斬撃を生み出し、レオヴァへ襲い掛かった。

 

光のような速さで迫り来た斬撃だったが、レオヴァはそれを武装した腕で簡単に払い退ける。

 

 

「四皇にしては……随分と軽い一撃だ。」

 

「……思った通り、実力を隠してたようだな。

最初は様子見のつもりだったんだが……これはそうも言ってられないな。」

 

常人であればひとたまりもないシャンクスの一撃を軽くいなしたレオヴァと、その一撃を様子見だと言ってのけるシャンクス。

 

あまりにも次元の違うやり取りに、周りの人間達はただただ呆然と立ち尽くす。

 

一触即発の空気に誰もが呼吸を忘れ、身動きが取れずにいた時だった。

 

 

「“無頼男爆弾(ブラキオボムバ)”ァ…!!!」

 

けたたましい音と共に赤髪海賊団のいた場所は桁違いの質量が落下した衝撃に耐えきれず、爆発のような現象が起こる。

 

 

「“火龍皇(かりゅうどん)”…!!」

 

まるで煙幕のように巻き上がった砂埃に広場の者達の視界が一瞬奪われ、続く炎の龍により砂埃諸とも火の海と化していく。

 

 

誰も予想だにしなかった強襲に思わず赤髪海賊団が後退すると、数名の船員を下敷きにしていた巨大な塊がのそりと長い首をもたげ、大きな声で叫んだ。

 

 

「赤髪、てめェ…!!

なに勝ちましたみてェな(ツラ)してんだァ!!?

おれの船ぶっ壊して逃げただけの癖にふざっけんじゃねェ!!!

大看板(おれ達)()れもせずに、カイドウさんとレオヴァに手を出せると思うなよォ!?

 

怒り心頭だとばかりに怒鳴るクイーンの横に着地したキングのマスクから覗く赤い瞳にも怒りが滲んでいる。

 

 

「舐めた真似してくれたじゃねェか…

おかげでこっちはこんなデブを何百キロも運ぶ羽目になった…!!」

 

「おいコラ!?誰がデブだァ!?」

 

てめェ以外いねェだろうが…!

脂肪の塊を運ぶこっちの身になるんだな、さっさと痩せろ。」

 

「脂肪じゃねェわ…!

これ全部筋肉だっつってんだろ~が!!」

 

食ってかかってくるクイーンを無視してキングはカイドウとレオヴァの方へと飛び、声をかける。

 

 

「すまねェ、レオヴァ坊っちゃん……

カイドウさんどころか…赤髪の足止めもしくじった……」

 

「いや…今追い付いて来てくれただけで十分だ、キング。」

 

笑顔で返すレオヴァを見てキングは少し安心したように目を細める。

 

 

「いやいや!キングてめェなに無視してくれてんだよ!?

まぁ、兎に角カイドウさんとレオヴァはそのまま好きに暴れてくれ…!

赤髪のクソ野郎は絶対ェ潰すッ…!!」

 

苛立ちを全面に出しているクイーンにレオヴァが苦笑いしていると、カイドウが口を開いた。

 

 

「なんだって、てめェら赤髪なんぞと睨みあってやがる!?」

 

そんな話は聞いてないと不満そうな顔をするカイドウにクイーンは顔をひきつらせる。

 

 

「いや……そもそも、おれらが始めたワケじゃねェと言うか……なんなら元はと言やぁカイドウさんのせいっつーか……」

 

遠い目をしながら言葉を紡いだクイーンにキングが食って掛かる。

 

 

「おい、うるせェぞ風船野郎…!

カイドウさんのせいだって言いてェのか!?

 

ギロリと凄まじい目付きでキングはクイーンを睨み付けた。

しかし、クイーンは気にせずに言い返す。

 

 

「いやいやいや!今回ばかりは普通にカイドウさんのせいじゃね!?

 

「どう考えても悪いのはカイドウさんに手を出そうとした赤髪だろうが…!!」

 

今にも喧嘩を始めそうな二人をカイドウの声が止める。

 

 

「止さねェか…!!

この際、誰が原因かなんてどうでもいい…!」

 

「あー……それをカイドウさんが言うんスね~…」

 

諦めたような表情になったクイーンをキングはまた睨む。

そんな二人にレオヴァは苦笑いしながらカイドウの言葉に続けて口を開いた。

 

 

「……まぁ、クイーン。

これが終わったら“小紫”でも呼んで、おしるこパーティーを開こう。

その為にまずは…赤髪海賊団と海軍をどうにかするとしようか。」

 

気持ちを落ち着かせるような声色で言うレオヴァにクイーンはへの字だった口角を上げて頷いた。

 

そして、それを見たカイドウが豪気な笑みを浮かべ口を開く。

 

 

「ウオロロロロ!よし、てめェら…!!

大乱闘と行こうじゃねェか!!!」

 

その宣言が響き渡ると

レオヴァ、キング、クイーン、バレット、ドレーク、シリュウの6人の猛者が一斉に進撃を再開するのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あれから、マリンフォードでの大事件は世界を震撼させた。

 

海軍によるポートガス・D・エースの処刑失敗。

“大海賊”エドワード・ニューゲートの死。

ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”が実在するという告白。

強大な存在であったバレットという男の百獣への加入。

世界のほぼ中心に位置する、海軍本部の陥落(かんらく)

 

そして、百獣海賊団VS赤髪海賊団の結果……赤髪海賊団の撤退。

 

 

この受け入れるにはあまりに壮大すぎる情報に、すべての人々は茫然自失となった。

 

 

そうして、この大事件を知った世間の人々は口々に言う。

 

白ひげに代わる海の王は百獣海賊団なのではないか?…と。

 

 

ひとつの時代が終わり

この海に新たな時代が訪れた。

 

そう、全ての人が感じざるを得ない程の事件だったのだ。

 

 

 

 

 

 

ときに場所は変わりマリンフォードから帰還中の空船では、カイドウの楽しげな声が響いていた。

 

 

「つーことで、だ。

バレットとシリュウの歓迎会も終わった。

そろそろ組手でもやるかァ…!?」

 

 

そう言うとカイドウはウキウキした様子で酒瓶を置き、その様子にレオヴァの瞳がキラキラと輝き出す。

 

 

「早速か父さん!

実は組手、楽しみにしてたんだ!!」

 

「ウオロロロロロ!そうだろう!!

レオヴァ、お前があんなに待ち遠しそうな顔をするのも珍しいからなァ…!」

 

「そんなに顔に出てただろうか…?

ふふふ、やっぱり父さんは何でもお見通しだな。」

 

「当たり前だ!

レオヴァのことで、おれに分からねェ事なんざ1つもねェからなァ!!」

 

独特な笑い声を上げるカイドウの隣でレオヴァは嬉しそうに微笑んでいる。

 

そんな聞くだけなら微笑ましい会話にクイーンが思わず口を突っ込む。

 

 

「ちょ…カイドウさん……組手はマジで勘弁して欲しいっつーか……」

 

げっそりした雰囲気のクイーンの体にはグルグルと包帯が巻かれており、他の幹部達の体にも痛々しいほど包帯などの治療の跡が見て取れる。

 

 

「なんだァ…?クイーン。

調子でも悪ィのか?」

 

不思議そうに首を傾げるカイドウにクイーンは自分の体を指差しながら口を開く。

 

 

「あー…見てもらえば分かると思うんスけど……おれら絶対安静って言われてるぐらい重症なんすよ~?」

 

「そりゃ昨日の話だろう。」

 

「そう、昨日!!

まだ1日しか経ってないんだぜ、カイドウさん!?

確かにカイドウさんとレオヴァはピンッピンしてるみてェだけども!

普通は1日じゃ治らねェんだわ!!!…ッウ!」

 

思わず全力で突っ込んだクイーンは体の痛みにその場に丸くなる。

 

痛みに唸るクイーンにレオヴァが心配そうに腕を伸ばそうとするが、それをキングが阻止した。

 

 

「レオヴァ坊っちゃん、そんな馬鹿の心配はいい。

……だが、組手はワノ国につくまで待ってくれ。

正直、今の状態でカイドウさんとレオヴァ坊っちゃんと組手をすると……」

 

遠い目をし出したキングにカイドウがまたもや首を傾げていると、ローがキングの言葉に加勢するように口を開いた。

 

 

「カイドウさん。

レオヴァさんは確かに元気そうに見えるが、バレットとの戦闘で重傷だった治療箇所に赤髪の追撃(・・・・・)を受けてる。

普通なら脚の神経が治らずに動かせなくなるぐらいの怪我だったんだ…

医者としても、おれ個人としてもレオヴァさんには暫く安静にしてて欲しい。」

 

ローから“赤髪”という名が出るとカイドウは不機嫌そうな顔になりつつも、レオヴァを見た。

 

今現在カイドウの目にはレオヴァは至って通常に見えるが、宴の最中に確かに脚を気にする素振りがあったのをしっかりと覚えていた。

 

 

「……レオヴァ、脚の調子はどうだ。」

 

心配を滲ませたカイドウの声にレオヴァは嬉しさと申し訳なさが混じった顔になる。

 

 

「父さん、そんなに心配しないでくれ。

おれは父さんの息子だ、赤髪の一撃程度で駄目になるほど(やわ)じゃない。

……ローは心配性すぎるんだ。」

 

眉を下げるレオヴァに心外だとばかりにローは言い返す。

 

 

大袈裟に言ってる訳じゃねェからな…!

……おれが治療する時どんな気持ちだったかレオヴァさんには分からねェんだ!!」

 

「……それは……ロー、悪かった。

優しいお前のことをちゃんと考えられてなかったな…」

 

「っ…別に……レオヴァさんが全部悪いわけじゃねェ…

けど、無茶すんのは本当にやめてくれ…」

 

珍しく顔を歪めるローの頭をレオヴァは帽子の上からポンッと軽く撫でた。

 

 

そんなレオヴァとローのやり取りを見ていたカイドウはひとり頷くと口を開いた。

 

 

「……よし、組手はレオヴァの脚の許可がローから下りるまで延期だ。 

いいな、レオヴァ。」

 

「分かった、父さん。

いつも治してくれる船医の忠告はちゃんと聞かないとな。」

 

組手を諦めた親子にクイーンは盛大にガッツポーズを決めてしまいまた痛みに襲われ、ドレークやシリュウ達も内心で大きく安堵の溜め息をついた。

 

 

 

一方、その頃。

 

あわや組手地獄という危機を無事乗り越えたクイーン達のいる部屋と反対側にある医務室では、二人の幹部がベッドの上で退屈を持て余していた。

 

 

「あ~…くそッ……せっかくカイドウさんもレオヴァさんもいるってのに、なんで一緒に酒飲めねェんだよ~…」

 

横たわったまま悔しげな声を出すササキに、フーズ・フーは不機嫌そうにマスクの下の眉を潜めた。

 

 

「うるせェんだよ、ササキ…

んなもん、ボコられたてめェのせいだろーが。」

 

そう吐き捨てる同じく横たわったままのフーズ・フーを、ササキはあまり動かせない首を必死に動かして睨み付ける。

 

 

そう言うてめェもボコられてんじゃねェか…!!ッ…痛ェ……

大声出させんなよ、全身痛ぇんだから…」

 

「…お前が勝手に騒いでんだろうがよォ……」

 

その後も二人はベッドに寝た状態のまま言い合っていたが、フーズ・フーが疲れたように溜め息をついた。

 

 

「あー……やめだ、やめだ…

てめェと話してるとドジが移るぜ……」

 

「誰がドジだ…!! ~ッ…!?

やべ……う、腕動かし…ちまった……」

 

骨が砕けている方の腕に力を入れてしまったササキは痛みに悶える。

 

その姿に暫くクツクツと喉を鳴らして笑っていたフーズ・フーだったが、あまりにも静かすぎるササキに眉を潜める。

 

 

「……おい、ササキ?」

 

「…………」

 

「…おい、返事ぐらいしろ。」

 

「……」

 

「ササキ…?」

 

返事がない事にフーズ・フーが顔を青くして、呼び出しボタンを押そうとした時だった。

 

 

「………っは!危ねェ…!

痛いから目ェつぶって堪えてたら……一瞬寝ちまってたぜ…

いや~、けどよォ…本当に早くワノ国戻って“あの薬”使いてェよなァ!

寝たきりじゃ退屈でしょうがねェよ~!」

 

呑気に話し掛けてくるササキに、フーズ・フーの眉間に青筋が浮かぶ。

 

 

「ッ…てめェ、ふざけやがって……」

 

「な、なんだよ急に……なに怒って…」

 

結構本気で怒りを露にしているフーズ・フーにササキはあわあわと慌て出す。

 

 

「うるせェ…!

おれは寝るから、もう話し掛けてくんな。」

 

「は…!?マジかよ!

お前が寝ちまったらおれ暇じゃねェか!」

 

「知るか、ボケ…!勝手に暇してろ。」

 

そう言ってフーズ・フーは完全に瞳を閉じてしまい、残されたササキはひとり眉を下げるのだった。

 

 

 

 

 




ー後書き&補足ー

マリンフォード:百獣の手によって陥落。
現在はバレットが守備しており、もうすぐジャック達が来てマリンフォードの改良が始まる予定。

・赤髪海賊団&海軍
ほぼ共闘という形で約10時間、百獣海賊団との戦闘を続けた。
センゴクとシャンクスの連携により、元々負傷していたレオヴァの脚に大きなダメージを負わせることでカイドウの動揺を誘い、多くの海兵と船員を戦場から避難させることに成功。
しかし、その後すぐに立て直したレオヴァがカイドウを落ち着かせたことで戦況が悪化。
怒り狂う百獣の進軍を止めることが出来ず、已む無くマリンフォードを捨て撤退した。
(シャンクス的には戦争を終わらせることが目的なので、ある意味成功ともいえる。)

センゴク&ガープ:重傷、多くの者を守ろうとして守りに徹しすぎた。
(ガープはエースとルフィのことを気にして最初に全力を出せなかったことも関係している)

三大将:三人とも重傷だが、最終的に気絶した赤犬を黄猿が運んで撤退した。

白ひげ:戦闘中ローによって遺体は船に運ばれており、現在も船の中にある。
カイドウの指示で、とある場所に墓を立てる予定。

白ひげ海賊団:ほぼ全員が百獣のナワバリにて休養中だが、すぐに出ていった者もいる。

マルコ:エースと定期的に電伝虫にて連絡を取っている。

エース&ルフィ:レオヴァ達が乗ってる船とは別の船にて治療中、ジンベエもいる。
エースは比較的安定しているが、ルフィはまだ眠っている。

黒ひげ海賊団:ラフィットが黒ひげを連れて離脱しようとしていたが…?

・七武海
鷹の目:レオヴァ参戦の時点で協定外だといい離脱済み。
ハンコック:ルフィを追いかけて早々に離脱。
ドフラミンゴ:最後まで残っていたが、レオヴァと繋がっているので損失などはなし。
モリア:ドフラミンゴにボコられていたが…?

クロコダイル:ローが船を奪っている横で別の船をダズと共に略奪し、暫く戦いを眺めていたがその後離脱。

バギーと仲間達:ちゃっかりベポに付いて行き離脱。
現在は百獣のナワバリでぬくぬくしている。

・百獣海賊団
カイドウ:あれだけ闘い続けて多くの攻撃を浴びた筈なのだが、1日経った今はケロッとしている。

レオヴァ:脚に致命傷を負ったがローの尽力によりほぼ回復。だいぶ重傷の筈なのだがパッと見は元気。

クイーン&キング:普通に重傷。何故かキングは涼しい顔をしているが絶対安静と言われている。

バレット:重傷だったがレオヴァの手持ち最後の“ある薬”をもらったことで軽傷にまで回復。

シリュウ:シャンクスの攻撃で腕を失ったが、百獣の移植技術にて復活。

ドレーク&ロー:この中では一番軽傷だが結構深い傷を負っている。治療は終えたので安静が必要。 

ベポ:ほぼ無傷。白ひげ海賊団の誘導などの仕事をしていたので戦場にいた時間が短かった。
今はナワバリにて白ひげ海賊団の船員と過ごしながら迎えを待っている。

フーズ&ササキ:先の赤髪海賊団との戦闘にてベックマンとヤソップにやられた。かなりの重傷なのでベットで絶対安静にしろとキツくレオヴァから言われている。

[被害]
・幹部数名が重傷。
・赤髪海賊団との戦闘にて、クイーン専用の空船が撃墜(五億ベリー以上の損失)。
・希少な“ある薬”を3本消費。

[成果]
・バレットとシリュウという人材。
・マリンフォードとそこにあった武器や海楼石など。
・赤髪と海軍に勝ったという実績。
・“???”の捕縛と、マゼランの細胞。
・幹部達への戦闘経験値。


ー追記ー
ご質問等を下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio

既にレオヴァの手料理を初めて食べたカイドウさんの反応や、レオヴァがキングの素顔を知った年齢など様々なご質問に答えさせて頂いておりますので暇潰しにでも覗いて頂けたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします~!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

広がる波紋


ー前書きー
懸賞金額の増加は少し低めになってます!
(2年後には上がるというのを視野にいれていますので…)

そして、レオヴァの異名は“百雷の”に決定しました!!
アンケートに投票して下さった方々、そして格好いい案を下さった方々!本当にありがとうございます!!
アンケートの回答は勿論
ご感想やコメント、ここ好き一覧など
凄く励みになっております!!ありがとうございます!




 

 

 

 

 

偉大なる航路(グランドライン)”後半、新世界にて。

 

 

 

緑生い茂る綺麗な丘の上に、ひとつの大きな墓標が建てられていた。

そして、その周りには溢れんばかりの花が添えられている。

 

 

大きな墓標の前には2人の男が立っており、その後ろには何百もの今は亡き白ひげを慕う海賊達がずらりと並んでいた。

 

 

墓標の前で僅かに涙ぐむ男……マルコはゆっくりと口を開いた。

 

 

「まさか…カイドウ、本当にお前が数日でこんな立派な墓を建ててくれるとは思ってなかったよい…

個人的に色々と百獣海賊団には思う所もあったが…まずは礼が先だな……ありがとうよい。」

 

軽く頭を下げたマルコをカイドウは横目で見ると、口をへの字に曲げた。

 

 

「…止せ、てめェらに感謝される謂れはねェ!

白ひげのジジイには借りがあった、それだけだ。」

 

そうぶっきらぼうに告げたカイドウの顔を見て、マルコは眉を下げる。

 

 

「それでも…だよい。

おれ達だけじゃオヤジの亡骸を運ぶ事すら(まま)ならなかった。

……もしあの時、アンタらが運んでくれなきゃ今頃海軍によって晒し首にされてたかもしれねェ…」

 

静かに話すマルコの言葉を聞き終えるとカイドウは後ろで待機していたレオヴァを手招きした。

 

脈絡のない行動になんだ?と首を傾げるマルコの横をレオヴァは通り抜け、カイドウを見上げる。

 

 

「レオヴァ、この島は重要なナワバリか?」

 

突拍子もない問い掛けにレオヴァは困惑する仕草もなく、ハッキリと答える。

 

 

「いや、景色が良いというのと珍しい木がある無人島だ…という理由でナワバリにしたんだ。」

 

「……なら、この島を気に入ってんのか?」

 

「いや、もう木は移植させているし景色の写真もある。

……おれは父さんが望む通りにして欲しい。」

 

やろうとしている事は分かってるという風に微笑むレオヴァにカイドウも一瞬小さく笑うと、マルコへと体を向けた。

 

 

「おい、マルコ。

おれ達にはこのナワバリはもう必要ねェ。

……墓も島もてめェらの好きにしろ。」

 

カイドウの言葉の意味に気付くとマルコは大きく目を見開いた。

 

 

な…!?

ナワバリをおれ達に譲るって言うのかよい!?

 

驚きに声を上げたマルコへカイドウは背を向ける。

 

 

譲るなんざ言ってねェ。

もう要らねぇからくれてやるってんだ!

島をどうするも、てめェらの勝手にしやがれ。

……行くぞ、レオヴァ!」

 

「あぁ、父さん!

では、マルコ……おれはこれで失礼する。

例の話のモノは海岸に運ばせてあるから、好きにしてくれ。

……父さん、ワノ国に戻るのか?」

 

「そうだ!

レオヴァはジャックの所か?」

 

「あぁ、早く工事を…」

 

 

カイドウ、レオヴァ!?

ほ、本当にいいのかよい!!?

 

楽しげに会話しながら飛び去って行った親子にマルコは叫ぶが、その頃には既に遥か上空へと消えてしまっていた。

 

唖然とするマルコや海賊達は暫く小さくなっていく龍を眺めていることしか出来なかったが、この場に居ない筈のエースの笑い声にハッとしたように其方を見た。

 

 

「相変わらずだな、レオヴァは!」

 

「「「「エース…!?」」」」

 

「エース、お前……もう大丈夫なのかよい?」

 

「おう。

…みんな、心配かけた。ごめん!!」

 

あのマリンフォードでの事件以降、自責の念に囚われ荒れていたエースの姿はそこにはなかった。

 

そのことに驚いた顔になっている周りに少し申し訳なさそうな顔をしつつも、エースは白ひげの墓の前へと歩みを進める。

 

そして、一輪の大きな白い花を供えると目を閉じた。

 

 

数秒の沈黙の後にゆっくりと目を開けると、エースはマルコを振り返る。

 

 

「遅くなっちまったけど、オヤジに花をと思ってさ…」

 

少し気まずそうに頬をかくエースにマルコの瞳が驚きから、優しいものに変わる。

 

 

「……乗り越えたんだねい、エース。」

 

「…あぁ、少し…

でも、まだやっぱりオヤジが居ないと思うと…辛ェし、自分が許せねェ…」

 

顔をうつ向かせたエースにマルコの表情が心配そうなものに変わる。

 

しかし、エースはバッと顔を上げると強い瞳で口を開いた。

 

 

「だけど、レオヴァに言われたんだ。

“後悔に囚われて自分に残ってる大切なものを見失っていいのか?”ってさ…

……それで気付いたんだ。

オヤジが守ってくれた命を、オヤジの宝であり…おれの宝の為に使おうって。

おれ、絶対仲間を……家族を守れるぐれェ強くなる!!

 

表情にも声にも覇気の戻ったエースの姿にマルコと海賊達は瞳にうっすらと涙を滲ませながらも笑った。

 

 

「っ……エース、頼もしいねい!」

 

嬉しそうに微笑みながらマルコはエースの肩をポンッと叩く。

 

それを皮切りに海賊達が一斉にエースへと駆け寄って行った。

 

 

「うおぉ~!エース!!くそ心配したじゃねェか!!」

 

「グスッ……エース"、良か"った"!!お前、自殺しち"まいそ"うな顔して"たからっ……おれァ、おれァ心配でよぉ~!」

 

「エース"隊長っ…!お"れ"も!お"れも強く"な"ります"っ!!」

 

もみくちゃにされているエースの瞳にも涙が滲んでいたが、それには皆が気付かぬ振りをした。

 

 

 

偉大であり愛する“白ひげ(オヤジ)”はもう居ない。

 

どんなに辛く悲しくとも、時は流れる。

 

立ち止まることが許されない厳しい世界だからこそ、マルコやエース達の様な残された人々は支え合い、前を向いて歩いて行くしかないのだ。

 

 

 

泣いているのか笑っているのか分からない状態になりながら抱き合っている“白ひげ海賊団(息子たち)”を包むように、丘からは穏やかで暖かい風が吹いた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

あれから3週間が過ぎ去り、マリンフォードで起きた歴史を揺るがすほどの大事件はすでに全世界へと知れ渡っていた。

 

しかし、その後更新された懸賞金額に伴い新たな手配書が発行されたことで、再び百獣海賊団は世間を騒がすこととなる。

 

 

 

あのインペルダウンを脱獄。

数多の被害を出し、今回のマリンフォードの事件でも大暴れしてみせた姿には衰えは見られず。

さらにはあの百獣海賊団に加入したとみられており、今後も新たな騒動を巻き起こすであろう危険人物である。

 

百獣海賊団(・・・・・) “鬼の跡目”ダグラス・バレット

懸賞金額、20億3000万ベリー。

 

 

政府を裏切り、大戦に参加した元看守長。

快楽殺人を(おこな)った異常者であり、今回百獣海賊団のレオヴァをインペルダウンで手引きしたとみられている。

それにより被害も倍増したと見て間違いはないだろう。

 

百獣海賊団(・・・・・) “雨の”シリュウ

懸賞金額、5億1000万ベリー。

 

 

百獣海賊団の幹部であり、バレットと共に大将を相手取った実力は侮れぬというのが政府の見解であり、獣型で破壊しながら進む(さま)は、まさに古代種を体現した姿であった。

 

百獣海賊団 “異竜”X・ドレーク

懸賞金額、3億2200万ベリー。

 

 

同じく百獣海賊団幹部であったが、今まで目立った事件などはなかった。

しかし、今回の事件にて“白ひげ”の遺体を奪い同時に白ひげ海賊団の残党の逃走を手助けした件の主犯である。

10隻近い軍艦を奪い、それで白ひげ海賊団の残党を逃がしたとみられている。

最近、発覚した話では数年前のインペルダウンの事件にも深く関係している可能性が高い。

 

百獣海賊団 “死の外科医”トラファルガー・ロー

懸賞金額、3億1000万ベリー。

 

 

百獣のカイドウの懐刀であり、今回のマリンフォードでの事件にて火災と言う甚大なる被害を出した男。

この男の能力によりマリンフォード内の建物は全焼したものと思われる。

冷徹な性格とその能力から更なる危険視が必要だと政府は判断した。

 

百獣海賊団大看板 “火災の”キング

懸賞金額、14億9000万ベリー。

 

 

同じく百獣のカイドウの懐刀であり、今回のマリンフォードでの事件にてウイルスを用いて疫災を引き起こした張本人。

マリンフォード内での火災に割いた人員や逃げ遅れた町人達は全てこの男のウイルスによって倒れていったと思われる。

マッドサイエンティストであり、現状では科学者としても危険な存在であると政府は認識している。

 

百獣海賊団大看板 “疫災の”クイーン

懸賞金額、14億2000万ベリー。

 

 

またも同じく百獣のカイドウの懐刀であり、政府が行ったマリンフォード奪還作戦(・・・・・・・・・・・)にて猛威を振るった。

数名の飛び六胞という幹部を指揮しながら前線にて暴れる奴の行動により、上陸して数時間と持たずに奪還作戦の為に編成された兵は撤退を余儀なくされた。

 

百獣海賊団大看板 “旱害の”ジャック

懸賞金額、11億7000万ベリー。

 

 

 

そして、あの戦争に乱入するだけでなく赤髪海賊団を押し返し、最終的にマリンフォードを陥落させた主犯2名。

 

百獣海賊団総督補佐官にして、あのカイドウの実子とされている。

インペルダウンをバレットと共に破壊し元帥と赤髪海賊団幹部に重傷を負わせた危険人物であり、今まで情報を消し続けていたと思われる用意周到さも含め、その存在はあまりにも危険と言わざるを得ない。

更にあの“ワノ国”を支配下に置いている手腕も無視できるものではないだろう。

 

百獣海賊団総督補佐官兼ワノ国の王 “百雷(ひゃくらい)”のレオヴァ

懸賞金額、20億6000万ベリー。

 

 

近年どんどん勢力を拡大させている百獣海賊団の総督であり、今回の事件にて英雄ガープに大きな怪我を負わせ、赤髪海賊団の団員達とその船長シャンクスを撤退させるほどの暴れッぷりを見せた“超”危険人物である。

最強生物という名の通りの規格外さを持ち、その凶暴性は他に類をみない。

まさに“百獣の王”であり、その暴れ姿は既に人ではなく“獣”である。

 

百獣海賊団総督 “百獣の”カイドウ

懸賞金額、48億1110万ベリー。

 

 

 

以上が政府によって下された最終決定であり、世に出回る事となった手配書の懸賞金額である。

 

 

一度に、ひとつの海賊団からこれだけの人数の懸賞金が上がるという事例が異例中の異例だと言う事も然ることながら、その上昇した金額の値も人々をおおいに驚かせた。

 

 

その中でも特に話題を呼んだ男こそ、“百雷のレオヴァ”であった。

 

七光りだの、病弱だのと噂がひとり歩きしていた男がインペルダウンを壊滅的なまでに破壊し、あのダグラス・バレットを従えた。

と、いうだけでも晴天の霹靂(へきれき)である。

 

にも関わらずだ。

更にはマリンフォードにて元帥であった仏のセンゴクを圧しきり、赤髪海賊団の幹部をも撤退させたと言うではないか。

 

今まで百獣の息子は“非”戦闘員であると信じきっていた者達は驚きのあまりひっくり返り、レオヴァの実力を信じていた者や知っていた者達は今さらかと笑みを溢した。

 

 

そうして世間に“百雷のレオヴァ”は間違いなく、あのカイドウの息子である…と認識されるようになった。

 

 

この世界を震撼させた事件はあらゆる国や島、海賊達に様々な感情を抱かせていたのだが

当事者達がそれを知るのは、まだ暫く先の話である。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

──マリンフォードでの事件から暫く後のワノ国にて。

 

 

朝刊を手にしたクイーンは、その中にある1枚の手配書を手にすると、嬉しげに口角を上げた。

 

 

「おいおいおいおい~!?

レオヴァの奴、このおれ様より懸賞金高くなってんじゃねェかァ!!

ムハハハ~!生意気じゃねェかよォ~~♪」

 

言葉とは裏腹に小躍りし始めたクイーンの手からキングは手配書を奪い取る。

 

 

「だぁ!?キング、てめェ返せ!!

今からそれコピーして鬼ヶ島中にバラ撒くんだからよォ!!」

 

「……20億6千万ベリーだと…?

レオヴァ坊っちゃんなら30億でも少ねェってのに…無能な政府どもが…!!」

 

自分の言葉を無視して怒りに目を開くキングから手配書をクイーンは奪い返すと口を開いた。

 

 

「一回の騒動で10億以上もあがりゃ上々だろーが!

今後もレオヴァの凄さはどんどん知られてくんだ、すぐに30億なんざ超えるっつーの!!」

 

「うるせぇぞ、肉団子野郎。

そんなこと、いちいち言われなくとも解ってる。」

 

「~~っ!

マジでお前一回殴らせろ!!!」

 

「退け、おれはレオヴァ坊っちゃんから黒ひげ(・・・)の件を任されてる。

てめェと違って暇じゃねェんだ。」

 

今にも掴みかかって来そうなクイーンの手をドヤ顔で振り払うとキングは歩き出し、姿を変え何処かへと羽ばたいて行く。

 

クイーンはその後ろ姿へ向けて暫く罵倒を飛ばしていたが、気持ちを切り替えたようにコピー機のある部屋へと歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

一方、鬼ヶ島の城の中。

 

 

朝刊をバオファンから受け取ったカイドウは挟まれていた手配書を1枚ずつ眺めていた。

 

そして、一番後ろにあったレオヴァの手配書に気付くとカイドウの表情が明るくなる。

 

 

ウオロロロロロ…!!

おい、ササキ!これを見ろ!!」  

 

自慢げな表情で手配書を突き付けてくるカイドウを、報告書を出しに来たササキは見上げた。

 

そして、その手配書を見るとササキの表情もパアッと明るいものへと変化する。

 

 

…カイドウさんコレって!!

 

満面の笑みで手配書と此方を交互に見上げてくるササキを見て、更にカイドウの表情は自慢げなものになっていく。

 

 

「そうだ…!!レオヴァの新しい手配書だ!!

ウオロロロロロ…!なかなかの額だろう!?」

 

「流石はレオヴァさんだぜ!!

なァ、カイドウさん!

レオヴァさん帰って来たら宴やるよな!?」

 

ササキの問いに、カイドウは当たり前だというように頷いた。

 

 

「レオヴァの好きな“大水蟹(おおみずがに)”は季節を逃しちまったが……“大黒鮪(おおぐろまぐろ)”ならまだ手に入る時期だ!

それを用意して、マリンフォードからレオヴァが戻って来たら宴にするぞ!!」

 

「じゃあ、カイドウさん!

食材の確保はおれに任せてくれ!

おれの“海部隊”は漁が得意な奴が多いんだ。」

 

「そういや…確かに前の宴の時もお前のとこの部下が珍しい魚を取ったとレオヴァが言ってたなァ……

よし、ササキ!お前に任せる。

レオヴァの為の食材だ……絶対にしくじるなよ!!」

 

「もちろんだぜ、カイドウさん!!」

 

意気揚々と返事をするとササキはさっそく食材を手に入れる為に部屋を後にした。

 

その後ろ姿をカイドウは見送ると、またレオヴァの手配書に目を落とす。

 

 

そこには前の写真とは違い、勇ましいレオヴァの姿とカイドウ自身の背が写っている。

 

自分と背中合わせで戦っていた時の姿だと、カイドウは満更でもなさげに笑う。

 

 

「ウオロロロロロ…

やっと、政府共がレオヴァの凄さに気付いたってワケか。

……だが、レオヴァはこれからもっとデケェ男になるぞ!

何てったって…このおれの息子なんだからなァ!!

 

そう言ってご機嫌に酒を呷り、笑うカイドウの声は部屋の外まで響いていたのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

改造が進むマリンフォードにて。

 

 

ジャックの直属の部下であるシープスヘッドは朝刊を受け取り、中に入っていた手配書を見るやいなや走り出した。

 

 

ジャック様ァ~~!!

コレコレコレ!!これ見て下さいよォ~!!!

 

大声で叫びながら走りよってくるシープスヘッドの姿に、レオヴァと打ち合わせをしていたジャックの眉間に青筋が立つ。

 

 

おい、騒がしいぞ!シープスヘッド…!!

レオヴァさんと話してるのが見えねェのか!?

 

常人ならば卒倒するであろう剣幕で睨んでくるジャックを前に、あのお喋りなシープスヘッドも口を閉じたが、少し視界をウロウロさせながらも走る足は緩めていなかった。

 

そして、レオヴァとジャックの前につくと手に持っていた朝刊を丸ごと差し出した。

 

 

「邪魔してスミマセン!ジャック様!!

これを届けようかと!!」

 

「次からは気を付けろ!!

……すまねェ、レオヴァさん。」

 

深々と頭を下げながら渡してくる朝刊をジャックは受け取るとレオヴァに向き直り、申し訳なさそうに一度軽く頭を下げた。

 

それにレオヴァは気にする事でもないと軽く笑って返す。

 

 

「ところで、シープスヘッド。」

 

「へ、へい!

なんでしょうか、レオヴァ様!!」

 

「かなり急いで持ってきたみたいだが……朝刊に何か大きなニュースでも書いてあったのか?」

 

穏やかに訪ねてくるレオヴァに、よくぞ聞いてくれました!とばかりにシープスヘッドの顔に笑顔が現れる。

 

 

「実はその朝刊にレオヴァ様とジャック様の新しい手配書が!」

 

その言葉を聞いたジャックが朝刊を開くと、確かに中には手配書が入っている。

 

ジャックは一枚一枚捲っていくと突然目を見開き、嬉しそうな顔でレオヴァに1枚の手配書を手渡した。

 

レオヴァはその手配書を受け取ると同じく目を見開き、次の瞬間本当に嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「流石は父さん…!

48億を超えてくるとは!!」

 

流石はカイドウさんだ!!

レオヴァさん、ワノ国に戻ったら宴を!!

 

良い案だ、ジャック…!

ちょうどワノ国で造ってる酒が完成する頃だしなァ…」

 

2人してカイドウの手配書を前にニコニコと上機嫌で会話を弾ませていたが、ジャックは一番最後の手配書を目にして思わず固まってしまった。

 

突然、固まったジャックにレオヴァが声を掛けるよりも早く、固まった本人が声をあげる。

 

 

レ、レオヴァさん…!!これを!!

 

慌てたように差し出された手配書に目をやり、レオヴァは少し驚いた顔になる。

 

 

「……これは…思ったよりも上がったな…」

 

意外そうな顔をするレオヴァを前に、ジャックはそんなことはないと否定すべく言葉を紡いだ。

 

 

いや、レオヴァさんの懸賞金額だと考えれば20億は当たり前だ!

寧ろまだまだ少ないくらいだ!!…です!

 

興奮のあまり口調がぐちゃぐちゃになり始めているジャックにレオヴァは微笑ましげに小さく笑いつつ、そう言えばと思い出したような顔になる。

 

 

「ジャックの手配書はないのか?」

 

レオヴァの問い掛けにジャックは先ほど見た自分の手配書を渡した。

 

 

「おれも少し上がってました。

カイドウさんやレオヴァさん、兄御達と比べたらまだまだ努力不足だ。」

 

「ジャック、そんな事はない。

お前は百獣の皆が認める実力者だ。

それに、その若さで11億7千万もの懸賞金…

…ふふふ、おれも父さんも鼻が高いぞ!!

 

優しい笑顔でそう言うレオヴァにジャックは一瞬気恥ずかしそうに目を泳がせたが、また真っ直ぐに目を合わせると口を開いた。

 

 

「……おれには勿体ねェ言葉だ、レオヴァさん。」

 

照れたように言うジャックに更にレオヴァの表情は柔らかくなる。

 

 

「勿体ないわけないだろう、ジャック。

全部、おれの本心からの言葉だ。」

 

「っ……ありがとう、レオヴァさん。」

 

嬉しそうな雰囲気を漂わせるジャックにレオヴァはそっと目を細める。

 

 

あまりにも和やかな雰囲気が流れる2人のやり取りに流石のシープスヘッドも空気を読み、キツく口を閉じるのであった。

 

 

 

 

 





『補足』
・ササキ&フーズ・フーは赤髪との戦闘のみだったので、世界政府の目には止まらず懸賞金額が上がりませんでした。(世界政府は百獣幹部vs赤髪の全容をあまり知らない)
・政府はレオヴァがバレットを従えたと勘違いしているのて(実際は契約関係)、レオヴァの方が少し懸賞金額が高くなってます。
・インペルダウンが壊れたのはレオヴァとバレットの戦闘のせいなのですが、政府は“二人で協力して壊した”と勘違いしています。
・この話では“カタクリ”の懸賞金も原作より高くなっています。(今後話で懸賞金額出そうか迷い中ですが、多分書きます)

・マリンフォード奪還作戦について
戦争が終わった3日~5日後の間に海軍によって編成された部隊(軍艦20隻分)がマリンフォードに攻め入ってきた。
しかし、守備を任されていたジャックとページワン、うるティ、スレイマン、そして真打ちとギフターズの活躍により撤退させることに成功していた。
現在はワノ国にて厳選された大工達がマリンフォードを建て変え中。 

・海部隊について
魚人&人魚で編成されており海が苦手な能力者やギフターズを補佐する役割が多い為、戦闘能力が重視されている部隊ではない。
基本的に1人の幹部に1~3部隊まで専属でついている。(任務内容によってフリーの部隊が付いたりもする)
ちなみに空部隊というのもあり、翼のあるギフターズと真打ちのみで編成されていて情報収集などがメイン。

エース:原作のルフィ並に荒れていたが、レオヴァに諭された(説教された)ことで落ち着いた。
まだ“心”が完全に復活した訳ではないが、仲間を守る為に覚悟を決めて立ち上がった。

ルフィ:原作とは違いエースが生きているので精神的なダメージは無し。
エースが挫けていた間は今までの疲れや怪我から何日も寝ている状態だった。

マルコ:一部の荒れている仲間を必死になだめながら新しい船の調達などについてレオヴァに交渉を持ち掛けたりなど、悲しむ間もなく仲間達の為に身を粉にしていた。
エースが復活したことを心から喜んでおり、カイドウとレオヴァへの印象も少し変わった。

レオヴァ:カイドウがエースの事について『いいのか、レオヴァ。せっかく治療してやったのに、あのままじゃ潰れちまうぞ。』と言うので諭しつつ慰めて精神面を回復させた。
悪意でも善意でもない、純粋な気持ちで向き合った為エースの心に響いたと思われる。(その“純粋な気持ち”はカイドウに対してなのだが、気付いてる者はいない)

カイドウ:未だにエースはレオヴァの“友だち”だと勘違いしているので、あまり深く考えずにレオヴァに声をかけた。
それによりエースの大幅な強化が確定したのだが、吉と出るか凶と出るかは誰も知るよしもない…

ジャック:マリンフォードでの大乱戦に参加出来ずに落ち込んでいたのだが、奪還に来た海兵を見事返り討ちにした事でカイドウとレオヴァから褒められて現在はご機嫌。
しかし、バレットは気に食わない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

先を見据え、笑う者

 

 

 

 

病室のベッドの上に白い髪を持つ目付きの悪い男が横になっており、ベッドの脇の椅子には癖っ毛と思われる黒髪とアイマスクが特徴的な男が腰かけていた。

 

 

「いや~、調子はどうよスモーカー。」

 

「見ての通り、最悪だ。

……そう言うアンタは元気そうだな。」

 

「いやいや、結構キツイのよ?おれも。

まぁ…サカズキやセンゴクさん程じゃないけどね。」

 

そう言って眉を下げる男の名はクザン。

マリンフォードでの事件にて、海軍の被害を減らすために全力を尽くした男の一人である。

 

そして、ベッドに横たわりながらクザンを見上げるこの男も海軍の被害を減らすために全力を尽くした一人であり、名をスモーカーと言う。

 

クザンが“大将”、スモーカーが“准将”と地位に大きな違いはあるが2人の雰囲気に強い上下間系は伺えない。

 

 

「……で、アンタ…こんな所で何してんだ。

マリンフォードが落ちて、今は上がてんやわんやしてんだろ。

撤退の件(・・・・)で、アンタも詰められてるって聞いたが……」 

 

少し心配を含んだ声色にクザンは軽く眉を下げる。

 

 

「おれも一応、重傷患者なワケだし病棟にいても変じゃないでしょ?

確かに上は大騒ぎだけど、おれが解決できる内容じゃねェしな~…

撤退の件も……センゴクさんが全責任負うって聞かねぇんだ。

……勝手に撤退命令出したの、おれなんだけどな…」

 

らしくない表情をしたクザンにスモーカーは強い声で返す。

 

 

あの時のアンタの撤退の判断は正しかった…!!

上の奴らがグチグチと煩く言ってるらしいが、あのまま続けてりゃあ、暴れる海賊共と意味の分からねェウイルスで全滅するのは目に見えてたんだ。

前線にも出ねぇで、毎度好き勝手言ってくれる……」

 

怒りを含んだ言葉に、クザンはスモーカーらしいと小さく笑う。

 

 

「っとに…お前さんあんまりソレ、おれ以外の前で言うなよ?」

 

「……分かってる!

それより、さっきの口振りから察するに

撤退の件はアンタもおれも、お咎め無しってことでいいのか?」

 

一瞬微妙な表情をしたあと、いつものようにクザンは呑気な声で返した。

 

 

「元々、スモーカーのことは黙ってたからな。

おれもお前もお咎めはナシ!」

 

「……そうか。

でも、アンタまで何も罰が無いなんてな…」

 

「え、なに……スモーカーおれに何かあって欲しかったワケ?」

 

おどけた様に言うクザンをスモーカーが睨む。

 

 

ンな訳あるか!アンタにも罰はないに越したことねェ!

……ただ、上の奴らが簡単にお咎めなしって言うなんざ…あり得ねぇだろ。」

 

今までの上層部のやり方を思いだし眉をひそめるスモーカーを見据え、クザンは考える素振りを見せる。

 

すると考えがまとまったのか周りをキョロキョロと見渡した後、扉を氷漬けにしてしまった。

 

突然、扉を凍らされたスモーカーは驚いて声を上げようとしたが、目の前で真面目な表情をするクザンを視界に捉え、思わず口を閉じた。

 

黙ったまま此方を伺うスモーカーの方へ寄ると、小声でクザンは話し出した。

 

 

「…おれは今回、ちょっとした手柄を上げたおかげで元々決定されてた罰が帳消しって形になったんだよ。」

 

「……手柄?」

 

予想通り、(いぶか)しげな表情をするスモーカーにクザンは話を続ける。

 

 

「そう、手柄。

…シャボンディ諸島での“天竜人誘拐(・・・・・)”、スモーカーはどこまで知ってる?」

 

クザンの問いに、スモーカーは記憶を探った。

 

 

「……確か、百獣と麦わらが結託したって事件だろ?

その件なら少し前に世界政府の人間が“天竜人”を保護したことで有耶無耶(うやむや)になった筈だ。」

 

「…ん~~。

一応、表向きはそうなってるな。」

 

「表向き……だと?」

 

案の定、知らなかったと眉間に皺を寄せているスモーカーにクザンは話せる範囲で説明を始めた。

 

 

あのシャボンディ諸島にて起こった事件。

その中でも一番の大事件が、“天竜人誘拐事件”である。

 

誰が連れ去ったのか、生きているのか。

全てが分からない状態に海軍どころか世界政府までもが大混乱に陥る事となる。

 

そして、世界政府はこの事件を世に公表することなく握りつぶした。

……見つかっていなかった“天竜人”を(・・・・・・・・・・・・・・・)見付かったことにして(・・・・・・・・・・)

 

結果、海兵達にもその様に伝えられたことでスモーカーは解決したと思っていたワケである。

 

 

 

その話を聞いたスモーカーは呆れと怒りが混じったような顔をした。

 

 

「……なんだ?

じゃあ、結局見付かってねェ訳か…」

 

「そう、見付かってなかったんだ……3日前まではな。」

 

「3日前まではって…!…うっ」

 

驚きに思わず起き上がってしまったスモーカーは体の痛みに唸る。

そんなスモーカーを手でベッドに押し戻すと、クザンは話を続けた。

 

 

「…3日前におれの部下が発見して、おれがそれを連れ帰った。

そしたら急に呼び出されて罰はナシになるわ、口止めされるわで…

そりゃもう色々大変だったんだぜ?」

 

肩をすくめるクザンにスモーカーは何とも言えない目を向けた。

 

 

「おい、アンタ……それおれに喋っちゃまずい案件だろ…」

 

「……まぁ、そう言うワケだから……アレだ…あ~……」

 

「内密にってんだろ!?

それぐらい分かってるわ!!」

 

「そうそう、ソレ。

んじゃまぁ、よろしく頼むわ。」

 

そう言って立ち上がると凍らせていた扉を戻し、クザンはスモーカーのいる病室からスタスタと出ていってしまった。

 

 

「……結局、何しに来たんだ…」

 

相変わらず行動の読めないクザンに頭を抱えつつ、スモーカーは見舞いに貰った新聞を手に取るのだった。

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

場所は変わり、ビッグ・マムの治める万国(トットランド)にて。

 

 

女王シャーロット・リンリンが住まう城はてんやわんや状態に陥っていた。

 

 

「どいつもコイツも!!馬鹿みてぇに!

 百獣だの百雷だのと!!!」

 

怒り心頭だとばかりに叫ぶビッグ・マムの周りをあわあわと娘や息子達が顔を青くして動き回っている。

 

 

「そもそもあの時にカイドウが結婚を了承してりゃ、あのアイツの息子も私のモンだったんだ!!!

今からでも無理やり結婚させてやる~!!」

 

ドスドスとビッグ・マムが怒りを露にする度に、城はあり得ないほど揺れている。

 

無茶なことを言い出したビッグ・マムにペロスペローは口元を引き吊らせながら言葉を返す。

 

 

「あ~…ママ、流石に無理やり結婚させるのは難しいんじゃないか?」

 

このド正論にビッグ・マムはの怒りに満ちた顔がペロスペローに向けられる。

 

 

「なんだい、ペロスペロー…

……お前、おれの息子の癖に百獣には勝てないって言いたいのかいッ!!

 

覇気を纏った叫びにバタバタと気を失っていく兄弟達を視界の端に捉えつつ、ペロスペローは大量の汗をかいていた。

 

 

「ま、まさか!

ママが勝てない相手がいるって言いたい訳じゃあないぜ!?

おれ達はずっとママが海賊王になるのを夢見て来たんだ!

そんな事、言う訳ないじゃないか!!」

 

本心だと分かる言葉に少しビッグ・マムの覇気が弱まる。

 

ペロスペローはホッとした様に胸を撫で下ろしたが、ビッグ・マムは不満げな顔で次の言葉を発した。

 

 

「じゃあ、なんで難しいだなんて言うんだい!!」

 

一言でも間違えれば我が子であれ容赦しない、という雰囲気のビッグ・マムにまたしてもペロスペローの体から大量に汗が流れ始める。

 

言葉を必死に吟味するペロスペローの横に、すっと大きな影が落ちた。

 

 

「ママ、ペロス兄の言うことも一理ある。

今、無理やりレオヴァをうちに取り込もうとしたら百獣との全面戦争は避けられない。」

 

ペロスペローや兄弟を守るように一歩前に出たカタクリにビッグ・マムの怒りが向けられる。

 

 

全面戦争がなんだってのさ!!!

カタクリ、お前まさか…怖じ気付いたんじゃないだろうねぇ?」

 

凄んでくるビッグ・マムの圧を眉ひとつ動かすことなく受け止めながら、カタクリは言葉を返す。

 

 

「…いや、正直レオヴァと本気でやり合える場は歓迎だ。」

 

「じゃあ、なんだってお前まで…」

 

訝しげな表情をするビッグ・マムの前に大量のお菓子を差し出すと、カタクリは淡々と口を開いた。

 

 

「今、ママの前に広げた菓子は全てレオヴァとの貿易で入手しているモノだ。

もし、百獣と揉めれば暫くはどんな手を使っても手に入らない品物ばかり……そして!

無論、その中にはママが絶賛していたクッキーシュークリーム、フルーツサンドの材料や生どら焼きも入っている…!!」

 

ドドンッ…!と効果音が付きそうなほどの力説にビッグ・マムは瞳を揺らす。

 

 

「そ…それ全部、食べられなくなるって…?

クッキーシュークリームも生どら焼きも!?

フルーツサンドだって朝には欠かせない一品じゃないか!!」

 

驚愕するビッグ・マムにカタクリは落ち着いた声で告げる。

 

 

「……レオヴァが持ってきた取引がこれだけ魅力的だったからこそ…ママは百獣との貿易に頷いたんじゃないのか?」

 

黙り込むビッグ・マムを見てカタクリも口を閉じる。

 

広間に静けさが漂うと、いつの間にか何処かへ行っていたペロスペローが再び部屋へと現れた。

そして、大きなワゴンをビッグ・マムの前に持って行く。

 

 

「ママ、これを!」

 

そういって差し出されたワゴンを見るとビッグ・マムの顔が驚きに満ちた。

 

 

「……ペロスペロー、これは…?」

 

「ひゃく…ンンッ、レオヴァからだ。」

 

ワゴンに乗っているビッグ・マムサイズの菓子を、無言で1つ頬張る。

すると突然ビッグ・マムの瞳がキラキラと輝き出した。

 

ばくばくとワゴンごと食べてしまいそうな勢いでその菓子を食べ終えると、ビッグ・マムは王座の背もたれに幸せそうな顔で寄りかかった。

 

 

突然のことに、殆どの兄弟達がきょとんとしている中でペロスペローは声を上げる。

 

 

「これはレオヴァが、ママへ献上する(・・・・)と言っていた!!

最高傑作の菓子、“セムラ”だそうだ!

……ママの為だけに作られた(・・・・・・・・・・・)特別な一品さ、ペロリン

 

その言葉に上機嫌にビッグ・マムはペロスペローを見下ろす。

 

 

「あ~これは幸せの味マンママンマ~

そうかい、そうかい!

相変わらずカイドウと違って気が利くねェ、レオヴァってのは!

……ってなると、そうだねぇ…」

 

にんまりと笑うビッグ・マムに息子達は注目する。

 

 

「……おれのモンにしようと思ったが、もう少しそのままで良いかもしれないね!

カイドウの奴の下でしか手に入れられないモノもあるかもしれないし、ポーネグリフの件だってそうさ!

マンママンマ~!

……ところで、ペロスペロー。

もうそのセムラはないのかい?」

 

「まだまだあるぜ、ママ!!

すぐに持ってこさせるから待っててくれ!」

 

「マママママ~

これからずぅっ~と、この味が食べられるなんて夢みたいだねぇ~!」

 

ご機嫌に体をゆらゆらと左右に動かすビッグ・マムの姿に、息子達は一斉に胸を撫で下ろすのだった。

 

 

 

 

─────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

なんとか機嫌の回復したビッグ・マムの様子に一安心しつつ、ペロスペローは自室へと戻って来ていた。

 

あと少しでもレオヴァからの荷物が届くのが遅れていたらどうなっていたのか、それを想像しかけてペロスペローは頭を横に振った。

 

 

「(いやいや……考えるだけでも億劫だぜ…)」

 

食器棚からティーカップを取り出し紅茶を注ぐ準備をしていると、扉がノックされる。

 

訪問者が誰かすぐに察したペロスペローはティーカップを机に並べ、そのまま扉の前へと歩いて行く。

そして、ゆっくりと扉を開くと訪問者にニコリと笑顔を向けた。

 

 

「いらっしゃい、カタクリ。

ちょうど紅茶を注ぐところだぜ。」

 

「……ペロス兄の紅茶は久々だな、楽しみだ。」

 

カタクリの素直な言葉にペロスペローは兄らしい笑みを浮かべると弟を部屋へと招き入れる。

 

カタクリは少し小さめな椅子を横に退かし、自分の能力で椅子を作るとそこにそっと腰掛けた。

 

ペロスペローはそのいつも通りの行動に内心で和みつつ、カタクリの前にあるカップと自分のカップに紅茶を注いだ。

 

そしてペロスペローはそのまま席に座ると、優雅な所作で紅茶の香りを楽しみ、ゆっくりと口に含んで飲み込んだ。

 

何気なくカタクリを伺うと、カップの中身が減っている。

きっといつも通りに目にも止まらぬ速さで口にしたのだろうと思い、ペロスペローは口元を緩める。

 

 

「…美味いな、ペロス兄。

これは、初めて飲む味かもしれん。」

 

味覚の鋭い弟に更にペロスペローの口元は緩んでいく。

 

 

「くくく……流石はカタクリ!

この紅茶はおれのオリジナルブレンドってやつさ、ペロリン

 

「ペロス兄の…?」

 

カタクリの珍しく驚いた表情に満足げにペロスペローは頷く。

 

 

「そう!

レオヴァに色んな種類の茶葉を頼んで、それを自分でブレンドしたんだ。

……まぁ、ブレンドの基礎的な方法はレオヴァから聞いたんだがな。」

 

最後の言葉で軽く肩を上げておどけてみせるペロスペローに構わず、カタクリは尊敬の目を向けている。

 

 

「おれも少しレオヴァから方法を聞いたが…アレは複雑で奥深い。

実はおれも試しに作らせてもらったが……飲めたものじゃなかった…

だが、ペロス兄のこの紅茶は美味い…!

ブレンドを完璧にモノにしていると言える!!」

 

「止せ、カタクリ……お前に言われると照れるぜ…

それにまだ完璧には程遠い!

まだまだ多くの試行錯誤が出来るさ。

お前の言う通り、紅茶は奥深いぜ!

そのうち、ママもレオヴァも唸らせる完璧な紅茶をおれは作る!」

 

「ペロス兄なら出来る。

完成品を飲める日が待ち遠しい…!」

 

カタクリから兄への信頼が込められた言葉にペロスペローは微笑んだ。

 

そのまま二人は暫く紅茶やカタクリの新しい餅のレシピについて雑談していたが、話は先ほどのセムラの事へと変わって行く。

 

 

「…ところで、ペロス兄。

さっきのセムラ……本当にレオヴァが?」

 

そわそわを隠しきれずに尋ねて来たカタクリに内心でペロスペローは笑う。

ここに訪れた理由もレオヴァの事が理由なのだろうとペロスペローは分かっていたからだ。

 

 

「あぁ、もちろん。

ママに嘘を()くなんて真似しねェさ。」

 

「……じゃあ、本当にレオヴァが…

しかし、何故このタイミングで…」

 

考え込むカタクリにペロスペローは少し前の話を語り始めた。

 

 

「実はレオヴァから連絡があってな…」

 

 

 

 

今朝は酷くビッグ・マムが荒れていた。

……いや、訂正しよう。

百獣海賊団のニュース以降、数日間ビッグ・マムはずっと荒れていた。

 

 

その時もペロスペローはげっそりしながら部屋へと戻り、紅茶で気分を変えようとしていたのだが。

突然、電伝虫が鳴った。

 

こんな時に誰だと眉間に皺を寄せつつも、可愛い弟妹達からの“SOS”かも知れないとペロスペローは出たくない気持ちに蓋をして受話器を手に取った。

 

 

『こちら、ペロスペロー。』

 

『…ペロスペロー、久しぶりだな。』

 

既に聞き慣れてしまった赤の他人の声に、ペロスペローの声が不満げな色を含む。

 

 

『……レオヴァ…お前、よくもぬけぬけと連絡してこれたなァ…?

てめェらが派手にやってくれたおかげで、こっちは大迷惑だ!!』

 

ほぼ100%の八つ当たりにも電伝虫越しのレオヴァは笑っていた。

 

 

『あぁ、ペロスペロー。

お前も父さんの活躍の記事をみてくれたのか。』

 

呑気な声を出すレオヴァに小さな殺意を覚えたペロスペローは口元をひくつかせた。

 

 

『……相変わらずてめェは…!

言っておくが、今日は長ったらしいてめェのカイドウ自慢に付き合える余裕はねェ!!切るぞ!?』

 

怒りを滲ませた声に怯むことなく、レオヴァは相変わらずマイペースに言葉を返した。

 

 

『そうだろうと思ってな。

一応、今日は父さん自慢をするために連絡した訳じゃないんだ。

前に頼まれて開発を進めてたビッグ・マム専用の菓子が出来たという報告をだな…』

 

『なに!?

例の菓子が完成したのか…!?』

 

思わず食い気味に声をあげたペロスペローだったが、それも無理はない。

何故ならレオヴァの提供してくる菓子はほぼ全てビッグ・マムのお眼鏡に叶い、多くがお気に入り認定されている。

もしかしたら、その新しいお菓子さえあれば

今のイライラが最高潮なビッグ・マムの機嫌を取れるかもしれない!

と、ペロスペローに一筋の光が差したのだ。

 

 

『よし、レオヴァ!

今すぐその菓子を送ってくれ!

どれくらいで着く!? 1週間か!? 2週間か!?

とにかく至急で頼むぜ!!!』

 

珍しく必死さを隠しもしないペロスペローにレオヴァは本当に緊急事態なんだな、と苦笑いを溢す。

 

 

『…そう言うだろうと思って、とっくに発送済みだ。

今日の夕方前までには到着すると連絡が来てる。』

 

『……今日…?

本当に今日届くんだな!?』

 

今度は歓喜を滲ませるペロスペローの声にまたレオヴァは苦笑いを溢しつつ、言葉を続ける。

 

 

『……あぁ、それと。

そっちも大変そうだからな…今回だけはペロスペローの加減で、多少話を盛ってくれて構わない(・・・・・・・・・・・・・・)

 

レオヴァの言葉の意味を正しく読み取ったペロスペローは目を細める。

 

 

『ほう…?なるほど、なるほど。

それはおれに貸しを作らせるのが目的ってワケか。』

 

『まさか…!

善意に決まってるだろう?ペロスペロー。

まぁ、何かあれば手伝ってくれたりすると助かるがなァ…?』

 

胡散臭いほど爽やかな声に思わずペロスペローは笑った。

電伝虫の向こう側でニッコリと悪い笑みを浮かべているレオヴァが容易に想像出来てしまう。

 

 

『くくくくっ…!

まったく本当にイイ性格してるなァ、レオヴァ!

いいだろう、何かあればおれが個人的に(・・・・)手を貸すさ!ペロリン

 

『ふふふ…それは有難い。

では、例の菓子はペロスペローが(うま)く使ってくれ。』

 

『もちろん、存分に使わせてもらうぜ…!!』

 

話がまとまり、そろそろ電伝虫を切ろうかとペロスペローが言葉を紡ぎ、レオヴァもそれに答える。

 

そして、電伝虫を切ろうとした瞬間だった。

 

 

『あぁ、そう言えば例の菓子の他にオマケとしてペロスペローの好きな牛タンも乗せてあるから食べてくれ。

疲れも吹き飛ぶ一級品だ……では。』

 

ガチャリと切れた電伝虫を前にペロスペローは一瞬、目を点にしたが、すぐにくつくつと笑った。

 

 

『気が利きすぎる奴だぜ、レオヴァ…!』

 

千里眼でも使えるのかと思うほど見通してくるレオヴァとのやり取りは楽しいとペロスペローは笑う。

そして、夕方前までビッグ・マムが暴れないように奔走するべく立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 

「……ってワケだ。」

 

事の顛末を語り終えたペロスペローは喉を潤す為にティーカップに口をつけた。

 

聞き終えたカタクリはそのレオヴァらしい内容に目元を緩める。

 

 

「納得が行った。

それでペロス兄は“献上”だのと普通ならあり得ない言葉を使ったと言う事か。」

 

「そう言うことだぜ。ペロリン♪

レオヴァの許可も得ているし、少し大袈裟に言っただけでママにも嘘はついてねェってワケだ。」

 

悪い顔をするペロスペローに、こういう所はいつまでも兄には勝てないなとカタクリはマフラーの下で小さく笑った。

 

穏やかな空気が流れるペロスペローとカタクリのティータイム。

 

そんな中、ふと疑問に思った事をカタクリは口にした。

 

 

「ところで、さっきのレオヴァやペロス兄の口振りだと……普段から良く連絡を取っているように聞こえたんだが

…レオヴァはペロス兄にもカイドウ自慢をしているのか…?」

 

「その言い方……まさか、カタクリもあの長い自慢話を聞かされてんのか!?」

 

驚きに目を見開くペロスペローにカタクリは何でもないように返す。

 

 

「まぁ、おれも兄弟達や新しい菓子の話をするからな…

その分レオヴァの話も聞くのは道理だろう。

……それにしてもペロス兄がレオヴァと貿易以外に話しているのは少し意外だった。」

 

うんうんと小さく頷くカタクリにペロスペローは思わず突っ込む。

 

 

「いや、おれに言わせればカタクリの方が意外だぜ!?

そもそもお前、そんな話に花を咲かせるタイプじゃ…」

 

驚くペロスペローに、カタクリは少し気恥ずかしそうに目を反らすのだった。

 

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

黒ひげに付けていた受信機の電波を追いかけて、ある島にキングはやって来ていた。

 

だが、そこに黒ひげの姿はなく。

発信源を辿った先には、布で巻かれた血の滲む小包を抱えたバージェスという男がいるのみであった。

 

その光景にキングが少し目を見開くとバージェスはかかったな!と、したり顔で叫ぶ。

 

 

「残念だったな…!

ティーチ船長はここにはいねェ!!

 

作戦通りだとバージェスが笑う中、キングは冷静な声を出す。

 

 

「……発信器が取り付けられていた足首を切り落とし、部下に運ばせていたか。」

 

「ウィ~ハッハッハ!そういう事だ!

てめェら百獣はまんまと、ティーチ船長の策にハマったってワケだ!!」

 

完全勝利だというように口角をあげたバージェスはその表情とは裏腹に、挑発することでキングの気を自分に反らし、少しでもティーチの為に時間を稼ごうと画策していた。

 

 

しかし、笑いを抑えるかの様にキングはマスクに覆われた口の前に手をやって喉を鳴らしており、マスク越しの目には嘲り笑う色も浮かんでいる。

 

そのあまりにも想定とかけ離れた反応にバージェスがたじろぐと、キングはゆったりとした動作で足を踏み出した。

 

 

「……あぁ、本当にレオヴァ坊っちゃんには敵わねェ。」

 

心底嬉しげに呟かれた言葉はバージェスに向けられたものではないのだろう。

その証拠にキングの足は真っ直ぐとバージェスに向かっていたが、瞳はバージェス自身を捉えてなどいなかった。

 

 

静かな空間にキングの足音だけが響いている、この状況にバージェスが息を飲んだ瞬間。

キングの背に揺らめいていた炎が消えた(・・・・・)

 

次の瞬間、バージェスが抱えていた小包が地面にボタりと落ち、包まれていたティーチの足首が顔を出す。

 

状況が飲み込めずにバージェスがゆっくりと腹に手をやると、背中から突き出るように刀が生えていた。

 

 

「…ガハッ……ど、なって……やがる…?」

 

赤黒い液体と共に吐き出された言葉に、背後から返事が返ってくる。

 

 

「喜べ、無能。

…本来ならすぐに処分だが……お前はレオヴァ坊っちゃんの役に立ってから死ねる事になった。」

 

嬉しいだろ?と言わんばかりの声色にバージェスは顔を青くするが、キングはそんな事お構い無しに刀を引き抜いた。

 

支えが無くなり崩れ落ちたバージェスは、何とかこの場を凌ごうと頭を回転させる。

そして、地盤の緩そうなこの場所なら自身の拳で崩せるのではないかと思い至った。

 

しかし、キングはそんなバージェスの考えなどお見通しだとばかりに足首(・・)を刀で切り落とすと、不快そうにマスクの下の眉を潜めた。

 

 

「レオヴァ坊っちゃんの役に立てる機会をやるってのに……小賢しい真似をするな。」

 

足首を落とされ叫ぶバージェスの首に刀を押し当てながら、キングは底冷えしそうな声色で言葉を続ける。

 

 

「足掻こうたって無駄だ。

おれの仕込み刀は血液に触れると神経を麻痺させる毒(・・・・・・・・・)が出るようになってる。

悠長に何秒も刺されてた時点で、てめェは詰んでるんだよ。」

 

体が上手く動かせなくなってきているバージェスはその言葉に返すことも出来ず、くぐもった声を上げるだけだった。

 

何も出来ず、ただ見下ろされるだけの状態になったバージェスに満足そうにキングは目を細める。

 

そして、慣れた手つきで拘束用の道具を取り出し、バージェスに取り付け、二つの足首も鎖に繋ぐと引きずるように歩きだした。

 

ずるずると地面を擦る音と、バージェスの呻き声に上機嫌にキングはレオヴァとの晩酌時の会話を思い出す。

 

 

 

 

その日もキングはマスクを外し、晩酌しつつもレオヴァと今後について話を進めていた。

 

 

『……黒ひげを殺るんじゃねェのか?レオヴァ坊っちゃん。』

 

そう言って首を傾げたキングにレオヴァは酒を一口飲むと、小さく笑う。

 

 

『黒ひげは捕らえる(・・・・)

だが……この発信器の先に黒ひげはいないだろうな。』

 

言いきったレオヴァを見て、更にキングは首を傾げた。

 

なぜ、発信器の先に黒ひげは居ないとレオヴァは断言しているのか?

キングは色々と考えてみるが、ピンと来る答えは思い付かない。

 

普通に考えて、発信器は黒ひげの体に埋め込んである(・・・・・・・・・)のだ。

その発信器の電波を追えば黒ひげに辿り着くと考えるのは当たり前と言えば当たり前である。

 

それに未だに発信器は移動を続けている。

壊されている訳でもないと言うのに、何故そこに黒ひげが居ないとレオヴァは考えるのか。

それがキングには良く分からなかった。

 

なので、キングはそのままをレオヴァに告げる。

 

するとレオヴァは何でもないと言うようにキングが驚く言葉を発した。

 

 

『黒ひげならば、必ず発信器の存在に気付く。

おれに作戦を全て邪魔されたんだ、勘繰らない方が可笑しいと思わないか?

そして、その発信器が無理やり外せば壊れるようなモノだという事にも気付くはずだ。

そうなったら普通の思考を持つ者が選べる選択は二択。

発信器が壊れても良いと無理やり外し多少の体へのダメージを受け入れるか、体へのダメージを考慮して…あえてそのまま放置するかだ。

だが……おそらく黒ひげなら“第三の選択肢”を選ぶだろう。

発信器の取り付けられた自分の一部を切り落とし…発信器は壊さずに利用する、という選択肢をな。』

 

その内容にキングは驚きを隠せなかった。

これは見方を変えれば、まるで黒ひげを信頼しているとも取れる言動だ。

 

目を見開くキングの内心を見透かすようにレオヴァはまた小さく笑う。

 

 

『キングの言いたいことも分かる。

おれは黒ひげという男の“未知数さ”を信じてる。

前回のように、必ず奴はおれの計画の斜め上を行こうとする筈だ。』

 

『……そこまで、レオヴァ坊っちゃんが奴を警戒する理由は何なんだ?』

 

キングからすれば、あの場にいた黒ひげは大した脅威には思えなかった。

 

カイドウとレオヴァを前に手も足も出せず逃げ出した鼠の一匹……その程度の認識だったのだ。

 

そんなキングの問いにレオヴァは答える。

 

 

『……キング、以前お前がおれに

“周りにごちゃごちゃ言う馬鹿がいる中で、実力を完璧に隠し続けるなんてのは常人の出来ることじゃねェ”と言ったのを覚えているか?』

 

『あぁ、もちろん覚えている。』

 

レオヴァが何十年も外部の何も知らない馬鹿達の嘲りの言葉を気にせずに実力を隠し続けている現状に、思わず出た言葉だったとキングは記憶していた。

 

どんなにレオヴァが優れているのか、どれ程レオヴァの持つ実力が高いのか。

それを外部の嘲り笑う馬鹿達に解らせてやりたいと憤慨していた頃のキングの言葉だ。忘れる筈もない。

 

 

『確か、あの時レオヴァ坊っちゃんはおれの言葉に

“そりゃあ、キング。おれは常人じゃねェ、父さんの息子だからな”…と笑ってたな。』

 

懐かしむような声で言うキングにレオヴァは目を細める。

 

 

『ふふっ……よく覚えてるな。』

 

『当たり前だ。

カイドウさんとレオヴァ坊っちゃんの事は全部……覚えてる。』

 

赤い瞳でレオヴァの目を真っ直ぐに見てキングは言う。

 

それにレオヴァは嬉しそうに一言、そうか。と言うと話を戻した。

 

 

『要するに、だな。

黒ひげはおれと同じく実力を隠して居たんだ、それもおれと違いその事実をほぼ自分の中だけに止めてな…

……そう言えば、キングなら奴の異様さが分かるだろう?』

 

レオヴァの言葉にキングは確かに…と頷いた。

 

 

『それにあの早さで七武海に入るというのも、簡単に出来るような事じゃない。

ある程度の実力を証明するだけでなく、交渉も出来なきゃならねェ。

キングの思う様に、今は大した実力はないかもしれないが……一年、二年…と積み上げられたら間違いなく面倒な存在になる。

おれは父さんを海賊王にしたいんだ。

…それはキングも同じだろう?』

 

『…カイドウさんこそ、海賊王になる男。

その考えは永劫変わらねェよ、レオヴァ坊っちゃん。』

 

酒瓶を机に置いて、ハッキリとした声で言い切ったキングにレオヴァは、それでこそだと笑う。

 

 

『そうだ、他の誰でもない……父さんこそ海賊王になる男。

キング、おれはどんな相手でも父さんは負けないと信じてる。

父さんはおれ達の上に立つ、世界最強の男だからな。

……だが、それでもだ。

おれは追々、父さんやおれ達の邪魔になりそうな相手を野放しに出来るような性格じゃねェ…』

 

『……フッ、あぁ。

分かった、レオヴァ坊っちゃん…任せてくれ。

おれも同意だ。

カイドウさんが負けねェとしても、邪魔な馬鹿をのさばらせる理由にはならねェもんなァ…』

 

少し長い白い髪を揺らして海賊らしい笑みを浮かべるキングを見てレオヴァはまた一口、酒を呷った。

 

キングもレオヴァに続くように一口酒を呷ると、最初の疑問を口にした。

 

 

『……で、レオヴァ坊っちゃん。

黒ひげがいねェってんなら、何故発信器を追えと?』

 

レオヴァなら必ず意味があるんだろうと、キングはしっかりと耳を傾ける。

 

 

『おれの読みでは……発信器を取り付けた足首は部下に持たせている筈だ。

ラフィットという男は、身動きしずらい今の黒ひげには欠かせない存在だろうからな。

…そうなるとヴァン・オーガーかバージェス辺りが囮役をやっているだろうな。』

 

キングが話に相づちを打っていることを目で確認しつつ、レオヴァは話を続ける。

 

 

『囮役を引き受けていると言う事は、黒ひげへの忠誠心が高いと見ていいだろう。

きっと、黒ひげは囮を見つかる前提の時間稼ぎに使って来る筈だからな。

…そこでなんだが……おれはその囮役が欲しいんだ。』

 

『……囮役が欲しい?

レオヴァ坊っちゃんの顔を見るに、うちに勧誘するって訳じゃなさそうだが?』

 

的確に表情を読み取るキングにレオヴァはニヤリと笑う。

 

 

『流石、キングだ。

そう…別にうちに欲しい訳じゃねェ。

忠誠心が高い奴を取り込むのはなかなかに面倒だしな…

何より、その手間をかけてまで欲しい人材は黒ひげ海賊団にはいねェ。』

 

そう言い切ったレオヴァに同感だとキングは頷く。

 

 

『だが忠誠心が高いってことは黒ひげから、仲間としてか道具としてかは知らないが多少は信頼されている筈だ。

……そこで、少し案がある。

おれとしても、元々あの発信器は見付かる前提の捨て石(・・・・・・・・・・)でな。

本命は別にあるんだ。』

 

身内の前でしか見せない様な笑みを浮かべるレオヴァにキングも思わず口角が上がる。

 

 

『発信器から既に捨て石か……くくっ…レオヴァ坊っちゃんらしいな。』

 

『見付かるか見付からないかのギリギリを攻めた策ほど“本命”だと勘違いさせやすいんだ。

……で、キング。

おれの大本命の方の作戦……手伝ってくれるか?』

 

『レオヴァ坊っちゃんの頼みなら、いくらでも。』

 

心底楽しそうに笑うキングにレオヴァは新しい酒瓶を投げ渡す。

 

キングはそれを受け取ると、作戦の内容を話し出したレオヴァの言葉に集中するのだった。

 

 

 

 

そんなレオヴァのと晩酌を思い出していたキングのマスクの下の口角は無意識に上がっていた。

 

 

「……全部、レオヴァ坊っちゃんの想定通りだな。

フッ…踊らされているだけとも知らずに逃げ惑ってる、お前の所の船長は滑稽だと思わねェか?」

 

まだ意識があるバージェスを見下ろして嗤うキングの機嫌は良い。

 

 

「お前らごときが、カイドウさんとレオヴァ坊っちゃんの邪魔を出来ると思うな。

……誰だろうとあの二人を害することは、おれが赦さねェ。」

 

狂気の色が宿る瞳で捉えられたバージェスの背に、一筋の冷や汗が伝った。

 

 

 

 





ー補足ー

・撤退の件
マリンフォードでの事件で、海軍が撤退したことに対して上から批判が起きたがセンゴクが元帥を辞めるという形で決着済み。

撤退を最初に指示したのは“クザン”
百獣を押しきれる未来が見えないなら、今生きている海兵達をこの場から逃がしてやるのが最善だと判断した。
その後それに気付いたセンゴクも撤退の指示を出し、赤髪と共に撤退重視の立ち回りをした。


ー追記ー
ご質問等を下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio

既にレオヴァの手料理を初めて食べたカイドウさんの反応や、レオヴァがキングの素顔を知った年齢など様々なご質問に答えさせて頂いておりますので暇潰しにでも覗いて頂けたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします~!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

動き始める世界

 

 

 

百獣海賊団が世間を騒がせている今。

革命軍も例外なく、この事件へ強い関心を寄せていた。

 

 

マリンフォードの陥落。

それは世界政府への攻撃を容易にさせてしまう、最悪の事態だろう。

 

だが、革命軍にとってそれは好都合であった。

 

世界政府が弱まり、彼らの意識が百獣海賊団へ集中すれば革命軍の活動が一気にやり易くなるのだ。

 

各地での革命も、諜報活動も。

この機を逃す手はないとドラゴンは各地にいる仲間達へ伝令を飛ばした。

 

 

だが、追い風になり得るこの状況を利用すると同時に、ドラゴンは警戒もしていた。

 

何故、百獣海賊団はマリンフォードを手に入れたのか。

その理由が、未だ定かではないと言うのが不気味だった。

 

百獣海賊団はマリンフォードを手に入れたと言うのに、あれから大きな動きを起こしていないのだ。

現在の目立つ動きといえば、マリンフォードに工事を施しているという事くらいである。

 

あの海軍が(おこな)ったマリンフォード奪還作戦での百獣海賊団の戦力を見るに、今すぐにでも世界政府の重要な場所へ攻め入ることも可能な筈だとドラゴンは読んでいた。

……それこそ、あの“聖地”と呼ばれる場所にもだ。

 

 

けれど、先ほど述べたように、

百獣海賊団に大きな動きはない。

 

マリンフォードと言う、あらゆる面で重要な拠点を手に入れておきながら何もしないなんて事があり得るのか?

とドラゴンは深読みを続けた。

 

そして、もしかしたら何かの前準備なのかもしれないという結論にドラゴンは至る。

 

 

しかし、有力そうな情報元から得た話はドラゴンの読みとはかけ離れたものばかりであった。

 

 

 

まず1人目。

革命軍に所属し、現在は潜入捜査中の青年“C"の発言をみてみよう。

 

『今回の事件の内容を聞いた感じなんですが……あれはレオヴァさんの考えというよりも、レオヴァさんのお父さんが暴れ始めちゃって

それにビックリしてレオヴァさんが止めに来た感じに、ぼくには見えましたね……

もし、本当に最初からマリンフォードが狙いならエニエスロビーと……

それこそ半壊させたインペルダウンにも手を回して、三ヶ所同時に手に入れるって方法を取ると思います。

レオヴァさんは心配性と言うか…完璧主義というか……なので中途半端に1ヶ所だけ奪うなんて事しなさそうで……

……あと、レオヴァさんって

他にやることがあってもお父さんの為なら飛んで行くような人なんですよ。

マリンフォードを手に入れる為に来たというより、たまたま手に入りそうだし奪うか!ってレオヴァさんのお父さんが軽い気持ちで判断してそうというか……

あ、あははは……いや~、本当にレオヴァさんのお父さんは規格外ですから……

正直、常識的な思考でどんなに考えても無駄だと思います……はい……』

 

と、苦笑いを溢しながら証言していた。

 

 

2人目は。

革命軍に所属するとある魚人の友人であり、あの事件の現場にいた魚人“J”の発言だ。

 

『ワシはレオヴァの事じゃ、カイドウさんの助太刀に来ただけじゃと思うとる。

インペルダウンで()うた時も、マリンフォードに行くようなことは言っとらんかった。

カイドウさんが暴れとると聞いて、急いで駆けつけた……と言う風に見えたが……

しかし、結果的にマリンフォードを落としたのには驚いた!

いつもの様にカイドウさんが暴れたら流れで手に入れてしもうた言う所じゃろ。』

 

と、愉快に笑いながら証言していたと言う。

 

 

3人目は。

百獣海賊団に友人が所属していると言う、現在魚人街住みの“H”の発言だ。

 

『にゅ~……あんまり詳しいことはおれにも分かんねェ……

けど、なんか今回の事件はレオヴァさんの作戦?には思えねェんだ……

力業すぎるって言えばいいのか?

どっちかと言うとカイドウ様っぽいよなぁ~。

……ハッ!もしかしたら、カイドウ様発案の作戦なんじゃねェか!?

にゅ~?そうすると、なんでカイドウ様はマリンフォード欲しがるんだ??

ダメだ、やっぱりおれに分かんねェよ~……ごめんな~!』

 

と、証言の後に申し分けなさげに謝っていたらしい。

 

 

上記の3人の発言以外にも、多くの発言をあらゆる手段で手に入れていたドラゴンだったが

その大半が

“今回はレオヴァらしくない”

“カイドウの暴走じゃないのか?”

“百獣は世界政府に関心はないのでは?”

と言うものばかりであったのだ。

 

 

自分の考えとは違う周りの発言を視野に入れつつ百獣海賊団の動向を探りながら、ドラゴンは厚い信頼を置いているサボにも意見を求めた。

 

サボはドラゴンの問いに少し考える素振りを見せた後、全部個人的な考えだと前置きをして言葉を続けた。

 

 

「ドラゴンさんの言う通り。

おれも何か目的があるんじゃないか、と思ってます。

逆に何の目的もなく、本当に暴れてたらたまたま手に入る確率って何パーセントです……?

ただ、やはり百獣海賊団への深い接触はまだ時期尚早かとも思います。

どういう理念を掲げているのか、まだ完全に分かっていない以上危険です。

何より、もしも百獣海賊団とぶつかる事になったら、革命軍は壊滅的な損害を受けることに……」

 

「やはり、サボもそう考えるか……」

 

自分と近い考えを述べたサボの言葉にドラゴンは頷く。

 

 

「そもそも、なんの意味もなく火拳(・・)の処刑の場に現れるなんて考えられませんよ。」

 

「それはおれも引っ掛かっていた。

……何故、カイドウが処刑場に現れ火拳を逃がしたのか。

正直、今ある情報だけではまったく見当もつかない。」

 

 

そう言って唸るドラゴンと共にサボは辺りがすっかり暗くなるまで談義を続けるのであった。

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

あれから約1ヶ月。

 

マリンフォードでの一件が冷めやらぬ中、新たな話題が上がっていた。

 

またも話題の中心に上がっているのは百獣海賊団だ。

 

 

今度の内容は

魚人島、白ひげ海賊団のナワバリから百獣海賊団のナワバリへ!

と言うものである。

 

 

世間はこの話題について

“百獣海賊団が白ひげ海賊団から奪った”

“魚人島が(くら)替えをした”

“白ひげがいない今、白ひげ海賊団は百獣の傘下に下った”

などの、あらゆる憶測や噂を広げていたが

どれも事実とは程遠いものばかりであった。

 

 

しかし、事実とは程遠い噂話ほど広がるのは早く

白ひげ亡き今がチャンスだと押し寄せていた海賊達や人攫い達の足は、百獣海賊団と言う名の前にピタリと止まったのだった。

 

 

 

 

── 時は少し遡り、魚人島にて。

 

 

深海の中にある竜宮城の客間の中央には

ネプチューン王、オトヒメ王妃、フカボシ王子の三人が並んで座しており

その右手側にレオヴァ、反対の左手側にマルコが座っていた。

 

 

「……という訳で、雪崩れ込んで来た海賊達は魚人街に派遣されていた百獣海賊団の皆と駆けつけてくれたページワンという青年のおかげで無事なんじゃもん。」

 

ネプチューンの言葉にマルコは申し訳なさそうに顔を歪めた。

 

 

「すまねェ、ネプチューン王。

オヤジが亡くなったとたん、一気にここに攻めいる馬鹿が出ることは予測してたのに……間に合わなかったなんて、不甲斐ねェよい……!」

 

頭を下げるマルコをネプチューン王達が止める。

 

 

「止してくれんか、マルコ。

もともと善意で守ってくれていた事に、頭が上がらないのはこっちなんじゃもん。

それに、今は君らも大変な時期……余計な心配をかけて逆に申し訳ないんじゃもん……」 

 

「えぇ、今まで助けてくれてたあなた方を責める者は1人もいないわ。」

 

「……ネプチューン王にオトヒメ王妃……」

 

優しい声と表情の二人にマルコは眉を下げる。

 

そして、今度はレオヴァに向き直るとまた頭を下げた。

 

 

「また、借りが増えちまったねい……!

おれ達に代わり、ここを守ってくれて何と礼を言えばいいのか……」

 

「気にしないでくれ。

魚人島の皆とは長い付き合いだ。

なによりフカボシ達が……友が困っていれば助けるのは当然、マルコがおれに頭を下げる必要はまったくない……顔を上げてくれないか?」

 

レオヴァの言葉にマルコは顔を上げる。

目の前にはフカボシを友と呼び、穏やかな佇まいのレオヴァがいた。

 

魚人島での百獣海賊団の功績(・・・・・・・・)を全て聞いたマルコに、もう迷いはない。

 

白ひげ海賊団の皆で決めたとはいえ、内心では言おうか迷っていた言葉をマルコは口にした。

 

 

「……今のおれ達じゃ、オヤジみてぇに魚人島は守れねェよい……

だが、百獣海賊団は違う。」

 

マルコの言わんとする事を察したネプチューン王が目を見開き、慌てて口を開いた。

 

 

な、何を言い出すんじゃもん!!

ここはずっと白ひげ海賊団のナワバリとして……」

 

ネプチューン王のその言葉をマルコは断腸の思いで遮る。

 

 

「確かに、ずっとここはオヤジのナワバリだった。

……けどネプチューン王、考えてもみてくれよい。

義理を通してくれんのは嬉しい……おれもここは好きだ。

だからこそ、平和なままでいて欲しいんだよい。

……きっと、オヤジもそう思ってる。」

 

静かな優しい声にネプチューン王達はマルコの想いと強い覚悟を感じ、口を閉じた。

 

 

「……レオヴァ、お前の話はネプチューン王からも街のみんなからもたくさん聞いたよい。

あの驚くぐれぇ綺麗になった魚人街を作ったのも、住んでた奴らを救ったのも……レオヴァ、お前だってねい。

あの荒れてた魚人街を立て直すってのはオヤジには出来なかったことだ。

……見た目通り、オヤジは少し不器用だったからねい……」

 

懐かしむように目を細めると、一度深呼吸をしてマルコは落ち着いた声色で続ける。

 

 

「こんだけ魚人島のみんなから信用されてるレオヴァを見込んで……ひとつ、頼まれちゃくれねェか?」

 

真っ直ぐとレオヴァを見据えてマルコは言い終えた。

 

レオヴァもその言葉を受けて、同じく真っ直ぐとマルコを見据える。

 

 

「……今、この時期に魚人島を百獣海賊団のナワバリにすると宣言すれば世間からどう言われるか、分かっているのか?」

 

「……そうだねい。

けど、海賊ってのは元々世間からの風当たりは強いもんだよい。

なにより残った仲間達が構わねェって言ってるんだ。」

 

ニッと笑って見せるマルコにレオヴァは眉を下げる。

 

 

「……世間の風当たりもそうだが、同時に白ひげ海賊団に手を出してくる輩も増えるんじゃないのか?」

 

「それも覚悟の上だよい。

まぁ、手を出してくる馬鹿共には、簡単にやられる程おれ達は甘くねェって逆に教えてやるさ!

それに最近じゃあ、うちの船長(・・・・・)もレオヴァのおかげで最高に燃えてるからねい!」

 

マルコの海賊らしい言葉に、やっとレオヴァは笑みを浮かべて見せた。

 

 

「そうか……そうだな。

今の発言は取り消そう。

余計な世話というやつだったな。」

 

「そんなことないよい。

……色々あったが、おれは(・・・)本当に百獣には感謝してるんだ。」

 

「…()してくれ、そう何度も言われるとむず痒いんだ。

マルコも分かるだろう?」

 

困った様に笑うレオヴァに、マルコも笑いかける。

 

 

「はははっ!確かに!

おれらは感謝されることなんて滅多にないからねい。」

 

「そうだろ?

だからもう本当に気にしないでくれ。

父さんもマルコがくれた秘蔵の酒で満足だと言っていたしな。」

 

「そりゃあ、良かった!

……なら、言葉に甘えさせてもらうとするよい。」

 

 

そうして、レオヴァとマルコが会話を続けた末。

ネプチューン王達の同意を得て、ナワバリを白ひげ海賊団から百獣海賊団へと譲渡した。

……というのが事実であった。

 

 

この事実は魚人島にて公表されていたが、真実は綺麗に流れることはなく。

ネジ曲がった話が世間へと広まって行ってしまったのだ。

 

 

こうした経緯でまた百獣海賊団は世間を騒がせていたのだが、渦中のカイドウがこの世間の噂話の内容を知るのはもう少し先になることだろう。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

── 時は戻り、現在。

 

 

白ひげ海賊団は一刻も早く落し前を黒ひげこと、ティーチにつけさせる為に立て直しを図っていた。

 

新たな船長、ポートガス・D・エースと事実上の副船長マルコ。

この2人を中心に少しずつだが、白ひげ海賊団は前のような活気を取り戻しつつあった。

 

 

未だに彼らが“白ひげ海賊団”を名乗るのは亡き白ひげの誇りを受け継ぐという強い意思があるからだ。

現に、新しい海賊船も昔と同じように“鯨”を模したものを造らせている。

 

他にもエースが船長になるまでに軽い騒動があるにはあったが、それはもう済んだ話である。

 

今いる白ひげ海賊団の中に不満がある者は一人もいない。

それはエースの人柄もあるが……

一番は、期待に応えようと努力する彼の姿が皆の心を掴んでいると言うのが大きいだろう。

 

 

そんなエースを眺めるマルコも心を掴まれた内の一人だ。

 

元よりエースが船長ということに反対する気はなかったが、心配はしていた。

 

ただでさえ、折れかけていた所からやっと立ち上がったばかりだと言うのに

“船長”という大役まで背負ったら、今度こそ本当に潰れてしまうのではないか?

そうマルコは懸念していたのだ。

 

しかし、フタを開けて見ればエースは潰れる所か益々勢いを増していった。

その守る者が多いほどに強くなる姿に、マルコは“懐かしい男の影”を見て小さく笑う。

 

まだまだガキだと思っていたエースの良い意味で想定外な強さは頼もしくもあり、同時に可愛い弟分の早すぎる成長に少し寂しくもあった。

 

 

などと建造中の船を眺めながら軽い感傷に浸っていたマルコに向かってエースが駆け寄ってくる。

 

 

マルコ~~!!ここにいたのか!

 

ブンブンと元気な笑顔で手を振る姿に

やっぱりまだガキだねい、と笑いつつマルコも軽く手を上げて返す。

 

 

「なんだよい、エース。

そんな嬉しそうな顔して。」

 

「へへ、実はルフィから“返事”が来たんだ!!」

 

そう言って紙を見せてきたエースにマルコはまた弟の話かと苦笑いを溢す。

 

どういう関係なのかはマルコ達も知らないが

現在、ルフィはアマゾン・リリーに匿われている。

 

そして白ひげ海賊団もエドワード・ニューゲートの墓のある島に身を潜めている為、盗聴の恐れのある電伝虫ではなく手紙にてやり取りをしているのだ。

 

 

マルコはエースから見せられた手紙を見て思わず和む。

そこには相変わらず、お世辞にも上手とは言えないミミズのような文字達がいた。

 

 

「修行始めた、エースより強くなる。朝飯肉だった!……か。

はははは!相変わらずお前の弟は元気そうだねい!」

 

「おう!

ま、ルフィがおれに勝つなんてあり得ねェけどな!」

 

嬉しそうに笑うエースにマルコも微笑む。

 

 

「なら、午後からまたやるとするかねい?」

 

「いいのか!?

よし、今度こそおれが勝つぜマルコ!!」

 

「言うねい、エース。

けど、まだおれに勝つには早いよい!」

 

不敵に笑うマルコにエースもニッと笑い返す。

 

残された者達が前を向くことで、白ひげ海賊団の日常は戻りつつあった。

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

──ワノ国、鬼ヶ島にて。

 

 

 

「ま、まだ献ポポするのれす!?

お二人が倒れてしまったら……私悲しいれす……」

 

あわあわと可愛らしく慌てるマンシェリーにレオヴァは落ち着かせるように優しい声を出す。

 

 

「大丈夫だ、マンシェリー姫。

おれも父さんもこの程度で倒れるほど柔じゃない。

……それに皆の傷を治してやりたいんだ……

これはマンシェリー姫にしか頼めない……どうか、続けてくれないだろうか?」

 

眉を下げながら悲しげな瞳で見つめてくるレオヴァに、マンシェリーは言葉を詰まらせた。

そして、覚悟を決めたように顔を上げてレオヴァとカイドウに向き直る。

 

 

「分かりました!私に任せてほしいれす!!」

 

「ありがとう、マンシェリー姫。

……疲れたら休憩してくれて良いからな?」

 

「大丈夫れすよ!

いっぱい献ポポしてるカイドウ様とレオヴァ様がまだ頑張ってるんです、私ももっと頑張るれす!!」

 

そう言ってマンシェリーは献ポポを開始する。

 

そんな様子を退屈そうにひじ掛けに肘を突きながら、カイドウはぼうっと芝居じみた息子の表情を物珍しげに眺めるのだった。

 

 

 

 

あれから1時間近く献ポポを続けてヘトヘトになったマンシェリーを送り届け、部屋に戻ってきたレオヴァにカイドウは酒の瓶を手渡した。

 

レオヴァは受けとるとそのままカイドウの隣の座椅子に腰掛け、酒を呷る姿を見て微笑む。

 

 

「この酒は、度数は弱ェが味がいい……!」

 

「父さんが喜んでくれたなら、造った甲斐がある。」

 

嬉しそうに笑うとレオヴァも手渡された酒を呷る。

 

 

「……そういや、その献ポポってのでまた“あの薬”を作んのかァ?」

 

思い出したと言うように口を開いたカイドウにレオヴァは頷く。

 

 

「あぁ。前にあの薬……“回復薬”を使いすぎたから補給を、と思って父さんに協力してもらったんだ。

本来ならおれだけで済ます予定だったんだが、それだと減った分は取り戻せてもプラスにならなそうで……父さんの手を煩わせる結果に……」

 

苦肉の策だったと言わんばかりに顔をしかめるレオヴァにカイドウは思わず笑った。

 

 

「ウオロロロロ……!

そんな苦虫を噛み潰したような顔するんじゃねェよ、レオヴァ!

どうせ今日は夜まで時間はあったんだ、お前と昼から飲めんなら多少の退屈を我慢してやるくらい訳はねェ。」

 

「っ……父さん!

おれも昼から父さんと二人で飲めるなんて久々で……思わずマンシェリー姫を急かしてしまった。」

 

すっかり眉間の皺を消して無邪気な笑顔を向けてくるレオヴァに満足げな笑みをカイドウも浮かべる。

 

 

「……話は戻るが、その回復薬ってのは量産出来ねェとクイーンは言ってたが……どうなんだ?」

 

「クイーンの言う通り、量産は難しい。

父さんが相手だから白状するが……実はこの薬、本来は回復薬として作ってたワケじゃないんだ。」

 

衝撃の事実に珍しくカイドウが目を丸くする横で、レオヴァは事の経緯(いきさつ)を説明する為に記憶を呼び起こす。

 

 

 

 

 

トンタッタ族を迎え入れてすぐ、クイーンとレオヴァの合同研究が始まったのだ。

 

その内容は“回復薬”の生成ではなく、“強化薬”の生成であった。

 

元々マンシェリーの能力は回復だというのに素直に回復薬を作るのではなく、強化薬を作ろうと意気込む辺りがクイーンとレオヴァの一筋縄ではいかない性格を(あらわ)しているかもしれない。

 

 

それはさておき。

その後、クイーンとレオヴァは献ポポを使い色々なものを生成していった。

 

その生成した薬の中には2人の構想に近い効果を発揮したモノもあったのだが、副作用を見たレオヴァによってストップが入ったりなど、研究は難航していた。

 

そんなある日、レオヴァが持って帰って来た植物と虫により研究の方向が一気に変わる事となる。

 

 

そのレオヴァが持ち帰って来た植物と虫の名は

蜜針虫(ミツハリムシ)”と“長寿ツユクサ”と言う。

 

長寿ツユクサは原住民達にあらゆる“怪我”に使える薬として使われており、レオヴァはその万能性に目をつけたのだ。

 

続けてその後、レオヴァはその植物を研究していく上でミツハリムシという存在も知ることになる。

 

この虫は長寿ツユクサを餌としており、体にある袋に蜜を溜め込む習性があるという事を早々にレオヴァは発見していた。

 

さらにその蜜は、ミツハリムシが一度体内に取り込むことで性質が変化しているという事実も突き止めたのだ。

 

そうして、これは使えると考えたレオヴァにより植物と虫は研究室へと持ち帰られたのだった。

 

 

この判断によって、クイーンとレオヴァの研究方針が変更となる。

……のだが、実は根本の原因はクイーンにあった。

 

 

急遽任務で研究室を空ける事になったレオヴァから頼まれていた長寿ツユクサの手入れをすっかり忘れてしまい、半数以上を枯らせてしまったのだ。

 

この事態はクイーンを今までに無いほど焦らせた。

カイドウが酔って暴れている時よりも顔を真っ青にさせたクイーンは必死に思考をフル回転させる。

……この頃には彼の頭の中からは、素直にレオヴァに謝るという選択肢はポロリと転げ落ちていた。

 

結果、無自覚に混乱していたクイーンは手元にあった献ポポをミツハリムシと長寿ツユクサを飼育しているゲージに入れてしまうという暴挙に出る。

 

数秒経っても萎れたままの長寿ツユクサにクイーンは右往左往しつつまた追加で幾つも献ポポを使い、仕事の為に一旦研究所を後にしたのだった。

 

 

その後、丸一日置いて研究室へ戻ってきたクイーンの顔には諦めが滲んでいた。

 

 

『……はぁ……終わった……貴重な材料だったし、レオヴァ怒るよなァ……』

 

クイーンとは思えぬほど小さな声で溜め息と共に吐き出された言葉に応えるものはいない。

 

しかし、目の端でゲージを捉えたクイーンは思わず盛大に2度見した。

 

昨日まで半数が枯れていたはずのゲージの中には綺麗な白い花で満たされており、心なしかミツハリムシのサイズも大きくなっていたからだ。

 

 

『……あれ……これって……ワンチャン、お咎めなしじゃね?』

 

やったぜ!!と思いっきりガッツポーズを決めるクイーンの背後から声が掛かる。

 

 

『お咎めって、クイーン……なにかしたのか?父さんに隠し事は駄目だぞ?』

 

突然聞こえたレオヴァの声にクイーンは目にも留まらぬ速さで振り返る。

 

 

『うおぉ!?!レ、レオヴァ!?

え、いつから!?てか、帰ってくんの明後日じゃねェの!?』

 

慌てに慌てるクイーンの姿にレオヴァは不思議そうな顔で首をかしげた。

 

 

『予定では明後日だったが、合同研究だと言うのにクイーンに任せっきりも悪いと思ってな。

おれだけ先に飛んで帰って来たんだ。

今回はジャックもいたからな、帰りを任せても問題ないだろう?』

 

挙動不審なクイーンの横をすり抜け、レオヴァはゲージを眺めながら言う。

 

 

『長寿ツユクサは手入れが難しいのに、一本も枯れてないな……』

 

小さく呟かれたレオヴァの言葉にビクッと大きくクイーンの肩は揺れ、一筋の冷や汗が背を伝う。

 

此方を振り向いたレオヴァに思わずクイーンは構えた。

……が、レオヴァの発した言葉はクイーンの予想とは全く違うものであった。

 

 

『正直、半分くらいは枯れてもしょうがないと思って予備の種を増やしておいたんだが……

これの手入れは色々と面倒だっただろう?

手間取らせてすまなかったな……ありがとう、クイーン。』

 

一切、疑うことなく向けられた感謝の言葉と微笑みにクイーンは耐える事が出来ずにその場に崩れ落ちた。

 

 

『クイーン……!?

ど、どうしたんだ……?』

 

突然の事に驚きながらもレオヴァは膝をつくクイーンの側へ行き、心配そうに背をさする。

 

その行動は更にクイーンの中に僅かにしかない小さな良心を締め付けた。

 

 

『っ……悪い!!レオヴァ!!

ワザとじゃなかったんだ……!!』

 

『ク、クイーン……?

待ってくれ、本当にどうした……?』

 

『実は……』

 

顔を両手で覆いながら真実を告白し出したクイーンの声を静かにレオヴァは聞いた。

 

話し終えても静かなレオヴァを、クイーンは恐る恐る指のすき間からゴーグル越しに盗み見る。

……が、バッチリとレオヴァと視線がぶつかってしまい、気まずさからクイーンは目を反らした。

 

 

『……なるほど。

一度は枯らせてしまったが、献ポポで復活させた……と。』

 

『お、おう……そうなんだよ。

おれも本当に復活するとは思わなかったんだけど~……てか、やっぱ怒ってる~…よな?』

 

伺うように覗き込んでくる動作は微笑ましいものなのだが、やっているのがあのクイーンと言うだけで微笑ましさは帳消し……いや、むしろマイナスである。

 

そんな、明らかに焦っているクイーンの動きと声にレオヴァは苦笑いを溢した。

 

 

『怒るもなにも……

忙しいクイーンに無理を言って頼んだのはおれなんだ。

礼を言うことはあっても、責めるような真似はしねェよ。』

 

想定とは違い、簡単に許されたクイーンは驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を取り戻すとレオヴァへ向けてガバッと両腕を開いた。

 

 

『っ~!

レオヴァ~~!!流石はカイドウさんの息子!!器が桁違いだぜェ!!』

 

調子のいい言葉と共に、切羽詰まっていた状況から解放されたままのテンションでレオヴァにハグをしようと巨大なボールのような体で突っ込んで行く。

 

しかし、レオヴァはそれを綺麗な動作で(かわ)すと再びゲージの前へと戻って行き、考え込む仕草をする。

 

一方、見事に空振り虚無を抱き締めているクイーンはコンマ数秒の硬直の後、言葉を発した。

 

 

『……うん。流石カイドウさんの息子、切り替えが早ェわ。

冷静すぎてビックリだぜ……』

 

スンッ……と元のテンションに戻ったクイーンが呟くのもお構い無しにレオヴァはゲージに手を入れ、ミツハリムシを一匹取り出す。

 

そのままミツハリムシの溜めている蜜をフラスコへ移すとなにやら作業を開始してしまった。

 

 

『……どうしたんだよ、レオヴァ。

急~に研究者モードじゃねぇか。』

 

横から覗き込んでくるクイーンにレオヴァは手を止めずに応える。

 

 

『実はさっきからミツハリムシの蜜の色が少し違うのが気になってたんだがクイーンの話を聞いてもしかして、と思ってな。

……ほら、これを見てくれクイーン。』

 

指差された分析機の画面を見てクイーンは驚きの声をあげた。

 

 

『っんだコレェ!?

え……マジ?これマジで……?』

 

あり得ない数値になっていることにクイーンが大口を開けていると、レオヴァはニッと笑う。

 

 

『あぁ……“マジ”だ。

そうだな、クイーンの言葉を借りるなら……“ファインプレーだぜ、ブラザー”って所か?』

 

『ムハハハハハ!!

こりゃあ、もう強化薬じゃなくて回復薬に路線変更するしかねェなァ!!!』

 

軽くお互いの拳をぶつけ合い、二人は笑い合うとそのまま実験を開始した。

 

 

 

そして、数ヶ月の研究の後に解ったことなのだが

長寿ツユクサが枯れた状態で献ポポを使い復活させると、一定以下の割合で突然変異のような事象を起こすことが判明した。

 

その変異した長寿ツユクサは子孫を残せなくなるのだが、代わりに蜜が大きく変化する。

更にその蜜をミツハリムシが回収することで更なる変化が起こる。

 

そうして変化を遂げた“特別な蜜”をミツハリムシの女王の針から取った毒と9対1の割合で調合し、専用に開発した機械で圧縮することで“回復薬”が完成したのだ。

 

しかし、この回復薬の材料は安定供給することは難しく大量の献ポポも必要とする為、大量生産が出来ないというのが現実であった。

 

 

 

 

記憶を探りつつ、話の大筋を説明し終えたレオヴァはカイドウの答えを待った。

 

 

「……相変わらず、クイーンとの研究は楽しそうだな。」

 

カイドウの言葉は待っていた答えとは別のものだったが、レオヴァは笑顔で頷く。

 

 

「クイーンとの研究は発見も多くて楽しいんだ。

何より、一人では気付けないことも教えてくれるしな。」

 

「…………そうか、研究ってのはそんな楽しいモンか。」

 

少し複雑そうな表情をしたカイドウは酒を呷ると、立ち上がった。

 

 

「……レオヴァ、少し付き合え。」

 

突拍子もないカイドウの行動に驚くことなく、レオヴァは立ち上がる。

 

そして、既に歩き出しているカイドウの下へ早足で駆け付けると、隣に並び顔を見上げた。

 

 

「組手か、父さん?」

 

レオヴァの問いに不機嫌そうだったカイドウの口角が僅かに上がる。

 

 

「良く解ったな。

……ローからの許可はおりてんだ。

久々に思いっきりやろうじゃねェか!

研究ばかりじゃ(なま)っちまうぜ?」

 

「確かに……

父さん、実は新しく考えてる技があるんだが……」

 

「新しい技か!

いいじゃねェか、どんなモンか見せてみろ。」

 

カイドウの言葉に満面の笑みでレオヴァは頷いた。

その姿にカイドウは機嫌を直すと、一刻も早く組手の為の場所へと向かうべく足早に歩き出すのだった。

 

 

 

 

 





ー後書きー

・世界政府への関心について

カイドウ:海軍が邪魔。
過去の事もあり世界政府は好きじゃない。
…が、息子が出来てから執着は少し薄れた。
現在、世界政府に向けて大きな動きは起こしていない。

レオヴァ:カイドウから昔話を聞いて以降、世界政府は嫌い。
ある事を目的に少し世界政府に対して仕掛けてはいるが、カイドウが本格的に動かない限り何もするつもりはない。

キング:昔の事&カイドウとレオヴァが毛嫌いしていることもあり、世界政府を目障りに思ってはいる。
2人が動けば喜んで潰しに行く位には嫌い。

クイーン:天竜人の態度は気に入らないが、かと言って何かしてやろう!と考えている素振りはない。
カイドウとレオヴァが潰すと言えば潰すし、ほっとくならほっとくというスタンス。

ジャック:カイドウさんとレオヴァさんが嫌っている=敵!
という思考なので合間見えれば潰す!という単純思考。
基本的にはキング&クイーンと同じく、カイドウとレオヴァが動かないなら何もするつもりはない。(目の前に居たら潰すが)

ー追記ー
ご質問などを下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio

既にレオヴァの手料理を初めて食べたカイドウさんの反応や、レオヴァがキングの素顔を知った年齢など様々なご質問に答えさせて頂いておりますので暇潰しにでも覗いて頂けたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします~!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“雨の”シリュウ

 

 

 

マリンフォードでの事件以降、百獣海賊団のメンバーとして世界政府に手配された2人の男がいた。

 

その2人の名は

“鬼の跡目”バレットと、“雨の”シリュウ…である。

 

この2人は現在、どの様にして百獣海賊団で生活をしているのだろうか……

 

 

────────────────────────────────────

 

 

 

 

百獣海賊団には“研修制度”というものが存在する。

 

この研修制度というものはレオヴァが作った制度であり、入団後には誰であれ必ず受けなければならない決まりだ。

 

そして、その研修制度には二種類あり。

入団時に船員が受ける“入団研修”と、昇進した者が受ける“昇進研修”に分けられている。

 

中でも少し特殊なのが、昇進研修だ。

この研修では戦闘的な実力ではなく“性格”や“幹部としての仕事の適性”を見極める為の期間なのだ。

 

この時の研修結果により、請け負う事になる部下のタイプや割り振られる仕事の種類などが決定する。

 

 

もちろん、この研修制度はシリュウにも例外なく設けられていた。

 

 

 

 

海賊島“ハチノス”。

そこには百獣海賊団によって大きな地下施設が造られており、地下施設の中には一部、血生臭さ漂う場所がある。

 

そんな呻き声が微かに聞こえる薄暗い地下の牢獄のような場所に、シリュウはいた。

 

手に持つ刀からは先ほど切り裂いた人間の血液が滴り、シリュウの顔にはうっすらと笑みが浮かんでいる。

見る者が見れば、叫び声を上げて意識を失うような悲惨な光景だ。

 

しかし、そんなシリュウに怯えるどころか、イラついたように声をかける男がいた。

 

 

「おい、てめェ……好き勝手やってんじゃねェよ…」

 

周りに転がる死体を邪魔そうに蹴飛ばしながらシリュウの方へズカズカと足を進めてくる赤いマスクの男の名はフーズ・フー。

彼は百獣海賊団で“飛び六胞”を務める実力者であり、シリュウの研修を請け負っている人物だ。

 

 

「好き勝手もなにも。

ここに居る奴らは全員死刑囚(・・・)だって言ってたのは、てめェだぜ…フーズ・フー。」

 

手慣れた動きで刀についている返り血を払いながら一切悪びれる様子もなく言ってのけたシリュウに、フーズ・フーはマスクの下の眉間に青筋を浮かべた。

 

 

「おれは死刑囚だなんて言ってねェよ…!!

