ライスシャワーに魔の手が掛かる (耳と尻尾に釣られたドクター)
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ライスシャワーに魔の手が掛かる
私的には尻尾の付け根を触る話か尻尾の手入れの話でも良かったんですけどこうなりました。セクハラじゃねーか
追記:日刊短編5位になってました。あざーっす
なんの変哲もない、商店街の一角に存在するマッサージ店。そこに今、一人のトレーナーとウマ娘と店長が向かい合って話していた。
「…という事で担当してるこの子、ライスシャワーの事をお願いしたいんだけど、どう?」
「ふむ…そうだな。ではまず…」
トレーナーである女性はライスシャワーの頭にポンっと手を乗せて撫でる。ライスシャワーは来たことのない場所、見ず知らずの、それもかなり怖そうな雰囲気で自分を見てくる店長に若干の恐怖があるのか、尻尾は垂れて耳はぺたーんと落ちている。
そんな様子を見つつ、店長と呼ばれた男性はジーッとライスシャワーを見る。
「…ライスシャワーと言ったか。それじゃあまずは…」
「ま、まずは…?」
「───服を脱いで下着だけになってもらおうか」
「もしもし警察ですか?」
「ストップライス!大丈夫、大丈夫だから!!」
「決して下心の意味で言ったわけじゃない!!ただ脚と腰と背中が見たいだけなんだ!!」
「ちょっと、それじゃあ意味がないわよ!?」
発言内容が完全に犯罪者のものだった。
▼▼▼
商店街の一角にありながらその存在を知る人は少なく、初めて来た人などはここがマッサージ店だとは分かりもしない場所。そこで店長を務める男性は、有名なレースに出るウマ娘が名前を聞けば「絶対に行きたい」と答えるレベルの手腕を持っている。
今までの実績として「致命的な怪我で復帰が不可能と言われたウマ娘が2週間で帰ってきて大差1着をもぎ取った」、「全く活躍できなかった無名のウマ娘がワープするレベルで追い抜いた」、「脚が4本あるんじゃないかというレベルで加速した」などなど、都市伝説もかくやと言わんばかりのことをしているのだ。
しかしここ店の場所を知るものはほぼ居らず、気がつけば「あった」などというレベル。それ故に、店長の存在は嘘ではないかとも言われるくらいである。
「ふぅむ…右脚に掛かっている負担がとんでもない上に、受け切れないダメージが腰の筋肉にまで及んでいる」
「んっ…」
「ちょっと失礼…ああ、やはりか。脚で受けきれず、腰も限界、ならば当然フォームも崩れて背中や肩、挙句胸周りの筋肉も煽りを喰らって固まっているな」
「ふぁぁ…」
「股関節周りの柔軟をして可動域を広げていたのは幸いだな。脚まわりの負担限界を股関節で何とかできているから致命傷には至っていない、と言ったところだろう」
「あっ、んぅっ…」
施術用のベットにうつ伏せになり、脚腰背中を絶妙な力加減で揉まれるライスシャワー。神妙な顔をしているトレーナーと店長を他所に、ものの数分で骨抜きにされたライスシャワーは蕩けた顔をしていた。
尻尾はご機嫌である事を示すようにブンブンと振られ、時折店長の顔に直撃しているが店長はそれを気にすることなくマッサージと診断をしていく。
「今日来たのは幸いだな。本当ならば2週間ほど寝かせろと言いたいが、明後日のレースに出るとなればそんなことなんぞ言ってられないだろうし、この子も走ると駄々をこねそうだ」
「そうね…勝つためとは言え、相当厳しいトレーニングをさせたのも事実。致命的な怪我を負う前に分かって良かったわ」
「ほあぁ…」
「フッ、ンンッ…!それに、してもっ!やはり、脚は、かっっったいなぁ…!」
高身長、スキンヘッド、仏頂面の3拍子が揃っている店長に手込めにされている光景は側から見れば何とも言えない不安を煽る。だが、このトレーナーと店長は高校からの付き合いであり、お互いを知っているからこそ何も言わずに会話を続ける。
「だがまあ、筋肉の硬さと負担の具合に反して髪と尻尾はしっかりしているからストレスは少ないだろう。寧ろうまく走れない事に対して苛立っている、と言ったところだな」
「んっ、あぅっ、あぁっ、ん!」
「そりゃそうよ。ライスの専属トレーナーなんだから、毎日髪と尻尾の手入れは私も見てるもの。中途半端な格好をさせるなんてトレーナーとして失格よ!」
「はっはっは!お前さんらしくて安心したわい!さて、と。施術は終わったが…」
朗らかな笑い声をあげる店長であったが、施術が終わりベットでくたっとなっているライスシャワーを見てトレーナーの方をみる。
