新機動武闘伝 GガンダムSEED Destiny (カンナム)
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第1話 運命の哀戦士





 

第一話

 

 空が白み始めたころ、少年は海沿いの慰霊碑を訪れた。

 

 豊かな自然に囲まれたこの海岸地区は、カモメの鳴き声と、さざ波の音ばかりが間遠く聞こえている。

 

 

 

「また、潮水に浸かってしまってるな。新しい花をもう一度植えなきゃ」

 

 

 

 少年は栗色の髪を潮風にあそばせながら、静かにつぶやいた。

 

 コズミック・イラ七十三年。

 

 血のバレンタインから三年を経ても、戦場で鬼神のごとき活躍を見せた少年の心傷は癒えていない。

 

 

 

 遺伝子操作により人工的に創り出された理想の兵士。

 

 スーパーコーディネイター、キラ・ヤマト。

 

 

 

 彼は、元来の温和な感性ゆえに十代の多感な時期を戦争にやつし、摩耗した。

 

 いまは自身の出身国であり、姉であるカガリ・ユラ・アスハが代表を務める世界唯一の中立国、オーブに身を寄せ、半ば隠居生活を送っているのだ。

 

 

 

 朝、昼、夕、三度欠かさず慰霊碑を訪れて黙祷し、そこに添えられている献花の面倒を見る。それ以外では、教会に引き取られた子どもたちの相手を買って出る日々である。

 

 この日は週末ミサのため、いつもより早く切り上げて帰路につく予定だった。

 

 人通りのない侘しい海岸線。

 

 朝日を浴びて輝く遥か彼方の水平線を見つめようとして、彼は眉を寄せた。

 

 

 

「何だろ? ……人!?」

 

 

 

 浜辺に、なにやら黒いものが見えたのだ。人が寄り添っている。動きがぎこちない。一人の人を、もう一人がかばっているようだ。

 

 ぐっとキラの顔つきが強ばった。瞬後、考える前に駆け出していた。

 

 

 

――――――

 

 

 

 何故、自分は生きているのだろう?

 

 

 

 あの時、確かに温かな光によって自分は解き放たれたはずだと言うのに。

 

 

 

 ここは、天国ではないらしい。

 

 

 

 潮の匂いと、白い砂浜が、現実のものだと教えてくれている。

 

 

 

 身につけているのは、ボロボロのファイティングスーツ。

 

 

 

 これは、神の慈悲か。

 

 悪魔の気紛れか。

 

 

 

 傍らを見れば、自身のオリジナルであり、同じ顔をした青年が穏やかに眠りについている。

 

 

 

「神よ。私達にまだ、何かをなせ、と言うのか?」

 

 

 

 問いかけたところで、答えなどない。

 

 

 

 そんなことは、誰よりも彼が知っている。

 

 

 

 穏やかに眠る片割れの青年を見据え、彼――シュバルツ・ブルーダーは立ち上がった。

 

 

 

「大丈夫ですか!? 怪我でもされたんですか!?」

 

 

 

 人がやってくるのは気配でわかった。だが、走り寄ってきた少年は、深刻に顔が引きつっている。

 

 栗色の髪をした、十七、八歳の少年だ。慌てているキラに反し、シュバルツは場の空気を変える、低く落ちついた声でゆっくりと答えた。

 

 

 

「大丈夫だ。少し気を失っていただけだ。命に別状はないよ。心配してくれて、ありがとう」

 

 

 

 キラの顔から強張りが消え、あどけない大きな瞳を瞬かせた。だが、気を失っていたと聞いて何事もないとは判断できない。

 

 

 

「僕と一緒に来てください、すぐに病院に案内します!」

 

 

 

「気持ちはありがたいが、私達は本当に大丈夫なんだ」

 

 

 

 シュバルツは眉根を寄せて困った顔をした。やんわりと誘いを断る一方で、頭の中ではこう考えている。

 

 

 

 自分や片割れの青年ーーキョウジ・カッシュには、DG細胞と言う、悪魔の呪いがかけられている。

 

 へたな病院で治療を受ければ、逆に周りの人々に感染させてしまうだけだ、と。

 

 

 

 しかしそんな事情を知るはずもないキラは強引だった。

 

 

 

「何を言ってるんですか!? お連れの方もまだ意識が戻ってないのに! さあ、早く!」

 

 

 

「ま、待ってくれ、少年! 君の気持ちはありがたいが、私達は……」

 

 

 

 ガシッと無理にでも連れて行こうとする、キラに流石のシュバルツも面食らってしまう。

 

 

 

 ナヨナヨとして温和な外見に似合わず、彼は力強い。

 

 

 

 思わず、感染している自身の二の腕を見据えて、シュバルツは驚愕した。

 

 

 

「バカな、これは!!?」

 

 

 

「どうしました?」

 

 

 

 キョトンとする少年をそっちのけで、シュバルツは自身の二の腕を凝視した。

 

 

 

 本来ならあるはずの六角形をした金属の塊がない。

 

 

 

 悪魔の呪いによって構成されたはずの肉体が、生身のそれになっている。

 

 

 

 思わずキョウジの腕も確認するが、彼の身も生身のものになっている。

 

 

 

「これは一体、どういうことだ」

 

 

 

 しかし、自分の中にも、そしてキョウジにも、未だあの悪魔の気配は残っている。

 

 

 

「あ、あの?」

 

 

 

 思考に耽っていると、先のお節介なお人好しの少年から声をかけられた。

 

 

 

 シュバルツは彼に向き直り、何処からともなく、自身のファイティングスーツと同じ色をした覆面を取り出し顔に被った。

 

 

 

「ありがとう、君の申し出を受ける。私の名はシュバルツ・ブルーダーだ。気を失っている彼の名はキョウジ・カッシュ。よければ、君の名を教えてもらえないだろうか?」

 

 

 

 紳士的な対応に、彼の人徳の高さと教養を見せつけられたかのような気がして、キラはどこか気恥ずかしくなりながらも答えた

 

 

 

「キラ、キラ・ヤマトです。シュバルツさん」

 

 

 

「そうか。ありがとう、キラ。早速で悪いんだが、病院に行く道中で色々質問させてもらっても良いかな?」

 

 

 

「はい、勿論です」

 

 

 

 そう快くキラが答えた後、彼は海岸の巨大な影に気付いた。

 

 

 

 それは白色を基調とした青、赤、黄色のトリコロールカラーの人型兵器。

 

 

 

 キラのよく知るモビルスーツに酷似していた。

 

 

 

「あれは、ガンダム!?」

 

 

 

 まるで、こちらを伺うかのような機体は、海面に腰まで浸かり、こちらに顔を向けていた。

 

 

 

「シャイニングガンダム……! なぜ、あの機体が」

 

 

 

 シュバルツの呟きを聞きながら、キラはシャイニングガンダムと呼ばれた機体を見つめ直した。

 

 

 

 その機体は雄々しく、悠然と朝日に照らされ、まるでこちらを見守るようにそこにいた。

 

 

 

 しばらく見ていると、シャイニングガンダムは緑色の光を胸の球状のクリスタルから放ちだし、全身を覆う程の光に身を包むと、今度は光の粒子を放ちながらその場から消えた。

 

 

 

「何なんだ、あの機体は」

 

 

 

 確かにそこにあった機体が、姿を消した。

 

 

 

 細かな光の粒子になって。

 

 

 

 目の当たりにしたキラでも、にわかには信じられない。

 

 

 

 だが、確かにあのガンダムは消えたのだ。

 

 

 

 忽然と、自分の目の前から。

 

 

 

 シュバルツは、静かに消えたガンダムを見据え、自身が背負う青年へと目をやる。

 

 

 

「この世界にもガンダムは在る、と言うことか」

 

 

 

 一人つぶやいたシュバルツは、この世界のことについて、キラに質問を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 こうして、スーパーコーディネーターでありながら優し過ぎる少年と、不幸な運命にありながらも大切な家族の為に命を賭した二人の青年は出会ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

それは、まるで神話のような物語。

 

 

 

コズミック・イラとはまるで違う、宇宙に住む人々が地球を支配する世界。

 

 

 

その世界で、神と悪魔は汚れきった地球を守る為に戦った。

 

 

 

悪魔は、人々こそが地球を汚す元凶であるとし、全人類を抹殺せんと動いていた。

 

 

 

そんな中、昨日まで争っていた戦士たちは己を省みず、互いに助け合い、神の名を冠する機体を駆る青年を筆頭に、地球を守る為に悪魔と戦ったのだ。

 

 

 

悪魔は気づいた。

 

 

 

人間には、あのような者達もいるのだ。

 

 

 

ガンダムというモビルファイターに乗り、彼等は倒されても倒されても立ち上がり、挑んできた。

 

 

 

悪魔と呼ばれたガンダムは、生まれ出た自我を成長させ彼等を見た。

 

 

 

そして、3度にわたり、自身を倒した男を。

 

 

 

ガンダム・ザ・ガンダム。

 

 

 

キング・オブ・ハート

 

 

 

彼は言った。

 

 

 

 

 

人類もまた、天然自然の中から産まれたもの。

 

 

 

言わば、地球の一部だと。

 

 

 

だが、人間には己の利益しか考えない者も存在する。

 

 

 

欲望の為に親友を裏切り、罪なき人に濡れ衣を被せた。

 

 

 

人間は滅ぼすべきか?

 

 

 

それとも、あのガンダムファイター達のような人種だけを残すべきか?

 

 

 

生き残るべき人間、滅ぼすべき人間。

 

 

 

見極めなければならない。

 

 

 

地球再生の為に。

 

 

 

そして、この身をもし、預けることになるならば。

 

 

 

その者は、ドモン・カッシュ。

 

 

 

貴様を置いて他にない。

 

 

 

貴様が、「我」が主となるか。

 

 

 

生体ユニットと成り下がるか。

 

 

 

今一度、勝負と行こう。

 

 

 

今度は、「我」もファイターとして挑もうぞ

 

 

 

ガンダム・ザ・ガンダム

 

 

 

 

 

ゴッドガンダムよ!

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「君が私の前に現れてくれたことは、幸か不幸か。この世界には必要なことだったようだ」

 

 

 

 悪魔が物思いに耽っていると、「こちらの世界」で初めて会った長い黒髪の男が話しかけてきた。

 

 

 

「どのような歴史を繰り返そうとも、人間の愚かさは変わらんよ。君の世界でも同じだったんじゃないかな?デビル?」

 

 

 

 

 彼の名は、ギルバート・デュランダル。

 

 

 

 プラント最高評議会議長である。

 

 

 

 この世界――C.Eコズミック・イラの世界には、二つの人種が存在する。

 

 

 

 ナチュラルとコーディネーターだ。

 

 

 

 コーディネーター、それは遺伝子を操作した予め強靭な肉体と優秀な頭脳を持つ者。と、定義されている。

 

 

 

 その対比として、ナチュラル…遺伝子を操作されていない人間ということになる。

 

 

 

 両者の対立の歴史はまだ浅い。

 

 

 

 しかし、対立感情は根深く、両者は争いを続けていた。

 

 

 

 先の大戦……血のバレンタインに始まり、ヤキン・ドゥーエ戦役と呼ばれる闘いの後も、未だコーディネーターとナチュラルの確執は続いていたのだった。

 

 

 

 宇宙に進出し、プラントと呼ばれる砂時計型のコロニーを作り上げたコーディネーターは、プラントこそを本国と主張し、義勇軍としても政治としても使われる、ザフトという団体を設立。

 

 

 

 地球連合軍との争いはヤキン・ドゥーエ戦役にて一応の停戦を得たのだが、未だに小競り合いが続いていた。

 

 

 

 そのような今までの状況を振り返り、デュランダルは嗤う。

 

 

 

「君が君の世界で、人類こそが地球汚染の元凶だと結論付けたのも頷ける。先の大戦で、あれほどの犠牲を払っても、未だ我々コーディネーターとナチュラルの争いは終わりを見せないのだから」

 

 

 

 

 悪魔は何も語らず、反応もしない。

 

 

 

 しかし、そのことにデュランダルは何も気にしていないようだった。

 

 

 

「人類は運命を知り、争いを止め、新たなステージに立たなければならないのだ。だからこそ、私は遺伝子によって人類を管理するデスティニープランを計画した」

 

 

 

 

 デュランダルは、「彼」と初めて出会った場所、ただの鉄くずとなっていたL3にある中立コロニー『ヘリオポリス』を思い返す。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 そこに、光と共に「彼」は現れた。

 

 

 

 デュランダルはシャトルに乗り、評議会の会議へと向かう道中のことだった。

 

 

 

 はじめは、巨大なモビルアーマーの残骸かと思ったが、「彼」はヘリオポリスを全身から緑色のコードを溢れさせて取り込んでいった。

 

 

 

 そして、見る見る内にヘリオポリスは吸収され、「彼」はその身体を復元させた。

 

 

 

 赤い配色の強い胸から上。

 

 

 

 胸の部分のみ青く、中央には緑色の球体が嵌められていた。

 

 

 

 一般的なモビルスーツより、二回り大きいその胴はまるで蛇のように細長く、下半身と思われる黒い下腹部には、頭部によく似た巨大な顔があった。

 

 

 

 その機体にデュランダルは思わず見惚れた。

 

 

 

 まるで悪魔に魅入られたかのように、彼はこの不気味な機体を回収したのだ。

 

 

 

「デビル。君ならば私の考えを理解してくれるかね?」

 

 

 

 なぜかは分からない。

 

 

 

 だが、この機体を回収しようとシャトルがアンカーアームを取り付けた際、デュランダルには「彼」の過去や経歴が頭に入ってきた。

 

 

 

 シャトルの操縦士、案内人などは絶叫をあげながら恐れ戦く中で、デュランダルは足りなかったパズルがようやく完成する感覚を手にしていた。

 

 

 

 本国へ持ち帰り解析しようとするも、既存のモビルスーツ技術を遥かに凌駕するテクノロジーであり、連合やオーブが作り上げたにしては余りにも技術が進み過ぎていた。

 

 

 

 まさにブラックボックスだ。

 

 

 

 デュランダルは「彼」の研究データ、解析結果を確認すると、その存在を秘匿とした。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 その邂逅から、デュランダルは「彼」が何を望み、どのようなモノを欲するかを理解し、この地へと案内した。

 

 

 

 「彼」は今、破棄されたはずの研究データの全てをデュランダルやザフトの面々にすら分からない技術で復元させていき、取り込んで行く。

 

 

 

 この地はかつて、バイオハザードによって死のコロニーと化した禁断の聖域。

 

 

 

 コーディネーターやクローンなど、遺伝子操作技術のメッカとされた、L4宙域に存在するプラント。

 

 

 

 名を『メンデル』という。

 

 

 

 デビルと呼ばれる機体は、メンデルの研究施設に鎮座し、コクピット内を培養カプセルに変化させ、肉体を生成して行く。

 

 

 

 機体を構築する細胞を基に、遺伝子操作の技術を併用し、自身の生体ユニットを。

 

 

 

「信じられません。まさか、破棄されたデータを復元させて施設を取り込み、自分の身体を変化させて使用するなど……この機体は、まるで生物ですよ」

 

 

 

 

 同行していた技術者達も驚愕し、顔色を失っていた。

 

 

 

「驚くことはないよ、君たちも是非みるといい。スーパー・コーディネーター、キラ・ヤマトさえ凌ぐ新たな人類の誕生だ」

 

 デュランダルの言葉に、科学者や同行したザフト兵達は違和感を感じていた。

 

 

 

 何故、議長はこのブラックボックスとも言える機体を理解しているのだろう……と。

 

 

 

 

 

 シューッと言う音が辺りに響き渡り、機体のハッチが開く。

 

 

 

 そこには、焔のように燃える髪と褐色の肌をした、鋭い目つきの青年が全裸で立っていた。

 

 

 

 周りが銃を構える。それを気にもせず、彼は自らの身体を確認するかのように掌を開いて閉じた。

 

 

 

「おはよう、デビル。気分はどうかな?」

 

 

 

 デュランダルは、まるで旧知の間柄であるかのように彼に向けて話しかけた。

 

 

 

「悪くはない。ご苦労だった、デュランダル」

 

 

 

「親友である君の頼みだ、礼など不要だよ。それにしても、その外見。それが君の望むパイロットか」

 

 

 

 まるで、部下を労うかのような言葉を向けた生まれたての青年に、デュランダルは間髪入れずに返す。

 

 

 

 デビルはその言葉に、邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

 

 その場にいる者には理解できるはずもない、青年の基になった顔。

 

 

 

 それはかつて、三度に渡り悪魔である自身を倒したファイター、ドモン・カッシュの顔であった。

 

 

 

 

 

「デビル…実はこれから、私達はあることを発表しようと考えている。新型の機体と艦の紹介だ。披露するのは一週間後の予定なんだが、発表の折には君にも立ち会ってほしい」

 

 

 

 

 ザフトの緑服を着ながら、デビルは嗤う。

 

 

 

「ほう? 玩具のひけらかしか? 連合やオーブは、また騒ぎ立てるだろうな」

 

 

 

「おそらくはね。しかし、今までとは違って、秘匿にするべきことなどないと、我々は考えているのだよ」

 

 

 

 穏やかに聖人のような笑みを浮かべるデュランダルと

 

 獰猛にして邪悪な笑みを浮かべるデビル。

 

 

 

 質としては正反対のような両者であるが、何故かウマが合うようであった。

 

 

 

 この日より、ギルバート・デュランダルの傍らには赤い髪の軍人が立つようになった。




 みなさんお待ちかね〜!

 キラとラクスと共に平穏な毎日を過ごすキョウジとシュバルツ。

 しかし、悪魔の息吹は、新たな争いを求めているのです。

 次回、機動武闘伝GガンダムSEED DESTINY『胎動』にレディぃぃゴー!


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第2話 胎動

「もし宜しければ、皆様にデビルガンダム事件についてご説明させていただきましょう」

何処とも知れぬ空間で、その男はスツールに腰掛け、長い脚を組んでいた。
男の頭上からスポットライトが細く降り注いでいる。地面ではなく平らな床だが室内かどうかも定かではない。
年齢不詳の男だった。黒く刈り込んだ丸い頭、丁寧に蓄えた口髭、くるりとした碧眼に愛敬があるが、右目は眼帯で覆われている。体格の良さから、派手な赤いスーツでも不思議とこの男にはよく似合っていた。
彼はどこか物憂げに目を伏せながら、低く、よく通る声で語った。

「デビルガンダム事件とは、コズミック・イラーとはまた別の世界の話。
ここではない、何処かの世界。
その世界は、コロニーと呼ばれる人工衛星を飛ばし、住みにくくなった地球から、人々は宇宙へとその住処を移していくのです。
宇宙に浮かぶ森、山、湖、人々は戦争によって荒廃しきった地球より、住みやすい宇宙を選びます。
そのような中で、これ以上地球を荒廃させないために、コロニー国家連合は、ガンダムと呼ばれる機体を国家の代表として選び、戦って、戦って、戦い抜いて、頂点を決め、優勝したガンダムの国家に4年間の世界の主導権を握らせるという、代理戦争。
ガンダムファイトを作り上げたのです。なんとも、スポーツマンシップにあふれた戦争を生み出したことか。
そんな中で、地球の環境汚染を再生させようと、とある機体が生み出されます。
自己再生、自己進化、自己増殖を繰り返し、汚染物質を除去することを目的として作られたガンダム。
そう、アルティメットガンダムです。
しかし、あまりに強力な力を持つこの機体は、軍に悪用されようとしたため、科学者であり、生みの親であるカッシュ博士が、自身の息子キョウジに地球へ降下するよう、命令したのです。
しかし、地球への落下時のショックで、プログラムが暴走し、デビルガンダムへと変貌を遂げたガンダムは、地球再生の為に、人類抹殺を目論んだのでした」

男は、静かに息を吐き、口調を激しいものへとかえる、

「しかし、その悪魔は、この異なる世界にて生き延びていたのです!!
はたして、悪魔の犠牲となったキョウジやシュバルツが生きていたことと、どんな関係があるのか!?
また、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルとは、一体何者なのか!?
ますます、目が離せなくなって参りました!!」


突如、男が立ち上がった。赤いジャケットを脱ぎ捨て、右手にはどこからともなくマイクが、左手には右目を覆っていた眼帯が握りしめられ、その両腕が広げかかげられる。
男は満面の笑みで『あなた』に言った。

「それでは! ガンダムファイト! レディぃいいっ……ゴー!」



キラが拾ってきた、と言う表現が適切ではないかもしれないが。

 

 

 

二人の青年の内、覆面の方ーーシュバルツ・ブルーダーは変わっていた。

 

 

 

基本的にマスクを被っている。

 

 

 

食事の時、外出の際、彼は必ず奇妙なツノを付けた覆面を被っている、

 

 

 

だが、それ以外のマナーは、完璧で。

 

 

 

正に非の打ち所がない、と言った風情だ。

 

 

 

キラと共に暮らしている少女。

 

 

 

プラント穏健派のシーゲル・クラインの一人娘であり、自身も強力な伝手を持つ、ラクス・クライン。

 

 

 

彼女の目から見ても、覆面の青年の食事マナーや礼儀作法は完璧だった。

 

 

 

覆面の趣味と、それをどんな時にも身につけている、と言う一点だけを除けば、であるが。

 

 

 

マスクを口元までめくり上げて食事をするシュバルツに、周りの者は乾いた笑みを浮かべていた。

 

 

 

「シュバルツさん、食事の時くらいマスクを外してください。この子達にも悪影響ですわ」

 

 

 

やんわりと、しかし有無を言わさない口調でラクスが注意すると、蛇に睨まれたカエルのように固まった。

 

 

 

「い、いや……その、すまない」

 

 

 

190近い身長のシュバルツが小さくなってしまう。

 

 

 

しかし、マスクは取らないらしい。食事を中断して、どこかへと去ろうとするのでキラが慌てる

 

 

 

「な、何も出て行かなくても!!」

 

 

 

「ぷ、はははははは!!」

 

 

 

そんな様を、もう一人の青年が声を出して笑う。

 

 

 

「シュバルツが悪いな。ラクスが怒るのも無理はない、ちゃんとマスクを取って一緒に食べよう」

 

 

 

「お前な…私は考え無しでマスクをしているわけではないぞ」

 

 

 

「それが余計なんだよ。いいか、シュバルツ。私も彼等も、一々気にしてないだろ? 食事の時くらい、隠すことなく、きちんと話そう。礼儀だよ」

 

 

 

「全く…キョウジ。お前は本当に私か? 迂闊な真似はできんだろ。ドモンや父さん、レイン達のこともある」

 

 

 

「ラクス、シュバルツが怒られ足りないみたいだ」

 

 

 

半分笑いながら、青年ーーキョウジは、ラクスに話しかける。すると、ラクスもとても楽しそうに答えるのだ

 

 

 

「わたくし達が、余程信用に足らないという事でしょうか…悲しいですわね、キラ」

 

 

 

「ラクス! シュバルツさんは、そんな人じゃ!!」

 

 

 

「いや、良いんだ、キラ。こやつらは、私達の反応を楽しんでおるだけだ」

 

 

 

よよよ、と嘘泣きをするラクス。焦るキラ。

 

 

 

覆面をしているのに、疲れたような表情が見て取れるシュバルツ。

 

 

 

彼等を見て楽しそうに笑う子ども達とキョウジ。

 

 

 

二人の青年はいつの間にか、キラ達にとっても掛け替えの無い大切な存在になっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

あの浜辺での一件以降、キョウジ・カッシュは、意識を取り戻した際、軽い記憶喪失に陥っていた。

 

 

 

簡単に言えば、デビルガンダム事件の一切を覚えていないのだ。

 

 

 

シュバルツは哀れに思いながらも、自身とキョウジに起こった不幸を話した。覆面を外してその素顔さえ晒した。

 

 

 

キョウジも神妙な表情で話を聞き、自分達の弟ドモンがデビルガンダムを倒し、救ってくれたことを聞くと、微笑んでいた。

 

 

 

「なるほど、確かにあなた…いや、お前は私なんだな。ドモンや父さんのこと、ありがとう。シュバルツ」

 

 

 

そう受け入れて頷いた。

 

 

 

ここが何処で、今がいつかは分からないが、少なくともキラやラクスの話から、世界の有り様から、ガンダムファイトも、汚された大地もないこの世界は、自分達の世界ではないと理解した。

 

 

 

 

 

 

そんな中でのシュバルツの告白にも、キョウジは笑って受け入れる度量を見せたのだ。

 

 

 

ガンダムファイターではないが、キョウジもまた、ドモンと同じ血を引くということなのであろう。

 

 

 

(できることならば、キョウジだけでも元の世界へ帰してやらねば)

 

 

 

密かにそう決意したシュバルツは、キョウジへの配慮も含めて、自身の顔を隠すようにしていたのだ。

 

 

 

しかし!!!

 

 

 

「なんだと!? 私達のことをキラ達に話した!!?」

 

 

 

「ああ。この世界は、私達の世界ではない。ならば、私達が正体を隠す必要はないだろう? ベラベラ話すことではないが、キラ君達は命の恩人だからね」

 

 

 

「馬鹿者!! 迂闊な真似を!!! キラ達まで巻き込んでしまうつもりか!!!!」

 

 

 

「痛くもない腹だよ、シュバルツ。隠す必要はない。分かるだろう、私よ」

 

 

 

「だからこそ、だ! 迂闊な真似をして、誰かを巻き込み、不幸にさせてはならん!! 分かるだろう、私よ!!」

 

 

 

シュバルツが思い浮かべるのは、自分を…キョウジを庇って亡くなった母ミキノのこと。

 

 

 

 

 

 

対するキョウジも、そのことは話で聞いており、理解していないわけではない。

 

 

 

だが、キョウジはまるで、シュバルツに気を休めろと言わんばかりに穏やかに笑う。

 

 

 

そしてーー

 

 

 

「と言っても話してしまったしね。キラ、ラクス?」

 

 

 

と、充てがわれた部屋の入り口に向かってキョウジは話しかけた。

 

 

 

シュバルツが振り返ると、そこには神妙な面持ちのキラと、優しく微笑んでいるラクスがいた。

 

 

 

「シュバルツさん、あなたやキョウジさんの話を聞きました。力にならせてください」

 

 

 

「わたくし達もまた、傷を癒す身。あなた方と出会えた奇跡を信じるならば、共には歩めませんか?」

 

 

 

2人の瞳にあるのは、深い悲しみ。

 

 

 

特にキラのそれはとても根深い。

 

 

 

 

 

それを見て、シュバルツはキョウジを見据えた。

 

 

 

「キョウジよ、お前は」

 

 

 

「そうだ、確かに巻き込む辛さもある。だが、そこにだけ目を向けていてはもっと大切なことを見逃してしまう。シュバルツ、私達にとっても、必要なことじゃないか?」

 

 

 

彼は言外に言っているのだ。

 

 

 

この子達の力になりたいと。

 

 

 

救われた恩義もあるが、この優しい2人の苦しみを和らげたい、と。

 

 

 

「そうだな、義を見てせざるは勇なきなり。傷付いた人を見捨て、己のことしか考えぬ拳などガンダムファイターに非ず。すまない、キョウジ。よくぞ思い出させてくれた」

 

 

 

「元の世界へ帰るにしても、まずは義理を返さなければな。大人なんだから、私達は」

 

 

 

おどけて話すキョウジにシュバルツも、キラもラクスも笑った。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

平和で穏やかな時が過ぎていく。

 

 

 

しかし、平和と言うのはそう長くは続かないものだ。

 

 

 

それを象徴するかのように、テレビにて臨時報道が行われていた。

 

 

 

席に着き、大人しくマスクを外そうとしたシュバルツの手が、止まった。

 

 

 

その変化に気づいたキョウジが、何事かとテレビを見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

『みなさん、私はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです。この場を借り、一週間後に迫った我がザフトの新造艦『ミネルバ』の式典について先立ってご挨拶させていただきます。私達プラントは、連合にもオーブにも隠し事はいたしません。一週間後、工場用プラント、アーモリーワンにてユニウス条約を基に作られた我がザフトの新造艦『ミネルバ』の進宙式を行います。併せて、我がザフトの最新鋭機『セカンドシリーズ』の機体を紹介します。当日はプラント内外からの来訪も取材も歓迎いたします。詳細は式典の際に発表いたします。それでは、失礼いたします』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テレビの内容に、途中で映された新造艦のシルエット、兵器の開発を大々的に報道してきた。

 

 

 

キラの表情が固い。

 

 

 

ラクスも、それを知ってか、そっと寄り添う。

 

 

 

しばらくして、シュバルツがテレビをみたままの姿勢で固まっていることに気づいたキラが話しかける

 

 

 

「シュバルツさん?」

 

 

 

ラクスも首を傾げながらキョウジを見ると、彼の顔色は真っ青だった。

 

 

 

「!! キョウジさん、どうされました!?」

 

 

 

先ほどまで笑い合っていたキョウジの表情から、血の気が失せている。

 

 

 

「バカな……この禍々しい気は…それに、あの姿…まさか、奴が」

 

 

 

「え? シュバルツさん、どうしたんですか?」

 

 

 

「シュバルツさん!キョウジさんが!!」

 

 

 

ラクスの言葉に、シュバルツとキラも我に返りキョウジに駆け寄った。

 

 

 

「キョウジ、どうした!?」

 

 

 

「キョウジさん!!」

 

 

 

キョウジは震える手を差し出しながら三人を制し、告げる。

 

 

 

「大丈夫だ……シュバルツ、アレが…そうなんだな?」

 

 

 

「!! そうだ、キョウジ。人の姿をしているが…ドモンと同じ姿をしているが…アレが、悪魔だ!!」

 

 

 

「理屈でなく、理解したよ。体が覚えている…冷たく凍るような感覚だ」

 

 

 

シュバルツとキョウジの会話に、キラが気づいた。

 

 

 

今の映像には、ギルバート・デュランダルの他にもう一人映されていた。

 

彼の傍らに控えるかのように存在した、赤い髪のザフト兵。

 

 

 

「まさか、「彼」が?」

 

 

 

「もし、シュバルツさんのお話に出てきた悪魔ならば、プラントはとても恐ろしい力に取り憑かれてしまいましたわね」

 

 

 

いつも穏やかなラクスをして、険しい表情になっていた。キラは、途方も無い何かが起こる予感を感じるのだった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

翌朝、キラとラクスは、オーブのカガリ・ユラ・アスハ代表の訪問を受けていた。

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、カガリ。もしかして、昨日の報道のこと?」

 

 

 

キラが、カガリに話しかけた。

 

 

 

「久しぶりだな。キラ、ラクス。昨日のデュランダル議長の報道で、お前たちの顔を見たくなったんだ。極秘にだが、会談を設けてもらう。アスランにも護衛で来てもらうんだ。議長の真意を知りたい」

 

 

 

「デュランダル議長は穏健派であると、うわさは聞いておりますが、気をつけてくださいね、カガリさん」

 

 

 

「ありがとう、ラクス。お前たちの顔を見たら、少し勇気がもらえた」

 

 

 

「ごめん、カガリ。君やアスランにだけ押し付けて」

 

 

 

「言うな、キラ。私はお姉ちゃんだからな!」

 

 

 

「まあ、カガリさんらしいですわ。ふふ」

 

 

 

不安、焦燥、それらを吹き飛ばそうとする精一杯の空元気。

 

 

 

ラクスは意を汲んで笑い、キラは胸を痛める。

 

 

 

「話は聞かせてもらった」

 

 

 

一同が振り返るとキラ達の影が伸び、スーっと人の形をしたと思いきや、独特な覆面をした男が現れた。

 

 

 

「シュバルツさん!!」

 

 

 

「そう! シュバルツ・ブルーダーだ」

 

 

 

「まあ、流石は忍者さんですわね〜ハロ?」

 

 

 

驚くキラと手を叩いて喜ぶラクス。そしてあからさまに混乱するカガリ

 

 

 

「な、なんだこいつ? 一体どんなトリックを…というか盗み聞きか!?」

 

 

 

「そんなことはどうでもいい!! カガリと言ったか? あのデュランダルと言う男に会うのならば、私も連れて行ってくれ」

 

 

 

「何を言ってるんだ!得体の知れないお前を連れて会議の場に行けるわけ無いだろ!? 私はこれでも国家元首なんだぞ!! 信用を落とす真似はできない!!」

 

 

 

「足手まといにはならん。何事もなければ、先のように私は姿を現さん。頼む!! この世界に関わることなのだ!!!」

 

 

 

お互いににらみ合う。長身のシュバルツと女性のカガリでは身長差もある。カガリは必然的にシュバルツを見上げる形になる。

 

 

 

その瞳に悪意はなく、深い悲しみと温かみを感じる。

 

 

 

「奇妙な覆面をしてるのに、何故だろうな…悪人には見えない。不思議なやつだ」

 

 

 

「カガリ、僕からもお願いしていいかな?きっとシュバルツさんはカガリやアスランを助けてくれる。そんな人だから」

 

 

 

カガリはキラの言葉を聞きながらラクスを見る。彼女は静かに頷いてきた。

 

 

 

やがてカガリはため息を大きく吐くと、ヤケクソ気味に言い放ったのだ。

 

 

 

「分かった! お前を連れて行くよ、それでいいな!!」

 

 

 

「感謝するぞ、カガリ・ユラ・アスハよ!!!」

 

 

 

こうして、プラントへの会議にシュバルツも参加することになった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

後のアスラン。

 

 

 

「私はネオドイツのガンダムファイター。そう! シュバルツ・ブルーダーだ!! よろしく頼む」

 

 

 

「カガリ…この人は一体?」

 

 

 

完全にテンション負けしていた。

 

 




みなさんお待ちかね〜!!

悪魔の気配を放つドモンそっくりの男を探りに、シュバルツはカガリと宇宙に上がります。

そこで、シュバルツは新たな争いの火種に巻き込まれるのです!!

次回!!機動武闘伝GガンダムSEED DESTINY!!『始動』にレディぃゴー!!


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第3話 始動

「…戦争。人類の歴史は争いを繰り返し、築かれてきました。いつの時代も。どの世界においても、それは不変のもの」

何処とも知れぬ空間で、その男はスツールに腰掛け、長い脚を組んでいた。
男の頭上からスポットライトが細く降り注いでいる。地面ではなく平らな床だが室内かどうかも定かではない。
年齢不詳の男だった。黒く刈り込んだ丸い頭、丁寧に蓄えた口髭、くるりとした碧眼に愛敬があるが、右目は眼帯で覆われている。体格の良さから、派手な赤いスーツでも不思議とこの男にはよく似合っていた。
彼はどこか物憂げに目を伏せながら、低く、よく通る声で語った。

「私達の知る世界においても、この世界においても、また。皆様方の世界においても、人類は争いの歴史を止めることはありません。
それを憂いた者、人類に絶望した者、希望を見出した者。人は同じ世界に生きながら、それぞれが違う結論に至ります。
争いを止めるには、どうすればよいのか?
滅ぼせばよいのか、管理すれば良いのか、はたまた、自分達で、気づくのか。
この世界の人々の中にも、常にまとわりつく問題です。
そんな中! 我等がシュバルツ・ブルーダーは、ギルバート・デュランダルの背後にいる悪魔に気づき、オーブのカガリ・ユラ・アスハ、そして先の大戦の英雄であり、今はアレックス・ディノと名を変えたアスラン・ザラに同行します。
悪魔の目的と正体を突き止めるために。しかし、運命のゴングは、既に鳴り響いていたのです!!」

突如、男が立ち上がった。赤いジャケットを脱ぎ捨て、右手にはどこからともなくマイクが、左手には右目を覆っていた眼帯が握りしめられ、その両腕が広げかかげられる。
男は満面の笑みで『あなた』に言った。

「それでは! ガンダムファイト! レディぃいいっ……ゴー!」


「そうか…シュバルツは宇宙に」

 

 

 

カガリとの邂逅を終え、帰宅したキラとラクスは、シュバルツがカガリと共にザフトの工業用プラント『アーモリーワン』に向かったことを説明した。

 

 

 

キョウジは穏やかな表情でそれを聞き、ひとつ頷いた。

 

 

 

「ザフトのデュランダル議長は穏健派ですから、カガリさんに危険は無いと思いますわ。シュバルツさんも目的の方にお会いできれば良いのですが」

 

 

 

ラクスの言葉にキラも頷く。

 

 

 

「きっと大丈夫ですよ。キョウジさん」

 

 

 

「シュバルツの心配はしてないよ。だけど、気になるんだ。もし、議長の隣にいた彼がシュバルツの言う悪魔なら、議長は何故悪魔と共にいるのか…あれの脅威は見ればすぐに分かるだろう。だけど議長は、アレに生身の人間の身体を与えた」

 

 

 

 

「その…デビルガンダムは、人間を作り出せるんですか?」

 

 

 

「シュバルツの話では、素体が無ければできないと聞いていた。しかし、ドモンが素体にされたにしては何かがおかしい。見覚えこそあるが、あの時の軍人からは懐かしさを感じなかった」

 

 

 

感覚でしかないが、キョウジの中で、あれは弟ではない、と告げてきたのだ。

 

 

 

「どちらにせよ、わたくし達にできるのは、皆さんの無事を祈るだけですわ」

 

 

 

静かにラクスは語ると、そのまま美しい歌声を披露し始める。まるで、無事を祈るように。

 

 

 

キョウジもキラも、その歌声に癒されながら空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

一週間後、カガリとアレックスに同行したシュバルツは、約束どおり2人の影に己の身を潜めていた。

 

 

 

最初は気になって仕方なかったアレックスやカガリだが、慣れてしまったのか一々リアクションしなくなっていた。

 

 

 

「便利だな、忍者って」

 

「いやまあ、確かにそうだが…君は忍法を覚えなくていいだろ」

 

 

 

素直に感心するカガリに、どこか疲れた様子のアレックスことアスランだった。

 

 

 

工業用プラント『アーモリーワン』

 

 

 

ザフトの新造艦『ミネルバ』の進宙式が行われようとしている中、オーブ代表カガリ・ユラ・アスハは、非公式にて訪問し、会談の場を設けた。

 

 

 

「ようこそ。このような場で会談など申し訳ありません、姫」

 

シャトルの受け入れ口から既にデュランダル議長は待っていたようだ。

 

これにカガリも凛とした気配で応じる。

 

 

 

「構わない。急な要請に応じていただき、こちらこそ感謝する」

 

 

 

「まずは、このセカンドステージの機体について御説明しましょう」

 

 

 

デュランダルはそう言うと、カガリ達をザフトのモビルスーツ工場区画に案内した。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「これは…!!」

 

 

 

カガリにとって予想していたとは言え、想像を遥かに超えた軍備状況であった。

 

 

 

「驚かれましたかな? これはユニウス条約に基づいて作られた我がザフトの最新鋭機『ザク』です。今から紹介する『セカンドステージ』の機体の先駆けです」

 

 

 

隣に控えるアレックスにも、この軍備は頑強なものに見えた。たった二年で、ザフトはその技術を飛躍的に向上させている。

 

その理由は、先の大戦で家を失いプラントに逃げ込んだオーブのコーディネーター達が、ザフトに技術を提供しているからだ。

 

 

 

「装備面などの詳しい説明はーー君! 頼めるかな?」

 

 

 

こちらを作業しながら、チラ見していた若い整備士にデュランダルは話しかけた。

 

 

 

「は、はい!?」

 

 

 

彼はたどたどしいながらも、きちんと要点を押さえながらモビルスーツの性能について説明していく。

 

 

 

 

 

 

 

カガリもアレックスも神妙な面持ちで話を聞いている。その影に身を潜めていたシュバルツは静かに辺りに気を配る。

 

 

 

(やはり、この近辺にDG細胞の気配はない。デュランダル議長と常に共にいるわけではないのか?)

 

 

 

シュバルツが例の男を探していると、突如カガリが声を張り上げた。

 

 

 

「強すぎる力は争いを呼ぶ!!」

 

 

 

「いいえ、争いが無くならぬから力がいるのです。姫」

 

 

 

2人の意見は、どこまで行っても平行線だった。

 

 

 

ーーーードゴォッーーーー

 

 

 

< ……ッ!! >

 

 

 

爆発が起こった。同時にアレックスはカガリを、一般兵はデュランダルを庇う。

 

 

 

(火薬の匂い…テロか?)

 

 

 

混乱のさなか、シュバルツは静かに姿を現す。爆発は彼らの近辺で行われた。

 

 

 

アレックスやカガリの側にいたモビルスーツが、ビーム砲によって爆発する。

 

 

 

デュランダル達は炎のせいで見えない。

 

 

 

アレックスはカガリの手を引っ張る。

 

 

 

「アスラン!?」

 

 

 

「こんな所で君を死なせる訳にいくか!! シュバルツさん、こちらへ!!」

 

 

 

一番手短なザクへと、アレックスーーアスランは乗り込む。

 

 

 

「アレックス、敵は3機。内、一機は我々のすぐ傍だ!」

 

 

 

「!! 助かる!! モノアイセンサーだと、周りを把握するのに少しかかるからな」

 

 

 

シュバルツの指示にアスランは、まだ起動中のセンサーを無視して、横っ飛びにバーニアを噴射させ、格納庫から脱出する。

 

 

 

その前に、全身黒づくめの角を持ったデュアルアイの機体が立っていた。

 

 

 

「ーーガンダムか!!」

 

 

 

シュバルツがアレックスの右隣で叫ぶ。左手のカガリも眉間に皺を寄せた。

 

 

 

「新型機? これが『セカンドステージ』か!」

 

 

 

「量産型のこいつで、どこまでやれるか!!」

 

 

 

カガリの言葉を受けながら、アレックスは肩についている盾から手持ちの斧を取りだす。

 

 

 

一方、新型機のモビルスーツ『ガイア』を奪ったパイロットは、モニター越しにアレックスを睨みつけた。

 

 

 

「なんだ、お前!!」

 

 

 

「ーークッ!!」

 

 

 

ビームサーベルを抜いて切りかかってくるガイアに、左肩の盾をあえてぶつけ、ビームトマホークをガイアの左肩口に当てる。

 

 

 

ガキィッ

 

 

 

ガイアは咄嗟の判断でシールドで防御し、間合いを取る為に後方へと距離を取った。

 

 

 

(さすがはガンダム。それを操る者もなんと言う反射神経なのだ)

 

 

 

自身の愛機シュピーゲルを思い起こしながら、シュバルツはそれでもガンダムを退かせた少年に感嘆した。

 

 

 

(この少年、勇気も強さも大したものだ。この状況で周りをよく把握している)

 

 

 

「シュバルツさん、敵はこいつだけですか!?」

 

 

 

「いや、10時と2時の方角から一機ずつ凄まじいスピードでこちらに向かってくる。殺気を感じることからも敵であろうな」

 

 

 

「ーークッ!! 機体の特性を掴めてない今なら何とかなるかと思ったが!!」

 

 

 

「やむを得まい、アレックス! 四時の方角に下がるのだ!こちらへ向かって援軍らしき気配がある!」

 

 

 

「ーー今はあなたを信じます!!」

 

 

 

そう答え、バーニアを逆噴射させながら後退するザク。

 

しかし、ガイアは執拗にこちらを追いかけてくる。

 

 

 

可変機としての性能を見せ四つ足の犬の様なフォルムになると、人型の時とは比べられないほどのスピードで追いかけてきた。

 

 

 

「ーーくそ、スピードに差がありすぎるか!?」

 

 

 

アレックスの言葉に、ならばと頷きシュバルツは言った。

 

 

 

「素晴らしきファイターよ。その諦めぬ意志の強さ、しかと見せてもらった。無事に合流するのだぞ、アレックス。カガリ!」

 

 

 

「シュバルツ、何を!?」

 

 

 

瞬間、シュバルツはザクのコクピットから消えた。

 

 

 

次に、アレックスとカガリは度肝を抜かれた。

 

 

 

生身で、ザクとガイアの間にシュバルツが立っていたのだ。

 

 

 

「ばかな!! もどれ、死にたいのか!!?」

 

 

 

「シュバルツ!! 無茶だ、やめろ!!?」

 

 

 

悲鳴をあげる二人。それを無視して、ガイアは前足を振り上げ、シュバルツの頭部めがけてふり下ろす。

 

 

 

アレックスは目を見開きながら、カガリは思わずそらしてシュバルツの死に様を見た。

 

 

 

「ーークッ!!」

 

 

 

何ごともなかったかのように此方を向こうとするガイア。アレックスはそれを睨み据える。

 

しかし!

 

 

 

ガクゥッ

 

 

 

シュバルツに向けて振り下ろした左の前足から、いきなりガイアは崩れ落ちた。

 

 

 

「ーーなに?」

 

 

 

見れば左前足は、その関節部に小さな小さな鉄の塊が刺さっていた。

 

 

 

「ーーあれは、まさか」

 

「ーークナイ、か?」

 

 

 

 

 

アレックス達が呟くのと、ガイアが首を廻らせるのは同時。

 

「ふはははは!! どこを見ている!? 私はここだ!!!」

 

「ーー!!」

 

 

 

皆が一斉に声のした方、ガイアの左肩を見る。するとそこには、腕を組んで微動だにしない人影があった。

 

 

 

「アスラン、あいつー!!」

 

 

 

「信じられない…何者なんだ、彼は」

 

 

 

夢を見ているかのような表情で、アスランとカガリは逃げることも忘れ、モビルスーツを生身で転倒させた覆面の男を見据えた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「ふざけるな!何なんだ、お前!!」

 

 

 

犬歯をむき出しにして、感情のままにガイアを人型に変形させ、右手で左肩の人影をつかもうとする。

 

 

 

「これは笑止!! そのような事では私を捉えることなど、無理の一言!!!」

 

 

 

瞬間、シュバルツはガイアの顔面を蹴り飛ばした。

 

 

 

宙に浮く機体。ガイアのパイロット、アスラン、カガリともに理解が追いつかない。

 

 

 

今、目の前で起こった光景があまりにも現実離れしたものであった為、呆然としてしまっていた。

 

 

 

「なにをしている、アレックス!! 今のうちにカガリを連れて逃げるんだ!!」

 

 

 

「ーーえ? あ、ああ」

 

 

 

シュバルツの檄に、アレックスことアスランはようやく事態を把握する。

 

 

 

対するガイアのパイロットは、呆然としながらも機体の体勢を整える。

 

 

 

「ーーこいつ、師匠と同じ?」

 

 

 

目の前にて、生身で構えを取る覆面の男を見据え、パイロットーーステラ・ルーシェは目付きを変えた。

 

 

 

「お前、ガンダムファイターか?」

 

 

 

ステラの問いかけに、シュバルツの表情も変わる。

 

 

 

「ーー子どもの声? このような年端もいかぬ少女が狩り出されるとは、不憫な」

 

 

 

そう呟くシュバルツ。

 

 

 

「アスラン、今あのパイロット!?」

 

 

 

「ガンダムファイター、って言ったな。シュバルツさんが自分のことをそう名乗っていた。気になるが、今はーー」

 

 

 

カガリと会話しながらザクを後退させるアスラン。そこへ、青と緑の機体が駆けつけてきた。

 

 

 

「ーークッ、新手か!?」

 

 

 

二機はガイアの両脇に立つと、こちらにライフルを構える。

 

 

 

「何やってんだよ〜ステラ〜」

 

 

 

「手こずってるのか、ステラ?」

 

 

 

青と緑の機体から、それぞれ言葉が発せられる。

 

 

 

「アウル、スティング、気をつけて。その生身の奴、ガンダムファイター!!」

 

 

 

「何だって!? 師匠と同じ!?」

 

 

 

「とんだ化け物がザフトにいたもんだな。ガンダムを呼ばれる前に叩かないと、この先ヤバそうだ」

 

 

 

三機のガンダムは、シュバルツに向けて構えを取る。

 

 

 

「さすがに、三機のガンダムを相手に生身ではキツイか。しかしーー」

 

 

 

ちらっと、後退するザクを見ながらシュバルツは構える。

 

 

 

「私の名は、ネオドイツのガンダムファイター、そう! シュバルツ・ブルーダーだ!!」

 

 

 

名乗りを上げるシュバルツに対し、アウルと呼ばれた青い機体ーーアビスガンダムに乗った少年が言う。

 

 

 

「ガンダムを使わないで僕らに勝てるって? 思いあがんなよ!!」

 

 

 

巨大な長柄のハルバードを取り出し、シュバルツに向かって振り下ろす。

 

 

 

紙一重で避けるシュバルツを追ってバーニアを噴射させ、アビスはシュバルツの眼前に現れる

 

 

 

「何!? こやつ、私の動きに!!」

 

 

 

「ガンダムファイターだからって、あの人に鍛えられた僕たちが!!」

 

 

 

ハルバードを下から振り上げる。咄嗟にシュバルツはハルバードの柄の部分に捕まり、そのまま宙空に飛び上がる。

 

 

 

そこへアビスは、両肩の多重ビーム砲を、緑の機体ーーカオスはバックパックの長筒の砲身のついたポッドを展開させ、ガイアはビームライフルを構える。

 

 

 

「ーーしまーっ!?」

 

 

 

「負けるかー!!!」

 

 

 

アビスガンダムの砲撃をキッカケに、三機のガンダムの連携したビーム砲が宙にいるシュバルツに向けて放たれた。

 

 

 

流石のシュバルツも、宙では躱すことも、ビームでは受けることもできない。

 

その時だった。青い光の粒子がシュバルツの前に現れ、一機の機体へと変化したのは。

 

 

 

その黒を基調とした機体はシュバルツの盾となり、多数のビームの直撃を受けながら無傷だった。

 

 

 

「来てくれたか、わが愛機。ガンダムシュピーゲルよ!!」

 

 

 

そこにいたのは、かつてデビルガンダムによって粉砕されたはずのシュバルツの愛機、ガンダムシュピーゲルであった。

 

 

 

 

何故、この機体がここにあるのか?

 

 

 

どのようにして現れたのか?

 

 

 

そんなことはどうでもいい。とばかりに、シュピーゲルは腰に手を当て、胸を張って主人の壁となる。

 

「ならば!! ガンダァぁぁム!!!」

 

 

 

一つ、シュバルツは頷き、頭上に右手を掲げて、指をスナップさせ、鳴らす。

 

 

 

瞬間、シュバルツはその姿を消し、シュピーゲルのコクピットの中にいた。

 

 

 

「ガンダムを呼ばれた!!」

 

 

 

「チッ、引くぞ!! ガンダムファイターとやるには、俺たちはまだ機体に馴染んでない!!」

 

 

 

「でもスティング! こいつをこのままにしたらネオが!!」

 

 

 

「いいかステラ!! こいつは想定外だ!! ネオに急いで報告しないと手遅れになっちまう!! このままやりあっても、逆に三機まとめて捕まるぞ!!」

 

 

 

「そうだよステラ!! 師匠に言われたろ、ガンダムファイターには挑むなって!!」

 

 

 

二人の少年に言われ、ステラはそれでも、と目の前のガンダムを見据える。

 

 

 

「なかなかいい判断をしている。少年とはいえプロということか。中々のガンダムファイター達だ。しかし、異世界の君たちが何故、ガンダムファイターを知っているのか聞かねばならん。悪いが、見逃すわけにはいかん!!」

 

 

 

シュピーゲルブレードを展開させ、シュピーゲルは一瞬で三機の中央に現れた。

 

 

 

「ヤバイ!!」

 

 

 

「クソッ!!」

 

 

 

「いやあ!!」

 

 

 

三機は、それぞれ近接用の武器を取り出し応戦する。ガイアとカオスが左右からビームサーベルを横薙ぎに振り抜き、アビスが頭上からハルバードのビームブレードを展開させて振り下ろす。

 

 

 

空を切るそれぞれの刃。

 

 

 

 

 

対するシュピーゲルは、一瞬の内に三機の背後に現れ、両手の刃ーーシュピーゲルブレードを展開させて二閃。

 

 

 

三機をまとめて吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

「な、なんて強さだ…あいつ」

 

 

 

カガリの言葉に、アスランも口を閉じたまま頷く。

 

 

 

(キラやラクスは、彼がこれ程の使い手だと知っていたのか? あの動き…俺でもついていけるかどうか)

 

 

 

そんな彼らの元に、一機の機体が現れた。

 

 

 

「そこのザク、何故ザフトの機体に乗っている!?」

 

 

そこにいたのは、トリコロールカラーを基調としたガンダムーーインパルスガンダムであった。

 

 

 

セカンドステージ最後の一機にして、強奪を免れたガンダムである。

 

 

 

ザフトのエースである、赤服のパイロットスーツを着た少年、シン・アスカがそこにいた。

 

 

 




みなさん、お待ちかね〜!!

ガンダムシュピーゲルを駆るシュバルツは、一気に3機のガンダムを蹴散らします。

しかし、突如として、シュバルツの前を強大な光が阻むのです。

次回!機動武闘伝GガンダムSEED DESTINY!『必殺』にレディぃゴー!!


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第4話 必殺

「皆さん、驚きの展開です。デビルガンダムによって跡形もなく吹き飛ばされたガンダムシュピーゲルが、謎の光と共に復活したではありませんか」

何処とも知れぬ空間で、その男はスツールに腰掛け、長い脚を組んでいた。
男の頭上からスポットライトが細く降り注ぐ。下は地面ではなく平らな床であること以外、この場所がどこであるのか、わかるものはない。
年齢もよくわからない男だった。黒く刈り込んだ丸い頭、丁寧に蓄えた口髭、くっきりとした丸い碧眼だが、右目は眼帯で覆われている。体格の良さからか、派手な赤いスーツが不思議とよく似合う。
男はどこか物憂げに目を伏せながら、低く、よく通る声で語った。

「そして、シュバルツをガンダムファイターと呼んだ三機の謎のガンダム。彼らの語る師匠という人物は、一体何者なのでしょう。

また、アレックス・ディノこと、アスラン・ザラの前にも、ザフトの新型ガンダムが現れたではありませんか!!

さて、彼らの運命は、どのように紡ぎ出されていくのか!?」

突如、男が立ち上がった。赤いジャケットを脱ぎ捨て、右手にはどこからともなくマイクが、左手には右目を覆っていた眼帯が握りしめられ、その両腕が広げかかげられる。
男は満面の笑みで『あなた』に言った。

「それでは! ガンダムファイト! レディぃいいっ……ゴー!」



トリコロールカラーのガンダムタイプの機体。

 

 

 

アレックスは、突如現れたその機体のザフト兵に厳しい表情のまま告げた。

 

 

 

「俺は、オーブ軍所属のアレックス・ディノだ。非公式だが、オーブ代表のカガリ・ユラ・アスハの訪問の護衛をしている。保護をしていただきたい」

 

 

 

「オーブ代表!? なんで、そんな…!?」

 

 

 

その突然の言葉に動揺する、インパルスのパイロット、シン・アスカ。

 

 

 

しかし、そんな彼らの目と鼻の先で、信じられない光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「おい、ステラ。アウル。こいつは俺たちの手に負えねえ奴だ。 撤退するぞ!!」

 

 

 

「了解、スティング。間違いないね」

 

 

 

「わかった」

 

 

 

先ほどの立ち会いで、実力差を理解した三人は、全力で逃げる算段を行う。

 

 

 

対するシュバルツは、振り切った自身のブレードを確認し、一つ頷く。

 

 

 

「私のシュピーゲルブレードで切れぬとは、とてつもない硬さだな。ならばーー!!」

 

 

 

フェイズシフトの機能を知らないシュバルツは、ブレードを展開させたまま、両腕を交差させ、自身の脇にブレードを広げたまま、高速に回転させる。

 

 

 

 

 

「行くぞ、シュトゥルム・ウント・ドランク!!!」

 

 

 

 

 

「やらせるか、撃てぇ!!」

 

 

 

 

 

まるで竜巻のような風を纏いながら迫り来る、シュピーゲルに、三機のガンダムは協力してビーム砲の雨を斉射する。

 

 

 

しかし、バシュシュンッと、言う音と共にビームは回転するシュピーゲルに当たると弾き飛ばされてしまう。

 

 

 

「う、嘘だろ、こいつ!」

 

「師匠より、早い!!」

 

「やべえっ!?」

 

 

 

三人が、叫ぶのと、機体が巻き込まれるのは、同時。

 

 

 

竜巻と化したシュピーゲルに、連続で切り刻まれ、弾き飛ばされる。

 

 

 

<<< うわああああ!!! >>>

 

 

 

一瞬の出来事だが、あちらこちらから火花を散らしながら、天高く巻き上げられ、背中から地面に叩きつけられる、三機のガンダム。

 

 

 

「 ハイドロゲイン消失、機体稼働率60パーセント低下。なんて威力だ!!」

 

 

 

フェイズシフトを苦もなく切り裂いて見せたシュピーゲルの必殺技。

 

 

 

そのあまりの威力に、スティング達の機体は動きを鈍らせていた。

 

 

 

「このまま、捕獲させてもらうぞ。ちょうど迎えの機体も来たようだしな」

 

 

 

ブレードを収め、シュピーゲルは構えを解いた。そのあまりの強さに、アレックスもシンも、全く動けなかった。

 

 

 

その時だった、突如圧倒的な光がシュピーゲルに迫る。

 

 

 

「! シュバルツ!!」

 

 

 

「ぬ、おおお!!」

 

 

 

咄嗟に光を受け止めるシュピーゲルだが、その光は更に強く輝いていく。

 

 

 

彼の脳裏に弟やその師が放っていた技が響く。

 

 

 

ーー 流派、東方不敗が最終奥義!! 石破天驚拳!!ーー

 

 

 

「ーー!? この技はまさか!!?」

 

 

 

黄金の光線がシュピーゲルを飲み込む程に大きくなり、シュバルツは咄嗟に光を横に受け流してみせた。

 

 

 

 

 

「な!?」

 

 

 

「あんな、強烈なビームを!!」

 

 

 

「素手で流した!? なんてデタラメな!!」

 

 

 

カガリ、シン、アレックスが揃って呆然とする。

 

 

 

 

 

ズドォッ 強烈な衝撃と共に、コロニーの障壁に穴が開き、気づけば先のガンダム達も、この強烈な技を放った気配の主も、姿を消していた。

 

 

 

「この私をして、圧倒されるほどの気とは。今のは、まさか!?」

 

 

 

心当たりのある人物は、ひとり。

 

 

 

「ならば、この戦い。想像を絶する苛烈さになる!!」

 

 

 

自身の宿敵とも言える相手。この世界に来ている。雌雄を決しなければならない、強敵が。

 

 

 

プラントに大穴を開けた先の一撃。

 

 

 

強大なビーム砲に見えて、その実は気と呼ばれる武闘家のエネルギーをトレースし、具現化させたものだった。

 

 

 

そこまで理解し、シュバルツはアレックスのザク。シンのインパルスガンダムに向き直る。

 

 

 

「我々は、オーブ代表カガリ・ユラ・アスハの護衛として来ています。ザフトの正規兵殿。どうか、保護をお願いしたい」

 

 

 

シュバルツの丁寧な物腰に、先の強さも相まって、シンは動揺から立ち直れず。

 

 

 

「え!? えっと、その…!! ちょっと待ってください!! あんた、…じゃない!! 貴方達が、アスハの護衛で、オーブから来たのはわかりましたが、俺も任務が…!!」

 

 

 

そこまで言って、敵にプラントからの脱出を許したことを思い返す。

 

 

 

「しまった!! あなたの強さに忘れて、奴らを!!」

 

 

 

「シン! 何をしている?」

 

 

 

「もう、シンったら。無駄話をしてる場合!?」

 

 

 

その時、白と赤のザクがインパルスの後方から現れた。同時に巨大な戦艦もだ。

 

 

 

「アスラン、あの船は!」

 

 

 

「ああ。議長が言っていた、ミネルバだ」

 

 

 

突如、シュバルツのシュピーゲルが、青い光に身を包み、光の粒子となって姿を消してみせた。

 

 

 

残ったのは、生身のシュバルツただ一人だ。

 

 

 

シュバルツは、その並外れた身体能力で軽々とアレックスのザクのコクピットに、ハッチも開けずに戻った。

 

 

 

「どうやら、無事に保護されたようだな」

 

 

 

「え? シュバルツさん、今、機体をどうやって?」

 

 

 

「私達の世界では、ガンダムは常にファイターと共にあるのだ。必要のないときは、こうして誰にも見えぬように隠している」

 

 

 

「いや、どう見ても消えたように見えたんだが。あの巨大な質量が…」

 

 

 

さも当たり前のように告げるシュバルツに、アレックスは頭痛を感じながら、話す。

 

 

 

このファイターは、実力も桁違いだが、その愛機も常識が通じない存在らしい。

 

 

 

半ば、諦めたようなアレックスだが、カガリはそんな彼の気も知らず、シュバルツの能力やガンダムに素直に感心していた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ミネルバの艦内でも、先ほどインパルスが見ていた戦闘データを取りだし、解析。

 

 

 

ガンダムシュピーゲルの猛威がモニターに叩き出されていた。

 

 

 

赤と白のザク。

 

 

 

ルナマリア・ホークとレイ・ザ・バレルの機体と合流した際、光の粒子となって跡形もなくなった光景も、きちんと納められている。

 

 

 

「アーサー、どう思う?」

 

 

 

「い、いや、私は悪い夢を見てるんでしょうか? グラディス艦長」

 

 

 

ザフト新造艦、ミネルバ艦長のタリア・グラディスは、保護した三人の人物と、ザフトの最新鋭機を三機まとめて叩き伏せたデタラメな機体のデータを見て頭を痛めていた。

 

 

 

これから、正体不明の一団から、盗まれた新型の三機を取り戻さなければならないのだが、その問題さえも、霞んで見えるほどデタラメな存在だ。

 

 

 

「素晴らしい、の一言だね。バックパック無しに最新鋭機と渡り合ったザクのパイロットもだが、あの正体不明のガンダム。明らかに連合やザフト、オーブのどれにも属していない。技術体系が全く違う機体だ。

 

ガイア、アビス、カオスの三機が、ああも一方的にやられてしまうとは」

 

 

 

世界は広いな、と呑気な口調で、ブリッジに居座る最高評議会議長の態度も、タリアの頭痛の種だった。

 

 

 

「彼らは、格納庫かな。 迎えに行っても構わないか? タリア」

 

 

 

「オーブ代表のカガリ姫と護衛のナイト2人ですもの、行かなければならないでしょうね」

 

 

 

ならばと席を立つデュランダルにアーサー副長が慌てた。

 

 

 

「何も議長自ら向かわなくても!!」

 

 

 

「いや、このくらいはさせてくれ。プラントに彼女を招いたのは私だし、軍人でない私がここにいても、役立てることはない。オーブからの客人を何の説明もなく、軟禁状態にしては、失礼に値するからね」

 

 

 

穏やかに笑いながら、ギルバート・デュランダルは、ブリッジから出て行った。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

何がおかしいのか、とタリア・グラディスは去っていったギルバート・デュランダルを冷めた目で見やる。

 

 

 

表情こそ抑えてはいるが、あの男の興味は今、オーブの2人のナイトにしかない。

 

 

 

不愉快に思い、吐き捨てるように息を吐くと、

 

 

 

「艦長、まずいですよね? このまま、奪取されてしまったら?」

 

 

 

アーサー副長は、表情を青ざめ、あからさまに取り乱しながら、タリアに問いかける。

 

 

 

ザフトの最新鋭機が奪取され、その機体にてアーモリーワンは、テロ攻撃を受けた。

 

 

 

始末書どころの騒ぎではない。

 

 

 

「ばさばさ飛ぶわね、上層部の首が」

 

 

 

オーブのナイトである謎のガンダムの活躍のおかげで、ブリッジの注目はそちらに行っているが、正直、芳しくない。

 

 

 

アーモリーワンを護衛する為に宙域に展開されていた、艦隊からの連絡もない。

 

 

 

プラント内でこれだけの騒ぎが起こりながら、援軍がないこと自体、異常なことだ。

 

 

 

基地局との通信もできない。

 

 

 

タリアは、最悪のシナリオを想定していた。

 

 

 

すなわち、すでに護衛艦隊は、謎の部隊に壊滅させられているのではないか、というものだ。

 

 

 

そして、その想定は間も無く、寸分違わぬ事実として認識されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

「予定の時刻より、遅れていますね」

 

 

 

「問題ないでしょ、あいつらならな」

 

 

 

艦隊の残骸が浮かぶ中、ミラージュコロイドと呼ばれるコーティングを展開した船が一隻身を潜めていた。

 

 

 

 

 

かの部隊は、軍事産業複合体ロゴスの直属部隊。

 

 

 

地球連合に所属はしているが、正規の軍ではない通称ファントムペイン。

 

 

 

正式名称は、第81機動軍。

 

 

 

ユニウス条約に違反する船の名は、ガーティ・ルー。

 

 

 

 

 

それを預かる黒の軍服を着た仮面の男は、副隊長であり、艦長でもある男に笑いかけた。

 

 

 

「だいたいさ、あいつらだけでも十分なのに、反則な御仁が一緒なんだぜ? あの御仁がこちらに協力してくれて、不可能な任務なんてあるかい?」

 

 

 

「……そうですね」

 

 

 

表情が硬くなり、冷や汗を流す副官を見て、気持ちは分かると苦笑いをする仮面の男。

 

 

 

ネオ・ロアノークと言う。階級は大佐。

 

 

 

高い指揮能力とモビルアーマーやモビルスーツの操縦はベテランの域だ。

 

つい先ほども、連合の隠密用MSスローター・ダガーを自身も駆り、部下を4機使用して、3隻のザフトの護衛艦と1隻の旗艦、30機のザクを殲滅していた。

 

その彼をして、潜入させた中の一人は、非常識な超人だと認めざるを得なかった。

 

 

 

派手な彼の技は、果たして隠密向きなのか、甚だ疑問ではあるが、指揮能力ならば、自分よりも上であり、冷静な判断を行うので、彼の出番がない方が安心である。

 

 

 

逆に彼が出なければならないような状況になれば、隠密などそっちのけで敵の部隊を全て殲滅してしまうだろう。

 

 

 

ネオとしては、あくまで隠密として作戦を遂行したいので、必要以上の戦闘は避けたいが。

 

 

 

何より、アレだけの能力を持っているのだ。

 

 

 

正直、爆弾を抱え込んでいる気分であった。

 

 

 

そんなことを考えていると、前方のプラントの頑強な隔壁を紙のように吹き飛ばしながら、黄金の大出力のビームがガーティ・ルーの脇を通り過ぎていった。

 

 

 

ガーティ・ルーそのものを飲み込む程に強大なビームの正面には、紫色に輝く光で『驚』とかかれていた。

 

 

 

「大佐、今のは」

 

 

 

「知らねえ!俺は、何も見てねえ!!」

 

 

 

取り乱しまくるネオをそっちのけで、高速で接近する機体があった。

 

 

 

 

 

「馬鹿者。何を取り乱しておる。さっさとハッチを開けぬか。こやつらの回収をしてきたぞ」

 

 

 

巨大なツノを持つ、漆黒の機体。

 

 

 

赤いウイングバインダーは、マントのようになり、それを展開すると、3機のザフトのガンダムがいた。

 

 

 

「師匠、ありがとうございます」

 

 

 

「ほんと、師匠が来なかったら、僕ら」

 

 

 

「ありがとう、師匠」

 

 

 

3人の少年達の声にネオは機体を無事に回収できたことを喜ぶ。

 

 

 

巨大な大穴のことや、それを誰がやったかについては、全く考えない。

 

 

 

考えないったら、考えない。

 

 

 

作戦は、成功したのだ。

 

 

 

もうさっさとこの宙域を離れようと、ネオは副官達に命じる。

 

 

 

彼らも硬い表情であったが、何故かことさら笑顔で明るく返事をする。

 

 

 

「そうか、お前らもか」

 

 

 

「 当たり前でしょう。あんなのを誰が信じるというんです」

 

 

 

「だよねー。プラントなんて、アレにかかったら、一発で落とされんだろうな…」

 

 

 

今、目の当たりにした真実を、それ以上追求する気にはなれない、ネオ・ロアノークであった。

 

 

 

「いや、貴様らはよくやった。特にスティングは周りをよく把握し、きちんと逃げる算段を行なっていた。

 

アウルもまた、敵の動きや実力を察知すれば、すぐに転身した。

 

ステラも2人に合わせて良い動きをしていた。

 

 

 

しかしだ、戦うよりも先に、ワシは言うたはずじゃ。

 

 

 

まずは逃げよ、とな。

 

 

 

よって貴様らには、更なる修行を言い渡す。覚悟せい」

 

 

 

「そ、そんな、師匠!?」

 

 

 

まるで死刑宣告を受けたような表情の3人の中、必死に食い下がるスティング。

 

 

 

「貴様らは、まだまだ未熟。ならば一人前のガンダムファイターになれ。

 

そのガンダム達を誰よりも使いこなすのだ、そして、自分達の生き方をその拳で表現できるようになるのだ

 

それまでは、ワシの修行が止むことはない。覚悟せい!!」

 

 

 

腕を組み、告げられた言葉に、3機のガンダムは主の有様を体現するかのように、ガックリと肩を落とした。

 

「がんばろ、アウル、スティング」

 

 

 

落ち込んだ2人にステラが声をかける。その様を見て、師匠と呼ばれた長い灰色の髪を根元から三つ編みにした中年の男は笑う。

 

 

 

「女子(おなご)のステラが一番気骨があるわ!!男子たる貴様らは、もっと精進せぇ!! わっはははははは!!」

 

 

 

「東方先生、そろそろ艦に入ってください。どうやら追っ手が来たみたいだ」

 

 

 

艦内からのネオの通信に、東方不敗マスターアジアは笑う。

 

 

 

「ほう、流石はシュバルツ。彼奴が相手では、ワシとて、それ相応の準備をせねばならん。ひくぞ!!」

 

 

 

「へーい(シュバルツ?)」

 

 

 

どちらが部隊長かわからないやりとりをしながら、ガーティ・ルーは、機体を収容したのち、全速でその場を離れていった。

 

 

 

東方不敗マスターアジア。かつて、未来世紀においてデビルガンダムを使い人類抹殺を図った大悪党にして、ドモン・カッシュの武術の師である。






みなさんお待ちかね〜!!

