シノンと共にガンゲイル・オンライン (ヴィヴィオ)
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1話

年齢が間違っていたのでつじつま合わせの為、キリトくんには留年してもらいました。



 

 

 真っ白な真っ白な空間。そこに居た神様と名乗る名状しがたきもの。そして、速攻でSANチェックに失敗した。なんてことはなく、声だけ聞こえてくる。まあ、内容は至って簡単でテンプレなので、速攻流す。簡単に言えば殺しちゃったから転生していいよ。というだけの話なのだ。

 

『世界はソードなアートの世界だ』

「……特典は?」

 

 確か、アニメでしか見てないんだよな。小説は読んでないし。

 

『ない』

「……」

『容姿は指定させてやろう』

「じゃあ、画像で見ただけだけど髪の毛の長い方のキリトで」

『良かろう』

「先生、身体能力か、せめて成長だけどうにか出来ませんかね? 努力するんで。あと、ナーヴギアでいいんで、VRの練習空間が欲しい」

『まあ、適当に能力はくれてやろう。貴様の行動次第だ。それと練習空間に関しては構わない。以上、さっさと行って来い。他の奴もさっさと行かせたからな』

 

 そんな感じで転生させられた。そう、桐ヶ谷(きりがや) 和人(かずと)に。髪の毛の長い方のキリトの容姿を頼んだからって主人公かよ。って、思ったけどまあいいやって思った。

 転生してからは基本的に主人公と同じように過ごした。そう思った? 残念でした。子供の頃から必死に身体を鍛えて鍛えて鍛え抜いた。練習空間は眠ってるような感じになるので、そこで弾避けゲームをするのだ。クロウと同じ、銃弾の回避ゲームだ。4歳の時から始めたお陰で5歳から習わされた剣道は結構楽勝だった。成長チートを貰えた事を信じてひたすら訓練を積んでいく。来るべきSAOで生き残ってアスナ達とイチャイチャする為に。

 

 

 そして、2022.5.03、春。大手メーカーアーガスがソードアート・オンラインを発表、βテストを開始。そのβテストの応募をしたら……落選した。続いて製品版……惜しくも目の前の奴で売り切れ。

 

「おいっ!?」

「残念だったな」

 

 俺の前に並んでいた銀髪の奴に持って行かれた。主人公なのに何もできない。入手出来なかった物は仕方ないのでSAOを無視して訓練を続ける事にする。既に日課になっているのだから。あと、母さんの伝手を使ってモデルの仕事もしている。髪の毛の長い方のキリトの容姿なのでモデルのお仕事もバッチリできる。

 そんな訳で勉強と訓練を頑張って高校に進学した。直葉との関係? 妹に手を出せません。むしろ、剣道でボコボコにしてますが?

 

 高校生になって少ししたが、勉強なんて既に終わっている。訓練と勉強だけを効率的にしていたので友達も居ないし、時間はいっぱいあるのだ。そんな訳で映画の撮影やらなんやら仕事をいれまくっていたら見事に留年しちまった。いやはや、計算上はギリギリだったんだけど、まさか飛行機が止まったり仕事の日程が伸びたり色々とあったとはいえミスったね。まあ、高校の授業は基本的に練習空間で修行しているか、物理学やプログラムを勉強しているだけだしやめてもいいんだけどね。それでも一応心配されてか仕事の量を減らされたので仕方なく学校に通っている。

そんなある日の帰り道、女の子が数人で一人の女の子を裏路地で囲んでいる。囲まれている女の子の名前には覚えがあった。朝田詩乃。クラスメートだし助けるか。でも、その前に録音と。

 

「わり、朝田。あたし達カラオケで歌いまくってさぁ、電車代なくなっちゃた。こんだけ貸してくれない?」

 

 明らかなカツアゲだ。当然のように拒否した朝田に対して女の一人が手を銃のようにしてバァンと声をあげると朝田がうずくまって吐いている。

 

「ゲロるなよ朝田ぁ! まあ、今持ってる分で許してやるよ」

 

 近づいていく女に背後から蹴りをかます。これによって吹き飛んで室外機に激突した。

 

「何しやがんだテメェっ!!」

「何って、カツアゲしているゴミから可愛い女の子を守ろうとしてるだけだ」

「んだとぉっ!?」

 

 他の女2人がこちらに鞄で殴りかかってくる。それを見切ってしゃがんで避けて足払いを仕掛けて纏めて転かす。そして、倒れた横に踵落としを決めてちょうど良く転がっていたブロックを粉砕する。俺の靴には訓練の為に鉄板を仕込んであるので簡単に粉砕できる。

 

「「ひぃっ!?」」

「さて、次は……」

「お巡りさんこっちです! こっちに来てください!」

 

 声が聞こえてくる。現状から考えて明らかに俺がやばい。だから、室外機の方の立ち上がった女に近づいて声をかける。

 

「お前達はただ躓いただけだ。いいな?」

「っ」

 

 それだけ言って蹲ってる朝田に近づいて彼女を抱き上げて逃走する。朝田はまだ気持ち悪いのか、力を抜いてぐったりしている。なので近くにあった喫茶店に入ってほとぼりが冷めるまで待つことにした。

 入った店内にある奥の方のボックス席で彼女を座らせて水と布巾を渡してあげると、自分で拭きだした。

 

「大丈夫か?」

「うん……ありがとう……えっと、確か……」

「桐ヶ谷和人。クラスメートだよ、朝田さん。あと、男だから」

 

 これは言っておかないと勘違いされる場合が多い。髪の毛の長い方のキリトと同じ容姿で髪の毛も長いし女の子に間違えられる事が多々ある。

 

「そうだったね。でも、あんまり教室に居ないし覚えてなかった。ごめんなさい」

「まあ、気にしなくていいよ。授業は暇だからね」

「勉強しないの?」

「高校生で習う範囲は終わってるしね。ああ、何か注文するといいよ。奢るから」

「たっ、助けて貰ったのに悪いからいいよ」

「気にしなくていいって。小遣いや給料貰っても友達も居ないからお金も余ってるし、こういう時は男が支払うもんだって習ったからね」

「そ、そうなんだ……(どっちの意味でも答えづらいよ)でも、友達が居ないのは一緒だね」

「そうなんだ。じゃあ、仲間だね」

 

 カウンターの方を見ると頭が禿げた大きな店員がいる。ここはSAOの帰還者エギルとその奥さんが経営しているお店なのだ。奥さんがパティシエなのか、ケーキも結構美味しいのでここは結構気に入っている。本当は彼の店だと知らずに奥さんだけの時に見つけて色々と使わせて貰っている。

 

「和人君、これ何時ものとケーキセットね。貴方は紅茶でいいかしら?」

「はっ、はい」

「ありがと」

 

 奥さんがコーヒーと紅茶、数種類のケーキを持ってきてくれた。注文してないのに助かる。

 

「とりあえず甘い物でも食べて落ち着こうか」

「うん……」

 

 遠慮しているのか、先に食べないので俺から食べる。甘さ控えめのチーズケーキはかなり美味しい。タルトも美味しそうだ。

 

「ん~~美味しい」

「頂きます」

「どうぞ」

 

 朝田も食べ始めた。しばらく2人でケーキを食べていき、コーヒーと紅茶をゆっくりと飲む。

 

「あっ、その服……ごめんなさい」

「ん? ああ、これか」

 

 俺の服には朝田のが付いてしまっていた。こんな感じに書くといやらしいけど問題はないだろう。

 

「制服は予備があるし大丈夫だよ」

「クリーニング代出すよ」

「いや、いらない。助けたのはこっちの自己満足だし、それで被害を受けてもこっちの責任だよ」

「そういう訳にはいかない。借りを作るのは嫌だから払う」

「ふむ……じゃあ、友達になってよ。それで貸し借りなしでいいよ」

「え?」

「流石にぼっちはそろそろ色々とまずいと思うんだよな……親や妹にまで心配されてるし……」

「それは……うん、確かに……(私はおじいちゃん達だけど)」

 

 朝田も覚えがあるのか、頷いてくれた。

 

「という訳で、友達になろうよ。そうすれば友達を助けるのに理由なんていらないし」

「そうだね……じゃあ、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね。朝田さん……いや、詩乃でいい? 俺も和人でいいから」

「うん、別にいいよ」

「それじゃあ、アドレス交換しようか」

「わかった」

 

 携帯端末を取り出してお互いのアドレスと電話番号を交換する。

 

「家族と仕事先以外で初めてだ」

「本当にいなかったんだ……」

「あははは」

 

 乾いた笑いしかでない。

 

「あっ、でも……遠藤達から何かされないかな?」

「大丈夫だ。俺は強いし、それに詩乃には悪いけどこんなのもある」

 

 携帯端末で録音した物を聞かせてあげる。

 

「これは……さっきの?」

「そう。彼女達がカツアゲしていた証拠にもなるし、何よりこっちも未成年だし如何様にもできるよ」

「そっ、そう……」

「そっちは気にしなくていいけど、むしろ詩乃の方が心配だね。まあ、俺と一緒に居れば大丈夫か」

「ありがとう」

「どういたしまして……ってのもなんか変だけどね。っと、そろそろ暗くなってきたし送ってくよ」

「そこまでは悪いよ」

「いや、こっちが気になるからね。アンドリューさん、メット借りていい?」

 

 カウンターでグラスを磨いているエギルの名前を呼ぶ。

 

「構わない。明日の昼までには返せよ」

「了解。じゃあ、行こうか」

「う、うん」

 

 支払いをして、裏から出る。そこにあるヘルメットを取って詩乃に渡す。

 

「これに乗るの?」

「そうだよ。免許は持ってるし大丈夫」

 

 自分もヘルメットを被って中型バイクの後ろにに詩乃を乗せる。

 

「これって……」

「俺のだよ。ここまで何時もこれで来てるんだ」

 

 ゴーグルをつけてジャケットを着て顔や制服を隠す。これで問題はない。

 

「じゃあ、行こうか。しっかり捕まってね」

「うん」

 

 詩乃に場所を聞きながら安全運転で制限速度ギリギリまで出して詩乃の家に向かう。この時代、速度オーバーは出来ないように管理されているので危険は少ない。なので無事に詩乃を家に送り届けた。

 

「ありがとう」

「別にこれくらいはいいよ。それじゃあ」

「うん、また明日学校で……あっ、クリーニング……」

 

 詩乃が言い終わる前にさっさと逃げる。それから学校でもよく詩乃と一緒に居て話すようになった。そして、仲良くなった俺は詩乃の事情も聞いて色々と手を尽くす事にした。でも、それには時間がかかる。そして一つのリハビリの手段として2025年4月にザスカーより発売されたGun Gale Online(ガンゲイル・オンライン)というゲームを一緒に始める事になった。詩乃から誘われた時には凄く驚いたけどね。どうやら、新川っていう人に誘われたそうだ。もちろん、俺も暇なのでガンゲイル・オンライン、GGOを始める事にした。でも、残念ながら詩乃が始める時には遠出の仕事が入っていて時間が合わなかった。なので、三日ほど遅れて詩乃と待ち合わせしてからGGOにログインした。

 

 

 

 

 



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2話

やっちゃった。シノンのへカートⅡの詳しい入手場所ってどこに載ってました?
ダンジョンの下に落ちて狙撃ポイントを見つけたとしか書いてませんでしか?

修正


 2025年4月、ガンゲイル・オンラインに3日遅れてログインした俺はキャラクター作成をする事となった。遅れた原因は仕事の過密スケジュールだが、お金が欲しかったので仕方ない。目的はちょっと大きな買い物をする為だ。そして、そっちは問題なく弁護士を通して購入出来た。

 

『ようこそ、Gun Gale Onlineへ。まずはキャラクターの名前を作成してください』

 

 名前はそのままキリトにしておく。取られてないみたいで、無事に登録できた。

 

『次にクレジットカードと口座の登録をさせて頂く事ができます。如何いたしますか?』

 

 Yes./No.と選択肢が出てきたのでクレジットカードと口座の登録をする。このゲームは日本で稼働しているVRMMORPGで唯一リアルマネートレーディングが可能であり、これによって生計を立てる事もできるとの事だ。電子マネー還元レートは100クレジット=1円でクレジットがこのゲームの通貨単位だ。

 このガンゲイル・オンラインは最終戦争後の荒れ果てた遠い未来の地球が舞台で、剣と魔法ではなく銃火器による銃撃戦がメインとなっており、プレイヤーは筋力(STR)、敏捷力(AGI)、耐久力(VIT)、器用度(DEX)などの6つのステータスと数百種類のスキルを自由に選択・上昇させて、自分だけの能力構成(ビルド)を構成していくのだ。このステータスはあくまでも補助機能であり、元の身体能力……反射神経によってはトランザムとかほざく事もできる。脳量子波とか。ALOでキリトが異常な速度を出した理由だったりするそうだ。いや、詳しくは知らないが。

 ガンゲイル・オンラインの説明に戻るが、このゲーム内に登場する銃器は大きく分けて実弾銃と光学銃の2つがあり、双方にメリット・デメリットがある。実弾銃は現実の銃器をモデルとしている為、マニアも多くいるそうだ。また、ゲーム的な面白さを盛り込むため、銃撃者には自身が発射する弾丸の着弾予測円(バレット・サークル)が緑色の円として、被銃撃者には自身を狙う弾丸の弾道予測線《バレット・ライン》が赤い輝線として視認できるようになっていて、ゲームを初心者でもやりやすくしている。

 

『アバターを自動生成します。その為に必要なデータを得る為、現実の身体をスキャンします。よろしいでしょうか?』

「了解」

『スキャンを開始します。身体を指示に従って触れてください』

 

 指示通りに身体の至る所を触れる。股間まで触れさせられたのには驚いたが、これが一番性別を確定させるのにあっているのだろう。

 

『スキャンが完了しました。こちらのアバターが貴方となります。なお、再度作成も可能ですが、課金アイテムが必要となります』

 

 現実の俺の姿が映し出されたが、どう見ても女の子にも見える。いや、男性としても見えなくはない。かろうじて。まあ、構わないんだけどね。とりあえず瞳の色を黒っぽいのから紫色に強くなったくらいしか変化がない。ここまで神様の修正力が効いているのか。流石は神様印の容姿だ。

 

『アバターの外見をデコレーションするアタッチメントなどは課金のもございます。また、強化アイテムも販売しております』

 

 見てみるとアバターのガチャガチャや、武器のガチャガチャなどがある。武器を決めるのにこれに任せて見るのはいいかもしれない。試しに10回ほど回してみると光剣とデザートイーグル.50AE、弾薬セット×10が3つ、回復薬セット×10が3つ、プレゼントボックスが2つだった。とりあえず、画像で見たキリトはこっちでも剣を使ってたし俺も使おうかな。反射神経なら負けてるとは思わないし。今の俺は銃弾雨ですら避けれる。銃からアサルトライフルに変えて数を増やしたりしてるしね。

 

「そういえば他の課金アイテムに何があるんだろ?」

『こちらをご参照ください』

 

 出てきたページをみると色々と便利グッツがある。とりあえずアイテムストレージを30万クレジットで10枠と1枠の容量限界が増やせる。最大強化45回で現在持ってる枠が50だから最大強化すると500枠になる。他にも最大強化すると1枠の重量制限がなくなるみたいだ。まあ、1枠99個までという制限はあるんだが。ちなみに30万クレジットは3千円だ。13万5千円で最大強化できる。

 

「ヒャッハー!」

 

 連打して最大強化してしまう。次に一ヶ月間の経験値、ドロップアップの1万円コースに入って、パーティーにも恩恵を与える強化ブートパックなる5万円のコースに入る。これと蘇生アイテムを何個か購入してページを閉じた。

 

「詩乃に怒られそうだな~まあ、その前に母さんはともかく直葉にバレたら五月蝿いか」

 

 ようやく次へのページを押すとスキルの選択とステータスの割り振りを決めるページになった。現状でのスキル枠は二つなので体術と腕力強化を取る。なぜならこのままだデザートイーグルが持てないからさ。技術は補正がなくてもどうにかする。敏捷は少しは欲しいので敏捷に振っておく。体力は当たらなければどうという事はないという事でとりあえず振らない。ちなみにステータスは敏捷に特化させ、スキルは腕力強化だ。これでデザートイーグルは問題なく装備できる。最悪課金だけど振り直し可能なアイテムが一週間だけ特別に売っているのでこれを買えばいい。

 

『全ての設定が終了しました。これよりSBCグロッケンへと転送します。よろしいですか?』

「いいよ」

『では、転送します。どうぞ、ガンゲイル・オンラインの世界をお楽しみください』

 

 身体が光に包まれて移動させられる。そして、次の瞬間には空一面が薄く赤みを帯びた黄色に染まっていた。正に黄昏時という感じだ。この世界は最終戦争後の地球という事からそのせいなのかも知れない。そして、眼前に広がるのはGGO世界の中央都市であるSBCグロッケン。メタリックな数々の高層建築郡が存在し、半透明のチューブのような空中回廊がビルとビルの間を繋いでいる。その中を人や車が通っている。ビルとビルの間には他にも広告が流れており、音も大きくまるで洪水のようだ。もちろん、地面は土などではなく金属プレートで舗装されている。

 背後を振り向くと、そちらには初期作成したキャラクターの出現位置になっているのか、ドーム状の大きな建物がある。更に視線をずらすとメインストリートがあり、迷彩服を着ているプレイヤーや軍服を着ているプレイヤー、更にはボディアーマーや防弾ジャケットを着ているプレイヤーが見える。もちろん、俺と同じように初期装備なのか、ラフな格好をした人も居る。

 

「にしても、やっぱ男性が多いね」

 

 恐らく男女比は7対3、下手したら8対2だろう。まあ、それでもやっている人は居るのだけど。それにここは戦って殺し、奪う事を目的としたゲームだ。何も対象は敵性型NPCのエネミーだけじゃない。プレイヤーも敵なのだ。持っている銃は装飾ではなく、純然たる殺戮の道具だ。そう、この華奢ながら凶悪的な力を秘めている身体と同じだ。楽しくなってきた。ようやく暴れられる。ソードアート・オンラインをやる準備は整えて来ている。本当ならあくまでもソードアート・オンラインから始めるつもりだったが、このガンゲイル・オンラインは詩乃に誘われたからやる事にしたんだ。でも、手を抜くつもりはない。全力で楽しむ。

 

「和人?」

 

 そう思っていると、呼ばれたので振り返る。そこにはさらさらと細いペールブルーの髪を無造作に流してショートカットにし、額の両側で結わえた細い房がアクセントになっている女の子が居た。くっきりした眉の下に猫科を思わせる大きな藍色の瞳が輝き、小振りな鼻と色の薄い唇が言葉を発する。

 

「和人よね?」

「そうだよ。詩乃?」

「うん。っと、そうよ。こっちではシノンね」

 

 どうやらこちらでは強気に行こうと思っているみたいだ。確かに女の子がこんな世界で過ごそうと思ったらそっちの方がいいだろう。それよりも問題がある。

 

「……シノ……ン……」

「どうしたの?」

「あっ、いや。なんでもない」

 

 詩乃の、シノンの姿は見覚えがあった。そう、あれは髪の毛が長いキリト、つまり俺の姿の時に横に居た子だ。ただ、マフラーとか装備は違っていて、迷彩柄のジャケットと長い厚手のズボンだ。それぐらいの違いはあれど間違いなく原作キャラだ。でも、それを言うなら俺だって原作キャラではある。まあ、SAOなんてやれてないけどな。それにこの世界で生きて既に十年以上経ってるんだ。俺だってこの世界の存在だし原作なんて知ったこっちゃない。つまり気にする事もない。

 

「それで、和人の名前は? そのままじゃない方がいいって聞いたけど……姿だけじゃなくて名前までそのままなの?」

「え? 瞳の色だけは変えたよ」

「無意味でしょ」

「……ごもっとも。まあ、名前はキリトにしたからそう呼んでくれ」

「わかった。それじゃあ、これからよろしくね」

「ああ。こっちでもフレンド登録するんだよな?」

「そうよ。えっと、こうだったかな……」

 

 たどたどしくシノンが操作して俺に申請を送って来るので申請を受ける。するとフレンドリストにシノンの名前が登録された。あちらも一番上に俺の名前が出ている。ん? なんかおかしい。

 

「確か誘ってくれた人が居るんじゃなかったけ?」

「ええ、いるわよ? それがどうかしたの?」

「いや、フレンドリストに登録されてなかったみたいだし……」

「っ!? と、登録してなかっただけよ。ほら、さっさと行くわよ」

 

 シノンが俺の手を掴んでグイグイと引っ張っていく。色々な人に注目されてるけどいいのかね? まあ、俺は視線に慣れているしどうでもいいけどね。

 

「どこ行くんだ?」

「まずは装備を買いに行くのよ」

「ああ、装備ならあるよ」

「え?」

「課金してガチャガチャ回してみた」

「……そう。何が出たの?」

 

 相変わらず歩きながら質問してくるので素直に答える。

 

「光剣とデザートイーグル.50AE、弾薬セット×10が3つ、回復薬セット×10が3つ、プレゼントボックスが2つかな、光剣とデザートイーグルを武器にするつもりだよ」

「結構高いのが出たわね」

「まあね。あっ、そうだ。これプレゼントするよ」

 

 アイテムストレージからプレゼントボックスを取り出してシノンに渡す。

 

「え? 悪いからいいわよ。それに和人……キリトには色々と世話になってるし……」

「いいからいいから。それじゃあ、材料費だすから今度お弁当作ってきてよ。母さんは仕事で忙しくて作れないし、俺も作る気ないし」

「……まあ、それぐらいならいいわよ。でも、味や種類の保証はしないわよ」

「わかってるよ。濃硫酸45ccとか硝酸カリウムとかクロロ酢酸とか入れなかったら大丈夫だ」

「何それ?」

「いや、残念な事にそんなのを料理に入れる奴がいてな……」

「有り得ないわよ。王水になるじゃない。そもそもどうやってそんなの手に入れるの?」

「だよな……まあ、普通は有り得ないよな」

「そうね。でも、望むなら使ってあげようか? もちろん、食べて貰うけど」

「遠慮するよ」

 

 片手を上げて降参を知らせる。そもそも王水は酸化力が非常に強く、王水との反応で生じた金属化合物はその金属の最高酸化数なので通常の酸では溶けない金や白金などの貴金属の溶解に使うものなのだ。

 

「っと、ここね。ここなら防具も売ってる大型マーケット……っ」

 

 慌ててシノンが手を離すと、前を向いてスタスタと歩いていく。

 

「おーい」

「ほら、早く行くわよ」

「了解」

 

 走って並んだ時に見えたシノンの顔は少し赤くなっていた。どうやら、今頃気が付いたみたいだ。

 

 店内に入ると、様々な光が乱舞し、喧騒が聞こえてくる。それはテーマパークのような感じすらする。しかも店員のNPCが露出の多い服を着た美人でその手に握られているのが黒光りする銃だったり、サブマシンガンとかなのだ。しかもそれを笑顔で売りさばいている。

 

「なんというか……凄いな」

「そうよね。私も初めて来た時には驚いたわ」

「それとここは初心者向け?」

 

 俺が着ている服と似たような物を着ている人が多い。俺が着ているのはオレンジ色のカジュアルウェアの奴だが、結構似合っていていい感じだ。

 

「防具って要るのか?」

「いや、要るに決まってるでしょ……せめて防弾ジャケットとか防刃のアンダーウェアとか」

「それもそうだな」

「私が言うのもなんだけど不安ね……」

 

 とりあえずアンダーウェアを購入しにいく。千クレジットしかないので安物を買っておく。他にも服をシノンと一緒に買っていく。

 

 

 20分ほどで銃弾や通信用のヘッドセットなどの買い物が終了して、中にある部屋で着替えて来た。見た目は変わっていないけど防御力は確かに増えた。それにガンベルトとホルスターを買ったのでデザートイーグル(黒色)と光剣を設置しておいた。弾薬はセットで3種類まで選べる奴だったので50口径用の50.AE弾を選択して120発×10が3つで合計3600発貰えた。これらはアイテムストレージに入れて置いた。残り2種類が問題だ。

 

「シノンは銃って何を使うんだ?」

「その……ハンドガンはまだ無理だったから、アサルトライフルとスナイパーライフルを使ってる」

 

 ちょっと言いづらそうにしながらも答えてくれた。

 

「そっか。あっ、プレゼント開けてみようか」

「そうね」

「さて、なっにが出るかな~」

 

 俺が開けると中からアバターアイテムの髪留めが出てきた。左右に取り付けるタイプみたいだ。

 

「うっ、嘘……」

「どうした?」

「こんなの出ちゃった」

 

 シノンが出したのは1165mmもある軍用のスナイパーライフル。名前を確認してみると、Heckler&Koch MSG90という名前が出ていた。説明では軍用スナイパーライフルとして開発された経緯からセミ・オートマティックにもかかわらず、高い命中精度と耐久機能性を両立しており、完成度が非常に高い品物だと書かれている。実際に命中補正や威力補正もかなり高い物になっている。

 

「ならこれあげるよ」

「ライフル弾じゃない。というか、悪いわよ」

 

 ライフルの弾を大量に渡してやった。あとは便利そうなアサルトライフル辺りにしておいた。容量最大のお陰で空きには余裕があるしな。

 

「いいの?」

「どうせ使わないし、シノンの援護射撃に期待するから。ああ、そうだ。アサルトライフル頂戴。それでいいよ」

「わかった。じゃあ、護衛と前衛はよろしくね」

 

 シノンがアサルトライフルを渡してくる。弾も貰った。こっちのはH&K MSG90用のにして渡してあるから問題ない。ライフルの方はまだH&K MSG90が持てないのでそっちで練習するみたいだ。

 

「了解。じゃあ、これからどうする?」

「早速ミッションに行ってみる?」

「それいいね。戦いたくてウズウズしてたよ。対人戦とか、中学生以来だし」

「何してたの?」

「秘密」

「そう。別にいいけどね」

「まあ、簡単に言えば喧嘩売られて買っただけだよ。一体多数だったけど歯応えなくて結局、こちらから仕掛ける事はやらなかったけどね」

「当たり前よ。っと、こっちよ」

「うん」

 

 案内された所は酒場で、ここで依頼を受けるみたいだ。しかし、色んなプレイヤーから注目されてるな。喧嘩売って来ないかな~?

 

「あ、パーティー組んどかないと……こうだったかな。あれ?」

「こうじゃない?」

 

 俺はシノンの横から画面を覗き込んで公式サイトに書いてあった方法をシノンに教えていく。

 

「あ、ありがと(近い)」

 

 またシノンが赤くなってる。まあ、ちょっと近すぎたか。下手したらハラスメント警告が……って出てやがるな。

 

「押してみよっか」

「やめて」

「しょうがないな。まあ、弾も貰ったし許してあげる」

「よかったよ」

 

 シノンがNoを押してくれたので警告が消えた。もちろん、パーティーの方はちゃんと組んだ。

 

「じゃあ、簡単な討伐ミッションを受けましょうか」

「そうだね」

「すいません、ミッションを受けたいんだけど」

「ミッションですね。貴方達に依頼できるのはこちらにある物ですね」

 

 シノンがカウンターに居るお姉さんに話しかけて、カウンターの上に置かれた装置に指を乗せると直ぐにピッ、という音が聞こえて仮想スクリーンで依頼が提示された。どうやら、指紋認証で本人のデータを読み込む演出がされているようだ。

 

「どれにする?」

「どんなのがあるんだ?」

「簡単なのはお使いね。もちろん討伐系もあるけど」

「討伐かな。戦いたいし」

「じゃあ、討伐系ね。メタルドッグとメタルゴブリンね」

「なにその名前」

「全身鉄で覆われているエネミーよ。基本的にそのままつけられてるみたいね。あとフィールドに蜘蛛のエネミーも出るから」

「それはそれは、面白そうだね」

「そうね。出会った時が楽しみね」

「ミッションを受領しました。討伐数は最低20体です」

 

 シノンがミッションを受けたので俺の方にも表示された。しかし、どうなるかね。全身が鉄なら実弾はあんまり効かなさそうだ。

 

「あっ、お昼ご飯の時間ね。どうする?」

「一旦落ちて待ち合わせかな。そういえばこのゲームってお腹減るんだよね」

「そうね。何か食べた方がいいかな」

「じゃあ、どっか店でも入ろうか」

「じゃあ、奢るね」

「む」

「ここでは私の方がお金を持ってるんだから大人しく奢られてよ」

「そっか。わかったよ」

「じゃあ、こっちよ」

 

 それからシノンに案内されたお店で一緒に食事をした。奢って貰ったし、丁度いいので決行する。

 

「シノン、動かないでね」

「何? って、何するのよ!」

 

 シノンの顔を掴かもうとしたら弾かれた。ハラスメントコードは鉄壁か。パーティーなら大丈夫だと思ったんだけどね。

 

「これをお礼にあげようと思ってね」

「髪飾り……?」

「プレゼントボックスで出たけど俺は男だし使わないからシノンにプレゼント。自分で付けてシノンの反応を楽しみたかったんだけどな~」

「アンタは……まあいいや。ありがたく貰っとく。どうせ引かないだろうし」

「そうだよ。これは奢って貰ったお礼なんだからね」

 

 シノンが受け取ってくれて付けてくれた。

 

「うん、似合ってて可愛いよ」

「っ!? 五月蝿いっ! ほら、ログアウトするわよ」

「OK。集合は1時間後でいい?」

「ええ。私は昨日の晩御飯のが残ってるからそれでいいけど、そっちは?」

「こっちは当番制で今日は妹だから大丈夫。だと思いたいけど最悪ご飯はあったはずだから塩かけて適当な具材を突っ込んでおにぎりにするから平気だよ」

「食生活が不安になるわね」

「殆ど冷凍食品だしね。まあ、直葉も作れるけど部活があるし、俺は仕事があったりしたからね。当分仕事は無いけど」

「レトルトばかりじゃ栄養面が偏るじゃない」

「むしろカロリーメイトとサプリメントなどで補強」

「はぁ……これはちゃんと作ってあげないと駄目ね」

「いや、半分くらい冗談で言ったから本気にならなくても……」

「残したら……」

「残したら?」

「撃ち抜くから」

「Yes,ma'am」

 

 H&K MSG90をこれ見よがしに構えられたらどうしようもないっての。

 

「まあ、いいや。可愛い女の子の手料理が食べられるんだから文句は言わないし、ちゃんと完食するよ」

「ほら、ログアウトするわよ」

「わかった。じゃあ、また後で」

「ええ」

 

 真っ赤になってそっぽを向きながらログアウトの操作をしたシノンに遅れながら俺もログアウト操作をして現実に戻る。

 

 

 ベットから起き上がって、アミュスフィアを頭から外して軽く身体を動かしてから部屋を出て下に降りる。

 

「お、お兄ちゃん」

「直葉、ご飯何?」

「これ」

「……これが女子力の違いか」

「なっ、何よ!」

「いや、別に」

 

 テーブルの上にあるコンビニで買われてサンドイッチの封を開けて適当に食べていく。

 

「そういえばお兄ちゃん。アミュスフィアが届いてたけどVRMMOやってるの?」

「ああ、やりだしたよ。確か直葉もやってるんだったよな?」

「うん。ALO……ALfheim Online(アルヴヘイム・オンライン)って奴なんだけど、妖精になって実際に空を飛べる奴なんだよ。まあ、運営の人が人体実験とかして停止しちゃったんだけど」

「知ってる。あと、直葉はまたやりたい?」

 

 テレビを付けると俺が出ているコマーシャルが流れていた。ついでにモデルの仲間や母さんの知り合いなどで作った世界初VR作成の映画の宣伝もしてある。ネタは色々とある。fate/zeroとFate/stay nightの両方を作成して実際にネットで流した視聴1回1500円、ダウンロード15000円で販売したらバカ売れした。この他にもノワールとか、ファントムなども映画化させてこの世界に送り出してやった。SAOが売り出される事はわかっていたし、ならば買うしかないだろう。

 

「そりゃやりたいよ。やっぱり空を飛ぶのは楽しいし、気持ちいいから」

「そっか。じゃあ、もうすぐゲームが再開するから楽しみにしてるといいよ」

「どっ、どういう事なの!?」

「やっ、あれってSAOのコピーなんだよ。それでやりたかったから……買っちゃった」

「え? まさか、サーバーごと?」

「うん、サーバー丸ごと全部。殆ど無料だったしね。いや、色々とやった。なんなら直ぐにプレイできるけど」

「本当? って、まさか客室埋めてる荷物って!?」

「うん。組まないといけないから専用の人を呼ばないといけない。まあ、やっても他の人は居ないけどね。運営の人を雇うの今、丁度始めたばかりだし」

 

 俺が指さしたテレビには丁度その話が出ていた。テレビの中の俺はアルヴヘイム・オンラインを購入した事を告げて運営の人を募集する事を伝えている。

 

『なぜこれを購入なされたんですか?』

『映画をする為にもありますが、作成メンバーの中にSAOで家族を亡くした方がその場所に行ってお参りをしたいそうなんですよ。それにどんな場所なのかはちゃんと公開したいと思いますし、何より出た利益を遺族の方に還元しようという話になりました。あのSAOははっきり言って完成度がかなり高いですから、使える物は使わせて頂き、遺族と被害者の方の支援に当てさせて頂こうかと思います』

 

 それからGGOをプレイする事や、その他の仕事など他の人と話していく。

 

「あっちとこっちとで言ってる事全然違うよ、お兄ちゃん!」

「はっ、内と外が違うのなんてよくある事だぞ、妹よ。良かったな、これで一つ賢くなれたぞ」

「この兄は……まあいいか。お兄ちゃんはお兄ちゃんだし」

「ちなみに今すぐやるならお金を出して業者を呼ぶように」

「やっぱり……大人しく待ってる」

「よろしい」

 

 まあ、これから次第だけどね。とりあえず広告塔は俺がするし、他の人達がちゃんと準備をしてくれるはずだ。ああ、先に映画を撮らないといけないな。いっそ銃も実装してしまうか……バランス調整が面倒だしなしか。とりあえず、今はGGOを楽しもうか。

 

 

 

 

 

 

 

 



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3話

お気に入りの登録と評価ありがとうございます。
ALOに銃はなしでやっぱり原作通りにします。
時間軸はどうやら、ネット時代のサイトを参照していたようで、10修正させて貰いました。
そして、なぜこうなった。


 昼食を終えてからシャワーを浴びて髪の毛を乾かす。この容姿になってから色々と得な事はあったけど、やっぱり色々と手入れが面倒だ。まあ、特典だからか、太らないし、髪の毛とかろくな手入れをしなくても綺麗なんだが、手入れをした方が気分が良くなるので手入れしている。髪の毛が乾いたら自室に戻って、トレーニングウェアに着替えてベッドに入ってアミュスフィアを頭に付ける。

 

「リンク、スタート」

 

 寝転がってログインワードを唱える。すると音声認識に従って。アミュスフィアが入れられているソフトであるGGOを起動する。[link start]の文字と共に視界の光が全て消えて光が戻る頃には喧騒が聞こえて来て部屋とは違う空間に居る事がはっきりとわかるようになった。改めて目を瞑ってもう一度開けるとそこはGGOでシノンと共に料理を食べたボックス席だった。

 

「ふむ。シノンはまだか……えっと、これは時間かな」

 

 視界の右下にこのボックス席の残り時間が表示されているみたいで、注文もできるみたいだった。とりあえず、コーヒーを頼んでシノンを待つことにする。

 俺のコーヒーとシノン用の紅茶を10個ずつ注文しておく。

 注文をしたら次はデザートイーグルを取り出してみる。黒光りする大きめの拳銃がテーブルの上に出現する。

 

「どんな銃か詳しくは知らないんだよな……」

 

 この銃はアメリカ合衆国ミネソタ州のミネアポリスにあるM.R.I.リミテッド社が発案し、イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ社とマグナムリサーチ社が生産している自動拳銃で回転式拳銃に使用されるマグナム弾をオートマチック拳銃で使う為に作られた物らしい。使用弾薬である.50AE弾の弾頭径は0.54インチとなっていて、S&W M500の使用弾薬の弾頭径0.492インチを上回り、拳銃用弾薬としては最大となるそうだ。威力はNIJ規格レベルIIのボディアーマーを貫通する程度の能力を持っているそうだ。つまり、軍の防弾チョッキ貫通するレベルで、鉄板も厚さによっては貫通するそうだ。使用弾薬は弾頭重量325グレイン、初活力約1400ft-lbsの.50Action-Express弾で装弾数が7発。全長269mm、重量2053g、銃口初速460m/s、有効射程80mとの事だ。しばらくは片手では撃てないだろう。

 光剣は簡単に言えばライトセーバーやレーザーブレードとか言える奴だ。装備自体は軽くて扱い易い。これも映画で使えそうな武器ではある。スターウォーズとかね。軽く席を立ち上がって振ってみるけど問題なく使える。袖に潜ませるとか出来たら良さそうだな。

 そんな事を考えていると注文の品物が運ばれて来た。どれもボトルに入った奴なのでそのままアイテムストレージに仕舞って二つだけ出して待っている。するとテーブルの反対側にシノンが目を瞑った状態で出現してきた。俺はテーブルに両肘を付いて掌で顎を持ちながらシノンの可愛らしい整った顔をじーと目詰める。

 

「……っ!?」

 

 目を開いてこっちらと目線を合わせたシノンは一瞬で顔を真っ赤にして、直ぐにそっぽを向いて紅茶を取って飲み出していく。それをニコニコしながら見ていると、時折カップから目を上げては逸らすを繰り返して飲んでいく。

 

「ふふ」

「何よ」

 

 コーヒーを飲みながらそんなシノンを見ていると笑えてくる、

 

「いや、可愛いなって思ってね」

「五月蝿い、バカ。ほら、行く……熱っ」

 

 顔を赤くしながら一気に紅茶を飲み干して火傷したようなのでお水をあげる。

 

「あっ、ありがとう……って、ほら、さっさと行くわよ」

「はいはい」

「はいは一回よ。まったく……」

 

 ブツブツと文句を言ってくるが、なんだか楽しそうではあるのでよしとしよう。とりあえず、シノンと共に店を出て少し歩く。

 

「狩場まであれで移動する?」

「ああ、あれね」

 

 俺が指さした方向にはレンタルバギーのお店。そこには前に一つ、後ろに二つのタイヤが付いた3輪バギーがあった。

 

「運転できるの? あれって難しいらしいわよ。マニュアル操作らしいし」

「まあ、2025年にもなってマニュアルシフトの旧式バイクを運転できる人なんてなかなか居ないからね。でもさ、シノンはリアルで一回乗ってるじゃないか」

「え? あれってマニュアルなの?」

「そうだよ。まあ、姿勢制御とか速度制限のシステムの搭載が義務付けられてるから完全なマニュアルじゃないけどね」

「そうなんだ……あっ、今度乗せてよ。気持ち良かったから」

「じゃあ、ツーリングでも今度行こうか」

「いいわね。まあ、こっちでも似たような事をするんだけど」

「敵性体がうようよしている場所でツーリングか、面白そうだな」

「そこでそう答える辺り、キリトは普通じゃないわよね」

「まあね」

 

 とりあえず、2人乗りでそれなりに大きな奴を選ぶ。そこまでお金が残ってる訳ではないけど、クレジットカードと連結させてるから足りなかったら変換される。一応確認はあるみたいだけどね。

 

「じゃあ、運転するからナビゲーターよろしく」

「自信はないけどね」

 

 お互いに連絡用の通信ヘッドセットを取り付けてバギーに乗り込む。乗り込んでからメーターパネルの下部にある支払いの認証システムに手を置くとプランが出て来たので指定して料金を引き落とす。

 

「じゃあ、行こうか」

「ええ。まずは左に出て、突き当たりを右。そこでメインストリートに出るから後は真っ直ぐ進めば出られる」

「了解」

 

 3輪バギーを発進させて言われた通りの道を進んでいく。だんだんとギアを変えて速度を上げていく。速度制限はこの世界では無いのか、100キロを超えても問題なく走れる。NPCが運転している車やバスなどを抜かしていく。

 

『あははは、いいわね。やっぱりこれ楽しい! ねぇ、もっと飛ばしてよ!』

『了解』

 

 シノンの要望に従って時速200キロを超えて運転する。更に加速を続けて300キロを超え出した。この辺になると流石にそろそろ運転するのもきつくなってくる。操作はシビアになってよりテクニックがモノを言う。そんな感じでカッ飛ばしていると目の前に車が沢山現れた。それは道を封鎖しているような感じだ。

 

『あれって……警備隊?』

『ちっ、出し過ぎたか。シノン、警備隊と揉め事を起こしてもペナルティってあった?』

『捕まったら罰金ね。逃げ切ると逆に称号が貰えたりするみたいだけど』

『称号?』

『ええ。ボーナスが入ったり色々と面白い物らしいわ』

『なるほど……』

『ちょっと、まさか……』

『シノン、ちゃんと掴まってろよ!』

『っ!?』

 

 シノンが慌てて俺に抱きついてくる。

 

「そこのバギー、止まりなさい!」

『止まれと言われて止まる馬鹿がどこに居るか!』

『いや、普通は止まるから』

 

 運転しながら検問に突撃する。腰からデザートイーグルを取り出して、一瞬だけ手を離して前方にある微妙に光ってる看板を狙撃して叩き落とす。その看板は相手の車にぶつかって斜めにかかる。その瞬間に看板の上を走って検問を突破する。破壊可能オブジェクトは少し光るみたいで、配置からして運営はカーチェイスしようぜって言って来ている。ならばそれに乗ってやるべきだ。だが、忘れてはいけないのが、ここがGGOだという事だ。

 

『ちょっ、撃ってきたわよ!』

『やっぱりっ!』

 

 身体を傾けて他の車両を盾にして銃撃を躱す。マシンガンやミサイルまで放ってきやがる。直ぐに上空にプロペラ音がしてくる。ミラーで確認すると戦闘ヘリまでいた。とんでもない物を持ち出してきやがった。それに加えてどんどんサイレンを鳴らす車両がやってくる。

 

『ちっ』

 

 デザートイーグルを仕舞って、光剣を取り出しながらドリフトターンを決めて再加速で相手に突撃する。バックミラーで確認していた隙間に突撃しながら片手で光剣を差し出して装甲車をタイヤから斜めに切り上げる。それと同時にアイテムストレージから取り出した弾薬ケースを投げて駆け抜ける。背後で爆発を起こして後続の車両などを巻き込んで盛大に燃え上がる。こっちは脇道にそれて別の道を進む。

 

『やりすぎじゃない?』

『全力を尽くすだけだ』

『はぁ……まあ、付き合ってあげるわ。私のせいでもあるからね。じゃあ、ちょっとあそこで止めてよ』

『わかった』

 

 停車するとシノンが降りる。そして、少し待つとプロペラ音が聞こえて来る。そして、ビルとビルの間から戦闘ヘリがこちらにやってきた。そこに銃声が響く。シノンが発射したライフル弾が一撃目で戦闘ヘリの武器を破壊した。

 

『ちっ、外れた』

『当たったみたいだけど?』

『狙ったのはプロペラよ』

『どんまい』

 

 直ぐにシノンが乗り込んで来たので発進して道を進んでいく。

 

『次は右よ』

『了解』

 