ライスシャワーは完全に力を抜き、少々荒い息遣いと赤面状態になっておりどう見ても事案後にしか見えない。
そうなると分かっていたトレーナーと店長は揃ってなんとも言えない顔になる。
「あなたさ、ここじゃなくてトレセン学園で専属マッサージ師、しない?」
「そうさな…常に揺れる尻尾と可愛らしい耳を前に理性が保つか怪しいからやめておこう」
「そう言えばそうだったわ…」
呆れた声を出すトレーナーと真顔で思案する店長。その視線の先は共通してライスシャワーへと向けられている。
「…煩悩退散目的でマッサージ師をしたら、ウマ娘に指名されるくらいの腕になったなんて、死んでも言えないわね」
「全くだが、何も言えん。あと彼女の尻尾はいい力加減で顔に当たって大変素晴らしかった」
「はいはい。あんただから許すけど、他の人に言うんじゃないよ」
そう喋る店長の顔は非常に満足げであった。
▼▼▼
『い、一着になったのはライスシャワー!!まるでワープしたかのように後ろから見事な差しを決めたぁー!』
その後、きっちりとレースで一着をもぎ取ったライスシャワーであった。
「あの、ライスさん」
「マックイーンさん?」
「少し、聞きたいことがありまして…」
「…?」
レース後、控室に訪れたのは2着になったメジロマックイーンであった。トレーナーはちょうど電話で席を外しており、控室にいたのはライスシャワーだけだった。
マックイーンは少し逡巡した後、言葉を切り始めた。
「1週間ほど前、脚の動きがおかしかったのでもしかして怪我をしているのでは、と思ったのですが、今は大丈夫なのですか?」
マックイーンの言葉に「あっ」と言う顔をするライスシャワー。マックイーンの言葉はほぼほぼ当たりであったのだ。
マックイーンはライスシャワーの思い出したかのような顔を見て表情を硬くする。もしかして、無理をさせたのではないのかと思ったのだ。
「はわ、えっと。ラ、ライスは大丈夫です。お姉さまと先生がちゃんと見てくれたので、大丈夫です。ただ…」
「た、ただ…?」
続きを促すマックイーンに対し、ライスシャワーは顔をそらして小さな声で喋る。
「……先生の所に3日に一回来るように、って言われていて」
「先生?」
そう、ライスシャワーは3日に一回通うようにと厳命されたのだ。無茶をした脚腰を治すには必要なことだと言う。しかし、行くたびに骨抜きになって情けない姿を声を晒してしまうので一人で行くには抵抗感があった。
そこにやってきたマックイーンは、ライスシャワーにとっては渡りに船であった。
これはチャンスと思ったライスシャワーはすかさず、そして犠牲者をこっそりと増やす事にした。
「えっと、もし良ければ一緒に来てみませんか…?」
「そう、ね。貴女が私を負かすくらいのコンディションを出せる人物に会ってみるのもいいかもしれないわね」
その言葉にライスシャワーは顔を綻ばせ、マックイーンはこの約束をした事をちょっとだけ後悔する事になった。
後日、商店街の一角から少女の嬌声がすると通報される案件が発生し、警察が「またかよ」と言った呆れ顔でやってくる事件が発生したと言う話がトレセン学園でちょっとだけ話題になったらしい。
わたくし、これでも金曜日から装甲列車相手に人形で突撃したりしますわ…
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マックイーンにも魔の手が掛かる
最後のウマ娘の口調わからんけど勘弁してね
ウマ娘引くまで書かないです(鋼の意志
マックイーンは施術用のベットの上にうつ伏せになったまま打ちひしがれていた。
脚腰から伝わってくる痛みはまるで自身の慢心を諌めるかのように叩きつけられ、しかし逃げ場のないこの体勢では拷問のように受け止めるしかない。
「(なんと…なんと情けない事ですか…!)」
少し離れた所にいるであろう同行者は確実にマックイーンの悲鳴を聞いているはずだ。決して自分は出すまい、と息巻いていた数刻前の自分を盛大に恨んだ。
ハァハァと乱れた呼吸を痛みが来ない僅かな間で整える。しかし、それを見計らったかのように此度の拷問官はマックイーンの脚へと再び魔の手を差し向ける。
「さて、お嬢。息と覚悟はお決まりですかね?」
「くっ、うぅ…!」
「だい、大丈夫ですよマックイーンさん。多分、あと痛いことは無いと思います…痛いことは、ですけど」
少しだけ聞こえて来たライスシャワーの言葉に思わずゾッとする。これ以上、一体自分は何をされるのか皆目検討も付かない。
抵抗などできず、マックイーンは尾を引く僅かな痛みを感じながら刑務執行を待つ。
「それでは、ちょっと失礼します」