ザフトの新型艦ミネルバに救われたシュバルツとアスラン達。

しかし、新型を奪われたザフトは、敵の正体を見極めるため、追撃を行います。

しかし、彼らの前に立ちはだかるのは、シュバルツのよく知る男でした!!

次回起動武闘伝GガンダムSEED DESTINY第5話 宿命の強敵! その名はマスターアジアに!

レディー、ゴー!!


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第5話 宿命の強敵 その名はマスターアジア

みなさん、いよいよ物語にあの男が登場しました。

そう!!

ドモン・カッシュの師であり、先代のキングオブハート。

東方不敗マスターアジアです。

彼が何故復活し、地球連合に力を貸すのか。

はたして、彼の目的は、一体、何なのか?

シュバルツとの今回の対戦で明らかになるのでしょうか!?

それでは、ガンダムファイト、レディー、ゴー!!!



「アレが例の部隊の母艦ね」

 

 

 

ミネルバ艦長タリア・グラディスは、プラントに空けられた巨大な穴から、宇宙へと出港していた。

 

 

 

モニターに映されているのは、見たことのない所属不明の軍艦。そのハッチが開かれ、強奪された3機の機体と黒い機体が収容されていた。

 

 

 

「間違いないわね、アーサー! 本艦はこれより、所属不明艦を追撃します。対象を『ボギー・ワン』とする!!」

 

 

 

「り、了解しました、艦長!!」

 

 

 

「コンディションレッド発令! パイロットは各MSにて、発進待機せよ!! メイリン、復唱して艦内に指令」

 

 

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

ミネルバの初出艦の日が、そのまま初の戦闘行為になるのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

時は少し遡り、ザフトに保護をされた3人。オーブの代表であるカガリ・ユラ・アスハ。その護衛のアレックス・ディノとシュバルツ・ブルーダーは、モビルスーツデッキにて、ギルバート・デュランダルと邂逅していた。

 

 

 

「ご無事でなによりです、姫。優秀な護衛をお持ちですね。驚きましたよ。

 

まさか、バックパック無しのザクで新型のセカンドステージと渡り合うとは。

 

しかも、もう一人の方は。

 

我々の見たこともない技術体系で作られたあの黒いMSは、一瞬で3機のセカンドステージを行動不能にしてみせた。驚異的な強さですね」

 

 

 

強すぎる力は争いを呼ぶ、と先に告げたカガリへのデュランダルの痛烈な皮肉に聞こえた。

 

 

 

「シュバルツ殿は、私達オーブに故あって力を貸してくださっているだけだ。オーブの戦力ではない」

 

 

 

カガリが静かに言い返すと、デュランダルは穏やかに更に食い付くように続けた。

 

 

 

「つまり、彼は今でこそ、オーブに力を貸しているが、オーブとは関係ない存在だと?」

 

 

 

そこまで言われて、アスランーーアレックスが気づく。

 

 

 

「勘違いしないでいただきたい、確かにシュバルツ殿はオーブの軍人ではないが、だからと言って、代表の護衛をされる程信頼の厚い方だ。

 

オーブから、簡単に離れる様な真似はされないでしょう」

 

 

 

「それは、君もかな? アレックス・ディノ君」

 

 

 

「どういう意味ですか?」

 

 

 

「いや、少し気になってね。アスラン・ザラ君」

 

 

 

「ーーっ!!」

 

 

 

ギルバート・デュランダルの言葉に、アレックスことアスランは顔を歪める。

 

 

 

デッキにいたパイロットや整備士が一斉に先の大戦で主犯とされる、パトリック・ザラを思い起こした。

 

 

 

その息子でありながら、三隻同盟の一員となり、戦争を終結させた英雄である。

 

 

 

「アスラン・ザラって?」

 

 

 

「知らないの、シン? 前大戦の主犯であるパトリック・ザラの息子で、ラクスさまと共にプラントを離れ、戦争を止めた英雄じゃない!」

 

 

 

「英雄……っ!」

 

 

 

ルナマリアの説明を受け、シンの目つきが変わった。彼の脳裏に浮かぶのは、逃げ遅れて爆発に巻き込まれた家族と、空に浮かんでいた、青い翼を持つモビルスーツだった。

 

 

 

そこまで思い返したシンは、感情のままに、カガリ達の前に立つ。

 

 

 

「綺麗事ばかりしか言わないな、さすがはアスハのお姫様だ!」

 

 

 

「誰だか、知らないが。今度俺の前でアスハ代表にそんな口をきいたら、許さない」

 

 

 

「許さない? あんたらは、そうやって、いつまでも英雄気取りか? あんたらの、オーブの理念のせいで犠牲になったひとがいることに目も向けないで!!」

 

 

 

アスランの瞳が驚愕に見開かれる。気づいたのだ、彼の目にあるのは、憎しみと悲しみ。

 

 

 

それは、かつて、実の母を奪われた自分に似ている、と。

 

 

 

「アスラン、すまないがどいてくれ。名前を教えてくれないか? 私はカガリ・ユラ・アスハだ」

 

 

 

「ーー!? カガリ!?」

 

 

 

カガリもまた、自分にぶつけてきた少年の怒りの感情の奥に、悲しみを見つけていた。

 

 

 

「俺は、シン・アスカだ。カガリ・ユラ・アスハ、あんたの親父のウズミの姿勢は立派だったよ。オーブは理念に殉ずるってさ。

 

俺も、家族も、オーブの理念には、同調してた。

 

でも、あんたの親父は、国民より、理念を選んだ!!

 

あの戦争の時に、被害にあったのは、あんたらの国に住んでた、俺たち家族だよ!!

 

あんたらは、自分の理念貫いたから、だろ?

 

だけどな、そのせいで、誰が犠牲になったのか、あんたらはかんがえたのかよ!!?」

 

 

 

全てを言いまけたシンの横から、レイが現れシンの頭を抑える。

 

 

 

「申し訳ありません、議長。カガリ代表。この男の処分はこちらで…」

 

 

 

「待ってくれ! シン。お前は、オーブの選んだ道が間違いだと言うのか?」

 

 

 

カガリは、代表として、国民であったシンの声を聞こうと呼びかける。彼は言ったのだ。理念を信じていた、と。

 

 

 

「間違いだとか、そんなことを言いたいんじゃない。あんたらの選択で、誰かが犠牲になったって話をしてんだよ。綺麗事だけじゃ、守れないんだよ!!」

 

 

 

「ならば、ありがとう、シン。お前の名と言葉を刻んでおく。力だけでも、心だけでもダメなんだ。私は、それを忘れて自分の理念にのみ拘っていたのかもしれない」

 

 

 

「!? なんで、礼なんか言うんだよ? 先の大戦で亡くなったのは、俺の家族だけじゃ…。あんただって」

 

 

 

「国民を守る為に私達は、存在する。民を守れない理念ではダメなんだ。確かに、お父様の死は私にとっても辛い。でも、お前は一つの家庭に育ち、平和に暮らしていたんだ。オーブを信じてくれていたのに、答えられなくて、申し訳ない」

 

 

 

頭を下げるカガリに、シンは戸惑いの表情を浮かべた。どうしたら、良いのか、分からなくなってしまったのだ。

 

 

 

ただ、頭を下げられて、シンはようやく自覚した。

 

いや、前から自分でも分かっている。

 

 

 

シンが口にしたことは、甘えが前提にあった。

 

 

 

世界は、戦争をしていたのだ。

 

 

 

オーブという島国の周りは。

 

 

 

それに巻き込まれないなど不可能だと言うのに、どこかで、自分達は、戦争をとおい世界だと考えていた。

 

 

 

オーブだけは巻き込まれない、と、何処かで。

 

 

 

だから、唐突に巻き込まれ、恨んだのだ。

 

 

 

「…あ、あの、俺」

 

 

 

シンが何かを言う前に、艦内に放送が響き渡る。

 

 

 

『コンディション・レッド発令!! パイロットは各機体に乗り、出撃に備えよ!! 繰り返します、コンディション・レッド発令……!!』

 

 

 

放送を聞き、レイがデュランダルに話しかける。

 

 

 

「議長、申し訳ありませんが我々は出撃に備えます。すぐに護衛の者を」

 

 

 

「構わない、レイ。先ほどブリッジから来たばかりだ。元来た道くらい分かるよ。カガリ姫達もきてください」

 

 

 

レイは、その言葉に敬礼して、立ち去る。後ろではルナマリアにシンが引っ張られていた。

 

 

 

「?え? しかし、新型の艦のブリッジになんて」

 

 

 

開けっぴろげな態度を取るデュランダルに、アスランは、懐疑的な態度を取る。

 

 

 

「今は、緊急事態ですからね。この状況では、人手も欲しい。他力本願で申し訳ないが、姫達のお力を貸していただきたい」

 

 

 

「ご配慮、感謝する…」

 

 

 

あまり、感情を出さずに、カガリは、そのような言葉を口にした。

 

 

 

「カガリ、無理をするなよ」

 

 

 

「分かってる。こども扱いするな、アスラン」

 

 

 

微かに笑い、カガリは、デュランダルの案内に従う。そのやり取りをシュバルツは目を光らせながら、見ていた。

 

 

 

(このデュランダルという男から、妙な気配を感じる。まさかとはおもうが、警戒しておいて損はあるまい)

 

 

 

こうしてデュランダルの案内で3人はミネルバの指令室。すなわちブリッジに現れた。

 

 

 

「議長!? 彼らは?」

 

 

 

「タリア、今は非常事態だからね。オーブのカガリ姫は先の大戦での経験もある。何かの助言を得ようかと思ってね」

 

 

 

デュランダルの言葉に胡散臭さを感じているのか、タリアはジッと彼の顔を見据えたのち、言い放つ。

 

 

 

「分かりました。そちらにお控えください」

 

 

 

席を3つ用意させ、座らせる。正直、今は一刻を争う状況だ、もめている場合ではないと、自分に言い聞かせる。

 

 

 

これから自分達は、たったの一隻でザフトの一拠点を落とし、機体を強奪したとんでもない連中に挑まなければならないのだから。

 

 

 

前方の船を見て、タリアは意識を集中する。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「足が早いね、全く。なかなか、どうして。優秀じゃないの、ザフトの新型艦は」

 

 

 

「どうしますか? 大佐」

 

 

 

「そりゃ、こちらにまでわざわざ来てくださったんだ。お出迎えしなきゃね。あくまで、ご挨拶程度にな!

 

機体を強奪するって任務は達成してるんだ、敵のデータ集めに専念するぞ!」

 

 

 

その号令に従い、スローターダガーに乗るパイロット達。

 

 

 

「ネオ、俺たちも出るぜ!!」

 

 

 

「ザフトに目にもの見せてやる!!」

 

 

 

「ステラ、戦うよ?」

 

 

 

三人の言葉を聞き、ネオが応えようとした時、第三者であるマスターアジアの声が聞こえてきた。

 

 

 

「かぁつ!! 貴様らは先の戦いで充分に働いた。今は休み、わしらの戦いを見て取るが良い!!」

 

 

 

「東方先生? あなたが出ると頼り甲斐があり過ぎて、手加減効かないんですが…」

 

 

 

「馬鹿者!! 聞けば貴様らは、連合とやらの非正規軍であろう。となれば、連合の機体で戦えば、戦争を仕掛けたのは、誰であるかなど明々白々!! スティング達の機体を使わねば、一発でばれる。ワシのガンダムを除いてな」

 

 

 

「いや、だから、あなたの機体はヤバイんですよ、色々!! 上層部にバレるのも避けたいんです!! あなたの常識はずれな強さも含めて!!」

 

 

 

「ばかものがあ!! 貴様のように愚図愚図していては、何の役にも立たぬわ!!

 

真の闘いとはどのようなものか、貴様にも見せてやろう!!」

 

 

 

そう言うと、東方不敗マスターアジアは、袖口から4つの球を取り出した。

 

 

 

球はそれぞれ、光を放っており。

 

 

 

紫、深緑、橙、白、の4つの光の球である。

 

 

 

「マスターガンダムを使えぬとあらば、後はこの3つのガン玉を使うしかあるまい」

 

 

 

紫の球を袖に戻し、残りの3つの球を掌に乗せる。

 

 

 

「出でよ、我がガンダム達よ!! 我が手足となりて、戦え!!! クーロンガンダム!! シャッフルハート!!ヤマトガンダムよ!!!」

 

 

 

マスターアジアの言葉に応えるように、3つのガン玉は、光を強く放ちながら、宙域に出て行くと、深緑の光と共にクーロンガンダムと呼ばれた、釣鐘のような鎧を着たガンダムが。

 

 

 

橙色の光を放ちながら、シャッフルハートと呼ばれた、ハートの形をしたMAが現れ、奇妙な頭部の形をした人型の

 

機体へと変化した。

 

 

 

最後に白色の光と共に現れたのは、インパルスガンダムに近いトリコロールのガンダムであった。

 

 

 

「いくぞ、流派東方不敗!! 十二王方牌大車併!!!」

 

 

 

左手で円を描き、12の紫の光の球を作り出すと、それを右手を突き出すと共に放って、4つの光の球が一つになり、3つの強烈な輝きを放ちながら、三機の機体の胸へ吸い込まれていった。

 

 

 

3つの機体は、それぞれの目が光り、同時に構えを取る。

 

 

 

クーロンガンダムは、袖口からビームクロスを取り出し、それをまるで薙刀のように頭上で振り回す。

 

 

 

シャッフルハートは、腰から赤色の光を放つビームサーベルを抜き、長柄の棒と合わせて、長巻とする。

 

 

 

ヤマトガンダムは、腰の黒塗りの柄から抜刀し、ピンク色のビームサーベルを構える。

 

 

 

「スティングはヤマトガンダムを! アウルはクーロンガンダムを!! ステラはシャッフルハートをよく見ておけ!! ゆけい、我がガンダム達よ!!」

 

 

 

マスターが言い放つと、三機の機体は、常識はずれの動きで、ミネルバに迫るのだった。

 

 

 

「なあ、俺もう、艦降りていいかな? あんな反則爺さんの面倒見れねえよ」

 

 

 

「気をしっかり、大佐! あなたじゃなければダメなんです!!」

 

 

 

「それ、お前がやりたくないだけじゃ…」

 

 

 

副官に励まされるが、納得いかない、ネオ・ロアノークであった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

時を同じくして、ミネルバもシンのインパルス、レイとルナマリアのザク2機と他にゲイツR3機が出撃する。

 

 

 

数の上では、倍になるミネルバ隊だが、出撃してきた敵の三機はデータに無いアンノウンばかりだった。

 

 

 

「敵のデータに該当がない? 本当にボキー・ワンね」

 

 

 

「バカな、あの機体は!?」

 

 

 

眉根を寄せ、見たことのない機体に頭を痛めるタリアだが、脇で覆面の男が叫んだ。

 

 

 

そう言えば、彼もまた、常識はずれの機体と動きをしたパイロットであった。

 

 

 

「まさか、あなたの知り合いなの? あの三機は」

 

 

 

「知り合いなどと生易しいものではない。アレは東方不敗マスターアジアの歴代のガンダム達よ。まさか、この世界に顕現していたとは。ならば、アレを使うのは、マスターアジアただ一人。気をつけてください!」

 

 

 

「ザフトの最新機を三機まとめて行動不能にしたあなたが言えば、説得力は充分ね。各パイロットに告げます。

 

敵の戦力が未知数な上に、敵はこちらの性能を上回るかもしれないそうよ!気をつけて、深追いはしない、データを取れれば良いわ。常に複数対1を心掛けて!!」

 

 

 

「私もガンダムで出ましょう。奴の真意を探らねばならん」

 

 

 

そう言って立ち上がり、おもむろに右手を掲げようとするシュバルツをアレックスが止めた。

 

 

 

小声で話し合う。

 

 

 

「ちょっと待ってくれ、シュバルツ!! あなたの力はあまり見せつけてはいけない!! 軍に利用される恐れがある」

 

 

 

「分かってはいるが、しかし、奴を止めれるのは、私しかいないんだ」

 

 

 

「どうしても行くなら、ガンダムは使わずに、できる限り目立たないでくれ」

 

 

 

「了解した!」

 

 

 

シュバルツは、いったんアスランから離れると、タリア艦長の方に顔を向ける。

 

 

 

「艦長、余っている機体はあるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、シュバルツはモビルスーツデッキにて、手頃な機体を選んだ。

 

シュバルツは、言い放った。

 

 

 

「いい機体だ、よく整備されている。シュバルツ・ブルーダー、ザク! 出撃する!!」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

防戦に徹し、2対1を常に心掛けているおかげで何とか落とされずには、済んでいるが。

 

 

 

圧倒的に力に差がある。

 

 

 

どの機体も動きが軽く、横だけではなく、縦にも動くのだ。立体的な動きと戦術に、シン達は、苦戦していた。

 

 

 

「こんのー!!」

 

 

 

ビームライフルを放つも、目の前にいるクーロンガンダムは、ビームクロスを回転させて、弾いてしまう。

 

 

 

そのまま、突進してくるので、バーニアをふかし、上に逃げながら、もう一機のゲイツRと連携して戦うのだが、突如薙刀のようだったクロスは、ムチの様にしなり、ゲイツとシンのライフルを切り裂いてみせた。

 

 

 

接近戦を挑もうにも、あまりに動きが違い過ぎて、挑む気にすらならない。

 

 

 

はっきり言って、勝ち目がないレベルだ。

 

 

 

「どうすりゃいいんだよ、こんなバケモノ」

 

 

 

「シン、ここは俺がやるぜ!」

 

 

 

「んな、無茶だ!?」

 

 

 

ゲイツのパイロットがしびれを切らしたのか、一気にクーロンガンダムとの距離を詰めて、左手の複合兵装防盾システムのビームサーベルで斬りかかる。

 

 

 

「 馬鹿者がぁー!!」

 

 

 

振り下ろされるクローを右腕で捌き、強烈な左の掌底がゲイツのアゴにヒット、のけぞるゲイツの胴体に次々と貫手が放たれ、瞬く間にゲイツは行動不能になった。

 

 

 

「な、動け! 動けー!!」

 

 

 

「たわけが、己の功を焦り、敵に致命的な隙を見せるとは!! しばらくそこで頭を冷やすがいい!!」

 

 

 

そのまま、クーロンガンダムは、インパルスガンダムに向かってきた。

 

 

 

「さあ、一対一ぞ! どうする、異世界のガンダムファイターよ!」

 

 

 

「早い!! クソォッ!!」

 

 

 

右の拳を正拳で放ってくるクーロンガンダム。インパルスガンダムは、その素早い一撃に盾を構えて受け止める。

 

 

 

バキィッと言う音とともに、盾が崩れる。

 

同時に衝撃で体がズレるインパルスに、クーロンガンダムの左ハイキックが迫る。

 

 

 

バキィッ 反応できず脇に吹き飛ばされる機体。

 

 

 

V P S(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲が、まるで意味をなさないとんでもない威力だ。

 

 

 

「クッソー!! こんな奴にぃー!!!」

 

 

 

退け反らされた首を元にあった場所に戻すと同時に、ビームサーベルを抜いて斬りかかる。

 

 

 

「ほう! なかなか、見る所のある動きだ!!」

 

 

 

シンの攻撃を脇に避けながら、クーロンガンダムは笑ってみせた。

 

 

 

両の手を大きく広げ、手招きしてみせる。

 

 

 

「さあ! 次々とかかってこんか!!」

 

 

 

「こんのーっ!! ふざけるなぁ!!」

 

 

 

 挑発に頭に血をのぼらせたシンは肩口からビームサーベルをもう一振り抜き放ち、次々と右唐竹、左胴薙ぎ、右突きを繰り出す。

 

 

 

 クーロンガンダムはそれらを紙一重で避けながら、まるで円を描くように、舞を舞うかのような類稀なる足さばきで、一定の距離を保ったまま、戦闘を継続する。

 

 

 

 胸部に2門内蔵されるMMI-GAU25A 20mmCIWSを放つインパルスだが、連続で放たれるバルカンの弾丸すら見切り、クーロンは首を左右に高速で倒すだけで避けきってみせる。

 

 

 

シンのインパルスは、決して愚鈍ではない。

 

 

 

むしろ、スピードだけなら、クーロンよりも早く動いている。

 

 

 

しかし、力量差は、明白だった。

 

 

 

シンの攻撃は、クーロンのボディに一度も触れていない。

 

 

 

「どうした? ガンダムを駆る男子がその程度とは、拍子抜けぞ!! それとも、出し惜しみしているのかな?」

 

 

 

嘲笑をされたことに、シンの怒りのボルテージは、更に上がる。

 

 

 

「なめるなー!!!」

 

 

 

ふた振りのサーベルをクロスさせ、切りつける。

 

 

 

しかし、その一撃は空を切り、機体は大きくバランスを崩した。

 

 

 

「な!?」

 

 

 

ーー こいつ、動きが!? 一瞬だけ、早く!!?ーー

 

 

 

通常、人間同士の闘争ならば、相手に目を慣れさせるためにワザと遅く動き、大きな一撃をさそって、本来のスピードで攻撃を避け、カウンターを入れる戦術があるのは、わかる。

 

 

 

達人同士なら、なおのことだ。

 

 

 

だが、モビルスーツ同士にその理論は当てはまらない。

 

 

 

なるほど、サーベルを振り下ろす速度は変えれよう。

 

 

 

バーニアの出力で移動速度も変えれよう。

 

 

 

 

 

しかし、軽いステップのような緻密な動きもさることながら、その動作を変わらず、スピードだけをあげるなど、機械の動きではない。

 

 

 

 

 

まるで、それは、、、、人間そのものの動きだ。

 

 

 

 

 

「なんなんだ、こいつは!!?」

 

 

 

 

 

一流のパイロットであり、一流のモビルスーツを駆るシン・アスカだからこそ、目の前の敵の異常さに気づいたのだ。

 

 

 

カウンターの一撃に弾き飛ばされながら、シンは目の前の敵を睨みつけた。

 

 

 

どれだけ力の差があろうとも、あきらめない。

 

 

 

不屈ーーシンに備わっている一流の証は、その闘志にこそ、あったのだ。

 

 

 

 

 

一方、レイ・ザ・バレルやルナマリア・ホークもまた、苦戦を強いられていた。

 

 

 

相手は、シンのインパルスに似た白を基調としたトリコロールの機体と、奇妙な頭部をした、黒を基調とする機体である。

 

どちらの動きも桁外れに早く、ビーム砲を軽々とかわし、機関銃の弾幕をその弾の上でステップを踏みながら避けるという、離れ業まで披露してくれた。

 

 

 

すでに同行していたゲイツRは、パイロットこそ生きてはいるものの、機体はスクラップも同然にされている。

 

 

 

「ルナマリア! まだ、いけるか?」

 

 

 

「当然よ、私も赤なんだから!!」

 

 

 

ルナマリアは、レイの言葉に気丈に答えながら、長距離用の狙撃ライフル『オルトロス』を放つ。

 

 

 

赤の核に青い光を放つビーム砲は、本来であればMSの二機や三機、軽々と貫通する。しかし今回それは、黒の機体、シャッフルハートの橙色に輝く右手によって防がれていた。

 

 

 

「また、あの妙な兵器!?」

 

 

 

その光は、まるでバリアの様にシャッフルハートとヤマトガンダムを包み込み、完璧に遮断されてしまう。

 

 

 

「厄介だな、あの手は」

 

 

 

言いながら、ビームライフルを構えて、敵に放つ。

 

 

 

正確な射撃は、機体の頭部や肩部に放たれていたが、ヤマトガンダムもシャッフルハートも、自分の持つビームサーベルを脇に掲げると、上と下にわずかに動かすだけでビームライフルを弾いてしまった。

 

 

 

「狙いはよし、だが、わかりやすいのが欠点よな!!」

 

 

 

言うやいなや、直進で突っ切ってくるシャッフルハート。ビームトマホークを抜き、応戦するブレイブザクファントム。

 

 

 

長柄を回転させながら、切りつけてくるシャッフルハートに交差攻法気味に斧を切り返す。

 

 

 

すれ違う両機体。

 

 

 

互いに振り返り、シャッフルハートは、静かに構える。

 

 

 

同時、ブレイブザクファントムは、両手両足を切り落とされていた。

 

 

 

「なーー!?」

 

 

 

「未熟、未熟!! 未熟千万!!! その程度の腕でワシに勝とうなど、10年早いわ!!」

 

 

 

強烈な前蹴りが胸部に叩きこまれ、なすすべもなく、弾き飛ばされるレイ。

 

 

 

それを咄嗟に支えるルナマリア。

 

 

 

「レイ!? 大丈夫なの!?」

 

 

 

「ーー!! ルナマリア、逃げろ!!」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

ルナマリアの赤い機体。ガナーザクウォリアーの右脇に、シャッフルハートは橙色に輝く右手を振り被って移動していた。

 

 

 

「ーーしまーっ?」

 

 

 

防ぎようがなく、目をつぶり、衝撃に備えるルナマリア。

 

 

 

しかし、輝く右手は、眼前で止まっていた。

 

 

 

はじめは、何故なのか分からず、次に目を肥やして見ると、緑のカラーリングをした自分達と同じザフトの機体。

 

 

 

ザクが、シャッフルハートの右手首を掴んで止めていたのだ。

 

 

 

「そのくらいにしてもらおう。東方不敗マスターアジアよ!!」

 

 

 

現れたザクは、シャッフルハートのパイロットに向けて不敵に告げる。

 

 

 

対峙するシャッフルハートを遠隔で操る東方不敗もまた、宿敵との邂逅に笑みを浮かべた。

 

 

 

「ーー来たか、ネオドイツのガンダムファイター!!」

 

 

 

「ーーそう!! 私の名はーー」

 

 

 

『シュバルツ・ブルーダーだ(よ)!!』

 

 

 

果てしない暗闇の中、それを吹き飛ばす戦いが始まろうとしていた。




みなさん、お待ちかね〜!!

ザクを駆りシャッフルハートと戦うシュバルツ。

シンもまた、インパルスを駆り、クーロンガンダムに挑みます。

しかし、機体性能の差は歴然!!

一気に窮地に立たされてしまうのです。

次回!!

機動武闘伝GガンダムSEED-DESTINY第6話 激闘 シュバルツ対マスターアジアに、レディー、ゴー!!


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第6話 激闘 シュバルツ対マスターアジア

みなさん、マスターアジアは生きていました。

しかも彼は過去に使用した乗機を全て操り、ミネルバ隊に襲いかかってきたのです。

はたして、彼らは、マスターの操るガンダム達を退けることができるのか!?

それでは、ガンダムファイト、レディー、ゴー!!





 

地球連合艦ーーガーティ・ルー艦内

 

 

 

激戦を繰り広げる、ミネルバの部隊とマスターアジアの三機のガンダム。

 

 

 

その戦闘をモニターで眺めながら、東方不敗は、笑みを浮かべた。

 

 

 

「わっはははは! やはりワシの思ったとおりであったわ!!!」

 

 

 

「東方先生、あのザクのパイロットが、ステラ達を一機で行動不能にした奴、ですか?」

 

 

 

この部隊の隊長であるネオ・ロアノークは、確認の意味で話しかける。

 

 

 

「いかにも! 奴こそはネオドイツのガンダムファイター、シュバルツ・ブルーダーよ!! 恐るべき知略、体術、腕を持つ、ワシの相対した敵の中でも五指に入る程の実力者だ!!」

 

 

 

「あなたみたいなバケモーーもとい、超人にそこまで言わせるとは、厄介な奴がザフトにいるもんだ」

 

 

 

「しかし、あのような機体では、いかにシュバルツと言えども、全力は出せまい。状況を確認する意味を込め、叩き潰してくれよう!!」

 

 

 

獰猛にして狡猾な笑みを浮かべるマスターアジアにうすら寒いものを感じつつも、頼りにも感じる自分に苦笑するネオ・ロアノーク。

 

 

 

(正直、負ける気がしねぇな。この男の力がある限り)

 

 

 

ステラ達に毒されたかと、自嘲気味に笑うネオの前で、人知を超えた戦いが、繰り広げられようとしていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ルナマリアのガナーザクウォーリアを救った。一機のザクウォーリア。

 

 

 

その機体のコクピットには、いつの間にか、未来世紀で使われていた、簡易型モビルトレースシステムが組み込まれていた。

 

 

 

(私の中のDG細胞が、まさかこのような所で生きてくるとはな。皮肉だが、今はこの力に頼るしかあるまい)

 

 

 

アスランに諭されるまでもなく、シュバルツとて自分のガンダムの力を異世界で示しつけるつもりはない。

 

 

 

むしろ、できる限り機体を温存して戦いたいのだ。

 

 

 

あの男の正体を突き止めるまでは、目立つわけにはいかない。

 

 

 

デビルガンダムの力は、正に渡りに船だった。

 

 

 

ナノマシンの塊であるDG細胞は、機体の姿を変えることはもちろん、コクピットの仕様さえ変化させることができるのである。

 

 

 

これにより、本来はMSを扱えないシュバルツも、苦もなく機体を動かせると言うわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

シャッフルハートのフィンガーを止めたまま、ルナマリアを振り返り、シュバルツは告げた。

 

 

 

「ここは、私に任せて、君はやられた仲間を船に回収するんだ!!」

 

 

 

「で、でも、あなたは!?」

 

 

 

「そんなことは、どうでもいい! 今は私に任せろ!!」

 

 

 

瞬間、シュバルツのザクウォーリアがシャッフルハートの顔面に向けて左拳を放つ。

 

 

 

左掌で受けるシャッフルハート。

 

 

 

防がれた瞬間、ザクはその身を側宙で回転しながら、浴びせ蹴りを放つ。

 

 

 

宇宙空間にいるとは思えない、素早い動きだが、シャッフルハートは見事に上体を反らすスウェーバックで、鼻先にて見切り、ザクの頭部にフィンガーを放つ。

 

 

 

ザクは、元いた位置に足を戻した刹那、くるりと半身を回転して右手を裏拳気味にフィンガーを放つシャッフルハートの右手首にぶつけ、反らす。

 

 

 

すれ違う両機体だが、振り向きざま、凄まじい拳と蹴りが互いの間で交差する。

 

 

 

打つも打ったり、守るも守ったり、両者全くひかない五分と五分。

 

 

 

バキィッ 互いに強烈な右肘打ちをぶつけ合い、一度離れ構える。

 

 

 

そのあまりの動きに、レイもルナマリアも、否、この戦いを見るもの全てが唖然としていた。

 

 

 

次元が違うのだ、文字通り。

 

 

 

「流石よな、シュバルツ。しかし、その機体でどこまでワシについてこれるかな?」

 

 

 

「やはりマスターアジアか。貴様はこのような異世界で、軍などに所属し、何をなすつもりだ?」

 

 

 

「知りたければ、その拳で語れ! 貴様ほどの男ならば、その方が早かろう!!」

 

 

 

「いいだろう、受けて立ってやる!!」

 

 

 

「ならば、ゆくぞぉ!!」

 

 

 

次の瞬間、凄まじい連撃が互いに放たれ合う。嵐のように凄まじい両者の打撃。

 

 

 

一秒の間に、数十もの打ち合いをしている。

 

 

 

拳と蹴りが、互いに放たれ、防がれ、なお、繰り出される。

 

 

 

打ち負けた方が一方的にやられるであろう、この打撃の交換に、徐々に差が出てくる。

 

 

 

(ザクの動きが、急激に鈍くーー?)

 

 

 

そう、ザクウォーリアの動きが傍目から見ても明らかに遅くなり始めている。

 

 

 

見れば関節可動部から、火花が散り始めていた。

 

 

 

(あの動きに、機体がついて行っていない、このままではーー)

 

 

 

レイが、目を鋭く細める。

 

 

 

シュバルツの登場で巻き返しかけた状況は、悪化しつつあった。

 

 

 

右拳が、ザクのモノアイにまともにヒットし、仰け反りながら両手でガードを固めるザクに、シャッフルハートは、一気に距離を詰めて襲いかかる。

 

 

 

ブロックの上からでも御構い無しのラッシュ。

 

 

 

徐々に、ガードしているザクの両腕が崩れ始める。

 

 

 

ダラリとガードを下げるザクのボディに強烈な拳が叩きこまれ、くの字に曲がるそのアゴに掌底がまともに突き刺さる。

 

 

 

体を縦に起こされたザクにすかさず、後ろ回し蹴りがヒットし、後方へ弾き飛ばされる。

 

 

 

(やはり、モビルスーツでは、この辺りが限界か!!)

 

 

 

「わっははは!! どうした、シュバルツ!? ガンダムを呼ばんのか!? それとも、そのような機体でワシのシャッフルハートの相手ができると思うのか!?」

 

 

 

「よく言う。貴様こそ、遠隔リモートでの操縦であろう。モビルトレースにしては、反応が鈍い。それで私のガンダムの相手など、甘く見過ぎだな」

 

 

 

言うやいなや、シュバルツは肩に装備している片手斧を抜き放ち、水平に構えた。

 

 

 

「マスターよ、この技を破ってから、そのような物言いをするがよい!!」

 

 

 

瞬間、ザクウォーリアがその場でコマのように大回転する。

 

 

 

その勢いは、疾風怒濤の如きものであった。

 

 

 

「これは、シュバルツの必殺技!!」

 

 

 

「いかにも!! シュトゥルム・ウント・ドランクぅ!!」

 

 

 

凄まじい竜巻を起こしながら、ザクウォーリアがシャッフルハートに迫る。

 

 

 

合わせて、シャッフルハートも右手を掲げる。その手は桃色に輝いていた。

 

 

 

「ならば、こちらも! ハートフルフィンガー!!」

 

 

 

漆黒の竜巻に向かって正面から放たれる桃色の光を放つ右手。両者の技が、真っ向から激しく衝突した。

 

 

 

力と力がぶつかり合い、爆発する。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

「何なのよ、コレは!?」

 

 

 

自分達の目の前で、とんでもない光景が映し出される様を、ルナマリアはヤケになりながら、叫んだ。

 

 

 

「ルナマリア、味方機の回収は終わったか?」

 

 

 

「終わったわよ! それより、レイ! あんたよくこんな連中の前で冷静でいられるわね!!」

 

 

 

「ザクウォーリアにあんな動きができることは、俺も驚いている。正直に言えば、悪夢のようだ」

 

 

 

「良かった、あたしだけじゃなかったのね」

 

 

 

「ああ、しかし。今は、やれることをやろう」

 

 

 

「分かったわ、レイ!!」

 

 

 

冷静な同僚から、動揺を押さえようとしている努力を感じたルナマリアは、何処か安心していた。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

光の爆発が晴れ、二機の機体は未だに健在していた。

 

 

 

しかし、シャッフルハートはほとんど無傷に対し、シュバルツのザクウォーリアは、両腕が崩壊し、全身から青い火花が散っていた。

 

 

 

エネルギーも切れ、明らかにもう戦える状態ではない。

 

 

 

「マスターアジアよ。貴様はーー」

 

 

 

しかし、シュバルツの声には、バッテリー切れで動かなくなった機体への絶望や相手への恐怖はなく、驚きの色が強かった。

 

 

 

「さすがよな、シュバルツ。そのような機体でよくぞワシと組み分けた。見事なものよ、貴様こそ我が生涯の宿敵であったわ。

 

貴様ならば、デビルガンダム相手にも遅れは取るまい」

 

 

 

マスターアジアから、闘気が失せていた。構えを解き話しかけてくる。

 

 

 

その様に、シュバルツは得心した。

 

 

 

「やはり、貴様が軍に所属しているのは」

 

 

 

シュバルツの言葉を遮り、マスターアジアが話す。

 

 

 

「あくまで、力を貸しているに過ぎぬ。わしの目的は、デビルガンダムの破壊以外には無いのだからな」

 

 

 

「ならばーー、私に力を貸してくれないか? デビルガンダムの脅威は貴様も知っているはず」

 

 

 

「それは、断る。折角、貴様と敵対しておるのだ。これぐらいでなければ張り合いがない。

 

どちらが先にデビルガンダムを倒すか、勝負と行こうぞ」

 

 

 

男臭い笑みを浮かべるマスターアジアに、シュバルツは真剣な表情で話しかける。

 

 

 

「マスターアジアよ、何故とは問うまい。貴様がデビルガンダムを倒す目的はおそらく、私と同じはずだからな」

 

 

 

「さあてのぅ、大悪党のワシを信じると痛い目を見るかもしれんぞ?」

 

 

 

ニヤリと笑うマスターに、シュバルツも覆面越しに穏やかに笑う。

 

 

 

「貴様の拳が語っていた。シュウジよーー」

 

 

 

「その名は捨てた。そして、貴様はウォルフ・ハインリヒでは無い。貴様は、シュバルツ・ブルーダーよ」

 

 

 

「ふ、違いない」

 

 

 

互いに声を出して笑いあう。あれほどの激闘を繰り広げておきながら、両者の間には親友のような雰囲気が流れていた。

 

 

 

「シュバルツよ、貴様との決着は互いに一対一のファイトーーガンダムファイトをおいて、他にあるまい。

 

それまで、腕を磨いておけ!!」

 

 

 

シャッフルハートは、そう宣言すると、ハート型のMAに変化した。

 

 

 

その上にヤマトガンダムが腕を組んだ姿勢のまま乗る。

 

 

 

そして凄まじいスピードで戦域を離れていった。

 

 

 

「マスターアジアよ、かつての機体全てを使ったうえで私の前に壁足らんとするか。ならば、私もまた、この技を完成させるしか、あるまい。

 

鏡転同血ーーシュピゲル・アンデア・ユングス・ブルートを!!」

 

 

 

再戦を誓うシュバルツは、拳を握り、胸に固く誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

一方、シンの駆るインパルスガンダムとクーロンガンダムの戦闘は、互いの近接用ビーム兵器でのつばぜり合いの状態になっていた。

 

 

 

「どうした? この程度では、このクーロンガンダムを倒すことなど、夢のまた夢ぞ!!」

 

 

 

「クッソー!! 押し切れない!!! 何で!!?」

 

 

 

まるで万力で捕らえられたかのようにビクリともしない敵のビームクロス。

 

 

 

ある時は鞭に、ある時は刃に変わる恐ろしい武器だ。

 

 

 

中途半端な距離で戦うと一気に戦局を決められてしまう。

 

 

 

シンなりに考えた末での結論であった。

 

 

 

しかし、クーロンガンダムは、突如シンのサーベルを斬り払う。

 

 

 

「ーーっ!?」

 

 

 

インパルスの首元に、切っ先が突きつけられていた。

 

 

 

「ふん、ここまでかーー。存外、楽しめたわ! また相見えようぞ!! 異世界のガンダムファイターよ!!」

 

 

 

言うや否や、クーロンガンダムの蹴りがインパルスを後方へ弾き飛ばす。

 

 

 

と同時に、一気にクーロンガンダムは戦域を離れていった。

 

 

 

「な!? 逃げるな!! こんのぉ!!」

 

 

 

追いかけようとするシンだが、同時にインパルスのフェイズシフトが、切れる。

 

 

 

「ちくしょう! エネルギーが!!」

 

 

 

コンソロールパネルに拳を叩きつけ、シンは暗闇の中遠ざかるバーニアの火を睨み付けた。

 

 

 

その彼を回収しようとミネルバが、後方に現れる。

 

 

 

「ーー負けた。ちくしょう!! 俺は、強くなったはずなのに!!! ちくしょう!!」

 

 

 

シンの慟哭が、インパルスのコクピットで響いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

三機のMFは、ガーティ・ルーの近くに来るとそれぞれ、白、深緑、橙色の光を胸から放ちだし、光の粒子となって消えた。

 

 

 

ブリッジにて、それを確認したマスターアジアは、一つ頷くと、掌を広げた。

 

 

 

その上に三つの光の球が現れ、ガラス玉となった。

 

 

 

白の球には「和」、深緑の球には「九」、橙の球には「心」の漢字一文字が刻まれている。

 

 

 

それらを握り、裾に戻すマスターアジア。

 

 

 

既に敵は見る影もなく、完全に撤退に成功していた。

 

 

 

「スゲー!! さすが、師匠だ!! なあ、スティング!?」

 

 

 

「師匠!! 俺にもさっきの奴にやった技を教えてください!!」

 

 

 

「アウル、スティング。修行するの?」

 

 

 

ブリッジでの3人の少年少女の反応は、憧れ、焦燥、希望とみな、バラバラではあったが、マスターアジアは気にもせずに告げる。

 

 

 

「真の戦いとは、いかなるものか、理解できたか?」

 

 

 

「あのデタラメなザクの使い手以外なら、武器の間合い。パイロットの癖、全て把握できましたよ。ご協力感謝します、東方先生」

 

 

 

いつものように、ひょうひょうとしながらも、何処か緊張しているネオにマスターは笑った。

 

 

 

「シュバルツは、我が生涯の宿敵よ。貴様らが束になろうと敵う相手ではない。しかし、あの白いザクの使い手とガンダムのパイロット。

 

どちらも見るところがあった。貴様らも注意することだな」

 

 

 

「ーーええ。おそらく、現時点でなら、負けはしないでしょうが、相手はコーディネイター。成長速度も我々ナチュラルとは違いますからね」

 

 

 

「ふんーー、遺伝子やら薬やらに頼らずとも我が流派東方不敗に敵はない。スティング達には、更なる訓練を用意しよう。貴様もやるか? ネオ・ロアノーク」

 

 

 

「謹んで、遠慮いたします!!!」

 

 

 

地球への進路を取りながら、ガーティ・ルーは、宙域を後にした。

 

 

 

こうして、ファントムペイン対ミネルバ隊の戦いは、ファントムペインの完全勝利となったのだ。




みなさん、お待ちかねー!!

圧倒的な力の差に敗北したミネルバ隊。

シンは、自分の非力を嘆き、シュバルツに更なる力を求めるのです。

しかし、さらなる苦難が彼ら一行を待ち受けているではありませんか!?

次回機動武闘伝GガンダムSEED-DESTINY第7話に、レディー、ゴー!!


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第7話 君の姿は僕に似ていて

傷ーー。

目に見える傷もあれば、わたくし達の心に付く見えない傷もあります。

その傷は時として、人の未来を奪い、過去にとらわれて生きる要因にもなるのです。

マスターの猛攻を辛くも退けたシュバルツとミネルバ隊。

しかし、憎しみの炎に焼かれた悲しき戦士達の手によって、新たなる憎しみが生まれようとしていました。

それでは!!

ガンダムファイト、レディー、ゴー!!


 

 

宇宙ーー人々が暮らし始めた、巨大なコロニー、プラント。

 

 

 

それらの中で動きを止め、廃棄されたものや、戦争により破壊されたものが、存在する。

 

 

 

巨大なコロニーは、完全に消されることもなく、まるで宇宙の粗大ゴミのように、そのあたりを漂っていた。

 

 

 

 

 

そんな中、一つのプラントが、あり得ない周期を辿り、地球へと向かい始めた。

 

 

 

名は、ユニウスセブン。

 

 

 

先の大戦で犠牲となった、多くの人々の墓標である。

 

 

 

「サトー隊長! 進路、確保いたしました!!」

 

 

 

「ならば、ゆけ!! 我らの思いを、この欺瞞に満ちた世界に知らしめるのだ!!! 我らの妻と娘の墓標を、地球へ!!!!」

 

 

 

MSジンの改修型のコクピット内から発せられた檄に、参加している全てのMSジンが、重斬刀を抜き放ち、胸の前に騎士が誓いをするように構える。

 

 

 

彼らの思いは一つであった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

戦いを終え、帰還したシュバルツを迎えたのは、カガリとアスランだった。

 

 

 

「シュバルツ!! 大丈夫か、怪我は!?」

 

 

 

「していない。それより、すまなかったな。敵を逃がしてしまった」

 

 

 

「何を言ってるんだ、お前は。あの状況でこちらが落とされなかったのは、お前のおかげだぞ? 本当にありがとう、シュバルツ」

 

 

 

怪我がないことに安心したカガリだが、シュバルツの物言いに少しまなじりを吊り上げる。

 

 

 

「あの状況では仕方ないとはいえ、シュバルツさん? 少し、やり過ぎたみたいですね?」

 

 

 

見れば、アレックスことアスランが、どうしたものか、と苦笑を浮かべていた。

 

 

 

「やり過ぎた?」

 

 

 

皆目見当がつかない、という表情のシュバルツだが、アスランは、周りを目で見やる。

 

 

 

それにつられて、シュバルツも周りを確認すると、皆、目を皿のようにして、こちらを向いていた。

 

 

 

(はて? そんなに注目されなければならない何かをやらかしたのか、私は? 待てよーー)

 

 

 

改めて考えてみれば、民間人である自分が、軍の機体を借りておいて、明らかに一方的に打ち負かされ、何もできなかった役立たずである今の状況を考え、シュバルツも覆面の下で脂汗を流し始めた。

 

 

 

「確かに、機体を借りておいて中破させ、挙句に敵に一矢報いることもできなかった…。言い訳もできんか」

 

 

 

ーー 誰が、そんなこと、言うかー!!? ーー

 

 

 

この場にいた全ての人間が、シュバルツに総ツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

そんな騒ぎを二階から見下ろしながら、ギルバートはタリアに話しかけた。

 

「あのシュバルツという男、どう見る? タリア」

 

 

 

「彼のことですか? どう考えても普通ではありませんね。敵のMSもですが、ザクであそこまで対処できる腕。ナチュラルはおろか、コーディネイターさえも反応できない動きです。おそらく、ザクでなく正体不明の彼のMSであったならーー」

 

 

 

「しかし、彼のような凄腕のMS乗りの話は聞いたことがない。それに例の機体。あちらの三機もだが、彼の機体も、我々の知る技術体系とは違いすぎる」

 

 

 

「何が仰りたいのですか、議長?」

 

 

 

「彼らは、何処から来たのだろう、とね」

 

 

 

意味深に笑うデュランダルに、タリアは訝しげな視線をやるしかなかった。

 

 

 

その時、副官のアーサーから、緊急通信が入る。

 

 

 

「どうした、タリア?」

 

 

 

「議長、まだプラントには帰れそうもありません」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

首をひねるギルバートの目を見据え、タリアは言った。

 

 

 

「ユニウスセブンが、軌道をずらし地球へと向かっています」

 

 

 

その言葉に、ギルバートの表情が重々しいものに変わる。

 

 

 

「タリア、この船はーー」

 

 

 

「ジュール隊が既に破砕作業の任務を受け、宙域に待機しています。本艦にも協力要請がありました、向かいます。よろしいですね?」

 

 

 

「ーーああ、よろしく頼むよ、タリア」

 

 

 

有無を言わさない口調の問いかけに、苦笑しながら、ギルバートは返す。

 

 

 

タリアはそれを確認すると、彼に背を向け、ブリッジに向かう。

 

 

 

彼女は背を向けていたため、ギルバート・デュランダルが冷酷な笑みを浮かべていたのを気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

MSデッキでは、シュバルツとカガリ、アレックスを取り巻く人々で溢れていた。

 

 

 

主に彼らの注目はオーブの代表でも先の大戦のエースでもなく、ザクを駆りアンノウンと戦った忍者に対してのものだったがーー。

 

 

 

「私、ルナマリア・ホークって言います!! あなた、凄いですね! ザクであんなことができるなんて!! どうやったんですか!?」

 

 

 

「レイ・ザ・バレルです。よろしければ、先の動きをご指導願いたいのですがーー」

 

 

 

「俺、シン・アスカって言います! あのとんでもない奴を相手に引き分けたんですよね!? あなたの技、教えてください!! 俺、もっと強くなりたいんです!!!」

 

 

 

「ずるいぞ、お前ら!! すみません、俺のゲイツでも、あんな動きできますか!?」

 

 

 

MS乗り達に詰め寄られ、その場を動くことができないシュバルツは、両手で彼らを制しながら、苦笑を浮かべていた。

 

 

 

「動きも何も、私は奴らに一矢報いることもできていないよ、君たちの期待に応えられそうもーー」

 

 

 

「あなた、あのガンダムのパイロットなんですよね!?」

 

 

 

断ろうとしたシュバルツに、挑むような赤い瞳が正面から見据えてくる。

 

 

 

「あなたの本来のガンダムなら、奴らを相手にしても負けないんじゃないですか?」

 

 

 

何故だろう、シュバルツはその真っ直ぐな赤い瞳が懐かしく思えた。

 

 

 

強さを求め、必死に、がむしゃらになる。

 

 

 

かつての自分の弟が、彼に重なったのだ。

 

 

 

「やめろ!」

 

 

 

横から、アレックスが割り込んできた。自分を庇うようにシンの前に出る。

 

 

 

明らかにシンの顔が不快そうに歪んだ。

 

 

 

「またアンタか!」

 

 

 

「君が、どういうつもりで、シュバルツ氏に詰め寄っているかは知らないが、彼はあくまでオーブの人間だ! ザフトじゃない!!」

 

 

 

「オーブの人間だから、自分の国に関係ないところじゃ、実力隠して、人様のMS使ってもいいって言うんですか!?とんだ綺麗事だな」

 

 

 

「彼の力を見たなら、わかるだろ? 彼の力を悪用する輩も出てくる。正直にいうが、最初は俺も彼が戦域に出るのは、反対だった」

 

 

 

「ーーな!?」

 

 

 

アレックスの言葉を受け、シンの瞳に怒りが燃え上がる。

 

 

 

「オーブってのは、理念だけ立派で、その為なら、何処が何しようと関係ない、っていうのかよ?」

 

 

 

「ーーアスラン、お前!!」

 

 

 

流石のカガリも言い過ぎだと、制しようとするが、アレックスは止まらない。

 

 

 

「シュバルツ氏の実力は、1人でザフトの最新型三機を行動不能にできる。それも一瞬でだ。君は、現実に見ているし、この場にいる者も皆、映像で確認したんだろう。

 

その動きを見て、君はどう思う? 味方なら頼もしい、だが敵なら無視できないだろう。詰まる所、彼の力を利用したがるのは、ザフトや連合、オーブに関係なく出てくる。彼の力を求めて、軍を動かす可能性もある。

 

迂闊な真似はできない!!」

 

 

 

今の平和は、あくまでシャボン玉のようなものだ。

 

 

 

少しの刺激を与えれば、いつでも割れ、戦争が起こる。

 

 

 

アレックスは、そのことを危惧していた。

 

 

 

「だからって、今、目の前で起きてる戦場にあんたは、何も思わないのか!?」

 

 

 

「敵の正体がわからない以上、迂闊な動きは、争いの火種を大きくするだけだ!!」

 

 

 

互いに譲らない主張。

 

 

 

目の前の戦場か、大戦を起こさない為の未来か。

 

 

 

どちらが正しいとは、一概には言えない。

 

 

 

逆に言えば、シュバルツの実力は、この論争が起きる程に高い。

 

 

 

たとえば、シュバルツやマスターアジアの実力が、此処にいる最新型の機体でもどうにかできる程度ならば、これ程までにアスランも反対しない。

 

 

 

しかし、違うのだ。

 

 

 

シュバルツは、その実力も搭乗する機体も、全てが規格外なのである。

 

 

 

彼等の力が強いのならば、連合にせよ、ザフトにせよ、オーブにせよ。排除するか、取り込むかしかない。

 

 

 

それが世の常であることをアスランは、先の大戦で思い知らされていたのだ。

 

 

 

他ならぬ、自分の親友がそうだったのだから。

 

 

 

にらみ合う二人の間に静かに、シュバルツが割って入った。

 

 

 

「すまないな、アレックス。気遣い感謝する。しかし、私もまた、ここへ来たのには理由があるのだ」

 

 

 

「シュバルツさん…」

 

 

 

優しく、温かな声が、アスランをゆるりと制した。

 

 

 

「シン君と言ったか。君のような若さで確固たる意志を持つのは素晴らしい。だが何故、力が欲しい?」

 

 

 

シュバルツの深い瞳を見据えながら、シンは挑むように告げた。

 

 

 

「もう二度と、目の前で大切な人が奪われないように。人々を守るために、俺は!!」

 

 

 

その瞳にあるのは、激情を示さなければ今にも泣いてしまいそうな、深い悲しみーー。

 

 

 

シュバルツは静かにその目を見据えた。すると横からアスランが叫ぶ。

 

 

 

「ーー戦争は、ヒーローごっこじゃない!!」

 

 

 

「おい、アスランーー!」

 

 

 

言葉の途中でアレックスがシンに告げる。シンもまた、アレックスを睨みつける。

 

 

 

それを咄嗟にシュバルツが遮った。

 

 

 

「シン君。怒る前に、アレックスの言葉の意味を考えてみないか?」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

穏やかな口調で、シュバルツはシンに語る。

 

 

 

「戦争は、確かに多くの犠牲を払う。君はカガリに言ったな? 戦争で家族を亡くした、と。ならば君のように、それを止める力を求めるのは、当たり前だ。だがーーその思いは君だけが持つものかな? 君と共に戦う者は、どうだ?」

 

 

 

「ルナやレイも、戦争を止めれるなら、って理由ですよ。俺と同じです」

 

 

 

その言葉に、シンは左右にいるレイやルナマリアを見る。

 

 

 

「シンの言うとおりです、シュバルツ殿」

 

 

 

「私も、家族のためだしね」

 

 

 

彼らもまた、はっきりとシュバルツの目を見て答える。そんな少年達に満足そうにシュバルツは、頷いた。

 

 

 

「その歳で、誰かの為に戦う。その意志はとても尊い。しかし、君たちは理解しているかな?」

 

 

 

「何をですか?」

 

 

 

「君たちが討とうとしている者たちにも、同じように守るものがあるということを」

 

 

 

「そんなことーー。父さんや母さん、マユをーー。あんなことをする奴らに、そんなものがあるわけーー。

 

だいたい、じゃあどうしろって言うんです!?