 右に回るとそちらにも戦闘ヘリが居て、早速とばかりにミサイルを放ってきた。弾道予測線(バレット・ライン)が出たのでそれに合わせてデザートイーグルを発砲してアクセル全開で突撃する。爆発はもう片方のミサイルを巻き込んで更に範囲を広げる。こちらは爆風を受けて更に加速する。なんとかコントロールして体勢を立て直す。背後では更に爆発音が響いてきた。

 

『ヘリが落ちたわね。爆炎で見えなかったみたい』

『儲けたな』

 

 突き進んでいくとどんどん車両がこちらに突撃してくる。挟んで止めるつもりのようだが、それらを光剣で切り裂いたり、速度調節して避ける。

 

『あそこが外に向かうゴールよ』

『じゃあ、ラストスパートだな』

 

 しかし、あちらは多数の兵士が銃を構えて巨大な門を締めようとしている。つまり、時間制限が存在する。これはまずい。

 

『このまま進んで。私が狙撃する』

 

 シノンは俺の肩にライフルの砲身を乗せて撃ちだした。五月蝿いけど仕方ない。勝つためだ。背後から追って来る奴等は銃弾をばら撒いて対処する。弾道予測線(バレット・ライン)を予測して回避を事前に行なって銃弾の雨を避ける。同時に破壊できるオブジェクトを落として盾にしたりする。そして、シノンが相手の車を爆発させて道を開いてくれた。俺はそこにバギーを突っ込ませる。ギリギリ、門が締まる前に通過できたが、代償は大きかった。

 

『盛大に弾薬ばら撒いたけど、どうするの?』

『今から狩りなのにね』

 

 少し荒野となった世界を走り、バギーが自動的に停車する。ちょうどいいので休憩するとしようか。遠くにあるブロッケンの街はまだ門が締まっている。そして、ポーンというシステム音が鳴ってシステムメッセージが表示された。

 

【おめでとうございます。プレイヤー:キリトは称号:ドライバーを習得しました。プレイヤー:シノンは称号:ナビゲイターを習得しました。シークレットミッション達成報酬をプレゼント致します。アイテムストレージをご確認ください】

 

「なんだろうね」

「さあ?」

 

 俺達はヘッドセットを外してアイテムストレージを確認してみる。すると色々と入っていた。それはもう、沢山。

 

「シノン……」

「潰した奴のドロップよね、これ……」

 

 4連ミサイルポッドとかまである。これは戦闘ヘリの奴だな。他にも追加装甲とか色々とあるが、報酬として入っていたのはもっと凄いのだった。

 

「私はナビゲーションツールね。現在位置とかマップの検索とかに使えるみたい」

「俺のは車両の引き換え権だったな」

「じゃあ、自分のを持てるって事?」

「そうなるかな。それも車種とかも選べるし改造もできる。どれがいいかな?」

「二人乗りできて荷物も乗せられる大型の奴かしら」

「それじゃあ、軍用トライクでいいか。これを改造していけばいいし、武器とかも積める」

 

 ブラック☆ロックシューターで出てきたバイクを再現しよう。戦闘用大型トライク、ふふふ。

 

「改造までできるんだったらいいんじゃない?」

「まあ、改造するとなるとガレージを借りないといけないんだけどね」

「拠点ね。じゃあ、お金を稼がないといけないわね」

「だね。じゃあ、狩りをしようか」

「その前に重いから厳選しないと……」

「こっちはまだ入るから渡して」

「わかった。でも、なんでそんなに入るの?」

「容量MAXですが、何か?」

「……」

 

 呆れられたようで、どんどん押し付けられる。まあ、全部入っても余裕はまだある。

 

「そういえばシノンはスキルって何を取ってるの?」

「射撃スキルと狙撃スキル。それに索敵スキルね」

「三日もあれば三つ目のスキルも手に入るか」

「そうね。っと、特殊フィールドが終わるみたい」

「おお」

 

 視界がぶれて、少しすると荒野が映し出される。先程までと違うのは敵と戦っているプレイヤーの姿が見えたりする事だ。どうやらイベント扱いの特別フィールドだったんだろう。傍らにはレンタルしてあるバギーもちゃんとある。

 

「このゲームってPK(プレイヤー・キル)って有りだよね?」

「もちろん、襲って来る場合があるから後ろに注意(チェック・シックス)よ」

「OKOK。じゃあ、索敵は任せていい?」

「ええ。このナビゲーションツールに索敵スキルを合わせれられるみたいだし、結構簡単ね。ナビゲーターの称号で補正も掛かってるみたいだし」

「それは楽しみだ」

 

 マガジンを入れ替えてデザートイーグルを仕舞う。光剣も確認してこちらも定位置に仕舞っておく。

 

「じゃあ、まずはメタルラビットから行きましょうか」

「了解。移動はどうする?」

「バギーで大丈夫よ。普通は音に気づいて……」

「あ、それは駄目だね。他のプレイヤーにも気づかれる」

「ええ。ここから歩きね」

「じゃあ、これは返すか……あっ、レンタル時間中はアイテムストレージに入れられるんだ。便利だな」

 

 確認すると、アイテムストレージに仕舞うというコマンドがあったのでそれを使って仕舞うと、4枠も取られた。流石は車両という事か。

 

「さて、行こうか」

「こっちよ」

 

 シノンの案内に従って移動すると、全身金属で覆われた角の……いや、正確に言おう。ドリルの生えた鉄製のウサギが居た。関節部はネジというか、ゾイドみたいな感じに丸い物になっている。

 

「あれがメタルラビットね。攻撃方法はドリルを使った体当たりと蹴りね。それで、狙撃する?」

「いや、俺がやる」

「じゃあ頑張って」

「ああ」

 

 デザートイーグルを構えてしっかりと頭部を狙う。引き金を引いて弾丸を発射する。マズルフラッシュが起き、弾丸は狙った場所ではなく首に命中して首が弾け飛んですぐさま消滅する。

 

「……」

「凄い威力ね。まあ50口径なら納得だけど」

「いや、それ以前に狙った場所じゃなかった。これはちゃんと調整しないと駄目か。少し試し撃ちする」

「じゃあ、近くで狙撃してるから、終わったら呼んで」

「うん」

 

 シノンは少し高くなった岩によじ登って寝そべったようだ。少しするとそこから発砲音が聞こえて来る。するとこちらに経験値が入ってきた。さっきのミッションで経験値が結構入ってて、レベルも上げられる状態になっているので筋力をあげる。

 

「さてと、着弾予測円(バレット・サークル)に頼らずに撃てるようになりたいな」

 

 ゲームの設定上、弾道予測線(バレット・ライン)はどうあがいても狙撃以外は出るらしい。だが、命中に関してはある程度腕でどうにかできるはずだ。SAOでも実際にリアルでの経験者はシステム外スキルみたいに力を発揮していた。なら、根幹が同じGGOでも可能なはずだ。だから、訓練する。

 実際、20発ちょっと撃つと大体狙った場所に瞬時にあてられるようになった。問題は動かれた時だが、これは練習するしかない。

 

「シノン、もういいよ」

「そう? じゃあ、移動し……キリト」

「どうしたの?」

「客よ。それも招かれざるね」

「了解」

 

 俺はシノンの言葉に獰猛に笑ってしまう。ああ、楽しくなってきたな。どうやって戦おうか。やっぱり次は剣だな。それに近距離でデザートイーグルを使うのもいい。どっかのラノベで拳銃は打撃武器とか言ってたしね。

 

 

 

 

 

 



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4話

 

 

 

 

 招かれざる客が来たので、俺はシノンと分かれてそちらに向かう。シノンの方は隠れて狙撃ポイントに移動している。シノンのナビゲーションツールのお陰で敵の接近にも気づけたから配置の先取りなんて楽勝だ。だが、警戒しなければならないのがスナイパーだ。精神を研ぎ澄まして集中する。

 

「おっ、カワイ子ちゃんが一人だぜ」

「もう一人居たはずだよな」

「ああ。逃げたか……いや、狙撃に警戒しておいた方がいいな」

 

 3人組が荒野を歩いて来る。相手の武装は両手に拳銃とアサルトライフル。最後の一人が大きなボディアーマーに身を包み、盾を持っている。その盾にも銃口が取り付けてあり、攻撃もできるようだ。というか、誰がカワイ子ちゃんだ、誰が。いや、この容姿で言っても意味ないんだろうけどさ。

 

「というかこの初心者、どっかで見た事ないか?」

「確かに……」

 

 相手が何やら考え込んでる間に速攻を仕掛ける。予備動作もなく身体を前に傾けるようにして全力で走る。反射神経や反応速度を鍛え、脳から送られる情報量が速度に変換されるって、確かキリトが言ってた気がする。まあ、違うかも知れないが素早く駆け抜けられるのだから問題ない。

 

「おいっ!?」

「ちっ!」

 

 敵が両手の拳銃をこちらに向けてくる。俺は光剣を取り出して俺の身体を貫こうと飛来してくる弾丸が表示される弾道予測線(バレット・ライン)を見極めて身体を捻り、左右に飛んで避ける。

 

「おいおいっ!?」

「化物かよ!」

 

 他の男がアサルトライフルの引き金を引いてくるが、それら数が増えただけで問題ない。現実ではできなくとも、こちらは所詮仮想の身体だ。ならば肉体に縛られる事などない。だが、流石に避けきれない弾丸は光剣で弾いて進む。接近と同時にしゃがんで相手の視界から消える。大男ならば簡単だ。こっちは身長160センチくらいだしな。

 

「ぐっ!?」

 

 タンクの男を回転しながら斜め下から光剣で切り上げると同時に回し蹴りを放ち顎へと命中させる。上体が上を向いた瞬間に光剣を放り投げてデザートイーグルを引き抜いて喉目掛けて連続で引き金を引いていく。発射された弾丸はタンク役の男のヒットポイントを全損させる。最後に消える前に男達の方へと蹴り飛ばした後、走って追いつき、踏み台にして飛び上がる。そして、落ちてきた光剣を持ってアサルトライフルを持っている男の上に着地して光剣を突き刺してもう一人に適当に牽制としてデザートイーグルの弾丸を放つ。

 

「ちくしょう!?」

 

 ハンドガンの男は味方諸共撃ってきた。だから回避しつつそちらを狙う。だが、銃声が聞こえてハンドガンの男のヒットポイントが減る。それと同時に背後から気配がしたので予定を変更して飛び退きながら光剣を口に咥えてデザートイーグルを構える。2丁のハンドガンとアサルトライフルから発射された弾丸は互いの身体に命中するだろうし、俺はさっさとアサルトライフル持った男から殺す事にした。転がりながらデザートイーグルを2発撃って弾切れとなるが、そのまま持った状態でアサルトライフルを持った男の背後に回ってデザートイーグルで頭を殴りつけ、体勢が崩れた所を光剣で追撃する。みるみるうちにヒットポイントが削られてアサルトライフルの男が倒れる。

 

「ひっ!?」

 

 そして、残りの男は逃げ出そうとする。だけど、そこに銃声が響いてヒットポイントが無くなって他の連中と同じように倒れる。

 

『キリトっておかしいね』

『なんだよ?』

『普通は銃弾避けたり、切ったりできないから』

『訓練すればできるって』

『……参考までにどんな?』

『拳銃を設置してランダムに発射される弾丸を避ける。銃口とトリガーをしっかり見てな。速度に慣れればアサルトライフルでも同じ事ができる』

『絶対無理』

『現にできているんだが……』

『はぁ……まあいいや。でも、援護射撃は必要なかったみたいね』

『まあね。でも助かった。ありがとう』

『あっそ』

 

 どことなく嬉しそうな声を出すシノン。それからシノンと合流する。

 

「これからどうする?」

「そうね。バギーって使えるのよね?」

「ああ。ドライバーのお陰か、仕舞えるから契約時間切れか破壊されない限りは大丈夫だ」

 

 シノンが俺の言葉を聞きながら携帯端末を操作していく。

 

「じゃあ、ちょっと遠くにあるエネミーハウスでも倒しに行きましょうか」

「エネミーハウスね」

「遠くだから他のプレイヤーはあまり居ないから」

「そうなのか?」

「ええ。このGGOでの移動手段は今のところ歩きが基本よ。その他には死に戻りでグロッケンとか登録した復活ポイントに移動する方法。最後にバギーとかの乗り物だけど、こっちは実際に現実と同じような運転技術が必要だからあまり運転できる人は居ないわね。だから遠出すると開始してそんなに日が経っていない今なら人はあまりいない」

「じゃあ、そっちを狩りに行くか」

「運転よろしくね」

「任せてよ。代わりにナビゲートよろしく」

「任せて」

 

 アイテムストレージからバギーを取り出して、シノンの指示通りに移動していく。時速300キロで目的地へ向かう俺達を見つけたプレイヤーも居るけれど、追いつかれる事は無いから無視する。そして、斜面を駆け上がった所でシノンの指示に従って停車する。

 

「ここの下に溜まってるみたいよ」

「なるほどね」

 

 俺達はバギーから降りて少し登ってから身体を伏せて先を覗き込む。下り坂の先には大量のメタルラビットとメタルドックが居た。その数ラビットが25体、ドックが68体も居るそうだ。ここはクレーターになっていて、連中は上がってこれないのか知らないがウロウロしているだけだ。

 

「さて、いっちょやっちゃいましょうか」

「数が多いけどどうするの?」

「4連ミサイルポッドの出番だろ。狙わなくてもあたるし」

「そうね」

 

 取り敢えず取り出して担いでみる。重たい。

 

「シノン、支えるの手伝って」

「はいはい」

 

 2人で支えて引き金を引くとミサイルが発射されて下で爆発が起きる。空になったミサイルポッドをアイテムストレージに仕舞って様子をみると、敵さんは生き残った奴から必死にこちらを目指して上がってくる。

 

「近づいてくるのから殺そ」

「そうね。じゃあ、狙撃するから」

「よろしく」

 

 俺もアサルトライフルを取り出して両手で構えて連射する。ミサイルによって少なくないダメージを負ったエネミー達は簡単に死んでいく。中には何体かのメタルラビットがドリルを飛ばして来るが、それは俺が光剣で斬り払って防ぐ。なので、シノンと共に掃討戦を行う簡単な仕事になった。十分ちょっとで処理してから他所に移動して効率的に狩っていく。もちろん休憩も挟んでだが、夕方まで狩りをすると俺のアイテムストレージが一杯になった。ナビゲーションツールで効率的にエネミーを探して、バギーで移動して狩るという方法はかなり良い戦術のようだ。

 

「夜はどうする?」

「ご飯作って食べてから勉強しないといけないし、ちょっと無理かな」

「宿題もあったか。じゃあこのまま解散かな」

「それでお願い」

「わかった。後、明日宿題の答え合わせもしようか」

「ええ、お願いしたいかな」

「了解」

 

 ブロッケンへと戻って、バギーを返却する。それから宿屋に一緒に入ってそれぞれの部屋で別れた。宿題は既に終わっているし、ご飯を食べたら他の仲間達と相談してALOの設置場所とかを相談していく。それも終われば直葉と道場で試合をして、動けなくなるまで直葉を扱いた後に、ランニングに出かけた。

 

 

 

 

 

 



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5話

121件です。ありがとうございます。
出来たら評価もお願いします。
さて、今回から2,3話は多分リアルの話になります。


 

 

 詩乃

 

 

 

 暗闇の中、ある意味聴き慣れた銃声が響く。次に映し出された映像は小さな子供が拳銃を拾って男性を撃ち殺して返り血を浴びている姿。次に病院で警察に閉じ込められてお母さんにあわせてくれずに泣き続ける姿が見える。

 

「くっ……うっ……」

 

 気持ち悪くなり、飛び起きた。呼吸が荒く、全身から冷や汗が流れている。何より嘔吐感を抑えるのも大変だ。

 

「はぁーはぁー」

 

 だんだんと落ち着いて来た。だから、まずはベッドから立ち上がって時刻を確認する。朝6時。学校にいくためには8時に出れば間に合う。

 

「……まずはシャワー……」

 

 怠い身体を起こしながら服を脱いで、シャワーを浴びて汗を流していく。冷たい水で全てを洗い流して身体を覚醒させる。まだ違和感もあるけど、それはしばらくすれば治る。

 

「よし、朝ごはんを作るか。あと、和人の分も作らないと……どうせならちゃんとした物じゃないとね」

 

 身体を拭いて着替えたあと、キッチンで料理をしていく。卵焼き、ソーセージ、レタスにマカロニサラダ、胡瓜の漬物など色々と入れていく。時間をかけただけあって、明らかに何時ものよりも豪勢になっている。

 

「何やってるんだろ……」

 

 自分で見ても明らかに普段のお弁当じゃない。それに量も作りすぎた。一部は朝ごはんにして、残りは晩御飯かな。栄養面は計算したけど量が多くなっておかしくなってる。でも、きっと大丈夫だろう。今日は体育もあるし。

 

「っと、体操服用意してなかった……」

 

 何時もなら寝る前に用意していたのだけれど、昨日はガンゲイル・オンラインと勉強、今日の献立を考えていて時間がなかった。もっと効率的にしないといけない。準備を改めて行なって、最終確認をする。お弁当も鞄とは別の袋に入れる。料理の為に汚さないように着ていた服を脱いで制服に着替える。それが終わったらお婆ちゃん達の家に連絡を入れてから学校に向かう。

 

 

 

 

 和人

 

 

 

 朝、起きてから鍛錬を行う。イメージ空間と現実での鍛錬を終えて食事を食べる。今日は珍しく朝食が用意されている。それもそのはずで、母さんが珍しくいるのだ。

 

「おかえり」

「ただいま」

「お帰りなさい~」

 

 既に直葉が食パンを食べている。俺も軽く汗を流してから制服に着替え、席に座って食べ始める。

 

「今帰って来たばかりだけど、また直ぐでなきゃいけないからお弁当とかはないけどね」

「仕事大変なの?」

「まあねえ。ネットで散蒔かれたSEEDとかいうので、大手のMMORPGを特集しないといけないし、ALOの事も特集しないといけないからね」

「ご苦労様」

「ええ、まったく和人のお陰で大変よ。まあ、別にいいんだけどね。それより、雑誌の表紙を撮るからまた顔貸しなさい」

「女装以外なら構わないよ」

「お兄ちゃんの女装って似合い過ぎて本物か区別付かないんだよねー」

「というか、女の尊厳を踏み躙る場合もあるわよ」

「……というか、時間いいのか? 朝練だよな」

「あっ、やばっ、間に合わないじゃん! お兄ちゃん、バイク出して!」

「別に構わないぞ。ただ、さっさと準備しろよ」

「は~い」

 

 俺も部屋に移動して制服のシャツの上にライダースーツを着て、鞄をリュックに制服の上着と共に入れて、それを持って1階に戻る。1階に戻ると既に直葉が準備していた。

 

「お兄ちゃん、早く早く」

「はいはい。それよりちゃんとヘルメット被れよ」

「わかってるよ」

 

 玄関から外に出ると、母さんも待っていた。

 

「たまには見送ってやんないとね。気をつけて行っといで。あと、放課後は写真撮影するから、何時ものスタジオに来てね。それと頼まれた事だけど、そっちは連絡ついて手紙を預かってる。必要なら会ってくれるって」

「は~い」

「わかった。行ってきます」

 

 母さんから大事な物を受け取って、直葉を後ろに乗せてバイクのエンジンをかけて発進する。俺のバイクはスズキ・GSX1300Rハヤブサを元に作成された奴だ。まあ、特に変わっていないんだけど電気で動くようになっているぐらいだ。

 

『お兄ちゃん、高速のろ』

『まあ、その方が早いか』

 

 高速に乗って速度をあげる。料金所を3つ過ぎたら降りて直葉の学校まで送る。登校時間にはちょっと早い時間なので朝練のある生徒しかいない。だけど、それでも人が居る。直葉は気にせず降りてヘルメットを渡してくる。

 

「ありがと。それじゃ、行ってきます」

「気を付けてな。あと、晩御飯は先に食べておけよ」

「わかってる。じゃあね」

 

 直葉を置いてエギルの店へ向かう。ミラーで見ると知り合いに質問攻めされている直葉が見えたが気にせずに向かい、店の中で着替えさせてもらいつつ、荷物を預けて学校に向かう。ここからは歩きだ。

 

「気をつけて行って来いよ」

「また後でね」

「はい。行って来ます。あ、放課後に仕事に行くんで30人分の差し入れお願いします」

「ああ、わかった」

「シュークリームとかでいいわね」

「はい、お願いします」

 

 お金を少し払っているとはいえ、何時も世話になってるのでお土産や宣伝をしたりと色々とさせてもらっている。インタビューとか雑誌でここの事も載せた事もある。なので、載せた当初は凄い繁盛したが、今は落ち着いている感じだ。それでも固定客は多い。そんな事を考えて歩いていると、ある程度の生徒が固まって歩いている中、前方で一人で歩いている女の子を発見した。

 

「おはよう、詩乃」

「っ!? お、おはよう」

 

 気配を消して背後から近づいて耳元で声を掛けるとビクッと身体を震わせてこっちを見詰めてくる詩乃。だんだんとその表情は真っ赤になって、更に怒気に変わってくる。

 

「和人? 貴方はちゃんと挨拶できないの?」

「ふふ、油断している詩乃が悪いんだよ。シノンに近づけたいならこれぐらいで驚いちゃ駄目だよ」

「それは無理よ」

「そう、そもそも完全にあちらにするのは不可能だよ。あっちも今の詩乃も両方詩乃だけど仮想と現実は違う。でも、中身は同じだから近づけられる。近づけるのはいいが、こっちの詩乃を否定するのは駄目だ。全部ひっくるめて詩乃なんだからな」

「……でも、私は……」

「それにさ、詩乃に感謝している人だっているんだから」

「え?」

「すくなくとも俺は感謝してる。それ、お弁当でしょ」

「あっ」

 

 詩乃が持っている袋を奪い取って持つ。そして、母さんから貰って持っていた袋を詩乃の胸に押し付ける。

 

「それ、放課後に家に帰ってから開けるように」

「なんなのよ?」

「詩乃がやった結果、その良い部分が入ってる」

「……わかった。帰ったら開けてみる」

「それでよし」

「ところで、何時まで胸に手を押し付けてるのかな?」

「おう……押し付けた不可抗力。直じゃないから勘弁して欲しい……駄目?」

 

 手を抓られる。結構痛い。

 

「これ次第と、今度バイクで何処か連れて行って。それで許してあげる」

「了解した。お姫様」

「ふん」

 

 その後は学校へ向かいながらたわいない会話をしている。ガンゲイル・オンラインの事だったり、宿題の事だったり、服装についてだったり。

 

「……普通はついてこれないはずなんだけど……」

「まあ、両親の話を聞いたりやモデルの仕事していたら情報は入ってくるよ。それに情報を集めないと騙されて女装させられる時が……」

「……どんまい」

「ズボンとかはまだいいんだ。別に大して変わらないし……しかし、スカートとかストールとかはないわ」

「大変そうね」

「全くだよ。まあ、他にも色々とあるけどね」

「?」

 

 俺が後ろを振り向くと、さっと隠れる何かが居る。いや、気配から人なんだが、俺に殺気を向けて来ている。他には妬みや嫉みだな。

 

「あっ、今日の宿題で英語のところが分からなかったんだけど、わかる?」

「英語か。大丈夫だよ。どこだ?」

「53ページの問4なんだけど……」

 

 詩乃と話ながら校門を抜けて下駄箱に移動する。そこで靴を履き替える。

 

「っ」

「ん? どうした?」

「何でもない」

 

 下駄箱の中で詩乃が少し不自然な行動を取るので、素早く手を掴んでこちらに引き寄せる。

 

「ちょっとっ」

「これ……」

「大丈夫。中学生の時に慣れてるから……」

 

 詩乃の指から血が出ていた。原因は下駄箱の中にある上履きに入れられた画鋲だ。ご丁寧に持ち手の部分にセロハンテープで貼り付けてある。

 

「慣れてるとか関係ないって」

「でも、人の命を奪ったんだから……」

 

 力が抜けたのか、詩乃がこっちに寄りかかってくるので、抱きしめて背中を撫でて落ち着かせてあげる。あとで怒られるかも知れないが構わない。

 

「それも仕方ない事だろ。殺さなきゃこっちが殺られてたんだから。人間の本性は人それぞれで色々だからな」

「和人も?」

「そうだな。役得だと思ってたりするぞ?」

「バカ」

 

 詩乃が顔を赤らめながらそんな事を言って俺から離れる。

 

「……ありがと」

 

 小さくそうつぶやいた。でも、それに答える事はしない。拳が飛んでくる事はないだろうが、恥ずかしがっているのは確実だしな。それよりも、詩乃の上履きを取って画鋲をハンカチで包んで回収する。

 

「それ、どうするの?」

「ん? 指紋チェックする」

「……そこまでする?」

「俺の大切な人を傷つけたんだから、当然だろ」

「っ!? そんな勘違いしそうな言い方しないで! まだそんな関係じゃないんだから」

「はいはい、大切な友達だからね」

「そうよ」

 

 気づいているのかね? 自分でまだって言った事とか、勘違いされそうじゃなくて、勘違いしそうって言ってる事に。多分気づいてないだろうな。やっぱり詩乃は可愛いな。

 

「っと、早く行こうか」

「そうね。誰かさんのせいで注目集めちゃってるし」

「そうだね。まあ、注目されるのは慣れてるから気にしないけど」

「私が気にするのよ。ほら、早く」

「はいはい」

 

 詩乃と一緒に教室に行く。詩乃に先に入ってもらい、教室内の気配を探る。詩乃が来た事でニヤニヤしている奴を探そうとしたのだが、何故かクラスのほぼ全員がニヤニヤしていたり、殺気や妬みを詩乃に向けていたり、俺に向けていたりする。

 

「……」

「ちっ」

 

 端的に言って、やりすぎたようだ。これではわからない。詩乃はさっさと席に座って授業の準備をしだしたので、俺もそれに倣う。準備が終わったら俺が詩乃の席に行って、宿題を広げた。

 

 

 

 

 



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6話

最後の部分を修正させていただきました。
普通に他人の力を利用する事にしました。


 

 

 授業を受けながら修行を行い、映画のシナリオ(転生前のアニメや映画)などを書き上げていく。先生からすればいい感情はないだろうが、成績優秀なので無視する。まあ、体育の授業はどうしようもないけどな。そして、次の時間は体育になっているので着替えてグラウンドへと向かう。この学校では女子と男子は別れずに体育を行う。もちろん、プールなど一部の授業を除いてだが。今回はグラウンドなので、男子がサッカー、女子がテニスだ。

 この学校はスポーツも強いので設備が揃っている為、広さも問題ない。むしろ、体育館が二つあったりするのだ。その割に授業料は安くて来るもの拒まずである。出るのは難しいなんて事もない。学校の特色として優秀な生徒には色々と特典が与えられるくらいだ。より高度な授業も受けられるし、単位の融通なども芸能人やモデルなどの仕事で開けても単位が問題なくもらえる。代わりに宣伝などに協力させられるのだが。施設の貸し出しなども可能で優秀な者ほど幸せになれる学校だ。

 

「今日はサッカーか」

「桐ヶ谷は初めてだっけ?」

「まあ、仕事を入れまくってたし、参加するなとか言われてたからな」

「大丈夫なのかよ?」

「平気平気。今は仕事そこまで多くないしね」

「そっか。おっ、終わったみたいだ」

 

 サッカー部の奴等が別れて取り合っている。しかもかなり真剣だ。それもその筈で、景品があるのだ。先生から食堂で使える200円の金券がチーム全員に貰えるのだ。4クラス合同な為、かなりの人数が揃い、チームはクラスなど関係なくバラバラで選ばれる。

 

「今から呼ぶぞ!」

 

 先生がコールしていくので、チーム分けがされていく。そして、俺が選ばれたのは弱そうなチームだった。まあ、この容姿だから強そうには見えないし、何やら殺気も感じるから予想は出来ていた。それにモデルなんかしていると女子に人気あるから、女子の前でコテンパンにしようとしているのだろう。

 

「……」

 

 適当に流そうかとも思ったが、こちらを見ていた詩乃に口パクで“頑張って”と言われれば仕方ない。ちょっと遊ぶとしようか。

 

「へっ、先行は譲ってやるよ」

「どうせ俺達の勝ちだろうけどな」

 

 フィールドの真ん中に立って、ボールをどちらからか選ぶのだが、そのような言葉を貰った。ふむ。ならば、ありがたく先行を貰って、その幻想をぶっ壊してやろう。髪の毛を片手で後ろに流しながらチームメイトにこちらにボールを最初に渡すようにお願いする。

 

「ボール、渡してくれ」

「わかった」

 

 簡単に渡してくれたので、とりあえず足で止めてから前を見る。直ぐに二人が近づいてくるので、ボールを身体で隠して蹴り上げて相手の上を運ぶ。その直後に身体を揺らしてマークを外してしゃがんでさっさと抜く。大きい二人からしたら視界から消えたように見えるだろう。抜いたあとで、落下して来たボールを蹴ってドリブルする。

 

「おりゃぁぁぁぁっ!!」

「遅い」

 

 スライディングをジャンプして避けてそのまま敵陣に切り込む。群がってくる敵を漫画で見たφトリックやウィッチターンなどを駆使して特攻する。身体能力はこちらの方が上なのだ。6人抜いたらさっさとシュートを決める。だが、残念ながらゴールキーパーに弾かれる。

 

「まあ、予想済みっと」

 

 弾かれたボールをオーバーヘッドシュートで決める。唖然としている奴等を無視して真ん中まで戻る。観察すればだいたい分かるので簡単にボールを奪ってシュートの繰り返しを行う。ボールの反射角度などを計算して精密操作で相手の足を利用してパスをすればシュートコースやスペースが生まれて容易く決められる。終わる頃には一人で大差をつけていた。

 

「ふぅ」

 

 汗をうっすらとかいた程度で試合が終わり、軽くストレッチをして休憩に入る。そのついでに一人でいる詩乃の所に行く。女の子がキャーキャー言ってるが知ったことじゃない。

 

「どうだった?」

「やり過ぎでしょ」

「あっ、非道い。頑張れって言われたから頑張ったんだがな」

「読唇術まで使えるとか……大概ね。はい」

「ありがと」

 

 詩乃がタオルを渡してくれたので軽くそれで汗を拭く。そのタオルは直ぐに詩乃に奪い返されたけど。

 

「そういえば、テニスは?」

「まだ順番じゃない」

「詩乃は運動神経悪くないし、やればできるんじゃないか?」

「まあ、和人みたいにはできないけど……」

「簡単だって。相手の癖や力の入り方、身体の位置から予測すれば」

「それが難しいんだけど……」

「相手は誰?」

「えっと、今第3コートに入ってる子で、手前の方」

 

 あの子か。ふむふむ。

 

「よ~し、今から俺がいう事を覚えるんだ」

「へぇ……」

 

 詩乃に色々と教えて、楽しげに見ていると見事に勝った。詩乃がタオルで汗を拭いている横で勝利をお祝いする。

 

「癖とかコースがわかっていれば結構簡単ね」

「まあね。っと、こっちの番だ」

「いってらっしゃい」

「行って来る」

 

 今度の試合はあちらからでしょっぱなからマークが付きまくって居たが、武術の応用で軽く触れて倒したり、動きまくってマークを外したりしてボールを奪ってシュートをしてゴールを決める。全試合を勝利して得点から考えてトップは取れるので問題なく食券をゲット。これでデザートや飲み物を用意するか。そう思って詩乃の所に行くと女の子に囲まれて困ってた。

 

「詩乃、終わった」

「うん、お疲れ様。じゃあ、呼ばれたからいくね」

「うっ、うん」

 

 抜け出してくると、疲れた表情をしていた。

 

「どうした?」

「はぁ……何でもないわよ」

「何かあっ」

「そんなのじゃないから気にしないで。ただ質問攻めをされたり、サイン貰ってきてとか言われただけだから」

「ああ、そっちか。ごめん」

「まあいいわ。で、サインだけど……」

「四日後、商業誌が発売されるんで、そちらの限定版をご入手くださいと言っておいて」

「金落とせと」

「イグザクトリー」

 

 それから、少しして体育の授業が終わり、着替えてから詩乃と合流する。今日からは一緒に食べるし。

 

「でだ、とりあえず食券でデザートと飲み物を買っていこう」

「そうね。今からなら空いているはずだし」

 

 体育の授業は早めに終わるので助かる。なので、食堂に一緒に行って列に並び、たわいない会話をしながら順番を待って購入した物を持ち、近道の建物と建物の隙間に入って進んでいく。入学から一ヶ月経とうとしている時期なのでおれなりに地理は理解できている。ガンゲイル・オンラインが4月後半からスタートだった事も多少は助かっている。

 

「ほら、いいからよこせって」

「そうだぜ」

「やっ、やめて下さいっ」

 

 前方にある曲がり角から声が聞こえてくる。

 

「……」

 

 無言で詩乃が俺を見上げてくる。

 

「どっちでもいいよ。男みたいだし」

「和人……」

「女の子には出来る限り優しくしろとは習ったけど、男は習ってない。それに詩乃を助けたのは友達が欲しかったって理由もあるしね」

「そうだったわね。まあ、私もへんな事に巻き込まれるのは……」

 

 詩乃はひょっこりと壁から顔を出して覗くと、いきなり飛び出していった。だから、仕方ないと思って懐に入れてあるICレコーダーの電源を入れる。

 

「やめなさいっ!」

「なんだ?」

「女じゃねえか。お前には関係ないだろ!」

「朝田さん!? 逃げて、早く!」

「知り合いを置いて逃げるほど落ちぶれていないつもりよ」

「っ!?」

「そうかよ、だったらその身にたっぷり味あわせてやるよ」

「それによく見たら可愛いじゃねえか……」

 

 やれやれ、面倒だな。でも、詩乃の知り合いじゃ仕方ないか。それに詩乃を襲おうとしているなら、お仕置きしてやらないとな。

 

「朝田さん、後ろっ!!」

「っ」

 

 俺が曲がると、隠れていたのか、建物の影から男が出て来て、詩乃に襲いかかろうとしていた。だから、とりあえず飛び蹴りをかまして詩乃を引っ張って抱きしめながら下がる。蹴った男はバランスを崩して取り囲んでいた男にぶつかって隙ができる。

 

「なっ、なんだてめえっ!?」

「何って……そうだな。この子の彼氏って所かな」

「「え?」」

 

 詩乃も驚いた顔をしながら赤くなってる。可愛いね。

 

「という訳で、人の女に手を出そうとした悪い人にはお仕置きが必要だよな?」

「はっ、一年坊主が言ってくれるじゃねえか」

「ふふ、身の程ってのを教えてやるよ」

 

 俺は挑発しながら詩乃の耳元で囁く。

 

「アイツを連れて逃げろ。待ち合わせ場所は俺達の校舎の屋上で」

「わかった。邪魔だしね」

「わかってるじゃん」

「全く。気をつけてね。それとありがと」

「まあ、彼氏って言っちゃったしな。それに大切な友達だしな」

「それについては後で話そうか」

「まあ、理由付けなんでお手柔らかにな」

 

 詩乃を離して近付いていく。相手の男達はバットとかを持ち出してくる。いやに手馴れているね。ちょっとキツめでいいか。

 

「さて、はじめようか」

 

 俺は携帯端末を取り出して録画を開始してよく取れる位置に配置する。この携帯端末、学園の警備員達への緊急用ページに繋げてある。

 

「へっ、やってやる!」

 

 振りかぶってくるバットの前に自ら飛び出して、持ち手を掌で押して軌道を変えると同時に身体の向きを変えさせる。合気道とかの感じで相手の力を利用して押しだす。

 

「ほら、さっさと逃げろ」

「は、はいっ!」

 

 囲まれていた同級生を掴んで後ろにやりながら、男達の前に立つ。ちゃんと映像に映る立ち位置を計算して、映画のような位置取りを行う。

 

「や、やろうっ!!」

「こっち、早く」

「う、うん、ありがと」

 

 詩乃が同級生を連れて行ったのでこっちは問題ない。詩乃もいなくなったし、後は避け続けるだけでいいかね。実際、回避しながらわざと殴られたようなオーバーアクションで飛んだりして相手を適度におちょくったり、調子に乗せる。そのうち、相手が攻撃を失敗して壁を殴ったり蹴ったりして痛がる。

 

「てめえ、手足の一本ぐらい覚悟しろよ……」

「ああ、その綺麗な顔を傷つけてやるよ」

「いや、自滅じゃん」

 

 しかも、何をトチ狂ったかナイフまで持ち出してきた。

 

「まあ、でも……お前らもそれ相応の覚悟ができているんだろうな?」

「何言って……」

「現在、この映像と音声はライブ中継にて全国ネットで配信中でございます。やったね、有名人だ」

「「「っ!?」」」

 

 録画されている携帯端末を指差して教えてやると真っ青になる男達。そのまま斬りかかってくるのを見切って避ける。銃弾を見切れる動体視力と身体に伝える事ができる脳神経反応速度。それにそれに応えられる身体をもってすればこんなのただの遊びだ。

 

「監視カメラがここになくても繋いでしまえば問題ないだろ?」

「ちっ、逃げるぞっ」

「くそっ!?」

「残念、タイムアップだ」

 

 通路を挟むようにして無数の気配が近づいてくる。

 

「お前ら動くなっ!!」

 

 警備の人達が雪崩込んでくる。大人しく手を上げて避けておく。直ぐに俺の横を通り過ぎて男達を囲む。ナイフまで出してるから、アウトだろ。

 

「大人しくナイフを捨てなさい」

「ざけんなっ!? こうなりゃぁっ!」

「致し方ない。制圧する」

 

 暴徒鎮圧用のスタンロッドを取り出した隊員。この時代、警備員には資格さえあればこれらの装備が認められている。警備員は色々と危険だからより安全にという事らしい。SAOで実際人を殺した奴等に対する対策だとも言われているが、本当かどうかは知らない。例の学園も作られたらしいが、あくまでも例外は存在するしな。しかし、詩乃のお弁当は御預けか、ちくしょうめ。

 詩乃、ごめん。先に食べてて。こっちは無事だけど多分昼休みには戻れない。とメールで送っておく。すると、わかった。ありがとう。終わったら連絡して。と書かれたメールがやって来たのでよしとしよう。

 

「すまんが来てもらうぞ」

「わかってますよ。証拠品は大丈夫ですよね?」

「まあな」

 

 もちろん、全国生放送はブラフだ。だけど、警察に引き渡されるか、退学は確実だろう。いや、殺人未遂か。ああ、やっぱ警察行きか。ご愁傷様っと。まあ、詩乃の手料理を駄目にしてくれたんだから、やっぱこれぐらいでいいか。そう考えると本当に徹底的という事で全国生放送も……いや、怒られるか。やめておこう。

 

 

 



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7話

 警備員の人達が詰めている職員棟の一室で、軟禁状態で色々と聞かれ、警察が呼ばれてさらに色々と聞かれ、書類を書かされたりした。詩乃達は放課後に呼ばれて個別に聞かれたようだけど詩乃達の事はちゃんと話して理解してもらったので拘束時間は長くない。俺は残念ながら午後の授業が完全に潰れた。そして放課後開始から1時間でなんとか開放してもらった。まあ、後日警察に詩乃と一緒に行かないといけないんだがな。まったく、面倒だ。婦女暴行未遂に殺人未遂と恐喝など罪状はやばいくらいだし。ちなみに絡まれていた彼は簡単に終わった。

 

「やっと終わった」

「お疲れ様」

「詩乃もお疲れ様」

「うん。それよりもごめん。私のせいで……」

「気にしなくていいよ。でも、ごはん食べ損ねたのは痛いな」

「それなら、はい」

 

 詩乃がお弁当の入った袋を渡してくれた。

 

「お昼のだから味は落ちてるだろうけど、まだ食べられるから」

「そうだな。ありがたくもらっておくよ」

「お弁当箱は後で返してね」

「わかった。ところでもう一人は?」

「両親が迎えに来て帰ったよ。私は近くに居ないし、和人は?」

「拒否った。仕事で忙しいだろうし、これから母さんとこの仕事だから結局会うしね。それに怪我もしてないし、被害は特にないから呼ぶ必要もなし」

「今から仕事に行くんだ……凄いね」

「まあ、仕方ないよ。それよりも、送っていくからさっさと帰ろうぜ」

「うん。色々、ありがとう」

 

 詩乃と一緒に下駄箱に移動して、靴を履き替える。俺の下駄箱の中には手紙とかが入っていたが、適当に掴んで鞄にしまう。どうせファンレターとかのはずだ。別の方でも関係ないし。

 

「それ、どうするの?」

「どうもしない。ファンレターは読んで終わり。他の手紙はちゃんと名前が書かれてる奴だけ断る。会ったことも無い人にはそれで充分」

「そっ、そうだね」

 

 詩乃は鞄から回収していた靴を取り出して履いていく。慣れてる感じだ。女は色々と怖いらしいし、過去に色々とあったんだろう。

 

 下駄箱から校門へと移動しながら色々と話していく。

 

「そういえば、詩乃はご飯食べたの?」

「うん。少しだけ食べたよ。だから全部食べていいよ? 作りすぎたから」

「頑張ってみるか」

「感想聞かせてね」

「ああ。正直に言うよ。それより、今日は家に居る?」

「居る。和人からもらったのも見てみたいし。GGOを少しやってから見てみるね。約束あるから」

「まあ、何時見てもいいけどな」

 

 GGOの事なども話ながら店に着いた。店でお土産を受け取り、ついでに追加注文してからバイクに乗る。カップケーキなので崩れる心配はない。詩乃を後ろに乗せてバイクで家まで送り、そのまま仕事場に向かう。

 

「和人、大丈夫だった?」

「言ったとおり大丈夫だよ。それより時間が無いからさっさと撮影しよう」

「そうね」

 

 すぐに撮影を行い、一時間ほどで撮影が一旦終わる。セットを変えたりするらしいので俺は休憩だ。その間にテーブルに持ってきた詩乃のお弁当を開ける。重箱に殆ど中身が入っている。というか、ほんの少ししか減っていない。食べきるのは無理っぽい量がある。まず、今食い切るのは諦めた。

 

「まあ、食べるか」

 

 お箸を探すと、見つかったのは一つだけだった。それもなんだか使用済みという感じの。洗い場も遠いし、むしろそんな時間はない。当然、他のお箸もない。詩乃が入れ忘れたようだ。多分、詩乃もいっぱいいっぱいで気付かなかったんだろう。今日は色々とあったし。間接キス……詩乃と? 他の奴ならまだしも詩乃なら別にいいか。むしろ、そろそろお腹が減ってやばい。

 

「頂きます」

 

 ドキドキしながら食べる。味はしっかりしていて、冷えているけど充分に美味しかった。なのでパクパク食べる。そんな事をしていると、母さんがやって来た。

 

「それ、どうしたのよ?」

「お、お昼ご飯」

「そう」

 

 ちょっとどもってしまった。平常心平常心。

 

「店売りじゃないわね。女の子に作ってもらったのかしら?」

「えっ? 何のことかな……」

「そうかそうか。母親として全然女っけどころか友達とかもいないから心配してたけど、彼女ができたら大丈夫よね」

「まだ付き合ってないって!」

「まだ、ね。まあいいわ。私としては妹に手を出したり、男色じゃなかっただけいいから」

「ぶっ!? ノーマル、至ってノーマルだからな」

「はいはい。その子、今度紹介しなさいね」

「はぁ……わかったよ」

 

