才覚溢れる凡夫 (神無明夜)
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始まりの始まり。つまり始まり

多分続かない


きっかけは『なんとなく』だった。

 

たまたま父親が音楽関係の人間で家に機材と防音室があったので適当に歌って投稿してみた。

 

当時は中学3年の2月中旬位だったと思う、受験も終わり開放感からか我ながらはっちゃけたものだ。

 

 

予想外だったことが3つ、1つは動画が思っていたより伸びた。

ぶっちゃけ1回きりのお遊びみたいな感じでほぼアカペラ載っけたみたいな投稿だったが「シンプルに声がいい」とか「ここの抑揚好きやねんけどわかるやつおる?」とか「技術の低さが見えるけど今後に期待できる」などなど。気付けば俺は今後の成長に期待系歌い手として君臨してしまったらしい。

 

2つ目は1週間もしない内に親にバレた、そして怒られた。そらまぁ勝手に機材使ったら普通怒るよな、ほんとあの頃の俺ってバカ。

 

そして3つ目が親公認になった。なんでも「音楽関係者としてはその才能を腐らせておくのは看過できん」との事でなんなら機材も借りられるしなんなら発声とか楽器の演奏の指導もして貰えることになった。

 

 

そんなこんなで歌い手『Soma』として活動を続けることとなったのが1年以上前の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜神山高校2-A教室〜

 

教室に入ると橙色の明るい髪のイケメンがいた。恐らくは学園一のハイテンションでシスコン、天馬司(てんまつかさ)が丁度椅子から立ち上がろうとしていたところだった。

 

「おはよ司」

 

「ん?おぉ真尋(まひろ)ではないか、おはよう!今日も良い朝だな!!」

 

「おう、それより今日は少し機嫌がいいんじゃないか?なんかいつもより動きにキレがあるぞ」

 

「フッフッフッ、実は今朝の朝食はなんと!我が最愛の妹である咲希(さき)のスクランブルエッグだったのだ!!」

 

「へ〜、咲希ちゃん料理もできたんだな」

 

「料理ができる、というよりも『身体も良くなってきたから色々なことに挑戦してみたい』と日夜様々なものに関心を寄せているのだ!さすがは我が妹、兄として誇りに思うぞ!!」

 

「ほんと1回も会ったことないのに色々なこと知ってるって変な感じだな……というかそこまで自慢されると普通に本人と話してみたくなるんだが」

 

「む、そういえば真尋は咲希と話したことがなかったな。もし会うことがあればその時はよろしく頼むぞ!ではオレは少し(るい)に用があるのでな失礼するぞ、フハハハハハハッ!!!」

 

 

上機嫌な高笑いを響かせながら司は教室から出ていった、それを横目に荷物を片付け読書に移る。正直俺は友達と呼べる存在があまり多くないので司が居ない時はいつも1人で本を読んでいることが多い。

今日も例に漏れず本の世界に旅だっ──「入相(いりあい)先輩はいますか〜?」…たせてはくれないみたいだ。

 

名指しで呼ばれたのに無視するつもりもないので入口まで向かう。

 

そこにはゆるく巻いたピンクの髪をサイドテールに纏めた可愛らしい子がドアからひょっこり顔を覗かせていた。

『近くでみるとこりゃまた可愛らしいな』なんてしょうものないことを考えながら声をかける。

 

「俺が入相だが、君は?」

 

「あ、初めまして入相先輩。1-Aの暁山瑞希(あきやまみずき)で〜す♪」

 

「暁山……あぁ、不登校で補講によく顔を出していると先生たちの間で噂になっているあの」

 

「うわぁ、凄い覚えられ方してるなボク」

 

「それで?何か用があるから呼んだんだろ」

 

「そうそう、けどここじゃ話しづらい内容なんで屋上行きません?」

 

「それは困る」

 

「?なんでですか??」

 

「それはお前の後ろに鬼の形相の先生が立っているからだ」

 

「ふぇ?」

 

と言った途端ガタイのいい先生(おそらく1年の担当だろう、面識が無い)はまるで猫でも持ち上げるように暁山の首根っこを掴み教室から出ていった。

 

「ぬわぁ〜!!は〜な〜せ〜!!こんなおーぼーなこと許されないぞ!!」

 

「安心しろ暁山、親御さんからは『多少無理矢理にでも補講だけは受けさせてください』と許可を頂いている。今日は珍しく一限からいるんだ、勿論六限まで付きっきりで受講してやるからな」

 

「にゃぁーーーー!!!!先輩ヘルプ!可愛い後輩の危機だよ!?」

 

「……暁山、勉強は大事だぞ。放課後屋上で待ってるな」

 

「裏切り者ぉ……」

 

暁山の声が一階に消えていったのを聞きながら席に着き読書を再開しようと思ったが……HRまで残り3分、新しい章に入ったばかりなので今から読み出してもだいぶん半端なところで切り上げることになるのでボーッと外でも眺めることにした。今日はなんだか賑やかだな、などとどうでもいいことを考えながら先生が来るのを待っていた。




オリ主設定

名前:入相 真尋(いりあい まひろ)
ユニット:無所属
性別:男性
誕生日:5月7日
身長:173cm
学校:神山高校
学年:2-A
趣味:読書、歌、ギター
得意なもの・こと:歌、ギター、タイピング
苦手なもの・こと:作曲、甘い物


黒髪を不潔でない程度に伸ばした髪型(個人のイメージに任せます)、家では眼鏡をかけており外に出る時や配信時はコンタクトをつけている。

父からの教えと元々の才能により歌唱とギターの演奏技術はわずか2年足らずでメキメキと実力を伸ばしてきている今をときめく歌い手。
『Soma』という名前で活動しており色々な作曲者さんから歌唱の依頼を受けまくっている。

歌ってみたでは様々なジャンルの曲を歌っているようで基本的には真尋の好み。

『Soma』の由来は入相真尋の『相真』を『そうま』と読んでアルファベットにしただけ。




読んでくれてありがとうございます


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秋の日の脚は早そうで微妙にゆっくり

魔法師様、マロモモ様、高橋ひかる様、煌大様、たるたる南蛮様、ジオ1231様。お気に入り登録ありがとうございます。続けれたら頑張ります。



〜神山高校屋上〜

 

少し錆び付いたドアを押し開け外に出る。

10月も後半に差し掛かった今日この頃、日の脚が早くなってきたとは言え時刻は午後4時前、太陽もだいぶん傾いてはいるが夕焼けにはまだ早そうだ。

 

『アニメとか漫画で放課後の屋上って大抵夕焼けだけどそんなに遅くまで残ってることって部活してないとまぁないよな』

 

なんて考えながら入口の横に腰かけて読書を始める。ここ最近は新撰組に関する歴史物ばかり読んでいるが某アニメや某漫画の登場人物と名前が混じって仕方ない、面白いから全巻持ってるし映画も行ったんだけどさ。

 

そういえば暁山はどこで俺の名前を知ったんだ?

数少ない友人としては司か類、もしくは類の友達で1年の草薙さん、司の友達(信者?)の冬弥位のものだ。

司や類が暁山と知り合いだという話は聞いたことがないが……まぁ自分の交友関係を逐一報告し合うほどの関係という訳でもないし、

「え、お前あいつとも友達だったの?」なんてことは司に関してはよくある事だ。

類は……よくわからんな、今にして思えばなんで俺は類に気に入られたんだろうか?考えれば考えるほどわからんことが多いな。悪いやつじゃない、というかめっちゃ良い奴だしどっちでもいいけどな。

草薙さんと冬弥もよくわからん、学年が違うから会う機会も少ないしなんなら類か司がいないと音楽の話しかしないからそれ以外のことはよく知らん。

 

 

 

「んー、わからん」

 

「何が分からないの〜?」

 

 

1人なのをいいことに呟いた言葉に横から返事が聞こえてきた。

 

 

「……いつから居た」

 

「えっと、2分くらい前かな?」

 

 

と言われたので腕時計を確認すると時刻は4時5分と6分の間くらいだった、そこまで時間は経っていなかったようだ。

 

 

「声掛けてくれても良かったんだぞ?」

 

「なんか集中してるみたいだったし、邪魔しちゃ悪いって思ったんだけど、いきなり喋りだしたから声掛けちゃった」

 

「ちょっと考え事をしててな。暁山はどこで俺の名前を知ったのか考えていたんだ」

 

「あ〜なるほど、名前自体はだいぶ前から知ってたんだよ?先輩2年の中じゃ有名人だしね」

 

なんと、それは初耳だ。360度どこから見ても凡人な自分が噂されることなんかあるのか?

 

「ちなみにどう有名なんだ?」

 

「『変人男子三大巨頭(へんじんだんしさんだいきょとう)』ですかね〜。まぁ、ボクが本格的に知ったのは司先輩に動画見せてもらった時かな?

あと、『暁山』じゃなくて『瑞希』って呼んで、そっちの方がカワイイし」

 

「『変人男子三大巨頭』……もしかしなくても残りの2人は司と類か?」

 

「そうそう、前に校庭で何かを爆発させてたことあったでしょ?その時たまたま補講受けてたんだけど、先生が『あぁ、またアイツらか……』って溜息付きながら注意しに行ったんだよね、それで帰ってきてから話聞いたら『2年にヤバい男子が3人いてな、そいつらにはいつも振り回されっぱなしだ』って言ってたよ」

 

 

『爆発』

と聞いて思い出すのは類が悪そうな高笑いをあげながら走り去って行ったあの悲しき事件のことだろうか?あの時は司が人ばし……ゲフンゲフン、身を呈して俺と類を逃がしてくれたという感極まるエピソードがあるのだが。今は置いておこう

 

 

「むぅ、しかし納得できないな。司や類は兎も角として俺はあいつらほど奇天烈な行動はとってはないぞ?なんなら先生方とは同学年の生徒よりも良好な関係を築けていると自負している」

 

「それはそれで悲しいけどね、ん〜でも確かに、話してみると先輩ってそこまで変人って訳でもないね。多分奇天烈な人達と一緒にいるからそう見えるんじゃない?」

 

 

それはありそうだ、だが今更そんな噂の一つや二つ流れたところで関係をどうこうしようとは思わん。なんならその噂にすら気づいてなかったわけだしな。

 

 

「って、ボクはこんな話がしたいんじゃないよ!今日は先輩に聞きたいことがあるんだよ」

 

「そう言えば用事があるって言ってたな、すっかり忘れていた」

 

 

思ったより会話が弾んで当初の目的を忘れていた。

と言っても呼び出されて話しずらい内容と言われると……あれか?

 

 

「先輩、『Soma』って知ってるよね?」

 

 

口元を小さく歪ませながら疑問と言うよりかは確認するように聞いてきた

 

 

「……正直いつかバレるとは思ってはいたがまさか初対面の1年にバレるとは思っていなかった。」

 

「ありゃ?随分あっさり認めちゃうんだね?」

 

「正直覚悟はしてたしな、司とか類辺りにはいつバレてもおかしくない…というか類は案外もう気づいてたりするかもしれんが。ともかく言いふらしたりするようなやつじゃなかったらバレていっかなって思ってた 」

 

「まぁ、ボクも初めは司先輩が見せてくれた動画に先輩の声が入っててそれを聞いた友達?が「この人『Soma』?」って言い出してさ。それでよくよく聞いてみたら確かに似てるって言うか生配信の時と声がまんま同じだったからほぼ100%かな?って思ってたんだ」

 

 

なるほど、というか友達凄いな。そんなびっくり人間なら是非一度会ってみたいものだ。

『というか生配信見てくれたのか、ご視聴ありがとうございます。』と心でお礼を言っておく

 

 

「それで?」

 

「ん?」

 

「いや「ん?」じゃなくて、俺が『Soma』だったとしたら瑞希はどうするんだ?」

 

「別にどうもしないよ?ただ個人的に気になってたからさ。

あ、あとは確認の意味もあったかな?」

 

「確認?そりゃまたなんで?」

 

「ん〜、秘密かな。大丈夫、言いふらしたりはしないからさ!そこは安心してよ」

 

「……まぁならいいが。ところで瑞希、俺だけ答えるというのもなんだか釈然としないからこちらからもひとつ質問させてくれ」

 

 

正直ずーーーーーーっと気になってた。なんなら朝の時点で思ってたけどそれこそ人前では言い難いことだったから言わなかった。

 

 

「いいよーなんでも聞いて聞いて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話はだいぶ変わるが精神科医の母曰く、「徐々に慣れてくれる人は沢山いる、けど初めから理解してくれている人はほとんど居ないからね」

 

なんだそうだ、せっかく波長が合いそうな後輩ができたんだ、理解するならとことん理解したい。

 

 

「……へぇ、先輩はそういうこと言わないって思ってたけど。どうやら気のせいだったみたいだね」

 

 

『空気が死ぬ』というのはこういうのを指すのだろう。さっきまでの笑みは何処へやら、ピクリとも表情を動かさず淡々とそれでいて憤る様に告げてくる。

 

 

「そうか、それはすまんな。だが理由を言ってくれなきゃ解るもんも解らん」

 

「ボクがカワイイものが好きなのはわかるでしょ?それが答えだよ。カワイイのが好きだからカワイイ格好をしてるの」

 

 

瑞希の目を見る。母から教わったなんちゃってメンタルチェック曰く『目は口が言わぬ物を言う』らしいので目を見れば大まかな心理はわかるらしい。かくいう俺も小学生くらいの頃に母から教えて貰ってから面白半分で色々頑張って読み取ろうとしてたら高校にはいる頃には大まかにだが読み取れるようになっていた。母様万歳

 

瑞希に不安や恐怖は無い。それどころか失望と自信に満ち溢れていた。

 

 

「不安や恐怖はない……失望は俺に対するものか、自信は自分の考え方か?」

 

「っ!へぇ、そんな特技もあるんだね。やっぱり先輩も『変人男子三大巨頭』だよ」

 

「失敬な、まぁそれは置いておくとしてだ。そういった方面での不安やその格好による人間関係の悩みは……あるに決まってるよなぁ、そこまで敏感に反応するってことは。あ、だから不登校なのか?まぁ仕方ないとは言いきれんが理解がない人間が多いっていうのも事実だし……」

 

「ちょ、ちょっと待って!なんでいきなりカウンセリング始まってるの?というか人の感情勝手に読まないんで欲しいんだけど」

 

「いや、わけアリなんだろうなとは思っていたが全く話してくれなさそうだしこっちからストレートにぶっ込んだ方が色々話してくれるかなと思ってな、案外吐き出してみるとスッキリするもんだぞ?診た感じ本当に『やりたい事をやりたいようにやっている』みたいだからな、だから瑞希も自信に溢れてるんだろ?」

 

「なにそれ……もういいや、ピリピリしちゃったボクがバカみたいじゃんか。つまり先輩は理解しつつもあえて核心に爆弾投げ込んできたってことでしょ?」

 

「まぁそうなんだが、そう言われると我ながらかなり無遠慮だったな、素直にすまん許してくれ」

 

「あー、もういいって。ボクのことちゃんと解ってくれてるならそれでいいからさ」

 

「そうか、それは助かる。ついでに最後の小言だ、これは精神科医の息子としてお節介という形で言わせてもらうが……」

 

「なに?ボクはボクであることを辞める気は無いよ?」

 

「そんなことは言うわけないだろ、そうじゃなくて『何か言われないと理解できない人もいる』ってことを覚えて欲しい。人間は他人への関心が案外薄いんだ、心当たりあるだろ?」

 

「痛いほどあるよ、無関心で無遠慮な言葉ならよく聞いてきたからね。」

 

「まあ、司とか類の周りにいるヤツらはそういうの全く気にしないタイプだからな。瑞希からしたらああゆうタイプ付き合いやすいだろうし、それに友達ってお前の口から言えるやつもいるんだろ?なら大丈夫だとは思うが一応考え方のひとつとして覚えておいてくれ。誰しもが『言われなくても解る』ほど他人に興味を持ってる訳ではないってことな。」

 

「ほんと、カウンセリングの先生と話してるみたい。でも覚えとくよ、僕のこと心配して言ってくれてるんでしょ?」

 

「そらまぁな、会って数時間だが結構波長が合うタイプだと思ってるし。」

 

 

でもこの様子だとほんとに余計なお世話だったかもな、傷つきはするがちゃんと立ち直り方をわかってるみたいだし。ほんとに強い子だ。

 

 

「……やっぱり先輩って変人だね」

 

「もしかしなくてもバカにしてるか?」

 

「あはは!どうだろうね?じゃあ僕帰るから。バイバーイ

あ、そうだ。()()()よろしくね♪」

 

「?今夜もってどういうことだ?……ってもういないし」

 

 

静かになった屋上は肌寒く、少し寂しいようにも感じたがそんなことより、

 

 

「『男子変人三大巨頭』なんて呼ばれてたのか……」

 

 

司や類は兎も角、自身のことも指す不名誉な通り名に思った以上に心を傷つけられつつ、鞄を持って瑞希が開けっ放しで出ていったドアをくぐり、帰路に着いた。




変人ワンツーフィニッシュは男子変人三大巨頭に改名しました。変人ワンツーフィニッシュのファンの皆さん誠に申し訳ございません。

瑞希ってこんな感じ?というか司との繋がりって文化祭後からだよね?なんか時系列わからなすぎてすごい不安になるんだけど。

あと瑞希は『慣れ』て欲しいんじゃなくて『理解』して欲しいって言うのがネックかなと思ってマシュ。男の娘とはひと味違う。

因みにオリ主のお母様は名前のない精神科医です。私にそういう知識は一切ありません。
「いや、それはおかしい」と思っても「まぁ、頭悪いやつが書いてんだな」
程度に思っててください。



読んでくれてありがとうございます。


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『人の口に戸は立てられぬ』がもうちょっと頑張って欲しかった

レヴェナント様、aika495様、なべわたさん様、咲耶虎白様。お気に入り登録ありがとうございます。続けれたら頑張ります。



〜入相家真尋の部屋〜

 

時刻は24:30、久々に音楽サークルさんから歌入れの依頼を貰えたので今日はその打ち合わせ、今回はあの謎が多いとされている『25時、ナイトコードで。』、通称『ニーゴ』さんからだ。なんでも普段はボイスチャットツール『ナイトコード』でのやり取りのみで制作しているらしい。

今回の打ち合わせもそちらで行いたいというわけでナイトコードのダウンロードを30分前に始めた

のだが……

 

 

「ッスー…止まっちゃったよ」

 

 

途中まで順調だったのに残り3分の1位のところからピクリとも動かなくなった。空き容量は十分にあるはずだから大丈夫だと思うんだけど、さすがに焦る。せっかく依頼を頂いたのに「ちょっとダウンロードできなかったんでやっぱりなしで☆」はさすがにヤバい。

一応先方に連絡しておくべきだろうか?だがまだ集合時間の30分前、最低でも5分前にボイチャに参加するとして残り25分の余裕はある。

 

 

「ニーゴさんの曲でも聞いとくか」

 

 

パソコンはそのままでスマホから某有名動画アプリを開く。元々有名な曲はあらかた聞いておく派なのでチャンネル登録等はしている。曲の印象としては『悔やむと書いてミライ』という曲から何となく前向きな曲が増えたように感じる、あと歌っている人達の団結力も上がったんじゃなかろうか。レコーディングを一緒に録るようにしたんだろうか?そこら辺も是非聞いてみたいが、なんかあまり突っ込んだこと聞きすぎるのも気が引けるのでそこら辺の線引きも重要かもな。

 

そもそも今回はかなり特殊な例だからな。わざわざ俺の意見も曲に取り入れたい、歌う人間が意見をくれた方が聞く人に響く曲になる。なんて言って打ち合わせをすることになるとは思わなかった、それだけ本気なんだと伝わるとのに比例してプレッシャーもグングン上がってしまう、しかもニーゴさんにとっても恐らく外への依頼は初のはずだ。大丈夫かな?声震えてない俺??