処分が確定済み(・・・・・・・)だと言ったんだ!」

 

「何が違う?

どっちにしろ殺すんだ、変わらねェだろう。」

 

そう言いながらフーズ・フーを振り返るシリュウの頬を、(やいば)が掠めた。

 

僅かな痛みと共に流れる血を拭くこともせず、シリュウは切先を向けてきたフーズ・フーへ目線を向ける。

 

すると、冷たい殺気を纏うフーズ・フーがマスク越しでも分かるほどシリュウを睨み付けていた。

 

 

「……おれはてめェの研修期間中の一切合切(いっさいがっさい)をレオヴァさんから任されてんだ。

好き勝手するなと、おれが言ったら。

てめェの返事は二択、“分かりました”か“はい”…だ。」

 

思わず殺り合いたくなるほどの殺気にシリュウの口元が僅かに緩んだ瞬間。

 

死臭立ち込めるこの場所に3人目の男が現れた。

 

 

「待て、フーズ・フー!シリュウ!!

この場所で暴れたら不味いことぐらい分かるだろう!?」

 

殺気立つ2人を止めに入った男の名はドレーク。

この男もフーズ・フーと同じく百獣海賊団で“飛び六胞”を務める実力者である。

 

 

口煩いドレークの登場にフーズ・フーはシリュウに向けていた刃を鞘へ戻すと、軽い舌打ちと共に地下室の奥へと進んで行ってしまう。

 

一方、シリュウは殺気を収めてしまったフーズ・フーを見て残念そうにしていたが、かけられた大きな声によって意識はドレークの方へと向く。

 

 

…って、これはどうなってる!?

シリュウ、お前まさか……また勝手に斬り倒したのか!?

……なるほど、それでフーズ・フーが…」

 

叫んだと思ったら今度は納得したように頷くドレークの姿に、忙しない奴だ…とシリュウは他人事のように眺めていた。

 

 

「何回も言っているが、殺す前に聞くことがある奴もいるんだ。

許可なく、気分でこの場にいる者達に手を出すな…!」

 

「……そりゃあ、悪かった。」

 

「昨日も同じ言葉を聞いたぞ!?」

 

口だけの謝罪にドレークが頭に血を上らせていると、死体を手に地下室の奥から戻ってきたフーズ・フーが口を開く。

 

 

「やめとけ、ドレーク。

その馬鹿には何度言っても同じだ。」

 

怒りと呆れが混じった声にドレークが同情の眼差しを向ける。

 

フーズ・フーはそのドレークの目に僅かに苛立ちつつも、シリュウに死体を投げ渡す。

 

 

「ったく。

てめェはそれを“農園”に運んどけ。

おれとドレークは尋問だ。」

 

「“農園”…?」

 

無造作に投げ渡された死体を掴みながら軽く首を傾げるシリュウにフーズ・フーは溜め息をつく。

 

 

「初日からもう10回は行っただろうが…!

あのレオヴァさんの植物がある部屋だ!さっさと覚えろ!」

 

フーズ・フーの言葉を聞いて思い出したのか、シリュウはあぁ…と声を上げた。

 

 

「あの趣味の悪い植物まみれの部屋か。」

 

「…あれはレオヴァさんが自分の休みを削って産み出した研究成果だ。

次、ナメたこと言いやがったら……」

 

明らかに先ほどの比ではない殺気を放つフーズ・フーに、流石のシリュウも言葉を飲み込んだ。

同時に隣にいるあの比較的温厚なドレークすら尋常ではない圧を放っている。

それも、シリュウが失言だと瞬時に自覚出来るほどに。

 

 

「……以後、気を付ける。」

 

「当たり前だ。

最初から気を付けとけ、ボケ。

…行くぞ、ドレーク。」

 

「分かった。

……シリュウ、言葉には気を付けるんだな。」

 

また地下室の奥へと消えていったフーズ・フーとドレークを横目に、シリュウは死体達を引き摺りながら“農園”へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

あれからも色々と問題を起こすシリュウの研修を請け負っていたフーズ・フーのストレスは溜まっていた。

 

ドレークやササキはその姿に思わず酒を奢ってしまうほどだ。

 

 

そして今日もフーズ・フーは珍しくハチノスに物資を届けに来ていたササキ相手に愚痴を溢す。

 

 

「……でだ!

あの野郎、なんて言ったと思う?」

 

「ん~…めんどくせェ!とかか?」

 

「いや、違ェ!

“尋問はてめェの仕事だろう?なぜ、おれがやるんだ?”ってぬかしやがったんだ…!

研修だからだと何回も説明してやってるってのに……あの野郎ォ!!」

 

「はぁ!?マジかよ…あり得ねェな、そりゃあ!」

 

「そうだろ!?

おれは間違ったこと言ってねェよなァ…?」

 

「全ッ然、間違ってねェぜ!!」

 

ササキの言葉に少しスッキリした様に肩の力を抜くと、フーズ・フーは酒を呷った。

 

隣に座るササキは今の話に怒り心頭だとばかりに目を吊り上げており、その様子に逆にフーズ・フーは少し冷静さを取り戻す。

 

 

「いや、てかよ。

それレオヴァさんに報告した方がいいんじゃねェか?

せっかくお前がキッチリ管理してンのによ、シリュウの野郎のせいでミスが出たりしたらムカつくだろ。」

 

「あ~……まぁ、確かになァ…」

 

提案に乗り気では無さそうなフーズ・フーの姿にササキは不思議そうな顔をした。

 

 

「なんだよ、フーズ・フー。

今の結構いい案だろ?」

 

「いい案ではある…が……」

 

言い淀むフーズ・フーの内心は複雑である。

 

確かにササキの言う通り報告すれば、色々と好き勝手やっているシリュウを別の場所に移動させる事が出来る可能性は高い。

 

しかし、フーズ・フーの心情としては

『シリュウは監獄関係の仕事が好きだと言っていてな…

そこで、例の地下室の仕事の大半を請け負っているフーズ・フーにシリュウの研修を任せたいんだが……どうだろうか?』

と、自分を頼ってくれたレオヴァに応えたいという思いが強かった。

 

どんなにシリュウと反りが合わなくとも、好き勝手やられてストレスが溜まろうとも。

レオヴァから任された仕事だと思えば、フーズ・フーの堪忍袋の緒が切れることはなかった。

……とは言え、ストレス発散にこうしてササキやらを誘い飲みに来てはいるのだが。

 

 

そんな悩むフーズ・フーを見て、ササキは自分の事のように、隣で唸りながら頭を抱えていた。

 

 

「…ン"ン"~!駄目だ!

レオヴァさんに報告する以外にいい案思いつかねェ!

やっぱ困ったらまずはレオヴァさんだろ!!」

 

「おれが任されたモンだしなァ……

つーか、その何でもレオヴァさんに回すってのもどうよ?

……ただでさえあの人は忙しいってのに。」

 

小さく呟きながら(カラ)になった木製のジョッキをフーズ・フーが持て余していると、そこにササキが酒を注ぐ。

 

 

「そりゃあ、おれだってレオヴァさんから任されりゃ気合い入るぜ?

何が何でもやってやるぜ!って気持ちになんのも分かる。

けど、なんだっけか……えっと~…そうだ、ホーレンソー!

レオヴァさんもいつもホーレンソーって言ってるだろ?」

 

「……報連相、だろうが。」

 

「え"っ?……ンンッ。

そう、ホウレンソウ!

これが大切だ~!ってレオヴァさんが言うんだから間違いねェよ。」

 

「…報告、連絡、相談……か。」

 

ササキとの会話でフーズ・フーはレオヴァの言葉を思い出す。

 

『いいか?

報連相とは、報告・連絡・相談のことだ。

どんな集団や組織においても、この報連相が出来なければ機能しない。

どんな些細な情報でも共有する心構えを持って欲しい。

情報や物事の重要性を個人で判断せず、部下達が気軽に報告・連絡・相談が出来る関係性を築くように努めてくれ。』

と言うのがレオヴァが定期的に開いている、真打ち以上の幹部が参加出来る講習会での言葉だ。

 

 

そんな記憶を思い出したフーズ・フーはササキが注いだ酒を呷り、ポツリと呟いた。

 

 

「……一応、報告だけはしとくか。」

 

呟きを聞いたササキは笑顔で頷くと、どんどん飲めとフーズ・フーの背を少し強く叩くのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

フーズ・フーは目の前でにこやかに微笑むレオヴァに動揺が隠せずにいた。

 

シリュウの件をフーズ・フーが報告してから、まだ1週間も経っていないと言うのにレオヴァがいる事が信じられないのだろう。

 

だが、固まったままでは駄目だとフーズ・フーの脳は再び動き始める。

 

 

「……なんだって、レオヴァさんがハチノスに…?」

 

「ちょうど魚人島関係の仕事が終わって手が空いていたからな。

ローとベポに休暇を取らせて、おれが物資を届けに来た。

……そうだ、フーズ・フー。これを。」

 

レオヴァは懐から煙草を取り出すとフーズ・フーに手渡した。

 

 

「これ…」

 

「もうすぐでストックが切れそうだって言ってただろ?

一応持ってきた物資の中にも10カートンは入れてある……が、吸いすぎるなよ?」

 

相変わらず細かいことも覚えているレオヴァにフーズ・フーは笑う。

 

 

「…助かるぜ、レオヴァさん。

それで、出港の準備が終わるまでの予定は?」

 

「そうだな…暫くかかるらしいからな。

ハチノスの状況を見て回るとする。

……あぁ、それと今日1日シリュウはおれに付かせる。」

 

レオヴァの言葉にフーズ・フーは一瞬、不満げな雰囲気を漂わせる。

 

 

「なんだってシリュウの野郎に。

レオヴァさん、島の案内ならおれが…」

 

「いや、フーズ・フー。

お前はここ最近激務だったとドレークから聞いてる。

今日は半日で終わる予定だろう?…少し休むといい。

それにシリュウに百獣での生活の感想も聞きたいんだ。」

 

有無をいわせぬレオヴァの笑顔に、フーズ・フーは力なく頷いた。

 

 

「……了解だ、レオヴァさん。

おい、シリュウ…てめェレオヴァさんに失礼働くんじゃねェぞ!」

 

凄むフーズ・フーに、シリュウは軽く眉を上げて返す。

 

その態度にまた額の血管を浮き上がらせるフーズ・フーだったがレオヴァの手前、怒りをぐっと飲み込み騒がずに仕事へと戻って行った。

 

僅かに肩を落とすフーズ・フーの背中を見送り、レオヴァはシリュウに声をかける。

 

 

「……では、シリュウ。

ハチノスを回りながら、ウチでの感想を聞かせてくれるか?」

 

「あぁ、構わねェよ。」

 

葉巻をふかしつつ、シリュウは歩き出したレオヴァの隣へと続くのだった。

 

 

 

 

───────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

レオヴァがハチノスから帰還して、3日後の昼。

 

フーズ・フーと地下室の管理を交代すべくやって来たドレークは、百獣専用宿舎でベッドに拘束されているシリュウを見て呆気にとられていた。

 

 

「……こ、ここはフーズ・フーが借りている部屋じゃなかったか?」

 

動揺を隠せぬドレークの声に、シリュウは何とも言えない表情をする。

 

 

「…アイツなら、おれが借りてた部屋にいる。」

 

「な、なるほど?

確かにこのサイズのベッドはあっちの部屋には入らないな…

ところで……どうしたんだ、その怪我は…?」

 

困惑しつつも心配を滲ませた声に、バツが悪そうにシリュウは目を反らした。

 

答えないシリュウにドレークが首を傾げていると、開けたままだった扉から声がかかる。

 

 

「レオヴァさんと“組手”したんだとよ。」

 

その声にドレークが振り向くと、入り口で壁にもたれているフーズ・フーがニヤリと笑う。

 

しかし、対照的にドレークは予想していなかった人物の名前に目を見開いた。

 

 

「レオヴァさんと“組手”!?

まさか一対一でか!?」

 

「らしいぜ?

おれが仕事から戻ったらボロボロのそいつをレオヴァさんが運んできて

“少し休ませてやってくれ”っつってベッド用意させてた。

それでまぁ、おれの使ってた部屋が一番デカイから交代してやったんだよ。」

 

「はぁ…なんと言うか……レオヴァさんにしては珍しい行動だな。」

 

いい気味だと笑うフーズ・フーからシリュウに目線を戻すと、ドレークは少し困惑した表情を浮かべながら言葉をかけた。

 

 

「……まぁ、なんだ…お大事に…」

 

「………あぁ。」

 

何とも言えない空気がドレークとシリュウの間に流れる。

 

2人が無言になると、フーズ・フーは思い出したようにドレークに話しかけた。

 

 

「言い忘れるとこだったがそいつの研修はもう終わりだとよ。

レオヴァさんからの伝言だ。」

 

「……もう?少し早い気もするが…」

 

今までのシリュウの好き勝手具合を思い出し、ドレークは眉をしかめる。

 

 

「おれもそう思ってたが、レオヴァさんが怪我が完治したら研修修了してワノ国に戻らせろって言うからな。」

 

「そうだな…レオヴァさんが言うなら……

じゃあ、おれはシリュウを送り出すだけで良いのか?」

 

「そうだ。

やっとそいつの(ツラ)見なくて済んで清々するぜ。」

 

心から良かったと思っているのだろう。

フーズ・フーの雰囲気が心なしか明るい。

 

そんなフーズ・フーの姿にドレークは小さく笑いつつ、引き継ぎの為に部屋の出口へと歩き出す。

 

 

「……シリュウ。

何かあれば、おれの部下達を呼んでくれて構わないからな。」

 

そう言って扉を閉めた気配を感じて、シリュウは瞳を閉じた。

 

全身にズキズキと走る痛みが、嫌でもレオヴァとの組手を鮮明に思い出させる。

 

 

「…フッ……回復薬を使わないのも、おれに解らせる為か…

いい性格してやがるぜ…」

 

 

そう呟き、シリュウはレオヴァのあの表情を思い出す。

 

 

 

 

きっかけはレオヴァとの何気ない会話だった。

 

『この研修ってのは面倒だぜ…』

 

『そう言うな、シリュウ。

適性や性格が分からないと、おれも仕事を振りづらいんだ。』

 

『……海賊だってのに、細かい奴だ。』

 

『ふふ…まぁ、否定はしない。』

 

シリュウの小言を気にした風もなくレオヴァは笑っていた。

 

そう、レオヴァは何を言っても基本的に穏やかであった。

その為何かと会話が増えてしまい、あの失言(・・・・)に繋がったのだ。

 

『……一応、(ごう)()っては郷に従えってことばもあるからな。

研修はいいが…組まされてる奴がなァ……』

 

この時レオヴァの目線が鋭くなった事に気付いて、言葉を止めていれば良かったが、シリュウは気付かずに続けてしまった。

 

おれより弱い野郎(・・・・・・・・)に指示されんのは、いい気分はしねェ。

……アンタや総督なら、どんな研修でも文句はねェんだが。』

 

と、言い終えた瞬間だった。

 

突然、目眩を覚えるほどの威圧感がシリュウを襲った。

 

側を歩いていた無関係の海賊達などは立っていることも儘ならなかったらしく、地面によたよたと倒れ込んでいる。

 

シリュウは無意識に刀に手を置き、冷や汗を全身から流していた。

 

先ほどまで騒がしかった通りに静寂が訪れ、レオヴァの動きに合わせた音だけがその場を支配していた。

 

ゆったりとした動作で振り返るレオヴァに、思わず(つか)を握る力が強まる。

 

『…そうか…なら望み通り、おれが研修をしてやる。

付いてこい、シリュウ。』

 

こちらを見下ろすレオヴァの顔に笑顔はなく、その声も背筋を凍らすような冷たさを纏っていた。

 

先を歩き始めたレオヴァの背中は、こちらに拒否権はないと静かに語っている。

 

手に大量に滲む汗を感じながら、シリュウはレオヴァの二歩後ろを付いて行く他なかった。

 

 

 

そして、ハチノスの人が居ない山林にて“組手”というシリュウは噂でしか聞いた事がなかったモノを体験した。

 

それはあまりにも強烈な洗礼だった、とシリュウは体の痛みと共に思い出す。

 

 

その組手を終えた時。

地面に伏し、息も絶え絶えなシリュウを見下ろしてレオヴァは低い声で言った。

 

『シリュウ、立て。

おれが相手なら、どんな研修も文句はねェ(・・・・・・・・・・・)んだろう?』

 

抑揚のない低い声からレオヴァの本気さを感じ取ったシリュウは腕に力を入れて体を起こそうとするが、まるで鉛のように体は動かない。

 

その様子を見てレオヴァは目を細める。

 

『……立てねェのか?シリュウ。』

 

レオヴァの問いに、シリュウは逡巡しつつも首を縦に振った。

 

するとレオヴァは悠長な足取りで倒れるシリュウの側に行くと、視線を合わせる。

 

『シリュウ、お前はフーズ・フーを自分より弱いと言ったな。』

 

これにシリュウは、正直にまた首を縦に動かした。

実際、今もその考えに変わりはない。

 

本当の事を言っただけだと目で訴えるシリュウに気付いたのか、レオヴァが意地の悪い笑みを浮かべた。

 

『……いや、シリュウ。

お前はフーズ・フーには勝てねェ。』

 

『コボッ…っ……ぉ、れが……負け…る、って…?』

 

断言された事への不満から、無理やり声を出したシリュウの口からは血が溢れる。

 

しかし、レオヴァはそんなシリュウを冷静に見下ろして口を開く。

 

『そうだ、お前じゃあフーズ・フーには勝てない。』

 

眉間に皺を寄せるシリュウに構うことなく、レオヴァは続ける。

 

『フーズ・フーの持つ“覚悟”は本物だ。

おれが立てと言えば、どんな状況でも立ち上がる。

……それに、この組手もフーズ・フーは何年も。

それこそ何百とこなしてるんだぞ?』

 

レオヴァの言葉にシリュウの表情が驚きに染まる。

 

この死ぬか生きるかのギリギリの殺し合いと言ってなんら差し支えない“組手”を何百回も…?

その事実に困惑が隠せないシリュウにレオヴァは笑う。

 

『あり得ないって顔してるなァ…

だが、ウチじゃあ組手は恒例行事。

百獣海賊団で幹部になるってのはそう言うことだ。

ウチの幹部には誰一人として、“弱ェ奴”はいねェ。

百獣海賊団に入るなら、父さんは無論。

身内である同志(仲間)を侮辱する様な真似、二度とするんじゃねェ!!

……分かったか?』

 

冷たかった瞳に宿った、燃えるような怒りにシリュウは言葉を失い、黙って頷いた。

 

フーズ・フーを下に見ていた雰囲気が消えたことで、レオヴァの威圧感が弱まる。

 

そうして、レオヴァは動けないシリュウを百獣専用の宿屋へと運んだのだ。

 

 

 

シリュウは運ばれている途中で意識は途絶えており

次に目を開けると、そこはベッドの上で横にはレオヴァとフーズ・フーがいた。

 

『お、目ェ覚めたみたいだぜ?レオヴァさん。』

 

『……おはよう、シリュウ。』

 

にこりと穏やかな笑顔を向けてくるレオヴァに、先ほどまでの記憶は夢だったのではないかと錯覚しそうになるシリュウだったが、全身の痛みが全てを物語っている。

 

『……あ~…レオヴァさんと組手だったんだろ?

一応、回復薬持ってるが…使うか?』

 

痛みに唸ったシリュウを見かねてフーズ・フーが懐から自分に支給されている薬を取り出した。

その事にシリュウは意外だと驚く。

 

てっきり、笑って馬鹿にしてくると思っていたからだ。

だが、目の前のフーズ・フーに嘲笑の色はなく、逆に少し心配を含んでいるように見えた。

 

シリュウがフーズ・フーについてのイメージを脳内で少し書き換えていると、レオヴァの手が回復薬に伸びていく。

 

そして、そのままフーズ・フーの懐に仕舞い直させると笑顔で口を開いた。

 

『大丈夫だ、フーズ・フー。

シリュウ、お前は強い(・・)んだろう?

なら、きっとすぐに治るさ。』

 

笑顔ではあるが、珍しく言葉に刺々しさを感じさせるレオヴァにフーズ・フーは首を傾げる。

 

しかし、深く突っ込むのは良くないと思い直し、仕事へ戻ろうと席を立つ。

 

続いてレオヴァも席を立つが、少し屈んでシリュウに耳打ちをした。

 

『シリュウ、二度目はねェ。

それと“組手”なら相手をしてやるから情報源を好き勝手殺すのは止せ、何のために“管理”してると思ってる?……お前なら分かるよなァ?』

 

そう素早く言い終えると、いつもの笑顔でレオヴァはフーズ・フーと出口へと向かって行く。

 

『では、シリュウ。

時間はたっぷりあるからなァ…しっかりと休養するように(・・・・・・・・・・・・)。』

 

レオヴァの言葉の裏の意味を理解したシリュウは、トンでもないのを怒らせたか…と額に汗を浮かべた。

 

 

 

 

…という、一連の記憶を思い出して

またシリュウは背に冷や汗をかく。

 

だが、レオヴァの意外な一面は思いの外、シリュウにはしっくり来るものがあった。

 

普段の張り付けている笑みよりも、あの冷徹な表情のレオヴァにシリュウは惹かれたのだ。

 

間違いなく“海賊”だったレオヴァの姿を思い出し、シリュウは口角を上げた。

 

「……やはり、おれの目に狂いはなかったワケだ…!」

 

強い確信を得たシリュウの独り言は歓喜に満ちていた。

 

 

 

 





ー補足ー
《物資搬送について》
“重要”ナワバリへの物資搬送は“空船”で行っているので、普通に海を進む数倍の速さで往き来できる。
ただし、空船を使うには飛び六胞以上の幹部がいなければならないのでササキやドレークが担当していた。
(その他のナワバリへの搬送や軽い貿易は真打ちを中心に、通常の船を使用して行われる)

・よく“重要ナワバリ”の物資搬送の役割を任されている人物

ロー&ベポ:おそらく一番搬送を任されている。
幹部の誰とでも可もなく不可もなくやり取り出来る性格&ナワバリの把握がしっかり出来ている為。

ホーキンス:時間厳守な性格を買われてよく任される。
ナワバリ管理の仕事は殆ど回って来ないので、遠征と搬送が6:4の割合。

ドレーク:任務と搬送が7:3の割合。
物資搬送よりも、ナワバリ管理に出張っている割合が多い。
性格上、一般住民に好かれるのでレオヴァからナワバリ管理において頼りにされている。

ササキ:気性の荒い人間が多い島での人気が高いので、そういうナワバリを中心に管理と遠征を4:6の割合で任されている。
ドレークやフーズ・フーのストレスが溜まっているとレオヴァが判断した時にだけ、搬送の仕事を任されているが本人は気付いてすらいない。

ー後書きー
本誌が地獄絵図の中ご感想やここ好き一覧を頂けていることでメンタルを保てている、もちおでございます…
今回も読んでくださりありがとうございました!

様々なご質問などを下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio

既にレオヴァの手料理を初めて食べたカイドウさんの反応や、レオヴァがキングの素顔を知った年齢など様々なご質問に答えさせて頂いておりますので暇潰しにでも覗いて頂けたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします~!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“鬼の跡目”ダグラス・バレット

 

 

 

ジャックは任されていたマリンフォード防衛の任務を無事にうるティ達へ引き継ぎ、久々にワノ国へ帰還していた。

 

そして、数ヶ月振りにカイドウとレオヴァと共に過ごせることを楽しみに鬼ヶ島へと歩みを進めたのたが

目の前にある鬼ヶ島の3分の1が倒壊しているという惨状に言葉を失う他なかった。

 

只事ではない現状に、ジャックが鬼気迫る剣幕で鬼ヶ島中にいる部下に声をかけ何があったと問いただすと部下達はなんとも言えない表情で同じ言葉を紡いだ。

 

 

「「「…カイドウ様とレオヴァ様が組手を催したようで……」」」

 

「カイドウさんとレオヴァさんの組手で倒壊したってのか!?」

 

「え、えぇまぁ……原因は二人だけじゃねェですが」

 

「ほぼカイドウ様ッスね~…」

 

乾いた笑いを溢す部下達に作業に戻るようにジャックは指示を出すと、二人が居るであろう宴会用の大広間へと足を進めた。

 

 

しかし、ジャックは腑に落ちていなかった。

確かにカイドウとレオヴァは組手となると少し周りが見えなくなる時があるが、本拠地である鬼ヶ島が3分の1も倒壊してしまうほど考え無しに暴れる性格ではない。

 

酔っていなければ(・・・・・・・・)カイドウは総督として周りをある程度気遣える性格だ。

レオヴァに関しては言わずもがな、百獣1気が利く男と言っても過言ではない。

そんな二人が鬼ヶ島の被害を考慮せず暴れまわるなど考えられない。

 

と、なると可能性は1つしかないとジャックは踏んだ。

 

 

「(カイドウさんもレオヴァさんも酔った状態で組手したのか…?)」

 

このジャックの想定以外、考えられないのだ。

けれども、レオヴァが酔っぱらうという現象自体年に一回あるかないかである。

 

結局本人達に話を聞かなければ分からないと言う考えにジャックが辿り着くと同時に、気付けば宴会場の扉が見える位置についていた。

 

 

ジャックが色々な事を考えながら宴会場の扉を開くと、そこには予想通り楽しげに酒を酌み交わすカイドウとレオヴァがいた。

 

それだけならばいつもの光景なのだが、今回はバレットというジャックにとっては“異物”と言える存在までいるではないか。

 

更に居る(・・)だけではなくカイドウとレオヴァに親しげに声をかけられ、酒まで勧められていると言う光景にジャックのただでさえ深い眉間のシワが倍増していく。

 

あまりにも腹立たしい(羨ましい)光景にジャックが拳を握りしめていると、出口の側にいたキングが此方へ目線を寄越していた。

 

そのことに気付いたジャックはまずは鬼ヶ島の現状を聞く為に口を開く。

 

 

「……キングの兄御、島の惨状は一体どういう……」

 

困惑が隠せていないジャックにキングは疲れているのか、普段よりもハリのない声で返す。

 

 

「……カイドウさんの発案で組手をした。

レオヴァ坊っちゃんとバレット、カイドウさんとおれで“例のチーム戦”をな…」

 

キングの簡潔すぎる説明だけで全てを察したジャックは鬼ヶ島の状態には即座に納得した。

しかし、目の前の光景には納得がいかない。

 

何故、バレットがカイドウやレオヴァと同じ席(・・・)に座っているのかがジャックには理解出来なかったのだ。

 

 

そもそも。

この宴会場の大広間は上段、中段、下段と三段階に分けられている。

 

下段の間は真打ちや他の部下達が気兼ねなく騒げるように1つ下のフロアを丸々使用しており、その上のフロアに大看板を始め飛び六胞や近衛隊の座る中段の間がある。カイドウやレオヴァが座っている所の正面にあるそこが幹部たちの定位置なのである。

 

勿論、この中段の間にも並びがあり基本には大看板の3人が一番カイドウとレオヴァと近い位置に座るというような暗黙の了解も存在している。

 

そして、カイドウやレオヴァが座っている場所こそが“上段の間”と呼ばれる場所だ。

基本的には二人から呼ばれない限りは上がったりしないと言うのも暗黙の了解として存在しており、あのうるティでさえこのルールをしっかりと守っている。

 

それだけに(とど)まらず、掃除の際も部下達は一度深く礼をとってから上段の間に上がるなど、聖地のような扱いを受けていると言っても過言ではない場所なのだ。

 

……と言っても、気にしているのはキングやジャックなどの部下達だけであり、当人であるカイドウやレオヴァは頻繁に幹部達を手招きしては会話を楽しむという緩さなのだが、それを指摘する者は百獣海賊団には存在しないようである。

 

 

そんな背景もありジャックは兄御達ならば文句はないが、新参者がカイドウとレオヴァと共にその場所にいる事が納得出来なかった。

 

あからさまに本心が顔に出てしまっている、ポーカーフェイスの“ポ”の字の欠片もない弟分にキングは溜め息を吐いたが、内心ではその気持ちに同意を示す。

 

 

「(…カイドウさんからすりゃあ、レオヴァ坊っちゃんが連れてきたってだけで印象は良かったんだろうが……組手で完全に気に入っちまってんなァ…)」

 

ジャックとは違い、感情を(おくび)にも出さずにバレットをキングがジットリと睨んでいるとレオヴァとカイドウの声が響いた。

 

 

「ウオロロロロロ!!

面白ェ野郎だ!いいから飲め!!」

 

「ふはははははは!!

バレット、遠慮するな!飲め!!」

 

「…さっきから飲んでるだろうが……」

 

「飲んでるだァ…?ウィック…

あんなもん飲んでるに入るか!!そうだろうレオヴァ!?」

 

「父さんの言う通りだバレット!!

ほら、これなんてお前が好きそうな味だぞ!」

 

「飲みかけを渡してくんじゃねェ!!……ハァ…」

 

カイドウとレオヴァの二人から酒瓶を押し付けられているバレットの表情は、酔っ払いに絡まれる酒場の店員のように浮かないものであった。

……が、またその表情がジャックの怒りに油を注ぐ。

 

とたんに、普段の無愛想な顔に慣れている部下達が見ても卒倒しそうな顔になったジャックに、酒を呷っていたレオヴァが気付く。

 

 

「…ジャック!!

帰って来てたのか!一緒に飲むぞ!!」

 

やっとこちらを見て笑顔を浮かべたレオヴァにジャックの眉間の皺が通常通りに戻る。

 

 

「あぁ、勿論だレオヴァさん!」

 

上段の間の手前でジャックが止まると、カイドウとレオヴァが同時に口を開く。

 

 

「「何してるジャック!こっちに来い!!」」

 

上機嫌な二人の呼び掛けに嬉しげにジャックは上段の間へと上がる。

 

 

「ウオロロロ……ン?

キング、お前も何してやがる!こっちに来ねェか!!

 

そうだぞ、キング!全然飲んでねェだろう!?

せっかくお前の好きな酒を持ってきたのになァ…」

 

完全に出来上がっている親子の言葉に観念したようにキングも上段の間へと足を運んだ。

 

バレット、キング、ジャックの三人が揃うとカイドウとレオヴァは嬉しそうに豪気な笑みを浮かべる。

 

 

「ウィ~…今度はジャックも混ぜて組手をやるかァ!?」

 

「良いな父さん!

おれと父さん、キングとジャックとバレットでやるのも楽しそうだ!!」

 

「ウオロロロロ!!そうだろ!!ヒックゥ…

今回はおれとキング、レオヴァとバレットだったからなァ…!」

 

二人で大いに盛り上がる親子だったが、突然二人の興味がジャックへと移る。

 

 

「そう言えばジャック。

マリンフォードはどうだ?」

 

「あぁ!そういやぁマリンフォードを落としたんだったかァ…?

どうなんだジャック!レオヴァの構想通りにやれてんのかァ?」

 

二人に声をかけられ、嬉しげな顔を隠しもせずジャックは返事を返す。

 

 

「マリンフォードの防衛設備はほぼ完成しました。

あとは中の城と周りの施設の建設を終えればレオヴァさんの言っていた通りの働きが出来る施設になる。」

 

「ウオロロロロロ~!!

そうか!新しいナワバリの監視と防衛ご苦労だったなジャック!!」

 

「ジャックに任せて正解だったなァ…!

色々ゴタゴタもあっただろ?」

 

労ってくるカイドウとレオヴァ相手に照れたようにジャックが頭をかくと、二人の声が重なる。

 

 

「よし、ジャック!祝いだ!!」

 

「久々に時間も取れたしなァ…!」

 

「「飲め!!ジャック…!」」

 

出来上がって僅かに顔の赤い2人から大きな酒瓶を押し付けられながら、ジャックの長い夜が始まったのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

あの夜の宴にて。

ダグラス・バレットの研修も本格的に開始することとなった。

 

しかし、バレットの研修方法はシリュウとは違っている。

 

何故ならばシリュウは正式に百獣海賊団に入団したのだが、バレットはレオヴァと契約関係(・・・・・・・・・)にあるだけであり正式に加入した訳ではないのだ。

 

世間的にはバレットは百獣海賊団に加入したものとして扱われ、手配書にもそう記入されているが当の本人であるバレットはその態度を曲げるつもりはないらしい。

 

あくまでも、レオヴァと契約しているだけ。

それがバレットのスタンスだ。

 

そしてレオヴァはそのバレットの振る舞いを当たり前のように受け入れた。

 

結果、通常の研修とは違った方法が採用されたのである。

 

 

とは言っても研修内容については、大まかな変更はない。

 

百獣海賊団でのルールや禁止事項。

休暇制度や賃金の支払いシステムに、自室や施設の使い方。

数ある様々な部隊の細かな説明や、おおまかな現在の取引情報など。

 

百獣海賊団で行動する上で必要な情報の説明を中心に、実際の遠征に同行させながらバレットの適性や性格を見極める。

と言う内容になっている。

 

 

ならば何が通常の研修とは違うのか。

 

それは研修を行う人物が通常とは異なるのである。

 

入団研修であれば真打ち以上の船員が受け持つのが基本だ。

中でもドレークやスレイマン、ササキが請け負うことが多い。

 

次に昇進研修だが、これは飛び六胞以上の幹部が受け持つのが基本だ。

中でもキングやフーズ・フー、ローが請け負う場合が多い。

 

この様に、研修は真打ちから大看板までの誰かが担当することになっているのだ。

 

 

そこで本題に戻ろう。

 

今回はイレギュラーな形とはいえ、大筋は入団研修と昇進研修を合わせたものである。

ならば、バレットの研修を担当するのはキングが適任だと誰もが思っていた。

 

なんなら本人であるキングも、任されるだろうと裏でスケジュールの確認をしていたほどだ。

…だが、皆の予想が的中することはなかった。

 

 

なんと、バレットが研修の担当はレオヴァが良いと指名したのである。

 

 

『契約内容のこともある。

別の奴を経由するより、レオヴァが直接おれにここのやり方を説明すりゃいいだろ。』

 

『『あ"ァ"…?』』

 

『レオヴァさんは暇じゃねェんだぞ…!!』

 

『レオヴァ坊っちゃんにわざわざ研修させるってのかァ?』

 

その場にいたキングとジャックは揃って地を這うような恐ろしい声を上げた。

 

このままでは収集がつかなくなると冷や汗を流す部下たちの心配とは裏腹に、レオヴァはそのバレットの指名に2つ返事で答えたのだ。

 

 

『バレットがその方がやり易いなら構わねェ…!

ちょうど血眼になっている海軍を相手にしに行こうと思っていた所だ。』

 

『…レオヴァさん!?』

 

『レオヴァ坊っちゃん…!?』

 

 

と言う経緯により、レオヴァが担当する事になったのである。

 

この研修制度が出来て以降レオヴァが担当するというのは初だった為、約数名の幹部の嫉妬と殺気がバレットを襲ったのだが、流石は“鬼の跡目”である。

 

痛くも痒くもないのか、表情1つ変えずにレオヴァを研修の担当として連れていってしまうのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

海軍がマリンフォードの2度目の奪還作戦(・・・・・・・・)に向けて、とある島で準備を進めていると言う情報をドレーク経由で手に入れたレオヴァ達は空船でワノ国を出港していた。

 

 

 

「……と、言う流れで行く。

基本的にはおれとバレット、ジャックが前線にでるから皆は巻き込まれぬよう後方支援を頼む。」

 

「「「「はいッ!!レオヴァ様!!」」」」

 

部下達にテキパキと指示を出し全体をまとめる姿を見ると、昨晩の絡み酒の姿が嘘のように思えてくるとバレットは気付かれぬように口元をひくつかせた。

 

 

一方、レオヴァはバレットの視線に気付くことなく奇襲の為の手順を部下達に説明し終えていた。

 

その後ろで一息つける状態になった事を確認したジャックは予め準備していたお茶を机にセットすると、目の前にいるレオヴァの方へ歩き出す。

 

 

「レオヴァさん、一息ついてくれ。

そこに椅子と机も用意してあるんで…」

 

「ジャック、ありがとう。」

 

ジャックの示す方へ行くと椅子に腰掛け、レオヴァはゆっくりと茶をすすった。

 

そして一呼吸置くと、ジャックとバレットの方を向き声をかける。

 

 

「…あ~……二人とも最終確認をしたいんだが…良いだろうか?」

 

どこか歯切れの悪いレオヴァの言葉に二人は頷くと、側の席に腰掛けた。

 

レオヴァは二人が席に着くと、いつもの調子で最終確認を始める。

 

要点と流れを端的かつ分かりやすく説明するレオヴァからは知的なオーラが溢れており、バレットは思わず小さく声を溢した。

 

 

「……昨日とは別人だな…」

 

「…っ!…」

 

バレットの小さな呟きにレオヴァの表情が一瞬で申し訳なさそうなものに変わる。

 

 

「昨日は本当にすまなかったな…

久々の組手……それも前から楽しみにしていた父さんとバレットとの組手にキングも参加するというからつい…暫く酒は控えるよう努める。」

 

思い出して恥ずかしくなったのかレオヴァは少し赤くなった顔を隠すように頭を抱えた。

 

 

「いや、おれも組手ってのは悪くねェと思ったが…」

 

「おい!!バレット!!」

 

怒りの形相でバレットを睨むジャックをレオヴァが慌てて止める。

 

 

「止してくれジャック…!

昨日のことは完全におれの失態だ。

それにジャック、お前にも悪い事をしたな…

任務帰りで疲れてただろうに、お前が帰って来たのが嬉しくて思わず長々と引き留めて……」

 

「ッ…そんなことねェよレオヴァさん

そ、それに!

おれもカイドウさんとレオヴァさんと飲みたかったんで、呼んで貰えて嬉しかった!!」

 

「そうか…?

迷惑じゃなかったなら、おれとしても嬉しいんだが」

 

「勿論だ!!

迷惑だなんて思わねェよ!!…です!」

 

その言葉でレオヴァの表情が明るくなると、ジャックの顔がほっとしたものに変わる。

 

そんなやり取りを眺めていたバレットも、もう慣れているのか横槍を入れる素振りはない。

 

 

「ンンッ…では、先程の続きを……」

 

気を取り直したレオヴァがまた最終確認を始める。

 

バレットはそれに耳を傾けつつ、新しいレオヴァの姿を興味深く思うのであった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

「撤退…すぐに撤退を!!!」

 

正義の上着を羽織る男の必死の声で海兵達は残り僅かな軍艦へと走り出した。

 

ほんの1時間前までは潤沢な物資と世界中からかき集められた兵士達により高い士気を維持出来ていたと言うのに、今では見る影もない。

 

ただ必死に生き延びようと、最後の頼みである軍艦に向けて海兵達は無我夢中で走り出している。

 

 

そんな姿に不満げな表情を溢す男達がいた。

…百獣海賊団のジャックとバレットだ。

 

バレットは戦いを求めて来たと言うのに腑抜けしか居なかったことに怒りを覚え、ジャックも逃げ惑う海兵の姿に失望した様に顔を歪めた。

 

2人に共通するのは、レオヴァに実力を示そうという意思だ。

 

ジャックはレオヴァの役に立ちたいという純粋な思いであり、バレットは契約者としての自分の“格”をレオヴァに示したいと思っていた。

 

だが、この程度の相手では意味がない。

そう思い2人は不機嫌そうな顔になっている訳である。

 

 

「この程度の、戦力とも呼べねェ雑魚共を集めただけでウチに喧嘩売ろうって考えが気に入らねェ!!」

 

ジャックが怒鳴り、変わった形の刀を振ると目の前の海兵達が紙切れのように吹き飛んでいく。

 

そんなジャックの近くにいたバレットも不満を溢す。

 

 

「一度目のマリンフォード奪還作戦が失敗したことで、今回はもっとマシな戦力があるのかと思えば…

とんだ期待はずれじゃねェか!!」

 

ガシャンッ!という大きな音と共に纏っていた瓦礫が海兵達を襲う。

 

苛立ちを隠さぬジャックとバレットという怪物達に、海軍の取れる選択肢は撤退の一択であった。

 

 

 

 

 

─── ジャック達が暴れている南側と逆の位置にある、北側の海岸にて。

 

 

「部下を逃がす為、おれとサシでの勝負に持ち込もうという気概は素晴らしい。

だが、それはジャックとバレットを甘く見積り過ぎてるんじゃないか?」

 

穏やかな声で話すレオヴァの目の前には、立っているのでやっとだと言う様な状態の男がいる。

 

男は肩で息をしながら、十手(じって)で体を支えているにも関わらず瞳に諦めは滲んでいない。

 

 

「ゲホッ…はぁ……て、めェだけでも……あの場から、遠ざけられりゃ…今のおれ、なら…ゥ…上出来だ!!」

 

「……ほう、思っていたよりも戦況を良くみれるタイプなんだなァ…スモーカー。

典型的な直情型かと思ってたんだが……」

 

意外だと片眉を上げるレオヴァを見て、スモーカーは顔を歪める。

 

息も絶え絶えな自分とは正反対にレオヴァには掠り傷一つない。

この現状にスモーカーはやるせなさと悔しさに押し潰されそうであったが、集中しなければと自分を奮い立たせた。

 

そして、能力と手に握った十手を武器に残りの体力を捧げるべく動き出す。

 

一秒足らずの間に、辺りに大量にある木葉を煙で舞い上がらせると、スモーカーは素早い動きでレオヴァの背後に周り十手を繰り出した。

 

 

「ッ……クソっ…!!」

 

しかし、スモーカーの十手は何にも手応えがない。

全てを察したスモーカーが受け身を取るよりも早く、背中に重い衝撃が走った。

 

地面に叩き付けられると同時に、背中に感じる重圧にスモーカーがくぐもった声を漏らす。

 

 

「あの状況で煙幕として環境を利用する機転、素晴らしいな…!

一瞬で大量の葉を舞い上がらせる為だけ(・・)に能力を使ったのも良い。

覇気が使えるおれの前では煙を広げるだけ無駄だと割り切っての戦法だろう?

……やはり殺すのは惜しい、ウチに来る気はないかスモーカー。」

 

「ガハッ…ッ……人を足蹴にしておいて…っとに、よく喋る野、郎だ…ゴホッ」

 

こんな状況にも関わらず戦意を折られないスモーカーにレオヴァの口角が上がる。

 

 

「スモーカー、やっぱりお前は海兵より海賊のが(しょう)に合うんじゃないか?

……ふふふ、おれも父さんも気は長いほうだ。

お前がウチに入ると言うまで待つのも悪くない。

最近ハチノスに新しい施設も作ったことだしなァ…」

 

「ッ……ふざ、けんじゃねェ!!ガハッゴホッ…

誰が海賊、なんぞに…!」

 

鋭い眼光を向けられてもレオヴァは穏やかな微笑みを崩さない。

 

 

「スモーカー、価値観ってのは環境や関わる相手で変わるものだ。

……おれと来ればその考え方も違うものになる可能性は0じゃねェさ。」

 

にこりと微笑んだまま手を伸ばしてくるレオヴァに感じた事のない感覚を覚えたスモーカーだったが身動きが出来ない。

 

 

「(こいつ…なんだこの雰囲気は!?)」

 

冷や汗を流すスモーカーにレオヴァの手が触れる直前に、“それ”は起きた。

 

 

凄まじい冷気にスモーカーの息が一瞬止まるが、次の瞬間には押さえつけられていた筈の背が軽くなっており、誰かに支えられている。

 

訳が分からず混乱するスモーカーだったが、こんな冷気を扱える人間は1人しか知らない。

 

痛む体を動かして自分を支える人物に目をやると、そこには想像通りの男がいた。

 

 

「海軍大将の…クザン(・・・)か。

今回の奪還作戦に居るとは聞いてなかったがな…」

 

スモーカーが男の名を呼ぶよりも先にレオヴァの言葉が放たれる。

 

 

「ま、おれも参加するつもりなかったんだけど…嫌な予感がして来てみれば…

……また随分、派手にやってくれちゃってるじゃないの。」

 

軽い口調とは裏腹に油断ならぬ雰囲気を漂わせているクザンにレオヴァは目を細めた。

 

そんな二人の間に漂う気配にスモーカーが息を飲むと、クザンが目線はレオヴァに向けたまま柔らかい声色で話し掛けてくる。

 

 

 

「いや~…けど本当。

百雷のレオヴァを1人で引き受けるなんて何考えてんのよ、スモーカー。

お前に何かあったら悲しむ奴らがどんだけ居るのかちゃんと考えて行動しろって言ってんでしょ。」

 

「ゲホッ、すま、ねぇ。」

 

珍しく素直に謝るスモーカーにクザンは苦笑いしつつ、動き出した。

 

 

「“ア~イスBALL”…!」

 

クザンから放たれた冷気が瞬きの間にレオヴァを囲っていき、氷の牢を作り出す。

 

レオヴァを氷が囲ったことを感じるや否やクザンは瀕死のスモーカーを抱えて軍艦へと走り出した。

 

 

「ッ…逃げ、るのか…?」

 

「対岸には“旱害”と“鬼の跡目”もいる。

こんな状況じゃあ、1人でも多く生きて撤退させるのがおれの役目(・・・・・)でしょ。

……何より百雷のレオヴァってのがヤバい。」

 

珍しく険しい顔になるクザンを最後にスモーカーのギリギリで保たれていた意識は途絶えた。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

──── 南側の海岸にて。

 

 

突如、海兵達を守るように現れた氷の防壁にジャックとバレットは一瞬目を丸くしたが、すぐに誰の仕業かを察する。

 

二人が目線を移した先には予想通りの男が立っていた。

 

 

「青キジィ…!!」

 

「邪魔しようってのか!?」

 

予想外の男の登場にバレットは獰猛な笑みを見せ、ジャックは眉間に青筋を浮かべた。

 

クザン、バレット、ジャックが戦闘態勢に入った瞬間、三人の間に眩しい閃光と共に雷が降り注ぐ。

 

反射的に後方へ飛び退いた三人が空を見上げると、対岸にいた筈のレオヴァが空を舞っている。

 

何故ここに居るのかと首を傾げるジャックとは正反対にクザンは額に冷や汗を流す。

 

 

「あらら……あれじゃ時間稼ぎにもならねぇワケね。」

 

この言葉でジャックはクザンがレオヴァと一悶着あった事を察し、怒りの籠った視線を目の前の男に向ける。

 

やる気満々なジャックと、骨のある男の登場に笑うバレットを視界に入れつつ、レオヴァは海岸に感じる大量の気配に部下の身を案じる。

 

 

「ジャック、バレット。

どうやらクザンが応援を呼んだらしい。

海岸にいる皆が心配だ……ここは良いから船と皆を頼めるか?」

 

「了解だ、レオヴァさん!!」

 

二つ返事で踵を返したジャックとは違い、バレットは少し不満げに顔を歪めている。

 

そんなバレットの内心を察したのかレオヴァが眉を下げる。

 

 

「…バレット。」

 

「……やっと相手になりそうな野郎が来たのに譲れってのか。」

 

グッと口をへの字にするバレットにレオヴァが困った様に笑う。

そのすぐ側では踵を返したはずのジャックが振り返り、血走った目でバレットを睨んでいた。

 

放っておけば乱闘が始まりそうな空気にクザンが困惑していると、レオヴァがバレットの隣へと降り立つ。

 

 

「バレット、お前の言いたい事は分かる。

おれだって楽しめそうな相手を譲れと言われりゃ、いい気分はしねェ。

だが……」

 

レオヴァが小声で何かを告げるとバレットは一瞬、考える素振りを見せたあと納得した様に踵を返した。

 

 

「……その条件ならしょうがねェ、譲ってやる。

約束を(たが)うんじゃねぇぞ!」

 

「ありがとう、バレット。

安心してくれ、おれは身内との約束は破らねェ。」

 

「まだおれは身内じゃねェ!!」

 

一言怒鳴り、海岸へ向けて進んで行ったバレットを見てレオヴァは笑うと、ジャックへ目線を移す。

 

 

「…ジャック、バレットはまだウチに馴染んでねェ。

部下達への指示と誘導はお前に任せるぞ。」

 

「…はい。」

 

「そんな顔してやらないでくれ、ジャック。」

 

「………分かりました。」

 

顔に不満です!とデカデカと書いてあるにも関わらず、こちらを立てて言葉を返すジャックにレオヴァは優しい表情で笑う。

 

 

「頼むぞ、ジャック。」

 

「任せてくれ…!」

 

大きな体からは想像もつかない速さで消えていくジャックを見送っていると、背後に冷気を感じて刀を抜いた。

 

次の瞬間、硬い物同士がぶつかる音が響く。

 

 

「やっぱり不意打ちは失敗…っと。」

 

「…おれに不意打ちが効かねェのは知ってる筈だろう?」

 

言葉と共に刀でクザンを押し飛ばしたレオヴァは、相手に休ませる間を与えぬようにとすぐに動きを見せる。

 

 

「“武具戴天(ぶぐたいてん)”」

 

レオヴァを中心に何もない場所から数十本の槍が現れ、クザンへと迫って行く。

 

「ア~イス(ブロック)両棘矛(バルチザン)”…!!」

 

レオヴァの仕掛けて来た攻撃に瞬時に反応を見せ、クザンは作り出した三又の槍の様な形状の氷塊で迫り来る槍を全て打ち落として見せた。

 

 

「おれにその槍(・・・)は効かねェって忘れちまったのか、“百雷の”レオヴァ。」

 

「…本当に食えない男だな、クザン。」

 

「いや~、それはお互い様ってヤツよ。」

 

「……ふふ、確かに。」

 

そう呟くとレオヴァの周りに雷がバチバチと漂い始める。

突然変わった雰囲気にクザンが更に距離を取ると、レオヴァの口角が上がる。

 

 

「最近、父さんに御墨付きを貰えた新しい技があるんだが……受けてみてくれるか?

実はずっと試したくてうずうずしていたんだ。」

 

明るい声色で世間話のように話すレオヴァの姿は人から離れ、鳥のような形へ変化し、どんどん大きくなっている。

 

そんな姿にクザンはまた冷や汗を流した。

 

 

「それを受けろって?

はは…冗談にしては笑えねぇわ……」

 

日が落ちた筈の空が眩しく感じてしまう、その姿にクザンは思考をフル回転させたのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

2回目のマリンフォード奪還作戦を未然に防いだ日から2週間が経過していた。

 

珍しく怪我をして戻って来たレオヴァにジャックや部下達がオロオロしていたのも過去の話になった現在。

 

 

現れる軍艦を潰しながらワノ国へ帰国している船の中で、ジャックはレオヴァから研修を受けているバレットを横目で盗み見ていた。

 

 

「じゃあ最悪日にちと、やった事を箇条書きで書けば良いのか?」

 

「そうだ。」

 

「……だが、それじゃあ管理記録としちゃ使えねェだろ。」

 

「…まぁ、欲を言えば細かい事も書いてもらえると助かるんだが……

報告書を書くにも得手不得手があるだろ?

一応、報告書以外に口頭での報告も受けてるからな。

その時に書くのが得意なおれやドレーク、ロー達が補足するという方法でやってる。」

 

「二度手間だろ。

どうせならそこも指導して行きゃあ、もっとスムーズに機能するんじゃねェのか?」

 

「勿論、指導はしている。

報告書も書くのが苦にならない者を中心に頼んでいるし、真打ち以上の幹部には書き方の講習会も開いている。

だが、幹部ではない者が書く場合がない訳ではないからな…」

 

 

レオヴァの説明に軽く相槌を打つとバレットはまた見本の報告書に目を落とした。

 

 

「……まぁそんだけ細かくやってんなら、おれがこれ以上口出すのもアレだな。」

 

「いや、バレットの意見は尤もだ。

現時点で報告書の書き方が素晴らしい者達を集めて、講習会の講師をやってみないかと声をかけてみる事にする。

おれ以外で講習会を開ける者が増えれば、指導もしやすくなるからな。

いい意見をありがとう、バレット。」

 

「…別に大したこと言ってねェよ。

それより、ここの……」

 

また質問を始めたバレットの声にレオヴァが耳を傾ける。

 

 

……という様なやり取りを、ここ数日ジャックは眺めていた。

 

ジャックの最初のバレットへのイメージは一匹狼気取りの傍若無人で生意気な男だったが、ここ数週間のバレットの様子を監視している内にイメージは変わっていた。

 

 

ジャックの抱いていた誰も寄せ付けなさそうな印象とは違い、バレットは組織慣れしているようであった。

 

事実、百獣での細かいルールの飲み込みも早く。

よく新入りがやりがちな、昼食など食事時の並ばなければならない場面で順番を守らないという失敗もせず、しっかりとルールに沿っていた。

 

なんなら、ちゃんと並ぶバレットに周りの部下達が困惑して順番を譲ろうと

『あ…!すみ、すみません。さ、先行きますか?』

と声をかけた時も

『順番は順番だろうが。』

と律儀に断っている。

 

他にも風呂の順番や当番でやらなければならない仕事などもバレットは文句も言わずに淡々とこなしていた。

 

今、現在。

レオヴァとの契約相手として百獣海賊団に身を置くバレットは地位も不確かである為に色んな感情を向けられているが、それで喧嘩を起こしている姿もジャックは見た事がない。

 

 

そして一番ジャックの印象を変えたのはレオヴァとの研修風景だ。

 

バレットはレオヴァの研修を真面目に受けていた。

時には質問をし、時には意見をぶつけ、たまにメモを取る。

 

簡潔に言うのであれば、バレットは真面目だったのだ。

 

たまにレオヴァに対しての口の利き方にジャックが腹を立てる瞬間もあるが、本人であるレオヴァが気にしていないと言うこともありバレットに突っ掛かるのは控えるようにしている。

 

 

実力、研修への姿勢、生活態度。

バレットを監視している内に発見した新たな姿にジャックは複雑な心境であった。

 

もとよりジャックは実力がある者が入る事は賛成派である。

百獣海賊団の戦力が増えることは、即ちカイドウの力が増えるも同然なのだ。

歓迎しない方が可笑しい、そうジャックは考えていた。

 

ならば、バレットも歓迎すべき人材である。

と頭では理解していたが、どこがスッキリしないのがジャックの本音であった。

 

しかし、これだけバレットの真面目な姿勢を見せられれば受け入れざるを得ない。 

そう考えるジャックの頭に前の宴の光景がよぎる。

…笑い合うカイドウとレオヴァに楽しげに話し掛けられているバレットの姿だ。

 

この記憶が浮かぶ度、ジャックの眉間に皺が増える。

 

だが、ジャックはもう大人である。

この感情がなんなのかは、うっすらとではあるが理解していた。

 

 

小さく溜め息を吐き、また横目でレオヴァとバレットを盗み見る。

 

 

「ナワバリ管理は担当制じゃねェのか?

決まった奴を派遣した方が円滑に進むだろ。」

 

「バレットの言う通り、ナワバリの人々としては知った顔の方が安心だろうな。

だが、ナワバリの数が増えてそうも言ってられなくなったんだ。

それに知った顔で安心(・・・・・・・)するのではなく、百獣の旗(・・・・)で安心してもらいたいとおれは考えている。

実は担当制にしないことで、部下達の社交性も伸ばせればという思惑もあってな。」

 

「なるほどな……確かに一理ある。

ナワバリを担当出来ない奴が減ることには意味があるからなァ。」

 

「そう言うことだ。」

 

納得した様に次の話へ移るバレットの声を盗み聞き、ジャックは肩を落とす。

 

 

「(…おれにはねェ視点……なによりレオヴァさんが楽しそうじゃねェか……)」

 

無意識に溜め息を吐く。

バレットの中々に鋭い意見はジャックにはないモノだった。

 

しかし、それも仕方がない事である。

幼少の頃よりレオヴァから多くの指導を受けたジャックにとって

レオヴァの答えこそが“正解”だと言う認識が抜けずにいるのだ。

 

そんなレオヴァが作った制度にジャックが疑問を持てないのはある意味道理であった。

 

けれども、そんな事ジャックには関係ない。

自分は制度や決まりについて意見交換が出来ないが、バレットにはそれが出来る。

それが事実だ。

 

ジャックはどこまでも自分に厳しい男なのである。

 

結果、ジャックの思考はこう完結した。

 

「(出来ねェって言葉は甘えだ…!!

そもそもレオヴァさんの事で妥協していい事なんざ、一つもありゃしねェ!

要は出来るようになりゃいい話だ!!)」

 

ガタッと少し大きな音を立てて席を立ったジャックは自室にある“学習ノート”を読み直そうと部屋を後にした。

 

 

「(負けねェぞ、バレット…!!)」

 

闘志を燃やすジャックはやる気に満ち溢れているのだった。

 

 

 

 

突然立ち上がり、部屋から出ていったジャックの背を目で追うレオヴァにバレットは眉をしかめる。

 

 

「……気になってんなら、いつもみてェに声でも掛けりゃいいだろ。

ここ最近ずっとアイツの様子を伺うだけで何もしねェ。

見てるこっちがウザったくなる。」

 

バレットの呆れたような声色に、レオヴァが少し驚いた顔をする。

 

 

「…よく気づいたな……

ジャックでさえ、気付いてる素振りはなかったが。」

 

「なんかある度、アイツの方を気にしてりゃ嫌でも気付く!

……別に研修はワノ国でも出来るだろ。」

 

バレットなりに気を使っているのかと、レオヴァは微笑むと口を開いた。

 

 

「ありがとう、バレット。

だが、ジャックなら大丈夫だ。

昔から色んな困難や問題を自分で乗り越えられるような強い子だからな。」

 

初めて見る表情と優しい瞳でジャックが出ていった方を眺めるレオヴァに、バレットはそれ以上の催促を止める。

 

 

「…そうかよ。

なら今度はこの龍王祭ってのについて教えろ。」

 

「……あぁ、この祭か…!

これは父さんの……」

 

 

再開された研修はこの日も部下が夜ご飯を食べてくれと泣き付くまで行われるのだった。

 

 

 






ー補足ー

[バレットの立場について]
レオヴァとの契約関係という敵か味方かハッキリしない立位置にあると船員達からは認識されているが
カイドウが『構わねェ、レオヴァの好きにさせろ!』と発言した事で表だって文句を言うものは居なくなった。

カイドウ的にはバレットは強いからある程度好きにしても文句はないし、レオヴァが良いならいい。
実は不明瞭なバレットの立場を改善すべく考えていることがあるらしい。


ー後書きー
下記、質問箱にて様々なご質問などを下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio

既にレオヴァの手料理を初めて食べたカイドウさんの反応や、レオヴァがキングの素顔を知った年齢など様々なご質問に答えさせて頂いておりますので暇潰しにでも覗いて頂けたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします~!
ここまで読んで下さりありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

海軍召集、再び


ー前書きー

【挿絵表示】

↑質問箱にて、レオヴァの手配書がどんな感じか見てみたいとリクエスト頂きTwitterに上げたもの。
一応、私が書いたのは色々ある中の1つのイメージなので各々好きな様に手配書を想像して頂けたら嬉しいです~!
※レオヴァの顔がガッツリ出てるので、自分でレオヴァのイメージがあるから崩したくない!という方はスルーして頂けたら助かります!

────────────────────────────────


 

 

 

レオヴァ達の帰国に合わせて、ワノ国にて大々的な宴が催されていた。

 

 

「てめェら、今日は無礼講だ!

好きなだけ飲んで騒げ!!ウオロロロロロ!!」

 

「「「「ウオオオオ~~!!」」」」

 

上機嫌なカイドウの宣言により、宴会フロアにいる部下達が一斉に騒ぎ出す。

 

楽しげなドンチャン騒ぎが下のフロアから響いてくる事に笑うレオヴァへ、カイドウが酒を手渡す。

 

 

禁酒(・・)は終わったんだろ?

今日は飲めレオヴァ!」

 

「ありがとう父さん。

久々だ、酔わねェよう気を付けて飲むとするか。」

 

「ンな気にする事ァねぇだろう。」

 

ドカッと隣に腰掛けたカイドウにレオヴァが小さく笑っていると、クイーンがお汁粉片手に口を開いた。

 

 

「カイドウさんが気にすんなっつーと、説得力あるよなァ~…」

 

「おい、ボール野郎!!」

 

「クイーンの兄御ッ!!」

 

思わず溢れたクイーンの呟きに過剰に反応する二人にカイドウとレオヴァは揃って笑う。

 

 

「シリュウとバレットも飲めよォ?

お前らの幹部任命祝い(・・・・・・)でもあるんだからなァ!!」

 

豪気に笑うカイドウから少し離れた場所に座るシリュウとバレットはそれぞれの反応を返す。

 

 

「あぁ、ここで出る酒はどれも美味いからな…」

 

「…………」

 

木のジョッキを手にニヤリと笑うシリュウと反対に、バレットは無言で腕を組んでいる。

 

そんな様子を気にする事もなく、カイドウはレオヴァの造った酒の中でも一番気に入っているものをゆっくりと口にする。

 

 

「クイーン…!

そう言や、今日はいつものはやらねェのかァ?」

 

「もちろん、やるぜ!カイドウさん!

今日も最高に盛り上げて来るんで!!」

 

ポーズを決めるクイーンを見て満足げに笑うとカイドウは肘掛けに体重をかける。

 

 

「ウオロロロロロ…

なら、たまには下で見るのも悪くねェかァ?」

 

「えっ!?

カイドウさん宴会フロアまで来るんスか!?」

 

「父さんが行くならおれも久々にクイーンの公演(ライブ)を下で見るか。」

 

「レオヴァも!?

マジかよ……テンション上がるぜェ!!!

おい、てめェら!次のおしるこ寄越せ!エネルギーチャージだ!!!

 

「…チッ……どうみても、もうオーバーチャージだろうが。」

 

ハイテンションにお汁粉をかき込む姿に悪態を吐いたキングの言葉に、数名が酒でむせていたがクイーンは気付かずにカイドウとレオヴァに向き直る。

 

 

「これ食ったらソッコーで準備するぜ!!

レオヴァ、ちゃんとカイドウさん引っ張って来いよ!?」

 

「ふふふ、分かってるよクイーン。」

 

いつも通り和やかな風景を横目に幹部達は酒を進めるのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

宴も終盤に差し掛かる頃。

 

ドンチャン騒ぎが殆ど聞こえない場所でバレットは空を見上げていた。

 

雲一つない綺麗な夜空がいっぱいに広がっているが、それを見てもバレットの表情は険しいままだ。

 

その険しい表情の理由は数時間前の幹部任命にある。

 

カイドウがバレットの今までの功績と実力を考慮して幹部にすると言い出したのだ。

 

そのまま突然の事に困惑するバレットを置いて話は進んで行き、新しい幹部の称号“先鋒長(せんぽうちょう)”に任命されたのである。

 

 

すぐに異議を唱えようとしたバレットだが、レオヴァと交わしたカイドウを立てると言う約束を思い出し口を閉ざす他なかった。

 

まだ割りきれていないバレットにとって、幹部という称号は複雑なモノなのだ。

 

 

そんな事を考えながら一人夜風に当たっていたバレットの背に声がかかる。

 

 

「バレット、探したぞ。」

 

声の方へ振り返ると、穏やかに微笑むレオヴァが立っていた。

真っ直ぐこちらへ歩み寄ってくると、隣に立ったレオヴァが口を開く。

 

 

「…賑やかなのは合わなかったか?」

 

「それは此処に来てから毎日だ、嫌でも慣れる。」

 

目も会わせずに言葉を返して来たバレットにレオヴァは苦笑いを溢すと、言葉を続ける。

 

 

「ふふ、そうか。

……なら、幹部任命の件だな?」

 

「…………」

 

黙ったバレットを見て、やはりこの件かとレオヴァは眉を下げる。

 

そのままレオヴァは言葉を続けずに、静かにバレットと同じく月を見上げた。

 

 

暫くの穏やかな沈黙のあと、バレットの口が動いた。

 

 

「………おれはお前と契約して、此処にいる。」

 

静かな声にレオヴァはバレットの方を見やる。

 

 

「あぁ、それは分かってる。」

 

「……幹部の称号を受けりゃ

おれが此処にいる意味が変わってくる(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。」

 

「…そうだな。」

 

月を眺めていたバレットが、一呼吸置いてレオヴァの目を見た。

 

 

「レオヴァ、お前との契約に総督を立てるってのがあったから騒ぐ真似は止したが……おれは“先鋒長”を名乗る気はねェぞ。」

 

キッパリと宣言したバレットの言葉にレオヴァは笑った。

 

 

「構わねェよ、バレット。

名乗るも名乗らねェも好きにすりゃいい。

お前はおれの“部下”じゃねェんだ。」

 

「……本当に、いいんだな?」

 

意外だと目を見開くバレットにレオヴァは穏やかに微笑んだ。

 

 

「おれとバレットは“対等”な関係だろう。

お前が“先鋒長”を自ら名乗りてェと思えるまで無理に名乗る必要はねェよ。」

 

「…一生、そう思う時が来なかったとしてもか?」

 

「そうだなァ……それはそれで良い。

何を名乗るも、何を背負うもバレットの人生だ。

おれはそれを尊重してェと思ってる。」

 

 

想像とは違う事を言うレオヴァにバレットは大きく(まばた)きをする。

想定外の答えに小さく困惑するバレットに構わず、レオヴァは微笑みながら言葉を続ける。

 

 

「まぁだが、バレットに“先鋒長”としておれと来て欲しいってのは本音だ。

おれは欲しいモンを諦めるって思考はねェ。

お前にもおれの宝(百獣海賊団)を背負いたいと思ってもらえるよう、全力を尽くそう。」

 

不敵に笑ったレオヴァにバレットは少し面食らっていたが、徐に口を開いた。

 

 

「……それはおれに勝ち続けて、初めて実現出来ることだって分かってんのか?」

 

「勿論だ。

負けるつもりも諦めるつもりもねェ。」

 

「…欲のねェ野郎だと思ってたが……」

 

また新しく発見した一面にバレットが言葉を溢すと、レオヴァがその言葉の先を見て返事を返す。

 

 

「それが海賊だろう?バレット。」

 

邪気なく笑うレオヴァにまたバレットの古い記憶が呼び覚まされる。

 

 

「……てめェ“()”自分勝手な野郎だな…」

 

バレットの言葉にレオヴァはまた笑う。

 

 

「否定は出来ねェなァ。」

 

あまりにも穏やかに流れる時間に、居心地が悪くなったバレットは鬼ヶ島の中へ戻るべく歩き出した。

 

 

「戻るのか、バレット?」

 

「……もう、酔いは醒めた。

レオヴァ、貴様も酔いを醒ましてから戻って来い。

また鬼ヶ島が壊れちゃあ、面倒だろうが。」

 

「ふふ、そうだな。

ちゃんと酔いを醒ましてから戻るとする。」

 

夜風に舞うレオヴァの髪を視界の端に捉えながら、バレットは宴会フロアへと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

─── 時は遡り、ワノ国で宴会が開かれる少し前。

 

 

新しく建設途中の海軍本部にて、多くの海軍将校達が集められていた。

 

 

平和を守る名だたる面々が座する正面のボードの前にはあと数ヶ月で元帥ではなくなる(・・・・・・・・)男、センゴクと特徴的な髪型とグラサンが目を引く男、ブランニューが立っていた。

 

このブランニューは海軍本部にて少佐を務め、今回の報告会の司会進行に抜擢された優秀な男である。

 

 

「ブランニュー、始めてくれ。」

 

「はい!

…では、これより緊急会議を開始したいと思います!!」

 

ブランニューの宣言によって、漂う緊張感が増して行く。

 

 

「皆さんご存じの通り、

2回目のマリンフォード奪還作戦の準備中に百獣海賊団による奇襲を受けました。

たまたま居合わせたクザン大将によって、最悪の事態は免れましたが……多くの海兵を守る為にクザン大将と数十名の将校が重傷を負い、大量の物資も海の藻屑と化しました。」

 

再び起きた悪夢を再確認した将校達の表情は暗い。

 

 

「まずは今、世間を騒がしている問題の海賊団……百獣海賊団の面々の懸賞金と簡単な詳細から復習(さら)って行きましょう。」

 

言葉と共にブランニューは電伝虫を利用したプロジェクターを起動させ、手に持っていた手配書をかざす。

 

 

「まず、一人目。

ディアス海戦のA級戦犯として指名手配され、その後百獣海賊団の傘下へ加わって以降急に頭角を現し

“ゴルゴルの実”と言う悪魔の実の能力で百獣海賊団を更に勢い付かせたと思われる男です。

一度目のマリンフォード奪還作戦では数分(よう)したとは言え島を囲むほどの黄金の障壁を展開させた事実は、奴の能力の熟練度が生半可なものではないと物語っています。

百獣海賊団、近衛隊隊長“首はね”スレイマン!!

懸賞金額3億500万ベリー!!!

 

「奴は確か、能力が覚醒していた…!」

 

「黄金を無限に沸かせる力を手に入れても尚、なぜ海賊をしているのかが疑問だな……」

 

どよめく将校達に構わずブランニューは次の手配書を手に取る。

 

 

「続いて、二人目は…

あの“オペオペの実”の能力者であり、政府の人間に対する数々の残虐な行動から危険視されている一方で

一部の民間人から“神の使い”だと信仰に近い感情を向けられていると言う情報があり、あらゆる方面で危険な人物(・・・・・・・・・・・・)だと認めざるを得ない男。

百獣海賊団、近衛隊隊長“死の外科医”トラファルガー・ロー!!

懸賞金額3億1000万ベリー!!!

 

「こ、コイツは…!!」

 

「…あの悪魔が…神の使いだと!?」

 

大きく写し出されたローの顔に数名の将校が青ざめる中、ブランニューは険しい表情で続ける。

 

 

「まだまだ、こんなものではありません…!

三人目はその美貌からは想像も出来ぬ暴力性を持ち、8メートルを越える姿で暴れる様はまさに鬼女。

ある時を境にワノ国から出てくる事は少なくなりましたが、この女もまた間違いなく危険人物でしょう。

百獣海賊団、飛び六胞 ブラックマリア!!

懸賞金額4億5000万ベリー!!!

 

「あの騒動の女か…!」

 

「……私は初めて見ました。」

 

会話を挟む将校達を横目に、ブランニューは次の手配書に目を通す。

 

 

「…では、続けます…四人目と五人目は同時に。

幼い頃より百獣海賊団にいることが確認されていた姉弟で、若いからと油断出来ぬ実力と狂暴性を併せ持ち

特に姉は民間人含め多くの被害を出しているという報告が上がっています。

弟の方は民間人への被害は少ないにしろ、政府の人間への攻撃性は姉に劣らず…!

更には1回目のマリンフォード奪還作戦でも甚大な被害をだしています!

百獣海賊団、飛び六胞 うるティ!!

懸賞金額4億ベリー!!

同じく飛び六胞 ページワン!!

懸賞金額3億ベリー!!

 

「このガキ共はあの時の!?」

 

「この若さで1億を軽く超えてくるか…!」

 

「早めに摘まなければ!

放っておけば四皇に対処する上での強大な障壁になりかねんぞ!?」

 

動揺が隠せない将校達を見て手が止まるが、センゴクの目配せによってブランニューは新しい手配書を手に取った。

 

 

「……次は六人目です。

少年と呼べる年齢の頃から長く百獣海賊団に所属していながら、民間人への被害はまったくない男ですが、海軍との戦闘においては手が付けられぬ暴れっぷりを見せており

一度目のインペルダウンへの襲撃事件でもマゼランを足止めするなどの大きな役割を果たすだけでなく、二度目の襲撃にも現れ…!

そのまま、あのマリンフォードでの事件ではバレットと共に大将を相手にしながら生き延びた実力は侮れません!

百獣海賊団、飛び六胞“異竜”X・ドレーク!!

懸賞金額3億2200万ベリー!!!

 

「異竜…か。」

 

「ワシは昔から奴は危険だと目をつけていたのよ!」

 

難しい顔をする将校達を視界に捉えながらブランニューは次に移るべく、一度渇いた喉を水で潤した。

 

 

「…ふぅ……失礼しました。

それでは、七人目に参ります。

元は海賊団の船長という立場でありながら、ある日から百獣の幹部として表舞台に上がり、瞬く間に名を馳せた男。

動物(ゾオン)系古代種の能力由来の巨体を生かした目にも止まらぬ突進で多くの殉職者が出ており、更にはあの海賊らしい振る舞いで市民へ恐怖を与えているに違いありません…!

百獣海賊団、飛び六胞“盛っ切りの”ササキ!!

懸賞金額4億9000万ベリー!!!

 

「4億っ…!

元船長というのは伊達ではない…か。」

 

「いち、幹部でこの金額とは…」

 

目を見開く将校達の姿にセンゴクは無理もないかと、眉を下げる。

 

そんな絶望感漂う部屋の空気に負けじと、ブランニューは深呼吸をし言葉を続けた。

 

 

「続いて、八人目の男は素性が不明(・・・・・)

突然百獣海賊団の一員として現れ、規格外な強さと冷淡さでどんどん懸賞金額を跳ね上がらせました。

最近露になりつつある、百獣が関連したと思われる(・・・・・・・・・・・・)幾つもの暗殺事件や誘拐事件でも主犯を務めていると思われます。

海賊と言うより暗殺者を連想させる男の危険性はこれ以上語るまでもないでしょう。

百獣海賊団、飛び六胞“飛沫(しぶき)の”フーズ・フー!!

懸賞金額5億ベリー!!!

 

「…もう、一人で既に大物海賊の額だぞ!?」

 

「はぁ、目眩がするわ……」

 

ついに頭を抱え始めた将校達にブランニューは更に非情な現実を突き付けねばならない事に、一瞬躊躇いを見せた。

 

しかし、流石は司会進行に選ばれた男である。

躊躇ったのはほんの一瞬だけで、すぐに口を開いた。

 

 

「……皆さん、此処からが本番と言っても過言ではありません!

九人目は存在そのものが“災害”と称される百獣のカイドウの三人の腹心の一人です。

10年以上前からまだ幼いにも関わらず、その強さは他の海賊達よりも頭一つ抜きん出ており

記憶に新しい一回目のマリンフォード奪還作戦では最前線で暴れるこの男に我々はどれだけ苦汁を飲まされたか…!

さらには2回目の奪還作戦の準備中にも現れ、暴虐の限りを尽くし多くの海兵の命を奪っています!

百獣海賊団、大看板“旱害の”ジャック!!

懸賞金額11億7000万ベリー!!!

 

「お、大看板…!」

 

「まだ26なんだろう!?

その若さで、あの百獣の腹心とは…」

 

多くの言葉を失う将校達に向けて、センゴクが口を開く。

 

 

「……旱害のジャックの脅威は実力と狂暴性だけではない!

奴は恐ろしい執念を秘めている。

あの一度目のマリンフォード奪還作戦。

確かに大将は居なかったが、我々と百獣海賊の人数差は10倍は優に越えていた。

にも関わらず、失敗に終わったことの最大の理由は奴にある!

無尽蔵に思える体力は無論。

奴は撤退を始めた海軍の軍艦が確実に沈むまで追いかけてきた。

……誰が予想できる?

守りきった陣地を維持することを優先するのが普通だ。

だが、奴は……敵を根絶やしにすることを優先した…!!

その執念こそが危険だと私は考え、奴の懸賞金額の上乗せを嘆願したのだ。」

 

センゴクの口から語られた内容に、将校達はゴクリと息を飲んだ。

言葉が出ないとは、まさに今の彼らの事だろう。

 

 

「……すまない。

続けてくれ、ブランニュー。」

 

「はい…!お言葉をありがとうございます、センゴク元帥!

では、十人目を…

同じく“災害”に称されるカイドウの腹心の一人。

動物(ゾオン)系古代種の能力が危険なのは言うまでもないですが、ウイルスという非道な武器を使用して今まで数えきれぬ被害を出しています!

その人道に反する武器の(むご)たらしさは言葉にするのも(はばか)られるほどです…

科学者としても海賊としても野放しにすれば新たな悲劇を生み続けるでしょう…!

百獣海賊団、大看板“疫災の”クイーン!!

懸賞金額14億2000万ベリー!!!

 

「あ、あの非道な兵器を使う巨漢か…!」

 

「奴の武器は世に出ていい物ではない!!」

 

怒りを滾らせる将校達の言葉にブランニューもあのマリンフォードでの光景を思い出し、強く頷く。

 

そして怒りで震える手を無理やり動かし、ブランニューは最後の“災害”の手配書を電伝虫の前にかざした。

 

 

「続く十一人目は幹部の中でも屈指の残忍さと機動力を持つ男です。

何十年も前からカイドウと行動を共にし、破壊を繰り返す姿は見た目の恐ろしさと相まって“悪魔”と表現しても、なんら差し支えないでしょう…!

実例を上げるなら、十年以上前にカイドウが起こした息子を巡った騒動にて

大きさも設備も当時最先端だった海軍基地を破壊し、そこにいた海兵数名に耳を塞ぎたくなるような拷問を行った事実もあり……未来ある若い海兵をイタズラに壊すなどという非道、到底許せることではありません!

百獣海賊団、大看板“火災の”キング!!

懸賞金額14億9000万ベリー!!!」

 

「例のあの事件か……新兵だった彼の姿は本当に見るに堪えないものだったな…」

 

「そんな事件があったなんて!

奴らは人を何だと思っているの!?」

 

悔しさに拳を握る者や唇を噛む者がいる中、ブランニューはまた怒りに震えそうになる声を無理やり平常に戻しながら言葉を続けた。

 

 

「次の十二人目は新たに百獣海賊団に加入した男です。

監獄という閉ざされた空間で自らの私利私欲を満たす為だけに囚人を斬りつづけ、マゼランによって刑を言い渡されただけでなく

政府を裏切り、百獣海賊団を監獄内に手引きしたと思われる人物!

百獣海賊団、“雨の”シリュウ!!

懸賞金額5億1000万ベリー!!!

 

「薄気味悪い奴だとは思っていたがな…」

 

「この裏切りは許されざる行為ですよッ!」

 

シリュウへの感情を口々に溢す将校達の気持ちを察しつつもブランニューは新たな手配書に手を伸ばし、一度咳払いをしてみせる。

 

 

「ゴホンッ!

十三人目も同じく新たに百獣海賊団に加入した男です。

……奴の危険性はここにいる全員が知っているでしょう。

たった一人でバスターコールを発動させた、この一言が奴の規格外さをもの語っていると言えます…!

誰かに従うような男だとは思えませんが、どうであれ百獣海賊団に加入したのは揺るぎない事実です。

百獣海賊団、“鬼の跡目”ダグラス・バレット!!

懸賞金額20億3000万ベリー!!!

 

「奴の作り出す損害は計り知れんぞ!?」

 

「脱獄によってこれから生まれる被害は想像もつかん…」

 

手配書を愕然とした表情で見やる将校達と同じような思いで、ブランニューは今回の会議の大本命である残りの二枚の手配書を握る。

 

 

「……進めさせて頂きます。

十四人目…もう、奴を知らぬ者などいないでしょうが…

数多くの噂が独り歩きしていた男でしたがインペルダウンでの騒動とマリンフォードの事件にて、奴の本性が明確なものになりました。

あの凶暴な姿はまさに生粋の戦闘狂。

この事実だけでも危険性は計り知れないのですが、奴は周到さも兼ね備えています…!

二度目のマリンフォード奪還作戦へ向けて準備を進めていた場所を特定し、奇襲を仕掛けてくるという行動と情報の速さも脅威であり

…一対一で大将を相手取り、撤退させた実力……間違いなくあの化け物の血を引いています!

百獣海賊団、総督補佐官“百雷の”レオヴァ!!

懸賞金額20億6000万ベリー!!!

 

「…もっと早く対処すべき相手だった!」

 

「そもそも、何故こんなにも百雷のレオヴァの情報は少ないんだ?」

 

「貿易と言うものに手を出しているという事も危険視すべきじゃないか?」

 

小声で近くの者と意見を交わし始めた事で、少しざわつく将校達へブランニューが声を上げる。

 

 

「百雷のレオヴァに対しての意見交換の時間は後程取らせて頂きますので、お静かに願います!

……それでは最後、十五人目です。

最強生物、この言葉がピッタリと当てはまる男は一人だけでしょう。

ナワバリにした島々からは“明王”や“カイドウ様”、“龍神様”と奉られているようですが、これらは恐怖による支配だと思われます!

一刻でも早くこの恐怖で支配されている人々を救う為に、奴を止めなければなりません。

政府などに対する略奪や侵略、あらゆる暴虐を尽くす姿はまさに“鬼”!

百獣海賊団、総督“百獣の”カイドウ!!

懸賞金額48億1110万ベリー!!!

 

「っ……気がめいるな…」

 

「48億…このまま行けば“白ひげ”や“ロジャー”に追い付くんじゃないのか!?」

 

一人の将校の叫びにセンゴクが反応を示す。

 

 

「そうだ。

現時点で、生きている海賊達の中でもカイドウの懸賞金額は頭一つ抜けている!

このまま行けばあのロジャーに追い付くどころか……追い抜く可能性すらあるだろう…」

 

「そんなッ!あの“海賊王”を追い抜く!?」

 

「あ、あり得ませんよ…」

 

「確かに…危険性だけならば正直、カイドウは群を抜いている……」

 

困惑や動揺、強い焦燥感。

様々な反応を見せる将校達にセンゴクは言葉を続ける。

 

 

「そうならない為に情報を共有し、あらゆる意見を交換したく思い

私は今回の緊急会議を開催したんだ!

ぜひ、色んな視点の話が聞きたい。

共にこれ以上の百獣の暴挙を防ぐための案を出してくれ!!」

 

「「「「はいっ!センゴク元帥!!」」」」

 

そうして、センゴクを中心に百獣海賊団への対策会議が幕を開けたのだった。

 

 

 

 





ー補足ー
バレット:カイドウのことは総督呼びしている。
レオヴァにカイドウさん呼びとカイドウ総督呼びの二択を迫られた為、苦肉の策であるが
ちゃんと、総督呼びしている辺り律儀さが伺える。
一応、“先鋒長”という新しい地位が作られるぐらいにはカイドウからも目を掛けられている。

先鋒長:カイドウがバレットの為に作った幹部の称号。
レオヴァ専属の特攻隊長と言う意味合いで作られた。

シリュウ:近衛隊隊長に任命されたのだが、レオヴァの指示により今はまだ専属の部下がいない。
今後のシリュウの変化によっては専属の部下が持てるかも…?

ブラックマリア:懸賞金が原作より低いのは、2年前である為。
ワノ国でばかり仕事をしているので、懸賞金あがり難いかも…?

フーズフー:同じく懸賞金額が原作より低い。
理由は2年前だからと言うのと、まだ関わった暗殺・誘拐事件の全容が解明されていない為。
今後、それがバレたらまたグッと上がる。
(政府の人間に目を付けられているので、基本的の懸賞金額が高いというのもある)

[バレットへの印象など]

カイドウ:曖昧な立場にあるバレットの為に、良かれと思い新しい幹部の座を用意した。(幹部になれば立場も安定するし雑用もやらずに済むだろうと言うカイドウなりの計らい)
“レオヴァと契約しているだけ”というスタンスについても前向きであり、自分にとってのキング達のように“レオヴァ自身の懐刀”になる事を望んでいる。
あと単純に細かいこと関係無しに強い奴は好き。

キング&ジャック:おれのカイドウさんだぞ!と内心バチバチにキレてた兄御と、おれのレオヴァさんだぞ!と表立ってキレてた弟分。
バレットは仕事は真面目にやるので、2人からの仕事振りなどの評価は高いが感情は別問題である。

クイーン:カイドウさんとレオヴァに対しての口の聞き方ァ…!!とは思うが、同じ大看板の二人よりかは荒れてない。
ちゃっかり仕事押し付けられる相手ゲットとか思ってる。
(レオヴァが選んだのでそもそもあまり文句ない)

ベポ:メカ!?カッコいい…!!と変形状態のバレットの周りではしゃぎ回ってたら掴まれて投げられたのがトラウマ。空中でレオヴァにキャッチされたので無傷。
(バレットからしたら危ないし邪魔なのでソフトに掴んで近くのレオヴァにパスしただけなので、かなり気は使った方である。)

ササキ:レオヴァさんが連れてきた=悪い奴じゃねェ!
カイドウさんが認めた=仲間!
という思考回路で酒飲もうと誘ったら断られたのでトボトボと帰路についた。本当に気のいい奴である。

うる&ペー:姉が既に5回喧嘩を売って、5回とも力付くで追い返されている。(結構建物に被害出てる)
そろそろレオヴァに注意されるのではと弟の方がハラハラするという謎現象。

ホーキンス:おそらくバレットから一番まともだと思われている男。
そんなに会話した回数が多いわけではないが、お互いに適度な距離を保てているな…という認識。
ホーキンス自身もバレットは仕事を真面目にやっているので悪い印象はない。


ー後書きー
今回は前に感想欄で、他の幹部の懸賞金が知りたいとのお言葉を頂いたのでそれにお答した回になっております!
少し前にも懸賞金額関係の回があったので少し頻度が早かったかもですが、新世界編行く前にまとめたかったと言うのもあり…!ご了承下さいまし!
それと、会議風にしたらいいのでは?と御意見下さった方の参考に会議風にさせて頂きました…!アイデアをありがとうございます~!

下記、質問箱にて様々なご質問などを下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

流れる日常

 

 

 

「何をやっている!?

早くあれを撃ち落とせッ…!!」

 

そう叫ぶ海軍将校の怒号と同時に一斉に大砲が放たれる。

 

海軍の軍艦へ向けて飛んでくる巨大な怪鳥へ大量の砲弾が魚群のように向かっていき、大空で大爆発が巻き起こった。

 

 

「よし…!命中だ!!

次の砲弾の装填準備を……」

 

海軍将校が指示を出そうとした時だった。

 

突然の強風と共に大空にもくもくと漂っていた爆煙が一気に吹き飛ばされ、青空の中心に傷一つない怪鳥が姿を現す。

 

 

「ば、馬鹿な!!

あれだけの砲撃を受けてっ…無傷だというのか!?」

 

驚愕する海軍将校と海兵達へ向けてまた怪鳥は風を切りながら進んでくる。

そして、軍艦の帆を大きな鉤爪で一直線に斬りつけ旋回を始めた。

 

もう進むことも引くことも出来なくなった海兵達が真っ青な顔で怪鳥の動きを目で追うことしか出来ずにいると、その怪鳥の背から何かが降って来た。

 

少しずつ降って来ているものの正体が見え始め、海兵達に衝撃が走る。

 

 

「う、嘘だろ…!?」

 

「やはり百獣とビッグ・マムは組んでいるのか!?」

 

「駄目だ!奴を船に着地させるな!!」

 

海軍将校の叫びも虚しく、その人物はかなりの上空から降下してきたにも関わらずスタッと軽い音をだけを立て、軍艦へ舞い降りた。

 

 

「……無駄だ、そんな銃はおれには効かん。」

 

「ぜ、全員!射てッ…!!

囲めている今が好機だ!」

 

一斉に海兵達が大男に向かって銃を射つ。

しかし、大男は全ての銃弾を変形して躱してしまった。

 

それにより、着地点を失った銃弾は仲間である筈の海兵同士へ牙を向く。

 

 

「うわぁ!?危ないっ…」

 

「グッ…腹にっ…!!」

 

「痛ぇっ……なんでおれを射つんだ!?」

 

「くそ、何故全て避けられる!?そう言う能力なのか!?」

 

大男は勝手に自滅して騒ぐ海兵達に小さく溜め息をつくと、おもむろに手で甲板に触れた。

 

 

「…“流れモチ”!!」

 

その声が海兵達に届くと、一瞬で床が真っ白なモチへと変化する。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「ぐぅッ……身動きが取れん!」

 

「なっ!

う、動くと体が沈むぞ!?」

 

「ひっ……こんな…!どうすれば!」

 

またざわざわと騒がしくなり始めた海兵達など気にした様子もなく、大男は更に軍艦を餅へと変えていく。

 

船としての機能を果たせなくなり始めた軍艦が大きく傾き、浸水が始まると海軍将校が焦った表情を隠すこともせずに叫んだ。

 

 

「くっ!なんてことを!!

貴様、我々諸とも海に沈む気だな!?」

 

足が餅に捕まっている為に、沈没し始めた船から逃げることも叶わぬ海軍将校の必死の形相を何の感情も籠らぬ瞳で大男は見やった。

 

 

「お前達と海へ沈むつもりは微塵もない。」

 

「っ…どちらにせよ!

貴様もこのままでは無事ではすまんぞ!!!」

 

海軍将校の言葉に呆れたように大男は息を吐く。

そして、完全に傾いた船のマストへと飛び退くと声を上げた。

 

 

「レオヴァ!」

 

そのまま大男はマストから海へ向かって飛び降りる。

 

突然、能力者が海へ身を投げたことに海軍将校は目を見開いたが、大男が海へ落ちることはなかった。

 

目にも止まらぬ速さであの怪鳥が現れ、大男を背に乗せてまた上空へと舞い上がっていったのだ。

 

 

一瞬自らの乗っている軍艦が傾いてしまっている現実を忘れ、唖然と空を見上げていると

上空へ消えた筈の怪鳥がまた軍艦へ迫り来ていた。

 

 

「……!?ま、まずい!!!」

 

その言葉が発せられると同時に傾いていた軍艦に強い衝撃が走り、船の表と底が入れ替わる。

 

大きな水飛沫(みずしぶき)を上げながら転覆した船を見下ろし、怪鳥が大きく口をあける。

すると、バチバチと光が溢れ、光線のようなものが軍艦を襲う。

 

その光線は軍艦だけでなく海にまで影響を及ぼし、大きな水柱が立つ程の衝撃と電流であった。

 

海面で必死に踠いていた海兵達が一瞬で動かなくなり、死んだ魚と共にプカプカと浮き始めたのを確認すると、ようやく怪鳥はその場から飛び去って行くのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

大きな鳥が島に降り立つと、その背からシャーロット・カタクリと言う大海賊の幹部が地面へ飛び降りてくる。

 

そして、カタクリが鳥の方を振り向くと巨大な鳥は人の姿へと形を変えていた。

この男の名はレオヴァ。

カタクリと同じく大海賊の幹部であり、百獣のカイドウの実子である。

 

 

しかし、本来は敵同士である筈の二人は思いの外穏やかな雰囲気で会話を始めた。

 

 

「まったく、打ち合わせもなしに船から飛び降りるとは…

おれが間に合わなかったらどうするつもりだったんだ。」

 

眉を下げるレオヴァにカタクリは小首を傾げる。

 

 

「レオヴァ、お前が間に合わないなどあり得ない。

それにおれが船からお前の名を呼び、飛ぶ未来は“見えていた”だろう?」

 

最初からレオヴァが間に合わないという可能性など考慮していないと取れる発言に、レオヴァは次に言おうとしていた小言を飲み込んだ。

 

 

「…見えてはいたが……はぁ、まぁいいか。」

 

諦めたように笑うレオヴァにカタクリも小さく笑い返すと、本来のすべき事の為に会話を戻す。

 

 

「それよりもだ、レオヴァ。

今回おれ達の貿易の邪魔をしてきた海軍は潰せたが……百獣とウチが同盟関係にあると間違った情報が送られている可能性が高い。

……そうなると少し問題がある…」

 

難しい表情をするカタクリの言いたい事を察したレオヴァが口を開く。

 

 

「それは分かってるさ、カタクリ。

ビッグ・マムは百獣(おれ達)に思うところがあるんだろう?

…だが、心配は無用だ。

その可能性も考慮して薬を撒いてあったんだ。

戦闘前からあの軍艦の電伝虫は使用不可能な状態になっていた…恐らく詳しい情報は流れていないだろう。」

 

レオヴァの言葉にカタクリが微かに目を見開く。

 

 

「……あの偵察に行くと先に様子を見に行った時か?」

 

「そうだ。

どちらにせよ、情報の流出はおれも避けたかったからな。」

 

「電伝虫を使用不能にする薬か……そんなものがあるとは初めて聞いたな。」

 

感心したように頷くカタクリにレオヴァはまた小さく笑う。

 

 

「カタクリ、そろそろ貿易の話に戻さないか?

……だが、せっかく入れた紅茶は冷めてしまってるか…」

 

「問題ねェ、アイスティーにすればいいだけの話だ。」

 

「…確かにそうだな。」

 

一瞬肩を落としたレオヴァだったが、カタクリの提案に笑顔を取り戻すと元居た場所へ向かって歩きだした。

そして、少し遅れてカタクリもレオヴァに並んで歩き出す。

 

二人は近況を話しながら貿易の話し合いの為に作られた家へと足を進めるのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

所変わり、ワノ国にて。

 

 

珍しく任務を終えた日が重なった幹部達はカイドウを待つ為、控え室で顔を合わせていた。

 

 

ジャックは待合室の中央にて五人掛けのソファーを椅子のように使いながら、報告書に不備がないか確かめており。

 

その右側のソファーにはローが足を組みながら腰掛け、刀の手入れをしている。

 

更にローの正面にはフーズ・フーが口をへの字に曲げながら、なにをするでもなく長い足を持て余しながら煙草の煙を吐き出しており。

 

そして、そんなフーズ・フーの隣のソファーではスレイマンが新しい部下の名前と顔を一致させるべく、黙々と一覧表に目を通していた。

 

 

4人全員が無言を貫く中、待合室にある急須(きゅうす)で茶を入れていたドレークが真ん中のテーブルに人数分の茶を並べ始める。

 

ドレークが茶を配り終え、空いているソファーに腰掛けると4人はそれぞれ、その行動に軽い礼を述べた。

 

 

「相変わらず、気が利くなドレークは。

おれも見習わなければ…」

 

スレイマンからの素直な称賛の言葉にドレークは小さく笑いながらも、首を横に振った。

 

 

「いや、おれが飲みたかったからついでだ。」

 

「自分が飲む時に周りにも、と思える心遣い…ドレークらしい。

レオヴァ様も良く褒めているのを聞くぞ。」

 

「っ……そんな大層なことじゃないだろう。」

 

邪気のない言葉とレオヴァの名に少し照れたのかドレークは無理やりぶっきらぼうな声を作る。

 

そんな光景を見ていたフーズ・フーがニヤリと口角を上げながら、話に入ってくる。

 

 

「くくっ…なんだよ、ドレーク。

嬉しいなら嬉しいって言っちまえよ。」

 

「フーズ・フー!別におれは!」

 

ムキになるドレークを見て、フーズ・フーはまた口角を上げる。

そんなやり取りをしていると、刀の手入れを終えたローが口を開いた。

 

 

「じゃあ、ドレーク…お前、レオヴァさんに褒められてたって聞いて嬉しくねェのか?」

 

思わぬ方向から追い討ちをかけられて、面食らった顔をしていたドレークの横からスレイマンが割り入ってくる。

 

 

レオヴァ様から褒められて嬉しくない者がいる筈がない…!!

ドレークもそうだろう?」

 

完全に同意してくれると信じている瞳でスレイマンが振り返って来た事で、ドレークは観念したように口を開いた。

 

 

「…ぐっ…う、嬉しいに決まってるだろう!」

 

やけくそのように本音を吐いたドレークにフーズ・フーが声を上げて笑い、その正面でローも小さく笑った。

 

こうして、いつものように何気ない話をしていた4人だったが書類を置いたジャックの一言で場の雰囲気が変わる。

 

 

「……明日、レオヴァさんが例の貿易から帰ってくる。」

 

このジャックの言葉に4人が一斉にジャックを振り向いた。

 

 

なに!?レオヴァ様が帰ってくるのか!?

っ~~!お会いするのは1ヶ月振りだ!!!」

 

「おい、聞いてねェぞ。

レオヴァさんが帰って来るのは5日後じゃなかったのか?」

 

「レオヴァさんが!?

早い帰還だな…ビッグ・マムとの取引が予定よりスムーズに終わったという所か?」

 

「待てよ、ジャック。

なんでテメェがここにいる誰よりも先にその話を知ってんだ?」

 

バラバラの反応を返してくる4人にジャックは表情を変えずに答える。

 

 

「キングの兄御からの情報だ、間違いねェ。」

 

情報元がキングと聞き、本当にレオヴァが帰ってくると確信した4人の表情が明るいものになる。

 

…が、何かに気が付いたのかフーズ・フーがジャックをマスクの下から鋭い目付きで見上げた。

 

 

「……で、そのレオヴァさんが帰って来るって情報をおれ達に共有する狙いはなんだよ?」

 

訝しむフーズ・フーの言葉に三人が確かにと頷いて見せた。

 

 

「言う通りだな。

普段なら黙ってレオヴァさんを港で待つお前が何故おれ達にそれを教えるんだ。」

 

このローの言葉通り、基本的にここにいる5人はレオヴァの帰還を知っても互いに教え合うことは滅多にない。

 

その理由は単純だ。

遠征や貿易から戻って来たレオヴァはカイドウからの命令で2日ほど休みを取らされる。

そして、その休日を共に過ごす約束を取り付ける為には誰よりも早くレオヴァに声を掛けなければならない。

所謂、早い者勝ちというやつである。

 

その為、今回のジャックのようにレオヴァの帰還を教えるという事は何か裏がある……そう思われてしまった訳だ。

 

フーズ・フーとローは訝しげな目をジャックに向け、スレイマンとドレークが不思議そうに首を傾げているとジャックが口を開いた。

 

 

「……教えた理由は一つ。

今回はおれがレオヴァさんに声をかけるから邪魔するんじゃねェ…って事を言う為だ。」

 

この一言で部屋に殺気が立ち込め始める。

 

 

「…あ"ぁ"?」

 

「ふざけんな、ジャック!」

 

「貴様っ…!

そんなことが許されると思っているのか!?」

 

「……なぜ、レオヴァさんとの時間を譲らなきゃならない。」

 

もしこの部屋に部下達がいれば全員顔を真っ青にして動けなくなるであろう程の殺気を全身に受けながらも、ジャックは眉ひとつ動かさずに続ける。

 

 

「うるせェ!!

おれは今回を逃せば、次は3ヶ月後だ!!!

テメェらはせいぜい1ヶ月だろうが……黙って今回は譲れ…!」

 

ジャックが鬼の形相で4人を睨み付けるが、4人は一切怯む素振りはない。

むしろ眉間に青筋を浮かべながら言い返し始めた。

 

 

「んな事言って、テメェ何かとレオヴァさんとの休日の権利奪ってるじゃねェか!

ジャックとロー、テメェらはそろそろ遠慮ってモンを覚えたらどうだよ、なァ!?」

 

「フーズ・フー、なんでおれまで遠慮しなきゃなんねェんだ!

そもそも、ジャック!お前結構レオヴァさんと色んな所に遊びに行ってるって情報は回って来てんだぞ!?」

 

「確かに…フーズ・フーの言うようにジャックやローは少し周りに譲ってくれてもいいと思うが?

ローもベポとレオヴァさんと三人で良く出掛けているんだろう?」

 

「待て、貴様ら!!レオヴァ様の休日を邪魔立てするなど!!」

 

「「「「スレイマン、お前が言うな!!!」」」」

 

一秒前まで争っていた4人がピッタリのタイミングでスレイマンに向かってさけんだ。

 

しかし、当の本人は何故突っ込まれたのか分からずにキョトンとしてしまっている。

 

一瞬、待合室に訪れた静寂をドレークが破る。

 

 

「……言わせてもらうが、ジャック。

確かにお前は大看板の仕事などで多忙であり、レオヴァさんと休日を共にする回数は少ないかもしれない。

だが!任務関係での同行率は断トツだろう!

少し前のバレットの研修も付いて行ったらしいじゃないか?」

 

ドレークの言葉にジャックはぐぅの音も出せずに押し黙る。

 

すると続くようにフーズ・フーが口を開いた。

 

 

「今回ばかりはドレークの意見におれも同意だ。

何でレオヴァさんとの時間を多く取れるお前に譲らなきゃなんねェのか理解できねェぜ。」

 

ジャックの口がだんだんとへの字を描いていく。

そんな中、ローも口を開いた。

 

 

「早い者勝ち……ってのが暗黙の了解だっただろ。

譲ってくれって言われて譲るような奴、ここにいるわけねェだろジャック。」

 

呆れた様な顔で溜め息混じりに溢したローに、ジャックの眉間の皺が増えていく。

そして続けてドレークとスレイマンも口を開く。

 

 

「ローの言う通りだな。

何故、おれ達が黙って譲ると思ったのか…」

 

「そうだぞ、ジャック!

レオヴァ様は貴様だけで独り占めしていい方ではない!!」

 

ブチッ…と小さな音が部屋にいた者達の耳に入った次の瞬間。

テーブルが目に求まらぬ速さで宙を舞った。

 

 

「ならテメェらを動けなくしてから、おれはレオヴァさんに声をかけるまでだ!!

どいつもコイツも好き勝手言いやがって!!」

 

珍しく噴火したジャックに4人が構える。

 

 

「上等だ、テメェ!!

逆にブッ飛ばしてレオヴァさんとの休日はおれが貰う!ついでに大看板の座もな!!」

 

「フンッ…お前らが動けなくなればレオヴァさんとベポと花の都に行けるって訳か……悪くねぇ。」

 

「危ないだろう、ジャック!

貴様らには一度灸を据えてやる!!」

 

「ま、待て!

ここで暴れたらカイドウさんにっ……」

 

ドレークの制止も虚しく、4人の大乱戦が始まるのであった。

 

  

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

昨日(さくじつ)に勃発した大乱戦はカイドウの

『テメェら城壊して何してやがるッ!!

止めねェか!!周りを見ろ!!!』

という特大ブーメラン発言により、無事終わりを迎えた。

 

他の誰でもないカイドウに怒られたことにより5人は肩を落としながら自室へと戻って行き、暫く反省していたとかいないとか。

 

 

話は変わり、鬼ヶ島城内にて。

 

大乱戦の理由とも言えるレオヴァは既に帰還し、自室でペット達の手入れを始めていた。

 

その隣ではホーキンスが珍しげにレオヴァのペットを眺めている。

 

実は港にてレオヴァを迎えたホーキンスが、ちゃっかり休日に約束を取り付けていたのだ。

 

部屋で自由に動き回るペットの軍隊ドッグ達を一匹ずつブラッシングしていくレオヴァと、微動だにしないホーキンスという絵面はかなり珍しい。

 

 

そんな、ただレオヴァの隣に座っているだけだったホーキンスの膝の上に軍隊ドッグの子犬が無邪気に飛び付いて来た。

 

 

「っ……レオヴァさん…」

 

突然じゃれ付いて来た子犬をどうすれば良いのか分からずに、ホーキンスは困惑したようにレオヴァの名を呼んだ。

 

しかし、レオヴァはブラッシングの手を緩めることもなく、小さく笑うだけだ。

 

 

「…これは……どうすれば………レオヴァさん。」

 

ホーキンスがまた困ったような声で名を呼ぶと、ついにレオヴァが吹き出した。

 

 

「ふふふっ……お前がそんな動揺したような声を出すのは組手以外じゃ見たことがなかったが…ふふ…」

 

面白いと肩を揺らすレオヴァの上機嫌な声色につられて、周りにいた軍隊ドッグ達が尻尾を振りながら集まっていく。

 

レオヴァの周りをブンブンと尻尾を振りながら歩き回る軍隊ドッグを横目にホーキンスは困ったような表情のままレオヴァを見続ける。

 

すると、やっと助ける気になったのかレオヴァがブラシを置いてホーキンスの側まで移動し、また腰かけた。

 

やっとこの生き物から解放されると安心したホーキンスだが、どうやらレオヴァは少し違う考えだったようである。

 

 

「ホーキンス、下から手を近づけて首の辺りを撫でてみろ。

……優しくだぞ?」

 

「はぁ…撫でる…?」

 

意味が分からないと眉間に皺を寄せたホーキンスにレオヴァは首を傾げる。

 

 

「ホーキンス、お前。

今日おれのペットの世話を見たいと言ったじゃねェか。

興味があったんじゃないのか?動物達に。」

 

「……いえ、まぁ…興味はありましたが……」

 

動物にではない、と言い出す前にレオヴァの手がホーキンスの膝の上にいる子犬へと伸びる。

 

すると子犬は自らレオヴァの手に顔をすりすりと寄せ、少し高めの鳴き声を溢していた。

 

 

「…こんな感じで撫でてやればいい。

自分から膝に乗ったってことは、ホーキンスを気に入ったんだろう。」

 

「これが、おれを?」

 

不思議そうに子犬を見下ろすホーキンスにレオヴァが小さく笑いながら返す。

 

 

「ホーキンス、“これ”じゃねぇ。

その子犬は“ハチトー”だ。」

 

「ハチトー…?

成る程……ところで、何故ハチトーと言う名に?」

 

何気なくホーキンスが名前の由来を尋ねる。

 

 

「80匹目の子犬だったからな。

8と10でハチトーだ。」

 

あまりにもな由来にいつもの冗談か?と勘ぐったが、自信ありげに答えたレオヴァの表情を見るにおそらく本気で考えた名前なのだろうと察し、ホーキンスは一瞬の沈黙の後に返事を返した。

 

 

「………分かりやすい名で良いかと。」

 

「そうだろう!