 母さんが携帯を取り出して何かをしている。嫌な予感しかない。すぐに着信がきた。送ってきたのは映画の撮影仲間達だった。おめでとうとか、そんなの。中には死ね、裏切り者って書かれた奴まである。まあ、こっちは俺と同じでボッチの子で、ついでにひきこもりの女の子だったりする。研究者肌だけど。

 

「母さん」

「皆に送っちゃった」

「ややこしいことを……」

「リタちゃんは怒ってるでしょ」

「死ねってさ」

「ご機嫌取りしないといけないじゃん」

「今更でしょ」

「面倒な。っと、そろそろ時間か」

「撮影終わったらあっちの方に行くんでしょ?」

「ラストの何シーンか撮って終わりだしね」

「頑張ってね。それと特集組むから取材よろしく」

「……了解」

 

 母さんが俺や俺達の専属記者になってるから、仕事は結構多いんだよね。母さんのギャラもだけど。出世も早くて忙しいらしい。

 撮影が終了し、次の仲間達の場所まで移動する。ぶっちゃけ、ここはクレイジーな連中が結構居る。技術力だけはある奴とか、マニアな奴とかね。そんな中でリタは特級プログラマーだ。もちろん、普通の人達も居る。

 

「土産」

「ご苦労だね」

「ドクター、リタは?」

「アルヴヘイム・オンラインの調整中だよ」

「他の連中は?」

「ログインして既に準備している。早く行きたまえ」

「了解」

 

映画用に作成されているVRMMOにログインして準備する。今、撮影しているのはfate/apocrypha。つまり、ジャンヌとか、色々と居る。俺のキャラ? 想像にお任せするよ。

 

「遅れてごめんねー」

「さっさと始めるぞ」

「……やる」

「そうですね。時間がありませんから」

「りょーかい」

 

基本的に入った瞬間から演じている。映画の撮影を行い、編集なども皆で行って終わると既に夜9時。詩乃には悪いけど、今から行くとしよう。でなければそれはそれで構わない。それに渡した物で詩乃がどうなるか心配だしな。

 

 

 

 



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8話

賛否両論だろうけどさ、救いたい子がいるので勘弁してください。



 

 

 9時を少し過ぎた辺りで詩乃の家に着いた。マンションの中に入って呼び鈴を鳴らす。

 

「はっ、はい……」

「和人だけど、入っていい?」

 

 泣いているような詩乃の声が聞こえて来た。

 

「うん、来て……」

 

 慌てて階段を上がっていく。詩乃の部屋の前に着いたので呼び鈴を鳴らすと鍵が開けられた。俺は直ぐに中に入る。

 

「大丈夫かっ!?」

「うっ、うんっ、平気……」

「ならよかったけど……」

「いいから入って」

「わかった」

 

 ずっと泣いていたのか、赤い瞳になっている詩乃に迎え入れられて部屋の中に入る。中は質素な感じで私物があまり置かれていない。

 

「あっ、座ってて」

「わかった。それとこれ……美味しかったよ」

「そう、よかった」

 

 お弁当箱を渡してお礼を言う。詩乃は台所の方に行ってお弁当を浸けてお茶を淹れて持ってきてくれた。顔は少し赤い。

 

「はい」

「ありがと」

「それで、これの事なんだけど……」

「どうだった?」

「ほっ、本当の事なの?」

「ジャーナリストの母さんの伝手と探偵に依頼して頼んだ事だから本当だね。信じられない?」

「そっ、それはだって……」

「なら、電話してみるか」

 

 携帯を取り出してテレビ電話をかける。

 

「ちょっ、待ちなさいっ」

「待たない。あちらさんにも連絡はしてあるし、10時までなら構わないという事だしね」

『はい。もしもし』

「あっ……」

「すいません、前に連絡した件なんですが……」

『そちらの子が朝田詩乃さんですね。私は……』

 

 無理矢理詩乃に電話対応させて話させる。俺は離れてお茶を飲んでいる。次第に眠そうな子供の声まで聞こえてきて、詩乃が泣き出した。俺は近付いて背中を撫でてやる。それから少ししてまた今度は会う約束を取り付けて電話が終わった。

 

「どうだ? 自分が何をしたか理解した?」

「うぅっ」

「詩乃は負の一面を見すぎなんだよ。感謝している人は居るよ」

「わかったわよっ、バカ和人。だいたいいきなりだし、やりすぎなのよ……ぐすっ」

「治療には劇薬が必要な場合もあるよ。それに詩乃にとっては特効薬だろ」

「うぎぎぎっ」

「ほら、今は泣きなよ。付き合うからさ」

「ばーか」

 

 詩乃を抱きしめて撫でていると、しばらく泣いていた詩乃はそのまま力尽きたのか眠ってしまった。鍵はちゃんとかけてあるし、抱き上げてベッドに移動させる。

 

「って、離れねえ……」

 

 俺の服をきつく握っている詩乃が離してくれない。しかも、泣きつかれて寝ている詩乃の顔は起こすのには謀られるようなものだ。

 

「仕方ないか……役得役得」

 

 詩乃のベッドの中に入ってヘッドボードに身体を預けて腕の中で寝ている詩乃に毛布を掛ける。それから詩乃の事を考える。

 

「やっぱ、幸せになって貰いたいよな~」

 

 それに対する一番の問題は詩乃の母親だろう。精神科なんて行ってるだろうし、余程の事がないと無理だろう。それこそ、奇跡でもないと。どうにかして起きないかな。やれるならやるんだけど。しかし、どうやら本当に俺は詩乃の事が好きみたいだな。

 

 

 

 

 気が付いたら見覚えある白い場所に居た。目の前には何もいないと、思ったらなんか光の塊があった。それも人型の。

 

「何者?」

「すいません。奇跡を願いましたよね?」

「願ったけど……」

「叶えてあげますので、こちらにサインをください」

「悪徳商法?」

「違います。実はですね、色々と問題が発覚しました。まず、特典をほぼ与えていない事はこのさいどうでもいいんですけど、SAOの発注ミスが……」

「おい」

「担当官がさぼっておりまして、本来βテストから参加するはずの抽選漏れに加えて他の転生者による妨害などありまして……」

 

 要約すると、奇跡を起こしてあげるから許してという事だった。それで文句言わないという誓約書だ。

 

「それで、何が欲しいですか? お金ですか? 地位ですか? 最強の肉体ですか? 精神支配の魔法とかですか?」

「何それ怖いんだが……」

「さあ、貴方の望みを言ってください。今なら出血大サービスでそちらの女の子にも色々としてあげますよ」

「え?」

 

 振り向くと詩乃が居た。こっちを驚いた表情で見ている。

 

「どういう事だ?」

「いやはや、抱き合って一緒にいましたからまとめてお呼びしました。面倒だったので」

「おい」

「っと、発言と行動できるようにしてあげましょう」

 

 光がそういうと、詩乃が動き出した。

 

「和人、これは何?」

「あ~まあ説明するよ」

 

 転生した事など色々と話すと、詩乃は至極どうでも良さそうに聞いていた。

 

「詩乃さん?」

「和人は和人でいいでしょ。それ以外の何者でもないし」

「うわっ、ドライですよ、この子」

「五月蝿い黙れ」

「はぐっ!?」

「まあ、でも和人と出会わせてくれた事には感謝してあげる」

「それは確かにそうだな。俺も詩乃と出会えて良かったし」

「はいはい。熱いですね。抱き合って寝てるんですからわかりますけど」

「あっ!?」

 

 詩乃が真っ赤になって顔を隠しだした。恥ずかしかったのね。

 

「それで、奇跡は何を願うんですかー? 死者の復活以外なら大概なんとかなりますよー」

「一つだよね?」

「他の人達って結構馬鹿な事頼んで面倒がってその通りにした人達も居ますので言うだけならただですよー」

「じゃあ、2つかな」

「言ってみてください」

「詩乃が病気とか怪我とかしないように」

「私っ!?」

「ほいっ」

 

 驚いている詩乃を無視して、さっさと手っぽいのを振ると詩乃の身体が光った。

 

「じゃあ、詩乃の……」

「また私なんだ……自分の事を叶えたら?」

「断る。このままで十分だし。ああ、そうだ。今現在、世界中の人々の病気を全て完膚なきまでに完全に治療して。肉体と精神全部」

「ぶっ!?」

「さっ、流石に普通の人は……」

「いいからやれ」

「サー・イエッサー! こっ、これで願いは叶えたのでサインをお願いします! じゃないと上司に殺されますので!」

 

 大人しくサインしてあげると消えていった。残ったのは俺と詩乃だけだ。

 

「私の事ばっかりでよかったの?」

「いいよ。俺、詩乃の事が好きだし」

「っ」

「軽蔑した? つまり、今までの事も下心ありだったんだよ」

「馬鹿じゃないの? 人間が綺麗な人ばかりじゃない事を知ってるわよ。それにそんな人の方が裏で何考えてるかわかったもんじゃない」

「確かにね。それで、俺の彼女になって欲しいけど……返事は?」

「……ごめんなさい」

「なっ、なんで……? 好かれてると思ってたんだけど……俺の事嫌いだった?」

 

 告白したら受け入れられると思ったんだけど。

 

「違うわよ!」

「じゃあ、なんで?」

「だっ、だって……私は人殺しだし、私なんかと付き合ったら和人に迷惑かけるから……」

「そんな事ない!」

「あるの! だって、モデルとか俳優してるんだから! 今でも本当はかなり危ないのに……」

「じゃあ、辞める」

「え?」

「仕事より詩乃の方を取るって言ったんだ」

「馬鹿じゃないの!? 私なんかの為にそんな事しないでよ!」

「どうしようと俺の勝手だろ!」

 

 2人で睨み合う事数分。

 

「……わかった。じゃあ、私が都合のいい女とかセックスフレンドになってあげるから彼女にはならない」

「いや、そういうのじゃないって。俺は詩乃を幸せにしたいんだし」

「だから……」

 

 辞める、駄目という話がループしていく。ちょっとここで嵌める事にする。

 

「じゃあ、詩乃は俺の都合のいい女……奴隷になるっていうの?」

「それでいいわよ。和人には本当に色々と世話になったし、それくらいしか私には返せないから」

「詩乃は俺の事は好きなんだよな?」

「そうよ。じゃなかったらこんな提案なんて絶対にしないから」

「じゃあ、それでいいから奴隷になってくれよ。でも、絶対服従で辞めるとかはなしだからな」

「いいわよ。全部あげるって言ってるでしょ」

「じゃあ、これから詩乃は俺の物だ」

「ええ、私は和人のものよ」

「じゃあ……」

「あのーそろそろこの空間、消していいですかね? そっちの子にもちゃんと訓練空間使えるようにしますんで、そっちでやってください」

「「すいません」」

 

 わざわざ待っていてくれた光の人にあやまる。

 

「じゃあ、目をつぶって起きる事を意識してください」

 

 言われた通りにすると意識が覚醒していく。目を開けると、詩乃の顔が飛び込んで来てしばし見つめ合ったあと、恥ずかしそうにする詩乃。離れようと身体を起こしたあと、思い出したのか身体をそのまま預けてくる。

 

「あれって本当の事なのよね?」

「そうだな。もう詩乃は俺の奴隷だよ?」

「わかってるわよ。それより……」

 

 詩乃が何かいいかけた瞬間に詩乃の携帯が鳴り出した。

 

「出ていい?」

「もちろん」

「うん」

 

 詩乃が携帯を取って電話に出ると、向こうから声が聞こえてくる。

 

『詩乃ちゃん、音夢が、音夢が』

「お母さんがどうしたの?」

『元気になって病気が治ったみたいなの!』

「本当っ」

『ええ。代わるわね』

 

 詩乃は俺に身体を預け俺の手を握りながら母親と会話して涙を流していく。少しして電話を切ってこっちを見てきた。

 

「ありがとう。和人のお陰だね」

「詩乃が喜んでくれたならいいよ。他の連中はついでで助かっただろうけど」

「そうね。それじゃあ本当にこれから私の事を好きにしていいよ。和人に私の人生も全部あげるから。エッチな事もする? お尻にあたってるし……」

「そっ、それは朝の生理現象だから! まあ、できたらしたいけど、その前に最初の命令だ」

「なに? なんでも言って」

「じゃあ、俺と結婚を前提に付き合って」

「は? ちょっと待ちなさい! だから、それは駄目だって……」

「拒否は認めない。詩乃はもう俺のものだし、自分で絶対服従だって言ったんだから」

「あっ……このっ」

「ふははははは、もう遅い! 詩乃がなんと言おうが関係ないからな」

 

 詩乃を抱きしめると、真っ赤になりながら睨みつけてくる。でも、言い返せない。

 

「ああ、それと自分を卑下する事も禁止だ。誰が詩乃を認めなくても俺が認めているんだから。それに他にも詩乃の事を認めている人達はいるんだから」

「うっ……わかったわよ……もう勝手にしなさい」

「ああ、勝手にする。こんなふうに」

 

 詩乃の顔に俺の顔を近づけると、詩乃は目を瞑って力を抜いてくる。俺はそのまま詩乃に口づけを交わす。

 

「ぷふぁっ。キスって何か不思議ね」

「そうだな」

「それと今何時……ねえ、携帯が光ってるけど……」

「そういえばサイレントマナーにしてたっけ」

 

 画面を見ると無数の着信とメールがあった。送り主は直葉と母さんだった。今も鳴っているので詩乃を見てみる。

 

「出れば? 朝帰りを咎められるでしょうけど」

「だね」

 

 出てみると、母さんの心配そうな声が聞こえてきた。

 

『大丈夫なの? どこにいるの?』

「あ~うん、今彼女のとこ。お弁当箱返しに言ったついでに色々とあって告白した」

『そう……連れてきなさい。そしたら許してあげるわ』

「わかった」

「ちょっ、ちょっとっ!?」

「諦めて」

『と言いたい事だけど、今色々と大変だから今度でいいわ。とりあえず今度からはちゃんと連絡をしなさい』

「わかった。それとしばらく仕事も学校も休むから」

『どういう事?』

「あちらのお家に挨拶しに行ってくる」

「えっ!?」

『わかったわ。好きにしなさい。直葉には伝えておくから』

 

 電話を終えると、何とも言えない表情の詩乃がいる。それを無視して仕事先に連絡していく。といっても、しばらく映画の撮影だけなのでVR空間なら問題ない。アミュスフィアに入れてある認証カードを持っていけばいいのだ。

 

「さて、これで問題ないよ。詩乃の家に旅行ついでに行こうか」

「学校は?」

「休む。詩乃もちゃんと母さんに会うべきだよ」

「わかった。準備するけど何で行くの?」

「バイク。一度旅行に行ってみたかったんだよな」

「じゃあ、色々と準備しないと」

「着替えて買い物に行こうか」

「言っとくけどお金ないからね?」

「彼氏が全部出すさ」

「そうね。それに和人は私のご主人様だし?」

「それもあったな。まあ、恋人の方が嬉しいしかな」

「ふん。知らないわよ」

 

 ニヤニヤとこっちを笑いながらみてくる詩乃にそう返すと、今度は赤くしてそっぽを向いた。可愛いな、詩乃はついつい頭を撫でるとそっぽを向いたままどことなく気持ち良さそうにする姿は猫のような感じだ。猫耳ヘッドフォン、探そうかな。とりあえず、バイクにサイドカー着けたり詩乃のライダースーツとか買いに行かないとな。

 

 

 

 

 




シノンの他に好きなキャラ?
ユウキですが、何か?
不覚にも最後泣いちゃったよ!


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9話

 

 

 

 

 

 起きた後、家に帰らずに詩乃と一緒に買い物に出かける事にした。俺は黒いジャケットにジーンズという格好で、詩乃はコートとズボンだ。下は肩に掛かってるセーターかな。それにお化粧もしている。詩乃が準備している間に軽く朝食を作る。といっても、目玉焼きとトーストだけどな。ほら、懐かしいアニメ、天空の城で出てきたアレだ。

 

「本当に帰らなくていいの?」

「別に今更だしいいよ。それに妹にもメールは送っておいたし」

「そう……」

 

 向かいあって食事を取り、詩乃が入れてくれたコーヒーを飲んでから出かける。詩乃は照れているのかなかなか顔を合わせてくれない。まあ、真っ赤に染まった顔を見られるのが恥ずかしいんだろうけど。そんな詩乃を後ろに乗せてバイクで渋谷まで移動する。到着したら直ぐにガレージの方へと入れる。

 

「こんにちは」

「和人か。どうしたんだい?」

「知り合い?」

「ああ。バイクで世話になってる」

 

 ガレージで働いているツナギ姿の男性ぽい人に声を掛けると詩乃が聞いてきたので知り合いと答えておく。この人はバイクの面倒を見ている人で、ぽいと言ったことから分かるようにこの人は男のような女の人だ。いや、もっと正確に言うなら女の子だ。

 

「僕はキノ。このバイクショップの店長だよ。君は……」

「私は――「俺の彼女の詩乃」――そっ、そうです。朝田詩乃です……」

 

 顔を真っ赤に染めながらそんな事を言った。最初は絶対に無難な挨拶をしようとしてただろうしな。

 

「へぇ~おめでとう。それで、何をしに来たんだい?」

「バイクにサイドカーをつけて欲しい。ちょっと詩乃と遠出をするからね」

「別にいらないんじゃないかな? 荷物なら後ろに括りつければいいし、サービスエリアとかあるし食料の心配はないだろう」

「それもそうか……でも、ずっと後ろから抱きついていると疲れない?」

「ああ、それならゴムバンドで運転手と身体を固定しておけば大丈夫じゃないかな。まあ、ゆっくり行くのもありだけど」

「あの、アミュスフィアを持っていくんじゃ……」

「そうだった。途中で仕事とかしたいし……」

「今ならホテルとかネカフェに置いてあるはずだけど……個人認証用のカードさえ持っていけばいいんじゃない? ホテルはそれなりにいい所になるだろうけど、お金あるでしょ」

「まあ、使い切れないくらいはあるね」

「じゃあ、このままになるの?」

「まあ、メンテナンスはするとして、後ろに乗る彼女がリュックサックで荷物を持たないなら少し器具を取り付けて荷物を積める用にする必要はあるかな」

 

 詩乃には出来る限り負担をかけたくないしな。

 

「じゃあ、それでお願い」

「うん……直ぐにメンテナンスに取り掛かるよ」

「それとライダースーツが欲しいんだけど、いいの無い?」

「彼女のだね。なら、店の中にあるから店にいるエルメスにお願いして出してもらって」

「わかった。じゃあ、行こうか」

「うっ、うん……」

 

 詩乃の手を繋いで店の中に入る。今の時代、バイクそのものが減ってバイクショップは数が減っているのであんまり客が居ない。なので、暇そうにしている店員の人工知能にお願いして女性用のライダースーツのある場所に移動する。

 

「じゃあ、どれでもいいから好きに選んで」

「わからないから、和人が選んでよ」

 

 詩乃は何着か見てさっさとこっちに委ねて来た。彼女のコーディネート……これはこれで面白そうだ。

 

「じゃあ、素材からしてこれかな……色は……」

 

 詩乃にあてがって色々と調べる。少しして選んだライダースーツは、黒を基準にして緑色のラインが入った奴で、股下と肩の一部に白く、肩を包む場所が緑のものだ。身体にフィットする奴で詩乃のラインがしっかりと見える。エロい。ちなみにこれは特殊繊維でできていて、衝撃吸収能力も非常に高く時速60キロでぶつかっても打ち身程度であり、頭部さえ守っていれば100キロまでは即死は確実に免れるというとんでもない代物だ。防弾もできるので軍部でも使用が検討されているらしい。開発者はリタとドクター。

 

「こっ、これは恥ずかしいわね……」

「似合ってるよ」

「そっ、そう……?」

 

 胸と股間を手で隠すようにして身体を抱いている詩乃は耳まで赤い。でも、直ぐに真っ青になった。

 

「こっ、これ、値段がおかしいわよ!」

「うん、まあ、100万だしねえ」

「高すぎよ!」

「詩乃の安全には変えられないし別にいいよ。ヘルメットはこれかな」

「それも高いわね……」

「気にしない気にしない」

「あっ、ちょっ」

 

 試着室に押し込めて着替えて貰っている間にさっさと会計を済ませる。全部で250万。うん、高級車以外のバイク買うより高いな。

 

「本当に買ってるし……」

「ほら、次に行くよ」

「あっ、待って」

 

 詩乃の手をとって店から出て行く。渋谷から原宿まで歩きながら買い物をしていく。一応、髪の毛を三つ編みにして帽子を深くに被っている。その状態で詩乃と手を組んで一緒に買い物を楽しむ。これはデートだからね。詩乃も理解しているのか、ずっと顔が赤いままだ。

 

「さて、これからどうしようか」

「あ、あそこは?」

「アクセサリーショップか。いいね」

「行こ」

 

 詩乃の言葉に従って中に入る。アクセサリーショップの中は女の子ばっかりで独特の甘い匂いがしている。少し恥ずかしいね。取り敢えず、詩乃に似合いそうなのを探そうかな。

 

「ねえ、これが欲しい」

「ちょっ、それって……」

「首輪ね。私が和人の物だっていう証明が欲しいの。駄目?」

 

 上目遣いでお願いしてくる詩乃に勝てそうにない。瞳は不安そうにしているし、泣くかも知れない。いや、それ以前に詩乃さんや、貴方はどこまで飼い猫になるつもりなんだ……まあ、買うけど。赤い鈴付きの首輪のようなチョーカーと雪だるまの髪飾りを購入する。一応、人間用だけどペットにもそのまま使えそうな奴だから色々と背徳感があるけど支配欲が刺激されるのは事実だ。

 

「じゃあ、着けて」

「わ、わかった」

 

 顔を真っ赤に染めながらそっぽを向きながらチョーカーと首を差し出してくる詩乃にしっかりと着ける。詩乃が着けられた首輪を何度か撫でる度にチリンチリンと鈴がなる。

 

「不思議な気分ね……」

「全くだ」

「でも、嫌じゃないから。次はどこにいく?」

 

 詩乃の方から腕に抱きついて身体を寄せてくる。詩乃にとって自分を納得させる為のケジメなのかも知れない。色々とぶっ飛んでいるが。

 

「じゃあ、寄りたい場所がある」

「どこ?」

「こっち」

 

 携帯で調べた場所に詩乃を誘導する。服とかも結構買っているので荷物は多いが、まだ大丈夫だ。入ったのは宝石店だ。

 

「なっ、何を、かっ、買うつもり……」

「婚約指輪。ご両親に会うんだからちゃんとしないとね」

「はっ、はやいからっ!?」

「気にしない気にしない。婚約だけでも先にしておくんだ」

 

 あたふたする詩乃を連れて店員さんにお願いして指輪を選ぶ。綺麗なダイヤモンドの指輪を購入して詩乃の薬指に嵌めてあげる。それとチェーンも購入しておく。

 

「学校に持ってくのは色々とまずいだろうし、これで首にかけたらいいよ」

「そうね。流石にこんなの手には着けてられないわよ……」

「まあ、今は手に着けておいてよ。これから食事に行くし」

「そうね」

 

 2人でホテルのディナーをちょっと早いけど食べにいく。街灯テレビで映し出されたニュースでは未明に起きた奇跡について次々と説明しているけれど気にしない。世界規模の奇跡は一部混乱しているけれど、重病者が回復した事により喜びの方が多い。宗教関係者が特に我々の神が行った事だと声明を発表したりもしている。まあ、彼らの大概の者は偽物で逆に不正が露見したりしている。少し知り合いに頼んで潰して貰ったのだ。せっかくの奇跡を崩して欲しくないしね。

 食事が終わり、お土産を買ってからバイクを受け取って詩乃の家に向かい、荷物を置いて別れる事になる。

 

「それじゃあ、またね」

「ええ、また明日」

 

 そわそわとしている詩乃を見て、思い出した事があった。

 

「あっ、おやすみなさいのキスしようか」

「っ!? ばか……勝手にすればいいじゃない」

 

 ぷいっとそっぽを向く詩乃の頭を掴んでこちらに向かせてキスをする。そのまま詩乃の細い身体に手を回して抱きしめる。詩乃の唇は気持ちよくて柔らかくて楽しくなってつい夢中で楽しんでしまう。

 

「あっ……んっ、んんっ」

 

 しばらく玄関で詩乃と抱き合ってキスをして、舌を絡めていく。詩乃も俺を抱きしめてお互いを貪っていく。次第に息が続かなくなって、頭が真っ白になってくる。

 

「ぷふぁっ!? はーっ、はーっ、これ、やばいわね……」

「はぁ、はぁ、そうだな……麻薬みたいなものだね」

 

 唾液の橋が出来て切れていく。お互いに顔は真っ赤だろう。

 

「じ、自重しないと駄目だからね」

「俺に言うのか?」

「だって、私は和人の物だし……望むなら何でも受け入れるからね」

「ああ、もう可愛いなっ」

「いっ、言ってるそばから……んんっ!?」

 

 結局数十分もディープキスを続けて、終わったのは俺達の意思じゃなくて携帯が鳴ったからだ。内容は直葉からの電話だったので詩乃に帰る事を告げて急いで帰宅した。

 

「お兄ちゃん、説明してもらおうか!」

 

 家に入った瞬間、竹刀を持って仁王立ちしている妹に迎えられた。

 

「彼女が出来てそのまま家に泊まった。以上」

「なっ!?」

「あっ、これお土産。晩御飯にしてくれ」

「あ、ありがとう……って、どういう事っ!!」

「五月蝿いぞ直葉。近所迷惑だ」

「このっ!?」

「甘い」

 

 怒って振り下ろしてくる竹刀を弾いて手刀を決めて竹刀を離させる。手から離れた竹刀を取って直葉の首に瞬時にあてる。

 

「まだまだ修行が足りないな」

「ぐっ……」

「俺に俺の事で意見するなら一本でも取ってみろ」

「無茶言うな~~~~~! 心配したんだからね!」

「それは悪かったって。代わりにこれやるから」

「な、なにこれ……」

「ALOの再調整テストの招待パスワード」

「本当っ!?」

「ああ」

 

 竹刀を返して2階への階段を登りながらはしゃいでいる直葉に告げる。

 

「俺、明日からしばらく旅行に出かけるから戸締まりとかちゃんとするんだぞ」

「わかった……って、誰と!? 誰と行くのお兄ちゃん!? まさか彼女さんとっ! だっ、駄目だよっ!!」

 

 無視して部屋に入って鍵を閉める。服を脱いで着替えてから明日の準備をする。着替えなどの準備をしたらアミュスフィアを着けてベッドに寝転びながらログインする。GGOで詩乃と合流して一緒に狩りに出かけながら明日の予定を話していく。それと倫理機構の部分でハラスメント行為の対象外にお互いを指定する事でキスとか問題なくできるようにした。もちろん、エッチな事もできる。まあ、キスまでしかしてないけどな。

 

 

 

 

 



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10話

 

 

 

 

 

 

 詩乃と一緒にバイクに乗って旅に出る事にしてから少しして準備が整った。次の日、一緒に詩乃の実家を目指して出発した。高速道路に乗って進む事数時間。朝早くに出発したのでそろそろお腹が減ってきたし休憩するべきだろう。

 

『そろそろどこかで休むか』

『そうね。そろそろ8時だしご飯にしようか』

 

 俺の背中に身体を押し付けて身を預けてくる詩乃がヘルメットに装着されたイヤホンマイクから声を伝えてくる。

 

『どこにするか……』

『ここから36キロ先にサービスエリアがあるみたいだし、そこでいいんじゃない? 美味しいハンバーガーショップがあるみたいだし』

『そうだな。そこでいいか』

 

 ヘルメットのバイザーの一部にナビゲーションシステムが映し出されている。それを見て詩乃が探してくれたのでそこにする。このヘルメットはリタやドクターが作成した特別な物で、色々と改造されている。高速道路や一般道などに張り巡らされているネットワークを通じて情報を収集して解析し、物体を予測するシステムも搭載されているので事故の確率をかなり低くしてある。こちらは実験中で発売されれば大ヒットだろう。この他にもVRシステムが搭載されているのでゲームすら可能だ。もちろん、動体センサーが搭載されて運転中には使用ができない設定になっている。旅行とかの事を相談したら搭載してくれたのだが……あの2人の技術力は異常という言葉がぴったりだ。

 少ししてサービスエリアに入る為に速度を落としていく。側道に入って行くと海が視界一面に広がった。

 

『綺麗だね』

『うん。そういえば、海産物もいいのがあるみたい』

『ならお土産に何か買う?』

『そこまでお金はないよ』

『俺が出すよ』

『悪いわよ』

『気にしなくていいよ。詩乃は俺の彼女だし』

『でも……』

『それに詩乃は俺のモノなんだし、詩乃の物は俺の物、俺の物は俺の物だし』

『むっ……わかったわよ』

 

 詩乃が折れたくらいで丁度駐輪場に到着したのでバイクを止める。詩乃が降りてから、俺も降りる。ヘルメットを脱ぐと一緒に脱いだ詩乃のいい匂いがこちらに届いてくる。

 

「どうしたの?」

「いや、なんでもないよ。それじゃあ、行こうか」

「うん」

 

 バイクのキーを抜いてロックを掛けてから帽子を被って髪の毛を後ろでまとめて詩乃と一緒に手を繋ぎながら移動する。

 

「んっ。やっぱり、恥ずかしいわね」

「でも、いいじゃないか」

「そうね」

 

 顔を赤くした詩乃と共にお店に入る。ここはレストランとお土産などの売り場が一緒になっている。

 

「朝ご飯はどうしようか?」

「じゃあ、適当に買って来るから席を取って待ってて」

「わかった」

 

 詩乃に席を任せて買い物に向かう。ラーメン、うどん、お寿司、ハンバーガー、普通のパンなど。とりあえず、朝だけどしっかりと取りたいのでサラダとハンバーガー、パンを少々。後は美味しそうなデザートかな。

 適当に買い物が終わり、戻ろうとした時に見覚えのある女の子を見つけた。茶色の髪の毛を持つ綺麗な少女。

 

「結城明日奈……」

「え?」

 

 俺の言葉に反応した彼女はこちらを振り向いて見詰めてくる。

 

「あ~」

「えっと、誰かな?」

 

 失敗したな。しかし、こうなると……いや、いいか。誤魔化せばいいんだ。それに知っていても問題ないし。

 

「俺は桐ヶ谷和人。貴方のお父さんと仕事の関係で何度か一緒した事があってね」

 

 帽子を取って名乗る。

 

「お父さんの……あ、モデルとかしてる人!」

「そうそう。VR関係でも色々とやっていたので」

「何時も父がお世話に……」

「いえいえ、こちらこそ……」

 

 色々と話してお互いに待ち人が居るとの事で一緒に向かう。

 

「そういえばアルヴヘイム・オンラインを買い取ったのは貴方達でしたよね?」

「そうだね。ソードアート・オンラインのデータもあるよ」

「っ!? 本当ですか!」

「そっちはアルヴヘイム・オンラインと合わせて準備してるよ。もうすぐリリースするから」

「よかった。あそこには娘と会える大切な所があるので……」

「ゲーム内での娘か……リアルでも会いたい?」

「それはできれば」

「じゃあ、後ほど連絡を入れるよ。ヒューマノイドの開発を行なってる人がいるから、身体を用意できるかも」

「わかりました。期待して待ってます」

 

 そんな会話をしながら食堂に向かう。

 

「おーい明日奈! こっちだ!」

「和人、こっち」

 

 俺達を見つけた人から声がかかる。ただ、お互いに俺達を見て微妙な表情をしている。そんな2人に近付いて紹介する。

 

「明日奈さん、こっちが俺の彼女の朝田詩乃。彼女は仕事先の社長の娘さん」

「……よろしく、お願いします」

「結城明日奈です。こちらが私の彼氏の壷井遼太郎さんです」

「おう、よろしくな!」

 

 まさかの事だった。明日奈を射止めたのが、転生者とかじゃなく、よりによってこの人とは。いや、憑依者の可能性もあるかも知れないが、ありえねー。

 それからアルヴヘイム・オンラインやソードアート・オンラインの事を色々と教えて貰った。共通の友人でもあるエギルさんの話でも盛り上がった。その後、食事を終えてドライブ中の彼らと別れて俺達もバイクで進んでいくのだった。

 

 

 

 

 



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11話

諸君! 我らがシノン様が活躍するソードアート・オンラインⅡ 第2話は見たか!!
見てない奴はなんとしでも、手段を選ばずに見るのだ!! これは最優先事項である!! ジーク・シノ……ぐべらっ!?(調子に乗りすぎて狙撃されたようです)




 

 

 

 

 思わぬ遭遇からお昼を含んで更に数時間進んだ。夕方となり予約を入れておいたホテルに到着した。そのホテルは高級ホテルと呼ばれるものでかなりの人気らしい。一泊なんと約40万円もするのだから凄いよな。

 

「ねえ、本当にここで泊まるの?」

「奮発してみた」

 

 流石に一泊で40万は俺でも高い。だけど、今日は詩乃とやっちゃうつもりだからいい所にしようと思ったのだ。

 

「こんな所で大丈夫なの?」

「前払いしてあるから大丈夫」

 

 ボーイに名前と予約の事を伝えると荷物を持ってくれる。バイクはあちらで保管してくれるようだ。それから誘導に従ってフロントのあるロビーへと向かっていく。詩乃は緊張しているのか、俺の後ろに隠れるようにして付いてくる。

 ロビーも豪華でシャンデリアとかがあるせいか、城のようにも感じられる。そんな中、ロビーの2階でVIP専用の場所に通される。そこで予約の確認が行われる。確認の間は椅子に座って無料のドリンクで喉を潤す。

 

「本当になんか場違いな気が……」

「あははは、まあ学生がこんな所に来るなんて普通はありえないしね」

 

 他のお客は明らかに高級なスーツを着ている人がほとんどだ。どれも豪華な服を着ている。まあ、俺の年収って映画とかの俳優の仕事とモデルの仕事で8桁になってるんだけどね。製作から何まで殆ど人を入れてないし、その分分け前も多くなる。もう放っておいても遊んで暮らせるだけのお金はある。直葉には内緒だが。

 

「和人に合わせると色々と大変そうね」

「諦めて。それより、どう?」

「これ? 美味しい」

「じゃあ、交換しよ」

「……いいけど」

 

 顔を若干赤らめつつ互いのドリンクを交換して飲む。詩乃が頼んだのは紅茶だが、いい葉っぱが使われているようだ。俺の選んだのはコーヒーだったりする。

 

「苦い」

「あははは、ブラックは辛かったか」

「ブラックは辛かったか」

「むっ。飲めるわよ」

「あっ」

 

 詩乃が全部飲んじゃった。まあ、別にいいけどさ。

 

「お客様。お部屋の方へ先にご案内致しますか? それともお食事の方を先になさいますか?」

「どうする?」

「私が決めるの?」

「俺はどっちでもいいし」

「じゃあ、食事が先かな」

「という事でお願い」

「畏まりました。お荷物の方はお部屋の方に運んでおきますが、よろしいでしょうか?」

「お願い」

「はい」

 

 案内されてエレベーターに乗り込んで上へと上がっていく。レストランのフロアに到着すると執事服を着た老人が現れた。

 

「どうぞこちらに」

 

 案内されて窓際の席に着くと、ドリンクと料理が運ばれてくる。流石にお酒は駄目だ。

 

「夜景が凄く綺麗ね」

「そうだね」

「ねえ、なんでこんな所にしたの?」

「それは詩乃と初めての旅行だし、詩乃の事を貰いたいなって」

「っ!? ばっ、馬鹿でしょ。こんな所に連れてこなくてもいいのに……」

「どうせならいい場所がいいし。GGOでも選びたいね」

「あっそ。好きにしたらいいわよ。私はそのっ、和人のモノだし……」

 

 顔を真っ赤にさせて俯きだながら言ってくる詩乃は可愛い。

 

「ほ、ほらっ、冷める前に食べよ」

「そうだね」

 

 美味しいコース料理を食べたら執事服の老人にスイートルームに案内される。一日中ホテルに滞在する場合も快適に過ごせるように作られた部屋は調度品からしてもどれも最高級の品物だろう。

 

「壊すと大変な事になりそうね……」

「数百万はするだろうね。まあ、ここに泊まる時点でそれぐらいぱっと払えないと駄目なんだけどね」

「……まあ、気にしなくていいって事ね」

「そうだよ。故意的に壊されるのはちょっと嫌だけど」

「しないわよ!」

「なら問題なし」

「案内をしてもよろしいでしょうか?」

「「お願いします」」

 

 2人で真っ赤になりつつ、執事さんにお願いする。部屋の案内や飾られた絵などの調度品の説明など色々とされる。俺と詩乃は執事さんの話に興味を引かれて聞きまくる。内装の写真も撮らせて貰う。こっちはVRで映画に使う予定だ。

 

「以上になります。何かご質問はございますか?」

「大丈夫です」

「はい、ありがとうございます」

「では、何か御用がございましたらこちらのベルを鳴らしてください。直ぐにお伺いに参りますので」

「わかりました」

 

 執事の人を見送った俺は詩乃が不思議そうにベルを見ている。

 

「これを鳴らしたら来るのよね?」

「そうだね」

「なぜ?」

「センサーが仕掛けられているとか。持ち上げたり、中のクラッパーに取り付けられていて知らせる仕組みかもよ」

「ふ~ん」

「っと、それよりもお風呂に入ろっか」

「いっ、一緒に……?」

「そう、一緒に。洗いっこしようよ」

「っ!? か、和人がの、望むなら……いいよ……」

「ありがと」

「あっ!? ちょ、ちょっとっ!?」

 

 そっぽを向いた詩乃をお姫様抱っこで抱え上げて風呂場に向かう。ここの風呂場は天井と壁を開けられる仕組みで絶景の夜景を見ながら露天風呂が楽しめるのだ。てな訳でスイッチを押した後、詩乃の服を脱がしていく。

 

「じ、自分で脱げるわよっ」

「いや、脱がすのが楽しいんじゃないか」

「へっ、変態っ」

「変態で結構」

「とっ、というか……なんか手馴れてない?」

「あっはっは……」

 

 その言葉に乾いた笑いを出しながら沈んでいく。

 

「ど、どうしたの?」

「いや、女装させられた時が何度かあってね。まあ、この見た目だし仕方ないんだけどさ……」

「ああ、それで慣れてるのね」

「うん。脱ぐのとか、着るのとか何度もしたしね。一部では男だと公表してるのに男性からラブレターが……」

 

 ああ、思い出しただけで震えてくる。襲われた事も何度かある。もちろん撃退して警察に引き渡したが。子供の頃からこの美少年っぷりだったし。これが誤算の一つだ。他にも直葉や両親が女装させようとしてきた事もある。

 

「だ、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。うん、問題ないよ。目の前に愛する可愛らしい彼女が居るんでしね」

「ばっ、馬鹿っ」

「本当に可愛いな」

「ほ、ほら和人も脱いでよ! 私だけが裸とかずるい!」

「ほほう、じゃあ脱がしてよ」

「ぐっ……いっ、いいわよ! 覚悟しなさい!」

 

 詩乃が頑張って服を脱がしていく。アソコを出した時など超真っ赤になって固まった。まあ、直ぐに復帰してそっぽを向いてバスタオルを身体に巻いてさっさと風呂場に行ってしまったが。

 

「さて、洗いっこしようか」

「ねえ、本当にやるの? 凄く恥ずかしいんだけど……」

「どうせこれからもっと恥ずかしい事をするんだし」

「それはそうだけど……」

「詩乃が本当に嫌なら止めるけど……」

「別にそこまで嫌じゃないわよ……んっ、やりましょう」

 

 気合いを入れた詩乃はスポンジにボディソープを付けて行く。俺は風呂用の椅子に座って詩乃の洗ってくれるままに身を任せた。ここで手で……とかいうのはエロの定番だけど、流石に詩乃がいっぱいいっぱいだろうしやらない。ただ、お互いに身体を洗いあうのはさせてもらった。その後、湯船に身体をくっつけながら浸かって夜景を楽しむ。設置されていた冷蔵庫からドリンクを入れる。

 

「乾杯しようよ」

「そうね……」

 

 2人でゆっくりとお風呂を楽しんだ後、無言で身体を拭いて髪の毛を乾かす関係で詩乃が先に出る。俺が寝室に戻ると詩乃はベッドの上でバスローブ姿で待っていた。

 

「えっと、不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」

 

 三指をついてベッドの上でそんな事を言ってくる詩乃に思わずルパンダイブをしてベッドの上に押し倒した。

 

「とうっ」

「ちょ、ちょっとっ!?」

「もう我慢できないからね」

「ぷっ。ええ、我慢する必要もないから、好きにして。でも、キスからがいいかな」

「そうだね。じゃあ――」

「ちゅむ……んちゅ、ちゅ……」

 

 唇を合わせて優しくついばんでいく。次第に口を開いてお互いに舌を絡め出していく。

 

「れろぉ……んろぉ、ちゅ、く……れりゅっ……んっ、んんっ……ちゅろっ……」

 

 詩乃と舌を交わしていくと、我慢できずに手が詩乃の身体の上を撫で愛撫ていく――

 

 

 

 

 

 

 



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12話

R18もあげたよ!
(ttp://novel.syosetu.org/30456/)
くれぐれも18歳未満はみないように!
そうじゃないと、へカートで狙撃されちゃうZO!