 

 

「お?やっと進んだか」

 

 

ちらりとパソコンに目を向けるとさっきの停滞はなんだったのかという速度でダウンロードが進んでいく。あっという間にアプリを起動できるようになった。

早速開いてアカウント作成へ、名前は『Soma』、プロフィールとか一言コメントは……めんどいから後でやるとして。事前にツッタカターのDMで送って貰っていたIDを検索して…名前は『K』さんか、シンプルだな。フレンド申請をしてからメッセージを打ち込む。

 

 

『今回依頼を頂きましたSomaです』

『フレンド申請がギリギリになってしまい申し訳ございません、PCの調子が悪くナイトコードのダウンロードが遅くなってしまいました。重ねてお詫び申し上げます』

 

 

パパっと打ち込み送信しておく、ダウンロードくらい前日にしとけや、と言われたら全力で謝る所存だ。

ここで時間を確認、24:42…まだ少し余裕があるが何時でもボイチャに参加できる準備をしておこう。と言ってもAnazonで買った三千円もしないボイチャ用のマイクと音楽を聴く時に使ってるそれなりに高い愛用のイヤフォンだ。音質のいいマイクは防音室にあるが今回は自分の部屋だし打ち合わせだけなのである程度聞こえればいいだろう。

 

ポピンッ

 

《Kさんがフレンドに追加されました》

《Kさんから新着メッセージがあります》

 

お、来たな

 

 

『依頼を受けて頂きありがとうございます、“25時、ナイトコード。”の作曲を担当してますKです』

『フレンド申請等は問題ありません、時間通りに準備して頂いてありがとうございます』

『準備が整いましたら25時頃にこちらのグループにご参加ください』

 

《Kさんから“25時、ナイトコードで。”に誘われました》

 

 

「……なんだよめっちゃいい人じゃん、絶対ボイチャ入ったらもっかい謝ろ」

 

 

そう決意し、グループに参加する。

 

《“25時、ナイトコードで。”に参加しました》

 

 

Soma:『はじめまして、今回依頼を頂いたSomaです。』

Soma:『作品完成までの短い間ではありますがよろしくお願い致します。』

 

Amia:『よろしくお願いしま〜す♪』

 

えななん:『よろしく』

 

雪:『よろしくお願いします』

 

K:『改めてよろしくお願いします、早速ですがボイチャに入ってもらっても大丈夫ですか?』

 

 

《Somaさんがボイスチャットに参加しました》

 

 

「あーあー、聞こえてますか?」

 

「あ、はい。聞こえてます、今回は依頼を受けてもらってありがとうございます」

 

「うわ、ほんとにさっきの動画と同じ声じゃん」

 

「だから言ったでしょ?えななんもたまにはボクを信じた方がいいよ」

 

「はじめまして、よろしくお願いします」

 

 

ん〜、歓迎されてるのかされてないのかわからん雰囲気。

 

 

「えっと…Somaさん」

 

「あ、呼び捨てで大丈夫ですよ、話し方も楽なようにしてもらえるとこちらも緊張しませんので。えー、Kさんでいいですか?」

 

「はい…じゃなくて。うん、じゃあわたしも呼び捨てで大丈夫だよ。それでSomaに先に謝っとかないとダメなことがあるんだけど……Amia」

 

「うぅ…はぁーい、Somaさん。ごめんなさい」

 

「あ〜、なるほどな、だから『()()()よろしくね』だったのか。

声と話し方で何となく察しは着いてるけど。一応弁明は聞いてやろう」

 

「あ、あっはは…さすが()()。実はね?」

 

 

 

〜約10分前〜

 

「あ、そう言えばさK。歌い手さんとの打ち合わせって今日の何時からだっけ?」

 

「25時からの予定」

 

「というか歌ってもらうだけなのに打ち合わせとかいるの?」

 

「Somaさんの声質とか雰囲気をより理解してからの方が曲の完成度が上がると思うし、より上手く表現出来た方が沢山の人に聞いて貰えると思うから」

 

「…より多くの人を救えるように?」

 

「うん、わたしはそのために作り続けてるから」

 

「Kらしいね、でもまぁ()()なら色んなジャンル歌ってるし案外どんなのでも何とかなりそうだけどね〜」

 

「先輩?ちょっとそれどう言うこと?」

 

「あ、ヤバ」

 

「AmiaってSomaさんの知り合いなの?」

 

「いや、Kが教えてくれたんじゃんか。『この人Somaじゃないのか』って」

 

「そう、だっけ?ごめん覚えてないかも…」

 

「えぇ!ほら文化祭の動画見せてあげた時だよ、映ってる人の声がSomaに似てるって。

この動画の……ほらこの時の声」

 

「…………あぁ、思い出した」

 

「私そんな動画のこと聞いてないんだけど?」

 

「えななんと雪が落ちちゃったあとだったしね。作曲の参考になるかもしれないって言うから見せてあげたんだ」

 

「K、よくわかったね」

 

「依頼受けて貰ってすぐだったからSomaさんの曲を色々聞いてたんだ。多分だからわかったんだと思う」

 

「でもそれって似てるってだけで、まだ本人かどうかは分からないんじゃないの?」

 

「今日確認したら本人らしいよ」

 

「確認したって、あんたまさか直接聞きに行ったの!?」

 

「あっはは♪でも、先輩もすぐに話してくれたよ?『いつかバレると思ってたー』って言ってたし」

 

「でもAmia、それって教えたわたしはともかく、えななんと雪に教えても良かったの?」

 

「さすがに許可ぐらい貰ってるから喋ってるんでしょ?ね、Amia?……ちょっとAmia聞いてる?」

 

「……ちょっと先輩に連絡、あぁ、連絡先知らないや」

 

「──許可、もらってなかったんだね」

 

「とりあえずボイチャ繋がったら謝りなさいよ」

 

「Amia、ちゃんと謝って許してもらってね?一応知り合いだとしても依頼先の人なんだから最低限以上の礼儀は尽くして」

 

「…うん、今回はさすがにちゃんと謝るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことがあったんだ」

 

「いや、話すなよ」

 

「まぁ、そうよね普通、あと雪!サラッとミュートしてんじゃないわよ!」

 

「ごめんなさい、お話の邪魔になるかなって思っちゃって。次からは気をつけるね」

 

「え、あ…うん。ならいいけど」

 

「……それで?瑞──Amiaは俺のどこまで教えたんだ?声と同じ学校ってことだけか?」

 

「うん、名前はさすがにボクも言ってないから安心して」

 

「安心できる要素がないんだが、ってかまさかお前がニーゴさんのメンバーだったとは…俺としてはそっちの方が衝撃だ」

 

「Amiaのことは許してくれるの?」

 

「はい…じゃなくて。あぁ、別にわざと言いふらした訳でもないんだろ?だったらいいよ別に。その代わりと言っちゃなんだが他のメンバーの皆さんも言いふらしたりするのはさすがにやめてくださいね?あ、それとK、フレンド申請とか色々とギリギリになって申し訳ない」

 

「うんうん、それは全然大丈夫。機材トラブルがあったみたいだし、何より時間には間に合ってるからそれに関してはほんとに気にしないで」

 

「よし!じゃあ色々謝って済んだところで、改めて自己紹介しようよ♪」

 

「その色々の元凶であるあんたが言うか…」

 

「でも、そうだね。一度きちんと自己紹介しておこう」

 

「うん、私もその方がいいと思うな」

 

「…じゃ、ボクから行くね?ではでは。主に動画担当をしてる。Amiaです♪よろしくね先輩。ほら、次えななん」

 

「え、私!?えっと…コホン、イラスト担当のえななんです。多分Amiaと同じ学校なら私とも同じ学校だと思うからよろしく。……次雪ね?」

 

「うん、雪です。作詞とミックスが主な担当で…他に何か話した方がいいかな?えっと、歳はAmiaの一個上だよね?多分同い年だからよろしくね。最後にKだね」

 

「…うん、えっと、改めまして。作曲担当のKです。曲完成までの短い期間ですがよろしくお願いします。……これでいいのかな?」

 

「あ、俺もしますね。えー、Somaです。簡単な編曲程度ならできますがメインは歌うことです。あと歳はAmiaの一つ上です。よろしくお願いします。……結局敬語になっちまったな」

 

「あ、やっぱり私と同い年なんですね。じゃあKとえななんとも同い年ですよ?」

 

「え、そうなんですか?ニーゴメンバーが全員学生だったとは、しかもえななんさんとも同じ学校か。世間は狭いな」

 

「だよね〜、ボクも初めて知った時は驚いちゃったよ。あと先輩、敬語抜けきってないよ」

 

「うっ、そこは仕方ないだろ。慣れるまで流石にある程度時間はいる」

 

「じゃあ自己紹介も終わったしそろそろ打ち合わせ始めるね?」

 

「うん、私は大丈夫だよ」

 

「私もいいけど…そもそも何を打ち合わせるの?」

 

「うん、まずは全体のテーマを決めるところから────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして色々、ほんとに色々あったが何とか打ち合わせを始めることが出来た。

 

 

 




奏って年齢的には高校2年生なんですね。ソースは穂波ママが一個上かって言ってました。

真尋の前ではまふゆは優等生です。

ボイスチャットを文字で起こすと台本形式になりました。
あと登場人物の見分け着くようにするの難しいですね。精進するかもしれないです。


読んでくれてありがとうございます。


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アップルパイは美味しい……いいね?

お久しぶりです。
学校始まっちゃいました。




〜神山高校2-A〜

 

すっかり秋となり、何となく夏や春よりも空が高く見える気がする今日この頃。流れるうろこ雲を眺めていたら4限目の授業がいつの間にか終わっていたので昼飯の準備をする。と言っても今日はコンビニで惣菜パンを買ってきたので購買に走る予定は無い。

 

取り出したるは本日のメイン惣菜パン、『ウインナー&マヨネーズパン』、名前の通りパンにウインナーとマヨネーズぶっかけただけの単純なパンだ、こいつは数時間カバンに入れっぱなしのぬるいお茶とによく合う。

 

 

「いただきます」

 

 

冷めきったマヨネーズの油分が染み込んだパンの香りと思ったより細いウインナーの味を噛み締めながら何となしに教室の扉に目を向ける。

先日思わぬ伏兵(初対面の1年)にバレてしまったこともあり、知らない人間が立っていると「バレたか?」って思ってしまうようになった、我ながら心の弱い男である。

 

そんな心配とは裏腹に今日は見知った綺麗な橙色の明るい髪と同じ色の瞳と目が合った。

 

 

「真尋もランチか?今日は天気もいいし中庭でと思っていたのだが、一緒にどうだ?」

 

「いいほ、いほいほ(いいぞ、行こ行こ)」

 

 

『ウインナー&マヨネーズパン』をお茶で流し込み残りの菓子パンが入った袋とお茶を持って司について歩きながら話を聞く。

 

なんでも咲希ちゃんに俺の事を紹介したいんだそうだ。

 

 

「でもいきなりだな、前々から会いたいと言ってたのをようやっと聞き入れてくれたのか?」

 

「いや、昨日咲希にお前の話をしたら、ぜひ会ってみたい!と言い出してな。兄としてはあの期待に目を輝かせた妹を裏切るわけにはいくまい」

 

「あ、結局咲希ちゃんのためなのね。なんか安心したわ」

 

 

その後はいい感じの木陰があったのでそこで昼飯を食べた。途中、蟻の行列に司がビビり倒すなんて面白すぎることがあったりもしたが、何とか時間内に食べきることが出来た…………まぁ、授業には間に合わなかったが

 

 

 

〜帰り道〜

 

赤のような茶色のようなよく分からん色になってきた街路樹の下を虫に怯えながら歩く司について行く

 

途中アップルパイが美味しいと評判のお店で噂のアップルパイを5つ購入、天馬家へのお土産と俺の分だ。

…甘いのあんまり得意じゃないが大丈夫だろうか?無理だったら司に食べてもらえばいいか

 

 

その後は問題なく司の家に到着した、緩やかな傾斜の住宅街の一件が天馬家のようだ

 

 

「ただいま!」

 

「お邪魔しまーす」

 

 

勢いよく玄関を開けつつもしっかり靴を揃えるところが司らしい…って靴多くないか?

え、天馬家って大家族なの??

 

「む、この靴は…どうやら一歌達が来ているようだな」

 

「一歌?どっかで聞いたことが……あ、咲希ちゃんの幼なじみの?」

 

「おお、よくわかったな!もしやエスパーか!?」

 

「いや、お前が話したんだろ…」

 

 

確か咲希ちゃんと仲のいい幼なじみが3人居て最近また寄りを戻して前よりいっそ仲良くなっている…って言ってた気がする。

 

 

「しかし、せっかく幼なじみが来てるのに俺が行っても大丈夫か?」

 

「むむ、確かにそうだな……とりあえず咲希に確認だな、一応近々紹介すると言っておいたから多分大丈夫だと思うが…っと、ここが咲希の部屋だ。咲希、今大丈夫か?」

 

 

司が扉をノックをしながら中に問いかける

 

 

「はーい、大丈夫だよお兄ちゃん」

 

「入るぞー…やはり一歌たちが来ていたか、よく来たな!ゆっくりしていってくれ」

 

 

司の後ろから部屋の中を覗くとの差4人の美少女がいた。扉側に一番近い位置に座っていた綺麗な黒髪の子と目が合った、恐らくまだ彼女にしか俺は見えてないだろう

 

 

「あ、司さん。お邪魔してます…えっと、後ろの方は?」

 

「フッフッフッ、紹介しよう!我が友である真尋だ!」

 

 

凄く雑な紹介をされたが勿論それで納得できるわけもないのであらためて自分から名乗る。

 

 

「はじめまして、学校では司のお目付け役をしてます、入相真尋です。よろしくお願いします」

 

 

年下とはいえ初対面、それも女性なので敬語を使う……女性だと年下でも敬語使っちゃうのなんでだろ?

 

 

「あ、お兄ちゃんがよく話してた人だ!はじめまして、天馬咲希(てんまさき)です!いつも兄がお世話になってます」

 

 

おお、これがリアル咲希ちゃんか。途中から司が脳内で生み出したイマジナリーシスターかと思っていたが……良かった実在したんだな

 

 

「はじめまして、噂はかねがね、色々と耳にタコができるくらい聞いてるよ」

 

「あ、あっはは…お兄ちゃん変なこと言ってませんでしたか?」

 

「俺の中では病弱だけど聖人君子の生き字引みたいなイメージになってるよ、まぁ会ってみてあながち間違いじゃないかもって思ったけどな」

 

「うぇ!?そ、そんな…アタシなんか、えっと……あ、ありがとう、ございます?」

 

 

うん、本当にいい子だ、話した印象が『いい子』って感じる、全身から幸せなオーラが滲み出てるタイプの、周りも幸せに出来るタイプの子だな。

反応が良くてからかい甲斐があるところも司によく似ている

 

 

「あ、みんなのことも紹介しますね!いっちゃんにしほちゃん、そしてほなちゃんです!!」

 

 

咲希ちゃんが3人いっぺんに紹介してくれる。先程目が合った黒髪の子はいっちゃん、銀髪のツリ目の子はしほちゃん、茶髪のなんか全体的にふわってしてそうな子がほなちゃんというらしい。うん、他人の紹介の仕方まで似たような兄妹だな。

 

流石に幼なじみの方々も苦笑いしながら自分で自己紹介を始める

 

 

星乃一歌(ほしのいちか)です。咲希の友達で、えっと…他は、歌が好きです。よろしくお願いします」

 

日野森志歩(ひのもりしほ)、よろしくお願いします」

 

「はじめまして、望月穂波(もちづきほなみ)です。趣味は星を見ること…天体観測が好きです。よろしくお願いします」

 

 

黒髪の子が星乃さん、銀髪の子が日野森さん、茶髪の子が望月さんだな。よし、覚えた

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

と、挨拶したところで左手のアップルパイが入った紙袋に視線を向けられていることに気がつく

 

 

「……望月さん?」

 

「アップルパイ…え、あっ、はい!なんでしょう?」

 

 

ツッコミどころが多すぎるが、あんな羨ましそうな目をされたんだ。とりあえず

 

 

「あー、良かったら皆さんで食べま──「いただきます!」

 

 

かなり食い気味で返事を返されたので若干引きながら紙袋ごと渡す。元々お土産ように買ったものだ、幸か不幸か司の親御さんは家にいないようなので幼なじみの皆に食べてもらった方がいいだろう

 

 

「穂波よくアップルパイってわかったね」

 

「え?匂いでわからなかった?」

 

 

日野森さんと咲希ちゃんが首を横に振る。

 

普通わからんよな、アップルパイがそれだけ好きということか。そう考えると俺のお土産のチョイスは正解だったようだ

 

 

「あれ?五つしかない」

 

 

と、ここで皆にアップルパイを配っていた望月さんの手が止まる。

あ、人数分買ってないわ

そんな重要なことに今気がついた、やはり俺のお土産のチョイスは正解だが個数は不正解だったようだ、無念。

 

まぁ、もとより甘いものは得意じゃないのでここは皆さんに食べてもらうよう促す

が、誰も口を付けようとしない。やっぱり一人食べない奴がいると食べにくいよな…

 

 

「むぅ、仕方がない。ほら真尋、俺の分を一口やろう」

 

 

ずい、っと司が自分のアップルパイを俺の口元に持ってくる。流石にここまでしてもらって『いらねぇ』と突っぱねるのは申し訳ないので一口だけ齧る……が、やはり甘い。

 

 

「……コーヒー入れてもらっていい?」

 

「そんなにか!?」

 

 

思ったより倍くらい美味しかったがそれと同じくらい甘かったのでコーヒーをねだる。

 

「ちょっと待ってろ」とアップルパイ片手に司がコーヒーを入れに1階に降りていく。やっぱり良い奴だな。

 

 

「あ、真尋さんもどうぞ座ってください。」

 

「お、こりゃ親切にどうも」

 

 

お言葉に甘えてあぐらをかいて座る

女性の部屋とはなんとも落ち着かないもので、自分が浮いた存在のように感じる

 

何となく周りを見回すと四人の視線が集まっているのがわかった

あ、これ知ってる質問攻めされるやつだ

 

予想は正しく、「司とはいつから友達なのか」、「何か趣味はあるか」、「アップルパイは嫌いなのか」、「変人なのか」等など色々と聞かれた。

 

趣味に関しては音楽が趣味と答えると質問がさらに増した

 

「楽器は弾くのか」、「歌は歌うのか」、「活動はしているのか」、「アップルパイは好きですよね?」

 

問答を繰り返していると司がコーヒーを持って、戻ってきた

 

 

「ほら、コーヒーだ。ブラックでよかったな?」

 

「ありがと、……美味い」

 

 

その後は司も混じえながら女性達からの質問に答え続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アップルパイハオイシイ




咲希ちゃんって可愛いの権化ですよね。

ちなみに私は甘党なのでアップルパイとか大好きです。
コーヒーより紅茶大好きです、砂糖四、五杯入れるのでジャリジャリします。


あと最近『生徒会役員共』を見返してるせいで下ネタぶち込みたくなりました。理性で止めました。


続けれたら頑張ります


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最近行ってなかった行きつけの店

お久しぶりです。
ガチャは悪い文明ですね。




〜とある休日〜

 

学校も休みで特にすることもないのでCDショップを適当にぶらつく、暇な日に入り浸り過ぎたせいかすっかり顔馴染みになったレジのお姉さんと一言二言話してから店内をうろつく。

 

ひと月前まではアイドル系統が置いていたところに結構激しめなロックバンドのジャンルが並んでいるところを見るに売り場の変更でもしたんだろう。

幸い目的であるボカロコーナー変わっていないようなのでふらふら歩いていく

 

適当にパッケージを眺めて気になったら手に取り戻す、これを繰り返しながらなんか良さそうっと感じたらキープしてまたふらふら…

 

やはり人気ボカロPさんは前面に出てるので探しやすくて助かる。適当に三、四枚買ったら帰って聞くか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────と、普通の人間なら思うだろう。

 

ここの音楽ショップは品揃えは申し分ないがお世辞にも広いとは言えない店なのでどうしても前面に出せるCDの量は限られる、そんな事情からマイナーな曲や人を選ぶような曲、更には有名だけど他にもっと有名すぎるのがある曲等は側面に埋もれがちだ。

 

例えば……おぉ、あれは!最近人気がうなぎ登りなボカロPさんのCDを発見!!