クイーンからは凄い駄目出しを受けたが、ホーキンスなら分かってくれると思ってたんだ。」

 

自分の言葉を素直に受け止め、嬉しげに笑うレオヴァからホーキンスはそっと目を反らし子犬を見た。

 

……決して後ろめたくて目を反らした訳ではない。

先ほどレオヴァに言われた通りに子犬を撫でる為に目線を移しただけである…とホーキンスは心の中で誰に向けてか分からぬ言い訳をしつつ、子犬へ手を伸ばす。

 

そっと喉辺りに触れると、子犬はチラッとホーキンスを見たが抵抗する素振りはない。

 

なので、ホーキンスはレオヴァがやっていたように手を動かしてみることにした。

 

少しの間そのまま撫でていると、子犬があくびをしてホーキンスの膝の上で寝てしまった。

 

その考えられぬほど無防備な子犬の姿にホーキンスは半分呆れつつ、起こさぬよう体の動きをピタリと止める。

 

 

「凄いな、ホーキンス。

存外、お前は動物との相性が良いのかもしれないな。」

 

「……おれが、ですか?」

 

そんな事はないだろうという気持ちが顔に出ているホーキンスに、レオヴァは言葉を続けた。

 

 

「そうだ。

…実はな、殆どの生き物はキングを怖がって側に寄らないんだ……この軍隊ドッグ達も例外じゃなくな。

だが、あの狛鹿はホーキンスが手綱を握っていたとはいえキングを恐れつつもちゃんと指示に従っていただろう?

おれはそれを凄い事だと思っている。

動物が本能で恐怖を感じていながらも逃げ出さずに共に来るというのは、信頼関係がしっかり出来ている証拠だ。

日頃から手入れや世話も欠かさずにしているんだろう?」

 

「…ありがとうございます。

おれの狛鹿なので、世話は確かに自分で…」

 

ホーキンスの返事にレオヴァは小さく頷くとまた話し出す。

 

 

「ふふふ、ホーキンスはしっかりしているな。

狛鹿だけでなく部下達への面倒見の良さもそうだが、自分で決めたことは最後までやり抜く意思の強さも…

ホーキンスを連れ帰った父さんの目に狂いはなかったわけだ。

うちにホーキンスが来てくれて、本当によかったなァ…」

 

最後のレオヴァの独り言にホーキンスは僅かに口角をあげ、目を細めた。

 

 

「……あの時のおれの判断は、間違っていなかった。」

 

小さく呟いたホーキンスに、レオヴァは穏やかに笑いかけた。

 

 

 

 

 






ー後書きー
あと3~5話ほどは新世界前の小休止ということで、番外編のようなものとか新世界前の情報まとめ関係のお話を書かせて頂こうと思っております。

新世界編からは出来るだけ原作の“重要情報”と相違点が出ないようにしたいので、おだ神様の連載再開を待ちつつ…という理由でございます。
(例のプルトン最新情報的なのが今後どんどん出てきそうなので…)

と、言うわけで今回の話はツイッターと質問箱で頂いたコメントを反映させた形の小話となりました。

なにか、「これどうなってるの?」というような事があれば下記の質問箱やなどにお寄せ頂ければ話か後書きで書かせて頂きます。(ハーメルンでの回答希望と記入お願いします~!)

下記、質問箱リンク
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio

後書きまで読んでくださりありがとうございます。
ご感想やコメント、ここ好き一覧も本当に励みになっております~!
誤字報告下さる方々にも感謝!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未知と無知

 

 

キングはある島でリスト化された大量の素材を集める仕事を任されていた。

 

 

それらの素材は取り扱いが非常に危険なモノから、手に入れる為に巨大なモンスターを倒さなければならないモノまで多岐に渡っている。

 

中には他の部下では集めるどころか島から生還することも難しいものも数多く存在している。

 

その為、レオヴァから研修を受けたキングやドレークという危険物への知識を持っており、尚且つ実力の高い者がこの素材調達の仕事を任されることが多いのだ。

 

このリスト化された素材はレオヴァの作る開発品やクイーンの絡繰魂(カラクリ)武器には必須である為、百獣海賊団にとって欠かせぬモノなのである。

 

 

そんな重要任務の為に島に滞在していたキングは電伝虫から聞こえる声に耳を傾けていた。

 

 

「……といった感じでな。

おれの薬と合わせれば殺さずに生かすことも出来るし、本当に面白いウイルスだ!」

 

「なるほど。

それは使い方次第で敵対組織を長期的に弱体化することも可能になりそうだ。」

 

「ほう…敵対組織の弱体化か。

場合によっては治療薬の販売や譲渡をチラつかせれば取り込みにも使えそうだな…」

 

受話器越しで少し考え込んでいるであろうレオヴァにキングは小さく笑う。

こういうキングのちょっとした発言からも新しい可能性を見いだそうとする姿勢は昔から変わらない。

 

そんな事を思いながらもキングは本題に話を戻すべく口を開いた。

 

 

「レオヴァ坊っちゃん、思考の腰を折るようで悪いが…

合流はどれくらいで出来そうだ?」

 

声にハッとしたのかキングの手の上にいる電伝虫の表情が変わる。

 

 

「すまない、そうだった…合流の話の途中だったな。

予定ではあと3時間もせずに島に到着する見込みだ。

積る話は到着して、キングの顔を見ながらするとしよう。」

 

明るいレオヴァの声にキングはマスクのしたに浮かべた小さな笑みを崩さずに答える。

 

 

「あぁ、レオヴァ坊っちゃん。

その話、楽しみにしてる。」

 

普段の刺々しさをまったく感じない声に電伝虫の向こう側のレオヴァが微笑む気配を感じつつ、キングは受話器を置いた。

 

 

「……レオヴァ坊っちゃんと2人での任務は久方ぶりだな。」

 

そう呟いた声は珍しくも、ほんの少し弾むような声色であった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

あの連絡から数時間が経ち、合流を果たしたキングとレオヴァはある生き物を探しに、薄暗い洞窟を進んでいた。

 

この洞窟は地下深くに位置するようで、地上と比べると20度以上も気温が低くなっている。

 

氷で出来ていると思われる壁が増え始めたタイミングで、レオヴァは脇に抱えていた上着を羽織り直した。

 

キングは横にいるレオヴァの吐く息が白くなっているのを横目で捉えると、予め準備していた松明に自ら火を灯し差し出した。

 

 

「レオヴァ坊っちゃん、寒いのは好きじゃねぇだろ。

これでも使ってくれ。」

 

「ありがとうキング、助かる。」

 

レオヴァは松明を受けとると笑顔でキングに礼を述べた。

 

 

「それにしても同じ島でここまで気温に変化があるとはな…

あの生き物、“ギィギネ”の生息地は冷たい場所と言う読みはあながち間違ってはいないかもしれないな。」

 

そう楽しげに言うレオヴァにキングも口を開く。

 

 

「取り付けた追跡装置はここを示してたんだ。

今回もレオヴァ坊っちゃんの想定通りだろ。」

 

「そうだと良いな。

読み通りなら、この場所に巣もある筈だ。

と、なれば素材も多く手に入れられて助かるんだが…

あと欲を言えば3匹ほど生捕りにして研究所に持ち帰りたいな!

あの特殊な体液は生きている個体からしか採れないんだ。」

 

「生捕りか、前回の生き物は船で大量の水を吐いて結局駄目になったからな……」

 

前に生捕りにしたヘンテコ生物を思いだし、キングは遠い目をした。

 

こんなに笑顔でレオヴァが持ち帰りたがると言うことは、きっと今回もとんでもない生物なのだろうとキングは察する。

 

そう、キングはカイドウとレオヴァの“ちょっと気に入ったら拾ってしまう”という悪癖を良く理解していた。

そして同時に、その悪癖を止められないと言うことも身に染みて知っていたのだ。

 

特にレオヴァの拾い癖は役に立つことも多い反面、面倒が起きる事が多いのも事実であった。

 

 

だが、キングはそんな2人の悪癖で苦労することがあっても、決してそれを否定しなかった。

 

カイドウの、その悪癖のお陰で今のキングがいると言っても過言ではなかった事や

レオヴァも、その悪癖からジャック達や武器に薬品など役に立つもの達が数多く存在する事が主な理由だった。

 

 

そんな事を思いながら洞窟を進んでいたキングにレオヴァが声をかける。

 

 

「キング、あれを見てくれ。」

 

レオヴァが指を指す方に目線を移し、キングは微かに目を見開く。

 

 

「ギィギュルルルル…」

 

鳴き声なのか、不快な音を出す生き物が壁を這っている。

体の表面はテカテカと光を反射させており、動くとスライムのような音が静かな洞窟に僅に響く。

 

肌の色や質感は、かの有名なマルメタピオカガエルに似ていながらも姿(すがた)(かたち)は全く(こと)なっている。

 

手足はヤモリともカエルとも言えない形をしており、何故か頭や尻尾と思われる部位が長い。

今までレオヴァが見付けた個体も3から4mほどあると聞いていたが、目の前にいるコイツは8mは(ゆう)にあるのではないかという大きさだ。

 

そして極めつけは顔である。

目がない……だけならば、まだ良かった。

剥き出しになっている口からは不揃いな牙がびっしりと並んでおり、牙の間から滴っている粘り気のある液体は異臭を放っているではないか。

 

 

そんな普段は絶対に見掛けない様な見た目の生き物(モンスター)にキングは諦めた様に目を細めつつ、レオヴァを伺う。

 

横目で見たレオヴァの顔は松明に照らされており、良く見えた。

……それはもう嬉しそうな表情が。

 

 

「今まで地上で見た個体の中で一番の大きさだ…!

いや、しかし2倍以上はあるな……もしかしたら近縁種であるだけで別の生き物の可能性もあるか…

それか今まで見てきたギィギネは全て幼体だったのか?

完全に成体になると洞窟から出てこなくなり、結果発見されることがなかったという可能性も十分にありえるな!

それか雄や雌…何かしらの条件で成長限界が変わってくるという可能性もあるのか……いやしかし、今までの個体は雌雄同体のような体の作りだったようにも思える……どう思う、キング?」

 

目をキラキラさせながら語るレオヴァへ、キングが溜め息混じりに向き直った瞬間だった。

 

 

「ギィ~!!ギュルルルゥウ!!!」

 

耳を塞ぎたくなるような音を目の前のギィギネが発すると、洞窟の至る所からうじゃうじゃと大量の同種が現れた。

 

目の前にいるギィギネは8mから9mほどあるが集まって来た個体は3mから4mないほどの、レオヴァから聞いていた通りの大きさの個体だ。

 

しかしいくら半分ほどの大きさとは言え、川から出てきたばかりのカエルやイモリのようにテカテカと光り、足があるにも関わらずうねうね動く約4mほどの生き物が数十匹も集まって来ては、流石のキングも不快感でマスクの下の眉を顰めた。

 

 

「「「「ギュルルルルル…ギィギィ!!」」」」

 

何十匹ものギィギネが鳴き声だかなんだか分からぬ音を発し、ペタペタぐちゃぐちゃと洞窟に音を響かせながら此方に迫ってくる。

 

反射的に殺そうと刀に手を掛けたキングを、レオヴァの明るい声が遮る。

 

 

「見ろ、キング!!

やはりギィギネは群れで生活する生き物だっただろう!

恐らくあの個体が群れのボスで間違いないな。

そうなると、やはり地上に出ていたギィギネは働き蟻のようなもので…今見付けた巨大な個体が女王蟻のように命令を出し指揮をとっているのか?

という事は知能的な面はこの島にいる生き物の中ではかなり高い可能性が……」

 

「ッ…レオヴァ坊っちゃん!!」

 

いつもの長考を始めようとしていたレオヴァをキングの声が現実に引き戻す。

 

 

「あのデカイのを生捕りにしてェってのは理解してるが、他の気色の悪ィモンスター共は焼いて良いのか!?」

 

キングが掌から炎を出すと、レオヴァは慌てたようにその炎を消した。

 

 

「駄目だ、キング。

ここは天然の氷の洞窟でもあるんだぞ?

下手に温度を上げては予期せぬ陥没が起こる可能性がある!!」

 

神妙な顔を作りながら(・・・・・)、襲い来るギィギネを感電させて動きを止めるレオヴァの顔をキングはじっと見つめると、徐に口を開いた。

 

 

「それは建前だよなァ、レオヴァ坊っちゃん……本音は?」

 

「…………一気に焼き払わずに生態を観察したい。

どれだけの集団行動力があるのか、知能指数も気になる。

あと出来ればボス個体だけでなく、良さそうな通常個体も厳選したいんだ。

あぁ、勿論洞窟の陥没の件も本音だが…」

 

一瞬気まずそうな顔をした後に、つらつらと言葉を並べたレオヴァに小さく溜め息を吐くと、キングは炎を仕舞い再度刀に手を掛けた。

 

 

「……炎は使わないが、厳選するには数が多すぎる。

軽く減らすくらい構わねェだろう、レオヴァ坊っちゃん。」

 

「あぁ、構わねェ。

ボス個体には傷をつけないでくれれば良い。

ふふふ、ちょうど襲われた時の反応や攻撃方法も調べたいと思っていたんだ。

毒を使う生き物は襲われた時にこそ、本来の力を発揮する場合が多いからな…!」

 

上機嫌なレオヴァの返事に頷くと、キングは刀を振り下ろした。

 

一度のキングの動きで近くにいた3匹が声もなく、洞窟の天井から床へぼとりと落ちてくる。

 

切断された個体が未だにウネウネと小さく動いていることに、またレオヴァの瞳が興味深げに見開かれる様子をキングは見て見ぬ振りをした。

 

しかし、そんな中でもギィギネ達は恐れる素振りもなく此方に近付いて来てはレオヴァの電流の罠にかかり、動けなくなっている。

 

その様子にまたレオヴァは饒舌になっていく。

 

 

「成る程、知能はあまり高くはないのか?

集団生活をしているなら一定以上の知能はあるものだと仮定していたがハズレたか…

それとも好戦的な生き物というだけで、知能が低い訳ではないのだろうか?

だが罠を学習する素振りがないと言うことは……いや、ボス個体の命令に逆らえない何かがあると言う可能性もあるか?

そうなると危ないという本能よりも、ボス個体の命令を優先させる何かが働いているという仮説を立ててみるのも面白いな!」

 

生き生きとしたレオヴァの姿に、また始まったかとキングは特に気にする様子もなく一匹、また一匹と数を減らしていく。

 

刀で斬った時の人間の肉とは違う感覚にキングがそっと目を細めていると、レオヴァの方からギィギネの不快な鳴き声が上がる。

 

何事かとキングが振り返れば、そこにはレオヴァに触られて必死に逃げようと踠く少し体の小さな個体がいるではないか。

 

 

「…………レオヴァ坊っちゃん…まさか、素手で触ってんのか…?」

 

「そうだが…?」

 

何か問題でも?と言いたげなレオヴァの顔にキングはマスクの下の口元を若干引き吊らせる。

 

 

「……ソレには毒性があると言ってなかったか?」

 

「問題ない、この程度の毒はおれには効かないからな。

それよりもこの体液、なかなか面白いぞ!

想像よりも粘性が高い……相手の傷口にしっかりと付着するように進化したのだとしたら、かなり効率的な進化の形だな。

牙で傷をつけた部位に毒を確実に付着させる手段……ふむ、これは武器や罠にも応用出来るぞキング!」

 

「……そう…か。

まぁ……レオヴァ坊っちゃんのお眼鏡に適ったんなら、おれはそれで良いが…」

 

爽やかに答えると再びギィギネのぬちゃっとした体液に触れ、観察を再開したレオヴァにキングは、そういう問題じゃねェ…と思いながらも遠い目をするだけで文句を飲み込み、言葉を濁すのであった。

 

 

 

あれから10分もしない内に持ち帰る個体の捕獲を済ませたレオヴァとキングだったが、問題が(しょう)じた。

 

合計5匹のギィギネ達は運ぶには大きすぎたのだ。

ボス個体は約8mほどあり、通常個体でさえ約4m弱もある。

これを5匹も船まで運ぶのはなかなかに骨が折れる作業だろう。

 

当初レオヴァが背に乗せて運ぼうという案を出したのだが、これをキングが断固拒否。

 

結果、2人でどうやって運ぼうかと頭を悩ませているのである。

 

 

「……やはりおれの背に乗せて運ぶのが手っ取り早いんじゃないか?」

 

「駄目だ。

レオヴァ坊っちゃんにそんな事をさせたとあっちゃ、カイドウさんに合わす顔がねェ。」

 

レオヴァは昔からカイドウの名を出されると弱い。

説得の言葉を続けることなく、レオヴァは新しい案はないかと思考を巡らせるのだった。

 

 

 

なんやかんやあったが結局、5匹のギィギネは拘束の一部を解かれた後キングとレオヴァの二人から殺気を向けられ、逃げる方向をコントロールされた事で無事船へと誘導された。

 

 

突然気色の悪い巨大な生き物が船に向かって駆けずって来たことで船員達が野太い悲鳴を上げたのは言うまでもないだろう。

 

思わず臨戦態勢に入った船員達だったがレオヴァの『捕獲準備を!』と言う声に武器を仕舞い、瞬時に檻の準備を整えた動きは流石と言わざるを得ない。

 

まさに彼らこそプロの捕獲隊だろう。

入隊していたばかりの部下なら気を失っているか、逃げ出していたに違いないのだから。

 

 

そんなこんなでギィギネを捕獲したレオヴァは上機嫌で船へと乗り込み、部下達は引きつった笑みを浮かべながら出港の準備を整えていた。

 

 

「それにしても…まさかあんなヤバい見た目の生き物を連れ帰ることになるとはなぁ……」

 

「おれはうっすら察してたわ…

だってあれの小さいのをレオヴァ様が見つけた時、すっごい笑顔だったからな……10年もここにいりゃ察するなって方が無理な話だぜ。」

 

「それはそうと……あの一番デカいの8mは余裕であるだろ?

航海中に暴れられたらヤバくねぇか?」

 

同僚の言葉に荷積みをしていた者達がサッと青ざめる。

 

 

「い、いや!レオヴァ様もキング様もいらっしゃるんだぜ!?

あんな…あんなモンスターくらい屁でもねェよ!」

 

「そそそ、そうだよな!」

 

「………キング様ならテメェらでどうにかしろって言ってきそうだぜ…助けてはくれねぇんだろうなぁ…」

 

「「おい!そういう現実味のあること言うなよ!?」」

 

思わず突っ込みを入れ、騒がしくしていると別の同僚から注意が飛んでくる。

 

 

「お前ら遊んでねェでさっさと終わらせるぞ!

キング様にしばかれてェのか!?

それに急がねェとレオヴァ様がまた新しいモンスター拾ってきちまう…」

 

最後の一言で同僚達が一斉にテキパキと手足を動かし始める。

 

 

「これ以上は勘弁だぜ!?

ソッコーで終わらせるぞ野郎共ぉ~!!」

 

「「「「うおお~!急げ!!」」」」

 

一致団結した百獣船員(クルー)の働きで普段の二倍の早さで出港準備が完了したと、後の鬼ヶ島での宴で語られるのは…少し未来のお話である。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

百獣海賊団がマリンフォード奪還軍を襲撃したと言う事件が話題に上がってから暫くの時が流れた頃。

 

一部の海賊達の間でとある噂が流れていた。

 

それは

“百雷のレオヴァの懸賞金額はハッタリである”

というものである。

 

 

懸賞金額がハッタリとは…?

最初にこの噂を聞いたものは皆がこう思うだろう。

 

そもそも懸賞金額とは世界政府や海軍が決めるものだ。

いち海賊がハッタリなどで金額を誤魔化せるものではない。

 

しかし、何故かこの噂は一部の者達には強く信じられていた。

 

 

そんな謎に信じられている噂の全容はこうだ。

 

まず、そもそもレオヴァが強いというのが嘘である。

インペルダウンの崩壊はバレットが主犯であり、マリンフォードの陥落も同じくバレットと四皇二人によるものが大きく、レオヴァはそれに乗っかる形で名を上げた。

……というものである。

 

だが、これだけでは疑問が残るだろう。

 

いくら上手く乗っかろうとも、それで20億の金額が付くのか?という疑問だ。

 

噂ではその疑問の答えはこうだった。

 

自分達がやられた相手の共犯が小物では示しがつかない。

だから政府は“百雷”という二つ名と、20億以上の懸賞金額を百獣の息子につけたのだろう。

なにより強くなくとも、“脅威”という意味では十分すぎる人物だというのは確かなのだから。

 

…というものだった。

 

世界政府が面子(メンツ)を気にすることは多くの者が知っている事であり、この噂はそんな海賊達には確かに信憑性が高く聞こえたのだ。

 

 

そして更にこの噂の信憑性に拍車をかけることになったのが、レオヴァの貿易の話だ。

 

“百獣製”、今では知らぬ者の方が少ないほど認知度が高い一部の商品を表す言葉であり

これは百獣との貿易で手に入れられる品として一種のブランドのようなものになっていた。

 

信頼性や安全性、値段や流通量など様々な要因から色んな国や島がこぞって百獣海賊団と貿易をしたがるようになった事も合わさり、無法者の海賊達でさえ認知しているほどだ。

 

 

そんな百獣製の貿易の核を担っているとされるのが、百獣のカイドウの息子である。

というのは、マリンフォードの事件より前から知られている事実だった。

 

ここで、海賊達はこう思ったのだ。

百雷のレオヴァはやはり本当に“強くない”んじゃないか?…と。

 

貿易ばかりしていたのは戦えないからだ、と言うのは前々から噂されていた。

 

それに本当に強いのなら何故、今まで何もなかったのか。

それが海賊達には理解出来なかったのだ。

 

力があれば貿易などしなくとも、奪えばいい。

それが彼らにとっての世界の常識(・・・・・・・・・・・・)だ。

 

 

百雷のレオヴァが強いのではなく、近くに化け物のように強い奴らがいる事と世界政府の陰謀によって、たまたま懸賞金額が跳ね上がった。

 

そう考えれば、噂を信じる海賊達にとっては辻褄が合うのだ。

 

その結果、今流れている噂を信じる者が増えてしまったというのが事の顛末であった。

 

 

そうして、出所不明(・・・・)の噂は少しずつ広がって行った。

 

だが、これだけでは終わらなかった。

 

 

『百雷のレオヴァを生け捕れば、30億ベリーで交換してやろう!』

などと、政府加盟国である幾つかの国が手を組んでとんでもない事を言い出したのだ。

 

そんな国々の思惑は単純すぎるものだった。

 

百雷のレオヴァは貿易が上手く、更にその品々を作る技術に長けているという。

加えて、戦闘能力が高くないという真実味のある噂まであるじゃないか。

 

……ならば、我々が利用しよう。

 

金に目が眩んだ国々の“お偉方”はそういう結論に至ってしまっていたのだ。

 

そして、噂を信じきっている海賊達はその話に我先にと食い付いた。

なにせ30億だ、乗らない手はない。

 

 

現在レオヴァがワノ国から出て来ているという情報を手に、海賊達は意気揚々とその男の首を取りに船を進め始めていたのだ。

 

 

……しかし、そんな不穏な動きに気付けぬような百獣海賊団ではない。

 

実は今回、レオヴァがキングと共にワノ国を出ていると情報をわざと流出させていた。

 

餌を撒く事でレオヴァの捕縛を本気で狙っている者達を見つけ出し、片付けることが目的だったのだ。

 

そうして、狙い通り不届き者達の所在は突き止めた。

……のだが、如何せん数が多い。

 

結果、幹部達はそれぞれが手分けして不届き者達を排除する流れとなったのであった。

 

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

レオヴァを狙っている海賊達への襲撃作戦が開始される1時間程前。

 

船に乗って現場へと向かっている男の表情はとてつもなく険しいものであった。

 

普段の黒いコートではなく、深い青緑色の軍服に身を包む厳格そうな顔立ちの男こそ百獣海賊団幹部、近衛隊隊長スレイマンである。

 

 

「あの様な根も葉もない噂…!

挙げ句にレオヴァ様を捕縛だと?……身の程知らず共がッ!!

絶対的に許さん…レオヴァ様の姿を拝む事さえさせぬぞ…」

 

唸るような声を出すスレイマンに同意するように部下達は強く頷く。

 

流石はスレイマン直属の部下と言うべきか。

今、この船の上にいるもので怒りを露にしていない者は一人もいなかった。

 

前々からスレイマン直属の部下は過激派だのとクイーン達から揶揄されていたが、事実彼らは過激派であった。

 

全員の瞳には、噂を流した誰かも分からぬ愚か者と不届き者共に対する怒りと憎悪が渦巻いている。

 

『レオヴァ様に対する不敬、許すまじ。』

と全面に出ている集団は処すべき海賊達の停泊している島へ、そっと船を寄せるのであった。

 

 

 

一方、その頃。

 

他にも襲撃作戦の開始の合図を待つ男がいた。

 

島に停泊している海賊達に気付かれぬように潜むその男は濃い隈を目の下にたずさえ、白地に黒の斑模様の帽子を深くかぶっている。

 

そして何より目を引くのが、上着を羽織っていても見える全身にあるタトゥーだろう。

 

彼こそがトラファルガー・ロー。

スレイマンと同じく、近衛隊隊長の座を任されている百獣海賊団幹部である。

 

 

「……チッ、呑気に酒盛りか。」

 

討伐対象を監視出来る位置から睨みを利かせているローに部下が慌てたように小さな声を出す。

 

 

「キャ、キャプテン。

あんまり殺気立つとばれちまいますよ!」

 

「…分かってる。

それより、お前ら……しっかり包囲出来てるんだろうな?」

 

ローの問い掛けに部下は大きく頷く。

 

 

「もちろんですよ、キャプテン。

レオヴァ様に不敬を働こうなんて馬鹿は、皆殺しッスよね!」

 

「フッ…分かってんなら、いい。」

 

小さく笑ったローに部下もニヤリと笑い返す。

 

 

「……あとは開始の合図を待つだけだな。」

 

ローの呟きは、木の間を吹き抜けた風にかき消された。

 

 

 

ほぼ時を同じくして別の島でも、作戦開始の合図を待つ男がいた。

 

その男は無駄なく鍛えられた大きな体に軍服を纏い、自身の存在を一切悟らせることなく闇に紛れている。

 

この男の名はダグラス・バレット。

ここ最近、百獣海賊団に入ったと言われている男であり、短期間で先鋒長という幹部の座に任命された程の実力者だ。

 

 

そんなバレットの目下(もっか)にはまるで戦争の為の簡易基地のような作りの建物が広がっていた。

 

だが、このような構造はバレットの勝手知ったる所である。

 

全てを見ずとも、中の作りを予測出来るのだ。

それだけ“戦争”は身近なものであったし、きっとこれからもそうなのだろうとバレット自身は思っている。

 

 

忙しなく動き回る海賊達の様子を冷めた目で見下ろしながら、バレットは補給食をかじった。

 

 

「この程度でおれを倒した男を殺れると、本気で思ってやがるのか…?」

 

これは心からの疑問だった。

 

バレットにとってレオヴァは“あの男”以外で初めて、一対一の正面からの闘いを制した男だ。

 

小細工もなにもない。

ただ自分の強さのみを出し切る、純粋な“力”の応酬だった。

 

油断もなく、慢心もない。

全てを出しきった末の敗北。

40年以上の人生で二度目の、心から認められる“敗北”だ。

 

そんなレオヴァにこの程度の戦力で挑もうとする奴らがバレットには理解出来なかった。

 

同時にふつふつと怒りが込み上げてくる。

 

レオヴァが侮られるという事は、自分が侮られていると言う事と同義だ。

 

 

“自分が認めた男”がナメられているという事実は、バレットにとって許せる事ではなかった。

 

 

眼前に広がる海賊達の簡易基地を睨むバレットの瞳に映る感情は怒りだ。

 

その怒りはどこから来るのか。

それは未だ、バレットでさえ完全に解ってはいない感情だった。

 

 

 

作戦開始まで、あと35分。

 

 

 





ー後書きー
次回はスレイマン、ロー、バレットの任務偏になる予定です!
長くなったので前後半に分けました!

今回もここまで読んで下さりありがとうございます!
ご感想やここ好き一覧、誤字報告など本当に感謝です~!

──────────────────────────────

下記、質問箱にて様々なご質問などを下記にて募集しております!
https://peing.net/ja/hmln_ss_motio

ちなみに冒頭のノリが好きな方はツイッターで番外編(三次創作?)的なモノのを書いて下さっている方がいるので…是非。2ちゃんパロもあるよ(*´-`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

百獣の報復

※読む人によっては少し残酷に感じる描写あり、苦手な人はスキップ推奨





 

 

『作戦開始だ、誰一人逃がすんじゃねェぞ!!?』

怒りに満ちたクイーンの声がそれぞれ別の島で待機していたスレイマン、ロー、バレットの三人の電伝虫から響いた。

 

 

スレイマンは黄金で基地を呑み込んだ。

 

ローは“ROOM”を発動させ、逃げ場を奪う。

 

バレットは島を監獄へと変え、見た目も変容させていく。

 

 

それぞれの島に、悲鳴がこだました。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

男達は首のない死体(・・・・・・)を踏み越え、船へ向かって必死に走っていた。

 

浜辺にさえ辿り着けば船がある。

そうすれば逃げられる、そんな希望を持ってなりふり構わずに走っていたのだ。

 

しかし、現実は男達に牙を向いた。

 

 

「なっ……なんだよこれは!!?」

 

「どうなってる!?……この(きん)はなんだよ!」

 

「そんな…ウソだ、ウソだ!!

これじゃあ、まるでッ……」

 

檻じゃないか!

そう、男が言葉にすることはなかった。

 

ぼとり。

地面に男の首が1つ転がっていく。

 

二人の男はそれを視界に捉えると、ガチガチと震えながら後ろを振り返った。

 

僅に足音を立てながら震える二人に近付いて来た男は半身にべったりと反り血を付けている。

 

手に握るサーベルからはポタポタと鮮血がしたたり、その姿はまさに二つ名通りであった。

 

 

「く、“首はね”スレイ…マン……」

 

震える声で呟いた男はその場から動かない。

……いや、動けなかった。

下半身が黄金で固定されてしまっているのだ。

 

 

逃げるべき道は黄金の壁に阻まれ、動かさなければならない足は黄金で固められている。

 

もう、逃げ場などなかった。

 

 

スレイマンがサーベルを男の首の上へ(かざ)す。

 

 

「黄金に囲まれて死ねるんだ。

貴様らのような貪欲な人間になら、本望だろう?」

 

冷たい声だった。

 

恐怖に震える男が思わずスレイマンの顔を見上げてしまう程に。

 

そして見上げた男が最期に見たのは、冷たい声とは正反対の

怒りと憎悪に燃えたぎるスレイマンの瞳だった。

 

ぼとり。

またひとつ、地面に転がる首が増えた。

 

 

たった一人になった男は、恐怖で滲む瞳でスレイマンを見た。

 

ゆっくりとスレイマンが、振り返る。

 

表情はない。まるで亡霊のように。

しかし、瞳に全ての感情を宿していた。

 

男は全てを悟った。

もう、助からない。

自分は触れてはならぬタブーに触れたのだと。

 

サーベルが男の首へと振り下ろされた。

 

ぼとり。

この島で生きていた不届き者の最後のひとりの首が、地面を転がっていく。

 

 

スレイマンは祈るようにサーベルを胸の前へと掲げる。

 

 

「あの方の尊き光は、何人たりとも犯してはならぬのだ。」

 

その姿は忠義高き騎士そのものであり、まるで絵画のようであった。

……その人物が血塗られてさえいなければ。

 

 

島を覆っていた黄金が解かれていく。

 

 

「…不敬な輩は全て、このスレイマンが首をはねて見せましょう。」

 

月明かりに照らされるスレイマンの口元には、かすかに笑みがあった。

きっと彼は“尊き光”が微笑んでくれる未来を想像したのだろう。

 

『良くやった、スレイマン。

やはりお前に任せて正解だった……これからも頼むぞ。』

こう言って微笑みを向けてくれるに違いない。

スレイマンはここにはいない彼に想いを馳せるのだ。

 

 

国に裏切られ、存在を誰にも必要とされなくなったあの時。

手を差し伸べてくれた人の為。

 

あの人の為ならば、スレイマンに不可能などない。

 

あの人と我らが総督。

そして出会えた同志達が笑っていられるのならば。

他を斬り捨てることに、なにを躊躇する必要があるのか。

 

 

懐から出した布で、スレイマンはサーベルについている血を拭った。

 

そのまま血を吸い重くなった布を捨て去ると、遠くから部下達が走ってくる音が聞こえてくる。

 

 

「「「スレイマン様っ!」」」

 

部下達が揃って名を呼ぶ。

そっと振り返れば、きっちりと列を成した部下がこちらを見ていた。

 

 

「お前達……港は首尾良くいったのか?」

 

「「「はい!抜かりなく!」」」

 

ぴったり揃った返事にスレイマンが満足そうに笑う。

 

 

「よし、では……おれが首をはねに行こうか。」

 

「全員並べてあります。」

 

「そうか、気が利くな。」

 

その言葉に部下は嬉しげに一礼すると、歩き出したスレイマンの後ろに続いて行く。

 

 

「レオヴァ様に不敬を働いたのだ……逃すことなく全員裁かなくてはならん。」

 

早足で進むスレイマンの言葉に後ろに続く部下達は尤もだと、強く頷き返すのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

とある諸島にて。

 

 

比較的小さな無人島は、あり得ない姿へ変貌を遂げていた。

 

生い茂っていた筈の木々は全てが一定の長さに切断され、無理やり島全体を見通せるように変えられている。

 

隠れる場所など何処にもない。

そう言わんばかりの島の状態はかなり異常だろう。

 

しかし、そんなものが可愛く思えてしまう光景が砂浜に広がっていた。

 

山のように、バラバラになった人間だったモノが積まれているのだ。

 

だが、それだけではない。

それらは生きている(・・・・・)ようであった。

 

まるで人形のように積まれている四肢はわさわさと蠢いており、胴体は下手くそな美術作品のように継ぎ合わされて1つの塊になっている。

その山積みされた部位たちには謎の虫が皮膚の中を這い回っているのが見てとれる。

 

そして、極め付けは(おびただ)しい数の頭部が乱雑に並べられている砂浜の光景だろう。

全ての生首が、離れた胴体を謎の虫に食い破られる感覚に声にならない声を口から溢れさせている。

 

 

常人がこの場に立てば正気を保てずに気を失うだろう光景を前にしても、(まだら)模様の帽子をかぶった男は(おのの)く様子もない。

 

それもその筈。

この普通では考えられない光景を作り出した人物こそ、今砂浜の上に平然と佇むトラファルガー・ローなのだ。

 

 

ローが立っている月明かりがぼんやりと照す砂浜では、穏やかな波の音と生首達の嗚咽と悲鳴が入り交じっている。

 

無表情だったローは微かに口元を三日月形に歪めながら言葉を発した。

 

 

「……そんなに楽になりたいのか?」

 

ローの問い掛けに生首達は一斉に口を開く。

 

もう勘弁してくれ。

どうか楽にしてほしい。

おれ達が悪かった。

そして、最期には生首達は口を揃えて同じ単語を繰り返す。

『許してくれ』『許してください』と、何度も何度もだ。

 

ローは目を細めて、笑う。

 

 

「……分かった。

もう、楽にしてやるよ。」

 

生首達は一斉に安堵の表情を浮かべる。

 

彼だけが、生首達を元の姿に戻せる。

この終わりの見えない地獄を終わらせられる人物なのだ。

 

 

「ベポ、楽にしてやれ。」

 

そうローが言うと、真っ白なクマが一ヶ所に纏められた生首の胴体達へ大量の液体を撒いた。

 

同時に砂浜は絶叫に包まれる。

 

鼓膜が破れるのではないか、と思うほどの阿鼻叫喚っぷりに真っ白なクマことベポは両手で耳を塞ぐ。

 

 

「うぅ……キャプテン~…耳痛いよ~!」

 

小走りでこちらに寄ってきたベポにローは呆れたような声で返す。

 

 

「…数時間はうるせェだろうから先に潜水艇に戻っててもいい。」

 

「ありがとう、キャプテン~!

先戻ってるね……んん、やっぱり凄く、うるさいね…」

 

生首達を忌々しげに一瞥すると、ベポは潜水艇へと戻って行く。

 

その姿を見送ると、ローはまた絶叫し続ける生首達を見下ろした。

 

 

「あと数時間もすれば薬品で活性化した虫に全身食われて楽になれる。

何せ、痛覚の繋がった胴体が無くなるんだからな。

……まぁ、首だけでも生かせる器具もあるから安心しろよ。」

 

嗤うローの表情は薄暗い感情が溢れていたが、ふっと表情が消える。

 

 

「本当に楽になりたきゃ、レオヴァさんを連れてこいなんて馬鹿な事を言い出した奴らの名前をさっさと吐け。」

 

生首達は必死に知らない、分からないと叫ぶ。

すると、ローはゴミを見るような目で生首を見下ろした。

 

 

「知らない、か。

それは散々聞いた。

おれは名前を言え(・・・・・)って言ってるんだ。

知ってるか知らないかは関係ねェ。

……思い出せる名前がねェなら、そのまま全身を食われる感覚を楽しめ。

生首だけになったら、最期はクイーンの実験室行きだ…良かったな。」

 

無情に言い捨てると、ローは部下が用意した椅子に腰かけた。

 

そして医学書を片手に持つと、咽び泣く頭部達を視界から外す。

 

 

「……レオヴァさん、今回はどんな生き物捕まえてんだろうな…」

 

脳裏にレオヴァを思い描いた。

 

きっと今回も珍しい生き物相手に目を輝かせているだろう姿を想像して、口元を緩める。

 

ローはレオヴァの楽しげな表情が好きだ。

 

珍しい生き物を見つけた時。

変わった文化に触れた時。

ローやジャック、ドレーク達に冗談を言ったり少し意地悪な事を言う時。

研究で新しい可能性を見つけた時。

普段のキリッとした表情から一変し、レオヴァは本当に楽しそうに笑うのだ。

 

そんな暖かなレオヴァが、ローは好きだ。

 

 

だから、許せなかった。

 

レオヴァを見下されることも、侮られることも。

百獣海賊団(おれたち)から“心臓(レオヴァ)”を奪おうとしたことも。

全てが許せることではなかったのだ。

 

ローにとって、カイドウとレオヴァは“絶対”だ。

どちらが欠けてもならない。

2人がいる場所こそがローの居場所であり、安息の地だ。

 

それを(おびや)かそうとする者に慈悲はない。

 

簡単に死なせるなんてもっての他だ、とローは考える男だった。

 

だから、普段ならば使用を禁止されている“虫”を使ったのだ。

レオヴァお手製の、とびっきりの苦痛を与えるべく。

 

そして最期に首だけになったまま生き長らえる馬鹿共はレオヴァの目に触れさせることなく、クイーンに渡そうと考えていた。

 

きっとあの男なら、想像を絶する苦しみと絶望を与えるだろう。 

……裏切った“あの助手”が受けたような苦痛と絶望を。

 

 

ローは左腕を月明かりにかざす。

少し穏やかさを取り戻しつつ、ローは雷を司る巨鳥のタトゥーを見て微笑んだ。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

所変わり、ある大きな無人島。

 

そこにあった基地は跡形もなく消え去り、地形が大きく変形している。

いくつものクレーターが点在している有り様は、まるで巨大なモンスターが暴れた後のようだ。

 

そんな無人島にいる男達は青ざめた顔で上空を見上げていた。

ゴゴゴゴ…と巨大な何かが引き摺られているような音の方へ目線を向ければ、見たこともないような化け物が存在していた。

 

巨人とも違う、まるで山のような大きさの化け物はゆっくりと。

しかし、確実に島の反対側から男達のいる場所へと辺りを引き潰しながら移動している。

 

もはや、あんな怪物は人智の及ぶところではない。

 

勝てるわけがないと、男達は絶望するしかなかった。

 

銃も剣も、大砲さえ効かない。

それどころか武器も全てを呑み込んで、あの化け物は前進してくるのだ。

 

大地の磨り減る音が、どんどんと男達へ近付いてくる。

 

逃げ場はない。

この島にあった筈の海への道は消えたのだ。

あの化け物の能力によって、全て。

 

巨大な化け物が眼前に迫る。

 

大きく振り上げられた拳が、男達の最期の記憶だった。

 

 

 

 

残滅を終えたバレットは纏っていたものを瓦礫へと帰す。

 

バラバラと崩れていく光景を背に、一人だけ生かしてやっている男を閉じ込めた檻を見る。

 

檻の中にいる男は恐怖から呼吸のリズムがめちゃくちゃになっており、瞳は見開かれ体は小刻みに震えていた。

 

バレットは苛立ちを募らせる。

何故こんな小物にレオヴァを見下されなきゃならないのか。

 

もし、ここに居たのがレオヴァならこんな無様は晒していない。

寧ろバレットの“鎧”をあの時のように全て剥がし、心踊るようなぶつかり合いを楽しめていた。

 

レオヴァなら…レオヴァは……

苛立ちからぐるぐると回る思考を、バレットは無理やり止めた。

 

 

「……違う、なんでまたレオヴァが出てくるんだ!!」 

 

瓦礫の山をバレットが殴ると、そこには()だけが残った。

 

自分の思考に何かと顔を出すレオヴァを心の中から追い出しつつ、男の入った檻を持ち上げる。

 

怯えた情けない声を出す男を無視してバレットは帰りの船へと戻っていく。

 

 

化け物が消えた島に、恐ろしいほどの静寂が訪れた。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

ここは、とある世界政府加盟国。

 

裕福な貴族達が住む都市部はあらゆる贅を尽くされた作りになっている。

 

きっと誰もが羨む都市と言っても過言ではないと、この国の貴族達は下品な笑みを浮かべるだろう。

 

 

そして今日、貴族達は王宮に集められていた。

なんでも素晴らしい報告があると言うのだ。

 

豪華なシャンデリアに照らされる大きなホールに、国中の貴族達が一堂に会していた。

 

すると、音楽隊のいかにもな音と共にホールの上に続く階段の扉が開かれた。

 

召使いにより両開きの扉が開くと、より一層贅沢な服に身を包んだ男女が降りてくる。

 

この男女こそが、この国の王とその妃であり

名をアンシベル国王と、ペルデンテ王妃と言う。

 

国王は重そうな腹を抱えながら、のそのそとホコリ一つない階段を美しい王妃と共に降りてくる。

 

そして国王はホールに降り立つと、口を開いた。

 

 

「よく集まってくれた。

皆が知っての通り、今日はめでたい日だ!!」

 

瞑れた蛙のような顔の男が声をあげ終えると、媚びたような顔の貴族達が一斉に歓声を上げる。

 

その様子に満足したように国王は頷くと、召使いが用意した椅子に腰掛けた。

 

 

「では、早速だが

このパーティーを開催した理由を話そうか…!」

 

「おぉ!早速でございますか!!」

 

「いやはや、非常に気になりますなぁ!」

 

「アンシベル国王陛下から、直接聞けるとは!

我々は果報者ですな!!」

 

食い付きのいい反応に国王の笑みが深まっていく。

そのまま静かに手をかざし、貴族達が口を閉じると国王は自慢げに語りだした。

 

 

「今回、我が国は……“百雷”を手に入れた!!」

 

“百雷”という単語に貴族達がざわめき始める。

だが、それを国王はまた手の動きだけで静めると言葉を続けた。

 

 

「少し前に、取引をしていた者達から“百雷”を捕らえたと言う連絡が来た。

明後日には、我が国に奴が手に入ることになるのだ!

もう、我が国の発展は約束されたものとなった。

奴を利用すれば多くの国を属国にすることも、新しい兵器や薬を開発させることも出来る!!」

 

鼻息荒く語る国王に貴族達はそれぞれの反応を示していく。

 

ある貴族は国王と同じように欲にまみれた笑みを浮かべ、またある貴族は顔を真っ青にさせて俯いた。

 

けれど、国王に貴族達の顔色など見えていない。

今あるのは素晴らしい事を成し遂げた自分への称賛と、これから手に入るだろう全てへの喜びだけだ。

 

 

「私は!これから全てを手に入れるぞ!!

もう世界政府の顔色を伺う必要もなくな…」

 

国王の言葉は最後まで紡がれることはなかった。

 

変わりに貴族達の耳へ届いたのは王宮の天井を突き破って降ってきた巨大な火球が国王を包んだ音だった。

 

一瞬の静寂。

 

そして、弾けるように貴族達の悲鳴や困惑に満ちた声がホールを満たした。

 

全員がなりふり構わずに出口へと走り出す。

前にいる人間を押し倒し、倒れた者を踏みつけ我先にと唯一の扉を目指していく。

 

 

誰よりも速く扉へ辿り着いた貴族の男が、消えた。

ただ、下半身のみを残して消えたのだ。

 

砕け散った扉の破片と共に、下半身だけになった貴族の男が倒れる。

 

その男の近くにいた女が悲鳴を上げ、狂ったように顔を拭い始める。

必死に、男だった破片が触れてしまった顔を。何度も何度も。

 

いつまでも泣き叫びながら顔を拭う女へ、壊れた扉の前にいた大男が棍棒を投げつけた。

 

ぐちゃり。

またホールに静けさが訪れる。

 

大男は唯一の出口であり、入り口を手で押し広げながらホールへと踏み入った。

 

 

長くうねる真っ黒な髪からのぞく白い角。

怒りが刻まれたかのような眉間のシワに、鋭い眼光。

 

この場にいる誰もが知っていた。その大男の名を。

 

 

「……ひゃ……百獣のカイ、ドウ……」

 

大男、カイドウはゆっくりと先ほど投げた棍棒の方へ歩いて行き、長年手に馴染んだそれを取る。

 

下敷きになった女が露になり、またフロア全体が恐怖と混乱の叫びで溢れかえる。

 

 

「うるせェぞ!!さっきから耳障りだ!!」

 

カイドウの怒鳴り声がホールに響くと、そのまま貴族達は気を失ってバタバタと倒れていく。

 

 

「おい、クイーン!!」

 

カイドウが叫ぶように呼ぶと、後ろからまん丸とした大男が顔を出す。

 

 

「カイドウさん、気を失わせちまったのかよ!?

意識がある状態で絶望させてやろうと思ってたのによォ…」

 

残念がるクイーンにカイドウは不機嫌さを隠す様子もなく、腰に下げていた瓢箪を手に取り酒を煽る。

 

 

「こいつらは捕まえてハチノス送りだ!!

拷問は任せるが……簡単に殺してやるなよォ!?」

 

「あ~!そういう感じッスかァ?

んじゃ、まぁ…キングのアホとおれでやるんで任せてもらえりゃあ。」

 

合点がいったと頷くクイーンを横目で見ると、カイドウは先ほど火球で開けた穴の方へと歩いていく。

 

 

「ここは任せるぞォ……おれァ、この国を消す。

レオヴァがもう、隠さねェ(・・・・)と言ったんだ。

金輪際、誰だろうがおれの息子を馬鹿にしやがる奴らは皆殺しだァ!!!」

 

そのまま天井の巨大な穴から飛び去っていったカイドウをクイーンは見送ると、ホールの外で控えていた部下に指示を出す。

 

 

「おい、ダイフゴー!!聞いてたよなァ!?

ここにいる馬鹿共を全員生捕りにしとけ!

おれは見つけるべきモンを見つけてくる。」

 

「へい!QUEEN様ァ!!お任せを!

テメェら、ちゃっちゃとこのグズ共を縛り上げるぞ~!!」

 

「「「「おお~!」」」」

 

 

ドスドスと足音を立てながら王宮の奥へと消えたクイーンへ軽く会釈し、ダイフゴーは貴族達を拘束するべく動き出す。

 

 

「ふざけやがって、このクソ貴族共…!

テメェらみてぇなのがレオヴァ様の御名前を軽々しく口にしてんじゃねェってんだよ!」

 

苛立つダイフゴーの言葉に同意するように頷きながら、部下達は慣れた手つきで次々と拘束していくのだった。

 

 

 

 

その日、この国の空に一匹の巨大な青い龍が現れた。

 

巨大な龍は中央都市の真ん中に位置する城の上で蜷局(とぐろ)を巻くと、大きく口を開き天を仰ぐ。

 

龍の口からは夜空に浮かぶ太陽のように輝かしい光が溢れ出す。

誰もがその光景に唖然と立ち尽くしていた。

 

 

「“熱息(ボロブレス)”…!!」

 

青い龍の口から幾つもの巨大な火球が空へと放たれ、都市の色んな場所へと降下を始める。

 

まるで太陽が降り注いでいるような、幻想的な光景が広がった。

 

そして、数秒後に都市は火の海と化した。

 

燃え盛る町並みの上を青い龍が舞う。

口から火の光線を放ち、時には尾で建物を破壊していった。

 

死を目前にした人々は都市の中心にある城を忌々しげに見つめている。

 

そこには空に浮かぶ船があった。

 

きっと王族や貴族はあれで逃げているに違いない。

自分たちがゴミのように焼け死んでいくのに、奴らは助かるんだ。

そう、全ての平民が思い。怨念を貴族達に向けた。

 

 

ついぞ、平民の中にその船が地獄行きだと知る者はおらず。ただ等しく死を迎えるのであった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

バレット達がそれぞれの島の制圧を終え、カイドウが国を滅ぼしている頃。

レオヴァは海賊島ハチノスへ向かう船の中に居た。

 

 

珍しいギィギネという生き物も捕まえ、上機嫌なレオヴァは鼻歌でも歌い出しそうな勢いで紅茶を淹れている。

 

部屋には甘酸っぱい香りが漂っており、椅子に腰掛けていたキングが片眉を上げる。

 

 

「珍しいな、レオヴァ坊っちゃん。

ずいぶん甘ったるい香りだ。」

 

紅茶を淹れ終えたレオヴァは振り返り、マスクを外しているキングの瞳を見て楽しげに笑う。

 

 

「ふふ、最近新しくブレンドした紅茶なんだ。

一杯どうだ?

匂いは少しキングには甘すぎるかもしれないが、砂糖さえ入れなければ味にそんなに甘味はない。」

 

「ほう。

前々からジャックから聞いて少し興味があった、一杯もらえるか?」

 

「もちろんだ。

そうだ、キング。

今度ジャックの淹れたものも飲んでみるといい。」

 

「……ジャックが淹れられるのか?」

 

少し驚いた顔をするキングにレオヴァは紅茶をカップに注ぎながら答える。

 

 

「あぁ、おれが教えたからな。

ジャック専用のティーセットも作った。

まだ完璧ではないが、ジャックにしては美味いものを淹れてくれるぞ。」

 

その光景を思い出したのか微笑ましげに笑うレオヴァにキングも小さく笑う。

 

 

「あのズッコケジャックが紅茶…?

レオヴァ坊っちゃんのこととなると必死なのは昔からだが、紅茶とはなァ。

まったく似合わねぇ……くくく」

 

笑いを噛み殺すキングの前にティーカップを置き、レオヴァは正面の椅子に腰掛ける。

 

 

「ふふふ、確かに似合わねェな。

だが、ポットを睨み付けながら頑張るジャックはなかなか…」

 

同じく笑いを噛み殺しているレオヴァを見て、愉快そうにキングは目を細める。

 

 

「ふぅ…少し笑いすぎたか。

で、レオヴァ坊っちゃん。

これはこのまま飲んでいいのか?」

 

「そうだな、ミルクもあるが……キングならストレートで飲む方が良いかもしれねェな。」

 

「そうか。」

 

ティーカップを持ち上げ、ぐいっと飲んだキングが少し固まる。

 

その顔を見てレオヴァは思わずと言うように吹き出した。

 

 

「ふはははは!!なんだ、キング!

そんな顔に出るほど口に合わなかったか?」

 

「……その反応、分かってて飲ませただろう…レオヴァ坊っちゃん。」

 

渋い顔をするキングとは正反対にレオヴァは笑う。

 

 

「ふふ、いや…すまねぇ。

これはキングには甘すぎたなァ……ふふふ。」

 

「ったく……“また”か。

カイドウさんのあの言葉が嬉しくてはしゃぐのは分かるが、おれを巻き込むな。」

 

呆れたような声色だが、キングの表情は明るかった。

 

 

「つい、な。

父さんの件もそうだが、久方ぶりにキングと二人だけでの遠征だっただろう。

昔を思い出して久々に“悪戯”をな?」

 

「フッ…確かに“二人だけ”ってのは数年振りだ、懐かしいな。

……で、この紅茶はなんて言うんだ?」

 

「これか?

これは“ピエロ”だ」

 

「ピエロ…?

また随分なネーミングセンスだなァ、レオヴァ坊っちゃん?」

 

からかう様に笑うキングに、今度はレオヴァがムッとしたような顔で反論する。

 

 

「違うぞ、キング。

今回はちゃんとした理由がだな…」

 

「…へぇ?

なら聞かせてくれるか、そのちゃんとした理由(・・・・・・・・)ってのを。」

 

試すような視線を向けて笑うキングに、レオヴァは自信たっぷりに答える。

 

 

「これはフルーツと花びらを何種類も使ったから茶葉が鮮やかなんだ。

それだけでなく最初のひと口と後味の変化も面白い!

……というわけで“ピエロ”と言う名に決めた、どうだ?」

 

珍しくどや顔を披露するレオヴァの正面に座るキングは沈黙の後に、もう我慢出来ないとばかりに手を口の前にかざす。

 

 

「フッ…ククク……そりゃあ、レオヴァ坊っちゃんらしいネーミングだ。」

 

肩を揺らすキングにレオヴァはきょとんとした顔を向けるが、またそれが彼のツボに入ったのか暫く肩を揺らしていた。

 

 

「……今回はかなり自信があったんだが…」

 

「あぁ、レオヴァ坊っちゃん。

あの肉団子野郎のクソくだらねェ冗談の100倍笑えたぜ。」

 

「…………キング、それは褒めてねェ。」

 

拗ねた時にカイドウがする表情と同じ顔でじっと見てくるレオヴァに、またキングは笑う。

 

 

穏やかな時間を送る二人を乗せた船は、真っ暗な海を進むのであった。

 

 

 





ー捕捉ー
今回、カイドウさんが使用した“ボロブレス”はアニメ版とバウンティラッシュで使用されている火球をいくつも出す方の“ボロブレス”です。

カイドウ:かなりブチギレ
今回の残滅作戦の指示を出した本人。
部下に偽りの連絡をさせて王族と貴族を一気に捕らええ、国は滅ぼした。(国王殺しちゃったのはうっかりミス)
このあとまた他の国を潰しに行く予定。

クイーン:怒状態だが、思考は冷静。
カイドウと共に国を潰しに来たが、本命はレオヴァに頼まれていた情報収集。

キング:謎生物捕獲後、送られてくる予定の馬鹿共を拷問するためにハチノスへ向かっている。
現在はレオヴァとゆったり中。

・後書き
“ピエロ”という紅茶は実在するので、是非機会があれば飲んでみて下さい~!面白い味がしますよ!笑


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

用意された道

 

 

 

この世界にはある制度がある。

 

それは世界政府に莫大な額の天上金を支払うことで、加盟国という肩書を手に入れることが出来るというものだ。

 

その肩書は地位はもちろん、安全も保証してくれる。

……“安全”の中に入っているのは裕福な一部の人間だけだが、それは大した問題ではないだろう。

世の中は貧しい者に厳しくできているのだ、持たざる者が悪いと裕福な彼らは口々に言うだろう。

この世の中では上の地位の者が白だと言えば、黒も白になるのが普通なのだ。

 

 

そんな、謂わば“勝ち組”と言える加盟国の国々であったが1週間ほど前に報道された事件は、彼らに大きな混乱をもたらした。

 

世界政府の庇護を受けている間は安全だと、誰もが疑っていなかった。

だからこそ、どんなに民が餓えに喘ごうが税を上げ、それでも足りなければ戦争で奪ってまで多額の天上金を支払い続けていたのだから。

 

しかし、世界に発信された事件はそれを覆すものだった。

 

 

“百獣海賊団、世界政府加盟国へ次々に戦争をしかける”

 

加盟国の誰もが耳を疑った。

 

我々に手を出すと言うことは、即ち世界政府に戦争をしかけるも同義ではないのか。

暗黙の了解としてあるものを壊すつもりなのか、と。

多くの裕福な生活を送っている者達は、百獣海賊団の野蛮さに盛大に眉をしかめた。

 

 

だが、極一部の裕福な者は違った。

今回の事件を受け、一斉に“あの人物”へ連絡を取り始めたのだ。

この記事は事実なのか、と。

 

 

 

 

 

鳳皇城には、外交の為の通信室がある。

 

一国の王が使う部屋にしてはあまりに質素だが、上品かつ清潔感のある飾り付けを見れば鳳皇を知る誰もが“彼らしい造りだ”と口を揃えるだろう。

 

ワノ国らしい落ち着いた雰囲気の部屋に自然な配置で存在している植物と、優美さの中に厳格さも感じさせる装飾品たち、全てが主張しすぎることなく部屋を飾り立てていた。

 

 

そんな部屋の中央にあるスクリーンには、映像電伝虫によって10名以上の加盟国の代表である王の顔が並び映されている。

 

映し出されている国王達の視線は、そろってスクリーンの正面に座る青年に注がれていた。

 

 

青年が身を包む卯の花色の着物は、青磁色(せいじいろ)掛衿(かけえり)が良く映えている。

肩には金青色(こんじょういろ)長羽織(ながはおり)を掛け、顔に微笑みを浮かべている、その姿はまさに“ワノ国の王”そのものである。

 

きっと彼を知らぬ者が見れば、どこぞの王族や貴族に間違えるだろうが、彼は生まれた瞬間から“海賊”であった。

 

しかし、そんな海賊らしい雰囲気など一切なくスクリーンに向き合う青年、レオヴァは口を開こうか迷っている様子のネプチューンに声を掛けた。

 

 

「ネプチューン王、聞きたいことがあるなら聞いて欲しい。

その為にこの場を設けたんだ、遠慮は止してくれ。」

 

誰もがほっと安心してしまうような優しい声でレオヴァが促すと、ネプチューンは頷き、口を開いた。

 

 

「…なら、遠慮なく聞かせてもらうんじゃもん。

加盟国への攻撃は正当防衛だと説明は受けたが、新聞ではこれからも続くと書かれていた。その真偽を問いたいんじゃもん。

無論、ワシ含め魚人島の皆もレオヴァを……っ…奴隷にしようなどと企んだ奴らの肩を持つ気はない!

ただ、戦争を始める気なのか(・・・・・・・・・・)と…それが聞きたいんじゃもん!」

 

王としての真っ直ぐな言葉で、レオヴァの顔が真剣な表情へと変わる。

 

 

「ネプチューン王の心配は尤もだな…

だが、今回の件はケジメを付ける為に(おこな)った事だ。

先に手を出された以上、有耶無耶にして終えては新たな被害を生みかねない……それはここにいる国を任される立場の皆なら理解してくれると、おれは思っている。

以上を踏まえて、ネプチューン王の疑問に答えよう。

おれ達は今回の件では(・・・・・・)戦争を起こすつもりはない。

世界政府から攻撃を受ければ、防衛の為に戦うことはあるだろうが……今回の事は既に終わったものとしてとらえている。」

 

完全に言いきったレオヴァにネプチューンが頷き、また口を開く。

 

 

「レオヴァが断言してくれたなら、もう憂いはないんじゃもん!

しかし…ならば何故ニュースクーが運ぶ新聞にはあんな…」

 

ネプチューンの言葉にレオヴァが困ったような表情を見せた。

彼はめったにこう言う表情にならない。

その為、スクリーンに映る王達の顔が心配そうなものに変わる。

 

 

「……新聞に関してだが、ここで皆にその話をするべきか…

いや、世界政府加盟国である皆は……知らない方が良いかも知れないな。」

 

「そんなっ…!」

 

「レオヴァ、我々のことは心配無用なんじゃもん。」

 

「そうですぞ、レオヴァ殿!」

 

「こうして、連絡を取っているのです。

今さら恐れるような真似、しませんよ!」

 

口々に構わないと言い出した王達へ驚いた顔を作った後、すぐにレオヴァは微笑んでみせる。

 

 

「……皆がそう言ってくれるなら、少し話させてくれ。」

 

レオヴァが言葉を紡ぎ始めると、一斉に王達は聞く姿勢へと変わる。

 

 

「…出回っているあの記事は、一部が世界政府の上層部によって都合よく(・・・・)書き替えられているんだ。

奴らはおれ達、百獣海賊団が戦争を起こそうとしていると世界に印象付け、孤立させたいんだろう。

今回の件もそうだ、幾つかの加盟国を使って奴らは攻撃を仕掛けて……勝てる見込みがないとみるやトカゲが尻尾を切るかのように躊躇なく見捨てた。」

 

レオヴァの告白に王達は一斉に息を飲んだ。

確かに多少は情報操作はされているだろうと、彼らも思ってはいた。

けれどそんな、国を使い捨てにするような真似までしているなんて、想像すらしていなかったのだ。

 

絶句する王達へレオヴァは言葉を続ける。

 

 

「守ると約束していながら……現実はこれだ。

自分たちの都合の良いように使い、都合の悪い存在を消そうと企む。

挙句の果てにその泥は全て擦り付け、自分たちは素知らぬ顔で眺めているだけだ。

……奴ら、百獣海賊団が戦争を起こそうとしていると騒いでいる癖に、皆の所に何か連絡はしているのか?

これからどうやって守るのか、もし襲われたらどうすればいいのかの連絡すらなかったんじゃないか?」

 

「……確かに…なにも……」

 

「連絡どころか音沙汰もない!」

 

「そうだ、あの時海賊に襲われていた時も何もなかった!

レオヴァ殿がいなければ……」

 

「レオヴァの言う通り、何も……ないんじゃもん。」

 

 

頭を抱える者や怒りを露にする者、不安を見せる者。

スクリーンでそれぞれの反応を見せる王達に、レオヴァは力強く頷いてみせる。

 

 

「そう、それが世界政府だ。

加護なんて名ばかり……仁義もなにもない。

餓えに苦しんだ時、奴らが何かしてくれたか?

民が奴隷にされていた時、奴らは軍を派遣してくれたか?

……答えは、否だろう。

だからこそ、おれが皆と友好を結べたのも事実だ。

そして、おれなら同盟国をそんな目には遭わせない。

食料が足りないのなら、すぐに送りとどけ新しい食物や家畜の知恵を授けよう。

蛮族が国を襲うのなら、部下と共に助けに駆けつけよう。

百獣海賊団(おれたち)なら、それが出来る!!

 

強い声だった。

彼ならば間違いなく、今の言葉を(たが)えることはない。

そう確信を持てるほどに、強い声だったのだ。

 

王達は、それぞれがレオヴァとの出会いを思い出していた。

 

伴侶を救われ、更には国の唯一の闇であるスラム街に笑顔を取り戻してくれた彼を。

餓えに苦しみ国民の半分が死に絶えた時、理由も聞かずに食料を分け与え、畑まで作ってくれた彼を。

絶え間ない蛮族の襲撃で全てを失いかけた日、国を民を救い、病院まで建ててくれた彼を。

 

ここにいる王達は皆、レオヴァに救われた。

だからこそ、彼の言葉に偽りはないと心から信じられるのだ。

だからこそ、彼の世界政府への怒りを含んだ声に心から感動できるのだ。

 

だからこそ、王達はレオヴァに縋るのだ。

 

 

胸をうたれ言葉が出ないでいる王達に、眉を下げたレオヴァの声が届く。

 

 

「……すまない、少し熱くなってしまった。

皆には皆の立場があると言うのに…さっきの言葉は失言だったな…

しかし、もし本当に助けが必要なら連絡してくれ。

おれは皆が“友”である限り、必ず助けると誓おう。

そしてもし望むのなら……先ほど話した、新しく作る予定のワノ国を始めとした百獣国際連盟への加入も歓迎する。」

 

自信に溢れる声で告げられた内容に、全員が息を飲んだ。

世界政府以外の、国単位の大きな組織を作るという発言に。

 

普通ならば不可能だ、と。

世界政府とその加盟国に潰されて終わりだろうと、誰もが思うだろう。

 

だが、その言葉を発したのは他の誰でもないレオヴァだ。

ここにいる全ての者は知っていた。

この男は不可能を可能にする無限の可能性を秘めていると。

事実、その現場に立ち会った者ばかり。

 

誰一人として無理だと否定する事も、無謀だと笑う事もしない。

それどころか、レオヴァならばやってみせるだろうと確信さえ感じている。

 

 

王達が眺めるスクリーンには、威風堂々たるレオヴァの姿が映っていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

今日は鬼ヶ島での宴の日である。

といっても、宴をすると決まった日があるわけではなく、カイドウが開催すると宣言しただけなのだが…

 

 

鬼ヶ島の準備は万端、あとはカイドウが開始の時刻を迎えるだけだ。

しかし、カイドウにとって一番重要だといえる人物である、レオヴァがまだ仕事から戻ってきていないのだ。

 

8時から開催予定だとは伝えてある。

あの真面目な息子のことだ。きっと10分前になれば宴会場に顔を出すだろうと、カイドウはのんびりと酒を嗜みながら時が来るのを待っていた。

 

 

既に宴会場にはうるティやページワン、ロー達が集まって来ていた。

大看板にササキやフーズ・フーなど任務中で鬼ヶ島にいない者達もいるが、現在島にいる幹部は既に揃っている。

 

各々自由に待ち時間を過ごしていたが、突然立ち上がったうるティがカイドウの方へ歩いて来たかと思うと、不満たっぷりだと言わんばかりに頬を膨らませてみせた。

 

カイドウはそんなうるティを上段の間から見下ろし、軽く首を傾げた。

 

 

「なんだァ?うるティ。」

 

「なんだ~?じゃないし!!

レオヴァ様が前回の殲滅作戦出てないって聞いたけど、本当なんでありんすかァ!?」

 

「っ…!!

お、おいおい!姉貴!!

カイドウ様に噛みつくんじゃねェよ!」

 

「うるさい!ぺーたんは少し黙るでありんすぅ~!

そもそもレオヴァ様がナメられたのに!

分からせる為の遠征に本人居ないんじゃ意味ないじゃん!!カイドウ様馬鹿なの!?

 

うるティが噛みつくように叫んでいると、次の瞬間大きなパンが口に詰め込まれた。

 

 

「んむッ!?」

 

パンが口いっぱいに入っているせいで上手く言葉が出ないうるティが上段の間のすぐ側に座っていたローを睨み付ける。

どうやら、側に置いてあった食べ物を飛ばしてうるティの口を塞いだ犯人は彼だったようだ。

 

ローは少し鋭い視線をうるティに向け、低い声を出した。

 

 

「…さっきから聞いてりゃ、好き勝手言いやがって。

うるティ、お前誰に口利いてる?

カイドウさんに対する言葉遣いがなってねぇ。」

 

「そうだぜ、姉貴!!

ローの言う通りだ……悪い、カイドウ様……」

 

「ん、むぐむぐぅ……ゴクン。

うるせェ~~!!ロー!

キング居ないからってお前がその場所座ってるのも狡いんだよ!!私だってカイドウ様とレオヴァ様の側がいいのに!!!

……って、そうじゃなかった!

カイドウ様、何考えてんの!?レオヴァ様の強さをあのウルトラ馬鹿共に教えてやるいい機会だったのにぃ!!

 

地団駄を踏むうるティを青筋を浮かべたローが“Room”で宴会場から追い出そうとした時だった。

酒を飲んでいたカイドウが、特に怒った様子もなく口を開く。

 

 

「止せ、ロー…構わねェよ。

今日は宴だからなァ、喧嘩はまたにしとけ。

ページワンもだ、小せェことを気にするんじゃねェ。」

 

「……分かった、カイドウさんがそう言うなら。」

 

「ありがとう、カイドウ様!」

 

「で!カイドウ様!!なんで!?

今からでも、私がレオヴァ様と潰してくるでありんす!!」

 

また同じ質問を繰り返す姉をギョッとした顔で振り返ったページワンだったが、やはりカイドウに怒る様子はない。

 

 

「それについては、スレイマンも煩く騒いでたがなァ…

レオヴァは百獣海賊団のNo.2としての仕事だけじゃなく、ワノ国の顔としても(・・・・・・・・・)やることがある(・・・・・・・)

今まで作り上げた“イメージ”を全部壊してまで、レオヴァの“”を全面に出す必要はねェんだよ。

いいかァ?ワノ国ってのが重要だ、この“場所”だからおれは本拠点にしてる。

それは、レオヴァも理解してる…十分すぎるくらいになァ。

だから今日も王ども相手にめんどくせェ話し合いをしてんだ、レオヴァは。」

 

意味がわからないと目を丸くして見上げている、うるティの表情は先ほどとは打って変わり幼さが目立つ。

 

そんな姿にカイドウは小さく笑うと言葉を続けた。

 

 

「あー…要するに、だ。

硬軟おり交ぜるようなやり方……まぁ、飴と鞭ってやつだなァ。

それにはレオヴァに“飴”でいてもらう必要がある。

おれァ……いや、おれ達は“鞭”しか振るえねェからなァ。

今後の為にはバランスが必要だ。

そんでそのバランスを取れるのは(・・・・・・・・・・・・)レオヴァしかいねェ(・・・・・・・・・)

だがなァ、うるティ!

おれもレオヴァをナメられて黙ってるってのはもう我慢の限界だ!!

だからこそ、今回は黙ってんのを止めた(・・・・・・・・・)

レオヴァを馬鹿にすりゃあ、“おれ達”が黙ってねェと知らしめる為になァ。

暫くはまだ馬鹿は湧くだろうが、1年…2年と時が経てば誰もナメた真似はしねェだろうよ。」

 

珍しく饒舌なカイドウの言葉にローとページワンが頷く中、うるティの顔には不満が浮かぶ。

 

 

まどろっこしいでありんす!!

そんなのカイドウ様らしくないし…」

 

「ウォロロロロ…だろうなァ!本当におれらしくねェやり方だ。

…めんどくせェとは思うがレオヴァとキングの案だ。

今後の方針としちゃあ、間違いねェだろう。

確かにうるティ、お前の言うようにレオヴァ自身が恐怖ってのを教えてやりゃあ馬鹿は減るだろうが取れる手段ってのがよォ、減っちまうんだ。

……まぁ、ゴチャゴチャと言葉を並べたが簡単な話だ。

レオヴァを侮るような馬鹿共はおれ達が潰す…それだけだ。

誰だろうが、おれ達がレオヴァを侮らせねェ!!

分かったか?うるティ。」

 

「んん~…難しいけど!

レオヴァ様ナメた馬鹿共は皆殺しってことでいいでありんすか?」

 

「だいたいそんな感じだなァ。」

 

「分かったでありんす!!

レオヴァ様は私達が守るナリ~!!

 

少し前にハマっていた語尾を付けて、フンッと胸を張るうるティの言葉にカイドウは微かに目を丸くしたが、すぐに楽しげな笑い声を上げた。

 

 

レオヴァを守る(・・・・・・・)だァ!?

うるティ、ずいぶん生意気な口を利くじゃねェか!!

レオヴァは守られる様なタマじゃあねェが…その意気込みは悪くねェ!!ウォロロロロロ~!!!」

 

カイドウは愉快そうに笑うと、雑にうるティの頭をガシガシと撫でる。

そしてまた新しい酒に手を伸ばす姿は、ご機嫌そのものだ。

 

 

「もう!!カイドウ様が急に撫でるからヘアセット崩れたァ!!」

 

「へあせっとォ…?」

 

「カイドウ様とレオヴァ様に会うから新しいヘアセットにしたのにぃ~!!」

 

「ウォロロロロ…別にどんな見た目だろうが、構いやしねェよ!」

 

「わ・た・し・が!!気になるんでありんすぅ~~!!」

 

またプリプリと動きで怒りを表すうるティだったが、その表情から怒りは感じられない。

寧ろ、嬉しさを隠せずに口元はゆるゆるだ。

 

うるティが照れ隠しにカイドウに噛みついていると、宴会場の襖が開く。

 

 

「レオヴァ様がいらっしゃいました!!」

 

襖を開いた部下の方向に、一斉に宴会場にいた者達が入り口へ顔を向けた。

すると、開かれた襖の奥からレオヴァがゆったりとした仕草で中へ入って来る。

 

 

「早いな、おれが最後か?

……待たせてすまない。」

 

申し訳なさそうな顔をしながら入ってきたレオヴァにカイドウは笑みを深める。

 

 

「ウォロロロロロ~!!

まだ予定の十分も前だ、気にするこたァねェ!

それより早くこっちに来い!!!」

 

「ありがとう、父さん。

…ロー、うるティ、ページワンお帰り、久しぶりだなァ。」

 

「ただいま、レオヴァさん。」

 

「あ~ん!レオヴァ様~!

会いたかったでありんす~♡」

 

「レオヴァ様!た、ただいま…

って、姉貴……なに可愛い子ぶってんだよ…」

 

「ア"ァ"!?誰が可愛い子ぶってるだとォ!?

ぶってねぇし!!お姉ちゃんは可愛いだ・ろ・う・が~~!!」

 

「うぐっ……や、やめろ…姉貴……首、くび……」

 

じゃれつき始めた姉弟を見てクスリと笑うと、そのままレオヴァは上段の間へと足を進めた。

 

そのまま定位置であるカイドウの隣に腰掛けると、レオヴァは自然な動作で目線を動かし既に飲み始めているカイドウの(から)の酒瓶の数を把握する。

 

 

「(…ふむ、今回はあまり飲んでない方だなァ……)」

 

酒が口に合わなかったのかツマミがなかったからなのかと幾つかの可能性を頭に浮かべつつ、レオヴァはカイドウを見上げた。

 

カイドウは見上げて来たレオヴァと目を合わすと、ニッと口角を上げる。

 

 

「レオヴァ、少しばかり早ェが…始めちまうかァ?」

 

「ふふ、予定時間なんて関係ねェさ。

父さんが開始と言や、その瞬間が開催時間だ!」

 

「ウォロロロ…違いねェ!!

おい、テメェら映像電伝虫を繋げェ!!!」

 

カイドウの声に瞬時に反応し、既に配信準備を終えていたメアリーズが1つ下のフロアにある大宴会場に繋がる電伝虫をカイドウへ向けた。

この間、たった4秒である。

あまりに洗練された動きに部屋にいた部下の誰かが感心の声を上げた。

 

 

カイドウはすぐに準備された電伝虫に目線を向け、言葉を発する。

 

 

「野郎共ォ!!

宴開始だ、好きなだけ食って飲みやがれェ!!!」

 

開始を宣言すると同時に、下のフロアから上がった歓声や雄叫びが微かに床を揺らした。

 

 

「ふははは!!

毎度の事だが、下のフロアの盛り上がり様は凄いなァ!」

 

思わず笑みを溢したレオヴァを見て、カイドウは嬉しそうに目を細める。

 

今晩も、鬼ヶ島は笑い声とどんちゃん騒ぎに包まれるのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

時は少し遡り、百獣海賊団による殲滅が行われようとしていた頃。

 

ドレークとササキは“南の海(サウスブルー)”へとやって来ていた。

 

その島には幾つも大きな工場が建てられており、下町の賑やかさからは、この街の裕福さが伺える。

 

船をいつもの港へ寄せ、目的の城へ向かうドレークとササキの表情は真逆であった。

 

 

「ドレーク、んな顔したってしょうがねェだろ。

ほら、これでも食うか?」

 

先ほど屋台にいた陽気なオヤジからオマケで貰った串焼きをササキが差し出すが、ドレークは軽く首を横に振る。

 

 

「いや、いい…任務中だからな。

……ってササキ!?今は任務中だぞ!?

なにを呑気に串焼きを両手いっぱい握りしめてるんだ!」

 

「あ"?今さらかよ。

ま、シケタ(ツラ)で考え込んじまって任務に集中出来てないお前に怒られたかねェけどなァ?」

 

「うっ…」

 

図星を突かれたとばかりに口を(つぐ)んでしまったドレークにササキは吹き出す。

 

 

「はははは!!

任務中の、あのいつものポーカーフェイスはどうしたよ!?

…あの件なら心配する必要ねェって。

レオヴァさんは今まで通り貿易して、今回みたいに手をだそうとする馬鹿共はおれ達が片付ける!…簡単な話だろ?」

 

「……それは、理解している。」

 

「はぁ~…本当に今日、お前顔に出過ぎだぞ。

まぁ、分かるけどよ。

おれだって色々と思う所がないわけじゃねェ、本当だったらぶっ潰してやる方の作戦に行かせて欲しかったってのが本音だ。“レオヴァさんを連れて”な。

……理解できるかってのと、納得できるかってのは別(・・・・・・・・・・・)だもんなァ。

…けど、おれは“納得”出来たぜ。

カイドウさんとレオヴァさんが“最善”だってんなら、おれはそれが正しいと思うぜ。あの人達に付いていくだけだ。」

 

串焼きを一気に頬張ると、元気付けるようにササキはドレークの背をドンッと叩いた。

 

 

「ま、帰ったらレオヴァさん誘って三人で飲もうぜ!

言いたい事も、その時一緒に吐き出しちまえよ。な?」

 

「…ササキ……」

 

仲間にだけ向ける暖かな声でササキは言い、牙を見せて笑う。

 

 

「……服に串焼きの油がついた…これから“社長”に会う任務なんだが?」

 

「…お前っ!本当に可愛げねェよなァ!?

たく、心配してやって損したぜ!!」

 

ムッとした顔でドスドスと前へ進み始めた姿にドレークは先ほどまでの暗い表情から一変し、柔らかい表情を浮かべた。

 

 

「……ありがとう…もう、大丈夫だ。」

 

「なら、いい!行こうぜ、ドレーク。

さっさと終わらせてワノ国で1杯やるぞ!」

 

小さな声に振り返ったササキの顔は先ほどのムッとしたものではなく、いつもの笑顔だ。

そんなムードメーカーらしい彼の態度と言葉にドレークもつられて笑った。

 

 

「そうだな、久々にレオヴァさんと飲みたいな…」

 

「いや、おれは!?」

 

「…ここにつくまで散々、酒盛りに付き合わされたからな……」

 

「え、嫌々だったのか!?

それは悪ぃな、気付かなかった……」

 

「おい、落ち込むな…冗談だぞ?

ワノ国に帰ったら、三人で飲もう。」

 

軽くショックだと目を見開くササキにドレークは冗談だと笑い、歩みを進める。

 

談笑を続ける二人が目指す城は、もう目の前だ。

 

 

 

 





ー補足ー

世界政府:情報操作など、色々企んでいる模様。
これがどう転ぶのかは未知数。

海軍:世界政府のやっている事を知らされていない。
結構とばっちりを受けている。

・後書き
ご感想でレオヴァがあまり表で“過激”な事をしないのは何故?方針が分かり難いよ~!との御意見頂きましたので!
急遽、新世界編前の箸休め期間に加筆させて頂きました!
また何かありましたらご感想や質問箱の方へ頂ければ、答えられる限り答えさせていただきます~!
いつも読んで下さりありがとうございます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“元”王様の華麗なる転身

 

 

 

 

時間は巻き戻り、百獣海賊団による残滅作戦が開始していた頃。

 

 

数ヶ月前から決まっていたドレークとササキの訪問に慌てる1人の“社長”がいた。

 

 

「お、お、お前たち~!!!

歓迎のパーティーの準備は完璧なんだろうなぁ!?

酒と、女と……あと何が必要だ!?」

 

「「「おち、おちつ、落ち着いて下さいワポル社長!!」」」

 

「お前達も落ち着けぇ~!?」

 

全員があたふたと忙しなく動く様は、正直マヌケである。

 

しかし、このワポルと呼ばれた社長こそ。

今、世間の話題を何かとさらっていく百獣海賊団と深く強い関係を結んでいる…と自称している男なのだ。

 

深く強い関係と言うのはあくまで自称ではあるのだが、ワポルが百獣海賊団と繋がっているのは事実である。

 

 

そんな、ワポルと百獣海賊団の出会いは運命だったのかもしれない。

 

ワポルは麦わらのルフィに敗れて吹っ飛ばされた後、街を自分の食料の代わりにし、好き勝手に食い散らかしていた。

 

食べてしまうと言うと一般の人間には少しイメージしづらいかもしれないが、言い換えると街の所有物や他人の家等を破壊し、自分の物にしていたのだ。

 

こう説明されれば、その暴挙がどれ程のものかは想像に容易いだろう。

そして、そんな事をすれば通報され逮捕されてしまうということも、もちろん想像に容易いはずだ。

 

結果、ワポルは駆け付けた海軍により連行されてしまう事となった。

言わずもがな、自業自得である。

 

 

「お、おれ様は王だぞ!?

こんな事をしてただですむと…んごばッ!?」

 

柵に引っ付いて見張りに凄むワポルだったが、モップで顔面を叩かれノックアウト。

 

あまりにも理不尽すぎる扱いに、ワポルの心は簡単に折れてしまった。

 

一応、この見張りの海兵の名誉の為に付け加えるのならば、ワポルは海賊歴があり、更には連行前も街を破壊した犯罪者である。

そんな男が『自分は王なのだからだせ!』『不敬罪で打ち首にしてやるぞ!?』と2時間以上喚いていたのだ。

側にあるモップで2、3発殴った彼の行動は咎められるべきものではない。いや、寧ろ褒められるべきだろう。

 

 

そんなこんなで絶望の留置場生活を暫く続けていたワポルだったが、ついに脱走を試みる。

 

海軍の軍艦が島で補給をしたタイミングを見計らい、油断しきっていた海兵から逃げ出したのだ。

 

ワポルは走った。

この時、人生で一番の全力が出ていたに違いない。

 

 

「待て~!」

 

「止まらないと撃つぞ!?」

 

「ワポル、動くな!!」

 

「ハァッ…ハァッ……捕まってたまるか~!!」

 

ぞろぞろと何十人もの海兵が後ろを追ってきて、何発かの銃弾がワポルの体を掠める。

それでもワポルは走り続けた、絶対にもう檻には入りたくないという一心で。

 

しかし、ワポルの体力は無限ではない。

いや寧ろ、少ない方である。

 

どんどん自分の息が苦しくなってきている事に気付いたワポルは焦った。

だが、足を止めるわけにはいかない。

 

そんな時だ。

目の前に砂浜で夕陽を眺める1人の男を見つけたのだ。

 

次の瞬間ワポルの脳はフル回転した。

この男、悪知恵においては頭ひとつ抜けているのである。

 

すぐに目先にいるあの男を捕まえ、人質にしようと企んだのだ。

 

ワポルは進んだ、一直線に男の下へ。

 

 

「ま~はっはっは!ゲホッ…

ゼェ、そこのお前!!ハァ…おれ様の!ハァ…盾になれ~!!!ゴホッ…ゲホッ!」

 

息も絶え絶えに叫ぶと、ワポルは隠し持っていた銃を男へ向け悪い笑みを浮かべた。

 

 

「……ほう?

突然現れて盾になれとは、面白い事を言うんだな。」

 

にこりと綺麗に微笑んだ男をワポルは見上げた。

……そう、見上げたのだ。

 

ワポルの身長は207cmだ。

これは一般人から見れば、決して小さい方ではない。

事実、追ってきている海兵はワポルより小さい者ばかりだ。

 

そんなワポルが見上げなければならない、この男。

かなり身長が高い方なのだろう。

 

それに良く見れば着ている洋服も高級そうだ。

白のレースアップシャツに細かい装飾のある革ベルトを腰にゆるく巻いており、そこには一本の刀がさしてあった。

 

レースアップシャツは良く見かける服であった為にワポルは気付かなかったのだが、男へ近づけば色々と普通とは違う所が目に入った。

まず、革のベルトに施されている龍の装飾は“パライバトルマリン”という希少かつ高価な石を使っている。

次に腰から下げている“刀”だ。

ワポルは剣は多少知っているが、“刀”は良く知らなかった。

そんなワポルでさえ、ヤバいと感じる“刀”をその男は腰から下げていたのだ。

 

 

ワポルはダラダラと冷や汗を流した。

だが、引くわけには行かない。

今ここで諦めたらまたあの地獄に戻ることになるのだ。

 

覚悟を決めて、ワポルが銃を上へ向けた時だった。

 

軽い衝撃の後なんの音もなく、気付くと銃が消えていた。

 

 

「……へ?」

 

あまりにも間抜けな声をワポルが上げると、目の前の男が微笑みを浮かべたまま手を開く。

すると、砂浜の上へ画用紙をぐしゃりと丸めたかのような物体が落ちていった。

 

ワポルはそれを眺めた。

体感ではかなり長く見つめていた気がしたようだが、実際は3秒ほどである。

 

 

「……ん?え?

ま、まて……え?これ、これは、おれ様のじゅ、銃??

どういう、え?あり、あり得……」

 

「すまない、大切なものだったのか?

だが、おれも急に銃を向けられて驚いたんだ。

……今は休暇中だ、騒ぎを起こしたく…」

 

男が優しくワポルに声をかけていた時だった。

 

 

「わ、ワポルっ!!」

 

「はぁ…はぁ……や、やっと追い付いたぞ!」

 

「そ、その市民から離れろ!」

 

「もう…ゼェ……に、逃げ場はないぞ!」

 

顔を真っ青にし、ワポルは後ろを振り返った。

息をきらした海兵達がついに、自分に追い付いてしまったのだ。

 

 

「……人違いじゃなく、やはり本人だったか。」

 

ワポルの後ろで男が嬉しげな声をあげていた。

しかし、そんな事に気付ける余裕はワポルには残っていない。

 

終わった…と絶望したように砂浜にへたり込んだワポルの肩に男は優しく手を乗せた。

 

 

「…な、なんだ…?」

 

「困っているんだろう?

実はおれは今、使える人材を探しているんだ。

もし、お前がおれの為に働くなら……助けよう。」

 

「ほ、本当か!?

もちろん、もちろん部下になってやるとも!!」

 

この時、ワポルはこう思っていた。

『部下になると言いこの場をしのいで、後でトンズラこいてやるぜ!』と。

 

だが、すぐにこの思考は消し飛ぶこととなる。

砂浜に転がる真っ黒な海兵の死体を見たことによって。

 

 

「……え??」

 

「よし、では行こうか。

確かワポルと呼ばれていたが、そう呼んで構わないか?

おれはレオヴァだ、好きに呼んでくれ。」

 

にこりと微笑んだレオヴァにワポルの思考が更に混乱する。

先ほどまで、そこには何十人もの海兵が迫って来ていたのだ。

それが、自分が部下になる!と宣言すると同時に一瞬でいなくなった。

いや、いるにはいるが。真っ黒なあれはもはや人間とは呼べない。

 

ワポルはガタガタと震え始める体を必死に抑えながら、言葉を紡いだ。

 

 

「レ、レオヴァ様、よろ、よろしくお願いします!!

こ、このワポル!ぜん、全力でっ…働かせて頂きたく思います!!」

 

「ふふ、そんなに張り切る必要はない。

では行こうか、やって欲しいことがある。」

 

こうして、ワポルはレオヴァと名乗った男に連れられ百獣海賊団のナワバリへと向かうのであった。

 

 

その後、ワポルは研究が好きだと言うレオヴァから血液やら細胞やらと色々なもの(・・・・・)を回収された。

一体、何に使うのかと首を傾げたが、下手な事を聞いて怒らせてはならないと言葉を呑み込んだ。

 

レオヴァ自身も怖いが、一番怖いのは“その部下達”である。

彼は穏やかで怒ることなど滅多にないのだが、いつも側にいる部下達は違った。

少しでもワポルがレオヴァに失礼な態度を働けば、血走った目で睨み付けてくるのだ。

特にあの“ジャック”とかいう男は格が違う、睨むどころか殺そうとすらしてくる。

その時の記憶を思いだし、ワポルはぶるりと体を震わせた。

 

 

そうやって暫く“南の海(サウスブルー)”にあるナワバリで何不自由なくワポルは過ごしていたが、如何せん暇である。

 

働き手として連れてこられたが、やるのはレオヴァの研究の手伝いという名の血液や細胞の提出。

それとたまに能力を見せて欲しいと言われて、専用の部屋で力を披露するくらいしか仕事がないのだ。

 

ワポル自身、働き詰めなど大嫌いであるが、何もする事がないのはそれはそれで退屈だ。

結果、ワポルは自分でオリジナルのオモチャを作り、1人で遊ぶという、端から見るとドン引きな行動に出てしまった。

 

 

しかし、これはレオヴァを大いに喜ばせた。

そのオモチャの作り方を知りたがるレオヴァへ、能力でこういう風に作ったのだと語れば、彼は盛大にワポルを褒めちぎった。

 

久々に感じる高揚感にワポルは鼻高々に全てを語った。

いかに自分が凄いのか、このオモチャの構想や作り方、他にもこんなオモチャを考えているなど。

何時間にも渡る自分語りをレオヴァはずっと笑顔で聞いていた。

 

そして、全てを語り終えた時。

レオヴァの口から予想していなかった言葉が出たのだ。

 

 

「素晴らしい構想だ、ワポル!

おれとしても新しい貿易の品に玩具は是非増やしたいと思っていた。

それに先ほど話していた玩具の案も、斬新かつ優良なアイディアだ。

新しい事業として立ち上げても良い、そう思えるほどにな。」

 

「ほ、本当か!?……あ、いや、本当ですか!

てっきり、オモチャなどと馬鹿にされると…」

 

「何を言うんだ、ワポル。

玩具とは子ども達の成長には必要な物だぞ?

親目線で見たとしても、1人遊びに使ってくれれば育児の助けになるし、仕事でなかなか会えない親がいればその玩具をきっかけに子どもとのコミュニケーションが取れるきっかけにもなる。

それにコレクション性を持たせれば、大人もハマる場合だってあるんだ。

さっき、お前が話してくれた事は有意義なものばかりだった。馬鹿になどするはずないだろう?」

 

「レ、レオヴァ様っ……!!

そんなに!おれ様のことを!!」

 

感動に目に涙をためているワポルだったが、少しレオヴァの雰囲気が変わる。

 

 

「……だが、事業として立ち上げる前に。

お前には償ってもらわなきゃならねェ“罪”がある。」

 

「え"っ…?

つ、罪なんてそんな!?

おれ様は本当に大人しく仕事を……」

 

「違う、ワポル。

ここに来るもっと前の話だ。」

 

「も、もっと……まえ?」

 

「そうだ。

お前はおれの“本当に”大切な部下達に死ぬほど辛い思いをさせてる。

そんなお前になんの罰もなく、“地位”を与えるわけにはいかない。

……医者を、追放したのを覚えているか?」

 

「っ……!?」

 

レオヴァの言葉でワポルの忘れていた記憶が甦る。

 

一気に顔色が悪くなったワポルを見てレオヴァは思い出した事を察したのだろう、その場から立ち上がってしまった。

 

 

「覚えているようだな。

では、明日の10時に談義室で。」

 

「そ、そんな……!」

 

待ってくれ!という言葉はワポルの口から出ることはなかった。

 

 

 

 

そして、時は現在へ戻る。

 

今、こうしてドレークとササキの訪問にてんやわんやしていると言うことは、ワポルは“罪”を許されたのだろう。

それが、どんな理由からかは定かではない(・・・・・・・・・・・・)が。

 

 

 

「うぐ…だ、駄目だ!!

どんなに準備しても不安だ~!」

 

「「「わ、ワポル社長っ!」」」

 

頭を抱えてしまったワポルに、周りにいる社員達は心配そうに駆け寄った。

 

そして、必死に大丈夫ですよ!と励ましていると、カツカツとヒールの音がロビーに響いた。

 

 

「もう、アナタったら…

こんな所でもじもじしてたってしょうがないでしょ?」 

 

「マネッテ!!

おれ様、不安で…不安で!」

 

ワポルがマネッテと呼んだこの女性こそ、百獣海賊団元ギフターズであり現社長夫人である。

少し目元はキツイが、それを差し引いてもなお目を引く美人であり、スタイルもモデルのように整っている。

 

そんな美人がワポルを落ち着かせようと優しく頬を撫でる光景は、さながら美女と野獣である。

が、この夫婦は会社では有名なおしどり夫婦なのだ。

この二人の馴れ初めもまた、会社では有名な話なのだがここでは省略させて頂こう。

 

 

 

「大丈夫よ、アナタ!

今日いらっしゃるのはドレーク様とササキ様でしょう?

アナタの苦手なジャック様じゃないんだし。

何よりお二人は幹部の中でもとびきりお優しい方々よ?

何度も会ってるし、知ってるでしょ!」

 

「そ、それはそうだがなぁ……」

 

「もう!そうやって、うじうじしないの!

前から頑張って準備したんだし、大丈夫よ。

それに、私だってついてるじゃない?」

 

マネッテは女神のように優しくワポルに笑いかけた。

 

 

「ん!そうだ!!

おれ様にはマネッテも!お前達もいる!

よ~し、接待頑張るぞぉ!!」

 

「「「ワポル社長!その意気です!!」」」

 

「アナタったら…確かに接待だけど、それ言葉に出しちゃダメよ~?」

 

苦笑いするマネッテの横で、ワポルは社員達と共に気合いを入れるのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

高級感のある長机の上には大量の食事と酒が並べられており、その部屋はきらびやかさを代表しているかのようであった。

 

だが、そんな場所にいるワポルの内心は死刑囚のような心情であった。

 

それは、何メートルも先に座っているササキとドレークが原因だ。

 

と、言ってもササキに関しては酒と食事を楽しんでいる素振りがある為、正しくはドレークが心労の原因である。

 

酒にも食事にも手を付けず、ドレークは社長婦人であるマネッタから受け取った書類を睨み付けるように読んでいた。

 

この書類は今年の売上げやら本社での生産履歴に、取り引き相手などなど…と謂わば一年の集大成と言えるものだ。

 

ゴクリ…とワポルが緊張で唾を飲み込むと、ゆっくりとドレークの視線が此方へ向けられた。

 

 

「事業は安定しているようだな。

ウチのナワバリ内での店舗拡大も進んでいる……これは良い結果と言えるだろう。」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

机に頭をぶつける勢いで礼を述べたワポルにドレークは言葉を続ける。

 

 

「この玩具と3種類の合金の需要は上がって行っている。

…レオヴァさんは、お前の提案した新しい事業にも手を貸してやっても良いそうだ。」

 

「おぉっ!」

 

嬉しさと興奮から前のめりになっていたワポルだが、突然の寒気に、とっさにササキの方へ顔を向ける。

 

先ほどまでご機嫌に食事を楽しんでいた筈のササキが微かな殺気を漂わせながら、懐から書類を取り出して机へ投げ捨てた。

 

 

「ドレークが今、レオヴァさんの意向を伝えたが…

それはお前の身の潔白が証明されたらの話だぜ。

その書類見てみろ、色々書いてある。」

 

急いで社員がササキの下から書類を受け取り、ワポルへと手渡した。

 

そこに書いてある内容を見て、顔を真っ青にしたワポルはすぐに弁明をしようと口を開く。

 

 

「こ、これは!

著名人が集まるただの食事会に呼ばれた時のもので…!」

 

「へぇ…?

じゃあ、そこに海軍のお偉いさんがいるのは知ってたのかよ?」

 

「えっ……いや、それは…知っ…りませんでした。」

 

ワポルが返事を返した瞬間だった。

ササキが拳を振り下ろすと、高級感のあった長机の半分ほどが木片へと還った。

 

誰一人声を出せず、ただササキから目を離せずに冷や汗を流している。

 

 

「おい、ワポルだったか…?

テメェ、この場で嘘を吐くってのが“なにを意味する”のか分かってるよなァ?

今日、おれ達はレオヴァさんの使者として来てんだ。

そのおれ達に対する嘘は“レオヴァさんへの嘘”だ。

……裏切りは許さねェ。レオヴァさんに泥を塗ることもだ。」

 

息が苦しくなるほどの圧だ。

そこにいる全員が体の震えを止められずにいると、黙っていたドレークが口を開く。

 

 

「落ち着け、ササキ。

まずは確りと話を聞こうじゃないか。

内容によっては、今回の件を裏切りとはしないとレオヴァさんから言われてる。

……ワポル、ここからは良く考えて発言することを勧めよう。」

 

ドレークがそう言うと、放たれていた圧が少し軽くなる。

腕を組み、椅子に深く腰掛け直したササキは顎をしゃくってワポルに喋るように促した。

 

 

こうして、ワポルの命運をかけた申し開きが始まったのだった。

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

帰路についていたドレークとササキは、トランプで暇を潰していた。

 

 

「にしても、あのワポルとかいう野郎……調子の良い野郎だぜ。

あぁいう奴はすぐに手のひらを返す、間違いねェ!

……っと、“Jバック”だ。」

 

「それは同感だ。

まぁ、レオヴァさんも分かっていて泳がせることにしたんだろう。

実際、奴は意外と会社の運営の才能はあるらしいからな。

……スペードの5で“縛り”だ。」

 

「え"…ここでスペード縛りかよ!?だぁくそ、パス!

…つーか、会社の経営ならレオヴァさんがやれば良いんじゃねェか?

実際、働いてる奴はほとんどウチの奴らなんだしよ。」

 

「ササキ…これ以上、レオヴァさんの仕事を増やしてどうする。

ワノ国の統治に貿易での取引から新しい品の開発や工場の運営、遠征先の選定やナワバリ関係の指示出し……はぁ、上げたら本当にキリがないぞ。」

 

「あ~……確かにな。

それじゃあ、一応あの野郎にも使い道があるってワケか。」

 

納得したように頷きながら、ササキはテーブルにトランプを出してゆく。

 

 

「そういう訳だ……よし、“革命”。」

 

「ハァ!?このタイミングで“革命”かよ!」

 

「フフ、返せるカードはないだろう。

元々、4枚揃っていたのは6だけだった筈だからな。

ジョーカーはさっき使っていただろ?」

 

「ぐっ……いちいち覚えてんのかよ!

あ~、二人で“大貧民”なんかやるもんじゃねェなァ……」

 

諦めたような声色にドレークは思わず笑みを溢すのだった。

 

 

 

───麦わら帽子の少年が旅を再開する日は近い。

 

 





ー補足ー

[TOYSHOP-ワポール-について]
原作では新世界編の扉絵にてバクバクファクトリーやらワポル財閥やらになってミス・ユニバースと結婚していたが、この世界線では大規模TOYショップの社長に(レオヴァの助力で原作よりも早く店は展開した)
“南の海”の百獣海賊団のナワバリに本店を持ち、そこの管理などをワポルはしている。
世界中にある百獣海賊団のナワバリにはこのTOYショップのチェーン店があり、そこで働くのは百獣の部下達(戦闘が得意でない者達)が大半である。

ナワバリ以外の島にもTOYショップのオモチャは普及しており、それらは百獣海賊団に貿易を仲介してもらうことで入手可能。
実質、百獣海賊団の貿易ラインナップの1つとなっている。

販売しているオモチャは子ども用の人形や変身グッズ、おままごとセットなど多岐にわたる。
他にも大人のマニア向けのフィギュアや模型も販売しているのだが
“ワポメタル”は使用されておらず、“絡繰魂メタル”という合金を代用している。
(この工場ではワポメタルの製造はされていない)


[ワポルについて]
ワポル:TOYSHOPワポール、現社長。
元ギフターズである“マネッテ”と結婚し、新婚生活を楽しんでいる。
部下として連れてこられたが正式に百獣海賊団に加入してはおらず、外部の協力者という扱いに。
ナワバリを1つ任され、工場と共に管理するのが仕事。
レオヴァからミッチリ管理についてしごかれたので、管理しているナワバリや工場はホワイト環境。
ワポル自身、周りから慕われ敬われているので今のやり方悪くないな!と思っている。
 
レオヴァ:例の新合金を手に入れる為にナワバリに軟禁していた(ワポルは軟禁されているとは思っていない)
血統因子も手に入れたし、“ワポメタル”の作り方も分かったので用済みだな……と思っていたがワポルのオモチャの発想や経営計画力には目を見張るものがあると思考を切り替えた。
が、部下達が嫌がればクイーンと協力してワポルは“製造機”に改造する予定だった(設計図までは作っていた)。
現在、人造悪魔の実を数人の部下に食べさせてある。(その部下は獣人島に出来た工場に勤務中)

部下達:死ぬほど恨んでいたが、10年近い百獣での生活である程度恨みが薄れていた事と、あの馬鹿がカイドウ様やレオヴァ様の役に立つなら!と許すことにした。
カイドウ・レオヴァへの忠義>[越えられない壁]>>ワポルへの恨み

ジャック:一度レオヴァにナメた口を利いたので軽く殴り付けたら、ワポルが死にかけた。
殺そうとした訳ではなく指導のつもりだったのだが、ワポルとの実力差が有りすぎた為に半殺しに。
殴られたワポルより、ジャックの方がビックリである。
(ジャックからすれば、レオヴァの大切な“被験体”を壊しかけたので気が気ではなかった)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

前日譚

今回、ほんの少しですが覇気や桜流について独自の見解ありますのでご注意ください!
(公式で発表されたら一部、書き直すかもです)




 

 

新世界にある、小さな島。

そこは平たい丘に可愛らしい黄色い小さな花が一面に咲き誇る、美しい無人島だった。

 

しかし、今ではその影もない。

 

至る場所に地面が(えぐ)れたような跡があり、地面はひび割れている。

あれほど美しかった花畑は、今や荒地と化していた。

 

 

そんな荒地で、短い呼吸を繰り返しながら膝を突く者達がいた。

 

 

「はぁっ……も、最悪ッ!!…ぅ…」

 

普段よりも覇気のない悪態を吐き、愛らしい顔を歪めているのは飛び六胞のうるティだ。

 

彼女が咳と共に軽く血を吐くと、すぐ側で同じように立てずにいる眼帯を着けた男が口を開く。

 

 

「…無駄口を叩いていると…ハァ……もたないぞ…」

 

「うるせぇドレーク……ゲホッ…」

 

同じ飛び六胞という幹部であるドレークにうるティが悪態をつくが、いつも通りの勢いはない。

 

 

「ゼェ……お前ら…はぁ、喋る余裕あるのかよ……」

 

首を動かす気力もないのか目だけ動かして、うるティとドレークの方を見る人獣型の姿のササキは膝を突く処か地面に胡座をかいている。

 

 

「おい…てめぇ、そんな…ハァ……座り込んで……飛び火来ても、知らねぇぞ…ゴホッ…」

 

ひびの入った赤いマスク越しにササキを見ながら、フーズ・フーは疲れの滲む声で言う。

 

 

「問題ねェよ…ハァ……トリケラトプスは、硬いんだ…ゲホゴホッ」

 

そんなフーズ・フーの言葉に軽口を叩こうとしてササキは咳き込んだ。

 

今ここにいる、うるティ、ドレーク、ササキ、フーズ・フーの4人は満身創痍であった。

これが任務中ならば危機的状況だが、今は任務外である。

 

4人はもう動く気力がない自分達とは正反対に、未だに動けている2人へ視線を移した。

 

そこにはボロボロになりながらも必死にレオヴァへ攻撃を続けるジャックの姿がある。

 

 

「フンッ!!」

 

8mを超える巨体が拳を振り下ろす。

しかし、その重く素早い一撃は、あっさりとレオヴァの拳によって弾かれる。

 

弾かれた反動で一瞬、体勢の崩れたジャックの巨体は、その半分程の背丈しかないレオヴァの蹴りで数メートル吹き飛ばされてしまった。

 

派手な音と共に地面に大きなクレーターができ、砂ぼこりが舞う。

 

 

(りき)みすぎだ、ジャック!

流れを意識しろ、不要な場所の覇気を必要な場所に流すんだ。

自分の体を硬くするんじゃねェ、見えない鎧を纏うイメージを持て。」

 

「…ガハッ……おれに…カイドウさんやレオヴァさんが使ってる技は…」

 

使えねェんじゃないか、そうジャックが言おうとした言葉に被せるようにレオヴァは言葉を発した。

 

 

「いや、出来る。

自信を持て、ジャック。

お前はうちの大看板、父さんを守る3つの災害の一人!!そうだろ!?

 

 

「ハァ…ゴホッ……あぁ、レオヴァさん…おれァ……“旱害”だ!

 

「よし、なら次だ。

ジャック、立てるな?」

 

強い声に答えるように、ジャックはよろりと立ち上がり、その姿にレオヴァは満足そうな笑みを浮かべた。

 

 

「…それでこそ父さんが選んだ大看板だジャック!!

お前のタイミングでいい……来い。」

 

コンマ数秒の沈黙のあと、ジャックは動いた。

直線上に突進……と思わせての方向転換からの強襲であった。

端から見学していたドレーク達でさえ、目で追えないほどの。

 

凄まじい衝撃音と共に、砂ぼこりが舞う。

 

 

「ゼェッ…ゴホッ……やっぱり…敵わねェ、な…レオヴァ、さん…」

 

ぐらりと巨体が揺れたかと思うと、その場に倒れ込んだ。

 

砂ぼこりが静まったそこには嬉しげな表情で気を失っているジャックと、ほぼ疲れを感じさせないながらも、腕から血を流すレオヴァがいた。

 

 

「ふはははは…!!

流石はおれの自慢のジャックだ!!!」

 

レオヴァは本当に嬉しそうに笑うと、巨大な鳥の姿へ形を変えて嘴で上手くジャックを咥えると背に乗せる。

 

 

「うるティ、ドレーク、ササキ、フーズ・フー。

今日の組手はここまでだ、帰るぞ。」

 

動けずにいた4人も、ジャックと同じように嘴を使い背に乗せると、島の側に停泊している船へと飛び立って行くのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

地獄の30時間組手を終えた次の日、うるティ、ドレーク、ササキ、フーズ・フーの4人は体のあらゆる場所に包帯を巻かれた状態で船の中にいた。

 

しかし、さすがは動物(ゾオン)系と言うべきか、既に動けるようになっている姿は通常ならあり得ない光景である。

 

そんな4人の手当てを終えたローはスレイマンが部下と共に運んで来た昼食を見て、口をへの字に曲げた。

 

 

「……おい、パンばっかりじゃねェか。」

 

「好き嫌いとか子どもじゃん!!」

 

「…お前に言われたくねェ!」

 

「ちょ、姉貴……手当てしてくれたローに突っかかるなよ…」

 

「なんだよ、ぺーたん!!

コイツの肩持つのか~!!?お姉ちゃんの味方しろ~!!