 

 

 

 

 暖かな温もりと柔らかい感触に包まれて目覚める。目の前には細工が施された綺麗な天井。ここで知らない天井だと言うのが、テンプレなんだろうが、あいにくと泊まりに来ているロイヤルスイートだ。柔らかいベッドのお陰でグッスリと寝れたようだ。まあ、それだけじゃないだろうけど。

 

「んっ……んんっ……」

 

 すぐ隣に俺の腕を枕にしながら眠っている詩乃が居るのだから。それにしても、詩乃の寝顔は可愛い。つい頭を撫でてしまう。こんな可愛い彼女ができるなんて思わなかった。いや、まあ……作ろうと思えば作れるんだが、金目当てだったりと色々とあるので作らなかったのだけど、詩乃はそんなの関係ないからな。

 

「……んっ、んんっ……」

「おはよう、詩乃」

「……おは……よう……っ!?」

 

 寝ぼけながら俺の顔を見て直ぐに真っ赤になる詩乃。

 

「うっ、うぅ……」

「可愛い寝顔だったよ」

「ばっ、馬鹿っ」

 

 恥ずかしさのあまり向こう側を向いてしまった詩乃に後ろから抱きついてこちらに顔を向かせてキスをする。

 

「ちゅっ」

「んんっ……ちゅ、ちゅるっ」

 

 直ぐに口を開いて舌を絡める。

 

「ね、ねぇ……するの?」

「いや、しないけど」

「じゃあ、このあたってるのは……?」

「ああ~朝の生理現象だから気にしないで。それに詩乃の身体の事を考えたらできないよ」

「別にいいのに……」

「それよりも風呂に入ろう。今の時間だと景色も綺麗なはずだ」

「……そうね。また一緒に入るの?」

「当然」

「はぁ……わかった……」

 

 起き上がると、布団がずり落ちて詩乃の綺麗な裸が現れる。俺は詩乃の裸を見詰めてしまう。

 

「みっ、見ないで……」

 

 手で胸と股間を隠す詩乃。視線を下にやると赤い染みがシーツについてしまっている。

 

「はっ、早くお風呂行くわよ!」

「そっ、そうだな……」

 

 脱ぎ捨てていたバスローブを掴んで立ち上がる詩乃。

 

「痛っ」

「っと、大丈夫か?」

「うん……なんだか変な感じがする」

 

 倒れてきた詩乃を抱き留めて俺もベッドから出る。そのついでに詩乃をお姫様抱っこする。

 

「ちょ、ちょっと……」

「まあ、いいじゃないか。このまま風呂場に行くよ」

「うぅ……凄く恥ずかしいんだけど……」

 

 詩乃の言葉を黙殺して風呂場向かう。裸のままなのでそのまま浴室に入って詩乃を座らせて身体を洗っていく。明るくて恥ずかしがる詩乃を堪能しながらしっかりと綺麗にする。俺も詩乃に簡単に洗って貰ってから一緒に湯船に入る。

 

「しっ、染みる……」

「大丈夫?」

「慣れれば平気」

 

 湯船に入り、詩乃を膝の上に乗せて抱きしめながら外の景色を見る。

 

「凄く綺麗……」

「夜明けの富士山は綺麗だ……」

 

 昨日はご飯が終わった後にお風呂に入り、する事をしてさっさと寝てしまったので起きた時間も早い。そのお陰で夜明けの光を受ける綺麗な富士山を詩乃と一緒にお風呂に入りながら見れた。

 

「今日はどうするの?」

「今日は詩乃の家まで行く予定だったけど、このままもう一泊して詩乃の体調を整えてからの方がいいかな」

「そこまでしなくても大丈夫よ。痛み止めを貰っておけば……」

「ん~まあ、ここから3、4時間で詩乃の家には到着するから様子を見ようか。それにこのホテルは色々とサービスがあるみたいだし」

「サービス?」

「エステとか」

「エステとか受けた事ないけど……やってみようかな。私の身体、もう和人のモノだし綺麗にしないと……」

「詩乃は充分綺麗だけどな~」

「お世辞はいいわよ」

「お世辞じゃないのに」

 

 真っ赤になって照れている詩乃を抱きしめて、時々悪戯しながらまったりとした時間を富士山を見ながら過ごす。

 少しして、お風呂から出て服を乾かす。髪の毛の量から詩乃の方が先に乾くので手伝って貰う。その間ににベルを鳴らしてみる。すると微かな時間で扉がノックされた。

 

 

「どうぞ」

「失礼致します」

 

 部屋に入って来た執事さんはトレイを持っていた。

 

「おはようございます。朝の紅茶はいかがでしょうか?」

「貰うね」

「お願い、します」

「畏まりました」

 

 淹れてくれた紅茶は美味しくて身体に染み渡る。ハーブティーのようだけど、詳しいのは分からない。

 

「あっ、寝室なんだけど……」

「直ぐに新しいのにお変えいたしますね」

 

 テキパキとしてくれる。しかし、あれだね。テンプレ的な言葉を欲しくなる。ちなみに詩乃は真っ赤になって窓の外を見ながら紅茶を飲んでいる。

 

「昨晩はお楽しみでしたね」

「うわっ、心を読まれたっ!?」

「桐ヶ谷様の出演作品なども知っておりますから、これくらいの予想は容易いのでございます」

「そうなんだ……確かにそんなシーンがあったな~」

「それとうまくいったようで何よりでございます」

「そういえば、なんかお風呂から出たら甘い匂いがしてたね」

「それはこれでございますね」

 

 香炉を持ってきてくれた。微かに香炉からは甘い匂いがしている。

 

「気分を楽にしてくれますので、初めての方々にお使いしております。VIPの若い方々はよくご利用なさいますので」

「それのせいっ!?」

 

 まあ、確かに婚約者同士が結婚して初夜をホテルで……とか結構あるみたいだしね。というか、このお香のお陰で詩乃が濡れ濡れだったんだね。

 

「要らぬお節介でしたかな?」

「い、いえ……助かりましたけど……恥ずかしい……」

「可愛かったからよし。それよりも朝食かな」

「直ぐにご用意致します。少々お待ちください。それと桐ヶ谷様には申し訳ございませんが、オーナーよりこちらを……」

「ふ~ん」

 

 受け取った手紙を見ると、簡単に言えば仕事の依頼だ。VR技術を使った演出を行いたいそうだ。期間は長いので問題ないのは一応、こちらの事情を考えてくれたからだろう。それに報酬が魅力的だ。系列会社のホテルでのフリーパスに、他色々。受けるなら直ぐにでもできる問題ない簡単な仕事だ。むしろ、美味しい類いに入る。

 

「詩乃、仕事受けていい? 今日の昼すぎくらいまでには終わるだろうけど」

「いいわよ。私はエステとか行ってみるし」

「じゃあ、受けるって伝えて。それと機器はあるんだよね?」

「はい。こちらの機器ですが……」

「機材はいいけど、映像が全然駄目なのか。やっぱり、楽な仕事だ。じゃあ、ちょっとお仕事と行きましょうか」

「お願い致します」

「和人、その前にご飯」

「そうだった」

 

 豪勢な朝食を食べてドクター達とネット回線で繋げて映像を作成する。その間に詩乃はエステなどに向かった。今回の料金も無料になるし、みんなで遊びに来るのに充分な施設があるのでここのフリーパスはかなり使える。母さん達に家族サービスもしてあげないといけないし、派手に作成しましょうか。

 

 

 

 



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13話

 

 

 

 

 お仕事は非常に簡単な方法を取る。このホテルにはドクターとリタが作ったVR投影機があるのでそれを使って海の生物を立体映像として作成する。クオリティも実物と変わらないレベルで作成していく。

 

「どうせならアルヴヘイムの宣伝も兼ねない?」

「それもそうだな」

「んー確かにそっちの方がいいわね。どの子使うのよ?」

「ウンディーネでいいんじゃないかな。ああ、知り合いにいい子が居るからちょっとオファーしてみる」

 

ネット内にダイブしてドクターとリタと俺の3人で作っていく。SAOのカーディナルシステムに代わるシステムも作成してあるのである程度の融通は効く。

明日奈にオファーを出してから海の生物達をどんどん作成していく。作るのは水族館みたいな物だ。プールもレジャー施設並のがあるので水中にも魚の群れを投影すればそれだけで人が呼べるだろう。

 

「ねえ、このデータを利用して実際にダイブすれば海の生物と触れ合えるのも楽しそうじゃない?」

「それは確かに。ドクター、できる?」

「任せたまえ。シードで1つ作るくらい片手間でできるさ」

「じゃあ、色んな海をよろしく。週替わりで入れ替えよう」

「待て、流石にそれは片手間では……」

「よろしく」

「がんば」

「し、仕事が他にも……いや、基本を作れば自動収集と自動生成でどうとでもなるか」

 

2人がどんどん作成していく。思考制御で入力し、並列思考は当たり前という頭のデキがおかしな2人の仕事量ははっきり言って数十人どころか数百人分の仕事量を終わらせている。

 

「根幹部分はできたわよ。あとは実際のデータね」

「了解。デザインも出来たからリタは作成と修正をお願い」

「任せて」

 

80分で全員の作業が終わり、デバックと最終調整に90分を使ってネット内での仕事は終了した。

数ヶ月単位のお仕事が170分とか、チートだよな。

 

「んじゃ、後はよろしく」

「任せたわ」

「わかった。ありがとう」

 

2人は直ぐに別の仕事に取り掛かる。俺は俺で外に出て投影機にデータを移して起動してみる。するとホテルの3階くらいまで吹き抜けになった巨大なロビー上部が海の映像に切り替わり、魚が泳ぎ出した。

 

「なにあれ!?」

「凄い……」

 

ロビーの下の方にも海から海上に飛び出るようにして飛んでいき、客達の間を泳いで上の海に戻っていく。三階部分からは海の中が確認できるようにしてある。

 

「もうできたのでございますか……」

「ええ。後はプールとVR空間の設置ですね」

 

詳しい事を説明して許可を貰って作業を行ったのでプールも即日から稼働させた。一時だけお客さんには出て行って貰ったけど。これは泳いでる最中にいきなり魚が出現してパニックになったら大変だからだ。VR空間の方はカプセルベッドを用意してもらって体験コーナを作成してもらって実際に一般の人と従業員の人に試してもらう。キャラクター作成は外で現実の自分に選んだ水着だけという簡単なものなので子供達も可能であり、なにより親御さんと一緒に選べるので安全だ。

これらも110分で終わったので万々歳だ。

 

「この度は誠に有難うございます」

「いえいえ」

 

オーナーの人がやって来てお礼をしてくれた。報酬に色もつけてくれるようだ。

 

「それと宿泊客だけじゃなく、外部からも人を呼んだ方がいいですよ」

「しかし、それでは宿泊客の方が……」

「優先権などで差別化を測ればいいんじゃないかな? カプセルの方は買えばいいし、プールは人数制限を入れて快適なように調整すればいいし」

「ふむ。予約制ですね。では、ついでにお食事券も付けてセット販売をしましょう」

「じゃあ、お土産のプレゼント抽選会とかもいいかもね」

「それでしたら、別館の一般向けの方もお願いできますか?」

「データはリンクさせれば直ぐだから、購入してからどうぞ。流石に投影機が足りない」

「わかりました。では、後ほど連絡しますね」

「お願いします」

 

これでお仕事は終了。お昼を過ぎちゃったけど詩乃は待ってくれて居るかどうか……と思ったのだけど、詩乃だから待ってるよね。

 

「あ、お帰り」

「ただいま」

 

ロイヤルスイートの部屋に戻ると肌がツヤツヤになっている詩乃が居た。

 

「どうだった?」

「ん、痛かった」

「あはははは」

「ご飯はどうする?」

「ん~適当に食べてから向かおうか」

「和人は疲れてない?」

「大丈夫」

「じゃあ、レストランで食べようか」

「うん」

 

レストランで昼食を取った後、チェックアウトしてもらう。この時、高級な海鮮類やお肉のお土産を渡されたのでホクホクだ。

それからは詩乃に抱きついて貰ってバイクで飛ばしていく。捕まらない程度にだけど。

何度か休憩を挟んだ時に詩乃の家に連絡を入れる。

それからも走って午後5時57分に詩乃の家に到着した。

 

「ここが詩乃の家?」

「うん。和人のとこみたいに豪華じゃないけど……」

「いや、うちもそうだから……いや、家に道場がある時点でおかしいか」

「うん」

 

バイクを止めて詩乃からヘルメットを受け取る。

 

「じゃあ、ちょっと呼んでくるね」

「荷物を降ろしてるから」

「わかった」

 

詩乃が家に入っていくのを見送った後、荷物を降ろしていく。家の中では楽しそうな会話が聞こえて来て、扉が開けられると涙を流している詩乃が俺に抱きついて来た。

 

「和人、ありがとう」

「気にしなくていいよ。それより、ほら」

 

詩乃の母親と祖父母が出てきてこちらを見ていた。

 

「初めまして、詩乃と結婚を前提にお付き合いさせて貰っている桐ヶ谷和人です。どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ……」

「うむ」

「……」

 

挨拶を終えた後はそのまま中に入れて貰って色々と話をする。お土産も渡して一緒に夕食を食べながら色々と話していった。

食べ終えて少ししてから詩乃の部屋に入る。詩乃の部屋は年頃の女の子の、妹の部屋とは違い物が少なく実用的な物が殆どだった。

 

「これからどうする?」

「少し遊ぼっか」

「そうね」

 

2人で1つのベットに寝ながらGGOにログインする。シノンとキリトとなって2人で狩りに出かけていく。新しく実装されたというダンジョンを探して荒野を進んでいくと空にそびえ立つ摩天楼が見えて来た。まあ、遠いしエネミーも居るのでログインとログアウトを繰り返して進んでいくのだった。

 

 

 

 



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キリト君はチートね

短いです。
ちょくちょくでも更新していった方がいいかなと


 

 

 

 詩乃の家に泊まり出して3日目。朝は家の事をお手伝いして詩乃の家族と親睦を深めつつ、昼から詩乃と一緒に街をデート。詩乃が通った学校やら、例の場所を一緒に見たりした。夜はGGOにログインしてシノンと一緒に過ごす。

 

「さて、ようやくダンジョンの所まで来たね」

「そうね」

 

 バギーでここまで来るのに時間はかかっている。ダンジョンの場所を探すのも含めてだから仕方ないけどな。

 

「じゃあ行こっか」

「ええ」

 

 2人で廃ビルの中へと入り、移動していく。先頭で進むと急に予測線が現れたので回避行動に移る。飛び退ると直ぐに銃撃が行われる。

 

「避け――」

「あっ」

 

 避けた瞬間、床が崩れて地下へと落ちていく。シノンも一緒に落ちているので急いで瓦礫を蹴って近付き、抱き締める。同時にアイテムストレージからワイヤーフックを取り出して上へと投擲して巻きつける。

 

「っ!?」

「だっ、大丈夫?」

「うん、まあ……なんとか」

 

 腕に衝撃が伝わって来たが、どうにか耐えられた。アイテムの耐久力も減ってしまったが、このままゆっくりと降りられる。流石に上に行く機能はない。

 

「落下の即死トラップかな?」

「みたい。でも、短縮ルートみたい。ほら、アレ」

「確かに……ここもグロッケンの地下ダンジョンみたいだし。いや、新エリア?」

 

 シノンの言葉に少し移動して遠くを見ると大きなアルマジロみたいなエネミーが徘徊している姿が見えた。

 

「どうする?」

「帰れないし狩っちゃおう。狙撃してみ」

「わかった」

「他の同系列のエネミーからすると弱点は額の結晶みたいな奴だと思う」

「アレね」

 

 シノンがライフルを取り出して寝転がる。俺はその横で光剣を構えつつ双眼鏡で距離を測って伝える。

 

「大丈夫、任せて」

「落ち着いてね。弾丸は沢山あるから」

「うん」

 

 引き金が引かれて弾丸が発射される。排出された薬莢は地面にあたった後、ポリゴンとなって消滅する。発射された弾丸は結晶に命中し、エネミーは苦しげに悲鳴をあげた。

 

「おお、命中した」

「ん、余裕よ」

「でも、0.4ミリずれたね」

「……指示して」

「オッケー。右に0.4、上に3。そこでいい。タイミングは……撃て」

「ん」

 

 今度のは額の結晶の真ん中に吸い込まれるように命中してエネミーを大きく後ろに転がる。その時、お腹に拳サイズくらいのマークを見つけた。

 

「シノン」

「わかってる」

 

 直ぐに発射された弾丸はそのマークを撃ち抜く。それだけで大ダメージを受けたようで、大きくヒットポイントゲージを減らした。だけど、相手は起き上がって反撃として炎を尻尾から放ってくる。

 

「ふっ」

 

 飛んでくる炎の塊を飛び上がって中心部を光剣で切り裂いて霧散させる。

 

「何馬鹿な事をやってるのよ。当たらなかったわよね」

 

 シノンが撃ちながら言ってきた。

 

「ちょっと試してみたくてね」

「……チートめ」

「あははは」

 

 しかし、炎を切る事もできるか。弾丸も切れるから試してみたんだけど、エネミー狩りもできそうだね。

 

「シノン、0.6下」

「ん」

 

 しばらくやる事もないのでシノンとエネミーを見ながら適当に時間を潰す。マガジンを渡すくらいしかやる事がないし。

 

「試しに撃ってみるか」

「え?」

「ハンドガンでどこまでいけるかね」

 

 狙って撃ってみるとやはりというか、ずれた。ずれた軌道を計算して重力加速度と湿度、空気抵抗を調べる。それらを考慮して撃つ。

 

「ぐぎゃあああああああぁぁぁぁっ!?」

「あっ」

「あたった……」

「ライフルの狙撃距離をハンドガンでやるんじゃないわよ!」

「あははは、しかもラストアタックだ」

 

 エネミーがポリゴンとなって消滅し、俺の目の前にPGM ウルティマラティオ・へカートIIという表示が出てきた。

 

「シノン」

「何よ?」

 

 少しむっとしてそっぽを向いているシノンにトレード要請を出してへカートを入れる。

 

「あげる」

「……いらない」

「シノンのダメージが入っていたし、ラストアタックボーナスなだけだし……俺使わないから。というか、受け取れ」

「む……わかったわよ。ありがと」

 

 トレードが無事に終わった。

 

「早速装備してよ」

「そうね。えっと――」

 

 シノンが操作すると大きな銃が現れた。

 

「重っ」

「鍛えないと駄目だね。全長1380mmだし仕方ない」

「そうね」

「よ~し、シノンのレベル上げも含めてガンガン行こうか」

「ちょっ、ちょっとっ!?」

 

 シノンを抱き上げて高台になっているここから飛び降りて、壁や突き出ているブロックなどを蹴って飛び移りながらエネミーが居た場所に降りる。シノンは顔を赤くしていて可愛かったのでそのまま連れて行ったら怒られた。まあ、当然だけどね。

 

 

 

 



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GGO ダンジョンアタック1

 

 

 シノンと共にダンジョンの奥へと進んでいく。まあ、入り口がどっちかもわからないし、どこが奥なのかもわからないけれど。ただ、トラップを警戒しながら進んでいるので遅い。

 

「出られる?」

「最悪、死に戻りかな」

「へカートを失いたくないから、よろしく」

「任せて。銃弾も勿体無いし、光剣で行くから」

「うん」

 

 シノンも狙撃銃ではなく普通のガバメントを装備して付いてくる。どんどん広くなって来て、気持ち体感温度が下がって来た。それでも奥に行くと気温が下がってくる。

 

「ねえ、寒くない?」

「そうだね。まあ、原因はアレみたいだけど」

 

 奥の方に巨大な二足歩行の巨大な人型のエネミー。手には棍棒を持つ青いトロールだ。身長5メートルという巨大な姿はまさに強力無比なエネミーといえる。

 

「ねえ、あんなのと戦う気?」

「もちろん。援護よろしくね」

「はぁ……わかった」

 

 シノンが近場で寝転がって狙撃体勢に入る。シノンが持ち出したのは先程のへカートⅡだ。そして引き金を引くと轟音と共に弾丸が発射されてトロールの頭部に命中する。俺は走りながら光剣のスイッチを入れて刀身を作り出す。アンチマテリアルライフルの一撃に体勢を崩したトロールは慌てて接近する俺に棍棒を振り下ろしてくる。それを横に飛んで避けると地面にクレーターが出来た。

 

「なんつー馬鹿威力」

 

 足に接近した俺は光剣を高速で振るって切り裂いて行く。トロールは俺を踏みつぶそうとするが、見切って指の付け根を切り裂いてやる。リアルに準じたのか、クリティカルヒットが入って倒れてくるトロールを慌てて避ける。直ぐに倒れたままのトロールの頭部の後ろにまわって瞳に光剣を突き刺して継続ダメージを与える。

 

「――ッ!!」

 

 暴れまわり、俺に向けて自分ごと棍棒で殴ろうとするが、手にシノンが撃った弾丸が命中して軌道がずれる。その間に離れて起き上がったトロールをもう一度転かす。そして、攻撃。何度か繰り返すとトロールは倒れてドロップが手に入った。

 

「楽勝だね」

「いや、普通はもっと大変だから」

「そう? まあ、ドロップは美味しいし次行こう」

「そうだね」

 

 どんどん奥へと進んでいく。何度もトロールが出てきたが、アルゴリズムを理解した後はもはや雑魚だった。更に進んでいくと広大な広場のような場所に着いた。そこには高速で動き回る馬に乗った黒い騎士が居た。明らかにやばい。

 

「よ~し、張り切っちゃうぞ」

「援護はするからよろしく」

 

 相手はこちらに気づくと突撃(チャージ)してくる。軌道を見極めて横を通る瞬間にすくい上げるようにカウンターで切り裂く。時速60キロくらいでている速度にカウンターを合わせるのは結構大変だ。まあ、銃弾には及ばないけど。

 相手の物質剣を光剣で受け流し、近距離から弾丸を瞳に叩き込む。直様馬の攻撃を避けて攻撃する。チャージを封じる為にインファイトを行い、何度も剣閃を交差させる。微々たるダメージしか与えられないが、掠っただけでこちらのヒットポイントは半減する。

 

「ちぃっ!?」

 

 馬が口を開けると巨大なビームを放って来る。それをなんとか避けると今度は直ぐに大剣が迫って来る。この剣の攻撃はパッシブで剣閃を飛ばして来るので掻い潜るしかない。禍々しい鎧と同じ鎧の馬といい、厄介でしかない。

 

「あはっ、あははははははっ、たっ、のっ、しぃいいいいいっ!!」

 

 テンションが上がってきてどんどん身体を加速させて行く。相手の剣を受け流すのではなく、瞬時に何発も当てて軌道を変えさせ、突きを放つ。直様、連続で切り裂いて頭を下げて攻撃を避ける。跳ね上げるように手首を切って首を狙う。馬の動きによって回避された所を無理矢理下に軌道を変えて馬を切る。ついでに蹴りも放って距離を取る。距離を取った瞬間にシノンからの援護射撃が飛んでくる。それも馬が口を開いてチャージしていた場所に。結果、馬は口内で爆発して少なくないダメージを負った。

 

「ほらほら、もっともっと来いよ!」

「ウォオオオオオオオオオオオオオオォォォォッ!!!」

 

 ヒットポイントが半分を切ると全身から真っ赤なオーラを噴出させて速度が2倍くらいに上がったが、まだまだ追いつける。相手の攻撃を計算して事前に避けてひたすら攻撃する。

 

「飛天御剣流、九頭龍閃(くずりゅうせん)!」

 

 九つの急所を連続で切って突く。

 

「遊びすぎでしょ」

「いいじゃないか!」

 

 格闘と銃撃も織り交ぜて徹底的に戦う。しかし、だんだんと物足りなくなってきた。

 

「本物の銃弾より早く動けよ!」

「無理だから。普通の人じゃ勝てないから」

「ちぇー」

 

 馬と黒騎士の攻撃を避けて下から切り裂き、蹴りで黒騎士を叩き落とし、その上に飛び降りて光剣を顔面に突き刺したら終わった。

 

「まあまあだったね」

 

 光剣と拳銃を放り投げて、回転させながらホルスターと所定の位置にセットする。

 

「何か出た?」

「アクセラレートの装置だって」

「なにそれ」

「加速装置だね。短時間だけ速度が上がるって」

「キリトが持ったら駄目な奴ね」

「だねえ。後、パワードスーツかな。一応、2対のエネミー扱いなのか、ボスだったのかも」

「パワードスーツ」

「装備していい?」

「どうぞ」

 

 黒をメインに赤を施した鎧はどちらかというと見覚えがあった。前世でやったエロゲー三極姫に出て来た鄧艾 士載(とうがい しさい)の鎧にそっくりだった。黒い髪の毛も同じだし、垂れ流したままだと同じになる。

 

「似合ってるね」

「ありがとう。でも、使うのかね?」

「さあ? 使えばいいんじゃない」

「シノンが装備するのも安全性が上がっていいんだけど……」

「無いとは思うけど前衛のキリトが落ちたら危ないからよろしく」

「まあ、そうだね。それじゃあ出口を探そうか」

「うん」

 

 しかし、二刀流も楽しそうだし、買おうかな。そんな事を考えながら出てくる騎士達を斬り殺していく。あちら側はトロールが出てきたけど、こちらは普通の歩兵の騎士だったので相手にもならない。

 

「ガンガンにレベル上がるね」

「まあ、ペアでこんな所来てたらね」

「普通は狩れないでしょうしね」

 

 縦横無尽に動き回って敵に仕事をさせずに屠っていく。サブミッションとかも試してみたら結構有効だった。それにシノンの射撃である程度ダメージが入っているので簡単だ。

 

「お、セーフティエリアだね」

「やっと戻れるね」

 

 現実へ戻る為のセーフティエリアを見つけて俺達はそこでログアウトした。まだダンジョンの中だけど、頑張って抜け出さないとね。

 

 

 

 

 



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16話

 

 

 

 

 詩乃に朝から奉仕してもらい目覚めた後、そのまま互いに快楽を貪っていた。そんな事をしていると、部屋の扉が開いた。

 

「あらあら、まあまあ」

「んぷっ! おっ、お母さんっ!?」

「朝からお盛んだね。孫の顔が見れるのは思った以上に早いのかな」

「あ、あっ、あぁ……なんで……」

「今日は出かける予定だったでしょ。だから起こしに来たの。そういう訳で支度してね。あっ、お父さん聞いて聞いて」

 

 部屋から出ていった音夢さんは直ぐにお爺さんの純一さんの元へ掛けていく。

 

「ど、どうしよう……」

「まあ、急いで着替えようか」

「う、うん……」

 

 ベットから出て着替えて急いで下に降りる。下にはお婆さんに見えない少女のようなさくらさんがご飯を作って待っていた。純一さんはソファで新聞を読みながら音夢さんの話しを聞いていた。

 

「詩乃」

「おじいちゃん……」

「わしは曾孫なら3人がいいぞ」

「ちょっ!?」

「私は4人かな~」

「あうあう」

 

 詩乃が真っ赤になりながらあたふたしている。それを見て俺を含めて楽しそうに見ている。

 

「あっ、赤ちゃんとか、和人のなら産みたいけど……まだ早いよ」

「あ、産むのは確定なんだね」

「っ!? しゃ、シャワー浴びてくる!」

 

 走り去っていく詩乃。明らかに――

 

「逃げたな」

「逃げたわね」

「逃げたね~」

 

 逃げた。まあ、わからなくはないけどね。

 

「ほら、和人君座って座って」

「あ、手伝いますよ」

 

 俺はさくらさんのお手伝いをする。残り2人は料理がからっきしみたいだし。

 

「そうそう、和人君」

「なんですか?」

「詩乃の事なんだが、やはり一人暮らしは心配でな」

 

 高校生とはいえ、女の子が親元を離れてマンションで一人暮らしなのは心配なのも納得できる。

 

「そうそう、例の事もあるから心配なんだよね」

「呼び戻そうかと思ったんだけど、和人君が居るなら平気かと思うんだけど」

 

 純一さん、さくらさん、音夢さんが順に心配そうに言ってくる。

 

「えっと、それで……」

「まあ、あれだ。簡単に言ってしまえば一緒に住んで欲しい。そちらの親御さん達の迷惑で無ければ和人君の家でも構わない」

「むしろ、こっちとしてはすごく助かるし、生活費とか家賃とかもちゃんと払うよ」

 

 詩乃と一緒に一つ屋根の下で暮らす? それは結構……かなり素敵だ。でも、家か。母さんは殆ど居ないし問題無いけど直葉がな……いや、そうか。どちらかの家で順番に泊まるのもありか。

 

「分かりました。ちょっと相談してみますね」

「頼むよ」

「はい」

 

 お母さんも連れて来いって言ってたし、問題無いよな。うん、きっと大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 



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桐ヶ谷家

お、怒られる前に謝っとく。ごめんなさい!


 

 

 朝田家でしばらくお世話になり、俺と詩乃は帰って来た。そのまま今度は俺の家に連れて来た。詩乃がここに住む事について連絡した時に今日連れて来るようにと言っていたから。

 

「さあ、入って入って」

「えっと、いいのかな?」

「これから住む事になるんだから気にしなくていいよ。妹や母さんはまだだろうし」

「うん……でも、確定なの?」

「確定だよ。母さんも乗り気だしね」

 

 電話の感じだと何も問題無い。むしろ、助かるらしい。俺と直葉の家事技能は……うん、ダメダメだし。

 

「ほら、こっち」

「んっ……お邪魔します」

 

 詩乃を自宅へと招き入れて案内していく。家は日本家屋に道場まである。庭も隣が空家になった時に買い取って広くしてある。もちろん、俺の趣味で改造してある。

 

「ねえ、和人……」

「ん?」

「なんで庭に滝があるの?」

「修行の為」

 

 滝打ちとか、精神を鍛える為に丁度いいんだよな。

 

「あ、滝の水はお湯にできるし、滝湯にもできるよ。もちろん、露天風呂もある」

「うん、やりすぎ」

「いやー知り合いに頼んだら普通にやってくれたからな」

 

 ドクター達の技術力はやばい。色々と便利アイテムを貸してくれるダメ人間量産猫型機みたいだ。

 

「でも、庭は砂利が敷いてあるだけで庭園じゃないんだね」

「ああ、そこは妹と道場の外で戦う為の場所だな。祖父の教えもあって、よく戦ってるよ」

 

 実際に祖父は強かった。それと直葉もなんだかんだ言って小さい頃から俺に付いて一緒に修行していたから、かなり強い。全国大会でも軽く優勝してくるくらいに。

 

「うん、私には無理」

「まあ、詩乃は後衛だからな」

「いや、戦闘民族と同じにしないで欲しい。頑張るけど」

「適度に頑張ってくれればいいよ。詩乃は俺が守るし」

「うん」

 

 縁側を歩いて家の中を案内して1階にある俺の部屋に移動する。物は殆ど置いていない。せいぜい床の間にある真剣くらいだろう。原作のキリトには悪いけど和室の方が好きなので和室を使わせて貰っている。

 

「ここが俺の部屋」

「刀が置いてある」

「あ、真剣だから気をつけろよ」

「うん……って、模造刀じゃなくて真剣なんだ」

「そう、本物。だから普通に斬れるから。もちろん模造刀もあるけど、そっちは道場に置いてある」

「……なんでかは聞かない」

 

 スルーされた。

 

「こほん。とりあえず荷物置いちゃおう。これから一緒にここで寝泊りするし」

「うん」

 

 バイクに積みっぱなしにしていた荷物を移していく。少しして俺の部屋の一部に詩乃の着替えなど私物が置かれた。布団は一つしかないけど、どうせ一緒に寝るし問題は無い。いや、色んな意味であるだろうけど。我慢できないとかいった。

 

「ん?」

「どうしたの?」

「ああ、妹が帰ってきたみたいだ」

「そうなんだ。音とか聞こえなかったけど……」

「気配がした」

「……うん、挨拶しないと」

「こっちに向かってきてるようだから大丈夫だろ」

 

 直葉の気配は自室に寄った後、こちらに向かって全力疾走してきている。ただ、足音はほぼ無く、限りなく無音に近い。そして何よりもう濃厚な気配を出している。

 

「お兄ちゃんっ!!」

 

 扉が開かれて直葉が飛び込んで来た。直ぐに詩乃に目を向ける直葉。

 

「お前が泥棒猫か!!」

「にゃ、にゃあ?」

 

 小首をかしげながら手を丸めて招き猫みたいな事をしながら鳴いた詩乃。

 

「いや、乗らなくていいから」

「でも、妹さんから取ったのは事実だし……」

「ああ、可愛い――」

「死ねっ」

「ちっ!?」

 

 直葉が隠していた刀を高速で抜刀して斬りかかってくる。俺はそれを両手で挟んで受け止める。

 

「お兄ちゃん……退いて、そいつ殺せない。お兄ちゃんに付いた悪い虫は斬らないと」

 

 虚ろな瞳でそう言ってくる。完全に病んでいる。

 

「かっ、和人……」

 

 身体を少し震わせた詩乃。だが、直ぐに持ち直した。流石に経験があるだけ違う。

 

「大丈夫。直葉、遊びはそれくらいにしろ。いくらなんでも真剣はやりすぎだ」

「ちっ、仕方ないね」

 

 直ぐに瞳が元に戻り、刀も引いてくれる。それから鞘に仕舞ってから詩乃に向けて殺気を飛ばす直葉。

 

「貴方にお兄ちゃんは渡さない。死にたくなかったらさっさと去れ」

「こら」

「お兄ちゃんは黙ってて。これは女の戦い!」

「いや、明らかに……」

「和人、いいよ。えっと、直葉ちゃんだったかな。私は和人のものだから、絶対に和人の下から去らない。それに私はお兄ちゃんを取らないよ。二号でも三号でも尽くすだけだから」

「ふーん、じゃあ私に戦いで勝ったらお兄ちゃんに相応しいって認めてあげる」

 

 鞘に入った刀を詩乃に向けて挑発する直葉。どう考えても“普通”なら詩乃に勝目はない。

 

「うん、いいよ。勝負方法は私が決めていいよね? ジャンルは戦いってそっちが決めたから」

「いいよ。どうせ私が勝つしね」

「じゃあ、和人……VR空間用意して」

「まあ、そうなるよな」

 

 詩乃が勝つ為にはVR空間での戦闘が最低条件だろう。

 

「VR空間? じゃあ、私はリーファで行こうかな。お兄ちゃん、設定できるよね?」

「ああ、問題無い。ちょっと待ってろ」

 

 部屋に備え付けてあるパソコンで設定を行う。使うのはSEEDで作り上げた訓練空間だ。これは各ゲームのデータを解析して武装とステータスを再現出来る。アイテムぐらいしか違いは無いので比較的簡単に行えた。

 

「さて、設定完了。フィールドは草原。500メートル先にお互いを配置するよう設定した」

「わかった」

「うん」

 

 二人が被ったアミュスフィアのスロットにコードつきカードを指して有線で繋げる。これでネットワーク内部に設置された戦闘フィールドに転送できる。

 

「準備できたぞ」

「はーい」

「ん、行って来る」

「ああ」

「「リンクスタート」」

 

 二人が起動ワードを唱えてゲームの世界へと飛ぶ。俺もアミュスフィアを被ってそちらに移動する。

 

 視界が移り変わり、草原の中に立っている。俺はゲームマスターとしてこの世界のコントロールが可能だ。ゲームマスターは破壊不可能存在となれるので問題無く戦いを特等席から見れる。という訳で、詩乃がシノンとなり、直葉がリーファとなった。シノンはいつも通りの姿だ。リーファは原作とは違って長剣ではなく刀になっているくらいだ。

 

「さて、二人共準備はいいか?」

「問題無い」

「ふふふ、切り刻んであげる」

 

 両者共に気合充分で武器を構えている。さて、リーファのゲームでの実力は知らないが、見させて貰おうか。飛行能力と合わさった剣技の性能とやらを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リーファちゃんはちょっと病んでます。
ちなみに流石に殺すつもりはありませんよ。キリトが止めるのがわかりきってますし。止めなければ寸止めです。
お兄ちゃんの為なら未遂も問題無いというくらいには病んでいます。


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桐ヶ谷家2

 

 

 

 

 

 

 開始のカウントダウンが行われ、リーファは空を飛び、シノンはへカートを構える。カウントが零になった瞬間、両者が動く。リーファは瞬時に飛び出しながら恐ろしい速度で魔法を発動させる。その魔法によって有り得ないほど加速を得るリーファ。だが、魔法が発動すると同時に引き金は引かれる。

 

「っ!?」

 

 轟音と共に発射された弾丸は秒速825メートルという驚異の速度でリーファに飛来する。本来なら何もせず貫かれて終わるはずだった。だが、直前で危険を察知したリーファは上昇によって回避を試みる。それによって銃弾から逃れる事はできたが、衝撃波によって少なくないダメージを負う。

 

「なんなのよそれ!」

 

 リーファにとって、シノンがPGMヘカートIIなんて持っているなんて知らない事だ。自分と同じくファンタジー系の魔法が飛んでくると思っていたリーファにとってこの回避は奇跡的といえるだろう。

 

「加速度を計算して……撃つ」

 

 しかし、スナイパーであるシノンは容赦しない。上昇したリーファの速度を割り出して連続で狙撃していく。

 

「なめるなっ!!」

 

 それに対してリーファは抜刀して銃弾を切断してシノンに向かって螺旋を描きながら急降下を行う。普通のスナイパーなら驚愕して終わっていた。だが、生憎とシノンは普通のスナイパーではない。常日頃からパートナーの非常識っぷりにならされている。

 

「キリトの妹ならこれぐらい当然」

 

 平然とそう言ってのけて腰から拳銃を引き抜いて射撃する。これに関してはリーファも抜いた刀のみで対応し、問題無く切り落とす。そして、シノンの直ぐそばまで接近する。シノンは後方に倒れるように飛び退く。

 

「至近距離からの狙撃、回避できる?」

 

 へカートの銃口が倒れる事により持ち上がり、避けられないタイミングで向けられる。

 

「ちょっ!? まっ」

「待たない」

 

 容赦なく引き金が引かれて発射された弾丸によりリーファが吹き飛ぶ。吹き飛んだリーファに対してシノンはへカートを置いて直ぐに別の拳銃を取り出して射撃を行う。リーファはなんとか刀で防ぐが、致命傷こそ避けたが少なくないダメージを受けていつもの剣技を出せない。

 

「こう、なったらっ!!」

 

 最後のあがきとして銃弾を無視して突撃を行うリーファ。それに対してシノンは銃で刀を殴りつけて軌道を変え、自身も回転しながらリーファの懐へと入り込む。そして、突き出された腕を掴んで投げた。

 

「がはっ!?」

「チェック・メイト」

 

 投げ飛ばしたリーファの上に乗ってシノンは銃口を額に突きつけた。

 

「じゅ、銃なんて反則だよ!」

「いや、素人に全力で喧嘩売った時点でお前の負けだから。それに武器を確認しなかったのが悪い」

「ぐっ……でも、さっきの動きは素人じゃないよ!」

「押し込んだからな」

「対策は聞いていた。後、少しずるもした。でも、勝ちは勝ち」

 

 シノンのズル。それは簡単だ。戦闘中に訓練空間に逃げ込んで時間を止めて計算し、準備した事だ。そうでないと、予測線すらない銃弾を切り落とすというふざけた事をやってのけるリーファに勝ち目はないだろう。

 

 

「わ、わかった……認めてあげる」

「ありがとう」

「仲良くしろよ。シノンはお姉ちゃんになるんだからな」

「お姉ちゃん……」

「おっ、お姉ちゃん……」

 

 顔を赤くして照れるシノン。

 

「うん、そうだよね。お兄ちゃんと結婚したら私のお姉ちゃんになるんだよね……」

「それにこれから一緒に住むからな」

「……どういう事?」

「それは……」

 

 リーファに詳しい説明をしていく――

 

 

 

 

 

 

 仮想空間から出て現実へと戻ると、直葉は詩乃ではなく、こっちを見て刀を突きつけてきた。

 

「お兄ちゃん、勝負! お兄ちゃんが居なかった間の挑戦だよ!」

 

 直葉は毎日、一日一回は挑戦してくる。俺に一撃でも入れられれば色々とご褒美を与えている。

 

「後でな。母さんも帰ってくるし、ご飯の用意もしないとな」

「む、明日には絶対だからね」

「ああ。さて、詩乃。悪いけどご飯を作るの手伝ってくれ」

「ん、いいけど……」

 

 詩乃は直葉を見るが、直葉そっぽを向いた。いや、それだけでなく――

 

「あ、私宿題があるから!」

 

 ――逃走した。家事技能が壊滅的な我が妹だった。

 

「直葉は使えないから。というか、料理させたら駄目だ」

「うん、わかった」

 

 エプロンを荷物から取り出した詩乃と一緒にリビングにあるキッチンへと向かう。そこに置いてあるエプロンをつけて一緒に食材を確認していく。

 

「何もないね」

「まあ、自炊は母さんくらいしかしないし。俺も希に作るくらいだから」

「そうなんだ。買い物いかないとね」

「荷物持ちは任せて」

「うん。じゃあ、行こうか」

「ああ」

 

 手を繋ぎながら近所のスーパーに野菜などを買いにいく。一緒にスーパーで食材を選んでいると新婚気分になってくる。二人共赤くなっても、気にせず買い物を行なって戻り、料理を開始する。といっても、今日は鍋なのでそこまで大変じゃない。野菜やきのこ類を切って出し汁の中に入れるだけだし。

 

「お皿はこれでいいの?」

「うん、大皿を使って――」

 

 一緒に準備をしているとチャイムが鳴った。

 

「この時間だとメインが来たみたいだ。ちょっと行ってくる」

「うん」

 

 玄関に向かって、宅配されて来た物を受け取る。今日のメインは大量のカニだ。毛ガニをいっぱい買ってみた。あと、七輪とかも。今日はカニパーティーだ。

 

 

 

 二人で準備をしていると、直葉も降りてきて運ぶくらいは手伝ってくれた。カニは甲羅を最初にとって、それで出汁を取って野菜を炊いていく。いい時間になると母さんが帰ってきた。

 

「ただいま。その子が言っていた詩乃ちゃんね」

「うん」

「よ、よろしくお願いします」

「じゃあ、質問するわね」

 

 緊張する俺と詩乃。母さんの判断次第で結果が変わってくるのだ。

 

「家事はできる?」

「大丈夫です」

「じゃ、合格」

「軽!? お母さん、軽すぎない!!」

「いや、だって和人が選んだなら大丈夫だろうし、それに二人共殆ど家事できないでしょ。一緒に住んで家事をやってくれる方が助かるわ。それに和人だったら向こうの家に入り浸りそうだし、そうなると直葉は私が仕事の時、ここに一人になって心配に――」

 

 母さんが何か心配している。

 

「食事とかは出来合いで問題無いでしょうが、もしも襲われた時やり過ぎたりしないかとかあるし。母さん、幽霊が出る所には住みたくないわ」

「やり過ぎないよ! そりゃ、手足を斬り――じゃなかった、折ったりはするだろうけど」

「詩乃ちゃん、お願いね。できれば栄養の事も考えてあげて」

「は、はい。任せてください」

「ちょっと!?」

「諦めろ。ちなみに手足を斬り落とすのは論外として、折るのも行き過ぎかも知れない」

「そ、そうかな? でも、リタちゃんとか、ドクターの所は穴だらけにするって」

「あそこは例外だ」

 

 直葉もうちのメンバーとは知り合いだ。うん、まあどう考えても俺を含めて悪影響を与えたな。

 

「お腹すいたから食べましょ」

「そうだね」

「はいはい。詩乃」

「うん」

 

 四人で冷房をかけながらの夏カニを楽しんだ。詩乃の部屋に関しては色々と直葉が言い張ったが、俺と同じ部屋になった。母さんは好きにしたらいいと言っていた。避妊するもしないも自由にしていいとの事だ。孫は欲しいらしい。とりあえず、両家公認でイチャイチャできるようになった。これで問題は解決したので本格的にGGOをやろう。まずは第2回バレット・オブ・バレッツ《The Bullet of Bullets》に参加する事だ。

 

 

 

 

 

 

 



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桐ヶ谷家3

 

 

 詩乃が我が家に来てから一週間。こちらでの生活サイクルが決まりだした。まず、早朝4時に起きる。俺が先に起きれば隣で裸で寝ている詩乃の身体を好きに使って朝の処理をする。詩乃が先に起きれば口で起こしてくれる。この起こし方は詩乃が自ら提案して実行してくれている。お陰で毎日スッキリと目覚められる。

 目覚めた後は布団を干してシーツを洗濯機に入れて2人でシャワーを浴びて洗い合う。それが終われば白衣と袴に着替えて俺は直葉を起こしに向かい、詩乃は朝食の仕込みを行う。

 直葉はどうせ起きてないのでそのままドアを開けて入る。何時も通り、ベットにはTシャツ1枚だけ羽織り大きなぬいぐるみを抱き枕にしている直葉が居る。

 

「相変わらず無防備だな……見えてるし」

 

 Tシャツがめくれて下着が見えている。まあ、何時もの事だ。前は思うところがあったが、今は詩乃のお陰で賢者タイムと呼ばれるものなので問題なくたたき起こす。そう、文字通り。

 

「ふっ!」

「っ!?」

 

 部屋にある真剣を取って鞘に入ったまま直葉に振り下ろす。直葉は瞬時に体勢を変えてぬいぐるみと一緒に持っていた小太刀で受け止める。はじめは普通に起こすのが面倒になって小突く程度だったのだが、対応してきた直葉に合わせてだんだんと今の形になってきた。