マックイーンの記憶はここから曖昧になっている。
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「…と、言うことがありまして」
「ライス、マックイーンと来て今度はアタシか…」
珍しく落ち込んでいるマックイーンを見つけたゴルシことゴールドシップは壁にめり込みながら話を聞いていた。マックイーンに悪戯を仕掛けようとして反撃を食らった結果である。
壁にめり込んだままゴルシはマックイーンの全身を舐め回すかのように眺める。その視線がどことなく自分の変態トレーナーに似て来たような気もするが、今はそれを気にするほどの精神的余裕が無かった。
「噂には聞いてたけど、それでここまで威力が上がるとかヤク決めてるんじゃねーか、ってくらいだな。でも調子はいいんだろ?」
「そう、そうなのです…だからこそ記憶が曖昧になっている事が不安で不安で…」
「なあマックイーン、知ってるか?この前商店街に警察が行った事件があるんだけどよ」
「…?」
めり込んだまま脱出ができないゴルシはそのまま会話を続ける。時折通りすがるウマ娘が4度見くらいしてくるが当の本人たちはそれを気にする事などないと言わんばかりに平常運転である。
「…なんでも、女子高生くらいの女の子の艶声がするって通報があったらしくてな?でも警察はその場所に行くと慣れた様子でその店の店長と2、3声話して帰っていったらしいんだ」
「へ?」
「そんでもって、その事件があった当日にライスとマックイーンが行ってるんだよ」
壁からの脱出を諦めたらしいゴルシは抵抗を諦めて両腕をぷらーんとさせ始めた。
そしてマックイーンの間の抜けた声が変に響いた気がした。
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「それでは、ちょっと失礼します」
その一声は処刑執行人による刑務執行の開始合図。ライスシャワーは既に何回も受けたため慣れて来た。
だがしかし、今回連れて来たマックイーンは初めてだ。何より、ライスシャワーが初めて受けた時よりも体の具合は悪いらしく、先程までは凝り固まった筋肉をほぐす「だけ」の施術をしていたらしい。
ほぐすだけの施術は普通に痛い。だから普段は何回にも分けて極力痛く無いように戻していくらしい。
しかし、マックイーンの場合今すぐにほぐして戻さないと大怪我、最悪走れなくなる位の酷さらしく、店長の顔がいつもより怖くなっていた。元々がスキンヘッドの仏頂面なので、うつ伏せになって顔が見えてなかったマックイーンはある意味精神的に命拾いしていたかもしれない。
開始直後こそ痛みで悲鳴を上げていたマックイーンではあるが、途中からはある程度解れたおかげで最初ほどの痛みが無くなったために余裕ができたらしい。メジロ家としてのプライドが出て来たのか、息を殺すようにして悲鳴を出すまいとしていた。
しかし今までのはただの前準備である。店長の「ちょっと失礼します」がそれを証明している。
マックイーンはここから更に拷問の如く施術を続行するのか、と言う絶望的な顔をしていた。流石に可哀想だったので、ライスシャワーは小さくアドバイスのようでそうでも無い事をつぶやいた。
結果としてマックイーンに追撃みたいな事になってしまったが、まあどうせ慣れるし、とライスシャワーは貰った水をチビチビと飲みながら見ることにした。
先程までとは打って変わり、無理矢理な押し方ではなくなった。それどころか、痛みを発していた脚から伝わってきたのは真逆の感触。心地よさを感じるほどに優しいものだった。
「んっ…」
「あぁ、やはり無理にとは言えほぐして正解だったようで。怪我の原因になり得る固さからは解放されましたね」
ふわふわ、ぽかぽかとした感触と心地よさに全身から力が抜けていく。痛いことから解放され、無駄に力んでいた事がバカらしく思えてくる。
右脚、左脚、そのまま上がって臀部や腰、それら全てが今までにないくらいの気持ちよさを与えてくる。
「あぅ…んっ、んぅっ…ふぁ…」
「そのまま力を抜いて、ゆっくり息を吸って…ええ、そうです。そのまま両腕も力を抜いて…」
「ふあぁぁ……」
背中、腕、そして肩までゆっくり、ゆっくりと蕩けるような温かさに包まれる。自然と漏れ出る声を抑えようなど考えることもせず、只々与えられる心地よさに全てを預けていた。
ライスシャワーは完全に蕩け切ったマックイーンを見て、自分もああなっていたのか、と半ば戦慄する。今目の前でうつ伏せになっているマックイーンは普段見る凛々しい姿などどこに行ったのか、全身から力を抜いて気持ち良さそうにしている姿は本能的に危険を感じた。