 

大人しくやられろ、って言うんですか!? 力を求めるのは、間違いだって!?」

 

 

 

真っ直ぐに問いかけてくるシンにシュバルツは厳しい目を向けた。

 

 

 

「シン・アスカーー。お前は、何と戦う?」

 

 

 

「戦争を引き起こす奴等ですよ! 民間人を平然と犠牲にする、そんな奴らを俺はーー!?」

 

 

 

「馬鹿者!! お前が戦うものは、そんな悪逆非道な人間ばかりではないはずだ!!憎しみは、憎しみを呼び、今度はお前が奪う側になる!! その覚悟はあるか!?」

 

 

 

「……!?」

 

 

 

シュバルツの叱責に、思わず言葉を詰まらせるシン。

 

 

 

それを見てとると、シュバルツは元の調子に口調を落とした。

 

 

 

「戦争とは、そういうものだ。多くの人の血でその手を染め、相入れぬ正義を貫き、命をかけ、戦う。勝てば正義と称えられ、負ければ謗られる」

 

 

 

「でも、だけど…!!」

 

 

 

歯を食いしばりながら、反論しようとするシンに、シュバルツはマスクの中の瞳を緩めた。

 

 

 

「君は真っ直ぐな男だな、シン。私の弟も君と同じように、真っ直ぐなヤツでね。目先のことにとらわれ、よく本当に大切なモノを見失う」

 

 

 

「今の、俺には、本当に大切なものが見えてないって言うんですか?」

 

 

 

気づけば、周りからの声は一切消えていた。

 

 

 

ここにいる全ての人間が、この会話に飲まれている。

 

 

 

戦争の非条理、理不尽を説くシュバルツ。

 

 

 

戦争による犠牲から目の前の人々を救いたいシン。

 

 

 

どちらの言葉も、正しいのだ。

 

 

 

シュバルツの言葉は、まさしく現実である。またシンの想いも、人として、正しい。

 

 

 

だからこそーーシュバルツは、厳しくシンを見据えた。

 

 

 

「その答えは、アレックスのヒーローごっこじゃない、と言う言葉に繋がるのだ」

 

 

 

「敵も、守りたいモノの為にーー?」

 

 

 

「ああ、そうだ。そう言いたかったのだろう、アレックス?」

 

 

 

シュバルツは、肩越しに振り返り、アスランを見る。アスランは、一瞬、惚けていたようにしながらも、ハッと気づくと、ぎこちなく頷いた。

 

 

 

その様を苦笑しながら、シュバルツは見つめる

 

 

 

「まったく、お前も不器用な男だな、アレックス。経験していたからこそ、否定したのではないか? お前もシンと同じことを」

 

 

 

その言葉に、シンも周りの者も、思わずアスランを見据えた。当のアスランは、真剣な表情でシュバルツを一度見ると、苦笑を浮かべて返す。

 

 

 

「自覚はあるが、治せないんですよ」

 

 

 

アスランは内心、シュバルツの洞察力に舌を巻いていた。自分が何故あそこまでシンに食いついたかを彼は理解している。

 

 

 

アスラン・ザラもまた、先の大戦で母を失い、ザフトに入隊した過去があるのだ。

 

 

 

以前の自分は、連合こそが戦火を広げ、人々を滅ぼす悪だと、、、

 

 

 

連合を倒せば、母のような犠牲がなくなると、、、

 

 

 

正しく今のシンと同じ考えを持っていたのだ。

 

 

 

そして、打ちのめされたーー。

 

 

 

戦争という、理不尽にして圧倒的な力でーー。

 

 

 

過去に思いを馳せるのを止め、自分の傷を見抜いた目の前の男を見据える。

 

 

 

ーーこの人は、信用できる。

 

 

 

アスランは、たった一瞬で自分を見透かしたシュバルツに対し、そのような気持ちを抱いた。

 

 

 

「シュバルツさん、色々話を聞いていただけませんか?」

 

 

 

「ーー私でよければ、喜んで」

 

 

 

アスランの言葉に、シュバルツは快諾した。それに安心しながら、どこか弱々しい笑みをアスランは浮かべた。

 

 

 

「ーー情けない話なんですが、色々聞いてください」

 

 

 

「ふふ、情けなくない人間など、どこにもいない。私でできることならば、喜んで力を貸そう」

 

 

 

そう笑いあう二人と、それを寂しげに見やるカガリ。

 

 

 

自分では、アスランの傷を癒せなかったと、彼女は微かに悲しそうに目を伏せた。

 

 

 

その場を去ろうと足を踏み出す3人に、シンは声をかけた。

 

 

 

「シュバルツさん! 俺たちと一緒に来てくれませんか!?」

 

 

 

「ーー何?」

 

 

 

振り返るとシンは、ジッとシュバルツを見据えていた。その目には強い意志がある。

 

 

 

気高く、汚されてはならない、純粋な意志がーー。

 

 

 

「教えて欲しいんです! 俺が本当に守りたいモノを守る為に!! あなたの戦いをそばで見たいんです!! そうすれば、俺はもっと強くなれる気がするんです!!!」

 

 

 

シュバルツも、その目から逸らさない。

 

 

 

「いいだろうーー。私もまた、東方不敗マスターアジアとの決着をつけねばならん。それに、ザフトに入隊すれば私の探っている案件にも繋がるかもしれんからな。

 

カガリ姫の護衛の任が終われば、お前たちに合流しよう」

 

 

 

「ーー!! シュバルツ殿!?」

 

 

 

「シュバルツさんーー!?」

 

 

 

この言葉に、驚いたのは、カガリとアスランだった。シュバルツは二人に向き直り、言う

 

 

 

「元々は、ザフトに近づく為にこの護衛を引き受けたのだ。私もまた、調べねばならんことがある。もし、アレが誰かの手に渡っているのなら、手遅れになる前に破壊せねばならんのだ」

 

 

 

強い意志を宿したその目は、何かを覚悟している者の目だった。

 

 

 

その目は、アスランにもカガリにも、何かを訴えてくる。

 

 

 

(俺は、このままで、いいのか? 彼らのように、自分にもできることは、ないのか?)

 

 

 

アスランは、シンやシュバルツの目を見ながら、自分に自問自答をはじめた。

 

 

 

「では、シン。私達はそろそろ失礼させて貰おう。アレックス、話は部屋に戻ってからで良いかな?」

 

 

 

「あ、はい!」

 

 

 

「あ、ああ!」

 

 

 

二人を促しながら、シュバルツはその場を後にしようとした。

 

 

 

その時だったーー。

 

 

 

『ーー管内連絡です。本艦はこれより、作戦行動に移ります。各モビルスーツ搭乗員は、ミーティングルームへ。繰り返しますーー。各モビルスーツ搭乗員は、ミーティングルームへーー』

 

 

 

メイリンの声で流れる管内連絡を聞き、シン達の表情が強張る。

 

 

 

「また、作戦行動なのかーー?」

 

 

 

「ゆっくり休んでもいられないじゃない」

 

 

 

愚痴る二人を背にレイが敬礼しながら、カガリ達に告げる。

 

 

 

「申し訳ありません、カガリ代表。本艦はまだーー」

 

 

 

「構わない、どうやら抜き差しならない事が起きているみたいだな」

 

 

 

カガリの目が鋭く周りを観察する。

 

 

 

するとそこには、笑みを浮かべて立っているギルバート・デュランダルがいた。

 

 

 

「レイ、君はミーティングルームへ。カガリ姫には、私から説明する」

 

 

 

「ーーはっ!」

 

 

 

敬礼し、その場を離れるレイ。シン達もレイに合わせて敬礼をすると、ミーティングルームへ走っていった。

 

 

 

「なあ、パイロットも大変だけどよ?」

 

 

 

「また、整備しないといけない訳だよな」

 

 

 

整備班達の嘆きの声が漏れている、それをBGMに、ギルバート議長は、淡々と現状を説明してくれた。

 

 

 

先の大戦で破壊され、多くの犠牲を強いたプラント『ユニウスセブン』。その巨大なコロニーが、地球へ向けて接近しているというものだった。

 

 

 

「これよりミネルバ隊は、ユニウスセブンの破砕作業を支援に向かいます。姫にあっては申し訳ございません、未だ帰すことができずーー」

 

 

 

「いや、気にしないでくれ。この問題は、私達にとっても一大事だ」

 

 

 

カガリの瞳も鋭くなる。

 

 

 

「地球に人が住めなくなるぞーー」

 

 

 

アスランが議長に詰め寄る

 

 

 

「モビルスーツの空きはありませんか? 俺も手伝います」

 

 

 

「そうか、君ならば任せられるな。艦長から聞いているんだが、予備のモビルスーツなら、そちらのゲイツがあるらしい。ザクの方は壊れてしまったからね」

 

 

 

「お心遣い、感謝します」

 

 

 

頭を下げるアスラン。

 

腕を組み、シュバルツが一歩前に出る

 

 

 

「話は決まったな、地球の一大事とあればガンダムを使うしかあるまい」

 

 

 

「よろしく頼むよ、ネオドイツのガンダムファイター」

 

 

 

「ーーーー。承知した」

 

 

 

ネオドイツのファイター。

 

 

 

確かに今、デュランダルは自分をそう呼んだ。

 

 

 

ザフトと合流していらい、一度も名乗らなかった自身のことを、デュランダルは知っている。

 

 

 

それが、意味するのはーーーー。

 

 

 

デュランダルの言葉に鋭い目を向けるシュバルツ。

 

それを淡々と笑みを浮かべて、受け流すデュランダル。

 

両者にはまるで、宿敵のような空気が流れていた。

 

 

 

「アレックスくん、シュバルツ殿、カガリ姫も。ミーティングルームへ行きましょう。作戦の説明を行いますのでーー」

 

 

 

こうして、シュバルツとアスランは、ユニウスセブン破砕作戦に参加するのだったーー。

 

 

 

 




みなさん、お待ちかねー!

地球に落とされようとするユニウスセブンの破砕作戦を行うシュバルツ達。

しかし、彼らを邪魔するものが現れ、攻撃を仕掛けてくるのです!

更に、ユニウスセブンはあの悪魔へと姿を変えるではありませんか!?

次回機動武闘伝GガンダムSEED-DESTINY第8話に、レディー、ゴー!!


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第8話 覚醒 シュバルツ新たな必殺技 

さて、皆さん。

我らがシュバルツ・ブルーダーの闘いはますます激しくなっていきます。

本日の対戦相手は、ザフト脱走兵と呼ばれる過激派テロリスト!

既に過去の大戦で獄中にいるはずの者たちが、巨大なコロニー、ユニウスセブンを地球に落そうとしているのです。

はたして、シュバルツやミネルバ隊、アレックス・ディノことアスラン・ザラは、彼らの陰謀を止めることができるのでしょうか!?


それでは、ガンダムファイト!!

レディー、ゴー!!!!



L4宙域において、ザフト巡洋艦ーーボルテール。

 

 

 

その艦には、先の大戦で死線を潜り抜けた戦士が二人いた。

 

 

 

1人は、三隻同盟に付いた褐色の肌と金色の髪の青年ディアッカ・エルスマン。

 

 

 

もう1人は、最後までザフトに所属しながら、三隻同盟と最終決戦にて手を結び、戦果をあげた銀色の髪とアイスブルーの瞳を持つイザーク・ジュールだ。

 

 

 

どちらも、キラ・ヤマト、アスラン・ザラに匹敵する腕を持つとされている歴戦の勇者だが、年齢はまだ10代である。

 

 

 

彼らのモニターの前には、巨大な質量が映し出されていた。

 

 

 

「でかいね、ホントに。こいつを、砕けって?」

 

 

 

ディアッカが、口調は軽いものの、眉根を寄せ、苦虫を噛み潰したかのような顔で、上官となった同僚イザークを見据える。

 

 

 

イザークも、端正な顔立ちに似合わない鋭い瞳で、ユニウスセブンを睨みつけていた。

 

 

 

「こんなん、俺たちだけでやれって? 無理だろ、流石に」

 

 

 

反応の無い、イザークに体ごと振り返り、主張すると、イザークもディアッカを見返してきた。

 

 

 

「分かっている。今、この近くにいたミネルバ隊のタリア・グラディス艦長に応援を要請した。後2時間程度でこちらに合流できるそうだ」

 

 

 

「制限時間は約3時間、ほとんどキワキワだな。グレイトな作戦だぜ!」

 

 

 

「ディアッカ! 破砕作業は貴様が指揮を取れ。俺は、この宙域に不審なものがいないか、艦に残り索敵を行う」

 

 

 

「はいはい、人使いの荒い上司だぜ」

 

 

 

そう言いながら、飄々とした態度でデッキを去るディアッカ。 彼を見送ると、イザークはモニターのユニウスセブンにもう一度目をやった。

 

 

 

( ユニウスセブンーー。

 

地球に堕ちるはずのない軌道を描いていたこのプラントが、地球に堕ちる。

 

何処かの馬鹿の仕業か、運命のいたずらか知らんが、新たな戦争の火種になるには充分な質量だ)

 

 

 

「俺たちが破壊せねば、またもナチュラルとコーディネーターとの戦争が始まる。ニコルを犠牲にして得た平和をまたしても、壊すことになる。

 

そんなことは、させんぞーー!」

 

 

 

ユニウスセブンの中にいる、多くの犠牲者の遺体を思いながら、イザークは黙祷の代わりに胸に拳を当て、平和を維持することを約束するのだった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ザクやゲイツの編隊を組みながら、プラントを細かく砕くための装置『メテオブレイカー』を受け取る。

 

 

 

「さあて、とっとと終わらせようじゃない! こんな任務はさ!!」

 

 

 

殊更、明るく言いながら、ディアッカは予定ポイントを確認し、手早く設置するよう指示していく。

 

 

 

持たされているメテオブレイカーの数は30。

 

 

 

これらを全て、予定ポイントに付けて砕いたとしても、地球への被害は避けられない。

 

 

 

それでも、被害を最小限には抑えられる。

 

 

 

何も邪魔が入らなければーーだが。長距離狙撃ビーム兵器『オルトロス』を携帯しながら、ディアッカは辺りに気を配る。

 

 

 

そのディアッカの予感が的中した。

 

 

 

「熱源反応ーー、MSか!?」

 

 

 

瞬間、目の前でゲイツが二機、爆発した。舌打ちしながら、モニターにて機影を確認すると、ザフト製の機体であることが、一目でわかった。

 

 

 

先の大戦でザフトの主力MSであったジンがそこにいたのだ。

 

 

 

「やはり、ナチュラルへの復讐を考えた過激派の仕業かよ!!」

 

 

 

「エルスマンさん、どうしますか!?」

 

 

 

「決まってんだろ、迎撃だ!! メテオブレイカー隊は、そのまま、作業を続けろ!! 各員は、テロリスト共に、作業の邪魔をさせるなよ!!」

 

 

 

言うと、ザクのバーニアを添加させ、携帯していた狙撃ライフルを構える。

 

 

 

「ディアッカ・エルスマン! ガナー・ザク・ウォーリア、行くぜ!!」

 

 

 

赤いビームが、目の前でライフルを構えるジン二機をつら抜いた。

 

 

 

同時に、左右からジンが二機、高速で実体剣を構えながら、切りつけてくる。

 

 

 

「ただのジンじゃない、改修されてやがる!!」

 

 

 

紙一重で見切り、交差する三機。

 

 

 

ディアッカの正面に、角のあるジンが、ビームライフルを構えていた。

 

 

 

「ーーしま!?」

 

 

 

緑色のビームが放たれ、ディアッカのザクを襲う。衝撃に備えるディアッカだが、ビームはザクの前方で、ビームグレイブによって払われた。

 

 

 

「!! イザーク!!」

 

 

 

「貴様がいて、この体たらくとはな。情けないぞ、ディアッカ!」

 

 

 

「言ってくれるぜ!!」

 

 

 

スラッシュ・ザク・ファントムーー。青白い塗装の機体であり、その手にあるのは、先の大戦で猛威をふるった連合のMS、ストライクガンダムの対艦刀『シュベルトゲーベル』を参考にして作られた、長柄の武器ビームグレイブがある。

 

 

 

更に切りかかってくる二機に、横薙ぎを見舞い、真っ二つにしてしまうイザーク。

 

 

 

接近戦のイザークと狙撃のディアッカのコンビは、次々とジンを蹴散らす。

 

 

 

しかし、目の前の2人が強いことがわかるや否や、敵MSは、メテオブレイカーの作業員達を攻撃し始めた。

 

 

 

メテオブレイカーは、ジンの攻撃で設置面からズレたり、破壊されてしまう。

 

 

 

「くそーー! これ以上はやらせん!!」

 

 

 

「何故、邪魔をする? 偽りの平和で、何故笑う!? 貴様らは!?」

 

 

 

「偽りだとーー?」

 

 

 

ジンの隊長機の通信に、イザークの眦が吊り上がった。

 

 

 

「貴様が何故、こんな真似をしたのか。何を考えているのかなど、どうでも良い。だがな、あの大戦で俺は掛け替えの無い同僚を失った。

 

その犠牲を無駄にする行為は、断じて許さん!!」

 

 

 

イザークの頭に浮かぶのは、ピアノが好きで、誰よりも平和を願った少年だった。

 

 

 

「馬鹿めーー!! 掛け替えの無い同僚を奪われたのならば、何故討たない!! 我々コーディネーターは、ナチュラルがいる限り平和など無いのだ!!!」

 

 

 

「貴様の勝手な理屈だろうが! 聞く気のない言葉など吐くだけ無意味だ!!」

 

 

 

「ヒヨッコ風情が!!」

 

 

 

互いに剣とブレイドをぶつけ合う。

 

 

 

高速での移動からの斬り合いが始まった。両者の斬り合いは、周りが手を出せ無いほどに早い。

 

 

 

しかし、そんな中で、イザークのザクは、ジンの隊長機を詰め将棋のように、次々と追い詰めていく。

 

 

 

「馬鹿なーー!? お前のようなヒヨッコに、この俺が!?」

 

 

 

「散々、ヒヨッコ呼ばわりしてくれるがな、貴様の動きなど、ストライクやフリーダムに比べたら止まって見えるんだよ!!」

 

 

 

先の大戦で自身を何度も苦しめたキラ・ヤマトの乗機。

 

 

 

アレに比べたら、余りにも力不足だった。

 

 

 

見る間に左肩、右足を切り落とされるジン。

 

 

 

「おのれ!!」

 

 

 

ジンが振りかぶり、剣を袈裟懸けに切り込む。同時にイザークもザクのビームグレイブを振り下ろした。

 

 

 

一方的にジンの実体剣が切られ、ザクはくるりと回転して胴薙ぎを放つ。

 

 

 

咄嗟にバーニアをふかし、バックステップの要領で後退するジンだが、右手に咄嗟に構えたビームライフルを切り落とされてしまう。

 

 

 

「ーーなんだと!?」

 

 

 

「これで、終わりだぁ!!」

 

 

 

大上段に構え、とどめを刺そうとするイザーク。

 

 

 

その背後から、一機のジンが剣を脇に構えて、突貫してきた。

 

 

 

「サトー隊長!!」

 

 

 

「ーーチッ!」

 

 

 

舌打ちし、咄嗟にスラッシュザクを軽く一歩分脇によけると、それまでザクが立っていた胴の辺りの空間に体ごとジンが体当たりしてきた。

 

 

 

「邪魔だぁ!!」

 

 

 

長柄をクルクル回転させながら、遠心力たっぷりの一撃を放つ。

 

 

 

見事にジンは、首を跳ね上げられ、爆発した。

 

 

 

だが、その間に隊長機であるサトーが、後退する。

 

 

 

「逃がすものか、テロリストが!!」

 

 

 

「俺は、まだ、くたばる訳には、いかんのだ!! 妻と娘の墓碑をナチュラル共に堕として、その苦しみを分からせるまでは!!?」

 

 

 

バーニアを吹かしながら、メテオブレイカーに向かうサトー。

 

 

 

「やらせるかあー!!」

 

 

 

ビームグレイブを構えながら、必死に食い下がるイザーク。

 

 

 

「悪魔に魂を売ってでも構わない!! このプラントは、必ず地球へーー!!」

 

 

 

ーーーー よかろう。

 

 

 

その時、ジンのコクピットの中では、異常なことが起きていた。

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

サトーの耳に幻聴が届いたのだ、それは、幻聴だったはずだ。

 

 

 

何故なら、コクピットには、サトーしかいないのだ、なのに、肉声が聞こえたのだから。

 

 

 

サトーは、分からず、震え始めた。

 

 

 

「なんだ? 何がーー!?」

 

 

 

ーー貴様が呼んだのだ、悪魔(オレ)をなーー

 

 

 

「なん、だとーーーー?」

 

 

 

「喜ぶがいいーー、貴様の肉体と魂を我が一部としてやろうーー」

 

 

 

その声が、耳元に聞こえたその時、サトーの足から一気に冷たい何かが、頭にまで這い上がってくる。

 

 

 

自分の体の感覚が無くなっていく。

 

 

 

知らない記憶が、知らない言葉が、次々と流れてきてーー。

 

 

 

そして、その時にサトーは、人をやめたのだった。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

動きを止めたジンに、スラッシュザクが追い付く。

 

 

 

「観念したか!?」

 

 

 

ビームグレイブを構えてスラッシュザクが、その背後からオルトロスを構えたザクウォリアーが、ジンを狙っていた。

 

 

 

「観念したかーー、 だと?」

 

 

 

通信から聞こえる声は、先ほどまでとちがい、どこか落ち着いた声をしていた。

 

 

 

「観念するのは、貴様らだ。ヒヨッコども、その力をデビルガンダムに捧げろーー」

 

 

 

「何を!?」

 

 

 

「イザーク!?」

 

 

 

サトーの言葉に、疑問を投げようとしたイザークに、ディアッカが焦った声を上げる。

 

 

 

見れば、イザークのスラッシュザクに切られた部分から緑色のコードが伸び、ウネウネと触手の様に動いたかと思えば、其処から切られたはずの腕が、足が、胴体が、再生したのだ。

 

 

 

まるで、ビデオの逆再生を見るかの様に、新品のような輝きを放ちながら、ジンは蘇った。

 

 

 

「なんだとーー!? 何だ、これは!?」

 

 

 

「イザーク、そいつだけじゃないーー!!」

 

 

 

「何ーー!?」

 

 

 

見れば、メテオブレイカーを設置し終えた部隊にも緑色のコードが巻き付いていた。

 

 

 

そのコードは、ユニウスセブンの地表を割って伸びている。

 

 

 

まるで、生き物のように。

 

 

 

「おい、イザーク! これはヤバイぜ!?」

 

 

 

見れば、破壊されたはずのゲイツやザク、ジンが瞬く間に触手によって再生されていく。

 

 

 

「ディアッカ、再生された俺の部下たちはーー」

 

 

 

「甘い期待はやめとこうぜ、どう考えても、まともじゃない!! このユニウスセブンは!!?」

 

 

 

オルトロスを構え、再生されたばかりのザクやジンを撃つ。

 

 

 

軽々とMSを2、3機貫いてくれるビームだが、ジンもザクも爆発せずにその場に残り、こちらを見据える。

 

 

 

開いた穴からは無数の緑色の触手が伸び瞬く間に再生した。

 

 

 

「ーーこりゃ、ヤバイよな?」

 

 

 

「一体、何なんだ! コレは!!」

 

 

 

メテオブレイカーを設置するどころではない事態に巻き込まれ、イザークとディアッカは、再生されたジンやゲイツやザク、更には触手を相手に戦わねばならなくなった。

 

 

 

「ジュール隊長!!」

 

 

 

まだ無事な部下たちは、イザークを庇おうと、前に出ようとする。

 

 

 

イザークは、それを制した。

 

 

 

「貴様らは、一旦ボルテールへ引け!! 此処は俺とディアッカが殿を務める!!」

 

 

 

「マジカヨ……!」

 

 

 

冷たい汗を額に浮かべながら、ディアッカは、目の前の人でなくなった者たちを見据える。

 

 

 

一瞬ーー、ユニウスセブンに赤いデュアルアイが見えたような気がした。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ボルテールに帰還したザクやゲイツ。

 

 

 

MSデッキから、一気にブリッジに走りこむパイロット達。

 

 

 

「ジュール隊長は!?」

 

 

 

「まだ、戦っておられる。本艦は、すぐにこの宙域を離れろとの指令だ」

 

 

 

「そんなーー!? 隊長もエルスマンさんも、機体のエネルギーが!!」

 

 

 

「分かっているーー。我々もお二人を援護したいが、正直に言って、足手まといにしかならない」

 

 

 

「ザクをーー、出撃します!!」

 

 

 

1人が、もう一度デッキに走ろうとするのを副官が止めた。

 

 

 

「やめろ!! ジュール隊長のご意思を、無駄にするな!!!」

 

 

 

「ーーっ!?」

 

 

 

「信じるんだ、あの人達を!! あんな化け物に、我々のジュール隊長やエルスマン殿が負けるわけがないんだ!! ミネルバと一刻も早く合流し、ジュール隊長の援護に向かうんだ!!」

 

 

 

「でも、それまでザクのエネルギーは、持ちません!!」

 

 

 

「ーー機関全速、この宙域を離脱し、ミネルバ隊と合流する!!」

 

 

 

「副長!!!」

 

 

 

なおも、聞き分けのないパイロットの1人に、彼らの2倍生きている副官は、睨みつけた。

 

 

 

「いいか、若僧どもーー。俺なんかより、はるかに若い隊長やエルスマン殿が命かけて、俺達を守るために戦ってるんだ。何も感じない人間なんぞいるわけないだろう!!

 

だがな!! お前らは犬死にさせるつもりか、あの人達を!!? それだけは、絶対に許さんぞ!!」

 

 

 

普段は寡黙な副官の、凄まじい迫力に、少年パイロット達は、何も言えなくなった。

 

 

 

「お前ら、パイロットだけが悔しいと思うなーー。この船の皆、ジュール隊長のお力になれんことが、悔しいのだ。急ぎ、合流に向かえ!!」

 

 

 

ボルテールは、一気にミネルバ隊への進路を取り、航行を始めた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ボルテールから送られてきた映像と救援要請は、ミネルバ隊に、衝撃と恐怖を与えていた。

 

 

 

誰もが、ミーティングルームのモニターから、目を離せない。

 

 

 

おそらく、同時にこの映像を見ているブリッジの反応も同じだろう。

 

 

 

「何なんだよ、これはーー!?」

 

 

 

シンの言葉は、端的に皆の心情を言い表していた。

 

 

 

まるで、悪夢だーー。

 

 

 

倒されたはずの敵が、MSがまるで生きてる物であるかのように再生する。

 

 

 

先ほどまで味方であったものが、ジュール隊に攻撃を仕掛けてくる。

 

 

 

腹を貫かれようが、首を跳ね上げられようが、直ぐに再生して、攻撃を仕掛けてくる。

 

 

 

ユニウスセブンの巨大な地表が割れ、そこから、無数の緑色のコードが触手のように蠢きながら、ジュール隊を取り込もうと襲ってくる。

 

 

 

 

 

取り込まれれば、化け物にされ、かつての仲間を攻撃しにくる。

 

 

 

誰が見ても分かる。

 

 

 

これは、あってはならないものだ、と。

 

 

 

言葉もないミーティングルームへ、デュランダルがカガリ達を連れて現れた。

 

 

 

「遅れてすまない、タリア。姫の護衛であるアレックス殿とシュバルツ殿も、今回の作戦に参加してくれることになってね」

 

 

 

作戦会議に遅れたことへの謝罪と説明をするデュランダルだが、この場にいる誰一人ーーレイでさえ、彼に気づいていない。

 

 

 

ただ、棒立ちになって、モニターに目を向けていた。

 

 

 

それは、後から来たカガリやアスランも例外ではない。皆、同じように表情を固くし、恐怖に襲われていた。

 

 

 

「ーー化け物だ」

 

 

 

誰かのその言葉に、皆が頷く。

 

 

 

悪夢だーー、イザーク・ジュールやディアッカ・エルスマンは殿を買ったらしいが、これでは、間に合わないーー。

 

 

 

それほどまでに、絶望的だ。

 

 

 

「艦長ーー、今回の出撃は、私だけにしていただきたい」

 

 

 

「なんですってーー?」

 

 

 

覆面の男の全身から凄まじい気が放たれている。

 

 

 

そして覆面の奥にある目はーーそれは、戦う覚悟を決めた男の目だった。

 

 

 

「勝算は? 私たちにできることは、何かない?」

 

 

 

タリアとて、このまま、手をこまねいているわけにはいかない。

 

 

 

勝てる作戦を出さなければならない。

 

 

 

もし、アレが地球に降りたら、どうなるかーー。

 

 

 

この場にいる誰もが、そこに想像が至った。

 

 

 

「ならば、周辺の雑魚の掃除をお願いします。本体は、我が命に代えても、破砕して見せましょう」

 

 

 

この男がここまで覚悟を決めなければならない相手ーー。

 

 

 

既に状況はそこまで悪いのかと、アスランは歯をくいしばる。

 

 

 

「シュバルツさんーー、俺も出ます」

 

 

 

「アスラン!?」

 

 

 

カガリを制し、一歩前に出る。

 

 

 

「こんなところで、貴方を死なせる訳には行かない。話を聞いてもらってませんからね」

 

 

 

そう言うアスランに、シュバルツは笑みを浮かべて応える。

 

 

 

「了解だーー。よろしく頼む!」

 

 

 

「俺も、参加させてもらいます! いいですよね、艦長」

 

 

 

今度は、シンが手を挙げた。

 

 

 

「分かったわーー、お願いします。 ただし、アレックス殿とシンには条件があるわ」

 

 

 

「シュバルツさんの足は引っ張りません!」

 

 

 

先に、応えるシンに首を振り、タリア艦長はアスランを見る。

 

 

 

「ミネルバの主砲が届く場所で戦ってください。援護できない位置には移動しない。いいですね?」

 

 

 

「感謝します、グラディス艦長!」

 

 

 

「ありがとうございます、艦長!!」

 

 

 

こうして、ミネルバからは、精鋭中の精鋭の3人が選ばれた。

 

 

 

「話は決まったな、ならば私は先に向かう。彼らを助けねばならんからなーー。ガンダァァム!!」

 

 

 

ファンガースナップを利かせ、呼ぶとシュバルツの胸元から青白い拳大の光の球が表れ、「鏡」の文字を浮かばせると、激しい光を放つ。

 

 

 

思わず目を瞑る皆ーー、光が消えると同時にシュバルツの姿はなく、宇宙空間に黒を基調としたガンダムが浮かんでいた。

 

 

 

そのガンダムから通信が入る。

 

 

 

「では、お先に失礼ーー!」

 

 

 

指を二本伸ばし、額に掲げてこちらに振ると、一気にその場を離れていった。

 

 

 

『ーー艦長、あの機体!! 現存するモビルスーツやモビルアーマーの理論を越えたスピードです!!』

 

 

 

「そうーー。だけど今は、そんなこと、どうでもいいわ」

 

 

 

通信兵からの報告に気の無い返事で応じながら、タリアは思慮にふける。

 

 

 

彼がいなければ、地球は終わるーー。

 

 

 

はっきりと、そう言える。

 

 

 

この状況で、彼が何者かなど、正に些細なことだーー。

 

 

 

「頼むわよ、シュバルツ・ブルーダー。最早、貴方にかけるしかないわ」

 

 

 

モニター越しに見る見る小さくなるバーニアの火を見て、タリアは、シュバルツの援護の為の作戦を展開し始める。

 

 

 

その様をギルバート・デュランダルは誰にも気付かれない程度で、笑みを浮かべてみていた。

 

 

 

まずオルトロスを二基用意し、レイとルナマリアのザクに装備させる。

 

 

 

ジェネレーターを艦の動力炉へ直結させ、強大な砲台とする。

 

 

 

次に、アスランの乗るゲイツRには、急遽ザクのブレイズバックパックを装備させ、機動性をあげる改良がされた。

 

 

 

インバルスも、シルエットをフォースにして、敵を倒すのではなく、攻撃を躱すことに専念してもらう。

 

 

 

倒せれば良いが、生半可な攻撃は、隙を作るだけなのは、エルスマンのオルトロスで理解した。

 

 

 

その為の整備を、急ピッチで行う。

 

 

 

時間は、かけられないーー。

 

 

 

そう正に、時間との戦いであった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ユニウスセブンにて、イザークとディアッカは、MSの動力炉のみを攻撃し爆発させて、跡形もなく消すようにしていた。

 

 

 

こうでもしなければ、何度でも復活するのだ。

 

 

 

触手はオルトロスで焼き切り、ユニウスセブンの内部に入って敵の目をごまかす。

 

 

 

敵は、不死に加えて、ジンやザクとは思えないスピードで攻撃してくる。

 

 

 

人間ならば、間違いなく死ぬようなスピードを軽々とだし、反応してくるのだ。

 

 

 

機体の性能も底上げされているとしか言えない。しかもバッテリーがいつまでも敵は切れないのだ。

 

 

 

攻撃方法が単調でなければ、ディアッカもイザークも、此処までは踏ん張れないだろう。

 

 

 

ユニウスセブンのデッキ内に潜みながら、ザクのエネルギーを確認する。

 

 

 

「ディアッカ、後どのくらい持つ?」

 

 

 

「正直に言って、まだ動けてるのが不思議なくらいだよ」

 

 

 

「やはり貴様もか」

 

 

 

互いに機体の状態を確認してみたが、ひどいものだ。

 

 

 

被弾はほとんどしていないが、2人の腕に機体が付いてきていない。

 

 

 

おまけに、バッテリー稼働のため、エネルギーも切れかかっている。

 

 

 

ジリ貧であったが、何とかミネルバと合流できれば勝機はある、イザークは糸のように細い命綱を手繰り寄せるような気持ちでいた。

 

 

 

「なあ、イザーク? このユニウスセブン自体が、あの触手の住処みたいだったよな?」

 

 

 

「ああーー。ユニウスセブンに身を隠していれる今の状況は、変だな。触手の住処ならば、ユニウスセブンそのものが奴らの領域のはずだ」

 

 

 

なのに、今は全くの膠着状態。

 

 

 

物陰から、触手が現れることはなく、MS達もこちらに近づいてこない。

 

 

 

「奴等の狙いが、地球へ降りるためだけのものならば、不思議ではないのか?」

 

 

 

考え付くのはそんなところだがーー。

 

 

 

機体の状態から打って出ようにも、ディアッカのザクが持つオルトロスのエネルギー残量からして2発が限度。

 

 

 

イザークのスラッシュザクが所持するビームグレイブは、エネルギーが尽きて実体剣のみ。

 

 

 

機体のエネルギーは2割を切っている。ミネルバを待っていれば、これを地球に近づけ、破砕する確率は危うい。

 

 

 

かと言って撃って出ても、勝率はない。

 

 

 

よくて玉砕、悪ければーーゾンビ兵の一員である。

 

 

 

「万事休すーーか。くそっ!!」

 

 

 

イザークが苛立ちと共に、吐き捨てる。その時だった。

 

 

 

「イザーク、熱源反応だ! ユニウスセブンにめちゃくちゃ早いスピードで近づいてきてる!! 大きさはMSか?」

 

 

 

「MSだと?こんなスピードで移動できるのは、フリーダムかジャスティスくらいだぞ」

 

 

 

2人がユニウスセブンの外にモニターを向けると、そこに黒を基調としたガンダムが腕を組んで現れた。

 

 

 

「フリーダムやジャスティスじゃない!?」

 

 

 

「アレは、何処の所属だーー?」

 

 

 

現れた機体に、一斉に触手が伸びる。黒いガンダムは、両腕に備えられたブレードを展開し、その場でコマのように回転、触手を細切れに斬り払う。

 

 

 

「ーーな!?」

 

 

 

「なんと言う切れ味だ、あの機体」

 

 

 

自分達が散々手こずった触手がまるで紙のように斬り裂かれる様を、驚愕の表情で見る2人。

 

 

 

黒のガンダムーーガンダムシュピーゲルは、静かに構えを取る。

 

 

 

「どうやら、間に合ったようだなーー。私は、ネオドイツのガンダムファイター。そう! シュバルツ・ブルーダーだ!! このコロニーを破壊しに来た。間も無く後方よりミネルバが到着する。此処は私に任せ、君たちはミネルバやボルテールと合流するんだ!!」

 

 

 

「援軍か? しかし、ネオドイツ?」

 

 

 

「イザーク、今は聞いてる状況じゃないぜ。確かにあいつの言うとおり、ザフトの識別信号の鑑が2隻、こちらに来てる。一隻はボルテールだ!」

 

 

 

ディアッカの言葉に頷き、イザークはシュバルツに話しかけた。

 

 

 

「何処の軍の所属かは、知らんが援軍感謝する。俺はザフトのジュール隊隊長ーーイザーク・ジュールだ。補給を受け次第、貴殿の援軍に向かう!!」

 

 

 

言うや否や、ユニウスセブンの陰から、二機のザクが、シュバルツの脇を通り抜けていった。

 

 

 

「今の声ーー!! まさか? いや、そんなはずはないな」

 

 

 

モニターで通り抜けて行った二機を確認し、苦笑するシュバルツ。

 

 

 

弟の声を聞いた気がしたのだ。

 

 

 

目の前に現れるゾンビ兵となった、ジンやゲイツ、ザク。

 

 

 

彼らの冥福を祈りながら、シュピーゲルは両手の指に無数の苦無を挟んだ。

 

 

 

「やはり、デビルガンダム細胞か。奴本体の気配はないが、捨て置く訳にもいかん。せめて、この手で楽にしてやろうーー」

 

 

 

一斉にビームライフルを構えて、放ってくるMS群に、シュバルツもまた、その場でコマのように回転しながら、叫んだ。

 

 

 

「ならば、見よ!! シュトゥルム・エクスプロジオーン!!!」

 

 

 

回転しながら、放たれる苦無は、正確無比にMSの関節部に突き刺さり、爆発する。

 

 

 

ライフルの照準がこちらを捉える前に一気に全機叩き落として見せた。

 

 

 

「デビルガンダム細胞による再生も時間はかかるはず。後は後方のアレックスやミネルバ隊を宛にさせてもらおう。私は、触手やこのコロニーの破砕を優先するーー!!」

 

 

 

言うや、再びブレードを展開し、両手を頭上で組む。

 

 

 

「ぬおおおおお!!」

 

 

 

更に先ほどのように、自身をコマのように回転させて、叫んだ。

 

 

 

「シュトゥルム・ウント・ドンナーシュラーク!!」

 

 

 

自身をドリルのように回転させながら、ユニウスセブンに突貫するシュピーゲル。

 

 

 

「持ってくれよーー、シュピーゲル!!」

 

 

 

漆黒の竜巻と化したシュピーゲルは、触手を切り裂き、地表を砕き、突き進む。

 

 

 

やがて、ユニウスセブンは、縦に真っ二つに割れた。

 

 

 

同時にシュピーゲルブレードも粉々に砕けてしまう。

 

 

 

丁度シュピーゲルは、ユニウスセブンの後方から、地球への進路を取る前方へ抜けていた。

 

 

 

「くっ、やはりネオドイツの技術を持ってしても持たんか。ならば!!」

 

 

 

地球を背にし、ユニウスセブンを睨みつけると、更に高速で回転。

 

 

 

苦無を指に挟み、連続でユニウスセブンへぶつける。

 

 

 

次々に爆発する苦無だが、決定打にはならない。爆発を連続で起こすも、地道に砕くしかないのだ。

 

 

 

「くっ、メッサーグランツの爆発力では、小規模の連鎖爆破しかできんか! しかし、シュピーゲルにはコレ以上の武装は今無い」

 

 

 

諦めずに1秒間に数十の苦無を叩き込み、爆発させる。

 

 

 

その時だったーー。

 

 

 

「シュバルツさん!!」

 

 

 

「援護します!!」

 

 

 

「ユニウスセブンを真っ二つに!?」

 

 

 

「グゥレイトゥ!! あの忍者、ハンパねえぜ!!」

 

 

 

 

 

アスラン、シン、イザーク、ディアッカが援護として現れる。

 

 

 

ゲイツRとインパルス、スラッシュとブレイズのザクが一斉に手持ちのビーム砲を放つ。

 

 

 

同時に後方から、ミネルバのタンホイザー、レイとルナマリアのオルトロスが火を噴く。

 

 

 

「来てくれたか、ミネルバ隊!!」

 

 

 

全てのビーム砲を受けても、この質量には焼け石に水だった。

 

 

 

まるで、破砕できる気がしない。

 

 

 

「やはり、メテオブレイカーが無ければ決定打にはならんか!?」

 

 

 

「ありったけのビーム砲を撃つんだ!! 同時に同じポイントに撃てばーー!!」

 

 

 

「分かっている!命令するな、民間人が!!!」

 

 

 

アスランの言葉にイザークが吠える。同時にディアッカ、イザーク、アスランが砲を構えた。

 

 

 

「シン・アスカ、合わせろ!!」

 

 

 

「ーーえ? は、はい!!」

 

 

 

イザークの言葉にシンも構える。ディアッカがシンの隣に来て、カウントを数えた。

 

 

 

「ゆっくり落ち着いて狙えよ、3、2、1ーー今!!」

 

 

 

「いっけー!!」

 

 

 

同時の攻撃は、ユニウスセブンの地表を僅かに砕いた。更に後方から、陽電子砲をミネルバが放つ。

 

 

 

半分に割れたユニウスセブンにシュバルツの必殺技とミネルバ隊の総攻撃の挟み込みを行う。

 

 

 

「シュバルツ殿の負担が大き過ぎる!」

 

 

 

「今、離れる訳にはいかんだろうが!! 俺たちの総攻撃とあの忍者の攻撃は、ほぼ同じくらいだ。質量を少しでも軽くすれば、奴の負担も軽くなる」

 

 

 

アスランが、シュバルツへ援護しようとするも、イザークが止める。

 

 

 

「だけどよ、折角MSも充電できたのに、これじゃ意味無いぜ!! ライフルの弾丸もそろそろ限界だ」

 

 

 

「うわ、俺のもだ!!」

 

 

 

ディアッカの言葉に、シンも残弾数が少なくなっていることに気づいた。

 

 

 

バッテリーのエネルギーも、7割を切っている。

 

 

 

「くそ!! 無理なのか!!?」

 

 

 

「諦めるのは、まだ早いだろうが!!」

 

 

 

弱気になるアスランを叱咤するイザーク。しかし、ミネルバより、無情な連絡が届いた。

 

 

 

『後5分で、ユニウスセブンは大気圏に突入しますーー!』

 

 

 

遠距離からのビーム砲では、ユニウスセブンを破砕するのは、余りに非力。

 

 

 

例えばジェネシスのような戦略級兵器が、必要になる。

 

 

 

「くそっ!!」

 

 

 

誰もが、絶望に唸るーー。あまりに、無力だ。

 

 

 

それは、ミネルバにいるタリアやクルー達も同じだった。

 

 

 

「艦長ーー。これは」

 

 

 

「精一杯足掻いても、これまでね。MS隊に帰還命令を!!

 

シュバルツ殿のおかげで、二つに割れたのだから、まだマシとしましょうーー」

 

 

 

タリアの帰還命令が、MS隊に下る。しかし、それを良しとしない男が一人いた。

 

 

 

シュバルツだ。

 

 

 

ただ、只管に、がむしゃらに、一点に苦無を集中して叩き込む。

 

 

 

「貫けーー。貫いてくれ!! 我が技よ!!!」

 

 

 

その様を、アスラン達は見る。

 

 

 

「シュバルツ殿!! ーーっく!!」

 

 

 

アスランは、バーニアをふかし、シュバルツの元へ向かおうとするが、イザークが止めた。

 

 

 

「無茶をするな!! おい、シュバルツとやら、貴殿も帰還命令に従え!! コレ以上は無理だ!!!」

 

 

 

「ーー断る」

 

 

 

その一言に、皆が絶句した。

 

 

 

「シュバルツさんーー! 何を!!?」

 

 

 

シンが食い下がるが、シュバルツは静かに応える。その間も手を休めず、苦無を放ち、爆発させていく。

 

 

 

「母なる大地ーー。この青い地球こそ、最高の命なのだーー! この星には、落とさせん!!」

 

 

 

シュバルツの意地が通じたか、二つに割れたユニウスセブンの一つが、粉々に砕け散っていく。

 

 

 

「シュバルツーー!!」

 

 

 

「なんて奴だ!!!」

 

 

 

アスランやイザークが思わずうなり、一同その光景に絶句していた。

 

 

 

「ねえ、ユニウスセブンがーー!」

 

 

 

「信じられんーー。ユニウスセブンを半分にした後に、それを粉々にするとは」

 

 

 

ルナマリアの言葉に、レイも頷く。

 

 

 

タリアも、ミネルバのブリッジにいるクルー達も、驚愕と喜びの表情に変わっていた。

 

 

 

「ユニウスセブンの半分は砕けた! 後の半分は地球落下も仕方ない、退きなさい!!」

 

 

 

残りの半分には、仕方ないと、タリアは更なる帰還命令を下す。

 

 

 

しかしーー!!

 

 

 

「ーーえ? シュバルツさん!?」

 

 

 

シュバルツ・ブルーダーと言う男は、ここでも、その命令を無視した。

 

 

 

自身の機体も大気圏に触れ、真っ赤に赤く燃えていきながら、移動したのだ。

 

 

 

そうーー、大気圏で残骸が燃え尽きる先ほど自身が砕いた破片ではなく。

 

 

 

もう片方の無傷なユニウスセブンの前に現れる。

 

 

 

「ぬおおおおおおお!!!」

 

 

 

バーニアを全力でふかしながら、両の手でユニウスセブンの地表に触れる。

 

 

 

そのまま、押し返そうと言うのか、バーニアを前にふかす。

 

 

 

「たかが、この程度の塊、ガンダムで押し返してやる!!」

 

 

 

ビタァッ ユニウスセブンが止まった。

 

 

 

「何だと!?」

 

 

 

「あの人、どこまで無茶苦茶なんだよーー」

 

 

 

驚くことしかできないアスラン。呆れてきたシン。

 

 

 

他の者も、驚くなり、呆れるなりしかない。

 

 

 

ガンダムシュピーゲルは、ユニウスセブンの半分を押し止めていた。

 

 

 

ただし、大気圏に半分突入しているため、地球の重力もシュピーゲルに負荷される。

 

 

 

徐々に、地球へ引っ張られていく。

 

 

 

「いかんーー! 引力にはこの状態では逆らえんかーー!!」

 

 

 

「もういいーー! やめるんだ、シュバルツ!! こんなことで、貴方を死なせる訳にはいかない!!」

 

 

 

必死のアスランの声も、シュバルツには届かない。

 

 

 

「たとえ、この身が砕け散ろうと、どうなろうと構わん!! 地球には、キョウジやキラ、ラクス達がいるのだーー。私がやらねば、ならんのだ!!」

 

 

 

「シュバルツーー! 避難勧告は、既に出されている!! キラ達もシェルターに避難しているはずだ!!! だから、貴方もーー!!!」

 

 

 

シュピーゲルの肘関節から、火が吹き出る。

 

 

 

大気圏の熱に触れ、ユニウスセブンの質量、ついに関節が悲鳴を上げ始めた。

 

 

 

「ーーシュピーゲルよーー!!」

 

 

 

それでも、退こうとはしない、シュバルツ。

 

 

 

その時だった、シュバルツの感覚にデビルガンダムの気配が察知できた。

 

 

 

「奴め、このタイミングかーー!?」

 

 

 

脇を見据えると、シャイニングガンダムに似てはいるが、スマートなシャイニングガンダムに比べ、肩幅などが広く取られ、ガッシリとした体格の赤を基調としたトリコロールのガンダムがそこにいた。

 

 

 

しかし、シュバルツの知る悪魔とは違い、その下半身は通常のMFのそれだ。

 

 

 

大きさこそ、シュピーゲルよりふた回りも大きそうだが、漆黒のガンダムヘッドも、蛇を思わせる長い胴もない。

 

 

 

「デビルガンダムーー、ドモンに敗れたことで、モビルファイターになろうと言うのか?」

 

 

 

独りごちるシュバルツに向かい、デビルガンダムと思わしき機体は青黒く光る右手をかざしてきた。

 

 

 

「かわせんーー! やられる!?」

 

 

 

シュバルツが衝撃に備えようと歯をくいしばると同時に、デビルガンダムの光が弾け、シュピーゲルに纏わり付いた。

 

 

 

「動かんーー!?」

 

 

 

光がシュピーゲルの中に浸透していき、シュバルツの制御を離れる。

 

 

 

シュピーゲルはそのまま、両の手を胸の前に組み、印の形を取る。

 

 

 

「これはーー!?」

 

 

 

瞬間、シュピーゲルの全身を青白い輝きが覆い尽くし、その胸元にあった「鏡」の一文字が「神」の一文字へと変化する。

 

 

 

同時に青白い輝きが、太陽を思わせる真紅と黄金の輝きに変わるーー。

 

 

 

やがて輝きは収まり、そこに居たガンダムに、皆がまたしても驚愕した。

 

 

 

「変形ーー、いや、変身したのか!?」

 

 

 

アスランの言葉どおり、そこに居たのはガンダムシュピーゲルではなかった。

 

 

 

仏像を思わせる、流麗なシルエット。

 

 

 

青、赤、黄色のトリコロールを基調とした機体。赤い炎を全身から放つガンダム。

 

 

 

「ゴッドーー? ゴッドガンダムーー? 何故、私のシュピーゲルがゴッドガンダムに?」

 

 

 

機体のデータがシュバルツの脳内にフィードバックする。正に、自身とシュピーゲルを破った弟ドモン・カッシュの愛機ーーゴッドガンダムであった。

 

 

 

同時にシュバルツの目の前にデータが叩き出される。

 

 

 

「シュピゲル・アンデア・ユングス・ブルトーー鏡転同血(きょうてんどうち)だと? 馬鹿な、私はまだ修行をしていないぞーー!?」

 

 

 

それは、新たにシュバルツが考えていた技の一つだった。

 

 

 

鏡に転じ、敵と同じ姿と血を晒すことで、その者の全能力を己が物とする。

 

 

 

かつて、ガンダムマックスターを真似たジェスターガンダムとは違い、姿形までも完全に同じ。

 

 

 

真似物ではない、限りなく本物に近い幻想、それがこの技、鏡転同血であった。

 

 

 

シュバルツの過去に戦った敵や味方の姿を再現する技であり、シュバルツのゲルマン忍法とシュピーゲルのDG細胞が合わさることで使用できる技であった。

 

 

 

「色々、分からんが、今はこのゴッドガンダムに頼る他あるまいーー」

 

 

 

言うと、シュバルツは背中の6枚のフィンを展開させ、バーニアを吹かしながら、先ほどのシュピーゲルと同じく両の手でユニウスセブンを押し返す。

 

 

 

すると、先ほどまでとは違い、一気に大気圏外に押し返していく。

 

 

 

「ーーな!? なんというーー!?」

 

 

 

一気に押し返してみせたガンダムに、一同コレでもかと驚愕する。

 

 

 

「何よ、シンーー。驚かないんじゃないの?」

 

 

 

「無茶言うなよ。あの人が何をしても驚かない、そう思ってたけどさ。あんなの、反則じゃないかーー!」

 

 

 

インパルスのような機体の色だけの変化ではない、姿形まで変身してみせたのだ、正に異常な現象である。

 

 

 

「これがゴッドのパワーか。ーー凄まじいな、シュピーゲルの比ではない」

 

 

 

その機体の凄まじいパワーに、ユニウスセブンを押し返した、シュバルツ本人も舌を巻いていた。

 

 

 

だが、驚いてばかりもいられない。

 

 

 

自身に光を放ったデビルガンダムの方を見れば、既にその姿はない。

 

 

 

胸のクリスタルが露出し、紅ルビーのような球が中に嵌められており、真っ白に輝くとその光の中央に真紅で神の文字が浮かび上がる。

 

 

 

背中の6枚のフィンは、展開すると同時にを日輪の様な赤い光の輪を形成する。

 

 

 

更に右手の青いプロテクターを展開し、真っ赤に輝く拳を掲げる。

 

 

 

ゴッドガンダムのデュアルアイが光り、シュバルツが叫んだ。

 

 

 

「我が心、明鏡止水。されどこの掌は烈火の如く! 爆熱、ゴッドフィンガー!!!」

 

 

 

真っ赤な炎を纏いながら、右手が真紅に輝き、そのまま掌をユニウスセブンの地表に右正拳突きのように突き出しながら、放つ。

 

 

 

瞬間、冗談のようにアッサリとユニウスセブンの4分の1が爆発と共に崩壊した。

 

 

 

だが、まだ足りないーー。

 

 

 

まだ、破片は残っている。

 

 

 

ならばーーゴッドガンダムの真の必殺技を放つしかない。

 

 

 

自分にできるか、そんなことは疑問にすら感じない。

 

 

 

この身で二度も受け、ウォルフの頃に間近で垣間見たその技は、シュバルツをして、目を閉じるだけで思い浮かぶ。

 

 

 

右手を突き出しながら、シュバルツは意識を集中ーー。気を高めていく。

 

 

 

「このゴッドガンダムがあり、我が記憶がある限り、私にできないことなどーーない!!」

 

 

 

閉じられた瞳がカッと力強く見開かれ、その全身が黄金の光を放ち始める。

 

 

 

同時にガンダムが、黄金の光を全身から放ち始めた。

 

 

 

「艦長ーー! 凄いエネルギーです!!」

 

 

 

「ーーなんなの!?」

 

 

 

モニターには、太陽の如き輝きを放つガンダムが神々しく現れる。

 

 

 

ガンダムは、胸部のクリスタルーーエネルギーマルチプレイヤーの前に両の手をたわめる。

 

 

 

すると、そこに神の文字が浮かび上がり、黄金の光の球が現れる。

 

 

 

それを両の手で抱えるようにして、右腰に置き、更に背中の6枚のフィンを展開、後光のような赤い光の輪を発生させる。

 

 

 

「ーーこれが、シュバルツ殿の切り札か」

 

 

 

「この力、こんな力があればーー!」

 

 

 

アスラン、シン共にコックピット内で茫然としながら、この現象を見ていた。

 

 

 

「これぞ、明鏡止水ーー! この一撃に、我が魂の全てを込めるーー!! 石破、天驚拳!!!」

 

 

 

あまりに神々しい、その機体はーー、極大まで高めた黄金の光を、前方に両手を突き出すことで、放ったーー。

 

 

 

余りに美しく、強大で、全てを飲み込む黄金の光の線。

 

 

 

その先端には、真っ赤な文字で「驚」と書かれていた。

 

 

 

シュバルツのゴッドガンダムが放った光の奔流は、ユニウスセブンを貫き、辺りに衝撃波を放ちながら、粉々に爆破してみせた。

 

 

 

正に、究極の一撃である。

 

 

 

後にこの力を間近で垣間見た、彼らはこう語る。

 

 

 

正に、この人間は、神か、悪魔であったーーと。

 

 

 

ユニウスセブン完全破壊、その完璧な勝利に、皆が浮き足立ち、浮かれまくったーー。

 

 

 

 

 

「これが君の対極と言うゴッドの力か。素晴らしいが、わざわざ彼に与える必要はあるのかな?

 

それとも、オリジナルのゴッドガンダムを手に入れる為の布石かーー。実に楽しませてくれるよ、きみはーー。

 

なあ、デビルーー」

 

 

 

暗闇を見据え、浮かれるミネルバのクルーからは見えない位置で、デュランダルは暗い笑みを浮かべた。

 

 

 

その手には、無色透明なビー玉のような球が3つ乗せられていた。

 

 

 

デビルガンダムから、彼に送られたプレゼントを、デュランダルは楽しそうに見つめる。

 

 

 

次は、このおもちゃの性能を試そう。

 

 

 

あの見事な者達の世界からの贈り物ーー、さぞ素晴らしいものであろう。




みなさん、おまちかねー!!

ユニウスセブンの落下を阻止したアスランは、故郷プラントで先の大戦で亡くなった戦友の墓を訪れます。

そこで、アスランは、カガリの力になる為にも、ザフトに戻れとイザークに説得されるのです。

一方、ユニウスセブン破壊の衝撃波が、地球に津波を起こし、オーブのキラ達にも迫ります。

それを庇うかのように、謎の機体が、津波を倒せと輝き叫ぶのです。

次回、機動武闘伝Gガンダム-SEED-DESTINY 第9話 にレディー、ゴー!!


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第9話 オーブに満ちる光とプラントの若き戦士達

前回のシュバルツとミネルバ隊の活躍で、難を逃れた地球。

ですが、アスラン・ザラは古き友との会話により、何をするべきかを示されていくのです。

それでは、ガンダムファイト、レディー、ゴー!!!




 

宇宙にて完全破壊が成功したユニウスセブン。

 

 

 

しかし、その衝撃波は地上ーー海洋国家オーブには、少し大きな津波として、現れていた。

 

 

 

ユニウスセブン破壊成功の報せで避難しているシェルターから出てきたキョウジやキラ達にも、その津波は容赦なく迫り来る。

 

 

 

「ユニウスセブンの破砕は成功しても、その衝撃波が津波を起こすなんて!!」.

 

 

 

「キラーー、急ぐんだ!!」

 

 

 

子供たちを連れて高台に走るキラとキョウジ。

 

 

 

ラクスが高台から顔を出す。

 

 

 

「キラ、キョウジさん! 急いで!!」

 

 

 

その時、走る2人の背から、音が響いてきた。

 

 

 

ーー津波だ。

 

 

 

それは、孤児達の遊んでいた広間などを一気に蹂躙し、何も残さない。

 

 

 

「僕らの遊び場がーー! ラクス様!!」

 

 

 

子どもたちが泣き始める。

 

 

 

「キラーー!!」

 

 

 

「キョウジ兄ちゃん!!」

 

 

 

抱えている子ども達もこの異常な光景に恐怖し、泣いていた。

 

 

 

迫り来る津波、成すすべなく消される街。森、湖。

 

 

 

(子ども達が遊んで来た思い出さえ、喪われるというのか)

 

 

 

その瞬間だったーー。

 

 

 

キョウジの胸から拳大の緑に光る球が出てきたのは。

 

 

 

「ーーなんだ、これは?」

 

 

 

「あの光ーー!」

 

 

 

キョウジが首を傾げる中、キラはその光に見覚えがあった。

 

 

 

あの時、キョウジやシュバルツと出会った時に見た光ーー。

 

 

 

光る球の中央には、白い文字で「光」と一文字が書かれていたーー。

 

 

 

光は強烈になり、やがてその場にいた人々が目を伏せなければならないほど、強くなる。

 

 

 

光が収まった時、前方には一機のトリコロールのガンダムが津波に向かって立っていた。

 

 

 

迫り来る津波に対し、ガンダムはマスクを中央から分割して、左右に展開。右手を緑色に輝かせると、正拳突きのように掌を突き出した。

 

 

 

同時に、光の壁が掌から発生し、津波を真っ二つに割ってみせる。

 

 

 

「ーーわあーー!!」

 

 

 

子ども達が歓声を上げた。

 

 

 

光の壁に弾かれた波は、日差しを浴びて虹を作っている。

 

 

 

 

 

「なんて、力なんだーー」

 

 

 

「そうですわね、キラ」

 

 

 

キラにそう答えながら、ラクスはガンダムを見上げる。

 

 

 

「ーー貴方はとても優しい方ですのね。そして、とても強い方」

 

 

 

「ラクスーー?」

 

 

 

キラが棒立ちになる横で、ラクスはまるでガンダム自身に語りかけるかのように微笑みながら、話した。

 

 

 

「貴方は、キョウジさんやこの子達の為に出てきてくれたのですね?」

 

 

 

ラクスとて、このガンダムの正体など分かるはずもない。だが、彼女は一目で見抜いたのだ。

 

 

 

このガンダムーーシャイニングガンダムの本質を。

 

 

 

「うわあああああああ!!!!」

 

 

 

その時、キョウジが叫びを上げた。キラが咄嗟にキョウジに駆け寄る。

 

 

 

だが、彼は錯乱していた。

 

 

 

あのキョウジが、恐怖で我を喪っていたのだ。原因は、先ほど街を津波から救ったガンダムーー。

 

 

 

「何故ーー? キョウジさん、あなたは一体?」

 

 

 

「やめてくれ!! 私は、何も壊したくなどない!! もうやめてくれ!!!!」

 

 

 

「キョウジさん、しっかりしてください!!」

 

 

 

キラやラクスの呼び声も虚しく、キョウジは錯乱状態のまま、意識を喪った。

 

 

 

「どうしてーー? ラクス、あのガンダムは」

 

 

 

「ええーー。あの機体には、邪念など感じられなかった。ただ、キョウジさんや子どもたちを守ろうとする意思を感じました」

 

 

 

「悪い機体じゃないんだよね? なのに、どうして。キョウジさんはーー」

 

 

 

「分かりません。ただーー、このガンダムが何らかの鍵を握っているようですわね」

 

 

 

キラとラクスがもう一度機体に向き直ると同時に、光の粒子となってシャイニングガンダムは、姿を消したーー。

 

 

 

キラ達の 後方から、二人の男女が、こちらに向かって走ってきていた。

 

 

 

1人は野暮ったい髪型にアロハシャツを着た、壮年の男性。

 

 

 

もう1人は、背中まで伸ばしたウェーブのかかった濃い茶髪の美しい女性。

 

 

 

男は先の大戦で亡命したザフトの軍人ーーアンドリュー・バルドフェルド。

 

 

 

女は、地球連合に所属していた浮沈艦『アークエンジェル』の艦長、マリュー・ラミアス。

 

 

 

どちらも、元軍人である。

 

 

 

二人は油断なく倒れたキョウジを見据える。

 

 

 

「キラ、今の機体はこの青年が?」

 

 

 

「どういう原理なのかしら。いきなり消えたり現れたりするのは」

 

 

 

初めて見る現象、津波をも割る機体。

 

 

 

謎だらけの青年だと、二人の男女は思った。

 

 

 

「彼は、記憶を喪っているのです」

 

 

 

「記憶をーー?」

 

 

 

「ですから、世界のことや国の情勢など全く分かりません。ですがーー」

 

 

 

ラクスは一度、言葉を切るとバルドフェルド達を正面から見据えた。

 

 

 

「彼はわたくし達の家族ですわ。マリューさん、バルドフェルドさん」

 

 

 

その真っ直ぐな視線と強い微笑みに、マリューは一瞬気圧され、バルドフェルドは苦笑した。

 

 

 

「ラクスがそこまで言うなら一応は信用するが、監視だけはさせてもらうぞ?」

 

 

 

「分かっておりますわ。いつも、ありがとうございます」

 

 

 

ラクスの言葉に、折れる気がないことを確信したバルドフェルドは、ため息を一つ吐いた後、譲歩案を示した。

 

 

 

それにラクスも納得し、頷く。

 

 

 

その様子を伺いながら、キラは静かに自分が支えている青年の顔を見る。

 

 

 

「どれだけ、キョウジさんは苦しんだんだろうーー。こんな優しくて穏やかな人が、どうしてーー」

 

 

 

「ーーキラ」

 

 

 

先ほどの脅え方は普通じゃない。

 

 

 

「壊したくないーー、か。僕のようにキョウジさんも」

 

 

 

誰かを殺めなければならなかったのだろうか、戦争のない世界にいると聞いていたが、そこは平和ではないのか。

 

 

 

キラは、ここへ来て初めて、キョウジという青年の生い立ちを聞いていなかったことに気づいた。

 

 

 

「ーーならば、聞けば良いのですわ、キラ。キョウジさんは、必ず答えてくれますわ」

 

 

 

「ーーそうだね、ラクス。僕も、そう思う」

 

 

 

いつものように自分の思考を読まれたようなラクスの言葉を穏やかに聞きながら、キラはキョウジに向かって頷くのだったーー。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「ここは、変わっていないなーー」

 

 

 

ニコルが眠る墓の前で、静かに笑いかけながら、花を添えるアスランの横で、仏頂面をしながらも、丁寧に花を手向けるイザーク。

 

 

 

ディアッカは、墓の周りについたコケを掃除していた。

 

 

 

3人とも、協力して墓を掃除した後、改めて墓の前に並び黙祷する。

 

 

 

どれだけ、そうしていただろうか。

 

 

 

やがて、アスランにイザークから、声がかかってきた。

 

 

 

「アスランーー、ザフトに戻る気はないか?」

 

 

 

率直な意見に、アスランは苦笑いを浮かべながら、イザークを見る。

 

 

 

彼は真っ直ぐにアスランを見ていた。

 

 

 

「貴様が、オーブに居たのは知っている。だが、オーブではできることは限られているはずだ。

 

真に世界を変える気があるなら、貴様は家の力が影響するザフトに戻るべきだ。

 

ニコルの為にもな」

 

 

 

「ーー イザーク…」

 

 

 

かつてのイザークならば、問答無用で戻れと言っていたはずだが、この数年でイザークは冷静な判断力を手に入れていたようだ。

 

 

 

「ーーそれは、どうかな、アスラン」

 

 

 

「ーー!? 心を読むなよ、ディアッカ」

 

 

 

「貴様ら、何か失礼なことを考えていないか?」

 

 

 

イザークの視線が鋭くなり、思わず首を横に振る2人。ザフト軍にいた頃は、ここまで、息のあった連中ではなかったな、と詮無いことを考えながら、イザークはアスランに向き直る。

 

 

 

「イザーク、お前の言いたいことはわかる。もっともだとも思う。だが、俺はカガリを支えたい」

 

 

 

「カガリ・ユラ・アスハ、か。正直に言えば、彼女には失望している」

 

 

 

「ーーな!?」

 

 

 

「彼女の能力と意志の強さならば、必ずオーブを立て直したはずだと思っていたが、最近はセイラン家などに実権を握られているらしいな」

 

 

 

イザークの言葉はまぎれもない真実であった。カガリの民衆や軍からの支持は高い。

 

 

 

しかし、政治の世界では、カガリのような真っ直ぐな考え方は、通らないのだ。

 

 

 

「イザーク、彼女に何かアドバイスできないか?」

 

 

 

「それをする為にも、貴様は戻れと言っている。何の権力も後ろ盾もない、貴様の言葉など誰が聞くか。おまけに経験もない。そんな貴様に、オーブの古だぬき共を説得できるわけないだろ、政治をなめるな」

 

 

 

「ザフトに戻り、アスラン・ザラになれば、カガリの力になれる、っていうのか?」

 

 

 

「パイプさえ繋いでおけばな。貴様がプラントでラクス様や俺と組み、政治力を持てば、オーブの古だぬき共も、発言を黙殺できまい。その為の裏回しができるくらいは、貴様、働いていたんだろ? 今のままでは、彼女を嫁にさえもらえん。そんなザマでは、ディアッカのようにふられるぞ」

 

 

 

「ディアッカ、ミリアリアに?」

 

 

 

「何、サラッとバラしてんだ、この野郎!!!」

 

 

 

アッサリとミリアリアにふられた事を告げるイザークにディアッカが掴みかかる。

 

 

 

「いや、すまん。毎日毎日、未練たらしく電話をかける貴様が、面白ーーいやいや、鬱陶しくてかなわんのでな」

 

 

 

「うるせえよ。今は、ミリアも頑固だけど、あいつを落とせるのは、俺だけだ!」

 

 

 

「…アスラン、貴様もこれぐらいできれば、大分変わったと思うんだがな、彼女との関係も」

 

 

 

半分、呆れ気味になりながら、イザークはアスランに告げる。アスランは、苦笑いを浮かべながら、それに応えた。

 

「善処する。だが、イザーク。真面目な話、ザフトに俺が入隊した上でオーブにも影響を持たせるというのは、できるのか?」

 

 

 

「ザフトは軍じゃない、言わば義勇兵だ。極論を言えば、オーブに籍と役職を持ったままでも、希望すれば通る」

 

 

 

「だが、板挟みになる可能性もあるな」

 

 

 

「当然だ。ここからは、独自に掴んだ情報だが、アーモリーワンを襲った連中は、地球連合の面子の中で、ブルーコスモスの息がかかった部隊のようだ。

 

さらに、セイラン家は独自にブルーコスモスとつながりを持っているらしい」

 

 

 

「なんだと!? オーブの政治家が、ブルーコスモスと!?」

 

 

 

「おいおい、イザーク。それ、ヤバいネタじゃねーか?」

 

 

 

ディアッカの言うように、下手をすればオーブはブルーコスモスと癒着し、ザフトと完全に敵対する可能性が出てきたのだ。

 

 

 

「どこからの情報かは、言えんが、きちんと裏付けを取ったものだ。セイラン家やその周辺の金の周りが良くてな、最近」

 

 

 

「アスラン。お前、完全に後手じゃねーの? あちらさんは、ウズミのオッサンが亡くなってから後ろ盾に使えるもんは使えとばかりに癒着しちまってるじゃん」

 

 

 

「政治に対して、貴様らは素人だからな。欺くのもたやすかろう」

 

 

 

状況は、思った以上に悪い。まさか、ブルーコスモスとセイラン家が繋がっていたとは。

 

 

 

だが、イザークが嘘を吐くような男でないのは、アスランが一番知っている。

 

 

 

「だけどよ、イザーク。アスランが仮にザフトに戻っても、ザフトの指揮下になったら意味ないぜ? アレックス・ディノのままじゃ、ただのボディガードだけど。ザフトなら、完全に無関係か、下手したら敵対関係にされちまうんじゃないか?」

 

 

 

「そうならん為に、2つの方法がある。一つは、オーブのキラ・ヤマトをオーブ軍に加入させ、それなりの地位を与える。その副官として、アレックス・ディノではなく、アスラン・ザラの席を用意させる。これで、アスランは完全にオーブの人間だ」

 

 

 

「いや、キラはーー」

 

 

 

止めようとするアスランを無視して、イザークは話を続けた。

 

 

 

「更に、ラクス様と共にクライン派とザラ派を纏めれば、貴様のザフトの地位も確立されるはずだ。それまでの案としては、フェイスという方法がある」

 

 

 

「フェイス?」

 

 

 

「貴様も聞いた事くらいはあるだろ? 自分の独断で行動することを許されたザフトの免罪符だ」

 

 

 

「だが、いくらフェイスとは言え、ザフトに所属しながら、オーブの軍にいるというのは、前例がーー」

 

 

 

「無ければ、作れ。いつまでも、ウダウダ言ってる場合か!!!」

 

 

 

ついにイザークが爆発した、それまで冷静に見えていたが、導火線に火がついていたようだ。

 

 

 

ここまで、よくもった方か? 等と考えながら、ディアッカが間に入り、助け舟を出す。

 

 

 

「待てよ、イザーク。その話に一つ難点があるぜ。土台無茶な話だがーー」

 

 

 

と前置きした上で、ディアッカは、聞いた。

 

 

 

「お前さ、フェイスの任命権限無いだろ。まだ新入り議員なんだから」

 

 

 

「デュランダル議長を使う」

 

 

 

『ーーえ?』

 

 

 

2人揃って間抜けな顔を晒しているな、と満足気に笑いながら、イザークは告げた。

 

 

 

「デュランダル議長は、やたらとアスランがお気に入りらしい。ザフト復隊時に、相談してみたら、どうだ? 喜んでフェイスの権限を与えてくれるだろうさ」

 

 

 

底意地の悪そうな顔ーー、ああ、そう言えばニコルや自分をいじめてきた時、こんな顔をしてたなーーのイザークを見据え、アスランは待ったをかける。

 

 

 

「イザーク、デュランダル議長は信用できるのか?」

 

 

 

「俺は、綺麗事しか吐かないで、自分の手を汚そうとしない奴は信用しない。しかし、命を救われたことは感謝している」

 

 

 

「ーー自分が信用してないのに、頼めって言うのか?」

 

 

 

「つうか、俺たち、あの人に命を救われたのに、信用してないのかよ」

 

 

 

半目になりながら、胸を張って応えるイザークにふたりが告げると真面目な態度に戻り、言われた。

 

 

 

「感謝するのと信用するのは別の話だ。ーー使えるものは、使う。どこまで信用できるか、できないか、を考えるのも政治だ。デュランダル議長とて、全くの善意で俺たちを救ったわけじゃない。貴様ら、簡単に善と悪に見切り過ぎなんだよ」

 

 

 

2年前のイザークにはない、狡猾さというか、したたかさを垣間見、アスランは内心関心していた。

 

 

 

「それはそうだがーー。これでザフトに戻れば、俺はオーブを弾き出される」

 

 

 

「問題あるまい。どのみち今のままでは、内部にいても何の権限もない。カガリ姫の盾にもなれんわ、役立たずの甲斐性なしめが」

 

 

 

鋭く切り捨てられ、胸を抑えるアスラン。何故か、後ろでディアッカも、胸に手を当てていた。

 

 

 

こうして、アスラン・ザラはアレックス・ディノの偽名を捨て、ザフトに戻ることになるのであった。

 

 




みなさん、おまちかねー!