 

「てりゃっ!」

 

 ベットのスプリングを利用して飛び蹴りをかましてくる直葉の足を掴んで回転し、もう一度ベットの大きなぬいぐるみに放り投げる。

 

「お、お兄ちゃん! 妹はもっと優しく扱うべきだと思う! 詩乃さんみたいに!」

「却下」

「じゃあ、詩乃さんにやってみるたいにエロエロな起こし方で!」

「アホな事をほざいてないでさっさと準備しろ。訓練を数十倍にするぞ」

「イエッサー!」

 

 ばっと起き上がってTシャツを脱ぎ出す直葉。ブラはつけていないのか、見えそうになるのでさっさと外に出てトレーニングルームに向かう。トレーニングルームには大きめのランニングマシンが数台設置されている。他にも目の部分を覆う仮想ディスプレイがセットされている。それらの準備を行なっていると、詩乃と直葉がやってくる。

 

「さて、はじめようか」

「うん」

「だね」

 

 3人でそれぞれのランニングマシンで走り出す。俺と直葉は最高難易度ので、詩乃は比較的簡単なコースだ。

 

「お兄ちゃん、スイッチ入れるね」

「ああ」

 

 仮想ディスプレイのスイッチが入れる。入れた事により、走っていると仮想の銃弾が飛んでくる。それを予測して回避していく。

 

「はぁ……はぁ……相変わらず、デタラメ……」

「慣れたら結構できるよ」

「まあな」

 

 広めのランニングマシンの間を身体を動かして避ける。直葉は刀を使って避けられない弾丸を弾いているが、ベストは使わずに全て避ける事だ。まあ、詩乃から見ればランニングしながら飛び跳ねたりしている感じだが。これを一時間ほど行う。

 次に俺と直葉は道場に移動して模造刀で試合を行う。詩乃はそのままトレーニングを続けてある程度したら合流する。

 最後に風呂場に移動して滝に打たれる。冷水で打たれる為に最初は詩乃がお腹を壊したりしてしまったが、今はある程度平気みたいだ。冷水で精神統一と汗を流し、最後にシャワーを浴びてから出る。だいたいこれで7時になっているので詩乃が作ってくれる朝食を食べて学校へと向かう。朝はこんな感じで、夜は仕事などでバラバラになる。詩乃は基本的には家でマネージャーの勉強とGGOをやっている。

 

 

 こんな生活が続いたのだけど、アルヴヘイム・オンラインも再開し、さらに月日が流れ……第二回BoBが始まる。

 

 

 

 

 



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第2回BOB

 

 

2015年10月。ガンゲイルオンラインにて第2回BoB(バレット・オブ・バレッツ)という最強ガンナー決定戦が行われる。1回目はログアウト可能・5分以内なら再接続可能だったため八百長が発生して急遽第2回目が行われる事となった。1回目は仕事で参加できなかったが、2回目は参加できる。なので詩乃ことシノンと共にログインして総督府を目指してブロッケンの街をバギーを二人乗りして走っている。

 

「いやはや、ついに来たね」

「そうね」

「ガンナー決定戦か~楽しみだね」

「キリトはガンナーじゃないでしょ」

「否定はしない。得物は剣だからね」

「それにしてもその格好はどうにかならないの?」

「え? 面白そうじゃない?」

「いい宣伝にはなるでしょうけど」

 

到着したので2人で並んで総督府に入る。直ぐに周りの視線がいっぱい飛んでくるが気にしない。そもそも視線にはなれてるしな。シノンの方はまだ慣れてないみたいだが。まあ、視線が飛んでくるのはこっちのせいなんだがな。ちょっと仕事の関係で頼まれたんだよね。もちろん、GGOの運営会社にも話は通してある。

 

「あそこでエントリーするみたいね」

「行ってみようか」

 

ATMや映画のチケット販売機みたいな所に登録所と書かれている。そちらを目指して歩いていく。

 

「やあ、シノン。遅かったね。出るって言ってたのに間に合わないんじゃないかと思ったよ」

 

馴れ馴れしく話しかけてきた銀灰色の長髪に長身の男。誰だ? 俺は見た事ないけど。

 

「こんにちは、シュピーゲル。連れの用事で遅れたの」

「連れ? もしかして、その……人?」

「そう。キリト、彼はシュピーゲル。友達よ」

「……そうか」

 

息を吐きながら答える。同時にコホーという吸気音が自動で響く。

 

「つ、付き合う人は選んだ方がいいよ……」

「大丈夫。今回は理由があるから。それよりも登録しないと」

「うむ」

「また後でね」

「あっ、ああ……」

 

シノンに促されてそちらに移動する。まずはシノンが登録を始めて俺が直ぐ後ろに立って漏洩を防ぐ。その間に住所を打ち込んでいく。打ち込まれる住所は俺の所だ。

 

「終わったよ」

「じゃあ交代だ」

「うん」

 

シノンと入れ替わり、俺は運営から支給されたカードを通す。特別な事はない。一時的に名前の変更などを行うだけだ。名前はもちろん、あの人の名前。これでお仕事の準備は完了。後は目立てばいい。ベスト4には最低でも入るように言われているが……優勝を掻っ攫う。

 

「登録完了。行くぞ」

「わかった」

 

2人でエレベーターに乗って地下へと降りていく。地下に降りるとやはり無数の視線が突き刺さる。

 

「おい、あれって司令だよな」

「皇帝の右腕……」

「死の小艦隊」

「ネタか、ネタなのか?」

「いや、そういえば映画がリメイクされるっていう話も……」

「ってことは光剣……いや、ライトセイバーで戦うのかね?」

「んな馬鹿な……」

 

進んでいくと座る場所があるのでその近くで壁に背を預ける。

 

「じゃあ着替えてくるね」

「ああ、行って来い」

「行って来ます」

 

シノンが行ったのでそのまま精神集中を行う。

 

「おい、お前はシノンと一体どういう関係なんだ!」

 

煩わしい声は無視して戦闘のコンディションを確認していく。しばらくするとシノンが戻ってきた。

 

「シノン、彼は……」

「えっと――」

「シノン、始まるぞ。準備はどうだ?」

「――大丈夫。問題ないよ。武装の確認もしてある。そっちは……聞くまでもないか」

「ああ。む、時間か」

 

直ぐに俺は光に包まれていく。どうやら先に戦うようだ。

 

「いってらっしゃい」

「うむ。蹴散らして来るとしよう」

 

わざと真ん中の方へ移動してタイミングを見計らってマントを翻して転移する。次の瞬間には廃墟となったビル街に俺は出現した。視界には戦闘開始の文字が現れて消える。直ぐに光剣を取り出してスイッチを入れて街中を歩いていく。

 

「へっ、まじでライトセイバーかよ。名前までダース・ベイダーだし正気か?」

 

どこからか男の声が聞こえてくる。

 

「コホー。貴様らの相手など剣一本で充分よ」

「言ってくれるねぇ! このギンロウさまが蜂の巣にしてやるよ!」

 

馬鹿な男は声をあげて飛び出して来た。そして、直ぐにH&K UMP……ドイツのH&K社が開発した短機関銃を乱射してくる。

 

「避けるまでもない」

 

光剣1本で外れるのは無視して名中するものは弾道予測線(バレット・ライン)が出る前に予測した場所を次々と切り払う。

 

「んなっ!?」

「それで終わりか? 相手にもならんな」

 

足を踏み込み、パワードスーツの力も合わせて一気に加速して接近する。相手が慌ててマガジンを変えている所に突きを叩き込みそのまま頭を掴んでビルの壁に叩きつける。その後、空中に放り投げて下から落下してくる所を突き刺してやるとゲームセットになった。勝利すれば元のホールに戻っていた。

 

「ダース・ベイダーつえええっ!!」

「ないわー」

「化け物だろ」

 

俺が通ると皆が道を開ける。そこを通ってソファーに向かい座りながらシノンや他の戦いを見ていく。依頼されたのは簡単だ。ハリウッドが改めて作るスターウォーズにGGOの会社が協力する事になり、宣伝も兼ねてプレイヤーを探したら光剣で戦っている俺にヒットしたという訳だ。実際に銃など使わずに剣だけで戦う俺にオファーが来た。映像は全て録画されてネット上に流される。まあ、俺達の会社も協力する事になったので何の問題もなく受けたのだけどな。オーダーはただ一つ。虐殺せよとの事だったのでその通りにしていく。

さて、シノンだが……こちらも危なげなく敵を撃ち殺した。へカートではなくただのライフルで狙撃してだが。そもそもあれくらいなら普通の拳銃で倒せるだろう。

 

「ご苦労」

「お疲れ様。なんか弱いね」

「おれ……私達が強いだけだ」

「それもそうね」

 

飲み物を注文して届いた物を退屈そうに飲みだしたシノンは直ぐに本を開いて読み出した。俺は俺でホールを見渡して用のある奴を探す。そいつが居る場所に向かう。仲間内で話し合っていたが、直ぐに俺に気づいたようで立ち上がって出迎えてくれた。

 

「な、何の用だよ!」

「おい」

 

ギンロウを睨みつけてトレードウィンドウを呼び出す。

 

「あん?」

 

贈るデータは電子チケットだ。それと説明書が書いてある。出演協力という形での報酬となる。事後承諾なのが酷い所なのだがな。

 

「おおっ、まじかよ」

「そういう事だ。わかっているとは思うが……」

「おーけーおーけー終わるまで黙ってるよ」

「うむ。さもなければ処刑だ」

 

それだけ言って帰る。

 

「おい、なんなんだよ?」

「あー終わってから言ってやるよ。今はまだ言えねえな。折角のものがパーになっちまう。まあ、対戦相手になる奴はラッキーって事だな。負けるのは確実かもしれねえが」

 

次の対戦が始まり、同じように残虐な方法で殺してプレゼントを配る。それを繰り返せば本戦に出られた。本線はバトルロワイヤル形式。シノンと合流すれば援護は問題ない。そもそも必要ないかもしれないがな。

 

 

 

 



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閑話 SAOの話

超適当です。メインはGGO、キリトとシノンなので


 とある転生者の双子姉妹

 

 

 

 ソードアート・オンラインという世界に転生した私と妹は神様から特典を貰ったのです。特典はお任せしたら、ゲームの戦極姫なるものから武田信玄とその妹、武田信廉の容姿を貰いました。他にも御家流なる甲斐源氏の霊体を呼び出す風林火山の力と戦国時代の知識も頂きました。現代では使えませんでしたが、色々と便利です。これは戦国恋姫から武田家繋がりでとってきたそうです。そちらから名前も貰って私が光璃で妹が薫でした。最初は大変でしたが、この世界は私達が居た元の世界と殆ど変わっていないので問題なく新たに出来た兄上や家族と仲良く過ごせていました。しかし、病気が発症し、入院する事になりました。武田信玄の病までもしっかりと継承していたのです。入院中、暇つぶしという事で兄上と薫がナーヴギアを持ってきてくれたのです。2人は既にβテストを経験したそうなので大変助かります。

 正式サービスが始まり、病院からログインしたのです。キャラクターネームは信玄。妹も信廉にしていました。どうせならという事ですね。もちろん男性で。

 

「ここがソードアート・オンラインの世界ですか」

「姉上」

「信廉と兄上ですか。この姿では兄上になりますね」

「お前ら、女のままでやれよな……」

「どうせならやってみたかったのです」

「そうですよ。兄上の女好きにも困ったものです」

「そうですね。だから彼女ができないんですよ」

「そうなの!? くそっ、頑張らねえと!」

 

 そんな会話をしながら武器と防具を選んで購入しました。それからはじまりの街の外に出て2人にレクチャーを受けます。

 

「難しいですね……」

「慣れれば簡単ですよ」

「モーションをしっかりすればいいからな」

「ふむ」

 

 何度か試してボアと戦って試します。ゲームで女性化したとはいえ信玄の身体は病気にかかる前のようによく動きます。お陰である程度は戦えるようになりました。そして、少ししてからあの忌まわしき事件が起こりました。この世界に閉じ込められて生死を賭けたゲームをしろというのですから。それに姿も現実と同じ姿にされた為に要らぬ視線が集まってきます。

 

「光璃、薫。俺はダチ達とギルドを立ち上げる。お前らも入ってくれ」

「ええ、もちろんです。兄上だけでは不安ですからね」

「はい。私達にお任せください」

「いや、そうだけどよ……まあいいや。とりあえず2人の名前が信玄と信廉だから風林火山でいいよな?」

「もちろんです」

「私と姉上がサブマスターをしますね」

「頼むぜ」

 

 直ぐに手続きをしてギルドを立ち上げようと思います。ギルド結成には人数が5人以上居るのですが、兄上のお知り合いの方が居ますので問題ありません。その方達を兄上に呼びに行ってもらっている間に私と薫は裏路地に入って少し話ます。

 

「姉上、なんですか?」

「薫。これがただのゲームならこのような事はしたくありませんでした」

「?」

「生死が掛かっているのならば、とやかく言っている暇はありません。チートを使います」

「チートですか? ああ、アレですね」

「はい。武田家の英霊を御家流によって呼び寄せます」

「でも、流石にデータの世界じゃ無理なんじゃ……」

「おそらくすぐに弾かれるでしょう。ですが、私達の体内ならどうですか?」

「反射能力とか技術を得るのですね。確かにそれならば見つかりませんね。流石は姉上です!」

「ズルを褒められてもいい気はしませんが……二十四将を身に宿します。薫を除けば二十三ですが」

「2人で分けましょう」

「ええ」

 

 御家流の力で私達の中に入っていただき、その力を発揮してもらいます。装備は剣ですが、派生させれば刀も手に入るそうです、問題ありませんね。

 

「おっ、こんな所に居たのか」

「兄上、お連れの方はどうなさいました?」

「ああ、大丈夫だ。直ぐにギルドを立てるぞ」

「はい」

「このような時に不謹慎ですが、少し楽しみですね」

「そうですね」

 

 ギルドを作った後はアニールブレードという武器を手に入れる為にギルドメンバーの皆で先を急ぎました。安全な道らしいのですが、狼が出てきました。それを私と薫で瞬殺し、1体にした所を他の方に囲んでもらって倒して貰いました。

 

「いつの間にそんなに強くなったんだ?」

「プレイヤースキルという奴です」

「兄上達も鍛えあげますから覚悟してください」

「お、おう……」

 

 武田軍をソードアート・オンラインの世界に再現してみせましょう。馬はありませんが。

 

 

 

 

 

 時が経ち、第1層で攻略会議が行われる事となりました。その間にした事は迷宮区と呼ばれる場所の捜査とレベル上げですね。それ以外には初心者救済と戦力増強の為に何人かをはじまりの街に配置して勧誘と手ほどきを行って貰っています。女性である私や薫も何度か戻っては同じ女性を勧誘しているので女性の数は増えました。特に小さい子の保護は最優先にしていただきました。

 

「姉上、ボスの威力偵察が終わりました」

「そうですか。ご苦労様でした。それで結果はいかがですか?」

「私達を抜いたメンバーだけでも何度か挑めば問題なくいけます。途中で武器を変えて来なければこのまま押せたと思います」

「私達が参加すれば勝てますか。しかし、もしもの事を考えると参加した方がいいでしょうね」

 

 戦いは数ですから。兄上達と合流して攻略会議に参加しました。

 

 

 これが攻略会議とは……正直言ってかなりお粗末なものです。ディアベルと名乗った人が始めたのですが、途中でキバオウという人が乱入し、それに銀髪の人も乱入し、くだらない事を言い合っています。大きな男性さんが何かを言おうとしても2人は一切取り合わずに言い合っています。

 

「おい、どうするよ?」

「こうなれば当初の予定とは違いますが、使える人だけを引き抜いて我々だけで攻略しましょう」

「そうですね。アレらは要りません」

「だな。じゃあ、ちょっくら声をかけてくる」

 

 私達は鬱陶しそうに眺めている実力のありそうな人をリストアップして声をかけていきます。大きな男の人とフードを被った数人の人達に声をかけて引き抜きました。それから私達は歩いて出て行きます。

 

「ま、待ってくれ!!」

「お断りします。そのような人達と一緒では隊列が乱れます。我々は貴方達とは別に攻略させて貰います」

「なっ!?」

「悪いな。それにアンタはレアアイテムは出た奴の物って事にしてたが、故意にラストアタックの事を隠してただろ」

「っ!?」

「まあ、そういう事だ。俺達なら単独でも狩れない事はないしな」

 

 移動しながら必要な事を話してそのまま迷宮区へと向かいました。まだギルドに加入していない人達を誘いつつ戦い方などを迷宮区で実際に教えていきます。野営道具を持ち込んで夜通し訓練を行って充分な休息を取ってからボスであるイルファン・ザ・コボルトロードに挑みました。私と薫がサポートにつけばなんら問題なく倒せました。他にも強者たる方々が居たのですから当然ですね。その後、打ち上げを行ないつつ説得を行なってアスナさん、リズベットさん、エギルさん、十六夜さんなどなど沢山の方々が風林火山に入ってくれました。

 強者たる方々のお陰で攻略はどんどん進んでいきました。その間に兄上とアスナさんの仲を取り持ったりと色々とありました。レッドプレイヤ-の討伐は精鋭部隊で取り押さえるなんて無駄な事はしません。最初から殲滅を行う事で被害を減らしました。

 75層になり、流石に単体ギルドでは辛くなったので同盟を組んで進んだのですが、勝利の後女性陣から非常に嫌われている銀髪の人がヒースクリフさんに喧嘩を売ってその正体を暴露しました。茅場晶彦は銀髪の人と戦い、あっさりと茅場晶彦ことヒースクリフが勝利致しました。

 

「さて、塵芥は処理した。100階で待つとしようか」

「逃がすと思いますか」

「そうですね」

「馬鹿な……」

 

 私と薫にシステム的制約など効きません。システムを意思が超える事は既にアスナさんがストーカーに襲われた時に兄上が証明してくれました。麻痺を受けていても活動できると。ならば――

 

「武田軍の力、とくとお見せしましょう」

「はい、姉上」

 

 ――御家流で数十、数百人の人の意思力ならばこの程度、問題にはなりません。

 

「皆様、これよりラスボス戦を開始いたします」

 

 風林火山の全員に力を与えてヒースクリフと戦います。

 

「面白い。やってみるがいい! ただし、覚悟したまえ。私もラスボス仕様で行くぞ!」

「へっ、上等だ!」

「そうね。勝ってみせる」

 

 それから始まった戦いは十六夜さん曰く、ラボス並だそうです。ですが、どうにか勝利できました。一切の制限なく全力で戦ったお陰で犠牲者もギリギリでませんでした。それも兄上が死ぬ思いでアスナさんを庇ったお陰ですが。

 とりあえず、エンディングとなり、私達はソードアート・オンラインの世界から解放されました。そして、私は闘病生活に逆戻りとなり……少しして奇跡が起きました。どこかの転生者が馬鹿をやったようです。世界規模での全回復ってなんですか。まあ、感謝はしておきます。

 

 

 

 

 



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第2回BOB 2

 

 

 第2回BOB本戦。バトルロワイヤル形式な為、無人島にランダムで配置される。今回はバトルフィールドが工場地帯……いや、この言葉は正しくない。ここはそう、正式なものを教えよう。今回のフィールドは直径120Kmを誇る銀河帝国の最終兵器、デススターだ。映画のデータをそのまま対戦フィールドにされている。もっとも、俺は制限を与えられて司令室から基本的に動けない。フィールドを知り尽くしているからだ。

 

『えー今回用意されたフィールドはもう、皆さんお分かりでしょう。かの名作、スターウォーズをVR技術で再現した物です。そう、ここはデススター。そして、この施設の指揮官は皆さんご承知の方、ダース・ベイダー卿です。彼は映画にあった通り、ラストシーンの所に居ます。彼は今回、我が社が用意した特別枠で参加していただいています。彼の居たブロックの対戦相手の方には別にプレゼントが用意されているので諦めてください。さて、ルールをご説明致します。今回はポイント制を取っております。参加者は相手を倒せば100点が貰えます。特別参加のダース・ベイダー卿は1000点。10人分に該当します』

『これって彼を倒せばほぼ勝ちが確定ですよね?』

『倒せればですけどね。ちなみに殆ど補正なしで銃弾を平気で躱すような人ですよ? 無理だと思いますね。なお、ポイントは勝者に累積していきます。つまり、最後までわかりません』

『なお、イベントでエリアが崩落する事もあるのであしからず』

『説明はこんな所で行ってみよー!』

『各自、配布されたMAPを確認するように。そこに開始時間が刻まれている』

『では、バトルロワイヤル、スタート!』

 

 さて、動けないので武装を確認しておこう。今回、持ち込んだのはライトセイバー2本と光線銃、特殊加工のガントレットのみ。ライトセイバーも連結できるようにしてある。それが終われば暇なので席に座って待つ。

 

『おおっと、ダース・ベイダー卿、堂々と司令室の席に座って待ち構えています!』

『まあ、彼はこちらが許可を出さないと動けませんからね』

『このフィールドを知っているハンデですね! おっと、他の方達も司令室を目指しています』

『何人かは共闘でダース・ベイダー卿を倒そうとしていますね』

 

 座りながら仕掛けを放っておく。

 

『おっと、早くも脱落者が出ましたね』

『長距離狙撃ですね。このスナイパー、腕がいいですね』

『容赦なくヘッドショットを決めましたしね。こちらの方はダース・ベイダー卿を無視して数を狩る方針みたいですね』

『こちらの方も凄いですね。どんどん撃ち殺してますよ』

『闇風さんですね。優勝候補の一角ですから』

 

 暇だな。早く来ないかな。暇だし訓練でもしてるか。

 

『おっと、ここで司令室に到着したプレイヤー達が居ます』

『完全に組んでますね』

 

 扉が開いた瞬間、大量の銃弾が撃ち込まれる。それを腕を出して掌で受け止めるように見せる。

 

『おおっと、無数の弾丸が空中に止まった!?』

『これがフォースの力なのか!』

「嘘だろ、おい!?」

 

 ゆっくりと椅子から立ち上がってライトセイバーのスイッチを入れる。そして、目の前を斬る。すると止まっていた弾丸は落ちていった。同時に床を強く蹴って走り出す。

 

「く、来るなァァァっ!!」

「逃げっ」

「逃がさん」

 

 ライトセイバーを連結させて両刃にすると、相手がサブマシンを放ってきた。俺はライトセイバーを回転させながら突撃する。軌道を全て見切り、的確に調整して撃ち落とす。そして接近と同時にライトセイバーで縦横無尽に斬りまくる。

 

『おおっと、凄まじい強さです!』

『流石はダース・ベイダー卿!』

 

 乱戦になり、味方諸共……いや、敵同士だから問題無いのだが、構わず乱射してくる。そんな奴には片手で持った両刃のライトセイバーで防ぎつつ、近場の男に掌を向けて思いっきり相手に投げつける。

 

「うぉおおおおおおおおおぉぉぉっ!!」

「来るんじゃねえ!!」

 

 肉壁にして突撃し、確実に倒していく。俺のポイント目当てにどんどんと集まってくる。

 

「面白い。掛かって来るがいい」

 

 首を傾げて銃弾を避け、蹴りなどの体術も含めて徹底的に倒す。嫌な予感がして横に飛び退ると、前方から音速を超えた弾丸が俺の横を通って俺の背後に居た敵を蹴散らす。

 

「普通今のを避ける?」

「当然だ」

「でしょうね」

 

 撃ってきたのはシノンだ。俺諸共蹴散らしてくれようとしたのだ。まあ、戦うように言っておいたのもあるので問題無い。そして、シノンの攻撃と同時に高速で突っ込んでくる忍者姿のような者が銃を撃ってくる。

 

「一手、お相手願おうか」

「よかろう」

 

 銃弾をライトセイバーで防ぎながらへカートの弾丸を避ける。それに他の連中も次々と集まってくる。

 

「この俺が倒してやる」

「ゼクシード! 邪魔を……」

 

 俺はゼクシードと呼ばれた男の身体を引き寄せて闇風にぶつける。闇風はゼクシードと俺の間にある空間を撃った。するとゼクシードは地面に倒れた。

 

「フォースの正体は糸か」

「正解だ。どうやら小細工は通じんか。ならば」

 

 飛来するへカートの弾丸をライトセイバーで切り裂いて爆風を受けながら相手と対峙する。

 

「真正面から討ち滅ぼす」

 

 全力で行った戦いは俺の勝利で終わらなかった。闇風が爆弾を持って自爆特攻をしてシノン達に削られたHPを消し飛ばしてくれたのだ。第2回BOBは闇風の勝利で終わった。準優勝はシノン。ゼクシードが3位。俺は正規参加じゃないのでランクには入っていなかった。

 

 

 

 



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23話

久しぶりの投稿です。待ってくれている人がいたので(ぁ


 

 

 

 朝田詩乃

 

 

 

 第2回Bobより数ヶ月。私は訓練空間を利用して和人に徹底的に教えて貰った。引き伸ばした空間による数年の訓練とアミュスフィアに取り込んだデータを使ってマネジメントを初め秘書に必要な勉強を行った。

 そんな私は今、実戦経験を積むためにスコードロンに参加している。何時も和人に頼っている訳にはいかない。和人……キリトと戦っていると何時も守ってもらえると思ってしまう。そんな甘えを無くす為に別行動をとっている。

 2025年12月7日。GGOに存在する荒野フィールドで獲物を待っている。私が持ち込んだ装備は愛銃のへカートⅡをメインウェポンとしてサブウェポンに自動拳銃とデザートイーグル二丁を用意している。どちらもメンテナンスを終えて何時でも使える。太ももにデザートイーグルを収納させ、へカートⅡを抱えながら手帳に風速を調べ、重力力学を暗算で計算して狙撃に必要な内容をメモっていく。私に和人みたいな才能はないけど、訓練空間を利用して努力を積み上げたお陰で今では苦にならない。訓練空間も合わせると私の年齢は……考えないようにしよう。生まれてからこれまで以上の時間は軽く過ぎているから。

 

「ふぁ~あぁ~」

 

 他のメンバーが暇そうにしている。私は周りを確認する。

 空には低く垂れこめる雲が傾き始めた太陽によって薄い黄色に染め上げられている。岩と砂ばかりの荒野に点在するこの世界にとって旧時代の遺物である高層建築の廃墟が描く影が長くなりだしている黄昏時。あと一時間もすれば周りが暗くなり、夜間戦闘装備への切り替えが必要になってくる。

 私にとって緊張感がなくなるので暗視ゴーグルはあまり好きではない。もちろん、暗視ゴーグルを必要としない夜間戦闘の訓練も受けているのだけど、あまり得意ではない。なので太陽が沈む前に来て欲しい。もっとも、これは私だけではなく待ち伏せを続けている残り五人も同じでしょう。

 

「ったく、いつまで待たせんだよ……」

 

 こちらが襲う為に待ち構えているのだからこれは仕方のないこと。なら余っている時間は有効に利用すべき。私は携帯端末に取り込んだデータで勉強を始める。勉強するのはフランス語。アメリカ、ドイツ、ロシア、中国の言語は既に覚えた。キリトが外国でロケをする時もあるだろうからこの辺は押さえておかないとね。

 

「おい、ダインよう、本当に来るのかぁ? ガセネタなんじゃねえのかよ?」

 

 パーティーメンバーの1人である小口径の短機関銃を腰に下げた前衛職(アタッカー)の男が小声でぼやいた。それにダインと呼ばれたスコードロンのリーダーは肩から下げた大ぶりのアサルトライフルを鳴らしながら首を振った。

 

「奴らのルートは俺自身がチェックしたんだ。間違いない。どうせモンスターの湧きがよくて粘っているんだろう。その分だけ分け前が増えるんだから文句言うなよ」

「でもよぉ、今日の獲物は確か先週襲ったのと同じ連中なんだろ? 警戒してルートを変えたって事も……」

 

 しかし、何も対策をしないのはありえない。モンスターに有効な光線銃から実銃に変えてくるのでしょうが、直ぐに用意できるとは思えない。それなら、私は護衛や用心棒を雇う。

 

「モンスター狩り特化スコードロンってのは何度襲われて儲けを根こそぎ奪われても、それ以上に狩りで稼げばいいと思っているんだ。後二、三回はいけるさ」

「でもなあ、普通は対策するだろう」

「光線銃から実銃に一気に変える訳ないだろうよ――」

 

 私は来そうな連中を携帯している資料の中からマルチタスクで探していく。該当するのは何人か居る。その中で一番危険なのが黒騎士。光線どころか実銃すら避けて、しまいには光剣と実体剣で叩き切る規格外(イレギュラー)の存在。まあ、こちらは居場所を把握しているので問題なし。次に危険なのは――

 

「作戦に死角はねえ。なあ、シノン」

 

 会話に混ざる気のない私はそのまま思考を巡らせる。

 

「……」

 

 AGI特化型の闇風さん。圧倒的な速度でこちらに来られたら距離次第で負ける。あの人この頃キリトとよく戦っているせいか、弾道予測線を予測して銃弾を平気で避け出して来てるし危険すぎる。特に彼は訓練としょうしてゲームセンターにあるガンマンでよく遊んでいる。

 

「そりゃそうか。シノンの遠距離攻撃がありゃあ、優位は変わらねえか」

「んんっ、そういう事だ」

「まぁ、もし万が一にもシノっちが外しちまってもよぉ、シノっちが移動して敵の認識情報がリセットされる六十秒間は俺がばっちり稼いで見せるから」

「お前なあ」

「でさ、でさぁ~シノっち~」

 

 顔を緩ませた悍ましいほどの気持ち悪い笑みを見せながら、私達を覆い隠している掩蔽物(えんぺいぶつ)の影から出る事のないように四つん這いで私に近づいて来る。

 

「今日、このあと時間ある? いい品揃えのガンショップを見つけたんだ~俺も狙撃スキル上げたいんで相談にのってほしいなーなんて。そのお礼にお茶でも~どぉかなぁ~って」

 

 言いながら吐き気を催すような視線で私を見詰めてくる。

 

「ごめんなさい。今日はこれが終わったら(ご)主人(様)とデートなの」

「「「えっ!?」」」

「シノっちって学生さんじゃ!」

「それがどうしたの?」

「いや、学生で結婚って」

「? 今時学生で結婚するなんて驚く事? 収入さえあれば問題ないはずだけど……」

 

 私のご主人様である和人の収入は社会人としても高い方だから、なんの問題もないわ。もちろん、私の稼ぎは全部渡すけど。

 

「夫がいたのか」

「くそぉ~~」

「どんまい」

「そういう訳で、ギンロウさん」

「ん? なになに? 俺に乗り換え――」

「ありえない。言いたい事は2つ。凄く気持ち悪いからジロジロと見ないでくれる? あとシノっちっていうのも止めて。怖気が走るから。止めないなら殺すから」

「ちょっ!?」

「「うわぁ」」

 

 私にとってキリトが一番で、次に友達。それ以外はどうでもいい価値のない存在。だから引き抜いたデザートイーグルのトリガーを引くのに躊躇はない。

 

「お前ら、いい加減にしろ」

「――来たぞ」

 

 崩れかけたコンクリート壁から双眼鏡で索敵を続けていたメンバーの言葉に緊張が走る。私は直ぐに空を見て雲の動きから光量を確認し、へカートⅡを構えてスコープを覗き込む。このまま行けば問題はない。

 

「ようやくお出ましかい」

 

 ダインは索敵役の人から双眼鏡を受け取って敵兵力を確認していく。敵は七人で光学銃の大口径レーザーライフルが1人、ブラスターが4人。ミニミを持った実弾系が一人。

 

「狙撃するならミニミの奴だな。最後の奴はマントを被って武装が見えない」

「……」

 

 他の六人は装備からして問題ない。知っている実力者じゃない。問題はフードを被っている大男。彼の身長、肩幅から予測するに運び屋の可能性が高い。しかし、移動速度を犠牲にしてまでそこまで積み込む? 他の連中を見る限り重量に余裕がある。

 

「あれじゃねえの? 噂のデスガン」

「そんなのが存在するかよ。あいつはSTR前振りの運び屋だろう」

 

 嫌な気配がする。強者と戦うような時の感じ。キリトほどじゃないけれど、こいつも強いと私の勘が言っている。そもそもわざわざマントで運び屋が武装を隠す? それが強者特有の雰囲気を放つなんてありえない。なら、身長と移動速度などからして集めたデータに該当する存在はベヒモスと呼ばれるミニガン使い。これなら武装を隠す理由も理解できるし、彼らがろくに対策をしていないのに同じルートを使っているのにも納得がいく。

 

「あの男から狙撃するわ」

「何故だ。大した武装もないのに」

「あれはおそらくミニガン使いのベヒモスよ」

「マジかよ!」

「いや、普通の運び屋だろ」

「ただの運び屋がマントで武装を隠す訳ないじゃない。それに移動速度がゆっくりすぎる。これはミニガンのペナルティだと考えられる」

「だがよ……」

「嫌なら私は降りる。それに違ったとしても私が居なくても大丈夫でしょう」

「ぐっ……わかったよ! だが、援護は頼むぞ」

「ええ」

「状況に変化があったら知らせろ。狙撃タイミングは指示する」

「了解」

「よし、行くぞ」

 

 他のメンバーが走り去ったあと、寝転んだりまま狙撃体勢を維持しながらインカムを装着する。

 

『位置についた』

 

 しばらくするとインカムから声が聞こえてくる。

 

「了解。敵はコース、速度共に変化なし。そちらからの距離四〇〇。こちらからの距離一五〇〇」

『まだ遠いな。いけるか』

「この程度の距離、なんの問題もない」

『よし、狙撃開始。頼むぜシノン』

「了解」

 

 指をトリガーに掛ける。こんなプレッシャーや不安、恐怖。距離一五〇〇? こんなのキリトと戦う時にくらべたら片手間の作業と何ら変わらない。そもそも私は六〇〇〇から七〇〇〇までは屑籠に丸めたゴミを投げ込むようなもの。

 

 私は一発の銃弾。銃弾は人の心をもたない。故に、何も考えずただ、目標に向かって飛ぶだけ。ジ・エンド。

 

 暗示をかけたあと、トリガーを引いてベヒモスの呼吸に合わせ、視線がそれた時を狙って狙撃する。弾丸はベヒモスの頭部を捕らえて爆散させる。直ぐに弾丸を入れ替えて第二目標であるミニミを持つ物を狙撃する。呆けた顔をしていたミニミを持つ男は避ける事も出来ずに倒れた。

 

「第一目標、第二目標共にクリア」

『GO! GOGO!』

 

 それから直ぐに決着がついた。私は報酬とミニガンを受け取ってスコードロンから抜け、あるフィールドに移動する。そこには複数のモンスターを出現させるアイテムを複数使って大量に呼び出して虐殺を繰り返している楽しそうなキリトがいた。

 

 

 

 

 

 



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24話

 

 

 

 モンスターと戦っていたらシノンがこちらに走ってくる。俺はさっさとモンスターを倒してシノンを迎え入れた。彼女はそのまま抱きついてきて顔を俺のほっぺたに擦りつけてきた。

 

「こないだの遊びの続きか?」

「にゃあ」

 

顔を赤くしながら可愛らしく鳴くシノンの頭を撫でていく。こないだの遊びとは別アカウントを作ってALOと呼ばれるゲームに撮影の為に参加した時の事だ。俺はインプでシノンがケットシー。猫耳と尻尾がついたシノンは凄くかわいい。そんな訳で飼い猫プレイとかして遊んでみたのだが、甘えてくるシノンはやばかった。首輪をつけて俺には甘えて他の奴らにはツンというのもまたいい。

 

「んっ」

 

気持ち良さそうに撫でられながら、シノンは太ももにあるデザートイーグルをクイックドロウで抜いて出現したモンスターの頭部を打ち抜く。打ち抜かれたモンスターは即座にポリゴンへと変わっていく。

 

「移動するか」

「うん。はやくデートしよ」

「ああ。さっさと殲滅するぞ」

「了解」

 

シノンが魔香と呼ばれるアイテムを銃弾で破壊すると、大量の黒い煙が出て沢山の大型モンスターが出現した。魔香によって湧いてきたモンスターを二人で蹴散らす。そもそも魔香とはモンスターを出現させるアイテムで、出て来る香りが強いほど強力な敵を呼び出す。一番強いのが出て来るのは破壊された時で、ボス戦が始まるのだ。もっとも俺は複数を同時に焚いて強力なモンスターを大量に出現させている。そして、壊されたのはその全てだ。よって出て来るモンスターもかなり強くなる。

 

「邪魔、さっさと死ね」

 

押し寄せて来るボスモンスター、オーガの拳をシノンは相手の力を利用して投げ飛ばす。空中に投げ飛ばされたオーガに地面を蹴って跳躍したシノンはへカートⅡを取り出して頭部に直接狙いを付けてトリガーを引く。近距離からへカートⅡの一撃を受けたオーガはお亡くなりになった。そして空中から落ちてくるシノンはへカートⅡをアイテムストレージに仕舞って太もものデザートイーグルを2丁、クイックドロウで取り出して落ちながらモンスターを蹴散らす。着地と同時にすぐに動いて流れるような動作で次々と始末していく。全ての行動が次の行動を生かすための一手となっている。体術による格闘戦や回避技術も教え込んだ甲斐があり、被弾もかなり少くない。

 

「随分と強くなったな。俺も負けてられないな」

 

ワイヤーと光剣、実体剣を駆使して徹底的に叩き切る。この実体剣は俗に言うガンブレードという奴で銃弾も放てるので色々と面白い。もっぱらモンスターに突き刺して内部に銃弾を叩き込むのに使っている。

 

数分で決着がつき、残っているものは居なくなった。敵の殲滅が完了するとこちらにシノンが寄ってくるので頭を撫でて髪の毛の感触を楽しみながら労う。

 

「だいぶ格闘戦もできるようになったな」

「うん。直葉には負けるけど」

「直葉は仕方ない」

 

直葉が模造刀を持って無手の詩乃と訓練をしている場合は詩乃が負ける。合気道を中心に教えているが流石に刀を持たれるとまずい。素手同士なら裏技を使っていいところまでいっているのだが、刀を持った直葉は桁が違うからな。

 

「むっ」

「どうしたの?」

「通信だ。ちょっと待ってくれ」

「うん」

 

シノンを撫でながら通信を取るとすぐに相手の声が聞こえてきた。

 

『すまないが話がある。シノンを連れて何時ものガンショップに来てくれ』

「直接言えば……」

『断られるに決まっている』

「だな。わかった」

「?」

 

通信を終えてシノンを見ると不思議そうに小首をかしげている。とりあえず、チケットと今までの稼ぎをつぎ込んで買ったバイク。軍用トライクのブラックトライクを呼び出す。こいつはブラックロックシューターのゲームにでてきた奴を頑張って再現してみた物だ。マシンガンとブレードも用意してある。

 

「まずはガンショップにいこうか」

「うん」

 

シノンを抱き上げてブラックトライクの後部座席に乗せ、俺も乗り込んでブロッケンの街へと向かう。シノンは身体を押し付けるように抱きついてくる。走らせると楽しそうな雰囲気が伝わってくる。

 

「飛ばすぞ」

「わかった」

 

更にぎゅっと抱きついて来るシノンの温もりを感じてから、ギアを上げてアクセルを回す。時速はすぐに140キロを超えていく。途中で現れたモンスターもブレードで切り倒す。シノンはサブマシンガンを持って敵を蹴散らしていく。ときたまプレイヤーも居て、対人装備をしている奴らが襲ってくるが辻斬りを行って蹴散らして進んだ。

 

 

 

 ブロッケンに到着した俺とシノンは駐車場でブラックトライクを仕舞う。ここからは腕を組んで手を繋ぎながらガンショップへ向かって歩いていく。やっかみなどの視線を受けるが無視する。

 

「あ」

「飲み物ならある。はい」

 

飲み物を買おうかと考えたらシノンがアイテムストレージからドリンクを取り出して差し出してくれる。

 

「ああ、ありがとう」

 

ストローから流れ込んで来るのは好みのドリンクでとても美味しい。ドリンクを受け取って今度はシノンへと飲ませる。そんなことをしていると周りの温度がかなり上がったようだ。とりあえず気にせずたわいもない会話をしながらガンショップに入る。

 

「アンタッチュブル?」

「そこで待ち合わせ」

「?」

 

ゲームが置いてある場所に移動するとそこには大男と長身の男性が待っていた。その長身の男性が丁度ゲームをクリアしたところだったようで、ゲームのゲートから出て来るところだった。

 

「来てくれたか」

「まあね」

「?」

「それで闇風さんは何の用?」

「用があるのはこっちだ」

 

長身の男性、闇風さんは隣の大男を促す。

 

「俺はベヒモスだ。そっちの子にお願いがあってな」

「シノンに?」

「多分これ」

 

不思議そうに聞くとシノンはアイテムストレージから大きな銃、ミニガンを取り出した。

 

「それだ! 悪いが返してくれないか?」

「キリトがいらないならいいよ。別に私はいらないし」

「俺もいらないよ」

「助かる」

「でも、どうして私だとわかったの?」

「ダインって奴が自慢してたからな」

「なるほど」

 

シノンがミニガンを返している間に闇風さんと話す。

 

「悪いな」

「まあ、これくらいなら構いませんよ。それより今度のBoBに出るんですか?」

「出るぞ。そっちも出るだろ?」

「今回は出ます」

「なら前の戦いでの借りを返そう」

「できるかな?」

「やるさ」

「楽しみに待っているよ」

 

話をしている間にあちらも交渉が終わったのか、シノンが俺の腕に抱きついてくる。

 

「じゃあ、俺達はデートの続きをしてくるから」

「ああ、またな」

「今度は俺が勝つからな」

「今度も私が勝つ」

 

闇風さん達と別れてからはブロッケンの街を二人で散策し、最後はブロッケンに購入した自宅へとブラックトライクで戻った。その後はリアルで詩乃の手料理を食べて、ログインしなおしてからシノンと寝室へと入った。

 

 

 

 

 

 



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25話

 

 

 

 

 

 

 都内某所の高級喫茶店

 

 

 