「お嬢、起きてください。終わりましたよ」
「んんっ…ふぁぁ…」
「ダメみたいですね」
「そうですね…なんか、最初来た時のライスみたいですね」
「ええ。仕方ありません、トレーナーさんにもう少ししてから返すとお伝え下さい」
「わ、わかりました」
ライスシャワーは決心した。こんな姿をしたマックイーンを他のウマ娘に見せてはならないと。
だがしかし、この後他でもないマックイーンの手によって更に犠牲者が増えることとなったのである。
「あら?ブルボンさん、こんにちは」
「こんにちは、マックイーン。ライスシャワーを見ていませんか?」
「ああ、ライスシャワーさんでしたら…今は行きつけのマッサージ店にいると思いますわ。もしお時間があれば、一緒に迎えに行きますか?」
「…肯定。案内をお願いします」
おほぉ…
なお作者はブルボン持ってないです。ついでに言うとマックイーンは弟が持ってるのでそっちで見ました
追記:NORMALマックイーンは来ました。ブルボン狙ってライス4人来ました…というかライスしか来ない。ブルボン、君が来ないと書けないんだが
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トレセン学園に魔の手が赴く
いつも感想ありがとう。職場でニヤついて不審がられる日々が続いております
追記:デイリー13位、短編デイリー1位になったみたいです。(?????)
追記の追記:デイリー5位?????????
商店街の一角にある怪しい佇まいの店、その扉には珍しく「本日出張につき臨時休業」の文字が書かれた看板がかけられていた。
「…臨時休業、珍しいなぁ」
「お姉さま?」
「ん、そっか。ライスは知らないっけ。彼ね、変なプライドというか拘りがあって出張とかまずしないのよ」
かけられた看板を見て仕方ないと言った様子でその場を離れるライスシャワーとトレーナー。商店街を軽くぶらつきながら、トレーナーは店長のことをライスシャワーに教えていく。
「なんでも、あまり派手に目立ちたくないのと好みの関係で自分から来た人以外は手をかけないのよ。だからお店に電話はなくて、彼個人の番号で連絡するしかないし、私も他のトレーナーに紹介したりしないのよ」
「好み、ですか?」
「そうね。でも、こればっかりはプライバシーに関わる事だから教えられないわ。私の場合は高校からの付き合いだから知ってるんだけど」
トレーナーは死んでも言えないと思っている。何せあの店長である彼は「ウマ娘の耳と尻尾でテンションが爆上がりする」なんて、彼の尊厳を守るためにも言えない。
しかし、このトレーナーも店長ほどではないがウマ娘の耳と尻尾を見るとついつい触って撫でたくなる。それ故に知り合って仲良くなったのだが。
「しっかしまぁ、予想外すぎて手持ち無沙汰になっちゃったわね」
「そうですね…あっ」
「んー?どうしたのライス」
立ち止まったライスシャワーの目線の先のあったのは、ゲームセンターのクレーンゲーム。その中にある景品はトゥインクルシリーズに出ているウマ娘達のぬいぐるみであった。5個ほど見え、そのうちの1個がライスシャワーのぬいぐるみだった。
耳をぴょこぴょこと動かして、前に向けている。完璧に興味を持っている証拠であり、そんなライスシャワーの表情は普段のおどおどしたものではなく、輝かしい位に可愛い年齢相応のものだった。
無論、それを黙ってみているだけのトレーナーではない。ライスシャワーは欲しがっている。だが滅多にお願いや我儘をしないライスシャワーの事だ、見ているだけで取りに挑もうとはしないだろう。
ならばライスシャワーの専属トレーナーとしてするべきことは一つ。
「…そうね、時間もあるし、ちょっとクレーンゲームで遊んでから帰ろっか」
「…!はい!」
トレーナーはライスシャワーにはバリバリ甘いのだ。
▼▼▼
「うー…」
「おうおうおう。珍しいな、マックイーンが休みなのにスイーツを食べに行かないなんて」
「ちょっとばかり、気になってしまいまして、それどころではないのですわ」
「マックイーンがスイーツより気になる事……
ま、まさかマックイーンにも春がッ!?」
「違いますわよ!?」
唸るマックイーンを揶揄うゴルシ。いつもの光景ではあるが、マックイーンはそれどころではなかった。
あの日以降、何度か例のマッサージを受けているが毎度毎度記憶が曖昧なのだ。施術の前後ははっきりを覚えている。だが、肝心の施術中のことを覚えていないのだ。
なんというか、寝ぼけている時の様であり、なんとなく受けているのは覚えているが細かくは覚えていないのだ。