 

期待の新人ボカロPとしてデビューしてから初のアルバム、既にAnazon等のネット通販にはあまりでまわっていないことはリサーチ済み。

店側としてもこれから名が売れていってくれれば前面に出すだろうが今はその前段階、有象無象に埋もれた中でも手に取ってもらえるほどの魅力を単体で持っているのか、それを推し量っている段階だろう。

 

どうやらこれが最後の一枚みたいだ、早速手に取り迷うことなくキープ、というか確定で買──「あ、ラストだったんだ」い…の、予定、なんだが。隣からはつい先日聞いた声が聞こえてくる。

 

声のする方向に顔を向けると先日と同じく綺麗な黒髪をした女性、星乃さんが少し悲しそうな顔で俺、ではなくその手元──CDに目線を向けていた。

 

 

「こんにちは、昨日ぶりですね」

 

 

社会人の基本である挨拶…朝の10時位ってこんにちはでいいのか?まぁ、とにかく挨拶をすると心底驚いた表情で慌てて挨拶が返ってきた、多分俺の事には今気がついたんだろう。ま、司や類みたいに印象深い見た目でもないしな、しょうがないだろ。

 

しかし、星乃さんもこのCDに目をつけるとはお目が高い、中々に見る目が…いや、聞く耳があるな。

 

と言ってもこれがラスト一枚であることは間違いない、さてどうするか……

 

 

「すみません、私入相さんだって気が付かなくて…」

 

「ん?いいよいいよ。気にしないで、それよりこれ、良かったら譲るよ」

 

「え!良いんですか!!」

 

「あぁ、今回は別にこれが目的で来たわけじゃないし、別に今すぐ欲しいって訳でもないからな。それと、呼び方は真尋でいいよ」

 

 

嘘はつかないが本音でもない、本当のことを言えば見つけた瞬間今日の目的がこれになるくらいには欲しいCDだが「このCDは俺が先に取ったんだからな!」と言うのはいささか格好が付かなすぎる、端的に還元するなら男の仕様も無い見栄だ。

 

それに星乃さんは足音からしてこちらに一直線に向かってきていた、なおかつ前面のコーナーには目も触れずこのCDが置いてあるところまで迷わずに辿り着いた。パッケージ等を事前に調べていたんだろう、それくらい欲しがっている人がいるなら譲るのもいいかなって思えるもんだ。

 

 

「あの、やっぱり申し訳ないので結構です。元々は入相…真尋さんが先に取っていた訳ですし…。あ、それと私も一歌で大丈夫です」

 

「ここまで来といて遠慮しない、ほら、これ持ってさっさとレジ並んできな」

 

「あ、ででも!」

 

「ん〜、案外強情だな…そうだ!じゃあ半分ずつ出し合うのはどうだ?」

 

 

俗に言う割り勘だ、所有権は2人。CD本体は星乃さんに管理してもらっておいて俺はパソコンにダウンロードしたやつを聞くから大丈夫だ。

なに?それなら本体を持ってる私が多めの2:1の金額でいい?いやいや、女性にそれも年下に多めに金を出させるなんて男として流石に情けないから却下。

 

むぅ…予想よりも強情、というか優しい子だな。困った、このままだとどちらも買わずに終了な展開が有り得てしまう。それは流石にもったいなさすぎるので何とかして譲りたいんだが…──「あの〜、よろしければ在庫確認致しましょうか?」

 

不毛とも呼べる争い(?)をしているところに天明の光が舞い込む、いつもの店員さんがいつの間にやらほぼ真隣まで接近していた。

 

 

「お願いしてもいいですか?」

 

「すいません、私からもお願いします」

 

「かしこまりました〜」

 

 

足早にかけていく店員さんを見送りながら微妙な空気が流れる、お互い譲り合っていたところに2つ目が出てくると何となく恥ずかしくなってしまう。

星乃さんも同じのようで少し気まずそうな表情で落ち着いていない。

 

そんな星乃…じゃなかった、一歌さんの視線が一点に集中したのがわかった、視線の先に目を向けると綺麗な銀髪でジャージ姿の女性が一歌さんを見つめていた。

 

よく観察してみると2人の視線はそれぞれの髪に向いている、『憧れ』…と言うよりは『羨望』?お互いがお互いの髪に興味津々って訳か。

見つめ合う美少女を観察する男……なんか悪いことしてる気分になってきた。

 

 

「「あ……」」

 

「えっと、すみません」

 

「……いえ、こちらこそ」

 

「「…………」」

 

 

美髪な2人を無言で眺めながら待っていると店員さんが2つCDを持って戻ってきた、つまりそういうことだろう。

 

 

「お待たせしました、はい、こちらお二つでよろしいですか?」

 

「ありがとうございます、そのままお会計して貰ってもいいですか?」

 

「…あ、別々でお願いします」

 

 

一歌さんも思考の海から帰ってきたようで一緒にレジに向かう。

 

先程の銀髪の女性も既にどこかに行ってしまったようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

初めから店員さんに聞けばよかったな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜昼過ぎ〜

 

ビビッドストリート

 

あれから一歌さんと別れて適当に昼飯食った。

久々に『麺硬辛め野菜ダブルニンニク脂マシマシ』を頼んだがさすがに昼からは重かったみたいだ。食後のコーヒーを飲みたくなってきたので久々に行きつけの、カフェ?バー?でもライブもしてるし…まぁいいや、『WEEKEND GARAGE』に行くことにした……行きつけなのに久しぶりとはこれ如何に。

 

壮大なグラフィティアートを眺めながら歩いていると目的の店が見えてきた、早速中に入る。

 

 

「いらっしゃーい。…って真尋さん!お久しぶりです。父さーん!真尋さん久々に来てくれたよ!」

 

 

ドアのカランカランって鳴るやつ……あれの名前ってなんなんだろ?ま、いいや。その音とほぼ同時に久々に聞く明るい声に出迎えられる。

 

 

「そうか。いらっしゃい、ゆっくりしてっいってくれよ」

 

「お久しぶりです、謙さん。すいません、最近色々忙しくて……杏も久しぶりだな、最後に見たのは…何時だ?」

 

「多分私が入学して2ヶ月経ってからくらいだから、6月の初めくらい?」

 

 

つまりほぼほぼ4ヶ月は来れてなかったということになる、最近は忙しかったとはいえなんだか申し訳ない気分になってしまった。今日は二杯頼むとしよう

 

杏に案内されカウンター席に、どうやら今はお客さんが俺一人のようだ、夜はあんなに盛り上がるのに昼は静かだよな、ここ

 

 

「……今何か失礼なことを考えなかったか?」

 

「いえ、全くもってそんなことはございませんよ?あ、アメリカンコーヒーお願いします」

 

 

カウンター越しに読心術を行使され内心焦った。瑞希の気持ちが何となくわかった気がする……

さりげなく注文を受けてくれた謙さんがコーヒーを入れる準備をしてくれる。あいにく俺は飲む専門なので何をやってるかはあんまりわからんのだが、このコーヒーの香りが広がる感じはやはり好きだ。

 

 

「ご注文のアメリカンコーヒーだ」

 

「ありがとうございます………美味い、やっぱりここいらじゃ1番美味しいですよ」

 

 

ほっと一息着く、やはりここのは美味い。俺の家から少し離れているから絶妙に来るのが面倒な位置にあるんだがそれでも足繁く通ってしまうほどにはこの味に惚れ込んでしまっている。

 

 

「真尋さんなんで急に来なくなっちゃったんですか?」

 

「あぁ、ちょっと用事が色々と増えてな」

 

「それは歌ってみた動画のことか?」

 

 

……ほんとなんで知ってんのこの人?え、怖、ごめん瑞希入れこんな怖いことしてたの?今度ちゃんと謝ろ

 

 

「ふぅむ、久々に会ったが…相変わらずよく分からん目をしてるな、強いて言うなら『譲れないものを作り上げている』、そんな奴の目だ」

 

「いきなり人の顔をじっと見つめて何言い出すんですか、てかなんで動画のこと知ってるんですか?顔出しはしてませんよ俺」

 

 

まぁ、多分声でバレたんだろうな。この人ほんとに計り知れん

 

 

「えぇ!真尋さん動画アップしてるんですか!?というか歌うんですか!?」

 

「歌うぞー、好きな曲ばっかりだけどな。あ、周りに言いふらすなよ?」

 

 

バレちゃったもんは仕方ないので動画のチャンネルを見せる

 

 

「『Soma』って……うぇ!?あの『Soma』だったの!?すごいすごい!なんで教えてくれなかったんですか!!」

 

「うんうん、喜んでくれるのは嬉しいけど俺の携帯振り回すのはやめてくれ、おいやめろ、その手を止めろ」

 

「あっはははは!!」

 

 

元凶が何笑ってんだ、張り倒しますよコノヤロウ………コーヒー次ブレンドお願いします。

 

 

「こんにちは」

 

 

そんな悪い大人を睨みながらコーヒーを飲んでいると入口から先程聞いたカランカランという音が再度響く、入口に目を向けると三人の男女が入店していた。

 

内二人の男子は見覚えがある…というか冬弥と彰人だった。司の近くにいるとかなりの確率でエンカウントする二人なので必然的にそれなりに話したことがある、二人とも中々にいい音楽センスをしているので話していて楽しいものだ

もう一人の女の子は…完全に初対面だな

 

 

「こんにちは真尋先輩、こんなところで会うとは思いませんでした……真尋先輩がいるということはもしかして司先輩も来ているのですか?」

 

「ああ、こんにちは冬弥。残念ながら俺一人だよ、彰人も学校ぶりだな。それと、初めまして、入相真尋だ、よろしく頼む」

 

「え、えっと……初めまして、小豆沢(あずさわ)こはねです。よろしくお願いします」

 

「謙さんの笑い声が聞こえてきたから何かと思えば…まさか真尋センパイがいるとは思わなかったですよ。なんの話ししてたんですか?」

 

 

その質問はとても答えにくいのだが……よし、杏と謙さんにも黙ってもらっておこう。

『話さないでくださいね』という念を込めて目配せをする。杏と謙さんはコクリと頷いてくれた。

 

 

「「実は真尋(さん)の歌ってみたを聞いてたの」」

 

「あんたら親子は俺を怒らせたいのか!?」

 

 

思わず台パンしながら立ち上がる、視覚の端っこで小豆沢さんがビクッとなっていて申し訳なかったが正直それどころでは無い。カップが少し浮いたがコーヒー半分ほど飲んでいたおかげでこぼれることはなかった

 

 

「真尋さんがあんな瞳で訴えてくるから『ぜひ俺の事を宣伝してくれ!』って思ってるのかと思っちゃったよ」

 

「なんにも伝わってなかったな、おっかしいなぁ俺さっき言いふらさないでって言ったばっかだよな?」

 

「杏には言っていたが俺には言ってなかっただろう」

 

 

うるせ、子供かあんたは

 

はぁ、最近…主に瑞希にバレた辺りから周りに気付かれやすくなっているんだろうか?もう少し注意すべきか…

 

 

「歌ってみた…真尋先輩も音楽に詳しかったですけど動画もアップしていたんですか?」

 

「……これだ、俺のアカウント」

 

「へぇー、センパイ動画出してんですね。俺にも見せて…『Soma』って、マジですかセンパイ!?」

 

「お前も杏と同じリアクションだな…それと、俺が言うのもなんだがいきなり大きな声出すから小豆沢さんがびっくりしてるぞ」

 

「あ、いえ、大丈夫です。あの、入相…先輩?は杏ちゃんとお知り合いなんですか?」

 

「高校受験が終わったくらいにここのコーヒーに出会ってな、それからは足繁く通わせてもらってるんだ。杏ともその時からの知り合いだ、それと呼び方は真尋で大丈夫だぞ」

 

「俺と彰人とは高校が同じなんだ、にしても真尋先輩があの『Soma』だとは思いませんでした。でも言われてみれば声質が同じですね。」

 

「そら本人だからな、あと絶対に、()()に周りには言いふらさないでくれよ」

 

 

仲良し親子に念押ししながら三人にもお願いしておく。

 

終わったことは仕方ないので頭を切り替える。

 

 

「そういえば謙さんを除いたこの4人はどういう集まりなんだ?」

 

「ああ、真尋が最後に来たのは結成前だったな。杏達は4人で『Vivid BAD SQUAD』というストリートユニットを組んでいるんだ」

 

「へぇ…もしかして謙さんの影響か?」

 

「どうやらそうらしい、全く。我が娘とその仲間ながら将来が楽しみだよ」

 

 

えらく嬉しそうに笑う謙さん、俺が来なかった4ヶ月間の間に色々とあったようだ。

 

 

「あ、そうだ!真尋さん、良かったら今から歌いませんか?」

 

 

と言いながらマイクを持ってこっちに来るのはほとんど強制してるようなもんだろ…いや、全然歌うけどさ、好きだし

 

 

「いいけどどんな曲歌うんだ?」

 

「えっと…あ!これとかどうです?」

 

♪━━━━、━━━━━━━……

 

「これって…」

 

「今度俺と冬弥で歌う曲じゃねぇか」

 

 

幸い知っている曲なので歌える、てかボカロ入ってるんだな。マイクを握ってステージに足を運ぶ。今のところお客さんが来る気配はないので迷惑にはならないだろう。

 

 

「一曲だけだぞ?………

 

♪━━━━、━━━━━━━、━━━━━

 

……

 

 

 

━━♪

 

っふぅ、どうだった……ん?」

 

 

練習無しだったんで不安だったが歌いきることが出来た、それはいいんだが彰人と冬弥がボーッとしてる。大丈夫か?

 

 

「すっげぇ…でも!」

 

「ああ、負けられないな、彰人」

 

 

…どうやら男の子のスイッチを押してしまったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後は最終的に杏とこはね(本人に呼び捨てにしてくれと頼まれた)も交えて夕方まで歌いまくった。

 

 




最近いきなり暑くなってきて服装に困りますね。

謙さんのキャラよく分からないので愉快で真面目で楽しい大人になっちゃいました。うぇい

『Soma』は一体どれだけ人気なんでしょうね、作者も分かりません。

こはねちゃんってなんであんなに少女漫画みたいなんですかね?エリア会話とか最高ですよ。

エリア会話と言えば奏と一歌のエリア会話大好きです。皆さんはお気に入りのエリア会話とかありますかね?


続けれたら頑張ります。


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友達の誘い方(初級編)で予習はした


お久しぶりです。
10人マッチは時間かかりますね。


 

 

〜神山高校2-A〜

 

 

「真尋は今度の休日なにか予定はあるか?」

 

 

昼休み恒例である購買ダッシュを決め目的の『特製ソースカツサンド』をゲットしモソモソと食べていると隣にいる司から声がかかる。

なんでも今度司がバイトしている『フェニックスワンダーランド』でショーをやるらしくぜひ見に来て欲しいとの事でチケットを4枚も貰った。

司が所属する……というか立ち上げた劇団、『ワンダーランズ×ショウタイム』のメンバーの一人がかの有名な鳳財閥の娘さんらしい、あれ?『フェニックスワンダーランド』って鳳財閥の……あ、そゆこと。ホントこいつの人脈どうなってんだ。

 

休日は基本暇なのでチケットは受け取りはしたが俺の分を抜いて残り3枚。司や類が誘えないとなると先生方が肉親しか誘える人物がいない友好関係が比較的狭めな俺に3人の仲間を探せとはなかなか酷なことを言うな。

 

 

……せめて放課後までには誰を誘うか決めておくか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局誰を誘うか決められず放課後になってしまった。司はショーの練習をするらしくチャイムとともにバイト先に直行、置いていかれた俺は1人寂しくうんうんと悩みながら歩いている。

 

 

「あれ?先輩じゃん!やっほー!」

 

 

……っとそこに最近よく聞く声がひとつ。

瑞希か、そういえばニーゴって四人グループだったよな。

 

瑞希に、チケットを貰ってからの話の旨を伝え、ニーゴさんの4人でショーを見に行かないか、とチケットを差し出したが

 

 

「ダメだよ先輩、先輩が貰ったチケットなんだから先輩が見に行かないと意味ないよ」

 

 

と、至極真っ当な事を言われてしまった。

確かに、我ながら悩みすぎて大事なところが抜けてしまったようだ。でもそうなると誰を誘うべきか?……また同じ悩みに戻ってきてしまった。

 

いや、まてよ?目の前に1人いるじゃないか。幸い休日暇そうなやつ(失礼)だし多分OK貰えるだろ。

 

 

「なぁ、瑞希は今度の休日暇か?暇なら1枚貰って欲しいんだが」

 

「先輩が行くなら行くよ!」

 

 

これで残り2枚、さて誰を誘うか…

 

 

「先輩、もしかして友達少ないの?」

 

「……少ない訳じゃないぞ?誘ってくれた司と類がショーに出る当人ってだけで普段なら真っ先にあの二人に声をかけるんだが今回はたまたま、()()()()!誘える人間がいなかったってだけで別に普段からあの二人以外とはほとんど話さないとかじゃないし、なんなら体育のゴリ先生に『俺、最近気になってる人がいるんだが……』って恋愛相談されるくらいには教師陣とは仲がいいんだぞ?お前知らんだろ体育のゴリ先生と美術の先生が両思いだけどどっちも『嫌われたらどうしよう……』っていうそこら辺の生徒よりも甘酸っぱい距離感にあること知らんやろ?それにクラスの人達だってたまに話せない訳じゃないし、なんなら今日だってクラスメイトに『数学のノート集めてるんだけど課題やった?』って聞かれたし、それに最近は杏とか冬弥ともよく話すようになってるし別に友達が少ないわけじゃないぞ?」

 

「あ〜、あっはは……なんかごめんね?というか先輩、杏とか冬弥くんと友達だったんだ!!だったらその2人誘えばいいんじゃないの?」

 

「……」

 

 

ド正論を食らい押し黙ってしまったが全くもってその通りだ、人を遊びに誘うなんてほとんどやった事なかったから視野が狭まっていたのか?