オーブへかがりを送り届けたミネルバ隊。

カガリは彼らに、3日間の休息と艦の補給を約束します。

オーブに帰ったシンは、そこに建てられた慰霊碑のまえで運命の出会いを果たすのです。

次回、機動武道伝GガンタムSEED DESTINY 第10話に。

レディー、ゴー!!!


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第10話 英雄と少年 歩き出すもの達

人は、過去を振り返り、今を積み重ねて生きています。

それは、どのような方も等しく積んでいくものです。

新たな出会いを得て、別れを得て。

ユニウスセブン落下阻止を成功させ、オーブにカガリを送り届けたミネルバ隊は、しばらくの休息を与えられます。

その間にシンは、思ってもみない相手と邂逅するのです。

それでは、ガンタムファイト!! レディー、ゴー!!




 

 

ミネルバは無事にオーブに辿り着いた。

 

 

 

「本当にすまない、心からありがとうと言わせてくれ。地球を救ってくれた、ミネルバにーー」

 

 

 

「アスハ代表のお礼を承るなんて、私達には筋違いです。当然のことをしただけ、ですし。実際にアレを砕いたのはーー」

 

 

 

そこで言葉を切る。

 

 

 

シュバルツのことは、ミネルバのクルー達も、そしてカガリ達も、秘匿にしていたのだ。

 

 

 

あまりに強力な力は争いを産む。

 

 

 

アスランやカガリの言葉を、タリア・グラディスも理解していた。

 

 

 

「本当に、本人に力があるだけで、どうして周りは放って置けないのだろうな」

 

 

 

「それは、力があるから、です。その力を頼もしいと感じるのか、脅威だと感じるのか、それはその人次第です」

 

 

 

シュバルツを知るからこそ、頼もしい力。

 

 

 

しかし、敵に回せば、脅威以外の何物でもない。

 

 

 

「アスハ代表、本当にシュバルツ殿を、我々ミネルバに?」

 

 

 

あれ程の力をみすみす、自国から手放すというのか、と問いかけるタリアに、カガリは笑った。

 

 

 

「彼は、私の護衛を買って出てくれたにすぎない、一客人だ。彼の意思があなた方と行くことを選択したなら、私が言うことではない」

 

 

 

「ーーですが」

 

 

 

あまりに真っ直ぐなカガリの言葉に、タリアは危機感を感じた。

 

 

 

彼女は、力をどう考えているのかーー、と。

 

 

 

力が無ければ、成し遂げることもできない。

 

 

 

過ぎた力だからこそ、手放すことの意味を理解しているのかーー、そう問おうとして、しかしカガリの強い瞳に、口を閉じた。

 

 

 

それを感じ、カガリは微笑を浮かべた。

 

 

 

「ありがとう、タリア艦長。だが、彼にも目的があるように、私にも成し遂げたいものがある。

 

それは、彼の力を借りてすることじゃない、私の力でやり遂げなければならないことなんだ」

 

 

 

あまりにも、真っ直ぐな、理念だった。

 

 

 

まさに、如何なる時も、オーブは中立であれ、と言う意思を成し遂げたウズミのように。

 

 

 

「ご武運をお祈りします、カガリ代表ーー」

 

 

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 

こうして、カガリはミネルバを去った。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

カガリの意向で、ミネルバ隊は3日間の休暇をオーブで取ることができた。

 

 

 

ある者はショッピングに行き、ある者は娯楽施設に向かい、またある者は艦に残りMSのシミュレーションを、ある者は機体の整備を。

 

 

 

そんな中、1人の少年は、車に乗り、海岸線を走っていた。

 

 

 

シン・アスカである。

 

 

 

車を走らせながら、彼はミネルバで出会ったカガリ・ユラ・アスハ。アスラン・ザラ、シュバルツ・ブルーダーの言葉を思い返していた。

 

 

 

『待ってくれ! シン。お前は、オーブの選んだ道が間違いだと言うのか?』

 

 

 

『戦争はヒーローごっこじゃない!!』

 

 

 

『憎しみは憎しみを呼び、今度はお前が奪う側になる!! その覚悟はあるか!!』

 

 

 

ずっと、考えていた。

 

 

 

奪われたのは、理不尽にあったのは、自分だったんだ。家族だったーー。

 

 

 

いきなり、奪われた命。

 

 

 

そのことに怒りを覚え、同じような人を作らない為に、兵士になったのに。

 

 

 

戦う相手も、そうだと言われた。

 

 

 

大切な者を奪われたのは、自分だけじゃないのか。

 

 

 

自分の家族の命は、アスハに奪われたのに。

 

 

 

アスハも、犠牲者だったーー。

 

 

 

目を見たら分かる、あの時、カガリ・ユラ・アスハは毅然としていながらも、その瞳は泣いていた。

 

 

 

必死に泣きそうになるのを堪えていた目だ。

 

 

 

まるでーーーーーー自分のようだった。

 

 

 

あの時、自分を否定したアスラン・ザラも、自分と同じだったという。

 

 

 

見たこともないガンダムに手も足も出なかった敗北感。

 

 

 

シュバルツ達の言葉。

 

 

 

それらが、頭の中をグルグルと回る。

 

 

 

「ああ、くそ!!」

 

 

 

適当な所に車を停め、空を仰いだ。

 

 

 

自分は、オーブをどう思っていたのだろう?

 

 

 

憎しみは、ある。

 

 

 

だけど、嫌いではないのだろう。だから、カガリが自分と同じ目をしていたのに安心したのだ。

 

 

 

「なあ、マユーー。父さん、母さん。俺、どうしたら良いんだろう?」

 

 

 

空は晴れ、美しい青空が広がっていた。

 

 

 

「ふうーー」

 

 

 

海岸線を見渡すと、以前のオーブには無かった石の塔が立っていた。

 

 

 

「アレはーー」

 

 

 

シンはまるで、吸い寄せられるかのように、その塔にフラフラと近づいていった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「これは、慰霊碑ーー?」

 

 

 

石の塔の周りには、花が添えられていた。

 

 

 

添えられた花以外に、植えられた花もある。

 

 

 

「こんにちは。君も花を添えに来てくれたのかい?」

 

 

 

穏やかな声に振り返ると、其処には茶髪の儚げな青年が花を持って立っていた。

 

 

 

「あ、ーーいや。すみません。初めて来たので、分からなくて。以前は無かったから、なんだろーーって」

 

 

 

申し訳なく頭を下げる自分に青年は、優しい笑顔を向けてきた。

 

 

 

「気にしないで。良かったら、これーー」

 

 

 

そう言いながら、青年はシンに一房の白い花を差し向けた。おずおずと、シンはそれを受け取る。

 

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 

青年に倣い、見よう見まねで献花と黙祷を捧げる。祈りを捧げる彼の姿は、何処か神秘的で、まるで牧師のようだった。

 

 

 

(下手な牧師より、ずっと様になってるな)

 

 

 

祈りをすませると、青年はシンに向き直った。

 

 

 

「ひょっとして君は、以前オーブに住んでいたのかな?」

 

 

 

「え? どうして、それを?」

 

 

 

「前は慰霊碑は無かった、て言ってたから。元々は暮らしていたのかな、て」

 

 

 

青年の言葉に納得しながら、雑談混じりに話しはじめた。

 

 

 

自分の家族が戦争に巻き込まれ、亡くなったことも。

 

 

 

オーブを恨んでいたことも。

 

 

 

時折、青年が息を飲むような気配を感じたが、シンはあまり気にせずに、一気に自分のことを語り尽くした。

 

 

 

「君はーー、人を守る為にザフトに入隊したんだね」

 

 

 

「はい。すみません、何だか長話してしまって」

 

 

 

すると、青年はいきなり、こう言ってきた。

 

 

 

「名前、教えてくれないかな? 僕はキラ、キラ・ヤマト」

 

 

 

「シンです、シン・アスカーー」

 

 

 

少し困惑しながらも、きちんと名を名乗るシン。

 

 

 

「そう。ねぇ、シン。この花はね、いつも高波に晒されて潮を被り枯れてしまうんだ」

 

 

 

その度に花を替えたり、手向けたり、キラという青年はいつも、そうしているらしい。

 

 

 

その言葉に、シンは思わず口を開いた。

 

 

 

「……誤魔化せないってことなんですか?」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

「いくら、花を植えても、人はまた吹き飛ばす」

 

 

 

どこか、やり切れないような怒りと悲しみを交えた言葉に、キラは正面からシンを見据えた。

 

 

 

「ーーキラさん?」

 

 

 

「もし、何度も吹き飛ばされても、僕はまた花を植えるよーー。それが、僕なりの闘いだから」

 

 

 

その言葉に、シンはようやく思い出す。

 

 

 

「キラ・ヤマトーー? あなたが、オーブのキラ・ヤマト!?」

 

 

 

先の大戦で有名になり、平和になると同時にラクス・クラインと共に姿を眩ませた英雄。

 

 

 

「あんた、何やってんですか!? あんたもラクスも、先の大戦の英雄でしょう!? 花を植えてないで、他にやることーー!!」

 

 

 

「シン、君は凄いね」

 

 

 

シンの怒りに任せた言葉を打ち消す、落ちついた声。

 

 

 

「僕は、自分のしてきたことが正しいと言えなくなっているんだ。自分の存在が、あってはならないものだと分かって、多くの人の命を奪ってきたからーー」

 

 

 

「何を言ってんです? あってはならない、って?」

 

 

 

その言葉を疑問にすると、キラはこれ以上無いほど悲しげで儚い笑顔を向けてきた。

 

 

 

「僕は、友達を守りたかった。だから成り行きで連合に入ってーー。親友のいるザフトと戦うことを選んだ」

 

 

 

「ーーあなたは」

 

 

 

「でも、僕は知らなかった。その末に誰が撃たれ、誰が亡くなるのか。そうなってしまったら、誰が悲しむのかを」

 

 

 

戦争ーー、相容れない正義がぶつかり、勝てば讃えられ、負ければーー

 

 

 

(シュバルツさんの言ってたことじゃないかーー)

 

 

 

キラは優し過ぎた。

 

 

 

あまりにも、優し過ぎたから、彼は歪むしか無かった。

 

 

 

そうでなければ、戦争で仲間が殺されてしまうからーー。だが、敵もそうだった。

 

 

 

シンには、彼の生き方、葛藤、迷いが他人事に見えなかった。

 

 

 

「でも、今のあなたは、罪を滅ぼしてない、ですよ。少なくとも、あなたが本当に奪ってしまった人の命を惜しむなら、ここで花を守り続けることだけが、あなたの役割じゃないはずです」

 

 

 

「分かってるよ、僕は逃げてる。それでも、今、政治や国同士の争いに混じったら、僕はまた同じことをする気がする。今は、できないーー」

 

 

 

瞬間的に、キラの胸ぐらを掴んでいた。

 

 

 

「分かるけど、あなたのいうこと、分かるけど!! じゃあ、何で、俺の家族をあなたは守ってくれなかったんだ!!?」

 

 

 

その頰に伝うのは、何年ぶりであろう涙。

 

 

 

「あなたの、あなた達の選んだ選択で、オーブは戦場になって、マユや父さんや母さんが、死んだんだ!! あなたのフリーダムが戦った、あの場所で!! 俺の目の前で!!!」

 

「ーーうん、分かってる。だから、名乗ったんだ」

 

 

 

「ーーーーなんでだよ、なんで、父さんや母さんや、マユが死ななきゃいけないんだよ。連合という敵やオーブのせいだって、ずっと思い込んで生きて来たのに!!」

 

 

 

「ーーシン」

 

 

 

「ーーなんでだよ。じゃあ、俺は誰を憎んで生きていけばいいんだよ」

 

 

 

力なく、項垂れ涙するシンをキラは静かに抱き締めた。

 

 

 

「僕を恨んでくれ。だから、自分を責めるのは、もうやめよう、シン」

 

 

 

「ーーあなたを恨んでも、恨む理由がないじゃないか。あなただって、アスハだって。被害者なんだろ」

 

 

 

「それでも、恨む事実はあるよ。僕のせいで、君の家族は亡くなったんだ。それは間違いない」

 

 

 

「それだって、あの時はああするしか無かったんだろ!?そんなことぐらい、俺にだって分かるよ……」

 

 

 

「シンーー」

 

 

 

静かに身を離し、シンは、キラの目を見据えた。

 

 

 

「約束してくれーー。オーブを守るって。アスハの理念を貫くって。でないと、それを信じて亡くなった俺の家族は、犬死にだ」

 

 

 

言ってから、頭を下げ、続ける

 

 

 

「頼む!! あなたが、本当に先の大戦のことを悔やんでくれるなら、俺の家族を悼んでくれるなら、オーブを口先だけの理念だけの国にしないでくれ!!!」

 

しばらく、無言の時が流れ、その後に、キラは口を開いた。

 

 

 

「わかった、シンーー。僕なりに、やれる事を考えて、やってみるよ」

 

 

 

「ありがとうございます、キラさん」

 

 

 

顔を上げ、キラの目を真っ向から見据える。対するキラもシンと同じ真剣な目で見返してきた。

 

シンはその目に満足すると、黙礼しその場を離れようとした。

 

 

 

「また、会えるかな? シン」

 

 

 

その背中に、キラは静かに問いかける。

 

 

 

「機会があれば、必ずーー」

 

振り向かずに、立ち止まり、返すシン。

 

 

 

「そうだね。またね、シン」

 

 

 

キラは、そんな彼の背中を優しく微笑んで見送るのだったーー。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

少しして、ラクスがキラの元に花を持って現れた。ラクスは静かに、献花しながら、黙祷して、添えられた花が二つに分けられているのに気づく。

 

 

 

「キラーー? 誰かとお話しをしていたんですか?」

 

 

 

「うん。とても大切な友達と、ねーー」

 

 

 

要領を得ずに小首を傾げるラクスに、キラは優しく微笑みかけたのち、シンが去って行った方角に目をやった。

 

 

 

( 君と会えるのが、いつになるかは、分からないけど。僕も動くよ、カガリとこの国を守る為に。亡くなった人達の犠牲を無駄にしない為に。

 

そしてーー、君のようにオーブを信じる人々のために)

 

 

 

キラの目に強い意志の光が宿ったーー。

 

 

 

「ラクス、僕がオーブ軍に入ると言ったら、カガリやアスランは呆れるかな?」

 

 

 

いきなりの問いに、一瞬、ラクスは顔を上げ、キラに悲しそうな目を向けた。

 

 

 

「あなたは、また。自分の心を犠牲にして、闘うのですか? ここで、わたくしと穏やかに暮らせませんか?」

 

 

 

「ラクス。君の本当にしたいことは、何?」

 

 

 

「キラ、わたくしはーー」

 

 

 

キラの言葉に、眦を釣り上げ、ラクスは強い口調で話そうとして、キラの透明な笑みに黙った。

 

 

 

「ラクス。今まで、僕の傷を癒すために居てくれてありがとう。でも、プラントには君を待ってる人たちがいる。助けを求めている人たちが。ラクスは、その人たちを助けたいんじゃない?」

 

 

 

「わたくしでは、あなたを癒せませんか? わたくしは、助けを求める誰かではなく、キラを癒したい」

 

 

 

切実な表情のラクスに、キラは穏やかな笑みを浮かべた。

 

 

 

「癒されたよ。だから、僕はいま、ここに立っていられる。ラクスやキョウジさんやシュバルツさん。子どもたちに母さん、父さん、アスランにカガリ、マルキオ導師。他にも大勢に、僕は支えられてきた。みんなが、居たから僕はまだ、立って歩けるんだ」

 

 

 

「キラーー、何故、急に軍に入ろうと?」

 

 

 

キラの目に揺るぎない強い意志を、かつて。自分を魅了した、汚れない意志を感じる。

 

 

 

「ずっと考えていた。僕にもできること、ないかって。僕だけが、傷ついてる訳じゃないって。頭では、分かっていたつもりだったけどーー。

 

今日、本当に理解したんだ。僕には、まだやらなきゃいけないことがある。

 

誰かに任せて、任せきりにしたら、僕は、きっと後悔する。彼の目を見れなくなる。だからーー」

 

 

 

「だから、わたくしと離れようとーー?」

 

 

 

彼、というのが、誰を指すのか、ラクスには分からない。

 

だが、キラは甘えない為に自分と離れようとしている。

 

 

 

何故だろう、ひどく寂しい。

 

 

 

キラの言っていることは分かる。自分が考えていた行動も今からなら、取れる。

 

 

 

それは、ラクスにもキラにも、責任が大きくのしかかるが、それでも、先の大戦を経験した彼等がやらなければならないこと、だと感じている。

 

 

 

( 勝手なものですわねーー。キラが傷を癒すまで、離れることはできないと、自分に言い聞かせていたのに。

 

いざ、キラが立ち直るとーー)

 

 

 

微かに自嘲の笑みを浮かべた後、それを吹っ切るように、キリッと力を瞳に入れ、凛とした気配でキラを見る。

 

 

 

キラも凛々しい目を返してきた。それに満足気味に笑むと、ラクスは語った。

 

 

 

「では、キラーー。あなたに剣を預けます」

 

 

 

「ーーえ? まさか?」

 

 

 

驚くキラの胸に自らを預け、抱きとめさせる。

 

 

 

「キラ、たとえ離れていても、わたくしの思いが、あなたを守りますわーー」

 

 

 

胸の中で、愛しい人に想いを紡ぐ、やがて、夕日に照らされた2人の影は、一つに重なったーー。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

一方、シュバルツは、キョウジと自分にあてがわれた離れに、アンドリュー・バルドフェルド。マリュー・ラミアスと共にいた。

 

 

 

リビングにあるテーブルの前に座るシュバルツとマリュー。

 

バルドフェルドは、キッチンで湯を沸かしながら、コーヒー豆を挽いていた。

 

「そうかーー。私の砕いたコロニーの衝撃波が、それほどの影響を生んでいたのか」

 

 

 

「ーー プラントをほとんど、一人で破壊したらしいな? 流石ラクスにお墨付きをいただくわけだ」

 

 

 

シュバルツの言葉に、コーヒー豆を挽きながら、世間話のように軽くかたるバルドフェルド。

 

 

 

当然、非公開になっている情報を知るバルドフェルドに、シュバルツは疑問の表情を向ける。

 

 

 

「バルドフェルド、何故あなたがそれを知っている?」

 

 

 

「蛇の道は蛇って言ってな。元ザフトの人間でも未だに繋がりのある所はある。お前さんの情報はミネルバ隊にジュール隊、後はデュランダル議長にしか今のところは、広がってないが、ねーー」

 

 

 

コーヒーをカップ3つに均等に淹れながら、バルドフェルドは、淡々と鼻歌交じりに答える。

 

 

 

「優秀な情報源をお持ちのようだがーー、元ザフトでも、今はオーブの民間人であるあなたが、何故そこまでザフトにこだわる?」

 

 

 

コーヒーを入れたカップ3つを盆に載せ、テーブルに運び一つをマリューに、もう一つをシュバルツに出しながら、告げる。

 

 

 

「それを話す為に、そろそろ、お前さん達の正体を聞かせて欲しいんだがねーー」

 

 

 

「なにーー?」

 

 

 

「お前さん達のことは、散々調べ尽くしたが、全く分からない。経歴も戸籍も、オーブで偽装した以外のことは何も分からん。別にそれは、お前さん達が難民であれば分かることだ。プラントを破壊したり、津波を防ぐほどのMSさえ、持っていなければな」

 

 

 

バルドフェルドの目は油断ない光でシュバルツを見据えた。

 

対するシュバルツも正面から見返す。

 

 

 

「やはり、我々のガンダムのことを聞きたいのか」

 

 

 

「やはり、と言いましたね? シュバルツさん、あなたは一体?」

 

 

 

更に横から、マリューが口を挟む。

 

 

 

シュバルツは、あの騒動以降、半日ほど気を失い静かに寝かされているキョウジを見た後、覆面を外した。

 

 

 

「何ーー?」

 

 

 

「キョウジ、さん?」

 

 

 

覆面を外したシュバルツの顔は、ベッドで寝かされているキョウジと肌の色以外、瓜二つであった。

 

 

 

「私は、キョウジであってキョウジではない。言わば、影」

 

 

 

「影ーー?」

 

 

 

「そう、鏡に映ったキョウジの影なのだ」

 

 

 

シュバルツは語り出した。 自分の世界の話を。

 

 

 

自身とキョウジに起こった悲しい事件を。

 

 

 

全てをーーーー

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

長い沈黙があった。

 

 

 

マリューもバルドフェルドも、重苦しい表情になっている。

 

 

 

そんな彼らに、シュバルツは告げた。

 

 

 

「信じてくれ、としか今は言えん。しかし、私は嘘はーー」

 

 

 

語ろうとするシュバルツを手でバルドフェルドは制してきた。

 

 

 

「ーーいや、お前さんが嘘つきじゃないのは、ここまでの付き合いで、俺たちも知ってるよ」

 

 

 

「むしろ、納得しました。キョウジさんやシュバルツさんの機体や実力にも」

 

 

 

マリューに至っては納得してしまっている。彼女は元々は、ストライクガンダムのマニュアルに携わっていた人間だ。

 

 

 

シャイニングガンダムやガンダムシュピーゲルの技術の異常さは理解できる。

 

バルドフェルドに至っても、自分用に機体を改造する彼だからこそ、MFとMSとの根本的なコンセプトの違いを理解できる。

 

 

 

この世界の技術体系では殆ど、再現できないであろうことも。

 

 

 

「異世界かーー。なるほど、君たちも波瀾に満ちた人生だな」

 

 

 

「その一言で済まされると、有難いような、失礼なような、複雑な気分だな」

 

 

 

軽い感じで言われ、苦笑気味に返すシュバルツ。それに、バルドフェルドも穏やかに笑い返した。

 

 

 

「それで、シュバルツさん。あなたは、これから、ザフトのミネルバ隊に入るのですか?」

 

 

 

マリューの言葉に、こくりと頷き、シュバルツは言った。

 

 

 

「デビルガンダムーー、奴は間違いなくザフトのギルバート・デュランダルの元にいるはず。

 

それに、近くで成長を見届けたい少年がいる」

 

 

 

「正直、お前さんには、オーブに居てもらいたいんだがね。最近はどうも、連合、ザフトともきな臭い。ウズミ殿亡き今、連合からの同盟を突っぱねる力がオーブにはない」

 

 

 

バルドフェルドには、まるでこの先の状況が眼に映るようであった。

 

 

 

オーブは、近い内に必ず、戦争に巻き込まれる。

 

 

 

理念をいくら掲げても、それを貫く能力が、今は無いのだから。

 

せめてーー、キラが傷を癒し、先の大戦で預かった剣を持って、カガリの側に居れば、あるいは。

 

 

 

「もし、万が一、戦争に巻き込まれたら、キラ君は勿論、キョウジ君にもこの国は力を借りることになるだろう。

 

初めに謝っておくよ、シュバルツ君」

 

 

 

「状況は、そこまで切迫しているのか?」

 

 

 

「残念ながらねーー」

 

 

 

ため息まじりに吐かれた言葉に、説得力を感じ、シュバルツは、思わず寝かされているキョウジを見た。

 

 

 

「できるならば、キョウジをこれ以上苦しめたくはないのだが」

 

 

 

「そりゃ、さっきの話を聞いて俺もできるなら、関わらせたく無い。だが、お前さん達は、この世界に来て力を示しちまった。隠していても、ばれちまうくらいの力をな」

 

 

 

静かに波の音が聞こえてきた。

 

 

 

「巻き込まれるのは、時間の問題か」

 

 

 

「加えて言うなら、あなた方は、今の地球連合、ザフト、オーブ全ての勢力が喉から手が出るほどに欲しい存在です。それこそ、力ずくでもーー」

 

 

 

マリューの言葉に、更に事態の深刻さを理解する。シュバルツは、今一度キョウジを見た。

 

 

 

「キョウジは私のようなファイターではない。あなた方の期待には応えられないかもしれないがーー」

 

 

 

「あの機体ーーシャイニングガンダムだったか? の力を見て、それを動かせるなら、充分だと思うがね」

 

 

 

「………」

 

 

 

思い返すのは、かつての世界。

 

 

 

デビルガンダムに取り込まれ、望まぬ意志で多勢の人を不幸にし、自身も作り変えられた、キョウジの末路。

 

 

 

「キョウジの意志に関係なく、彼を争いに巻きこむならば、私はあなた方の敵になるかもしれんーー。

 

無論、キラもだ。あなた方は、そうやって、できる力があるからと、キラに状況を諭し、戦いを強制させた。

 

戦争をしているのだから、という理屈は分かる。だが、キラは能力があっても普通の少年だったのだ!! 望んで兵士だったのではない!!」

 

 

 

シュバルツの強い言葉に、マリューが下を向き、顔を歪めた。これに対し、バルドフェルドは、冷静に言葉を返す。

 

 

 

「兵士だよ。少なくとも、戦時に戦場で兵器を扱うなら、間違いなく兵士だ」

 

 

 

バルドフェルドの目を真っ向から見据え、シュバルツは聞いた。

 

「兵士に意思はない、と言うのか?」

 

 

 

「兵士は、ただの兵士だ。無論、人間である以上、意思はある。それでも、兵士は兵士。

 

戦場で消耗品のように今も多くの命が己の意思に反し、消えていく。キラのように、そうしなければ、生き残れない状況に陥り、挙句に命を奪われる。

 

キラやキョウジの命と彼らの命、どう違うのかね?」

 

 

 

戦争の現実ーー。

 

 

 

シュバルツとてーーウォルフとて現実には知らぬ、民間人の犠牲や入隊を前提とした戦い。

 

 

 

ファイターとしての戦いとは、まるで違う。

 

 

 

やるせなく、悲しく、あまりに理不尽な命の奪い合い。

 

 

 

ガンダムファイトの無い世界の争い。

 

 

 

「最早、避けられぬ、かーー。キョウジもキラも」

 

 

 

「力を持つからこそ、な。俺たちも宛にしなきゃならん状況だということは、詫びるよ。

 

俺に君のような力があれば、誰も巻き込まないと、言えるかもしれん。

 

しかし、現実は違う。特に、君の力やキョウジの力は、下手をすれば、地球連合やザフトの勢力図を書き換えかねない。

 

それほどの力、みすみす手放すことはできないな。

 

お前さんが、デビルガンダムとやらの調査をするという目的でザフトに入るなら、俺たちでも充分力になれるんだがね?」

 

 

 

つまり、バルドフェルドはキョウジやシュバルツの力をもらう代わりに、デビルガンダムの情報を探すと言っているのだ。

 

 

 

しかし、シュバルツは首を横に振った。

 

 

 

「あなた方の力を信じ無いわけではないが、デビルガンダムは危険なものだ。下手に手を出せば取り込まれる可能性もある。

 

余計な犠牲は出したくない」

 

 

 

「そんな危険なものだからこそ、この世界での協力者がいるんじゃないか? キラやラクスだけでなく、俺たちも混ぜてもらえんか?」

 

 

 

押し黙るシュバルツに、バルドフェルドも辛抱強く待つ。

 

 

 

キョウジの身が彼らの元にある以上、交渉は不利なのだがーー。それでもこのバルドフェルドという男は、シュバルツの意志を聞いている。

 

 

 

シュバルツがその気になれば、キョウジを奪還し、この場から消えることも可能ではある。

 

 

 

しかしーー。

 

 

 

思考を巡らせるシュバルツに、第三者の声がかかった。

 

 

 

「キョウジさんを、巻き込むようなことはさせません。絶対にーー!!」

 

 

 

「そして、シュバルツさん。貴方のしようとしている調査を、こちら側は全面的に協力致しますわ」

 

 

 

入り口から聞こえてきた声に振り返ると、そこには1組の男女が立っていた。

 

 

 

「キラ君ーー!?」

 

 

 

「ラクス。決心が付いたのか?」

 

 

 

「ええ。わたくしも、やるべきことをやりましょう。キラやシュバルツさん、カガリさんのように」

 

 

 

2人にあるのは、凛とした気配。

 

 

 

シュバルツをして、思わず目を細めるほどに眩しい、気高い決意を感じる。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

その夜、シュバルツ・ブルーダーは、ザフトのミネルバ隊に合流した。

 

 

 

翌日、地球連合はプラントに対し、ユニウスセブン落下を企てた犯人の引き渡しを口実に戦争を仕掛けたのだった。

 






みなさん、お待ちかねー!!

プラントで、ギルバート・デュランダルとの面会に行くアスラン。

そんな彼の前に、プラントにいるはずのない、かつての婚約者が姿を表します。

更に、赤い髪の軍人が、アスランの前に現れるのです。

次回!!

機動武道伝GガンタムSEED DESTINY 第11話に

レディー、ゴー!!


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第11話 新たなる旅 それぞれの始まり

みなさん、我らがシュバルツ・ブルーダーは、ついにオーブを離れ、ミネルバ隊と合流を果たします。

そして、アスラン・ザラもまた、衝撃の出会いを果たすのです。

それでは、ガンタムファイト、レディー、ゴー!!!




 

 ザフト新造艦ミネルバ--

 

 

 

 中立国家オーブの港に停泊して、休息を取る約束の3日目に、長身で灰色のコートを着た奇妙な覆面の男が現れた。

 

 

 

 彼の登場に合わせて、ミネルバは格納庫に船員を招集した。

 

 

 

 皆、覆面の男の入隊に不安半分、憧れと期待が残りといった風情だ。

 

 

 

「本日より、ザフト艦『ミネルバ』に同席させてもらうことになりました。シュバルツ・ブルーダーです。よろしく」

 

 

 

 両手を腰の後ろに回して組み、よく通る声で皆に挨拶するシュバルツ。

 

 

 

 軍人ではないはずなのに、その動きは正規兵のものよりも機敏で清廉されたものであった。

 

 

 

「シュバルツ氏はあくまでオーブの出身だから、ザフト軍ではないけれども、私たちに協力してくれるそうよ。もちろん、客人としてね。

 

 本国からの指示もあり、彼を迎え入れることになりました。みんな、仲良くして頂戴ね」

 

 

 

 皆がざわめく中で、彼を艦に誘った少年--シンも首をかしげていた。

 

 

 

「--本国から? プラントもシュバルツさんの加入に賛成してる?」

 

 

 

 プラント本国には、シュバルツ・ブルーダーのことは内密にしているはずだった。それなのに--

 

 

 

「おそらくは、デュランダル議長の指示だろう。あの場で、プラントの議会権限を持っているのは、ジュール隊のイザーク隊長とデュランダル議長だけだ。

 

 ジュール隊長は新人議員であるし、ミネルバとの関わりは皆無と言っていい。

 

 それにミネルバ隊を創設したのはデュランダル議長だ」

 

 

 

 シンの疑問にレイが右隣で答えた。左隣から、ルナマリアが身を乗り出してくる。

 

 

 

「覆面は変だけど、ザクに乗って助けてくれたときとか、普段の対応とか、格好いい人よね」

 

 

 

「お姉ちゃん、趣味変わったの!? あんな覆面忍者が良いなんて!!」

 

 

 

思わず目を剥くメイリンにシンがムッとした表情になり、言った。

 

 

 

「メイリンは、戦場のあの人を見てないから、そんなこと言うんだよ。めちゃくちゃカッコイイんだぜ。シュバルツさんは」

 

 

 

シンの言葉の後に、ルナマリアとレイも続く。

 

 

 

「ーーそうなのよね。普段の格好がアレだけど」

 

 

 

「格好がどうかは分からんが、凄まじい腕と筋の通った話をされる方だな」

 

 

 

三人からの高評価があることに、疑問符を浮かべながら、メイリンはシュバルツを見た。

 

 

 

「カッコイイ……かなぁ?」

 

 

 

そんな俗な話がされる中で、シュバルツ・ブルーダーの歓迎式は終了した。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

同時刻、プラントに居るアスランは、復隊目的でデュランダル議長に面会しようと、イザークの口添えから議会のある空港で待機していた。

 

 

 

待ち合わせの時間まで、あと半時間程度だ。

 

 

 

壁に掛けられた時計で確認し、空港のソファに腰掛け直す。

 

 

 

「アスランーー!! アスラン・ザラーー!!」

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

声の聞こえた方を見ると、ピンクの髪をしたアスランの良く知る女性が、走り寄ってきた。

 

 

 

「ーー!? ラクスっ!?」

 

 

 

彼女を抱きとめ、間近で顔を見るも、アスランの記憶の中にあるラクス・クラインに酷似している。

 

 

 

ただし、彼女とはあまりにも、雰囲気が違いすぎる。何より、服の露出度や胸の膨らみなどもーー。

 

 

 

「ーー君は?」

 

 

 

幾分か、吹っ飛んだ思考を戻しながら、アスランは問いかけた。

 

 

 

「ーーミーア、ミーア・キャンベルよ! 会いたかったわ、アスラン!!」

 

 

 

予想どおり、ラクスとは全く違う名前を告げてきた。

 

 

 

後ろから来たマネージャーらしき者や、護衛のような人間を見て、ミーアはアスランから離れ、隣の席に座る。

 

 

 

「でも、その姿と格好は?」

 

 

 

「私、ラクス様の身代わりでデュランダル議長の元にいるの。あの大戦の後、ラクス様はお姿を隠されたから、大戦後の混乱を避けるために、議長が私を選んでくださったの!!」

 

 

 

両の手を胸の前で合わせ、ミーアは目を輝かせた。

 

 

 

「ーーそれは、構わないのか? 君は、ラクスじゃない。ミーアなんだろ?」

 

 

 

なんとなく、ミーア個人としての気持ちを知りたくて、アスランは問いかけた。

 

 

 

すると、一瞬だけ、ミーアの顔が強張るも、すぐに笑顔を浮かべて答えた。

 

 

 

「私、憧れだったの! ラクス様の歌が好きで好きで、ラクス様を目指して歌手になった。でも、中々売れなくて。そんな時に議長に拾われて、ラクス様になれたの!!

 

凄く、感謝してる」

 

 

 

ミーアの独白を聞きながら、アスランは表情が強張るのを感じた。

 

 

 

( イザークの言うとおりだ。全くの善意からの行動じゃない。これは、俺も気をつけないとダメだな)

 

 

 

一見、ミーアの願いを叶えたように見えるが、ラクスはただの歌姫ではない。

 

 

 

クライン派を主流とした政治的後ろ盾を持つ、プラントの姫でもある。

 

 

 

替え玉を手元に置いて、利用しない手はない。

 

 

 

「ーー貴様が、アスラン・ザラか?」

 

 

 

眉間に皺を寄せ、考え込むアスランに、第三者の声がかかった。

 

 

 

心なしか、イザークに似ていたような気がしないでもなかったが、彼よりも低い声だ。

 

 

 

見れば、ロビーの方に20代前半、180はあろう長身の赤い髪のザフト軍の緑服を着た褐色の肌の青年が立っていた。

 

 

 

「ーーあなたは?」

 

 

 

「俺に名はない。呼びたければ、Dと呼べ。デュランダルはそう呼ばせるようにしているらしい」

 

 

 

いくら、ザフトが義勇軍とは言え、最高評議会議長を呼び捨てにする青年に、思わず目を白黒させるアスラン。

 

 

 

「ーーD!! 議長を呼び捨てにしちゃ、ダメじゃない!!」

 

 

 

すぐさま、アスランの隣に座っていたミーアが叱りつけた。

 

 

 

青年ーーDは鬱陶しげに、ミーアを見据える。

 

 

 

「ーーやかましいな、相変わらず。その金切声をどうにかしろと、何度言えば分かる?」

 

 

 

「残念でした、これは生まれた頃からの自前なのよ!!」

 

 

 

Dは、小うるさい仔犬から目を背けるようにアスランの方を向く。

 

顔立ちは整っているが野生的な雰囲気が全身から漂う青年に、蔑ろにされ、ミーアは更に眦を釣り上げて、立ち上がると、まとわりつくようにDの眼前にまで近づいていった。

 

 

 

「ーー邪魔だ、小娘。俺はそこの小僧に用がある」

 

 

 

「小娘じゃないわ、ミーア!」

 

 

 

興味なさげに、彼女を一瞥したのち、アスランに顔を向けるDに対し、自身の豊満な胸を叩いて、名を名乗るミーア。

 

 

 

その後、まるでDに言い聞かせるかのようにアスランをさして、告げる

 

 

 

「この人は、アスラン!!」

 

 

 

「何だっていいだろ。とにかく邪魔だから、向こうへ行け」

 

 

 

「ムッカァ!! あなたね、そんな態度だからーー!!」

 

 

 

Dは、さっさとアスランに用件を告げたいようだが、ミーアが噛み付いてそれどころではない。

 

 

 

( 無茶苦茶、目立つな。この二人)

 

なんとなく、距離を置いて、二人のやりとりを見る。

 

 

 

どう見ても、怖そうなDだが、意外にミーアに危害を加えるような真似はしない。

 

 

 

もっとも、Dはさっさとこちらに話を振りたいようだが、話しかけようとする度に、ミーアが前に回り込み、話を遮られている。

 

 

 

「ーー賑やかだね、D。ミーアも」

 

 

 

見れば、苦笑を浮かべたギルバート・デュランダル議長がロビーの階段から降りてきていた。

 

 

 

瞬間、ミーアが顔を真っ赤にして恥ずかしがり、うつむく。

 

 

 

反対にDは胸を反りかえらせて、アゴを向ける。

 

 

 

「ーー貴様の使いで来たが、小娘に邪魔をされたぞ。デュランダル」

 

ギロッと睨みつけるように、Dがホールに降りてきたデュランダルを見る。

 

 

 

先ほど視線を向けられたアスランは、身が竦む迫力だと思ったが、ミーアも議長も、全く緊張していない。

 

 

 

「すまないね。だが、D。ラクスがそこまで感情を露わにするのは、君ぐらいなんだよ?」

 

 

 

「迷惑だ」

 

 

 

間髪入れずに応えるDだが、すぐさま隣のミーアに足を踏みつけられている。

 

 

 

丁度議長からは、影になるが、アスランからは丸見えの位置だった。

 

 

 

Dが表面上は、全く顔を歪めずにミーアを見ると、うつむいて前髪の影に顔を隠しながら、般若の形相でDを睨みつけている。

 

( こ、こ、怖い……!!!)

 

 

 

アスランをして、戦慄するほどの形相であった。

 

 

 

本物を知るからこそ、余計に恐ろしい、アスランであった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

その後、デュランダルの案内で、客間に通されたアスランは、席に着くなり、デュランダルに自分の用件を伝えた。

 

 

 

「ーーつまり、オーブに籍を置いたまま、ザフトに復隊したい、と言いたいのかな?」

 

 

 

「ーーはい」

 

 

 

自分で言ったことだが、内心はどんだけ面の皮厚いんだ、と自分でツッコミを入れる。

 

 

 

イザークは、ストレートに要望を言って、受け入れられなければ、また相談しに来いと言っていたが。

 

 

 

まず、駆け引きもクソもない、こんなやり方では、通るものも通る訳ーー。

 

 

 

「ーーなるほど。カガリ姫の為か」

 

 

 

「ーーはい。って、え!?」

 

 

 

見ると、デュランダルはとても微笑ましいものを見るようにアスランを見ている。

 

 

 

「若いとは、いいね。純粋な気持ちで、行動ができる。若さ故の過ちもあるだろうが、私は尊重したい」

 

 

 

テーブルに置かれたカップを取り、口をつけて紅茶を一口含み、優雅にテーブルに戻す。

 

 

 

「ーーしかし、君はパトリック・ザラのご子息だ。アイリーン・カナーバ前議長のお心遣いの件もある。

 

オーブに籍を置いたまま、ザフトに参加することを私の一存で決めて良いものか」

 

 

 

「ーーその件につきましては、厚かましいついでに、私にフェイスの権限を与えていただきたいのです」

 

 

 

これは、やんわりと断わられるパターンだな、と考えながら、ヤケ気味にフェイスの件を伝える。

 

 

 

どうせ断わられるなら、全て告げてやる、と言った具合だ。

 

 

 

だが、これに議長がニンマリと言った表情でアスランを見た。

 

 

 

「どういう風の吹き回しかな? アレックスとしての偽名を捨てながらも、オーブに籍を置き、ザフトのフェイスになりたい、という真意は」

 

 

 

「先ほど、議長のおっしゃられたように、今の私は、一ボディガードに過ぎません。カガリの側に居ても弾除けにしかならない。それでも良いと、考えていましたが、それでは、弾除けにもならないし、妻にももらえないと、知り合いに言われました」

 

 

 

「私が、君にフェイスの権限を与えるのを疑っていないのかな?」

 

 

 

「ーー議長を信じて、全てを話しました」

 

 

 

どの面下げて言ってるんだ、と冷めた目でツッコミを入れずにいられない、内心だったが、必死にデュランダルの目を見る。

 

 

 

すると、デュランダルは前かがみになりながら、アスランに話してきた。

 

 

 

「ーー実はね、アスラン君。先のセカンドステージを強奪した戦艦の正体が、分かったんだよ。

 

連合の戦艦だ。

 

ただし、ユニウス条約に違反した、表向きでは、連合も持てないものでねーー」

 

 

 

「それは、つまりーー!!」

 

 

 

目を見開くアスランに、デュランダルは頷いた

 

 

 

「君は、父上に聞かされていないかな? ブルーコスモスの息のかかった地球連合の部隊のことを。軍事産業複合体ロゴスと言う、危険な連中の事を」

 

 

 

「ロゴスーー? 何度か父から聞かされています。確か、ブルーコスモスと繋がりのある、軍事産業。先の大戦で戦死した、ムルタ・アズラエルも、ブルーコスモスの盟主にしてロゴスのーー」

 

 

 

アスランの言葉に、デュランダルは満足気味に頷いた。

 

 

 

「ーー戦争になるんですか?」

 

 

 

「遠くない内に、ね。オーブも巻き込まれなければ良いのだがーー」

 

 

 

溜め息混じりに告げられる言葉に、アスランは戦慄した。

 

 

 

つまり、一方的に地球連合は、プラントに攻撃を仕掛けてきた事になる。

 

 

 

しかも、中立コロニーのアーモリーワンで、だ。

 

 

 

まるで、2年前の繰り返しだ。

 

 

 

前回はザフトが強襲して連合のGシリーズの機体を奪ったが、今回は地球連合がセカンドステージの機体をザフトから強奪した。

 

海洋国家オーブの周辺は、地球連合に加盟している国ばかりだ。

 

 

 

前回は、ウズミが居たからこそ、ある程度は抑えられたが、最終的に力ずくで来るだろう事にかわりはない。

 

 

 

今のオーブに、地球連合の強制を突っぱねる力があるか、どうか。

 

 

 

( カガリーー!!)

 

 

 

居ても立っても居られなくなり、アスランはデュランダルに軽く頭を下げると、客間から出て行こうと立ち上がった。

 

 

 

「ーーアスラン君、これを渡しておこう」

 

 

 

間髪入れずにデュランダルは、金属片をコトリとテーブルに置いた。

 

 

 

それは、ザフト軍のフェイスの証だ。

 

 

 

「ーー議長?」

 

 

 

「さらに、これを君に預けておく。セカンドステージの新型機だ。アーモリーワンでの式に間に合わずにいたんだが、つい先日完成してね。

 

良ければ使ってくれ」

 

 

 

まるで、車を貸すかのような気軽さで、MSのカタログを渡された。

 

 

 

思わず、議長が何を考えているのか、と顔を覗くと、デュランダルは笑った。

 

 

 

「ーーアスラン。私は運命を信じている。君のSEEDの力を。願わくば、君の望む正しい道を進んでくれ。オーブにとっても、ザフトにとってもね」

 

 

 

「ありがとうございますーー」

 

 

 

「そうそう、つい先ほどだが、シュバルツ・ブルーダー殿がオーブの客人として、ミネルバ隊に着いた。君もミネルバに向かうといい。彼との会話は君にも必要なものだ」

 

 

 

デュランダルの言葉に、黙礼だけを返し、アスランはその場を後にした。

 

 

 

( デュランダル議長は、一体、何を考えている?)

 

 

 

アスランの中で疑念が渦巻いていたーー。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

アスランが去った後、部屋に赤い髪の青年。Dが入ってきた。

 

 

 

「あの小僧も、舞台に必要なのか?」

 

 

 

「ーーああ。彼もまた、SEEDの持ち主だからね。ところで、D。君は、これから地球に向かうらしいが、何が目的かな?」

 

 

 

問いかけると、Dはニヤリと笑い、告げる。

 

 

 

「ーーこの世界には、我の他にも意思のあるガンダムが存在する。我から生み出されたもの。我の力を利用したもの。我に操られたもの。

 

その中で、一度は我を倒した『弟』と『かつての生体ユニット』の顔を拝むのも悪くない。

 

その後は、ドモン・カッシュを越えるために我が復活させた2人から、武術や戦術を学ぶとしよう。

 

この身を変え、進化を遂げ、更なる強さを示そうぞ」

 

 

 

「ーー楽しみだ。君の下半身のガンダムヘッドは、こちらの手元にある。

 

存分に楽しんできたまえ、新たな君に出会えるのを期待しているよ」

 

 

 

「当然だ、この世界で頂点に立ち、時空を超え、ドモンとゴッドガンダムを今度こそ下す。

 

我を倒したシャッフル同盟も、我と戦ったすべてのガンダムファイターも。

 

我が眷属にしてくれるわ」

 

 

 

 邪悪な笑みを浮かべ、この世界を足掛かりにして、元の世界を取り込もうと野心を燃やす。

 

 

 

 そんなDの姿を、恍惚とした表情で見つめ、デュランダルは跪く。

 

 

 

「我が王よ、何なりとご命令下さい。この世界の争いを終わらせ、真に支配される方よーー」

 

 

 

 デュランダルの部屋には、ユニウスセブンもテロリストであったはずのサトーや落とされたはずのジュール隊の者が、デュランダルの脇にて同じく跪いていた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

翌日の朝、オーブ近海にてーー。

 

 

 

ミネルバが、オーブの領域を出ようとした時に、それは起こった。

 

 

 

「ーー艦長! 前方にオーブ軍が展開しています!!」

 

 

 

「何だって!? どうして!?」

 

 

 

メイリンの報告に、副官のアーサーが取り乱す。

 

 

 

対するタリアは、納得気味に頷いた。

 

 

 

「やはり、当然こうなるでしょうね」

 

 

 

「ーー何故ですか!? 私達は、オーブにカガリ代表を返したり、カガリ代表から、客人としてシュバルツ殿を招いているんですよ!?」

 

 

 

「アーサー、言ってて気付かない? それよ、問題は。代表からの客人」

 

 

 

半分呆れ顔になりながら、モニターに映るオーブ軍を見つめる。

 

 

 

「カガリ代表の目が及ばない、オーブの海域ギリギリの所で部隊を展開しているのも、おそらく」

 

 

 

「それって、代表の意志をオーブは無視してるって事ですか?」

 

 

 

素っ頓狂な声を上げるアーサーに、タリアは親指の爪を噛みながら、言った。

 

 

 

「表向きは、代表に報告が遅れた体を装い、事後報告にすると言ったところかしら。カガリ代表は、まだまだ若いから、こういう政治の搦め手には、弱そうね」

 

 

 

オーブに引き返し、カガリ代表に掛け合おうにも、おそらくはもう、代表への連絡線を切られているはず。

 

 

 

「艦長、オーブ軍から通信です!!」

 

 

 

「繋いで頂戴」

 

 

 

メイリンに指示を返し、モニターに映し出される人を見据える。

 

 

 

思ったとおり、オーブの軍人の隣に、オーブの政治家の証であるえんじ色の背広を着た青い髪の青年がいた。

 

 

 

蛇のような粘着質な笑みを浮かべて、こちらを見ている。

 

 

 

「ザフト軍のミネルバ隊、艦長ーータリア・グラディスです。この包囲網は何でしょうか?」

 

 

 

正面から切り込んだところ、青年は、わざとらしく眉を上げ、言ってきた。

 

 

 

『そちらのザフトの船に、私どもの客人が乗っているでしょう? 彼を引き渡していただきたい』

 

 

 

「我々は、貴国のカガリ代表から直接ご依頼を受けて、シュバルツ殿を船に迎えておりますが。代表に話をとおしておられるのでしょうか?」

 

 

 

『その依頼は、何か文面でもある正式なものかな? まさか、口約束だけで、乗り切れるとは思ってないですよね?』

 

 

 

「ーーーーなるほど、ね」

 

 

 

シュバルツの事は、基本的に機密事項であるが故に書面には残さない。

 

 

 

カガリもそのつもりであるからこそ、敢えて文面を残さないように、タリアに直接依頼したのだ。

 

 

 

「一つ、お聞きします。どうやって、この船にいる客人の情報を知り得たのかしら?

 

カガリ代表から、お聞きになったにしては、矛盾を感じますわ」

 

 

 

『ーー代表は、政治にうとくてね。後で、きちんと説明しておくよ。情報については、こちらとしても無視できない事態が発生したんだ、としか言えないね。それより、大人しく引き渡してもらえないかな?』

 

 

 

軍を展開しておいてよく言う。

 

 

 

その言葉は飲み込み、静かに相手を見据える。

 

 

 

「ーー艦長、顔を正面に向けたまま、聞いてほしい」

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

その時、タリアの耳元から声が聞こえてきた。シュバルツのものだ。

 

 

 

「ーーこの部隊、私を手に入れることだけが目的ではない。オーブの海域の外に別の部隊が展開している気配がする」

 

 

 

シュバルツの言葉を受け、表面は、無表情を装うタリアだが、モニターに映らない手を凄まじいスピードで動かし、筆談でメイリンにオーブの海域の外をスキャンさせる。

 

 

 

報告は筆談で行うように、と但し書きを忘れない。

 

 

 

すぐさま、メイリンから反応があった。彼女は表情を真っ青にして、こちらにメモを返す。

 

 

 

( 距離ーーオレンジ。 船15隻。 機体60機。 潜水艦3隻。部隊名は、地球連合ーーやはりね)

 

 

 

敵の狙いは分かった。

 

 

 

デュランダルとの連絡で知り得たことだがーー。

 

 

 

地球連合の裏にいるロゴスは、ユニウスセブンを落下させようとしたテロリストの引き渡しを要求しているらしい。

 

 

 

それを口実に間も無くプラントに対し、戦線布告してくるはずだ。

 

 

 

オーブのユウナ・ロマ・セイランは、地球連合への手土産に、自分達を売ったのだろう。

 

にも関わらず、オーブ本国できちんと補給を受けられたのは、カガリのおかげということか。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

一方、オーブのイージス艦では

 

 

 

オーブ政治家のユウナ・ロマ・セイランは興奮していた。

 

 

 

映像を見るまでは信じていなかったが、見た以上、信じるしかない。

 

 

 

津波を割る驚異的な力を持つ謎のMS。

 

 

 

調べさせたが、何の手がかりもない。

 

 

 

だが、調べていく途中で気付いた。

 

 

 

あのMSが現れ、光の壁を出して、津波から守ったのは、カガリの弟とかいうコーディネーター達と薄汚い孤児の連中だ。

 

 

 

何かあると探れば、キラというコーディネーターのガキが2人の男を海岸で拾った話が出てきた。

 

 

 

2人は、カガリの伝手でオーブに偽造の籍を用意されていた。

 

 

 

しかも、キラが2人の男を拾った、その日に謎のMSの目撃談もある。

 

 

 

この2人の内、どちらかが、あのMSに関係しているに違いない。

 

 

 

そのMSを捕獲し、研究すれば、オーブは連合に代わり、地球を支配することもできる。

 

 

 

自分が、それを行ったあかつきには、カガリを妻とすることも容易にできるはずだ。

 

 

 

1人の男が、キラから離れたのは、ユウナには好機にしか映らなかった。

 

 

 

ついでにミネルバを連合の餌に差し出すこともできる。

 

 

 

全て、自分の描いたとおりに動いている、とユウナは優越感に浸る。

 

 

 

「ーーカガリ、待っていてくれ。すぐに君を妻として迎えに行くからね」

 

 

 

満面の笑みを浮かべ、勝利を確信して、ユウナは駒を進めた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

現状を説明すると、声の主であるシュバルツは、一つ頷いた。

 

 

 

「なるほど。つまり、オーブも一枚岩ではないと言うことか」

 

ユウナの一方的な通信もあり、シュバルツはミネルバが置かれている現状に納得したようだ。

 

 

 

「ーーあなた、何処にいるのかしら?」

 

 

 

タリアだけでなく、ブリッジの人々も先の声が聞こえたようだ。

 

辺りを気味悪げに見渡している。

 

 

 

「ーー艦長、私が彼らをまきましょう。どうやら、私のガンダムが目的のようですしね」

 

 

 

シュバルツの発言にタリアは、眉間に皺を寄せ、考える。

 

 

 

「ーー不可解なことがあるわ。

 

カガリ代表は、約束を違えるような人ではない。あなたのことをあの男は、どうやって知った?

 

あなたの実力は、アーモリーワンからユニウスセブンまで、カガリ代表もアレックス殿も知らなかったはず」

 

 

 

何処から情報が漏れたのかーー。

 

 

 

いやーーもし、仮に情報が漏れたとしても、信じるかどうかは、別の話だ。

 

 

 

農業用プラント『ユニウスセブン』を跡形もなく消滅させた先の機体のことを。

 

 

 

そして、人知を超えた激闘を繰り広げたこの男の闘いを見て、この程度の戦力で抑えると言うのか?

 

 

 

「ーーそのことについては、心当たりがあります。おそらくは、そちらの案件でしょう」

 

 

 

「できれば、その心当たりとやらを教えていただけないのかしら?」

 

 

 

「ーーオーブには、私の半身がいる。今は、これ以上のことは。では、失礼ーー」

 

 

 

それだけを告げ、シュバルツの声が途絶えると同時にモニターに黒いガンタムが一瞬現れ、目の前から消えた。

 

 

 

次の瞬間、オーブのイージス艦隊の目前に原因不明の水柱が発生した。

 

 

 

「ーー何なの!?」

 

 

 

目の前で起こる怪奇現象に、タリアでなくとも、頭を抱えたくなる。

 

 

 

オーブ艦隊は、原因不明の水柱に遭遇した後、レーダーなどの機器類がショートし、ミネルバを完全にロストした。

 

 

 

当然、海域の外で待ち構える地球連合も、ザフト艦の消失を知る。

 

 

 

この一件で、オーブは連合から、疑惑の目を向けられる口実を与えてしまったのだった。

 

 

 

それから間を置かず、ロード・ジブリールによるプラントへの一方的な宣戦布告が行われたーー

 

 

 

 

 

 




みなさん、おまちかねー!!

シェルターに逃げ込んだキョウジ達。

しかし、ザフトのMSは、執拗に彼らの命を狙います。

これに対し、キラはラクスより自由の剣を受け取り、彼らに立ち向かうのです。


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第12話 復活の自由の剣 キラの決意

物語も、いよいよ、本格的に動き出し始めました。

今日の相手は、ザフトの特務暗殺部隊とDと呼ばれるデビルガンダムの、人間型ユニット!

フリーダムを駆り、キョウジやラクスの為に出撃するキラ・ヤマト!!

しかし、悪魔は、彼にとてつもない壁となって立ちはだかるのです!!

それではーー、ガンダムファイト!!

レディー、ゴー!!