一緒に行っているライスシャワーは何故か顔を逸らして曖昧にしか教えてくれない。店長は「普通通りです」と例の強面の仏頂面で答えるのみ。マックイーンはますます不安になるのであった。
「なあなあ、そんな面白そうな場所に行ってみたいんだけど、今度連れてってくれよ!」
「…あなた、故障どころか怪我の一つも無しで余裕で走ってるじゃないですか。それで行っても、あまり意味はないと思いますが」
「百聞は一見にしかずぅー!ゴルシちゃんは興味があるものなら突撃してでも確かめるに決まってるんだなぁー!」
「そうでしたわね…」
呆れたマックイーンは諦めてゴルシと共に例の店へと赴く。だがしかし、そこには「臨時休業」の看板が掛かっていたのであった。
▼▼▼
「やあやあ。ご足労かけてもらって済まないね。忙しい身だから出歩くわけにはいかなくてね」
「忙しいと言うよりは出歩けない体なだけでしょう。自覚があるのならもう少し体を労って頂きたいものです」
「それは無理なお願いだよ。私は果てが見たいのだから、常に限界を追うのでね」
トレセン学園の保健室。そこのベットを一つ占領して待っていたのはアグネスタキオンであった。
慣れた様子で保健室に入り、カーテンで仕切られたベットへと近づいて声をかけたのは、いつも以上に厳つい顔をした店長である。
いつも通りのアグネスタキオンに対して、隠すこともなく大きなため息を吐く店長。少し見方を変えればトレーナーとウマ娘に見えるが、実際は店員と客である。
ちなみに、店長が来ている間は緊急時を除いて保健室への入室禁止となっている。これに関しては理事長も許可しているので誰も文句を言えないのであった。
だがしかし、事情を知っている者であれば入室禁止の理由もわかるであろう。
何せ店長はその手を持って既に何人ものウマ娘達を手籠にし、一度味わってしまえばそれ以外では満足できない体にしているのだ。
他人に聞かれてしまえば何を勘違いされるか分からない以上、あらかじめ人払いをしておくのが唯一の安全策である。
「はぁ…ではまずいつも通り脚の様子から確認するので横になってください」
店長の指示に大人しく従ってベットの上でうつ伏せになるタキオン。指示されるのが嫌いなタキオンではあるが、店長の手による施術の時は言うことをきっちり聞くのである。
店長は横になったことを確認し、タキオンの爆弾を抱えている左脚をゆっくりと触って確認していく。
最初は撫でる様に優しく全体を、それが終われば一番不安な部分とその周辺を指全部を使って少しずつ押して、押し込んで、ほんの少しの異常も逃さない様にじっくりと確かめていく。
「少しでも違和感や痛みがあれば言ってください。もう少し左脚の確認をしていくので」
「ふっ…うぅ…ンンッ…ああ、わかっている、さ…んっ」
店長の指がタキオンの左脚の脹脛(ふくらはぎ)を包み込む様に動き、そして絶妙な力加減で押し込まれる。
タキオンは何回か受けているとは言え、くすぐったい様な気持ちよさと温かさを持つ感触に慣れることはなく、時折足先をピクピクさせている。
「…大丈夫そうですね。ただ、やはり触ってみて危ないと思える部分とそうじゃない部分が曖昧になりつつあるので、全力疾走は大きなレース以外ではやめておいた方がいいでしょう」
「んっ…そうかい…」
「左脚はまあ、こんなところです。が…相変わらず無茶な姿勢で固まったままで居る事が多い様ですね。見るからに姿勢が乱れてます」
スッとタキオンの左脚から手を離し、子を叱る親の様に指摘する店長。わかっていてもちょっとだけ不機嫌になったタキオンは抗議の意も含めて尻尾で軽く店長を叩く。
「ええ、ええ。分かっていましたとも。今回はいつもより長めに間が空いたので悪化しているだろうとは思っていました、が!流石に不養生すぎますぞ!」
「余り大きな声を出さないでくれ。研究を投げるわけにもいかない以上、無理を押すのは当然の事だからね」
「それでうまく動けないなんて事態になったら元も子もないでしょう!ただでさえ爆弾抱えてるのですから、少しは気にして頂きたい!」
店長、余りの不養生タキオンに思わず説教をかます。
顔は厳つい上に見た目も怖いと避けられる店長ではあるが実際はそうでもなく、寧ろ人付き合いのいい方である。ましてや、目の前にいるのがウマ娘となればテンション爆上がりになる為、健康を思えば叫びたくなるのを説教で抑えているだけマシであった。