てか、手当てはレオヴァ様にして欲しかったでありんすぅ~!!!」

 

「いや、我が儘言うなよ~…

レオヴァ様はジャックの手当て行ってるし仕方ねぇだろ?」

 

「うぬぬぬ……ジャックずるい!!

羨まし~い~で~あ~り~ん~す~!

 

「ウゲッ…あ、姉貴、やめろっ…」

 

怪我人とは思えぬほど強く、ガクガクとページワンを揺するうるティをローやスレイマンは呆れた目で眺め、ドレークは姉弟の不憫な弟へ哀れみの目を向けていた。

 

 

「それにしてもよォ!

まさか龍王祭の前に幹部全員が組手やることになるとは思わなかったよなァ!」

 

けらけらと明るく笑うササキの言葉に、スレイマンが微かなドヤ顔で返す。

 

 

「おれはレオヴァ様がカイドウ様に孤島が欲しいと言っていた時点で、薄々気づいてはいたがな。」

 

「……まぁ、レオヴァさんが飛び六胞と近衛隊の隊長を集合させるってのは…そういう事だろ。」

 

「最近は龍王祭前に組手をする場合が多い。

レオヴァさんなりに、我々を思ってのことなのだろうが……ふむ。」

 

スレイマンの言葉にホーキンスが淡々と返し、煙草片手にフーズ・フーも同意を示す。

 

 

「ドヤってんじゃねェスレイマン!

あとフーズ・フー、お前さっきから(けむ)いんだよ!!」

 

「嫌なら、部屋に戻れガキ。」

 

「はぁ~!?

なんで私が戻らねぇといけねぇんだァ!?

お前が部屋に戻れ~!!」

 

「…アァ?」

 

部屋の温度がすっと下がる感覚にページワンが慌てると、フーズ・フーの方へじわじわと距離を詰めていたうるティをブラックマリアが優しく捕まえた。

 

 

「ケンカは駄目よ、うるちゃん。

もうすぐレオヴァ様も昼食を取りにいらっしゃるんだから、髪の毛整えておめかししましょう?」

 

「フンッ、仕方がないから今回は私が大人になってあげるでありんす!」

 

「……ッチ、くそガキ。」

 

フーズ・フーの吐き捨てた言葉を無視して、うるティはブラックマリアの膝にちょこんと座る。

 

 

「ねぇねぇ、あれやって!

編み込みってやつ~!」

 

「うふふふ♡

任せてうるちゃん、その可愛さをとびっきり引き立ててあげる!」

 

綺麗に微笑み、ブラックマリアから見ると小さい頭に優しく触れ、慣れた手付きで髪を整え始めた。

 

そんな光景にページワンは感心したように声をあげる。

 

 

「すげェ…よくそんな細かいの出来るよなぁ…」

 

「あら?

褒めてくれるの、ペーたん?ありがとう♡」

 

「ぺーたんって言うな!!」

 

ムスッとした顔で怒るページワンの姿にくすり、と笑いながらもブラックマリアは編み込みを続けている。

そんなやり取りを横目にスレイマンは部下にテキパキと指示出しを行い、昼食の準備を進めていた。

 

 

「レオヴァ様到着まで、あと10分。

滞りなく進めるぞ。

それと海鮮については、レオヴァ様がお席に着かれた後にお出しする!

鮮度が命だからな、いいな!」

 

「「「「はい、スレイマン様!」」」」

 

「……相変わらず堅苦しいなァ。」

 

軍隊のように動くスレイマンとその部下達を見て、ササキは苦笑いともとれる笑みを溢す。

 

地獄の組手の時とは正反対にのんびり流れるひととき。

そんな穏やかな部屋の扉が、ゆっくりと開かれる。

 

部下が開けた扉から、少し頭を下げてくぐるように部屋に入って来たジャックを椅子に腰掛けていたローが見上げる。

 

 

「もう、動けるのか?」

 

「当たり前だ。

組手で動けなくなるようじゃ、カイドウさんとレオヴァさんに合わせる顔がねェ。」

 

「そうかよ。

……レオヴァさん、“電伝虫の時”も上機嫌だったぞ。」

 

「……ッ…本当か!」

 

「あぁ。」

 

嬉しげな顔をした後すぐにハッとしたように表情を引き締めたジャックにローは笑うが、気持ちは分かる為、からかいの言葉は内心にとどめる。

 

ジャックは照れを隠すように、どかりと音を立てながら専用の椅子に腰掛けた。

 

 

「ジャックだけかよ!

なんでレオヴァ様が一緒じゃないでありんすかぁ?」

 

「…レオヴァさんはクイーンの兄御と連絡中だ、すぐに来る。」

 

「まぁたあのデブ、レオヴァ様にかまってちゃんしてるでありんす!?」

 

「「おい、流石にそれは怒られるだろ!?」」

 

不満いっぱいだと、ブラックマリアに編み込みをされながら頬を膨らませるうるティの方を見ずに、ジャックはぶっきらぼうに答えた。

 

すぐに来るという言葉にうるティはご機嫌を取り戻し、その姿にページワンはほっと胸を撫で下ろし、突然のクイーンへの暴言に思わずドレークとローは突っ込みを入れた。

 

 

百獣海賊団の日常の驚くほどのんびりとした時間が、ゆっくりと流れる。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

~フーズ・フーside~

 

 

組手を終え、無事に龍王祭の1日前にワノ国へ帰還したフーズ・フーは自室へと早足で向かっていた。

 

組手での疲労感はほぼ抜けているが、うるさいガキ共のせいでストレスが溜まっているし、何より部屋の鯉の様子も心配だ。

 

普段、自分がいない間は直属の部下を1人ワノ国に待機させて世話を任せているが、やはりフーズ・フーは重要なことは自分でやらなければ安心出来ない(タチ)なのだ。

 

船を降りて、カイドウとレオヴァに挨拶してすぐ部屋へと向かったお陰で、ちょうど世話を始めようとしていた部下と入り口でかち会った。

 

 

「フーズ・フー様、お戻りでしたか!

ちょうど、お部屋の魚さんの世話をしようと思っていた所で。

どうぞ、補充用の餌です!」

 

「あぁ、今日はもう下がっていいぞ。」

 

「はい!

では、失礼します。」

 

慣れたやり取りでフーズ・フーに補充の為に持ってきていた鯉の餌を渡すと、部下は一度頭を下げて来た道を引き返して行く。

 

それを目で追うこともなく、フーズ・フーは部屋の鍵を開けて中へ入る。

 

もともと、ここの入り口は(ふすま)だったのだが、レオヴァの配慮とフーズ・フーの希望により洋式の扉へ改築されたという経緯がある。

 

フーズ・フーはこの場所を気に入っており、直属の部下であろうと中へ通す人物は片手で数える程しかいない。

 

そんな彼の部屋も、他の幹部同様に何区画かに仕切られているのだが、リビングのような場所に例の鯉がいる。

 

フーズ・フーはまっすぐに、その部屋へ向かった。

 

寝室とは違い、和風のテイストの強いリビングの端に人口の池がある。

聞きなれたししおどしの音に招かれるように、中を覗けば優雅に二匹の鯉が泳いでいる。

 

黒に金色が入った個体と、黒地に頭だけ赤い個体の二匹だ。“あの時”からずっと生き続けている。

 

レオヴァが少し弄ったことで、通常個体よりも頭の良い二匹の鯉はフーズ・フーの姿が見えたのか、こちらへ泳いでくると、ひょこりと顔を出す。

 

 

「…腹減ってんのか?

まぁ、今日の飯はまだだから当たり前か。」

 

言葉に反応するようにヒレを動かして波を立てた鯉に小さく笑い、フーズ・フーはいつものように餌を池へぱらぱらと落とす。

 

二匹はがっつく様子もなく、ぱくっと餌を口にし、フーズ・フーの教えた通りにくるりと円形に泳ぐと、また此方へ来て見上げてくる。

これは餌が足りない時にやる芸だ。

 

フーズ・フーはまた餌をぱらぱらと撒いた。

すると、鯉はまたぱくっと食べてくるりと回る。

 

数回それを繰り返すと、腹が満たされたのか鯉はまた好きに池を泳ぎ始めた。

 

フーズ・フーは餌を入れるケースに先ほどの補充用の餌を足すと、洗面台で手を洗い、歯を磨く。

 

そして、寝室へ向かうと仮面をベッドの脇に置き、服を着替えた。

 

本来であれば、まだ寝る時間ではない。

だが、フーズ・フーは少し寝不足だった。

彼は近くに人の気配がすると、眠りが浅くなるという難儀な職業病を持っている。

その為、船の中ではゆっくり休めなかったのだ。

 

と言っても、フーズ・フーにとって深い眠りにつけない事は大したことではないのだが、寝れるならしっかり寝れるに越した事はない。

何より睡眠は大切だと、あのレオヴァが言うのだ。

彼の言葉はフーズ・フーにとって大きなものである。

 

 

あの時もそうだった。

今ではめっきり無くなったが、フーズ・フーは悪夢に悩まされていた時期があった。

 

それは脱獄した後も続き、ずっとフーズ・フーを悩ませていた。

けれど、その事実は誰にも知られてはならないと必死に隠し続けた。

 

弱みを見せることは、この世界では“死”を意味する。

そう思い、フーズ・フーは気を張り続けていた。

かくの如き姿は、まさに手負いの獣のようであり、事実そうであったのだろう。

 

 

だが、飛び六胞という幹部になる少し前。

フーズ・フーはレオヴァとワノ国関係の書類仕事を夜中までやったあと、二人で酒を酌み交わしていた。

 

自分のテリトリーである部屋で、聞きなれたししおどしとレオヴァの声、穏やかな時間にフーズ・フーは気が緩んでいたし、もしかしたら酔っていたのかもしれない。

気づけばつい、うたた寝をしてしまったのだ。

 

 

そして、見てしまったのだ。悪夢を。

 

フーズ・フーはビクッと体を揺らし、勢い良く起き上がった。

息が乱れ、冷や汗が背や顔を伝う。

ドッドッドッ…と煩い心臓の音に唇を噛むと、聞きなれた声が鼓膜を揺らした。

 

 

『大丈夫か、フーズ・フー?』

 

『ッ!?……あ、あぁ。レオヴァ…さんか…』

 

この時、フーズ・フーは酷く動揺した。

人前で寝てしまった事も、こんな姿を見られた事も。

全てあってはならない事だ。

隙を……弱みを見せては駄目だと、そうやって生きてきたと言うのに。

 

混乱するフーズ・フーにレオヴァは水を差し出した。

 

 

『飲め。

夢見が悪かった時は目を覚し、冷静になるのが一番だ。』

 

『……』

 

無言でレオヴァを見るフーズ・フーの瞳には、見定めるような色があった。

 

この一連のことで、自分への評価はどうなったのか。

弱さを悟られたのではないか、失望させてしまっていないか。

そういう事を伺うような色を、フーズ・フーの瞳は宿していた。

 

一秒ほど、無言でレオヴァを見ていたフーズ・フーだが結局、小さく礼を述べると水を口にした。

 

レオヴァは水を飲むフーズ・フーの側で酒を呷ると、少し言い淀む仕草の後、徐に口を開いた。

 

 

『…おれも夢見が悪かった。』

 

独り言のような小ささで告げられた言葉に、フーズ・フーは思わずまたレオヴァの顔を見つめた。

 

レオヴァはフーズ・フーと目を合わせると、少し眉を下げた。

 

 

『アンタが……魘される姿は想像できねぇが…』

 

『おれだって人間だ。

悪夢を見る時だってある、昔の……な。』

 

そう言って目線を下げる姿は普段とは違う姿だった。

 

初めて見る表情に目を丸くした、フーズ・フーにレオヴァは眉を下げたまま笑った。

 

 

『これで、フーズ・フーはおれの知られたくない事を知ったワケだが……どうだ?』

 

『…どうだってことの意味を計りかねるな……』

 

『深い意味はねェ。

ただ、フーズ・フーはそれを知ってどう思ったか…ってことだ。』

 

少しの沈黙の後、フーズ・フーは微かに困ったような顔をした。

今は仮面を付けていない。きっとレオヴァはその僅かな表情の機微にも気付いているだろう、そう思いながらも言葉を溢した。

 

 

『……正直、意外ではあるが……それでどうってことはねェな。アンタはアンタだ。』

 

フーズ・フーの言葉を聴くと、レオヴァは微笑んだ。

それに、ほんの少しだけ安堵を滲ませて。

 

 

『そうか。

……おれも同じだ、フーズ・フー。

お前が夢見が悪かろうと、何も変わらない。

だから、そんなに警戒しないでくれ。』

 

『…っ………あぁ。』

 

やはり察していたか、と気まずさと恥ずかしさが湧き上がってくるが、同時に揺れていた精神に安心感も広がっていく。

 

肩の力を抜いて、フーズ・フーは自分自身を笑う。

 

 

『ハハ……アンタに情けない姿を見られるのは今さらだしな。』

 

そうだ、今さらじゃねェか。

と、フーズ・フーは少し自嘲を滲ませて笑った。

 

出会った時から今まで。

散々生きるために必死に足掻く姿を見られて来た。

精神が一番弱っていた時、良く分からないことを口走っていた姿だって見られている。

無駄な思考だった、と溜め息を溢す。

 

すると、レオヴァがフーズ・フーの方を見て話し始めた。

 

 

『フーズ・フー、人間ってのは勘違いで死ぬ事があるって話を知ってるか?』

 

『……突拍子もねェな。』

 

たまにある、レオヴァの急な話の方向転換に驚きながらも悪い気はせず、話の続きを待った。

 

 

『ふふ、確かに突然だったな。

実はドー・メアブの血実験という資料があってな。

目隠しした人間の足を傷つけるフリをして、この出血量なら何分後に死ぬと言い聞かせ、 足元に置かれた容器に血が落ちる様な音をならした後。

定期的にあと何分で致死量の出血だと教えると、徐々に呼吸&脈拍が乱れ、 カウントダウンが終わると同時に死ぬ……という内容なんだ。』

 

『…そんな事あるのか。

実際には怪我もなにもしてないんだろ?』

 

『あぁ、思い込ませているだけだ。

……と言ってもこの資料は証拠が少なく、嘘だという見解が大半で役に立たないとされているんだがな。』

 

『じゃあ、なんでそんな話を…』

 

首を傾げるフーズ・フーの方を見て、レオヴァが普段見せない笑みを浮かべる。

 

 

『実はな、やったんだ……その実験を。

言い出したのはキングだったんだが、興味深い実験だった。』

 

『……死んだのか?』

 

『いいや、死にはしなかった。』

 

『じゃあ、何がそんなにアンタの興味を惹いたんだ?』

 

レオヴァは更に笑みを深める。

それはどこかキングの悪趣味な笑みに似ていて、クイーンが研究で成功した時の雰囲気にも似ていた。

 

 

『何も怪我をさせていないのに、弱ったんだ。

それも本当に死にそうな程に。

一滴も血を流していないのに貧血のような症状で倒れた奴もいた。

…フーズ・フー、ショック死という言葉は知ってるか?』

 

『あぁ、知ってる。』

 

『なら、話が早いな。

言ってしまえば、ショック死に近い状態を暗示で作れるという実験結果だった訳だ。

なかなか興味深いだろう?

脳の誤認で、体に変化が表れる……色々と使えそうだと思ったんだ。』

 

『まぁ、使えるだろうが……アンタも結構悪趣味だな。』

 

『否定はしねェ。

が、そう言う実験の積み重ねがウチを支える発明に繋がってるんだ。

知識は力だ、そうだろう?』

 

『間違いねェ。

…無知な奴は淘汰されるか利用されるかだ。』

 

フーズ・フーの言葉に頷くと、レオヴァは普段の表情に戻る。

 

 

『で、ここからはおれの勝手な持論なんだが。

恐怖を知らない人間より、恐怖を知っている人間の方が強くなれる可能性が高い……と思うんだ。

そこで、だ。

人間ってのが脳の思い込みで死ぬこともあるような生き物なら、その造りを()かしてみるのも悪くないと思わねェか?

“恐怖を知る自分は強い”と、脳に言い聞かせてみるのも手だろ?』

 

『ハハハッ…本当にアンタは突拍子もねェな。

……けど、確かに悪くはねェかもな。』

 

『ふふふ、だろう?

ん、にしても少し喋り過ぎたな…』

 

『酔ってんだろ、アンタ。

おれが寝てる間にずいぶん空の瓶が増えたからな。』

 

少し柔らかく笑うフーズ・フーを見て、レオヴァは微笑んだ。

 

 

『たまには、少し気を抜いて酔うのも良いだろ。

フーズ・フーが相手なんだ、多少の事には目を瞑ってくれるだろうしなァ?』

 

『フッ……とに、飲み過ぎだぜ。レオヴァさん。』

 

互いに顔を見合わせて、悪巧みをしたあとの悪友のようにクツクツと笑った。

 

 

 

そんな懐かしい記憶。

フーズ・フーにとって、レオヴァの言葉の存在は大きいものだ。

実際、あの後から少しずつ悪夢を見ることは減った。

特にレオヴァと二人で飲んだ後は、体も頭もしっかりと睡眠を取れている気がするのだ。

 

レオヴァは色んな話をフーズ・フーに聞かせる。

それは興味があるものから、全く知らないジャンルの話まで多岐に渡る。

 

だが、どんな内容でもレオヴァの口から紡がれるものはフーズ・フーを楽しませ、穏やかな気持ちにさせた。

 

貰った言葉は、誰にも奪われないフーズ・フーの財宝だった。

 

 

懐かしい記憶をうっすらと脳裏に浮かべて、そっとフーズ・フーは瞼を下ろした。

 

 

 




ー補足ー

組手:今回はジャック達と、ロー達という感じに2組に別れて行われた。
動物系じゃないメンバーは回復まで時間が掛かりそうだった為、回復薬を使用。

レオヴァさん+電伝虫の時:幹部がこの2つの単語のみを口にした時はほぼ100%
レオヴァがカイドウと電伝虫で連絡を取っていた時のことを指す。

フーズ・フーの部屋:幹部の中で唯一、鳳皇城に自室を持っている。
一応、幹部になったと同時に鬼ヶ島にも自室が用意されてるのだが基本は鳳皇城の部屋で寝ている。
(自室が2つあるが一応鳳皇城の部屋は褒美としてカイドウに頼んで、レオヴァの許可を得て貰った物。)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新世界編
夢の続きを。


 

 

そこは海底1万mに存在しているとは思えぬほど、明るく綺麗な光景が広がる島だった。

 

 

「ついたぞ~~!魚人島~~!!」

 

そう言って島に上陸した麦わら帽子の少年、ルフィは元気な笑顔で仲間達と、案内してくれた人物を振り返る。

 

 

「うぅ…死ぬかと思ったわ……もう深海はこりごり…」

 

「すげぇ~!これおっきなシャボンなのか~~!?」

 

「うふふ、綺麗ね。本物の空みたいだわ。」

 

ぞろぞろと船から降りてくる仲間達にニッと笑い返し、ルフィは案内してくれた人物の下へ駆け寄った。

 

 

「ジンベエ、本当にありがとう!」

 

「はっはっは!構わん!構わん!

ルフィくん、これくらいならいつでも頼ってくれ。」

 

少し強面な顔のジンベエは優しく笑うと、船と反対側を指差す。

 

 

「あっちが前に話した魚人街じゃ。」

 

「へぇ!あれが魚人街か~。

レオヴァ(・・・・)からも聞いたことある!うめぇもんあるんだろ!?」

 

目を輝かせるルフィをジンベエは微笑ましげに見下ろした。

 

 

「あぁ、うまいもんも沢山ある!

ぜひ案内させてくれ。」

 

「おう!ジンベエ、頼む!」

 

そうして賑やかに魚人島に上陸した麦わらの一味は、ジンベエと共に観光を始めるのだった。

……一味を影から見つめていた人影と共に。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

あれから麦わらの一味は魚人街を各々で楽しんでいた。

 

ルフィはジンベエと共に探険へ行き、ゾロは酒場で野郎共と飲み比べ勝負で圧勝。

 

ウソップとチョッパーは“ビーストパーク”という中規模遊園地を遊び尽くし、フランキーはその中にある“toySHOP~ワポール~”の店内でインスピレーションを受けていた。

 

ナミとロビンは魚人街にある“ビーストモール”にてショッピングを楽しみ、ブルックも荷物持ちをしながら見たことがない楽器のある店に出会い、無い筈の瞳をキラキラと輝かせた。

 

他にも“迷子になっていたしらほし姫をジンベエと共に城へ送り届ける”など、ちょっとしたバタバタはあったのだが、麦わらの一味にとっては大した騒動ではなく、いつも通りのちょっとしたアクシデントである。

 

こうして、充実した1日を送った一味は船へと戻っていった。

……が、そこには招かれざる客がいたのだ。

 

白と青の独特な仮面で顔を覆っている男を真ん中に、両隣りにも個性的な見た目の男が控えている。

三人の男達はサニー号を前に、麦わらの一味を待ち受けていたのだ。

 

 

「あ、アイツらって……まさかキッド海賊団!?

 

驚きの声を上げたナミを守るように、一歩前へ出たサンジの横をルフィがスタスタと歩いていく。

 

 

「お前、ギザ男と一緒にいた奴か~!」

 

「お、おい!ルフィ~!?」

 

警戒心なく男達に近付いていくルフィにウソップが慌て出す。

 

 

「……第一声がそれか。

話に聞いていた通りだな、麦わら。」

 

 

仮面を付けている男が呆れたような声を出し、一歩前へ出た。

 

 

「おれはお前に話があって此処に来た。

……四皇を討つ算段がおれ達にはある。

麦わら、お前達が“おれ達”と組むならその内容も教えよう。」

 

「「「「…え?」」」」

 

あまりにも唐突に告げられた内容に一味は驚きに目を見開くのだった。

 

 

 

─────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

「な、なぁ…本当に良かったのかよ~……こんなノコノコとアイツらに付いてきちまってさ。」

 

おどおどしながら小声で呟くウソップをナミが睨む。

 

 

「しょうがないじゃない!

あのバカが肉に釣られて付いて行くって言っちゃったんだから!」

 

同じくナミも小声だが、その声からは帰りたいという思いがひしひしと伝わってくる。

なにより剣幕が尋常じゃなく怖い。

ウソップはそれで全てを察し、諦めたように見知らぬ場所を進んだ。

 

 

「ここだ。

おい、キッド…おれだ。」

 

重々しい扉の前で仮面の男、キラーが声を上げると中からざらついた低い声が帰ってくる。

 

 

「…入れ。」

 

ギギィ…と音を立てながらキラーの両脇にいた男達が扉を開く。

少し暗いオレンジの照明に照らされた部屋の中心には大きなテーブルがあり、その一番奥の席には目付きが悪く、ゴーグルと逆立った赤髪が特徴的な男がいた。

 

行儀悪くドカりとテーブルの上に足を乗せ、こちらを睨むように見てくる男こそ。

ルフィと同じく最悪の世代の一人、ユースタス・キッドである。

 

 

「ギザ男か!

……で、肉どこだ!?」

 

「ア"ァ"…?

誰がギザ男だ、てめぇ!!」

 

「止せ、キッド!

殺し合いをするために呼んだワケじゃないんだぞ!

麦わらもウロウロするな、一度おとなしく席に着け。

料理はすぐ運ばれてくる。」

 

「そうなのか、わかった!」

 

「……ッチ」

 

素直に指差された席へ腰かけたルフィと、額に青筋を浮かべてはいるが口を閉じたキッドを見て、ウソップ達は胸を撫で下ろし、ゾロは刀に触れていた手をそっと定位置へ戻す。

 

そして、促されるままルフィ以外の一味も席に着くと次々に料理が運ばれて来た。

 

ようやく話が聞けると気を引き締め直す麦わらの一味と、ようやく話が出来ると椅子に腰かけたキラーの思いとは裏腹に。

ルフィとキッドはばくばくと料理を貪り始めてしまった。

 

これでは話が出来ないと遠い目をする一味とキラー達は、お互いの船長の食事が落ち着くまで、自分たちも晩餐へと手を伸ばすのだった。

 

 

 

 

あれから暫く怒涛の勢いで食べていたルフィとキッドだったが、満足したのか今は落ち着いていた。

そんな二人を見計らい、ブルックが声を上げる。

 

 

「…それで、先ほどしていた話。

“四皇”を討つ算段について、お聞かせ頂いても?」

 

ブルックの言葉に一味の瞳に緊張や真剣さが宿ると、キラーが口を開く。

 

 

「あぁ、四皇を討つ為の“同盟”を組まないか…という話をしたかった。

現在、既に2つの海賊団と同盟(・・・・・・・・・)が成立している。」

 

「「「同盟…!?」」」

 

驚くナミ達にキラーは続けた。

 

 

「大きな相手を討つ為に、一時的な同盟を組むのは珍しい話ではないだろ?

…相手は四皇だ、規模も普通の海賊団とは桁が違ってくる。」

 

「フンッ…どうせ人数だけの有象無象だ。」

 

「キッド……そうかもしれないが、その数も万を超えれば大きな障害になると言っただろう。」

 

諭すようなキラーの言葉に口をへの字にしたキッドがジョッキに入った酒を呷ると、フランキーが口を開いた。

 

 

「お前の言うことは分かるぜ。

海賊同士の同盟、確かにそう珍しい話じゃあねぇ。

だが、組んだばかりで連携もなにもない同盟で倒せるほど“四皇”ってのは甘くねぇだろ。」

 

この言葉に同調するようにゾロも飲んでいた酒を置き、言葉を発した。

 

 

「フランキーの言う通りだ。

それに、どの四皇をやるのかも聞きてェ。

同盟組もうってんなら、それなりに腹割って話せよ。」

 

「……生意気言いやがって…」

 

「落ち着け、キッド!

…どの四皇を討つのかはこの後話すつもりだった。

ヒート、アレを麦わらに渡してくれ。」

 

キラーは苛立ちを露にして前のめりになったキッドを止めながら、仲間に指示を出す。

 

ヒートと呼ばれた男がルフィに紙を手渡そうとすると、それをナミが受け取り、ロビン達が紙を覗き込む。

 

すると、一味の表情が驚きに染まった。

 

 

「…あの百獣を討つのか!?」

 

ゾロの上げた驚きの声に、

 

 

「そうだ。

おれ達は百獣海賊団を討とうと考え、同盟相手を増やしてる。」

 

「同盟なんざ興味なかったが…

白ひげがくたばり、我が物顔でドンドン勢力を伸ばしてるアイツ(・・・)の鼻っ柱をへし折る為に必要なら……仕方ねぇ。」

 

二人同時に百獣海賊団を討つことを肯定したキッドとキラーとは正反対に、麦わらの一味はそれぞれの反応を見せていた。

 

 

「待って、百獣海賊団って……ルフィを助けてくれたって…」

 

「そうだぞ!

ルフィの兄ちゃんも助けてくれたんだろ!?」

 

「そ、それにジンベエの友だちっていうレオヴァって人もいるよな…?」

 

「私は魚人街を救ったとも聞いたわ。」

 

ナミ、チョッパー、ウソップ、ロビンが言葉を溢すとキッドの表情が険しくなる。

 

 

「ア"ァ"、なんだァ?

テメェら、そんなくだらねェ感情で足踏みすんのかよ!?

アイツ(・・・)を超えねェで“ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”を手に入れられる訳ねェだろ!!

 

キッドの怒声に4人が黙った。

一瞬の沈黙が訪れたが、それをルフィが破る。

 

 

「…そうだ。

レオヴァ達もシャンクスもエースも…全員を越えなきゃ、おれは海賊王になれねェ!

 

ルフィの言葉に、ゾロもブルック達も無言で頷いた。

それを見て、キラーが口を開く。

 

 

「……で、どうするんだ。

百獣を討てる算段は、同盟組まなきゃ教えられねェ。

答えを聞かせてくれ。」

 

「わかった。

おれ、お前らと同盟を組む!!」

 

 

ルフィがそう宣言した時だった。

 

 

……ッ…駄目だ!!!

 

そう大きな声を出して、サンジが立ち上がった。

突然のことにウソップ達は驚いたようにサンジを見る。

 

 

「ルフィ、本当に百獣海賊団と敵対するのか!?

あそこには……レオヴァがいるんだぞ!

まずは他の四皇を先に……」

 

サンジがルフィを説得するように話し始めると、ゾロが立ち上がり襟首を掴んだ。

 

 

「おい、クソコック!!

何が他の四皇を先に、だ!

どちらにせよ、倒さなきゃならねェんだぞ。

らしくねェこと言ってんじゃ…」

 

ッ……分かってる!それでもっ…

百獣海賊団は最後で良いじゃねェか!

 

「テメェ…本気で言ってんのか……?」

 

「ちょっ…ゾロ!やめなさいよ!」

 

「サ、サンジ!?

どうしたんだよ突然!」

 

ナミとチョッパーの制止の声が響くと同時に、ゾロとサンジの間に椅子が飛んで来て、二人は反射的に左右反対に飛び退いた。

 

 

「……ったく、くだらねェ。

人の宿で内輪揉めしてんじゃねェよ。」

 

椅子を投げつけた張本人であるキッドが、テーブルの奥にあった扉から出ていってしまう。

 

それを溜め息混じりに見送ったキラーが、ルフィへ向き直る。

 

 

「麦わら、おれ達はあと3日は此処にいる。

一味で話がまとまったら、改めて答えを聞かせてくれ。

……この電伝虫を渡しておく。」

 

「おう、わかった。」

 

受け取った電伝虫をポケットにしまうと、キラーがキッドの出ていった扉とは別の扉を開く。

 

 

「…では、出口まで送ろう。

ここで暴れられたら困るからな。」

 

そうして、麦わらの一味はサニー号への帰路を気まずい雰囲気の中、進むことになったのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

綺麗な浜辺に浮かぶ、サニー号。

あれから少しの話し合いの後、続きは明日にしようと仲間達が寝静まったころ。

 

サンジは一人、甲板にて懐かしい思い出を瞼の裏に映していた。

 

 

 

それはまだ幼かった、コック見習いだった頃の記憶。

 

 

「なぁ、レオヴァ!

オールブルーって知ってるか?

この世の魚達がみんないる海なんだ!」

 

楽しげに話すサンジにレオヴァは穏やかに相づちを打った。

 

 

「あぁ、部下から聞いたことがある。

コックにとって夢の海なんだろう?」

 

「そうなんだよ!

おれ、いつか見つけるんだ!オールブルーを!!」

 

楽しい雰囲気の中で思わず口から出てしまった“夢”に、ハッとしたようにサンジは両手で口をふさぐ。

 

今までもこの話は色々な相手にしてきたが、皆は決まってそんなものは夢物語だと笑うのだ。

レオヴァにも、まだまだ子どもだと笑われてしまう。

そう思ったサンジは、しまった!と手で口をふさいだわけである。

 

やってしまった…と、サンジはおずおずとレオヴァを見上げた。

しかし、レオヴァはサンジの予想とは違い、今までの大人がしてきた馬鹿にするような顔とは違う表情で言葉を紡いでくる。

 

 

「いいじゃねェか、サンジ!

オールブルー、おれにとっても夢の海だ。」

 

レオヴァの言葉に驚いて、サンジはふさいでいた手を外し食い気味に声を出した。

 

 

「えっ…!?レオヴァも…?」

 

信じられないと顔に書いてあるサンジにレオヴァは微笑ましげに笑う。

 

 

「そう、おれにとってもだ。

前にサンジに言ったおれの好物、覚えてるか?」

 

その言葉に合点がいったとサンジは声を上げる。

 

 

「あ…!そっか!

レオヴァって魚とか貝が好きだもんな!」

 

「ふふ、覚えていてくれたか。

おれは魚介類が大の好物だからな。

オールブルーを見つければ好きなものが好きな時に食べられるし、食べたことがない魚にも出会えるだろう?」

 

「うんうん!

おれも料理したことない魚いっぱい捕りてぇな~。

えへへ!けど、なんかその理由だとレオヴァが食いしん坊みたいだ!」

 

「ふふ、それは心外だなァ?サンジ。」

 

無邪気にはしゃぐサンジの頭を優しく撫でると、レオヴァは背を丸めてすっと自然な動作で顔を近付けてきた。

そのレオヴァの顔には意外にも、少し子どもっぽい笑みが浮かんでいる。

 

 

「……なら、サンジ。

おれと一緒に探しに行くか、オールブルーを。」

 

内緒話の距離で、まるで子どもが悪巧みする時のように楽しげに告げて来たレオヴァにサンジは驚きと嬉しさを感じていた。

 

いつも出来る大人の雰囲気を纏っているレオヴァが子どものように、一緒にオールブルーを探しに行こうと笑う姿にサンジは驚いたのだ。

だが、それと同じくらい嬉しさもあった。

皆が夢物語だと真面目に話を聞いてくれず、同じ夢を持つゼフでさえ“一緒に探しに行こう”とは言ってくれなかったし、言えなくしてしまった負い目も子どもながらに感じていた。

 

そんな中レオヴァはサンジの夢に共感を示し、一緒に探そうと笑い掛けてくれたのだ。

嬉しくない筈がない。

 

 

パァっとサンジが明るい表情になる。

そして一言『行きたい!』と言おうとしたが、ゼフが頭に浮かび、無意識に言葉を詰まらせた。

 

 

「…お」

 

なんとかサンジが再び言葉を紡ごうとした瞬間だった。

ドカっと大きな音と共に部屋の扉が開く。

 

 

「おい、小僧!

そんなんでもチビナスは今は重要な人手だ。

引き抜こうってんじゃねェだろうな!」

 

ゼフの登場により、レオヴァはまた自然な動きでいつもの距離に戻ると、悪戯がバレた子どもの様に笑ってみせる。

 

 

「…残念だ。

サンジの美味い料理を毎日食べられるチャンスだったんだがなァ…」

 

眉を下げながらも、やはりどこか楽しげに笑みを浮かべレオヴァはゼフを見る。

 

 

「だったら毎日食いにくりゃ良いだろうが、ボケナスが。」

 

「ふふふ、それも悪くないか?」

 

否定しないレオヴァにサンジは照れながらも、慌てて口を開く。

 

 

「ま、毎日来てたらすげぇ金かかって大変だぞ!

それにレオヴァは仕事だって忙しいんだろ…」

 

「ったく、余計な事を言いやがってチビナス!

店の開店に全財産使っちまってんだ。

馬鹿みてェに食うレオヴァが毎日くりゃあ、良い稼ぎになるだろうが!」

 

「…オブラートに包んでくれ、ゼフ。

確かにゼフ達よりは食べるが、それは身体の大きさによる消費エネルギーの違いであってだなァ、決して…」

 

「また屁理屈かァ、小僧!」

 

「あ~!もう!!

くそジジイもレオヴァも止めろよ!?

出来たばっかの店壊れるだろ!!」

 

 

こんな賑やかを通り越して騒がしい日々だったが、サンジにとっては楽しい毎日だった。

そう、これは楽しくて暖かい……大切な記憶だ。

 

 

 

思い出に浸っていたサンジは、タバコが小さくなってきたことで、現実に戻される。

 

サンジにとって、ゼフは父だった。

血の繋がりなどなくても、彼こそがサンジの家族だ。

そして、同時にレオヴァを兄のように思っていた。

 

足を失ったゼフに、新たな足を授け、

二人の夢の店を建ててくれたレオヴァ。

店が出来上がるまでの少しの間、共に生活した日々は本当の家族のようだった気がした。

……サンジに本当の家族は良く分からないが、確かにそう感じたのだ。

 

失敗した料理でも美味しいと笑顔で平らげ、ゼフに怒られてしょぼくれていれば隣に座りガラス玉などの宝物を一緒に眺めたり、面白い冒険の話をしてくれる。

そんなレオヴァが、サンジは好きだった。

幼心に、優しい兄がいればこんな感じなのかな?と、むず痒くも嬉しく感じていた。

 

店が完成し共に生活することがなくなっても、たまに現れては

『久しぶりだなァサンジ、元気にしてたか?

病気はしてねェな?ゼフにいじめられてもねェか?』

と冗談まじりに声をかけ、その度にゼフに

『いじめてなんざいねぇ!

あまりチビナスを甘やかすなよ、小僧!!』

と楽しげに軽く口を叩き合う二人に、あたふたしていた幼いサンジの頭をわしゃっと軽く撫でてくれたレオヴァを、今も兄のように慕っているのだ。

 

 

だが、今のサンジにとって。

仲間も掛け替えのない存在だ。

 

ゼフやレオヴァを大切に思うように、仲間達のことも心から大切に思っていた。

自分を信じ、必要としてくれる。

絶対に守りたい存在であり、失いたくない人達。

 

 

「……おれはどうすればいい…?

なぁ、レオヴァ……あんたなら…どうする?」

 

震える声に返事はない。

サンジは甲板に座り込み、頭を抱えた。

 

ルフィを海賊王に。

その思いに嘘はない。自分の認め、そして選んだ男は必ず“夢”を果たすだろうと心から信じている。

だからこそ、今までどんな敵が立ち塞がろうとも仲間達と冒険してきたのだ、この想いに偽りなどあるはずがない。

 

それでも、サンジの脳裏にはレオヴァとの温かな記憶が溢れてくる。

 

 

サンジも分かっていた。

ルフィを海賊王にするのなら、いつかは四皇と……レオヴァと敵対しなければならないと。

 

 

滲む視界の中、レオヴァの言葉を思い出す。

 

『おれにとって父さんはたった一人の家族だ。

尊敬する父さんを……おれは“海賊王”にしたい。

こんなおれを育ててくれた恩を返したいんだ…息子として。』

そう言うレオヴァの表情と声はとても穏やかだった。

 

レオヴァにとって、百獣のカイドウは本当に大切な家族なのだろう、自分にとっての“(ゼフ)”のように。

 

 

……もう、覚悟を決めなければならない。

何人もの人間が海賊王になれるわけではないのだから。

 

船長と認めたたった一人の男の“夢”へ、共に歩む為に。

 

サンジは静かな覚悟を瞳に宿し、すっかり小さくなったタバコを握り潰した。

 

 

「……すまねェ。レオヴァ、おれは…」

 

届く筈のない謝罪を、サンジは暗闇に溢した。

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

麦わらの一味が魚人島に到着するより少し前のこと。

 

もうすっかり月が空の真上に浮かんでいる、真夜中。

鬼ヶ島にあるレオヴァの自室をノックする音が響いた。

 

 

「レオヴァさん、起きてるか?」

 

読んでいた書類から顔を上げて、レオヴァは扉の反対側にいる人物に返事を返す。

 

 

「あぁ……入っていいぞ。」

 

返事と共に扉が開き、特徴的な真っ赤なマスクを被った男が部屋へ入ってくる。

 

 

「悪ィな、レオヴァさん。こんな夜中に。」

 

「構わねェよ、フーズ・フー。

この時間に直接ってことは……急用なんだろう?

まぁ、座ってくれ。」

 

頷きながら、レオヴァの正面に座ると、フーズ・フーは言葉を発する。

 

 

「……レオヴァさんの読み通り、“赤鞘”がおでん城跡地に現れた。」

 

「ほう…やはりか。」

 

すっと目を細めたレオヴァが、目線で話の続きを促すとフーズ・フーも答えるように口を開く。

 

 

「その後、何故か分かっていたかの様に狂死郎が小紫と酒呑童子を連れて、跡地に来ていたのも確認出来た。

……理由は不明だが、あれは間違いなく“赤鞘”が来ると知っていた(・・・・・)反応だった。」

 

「ふむ……狂死郎に本気で(・・・)裏切る素振りはなかったがなァ…

まぁ、知っていても不思議じゃねェ。

元々はおでんの侍だ。

“トキ”の能力も知っていただろうし、おれのように推測も可能だろう。

……で、赤鞘はどう動いた?」

 

「こっちもレオヴァさんの読み通りだ。

赤鞘は狂死郎が用意していたと思われる船で、国外へ逃亡した。」

 

「なるほど、やはりそう動くか。」

 

「だが…」

 

頷いていたレオヴァに、言いづらそうにフーズ・フーが続ける。

 

 

「……ひとつ、レオヴァさんの予想にはねェ動きが…」

 

「そうなのか…?どういう動きだ。」

 

「レオヴァさんの読みじゃあ、全員で逃亡…だったんだが。

急に揉めだして、狂死郎は気を失わされた後……置いていかれてる。」

 

「狂死郎が……置いていかれただと?」

 

驚いた顔をするレオヴァに、フーズ・フーが電伝虫を手渡す。

 

 

「おれも良く分からなかったが…

レオヴァさんの指示通り、様子は全て記録してあるから見てくれ。」

 

「ありがとう、フーズ・フー。

……まず、見ないことには始まらないな…」

 

少し特殊な“録画電伝虫”を専用の機械に繋げ、レオヴァは壁をスクリーン代わりに映像を再生する。

 

 

 

今ではほぼ森の様になっている、おでん城の跡地が映される。

 

そこには困惑した表情の錦えもん、カン十郎、雷ぞう、菊の丞、モモの助が居た。

 

そして、五人に泣きながら抱きつく小紫こと日和と、目にうっすら涙を浮かべる酒呑童子ことアシュラ童子、狂死郎の三人も映っている。

スクリーンの映像は暫く、その感動の再会を映していた。

 

だが、そこに河松が現れたことで事態は急変していった。

 

赤鞘を説得していた日和を、河松は気絶させて抱き抱えると狂死郎から遠ざけたのだ。

 

 

『河松…!生きていたのか!

いや、それより日和様になにを…』

 

怪訝そうな顔をする狂死郎を河松は睨み付けている。

 

 

『黙れ、裏切り者!!』

 

その一言から、どんどん映像の中の赤鞘達に不穏な空気が漂っていく。

その後も怒りに任せて狂死郎は裏切り者だと語る河松に、信じられないと動揺する錦えもん達が口を開いた。

 

『お、落ち着かんか河松…冷静さを失っては駄目だ。

傳ジローが裏切るはずなど……』

 

『冷静さがないのは錦えもん達の方ではないか!!

傳ジローは、今では狂死郎と名を変え…!

鳳皇などとふざけた地位を作り、ワノ国を乗っ取った男の部下として大名の地位を手に入れているのだぞ!

可笑しいだろう!?

おでん様への忠義があれば…!!

百獣の手先のような地位を受け入れるなどあり得ない事!!』

 

『それは……確かに…』

 

『なっ…!?

待ってくれ、皆!!』

 

思わず肯定してしまった菊の丞の言葉を聞いて、狂死郎の顔が悲痛な表情へと変化していく。

 

 

『今ここに現れ…日和様を使い、皆にワノ国を諦めさせようとしたのも!

あのカイドウの息子の指示に違いない!!

でなければ、正統な後継者であるモモの助様に将軍を諦め、外海へ逃げようなどと言う筈がない!!』

 

『違う!!

これはおれが勝手に…

日和様とモモの助様を守る為にはっ…そうするしか!』

 

『待て、待ってくれ…傳ジロー、河松!!

拙者たちには、まったく話が……』

 

『錦さん、頼む信じてくれ…!

本当に……百獣海賊団に手を出しては駄目だ…

日和様とモモの助様の幸せの為には、ワノ国を諦め…外海で過ごすことが最善なんだ!!』

 

『裏切り者め……錦えもん、奴の言葉に騙されるな!!

奴が口が上手いのは知っているだろう!?』

 

河松と狂死郎の言葉に、モモの助と赤鞘はどうしたら良いのか分からず、目線を泳がせる。

 

 

『それに、奴は昔からあの憎きカイドウの息子と親しげだった…!

討ち入りの時も、お前が!!情報を流していたんだろう!?

でなければ、あんな用意周到に待ち伏せされる筈がない!!』

 

『そんな事するはずないだろう…!』

 

『か、河松……』

 

『待ってくれ、だが……処刑の時には傳ジローもいたんだぞ!?

一緒に殺されかけて…』

 

河松を止めようと錦えもんが口を開くが、それでも言葉は止まらない。

 

 

『それだけではない……狂死郎は見た目も変わっているではないか!

それが本来の姿だったんだ、拙者たちはずっと…騙されてた!!

それにカイドウの息子だけでなく、百獣海賊団の幹部の恰幅のよい男とも仲が良いというではないか……

錦えもん、アシュラ、菊の丞、カン十郎、雷ぞう……もし、皆なら……おでん様を殺した、あのカイドウがいる百獣海賊団と仲良く出来るか?

拙者には無理だ!奴らと親しくするなど!おでん様への想いがある限り、絶対に。』

 

『『『っ……』』』  

 

言葉に詰まった皆の姿に、河松はそうだろうと頷く。

 

 

『奴は、傳ジローは信用できない!

将軍になるのはモモの助様であり、ワノ国を開国するというおでん様の願いもあると言うのに……それを、ワノ国を諦め逃げようなどと言う者は!

おでん様の侍ではない!!

 

『ッ!?』

 

ショックを受けたように狂死郎の顔が歪む。

その姿に、モモの助が心配したように手を伸ばそうとするが、それを菊の丞が止める。

 

かつての仲間からの圧に堪えながら、狂死郎はそれでも言葉を紡いだ。

守るべき主君の忘れ形見の為に。

 

 

『確かに……開国はおでん様の願いだ…

だが、何よりも優先すべきは……おれ(・・)達が守るべきは日和様とモモの助様のお命ではないのか…?

レオヴァ殿はワノ国を良くしている、それは変えようのない事実だ。

我々にこれ以上に豊かな国が作れるとは……到底思えない。

今、モモの助様が表に出ても厳しい現実があるだけ……もう、モモの助様や日和様は血生臭いことの中心にお立ちになる必要などないのではないか?

ただ……なによりも日和様とモモの助様の未来と幸せを…穏やかな日々を送って頂きたいのだ。おれは…』

 

『騙されんぞ……傳ジロー…!

モモの助様の未来は将軍となりワノ国を統べること!!

それが、おでん様とトキ様の望みであり!モモの助様の夢!』

 

 

その後も、モニターには揉める姿が映され続けていた。

レオヴァはふむ、と独り言を溢すとリモコンで映像を倍速にしていく。

 

早口で流れる問答と映像を眺めるレオヴァをフーズ・フーが横目で眺めていると、あるシーンで倍速再生がピタリと止まる。

 

 

『どちらにせよ、ここは百獣の胃の中!

日和様とモモの助様を連れて、立て直すために一時外へ参りましょう!』

 

『それもそうか…』

 

『ま、待ってくれ錦さんっ!

おれも共に……ウッ…』

 

錦えもんが一瞬の隙を突き狂死郎を気絶させ、背を向けるとモモの助が泣きそうな顔になる。

 

赤鞘達が押し黙っていると、アシュラ童子が目にうっすらと涙を浮かべながら口を開いた。

 

 

『……国を出る為の船はこっちだど。』

 

そういって、赤鞘とモモの助達は画面の端へと消えて行った。

 

 

全ての記録を見終えたレオヴァが、フーズ・フーへ視線を移す。

 

 

「……で、狂死郎はどうした?」

 

「おれの部下に言って、拘束させてある。

まだ意識を取り戻してはねェようだが……牢に入れるか?」

 

「いや……拘束は解かずに、鳳皇城の応接間のソファーにでも寝かせて置いてくれ。

明日、おれが話を聞こう。」

 

「…情報を吐かせて始末しねェのか、レオヴァさん。」

 

意外だと言いたげなフーズ・フーにレオヴァは眉を下げる。

 

 

「狂死郎は大名として、他の侍達と比べ物にならねェほど優秀だ。

記録を見る限りじゃ、想定通り悪意ある裏切りじゃねェ。

それに何より…“ササキのこと”もある。

場合によっちゃ、今回の諸々は水に流してもいい。

元々、赤鞘は泳がせる予定ではあった訳だからなァ。」

 

「レオヴァさんが言うなら、おれも異論はねェ。」

 

ふっと笑うと、フーズ・フーは立ち上がる。

 

 

「じゃあ、おれは狂死郎を応接間で監視しとく。

……もし目が覚めた時に暴れられちゃあ、おれの部下じゃ手に負えねェしな。」

 

「悪いな、フーズ・フー。よろしく頼む。」

 

「任せてくれ、レオヴァさん。

こういうのはおれの得意分野だ。」

 

ニヤリと笑い部屋を後にしたフーズ・フーの気配が完全に遠ざかると、レオヴァは苛立ちを顔に浮かべた。

 

 

「…河松……父さんに対するあの言葉、許せねェ…!!」

 

レオヴァの発する怒気で部屋の窓がガタガタと揺れ、珈琲の入ったカップが割れる。

 

机に広がる黒い液体に、ハッとしたようにレオヴァは怒気を納めた。

 

心なしか震えている電伝虫を軽く撫で、溢れた液体を拭うと、レオヴァは深呼吸をして書類に手を伸ばした。

 

 

「…ハァ……短気は良くないことだ。

感情をコントロール出来なきゃならねェ……そう、キングにも言われたってのに。情けねェ話だ。」

 

 

レオヴァはあの言葉を頭で繰り返した。

 

『レオヴァ坊っちゃん、カイドウさん譲りの“それ”は治すべきだ。

おれ達はいつどんな時も冷静に、カイドウさんを支えられなきゃならねェ。

突然、ストッパーが外れるようじゃ駄目だ。

カイドウさんの敵を確実に殺る為に、動じねェ姿勢を保て。』

 

まだ十代前半の頃、キングがレオヴァを諭した時の言葉だ。

 

カイドウやキングにクイーン、ジャックなど。

レオヴァは大切な者を侮辱されると、瞬間的に理性を怒りが越えてしまう時が度々あった。何の前触れもなく。

 

それはまるで酔っているカイドウが笑い上戸から怒り上戸になる時のように、急に切り替わってしまう。

そんなレオヴァの成長を促すため、キングは助言をしたのだ。

 

共にカイドウを支えると認めた男が、 更なる高みを目指せるようにと。

 

以降、レオヴァは自分の怒りをコントロールするように心がけた。

偉大な父(カイドウ)の隣に立つに相応しい男になる為に、信頼する同志(キング)の期待に応える為に。

 

 

未だにその父の事となると沸点が低くなるのは相変わらずだが、しかしそれはキングとて同じであった。

 

レオヴァは冷静さを取り戻すべく、深く息を吐くと書類の確認作業を再開するのだった。

 

 

 

 





ー後書きー

キッド:2年間暴れ続けて、新世界の荒波を体験。
キラーの助言もあり、確実に“アイツ”を越える為に同盟を了承。
同盟相手はどいつもムカつくとと思いつつも我慢出来ている所に成長を感じる……かもしれない。

キラー:二年間新世界で旅をして戦略不足を感じ、同盟を提案。
理性的な判断力や、情報収集力で他の同盟相手との連絡役であり、キッドとの間を取り持っているスーパー有能相棒

ルフィ:意外にも(?)あっさり同盟を承諾。
カイドウやレオヴァの強さは分かってるので、超えて海賊王になる為には一緒に力を合わせる“友だち”が必要だと考えている…かもしれないし、何も考えてないかもしれない。
カイドウもレオヴァも。そしてシャンクスも超えて海賊王になる!と言う強い気持ちがある。

ゾロ:まだ少しキッド達への警戒心はあるが、ルフィが決めたことなので文句はない。なにより百獣海賊団と戦うなら同盟も必要だろうと冷静に判断出来ている。
サンジの葛藤に気付いていて、尚厳しい言葉を投げたのは
揺らいだ心のまま戦えるほどぬるい相手ではないと理解しているからこそであり、不器用なゾロなりの優しさである。

サンジ:今回、麦わらの一味で一番辛い男。
ルフィと旅に出た時点で薄々分かってはいたが、“理解”と“覚悟”は別である。誰よりも“優しい”男にとって片方を切り捨てる事はいったいどれだけの覚悟が必要だったのか…


赤鞘:国外へ一時、退避。
不安や動揺で揺れつつも、気を失った日和を連れ海へ出てイヌアラシがいるゾウを目指す。

河松:傳ジローは裏切り者で、日和は洗脳されていると信じ込んでいる。
しかし、彼からすれば憎き百獣の配下にくだり、その幹部を親友と呼び楽しげに生活しているだけでなく、大名の地位まで手に入れた男が怪しく見えてしまうのは仕方がないのかもしれない。
20年間一人で温かい記憶が溢れる城の残骸の中で生きていた河松の心境は消して推し量れるものではないのだ。
 
錦えもん:傳ジローを信じているが他の仲間の言葉もあり、置いて行った。
何かあれば自分が他を説得しようという気持ちもあるが、おでんの侍としての矜持もある為に板挟みに。

狂死郎:突然、河松に敵意を向けられ困惑。
ただ、おでんの忘れ形見である日和とモモの助を幸せにしたいだけだった。(その為には百獣と敵対せず、ひっそりと穏やかに暮らすしかないという考えに至った)
静かに消えれば見逃して貰えるという確信もあり、ササキやレオヴァと敵対したくないと言う想いもあった。

 
レオヴァ:元々、消すならワノ国の外で…と思っていたので一度逃がす予定だった(狂死郎がこっそり船を用意しているのも知っていた)
ただ、仲違いが起きたのは予想外だった。
他にも倍速中に聞こえた河松の言葉が逆鱗に触れたなど、色々思う所はあるようだ。
……果たして一度逃がして、どうやって見つける算段だったのだろうか?





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

動き始める次世代を謳う者達

 

 

 

麦わらの一味はキッド海賊団と同盟を組んだ。

 

サンジの葛藤やキッドの性格面でも問題などもあったのだが、最終的に同盟は結ばれたのだ。

 

理由は単純だ。

四皇に挑むには互いに人手が足りなかった。

 

ただでさえ百獣海賊団は屈指の人員数を誇り、まさに世界一の戦力と保有していると言ってなんら過言ではない。

 

更には、その海賊団のNo.2である百雷のレオヴァはワノ国の王である。

 

ワノ国と言えば、“百獣国際連盟”を立ち上げ

“非”加盟国を中心に何十ヶ国の国と連携を取り始めており、中には元々世界政府の加盟国だった国もある程だ。

 

今では世界政府に並ぶ勢いで連盟国を増やし、強大な存在へと成りつつある。

 

 

そして、ワノ国は百獣海賊団のナワバリだ。

そうなると“百獣国際連盟”は事実上、海賊団を中心に国を巻き込んだ組織を作り上げていることになる。

 

 

これ程の組織相手では、超新星と呼ばれる彼らでも分が悪いと考えたのだろう。

 

結果、キッド海賊団は同盟相手を増やしており、麦わらの一味もその話に乗ったのだ。

……約一名、事をしっかりと理解出来ているか怪しい麦わら帽子ののんきな少年がいるが。

 

 

 

そして、同盟を組んだ麦わらの一味とキッド海賊団は、早速行動を開始した。

 

魚人島から出港したサウザンド・サニー号には麦わらの一味の他に、キッド海賊団の船長であるキッドとその相棒キラーが乗船していた。

……が、突然の爆弾発言に一味は目を見開いて二人の方を向いたまま固まってしまった。

 

 

「「……へ?い、言ってる意味が…」」

 

理解不能だと、間抜けな声を出すナミとウソップをキッドはイライラしたような目で睨み付ける。

 

 

「何度も言わせるんじゃねェ!!!

今から攻め()るのは“パンクハザード”だ!」

 

怒鳴るように叫ぶキッドに、ゾロが口を挟む。

 

 

「……聞いてた話と違うじゃねぇか。

魚人島では百獣海賊団のナワバリ、“ワノ国”に攻め入るって話だった筈だろ。」

 

かすかに不信感を滲ませるゾロをキッドが睨み返すと、キラーが二人の間に割って入った。

 

 

「待て、キッド!

主語がないから混乱を招くんだぞ!

まずは、何故魚人島と話が違うのか説明させてくれ。」

 

混乱する麦わらの一味に真っ直ぐ向き直ったキラーの言葉に、皆が向き直る。

 

 

「ぜひ、説明して欲しいわ。」

 

「そ、そうだ!

同盟なのに今後も嘘つかれちゃ困るしよ~!…ぅ!」

 

ロビンに続いて声を上げたウソップが、キラーの後ろから睨んでくるキッドの眼力に負け、ゾロの後ろに目にも留まらぬ速さで逃げ隠れる。

 

キラーは説明をするべく、色々な事が書かれた紙を床へ広げて見せた。

 

 

「まず、魚人島は百獣海賊団のナワバリであり、ワノ国とも親交が深い…と言うのは知っているか?」

 

「知ってるわ。

特に最近では“百獣国際連盟”に加入すると言う噂もあるとか。」

 

「そ、そうなの!?

ロビン……詳しいのね。」

 

「えぇ、2年間お世話になった場所は色々な情報が入ってくる所だったから。」

 

キラーの質問に答えたロビンにナミが驚いている中、キラーはそれなら話が早いと会話を続けた。

 

 

「そう言う訳だ。

魚人島は実質、百獣海賊団の傘下と言っても過言ではない。

そしてレオヴァ……百獣海賊団のNo.2はお前達が考えている以上のキレ者だ。

あそこでの会話は全てバレているという、前提で動くべきなんだ。」

 

キラーの言葉にナミ達が目を見開く。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!

なら……私たちの同盟は百獣海賊団にもうバレちゃってるって事になるじゃない!!」

 

ウソップ達の言葉を代弁するように声を上げたナミに、キラーは仮面の下で目線だけ向ける。

 

 

「そうだ。

おそらく……いや、100%バレているだろうな。」

 

「いるだろうな…じゃねぇよ~!!

ど、どうするんだよ!?すぐにでも百獣が来たら!!」

 

慌てるウソップに、キラーが言葉を返すよりも早くキッドが口を開く。

 

 

「だから、ワノ国に行くってフェイク(・・・・)を入れたんだろうが!!

端からアイツに全部隠そうなんて無理に決まってんだろ!!

そうなったら、“どの情報を妥協するか”が重要になってくンだよ。」

 

思いの外、理性的な答えにウソップと数人が面食らっているとキラーがキッドに続くように口を開く。

 

 

「今のキッドの言葉が、魚人島で嘘をついた理由だ。

敵の腹の中で全てを馬鹿正直に話すことは出来ない。

本来なら魚人島で同盟の話をすることも控えたかったんだが、お前達と確実に会う為には仕方がなかった。

魚人島を出られては、お前達を探し出すのに時間がかかりすぎる。

…だが、嘘を言う形になった事は悪かった。」

 

謝罪の言葉に一味は一瞬黙り、ルフィを振り返る。

 

 

「…どうする、ルフィ。同盟続けるのか?」

 

「おう、理由あったなら別にいい!気にしねぇよ!」

 

ニカッと笑ったルフィからキッドが目を反らすと、キラーが話を続ける。

 

 

「そう言って貰えて助かる。

おれ達としても、嘘をつくつもりはなかった。」

 

「ルフィがいいってんだから、もうその話はナシだ。

それより何で“パンクハザード”なのかが知りてェ。」

 

ゾロの返しに、キラーは頷く。

 

全員が集まっている甲板に広げられた紙に指を差しながらキラーが説明を始めた。

 

 

「百獣海賊団のあの戦力の多さは異常…

だが、それと同じくらい奴らの持つ“繋がり”も厄介なんだ。

戦力は後々に削るとして、先にその繋がりを少しでも減らす必要がある。

せっかく戦力を削っても繋がりの関係でまた敵が増えてはそれこそ百獣の戦力を無尽蔵に増やすことになりかねないだろ?」

 

広げた紙を指差しながら説明をするキラーに、フランキーが髪をセットしている手を止めずに問いかける。

 

 

「で、それでなんでパンクハザードなんだ?

説明になってないぜ。

それに、パンクハザードと言えば…あの大将赤犬と青キジがやりあって、島は大惨事になったって言うじゃあねぇか。」

 

大将という単語にウソップが目を見開く。

 

 

「えっ……!?

いや、確かに大将が一騎討ちしたってのは知ってるけどよ!

それ今からおれ達が行く所なのか!?

よし、やめよう。一旦引き返して…」

 

動揺し始めたウソップを無視して、キラーは話を続ける。

 

 

「パンクハザードに行く理由は単純だ。

あそこにはドンキホーテ・ドフラミンゴの闇取引用の工場がある。

それを潰しに…」

 

「ちょ、ちょっと待って!

なんでここで急に七武海の名前が出てくるのよ!!」

 

「……お前、知らないのか?」

 

少し驚いた声を出すナミに思わずキラーは首をかしげた。

知らないとは何を指しているのかと、問おうとした時。

側にいたロビンが先に口を開いた。

 

 

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ……確か百獣海賊団と繋がりがあると言う噂を聞いたことがあるわ。」

 

「えぇ~!

じゃあ、おれ達……四皇と七武海の両方を敵にまわすのかよ!!?

ルフィ~!考え直せ!」

 

ウソップが真っ青な顔でルフィを振り返るが、当人はけろっとした顔でそうなのか!などと、呑気な声を上げている。

 

そんな光景に黙っていたキッドが眉間のシワを深くしていく。

 

 

「チッ…七武海は政府の犬だぞ、始めから敵だろうが。

邪魔するなら消す……それだけだろ。いちいち騒ぐんじゃねェよ。」

 

「キッドの言う通りだ。

七武海は元々海軍側、相対すれば敵。

どちらにせよ敵ならば、利用させて貰おうと言うわけだ。」

 

相変わらず揺らがないスタンスの2人に小さく頷くと、ブルックが口を挟んだ。

 

 

「私たちが討つのは四皇。

ならば、七武海に恐れをなしている場合ではない…と言うのは分かります。

ですが、同時に敵に回すとなればリスクが伴います。

そのリスクを負うほどのメリットはあるんですか?」

 

ブルックの尤もな意見にウソップ達が強く頷く。

すると、キラーはもう一枚紙を取り出して麦わらの一味へと差し出した。

 

 

そして、その紙を見てロビン達は驚きを露にし、ルフィとチョッパーは首を傾げた。

 

 

「これっ…!?

どうやって、こんな情報を……百獣海賊団から情報を手に入れるのは簡単じゃない筈よ!」

 

驚きを隠せずにいるロビンの言葉に、キラーが答える。

 

 

「あぁ、そうだ。

百獣海賊団の情報はまるで選別されているかの様に、ある一定の情報しか流れて来ない。」

 

「じゃあ、どうやって手に入れたんだよ!?」

 

声が裏返ってしまっているウソップの声を遮るように、キッドが口を開いた。

 

 

「ンなもん、百獣以外から手に入れたに決まってんだろ。」

 

「百獣海賊団の情報を、別の場所から…?

まさか……!取引相手!?」

 

キッドの言葉の真意に即座に気付き、息を呑んだロビンにキラーは小さく笑う。

 

 

「察しがいいな、ニコ・ロビン。

これは百獣海賊団の取引先である、ドフラミンゴファミリーから奪った情報だ。」

 

「なるほどな!

鉄壁の守りの百獣海賊団から奪うんじゃなく、その相手からってワケかよ。

なかなかやるじゃねェ~の!!」

 

感心したように声を上げたフランキーの横で、チョッパーが困惑した顔をする。

 

 

「なぁなぁ、ロビン……これなんなんだ?

そんなに凄いものなのか…?」

 

ハテナをたくさん浮かべるチョッパーに、ロビンはこの情報が何なのか、噛み砕いて話し始めた。

 

 

「これはね、百獣海賊団とドフラミンゴの取引リストよ。

あの革命軍でさえ百獣海賊団の情報を手に入れるのは難しいの…それくらい凄いものって事なんだけど。

これを見る限り……百獣海賊団はドフラミンゴに武器や薬、日用品を売ってるようね…

それにこのSMILE・“insect ver.”と“beetle ver.”って言う項目が重要みたい。」

 

「すまいる…?ばーじょん??

ロビン、おれ分かんね~よ~!」

 

あわあわするチョッパーにロビンは小さく笑いかける。

 

 

「このSMILEというものは、最近一部で流通し始めた特殊な木の実。

これを食べた者は普通ではあり得ない能力を得る……と私は聞いてるわ。」

 

「ちょ、ちょっと待ってよロビン!

それじゃあまるで……」

 

声を裏返らせるナミの言葉にロビンが続ける。

 

 

「……えぇ、まるで悪魔の実。」

 

「そ、そんな物が……」

 

「おいおい!?

百獣は悪魔の実を売りさばいてんのか!?」

 

驚きのあまりふらつくナミをサンジが受け止め、フランキーはありえねェと声を上げた。

 

動揺が走る一味にキラーが会話を再開する。

 

 

「正しくは、SMILEは悪魔の実ではない。

人工的に作られた物だ。

そして、その実を作る工場の1つがパンクハザードにある。

それも貿易用のSMILEの工場(・・・・・・・・・・)らしいんだ。」

 

「なるほど。

……で、そこを壊すって訳か?」

 

「破壊するのは大前提だ。

今回の作戦の要は、その工場のある施設にいる“イネット”を捕まえる事だ。」

 

「「「イネット…?」」」

 

聞き覚えのない人物の名前に一味は首を傾げる。

 

 

「“元”百獣海賊団の科学者であり、現ドンキホーテファミリーお抱えの科学者。

イネットを捕らえ、その後ドレスローザにある“鍵”を手に入れに行く。

奴は最悪の場合、取引材料としても使える。

ドフラミンゴはレオヴァから部下を預かっている状態だ、イネットの生死には敏感になるだろう。

何せ、レオヴァは何よりも身内を大切にする男だ。

上手くやればドンキホーテファミリーと百獣の間にゴタゴタを起こし、時間を稼げる可能性もある。」

 

話をドンドン先に進めるキラーにゾロが待ったをかける。

 

 

「その“鍵”ってのはなんだ。

わざわざ七武海の本拠地に乗り込むんだ。重要なモンなんだろ?」

 

「そうだ、この“鍵”は絶対に必要になる。

……だが、それよりまずパンクハザードの作戦の話をさせてくれ。」

 

こうして神妙な雰囲気の中、キラーを中心に話が進んでいく。

 

彼らの作戦開始まで、あと数日。

 

 

────────────────────────────────

────────────────────────────────────

 

 

 

 

麦わらの一味がキッド海賊団に会うよりも前。

 

狂死郎は日和を連れ去られた事を絶望する暇もなく、レオヴァとの対面を終え、鬼ヶ島にある応接間で“親友”に全てを話していた。

 

 

「……と言う訳なんだ。

おれはずっとササキ、お前に……嘘を…」

 

狂死郎は正面に座るササキを見ることが出来なかった。

 

錦えもん達は仲間であり、同じ主に仕える同志だったが。

何年も自分を親友と呼び、倒れそうになる度に支えてくれた一番の“親友”はササキだった。

 

心が辛いとき。これで本当に良いのかと悩んだ時。

必ず変化に気付いて背中を叩き笑ってくれたササキに、どれ程狂死郎は救われたか。

 

 

『後悔ってのは誰だって少しはあるだろ。

“あの時どうすれば良かったのか”って悩むぐらいならよ、“これからどうすれば良くなるか”ってことで悩む方が有意義だぜ?狂死郎。

それにこれからの事なら、おれも一緒に悩めるしなァ!

それでも難しい問題ならよ、レオヴァさん呼ぼうぜ!

確か……三人寄ればモンジューの知恵って言葉があるんだろ?』

 

そう言って胸を張るササキに、文殊の知恵だろうと思わず笑いながら返した記憶も狂死郎を支えてくれる大切なものの1つになっていた。

 

それほど、狂死郎にとって“親友(ササキ)”の存在は大きなものになっていたのだ。

 

 

しかし、もうそれも過去の話だ。

 

ササキには全てを話した。

元々は敵であったことも、狂死郎と言う名が嘘であった事も。

……昨日、百獣海賊団を裏切るような真似をしたことも。

 

 

ここで死ぬ訳にはいかない。

日和様とモモの助を守らねば…と思う自分と。

最期がこの親友の手で迎えられるならと、納得してしまう自分がいる。

 

正反対の二つの想いを抱える自分に、狂死郎は内心で自嘲の笑みを浮かべた。

もう何年も前からまるで自分は二人いるかのような錯覚は続いている。

 

おでん様と生きた傳ジローと、百獣海賊で生きた狂死郎。

どちらも同じ20年ほどの長い時間を過ごした。

どちらの自分も本心なのだ。

 

 

応接間に短くはない沈黙が流れていた。

 

 

「……そうかよ。

で、弁明はなしか?」

 

自分に初めて向けられる冷たい声に狂死郎はうつ向きがちに答える。

 

 

「…………おれには申し開く…資格はない…」

 

「……許してくれとも言わねェのかよ。」

 

「っ……許してくれなど…

おれにそんなことを言える権利など…あるはずが……」

 

完全にうつ向きながら紡がれた言葉に弾かれたようにササキが立ち上がり、狂死郎の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「狂死郎!お前はいつもそうだよなァ!!

資格がないだの、権利がないだのと……誰がそれを決めるんだよ!?何をするのかはテメェの意思だろうが!!

おれは“お前自身”に聞いてんだぞ!!!

この期に及んでまだ、おれにも自分にも嘘を吐くのかよ!?」

 

真っ直ぐなササキの言葉に狂死郎の瞳が揺らぐが、口はきつく結ばれたままだ。

 

 

「なァ、なんで何も言わねェ!!?

おれをっ……親友って呼んだのも嘘だったのかよ!!!

おれは、おれはお前をっ…本当に!レオヴァさんだって!!」

 

顔を歪めるササキに、ついに狂死郎の本音が溢れる。

 

 

「違うッ!嘘じゃない…

ササキ……それだけは、嘘じゃないんだ……」

 

「じゃあ、何で許してくれとすら言えねェんだ!!

…ワザとおれを怒らせる真似をする理由当ててやるよ……

狂死郎、お前は逃げてんだろ……おれから。」

 

ササキは胸ぐらを掴んでいた手を力なく離し、目を合わせない狂死郎を、それでもただ真っ直ぐに見据えて続けた。

 

 

「前に言ってたよな、また失うのが怖いって。

お前は傷付きたくねェから、おれに正面からぶつかって来ないで許されないだの資格がないだのと、本心隠してごちゃごちゃ理由つけてんだろ?

分かってんだよ、全部。

………何年間、お前の親友やってると思ってんだよ…狂死郎ォ…」

 

らしくなく震える声に、ずっとうつ向いていた狂死郎が思わず目を見開いて、ササキを見た。

 

全て、ササキの言う通りだ。

裏切り者として殺されるよりも、敵として拷問されるよりも。

一番の親友に、“許されない”ことの方が恐ろしかったのだ。

 

やっと此方を見た狂死郎の目を、じっとササキは見ながら言葉を続けた。

 

 

「……最後だ、狂死郎。

おれに言いてェこと、あるか?」

 

狂死郎は熱くなる目頭と震える唇を無視して言葉を吐き出した。

 

 

「悪かった…!本当にすまない!!

…ササキ…どうか……どうか、おれを許してくれっ……!!」

 

言い終えると同時にガバッと頭を下げた狂死郎を、ササキは数秒見つめた後、思いっきり拳を振りかぶり、殴り飛ばした。

 

派手な音と共に狂死郎は壁を突き抜けて、隣の部屋へと吹っ飛ばされる。

 

瓦礫の上で小さく呻き声をあげる狂死郎の方へズンズン歩いて行くと、ササキが手を差し出す。

 

 

「…サ、ササキ……」

 

「今回はカイドウさんもレオヴァさんも咎めねェって言ってたし、この一発で許してやる。

……それに、お前が抱え込んでるの何となく分かってたのに吐き出させてやれなかったおれも親友失格だしな…

でも、次はねェからな狂死郎ォ!!

今度からはちょっとでも抱え込みそうになってたら無理やりにでも喋らせてやる!」

 

「ハハハ……あぁ!

本当に、すまなかった…っ!」

 

頬を伝う水を拭うと、狂死郎は差し出された手を掴んだ。

すると、ササキは倒れていた狂死郎の体をぐっと引っ張りあげ、立ち上がらせた。

 

 

「……ありがとう、ササキ。」

 

「……もう、裏切ンなよ。狂死郎。」

 

二人は真面目な表情で互いに顔を合わせたあと、いつものように笑う。

 

わだかまりは感じない。

ただ、狂死郎とササキの頬には水が流れた跡だけが残った。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

今回の件。

カイドウとレオヴァは今までの功績や映像の記録を踏まえて、狂死郎には専属部下の没収と減給、暫しの謹慎を言い渡した。

 

驚くほど軽い罰だが、身内想いな(・・・・・)レオヴァが処罰に関与しているとなれば珍しい話ではない。

 

 

狂死郎は謹慎部屋へと連れて行かれ、ひとりで大人しく時が経つのを待っていた。

日和が連れ去られた焦りはあるが、錦えもんがいるという安心感と

レオヴァが『小紫を迎えに行く』と宣言したことで、目覚めたばかりの時よりは精神が安定していた。

何より今はもう昔のように独りじゃない。親友(ササキ)頼れる人(レオヴァ)がいてくれる。

 

 

 

今は迎えに行く遠征に入れて貰えている。

その後の作戦を試行錯誤する事が重要だ。

そう考え、狂死郎は頭をフル回転させていた。

 

……が、唐突にその時間は終わりを告げた。

 

 

怒りに染まった顔のネコマムシが、謹慎部屋へ押し掛けて来たのだ。

 

ネコマムシの怒りは凄まじいものだった。

それもその筈。

実はネコマムシは前日に聞かされた狂死郎の作戦に反対していたのだ。

 

こっそり逃げるのではなく、ちゃんとレオヴァや百獣海賊団に筋を通してから赤鞘達とワノ国に残るか、外海へ出るか話し合うべきだと主張していた。

 

しかし、狂死郎はその主張を受け入れられなかった。

 

モモの助はおでんの息子である。

いくらレオヴァが話が分かる相手とは言え、男の跡継ぎを見逃してくれる保証はない。

何より、百獣幹部の大看板達や国民がモモの助を良く思っていないのは明白だ。下手をすれば昔の“黒炭家”の生き残りのように扱われる可能性すらある。

 

それに、処刑後すぐの“あの日”から飛ばされて来たばかりの赤鞘の侍達がカイドウやレオヴァの前で一瞬でも変な気を起こせば、全員の命はないだろう。

そう、冷静に狂死郎は考えていたのだ。

 

だが、レオヴァならば大丈夫だと、楽観的過ぎるほど信じきってしまっているネコマムシに狂死郎の懸念の言葉はしっかりと届かなかった。

狂死郎が懸念している相手はレオヴァではなく、一部の百獣幹部と国民なのだ。

 

 

そして、結局狂死郎はネコマムシの意見を飲んだように見せ掛けて勝手に自分の案を実行したのだ。

勿論、日和がそれを肯定し実行に移そうと言ってくれたからなのだが。

 

ネコマムシならば、ミンク族のまとめ役として百獣海賊団に馴染んでいるし、レオヴァからも気に入られているから今後も大丈夫だろうと確信があった。

その為、大丈夫だと確信のないモモの助と赤鞘を説得するために跡地へと赴いたわけである。

 

 

そんな勝手に進められた事情もあり、ネコマムシは怒り心頭であった。

 

あれだけ止めたのに勝手に実行し、守るべき日和が手の届かない場所へ行ってしまったのだ。

怒らないのは到底無理な話である。

 

 

「狂死郎、なにしちゅうか!!

河松は危ない()うたにゃあ!!」

 

「……すまない、警告を無視したおれの落ち度だ…

まさか、あれほど河松が変わってしまっていたとは……」

 

「じゃき、そが()うたやが!

レオヴァが日和様を連れ戻す宣言しちゅうからえぇが、そうじゃなけりゃあ!

今ここで殴ってるところやき!!!」

 

毛を逆立てるネコマムシに狂死郎はひたすら謝った。

 

日和を連れ戻す作戦に参戦できなかったネコマムシの攻撃は暫く続いたが、少し深呼吸すると落ち着きを取り戻したようであった。

 

 

「……これ以上は()うても仕方がなか…

今回はもう手打ちにするにゃあ!!」

 

これで勘弁してやると宣言したネコマムシに狂死郎は眉を下げて小さく笑った。

 

そして、真面目な顔でネコマムシを見る。

 

 

「…ネコ、お前はもしモモの助様が百獣海賊団と戦うと仰ったらどうする?」

 

「……なんぜよ、急に。」

 

一瞬和らいでいた場の空気が、狂死郎によって先ほどよりも引き締められる。

 

 

レオヴァ殿の言葉(・・・・・・・・)を覚えているだろう。

だからこその問いだ。」

 

「……覚えちゅうが…

モモの助様はそんな事言わんきに!」

 

「あぁ…モモの助様はお優しいからな。

しかし、だ。お優しいからこそ家臣の気持ちを汲んでしまうかもしれないだろう。」

 

「そがなこと……」

 

ない、とは言えなかった。

ネコマムシは知っていた、モモの助は本当に優しい子だと。

戦いが怖くとも、きっと家臣達が開国を目指し突き進みたいと涙ながらに懇願すれば、彼は震えながらも首を縦に振るだろう。

 

だが、そうなっては不味い。

 

レオヴァは確かに赤鞘を責める気はないと、手を出すこともしないと言ってくれた。

 

だが、それには条件があった。

百獣海賊団に敵対しない”、“ワノ国の民に危害を与えない”という2つの絶対条件だ。

 

これを聞いた狂死郎とネコマムシは当たり前の条件だろうと、頷いた。

いくら慈悲深いレオヴァとは言え、自分の仲間達や民を傷つけられれば黙っていられないのは当然だ。

 

そして、今。

最悪の状況が起こる可能性が非常に高い。

 

ネコマムシが以前河松を見掛けてから危ないと危惧していたのは、百獣海賊団への確かな敵意を感じたからだ。

だからこそ、狂死郎に河松に気を付けろと口酸っぱく言っていた。

 

狂死郎も今回で河松の危うさをやっと理解した。

 

そして、先ほどの質問に繋がったのだ。

もし、守るべきモモの助が、戦うと宣言したら……

 

 

「ネコ、今度の日和様を迎えに行く作戦はレオヴァ殿の選抜で“大看板”が1人、共に来る。

……もし、その時に…モモの助様が百獣海賊団との敵対を宣言すれば……おれに止める手立てはない!

そうなったら、おれは……日和様だけを連れてワノ国へ戻る事を選ぶ。」

 

「狂死郎っ……何()うとるぜよ!!

モモの助様も守るべき…」

 

ならばどうしろと言うんだ!!!

……ネコ、おれはみんなと会って確信したんだ。

あの目には…百獣海賊団への憎悪があった……もし可能性があるとしたら、錦さんだ。

錦さんだけは日和様とおれの話を聞いて目を揺らしていた……だが、他のみんなは…

レオヴァ殿が日和様を助けオロチを討ったと、ワノ国を良くしたのだと話しても……目の憎悪が消えず、疑惑の目でこちらを見ていた。」

 

言葉を失うネコマムシに、狂死郎は強い意思を滲ませながら話を続ける。

 

 

「おれはオロチを討ったあの時、誓ったんだ。

日和様を守ると……二度とあんな不幸な目にあわせないと!!

全てを守ることが出来ないのなら、おれは日和様を選ぶ。

……言うまでもなくモモの助様のことも大切だ…

だが、日和様もモモの助様も守りたいと欲張って、全て守れず失うくらいなら……選択する覚悟を…おれは持つ。

例え、それでみんなから恨まれても。日和様をお守りする。

ネコ、お前は……どうする。」

 

ネコマムシは静かに瞳を閉じた。

 

選べるものではない。

日和もモモの助もどちらも大切な人だ。

 

けれど、狂死郎の懸念も言っていることも間違ってはない。

どれが正しいのかは、誰にも決められない。

この世に絶対の正解などないのだから。

 

 

ネコマムシの頭を様々な記憶が飛び交う。

 

少しずつ成長して、天真爛漫さを取り戻した日和との記憶。

大好きだった“おでん”の話をしながら、自分達は前を向いて生きようと励ましあったアシュラ童子との記憶。

いつだって日和とアシュラ童子や仲間達の未来の為に仕事を頑張っていた狂死郎との記憶。

獣人島に来ては新しい娯楽を持って来て手料理を振る舞い、ミンク族にいつでも優しく接し、ネコマムシの良き理解者になってくれたレオヴァとの記憶。

 

 

おでんとの十数年は楽しかったし、幸せだった。

けれど、レオヴァとも出会ってから十数年の長い年月を共にしてきた。

 

おでんに向ける尊敬や感謝の念は強く、廃れることはないが、レオヴァへの感謝や親愛の念も強い。

 

そして、共に生きてきた日和達への想いも。

 

 

ネコマムシは閉じていた瞳を開いた。

 

 

 

「……モモの助様もみんなも大切ぜよ…

じゃけども、狂死郎の()うことも分かっちゅう。

…………わしは、もしみんなが戦う()うなら……その時は覚悟できとるぜよ。」

 

「……そうか。」

 

「やき、狂死郎。

もう独りで突っ走るのは無しぜよ。」

 

「ネコ……分かった。

もう勝手な真似はしない。」

 

「ゴロニャニャニャ!

仲間はもっと頼らないかんぜよ!

狂死郎ひとりに背負わせるつもりはないきに。」

 

優しく笑ったネコマムシに、狂死郎は笑い返した。

 

この謹慎が開けた時。

皆を迎えに行った狂死郎を、仲間達は信じてくれるのだろうか。

 

 

 




ー補足ー

キッド&キラー:シャボンディ諸島でもレオヴァを知っている素振りがあったが、一体なぜなのだろうか…?

サンジ:気丈に振る舞っているが、やはりあまり元気がない

カイドウ:狂死郎が裏切ったとレオヴァがキング、クイーンを呼んで4人会議した。
なかなか有能であり強さも申し分ないので、今回の件はレオヴァが良いなら構わねェ!と水に流した。

・狂死郎呼びについて
日和やネコマムシ、アシュラは傳ジローではなく狂死郎と呼んでいる。
日和は小紫を源氏名として使っていただけで、普段はネコ達に日和様と呼ばれていたので“日和”呼びだが
狂死郎は改名のようにずっと狂死郎と名乗り、そう呼んでくれと皆に頼んだ為、“狂死郎”呼びが定着した。
アシュラ童子は、“アシュラ”と“酒呑童子”呼びが混ざっている。
(獣人島ではアシュラ、そこから出ると酒呑童子呼びになっていた為。)

・SMILE・“insect ver.”と“beetle ver.”
レオヴァが共同開発したSMILEのようだが、果たして“ver”とは何なのか……
何故、ドフラミンゴが工場を所有しているのか…

・イネット
彼はウイルス実験の被害にあった筈だが……一体何がどうなっているのだろうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

上陸、パンクハザード

↓今回でてくる愉快な“何か”達のイメージ図です!

【挿絵表示】

ちょっと気持ち悪い見た目なので、苦手な方はスルーして頂けると助かります!
イメージ補完用の絵なので…


 

 

時は少し遡り、ワノ国。鬼ヶ島にて。

 

謹慎が解けた狂死郎に赤鞘を迎えに行かせる為の準備を進めていたレオヴァ達のいる部屋に、慌てた様子で部下が転がり込んで来た。

 

 

「レ、レオヴァ様!!」

 

ノックも無しに部屋へ入った部下をレオヴァの隣に座っていたジャックがギロりと睨み、低い声を出す。

 

 

「部屋に入る前の声掛けも出来ねェのか!?

会議中の札も出てた筈だぞ!」

 

「も、申し訳ありませんっ…ジャック様!」

 

「馬鹿野郎!!

おれに頭を下げるより先に、レオヴァさんへの謝罪だろうが!!」

 

「っ…!?

レオヴァ様…大変申し訳ありません……」

 

顔を真っ青にしながら必死に頭を下げる部下にジャックは鼻を鳴らすとレオヴァへ目線を戻す。

 

 

「すまねェ…レオヴァさん、おれの教育不足だ。」

 

「構わねェよ、ジャック。寧ろ十分すぎるくらいだ。

…お前も顔を上げて良いぞ。

確かにあまり褒められる行動ではなかったが、急ぎの報告があったんだろう?

次から気を付けられるようになれば良いさ。」

 

「レオヴァさんが良いってんだ、報告があるなら始めろ。」

 

「は、はい!ありがとうございます!

では……」

 

レオヴァから許しを得た部下は先ほど入った情報を伝えるべく口を開いた。

 

 

「先ほど魚人島に滞在している真打ちから

キッド海賊団と麦わらの一味の同盟が結成されたとの報告が…!!」

 

「なんだと…!?」

 

「成る程、3つ目の同盟相手は麦わらの一味か。」

 

驚きと怒りで目をかっぴらくジャックとは対照的にレオヴァはふむ、と冷静なまま返事を返した。

 

 

「もうキッドの野郎は放置出来ねェ!!

あの野郎、レオヴァさんから受けた恩(・・・・・・・・・・・・)を仇で返すつもりじゃねぇか!!!」

 

「落ち着け、ジャック。

(いきどお)ってくれんのは嬉しいが、お前には狂死郎と赤鞘の件を任せてェ。

キッドとキラーの事は一度、会議に上げてから決める。」

 

「…………分かった。

レオヴァさんがそう言うなら、おれァそれで。」

 

少し不満げな雰囲気ながらも頷いたジャックにレオヴァは微笑みを返す。

 

 

「悪ィな、ジャック。

お前には苦労かける。」

 

「そんな事ねェ!

もっと任せて欲しいくらいだ。」

 

幾分、柔らかくなったジャックの気配に部下は胸を撫で下ろし、立ち上がったレオヴァを見上げる。

 

 

「では、おれは一度父さんの所に行ってくる。

ジャックは手筈通り、狂死郎を連れて任務へ向かってくれ。」

 

「了解だ、レオヴァさん。」

 

ジャックの返事に軽く笑みを返すとレオヴァは部屋を後にした。

 

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

カイドウに呼ばれて鬼ヶ島の会議室へ来ていたキングとクイーンの二人は、揃って不快そうに眉をしかめた。

 

部屋に着いて早々、カイドウとレオヴァに挨拶をしたまでは良かったのだが。

その後、部下から受けた報告が二人の表情を歪ませたのである。

 

 

“キッド海賊団と麦わらの一味の同盟”

それも百獣海賊団のナワバリである魚人島で堂々と結ばれたとあっては尚更良い気分ではない。

 

クイーンは不満さを隠そうともせずレオヴァに思ったことを、そのまま吐き出した。

 

 

「だ~からァ!

あのクソ生意気なキッドのガキは潰しちまおうぜって言ったじゃねェかよォ!レオヴァ~!!」

 

「今回ばかりはこのマヌケと同意見だ、レオヴァ坊っちゃん。

勝手にウチを抜けた(・・・・・・)挙げ句、同盟を集めて攻めて来ようなんて馬鹿は四肢を捥いで分からせてやるくらいでちょうどいい。」

 

二人の言葉にレオヴァが苦笑いを返していると、カイドウは酒を飲んでいた手を止めて口を挟んだ。

 

 

「キッドの小僧はレオヴァが目をかけてただけあって見所がある。

それに勝手に抜けたワケじゃねェしなァ。」

 

カイドウの言葉にキングは納得いかないと言いたげに目を細めた。

 

確かにカイドウの言うようにキッドは勝手に百獣海賊団を抜けた訳ではない。

もっと言うのであれば、見習いであり正式に入団はしていなかった。

 

その見習いを辞める時もちゃんとレオヴァに宣言してから抜けている為、そこはカイドウもレオヴァ本人もあまり気にしてはいなかったのだ。

 

しかし、キングとクイーンからすれば散々レオヴァに世話になっておいて、啖呵を切って出ていった生意気なガキ共の印象は最悪だった。

 

特にキングには、あの忙しいレオヴァがわざわざ休日や休憩時間を割いて、無理やり時間を作ってまで世話を焼いていたのに、と言う怒りもある。

 

だが、二人の思いとは裏腹にカイドウもレオヴァも“強者”には甘い一面があるのだ。

若いながらにキッドとキラーは覇気を扱えた。

さらにキッドに至っては覇王色の才覚もあったと言う話をレオヴァから聞いている。

 

 

クイーンは生意気な二人のガキを思い出し、青筋を浮かべながらカイドウに言葉を返す。

 

 

「確かに勝手に抜けたワケじゃあねェけど

キッドのガキはレオヴァに啖呵切ってたんスよ!?

挙げ句に打倒百獣を掲げて同盟集めてんだ。

こりゃ完全に敵対行動だぜ、カイドウさん!!」

 

尤もな意見にカイドウは少し唸ると、酒で喉を潤しつつ返す言葉を探した。

 

 

「ア~……まぁ、クイーン。テメェの言うことは尤もかァ。

あの啖呵は、何かとレオヴァに構って貰おうとしてたキッドの小僧の癖みてぇなモンだろうが…

仕方がねェ。レオヴァ、そろそろキッドの小僧に迎えを出せ。」

 

「そうだな、父さん。

そろそろキッドの家出も潮時か…」

 

呑気なやり取りをする親子にクイーンは大きく溜め息を吐く。

 

 

「おいおいおい……カイドウさんにレオヴァよォ…

キッドの馬鹿がやってる事はガキの反抗期じゃ済まねぇ状態なんだぜ?

麦わらの一味はまだしも、あの海賊団(・・・・・)と手を組んでるのは見逃せねェって!!」

 

クイーンの言っている海賊団を思い出し、カイドウが渋い表情になる。

 

 

「そりゃあ、分かってる。

ガキの我が儘じゃ済まねェところまで来つつあるが、ウチのナワバリと船にゃあ手を出してねェんだ。

連れ帰ってまたウチに入るって言うまでキングが世話(・・)すりゃあ良い。」

 

「……まぁ、それならいいスけど。」

 

カイドウがそこまで言うならと渋々口を閉じたクイーンを見計らって、キングが言葉を挟む。

 

 

「カイドウさん、おれが面倒みるのは構わねェが。

もし、ウチに戻る気はねェと言い続けたらどうするんだ?」

 

「……その時は、レオヴァに一任する。

キッドの小僧はおれが連れてきたワケじゃねェ。

レオヴァが処分するってんなら、好きにすりゃいい。」

 

その言葉にキングは頷くと、レオヴァへ目線を移す。

 

レオヴァはどこまでも身内に甘い男だ。

昔のようにある程度なら“ヤンチャ”で済ましてしまうのではないか。

そんな少しの懸念を持ってレオヴァを見た。

 

だが、レオヴァはそのキングの心を読んだのかのように笑みを消すと、真剣な顔で目を見つめ返した。

 

 

「大丈夫だ、キング。

おれは何を優先すべきかは弁えてる。」

 

揺るぎない声から感じ取れた覚悟にキングは満足そうに目を細めた。

 

 

「それでこそだ。

おれはもう何も口は出さねェ、世話は任せてくれ。

クソガキ共のあとの事は全てレオヴァ坊っちゃんに任せる。」

 

レオヴァがキングの懸念を完全に拭い去った気配を感じると、クイーンは話題を戻すように報告書片手に話を再開した。

 

 

「……で、最初の話に戻るが!

魚人島からの情報によれば、麦わらの一味とキッドのガキは“ワノ国”に攻めいるって作戦らしいけど……どうするんだよ、レオヴァ。」

 

報告書にある麦わらの一味とキッド海賊団の動きにどう対処するのかと問われたレオヴァの眉を潜め、沈黙する姿にキングが違和感を感じて首を傾げる。

 

普段であれば多少悩む素振りはあれど、素早く対策を語り始めるレオヴァが長く沈黙するのは珍しい。

それに眉に皺を寄せる姿をカイドウの前で見せるのも、あまりない事だ。

 

いつもと違う姿にカイドウとクイーンが不思議そうにレオヴァを見やる中、キングは伺うように言葉を投げた。

 

 

「何か問題か、レオヴァ坊っちゃん?」

 

「…報告ではワノ国に攻めいると言っていたとあるが。

本当にワノ国に来ると思うか?」

 

レオヴァの言葉にキングは少し目を細め、一拍おいた。

そして、考えがまとめ終わったのか口を開く。

 

 

「情報を鵜呑みにするならば来る……と思うが、ウチの内情を少しとは言え知っている奴がワノ国に攻めてくるのは軽率に感じるな。」

 

「いや~、でもキッドのガキは後先考えず突っ走るタイプじゃねェか。

あの野郎なら同盟もある程度揃ったってことで、勢いでそのまま攻めてくるんじゃねェの?」

 

考えすぎだと笑うクイーンをキングは睨み返す。

 

 

「能無しが…!

テメェはレオヴァ坊っちゃんがキッドのガキの教育を担当したのを忘れたのか?

……ウチを抜ける前はある程度、考えて動けるようにはなってた。」

 

百獣海賊団を抜ける直前のキッドを思い出してキングは忌々しげな顔をする。

一方、クイーンはそうだったか?と記憶を辿ってみるが、どうやら目ぼしい記憶は見付けられなかったようで首を傾げていた。

 

そんな二人のやり取りにレオヴァは考える素振りを見せながらも言葉を挟んだ。

 

 

「クイーンの言うように確かにキッドは直情的な面もある。

だが、キングの言葉通り…それを少し克服出来るようにはなっていたんだ。

それにキラーもいる。

もし、仮にキッドがワノ国へ行くと言えば止める筈だ。

…昔からあの二人は良くバランスが取れていたからなァ。」

 

懐かしげに目を細めるレオヴァにクイーンは何とも言えない顔をしつつ、思考を回転させる。

そして、導き出した答えを口にした。

 

 

「…ってことはよォ。

ワノ国に攻め入る発言はフェイクの可能性があるってレオヴァは考えてるワケだな?」

 

「そうだ。

確かに“あの海賊団”が同盟にいることで戦闘員の数は一気に増えたとは思うが、それでも足りない事はキッド達も分かってる筈だ。

そうなると、こちらの戦力をどうにかして削ろうとキラーが提案するだろう。

……で、クイーンならどう手を打つ?」

 

「なるほどォ?

そうだなァ~……おれならハチノスを落とす。」

 

「確かに、一理ある。

ハチノスはワノ国に次ぐ、第二の拠点だからなァ。」

 

レオヴァがふむ、とクイーンの意見を頭で計算しているとキングも口を開く。 

 

 

「大きな拠点を狙ってくる可能性は高いが、外の工場に手を出してくる可能性もあるんじゃねェか?」

 

「はぁ?工場だァ…?

アホキング、戦力を削ぐなら拠点を潰しに来るに決まってんだろ。」

 

「アホはテメェだ。脳ミソの代わりにあんこでも詰まってんじゃねェのかァ?

戦力を削る方法は、なにも相手を潰すだけじゃねェ。

工場が壊されりゃあ、そこに部下共を向かわせなきゃならねェんだ。

そうなりゃ人員が分散することになって、ナワバリ内の戦力低下につながるだろうが…!!」

 

「うぐっ……だが、それをあいつらが思い付くとは思えねェけどなァ。」

 

「…普通なら、どこが必要性の高い工場なのかなんて分かりゃしねェ。

だが、あの生意気なガキ共は少しとは言えウチに居たんだ。

それを知ってる可能性がある限り、あり得ない話じゃねェ。」

 

キングの話にレオヴァは同意するように頷くと、小さく唸った。

 

 

「キングの言うように、工場に手を出されるのは厄介だ。

重要な工場はほぼ全てがワノ国とハチノスにあるとは言え、日用品など貿易用の工場も大切だからな。」

 

「はぁ~…いよいよ面倒なことになって来やがったなァ…」

 

大きく溜め息を吐くクイーンにレオヴァは言葉を続ける。

 

 

「だが、キッド達はほぼ工場の場所を知らない。

情報を手に入れられたとしても、情報管理が緩い場所の工場は壊されても大した影響のない場所だ。

……そう考えると、少し絞れるんだ。キッド達が狙いそうな工場の場所を。」

 

「マジかよ、レオヴァ!

てか、なんでキッドのガキは工場の場所知らねェんだよ…?

レオヴァ自ら何かと世話焼いて、色んな所連れて行ったりしてたんだろ?。」

 

「ん?…まぁ色んな景色を見せたりはしていたが。

まだ見習いの二人に重要拠点や工場の場所は教えてねェし、連れて行ってもねェ。

完全にウチに入ったワケでもない見習いに重要な情報は渡せねェだろ?」

 

当然のように言ってのけたレオヴァに、クイーンはこう言う所あるよな…と微かに顔を引き吊らせた。

 

どんなに目をかけていようが、世話を焼こうが。

結局、レオヴァは本当に信頼を寄せる者にしか大切な事は教えないのだ。

それは裏を返せば、信頼している者以外は皆が裏切るだろうと考えているようにも取れる。

 

ずっと信頼を置かれているせいで忘れかけていたレオヴァの一面にクイーンは苦笑いしつつ、話を促した。

 

 

「で、その絞り込めた工場ってのは何処だ?」

 

「新世界のあの冬島の工場か、パンクハザードの研究所と工場が怪しいな。」

 

「なら、あの冬島の工場にはドレークでも行かせるか!

パンクハザードは確かドフラミンゴの野郎に一任してるんだったか?」

 

「一任という言い方は止せ、クイーン。

ドフラミンゴはウチの傘下じゃねェ、対等な協力関係だと言ってるだろう。」

 

「ハッ!対等、ねェ?」

 

思わず笑ったクイーンにレオヴァは困ったように眉を下げた。

 

 

「で、レオヴァ坊っちゃん。どうするんだ?

ドフラミンゴの奴に増援を出すと言った所で受け入れはしねェだろう。」

 

「……そうだな。

一応、麦わらの一味やキッド達についての情報を渡して様子を見るしかねェ。

もしもの事があれば、流石にドフラミンゴもこっちの増援を受け入れる他なくなるだろうしなァ。」

 

仕方がないと小さく息をつくレオヴァに、クイーンはお汁粉片手に笑う。

 

ルーキーぐらいに簡単にかき乱される事はないだろうと余裕を見せるクイーンとは裏腹にレオヴァの眉間には皺が寄ったままだ。

 

 

「…一応、本当にナワバリに攻めてくる可能性も視野に入れてハチノスにも幹部を送っておきたい。

構わねェか、父さん?」

 

こちらを見上げて問い掛けてくるレオヴァの姿に、カイドウは酒を飲んでいる手を止める。

 

 

「構わねェ!

この際だ、ハチノスだけじゃなくマリンフォードと魚人島にも送っとけ。

キッドの小僧の同盟はデカい話になってる。

それに便乗して海軍の馬鹿共が乗り込んでくる可能性もあるからなァ。」

 

「ありがとう、父さん。

キング、まだ時間あるか?

誰を何処に送るか話し合いをしてェ。」

 

「勿論だ、レオヴァ坊っちゃん。」

 

どうするか、と話を始めたレオヴァとキングの見慣れた風景を眺めながらカイドウはまた新しい酒瓶へ手を伸ばした。

 

 

キッドの小僧でも麦わら帽子の小僧でも、海軍でも。

この愛おしくも少し穏やかすぎる日々の楽しい刺激になるなら構わないと、カイドウは僅かに口角を上げた。

 

レオヴァの言う海賊王になる為のラストスパートが“今”ならば、己の息子以外で全力をぶつけられる強者が現れるかもしれない。

話に聞いた“ジョイボーイ”も楽しみだ。

そう思い、カイドウは笑ったのだ。

 

戦いはカイドウにとって必要不可欠なものなのだ。

マリンフォードでの戦争のように。

息子と共に何も考えず、ただ目の前の強者を食らう瞬間は最高に楽しい。

 

 

だが、海賊団の頂点に立つものとしてカイドウには組織を安定させる務めがあった。

その為、酔っていない時は溢れ出る破壊衝動をコントロールして“船長”として務めて来た。

 

だが、今では“自分を抑える”必要はない。

好きに生きられるのだ。どこまでも自由に。

 

カイドウという一人の男を肯定し支える“息子”と言う存在がいる限り、この自由は揺らがない。

 

何処までも行ける。

そうカイドウは確信していた。

自分とレオヴァが共に進めば、越えられぬものなどない。

百獣海賊団こそ、世界最強であると。

 

 

始めは信頼の置ける者はキングただ一人だったが、気付けばその数は増えていた。

信頼関係など役に立たないと思っていた昔の自分では考えられない思考に、カイドウはまた小さく笑った。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

時は戻り、現在。

 

麦わらの一味とキッドとキラーを乗せたサニー号は嵐の中を突き進んでいた。

 

 

「おいおいおい!

やべぇよ、この嵐っ!」

 

「ちょっと、ちょっと!ど、どうなっちゃうんですか~!?」

 

「サニー号は問題ねェ!!」

 

慌てた様な声を出すウソップとブルックとは違い、フランキーは不敵な笑みを浮かべながら舵を取っており。

その横では、楽しげな声を出すルフィもいた。

 

三者三様の反応の中、前を見据えていたゾロが声をあげた。

 

 

「なんだ、ありゃあ?」

 

同じ方向を見ていたナミとロビンも思わず声を漏らす。

 

 

「なにあれ!?あり得ない!」

 

「……赤い海?」

 

麦わらの一味が一斉にそちらへ目を向けると、大きな音と共に火山が噴火する。

 

その光景にルフィは瞳をキラキラさせながら燃え上がる島を指差した。

 

 

「見ろ!火山が噴火したぞ!?

スゲェ~!ここがポンクハバード(・・・・・・・)か!!

なぁ、早く行こう!!」

 

ワクワクが抑えられないと眩しい笑顔で仲間を振り返るルフィに、思わずキッドとキラーが声を荒げる。

 

 

「「パンクハザードだ!!

遊びに行くんじゃねェんだぞ、麦わら!!」」

 

億超えの二人の怒声も何処吹く風なルフィをナミ達は溜め息混じりに眺めながら、上陸の準備を始めた。

 

 

まず、パンクハザードで工場を破壊する前にイネットを生捕りにしなくてはならない。

そうなると最初は慎重に動き捕獲後に盛大に暴れる、という流れなのだが

この作戦をちゃんと理解出来ているのか怪しい雰囲気の麦わら帽子の男の姿にキラーは大きく溜め息をついた。

 

 

「行くぞ、お前ら!

不思議島~~!!」

 

「おい、ルフィ。

さっきぐる眉に渡された弁当持ったのか?」

 

「あっ!やべぇ!!」

 

弁当を取りに引き返したルフィの姿にキッドはまた額に青筋を浮かべる。

 

 

「ガキの遠足かァ…!?」

 

キッドの苛立ちを含んだ声をBGMに、パンクハザードに突入するための準備が進められるのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

あれから無事、火の海を越えてパンクハザードへの侵入を成功させた一味とキッド達は灼熱の中を汗だくで進んでいた。

 

 

「暑~~い~…」

 

「…うるせぇぞ、麦わら。

気の抜けた声出すんじゃねェ!」

 

キッドの声も心なしか覇気がない。

 

 

「う~……おれもフランキーと船番してれば良かった…」

 

「そっか、チョッパーは暑いの苦手だもんな。」

 

一味の中でも特に辛そうなチョッパーをウソップが労るような目で見ていると、ロビンが足を止めた。

 

 

「ロビン?

どうしたのよ、早く先へ…」

 

「待って、ナミ……今何か聞こえなかった?」

 

「え…?」

 

「こ、怖いこと言うなよロビン~!」

 

ナミとウソップがキョロキョロと辺りを見回すが、一面火の海で何も見当たらない。

 

 

「ほら、ロビン何もいねぇ……」

 

最後まで言葉を発することが出来ずにウソップが固まる。

 

 

「ちょっと、なによウソップ!?」

 

「おい、どうした?」

 

騒ぐナミ達の異変に気付いてルフィと共に先頭にいたゾロが振り返ると、物凄い顔でウソップが燃える建物を指さしている。

 

それに釣られるようにゾロ達が目線をずらしていくと、燃えている建物の脇にカラフルな“何か(・・)”が居た。

 

 

「アツツ……ア、ア……」

 

「タケステ~クレル、オオオオオ…」

 

「スイタ、ノ……オナカカカ」

 

良く分からない“何か”は声の様なものを発しながら、ぞろぞろと物陰から現れる。

 

“何か”はそれぞれがカラフルな色をしていた。

大きさは2mくらいの個体や4m以上の個体までおり、ナミ達は見上げる形になっている。

 

しかし、ウソップが声を失ったのはその大きさ故ではなかった。

この“何か”には、生理的に受け付けないイヤな雰囲気があるのだ。

 

カラフルでファンシーな胴体に不釣り合いな顔の様なものが付いているが、あるパーツは“眼”だけだ。

ちぐはぐな場所にある口から発せられる、人間の声に近いようで異なる音は思わず耳を塞ぎたくなる。

 

 

 

よたよた、のそのそ…とこちらへ近づいてくる“何か”にナミは思わず悲鳴を上げた。

 

すると、その声に反応するように鈍かった“何か”達の動きが俊敏になっていく。

 

突然、ナミやウソップに襲い掛かって来たように見える不気味な“何か”をゾロが切り伏せた。

 

 

「なんなんだ、コイツら!?」

 

「「ゾ、ゾロ~!」」

 

半泣きでナミとウソップはゾロの後ろへ身を隠す。

 

一方、得体の知れない“何か”は先ほどよりも数を増している。

 

 

「カエセ……ム…メ……アア…」

 

「オ……オオオオオ……タベ、テ」

 

「ママ…マママ……ネ?」

 

寒気がするような動きで迫ってくる“何か”に一味とキッド達は戦闘態勢に入った。

 

 

襲いくる大量の“何か”を斬り伏せ、時には殴り飛ばすが一向に倒れる気配はない。

斬られた個体も、ウネウネ蠢きながら這ってくる始末だ。

 

ウソップ、ナミ、チョッパー、ブルックは『ひいぃ!』と情けない悲鳴を上げながら、息も絶え絶えに“何か”を吹っ飛ばしている。

 

 

「おい、これじゃあ埒が明かねェぞキラー!!」

 

「分かってる、キッド!

進むための道を作るしかない。

これ以上、ここで体力を消費するのは愚策だ!」

 

「任せろ、キラー!

おい、麦わらァ!そこ邪魔だ!!!」

 

キッドが腕を掲げると瓦礫の中から破片が集まってくる。

 

あっという間に自分よりも大きくなった瓦礫の腕を前に突き出し、キッドは進みたい方へ向けた。

 

 

「“反発(リペル)”!!!」

 

キッドの腕に集められた鉄屑が物凄い勢いで飛び出していくと、“何か”の間に道が出来る。

 

 

「行くぞ、キラー!!」

 

「分かった!

おい、麦わら達こっちだ!」

 

「急げ急げ!!」

 

「ルフィ、早く来いって!」

 

一目散に出来た道へ向けて走り出す。

 

だが、やはりと言うべきか“何か”達はぞろぞろと後を追いかけてくる。

 

 

「くそ~!まだ追ってくるのかよ!?