 

 

シュバルツが、ミネルバ隊に合流した夜。

 

 

 

意識を失っていたキョウジが、寝かされていたベッドで目を覚ました。

 

 

 

「ーーーーキラ?」

 

 

 

ベッドの脇にある椅子には、キラが座っており、手には自分の額に乗せられている濡れタオルの替えが握られていた。

 

 

 

「良かった、目が覚めたんですね?」

 

 

 

「ーー私は、何を」

 

 

 

そう言いながら、体を起こそうとするキョウジをキラが制する。

 

 

 

「ダメですよ、まだ動いちゃ! 医師(せんせい)によれば、一時的な心労によるストレスだってことですが」

 

 

 

「ーー気を失っていたのか。やれやれ、いつから、こんなに貧弱になったんだかーー」

 

 

 

心配そうに言ってくるキラを押しのけて、体を起こし、自分の身を見下ろす。

 

 

 

「ーーデビルガンダム、か。なるほど、シュバルツの言っていた通り、悪魔のような機体だ」

 

 

 

「ーーキョウジさん、記憶が?」

 

 

 

自嘲気味に笑うキョウジの言葉に、キラは思わず目を見開いた。

 

 

 

「ーーああ、思い出したよ。デビルガンダムに取り込まれていた記憶も、アルティメット細胞の研究も、すべてね」

 

 

 

キョウジの言葉に、キラは何と言って良いか、分からず、言葉を詰まらせた。

 

 

 

月明かりの中で、キョウジは静かに遠い目をした。

 

 

 

最後に見た弟は、逞しくなっていたが、昔と変わらず、涙で顔をくしゃくしゃにしていた。

 

 

 

「ーードモン、ありがとう。そして、すまなかった」

 

 

 

弟に自分を殺させてしまったことを、キョウジは深く深く詫びていた。

 

 

 

絶対に弟に会い、抱きしめてやらなければならない。

 

 

 

自分は、生きていたのだ。必ず、元の世界に帰る。

 

 

 

あんな弟の顔は、ゴメンだ。

 

 

 

「ーーキョウジさん」

 

 

 

キョウジの顔には、今までにない精気が漲っていた。それに、キラは驚くと同時に安堵した。

 

 

 

「ーー答えを見つけたんですね、キョウジさんも」

 

 

 

「ああ。キラも、しばらく見ない間に逞しくなったな?」

 

 

 

「僕も、今日は答えを得ましたから」

 

 

 

お互いに、笑いあう。

 

 

 

言葉にせずとも、分かり合える。

 

 

 

キラとキョウジは、今、不思議な意識の共感を果たしていた。

 

 

 

「ーーキョウジさん、お目覚めになられたのですね」

 

 

 

第三者の声が聞こえ、振り返ると、月明かりを背にしたラクスが、幻想的な雰囲気を纏って入り口に立っていた。

 

 

 

「ーー心配かけたな、キラ。ラクスも」

 

 

 

微笑みかけるキョウジに、2人とも首を横に振りながら、穏やかに笑う。

 

 

 

「ーー実は、キョウジさん。僕は明日、カガリに掛け合って、オーブ軍に入るつもりなんです」

 

 

 

「ーーオーブ軍に? 理由を聞いてもいいかな?」

 

 

 

「はい。僕の覚悟がぶれないように、決心を聞いて欲しかったんです。あなたにーー」

 

 

 

キラは端的に説明した。

 

 

 

先の大戦での自分の行動。

 

 

 

それにより、与えられた傷。

 

 

 

今日出会った少年の覚悟を見て、決めた意志。

 

 

 

「そこまでの覚悟があるなら、私が言うことは何もないよ、キラ」

 

 

 

「ありがとうございます、キョウジさん。聞いていただいて」

 

 

 

「ーーいや、ラクスも、キラと?」

 

 

 

当然、ラクスのことも気になり、キョウジは、キラと共に行くのか、と問いかけた。

 

 

 

すると、ラクスはキョウジを真っ直ぐに見てきた。

 

 

 

「ーーわたくしは、宇宙に上がりますわ。プラントにいるわたくしを必要とする方々を見てこようと思います。わたくしなりに、先の大戦での責任を取ろうとーー」

 

 

 

「ーーそうか。私も、2人に聞いてほしいことがある。私は、デビルガンダムに取り込まれ、多くの罪無き人をこの手にかけた。

 

その罪を償うためにも、そして何より、こんな兄貴の為に傷付いた弟の為にも、元の世界に必ず帰る。

 

そう、誓う」

 

 

 

たとえ、離れ離れになろうとも、心は側にある。

 

 

 

たとえ、時が違えども、必ずお互い、精一杯生きる。

 

 

 

3人の心は、その熱き魂は決して離れはしない。

 

 

 

「ーー明日、わたくし達は、別の道を歩みます」

 

 

 

「だけど、必ず、僕たちは同じ場所に戻る」

 

 

 

「ーーそうだ。この場所こそが、誓いの場所だ」

 

 

 

ーー その為にも、生き延びよう。お互いにーー

 

 

 

互いに手を取り合い、3人は誓った。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

その日の深夜だったーー。

 

 

 

全員が寝静まったころ、離れにいたキョウジは、何かの気配を感じ、目を覚ました。

 

 

 

「ーー誰だ!?」

 

 

 

「ーーシッ!」

 

 

 

目の前には、何度か顔を合わせたことのある、隻眼の男。アンドリュー・バルドフェルドがいた。

 

 

 

「あなたは、アンドリューさん?」

 

 

 

「キョウジ、夜分に悪いが、早急に俺と来てくれ。キラ達が襲われた。ここも危ない」

 

 

 

「ーーーーっ!?」

 

 

 

穏やかな日々は、急に崩れていく。

 

 

 

とてつもない不安が、キョウジの胸の中で渦巻いていた。

 

 

 

いつもと変わらぬ月が、空に浮かび彼らを、照らしている。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

キラ達の暮らす建物に移動すると、怯えた子ども達を宥めるラクスと、周りを警戒するキラがいた。

 

 

 

二人とも、こちらに気づくとホッとしたような表情で微笑む。

 

 

 

「ーーキョウジさん、バルドフェルドさん。良かった。無事だったんですね」

 

 

 

見れば、キラ達の屋敷の壁には、鉛玉の跡があり、手榴弾などで、爆破されている。

 

 

 

「人の心配をしている場合じゃない! 早く、逃げるんだ!!」

 

 

 

「ーーキョウジの言うとおりだ。一旦、シェルターに引っ込むぞ!!」

 

 

 

 

 

「ーーラクスさんは、私の後に続いて!! キョウジさん、バルドフェルドさんは、キラ君達を!!」

 

 

 

キョウジの言葉に、バルドフェルドも頷き、マリューとバルドフェルドにそれぞれ護衛された状態で、移動する。

 

 

 

背後から迫り来る襲撃者達から身を守りながら、シェルターにたどり着き、門戸を閉めたその時だった。

 

 

 

明らかに、今までとは違う重厚な質量が地響きを立てながら外から迫り、こちらに向かって、ミサイルを放ってきたのだ。

 

 

 

キョウジ、バルドフェルド、キラが反応する。

 

 

 

「ーーこの衝撃は、MS!?」

 

 

 

「こんなもんまで、持ち出してくるとはねーー」

 

 

 

「どうして、こうまでして、ラクスを!!」

 

 

 

キラの話によれば、襲撃者は、皆、ピンクの髪の若い女の死体を探していたらしい。

 

 

 

該当者は、この中に一人しかいない。

 

 

 

シェルターに付けられたモニターから外を確認すれば、6体のMSがこちらを睨みつけていた。

 

 

 

「ーーザフトの新型MSか」

 

 

 

バルドフェルドの言うとおり、それはザフトのザクと共に発表された丸みを帯びた、全身を緑色を基調とした鋭い爪の機体。

 

水陸両用型MSアッシュである。

 

 

 

 

 

次々とシェルターに打ち込まれるミサイル。

 

 

 

このままではシェルターの隔壁が破壊されてしまうのも時間の問題だった。

 

 

 

キラがラクスを見る。ラクスもキラを見て、こくりとうなずいた。

 

ラクスがハロの頭をパカッと開け、キラに告げる。

 

 

 

中には、金色の鍵が入っていた。

 

「キラ、鍵を」

 

「うん!」

 

 

 

迷わず、鍵を受け取り、キラは壁に向かって走る。

 

 

 

壁の両端にラクスとバルドフェルドが立ち、同時に銀の鍵を懐から出して鍵穴に挿し回すと、壁は中央から真っ二つに割れ、左右に別れて行った。

 

 

 

そこには、かつてヤキン・ドゥエの激戦を駆け抜けた、キラの愛機と同型のMSーーガンダムが立っていた。

 

 

 

名をフリーダム。

 

 

 

その機体を見て、キョウジが眼を見開いた。

 

 

 

「ガンダムっ!? これは、キラのガンダムなのかっ」

 

 

 

「そうです。ぼくのフリーダムガンダム」

 

 

 

「ガンダムに導かれた出会い、わたくしたちはそういう縁なのかもしれませんね」

 

 

 

驚くキョウジに、笑いかけるキラとラクス。

 

 

 

キョウジやシュバルツにとって、ガンダムは特別なもの。

 

 

 

キラもラクスも、それを理解していた。だからこそラクスの言葉に、キラも頷く。

 

 

 

「そうだ。僕たちは、ガンダムというMSに導かれた……。力はただ力だけど、それを変えるのは、出会いや思いなんだ!!」

 

 

 

そう強く告げるキラに、バルドフェルドが外のシェルターに放たれるミサイルを見て、言う。

 

 

 

「いいから早くなんとかしてくれ! このままじゃみんなお陀仏だ」

 

「キラ君、気を付けて」

 

 

 

マリューも、キラを見据えて言う。

 

 

 

キラは、強く輝く瞳で、返した。

 

 

 

「わかりました、フリーダム! キラ・ヤマト、行きます!」

 

 

 

灰色のガンダムが青と黒を基調としたトリコロールカラーへと変貌する。

 

青い翼のガンダムは、格納庫から飛んでいった。

 

 

 

 

 

アッシュを駆るザフトの特務隊ーー。

 

 

 

彼らは秘密裏に、要人を暗殺する専門の部隊だ。

 

 

 

あらゆる意味で、地球連合の『ファントム・ペイン』と似ている。

 

 

 

隊長機に乗る男が、シェルターにミサイルを打ち込みながら、隔壁の様子を探る。

 

 

 

「もう少しで隔壁を壊せる。そうすれば、あとは一掃できるな」

 

 

 

そこに、部下から思わぬ報告を受けた。

 

 

 

「隊長! 四時の方角より高速で飛行する物体があります!」

 

 

 

「なんだとっ!」

 

 

 

 あらぬ方向から、緑色のビームが二本、放たれた。それに、味方のアッシュ二機が動力炉を貫通されて動けなくなる。

 

 

 

「なんだぁっ!?」

 

 

 

ビームの方向を見ると、そこには、ビームライフルをこちらに構えた青い翼のガンダムが、宙に浮かんでいた。

 

 

 

「フリーダムっ!? 馬鹿な、先のヤキンドゥーエの戦いで消失したんじゃなかったのか!」

 

「ええい、うろたえるな! 所詮は旧式の機体だ! てぇー!」

 

 

 

間違いなく、先の大戦で猛威をふるった元ザフトのMS。フリーダムだ。

 

 

 

うろたえる部下を一喝し、同時にミサイルを構えて、一斉に打ちまくる。

 

 

 

それらを針の穴を縫うかのようにジグザグに移動しながら躱すフリーダム。

 

 

 

そのまま一気に近づいてきて、ビームサーベルを抜刀。交差する一瞬に、桃色の剣閃がきらめき、二機の両腕両足を斬り捨てる

 

 

 

「なぁにぃいい!?」

 

「なんだ、あれはっ!?」

 

「動きの次元が違い過ぎるっ!」

 

 

 

驚いてる間に四機、五機と潰されていき、最後に隊長機である自分しか残っていない。

 

 

 

「くそうっ!」

 

 

 

やぶれかぶれにバックパックに備えられたミサイルを放とうとして、先にビームライフルで打たれ、バックパックが崩壊する。

 

続いて、右腕、左腕、右足、左足と打たれ ダルマのようにされて、仰向けに転がる。

 

 

 

「これが、フリーダムの力なのか……っ。お、おのれぇ……っ、ここまでか」

 

 

 

自爆装置を発動させようとする隊長だったが、次の瞬間、

 

緑色のコードが地面を裂いて出てきた。

 

隊長機の中で、男は悲鳴とも疑問とも言える声を上げた。

 

 

 

「なにっ!? ――なんだ、これはっ」

 

 

 

それが、彼の人間としての最後の言葉だった。

 

 

 

コードは、倒されたアッシュにまとわりつく。すると、ビデオの逆再生のように、機体が元どおりになった。

 

 

 

キョウジがそれを見て、叫ぶ。

 

 

 

「まずい!! キラ、それはDG細胞だ!」

 

 

 

MSに乗るキラも、シェルターからの通信に目をみはる。

 

 

 

「DG細胞……」

 

 

 

「簡単に説明するぞ。あのコードに取り込まれた者は、デビルガンダムの手先になってしまう。人間や機械を作り替える恐ろしい細胞を植え付けられてしまうんだ」

 

 

 

「それじゃ、この人たちはもう」

 

 

 

「ああ。残念だが、彼らはもう人じゃない」

 

 

 

キラとキョウジの間に、これ以上ない緊張感が生まれた。そこに、砂漠の虎と呼ばれた男が、口を挟む。

 

 

 

「なるほどねぇ。これが調査対象のデビルガンダム。どれだけの性能か、調べておくとしようか。キラ、データを取りたい。慎重に戦ってくれ、お前さんがやられたら、こっちは終わりだ。ダメだと思ったら、逃げろ!!」

 

 

 

「わかりました」

 

 

 

またたく間にアッシュは全機復活した。

 

 

 

復活したアッシュは一斉にミサイルを撃ってくる。

 

 

 

先よりも遥かに多い勢いで、放たれるミサイルを、同じように高速で左右に蛇行しながら、捌ききり、すれ違いざまに両の四肢を切り捨てるフリーダム。

 

 

 

しかし、DG細胞のおかげでいくら破壊しようが、いくら砲台を潰そうが、即座に再生しミサイルを放ってくる。

 

 

 

「これが、DG細胞か……」

 

 

 

「ニュートロンジャマーキャンセラーがないのに、ほとんど核動力と変わらない!!」

 

 

 

バルドフェルド、キラ共に、DG細胞の能力に驚愕する。

 

 

 

キラは、動揺しながらも、すれ違いざまに再び、二機の四肢を斬り捨てる。

 

何度、切り捨てられても、またたく間に再生するアッシュに、キラは戦慄した。

 

 

 

「これは、この力は……危険すぎるっ」

 

「くくくく、ははっははっはっはっは」

 

 

 

いきなり、敵MSのパイロットから、通信が入る。

 

狂気を露わにした笑みが、そこにあった。

 

 

 

「どうした、スーパーコーディネーターとやらはこんなものなのかぁっ!」

 

「所詮人間の限界だなぁっ!」

 

 

 

次々と回線が開かれ、圧倒的な火力を持って攻撃をしかけてくる。

 

 

 

おそらく、この6機だけの火力だけで、正規軍の一個師団にも匹敵できる。

 

 

 

「ーーくっ!?」

 

 

 

弾丸やビームを紙一重でかわしながら、時に盾を使い。サーベルで斬りはらいながら、避ける。

 

 

 

機械のように精密な射撃と、フリーダムの動きについてくる反応速度。

 

 

 

キラをして、受けるのが精一杯だった。

 

 

 

このMSの動きに、ついにキラはSEEDを発動した。

 

 

 

「あなたたちは、もう人じゃない。人でないのなら。これ以上、犠牲を増やさないためにも、ぼくは!

 

あなたたちを撃つ!!」

 

 

 

フリーダムのバーニアの火が倍の勢いになり、機動力が桁違いに上がる。

 

キラは次の瞬間、アッシュ達との距離を一気に詰め、コクピットと動力炉を同時に斬り捨てた。

 

次々に倒され、爆発して、動きを止めるMS。それらを振り返ることなく、フリーダムは、確実に一機ずつ仕留めていく。

 

 

 

一方的な展開に、DG細胞におかされた元ザフトの人間達は、叫んだ。

 

 

 

「馬鹿な……っ、我が王より頂いた力がっ。我らは、コーディネーターだぞっ! ただのナチュラルではない、その我らがDG細胞を得れば、スーパーコーディネーターなど容易く葬れるのではないのかっぁぁ!」

 

 

 

絶叫する。

 

 

 

残り一機となった隊長機に、フリーダムは突っ込む。

 

 

 

「これで、おわりだぁあああ!」

 

「ばかなぁああああ!」

 

 

 

ありとあらゆる弾幕をはり、フリーダムを近づけまいとする隊長機であったが、アッサリと懐に入られる。

 

 

 

フリーダムは、左右にビームサーベルを一振りずつ持つと、交差気味に機体を4つに切り裂いた。

 

 

 

バルドフェルドは、その様をモニターで確認し、一つ頷く。

 

「さすがキラ。鮮やかだねぇ。迷いがないと強いね、あいつは」

 

「これがキラの実力なのか……。あのおとなしいキラの」

 

その横で、初めてキラの実力を目の当たりにしたキョウジは、目を大きく見開いていた。

 

 

 

彼らの後方には、今にもキラに飛び込みたそうにしている、ラクスがいた。

 

 

 

( キラ。どうして世界は、あなたにーー。そうまでして、人を撃たせようとーー)

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

アッシュを全滅させ、爆煙を背にしながら、物悲しそうに佇むフリーダム。

 

 

 

その前に、赤くどす黒い機体が現れた。

 

赤を基調としたトリコロールカラーのシャイニングガンダムによく似た、肩幅の広いガンダム。

 

 

 

キョウジの記憶とは、異なる白いMFの足を持つガンダム。

 

 

 

なぜ、其処にいるのか。

 

 

 

そんな疑問を頭に浮かばせながら、キョウジはキラに叫んだ。

 

「逃げるんだ、キラっ! そいつがデビルガンダムだ!!」

 

 

 

キョウジの言葉に、キラの眦がつり上がる。彼は、悲しんでいたのではない。怒っていたのだ。

 

 

 

「この機体が、すべての元凶か! ならば、いまここで、僕が倒すっ!」

 

 

 

キラの宣言に、デビルガンダムは通信をオンにして答えた。

 

キラのモニターには、赤い髪の男が邪悪な笑みを浮かべて、立っている。

 

 

 

「ふんっ、身の程知らずが。人間をわずかに超えた程度の貴様が、人外を極めた我に適うと思うのか?」

 

 

 

デビルガンダムの問いかけに、キラは怯むことはない。

 

 

 

「やってみなければわからない! いくぞ!!」

 

 

 

宣言と同時に、バーニアを全開にし、一気に空を駆け抜けるキラのフリーダム。

 

 

 

「だめだ、キラ! 逃げるんだっ!! 一対一ではデビルガンダムには勝てないっ!」

 

 

 

 

 

逃げる気のないキラに、思わずキョウジが叫ぶ。

 

 

 

しかし、その声を振り切り、キラは悪魔に刃を向けた。

 

 

 

 

 

地面スレスレを低空飛行で、音速を超えてフリーダムはデビルガンダムに突っ込む。

 

 

 

「ーー速いっ!」

 

 

 

デビルガンダムーーDをして、目を見開くほどのスピードだった。

 

 

 

ビームサーベルを抜いて、キラのフリーダムが袈裟懸けに斬りかかってくる。

 

 

 

これに対しDも自身の肩についてある、黄色の突起物を引き抜き、ビームサーベルを形成させた。

 

 

 

前正面から来たキラのサーベルを正面から打ち返そうとするD。

 

激しくぶつかるビームサーベルは、火花を散らす。

 

 

 

鍔迫り合いの姿勢で、Dは力任せにフリーダムをふっ飛ばそうと力を込めた。

 

 

 

と同時に、フリーダムはバーニアを使い、高速で弧を描くようにデビルガンダムの背後にまわる。

 

 

 

「なんだとーー!?」

 

 

 

Dが気づいた時には、フリーダムの腰のレールガンがデビルガンダムを吹っ飛ばしたところだった。

 

 

 

顔面が地面に近づいた際、片手をついて宙でバク転の要領で体制を立て直し、着地するデビルガンダム。

 

 

 

その着地点に寸分違わず、放たれるフリーダムのフルバースト。

 

 

 

フリーダムガンダムの全射撃武装を使った強烈な一撃だった。

 

 

 

「ーーチッ! こんなもので!!」

 

 

 

 

 

悪態をつきながら、両の腕を使い、ビームを弾くデビルガンダム。

 

 

 

全てを弾き飛ばし、ニヤリとキラを見据えて笑うDだが、

 

キラは既に、正面(そこ)にいない。

 

 

 

「ぬっ!?」

 

「これで、終わりだぁあああ!」

 

 

 

キラの叫び声と共に、フリーダムが側面から懐に飛び込んできた。

 

 

 

Dの反応が一瞬遅れ、デビルガンダムのコクピットにフリーダムのビームサーベルが突き刺さる。

 

 

 

見事なキラの一撃であった。

 

 

 

キラはしかし、油断することなく、バーニアをバックにふかし、高速移動で一旦距離を取る。

 

 

 

空中から、腹部にビームサーベルが刺さった状態で停止しているデビルガンダムの様子を窺うキラ。

 

 

 

「ふっふっふっふっふ……。やるじゃないか」

 

 

 

だが、通信の声が普通に聞こえてきた。

 

 

 

モニターを見ると、突き刺されたビームサーベルを胴体から自力で抜くデビルガンダムが映った。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

そして、向こうの景色まで見える程に貫かれた穴がまたたく間に元どおりに再生される。

 

 

 

 

 

 

 

この光景をシェルターで見ているバルドフェルド達も、戦慄した。

 

 

 

「ばかなっ!? たしかに、コクピットを貫いたはずだぞ!!」

 

「正に、悪魔だわ。悪魔のガンダム……!」

 

「これが、世界を取り込もうとする悪意の権化、デビルガンダム……!」

 

 

 

マリューも恐怖で顔を青ざめる中、気丈にもモニターを睨み付けるラクス。

 

悪魔の恐ろしさが、彼女達にも伝わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

デビルガンダムーーDは、静かに再生を終えたガンダムの腹部に手を当て、笑う。

 

 

 

「ふっふっふ、なるほど。あの程度の連中では相手になるはずもないな。

 

きさまのような男は、当然叩き潰すしかあるまい」

 

 

 

邪悪な笑みを浮かべ、デビルガンダムは両手の拳を左右の腰に置き、腰だめに構えた。

 

 

 

キラは、油断なくフリーダムにビームライフルを構えさせる。

 

 

 

まだ向かってくる気力を感じ、デビルは嗤った。

 

 

 

「喜ぶがいい、きさまはこの世界に来て我の糧となる第一号の犠牲者だ!」

 

 

 

言葉と同時に、デビルガンダムの全身から血のように赤黒い光が放たれたーー

 

 




みなさん、お待ちかね〜!!

デビルの猛攻に、苦戦するキラ。

攻撃のたびに再生し、強力になっていくデビルガンダムに成すすべなく倒されるのかと思いきや、突如光り輝くガンダムが、二人の間に割って入り、悪魔を倒せと、輝き叫ぶでは、ありませんか!!

次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第13話に、レディー、ゴー!!


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第13話 悪魔を倒せ シャイニングガンダム

みなさん、今回の話で、デビルガンダムとの戦いは一応の決着を見ます。

ですが、まだまだ、物語はこれからです!!

それでは、ガンダムファイト、レディー、ゴー!!!




 

 

まだ真っ黒なオーブの海を、赤く禍々しい光が照らしていく。

 

 

 

光は、デビルガンダムから放たれていた。

 

 

 

天を衝き、地を穿つ、強烈な波動。

 

 

 

武道家でないキラにも、それは純粋な圧力となって襲い来る。

 

 

 

(向かい合ってるだけなのに、なんなんだ!? この重圧は!?)

 

 

 

「ーー覚悟はよいか?」

 

 

 

声が聞こえたと同時に、デビルガンダムの巨体が消える。

 

 

 

次の瞬間に現れたのはフリーダムの目の前。

 

 

 

「ーーっ!?」

 

 

 

ボディに放たれる拳、咄嗟に左手のひらで受けるも、拳の衝撃はフリーダムの遥か後方まで突き抜けた。

 

 

 

「ぐぅっ!? なんてパワーだ!」

 

「ほう、反応したか。さすがだな…だがっ!」

 

 

 

そのまま拳を振り抜かれ、後方に吹っ飛ばされるフリーダム。衝撃はキラにも及ぶ。

 

 

 

「ぐぁあああ!!」

 

 

 

強烈なGに、キラが悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キラーーっ!!」

 

 

 

モニター越しのフリーダムの危機に、ラクスが震える。

 

 

 

「ばかなっ! さっきまでとはスピードもパワーも桁が違うっ!!どういうことだ!?」

 

 

 

バルドフェルドも、先ほどまでの動きと明らかに違うデビルガンダムの動きに戦慄した。

 

 

 

 

 

後方に弾き飛ばされながら、キラは必死にフリーダムのウイングバインダーとバーニアを展開、宙にて体勢を整える。

 

 

 

デビルガンダムは、追撃を敢えてせずに、悠然と立ち、キラに話しかけてきた。

 

驚きと恐怖に顔を歪ませるキラに、Dは邪悪で嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

 

 

「貴様の動き、大変参考になった。なんだ? 我の動きが上がったのが気になるのか?

 

なに、気にすることはない。お前の動きを超えるために、自分の動きを進化させただけだ」

 

 

 

「進化、だってーー?」

 

 

 

疑問を浮かべていたキラに、Dは悠然と説明する。

 

 

 

「貴様の動きは素晴らしい。おそらく、我の世界でも、そこそこの戦士として称されたであろう。

 

だが、だからこそ、その動きが我を更なる高みへと押し上げる」

 

 

 

「ーー進化? まさか…僕の動きを分析して、それを越えるスピードを出せるように自分を作り変えたのか!?実戦の最中に!?」

 

 

 

 

キラ自身も、何度か実戦の最中にOSを書きかえ、設定したことはある。

 

だが、あくまでそれはOSだ。

 

 

 

機体の性能そのものを、目の前の存在は変えられる。

 

 

 

それはつまりーー

 

 

 

「わかるか、人間。お前では我に勝つことなどできぬということが。 我は敵が強ければ強いほど、我が機体を進化させることができるのだ。 我こそは進化の頂点。人々に忌み嫌われし程の力を持つ、デビルガンダムよーー」

 

 

 

 

 

デビルガンダムの言葉を頭の中で反芻させ、考える。

 

 

 

(もし今の言葉が本当だとしたら、このままじゃ勝てないっ! フリーダムがどれだけこのMSを上回っていても、このMSはそれを上回るようにさらに進化するってことだ! いったい、どうやればこいつを倒せるんだ!?)

 

 

 

 

 

どうにかして状況を打破しなければならない。

 

 

 

ギルバート・デュランダルの隣に控えていたデビルガンダムが、ラクスを狙ったザフトの部隊と同時に来たのだ。

 

 

 

ここで敗北することは、シェルターのラクス達もただでは済まないということになるーー

 

 

 

キラは、強い意志の力で恐怖をねじ伏せた。

 

 

 

その様に、Dはさらに邪悪な笑みを浮かべ、気を高める。

 

 

 

「ふっふっふっふっふ、諦めんとはたいしたものだ。恐怖を糧に、闘志を奮い立たせたか。だが、お前に勝ち目はない。大人しく、我がDG細胞の糧となれ、キラ・ヤマト」

 

 

 

邪悪な気は、更なる禍々しい闘気を呼び、Dの力を底上げする。

 

 

 

迂闊な攻撃は、逆に敵を強くすることを理解したキラは、静かにDの動きを窺う。

 

 

 

「どうした、かかってこないのか?」

 

 

 

動かないキラに、サディスティックな笑みを浮かべて、Dはフリーダムを冷酷に見下ろす。

 

 

 

まだ、動かない。すると、Dは無造作にこう告げた。

 

 

 

「では、こちらから行こう」

 

 

 

一瞬の後、一気に突っ込んでくるデビルガンダム。

 

 

 

キラはフリーダムのバーニアを一気にふかし、バックダッシュを行う。

 

同時にビームライフルを構えてデビルガンダムの頭部に向かって二撃、放った。

 

 

 

バチィッ

 

 

 

しかしデビルガンダムは、無造作でーーガードもせずにビームを顔面でまともに受けーー無傷だった。

 

 

 

「ーーなにっ!?」

 

 

 

まるで、ビームなど気にすることもなく、そのまま突き進むデビルガンダムに、キラは目を見開く。

 

 

 

「まだわからないのか? 無駄なんだよ」

 

 

 

言葉と同時に、デビルガンダムがフリーダムが逃げようとした方向へ先回りして左上段回し蹴りを放ち、ヒットする。

 

 

 

フリーダムは、物凄い勢いで横に吹き飛ばされる。

 

 

 

地面に叩きつけられる直前でバーニアを吹かし、なんとか体勢を立て直す。

 

 

 

しかし力の差は歴然…間髪入れずに、キラの目の前にデビルガンダムが突っ込んできている。

 

 

 

キラが正面を向いて反応すると同時に、背後にDは機体を回らせていた。

 

 

 

「ーーくっ!!」

 

 

 

振り返り様にサーベルを一閃するフリーダム。

 

 

 

しかしその一撃は、絶妙なデビルガンダムの上体反らしで、彼の顎先を掠めるだけだ。

 

 

 

返しの左横回し蹴りがフリーダムの側腹に決まり、軽く数100メートルの距離を吹き飛ばされる。

 

 

 

(ーーあの巨体で、なんてスピードと身のこなしなんだ!!これがMFなのか! スピードもパワーも、頑丈さも、すべて桁が違う!!)

 

 

 

 

「ーーだけど、僕はまだ、負けた訳じゃない!!」

 

 

 

自身を奮い立たせる。圧倒されている。だから、どうした?

 

 

 

機体の性能が違う、それがなんだ?

 

 

 

自分が諦めたら、ラクスはどうなる?

 

 

 

自分の大切な人達は、どうなる?

 

 

 

「ーー諦めない!! 最後まで僕は、戦う!!」

 

 

 

フリーダムは、パイロットの意志に応えるように、翼を大きく広げ、左右にサーベルを一振り持って、デビルガンダムに仕掛ける。

 

 

 

音速をも越えるスピードで、フリーダムはデビルガンダムに斬りかかったーー。

 

 

 

ハイスピードでの凄まじい攻防。

 

 

 

並のパイロットでは、10数回は命取りになるであろう、斬撃と打撃のぶつかり合い。

 

 

 

キラの高速での斬撃を左右の拳で捌きながら、デビルガンダムが懐に入りこもうと踏み込む。

 

 

 

フリーダムは逆に、デビルを懐に入れさせまいとバーニアをふかし、バックステップしながらのサーベルでのなぎ払い。

 

 

 

互いに譲らぬ自分の有利な距離の取り合い。

 

 

 

しかし、細かい動きを前提としたMFと、射撃を重視したMSでは、当然だが差が出る。

 

 

 

フリーダムの左袈裟切りを紙一重で脇にかわし、ついにデビルガンダムは、フリーダムの懐に入り込んだ。

 

 

 

「ーーしまった!!」

 

 

 

「さらばだ、キラ・ヤマト!」

 

 

 

勝利の凄絶な笑みを浮かべ、Dは左掌を突きだしながらフリーダムのコクピットに放つ。

 

 

 

「いかん、あれでは避けられないっ!」

 

「きらぁあああっ!!」

 

 

 

バルドフェルドが叫び、ラクスが声を限りに絶叫する。

 

 

 

その光景にキョウジも叫んだ。

 

 

 

「ーーやめろぉぉぉおおおっ!!!」

 

 

 

その時だ。

 

 

 

キョウジが声を限りに叫んだ瞬間、あふれんばかりに輝く緑色の光がデビルガンダムの掌の前に現れたのだ。

 

 

 

光は、一機のーートリコロールを基調としたーー鎧武者を彷彿とさせるMFに変化した。

 

 

 

その機体は、先日オーブに来た津波を割り、元の世界では、一度はデビルガンダムを倒したこともある。

 

 

 

キングオブハートの愛機にして、ゴッドガンダムの兄弟機。

 

 

 

そう、シャイニングガンダムだーー。

 

 

 

フリーダムとデビルガンダムの間に現れたシャイニングガンダムは、デビルガンダムの放った左手の手首を右手で掴み止めている。

 

 

 

同時に、デビルガンダムがシャイニングガンダムの顔を見る。

 

 

 

「久しぶりだな、兄弟。ギアナ高地以来だ」

 

 

 

何も語らないシャイニングガンダムにデビルガンダムは嘲笑した。

 

 

 

「ふんっ、ドモン・カッシュ抜きで我に勝てると思うのか? 弟よ」

 

 

 

瞬間、シャイニングガンダムは、掴んでいるデビルガンダムの左手を固定したまま、無言で右の後ろ回し蹴りを顔面に放つ。

 

 

 

咄嗟に、掴まれていた腕を引き離し、デビルガンダムはバックステップで鼻先にて避けた。

 

 

 

全く油断ならない鋭さと速さを兼ね備えた一撃に、デビルガンダムも腰を落として、斜に構える。

 

 

 

 

 

自分を救ってくれた機体に思わず、キラは問いかけた。

 

 

 

「力を、貸してくれるのかっ?」

 

 

 

その言葉に、シャイニングガンダムは一瞬だけ、首をフリーダムにふり返らせ、目を光らせる。

 

 

 

そして、ハッキリと頷いてみせた。

 

 

 

その様に、キラはよし、と一つ頷き、デビルガンダムは忌々しそうに、シャイニングガンダムに言い放つ。

 

 

 

「パイロットも生体ユニットも持たぬMFなど、なんの役に立つ!」

 

 

 

言うや否や、飛び込んでくるデビルガンダムに対し、見ると同時にシャイニングガンダムは自分の腰からビームソードを抜き放ち、デビルガンダムに負けず劣らずのスピードで突っ込む。

 

ガキィッ

 

デビルガンダムの右掌をビームソードで抑え、止める。

 

 

 

「ーーふんっ、小賢しい」

 

 

 

力任せにサーベルごとシャイニングガンダムを押し返そうとする。

 

 

 

その瞬間にシャイニングガンダムの肩の上から、フリーダムがフルバーストを放ってきた。

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

流石のデビルガンダムも反応できず、まともに喰らった。

 

 

 

「ちぃっ! 小賢しい真似をっ!」

 

 

 

フリーダムの攻撃は、無傷ながらもデビルガンダムをのけぞらせることに成功した。

 

 

 

瞬間、シャイニングガンダムが追い打ちで胴薙ぎを決めて、後方へデビルガンダムを吹っ飛ばす。

 

 

 

ズドォッと地響きと土煙を上げながら、デビルガンダムは地面に叩きつけられた。

 

 

 

 

 

この光景に、シェルターのバルドフェルド達は湧き上がる。

 

 

 

「ーーやるじゃないか、キラ!!」

 

 

 

「シャイニングさんのおかげですわね」

 

 

 

ラクスも穏やかな笑顔で安心したように、彼らを見る。

 

 

 

 

 

 

 

吹き飛ばされたDは、土煙を睨み付けると同時に、気合いで煙を弾き飛ばした。

 

 

 

同時に舌打ちをする。

 

「ちぃっ」

 

 

 

土煙を晴らすと同時に、右からシャイニングガンダムが両手持ちからの右袈裟懸け。左からフリーダムガンダムが二刀流からの十字切りでデビルガンダムに斬りかかった。

 

 

 

交差攻方気味に斬り捨てられるデビルガンダムは、咄嗟に両腕でガードするも、衝撃で後方に後ずさり、防いだ腕も表面を切り裂かれる。

 

 

 

だが、次の瞬間には、裂かれた傷はビデオの逆回しのように再生した。

 

 

 

ガードを解き、静かに2体のガンダムを睨み据えて、Dは嗤った、

 

 

 

「くくく、思った以上に戦いにはなるようだが……ーー所詮この程度よ」

 

 

 

Dはそう吐き捨てると同時に、胸部に力を込める。

 

 

 

次の瞬間、デビルガンダムの胸にある緑色のクリスタルから赤い色の炎が噴き出し、一直線に放たれた。

 

 

 

熱戦を間一髪で左右にかわす、シャイニングとキラ。

 

 

 

 

 

ーーズドォァッ

 

 

 

 

 

その後方に放たれた炎の一撃は、オーブの山を一つ消し飛ばし、ドーム状に光が広がる。

 

 

 

その光景に、相対するキラは戦慄した。

 

 

 

「なんて威力だっ!」

 

 

 

まともに食らえば跡形も残らないだろう、強烈な一撃。アレが街に放たれでもすればーー。

 

 

 

いや、山に暮らしていた人がいたらーー。

 

 

 

そこまで想像し、先日あった少年ーーシンの言葉を思い出す。

 

 

 

(俺の家族は、あなたのフリーダムが戦った場所で、死んだんだ!!)

 

 

 

途端にキラの目つきが鋭くなり、デビルガンダムを睨みつけた。

 

 

 

「ふっふっふっふっふ、はっはっはっはっは! 力の差を理解したか、愚か者どもよ。ん?」

 

 

 

目を見開くデビルの前に、フリーダムが現れた。

 

 

 

強烈な、右の片手胴薙ぎに、デビルガンダムをして下がらざるを得ない。

 

 

 

「ーーよくも、オーブを!!」

 

 

 

怒りに燃えるキラの攻撃は鋭く、フリーダムの動きもそれに合わせて、苛烈になる。

 

 

 

無視できないフリーダムの動きに、デビルガンダムは集中し、もう一機のガンダムから目を離してしまっていた。

 

 

 

バキィッ

 

 

 

フリーダムを打ち下ろし気味の右拳を叩き付けて、倒すと同時にDは気配に気付き、振り返る。

 

緑色に輝く掌が、デビルガンダムの目の前にあった。

 

 

 

「ーーなんだと!?」

 

 

 

驚愕と同時に、頭部が掴まれ、シャイニングガンダムのマスクが、左右に展開し、光輝く右手が力を増した。

 

 

 

シャイニングフィンガー、シャイニングガンダムの切り札にして、あらゆる場面に対応する、必殺技である。

 

 

 

「ぬぉおおおおおっ!」

 

 

 

両手で右腕を引きはがそうとするデビルガンダム。

 

 

 

それよりも早くシャイニングガンダムがデビルガンダムの頭部を握り潰した。

 

 

 

ーーボシュウッ ズシィィン

 

 

 

全機能を停止し、仰向けに倒れるデビルガンダムの巨体。

 

 

 

「やったのか!?」

 

 

 

動きを止め、倒れた機体に、キラが喜びの声を上げながらフリーダムを立ち上がらせた。

 

 

 

ーーだが。

 

 

 

すぐに、緑色のコードが頭部の無くなった首から伸び、生き物のように蠢いた後、頭部を形成し始めた。

 

 

 

僅か数秒で頭部は元に戻る。

 

 

 

同時に、立ち上がってくるデビルガンダムーー。

 

 

 

「どうすればいい、どうすれば勝てるんだ!! こいつにーー!!」

 

 

 

流石のキラも、デビルガンダムの再生能力にキリがないことが分かり、焦りが見え始めていた。

 

 

 

その時、フリーダムのモニターにシェルターのバルトフェルドから通信が入った。

 

 

 

『キラ、どうやらそいつとはまともにやりあっちゃだめなようだ。とりあえず、一時撤退することを薦めるよ』

 

 

 

「でもっ、どうやって!」

 

 

 

簡単に言うバルトフェルドに、キラが焦りの声を上げる。

 

 

 

すると、バルドフェルドから地図がデータで送られてきた。

 

 

 

『一瞬でいい。一瞬、あのデビルガンダムをこの位置に押し込むことができればーー』

 

 

 

その地図に、座標軸を送る。

 

 

 

「ーーこれは?」

 

 

 

『とりあえずデビルガンダムをそのポイントまで後退させてくれ。 上にさえ載せれば、カタパルトデッキを使って、デビルガンダムを海の彼方へ吹っ飛ばすことができるはずだ』

 

 

 

 

「わかりました」

 

この手しかないーー。キラの目に、冷静な光が戻る。

 

 

 

 

 

一方、立ち上がったデビルガンダムは、シャイニングガンダムを睨みつけていた。

 

 

 

「シャイニングぅぅ……き、さ、まぁあああ!」

 

 

 

叫ぶと同時に、巨体が消える程のスピードで動き、アッサリとシャイニングの懐に入り込むと、強烈な左の拳をボディに放つ。

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

凄まじい衝撃と共に、シャイニングガンダムの機体が宙に浮いた。

 

 

 

「できそこないの弟が、この俺に敵うと思うのかぁあ!」

 

 

 

宙に浮かび上がった状態から更に、右拳で顔面を殴りつけられるシャイニングガンダム。

 

 

 

強烈な一撃は、シャイニングガンダムを後方へはじき飛ばした。

 

 

 

「ーー力の差を思い知れ!!」

 

 

 

同時に、デビルガンダムの肩や背中にある黄色の突起物から赤いビーム砲が放たれ、辺り一面を焼いていく。

 

 

 

ズガガガガァッ

 

 

 

落雷が連続で落ちたような音と共に、辺り一面が、焼け野原になっていくーー。

 

 

 

その光景に、キラが叫んだ。

 

 

 

「ーーもうやめろぉ!! どうして、こんなことが平然とできる!?」

 

 

 

拡散粒子弾を宙にいた状態で捌きながら、キラはフルバーストを放って応戦する。

 

 

 

 

 

 

 

デビルガンダムが無差別に放ったビーム砲が、オーブの豊かな自然を焼いていく。

 

 

 

その内のひとつがシェルターを破壊した。

 

 

 

「ーーうわぁああん、ラクスさまぁああ!!」

 

 

 

「ーー大丈夫です。わたくしがいますわ」

 

 

 

瓦礫を避け、悲鳴を上げる子ども達を庇うラクス。しかし、野に晒されたシェルターは、すでに機能を失っており、剥き出しになった彼らにビーム砲が放たれる。

 

 

 

「ラクス!」

 

 

 

赤い光が、ラクス達に迫るのを、キラは絶望を感じながら、見た。

 

 

 

バチィッ

 

 

 

間一髪、シャイニングガンダムが四つん這いになってラクス達を庇い、左腕でビームを防いでみせた。

 

 

 

「ーー私を見ているのか? 何故だ?」

 

 

 

この時はじめて、キョウジはシャイニングガンダムの眼をまともに見た。

 

シャイニングガンダムは、現れた時からずっとキョウジだけを見ていたのだ。

 

 

 

「私を庇ってくれているのか……? シャイニングガンダム。なぜだ、なぜなんだ……なぜお前は私を」

 

 

 

何故か、シャイニングガンダムの目の光に、懐かしさを感じる。

 

 

 

肉親のような親しみをーー。

 

 

 

その時だ、デビルガンダムの声が彼らに降ってきた。

 

 

 

「フン。そんなことも知らずにいたのか、キョウジよ。我がかつての生体ユニットならば、見たこともあろうが……」

 

 

 

冷酷で嗜虐的な笑みを浮かべ、Dは告げた。

 

キョウジは、寒気を感じながらも声に返す。

 

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

 

「知らぬならば教えてやろう。そこにいるシャイニングガンダムと、最強のガンダムとされるゴッドガンダム、そして貴様の弟ドモン・カッシュは、三位一体なのだ。ドモン・カッシュが大切にしている者は、シャイニングガンダムもゴッドガンダムも守るもの、ということだ。今の其奴の行動も、ドモンの思考を忠実にプログラムされて動いているにすぎぬ。憐れなものだ。我がDG細胞を移植され、ひとつの生命体として命を得たというのに。所詮、我が弟と言えど、ドモンの道具か。この世界にはいない主の意志を継いで、お前のような役立たずを守るとは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平然とシャイニングガンダムを侮蔑し、嗤うD。

 

 

 

だがキョウジには、まるでそんな言葉は聞こえていなかった。

 

 

 

「シャイニングガンダム……! そうか、お前はドモンなのか」

 

 

 

合点がいったーー。

 

 

 

シャイニングガンダムの中には、ドモンの魂がある。

 

 

 

自分を守ろうと、救おうとした、弟の気高い魂が。

 

 

 

「? なんだ。シャイニングガンダムが」

 

 

 

キラが、真っ先に気付いた。

 

 

 

シャイニングガンダムは、四つん這いになった状態から、ゆっくり立ち上がり、キョウジを見据える。

 

 

 

その全身に、黄金の輝きを纏いながら。

 

 

 

その光は、かつてギアナ高地にて、デビルガンダムを倒したあの光だーー。

 

 

 

「なんだと、この気はーー!! まさか!?」

 

 

 

当然、自身を倒した光に、デビルガンダムは気付いた。

 

 

 

 

 

シェルターでも、異変が起きていた。

 

 

 

黄金の輝きが、シェルターの中からも放たれていたのだ。

 

 

 

その輝きは、一人の青年から発せられていた。

 

 

 

「きょ、キョウジさんっ?」

 

「キョウジさんの全身が、黄金に!」

 

「ーーなんとまあ、とんでもない現象だな」

 

 

 

マリュー、ラクス、バルトフェルドの言うとおり、全身から黄金の輝きを放つキョウジ。

 

 

 

彼は、静かに右手を掲げる。

 

 

 

シャイニングガンダムがそれに応えるように頷き、両手を左右の腰において、膝を曲げ、構える。

 

 

 

その構えに、デビルガンダムは初めて、動揺の声を上げたーー。

 

 

 

「まさか! これは――!!」

 

 

 

記憶にあるのは、初めての敗北。

 

 

 

その光は、自分の細胞を悉く消し飛ばした。

 

 

 

「シャイニングガンダム、スーパーモード!」

 

 

 

「ーーあの悪魔が、恐れてる?」

 

 

 

キラも、デビルガンダムの動揺に気付いた。

 

 

 

と、同時にキョウジがフィンガースナップを利かせ、叫ぶ。

 

 

 

「がんだぁあああむ!」

 

 

 

ーーピシィィンッ

 

 

 

瞬間、キョウジは光の球となって、シャイニングガンダムの胸のクリスタルに吸い込まれた。

 

 

 

ーーーー なっ!? ーーーー

 

 

 

見ていた一同が、驚愕の表情になる。

 

 

 

そんな彼らの動揺など、何処吹く風と、キョウジはモビルトレースシステムに、身を包んでいく。

 

 

 

渦巻くエナメル質のようなプラグスーツが体にフィットしていき。

 

 

 

首から足の爪先まで、きっちりと真っ黒なファイティングスーツを着ていた。

 

 

 

『モビルトレースシステム起動、脳波血圧心拍数、オールグリーン』

 

 

 

360度のスクリーンを展開したのち、スーパーモードになったシャイニングガンダムが、その場で拳や蹴りなどを放つ演武を行い、デビルガンダムに向かって威嚇する。

 

 

 

同時に、シャイニングガンダムのマスクが展開し、バックパックのジェット部が上に上がり、頭部に畳まれていた角が、まるで歌舞伎役者のように立ち上がる。

 

 

 

その気迫は本物ーー。

 

 

 

「ばかなっ! なぜだ、なぜファイターでもない、生体ユニットとしても適正が低いキョウジにスーパーモードが発動できるっ!? なんだこれは、どういうカラクリだ!」

 

 

 

デビルガンダムの記憶にあるキョウジに、こんなことができるわけがない。

 

それが、Dを動揺させていた。

 

 

 

「すごいっ! ……すごいパワーだ」

 

 

 

フリーダムのレーダーが、シャイニングガンダムのエネルギーを測定した。

 

そのデータ数値を見て、キラは驚きと興奮に包まれた、

 

 

 

「これがーー、シャイニングガンダムの真の姿ーー!」

 

 

 

「キラ! いまなら私ーーいや、俺も戦える! 一緒にこの化物を退けよう!」

 

 

 

「はい、キョウジさん!」

 

 

 

力強いキョウジの言葉とその輝きに、キラも強く頷いた。

 

 

 

黄金の輝きを放つシャイニングガンダムに、デビルガンダムが、気を高めて吠える。

 

 

 

「シャイニングガンダム、スーパーモード……まやかしがぁあああ!」

 

 

 

デビルガンダムが右拳を振りかぶり、殴りかかってくる。

 

 

黄金の光を纏ったシャイニングガンダムは次の瞬間、右ストレートをカウンターで入れた。

 

 

 

「ーーグッ!?」

 

 

 

咄嗟に仰け反る体を踏ん張り、首を元の位置に戻した時、嵐のようなシャイニングガンダムのラッシュが、始まった。

 

 

 

肘打ち、裏拳、正拳、右回し蹴り、左後ろ回し蹴り、足刀蹴り、次々とデビルガンダムの巨体を揺るがす、強烈な拳や蹴りがヒットする。

 

 

 

「身体が軽い。俺が習ったことのない動きなのに、次にどう動けば良いのか、どうするとどうなるかが、ハッキリと分かる。まるで自分が武術の達人であるかのように簡単に手足が動く! これが、これがドモンの動きなのか……!」

 

 

 

 

 

一撃一撃が早く鋭い。

 

 

 

「す、すごいっ! 的確に急所を貫いてる!」

 

 

 

シャイニングガンダムのラッシュを傍で見たキラは、SEEDを発動させていても、その攻撃の全ては目で追えないことに驚嘆した。

 

 

 

それほどのラッシュを受けるデビルガンダムは、このまま飲み込まれまいと必死に拳や蹴りを繰り出して反撃する。

 

 

 

しかし、その悉くをシャイニングガンダムは返していく。

 

 

 

「馬鹿な、なぜだっ!? なぜ、お前にこんなことが!」

 

 

 

バキィッ

 

 

 

右回し蹴りを片手で止められ、逆に強烈な右回し蹴りをシャイニングガンダムに返され、後退させられながら、デビルガンダムはキョウジを見据えて問う。

 

 

 

するとキョウジは、穏やかな表情でありながら、力強い気を放つ右手を掲げたーー

 

 

 

「なぜかは、俺にもわからない。

 

だが、一つだけ分かっている。俺の右手がーー叫んでいるんだ!!」

 

 

 

瞳を閉じ、気を集中させ、更に高める。

 

 

 

「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶっ!」

 

「ぬぅ……きょうじぃいいいい!」

 

 

 

キョウジに向かい、叫びながら、デビルガンダムは駆け出す。同時にシャイニングガンダムの右手から溢れんばかりの輝きが溢れていた。

 

 

 

「必殺、シャァアアアイニング、フィンガァアアアアッ!!!」

 

 

 

右掌を正拳突きのように突き出して、放たれたシャイニングフィンガーは、先ほどのデビルガンダムが放った熱線以上の破壊力の光線であった。

 

 

 

ーーバシィッ

 

 

 

両腕と右膝を使い、押し返そうと受け止めるデビルガンダム。

 

 

 

「ーーこんなもので、究極と言われた我がーー!!」

 

 

 

 

 

だが、輝きは更に更に強くなり、デビルガンダムそのものを飲み込み、吹き飛ばす。

 

 

 

「ーーぐああああ!?」

 

 

 

悲鳴を上げるD、この最大のチャンスに、キラが声を上げた。

 

 

 

「いまだ!}

 

 

 

後方へのけぞったデビルガンダムを、フリーダムのフルバーストが更に襲う。

 

 

 

足元を撃たれ、踏ん張ることもできないデビルガンダムは、砂漠の虎が指定した座標に、まんまと運ばれていた。

 

 

 

目標のポイントにデビルが到達すると、虎がニヤリと笑った。

 

 

 

「ーーさよならだ、悪魔くん!!」

 

 

 

バルトフェルドが宣言と共に、シェルターからボタンを押した。

 

 

 

ーーガコンッ

 

 

 

「ーーッ!?」

 

 

 

Dは、足元の違和感に気付き、見ると、森の中にカモフラージュされた、MS用の発進装置ーーカタパルトデッキが、展開され、自分はカタパルトの板の上にいた。

 

 

 

「ーー貴様らーーっ?!」

 

 

 

一瞬の後、カタパルトは射出され、デビルガンダムはオーブの海域に吹き飛ばされた。

 

 

 

「ーーお、の、れぇーーーー!!」

 

 

 

Dの最後の言葉は、途切れており聞き取れなかったが、少なくとも、デビルガンダムの脅威は退けられたことに変わりはない。

 

 

 

しばらくして、オーブの海岸線辺りに、巨大な水しぶきが舞った。

 

 

 

それを見ながら、砂漠の虎が、したり顔で説明した。

 

「あれほどのスピードならば、海面であれコンクリートに叩きつけられたほどの衝撃を受けるはずだ。これで生きていられたら本物の化物だ」

 

 

 

「とんでもない機体ですね。あれが、デビルガンダム」

 

 

 

闘ったキラをして、ハッキリと言える。

 

 

 

二度と会いたくはない敵だ、とーー。

 

 

 

今回は2回目のパワーアップをされる前に退けられたが、次に会う時は、シャイニングフィンガーすら効かない機体になっているだろう。

 

 

 

キラがそんなことを考えていると、まるでキラの気持ちを代弁するかのように、シェルターにいるラクスが呟いた。

 

 

 

「おそらく、あの悪魔のような機体は無事でしょう」

 

「機体は無事でもパイロットは無事じゃないだろう。これにて一件落着だ」

 

「だといいのですが」

 

 

 

バルトフェルドの言葉に、ラクスはジッと悪魔が落ちたオーブの海を見る。

 

 

 

皆が、同じ気持ちだったーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変化はしばらくして、起こった。

 

 

 

フリーダムと並んで立っていたシャイニングガンダムが、突如緑色の光を胸のクリスタルから放ち光の粒子となって消失したのだ。

 

 

 

光の粒子が完全に消えると、生身のキョウジが地面に立っていた。

 

 

 

キラもフリーダムから降り、悪魔を相手に共に闘ったキョウジと互いに無事を確認しあいながら、二人はデビルガンダムが飛ばされた方を見る。

 

 

 

「なんとか、なりましたね」

 

「ああ。だが……これで終わったとは思えない」

 

「僕もです」

 

 

 

そこには、朝日が昇り始め、太陽を写す平和な海がさざ波を立てていた。

 

 

 

まるで、この先を暗示するかのように、さざ涙は静かに、けれどもゆっくりと、キラたちの足元に引いては、下がっていくーー。

 






みなさん、お待ちかねー!!

オーブ軍に所属することになったキラ。

プラントに向かい、かつての支持者を集めるラクス。

そして、ミネルバと合流するアスラン。

我らがシュバルツは、シンと共に、連合の巨大MAと対峙するのです!!

次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第14話に、レディー、ゴー!!


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第14話 若きパイロット 新たな力に触れる

 さて、みなさん。ミネルバ隊の一員となったシュバルツ・ブルーダーと、若きパイロットたち、シン・アスカ、ルナマリア・ホーク、レイ・ザ・バレルの三名は、ここ大西洋に浮かぶ諸島近海でシュバルツの強さの秘密を探るため模擬戦を行うことに決めました。
 ところがシュバルツの圧倒的な強さを前に、彼らは手も足も出ないままにいたずらに翻弄されてしまうのです。
 そこにある明鏡止水の境地とはいったいなんなのか。シン・アスカたちは新たな力を得ることができるのでしょうか。
 それでは! ガンダムファイト! レディーゴー!




 

 

 波のさざめく音、風の啼く声に耳を澄ませながら、シュバルツ・ブルーダーはゆっくりと顔を上げ、海面上に空中停止(ホバリング)する三機を順に見つめた。

 

 前方にシン・アスカ、左後方にルナマリア・ホーク、右後方にレイ・ザ・バレルがまったく同じ距離を空けて陣形を展開し、この黒装束のガンダムを囲んでいるのだ。新造艦ミネルバを代表するパイロットたちだけあって、若輩ながらもその機影を通して彼らの気迫がシュバルツには伝わってくる。

 

 通信音が軽快に鳴り響いた。

 

 

 

『模擬戦を始めます。準備はいいかしら?』

 

 

 

 艦長タリアの言葉に、シン、ルナマリア、レイがそれぞれコクピットからうなずく。それをモニターで横目見、シュバルツもまた、タリアに目で応じたのちに居並ぶエースパイロットたちに言い放った。

 

 

 

「私の方もいつでも良い。さあ、かかってくるがいいっ!」

 

「それでは模擬戦、始めっ!」

 

 

 

 凛と鋭い号令のもと、ミネルバ隊の模擬戦が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 発端は、レイの一言だった。

 

 

 

「シュバルツ殿。約束通り、我々にあの動きを教えていただけるのでしょうか?」

 

 

 

 シュバルツの着艦を機に、いつになく積極的に他人を呼びとめたレイの表情は、険しく決意に満ちたものだった。シュバルツがふり返れば、レイの後ろにシンとルナマリアもいる。向けてくる意思の種類こそ三者三様だったが、その彼らを順に見たあと、シュバルツは陣頭のレイを見下ろした。

 

 

 

「む、ザクの動きをか? だが、私の動きはMS用のものではない。あんな機体を無視した戦い方では、すぐに負けるぞ」

 

「あんな無茶苦茶な動きは無理でもっ! 基本的な動きだったら、私たちも学べるんですよねっ?」

 

「たしかに君たちのMSも私のMFと同じく、人体を模した構造をしているから、ある程度は教えられるが」

 

 

 

 ルナマリアの指摘に、シュバルツが思案顔でうなずいた瞬間、シンが眉間に力を入れて食いついてきた。

 

 

 

「なら、教えてください! 俺、もっと強くなりたいんですっ!」

 

「――いいだろう。私で良ければ、力になろう」

 

 

 

 その約束だった、と言外に肯定するシュバルツの穏やかな表情に、若きパイロットたちの瞳が輝く。

 

 こうしてシン、ルナマリア、レイの3人は、シュバルツとの模擬戦に挑むことになったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 戦いの口火を切ったのは、レイのザクファントムだった。

 

 白い一角ザクがビームアックスを振りかぶり、ガンダムシュピーゲルの黒い体躯に斬りかかる。だが、掻いたのは空だった。シュピーゲルは号令がかかる前と同じ態勢、両腕を組んだまま後ろにのけぞっただけでビームアックスをかいくぐっている。

 

 

 

「踏み込みが足りん」

 

「っ!」

 

「レイ、どけ!」

 

 

 

 割り込むようにインパルスが躍り出て、ビームサーベルを薙ぎ払った。シュピーゲルの胴をはね斬る鋭い一閃だ。だが、斬ったそれが淡い蜃気楼となって消えていくのを見て、シンは目を瞠った。

 

 

 

「なっ!」

 

 

 

 残像だ、と胸中でシンがつぶやいたとき、五機に分裂したガンダムシュピーゲルが、インパルスのモニター画面に映し出されていた。

 

 

 

「えっ!?」

 

「ちょっ、ちょっとちょっとー、そんなのありぃい!?」

 

「ルナマリア、なにを言う。敵がどのような攻撃をしてくるかなど、手合わせするまではわからん。要は、それを破る腕が、お前たちにあるのかどうか。それだけのことだ」

 

「くっ!」

 

 

 

 動揺を見透かされて、シンは鋭く歯噛みする。ここで文句を言ってもシュバルツのような一流パイロットにはなれない。それくらいは理解できる。

 

 

 

(落ち着け、シンっ。必ず本体は一人だけのはず。だから、それを見極めるには――)

 

 

 

 まったく同じ機影、同じポージングで腕組みしている五機の黒いガンダムが、シンの目の前にはある。熱源センサー、その他計器類のすべてが、五機の実在を裏付けてくる。

 

 冷静に、冷静にと自分に言い聞かせるも、現実がシンを途方に暮れさせた。

 

 

 

「どうやればいいんだ……。どっからどうみても、全部本物に見えるぞ、五機とも!?」

 

「ここまでデタラメな人だとは思わなかった……」

 

「ていうか、物理法則無視してるしぃーっ!」

 

「これぞ我がゲルマン忍法の真髄、我がネオドイツの科学力、お見せできて光栄だ」

 

 

 

 どこか諦観や自棄の入ったパイロットたちの言葉に、シュバルツは喉を鳴らして微笑んだが、完全に立ち往生する彼らを見るや

 

 

 

「ふむ、分身の術はお前たちではまだやぶれぬか」

 

 

 

 つぶやいて分身を解いた。

 

 五体あったガンダムが霞のように消え、中央の一体だけが残ったとき、

 

 

 

「よし。ならば来るがいい! 今度は避けはせん」

 

 

 

 シュバルツはそう言って、両腕に搭載されたシュピーゲルブレードを展開し、二振りの刀を交差させるようにして構える。その流れるような一挙手、一投足、すべての動きに無駄が一切なく、素早い。

 

 シンが思わず唸った。

 

 

 

「くっそぉ! あきらかに実力差があるな!」

 

「あんなのデタラメ過ぎよ! どうするのよ、シン!?」

 

「か、かわさないっていうんだから、なんとか、手はあるはずっ! レイ、なんかないのかっ!」

 

「いまのところは、シュバルツ氏を出しぬける策がまったく浮かばない」

 

 

 

 こんなときでも冷静なリーダーのレイが真顔で答えてくれるが、言動内容は珍しく弱々しい。

 

 シンが顔をそらしながら「ですよねー……」などと小声でつぶやいてしまったのが聞こえたのか、小型モニターのなかでルナアリアが地団駄を踏みながら、拳を握りしめて叫んだ。

 

 

 

「くぅぅぅ、だからって三機まとめてなにもできないなんてことになったら、あたしたちの面子丸潰れよっ」

 

「くっそぉ。とりあえず、あの動きを少しでも覚えるんだっ!」

 

 

 

 現状でできる唯一の情報収集方法。シンが導き出した答えに、シュバルツは柔らかな声でつぶやいた。

 

 

 

「フフ、ドモンとの修行を思い出すな……」

 

 

 

 同時、打ち込んでくるインパルスに、シュピーゲルもブレードで迎え撃つ。

 

 

 

「でぇやぁあああ!」

 

 

 

 ビームの弾ける音、たしかな振動が手許に伝わって、シンは奥歯を噛みしめた。両機が袈裟懸けに斬り合い、鍔迫り合いへともつれこんだんのだ。互いに拮抗する両者の刃とビーム。そのときコーディネイターの優秀な頭脳は、軍学校で習った対物兵器とビームの相性に関する項目を思い返していた。

 

 シンの細面に、一筋の冷汗が垂れ落ちる。

 

 

 

「シュ、シュバルツさん。そのブレード、実体剣ですよねっ?」

 

「そうだが?」

 

「いやっ、なんで……っ、ビームサーベルを止められてるんですか?」

 

「む? 当たり前だろう? これぐらいはできる」

 

「え? あっ、あれっ、できるとか、できないとかじゃなくてっ、物理法則的に、ビームを実体で止めるってアンチビームコーティングとか、そういう、こと……かなぁ?」

 

 

 

 シン・アスカは考えた。いままで経験したこと、座学で学んできたこと、すべての経験、知識をフル稼働して考え抜いた。だが答えは――

 

 ルナマリアが冷めた表情で、モニター越しにレイを見る。

 

 

 

「ねえ、レイ。あれアンチビームコーティングされてると思う?」

 

「ここまでデタラメだったとは」

 

 

 

 レイはシュバルツから片時も目を離さず、表情も崩さず、ただ目を丸くして、茫然とつぶやくだけだった。

 

 

 

「どうする? 模擬戦、まだ続ける? シン」

 

「あ、あたりまえ……っだろ!」

 

 

 

 虚勢を張ったところで、ブレードを下したシュバルツが眉を上げた。

 

 

 

「少し心を落ち着けてきたほうがよいのではないか、シン。そんなにわたしのブレードで止められたのが不服か?」

 

「い、いやぁ。不服とかそういう問題じゃなくて……俺たちの常識、まったく通じないんだなって、いや、ホントに思っただけですよ……」

 

「馬鹿者っ! 自分の考えや物差しだけで、物事を判断するんじゃない。いま目の前に起こっていることすべて、事実や現実として捉え、そのうえでどう対処するかを練る。それが一流の戦士というものだ」

 

「シュバルツ殿。おっしゃっていることはわかるのですが……」

 

「あまりにむちゃくちゃすぎると、その現実を受け入れられないっていうのも、わかりませんかね?」

 

 

 

 控えめに主張するレイと、口端を震わせながら作り笑いをするルナマリアの言葉は、シュバルツには届かない。

 

 

 

 

 

 

 

「か、艦長……っ。白兵戦であの機体についていけるものなんでしょうか……」

 

 

 

 ミネルバのメインモニターをブリッジで観戦しているクルーたちは、あまりの動揺にざわついていた。

 

 副官のアーサーの硬い声音に、タリアは艦長席でうつむいて、とがった顎先に指を添え低く唸る。

 

 

 

「むしろどうやってついていくのかをわたしが訊きたいところよ。あんな動きに」

 

「ですよね……」

 

「あれについていけるパイロットなんて、この世界にだれもいないわ、きっとね。だからこそ、なんとしてもこのMFの弱点を見るために、模擬戦でシンたちにはがんばってもらわないとならないのよ。欠点のない存在など、この世にはいないのだから」

 

 

 

 冷静な女性艦長の現実的な意見は、アーサーにとって心強いが、洋上で黒いフォルムを優雅に光らせる未知のガンダムを見つめていると、『欠点』など本当に存在するのだろうか、という素朴な疑問が根強く残った。

 

 

 

 

 

 

 

 紅い防護盾をかかげて、インパルスガンダムが突っ込む。シュピーゲルからすれば、インパルスの盾が目くらましとなり、サーベルを抜いたシンの動きは捉え切れないはずだった。だが、インパルスが打ち込んだ刹那、洋上に浮かんでいたはずのガンダムシュピーゲルが眼前から完全に消失(ロスト)している。

 

 

 

「消えたっ!?」

 

 

 

 思わず息を呑むシンに、すかさずレイの叱責が飛んだ。

 

 

 

「上だっ、シン!」

 

 

 

 同時、ザクファントムの砲身が、インパルスの頭上に向かって轟いている。

 

 

 

(飛び越えられたのかっ!)