「こうなったら…私は今日こそ持てる実力を持ってあなたの体を万全にしてから帰ります。どれだけ抵抗しても抵抗できないくらいに揉み疲れさせて差し上げましょう…!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。流石に自力で動けないくらいに施術をされるのは私としても本意ではないのだが」
「いいえ、流石の私でもこれはダメです、譲りません。大丈夫です。理事長と会長の前で誓約書を書いているので邪な意思を持ってやる事は決してありません。安心して体を差し出してください」
「体を差し出すのはモルモット君だけで十分なのだが!?」
「今日のモルモットは貴方ですよ、アグネスタキオンさん…!」
「後生だ、待ってくれ…!今日はこの後モルモット君に新薬を飲ませて観測をする予定が──」
焦るタキオンの声が途中で切られる。問答無用で店長がタキオンの腰に手をかけ始めたのだ。
先程まで左脚を入念に揉まれ、既にスイッチが入り掛けだったタキオンの体は大人しく受け身の体勢になっていた。まさしく「口で抵抗していても体は正直」を体現している。
ぐにっと店長の指が腰の固まった筋肉を解そうと的確な場所を押し込む。半分奇襲に近い状態で始まった為に、タキオンは思わず声を漏らした。
「っあう…!んっ、うぁ…!」
「おやおやおや…いけませんねぇ…こんなに固くなっているじゃないですか」
「く、うぅ…卑怯、だなっ…あぅっ」
「卑怯、と言われるのは心外です。私はただ仕事をしているだけ、ですからね」
「なぁっ…!うぅうん…!」
ちょっとだけ悪ノリする店長ではあるが、その腕は確かであり、決して手を抜くことはない。
タキオンは逃げ出すことはおろか、抵抗もしないで時折足先をギュッと丸めたりしているだけであった。
店長の指は腰から背筋を這う様に登っていき、肩へとその指を伸ばしていく。ピンポイントで押す様な動きのほかに、絶妙な力加減でぐぐぐっと伸ばす様に動かすこともあり、タキオンはなすがままになるしかない。その口からは気持ちいことを思わせる溜息が漏れるばかりである。
「ふっ、んぁ…は、あぁう…んっ…」
「随分と溜め込んでるみたいで…いや、これは予想以上に酷いですね。もう少し放置してれば腰痛や目の疲れになってそうですね…」
ベットの上で力無くだらーんとしてるタキオンの顔は完全に蕩けている。いつものどこか怖い感じの目はその影を一切見せることなく顔と同じく蕩けている。
肩までしっかりと揉んだ店長も少しばかり休む。ウマ娘の筋肉は人と比べて密度も多く、それに伴って固さもある。それ故に揉むのにもそれなりの力と体力がいる。
ましてや、タキオンの様にストレッチも余りやらない不養生なウマ娘の筋肉となれば、必要な力と体力はさらに増える。一筋縄ではいかないのだ。
そして何より、これからが『本番』である。
「さて…軽く解すのは終わりました。ですので、これから本格的に『治して』いきますよ」
「…ふぇ?」
これで終わりと思っていたタキオン。しかし店長はこれからが本番だと言う。
今の時点でも既にキてると言うのに、これ以上一体何をしようと言うのか。
「今やったのは解すだけ。このままではまた固まるので、これから正しい位置に戻すんですよ」
タキオンはうつ伏せであったが故に店長の顔が見えていない。しかし本能的にわかった。今の店長はきっと、ニッコニコ笑顔であるのだろうと。
その日、トレセン学園に一つの聞きなれない声が少しの間だけ響いた。
▼▼▼▼
「いやはや、体がとても軽い。流石、レジェンド達が絶対に手に入れたい人材による施術だよ」
「タキオンさん、とても調子が良さそうですね」
トレセン学園のカフェテリアにて、ご機嫌なタキオンとタキオンに勉強を教わっているダイワスカーレットが話をしていた。
タキオンは側から見ても、とても調子が良いとわかる位にご機嫌であり髪と尻尾もそれを示すかの様に輝いている。普段のタキオンからすればありえない状態である。
それをみたダイワスカーレットはタキオンに何があったのかを聞いてみた。
「タキオンさんがそこまで褒めるくらいの人のお店って、どこにあるんですか?」
「おや、おやおやおや。気になるのかい?」
「そう、ですね。ちょっと肩とか凝りやすいので受けれるなら一回試しに、って思ったんですけど」
「ふぅむ…まぁ、君にならいいだろう。彼の店はね…」
匿名投稿してますが特に深い意味はないです。もし「トロ顔ファンアート描きました」って人がいればこちらに(Twitter
→@kagemototouka
DMでも普通にリプでもどうぞ。発狂してウマ娘を引きにいくと思います。
感想でタキオン寄越せって言った人!書いたぞおらぁん!タキオォンにしたぞぉ!