こうなったら…

必殺緑星(みどりぼし)(タケ)ジャベ(リン)!!

 

ウソップ達が走って来た道に一瞬で鋭い竹が生え、“何か”達がそれに阻まれる。

 

 

「おぉ!!

やるじゃねェか、ウソップ!」

 

「へへっ、まぁな!

だけど、この火の海の中じゃ長く持たねぇ。急げ~!」 

 

ゾロに褒められ、照れたように笑っていた顔を引き締めるとウソップは走り出す。

 

他の一味も一瞬、止めていた足をまた動かしキッドとキラーに続くのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

あれからずっと走り続けているうちに炎に包まれていた場所を抜けた一味とキッド達は目の前の光景に唖然としていた。

 

 

「炎の海の次は雪山かよ!!?…へっくしょい!」

 

「良かった~!

おれ暑くて死ぬかと思った…」

 

「そうか、チョッパーは寒いの強いんだよな。」

 

先ほどの“何か”を振りきって余裕のある会話をする一味を置いて、キッド達はどんどん先へ進んで行く。

 

 

「まずは研究所と工場を見つけねェと話にならねェ。」

 

「…だいたいの位置しか分からないからな。」

 

キッドとキラーの会話に、ゾロが口を挟む。

 

 

「なら、手分けすりゃ早いじゃねェか。」

 

ゾロの提案にキラーは数秒沈黙した後、一味へ顔を向けた。

 

 

「もし、手分けするとした場合。

誰と誰は一緒にした方が良いとかはあるか?」

 

「ゾロはナミかロビンとか、誰か付かないと駄目だな。」

 

「そうね、一生合流出来なくなりそうだし。」

 

「そうか、ロロノアは単独行動させては不味い…と。」

 

「おい!?」

 

流れるように自分の名前を出されてゾロが抗議の声を上げるが、一味はうんうんと頷いている。

 

そんなやり取りをしつつも話は進み、キラーとナミによって研究所と工場を探す為のチーム分けが成立した。

 

 

「じゃあ、私とゾロ、ウソップ、サンジくん、ロビンね!

……ゾロ、勝手に1人で行動しないでよ?」

 

「何でさっきから、おれだけ名指しなんだよ!!」

 

「当たり前じゃない!

自分の過去の行動思い出してみなさいよ!?」

 

「何かあったか…?」

 

分からないと首を傾げたゾロを、ナミとウソップは呆れた顔で見つめた。

 

その横ではキラーがキッド達の方を向いて口を開いている。

 

 

「おれとキッド、残りの麦わらの一味で組む。

もう一度繰り返すが、手分けして探した(のち)

発見次第、渡した電伝虫で連絡を取り……合流してから施設へ侵入する。

いいか?

くれぐれも問題を起こして、こちらの存在がバレるような真似だけはするなよ。」

 

「おう!分かった!!」

 

一番、分かってなさそうなルフィの返事にキラーは少しの疲れを感じながらも、ナミを振り返る。

 

 

「分かってるわよ。

まずは隠密行動、でしょ?」

 

「…そっちはしっかり理解してくれてる様で何よりだ。

合流にはさっき渡したキッドのビブルカードを使ってくれ。

それは後で、麦わらのビブルカードと交換と言う形で返して貰うからな。失くすなよ。」

 

「問題ねェ、おれが責任もって預かっとく。」

 

サンジの返答に軽く首を縦に振って返すと、キラーはキッドの方へ歩いて行く。

 

そのキラーの後ろ姿を見ると、逆の方向へナミ達も歩き出した。

 

 

 

─────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

ルフィ達と別れてから1時間近く極寒の中を彷徨っていたナミ達は大きな建物を発見していた。

 

 

「おい、ナミ!

これって……」

 

「キッド達が言ってた施設…!?

やっと見つけた!」

 

「まさか、山と一体化してるとはな…」

 

驚くナミとウソップの横でサンジも大きな施設を見上げる。

 

 

「よし、ナミさん。

まずはルフィ達に連絡を。」

 

「そうね!」

 

ナミは電伝虫を取り出して、受話器を構える。

プルプルプル…と暫く呼び出しが鳴ったあと、受話器からキラーの声が届く。

 

 

「……おれだ、何か問題か?」

 

「いえ、施設を見つけたの。」

 

「そうか…!今から向かう。

何処かで隠れていてくれ。」

 

「えぇ、洞窟があるからそこに隠れてる。」

 

必要なことだけ告げると切れた電伝虫をまた仕舞い、ナミは洞窟を指差した。

 

 

「あそこなら吹雪も防げそうじゃない?」

 

「ナイスアイデアだぜ、ナミ!

もう寒くてよ~…」

 

ブルブルと震えるウソップはあらぬ方向へ進もうとしていたゾロを捕まえつつ、ナミ達の後ろへ続いた。

 

 

5人が洞窟に入ると、そこは真っ暗で何も見えない空間が広がっていた。

その薄気味悪い雰囲気に、急いでウソップは簡易松明を作成すると、サンジの方へ先端を向ける。

 

サンジはウソップの意図を察すると、タバコ用のライターで火を付けた。

そして、その松明を洞窟に向けた瞬間、一味はビクリと大きく肩を揺らす。

 

洞窟の壁にある無数の穴に先ほど遭遇した“何か”が大量に居たのだ。

 

あまりの光景にウソップが悲鳴を上げそうになった瞬間だった。

 

 

「“サイレント”…!」

 

一味の周りに半透明の膜が現れる。

 

 

「うわああ!!さっきの気持ち悪いのだ~~!!

って、えぇ!?これなんだ!?」

 

「ナミさん、ロビンちゃん!

おれの後ろへ!!」

 

ゾロとサンジがナミ達を庇いながら、少しずつ後退していくと、暗闇から人が現れた。

 

 

「待て、この円から出るな!!

ドールズ”に襲われるぞ!」

 

現れた金髪の男の正面に素早くゾロは移動し、睨みを利かせる。

 

 

「……何者だ、お前。

それにドールズってのは…まさか、アレのことを言ってんのか?」

 

「そうだ。

“ドールズ”は、その穴の中にいるカラフルな奴らの事だ。

……おれはロシ…コラ……あ~…コラサン(・・・・)って呼んでくれ。」

 

突然現れた謎の男を訝しげに見ながらも、サンジが口を開く。

 

 

「なんで、この半透明のドームにいると奴らは襲って来ないんだ。」

 

「それは、ドールズは“音”に反応して襲って来るからだ。

コイツらの目はモノを認識出来ない代わりに、音を拾う。」

 

「なんだそりゃ…ちぐはぐじゃねェか…」

 

サンジは意味が分からないと顔をしかめる。

後ろではウソップがなるほど…と頷き、その横からロビンが次の質問を投げ掛けた。

 

 

「確かに、襲っては来ないようだけれど…

何故あなたはそんなにこの“ドールズ”というものに詳しいのかしら?」

 

ロビンの問い掛けに、一味は鋭い視線を“コラサン”と名乗った男に向ける。

 

 

「……それは…」

 

「それは…?」

 

「おれは、もうここに潜入してから1週間ほど経ってるからだ。」

 

「「潜入…?」」

 

ウソップとナミが目を見開くと、コラサンは言葉を続ける。

 

 

「ここはドンキホーテファミリーが秘密裏に研究所や兵器を生産している場所なんだ。

……おれは、ドンキホーテ・ドフラミンゴの悪事を暴き、止める為に来た!!

 

コラサンは強い意思を宿した瞳で、一味を見つめ返すのだった。

 

 

 

 




ー補足ー

キッド&キラー:昔、百獣海賊団にいた事が発覚。
何故抜けたのかは不明だが、カイドウとレオヴァからは目を掛けられていたらしい。
今作品では赤髪とは戦闘になったが、腕は持ってかれずに済んでいる(百獣での鍛練と、キラーの引き際の英断により)

コラサン:海賊ではなさそうだが…?
咄嗟に嘘を付けない性格だが、上手くやれるのか。

ナミ・ウソップ:帰りてぇ~~!!(心の叫び)
─────────────────────
ジャック:狂死郎達を連れて赤鞘回収へ。
部下に捕獲用の睡眠弾を持たせる為にレオヴァに許可を貰いに来ていた。
キッドの事を良く知ってそうな口振りだが…?

キング&クイーン:あのクソガキ共ォ…(ブチギレ)
クイーンはあまり関わりがなかったが、キングはレオヴァ経由で少し関わりがある。

カイドウ:キッドの小僧達に少し灸を据えてやれ、とゴーサインを出した。

レオヴァ:そろそろ帰って来い。
もし、百獣に帰ってくる気がなければ……

↓『番外編』
“キラー、暖かな記憶”
https://syosetu.org/novel/279322/9.html


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

突入、怪しい研究所

『組分け』
・ナミ、ロビン、サンジ、ゾロ、ウソップ
・キラー、キッド、ルフィ、ブルック、チョッパー
・フランキーは船番(何かあれば迂回して待避先の確保)


 

 

 

 

雪山の洞窟へ辿り着いたキラー達は辺りをキョロキョロと見渡していた。

 

 

「あれ…ウソップ達いねぇぞ……?

そこの洞窟いっぱい嫌なのいるし、なんかあったんだよ!ルフィどうしよう!!」

 

不安げに揺れる瞳でチョッパーが見上げると、ルフィはあっけらかんと返す。

 

 

「大丈夫だ、チョッパー!

ゾロもサンジもいるんだ、問題ねェよ。

多分先に中入ってんだ。」

 

そう言って笑うルフィに少し肩の力を抜いたチョッパーの横でブルックが洞窟の方をじっと見ている。

 

 

「あのカラフルな“何か”は、キラーさんの予想通り本当に音に反応してるみたいですね~…」

 

ブルックは気味が悪いと“何か”から目をそらしてルフィの側へよる。

 

その後方ではキラーが洞窟の入り口で跡を見つけて、手で合図をだしていた。

 

それに気づいたルフィ達が洞窟へ向かうと、薄暗い洞窟の壁にうっすらと傷がある。

 

 

「……音を立てるなという文字と、矢印が彫ってあるな…

それにこのマークは……」

 

ギリギリ聞こえるか聞こえないかの声で話すキラーに、チョッパーも興奮ぎみになりながらも小さな声で返す。

 

 

「それ、ウソップだ。

麦わら帽子とミカンをこんなに上手く岩に彫れるのウソップぐらいだし!」

 

「……そうなのか。

キッド、どうする?

罠の可能性も0ではないが……」

 

キッドに問い掛けていると、ルフィが矢印の方へどんどん歩いて行ってしまう。

 

キッドとキラーは思わず怒鳴りたくなる気持ちをぐっと堪え、ルフィの方へ距離を詰めると首根っこを捕まえた。

 

 

「麦わらァ、何勝手に…」

 

「何って、矢印はコッチ向いてるんだぞ?

ゾロ達と合流するなら進むしかねぇだろ。」

 

「罠の可能性を考えて…」

 

キラーが苦言を呈しようとしたが、ルフィは首を傾げながらその言葉を遮った。

 

 

「どっちにしろ行かないと進めねぇだろ。

立ち止まってたって解決しねぇよ!」

 

キッドとキラーが返す言葉を詰まらせた瞬間だった。

 

後ろから大量の何かが蠢く気配にハッとチョッパーとブルック、キラーとキッドが振り返ると

ルフィの声に反応した“何か”達がぞろぞろと流れ込んで来ていた。

 

 

「やべぇ…!」

 

「クソッ……麦わらてめぇ、声でけぇンだよ!!」

 

「揉めてる場合かキッド!

こうなったら走るしかないぞ!!」

 

「うわ~~!あれ怖ぇ~~!!」

 

「イヤ~~~~!!

ルフィさんチョッパーさん逃げましょう!?」

 

キラー達は矢印の指す洞窟の奥へと走り出すのだった。

 

 

 

───────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

“コラサン”と名乗る男に導かれるがまま薄暗い部屋に辿り着いたナミ達は、そこでこの工場で作られているSMILEの“insect ver.”や“beetle ver.”という兵器のことについて話を聞かされた。

 

そして、その流れのまま渡されたある書物に目を通すこととなっていた。

 

 

───────────────────

 

ー1ー

新しく雇い主となった、ドンキホーテ・ドフラミンゴに百獣では許されなかったワタシの研究について話をしたら

彼は指定した数の兵器を作れば、この研究をしても良いと約束をしてくれた。

 

この研究が成功すれば、ワタシは怯えなくてすむ。

安心が手に入る。もうあの恐ろしい赤の色の瞳と黒色の血生臭い手を思い出して魘されることはなくなる。

 

必要なのはワタシを守るもの。

翼をもつ冷酷な黒色に蝕まれぬように囲うのだ。

 

ドフラミンゴという後ろ楯は大きいが、あれはワタシを守らない。

 

裏切らないものたち。創らなくては。

大丈夫だ、ワタシはあれを生き延びたのだから。

 

 

ー2ー

駄目だ。全て駄目。

なぜ成功しないのか。何が悪い?ワタシが悪いのか?

いや、そんなことはない。ワタシが悪い筈がない。

“素体”が悪いんだ。間違いない。

 

子どもは使えないのかもしれない。純粋すぎて適応出来ない?

意思の強さ。汚い人間の方がいいのか。

試そう。ドフラミンゴならば新しい“素体”の調達は難しくない筈だ。

 

新しい兵器も作らなくては。とびきり人を不幸にできるものを。

 

───────────────────

 

 

 

「なに、これ…?」

 

本の形の書物を開き、二枚のページを読んだナミの疑問の声に、コラサンは神妙な顔で言葉を返す。

 

 

「重要なのは、その先なんだ。

…38ページ目から読んでくれ。」

 

ナミ達は訝しげな顔になりつつも、促されるまま書物を捲っていった。

 

 

 

───────────────────

 

ー38ー

成功した。

やはり“素体”が悪かった。

 

今まで男も女も子供も老人も全部駄目だった理由が分かった。

ワタシに祝福された(・・・・・)“素体”でなければならなかったのだ。

 

あとはこの“なり損ない”を完成させるだけだ。

 

 

ー39ー

最悪な事態だ。

“なり損ない”には理性がない。

考える力がないのだ。

 

命令をすれば動きはするが、それだけだ。

これではワタシを守れない。冷酷な黒色にワタシは今度こそ殺されてしまう。怖いこわい恐いこわいこわいこわいこわい

 

 

ー40ー

ワタシは“なり損ない”に()った。ワタシに使われた治療薬と同じようなモノを創って。

すると“なり損ない”に僅かに理性が戻った。

 

素晴らしい結果だ。

ワタシはあのレオヴァサマだけが創れた治療薬を創り出した。

やはりワタシには彼に並び立てるほどの頭脳があるのだ。

クイーン処かベガパンクにもワタシは劣らぬ存在。

 

“なり損ない”だったこれらは“プロトタイプ”と呼ぶ。

完成までもう少しだ。

 

 

ー41ー

プロトタイプはすぐ死んでしまった。

一人じゃ駄目だった。耐えられないんだ。

 

だから、くっつけた。

一人で駄目なら二人にすればいい。二人で駄目ならもっと。完璧な発想だ。

手始めに7体ほど作ろう。

 

 

ー42ー

二人にしたプロトタイプは5体死んだ。

残りは2体。なぜこの2体しか残らなかった?

 

血液型、性別、人種。全部試そう。

年齢も試したいが“なり損ない”の数が足りない。

 

まずは10体ほど作った。

人種もそこそこ違う。血液型も取り揃えた。

 

 

ー43ー

10体全てが死んだ。残ってるのは初めの2体。

 

この2体に共通するのは、合わせた“なり損ない”が親族だったことだ。

 

一匹目は母親と息子。二匹目は祖母と孫。

もしかしたら、血液の適合が必要なのかもしれない。

 

今日産まれた“なり損ない”の兄弟で試そう。

 

 

ー44ー

兄弟で創ったプロトタイプは生きている。

 

仮説は正しかったんだ。やはり“家族”が鍵になっている。

 

今日は母親と父親と娘の三匹の“なり損ない”でプロトタイプを創ろう。

 

 

ー45ー

完全にプロトタイプは安定した。

死んでしまう個体は出ていない。

どれも元気に肉を食べて唸っている。素晴らしい。

 

次に進もう。

今のままでは弱すぎる。ワタシを守るには強くなくては。

翼のある冷酷な黒色はとても強く、大きい。

プロトタイプでは盾にもならない。

 

 

ー46ー

プロトタイプをミンチ機にかけた。

ワタシと同じように再生を繰り返せば強くなるかもしれないと思ったからだ。

 

実験は成功だ。

前は人の形に近かったが再生の過程で変化した。

 

人形のように色んな形でカラフル。

黒色が嫌いなワタシにぴったりの本当に素晴らしい結果だ。

目のような形が浮かんで来たのは想定外だが、大した問題ではない。

 

これはほぼ完成だ。“ドールズ”と名付けよう。

このまま何度も細切れにして再生させれば、もっと頑丈に…

 

─────────────────

 

 

 

ここでナミは耐えきれずに書物を閉じた。

共に読んでいたウソップとサンジ達の顔色もナミと同じく優れない。

 

ショックで言葉を発せないナミに代わり、ロビンはコラサンを見る。

 

 

「……あのドールズ達は、人間なのね。」

 

「………あぁ。

もっというなら複数の人間だったモノだ。」

 

肯定されてしまった信じたくない事実に、そこにいた全員が口を閉じた。

重々しい沈黙が流れる中、コラサンはそっと書物を懐に戻す。

 

 

「……これが今、おれの知ってる全てだ。

見せる前に話した兵器だけじゃない。

この場所では最悪な実験もされてる。

…おれは此処を破壊したいんだ。悲劇を……断ち切りたい。」

 

コラサンはもう一度、まっすぐナミ達を見つめる。

 

 

「おれ一人では此処を破壊しきれない。

この地獄を終わらせられないんだ。

……手を貸してほしい、“麦わらの一味”に。」

 

麦わらの一味はまっすぐなコラサンの瞳を見つめ返した。

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

こぽこぽと怪しげな音を立てる機械の中に浮かぶ生命体を眺める白衣の男のいる部屋の扉が開く。

 

扉を開けた女性はシャルトルーズグリーン色の綺麗な髪を揺らしながら部屋に入って来た。

 

腕は翼になっており、足も鳥のような形をしているが彼女は実験体ではなくハーピーという種族の助手である。

 

 

「イネット先生、新しい“素体”が届きました。」

 

イネットと呼ばれた白衣の中年の男は青白い顔で振り返ると、光のない目を嬉しげに歪めた。

 

 

「それハ上々、ワタシのドールズがまた増えマすね!

研究も進めば工場も安定しますシいいことばかり。

モネは優秀で助かりマす。」

 

「いえ、私はお手伝いしか出来ませんから。」

 

「ン~~、謙虚なのハ素晴らしいコトですよ。

レオヴァサマも言ってました。謙虚さは大切ダと!!

欲にまみれてはイケない。そう裏切りハ駄目なんデスよ。そう、そう。」

 

謙遜するモネと呼ばれた女性の方を向きながら何度も頷くと、イネットはまた試験管に手を伸ばしながら目だけをギョロギョロと動かす。

 

 

「裏切りは駄目。とテも良くなイこと。

モネ、研究所に気配が増エたんです。ワタシの知らない気配。」

 

「…それはヴェルゴが様子を見に来たからじゃないでしょうか?」

 

「ヴぇるご?ア…アァ。彼ね。

サングラスの男、でもワタシ。彼あマり好きじゃナイ。

彼にハ欲がない。レオヴァサマ好みノ部下、あああ……本当に妬まシい。

ネ?そう思いマすよね、モネ?」

 

「…そうですね、イネット先生。

でもきっと、研究を続ければ総督補佐官様もまた認めて下さると思いますよ?」

 

モネの言葉を聞くと忙しなくギョロギョロと動いていた目がピタリと止まり試験管を見つめた。

そのままイネットは口の境目が分からないほどに口角を上げた。

 

笑っているのか泣いているのか、人間という存在からズレた表情になったイネットを見ても、モネは微笑みを崩さない。

 

 

「そウかな?いや、そうデすよね。

レオヴァサマもワタシをまタ必要とすルでしょう。

すまナかったイネット、戻って来テくれ……そう言ってクれる!!アァ……黒色から完全にワタシを救えるのは彼だケ。

……あ、忘れテました。モネ、貰ってキてくれマしたか?」

 

試験管を見ていたイネットが首を180度回転させると、モネは慣れたように電伝虫を差し出した。

 

イネットはそれを受け取るとまた奇妙な笑みを浮かべる。

 

 

「今回はレオヴァサマ、どんナ話したのか…

ドフラミンゴと話す姿シか見れなイの残念ですケど。

……モネ、これ何分ありマす?」

 

「今回も3分間の録画です。」

 

「……ンン~~3分、そう。

やっぱり3分が限界ナんですか?」

 

少し不満げな声を出すイネットに、モネは申し訳なさそうに顔を伏せる。

 

 

「ごめんなさい、イネット先生。

総督補佐官様にバレずにとなると3分が限界で……」

 

「そう、そう……

いいんデすよモネ。アナタは頑張っテくれてます。

ホントなら、ワタシはレオヴァサマの声を聞くコトは許されナい身なんですカラ。

3分でモ御守りにナりますよ。」

 

受け取った電伝虫を大切そうに机の上に置くと、イネットはまたモネを振り返った。

 

 

「では、これで報告は以上ですカ?」

 

「えぇ、イネット先生。

また何かあればお伝えに参ります。」

 

「お願いシますね。」

 

綺麗なお辞儀をしたモネからイネットは視線を外し、電伝虫をいじり出す。

 

モネは邪魔をしないように部屋をそっと出るのだった。

 

 

 

───────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

パンクハザード研究所、客間にて。

 

坊主にサングラスというイカツイ風貌の男が電伝虫から聞こえる声に耳を傾けていた。

 

 

「…ってワケだ、ヴェルゴ。

お前も時期を見てそろそろ帰って来い。

いつも見たいに死んだように見せかけても構わねェが…まぁ、そこは任せる。

レオヴァもお前に会ってみてぇと言ってたしなァ。

フッフッフッフッ…」

 

楽しげな声を出すドフラミンゴにヴェルゴと呼ばれた男は嬉しげに笑う。

 

 

「そうだったのか。

なら、適切なタイミングでドフィの下に帰るよ。」

 

「帰って来たらお前の好きなハンバーガーのセットでも食うか。

最近、ごはんバーガーだとか色んなバーガーのレシピをレオヴァが持ち込んで来て種類も増えたんだ。

食べ比べも悪くねぇだろ?」

 

「それは楽しみだ…!」

 

「フッフッフッ!歓迎の準備をして待つから、戻る時は連絡を寄越せよ?ヴェルゴ。」

 

「ありがとう、ドフィ。

また君の隣で過ごせる日が待ち遠しいな…」

 

しみじみとした声をあげるヴェルゴに電伝虫が笑う。

 

 

「……長らく苦労かけたな、ヴェルゴ。」

 

「フッ……おれは一度も苦労だなんて思ったことはないさ、ドフィ。」

 

普段の胡散臭く抜け目のない雰囲気とは違うドフラミンゴの小さな笑みを電伝虫は真似る。

 

ヴェルゴはそれに嬉しげにサングラスの下の目を細めた。

 

 

「と、すまない。ドフィ…話がそれてしまったな。

預かっていたレオヴァとの会談を映した電伝虫はモネに渡した。

今、イネットに渡しに行ってるよ。」

 

「そうか。

にしてもレオヴァに捨てられた(・・・・・・・・・・)ってのに、レオヴァの映像が欲しいなんてなァ。」

 

哀れだと嗤うドフラミンゴの言葉にヴェルゴは肯定を返す。

 

 

「きっと捨てられた事にすら気付いていないんだろう。

モネから聞いた話だが。

奴は酷い拷問にあっていた所を、レオヴァがストップをかけてドフィとの仕事を取り付けてくれた……と思っているようでな。」

 

「フッフッフッフッ…知らぬが仏ってやつか。

モネは良くあいつをコントロール出来てるみてぇで何よりだ。」

 

満足そうな声にヴェルゴは嬉しげに笑いつつ、時計へ目をやる。

 

 

「そろそろ戻らないといけない時間か…

また何かあれば連絡するよ、ドフィ。

長々と付き合わせてしまってすまない。」

 

「もう、か。

いや構わねェさ、ヴェルゴ……任せたぞ。」

 

「あぁ、任せてくれ。」

 

力強く返事をすると、ガチャリと電伝虫が切れる。

数秒、ヴェルゴは電伝虫を名残惜しげに見つめたが部屋の扉がノックされる音で意識を切り替える。

 

 

「入るわよ?」 

 

その声と共に扉が開きモネが部屋へと入って来た。

 

 

「……あら?

若様との連絡は終わってしまったの?」

 

「あぁ、長く引き止める訳にはいかないからな。」

 

「そう……残念。」

 

話したかったとわずかに眉を下げるモネに、ヴェルゴは少し悪いことをしたか…と思いつつも仕事に気持ちを切り替える。

 

 

「……で、工場の方はどうなんだ?」

 

「問題ないわ。

若様の命令通り発注する数の1.5倍の兵器が生産出来てるから、想定外の注文にも応えられる。」

 

モネの返事にヴェルゴは頷くと、机の上にある書類に手を伸ばした。

 

そして、その内容についてモネへ質問しようとした時。

ドンドンとノックにしては大きい音と共に、部下の慌てた声が扉越しに届いた。

 

 

「も、モネ様!!

侵入者ですっ…!至急監視室へ!!」

 

緊急事態を知らせる部下の声にモネとヴェルゴの表情に鋭さが宿る。

 

二人は部屋を出ると部下を置き去りにして、足早に監視室への道を進んだ。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

耳が痛くなりそうなほど煩い警報音が鳴り響く廊下をルフィは走っていた。

 

 

「やべぇ!潜入出来なくなっちまった…!」

 

落ち込んだ様子で走るルフィと並走していたキッドとキラーは額に血管をピキピキと浮かばせている。

 

 

「てめぇが入り口分からねェからって壁を壊したせいだろうが!!!この馬鹿猿がッ!!」

 

「あれほど慎重に動けと言っただろう、麦わら!!!」

 

怒りを通り越して殺気を放ちそうな雰囲気の二人の後ろをブルックが走る。

 

 

「ヨホホホホ~~!

もうこうなってしまった以上、後戻りは出来ません!

スピード勝負ですよ皆さん。守備を固められる前に目的を果たしてしまいましょう!」

 

「そうだな、ブルック!

よ~~し!イトットはどこだ~~!!!」

 

「ルフィ、イトットってなんだ!?

イネットだぞ~~!」

 

「あ、そっか!

イネット~~!出てこ~い!!」

 

走る速度を上げるルフィに必死について行きながらチョッパーが訂正を入れると、キラーとキッドが同時に叫んだ。

 

 

「「おい、その名前を叫ぶな!!!」」

 

どこで見られているかも分からない状況で目的の人物の名前を叫ぶルフィにキレながら2人も広い廊下を走る。

すると目の前に頑丈な大きな扉が現れた。

 

10メートルはある扉はもはや門といって問題ないレベルの大きさで、軽くキラーが押してもビクともしない。

 

 

「どうやって開けるかだな…」

 

「よし、任せろ!」

 

ルフィが前に出ようとするのをキッドが阻む。

 

 

「ふざけんな!!

てめぇに任せられるワケねェだろ!!」

 

「なんでだよ!!

これぶっ壊せばいいんだろ?

なら、おれに任せろ。」

 

ドドンと胸を張るルフィにキッドの額の血管が切れかける。

もう我慢ならないと、ガシッとルフィの服の襟を掴んで暴言を吐こうとした時だった。

 

大きな扉が機械音を上げながら開いたのだ。

 

キッド達は何事かと、一斉に扉の方を振り返る。

 

 

「おぉ~!開いた!」

 

「何で開いたんだよ~!怖え~~!」

 

チョッパーがわたわたし始めると、いつの間にか扉の側にいたブルックが振り返る。

 

 

「なんか、これピッとしたら開きました。」

 

「!?

そんなモンいつ手に入れたんだ!!」

 

キッドが驚きに目を開くと、ブルックはカードキーを懐に戻しながら答えた。

 

 

「キラーさんが切ったのが、後ろにいた私にかかった時あったじゃないですか!

その時不気味な“何か”さん達の中から出て来たみたいで

も~~本当に気味が悪いし怖いし…

その切った“何か”さん、またウネウネ動きながら襲ってきたんで思わず捨てずに持って来ちゃってたんです。」

 

「……そんな偶然、あンのかよ…」

 

少し力の抜けた声を出すキッドの手からスルリと抜け出すと、ルフィはブルックの方へ向かって行く。

 

 

「すげぇなブルック!

これで中入れるぞ……よし、行くぞ~~!!」

 

「わわっ…ルフィさん置いて行かないで~~!」

 

「ブルック、ルフィ~!待ってくれよ!」

 

意気揚々と中へ入って行く三人にキッドも続いて中へ足を踏み入れた。

 

キラーはそんな彼らの背中を見ながら小さく言葉を溢した。

 

 

「……これがアンタが注目してる“麦わらの強さ”か…」

 

誰にも聞かれずに消えて言った言葉を誤魔化すように、キラーはキッドの背に向かって走り出す。

 

追い付いて隣に並んだキラーにキッドは一瞬、目線を向け。

また前を向いた。

 

 

「行くぞ、キラー。

おれ達はこれを成功させる、絶対に。」

 

「分かってるさ、キッド。

もう、止まれない…おれ達はおれ達のやり方で進もう。」

 

「……あぁ、相棒。」

 

二人はどちらともなく、軽く腕をぶつけ合うと真っ直ぐ前を見る。

 

進む先に、望むものがあると信じて。

 

 

 

 




ー後書きー

↓番外編、本編の補完用ss『キラー沈んでいく記憶』
https://syosetu.org/novel/279322/10.html

いつもご感想やコメント、ここ好き一覧などありがとうございます!!
質問箱へのご質問やリクエストも嬉しいです~!励みになります!
今回も読んで下さりありがとうございました!

ー補足ー

イネット:レオヴァに認めらたいと思っているのも、戻りたいと思っているのも全て“自分の身の安全の為”。
羽のある恐ろしい黒色に二度と酷い目に会わされない為にレオヴァからの信頼を手に入れて利用したいという、相変わらずな思考。

モネ:めんどくさい科学者のコントロール係。
どんなにグロい動きをしていても、ヤバいものを見てもポーカーフェイスを崩さない最高に有能な美人さん。
イネットの“暴走”を止める役割を果たしている。

ヴェルゴ:定期訪問と言う名の、イネットの監視報告に来ていた。
ここには盗聴を妨害してくれる電伝虫がいるので、ドフラミンゴとはここでしか連絡が取れない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

進め、目的の為に

 

 

 

「侵入者あり!人間が3、動物1、不明物体1!!

直ちに捕縛せよ!!

繰り返す、侵入者を直ちに捕縛せよ!!」

 

電伝虫から流れる放送はナミ達が進んでいる廊下全体に響いていた。

 

 

「おいおい…これって、ルフィ達バレちまってるじゃねぇかよ~~!?」

 

頭を抱えるウソップの隣でナミも困ったように眉を下げた。

 

 

「はぁ…やっぱりアイツに隠密行動なんて無理なのよ。

それよりどうしよう……これじゃあ“素体飼育所”にいるって言う人達を逃がせない。」

 

焦りを露にするナミにサンジが口を開く。

 

 

「いや、ナミさん。

逆にチャンスかもしれないぜ。

このドタバタで少しは手薄になってる可能がある。」

 

「たまには良いこと言うじゃねェか、ぐる眉!

捕獲作戦はルフィ達に任せりゃ問題ねェ。」

 

「たまに、は余計だ!クソマリモ!

……とにかく、ナミさん。

おれ達は捕まってる奴らの解放と、工場破壊。

あとコラサンって奴の言ってた“証拠”ってのを手に入れることに集中しよう。」

 

「…そうね、サンジくん!」

 

また目に強さが戻ったナミを見て、サンジはにこっと笑うとまた目的地へ向けて歩き出した。

 

 

何故、ナミ達が“素体飼育所”へ向かっているのか。

 

それは今より、少し前の話。

コラサンからこの場所について話を聞いていた時に、ナミ達はこの場所に人間が捕らわれていると知ってしまったのだ。

 

コラサンの話によると、“素体飼育所”という場所に100単位で人が管理されていると言うではないか。

 

そこに入れられているのは山賊やマフィア、詐欺師など。

罪人と呼ばれる者達であるとコラサンは説明したが、どんな人であれ残忍な実験に使われると知ってしまっては、無視して進むことはナミ達には出来なかった。

 

結果。

 

『一先ず、この最悪な場所で見殺しには出来ない!』

 

このナミの宣言によって、捕らわれている人々の救出が決定したのである。

 

しかし、コラサンの“証拠”集めを手伝う約束もしていた為。

ナミ、ウソップ、ゾロ、サンジのチームと。

コラサン、ロビンのチームの2組に別れることに。

 

ナミ達は人々の解放と、工場破壊の為のミニ爆弾設置を中心に行動することになり、コラサンとロビンは情報集めと退路の確保を中心に動くことになったのだ。

 

 

「行くわよ、みんな!

ここからはスピード勝負!!

ルフィ達が引き付けてる間に捕まってる人を逃がしたら爆弾を設置して、合流を急ぐの!」

 

「「「おう!」」」

 

研究所に訪れた混乱の中、ナミ達は真っ直ぐに素体飼育場へ進むのであった。

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

所変わり、第一研究所のメイン通路にて。

 

無事、研究所の内部への侵入を果たした

ルフィ、キッド、キラー、ブルック、チョッパーの5人は大勢の職員と思われる全身防護服の敵に追われていた。

 

 

「てめぇのせいで全部めちゃくちゃだ、バカザル!!!」

 

叫びながら目の前の敵を薙ぎ払うキッドからは怒りの感情が溢れている。

 

 

「ごめん!!ギザ男!!!

でも、中に入れたし良かっただろ?」

 

にししと笑いながら敵の攻撃を全て避けるルフィをギロリと睨み付けるキッドの隣にキラーが割り込む。

 

二人の間に壁になるように割って入って来たキラーは軽くキッドの背をたたき、口を開く。

 

 

「今さら何を言ってもバレた事実は変わらない。

何より麦わらを相手にするだけ体力の無駄だぞ、キッド。

それよりも、こうなったら一刻も早く目標を手に入れるべきだ。」

 

冷静な相棒の言葉にルフィへ向けていた怒りに満ちた瞳が僅かだが落ち着きを取り戻す。

 

 

「……分かってる、キラー!

あのバカは使えねェ、おれ達でやるぞ!!」

 

「おれも同じ事を言おうと思ってた所だ。キッド!」

 

 

どんどん進んで行くルフィ、キッドとキラーの後ろにいるブルックとチョッパーは必死について行く。

 

しかし、ブルックが何かを思い付いたように声を前へ投げ掛けた。

 

 

「あの~~!

このまま宛もなく走るより、この人達の誰かを捕まえて聞くのはどうです?

お目当てのイネットという方の場所まで分からなくても、地図とか持ってるかもしれませんし!」

 

「ブルック~!すげぇ!!頭いいなぁ!」

 

目をキラキラさせるチョッパーの言葉にブルックは照れたように軽く頭をかく。

 

そんなほのぼのしたやり取りをしているうちに、いつの間にかキラーが敵を1人引きずりながら走っていた。

 

 

「ちょうど今からやろうと思って捕まえていた。

……お前は麦わらより話が早そうだな、骨。」

 

少し感心したようなキラーの声にまたブルックは照れながら、敵を斬る。

 

 

そうしてキッド達はこの研究所のだいたいの位置関係を把握することに成功した。

しかし、一番欲しかった目標の居場所は掴めぬままだ。

 

その後、敵への尋問によってキラーが導きだした答えにより、イネットがいる可能性の高い第二研究室という場所へ向かうことになったのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

同時刻、第二研究室にて。

 

 

電伝虫から映し出される映像を繰り返し眺めていたイネットは警報の煩さに顔をしかめた。

 

「さっきから、うルさいですネ…

やはりワタシが言っテた“知らない気配”は侵入者デしたカ。

モネは少しヌケテますネ。他は優秀なのに勿体ナイ!

ワタシが頭弄れバ、もっとイイ助手に……ンー、いやドフラミンゴが騒ぐかラ駄目。うん、本当に悩マしイ。」

 

ブツブツ言うと立ち上がったイネットはゆらゆらと横に揺れるような不気味な歩き方で、連絡用のスマシに手を伸ばす。

 

 

「ア~…ワタシだけど、聞こえテる?」

 

「はい!イネット様!!

こちら管理室!」

 

「今、侵入者メイン通路にいるヨね?」

 

「え、はい。そうですが…何故それを管理室に居ないイネット様が…?」

 

驚く部下にイネットは小さく溜め息をはくと、その言葉を無視して指令を出す。

 

 

「第一研究所のメイン通路封鎖しテ、そしタら酸素濃度下げテ。

電伝虫は死ぬカもしれないかラ、機械カメラで確認すルんだヨ。

全員が倒れてから数秒したら、酸素戻しテ捕獲。いいネ?」

 

「で、でしたら今メイン通路にいる者達に撤退の連絡を!」

 

「……キミ、馬鹿なのかネ?

そんナ事したラ、侵入者に今から何カが起きルって知らセるようなものダヨ。

指令通りに動けナイ馬鹿はいラないケド……キミ、ワタシのドールズになりたイのかネ?」

 

「も、申し訳ありません!!!

……今、酸素濃度の操作ボタンを押させていただきました。」

 

「それでいいヨ。

捕獲出来たラ連絡するヨうに……あ、捕獲出来なくテもダよ。」

 

伝えたいことだけ告げてスマシを切ると机の上に放り出し、イネットはまた電伝虫の映す映像を眺める。

 

今まで集めたドフラミンゴとレオヴァの会話シーンの“隠し撮り”。

イネットはそれを目が溢れそうなほど見開き、ジッと眺めている。

 

 

『……って、研究をイネットはしてるらしいぜ。レオヴァ。』

 

『はぁ、ドフラミンゴ。

おれの前でアイツの名前を出さないでくれるか?

……あれだけ人体実験は辞めろと言ったのに。』

 

そこで一時停止された画面に向かって、イネットは声を上げる。

 

 

「違ウのです、レオヴァサマ!!

ワタシが使ってルのは罪人だケ、アナタの役にワタシは立テる!!!

クイーンよりも有益なんデス、ワタシは!!

アァ、何故です。ワタシはコんなにも優秀なのに。

戦力を増やしたイと言うならウェイターズをワタシの作り出シたドールズにすれバいいんだ!!

素体が強けレば、ドールズも強クなるのに。」

 

苛立ったように頭をかきむしるイネットの頬を血が伝うが、痛みを感じないのか止める素振りはない。

爪で剥がれた頭皮からだらだらと血が流れていく。

 

 

「ウゥ……アナタがいなけれバどうやってアノおぞましい黒色から逃げれバいいんデスか…

必要ナんだ、ワタシを守る強い光ガ!!!」

 

唸り始めたイネットの前に映っている映像がまた動き始め、違うシーンを映し出す。

 

 

『……は優秀だった。

だから、おれはイネットに期待していた。

クイーンの助手としても、1人の研究者としても。

だが、その期待は…』

 

ジジジジ…という音がなった後。

また同じシーンが流れる。

 

『……は優秀だった。

だから、おれはイネットに期待していた。

クイーンの助手としても、1人の研究者としても。

だが、その…』

 

またジジジジという音の後に同じシーン、同じ台詞が流れる。

 

何度も繰り返される映像に、イネットはゆっくりと顔を上げる。

 

 

「そう、そうそうそう……レオヴァサマはワタシに期待シてくれテる。

まだ捨てラれてナい、レオヴァサマはワタシを試しテる。

そウだ、試してるダケ。ワタシの忠義ヲ。

また認めラれれば、レオヴァサマがワタシを守る。アノ黒色から。そうそうそう……ワタシはステラレテナンカイナイ!!!」

 

ニタニタと笑うイネットの口がぐちゃりと裂ける。

ポタポタと血液かも分からぬ液体がソファーに垂れた。

 

 

「侵入者、アの実験に使いマしょう!

成功したラ、今度こそ認めらレるハズ!!

恐怖の克服コそが幸福ですカラね、そうレオヴァサマも仰るヨ。ワタシはアナタを理解出来る唯一の存在!!」

 

楽しそうに左右にゆらゆら揺れていたイネットがピタリと止まる。

 

先ほどまで口が裂けるほど笑ってたが、元通りの青白い無表情な顔になると、口の傷もゆっくりと治っていく。

 

電伝虫の映像を止めたイネットは最近出来たある生物について自分が纏めた資料を眺め始めた。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

場所は変わり、素体飼育場にて。

 

目的地であった場所に辿り着いたナミ達は言葉を失っていた。

 

 

「アアァァァ…」

 

「ヴヴゥ…オォォ……」

 

「あ、あ、あ~~ギギギキ…」

 

人とは思えぬ声を出す大量の“なり損ない”にナミとウソップは思わず上がってきた胃液を必死に押し留めながら、口を覆う。

 

 

「な、なんだよ……なんなんだよ、コレ!!!」

 

ガタガタと震えるウソップの声に反応するように大きな音を立てながら檻の柵が揺れる。

 

 

「っひぃ…!」

 

思わずしりもちをついたウソップの横で、ゾロとサンジも顔を青くしていた。

 

 

「こりゃ……どういうことだ…」

 

「……なるほどな、これがコラサンから見せられた手記にあった“レオヴァが許さなかった実験”ってやつかよ。」

 

サンジが忌々しげに呟くと、嗚咽や奇声に混じって人の声がかすかに届いた。

 

即座にそれに気付いたナミ達は化け物の巣窟と化している素体飼育場の奥へ足を進めた。

 

 

すると、そこにはまだ人の形を保っている人間が数人檻に入れられていた。

 

殆どが虚ろな瞳で座ったまま動かないが、ただ1人。

必死に声を出している変わった見た目の男がいた。

 

その男は真っ赤なふさふさのカツラのような長髪に、化粧をしているのか白い顔と口に塗られた紅が特徴的であった。

 

 

「ぬ、主ら!

ここの者ではないな!?どうやって檻を出た!!

それがしを出してくれ!!親友の息子(・・・・・)を助けに行かねばならぬのだ!!!頼む!!!」

 

ガバッと勢いよく頭を下げた男にウソップ達は驚きつつも、普通に話せる人間がいたことに小さく安堵した。

 

そして、同時に聞こえた親友の息子という単語にナミが反応する。

 

 

「…待って、まさかこの研究所に子どもがいるの!?」

 

「そう、それがしの親友の息子!!

名はモモの助(・・・・)……もし、もし何かあっては親友に合わせる顔がないっ!!

どうか!!!後生の頼み聞いてはくれぬだろうか!!」

 

涙を流しながら子どもの心配をする姿にウソップとナミが心を痛めていると、ガシャンという音と共に檻に穴が空いた。

 

男が驚きに顔を上げると、そこには刀をしまっているゾロがいる。

 

 

「お、おぬし…」

 

驚きと感動を顔にする男にさっさと出ろよ、とゾロは顎で促す。

男はその穴から外へ出ると、もう一度深く頭を下げた。

 

 

「それがしはカン十郎!この恩、必ずや!!」

 

地面に頭がめり込みそうな勢いで礼を述べる男をウソップが止める。

 

 

「いいって!

おれ達もともと捕まってる奴らを解放しに来たんだ。

……それよりお前、なんで捕まったんだよ?」

 

尋ねられるとカン十郎と名乗った男は少し沈黙したあと、おずおずと口を開いた。

 

 

「じ、実は……それがし。

ドフラミンゴという男の貨物船で食料を盗んでいたのが見つかってしまって。

海賊なる男達に追い回され、追い詰められた所で珍妙な煙に包まれたと思えば……気付けばこの悪夢のような場所に…」

 

項垂れるカン十郎の言葉に、サンジが驚いたように目を見開く。

 

 

「ま、待てよ。

それじゃあ、食いモン盗んだだけで実験体として連れてこられたってのかよ!?子どもと!?」

 

「……いかにも。

確かに仲間達が腹が減っていたとはいえ、盗んだのは許されぬ行動だったかもしれぬが……まさか幼いモモの助までこんな場所にっ…!

いかん!!こうはしてられぬ!

早く探し出さなくては!!」

 

勢いよく立ち上がると走り出して行こうとしたカン十郎をウソップが止める。

 

 

「ちょっと、スト~~ップ!!

実はこの場所はもう少ししたら爆発させる予定なんだよ。

急がねぇと危ないし……居場所、分かってるのか?」

 

ピタリと止まり振り返ったカン十郎の顔には大きな焦りがあった。

 

 

「…場所は分かっている。

この近くにある実験場だ。」

 

「えっ……子どもが実験場に!?」 

 

ナミは思わず声を漏らした。

今までこの施設で見てきた全てが、警告音を鳴らす。

 

この場所で行われる実験が良いものである筈がない。

そんな恐ろしい状況に子どもが置かれている。

ナミが怒りに拳を震わせるのは必然であった。

 

 

「サンジくん、ゾロ、ウソップ……私…」

 

ナミが言葉を全て言い終えるより早く、ウソップとサンジが声をあげた。

 

 

「「助けに行こう!!」」

 

声を揃えた二人に、ゾロも頷く。

 

 

「お、おぬしら……」

 

感激で声を震わせるカン十郎にナミは強い瞳で言いきった。

 

 

「そのモモの助くんって子、絶対助けるわよ!!」

 

「っ……面目ない!!共にモモの助を救ってくれ!!!」

 

声を震わせまた深く頭を下げたカン十郎は、頭を上げるとモモの助が連れていかれた実験場へと案内を始めるのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

第一研究所、資料室にて。

 

 

山のようにある書類の中から目当てのものを手に入れようとコラサンとロビンは色々と物色していた。

 

 

「…駄目だ、これでもない!」

 

かすかに焦りが見え始めたコラサンに、部屋の奥から声がかかる。

 

 

「これ、実験の全容がかかれてるわ。」

 

「どれだ!?見せてくれ!」

 

走り出すと、そのまま書類の山へダイブしたコラサンに驚く様子もなく、ロビンは見つけた書類の束を差し出した。

 

 

「…どうぞ?」

 

「わ、悪いな……ドジっ子なもんで。」

 

「うふふ、気にしないで。」

 

コラサンににこりと笑いかけると、またロビンは目を通していない書類に手を伸ばす。

 

テキパキと慣れた動きで作業するロビンの後ろで、コラサンは書類に目を通して息を飲む。

 

ここで行われている残虐な実験の全容、そしてそれをドフラミンゴがバックアップしているとも言える、物資提供の証拠になりえる内容にコラサンの目に光が宿る。

 

この地獄を……悪魔になってしまった兄の暴走を止められる。

そう、強く確信したコラサンはその書類をまたロビンへ渡す。

 

 

「ありがとう。

あとは工場のあの書類さえ見つけられれば……」

 

コラサンがそうロビンに話しかけていると、鈍い音と共に背後の扉が開く。

 

コラサンは咄嗟にロビンを隠すように大きな書類棚の方へ突き飛ばした。

 

カツカツ…と規則的な足音が部屋に入ってくる。

 

そして、コラサンが振り向くよりも早く、入ってきた人物の重い一撃が腹部へ打ち込まれた。

 

 

「ぐわぁ!!」

 

痛みに悶絶する声を出すと同時に、コラサンはロビンのいた右側の書類棚とは逆のスペースに吹き飛ばされた。

 

 

「……コラソン(・・)…いや、ロシナンテ(・・・・・)!!

またしても貴様っ…!!二度とドフィは海軍には渡さない!!!」

 

激昂するヴェルゴに、ロシナンテと呼ばれたコラサンが冷や汗を流す。

 

一方、ナギナギの能力によりまだバレていないロビンは混乱していた。

 

目の前の男はコラソンやらロシナンテと呼ばれている。

だが、自分たちが名乗られた名は“コラサン”だ。

それに海軍とは一体……と思考を巡らす。

 

少しの間だが、話した感じ悪意はない。

それにこの場所への嫌悪感は本物だった。

なにより、嘘をつけるような人には見えなかった。

 

状況が飲み込めない中、まずは助けなければと身構えたロビンをロシナンテが目線で止める。

 

 

「(駄目だ…それを持って逃げてくれ…!!)」

 

必死に目で訴えていると、ヴェルゴが倒れているロシナンテに蹴りを入れる。

 

 

「弁明は無しか、ロシナンテ!?

ドフィはお前を信じていたのに……お前は家族を裏切ったんだぞ!!ドフィの心に傷を残したんだ!!!」

 

「ウグッ…ゲホッゲホッ……はぁ……ヴェ、ルゴ…

アイツは傷付いたり…するような奴じゃない!

……お前はおれ1人で十分相手できる(・・・・・・・・・・・・・・・)!」

 

「……貴様ァ…ドフィを何だと思ってるんだッ!!

本当に腸が煮えくり返りそうだ…

おれに勝てるというなら、反撃したらどうだ!?」

 

またヴェルゴの鋭い蹴りがロシナンテを襲い、その大きな体を壁へ吹き飛ばした。

 

 

しかし、言葉を受け取ったロビンは吹き飛んだロシナンテを追って部屋の奥へ行ったヴェルゴの後ろをすり抜ける。

 

あの時、扉が開いた瞬間。

部屋全体にサークルを張っていたのを解除し、変わりに“個人”を対象にナギナギの能力を発動していたロシナンテの機転により、

ロビンはあっさりと部屋から抜け出すことに成功した。

 

部屋から脱出したロビンは思考を回転させる。

退路の確保は絶対だ。

大切な仲間達を爆発から守ることは最優先。

しかし、危険を冒してまで自分を逃がしてくれた彼を見捨てるという選択肢は“今のロビン”にはなかった。

 

 

「待っていて、すぐにやるべき事を終えて助けに行くから。」

 

その強い声はナギナギの能力で届くことはない。

けれど、ロビンは自分の覚悟を固いものにする為にも、そう言葉を溢した。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

実験場管理室にて。

 

モネはイネットから預かっていた“β版バジリスク”のデータに目を通していた。

 

 

百獣海賊団で孵化したバジリスクはどんな教育を受けているのか、認めた相手の指示に従う知能があった。

それを面白がったドフラミンゴによって買われ、暫くした後にこの研究所へと連れてこられた。

……と、いう所まではモネも知っていた。

 

だが、今読んでいるデータの内容はモネを驚かせた。

 

本来バジリスクとは、突然変異の珍獣であり

人を襲うことはあれど、言ってしまえばただの猛獣だ。

 

しかし、この“β版バジリスク”は猛獣の範疇を越えていた。

 

 

「……石化させる猛毒を吐くなんて…

下手をすればこちらに害が出る可能性も高い……若様に報告しなくちゃ。」

 

 

冷や汗を流すモネは手に持っていたデータを机の上に置いた。

 

 

───ワタシの細胞を移植した。

 

この一文に異様な気味悪さを感じ、モネは通信室へと急ぐ。

 

 

「(早くこの化け物の事と侵入者の件を若様に伝えないと…!!)」

 

メイン通路に戻ろうとした時。

強い揺れにモネは地面へ倒れ込んだ。

 

ガラガラと岩が崩れる音に恐る恐る後ろを振り返る。

 

 

「クルルルゥ……?」

 

合金で出来ていた筈の壁が石になり、その大きな怪物の足蹴にされていた。

 

ゴクリ、とモネが息を飲むと怪物の首がこちらを向く。

 

 

「……若…さま……」

 

グルルルルルゥァァァ~!!!!

 

叫び声を上げた怪物の口から溢れた煙がモネを包み込んだ。

 

 

 




ー補足ー

〔救出&爆弾設置組〕
ナミ、ウソップ、ゾロ、サンジ 
┣飼育場の牢屋にてカン十郎という男と合流
┗共に子どもを助けに実験場へ。

〔証拠集め&退路確保組〕
コラサン(ロシナンテ)、ロビン
┣資料は手に入れるが交戦開始
┗ロビンは退路確保へ

〔イネット捕獲組〕
(未合流なのでナミ達の事情は知らない)
ルフィ、キッド、キラー、ブルック、チョッパー
┣隠密に失敗し、追われる
┗土地勘を手に入れたので、第二研究室へ


イネット:映像鑑賞会中。
少し様子が可笑しいが、大丈夫なのだろうか?

ヴェルゴ:侵入者との知らせを聞いて嫌な予感を感じて資料室の極秘書類を隠しに来たら、ロシナンテと遭遇。
以前の裏切りを知っているので激昂。少し冷静さを欠いている。

モネ:重要書類はヴェルゴに任せた。
最近完成したβ版バジリスクをこの混乱で死なせたり逃がしては不味いと、厳重に保管する為に実験場管理室へ。
思いの外凶悪な出来の化け物に驚き、少し注意が散漫になってしまったが…?

β版バジリスク:レオヴァが昔インペルダウンから連れ帰ったバジリスクの卵を“とある方法”で孵らせた。
本来のバジリスクより、体が大きいのが特徴
……だったのだが、今ではそれどころではない特徴が増えたようだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

暴走、バジリスク

 

 

素体飼育場の牢屋で出会ったカン十郎という男に導かれるまま、ナミ達が走り続けていた。

 

すると、急ぐ一行の焦りを加速させるように、何かが崩れる音と生き物の雄叫びが通路にまで響いてくる。

 

 

「何の音…!?」

 

走りながら困惑の声を出したナミは通路の奥を不安げな瞳で見据えた。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

───ルフィとキッド達がパンクハザードに着く少し前。

 

 

桃の実や花が描かれた着物に身を包み、まだ青みの残る月代に黒髪の髷を結っている少年がいた。

 

ガタガタと震える少年の名はモモの助。

彼はカン十郎という男と共に、この最悪の場所へと連れてこられた被害者である。

 

この研究施設では満足に食事も口に出来ず、牢屋では外から聞こえる悲鳴や呻き声に怯える日々。

 

ただでさえ沈んでいた気持ちに、更なる影が落ちていた。

 

そして、連れてこられて数日経った頃。

モモの助だけ牢屋から連れ出されたのだ。

 

 

『うわあっ~~!

い、嫌でござる!!カ、カン十郎っ!助けてぇ!!』

 

『モモの助!!?

()めんか、無礼者どもめ!!!』

 

必死にモモの助を守ろうと足掻いたカン十郎も睡眠ガスで気を失ってしまい。

ついに、彼を守ってくれる大人はいなくなってしまったのだ。

 

そして、防護服に身を包んだ職員に連れられモモの助は謎の部屋へと運ばれた。

 

 

『こ、ここはなんでござるか…?

ううぅ……怖いよ…カン十郎ぉ~!錦えもん~~!!』

 

必死に叫ぶも、返ってくる声はない。

そこにはただ広く、冷たい鉄の壁が広がっていた。

 

あるのは禍々しい見た目をした“実”と水。

 

ただでさえ空腹が続いていたモモの助に、今の現状は耐え難いものであった。

 

腹は死ぬほど空いている。

けれどあるのは毒がありそうな目の前の果実だけ。

 

モモの助は薄暗い鉄壁(てつかべ)の部屋で迷い続けた。

 

 

しかし、やはり空腹には耐えられなかったのだ。

覚悟を決め、その果実にかぶり付く。

 

 

『っ~~!う、まずい!!』

 

想像を絶する不味さだったが、限界を迎えていたモモの助は残さず果実を食らいつくした。

 

……こうして、モモの助の悪夢が始まる。

 

 

その果実を食べた直後、扉が開くと謎の生き物が部屋に入って来たのだ。

 

そして、そのカラフルな生き物はモモの助を襲った。

 

痛い、苦しい、辛い、怖い。

 

『誰かっ……誰か助けてくれぇ!!』

 

そう叫んでも助けなど来ない。

 

ここで死ぬのか。

そうモモの助が絶望した時、急に視界が高くなったのだ。

 

混乱したモモの助だが、体の痛みが消えていたことに安堵したのも束の間。

 

腕がなくなっていた。

いや、それだけではない。足も消えている。

 

必死に首を動かすと周りには恐ろしい蛇の様な顔がある。

 

 

『うわあああああ~~!!!

嫌じゃ!!怖い!!なんっ……なんで拙者…ぅう……』

 

訳が解らず暴れ、そのまま泣き崩れると。

気付けばカラフルな生き物は潰れて動けなくなっていた。

 

そのまま混乱した状態で嗚咽を溢していると、電伝虫から声が流れてくる。

 

 

『素晴らシい力ですネ!流石は“悪魔の実”!!』

 

モモの助が驚いたように顔を上げると、電伝虫から小さな笑い声が漏れる。

 

 

『大丈夫ですヨ、そんな不安そウな顔をシなくテも。

アナタ、力を手に入れたんデス。とても強い力!

あの黒色からワタシを守れル可能性の塊!!あぁ、なんテ素晴らしイ!!!』

 

『な……なにを言っているのか拙者には…』

 

震える声を返すモモの助に、聞き取りにくい声が返ってくる。

 

 

『なルほど、アナタは自分の状態解ってナいんデすね!

ならスクリーンで見せテあげますヨ。』

 

ガチャンと言う機械音と共に天井から別の電伝虫が現れる。

そして、鉄の壁に何かを映し出し始めた。

 

 

『……え、これは……どう、なってるで…ござる?』

 

モモの助の頭が、それを理解する事を拒む。

 

目の前の映像に映っているのは自分ではない。

そう思いたいのに、スクリーンには同じように狼狽えるモノノ怪がいる。

 

 

動物(ゾオン)系の悪魔の実デスよ!

これは変身できル貴重な悪魔の実ナんですケド。

手に入れルの本当に苦労しマしタよ!!』

 

電伝虫から流れる声は殆どがモモの助の耳には入らない。

ただ、目の前の人間ではない姿の自分に動揺し、受け入れられずにいた。

 

 

『じゃあ、始めマすネ。

アナタはワタシのガーディアンになルんです。

盾は多けレば多いほドに良いですかラ!!』

 

その声と共に現れた機械が、獣化しているモモの助に何かを打ち込んだ。

 

 

『ヒィッ……な、なに…』

 

『なにっテ、ワタシの“祝福”をあげタんですヨ?

と言ってもコレは特別製(・・・)。喜んデ下さい。

上手くいけバ、アナタは死ななクなりマすかラ!!

一生ワタシを守る盾にナれる。嬉しいデショ?』

 

電伝虫から溢れる不協和音のような笑い声はモモの助の希望を少しずつ削り取って行った。

 

 

 

 

────そして、現在。

 

 

モモの助はちゃんと人の形に戻っていた。

あの“モノノ怪”の姿の面影は微塵もない。

 

……だが、それが災いした。

 

目の前で人間を石に変えながら、部屋を破壊するべく暴れる巨大な怪物に太刀打ち出来ずにいたのだ。

 

怪物は壁を石に変えて砕くと、中にいた手が羽の女へ煙を吐いた。

 

 

「(あ、あの奇妙な羽の人も石になってるでござるっ!?

…拙者ももう……助からないっ…)」

 

ガタガタと震えていると、怪物が(きびす)を返してこちらに迫ってくる。

きっと、先ほど壊した扉から脱走しようとしているのだろう。

 

しかし、その直線上にモモの助はいた。

 

ギロリ。

怪物とモモの助の目線がぶつかった。

 

 

「グルルルアァ~…」

 

ドスンと、10m近い巨体が小さなモモの助に迫ってくる。

 

そして、怪物が大きく口を開けて煙を吐き出した瞬間だった。

 

 

「危ない…!!」

 

突然、女の人の声と共にモモの助の体が突き飛ばされる。

 

何が起きたのか分からず、モモの助が尻もちをついたまま振り返ると。

そこには長いオレンジの髪を持つ猫目の美人な女性が煙に包まれかけていた。

 

 

「きゃあ!?なにっ……これ!?」

 

猫目の女性の叫びと共に、後方から斬撃が飛んでくる。

 

 

三百六十煩悩鳳(さんびゃくろくじゅっポンドほう)…!!」

 

その斬撃の風圧で煙は猫目の女の周りから消し去られ、怪物も後方へと吹っ飛ばされて行った。

 

 

「おい!?ナミ大丈夫かよ~!?

急に走り出していくなんて……っ!?」

 

「ナミさん無事か!?……そ、その腕っ…!?」

 

ナミと呼ばれた猫目の女性に駆け寄ってきた長い鼻の男ウソップと、金髪と眉毛が特徴的な男サンジは、二人揃って驚きに目を見開いた。

 

固まってしまっている二人に追い付いた三本の刀を腰に下げている男、ゾロも息を飲んだ。

 

子どもを庇って煙を浴びてしまったナミの首筋から肩。

そして、右手の先まで石のようになってしまっていたのだ。

 

それを見たゾロの隣にいた奇っ怪な見た目の男、カン十郎が声を上げる。

 

 

「そ、それは!?

もしや先ほどの巨大な(にわとり)の煙に触れたのか!?」

 

「…カ、カン十郎!!」

 

思わずといったように前へ出たカン十郎へ向かって

助けられた子ども、モモの助が飛び付く。

 

 

「モモの助…!!無事であったか!!!

どれだけ心配したか……貴殿らには感謝してもしきれん…特に、そこのおなごよ!

この恩は…」

 

頭を下げるカン十郎の言葉をサンジが遮る。

 

 

「礼はいい!!

それよりもお前、このナミさんの腕を治す方法知らないのか!?」

 

「そ、そうだ!

さっき巨大な鶏がどうとかって!

何か知ってるなら教えてくれよ!!」

 

必死な形相の二人に、慌ててカン十郎が口を開く。

 

 

「す、すまぬ!

実はそれがし、あの巨大な鶏のモノノ怪を見たことがあるのだ。

その時、人が石にされて……砕かれていた…」

 

「っ……やっぱり、石になっちまってるのか…

ナミさん、痛みはないか!?」

 

「えぇ、痛くは……ないんだけど…」

 

座り込んでいるナミを労るように隣にしゃがんだサンジの後ろでウソップは唇を噛む。

 

 

「まだ話には続きが…!

それがしがその光景に会いまみえた時、白衣の不気味な男は“治療薬”があると言っていた!!」

 

「「本当か!?」」

 

がばりと顔を上げたサンジとウソップにカン十郎が大きく頷くと、ゾロが大きな声を上げた。

 

 

「おい、お前ら!!ナミを連れて下がれ!!!」

 

叫ぶと同時に前方に飛び出したゾロを見て、サンジがナミを抱き抱えて後方に飛び退き、カン十郎とウソップもモモの助を庇いながら後に続いた。

 

 

「グルルルァァアアア!!!」

 

先ほど斬り飛ばした筈の巨大な怪物が雄叫びを上げながら突進してくるのを、ゾロは刀で横に受け流す。

 

 

「なんだ、コイツ…

さっきおれが斬った傷が消えてるじゃねェか!」

 

ゾロが眉をしかめると、後ろからカン十郎が声を上げる。

 

 

「そのモノノ怪は羽を斬られても再生しておったぞ!!

それとあの煙に触れては石にされてしまう!」

 

「再生だァ…?不思議生物かよ!!」

 

驚きながらも、ゾロはまた突進してくるモノノ怪を斬り飛ばしてみせる。

 

 

「おい、クソコック!

このニワトリはおれに任せて、ナミを連れて行け!

治療薬があるなら治せるだろ。」

 

「っ……わかった!!石にされるんじゃねェぞ、クソマリモ!」

 

「ハッ、鶏肉にして持っていってやるから待ってろ。」

 

不敵に笑うと、ゾロは巨大な怪物へ対峙する。

その怪物の首に下げられたカッパーの首飾りには“β版バジリスク”の文字があった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

一方その頃。

ルフィとキッド達は突然倒れたチョッパーを抱いて移動していた。

 

 

「グッ……なんで息が苦しいんだ。」

 

「チョッパーさんも倒れちゃいましたし…毒ですかね!?」

 

「可能性はある。

俺たちが来た方の通路も、進もうとしていた方の通路も閉じられてる……密閉されたってことだ。」

 

「みっぺい…?」

 

チョッパーを抱き抱えながら首をかしげるルフィを無視して、キラーはブルックに声をかける。

 

 

「さっきからおれ達全員、息がしづらくなってる。

……さっき持っていたカードキーがこの扉に使えないか試してくれ。」

 

「アッ!忘れてました!

そう言えば私カードキー持ってるんでした。」

 

ブルックは懐にしまっていたカードキーを出すと、以前のように機械の上にかざした。

 

 

『現在その認証は行えません。

管理室から認証を遮断されている為、連絡を取り対応して下さい。』

 

「…駄目みたいですね。」

 

機械音声が流れ、ブルックは小さく肩を落とす。

すると、後ろにいたルフィとキッドが一歩前へ出た。

 

 

「ブルック、チョッパー頼む。」

 

「え…はい!お任せを!」

 

突然チョッパーを渡されて少し驚きながらも、ブルックはしっかりと抱き止めた。

 

 

「しゃらくせぇ!!

もう、侵入はバレてんだ。コソコソしてやる必要ねェだろ!?

キラー、そこ退いてろ!!」

 

苛立ったように前へ出てきたキッドの後方へキラーが下がると同時に、二人は動いた。

 

 

磁気弦(パンクギブソン)!!

ゴムゴムの火拳銃(レッドホーク)!!

 

倒れている敵の武器がキッドに集まり巨大な腕を構築している横で、ルフィも腕を後ろに伸ばす。

 

そして、同時に技は放たれた。

巨大な金属の寄せ集めの腕と、炎を纏った拳の一撃はいとも簡単に通路を塞いでいた扉を破壊する。

 

 

「おい、バカザル真似すんじゃねェ!!」

 

「なんだよギザ男!!真似したのはそっちだろ!」

 

壊れた扉の前で二人がくだらない言い合いをしていると、ドスドスと何か大きなものが動いている振動が伝わってきた。

 

一瞬で何かを感じ取ったルフィとキッドが開けた通路の奥を見ると、デカイ鶏のような変な生き物が暴れている。

 

 

グルルルァァア!!ルルルル…!

 

大きな叫び声を上げるデカイ鶏のような生き物の足下には見慣れた男、ゾロもいる。

ルフィは思わず名を呼んだ。

 

 

ゾロ~~!!

なんだその不思議トリ!!?

 

ルフィ!?

 

ゾロがこちらに気付き驚いた顔をしていると、デカイ鶏のような生き物が方向転換をして此方へ向かってくる。

 

 

「ちょ、ちょっとルフィさん!?

なんかこっちに来ちゃってますけどぉ!?」

 

「ンだよ!?あの生き物!」

 

「あの人が好きそうだな…」

 

「おぉ!?でっけぇー!!」

 

4人がそれぞれの反応を返していると、ゾロが叫ぶ。

 

 

「おい、ルフィ!!

そいつの吐く煙には触るな、石にされるぞ!!」

 

「そうなのか!?わかった!!」

 

ルフィが元気良く返事を返すと同時に、デカイ鶏のような生き物が口を大きくあけて煙を吐き出した。

 

4人は危なげなくそれを避ける。

そして、ルフィは隙だらけのデカイ鶏のような生き物を蹴り飛ばした。

 

すると、キラーが驚いたような声を上げる。

 

 

「キッド…!見ろ、床にいた防護服の奴らを!」

 

「な!?

トンでも生物じゃねェか……アイツ(・・・)絡みじゃねェだろうなァ!?」

 

石になっている敵を目の当たりにして、キッドとキラーの警戒心が高まっていると。

その後ろでブルックも声を上げた。

 

 

「まさか噂や言い伝えで良く聞く、あのバジリスクじゃないですか!?

私、長く生きてますけど初めて見ましたよ!?

……って、私死んでたんでした。」

 

いつものように軽口を叩くブルックにルフィが笑っていると、キラーが唸る。

 

 

「なるほど、バジリスクか…

聞いたことがあるが、確か睨んだ相手を石化するんじゃなかったか?」

 

「ア"ァ"?石化させンのは“コカトリス”だってアイツが言ってただろ!」

 

「いや、バジリスクとコカトリスは雌雄関係にあるという伝承があるとあの人は言ってたぞ?」

 

「……そうだったかァ?」

 

「まぁ、あの人の語りは長いから仕方ねェさキッド。」

 

「って…アイツの事なんざ、どうでも良いんだよキラー!!」

 

ハッとしたような顔で会話を終わらせたキッドの方へ、いつの間にかゾロが近付いていた。

 

 

「コカトだかバジルだかしらねェが。

アイツの首に下げてるプレートには“β版バジリスク”って書いてあったぞ。」

 

「「“β版”だと…?」」

 

キッドとキラーがあからさまに嫌そうな声を上げていると、ゾロの体を見たブルックが慌てたような声を出した。

 

 

「ちょっとゾロさん!!

のんきに話してるけど、脇腹どうしたんです!?」

 

「あぁ、煙がかすっちまった。」

 

「あぁ……じゃないですよ!!?

これ、え…どうすれば……チョッパーさん!起きて!!」

 

慌てるブルックと少し離れたところでβ版バジリスクの相手をしていたルフィがゾロへ言葉を投げる。

 

 

「大丈夫なのか、ゾロ!」

 

「おう!問題ねェ!!

それに薬があるって話だ。

今、ウソップ達が探しに行ってる!」

 

「そっか。なら問題ねェな!!」

 

にししと笑うと、β版バジリスクを鉄の壁の穴の奥へ吹き飛ばしてルフィはゾロ達の所へ来る。

すると、キラーが口を開いた。

 

 

「あの生き物にこれ以上時間は割けない。

ロロノアが手負いである以上、人手がいる。

だから、おれは残って奴を対処するからキッドはイネットを捕まえてきてくれ。」

 

「別におれ一人で構わねェよ。」

 

不満げな声を出すゾロにキラーが振り返る。

 

 

「見た感じ、あの生き物に大きな傷はないが?

その上一部とはいえ、腹を石化されてるじゃねェか。」

 

「っ……おれは何度も斬ってる!

ただ、あのニワトリ野郎傷が治るんだよ。」

 

「傷が治る…?再生能力か……

なら、なおさら二人で対処するべきだ。

お前達の仲間が石化されるのを防ぐ為にも、ターゲットであるイネットが石化されるのを防ぐ為にも。

おれとお前で奴を引き留めるべきだ。

最悪、石にされた時に運べる奴はいた方がいい。」

 

「……邪魔だけはするなよ仮面。」

 

渋々承諾したゾロをルフィが笑顔で見ていると、ブルックが声をかける。

 

 

「あの~、ルフィさん。

薬があると言うなら、私ウソップさん達に合流しても良いですか?

もし、薬本体がなかった場合。作り方だけでも知れればチョッパーさんなら作れるかもしれません。

それに先ほどキラーさんが尋問していた時この施設には“ウイルス”もあると言ってましたし、チョッパーさんにはその関係の情報を見てもらった方がいいかなー…なんて私思ったんですけど!」

 

「わかった!

まだチョッパー気絶したまんまだし、ブルックに任せる!」

 

「ヨホホホ~!ありがとうございます、ルフィさん!

では、早速……」

 

離脱しようとしたブルックを、キッドが止める。

 

 

「おい待て!!

行くのは構わねェが、そいつらが何処にいるのか見当ついてンのかよ。

此処はそこそこデカイ施設だぞ。

闇雲に走り回ってなんの成果も出せねェってんじゃ、意味ねェだろ!」

 

「キッドさんの言う通りです…!

うっかりしてました!」

 

はわわと頭を抱えたブルックに、キッドが小さな通信機を投げ渡す。

 

慌てて通信機を受けとると、ブルックは首を傾げる。

 

 

「これは…?」

 

「てめぇらの所の長っぱなに渡した通信機の予備の子機だ。

……それがあれば連絡取り合ってなんとかなんだろ。」

 

「ありがとうございます、キッドさん!!」

 

「うるせぇ、さっさと行け骨!!

終わったら絶対返せよ!?新しくは作れねェ(・・・・・・・・)ンだからな!!」

 

「はい、必ず!!」

 

今度こそ、キッド達から離れたブルックは通信機でウソップ達に連絡を飛ばしながら走って行く。

 

キッドの行動にキラーが小さく笑っていると、かなり遠くへ吹き飛ばされていた筈のβ版バジリスクが床大きく揺らしながら此方へ戻って来ていた。

 

 

「……随分と元気そうだな、バジリスクは。」

 

「斬っても蹴りとばしてもケロッとしてんだよ、このニワトリ野郎は…!」

 

ゾロは地面を蹴りβ版バジリスクに向けて飛び上がり、キラーはパニッシャーを構えて後方に回り込む。

 

 

「進め、キッド!!」

 

「行け、ルフィ!!」

 

二人の声にキッドとルフィは頷くと、通路の奥へ走り出した。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

ナミを連れて薬を探していたウソップ達の通信機が小さな音を鳴らす。

すると、音のなる機械を一瞬カン十郎が凝視したが、本当に一瞬だけであった。

 

サンジはそれに気付かずウソップに出るように促す。

 

 

「ウソップ、鳴ってるぞ。

ルフィじゃねェか?」

 

ウソップは頷くと、教えられていた通りに通信機を操作した。

 

 

『あ、もしも~し!ブルックです、聞こえてますか?』

 

「ブルック!こちらウソップ。

そっちは大丈夫か!? 

今、おれ達は怖ェニワトリに襲われてナミの腕が石になっちまうし、大変で…」

 

『えぇ!?ナミさんの腕が!?

ゾロさんから聞いてないんですけど!?』

 

ゾロの名前にウソップが驚いた声を出す。

 

 

「え、ブルック。ゾロに会ったのか!?」

 

『はい、先ほど。

ウソップさんの言う怖いニワトリというのにも会いましたよ。

β版バジリスクとかなんとか…』

 

「そうだったのか…」

 

『もう本当にびっくりしましたよ!

…あ、それでですね!

その石化を治す薬があると聞いたんですけど…』

 

「そうなんだ、今おれ達もそれを探して…

なんかそれっぽい事が書いてある紙はあるんだけど、薬が見当たらねェんだ!」

 

焦りの見えるウソップの声に通信機で話すブルックの後方でチョッパーが反応している声が入る。

 

 

『え、チョッパーさんなんですか?

……あ、なるほど!分かりました。

ウソップさん、少しチョッパーさんに代わりますね!』

 

「わかった!」

 

少しガサガサという雑音の後に聞きなれた可愛らしくも、こういう時一番便りになる仲間の声が通信機から流れてくる。

 

 

『ウソップ!おれだ!ナミの容態は!?』

 

「チョッパー!良かった…!

ナミは痛みとかはないみたいなんだけどよ、もう腕が本当に石みたいになっちまってて…」

 

『石みたいに……その腕の血流とかどうなってるかによっては急がねぇと!

あと、さっき何か書いてある紙があったって!』

 

チョッパーの声に思い出したように、ウソップはサンジから紙を受けとる。

 

 

「えぇ~…と。

なんかハーブとかキンの針?とか……おれにはわからねェんだ!」

 

『ハーブに金の針……どうやって使うんだろ…

ウソップ、おれ今ブルックとみんなを探してるんだけど。

どこら辺にいるか分かるか?』

 

「場所…え~と……」

 

辺りをキョロキョロと見渡すウソップの横からサンジが通信機に向かって声を発する。

 

 

「第一研究所の資料室って部屋だ。

何でか知らねェが扉もぶっ壊れて目立ってるから、廊下から見てもすぐに分かる。」

 

『わかった!ありがとう、サンジ!

すぐに向かうよ!』

 

「あぁ、急いでくれチョッパー!!」

 

ナミを抱き抱えたままのサンジの声にチョッパーが返事をすると、通信が切れる。

 

 

「にしても、薬本体がねェんじゃ…」

 

困ったような声を出すウソップに、散らばっている資料を漁っていたカン十郎が提案があると立ち上がった。

 

 

「長鼻の、この図面を。」

 

「誰が長鼻だ!ウソップだって言ってるだろ……って、んん?

この研究所の図面がどうしたんだ?」

 

「おぉ、それはすまぬ。ウソップ殿。

……で、この図面を見るに。

ここに物質管理室があり、この奥の所に…」

 

カン十郎が指差した場所を見て、ウソップが目を見開く。

 

 

「“薬品保管所”!?

これだ!!薬もここにあるに違いねぇ!」

 

「でかした!!

そこに行けばナミさんを治せる薬が…」

 

目に希望が宿ったウソップとサンジはまた通信機を取り出し、再びブルックとチョッパーに連絡を取るのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

場所は変わり、Aフロアの第一研究室にて。

 

あまりの研究施設内の騒がしさに違和感を感じたヴェルゴは捕えたロシナンテを檻に投げ入れ、イネットの下へ来ていた。

 

 

「イネット博士、これはどういう状態だ…?」

 

監視用の映像電伝虫を眺めているイネットにかけた声は辛うじて平静を保っているが、ヴェルゴの眉間には青筋が浮かんでいる。

 

 

「どうモこうも、見テの通りですヨ。

モネが実験場の管理室デ室内の設定を弄っタからワタシのバジリスクが暴走しちゃって大変デす。」

 

やれやれと肩を上げて溜め息を吐くイネットをサングラス越しにヴェルゴは睨み付ける。

 

 

「暴走だと…?

なら、お前は管理出ないような化け物を作ったのか!?

だからあれほどドフィから言われた研究以外はするなと忠告してきたんだ!!

……待て、モネはどうした?実験場は破壊されたんだろう!?」

 

詰め寄ってくるヴェルゴをチラッと横目で見ると、イネットはモニターを指さした。

 

 

「このモニターに映っテますヨ。

どうやラ石になっタみたいだケど、まだ割れテはナいネ。」

 

何の感情もなく石になっているモネを映しているモニターを見るイネットにヴェルゴは掴みかかる。

 

 

「モネはドフィの選んだファミリーだぞ…!!

どう責任を取るつもりだ!?」

 

殺気立つヴェルゴにイネットは異様なほど淡々と返す。

 

 

「ドフラミンゴは感情論じゃ動かナいヨ。

助手のモネよりも、大金を生む兵器を作り出セるワタシが優先されルのはキミも分かっテるんじゃナいのかネ?」

 

ヴェルゴがイネットの白衣の襟を掴む力がだんだんと強くなっていく。

 

 

「それに弄るなと言ってあっタ設定を勝手に弄ってワタシのバジリスクを停止させよウとしたモネの行為は裏切りだヨ。ワタシに対する裏切り。

彼女はワタシの助手としてドフラミンゴから渡サれたモノなのにネ。悲シい話だヨ。

そう、そうだヨ…ワタシを裏切らなケれば石にナらなかっタと言うのに……これハ自業自得じゃないのかネ!?

 

急に言葉尻をあらげるとギョロりと目が変化したイネットを、ヴェルゴは床へ投げ捨てる。

 

投げ出されたイネットはすっと立ち上がると、数秒前の激昂が嘘のように平坦な声を出した。

 

 

「けど、慈悲は必要ダからネ。

許しテ上げるノも大切ですヨ。

だかラ、助けタいなら勝手にしテ……ハイ、これ。」 

 

「…なんだ、これは。」

 

投げ渡された謎の器具を見て、ヴェルゴは眉をひそめる。

 

 

解石化薬(かいせきかやく)だヨ。

その注射器は特殊な針だかラ、石みたイに固くなっテる体にも使えル優れもの。ただ腕に当テてボタンを押せばイいだケ。

2本とも上げルかラ、好きに使いなヨ。

……ワタシは赤い馬鹿を捕まえに行くカラ。」

 

そう言って白衣を羽織り直したイネットをヴェルゴが止める。

 

 

 

「勝手な単独行動は止せ…!

敵の狙いはお前の身柄の可能性もあるんだぞ!!」

 

「なら、ワタシについテ来て護衛でもなンでもすれば良いヨ。

その間にモネが割れテも責任は取れなイけどネ。」

 

護衛対象とモネの救助で揺れるヴェルゴが一瞬言葉を飲み込むと、イネットが気味の悪い笑みを浮かべる。

 

 

「まぁ護衛なんテいラないヨ。

ワタシはキミ達より強いんダからネ。」

 

ぐちゃりと体を変形させ、人の形から外れたイネットをぎょっとしたような顔でヴェルゴは見た。

 

 

「急ギナヨ。

侵入者ハ10人、脱走者ガ2人……ワタシの研究施設始マッて以来ノ大失態ダからネ。」

 

言いたいことだけを一方的に告げると、イネットはヴェルゴの横を通りすぎてぬるりと部屋から音もなく出ていく。

そのあまりに人からかけはなれた姿に強い嫌悪感が襲う。

 

 

「……化け物め…」

 

額に汗を一筋流しながら、ヴェルゴは忌々しげに呟いた。

 

 

 

 






ー後書き&補足ー

・石化しているメンバー
ゾロ→脇腹のみ
ナミ→首から肩、手の先まで
モネ→おそらく全身


暫く、本編の更新は2週間に一回になるかもしれないです!
番外編も更新増やしたいので、書き終わり次第交互に更新できたらなと思っております!(少なくとも本編は2週間に一回は更新します)

いつも読んでくださりありがとうございます!
感想やここ好き一覧に、ご質問箱やTwitterなど励みになっております!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

発見、気味の悪い科学者

 

 

巨大なニワトリの化け物、バジリスクを相手にキラーとゾロは交戦を続けていた。

 

 

「おい、この再生能力をどうにかしねェと埒が明かねェぞ!?」

 

「分かってる…!

再生能力は大半が、細胞分裂という動きによっておこっている筈だ。」

 

「さい…?なんだよ、それ!?」

 

「確か…人間の傷などが治るのもその細胞分裂のおかげだとあの人は言ってたな…」

 

独り言のように呟きながらバジリスクを斬り飛ばしたキラーの隣に着地すると、ゾロは叫ぶ。

 

 

「意味が分からねェが結局どういうことだ!?」

 

「結論から言えば、あの再生能力は無限には続けられないのではないか…と言うことだ。

生き物である限り、細胞の分裂にも限度がある筈だ。」

 

「じゃあ、斬り続けてりゃコイツも倒れんのか!」

 

「あぁ、だがそれじゃあ時間がかかりすぎる……何か、手は…」

 

唸るキラーの頭にある記憶が過る。

 

過った記憶の中。

謎のナマコのような生き物を片手に、記憶の中の男は笑う。

『切っても、内臓が消えても再生するんだ。面白いだろう?』

 

ズイッと目の前に差し出されたそれに、グロいなと顔をしかめたキラーは疑問を口にする。

『なら、どうやれば殺せるんだ?不死身なのか…?』

 

キラーの疑問に男は笑う。

『ふふ、いい質問だ。キラー。

こういう生き物は斬撃で倒すのは難しい……だが、細切りにして燃やしちまえば案外簡単に死ぬ。

まぁ、父さんならばミンチにして終いだろうが、おれやキラーはそんなに力がないだろう?

……と言っても例外はあるが、上げればキリがねェ。

それに、あまりにも再生速度が速いと炎じゃやれねェから鉄を…』

 

そこまで思い出して、キラーはゾロへ声を上げた。

 

 

「コイツはそこまで再生速度が速くない!

だから、ある程度細切れにして…燃やす!!」

 

「はぁ!?」

 

すっとんきょうな声を上げるゾロを軽く見やると、キラーは挑発するような声を出す。

 

 

「なんだ、まさか出来ませんとでも言うつもりか?

海賊狩りは名ばかりだったか…」

 

「っ~!!出来るに決まってんだろ!!

それより火はどうするんだよ!」

 

ムッとしたように返すゾロに、キラーは冷静に返す。

 

 

「この工場の爆破用に持ってきていた火薬の余りを使う。

細切れにしたら、爆破……そしてキッド達に合流だ。」

 

「火薬なんか持ち歩いてたのかよ。」

 

少し驚いた顔をするゾロの隣で、動き出したバジリスクを確認してキラーがパニッシャーを構え直す。

 

 

「行くぞ、ロロノア。遅れを取るなよ!」

 

「言ってろ!!

おれ一人で6等分にしてやる!!」

 

「フッ…なら、おれは10等分だ!」

 

「んな!?」

 

小さく笑うと暴れているバジリスクへ飛び出して行ったキラーの後を僅かに遅れたゾロが走り出した。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

ルフィとキッドが研究所の奥へと進んでいると、薄暗い道の先に人影が浮かぶ。

 

即座に構えたキッドの隣をすり抜け、ルフィは先に進む。

そして、見えた光景に目を丸くすると目にも留まらぬ速さで人影に殴りかかった。

 

 

「っ~!!

何やってんだ、離せ!!!

 

怒りのこもった声を上げながら突撃してきたルフィの攻撃を人影はスルッと躱す。

その人影が移動して来たことで、キッドの視界もそれを捉える。

 

その人影は、麦わらの一味であるロビンを引きずりながら、こちらをギョロリと睨む。

 

2m以上ある身長にも関わらず、大きいよりも長いと言う印象のイネットという男はルフィを振り返る。

 

 

「突然殴りかかっテくるので驚きマしたヨ。」

 

「うるせぇ!!ロビンを離せ!!」

 

「それは出来ナいネ。この女ハ古代文字が読める!!

ワタシの研究成果と女を持っテ行けばレオヴァサマも許シて下さる……また守っテ頂けルんですヨ!」

 

イネットが声高らかに話す言葉をルフィが腕を伸ばしながら遮る。

 

 

「レオヴァがお前を守る?

そんなわけねェ!お前みたいな奴、レオヴァの嫌いなタイプだ!!

それよりロビンを返せ!!」

 

「なんっ…ワタ、ワタシをレオヴァサマが嫌ウ…?」

 

呆然とした表情になったイネットの手からロビンを奪い返したルフィは後方へ下がる。

 

 

「おい、ロビン!大丈夫か!?」

 

抱き抱えているロビンにルフィが声をかけるが、ぐったりとして反応はない。

 

 

「お前、ロビンになにした…!!」

 

キッとイネットを睨み付けるルフィだが、当の本人は頭をガリガリとかきむしっている。

 

 

「あり得ナいあり得ナい、レオヴァサマがワタシを嫌っテいルなど……そう、そウですヨ。あり得なイこと…あり得なイことナんだッ!!!

 

急にこちらへ振り返って叫ぶと血走った目でルフィを見ていたイネットの瞳が、キッドを写す。

 

 

「ユースタス…“キャプテン”キッドォ……」

 

「っ…!!」

 

物凄いスピードで突撃してきたと思うと、ひょろ長い腕をムチのようにイネットは振り下ろす。

咄嗟に避けたキッドの、元居た場所の床にはヒビが入っていた。

 

その細い見た目からは考えられないパワーにキッドが眉間に皺をよせていると、イネットはゆらゆら揺れながら此方へ体の向きを合わせてくる。

 

 

「ユースタスに…キラー……嗚呼、忌々しイ!!

レオヴァサマを裏切っテおきながラ許さレた異端児!!

ワタシは許さレずッ……あんな、あんな酷イ罰を受ケたと言ウのにィ!!」

 

「知るかよ。

そもそも別に裏切ったワケじゃねェ、抜けたってだけだ!」

 

騒ぐイネットを尻目に瓦礫を集め終えたキッドが、鉄の塊を投げ付ける。

しかし、イネットには当たらない。

 

 

「クソガキめ……キミみたイな奴が和を乱スんですヨ、この裏切り者が…ワタシだケが辛いナんて許せなイ!!

 

またキッドへ飛び掛かって行ったイネットの顔に強烈な蹴りが見舞われる。

 

ロビンを抱えながらも放たれたルフィの蹴りで、イネットは数メートル吹っ飛ぶと、小さく唸る。

 

 

「なんか、こいつ意味わかんねぇな!

ギザ男は知り合いなのか?」

 

「会ったことはねェよ…話には聞いてたけどな。」

 

「ふ~ん。まぁ、いいか!

早く捕まえて合流しよう!

なんかロビンが起きねェんだ、後ろに寝かせて来たけど…心配だ!チョッパーにみせねェと!」 

 

「……分かってんだよ、バカザル!

さっさとこのキチガイ捕まえてキラーと島を爆破すンぞ!!」

 

2人が戦闘態勢に入ると、唸っていたイネットがゆっくり立ち上がる。

 

 

「……分かりマした、キミ達少し…強いネ。

なら使いマショウか。望まず手に入れたチカラ…」

 

ぐちゅ。

と、不快な音と共にイネットの体が溶けていく。

 

思わず顔をしかめたルフィとキッドの目の前で、イネットだった肉の塊は大きさを増していく。

 

そして突然肉塊が破裂し、2人は距離を取る。

 

 

ヒヒヒ!!トテモ、イイキブン!

タクサン、タベタイ!!

 

全くイネットの面影のない、4mほどの化け物が2人に向かって長い腕を伸ばす。

 

こうして、ルフィとキッドのイネット捕獲作戦は幕を開けたのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

その頃、薬品保管所に到着していたサンジ達は薬品を漁っていた。

 

ここに来る前に医務室を見つけて、そこでナミをブルックとチョッパーに任せ、カン十郎とモモの助も共に待機している。

 

その為ナミの安全は問題ないとサンジは考えていたが、石化が体に及ぼす影響を危惧していた。

 

必死に薬を探すサンジの耳に、ウソップの声が届く。

 

 

「あった…!!これだろ!?」

 

「本当か、ウソップ!」

 

すぐに駆け寄りその薬を見ると、サンジの顔に安堵の表情が浮かぶ。

 

 

解石薬(・・・)…か!」

 

「薬ってこれだよな!」

 

明るい顔で見上げてくるウソップにサンジも笑顔を返す。

 

 

「一応、さっき見つけた薬品説明書ってやつで確認するぞウソップ!」

 

「おう!……えぇ~と、なになに~?」

 

薬品説明書と書かれた紙の束をペラペラと捲っていくウソップを後ろから、サンジは眺める。

 

 

「…お!あったぜ、サンジ!

この解石薬は~…石化ブレスにより石になった…ん?部位を…とく?」

 

説明書の文字が掠れてしまっており、首を傾げながら読むウソップの手元をサンジは覗き込む。

 

 

「おいおい、後半の文字滲んで読めねぇな…

フリガナだけは無事っぽいが……」

 

「でも、“とく”ってフリガナがふって有るんだし大丈夫だろ!

これで石化を解けるってことだな!」

 

「それもそうか。

で、何本あるんだ?

出来れば多い方がいざって時に助かるけどよ。」

 

「いや、2本だけだ…」

 

少し残念そうに2本の小瓶(・・)を掲げたウソップの肩を軽くサンジは叩く。

 

 

「数は少なかったが、ナミさんとマリモ野郎の分だけありゃ上々だろ!」

 

「そうだよな!

よし、早くナミに薬を届けようぜ!!」

 

立ち上がったウソップの後ろにサンジは続いた。

 

 

そうして、医務室に戻ってきた2人は扉を開く。

 

 

「サンジ、ウソップ~!

どうだった?薬あったか?」

 

ナミが寝ている診察台から飛び降りててくてく走って来たチョッパーに、ウソップが薬の小瓶を渡す。

 

 

「おう、解石薬ってやつらしい!」

 

「良かった…!

さっきからナミの腕を調べてたんだけど全然分からなくて…

腕以外に異常はなかったんだけど、早く治せるに越したことねぇんだ!」

 

ウソップから薬を受け取ったチョッパーは、台の上に広がっている試験管や器具の隣に小瓶を置いた。

 

 

「どうしたんだよ、チョッパー?

使わないのか?」

 

急がないとと慌てるウソップにチョッパーは小瓶を開けながら言葉を返す。

 

 

「この研究所ヤバいのばっかりだから、一応ちゃんと害がないか調べないと怖くて使えないんだ!」

 

「確かに、チョッパーの言う通りだな。」

 

納得したように声を漏らすサンジの隣で、ウソップも確かにと頷く。

 

 

「ん~~?なんだ、これ…?

でも、いや……この組み合わせで…けど……」

 

薬の調査を始めたチョッパーが唸る姿に、不安に襲われたウソップが思わず口を挟む。

 

 

「ど、どうしたんだよチョッパー…?

それじゃあ、ナミを治せないのか!?」

 

「…正直、こんな成分初めて見た。

けど、普通の体に害がある物じゃねェみたいなんだ。」

 

「じゃあ…!」

 

使えるんだな!とウソップが言葉を続ける前にチョッパーが真面目な声を出す。

 

 

「でも、今ナミの腕は“普通”じゃないから……使って大丈夫か断言できねェ…」

 

部屋の中に沈黙が流れる。

 

 

「……このままおれが薬を作れるようになるまでナミの腕をそのままにしておいて大丈夫なのかも、分からねェんだ。

おれ、麦わらの一味の船医なのにっ…」

 

うっすら目に涙を浮かべるチョッパーに、診察台の方から声がかかる。

 

 

「……チョッパー、その薬使いましょ?」

 

「ナミっ……ごめ、起きてたのか!」

 

振り返りざまに涙を腕で脱ぐって、チョッパーは患者を不安にさせまいと必死に笑顔を作る。

すると、横にいたブルックが心配そうにしながら口を開いた。

 

「ですが…ナミさん。

その薬は安全か分からないってチョッパーさんが…」

 

「……そうね。

けど、このままずっと何も出来ないのも困るでしょ?

やるべきことは残ってるんだから…!」

 

サンジ、ウソップ、ブルック、チョッパーの4人が互いに顔を見合せる。

妙な緊張感漂うやり取りを円の外から眺めるカン十郎とモモの助も息を飲んだ。

 

 

「……ヤバい薬かもしれないんだぜ、ナミ。」

 

「ウソップまで…

でもそれに解石薬って書いてあるじゃない。」

 

「そりゃそうだけどよ!

チョッパーでも意味分からねェって薬、怖すぎるだろ!?」

 

一味が判断を渋っていると、医務室の扉が開かれる。

一斉に扉へ振り返ると、黒いサングラスに竹竿を持った男が開いた扉の向こう側に立っていた。

 

男が真っ黒な竹竿を笛の如く咥えると、すぐに風船のように膨らみ、異様な雰囲気が漂った。

 

 

「不味いっ…ナミさん!!」

 

誰よりも速く動き出したサンジがナミを抱き上げて飛び退き、その行動に続くようにブルック達も男から距離を取る。

 

そして、次の瞬間。

医務室だった場所は跡形もなくなっていた。

 

瓦礫と化した部屋の前でサングラスを掛けた男は、ゴキッと首を鳴らす。

 

 

「…モネの元へ行かなければならないと言うのに、面倒事ばかり増えるな。」

 

苛立ちを含んだ声を漏らす男の方へ飛んで来た物体を、竹竿ではたき落とす。

 

すると、地面から謎の植物が生えて来た。

 

すぐにその場から退避した男は医務室の在った場所の隣の部屋に当たる場所を睨む。

既に部屋と言える見た目ではなくなっているが、その場所に先ほどの衝撃から逃れたウソップがいる。

 

 

「……今ので一人も殺れなかったのは誤算だな。」

 

指でサングラスを持ち上げながら溜め息を吐く男と、サンジ達の衝突が始まるのだった。

…その後ろで蠢くもの達には気付かずに。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

一方、その頃。

 

とある命令を受け、ナワバリを出港した姉弟がいた。

 

 

なんで私があんな場所に行かなきゃならないでありんすかぁ!?

 

弟であるページワンの肩をぐわんぐわんと揺らしながら叫ぶ姉、うるティを見て部下達はこっそり距離を取る。

 

そんな中、一人だけ姉弟に近付く部下がいた。

 

 

「うるティちゃんの気持ちめちゃくちゃ分かるわ~!!

あんな辛気臭い場所、誰だってゴメンよ!

でも、大切な事だってレオヴァ様仰ってたじゃな~い?

それってうるティちゃんのこと頼りにしてるから任せて下さったのよ!」

 

そう言いながらうるティとページワンの側へ歩み寄って来た、派手な服装の2mを超える乙女の名はトネグマである。

百獣海賊団に何十年もいる古株の真打ちだ。

 

そのトネグマの言葉に、うるティは吊り上げていた目元を少し下げる。

 

 

「…レオヴァ様が、私を頼りにしてる……」

 

ボソリと呟くうるティの姿を部下とページワンはゴクリと息を飲みながら見守った。

 

 

「んふふふ~!!

なら、あちきとぺーたんで今回の任務も成功させて、カイドウ様とレオヴァ様にいっぱい褒めてもらうでありんす~

 

ふにゃっと可愛らしい笑みを浮かべて笑ったうるティを見て、部下は一斉に胸を撫で下ろし、ページワンもげっそりした顔で息を吐いた。

 

 

「もう、ぺーたんなんでそんなに疲れた顔してるでありんすか!!

任務はこれからなのに~!!」

 

やれやれと言いたげな顔の姉に、ページワンは思わずでかかった文句を飲み込む。

 

せっかくトネグマが直してくれた機嫌を損ねるのも悪いかと、大人な対応でページワンは立ち上がり、部下の方を向く。

 

 

「はぁ……おい、航路は問題ないな?」

 

「はっ!

このままならば予定よりも早く到着するかと!」

 

「そうか、ならそのまま進め。

天気なんていつでも変わるから、早めに行動しといて損はねェし。」

 

「はっ!お任せを、ページワン様!」

 

姉よりも頼りになる弟に、最大の敬意を込めて返事を返す部下の心など知らずにうるティは預かっている潜水艇の扉の鍵を眺める。

 

 

「なんで白くまのキーホルダーなんでありんすかァ?

ムカつくから捨てていい?」

 

いや、良いわけあるかァ!!!

 

「「「お、お待ちをうるティ様っ!!」」」

 

投げ捨てようとするうるティを止める声が船内に響き、弟と部下達の気苦労は絶えないのであった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

そして同時刻。

ある海賊団の艦隊にて。

 

 

「キッドの野郎は上手くやれてんだろうなァ…」

 

そう不機嫌そうに吐き捨てたスーツの男に、もう一人の変わった見た目の男が笑いながら返す。

 

 

「問題ねェさ!!

今回はキッドだけでなく、あの麦わらも作戦に参加してる…!

心底ムカつく野郎だが…奴の実力は本物よォ!」

 

「……あの天竜人に手を出したイカれ野郎と組むことになるなんてな。」

 

「まぁ、そう言うな…!

おれ達は最近、王者面でデカイ顔してやがる百獣を潰すって点で利害が一致した同盟だろォ?

いがみ合うだけ馬鹿馬鹿しいぜ!」

 

笑う変わった見た目の男とは違い、相変わらず渋い表情でスーツの男は吸い殻を捨てる。

 

 

「百獣を潰せば大量のナワバリや武器が手に入り、大きく近付くんだよ…!

世界を手に入れる野望に…!!」

 

声を上げる変わった見た目の男から、スーツの男は目を逸らす。

 

 

「別に百獣のモノなんざ、興味ねェよ。

ただ、やっと白ひげがくたばったってのに…ワンピースの前でふんぞり返られてると邪魔だからなァ。」

 

艦隊の中の豪華な部屋で、決して雰囲気が良いとは言えない2人の男は酒を片手に時が来るのを待っていた。

 

決行はキッド達がイネットを捕らえ、次の作戦に移行した瞬間だ。

相手に動揺が走り、確実に意識がそれた時が狙い目。

 

海賊らしい狡猾な作戦を企む2人の男は、信用ならない相手だとしても手を組むのだ。

……最悪、裏切られるより先に裏切れば良いのだから。

 

 

 

 






ー後書きー

今回もここまで読んで下さりありがとうございます!!
パンクハザード編が……終わらない…!
次回からはもう少しテンポ上げられるよう頑張ってまいります~!
それと、更新日が金曜日から土曜日になるかもです!

よろしければアンケートもポチっとしていただけると助かります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

遭遇、ドタバタ研究所

 

 

メイン通路の入り口側から火の手が上がっていた。

 

じわじわと燃え広がる炎の中心には巨大な肉片が転がっており、異様な臭いを放っている。

 

それに僅かに顔を歪めたゾロがパニッシャーについた血を払っているキラーを振り返る。

 

 

「…これ、終わったのか?」

 

「動いている様子もない。

このまま灰になるだろうが……思いの外炎の範囲が広がってしまったな。」

 

少し困った、というような声を出すキラーにゾロは思わず声を荒げた。

 

 

「いや、だから火薬の量多くねェか?って止めたよな!?」

 

数分前のやり取りを思い出し突っ込むゾロの言葉を綺麗に流すと、キラーはくるりと踵を返す。

 

 

「…想像以上の火の早さだ。

さっさとキッドに合流して、目標を捕らえて脱出しないとな。」

 

「無視かテメェ!?」

 

さっさと走り出してしまっているキラーの背中に、またゾロは叫ぶと刀を納めて床を強く蹴ったのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

キラーとゾロがβ版バジリスクの討伐に成功し、研究施設内を走り回っていた頃。

 

ヴェルゴに遭遇したサンジ達は目の前に広がる煙から距離を取り、様子を見ていた。

 

約1分間ほど漂った煙は段々と薄くなり、やっとサンジ達は正面の状況を把握出来るようになったのだが。

そこにはヴェルゴとチョッパーの2人が倒れている。

 

すぐにナミをブルックに任せてサンジはチョッパーを抱き抱え、再び皆の元へと下がる。

 

 

「おい、チョッパー!?」

 

軽く体を揺らすが返事はない。

サンジが冷や汗を流しながら、そっとチョッパーの胸に耳を当てる。

 

とくとく…と規則正しく鳴る心臓の音にほっと息を付くと、ブルックが声をかけてきた。

 

 

「……ど、どうですかサンジさん。

やはり眠っているだけなんですか?」

 

「あぁ、多分な。

おれは医者じゃねェから断定は出来ねェが、息もしてるし熱がある感じもねェ。」

 

良かったと、安堵の笑みを浮かべるブルック達はもう一人の倒れている男。

ヴェルゴをどうするかと唸るのだった。

 

 

何故こうなったのか、それは数分前に遡る。

 

サンジ、ブルック、チョッパー、ウソップ。

この4人でヴェルゴに対抗していた。

 

4対1。

数だけで見れば圧倒的に優位な状況にも関わらず、サンジ達は苦戦を強いられていた。

 

それはヴェルゴの全身に武装色を纏わせる戦術のせいで攻撃が殆ど通らないことで、実質戦力になっていたのがサンジとブルックだけだった事。

更に、ナミと言う守らなければならない存在がいたことで攻めきれなかった事。

などの理由により、ヴェルゴの善戦を許してしまっていたのである。

 

このままでは負けるまでは行かなくとも、設置した爆弾の起爆時間が来てしまう。

それにナミの容態も心配である。

この戦闘の飛び火で石のようになっている体が割れる可能性もあるのだ。

 

サンジ達の焦りはどんどん膨らんで行った。

 

その時だった。

チョッパーがある提案をしてきたのだ。

それは、この研究施設で見つけた睡眠薬を応用して作られたと言う“スモークグレネード”を使おうというものだった。

 

最初こそ、良くわからないものを使うべきではないと反対したサンジ達だったが、チョッパーのナミの体が心配だという鬼気迫る訴えに渋々了承した。

 

そして、サンジとブルックの猛攻で隙が生まれた所に、ウソップが不思議な植物でヴェルゴを拘束することに成功。

作戦通りスモークグレネードを投げ込んだ。

 

だが、ここで予想外な事が起きた。

ヴェルゴはその煙に気付くや否や、全力で拘束を解いてしまったのである。

 

このままでは失敗する。

そう全員が思った時、チョッパーが飛び出した。

そして思わず追おうとしたブルックに

 

『これ睡眠薬によく使われる薬草の臭い!本当に説明通り睡眠煙なんだ!

おれが行くから、ブルック達は後のこと頼むよ!!

一番はナミの安全だからな!!もし、おれが寝ちゃってたら起こしてくれ!』

 

と声を掛けながら煙の中へ消えて行ったのである。

 

あのチョッパーが睡眠薬に使う薬草だと言ったのだから、きっと大丈夫だろうとは思いながらも。

やはり、心配の方が勝っていた。

 

けれど、後を追っては何かあった時に不味い。

そう冷静な判断を下したサンジとブルックは慌てるウソップとナミを落ち着かせ、煙が引くのを待ったのである。

 

 

こうして、体を張って煙の中にヴェルゴを足止めさせたチョッパーをサンジは抱えながら、やっと倒れた男を見る。

 

先ほどまで黒光りしていた体は普通の肌色に戻っている。

恐らく、チョッパーと同じく眠っている状態なのだろう。

 

ならば、目が覚める前に拘束すべきだとブルックが足を踏み出した時だった。

 

 

「ちょっと、まさかヴェルゴって子殺られちゃったの~!?」

 

場違いな声にブルック達が目線を動かすと。

そこには派手な髪に派手なメイク。そして派手な服装の乙女(おとこ)がいた。

 

その人物はカツカツとヒールの音をならしながら倒れているヴェルゴに近付くとホッとしたような顔になる。

 

 

「なによ、寝ちゃってるだけなのね。」

 

びっくりしたわ~!と頬に可愛らしく手をやるイカツイ乙女(おとこ)に、キョトンとしていたブルック達だったが、サンジが驚いたような声を上げる。

 

 

「おま、え……トネグマか!?

 

目を見開き、ヴェルゴの側にいる人物を見るサンジに周りが知り合いか?と首をかしげた。

 

 

「あら?サンジちゃん?

やだ~!ちょっと、久しぶりじゃない!

見ない間に随分、男前になっちゃって。」

 

サンジを見て明るい笑みを浮かべて声をかけてきたトネグマに、更にブルック達は混乱する。

 

 

「……なんで、こんな場所に…」

 

「そりゃ、お仕事よ!

私だってこんな気持ち悪い場所イヤよ~!?

何よりレオヴァ様もここの研究施設には良い顔してないじゃない?

好き勝手やってるイネットとか言う裏切り者を110発ぶん殴ってやりたい気分!!」

 

ねぇ?と世間話をするノリで話してくるトネグマは、サンジが知る通りの気さくなトネグマだ。

 

全く敵意を感じない態度にウソップとナミが緊張で止めていた息を軽く吐く。

 

するとトネグマはヴェルゴに近付き、ひょいと担いでしまった。

その光景に、何をするのかと慌てたブルックが声を上げる。

 

 

「ちょっと!?…彼をどうするつもりです!?」

 

「どうって……このまま寝かせておいたら怪我しちゃうでしょ?

早く避難させてあげないとね♡」

 

さも当然のように言うトネグマにそれは確かに、と思いつつも

拘束しなければならない事を思い出したサンジ達が焦った顔になる。

 

 

「待ってくれ!