幸い休日までまだ日はあるので後日杏達を探すことにしよう。

 

瑞希とは途中まで一緒に帰ったがずっと今制作中の曲の話をしているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜翌日、朝〜

 

 

「風紀委員です。服装の検査にご協力お願いします……」

 

 

清々しい日本晴れの下。眠気眼で学校の校門付近を通ると、えらく棒読みで声をかけられた。

 

視線を向ければ見知った顔がプリントを挟んだボードとボールペンを持ち。珍しく制服の第一ボタンもしっかり締め、更にはブレザーのボタンまで締めている。なれない丁寧な口調で呼びかけている所為かなんとも言えない顔でこっちを見ていた。

 

 

「おはよ、杏。そういえば風紀委員だったな」

 

「おはようございます、真尋さん。我ながら似合ってないとは思うんですけど…なっちゃったものはしょうがないですから。とりあえず、服装検査しますねー、と言ってもざっと見た感じ大丈夫そうですね」

 

 

襟元、第一ボタン、耳元、靴下、等などを指差ししながらチェックすると「おっけー」と呟きながらこちらに向き直る。

 

 

「やっぱり大丈夫ですね、ブレザーのボタンは今日の全校集会の時は締めてください。はい、じゃあ通っていいですよ」

 

「あ、その前に…」

 

 

チケット2枚渡しながら司に貰ってからの話の旨を伝える。

 

 

「休日…明日ですよね?特にイベントもなかったからお父さんに手伝い頼まれない限りは大丈夫だと思うけど…でもなんで2枚?」

 

「杏の方から冬弥か彰人のどっちか都合のいい方誘ってくれ。同じ1年だし会う機会多いだろ?」

 

「私は良いけど、真尋さんは良いの?」

 

「何が?」

 

「いや、こういうのって本人が誘った方がいいんじゃないかなーって……」

 

「……」

 

 

先日と同じようにド正論を食らい押し黙ってしまったが今回も全くもってその通りだ。そもそもそれだとどっちが来るのか連絡貰わないと俺も当日まで分からないし、もし2人とも都合が合わなかったら杏が一番困るだろ。

 

諸々踏まえて一言謝りながらチケットを1枚返してもらい懐にしまう。

 

「じゃあ」とお互いに一声かけて教室に行こうとしたが一つ気になったので聞いておいた

 

 

「杏、お前ピアス付けてるけどいいのか?」

 

「え!ほんとだ気づかなかった…癖でつけてきちゃったのかな?」

 

 

頑張れ風紀委員…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜昼休み〜

 

司に「中庭で俺と共にランチタイムと行こうではないか!」と言われたが、生憎あともう1人を誘うためにパス。昼食も少し急ぎめに10分もかけずに済ませ1年の教室に向かう…が、そこでピタリと足を止める。

 

……冬弥と彰人って何組だ?

1年だから1階の教室なのは間違いないんだが。まあ、A組から順番に行くか。

 

他学年の教室に入るのなんて初めてなので少し、いやかなり緊張しながらドアを開けようとすると、何と自動で開いた。

一瞬「自動ドア?1年の教室は便利だな」なんて馬鹿なことを考えたが普通に人が中から開けたみたいだ。

かなり驚かれたが「青柳と東雲って何組かわかる?」と聞くと「多分、青柳はB組て東雲はC組だと思います」とちゃんと答えてくれた、いい子で良かった。

 

さっきの子にお礼を言いB組に向かうとら廊下側の窓から冬弥と彰人が机を囲んでいるのが目に入った。さっきの人が言っていることが正しいなら、彰人がパンと紙パック持って冬弥のいるクラスに来たんだろう…なんか可愛いな。

 

と、そんな俺の思考を察知したのか、彰人がこちらにちらりと目を向ける。冬弥もそれに気がついたようで食べる手を止めてこちらを向く。

見つかったので教室に入り2人の元まで行く

 

 

「どうしたんすかセンパイ、1年の教室に来るなんて珍しい…てか初めてじゃないっすか」

 

「ああ、実は冬弥と彰人に聞きたいことがあってな。明日の休みって暇か?」

 

「明日ですか?俺はイベントもないので何も予定は無いですね」

 

「あー、明日はちょっと用事が…」

 

 

どうやら明日暇なのは冬弥だけらしい、こちらからすればありがたいな。というわけで冬弥にチケットを渡しながら概要を説明すると…

 

 

「是非ッ!行かせてくださいッ!!」

 

 

両手でチケットを力強く受け取りながら快く了承してくれた……この様子なら公演時間教えたらチケット渡さなくても自腹で買って行ったんじゃないか?

 

 

「てかセンパイ、今回は俺が用事で行けませんでしたけどもし俺も行けるってなってたらどうするつもりだったんすか?」

 

「全く考えてなかった、それより用事ってどっか行くのか?」

 

「まぁ、ちょっと朝一から家族と食べに出かけるだけですよ」

 

「あぁ、お姉さんとチーズケーキを一緒に食べに行くんだろ?なんでも数に限りがあるとか」

 

「ば!冬弥、お前、言うんじゃねぇよ!!」

 

「?……何か間違ったことを言ったか?」

 

「いや、間違ってねぇけど…そうじゃなくて、あーもういいや、めんどくせぇ」

 

 

……前々から思っていたが冬弥ってクールキャラなんじゃなくてド天然キャラなんじゃないだろうか?

にしてもなるほどな、確かに高校一年生という多感な時期に『お姉ちゃんとケーキ食べてきます!』とは言い難いわな、現に顔が真っ赤になってる。写真…はフラッシュとかでバレるから動画撮って杏に送っとこ

 

渡すものは渡したので冬弥と彰人に一声かけて教室に戻ると司が中庭から戻って来ていた。

 

 

「あ、そういえば明日のショーって何時から始まるんだ?」

 

「む、そういえば伝えていなかったな。明日は11時が1番始めのショーだ、そこから1時間30分毎に合計で5回ショーを行う」

 

「ほー、5回もやるのか、大変だな。空いてる時間帯とかあるか?」

 

「ふっ、スターたる俺が主演を務めるショーだぞ?常に客席満席状態よ!フハハハハ!!」

 

「(後で類に聞こ)……」

 

 

放課後、類に穴場時間を聞きに行ったがどうやら本当にほぼ席は埋まっているらしい。昼時とかは空いてるかと思ったが食べ物片手に見に来る人が結構いるみたいだ。

 

その後は類に感謝を伝え帰路に着いた、疑ってすまんな司

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜帰宅後〜

 

すぐにPCを起動、ナイトコードじゃない方のトークアプリを立ち上げグループを作成。冬弥のアカウントは知らないので瑞希と杏だけを招待して待機。

 

=========================

 

《マヒロさんがmizuki☆さんとANさんを招待しました》

《mizuki☆さんが参加しました》

 

mizuki☆:『やっほー、残り2人誘えた〜?』

 

マヒロ:『おー、無事誘えた。というかこっちの名前はAmiaじゃないんだな』

 

mizuki☆:『さすがにね、一応秘密にしてる訳だし。あとの二人にも言わないでね?』

 

《ANさんが参加しました》

 

AN:『お疲れ様です、真尋さん。動画感謝です』

 

mizuki☆:『お、杏じゃん!おつおつ〜、動画って何の話?』

 

マヒロ:『おつ、動画は秘密だ』

 

AN:『瑞希じゃん!先輩って瑞希と知り合いだったんですか?』

 

マヒロ:『色々あってな、それより冬弥のアカウント知ってるか?知ってたら招待して欲しい』

 

《mizuki☆さんがtoyaさんを招待しました》

《ANさんがtoyaさんを招待しました》

 

mizuki☆:『あ』

 

AN:『2人で招待しちゃったね(笑)』

 

《toyaさんが参加しました》

 

toya:『お疲れ様です』

 

マヒロ:『おつ、これで全員だな』

 

toya:『2人からいっぺんに招待が来たのでびっくりしました』

 

mizuki☆:『あっはは、ごめんね』

 

AN:『ごめんごめん』

 

マヒロ:『それで明日なんだが集合場所はどこにする?』

 

toya:『俺は何処でも構いませんよ』

 

mizuki☆:『ボクもどこでもいいかな〜』

 

AN:『じゃあ現地集合でもいいんじゃないですか?』

 

マヒロ:『一応11時から一回目のショーが見れるみたいで、それから1時間30分毎に5回ショーをやるんだってさ。』

 

mizuki☆ :『じゃあみんなでなにか食べてから行こうよ!』

 

toya :『食べる物ならパーク内にあるんじゃないか?』

 

AN :『ああいうところは値段が高いから…そういうことなら私も外で食べて行った方がいいと思うよ』

 

マヒロ:『え、そうなの?あんまり行ったことないから知らんかった』

 

mizuki☆ :『ヤバいよ、自販機の水が200円するんだよ』

 

toya :『富士山と同じだな』

 

マヒロ:『……ファミレスに11時30分頃集合でおk?』

 

mizuki☆ :『おけー』

 

AN :『異議なーし』

 

toya :『了解です。ちなみに、富士山の自販機は登れば登るほど高くなるみたいで5合目では200円、6合目では300円、7合目では400円、8合目から頂上では500円になるみたいですよ』

 

マヒロ:『マジかよww』

 

mizuki☆ :『へー!』

 

AN :『絶対水持って登らないとダメじゃん』

 

 

……………………

…………………

………………

……………

…………

………

……

 

 

=========================

 

その後はためになるようなならないような雑談をしてから明日に備えて早めに眠ることにした。

 

 

 

……富士山に水いっぱい持ってって売ったら儲かるかな?

 





なんでもない日常を丁寧に書くのがいちばん楽しいです。

真尋の同年代の友好関係は司と類が仲良しな友達でその他は知り合いもしくはクラスメイトレベルと認識していてください。私も2、3人仲良い奴がいただけでした。

風紀委員って現実で見たことないんですけど服装検査とか頭髪検査をする先生の手伝いくらいしかやることないらしいですね、インターネット君が言ってました。(多分それだけじゃない)

彰人がパンと紙パック持って移動してるところ想像するだけでなんか可愛く感じるの私だけでしょうか?

続けれたら頑張ります。


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混ぜるな飲めん


お久しぶりです。
最近iPadmini買いました。



 

 

〜休日・朝〜

 

約束の休日、平日よりも遅い時間に軽めの朝食を流れていくニュースを眺めながら食べる。

チラッと右上の時刻を見ると時刻は9時20…あ、今21分になったな。

我が家から集合場所のファミレスまではのんびり歩いて4、50分程度。集合時間が11時30分、10分前には着いておきたいから、余裕もって10時過ぎに出るか。

 

女性の場合、出発まで残り40分程度となると慌てるんだろうが俺からすれば十分余裕のある時間だ、なんならゆっくりトイレに座れる。

 

頭の中で雑な朝の予定を組みたてながら口の中に残ったトーストをコーヒーで流し込む……うん、美味い。

食べ終わった食器を台所の流しに運び水に浸しておく、洗うのは…帰ったらでいっか。父、母は両方共仕事で朝から家にいない。多分帰ってくるのも俺が先になるだろうから置いててもバレないバレない。

 

流しに食器を運んだその足で洗面所に向かう。

少し髪を濡らしてドライヤーで乾かしながら寝癖とか整える、そこにうっすらとワックスをシャシャシャーって適当にして準備完了。

 

腕時計を確認するとあと30分以上余裕がある。

暇だしソシャゲのログボ回収でもしながら待つとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ファミレス付近〜

 

時刻は11時24分。入相真尋、絶賛走行中である。

まさか家の鍵が行方不明になるとは思わなんだ、てっきりいつもの玄関の箱に入れてると思ってたんだが。学校のカバンに入れっぱなしだったとは、我ながら不注意な男だ。

 

で、結局見つけた頃には走ったら間に合うくらいの時間になっていた。

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ……ッハ、ハッ、ハッ」

 

 

あー、絶対明日筋肉痛だ。嫌だなぁ…座ったり立ったりするときの痺れるような痛さが特に嫌だなぁ…

 

目的のファミレスの入口で止まれるよう息を整えながらスピードを落としていく。

時間は11時27分、5分前行動は無理だったみたいだ。ガラス越しに外から店中を見てみると冬弥と瑞希はもう来ているみたいだ、杏の姿は見えないが……

 

少し急いで中に入り皆の元へ向かう、どうやら杏はまだ来ていないらしい。なんだか少しだけ損した気分になった。

 

 

「2人ともおはよ。すまんな、少し遅くなった」

 

「おはようございます先輩。俺と暁山も今来たところなんで大丈夫ですよ」

 

「おはよ〜、まだ集合時間じゃないしね。ほら、11時28分」

 

 

瑞希が指さす方向にある時計は確かに28分。それでも誘った側の人間としては、何となく先に到着しておきたかった。

 

どうやら2人も本当にいまさっき着いたばかりらしい、たまたま近くで合流したのでそのまま一緒に来たようだ。

 

と、ふと外に見知った髪飾りをつけた黒髪が靡いているのが見えた。

 

時刻は11時29分。白石杏、絶賛全力疾走中のようだ。

勢いを殺さず店内へ入りこちらに駆け足、そのまま瑞希の隣の席に滑り込む。

 

当然瑞希はその勢いをモロに受けるわけで……

 

 

「え、ちょ、ちょっと杏!止まっ……グヘッ」

 

「セーフッ!!はー、危なかった。時間は…30分ジャスト!」

 

「隣で1人、ダメージ的にアウトになってるけどな。おはよ杏」

 

「白石、もう少し余裕を持って行動した方がいいぞ」

 

「あっはは…ごめんごめん、ちょっと準備に時間かかっちゃってさ。瑞希もごめんね?大丈夫??」

 

 

どうやら杏の方も何かあったらしい、とりあえず全員来たのでドリンクバーと飯を頼もう。食パン1切れのエネルギーはさっき使い切った。

 

冬弥がメニューを取ってくれたがどうやら2つしかないようだ。まぁ、ファミレスとかって普通2つだよな。

 

 

「先輩、一緒に見ましょう。そっちの方が早いですよ」

 

「ん、それもそうだな。みんなドリンクバーはいるだろ?」

 

「もちろん!……あ、今マロンフェアやってるんだ!」

 

「……先輩、ボクもお願い」

 

 

瑞希も何とか復活したみたいで杏とメニューを見ている。……どうやら脇に食らったらしい、痛そ。

 

どうやら冬弥と杏は決まったらしいが瑞希はまだ悩んでいる。ちなみに俺はカツ丼の定食だ。

 

 

「何と何で悩んでんだ?」

 

「ん〜、グラタンにするかオムライスにするかで……ポテトは確定なんだけどね」

 

 

ポテトは確定なんだ……みんな好きだもんな、ポテト

 

 

──────

 

 

結局オムライスに決めたらしく店員さんに注文。

ドリンクバーを3人に任せ俺は荷物番だ。

 

 

「はい真尋さん、これどーぞ」

 

「おう、ありがとな」

 

 

戻ってきた杏が渡してくれたのはメロンソーダ、なんでもいいとは言ったが随分と子供っぽいのをチョイスしたな……美味しいから好きだけど。

受け取って一口、口に運べばそこに広がる炭酸の──「………ッん!何これ!?まっず!!」

 

 

「いぇーい!大成功〜!!」

 

「おお、まさかここまで上手くいくとは」

 

 

瑞希と杏の仕業らしい、てか何入れたこれ?どうやったらこんなに苦くなるんだ?ニガリか?ニガリでも入れたか??