…実は喘ぎ声を削ったんです。年齢制限に引っ掛かりそうな気がして…
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ダイワスカーレットは魔の手に挑む
ミホノブルボンどころかカレンチャンもナリタタイシンもナリタブライアンも出ません。ファルコは天井しました。ダート戦士いないんや…
ワイ「カレンチャンこい!!!!」
(星3演出)(2枚)
ワイ「こい!!!!おん!!!」
「「サイレンススズカです」」
ワイ「あああああああああああああ!!!!!!!」
見てたフレンズ「芸人かよwwwwww」
「ここが、例の…」
商店街の目立たない一角に位置する怪しい佇まいの店。その扉の前にダイワスカーレットは立っていた。
紹介してくれたアグネスタキオンの言う通り、紹介されなければここが店だとはまず気付かないだろう。窓はスモークが掛けられ入り口のドア以外に店内が覗ける場所はない。何より、なんの看板も掛かっていないので、そもそも店だと判断できるのが扉のOpenと書かれたちっちゃなかけ看板くらいだ。
何故かレース前以上に緊張してしまっているが、意を決して扉を開ける。カランカランと喫茶店の様なドアベルが鳴るのに、意図して若干暗くされた店内がミスマッチでちょっと怖い。本当に怪しい店である。
「す、すみませーん。誰か居ますか…?」
勇気を振り絞って声を出すが、ちょっと掠れて震えている。尻尾も足の間に入っていかにも「ビビってます」と言うのを如実に示している。
暫くして店の奥、カーテンで仕切られた所からヌゥッと一人の男性が現れた。
「(待って待って待って!?もしかしなくても違う所に入っちゃった!?)」
「いらっしゃいませ。その制服ですと、トレセン学園のウマ娘のようですね。一応、誰に紹介されてか聞いてもよろしいでしょうか?」
「ア、アグネスタキオンさんからこの場所を聞きました」
「ああ、タキオン嬢からでしたか。なら大丈夫そうですね。ご案内しますので中へどうぞ」
スキンヘッドで仏頂面、おまけに身長も高いのでヤから始まる人が居るやばいところかと思ったが、正しい様だった。だがしかし、アグネスタキオンの呼び名が「タキオン嬢」なのはどう言う事なのか、一瞬脳内に宇宙が広がったダイワスカーレットだが気にしない事にした。
▼▼▼
「さて、本日はどの様なお悩みでこちらに?」
カーテンで仕切られた場所の奥、至って普通のマッサージ店の様な装いの部屋に通されたダイワスカーレット。
どことなく病院の診察室の様な場所で対面して座り、店長から質問を受けていた。
「最近、よく肩が凝ってしまって…それに釣られて首も痛いです」
「ふむ…腰の方に痛みはないですか?」
「腰はなんともないです。今のところは、ですけど」
予想より至って普通の質問に、必要以上にビビっていたのがバカらしくなってきた。確かに見た目は怖いが、アグネスタキオンから聞いていた様に中身はごくごく普通のいい人だと思う。
そして肩こりの原因だが、なんとなく分かっている。そして店長も分かっているらしいので深く聞いてこないあたり、かなり気を遣ってくれているとも分かった。
「…肩こりの原因とされるものは幾つかありますが、基本的には肩周りの筋肉である僧帽筋が緊張する事で起きるとされています。これは血行が悪いと起きるもので、悪い姿勢からくる筋疲労とストレスが原因とされます」
差し出された紙には簡単な人体図と筋肉が描かれていた。中等部のダイワスカーレットでも分かるとてもいい資料である。もしかしたら、既に何人か来ているのかも知れない。
「人体の10%の重量を占める頭部が緊張状態の筋肉にさらなる負荷をかけ、その結果として血行が悪くなり肩こりとなる事が多いです。同様にストレスを抱えたままでいるのも負担をかけることに変わりはないですね。あとは座りっぱなしの状況で猫背で居ると余計に悪くなります」
「姿勢には気をつけてますけど、ここ最近はテスト勉強の為に長時間座っていました」
「ああ、なるほど。で、あればそれも原因になっているかもしれませんね」
少々お待ちください、と言って店長は一度席を立った。少しして戻ってきた店長の手には薄手の簡易的な羽織る長袖があった。
「今日はベッドに横になっての施術はやらなくても良さそうですね。今着ている制服を脱いでこちらを羽織ってください。着替えの部屋はあちらにありますので、焦らないで着替えてください」
「分かりました」
思ったよりも普通の事をするんだな、と簡単に思っていたダイワスカーレット。しかし、そんな考えは見当外れだというのを身をもって知ることとなった。