また起きて暴れられたら困るんだ。」

 

そう言いながら近付いて来たサンジにトネグマは笑い声を上げると、お洒落なつけ爪が光る手に武装色の覇気を纏わせ引っ掻くように腕を振るった。

 

トネグマの筋肉質な腕が繰り出す引っ掻く動作は、服を突き抜け肉を抉る。

 

咄嗟に身を後ろへ反らしたことで、直撃を免れたサンジだったが肩から鎖骨にかけて四本線の跡が出来てしまっていた。

 

突然の敵対に、一気に戦闘態勢に入った一味にトネグマは未だにクスクスと笑い声を上げている。

 

 

「トネグマ、てめぇ…何しやがる。」

 

「ちょっと、ちょっと~!

こっちのセリフよ、サンジちゃん。

アナタ、麦わらの一味なんでしょ?

打倒百獣の同盟に入ってる相手が傍に来たら、百獣の一員である私が構えるのは当然じゃなぁい?

……ホント、あんなに優しくして下さってたレオヴァ様を裏切るなんてヒドイ話よ。サンジちゃん。」

 

すっと、笑みを消したトネグマの顔にゾワリと寒気を感じた一味は息を飲んだ。

 

 

「キッドちゃんもキラーちゃんも家出なんて反抗期の子どもでもあるまいし、考えられないわよねぇ?

サンジちゃんももう子どもじゃないでしょ?

ってことは、カイドウ様とレオヴァ様に敵対する意味分かってるのよね?

……あの方達を害するならアナタでも容赦しない。

私を救ってくれた人達も、百獣の大切なみんなも傷つけさせやしないわ。」

 

強い覚悟と殺気を纏ったトネグマの圧に一味が体を硬くする。

だが、予想とは裏腹にトネグマはヴェルゴを抱えたまま踵を返した。

 

 

「なっ!?おい、待て!」

 

「…私、馬鹿じゃないのよ?

サンジちゃんだけならまだしも、その骨の子達まで相手に出来る気がしないし……仕事を優先させてもらうわね。」

 

ニコッと、作ったような笑みを浮かべて手を振るトネグマに。

好きにさせるかとサンジが走りだそうとして、その場に崩れ落ちた。

 

何故、サンジが膝をついたのか分からずウソップが駆け寄っていく姿をしり目に、トネグマはまたカツカツとヒールをならしながら歩いて行く。

 

 

「私を追うより、サンジちゃんの解毒剤を探すのをオススメするわ。

まぁ、私の毒を治せる薬がここにあるのかは知らないけど。

……サンジちゃん、百獣に入りたくなったら歓迎するわよ。レオヴァ様も喜ぶだろうし♡」

 

じゃあね、と最後に声をかけるとトネグマは“剃”のような動きで瞬く間に見えなくなっていった。

 

荒い呼吸を繰り返すサンジと、腕が石のようになっているナミ。

そして寝たまま起きる様子のないチョッパーの三人を抱えたブルックとウソップの表情は険しいものであった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

「コミソンとか言うヤツどこにもいないじゃん!!!」

 

研究施設内に侵入したうるティは空になっている檻を苛立ちのままに殴り付けていた。

 

そんな荒れている姉の姿にページワンは大きな溜め息を吐きながら、間違いを指摘する。

 

 

「誰だよ…コミソンって……コラソン(・・・・)だろ、姉貴。」

 

「名前なんかど~でもいいんだよ、ぺーたん!!

そいつと黒いヤツと羽のヤツ捕まえるのが任務なのにぃ~!!

うわ~ん!レオヴァ様に褒めてもらえなくなるのヤダヤダヤダ~!!!

 

「駄々こねるなよ…

あとヴェルゴとモネは捕まえるんじゃなくて、危なそうなら手を貸してやれ(・・・・・・・)って言われてるだけだからな?

無理やり捕まえようとかするなよ!?」

 

す・る・な…だとォ!?

お姉ちゃんになんて口の利き方するんだ、ぺーたん!!

 

「ぐわっ!?

ちょ、姉貴ッ……任務中にやめっ…!!」

 

もっと優しくしろ~~!!!

 

いつものように弟の襟を掴み、ぐわんぐわんとうるティは容赦なく揺さぶった。

 

頭がシェイクされるような感覚に目を回しかけていた弟だったが、突然その手が放される。

勢いのまま倒れたページワンは何するんだ、と文句の1つでも言ってやろうと姉を見上げた時だった。

 

 

「…ぺーたん、何かヤな気配する。」

 

珍しく静かな声で壁の向こうを睨み付けている姉の姿にページワンは文句を言うのも忘れ、すぐに態勢を整えた。

 

確かに微かに何かの気配を感じる。

そう思ったページワンが足に力を入れた瞬間。

物凄い力でいつの間にか人獣型に変形していた姉に引っ張られて部屋の右端へと連れていかれる。

 

さっきから何だよ、と文句を言うよりも早く先ほどいた場所の壁が壊され中に気持ち悪い生き物が入り込んで来た。

 

 

イタイネイタイ、オナカス、クカラヒトホシイィィ!!

 

話し声とも鳴き声とも取れない不協和音を放つそれは。

ダンゴムシやヤスデを混ぜ、悪意を煮詰めたような見た目をしていた。

 

あり得ないほど鮮やかな殻には目なのか模様なのか解らぬモノがついており、中途半端な位置にある足か手か区別がつかない部位はワサワサと動いている。

 

その気持ち悪さにページワンが目を見開くと、頭の上から声が降ってくる。

 

 

 

キッッモ!なにあれ!?ヤバすぎ!!」

 

直球すぎる暴言に今回ばかりは内心で同意していると、その生き物がのそりと此方へ顔らしき部位を向けて来た。

 

 

「コドモオイシイネ!!タクサン!ハ、ゥゥオ!!」

 

5メートル近い長さの生き物が突撃してくる。

 

すぐに構えたページワンだが、横を姉が通り抜けて行く。

 

 

「私のぺーたんにぃ~…近付くなァ!!

 

物凄い音と共に蹴り飛ばされて行った生き物は、壁を突き破り見えなくなった。

 

 

「うわ、何か足についたでありんす…キモ……」

 

「追撃に行くぞ、姉貴。」

 

壊れた壁の奥へ向かうページワンの後ろをうるティはすぐに追う。

 

 

「ぺーたん、置いてくな~!!」

 

そう頬を膨らませながら壊れた壁を乗り越えた先にいた人物を見て、姉弟は揃って声を上げた。

 

 

「「あ…!」」

 

「あ"…?」

 

「お、誰だ?」

 

1枚壁を抜けてその更に奥へ飛ばされた気持ちの悪い生き物のもとへ行こうとした姉弟は、同じく別の壁の穴を潜って先へ進もうとしている二人組を見て目を丸くした。

 

 

「おま…!」

 

てめぇ、クソバカキッド!!!ぶっ殺してやるゥ!!

 

ンだと、ガキィ!!

 

数メートル飛躍すると頭突きの態勢になったうるティにキッドは軽く仰け反ると、コンマ数秒後二人の頭突きが炸裂した。

 

その衝撃波で付近の壁に亀裂が走ると、スタッと少し後方にうるティが着々する。

 

キッドはこめかみに流れる血を雑に拭うと、ギロリとうるティを睨んだ。

 

 

「邪魔すンじゃねェよ!!」

 

「はぁ!?邪魔しないワケねェだろォ!?

お前のせいでレオヴァ様の仕事増えて一緒に遠征行く話パァになったんだぞ!!死んで詫びるでありんす、クソバカキッドォ!!!」

 

「知るか!おれ関係なくあの野郎は仕事中毒だろうが!!」

 

「あの野郎、だとォ…?

レオヴァ“様”だろうがァ!ウルトラバカ野郎!!!

 

再び頭突きを繰り出してくるうるティから距離を取り、キッドは腕に纏わせていた鉄屑を飛ばした。

 

凄い勢いで迫ってくる鉄屑から身を守ろうと防御体勢をとったうるティだったが、それが直撃することはなかった。

獣型になっていたページワンが尻尾で打ち返したのである。

 

様子を傍観していたルフィは、突然自分の方へ飛んで来た鉄屑を慌てて避けるとスピノサウルスになっているページワンへムッとした顔を向けた。

 

 

「危ねェだろ!!」

 

「…敵に気を使う必要があるのかよ。」

 

恐竜特有の鋭い瞳がぐっと細められる。

 

 

「ぺーたん守ってくれたでありんすか!?

も~~~!!さっすがはぺーたんでありんす!!キャー♡」

 

はしゃぐ姉に心なしかげっそりした雰囲気を纏わせながら、ページワンはキッドへ顔を向けた。

 

お互い数秒睨みあった後、ページワンは不満げな雰囲気を全面に出しながら預かっていた音貝(トーンダイアル)を投げ渡す。

 

 

「……レオヴァ様からだ。」

 

反射的に受け取ってしまったキッドが、途端に嫌そうな顔になる。

 

 

「…ふっ…ざけんな!!ンなもんいらねぇよ!!!

 

「レオヴァ様の音貝(トーンダイアル)いらないとかスーパーウルトラあり得ないでありんすけど!?」

 

「はぁ…話し方ぐちゃぐちゃになってるぞ、姉貴。

……おれは渡してくれって頼まれただけだからな、捨てるなら捨てろよ。」

 

ページワンが普段出さないような冷たい声で言い捨てた時だった。

 

床が微かに揺れたかと思うと、奥の壁の穴から先ほどの気持ち悪い生き物が凄い勢いで現れたのだ。

 

キッド達とうるティ達は互いに逆方向に距離を取る。

 

 

「うわ、また来たでありんす!」

 

「……その生き物は無視して行くぞ、姉貴。

キッドにアレは渡したし、後はコラソンとヴェルゴって奴らを見つけねェと。」

 

「むぅ…あのクソバカキッドのことボコボコにしないでありんすか!?」

 

「それで任務失敗したら元も子もねェだろ!

ほら、行くぞ…って!」

 

姉を引っ張りながら奥へ消えていったページワンをキッドが睨み付けていると、気持ちの悪い生き物…イネットが襲い掛かってくる。

 

再び交戦を開始したキッド達は一刻も早い捕獲を試みるのであった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

イネットに襲われ気を失っていたロビンだったが

ルフィに助け出された後、無事に意識を取り戻していた。

 

暫くは見た目が人ではなくなったイネットと戦うルフィの後方支援に努めていたのだが、状況が一変したのだ。

 

追い詰められたイネットは逃げ出した先で、良く分からない果物の様なモノにかぶり付いた。

すると、まだギリギリ人型だった姿は見る影もなくなり、虫を色々混ぜたような見た目になったのである。

 

さらに耐久性も上がったのか攻撃を受けてもしぶとく耐え忍んでいた。

 

このままでは埒が明かない。

なによりこのままでは、起爆装置が駄目にされた時用に爆弾に付けてある時限装置での爆発に巻き込まれてしまう。

 

そう判断したロビンはルフィに声をかけ、解決策を探しに出ると途中でコラソンを助け出し、二人はまた情報集めを開始した。

 

 

そこで分かったことは

イネットが食べたのは人造悪魔の実である可能性が高い事。

この施設に唯一ある人造悪魔の実はSMILE・“insect ver.”と“beetle ver.”の完全版であるという事だ。

 

ロビンとコラソンが見た資料によると、SMILE・“insect ver.”と“beetle ver.”は虫か昆虫の能力がランダムで手に入るSMILEらしい。

それも1つ食べると1日だけ人造の能力者になれる代物だ。

 

1日だけでも能力者になれるこのSMILEは応用が利くため商品として人気らしく、ジョーカー(・・・・・)という男の商品の目玉格だと言う。

 

物を継続的に売り続けたい売り手側の思惑と、ランダム性でのリスクを最小限に抑えつつ手っ取り早く強化できるSMILEが欲しい買い手の需要が上手く噛み合ったのだろう、とロビンは予測した。

 

だが、知りたいのは対策である。

 

完全版は1日で効力が消えず、ほぼ動物(ゾオン)系の悪魔の実と言って差し支えないものだ。

ならば時間経過で解決はできないし、そもそも時間がないから焦っているのが現状。

 

ロビンとコラソンは必死にあらゆる情報源に目を通して行った。

 

そして、やっと使えるかもしれない情報を手に入れたのだ。

 

“炎への耐性付与実験”

そう書かれた資料には、イネットが行おうとしていた自身への実験内容が細かく記されている。

 

長々と続く文を読み終えると、ロビンは内容を即座に頭で要約した。

 

 

何十枚にも及ぶ資料。その実験の結果は“失敗”。

イネットはどうやら“火”に弱いらしい。

そして、それを克服するために色々と実験をしたようだった。

 

その中に“insect ver.”と“beetle ver.”のSMILEを食べて実験したという趣旨の記載もある。

けれど、それでも炎への耐性はつかなかったと記されているのだ。

 

ならば今、完全に人ではない何かになっているイネットにも炎ならば有効打になりえるのでは?

その答えに辿り着いたロビンはコラソンを振り返った。

 

 

「あったわ…!

私はこれを伝えに行くけれど、あなたも来る?」

 

「あぁ!

おれも欲しい情報は手に入れた、イネットの捕獲手伝うぜ!!」

 

力強く頷いたコラソンにロビンも頷き返すと、大きな破壊音が聞こえる方へと走り出すのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

ヴェルゴからモネが石化させられた、という連絡を受けていたドフラミンゴは城の中で続報を待っていた。

 

だが、5分後にまた連絡をすると言った相棒から未だに連絡が来ない。

 

もう5分以上過ぎている。

たかだか5分、そう思うかもしれない。

 

だが、ヴェルゴに限ってドフラミンゴを待たせるなどあり得ない事だ。

もし連絡出来なくなりそうならばその連絡をし、交戦中でも約束を守るべく連絡を寄越してくるような男なのだ。

 

そのヴェルゴから連絡がない。かけても応答がない。

 

それ即ち、あのヴェルゴが出られぬほど苦戦する相手が侵入してきていると言う事だ。

 

ドフラミンゴは焦りを感じていた。

 

あの研究施設兼工場はレオヴァから預かっているものである。

万が一、それを失うことがあれば……

いや、きっとレオヴァは穏やかにドフラミンゴを許すだろう。

 

 

『気にするな。

ドフラミンゴ、お前に非はない。

責めるべきは侵入し破壊した相手だ…違うか?

……そうだなァ…共に奴らを潰すってのはどうだ?』

 

そう言って高いワインをドフラミンゴに送り、慰めてくれるに違いない。

きっと増援も用意して、至れり尽くせりな対応をするだろう。

 

それは確信だった。

レオヴァは絶対にドンキホーテファミリーに責任を負わさせてはくれない(・・・・・・・・・・)だろう。

 

優しさからか?仲間意識からか?

それとも付き合いが長い友人としてか?

 

否、どれも違う。

レオヴァという男がそんなに甘っちょろい男ではない事をドフラミンゴは理解している。

 

時には優しき人格者の様に振る舞い。

時には気の許せる友の様に振る舞う。

……そう、振る舞う(・・・・)のだ。

 

本心ではどこまでも百獣海賊団の事しか考えていない。

カイドウと百獣の為ならば、どんな事でもするだろう。

そういう男だ、とドフラミンゴはレオヴァを認識していた。

 

だからこそ、ドフラミンゴは手段を問わないやり方のレオヴァを取引相手として気に入っていたし、

彼を聖人だ救世主だと崇める馬鹿を見て嗤いながら酒を飲んでいた。

 

 

しかし、もし今回最悪の事態になった場合。

 

レオヴァがこちらに非があると責めなければ、借りを作ることになる。

……奴に借りを作るのは非常に不味いのだ。

 

今はまだ同盟のような対等な関係だが、

その借り1つあれば、レオヴァならば事実上ドンキホーテファミリーを百獣海賊団の傘下に下らせることも出来る筈だ。

 

ただでさえ、百獣国際連盟なんてものを作り上げ勢力を拡大させ続けている手腕の持ち主だ。

その借り1つは、簡単にドフラミンゴの命取りになり得るだろう。

 

 

ドフラミンゴはレオヴァを認めている。

取引相手としても、同じ上に立つものとしても。

 

だが、傘下に入るなど絶対に御免だ。

 

ドフラミンゴは天竜人()として生まれた男である。

人の下についていい存在ではない。上に立つ存在なのだ。

 

その意識が強いドフラミンゴは百獣海賊団とは今の関係を維持する以外の選択肢を持ち得なかった。

 

 

ならば、どうすべきか。

すぐに答えに辿り着いたドフラミンゴは受話器を手に取り、部下へ命令を下す。

 

 

「……バッファロー、ベビー5…大至急パンクハザードへ向かえ。

侵入者を殺し、死体を持ち帰って来い…!!」

 

「パンクハザード!?

わかっただすやん、若!」

 

「任せて、若!

必ず役に立ってみせるから!」

 

可愛い部下からの素直な返事に、任せたぞと声をかけて受話器を置く。

 

ドフラミンゴはこの後起こり得るあらゆる可能性を考慮し、部屋を後にした。

そして、幹部達がいるであろう部屋へ向かって歩き出すのだった。

 

 

 

 





ー補足ー

キッド:うるぺーに遭遇後、イネットと交戦再開
ルフィ:同じく交戦再開中
 
・β版バジリスク討伐成功
ゾロ:脇腹石化中、本調子ではない。
キラー:石化しかけたが、即座に上着を脱ぎ捨て免れた。火薬を使いすぎた為に施設が炎上開始。

サンジ:トネグマの攻撃により謎の不調(毒??)
ナミ:鎖骨辺りから指先まで石化中
チョッパー:寝ている(起きる様子はないが…?)
ブルック:不味い状況だと冷静に分析、内心焦りがある
ウソップ:混乱中、軽症のみ

うる&ぺー:パンクハザード到着、任務開始
トネグマ:ヴェルゴ確保、サンジに異常状態付与

イネット:いつの間にか虫か何か分からないモンスターへ進化!
 
・情報収集
ロビン:有用そうな情報ゲット→ルフィのもとへ
コラソン:必要な情報は手に入った、ヴェルゴの拷問によりそこそこ重傷。

・船番
フランキー:???(何かあったようだが…?)

ー後書きー
アンケートのご協力ありがとうございます!!
百獣視点多めという回答が多かったので、今回は少し説明系を増やして駆け足にしてみました!
次回からもポンポン進めてパンクハザード編さっさか完結させます~!
アンケートボタンポチポチ勢が60人以上いて私はニッコリ。ノリ良い方多いなぁ!?w
どの回答でも投票してくださった皆様に感謝!!

そして、ここまで読んでくださった皆様にも感謝ァ!ありがとうございます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

COOLな男、現る

バッファローとベビー5は目の前の光景に絶句していた。

 

パンクハザードは雪と炎で覆われた島だった筈だ。

しかし、目の前には氷処か雪がほぼない。

 

遠目に雪山のようなものは一応見えているが、海岸に雪はなく地面が見えており、山だった場所も岩肌が風にさらされている。

 

何より二人を驚かせたのは、轟々と燃え上がる炎に包まれた研究施設だった場所の変わり果てた姿だ。

 

恐らくこの炎により雪や氷が溶けたのだろう。

 

最悪の状況だと瞬時に悟った二人は冷や汗を流しながら、自分たちの王であるドフラミンゴに連絡を取るのだった。   

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

ベビー5達がパンクハザードに到着した頃、麦わらの一味は海上を進んでいた。

 

サニー号の上には当初の目的であったイネットが気を失った状態で檻に入れられている。

 

工場と研究施設の爆発も完了し、完璧に目標を達成した麦わらの一味とキッド達だったが、ウソップ達の表情は明るいものではなかった。

 

未だ、ナミの腕は石のように硬化しており、ゾロの脇腹も同じ症状のままだ。

更に何故かチョッパーは目を覚まさず、医者不在の麦わらの一味にはどうすることも出来ぬ状況が続いていた。

 

しかし、もう作戦は始まっている。

止まるどころか引き返せぬ所に来てしまっている彼らは、次の目的地へと船を進める他なかった。

 

 

そんな状況の中、ウソップがポケットから小瓶を出す。

 

 

「……ど、どうする?

チョッパーは使うなって言ってたけどよ。

この解石薬があればナミ達を治せるんじゃねぇかな?」

 

2つある小瓶を手におずおずと言葉を紡いだウソップにブルックが口を挟む。

 

 

「確かに治せるかもしれませんが、チョッパーさんが安全なものだと解るまでは使っては駄目だと言ってましたし……やはり使うのはやめた方が…」

 

ドクロの顔を困ったように変化させながら言うブルックに、ルフィがうぅんと唸ったあとに口を開いた。

 

 

「おれには薬分からねェし、チョッパーが駄目だっていうなら止めよう!

ウソップ、それ持っててくれ!

それに2つじゃ足りねェ。フランキー(・・・・・)もいるから三人分ねぇと!」

 

ルフィの言葉に小さく頷くと、ウソップはまたそっとポケットに薬をしまい込んだ。

 

 

そんな一味のやり取りを離れたところで聞いていたキラーは、完全に石像のようになっているフランキーへ目をやった。

 

両腕を前に突き出すポーズで固まっているフランキーはネズミ色になっており、まるで岩を削って作られた美術品のようだ。

 

大幅に麦わらの一味は戦力が削れたな…と考えながらも、キラーは舵を取っていた。

すると、すぐ側で音貝(トーンダイアル)を再生し終えたキッドがピキリと眉間に青筋を浮かべる。

 

 

「…っざけやがってェ……レオヴァの野郎!!!」

 

今にも音貝(トーンダイアル)を握り潰してしまいそうな怒気を発していたキッドに気付き、慌ててキラーが振り返る。

 

 

「待て、キッド!

おれはまだ聞いてないんだぞ!壊すなよ!?」

 

「こんなモン、聞いても腹立つだけだ!!!」

 

キッドが怒鳴りながら音貝(トーンダイアル)を投げると、それをキラーは片手で受け止めた。

 

舵を取りながらその空島特有の貝を見て、キラーは仮面の下の目を細める。

良く見れば貝に何かが彫ってあるではないか。

 

暗号のようになっている“それ”にキラーは思わず笑い声を上げそうになったのを堪えた。

 

これは昔、レオヴァが教えてくれた言語と同じ文字だ。

そう気付くと同時に内容も読めてしまう。

 

おそらく、この彫り物にキッドは気付いていないのだろう。

もし、これを読めていたのたら今の比ではないほどに腹を立てているに違いない。

 

このサニー号の上で自分だけが読める文字を親指で撫でる。

 

 

「(“お前は龍の為に死ねるか?”…か。)」

 

あの人らしい。

分かり難く遠回しで、いつまでも変わらぬ問い。

そして、答えも分かりきった問いだ。

 

聞かずともキッドの答えも、おれの答えもお見通しだろうに。

どんな顔で、どんな想いでこれを彫ったのだろうか。

 

 

キラーは貝から目線を外し水平線へ顔を上げる。

そのまま目的地へ舵をきると、小さな声をこぼした。

 

 

「……今も昔も…アンタは本当に狡い人だ。」

 

仮面に覆われているキラーの表情は誰にも分からない。

 

怒りで頭に血が上っていたキッドに、その声は届かず。

ただサニー号は水平線を進み続けた。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

一方、麦わらの一味が海を進んでいるのと同じ頃。

潜水艇にはヒステリックな声が響いていた。

 

 

ムカつくムカつくムカつくぅ~~!!

あのキモいのがイネットとか分かるわけないじゃん!

勝手に人造悪魔の実食べてるとかアイツ馬鹿なの!?

 

ドンドンと地団駄を踏むうるティの姿に部下達は冷や汗を流しながら、船が壊れないことを祈る。

 

 

「…まぁ、レオヴァ様にはイネットは捕まえろとは言われてねェし。」

 

バツが悪そうな顔をするページワンにうるティはむぎゅっと抱き付くと目をうるうるさせた。

 

 

「うわ~~ん!ぺーたん!

そうだよね!イネットとか言うクソ野郎はキッドの馬鹿が殺すかもだし…

でもでも!!コミソンに逃げられたし……うぅ、最悪ッ!!

どうしよう~~!キングのやつ絶対うるさいし……レオヴァ様に褒めてもらえなかったらヤダ~~!!!」

 

抱き締められたことで、頭上でギャイギャイと騒がれているページワンだが、いつものように突っぱねる元気がないのか心なしか大人しい。

 

 

「……おれだって嫌だ…

クソ!キッドとキラーの奴、クイーン特製(・・・・・・)の火薬まだ持ってやがるなんて!!」

 

「本当そうでありんす!!!

あの爆発がなければコミソンも捕まえられたのにぃ!!」

 

「……姉貴、ずっと間違えてっけどコミソンじゃなくてコラソンな。」

 

むぅ!!アイツの名前なんか!どうっでもいいんでありんす~~!!!

 

落ち込むページワンと荒れているうるティに部下達があわあわと困り果てていると、トネグマが眉を下げながら会話に入って行く。

 

 

「うるティちゃん達、ちょっといいかしら?」

 

「……なんでありんすかァ?」

 

ぶすっとした顔で振り返って来たうるティに、トネグマは隣の部屋で寝かされている男と石のようになっている女がいる壁を指で指した。

 

 

「あのヴェルゴちゃんって子とモネちゃんって子どうするのか指示頂きたいんだけど…」

 

トネグマの言葉でやっと存在を思い出したのか、うるティがきょとんとした顔になる。

 

 

「あ、そういえば居たでありんすね。」

 

「バジリスクの能力で石になったなら解石化薬(かいせきかやく)使えば治せるな。

確か、この船にもあるよな?」

 

「えぇ、もちろん!

なんなら私も持ってるわ!」

 

懐から注射器のような見た目の道具を取り出したトネグマにうるティが興味なさげに返す。

 

 

「じゃあ、それで治せば?

私とぺーたんはそれどころじゃないでありんすぅ…定時連絡どうしよう……」

 

「いや、姉貴雑すぎるだろ!?

そもそも治した瞬間暴れられるかもしれないだろ?

もう一人のヴェルゴって奴も解毒(・・)したら暴れる可能性あるし…」

 

「暴れたら殴って大人しくさせればいいでありんす!」

 

ぎゅっと拳を握るうるティに小さく溜め息を吐くと、ページワンは姉に向き直った。

 

 

「あのなぁ…

レオヴァ様からは保護してこいって言われたんだぞ。

捕まえてって言われた訳じゃねェんだから、ボコッたら不味いだろ……」

 

「でも、暴れる方が悪いでありんす。」

 

キリッとした顔で答える姉に頭を抱えると、ページワンはトネグマに目線を向けた。

 

 

「……別にそのままにしても死ぬ訳じゃねェから、海上に浮上するまでは解毒はしない。

石になってる方は割らないように管理しといてくれ……絶対姉貴には近付けるなよ!」

 

「了解よ!

じゃあ、私二人を移動させてくるわ。」

 

ペコリと軽くお辞儀をしてトネグマが部屋を後にすると、入れ違いで慌てた様子の部下が入ってくる。

 

 

「う、うるティ様!ページワン様!」

 

慌ただしい部下に何事かと二人が目を向けると彼は抱えていた電伝虫を両手で丁寧に、ソファーの前にある机の上に置いた。

 

 

「レオヴァ様からでございます…!」

 

うるティとページワンが大きく目を見開くと、良く通る声が部屋へ響いた。

 

 

「任務中にすまない。うるティ、ページワン。

定時連絡がなかったからおれから掛けたんだが……何かあったのか?」

 

ゴクリと息を飲む音が静かな室内にこだまする。

 

コラソンを捕らえ損ねたと報告するのが嫌で連絡をごねていたうるティの額にじわりと汗が滲んだ。

 

きっとレオヴァはコラソンの件では大して怒らないだろう。

しかし、連絡をそんな理由で怠ったと知られたら…

 

うるティの脳裏に怒った時のレオヴァの顔が浮かぶ。

 

 

「はわ……レ、レオヴァ様…」

 

「ん?どうした、うるティ。

やはり何かあったのか?」

 

そわそわと見上げてくるページワンに抱き付いていた腕を離し、電伝虫の前に行儀良く座るとうるティは意を決したように口を開くのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

あのパンクハザード爆発事件から、16時間後。

 

ドレスローザ王国にある大きな城の中に一人の男が招かれていた。

 

青いスーツに身を包むスタイルの良い男は独特な丸いサングラスをゆったりとした動作で取ると、胸ポケットに仕舞う。

 

そして、部屋の中央に座っているドフラミンゴへ目を向けた。

 

 

「フッフッフッフッ…!

久しいじゃねェか、“元”海軍大将青キジ。」

 

青キジと呼ばれた男は軽く肩を竦めてみせると、ドフラミンゴの正面にあるソファーに腰かけた。

 

 

「…今は百獣国際連盟軍“第弐師団隊長”、ね。

そこんとこ間違えないように頼むわ。」

 

「海軍からなんて肩身が狭いんじゃねェか?」

 

いつもの笑みを崩さずに問うドフラミンゴにクザンも笑みを返す。

 

 

「いやぁ?

他の師団隊長も同じような感じの奴いるし、百獣は結構そういうの寛大だったけどね。

ドンキホーテも百獣入れば分かるんじゃねェの?」

 

読めぬ笑みで告げられた言葉にドフラミンゴの口角がグッと下がった。

それを見るとクザンはまた肩を竦め、背もたれに寄りかかる。

 

 

「まっ!探り合いはこれくらいでってコトで。

それよりもドレスローザとイネットの件の話をしようぜ。」

 

「…あぁ、そうだな。」

 

「で、どうよ?

聞いた話じゃ工場も研究施設も全部ぶっ飛んだらしいじゃない?」

 

クザンの言葉にピクリとドフラミンゴの眉間が反応を示す。

 

 

「どこまで知ってやがるんだ、レオヴァの奴は。」

 

頭を抱えたそうな雰囲気のドフラミンゴにクザンは気持ちが分かるのか、心なしか声に優しさが混じる。

 

 

「あ~…まぁアレだ。

レオヴァには隠すだけ無駄よ、無駄。

嘘ついて後から問い詰められる方が地獄だぜ、(あん)ちゃん。」

 

「……最初(ハナ)から誤魔化すつもりなんざねェよ。

それより話の続きだ、クザン。

レオヴァは本当に対価はアレだけで良いって言ってンだな?」

 

腹のうちを見ようという様な鋭い視線に、クザンは飄々と返す。

 

 

「あぁ、レオヴァは

キッド海賊団の身柄を百獣へ差し出すなら、今回の件で協力は惜しまない

……だとさ。

ま、ごちゃごちゃ証拠を並べるまでもなく、おれが出された時点でレオヴァの本気度が分かるだろ?」

 

片眉を上げて見せるクザンにドフラミンゴは沈黙を返す。

 

 

現状、ドレスローザ王国は危機に陥っていた。

 

パンクハザードの件で只でさえ人手が足りないと言う時に、突然国が襲われ始めたのだ。

 

その犯人は麦わらの一味とキッド海賊団と同盟を組んでいる海賊団だった。

 

その名も“金獅子海賊団”。

 

過去、麦わらに敗れ海に散った筈の男であるが、それをドフラミンゴ含め多くのものは知らない。

 

その為あのロジャーと鎬を削ったという伝説もあり、ドンキホーテ海賊団の船員や国民はすっかり物怖じしてしまっているのだ。

 

幸い、幹部達は一切怯む事なく交戦してくれているが、それでも相手の数は多い。

 

このまま消耗戦を続けていればドンキホーテファミリーの損害は計り知れないだろう。

 

それに麦わらの一味とキッド海賊団からもイネットの身柄と“アレ”と薬を交換しろと催促が来ている。

 

金獅子のシキと麦わらのガキ共を同時に相手取るのはもはや不可能。

そう結論付けるしかなかった。

 

パンクハザードが爆破された今。

モネも、そしてヴェルゴも居ない。

ドンキホーテファミリーの戦力は確実に減らされている。 

 

こうして、ドフラミンゴは重い腰を上げたのだ。

絶対に取りたくはなかった最終手段へ。

 

 

外から爆発音や悲鳴が聞こえる中、ドフラミンゴは口を開いた。

 

 

「レオヴァとの……百獣国際連盟との契約を了承する。

契約書を寄越せ、クザン。」

 

「おっ!そう言ってくれると思ってたぜ。」

 

笑顔で手渡された契約書にドフラミンゴはサインをするとクザンが予め用意していたインクを手の指に塗り、名前の隣にグッと親指を押し付けた。

 

 

「これで契約は結ばれたってことで。

んじゃまぁ、とりあえず……ドレスローザ王国にのさばってる奴ら一掃してくるわ。」

 

立ち上がると扉への方へ踵を返し、クザンは部屋を出ようと扉へ手を掛けた。

けれど、すぐに立ち去らずにチラッと後ろを振り返る。

 

 

「あ~、これはおれの独り言なんだが。

麦わらの一味、もうすぐ近くまで来るぜ。」

 

「なんだと…!?」

 

ガバッと立ち上がったドフラミンゴに言葉を返さず、軽く手を振るとクザンは扉を開いた。

 

 

「この情報をおれから聞いたってのは…アレな、アレだよ。

……まぁ、いいか。」

 

そう言って廊下へ姿を消したクザンをドフラミンゴは見送る事なく、ディアマンテ達の下へと急ぐのだった。

 

 

 

 

ドフラミンゴとの話を終えて、城から出てきたクザンの下に部下が走りよって来る。

 

 

「クザン様ぁ!

港の方に取り残されてた民間人の避難を完了しやしたぜ!」

 

「おぉ!ナイス!って、様呼びは止めてって言ってんでしょ~。」

 

「あ、すいやせん!

つい…へへへ。」

 

申し訳ないと軽く頭をかく部下に笑いかけながら、クザンは他の部下達に指示を出す。

 

 

「よ~し、お前ら!

このまま避難させた民間人の所に行って手当てしてやったり、食いもン食べさせたりしつつ守ってやれ。

おれは港を占領してる奴らの相手してくるから。」

 

「えぇ!?

クザンさま…いや、さん!1人で行くんですか!?」

 

「お、おれらも行きますよ!」

 

付いていくと慌てる部下達にクザンが言葉を返す。

 

 

「馬鹿言ってんじゃないよ。

お前らがおれと来たら民間人は誰が守るんだ?

レオヴァの言葉、忘れたんじゃないよな?」

 

その言葉に部下達は忘れる筈がないと首をふる。

 

 

「「「民間人と百獣連盟の安全第一!…ですよね!?」」」

 

「おぉ、ちゃんと覚えてんじゃない。

ならさっさと残りのメンバーの所に合流して守備固めておいてちょうだいよ。頼むぜ?」

 

「「「はい!分かりましたァ!クザンさん、お気をつけて!!」」」

 

背を向けると、ひらりと片手を上げて立ち去って行くクザンに部下達はしっかりと返事を返すのだった。

 

 

──────────────────────────────────────────────────────────────────────── 

 

 

 

パンクハザードを脱出してから16時間が経った現在。

 

ドレスローザ王国へ侵入を開始しようとしていた麦わらの一味とキッド達は、同盟に合流したのだが。

その同盟相手が予想外の人物だった為に、軽い混乱に陥っていた。

 

 

「「き、金獅子のシキ!?」」

 

「ジハハハハハ……会いたかったぜ、麦わらァ…!!」

 

一触即発の雰囲気になりかけているシキと麦わら達の間にキラーが割って入る。

 

 

「おい!そこまでだ、揉めている暇はないぞ!

さっき少し説明したが同時に攻撃を始めるんだ、時間のズレが出るのは不味いという事くらい分かるだろ!?」

 

「いや、でもよ!コイツは…!」

 

「そうだぜ!!ナミさんを拐って…」

 

食い下がる麦わらの一味相手にキラーは一度深呼吸すると、冷静な声を出す。

 

 

「……どんな因縁があるのかは知らないが、金獅子海賊団と組まないとなると作戦は失敗に終わる可能性が高くなる。

そうなればお前達の仲間を治す薬も手に入らないんだぞ。」

 

静かになったが、不満や不信感が滲み出ている一味にキラーが何度目か分からぬ溜め息を溢すと、ナミが口を開いた。

 

 

「……手を組みましょう。

フランキーやゾロにチョッパーもそうだけど、サンジくんを早く治さなきゃ。

もうチョッパーは10時間以上眠り続けてるし、サンジくんもこのままじゃ…!」

 

「け、けどナミ……本当にいいのかよ?」

 

「えぇ、構わない!

それよりも仲間の命の方が大切でしょ!!」

 

ナミの言葉に皆が頷くと、金獅子が笑う。

 

 

「ジハハハハ!

あの時は散々面倒を起こしてくれたが……イイ女だ。」

 

ニヤリと笑うとナミを隠すようにサンジとゾロが前へ出た。

シキは笑みを仕舞うと、身振りを交えながら口を開く。

 

 

「そう殺気立つな!

おれも今はお前らと殺り合うつもりはねェよ。

今、欲しいのは“百獣の軍事力”だ!!

……その為なら、麦わら。てめぇらと組んでやるぜ。」

 

シキがナミからルフィへ視線を移す。

すると、今まで黙っていたルフィが口を開いた。

 

 

「おれは、嫌いだ。お前のこと!!

でもフランキー達は助けてェ!

だからギザ男達の考えた作戦なら……やる!!」

 

ルフィの一言で一味の表情が変わる。

 

 

「……ジハハハ!」

 

「でも、ナミに手出したらぶっ飛ばす!!」

 

「ったく、グダグダしやがって!

キラー、作戦始めンぞ!!」

 

腹が決まった船長達の下へ、電伝虫片手にキラーが歩み寄る。

 

 

「では、例の島とドレスローザ王国の同時襲撃(・・・・)について話すぞ。

……もうひとつの同盟海賊団はおれ達とは別行動になる。

協力者がいるらしいから問題はないだろう、それよりもドフラミンゴについてだが…」

 

話し始めたキラーを真面目な顔で皆が見るのだった。

 

 

 

 




ー補足ー

・麦わらの一味
ゾロ、ナミ、フランキー→体の一部が石化、フランキーは全身
チョッパー→眠り続けている
サンジ→謎の毒(?)のような症状

・金獅子海賊団
同盟相手のひとり。
麦わらの一味に思うところはあるようだが…?

・ドフラミンゴ
例の力を利用して政府に救援を出すことも視野に入れていたが、百獣との関係がバレると面倒な事になるので断念。
最終的にシキによる襲撃が決め手となり、レオヴァへ連絡を取るはめに。

・クザン
赤犬との決闘後、海軍を抜けて百獣にいた模様。
いつから百獣と関係があったのかは不明。
現在は第弐師団隊長という地位にいる。

・百獣国際連盟軍
数年前に出来た国際連盟の軍隊。
連盟国家に何かあった際に駆け付け、助ける為に作られた軍隊であり。防衛軍。
他国を攻めいる為の軍ではない、と記載はされている。
現在、師団という形で少数精鋭の部隊が幾つか編成されており、連盟内での評価は高い。

・ドレスローザ王国
金獅子海賊団からの強襲を受けて、大打撃。
今のところはドンキホーテファミリーの幹部が何とか追い返しているが、ウェーブ形式で敵が来るのでキリがない。
クザンの参戦でどう動くのか。

麦わら→解毒薬欲しい
キッド海賊団→ドフラミンゴの持ってる“アレ”が欲しい
金獅子→同じく“アレ”が欲しい!+SMILEが欲しい!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いざ、情熱の国へ

 

「なんだと!?

じゃあ、ドレスローザに待機させてた奴らは全員やられたってのか!!?」

 

驚きに声を荒げるシキに部下は怯えた様子で必死に頭を下げる。

 

 

「も、申し訳ありやせんシキの大親分!

ですが…青キジの奴の侵攻を止めるにはあっしらじゃ力不足で…」

 

部下の言葉にシキが眉間に皺を寄せていると、近くで待機していたキッドが声を上げた。

 

 

「有象無象が集まったところで止められるワケねェだろ、相手は元とはいえ大将だぞ。」

 

「そんな事は分かってる!!」

 

睨んでくるシキの怒気を軽くいなすとキッドは甲板へと向かって行き、キラーもその後に続く。

 

 

「どっちにしろおれ達がぶっ潰すんだ、関係ねェ!!

そうだろ!?キラー!」

 

「あぁ、その通りだキッド…!」

 

意気揚々と歩みを進める二人のやる気溢れる姿に、腹ごしらえだと肉をかじっていたルフィが笑う。

 

 

「ンモ…ゴクンッ!

よし、おれも行ってくる。

サンジ達は待ってろ、すぐに薬取ってくるから!」

 

先に進んでいたキッドとキラーの横をすり抜けてルフィは甲板へ飛び出していった。

 

 

「おい!?抜かしてんじゃねェよ、バカザル!!」

 

「おれが先だぁ~~!!」

 

勢いのままに甲板から飛び降りたルフィにキラーは驚きの声を上げながら、その背中を見送る。

 

 

「まだ上空だぞ!?」

 

「くそっ…行くぞキラー!!」

 

「いや、だからまだ上空だと言ってるだろキッド!?」

 

騒がしいルーキー達のやり取りに毒気を抜かれたのか、はたまた呆れて怒りが収まったのか威圧感が和らいだシキが一歩を踏み出す。

 

 

「ジハハハハ!!

ガキ臭ぇやり取りしやがって…」

 

未だに騒いでいるキッドとキラーの横を通り抜けて、シキは船の先頭に立ち。

そして、そのまま宙へと身を投げた。

 

 

「だが一番乗りはおれだ、麦わらァ~~!!ジハハハ!!」

 

「お前も張り合うのかよっ!!」

 

キッドとキラーを置いてドレスローザの港へと飛んで行くシキに思わずDr.インディゴが突っ込むが、その言葉はシキに届く事はなく、船はゆっくりと港へと近付いて行く。

 

先に飛び出して行った麦わらのルフィと金獅子のシキに遅れて船は着陸すると、やっとだとキッドがキラーを連れて飛び出してしまい、その後に続く形でブルックとロビン、ウソップが立ち上がる。

 

 

「じゃあ、私達は薬を探してくるわ。

ゾロ達は船番頼むわね。」

 

「コソコソしながらの薬探しなら任せろ!」

 

「ちょっとウソップ、それ胸張るところ!?」

 

少し呆れような声を出しながらも信頼の眼差しを向けるナミに三人は任せろという様な表情で返すと、ルフィ達とは逆の方向へと足を進めるのだった。

 

 

 

───────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

数時間前まで暴れていた金獅子海賊団がすっかり静かになった港付近の広場を見下ろして、ラオGはティーカップに口をつけていた。

 

 

「流石は…というべきか。

元海軍大将を引き入れるとは百獣もなかなかやるようじゃの。」

 

「あぁ、レオヴァは最高にイイ男だ。

青キジが百獣に入ったのもきっとレオヴァの持つ光に心惹かれたからさ。」

 

ラオGの独り言のような呟きにスーツ姿(・・・・)のセニョール・ピンクが笑みを溢しながら言葉を返すと、近くの椅子に腰かけていたディアマンテが笑う。

 

 

「ウハハハハ!!

ピンク、相変わらずお前はあれ以来まるで信者だなァ!?」

 

「信者というと聞こえが悪いが…

おれは本当に心から感謝してるんだ。」

 

しみじみと言葉を溢したセニョール・ピンクにラオGが少し険しい顔になる。

 

 

「……全くお前は…“王”が誰なのか忘れた訳じゃあるまいな?」

 

「勿論、分かってるさ。

“王”は若だ。それはちゃんと理解してる。

……しかし、だからと言ってレオヴァに感謝しちゃいけねェなんてこと無いだろ?」

 

「ピンク、お前は昔から…」

 

ラオGが小言を並べようとした時だった。

凄まじい冷気が肌を震わせる。

 

思わず三人が視線を広場の方へ移すとそこには青キジこと、クザンと相対する形で麦わらの帽子をかぶった男がいた。

そして、続くように空から降って来た男を見てディアマンテ達は怒りに顔を歪めた。

 

 

「「「金獅子のシキ…!」」」

 

腰掛けていた三人は戦闘態勢に移ると、港付近の広場へと急ぐのだった。

 

 

 

一方その頃。

 

降って来た2人の男を前にクザンはサングラスの奥の瞳を僅かに細めていた。

 

 

「あらら……情報としては聞いてたけどマジで手を組んじまってるワケね。」

 

ガシガシと軽く頭をかいたクザンは目の前に立つ2人の強者に意識を向ける。

 

 

「ジハハハハ…青キジィ!

おれが少し離れてた間に随分と邪魔してくれたみたいじゃねェか!!」

 

「おれは仲間の薬欲しいんだ!

邪魔するならぶっ飛ばす!!」

 

「っとに、レオヴァも面倒な仕事を任せてくれたモンだよなぁ。」

 

深い溜め息を吐くとクザンはゆっくりとサングラスを外してジャケットの胸ポケットへ差し込んだ。

 

 

「……ま、どんな理由であれ民間人巻き込むような作戦は実行させらんねェでしょ。」

 

先制攻撃を仕掛けたクザンの冷気を麦わらのルフィと金獅子のシキは素早く躱す。

それを見て後方へ飛び退くとクザンは地面に手を着けた。

 

 

氷河時代(アイスエイジ)

 

一瞬で瓦礫の山を氷の壁に変えたことで街の中心部への道を閉ざしたクザンだったが、空を見上げて小さく唸る。

 

 

「これで増援の兵が街へ攻め入るのは防げるとしても。

……いやぁ、空を飛べる相手(・・・・・・・)って良い思い出ないのよ、おれ。」

 

「なら、トラウマを増やしてやるぜ。青キジィ!!」

 

両足に取り付けられている刀を器用に使いこなしながら攻撃を繰り出すシキにクザンも圧されることなく対応していく。

 

こうして港広場では強者同士のぶつかり合いが始まったのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

クザンとシキ達の戦闘が始まった頃。

 

ドレスローザの地下にある工場がざわついていた。

 

 

「な、なんだべ!?今の音…」

 

「やっぱり地上で何か起こってるんだ!」

 

「幹部達も焦ってたみたいだし、チャンスじゃねェか?」

 

そう言ってひそひそ話をしているのは人間ではなく、オモチャ(・・・・)達だった。

 

 

「んだけんど、チャンスつったって出るルートも分からねェべ?」

 

「そんなの幹部達がいつも入ってくる扉から出ればいい話だろ!」

 

呆れたようなジェスチャーをするオモチャに訛っているオモチャが苛立ったように睨みを利かせていると、腕の長いオモチャが止めに入る。

 

 

「んなことしてる場合か!?

みんなで力を合わせる場面だろーがよォ!」

 

「うっ…それはそうだけんども……」

 

「コイツとぼくは合わないんだ!」

 

可愛らしいオモチャの姿で言い合う彼ら。

なにを隠そう、実は元は人間だったのである。

 

しかし、ドンキホーテファミリーに所属しているとある人物の能力でオモチャに変えられてしまっていたのだ。

 

 

 

それは約1ヶ月ほど前の話だった。

 

ドレスローザのコロッセオにて、トーナメント戦が開かれるという話が彼らに舞い込んだのだ。

しかも、その優勝賞品は“大地を揺るがす力が手に入る実”だと言う。

 

その噂を聞き付けた彼らは我先にとドレスローザへ急ぎ、すぐにトーナメントへの参加登録を済ませた。

 

各々がそれぞれの思いを胸に全力でトーナメントへ挑んだ。

 

勝ち抜き形式でオモチャにされた彼らは他を圧倒しながら勝ち進み、ついに最終戦を迎えるまでに至ったのだ。

 

そして、決勝戦もサバイバル形式であった。

勝ち残った者達とチャンピオンで何でもありの戦いをし、最後に立っていた者が勝者という実に単純なルールである。

 

だが、その日だけは少し違った。

主催者側はチャンピオンではなく、特別な参加者を代わりに出すと宣言した。

 

勿論、彼らは反論はしなかった。

チャンピオンだろうが誰だろうが、自分が勝ち残る。

そう覚悟を決めていたからだ。

 

 

そうして、最終決戦当日。

コロッセオに彼らが並ぶと、特別参加者が現れた。

 

その男は青緑色の軍服に身を包んでおり、イヤーマフと長髪が印象的な大男であった。

 

その場にいた誰もが、その男の名を知っていた。

 

男がコロッセオに降り立つと、腕章が日の光を浴びてキラリと輝いた。

 

 

『……ひゃ、百獣海賊団の先鋒長っ…バレット!?』 

 

誰かの叫び声がその場に響いたかと思うとコロッセオ内は今までにないほどに歓声と熱気に包まれる。

 

 

『すげぇ!?あの百獣の!?』

 

『彼ってレオヴァ様の側近なんでしょう!?』

 

『今日仕事休んでまで来て正解だったぜ!

二度と見れねェぞ、こんな豪華なマッチは!!』

 

『先鋒長のバレットと言やぁ、あの“水難事故”のヒーローじゃないのか!?』

 

自分を応援する声で溢れている観客席には見向きもせず、バレットはコロッセオの彼らへ向き直る。

 

その佇まいだけで強さを悟った挑戦者達はそれぞれの反応を示しながら、開戦のゴングを聞いたのだった。

 

 

こう言った経緯で、ここ数年間であっという間に知名度を上げた猛者バレットへ挑んだ彼らだったのだが、その手が勝ちを掴むことはなかった。

 

そして、敗れた彼らを待っていたのはドフラミンゴファミリーによる勧誘と言う名の脅しであった。

 

部下になるのならば歓迎するが、ならないのなら敗者に希望はないと思え。

そう宣言された彼らだったが、屈するような事はしなかった。

 

確かにバレットには負けたが、ドフラミンゴファミリーに負けたワケではない。

進む道を縛られるなど御免だった。

 

と、いうような反抗を続けた結果。

彼らはドフラミンゴの怒りを買い、オモチャに変えられ労働力として無理やり働かされていたのである。

 

 

 

「おれはジジィと弟も探さなきゃならねェ……

お前ら脱出する気ねェならどけやい!!」

 

喧嘩していた二人のオモチャの間に割って入ると、腕の長いオモチャと共に13とお腹に書いてあるオモチャは出入口と思われる扉の方へトコトコと歩き出した。

 

 

「お、おれも行くべ~~!?」

 

「ちょっと待て!!ぼくも行かないとは言ってないだろ!」

 

後を追うように喧嘩していたオモチャ二人が走り出したのを見て、周りの数人のオモチャも歩き出す。

 

 

そんなオモチャ達の背中を、濁ったような瞳のオモチャ達は静かに見送るのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

オモチャ達が秘密裏に脱走を謀っていた頃。

ドレスローザに潜入していた二人組も動き出していた。

 

 

「もう!サボくん勝手に行かないでよ!!」

 

頬っぺたを膨らませて怒っていますとアピールする可愛らしい見た目の女性の名はコアラ。

 

そして、その女性にサボと呼ばれる男こそ。

あの革命家ドラゴンの右腕、参謀長サボであった。

 

 

「そんな事よりあれ見ろよ。

金獅子のシキに…麦わらのルフィ(・・・・・・・)

最近海を騒がせてる海賊達が同盟を組んだってのは本当の話だったみてェだ。」

 

「そんなことって言い方ないでしょ!

…でも、確かに……あれは不味いかも…」

 

そう言って遠方に見える常識外れな戦場へ目を向けたコアラは不安げな顔になるが、サボの表情に陰りはない。

 

 

「前にコロッセオに百獣海賊団のバレットが来たと聞いた時から怪しいと思ってたが…今回青キジが来た事でほぼ確定だな。」

 

「んん~…七武海が四皇と繋がってるなんて思わなかったけど、色々見ちゃったしなぁ…

でも、どうやって百獣海賊団と繋がり作ったのかはまだ謎だね。」

 

「あぁ。

けど、そこの繋がりも万国の地図(・・・・・)ってヤツも気になるけど、一番は武器工場だ。

ここの港から出る武器は世界中の“戦争”を助長してる。

それを止めるのがおれ達の最優先事項だ!!」

 

「わかってるよ、サボくん!」

 

力強い返事を返して来たコアラにサボはにっと笑いかけると、激しい戦闘音に背を向けてドレスローザの城へと向かって歩き出した。

 

 

そうして、下調べした城への潜入経路を順調に進んでいた二人は思わぬ人物との再会を果たす。

 

それは資料室と思わしき部屋にサボとコアラが入った時だった。

 

 

「っ……ロビンさん!?」

 

思わず声を上げてしまったコアラの視線の先にはニコ・ロビンがいたのだ。

 

まさかこんな所で顔を合わせることになるとは思わなかったと、ロビンに抱き付くコアラの後ろでサボも僅かに驚いた顔になる。

 

 

「サボにコアラ…どうしてドレスローザに?」

 

そう言って首を傾げるロビンに2人は目的を告げた。

 

その後、手短に事情を説明し終えた2人にロビンは成る程と小さく頷いてみせる。

 

このドレスローザ王国が武器の密売に関わっている可能性が高いこと、百獣海賊団との繋がりがあるかもしれないと言う事やドンキホーテファミリーが“insect ver.”と“beetle ver.”というSMILEの工場を持っているらしいという事を一通り聞き終えたロビンは思考を回転させ、2人に自分の持っていた情報を提供することにした。

 

 

「……実は私たち…ドフラミンゴの武器工場を壊して来た所なのだけれど。」

 

「えっ!?

ど、どういうこと!?なんでロビンさんが?」

 

大きく瞳を見開いたコアラに今度はロビンが事情を説明をする。

 

ドフラミンゴの研究施設兼工場を破壊して来た事。

百獣海賊団とドンキホーテファミリーはほぼ間違いなく繋がっているだろうという事や、仲間達がその施設で原因不明の異常な状態に陥っていること。

 

そして、その同盟の作戦と仲間を治す薬の為にこの国に来た事を端的に伝えた。

 

すると、サボとコアラはロビンからの情報ならば百獣海賊団とドンキホーテファミリーが繋がっているのは間違いないのだろうとお互いに顔を見合わせる。

 

 

「ありがとう、ロビンさん。

その情報スゴく助かるよ!」

 

「いいの。

それよりもし薬やその情報を見付けたら私に教えて欲しいのだけれど…」

 

「「もちろん!!」」

 

笑顔で返してくる二人にロビンも微笑みで返した。

 

 

「情報収集なら私たちも同じだし、ロビンさんは私と行動する?

どうせサボくんは勝手に単独行動しちゃうから。」

 

「それもそうね。

一緒に行動しましょう、コアラ。」

 

「うん!」

 

仲良さげに書類棚へと向かって行った二人に一瞬なにか言いたげな顔をしたサボだったが、くるりと踵を返した。

 

 

「…じゃあ、おれは地下に行くからな!」

 

「行ってらっしゃい!

騒ぎを起こしてバレるような事しないでね!絶っ対だよ!!」

 

「おう、心配すんなって!」

 

足取り軽く遠ざかって行く音を聞きながら、コアラは不安げに眉を下げた。

 

 

「……本当にわかってるのかなぁ、サボくん。」

 

「うふふ、相変わらず仲良しね。」

 

変わらない2人にロビンは小さく笑みを溢しながらも、書類の文字を頭にインプットしていくのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

所変わり、百獣海賊団の空船(・・)にて。

 

石化を解かれたモネは背筋に伝う嫌な汗を感じながら、座り心地の良いソファーに腰かけていた。

 

 

「……そうか。

と言う事はやはり預けていた工場は完全に駄目になった訳か。」

 

モネの座っているソファーの目の前にあるスクリーンの中で、着物を着た男が残念そうな声を出したことで焦りは加速する。

 

今現在ヴェルゴは目を覚ましていないらしい。

管理を任されていた自分は話を聞く為に治療されたが、ヴェルゴは助けて貰えるか分からない状況なのである。

 

ただでさえルーキー達に百獣海賊団から預かっていた工場を破壊され、イネットも連れ去られたという最悪の状況だ。

これ以上スクリーンに映る男、レオヴァの機嫌は損ねられない。

そうモネは考えていた。

 

自分が死ぬのならば問題ない。

だが、若様や妹達に迷惑がかかる事は避けなければならない。

 

緊張とプレッシャーで震えそうになるが、モネは無理やりその震えを押さえ込んだ。

そして、深々と頭を下げる。

 

 

「……申し訳ありません。

全て私の管理不足による失態なのです。

罰は私が受けます!ですので、どうか…!」

 

悲痛な、心からの言葉だった。

この声にスクリーン越しにレオヴァが返事を返す。

 

 

「…罰はお前が受けると?」

 

「はい。」

 

一瞬の迷いなく答えたモネの姿にレオヴァの目がそっと細められる。

 

 

「そうか。

あの工場は百獣海賊団の技術力の結晶だと知っていて尚、1人で罰は請け負う…と。

それだけの覚悟があるのか、それともあの工場はその程度(・・・・)だと軽く見ているのか。」

 

「っ……軽くみてはいません!

私の命1つで代価になるような施設ではなかったことは重々承知しています!!

ですが、若様には落ち度はありません。

全て管理し、守れなかった私に非が…!」

 

必死に訴えるモネをじっと見つめると、レオヴァは少し考える素振りをみせた後口を開いた。

 

 

「……いや、すまなかった…モネ。

試すような真似をしてしまった。」

 

「…試、す?」

 

悲壮感漂う雰囲気のままキョトンとした顔になるモネに、レオヴァは先ほどとは打って変わって優しい声で話を続ける。

 

 

「実はモネが共犯なのではないかと言う疑惑があったんだが……その様子ならウチの部下の早とちりだったんだろう。

ドフラミンゴの為に覚悟を決めた姿をおれは信じる事にした。」

 

「私が…共犯……?

そんなっ!私は若様を裏切るような真似は絶対にしません!!」

 

「あぁ、今のやり取りでおれもそう感じた。

……威圧的な態度を取ってすまなかった。」

 

スクリーン越しに軽く頭を下げるレオヴァの姿にモネは慌てるが、当の本人は普通に会話を再開し始めた。

 

 

「まず先に宣言させてもらうが、今回の件でおれは麦わらの一味とその同盟以外を責めるつもりはない。」

 

「ほ、本当ですか…?

けれど、私の失態は…」

 

俯くモネにレオヴァは励ますような声色で話しかける。

 

 

「モネ、お前のあれは失態には入らない。

施設内の監視記録を確認した部下から聞いた話ではイネットの勝手な研究を止めようとして、暴走した実験動物で被災したんだろう?

責められるべきはイネットの方さ……全く本当に忌々しい奴だ。

寧ろ、止めようとしてくれた事に感謝しているくらいだ。

本当に管理者として素晴らしい判断だった。」

 

「ぁ…ありがとうございます。」

 

体に入っていた力が僅に抜けたモネにレオヴァは笑いかけると、入り口の方へ声を投げた。

 

 

「……もう、入って来てくれて構わないぞ。」

 

その言葉に答えるように扉が開くと室内に、隣の部屋で眠っている筈のヴェルゴが入って来る。

 

何がなんだか分からないと目を見開くモネの心情を察してか、レオヴァが説明を始めた。

 

 

「実はモネの石化を治す前にヴェルゴを治していたんだ。

2人を疑う様な真似をして本当にすまなかったと思うが、念のため一人ずつ尋問の様な形を取らせて貰った。

……ヴェルゴも腰かけてくれ。」

 

「あぁ、失礼する。」

 

モネの隣に腰かけたヴェルゴを確認して、レオヴァは一度お茶を飲むと話を続ける。

 

 

「これで2人への疑惑は晴れた訳なんだが、これからが本題だ。」

 

本題という言葉に2人に緊張感が走る。

 

 

「麦わらの一味とその同盟はパンクハザードを爆破後、ドレスローザへ向かった。」

 

「なに!?」

 

「何故!?」

 

驚く2人に神妙な顔でレオヴァは更に続ける。

 

 

「ドレスローザ王国に麦わらの一味と金獅子海賊団、その同盟達が攻撃をしかけていると連絡が来たんだ。

無論、おれとて黙っているつもりはない。

現在ウチの第弐師団隊長を向かわせてあるが…

ヴェルゴとモネ、お前達はどうしたい?」

 

突然のレオヴァからの問い掛けに食い気味に2人は声を上げた。

 

 

「ドフィの下へ行かせてくれ!!!」

 

「若様のお側に!!!」

 

2人の力強い答えにレオヴァは笑みを返す。

 

 

「そう言ってくれるだろうと思っていた。

流石はドフラミンゴが自慢する程の部下達だ。

……では、そのままドレスローザへ送らせよう。

移動中の船の中ではウチの規定とササキ(・・・)に従ってくれ。」

 

レオヴァの言葉に2人は同時に頷くのだった。

 

 

 

 




ー補足ー

・船待機組
ナミ、ゾロ、フランキー、チョッパー、カン十郎、モモの助

・突入組
ルフィ、ロビン、ブルック、ウソップ
キッド、キラー
シキ、シキの部下数千人


サボ:エースが死んでいないので記憶戻っておらず。
ただ、ルフィの存在はロビンから聞いてるので知っている。

セニョール:レオヴァに恩があるらしい。
原作のベビー服ではなく、黒スーツ姿。

万国の地図:なぜ万国の地図というワードが…?


ササキ:潜水艇に乗っていたうるティとページワンからヴェルゴとモネを預かっていた。
レオヴァから、二人はドレスローザへ行きたがる筈だと指示を受けていたので既に向かっている状況

うるティ:引き渡しが完了したので一時、ワノ国へ帰還中。
レオヴァに怒られなかった処か、褒められたのでご機嫌。
帰るまで暇なのでトネグマとアクセサリー作りする約束してルンルン。

ページワン:同じく帰還中。
レオヴァから怒られずにすんでホッとしているが、次は失敗が無いように気を付けようと自分の頭の中で反省会を開いている。
自分で自分に失敗した罰としてナチョス1ヶ月禁止令を出すかと神妙な顔で悩んでいる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

広がる戦場

 

「ジハハハ!!

腐っても元大将、粘りやがる…!」

 

「くそ~!

あの氷邪魔で前に進めねェ!

やっぱり強ェな、アイツ。」

 

「師団ってなんだよ!?

知らねェぞ、おれァそんな幹部の地位は!!!」

 

シキ、ルフィ、キッドの三人はそれぞれ声を上げている。

そんな光景を前に、クザンは駄目になってしまったジャケットを脱ぎ捨てた。

 

 

「フゥー…これ全員相手にするのは無理ってモンじゃない?」

 

読めない表情でそう溢したクザンをキッドが睨み付ける。

 

 

「ナメた態度取りやがって!!

お遊びは終いだ、くたばりやがれ!!!」

 

氷が溶けた鉄の残骸達で作った巨大な塊がクザンへ振り下ろされた。

 

鉄が地面に叩き付けられたことで凄まじい音が周囲に響き渡る。

 

下敷きになっていれば確実に圧死しているだろう程の物量に速度エネルギーも加わり、それは手が付けられぬ一撃となっていた。

 

なかなかやるな、とシキは目を細めたが詰めが甘いと手を宙に翳す。

すると、どこから持って来たのか巨大な岩が上空に現れた。

 

 

「こういうのは確実にやるモンだろォ!?」

 

キッドの一撃の上に、更に大きな岩が猛スピードで覆い被さる。

 

さながら隕石のように落ちて来た巨大な岩に巻き込まれては不味いと、ルフィとキッドは後方へ飛び退いた。

 

 

「…っぶねェだろうが!!」

 

「これに巻き込まれて潰されるなら、そこまでの実力って事だぜガキ。」

 

「…ア"ァ"!?やんのかァ!?」

 

鼻で笑うシキにキッドが噛みついている中、ルフィが飛び出して行く。

 

 

「ハァ!?おい、麦わらァ!!

てめぇ、抜け駆けして何処行くつもりだァ!?」

 

「薬探してくる!!」

 

「好き勝手すンじゃねェ!!!

まずは地図だろうが、バカザル!!」

 

「あ、そっか!そうだよな。

それじゃあ、地図も見つけてくる!!」

 

「それじゃあ…じゃねェわ!!!

本命はそっち、薬はついでだって分かってんのかァ!?」

 

ビキビキと眉間に血管を浮き上がらせるキッドの声など聞こえていないのか、すっかり遠くなった背中にまた叫ぶ。

 

 

「クソッ!!あのバカザル話聞いてねェし!!!」

 

「落ち着け、キッド。

地図はおれが手に入れてくる。」

 

「…おう、任せるぜ。相棒。」

 

「あぁ!」

 

瓦礫の山をものともせずに駆けて行くキラーの背中を見送ると、キッドの眼前にある大岩にヒビが入る。

 

そして、そのまま大岩が崩れると両手に人を掴んだままのクザンが現れた。

 

 

「本当勘弁してくれよ…

ドンキホーテファミリーの幹部を死なせたとあっちゃ、レオヴァに合わせる顔がないじゃない。」

 

危ねェな~、と気の抜けるような声を出すクザンの手に掴まれていたのはドンキホーテファミリーのマッハバイスとデリンジャーだ。

 

この2人は既にキッドとシキにより戦闘不能の状態に追いやられており、どうやらクザンはこの2人を助ける為に時間を取られていたようであった。

 

 

「お~~い!あの~…セニョールだっけ?ちょっといいか!?

……ハァ、麦わらのルフィは逃がしちまうし……不味いな、こりゃあ。」

 

突然声を上げたクザンを訝しむような目でシキが見ると、地面が不自然に波打つ。

まるで水のように揺蕩う地面から、スーツ姿の男が顔を出した。

 

 

「あ、やっぱり居るよな。

ちょっとこの二人ダウンしちゃったみたいだから頼めるか?」

 

クザンが二人を地面に下ろすとセニョールが慌てて受け止める。

 

 

「バイス!?デリンジャー!?

凄い音がしたから様子を見に来てみれば…悪いな、青キジ。

ファミリーを庇ってくれて感謝する。」

 

「ん?あ~、止してくれよそういうのは。

おれもレオヴァに口煩く言われてるだけだから感謝されても困るっつーか…

それより、その二人を避難させてといてくれると助かるんだけど。」

 

「…分かった!

こいつらの事は任せてくれ。」

 

またセニョールが地面に沈むと、マッハバイスとデリンジャーは波打つ地面の上を滑るように移動していく。

そんな光景をクザンは不思議そうに見送った。

 

 

「あれどうやってんのかね…?」

 

超人(パラミシア)系は謎だな、とひとり考えていたクザンに鉄塊が飛んでくる。

しかし、それを軽く避けてまた目の前で殺気立つ二人に向き直った。

 

 

「呑気にお喋りしてんじゃねェよ!!」

 

「あらら……短気だとは聞いてたけどよっぽどだな。

レオヴァに“それ”直すように言われてんじゃないの?」

 

少しからかうような声色と、その内容にキッドの頭に一気に血がのぼっていく。

次の瞬間、物凄い形相で襲い掛かって来たキッドの鉄屑で固めた拳を避けながらクザンはカウンターの機会をひっそりと伺っていた。

 

 

「テメェみてぇな新参者がッ!!おれとアイツの事を知ったように口利いてんじゃ…ねェよ!!!」

 

直情的な感情任せの一撃だった。

しかし、その怒りはクザンの想定を上回るパワーをキッドに発揮させた。

 

吹き飛ばされた先で、口から血を吐いたクザンは煽るのは愚策だったかと苦笑いを溢す。

 

『キッドは怒ると攻撃パターンに捻りがなくなる単純な奴でなァ。

だが、その分破壊力が増す。

父さんはその“力”を良く褒めていた。

懐かしいなァ……それも、もう昔の話だが…』

そんなレオヴァとの会話を今さら思い出したクザンは考える。

 

先ほどまでは厄介なのは経験値も高く能力範囲の広い金獅子のシキと、未知数の実力と謎の強運を持つ麦わらのルフィだと思っていた。

この2人さえ押さえられれば、と。

 

だが、その認識が間違っていたことをクザンは今の一撃から悟る。

 

 

「……ホント、“新時代”を直前にとんでもない同盟が出来たモンだよ…」

 

困ったような声色で溢すと、クザンは瓦礫を背に立ち上がる。

その瞳を、珍しく真面目なものへと変えて。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

ウソップとブルックは目の前の光景に思わず揃って声を上げた。

 

 

「「も、元は人間!?」」

 

目が飛び出そうな程驚く二人に玩具達は頷くと、繰り返すように名乗る。

 

 

「あぁ、おれはサイ。

ジジィと弟を見つけ出し、ドフラミンゴをぶっ飛ばすのが目的やい!」

 

「んで、おれがイデオ!

それでこっちの白いのが…」

 

「僕はキャベンディッシュ。

そして、そこで壊れたみたいにプルプルしてるのがバルトロメオだ。」

 

「オ"オ"オ"ォ"~…ウ、ウソップ先輩にブルック先輩ぃ~~!!!

こ、これは夢だべかッ!?」

 

地面に突っ伏して可笑しな動きをしているバルトロメオというオモチャを周りのオモチャはドン引きだというような態度で見下ろす中、ブルックが恐る恐る口を開く。

 

 

「えぇ、あなた方の事情は分かりましたが…

そちらのプルプルしている方は何故私やウソップさんの名前を?」

 

「た、確かに!おれ達の知り合いなのか?

確かお前らの話だと記憶から消えちまうんだろ!?」

 

まさか…と顔を青くするウソップの問い掛けに慌てて起き上がるとバルトロメオはハキハキと喋りだす。

 

 

「と、と、とんでもねェ!!!

おれは麦わらの一味が大好きなだけで、し、知り合いだなんて恐れ多いだべよ!!」

 

身振り手振りで伝えるバルトロメオだが、何故か二人からはジリジリと離れていく。

 

なぜ遠ざかっていくのかとブルックとウソップが首を傾げていると、バルトロメオは自ら理由を述べていく。

 

 

「おれらバルトクラブ、みんな麦わらの一味さ大好きで…!

こうやってレジェンド本人とお話出来るなんてっ……か、感無量だべ~~!!!」

 

涙は出ていないが明らかに涙声になっているバルトロメオに何とも言えない顔になるウソップだったが、気を取り直すように咳払いをする。

 

 

「あ、あー……っとドフラミンゴの仲間じゃないってのは分かった!

それじゃあ、協力してくれるってことでいいのか?」

 

「勿論だべ!!!ウソップ先輩!!」

 

他のオモチャ達が返事を返すより早く声を上げたバルトロメオに2人は頷いてみせる。

 

 

「よし、なら。

まずそのシュガー(・・・・)ってヤツを倒せばドレスローザにある武器工場をストップすることができて、お前らも人間に戻れるんだな!」

 

「そうだ、そうしたら僕達が薬を持ってるジョーラという女の場所まで案内する。

その後も手助けは惜しまないと約束しよう!」

 

キリッと決めるオモチャの姿のキャベンディッシュにウソップは目線を返し、気合いを入れ直した。

 

 

「よし、行くぞ……ナミ達は絶対に助ける!!」

 

「えぇ!行きましょう!

ウソップさん、オモチャの皆さん!!」

 

オモチャに先導されるまま走り出したウソップとブルックは城への道を進む。

 

絶望の中に現れたウソップとブルックはオモチャ達の希望となり、その道を照す。

 

人に戻る為に。家族を探す為に。大好きな一味の役に立つ為に。

それぞれの想いを抱き、オモチャ達は冷たい体を全力で動かすのだった。

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

ドレスローザ王国で戦闘が始まってから1時間ほどが経過した、海賊島ハチノスにて。

ここでも大規模な戦闘が起こっていた。

 

金獅子のシキの傘下の海賊団約7000人とファイアタンク海賊団の同盟海賊達。

そして、彼らに乗せられたハチノスに来て居たゴロツキ共3000人。

 

この圧倒的な人数差により、ハチノスの護衛を任されていた百獣海賊団は苦戦を強いられていた。

 

現在、百獣海賊団を取り巻くある事情(・・・・)によりハチノスの警備が手薄になっているという情報を手に入れていたベッジ達海賊同盟の読み勝ちのような状況の中。

なんとかハチノス内の本拠点を奪われずに防衛出来ているのは、ひとえに近衛隊隊長であるバジル・ホーキンスの捨て身の防衛故だろう。

 

しかし、厳しい状況には変わりない。

 

電伝虫が相手の撒いた毒ガスにより使用不可能な今。

この状況を報告することも、助けを呼ぶことも叶わないのである。

 

 

「全くしぶとい野郎だぜ。

そろそろ諦めて降参しろ……おれとお前じゃあ“兵力”が違う!!」

 

「…ハァ……ハァ……おれの任務は、ハチノスを維持すること。

死なぬ限り、この先へは誰も行かせはしない。」

 

「…それじゃあ、くたばれ。

まったく、お前のせいで予定より占拠に時間がかかった。」

 

忌々しげに吐き捨てると、巨大な城のようになっているベッジの体から大砲がホーキンスに放たれた。

 

後方に部下達が構えており、避けるという手段が取れないホーキンスは愛刀を握り直す。

 

 

「(……申し訳ありません、レオヴァさん…カイドウ様)」

 

最悪の事態を予見し、ホーキンスが覚悟を決めた時だった。

 

 

嵐脚 “豹尾(ひょうび)”!!

 

「ぐおぉ!?」

 

巨大な城が驚きの声を上げながら後ろへとバランスを崩す。

結果、ホーキンスへ向けて放たれた砲弾がずれ、誰もいない地面へと着弾する。

 

仲間と拠点を庇い続け、ストックもなく満身創痍となりかけていたホーキンスの前に白いスーツを着た男が空から降って来た。

 

男はかなり高い所から落ちてきたと言うのに、音もなく地面へと足をつけるとホーキンスを見て口を開いた。

 

 

「なるほど。

やはりレオヴァ……いや、総督補佐官の言う通りになっていたか。」

 

「……何故、第壱師団の隊長であるお前がここに…」

 

百獣国際連盟、第壱師団隊長であるロブ・ルッチの登場にホーキンスは驚きに声を溢した。

 

 

「何故もなにも、おれは任務の為に来た。

どうやら総督補佐官はこうなることを予想していたようでな。」

 

ホーキンスには目もくれずに言葉だけ返すと、ルッチは巨大な城へ向き直る。

 

 

「百獣国際連盟の条約と正義の下、貴様らを排除する。」

 

「元世界政府の犬一匹増えたところで……兵力差は変わらねェ!!

 

城となっているベッジの言葉が終わると大量の兵士が飛び出してくる。

 

一目瞭然の人数差を前にしてもルッチは不敵に笑ってみせた。

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

場所は戻り、ドレスローザ王国地下にて。

 

 

「うおぉお!?なんっ…なんだよこれ!?」

 

「斬っても斬っても全然倒せないですよ!?」

 

悲鳴に近い叫び声をあげていたのはウソップとブルックであった。

 

そんな二人の前にはクルミ割り人形と言うにはあまりにも大きく不気味な敵が迫っていた。

 

このオモチャは“頭割り人形”と呼ばれており、その佇まいには嫌悪感を抱かずにはいられない。

 

何か打開策はないのか、とウソップとバルトロメオ達が困り果てていた時。

 

曲がり角から帽子をかぶった青年が現れた。

 

突然現れた青年に驚きつつも、ウソップは目の前にヤバいオモチャがいることを伝えるべく叫ぶ。

 

 

「おい、お前っ!!

誰だかしらねぇけど危ないぞ!そのオモチャから離れろ~!!」

 

「…ん、オモチャ?」

 

青年が後ろを振り向くと既に頭割り人形がわらわらと近寄って来ていた。

 

呑気な青年の動きに、慌ててブルックとウソップが助けようと走り出す。

 

しかし、青年はその見た目からは信じられぬ怪力で巨大なオモチャ達をぶっ飛ばしてみせた。

 

 

「「えぇ~~!?」」

 

目を見開いて全身で驚きを表すウソップとブルックをじっと見ると、青年が口を開いた。

 

 

「お!お前ら麦わらの一味か?

ってことはロビンの仲間か。」

 

突然、大切な仲間の名が知らない人物から出て、また驚く二人にサボは帽子を手に取ると口を開いた。

 

 

「おれはサボ、革命軍だ。」

 

「「革命軍!?」」

 

驚きっぱなしの二人を面白い奴らだとサボは笑う。

 

 

それからサボと暫く話したウソップ達は、目的が同じだという事。

そしてあの2年間の間、ロビンが世話になっていた相手だと言うこともあり手を組む流れとなった。

 

こうして頭割り人形達を押し退け、工場付近へと隠密行動を続けていたのだが。

 

何故かウソップ達は工場の中で大勢のドンキホーテファミリーの部下達に取り囲まれてしまっていた。

 

 

「見つかっちまったか…」

 

「いや、見つかっちまったか…じゃねぇよ!!」

 

「完全にあなたが地面割ったからじゃないですかー!?」

 

困ったな!と笑うサボに力強くウソップとブルックは突っ込む。

 

そんなやり取りに今度は工場の警備をしていた部下達が声をあげた。

 

 

「「「「てめぇら囲まれてんのに呑気かよ!!」」」」

 

「そうだった、やべぇ~~!!どうするブルック!?」

 

終わりだ~!と頭を抱えるウソップを笑いながらサボが前へ出る。

 

 

「どうせ工場は壊すんだ。

ここからは派手に暴れても問題ねェよな!」

 

「見つかってしまったワケですし…こうなったらやるしかないですよ、ウソップさん!」

 

「ほ、本当にこの人数相手に戦うのかよ~!?」

 

戦闘態勢に入った二人と嫌々ながら構えたウソップ達の背中を見て、バルトロメオ達は悪魔の実の能力で動けない体を呪いつつ、彼らの勝ちを祈る。

 

そうして、工場内でも大きな戦闘が開始された。

 

 

工場を守るは、トレーボルとシュガー。

並びにその部下達数百名。

 

それに対するはサボ、ウソップとブルックの3名。

 

工場を破壊し、シュガーを気絶させればサボ達の勝利。

逆に彼ら三人を捕らえる、もしくは処刑すればトレーボル達の勝利である。

 

お互いに負けられぬ、重要な戦いが地下で進み始めていた。

 

 





ー後書きー
次回からはもう少し端的に進めて参ります~!
今回もここまで読んでくださりありがとうございます!

↓番外編「Let's GOLD」
https://syosetu.org/novel/279322/14.html
質問箱でリクエスト頂いていたものが長くなったのでifですが番外編にまとめさせて頂きました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

解き放たれたオモチャ達

 

 

 

「笑えない冗談は止せ、ピーカ…!!」

 

普段の張り付けたような笑みが消えて恐ろしい形相になっているドフラミンゴに臆せず、ピーカは言葉を返した。

 

 

「事実だ、ドフィ!」

 

焦っているせいで普段のよりも更に声が高くなっているピーカの声を聞くと、ドフラミンゴは額に手をあて低い笑い声を漏らす。

その笑い声からは怒りや苛立ちが滲んでおり、ピーカは軽く息を飲んだ。

 

 

「…フッフッフッフッ!!

それじゃあ、なんだ?

今、戦えるウチの戦力はお前とディアマンテにピンク。

後は百獣から来たクザンとその部下共だけになったと?」

 

事実を確認するように目線をピーカへ向けたドフラミンゴに頷きを返す。

 

分かっていた事とは言え、最悪の事態が肯定された事でドフラミンゴの顔に浮かんでいた怒りと焦りの色が強くなっていく。

 

 

「ドフィ、どうする?

“鳥カゴ”を使うのか?」

 

ピーカの問いに数秒沈黙した後、ドフラミンゴは口を開いた。

 

 

「鳥カゴは……使わねェ。」

 

「いいのか?使わなくて…」

 

何が言いたいのかを感じ取ったドフラミンゴはピーカが言い淀んだ言葉じりを汲み取り、口を開く。

 

 

「ガキ共だけじゃなく、金獅子もいる。

確かに鳥カゴは今の状況で必須の策と言っても過言じゃねェ……だが、あれは体力の消耗も早い。

今のさばってる馬鹿共を殺ったとして、こっちまでバテる訳にはいかないんだ、ピーカ。

……協力関係とは言え百獣が背中を刺さないとは限らねェ。」

 

「百獣にとってもドフィはなくてはならない存在だ。

裏切るような真似…」

 

「確かに上手く武器や生産品をさばくにはおれのツテは百獣にとってもデカいだろうなァ。

まぁレオヴァの頭がありゃ……

いや、今はいい。それよりも馬鹿共の始末が先だ。

ピーカ、お前は“革命軍”を止めに行け!

おれは…金獅子とガキ共を片付ける。」

 

「ドフィも出るのか!?」

 

思わず驚きの声を上げたピーカに、相変わらず険しい表情のままドフラミンゴは言葉を投げた。

 

 

「これだけ好き勝手されて黙ってる訳にもいかねェ。

何より後手に回るのは悪手だ。」

 

そう言うとドフラミンゴは部屋の大きな窓に手をかけ、城から飛び立って行ってしまう。

 

その背中を見送り、ピーカは革命軍をこれ以上進軍させぬ為に工場へ急ぐのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

ドフラミンゴが城を出る少し前に時は遡る。

 

サボとウソップ達の協定により、工場破壊が進んでいた頃。

やはりと言うべきか、工場を守る為に幹部であるトレーボルとシュガーが現れた。

 

幹部の命令により捕まえようと迫ってくるオモチャ達から逃げ惑うウソップと、トレーボルと交戦するサボ。

ウソップとサボのサポートに回るブルックという構図のまま数十分が経過した時だった。

 

挑発してくるウソップに腹を立てたシュガーが前に出すぎた瞬間。

霊魂となりほぼ幽霊のような見た目のブルックが目の前に突然現れたのである。

 

よし、捕まえた!と気を抜いていた時。

なんの前触れもなく至近距離にこの世の者とは思えぬ姿が現れたら人はどうなるだろうか?

 

叫ぶ者、思わずひっくり返える者、動じない者。

人それぞれだろう。

 

一方、シュガーは悲鳴を上げる者であった。

悪魔の実の能力を手に入れてから、今までずっと守られて来た彼女にとってそれはあまりにも刺激が強すぎた。

悲痛な声を上げると、そのままパタリと地面へ倒れた彼女はしっかりと気を失っている。

 

まさに、ウソップの作戦通りであった。

 

まず自分にヘイトを向けさせ、攻撃させる。

こうやって意識を自分へと完全に向けさせ

よし、捕まえた!と思った時。

その気の緩みを利用して、驚かせる。

それがウソップの作戦であった。

 

見事、最高のタイミングで顔を出しシュガーを驚かせたブルックも素晴らしい働きであったが

この作戦を実行するまでの数十分間、シュガーの作り出した頭割り人形からの猛攻に耐え続け、仲間を信じ身を削ったウソップあってこその作戦だったのである。

 

そして、シュガーが倒れた時。

サボとトレーボルの戦いも終結した。

 

もともとサボが善戦していたのだが、シュガーが気絶した事で動揺した隙に重い一撃を食らってしまったのである。

 

こうして、シュガーを倒すという目標を達成した事でオモチャ達は呪縛から解き放たれたのだ。

 

 

それから時は進み、ドフラミンゴが城を出た時刻と同じ現在。

 

サボとウソップ達は工場の破壊を終えるだけでなく。

人へ戻った大勢の元オモチャ達と共に進軍を開始していた。

 

次なる目標はドンキホーテファミリーの捕縛である。

 

サボに率いられるまま進む元オモチャ達と、城までの道を共に進むウソップ。

 

そんな中、ブルックだけは別行動をしていた。

 

その理由は“地図”である。

今回、ドレスローザ王国への侵入の目的は3つ。

1つ目が仲間を治す薬。

2つ目が武器工場の破壊。

そして、3つ目がこの“地図”なのである。

 

打倒百獣にはあまり関係のない“地図”なのだが。

今後、海賊王を目指す為にはほぼ必須アイテムであり、打倒百獣同盟においてこの入手を条件に手を組んでいる海賊団もいる為、どうやっても手に入れなければならない。

 

そんな重要な地図の場所を知っているかもしれない!と言う男が現れたのだ。

 

その男の名は“錦えもん”。

オモチャにはされていなかったが、廃棄BOXという広いゴミ溜めの中に落ちてしまっていた。

 

もはやここまでか、そう諦めかけていた錦えもんを救ったのがブルックだったのである。

 

たまたまウソップとの作戦中。

霊魂の姿になっていたブルックはゴミ溜めの存在に気付き、そこにいる人間を見つけた。

 

その後、戦いも一段落ついた時に生きている人がいるから助けようとブルックがサボ達に訴えた事で錦えもんは救出された訳である。

 

命を救われたと大いに感謝した錦えもんはブルック達を手伝うと申し出た。

 

こうして、目標である薬や地図の話を聞き。

地図ならば知っているかもしれない!とブルックを案内する事になった。

 

 

地図の為に進むブルックと錦えもん。

解放の為に進むサボと元オモチャ達。

薬のために城へ向かうウソップ。

3人は目標へ向けて大きく進み出していた。

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

場所は変わり、百獣海賊団のとあるナワバリにて。

 

あからさまに不機嫌ですと顔に書いてあるクイーンと、口をへの字に曲げているフーズ・フーの正面にレオヴァは腰掛けていた。

 

 

「ハァ~~…それじゃあ

あの野郎の裏切りは確定なワケかよ!!」

 

「ほぼ確定だな。

何か理由がある可能性も0ではないが…

父さんにもおれにも相談せずに行動してるんだ。

どちらにせよ、罰は受けてもらう。」

 

「ったく、可愛がってやってたのにムカつく野郎だぜェ~!!」

 

「テメェの所から裏切り者が出るのは2人目だな。」

 

「んだァ?フーズ・フー、言いてェ事があるなら聞いてやるよ…ボコした後でなァ!!」

 

「完全に管理不足だろ。

レオヴァさんの手を煩わせンなよ。」

 

「うるせェ~~!!!

イネットの件もこれもおれ悪くなくね!?

ちゃんと世話してやってたし、可愛がって面倒もみてやったのによォ!!」

 

「テメェのやらかしの後始末させられすぎて、嫌ンなって裏切ったんじゃねェか?」

 

「別に後処理ばっかさせてねェわ!!!」

 

「2ヶ月前に南の海(サウスブルー)の研究所が爆発した件も部下に片付けさせてただろ、苦情出てンだよ。」

 

「……チクった馬鹿どいつだ??」

 

告げ口される事について思い当たる節がありすぎるのかアイツか…コイツか?と首を傾げるクイーンにレオヴァが普段よりも少し低い声を出す。

 

 

「クイーン、その件はおれの耳にも入っている。

……あまり部下を泣かせるような真似をしないでくれと頼んでいたと思うんだがなァ?」

 

「ウゲッ……レオヴァまで話が行ってんのかよ…」

 

「……クイーン?」

 

「わ、分かってるっての!!

チクった奴探したりしねェって!」

 

「ありがとう、そうしてくれると助かる。

あまり厳しくすると報告や連絡がこっちに上がってこなくなるからなァ。

いざって時に連携が取れなくなるのは組織として致命的だ。

この百獣海賊団で連絡系統が上手くいかないとありゃ、総督補佐官として父さんに合わせる顔がねェ。

……で、クイーンのうっかり(・・・・)の話は良いとして…」

 

「アレをうっかりで済ませるのかよレオヴァさん…」

 

無人島のナワバリに建てた研究所を大破させるレベルの大爆発事件をうっかりだし仕方ないというスタンスで終わらせたレオヴァにフーズ・フーが溜め息を吐く隣で、クイーンは特にお咎め無しで終わった事に内心ガッツポーズを決めていた。

 

そんなこんなで横にズレてしまった話題をレオヴァが戻していく。

 

 

「正直な話、この状況下で裏切り者が出たのは手痛い損失だ。

おれとしても奴には期待していた分、ショックも大きい…」

 

残念だと眉を下げ僅かに俯いて見せたレオヴァに間髪入れずにクイーンは言葉を返した。

 

 

「あ~、ハイハイ

レオヴァ、おれらの前ではそういう演技(前置き)はいらねェから話続けてくれるか?」

 

「……クイーンはおれを何だと思ってるんだ」

 

信頼してた(・・・・・)じゃなくて期待してた(・・・・・)って時点で察するだろォ~!

そもそも、レオヴァはアイツあんまり好きじゃなさそうだったし?」

 

「…まぁ、その辺に関しては否定はしないが嫌ってはいないぞ?

父さんへの態度があまり好ましくねェな、とは思っていたが」

 

「そうだろうと思ってたぜ…

で、マジな話……実質的な損害は?」

 

急に真面目な声に切り替えたクイーンに驚くことなく、レオヴァは説明を始める。

 

 

「ウチの一部のナワバリ情報に、数人の幹部の性格や能力。

任せていた任務と今後任せる予定だった任務の予定の組み直しに、支給品として渡していた武器などの流失……と特に重要なのはこれくらいだな。

不幸中の幸いと言えるのは、“回復薬”は渡していなかった事か…」

 

「ウチの幹部の能力については対策しようもねェしまだ良いとして…

百獣製の武器とか持ってかれたのはめんどくせェなァ~。

あとはナワバリ情報でヤバいのはハチノスか…?」

 

厄介な事になったと唸るクイーンにフーズ・フーが口を挟む。

 

 

「ハチノスについてはレオヴァさんの指示もあって深い所までは教えてねェ。

ただ地理はある程度把握してんだろうし、ハチノス内の武器庫の場所とかは知ってるだろうな」

 

「え?マジ?

じゃあ、地下のアレ(・・)とかは知らねェ感じか?」

 

「あぁ、地上部分しか教えてねェよ」

 

「シリュウの野郎の研修では地下もやってただろ?」

 

「あれはレオヴァさんから指示があったからな」

 

「…ってことは、レオヴァはアイツが裏切るって気づいてたのか!

分かってたなら言えよ~~!?」

 

自慢のわがままボディをズイッと近付けて来たクイーンにレオヴァは首を横に振って返す。

 

 

「おれもまさか裏切るとは思っていなかった。

ただ信用するにはまだ足りないと思ってフーズ・フーに地下研修はしないでくれ、と頼んでいただけだ」

 

「……レオヴァの基準って結構厳しいよなァ…

もう少し人を信用して行こうぜ?」

 

「テメェがレオヴァさんにそれを言うのかよ」

 

「お前には言われたくねェわ!!仮面野郎!」

 

睨み合う二人にレオヴァは困ったように笑うと言葉を割り入れた。

 

 

「おれ達海賊が人との信用云々の話をするのは止そう。

少なくともおれは父さん、クイーンやフーズ・フー達しか信頼していないと言うだけで人間不信な訳ではないからな」

 

「うん、レオヴァからのビックラブが重ェわ」

 

「ふざけた事言ってる場合かよ、テメェ…」

 

呆れたような顔でこちらを見るフーズ・フーにクイーンがまた何かを言おうとするより早く、レオヴァは話を進めて行く。

 

 

「それで、奴の裏切りによってハチノスがかなり危険な状況になってしまった訳だが…」

 

「そうそう!!どうするよ、レオヴァ?

対策立てねェとだろ?」

 

「クイーンの言う通りだ。

まずは侵略して来ている奴らを退(しりぞ)けなくちゃならねェんだが、それはルッチに頼んである」

 

「…ロブ・ルッチか」

 

口角を下げたフーズ・フーに気付くと、クイーンは悪い笑みを浮かべた。

 

 

「元世界政府で有能って噂の野郎だろ~?

今回でっかい手柄立てちまうんじゃねェのォ?」

 

「ハッ!

無能な政府の集まりで頭一つ抜けようが知ったことかよ」

 

「……あ"?

ンだよ、このネタあんまり効かねぇのか

つまんねぇなァ~~!!

 

「悪魔の実の能力の系統が似てるからって比べられてメソメソすると思うのか、おれが?

笑わせんな、おれのが確実にカイドウさんとレオヴァさんの役に立ってるに決まってんだろ。

あんな野郎に負けるビジョンが見えねェな」

 

鼻で笑い飛ばすフーズ・フーにつまらないとクイーンが顔を背けると、レオヴァが溜め息を吐く。

 

 

「…クイーン、また話が逸れてるぞ

それとおれは身内を誰かと比べる真似は好かねェ。

フーズ・フーの代わりはいねェし、ウチの自慢の幹部だ。

軽口言い合うのは構わないが……ラインを越えるような事は止せ」

 

真面目なレオヴァの声にハイハイと軽く返すとクイーンは冷め始めてしまっているお汁粉の鍋に手を伸ばす。

その横でフーズ・フーは小さく笑い、レオヴァを見た。

 

 

「本当にもう気にしちゃいねェよ、レオヴァさん」

 

「そうか、フーズ・フーが良いならおれもそれでいい。

クイーンがあまりにもしつこかったら言ってくれ、父さんに灸を据えてもらおう。」

 

「ングッ!?

ちょ、そこでカイドウさんは卑怯じゃねェ!?」

 

お汁粉を吹き出しかけたクイーンにレオヴァとフーズ・フーは笑い、切り替えるように話を戻していった。

 

 

「そう言う訳で、ハチノスはホーキンスが守ってくれていたがルッチを向かわせてある。

おそらく、奴が裏切ったとあればホーキンスだけでは厳しい戦いになるだろうからな。

回復薬もあるし大怪我にはならないとは思うが…」

 

「もう向かわせてあんのか…」

 

「既に出発済みだ、万が一の事も視野に入れてな。

ホーキンスは大切な身内だ、何を差し置いても失う訳にはいかねェ。

最低限度ハチノスの防衛さえ出来ればあとはどうにでも出来るしなァ。」

 

「それじゃ、あとはドレスローザが問題なければってトコか?

……いや、赤鞘の件もあるか…」

 

お汁粉を口に含んだまま渋い顔になったクイーンの言葉にレオヴァも表情を曇らせる。

 

 

「ジャックに頼んであるから大丈夫だとは思うが…穏便に済まなかった場合が面倒だな。

狂死郎はササキの事もあるし仕事も出来るから処分したくはねェが、小紫が戻らなかった時にどうなるか…

ドレスローザ王国でのいざこざも金獅子のシキにキッド達……そして麦わらの一味までいる…」

 

おれ様のキュートな小紫たんは何がなんでも連れ帰って来いってジャックには言ってあるけどな!!

 

小紫た~ん!と騒ぐクイーンを尻目に大きな溜め息を吐く珍しい姿に、フーズ・フーが気遣うようにこちらを見る。

その行動にレオヴァはハッしたように表情を引き締めた。

 

 

「すまない、今のはあまり気にしないでくれ」

 

「……何かあればいつでも言ってくれよ、レオヴァさん」

 

「勿論だ。

ありがとう、フーズ・フー」

 

微笑みを返して来たレオヴァにそれ以上詮索することなく終えたフーズ・フーの心遣いを無視するようにクイーンが声をかける。

 

 

「どーせいつも気にしてた麦わらの野郎とガキ共の事だろ?」

 

「……違う…とは言えないが、それだけじゃねェ。

ドフラミンゴが持ってる“地図”が問題なんだ。

…あれを奴らに手に入れられたら厄介すぎるだろう。」

 

「あ~…確かにめんどくせぇわ、それは。

でも青キジの野郎に命令だしてんだろ?」

 

「頼んではある。

……しかし、本当に実物を持ってくると思うか?

最悪、同じ内容を書き記して持ち帰って来て欲しいとは言ってあるが…」

 

小さく唸るレオヴァの言葉はクザンを疑うような内容であったが、クイーンはそれもそうかと納得していた。

 

クザンはレオヴァにスカウトされる形で百獣国際連盟の部隊へは加入したが、百獣海賊団に所属している訳ではないのである。

 

端から見ればどちらも同じだと思われがちだが、百獣海賊団からすれば大きな違いだ。

 

そして、元海軍大将であるクザンをクイーンはあまり信用していない。

レオヴァはある程度は信用してはいるようだが、クザンの“正義”への思いが消えたとは考えていない。

 

その“地図”が百獣の手に渡ることで平和の均衡に大きなヒビが入るとクザンが考えた場合、持ち帰らない。

又は偽の地図を渡してくるのではないか、と危惧していたのだ。

 

 

クイーンとレオヴァのやり取りを聞いていたフーズ・フーもそんなレオヴァの心情を察し、提案をする。

 

 

「…心配ならウチから誰か向かわせるってのはどうだ、レオヴァさん?」

 

「おれもちょうど同じ事を考えてたんだ、フーズ・フー。

だからササキを向かわせてある。」

 

「「……アイツを…?」」

 

滅多に声が被らないクイーンとフーズ・フーの言葉が重なった。

2人の顔には僅かに驚きの色が浮かんでいる。

 

 

「……え、ササキの野郎を向かわせたのかよ?

アイツに隠密とか無理じゃね…?」

 

「…レオヴァさんの行動の早さには舌を巻くが、ササキは……人選ミ…いや、アイツしか空いてなかったのか?」

 

散々な言われようなササキであるが、それには理由がある。

 

彼は海賊らしく戦いを好み、豪気で豪胆。

部下達からも慕われる気のいい男なのだが、少し抜けている所があるのだ。

 

戦闘中に彼特有の能力で突進するはずが、うっかりバックしてしまったり、隠密の任務中に間違えて潜伏先の建物を全壊させてしまったりと、彼のおっちょこちょいエピソードは尽きない。

 

 

けれど、そんな頼りがいがあるのに少し天然な彼だからこそ部下達は支えようと頑張って尽くしている為、決して欠点ではない。

……のであるが、同じ幹部達からは弄られるネタと化しているのが現状だ。

 

そして、そんな彼に“地図”を奪ってくるという隠密寄りの任務が課せられた事にクイーンとフーズ・フーは驚き、不安の色を覗かせたのである。

 

 

一方、隠密向きではないササキに地図を任せたレオヴァもそれは理解していた。

ササキはナワバリ管理や討伐遠征では頼りになるが、隠密任務では少し不安要素があると。

 

だからこそ、既に手は打ってあった。

 

 

「大丈夫だ…クイーン、フーズ・フー。

今回はササキの補佐をローに頼んである。」

 

「ローが居るのか…なら、まぁ。」

 

「アイツが行ってるならあのアホのポカもなんとかするかァ?

ってか、レオヴァもローの野郎がいるなら最初から言えよ!!

一瞬、スゲェ不安になったわ!!」

 

「その言い種はササキに悪いだろう、クイーン。」

 

ムッと口を曲げたレオヴァにクイーンが今までのササキのうっかりミスの歴史を語り始める。

 

自分の事は棚に上げてつらつら言葉を並べるクイーンにより、また三人の会話は脱線していくのであった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

…っぶぇっくしょい!!

 

「おい、風邪じゃねェだろうな…ササキ。」

 

「体調は問題ねェよ。

もしかしたら、噂されてんのかもなぁ?」

 

「あぁ、レオヴァさんが前に言ってたやつか。」

 

「そうそう!

噂されるとくしゃみが出るってメーシン(・・・・)があるって言ってたよなァ。」

 

「迷信、な。」

 

「はははは!それだ、それ!

レオヴァさん難しい事言うからよォ。」

 

ケタケタと笑い声を上げるササキに呆れつつ、ローはドレスローザ王国の地理が書かれた紙へ目を移した。

 

キングから渡されていたその資料を頭に入れているローの隣でササキは並べられた野菜チップスを口へ放り込んで楽しげに声を上げた。

 

 

「最近、海軍の奴らとやって暴れたから噂されてんのかもしれねェな!」

 

「…懸賞金額で騒いでんのはお前らだけだろ。」

 

「なんだよ、ローは上がって嬉しくねェのか?

別におれも額が全てなんざ思ってねェけど、箔が付くしなァ!

あと、絶対フーズ・フーの額は追い抜く!!」

 

「まだ競ってんのかよ…」

 

「あれだけ煽られて黙ってらんねェだろ!?」

 

フンッと気合いを入れているササキに呆れつつも微かに笑うと、ローは資料を手渡した。

 

 

「お喋りはこれくらいにして、最終確認だ。

ドレスローザの地形は頭に入れてあるな?」

 

「おう、大体な!」

 

「……大体ってのはどこまでだ?」

 

「城の場所と、工場の場所は問題ねェ。」

 

「…城の内部の構造は?」

 

「………あ~、っと…上の方に……宝物庫?」

 

「いつもこう言う任務の時は資料を読めってレオヴァさんに言われてるだろ!」

 

「いや、読んだって!!

ただなんか文字ばっかりで分かり難いんだよ!

レオヴァさんの資料は図が中心だけどよ。

キングのやつは字ばっかで…」

 

「……レオヴァさんは人によって資料作り分けてるからな。

キングの資料が読みづらいのは分からなくはないが…はぁ…

なら、おれが説明するから聞いててくれ。」

 

「悪ぃ、頼む!!」

 

軽く頭を下げたササキにローはどう説明しようかと頭でまとめながら言葉を紡いだ。

 

 

ドレスローザ王国到着まで、あと1時間。

 

 




ー補足と後書きー

戦闘可能陣営
・ドンキホーテファミリー
ドフラミンゴ:ほぼ全快
ピーカ:城を変形させたりと裏方で頑張っていたので少し体力を消耗している
ディアマンテ:ロビンと好戦したがコアラに邪魔され逃げられたが、未だほぼ体力は消耗せず
ピンク:倒れた仲間達を回収して回っていた為、戦闘なし。体力の消耗はしている

・ドンキホーテファミリー増援組
クザン:キッドとシキによりかなり消耗しているが、足止めには成功

・打倒百獣同盟
キッド&シキ:まだ余裕はあるが、連携がとれていない為クザンを倒せずにいる
ルフィ:ドンキホーテファミリーの幹部数名を撃破、まだ体力には余裕あり
キラー:ラオGを撃破後は隠密行動中、体力はほぼ消費なし
ロビン:ディアマンテと好戦したが大きな負傷はなし、デリンジャーとも交戦したがコアラの協力があり倒すことに成功
ウソップ:シュガーとの戦闘で負傷、体力も残り僅か
ブルック:多少の負傷はあるが体力には余裕あり

・麦わらの一味の協力者
サボ:トレーボルと好戦したが、大きな負傷はなし
コアラ:ロビンと共にデリンジャーと交戦し勝利、消耗は少ない
バルトロメオ&キャベンディッシュ&サイ&イデオ:人形から復活!消耗はほぼなし
───────────────────────

レオヴァ:ルッチをハチノス、ササキ&ローをドレスローザへ向かわせた。
ドフラミンゴを助けるつもりはあるらしいが、“地図”が本命かと思われる。

クイーン:おしるこ美味ぇ~~!!♡

フーズフー:最近怪しい動きをしている人物の事でレオヴァに呼び出されていた。
実はその人物の監視も頼まれていた模様。

ササキ:ドレスローザへ向けて気合い十分!
キングの作った資料が読みづらくてしょんぼり

ロー:地図を任されているので普段より気が引き締まっているが、ササキと居ると少し気が抜けるようだ。
キングから受け取った資料でドレスローザの地理や城の内部はバッチリ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変わり始める未来

 

 

ドレスローザ王国への襲撃から数時間が経過した現在。

 

王国内部は荒れに荒れていた。

唯一まだ被害が軽いのは北東側の国民の避難地になっている場所のみである。

特に南西側は襲撃開始地点ということもあり、ほぼ更地と化している。

 

そんな最悪な現状の中。

麦わらの一味達の船にも災いが降り注いでいた。

 

 

「お、お主ら……それは大丈夫なのか!?」

 

目を開きどうしたら良いのか分からないと慌てたような声を出す男の名はカン十郎。

パンクハザードにてナミ達に助けられた“侍”である。

 

そんなカン十郎の前では恩人であるナミが痛みに必死に耐えながら荒い呼吸を繰り返しており、更にその奥ではドンキホーテファミリーの幹部“ディアマンテ”がゾロに斬られて倒れていた。

 

腹部が石化しており万全ではないゾロは悔しげな顔でナミに寄り添っていた。

 

 

「…チョッパーも起きねェし……どうすりゃいい…」

 

ゾロの珍しく力のない声も、余裕のないナミには届いていないのだろう。

船の中には言葉にし難い重い空気が漂っている。

 

しかし、それも仕方のない事であった。

ゾロにとって守るべき相手である筈のナミの石化していた腕の一部が溶けている(・・・・・)のだ。

 

まるで粘土にお湯をかけたかの様に柔らかくなっており、一部がうっすらと溶けている。

そんな惨状、医師ではないゾロにはどうすることも出来ない。

 

 

事の発端はディアマンテの襲撃であった。

 

船に乗り込んで来た敵の気配を真っ先に察知したゾロが交戦し、万全ではないながらも圧倒していた。

だが、その状況がディアマンテに火を付けたのだ。

 

なにもせず。何も残せずやられてなどやるものか。

その怨念に似た執念はある記憶をディアマンテの脳内に甦らせた。

 

石化…β版バジリスク……アネット…解石薬

そして

『持っていけディアマンテ

奴らが毒を受けてるのは確実だ、天才のお前ならコレも上手く使えるだろ』

と言って手渡された薬品の存在。

 

思い出した全てと目の前にいる憎らしい野郎の腹、奥にいる女の腕……やるしかない!!

 

そう腹をくくったディアマンテはドフラミンゴから受け取っていた薬品の蓋を開けて能力を発動した。

 

既にゾロに破られた鉄球を降らせる技。

その中に複数の薬品を混ぜたのだ。

 

これはディアマンテにとって賭けだった。

薬品は数個のみ。

もし、これで当たらなければ意味のない特攻となる。

 

 

『っ解放(ヒラリリース)!!

 

『さっきのヤツか、それはもう見切ってる!!』

 

降り注ぐ鉄球をゾロは難なく防いでしまった。

 

『(ちくしょう…こんなガキに!!)』

 

悔しさと途方もない怒りがディアマンテを突き動かした。

 

 

それで凌ぎ切ったつもりかァ!?蛇の剣(ウィーペラグレイヴ)!!!

 

反撃を受け血を流しながらの一撃だったが、やはりゾロはそれも()なしてしまった。

 

だが、それがディアマンテにとって良い方へ動いた。

 

弾かれた剣は未だ降り注ぐ鉄球の残り香を掠めたのだ。

軌道がそれた鉄球は後方へ飛び、他の鉄球へぶつかった。

 

連鎖するようにぶつかり合う鉄球達。

斬り伏せられるディアマンテ。

その直後、薬品の瓶が鉄球によって破壊される。

 

液体が風に煽られ飛び散り、その光景と女の悲鳴を最後にディアマンテは意識を手放した。

 

 

こうして、ディアマンテによる船への襲撃は幕を閉じたのだ。

 

 

彼らはチョッパーという医師がいない状況でナミを救えるのだろうか。

 

全ては薬を手に入れに行っている仲間達に委ねられた。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

ディアマンテが倒れた頃。

 

ドフラミンゴは二人の男達を相手にしているが、軽口を叩いていない状況が彼の怒りの強さを表しているのだろう。

 

一方、対峙する男達にはまだ余裕が伺える。

 

 

「七武海とか言う海賊を馬鹿にしたような野郎はおれが消す!!