 

 

 

 シンが状況を把握した刹那、二発のビームライフルが薄れゆくシュピーゲルの陰影をかすめていった。

 

 

 

「なっ!?」

 

「どこを見ている、わたしはここだ!」

 

 

 

 残像。レイも遅れて事態を把握したとき、白いザクファントムの胴体が蹴られ、海面に叩きつけられている。水柱と盛大な水音が立った。

 

 

 

「えぇえいっ!」

 

 

 

 掩護するように鋭く咆えたルナマリアが、巨大な砲身オルトロスの照準をシュピーゲルへと素早く定める。ついで、砲身からの強烈な反動で赤いザクが激しく揺れる。野太いビーム光線が放たれ、それをシュピーゲルは展開したブレードを正面に突きだすことで静かに応えている。

 

 

 

(どうする気だ――っ!?)

 

 

 

 シンが眉をひそめたのもつかの間、まるでさざ波が岩礁に割かれるかのように、オルトロスのビーム砲が左右に分かれ、霧散していった。

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

 息を呑んだパイロットたちに、シュバルツの落ち着いた声が響いた。

 

 

 

「兵器などに頼っていては、それ以上の実力を持つ者に到底及ばぬ。お前たちはまだそのMSと一体化となっていない。お前たちの機体と、自分の身体を一心同体とするのだ。機体を道具としか見ていなければ、到底できはしないぞ」

 

「モ、MSを通してそういうことを感じろってことですか?」

 

「その通りだ。風の音、海の音、鳥の声、空気の流れ、それらをMSを通して理解し、感じるのだ」

 

「そ、そんなのできるわけ……」

 

「そうかな? では、実践して見せよう」

 

 

 

 顔をひきつらせたルナマリアが、思わず反論した途端、

 

 

 

「シュピーゲル・アンデア・ユングス・ブルート!」

 

 

 

 シュバルツの叫びと共に、シュピーゲルの胸の部分から青い光の玉が現れ、『鏡』の文字を浮かばせる。

 

 

 

「えぇえええっ!?」

 

「なっ?!」

 

「これはっ、あのときの!」

 

 

 

 三人の若きパイロットたちに緊張が走る。

 

そしてシュピーゲルの胸部にあった光の玉は、シュピーゲル全体を飲み込むほどに大きくなり、その光が消えると同時に、そこには、二つ角の赤いガナーザクウォリアーが立っていた。

 

 

 

「えぇえええっ!? あたしの機体ぃい!?」

 

「ど、どういうことですかっ」

 

「MSでできんかどうか、わたしが証明してやる。さあ、遠慮はいらん。攻撃してくるがいい」

 

 

 

自分の姿を真似られた、ルナマリアはおっかなびっくりの表情をころころ変えながらも、ともかくガナーザクのオルトロスの巨大砲身を構えた。

 

 

 

「うぅうう、ならっ、いきますよぉおお! 当たれぇえええ!」

 

 

 

 同時に、鏡に映しこんだように同じ体勢でオルトロスを構えるシュバルツのガナーザク。

 

 一瞬後、ビーム砲が弾ける。オルトロスの発砲タイミングは示し合わせたかのようにまったく同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 そのとき、ミネルバのブリッジには鋭い緊張が走った。

 

 

 

「解析、急いで!」

 

 

 

 タリアの号令を皮切りに、素早く操作盤(コンソール)を叩く音が艦内に響く。

 

 ルナマリアの妹、メイリンがはっと顔を上げた。

 

 

 

「ルナマリア機のオルトロスとまったく同じです!」

 

「ルナマリアの機体との相違点はないの?」

 

「スピード、出力、機動力、すべてルナマリア機と同じ……? こんなにっ」

 

「こ、ここまで真似れるものなのかっ」

 

 

 

 メイリンが提出した解析データを見つめながら、ミネルバクルーたちに衝撃で息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「きゃぁああああっ」

 

「ルナ!」

 

 

 

 オルトロスの強烈な砲撃が、ルナマリアの赤い機体をかすめ、はるか水平線の彼方に吸い込まれていく。

 

 咄嗟に防御態勢を取ったガナーザクウォリアーだったが、これを愛機としているルナマリアの衝撃はひとしおだった。

 

 

 

「どういうことなの、まったく同じオルトロスだったんでしょっ!?」

 

『射撃のタイミングまでまったく同じよ。けれど、シュバルツ殿の放ったオルトロスは、ルナマリアのオルトロスを上回った。どういうからくりなのかしら』

 

 

 

 艦長の冷静な声が聞こえて、ルナマリアは緊張で喉を鳴らす。唇の渇きは、そんなものでは癒えない。

 

 目の前で両腕を組んで直立しているガナーザクウォリアーが、静かに答えた。

 

 

 

「からくりなどなにもない。強いて言うならば、明鏡止水の心」

 

「明鏡止水?」

 

「わだかまりややましさのない澄んだ心。それが、人に己の限界を超えた力を与える。MSにおのれの血を流すことも出来るということだ」

 

 

 

 世の理を解く高僧のごときシュバルツの言葉に、一同が呆けているときだった。

 

 白い一角ザクがライフルを抜き、不意打ち気味に二発、シュバルツに向けて撃ったのだ。

 

 

 

「お、おいっ、レイ!」

 

 

 

 シンの動揺もそのままに、ビームライフルの光線が遥か彼方まで走っていく。

 

 悠然と佇む鏡のザクウォリアーは、棒立ちの状態で、首を左右に振るだけでこのライフルをかわしたのだ。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

 次にレイがまばたいたとき、ビームアックスが白いザクファントムの首許に突きつけられている。

 

 いつ踏み込まれたのか、それすらも見えない。

 

 

 

「くっ」

 

「信じる気になったか」

 

 

 

 呻くレイと、食い入るように見つめているシンを見て、シュバルツが口許をゆるめてビームアックスを下ろした。

 

 

 

「す、すげえ……っ」

 

 

 

 思わず感嘆の声をもらしたシンが、目の前の出来事を反芻する。同じ機体、同じ性能でありながら他を寄せ付けない人機一体の境地。明鏡止水。

 

 それがどんなものかはまだシンには夢のようにしかわからない。だが、目の前にあるガナーザクウォリアーが、シンには希望の光に見えた。

 

 

 

「シュバルツさん! その技、俺に教えてください!」

 

「シュバルツ殿、わたしにもぜひ」

 

「わたしのザクウォーリアでもそれができるってことですよね!?」

 

 

 

 ほぼ同時に放った三人の言葉に、シュバルツは静かに問いかけた。

 

 

 

「わたしの修行は厳しいぞ。ついてこれるか?」

 

「俺はもっと、強くならなきゃいけないんです!」

 

「無論です」

 

「あんなかっこいい動きができるんだったらわたしも、どんな努力だってしますっ」

 

 

 

 変化した姿の、赤いザクが小さくうなずく。MSであるのに、それはまるで人間と対峙しているような、自然な動きだった。

 

 

 

「よし、よく言った! ならばっ。まずは機体を降りろ!」

 

「……えっ?」

 

 

 

 予想だにしない言葉を受けて、三人は唖然として固まった。

 

 

 

「艦長! しばらくこの三人を借りるぞ!」

 

『シュバルツ氏、どういうことです?』

 

 

 

 さしものタリアも状況を読み切れず、怪訝に眉をひそめている。

 

 だが彼女と同じく、判断能力に優れたシュバルツの決断は、すでに次の行動へと移っていた。モニター画面に周辺の地図が映し出され、その詳細なデータに目を走らせている。

 

 

 

「修行ならばガンダムに乗らなくてもできる。むしろ明鏡止水の心を学ぶならば、余計な一切合財を捨てねばならん。この近くには無人島があるようだ。そこで一週間ほど時間を貰おう」

 

『い、一週間!?』

 

 

 

 顔をひきつらせるアーサーを置いて、シュバルツは早くもきびすを返す。

 

 

 

「緊急事態があればいつでも言ってくれ」

 

『か、艦長。一週間もこの辺で滞在するのでしょうか……』

 

『それはちょっと無理よね』

 

 

 

 考え込む声音になったタリアに、シュバルツは首を静かに振った。

 

 

 

「問題ない。ミネルバ隊はそのまま作戦行動を続けてくれればいい。なにかあればコールをくれれば、数秒でそちらに向かう」

 

『あなたが言うと冗談に聞こえないわね』

 

「なぜそこで冗談と受け取られたのか、不思議なのだが」

 

『どうしてそこで心外と言う表情になるのか不思議だわ。まあ、あなたに関してはいろいろ疑問を持たない方がいい、ということはよくわかったことだし。シン、レイ、ルナマリア。艦長命令です。一週間ほどシュバルツさんと修行しなさい』

 

 

 

 水を向けられたルナマリアが、たじろいだ。

 

 

 

「えっ、無人島……ですよね? 食糧とか、シャワーとか」

 

「ルナマリアよ。いやならやめておくか」

 

「俺は行きますっ」

 

「わたしも、その動きぜひとも」

 

 

 

 一も二もなく食らいつく少年たちの真剣さに、ルナマリアの脳裡にさきほどのオルトロスの打ち合いの衝撃が蘇る。ためらいはあった。不安も、迷いも。

 

 だが、

 

 

 

「っ~~~~、しょうがないわね! 行きます! 行きますよ!」

 

「話は決まったな。では、しばらくよろしく」

 

 

 

 静かなシュバルツの落ち着いた声は、人を導く温かさと力強さに満ちている。

 

 

 

 

 

 

 

「い、いいんですか、艦長っ」

 

 

 

 ミネルバのメインモニターから一部始終を見ていたアーサーは、戸惑って女性艦長を見やる。

 

 艦内から主要なMSとそのパイロットが、一時的にすべていなくなってしまうのだ。彼の動揺は無理からぬことだった。

 

 

 

「もともとダメ元だもの。問題ないわ。それにもし彼らが達成できたなら、我が艦は一気に戦力が増強されるはずよ。たった一週間でね」

 

「あの三人、無事に帰ってこれるでしょうか……」

 

 

 

 計略に長けた艦長の判断に、アーサーは一定の信頼を寄せながらも、シュバルツについていく若い背中たちを不安げに見やる。

 

 タリアが小さく苦笑して、首を横に振った。

 

 

 

「命に別状はないでしょう。シュバルツ・ブルーダーがいるのならね」

 

 

 

 こうしてミネルバ隊から一時離脱することになった若きパイロットたちは、存在からなにからなにまでデタラメな謎の男、シュバルツとの修行に励むことになったのである。

 

 

 

 




みなさん、お待ちかねー!

 デビルガンダムとの激闘を終え、わずかばかりの休息を得たキラたちとキョウジ!
 彼らは悪魔を倒す手がかりを探るため、シャイニングガンダムの戦闘データを解析することを決めるのです! そこにはキョウジやシュバルツさえも知らない記録が眠っており、はたしてその謎が意味する真実とは――!?
 次回、機動武闘伝Gガンダム SEED Destiny第15話に、レディー、ゴー!


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第15話 激闘の記憶 誇り高きガンダム

みなさん、あの恐ろしいデビルガンダムを、退けたキラとキョウジ。

ですが、あの程度で倒せたとは思えない彼らは、オーブ代表カガリ・ユラ・アスハを招き、シャイニングガンダムの戦闘記録データを見るのです。

そこに映し出された映像は、キラの心に希望の光を与えるのでした!!

それでは、ガンダムファイト、レディー、ゴー!!




デビルガンダムとの激闘を終え、一息つくキラ達とキョウジ。

 

 

 

引っ越したシェルターで、彼らは現在の状況とデビルガンダムの行方について話し合っていた。

 

 

 

「ーーおそらく、あの悪魔のようなMSは生きているはずです」

 

 

 

戦闘で得た記録データを見直しながら、キラの言葉に皆が頷きあう。

 

 

 

「ーーパイロットさえ倒せば、どうにかなると思っていたが、思い返せばコクピットを貫かれても、平気だったんだったな」

 

 

 

バルドフェルドが、フーッと溜息を吐きながら、記録データを見直す。

 

その横でラクスが口を開いた。

 

 

 

 

 

「シャイニングガンダム、でしたか。キョウジさんの駆るガンダム。

 

あのガンダムは、デビルガンダムを倒したことがあるのですよね?」

 

 

 

「ああ。ドモンは二回、デビルガンダムを倒している」

 

 

 

「いったい、どうやってーー?」

 

 

 

「シャイニングガンダムの戦闘データ……。それを見れれば、ドモンがどうやってデビルガンダムを倒したのか、キラたちにも見せられるはずだ」

 

 

 

ラクスの言葉に返しながら、キョウジは静かに弟を思い返し、答えた。

 

その彼の答えに、キラが身を乗り出す。

 

 

 

「本当ですか!?」

 

「ああ。少し待ってくれ」

 

 

 

そう言うと、キョウジは一旦その場を離れた。

 

 

 

数分後、ディスクを手に戻ってくる。

 

 

 

「とりあえず、この記憶媒体に移しておいた。これで見れるはずだ」

 

 

 

「興味深いね。異世界のガンダムの戦いの記録か」

 

 

 

キョウジの持つディスクにバルドフェルドは、興味津々だった。

 

 

 

皆の前で、ディスクを挿入し、画像に写そうとしたところで、キラが手を上げた。

 

 

 

「あ、キョウジさん。ちょっと待ってもらえますか」

 

「なんだ、キラ?」

 

「もう一人、このデータを見てほしい人がいるんです。彼女を呼んでいるので、もう少し待ってください。すぐに来ますから」

 

 

 

そう言いながら、キラはその場を離れていった。

 

 

 

しばらくして、キラともう一人の声が、会話しながらこちらに近づいてくる。

 

 

 

「まったく、公務中なんだぞ、わたしは。いきなり呼び出してどういうつもりだ、キラ?」

 

「ごめん、カガリ。だけど、カガリにも見てほしいんだ。オーブの山を消し飛ばした、あの所属不明のMSのデータを」

 

 

 

カガリが足を止め、ジッとキラを見据えて言う。

 

 

 

「キラ、お前。山が消えたのを何故知っているんだ?」

 

 

 

「ぼくたちも、あの場所で戦ったからだよ」

 

 

 

それに間髪入れずに、キラは答えながら、部屋の扉を開けてキョウジ達の所に帰った。

 

 

 

キラの言葉になるほど、と内心頷きながら、部屋にはいるカガリは、確認のために問い返す。

 

 

 

「ーーということは、山を消し飛ばすほどの兵器を使ってテロリストがお前たちを狙ったということか」

 

 

 

カガリも事後報告ではあるが、ラクス達が昨夜、何者かに襲われたのを知っていた。

 

 

 

「うん。だけど、カガリに話したいことは、それじゃないんだ」

 

 

 

そう、あらかじめ告げてから、キラは自分の考えを話しはじめた。

 

 

 

「――なんだって? オーブ軍に入りたい?」

 

 

 

「多分あの悪魔のようなガンダムは、もう一度、オーブに絡んでくるはずだ。いや、オーブだけじゃない。プラントも、地球も、あのMSを野放しにしちゃだめなんだ」

 

 

 

キラの真剣な表情に、思わず居住まいを正し、カガリは周りにいるラクスやマリュー達に問いかけた。

 

 

 

「ラクス、マリューさん、バルドフェルドさん。あなた方も、キラと同じ意見なのか?」

 

 

 

「ええ。キラくんの言うとおりだと思います。カガリさん」

 

「俺もだ、カガリ代表」

 

「そしてそれを裏付けるために、昨日の戦闘データと、キョウジさんの乗るガンダムのデータをいまから再生するところです」

 

 

 

3人からの答えに、カガリも真剣な表情になり、席に着いた。

 

 

 

「わかった。そこまで危険なMSなら、私も見たい。同席させてくれ。キラの要望には、その後で答える」

 

 

 

「では、始めよう」

 

 

 

そう言いながら、キョウジは静かに、PCのエンターキーを押し、モニターに戦闘映像を映しはじめた。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

映し出された映像は、キラ達にとって、衝撃的なものだった。

 

 

 

 

 

それはーー荒唐無稽な話だった。

 

 

 

独りの青年が、ガンダムと言うMFと拳を通してーー1人、また1人と友を作っていく物語。

 

 

 

そしてーー、一組の男女の愛の物語でもある。

 

 

 

地球と宇宙を支配しようとする悪魔を迎え撃つは、ーー昨日まで争い合ったかつての敵同士だった。

 

 

 

 

 

モニターの中にいる悪魔の使いーー長い黒髪の男は、悪魔に挑む彼らを見て、嘲笑した。

 

 

 

 

 

『昨日まで敵だった貴様ら烏合の衆に、何ができる?』

 

 

 

『烏合の衆?

 

それは、どうかなーー? いいか、ウルベ!!』

 

 

 

倒されていた、五体のガンダム。

 

 

 

その内の1人ーー黒髪に左頬に十字傷を持つ、赤い鉢巻を締めた青年が立ち上がる。

 

 

 

彼に続き、ガンダムのパイロットーーいや、ガンダムファイター達が、次々に立ち上がる。

 

 

 

最初に立ち上がりながら、力強く告げる1機は、シャイニングガンダムにどこか似ているトリコロールの6枚の羽を広広げた機体。

 

 

 

その羽からは、日輪や後光を思わせる、赤い灼熱の光の輪が発生していた。

 

 

 

その姿は神々しく、全身に黄金の光を纏っていた。

 

 

 

キラには、その機体とファイターが、とても気高く美しく見えた。

 

 

 

全身に黄金に輝く気を纏いながら、青年は力強く告げる。

 

 

 

『たとえ拳を交え争い合った敵同士でも、一度リングを離れれば、拳を交えた仲間と仲間!!』

 

 

 

その言葉を継ぎ、彼の左にいたナイトのような姿のガンダムが、立ち上がる。

 

 

 

ファイターは、美しいオレンジの長い髪と、女性のようなたおやかで美麗な容姿をしているが、発せられる声は力強く、熱さに満ちていた。

 

 

 

『ーー拳はひとつに集まって!!』

 

 

 

今度は、その騎士のガンダムをフットボールとボクシングを合わせたような姿のガンダムが肩を組んで支えて立ち上がる。

 

 

 

ファイターは、青く逆立つ髪に、桃色の前髪の青年。陽気そうな彼は凄みある笑みを浮かべて告げる。

 

 

 

『お前を倒せと轟き叫ぶぜっ!!』

 

 

 

無骨で頑強な漆黒のボディに、比較的角張った顔のガンダムが、立ち上がり、獰猛な熊を思わせる風体の男が、先ほどの青年より更にドスの効いたまるで刃の如き笑みを浮かべて笑う。

 

 

 

『さあ、いま見せてやるっ!!』

 

 

 

最後に、無骨なガンダムの手を借りながら、立ち上がる東方に伝わる龍を模したガンダム。

 

 

 

ファイターは、こちらの世界で言えば、映画などで出てきそうな、黒髪をオールザバックにし、長い後ろの髪を三つ編みにした少年。

 

彼もまた、幼い容姿に似合わない男らしい笑みを浮かべている。

 

 

 

『オイラたちのーー!!』

 

 

 

5機のガンダムは、黄金の気をまとい、無数の敵を薙ぎはらう。

 

 

 

『『『『『力をなぁああ!』』』』』

 

 

 

 

 

その圧倒的な力と輝きを、モニターで見ながらも、キラは完全に飲み込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

群がる雑魚を蹴散らし、無理矢理四つの個体を組み合わせたかのような異形ーーキマイラのガンダムをまえに。

 

 

 

5機の輝くガンダム達は同時に構える。

 

 

 

『『『『『ーーこの魂の炎、極限まで高めれば、倒せないものなどーーーーない!!』』』』』

 

 

 

5人のファイター達が、まるで打ち合わせをしていたかのように全く同じタイミングで、同じ構えを、同じ言葉を発する。

 

 

 

『ーーなんだぁぁあああああーー!?』

 

 

 

断末魔をあげながら、悪魔の男は、光の中に消えていく。

 

 

 

 

 

まるで、幼い頃に見たーーアニメのコミックのヒーローのようなーーそんな強烈な物語をキラは食い入るように見ている。

 

 

 

その横で、キョウジは幾つか生まれた疑問点を頭で整理していく。

 

 

 

(シャイニングガンダムの記憶は、マスターガンダムにやられたギアナ高地までのものしかないはず……。

 

だが、記録には、わたしの知らないランタオ島の後の話まである。

 

どうして記録されているんだーー? ゴッドガンダムとシャイニングガンダムの記録データが共有されていなければ、こんなことにはーー。

 

デビルガンダムの言っていた、ドモンとゴッドとシャイニングは、三位一体という言葉が関係しているのか?)

 

 

 

物思いにふけるキョウジの前で、モニター内の弟が全世界の人々の想いを背負い、恋人を救い出す。

 

 

 

二人は手を取り合い、幸せに笑みを浮かべながら、最後の仕上げだと、悪魔を葬った。

 

 

 

 

 

『『石、覇、ラァアブラブッ天驚拳ェエンっ!』』

 

 

 

モニターの映像は、救われた地球のことも、きちんと映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……。ドモンとレインちゃんは結ばれたか。

 

そして父さんも無事だった。

 

ミカムラ博士も、…おじさんも、自分の行いを悔いてくれたか」

 

 

 

キョウジは、先のシャイニングガンダムへの疑問点を頭の隅に置きながらも、弟の幸せに、父とその親友に、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

「これが、異世界とは言え、こんな……ことがあるなんてっ」

 

 

 

最後まで映像を見たマリューは、思わず胸を押さえてため息を一つ吐いた。ドモンのレインへの愛の告白は、彼女を含む女達にも響いたようだ。

 

横で、カガリも目を皿のようにあけて、頬を真っ赤に染めている。

 

ラクスは、落ち着いた様子で目を閉じながらも、言葉を紡いでいく。

 

 

 

「なんという気高い人達なのでしょう。おのが命を捨ててまで、人はここまで分かり合えるものなのでしょうか」

 

 

 

キラが、静かに顔を上げて、言葉を口にしていく。

 

 

 

「みんなの目指すものが同じで、なのにーー」

 

拳を握りしめ、キラはやるせない思いを胸にして、吐き出した。

 

 

 

「それでも、分かり合えない僕たちの世界とは、何が違うんだっ」

 

「ーーキラ」

 

その言葉に、皆がキラを見つめ、カガリは悲しそうに顔を歪めた。

 

 

 

それに答えたのは、隻眼の虎ーーバルドフェルドだった。

 

 

 

「そりゃあ時代背景だったり、じゃないかね。詳しいことは、俺も住んだことがないからわからんが、ね」

 

現実的でドライな意見を述べた後、バルドフェルドは自嘲気味な表情で告げた。

 

「ーーだが、こんなんを見ちまうと、人間は捨てたもんじゃない、とあらためて思わされる」

 

 

 

その言葉に頷きながら、カガリがもの悲しそうに言う。

 

「こんな世界に、わたしたちもしなければいけないのにーーーー」

 

「ーーいや、やろう。ぼくたちも。

 

このガンダムファイター達みたいに。昨日まで敵同士でも、分かり合うことができるはずなんだ」

 

 

 

間髪入れず、キラがカガリに言葉を返した。

 

 

 

彼の頭に思い起こされるのは、二年前の戦争。

 

 

 

ヤキンドゥーエでの最後の戦い。

 

 

 

自分の兄弟とも言える闇と狂気を一身に抱え、世界に絶望した男の言葉ーー。

 

 

 

 ――人は滅びるっ! 己の育てた、闇に喰われてなぁあ!!!

 

 

 

(人は滅びない。人は――分かり合えるっ!)

 

 

 

頭の中に響く言葉に今、キラは強く強く言い返せる。

 

 

 

ガンダムファイター達が、彼に教えてくれたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

アンドリュー・バルドフェルドは、映像を見直しながら、ため息まじりに告げた。

 

 

 

「しかし、結局デビルガンダムの倒し方はよくわからなかったな」

 

 

 

記録映像のデビルガンダムは、圧倒的な力でねじ伏せるか、コクピットを吹き飛ばされるか、生体ユニットを救い出すかして、倒されている。

 

 

 

もっとも、2つ目と3つ目に至っては、デビルガンダムの上半身を消し飛ばす問答無用の一撃であったり、プラントを遥かに越える大きさのデビルガンダムコロニーを、デビルガンダムのみ破壊したりしているのだがーー

 

 

 

 

 

「ーーキョウジさんのお父さんである、カッシュ博士の言葉どおりなら、デビルガンダムは、人の手で倒せるはずです。手がかりを探すためにも、デビルガンダムを調べないとーー」

 

 

 

バルドフェルドの言葉に、キラは答えながら頷く。カガリはその言葉に、なるほどと納得した。

 

 

 

「だから、キラはオーブ軍に入りたいのか」

 

 

 

カガリの言葉に頷きながら、キラは彼女に向き直った。

 

 

 

「うん。デビルガンダムを倒すために、僕は軍に入るよ。カガリやウズミ様の理念を守る。それがきっと、オーブを守ることになるはずだから」

 

 

 

約束した赤い瞳を思い返しながら、キラは強く宣言する。

 

 

 

「わかった。ならお前には、わたしの近衛兵ーー准将として働いてもらおう」

 

「ありがとう、カガリ!」

 

「こちらこそだ。それにしても、いい刺激になった。デビルガンダム……たしかに危険だが、デビルガンダムは倒せるんだな。人の手で」

 

「ーーうん、この世界にガンダムファイターはシュバルツさんだけだけど、キョウジさんも、シャイニングガンダムもいるんだ。

 

きっと、大丈夫だよーー」

 

 

 

カガリとキラの会話にラクスも頷いた後、眉をキリッと引き締めて、告げた。

 

 

 

「そのためにも、デビルガンダムが接触したであろうギルバード・デュランダル議長について、わたくしは調べます」

 

「プラントに行くのか? ラクス」

 

「ええ。だれが信用出来て、だれが信用出来ないのか。それをはっきりさせるためにも、わたくしはプラントでデュランダル議長について調べてみます」

 

カガリの問いに向き直りながら、ラクスは答える。カガリも一つ頷いた。

 

 

 

「わかった、私で力になれることがあれば、いつでも言ってくれ」

 

「ーーええ、ありがとうございます。カガリさんもご武運を」

 

 

 

互いに頷きながら、笑いあう姫達。

 

 

 

その横で、マリューとバルドフェルドもキラに話しかけていた。

 

 

 

「わたしたちはオーブ軍に加入することになるわね」

 

「よろしく頼むよ、キラ准将」

 

「や、やめてくださいよバルドフェルドさんも、マリューさんも」

 

「ーー軍に入った途端に准将とは。エリートだな、キラ」

 

「ーーキョウジさんまで!!」

 

大人達にからかわれ、表情をコロコロと変えながら、焦るキラ。

 

 

 

それを見ながら、皆が穏やかに楽しそうに笑う。

 

 

 

その時だったーー。

 

 

 

カガリに緊急コールの電話が掛かってきた。皆がしずまり、ジッとカガリをうかがう。

 

 

 

カガリも、皆に頷いた後、心を落ち着けてから電話に出た。

 

 

 

「なんだ? ーー詫びはいい、キサカ。わざわざ、この電話を使ったのだから、急な用事なんだろ? 用件は?」

 

 

 

相手が自分のよく知る男であったことに若干安堵しながら、用件をうかがう。

 

 

 

電話越しに聞いた用件は、カガリの顔を真っ青にした。

 

 

 

「なんだとっ! 連合がプラントに、宣戦布告っ!? 核を放っただって!?」

 

 

 

その一言に、この場の空気が、一気に緊張した。

 

「なっ!?」

 

キラは二の句がつけられない程の動揺している。

 

 

 

バルドフェルドがテレビをつけると、連合の正式な戦線布告が、プラントに行われていた。

 

 

 

理由は、先のユニウスセブン落下を企てた真犯人の引き渡し、これを了承できないなら、開戦を宣言すると告げている。

 

 

 

確かに、ユニウスセブンの破壊により、生じた衝撃波は、津波を各地で起こした。

 

 

 

しかし、ニュースで取り上げられる程の人的被害は出ていなかったのだ。

 

 

 

明らかにこれは、攻撃を行う為の口実である、それがキラ達にもハッキリと分かる。

 

 

 

「連合は、二年前の悲劇をもう一度繰り返そうというのかっ」

 

 

 

テレビをつけたバルドフェルドは、忌々しそうに、歯を噛み締めた。

 

 

 

テレビを見た後、カガリは電話の向こうに問いかける。

 

 

 

「それで、プラントの被害はっ? そうか。被害はないのか。なにっ、ザフトの新型MSが核機体を全滅させたっていうのか? わかった、私もすぐそちらに戻る」

 

 

 

電話を切ると、すぐ様キラ、マリュー、バルドフェルドが彼女の前に並んだ。

 

「カガリ!」

 

「うん。キラ、お前達も一緒に来てくれ。それと、キョウジさん。あなたにも来ていただきたい」

 

「わたしに?」

 

水を向けられたキョウジは目を瞬かせながら、問い返す。カガリは頷きながら、答えた。

 

「敵のMS、先ほど記録データで見たゴッドガンダムにそっくりなんだ。それも一機や二機じゃない。軽く四十機は超えている!」

 

そう言いながら、端末に送られた静止画をキョウジ達に示す。

 

「ーーゴッドガンダムに?」

 

キョウジが問い返しながら、画像を確認する。

 

 

 

その周りに集まり、キラ達も画像を確認した。

 

 

 

そこに映し出された機体に、皆が絶句した。

 

 

 

顔は、ゴッドガンダムそのものだ。

 

 

 

青色に塗装された胸部に緑色のクリスタルが嵌められた作りは、シャイニングガンダムやデビルガンダムのものに酷似している。

 

 

 

肩から腕や、足の作り、バックパックについては、ザフトのジンのパーツだ。

 

 

 

カラーリングはトリコロールであり、手には右にビームライフル、左手に楕円形の白地に赤の淵取りをした盾、腰にMS大の刀を装備している。

 

 

 

ゴッドガンダムを模して作られた量産型の機体であることは、明白だった。

 

 

 

それがプラントを守った事実ーー。

 

 

 

一同が、映像を凝視している前で、硬い表情のままにカガリが、さらに告げる。

 

 

 

「戦場に突然、光と共に現れたらしい。

 

光と共に現れて消えるというのは、あなたのガンダムやシュバルツ殿のガンダムにそっくりだ。

 

直接、動いている画像を見てほしい」

 

「わかりました」

 

 

 

是非もない、とキョウジも頷いた。

 

 

 

「では、わたくしたちも動きましょう。この世界が手遅れになる前に。そして、ガンダムファイターたちのような人々がいると信じて」

 

 

 

ラクスの言葉が、皆の意思を代弁していた。

 

 

 

一同は、それぞれの目的の為、行動を開始する。

 

 

 

この日、キラ・ヤマトはオーブ軍に准将として加わり、ラクス・クラインはクライン派のシャトルを使ってプラントに向かった。

 





みなさん、お待ちかね〜!!

プラントに一方的な開戦宣言をする地球連合。

しかし、デュランダルは、ザフトの守備隊に待機命令を下すのです。

放たれる核ミサイルに対し、大量の光の球と同時にトリコロールのガンダムの一団が現れたではありませんか!!

次回、機動武道伝Gガンダム SEED-Destiny- 第16話に、レディー、ゴー!!


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第16話 渦巻く疑念 デビルズサンクチュアリ

みなさん、ついに地球連合は、プラントに攻撃を開始しました。

しかし、守備隊についたイザーク達は、この戦いを納めたものに、不審の眼を向けるのです。

はたして、どうなっていくのかーー!?

それでは、ガンダムファイト、レディー、ゴー!!



 

地球連合からの一方的とも、言いがかりとも言える戦線布告。

 

 

 

それから僅か一時間足らずで、プラントの前には、連合の戦艦10隻と、60機はあろうと言うダガーの後継機、ウィンダムが展開されていた。

 

 

 

彼らは、攻撃目標をプラントにして既に接近している。

 

 

 

ナスカ級ーーボルテール艦を指揮するイザークは、自身のブレイズザクに搭乗し、悪態をついた。

 

 

 

「ーーふん、やはりこうなるか」

 

 

 

「連合も一枚岩じゃないからな〜」

 

 

 

「そんなことは、分かっている! だが、いつまでもブルーコスモスに振り回されているのが、俺は腹ただしいだけだ!! 連合もザフトもな!!」

 

 

 

相方の言葉に吐き捨てながら、操縦桿のグリップを握る。

 

 

 

「そういや、イザーク。ラクスからプラントに上がるって暗号通信が来たらしいな?」

 

 

 

「ーーうむ。ラクス様のことだ、無事にクライン派とも合流できるだろう。明日にもこちらに来るそうだ」

 

 

 

「ーーそのことなんだが。ラクス達は、傭兵団に護衛を依頼したみたいだぜ」

 

 

 

「何? 金で如何様にも動く傭兵などより、私を頼ってくだされば、ディアッカくらい、何時でも護衛に差し向けたものをーー」

 

 

 

「悪かったな、ぐらいでよ!! つうか、最近の俺の扱いの雑さは何なんだよ!?」

 

 

 

歴戦の猛者となった2人には、この程度の数は大した脅威ではない。

 

 

 

普段通りに、会話しながらも、連合ーーいや、ブルーコスモスの本命を探る。

 

 

 

「ーー イザーク。マーク・フタマル・デルタに30機のウィンダムを発見。間違いない、核ミサイル搭載型だ」

 

 

 

「ーー本当にワンパターンだな、ブルーコスモスってのは。よし、正面の部隊は、シホに任せる。

 

他のものはシホに付け。

 

ディアッカは、俺と核搭載型を殲滅するぞ!」

 

 

 

「ーーやっぱ俺だけ、労働条件過酷なんだよね〜」

 

 

 

そうボヤくディアッカのザクに何故か暗号通信で、後輩のシホからメッセージがあった。

 

 

 

可愛らしい後輩が、自身への激励をくれたかと、メールを開けてみたところーーーーーー

 

 

 

『ディアッカさん、羨ましいーー。隊長と2人きりーー。いつもいつもいつもいつもいつも……』

 

 

 

( ーーこえ〜よ、おい!?)

 

 

 

思わず、出撃準備しているシホを見ると、彼女は素知らぬ顔で作業していたものの、青ざめたディアッカの表情を見て取ると、静かに笑みを浮かべてきた。

 

 

 

彼女の表情と、普段からのイザークへの懐き方を鑑みて、ディアッカは思った。

 

 

 

( なんで、俺ばかり!?)

 

 

 

世の理不尽に、嘆くディアッカであった。

 

 

 

だが、異変は起こった。

 

 

 

いつまで経っても、出撃命令が下りないのだ。

 

 

 

待機命令のみが下され、部隊が展開されることはない。

 

 

 

「ーーおい、イザーク。こいつは」

 

 

 

「本国に報告しろ!! このままでは、プラントが落ちるぞ!!!」

 

 

 

しかし、イザークが本国へ打診するも、返答は待機せよ、のみだった。

 

 

 

「何を考えているんだ! 本国の連中は!?」

 

 

 

 

 

地球連合艦隊ーー

 

 

 

「ーー敵は部隊を展開しませんね」

 

 

 

「好都合だ、宇宙に住むゴミどもめ。クルセイダーズを出撃させろ!!」

 

連合の指揮官の指示で、別動隊のクルセイダーズと呼ばれた核ミサイル搭載型ウィンダムが、部隊を展開した。

 

 

 

「くたばれ、蒼き清浄なる世界のために!!」

 

 

 

放たれる無数の核ミサイルーー。

 

 

 

プラントに放たれるのを、モニターでも確認できたーー。

 

 

 

しかし、次の瞬間、連合もザフトも、思いも寄らない形で、ミサイルは防がれた。

 

 

 

突如、爆発する核の火。

 

 

 

プラントに放たれる寸前で、止められていた。

 

 

 

「何だーー!?」

 

 

 

クルセイダーズのパイロットにも、突然のこと故、理解できない。

 

 

 

彼らの前には、何処から来たのか、いつ現れたのか?

 

 

 

トリコロールの10機のガンダムタイプのMSが、立ちはだかっていた。

 

 

 

「ーーなんだと!? 核ミサイルが全て落とされた!?」

 

 

 

「艦長ーー、前方に熱源が生まれます!!」

 

 

 

「何だーー!?」

 

 

 

彼らがモニターを確認した時、銀色に輝く30を越える光の玉が渦を巻きながら、宇宙空間に現れた。

 

 

 

光の玉は、大きくなって弾けると同時に、MSを形どる。

 

 

 

「なんだ、こいつらは!?」

 

 

 

「分かりません!! しかし、クルセイダーズの前に阻んでいる部隊と同型機です!!」

 

 

 

「ーーこいつらが、核ミサイルを落としたのか? だが、数の上では、こちらが有利だ!!

 

全軍に告げる、アンノウンはザフトの機体と断定!!

 

速やかに排除せよ、蒼き清浄なる世界のために!!!」

 

 

 

指揮官の指示で、一斉に連合製MSーーウィンダムが仕掛けた。

 

 

 

 

 

一方、ボルテールで待機命令のあったイザーク達にも当然この映像は流れていた。

 

 

 

「ーーなあ、イザーク。いきなり現れたMS、似てねえか? あの忍者の変身したヤツに」

 

 

 

「ーープラントの半分を一瞬で消しとばした機体か。確かにな。だが、ディアッカ。

 

こいつら、確かに忍者が変身したガンダムに顔はソックリだが、胸部のデザインが異なるぞ」

 

 

 

イザークは、答えながらも冷静に記憶の中にある、日輪を背負った機体を思い浮かべる。

 

 

 

「加えて、あのバックパックと両腕は、色をトリコロールにあわせて変えているが、ジンのそれだな。

 

いや、ジンハイマニューバ二型ーー、テロリストの連中が使っていたタイプだ。

 

武装も同じだしな」

 

 

 

ディアッカは、自身のMSに記録されていたデータとアンノウンのMSを比べて、言った。

 

 

 

「テロリストが使った機体と同型機を、テロから救った機体に似せて作り変えた? 何の冗談だ!?」

 

 

 

ディアッカから差し出された写真をモニターで見比べ、イザークは激怒した。

 

 

 

 

 

 

 

議長室のモニターで、彼らもアンノウンのMSを確認していた。

 

 

 

「デュランダル議長、これはーー!」

 

 

 

ザフト軍の人間である護衛に、デュランダルは静かに笑いかけた。

 

 

 

「何、彼らは私の擁する特務隊でね。彼らに任せてもらえないかな?」

 

 

 

「は、はあ」

 

 

 

所在無さげに立つ軍人に微笑みかけた後、プラントの周辺を模した宇宙図を広げた卓の上に、チェス盤を置いて、駒を40程、適当に配置する。

 

 

 

その駒は全て、チェスのナイトと呼ばれる黒の駒だった。

 

 

 

「議長ーー?」

 

 

 

「いや、気にしないでくれ。チェスの駒を動かして、気持ちを落ち着けているんだ」

 

 

 

言いながら、デュランダルは駒を動かす。

 

 

 

側から見れば、何の意味もないような事だ。

 

勘のいい者がいれば、分かるだろう。

 

 

 

デュランダルが置いたチェスの駒の位置に、アンノウンのMSが出現していることに。

 

 

 

だが、それがどれだけ、荒唐無稽かは、気付いた人間が一番分かる。

 

 

 

デュランダルの駒を置いた位置に、MSが現れるなど。

 

 

 

 

 

 

 

アンノウンのMSの部隊は、互いの位置を完璧に把握し、どのように連合が展開しているのかを理解していた。

 

 

 

「サトー隊長、この機体ならば、これだけの数はいらなかったのでは?」

 

 

 

部下のーーいや、元部下の言葉を受けて、サトーは自嘲気味に笑った。

 

 

 

「デュランダル様のご命令だ。新たに手に入れたチェス盤の動きを見たいらしい。我らは、その通りに配置されているにすぎない。

 

それにしても、ウィンダムか。デビルガンダム様に捧げるのにちょうど良い。

 

生きの良い餌だ」

 

 

 

獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべ、人間であった頃の憎しみも加えて、サトーはトリコロールのガンダムタイプの部隊を指揮し始めた。

 

 

 

次々にウィンダムから放たれるビームライフル。

 

 

 

サトーは、その無数のビームを敢えてスラスターを全開にし、真っ直ぐ突っ込むことで、敵に的を絞らせず、一気に距離を詰める。

 

 

 

そして、射程内に入った瞬間、右手に持ったビームライフルの引き金を引いた。

 

 

 

放たれたビームは、寸分違わずウィンダムの胴体にあるコクピットを貫いていく。

 

 

 

瞬く間に3機のウィンダムが爆発する。

 

 

 

サトーの動きは、ナチュラルはおろか、コーディネーターでも反応できないほどの、スピードだった。

 

 

 

放たれるビームを宙で旋回して躱すと同時に、次々とコクピットに引き金を引いて落としていく。

 

 

 

「ーーふん、つまらん。コレでは勝負にすらならん。やはりーー」

 

 

 

サトーはそう言うと、ライフルを捨て、腰の刀を抜き放つ。刀を両手持ちにして構え、スラスターを全開にし、一気に敵に近づいていく。

 

 

 

「ーークッ、速い!?」

 

 

 

「マヌケめ。機体の性能は素晴らしいが、ナチュラルではそんなものか」

 

 

 

サトーは、刀で両腕を切り落とした後、左手をウィンダムの胴体に当てる。

 

 

 

「ジェットストライカーとやらのエンジンだけ頂き、残りは生け贄としよう」

 

 

 

瞬間、銀色の光がウィンダムを包み込む。

 

 

 

「ーーなんだ、何なんだ!? う、うわああああーー!?」

 

 

 

パイロットは悲鳴をあげながら、光の中へと消えていく。

 

光が晴れた時、銀色の球が浮かんでいた。

 

 

 

その球は、サトーの機体の胸に嵌められた緑の球型のクリスタルに吸い込まれた。

 

 

 

瞬間、機体のバックパックの羽のバーニア部が変化し、ウィンダムのジェットエンジンの形をとる。

 

 

 

羽を模したバーニア部は、ロケットの様に尖ったものになっていた。

 

「ーーさて、早速試すか!」

 

 

 

瞬間、サトーの機体は、音速をも超えるスピードで、一気に距離を詰めていき、刀で敵を切り裂いていく。

 

 

 

一部始終を見ていた、連合艦隊のブリッジは、混乱に継ぐ混乱をきたしていた。

 

 

 

「何なんだ、この部隊は!?」

 

 

 

「2番艦、3番艦、共に撃沈!! MSも半数を切りました!!」

 

 

 

「ーーおのれ!!」

 

 

 

歯を食いしばり、出せるだけのMSを出そうとする。

 

 

 

しかし、彼らの眼の前に、ガンダムタイプの顔が迫っていた。

 

 

 

「ーー貴様らの命も、貴様らの機体も船も、全ては我らが王のもの。

 

さあ、デビルガンダム様の贄となれ!!!」

 

 

 

言うやいなや、両手持ちに構えた刀が振り下ろされ、艦を真っ二つにしてしまう。

 

 

 

他の船も、次々とサトーの同型機が撃破していく。

 

 

 

勝負は、完全についたーー。

 

 

 

 

 

 

 

その様を、小惑星のデブリに紛れて、イザークとディアッカのザクファントムが、見ていた。

 

 

 

「間違いない。機体の動きはスピードの桁が違うが、パイロットの癖はあの時の奴と同じだ。奴は、ユニウスセブンを落下させようとした、テロリストだ」

 

 

 

「コクピットと動力炉やられても、まだ再生できるのかよ、ゾッとするぜーー」

 

 

 

「と、言うことはこいつらの中に、俺の部下たちもいるのか」

 

 

 

イザークの言葉に、ディアッカは肩をすくませた。

 

 

 

「やめとけよ、取り込まれた時点で敵になってたろ?」

 

 

 

「ーー分かっている」

 

 

 

何処か寂しそうにしながらも、イザークはデブリから出る様なことはせずに、記録映像を残していく。

 

 

 

彼とて、ユニウスセブンでの戦いで理解しているのだ。

 

 

 

この敵の異常さを。

 

 

 

「ーーディアッカ、記録映像を保存後解析して、映像をクリーンナップしておけ。

 

今回の策を講じたのは、デュランダル議長だ」

 

 

 

「ーーかつてのテロリストが、今やプラントを守る忠実なガーディアン、ね?」

 

含みのある表情で言い放つディアッカに、コクリと頷いて、イザークも呟いた。

 

 

 

「今回のユニウスセブン。もしかしたら、議長は知っていたのかもしれんな。

 

この訳の分からん機体のこともな」

 

 

 

「ーーやれやれ、いつになったら、争いはひと段落つくのかね?」

 

 

 

ディアッカの軽口に、何も返さず、アンノウンの部隊を見ていると、敵を殲滅したのち、アンノウンは一斉に並ぶと、胸のクリスタルを光り輝かせ、銀色の光の球になって消えていったーー。

 

 

 

「忽然と現れ、忽然と消える、か」

 

 

 

「正に、神秘の機体だな」

 

 

 

「ーーふん。一機だけでも捕獲しておきたいが、急いては事を仕損じるな、ボルテールに戻るぞ、ディアッカ!!」

 

 

 

「ーー了解だ!!」

 

 

 

こうして、プラントは、謎のMSの一団に救われた。

 

 

 

 

 

しかし、イザークやディアッカの、デュランダルへの疑惑はより一層、増えることとなったのである。

 





みなさん、お待ちかね〜!!

シン達としばらく別れたミネルバですが、彼らを襲うため、大西洋海上において、連合の巨大MAに現れます。

絶対絶命の危機に陥るミネルバですが、彼らを救いに、修行をひと段落させたシン・アスカが現れ、新たなる力に目覚めるではありませんか!?

次回、機動武道伝Gガンダム SEED-Destiny- 第17話に、レディー、ゴー!!


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第17話 新生 ミネルバの戦士達

さて皆さん。

シン達は、シュバルツの提案により、修行を受けます。

彼らの腕がどれだけ上がったのか、今回の連合艦隊との戦いで、推し量れることでしょう!!

それでは、ガンダムファイト、レディー、ゴー!!




 

 大西洋海上ーー

 

 

 

オーブ近海に未だ、ザフト艦ミネルバは存在した。

 

 

 

シュバルツ達が修行する諸島から離れ、一路はカーペンタリアへと向かう。

 

 

 

タリアは、ゲイツRを二機、カタパルトに置き、パイロットを予め搭乗させていた。

 

 

 

「ーー艦長、何故そんなに険しい顔を?」

 

 

 

「気づかないの、アーサー?この先は、オーブから追い出されそうになった際に、連合の艦隊が展開していた場所よ」

 

 

 

 

「あの時は、シュバルツ殿が水柱の術を使って助けてくれたんですよね!! 凄いですよね、忍者って!!」

 

 

 

目を輝かせながら言う副長に、タリアは白い目を向けながら、告げた。

 

 

 

「すぐに、他国のパイロットをあてにしない。それに、今は、シュバルツ殿はおろか、シン達もいないわ。7日前に展開されていた連合の部隊がいたら、どうなると思う?」

 

 

 

 

「シュバルツ殿なら、救援要請をすれば、一瞬で来てくれるでしょう! 我々の理解の外の方ですし!!」

 

 

 

自信満々に言うアーサーに、タリアは頭を抑えた。

 

 

 

アーサーの言うとおりなのだが、それをアテにしていては、ダメだと言いたかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

連合軍の空母にて、指揮官はレーダーに反応があったことに会心の笑みを浮かべた。

 

 

 

「ここに待機していれば、ミネルバがくると思っていたぞ! オーブの連中からは上手く逃げたようだが、我々は、そうはいかん!!」

 

 

 

指揮官の言葉が終わると同時に、モニターにザフト新造艦、ミネルバが登場した。

 

 

 

「よし! 奴らを倒し、我らの手柄とするのだ!! 出撃準備だ!! 時代遅れのMSなど、我が連合が誇る最新型MA『ザムザザー』に敵うはずがない!!」

 

 

 

 

艦影を確認後、切り札を切る。

 

 

 

圧倒的な数と、性能で、完膚なきまでに叩き潰す、と指揮官は自身に気合いを入れた。

 

 

 

 

 

ミネルバも当然、状況に気付いていた。

 

 

 

「まずいわねーー。空母4隻にMSが50以上、大艦隊ね」

 

 

 

「艦長! 連合艦隊は、更に巨大MAを展開しています!!」

 

 

 

「ーー性能がどれだけのものかは、分からないけど、この圧倒的不利な状況では仕方ないわね。シュバルツ殿たちに救援要請して!!タンホイザー起動! 正面の戦力を薙ぎはらうわよ!!」

 

 

 

 

メイリンの報告に頷くと、タリアは救援要請とミネルバの主砲の発射命令を同時に行う。

 

 

 

「ーー艦長!? 地上で、陽電子砲を!?」

 

 

 

狼狽えるアーサーを一瞥した後、敵艦隊を睨み据えた。

 

 

 

「まずは、生き残るためにやれることをやりましょう。照準、目標は敵の大型MA!!タンホイザー、ーーてぇ!!」

 

 

 

 

ミネルバの艦首下がスライドし、正面に据えられた巨大な砲身が姿をあらわす。

 

 

 

同時に、タリア艦長の号令で、青白い光と赤い光を同時に放ちながら、撃たれる一本の極大なビーム砲。

 

 しかし、強大なビーム砲は、MAの正面に現れた光の盾に防がれる。陽電子砲は、海面を蒸発させながら、完全に止められてしまった。

 

 

 

 タリア艦長は、すぐさま発進待機させていたゲイツR2機と補助パイロットを出撃準備を命じた。

 

 彼らは、シン達の様なエリートの赤服ではない上に、機体も旧式のゲイツRである。

 

 

 

「ちくしょう、何てついてないんだよ! よりにもよって、こんな時に当たるなんて!!」

 

 

 

「ぼやくなよ、やるだけやろう」

 

 

 

 補助パイロット達が互いに励ましあいながら、武装のビームライフルを構えて、カタパルトに機体を載せる。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「ーー艦長、ブリッジ正面に機体が四機!! ガンダムシュピーゲル、インパルス、レイ機とルナマリア機のザク、全機そろい踏みです!!」

 

 

 

 メイリンの報告どおり、そこにガンダムシュピーゲルが腰に手を当て、胸を張って立っている。その左右にシン、ルナマリア、レイが控えている。

 

 

 

 彼――シュバルツから、通信が入ってきた。

 

 

 

「ふっ、どうやら間に合ったようだな」

 

「救援要請を出して、本当にわずか十秒で来るなんて……」

 

 

 

 夢を見ているかのように呆然としているタリアの横で、メイリンが姉に声をかける。

 

 

 

「お姉ちゃん! 大丈夫なのっ?」

 

 

 

「ふっふっふっふっふ、問題ないわ。いまのあたしは一週間前のあたしより、はるかに強い!」

 

 

 

自信満々に笑いながら答えるルナマリアに、シュバルツは一つ頷き、シン達3人を見据える。

 

 

 

「その意気だ。いまのお前たちならば出来るっ! 私はお前たちの戦いをここで見させてもらうぞ!」

 

この言葉に、一週間前には無かった強い絆を示すかのような、熱のこもった視線をシン達は返してきた。

 

 

 

「はいっ!!」

 

「成果を見ていてください、シュバルツ殿」

 

「俺たちはできる! 俺たちは――っ」

 

 

 

ルナマリア、レイ、シンが答えながら、3人は同じ言葉を力強く発した。

 

 

 

『強いっ!』

 

 

 

 

 

同時に出撃する三機ーー。ガンダムシュピーゲルはそれを満足そうに見つめていた。

 

 

 

その様をブリッジのモニタ越しで見ていたタリアやアーサーは、微妙な表情になりながらも、話し合う。

 

 

 

「あの三人に、いったい何があったのかしら……」

 

「さあ……?」

 

「と、とにかくっ、頼りになりそうですね……」

 

「だといいのだけれど」

 

 

 

あまりの3人の変化に、現実をつい忘れて話し合う艦長と副長。

 

 

 

その隙をつくかのように、ミネルバのブリッジに向かって連合の巨大MAーーザムザザーの陽電子砲が放たれた。

 

 

 

小回りの効かないミネルバでは、咄嗟に避けることもできない。

 

 

 

しかし、艦板にいるレイとルナマリアは、冷静だった。

 

 

 

「ルナマリア、任せる」

 

「オッケーィッ!」

 

 

 

オルトロスを構えるルナマリアは、静かに一つ瞬きをすると、キリッと目に力をこめる。

 

 

 

「そこねっ!」

 

 

 

放たれた陽電子砲に向かい、赤いガナーザクウォリアーは、オルトロスの引き金を引いた。

 

 

 

思わず、タリアは制止の声を上げる。

 

「無茶よ!? 相手はタンホイザーにも匹敵する陽電子砲なのよっ!?」

 

 

 

あきらかに倍以上の太さの陽電子砲を相手に、オルトロスのビームが中央で激突した。

 

 

 

ミネルバのブリッジにいる誰もが、もうダメだと諦めた時、信じられないことが起こった。

 

 

 

バシュゥウウンッ

 

 

 

そんな消滅音と共に、2つのビーム砲が細やかな粒子を散らせながら、相殺したのだ。

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

その光景に、タリアだけでなく、敵である連合軍ですらも呆然としていた。

 

 

 

一MSの携帯用ビーム砲が、戦艦の主砲にすら使われている陽電子砲を相殺したのだ。

 

 

 

彼らは、悪夢を見ているかのように、愕然としていた。

 

 

 

その隙を、今度はルナマリアがつく。

 

 

 

「見えた、そこっ!」

 

 

 

もう一度、オルトロスを撃つルナマリア。

 

 

 

「し、シールド展開!!」

 

 

 

なんとか陽電子リフレクターを張る。

 

 

 

菱形を幾つも編んだ形のビームシールドは、先にはミネルバの主砲さえ、防いだのだ。

 

 

 

たかが、MSの一撃を防げないわけがないーー。

 

 

 

先の現象は、単なる偶然だ。

 

 

 

そう無理やりに納得させながら、前を見る連合兵。

 

展開されるリフレクターの、隙間をわずかに貫きながら、

 

糸のように細くなったオルトロスが、ザムザザーの肩口に当たり、霧散した。

 

 

 

「ーーな、なんだと!!?」

 

 

 

たとえ、か細い蚊のような一撃に落ちたとはいえ、最強の盾とも言える陽電子リフレクターを、貫いてきた事実。

 

 

 

連合兵達は、戦慄した。

 

 

 

 

 

 

 

「くっそぉー! まだ甘いかっ!」

 

 

 

しかし、MSや力学、物理学の観点から見ても非常識極まりないことをやってのけた当人ーールナマリア・ホークは不満だった。

 

 

 

「シュバルツさんなら今ので、貫けましたよねっ」

 

 

 

悔しそうにしながら、ルナマリアは直立不動で後方に立つシュピーゲルを見る。

 

 

 

しかし、シュバルツから返ってきた反応は、肯定的だった。

 

 

 

「いや、素晴らしい成果だ。ルナマリア! よく相手を見、相手の弱点を捉えそこを攻撃している」

 

 

 

ルナマリアの修行の成果に、シュバルツは満足そうに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「おのれ!! なんなんだ、こいつらは!!」

 

臆することなく、連合兵のウィンダム達が一斉にビームを撃ってきた。

 

 

 

四方八方から放たれる包囲攻撃に、ミネルバクルーが息を飲む。

 

 

 

そんな中で、ルナマリアを制し、白いザクのパイロットーーレイ・ザ・バレルが右手のビームライフルを構えて言った。

 

 

 

「今度は俺がーー」

 

 

 

手元が見えない程のスピードでザクファントムがビームライフルの引き金を引き、連続で速射する。

 

 

 

マシンガンーーいや、ショットガンの様に、ビームライフルは四方八方に一砲身から同時に放たれ、取り囲んで放ってきた連合のビーム砲に向かう。

 

 

 

レイの放ったビームライフルは寸分たがわず、ミネルバに直撃するビーム砲だけを全弾落とした。

 

 

 

その光景に、今度こそこの場にいる者たちがざわめき始める。

 

 

 

奇跡とも言える光景を目の当たりにさせられているのだ、当たり前と言えば、当たり前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!? ……あっ」

 

 

 

数多のビーム砲を撃ち落とす偉業を成し遂げたレイは、自身の機体が持つ違和感を敏感に感じ、持っているライフルを見据えた。

 

 

 

砲身が焼けつき、使い物にならなくなったビームライフルがそこにあった。

 

 

 

「しまった……! やはりまだ未熟……。銃身の限界を見ていなかった」

 

 

 

銃身を落しながら、レイは己の未熟を悟る。

 

 

 

「仕方ないわね……じゃあ、あたしのビームライフル貸したげる」

 

 

 

ビームライフルを食い入るように見ながら、打ちひしがれている同僚に、ルナマリアは腰に差してるビームライフルを渡した。

 

 

 

「ちゃんと大事に扱いなさいよ、レイ!」

 

「わかっている。……MSは、道具ではないのだ……」

 

 

 

渡されたビームライフルを大事そうにザクファントムが抱え、レイは自分に言い聞かすかのように呟く。

 

 

 

「そうだ。レイ、その意気だっ! MSを通し、ライフルの限界を悟るのだっ!!」

 

 

 

シュバルツは、その姿を見て激励を飛ばす。そして周りを見渡した。

 

 

 

「さて、これで護りはよし。ならば」

 

 

 

その目は、空戦ができるからと、単身で敵陣営に切り込んだシンのインパルスを遠目に見て頷く。

 

 

 

「あとはお前が決め手だ、シン!」

 

 

 

 

 

 

 

ビームサーベルを抜き斬撃を放ちながら、敵を切り裂いていくシンのインパルスガンダム。

 

 

 

敵は数に任せた戦い方で、インパルスを常に取り囲んで攻撃をしてくる。

 

 

 

またしても、一機のウィンダムを切り落としたインパルスガンダムの後ろから、別のウィンダムがビームライフルの引金を引いた。

 

 

 

「ーーもらったあ!!」

 

 

 

そう叫び、引き金を引いた瞬間には、ウィンダムのパイロットは目の前からMSが消えたように見えていた。

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

「遅いっ!」

 

 

 

インパルスは、バーニアをふかしながら、弧を描くようにしてウィンダムの背後に旋回していたのだ。

 

 

 

「俺はここだー!」

 

 

 

熱く燃える魂に準ずるように叫びながら、シンはウィンダムを斬り捨てた。

 

 

 

更に切りかかってくるウィンダム二機をビームサーベルで切り落とし、ライフルを三発撃って、その後方でこちらにビームライフルを構えていた三機も、頭を狙って撃ち落とした。

 

 

 

 

 

 

 

次々と倒していく理不尽なまでのシン達の強さに、味方であるはずのタリア達でさえ、混乱していた。

 

 

 

「な、なんなの……いったい何が起こってるのっ……!」

 

「シンもレイも、お姉ちゃんも……いったいどうなってるのっ??」

 

「あ、あの三人……たった一週間でどんな修行を!?」

 

 

 

タリア達の困惑を通信越しに聞いて取ると、ガンダムシュピーゲルは、ブリッジに向き直った。

 

 

 

「ふっふっふっふっふ、一週間あれば、彼ら3人にはこれぐらい、充分だったと言うことだ。修行を問題なくこなしてくれたぞ。あの頃のドモンより素直な分、吸収も早かった」

 

 

どこか懐かしむように目を細めながら、穏やかに笑うシュバルツに、胡散臭いものを見るかのような表情で、タリア達はモニター越しに一歩ひいた。

 

 

 

 

 

「お、の、れぇええっ! なんなんだあいつらはっ!? あんなやつらがいるなんて、聞いてないぞっ!? ミネルバのMSはバケモノかっ!」

 

 

 

連合兵は、悲鳴のような声を上げながら、カトンボの様に飛び回るインパルスガンダムに向かってビーム砲を放つ。

 

 

 

 

 

シンは、冷静に敵MAの攻撃に対処しながら、周囲のウィンダムを落としていく。

 

 

 

シンの奮闘ぶりを見ながらも、ルナマリアはオルトロスの照準をザムザザーに合わせた。

 

 

 

(陽電子リフレクター(ビームシールド)を既に展開されている……ということは、いまあのMAを撃っても貫けないわね……粒子の流れを見ないと。粒子の流れを見て、オルトロスでも貫ける瞬間を見つけないと、有効打は与えられない)

 

 

 

 

 

 

更に集中力を高めて、粒子の流れを読んでいくと、通信が入ってきた。

 

 

 

「待てよ、ルナ! こいつはおれが落とす!」

 

 

 

ーーシンだ。彼は、勝気な瞳を敵に向けると、果敢にMAに挑んでいく。

 

 

 

「俺は強くなったんだ! 俺一人でも、こいつは落せるっ!」

 

「調子に乗るなよ、シン!」

 

 

 

その時、厳格なシュバルツの声がかかった。

 

 

 

「確かにお前は強くなった。しかしっ! お前はまだ未熟っ!この一週間でお前たちに教えたのは、明鏡止水の基本的なことだ。要は、お前たちの修行はまだ完成していないのだ!」

 

 

 

 

 

「だからって、こいつに手こずってるようじゃ、この先には進めないっ!」

 

 

 

 

 

シュバルツの諫言を理解しながらも、反論を述べるシン。

 

 

 

その姿にかつての弟を重ね、シュバルツは笑った。

 

 

 

「ならば、見せてもらうぞ。貴様の闘いぶりを!!」

 

 

 

「ーーはい!!」

 

 

 

シュバルツの言葉に強く頷いて返しながら、シンはビームライフルを三発ザムザザーに撃つ。

 

 

 

3つのビームは、完全にビームシールドに防がれてしまった。

 

 

 

(こいつ、シールドを展開している最中は攻撃をしてこないっ! 狙うなら、やつが攻撃してくる一瞬を撃つか、それとも接近戦に持ち込んで、粒子の利かない距離でビームライフルで打ち抜くか、ビームサーベルで斬り込むか! 手段なんていくらでもあるっ!)