 そこでは男性二人と少女二人が会話をしていた。テーブルの上には高価なケーキが多数置かれ、美味しそうな匂いをただよわせている。それに合う紅茶も用意されている。

「それで今回はどのようなご用件でしょうか?」

「私や姉上、兄上をお呼びになったのです。それ相応の事でしょうか?」

 赤みのかかった綺麗な銀髪を持つ二人の美少女が答える。

「ええ、もちろん」

「まあ、俺は蚊帳の外だろうがな」

 男性二人はスーツに身を包み、身だしなみが整っている。男性二人のうちの一人が携帯端末を取り出して他の三人へと見せる。

「まずはこれを見て欲しい」

「これはネットインタビューですね」

「GGOの特集ですか」

「GGOといやあ、プロが居るんだよな」

「ええ、日本で唯一リアルマネーに還元できるゲームですね」

「そんなのがどうしたんだよ?」

「とりあえずこのまま見てください」

 男性が動画を再生させる。画面には二人の男性と女性が一人、会話を行っている。

『もうすぐBOBが始まりますが、今回は前回のBoB(バレット・オブ・バレッツ)で活躍されたお人達に来ていただいております。まず前回の優勝者である闇風さんです』

『どうも』

 眼鏡を掛けた髪の短い男性が答える。彼の頭上にはプレイヤーネームである闇風という文字が出現している。

『次に三位であるゼクシードさんです。準優勝者のシノンさんですが、彼女は忙しいとの事で残念ながら参加して頂けませんでした』

『よろしく』

『それではお二方に話を聞いてみましょう。まずは意気込みについてです。闇風さん、どうぞ』

『私の目的は前回戦った者との再戦だ』

『準優勝者のシノンさんですか?』

『いや、ダースベイダーの方だ』

『彼も今回のBoBに参加されるのですか?』

『個人として出るそうだ。ここしばらく、私は彼を倒す為に訓練を重ねてきた。次は勝つ』

『あれは運営が用意したものだろう。個人としてなら楽勝でしょう』

『馬鹿を言うな。彼はアバターの外見を変えて参加していただけだ』

『いやいや、ありえませんって。どこの世界に銃弾を避ける人がいるんですか』

『ここにいる』

『『えっ!?』』

『私もGGOでなら避けられる』

『無理ですって。アジリティ万能論なんていうのは所詮単なる幻想なんですよ。確かにアジリティは重要なステータスです。速射と乖離この二つの能力が吐出していれば強者たりえた、今まではね。しかしそれはもう過去の話ですよ。サブマシンガン系統の攻撃を全て避けるなんて現実的じゃありません。それこそ予測でもしていないとーー』

『予測はできる。銃とは所詮、直線状にしか飛ばない武器だ。ならば弾道を予測し、発射される前に回避行動を取ればなんの問題もない』

『んな無茶苦茶な』

『わ、私でも無茶だと思いますが・・・・』

『実際に回避できる。それを戦場でお見せしよう。もっとも、銃弾の回避ぐらいやってみせないと彼等に出会ったらその時点で終わりだろうがな』

 その後も動画が進んでいく。

『これまでは確かにアジをガンガン上げて強力な実弾火器を連射するのが最強のスタイルでした。でもMMOというのは刻々とバランスが変わっていくものなんですよ。特にレベル型は原則的にステータスの振り替えができないんだから。常に先を予測しながらポイントを振らなきゃ、そのレベルゾーンで最強のスタイルが次でも最強とは限らない。今後出現する火器は装備要求ストレングスも命中精度もドンドン上がっていきますよ』

『それは違うでしょうね。それこそバランス調整がされるでしょう。ザスカーは買収されましたし、今運営している会社はバランスを重視しますからね』

『いやいや、そんな事をはありませんよ。それに今回のBoBはチーム戦ですしね』

『そうですね。確かに三人までチームが組めるんですよね』

『ええ。私もすでにメンバーを決めています。個人戦でも中で組むことができますし、それなら最初からメンバーを決めて戦ったほうがいいというのもあるんでしょう。それ以外にも理由があるかもしれませんが』

『今回はエネミーも出るそうですね。それに複数の競技で合計点を競うらしいですね』

『どうなるかはわかりませんが、楽しみです。もっとも、ゼクシードさんは仲間集めに苦労しそうですが』

『そんな事はありませんよ、ええ。それに勝つのは私ですから──』

 会話の最中、いきなりゼクシードが苦しみだして回線が切断された。

「これがどうしたんだよ? ただの回線トラブルだろう」

「次にこちらを見てください」

『ゼクシード、偽りの勝利者よ。今こそ真なる力による裁きを受けるがいい。これが本当の力、本当の強さだ。愚か者どもよ、この名を恐怖と共に刻め。俺とこの銃の名は、デス・ガン(死銃)だ』

 画面の中に居るゼクシードに向かって銃を放つスカルフェイスの男が映っていた。

「おいおい」

「「まさか……」」

「そのまさかですよ。ゼクシードこと茂村 保(しげむら たもつ)は回線が切断された時間に死亡しています」

「おい、それはナーヴギアなのか?」

「違います。アミュスフィアです」

「なら脳の破壊は物理的に不可能ですね」

「電子パルスの量が足りません。そもそも死因はなんですか?」

「彼の死因は心臓発作です」

「それならばマスターキーなどを使用して薬品を注射でもすればいけるのでは?」

「その可能性もありますが、こちらを見てください。同じような事件があり、こちらは脳死と判断されました。それが複数です。どの死体も死後数週間が過ぎており、腐敗臭が漂い出して近隣の住民が発見した」

 一人暮らしの為に発見が遅れたのだ。

「「ごほんっ」」

 回りからの声が聞こえ、彼等は少し声を潜める。喫茶店でしていい話ではない。

「それで私達に何を願うのですか?」

「めちゃくちゃ面倒な事だよな」

「はい。GGOでちょっと撃たれてきてください」

「嫌だぞ!」

「お断わりします」

「ええ、貴方が撃たれてくればいいのでは?」

「あははは、何を言っているのですか。嫌に決まっています」

「潰しますよ?」

「社会的にも、物理的にもです」

「冗談に聞こえませんが……」

「古くから続く旧家である武田家を甘く見ない事ですよ、総務省総合通信基盤局高度通信網振興課第二分室(通信ネットワーク内仮想空間管理課)いえ、防衛省所属の菊岡誠二郎(きくおか せいじろう)二等陸佐」

「そこまでご存じですか、恐ろしいですね」

「まあ、この二人はぶっちゃけ、かなり恐ろしいからな」

「なんですか?」

「兄上、そのような事を思っていたのですね……」

「いや、違うからな」

「しかし、恐ろしいのは事実ですね。デイトレーダーの鬼神としてとんでもない売り上げを上げてますし」

 彼女達は黄金律のスキルも与えられているため、お金には困っていない。

「お陰で気付いたら家は金持ちになってたよ。家はその金で事業を起こしたしな」

「まあ、その話はおいておいて、撃たれるというのは冗談ですが、調査に出向いて欲しいのです。もちろん、報酬も支払いますよ」

「では、貸しで構いません」

「ええ、今度何かお願い事を聞いていただきましょう」

「お、おてやわらかに」

「しかし、大丈夫なのか?」

「ああ、問題ないですよ。我が家には武田の守護者様たちがついていますから」

「では、早速GGOへ向かい準備致しましょう。とりあえず軍資金を用意しないといけませんね。幸い、GGOは通貨還元システムですからその逆も可能なようです」

「兄上はアスナさんに話をしておいてくださいね。私達が先に行って準備を整えておきます」

「おう」

 彼女達はGGOの世界へとコンバートする事になった。

 

 

 

 

 

 

 



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26話

 

 

 現在、俺は空の上に居る。アメリカから日本に戻る飛行機の中で、ベッドになる椅子まである。そこに寝転がりながら詩乃の膝の上に頭を乗せている。

「何かいる?」

 俺の動きに反応していたのか、頭を撫でていた手を止め読んでいた英語の契約書や報告書から視線を外してこちらを伺ってくる。

「いや、いいよ」

「ん、わかった」

 直ぐに契約書を読んでいく詩乃。彼女が読んでいるのはハリウッドとの契約内容だ。今回、GGOでのダースベイダーをやった事や様々な映画に出た事であちらとの縁が出来て依頼が入ってきたのだ。俺の身体能力の事もあり、スタントマン以上に動けるのも大きかった。爆発の中から生還したり、銃弾を現実でも避けるのだから。Ninjaとかsamuraiとか向こうで呼ばれたが、気にしない。

「BoB間に合うけど、三人目はどうする?」

「そうだな……」

「はいはい! 私が参加するよ、お兄ちゃん!」

 通路を挟んだ隣の席からアメリカに居る俺達の所に遊びに来た直葉が乱入してきた。まあ、直葉もスタントマンとして参加してたりするのだが。ちなみに俺達は六ヶ月ほどアメリカに居て、直葉は二ヶ月間だ。

「お土産の整理はもういいのか?」

「みんなに渡す分を分けてただけだからね」

 向こうで様々な人のサインを貰ったり写真を一緒に撮ったりしたので、直葉は機嫌がいい。

「それで私もGGOに行ってBoBに出てみたい」

「しかしな……」

「詩乃お姉ちゃん、いいよね?」

「和人さえ良ければ」

 仲良くなっている二人の視線が集中してくる。まあ、直葉なら問題なく戦力になるだろうが……いや、リーファをシノンの護衛とすれば俺が自由に動けるな。もしくは俺とリーファの立ち位置を逆にしてもいい。

「いいだろう。しかし、そうなると装備が必要だな。コンバートもしないといけないだろう」

「え、新キャラでいいじゃない」

「舐めてるだろ、こいつ」

「和人、直葉の身体能力なら普通に戦えそう」

「えっへん」

「人間止めてるな」

「お兄ちゃんに言われたくない」

「ごもっとも」

「ノーコメント」

 まあ、仕方ない。しかし、空の上というのも暇だな。

「じゃあ、直葉でいいか」

「やった。よーし、私も参加するよっと」

 直葉が携帯で誰かにメールを送った。

「誰だ?」

「友達だよ。参加するらしいから、対戦が楽しみ」

「そうか。詩乃は準備の方はどうだ?」

「問題ない。目ぼしい対戦相手のデータはしっかりと集まっている。まずは……」

 詩乃が記憶していたデータを告げてくる。それは詳細まで調べられたデータだった。

「ねえねえ、それって運営からデータを入手したりとか……」

「してない。隠密状態で追っかけ回したり、手伝ったりしたりしただけ」

 それだけで集めてくるだけ凄い。

「相手になりそうなのはベヒモスって人と闇風って人くらい? 流石にミニガンは避けれないだろうし」

「そうだな」

 後はいってしまえば有象無象だ。ベヒモスのミニガンはさすがに無理だろう。

「キリトならいけそう」

「確かにねー」

「いや、明らかにあれは相手が悪い。まともにやるなら相討覚悟か暗殺くらいだな。だから彼の相手は詩乃に頼む」

 拠点で待ち構えられたらどうしようもない。それこそ爆弾を投げ込むとかくらいか? いや、それも破壊されれば意味がないな。なので狙撃が出来るシノンが相手をするのがベストだ。

「暇だからゲームでもしようよ」

「飛行機の中ではネットワークが繋がっていないぞ」

「これこれ」

「昔ながらのゲームか。対戦ゲームか?」

「対戦ゲームだと2対1になるからやだ」

 詩乃が絶対に俺を勝たせようとサーポートするからな。

「そんな訳で協力プレイだよ」

「やった事ない」

「大丈夫。データは用意してあるから」

「頑張る」

 それから俺と詩乃は同じ体勢で、直葉が隣の椅子に座りながらプレイしていく。

 

 

 



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27話

 朝田詩乃

 

 

 

 

 日本に帰って来た私達はそれぞれやる事をやっていく。和人と私は仕事や学校で、直葉はBoBが始まるまで新規で作ったキャラでGGOにログインしてレベル上げをしている。すでにダンジョンに潜り込んで大暴れしているみたい。ちなみに和人から装備を貰って即最難関ダンジョンに挑んでいる。それで狩れている事が驚きなんだけど。今ある大迷宮は最下層が五十層で現在、直葉が狩っている場所が四十二層らしい。どう考えても始めて三日で到達できる場所じゃない。

「起立、例」

 そんな事を考えていると授業が終わり、放課後となった。今日は和人は仕事で私は一人。私も一緒に行きたかったけれど、帰ってからマスコミに対応したりと色々と忙しく学校での手続きを後回しにしていた。アメリカに行くために休学届けを出していたから、その事について教務課から呼ばれたのだ。

「今回の休学は語学留学といいう形で単位を出す事になりました」

 教務課に行ったらそう言われ、対応してくれた事務員の女性が書類を渡してくれる。私は和人の分と直葉の分も書いて渡した。それぞれの印鑑なども預かってきているので問題なく終わった。

「朝田さん、ちょっといいかな?」

 学校からの帰り道、公園の傍を通ると新川君が声をかけてきた。

「どうしたの新川君? 今日、学校に居なかったみたいだけど」

「うん、話があるんだ。学校は休んだんだ」

「?」

 どうしたんだろう? とりあえず、時間を見て和人の仕事が終わるまで時間がある事を確認する。

「わかった。それで話って何?」

「こっちに」

 新川君に誘われるように公園の中に入る。彼がブランコに座った。私はそのまま立っている。

「それで話って何?」

「う、うん……」

 新川君は立ち上がって私に近づいてくる。

「僕は朝田さんがす、好きです! 付き合ってください!」

「ごめんなさい」

 迫ってくる新川君に私は下がる。

「なっ、なんでっ、やっぱりあいつが……」

「うん。私は和人のものだから、新川君とは付き合えない」

 私の身も心も全ては和人のもの。

「あいつは朝田さんの本当の事を知らない! 朝田さんに相応しくないんだ! それに朝田さんは……」

「新川君は私の事を知っているの?」

「好きな子の事を調べるのは当たり前だよ!」

 それは気持ち悪いけれど、人殺しの私を好きって言ってくれるのは少し嬉しい。和人に救われる前ならまた違ったかも知れないけれど、今の私は和人だけのものだから。

「でも、ごめんなさい」

「あいつは朝田さんの事がバレたら捨てるに決まっているんだよ! 芸能人が人を殺した事のある人と付き合うなんてできっこない!」

「私は和人に捨てられてもいい。それでも彼に尽くすだけ」

「そんなのっ」

「私はそれでいいの、ごめんなさい。それじゃあね」

 時間がおしていた私は新川君に別れを告げて和人を迎えに行く事にするのだった。

 

 

 

 

 

 



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28話

新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくです


 

 

 

 

 さて、BoBが近付いて来た俺達は既に準備を終えて各々が好きに行動している。具体的には訓練だ。そして、今は直葉とリアルで勝負している。審判は詩乃がしてくれている。

 

「お兄ちゃん、私が勝ったら言う事をなんでも一つ聞いて貰うよ」

「いいだろう、来い」

「始め」

 

互いに道着を着込み、腰に差した模造刀を構える。真剣での勝負は直葉の成長によって流石に危険になってきている。アメリカではっちゃけて実戦経験まで積んだ直葉の実力は壁を超えたと言っていい。真剣を持たせたら少なくとも鉄を両断してみせるのだから。

 

「ふっ」

 

カウンター重視なのか、動かない直葉に向かって俺は踏み込んで抜刀する。直葉はバックステップで回避し、即座に踏み込んで抜刀してくる。直葉の成長速度やこれまでの実力から攻撃の軌道を瞬時に計算して紙一重で避ける。次に攻撃が来るまでおよそ一秒から二秒あるのでそれまでに一撃を入れて終わりだ。

 

「甘いよ、お兄ちゃん」

「っ!?」

 

そう思ったのだが、直葉は抜刀した時から更に速度を上げて回転しながら、いつの間にか抜き去った鞘を片手で持って二連撃を放って来る。しかし、それを俺は持っている模造刀で防ぐ。これで直葉の鞘は弾き飛ばされて体勢が崩れるはずだった。

 

「ちょろ甘だよ!」

 

だが、直葉は自ら置くように鞘を捨てる事で更に回転して模造刀を叩き込んで来た。遠心力も加わり、速度を増した一撃はこちらの予想を遥かに上回って迫ってくる。それでも対応しようとしたら身体が前に引っ張られ、自ら模造刀による一撃を食らってしまう。なんとか腕を犠牲にして防ぎつつ、遠心力も加わって威力の上がっていた一撃のダメージを、自ら飛ぶことで削る。しかし、自ら飛んだこともあり、吹き飛ばされてそのまま尻餅をついた。

 

「だっ、大丈夫!」

「ああ、少し痺れるくらいだ」

 

詩乃が慌てて袖をまくりあげて腕を確認してくる。腕には青痣がある程度で、問題はなかった。放っておいたら元に戻るだろう。

 

「駄目」

「そうだよ。治療はしないと」

「むぅ」

 

詩乃が湿布やら包帯やらを取り出して腕に巻いていく。前はもっぱら直葉に治療していたのだが、今日は俺になってしまった。

 

「詩乃お姉ちゃん、判定は?」

「直葉の勝ち」

「ついに取られたか」

「やった! お兄ちゃんに初めて一本取れた!」

「やれやれ、まさか漫画の技を再現するとはな……」

「本当、出鱈目」

「えっへん!」

 

大きな胸を張る直葉。直葉の身体能力は俺が近くに居るせいか、異常なくらい高くなっている。人間の限界に近いくらい強化されているんじゃないだろうか? 視力も1キロや2キロ先まで見えるらしいし。これは俺と詩乃もだが。

 

「でも、まだまだ速度が足りないんだけどね。もっと引き寄せられるようにならないと原作通りじゃないから。鞘だって別のと組み合わせただけだし。いっそ小太刀でも持って二刀流するのもありかも?」

「確かにありだな。だが、鞘だからこそ、さっきの方法ができたんだぞ」

「だね」

「鞘が軽いから直葉が捨てることで和人の予想以上に振り上げてしまって体勢が崩れた」

 

一瞬の隙が致命的になるからな。それに直葉はどうやら実力を隠しつつ俺と訓練して、成長速度と本来の実力を誤認させていた。それがなければどうにかなったんだが、これは油断や慢心が原因だな。

 

「ふふふふ、頑張ったかいがあったよ。じゃあ、お兄ちゃんには私のお願いを聞いてもらおうか」

「ああ、約束だから構わないぞ」

「やった。じゃあ、私のお願いはね……」

 

面倒なお願いをされたが、約束なのでしぶしぶ応えてやった。かなり恥ずかしいが、前にもやって映画にも出たことがあるのでそこまで拒絶感はない。

 

 

 

 

 

 さて、GGOにログインした俺は直葉、リーファの願いに応えて色々とさせられた。リーファのお願いは非常に簡単だ。ある装備を着て俺が作り上げたバイクに乗ったりする所を写真に撮ることなのだから。その装備は装備の外見を変更するコラボ商品によって作られている。普段リーファが潜っている高レベルダンジョンから産出されている品だけあって、かなりの装備性能も高く特殊効果も高い。もっとも、コラボ商品化する事でスペックは多少下がっている。金属製の装備を布製に変更したらそりゃ、防御力などが下がるのは当然だ。もっとも、重さも軽減されているのでメリットもあるが。

 そして、一番の問題はこの装備を外す条件が似合う他人に譲渡する事だった。もちろん、リーファが設定した。シノンは除外されているので仕方ない。さて、この装備が似合うという事が色々と対象を狭める事になる。普通のプレイヤーなら欲しがる奴は物凄く多いだろう。いや、やっぱりないか。こんなの似合わない限りは着ないだろう。

 

「全く、面倒なお願い事をしてくれた」

 

ブロッケンの街を一人でバイクに乗りながら愚痴を漏らす。今回はこの軍用トライクをBoBで使う為にテスト走行を一人で行っている。リーファはダンジョンへと出向いているし、詩乃は学校へと出かけている。本来は俺も行こうかと思ったが、少し仕事が入って行けなくなった。仕事自体は直ぐに終わってゲームにログイン出来たんだけど。

 走行テストも問題なく終わり、駐車スペースにトライクを止めて近くの喫茶店に入る。そこで紅茶を飲みながら少し休憩する。

 

「いや、困りますって。ボクはここで待っている人が居るから」

「そんな事言わずにさ、俺達が色々と教えてやるぜ」

「そうそう、手取り足取りな」

「おれっち達は初心者には優しいからよ。装備もくれてやるぞ?」

 

しばらく紅茶を堪能していると、ストリートの方からそんな声が聞こえて来た。画面越しにそちらを覗くと、紺色のかかった黒髪をした可愛らしいジャージ姿の少女がちゃらい格好をした男達にナンパされていた。その子の装備からして明らかに初期装備だ。

 

「これは都合がいい」

 

俺は立ち上がって会計を済ませると、そのまま店を出てそちらに向かう。

 

「何やってるの。待ち合わせはそこのカフェの中だろ」

 

強引に男達の中へと入って、彼女の腕を掴んでこちらに抱き寄せるように連れ出す。この時、ハラスメントコードが相手に出るはずだが、この場合は仕方ない。

 

「わっと」

「合わせて」

 

耳元でそっと囁いて位置を入れ替える。

 

「お兄さん達、ごめんね。彼女は俺の連れなんだ。装備も用意しているし、レクチャーも俺が問題なく教えるから大丈夫だよ。ねえ?」

「そ、そうだね。うん、ボクはこの人に教えて貰うから大丈夫。ありがとう」

「いやいや、そっちの子も含めて俺達がきっちりと世話をしてやるよ」

「ああ、ツレの子も滅茶苦茶美少女だからな」

「ん? ああ、なるほど」

 

不思議そうに小首をかしげたが、直ぐに思い当たる事があって掌を腕で叩く。そういえば、今の格好は服装に合わせてリーファに長い黒髪をツインテールにされていた。それにこの衣装。そりゃ、女の子に見える。顔も女顔だしな。

 

「別にお兄さん達に教わる事はないかな」

「なんだと?」

「だって、お兄さん達が装備してるのって中堅クラスだからないね。少なくとも高レベルダンジョンに行ける装備をしてないと教わる事はないし」

「「ああ?」」

「えっと、大丈夫?」

「平気平気。うん、納得しないだろうから、ちょっと戦おうか。お兄さん達全員と俺一人でいいよ。そっちが勝ったら、なんでも付き合ってあげる」

「いいだろう、やってやるぞ!!」

「おう!!」

「ぼくも戦うよ」

「いや、装備ないだろうしいいよ。それにねぇ……」

 

この程度の相手、憂さ晴らしにちょうどいい。そう思いながら彼等に決闘を申請する。直ぐに申請が受理されて俺と彼等はバトルフィールドへと移動された。流石にプレイヤーキルが推奨されているGGOでも街中での決闘はバトルフィールドが展開される。

 

「へっ、後悔させてやるぜ!」

「「「おうよ!」」」

「それは面白そうだ」

 

カウントがどんどん進んでいく。カウントがゼロになるとバトルが開始される。だから、今の間にアイテムストレージから軍用魔改造トライクを取り出す。決闘中ならどこでも取り出せるのだ。

 

「「「「なんじゃそりゃっ!?」」」」

「ふふふ」

 

トライクに飛び乗った俺は早速取り付けてある武器に腕を片方ずつ突っ込んで装着する。大概、トライクにはシノンと二人乗りをする為に一人が操縦し、もう一人が銃撃戦を行うように装備を整えてある。そして、今回はBoBの時の為に用意した特製の武器だ。それも両手に一つずつ。それらはチューブがトライクに取り付けられたタンクへと繋がっている。

 

「ま、待てよ、そりゃ反則だろ!」

「別に問題ないよ。それじゃあ、時間も無くなって来た事だし頑張って耐えてね」

「「「「ひぃぃぃぃっ!!」」」」

 

カウントがゼロになった瞬間、容赦なく備えられたミニガンの引き金を引いた。発射される大量の弾丸は雨となって男達へと襲いかかる。本来は人が携帯できる装備ではるが、かなり多くのペナルティを負うことになるそれを、トライクに備え付ける事で軽減した。移動ペナルティが掛かるなら、別に移動手段を用意して移動砲台みたいな感じにすればいいのだ。

直ぐに勝敗が告げられ、戦闘は終了した。俺の目の前にはリザルドが表示され、勝利した事で彼らの持つ大量の金が入り込んできた。

 

「まだやる?」

「けっ、結構です!」

「お邪魔しました!」

 

脱兎のごとく逃げ去っていく男達を見送った俺は、後ろを振り向いて助けた彼女を見る。

 

「助けてくれてありがとう」

「いや、こっちも目論見があったからいいよ」

「目論見? もしかしてナンパ? そんな格好をしているけど、ハラスメントコードが出たって事は男なんだよね?」

「まあね。ナンパとも言えなくもないかな。とりあえず、この装備が似合いそうな君にこれを受け取って欲しいだけだよ」

「?」

 

不思議そうにしている彼女に俺は事の次第を説明するのだった。

 

 

 

 



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幕間 バレンタインデー

 

 

 

 

 2月14日。俗に言うバレンタインデー。前世ではまったく縁のなかったこの日だが、今では違う。転生して和人になった俺は本来の姿こそ違うが、スペックの高いこの身体で俳優やモデルとして活躍している。そのため、ファンからチョコなどをたくさん貰うのだが……何が入っているかわからず、非常に怖いので食べられずにいた。先輩達の話を聞くと実際に被害があったというので俺も食べないようにした。その為、家族からのチョコしか貰えなかったのだが、今では恋人である詩乃が居るので毎年楽しみにしている。

 今年は何やら準備があるとの事で直葉に家から追い出された。その為、ドクターに呼ばれた事もあって暇つぶしも兼ねてラボに顔をだした。

 

「あれ、ドクターは?」

「いないわよ。何か企んでるみたいね」

 

 リタが多数のパソコンを思考で操作して瞬く間にデータを作成したり、改変していく。画面の一部にはALOやGGOに関するイベントのプログラムや運営を行うプログラムなどが高速で書き込まれている。

 

「ドクターが呼んだのに?」

「知らないわよ。それよりアンタも食べてよ」

 

 そう言ってリタが食べていたチョコを投げ渡してくる。

 

「これって」

「別に本命とかじゃないから、買いすぎただけだから勘違いするんじゃないわよ!」

「ああ、わかってるよ」

 

 口に入れたチョコはリタが開けている市販のチョコの味ではない。つまり、これは……

 

「……なによ?」

「これって──」

「食べたんだから手伝ってよ。ドクターがいなくなったせいで仕事がたまってるんだから。チョコは好きなだけ食べていいわよ」

「はいはい」

 

 リタの隣に座りながらグローブとヘッドギアを装着して並列思考を使いながら膨大な量のデータを処理していく。おもにALOとGGOに特別なモンスターを作成して無作為に放つだけの簡単なお仕事だ。モンスターの名前は嫉妬団というものにされている。これはドクターの趣味らしい。

 

 

 

 

 

 数時間が経ち、いい時間になったので帰宅する。気配があるのになぜかリビングの電気が消えているので電気をつけてみる。すると目に入ったのは等身大の巨大なリボンが巻かれたチョコだった。チョコは詩乃の姿で身体のところどころがデコレーションされている。

 

「なにこれ?」

 

 気配がする方を見ると、真っ赤になってもじもじとしている可愛らしい詩乃と元凶であろう直葉が居る。

 

「何って、お兄ちゃんにお姉ちゃんからあげる本命チョコだよ!」

「はぁ……」

「直葉、引かれてる」

「えぇ~? おかしいな。ドクターやアメリカの友人はこれで一発だって笑ってたのに! やっぱり、裸にチョコを塗って私を食べての方が良かったのかな?」

「別にいつでも食べてもらってるから……それに流石にそれは恥ずかしい。これでもかなり恥ずかしいし……」

「くっ、可愛くてずるいな~」

「とりあえず、直葉」

 

 直葉に気づかれないように視線を外して視界から消えた後、音もなく接近して首根っこを掴んでもちあげる。

 

「ひゃい!?」

「ところで、詩乃のだけかな? 直葉のは?」

「あはははは、こんな恥ずかしい事を自分でやるわけないじゃん」

「酷い」

「というか、詩乃も断れよ」

「だって……」

「お姉ちゃんはお兄ちゃんへの愛を表す為って言ったら簡単に乗ってくれた……イタイイタイっ!」

 

 直葉を落としてから、頭を両手でぐりぐりしてやる。

 

「で、このチョコだけどさ……」

「型はドクターにお願いして材料を用意したよ。もちろん、お姉ちゃんの裸をみたのは私だけだからね」

「うん。チョコレートで型を取ったのは驚いた」

「どうせだからね」

 

 だから、詩乃の身体からチョコレートの甘い匂いがしてきていたのか。

 

「あと、男の人は女体盛りとかも好きらしいから、このチョコで再現してみたの。私も流石に本人でするのは気が引けたしね」

「和人がどうしてもって言うなら、やるけど……」

「いや、それはいいよ」

「よかった。二人っきりならまだしも、直葉もいるから……」

 

 二人っきりなら構わないのか。二人だけで同棲した時の楽しみにしておこう。

 

「まあ、ドクターには後で話しをするとして……このチョコは食べられないな」

「え~~」

「駄目?」

「だって詩乃の身体を削ったり割ったりして食べる事になるしな……そんなのは嫌だ」

「和人……」

 

 抱き着いてきた詩乃を抱きしめかえしてそのまま軽く口づけをする。

 

「私を放っていちゃいちゃしないでよね! 私も混ぜて!」

「だが、断る」

「がーん」

「よしよし」

 

 直葉がORZの姿勢となり、詩乃が頭を撫でて慰める。詩乃からしたら、直葉と俺が付き合いだしても問題ないと思っているので、むしろ応援しているのだろう。

 

「まあ、寸劇はこの辺にしてまじでどうするか」

「溶かしてチョコフォンデュにする。粗末にしてほしくないし、やっぱり食べてほしい」

「それもそうか。わかった」

「まあ、材料はもう用意してあるんだけどね。こんなに食べれないし」

「だろうな」

 

 等身大なので量が量だ。普通に食べるには凄く多い。

 

「準備するから和人はゆっくりしていて」

「わかった」

「ホワイトデーを期待だね」

「まあ、何か考えるよ」

 

 基本は3倍返しだったっけ。男には辛いイベントだよね。そんな事を考えつつホワイトデーの為にホテルを予約しておく。どうせなら旅行に行くのも面白そうだ。

 

 

 チョコフォンデュを楽しんだ後、詩乃と一緒にチョコ風呂に入り、そのまま寝室で身体が甘くなっている詩乃をぺろぺろして楽しんだ。

 

 

 

 

 

 




バイトから帰って急いで書き上げたけれど、色々と限界だった。


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30話

思ったよりも、みんな待っててくれたので投降だよ! 
だが、あえて言おう! 登場する最後の人の話になるとくっそ重いので飛ばし推奨であると。
ちなみに作者はその娘が大好きです。あえていうなら、転生者の人達ならこれくらいやる奴がいるという事。
取り敢えず、ごめんなさいと謝っておきます。

時系列の問題をなくす為に、シリカの部分を一部変更しました。


 

 

 黒髪の少女に装備を受け取って欲しい事情を話すのだが、どうせならと喫茶店に入る事になった。彼女の待ち人にも連絡を入れてここに来て貰うようにした。俺もシノンからメールが届いていたので連絡を入れておく。さて、そんな訳でボックス席で対面に座っている彼女はユウキというらしい。

 

「でも、本当にこんな装備を貰っていいのかな?」

「ああ、どうせ要らないくらい出ているしね」

「そんなに狩ってるんだ……」

 

 何時間も籠って、リーファが惨殺しているようだしな。リーファはブログに動画としてアップしているようだが、再生数もやばい事になっているし、アメリカで友達になったらしいハリウッドの人達も見ていて、やばい事になってるらしい。SAMURAIGIRLの呼び名をつけられたそうだ。ちなみにこちらの服装はご丁寧にポニーテールの和装だ。

 

「じゃあ、交換条件があるけどいい?」

「何だ? 簡単な事ならいいけど、応えられない事もあるからね」

「大丈夫。この()()()()に触れるだけだから」

「ん? こんなアイテムあったかな……」

 

 黒髪の少女、ユウキが取り出したロザリオをテーブルの上に置く。ユウキを見るとニコニコしてこちらを見ている。

 

「あっ、大丈夫だよ。データを抜くとか、ボクには出来ないから。それは単に探し人を見つける為のアイテムだから」

「探し人?」

「うん。この世界に()()って情報を貰ったんだ」

「そうか」

 

 まあ、うちはサイバー対策もドクターにお願いして強化しているので大丈夫だろう。可愛い詩乃と直葉が居るのだから、対策は万全だ。そう思って触れると、ロザリオが急に光り輝き、強い光を発してから崩れ去っていった。

 

「え!? わ、悪いっ!」

 

 慌てて前を向くと、何故かユウキは泣いていた。これは不味いと思った瞬間、彼女は飛び上がって俺に抱き着いてきた。

 

「え? え?」

「見つけたっ! やっと、見つけたよっ!」

「なっ、なにが……」

「ボク達の救世主様(メシア様)っ!」

 

 そう呼んだ彼女は頬ずりまでしてくる。ハラスメントコードは()()()一切起動していない。

 

「ちょっとまてぇええええぇぇぇぇっ‼‼」

 

 そう叫んだ瞬間、部屋の扉が開いて見覚え有る少女が入って来た。パスコードを打ち込まないと開かない扉なので、関係者以外は知り合いしか居ない。

 

「キリト、少し話が……」

 

 入って来た少女、シノンは俺達の姿を見て、持っていたカップを落とした。カップは地面にカーンと当たってポリゴンとなって消えていく。

 

「ごっ、ごめんなさい。取り込み中みたいね」

 

 そう言って、踵を返して去っていこうとする。

 

「待ってくれっ、これは違うっ!」

 

 しかし、シノンは止まらずに出て行こうとする。仕方ないので、最終手段を使う。

 

「シノンっ、()()っ!」

「っ⁉」

 

 後ろを向いたシノンの身体が、ビクッと震えて止まる。普段から自分の事を俺の奴隷だと言って、実際にそう思っているシノンは俺の命令ならば絶対にきく。やりたくないが、ここで逃げられたら余計にややこしくなるだろう。というか、たぶん、直葉に伝わったら真剣で襲い掛かられても仕方ないレベルだ。

 

「こっちに来い」

「いいの?」

「ああ」

「うにゃ?」

 

 不思議そうにしているユウキを置いて、シノンを優先する。彼女は少し手を動かしてから、こちらに振り向いてやってくる。振り向く時に少し涙が虚空に消えていった。

 

「あ、もしかして彼女さん?」

「結婚する予定のな」

「あ~これはごめんね。ささ、どうぞどうぞ」

 

 直ぐにユウキは離れてシノンを俺に押し付けてくる。俺はシノンを抱きしめてゆっくりと座る。そのまま膝の間にシノンを収めて後ろから抱き着く。

 

「やぁ、ごめんね。つい感極まっちゃって」

「いい。それと、私はキリトと結婚する気はない。迷惑をかけちゃうから」

「いや、そんな事はないから。なんとしても結婚して貰うからな」

「でも……」

「あの、別の所でやってくれるかな? ボクも居るのに放置されると、泣いちゃうよ?」

「あ、悪い」

 

 謝った後、改めてユウキを見る。彼女も泣いていたのだが、今は落ち着いたようだ。いや、それ以前にこちら見てニコニコしている。同時にシノンを観察しているようだ。

 

「で、取り敢えずシノンはなんの用だったんだ?」

「えっと、書類にサインが要るって連絡と、晩御飯は何がいいかなって」

「じゃあ、後でいいか。いざとなれば食いに行くか出前でいいし」

「ん、わかった」

「じゃあ、こっちでいいかな。っと、その前にどうやらもう一人、関係者が来たようだし」

「ん?」

 

 扉が開いて入ってきたのは()()()()をそのまま下した赤い瞳の少女だった。ただ、その少女の目は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をしていた。彼女は昔、何処かで見た事があるような気がする。

 

「ほら、シリカも座りなよ」

 

 軽く頷いた彼女はふらふらとした足取りで、無言のままユウキの隣に座る。彼女の名前から思い出したが、彼女が前世で見た事があった。確か天真爛漫な感じだったはずだが……何が有ったんだろ?

 

「ごめんね。彼女も色々とあってね。ボクが紹介するね。まずはボクから。改めて、ボクはユウキ。リアルじゃ紺野木綿季だよ。彼女はシリカ。リアルじゃ綾野珪子だよ」

「ちょっ、なんでリアルまで言っているんだ!」

「これから話す事に関係あるからね、救世主様(メシア様)♪」

「いや、それはどういう……」

「あれ、言わないとわからない?」

「わかるはずない……」

「そう? でも、そっちの人は頷いてるよ」

「え?」

 

 シノンを見るとしきりに納得したように頷いていた。どういう事だ?

 

「キリト、前に自分が何をしたか忘れたの?」

「えっと……」

「今から少し前に救世主様(メシア様)によって世界に()()が起きました」

「あっ!? って、ちょっと待てっ! それは俺じゃ……」

「さっきのロザリオは特別性なんだよね。お祈りすると救世主様(メシア様)の位置を大まかに教えてくれて、救世主様(メシア様)が触れると役目を終えて消滅するんだ。リアルでも同じく」

「そんなファンタジーな物がある訳が……」

「この世に有り得ないなんて事は有り得ないんだよ。それは奇跡によって証明されてしまったから」

「っ⁉」

 

 確かにそうだ。というか、おそらく彼女が持っていたロザリオはアイツの仕業かも知れない。

 

「納得した所で、貴方様が救世主様(メシア様)である事は反論の余地はありません。だって、天使様より授かった神器がそう判断したんだから」

 

 あの光は天使かっ! どちらにしても要らない事をしてくれたな。

 

「それは……」

「取り敢えず、こっちの自己紹介。こっちの名前だけでいい? まだそちらの目的がわからない」

「もちろんいいよ。シリカもいいよね」

 

 シリカはこくりと頷いただけで、こちらをずっと見ている。ちょっと、いやかなり怖い。

 

「えっと、取り敢えず自己紹介だな。俺はキリトだ。こっちがシノン」

「シノン。キリトの奴隷」

「ちょっ、何言ってんの⁉」

「あっ」

 

 シノンはばつが悪そうに視線をそらしただけだ。どうやら、結構落ち着いているように見えて、混乱しているようだ。普段なら危ない発言でも女とか、都合のいい女とかそれぐらいしか言わないからな。

 

「へぇ~そう言う関係なんだ」

「違うっ!」

 

 シリカの方は身体震わせて、ユウキにすがりついている。本当に何が有ったのだろうか。

 

「あ~大丈夫だよ。よしよし」

 

 ユウキがシリカを撫でていると、だんだんと落ち着いてきたようだ。

 

「さて、でもそういう関係ならボク達的には大助かりかな」

「どういう事だ? さっき抱き着いてきた事といい……」

「えっとね、ボクの事情から話すね。シリカはちょっと重いし」

「あ、ああ……」

「ボクは家族と双子の姉ちゃんと一緒にHIV・エイズにかかっていたんだ。あの奇跡が起きるまでの14年間、ずっと闘病を続けてきたんだ」

「「っ」」

 

 俺とシノンは息を飲む。

 

「あっ、安心してね。今は完全回復しているから。ううん、それ以上に元気だよ。ボクも姉ちゃんも今は凄く幸せで、救世主様にはとっても感謝しているんだ」

「救世主様は止めてくれ」

「ん、わかった。じゃあ、キリト様ってよぶね」

「キリトでいい」

「それはちょっと恐れ多いかな……」

「いや、別に……」

「別に今は様でいい。話が進まない」

「そうだな、悪い」

 

 改めてユウキが話しだす。

 

「両親は死んじゃったけど、ボクにとっては姉ちゃんが生きてくれただけでも十分嬉しかったんだ。だから、姉ちゃんと幼い頃から行ってた教会で退院から毎日救世主様に感謝して、お礼がしたいですってお祈りしてたの。そしたら、天使様が降臨成されて、このロザリオを渡して救世主様のお嫁さんか愛人になりなさいって言われたの。それが男の人が一番喜ぶ事だって」

「ちょっと待てっ!」

「え? 違った? でも、もう天使様と契約しちゃったから、ボクはキリト様のものだよ」

「いやいや」

「あ、そういえばロザリオを渡したら手紙が出現するって言ってたよ」

「いや、ないが……ここがゲームだからか?」

「キリト、ある」

「え?」

「アイテムストレージの中」

 

 慌ててアイテムストレージを見ると、確かに手紙が入っていた。天使からキリトへ愛(憎悪)を込めてと。内容を見てみる。

 

 

 拝啓、親愛なるキリト様。

 貴方様はいかがお過ごしでしょうか。こちらは貴方様のせいで、80年分ほどの始末書の山に四苦八苦しております。

 つきましてはいやが……救世主様と崇められる貴方様にプレゼントを用意しました。彼女達紺野姉妹です。彼女達を貴方様のお嫁さんとして差し上げます。彼女達は使徒として強化してありますので、どうぞ修羅場を楽しっ……ハーレムを楽しんでください。あ、返品は受け付けません。その場合、彼女達は天に召されます。神託を失敗した者として苦しい罰が待っているでしょう。別に気にしないという鬼畜なら放っておいて構いません。なお、この手紙は読み終えた後、自動的に爆発します。

 追伸、完全回復の時に運悪く、とんでもない事になった子も居るのでその娘もおつけします。そちらは可哀想な子なので頑張って慰めてあげてください。最後に一言。爆発しろ。

 

「っ!?」

 

 手紙を思いっきり投げて、光剣を引き抜いて切り裂く。爆発しそうな瞬間に斬った事でどうにか手紙の消滅だけで防げた。

 

「あ、あの……大丈夫?」

「キリト?」

「ああ、大丈夫だ」

 

 あの糞天使、恨みつらみがかなり詰まっていた。いや、確かに悪かったかもしれないが……で、手紙の事はこの娘達だよな。

 

「えっと、手紙には凄い事が書いてあったんだが……納得しているのか?」

「うん。むしろ、ばっちこいって感じ。ボク達姉妹は救世主様に身も心も捧げて尽すよ」

「だが、俺にはシノンがいるんだよな……」

「私は別にいい。彼女は私と同じ気持ちで、同じ境遇。ううん、彼女の方が強いかもしれない」

 

 シノンの場合は母親だしな。それに加えて彼女達は二人で、命まで助けて貰ってると。

 

「ありがとう。ボク達は二人目とかでいいから、正妻はどうぞ」

「別にいい」

「いやいや、ぽっとでのボク達じゃ駄目だよ。まだ、全然わからないから、そこは先輩に管理してもらわないとね」

「……わかった」

「いいのか」

「実際に私の方が年上。彼女達が妻や愛人になるのは正直、助かる」

「え?」

「キリト、体力ありすぎだから、リアルじゃ一人で相手するのは辛い」

「あぁ……ごめん」

「別にいい。嬉しいし」

「お~熱々だね」

「ところで、姉の方は?」

「姉ちゃんは病院でやらないといけない事があるから、連絡を後でするよ」

「やらなきゃいけない事?」

「うん。ボク達姉妹の血がエイズとかの特効薬になるよう、天使様に契約の時にお願いしたんだ。快く、叶えてくれたよ。んで、その薬を作る為に研究所に血を提供しているんだ。ちなみにキリト様が受け入れてくれなかったら、ボク達は死ぬって事も了承しているから、愛人でも末席でも、玩具でもなんでもいいから受け入れてね」

 

 多分、それの恨み言も入っていたのかも知れないな。

 

「わかった。シノンが納得しているなら俺の責任でもあるし、出来る限り幸せになるように頑張るさ」

「ありがとう。シリカの事だけど彼女の事は重いけど、聞く? ボクとしてはこのまま受け入れる方がいいと思うけど」

「聞く。そうじゃないといけないからな。たぶん、俺が原因なんだろ?」

「半分はね……」

「じゃあ、尚更な」

「わかった。シリカ、話すけどいい? それと席をはずしていた方がいいかも知れない」

 

 ふるふると首を振って、ユウキにしがみ付くシリカ。

 

「わかった。じゃあ、話すね。ボクがシリカと出会ったのは教会の墓地だよ。彼女ね、何度も自殺しようとして失敗しているんだ」

「え?」

「それは……」

「あれはリストカットに失敗して、首を吊ろうとしていたんだっけ」

 

 頷くシリカ。どうやら本当の事のようだ。

 

「最初の原因はSAOなんだ。そこで、彼女はビーストテイマーでピナってドラゴンをパートナーにしてたんだって。そこである男に付きまとわれて、そのピナって子を捕まえられて、人質にされ自分自身も脅されてレイプされたんだ」