邪魔だてするなよ、ガキ」

 

「誰がガキだ!?」

 

シキの言葉に思わず言い返したキッドと言うやりとりに更にドフラミンゴの眉間に皺がよる。

 

 

「なめやがってェ…」

 

静かに怒りを燃やすドフラミンゴだが、劣勢なのは事実であった。

 

しかし、ドフラミンゴは上手く立ち回れている筈なのだ。

ただキッドとシキの動きが合い始めているのが、苦戦を強いられる要因となってしまっていた。

 

ドフラミンゴ陣営がほぼ壊滅している今、増援の宛もない。

まさに四面楚歌と言える状況だろう。

 

 

シキ達は優勢の状態を維持すべく、更に畳み掛けていく。

 

シキによる地面からの攻撃に即座に反応し、ドフラミンゴは空へ飛び退いた。

 

一瞬、自分への注意が逸れた隙を見逃さずキッドの鉄の塊がドフラミンゴの頭上へ迫る。

 

間一髪で避ける事に成功したドフラミンゴだったが、両側から迫る浮遊する巨大な岩に気付くのが遅れてしまった。

 

 

「テメェ!おれの攻撃を囮に使いやがって!!」

 

「ジハハハハ!!

仕留められねェ、てめぇが悪ィのさガキ!!

クザンの前に七武海の首、貰うぜ!?」

 

強烈な一撃への確信。

人の何百倍もある質量の岩がぶつかり合い、ドフラミンゴを潰そうとした瞬間だった。

 

不味いと直感しながらも避けられないことを悟っていたドフラミンゴの体の周りを突然冷気が包み込んだ。

 

これは、クザンではない。

そうドフラミンゴが気付きサングラスの下の目を見開いた時。

何かを察したシキがダメ押しと言わんばかりに岩をまた1つこちらへ向けて飛ばして来る。

 

左右と正面からの圧に応戦するよりも先に体が後方へ引っ張られて行く。

 

巨大な岩での圧死から逃れたドフラミンゴだったが、岩同士がぶつかった衝撃で雪崩のようにゴロゴロと1m台の岩が降り注ぐ。

 

それを砕こうと腕を動かしたが目の前に現れた男がそれを全て薙ぎ払い、細かく舞う砂埃を雪が絡めとって行った。

 

ドフラミンゴの周りから柔らかな冷気が消え、人のような形を作る。

…目の前には現れる筈のない二人がいた。

 

 

「遅くなってすまない、ドフィ!!」

 

「若様、遅れてごめんなさい」

 

「…ヴェルゴ、モネ……生きてたのか」

 

まるでドフラミンゴを守るかのように前に立つ二人の背を見るドフラミンゴの顔を見た者はいない。

 

 

「あぁ…任務を失敗して合わせる顔はないが……」

 

「えぇ……ごめんなさい、若様」

 

背中越しでも分かるほど、悔しさとやるせなさを滲ませる二人にドフラミンゴは笑った。

 

 

「フフフフフ!!

構わねェさ、ヴェルゴ!モネ!

おれは仲間の失敗は咎めねェ…そうだろ?」

 

「ドフィ…!」

 

「若様!」

 

やっとこちらを見た二人の肩にドフラミンゴは手を置いた。

 

 

「良く戻って来てくれた…!!

早速で悪いが、まずはおれの国を壊すクズ共を掃除するぞ」

 

「任せてくれ!!」

 

「今度こそ、役に立って見せるわ…若様!」

 

「…行くぞ」

 

敵の方へと飛び出して行ったドフラミンゴにヴェルゴとモネは続いた。

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

一方、ほぼ同時刻のクザンも苦戦を強いられていた。

 

 

「こりゃあ……ちょっとキツイなぁ」

 

困ったと肩をすくめるクザンの眼前では体力が有り余っていそうな2人の男が立っている。

 

 

「またお前か!

邪魔するなよ、おれは薬を見つけねぇといけねぇのに!!」

 

「まさか海軍大将とやる事になるなんてな!

……あ、いや。“元”海軍大将だっけか?」

 

「邪魔ってーと…おれからすりゃあ、お前さんらの方なんだがな

あと、どいつもこいつも昔の方(・・・)で呼ぶのはわざとか?

あんまりソレで呼ばれると馴染めないから勘弁して欲しいんだけどね」

 

「お、百獣で嫌われてるのか?」

 

半分からかう様に聞いてくるサボにクザンは眉を下げる。

 

 

「革命軍のNo.2はデリカシーないワケ?」

 

「気にしてたなら悪いな!」

 

ニッと笑うとサボは地面に手を突いた。

 

 

「じゃあ、そろそろ……退いてくれ!」

 

一瞬で地面に亀裂が走りクザンはそれを瓦礫の上へ避難することで持ちこたえたが、そこではルフィが構えていた。

 

 

「っ…会話の間にちゃっかり仕込むなんて、ずいぶん小賢しい技覚えたじゃないの」

 

「~~!!ごめん、外した!!」

 

「気にするな、麦わら!次行くぞ!!」

 

まるで昔から知っているかのように連携を上手く取るサボとルフィにクザンは内心で焦りを見せていた。

 

ただでさえ、シキとキッドとの戦いで体力が持ってかれているのだ。

更にここで体力を取られてはレオヴァから言われていた目標を果たせない。

 

任務の失敗が何を意味するのか、まだクザンは知らない。

だからこそ、確実に目的を終えるべく“例の場所”へと向かっている最中であったのだ。

 

ここで戦闘を始めてはまた目的から遠ざかるのは明白。

しかし、撤退し目的の為に動けばこの奥に避難している民間人と、どこか憎めない新しい部下達の身に危険が迫る可能性がある。

 

そうなれば、クザンに引くという選択肢はなかった。

 

だが、そんな雑念が頭を過った事で生まれた隙を見逃すほどサボとルフィは甘くない。

 

あっという間に距離を詰められ、二人の連携により吹き飛ばされた。

瓦礫に沈んだ体を起こそうとするが、サボは追撃の手を緩めない。

 

 

「竜の…」

 

サボがクザンに接触するコンマ数秒前。

空から巨大な何かが落ちて来て、行く手を阻んだ。

 

突然の事に驚くルフィの方へサボは後退する。

 

もくもくと辺りに漂う砂埃には人影が写った。

 

 

「ゴホッ…あ~痛ェな、着地しっぱ…ゴホン…いや、成功だ!!

 

大きめの独り言を終えたその人影の周りの砂ぼこりが晴れていく。

そこには百獣海賊団の幹部であるササキの姿があった。

 

 

「よォ、苦戦してンなァ!!」

 

「っ…ササキ、お前さんなんでここに?」

 

「そりゃレオヴァさんが手伝えっつーから仕方なくだ。

ンな事より、さっさと終わらせて飲もうぜ!

お前の能力ならキンキンに酒も冷せるんだろ?」

 

ニッと笑うササキにクザンは瓦礫に埋まったままの姿で苦笑いを溢した。

 

 

「前も言ったけど、ボトルクーラー扱いは止めてくれって言ってんじゃない。」

 

「はははは!わりぃな!

ま、手伝うから先にコイツら片付けちまおうぜ!」

 

瓦礫に埋まるクザンに手を差し出すと、ササキは力強く引き上げた。

 

二人が並び立つとサボとルフィも構え直す。

 

 

「増援か…早く終わらせないと増えるかもな。

麦わら、行けるか?」

 

「おう!まだとっておきもある!!」

 

「ははは!心強いな!!」

 

4人は互いを見合うと、同時に地面を蹴った。

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

ササキがドレスローザ王国に降り立つ少し前。

 

ドフラミンゴを見つけて飛び出して行ったヴェルゴとモネを後目に、ササキとローは船の上からクザンを探していた。 

 

その時ちょうど城近くに戦闘の気配を感じ取ったローの指示により船は軌道を変え、その先にクザンの姿があったのだ。

 

ようやく見つけた目的の人物にササキはやっとだと気合いを入れる。

 

 

「よし、やっとだぜ!!」

 

「ササキ様、梯子(はしご)の準備が出来やしたぜ!」

 

「ハシゴだぁ?

それで降りてたら日がくれちまうだろ

おれはそのまま降りる!」

 

「あ、確かにそうでした!

それにササキ様にはあの技(・・・)が…ってえぇ!?

 

部下が少し申し訳なさそうに頭をかいている途中、ササキは甲板の手すりに足をかけ宙へと飛び出したのだ。

 

しかし、こう見えてササキは実は空を飛べるのである。

 

人獣型になる事で、なんとトリケラトプスのフリルを回転させて浮かぶ事が可能なのだ。

そう、太古の昔に存在していたトリケラトプスとはそういう恐竜だったのである。

 

そして、それは部下達も知っていた。

だからこそ、梯子を用意した部下もササキの能力ならば必要なかったかと謝っていたのである。

 

だが、何故かササキは落下していった。

 

ローを含め部下達は隕石のように凄いスピードでクザンの下へ落下して行ったササキの姿に目を丸くするしかない。

 

 

「……なんか、スゲェ音したけどササキ様無事かな…」

 

「いやまぁ、ササキ様は頑丈だし…」

 

「なんで能力使わなかったんだ……?」

 

「あ、でもなんか着地成功って言ってるっぽくね?」

 

「な~んだ!わざとだったのか!」

 

「そりゃそうだろ?能力使い忘れるなんてあるワケねェって!」

 

「ハハハ!それもそうだわ!

いやぁ、ササキ様に失礼な事考えちまってたなぁ」

 

「あれだって!

クザンさんを助ける為にわざと落下して素早く降りたんだろ!」

 

「「「なるほど!!

流石はササキ様!お優しいぜ!!」」」

 

後ろでわいわいと盛り上がる部下達からローは顔を反らした。

 

 

しかし、落ちる瞬間に一番近くにいたローには聞こえてい

『アッ、やべ…!』

というササキの呟きは今は……いや、今後ずっと部下達には言うべきではないだろう。

 

ローは帰ったら絶対にこの話をレオヴァに伝えようと心に決め、やるべき事の為に指示を出す。

 

 

「お前ら、おれもドレスローザへ行く!

おれかササキから連絡が来るまでは上空で悟られないように動け、いいな?」

 

「「「アイアイ、キャプテーン!!」」」

 

「「「了解ですぜ、ロー様!!」」」

 

自分とササキ、両方の部下からの返事に頷くとローは瞬間移動のように船から消えた。

 

そんな姿にまた部下達はカッコいいと大盛り上がりするのであった。

 

 

 

こうしてローは城への侵入を果たしていた。

 

ササキのせいで一瞬緩みかけた緊張を深呼吸で整える。

情報に間違いがなければ、この城の地下に“地図”がある。

 

上階にも宝物庫があるが、それは囮であるという情報を前もって手に入れているローは迷いなく下へ進んで行った。

 

本来ならば能力を使って一気に下へ降りるのだが大きなサークルは人の目に見えてしまう為、自らの足で道を行く。

 

行きは慎重に進み帰りは一気に能力を使うのもありだと作戦を立てながら進んだ先は、道が途切れ行き止まりとなっていた。

 

ローは少し考えると壁に手を当ててなぞるように動かした。

すると、何故か一部劣化が少ない場所がある事に気付く。

 

目敏くその事実に辿り着いたローは壁を斬り、軽く手で押し込んだ。

 

小さなサークル内でふわふわと浮かびながら奥へ進んだ壁の切れ端と共に進むと、そこには空間がある。

 

ここが目的の場所だろうと、捜索に入ろうとした時。

背後に人の気配を感じてローは刀を構えた。

 

 

「……トラファルガー…何故、ここに」

 

動揺を隠せない声の主に、ローは不機嫌そうに返す。

 

 

「よぉ、裏切り者(・・・・)

レオヴァさんからの音貝(トーンダイヤル)、聴いたのか?」

 

裏切り者と呼ばれた男、キラーの肩が微かに動く。

しかし、表情は仮面に覆われて伺うことは出来ない。

 

 

「…答える必要があるのか?」

 

「答えによっては……敵対しねェと言ったら?

別におれはここでやり合うのも構わねェが、どうせお前もアレ目的だろ?」

 

全てお見通しだと薄く笑みを浮かべながら話すローの姿にキラーは数秒考え込み、口を開いた。

 

 

「……音貝(トーンダイヤル)は聴いた」

 

聴いただけ(・・・・・)か?」

 

「…どこまで知っている?」

 

「どこまで…?さぁな。

で、それはお前の所のあの馬鹿も聞いたのか?」

 

「………キッドも聞いていたのは間違いない」

 

答えながらもキラーの頭は必死に思考を巡らせていた。

 

あの音貝(トーンダイヤル)の内容をトラファルガーは知っているのか?

聞いた“だけ”か?と問うてくるのは、貝に彫られていた文字(・・・・・・・・)を知っているからなのか?

あの暗号をトラファルガーも読めるのか?

 

全ての可能性は0ではない。

 

だが同時にレオヴァがあの声、内容を部下に聴かせるのかという疑問もある。

あれは確実に、総督補佐官としてではなく。

レオヴァ“個人”としてのメッセージだった。

 

なにより、ただのメッセージや伝言。

最終通達ならばわざわざ貝に声を納めずとも、部下の口から伝えさせれば良い。

それをしなかったのは、聴かせたくないからではないのか?

そうキラーは考えていた。

 

だとするならば、トラファルガーがカマをかけてきている可能性も高い。

 

どの問いにどこまで正直に答えるべきなのか。

それをキラーは計りかねていた。

 

 

「…で、もう一度聞くが。

音貝での伝言は全て(・・)把握してはいるんだな?」

 

キラーは口が渇く中覚悟を決め、問いへの答えを述べた。

 

 

 





ー補足ー

ルフィ:サボの名前をまだ聞いていない。
初対面の時にロビンの友だちだと自己紹介されている。

サボ:記憶が戻っていない(エース存命の為)

ササキ:百獣幹部メンバーの中ではクザンへの偏見が少ない方
その為、レオヴァに今回の作戦に選ばれていた。

キラー:色んな意味で大変な人。
同盟側の“地図”奪取成功か否かは全て彼にかかっている。

ナミ:腕が不味いことに。
今ならまだ治せるかもしれない…?

南西側→争い勃発中
北東側→国民達が避難している場所

・眠っているor石になっている為行動不能な同盟メンバー
チョッパー、フランキー、サンジ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歩みを止めるな

 

 

キラーはキッドの下へと走っていた。

背後からトラファルガー・ローの追ってくる気配を感じながら。

 

愛用しているパニッシャーを駆使して城内を破壊し、文字通り道を“斬り開く”。

 

 

「……っ…この音は!?」

 

走り続けていたキラーの耳に何か巨大な物が降って来た様な音が届く。

嫌な予感は強くなるばかりだ。

 

全力で前へ進むキラーはついに、城から脱出した。

 

目の前には荒れ果てた国の姿が広がっているが構ってなどいられない。

今、自分がすべきなのはキッドに目的を終えた事を知らせることなのだ。

 

まだ遠い場所で派手な戦闘を繰り広げている相棒の姿を確認してキラーが体の向きを変えた時だった。

 

 

「此処にいたのか!!

鳳凰レオヴァから受けた恩を仇で返す恩知らずがァ!!!」

 

怒号と共に巨大な拳が振り下ろされる。

それをギリギリで避けたキラーは知った顔に目を丸くした。

 

 

「……ハイルディン…!?」

 

「キラー、お前らは総督と鳳凰レオヴァの優しさが何故分からねェ!!

あんなに楽しくやってたってのに!!

それを……受けた恩義を…忘れたってのか!?」

 

怒りと悲しさが混ざったような顔で再び拳を振り上げる巨人、ハイルディンを見てキラーは仮面の下の表情を変化させた。

だが、キラーの冷静な部分は先ほどの大きな音がハイルディンが空船から降りてきた音だろうと考察する。

 

 

この空船とは百獣海賊団が所有する船の一種である。

機動力、スピード共に海を進む船とは比べ物にならぬ程優秀な船なのだ。

 

百獣海賊団が恐れられる理由はその強大な戦力にあるが、その戦力を世界中の何処にでも素早く向ける事が出来るのはこの空船あってこそなのである。

 

その事実を良く知っているキラーは冷や汗を流す。

 

トラファルガー・ロー、ハイルディン。

この二人は送られてきた増援なのは確実だ。

 

そうなれば更なる増援が来る可能性も0ではない。

いや、寧ろレオヴァならばやるだろう(・・・ ・・・・・・・・・・)

 

一度増援を送り、わざと時間をずらして第二陣の増援を送る事で不意を突き背中を取る…という手法を駆使する彼の姿を散々見てきたではないか。

 

キラーは先ほどの、目的を果たして即時撤退を選んだ自分の行動がやはり間違いではなかったと強く感じ、足に力を込める。

 

そして、大きく振りかぶっているハイルディンの足下を目にも止まらぬ速さで駆け抜けた。

 

ろくに言葉も交わさず走り出して行ったキラーを見てハイルディンは叫ぶ。

 

 

「何故だ!!何故なんだキラー!!!

お前らが裏切ったことで、鳳凰レオヴァがどれだけ傷付いたか…分からないような男じゃねェだろう!!!」

 

心の底からの叫びの中、ハイルディンはレオヴァを思い浮かべる。

 

ハイルディンにとって大恩人であるレオヴァ。

 

いつも気高く、だがどこか親しみやすい大切な“友”。

そんな彼が珍しく肩を落としていた姿は心が傷んだ。

 

にも関わらず、自分の問い掛けに答えもしないキラーへの怒りや動揺はハイルディンの中にあった大切な“友”、レオヴァとの記憶(出会い)を呼び起こした。

 

 

 

 

今より約10年ほど前に大きな夢を胸に、巨人族の誇り高き戦士であるハイルディンとその仲間達は広い海へと船を出した。

 

その夢とは、共に育った4人の仲間達と全巨人族を束ね巨兵海賊団を復活させることであった。

 

 

何十年も戦士としての修行をつんで来たハイルディンには確かな自信があった。

必ず夢を叶えてみせるという気概も、十分であった。

 

しかし、彼らは理解していなかった。

この海がどこまでも残酷であることを。

 

 

 

ハイルディンは船長として海賊船を手に入れる為、他の4人の仲間達と別行動をとっていた。

 

そして巨人族が乗っても沈まぬ最高の船を手に入れ、新世界へ戻ろうとシャボンディ諸島を訪れたのが最悪の始まりであった。

 

 

「巨人族…!?ムフフ~!ツイてるえ~!

巨人族は壊れにくい良い奴隷(・・・・)だぇ。

早く捕まえて首輪をつけてお父上様に献上するのだえ~!!」

 

この一言でハイルディンを政府の人間が囲んだ。

 

だが、ハイルディンは長らく修行をつんだ巨人族の戦士である。

その場に居た取り巻きの部下達では捕まえることが叶わなかった。

 

この時、すぐに逃げるという行動に移せばハイルディンは違う未来を歩んでいただろう。

 

しかし、彼はそうしなかった。

誇り高き巨人族を侮辱した天竜人を許せなかったのだ。

 

 

ハイルディンが怒りに染まった表情で天高く拳を振り上げた時だった。

彼の足元が凍りつき、氷柱(つらら)が体を貫いた。

 

血を吐きながら倒れ込むハイルディンを男は更に氷で固めながらゆっくりと天竜人の前へ出た。

 

 

「…天竜人に手ぇ出しちまったか。」

 

憐れみを含んだ声で呟くと男はハイルディンに止めを刺そうと腕を上げたが、それを天竜人が止める。

 

 

「お前、待つえ…!

それは奴隷にするから殺すのは許さないえ!!」

 

「……あ~、そりゃあ気が利かんで申し訳ないですね。」

 

そっと手を下ろしたクザンは拘束されるハイルディンを見て眉間に皺を寄せると、仕事は終わったとばかりに踵を返す。

 

 

「…殺してやるのが、優しさなんだろうけどな……」

 

小さく呟いた声は誰にも拾われることはなかった。

 

 

 

 

それから、クザンに一瞬で倒されたハイルディンが次に目を覚ますと檻の中であった。

 

目の前では巨人族を侮辱したあの天竜人がニタニタと笑みを浮かべている。

 

 

「お父上様に教わった通りに、しっかりと躾るえ!」

 

その天竜人の言葉を皮切りにハイルディンの人生において最悪の日々が始まった。

 

 

食事も睡眠もろくに与えられず、面白半分に拷問され続ける日々だった。

 

しかし、それでも決してハイルディンは折れなかった。

巨人族としての誇りと夢が地獄の日々を生き抜く支えになっていたのだ。

 

どんな責め苦を与えられてもハイルディンは反抗し続けたのだ。

自分はいつか巨人族を束ね巨兵海賊団を復活させる男なのだ、と。

 

 

一方、そんなハイルディンの姿は天竜人を酷くイラつかせた。

 

全て思い通りになることが当たり前で、自分達こそが世界の全てでありルールなのだ。

自分達の思い通りにならない事があってはならない、そんな思考しかない天竜人にとって

普通ならばとっくに心など折れ、服従しているはずの奴隷が未だに歯向かう姿は不愉快でしかなかった。

 

 

そしてどれだけ拷問を繰り返したかも忘れた頃。

天竜人はついに、この奴隷に愛想を尽かし放置することに決めた。

 

日の届かない狭く冷たい牢屋へ奴隷を無理やり押し込めたのだ。

 

 

その後、ハイルディンが牢屋を移動してから天竜人が現れることはなかった。

 

ハイルディンが餓死しそうになるとほんの少しの腐った食べ物を投げ入れてくる世話係と呼ばれる人間が来るくらいである。

 

音もせず、光もなくただ狭い牢屋の中で何もすることも出来ない時間は痛みを伴うどんな拷問よりもハイルディンの心を蝕んでいく。

 

何よりもハイルディンの心を抉ったのは、排泄に行くことを許されぬ事だ。

 

 

「喋る許可ももらってねぇってのに、その上馬鹿なことまで言うんじゃねぇ!

奴隷が使えるトイレなんざあるか、テメェらはペットの獣と同じだ。

したいなら、そこでしな。」

 

それだけ告げると世話係は無慈悲に部屋の外へ出ていった。

 

拘束されているせいで食べる時は手を使えず、排泄もその場ですることを強要される日々。

 

檻の清掃も腐った食べ物を投げ入れに来た時にホースで水を撒き、排水へ流すだけという粗末なものだった。

 

そんな人間以下の扱いを続けられたハイルディンの心は少しずつ砕けていった。

巨人族として、戦士として……人間としての尊厳や誇りを完膚なきまでに潰されたのだ。

 

 

暗い牢屋ではどれだけの時間が過ぎ去ったのか知ることは出来なかったが、永劫に続くと錯覚するような生活に変化が訪れた。

 

ハイルディンの存在を思い出した天竜人が、もう必要ないと奴隷商人に売り渡すことを決めたのだ。

 

 

そうして、ハイルディンは下界へと降ろされた。

けれど彼を待っていたのは変わらぬ現実である。

 

人間ではなく“奴隷”。

その事実はどこであろうと変わらない。

 

背に刻まれた天竜人の焼印はハイルディンから元々の気高さを奪って行った。

 

 

これからもずっと奴隷として生き、夢も希望もなく死んでいくのかもしれない……いや、きっとそうだろう。

ハイルディンがそういう思いを抱え、全てを諦めようかと思っていた時だった。

 

凄まじい爆音と共に奴隷商人の支部が崩れて行ったのだ。

 

崩れ去った天井には夜空が広がり、月や星よりも明るい光が降り注いだ。

 

その光はバチバチと音を立てたかと思うと、奴隷商人達を次々に貫いていく。

 

そして檻の外に誰ひとりとして立っている者が居なくなった時だった。

 

崩れた天井の大きな隙間から翼を持った人間が降りて来たのだ。

 

ハイルディンはこの世の生き物とは思えぬほど美しい翼を広げキラキラと輝く人を、ただ呆然と見つめていた。

 

 

「そ、そんな……まさか…レ、レオヴァ様…?」

 

希望にすがるように呟かれた誰かの声が、夢か分からなくなっていたハイルディンの意識を呼び戻した。

 

誰かの呟きに続くようにハイルディンの側の檻から声が上がった。

 

 

「「「レオヴァ様っ…!!」」」

 

掠れたその呼び掛けに答えるように男は翼を光らせながら、檻に歩みよって行く。

 

 

「…酷い環境だ……

皆、遅くなってすまない、迎えに来た。

おれと共にワノ国へ帰ろう。」

 

レオヴァと呼ばれた男がそう言って鉄柵を壊すと、檻にいた者達は安心したのか号泣し始めた。

 

もう助からないと絶望していたのだと、すがり泣きながら訴える者達を翼の男は優しく受け止めた。

 

 

「もう大丈夫だ、おれが来た。

金輪際、オロチに人身売買なんていう馬鹿な真似はさせねぇと誓う!!

……今、おれやヒョウ爺はこんな事が二度と起きないように“ある事”を進めてる。

これ以上、オロチの暴虐に黙っているつもりはない。

おれと共に来てくれるか…?」

 

力強いレオヴァの声に泣いている者達は何度も頷いている。

 

 

「「「当たり前ですッ…レオヴァ様と共に参ります!!」」」

 

「皆……ありがとう。

だが、まずはゆっくり休んでくれ。」

 

そう言ってレオヴァが合図を出すと次々に部下と思われる者達が現れ、奴隷になっている者達の手枷や首輪を取り、外へと連れ出している。

 

 

「ドレーク、このまま皆を船に。

…絶対に誰一人としてこれ以上傷付けさせるな。」

 

「了解だ、レオヴァさん。」

 

ドレークと呼ばれた男はすぐに周りに指示を出すと、口を開いた。

 

 

「ところでレオヴァさんこの場所は…」

 

「無論、破壊する。

こんな場所を残す理由もねぇだろう。」

 

翼の男がキッパリと言い放つと眼帯の男は頷き、仕事に戻っていった。

 

 

その光景をいまだ、ぼんやりと眺めていたハイルディンの前に翼の男がやってくる。

彼は檻を壊し、身体中に巻き付けられていた鎖と首輪を外すとこちらを見上げ口を開いた。

 

 

「鎖は外した。

あとは好きにすれば良い。」

 

そう言って出ていこうとする翼の男の背にポツリとハイルディンは溢した。

 

 

「……(これ)が取れても、おれには何も出来やしねェ…」

 

掠れた声で溢された言葉にレオヴァが振り返る。

 

枷を外されても尚、立ち上がらずに項垂れているハイルディンの下に戻ってきた翼の男は顔を覗き込むと目を合わせてくる。

 

 

「おれはレオヴァ。

…お前、名前はなんて言うんだ?」

 

「今のおれに……名乗れるような名はねぇ…」

 

すっと目を反らしたハイルディンにレオヴァは柔らかい声色で話しかける。

 

 

「そうか、なら好きに呼ばせてもらうが……大太郎坊(だいだらぼう)なんてのはどうだ?」

 

「だいだら…?

……まぁ、勝手にすればいい。」

 

「じゃあ、大太郎坊(だいだらぼう)と呼ばせてもらう。

…で、行くところはあるのか?」

 

レオヴァの問いにハイルディンは沈黙した。

 

行くところはある。

だが、今の自分が行くべきではないと思っていた。

敗北し前に進めぬ心はハイルディンの自信を消し去ってしまっていたのだ。

 

 

「行こうと思っていた場所はあった……

だが、もうおれは行くに相応しくなくなった…」

 

「なら、暫くおれと来い。

ここに留まっていられると、この場所を壊せないんだ。」

 

「………分かった。」

 

 

そうしてハイルディンはレオヴァと共に暗い檻の外へと一歩を踏み出した。

 

外に出て見上げた満天の星空は何よりも美しく、ハイルディンの頬に一筋の涙が伝った。

 

 

 

 

 

檻から出て数年が経った。

痩せ細っていた体は健康状態を取り戻し、ハイルディンの精神面も少しずつ回復していた。

 

この頃には実力を取り戻そうと修行も始めており、檻に閉じ込められていた時とは別人のようであった。

 

 

しかし、やはりハイルディンは苦しんでいた。

檻から出られても、あの悪夢の日々が完全に消えるワケではないのだ。

 

夢に見る記憶に魘されることも少なくはない。

 

なにより背に刻まれた“奴隷の焼印”がハイルディンが誇り高き戦士に戻ることを邪魔していた。

 

この焼印の存在は、いつまでもハイルディンが奴隷であると示し続けている。

 

何をしていようともこの非情な現実はハイルディンから安息を奪い去り、苦しみを与え続けた。

 

 

だが、そんなハイルディンでも全てを忘れられる瞬間があった。

 

それはレオヴァとの組手だった。

 

レオヴァはいつだって真剣にハイルディンの相手をしていた。

もちろん、それは組手でも変わらなかった。

 

容赦のない怒涛の攻撃に、隙のない立ち回り。

そんなレオヴァから一本取るべく死に物狂いで奮闘している間だけは、自分が誇り高き戦士に戻れている気がしたのだ。

 

それに組手中はレオヴァの猛攻を防ぐのに必死で、無駄な雑念は勝手に消えてくれる。

 

レオヴァとの激しい戦闘だけがハイルディンの心にある暗闇を忘れさせてくれるのだ。

 

 

 

そして、あの日もそうだった。

 

いつものようにハイルディンはレオヴァから一本も取れず、疲れきって芝に倒れ込んでいた。

 

 

「大太郎坊、前よりも拳のキレが良くなって来たな。

今回も楽しい組手だった。」

 

そう言ってハイルディンの側に腰掛けたレオヴァのほうへ顔を向ける。

 

 

「ハァ…ハァ……鳳皇レオヴァ、お前は相変わらず…余裕、そうだな…」

 

「おれは百獣海賊団の幹部なんだ。

腕が衰えては部下達に示しがつかねぇだろう?」

 

そう言って笑うレオヴァとの時間は穏やかであった。

 

レオヴァの方を向いていた顔を動かし、ハイルディンはそっと天を仰ぎ見た。

空はどこまでも青く澄んでいる。

 

お互いに沈黙を続けていたが、先にレオヴァが口を開いた。

 

 

「大太郎坊…急にこんな事を言って困惑させると思うんだが……この薬を飲んでくれないか?

……おれのことを信じて欲しい、害はないと誓う。」

 

突拍子もないことを真面目な声色で言われ、ハイルディンはレオヴァを見つめた。

 

レオヴァの瞳は出会った時とかわらず、どこまでも真っ直ぐにハイルディンを見つめている。

 

小さく笑うとハイルディンは上半身を起こし、口を開いた。

 

 

「もちろんだ、理由は知らないが……おれはお前になら殺されても文句はない。」

 

微笑んだレオヴァから薬を受けとるとハイルディンは一気に飲みほした。

 

急に襲ってきた眠気にまたハイルディンが芝に横になるとレオヴァの声がうっすらと聞こえる。

 

 

「信じてくれてありがとう。

……その気持ちを無下にはしないと、おれの名に誓おう。」

 

その声を最後にハイルディンの意識は遠のいていった。

 

 

 

そして、次に目を覚ましてハイルディンは初めて声を上げて泣いた。

 

それは嬉しさからであり、安堵に近い感情であった。

 

ずっとハイルディンを苦しめていた背中の烙印が跡形もなく消えていたのだ。

 

夢ではないかと幾度となく確認した。

だが何回確認しても、あの忌々しい焼印はどこにもない。

 

 

「ッ……グズッ…う、ウオオオオ~~!!

おれは、おれ"は……や"っと人に戻れ"た"のかッ!!」

 

ハイルディンの今まで抑えていた気持ちが洪水のように溢れだした。

 

 

「檻を出てもッ……枷が取れても…お"れは"奴隷だった!

あの、あの忌まわしい焼印があるかぎりッ…!!!

おれ"は人間には戻れ"ねぇとっ…そう"思って"!!」

 

その場に泣き崩れているハイルディンの言葉をレオヴァは何も言わずに受け止める。

 

止めどなく溢れる想いをハイルディンは側で背をさすってくれるレオヴァへぶつけた。

 

今までハイルディンはこの気持ちを抑えていた。

誰かに吐き出しては、本当にもう自分は立ち上がれなくなるのではないかと思っていたからだ。

 

 

しかし、違ったのだ。

溢れる想いを全て吐き出したハイルディンの心は軽くなっていた。

 

背中にあった重荷はもうない。

まだあの日々の記憶という忌々しいモノはあるが、ハイルディンは気高さを取り戻したのだ。

 

巨人族として、戦士として。

もう2度と折れない。

 

そう心でハイルディンは誓うと、涙を拭いた。

そしてレオヴァに向き直ると、膝を突く。

 

 

「おれの……おれの名はハイルディン!

鳳凰レオヴァ、この恩は絶対に忘れねェ…!!

おれの命を救い…そしておれに誇りを取り戻してくれた、人間に戻してくれた恩は一生をかけて返すと誓う!!!」

 

力強い声でハイルディンは誓いを立てた。

目の前のレオヴァはそれに答えるように笑う。

 

 

「やっとお前の名前が聞けたな、ハイルディン…良い名だ。

なら、おれもひとつ誓おう。

ハイルディンが龍を仰ぐ限り、必ず味方であり続けると。」

 

 

レオヴァの言葉を聞くとハイルディンはまた瞳に雫を溜めながら、豪快に笑いだした。

 

「ッ……ディガガガガガ!!

あぁ!本当に、本当にデカイ男だ…!!鳳凰レオヴァ…!

……聞いてくれ。

実は、おれには“夢”がある!!」

 

そう言って語りだしたハイルディンの話をレオヴァは楽しそうに聞き続けた。

 

 

この日から、ハイルディンは己を完全にとり戻した。

 

そして、また海へ出て4人の仲間達と共に新巨兵海賊団を結成し、ワノ国にて正式に百獣海賊団の傘下に入ったのだった。

 

 

ハイルディンにとってカイドウは理想の“王”の姿であり

レオヴァは大恩人であると同時にかけがえのない“友”であった。

 

そんな二人が君臨する百獣海賊団の傘下に入ることは、ハイルディンのやる気を更に向上させた。

 

 

いつの日か全ての巨人族を束ね、あの巨兵海賊団に引けをとらぬ偉大な海賊になり百獣海賊団へ…レオヴァへ恩返しをし、友として恥ずかしくない男になる。

とハイルディンは心に決めていた。

 

 

夢を語ったあの時、馬鹿にすることなく

『ハイルディン、お前なら必ずやり遂げられる。』

と暖かい言葉をくれたレオヴァを思い出し、ハイルディンは進んだ。

 

 

「見ていてくれ鳳凰レオヴァ…!!

おれは必ず夢を果たし、あの恩を返すぞ!

友と呼んでくれたことは後悔させはしねェ!!」

 

生き生きと進むハイルディンの目に、もう曇りなどない。

 

 

 

 

 

 

懐かしい記憶がフラッシュバックしていたハイルディンは意識を現在へと戻す。

 

数百mほど先にはキラーの背がみえている。

確実に捕え、レオヴァに謝らせねばなるまい。

 

 

「待て、キラー!!!」

 

ドスン!と大きな音を立てながらハイルディンも走り出すのだった。

 

 

 




ー補足ー

・レオヴァがハイルディンのいた奴隷ショップに来た理由
オロチ討伐前に売りさばかれたワノ国の人間を回収しに来ていた。
大衆を味方につける為とワノ国の外が如何に惨い世界なのかを売られた人間達に広めさせる為に助けた。
(国獲り編で少し出ていたレオヴァが売られた国民を助けたという話はこれ)

・ハイルディン
既に百獣海賊団の傘下であるがまだ名はそこまで売れていない(数年間インペルダウンに居た為)
巨人族とワノ国(レオヴァ)を繋げる橋渡り的な存在。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王国からの脱出

 

ササキとクザン、キッドとシキ。

4人の大規模な衝突の場に突然男が降って来た。

凄い音と共に地面と激しくぶつかり合った男はふらつきながらも立ち上がる。

 

 

「キラー!?」

 

その姿を見て反射的に声を上げたのはキッドだった。

 

相棒がかなり体力を削られている姿に、誰がやったのだと怒りを露に飛び出すが静止の声が響く。

 

 

「止せ、キッド!!

目的の物は手に入れた(・・・・・・・・・・)、もうこの場所に留まる理由はない。

すぐにでも次の目的地へ急ぐぞ!!」

 

キッドを引き留めたキラーがシキへ目線を移す。

 

するとシキもその意見に賛同したのか文句を口にすることなく踵を返した。

だが、逃げの姿勢に変わった相手をただ見送るなどササキとクザンがする筈もない。

 

 

「逃がすと思ってんのかァ!?特にキッドとキラー!!

テメェらはレオヴァさんに土下座しに帰るんだよ!!!」

 

「逃げられちゃおれも立場ねェからな~…」

 

攻める姿勢を緩めるどころか勢いが増す2人を後目にキッド達は船へ急ぐ。

 

 

「おい、船は問題ねェんだろうなァ!?」

 

「当たり前だ。

しっかりおれの能力で浮かして隠してあるからなァ、異常があればすぐに分かる。」

 

「急ぐそ、キッド!

トラファルガーも来ている……更なる増援の可能性は高い!!」

 

「…トラファルガーだと?」

 

ピクリ…と眉間に血管を浮き上がらせたキッドが走る足を緩める。

不味い!とキラーが急かす言葉を発するよりも先に、今出会いたくない男の声が背後から聞こえてしまった。

 

 

「……お前はいつも逃げてばかりだな、ユースタス屋」

 

「…ンだとォ?トラファルガー!!」

 

振り向くと同時に腕の周りを固めていた鉄クズの塊を勢いのままに弾き出す。

しかし、それはあっさりと一刀両断され、ローに当たる事なく地面の上を音を立てながら転がって行った。

 

 

「啖呵切った割に…弱くなったんじゃねェか?

未だに屑鉄飛ばすしか脳がねェなんて……期待はずれだ、ユースタス屋。」

 

「野郎ォ…!!」

 

「キッド!待て、もう時間はないんだぞ!!」

 

「先に行ってろ!!

おれはこのスカシ野郎をぶっ潰してから行く!」

 

「相変わらず扱いやすくて何よりだ」

 

嘲るような顔で笑うローにキッドは更に青筋を浮かべるが、その後ろでキラーは止められないことを悟った。

 

昔から頑固なキッドの良い所でもあり悪い所でもあるその“(さが)”を前に、キラーが考えを巡らせていると追い付いて来たササキの斬撃が襲い来る。

 

 

「っ……もう追い付かれたか!」

 

「当たり前だろ!!

鈍ってるテメェらと違って、こちとらカイドウさんとレオヴァさんとの地獄(組手)を定期的にやってんだぞ!?」

 

キラーは重い一撃を何とか受け止め、距離を取り考える。

どうすれば素早くかつ、確実にこの場を脱出できるのか…と。

 

少し離れた場所では麦わらも交戦しており、その一味も国の何処かにバラけている状態である。

別行動での利点を優先した結果、そのマイナス面にキラーは悩まされていた。

 

だが、ゆっくり思考を巡らせている暇はない。

ササキはこちらに余裕など与えるつもりはないと、螺旋刀を力強く使いこなし迫って来ている。

 

 

キッドは動かず、撤収するには同盟メンバーが散り散りになりすぎているこの状況。

即時撤退は不可能かとキラーが唇を噛んだ瞬間だった。

何かに引っ張られるように宙へ体が浮かぶ。

 

 

「うお!?ンだこれ!?」

 

相棒の驚いたような声に隣を見ると自分と同じように凄い勢いで宙を後ろ向きで進んでいた。

 

一体これは!?と混乱を隠せないキラーの頭上から声が降ってくる。

 

 

「ジハハハハハ!!

目的を果たしたならこんな荒れ地に用はねェ!

置き土産だ、しっかり味わえよォ!?」

 

シキの勝ち誇ったような声と共にドレスローザの地面が激しく揺れる。

 

 

「獅子威し“地巻き”!!!」

 

地面が山のように大きな獅子の形に変化しながら目下にいるササキ達や離れた場所で戦闘を繰り広げていたドフラミンゴ達へと襲いかかった。

 

鼓膜が破れるような轟音とまるで砂嵐のような土煙が辺りを包む。

 

キッドは上空まで舞い上がって来ていた土煙でむせており、キラーはシキの大技に僅かに目を見開いたまま更に上空へと引き上げられていく。

そして、大きな島船まで辿り着くと同時に引っ張られていた感覚が途切れ、甲板へと落とされた。

 

 

「うぉ…!?」

 

「あら……戻って来れたみたい」

 

「うぐぐ……き、傷に響く…」

 

「ヨホホホホ~!

良かった!皆さん無事だったんですね!!」

 

キラーとキッドの側に落とされた麦わらの一味は各々の無事を確認して胸を撫で下ろしていた。

 

 

「いつまで呑気に喋ってやがる!!

さっさと此処から離れるぞ」

 

「ま、待ってくれよ!サニー号は…」

 

ウソップが声を上げるとシキはクイッと顎で共に浮いているサニー号を指した。

 

大切な仲間と船の存在を確認すると、良かったとウソップは力なくその場へ倒れ込む。

そんな会話の中でもシキは能力をフル活用して、島船をドレスローザから遠ざけて行った。

 

 

「それにしても急に地面が浮いてビックリしましたよ!

危うく錦えもんさんを置き去りにしてしまう所でした」

 

「うむ、あの時咄嗟にブルック殿の足に掴まれたのは幸運でござった!」

 

「誰だ?このおっさん?」

 

見覚えのない錦えもんという男にルフィは首を傾げていたが、キラーがハッとしたようにシキの方へ顔を向けた。

 

 

「麦わら達は地面ごと浮いていたが……何故、おれ達は浮いたんだ?

聞いていた話では“生物”は浮かせられないと…」

 

嘘を吐いていたのか、と少し不満が混じった声色にシキは笑う。

 

 

「おいおい…まさか手の内全部喋れってのか?

そっちだって全部おれに話したワケじゃねェだろう?」

 

「………それはそうだな」

 

諦めたように顔を背けたキラーとシキの間に暫しの沈黙が流れる。

 

気まずいような少し重い沈黙に麦わらの一味がソワソワした目線を送るとシキが溜め息を吐いた。

 

 

「はぁ……テメェらに渡してた道具だよ!!」

 

「…道具?

この腰につけるポーチやショルダーバッグの事か?

これは相手への通信妨害ともしもの時の合流用の道具が入っているだけだったが……」

 

「それを渡してたのはおれだぞ。

……ってことはだ!

最初におれが触れてる事になるだろうがよ」

 

此処まで言えば分かるだろうとそっぽを向いて黙ったシキの背中をキラーは数秒見て、納得したと声を漏らした。

 

 

「……なるほど

それで全員に支給すると言って自ら配っていたのか」

 

何が何だか分からないと首を傾げているルフィとは別にロビンやブルックはそういう仕組みだったのかと感心したように頷いていた。

 

 

こうしてシキやキッドにキラー、麦わらの一味を乗せた島船はドレスローザから姿を消したのであった。

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

「っちくしょう!!逃げられちまった!!!」

 

「いや~~まさかあんな大技使えるくらい余裕あるとか思わないでしょ。」

 

「……最悪だ。」

 

「すまねェ、あの出会い頭でおれがキラーを捕まえておけば!!」

 

砂まみれになりながらササキ、クザン、ロー、ハイルディンは各々の思いを口にした。

 

参ったな~と頭をかくクザンの横ではササキとハイルディンが二人揃って項垂れている。

 

 

「…あー……まぁ、今から追いかけても無理っぽいし

おれはドレスローザの人が無事か確認行ってくるわ」

 

踵を返したクザンの声に反応するようにササキが立ち上がる。

 

 

「…落ち込んでてもこの失態はなくならねェしな!

よし、おれも手伝うぜクザン。瓦礫処理とかあるだろ?」

 

「お、それは助かるわ。」

 

気持ちを切り替えたササキはクザンの隣に並ぶと国民が避難していた筈の場所へ向かおうと一歩踏み出した……が、ローが声をかける。

 

 

「おい、待て。

………この情けねェ結果をレオヴァさんに報告するのが先だろ。」

 

ローの言葉にササキ、クザン、ハイルディンの肩がビクッと揺れる。

 

 

「……ま、おれは新顔だし報告は古参に任せるわ」

 

「クザン、お前その逃げは狡いだろ!?」

 

「2年目の癖に新人気取りか?」

 

躱そうとするクザンにササキとローが非難の声を上げると、項垂れていたハイルディンが勢いよく顔を上げた。

 

 

「ならば、おれが鳳凰レオヴァへ報告を!!」

 

「いや、お前は今回の作戦の概要しらないだろ…」

 

ローの突っ込みにそうだったと頭を抱えるハイルディンだが、彼は元々今回の作戦には選ばれていなかった。

にも関わらず、あの反旗を翻したキッドとキラーがいると聞き休日を返上して駆け付けたのである。

 

そんなハイルディンが連絡をしては何故いるのか?と混乱させるだけだとローは電伝虫を取り出す。

ここで、やいのやいのと騒いでいて連絡が遅れてはそれこそ問題だと判断したのだろう。

 

しかし、ローが受話器を取る直前にプルルルルルと音が響く。

 

その音の先を辿るようにローとササキ、ハイルディンはクザンを見た。

 

 

「あ~~…これ、おれの電伝虫?」

 

「確実にそうだろ!?早く出ろよ!」

 

ササキが急かすとクザンは苦い顔をしつつ、受話器を取った。

 

 

「……おれだ、今話せそうか?」

 

受話器から聞こえる聞き慣れてしまった穏やかな声にクザンはやっぱりレオヴァかと頭を抱えたくなる気持ちを押さえて言葉を返す。

 

 

「話せるが……その前に報告しなきゃならない事が…」

 

「悪い報告か?」

 

「……まぁ、そうだな。」

 

言いづらそうなクザンの声を聞いても電伝虫は表情を変えない。

 

クザンはどんな罰が下されるのかと内心で僅かに焦りながらも、包み隠さず報告するのだった。

 

 

 

あれから10分程かけて報告を終えたクザンにレオヴァは電伝虫越しに新しい命を下していた。

 

 

「聞いた感じではドレスローザはほぼ全壊か…

逃げられたものは仕方がない、クザンは気持ちを切り替えて百獣国際連盟の顔として民衆の保護に全力を注いでくれ。

ササキとローは空船で即刻、予定の場所へ向かうように。

……休みであるにも関わらず任務に飛び入り参加したハイルディンだが…」

 

「すまない!!鳳凰レオヴァ!!

勝手な真似をした挙げ句……結果も残せず…!」

 

クザンの手元に向かって頭を下げるハイルディンの音圧に周りの皆が耳を痛めている中、レオヴァの言葉が続く。

 

 

「休日にしっかり休まず任務に就いたことは褒められる行いではない。」

 

厳格なレオヴァの声にハイルディンの背がピシッと伸びる。

その後ろでは、それはレオヴァさんもでは?と内心突っ込んでいるローとササキがいたが声に出すような真似はしない。

 

 

「だが、百獣やおれの為を思って駆け付けてくれたというのは分かっている。

……ありがとう、そのハイルディンの優しさや義理固い所をおれは心から信頼しているんだ。」

 

「っ…鳳凰レオヴァ!」

 

「よって、今回はそのままクザンと共にドレスローザの復興の手伝いを頼みたい。

勿論、休みはまた新たに取って貰うが…」

 

優しい声色に戻ったレオヴァの言葉にハイルディンは強く頷き返す。

 

こうして新たな指示を出し終えるとレオヴァは一度通信を終えた。

 

ササキとローは指示通り空船で移動を始め、クザンは今度こそ民衆の下へとハイルディンと共に歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

その後、クザンとハイルディンが民衆の無事を確認し瓦礫の撤去や家を失くした人々が寝泊まり出来るテントの設置を進めている中 、ドフラミンゴは打ち倒された幹部を百獣国際連盟の救護班達に任せ、クザンの電伝虫でレオヴァと会話をしていた。

 

 

「……なるほど、シュガーまでやられたのか。」

 

「あぁ、せっかく集めた奴隷も瓦礫の下敷きになって死んだか逃げ出したかで半分以上がパァだ。」

 

心底忌々しいというような声を出すドフラミンゴにレオヴァは冷静に返す。

 

 

「だが、不幸中の幸い……海賊や罪人だけ(・・)をオモチャにしていたおかげで国民からの非難は出ていないだろう?

建て直しにおれも協力すれば国としては早めに復帰出来る筈だ。」

 

レオヴァの言葉に頷きながらドフラミンゴは過去の提案を思い出していた。

 

それはレオヴァにシュガーの能力の事が露見した時の事だ。

正直、切り札と言ってもいい程に重要な彼女の能力が腹の中が読めないレオヴァにバレたのは痛手であった。

 

けれど、そのおかげでレオヴァから

『何かあった時の事を考えて国民を使うのは止めた方が良いんじゃないか?

万が一にでもシュガーが気絶すれば築き上げて来た信頼が消える事になる。

それならば犯罪者を使えば不利益にはならないし、ドフラミンゴの七武海という立場を使えば海賊はいくらでも手に入る。

もし、消したい国民がいるのなら後から発覚する恐れがある方法ではなく…“事故”に遭ってもらえば良いだろう?』

という提案を受けられたのだ。

 

この言葉を聞いた時は万が一などあり得ないとドフラミンゴは思っていたが、普段あまりこちらのやり方に口を出さないレオヴァにしては珍しく押して来たのだ。

数日考えた結果、一理あるとしてこの方針を採用したのである。

 

同時に、あの一部では聖人だと有名なレオヴァが人道に反するような事を否定して来なかったのは意外だと感じていた。

だが、今の約10年ほど関係を続けて来たドフラミンゴなら、レオヴァらしい提案だと笑うだろう。

 

 

結果、現在シュガーが倒れたドレスローザ王国に国民からの非難はほぼ出ていない。

寧ろファミリー共々身を挺するだけでなく、百獣国際連盟の助けを呼んでまで国を守ってくれた王として以前より支持が上がっていた。

 

ドフラミンゴは土壇場で効力を発揮したレオヴァ考案の方針に口には出さないが感心していたのだ。

だからこそ、またレオヴァに連絡を取っていた。

 

 

「…今回、百獣国際連盟を呼んだ事はすぐに海軍共にバレるだろう。

おれは何を言われようが揉み消すつもりだが、もし奴らが納得しなかった場合は………お前の提案に乗るつもりだ。」

 

「そうか。

おれとしては是非ドフラミンゴに協力して欲しいが……政府の馬鹿共を無事黙らせられる事を祈ってるよ。」

 

「フフフフフフ…!

あぁ、おれも別に出来ないとは思ってねェからな。

もしもの話さ…」

 

ドフラミンゴはレオヴァと話した事で怒りに染まっていた頭がクリアになったことに笑いながら、どう動くべきかの指標を固めたのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

混乱に乗じてドレスローザを離脱したルフィ達は消耗したシキや自分の仲間達の為、一時休憩出来る場所へと向かっていた。

 

その場所は磁場がない為にログポースでは辿り着くことが出来ないという、身を潜めるにはピッタリの場所らしいのだ。

 

その場所の名は“ゾウ”。

提案者である錦えもんとカン十郎によると彼らの持っているビブルカードがあれば行く事が可能だと言う。

 

と、なれば。逆に考えればビブルカードがない限り辿り着く事はほぼ不可能。

追手から一時的に身を隠すにはうってつけと言うわけである。

 

そんなゾウへ向かうルフィ達だったが、彼らの表情は暗い。

 

それは船で待機していたナミの腕が悲惨な状況になっている事が理由であった。

石になっていた筈の腕の表面がまるで濡れた粘土のようにドロッとしており、医者ですらない彼らには手の打ちようがなかった。

 

何とか薬の入っている箱を持ち帰りはしたが、数が多すぎる為どれがどの薬なのか見当もつかない。

 

チョッパーが目覚めてくれれば…そう唇を噛む事しか出来ない彼らの背に声がかかる。

 

 

「薬は手に入れたのか?」

 

声に反応して振り返ったウソップの目には水がたまっており今にも泣きそうな顔だった為、キラーはマスクの下の目をかすかに見開いた。

 

 

「……手に入れられなかったのか…」

 

残念だな…と暗い声を出すキラーにウソップの隣にいたブルックが首をふった。

 

 

「いえ…薬は持ち帰れたんです!

……ただ…」

 

骨の顔に哀愁を漂わせる彼の隣に膝を下ろすとキラーはどうしたのか?と言葉の先を促した。

 

 

「……数が多すぎるんです…

チョッパーさんがいない今、私達にはどれが正しいのか…」

 

仲間を治せない事に悔しさを滲ませるブルックの気持ちが分かってしまうのか、キラーは少し沈黙した後。

薬を見せてくれと、声をかけた。

 

 

「か、構いませんが……」

 

意外なキラーの対応に僅に驚きつつも、ブルックは薬が沢山入っている2つの箱を渡した。

 

暫くその箱の中にある小瓶を手にとっては眺め戻しては次の小瓶を、とやっていたキラーが錠剤が入った瓶を手に持って口を開いた。

 

 

「…この薬を飲ませればお前達の船医は起きる筈だ。」

 

「「え!?」」

 

「すげェな、分かるのか!?」

 

「あなた、船医だったの…?」

 

麦わらの一味から一身に注目を浴びながら、キラーは仮面の中で少し視線を泳がせた後、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「……この薬品はおそらく百獣製だ」

 

「百獣の薬…?」

 

かすかに不安そうな顔になったウソップを視界にいれながらもキラーは続ける。

 

 

「そうだ。

と言っても、これは協力関係にある相手にもしもの事があった時に使うように配られている物だから危険性はない。

本来なら取り扱い説明書や薬品一覧の紙が入っている筈なんだが…幾つかない薬もあるから、おそらくドンキホーテファミリーが別の場所へ移したんだろう。」

 

すらすらと説明をするキラーに感心したように声をあげるウソップ達とは別にゾロやロビン、ブルックは物言いたげな顔になる。

 

 

「とても詳しい説明だったけれど……何故、そんなに詳しいの?」

 

「えぇ、それにその薬品一覧の紙もないのにどうやってそれがチョッパーさんに効く薬だと判断されたのかも気になります。」

 

「お前ら、前から思ってたが随分と百獣に詳しすぎやしねェか?」

 

ロビン、ブルック、ゾロが続けて言葉を発すると確かにそうだとウソップがキラーを見る。

 

何故だと訴える目線にキラーは小さく溜め息を吐くと口を開いた。

 

 

「……おれはレオヴァを…百獣を知っている。

説明書がなくとも、この瓶に貼ってあるラベルの文字を見ればある程度は判別出来るんだ。」

 

「ラベル……確かに何か書いてあるな。」

 

「待って、百獣を知っているとはどういう意味(・・・・・・)かしら?」

 

瓶を手に取ってまじまじと見つけるゾロの側にいたロビンはキラーへ質問を続ける。

 

その質問に答えるべきか…と悩んでいると背後から肩を掴まれた。

 

驚いて上を見上げるとしゃがんでいたキラーをいつの間にかやって来ていたキッドが見下ろしていた。

 

 

「何やってンだよ、キラー。

作戦会議だから来いって言った癖に待たせてんじゃねェよ。

お前が遅刻するなんてあり得ねェってヒートとワイヤーが騒いじまってゆっくり飯も食えねェ。」

 

不機嫌そうに口をへの字にしているキッドにそうだったと、キラーは申し訳なさそうな声で謝った。

 

するとそれ以上文句を言うことなく、キッドはキラーの肩から手を離す。

 

 

「行くぞ、キラー。

馴れ合ってもしょうがねェだろ。」 

 

背を向けたキッドを追うように立とうとしたキラーにゾロが待ったをかける。

 

 

「おい、まだロビンの問い掛けに答えてねェだろ。」

 

ゾロの強めの呼び掛けにキッドが不快そうな顔で振り返る。

 

 

「あ"ぁ"?ロロノア、てめぇキラーになんのつもりだァ?」

 

ギロリと睨んでくるキッドに一切怯む素振りもなく、ゾロが立ち上がろうとした時、ロビンがまた口を開いた。

 

 

「呼び止めてしまってごめんない。

ただ、キラーが百雷のレオヴァと、百獣を知っていると言ったからどういう意味なのか聞きたかっただけなの。」

 

“レオヴァ”という名前にピクリと反応すると、キッドはキラーへ目を向けた。

 

 

「……どこまで話した?」

 

「いや、まだ何も…」

 

意味ありげな二人の会話にブルックが目を細める。

中途半端に答えを言わない二人に焦れたゾロがついに立ち上がった時だった。

 

めんどくさそうにぐしゃぐしゃっと頭をかいたキッドは吐き捨てるように言葉を吐き出す。

 

 

「……おれとキラーは少しの間レオヴァの野郎と居た、それだけだ。」

 

「えぇ!?じゃあ、お前ら百獣海賊団なのか!?」

 

驚きで思わず声を漏らしたウソップをキッドは睨み付ける。

 

 

「っざけんな!!!もう違ェ!!

アイツは結局おれとキラーを…!」

 

「キッド!!!」

 

怒りのままに叫ぼうとしていたキッドをキラーが名前を呼んで止める。

 

その相棒の声にハッとしたように言葉を止めるとキッドはぐっと眉間に皺を寄せた。

 

 

「……おれもキラーも今は百獣じゃねェ。

レオヴァはおれが討つ(・・・・・・・・・・)、疑うなら好きにしろ。」

 

普段よりも静かにそう吐き捨てるとキッドは今度こそ自分たちの部屋へと歩き去ってしまった。

 

そんな背中を見つめるキラーの顔は伺い知れないが、雰囲気は明るいものではない。

 

気まずい空気が流れる中、キラーも麦わらの一味に背を向ける。 

 

 

「……キッドの言うように俺達はもう…百獣海賊団じゃない。

その薬について言った事も事実だ。

それを飲ませてお前達の船医が起きて、それでもまだ薬が分からなければ助言はする……必要があれば声をかけろ。」

 

それだけ言うと歩き出してしまったキラーにおい!とゾロ達が声をかけるが、彼が足を止めることはない。

 

一味は渡された小瓶と未だに寝ているチョッパーを交互に見やるのだった。

 

 

 

 




ー補足ー

ササキ:任務を失敗したと落ち込んでいたが切り替えた。クザンともそこそこ仲が良い。

ロー:半分任務は成功しているが、完璧に終えられず申し訳なさを感じている。キラーとの会話は空船に帰還後レオヴァには報告済み。

クザン:任務を失敗したので罰を受けることになると身構えていたが、労られて次の指示が出て終わったので嫌みのひとつも言わないのか、レオヴァは…と驚いた。

ハイルディン:キッドとキラーと面識がある。
レオヴァが落ち込んでいたので2人を連れ戻したかった。義理堅い男なので二人が許せない反面、仲間として見ていただけに悲しさもある。


・キラーの言っていた増援について
レオヴァは今回は増援としてササキとローしか送っていない。
なので、まだ増援がくる!というのはキラーの早とちりだったが、そのおかげで上手く逃げられているので結果オーライ。
基本的に戦略としては戦力を一気に送って叩くのが有効打であり普通だが、百獣は幹部1人(+部下)で軍隊を押さえられる強さがあった為、トドメとしてレオヴァは2人目(+部下)を送るという戦力を使う場合があるだけ(キラーはこの記憶を思い出していた)
今回は大規模な戦闘や相手の実力を考慮して送れる人員を一気に送った為、二陣はない。

・バルトロメオ達
ウソップ達と行動してたことにより地面ごと浮いた為、一緒に脱出に成功。
各々の部下達も記憶が戻り共に行動していたので共に脱出。
サイのジッジであるチンジャオもオモチャにされていたが救出された。
その際にウソップには恩が出来た為ガープの孫にはまだ手を出していないが、危うい所。今は必死に孫達が止めている。

【百獣打倒同盟の戦利品】
・地図(?)←キラーが入手
・色んな薬が入った箱①←錦えもんの案内でブルックが入手
・色んな薬が入った箱②←コアラと共にロビンが入手
・謎の書類←ロビンが入手

・オモチャ
罪人や海賊だけをオモチャにしていたので解放されても国民からの非難はない
国民をオモチャの奴隷に出来なかった分、他国の犯罪者や海賊をオモチャにした(七武海の仕事で賊は集めやすい為)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悲観せず進め

※注意※
今後、赤鞘好きの人には辛いかもです!すみません!!



 

 

人のいない会議室の椅子にキングは腰掛けていた。

周りに騒がしいクイーンや、他の幹部達の姿はない。

 

静かな部屋で手に持っていた書類の最後の1枚を読み終えると、そっと会議室の扉が開いた。

 

 

「すまない…待たせたな、キング。」

 

そう言って申し訳なさそうな顔で部屋に入って来たレオヴァの方へ目線を向けて、キングは仮面の下の眉を僅かに上げる。

 

パッと見ならばレオヴァは普段通りに見えるが、付き合いの長いキングはその違いに気が付いた。

 

 

この雰囲気や歩き方は明らかに苛立って(・・・・)いる。

 

レオヴァよりも先に、予定の空いているキングが部屋に来ているなど当たり前の事なのだ。

平常のレオヴァであれば、謝る真似はしない。

 

『早いな、キング。

では、早速本題に入るか。』

と、効率重視な話題運びをする筈だ。

 

私的な場であればレオヴァとキングは二人で雑談も楽しむが、仕事となると無駄な前置きは省く傾向にある。

 

外面(そとづら)のレオヴァしかしらない者が見れば、要件中心にテキパキ進める姿を冷たく感じるだろうが、キングはそう言うレオヴァだからこそ信頼を置いている。

 

そんなレオヴァがまるで外面の時にするように、遅刻して来た訳でもなく謝罪を述べる時は決まって苛立ちなど、強い感情を抑える為に気を張っている事が多い。

 

と、即座にレオヴァの状況を看破してキングは書類を机の上に置いた。

 

 

「いや、時間通りだ…レオヴァ坊っちゃん。

で、その様子だと青キジの野郎はしくじったのか?」

 

単刀直入なキングの言葉に僅かにピクリとレオヴァの眉が動く。

 

 

「……そんなに顔に出ていたか?」

 

「逆だ、出て無さすぎる。

おれと二人だってのに、そのポーカーフェイスを張り付ける時は決まって機嫌が悪い時だろ。」

 

違うか?と足を組み直すキングに降参だと、レオヴァは張り付けていた微笑みを消す。

 

先ほどとは打って変わって眉間に皺を寄せて愛想のない顔になったレオヴァにキングは小さく笑った。

 

 

「カイドウさんとレオヴァ坊っちゃんは分かりやすい。」

 

「……そう言うのはキングだけだ。」

 

お前には敵わないと溜め息を吐き、レオヴァはキングの正面の椅子にドカりと腰掛けた。

 

そして、手に持っていた書類を机の上に置きキングの方へと滑らせる。

 

 

「半分はお前の予想通りだ。

……まぁ、クザンはしくじっちゃいねェがな。」

 

「言い方に含みがあるな?」

 

キングは一言返し渡された紙を手に取ると、それに目を通す。

 

軽く流し読みして分かったのは、ドレスローザの件は成功とはいかなかったが失敗でもないという、まずまずの結果だと言うことだ。

 

基本的に任務は成功以外ないと考えているキングだが、内容を見るに仕方がない状況だったと言うのは理解できた。

 

だが、ならば何故レオヴァの機嫌が悪いのかが分からない。

 

レオヴァはキングとは違い、幹部や部下達の任務失敗を気に留めるタイプではない。

 

寧ろ、失敗してしまったのなら仕方がない。

次に活かそうと励まし、裏で自らその尻拭いをするような男だ。

 

尚且つ、先ほど“クザンはしくじっていない”と明言している。

と、なれば彼の苛立ちはこの案件ではない可能性もある。

新しい問題でも発生したのだろうか、と書類から目線を上げたキングとレオヴァの目が合った。

 

 

「読んだ感じでは、まずまずの結果だが…」

 

「……あぁ、悪くはねェな。

ローが地図を手に入れているのもデカい。

クザンもそれだけのメンツ相手に良くやってくれた。」

 

部下を労るレオヴァの声色に嘘はない。

キングはすっと目を細めて無言の圧をレオヴァにかけた。

なら何故機嫌が悪いのか、と。

 

暫くキングからの声のない訴えに気付かない振りをしていたレオヴァだったが、相手に折れる気がないと悟ると溜め息を漏らした。

 

 

「…個人的な事で、大した理由じゃねェ。」

 

「なら、話しても問題ないな?」

 

間髪入れずに返されてレオヴァは苦い顔になる。

だが、そんな顔でキングは分かりましたと下がってやる気などなかった。

 

 

レオヴァはこの百獣海賊団で間違いなくなくてはならない潤滑油のような存在なのだ。

 

あらゆる人種や価値観の闇鍋と化した百獣海賊団で内部争いがなく結束力が高いのは、カイドウの“力”とレオヴァの“甘さ”があるからだとキングは考えている。

 

恐怖と暴力だけでは、ここまで組織は大きくならなかった筈だ。

 

元々キングはカイドウと長く共に居た為、恐怖と暴力だけあれば全て解決出来ると考えていたが、そこにレオヴァは新しい選択を持ち込んで来て上手く昇華させてみせた。

 

カイドウが百獣海賊団の心臓なら、レオヴァは血液なのだ。

 

 

そんな重要な存在のレオヴァの精神が不安定になる事をキングは危惧していた。

 

昔からレオヴァはあまり自分から吐き出す事をしない。

だから、キングは敏感に変化を感じとり、無理やりにでも吐き出させていた。

 

その行為は端から見れば強引で無神経に見えるだろうが、レオヴァと言う男には良い手段なのは間違いない。

 

 

この昔から変わらぬキングの接し方に、レオヴァは諦めたように口を開いた。

こうなったキングにはカイドウですら折れるのだから。

 

 

「……本当に下らねェ事だぞ。」

 

「構わねェ。

おれ相手に前置きは必要ねェよ、坊っちゃん。」

 

早く話せと目で語ってくるキングから視線を外し、レオヴァは口を開いた。

 

 

「……おれはまた(・・)選択を誤った。

おれが正しく“理解”出来ていれば、ドレスローザでキッド達は父さんの下に連れ帰れた筈だった(・・・・)んだ。」

 

小さな声で溢された言葉にキングは目を細め、次の言葉を待った。

 

 

「ローがいればキッドは確実に足を止める…そう思っていた。

あとは足を止めたキッドを、ローならば予め渡していた麻酔薬で大人しくさせられる。

キラーもキッドが捕まれば逃げられはしないだろう、それはヒートやワイヤーも同じ。

だが、違った…即時撤退を選択出来るようになっていた……おれは読み誤ったんだ。」

 

大きく溜め息を吐いて口を一直線にキツく結び、手で顔を覆う姿を見てキングがゆっくりと口を開く。

 

 

「そんな事で苛ついてたのか?

レオヴァ坊っちゃんらしくもねェ。

…あぁすれば良かったなんて過ぎた事をいくら考えても、無意味だ……どんなに喚こうが過去は変わらねェ。

そんなモンは弱者と馬鹿の思考だ。

アンタはカイドウさんの息子。

強者でなくちゃならねェ(・・・・・・・・・・・)……分かるよな、レオヴァ坊っちゃんならおれの言いたい事が。」

 

身を乗り出してこちらへ顔を近付けたキングの目を俯いていたレオヴァは顔を上げて視界に捉えた。

 

先ほどまでぐるぐると後悔に苛まれていたのが嘘のように、冷静さが戻ってくるのを感じてレオヴァは自分の間違い(・・・)に気付く。

 

 

「そうだ…過去は二度と変えられねェ……

悪い、キング。本当におれらしくなかった。

……はぁ、父さんの息子として情けねェ。

過ぎたことで“もしも”を語るなんて、非生産的だったな。

今後、どう動くかに脳のリソースを割くべきだった……そうなると、おれはどれだけ時間をロスしたんだ?

この局面での時間ロスほど馬鹿馬鹿しいモンもねェってのに。」

 

「それでこそ、レオヴァ坊っちゃんだ。

そもそもウチを抜けた奴らにいつまでも執着するな。」

 

「いや、執着しているつもりはないんだが……」

 

「……してるだろ。

レオヴァ坊っちゃんはおれと同じように、いつも通りカイドウさんの事だけ考えてれば良い。

それが最善だと、自分でも言ってただろ。」

 

「…?

おれはずっと父さんの事を考えてるぞ?」

 

調子の戻った姿にマスクの下でキングは笑う。

レオヴァはこうでなくては、と。

 

 

もしもの話をし、弱気になるなんて。

去った相手を理解しようなんて。

裏切った相手を生捕りにしようなんて。

全くもって、レオヴァらしくない(・・・・・・・・・)のだ。

彼はいつ如何なる時もカイドウの為に奔走しているべきだ。それが自分が同志と認めた男の在り方なのだから。

 

 

次の作戦を、と話し始めたレオヴァに相づちを打ちながらキングは内心でぼやく。

 

「(レオヴァ坊っちゃんの思考を鈍らせるあのガキ共は…邪魔だなァ……)」

 

思い浮かべるのは目障りな赤色。

 

もし、あの裏切り者を殺したらカイドウとレオヴァは怒るだろうか?

そんな事を頭の片隅で考えながら、キングは作戦会議の内容を記憶していくのであった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

ドレスローザでの攻防を終えてから暫く後。

麦わらの一味とその同盟はゾウへ辿りついていた。

 

ミンク族に敵ではない事を示す為、ナミとロビン、チョッパー、フランキーの4人を除いた麦わらの一味とキラーは島へと降り、錦えもん達と共にモコモ公国へ訪問したり。

 

金獅子のシキは麦わらの一味の船を降ろし、近くの島へ食料などの補充に行くと言って錦えもんからビブルカードの切れ端を受け取ったり。

 

キッドもシキと共に船に残って、ヒートとワイヤーと共に次の作戦の為の準備へ取り掛ったり、と各々が役割り分担をし別行動となったが2日後にはまた合流し、打ち合わせをするという約束をしてあった。

 

 

しかし、約束の前日に問題は起こってしまう。

 

赤鞘達から百獣海賊団について話を聞き、お互いに協力し合おうと誓い、それぞれが出発の準備をしていた時だ。

 

イヌアラシとカン十郎、菊の丞が気を失っている日和と泣いているモモの助を抱えてモコモ公国へと慌てたように戻って来たのである。

 

食料を調達しに言ったサンジ達の代わりに荷運びをしていたルフィとゾロ、キラーの三人は何事かと首をかしげ、周りのミンク族が慌てていると赤鞘達も集まって来た。

 

そんな中、異変に気付き一番に声を上げたのは錦えもんだった。

 

 

「何事だ!?」

 

叫びながら日和とモモの助を心配するように駆け寄った錦えもんにイヌアラシが怒りの形相のまま返す。

 

 

「傳ジロー……いや、狂死郎だ!!

裏切り者が此処に来ている、すぐに戦闘の準備を!!」

 

「な!?傳ジローが…!?

いや、それよりも日和様は…」

 

怪我をしたのか、と錦えもんが聞こうとした時。

イヌアラシ達が通って来たであろう道の後ろから、人影が現れた。

 

 

「ひ、日和様!!モモの助様ぁ!!」

 

肩で息をしながら現れた男の姿に、錦えもんとアシュラ童子以外の赤鞘は鋭い視線を投げ、刀を抜いた。

 

 

「貴様!?ここまで追ってくるとは…」

 

「モモの助様にも日和様にも、手出しはさせません!」

 

かつての仲間からの敵意に狂死郎は顔を歪ませながら、口を開く。

 

 

「待ってくれ、おれは話をするために…!」

 

「話すことなどない!!」

 

言葉の途中で斬りかかって来た河松の一太刀が狂死郎の肩に僅かに触れる。

 

咄嗟に後ろに避けた事で深傷を負うことを免れた狂死郎は手で傷を押さえながらも、刀を抜くことはしなかった。

 

 

「ま、待ってくれ!

頼む……錦さん!!」

 

必死に叫ぶ狂死郎の姿に錦えもんは刀の鞘に手をかけられずにいた。

 

だが、他の赤鞘は油断する様子はなくモモの助と日和を守るように立ち塞がった。

 

 

「奴が連れてきた百獣の手下が日和様に得体の知れぬ毒を当てたのだ!!

皆、距離をとれ!あのクイーンの様に汚い手を使ってくるに違いない!!毒の兵器を…!」

 

叫んだイヌアラシの声にミンク族は直ぐに後方へと飛び退いたが、ルフィ達は訳が分からずその様子を眺めていた。

 

話を聞く限り、あれが例の裏切り者の“狂死郎”なのだろう。

しかし、彼から殺気なんてものは感じない。

 

困惑するルフィ達を置き去りにするように赤鞘達のやりとりは続く。

 

 

「違う…!

あれはモモの助様に襲いかかろうとしていた獣を止めようとして百獣の者が射った催眠弾だ!毒ではない!!」

 

「そうなのか…?」

 

「止せ、騙されるな錦えもん!!

助けようとしたならば何故、日和様に当たっている!?」

 

その疑問に狂死郎は直ぐに答えを返した。

 

 

「それは日和様がモモの助様を庇おうと突然飛び出して来たからだ。」

 

「…言い訳にもならん。

先ほどの言い分が本当ならば、声を出して知らせれば良い話!」

 

「そうです!

そうすれば日和様に誤射をするような事態にもならなかったではありませんか!!」

 

「それはおれも考えた!

だがっ……おれが姿を現せばこちらを警戒するだろう!?

そうなったら、モモの助様を助けるのが遅れるではないか!!」

 

叫び返す狂死郎の言葉を聞いてもイヌアラシは馬鹿馬鹿しいと首を振る。

 

 

「その程度で反応が遅れ守れぬほど、愚かではない!」

 

「そもそも、貴方が余計な真似をしなければ私達はモモの助様を助けていました。

……貴方のせいで、日和様は撃たれたのです!!」

 

菊の丞の言葉に狂死郎の瞳が揺れる。

 

自分のせいで、日和様が…

過去の日和を守れなかったトラウマがフラッシュバックして固まる狂死郎に河松が再び刀を振り下ろす。

 

しかし、その斬撃が当たる事はなかった。

 

河松の刀を受け止め、狂死郎を庇ったのは錦えもんだった。

 

 

「…っ……錦、さん…?」

 

「錦えもん!?何故庇うのだ!?」

 

赤鞘達は錦えもんを見る。

一身に視線を集めながら、彼は河松を軽く後方へと吹き飛ばし刀をしまう。

 

 

「やはり、まずは話さなければならん!

……拙者は…まだ傳ジローが裏切っているとは思えんのだ。

我々はずっと苦楽を共にした仲ではないか!

一度、冷静に傳ジローの言い分を聞こう…それからでも遅くはない。」

 

そう言って拳を握りしめる錦えもんの背中を狂死郎は瞳にうっすらと涙を浮かべながら見つめた。

 

 

「(…錦さん……やっぱりアンタは!!)」

 

礼を述べようと半歩前に出た狂死郎の動きを止めるように、河松がまた声を荒らげる。

 

 

「説明しただろう、錦えもん!

奴は…狂死郎は今や大臣になりワノ国を支配するレオヴァの手伝いをしているんだ!!

それに百獣海賊団の幹部であるササキと言う男とも強い関わりがある!

レオヴァは正統な後継者であるモモの助様の存在を無視し、国民を騙して国を支配しているのだぞ。」

 

「……っ…だが…レオヴァ殿がイヌアラシ達が言うような非道を行うとは思えん……」

 

言葉を詰まらせる錦えもんにイヌアラシは言葉を投げつける。

 

 

「錦えもん、貴様もレオヴァに騙されているんだ!!

おでん様を殺し、日和様を遊女へ貶め…ミンク族を連れ去っている。

そんな男をまだ信用しようと言うのか!?」

 

黙ったままの錦えもんに菊の丞が悲しげな顔で訴えかける。

 

 

「錦様、気持ちは分かります……ですが!

あの時ワノ国で…九里で錦様や人々と笑い合いあっていたレオヴァ殿はいないのです!!変わってしまった…!

見たでしょう、あの討ち入りの時の瞳を……敵に向ける顔だった筈です!思い出してください!!」

 

「レオヴァ殿は……いや、しかし…確かにあの時は……」

 

錦えもんは葛藤していた。

彼の記憶の中にあるレオヴァは民を思う素晴らしい少年だ。

 

九里に訪れては錦えもんの馬鹿話に笑い、子ども達の遊び相手をするような心優しい姿の記憶しかない。

 

おでんを嘲笑する町人がいて、腹を立てやるせなさに俯けば彼はいつも錦えもんの背を優しく叩いて言うのだ。

『彼はそんな人ではないと誰よりも錦えもん達が知ってるだろう?

まだ会った事はないが、錦えもんや傳ジローが慕う人だ。

きっと素晴らしい男さ、良ければ彼の話を聞かせてくれ』

……と。

 

錦えもんにとって、おでんは希望や夢を与えるような存在で。

レオヴァは安心感や自己肯定感を与えてくれるような存在だったのだ。

 

年の離れた彼を、錦えもんは友人だと思っていた。

 

 

そんな、言葉を吐き出せずに唸る錦えもんの背中に狂死郎が手を伸ばした時だった。

 

 

「ここに居たのか、狂死郎さん。

急に走っていくからビビったぜ。」

 

この重い雰囲気の中、場違いなほど呑気な声を出したシープスヘッドに一気に注目が集まる。

 

 

「…ぇ、なんだよ?どういう雰囲気だ!?」

 

あわあわと頭を抱えるシープスヘッドに、菊の丞が斬りかかる。

百獣海賊団と丸分かりな服を着ている男だ、敵なのは間違いない。

 

 

「うおっ!?

て、めェ!?いきなり何しやがる!!」

 

怒ったシープスヘッドが反撃しようと体を変化させた瞬間、狂死郎が間へ入った。

 

 

「駄目だ!待ってくれ!!」

 

「っ……危ねぇ!?」

 

突然割り込まれたにも関わらずギリギリで攻撃を止めたシープスヘッドだったが、菊の丞の刀は狂死郎の背中を裂いた。

 

呻き声を上げてよろめいた狂死郎に慌ててシープスヘッドは手を伸ばす。

 

 

「ちょっ…!?おい!!狂死郎さん、大丈夫かよ!

なんだよ、どうなってる!?

赤鞘は狂死郎さんの仲間なんだろ!?」

 

ギロリと菊の丞を睨み付けるシープスヘッドだったが、カン十郎や河松達からも刀を向けられている事に気付くと一歩後ろへと下がった。

 

 

「……話し合いって雰囲気じゃねェな。

狂死郎さん、戻るぞ。」

 

「まだ……ちゃんと話せていないんだ…!」

 

自分の体を支えている手を押し退けようとする狂死郎をシープスヘッドは止める。

 

 

「どう見ても話し合いは無理だろ!?

仲間を斬るような奴らだぞ!」

 

「まだ、モモの助様と日和様のお気持ちは聞いていない!!」

 

大声を出して傷が痛むのかまた呻き声を漏らす狂死郎にシープスヘッドはどうするべきかと迷っていた。

 

すると、再び攻撃をしかけようとしてくる河松達の気配を感じて、シープスヘッドは変化させた体を盾に狂死郎を庇う。

 

 

「~ッ!!

てめェら、狂死郎さんの話を聞けよ!?

この人は武器すら構えてねェんだぞ。」

 

「黙れ、海賊と話すことなどない。」

 

「……チッ、こいつらも偏見クソ野郎かよ。」

 

シープスヘッドは吐き捨てると、重傷の狂死郎を担ぎ上げた。

 

そして、何を…と目を見開く狂死郎を肩に乗せ後方に飛び退く。

 

 

「これ以上テメェらとの会話は無意味だ。

仲間を信じてやれねェクソ野郎共が、狂死郎さんがどんだけレオヴァさんに頭を下げたかも知らねェで!!

……って、ことで!!

やっちゃってくださいよ、ジャック様ァ!!

 

森に向かってシープスヘッドが叫ぶと、7メートルはある巨体が姿を現した。

 

ただ者ではない気配に、赤鞘達の会話に呆気に取られていたルフィとゾロもハッとして構えをとり、キラーは見覚えのある男を警戒するように武器に手を添えた。

 

だが突然現れた大男は赤鞘達ではなく、シープスヘッドをジロリと睨んだ。

 

 

「……軽口を叩きやがって。

また、組手でしごかれてェのか?」

 

「す、すいません!!!調子に乗りましたァ!!!」

 

狂死郎が落ちないようにしながらも頭を下げるシープスヘッドに大男は軽く怒気を飛ばしてから、やっと赤鞘達に目線を向けた。

 

そして、その奥にいる男を見つけて忌々しげに眉間に皺を寄せる。

 

 

「…キラー、だと?

青キジの野郎はしくじったのか。」

 

「……ジャック…何故、お前がここに。」

 

数秒、睨み合うとジャックは前へ一歩踏み出した。

 

 

「てめェとキッドの野郎は潰す…!!

だが今回、用があるのは赤鞘だ。」

 

ジャックは錦えもん達を見下ろして、問う。

 

 

「レオヴァさんと話をするか、敵対するか…選べ。」

 

告げられた問い掛けに、錦えもんの瞳が揺れた。

 

 

 

 





ー補足ー

・麦わらの一味と赤鞘
ルフィ、ゾロ、サンジ、ウソップ、ブルックの5人は錦えもんとカン十郎以外の赤鞘と対面。
モモの助達を助けた恩人として、ある程度の信頼を勝ち取った。
その後、赤鞘が全員揃ったと言うことで現世居残り組の河松とイヌアラシによる百獣海賊団の非道の数々(?)が明かされた。
途中でアシュラが違うと声を上げたが、獣人島に居たから非道に気付けなかったのだと二人から叫ばれ、軽い喧嘩になりかけたがモモの助の前だとアシュラが我慢する事で収まった。

・麦わら達のモコモ公国への認識
レオヴァによって大半の国民が連れてかれ、過疎化が進んでいる。
ポーネグリフも百獣海賊団が奪ったらしく、ここにはない。
傳ジロー、現在は狂死郎と名を変えている裏切り者に唆されネコマムシは裏切った(イヌアラシ談)


・現在いる赤鞘と他メンバー
錦えもん、カン十郎、雷ぞう、イヌアラシ、河松、菊の丞、アシュラ童子。日和&モモの助。


・サンジ達
サンジ、ブルック、ウソップはゾウの森に食料調達に向かっているらしい。

・キッド達
シキと麦わら以外の同盟メンバーと連絡が取れずに苛立っている。
ハチノスでの作戦がどうなったのか不明な為、次の襲撃場所をハチノスにするかをヒート&ワイヤーと相談中。

・狂死郎
真打ち達の間では、ワノ国でレオヴァの補佐をしている侍兼ササキの友人であると言う話は有名なので狂死郎さんや、狂死郎親分と呼ばれ敬意を払われている。
特にササキの直属の部下達からとても慕われているらしい。
シープスヘッドはササキ直属の部下達とも仲が良いので狂死郎の身を案じていた。

ー補足②ー
麦わら視点をカットしたので分かり難かったので補足させて頂きますと、麦わらの一味は石化・睡眠・毒の全て解毒済みです。
なので今のところ普通に行動出来ています。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゾウに集う者

 

 

 

ジャックから話し合いか敵対か選べと、選択肢を投げかけられた赤鞘の返した答えは“敵対”であった。

 

だがそんな中、錦えもんだけは話し合いを選んだ。

 

リーダーのような存在である彼の選択に周りの赤鞘は何故だと不満を露にするが、彼は折れない。

数分間、ジャックの前で赤鞘達は口論を続けていた。

 

しかし、いつまでもまとまらぬ赤鞘に痺れを切らしたジャックはおでんの息子であるモモの助へ問い掛けた。

 

 

『お前はどうする。

ワノ国に戻るのか、ウチと敵対するのか……答えろ。』

 

突然、恐ろしい顔の巨漢から選択を迫られモモの助はぶるぶると震えた。

 

怖い、恐ろしい。

恐怖は口の中の水分を奪い去って行く。

 

 

『『モモの助様…!!』』

 

傳ジローと河松の声が響いた。

 

モモの助は全身に感じる赤鞘達の目線に背中を押されるように、言われ続けて来た言葉(・・・・・・・・・・)が口から溢れる。

 

 

『せ、せっしゃは……いつかワノ国を!しょ、しょって立つ男でござるっ!!』

 

『……それがお前の答えでいいんだな?』

 

ギロリと恐ろしい2つの目が見下ろしてくる。

モモの助は思わず側にいた錦えもんの着物の裾を掴んだ。

 

 

『ひっ……き、錦えもんっ…!』

 

震えて瞳に涙をためるモモの助に二人の侍が正反対の声色で言葉を投げかけた。

 

 

『よくぞ、仰いましたモモの助様!!!』

 

『そんなっ…モモの助様、どうか今の発言を取り消してください!!』

 

立派だと褒める家臣の声と、前言の撤回を悲願する家臣の声。

 

侍達の互いの想いが衝突している中で、ジャックは動く。

 

 

『ワノ国はカイドウさんとレオヴァさんの国だ。』

 

淡々と言い放つとジャックは剣を抜き、腕を振り抜いた。

 

狂死郎の悲痛な静止の声は、災害の前に意味などなかった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

ルフィ達とは別に食料集めをしていたサンジ、ウソップ、ブルックは突然目の前に現れた二人を見て驚きに目を見開いていた。

 

 

「久しぶりねぃ~!麦ちゃんは元気なのぅ!?」

 

派手なメイクをして変わった服装に身を包んでいる漢がフレンドリーに声をかけると、ウソップは思わず声を漏らした。

 

 

「ア、アラバスタのオカマ!?」

 

「お前、なんでここに!?」

 

「え?ウソップさんとサンジさんの…お知り合いですか?」

 

各々がキャラの濃すぎる彼女(・・)に反応を返すと、本人は楽しげにくるりと回転して見せる。

 

 

「なんでって、お仕事よぅ~!お・し・ご・とっ!!

 

「仕事…?」

 

訝しげな顔になるサンジに彼女…ボン・クレーは説明しようと口を開く。

しかし、それを隣にいる渋い見た目のミンク族の男が止めた。

 

 

「知り合いなのは分かったが、こっからはおれの仕事だ!ガオ!!」

 

サングラスをくいっと指で直しながら一歩前に出たミンク族の彼の名はペコムズ。

彼は堂々とした足取りでサンジの前に立つと、手紙を差し出した。

 

何の前触れもなく突き出された手紙をサンジは何だと、めんどくさそうな顔で受け取る。

 

 

「なんなんだ、突然…」

 

「いいから、読め!

おれはお前を迎えに来たんだ。」

 

「迎えだ?

……何を意味の分からないことを…っ…!?」

 

呆れながら手紙を開いたサンジの顔色が変わる。

 

その事に気付いたウソップとブルックは心配そうな顔でサンジの方へと歩みよった。

 

 

「サンジさん、どうかしましたか?」

 

「な、何が書いてあったんだよ…?」

 

「……いや…」

 

大丈夫か、と声をかけてくる二人にサンジは何とか言葉を絞りだそうとしたが何も出てこない。

 

ただ、読んだ手紙をぐしゃりと握り潰しペコムズを睨んでいた。

 

 

「分かったら来てもらうぜ、“ヴィンスモーク”の倅!」

 

「っ…ふざけんな!!

今さらこんな……あれはもう捨てた過去だ!!」

 

普段見ないサンジの鬼気迫る顔にウソップは動揺し、ブルックは半歩前へ出ながら手はそっと刀へ伸ばす。

 

 

「“血筋”ってのは捨てられるもんじゃねェ!!ガオ!」

 

「誰がなんと言おうと、おれの父親はジジイ一人だ。」

 

「お前がどう主張しようが、ママの決定は覆らねェ!

それこそ、断れば……東の海のレストラン、バラティエも危ないだろうな。」

 

「っ…!?」

 

見知らぬ相手から出た大切な場所の名前にサンジが目を見開くと、ブルックが2人の間に立ち塞がった。

 

 

「……どこのどなたかは存じませんが…

先ほどから聞いていれば、サンジさんを脅すような言葉ばかり。

もうこれ以上は私、黙っていられませんよ。」

 

鋭くなったブルックの気配にペコムズとボン・クレーも身を固くする。

 

 

「そ、そうだぜ!

サンジを連れてくなんて……仲間は絶対渡さねェ!」

 

ブルックに続き、普段の頼りなさが嘘のようにサンジの隣にウソップは立った。

 

 

数秒の睨み合い。

どちらが先に動くのか、と緊迫した時間が流れた時だった。

 

 

「……おれが行けば問題ないんだな?」

 

ブルックとウソップを避けて前に出たサンジに二人は声を上げる。

 

 

「お、おいサンジ!?」

 

「サンジさん…」

 

「話が通じる奴で助かるぜ。」

 

「……ごめんねぃ、サンちゃん。」

 

ペコムズとボン・クレーの方へ歩きだしたサンジは背中越しに声をかける。

 

 

「悪いな…ウソップ、ブルック。

少し女に会ってくるってルフィ達には伝えといてくれ。」

 

「な、なに言ってんだよ!サンジ!!」

 

ウソップが腕を掴もうとするが、呆気なく避けられる。

少し後ろを振り返ったサンジの顔には笑顔が張り付けてあった。

 

 

「必ず戻る。

だから、よろしく伝えといてくれ。」

 

絞り出したような声を最後に行ってしまったサンジに、尚もウソップが言葉を投げようとするが、ブルックは首を振る。

 

 

「ウソップさん…」

 

「ブルック、早く追いかけてサンジを止めねェと!!」

 

「無駄です……追いかけても彼に、戻る気がない…」

 

絶望したような顔でそれでもサンジの後ろ姿をじっと眺めるブルックの言葉に、ウソップは拳を握りしめた。

 

 

「ちくしょお…!

……そうだ、ルフィ!ルフィを呼べば…!」

 

集めていた食料を持つことも忘れ、ウソップは元いた場所へと走り出す。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

倒れた木々や壊れた家を見て、2人は前へ出る。

 

 

「これ以上ここで暴れるなよ!!」

 

「お前、他の奴らまで巻き込む気か!?」

 

そう言って前に立ち塞がった2人の青年にジャックは不機嫌さを露にした。

 

 

「退け。

うちと敵対すると宣言された以上、あの女を回収して他の赤鞘を拘束しなきゃならねェ。」

 

「知らねぇ!

ここ壊されたらおれがナミに怒られる!!

ナミは怒ると怖ェんだぞ!?」

 

「……言葉が通じねェのか、テメェは。

どちらにせよ、邪魔するなら潰すまでだ!!」

 

ジャックは巨大なマンモスの姿で長い鼻を振るった。

しかし、ルフィとゾロはそれを軽々と避ける。

 

ゾロは咄嗟に脇に抱えたカン十郎と菊の丞を後ろに居た錦えもん達に預けると刀を抜いた。

 

倒れた仲間を抱き止めた錦えもん達は苦々しい表情でルフィとゾロを見る。

 

 

「ルフィ殿…!」

 

「チョッパーの所に行ってモモ達のケガみてもらえ!

お前らの話は良くわかんねぇけど、ここは守る。」

 

「かたじけない!」

 

後退しようと仲間を背負った錦えもんにイヌアラシはまだ戦えると声を上げたが、それをアシュラ童子が遮る。

 

 

「今はモモの助様と日和様の安全が最優先だど!!」

 

「アシュラの言う通り…ここは一時下がろうぞ!

ルフィ殿は強い…!」 

 

 

ドレスローザでのルフィの活躍を知っている錦えもんは彼ならばと、仲間を説得する。

だが、それでも敵に背を向けることを躊躇う数人に捲し立てるように言葉を続けた。

 

 

「モモの助様の出血を見よ!!

事態は一刻を争うのだぞ!?」

 

この錦えもんの言葉で全員の意志がまとまる。

医者であるチョッパーとの合流を目指すべく、手負いの仲間を背負い赤鞘は走り出した。

 

 

そんなやり取りの中。

ジャックはルフィとゾロを相手取っていた。

 

普段の雑魚と殺り合う時ほどの余裕はない。

だが完全に押されるほどでもない。

 

2人の攻撃を受け流しながらも、確実に前進していた。

しかし、赤鞘が一斉に走り出した事でジャックの意識が僅かにそれてしまったのだ。

 

任務の内容は、赤鞘の意思確認。

穏便にすめばとあるナワバリへ誘導して、レオヴァと対面させる事。

敵対の場合は赤鞘全員の捕縛か死体の回収。

そして、小紫こと日和を再び手に入れる事だ。

 

今のジャックにとって麦わら達の排除よりも、赤鞘の方が優先度で言えば上なのである。

 

そんな彼らが逃げ出したとあれば、ジャックの意識がそちらに向くのは当然であった。

 

しかし、それは大きなミスとなる。

 

ルフィとゾロはその瞬間を見逃さなかった。

 

意識が逸れたジャックの懐に瞬時に入り込むと、ルフィは全力の一撃を見舞う。

 

 

ゴムゴムのォ~…獅子(レオ)バズーカ”!!

 

ッ!?!

 

ジャックの巨体が激しい衝撃と共に宙へ弾き飛ばされた。

 

しかし、それだけなら問題はない。

確かに少しダメージは入ったが、ジャックのタフさがあればまだまだ戦える。

 

ここから体勢を持ち直して着地と同時に麦わら帽子のヤツへ突進し、パワーで押し潰す。

 

そうジャックが考えていた時、人影が視界に入り込む。

 

 

三刀流“千八十煩悩鳳(1080ポンドホウ)”!!!

 

「ぐぅッ!?」

 

宙へ押し出されていた体へ斬撃が真っ直ぐに飛来する。

 

空中で受け身を取れなかったジャックだが、武装色はしっかりと纏っていた。

その為体に斬撃が食い込むことはない。

 

だが、それこそがゾロの狙いだった。

 

数度のやり取りで感じたジャックの固さ。

それをゾロは利用したのだ。

 

貫通しなかった斬撃は宙に浮かぶジャックの体を押し出して行く。

 

真上に飛ばされた体が今度は後方へと押される感覚にジャックは焦った。

 

踏ん張りが利かない空中で何とかゾロの大技を反らし、吹き飛ばされている状態を止めるべく体勢を変えようと動き向きを変える。

 

 

「くそっ…!

あの状態でおれの攻撃を弾くのかよ!?」

 

「島の外まで飛ばせなかったか~!!アイツ固ぇなぁ!」

 

 

ルフィとゾロが木の上に着地し、額に汗を流した時だった。

 

 

「邪魔だテメェら!!

ジャックはおれがブッ飛ばす!!!」

 

がなり声と共に後ろから見慣れたツンツン頭が飛び出して来る。

 

 

「あ、ギザ男!」

 

ジャック!!

くたばれやァ!!!磁気“弦”(パンクギブソン)!!!

 

「キッド!てめぇ!!」

 

驚きと怒りでジャックが目を見開くと、マンモス姿の横腹にキッドの一撃が決まる。

 

低い唸り声と共にジャックは更に遠くへと押し出されて行った。

 

すっかり巨大なマンモスが見えなくなった空を見上げて、ルフィはキッドに笑いかける。

 

 

「やるな、ギザ男!」

 

「うるせェ!!

テメェなんでジャックとやりあってンだよ!!!

ここに奴が来たって事は百獣に場所がバレてるって事じゃねェか!!!」

 

怒りのまま叫ぶキッドの後ろからキラーが止めに入る。

 

 

「待て、キッド。

どうやら侍共が面倒事を抱えているらしくてな。

ジャックはその関係で来たようだ。」

 

「ア"ァ"!?あの侍共の面倒事だァ?

……異様にカイドウのジジイとアイツを敵視してると思ったが…」

 

考える素振りを見せるキッドにキラーは事の流れを説明した。

 

赤鞘が百獣海賊団へ敵対宣言とも取れる選択をした事。

ジャックと狂四郎という侍は日和という女を狙っている事。

そして、戦闘になった赤鞘に負傷者が出て流れで麦わら達が庇う形になった事。

 

全てを聞き終えたキッドはぐしゃりと自分の髪を苛立たしげにかきまぜた。

 

 

「チッ……じゃあ、光月(・・)がどうのってのもマジな話かよ。

そこら辺に関わってるとありゃ、アイツは手を緩めねェだろ。

追手が2倍になると面倒だぞ、キラー。」

 

「それはおれも同意見だ、キッド。

だがワノ国の地理に詳しく、戦える人材を捨てるのは惜しいとも思ってる。」

 

話し込み始めた二人に首を傾げているルフィの隣に並んだゾロは、前方に小さく見える人影に気付き口を開いた。

 

 

「あれ、ウソップとブルックか?」

 

「お!本当だ!

お~~い、ウソップ~!ブルック~!なんか肉あったか!?」

 

ルフィが二人に手を振ると、走っていたウソップが声を上げた。

 

 

「ルフィ!!

サンジが……四皇に連れてかれちまった!!

すまねぇ!おれ止められなくて…!!」

 

泣きそうなウソップの声に、ルフィの顔にあった笑みが消えた。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

サンジがペコムズと共に船に乗ったのを確認して、ボン・クレーは任務を全うするべく草の生い茂る獣道を歩いていた。

 

 

どうして、ボン・クレーことベンサムがビッグ・マムの部下と共に行動しているのか。

その理由はインペルダウン脱獄後にまで遡る。

 

あの時、ボン・クレーは正義の門を開けた。

マゼランはレオヴァ達の対応に追われ、席を外していた為何とか友を送り出せはしたが、彼女に脱獄の道はなかった。

何故なら、逃げる為の船がない。

 

また牢獄に逆戻りになる。

だが、それでも良かった。

 

友が大切な兄を助けに行く為の手助けが出来たのだ。

ボン・クレーにとっては本望である。

 

そんな諦めの中にいたボン・クレーだったが、なんとロー達に拾われていたのだ。

 

綺麗な船の中に連れられ目が飛び出すほど驚き、更には目下で戦うレオヴァと謎の囚人に顎が外れるほど驚いた。

 

その後は今までの疲れから頂上戦争が終わるまで寝入ってしまっていたが、無事ボン・クレーも脱獄に成功していたわけである。

 

そうして脱獄後、クロコダイルの会社が消えた事もあり職をどうするか?と悩んでいた所、レオヴァから紹介を受けたのだ。

 

それはフリーランスの任務請負人というものだった。

 

最初こそ、フリーランスとは?任務請負人とは?とハテナだらけの彼女だったが、レオヴァから説明を受けて快諾。

 

最初はレオヴァの紹介で色々な相手と仕事をしていたが、今では自ら仕事を受けられるまでに成長していた。

 

そして、その成長の結果。

今回、麦わらの一味の足止めという任務を請け負う事になったのだ。

 

本来であれば、この任務は断っていただろう。

だが、他の誰でもないレオヴァからの紹介(・・)である。

 

更にその相手が四皇とあっては断るに断れない。

ボン・クレーはレオヴァの顔を立てる為にこの任務に臨んだ。

 

人情に厚いボン・クレーだが、仕事に私情は挟まないと決めていた。

 

 

足を進めながら、ボン・クレーは確信していた。

ルフィは必ずサンジを取り戻しに来ると。

 

鳥の羽ばたく音と、誰かが走る音が近付いてくる。

 

 

「…ボンちゃん!!」

 

「……麦ちゃん、久しぶりねい。」

 

友との再会に、笑顔はなかった。

 

困惑した表情の麦わら帽子の青年に、ボン・クレーは得意の構えをとる。

 

そして、大地を蹴り覚悟の一撃を繰り出した。

 

ルフィはまだ、困惑の表情のまま目を見開く。

友の心を推し量れずにいた。

 

 

 

 

 





番外編「鳳皇の懐刀は苦労人」更新しました

https://syosetu.org/novel/279322/17.html


~補足~

ジャック:吹っ飛ばされた。島から落ちた可能性が…?

狂死郎:シープスヘッドに船へ強制連行されて治療中

ボンちゃん:レオヴァからの紹介でビッグ・マムから仕事を受けた。
昔の仲間達とフリーランスの請負人をやっている。

ペコムズ:原作と違い麦わら達に恩義がないので、普通に任務を遂行中。

サンジ:渡された手紙を読んで、ゼフ達の為に一度ホールケーキアイランドへ行くことを決意。

日和:チョッパーやヴェルゴが受けた睡眠弾の改良版を受けてしまっている為、眠っている。
起こすには薬が必要。

・赤鞘と百獣打倒同盟
敵が一致している為、共に動くという話になっていたが今回の一件でどうなるのかは不明。
河松とイヌアラシの話もあり、ウソップ・ナミ・チョッパーは百獣海賊団に懐疑的になっている。
(モモの助が涙ながらに話した事も拍車をかけている)

・ビッグ・マムからの使者
何故かサンジを召集。
この世界ではジャッジはいない筈だが、何故…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

友人と恩人

 

 

「どいてくれ、ボンちゃん!

ボンちゃんは友達だ、戦いたくねぇ!!」

 

ルフィの叫びにボン・クレーは俯き下唇を噛んだ。

しかし、すぐに向き直るとルフィを鋭い眼光で睨み付ける。

 

 

「甘いこと…言ってんじゃないわよう!!

麦ちゃん、海賊王の座は、“ひとつ”だけなの!

レオちゃんはあちしの大恩人で、夢は百獣のカイドウを海賊王にすることよ…!

麦ちゃんが海賊王の夢を捨てられないってんなら、“今は”あちしの敵なのよう!!

この時代に誰もが欲する海賊王の称号が欲しいなら、他を蹴落とさなくちゃならないって分かってんのかよ!!!」

 

鬼気迫る勢いのボン・クレーにルフィも負けじと叫ぶ。

 

 

「おれは海賊王になるんだ!!

蹴落として“称号”なんて欲しくねぇ!!」

 

「だぁ~から~!!その海賊王になる為には甘いことばっかり言ってんじゃないって言ってんのよう!!!」

 

叫びと共にボン・クレーの足技が襲いかかるが、ルフィは危なげなく避ける。

 

 

「なにするんだよ、ボンちゃん!!」

 

「あちしと麦ちゃんは敵よ……攻撃するのは当たり前。

ボケッと突っ立ってんじゃないわよう!

絶対に叶えたい夢があんなら、気概…見せてみろやァ!!!

 

重い一撃を腕でガードしたルフィは弾き飛ばされ、壁へ激突する。

ゆらりと砂埃の中で立ち上がったルフィをボン・クレーは覚悟の籠った瞳で見つめる。

 

 

それぞれの想いを抱いたルフィとボン・クレーの脚と拳がぶつかり合った。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

激しい戦闘の跡があちらこちらに残っている森に立っている人影はひとり。

 

麦わら帽子の少年は腕すら上げられないほど満身創痍なボン・クレーを悲痛な表情で見下ろしていた。

 

 

「ッ…ハァ……あ、ちしの負け…ねいグ…ゥ…

れ、レオちゃんに、合わせ……顔…ないわゼェ…ハァ…」

 

「ボンちゃん…」

 

手を伸ばそうとしたルフィをボン・クレーは睨み付ける。

 

 

「て、きって……言った、でしょ…

なさ、け…は要らない、わよぅグハッ…ゥ……」

 

今にも気を失いそうなボン・クレーにルフィがらしくない表情をする。

そんな顔を見てボン・クレーは小さく笑うと、切れた口が痛むことも気にせず声を絞り出した。

 

 

「な、によう……麦ちゃん…勝っといて、そん……顔…

…ぅ……サン、ジちゃんは…ホール…キ、アイランドに…ゲホゲホッ……るわ」

 

「えっ……サンジは“ほーるきあいらんど”って所にいるのか!?」

 

居場所を教えてくれたボン・クレーにルフィは驚きが隠せない様子で前のめりに声を出した。

 

 

「そう、よ……ビッグ・マムの…な、ばりに…ゼェ…

ジェル…マを……ッ…ぅぐ…」

 

「ボンちゃん!

や、やっぱりチョッパーに!」

 

自分がやったとは言え、芳しくない怪我の具合に眉を寄せたルフィをまたボン・クレーは睨む。

 

 

「た、おした…相手の心配…てんじゃないわよう!ガハッ

ぅ…ハァ……さっさと、仲間…とこに……」

 

「ボンちゃん…?」

 

ルフィが伺うようにボン・クレーの顔を覗き込む。

どうやらボン・クレーは力尽きて意識を失ったようだった。

 

その姿を数秒の間、無言で眺めたルフィは気を失ったボン・クレーを木の幹にまで運びそっと横たわらせる。

 

 

「ごめん……あと、ありがとうボンちゃん。」

 

意識を失う前に情報をくれたボン・クレーに礼を述べるとルフィは麦わら帽子を深く被り船へと踵を返した。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

意識を失ったボン・クレーは懐かしい夢を見ていた。

 

青々と広がる空と美しく輝く海。

そんな綺麗な世界でボン・クレーは部下達と死にかけていた。

 

その理由は食料不足である。

 

数日前の海軍との戦闘中に砲弾が食料庫付近に被弾し、新鮮な食材や水の大半が被害を被ってしまったのだ。

 

甲板の上に仰向きになりながら、ぼんやりと空を見上げていた。

腹はそこまで減っていないが、恐ろしいほど喉が乾いている。

 

辺りに水は腐るほどあるが、全て海水だ。

塩分濃度の高い海水などを飲んでしまえば、それこそ本当に死んでしまうだろう。

 

 

ボン・クレーが霞む視界を閉じようとした時だった。

 

 

「あ……あぁ…ひゃ、百獣海賊団だっ……」

 

部下の絶望に満ちた声が鼓膜を揺らした。

 

 

その声に鼓舞されるようにボン・クレーはふらつく体に鞭を打ち立ち上がった。

 

 

「あ、あんた達……緊急用の小舟で逃げな!」

 

そのボン・クレーの言葉に部下達は次々と悲痛な声をあげた。

 

 

「そんなッ…ボン・クレー様っ!」

 

「置いて、いくなんて……出来ません…」

 

「おれ達が時間を…

ボン・クレー様は逃げてください!」

 

「そうだ!おれたちが!」

 

部下達の声をボン・クレーが遮る。

 

 

「馬鹿言ってんじゃな~いわよう!!!

死にかけのあんたらに百獣が止められると思ってんの!?