 

 

 

 

 

そのシンの思考を読んだかのように、レイが呟いた。

 

「たしかに手段はいくらでもあるが、それを実行する腕がなければ意味がないぞ。シン」

 

「シンなら大丈夫っ! よね?」

 

それにルナマリアが笑いながら、明るく、しかし力強くシンに語る。

 

それを受け、インパルスガンダムが右手を上げて親指を立て、答えた。

 

「任せとけっ!」

 

 

 

 

 

インパルスガンダムは、ビームサーベルを抜いて、MAに攻撃をしかける。

 

 

 

「調子に乗るなよ! このMAこそが、連合の、主力機なのだぁああ! ザフトのMSなどではない、MAこそが連合のあるべき姿なのだ! このザムザザー、貴様らごときに敗れるものかぁあ!」

 

 

 

言いながら、熱で赤く染まったヒートクローで攻撃を仕掛けてくるザムザザーに、シンはニヤリと笑った。

 

 

 

「そうか。シンが接近戦を挑んでくるなら、やつも接近戦をするしかない。コレで、陽電子砲は使えない」

 

 

 

シンの狙いを悟り、レイが口を開く。

 

 

 

「シールドを展開された状態では、遠距離からの攻撃は完全に防がれてしまう。唯一、シールドを突破可能なのはルナマリアのオルトロスだがーー」

 

「そこで手を出したらシンに怒られるってことね」

 

「困ったことにな。しかし、大口を叩いた以上はシンはこれをやり遂げなければならない」

 

 

 

レイとルナマリアは、お互いに言葉を交わし、頷きあう。

 

 

 

その背後で、シュバルツはシンが相対する敵の巨大MAを改めて観察していた。

 

「あのMA、あの巨体でなんという反応速度。これは、おそらく射撃をする者、格闘をする者、そして移動をする者の三人で連携させて動かしているのだな……。複座式というやつか。ーーやっかいだな」

 

 

 

 

 

 

通常、あれ程の巨体であれば、反応が遅れるのが当たり前だ。

 

しかし、連合のMAは、その例に当てはまらない。

 

シュバルツが気配を感じてみれば、砲撃に一人、格闘を一人、最後の一人は移動や回避を担当しているようだ。

 

 

 

動きの速いフォースインパルスに接近戦を挑まれてなお、いい勝負を繰り広げている。

 

 

 

そこまで見抜き、今のままならシンの苦戦は免れまいと知りながらも、シュバルツは不動のままだった。

 

「三つの眼、か。ならば、その三つの眼をいかにしてかいくぐるか……。シン! 見せてもらうぞ!」

 

 

 

厳しくも決して目をインパルスガンダムから離さないのはシュバルツ・ブルーダーなりの気遣いであり、一戦士への礼儀であった。

 

 

 

 

 

シンがビームサーベルをちらりと見ると、サーベルがエネルギー切れを起こし、一気に細くなると同時に刀身が縮んでしまい、最後にはきえてしまう。

 

 

 

「チっ!」

 

 

 

舌打ちすると同時にビームライフルを構え、引き金を引く。

 

 

 

「ーーあっ!?」

 

 

 

その時に更にビームライフルの弾丸までも尽きていることを知るのだった。

 

 

 

 

 

「修行が足りんぞ……シン」

 

 

 

その姿にシュバルツが首を横に振る。その隣から、ルナマリアが声を張り上げて詰る。

 

 

 

「全然ダメじゃない、シン! 明鏡止水の境地なら、道具の残弾数とか、ビームサーベルの残り具合くらいわかるでしょ!? 自分の身体の一部なんだから!」

 

 

 

「う、うん……。そうだな……。俺もまだ修行が足りないんだな」

 

ルナマリアの隣にいるレイは何故か、自分のビームライフルを見ながら口ごもっていた。

 

 

 

 

 

同僚達からの手厳しいエールを受けるシンだが、大ピンチは変わらない。

 

ビームサーベルは使えず、ライフルも弾切れを起こしている。

 

 

 

「くっそぉー!」

 

 

 

半分ヤケクソになったシンは、ビームサーベルを敵に向かって投げつけた。

 

 

 

「なんのつもりだー!」

 

 

 

MAのパイロットは、左のクローで柄だけのビームサーベルを弾く。

 

 

 

弾かれたと同時に、左手にあるライフルも投げつけるシン

 

 

 

 

「ーーケッ、悪足掻きをしやがって!!」

 

 

 

当然、先と同じように、ザムザザーは左手のクローでライフルの銃身を弾く。

 

 

 

次の瞬間、シンのインパルスがザムザザーの頭上に現れ、右の足を思い切り振り上げていた。

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

ドカァッ!!

 

 

 

連合のパイロット達がポカンとするのと、インパルスガンダムの右のカカト落としが炸裂するのは同時だった。

 

 

 

シンは、サーベルとライフルをMAの正面に投げつけることで、敵を油断させ、かつ両腕を使わせたことにより、本命の直接打撃である踵落しを見事に決めたのだ。

 

 

 

そのやり方に、思わずルナマリアとレイが口を開いた。

 

「あっ!」

 

「格闘……かっ!」

 

 

 

見事にカカト落としを決め、ザムザザーは海面へと落ちていく。

 

 

 

「どうだぁ!」

 

 

 

インパルスが、ガッツポーズを取ると同時に、蹴り落とされたザムザザーが、バーニアを噴射。間一髪、海面上にて態勢を立て直した。

 

 

 

「な、なにぃいい!? なんだ、あのパイロットは!?」

 

「武器がなくなったら素手で攻撃してきやがったぞ!」

 

「なんて野蛮な奴なんだ!」

 

 

 

ザムザザーに乗る3人のパイロットは、常識はずれな行動の上に強いミネルバのパイロット達に、うんざりしてきたようだ。

 

 

 

更に間隙を縫ってシンがミネルバに叫ぶ。

 

 

 

「メイリン! ソードシルエットだ!」

 

「り、了解!! ソードシルエット、射出します!」

 

 

 

射出されたソードシルエットは海面上を滑空する。

 

それを敢えて換装せずに、シルエットの後方に回り込み、両翼に付けられた大剣の左側の一振りをしっかりと握りしめる。

 

 

 

実体剣とビームサーベルが一体化した大剣エクスカリバーは、小回りが利かない分、威力は折り紙付きである。

 

 

 

それを両手で持ち、正眼に構える。

 

 

 

思わずルナマリアが声を上げた。

 

「そんなのありっ!?」

 

「賢い選択だ。MAは小回りが利かないから格闘戦に弱い。だがソードシルエットに換装しては、あれほど機動力を持った空中戦はできない。だからシンはソードシルエットのエクスカリバーだけを取り外して自分の武器にしたんだ」

 

対してレイが肯定的な意見を述べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザムザザーが、左の爪をインパルスガンダムの胴目掛けて放ってきた。

 

紙一重で見切りながら、空振りで伸びた左の爪を二の腕の辺りから斬りおろす。

 

「いける!」

 

 

 

続いて右の爪を放ってきたザムザザーに、右手で片手逆胴薙ぎを放って爪の付け根ごと切り捨てる。

 

 

 

「やれる!!」

 

 

 

連合兵が、この光景に怒りの声を上げた。

 

「くそおおお!」

 

バーニアをMAが逆噴射させ、インパルスガンダムから距離を置いたと同時に陽電子砲を放とうとする。

 

 

 

「俺ならできるぅうう!」

 

 

 

これに対し、シンは両手持ちに構えたエクスカリバーをザムザザー向けて突き出しながら、バーニアを全開にして、一気に距離を詰める。

 

 

 

放たれた陽電子砲。

 

 

 

しかし、一週間前に微動だにすることなくオルトロスを割って見せたガンダムシュピーゲルのように、インパルスガンダムのエクスカリバーがそのビームを割って、突き進んでいく。

 

 

 

「ばかなぁあああああ!」

 

 

 

連合兵が、絶望や失望、驚愕が入り混じる断末魔を上げた。

 

 

 

ズシュウッ

 

 

 

エクスカリバーは、見事にザムザザーの正面から背面へと貫いている。

 

 

 

「これが、修行の成果だ!」

 

 

 

シンは、言い捨てると同時に、一刀両断に切り捨てる。

 

 

 

宙で真っ二つに切り捨てられた巨体は、大西洋の海面へと落ちていった。

 

 

 

「へへっ、まあーーこんなもんだな!」

 

 

 

得意げに笑うシンに、ミネルバのブリッジは勝利の歓声を上げた。

 

 

 

その時だった、インパルスガンダムに第三者の通信が入ってきたのだ。

 

 

 

「ほう、なるほど。貴様磨けば光るやもしれんな」

 

 

 

インパルスガンダムのシンが後ろをふり返った時、アーモリーワンで強奪されたザフト製の三機のガンダムを従えた、黒い巨大なツノを持つ赤い羽根のガンダムがいた。

 

 

 

「ーーあんたは、東方不敗!! マスターガンダム!!」

 

 

 

 

 

「ーーそう! これぞ我が東方不敗マスターアジアの真の姿、マスターガンダムよ!!腕を上げたようだな! 小僧!!!」

 

 

 

 

この海域に、これまでにない、とんでもない激戦が繰り広げられようとしていたーー。

 

 




みなさん、お待ちかね〜!!

圧倒的な力で連合艦隊を打ち破ったシンのインパルスガンダムとレイ、ルナマリアのザク。

しかし、連合はマスターアジア率いるファントムペインが出てくるのです。

マスターの弟子となった三機のガンダムパイロットとの激戦を繰り広げ、次第に追い込まれるシン達。

ところが、シンは彼らとのファイトを通し、眠っていた力に目覚めるのです!!

次回、機動武道伝GガンダムSEED-Destiny-第18話に、レディー、ゴー!!


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第18話 激突 若き獅子達の邂逅

さて、皆さん。

驚きの真実ですーー。

シン達は、シュバルツの手ほどきで、明鏡止水の境地を会得しようとしています。

そんな中、本日の対戦相手は、シン達のように東方不敗マスターアジアから手ほどきを受けた地球連合軍ファントムペインの3人組です

果たして、どのようなファイトの嵐が吹き荒れるのでしょうか!?

それでは、ガンダムファイト!

レディ、ゴー!!




大西洋の海上でーー

 

 

 

4機のガンダムを前にインパルスガンダムーーシンは、エクスカリバーを正眼に構えた。

 

 

 

「お前達は、あのときの! アーモリーワンであった奴らか!!」

 

 

 

「ーー見つけたぜ、ガンダムシュピーゲル! 今日こそ落とぉおおす!」

 

 

 

水色のガンダムーーアビスが長柄を振りかぶりながら、攻撃を仕掛けてくる。

 

 

 

「それはこっちの台詞だあああ!」

 

 

 

それに対し、シンはインパルスの持つエクスカリバーを両手持ちに構えて袈裟懸けに切り返す。

 

 

 

二機のガンダムはそのまま、鍔迫り合いを行う。

 

 

 

「どけ! 俺が倒したいのは、お前じゃない!!」

 

 

 

自分の前に立ちはだかるアビスガンダムに、シンが下がるように告げると、彼ーーアウル・ニーダも好戦的な表情で返してきた。

 

 

 

「師匠に手を出そうなんて百年早いんだよぉ! お前こそ、どけよ! 僕の狙いはそこの忍者だ!!」

 

 

 

「はあ? お前、何言ってんだ? シュバルツさんは諦めろよ。格が違うし、俺がいる!!」

 

 

 

「なに言ってんだ? あんな覆面した変態忍者に僕が負けるわけないじゃないか!」

 

 

 

「お前の所の師匠ってのも、三つ編みおさげの変態じいさんじゃないか」

 

 

 

「お前、師匠になんてことをおおお!!」

 

 

 

「こっちの台詞だああああ!!」

 

 

 

鍔迫り合いの状態で舌戦を繰り広げた後、互いの獲物を斬りはらい、同時に打ち込み合う。

 

 

 

スピード、パワー、共に申し分ないレベルの一撃だった。

 

 

 

シンの目が、一気に警戒の色を強める。

 

 

 

「なにしてんのよ、シン」

 

「こいつら、強敵だ!」

 

 

 

呆れ気味に言ってくるルナマリアに、シンは警戒しろとばかりに声を張り上げた。

 

 

 

その姿に、シュバルツは納得したように頷き、黒い巨大なツノを持つガンダムーー、マスターガンダムを見据えた。

 

 

 

「さすがはマスターアジア。

 

MSとの人機一体の境地を彼らに叩きこんだようだな。

 

もしかすると、明鏡止水の境地にはやつらのほうが近いのかもしれん」

 

 

 

「機体性能の差もあるし、ちょっと厄介かもしれませんね」

 

 

 

「明鏡止水のレベルで負けている。機体性能でもこちらが不利。

 

となれば、この戦い。数の上では4対4ではあるがーー」

 

 

 

ルナマリア、レイも揃って警戒レベルを引き上げる。

 

 

 

同時に、マスターガンダムの脇から、緑色の機体、カオスガンダムがビームサーベルを抜いて、レイに切りかかってきた。

 

 

 

「ーークッ!!」

 

 

 

咄嗟に肩口にあるビームトマホークを抜き、切り返す。その動きと反応速度に、カオスガンダムのパイロット、スティング・オークレーは、満足気味に笑った。

 

 

 

「へえ? お前たちも明鏡止水の使い手か。

 

なら、どちらがより人機一体の境地に近づけているか、勝負と行こうぜ!」

 

 

 

鍔迫り合いを行う2機に、ルナマリアがオルトロスを構え放つ。

 

 

 

間一髪で避けるカオスガンダムの動きに、ルナマリアもレイも目つきを変えた。

 

 

 

「海上じゃ、私やレイのザクは使えない。強敵だし、圧倒的に不利ね」

 

「はあ? 海上じゃMSを使えない? なに生ぬるいこと言ってやがんだか」

 

 

 

カオスガンダムのパイロット、スティングはそう言いながら自然な動きでガンダムを動かし、振り返る。

 

 

 

それにつられて、レイやルナマリアもそちらを見ると、驚愕に目を見開いた。

 

 

 

「お前たち、明鏡止水を使えるんなら、あれぐらいできないのかよ」

 

 

 

そこには、海面を4足で獣の如く疾駆するガイアがいた。

 

 

 

「「なっ!?」」

 

 

 

本来、ガイアには海面上で戦闘する機能はない。しかし、今、海面上を走るのは、間違いなくガイアという機体だ。

 

 

 

「海面の感覚、水の音、水の流れ、わかる。ステラわかる!」

 

 

 

まるで陸上のように海面を走るガイアに、ザフト軍に衝撃が走る。

 

 

 

「まじかよっ!?」

 

 

 

この事に、同じセカンドシリーズを使うシンも目をみはった。ミネルバクルーに至っては、完全に度肝を抜かれている。

 

 

 

「へっ! この程度で驚いてるようじゃお前たちの修行の成果っての、大したことないな!」

 

「な、に、をぉおお!?」

 

 

 

鍔迫り合いで、競り合っているアウルの言葉に、シンが激昂する。

 

 

 

しかし、スティングもアウルもステラも、今のシン達よりも遥かに早く、鋭い動きをしている。

 

 

 

まるで、本当の手足のように、機体の限界を越えて使いこなしているのだ。

 

 

 

「くっそお! このままじゃ!」

 

 

 

ことごとく、敵の反応が自分達を上回り、詰め将棋のように徐々に押されていくシン達。

 

 

 

「機体の性能っていうより、明らかに人機一体の境地で負けてるっ!」

 

 

 

ルナマリアの言うとおり、彼女達の動きより一回り早く、敵は動いている。

 

 

 

オルトロスを引くよりも一瞬早く、ガイアは半歩移動して避け、そのまま肩口からビームキャノンを放ってくる。

 

 

 

「ーークッ、何て避けづらい射撃!!」

 

 

 

正確な射撃に、赤いザクが、ミネルバの甲板上で宙返りしながら避ける。

 

 

 

「ーーこのザクのパイロット。凄い」

 

 

 

ステラは、ポツリとつぶやいた。

 

 

 

しかし、シン達と彼らの反応速度の差は、明らかに致命的だ。

 

 

 

ジリジリと追い詰められていく、インパルスガンダム。

 

 

 

「いい加減、下がれよ! インパルスガンダム!!」

 

 

 

攻撃を避け切れず、振り下ろされたビームグレイブ。

 

 

 

その時、シンの中で何かが弾ける感覚があった。

 

 

 

「くっそぉおおおお! こんなやつらにぃいいい!」

 

 

 

瞬間、インパルスガンダムのバーニアが一気に噴き出す。

 

 

 

 

 

 

 

「ぬっ!? 明鏡止水ではないようだが、こやつ、面白い力を秘めておるようだな」

 

「シン、目覚めたか。おのれのなかに眠る力に」

 

 

 

そのシンの変化を、敏感に2人のガンダムファイターが感じ取った。

 

 

 

 

 

そこからのシンの動きは、先程までとはまるで違った。反応速度が、桁違いに上がったのだ。

 

 

 

グレイブが振り下ろされるよりも早く、脇へと高速移動して避けている。

 

 

 

「なにっ!? さっきまで反応できなかったのに、なんでっ?!」

 

 

 

アウルの目には、それが異質なものに映った。

 

 

 

明鏡止水を学ぶアウルだからこそ、インパルスガンダムの変化に気付いたと言える。

 

 

 

「明鏡止水じゃないっ! お前、いったい何の力を!」

 

「そんなこと知るか! ただ、お前の攻撃が急に見えるようになっただけだ!!」

 

 

 

自分の鋭くなった感覚に任せ、機体を動かし、エクスカリバーを振り下ろして攻撃を行う。

 

 

 

それにアウルも見事な反応で、エクスカリバーを切り払い、グレイブをぶつけていく。

 

 

 

両者の斬撃は、ハッキリと大気を切り裂く程のものだ。まともに当たれば、真っ二つになる。

 

それを互いに紙一重でかわしながら、鋭い斬撃を放ち合う。

 

ほとんど互角の斬り合いを演じるインパルスとアビス。

 

 

 

均衡はしばらくして、崩れ始めた。

 

 

 

アウルが思慮深げに、インパルスガンダムの状態を見抜く。

 

 

 

「ーーとはいえ、反応速度は互角でも、機体が悲鳴を上げ始めてるな!」

 

 

 

インパルスが関節部から火花を上げはじめていたのだ。

 

 

 

「肘が痛い……。ということは、インパルスの機体稼働領域を越えてる!?」

 

 

 

シンも明鏡止水の影響で機体の悲鳴を感じ始める。

 

 

 

そして、不可解な疑問を思い切りぶつけた。

 

 

 

「俺よりはるかに速く動いているのに!

 

なんでこいつ、なんでこのパイロット! なんでアビスは大丈夫なんだあぁああああ!」

 

 

 

機体のカタログスペックをゆうに凌駕した二機の動き。

 

 

 

しかし、インパルスのエネルギーが一気に減っていき、動きも鈍くなっていく。

 

 

 

「やばい、エネルギーがっ!」

 

 

 

追い詰められてきたインパルスに、アビスのパイロットーーアウルがニヤリと笑いながら、告げる。

 

 

 

「当たり前だろぉ? 

 

明鏡止水をちゃんと使いこなせていない証拠さ。

 

自分の感覚を優先させてる奴が、MSを顧みずに動けば、MSの限界も早くなる!

 

自分の感覚をMSに押し付けてるようじゃ、人機一体の境地なんて、できやしないっ!」

 

 

 

「なんでだっ!? なんで同じセカンドステージなのに、やつらの機体は俺と同じスピードで動いても平気なんだっ!?」

 

 

 

インパルスのエネルギー残量がいよいよ危うくなってきている。

 

 

 

対して、アビスの動きには、乱れがなく、エネルギーもまだまだ余裕がありそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

ボシュウッ

 

 

 

煙が上がる音にルナマリアが振り返って見れば、レイのザクファントムが持つビームライフルがショートした所だった。

 

 

 

「くそ! また銃身が壊れたか!」

 

「またなのっ!?」

 

 

 

使いものにならなくなったライフルを捨て、左手に盾を、右手にビームトマホークを構えるレイ。

 

 

 

「どうしたどうしたどうしたぁあ! お前に合わせてわざわざビームサーベルで攻撃してやってんだぜ! こっちはよぉお」

 

 

 

そこへカオスガンダムのスティングが、ビームサーベルで切りかかってきた。

 

 

 

彼は背中にある二つの円筒型のガンバレルを使わず、純粋なバーニアとして使用していた。

 

 

 

カオスガンダムの機動性を活かしたサーベルでの攻撃に対し、レイもトマホークで切り返す。

 

 

 

しかし、シンのインパルスガンダム程は拮抗せずに、スピードも反応も、カオスガンダムに押されるザクファントム。

 

 

 

「明鏡止水の使い手って聞いたからそこそこ使えるのかと思ったら、まるで期待はずれだな! まだあっちの白いやつのほうが楽しそうだ!」

 

チラっとスティングは、アビスと斬り合いを繰り広げているインパルスに目を向けた。

 

それにアウルも不敵な笑みを浮かべてインパルスガンダムの斬撃を斬り返す。

 

 

 

「楽しいぜ、こいつ! もっとも、僕の方がが上だけどね!」

 

「くっそ! このままじゃジリ貧だ!」

 

 

 

焦りを感じながらも、シンはちらりと海に浮かんでいるソードシルエットを見、もう一振りのエクスカリバーの所在を確認する。

 

 

 

「そぉら! 終わりだああ!」

 

 

 

ビームグレイブを旋回させながら、なぎ払いを放ち、インパルスを下がらせると、肩口から連座式のビーム砲をぶっ放す。

 

後方に下がらされたシンは、その連装ビーム砲ガンバレル放たれると同時に、インパルスガンダムの踵を海面に着けさせながら弧を描いて旋回する。

 

 

 

そのスピードは音速を超えており、海面から水飛沫が上がると、一瞬インパルスの姿が見えなくなる。

 

 

 

超スピードでそこから動いているので、アウル側やルナマリア達から見ると水飛沫が刎ねた瞬間にインパルスが消えたように見える動きだ。

 

 

 

「シンっ!?」

 

「なんて動きだ!」

 

 

 

レイと彼に対峙するスティングにも、その動きに戦慄した。

 

 

 

シンの狙いは、海面上に浮かんで放置されているソードシルエットだ。

 

 

 

左手を伸ばし、エクスカリバーを取った瞬間に、ビームライフルがソードシルエットに当たり、インパルスガンダムを巻き込んで爆発した。

 

 

 

「知らなかったか?

 

 明鏡止水は、機体を通して水の音、風の音、鳥の声を聞く。お前が、何を狙って動いているかなんて、動きを見れば僕には全て、分かるんだよ!」

 

 

 

勝ちほこるアウルに、ルナマリアがオルトロスを構える。

 

 

 

「ーーよくも、シンを!!」

 

 

 

アウルもルナマリアの方を向いて構えたその時だった。

 

 

 

アビスガンダムの側面にあった海面がせり上がり、そこからインパルスが出てきたのだ。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

水を滴らせながら、両の目を光らせ、インパルスガンダムがアビスガンダムに向けて、左右に握った二振りのエクスカリバーを振り下ろした。

 

「お前の明鏡止水も、完全じゃないぃいいい!」

 

 

 

「ーークッ」

 

 

 

咄嗟にビームグレイブの長柄で止めるアウル。

 

 

 

「これに反応するのかよっ!?」

 

「なんてやつだ! あのタイミングで避けたのかよ!?

 

僕よりも明鏡止水を使いこなせてないのにっ」

 

 

 

互いに攻撃を防いだことに驚愕しあう両者。

 

 

 

「アウル!」

 

「大丈夫、アウル」

 

 

 

情勢がアビスに不利になってきたと悟ったスティングとステラの二人が、アウルの援護に来た。

 

 

 

「ーークソッ」

 

 

 

さすがのシンも下がらざるを得なかった。

 

そんなシン達の闘いを目の当たりにしたレイは、自分のザクファントムを見下ろし、屈辱に拳を握りしめた。

 

 

 

「俺もーー、俺ももっと明鏡止水を窮めていれば、海面で戦うことだってできたはずなのに!!」

 

 

 

「一週間やそこらじゃ無理ってこと?」

 

 

 

自分達との実力差を痛感し、焦りを感じるルナマリアは、3機に囲まれたインパルスガンダムを見ると、後方にいたガンダムシュピーゲルに援軍を求める。

 

 

 

「シュバルツさん、シンが!」

 

「慌てるな、ルナマリア。奴らの剣には殺気がない」

 

「えっ?」

 

 

 

シュバルツの言葉に、スティング達が一斉に頷いた。

 

「当たり前だ。俺たちの狙いはシュバルツ・ブルーダー。あんたなんだからな!」

 

「あのとき、なにも出来なかったステラたちじゃない」

 

「ぼくたちは強くなった! ガンダムに乗ったあんたを倒せるほどに!」

 

 

 

その気迫を受け、ガンダムシュピーゲルは静かに3機のガンダムの顔を見据える。

 

 

 

「どうする、シュバルツ! こやつらの挑戦、受けるか!」

 

 

 

マスターガンダムからの言葉に、彼らの後方に浮かんでいる戦艦をちらりと見る。

 

 

 

名をガーティ・ルー。

 

 

 

ロゴスの息のかかった連合艦を確認したシュバルツは、静かに構えた。

 

「いいだろう! 相手になってやる!」

 

 

 

 

 

その時だった。

 

「ふざけるなぁあああ!」

 

左右に持つエクスカリバーをクロスさせて一閃し、シンが吠える。

 

「わたしたちも舐められたものね!」

 

「俺たちは……強い!」

 

ルナマリアがオルトロスを、レイがビームアクスを構えてシンに続く。

 

 

 

 

 

「やめとけよ、今のお前たちじゃ俺たちには勝てない!」

 

「ぼくたち弱い者いじめをする気はないんだよね」

 

「邪魔しないで。ネオの一番の障害は、そこの忍者だから」

 

 

 

3人の連合パイロットの言葉に、ルナマリアが怒鳴りつける。

 

「邪魔もなにも! いきなり中立コロニーで攻撃してくるわ、MSを奪うわ!! 挙句、他人の進行方向にいきなり現れたのは、アンタたちのほうでしょうが!!」

 

「お前たち連合は、俺たちザフトの敵!! つまり、俺たちが倒さねばならない敵だ!!」

 

その横で、レイも敵意を剥き出しにする。しかし、そんな両者に対し、声を張り上げるものがいた。

 

 

 

「勝負はここまでだ!」

 

 

 

東方不敗マスターアジアである。

 

「なぜです、師匠っ!? ぼくたちはまだ!」

 

 

 

アウルは納得いかず、マスターアジアに詰め寄るも、アビスガンダムをアゴで差し、マスターガンダムは告げた。

 

「自分たちの機体の状態をよく見てみよ! 特にアウル!!」

 

「えっ?」

 

 

 

アウルが改めてアビスガンダムを見ると、両手で持っていたビームグレイブの長柄の部分が、真ん中から2つに切り落とされた。

 

 

 

「なっ!」

 

 

 

「そのまま戦っておれば、どちらが勝っておったかは分からんぞ。いかに、敵の機体稼働が限界に近いとはいえ、近接用の武器を壊されるようではな。

 

修行が足りんわ!」

 

「く、くそぉおお!」

 

 

 

アウルが呻く横で、スティングが舌打ちをする。

 

「ーー腹が立つが、2対1じゃ、ガンダムシュピーゲルーーシュバルツ・ブルーダーとは勝負にならないっ!」

 

 

 

「あ、く、ま、で!! シュバルツさんしか目にないわけね……」

 

スティングの発言に明らかにイラっとしながら、ルナマリアが頬を引くつかせる。

 

「お前ら三人まとめて俺が倒してやる!」

 

その横で、シンがエクスカリバーを二刀流にして構える。

 

 

 

 

 

「なにぃっ!」

 

「調子にのるなよぉ!」

 

「お前、私たちの相手を1人で出来ると思うのか」

 

シンの発言に、今度はステラ達が色めき立つ。

 

 

 

そこに、シュバルツの換言が入った。

 

「馬鹿者っ! シン、お前はよく戦った! ここは引き時だ」

 

「けど! こいつら、このまま野放しにしたら!」

 

シンは、敵に武器を構えながら、言うもシュバルツに更に止められた。

 

 

 

「ーーいや、ここは引け」

 

「えっ!?」

 

「いずれわかる。こ奴らと拳を交えていくことで、な」

 

 

 

そう言いながら、シュバルツは静かにマスターガンダムを見据えた。

 

 

 

その全身から凄まじい闘気を溢れさせて。

 

 

 

対するマスターガンダムから感じる重圧も、それまでの比ではない。

 

 

 

「ーーシン、ルナマリア、レイ。よく見ておくが良い」

 

 

 

「ーースティング、アウル、ステラよ。コレより本当のガンダムファイトを見せてやろう。片時も目を離すでないぞ!!」

 

 

 

空前絶後の闘いの火蓋が、切って落とされようとしていたーー。

 

 




皆さん、お待ちかね〜!!

シン達とアウル達の対決を見た、シュバルツとマスターは、彼らの前で真のガンダムファイトを見せつけてくれます!!

次回、機動武道伝Gガンダム SEEDーDestinyー第19話に。

レディ、ゴー!!


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第19話 ガンダムシュピーゲル対マスターガンダム

みなさん、大変なことになってきました。

 ここ、コズミック・イラーでシュバルツ・ブルーダーとマスターアジアによる純粋なファイトが行われるのです!!

 はたして、彼等の拳はこの世界の若者たちにどう映るのか!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディー、ゴー!!!!




 

激戦に次ぐ激戦を繰り広げたガンダム達の中で、別格の両者が静かに睨み合う。

 

 

 

 しかし、その口元には不敵な笑みが浮かんでいる

 

 

 

「ふん。どうやら考えていることは同じようだな。シュバルツよ」

 

 

 

「そのようだな、マスターアジア」

 

 

 

ガンダムシュピーゲルが両腰に手を当てた姿勢を解いて、前に一歩踏み出す。

 

対峙するマスターガンダムも組んでいた両の腕を解いて歩き出した。

 

 

 

「ーー師匠?」

 

「シュバルツさん?」

 

 

 

 ステラ、ルナマリアの2人が、双方の位置からそれぞれに語りかける。

 

 

 

 シュピーゲルもマスターも、彼らの横を通り過ぎて、互いに向かって構えあう。

 

 

 

「真の戦いとはどういうものか。その目にしかと焼き付けるがよい!!」

 

 

 

「私達の、ファイトを通してな。いくぞ! マスターアジア!」

 

 

 

互いに向かって話しながらも、言葉は自身の教え子達に向けて放たれている。

 

 

 

 海面を地面のように歩く両者。

 

 

 

 マスターガンダムは、左足一本でつま先立ちを行い、右足を90度に曲げて左足に寄せる。右手を90度に曲げ、顔の横に。左手は敵向かって一直線に伸ばし、両の掌を上にかざす、流派東方不敗の構え。

 

 

 

 対峙するガンダムシュピーゲルは、腰を落とし体重の重心を後ろにやりながら、両の腕を曲げて拳を顔の横に置くオーソドックスなファイティングスタイルを取る。

 

 

 

「ガンダムファイトぉおお!」

 

 

 

 シュバルツの瞳がカッと見開かれ、覆面越しに声を張り上げた。同時にマスターアジアも声高に応える。

 

 

 

「レディイイイ!」

 

 

 

 両者、腰を落とし相手に向かって前傾姿勢をとる。

 

 

 

「「ゴォオオオオオ!!」」

 

 

 

互いに開始の合図を宣言すると共に一気に相手との距離をゼロにするほどのダッシュを行い、懐に飛び込むと同時に拳をぶつけ合うマスターガンダムとガンダムシュピーゲル。

 

 

 

 ドカァァァァアッ

 

 

 

 2機の放った一撃がぶつかり合うことで生まれた衝撃波で、大西洋の海がモーゼのように真っ二つに割れた。

 

 

 

 

 

 当然、ミネルバのブリッジにもこの光景はモニター越しとはいえ、映し出され、宙に浮いているはずのミネルバに地震のような衝撃波が襲い掛かる。

 

 

 

「なぁぁっ!? な、なんなんだぁああああ!?」

 

 

 

 見ている方が可哀想になるほどに取り乱す副長のアーサー。

 

 

 

 しかし、今回は彼を呆れた目で見るクルーはいなかった。メイリンが自分の仕事を忘れずにミネルバへ危機を伝える。

 

 

 

「ガンダムシュピーゲルとあの謎のガンダムの一撃によって生じた衝撃波です! すごい威力です!!」

 

 

 

 その報告に完全に腰を抜かしているアーサーが素っ頓狂な声を上げる。

 

 

 

「そんな、大気を震わせるほどの衝撃ぃいい!?」

 

 

 

「距離を取りなさい、アーサー! 下手をすれば、戦いの余波に巻き込まれてミネルバが落とされるわ!!」

 

 

 

「了解! この海域から後退します!」

 

 

 

即座にタリア艦長の指示が飛び、副長に代わって操舵主が返事をする。

 

 

 

「シン! ルナマリア! レイ! 撤退するわよ!」

 

 

 

 当然、ミネルバのクルーであり、ザフトのエースパイロットでもあるシン達に後退命令を出す。

 

 

 

 ところが返ってきた答えは予想外のものだった。

 

 

 

「いや、俺たちはここに残ります!」

 

 

 

「あたしたち、最後まで見届けます!」

 

 

 

「何故ならこれがーー!!」

 

 

 

 シン達三人の言葉の後に、何故か地球連合の三人までも声を合わせて叫ぶ。

 

 

 

「「「「「「本当のガンダムファイトだから!!!!!!」」」」」」

 

 

 

 彼らのぴったりとあった息に頭痛を感じながら、タリアはもう自分の常識やら何やらがまったく通じない世界に足を踏み入れていることを自覚した。

 

 

 

「なぜ、地球連合まで同じノリなのかしら?」

 

 

 

 最後の抵抗とばかりに、頭に浮かんだ疑問を口にする。

 

 

 

 そうすることで、何とかして自分まで流されないように必死で踏みとどまろうとするタリアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ドガガガガアァァァッ

 

 

 

 雷や地響きのような炸裂音を周囲にまき散らしながら、互いに無数の拳と蹴りをぶつけ合うガンダムシュピーゲルとマスターガンダム。

 

 

 

「ぬ、ぉおおおお!」

 

「ふんふんふんふんっ!」

 

 

 

 無数に放たれる拳蹴打の内の1つが空を切った。

 

 

 

 ビュウンッ

 

 

 

 見るとシュピーゲルが分身してマスターガンダムの右ストレートを避けつつ、その後ろへ回り込んだところだった。

 

 

 

 後方に回り込んだシュピーゲルに対し、マスターガンダムは右手を頭上に掲げ、左手を時計の針のように大きく回す。

 

 

 

 マスターが描いた円は、時計の時刻のように12の文字が浮かんでいた。

 

 

 

「目には目を、歯には歯を! 分身には分身を! 喰らえ、シュバルツ! 流派東方不敗! 十二王方牌大車併!!」

 

 

 

 マスターの気合と共に突き出された右手。同時に12の紫の光の玉から無数の小型のマスターガンダムが、分身したシュピーゲルに攻撃を仕掛ける。

 

 

 

 対するガンダムシュピーゲルは、分身を維持したまま、シュピーゲルブレードを展開した。

 

 

 

「甘いぞ、マスターアジアっ!!」

 

 

 

 襲い来る小型のマスターガンダムに向かって斬りかかる。

 

 

 

バキキキキキィッ

 

 

 

 またしても凄まじい打撃音が響き渡った後、マスターガンダムが作った気の分身は消え、ガンダムシュピーゲルも一身に戻る。

 

 

 

 瞬間、ガンダムシュピーゲルがつま先立ちになり、両腕を交差させてブレードを展開。コマのように回りだした。

 

 

 

「シュツルム・ウント・ドランクぅうう!」

 

 

 

 海面上を漆黒の竜巻と見紛うばかりに回転しながら、マスターアジアに迫る。

 

 

 

「ーーフン!!」

 

 

 

 対するマスターアジアは、ビームクロスをマスターガンダムの袖口から放ち、気合一閃。

 

 

 

「ぬぅうあっ!」

 

 

 

 大回転するシュピーゲルにマスタークロスを伸ばし、取り縄のように竜巻へまとわりつかせる。

 

 

 

「ふんっ!」

 

 

 

 そして、マスタークロスを引っ張り、ついにシュピーゲルはその回転を止まらせる。

 

 

 

「ふっふっふっふっふ、要はそのコマの回転を止めてしまえば、その技は使えぬということよ。シュトゥルム・ウント・ドランク、破れたり!!」

 

 

 

 完全に技を破り、勝ち誇るマスターアジア。ーーしかし

 

 

 

「ふっふっふ」

 

 

 

「ぬっ?」

 

 

 

「それはどうかな?」

 

 

 

 シュバルツは余裕の笑みでマスターを見据える。それに不敵な笑みを返しながらマスターアジアがビームクロスを引っ張った。

 

 

 

「負け惜しみを! ぬううぅあ!!」

 

 

 

 次の瞬間、ビームクロスが粉微塵に切り裂かれた。

 

 

 

「なんとっ!?」

 

 

 

 思い切り引っ張ったため、マスターガンダムの体勢が崩れる。

 

 

 

「もらったぞ! マスターアジア!」

 

 

 

 それを見逃すガンダムシュピーゲルではない。マスターガンダムの上空に跳躍し、頭上から刃を振り下ろす。

 

対するマスターガンダムは白羽取りでシュピーゲルブレードを受け止めた。

 

 

 

 バシィツ

 

 

 

 海面が二人を中心に巨大な波紋を広げる。

 

 

 

 ガンダムシュピーゲルは、マスターガンダムに切りかかった姿勢のまま、宙に止まっている。

 

 

 

「ぬぅう!」

 

 

 

 両者、互いに力を押し合う。ガンダムシュピーゲルは刃を振り下ろそうと、マスターガンダムは止めた刃ごと投げ飛ばそうとしている。

 

 

 

 拮抗はすぐに敗れた。

 

 

 

「ぬぅううううっ! ふんっ!」

 

 

 

 パキィイイインンッ

 

 

 

 あたりに甲高い音が響き渡る。

 

 

 

 マスターガンダムが、白刃取りしたシュピーゲルブレードを、自分の側に引き寄せ、へし折ったのだ。

 

 

 

 右の刃を折られたことを悟り、バックステップしてマスターから距離を取るシュピーゲル。

 

 

 

 両者は、これほどの攻防を行いながら息一つ乱していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ガンダムシュピーゲルの右のブレードが折られたことに、シン達は大きなショックを受けている。

 

「そんなっ!? シュバルツさんのブレードをへし折った!?」

 

「信じられない……。」

 

「シュバルツ殿のブレードは、ビームサーベルをも防ぐ超高性能の振動ブレード。それを素手で折るというのか」

 

 

 

 彼らと対峙するようにして見ているスティング達も目を大きく見開いて戦慄していた。

 

「し、師匠と互角だ!!」

 

「僕らが敵わないわけだーー」

 

「やっぱり、あの忍者は怖いもの」

 

 

 

 

 

 当の本人たちは、周りの驚愕や狼狽、戦慄など知らずに、ただ己達の純粋な力を比べあう。

 

「フン、今度はこちらの番だな。ディスタント・クラッシャぁああ! 覇ぁっ!」

 

 

 

 マスターガンダムは、右手を貫き手にしてシュピーゲルに真っ直ぐに突き出す。突き出された貫き手の分だけ、計ったかのようにシュピーゲルはバックステップして距離を置く。

 

 

 

 しかし、シュピーゲルが見切るのと同時に、肘関節の当たりが分離し、シュバルツに向かってマスターの腕が飛ぶ。

 

 

 

「「「腕が伸びた!?」」」

 

 

 

 マスターガンダムは、バックステップしたガンダムシュピーゲルの右腕を見事に捕まえ、自分の手元に引き寄せると、力を込めて握りこんでいた左の拳をボディに放った。

 

 

 

ーーガキィッ

 

 

 

 強烈な一撃。

 

 

 

 しかし、右ひざを曲げて己のボディに引き寄せることで受け止めるシュバルツ。

 

 

 

「ぬぅう」

 

 

 

 マスターをして完全に捉えたと思っていた一撃を防がれたことに唸る。

 

 

 

 対するシュバルツは不敵な笑みを覆面の下で浮かべていた。

 

 

 

「ブレードを折ったからと言ってわたしを倒せたわけではない。甘く見てもらっては困るな。東方不敗マスターアジア!!」

 

 

 

ーーガキィッ

 

 

 

 お互いに僅かに軸足を後ろに下げて距離を置き、相手の横面にハイキックを放ちあい、蹴りと蹴りが交差する。

 

 

 

 

 

 お互いの一撃が相殺しあい、両者は海面を足の底で引きずりながら、下がる。

 

 

 

 距離を置いた二人は、再び構えをお互いに取り合う。

 

 

 

「ふっふっふっふ、なるほど。流石よなシュバルツ。貴様と万全の状態で拳を交えたのは、新宿で戦った時だが。あの時は、まだ実力を隠しておったか」

 

 

 

「貴様こそ、以前と違い拳に邪気を感じられぬ。迷いもなく、ただ純粋に己を高めることのみに集中した拳。それでこそ、我がライバルだ。マスターアジアよ」

 

 

 

 わだかまりも、やましさもない。

 

 

 

 ただ気高く、潔く、純粋な意志と意地のぶつかり合い。

 

 

 

 二人の達人は拳を通し、互いの想いを理解しあい、更に技を、力を競い合う。

 

 

 

 己の限界を追求し、限界を超えてさらに強くなるためにーー。

 

 

 

「フンっ! しかし、貴様の最大の奥義!! シュトゥルム・ウント・ドランクは既に破った!! ここから、どうする!?」

 

 

 

「ふふふ、我がゲルマン忍術の神髄は、疾風怒濤だけにあらず!!」

 

 

 

 言うや否や、いきなり背筋を伸ばし左手の人差し指を一本立て、右手で握りこむ。このとき、右手の人差し指は90度に曲げられている。

 

 

 

 両の手で、ガンダムシュピーゲルは印を組んでいた。

 

 

 

「フンっ!」

 

 

 

 シュバルツが気合を一閃すると、シュピーゲルの胸の部分から青白い光の玉が生まれ、その中央に蒼く輝く文字で「鏡」と刻まれる。

 

 

 

「シュピゲル・アンデア・ユングス・ブルートぉおお!

 

 

 

「これはーー、ドモンのハイパーモードの構えっ!?」

 

 

 

 シュピーゲルの胸から生じた光の球は、シュピーゲルの全身を包み込むほどに大きくなる。

 

 

 

「鏡に転じ、映りし者とーー血を同じくする。これぞ、わが鏡転同血!! マスターアジアよ、我が新たなる奥義。貴様に敗れるか!!」

 

 

 

 

 

 

 

「これは、鏡転同血!!」

 

「ガンダムシュピーゲルが変身するわ!!」

 

「だが、一体どんな機体にーー?」

 

 シン、ルナマリア、レイがガンダムシュピーゲルの変化に敏感に反応した。

 

 

 

 

 

 光の球から現れたのは、シン達の全く知らない機体。赤いプロテクターを思わせる上半身と青いヘルメットを被っているかのような外見は、アメフトの選手のように見える。

 

 両手の拳には、青色のプロテクターをしており、ボクサーの様な構えを取る。

 

 

 

「Hey,東方不敗!」

 

 

 

 パイロットの陽気そうな声は、シュバルツ・ブルーダーのものとは似ても似つかないもの。

 

 

 

「ぬぅっ!? 貴様は!!」

 

 

 

 この場で、その正体に気付いたのは、東方不敗マスターアジア、ただ一人。

 

 

 

「アンタには新宿の時に世話になったよな! 最終バトルロワイヤルではあんたと拳を交えることはできなかったが、ちょうどいいリベンジの場が出来てHappyだぜ!!」

 

 

 

「チボデー・クロケット……!! 新生シャッフルのクイーン・ザ・スペードか!!」

 

 

 

 そこに居たのは、シュバルツ達の世界でドモンの親友であり、ライバルであった男の一人。

 

 

 

 「燃える拳」の二つ名を持つ、チボデー・クロケットと、その愛機ガンダムマックスターそのものであった。

 

 

 

 

 







 皆さん、お待ちかね!!

 シュトゥルム・ウント・ドランクを破られたシュバルツは、鏡に転ずることで自分の世界で拳を交えた新生シャッフル同盟に変身し、東方不敗マスターアジアに挑みます。

 彼らの人智を越えた戦いは、やがて多くの者を巻き込むのです!!

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第20話に!!

 レディ、ゴー!!


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第20話 ネオアメリカの希望とネオフランスが誇り

さあ、シュバルツとマスターの対決はますます加熱していきます。

今回は、シュバルツ扮するシャッフル同盟対東方不敗マスターアジア前編です!!

それでは、ガンダムファイト!!

レディー、ゴー!!




 

海面上を軽快なステップを刻んで軽く、その場で数秒シャドーボクシングを行うマックスター。

 

 

 

 次の瞬間、ガンダムマックスターが、強烈な水しぶきを上げながら、マスターガンダムの懐へステップインしてきた。

 

 

 

 踏み込んだ瞬間に左のリバーブローを放つ。

 

 

 

 左の掌底で迎え撃ち、相殺するマスターガンダム。

 

 

 

「この拳のキレとスピードは、確かにチボデー・クロケット!! シュバルツ、貴様!!」

 

 

 

 マスターは敵の拳を自身の掌で受け、はっきりと悟った。

 

 

 

目の前のチボデーは本物と何ら変わらない存在であることを。

 

 

 

 チボデーの表情が、落ち着き、深い知性を感じさせるものになると、本来のシュバルツの声が彼から聞こえてきた。

 

 

 

「これが私の鏡転同血。

 

我がゲルマン忍術と、シュピーゲルのDG細胞が合わさることで、過去に自分が戦った相手そのものになりきることができる、ということだ」

 

 

 

更にチボデーの姿をしたシュバルツは、語気を強めて続ける。

 

「加えて今のチボデーは、ガンダムファイト本戦でドモンとぶつかった頃のもの。

 

 かつて貴様があしらった新宿の時とはレベルそのものが違う。

 

 新たなクイーン・ザ・スペードの力、思い知るがいい、マスターアジア!!」

 

 

 

「笑わせるわ!!」

 

 

 

 チボデーと化したシュバルツの言葉にも、マスターアジアは臆することはない。

 

 

 

 逆に傲岸不遜に言ってのけた。

 

 

 

「ガンダムファイト決勝大会で、貴様やドモンに叩き潰された新シャッフルの連中など、このわしの敵ではないわぁあああ!」

 

 

 

 マスターの言葉に、チボデーは大胆不敵に笑う。

 

 

 

「フン、言ってくれるじゃねえか、マスターアジア。

 

 ならリターンマッチといこうぜ!

 

 俺は夢! 俺は希望!」

 

 

 

 そう言いながら、両の拳を音速を越えて連続で繰り出すガンダムマックスター。

 

 

 

その胸のアーマーが、頭から上に飛んでいき、両肩のアーマーが外れて、拳にくっつき、ボクシンググローブとなる。

 

 

 

「ぬぁああ!」

 

 

 

瞬間、気合いと共にマックスターが青い竜巻を生じる右ストレートを放ってきた。

 

 

 

サイクロンパンチである。

 

 

 

マスターガンダムは、竜巻を両腕でガードすることで防ぎきる。

 

 

 

しかし、竜巻を防いだ事で生まれた隙に、マックスターがマスターガンダムの脇へとステップインしていた。

 

 

 

「とぉりゃ、とりゃとりゃとりゃっ!」

 

 

 

マックスターが超高速の左右のストレートを連続で交互に放つ。

 

 

 

マスターをして、両手を完全に塞がれてしまうほどの手数だった。

 

 

 

「ぬぅうう、これがシャッフルの紋章を受け継いだチボデーの実力か……。

 

先代のあやつを思わせるほどに、鋭く速い圧倒的な手数っ!

 

大したものよ。だが、わしを捉えるには、まだまだ甘いわぁあああ!」

 

 

 

マックスターの繰り出すラッシュの1つを選んで、左の掌底をカウンターで返すマスターガンダム。

 

 

 

「俺はこの手でつかむ!」

 

 

 

その掌底を上体を反らすだけで、鼻先で避けてみせるマックスター

 

 

 

「ぬぉっ!?」

 

 

 

相手の攻撃をスウェーバックで避けると同時に、伸びきったマスターの左をかいくぐり、右ストレートを放つ。

 

 

 

ボクシングの高等技術の一つであるロックアウェイ。

 

 

 

驚くべきは、それをマスター相手に行うチボデーの技量である。

 

右ストレートを返したマックスターはマスターガンダムの横面をとらえた。

 

 

 

バキィッ

 

 

 

「くぁああっ!」

 

 

 

強烈なカウンターに顔面を後方へ弾き飛ばされるマスターガンダム。

 

 

 

退け反らされた先には、フットワークで回り込むマックスターがいた。

 

 

 

「そぉおらそらそらそらそらっ! バァアアアニングッ、パァアァアアアンチッ!!」

 

 

 

更に更に、連続で放たれる炎を纏った拳。

 

 

 

「どうだ! この炎のような苛烈な攻め! これが俺のバーニングパンチだっ!!」

 

 

 

バキバキバキバキィッ

 

 

 

左右の拳は、マスターガンダムの顔やボディに次々と炸裂する。

 

 

 

パシィッ

 

 

 

その内の一つ、右ストレートを掴みとめ、マスターアジアはニヤリと笑った。

 

 

 

「フンっ、確かに新宿の時よりは腕を上げたようだな。しかし!」

 

 

 

「What!?」

 

 

 

バキィッ

 

 

 

マスターの強烈な右の前蹴りが、チボデーの顎先を捉える。

 

 

 

「通り一辺倒の攻めでは、わしを倒すことなど到底できぬわあ!!」

 

 

 

お返しとばかりに左右の貫手を高速で放ち、止めに回し蹴りを顔面に入れて、マックスターを後方へ弾き飛ばす。

 

 

 

「ぬぅっ!?」

 

 

 

何とか、海面上に着水し、顔をマスターに向けるチボデーだが、マスターガンダムは、紫色に輝く右手を大きく振りかぶっていた。

 

 

 

「チボデーよ! この技をやぶってみぃ!」

 

 

 

放たれたのは、ダークネスフィンガーのエネルギーを弾丸のようにして飛ばす、ダークネスショットだ。

 

両腕でガードを固めて受けるも、後方へ更に吹き飛ばされるチボデーが悲鳴をあげる。

 

 

 

「ぐあっ」

 

 

 

ザバァアアアッ

 

 

 

ついに体勢を整えきれず、水の中へ落ち込み、飛沫をあげるチボデー。

 

 

 

「フンっ、所詮その程度よ! シュバルツ! 選んだ相手を間違えたようだのうっ!」

 

 

 

海面へ浮上する無防備な相手に、マスターの無慈悲な追撃が迫る。

 

強烈な右の貫手は、海面上に影となって近づいてきたマックスターに放たれた。

 

 

 

ギィイイイイッ

 

 

 

しかしそれは、紅いビームの膜によって止められている。

 

 

 

「なんとっ!? これは……っ」

 

 

 

浮き上がってきた相手は、チボデー・クロケットでも、ガンダムマックスターでもない。

 

 

 

西洋の騎士のような姿を模した、帽子を被ったようなガンダムが、赤い薔薇を模したビットを大気圏内であるにもかかわらず、周囲に浮かしている。

 

 

 

パイロットは、女性と見紛うばかりの美しく優雅な青年だった。

 

 

 

「ふふふふ、さすがですね、東方不敗マスターアジア。

 

では次は、この私の相手をしていただきましょう」

 

 

 

マスターガンダムは、薔薇のビットによって作り出されたビーム膜の盾からバックステップで距離を取り、片足で構えを取る。

 

 

 

「貴様はっ! ネオフランスの!!」

 

 

 

マスターアジアの言葉に、優雅な笑みを浮かべながらも、熱く力強い言葉で、彼は名乗った。

 

 

 

「そう! ネオフランスのサンド家当主、ジョルジュ・ド・サンドがお相手する!! いくぞ! ガンダムローズ!!」

 

 

 

目を光らせ、ガンダムローズが主人の言葉に反応する。

 

 

 

 

 

地球連合側

 

「なんだ、あの忍者!? 

 

コロコロと姿を変えやがって、卑怯な奴だぜ!!」

 

 

 

「いや、大丈夫だ。

 

師匠にあんなまやかしが通じるわけがない」

 

 

 

アウルとスティングは、目の前の忍者の脅威を目の当たりにしながらも、己の師であるマスターアジアの勝利を疑うことはない。

 

 

 

 

 

ザフト側

 

 

 

「シュバルツさん、一体どんだけ引き出しがあるんだ?」

 

「…さっきの軽薄そうな人も、無茶苦茶強かったわよね?」

 

「強さというのは、果てしないな」

 

シンもルナマリアもレイも、余りのレベルの違いにただただ、呆然とするしかなかった。

 

 

 

 

 

マスターガンダムは、両の拳を腰に置き、膝を曲げて海面上に、足を踏ん張る。

 

 

 

「ジョルジュ・ド・サンドか。おもしろいっ! ただのビット攻撃でわしを倒せるかぁあ!」

 

 

 

一気に攻めようと翼を広げ、獲物に襲いかかるように、マスターガンダムは、ダッシュした。

 

「ぬぅうおっ!」

 

 

 

ピシュンッピシュンッ

 

 

 

しかし、その行く手を阻むのは、赤い薔薇のビット。

 

宙に浮かんだ二つのビットの一撃は、マスターをして思わずガードし、立ち止まらなければならぬ程に強力だった。

 

「ふふん。

 

ただのビット攻撃か否か、あなたのその身に刻み込んであげましょう、マスターアジア! 受けよ、我が洗礼を!!」

 

 

 

見れば、ジョルジュは美しい顔に、不敵な笑みを浮かべ、マスターガンダムを指差した。

 

「ローゼスぅぅビットオオオ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

この攻撃に、観戦する6人が敵味方関係なく、声を張り上げた。

 

「左肩から無数の薔薇がっ!?」

 

「しかも、あれはまさかっ!」

 

「オールレンジ攻撃! ドラグーンタイプ!」

 

ルナマリア、スティング、レイの3人の言葉を象徴するように、ローゼスビットは、マスターガンダムに襲いかかッた。

 

 

 

 

 

 

 

四方向から放たれる無数のビットのビーム砲。

 

 

 

マスターガンダムはそれを左右に超高速でダッシュし、避けきる。

 

 

 

同時に、袖口からマスタークロスを取り出し、薙刀のように頭上で振り回しながら、次々とビットを落としていく。

 

 

 

 

 

「ふんふんふんっ!

 

どうした、ジョルジュ!?

 

この程度で、わしの相手が務まると思うのかっ!!」

 

 

 

あらかたのビットを叩き斬った後、マスタークロスを振り回しながら、ジョルジュに斬りかかる!

 

 

 

「ぬぉおおお!」

 

 

 

猛々しい虎のような咆哮を上げながら迫るマスターガンダムに、ジョルジュのガンダムローズはショバリエサーベルを腰から抜き、蒼く輝く剣を一閃した。

 

 

 

ガキィッ

 

 

 

「フンーーっ」

 

 

 

ジョルジュの気合いと共に放たれた一閃は、マスターの袈裟懸けを受け止める。

 

 

 

そのまま鍔迫り合いになる、両者。

 

 

 

「ビットは洗練されておるようだが、それでもわしを止めることはできんわ!」

 

 

 

「さすがですね、マスターアジア。ならば! 

 

ネオフランス一と称された我が剣の露にしてあげましょう!」

 

 

 

言うやいなや、マスタークロスをいったん切り払い、無数の穂先が見えるほどの突きをガンダムローズが放つ。

 

 

 

 

 

シンはその光景に圧倒された。

 

「す、すげえ……っ、あのマスターって奴の剣を切り払ってーー、あんな突きを放てるなんて」

 

「綺麗な剣。あなたも、そう思う?」

 

何故か連合のガイアのパイロットが話しかけてきた。

 

「え? あ、ああ」

 

「ーーそう!」

 

その余りの邪気のなさに、ついシンも素直に同意してしまう。

 

その反応に、何故かガイアのパイロットは嬉しそうに笑った。

 

「何、敵と仲良くしてんのよ?」

 

 

 

「そんなんじゃないって!!」

 

 

 

妙な迫力のルナマリアに睨まれ、思わずシンは全力で否定した。

 

 

 

 

 

無数の剣先を放つ突きを、マスターガンダムは両腕を組んだまま、全て避け切ってみせる。

 

 

 

「ーーっ!

 

ネオフランス一と称された我が突きを破るか!

 

マスターアジア!」

 

 

 

更に剣先を増やし、突き出す。

 

 

 

「フンっ! その程度で!」

 

 

 

しかし、マスターは組んだ腕を一旦離すと、右手を紫に光り輝かせ、正拳突きの様に突き出した。

 

 

 

「ーーダークネスフィンガー!!」

 

 

 

放たれた一撃は、ローズのサーベルの付け根をへし折る。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

咄嗟に折られたサーベルを投げ捨て、バックステップしてマスターから距離を取りながら、ジョルジュは仕掛けた。

 

 

 

「ならば! ローゼススクリーマー!」

 

 

 

無数のビットがマスターを囲い、紅いビーム膜を張って対象を拘束し、そのエネルギーを奪う技だ。

 

 

 

「フン、ドモンに効かなかったその技が、わしに効くと思うかあああ!」

 

 

 

しかし、マスターは気合いを使ってエネルギーを右手に集めると、ダークネスショットを放つ。

 

 

 

ボボボォンッ

 

 

 

赤いビーム膜の一角に放たれたエネルギーショットは、力の渦となり、次々とビットを消しとばした。

 

 

 

ビットを破壊したことにより、生じた爆煙がマスターガンダムを取り囲む。

 

 

 

一瞬後、マスターの眥がつり上がった。

 

 

 

「フンっ、次は貴様か! ネオチャイナ!!」

 

 

 

煙の向こうから、無数の影が、現れたのだ。

 

 

 

ビーム膜を吹き飛ばしたと同時に、無数のビームフラッグがマスターガンダムを取り囲んでいる。

 

 

 

「ネオチャイナのサイサイシーだ!」

 

 

 

煙の向こうから現れたのは、金色と緑と赤色の、龍を思わせる両腕を持ったガンダム。

 

 

 

パイロットは、先の2人とはまた別の、黒髪で前をオールバックにし、後ろを三つ編みに括った少年だった。

 

 

 

「東方不敗マスターアジア! 覚悟っ!」

 

 

 

明るく活発な感じの声が、名乗りを上げた。






みなさん、お待ちかね〜!!

次々とシャッフル同盟の技を繰り出すシュバルツ!

全てを真正面から破るマスターアジアの対決は互いに譲らぬ五分と五分!!

そんな中、観戦しているシン達とスティング達にも、奇妙な連帯感が生まれるのです!!

次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第21話に、レディー、ゴー!!!


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第21話 ネオチャイナが緋龍 ネオロシアの怪力 そしてネオジャパンの武神

本日の対戦は、引き続き!!

我らがシュバルツ・ブルーダーと、宿敵マスターアジアの決闘です!!

彼らのファイトが、今後物語にどのような影響を与えるのか?

それでは!!

ガンダムファイト!!

レディー、ゴー!!!




 

激戦に次ぐ激戦に、敵も味方も完全に飲まれていた。

 

 

 

 

 

シン達にとって、スティング達にとっても、あまりにも違う次元の戦いは、互いにあった敵対感情すら、薄れさせている。

 

 

 

「戦い方がガンダムが変わるごとに全然変わってる!?」

 

 

 

「動きも癖も、すべてが違うわ!」

 

 

 

「変身してるのは、あの忍者なのに、こうも変わるもんなのかよっ」

 

 

 

シンとルナマリアに、アウルも拳を握りしめている。

 

 

 

「いや、驚くのはそこだけじゃない。あの忍者に模倣されている連中のレベルが、とてつもなく高いってことだ」

 

 

 

「そしてそれを軽々と打ち破る、あのマスターと言う男……」

 

 

 

「でも、あの忍者にはまだまだ、引き出しがありそう」

 

 

 

シン達に比べれば、まだ冷静なスティング、レイ、ステラの3人。

 

 

 

しかし、彼らにしても、この先の展開までは予測できない。

 

 

 

 

 

サイサイシーが仕切り直しだとばかりに、気合いをいれて構える。

 

 

 

「次はオイラがいくぜ! 舞影脚!!」

 

 

 

一瞬でマスターの頭上にジャンプしながら足が何本にも見える速度で蹴りを放つドラゴンガンダム。

 

 

 

「フンっ、身軽なことよ」

 

 

 

次々と繰り出される蹴りと軽々と跳び上がる体術にマスターをして関心する。

 

 

 

「しかし、身軽なだけでは、わしに触れることすらかなわんわ!!」

 

 

 

言いながら、両手で蹴りを捌きつつ、僅かな間隙を縫って自身も跳躍。

 

 

 

同じ目線まで跳び上がると、後ろ回し蹴りを放つ。

 

 

 

「一撃が軽い、貴様の攻撃では、ワシにダメージらしいものも与えられんわ!!」

 

 

 

その蹴りは、ガードしたサイサイシーを後方へ吹っ飛ばすほどに強烈だった。

 

 

 

「くっ! なんてパワーとスピードとキレだ! 

 

さすがは兄貴と互角のファイトを繰り広げた東方不敗マスターアジア!!