「「っ」」

「その後、散々玩具にされた後、他の連中に売られてあるPKギルドで飼われていたらしいんだよ。そのPKギルドも討伐されたんだけど、その前に別の所に売り飛ばされて、SAOがクリアされるまでずっとこんな感じだったらしい。この事は現実でも影響していて、シリカは監禁されて色々な事をしている間にリアルの事も喋らされていたんだ」

 

やっていた連中ももしもの事があると困るから、それの対策にしたんだろうか。しかし、ろくでもない連中だ。これからの事も予想できる。

 

「復帰して自宅に戻ったシリカは家に籠っていたんだけど、それでも最後に売り渡された奴等が最悪でね。リアルでもシリカを犯そうと家にやって来たんだ。家を監視していたのか、両親が仕事で居ない時に配送業者を偽って侵入してきたんだ。ここまでも重いんだけど、ここからがキリト様が関わってるの」

「嫌な予感しかしないんだが……」

「あの奇跡のタイミングの少し前に、パニックになって窓を突き破って飛び降りたらしいんだ。彼女の家は高台にあって、それが崖側でね。そこで死ぬはずだったんだけど……」

「うわっ」

 

 想像以上にやばい事が起きてる。あの天使、何してくれてるんだ。いや、俺も悪いな。

 

「身体は血液の状態からして見れないような状態になっていたみたい。でも、その直前にアミュスフィアを使ってカウンセリングプログラムを受けていた最中だったみたいで、アミュスフィアをつけていたんだ。それでどうにか頭は無事だったみたいらしいけれど、ある意味では運が悪く、そして運がよくて奇跡が身体が壊れる直前に発動してシリカは再生と死を繰り返す事になった」

 

想像するだけで悲惨な光景だ。

 

「それが続いてシリカは綺麗な状態で動かなくなったんだ。アミュスフィアも消えていて、綺麗な身体だけど動けない。心臓も止まっていたらしい。それでね、彼女は棺桶に入れられて土葬されたんだ。でも、恐ろし……こほん。凄いのは救世主様の奇跡で、蘇生したのか仮死状態だったからかはわからない。けれども、なんと土葬されてしばらくしてから、彼女は棺桶の蓋を上の土ごと吹き飛ばして出て来たんだよね。それを見た、人達や彼女の家族は……その、ね」

「なんとなくわかる」

「まあ、そこから色々とあったんだけど、診察とかしても生きている事が証明され、生き返れた。でも、普通に考えて土を積まれた棺桶を吹き飛ばしてでてこれる?」

「無理。キリトなら可能?」

「いや、俺でも無理……か?」

 

 できそうで怖いな。なんせ成長限界なんてないし。

 

「まあ、彼女は驚異的な身体能力を持っていたんだ。それが更に家族とか近所の人に怖がられて、あのモンスターの名前とかで呼ばれるようになって彼女は傷ついて、自殺しようとしたんだ。でもさ、手首を思いっきり深く切っても発動しちゃったんだ。アレが」

「アレ?」

「スキルがね……」

「現実だろっ!」

「うん、パッシブだけみたいだけど……どうやら、再生の時に脳や身体をやられていたせいで繋がっていたアミュスフィアを取り込んでアバターのデータを使って補完したのかな? 実際にアミュスフィアは消えていてどこにもなかったんだ」

 

天使は知らないが、近くに見本となるアバターのデータがあったんでそれで再生させたんだろうな。あの時、超忙しい事になったみたいだし。

 

「シリカの身体がアバターだから、バトルヒーリングがね、動いちゃったんだ」

 

おそらく、あの状態でも死なれたら困るからバトルヒーリングとかのスキルを有効にしたんだろう。後で文句を言われないように。もしかして、奇跡の発動前後は死亡率がないから少し前までさかのぼってやってくれたのかも知れない。

 

「それで、色々と試したけれど駄目だったらしいの。水泳も鍛えてたらしいから、水中でも普通に活動できて首吊りだって普通のロープじゃ無意味だし。後は飛び降りぐらいだろうけど、その前にボクが天使様の指示に従って彼女を見つけて止めた。それと、これらのスキルは他の人にも知られていないよ。大変な事になるから」

 

 確実に実験動物にされる可能性があるな。ぶっちゃけ、超人だもんな。俺も身体能力はやばいレベルだけど、なによりバトルヒーリングはやばすぎる。これはシノンが調べてデータを今、見せてくれたが……人体実験まったなしのレベルだ。

 

「なるほど、確かに重いな。それで、犯人は?」

「侵入した奴等は住居不法侵入と器物破損、強姦未遂で逮捕されているよ。殺人未遂も入ってる」

「そうか、悪かったな。まさかこんな事になるとは思ってもみなかった。シノンを助けるついでに皆が助かればいいと思ったんだ」

 

 そう言うと、シリカはてくてくとこっちに来てぽふっと抱き着いてくる。

 

「ん?」

 

 そして、見せられたスケッチブックを見て絶句した。それには“責任とってください”と書かれていた。次に見せられたページには“殺してください”と書かれている。

 

「ごめん、それは無理だ。俺はシノンを……それにユウキ達の面倒も見て、幸せにしないといけない。だから、犯罪者になる殺人は起こせない」

「っ⁉」

 

 涙目で上目遣いをして睨み付けてくるシリカ。不覚にも可愛いと思ってしまった。取り敢えず、指で涙を拭ってやる。

 

「だけど責任は取る。今の家が辛いなら、俺達の所においで。出来る限り、色々とさせて貰う」

「“辛い事、忘れさせてください”」

「それを望むならいいが、死のうとするのは止めてくれ。シリカには俺達が、俺がいるからな」

「“わかりました”」

「シノン、悪いけどいいよな?」

「大丈夫。ユウキもいいんだよね?」

「もちろん」

「それと、ユウキ、シリカ。辛いかも知れないけど、そいつらの特徴とか、名前はわかる?」

「“銀髪、コフィン、有名な奴です”」

「うわぁ、その言葉で一人だけ思い出すのが……」

「じゃあ、殺そうか」

 

 シノンは英文でメールを打っている。内容は拳銃の調達という物騒な内容だ。というか、リアルでやる気か? 宛先を見た限り、まじで用意しそうだ。なんせ、相手はハリウッドに居た時に知り合ったアメリカ軍の高官だから。

 

「リアルではやめろ」

「でも……」

「女の敵」

「駄目だ。皆が犯罪者になるのはまずい。こういうのは、社会的に抹殺するんだ。大丈夫、任せてくれ。そういうのは得意な人がいる」

「そうなの?」

「ああ、だから安心しろ。必ず報いは与える」

「“お願いします。ピナの仇を……討ってください”」

 

 泣きながらお願いしてくるシリカの頭を撫でる。自分の事じゃなくて、ピナという所が、この子の凄い所だな。SAOか。確か、どうにかなるかも知れない。急いでドクターにメールしよう。後は銀髪の洗い出しをして個人情報の特定だ。なに、SAOのデータは全て俺達の手にある。

 

「シリカ、取り敢えずそのピナってドラゴンの事を教えてくれ。ひょっとしたら、蘇らせられるかも知れない」

「……ほ……と……?」

「ああ、だから覚えている限りでいいから、アバターのデータとピナのデータを思い出して教えてくれ。それを元に検索をかける。SAOのデータは全部持っているからな」

「お~それが本当なら凄いね!」

「ああ、そっか。社会的に抹殺する方法、一つ思い付いた。レイプとかした連中、全員実名で公開するね」

「殺人に関しては確か、特殊な状態という事で特定しない事にしていたが、これに関しては匿名でばらまけばいいか。いざとなれば女性陣は味方につくだろうしな。ログの提出を求められたら応じればいいだけだし」

「複数の国を経由して、リタにばら撒いて貰えば余裕だね」

「よし、そっちは色々と任せてくれ。それでこれからどうする?」

「シリカは引っ越しかな。出来たら、ボクも引き取って欲しいかな。今、親戚の家でお世話になってるから」

「……なら、新しく家を買うか」

「あ、それなら買ってほしい家があるんだけど、いいかな? 迷惑なら、その、いいけど……」

 

 ユウキが申し訳なさそうに言って来る。俺は二つ返事で了承し、急いでログアウトした。その後、家の持ち主の所へと電話をして、弁護士の先生を連れてアタッシュケースに現金を入れて交渉に向かった。家の人達に紺野家の事情を話し、相場を遥かに超える数倍の金額を提示した。相手側は逆に安くていいので家を用意してくれたらいいとの事だった。後はサインを強請られたのでサインをして、ついでにハリウッドの人達とも交渉して送って貰った。手続きがすみ、引っ越しまでに時間はかかるが、その間は狭いが詩乃の家に住む事にした。シリカの事を考えて、そちらにしておいた。

 

 

 

 

 

 



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31話

 

 

 ユウキとシリカと出会ってから二日後。俺は近くの駅でユウキと待ち合わせをしていた。今着ている服と姿の写真は教えて貰った携帯に送ってあるので、待つだけだ。昨日は弁護士の人と家の人に突撃したからな。まあ、かなり驚かれたけれど、不動産屋と弁護士を通したので直ぐに信じてくれた。あと、現金を持って行ったのも信じてくれた理由の一つだろう。もしかしたら、芸能人だからというのも大きいかもしれないが。

 

「キリト様っ」

「ん?」

 

 衝撃がして、誰かに抱き着かれた。振り向くとアバターの姿とほぼ変わらない、ユウキが居た。アバターと違うのは瞳の色くらいか。俺と同じでほぼアバターと変わっていない。

 

「えへへ」

 

 笑いながら身体を擦りつけてくる。衝撃でずれそうになった帽子を深く被り直しながら、ユウキの頭を撫でてやると嬉しそうにした。

 

「元気に外で遊べるって素晴らしいねっ」

「そうだな」

 

 彼女の病気から考えると、有り得ない事だろう。だから、とても楽しそうに笑っている。やはり、あの選択は間違っていなかったと、改めて思えた。例え面倒事を抱え込む事になろうと、後悔はしないだろう。まあ、詩乃が納得しなければ、出来る限り説得していただろうし、これは必然か。だが、同じ境遇のユウキを見捨てる事を詩乃はよしとしないだろう。もちろん、俺も彼女を見捨てる選択肢はない。

 

「ん~」

「どうした?」

「いや、どう見ても女の人だねって。ボクより女っぽいよ?」

「五月蠅い」

「あいたっ」

「だいたい、キリト様はやめろ。様も要らないし、呼び捨てでいい」

「え~」

「俺の彼女になるんだから、そんなのは要らない」

「わかった」

 

 嬉しそうに返事するユウキ。

 

「あっ、何処か寄っていく?」

「いや、もう一人助けないと駄目な子が居るだろ。そっちを優先する」

「そっか。うん……それじゃあ、行こうか」

「ああ」

 

 鞄を持って、ユウキの先導に従って移動すると一軒家があった。近くで話しているおばさん達はその家を気味悪そうに見ながら、ひそひそと話している。それをユウキは忌々しそうに睨み付ける。

 

「ユウキ、ここか?」

「うん」

「そうか。行くぞ」

「あっ」

 

 ユウキの手を握ってさっさと移動する。一軒家の門の前に立ち、インターホンを鳴らす。

 

「もう、強引なんだから……」

「嫌なのか?」

「全然っ、むしろボクは歓迎だよっ!」

 

 俺の腕に抱き着いてくるユウキ。顔を少し赤くしているので、恥ずかしいのだろう。だが、生憎と俺はよく詩乃としているので、慣れてしまった。そのまま少し待っていたが、家からは返事がない。

 

「おばさん、ボクだよ」

『……どうぞ……』

 

 それだけ聞こえて切れた。ユウキを見ると、顔を空いている手でかいている。

 

「まあ、色々とあるから……」

「わかった」

 

 門を開けて、中に入る。しかし、扉には鍵がかかっている。ユウキはポシェットから鍵を取り出して開ける。どうやら、合鍵を預かっているようだ。

 

「鍵、貰ったんだ。変な人が来たら困るから」

 

 扉を開けて中に入ると、目に入ったのは先ずは玄関。次に廊下を進んで直ぐにある二階に上がる階段だ。手すりが備え付けられているのだが、その手すりは途中で折れて斬り落とされている。壁を見ればところどころに手形があった。

 

「これは……」

「あはは、まあ怖がられる理由かな……」

「木綿季ちゃん、その人は……?」

「昨日話した人だよ」

 

 一階の奥から、顔色の悪いびくびくとした女性がやって来た。

 

「桐ケ谷和人です」

「ああ、話は聞いています。その、早く連れていってください……」

 

 それだけ言って、戻っていった。自分の母親と比べると親としてはどうなんだと思ってしまう。

 

「こっちだよ」

「ああ」

 

 靴を脱いで上がる。それから、廊下の直ぐ近くにある階段を上る。

 

「あ、所々壊れてるから気を付けてね」

「わかった」

 

 新しそうな家なのにと、不思議に思いながら上がっていく。確かに床や壁が途中で陥没していたりしている。それは上に上がって廊下を歩くと特に頻度が多くなっている。ドアもノブが壊れていたり、ドア自体が壊れていたりしている。更に奥に行くと扉が完全に壊れた真っ暗な部屋があった。

 

()()()、入るよ~」

 

 リアルの名前ではなく、アバターの名前を呼ぶユウキ。彼女はそのまま入ると、壁の近くにある電気のスイッチを入れる。明かりが点いて部屋の惨状が映し出される。学習机は叩き割られ、タンスやクローゼットは壊れて中身が出ている。ベッドのマットはスプリングが出てきたりしていて、とてもじゃないが廃墟としか感じられない。だが、不思議と破片や埃は無く掃除がいきとどいている。

 

「居た居た」

 

 ユウキは勝手知ったる他人の家のように進んでいき、壊れたクローゼットに顔を近づけ覗き込む。俺も一緒に覗くと、そこには裸のまま三角座りの状態で、毛布を被ったシリカであろう女の子が居た。彼女の近くにはペット用の鉄製餌入れに水と手で掴める食事が入っている物が置かれていた。こちらでもペット扱いなのかと、普通なら彼女の両親に怒るのだろうが……この部屋の惨状を見てそれも仕方ないかと思える。おそらく普通の皿とかなら容易く粉砕してしまうのだろう。それに大きな家具以外は撤去されて綺麗に掃除はされている。おそらく、怖がりながらも必死に出来る事をしていたのだろう。何時襲われるかも知れない凶暴な猛獣と一緒に暮らしているような物だし、彼女の両親があのような感じになるのは仕方ないかも知れない。

 

「これはアレか。力のコントロールが出来ていないのか」

「そうだよ。だから、まともに生活できるのはゲームの中だけ。あと、この餌入れとかはシリカ自身が望んだみたい。ゲームでペットにされてたから、それが抜けきらないみたい。カウンセリングをネットで受けてるから、まだましになってきてるそうだけど。現実じゃ筆談もしないしね。ペンが折れるし。キリトなら、どうにかできるんじゃない?」

「出来る限りはするが、それよりも呼び方はキリトやシリカでいいのか?」

「ボクはあっちがメインだし。もっとも、珪子はシリカって呼ばれる方がいいみたい。自分は珪子じゃないと思っているのかも知れないね」

「なるほど。で、俺は?」

「いや、名前で呼んでいいのかわからないし。それに恐れ多いし……」

 

 ユウキにとっては俺は救世主という事になるんだろう。クリスチャンというのも影響しているのかも知れない。

 

「ちなみにキリトは色んな所で聖人指定されてるよ? やったね」

「おい」

「見つけた人にはなんと、沢山のお金が貰えます」

「賞金首かよ」

「まあ、必死で探しているって事だよ」

「名乗る気はないから、黙ってろよ。それとこっちでは和人と呼んでくれ」

「もちろん! りょーかい、和人」

「ああ。さて、シリカ。おいで」

 

 しゃがみ込んで出来る限り見ないようにしながら、言うが動かない。仕方ないので俺自身も入っていく。

 

「危ないよ?」

「構わないさ」

 

 近付くと珪子……いや、本人が望む通りシリカでいいか。彼女は怖がるように端っこに逃げるが直ぐに追いつく。ゆっくりと手を差し出すと、身体を震えさせる。どうしたらいいのかわからない。

 

「無理矢理引っ張り出していいよ。シリカもそれでいいってゲーム内で言ってたし。荒療治しないと無理だから」

「わかった」

 

 ユウキの言葉を信じて、近付く。そして、シリカを抱きしめようとする。

 

「っ⁉」

 

 腕を無茶苦茶に狭い空間で振り回してくるが、顔を傾けて避けつつ接近して、抱き着いて抑え込む。すると、身体を震わせながら泣き出す。

 

「大丈夫だ。ほら、何もしないから……それに俺は頑丈だからな」

「……ぁ……」

 

 しばらくそのままでいると、おずおずと震えながらも抱き返してくるのだが……その力が凄まじい。骨が折れてしまうかと思うほどだ。鍛えていなければ、本当にそうなっていたかもしれない。だけど、ここで逃げたら、絶対に後悔する。それに、シリカの心に更に深い傷が残る事にもなるだろう。痛みは無視して、笑顔でシリカの頭や背中を優しく撫でていく。

 しばらくそうしていると、シリカからは震えがなくなって頭を猫のように擦りつけてきた。

 

「おいで」

「……にゃ……っ⁉」

 

 猫の言葉が出たからか、顔を真っ赤にする。どうやら、向こうでは猫にされていたのかも知れないな。

 

「可愛い猫のままでも、俺は受け入れるから気にしなくていいよ」

 

 こくりと頷いたシリカを連れて外に出る。

 

「大丈夫?」

「ああ、問題ないよ」

 

 決して大丈夫ではないが、問題はない。先ずはシリカに力のコントロールを覚えさせないといけない。しかし、そうなると俺だけでは無理だ。ここはドクターに協力を要請しよう。

 

「よかったね、シリカ」

 

 こくりと頷くシリカを嬉しそうに眺めるユウキ。彼女の手にはシリカの服とかが入っているだろう鞄がある。だが、彼女は一定以上には近付かない。だが、廊下とか広い所に出るとそんなのはなかったように近付いて、シリカに触れてくる。シリカは触れられる度にビクッとなっている。ひょっとしたら、敏感なだけかも知れない。

 

「さっきは近付いて来なかったが、今は大丈夫なのか?」

「え? ああ、それは簡単だよ。広かったら避けられるけど、狭かったらあたっちゃうからね。ボク、反射神経とか動体視力はいいけど、リアルの身体は貧弱だから簡単に潰れちゃうよ」

「そうなのか?」

「うん。キリト達に比べたら」

「そうか。ん、キリト?」

「ほら、行こうよ和人」

「ああ」

 

 取り敢えず、ドクターに連絡して今からいくとしよう。

 

 

 

 

 

 



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32話

 

 

 ユウキと共にシリカを連れてドクターの所へと出向いた。事前に連絡を入れていたので、直ぐに通されてシリカの身体を調べられた。

 

「で、どんな感じなんだ?」

 

 白衣を着た青年へと声をかける。近くには茶髪のリタが居る。

 

「うむ。一言で言うのならば素晴らしい。彼女は新たな人類の可能性だよ」

 

 シリカの検査結果を持ちながら、ドクターがそう言う。

 

「いや、どういう事だよ」

「簡単にいえば、彼女と同じような状態を意図的に起こせれば新人類になれるという事よ」

「うむ。彼女の身体は有機物と0と1で出来ている。有り得ない事にな。彼女を解析すれば、アバターの力を手に入れる事が出来るだろう。解剖していいかね?」

 

 ドクターが渡してくれた解析結果によると、彼女の身体能力は凄まじく、人間でありながら高速で移動などが出来る。人が車と同じ速度を出すのだ。それもスポーツカー並みの。最高速度は時速200ぐらいは軽く出ている

 

「駄目でしょ」

「駄目に決まってんだろ」

「ちっ。まあ、いい」

「それよりもどうなんだ? 抑えられるか」

「可能だとも。この私に不可能はあんまりない! 故にここについこの間に開発した重力制御装置が……」

「ちょっ⁉ まじかよっ!?」

「嘘よ。こいつがそんなの開発したら、グランゾンとか平気で作るわよ」

「ちっ、嘘か」

「ネタばらしが早いぞ。まあ、出来ていたら本当に作るがね」

「リタ、絶対に止めろよ。危険な兵器を作るのなんて」

「えっ!?」

「おい、まさかお前まで……」

「彼女は気象操作衛星を作ろうとしているよ。ソーラービームを搭載した」

「……」

 

 リタを見詰めると、そっぽを向く。彼女に近付いて勝手に彼女のパソコンを操作する。

 

「ちょっ、なにすんのよっ!?」

「うたわれに出て来たアマテラスか。危険すぎるだろっ!」

「はっはっは、なんの問題もないね」

「問題無しね」

「いや、問題ありすぎだろ。だいたいナノマシンを散布って下手したらバルドみたいなアセンブラ事件に……」

「そんなの、焼却したらいいじゃない」

「地球さんの事を考えてっ!」

「こほん。まあ、それは置いておいてこっちだ。君にとってはこっちが重要だろう」

「いや、こっちもかなり重要なのだが……」

 

 ドクターがアタッシュケースを持ってきて、中身を見せてくれる。中身は金属製の機械の首輪と同種のブレスレットとアンクレット。しかし、これって首輪と足枷、手枷だよな。

 

「この首輪は外す事ができない」

「ん?」

「和人君はアクセルワールドに出て来るニューロリンカーを知っているかね?」

「一応、最初の方だけは読んだかな」

「あれと同じだよ。脳から発せられる命令を首輪が遮断して、解析。リミッターをかけた出力で再放出する。その情報を更に手足の枷が受け止めて、身体に現状掛かっている負荷を調べて必要以上の力を出さないように操作する」

「ファンタジー小説やゲームで出て来る隷属の首輪とかと同じような物ね」

「おい。悪用し放題だろ」

「まさか、そんな事を対策していないはずがないだろう。使用者の意思や状況によって自動で解除される。その為に首輪にはカメラも仕込んであるのだから」

「360度、全部みえるから背後からの奇襲にも対応。痴漢をはじめとした暴漢にも自動で対応し、反撃を加えて制圧する優れものよ」

「今ならお値段、たったの670万。オプションで撃退用の小型レーザーを装備して……」

「おい、もしかして既にソーラビームみたいなのは開発されているのか?」

「……なっ、なんの事やら……」

「……しっ、しらない……」

 

 そっぽを向く二人。駄目だ、こいつらなんとかしないと。

 

「なによー宇宙開発や地球再生には必要なのよ!」

「うむ。増えすぎた人類は宇宙に出るべきだ。彼女の出現がそれを示している」

「何言ってんだ」

「いや、あの身体能力は宇宙でこそ生かせるのではないかね? 宇宙は危険がいっぱいだからね。彼女の身体は酸素をほぼ必要としていない。有り得ない事に一時間以上、軽く息を止めても一切の衰えがない」

「そもそも、バトルヒーリングだっけ? あれで細胞が死んだとしても瞬時に復活するし、生半可な事じゃ死ぬことが出来ないのは納得ね」

「それどころか、成長すら出来んがね」

「不老、素晴らしいわね」

「おいおい……」

「ちなみに死ぬ方法は簡単よ。溶岩に飛び込んだり、ビームとかで完全に消し飛ばしたりするのがベストね。まあ、バトルヒーリングのレベルが低いみたいだから、今ならまだミサイルで吹き飛ばしても問題ないかも知れないけれど、これ……強化したら凄い事になるわね」

「再生でも覚えさせてみないかね?」

「そこから、分裂して復活するかの実験ね。面白いでしょうけど、駄目ね」

「当たり前だ。人体実験とかは許さんからな」

 

 こいつら、完全にマッドサイエンティストだからな。流石はアンリミテッドデザイア。リタのは魔導オタクなだけあって、こっちでは研究オタか。どちらにしろ、碌でもない。二人共、恐ろしいほどの天才だが。

 

「というか、衛星とか宇宙開発とか、発射場とかないんだが……」

 

 二人は素知らぬ顔をする。俺は急いで自分の携帯端末から、会社の資金を見ると前に見た時よりも明らかに桁違いに減っている。特許とかでどんどん金が入ってきているのだが、明らかにおかしい。

 

「おい」

「土地を買ったわ」

「そして、この私達が設計して作り上げた!」

「正確にはまだ作っている途中だけどね。先に重工業用のロボットを作ったから」

「うむ。現在は設計図に従って自動で建築中だ」

 

 この二人だけ、明らかに世界が違うっ!

 

「さて、彼女の話に戻るぞ。彼女はアバターの成長によって現実でも成長するだろう。だが、それは危険をはらんでいる。わかるかね?」

 

 アバターの成長が現実に影響を与える? それはつまり、現実の身体と電子世界のアバターがリンクしているという事だ。では、それで起こるメリットだけではなく、問題となると……一つしかない。

 

「デスゲームか」

「そうよ。彼女はゲームで死んだら現実で死ぬ可能性がある。とまではいかないまでも、大怪我を負う可能性もあるわ」

「なんせ、あちらでは全員が超人だからねえ」

「おそらく、死亡はアバターデリートになるんでしょうけど、それ以外の事はわからないわ。本当に気を付けておくのよ」

「わかった。デリートされるような物には参加させない」

「それでいいでしょう」

「じゃあ、それはいいとして次だ」

「次?」

「うむ。彼女の信頼を手っ取り早く稼ぎ、和人君のいう事をよく聞かせる方法がある」

「なにそれ?」

「なに、簡単だよ。彼女の不安の原因の一部を根本から取り除くんだ」

 

 ドクターの言葉に俺は決意する。シリカを死なさない為にもこれは必要だろ。この枷だって本当に有効なのかもわからない。何せ、シリカと同じような存在なんていないんだ。だったら、出来る限りの事をやるしかない。例え、それが彼女を傷つける事になっても。

 

 

 

 

 

 

 



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33話

30話のシリカの部分ですが、時系列に問題があるとの感想を頂きましたので、修正させて頂きました。
SAOクリア時による死亡ではなく、クリア後に不法侵入してきた男達から逃げる為にアミュスフィアをかぶった状態のままパニックで窓を突き破って落下し、崖下に転落して死亡からの再生した事にしました。
なので、クリア後、少ししてからの事件となります。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。


 

 

 研究所にある実験室。そこれで俺はシリカと対峙する。やる事は簡単だ。全力のシリカと戦って勝利する。ただし、相手は人の領域に存在しない。だが、勝つしかない。この戦いによってシリカは俺が自分が何をしても殺せず壊せないという事を知る事になる。そうすれば彼女も安心できるだろう。まあ、問題があるとすれば()()事なのだろう。

 

『さて、両者準備はいいかな?』

「こっちはいい」

「“大丈夫”」

『というか、和人は素手だけどいいの? 刀か剣を使わないで』

「シリカを傷つける訳にはいかないだろ」

『馬鹿でしょ』

『うむ、馬鹿だな』

『死んでも知らないから』

「っ⁉」

「問題ない。死ぬつもりもないし」

 

 ゆっくりとシリカを見詰める。彼女もこちらを見詰めてくる。

 

『精々死なないように頑張ってよね。始め』

 

 リタの言葉と同時にシリカが駆ける。その速さは凄まじく、一瞬で接近されてしまう。そこから小さな拳を突き出してくる。俺は首を傾げて避ける。突風が吹き抜けた後には頬にうっすらと線が出来て傷ができる。シリカは一旦下がって、スケッチブックを構える。

 

「“止めよ? 無理です”」

「……面白い」

 

 ポケットから紐を取り出して、髪の毛を後ろで纏めてくくる。そして、意識のスイッチを切り変える為に、拳銃をイメージして自らに叩き込む。意識を切り変えれば、やる事は単純だ。銃弾を避けるのと同じだ。ただ、避けるのに合わせて反撃するだけ。ならば簡単だ。シリカに手で来い来いと伝える。

 

「っ⁉」

 

 シリカはスケッチブックを捨てて、駆けて来る。今度はちゃんと直撃コースだ。だが、俺はしゃがみながら彼女の突き出される手を掴んで、勢いを利用して投げる。そのまま地面に叩き付けるのではなく、途中で手を離して殴りつける。シリカは両手をクロスさせてガードしてくる。しかし、殴ると同時に身体を回転させて回し蹴りを叩き込む。空中に居たシリカは吹き飛んでいく。壁に激突する直前に方向転換をして、壁を蹴ってこちらに突っ込んで来る。

 

「ただ速いだけだ」

 

 身体を傾けて移動し、シリカが元の場所を通り抜ける直前に肘と膝で挟み込む。位置をわざとずらして、回転させて地面に倒す。そのまま、足で手首を踏みつけて首に拳を叩き込む直前で止める。

 

「っ⁉ !???!」

 

 混乱しながら、暴れるシリカの頭を両手で挟んで、微かな隙間で左右に揺さぶって脳震盪を起こさせる。

 

『そこまで』

『これはないわね。もう人じゃないわ』

『人外同士だねえ』

「失礼だな」

 

 シリカが蹴ったりした場所は陥没している。強化壁を見なかった事にして、シリカを膝枕にして寝かせておく。

 

『いや、彼女の速度は381m/sまで出ていたのだが……』

「そんなもの、9mパラベラムと同じじゃないか。どうとでも対応できるさ」

『無理無理っ! アンタがおかしいだけよ!』

『うむ。人類には対応できない速度だ』

「そうか? 詩乃は対応しているし、闇風さんも……」

『闇風とやらはアバターだろう。朝田君は……どうなんだ?』

『ひょっとして、この馬鹿に犯されてるから? 色んな意味で』

『興味深い。少し調べさせてくれないかな?』

「却下。大切な詩乃をお前達のようなマッドに渡せる訳ないだろ」

『『ちっ』』

 

 舌打ちしやがった。何をする気だ。

 

『彼女なら、和人君からのお願いや命令だったら素直になんでもさせてくれただろうに、非情に残念だ』

「ちょっとOHANASHIしようか」

『ん? 何かニュアンスが変なのだが……』

『私は関係ないからね! じゃあねっ!』

『待ちたまえ!』

「んっ、んんっ」

 

 そんな事をしていると、シリカは目覚めたようで起き上がってきた。それから、すぐに抱き着いてきた。

 

『ちなみに、素朴な疑問なのだが……和人君が剣や刀を持っていたら、どうなってたね?』

「誰に物を言っている。そんなもの、最初の一撃で切断している」

「ひっ⁉」

 

 がくがくと震えるシリカを抱きしめて、あやしてやる。

 

『うん、人じゃないね』

「というか、シリカぐらいなら直葉でも勝てるだろう」

『待ちたまえ。君の妹も勝てるのか!』

「シリカは技術がろくにできていないからな。その分、予測も誘導も容易い。ならば、後は相手の力も利用して切断するのみ」

『君の家系は何処かの戦闘民族かね』

「否定はしない」

『まあ、これでシリカ君は安心できただろう。なにがあっても、彼が止めてくれるさ』

 

 こくこくと頷くシリカ。これで安心できるならそれはそれでいいだろう。

 

「ところで、ユウキは?」

『彼女なら服を買いにお使いに行って貰ったよ。もしもの場合、困る事になるからね』

 

 確かにそっちの方がいいだろう。

 

『では、こちらに戻ってきたまえ』

「わかった。行こうか」

「にゃぁ」

 

 猫語で返事したシリカを連れてドクターの下へと向かう。不覚にも萌えてしまったが、ばれないように手を引いていく。

 

 

 

 

 ドクターの下へと到着し、そこからシリカにチョーカー、アンクレット、ブレスレットをつけて、色々と試して貰う。

 

「これで問題ないはずだ。試してみたまえ」

 

 こくりと頷いたシリカは何を思ったのか壁を思いっきり殴りつけた。

 

「っ⁉ っ~~~~~~~」

 

 そして、痛がってしゃがみこんで、涙目で手をふーふーしていた。ちょっと可愛い。

 

「うむ。痛覚もちゃんと感じられるようになったな」

「感じなかったの?」

「うむ。基本的にアバターの痛覚はカットするか、鈍感にさせるからな。彼女も同じだ。だが、それでは力のコントロールなど覚えないのも納得できる。人は痛みを感じる事で理解し、繰り返さないようにするからな」

「痛い目にあったら覚えるって奴か」

「うむ」

「じゃあ、ドクターも痛い目をみないとな」

「なっ、何を……」

「ちょっと技の練習台になってくれ。大丈夫、刀語の技だから」

「それ、やばい奴だろっ!」

 

 そんな事をしていると、扉が開いてリタとユウキが入ってきた。

 

「ただいま~って、泣いているシリカにドクターを詰問している和人。うん……」

 

 ユウキは周りを見たわした後、何故か有った刀を掴んで引き抜いた。そして、それを持ってドクターへと近付く。

 

「待ちたまえっ、それは真剣だぞ!」

「五月蠅いっ、どうせお前がシリカに酷い事をしたんだろ!」

 

 振り下ろされる刀を避けるドクター。しかし、そこには高い機材があった。

 

「ぬぉおおおおおぉぉっ!?」

 

 真剣でたたかれた機械は切断されなかったが、壊れた。

 

「なにやってんのよ」

「うん、それはだな……いや、取り敢えずユウキは落ち着こう。大丈夫だから」

「そうなの?」

 

 あっさり俺のいう事を聞いたユウキは刀を仕舞う。流石は救世主様と言っていただけはある。ちゃんという事を聞いてくれる。

 

「これ、確か890万だっけ。修理費はドクターの研究費からね」

「まっ、待つんだ!」

「却下。それで、何を買って来たんだ?」

「猫耳のカチューシャっ!」

「……」

「アタシが頼んだのよ。これは外装」

 

 そういってヘッドフォンみたいな機械にとりつけていくリタ。

 

「なにそれ?」

「何って猫耳ヘッドフォン?」

「そうね。もっとも、チョーカーとリンクして喋ろうとした言葉を解析して、チョーカーに送って発生してくれるわ」

「つまり、ちゃんと喋れる?」

「ええ。むしろ、その為に開発した物だから」

「販売用をちょっと応用しただけさ。これは売れるよ」

「ちゃんとした物を作れよ……」

「作ってるじゃないか」

「そうよ。兵器とかいってるけど、それだって流用できるのよ? ドクターが馬鹿みたいに作ってるロボットとか、義手とかに使えるし」

「ロボット?」

「喋るならなんでもいいよ。セットすればいいの?」

「ちょっと設定しないと駄目よ。直ぐにやるわ」

「お願いっ!」

 

 リタが調整していく。直ぐに終わって、猫耳のヘッドフォンをつけた。

 

「ふむ。ALOと同じ耳か」

「当然よ。後は服装ね」

「ケットシーか」

「どうせならね」

「ほら、喋ってみなさい」

 

 こくんと頷いたシリカが声を発する。

 

「ユウキさん、和人さん」

 

 遅れてシリカの声が発せられる。

 

「やったぁ~~!」

 

 ユウキが感極まったようでシリカに抱き着いて頬ずりしていく。シリカは大人しくされるがままだ。

 

「後はカウンセリングを受けつつ、このまま経過を見るべきだろう」

「ありがとう」

「うむ。感謝したまえ。ところで、代金だがね」

「ああ、払うよ。いくら?」

「何、たったの一億六千万円だ」

「まじ?」

「まじだ。診察代や使用した特殊技術のオンパレードだからね。ましてや私とリタ君の時給も換算すればそれぐらいになる」

 

 リタとドクターは俺よりも桁違いに稼いでいるからな。まあ、稼いでもどんどん使っているのだが。

 

「社員割引で」

「五千三百万円だね。素材費だけにするなら八百万くらいだが」

「五千三百万でいいよ」

「では、そうしよう」

「あの、いいの? そんなに払って貰って」

「別に、いいですよ?」

 

 ユウキとシリカがそんな事を聞いてくれる。

 

「大切な人の為ならそれぐらいおしくないよ」

「和人……」

「和人さん……」

 

 喜んでくれているし、後悔はない。いや、資産運用をしてくれている詩乃がなんていうかだけど……多分、大丈夫だろう。きっと。

 

 詩乃に報告して支払いを終えた後。俺のスケジュールは殺人スケジュールとなった。取材やモデル、俳優業、はたまた歌手デビュー。それらと並行して三人とのローテーションでの仕事後のデート。休日はほぼ消滅した。

 

 

 

 

 

 



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34話

 

 

 シノン

 

 

 

 桐ケ谷家じゃなく、私が持っている家。現在、私は二人を迎える準備をしている。ここはワンルームなので四人で生活するには狭すぎる。ベッドを入れるだけでほとんど埋まってしまう。

 

「さて、どうしよう。というか……」

 

 改めて見渡すと、色々な思い出が浮かび上がってくる。和人との逢瀬を幾度となくして、交じり合った部屋。ここは私達にとってホテルみたいな物。だから、私と和人の匂いが混ざっている。

 

「……やっぱり、ちょっと嫌」

 

 いくらあの二人は私と境遇が似ているとはいえ、ここは私と和人だけの家だから。直葉も入れてない。でも、和人の為なら仕方ない。そう諦めて外に出ると、ふとある事を思い付いた。

 携帯を取り出して不動産屋に電話をかける。直に相手が出たので、名前と住んでいる部屋を教えて、その周囲に空きがないかを確認する。

 

『空きはありますよ』

「あるんですか?」

 

 このマンションにある私の部屋の回りを借りられたら、それでいいと思う。どうせ引っ越しはするんだし。

 

『はい。開いているのは同じ階じゃないんですけど、上と下の部屋が空いています』

「……それなら、その二部屋を貸して貰っていいですか?」

『ええ、構いませんよ』

 

 上下で彼女達の部屋を確保すれば問題ない。移動は高層マンションに義務づけられている避難用の梯子を使えばいいし。

 

『ただ、上階だけは広めな4LDKの部屋になっていて、テラスもある端の場所なので値段は高くなっております』

「大丈夫です。取り敢えず、半年契約をお願いします」

『わかりました。一応、部屋の確認をお願いしますね』

「はい」

 

 直に対応してくれたので、契約してクレジットカードで支払っておく。契約や保証人がいるので、そこは和人のを使う。委任状は渡されているので問題ない。後は一応、本人にも電話で確認してもらったので大丈夫。最悪、あとで不備な部分を埋めにいけばいいだけ。本来なら、学生の私達には貸してくれないのだけれど、こっちは全額一括払いなので、あちらも文句はない。代金自体は私の口座から振り込んだ。私も和人について、アメリカでは色々とやった。日本でもたまにモデルや俳優の仕事を人が居ない時にやったりもしている。

 和人と一緒に居ると勉強がはかどってしっかりと覚えられる。だから、台本も簡単に覚えられるし、演技指導とかは和人がつきっきりでやってくれるのでそれなりにはなっている。それに分からないところがあれば、しっかりと教えて貰えてその後に褒められて、甘えさせてもらえるから……楽しいひと時になる。

 

 

 

 取り敢えず、今は急いで購入した家具を人を雇って搬入する。一番広い上の部屋をメインの場所にする。一室は皆で寝られるベッドを用意する。後はタンスやテーブルなんかも変えていく。前に有った物はリサイクル業者に引き取って貰って、アンティークでインテリアを整えていく。全てそろえると結構な額が飛んでいったけれど、大丈夫。シリカの対策は問題ないみたいだし、平気でしょう。どうせ全て自費だから、和人や家族には迷惑をかけない。

 

「っと、窓も変えなきゃ」

 

 外から鍵があればあけれるようにしないといけない。ついでにガラスは強化ガラスの外から見えないようにしましよう。他にも風よけなんかも設置しないと。色々と買う物があるけれど、急いで用意しなきゃ。

 

 

 

 



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35話

ガンゲイルオンラインを読みました。レンちゃんいいね!
ピンクの悪魔、凄いです。あれ、暗殺教室の渚がイメージとして浮かぶのは駄目なのだろうかw



 

 

 

 

 

 姉の藍子と合流するという事で、一旦ユウキと別れてシリカと一緒に買い物を行う。彼女の服を色々と買わないといけない。なので、シリカを連れてレディースショップへと入る。店員は俺と顔を赤らめながら手を繋いでいるシリカを見るが、普通に作業に戻った。俺は帽子を被って三つ編みをしているだけだ。ズボンもしっかりと履いている。たぶん、仲の良い女友達ぐらいにしか思われていない。

 

「“?”」

「っと、なんでもない。それより色々と買うよ」

「“いいの? 高いよ”」

「ああ、大丈夫。シリカは大人しく着せ替え人形になってね」

「“はい”」

 

 女性物の服を選んで、隣のシリカに合わせる。選んだ服をどんどん試着させていく。モデルとかやってるだけあって、かなり勉強になっている。シリカは動きやすい服装や可愛らしい服装が似合うので、そちらを重点的に揃えていく。寝間着はネタで猫の着ぐるみでも用意しよう。後はシノンの服も買おう。サイズは何度も身体を重ねているので把握している。ユウキ達のサイズもある程度、歩く姿や立ち姿を見ただけでわかるので、買っておく。買っておかないと後が怖いからな。シリカにはリボンも買っておく。

 似合っている服を数十着、買って会計を行う。金額が五桁を超えたがまあいい。一着はそのまま着て貰って、残りは配送して貰う。携帯に詩乃から住所が送られてきたので、そちらの場所を書いておく。

 

「じゃあ、次だ」

「“何処ですか?”」

「宝石屋さん」

「“?”」

 

 宝石屋さんで五人分の、指輪を買っておく。一つはネックレスでも良かったのだが、前にそれにしたら()()()()()()に追いかけ回された。なので、指輪を買っておく。全員、同じダイヤモンドにしておく。少なくない額が吹き飛んだが、男の甲斐性だろう。

 

「さて、出ようか」

「“はい”」

 

 楽しそうに色々と見ていたシリカを連れて、映画を一緒に見たり、店をブラブラしたりして、一緒に過ごしていく。シリカは終始、楽しそうな雰囲気を出しているが、表情は無表情なままだ。まあ、これは時間で解決するしかないだろう。

 

「楽しかったか?」

 

 ユウキ達と待ち合わせの駅前広場のベンチに二人で座って話す。

 

「“楽しかったです。物を何も壊さずに色々と見てまわれました”」

 

 シリカは今まで、少し触れるだけでも物が壊れていたんだから、街で遊ぶなんて出来なかった。でも、今は普通の女の子みたいに遊ぶ事が出来る。後は心のケアが必要だろう。そこは頑張ってカウンセリングの勉強をして、ゆっくりと治していってあげよう。

 

「そうだね。制御は問題ないみたいだ」

「“はい”」

「また一緒にデートしようか」

「っ⁉ “デート!?”」

「これはデートでしょ」

「!?!??!?!?」

 

 思いっきり、顔を赤らめてあたふたするシリカ。どうやら、こっち方面で攻めていくのがいいのかも知れない。しかし、直ぐに涙がぽろぽろと流れ落ちて来た。

 

「ちょっ、どうしたの?」

「“デート、初めて……嬉しい”」

 

 更に続けて書こうとしていたとんでもない文字に、慌ててシリカの手を止めて抱き寄せて、顔を胸に埋める。その後はゆっくりと撫でてあげる。

 

「大丈夫だから。これからいくらでもしてあげるから、したい事はどんどん言ってね」

 

 こくこくと頷くシリカをしばらく撫でていると、ふと回りに目を向けるとかなり注目を集めていた。だが、仕方ないので帽子を目深に被ってしばらく撫でている。つけホクロやいろんなアイテムで変装しているのでばれないだろう。