 

 

「……何入れたんだこれ?」

 

「メロンソーダとノンシュガージンジャーエールだよ、ねぇねぇどんな味する?」

 

「……まず口に入れた瞬間は一瞬メロンソーダの香りがする、でも舌に触れた瞬間強烈な苦味が口いっぱいに広がる。正直ジンジャーの味は全くしない……てか冬弥、止めてくれても良かったんじゃないか?」

 

「すいません先輩、どれにするか悩んでいて…気がついたら混ぜてました」

 

 

ドリンクバーをどれにするか悩む冬弥…すげー想像しやすいな、横から彰人とかに勝手にボタン押されてそう。

あとこれは瑞希と杏に飲ませよ、てか飲め。

 

結局4人全員一口は飲みその形容しがたい苦味に悶えていたところに料理が来た。どうやら同時に注文したのもあるのか全部同時に到着した。

 

 

「真尋さん箸取ってください」

 

「あれ〜、先輩、おしぼり2個使ってない?」

 

「あ、済まない。俺が2個持っていた」

 

「なんで真っ先に俺を疑ったんだ……はい、箸。いただきます」

 

 

カツ丼のカツにかぶりつき味を噛み締めていると瑞希が全く料理に手を出していないのが目に映る。

 

 

「どうした瑞希、食べないのか?」

 

「ボクって猫舌でさ。熱いのダメなんだよねー、あ、ポテトはみんな食べてもいいから」

 

 

ほー、瑞希は猫舌だったのか、見た目の雰囲気とか性格とかも相まって本当に猫っぽいな。

 

お言葉に甘えてポテトをひょいひょいと口に運ぶ。

何これめちゃうまい、ここのポテトこんなに美味かったのか……手が止まらんな

 

横を見ると冬弥もモソモソとポテトを頬張っていた。こいつは多分美味しいと無言で食べ続けるタイプだな、何となくわかる。

 

 

「ちょっと〜!先輩と冬弥くん食べ過ぎ〜、ボクの分ちゃんと残しておいてよね?」

 

「わかってるわかってる、このカリカリしたやつは全部貰うからそれ以外は全部残しとくよ」

 

「俺は皮が着いているやつだけ貰おう」

 

「それ2人が好きなだけでしょ!?」

 

「「よくわかったな」」

 

「ハモるな〜!!」

 

「ケチャップの方が美味しい…」

 

 

うん、打てば響くとはまさにこの事だな。にしても冬弥もなかなか…今後はもっと仲良くなれそうな気がする。杏はずっと何につけて食べるか模索しながら食べてるしな。

 

 

「とりあえず、食べ終わったら出発するぞ」

 

 

3人からの返事を聞きつつ自分のカツ丼を食べきることに専念する。

 

 

「先輩、デザートも食べていい?」

 

「食べ切れる分だけにしとくんだぞ」

 

「はーい」

 

『『親子か……』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜フェニックスワンダーランド入口前〜

 

 

「おお、すげーな」

 

 

国内有数の人気テーマパーク、彼の鳳財閥が運営しているらしく休日はもちろん平日でもかなりの客数が入園しているらしい。

そして本日も例外なく大繁盛なようで入口付近にもそれなりに人が集まっている。内心人混みに若干げんなりしつつ何となく深く息を吸う。

 

 

「おーい、早く中入ろうよ!」

 

「ほらほら!冬弥も真尋さんも置いてきますよー!!」

 

 

そんな俺とは違い元気溢れる2人は先にゲートの方に走っていった。置いていかれる訳にも行かないので冬弥と一緒に園内に向かう。

 

 

「先輩、大丈夫ですか?」

 

「ん?ああ、大丈夫大丈夫、ちょっと人混みに萎えてただけだから。体調悪いとかでは無いよ」

 

「そうですか、なら良かったです。もししんどくなったりしたらすぐに言ってくだいね」

 

 

オカンな冬弥に心配されまくりながら司に貰ったチケットを使い無事園内へ、中はまさにザ・テーマパークって感じで観覧車やらジェットコースター、メリーゴーランドにコーヒーカップのなんか回すやつなどなど、思いつく限りのアトラクションが満載だった。

 

先に入っていった瑞希と杏は……いた、どうやらパンフレットを取ってきてくれたみたいだ。なんて有能、普段もそれくらいいい子なら補講も受けずに済むのにな

 

 

「先輩今なにか失礼なこと考えなかった?」

 

「んや別に?それよりどうする、今が1時過ぎだから次のショーの公演まで1時間くらいある、それまでどこかまわるか?」

 

「私ジェットコースター乗ってみたい!」

 

 

杏いわく、ここのジェットコースター……『フェニックスコースター』は最近かなり有名らしくそれ目当てで来る人もいたりいなかったりするくらいには人気らしい。

 

それは確かに1回くらいは乗っておきたいのでみんなで乗ることにした。

 

 

──────

 

 

それなりの列を並び終えいざ乗車、順番的に冬弥と一緒に1番前の席に。

座席に座り安全バーを下ろす……なんかドキドキしてきた。高いのとかそこまで苦手なわけじゃないけどちょっと怖い。徐々に高度が上昇していき緊張感が張り詰めてくる……が、後ろに座ってる瑞希と杏がキャイキャイ叫んでるのでなんか逆に安心してきた。

やけに静かな冬弥はと言うと高い場所から見る景色に少し見とれているみたいだ。

 

それに習って何となく当たりを見下ろしてみるとショーに使うようなステージがあるのを発見、誰かいるようで何か動いてる。よーく目を凝らして見てみると……

 

 

「あ、司だ」

 

「!どこですかか?」

 

「ほら、あそこ。木に囲まれたステージでなんかやってるやつ」

 

「く、こっち側だと微妙に見えない…」

 

「そんな必死にならなくても、後で目の前でみれるんだからさぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!」

 

 

『反転』『加速』『強風』『浮遊感』『圧迫感』

 

いつの間にやら頂上に着いていたジェットコースターが一気に降下、色んな情報が頭ん中に入ってきて逆に頭ん中空っぽにならそうだった。そんなせいか一瞬だけ、

 

『そういえばジェットコースターにかかるGは3G〜5Gって聞いたことあるな……そもそもGってなんだ?』

 

というどうでもいい思考が頭をよぎったが1秒足らずで現実に引き戻された。

 

縦に斜めに横に上下に、グワングワンガクンガクンなりながら何とか終着点へ。

 

フラフラした足取りで近くのベンチに座り込む。

 

 

「……先輩」

 

「……なんだ?」

 

「俺、ジェットコースター苦手かもしれないです」

 

「奇遇だな冬弥、俺もだ」

 

 

後輩との絆が深まるのを感じながら自身の新たなる一面を文字通り頭の先から足のつま先まで全身で味わい尽くした。

隣で多少グロッキーになっている冬弥を後目に後ろに座っていた2人を確認すると、どこからか取りだしたポップコーンを二人で食べながら楽しそうに話していた。

 

 

「めっ〜ちゃ楽しかった!!」

 

「うん!特にあの後連続で3回転するところとか、ボク楽しすぎて手あげちゃったもん!!」

 

「私はやっぱり最初の90度以上越えの急斜面!さすがのスピードでめっちゃ楽しかった!!」

 

 

なんでそんなに元気なんだ……降りる時だって、俺ら以外の乗客もそれなりにグロッキーな状態になっていたがこの2人だけはスっと立ってスタスタスターって歩いていくんだからホントびっくりした。

今だってパクパクとポップコーンを口に運ぶ二人を隣で冬弥が信じられないものを見る目を向けている。

 

とりあえず、今は少し動けそうにない……

 

 

 

 

 

あれから少し休憩を挟んでショーを行うステージに向かうことにした。

主に休憩と待ち時間のせいで思ったより時間を取られてたが時間的には丁度いいので良しとしよう。

 

木々の中にある道を歩いていると一際開けた場所に出た。

そこには恐らく今回司たちがショーを行うであろうステージが待っていた。多少傷んでいたりはするが不快感はなくそれどころか味がある雰囲気を感じさせるいいアクセントになっている。

 

現在は開演時間の10分前だが前列の席は類が言っていた通りほぼ満席。できるだけ近くで見たかったが仕方がない、今回は真ん中くらいの席に座るとしよう。

 

 

「私こういうショーを見たりするの初めて!文化祭の時も風紀委員で行けなかったし」

 

「そうか、白石は司先輩の雄姿をまだ見た事がないんだったな。よく見ておけよ」

 

「冬弥は相変わらずだな」

 

「文化祭のやつはすっごい面白かったよね!今回も楽しみ〜!」

 

「……!司先輩が出てきた!!そろそろ始まるぞ」

 

 

冬弥の声で視線をステージの真ん中に戻す

 

 

「皆様!本日は我が『ワンダーランズ×ショウタイムズ』のステージに────」

 

 

舞台袖から出てきた司が挨拶をしてくれている。こうして見るのは2度目だが序盤はしっかりと常識的で理解できるんだけどな……

 

 

──────

 

 

「ふはははは!行くぞ!」

 

 

という司の掛け声とともに落雷、一応上を見て天気を確認するが晴れ。舞台袖をチラッと見ると類が恐らく遮光レンズが入っているであろうサングラスをかけながら何やら装置をゴチャゴチャしていた。

 

今のところ『ドローン』『ロボット』『発光』『雷』等々、かなりハチャメチャなショーになっている。そして何より凄いのがハチャメチャなのに惹き込まれる魅力が溢れていることだ、正直訳分からんがめちゃくちゃ面白い。

 

中盤を超えいよいよクライマックスへ、序盤の常識はとっくにどこかに行ってしまったがリアリティ溢れる演出のおかげか手に汗握る展開となっている。

 

ここから一体、どうなるんだ……!!

 

 

──────

 

 

時間にして30分程度のショーを終えたワンダーランズ×ショウタイムズに拍手喝采が贈られる。

 

他の3人もかなり楽しめたようで特に冬弥はずっとショーの……というか司の感想を呟いている。

 

 

ショーも終わった事だし声くらいはかけておこうと思いステージに視線を向けると、何と司と類がバルーンアートを子供たちに配っていた。

さすがの体力だな、今行っては邪魔になってしまうだろうからやめておくか

 

 

「あ、バルーンアートだ!かわいい、ボク貰ってこよ〜っと」

 

「司先輩が作ったバルーンアート!?ぜひ貰わねば!!」

 

 

と思ったが約2名が駆けて行ってしまった、杏の苦笑いと顔を合わせながら本日のスターの元に向かう

 

 

「お疲れ様司、かっこよかったぞ」

 

「ふはははは!当然だ、何せ今日の俺はスーパー!スターだからな!!」

 

 

よくわからんが調子いいことはわかった。

 

 

「おやおや真尋くん、僕に労いの言葉は無いのかい?」

 

「類もお疲れ様、ドローンとか雷とか全部お前の発案だろ?」

 

「あっはは!もちろんだとも、上手くショーに組み込めていただろう?」

 

「ああ、最高だったよ。次も期待してる」

 

 

その後は次のショーの準備があるらしく2人とは別れた。18時には片付けも終わっているらしいので、それまでは園内を4人で楽しむとしよう。

 

 





メロンソーダにノンシュガージンジャーエールは実体験です。クソまずいです。コーラにカルピスは美味しいです。

因みに日本のジェットコースターで90度以上の急降下は一つだけみたいですね。私ジェットコースター無理なんで乗れませんけど。

一気に複数人そろうと会話が難しいですね。精進します。

続けれたら頑張ります。


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昔は楽しかったけど今乗ると地獄を見ることもある


お久しぶりです。
暑くなってきましたね。




 

 

〜フェニックスワンダーランド〜

 

地上から約100メートルの上空から西の地平線に沈む太陽を眺める。空は赤らみ、眼下に広がる町はまるで燃えるように見える。それはまさしく幻想的で……成程、観覧車で告白するカップルの心情が今ようやっとわかったような気もする。

と言っても俺に関しては「これって左右に動いたら揺れるのかな?」「ちょ、瑞希やめなって!?」「………(景色に感動してる)」とムードの欠けらも無い騒がしい雰囲気で満たされている。ってかほんとに元気だなこの2人。

 

瑞希のせいで左右に動く観覧車の中から外を眺めていると携帯に着信が入る。

 

 

 

=========================

 

TSUKASA:『今ショーの片付けも全て終わったんだがまだ園内にいるか?』

 

マヒロ:『今は地上800メートルくらいにいる』

 

TSUKASA:『……観覧車か?』

 

マヒロ:『正解』

 

TSUKASA:『回りくどい言い回しをするな!とりあえず観覧車のところで待っていてくれ』

 

マヒロ:『いいけど、忘れ物でもしてたか?』

 

TSUKASA:『いや、うちのメンバーのひとりが園内を紹介したいんだそうだ』

 

マヒロ:『結構色々乗ったけどまだまだ体力ありそうなのが2人ほどいるからこちらとしては助かるが…疲れてんじゃないのか?』

 

TSUKASA:『未来の大スターの体力を舐めるなよ?ふはははは!観覧車を降りたら近くのベンチで待っているが良い!!』

 

マヒロ:『おk、ありがとな』

 

=========================

 

 

 

チャットアプリを閉じて外の景色を見たがもうほとんど遠くの景色は見えなくなってしまっていた。

多分今が4分の3程度の位置なのであとは降りていくだけだろう。

 

 

「はい、ちゅーもーく」

 

「なになに、いきなりどうしたの先輩?」

 

「今司から連絡があってな、メンバーの一人が園内を案内してくれるそうなんだ。どうせ夜までいる予定なんだし頼むことにした」

 

「司先輩もいる……ということですか?」

 

「いるぞ……ガッツポーズするのはいいけどあんまり揺らすなよ、ただでさえさっき瑞希が揺らしてたせいでちょっと気持ち悪くなってるんだから」

 

「真尋さんがずっと外見てた理由ってそれだったんですね」

 

 

うだうだ駄べりながらも3人からOKは貰えた。

話している間に観覧車は一番下まで到着したようで係の人が鍵と扉を開けてくれた……観覧車って乗る時と降りる時が1番勇気いる気がする。止まってないのに飛び乗ったり降りたりするの普通にちょっと怖い。

 

観覧車から降りて近くのベンチに向かうと既に司とピンクの髪の女の子が待っていた。てか早くね?ステージからここまでそれなりの距離があるから待つつもりでいたんだが……もしかして走ってきたのか?

 

 

「おーい、司。やけに早いな?」

 

「はぁ、はぁ……え、えむのやつがいきなり走り出したんでな。1人先に行かせる訳にも行かんので追ってきたんだ。」

 

 

成程、となると類と草薙(くさなぎ)さんは歩いてきてるんだろうな。類はともかくとして草薙さんは激しい運動苦手そうだし。

 

唯一の初対面であるピンクの髪の女の子は早速瑞希と杏の3人で話していたが俺の方に視線を向けるとパッと花が咲くような笑顔を向けてくれた、この子絶対いい子やん。

 

 

「ねぇねぇ!キミが司くんと類くんのお友達?あたし(おおとり)えむ!よろしくね!!」

 

「入相真尋だ、いつも司や類がお世話になってるな。友人として感謝するよ」

 

「おい、いつオレがえむの世話になったというのだ」

 

「えっへへ〜、それほどでも〜!」

 

「えむも照れるな!」

 

 

面白い子だな、多分年下だろうが……鳳か。

あー、なんか司が鳳財閥の娘さんがメンバーにいるとか言ってたような気がする。

でも会って見た感じ『お嬢様』って感じは全くないな、友達に一人いると元気になるタイプの子だな。

 

 

とりあえず全員自己紹介を終えたので類と草薙さんの到着を待つことにした……飲み物買ってこよ。

 

 

 

ちょっと高めの自販機で水を買って戻ってくると類と草薙さんの2人も既に待っていたが……みんな自由だな。冬弥は司の武勇伝を今日も聞いてるし、杏と草薙さんは鳳さんに学校での様子について色々聞かれているみたいだし、類は瑞希と何やら随分と親しげに話している。

 

傍から見てるのも楽しいがその気持ちを抑え小走りで集団の中に向かう。

一言謝ってから類と草薙さんに挨拶。

 

鳳さんの『レッツ、わんだほーい!!』の号令のを皮切りに園内の案内を初めて貰った。

 

 

──────

 

 

鳳さんの先導のもと、手始めに近くにあったお化け屋敷に入ってみたんだが……あれだな、1人めっちゃビビってる奴がいると逆に落ち着くってやつはホントだったんだな。杏のおかげで、というかビックリしても杏が先に悲鳴を上げてくれるから冷静になれた。

叫び続ける杏に何故か1番前を歩かせながら無事外に出る。

 

 

「はぁ……。そ、そこまで怖くはなかったね」

 

「そうだったのか?全力で走って逃げていたからてっきり怖いのかと思っていたが……」

 

「めちゃめちゃ面白かったね〜、特にコンニャクが杏のおでこにピタ……ってなった時が最高だったよ!」

 

 

傍から見てたら『何故コンニャク?』ってなったが見事に食らっていた杏は『ひあゃっ!?』と普段の言動からは感じられないなんとも可愛らしい女の子な悲鳴が漏れていた。…もちろん録音しておいた、後で彰人と謙さんに送ろ。

瑞希は大爆笑していたが冬弥は悲鳴の発生源が分からずそっちにビビってた。

 

俺としては何が起きてもずっと笑ってる鳳さんも怖さを紛らわしてくれる要因だったが杏には全く効果はなかったらしい。

 

 

 

足がすくんで動けない杏を引きずりながら次は空中ブランコへ。ジェットコースターのこともありかなりビビっていたがこちらはかなり優しめで全然楽しめた、風を切りながら回るのは爽快でとても気持ちよかったが終わった後、真っ直ぐ歩けなくなってしまっていた。ジェットコースターの時も思ったが俺は三半規管がかなり弱いみたいだ。

 

 

「大丈夫ですか先輩?」

 

「お、おぉ……冬弥か。気持ち悪くはないんだが単純に目が回ってな、冬弥こそ大丈夫なのか?」

 

「俺は風に靡く司先輩を見ていたらいつの間にか終わってました」

 

「そうかそうか、平常運転で安心だ」

 

 

司全肯定マシンと化してしまった冬弥はもう俺たちの理解が及ばない領域まで行ってしまったらしい、これにはさすがの瑞希も苦笑いを浮かべていた。

 

 

この後も色々と回るのかと思いきや類の提案で夜のパレードを最前列で見るために場所を確保しておくことになった。

時間も時間だしちょうどいいかもしれない、何より正直疲れた。

 

 

──────

 

 

鳳さんに『えむって呼んで!』と言われたのでえむと呼ぶことにしたり、瑞希が買ってきたポップコーンを類と冬弥と俺で半分くらい食べたり、司や類、えむのハチャメチャっぷりに対する愚痴を草薙さんから聞いたりしていたらあたりは真っ暗に、どうやら時間になったらしい。

 

奥の方から煌びやかな飾りを施された乗り物が軽快な音楽とともにゆったりと流れてくる、どう見てもペンギンのように見えるマスコットキャラクターのフェニーくんが色違いで多数風船を持ちながら歩いていたり、類が子供たちに歩きながらバルーンアートを披露したり……何やってんだアイツ。

止めに行った司も巻き込んでパレードの一部みたいになってしまった。あ、えむも走ってった。

ちらりと草薙さんを見るとため息を一つ着いたあとテクテクと3人の元に歩いていく。

 

成程、普段からこんな感じなんだろう。まぁ結果的に子供たちやその親御さん達からは大盛況のようだしいい……ことはないか、現に今警備員さんが走って行ったし。

 

あ、追いかけられながら全員こっち来た。

 

 

「じゃあね真尋くん、是非また僕たちのショーを見に来ておくれよ?フフフ、ではまた学校で会おう!」

 

「おー、気を付けて逃げろよー」

 

 

駆けていく類を追うように司、えむ、ロボットに乗った草薙さん、警備員さんの順で通り過ぎて行った。

え、そのロボットどっから出したの?てか操縦上手いな、あの人混みをうまく避けながら速度を維持しつつ逃げている……。

 

 

「しかしまぁ、まさしく嵐のようだな」

 

「ほんと、楽しそうだったね」

 

「なんだ瑞希、交ざりたいのか?」

 

「あはは、まっさかー……でも、ちょっと羨ましいかな」

 

 

なんか悩んでそうなのでじっと瑞希を観察する、『羨望』『安堵』『不安』……相変わらずヘラヘラしてるように見えて色々と抱え込んでるな。

 

 

「何がそんなに不安なのか知らんが悩み過ぎるなよ。ただでさえお前は取り繕って心配かけないようにしようとするタイプなんだからいつか爆発するぞ。」

 

「人の心読むのやめてもらっていいかな?……でも、うん、そうだね。悩み過ぎるのは確かにダメかも。よーし!ボクたちもパレードが終わったら帰る?」

 

 

どうやら()は大丈夫らしくパレードに集中していた杏と冬弥の方に行ってしまった。……偶に息抜きしてやらないとダメそうだな。

 

 

「あ、だったらお土産買って帰ろうよ!」

 

「お土産…小豆沢にか?」

 

「うん、あとお父さんに」

 

「ボクも友達の分買って帰ろーっと♪」

 

 

結局パレードを最後まで見ることはなく途中でお土産屋さんに移動、各々お土産を買ってフェニックスワンダーランドを後にした。

帰りは駅前までは一緒に歩いたがそこで解散となった。

 

 

 

=========================

 

 

マヒロ:『みんな家にちゃんと帰れたか?』

 

AN:『帰れましたよ〜、って久々に孫が泊まりに来た後のおばあちゃんみたいなこと言うんですね』

 

mizuki☆:『何その例え(笑)』

 

マヒロ:『一応聞いただけ』

 