いいから、さっさと小舟使いな!!」

 

そう言ってボン・クレーは小舟を縛るロープを切って海へ投げ入れた。

 

綺麗な海に一隻の小舟が浮かぶ。

ボン・クレーは乗りたくないと言う部下達を蹴飛ばして強制的に船に乗せると険しい顔で告げた。

 

 

「あんたらは今日かぎりでクビよう!!!」

 

ボン・クレーはそれだけ言うと部下達に背を向ける。

その背を見た部下達は行動に隠された優しさに気付き、後ろ髪を引かれつつも泣きながら船を出した。

 

緊急用の小舟が進み出した気配を後ろに感じながら目前に迫る百獣海賊団の船をボン・クレーは睨み付けるのだった。

 

 

 

その後、体力がさほど残っていなかったボン・クレーは船の砲弾を利用し、百獣海賊団の船を遠ざけようとした。

しかし、放った砲弾はキラキラと光る謎の鳥に全て防がれてしまう。

 

ボン・クレーが驚きに目を見開いていると、その鳥はこちらへ飛んで来て人の形に戻ると共に甲板に降り立った。

 

 

「随分と静かな海賊船だな?」

 

まるで世間話をするような口調で話しかけて来た角のある青年にボン・クレーは構えながら答えた。

 

 

「…勝手に乗り込んできて、あんまりな言い(ぐさ)じゃなぁ~い?」

 

「攻撃されれば乗り込みもするだろう。

大切な可愛い部下を守るのも、上に立つ者の務めだ。」

 

その青年が一歩前へ出ると同時にボン・クレーは仕掛けた。

この一撃を繰り出す体力しか残っていない、ならば全てを出しきるしかないと。

それは今ボン・クレーに出来る全身全霊の一撃だった。

 

目の前の青年に避けるような予備動作は見えない。

 

 

「(これは、当たる…!!)」

 

そう確信を持ったボン・クレーは次の瞬間、宙を舞って甲板に倒れ込んだ。

 

 

「ガハッ…なっ……にが……」

 

何をされたのか理解出来ず痛む横腹を抱えるようにうずくまった。

 

今、あの青年に予備動作の予兆はなかった。

確実に油断していた筈なのだ。

しかし、攻撃を食らったのは自分だった。

ボン・クレーは訳も分からず痛みと喉の乾きにやられ、その場に伏している。

 

すると百獣海賊団の船も青年に追い付いたようで部下と思われる者たちがわらわらとボン・クレーの船に乗り込んで来ていた。

 

 

「レオヴァさん!

なんで何も言わずに1人で突っ込んで行くんだ!」

 

「ロー、すまない。

甲板にいた部下に大砲を向けられて腹が立ったんだ。

それにせっかく出来たばかりの船に砲弾を打ち込まれるのも嫌だろう?

父さんを象った飾りのある壁に傷がつくかもしれない。」

 

「…はぁ……確かにカイドウさんの飾りのある壁は大切だが、おれ達にとっちゃレオヴァさんに何かある方が問題だ!」

 

「ありがとう、ロー。

心配してくれたんだな。」

 

微笑むレオヴァにローはへの字口になりながら、じとっとした目線を送る。

 

 

「…また、そんな顔しても誤魔化されねぇからなレオヴァさん。」

 

ほのぼのしたやり取りをしていると、百獣の部下達が声を上げる。

 

「レオヴァ様、ロー様!

まだ残っていた敵が船に乗り込んできてます!!」

 

レオヴァとローがそちらを振り向くと、ロープを引っ掛け次々と(やつ)れた男達が船へと乗り込んできて来ている。

 

 

「ボン・クレー様っ……くそ!許せねぇ!」

 

「た"す…け"に"、来ま"したっ!」

 

「ハァ…ハァ……死ぬときゃ、おれらもお供しますよボン・クレー様…」

 

「百獣にビビって、ボン・クレー様を見捨てるなんてできねぇ!」

 

逃げた筈の部下達の登場にボン・クレーは驚き、涙を流した。

 

 

「っ……馬…鹿ねい……あちしなんかの為に…」

 

骨が折れ痛む脇腹も酷い乾きを訴える喉も、ボン・クレーには関係なかった。

部下が、仲間達が共に死にに来てくれた。

 

その熱い想いを感じたボン・クレーは立ち上がった。

 

そんな満身創痍の状態でもなお立ち上がったボン・クレーを見て青年は少し驚いた顔をして口を開く。

 

 

「殺す気ではなかったとは言え…既に瀕死の状態だった体に最後の一発をいれたと思ってたんだが、まさか立ち上がれるとはな。

おれの読みが甘かったのか…それとも立ち上がれる何か(・・)があるのか?」

 

興味深げにこちらを見てくるレオヴァにボン・クレーは体のふらつきを止めて答える。

 

 

「あちしの為に命をかける覚悟で戻ってきてくれた奴らの声を聞いて立ち上がらないなんて、それはオカマに(あら)ず…!!」

 

力強い声で答えたボン・クレーに青年はまた問いかける。

 

 

「…立ち上がった未来の先に、敗北しかないと理解していてもか?」

 

「無駄死にだろうがカマ死にだろうがカマわないわ…

仲間があちしの為に覚悟きめてんのよう!!?

立ち上がる理由なんざ他にいらねェ!!!

 

「全く以て非合理的な答えだが……その価値観、良いなァ。」

 

後ろで仲間達も戦いを始める気配を感じながら、ボン・クレーは自分を奮起させ再度立ち向かって行く。

 

 

その光景を前にした青年は普段の張り付けた微笑みを忘れ、堪えきれぬとばかりに笑みを溢した。

 

 

 

 

そして、あの決死の突撃から1日が経った今。

病室でボン・クレーは元気になった仲間達に看病されながら過ごしていた。

 

 

「結構な数の骨がオダブツねい…」

 

「すまないな、ああも粘られるとおれも多少加減を間違えるんだ。」

 

そう笑顔で告げるレオヴァにボン・クレーは笑う。

 

 

「加減なんて!って怒りたいけど、あんたにゃ敵わないわ!

それに何されたワケでもないのに百獣海賊団だからって先に攻撃しかけた、あちしが悪いからねい。

食料に怪我の手当てまで……このお礼はキッチリ返すわよ、レオちゃん!」

 

包帯ぐるぐる巻きの姿で横たわりながらウインクするボン・クレーにレオヴァの隣にいるローが口を開く。

 

 

「レオヴァさんを変な呼び方すんじゃねぇ!!」

 

「な~によ~!

ローちゃん嫉妬なんかしなくても、あちしはみんな好きよう?」

 

調子よくボン・クレーがローにウインクをする。

ローは心底嫌そうな顔をしながらROOMの構えをとった。

 

 

「……口を縫い合わせるか。」

 

「ちょっ…ちょっとローちゃん?

目がマジすぎじゃなァ~い?

……え、本当に?

レ、レオちゃん!!()めて!

あちし今、足も腕も折れてて動けないのよう!?」

 

慌てふためくボン・クレーとその仲間達を見てレオヴァは可笑しそうに笑うだけである。

 

「レ、レオちゃんヘルプミー…!!」

 

必死のお願いはレオヴァの笑い声にかき消されたのだった。

 

 

あれから、死にかけていたボン・クレー達をレオヴァ達が看病し、食料や水を分け与えた。

 

その行動を受けて、ボン・クレーは襲われるという勘違いでレオヴァ達の船に攻撃をした事を謝り、その謝罪をレオヴァは受けたのだ。

結果、敵対は解除されて百獣の船に少し世話になりボン・クレーはまた海へ出た。

 

 

そんなレオヴァとの出会いの夢を見ていたボン・クレーの意識はゆるりと浮上していく。

 

遠くで自分を呼ぶ声がする気がしたのだ。

 

 

「ボン……様……き…さい!」

 

「(聞いたことある声ねい…)」

 

ゆっくりとボン・クレーが目を開けると周りには馴染みの仲間達が泣きながらこちらの様子を見ていた。

 

ボン・クレーの意識が戻ったことに気付くと次々に安堵の息を漏らしている。

 

 

「良かった!!」

 

「ボン・クレー様、動けますか?」

 

「早く船に運ばねぇと…!」

 

「応急処置はしたけど…

ボン・クレー様、おれらこれからどうすれば…」

 

降ってくる声にボン・クレーは答えるべく口を開いた。

 

 

「心配…かけたわねい……

あ、あちしは…レオちゃんを…裏切っちゃったわ」

 

ボン・クレーの言葉に仲間達は一斉に驚いた顔になる。

一体なにをしたのかと問う仲間達にボン・クレーは申し訳なさそうな顔で答えた。

 

 

「ビッグ・マムが…どこに彼を連れていったのか、言っちゃったのよう……

麦ちゃんかレオちゃん……どっちかなんて…無理だった…

あちしにとっちゃ2人とも大事な友達(ダチ)…!

一方を切り捨てるなんて出来なかったのよう!!」

 

ボン・クレーらしい理由に仲間達は押し黙った。

人と人の繋がりを大切にするボン・クレーの事を仲間達は心から慕い、今まで付いてきたのだ。

 

そんな仲間達の姿を見ながらボン・クレーは続ける。

 

 

「ケジメはつけるわ……どんな理由であれ、レオちゃんの信頼を裏切ったのは事実よう…」

 

軋む体を無理やり起こしながらボン・クレーは告げた。

 

恩人の夢と友達(ダチ)の夢。

どちらかが叶えば、一方の夢は(つい)える。

 

ボン・クレーは下せない決断に拳を握りしめるのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

一方、サンジは既に出港してしまっていたものの、ボン・クレーを倒し何処に連れ去られてしまったのかの情報を手に入れたルフィが仲間達と話し合っていた頃。

 

 

レオヴァの見送りを終え、自分も出港の準備をしていたクイーンの元に緊急の連絡が入っていた。

 

 

「……ハァ~?おれの聞き間違いかァ!?」

 

受話器片手に殺気立つクイーンの声に電伝虫を通して報告していた部下、シープスヘッドはいつも通りを取り繕いながら言葉を返す。

 

しかし、その声には隠しきれない混乱と動揺が混じっており、繰り返しという形で再び告げられた内容にクイーンはあり得ないと眉間に皺を寄せた。

 

 

「ジャックがあんなガキ共にやられて海に落ちたってのかァ!?

おれ様と比べりゃアイツはまだまだな野郎だが、それでもあのガキ共に遅れを取るような真似…!」

 

カッと頭に血が登った勢いのまま受話器に向かって叫ぼうとしたクイーンだったが、一度大きく息を吐いた。

 

これは間違いなく緊急事態だ、そんな時に感情的になり怒鳴っていても仕方がない。

そう理性で判断したクイーンは普段よりも低い声で指示を出した。

 

 

「…確かジャックの所には海中特化の魚人部隊がいるよなァ、ソイツらを今すぐ海に捜索に出せ!

それからレオヴァに連絡して今後の方針を聞け。

ジャックが見つかるまではシープスヘッド……テメェが指揮を取れ。」

 

「っ…はい!

一応、レオヴァ様には真っ先に連絡を…」

 

「よし、なら指示は受けてンだな!?

レオヴァの事だ、捜索の事も言ってたよなァ?」

 

「はいッ…既に魚人部隊が海に出て……」

 

クイーンはそのままシープスヘッドにレオヴァから受けた指示の詳細を聞くと、幾つか追加の助言を施し受話器を置いた。

 

恐らくレオヴァは部下とのやり取りの間はしっかりと冷静を装えていたに違いない。

けれど、内心ではジャックがやられ頭に血を上らせていたのだろう。

元来、どちらかと言うとレオヴァは 感情的(・・・)な性格だとクイーンは記憶している。

 

指示や部下への気遣いの言葉はあったようだが、細部への細かい行動指示が普段よりも圧倒的に少ないとクイーンは感じ取っていた。

 

だが、その足りなかった範囲は今のシープスヘッドとの会話で補填できた筈だ。

そう思考すると、クイーンは出港準備が完了している船へと足を進める。

 

すると数メートル進んだ所で馴染みの部下、ダイフゴーがこちらを伺うように見上げて声をかけてきた。

 

 

「ゾウ遠征組も、ジャック様も大丈夫ッスかね…?」

 

心配するような不安げなダイフゴーを鼻で笑うと、クイーンはどんどん前へ進んでいく。

 

 

「ジャックが海に落ちたぐれェでくたばるかよ!!」

 

何も心配する事はないという様な顔で言い切ったクイーンの言葉にダイフゴーの沈んでいた表情が切り替わる。

 

 

「そうッスよね!!」

 

大看板は最強だと独り言のように声を上げるダイフゴーにチラッと目線をやると、クイーンは普段のようにハリのある声を出した。

 

 

「おれらが最強なんて分かりきった事はどーでもイイっての!

それよりィ…!さっさとマリンフォードに行くぞ!!

害虫駆除はスピードが大切だからなァ…!」

 

ダイフゴーは元気よく返事を返すと、ドスドスと進むクイーンの一歩後ろに続くのだった。

 

 

 




ー後書きー
次回以降、麦わら視点が少なくなる予定です!(現時点の下書きではホールケーキアイランド編モドキがあるので登場はします)
進み具合が分かり難くなるかもですが、その場合はコメントやTwitterの質問箱に御意見頂ければ幸いです!
問い合わせがあった場合は随時、後書きに補足として記載させていただきます~!

更新頻度も落ちて申し訳ない!
未だに読んでくださる方々に感謝です!!

番外編もぼちぼち更新して参りますので暇潰しにでも使って頂ければと。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鬼灯の花言葉

 

「マンママンマ~!!

そうかい、花婿はもうすぐ来るのか!」

 

「うん、ママ!

出迎えの準備も出来てるって!」

 

人とは思えぬ大きさの貫禄ある女性の前でファンシーな何かが遊園地のマスコットの様な動きで返事を返す。

 

不思議の国をそのまま現実に持ってきたような造りの城の中で、独特な笑い声が木霊する。

 

楽しそうでカラフルなこの国の名は“万国(トットランド)”。

 

万国(トットランド)はみんなの夢の国。あらゆる人種が集う国。

この国の酸いも甘いも全ては女王様の腹の中。

 

四皇シャーロット・リンリンが女王として君臨する大きな国なのである。

 

 

彼女は今、もうすぐ開かれる結婚式を心待ちにしているのだ。

 

知らぬものは居ないシャーロット家と、あの戦争屋ヴィンスモーク家の結婚だ。

 

ビックネーム同士の結婚は、きっと世間をざわつかせるだろう。

 

 

お菓子を頬張りながら楽しみだと歌う女王に操られるようにホーミーズもクルクルと踊る。

 

 

「楽しみだねぇ…本当に!!」

 

笑みを浮かべる女王は、心の奥では何を思うのか。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

目がチカチカするような港に海賊団の旗を掲げた巨大な船が一隻到着していた。

 

わいわいと活気良くスロープを下ろし、土産と思われる物資を運ぶ海賊達を見張りながら、小豆色の短髪とショッキングピンクのタトゥーが目を引く大男が港に立っている。

 

彼こそビッグ・マム海賊団の幹部であり、シャーロット家次男。

シャーロット・カタクリだ。

 

マフラーで顔はほぼ隠れているが、その鋭い目付きから凛々しさを感じられる。

 

腕を組み仁王立ちで海賊船を見下ろしていたカタクリの眉が僅かに上がったと同時に、せっせと働いていた海賊達が次々に声を上げた。

 

 

「「「いってらっしゃいませ、レオヴァ様!」」」

 

「何かあれば直ぐに参上致します!」

 

「留守はお任せを!」

 

「お着替えは既に運んでありやすぜ!」

 

元気良く声をかけてくる海賊達に微笑みながら返事をし、レオヴァと呼ばれた男は船から降りてくる。

 

そして、港に降り立つと男は目線を上げカタクリを視界に捉えると嬉しげに目を細めた。

 

その表情の変化にカタクリはポーカーフェイスで返しながらも、笑いかけてくる男の前へ足を急がせる。

 

 

「来たか…レオヴァ。」

 

正面に立ってそう言葉を送れば、レオヴァは更に笑みを深めた。

 

 

「わざわざ出迎えてくれるとは思わなかった。

久しぶりだなァ、カタクリ。」

 

「…出迎えたつもりはねェ、おれが適任ってだけで他意はない。

取引相手とは言え百獣をシマに上げるとなれば警戒するのは当然だ。」

 

「ふふ、それは褒め言葉として受け取ろう。」

 

カタクリの言葉に気分を害した様子もなく柔らかく笑うレオヴァに、カタクリの周りにいる部下達はほっと息を吐く。

 

すると、カタクリが少し先にある大きな馬車の様な乗り物を指差した。

 

 

「あれで城まで行く。」

 

「それなら…」

 

「お前の能力で行くと言う手段は却下だ。

上空からじゃ地理も把握しやすく、侵入禁止の場所に飛ばれても困る。」

 

「…先読みで話を飛ばしてばかりでは、会話が楽しくなくなるぞ?」

 

「……先んじて手を打たねェとお前は情報を得ようと好き勝手暗躍するだろうが。

ただでさえこの結婚式に呼ぶ事に弟や妹達の間で反対は多く出てたんだ。

…おれは弟妹達を不安にさせるような真似はしたくねェ。」

 

「カタクリ相手に好き勝手した記憶はあまりないが…事情は理解した。

付き人と言う名の監視が付くが大人しくしていろって事だろう?」

 

「“あまり”、か……まぁ自覚があるならいい。

本当に何もするなよ。

お前にシマで暴れられちゃあ大損害だ。」

 

再度念を押してくるカタクリにレオヴァは眉を下げ苦笑いを返すと、カラフルな馬車に乗り込んだ。

それに続くようにカタクリも乗り込むと巨大な馬車はカラカラと音を立てながら進み出す。

 

 

普通よりも大きな2人が乗っても少し余裕のある内部の作りにレオヴァは感心したように僅かに頷くと、他愛ない会話を始めた。

 

カタクリもそんなレオヴァの会話にいつも通り言葉数少なく返す。

 

結婚式を控える城までの道中は四皇幹部同士とは思えぬほど、穏やかに進むのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

百獣海賊団がビッグ・マムのナワバリに到着してから数時間後。

ようやく、今回の主役である婿が港へ到着していた。

 

ペコムズに連れられるまま四皇のお膝元へ誘導されたサンジは港に待機していた馬車へと案内される。

 

僅かに馬車の揺れを感じながらどんどん国の中へと入っていく。

 

 

そして、城へと連れてこられたサンジは風呂に案内され、服もまるで王族のような物を宛がわれる。

 

気持ちの悪いほど丁重な扱いに不審がっていると、何処かに行っていたペコムズが戻って来たようであった。

 

 

「準備は出来たみたいだな、ガオ!

それじゃ、お前を家族の下に案内するぜ。」

 

着いてこいと言って歩きだしたペコムズの後ろでサンジは固まっていた。

 

思い出されるのは悪夢の日々。

 

振るわれる暴力と嘲笑。

冷たい父だった男と、優しさが抜け落ちたような兄弟達。

 

ギュッと喉が締め付けられる感覚にサンジが動けずにいると、ペコムズが不思議そうに首をかしげる。

 

 

「おい、黒足…?どうした。ガオ!」

 

心配そうな声色にハッと我に返ったサンジは平静を装う。

 

 

「なんでもねェ。」

 

「…?じゃあ、行くぞ。」

 

再び歩きだしたペコムズの後ろをサンジは進む。

 

まるで死刑台に連れて行かれるような気持ちだが、逃げ出す訳にはいかなかった。

 

大切な恩人ゼフと、大好きなクソコック達……バラティエの為に。

 

 

広い廊下に二人の足音だけが響く。

 

大きな扉の前につき、ペコムズがこちらを振り返った。

 

 

「ここだ。

おれはママに報告に行くから戻るぞ、ガオ!」

 

じゃあな、と軽く手を振って消えて行ったペコムズの背を見送る。

 

サンジは大きく息を吸って、吐いた。

 

ゆっくりと手を扉につける。

この扉の先にアイツらがいる…そう考えると何故か腕に力が入らなかった。

 

どれだけ長い間、扉の前で葛藤しただろうか。

いや、本当は数秒だったかもしれない。

 

サンジが唇を噛んだ時だった。

 

扉がすっと開いたのだ。

手をついていたサンジはバランスを崩し、不本意に部屋に足を踏み入れてしまった。

 

 

「いつまで外にいるつもりだ。」

 

抑揚の少ない声にサンジは顔を上げる。

 

 

「イ、イチジ……」

 

無意識に固くなる声にサンジは内心情けなく思いながらも体勢を整える。

 

イチジとサンジの間に重い沈黙が流れると、部屋の奥から声が聞こえて来た。

 

 

「ねぇ、イチジ。

あまりにも遅すぎるわ、心配よ。

みんなで港へサンジを迎えに……」

 

そう言いながら現れた女性にサンジが目を見開くと、相手も同じように目を見開く。

 

 

「レイジュ…」

 

「……サンジ…」

 

三人とも何も話さない時間が数秒流れると、レイジュが目線をさ迷わせた後、口を開いた。

 

 

「……元気、だった?」

 

「……え?…ぁ、まぁ。」

 

泣きそうな顔で必死に笑顔を作るレイジュにサンジは混乱して上手く言葉が出ずにいると、乱暴にイチジに腕を掴まれた。

 

反射的に身を固くしたサンジを気に掛ける様子もなく、イチジは腕を引き部屋の奥へ歩き始める。

 

 

「ちょっと、イチジ!

そんな手荒に…!」

 

止めようとするレイジュにイチジは淡々と返す。

 

 

「このままここで話すとなると体が冷える。

おれ達と違ってコイツは“弱い”。

もし、風邪を引かれでもしたら困るだろう。」

 

「そうかもしれないけど、もっと普通に…」

 

呆れたように溜め息を吐くと、レイジュは唖然としたまま腕を引かれるサンジの方を向く。

 

 

「ごめんね、サンジ。

これでも少しはマシになってる方なの。」

 

眉を下げて申し訳なさそうな顔をするレイジュに返す言葉が見つからなかった。

 

そのまま部屋に通されたサンジをイチジはソファーに放ると、自分の定位置である場所に腰掛ける。

 

少しずつ混乱が収まって来たサンジが今回の事で物申そうと姿勢を整えると、今入って来た扉とは別の扉が勢いよく開いた。

 

 

「お、なんだよ。もう来てたのか?」

 

「ハハハッ!相変わらずの間抜け面だなァ!」

 

「…ニジ、ヨンジ……」

 

「名前くらいは覚えてたか!」

 

「呼び捨てかァ?サンジ~?」

 

意地の悪い笑みを浮かべる二人にレイジュが非難の目を向ける。

 

 

「ニジ、ヨンジ……ふざけるなら部屋に戻って。」

 

「あ"?レイジュに命令される筋合いねェけど?」

 

「少し生まれるのが早かったってだけで偉ぶんなよ、レイジュ!」

 

嫌悪な雰囲気になりかけている三人の会話に、黙っていたイチジが溜め息を吐く。

 

 

「止せ、騒ぐな。

今はサンジへの対応が優先だ。」

 

「……チッ!」

 

「…ハイハイ、ワカリマシタ~。」

 

イチジの言葉で意地の悪い笑みを消した二人は大人しくソファーへと腰掛ける。

 

静寂が戻った部屋でサンジがイチジに目線を向けると、ゆったりした動作で口を開いた。

 

 

「聞きたい事があるなら答えてやる。」

 

「っ……なんだって、今さらおれを呼び戻したんだ。」

 

「レイジュの意思だ。

それにおれ達が兄弟であると言う事実は変わらない。」

 

「今さら兄弟…?

何も答えになってねェだろ!!」

 

ドンッと強く机を殴ったサンジにニジが眉間に皺を止せる。

 

 

「おれだってお前と兄弟なんざゴメンだぜ?

けどよォ、兄弟なんだからケジメつけろって百獣に攻め入られたらお前責任取れンの?

もう昔に縁切ったからって言えば納得してくれるような頭お花畑な海賊団じゃねェんだよ、アイツらは。」

 

「……は?」

 

何を言ってるのかと目を丸くするサンジに、ヨンジが痺れを切らしたのか言葉を投げる。

 

 

「だから、てめぇが打倒百獣なんか始めるからこっちは肩身狭ェんだよ!!

本当ならその首切って、あの胡散臭いレオヴァに引き渡して終わってもいいぐれぇだ。」

 

「おい、馬鹿!アイツの悪口は止めろ!」

 

「悪口じゃねェし、事実だろ!いっつもニコニコ胡散臭ェ。

とにかく、サンジ!

てめぇが百獣と敵対してっから、おれらまで睨まれてんだよ!!」

 

「そこまでだ、ヨンジ。

レオヴァへの言葉選びは気を付けろ……おれ達の為にならない。」

 

イチジの言葉に拗ねたようにそっぽを向いたヨンジだが、それ以上言葉を続けることはなかった。

 

そんな騒がしいやりとりの中、サンジは押し黙ってしまっていた。

 

今の会話をまとめて、1つの答えに辿り着いたのだ。

 

ルフィ達と共に打倒百獣を掲げた結果、サンジの血縁である彼らも危うい立場にあるから、今回無理やり連れて来られたのだと。

 

しかし、ならば何故ヨンジの言うように自分の首を切って百獣に渡さないのか?

そう疑問を感じたサンジの心を読んだようにイチジが口を開いた。

 

 

「…レイジュは、お前を殺したくはないそうだ。

おれとしても別に好き好んで兄弟を手にかけようとは思わん。」

 

「レイジュが…?」

 

思わずレイジュの方を振り返る。

サンジに驚きの表情で見られたレイジュは気まずそうに目を伏せた。

 

 

「ごめんなさい、サンジ…こんな方法でしか貴方を守れなかった。」

 

また言葉が見つからずに黙ったサンジに、イチジは口を開く。

 

 

「お前がヴィンスモーク家に戻るだけでは一度百獣海賊団に敵対した罪は消えない。

だが、シャーロット家と契りを結べば、もし今後カイドウが許すと言わなかったとしても手は出せない。

この結婚はお前を守る為にレイジュがレオヴァに頼み込んだ結果、成立したものだ。」

 

イチジの言葉にサンジの目が揺らぐ。

レオヴァの名前が出てきた事もそうだが、何よりも理解が追い付かないのはイチジ達の発言だ。

 

まるで自分を守る為に手を尽くしたみたいではないか。

出来損ないだと酷い扱いをしてきた兄弟達が、守る…?おれを…?

 

記憶とのギャップに思考が追い付けずにいると、イチジが立ち上がった。

 

 

「理解が追い付かないようだが、幸い時間はまだある。

一人で考えを整理しろ。

…その前にお前に客人が来たようだが。」

 

イチジがレイジュに目線を送ると、扉の方へ客人を迎えに行った。

 

それに続くようにヨンジとニジは部屋のある方へと歩いて行く。

 

最後に部屋に残っていたイチジとサンジはお互い無言だったが、イチジが部屋の方へ消えていった事でひとり残された。

 

静かな部屋に向かって来る足音。

レイジュは客人を中に通すと、自分の部屋へと戻ってしまった。

 

 

サンジが顔を上げると見知った男が立っている。

 

 

「久しぶりだな……少し、痩せたか?」

 

困り眉のまま微笑んだ男にサンジは細い声を吐き出した。

 

 

「レオヴァ…何で……」

 

「何故、か。

それはお前が一番よく分かってるんじゃねェのか、サンジ?

百獣海賊団と敵対するって事は、大切な物を失う覚悟が必要だってな。」

 

レオヴァの言葉にサンジは震える唇を噛む。

 

色んな感情で揺れる瞳をレオヴァはソファーに腰掛けると、背を屈めて真っ直ぐに見つめて言葉を続けた。

 

 

「おれは敵に容赦はしねェ、それは知ってるだろ?

大切な身内を失わない為ならば、おれは何だってする。

……サンジ。

無理やりお前を麦わらから引き離したのを怒り、悲しんでいるが……他に方法があったか?

あのまま麦わらと居るならおれはお前と、友であるゼフを……望まぬ形で手にかけなきゃならなかった。

一度敵対したお前を百獣海賊団の総督補佐官として“許す言い訳”の為には、この方法しかなかったんだ。」

 

レオヴァの苦しげな声にサンジはやっと真っ直ぐに視線を返す。

 

目の前にある顔は悲しげに眉がさげられ、瞳は僅かに揺れているように見えた。

 

 

「…………おれに、サンジとゼフを…失えってのか?」

 

「…レオ、ヴァ……おれ…」

 

乾いた喉からは上手く声が出ず、サンジはまとまらない思考に更に惑わされていく。

 

レオヴァはそんなサンジの頭にそっと手を伸ばしいつものように、わしゃっと軽く髪を混ぜた。

 

 

「……おれは昔からずっと百獣に来いって言ってたじゃねェかサンジ。」

 

そっとレオヴァの手が離れ、真っ直ぐこちらに向いていた瞳が悲しげに下げられる。

 

いまだに言葉が見つからないサンジにレオヴァはゆっくりと背を向けた。

 

 

「恨んでくれて構わない。

おれはそれでも、お前とゼフを失うのは御免だ。

……あとこれは土産だ。植物も…好きだっただろう?」

 

そう言うとレオヴァは花を置いて部屋を出ていってしまった。

 

残されたサンジの頭にはレオヴァの言葉と、懐かしい記憶がぐるぐると巡る。

 

 

「……結局、おれはっ…!」

 

ぐちゃぐちゃな心のままにサンジは机を殴った。

 

レオヴァの置いて行った鬼灯の花の前に、数滴の雫が落ちる。

 

何も切り捨てられない男は、ただ答えのない問答を頭の中で繰り返すのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

ジェルマの客室から出て来たレオヴァを確認すると、ペロスペローはいつもの読めない笑みを浮かべる。

 

 

「まさか麦わらの一味にジェルマの倅がいるなんてな!

知ってて唾付けてたのか、レオヴァ?」

 

ニヤニヤと笑いながら側に来た付き人と言う名の監視役にレオヴァも読めない笑みを張り付ける。

 

 

「おれがサンジと出会ったのはイチジ達と会う前だがなァ。」

 

「いつから知り合いだ?」

 

「随分、昔だ。

まだサンジが子どもの頃…バラティエが出来る前だ。」

 

「……おい、本当に随分前じゃねェか。」

 

想像以上に長い付き合いだった事にペロスペローが驚いていると、レオヴァはスタスタと歩き始める。

 

慌てて早足で追い付くとペロスペローはレオヴァの表情を窺った。

 

いつも通りの笑みに見えるが何処か違和感がある。

 

果たしてこれは長い付き合いの黒足に対する感情の揺れなのか、はたまた別の案件なのか。

予想を立てながらも、ペロスペローはまたレオヴァに新しい話題を振った。

 

相変わらず打てば響くような会話に楽しさを覚えながらレオヴァの泊まる客間へと歩いて行くのだった。

 

 

 

 





ー補足ー

ジェルマ、レイジュの頼みでサンジを迎える方向に。
(麦わらの一味が百獣に敵対したのを知り、弟を救う為にレイジュが懇願)

その後、ジェルマと取引したいビッグ・マムの要望もありサンジが“ヴィンスモーク”としてシャーロット家と契りを結べば百獣海賊団はサンジに手を出さないだろうと判断

ジェルマ、ビッグ・マム互いに結婚の約束を交わす為に
ここでレオヴァが仲介人として登場

サンジ、結婚の流れに


・レオヴァ
今回はほぼ演技であるが、言葉の端々に真実を混ぜて誤魔化しきった。
拡大解釈はあるが嘘はついていないと本人は平然としている。
それよりもジャックの件が気が気じゃない。結婚などどうでも良いから安否確認に行きたい。

・プリンちゃん
原作とは違い最初からツンデレ(?)
過去、レオヴァとのやり取りで少し吹っ切れた所がある。

・カタクリ
可愛い妹の婚約者がヘタれているので若干怒。
レオヴァから良い男だと聞いていたので少しサンジへのハードルが上がっている。

・ペロスペロー
カタクリと交代で付き人兼監視役を担当。
可愛い妹の結婚式なので成功させたい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誰に何と言われようとも

 

 

 

ビッグ・マムのナワバリ、万国にて。

 

豪華な客間のソファーに腰掛け客人を迎えるレオヴァの様子をドレークは紅茶の準備をしながら横目で伺っていた。

 

 

「…って、感じなんだけど!あり得なくない!?

もうすぐ結婚式なのに…食事の時にしか会ってないの。

なんかもっとこう…デートに誘うとか…!」

 

頬っぺたをこれでもかと膨らませながら愚痴を溢すシャーロット家の36女、プリンにレオヴァは話を合わせる様に頷いた。

 

 

「確かにそれは酷い話だなァ。」

 

「そうよね!?レオヴァなら分かってくれると思ってた!

ウチでは自由に結婚なんて無理だけど……やっぱり少しはお互いのことを知って~、とか思うでしょ?」

 

「生涯の伴侶になるんだからな、プリンの意見は尤もだ。」

 

「そうなの!

なのにデートの誘いの1つもないなんて……信じられないっ!」

 

ぺしぺしと可愛らしく大きな机を叩くプリンに苦笑いしつつ、レオヴァがドレークに目線を向ける。

 

すると、ドレークはすかさず丁寧な動きで紅茶を2人に差し出した。

 

 

「……ありがとう。」

 

「いや、気にするな。」

 

膨れながらもドレークに礼を述べるとプリンはアイスティーを飲み、レオヴァが土産に持ってきていたクッキーに手を伸ばした。

 

 

「…サンジがデートに誘ってこない事が不満なのは分かったが、性格や見た目はどうだ?

おれとしてはサンジは良い男だと思うんだが。」

 

突然の問いにクッキーを食べていたプリンの顔がだんだんと赤く染まる。

 

その反応にレオヴァが予想通りの反応だと小さく笑うと、プリンはもじもじしながら顔を隠すように両手でコップを握った。

 

 

「……べ、べ、別にカッコいいとかは思ってないけど。

私の三つ目見ても変な顔しないし…

変でしょ、って聞いても…き、綺麗な瞳だって言ってくれて……」

 

「…ほう?

ちゃんと目を隠さずに食事会に行ったんだな。」

 

「うん、いつもママは隠せって言うけど…

これもチャームポイントってレオヴァが言ってくれたから。

だから、私もそう思うようにしようと思って!

それに結婚する相手に隠しても、いつかはバレると思うし。」

 

「その通りだ。

何より隠すような事でもない。

おれはプリンのその三つ目、良いと思うぞ。」

 

「ふふ、ありがとう!レオヴァ。」

 

花のように可憐な笑みを浮かべ、プリンはまた机の上にあるお菓子に手を伸ばす。

 

すっかり機嫌が良くなったプリンにレオヴァは笑顔を返しながら、もうすぐ行われる結婚式に向けて思考を巡らすのであった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

時は遡り、サンジが万国に連行されていた頃。

 

打倒百獣同盟ではサンジ奪還メンバーが決定し、出港していた。

 

今回の奪還は素早い行動と隠密が求められる作戦である。

何としてもビッグ・マムとの全面戦争は避けなければならないのだ。

 

 

「よし~!行くぞ!トッタンランド(・・・・・・・)~~!!」

 

「トットランドだ!何度言えば分かるんだ!?」

 

気合いを入れるルフィに思わず突っ込みを入れるシキだが、当の本人は気にした様子はない。

 

振り回される感覚に僅かに懐かしさを覚えながら、シキは浮かせている船を万国に向けて進めた。

 

 

実はルフィが倒したと言うボン・クレーの姿はなかったが、倒れていたであろう場所に万国に行く為のエターナルポースが落ちていたのだ。

 

結果、ルフィ達は迷うことなくビッグ・マムへのナワバリへ向けて空を進む事が出来ていた。

 

 

出発前にキッドとルフィが揉めた事で大幅に出遅れてしまったが、シキの能力のお陰で結婚式に間に合う程の速さで航路を進んでいる。

 

しかし、それを知らぬナミやブルックの顔には焦りが浮かぶ。

 

何故、サンジは相談する事もせず行ってしまったのか。

もしビッグ・マムと戦闘になってしまったら…

心配事は尽きることなく、溢れそうになる。

 

 

「…早くサンジさんのご飯、食べたいですね。」

 

「……うん。」 

 

ブルックの言葉にナミは頷くと、無理やり笑顔を浮かべた。

 

 

「会ったらまずは、勝手に相談しないで行くなって怒らなきゃね!」

 

ぐっと拳を握りゲンコツポーズを取るナミにブルックも髑髏の顔に笑みを作る。

 

 

不安はあるが、会わなければ始まらないと2人は気持ちを切り替えた。

 

大切な仲間を、何があっても助ける。

それは強い想いだった。

 

優しい彼の事だ。

きっと理由があって出ていくしかなかったに違いない。

 

今、苦しんでいるかもしれない。

酷い目にあっているかもしれない。

 

そう思うとナミもブルックも胸が張り裂けそうであったが、同時に絶対に助けると強い意思が漲る。

 

 

彼らは行く、大切な仲間を取り戻す為に。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

時は戻り、現在。

 

結婚式を間近に控え慌ただしい城内の気配を背にレオヴァはじっと電伝虫を見つめていた。

 

ここ暫く人が近くに居ない時は、こうして難しい顔のまま電伝虫を睨んでいるのだが。

その事を唯一知っているドレークは心配そうにレオヴァの背を盗み見ていた。

 

ドレークが本を読んだり手記を書いたりと休んでいる間、レオヴァはずっと電伝虫を気にしているのだ。

 

理由は分かっている。

それは少し前にあったジャックの件だろう。

 

不安なのはドレークも同じだ。

長く苦楽を共にした同志、心配じゃない筈がない。

けれど、ジャックならばと言う信頼があるからこそ慌てずにいられる。

 

しかし、レオヴァはほほ寝ずにずっと連絡を待っているように見えた。

 

なんと声をかけるべきかとドレークが悩んでいると、ずっと沈黙を貫いていた電伝虫が音を立てる。

 

ワンコールで受話器を取ると電伝虫から聞きなれた声がドレークの下まで聞こえて来た。

 

 

「……レオヴァさん。」

 

「っ…ジャック!無事なんだな!?」

 

滅多に出さないような切羽詰まったような声で名前を呼ぶと、電伝虫から申し訳なさそうな返事が返ってくる。

 

 

「…すみません、おれァ……

赤鞘とクイーンの兄御が気に入ってる女に逃げられた挙げ句…」

 

会わせる顔がないと悔しげな声を出すジャックの言葉をレオヴァは遮るように口を開いた。

 

 

「構わねェ、ジャック。

いいんだ、お前が無事ならそれで…!」

 

本当に良かったと安堵の声を漏らすと電伝虫が受話器の向こうにいるジャックの表情を真似る。

 

すまなそうな、でも心配して貰えていた事に嬉しそうな複雑な顔になっている電伝虫を見てレオヴァはやっと心からの笑みを溢した。

 

 

「ジャックなら海に落ちても大丈夫だと頭では理解出来ていたんだが……それでも、やっと声を聞けて安心した。」

 

「……申し訳ねェ…」

 

「いい、気にするな。

怪我の具合は?何か体調に異変はねェな?」

 

「はい、問題ねェです。

吹っ飛ばされちまったが、でけぇ怪我を負うほど強い一撃は食らってねェんで。」

 

「そうか、なら良かった。

今のゾウとの距離関係は分かるか?」

 

いつも通りの調子に戻ったレオヴァの声にジャックも気を持ち直し返事を返す。

 

 

「正確な距離は分からねェですが、ビブルカードはあるんでいつでも向かえます。」

 

しっかりと返答するジャックに次の動きの指示を出すレオヴァを横目で捉え、安心したようにほっと胸を撫で下ろすとドレークは懐に仕舞っていた紙を取り出す。

 

ドレスローザでの騒動でローが手に入れた物を映像電伝虫を通して書き写しておいたのだ。

 

今回のドレークの任務において、これは必要不可欠な物である。

 

内容をしっかり頭に叩き込み、もうすぐ行われる結婚式に備えなければならない。

 

 

『麦わらは必ずサンジを取り戻しに来る。

そうなれば結婚式は大混乱に陥る筈だ……おれ達はその隙を突こう。』

 

そう言っていたレオヴァの言葉を思い出す度、ドレークは少し違和感を覚えていた。

 

確かにレオヴァは先を見据えて作戦を立てるが今まで身内以外の動きに、ここまで左右される作戦があっただろうか。

 

何故かレオヴァは麦わらは必ず仲間の為に動くと確信している。

 

今回の作戦もそうだ。

 

もし、麦わらが四皇を二人同時に相手には出来ないと損切りをして、サンジを捨てて乗り込んで来なければ作戦は成立しない。

 

そうなればアドリブで事を進めなくてはならい。

 

レオヴァがそんな綱渡りな作戦を立てるなど、滅多にない事である。

 

 

何故そこまで、あの麦わらという青年をレオヴァは信じているのだろうか。

 

確か、マリンフォードでの戦いの後。

暫く白ひげ海賊団達共々、面倒を見ていた時期があった事はドレークの記憶にもある。

 

しかし、その少ない日数の中でレオヴァが麦わらと共にいた時間は短かった筈だ。

 

間違いなくエースやマルコの相手をする事が多かったとドレークは記憶していた。

 

 

様々な噂話はあるが実状が良く分からない青年、麦わらのルフィ。

ドレークの中で彼への警戒度が上がって行く。

 

黒ひげのように、レオヴァが警戒するのならば恐らく奴も侮れぬ相手なのだ。

 

今回の作戦も、奴ら一味が来るとなればイレギュラーが起こる可能性があるとレオヴァは言っていた。

 

失敗は出来ない。

カイドウを海賊王にする為に、必ずやり遂げなければならないのだ。

 

 

 

ガチャり、と受話器を置く音が響く。

 

 

「……もうすぐだな、ドリィ。

地図と作戦は頭に入ってるか?」

 

こちらを振り返ったレオヴァに、ドレークは力強く返した。

 

 

「あぁ、レオヴァさん……抜かりなく。」

 

2人は部屋に近付いて来る人の気配に、普段通りを装う。

 

海賊に、裏切りは付きものであろう。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

ビッグ・マムのナワバリである万国に到着してから数日。

 

サンジは姉弟達と共に過ごしていた。

 

食事も掃除も全て使用人がやってしまう為、何もやる事がない日々だった。

 

いつもならば大切な仲間達の喜ぶ笑顔と『美味しい』という言葉の為に手間暇惜しむことなく料理をしている筈の時間も、ただ虚しいだけ。

 

 

最初はゼフとバラティエが人質として握られているから逃げられなかったが、ここ数日で逃げられない理由が増えてしまった。

 

サンジは姉を、兄弟達を見捨てられなかったのだ。

 

もし、自分が逃げたら……ルフィ達のもとへ。帰りたい場所へ行ってしまえば彼らはどうなる?

 

そう考えると、行動に移せずにいた。

 

過去、兄弟達には散々な目に合わされた筈だ。

あれだけの事をされたのだ、恨んだって誰もサンジを責めはしないだろう。

 

けれど彼は恨みに囚われ、元家族を嘲笑う真似をしなかった。

 

出来なかったのだ。

そんな事をしては(ゼフ)に顔向けが出来ないと言う思いや、元来の優しすぎる性格のせいで。

 

 

今日もぼんやりとサンジは窓の外を眺める。

どうしようもない現実に縛られるのは久々だと、深い溜め息を吐きながら。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

シャーロット・プリンの人生は嘘で塗り固めて作り上げたものだった。

 

優しくて、少し天然で、笑顔を絶やさない…非の打ち所のない“良い子”。

 

それが彼女の演じる“シャーロット・プリン”だった。

 

母親であるリンリンに言われるがまま男を騙し、都合の良い娘であり続けた。

 

 

『我が子ながら気持ち悪いね。

前髪をのばしな、プリン。』

 

そう言った母親に必死に笑顔を作り、頷いて。

言われるがままに前髪を伸ばす。

 

3つ目の気持ち悪い、私は化け物。

 

 

『怪物よ!!気持ち悪い!!』

 

『見ろ!こいつ3つ目なんだ!!』

 

今まで言われ続けた言葉。

 

化け物、気持ち悪い……もう聞き飽きた。

 

うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!!!

 

どうせ、誰も私を愛さない。

誰も私を好きになりはしない。私は醜い化け物なんだ。

 

……でも、それで構わない。

別に寂しくも、虚しくもない。

 

私は“シャーロット・プリン”

四皇であるママの娘、化け物なのは当然。

 

バカな奴らに見下されず、贅沢に生きていければいい。

 

 

そう思い、プリンは人生を歩んで来た。

ある男に出会うまで。

 

 

その日もいつものようにプリンはビッグ・マムから命令を受けたのだ。

 

 

『プリン、お前今度のペロスペローの遠征付いて行きな。』

 

『ペロスペロー兄さんの遠征?』

 

遠征にめったに駆り出されないプリンが首を傾げると、ビッグ・マムは悪どい笑みを浮かべる。

 

 

『遠征って言っても、内容はほぼ百獣との取引さ。

そこで取引にくる百獣の息子に気に入られるんだ、お前なら出来るよねぇ?』

 

ビッグ・マムの言葉で全てを察したプリンは笑顔で頷いた。

 

またどこぞのボンボンに気に入られるだけの簡単な仕事だ。

 

百獣と言えばお菓子だけでなく、砂糖などの材料の取引もしている相手だ。

 

きっと取り入ってもっと安く、多くをウチに卸させる為に私を使おうと言うのだろう。

と、リンリンの意図を察したプリンは言われた通りにペロスペローの遠征に参加した。

 

 

そして百獣のカイドウの息子、レオヴァと出会った。

 

 

『レオヴァ、おれの隣にいるのが自慢の妹…プリンだ!』

 

兄に紹介されると同時にプリンは一歩後ろでか弱げに微笑んでみせる。

 

 

『は、はじめまして!レオヴァさん。

私はプリンって言います、よろしくお願いします!』

 

無垢に、無害に、愛らしく。

見る者が見れば一目で恋に落ちてしまいそうな程、可愛らしく挨拶をしたプリンにレオヴァと呼ばれた男は人好きのする笑み浮かべる。

 

 

『プリン、か…おれはレオヴァ。

こちらこそ、よろしく頼む。』

 

『はい!

貿易について色々教えて貰えたら嬉しいですっ!』

 

『勿論、おれで良ければ。』

 

ニコリと笑うレオヴァに手応えを感じながら、プリンは1度目の出会いを終えた。

 

 

その後も2回、3回と兄達の遠征に付いていく形でレオヴァと親睦を深めていっていたが、問題は5回目の時に起きた。

 

メリエンダの時間が近くなったにも関わらず、カタクリとレオヴァが見当たらなかったのでプリンは島の奥へと探しに行ったのだ。

 

そして、そこで激しい戦闘を繰り広げる2人を目撃してしまう。

 

この時プリンは二人が“組手”という形式で手合わせをしている事を知らなかった。

その結果、二人が揉めているのだと勘違いして、止めようと声をかける為に少し前に出たのが失敗であった。

 

二人の戦闘の激しさで砕けた木々の破片がプリン目掛けて飛んで来たのだ。

 

 

『痛っ……ぅ!』

 

小さなその声にカタクリが我に返ったように振り向き、プリンの存在を確認して慌てたように駆け寄ってくる。

 

 

『プリン!?何故、ここにいる!』

 

『カタクリ兄さん!なんでレオヴァさんと戦闘になってるの!?』

 

『…い…いや、これは組手という…』

 

一瞬気まずそうに目を伏せたカタクリだったが、プリンの前髪付近から僅かに血が流れているのを見つけて、カッと目を見開いた。

 

 

『プリン、まさか怪我をしたのか!?』

 

慌てて膝を突き顔を寄せてくるカタクリにプリンは大丈夫だと笑ってみせるが、兄は真っ青な顔のまま珍しく焦りを表に出している。

 

 

『すぐに手当てをしねェと!

失明でもしたらどうする!?』

 

『大げさよ、カタクリ兄さん。』

 

『大げさな事はねェ!!

……悪かった、おれが周りへの注意を欠いたばかりにお前に怪我を…』

 

見たことがないほど、しゅんっ…としてしまった兄にこの人は優しいな、と思っていると。

すっかり存在を忘れてしまっていた相手、レオヴァがカタクリの背後からひょこりと顔を出した。

 

 

『大丈夫か?

応急処置でよけりゃ、おれが一式持ってきてるが…』

 

心配そうな顔で覗き込んでいるレオヴァをカタクリが振り返る。

 

 

『そうか…!

レオヴァは応急箱ってのを持って来てたか!

プリン、すぐに手当てして貰え。』

 

『あぁ、任せてくれ。』

 

『えっ……で、でも…』

 

待っていろとだけ言って少し離れた場所にある餅で出来た四角い部屋に歩いて行ったレオヴァをプリンは困惑の表情のまま見送った。

 

今、怪我しているのは額にある目のすぐ側だ。

そこを手当てするとなれば、見られてしまう……“普通の人”にはある筈のない眼を。

 

勝手に進んでしまった話をどう違和感なく断ろうかとプリンが焦っていると、箱を手にレオヴァが戻ってきてしまった。

 

 

『あ、えっと…手当ては帰ってからで…』

 

『大丈夫だ、プリン。

おれはこう見えても船医でもあるんだ、安心してくれ。』

 

安心させるように微笑んでくるレオヴァにプリンは苦い顔になる。

 

助けを求めるようにカタクリに目を向けると、兄も安心させるようにプリンの肩にポンッと優しく手を置く。

 

 

『おれも何度も手当てを受けているが、レオヴァの船医としての腕は間違いねェ。

何も心配することはない。』

 

『(カタクリ兄さん、そうじゃなくて!!)』

 

大丈夫だぞ、と安心させようと不器用ながらに頑張る兄に内心で叫んでいるとレオヴァの手が伸びてくる。

 

 

『(あっ……終わった…)』

 

これでレオヴァに嫌われたらママにどう言い訳しよう。

短い間だったけれど、レオヴァは博識で話すの少しだけ楽しかったな…とプリンは諦めたように目を伏せる。

 

すると、レオヴァが息を飲む気配を感じてプリンはぐっと拳を握った。

 

またいつものように『気持ち悪い』『化け物』『騙してたのか』と言葉を投げ付けられるのだ。

 

そう腹を括ると、額に消毒液がたっぷりかけたられたガーゼが当てられる。

 

 

『すまない、あと少しで目に怪我をさせる所だった…!

傷口を綺麗にする為に消毒してるが、染みないか?』

 

『……え…う、うん。染みないけど…』

 

『そうか…良かった。

何かあれば言ってくれ。

掠り傷だな……縫わなくても良さそうだから、ガーゼで抑えておく。

一応、船についたらそっちの船医にみせるようにな。』

 

変わらぬ笑みを向けてくるレオヴァに思考が追い付けずにいると、カタクリも覗き込んで来る。

 

 

『本当に大丈夫か、プリン?』

 

『……うん、だいじょうぶ…』

 

心ここに在らずの返事にカタクリは心配そうに眉を下げる。

 

 

『レオヴァ、本当に大丈夫なのか?』

 

『あぁ、本当に少しかすっただけみたいだ。』

 

『……だが、プリンの様子が…』

 

『それはおれにも分からねェ…

毒がある木はここら辺には生えてない……もしかしたら額からの出血で一時的に放心状態なのかもな。』

 

『プリンはそんなに弱くなかった筈だが……そうか。

戻ったら休ませる。』

 

『それがいい。

これも気付けなかったおれの落ち度だ、滞在日はプリンが回復するまで伸ばしてくれて構わない。

食事や物資もおれが責任持って手配しよう。』

 

『いや、それを言うならおれの落ち度でもある。

物資まで支援してもらう訳にはいかねェ…が、レオヴァの言葉に甘えてプリンが回復するまで滞在はさせてもらう事にする。』

 

テンポ良く会話を進めるカタクリとレオヴァの声をBGMに、プリンは手早く丁寧に手当てされた額に軽く触れると、新品のガーゼが少し目を覆うように付いている。

 

そんなプリンの様子にレオヴァがまた此方を向く。

 

 

『少し目にかかってしまったが、貼り直すか?』

 

『ううん、これで…いい。』

 

『そうか…大切な目に傷がついていなくて良かった。』

 

安心したように呟かれた声にプリンは顔を上げてレオヴァを見る。

 

 

『…コレを見ても驚かないんだ?

それって変わってる、変だよ…レオヴァは。』

 

プリンのわざとトゲを付け足したような言葉にレオヴァではなく、カタクリがハッとしたような顔になる。

 

ようやく傷が大した事がないと判明して冷静さを取り戻し、事の重大さに気が付いたといったような顔であった。

 

妹が怪我をして焦っていた事と、普段から組手後に手当てしてくれるレオヴァの治療の腕を買っていた事でプリンの“隠し事”がすっかり頭から抜けていたのだろう。

 

慌てるカタクリの心情とは裏腹にレオヴァはきょとんと目を丸くして、首を傾げた。

 

 

『何故、驚く必要があるんだ?』

 

質問で返されてプリンも目を丸くする。

 

何故驚く必要があるのか、なんて分かりきってるではないか。

“普通”ない筈の場所に目があったら驚くし、気味悪がるものなのだ。人間は。

 

そんな思いを込めてプリンはムッとした顔で言葉を返す。

 

 

『みんな、こんな場所に目なんかないじゃない!

気持ち悪いって…化け物だって思うのが“普通”でしょ!』

 

猫を被る事を止めて八つ当たりのように叫ぶが、レオヴァは相変わらず毒気のない表情のままだ。

 

 

『ただ目が3つあるだけだろう?

もし気持ち悪いだの化け物だのと言う奴がいるとしたら、それはそいつらが無知なだけだ。愚か者は自分と違う者を卑下して安心したがるからなァ…

プリン、お前の目はおれの角と同じ“個性”だ。

そんな苦しそうな顔をするくらいなら、お前を侮辱するような奴らはぶっ飛ばしちまえばいい。』

 

『えっ……ぶっ飛ば、す…?』

 

プリンの知っている優しくお上品なレオヴァとは思えぬ言葉に唖然としていると、彼はニッと笑った。

 

 

『自分でぶっ飛ばすのが難しけりゃ、カタクリやペロスペローがいるだろ?

兄妹の為なら誰が相手だって、やってくれるさ。』

 

『……おい、レオヴァ。』

 

『なんだ、違うのか。カタクリ?』

 

レオヴァが悪戯に笑うとカタクリは呆れたような顔をしながらも小さく笑い、プリンへ手を差しのべた。

 

 

『プリン、レオヴァの言う通りお前の目は“個性”だ。

……何かあれば、おれに言え。』

 

『カタクリ兄さんっ…』

 

うるうると潤む3つの瞳で見上げるとプリンはしゃがんでいるカタクリの手を取り立ち上がる。

 

そして、同じく横で膝を突いているレオヴァを振り返った。

 

 

『……ありがとう。

でも、この目の事を誰かに話したらぶっ飛ばす(・・・・・)から!』

 

『ふふふ、そりゃ怖ェなァ。言わないと約束しよう。』

 

冗談を交えながらも約束してくれたレオヴァにプリンは子どもっぽい笑みを向ける。

 

すると、レオヴァは面白そうにまた少し笑った。

 

 

『プリン、猫被ってるより今の方が良いな。

三つ目も綺麗だ、隠す必要はねェ。』

 

『っ~!?べ、別に言われるまでもないわよ!

それに猫被りはレオヴァもでしょ!?』

 

『おれのは猫被りじゃねェ。

大人になったら仕事用の顔が必要になるんだ。』

 

『ちょっと、子ども扱いとかありえないんだけど!?』

 

すっかり素で話しているプリンと、それをからかいながらも上手く対応するレオヴァ。

 

賑やかになった場をカタクリは少し後ろから眺め、マフラーの下で小さく笑みを溢した。

 

 

 

 

あの日から、シャーロット・プリンの人生は少しの嘘と大好きな兄妹達に囲まれた人生になった。

 

今さら正直に生きるのは難しいが“大人になったら仕事用の顔”も必要になるのだ。ちょっとの嘘はご愛嬌。

 

まだ少し素直にはなるのは難しいけれど、3つの目だって素敵な個性。

 

『化け物』とか『気持ち悪い』とか言う奴は言えばいい。

そんな奴らは、みんなぶっ飛ばしてバイバイするだけ。

 

私は私を愛してくれる兄妹と人を大切にして生きていくんだ。

 

ママは私の三つ目族の能力ばかり気にしてくるけど、それも別にいい。

 

誰も愛してくれないなんて、悲観していたけれど。

世界は広いのだと、レオヴァも言っていた。

兄や姉は私を愛してくれていた。

 

私は“シャーロット・プリン”。

四皇であるママの娘…でも、化け物なんかじゃない。

 

──────────── 私は私だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ー後書き&補足ー
今回も読んでくださりありがとうございます!
更新遅くなって申し訳ない!月1~2回は本編or番外編更新出来るように頑張ります!

・サンジ奪還組
シキ+船を動かす為の船員数十名(奇襲と素早い撤収の為シキとその部下達)
ルフィ、ナミ、ブルック(絶対に行きたいと言うルフィと暴走を止める為のナミ&ブルック)
キッド、ヒート(レオヴァがいるならおれが!と聞かなかったキッドのお目付け役のヒート)

・待機組
キッド&キラーが持っていた情報を元に奇襲をしかける為の準備や物資集めを担当。
本来であればキッドは行かせたくなかったのだが、宣戦布告だけという約束で行かせた(誰も止められなかった為)
キラーがストッパーとして同行するのが安全策ではあったが、そうなると準備が進まないので今回は待機組に。
とある海賊と合流する予定。


・プリンちゃん
本作品では原作よりも早めに三つ目について吹っ切れた。ツンデレ属性強め。
今後、書くかは検討中だがサンジとのやりとりも比較的平和。
レオヴァのお墨付きという事を差し引いても、サンジの優しさに惹かれている節がある。
ローラ姉さんとブリュレ姉さん、カタクリ兄さんが特に好き。

・サンジ
食事会の時にプリンと度々会っているが、その時は気を使って明るく振る舞っている(いつものレディー対応に近い)
需要があれば二人のファーストコンタクトなども書くかもしれないが、プリンへの印象は悪くない。
だが、結婚は……今後の流れによるとしか言いようがない。

・ルフィ
サンジ、今迎えに行くぞ~~!!!

・キッド
レオヴァの野郎、こっちが喧嘩売ってるってのに呑気に結婚式だと!?
敵じゃねェって言いてェのか!?ふざけやがって、一発ぶん殴って宣戦布告だァ!!!

・キラー
頼む…頼むから無茶苦茶するのは止してくれキッド!
宣戦布告だけだぞ!?本番はこれからなんだからな!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未来の為の結婚式を

百獣海賊団の代表としてレオヴァが万国(トットランド)に到着してから数日。

明日(あす)、ついに結婚が執り行われるのだが問題が発生していた。

 

それは来賓には告げられてはいないが、大きな問題であった。

あのスイート3将星が何者かに敗れたのだ。

 

これは由々しき事態である。

スイート3将星とはビッグ・マム海賊団の大幹部。

相手が誰であれ敗北は許されぬのだ。

 

更に、その侵入経路が未だに判明しないことも悩みの種であった。

麦わらの一味だと言う推測は立っているが、どうやってこの国に入り込んだのか。謎は深まるばかりである。

 

そして、その事態に追い討ちをかけるかのように、宝物庫にまで侵入者の手は伸びていた。

 

“ソウルキング”と呼ばれる男。

奴は山のように配置されていた兵士を1人で相手取って見せたのだ。

 

あわや大惨事…になりかけたが彼はビッグ・マムの手によって捕まりコレクションとなっている。

 

 

これだけ色々な問題が立て続けに起こってしまっているが、明日に控えた結婚式を取り止める訳には行かなかった。

ヴィンスモーク家の科学力は必ず手中に納めなければならない。

 

何より面子もある。侵入者がいるからと結婚式を延期させるなど沽券に関わるのだ。

 

 

ビッグ・マムは城の中から子ども達に告げる。

生死は問わない。侵入者を排除せよ、と。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

表向きは特に変化のないビッグ・マムの国で、レオヴァはドレーク相手に明日に向けて軽い準備運動をしていた。

 

 

「ふむ…どうやら侵入者に手こずっているようだな、ビッグ・マムは。」

 

「ハァッ…グ、分かるのか、レオヴァさん。」

 

「随分と殺気だってるだろう、気配が。」

 

「ハァ、っ…正直、おれにはあまり感じられない…が。」

 

「見聞色にもタイプがあるからなァ。」

 

拳の突きで吹き飛ばされたドレークは肩で息をする。

 

体を慣らしたいと言うレオヴァの要望に答え軽い組手をしていたのだが、涼しい顔をしているレオヴァとは対照的に汗でびっしょりと濡れた体に服が張り付いてしまっている。

 

 

「ここまでにするか。

悪いな、ドリィ。付き合わせちまって。」

 

「ふぅ…いえ、おれも武器がない状況に慣れたかった。」

 

ふらつきながらも立ち上がったドレークにレオヴァは準備していたタオルを投げ渡す。

それを受けとると額に流れる汗を拭い、彼は苦笑いを溢した。

 

 

「おれが相手で慣らしになったか、レオヴァさん。」

 

「勿論だ。

寧ろ少し熱が入りすぎたくらいだ。

これならドリィは素手でも十分に戦えるな。」

 

「…なら、良かった。

本当にレオヴァさんを相手にすると自分の未熟さが良く分かる……不甲斐ない。」

 

悔しそうに自分の拳を見つめるドレークの肩に優しく手を置くとレオヴァは身内にだけ向ける表情を見せる。

 

 

「自分を厳しく評しすぎだぞ、ドリィ。」

 

「レオヴァさん…」

 

「未熟さを不甲斐なく思う必要はねェ。

それはお前の伸び代…謂わば可能性だ。

おれも父さんと組手をすると同じように思う事もあるが、自信を失くしちゃならねェ。いいか?

自分を信じ、疑うな。そうすればおれ達は更に強くなれる。」

 

「前にレオヴァさんが言ってた“自己暗示”、か。」

 

「そうだ。良く覚えてたな、ドリィ。

お前の真面目さをおれは好ましく思ってるぞ。」

 

「ふっ…ありがとう、レオヴァさん。

そうだな、後ろ向きな言葉はマイナスな事態を引き寄せる。」

 

「あぁ、その意気だ。

明日の結婚式もきっと上手くやれる。」

 

レオヴァの言葉にドレークは屈託のない笑みを返す。

 

 

「じゃあ、おれは汗を流してくるが…レオヴァさんは?」

 

「おれもシャワーを浴びる。

そろそろ食事の時間だからな、流石に今のままは出られない。」

 

「また将星…カタクリが同席を?」

 

「いや、今日はアマンドが来るそうだ。

カタクリ達は忙しそう(・・・・)だからなァ。」

 

「…成る程、確かに。」

 

2人は屋内に戻ると部屋に向かって足を進める。

隣り合わせに手配されている部屋の前に到着したにも関わらず、何故か自分の部屋に入らずに待機するドレークにレオヴァが首を傾げた。

 

 

「ドリィ、部屋に戻らねェのか?」

 

「いや、おれはレオヴァさんがシャワーから上がるまで見張りを…」

 

「必要あるか…?」

 

呑気な返答を返すレオヴァにドレークは困ったように眉を下げる。

 

能力者は海は勿論、水場にも弱いのだ。

流石に力が抜けて動けなくなると言うことはないが、奇襲や暗殺を謀られるとかなり不利なのは間違いない。

 

自分のナワバリであれば良いが他人の、それも四皇のナワバリの中で水に触れるとなれば警戒は必須である。

 

ドレークは表向きとはいえ、護衛として共に来ている身だ。

百獣海賊団のNo.2を守る為に考えられる危険をはね除けようとするのは彼にとって当たり前の行動だった。

守りたい相手が自分より強くとも、忠義を尽くすのは当然なのだ。

 

そんなドレークの気合いを感じ取ったのかレオヴァは心配性な奴だと笑うと、扉を開く。

 

 

「すぐに出る。

そこの飲み物でも飲んで待っていてくれ。」

 

「いや、ゆっくりで大丈夫だ。レオヴァさん。」

 

真面目すぎる部下に困ったように笑いながらレオヴァはシャワールームへ入った。

その後ろ姿を確認し、ドレークはシャワールームを背に部屋の出入口である扉が見える位置に陣取るのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

「うわ"~~ん!!カタクリお"にい"ちゃ~ん!!」

 

大粒の涙を流す女を前にキッドが青筋を浮かべる。

 

 

「さっきからうるせぇぞ!!少しは黙れねェのか、テメェ!!」

 

怒鳴られた女は瞳に涙を浮かべながらもキッと睨み返して見せたが、ロープでぐるぐる巻きにされている姿では威嚇にもなっていない。

 

だが、睨み返された事でキッドのこめかみがピクリと動く。

今にも怒鳴り散らしそうな彼の勢いを削ぐようにヒートが声を上げた。

 

 

「まぁ、お頭!その辺で…

こいつは作戦に必要なんですから。」

 

「…分かってる。

おれァ少し出てくる、後はヒートが残って聞いとけ。」

 

「へい。」

 

ドスドスと大きく足音を立てながら出ていったキッドの姿に同じ部屋にいたナミはホッと胸を撫で下ろす。

 

同盟相手ではあるが、いつキレるか分からない彼は心臓に悪い。

そう思いながら、未だに涙が乾ききっていない女にコップを差し出した。

 

 

「水、飲む?

あんなに泣いたんだもん、体の水分なくなっちゃったでしょ。」

 

「い、いらないわよ!!

アンタ達なんか、カタクリお兄ちゃんが来たら終わり!!絶対、来てくれるんだから…お兄ちゃんが…グスッ」

 

鼻をすすりながらも声を張り上げる姿にナミは少しの罪悪感を覚える。

 

元はと言えば先に手を出して来たのは、この女。

シャーロット・ブリュレなのだが、最終的には多勢に無勢。

シキとその部下達で囲んで捕らえてしまったからか、微妙にやりづらさを感じてしまっていた。

 

そんな2人のやり取りを後ろで見ていたヒートが小さく咳払いをして、話を切り替える。

 

 

「繰り返すようだが明日の作戦…問題ないよな?」

 

ヒートの言葉にルフィとシキが同時に頷く。

 

 

「おう!サンジにも話してある(・・・・・)からな。」

 

「説得は面倒だったがな。

殴り合いをおっ始めた時ァ、ハラハラしたぜ。」

 

シキの言葉にヒートが珍しく瞳を丸くする。

 

 

「ハ?殴り合い!?」

 

「色々あったのよ…」

 

疲れきった顔のナミの一言でヒートは苦笑いのような表情を顔に浮かべるが、一度頷くとルフィを見た。

 

 

「まぁ、おまえらが話し合った結果なら何も言わないが…」

 

ヒートの言葉にルフィが笑みを返せば、シキが呆れたような顔で溜め息を吐く。

 

 

「呑気な奴らだぜ、本当によ。」

 

独り言のように呟かれた言葉にも、ルフィはいつもの笑みを浮かべたままだ。

そんな姿に“あいつ”の面影を感じてシキは軽く頭を振る。

 

まったく、共に行動してから度々感じる面影は実に厄介だ。

海賊同盟はただの利害の一致。必要ならば裏切る事だって視野に入れている。

ドライな関係が望ましい。何より情で動くような真似、自分らしくない。

 

なのに何故だろうか。

麦わら帽子のガキは、どこまでも眩しく感じた。未だに記憶に焼き付く“あいつ”の様に。

 

脳裏に過る馬鹿馬鹿しい考えを振り払うと、シキは明日の作戦の確認の為に部下達のいる別室へと踵を返した。

 

 

「リンリンか……何十年振りだァ?」

 

呟いた声は自分で思ったよりも、楽しげな色を含んでいた。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

『サニー号に帰り"たい"っ…!!

でもおれが逃げればクソジジイも、血の繋がった悪の家族もただじゃ済まねェ!!

恩もねェ、恨みしかないクソみたいな家族だ。

なのに、それでもおれァ……アイツらを見捨てて逃げる勇気がねェっ…!

式が始まれば、おれ1人じゃ何も止められねェのに…!!

家族だとも思わねェ、あのクズ共をっ……おれは…助けたいと思っちまってる!!』

 

雨か涙か分からぬ冷たい雫がポタポタと手の平を濡らす。

俯くサンジの耳に、責めるでもない。笑うでもない。

自然体のままの声が届く。

 

 

『……だって、それがお前だろ!!』

 

サンジが顔を上げる。

いつの間にか雨は止んでいて、雲の切れ間から差す日の光に照らされて麦わら帽子の青年がいつもの頼もしい表情のまま言葉を続けた。

 

 

『おれ達がいるだろ!!

サンジ、式をブッ壊そう!!!』

 

『っ…!?』

 

息を飲んだサンジにルフィは、にししっと笑って見せた。

太陽よりも眩しい、見慣れた笑顔は荒んでいた彼の心の闇を払うようだ。

 

気付けばサンジは頷いていた。

確証はない。保証だってない。

けれど、ルフィなら……そう心から信じられた。

 

 

 

と、いう出来事は少し前の話だ。

あれからサンジは金獅子のシキから更に安心素材となる話を聞かされていた。

 

それは人質として取られているゼフ達やジェルマについてだった。

 

 

『おれの持ってる情報じゃ

ジェルマは百獣の息子と強い関係があるって話じゃねェか。

もし、仮に今回の件でビッグ・マムが奴らを殺そうとしてもあの息子が止めるだろ。』

 

『……いや、レオヴァはそんなに甘く…』

 

サンジが再会した時のレオヴァの言葉を思い出して口を開きかけるが、シキは遮って言葉を重ねる。

 

 

『甘い野郎じゃねェのはおれも分かってるさ。

マリンフォードであれだけの事をやった野郎だぜ?

おれが言いたいのはそう言う事じゃねェ。

ジェルマは百獣から見ても利用価値が高い。

だから簡単には処分しねェだろうって話さ…!

リンリンの奴は報復に力を入れてるからなァ、首を狙ってくる可能性は高いが……カイドウはそこまで拘る奴じゃなかった。』

 

自分の説明で少しずつ空気が軽くなるサンジを横目で確認しつつ、更に話を続ける。

 

 

『それに、だ。

今回式をぶち壊すのはおれや麦わら達だ。

上手くやればビッグ・マムと百獣の恨みをこっちに引き付けられる。

そうすりゃあ、標的はおれ達…!

お前がうだうだ考えてる心配事も消せるって訳だ。

まぁ、その分こっちはリスクが増えるがなァ!』

 

『確かに……すまねェ、おれの事情に巻き込んじまって…』

 

『かぁ~ やめろやめろ!!

悲劇の王子様気取りてェならお仲間の所でやるんだな。

おれはおれで自分に“利”があると踏んだから来てるんだ。

いつまでも情けねェ面は止せ。

本番で失敗されちゃいい迷惑だぜ。』

 

『っ…あぁ、足は引っ張らねェよ。』

 

 

こうして完全に覚悟を決めたサンジは一足先にビッグ・マムのナワバリの中へと戻っていた。

 

どうやらルフィ達はブリュレという捕虜の能力で万国(トットランド)と空に浮かべている船を行き来しているようである。

 

これならば明日の結婚式本番まで見つかる事もないだろう。

 

見張りに怪しまれないように運ばれてきた晩御飯を口に運ぶ。

サンジは暫く振りに食べ物の味を感じた。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

気持ちの良いほど晴れ渡る空。

ご機嫌に歌い踊るホーミーズ達。

賑やかな来賓の机には輝くような素晴らしい紅茶が注がれて行く。

 

そう、今日は待ちに待った結婚式。

 

ヴィンスモーク・サンジとシャーロット・プリン。

この2人が家族となる目出度い日だ。

 

カラフルな式場に歌声が響く。

シュトロイゼンとパティシエ達が一矢乱れぬ動きで来賓を魅了する。

 

 

「苦行の人生、涙の味は~♪」

 

「「塩少々!」」

 

「悔し涙は~♪」

 

「「大さじ一杯!」」

 

「だったらてめぇのデザートはァ!!

甘いケーキがいいじゃない!」

 

「「「料理長~~~!!!」」」

 

ドドンっと効果音を背負いながら歌うシュトロイゼンに歓声が贈られる。

 

ゆるふわの~♪

とまだ続くシュトロイゼンとパティシエ達のパフォーマンスに周りは楽しげに笑う。

 

本当に賑やかで素晴らしい結婚式の光景がそこには広がっていた。

 

その光景の中で周りに合わせるように笑みを浮かべていたレオヴァは、近くにいるビッグ・マムの部下に気付かれぬようにドレークへ目配せをする。

 

それに自然な素振りで目線を返すとドレークは紅茶に口を付けた。

 

 

「(本当にレオヴァさんの読み通り来るのか、麦わら。

いち船員の為に、この敵地のど真ん中に…!)」

 

ドレークはいつでも立ち上がれるように僅かに椅子をずらし、机とのスペースを確保する。

 

今、レオヴァもドレークもいつもの(・・・・)武器が手元にない状況だ。

 

代表であるレオヴァが了承した事ではあるが、ここで戦闘が起こるとなれば油断は出来ない。

 

百獣海賊団の幹部である二人は素手でも他を凌駕できる実力を備えてはいるが、ここには“ビッグ・マム(規格外)”もいる。

 

この先起こるとレオヴァが予想する“大混乱”の中で、ドレークにはやるべき事があるのだ。

 

優雅に紅茶を飲む体裁を崩さないレオヴァと同じように、外面にはおくびにも出さずドレークは神経を尖らせる。

 

タイミングは分からない。

だが、レオヴァがこちらに目配せしてきたと言う事はもうすぐ(・・・・)なのだろう。

 

人知れず脚に力を込めるドレークの数メートル先でシュトロイゼンが剣を地面に突き刺しポーズを決める。

 

すると床が波打ち、地面から何かが突き出て来た。

 

包んでいた外装がパキリと音を立てて割れると、中からは見事なウェディングケーキが現れる。

 

信じられないほど巨大なケーキは見た目もそれに引けを取らぬ精巧さだ。

至る所から圧巻だと驚きの声や称賛の拍手が飛び交う。

 

 

「すごいじゃないか、シュトロイゼン!!褒めてあげるよ♪」

 

興奮気味に近付いて来たビッグ・マムにシュトロイゼンは華麗にお辞儀をする。

 

そして、ついに余興が終わり結婚式が開始された。

 

巨大なウェディングケーキに新郎新婦が運ばれて行く。

空とぶゴンドラのような乗り物でケーキの上に立った2人は見つめ合う。

 

三つ目の新婦が恥ずかしさを誤魔化すように目を反らすが、新郎はデレデレと嬉しげな表情を浮かべている。

 

そんな夫婦になる2人の正反対の姿に、ある者は微笑ましいと目を細め、ある者は奴にプリンはもったいないと肩を怒らせた。

 

和やかなムードで進む結婚式。

神聖な服に身を包んだ神父が本を片手に一歩を踏み出した。

 

そして、誓いの言葉の為に口上を述べようと慣れた手付きで本を開いた時だった。

 

 

「うおぉ~~!!ビッグ・マム~~!!」

 

「え~~~~~!?」

 

内部から破裂するように巨大なウェディングケーキが壊され、中から大量の麦わらのルフィが現れたのだ。

 

その場にいた皆が目を見開く中、ビッグ・マムの怒号が響く。

 

 

「どれが麦わらのルフィだい!?

よくもウェディングケーキをォ~~!!!」

 

身が縮み上がるような剣幕で大量にいる麦わらのルフィを投げ飛ばせば、正面の奴が声を上げた。

 

 

「おれだ~~!!」

 

「お前かァ!!」

 

怒りの形相でビッグ・マムが拳を振り上げた時だった。

 

 

獅子・千切谷(せんじんだに)ィ!!

 

「「「ママ!?」」」

 

突然空から降り注いだ飛ぶ斬撃の雨に、あのビッグ・マムが吹き飛ばされる。

斬撃と巨体が倒れた振動で砂煙が上がり会場の視界が悪くなった一瞬。

 

弾丸のようにレオヴァに向けて突撃する人影を視た(・・)カタクリは咄嗟に声を上げた。

 

 

「レオヴァ…!!」

 

「あぁ…カタクリ、視えてるさ。」

 

二人の間を裂くように巨体が突っ込んで来る。

それは衝突した瞬間に金属が軋む音と共に砕けた。

 

晴れ始めた砂煙の中で赤い髪とそれに合わせたようなワインレッドのファーコートを羽織った男がレオヴァを睨み付けていた。

 

 

「久しぶりだな、キッド。

再会は喜ばしい事だが……少しヤンチャし過ぎじゃねェかァ?」

 

「クソがッ!!てめぇの、そういう所がムカつくんだよォ…レオヴァ!!!」

 

砕けた屑鉄が再びキッドの腕に集まっていく。

 

二人の間に漂い始めた緊張感。

しかし、それを邪魔するかのようにビッグ・マムとシキの戦闘の余波が周りに被害を出し始めていた。

 

逃げ惑う来賓を視界に捉えると、レオヴァはキッドから距離を置き指揮を取るように口を開いた。

 

 

「ドレーク…!

ここにいるビッグ・マムの客人や戦闘が得意でない者を避難させろ!

このままでは被害が広がるだけだ、いつも通り(・・・・・)人命を最優先に動け!!」

 

「っ…はい!

お前達、出口へ焦らず進め!

背中はおれが守る!!」

 

レオヴァとドレークの言葉に僅かながらも安堵したような顔になった来賓達は出口へと走り始める。

 

ドレークは避難を始めた人々を守るように立つと何処からか大量に現れたシキの部下達を拳1つで沈めて行く。

 

だが、そんな彼らの姿にキッドは唇を噛んだ。

 

 

「この期に及んで、まだ聖人君子の真似事かァ!?

そのふざけた余裕を消してやる!!」

 

再びレオヴァへ突撃を始めたキッドを横目にカタクリは戦況を見る。

 

レオヴァならばあの男を相手にしても負けはないだろう。

“キャプテン”キッドも“麦わら”のルフィも現時点では大きな障害と認識するほどの相手ではない。

問題は“金獅子の”シキだ。

 

麦わらと金獅子。

2対1とはいえ、ビッグ・マムの猛攻を防いでいることが問題なのだ。

 

今、加勢しに行くことも選択肢にはあるが、カタクリは弟妹の避難を優先させた。

 

いくら百獣海賊団の幹部とはいえ、この状況下では“(ディエス)”・ドレークだけでは身が重いだろう。

 

それにビッグ・マムには長男であるペロスペローが付いている。

頼れる兄がいれば即座に戦況が崩れることはない筈だ。

 

そう考えていたカタクリだったが、それの選択がミスだったと知る事になる。

 

大量にいる麦わらのルフィ。

その中の1人がハンマーを持ち、“アレ”に近付いている事に気付けなかったのだから。

 

 

 




ー後書き&補足ー

麦わら視点多いと進み遅いので飛ばしました!
↓以下、簡単なまとめ

・ブルックは原作通り写しをget
・ブリュレ戦はシキの介入によりすぐ終わった
・クラッカー戦もほぼ原作通り

・結婚式について
原作とは違いジェルマ暗殺は目論まれていないので本当に普通の結婚式。
ビッグ・マムは良い料理人と化学力が手に入るとウキウキだった。
ジェルマからしたらサンジを架け橋にビッグ・マムとの協力関係が結べて、百獣からの影響力を少しでも減らせる。
レイジュからすると百獣と何かあったとしても、いざと言う時はサンジがビッグ・マムの名前で守られるだろうという計算がある。(自分たちは滅んでも良いがサンジには生きてほしい)


人質問題難しい…
原作で特に解決案無しに進んでたので本当に落とし所が分からんぞ!
ビッグ・マムのヘイトが全部麦わらに行ってくれたお陰で解決……ハッ!(閃き)

今回も読んでくださりありがとうございます。

↓番外編『鳳皇の懐刀は苦労人』
https://syosetu.org/novel/279322/17.html


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大切なものは何か

 

 

 

ビッグ・マムのナワバリで行われる結婚式、そこで予想だにしない出来事が巻き起こっていた。

 

暴れまわる侵入者と逃げ出す来賓。

迎え撃つシャーロット家の猛者達と百獣海賊団からの客人2名。

 

まだ騒動が起きてから数分しか経っていないと言うのに、広場はもはや収集がつかぬ荒れ具合である。

 

ビッグ・マムに襲い掛かる金獅子のシキと麦わら。

大量に現れた賊を捻り潰すシャーロット家の息子と娘達。

 

そんな大荒れの結婚式場でのらりくらりと進む一人の人影があった。

 

その人影が目当ての者に近付きハンマーを握った時、離れた場所に居たカタクリの顔が青ざめる。

 

 

「っ……不味い!」

 

普段焦ったような声を出さないシャーロット家の最高傑作の声に長男が反応し、その目線の先を追って同じように顔を青くした。

 

 

「まさかッ!?止せ!!それはママの…!」

 

ひょろりとした人影はペロスペローのほぼ悲鳴と化した制止を無視し、天へ掲げたハンマーを写真立て目掛け振り下ろす。

 

騒がしい筈のこの場所にドカッ!と鈍い音が響いた。

 

 

「ブルック!?」

 

続いてその場にルフィの心配そうな声が響き、ビッグ・マムは写真立てを手にしている青年を見て僅かに目を丸くした。

 

 

「お前…」

 

「すまない、余計な真似だったかもしれないが…

カタクリのあんなにも焦った顔は初めて見たから咄嗟にな。」

 

ブルックを蹴り飛ばした男は背に生えた(・・・・・・・)青と金色の混ざった独特な色の翼を動かし、ビッグ・マムの下まで飛ぶと手にしていた写真立てをそっと手渡す。

 

眩しいほどに黄金の光を纏う翼に少し目を細めながらもビッグ・マムは写真立てをすぐに自分の手の中へ引き寄せると、愛おしげにそれを優しく大きな掌で包み込む。

 

そして、ギロリと恐ろしい瞳でルフィ達を見下ろす。

 

 

「お前だなぁ…シキ!!

おれのマザーを狙ったんだ!死ぬ覚悟は出来てるんだろうねェ!?」

 

耳をつんざくほど大きなビッグ・マムの怒りに染まった叫びが結婚式場に響き渡る。

隣に立っていたペロスペローも憎々しげに二人を睨み付けていた。

 

先ほどよりも濃度の増した殺気にシキは笑顔を張り付けたままだが、背には一筋冷や汗が流れる。

 

ビッグ・マムを戦闘不能にする作戦は失敗だ。

あわよくば首を取って四皇の座を奪うつもりであったシキだが、ここで動揺はしない。

 

成功すれば一番確実な方法ではあったが、この女が一筋縄では行かぬ事は遠い昔から知っている(・・・・・)

それに全てが計画通りに行くわけではないと、麦わらとの戦いでも学んでいた。

 

襲いかかってくるビッグ・マムの攻撃を避けてふわりと浮き上がるとシキは深呼吸をする。

 

 

「うおぉ~~!!ビッグ・マムゥ~~!!」

 

何度もはね除けられたと言うのに、無謀にも正面から突撃して行く麦わら帽子の男を見て無意識にシキの顔から笑みが溢れる。

 

 

「ジハハハハ…!

目的は遂行したんだ。このままズラかるつもりだったが、もう少し暴れてからでも良いか!!」

 

自分らしくない行動だと思いながらも、久々に感じる高揚感のままシキは能力を発動する。

 

結婚式場が無惨な形になっていく中、睨み上げてくるビッグ・マムに不敵にシキは笑って見せた。

 

 

「何十年も隠居してたお前がおれに勝てると思ってるのかい!?」

 

「老いたなァ、リンリン!

昔のお前ならもっとおれも気を張ってたぜ!?」

 

「マンママンマ~~!!

今さら出てきて昔話なんて、それこそ老いたのはお前さ。

…昔のよしみだろうが加減はしないよ!!」

 

元ロックス海賊団の二人が激しくぶつかり合う。

 

その余波で吹き飛ばされて行くルフィだったが、シキの落とした瓦礫にぶつかる直前に新郎服の姿のサンジにキャッチされ難を逃れた。

 

 

「ありがとう、サンジ!」 

 

「無茶しすぎだ、ルフィ!」

 

数時間前の二人の間にあった亀裂を感じさせないほど、今の二人からは強い絆を感じる。

 

しかし、そんな二人を引き剥がすようにペロスペローとイチジが立ちはだかる。  

 

 

「麦わらァ!よくもおれの可愛い妹の結婚を台無しにしたな!?

挙げ句にママの宝物にまで手を出そうとしやがって!」

 

妹の結婚式を無茶苦茶にされた挙げ句、母が昔から大切にしている物を狙われたのだ。

次から次へと怒りに油を注がれたペロスペローに普段の笑みはなく、麦わらを睨む瞳には煮えたぎるような怒りが感じられる。

 

一方、その隣に立つイチジはサングラスで表情は窺えないがそっと手をサンジの方へ伸ばすと口を開いた。

 

 

「…戻れ、サンジ。

麦わらと行っても未来などない。

あるのは破滅の道だけだ、後悔する事になるぞ。」

 

イチジの言葉にサンジは腹を括ったような顔で返す。

 

 

「いや、おれはルフィと…仲間達と行きたいって気持ちに従う。

もし残る事を選んだらきっと一生 後悔(・・)する。

それに…ここで“夢”を諦めたらジジイに合わせる顔もねェ。」

 

つき物が落ちたかのようにスッキリした表情で言いきったサンジの言葉にイチジは僅かに眉間に皺を寄せる。

 

 

「レイジュの気持ちも無下にするのか。」

 

「!?」

 

イチジから出るとは思わなかった意外な言葉にサンジが目を見開いていると、ペロスペローがルフィに攻撃を仕掛ける。

 

一瞬固まっていたサンジだったが、すぐにルフィに加勢すべくイチジから目を反らした。

残念そうに聞こえるイチジの溜め息を聞こえぬ振りをして。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

混沌を極める結婚式場から来賓達を庇い、逃がしきったドレークはビッグ・マム海賊団の部下と己の部下に指示を出すと戦場に戻ると告げてその場を離れた。

 

そして、レオヴァとの計画にあったポーネグリフの写しを手に入れる為に動いた。

 

ローが手に入れていた例の地図。

それのお陰で迷うことなく宝物庫へ辿り着くと、すっかり守りの薄くなったそこをあっさり突破し、手にしていた機械を赤い石にかざして行く。

 

全ての面のスキャンを終えたドレークは更に写真を数枚撮り懐に仕舞った。

 

この結婚式での一番の目的(・・・・・)を達成したドレークは再び極力足音を立てないように走り出す。

 

忙しい時期にわざわざレオヴァとドレークが出向いたのは“これ”を手に入れる為だったのだ。

 

そうでもなければ武器も何も持てない結婚式にリスクを背負い、時間を割いてまで来る理由はない。

 

ドレークはレオヴァから任された大役を見事こなして見せたのだ。

 

 

『ポーネグリフが手に入ればすぐにでも世界を変えられる、父さんにはその“力”がある。

多少のリスクを負ってでもおれはこの結婚式にでるぞ、ドリィ。

これ以上の好機はねェ…!』

 

結婚式の招待状を手に笑ってみせるレオヴァの言葉を思い出す。

 

あの時のレオヴァの熱の入り方は普段とは比べ物にならぬものだった。

そして、その作戦に自分が選ばれた事にドレークは凄まじいプレッシャーと同時に嬉しさを感じていた。

 

失敗は出来ない。

レオヴァさんが他の誰でもない、おれを信じて任せてくれたのだから。

 

懐にある写しを早く渡さなければと、ドレークは進む速度を上げる。

 

監視電伝虫を掻い潜り、まばらにしかいない警備を出し抜いて結婚式場へと急ぐ。

 

近付くにつれて轟音がここまで響いてくる。

激しい戦闘が繰り広げられているのは見なくとも肌で感じられる。

 

武器を持たないレオヴァは大丈夫だろうか?

彼の実力を信じているドレークだが、万が一と言う事もある。

 

もはや結婚式場の面影を残していない広場へと駆け上がると、右手奥にビッグ・マムが見えた。

 

しかし、レオヴァの姿がない。

予想していなかった事に混乱したドレークだったが、すぐに平常心に戻ると見聞色で気配を探る。

ざわざわと大量に気配があるせいで分かり難かったが、彼が親しんだ気配を間違うことはない。  

 

広場の更に奥にいる。

そう確信すると、敵味方の入り交じる広場に足を踏み入れた。

 

その瞬間、地面から唸るような音が一帯に響く。

踏ん張らなければ尻もちを付いてしまいそうな揺れの中、ビッグ・マムの正面の地面が空へと浮き上がっていた。

 

 

「シキィ!!

お前、この期に及んで逃げるつもりかい!?」

 

怒り狂ったようにヒステリックな声を上げるビッグ・マムの頭上で獅子のような男が愉快そうに笑う。

 

 

「ジハハハハハハ!!

時間切れだぜ、リンリン!」

 

ビッグ・マムが振り下ろした巨大な剣をふわりと交わし小脇に麦わら帽子の男を抱えてシキは更に上空へと浮かんで行く。

 

それに続くように数秒前まで地面だった巨大な瓦礫達も重力を無視して好き勝手に宙を漂っていた。

 

ビッグ・マム以外、その場にいる全員がシキの規格外さに目を見開く。

 

その刹那、シキに向かって何かが飛んで来た。

 

間一髪、なんとかそれとの衝突を避けたシキだったが飛んできたものを見て驚いた顔になる。

 

小脇に抱えられているルフィもシキ同様驚きに目を見開いたが、落ちて行きそうになるその人物(・・・・)を腕を伸ばして何とか掴み上げた。

 

 

「ゴホッ……クソッ…!」

 

悪態を吐きながらルフィに掴みあげられた男はなんとか浮かんでいる瓦礫の上に着地して、自分が飛んできた方を睨む。

 

ぼたぼたとキッドから流れる血を見て、満身創痍のルフィは力を振り絞り声を上げる。

 

 

「ギザ男、お前…腕どうしたんだよ!?」

 

作戦が始まって別れる直前までそこにあった筈の左腕がない。

 

まるで千切られたかの様にグロテスクな断面にキッドは羽織っているものを破き、巻き付ける。

 

そして、その上から鉄屑を張り付けるように能力を駆使し止血すると荒い息遣いのまま唸った。

 

 

「ハァ、うるせぇぞ、麦わらァ…」

 

いつもの様な覇気がない声にルフィが言葉を返すより早く、危険を察知したシキが周りの瓦礫を操り人工的な竜巻を作り出す。

 

 

「さっさとズラかるぞ!」

 

シキの声を聞いていたのかタイミングよく空船が近くまで飛んできている。

 

その空船から降ってきたキラーはキッドの怪我を見て動揺を隠せずにいたが、すぐに駆け寄ると自分の肩を貸すように支えた。

 

 

「キッド!?立てるか?」

 

相棒の声にキッドは当たり前だと歯をくいしばり姿勢を整える。

 

だがその瞬間、目の前で壁の役割を果たしていた竜巻が消え去った。

 

馬鹿な、と小さく言葉を溢し顔を強ばらせるシキの目に移ったのは半獣姿のレオヴァだった。

 

結婚式の為に整えた衣服こそ乱れてはいるが、大きな怪我は見当たらない。

そんなレオヴァの手にはキッドから奪ったであろう左腕が握られている。

 

そんな彼をギロリと睨み付けるキッドにレオヴァは諭すような声で話し掛ける。

 

 

「隻腕でおれに敵うと思ってるのか、キッド?

もうガキじゃねェんだ、我が儘ばかり言うのは止せ。いつも言って聞かせてただろう、周りを見てもっと冷静に物事を判断しろと。

……父さんが待ってる、うちに帰るぞ。」

 

「っ…また“父さん”かァ、ファザコン野郎。

テメェだろ、ガキ(・・)なのはよォ!?」

 

ふらつきながらも再び闘う意思をみせるキッドを隣で支えているキラーが慌てて押し止める。

 

それでも噛みつくような言動は止めないキッドの姿にレオヴァが溜め息を吐こうとした時だった。

 

 

「お前はカイドウのジジイの為だなんだと言ってるが

やってることはおれと変わらねェ!!テメェ自身の満足の為だ!!周りを見てねェのはおれじゃねェ!!

自分の思考をおれやカイドウのジジイに押し付けてるのはテメェの方じゃねェのか!?

ガキの我が儘はどっちだよ、レオヴァ!!」

 

ピクリとレオヴァの眉間が動く。

キッドの言葉で遮られていた溜め息を、口からゆっくりと吐き出し、ゆっくりと瞬きをした。

 

目蓋の下にあるレオヴァの瞳は僅かに淀んでいた。

 

 

「本当にその口の悪さにはうんざりだ。

…おれを分かったように語るンじゃねェよ、キッド。」

 

怒気が漏れ始めたレオヴァの姿を見てキッドの口角が僅かに上がる。

 

そうだ、これこそがレオヴァ。

上っ面の姿なんてくそ食らえ。

お上品に振る舞う姿も、作ったように笑う顔も…本当に大嫌いだった。

 

遠い昔に憧れたのは海賊らしく強く、そして口の悪い(・・・・)レオヴァだった。

 

 

「ハハハハッ!!口汚ェのも短気なのもお前の方だろ、レオヴァ!?」

 

「おれを煽ってどうしたいのか知らねェがケジメだ、キッド。

父さんが言うんだ……うちに連れ帰りはするが腕は治さねェ。

おれはお前を甘やかし過ぎたみたいだからなァ…」

 

「誰が戻るっつったよ!?腕なんざくれてやる!

それはおれの弱さだ、ここで捨てていく。」

 

心底可笑しそうに笑うキッドの目の前でレオヴァは手に持っていた炭になった左腕をバキリと握り潰した。

 

ボロボロと遥か下にある地面に破片が落ちていくと、背にある翼を一層強く羽ばたかせレオヴァが眼前から消える。

 

それを分かっていたかのようにキッドはキラーを突飛ばし、ぐるりと半回転すると背後から迫っていたレオヴァの強烈な足蹴に対して受け身を取る。

宙を舞っている瓦礫を突き破り、更に飛ばされていくキッドをいつの間にかルフィを船に投げ入れて来たシキが新しい瓦礫を浮かせ受け止めた。

 

 

「もう時間だ、いつまで百雷とやりあってるつもりだ!!

ここにはリンリンもいるんだ、お前の因縁に最後まで付き合ってやるつもりはないぞ!?」

 

「うるせェ…まだ、だ!!」

 

レオヴァへ向かって突っ込んでいこうとする直前にシキはキッドの身体に付いている金属に触れる。

 

そして、思いっきり上空へ吹き飛ばした。

 

身体に巻き付いている金属を浮かされたキッドは一瞬、目を丸くしたがすぐに怒ったようにシキを睨み付けた。

 

けれど、シキはそんなルーキーの視線を無視してキラーの位置を確認する。

 

キラーは指示されなくともキッドが上空に飛ばされると同時に船へ向かって瓦礫を伝い退避を始めていた。

 

なかなか悪くない判断力だとシキは内心で感心すると、振り上げていた瓦礫や持ってきていた巨大な岩を結婚式場の真上に設置する。

そして、能力を解除した。

 

浮遊の力を失った膨大な質量を伴った無機物の雨が降り注ぐ。

 

逃がしてなるものか、とキッドに向けて飛ぼうとしていたレオヴァの耳に部下達の狼狽える声が届いた。

その瞬間、レオヴァの濁っていた瞳に理性が戻る。

 

消えていく船を後目にレオヴァは瓦礫の間を縫って急降下する。

 

部下達がそのレオヴァの姿を見て安堵の声を漏らすと同時に視界が一瞬光に包まれ、次の瞬間頭上に巨大な鳥が翼を広げていた。

 

獣化したレオヴァはその巨大な身体で包むように部下達の壁になる。

 

次々と降り注ぐ岩や瓦礫から部下を庇いきるとレオヴァは人の姿に戻り、空を見上げた。

そこにはキッド達の姿はなく、遠くに大きな船の背中が見えるだけだった。

 

バチバチと僅かに雷を纏ったまま空を見上げていたレオヴァにドレークが駆けよって声をかける。

 

 

「レオヴァさん!」

 

心配するような声色に反応したのか、体に纏っていた雷がパッと消え、レオヴァが振り返った。

 

後ろでは可愛い部下達とついでに助けた者達が礼を述べている。

 

キッド達に意識を向け過ぎて声が耳に入っていなかった事に気付いたレオヴァは自分の短気さに内心で苛立ちながらも、笑顔を作ると礼を言ってくる者達に気にするなと努めて優しく返した。

 

そして仮初の冷静さを張り付けたレオヴァはドレークに目線を移す。

言葉に出さずに例の件は?と問えばドレークは力強く頷き返してくる。

 

一番の目標を無事に終えた事を確認したレオヴァは大きく息を吸って、吐いた。

 

そうだ、今回重要なのはキッドとキラーを連れ帰る事ではない。

父を海賊王にする為のピースを手に入れることが最重要であったのだ。

 

今一度頭の中で優先度を再確認して、レオヴァはドレークに笑いかける。

 

 

「来賓の避難は無事終えたんだな。」

 

「問題なく。

避難後も対応出来るように部下達には言い付けて来たので。」

 

「そうか、良かった。

皆も大丈夫か?重傷者がいればすぐに手当てを。」

 

ドレークから部下達に向き直るとレオヴァは指示を出す。

 

後方ではビッグ・マムとジェルマの話し合う声が聞こえてくるが、さてどうでるか。

 

 

「既に追っ手は出してある。」

 

「もうお前達だけの問題じゃないよ!

ケジメも付けさせずにおれの国から出られると思ったら大間違いさ!!

シキの奴も麦わらもおれが!」

 

追っ手を出してあるから任せろと言うイチジと自分達でケジメを付けさせると騒ぐビッグ・マム。

 

双方、意地や外聞があるからか自分が捕らえるから手を出すなと言い合っている声が聞こえてくる。

 

そんな声をBGMにレオヴァは持ってきた治療道具を手に部下達の手当てを始めていた。

 

目的は果たした。

あとはこの件がバレないように万国(トットランド)を出るだけだ。

 

麦わら達を追いたい気持ちを押し止め、レオヴァは笑みを張り付けた。

 

 

ここで始末してしまっていいのか分からないもどかしさが苛立ちを生む。

この世界で“麦わら”がどれほどの鍵を握っているのか。

“ゴムゴムの実”とは何なのか。ジョイボーイとは?

奴の下に集まった麦わらの一味の重要度は?

 

まだ答えを出すには情報が足りなすぎる現状に、レオヴァは頭を抱えたい気持ちをぐっと堪えた。  

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

何故ビッグ・マムからの追っ手が来ないのかと首を傾げていたシキは気配を感じてバッと後ろを振り返った。

ルフィやキッド達も気付いたのか、同じ様に後ろを振り返っている。

 

警戒した雰囲気の中、姿を現した人物を見てサンジが声を上げた。

 

 

「レイジュ…」

 

「あれ、サンジの姉ちゃんじゃねぇか!」

 

ルフィがいつもの気の抜けるような笑顔でサンジの方を向く。

 

緊張感が走るその場で最初に口を開いたのはレイジュだった。

 

 

「サンジ、戻って来て。

…このままじゃ、あなたはビッグ・マムと百獣の両方から追われる事になる。

絶対に無事じゃいられないわ。」

 

「おれは…戻らねェ。」

 

サンジの言葉にルフィや後で固唾を飲んで聞いていたナミ達がほっとしたように肩の力を抜く。

 

 

「やっぱり、おれの居場所はここなんだ。

おれは麦わらの一味のコックでありたい。それにオールブルーの夢も諦めたくねェ。」

 

真っ直ぐにサンジはレイジュを見つめた。

ジェルマに連れ戻された時とは違う、強い瞳が決意の強さを物語っている。

 

 

「……どうしても、麦わらの一味に戻るのね。

サンジ、あなたが選ぼうとしてる道は危険な道だと分かってる?

ずっと追われ続けて、いつかきっと殺されてしまうわ。」

 

泣きそうなレイジュの顔にサンジが少したじろぐと、ルフィが口を開く。

 

 

「大丈夫だ、おれが守る!!

それにサンジは強ぇんだぞ?」

 

知らなかったのか?と毒気を抜かれるほど敵意を感じない表情と声で問いかけてくる麦わらをレイジュはじっと観察する。

 

まだ若く威圧感も感じない青年だ。

けれど、大丈夫だと思わせる何かがある。

それに彼の雰囲気や存在感はとても暖かく感じた。

 

 

きっとサンジは彼の。

麦わらのルフィのこの暖かさと全て何とかしてくれそうだと思わせる器に惚れ込んだのだろう。

 

今回の件や今まで聞いた噂だけで、彼が無謀な男だと分かる。

 

それでもそんな無謀さがあるからこそ、彼はとてつもない危険を冒してまでサンジを迎えに来たのだろう。

 

ずっとサンジを放っていた自分より、彼の方がずっと弟を大切にしてくれているではないか。

 

レイジュは麦わらに向けていた視線をサンジに戻す。

 

 

「ねぇ、サンジ。

……海賊やってて楽しい?」

 

突然の問いにサンジは目を丸くしたが、すぐに口を開いた。

 

 

「あぁ!想像してた以上にな。」

 

笑ったサンジを見てレイジュはうっすらと目に涙を浮かべた。

昔母に向けて笑っていた幼いサンジの、あの屈託のない笑顔がそこにあったから。

 

 

「なら、いいの。

ごめんね…サンジ。

私、あなたを守ろうと頑張ったけど余計なお世話だったみたい。

だって、こんなに素敵な仲間がいるんだもの。」

 

微笑んだレイジュにサンジは小さくはにかんだ。

本当に大切で優しくて最高の仲間だ。

それを家族だったレイジュに認められて嬉しさと少しの気恥ずかしさがあった。

 

 

「行きなさい、サンジ。

イチジ達には逃げられたと言っておくわ。

ビッグ・マムが欲しいのは私たちの化学力、あなたの恩人の命には興味はない筈よ。

イチジもバラティエを人質のように言っていたけれど、あれはハッタリなの。最初から手を出す気なんてなかったわ。」

 

「え……どういう事だよ!?」

 

驚く弟にレイジュは続ける。

 

 

「前にブレスレットの話はしたでしょ?

実はね、私が偽物にすり替えたってのも嘘なの。

始めからイチジはそんなもの付けさせる必要ないって言ってたわ。

でも、兄弟で話し合って万が一の為に脅しておこうって事になってたの。騙していてごめんなさい。」

 

「……」

 

想像もしていなかった内容に言葉が出ないサンジにレイジュは微笑みかける。

 

 

「これでこの国を出られない理由、なくなったでしょ?

幸い、ビッグ・マムは金獅子のシキとその麦わら帽子の子しか眼中にないみたいだから本当にあなたの恩人の事は頭にない筈よ。」

 

言い終えるとレイジュは握っていた黒い缶のような物をサンジに投げ渡した。

 

 

「っと…なんだ、これ?」

 

反射的に受け取ってしまったものを怪訝そうに見やったあと、こちらに視線を戻して来た弟にレイジュはサプライズだと目を細める。

 

 

「レイドスーツよ♡

これから色々あるだろうし、役に立ててちょうだい。」

 

「レイドスーツ!?いらねェよ、そんなの!

おれは変身なんてゴメンだぜ。」

 

突っ返そうとするサンジにキラキラ瞳を輝かせたルフィがガバッと覆い被さる。

 

 

「すげェ~!変身するのか、サンジ~!?」

 

「いや、しねぇ!!絶対使わねェ!!」

 

わいわいと騒がしい二人を見てレイジュはまた微笑んだ。

 

 

「じゃあね、サンジ……元気でね。」

 

踵を返そうとするレイジュを慌ててサンジが止める。

 

 

 

「待てよ!

おれ達を逃がして…レイジュは大丈夫なのかよ?」

 

辛い目に会わせたにも関わらず、こちらを心配するサンジにレイジュは母の面影を見てまた瞳が潤むが、悟らせぬようにギュッと唇を噛んだ。

そして、淡々とした表情を作り振り返る。

 

 

「大切なものを良く見て、サンジ。

そんな素敵な奴らもう一生出会えないわよ。

……私は大丈夫だから、早くここから逃げなさい。」

 

「…レイジュ。」

 

言葉を詰まらせるサンジから目線を移すとレイジュは真面目な顔でルフィに声をかける。

 

 

「サンジを、私の弟をよろしくね。」

 

言葉を返そうとルフィが口を開く前にレイジュは飛んで行ってしまった。

 

その場に数秒沈黙が流れるが、シキが部下にもっとスピードを上げるようにと指示を出す声を皮切りに皆動き始めた。

 

 

麦わらの一味が次に目指すのは、侍達の故郷。

 

そこにひとつなぎの大秘宝(ONE PIECE)に繋がるポーネグリフがあるのだ。

 

 

 




ー後書きー

・マザーの写真の件
原作ではベッジからの情報だったが、今作品ではシキからルフィ達へ伝わった。
写真ぶっ壊し作戦もシキが考案。
ベッジも知り得た情報なのだから、ロックス時代同じ海賊団だったシキが知ってても可笑しくないのでは?と考察した結果である。

・ジンベエ
魚人島が百獣のナワバリになったのでビッグ・マムとは関係がない。なので今回のホールケーキアイランド編に不参加。麦わらの一味加入フラグが折れつつあるが果たして…?

・キッド
原作では赤髪との小競り合いで腕を失ったが今作品では百獣にいた過去や船出タイミングがズレた為、赤髪との小競り合いはなく腕は無事だった……が、レオヴァによって原作と同じように腕を失う。
今後、原作で赤髪との小競り合いに大きな意味があったと過去編出てきたら作者は詰む。タスケテ…

・レオヴァ
来賓達からの好感度を上げて更なる百獣国際連盟の株上げを目論んでいた。
写真の件で計らずもシャーロット家からの信頼を稼ぎつつ、裏ではちゃっかり部下にポーネグリフの写しを奪わせている。
キッドの腕を獣人化して脚でもぎ取ったり、口悪い素が出たりと今回は少し“らしく”ない様子が見られた。
おそらく麦わらの件などで焦っていると思われる。

・ドレーク
責任重大な任務を無事果たす。
戻って来た時のレオヴァの様子が可笑しかったので心配している。

『補足情報』
・レオヴァ
ワノ国の過去編らへんまでしか知らない為、“ニカ”という単語は知っているがルフィ=ニカなのは知らない。
ただゴムゴムの実に裏があるという情報は得ている様子だが…?

・バラティエとゼフ
原作を読み返していたらレイジュがビッグ・マムはゼフやバラティエに興味はないという台詞があったので採用。
今作品ではジェルマが本気でバラティエに害を成す気がないのでサンジの憂いは断たれた形に。

・ホールケーキ城
原作とは違い玉手箱による大爆発を回避(そもそも玉手箱が送られてきてない為)
だが、シキの能力とビッグ・マムの大暴れにより城は全壊。
側にある街にまで被害は広がっている。
しかし、ドレークの避難指示や百獣の部下の助力により市民は避難済み。


全然更新出来ず申し訳ない~!!
今回も読んで下さった方々には頭が上がりませんぜ…感謝!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 50~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。