▼▼▼
言われた通りに着替え、椅子に座るダイワスカーレット。その背後には店長がよくわからないワゴン型の道具入れと共に立っている。
「これから施術をしていくのですが、極端に痛かったりよろしくない所に触れてしまって気になるといった場合、遠慮せずに申告して下さい」
諸々の注意事項などを受け、店長は最初にダイワスカーレットの左腕を持つ。肩と水平になる高さまで持ち上げ、付け根を押しながらゆっくりと腕を回す。
「(思ってる以上に普通過ぎるわね…)」
付け根の押す場所を何回か腕を回す度にずらし、入念に凝りを解している様である。暫くして、押す部分をずらした時だった。押されてちょっと痛いところが出てきた。
「んっ」
「失礼、今押した場所が凝り固まっている場所です。少しずつ押しながらやっていきますので、少しだけ我慢してください」
そうして何回かに分けて、その部分を段階的に押しながら解していく。5回ほどやったところで、一度左腕が下ろされた。
その時点でダイワスカーレットは驚いた。受ける前に比べて痛みが全くと言っていいほどない。今しがた感じている痛みも、恐らくは揉まれたことによる揉み疲れだと思われる。
未だに痛い右側と比べると天と地ほどの差がある。これほどの短時間でここまで変わるものなのか、と予想以上の結果だった。
「普段ストレッチなどをちゃんとしているお陰で、随分とやり易かったですね。今後もストレッチはしっかり行う様に」
「は、はい」
「これから右側もやりますが、左側に違和感はありませんか?」
「大丈夫です。予想以上に痛みがなくてびっくりしてます…」
「それは良かった」
はっはっは、と朗らかに笑う様は親戚のおじさんみたいな雰囲気をしている。見た目は完全にヤから始まる(自称)自営業の世界の人だが。
続けて右腕も同じ様に持ち上げられ、左側と同じようにして回されながら解されていく。
そうして何事も無く右側も終わったところで、ダイワスカーレットは少し眠気を感じ始めていた。
「…もしや、少し眠かったりしますか?」
「うっ…そうです、ね…。ちょっと、眠いです」
「もう少しで終わりますから、頑張ってください」
ぽやーっとした感じで受け答えをしたが、結構眠い。テスト勉強をやりすぎていたのか、体は休みを求めていたらしい。力が抜けたからか、それが原因で眠くなってきていた。
「すこーしだけ下を向いてください。そうです、そのまま」
眠いところで下を向いてほしいと言われた。下手すると寝ちゃうんじゃないかと思っているタイミングで、髪の付け根付近に温かいタオルが置かれた。
「ふあ…」
「頑張って起きていてください。あと少しなので」
絶妙に眠いタイミングで置かれた温タオルが眠気にスパートを掛けてくる。温タオルの上から髪の付け根付近を両手の指でグイグイと押され、程よい温かさと刺激で力がどんどん抜けていく。
眠気に負けない様に意識を集中させるが、いかんせん気持ち良すぎてダメになっていくのが分かる。
「(うー…ダメ…気持ち良すぎて眠い…)」
店長が声をかけてくるが、正直言って何を喋っているか分からないくらいにぽやぽやしてきた。そのままダイワスカーレットは結局、睡魔に負けてこっくりと頭を落として意識を手放してしまった。
「スカーレットさん、頑張って起きててくださーい。……ダメみたいですね」
店長は諦めて、眠ってしまったダイワスカーレットを施術用のベッドへと運ぶことにした。
▼▼▼
「…と言うことがありまして。それで門限を過ぎてしまいました…」
「はぁ…中々練習に来ないどころか、門限過ぎまで帰ってこないわで心配したんだぞ。そこの店長とライスシャワーのトレーナーが知り合いでよかったな」
「ほんっとうにすみませんでした!!!」
「次は気をつける様に」
「はい…」
後日、エアグルーヴに優しく叱られるダイワスカーレットの姿が生徒会室前にあった。
エアグルーヴはふと、気になった事をダイワスカーレットに聞いてみる。
「ところでだが、たった数時間で体の調子がいつも以上に良くなったと言うそのマッサージ店は商店街のどこにあるんだ?」
「あー、それはですね…」
匿名投稿してるんですけど、深い意味は特にないです。ちなみに前科として「モフモフしたいドクター」と言う作品をアークナイツで書いてます。
耳と尻尾に釣られないわけがないんだよなぁ!!!!
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