AN:『さっきお父さんにお土産渡したんですけど私の顔見ながら「今日は随分と可愛かったな」って言われたんですよね……なんか知りません?』

 

mizuki☆:『杏のこと大好きすぎるだけなんじゃない?』

 

マヒロ:『ソウニチガイナイナー』

 

AN:『……何送ったんですか?』

 

マヒロ:『ヒント、コンニャク』

 

AN:『月曜日が楽しみですね真尋さん♪』

 

mizuki☆:『ヒェ…コレガチ切れのやつだよ先輩』

 

マヒロ:『ありがとう瑞希、どうやら俺はここまでみたいだ』

 

toya:『すみません、お風呂入ってました』

 

mizuki☆:『流れぶっ壊れた(笑)』

 

マヒロ:『冬弥もお帰り、今日はありがとな』

 

toya:『こちらこそありがとうございました、本当に楽しかったです』

 

mizuki☆:『あ、ボクも誘ってくれてありがとう、すっごく楽しかったよ!』

 

マヒロ:『それは良かった、じゃあそろそろ落ちるわ。みんなも今日は疲れたろうから早く寝るんだぞ』

 

toya:『俺も今日はもう休みます、おやすみなさい』

 

mizuki☆:『ボクはもうちょっとしたら寝ようかな〜』

 

AN:『もうちょっと(3時間)』

 

mizuki☆:『さすがにそこまでは起きてないよ』

 

マヒロ:『早めに寝ろよー、じゃあおやすみ』

 

AN:『ほんとに覚えてろよ?……です』

 

mizuki☆:『爆笑』

 

 

=========================

 

 

 

なんだか怖い文字が見えた気がするが見なかったことにして寝るとしよう。今日は本当に疲れた、だいたいジェットコースターのせいだけどな…

 

ベットに身を預けるとすぐさま眠気が襲ってきたのでそのまま抗わず眠りにつくのであった。

 

 





観覧車の思い出は本当に小さい頃のものなんですが確か止まらなかったはずなんですよ(曖昧)。

書いてて思ったんですがうちの冬弥くんギャグに全振りになってますね、司狂信者度が増してます。

お化け屋敷のコンニャクはレオニのストーリー参照です

続けれたら頑張ります



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Ragnarok of students(期末試験最終日)


お久しぶりです。
あけましておめでとうございます。
丑年が終わったので寅年ですね。つまり虎柄ビキニです。
またのそのそ書き始めました。




 

紙に文字を書く音と時計の秒針、誰かが転がす鉛筆の音が無秩序に響く。

そのどれもが乱雑に聴こえるが妙に耳心地が良い。普段騒がしいはずの空間が嘘のように静まり返り、皆普段の気だるげで一律面倒くさそうな顔でなく十人十色、余裕で暇そうな顔や絶望した顔、少し不安そうな顔や全てを諦め悟りきったような顔等々……。

しかしその誰もがあの時計の分針が50を指すのを心待ちにしている、中には心の中で数えている人もいるだろう、ちなみに後1分47秒で50になる。

周りをキョロキョロと見すぎていても目をつけられそうなので自身の手元にのシャーペンをいじくる、使った覚えがないのに何故か汚れている付属の小さい消しゴムの黒い部分を指で擦って綺麗にしながら残り時間の経過を待つ。

 

いつものように『もしテロリストが現れたら(いつものルーティン)』を想像しながら最後に擦った時にできた消しカスを容赦なく床に叩き落としたらちょうどいいタイミングで終了の合図が来た。

 

 

「そこまで、筆記用具から手を離して。一番後ろから前に送ってきてくれ」

 

 

こうして俺たちは『期末試験最終日(Ragnarok of students)』という学生にとっての正念場を乗り越えた

 

 

────────

 

 

テストも午前中に終わり昼飯を外で食べる事にした、司と類を誘ったら2人とも一緒に来てくれるらしい。せっかくなので駅前の新しく出来たラーメン屋に行くことにした

 

 

「テストどうだった?」

 

「数学がな、裏面がさっぱりだった」

 

「司くんは応用問題があまり得意ではないようだね」

 

 

確かにそれもあるだろうが大方ショーのことを考えていたら没頭してしまってそこまで勉強時間が取れなかったんだろう。

 

 

「えぇい!そういう貴様らはどうだったんだ!!」

 

「僕はいつも通り問題ないよ」

 

「俺も数学はできるから余裕だった、英語は死んだけどな。ハッハッハッハッハ……」

 

 

英語許すまじ、単語は頑張れば覚えられるんだが文法は全く慣れなくて中学からずっと赤点と平均点の間をフワフワしてる。

いつかなにかの弾みで赤点のボーダーラインに突っ込んでいきそうで恐ろしい。

 

 

「テストが終わったのに勉強の話をするのは気が滅入ってしまうな…駅前のラーメンは何系なんだ?」

 

「なかなか理解っているラーメン屋だ」

 

「理解っているラーメン屋?」

 

 

実を言うとテスト期間にもかかわらず普通に2度ほど食べに行ったが……あそこはなかなか深いラーメン屋だった。

 

なんて言ってるうちに看板が見えてきた

 

 

「お、ここじゃん」

 

「早速入ってみるか!…そこそこ客がいるな」

 

「どうやら食券を先に買うタイプのようだね、イチオシは背脂マシマシ豚骨。若年層をターゲットにしてるお店かな?」

 

「こら、そういうことはお店の外で言いなさい」

 

「何より若者であるオレたちは店の目論見通り食べに来ている訳だしな、ハッハッハッハ!!」

 

 

雑談していると三人分の席が空いたらしいのでので各々食券を持って店員さんについて行く。

ちなみに類は醤油もやし抜き、司は豚骨麺硬め、俺は醤油豚骨薄め麺硬め小ライス、一瞬店員さんの眉がピクリと動いたが無理もない。恐らく今調理場は緊張が走っているだろう。「理解っている客が来た」と。

 

しばらくして三人分一気に来たので揃って食べる。

 

 

「「「いただきます」」」

 

まずスープ、空気を含みながら口の中で少量シェイクするように味わう、鼻から抜ける空気がまた食欲をそそる。

次に麺を少量すする、ここではあえてスープと絡ませすぎず麺本来の風味を楽しむ。

そして今度は麺を多めにそこから持ち上げ上澄みの背脂たちを巻き込みながら上下を返す『天地返し』を行い通常量をしっかりスープに絡めて啜る、多少の火傷は覚悟して啜るべし。

一旦水を挟み小休止、ここまででラーメンのスープと麺を味わう。

続いてもやしを沈める、じゅくじゅくにスープを染み込ませたもやしは噛めば噛むほどスープがシミ出てくる最高のサブポディションだ。こいつを噛み締めながら口に白米をほおりこむ。ホロホロと米がスープと混ざり合いもやしのじゃくじゃくという子気味良い歯ごたえと共に口の中が幸福感で満たされる。

分厚めのチャーシューは噛むほど味の深さに感嘆させられる、しかしこの分厚さと脂身で二枚は無理だろうと思ってしまうが気がつくと食べきってしまう。

海苔も沈め海苔ごと麺を掴み啜り上げる、もう一枚はスープに浸した後米に巻き食べる、これがまた美味い。

半分ほど食べたらここでニンニクを追加だ、これをするしないで大きく味に変化が出る。

そしてニンニクとトッピング、スープに麺を二度目の『天地返し』よく混ぜたら……啜る。

スープのみになったらそこに残りの白米を突っ込みおじやにする。蓮華でほぐしながら半分だけ齧っておいておいた半熟卵の黄身をスープで溶きよく混ぜ口に運ぶ。

 

そして注意点だがここまでをかなりスピーディに行わなければ最後のおじやがぬるくなってしまうのでできるだけ急ぐこと。

 

最後の〆に水を飲む。ラーメン後の口直しの水はラーメンの一部と言っても過言ではない、これを怠るのは間抜けがすることだ。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「…………いや、なんだ今の!?」

 

「どうしたんだい司くん?君も早く食べきらないと麺が伸びてしまうよ」

 

「早くしろ司、ラーメンは待ってくれないぞ」

 

「オレがおかしいのか!?ラーメン食べる学生とは普通そんな感じなのか!?」

 

 

他の人がどうかは知らんが俺はラーメン大好き人間なのでこだわる方だ。

 

 

──────

 

 

 

「「「ごちそうさまでした〜」」」

 

「「「ありがとうございましたぁッ!!」」」

 

 

店員さんたちの気合いっぱいな挨拶を聴きながら帰路に着く。

どうやら司は思いのほか気に入ってくれたみたいでさっきから「美味かった!!美味かった!!」と興奮気味である。

 

あの後司は替え玉頼んでいた。『学生替え玉一回無料!!』を見つけてすぐに頼んでいた、なんだかんだ三人の中で一番食べてたような気がする。

 

 

「今まで食べた中では一番美味いラーメンだったかもしれんな!」

 

「そこまで気に入って貰えたなら誘ってよかった」

 

「僕もかなり美味しかったと思うよ。特に野菜を抜きにできるのが素晴らしい……っと確か真尋くんはこっち方面だったかな?」

 

「む、もうこんなところまで歩いていたのか。ではな真尋、また明日…は学校は休みだったな」

 

「だな、次会うのはテストの返却日じゃないか?」

 

「そうだね、じゃあまたね真尋くん」

 

「ではな!」

 

「おー」

 

 

二人と別れ、夜からの用事に向けての準備を頭の中で考えながら家まで一直線に帰った。

 

 

 

──────

 

 

 

〜入相家真尋の部屋〜

 

今日も残すところあと30分程度といった時刻に『ナイトコード』にログインする。

初めてニーゴさんと話してからかれこれ二ヶ月ほど経過しようとしていた。

 

Soma:『こんばんは』

 

K:『こんばんは、ボイチャ来れそうですか?』

 

Soma:『ちょっと待ってください』

 

《Somaさんがボイスチャットに参加しました》

 

「こんばんは」

 

「こんばんは、今日も早いね」

 

「先輩いらっしゃ〜い」

 

「まだ二人だけ?」

 

「雪はわかんないけど、えななんは今日学校だったから遅くなるんじゃないかな?」

 

「雪は予備校だって言ってたよ〜っと、できた!…うん、うん、だいたいこんな感じかな、K、先輩、ちょっとMV見てもらっていい?」

 

Amia:『Vrough07.mp4 』

 

 

〜少年少女鑑賞中〜

 

 

「いいんじゃないかな。今回の曲の雰囲気とマッチしてると思う」

 

「動画に関しては素人だから技術的なことはなんとも言えんが…ここのサビで盛り上がる瞬間のこの演出、かなり好きだぞ」

 

「よかった〜。あとは来てない二人にも見てもらって調整してでボクのは終わりそう」

 

「Amiaはほぼ完成度見ていいね。Somaの方はどうなってる?」

 

「声撮りはできてるからあとは意見欲しい感じ。貼るからちょっと待ってな」

 

Soma:『Library11.wav』

 

 

〜少年少女鑑賞中〜

 

 

「うん、声撮りも大丈夫。…やっぱり男声は女声とは違うね」

 

「そりゃね〜、特に先輩は高音あんまり得意じゃないでしょ?歌みたも低音アレンジ多めだし」

 

「ん〜、確かにあんまり好んでは歌わないけど歌えないことはないぞ?やっぱり低音の方が上手く歌えてる気がするけどな」

 

「あとは雪とえななんの意見聞いてからだね」

 

「二人が来るまで何かしとくことある?」

 

「俺は撮り直すつもりでいるけどそれも二人が来ないとだからな」

 

「「「……」」」

 

「もしかして暇な感じ?」

 

「多分?わたしも他の作業はかなりキリがいいから今から始めるのも微妙かな。それに二人がもう少しで来るなら待って意見聞いてから作業に取り掛かった方がいいと思うし」

 

「なんかするか?」

 

「ん〜…あ、そういえば先輩、試験どうだった?」

 

「普通だぞ、良もあったし不可もあった。不可って言っても赤点はとってないと思うからな?」

 

「そういえば雪も定期試験があるって言ってた気がする」

 

「試験終わって直で予備校…ボクにはやっぱり無理だな〜」

 

「Amiaはちゃんと受けたんだろうな?」

 

「先生に捕まって一人寂しく別室で受けてたよ」

 

「どうだったの?」

 

「赤はない…と思う」

 

「英語以外なら教えてやるぞ」

 

「えぇ〜、めんどくさーい」

 

「いつか痛い目見ろコンチキショー」

 

「ふふっ」

 

「おっ、先輩聞いた?今のKの微笑み。これ聞けただけでも今日試験受けてよかったーってなるよね」

 

「Kが神格化され過ぎだろ」

 

「初めて会った時から思ってたけど二人は本当に仲がいいね」

 

「適度にツッコミやすいボケを入れてくるからそう見えるんだろうな」

 

「え、全部本心だよ?」

 

「だとしたら幾つか話し合わないといけないやつがあるんだが?」

 

「…やっぱり仲良いね」

 

 

《えななんさんがボイスチャットに参加しました》

 

 

「おつかれ〜」

 

「おつー、夜間も今日試験あったの?」

 

「そう、聞いてよ!最後の二教科が英語と数学だったの!普通英国数理社は副教科と組ませるもんでしょ!?それに今回範囲が広めの英語と数学を同じ日にやるなんて、ほんと信じらんない!」

 

「おぉ…えななんの『ほんと信じらんない!』久々に聞いたかも」

 

「恒例になるほど言ってないから!」

 

 

《雪さんがボイスチャットに参加しました》

 

 

「お待たせしちゃってごめんなさい」

 

「お疲れ様、雪。来てもらって早速で悪いけどAmiaのMVとSomaの声撮りのチェックお願いしていい?えななんもお願い」

 

「おっけー」

「うん、もちろん」

━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後は少し声を撮り直したりKの作業の手伝いをしたりしながら順調に作業を進めて行った。

 




特に何か用事があった訳では無いですけど期間開きました。(許して)

ラーメンのやつは自分が普段からやるやつです。天地は二度返します。おじやは体に悪いんであんまりしないですけどね。

ナイトコードでの通話ってどう頑張っても台本形式はになるんですけど3日悩んで諦めました。

続けれたら頑張ります。


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「気が付いたらお互い呼び捨て」位が丁度いい

お久しぶりです。
資格試験落ちました。
ポジティブダンスタイム常設にして欲しかったです。




着々と年の暮れに向かっている今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。特に用事もない俺は溜まりに溜まった積みゲーの消化に勤しんでいる。

 

やはり死にゲーは長期休暇にやり込むに限る。時間が許す限りトライアンドエラーを繰り返すこの快感、雑魚敵が雑魚じゃないという矛盾を抱えたゲーム、もちろん中ボスやボスも容易であるはずもなく、慣れるまではサンドバッグにされ敵の動きを覚えるところから始まる。

そんなこんなで「戦国に忍ぶ」狼を操作している訳だがやはり難しい。3日目で弦ちゃん倒したのは早い方なのか……?

 

 

今晩の25時、ニーゴさんのチャンネルで歌動画が上がるらしく、「ちゃんと不備なくアップされているかのチェックを行う」との事だ、ほとんどいつもの作業のと変わらんと踏んでいる。

 

という訳で、25時までは狼さんを操って忍びの掟を全うしたいと思う。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

〜24:45〜

 

 

ようやく「蝶の幻をぶっ飛ばす不思議な豆の力で攻略」したところでいい時間になってしまった。ぶっ通しでやってまだエンディング1個も見れてないのは俺が下手なのか難しすぎるのか……

 

とりあえずゲームは一旦置いといてナイトコードにログインする。

少し早いが誰かしらいるだろう、と入ってみるとKと雪さんの二人がいた。

 

とりあえずボイチャ入るか

 

 

《Somaさんがボイスチャットに参加しました》

 

「こんばんは」

 

「あ、Somaさん。こんばんは」

 

「Kは作業してるのか?」

 

「ついさっき夜食を取りに行くって」

 

「夜食か……俺もなんか食べようかな」

 

「何か取ってくる?」

 

「いや、さすがに一人で待たせるのはあれだしKが帰ってくるか誰か入ってきたらにするよ」

 

「そっか、ありがとう」

 

「「……」」

 

 

今思えばAmiaはともかくとしてK以外と2人っきりになる機会があまりなかったので何を話せばいいかよくわからん。

そもそも俺、雪さんのことあまり知らんから共通の話題もわからん。音楽の話でもするか?でもジャンルによって色々あるしなぁ……

 

 

「Somaさんは音楽以外の趣味って何かあるの?」

 

 

意外なことに雪さんの方から話を振ってくれた。普段の印象だと人の話を聞くに徹する人だと思っていたから驚いた。

しかし趣味か…読書くらいしかないな、最近読んだ本の話でもするか。

 

 

「読書だな。最近は歴史物ばかり読んでる」

 

「そうなんだ、私も本はそれなりに読むけど趣味って呼べるほどじゃないかな。読むとすればミステリーものが多いし」

 

「雪さんは趣味とかあるのか?」

 

「アクアリウムかな?」

 

「へぇー、何か飼ってたりするのか?」

 

「……何も入れてないの。水と少しの水草だけ」

 

「水草水槽ってやつか?いいじゃん、オシャレっぽいし」

 

「ふふ、そうかもね」

 

「それに、水って見てるだけで吸い込まれそうな魅力あるしな」

 

「……そうだね、自分まで透明になっていくみたいな、そんなに不思議な感じがあるよね」

 

「詩的だな、さすが作詞担当」

 

「ふふ、ありがとう」

 

 

《Amiaさんがボイスチャットに参加しました》

 

 

「やっほー、おつかれー」

 

「おつかれ様、Amia」

 

「おつかれ」

 

「Kは作業中?」

 

「夜食取りに行ってる」

 

「なるほど、Kと言えばココ最近は『インスピレーションが……溢れてくる!!』って言いながらいつにも増してバリバリ曲作ってるよね」

 

「確かに最近は気合が入ってるね」

 

「俺も色々聞かれたからな、男性視点が欲しいとかコードの相談とか……そのおかげで敬語も抜けたけど」

 

 

Kは基本的に通話にいるからさっきも言った通り二人っきりになる機会がそれなりに多かった。

と言っても挨拶だけしてお互いミュートのままそれぞれ全く別の作業してることが大半だった気がする。

 

……お腹すいてきたかも、なんか取ってくるか

 

 

「俺もちょっと食べれる物取ってくる」

 

「いってら〜」

 

 

……さて、何かあったかな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お、センパイおかえり〜」

 

「こんばんはSoma」

 

「こんばんは、Kも帰ってきてたのか」

 

「KとSomaさんは何を持ってきたの?」

 

「私はカップラーメン……ねぎ塩カルビ味って書いてある」

 

「俺もカップラーメン、味はカレー だな」

 

「……あんまりこの時間に食べるのは良くないかもね」

 

「いや〜、雪さんの言う通りなんだけどこの時間に食べるのは罪悪感も含めて美味しいんだよな」

 

 

《えななんさんがボイスチャットに参加しました》

 

 

「ちょっとみんな聞いて!?」

 

「どうしたのえななん?また弟くんに図星突かれて拗ねちゃった?」

 