 

 

 

 しばらくして、シリカの寝息が聞こえて来た。そして、遠くからユウキが同じくらいの少女の手を掴んで走ってくる。隣には三つ編みにしたユウキに似た少女。

 

「お初にお目にかかります、我がある……」

「待った!」

 

 跪いて祈りだそうとする彼女を慌てて止める。

 

「ほら、止められたじゃない」

「ですが……」

「えっと、ユウキ?」

「姉ちゃんはボクよりもクリスチャンしてるからね」

「そうなんだ。でも、これからはそういう事、止めてね」

「それが主の命ならば……」

「お願い」

「かしこまりました」

「取り敢えず、移動しよう。視線が痛い」

「シリカはどうするの? 寝ちゃってるけど」

「抱いていくよ」

「おお、お姫様抱っこ!」

 

 シリカをお姫様抱っこで運ぼうとしたが、視線がかなり集まってきた。仕方ないので、おんぶに変える。そのまま、荷物をユウキ達に渡して、ついてきて貰う。

 

 

 タクシーに乗って、自宅に帰る。教えて貰った方の家は詩乃のマンションの上の階だった。チャイムを鳴らすと、直ぐに詩乃が扉を開けて迎え入れてくれる。ちなみにシリカはまだ眠っている。

 

「お帰りなさい」

「ただいま。ほら、皆も」

「あ、そっか。今日からここがボク達のお家になるんだね」

「まあ、一時的にだけどな。一軒家、買ったから今から色々としていって貰うから」

「楽しみだね。っと、ただいま~」

「ただいまです」

「どうぞ。案内するからついてきて」

 

 詩乃の案内で家を探検する。シリカの部屋、ユウキの部屋、藍子の部屋。俺の部屋。そして、リビングとダイニング、キッチン。風呂とトイレ。テラスとあった。シリカはシリカの部屋にあるベッドに寝かせておいた。ちなみに俺の部屋は殆どが巨大なベッドで埋まっていた。というか、完全に寝室だ。

 

「あれ、詩乃の部屋がないよ?」

「私の部屋はこっち」

 

 そう言って、テラスへと案内する詩乃。そのテラスで非常口を開けて、階段を降ろす。

 

「まさか……」

「そう、下の階。だから、来る時は電話してからね」

「わかりました」

「凄く楽しそうな移動手段だね!」

「一応、行く?」

「うん!」

 

 楽しそうなユウキと一緒に詩乃が降りていく。俺と藍子はリビングで互いに話して取り決めをしていく。しばらくして、二人が戻ってきた。

 

「和人、シリカを起こしてきて。他は料理を運んで」

「わかりました」

「りょ~かい!」

 

 言われた通りにシリカを起こしに行く。気持ち良さそうに丸まって寝ているシリカを揺する。

 

「シリカ、起きろ」

「っ⁉」

 

 ビクゥッと飛び起きて、ガタガタと震えて周りを見る。その姿はあまりに痛々しい。

 

「大丈夫か?」

 

 俺の姿を見て、ほっとしたのか、恐る恐る服を掴んで来る。俺はびくびくしているシリカの頭を優しく撫でる。頭に手をやる時、ガタガタと震えながら目を瞑っていたが、今はゆっくりと開いて涙を手で拭っていく。

 

「“だ、大丈夫です……取り乱しました”」

「気にするな。もう誰も暴力なんて振るわないから、安心するんだ」

「“はい”」

 

 シリカをお姫様抱っこで抱き上げて部屋から出る。すると、パンっという音と共にクラッカーが放たれる。それにシリカはビクッとなってまた泣き出した。

 

「うわぁっ、ごめん、ごめん!」

 

 クラッカーを持っていたユウキがシリカに謝る。理由を聞いてみる。

 

「お祝いだから、こうやるものだと思ったんだけど……やってみたかったし」

「なるほど」

「妹がすみません」

「“大丈夫です。驚いただけだから、気にしないで。ユウキは悪くない。悪いのは私です”」

「違うからね!」

 

 その後、二人で言い合いが続くが、詩乃の一言で静まった。

 

「やるなら、食べてからにして」

「う、うん」

「“はい”」

 

 テーブルの上にはお刺身とお寿司が置かれていた。全員が席につくと、ひとつの席が余っている。そんな事を思っていると、どさっという音が扉の方からしてきた。そちらを見ると、持ってきたケーキの箱を床に落とした直葉の姿があった。その瞳からはハイライトが消えていて、肩に担いでいたバットケースを開いていく。

 

「お兄ちゃん、お義姉ちゃんと私という者がありながら、その雌犬達は何かな? かな?」

 

 バットケースの中身からは木製の長い棒が出て来る。さらに、その中からは光り輝く綺麗な銀色の光を持つ物が……

 

「「っ⁉」」

 

 ユウキと藍子が震えながらも俺を庇うように立つ。次の瞬間には直葉が頭上に向かって()()()()()……刀を振るう。すると、そこにはシリカが天井を蹴って殴りかかっていた。シリカの拳と直葉の刀。本来ならシリカの拳が斬られるはずが逆に刀が折れる。しかし、それで勢いが殺された。その瞬間、直葉は刀を捨てて差し出されている状態のシリカの腕を掴んで投げて床に倒す。次の瞬間には、容赦なく首を踏んで落ちて来る刀身を素手で挟んでシリカの顔に向かって振り下ろす。

 

「やめんか」

「あいたっ!」

 

 俺が投げた小さな箱が、直葉の額に命中して軌道を変える。本来なら瞳を貫くはずだった刃はシリカの頭の隣へと突き刺さった。シリカは無茶苦茶、涙目だった。

 

「お兄ちゃんが悪いんだから! 浮気なんかするから! だから、こいつらを……」

「そうか、直葉はそれが要らないようだ」

「え? これ……あっ」

 

 直葉は小さな箱を開けると、固まった。

 

「要らないなら返してくれ」

「やだ。絶対やだ!」

「なら、事情があるから三人も認めろ。だいたい、妹の直葉が血がつながっていないとはいえ、兄である俺と……」

「血がつながってないなら、なんの問題もないよ!」

「もういい、返せ」

「やだ」

「なら、いいな」

「お義姉ちゃんがいいなら……仕方ない」

「私はいい」

「なら、仕方ないから認めてあげる」

 

 足を退けてシリカを自由にする直葉。シリカは直に俺に抱き着いて、後ろに隠れて直葉から逃げる。

 

「悪い。いくらなんでも、マジで殺しにかかるとは思わなかった。対応が遅れてしまった」

「……私も、まさかここまでするなんて……」

「こ、殺す気なんてなかったよ! ちゃんと寸止めのつもりだったし! 本当だよ!」

「う、嘘だっ!」

「殺気が出ていました……」

 

 ユウキと藍子も、そう言っている。確かにあれはマジだ。

 

「お兄ちゃんのせいだもん! 直は悪くないよ!」

「おい」

「だって、まさかお兄ちゃん以外に刀を折られるなんて思わなかったんだもん。お兄ちゃんは平気で斬ってくるから、ついお兄ちゃんと同じ対応をしたんだよ。お兄ちゃんなら、平気で防いで反撃してくるよね? こないだもそれでボコボコにされたし。だから、つい」

「……判決。和人が悪い」

「詩乃まで!?」

「というか、普通にシリカを相手に制圧できるって時点でおかしいんだけどね~」

「そうですね。見えませんでしたし」

「これが一般人の反応。どう?」

「ごめんなさい」

「よろしい。ほら、直葉も謝る」

「ごめんなさい。これあげるから許して」

 

 そう言って、猫じゃらしを取り出す直葉。そして、左右に振るとシリカが反応して取ろうとしてくる。しかし、超反応であっさりと回避していく。

 

「ところで、直葉」

「なに?」

「ケーキ」

「あっ……」

 

 青ざめた直葉はぐちゃぐちゃになっているケーキを見て、詩乃の顔を見る。

 

「買い直してきます!」

 

 即座に逃げていった。

 

「シリカは先にお風呂ね」

「そうだな」

 

 シリカの背中には箱からはみ出したケーキがべっちゃりとついている。

 

「……どうせなら、皆で入ろ」

「えっ、それって和人も?」

「もちろん。私と和人は何時も一緒に入ってる」

「わ、わかりました。ユウキもいいですよね」

「う、うん……」

「“は、はい”」

 

 女性陣が納得してしまえば、今更俺が言える事もない。ぶっちゃけると髪の毛の手入れとか、ものすごく面倒なので詩乃に任せているし。詩乃の髪の毛を洗ったりするのは好きなのだが、やはり自分のになるととたんに面倒になる。

 恥ずかしがっている女性陣と一緒のお風呂はなんというか、素晴らしかったが、同時に玩具にされて弄り回された。

 その後、戻って来た直葉も交え食事をして、皆にプレゼントを配布した。皆はそれぞれ左手の薬指に指輪をつけていった。それからは俺を他所にして話し合いが始まった。

 

「夜伽の順番はユウキ2、シリカ2、藍子2、直葉1。これで」

「却下だよ」

「駄目ですね」

「“詩乃さんがないです”」

「私は別にいいから」

「うんと、詩乃さん以外は全員一日で、詩乃さんは二日。最後の一日は和人に呼ばれた人か、複数人でいいんじゃない?」

「そうですね」

「ちょっと待った。私は奴隷だから……」

「それは聞いたけど、和人は妻にするって言ってるんだから、なんといわれてもこれだよ」

「そうですね。不和の元ですから、諦めてください。それにその、初めてですから、満足して貰えるとは……」

「“多数決です”」

「三対一で決まりだね」

「まって……」

「家事の分担はどうしますか?」

「えっと、私は家事できないから、藍子さんやユウキちゃん達は?」

「ユウキは無理です」

「だね~」

「“無理です”」

 

 話し合いの結果。詩乃と藍子がメインとなり、残り三人に教えていく事になった。俺は女の聖域という事で家事は一切禁止された。そして、ローテーションの事も口出しなんて出来ずに全てが決まっていく。幸いにして、女性陣の仲がよいのでどうにかなっているので、いいだろう。というか、思えばスケジュールを今では完全に詩乃が管理しているので、今更だったな。もちろん、要望を出せば最優先で叶えてくれるのだが。

 

「詩乃さんって、なんだか弾幕ゲームに出て来る完璧超人のメイドさんみたい」

「目指している所ではある。時は止められないけれど、似たような事は出来るから」

「え、本当に?」

「うん。和人と複数回交われば、ユウキにもできるよ。訓練空間に入れるから」

「流石は救世主様っ! ボクも強くならないと!」

 

 数日後、ユウキの番になった時は大量に搾り取られた。何がとは言わないが。

 

 

 

 

 

 



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36話

 

 

 暖かな温もりに包まれて、目覚める。腹の上には詩乃が俺の首に両手を回して抱き着いた状態で眠っている。左右を確認すると、ユウキと藍子が俺に抱き着くようにして眠っている。足の方にはシリカと直葉が足を枕にして眠っている。

 全員、裸なので昨日は爛れた一夜を過ごした。理由は簡単だ。一度、夜に一人ずつ全員とした後、反省会が行われて詩乃とシリカによる技術提供が俺の居ない所で決定された。そして、それは最終日の空いている日に行われたのだ。

 

「んっ、おはようございます。旦那様」

「おはよう」

 

 藍子が起きたようで、軽く口付けをしてくる。詩乃はまだ眠っているのか、俺に頬っぺたや頭を擦りつけてくる。

 

「詩乃さん、可愛いですね」

「だろ?」

「はい。ユウキも負けていませんけど」

 

 二人でユウキの方を見ると、寝ながら涙を流していた。

 

「……お父さん……お母さん……行かないで……」

「あの時の夢を見ているのですね」

「そうだな……」

 

 なんだか、俺まで泣きたくなる。俺の両親も死んでいて、桐ケ谷の家に引き取られた。でも、ユウキ達の親戚はろくでもない連中が多い。

 

「そんな顔をしないでください。私達は旦那様のお蔭で救われました。あの時、私の命は残り微かでユウキとはお別れしなくてはならなかったんです。でも、今ではこうして二人一緒に過ごせてます」

「そっか、そうだよね」

「はい。それよりも、皆さんを起こしましょうか」

「そうだね」

「じゃあ、まだ目を瞑っていてください」

「ん?」

「その、着替えとかを見られるのは恥ずかしいですから……」

「わかった」

 

 目を瞑って少しすると段々と温もりが消えていく。少し残念な気持ちになる。わいわいと服を着ていく音が聞こえてくる。

 

「もういいよ~」

 

 目を空けると、白いシャツにスパッツをつけた皆の姿がある。

 

「ほら、こっちこっち」

「ああ」

 

 起き上がった俺に詩乃達が服を着せてくれる。ランニングウェアに着替えたら、皆で一緒に家に鍵を閉めて走り出す。俺とシリカ、直葉、詩乃には錘を付けてだ。だいたい、20キロ、走ったら桐ケ谷の家に到着し、そこで胴着に着替えて朝練を行う。それが終れば順番にシャワーで汗を流してから着替えて朝食を食べる。これは日課だ。

 基本は直葉の部屋で着替えたりしている。しかし、直葉の事を母さんに話したら、驚かれたな。直葉の粘り勝ちかという言葉で。どうやら、母さんは直葉と俺をくっつけるのに賛成だったみたいだ。話を聞く限り、詩乃を毛嫌いしていた直葉が直ぐに打ち解けたのは、母さんが詩乃を味方に入れて、俺を説得すればいいと言ったかららしい。実際、詩乃にユウキ達の事を話したら、直葉も迎え入れるように言われてそのようにした。妹である直葉をそんな風には見れなかったが、身体を重ねたせいか、だんだんと変ってきている気がする。始めての時も詩乃と一緒にだったからこそ出来た。そうじゃなければ、色々と言って誤魔化していただろう。そんな風に思いながら直葉を見ると、幸せそうに笑いながら詩乃を手伝っている。まるで本当の姉妹みたいだ。これ、直葉も受け入れていなかったら、恐ろしい事になったんだろうな。

 

 

 

 さて、朝食が終わると女性陣が反省会をするそうなので、俺はGGOをする事にする。流石に連日は持たないので、逃げる。

 

「旦那様、私もそっちに行きますね」

「いいの?」

「はい、大丈夫です」

「わかった。じゃあ、連絡をくれ」

「わかりました」

 

 GGOにログインした俺はまず身体を確認する。特に異常も無いので藍子からメッセージが来るのを待つ。少しすると連絡が来て、待ち合わせの場所へと向かうと三つ編みの金髪美少女が居た。何やら、数人の男性に言い寄られている。

 

「あっ、旦那様っ」

「旦那?」

 

 直ぐに俺に気付いてこちらに走り寄ってきて、俺の後ろに隠れる。名前はラン。そのアバターは明らかにとある前世のゲームの物にそっくりだ。

 

「なんだ、男連れ……って、黒騎士かよ」

「駄目だこりゃ。おい、行くぞ」

「くそう、シノンちゃんやリーファちゃんに続いて……」

 

 男達は愚痴をいいながら、去っていく。

 

「旦那様って有名なんですか?」

「そうだよ。BOBで優勝もしてるしね。それより、そのアバターは?」

「天使様が用意してくださいました。なんでも、聖女様らしいですよ。全てのゲームでこれになります。ユウキも同じです」

「なるほどね」

「似合っていませんか?」

「いや、凄く似合っているよ」

「ありがとうございます。それで、服とか装備のコーディネートを頼みたいのですが……」

「いいよ。じゃあ、行こうか」

「はい」

 

 藍子、ランを連れてガンショップを見て回る。どうせならと、聖女様に似せた装備にしてみたら、本当に似合う。

 

「チュートリアルはしてないんだよね?」

「はい。なので、どんな銃がいいのかはわかりません」

「じゃあ、ちょっと射撃場で試してみようか」

「わかりました」

 

 射撃場に移動し、ハンドガン、サブマシンガン、ライフルなどを試して貰う。撃ち方とかは身体をくっつけて、丁寧に教えていく。

 

「ん~別のゲームで主に何を使っていた?」

「槍ですね」

「だったら、いいのがあるよ」

「なんですか、これ。無茶苦茶重いのですが……」

 

 俺がストレージから取り出したのは銃槍(ガンランス)と呼ばれる武器だ。全長一メートル五十センチ。先端には槍があり、その少し上には単発式グレネードランチャーが装着されている。

 

「……これ、槍なんですか?」

「一応。グレネードランチャーをパージできるから、範囲攻撃した後は完全に槍としても使えるよ」

「後は盾を持ってくれるありがたいかも。それで詩乃、シノンを守ってほしいから」

「なるほど。わかりました」

「後はハンドガンも装備しておこう」

 

 腰の後ろに二丁のデザートイーグルを装備して貰う。

 

「ステータスは筋力重視にしましょう。防御力を鍛えます」

「お願い」

「任せてください」

 

 さて、装備が整ったので外に出てみる。場所は砂漠のフィールドだ。今回は移動に普通に歩いていく。ランにレクチャーをしながら進んでいくと、不思議な気配がした。

 

「ラン」

「どうしましたか?」

「うん。このまま話しながら進むよ。でも、敵が潜んでる」

「わかりました」

 

 それから、()()()では存在しない敵を気配で察知し、ゆっくりと話しながら近づく。岩陰の近くに進むと小さな人影が飛び出してきて、速攻でランのデザートイーグル二丁が火を吹く。しかし、AGIが高いのか直に避けてこちらへとサブマシンガンを乱射しながら突き進んでくる。俺は光剣で弾丸を斬り伏せ、近付いて来た彼女の銃を切断し、そのまま近付いて首を掴んで持ち上げる。

 

「うそっ!」

 

 直ぐに違う武器を取り出そうとする彼女を、首を持った状態で岩に叩き付けて黙らさせる。それから直に大人しくなった。

 

「さて、どうしようか?」

「旦那様、やりすぎでは……」

「いや、でも危険だし」

 

 こんな話をしていると、向こうから人が沢山やってきた。

 

「ここで姿を見せずにPKをしている奴が居るんだよな……」

「おい、あいつらじゃないか?」

「あれって黒騎士じゃないか。まさか、アイツがPKか!」

「なら、納得だな」

 

 数十人規模のそいつらは銃を構える。

 

「だ、旦那様……」

「やれやれ……ランはこいつを確保しておいて。こいつがそのPKだろうから」

「わかりました。旦那様は……」

「決まってる。敵は殲滅する」

「わかりました」

 

 ピンクの少女をランに預けて、隠れさせる。BOBの訓練相手には丁度いいだろう。ついでに組んでいるランにも経験値を入れよう。

 

「参る」

 

 瞬時に加速して、突撃する。銃弾の雨が俺を歓迎するが、その全ての軌道を計算し、当たらない物は放置。自分と後ろに居る二人に命中する弾丸だけは落として、突き進む。

 

「こいつを殺せば6000万クレジットだ! やるぞ!」

「絶対に殺してやる!」

 

 俺には高い懸賞金が掛けられている。このシステムは一度キルされると、その人に全額が振り込まれる。しかし、キルされなければどんどん金額が増えていく。色んな奴等が賞金首に金額を上乗せしていくからだ。俺の場合、シノンやリーファの事もあってかなり妬まれて金額が増加していたりする。

 

「その程度じゃ、やられないな」

 

 腕を振るってワイヤーを放ち、サブマシンガンなどの銃を切断する。慌てだした連中に突っ込んで、斬り殺していくと遠くから狙撃の音が聞こえて次々と敵が撃ち殺されていく。

 

「なんでだ、なんで弾道予測線が出ねえ!」

「ちくしょうっ、待ち伏せか!」

「残念、違うんだな」

 

 だが、相手にとっては更に地獄だろう。何せ、急激にこちらに近付いてくるバイクがある。そこにはリーファとユウキ、シリカが乗っている。もはや、相手になる事もなく瞬殺されていく相手。後にはクレジットや大量の武器がドロップしていた。

 

「ランが呼んだのか」

「はい。いけませんでしたか?」

「いや、早く終わるならそれにこした事はないからいいさ。それよりも……」

「お、おたすけ~出来心だったんです……」

「奇襲の仕方は悪くないよ。でも、気配の消し方が全然なってない」

「そっちっ!?」

「うん。システム外スキルで簡単に見つけられるよ。やるならもっと徹底的にね」

「ねえねえ、この人は何?」

「PKだよ。もっとも、この世界じゃ普通の事なんだけど」

「そうなんだ。ボク、ユウキ。始めたばっかりなんだ。君は?」

「私も、そうだけど……」

「じゃあ、ボク達と一緒に遊ばない? 三人を除いて、このゲーム初めたばっかなんだ。戦い方、教えて貰えるよ」

「いいの?」

「いいよね?」

「ああ、いいぞ。どのゲームでも初心者には優しくしないとそのゲームは廃れるからな」

「だって」

「じゃあ、よろしく。私はレン」

 

 どうせ人数が増えたんだから、スコードロンでも立てるか。名前は妖精騎士(フェアリーナイツ)でいいか。ランとユウキが参加していたスリーピング・ナイツとALOからとって。

 

「BOB参加する予定のメンバーは徹底的に鍛えるとする。取り敢えず、シノンを迎えに行くぞ」

 

 シノンに合流して、スコードロンを立ち上げてから訓練を開始する。レンはBoBには出ないつもりのようだ。しかし、ユウキ達と付き合って、どんどん実力をあげていっている。二つ名がピンクの悪魔になる可能性がある。

 

「ところで、シノン」

「何?」

「バレットサークルだしてた?」

「出してないわよ。自分で計算したら必要無いもの」

「そっか。じゃあ、それを皆に教え込まないとね」

「そうね。一番の強化方法よね」

 

 これこそが、最初のBoBでアメリカのプレイヤーが圧勝した理由の一つだろう。自らの能力で弾道を予測させずに銃撃を放って倒す。これが一番ベストだ。

 

 

 

 

 

 




ガンゲイルオンライン1を読みました。レンちゃん、いいね!


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37話

 

 

 

 スコードロンを作ってから数日後、第三回BoB(バレット・オブ・バレッツ)が開催された。今回は3対3という事だったが、ソロの人から単独戦が欲しいという事で、両方開かれる事になった。なので参加するのは団体戦に俺とシノン、リーファのチームとユウキ、シリカ、ランのチーム。ソロには俺とシノン、リーファだけだ。まずはソロの普通のBoBからだ。

 

『まもなく、BoB個人戦を開始します。皆さま、転移後は準備してお待ちください』

 

 酒場の一席を俺達で確保している。そこにユウキ、シリカ、ランが座っている。三人はここから観戦して、応援してくれるからだ。さて、隣を見ると危険な爆弾魔(ボマー)が居た。

 

「プラズマ・グレネード30個と、デカネード20個。閃光弾が10個。これと光剣5本で終わり。うん、ちゃんとあるね」

 

 メニューを開いて物騒な事、この上ない言葉を並べるリーファ。プラズマ・グレネードは手榴弾よりも威力を強化し、直径10m以内の物を殲滅する高火力の爆弾だ。デカネードはプレイヤーがつけた大型プラズマ・グレネードの事で、直径20m以内の物を消し飛ばす威力がある。そんな危険極まりない物を個人で所持しているのだ。

 

「リーファ、銃は?」

「んと、ベレッタ92は持ってくよ。爆弾を投げて、撃って爆発させるから」

 

 ベレッタ92はイタリアのベレッタ社が設計した自動拳銃で、9x19mmパラベラム弾を15発装填できる。重量も950gと比較的軽く、取り回しやすい。

 

「なるほど。あと、一つ忠告しておくけどストレージから数を出しちゃ駄目だからね。撃たれたら即死するから」

「了解だよ、お姉ちゃん」

 

 シノンはへカートⅡのメンテをしながらリーファに色々と教えていく。

 

「端末の使い方は知ってるよな?」

「うん、大丈夫」

「なら、いい」

「お兄ちゃんは今日はどんなので行くの?」

「基本的に剣だな」

「ガンゲイルオンラインでやる事じゃないよね!」

「本当にそうだよね~」

「あははは」

 

 ユウキ達にも笑われた。まあ、確かにそうだろうな。ちなみに俺の剣は宇宙船の装甲板を加工して剣にしてみた。

 

「どっちにしろ、私が全部撃つ」

「……アンチマテリアルライフル持ちの超遠距離狙撃ってやばいんですけど……」

「常にランダムで動け。止まればそこで終わりだ」

「まあ、その為の対策をいっぱい用意してきたけど……お姉ちゃんに当たったら負けると思う」

「三人共、おかしいからね」

「ユウキ、それはちょっと……」

 

 ランが注意しつつ、俺の長い黒髪を櫛で解してから、三つ編みにしてくれる。

 

「“否定、できません”」

「そうなんだよな」

 

 そんな風に話をしていると、会場の扉が開いて三人の人が入って来た。一人は背丈の高いツンツン頭の青年で、残り二人は黒髪の美少女だった。全員、赤色の服を着ている。

 

「キリト?」

「浮気なの~?」

「違う。あの女の子の方の二人は強いぞ。警戒しておけ」

「確かに体感もしっかりしてるし、足運びとかは武道をしている人だ……って、信玄に信廉じゃない」

「知っているのか?」

「うん。ALOで世界樹まで案内してあげて、友達になったの。ちょっと行って来るね」

「いってらっしゃい」

「迷惑はかけないようにな」

「うん」

 

 リーファが居なくなると、ユウキがこっちにやって来て俺の膝の上に座った。

 

「ねえねえ、優勝できそう?」

「さあな。流石に強い人も多いだろうからな」

「大丈夫。キリトは私が守る」

「いや、逆だから」

 

 こんな話をしていると、また何人かが入って来た。

 

「っ⁉」

「どうした?」

 

 入って来た人を見た瞬間。シリカが抱き着いてきて、ユウキの胸に顔をうずめて、身体を隠していく。シリカの身体は震えている。視線をやると、何人かで話しているフード姿の奴等。その内の一人から、銀色の髪の毛が一瞬だけ見えたが……基本的にGGOのアバターはランダムだけだった。だけど、新しくドクターがコンバート前のゲームをしていた容姿をこちらの世界に合わせて修正するシステムを作った。こちらは課金が必要で、身長などは現実基準のものしか出来ない。

 

「まさか……」

『時間になりました。転送を開始します』

 

 

 ※※※

 

「ちょっと相談がある。詳しい内容はこれだ」

「なるほど……」

「了解した」

 

 ※※※

 

 

 次の瞬間には、俺は誰も居ない場所に居た。目の前には救急セットが置かれている。それ以外には正面には大きな画面があり、残りの準備時間が表示されている。ここで装備を変更するのだ。

 

「パワードスーツ、装甲剣二本。光剣四本。プラズマ・グレネード5個、手榴弾10個。デザートイーグル二丁。マガジン10個、ワイヤー・アーム」

 

 どれも問題無い。予定を変更して、本気で殺しに行く。装甲剣一本と光剣一本、デザートイーグル以外はまずは必要ないので、ストレージにしまい込む。デザートイーグルは腰の後ろにホルダーがあるのでそこに装着する。光剣は左側のベルトに設置しておく。

 

「……」

 

 後はやる事が無いので、剣の柄に手を置い当て眼を瞑る。精神統一を行う。やる事と狙いは決まった。ならば、やる事は一つ。

 

「鬼に逢うては鬼を斬る。仏に逢うては仏を斬る。剣の理ここに在り」

『時間になりました。会場に転送します』

 

 目を開くと、そこは廃墟だった。BoBでは初期配置は他のプレイヤーと一キロ離れている。本来なら、そうだ。しかし、今回は個人戦が追加され、予選が無い関係で人数が多い。といっても、200から500メートルは離れて出現する。そして、10分毎に衛星によるスキャンが行われて、俺達の位置は端末に表示される。

 

「さて、殺し合いを始めよう。見敵必殺(サーチ&デストロイ)

 

 眼を瞑り、神経を研ぎ澄ませる。風切り音が聞こえ、振り向きざまに剣を振るう。微かな手ごたえと共に銃弾が弾かれる。

 

「ちっ、化け物めっ!」

 

 そいつは空に向かって信号弾を放った。それは空に非情に大きな音を出した後、黒色の光を発する。

 

「これでお前も……」

 

 接近して、斬り伏せる。次の瞬間には即座に剣を振るって飛んでくる銃弾を弾く。剣を盾にしながら裏路地へと入る。道にはどんどんプレイヤーが集まってきている。そいつらはバトルロワイアルなのに互いに戦う事をしていない。つまり、()()()()()。ここも直に敵が来るだろう。なら、やる事は一つだ。左右の建物の壁を確認し、瞬時に突起の位置を確認。そのまま走って、ジャンプする。フリーランニングの要領で突起を蹴って、上へと上がっていく。数秒で屋上につくと何人かのプレイヤーが裏路地に入って来た。ご丁寧にも、挟み込むようにしてだ。

 

「馬鹿な、居ないぞ!」

「そんなはずはない!」

「探せ!」

 

 そんなプレイヤー諸君にプレゼントとしてプラズマ・グレネードを落としてやる。すると汚い青い花火があがった。俺は即座に走って隣のビルに飛び移る。そして、寄って来たプレイヤー連中の近くに移動すれば、ワイヤーを放って飛び降りる。落下ダメージはプレイヤーを踏み潰すと同時に横に回転しながら剣を振り回し、軽減させる。もともとワイヤーでも軽減しているのでダメージはパワードスーツで受け止められる。

 

「なっ!?」

「どっから湧いてきやがった!」

 

 瞬時に接近して、首を斬る。相手が驚いている間に二人、三人と斬って殺す。しかし、流石に時間が経つと銃を向けて放ってくる奴が出て来る。なので、転送されるまでの一定時間無敵とかす死体を盾として防ぐ。死体を蹴って相手に突っ込ませると同時に飛び出して、射線を外し接近する。常にプレイヤーを盾にする事によって同士討ちをさせつつ、近付いて殴ったり、首を折って殺す。背後の気配に対して、ワイヤーを放って銃弾を切断。即座に剣を投げて串刺しにする。

 

「奴は武器を捨てた!」

「今だ!」

 

 即座に飛び上がって射線を回避。しかし、空中は恰好の的だ。だが、ワイヤーを放って、撒き戻す事で方向を変える。プレイヤーの背後に回ったらワイヤーを円形にして、首を絞める。そのまま銃の盾にしつつそいつの手榴弾を拝借して投げる。手榴弾の破片からは死んだこいつを盾にして防いだ。後は死んだ奴等の銃を取って。とどめをさしていく。

 

 

 

 ※※※※

 

 

 

 酒場では、ドローンによって映し出される映像が複数の大画面に表示されている。その一つが、今しがた行われたキリトによる殺戮映像が映っていた。

 

「うわぁ、黒騎士やべぇ……」

「一人だけ別ゲームじゃねえか」

「というか、えげつないな。単独キル18人かよ。まだ始まって10分経ってねえぞ」

「人数が多いからな……」

 

 そんな話をしている中、ユウキとランはシリカを連れて個室へと移動していた。個室でもちゃんと映像は見れる。

 

「流石は救世主様。凄いね! 必殺仕事人だよ!」

「凄いレベルなんですか? いや、現実でも桁違いでしたが、ゲームだと更に……」

「“頑張って”」

 

 シリカはランの膝の上に乗って一生懸命に応援している。個室に移った事と、二人が近くに居る事でどうにか耐えているようだ。

 

 そして、映像は切り替わる。そこには水色の髪の毛をした少女が森の中に身を隠しながら、寝そべって目標を待っている。その視線の先では、二人の男性がサブマシンガンとライフルを持って撃ち合いしている。彼女は二人が射線に重なる瞬間を狙って撃った。弾丸は一人の上半身を吹き飛ばして貫通し、もう一人の首から上を吹き飛ばした。そして、弾丸を輩出して警戒しながら森から出て男達の装備を回収していく。

 

「シノンさんも凄いですね」

「二人同時に撃ちぬくなんて、できるんだね」

「“アンチマテリアルライフルだからかもです”」

「でしょうね。しかし、このようなゲームはいかがなものかと……あまりに命が安すぎます」

「大丈夫だよ。だって、ゲームだから何度だって蘇るしね。それに犯罪の抑止になるかも知れないよ? これで満たされたら」

「“逆もありそうです”」

「どちらも、結局は人の心ですからね……主よ、どうぞ皆が道を踏み外さないように……」

 

 画面が移り変わり、次に表示されたのはいかつい男性。その後ろに虚空から現れるかのように金髪少女、リーファが出現する。彼女の手には光剣があり、背後から容赦なく首を斬り落とした。その直後に装備を回収して、フード付きマントを翻すと姿が掻き消えていく。いや、地面を見ると微かに足跡が残っている。次の集団には爆弾を投げ込んで、自分はさっさと逃げるという戦法を使って確実に敵を減らしていく。

 

 

 

 

「光学迷彩だよな、アレ……」

「確か、ブロッケン地下迷宮40階の奥に居るボスが出すんだよな」

「……アレを撃破しているという事か?」

「買ったのかもよ?」

「おい、ちょっと待て。あっちの双子もやばいぞ」

 

 信廉と信玄と呼ばれた二人はさっさと合流して、二人で的確に危な気なく敵を倒していく。こちらは銃もちゃんと使っているので、まだましだ。そして、画面が変わる。そこには黒い影が映り、プレイヤー達が殺されていっていく。プレイヤーが倒れると、その後に姿を現したのはサングラスを付けた長身の男性。彼の手にはMaxim9が二丁、握られていた。Maxim9は銃の射撃音を軽減する装置サイレンサーを銃口の先に取り付ける筒状のものではなく、銃とサイレンサーをひとつにまとめたSFチックなデザインの一体型ピストルにしたのだ。

 

「闇風、やばいな」

「銃撃を全て避けてやがる」

「その上であの速度で走りながらの正確な射撃だろ」

「突き詰めればAGI型も凄いって事だな」

 

 第三回BoB個人戦は始まったばかりだ。そう、殺戮の宴はまだ終わらない。

 

「It's show time!」

 

 

 

 

 

 




キリト:未来のサイボーグ戦士並み
シノン:13の名前を関する人達並みの射撃技術。
リーファ:気付けば貴女の背後からこんにちは。爆弾か光剣のプレゼントをくれる。


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38話

 

 さて、あらかた斬り殺したから次にいくか。それともこのまま市街地にいるかどうかだ。いや、ここは移動しないで狩りを続けよう。どうせさっきの戦いで相手は寄ってくるだろう。スキャンの結果を待とう。

 

 

 

 

 

 リーファ

 

 

 

 お兄ちゃんとお姉ちゃんに当たらないように狩っていこう。スキャンの情報をもとにみていると目の前に赤い鎧を着た銀髪の少女が無精ひげの男性と歩いてくる。

 このまま気配を消して少し待つ。相手は警戒しながらこちらに移動してくる。横に来た瞬間、斬ろうとすると相手は驚いたことに私の気配を察して光剣で対応してきた。

 

「うおっ!? どこから現れやがった!」

「兄様、援護してください!」

 

 どうやら妹さんは冷静のようで、私は妹さんと斬り合っていく。驚いたことに彼女の腕はかなりいい。面白い。でも、邪魔がいるからスタングレネードで一旦距離をと……

 

「っ!?」

 

 腕が狙撃されて、光剣で突き刺された。どうやらスナイパーが隠れていたみたい。仕方ないので用意していた紐を引っ張る。

 

「なっ!?」

「兄様っ!」

 

 プラズマグレネードとデカネードの大量プレゼント。ただでは死なないよ。流石にお兄ちゃんみたいにスナイパーライフルの狙撃を戦闘中は回避できないし、仕方ないよね。

 

 

 

 ※※※

 

 

「信廉と兄様がやられましたか。ですが、これは仕方ありませんね……」

 

 まさか自爆するとは思いませんでした。というか、逃げようとして間に合わないぐらい広範囲の火力でした。何個持っていたんでしょうか?

 

「まあ、いいでしょう。二人の分まで相手を調べないといけませんね」

 

 アンチマテリアルライフルバレットM82を持って移動する。森の中を進んでいると、狙撃音がして思わず隠れる。双眼鏡で様子をみると遠くで狙撃されている男性がもの凄い速度で回避したのだけれど、予測されていたのか頭部を撃ち抜かれた。彼の周りには沢山の死体が転がっている。

 

「何この大会……人外だらけじゃいですか……」

 

 すくなくとも超危険なスナイパーと剣士が一人ずついるということは確定している。彼女と彼は有名なプレイヤーで優勝候補として調べてあります。その結果、その二人はSAOに居なかったことがわかっています。

 国の調査機関と民間の調査機関で調べさせた結果なので間違いありません。つまり、頑張って接触すれば味方になってくれるかもしれません。無理でも最悪戦いは待ってもらいたいですね。

 

「それにSAOで悲惨な目に合わせられた女性のぶんも……」

「なにそれ。詳しく教えて?」

「え?」

 

 振りむこうとした瞬間、頭に銃口が押し当てられました。そーと振り向くと視界に映ったのは優勝候補の凄腕のスナイパーの少女。

 

「武器を捨てて詳しく教えて。さもないと……」

「わ、わかりました!」

 

 慌てて武器を捨てます。どうやって、どうやってこんなにところにいるのですか! 

 距離がかなりあったはずなのにおかしいですよ!

 

「さっさと吐く」

「えっと……」

 

 私はSAOのこととデスガンについて詳しく教えていきます。協力してもらえればうれしいですし、ここで死ぬわけにもいきませんから。

 

「なるほど。いいよ、協力してあげる」

「信じてくれるんですか?」

「不思議なことには慣れてるから。ただし、条件があるわ」

「なんですか?」

「その銀髪のゴミは私が、私達がもらう。それが協力する条件ね」

「もちろんです。なんだったら、リアルの居場所も教えちゃいますよ」

「知ってるの?」

「調べましたから」

「そう。ならそれも報酬としてもらうわ。それと追加で味方をつける。シリカのこともあるから動いてくれるから」

「助かります。シリカという人は……なんでもないです」

 

 アイツに恨みがあるなら被害にあった人のはずですしね。とりあえずスキャンを待ってから私達は行動することにします。まずは都市部に陣取っているご主人様のところにいくそうです。って、ご主人様ってなんですか!?

 

 

 

 

 



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39話

 

 

 シノン

 

 

 

 森から出た私は木の上に移動して大きな枝に座って背中を預けながらスコープを覗く。しばらく監視していると複数の人の銃撃音が聞こえてきた。

 そちらにスコープ越しに視線をやると、闇風さんが戦っていた。ここで彼は倒した方が良い。

 周りを見渡して良さそうな狙撃場所を探す。高い建物はあるけれど、あそこは逆に狙われている可能性が高い。他の場所を探すと高台を狙っている奴がいる。

 邪魔だから狙撃して倒しておく。次は森の中から闇風さんを狙撃してみる。

 撃った瞬間、いきなり地面にスライディングして避けられた。まるで来ることがわかっているかのように避けられたので逃げる。

 私は急いで場所を移動しながら方法を考える。光学迷彩用のマントを着て移動し、もう一度別の場所から闇風さんを狙ってみる。彼の周りには他のメンバーが銃撃音を聞いて車などで集まってきている。それをまるでご主人様みたいに緩急つけた移動と隠れたりすることで倒している。

 立体機動すらしているし、本当にすごい。でも、倒す方法がないわけじゃない。ご主人様を倒すために考えて練習した方法もある。それの実験台にはいいかもしれない。

 やるための前提条件は……揃っている。まずは風や重力、弾丸の加速度などを計算していく。流石に暗算は無理だから地面に書いていく。さっき撃ったところから、違いや落ちる感じなども計算する。

 

「できた」

 

 まずは計算した通りに二発撃って、即座に直接狙って一発撃つ。私が最初に撃った銃弾は後ろに倒れるように避けられ、二発目は彼の持つ銃弾で迎撃された。確かにバレットラインがでるので可能。

 

「でも、甘い」

 

 彼の横から迫った弾丸が彼の頭を貫いてヒットポイントが消えていく。闇風さんは後ろをみてから驚愕の表情でこちらを見詰めている。私がやったことを信じられないみたい。私がやったことはいうなら簡単なことで、最初に撃った弾丸を二発、軌道と速度を変えて撃ち、空中で接触させて跳弾させて闇風さんに命中させた。

 

「上手くいって良かった。これなら対応できそう。それに情報をゲットできたわね」

 

 装備しているマフラーを口元にあげてから、周りを警戒しつつ先程の感覚を復習しながら移動する。すると微かに銃声の音が聞こえてきた。そちらに音を消して光学迷彩で移動して背後を取る。

 

「それにSAOで悲惨な目に合わせられた女性のぶんも……」

 

 聞き捨てならないことを言っているので、ヘカートを突き付けてやる。こいつがSAOのことについて知っているなら、シリカをあんなにした相手がわかるかもしれない。

 

「なにそれ。詳しく教えて?」

「え?」

 

 脅してあげると色々と教えてくれた。デスガンと呼ばれる奴のことや銀髪のことも。リアルの住所を知っているらしいので、それを報酬としてもらうことにする。

 

 

 

「でも、よく信じてくれましたね。普通はありえないことだと考えるはずです」

「ありえないことはありえないって知ってるから」

 

 そう、私もそのありえないことで助かっている。そもそもシリカやリーファ、それにご主人様であるキリトはもっとありえない。

 

「それで詳しいことは……」

「聞いた話では……」

 

 彼女から聞いた内容を元に355通りぐらいいろんなことを考えてみると、見落としが見えてくる。

 

「ねえ、それって針の痕や薬の反応はあったの?」

「それはなかったんじゃ……」

「SAO事件のせいでアミュスフィアをつけていたからって見逃していない? 死亡解剖や病理解剖はしっかりとした?」

「あれ? もしかしてしていません? でも、鍵とか……」

「致死の毒物は基本的に厳しい管理がされている。免許はもちろん、保管場所の登録も必要で定期的に加えて不定期に調べられるの。そんな毒物を手に入る場所はどこだと思う?」

「……それは薬学研究所とか、工場とか、後はびょ……まさか!?」

「病院なら政府の命令で義務付けられて作ってあるマスターキーが保管してある。それに毒物も手に入る」

「確かにそう考えるとありえますね。ですが、住所をどこで手に入れるのですか?」

「住所ならこれを使えば簡単に……あっ、このままだったらやばい」

 

 嫌な感じがする。急いでGMコールを……って、戦闘中はできない。生き残れる?

 

「確かにこのマントなら後ろから見られても気付かないので可能性が高いようですね」

 

 彼女もだいたい理解したようで一番高い可能性にいきついたみたい。

 

「しかし、病院となると……」

「怪しいのは参加者を見る限りこいつ。医療用語で死だから」

「なんで知っているんですか?」

「マネージャーとしていついかなる時にも対応できるように医療関係も勉強しているから。もうちょっとで医師免許が取れる合格ラインにいくと思う」

「とりあえず、そこまでいくとマネージャーの仕事じゃないと思います」

 

 私の全てはキリトのためだから、別に問題ない。どうせネット関係じゃリタには勝てないし、それなら別分野で頑張る。いや、ドクターがいるからそっち方面でも勝てない。やっぱり、ある程度できるようにして、マネジメントをメインにした方がいいかも。

 って、それよりも管理者用のコンソールがどこかにあるはずだから探さないと。もしくはこちらを撮りに来ている監視装置を通して知らせないといけない。光学信号が手旗、ハンドサイン、どれにしよう。

 

 

 

 

 



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