「図星じゃないし!!」

 

『『『『図星突かれたんだ……』』』』

 

 

えななんのマシンガントークをBGMに音が乗らないようにミュートにして麺を啜る、麺の固さは固めが好きなので少し早めに食べ始める。お、久々に食べるとめっちゃ美味い。

 

Kも食べているようで同じようにミュートにしている、というかねぎ塩カルビってどんな味だよ……気になりすぎる、今度食べてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしているうちに25時数分前に、〆に冷凍ご飯とチーズ入れてリゾットにしたらAmiaとえななんに「それは犯罪ッ!!」と怒られた……美味しかったからまたするけど。

 

 

「ん、そろそろ時間だね」

 

「一番上に……あった、これだな。うぉ、クソデカカウントダウン、耳潰れる」

 

「あっはは、音量大きいからちゃんと下げとかない━━っぉ!ミミガーッ!!」

 

「ミミガーって聞いたことあるような……」

 

「豚の耳を使った沖縄料理の一つだね」

 

「コリコリしてて美味しいらしいな、食べてみたい」

 

「始まるよ」

 

 

ミミガートークに花を咲かしているといつの間にか曲が始まった。

 

 

 

 

 

 

その後はなんら問題も無く動画は終了。高評価もすごい勢いで付いている……さすがは天下のニーゴ様やで。

それと同時に俺のお仕事もここで終了、最後に挨拶してグループから退出した。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

それから数日後の昼間、年も明けのゴタゴタなんかも終わって久々にコタツでぬくぬく死にゲーをしていると携帯に年明けぶりの通知が鳴った。

 

 

=========================

 

mizuki☆:『ニーゴのみんなで打ち上げ行くんだけどセンパイ今日暇?』

 

マヒロ:『暇』

マヒロ:『行ってらっしゃい』

 

mizuki☆:『いやいや、センパイも行くんだよ?この前の曲の打ち上げなんだから』

 

マヒロ:『マジか……行けたら行くわ』

マヒロ:『てか打ち上げやるんだな。正直そういうイメージなかった』

 

mizuki☆:『それ来ないやつじゃん!』

mizuki☆:『打ち上げに行くようになったのは最近なんだ』

mizuki☆:『本当に暇そうだから勝手に参加にしとくよ』

 

マヒロ:『何時?』

 

mizuki☆:『いつも通りなら16時、変更あったら連絡するね』

 

マヒロ:『おk』

 

=========================

 

 

 

……待てよ、打ち上げってことはオフだよな?ニーゴの方々とリアルで会う……………………無理かもしんない。

 

普段学校で司や類と一緒にいるせいかコミュ力高いと思われることがよくあるが実際そんなことは無い。事実、学校の友達は生徒より先生の方が多い。

そんな俺がニーゴのK、雪さん、えななんの女性3人とオフで会う……

 

 

「無理だな」

 

 

死ぬ、100%死ぬ。

 

……なんで脳死いいよしちゃうかなぁ俺、予定が空いてたらだいたいノータイムでいいよって言っちゃう癖治さないと。

 

とりあえず着替えるか。いい機会だしパジャマ生活ともおさらばしよう。

グッバイお気に入りのクタクタパジャマ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜とある大きめの交差点〜

 

時刻は15時35分。今回はいつしかの反省を生かし余裕を持って家を出たので、歩きながらファミレスに向かっている。

ふと視界の端に目立つ白髪……銀髪?が目に付いた。というかふらついてる、貧血か?

 

「……大丈夫ですか?」

 

「その声……もしかしてSoma?」

 

「え、あ、はい。……いや、はいって言っちゃダメじゃん俺、一応隠してんだから」

 

「ふふっ、間違いなくSomaだね。大丈夫、Kだよ?」

 

「Kか!通りで聞いた事のある声だと思ったよ。それより大丈夫か?具合悪そうに見えるが……」

 

「大丈夫だよ、ちょっと太陽が眩しすぎて目を慣らしてただけ」

 

「…ちなみに何日ぶりの外出?」

 

「……………………2」

 

「2日か、だったら全然健康的なほうだな」

 

「あ、いや……2週間ぶり……………………です。」

 

「…とりあえず日陰から出ろ」

 

「も、もうちょっと待って。そうしたら目が慣れると思うか「3秒前〜、2〜、1〜」ま、待って!急にそんな明るいところに出たら目が潰れちゃうから……!」

 

「ゆっくりでいいから、とりあえず出てみろ」

 

 

とりあえず日向に出してみるとプルプルと震え出した。なにこれ面白…失礼、可愛いな。

 

とりあえず目を瞑ってるので今のうちに交差点を通過させる。途中チラッと目を開けては「おぅっ?!」とアザラシみたいに鳴いていたが気にせず引っ張った。

 

 

「……死ぬかと思った」

 

「死なないって。でもまぁ、冬場でこれなら夏は本当に死ぬぞ……」

 

 

しかし落ち着いてKの容姿を見ていると、どこかで見たことがあるような、ないような?

 

……あ、思い出した。CD買いに行った時にたまたま会った星乃さんと見つめ合ってた子だ。

と言ってもKは俺のこと覚えてないだろうし、リアルで初対面なのは変わりないな。

 

 

「あれー、奏にセンパイじゃん?なになに、いつの間に仲良くなったの?」

 

 

ちょっと前の記憶を呼び起こしていると、ここ最近では聞きなれた明るい声が耳に届いた。

 

 

「あ、瑞希。わたしもさっき会ったばっかりなんだ」

 

「交差点の近くでフラフラしてる人がいたからな、声を掛けたらたまたまKだったんだよ……というか本名奏って言うんだな」

 

「フラフラって…もしかして奏、また太陽が眩しすぎて日陰に逃げてたとか?」

 

 

どうやら外に出る度にこれをやっているようだ。

やたらと日陰の位置を完璧に把握していたのも頷ける。

 

 

「ちょっと待ってね、え〜っと……あった!奏、はいこれ」

 

「これって……折り畳み傘?」

 

「日傘になるタイプのね!それがあれば少しは自主的に外に出るんじゃないかな〜って思ってね」

 

 

ニヤニヤしながらもちゃんと思いやりの気持ちが溢れている瑞希からのプレゼント。それに対して嬉しそうに、でもどこか困ったように微笑みみながら感謝を告げるK…もとい奏さん。

 

うん、完全に蚊帳の外だ。でもそれでいい、なんなら壁になって存在消したい、見守り隊隊長になりたい。

 

 

「とりあえず、早くファミレス行こうよ!ほらしゅっぱーつ!!」

 

「あ、ちょっと瑞希…!」

 

 

駆け足でファミレスに向かった瑞希の後ろを、さっそく貰った日傘を差し、駆け足のつもりだろうがどう見ても周りの人が歩くペースと同じくらいの速度しか出ていない奏さん。

それを見て、『なんか青春物のワンシーンみたいだな〜』なんて思いながら俺もファミレスに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ファミレス〜

 

時刻はだいたい16時。今目の前には奏(呼び捨てでいいって言われた)とえななんと思われる人と雪さんと思われる人が、横には瑞希が座っている状態だ。

ちなみにあの後は、奏(呼び捨てでいいって言われた(大事な事なので2回言いました))の体力的に小休憩を一旦挟んでから普通に3人で歩いた。

 

 

「とりあえずなにか頼もうよ、ボクはコーラと山盛りポテト!」

 

「わたしはウーロン茶」

 

「私もそれにしようかな」

 

「コーヒー、ホットで」

 

「私は……あ、この季節限定のパフェにしよっと。それとホットレモンティー」

 

「えななん前も季節限定の映えチョイスしてなかった?」

 

「いいでしょ別に、みんな決まったんだから早くボタン押してよ」

 

「はいはい」

 

 

オンでもオフでもこの2人の掛け合いが何ら変化することは無い事に妙な安心感を覚えながら、オフで初対面なえななんと雪さんに目を向ける。

 

 

「はじめまして……では無いのか?いや、でもオフで会うのは初めてだし…」

 

「あぁ、なんか安心した。あんた完全にSomaね、ちょっと緊張してたのがバカらしくなるくらい想像通り」

 

「改めて初めまして、雪こと朝比奈まふゆです。」

 

「ご丁寧にどうも、入相真尋です。あとえななんに対してはその言葉そっくりそのままお返しするぞ」

 

「ちょっと、それどういうことよ……まったく。あ、東雲絵名。よろしく」

 

「わたしも改めて。宵崎奏、よろしく」

 

 

うん、3人ともオフで会うとイメージにピッタリ当てはまる感じの人達だな。これなら危惧していた一言も話さずに「ッスー……自分用事あるの忘れてました。すみません今日はお先に失礼します。」とならずに済みそうだ。

 

軽い自己紹介の終わるタイミングで注文していたものが届いた。『寒かったから暖かいの飲みたい』という単純な思考でろくにメニューも見ずに頼んだコーヒー様だ。

 

 

「それじゃあ、今回もお疲れ様の意を込めて!カンパーイ!!」

 

「いや、ホットコーヒーとホットレモンティーに乾杯を要求するな……って無理やりぶつけに来るなこぼすだろ!ねぇ、やめて?ほんとにこぼれるからやめて!?」

 

「2人は本当に仲がいいね」

 

「え、どこが?どう見てもいじめ1歩手前だぞ?ほら見ろ、今だって虎視眈々とこちらを狙ってる目をしてるぞ!?」

 

「あっはははは!!ごめんごめん、センパイのリアクションってついいじめ……いじりたくなっちゃうんだよね。ほら、ボクのポテト食べていいから許してよ」

 

「あんた今完全にいじめって言ったじゃない……あ、上手く撮れたかも。早速アップしちゃおっと」

 

 

マジでオンでもオフでも何一つ変わんない気がしてきた……むしろ物理的被害が増えている気がする。

仕方ない、またポテトのカリカリのやつだけ全部食べ尽くすか。

 

あ、そういえば……

 

 

「打ち上げって具体的に何するんだ?」

 

「集まって話すだけだよ?」

 

「へー、それはまたなんで?」

 

「みんなのことをもっとよく知りたかったから」

 

「そうか、いい打ち上げだな」

 

 

色々あったんだろうな、瑞希も『打ち上げに行くようになったのは最近』ってチャットで言ってたし。その上理由が『みんなのことをもっとよく知りたい』なんて色々ありまくったのか……今もまだ途中なのかはわからんが複雑なのはよく分かる。

だからこそ首は突っ込まない、深くは踏み入らない。部外者が出しゃばったらろくなことにならないからな。

 

 

「ということでSoma…真尋さんについても色々知りたいと思うんだけど……いいかな?」

 

「真尋でいいよ、多分同い年だし。そうだな…特に面白い話もないから何をどう話したものか」

 

「なんでもいいよ、例えば音楽を始めたきっかけとか」

 

「きっかけは父親だな、音楽関係の人間で家に機材とか防音室とかがあったから自然とな」

 

 

そんな調子でニーゴメンバーの質問に答えるという形式で何かと色んな質問に答えて言った。

中でも母親が精神科の医師だという話題に食い付きが案外良かった。

 

 

「へぇ、もしかして先輩の特技って母親譲り?」

 

「直伝。仲の良い人かかなり気になった人しかやらないようにしてるけどな」

 

 

多分なんちゃって読心術のことだろう。実際瑞希はかなり気になった人だ。

 

 

「何、その特技って?」

 

「目を診たらある程度どんな感情抱いてるか分かるっていうやつ」

 

「せっかくだからえななんも見てもらったら?」

 

「へぇ、ちょっと面白そう。ねぇ、やって見せてよ」

 

「お、いいぞ」

 

「「……」」

 

「「…………」」

 

「「………………」」

 

「……ね、ねぇ。まだ?」

 

「………………『好奇心』と『不安』が半端なくて他が見えん」

 

「見えんって……センパイ!ボクの時はあんなにビシバシ当ててきたじゃんか」

 

「あれは揺さぶりかけた感じだったし、問いかけに対しての反応とか本当はどう感じてるかを見抜く、みたいな感じだったしな。今回とは訳が違う」

 

 

正直いきなり目をじっと見られたら『不安』とか『嫌悪』とかでだいたい埋まっちゃうからよくわかんない( 。∀ ゚)

 

とはさすがに言えないのでそれっぽいことを言っといた。

 

 

「なんかボクだけハズレ引いたみたいな気分で嫌なんだけど……あ、そうだ!じゃあセンパイが質問してそれに答えるのは?」

 

「だったら、多少は分かると思うが」

 

「よし、決定!じゃあ奏に質問どうぞ!!」

 

「え、わたし?えななんじゃなくていいの?」

 

「それにいきなり質問って言われても真尋さんも困るんじゃ……」

 

「なんで俺を誘ったんですか」

 

「あんたいきなりド直球ね!?って、私の番ほんとにあれで終わりなの!?」

 

 

おお、やはりえななんにはツッコミの才能があるな。目指せ、全ユニット芸人化計画(謎電波)

 

失敬、謎電波受信はこの辺にして。

まふゆさんの心配を裏切るようで悪いが、実は前々から気になっていることがあった。

「なぜ俺なのか?」「他にも適任がいたんじゃないのか?」

聞こうかとも思ったがそれではまるで依頼を受けたくないみたいなニュアンスで取られかねないから聞いてこなかった。

 

 

「……きっかけは真尋も知っての通り瑞希の動画だよ。そこから気になって歌の動画を色々聞いてみたんだけど、真尋の歌は他の人からは感じられないナニカがあったんだ。それが凄く貴重で特別なものに思えて。それを知りたいって思ったから真尋にお願いしたの」

 

 

『尊敬』『興味』『感謝』……そんなに真っ直ぐな言葉をそんなに真っ直ぐな感情で向けられたら、俺は…俺は…………

 

 

「センパイ………………何照れてんの顔キモイよ?」

 

「キモイとか言うなよ!?大体なんだよ奏!なんでそんなにいい子なの!?聖人君子かお前は!!真っ直ぐすぎるだろ!!!守護(まも)るぞッ!!!!」

 

「うぇ?!えっと…ご、ごめんなさい?」

 

「奏、多分これ謝らなくていいと思う」

 

 

えななんの言う通りだ、どうか謝らないでくれ。でも瑞希は謝れ。

 

 

「ふぅ、よし。落ち着いたからラスト行くか」

 

「……最後はまふゆだね」

 

「「…………」」

 

 

え、何?なんか空気重くなったんだけど?俺悪いことしてる?やっぱり奏に謝った方が良かった??

 

 

「真尋さん?何聞いてくれても大丈夫ですよ」

 

「あ、あぁ。じゃあ…………『最近楽しかったことって何かあるか?』」

 

 

うわぁ、超無難な質問しちゃった。まふゆさんも困ってるじゃん、やらかしたかなぁこれ。今からでも違うのにしようかなぁ……て言うかさっきからほか三人がすっごく静かなんだけど?え、君たちなんでそんなに真剣なの?何?ガチで聞いちゃダメなやつだったの!?

 

 

「あ、あ〜…答えずらいなら別の「強いて言うなら学校の友達に勉強を教えてたことかな?」」

 

 

 

あ、良かった。ちゃんと答えてくr………………………………………………………………………

 

 

「……………………ちょっと御手洗に」

 

「あ、うん。行ってらっしゃい」

 

 

 

………………なんだ()()

 

 

 

 

 

 

 

〜other side〜

 

「……やっぱり嘘ってバレたかな」

 

「まぁ、『何かヤバいもの見つけた』って顔してたわね」

 

「でも良かったのまふゆ?真尋に気付かれるかもしれないよ」

 

「……ん、センパイから?」

 

 

 

『ちょっと来て貰えるか?話がしたい』

 

『おっけー』

 

 

 

「ごめん、ボクもトイレ!」

 

「あ…行っちゃった」

 

「まぁ、バレても特に何かが変わるって訳でもないし。私はどっちでもいいかな?」

 

「あんたね…こっちの気苦労も知らないで」

 

「……?なんで絵名が苦労するの??」

 

「……本ッ当にそういうところは今でも嫌い」

 

「あっはは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜真尋side〜

 

「センパイ、大丈夫?」

 

「……()()はなんだ?」

 

「あ〜、因みに何考えてるかわかったの?」

 

「何にも診えなかった」

 

「それってそんなに慌てる事なの?何も考えてないだけなんじゃ」

 

「だとしたらまふゆさんは廃人か悟り開いてるかの二択だ。とりあえず色々教えてくれ、というかお前知ってて診せたな?」

 

「うん、センパイなら何かわかるかなって。これでも()()してるんだよ?」

 

「いつか()()して貰えるように頑張るよ」

 

「…………で、まふゆのことなんだけど」

 

 

その後瑞希から所々を掻い摘んだ説明を聞いたが……下手すれば瑞希よりも複雑な状態だ。

みんなして沈黙するのも頷ける。

 

 

「……とりあえず戻るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり二人とも」

 

「たっだいまー」

 

「ただいま」

 

 

うっわぁ、気まずい。特にまふゆさんがもう感情無くなってるぅぅぅぅ。隠す気ZEROじゃんか……

しゃーない、こっちも腹を括るか。

 

 

「あー、ゴホン。まふゆさん?」

 

「……なに?」

 

「雰囲気的にある程度予想は着いてそうだから単刀直入に。通院しろ」

 

「……どうして?」

 

「はっきりいってそれは完全に心の病だ、それも重度のな。……それと、一応確認だが感覚器官に異常があるとかはないか?鼻が利かないとか耳が聴こえない……はないか」

 

「……味がわからない」

 

「味覚障害か、となると嗅覚にも何かしら……そこら辺は耳鼻咽喉科だからよくわかんないけど原因は間違い無くストレスだよな。

因みに味覚が感じなくなった時期とかってわかったりするか?あとストレスの原因として思い当たる事とか。他には……」

 

「……ねぇ」

 

「なんだ?」

 

「なんでいきなりカウンセリング始めてるの?」

 

「ぶふっ!」

 

「ちょ、瑞希汚い」

 

「ご、ごめん。まふゆがボクと全く同じこと言ったからつい」

 

 

空気読んで黙っていてくれた三人が話し出した。正直黙ってるから怒ってると思ってめっちゃ怖かった。

 

 

「同じこと……瑞希もこれされたの?」

 

「うん、それもセンパイに初めて会った日にね」

 

「真尋、初対面でそれはどうかと思うよ?」

 

「うわ、奏に言われるとすんごい刺さる」

 

「て言うか真尋、もしかして会う人みんなにこんなこと……え、もしかしてあたしにも?」

 

「あ、えななんには何もしないぞ」

 

「なんかムカつくッ!!」

 

 

シリアスがどこかに行ってしまったが正直俺としてはありがたい。正直シリアスてまふゆと話してると怖くて泣きそうに……ぐすん

 

 

「まぁ、通院しろなんて言ったがしてないってことは相応の理由があるんだろ?例えば……親が認めそうにないとか」

 

「……認めないだろうね、『私たちの子が精神的に参ってるなんてありえない』なんて言いそう」

 

 

当たっちゃったよ。てか気のせいかちょっと笑ってる?『絶望の底からこんにちは。ダークネススマイル・まふゆ』しちゃってる?

 

 

「…………まぁ、ニーゴのメンバーの前ではその感じなんだろ?だったら思ったこととか感じたことを全部口に出してみてくれ。さっきの『なんでいきなりカウンセリング始めてるの?』なんか百点だ。

思ったことを口に出す、誰かに聞いてもらうってことをできる環境があるんだし利用しとけ。

あとこれはまふゆ以外になんだが『なんで分からないんだ!?』とか『いい加減にしろ!!』みたいなことは言わないようにしてくれ。本人が一番それについて悩んでるんだ。勉強してる時に勉強しろって言われるようなもんだムカつくだろ?

というわけで、まぁなんの責任も負えないけどいつか治るといいな」

 

「「「おぉ〜」」」パチパチパチパチ

 

 

なんか拍手貰って照れくさくなっちゃったが実際大事な事だと思ってる。アウトプットすることで自分が何を考えているのかを自覚できる……みたいな事だと思う。多分、恐らく、きっと、maybe……

 

 

「……真尋」

 

「お、なんだ?」

 

「なんでそこまで気を使ってくれるの?」

 

「ん〜……気になったから?」

 

「……それだけ?」

 

「それだけ」

 

「…………そう」

 

 

なんかわからんがまふゆも今の質問で納得してくれたらしい。ウーロン茶をちびちび飲み始めた。

 

 

 

 

その後は特に何かがあったとか言うわけでもなく、おすすめのアーティストの話やシンプルに好きな食べ物や飲み物、動物と言った先程のシリアスはどこに行ったんだと言わんばかりの他愛もない話で盛り上がったが、冬場特有の早めの日没似合わせて解散となった。

 

 

気が付いたらまふゆのこと呼び捨てになってたな……なんか恥ずかしい




因みに主人公君はまふゆを診てからはずっとビビってます。
正体不明って怖いもんね仕方ないね。

シリアスは求められてないし私自身が求めてないので程々で打ち切りました。
ギャグ最高。よってえななんはツッコミ役に鍛えていきます。

奏は大明神です。いつか神社建てましょう。

なんか知らないけど1万字行ったんで色々削りました。

続けれたら頑張ります。


まふゆの親は別に医者じゃないという天啓(感想)を頂いたので修正致しました。感想をくださってありがとうございます。


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やっぱりどこか似てるもの


お久しぶりです。
あけましておめでとうございます。
一年以内に投稿できたのでセーフです。
ごめんなさい。
狭間の地を駆け抜けてました。



 

 

寒さが肌に突き刺さるような冬空の下、皆様いかがお過ごしでしょうか。

てかまじ寒い、12月でこれとか1月、2月とか人類生きていけねぇだろ。

 

などと心の中ボヤきながら雪も降らないくせに昼間っからどんよりとした空を眺めながら歩く。

 

何故こんな寒空の下を歩いているかと言うと、珍しく謙さんからメッセージが届いていたからだ。

『昼から忙しくなりそうだから手伝いに来て欲しい』

…いや、俺はバイトか?

詳細を聞くために電話をかけたところ、杏発案のクリスマス限定スイーツがSNSでそこそこバズったらしく人手が必要になったんだとか、もちろん働いた分だけ賃金は出してくれるみたいだ。

 

まぁ、たまたま偶然にも12月25日(クリスマス)に予定が空いていたのでリア充を棒で叩く仕事(社会貢献)はせずに知人の役に立とうと思った所存だ。

 

寒さに震えながら暖房の効いた店を目指し、少し早足で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかりクリスマスムードなビビッドストリートを通りWEEKEND GARAGEに到着した。

準備中の看板がある時に入るのは初めてだな…ちょっと緊張する。

 

 

「お邪魔しまーす」

 

「あ、真尋さん!来てくれてありがとうございます!早速で悪いんですけどこのエプロン付けて厨房の方行ってください、コートとマフラーは私がハンガーにかけとくんで」

 

「お、おう……ほんとに忙しそうだな」

 

「ほんとに忙しいです…今こはね達もこっちに向かってくれてます」

 

 

なんか思ってた3倍忙しそうでビックリしたけどとりあえず言われた通りエプロン付けて厨房に向かう。

謙さんがいたんで挨拶した後に何したらいいか聞きながら手を洗う。

 

 

「とりあえず、お前がどのくらいできるかわからんからこのレシピ通りに一皿作ってくれ」

 

「え、めっちゃ緊張するんですけど?でも、多分できると思います。一応家事は中一からやってるんで」

 

「そういえばお前の両親は共働きだったな」

 

「はい、でもまぁ定期的に帰ってきてくれますし母さんに関してはこの歳になってもハグしてきますし……まぁ、愛されないより全然いいですよ」

 

 

駄べりながら薄力粉とか砂糖とかを計量したり、卵の黄身と白身を分けたりと手は動かす。

 

卵白は冷蔵庫で冷やしとく。卵黄に予め振るっておいた薄力粉とベイキングパウダーを加えよく混ぜる。

ある程度冷えた卵白に砂糖を何回かに分けて加えながらハンドミキサー(文明の利器)を使ってメレンゲを作る。

メレンゲの3分の1くらいを黄身とかの方によく混ぜてから残りのメレンゲも混ぜすぎない程度に合わせる。

ちょっとオシャレなお店って感じのするテーブルと一体型のホットプレートに丸い型を置き、そこに生地を垂らして焼いていく。

いい感じに焼き色が着いたら返してちょうどパンケーキ1枚分位の蓋で蒸し焼き状態にする。

あとはなんか適当にパパパーってやって完成

 

 

「できましたー」

 

「どれどれ…もうちょっと焼いた方が俺は好きだな」

 

「それはレシピ作った杏に言ってください、俺は時間通り焼いてますからね」

 

「冗談だ、よくできてると思うぞ。ただ盛り付けは杏に任せた方が良さそうだな」

 

 

うっ…まぁ、多少不格好ではあるか……そういうセンスはないからなぁ。

 

謙さんのテストを受けていると店のドアが開く音がした。

目を向けると他のビビバスメンバーが到着したようだった。

 

 

「おはようございます、手伝いに来ました…って、なんでセンパイがいるんすか」

 

「おはようございます真尋先輩、先輩もお店の手伝いで来たんですか?」

 

「こっはね〜!おはようッ!!」

 

「わっ!あ、杏ちゃん…!急に抱きついたら危ないよ?」

 

「おはよ、冬弥の言う通り手伝いできたんだ。今日は一緒に頑張ろうな。

…あと、女の子二人のハグを無言で撮ってんじゃねーよ変態親父」

 

「馬鹿野郎、娘の成長を記録するのは父親の義務だ……彰人、冬弥、それからこはね、今日はよろしく頼むな」

 

「「「はい!」」」

 

 

その後ホールはこはねと冬弥、キッチンは俺と彰人、杏はフリーで動くことに決まった。

というか彰人の盛り付けがめっちゃ綺麗、本当に同じ食材使ったか?ってくらい俺が盛り付けたやつと違うんだけど…まぁ、焼くのは俺の方が上手かったけどな!!

 

 

 

〜少年少女労働中〜

 

 

 

 

虚無顔でパンケーキを焼くマシーンと化していたところ、謙さんに「一旦休憩して来い、ついでにパンケーキ3皿6番テーブルに頼む」と言われた。

パンケーキを焼くのを杏と交代してパンケーキ3皿をトレーに乗せて厨房からホールに出る。席はほぼ満席と言った感じで同い年くらいの女性客がパンケーキを撮りまくっていた。

 

6番テーブルに向かうと、見覚えのあるピンクのサイドテールと茶髪のボブが目に入った。

向こうもこちらに気づいたようで手をヒラヒラと振ってくれる。

 

 

「先輩やっほ〜、パンケーキ焼いてたの先輩なんだって?杏から聞いたよ」

 

「あんたにこんな特技あったとは思わなかったわ、ちょっと意外かも」

 

「なんでいるんだ…って杏と仲良かったもんな。って、パンケーキ3皿って聞いてるけどもう1人誰かいるのか?」

 

「え?僕達1皿ずつだよ??」

 

 

杏のミスか?1皿は厨房に持って戻るか…

 

 

「謙さんが休憩ついでに食べておけ、と言ってましたよ。お待たせしました、カフェラテが2つとオリジナルブランド1つでございます」

 

「冬弥くんじゃん!もしかして弟くんもいるの?」

 

「え!?彰人の奴もいるの?」

 

「はい、と言っても厨房担当ですが…呼んできましょうか?」

 

「絶対いや」

 

「あ〜、話をさえぎって悪いけど…座っていい?さすがに立ちっぱなしは他のお客さんの邪魔になる」

 

「どうぞ〜」

 

 

2人の前と自分座る所にパンケーキを置いて席に着く、そこに冬弥がそれぞれの飲み物を置いてくれた。「ちなみに料金は?」と聞くと「両方とも謙さんの奢りだそうです」と言うと仕事の方に戻って行った。

 

やっと一息ついてコーヒーを啜る、やっぱりあの人が淹れるコーヒーは美味い。

 

えななんはすっごい真剣に写真を撮ってるし瑞希は一生カフェラテをフーフーして冷ましてる。

 

 

「そういえば何となく気付いてはいたけど、えななんと彰人って姉弟なんだな」

 

「そうだけど……言ってなかったっけ?

まあ、『東雲』って苗字あんまり多くはないもんね」

 

「というかセンパイ、外でもえななん呼びなんだね」

 

「えななんって言いやすいんだよ」

 

 

今更『絵名』って呼ぶのが恥ずかしいとかそういうのでは無い、ちょっと意識しちゃうとかそんなんじゃないもん。

 

 

「でも実際弟くんと絵名って中身はともかく外見はあんまり似てないよね、髪色も全然違うし」

 

「確かに初対面で姉弟だって気づかれることはあんまりないかも……っと、よし!可愛く撮れた♪」

 

 

写真撮影も終わったようで、なんとなく撮り終わるのを待っていた俺と瑞希も撮影終了と共にパンケーキに口を付ける。

そういえば自分で焼いておいて一口も食べてなかったな…まぁ、謙さんも美味いって言ってたし大丈夫だろ。

 

 

「ん、ちゃんと美味いな。ちょっと安心した」

 

「ん〜〜〜!!おいしい!!生地がふわふわ……これほんとに先輩が作ったの?」

 

「ほんとだ美味しい、生クリームも変に甘すぎないからいちごのソースの酸味とよく合うし…やるじゃない真尋」

 

 

そう言いながら美味しそうに食べ進める2人。そこまで褒めて貰えると素直に嬉しいもので少し照れくささを感じながらも残りのパンケーキも味わうことにした。

 

美味しそうに食べる2人……特にえななんを見ていて気がついた、スイーツを幸せそうに味わうその姿。それが………

 

 

「彰人そっくりだな……」

 

「……何よいきなり、さっきは似てないって言ってたじゃない」

 

「いや、美味しそうに食べる姿が以外にもそっくりだったからさ。やっぱり姉弟なんだな」

 

「あ〜、確かに絵名も弟くんも食の好みとかは似てるもんね」

 

 

えななんは少し顔を顰めながらも思い当たる節があるのか、「むぅ…」と唸りながらパンケーキをパクつく。

 

というか、彰人と似てるって言われるのがそんなに嫌かね……仲悪いのか?

いや、多分素直じゃないだけだな、そこら辺も彰人と似てるのか。

 

なんて考えながら食べていると残り一口分に、瑞希とえななんも半分以上は食べ終えているみたいだ。

最後の一口を味わい嚥下し、手を合わす。

 

 

「ん、ご馳走様でした」

 

「はや!先輩お腹すいてたの?」

 

「そこそこ、昼過ぎからずっと厨房立ってたから……丁度間食に良かったかもな」

 

「昼過ぎからって、あんたクリスマスに予定とかなかったわけ?」

 

「ぐふぅっ!!」

 

「あ、先輩がダウンした」

 

 

な、なかなかいいパンチを放つじゃないか……俺じゃなかったら死んでたぞ。

あと瑞希、人をフォークでツンツンするのはやめなさい、危ないでしょ。

 

 

「お、お前らこそ何か用事は無いのか?」

 

「ニーゴのみんなとパーティーの予定だよ!」

 

「なんかごめんね」

 

「謝るな泣くぞ?」

 

「あっはは、ごめんって先輩」

 

 

全く…まぁ仲が良さそうでなによりだ、ニーゴは色々と抱えてるものが大きそうだから楽しそうだと安心する。

どんな事をするのか聞くと瑞希が楽しそうに話してくれる。

 

 

「……あんたも来る?」

 

「え」

 

 

まさかのお誘いだ、それもえななんから。

やっぱり姉なだけあって気を遣ってくれたのかもしれない。

 

しかし、どうするか…誘い自体は嬉しいけど、雰囲気を壊してしまうのでは?という心配もある。

 

 

「え、真尋さん店の打ち上げ参加しないんですか!?」

 

 

少し考えていると後ろから杏の驚く声が、というか打ち上げ?そんなの聞いてないけど……

 

 

「先輩予定は無いんじゃなかったの?」

 

「……もしかして父さんから聞いてない感じですか?」

 

「なんにも聞いてないけど…打ち上げあるの?」

 

 

杏は「はぁ〜」っとため息を吐くと、カウンターでドリンク作製に勤しむ謙さんを一瞥…というかほぼ睨んでる。

 

どうやら今日は18時に閉店してから打ち上げをやるらしい。

ビビバスメンバーには杏が連絡したので知ってるらしいが、俺だけ謙さんからの連絡だったので知らなかった……ということらしい。

 

 

「へぇ〜、良かったじゃない。予定ができたわね」

 

「知らなかったけどな。というか、誘ってくれたのに悪いな」

 

「いいわよ別に、元々ニーゴだけでやるつもりだったし」

 

「そういえば絵名、もし先輩がOKしたらどうするつもりだったの?」

 

「……?どうするってなによ?」

 

「え、だって…あぁ〜、えっと……耳貸して」*1

 

 

瑞希がえななんになにやら小声で話しているが……どうやらこの感じだとOK出さなくて正解だったみたいだな。

 

えななんも「あっ」といった感じでなにか大事なことを忘れてたって表情だ。

 

 

「確かにそうだった…すっかり忘れてた。断ってくれてありがとね、真尋」

 

「よくわからんが結果オーライってやつだな、こっちはこっちで楽しむからそっちも楽しんでな」

 

 

互いになんとなく申し訳ない気持ちになり、なんとも言えない空気が流れたが、話題を切り替えるように瑞希から質問が飛ぶ。

 

 

「先輩と杏達っていつから知り合いなの?文化祭の時はもう仲良さげだったよね」

 

「真尋さんはこの店の常連なんだ。初めてきたのが…昨年の一月ぐらいでしたっけ?」

 

「あぁ、高校受験帰りにご褒美のラーメンを食べに行こうと思ってたらコーヒーの匂いにつられてな」

 

「へぇ〜、じゃあ真尋はそれからずっと通ってるの?」

 

「一時期は忙しかったみたいで来てなかった時期はありましたけど、最近はまた通ってくれてます」

 

 

なんやかんや話が盛り上がっていると奥から謙さん向かってきているのが見えた。

 

 

「盛り上がっているところ悪いが真尋、そろそろ厨房に戻ってくれ……それと杏、伝えてくれって言っただろ、なんでお前まで一緒になって話に参加してるんだ」

 

 

謙さんに言われて杏は「あ、ヤバ」という顔になる。どうやら大事なことを伝え忘れがちなのは謙さんの血らしい。

 

「やっぱり家族って似るんだな」とニヤニヤしながらえななんを見ながら言うと「うるさいっ!」とそっぽを向かれた……瑞希が爆笑してたので良しとしよう。

 

 

その後は瑞希とえななんも店を後にして、俺も厨房に戻った。

戻ると彰人が少しソワソワしながら待っていた。

 

 

「あ〜、センパイ。姉貴、パンケーキ見てなんか言ってました?」

 

「ん?美味かったってさ……あぁ、あと盛り付けも綺麗だって言ってたぞ」

 

「……そっすか」

 

「そんなに気になってたなら顔見せたら良かったじゃないか」

 

「絶対いやだな」

 

 

少しうんざりした顔で即答する彰人を見ながら「ほんと、そっくりだなこの姉弟」と心の中で呟きつつまた、パンケーキを焼きはじめた。

 

 

 

 

 

 

〜数時間後〜

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさん、今日は助かった。改めて礼を言わせてくれ、ありがとう」

 

「私からもみんな手伝ってくれてありがと!本当に助かったよ」

 

 

普段より早めに『CLOSE』の看板を出したWEEKEND GARAGE。一体いつ作ったのか豪勢な料理と人数分のケーキがテーブルに並んでいる。

 

そんなご馳走を前に謙さんと杏が俺とビビバスメンバーにお礼を言う。

正直こんなに豪華な料理を出して貰えるなら頑張った甲斐が有るってものだ。

 

 

「じゃあ、父さん特製の料理が冷める前に乾杯しよっか!みんなグラスは持った?いくよ?せーのっ……」

 

「「「「「「メリークリスマス!!」」」」」」

 

 

その後は彰人がシーフードカレーの中に入ってるニンジンを避けていたり、杏がサラダに入っているトマトを避けていたりしていた。

「なんでシーフードカレーにニンジンが入っているのか」「なんでわざわざサラダにトマトを入れるのか」その二つの質問に対して「彩のためだ」としか言わない謙さんだったりと、とても愉悦…愉快……楽しいクリスマスになった!

 

ちなみにだが、彰人と杏は顔を顰めながらもちゃんと完食していた。

 

 

*1
「セカイでやるんでしょ?先輩は連れて行けないんじゃ…」「あっ、」





実は色々リアルが忙しかったりしましたけどそんなのどうでもいいですね。

冬に寒いと「いっその事雪の一つや二つ降れや」と思いますけど降ったら降ったで「何降っとんねん地面凍って車出されへんやないか」ってなりますよね。そうなりました。

「高速リア充追尾式撲殺釘バット」が開発されれば人類の争いが無くなると思ってるんで誰か作ってください。

厨房とか書いてますけどWEEKEND GARAGEって厨房あるんですかね?なかった場合は脳内で拡張工事しておいて下さい、よろしくお願いします。

パンケーキは家で作ったことあります。パンケーキ自体はいいんですけどクリーム作ったり果物カットして盛り付けたりの方がめんどくさかったです。

えななんと彰人ってほんとに良い姉弟だなって思います。司と咲希ちゃんみたいな目に見えての仲良しも好きですけど程よく気を遣いあってる家族の距離感って感じが凄く……いい

ちなみにこはねちゃん描写できてませんが一生懸命働いてます。忙しさに慌てふためきながらも懸命に頑張る小動物こはね……可愛いですね。

ニーゴはセカイでパーチィーしててほちい。何故って?ニゴミクが喜ぶからです。

彰人と杏は苦手な食べ物すっごい頑張って食べ切りそう。よしよししたいですね。

瑞希は司等の他に先輩呼びしてる人が一緒にいる時は「真尋先輩」って呼ぶ感じです。そういえば書いてなかったですねこれ。

続けれたら頑張ります。


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