 

まともにやり合っても、勝ち目なんかない!!」

 

 

 

後方に弾き飛ばされながらも、サイサイシーは気丈にも顔をマスターガンダムに向け、睨みつける。

 

 

 

同時に、宙で体制を見事に整えると、肩口から一振りの長柄を取り出した。

 

 

 

「宝火教典ーーーー!」

 

 

 

ビームフラッグを発生させ、長柄を両手で目の前に構え、振り回していく。

 

 

 

「ぬっ?」

 

 

 

瞬間、マスターガンダムの周りを、取り囲んで浮いていたフラッグがマスターを中心に円を描きはじめた。

 

 

 

「十絶陣ーー!!」

 

 

 

次の瞬間、次々とマスターを固定する為にフラッグ達が足元に突き刺さる。

 

 

 

「ーーくらぇい!!」

 

 

 

すかさず、竜を模した右腕の拳ーー竜の口から、火炎を放つ。

 

 

 

フラッグの檻に炎が触れると、巨大な火柱がマスターガンダムを囲むように上がった。

 

 

 

「ぬぉおおおっ!?」

 

 

 

「「「師匠っ!」」」

 

 

 

珍しい東方不敗の悲鳴に、スティング達が声を上げた。

 

 

 

構わず、サイサイシーは肩口から一振りのビームフラッグを抜き、宣言する

 

 

 

「とどめだ、マスターアジア!」

 

 

 

炎の竜巻の中心に向かって一気に駆け抜け、両手持ちで構えた槍で突きを放つ。

 

 

 

「うぉおりゃあああ!」

 

 

 

「つけあがるな、小僧! フンっ!」

 

 

 

くるりとマスターガンダムは炎の竜巻の中で回転し、サイサイシーの槍の突きをギリギリのところで脇に避けると同時に、遠心力たっぷりの右の手刀を裏拳気味にドラゴンガンダムの横面に放つ。

 

バギィ

 

 

 

まともに喰らって思い切り顔を仰け反らせながら、後方に弾き飛ばされるドラゴンガンダム。

 

 

 

「フンっ! 身軽にして技のキレも大したもの。

 

だが、攻撃に重みがまるで感じられぬわあああ!」

 

 

 

背中から海面に着水するドラゴンガンダムに、再三のダッシュをして距離を詰め、右の貫手を振りかぶる。

 

 

 

「トドメ!」

 

 

 

ガアアアンッ

 

 

 

放たれた手刀はしかし、右手で肘の辺りを掴まれ、止められていた。

 

 

 

「ぬうっ!? 貴様は」

 

 

 

「サイサイシーの攻撃は軽いか?」

 

 

 

ドスの効いた低い声と、熊を連想させる鋭い目。

 

 

 

ぐぐぐぐぐ、めきめきめきぃ

 

 

 

掴まれた腕が悲鳴を上げるほどの握力。

 

 

 

漆黒のカラーに無骨で重厚な体格のガンダムがそこにいた。

 

 

 

「ーーチィッ」

 

 

 

マスターが舌打ちと同時に、手を振り払うと、無骨なガンダムが腕を広げて組み付いて来たので、咄嗟に両腕を広げてマスターも組みかえす。

 

 

 

互いにガッシリと相手の手をつかみあい、組み合う。

 

 

 

完全な力比べの姿勢だった。

 

 

 

「ならばーー!!」

 

 

 

重厚なガンダムが、マスターガンダムを軽々と押し返していく。

 

 

 

「ぬぉおおっ!?」

 

 

 

「この俺と力比べをしてみるか。

 

ーーーーマスターアジア?」

 

 

 

体勢を崩され、忌々しそうに舌打ちしながら、マスターガンダムは相手の名を告げた。

 

 

 

「ネオロシアの、アルゴ・ガルスキーか!!」

 

 

 

重厚なガンダムの名はボルトガンダム。

 

 

 

ギリギリッ

 

 

 

互いにガッシリと四つに組み、力比べを行う。

 

 

 

「ぬうんっ!」

 

 

 

ボルトガンダムが気合いと共に、マスターガンダムを投げ飛ばした。

 

 

 

「ぬうっ!」

 

 

 

宙で体勢を整え、バーニアを全開にして、マスターは、右の拳を振りかぶる。

 

 

 

同時にボルトガンダムもその場から右の拳を振りかぶった。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

ぶつかり合う拳と拳。

 

 

 

「ーーぬぅお!?」

 

 

 

しかし、弾き飛んだのは、ダッシュの勢いをプラスしてまで威力を上げたマスターガンダムだった。

 

 

 

「師匠がパワー負けしたっ!?」

 

 

 

 アウルが見たものを信じられず、息を呑む。

 

 

 

 東方不敗の面相に、覇気がこもった。

 

 

 

「ぬぅっ! お、の、れぇええええ!」

 

 

 

 身を屈め、一足飛びに踏み込んだマスターガンダムが腰を入れてボルトガンダムの顔面を打つ。

 

 

 

すさまじい衝撃が疾風となって駆け巡り、強烈な轟音が響くも、正面から受けたボルトガンダムは、首を左右に振って関節部を鳴らすだけだった。

 

 

 

「ぬう!?」

 

 

 

「はああああ!」

 

 

 

 ボルトガンダムの重厚な機体が、さらに一回り、膨らんだようにも見えた。

 

右拳を振り切った勢いのまま、肩部の球を突きだし、猛然と駆るボルトガンダムのタックルをまともに受け、マスターガンダムがなすすべもなく後方へ弾き飛ばされる。

 

 

 

 

 

ざざざざざっ

 

 

 

マスターは両手を海面につき、ひっかくようにして後方に弾き飛ばされる自分の機体を止める。

 

 

 

「はああああーー!!」

 

 

 

腰だめに構え、ボルトガンダムが気合いを入れた。

 

 

 

「この勝負、手加減せん!!」

 

 

 

アルゴの熊のごとき咆哮が、マスターの全身を震わせる。

 

 

 

「おのれ、アルゴ・ガルスキー。

 

このわしに、ダメージを与えるとは…。

 

ならば!!」

 

 

 

構え直すマスターに、ボルトが語りかける。

 

 

 

「マスターよ。お前の拳は、俺には効かんぞ」

 

 

 

「フン、笑わせてくれるわ!!」

 

 

 

 マスターガンダムが一気に羽根を広げてボルトガンダムの懐に飛び込む。

 

 

 

 振り下ろされるボルトガンダムの拳、それを紙一重でさばき、

 

 

 

「ぬぉおおおあ!」

 

 

 

 無数の拳を叩きこむ。

 

 

 

それらは、的確に急所にヒットし、頑健な城を思わせるボルトの体躯を、揺らがせる。

 

 

 

バキバキバキィッ

 

 

 

「ぬおっ!?」

 

 

 

「一撃が効かんのなら、効くまで殴りつけるのみよ!」

 

 

 

「ぐうう」

 

 

 

 拳打のむしろと化したマスターの猛攻に、ボルトガンダムが両腕をクロスさせて小さく固まる。

 

 

 

しかし、その巨体が徐々に、後ろに揺さぶられていく。

 

 

 

「かはあ!」

 

 

 

 たまらずのけぞったボルトガンダムを前に、マスターが凶悪に口端を引きつらせた。

 

 

 

「ほぅ。わしの攻撃を五撃喰らって、首をのけぞらせるだけとは大したものよ。だが!!」

 

 

 

バギィッ

 

 

 

 鞭のようにしなったマスターガンダムのハイキックが、ボルトガンダムの側頭に決まった。

 

 

 

「そこは既に、わしの蹴りの間合いよ」

 

 

 

「ぬううっ」

 

 

 

 たたらを踏むボルトガンダム。

 

 ついにマスターガンダムの技巧が、ボルトの堅固な防壁を貫いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

「つ、つよすぎる……っ」

 

 

 

 冗談のような戦いを目の前にしていても、マスターの異彩ぶりは如実にシンたちの心に衝撃を与えてくる。

 

 

 

 

 

 東方不敗がニヤリと嗤った。

 

 

 

「さあどうする。シャッフル同盟は、これでネタ切れか? シュバルツよ」

 

 

 

「フン、気の早い爺さんだぜ。もう勝ったつもりとはな」

 

 

 

むくりと立ち上がるアルゴは、左肩を前に突き出す、ショルダータックルの構えを取った。

 

 

 

肩口から放たれる鉄球ーー、

 

 

 

「ーーぬんっ!」

 

マスターは、脇に一歩退けることで、この巨大な質量を避ける。

 

 

 

 

 

ボルトは、避けられたことなど意に介さず、腰から続いてビームチェーンを抜き放ち、鉄球へと結びつける。

 

 

 

巨大な鉄球を軽々と振り回す、その怪力は正に脅威。

 

 

 

「グラヴィトン・ハンマー!!」

 

 

 

遠心力を加え、鉄球を投げつける。

 

 

 

まともに食らえば、どんな機体も粉々にされるであろう、問答無用の質量。

 

 

 

「フンっ」

 

 

 

バーニアを全開にし、側面に走ることで、次々に放たれる鉄球を避けるマスターガンダム。

 

 

 

「パワーだけの男の攻撃などなんになる!?」

 

 

 

水飛沫が上がり、グラビトンハンマーが海面に突き刺さった瞬間ーー

 

 

 

鏡転同血の輝きが、辺りを照らし、チボデーの声が響き渡る。

 

 

 

「ーーなんと、あの一瞬で変わるだと!?」

 

 

 

驚くマスターに、チボデーが闘志をむき出しにし、ガンダムマックスターが黄金の光を纏う。

 

 

 

「さあ、いくぜええ! 俺たちのコンビネーションを見せてやる!

 

豪ぉぉおお熱ぇぇええつ、マシンガアアアンッパァンチッ!!」

 

 

 

ガンダムマックスターが後方に大きく跳び上がり、着地と同時に放たれる紫の炎を纏った右ストレート。

 

 

 

一度に十発のストレートとなり、それは放たれる。

 

 

 

「ぬうっ!?」

 

 

 

咄嗟にマスターガンダムは、背部のウイングバインダーを広げ、後方にダッシュする。

 

 

 

追撃してくる10発のパンチは、波を穿ち海面を裂きながら、猛スピードで正確に迫り来る。

 

 

 

「ぬぉおおお! こざかしい!」

 

 

 

クルッと反転し、ダークネスフィンガーを右手から前方に放ち、シールド状に展開する。

 

 

 

「フンっ、この程度で!」

 

 

 

ガガガガガガガガガガァアアッ

 

 

 

僅かに、後方へ下がるも体制は崩さずに受けきる。ニヤリとマスターが勝ち誇ったその時だった。

 

 

 

「ぬ?」

 

 

 

「受けよっ、我が奥義! ローゼスハリケェエエンッ!」

 

 

 

 赤い花弁が一斉に海上に散ったかと見る間に、ビットによる竜巻が巻き起こり、マスターガンダムを上空に突き上げた。

 

 

 

「フンっ、その程度ではわしにダメージを与えることなど」

 

 

 

 中空で反転し、鋭くかまえるマスターが、カッと目を見開く。

 

 

 

 ネオフランスが誇る騎士のガンダムが、ネオチャイナを代表する龍へと、その姿を変えている。

 

 

 

「天に竹林、地に少林寺っ! 目にもの見せるは最終秘伝!」

 

 

 

 一足飛びに跳ね上がったドラゴンガンダムは、あでやかな蝶の翼を悠然と広げ、マスタ―ガンダムを睨み据えた。

 

 

 

「真・流星胡蝶剣っ! アニキのゴッドフィンガーを破った技だ! あんたに止められるかぁああああ!!」

 

 

 

「つけあがるな! 超級! 覇王! 電影弾ぁぁああんっ!!」

 

 

 

両者、己の肉体に気の光を纏い、体当たりでぶつかり合う。

 

 

 

バギィィィィッ

 

 

 

まともに激突した二つの奥義は、その余波で海面を揺らし、空の雲を吹き飛ばす。

 

 

 

「うおおおおおおお!!」

 

 

 

二つの光の玉は、ドラゴンガンダムの方が、押している。

 

 

 

「ーーぬう!? 流石は少林寺最高奥義! 正面突破は困難か…。

 

ならば!!」

 

 

 

力押しでは勝てないと悟るやマスターガンダムが、動いた。

 

 

 

「ぬあああああ!」

 

 

 

超級覇王電影弾を解除し、その纏っていた気を外側へ放つことで、ドラゴンガンダムの纏う気を相殺させ、ガラ空きになった顔を回し蹴りで蹴り飛ばした。

 

 

 

一歩間違えれば、マスターが気に飲み込まれ、ドラゴンガンダムの奥義を食らっていたであろう。

 

 

 

正に、一か八かの勝負だった。

 

 

 

「うぉっ!」

 

 

 

どぼーん

 

 

 

完全に無防備な状態から海面に叩き落されるドラゴンガンダム。

 

 

 

しかし、海面に叩きつけられる瞬間に、またしても鏡の光が生じ、ボルトガンダムに変化した。

 

 

 

「炸裂、ガイアクラッシャアアアアア!!」

 

 

 

ボルトガンダムは、見事に体勢を整えると、落下の勢いを加えて海面を右拳で殴りつけた。

 

 

 

すると海面が剣山のように鋭く伸び、マスターガンダムに襲い掛かった

 

 

 

「ぬぅっ!?」

 

 

 

「ーー終わりだ、マスターアジア!!」

 

 

 

このタイミングでは防ぎようがない。

 

 

 

「ーーつけ上がるな!!」

 

 

 

瞬間、マスターアジアは、腰に両拳を置くと、

 

 

 

明鏡止水ーーーー人機一体の境地を解放した。

 

 

 

黄金の気を全身に纏い、輝くマスターガンダムはその圧倒的な力でガイアクラッシャーから生じた剣山の波を消し飛ばした。

 

 

 

「フン! お遊びは、これで終いにしてくれるわ!!」

 

 

 

全てを凌駕する圧倒的な光を纏い、マスターガンダムが同じ光を纏うボルトガンダムに突っ込む。

 

 

 

その右手には、紫の光が輝いている。

 

 

 

「ダアアアアクネス! フィンガアアアアア!」

 

 

 

アルゴは技を放った直後で、咄嗟に避けることができない。

 

 

 

そうーー、アルゴでは、だ。

 

 

 

「さすがだな! 東方不敗マスターアジア!」

 

 

 

一瞬後、太陽を思わせる赤い炎の弾がアルゴの全身を包み込み、日輪を思わせる光の輪を背にした、トリコロールの機体がマスターの前に構えていた。

 

 

 

「ぬっ!?」

 

 

 

「爆熱! ゴッドフィンガアアアアア!」

 

 

 

その機体ーーゴッドガンダムが、右手に炎を放ちながら、

 

正拳突きの要領で突き出す。

 

 

 

「ぬぅうう! ふん!」

 

 

 

ガシィィッ

 

 

 

咄嗟にマスターガンダムは、相手の頭部ではなく、ゴッドガンダムのフィンガーに自分のフィンガーをぶつけて組み合う。

 

 

 

「ファイターはシュバルツか……」

 

 

 

先に聞こえた声と、拳から感じる相手の気で、マスターアジアは、ゴッドガンダムのファイターがシュバルツ本人であることを確信した。

 

 

 

「シャッフルの彼らにも、貴様へのリベンジの機会を与えたかったのでなーー」

 

 

 

「情け深いことよな。もっとも、その技を更に磨かせる為の芝居とも取れるがな」

 

 

 

「ーーそれもある、が。1ファイターとして、彼らの無念を代わりに晴らしたかったのが、本音だ」

 

 

 

「ーーふん」

 

 

 

 

 

互いに語り合いを辞めると、ダークネスフィンガーとゴッドフィンガーの力をぶつけ合う。

 

 

 

「ぬぅうううああ!!」

 

「はああああああ!!」

 

 

 

シュバルツのゴッドガンダムが、明鏡止水の境地に達し黄金色に輝く。

 

 

 

「「はあああ!!」」

 

 

 

際限なく高まり合う両者の気は、海を割り、空に嵐を呼ぶ。

 

 

 

やがてーーーー

 

 

 

「爆発ぁつっ!!」

 

「ヒィートッ! エェェエエンドッ!!」

 

 

 

限界まで高めあった気を爆発させる。

 

 

 

ズガォウアッ

 

 

 

はっきりと大気が爆発した音が辺りに響き渡り、強大な爆発を起こす。

 

 

 

その爆発の中心地から、一瞬後、弾き飛ばされるゴッドガンダムとマスターガンダム。

 

 

 

「ぬうっ!」

 

「ーーふう」

 

 

 

吹き飛ばされながらも、互いに背後のバーニアをふかし、空で体制を整え、睨みあう。

 

 

 

「「ふっふっふっふ」」

 

 

 

黄金のハイパーモードが切れるマスターガンダム。

 

 

 

同時にシュバルツのゴッドガンダムもガンダムシュピーゲルに戻った。

 

 

 

「やはり一筋縄ではいかぬか……。ガンダムシュピーゲル、いやシュバルツ・ブルーダーよ」

 

 

 

「…フ。私もそう思っていたところだ。マスターアジア」

 

 

 

 構えを解いたのは、ほとんど同じタイミングだった。

 

 

 

 マスターガンダムはいつものように両腕を組むと、

 

 

 

「フンっ。この勝負、あずける!」

 

 

 

「ああ、ここで決着をつけてしまうには少し惜しい」

 

 

 

 一方的に言い放った言葉を、シュバルツは率直に返してくる。

 

 

 

拳を交わし合い、理解し合えたからこその問答に、マスターは心地よさから喉を鳴らした。

 

 

 

「そういうことだ。貴様の弟子どもがどれだけの腕になるか、わしも楽しみに見させてもらうとしよう。――ゆくぞっ! スティングッ、アウルッ、ステラッ!」

 

 

 

 背後をふり返って鋭く呼びかけると、すぐに幼き少年少女たちが答えてくる。

 

 

 

「はいっ、師匠!」

 

 

 

「あの忍者がとんでもないやつだとは思っていたが……これほどとはっ」

 

 

 

「すごいね、師匠……!」

 

 

 

 三者三様のその反応に、マスターはわずかに目許をゆるめると、すぐにいつもの覇気に満ちた表情に戻ってマスタークロスを一閃した。

 

 

 

「また会おうぞ! ミネルバよ! 異世界のファイターどもよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうううううう」

 

 

 

 マスターが帰還すべき戦艦をあずかる連合指揮官、ネオは、苦悩とも、緊張が途切れたあとともつかない、重いため息を長々と吐いていた。

 

 

 

「あ、あの、大佐……」

 

 

 

「ああ、わかってる。わかってる。皆まで言うな。わかってる」

 

 

 

 遠慮がちに話しかけてくる部下に手のひらを見せて、首を横に振る。頭痛がするのは気の迷いだと思いたい。

 

 

 

瞼にこびりついた、この非常識な決闘は、ネオの胸に熱く語りかけてくる、感動的ですらあった純粋な闘いだったことなど全力で忘れたいのだ。

 

 

 

 しかし――、

 

 

 

 深々とため息を吐いたネオは、ガーティ・ルーが映すマスターアジアの光点グリッドを見つめて、しみじみとつぶやいた。

 

 

 

「あのじいさんが超人だってことは、わかっちゃいたが。ほんっっとにとんでもねえなぁあああ」

 

 

 

 そう、あらゆる意味で。

 

 

 

 このさき、連合上層部やプラント、はてはオーブにまで彼らの存在が伝わったとき、はたしてなにが起こるのか、途方もない力と力が、どのような決着を見せるのかは、もはやネオには知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 シンは間近で至高の戦いを目にし、拳を固く握りしめていた。

 

 

 

「あのレベルにならなきゃ、あの黒い角のガンダムは倒せないのか……っ!」

 

 

 

 途方もない話のように、いまは思える。

 

 

 

はっきり言って、シンが想定できる範疇を完全に超えてしまっている事態だ。無理もない。

 

 

 

 傍らでルナマリアが呆けていた。

 

 

 

「まじ? 気が遠くなるんだけど……」

 

 

 

「恐るべき男だな、東方不敗マスターアジア」

 

 

 

 レイは語調こそいつもどおりの静かなものだが、その青い瞳は珍しくも細かく揺れている。

 

 

 

 しかし、ミネルバが誇るエースパイロットたちは、こちらに帰還してくるシュピーゲルを見つめて、瞳を輝かせるのだ。

 

 

 

 ガンダムファイトの、その最高の熱に触れたがために。

 

 

 

 

 

 

 

 シンたちの母艦たるミネルバの面々は、もはや絶句するしかなかった。

 

 

 

「か、艦長……いまのデータ」

 

 

 

 どうにかアーサー・トラインが本来なすべき任務を思い返して、傍らを見やる。

 

ブリッジの中央に座するタリアは、艦長席の肘掛に寄り掛かり頭を抱えていた。

 

 

 

 いつも冷静沈着で完璧に見えるこの女性指揮官には、珍しい姿である。

 

 

 

「記録映像だけ、残しておいてちょうだい。もっとも、本国はなんの冗談だって思うでしょうけど」

 

 

 

 タリアの肉厚の唇からも、深いため息がこぼれた。

 

 

 

 まさに激闘を繰り広げた洋上はすでにいつもの静けさを取り戻し、素知らぬ顔で陽光を照らし返していた。

 

 






みなさん、お待ちかね〜

キラとキョウジに退けられたデビルガンダムは、オーブ近海の海域にて、自己再生と自己進化を行います。

そんな中、シュバルツとの激闘を終えたマスターガンダムの気配を感じ、勝負を挑むのです!!

次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第22話に、レディー、ゴー!!!


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第22話 悪魔追撃 マスターアジアの覚悟

コズミック・イラではない世界で、彼は夢を見ていた。

2週間程前からの話だ。

2週間前、胸のクリスタルから光を上げながら、彼の愛機の一つであるシャイニングガンダムが、格納庫から消えたのだ。

彼は、もう一機の愛機であり、相棒であるゴッドガンダムと共に、シャイニングガンダムを探す旅に出ていた。

その日から、彼は見たこともない世界の夢を見るようになった。

見たこともない少年。

見たことのないMS。

そして、2人の兄。

「なあ、ゴッドガンダム。これはシャイニングガンダムが俺たちに、自分が見ているものを見せてくれている、と考えるべきかな?」

自分の愛機を真正面に置いて見据え、問いかけてみると、アルティメットガンダリウム細胞を父、カッシュ博士に組み込まれ、自我を表現できるようになったゴッドガンダムは、目を光らせた後、コクリと頷いた。

「ーーヤッパリ、お前もそう思うか!?」

更に問いかけると、ゴッドガンダムは更に縦に首を振る。

「シャイニングガンダムは、異世界で兄さんたちと共にいる。しかも、その世界には、デビルガンダムも存在している。ならば、俺たちが取るべき方法は一つ!」

コクリとゴッドガンダムが更に頷く。そして青年を促すように、右拳を握りしめて掲げた。

「ーーーーああ! 兄さんとシュバルツ、シャイニングガンダムを迎えに行こう!!
そして、デビルガンダムを倒すんだ!!
俺たちの手で!!」

赤いハチマキを締めた左の頬に十字傷のある青年は、自分の右拳にある、キングオブハートの紋章を輝かせ、赤いマントを翻しながら、叫んだ。

「ーー俺達のこの手が、真っ赤に燃える! 兄さん達を救えと轟き叫ぶ!!」

ゴッドガンダムは、背部の6枚の羽を広げ、日輪のような光の輪を背負い、青年と同じように、真っ赤に燃える右手を掲げた。

「ーー待っていてくれ、兄さん、シュバルツ! シャイニングガンダム!!
必ず、必ず俺とゴッドガンダムがぁ!! 迎えにぃぃぃ、行くぅぅぅぅ!!」

彼らの名は、ドモン・カッシュとその愛機、ゴッドガンダム。
それぞれ最強の証である「キングオブハート」と「ガンダム・ザ・ガンダム」の称号を持つ。

未来世紀最強の存在であったーー。




さて……。
かつてデビルガンダム四天王を率いたマスターガンダムは、ここ、オーブ近海で荒れ狂う恐ろしい力を感じ取ります。
連合の特殊部隊ファントムペインに身を寄せているマスターアジアは、ガーティ・ルーの面々に一時的な別れを告げ、あの史上最凶のガンダムに挑むのです。
はたしてネオは、さらなるガンダムファイトになにを見るのでしょうか。
今日のカードは、マスターガンダム対デビルガンダム!

それでは! ガンダムファイト! レディー、ゴー!




 

オーブ近海の海中ーー美しく透明な海の中で、一つの機体が体を起こした。

 

 

 

赤い上半身に、胸の部分のみ青いトリコロールの機体ーーガンダムだ。

 

 

 

その機体のコクピットで、赤い髪の男が数日ぶりに目を覚ました。

 

 

 

男ーー青年は、数日前の戦闘を思い起こし、自身の身に起きた顛末を頭の中で整理して、怒りにその身を震わせた。

 

 

 

「ま、負けた……っこの我が! くっ」

 

 

 

腰に両拳を置き、一気に力を開放する。

 

 

 

「お、の、れぇえええええっ!」

 

 

 

ズォォオオオァッ

 

 

 

赤い光が天を衝き、海面から水柱を発たせながら、海上に浮上するデビルガンダム。

 

 

 

彼は自身の体を見据え、忌々しそうに歯軋りした。

 

 

 

「我は、究極のガンダムのはずだ!!

 

究極の生命体であり、生身の肉体も手に入れた!!

 

だというのに、何なんだ、さっきの無様な姿はっ!!」

 

 

 

デビルガンダムーーDにとっては、あるまじき醜態であった。

 

 

 

全身に赤く禍々しい気を纏い、握りしめた拳を睨み据える。

 

 

 

「ガンダムファイターですらない奴らに、二人がかりとは言え、押されるとはっ! おのれっ!!」

 

 

 

しばらく力を開放して、周りの雲や波を吹き飛ばした後、自分の手を見据える。

 

「フン。だが、やつらのおかげで進化はできたようだな」

 

 

 

自分の身体を見下ろしながら、内に満ち溢れるパワーを感じる。

 

 

 

「あきらかなパワーの上昇を感じるが、やつら程度に手こずるようでは、ガンダムファイターはおろか、シャッフル同盟やドモン・カッシュに挑むなど夢のまた夢。

 

やはり、東方不敗マスターアジアを、そしてシュバルツ・ブルーダーの二人を倒して取り込まねばならぬか。

 

そうすることで我は、さらなるパワーを得ることができるはずだ」

 

 

 

キラのフリーダムガンダム、キョウジのシャイニングガンダムとの戦いは、デビルガンダムにとって屈辱ではあったが、同時に良い経験にもなっていた。

 

 

 

デビルガンダムは、今の自分の機体データをモニターに出し、確認する。

 

 

 

「理論上では、キラ・ヤマト達との戦いの時点で、最終形態の我を、凌駕していたはずだが。

 

やはりパワーや再生に頼っていては、MFの爆発的なパワーに対抗できんか」

 

 

 

シャイニングガンダムのスーパーモードで押し切られたのを思い出し、冷静に分析する。

 

 

 

「やつらは感情で一気にパワーが膨れ上がる。

 

基本能力など、まったく意味をなさん。じつに厄介な奴らだ」

 

 

 

スーパーモードのシャイニングガンダムには、現状では対抗できない。

 

それ程までに、明鏡止水とは、凄まじいものなのだ。

 

 

 

「だが、我がその境地を理解し使いこなせば、文字どおり究極の存在になるはずだ。

 

その為にも、東方不敗とシュバルツ・ブルーダーを倒さねばーー」

 

 

 

そう考えていると、こちらに猛スピードで接近する気配があった。

 

 

 

その気配に、デビルガンダムは邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

 

「我としたことが、背後を取られるまで気づかんとはな!」

 

 

 

圧倒的な闘気と重圧を撒き散らしながら、気配の主、マスターガンダムが、降り立つ。

 

 

 

「フンっ! 久しぶりだな、デビルガンダムよ!」

 

 

 

両腕を組み、宙に浮かぶマスターガンダムに、デビルもニヤリと邪悪な笑みを返す。

 

 

 

「久しぶりだな。病のない新たな身体はどうだ? マスターアジア」

 

 

 

「フンっ、すこぶる快適よ。このような身体をくれた貴様には、ぜひ礼をせねばなるまいな」

 

 

 

「ほう? ふたたび我が右腕となり、人類抹殺に手を貸すのか? マスターガンダムよ」

 

 

 

邪悪な笑みを浮かべていたデビルガンダムが、殺気を身に纏いながら、構える。

 

 

 

これをマスターは、鼻で笑ってみせる。

 

 

 

「フン、わしはもはや人類抹殺になど興味はない。

 

いまのわしがせねばならんのはひとつ。

 

貴様を倒すことよ、デビルガンダム!」

 

 

 

言うや腕を組むのをやめ、流派東方不敗の構えを取る。

 

 

 

「ーー倒せればいいがな?」

 

 

 

対峙するデビルガンダムも、前傾姿勢を取りながら、両拳を握った。

 

 

 

 

 

 

 

ーー話は少し遡る。

 

 

 

地球連合艦ーーガーティ・ルー

 

 

 

そのブリッジで、指揮官であるネオは、大西洋の海域で激戦を繰り広げた東方不敗に軽口を叩いていた。

 

 

 

「ひゅぅうううう。とんでもない戦いでしたねぇ。まったく!

 

よ、化け物・ザ・化け物!!」

 

 

 

「フンっ、あれこそが真のガンダムファイトよ

 

貴様らの戦争など、わしらの戦いに比べればまだまだ温いわ」

 

 

 

「個人の決闘が、国同士の戦争より、派手ですか~。ホント冗談に聞えねえのがこええよ、まじで」

 

 

 

しかし、すぐにネオの顔を青ざめさせる返しが待っているのだが。

 

 

 

 そして大体、すべて本当の話である。

 

 

 

「ロアノーク大佐、ジブリール卿から通信が入っています」

 

 

 

「ジブリール卿ねえ…」

 

 

 

 副長のイアンからの報告に仮面の奥で顔をしかめるネオだが、あえてそれを隠そうともせずに、マスターに固い声で告げた。

 

 

 

「すみませんが東方先生。ちょっと席を外していただけませんか?」

 

 

 

「ほう。なにゆえだ?」

 

 

 

 話し方の変わりようにマスターも当然気づき、仮面の奥にあるネオの目を見透かそうとするかのように見つめてくる。

 

 

 

「一番、あなたには会ってほしくない人だから、ですよ」

 

 

 

 言外に、会えば血を見るであろうことを匂わせる。

 

 

 

(ーー何考えてんだ、俺は。この超人に、何を期待してんだか)

 

 

 

 心の中で苦笑しながらも、ネオはそれを表には出さないように努める。

 

 

 

「フンっ、よかろう。わしはあくまで客人ゆえな」

 

 

 

 意外にも、あっさりと引いた東方不敗に、ネオは「助かります」とだけ、告げた。

 

 

 

 そして東方不敗の傍らにいる三人の少年たちに声をかける。

 

 

 

「スティングたちにも悪いが、東方先生と一緒に向こうへ行っておいてくれ」

 

 

 

「わかった」

 

 

 

 ネオの言い方に何かを感じたのか、いつもは憎まれ口を聞いてくるスティングもおとなしく従う。

 

 

 

「なんだよ、ネオのやつ。俺たちを邪険にしてさ」

 

 

 

「ネオ。どうかしたの?」

 

 

 

 スティングほどは、配慮をしらないアウルとステラだが、どこかでネオがいつもと違うのを悟り、直接的に不快感をあらわにしたり、疑問を口にする。

 

 

 

 それを三人のまとめ役をしているスティングが止めた。

 

 

 

「おい、お前ら。なんでもいいから、とりあえずこっちこい」

 

 

 

 有無を言わさず、2人を連れていくスティングは、去り際にネオに目配せをし、言ってきた。

 

 

 

「わりぃな、ネオ」

 

 

 

 完全に姿を消したスティングを見てから、ネオは苦虫を噛み潰したような表情でつぶやく。

 

 

 

「悪いだと? ーーばかが、詫びにゃならんのは俺だろうが」

 

 

 

「ロアノーク大佐ーー」

 

 

 

 副長のイアンは特にそれに何かを言うことはなく、ただネオを伺う。

 

 

 

「せっかく普通の人間として暮らせるようになったんだ。薬にも頼らず、記憶をいじくることもなく」

 

 

 

 自分の記憶を思い返しながら、吐き気がするとばかりに、ネオは顔を歪めた後、自嘲した。

 

 

 

「ならその方がいいさ。余計な研究の成果を、ロゴスに渡すこたぁない。軍人としては失格だがな」

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

「ーーというわけだ。なにか申し開きはあるかな? ネオ・ロアノーク」

 

 

 

 モニター内には、薄暗い部屋で青白い肌に紫の口紅を塗った壮年の痩せこけた男がいた。

 

 

 

 男の名は、ロード・ジブリール。

 

 

 

 反コーディネーター思想主義「ブルーコスモス」の盟主にして、軍事産業複合体「ロゴス」のリーダーでもある。

 

 

 

 男の冷酷さと非人道さを知るネオは、嫌悪感を仮面で隠し、事務的な物言いで報告する。

 

 

 

「いえ、何ひとつありません。大西洋の連合艦隊と協力し、ミネルバを落そうとしたのですが、かの船の実力は高く、あと一歩のところまで追いつめはしましたが、撃墜は敵いませんでした」

 

 

 

 いつものようにガンダムファイターのことや、スティング達については触れない。

 

 

 

「ーー申し開きはない、か。潔いことだ」

 

 

 

 ジブリールはネオの態度に満足そうに頷きながら、自分の膝の上にいる猫をなでる。

 

 

 

「ーーとはいえ、わたしも無限に寛大ではない。キミに対してはエクステンデッド3体という多大な恩赦を与えているのだ。

 

 なんとしても落としてもらわねば困るのだよ、あの船はね」

 

 

 

「承知しております」

 

 

 

「そうか。ならばよい。一刻も早い朗報を期待している」

 

 

 

 それだけを告げると、モニターからの一方的な通信は途切れた。

 

 

 

 完全に通信が切れたことに息を一つつきながら、ネオは苦笑する。

 

 

 

「やれやれ。中々キツいことを仰られる」

 

 

 

 そんな彼に、イアン副長が進言した。

 

 

 

「正直に本国に連絡した方がよいのではありませんか? あのシュバルツと言う男のことを」

 

 

 

 あんな反則的な戦闘力を持つ男がいるのでは、今の連合の戦力では到底勝ち目などない。この10倍の戦力を投入しても勝てるか怪しいほどだ。

 

 

 

 イアンの言わんとすることを理解しながらも、ネオは首を横に振った。

 

 

 

「信じると思うかい? あんなとんでもない戦いを」

 

 

 

「映像データを渡せば、それが改竄されたものではないということはわかるはずですが」

 

 

 

「改竄されたものではないことはわかるかもしれないが、だからって本国の意見はひとつさ。あれを倒せ、だと思うよ」

 

 

 

「それは……そうかもしれませんが」

 

 

 

 ネオの言葉に、イアンも思うところがあるのか、それ以上は言ってはこなかった。

 

 

 

「さて。どうしたもんかな。東方先生のことも含めて、いつまでも隠していられる状況じゃない。特にあんなバトルを繰り広げられた後じゃ、データを改竄しようにもできねえしな」

 

 

 

 顎に手をやり、先日の戦闘データをモニターに再生させながら、眉間にしわを寄せる。

 

 

 

何より、この神聖とも言える戦いを、政治や金儲けの道具にしか見ないだろう連中には、見せたくない。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

観測兵が、ネオ達の前で騒ぎ始めたのだ。

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

「これは…なんでしょう」

 

 

 

観測兵がある海域を示した。

 

 

 

ネオ達のガーティ・ルーの半径10数キロの距離に、強烈な反応があると、彼は言う。

 

 

 

「あの海域に強大なエネルギー反応の増大を確認しました」

 

 

 

「オーブ近海か。何だ?」

 

 

 

イアンの言うとおり、そこは連合とこれから正式に同盟を結ぶという、オーブの領海近辺の小さな諸島だった。

 

 

 

「ネオよ、そこに近づいてはならん」

 

 

 

その時、部屋を退室していた東方不敗の声が聞こえてきた。

 

 

 

「東方先生、どうされたんです?」

 

 

 

声に振り返り、問いかけると、全身から凄まじい闘気を発しながら、マスターアジアは立っていた。

 

 

 

「貴様らはこのまま目的地に進めぃ。わしの目的が現れたようだ

 

この戦い、邪魔をするでないぞ」

 

 

 

ニヤリと凄みのある笑みを浮かべ、東方不敗はネオ達の前から姿を消した。

 

 

 

一瞬後、紫色の光がガーティ・ルーの外で輝き、漆黒のボディに赤い羽を広げたガンダムが、高速で船から離れていく。

 

 

 

「いつのまにか機体とともに外に出ちまったか」

 

 

 

モニター越しに離れていく機体を確認してつぶやくネオに、副長であるイアンが話しかける。

 

 

 

「大佐、気付きましたか?あの恐ろしい顔を」

 

 

 

「ああ、まるで鬼みたいな顔してたな。

 

関わらない方がいいんだろうが、とりあえず。どんなもんが出てくんのか、見とくとしようか」

 

 

 

「了解しました」

 

 

 

「頼むからこれ以上の厄介事は勘弁してくれよ。ほんとによ」

 

 

 

こうして、ある程度の距離を置いて、マスターガンダムを追跡したネオ達は、オーブ近海に浮かぶ無人島の浜辺で向かい合う、二機のガンダムを発見した。

 

 

 

「マスターガンダムと向かい合ってるあの機体がその強大なエネルギーの正体ってわけか」

 

 

 

「大きいですね。普通のMSの二回りは大きい」

 

 

 

イアンの言うとおり、通常のMSの規格よりもズバ抜けて巨大である。

 

 

 

全高が20メートルを越えている。

 

 

 

「どう見ても、ただ事じゃあない、よな?」

 

 

 

ネオの言葉に、ブリッジにいる誰もが黙って頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

無人島の浜辺へと移動した、二機のガンダムは、しっかりと大地を踏みしめ、腰を入れて構えあう。

 

 

 

「はあああああっ!!」

 

 

 

「フンっ! はあっ!」

 

 

 

デビルガンダムが、赤く禍々しい気を纏い、マスターガンダムが気合いを一閃する。

 

 

 

「ふっふっふ、どれ。

 

デビルガンダム、かつて我が王だった貴様の実力、見させてもらうぞ!」

 

 

 

「フンっ、マスターアジアよ

 

お前の技と力とハイパーモード。

 

すべてこの俺に捧げてもらう」

 

 

 

赤い気が、大地を穿ち、天を突く。その重圧を楽しむ余裕すら見せ、マスターアジアは笑った。

 

 

 

「フンっ、ぬかしよるわ。

 

ならばゆくぞおお!!」

 

 

 

 

 

ウイングバインダーを広げ、ダッシュするマスターガンダム。

 

同時にデビルガンダムも、前傾姿勢から、軸足で地面を蹴り、一気にマスターへと向かう。

 

 

 

「ぬあああああ!!」

 

 

 

「うぉぉおおお!!」

 

 

 

拳と拳をぶつけ合うデビルガンダムとマスターガンダム。

 

 

 

赤い光と紫の光が、無人島の辺りを照らし、力の余波で、波を割く。

 

 

 

ここに、悪魔と鬼神が、ぶつかり合うのだった。

 

 






みなさん、お待ちかね〜!!

アスランはザフトにフェイスとして入隊し、ミネルバへと合流します。

その際、オーブが地球連合と同盟を結んだことを知るのです。

一方、オーブは、カガリの意思を無視した他の議員による総評で、連合との同盟に踏み切ります。

何とか思い留まらせようと理念を説くカガリですが、果たしてーー。

次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第23話にレディ、ゴー!!


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第23話 フェイスの男 アスラン・ザラ

「何だって!?
俺が異世界に行くのを認められない!?
何故だ、レイン!!」

最強の男・キングオブハートは今、最大の強敵を前にしていた。

「何故? どうして、私がそれを許すと思うの、ドモン?」

レイン・カッシュ。
ドモンの幼なじみであり、妻である。

「シャイニングガンダムが、兄さんと一緒に居るんだ! 兄さんやシュバルツは、生きてるんだ!!
迎えに行かなきゃ!!
だからーー!!」

「駄目よ、ドモン」

にべもない妻に、ドモンは弱り切った視線を向ける。

妻は、普段は穏やかだし、ある程度は自分を立ててくれるが、一度ダメだと言い出すと、中々首を縦には振ってくれない。

主に、ドモン自身の身に危険が及ぶことは、断じて許さない。

「ライジングガンダム。ちゃんと、ゴッドガンダムを押さえておいてね」

家事片手間に、自分の愛機に告げると、ライジングガンダムは、きっちりゴッドガンダムの背後に回りこんだ。

目を輝かせ、ライジングガンダムが頷く。

その横で、観念したようにゴッドガンダムが、項垂れていた。

「レイン! 兄さんとシュバルツがーー、シャイニングガンダムが、待ってるんだ!!」

「私だって二人とシャイニングガンダムが心配だし、会えるものなら会いたいわ。
でもね…いい、ドモン? 異世界なんて、帰って来れる保証のない場所に、大事な夫を送り出す妻なんかいないの。
100%帰って来れる保証があるなら、考えてもいいけれど、 今の状態のまま、どうしても行くと言うなら、私もついて行くわよ?」

「何を言ってるんだ!
お前のお腹には、俺たちの大事な子どもが…!!」

「じゃあ、ダメよ。認めない」


ギアナ高地にある掘っ立て小屋で、夫婦のそんなやり取りを、4人の青年が見ている。

「…ヤッパな! 説得は、無理だな」

「でしょうね。ドモンでは、レインさんには勝てません」

「アニキも諦めて、他の方法を探すしかないね!」

「ふふ。ーーしかし、異世界か。本当にそんなものがあるとはな」

彼らは、ドモンの掛け替えのない親友にしてライバル、そしてシャッフル同盟の仲間である。
チボデー・クロケット、ジョルジュ・ド・サンド、サイ・サイシー、アルゴ・ガルスキーの4人だった。

4人は、ドモン達の痴話喧嘩をBGMに、晴れた空を見上げた。
未来世紀は、今日も平和である。



さて、みなさん。

我らがシュバルツ・ブルーダーとミネルバ隊の元にアスラン・ザラがオーブ軍の援軍として駆けつけます。

そこで彼から放たれた驚愕の真実とはーー!?

それでは、ガンダムファイト!

レディー!! ゴー!!!



 

 

連合との激戦を繰り広げたミネルバは、補給を受けようとカーペンタリア基地へその身を寄せていた。

 

 

 

久しぶりの友軍基地への立ち寄りに、クルー達の表情も晴れやかなものになる。

 

 

 

ある者は買い物へ、ある者は娯楽施設へと向かう中、一際元気な声が響く。

 

 

 

「もう、お姉ちゃん! 早く行こうよ!!」

 

 

 

「待ってよ、メイリン! 私、 修行が……!!」

 

 

 

ルナマリアとメイリンのホーク姉妹が、休日に揉めていた。

 

 

 

ここ、カーペンタリアで、プラントが誇る歌姫ラクス・クラインが慰安ライブを行うのである。

 

 

 

そんな中、カタパルトが開放状態になり、海を一望できるミネルバのMSデッキで、メイリンは姉の腕を引っ張るーー

 

 

 

「修行なんかどうだっていいじゃない! 買い物とか、ラクス様のライブとか、色々あるんだから!!」

 

 

 

「ちょ、ちょっとメイリンーー!? あたしは、明鏡止水の境地に一刻も早く達したいのにぃ〜!!」

 

 

 

力関係は妹の方が上らしく、ルナマリアは抗議の声を上げながら連れて行かれた。

 

 

 

「ーーメイリン! 思ったとおり、グッジョブだ!」

 

 

 

「ああ。作戦は成功だな。これ以上ルナマリアに先を越される前に、何としてもーー!!」

 

 

 

「ーー当然だろ!!」

 

 

 

男のプライドにかけて、シンとレイは固く手を結んだ。

 

 

 

「ーーやれやれ、意地の悪い奴らめ…あとでルナマリアに謝るんだぞ?」

 

 

 

「分かってますよ、それより早く!!」

 

 

 

「シュバルツ殿、修行を!!」

 

 

 

そんな必死の形相で修行をねだる少年たちの目を見てーーーー。

 

 

 

「フーッ……お前たち…わだかまりや、やましさしか無いじゃないか……」

 

 

 

首を横に振りながら、ため息を大きくつくシュバルツであった。

 

 

 

その時だったーー

 

 

 

ギュゥウウウンッ

 

 

 

修行を始めようとする3人の元に、赤い戦闘機のような機体が空いたカタパルトデッキ目掛けて突っ込んできた。

 

 

 

「ん? この気配はーー」

 

 

 

シュバルツは冷静に、近づいてくる気配の主を悟る。

 

 

 

「マジかよ、こっちに来る!?」

 

 

 

「シュバルツ殿! シン!! 退避だ!!」

 

 

 

対してシンは、いきなり現れた機体に半分パニックを起こしていた。

 

 

 

レイは冷静に避難指示を飛ばす。

 

 

 

赤い機体は、見事に空いていたMSデッキに飛び込み、着艦した。

 

 

 

「ーーほう、中々の腕だ。あのスピードで正確に機体をスペースに入れるとは」

 

 

 

「関心してる場合じゃないですよ! いきなり突っ込んで来るなんてーー!!」

 

 

 

顎に手をやり、したり顔で頷く覆面忍者に、シンが抗議の声を上げる。

 

 

 

そして、着艦した機体のコクピットから出てきた人間に、ズカズカと足音を立てながら向かっていった。

 

 

 

「文句言ってやる!!」

 

 

 

その背を追い、レイもシンに続いて向かっていく。

 

 

 

こちらは、シンがやり過ぎないように止めるためだろう。

 

 

 

シュゥゥゥゥッ

 

 

 

コクピットから綱を下ろし、降りてきたパイロットの背にシンが声を張り上げた

 

 

 

「ーーおい! いきなり機体を着艦させるなんて、どういうつもりだ!? 非常識にも程があるぞ、あんた!!」

 

 

 

自分たちも、生身でMS発着用のカタパルトデッキにいる事には触れないシンである。

 

 

 

「ーーすまない、こちらも緊急だったんだ」

 

 

 

振り返りながら答える声は、どこかで聞いた覚えがある。

 

 

 

「ん? あんた、どっかで?」

 

 

 

「シン、よせ。彼はフェイスだ」

 

 

 

眉根を寄せて首をかしげるシンの腕を、レイが引いて抑える。

 

 

 

赤服のノーマルスーツの胸には、独自の判断で行動を許される証ーーフェイスの金飾りが光っていた。

 

 

 

そんなシン達の脇を通り過ぎ、新型の機体のパイロットはシュバルツの前に立つと、フルフェイスのヘルメットを脱ぎ一礼した。

 

 

 

「お久しぶりです、シュバルツさん」

 

 

 

「やはり。君だったか、アレックス」

 

 

 

腕を組んだシュバルツは、目元を和らげ、穏やかに頷く。

 

 

 

「ーーしかし、なぜ君がザフトに? オーブはどうしたんだ?」

 

 

 

「ーーそれについて、この船の責任者にも説明しなければなりません。一緒に付いてきてくれませんか?」

 

 

 

いきなりそんなことを言い出したアスランに、シンが食ってかかる。

 

 

 

「なんであんたにシュバルツさんが付いていかなきゃならないんだよ?話なら、ここでもできるだろ?」

 

 

 

「ーーよせ、シン。フェイスの権限がある以上、彼のやる事に我々は口を挟むべきじゃない」

 

 

 

「なんでオーブに亡命して、アスハの護衛してた人が、ザフトに復隊すると同時にフェイスになって、しかもミネルバのMSデッキに新型の機体と共に来たのか。気にならないのかよ、レイ」

 

 

 

シンのストレートな言い分に、アスランが苦笑した。

 

 

 

「身も蓋もないが、確かに言われてみればその通りだな」

 

 

 

肩を揺らしながら愉快そうに笑うアスランに、馬鹿にされたと感じたシンは顔を真っ赤にさせる。

 

 

 

「ーーあのなぁ!!」

 

 

 

「君の言うとおりだ、シン。確かに、昨日までオーブ代表のボディガードしてた奴が、いきなり現れてフェイス面しちゃ腹も立つだろう。まったく、やっとまともにツッコんでくれる奴があらわれてくれたか!本当に、ありがとう」

 

 

 

「ーーは?」

 

 

 

何故か、喉に引っかかった骨が取れたような、爽やかな顔をしているアスランに、シンの方が疑問の声を上げた。

 

 

 

「ーーいや、こちらの話だ。気にしないでくれ」

 

 

 

「は、はあーー」

 

 

 

先の怒りも完全に消え、呆気に取られたシンに、咳払いをした後、アスランはシュバルツに向き直った。

 

 

 

「ーー俺の本当の名は、アスラン・ザラ。現在は、オーブのキラ・ヤマト准将の指示でザフトへ復隊し、ミネルバへ応援に駆けつけました。オーブの客人であるシュバルツ殿と、代表の恩人であるミネルバの方々を護衛するよう、准将から指示を受けています」

 

 

 

「ーーキラが、准将にか」

 

 

 

アスランの説明に、シュバルツが眉間に皺を寄せ、唸る。

 

 

 

その横で、シンが声を上げた。

 

 

 

「キラさんが!?」

 

 

 

オーブの慰霊碑で会った彼が、オーブ軍の准将でいる事にも驚きだが、彼からの命令でアスランがザフトに復隊した事も驚愕すべきことだった。

 

 

 

「ああ。君にもよろしくって言ってたよ、シン」

 

 

 

「で、でもオーブは!!」

 

 

 

内心は嬉しいシンだが、オーブ軍の行動には疑問がある。

 

 

 

シュバルツを引き渡すように言ってきた海域の時、オーブの領海の向こうでは地球連合の部隊が待ち構えていた。

 

「ーー連合と同盟を結ぶ方向に進んでいる。ただし、カガリ代表とキラ准将は大反対していてね。オーブの理念を信じた国民を裏切り、なんの説明もしないまま同盟を結ぶのか!ってね」

 

 

どこか誇らしげに言うアスランに目を丸くしながらも、シンは顔を輝かせた。

 

 

 

「ーーキラさん!」

 

 

 

その横で、レイが声を上げる。

 

 

 

「しかし、セイラン家他全ての有力議員が連合との同盟を結ぶ方向に進んでいるはず。いくらカガリ代表やキラ准将が反対したところでーー」

 

 

「君は世論に詳しいな。ーーそこで、俺の出番だ。俺はカガリのボディガードであり、キラの右腕として少佐の地位をもらっている。加えて、ザフトのフェイスの地位がある」

 

 

 

 

アスランがレイに向き直り、話をする。

 

 

 

「ーーなるほど……キラ准将の右腕が、オーブ代表の命令でザフトのフェイスになり、ミネルバに同艦すれば」

 

 

 

「オーブも迂闊に手出しはできなくなる、か」

 

 

 

その説明に、レイとシュバルツが頷く。

 

 

 

「ーーしかし、これではオーブを二つに分けてしまうことにならんか?はたして、前線に来る兵士達がこのような事情など聞かされて来るかどうかーー」

 

 

 

シュバルツの疑問ももっともだ。

 

 

 

「ーー詳しい話はタリア艦長としてください。私達がこれ以上口を出せる話じゃない」

 

 

 

「ーーそうだな。タリア艦長への説明の際、同席していただけますか、シュバルツ殿」

 

 

 

「わかったーーオーブからの客人という私の立場を考えれば当然だな」

 

 

 

レイが水を向け、アスランとシュバルツは一旦会話を切る。

 

 

 

 

 

シュバルツとアスランが艦長室の扉に向かうのを、案内が終わり見送るシンとレイ。

 

 

 

「ーーアスハは国の代表だろ? 代表が反対してんのに、何でオーブは同盟を結ぶんだ?」

 

 

 

「ーー政治は個人の意見や判断では動かない。国の利害関係もある。海洋国家であるオーブは、連合の加入国との貿易が主な収入源だ。おそらくは、アスハ代表を無視した他の議員のやり方だろう」

 

 

「それは、アスハと国民に対する反逆じゃないか!! 手討ちにしちまえよ、そんな奴ら!!」

 

 

 

「ーーシン、時代劇の見過ぎだ」

 

 

 

相棒の最近偏り出した知識に、レイが頭を抑える。

 

 

 

余談であるが、シュバルツの影響で、忍者に興味を持ったシンは、日本の時代劇をよく見るようになっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

艦長室に来たアスランとシュバルツ。

 

 

 

彼らの報告と議長から預かってきたという自分用のフェイスの金飾りを見合わせ、タリアはため息をついた。

 

 

 

「ーーつまり、アスラン少佐はオーブ軍でありながら、フェイスの権限を持って、ミネルバの護衛をしてくださる、という訳ですね?」

 

 

 

「ーーはい。身勝手なことは重々承知していますが、現状では、これ以外にカガリ代表のあなた方への意志表示ができないのです」

 

 

 

「ーーそれは構わないのだけれど……分かっているのかしら?あなたやカガリ代表のしていることは、オーブという国を分けることなのよ?それも下手をすれば、連合が攻め入る口実さえ与えかねない程のーー」

 

 

 

 

 

責めるかのようなタリアの指摘に、アスランが背筋を伸ばし、正面から目を見据えて言う。

 

 

 

「艦長ーー連合にも話のわかる方はたくさんいます。戦争を望んでいるのは、一部の人間です。大多数の人は、戦争に嫌気がさしています」

 

 

 

 

「一部の人間?」

 

 

 

「軍事産業複合体ーーロゴスです。自分は彼らを連合からあぶり出す為に、この船に同席させていただきます」

 

 

 

「あなた、ロゴスをーー!?」

 

 

 

彼の告げたことは、個人が世界に喧嘩を売るような、途方もない話だった。

 

 

 

「分かっているの? ロゴスは実体があるのかすら分からない軍事産業複合体なのよ?決して表には出ずに、裏から戦争を操る団体なのよ?それをあぶり出すなんてーー!!」

 

 

 

 

 

地球連合を裏から操り、ブルーコスモスの温床ともなるロゴスを撃つなどーー

 

そんなことができれば、とっくにできている話だ。

 

 

 

できないから、未だに存在する。

 

 

 

簡単に滅せるような存在ではないのだから。

 

 

 

「すまないが……アスラン、タリア艦長。ロゴスとは、どんな存在なんだ?」

 

 

 

すくっと、律儀に右手を上げ質問するシュバルツに、タリアが僅かながらトーンダウンして答えた。

 

 

 

「民間人の貴方が知らないのは無理もないわ。我々ザフトの間でも、噂の域を出ない存在だもの」

 

 

 

「その名の通り、軍事産業複合体です。簡単に言うなら、戦争を商売にする死の商人の組織」

 

 

 

アスランもタリアに続いて説明する。

 

 

 

彼らの説明に、シュバルツはなるほど、と一つ頷いた

 

 

 

「昔、シュウジ達と共に倒した犯罪集団『カオス』のような秘密結社か」

 

 

 

「カオス? 奪われた3機の内の1機がどうかしたの?」

 

 

 

シュバルツの呟きにタリアが反応した。

 

 

 

それにシュバルツは一瞬目を丸めた後、笑う。

 

 

 

「ーーそうか、マスターの弟子の1人の機体がカオスと言うのか! ふふ、奇妙な縁だな、東方不敗よ」

 

 

 

僅かに覆面から見える目元を緩ませ、笑ってみせるシュバルツに、アスランとタリアは首をかしげた。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

時は少し遡る。

 

 

 

アスランが、プラントでセイバーガンダムを受け取り、オーブに入った際、オーブ軍の可変型MSムラサメにスクランブルをかけられ、問答無用で危うくオーブから追い出されるところだった。

 

 

 

「ーー待ってくれ! こちらに戦闘の意志はない!! 貴軍で整備されているザフト艦ーーミネルバと合流したいだけなんだ!!」

 

 

 

「ミネルバは、つい先日に出航した! もういないミネルバをダシに使うなど間抜けすぎるぞ!! これが最後だ、この通告を無視すれば攻撃をーー」

 

 

 

 

 

ムラサメのパイロットからの無慈悲な通信が伝えられていた時、第三者の声が割って入ってきた。

 

 

 

「待ってください!!彼は、オーブ軍のアスラン・ザラ少佐です」

 

 

 

 

「ーーキラ!? それにフリーダム!?」

 

 

 

青い翼を持つ機体は間違いない。

 

 

 

ヤキンドゥーエを戦い抜いたフリーダムだ。そして、先ほど割り込んできた声の主もーー

 

 

 

「ヤマト准将! しかし、こいつはザフトのーー」

 

 

 

「連合との同盟は、まだ正式なものじゃないし、彼は実際にカガリ代表の護衛をしているアスラン・ザラ少佐です。問題ありません。彼は、このまま僕が案内しますから、あなたがたは任務に戻ってください」

 

 

 

 

「「「ははっ!」」」

 

 

 

 

 

キラの言葉に、3機のムラサメのパイロットがモニター越しに敬礼すると、去っていった。

 

 

 

「キラ、これは一体?」

 

 

 

「それを説明したいから、今から僕とカガリの所に行こう。色々話したいことがあるんだ」

 

 

 

「わかったーー」

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

アスハの屋敷に着いたキラとアスランは、MSデッキにお互いの機体を収容し、客間に向かう。

 

 

 

アスランは、カガリの屋敷に向かう道中でキラから現在のオーブの状況を聞いた。

 

 

 

「それじゃ、カガリは孤立しているのか」

 

 

 

「うん、完全にね……カガリの意見に耳を傾ける議員は、今のオーブにはいない」

 

 

 

「それじゃ、カガリやお前はどうするんだ? 」

 

 

 

「今、話せるところから話すとしたら、連合との同盟をやめさせる為に、やれることをやる。例えば、連合との繋がりの薄い国との貿易交渉。プラント最高評議会との国交も視野に入れてる」

 

 

 

 

 

客間に入り、向かいのソファに座るキラの言葉に、アスランは目をギョッと見開いた。

 

 

 

「本気で言ってるのか、キラ!? プラントと同盟を結べば、オーブはーー」

 

 

 

「間違いなく連合ーーいや、ブルーコスモスの攻撃対象になるね。でも、それは今の状況も変わらないよ。連合との同盟を拒否すれば、間違いなくブルーコスモスはプラントと同じくオーブを撃つと思う。連合とプラント、どちらを選んでも結果は同じなら、僕たちは戦争を止める為に戦う。戦争を引き起こそうとする連合のやり方には同意できない」

 

 

 

 

 

 

 

キラの言葉を反芻しながら、アスランは対面の席に着く。カガリは所用で遅れているらしい。

 

 

 

コーヒーを出してくれた給仕が教えてくれた。

 

 

 

だから、アスランは自分の頭の中にある疑問点をキラにぶつけていった。

 

 

 

「ーーキラは、デュランダル議長をどう思う? つい先日に、ラクスを暗殺しようとしたザフトの部隊がオーブに現れたらしいな?」

 

 

 

「ーーアスラン?」

 

 

 

「ーーデュランダル議長の手元には、議長のラクスーー偽者がいた」

 

 

 

アスランは頭を抱えていた。

 

 

 

「ーー連合もザフトも、きな臭いことは変わらない。表向きには、連合から一方的な攻撃を受けたことになってはいるが」

 

 

 

イザークの議長への評価、議長の傍にいたミーア、そしてザフト脱走兵の軍事力。

 

 

 

どれもが、きな臭い。

 

 

 

「誰を信じ、誰を選んでも、正解がない気がするーー」

 

 

 

「ーーアスラン」

 

 

 

キラもアスランの苦悩に頷く。

 

 

 

「ーー僕も、誰を信じていいのかは正直分からない。だけど、イタズラに戦火を広げる連合のやり方に同意する訳には行かない。オーブの理念を貫く為にも」

 

 

 

「確かに。いまの所プラントは、自分達からは攻撃を仕掛けてない。何よりミネルバには、カガリや地球を救ってもらったーー」

 

 

 

アスランがキラの言葉に頷いた時、第三者の声が割って入った。

 

 

 

「ーーデュランダル議長を信じる必要はないよ。利用すればいい。連合からの攻撃を避ける為にね」

 

 

 

どこかで聞いた覚えのある声だが、どこで聞いたか思い出せない。

 

 

 

つい最近の話のはずだが……とアスランは首を傾げた。

 

 

 

現れたのは、2メートル近い長身にワイシャツと黒のパンツ、青いコートを着た黒髪の青年だった。

 

 

 

「はじめまして、アスラン君。俺の名はキョウジ・カッシュ。キラ達の参謀役をさせてもらっている」

 

 

 

「ーー参謀?」

 

 

 

アスランの問いかけに軽く頷き、続ける青年。

 

 

 

「ーー君には、まずミネルバと合流してもらいたい。俺たちの目的の一つに、ロゴスを討つことが挙げられるからね」

 

 

 

キョウジ・カッシュと名乗る青年の作戦に、アスランはその壮大さと大胆さと緻密さに目を大きく見開いた。

 

 

 

自分やキラでは、まずできない。

 

 

 

広い視野を持ち、柔軟性に富んだ、見事な軍略を彼は展開していた。

 

 

 

得体の知れない青年に全てを託すのは、疑問がないわけではなかったが、現状彼以上の案は考えられなかった。

 

 

 

何よりアスランには、なぜか彼の声に温かみと親しみを感じられた。

 

言葉だけで信じることができるカリスマ性(これはデュランダル議長にもある)も感じるが、それだけではない。

 

 

 

自分は知っているのだ、彼は信用していい、と。

 

 

 

しかし、どこで彼を知ったのか思い出せず、結局、懊悩するアスラン。

 

 

 

「ーー綺麗事や理想論だと笑いたい者は笑わせればいい。俺たちにはできる能力があるんだ、世界は変わる可能性があるんだ、と。その者達が無視できないほどに示せばいい。その時にわかるさ。誰が信じられるのかが、ねーー」

 

 

 

 

穏やかな笑みを浮かべながら、どこか不敵な表情で、彼ーーーーキョウジは笑った。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

一連の事を思い返し、アスランはタリアを見据える

 

 

 

「ーー夢物語かもしれません。俺たちの言ってることは、イタズラに人に夢を見させた結果、信じてくれた人を裏切る事になるかもしれないーー!それでも、俺たちはやり遂げてみせるーー!!」

 

 

 

 

 

タリアは、その目を真っ向から見返し、フーッとため息をついた。

 

 

 

「ーー思いや気持ちだけで、理想が実現できたら素敵だけど、貴方の言ってることは感情論です。具体的な指針が何一つーー」

 

 

 

 

「ーーいや、その意気だ!」

 

 

 

タリアの言葉を遮り、アスランに声をかけたのはシュバルツだった。

 

 

 

「確かに夢物語のようなことかも知れん。それでも、力なき人々が涙を流すのを見過ごせぬならば、その想いが強いならばーー!! 必ずやり遂げてみせよ、アスラン!! 私もあらん限りの力を貸そう。組織を相手に情報を集めるのは得意だからな」

 

 

 

 

 

「ーー最初から当てにしていました。キョウジさんの計画では、貴方の掴む情報こそが鍵だと」

 

 

 

 

そう言いながら、アスランはメモをシュバルツに渡した。

 

中身を確認し、シュバルツの目が覆面越しに強張る。

 

 

 

「ーーフフフ、キョウジめ!全く、人使いの荒い奴だーー!!」

 

 

 

 

はたから見ればただのメモ書きでしかないソレを、シュバルツは大事そうに懐にしまう。

 

 

 

そして、覆面の下で不敵な笑みを浮かべたのだったーー。

 

 

 

こうして、オーブ軍アスハ派のアスラン・ザラ少佐が、ザフトのフェイス権限でミネルバに復隊することになった。

 

 







みなさん、お待ちかね〜!!

カガリ達の奮闘空しく、オーブは連合との同盟に踏み切ろうとします。

ところが、中々返答をして来ないオーブに苛立ったブルーコスモス率いるファントムペインが、オーブ軍へと恐喝を兼ねた攻撃を行うのです。

その時、自由の翼と光の武士が、オーブ軍を守る為に現れたではありませんか!?

次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第24話に!

レディー、ゴー!!


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第24話 動き出すキョウジ

「ーーじゃあ、どうすればいい!?」

にべもない妻に、ドモンがついに声を張り上げた。
それにレインが顎に指をやり、考えながら答えた。

「ーーそうね。
多分、シャイニングガンダムとゴッドガンダムなら、ギアナ高地の時の繋がりや、アルティメットガンダリウム細胞で共鳴できるから、ドモンがゴッドガンダムに乗って明鏡止水の境地を使えば、シャイニングガンダムの所へ行くこと自体は可能よね」

ただし、同じ世界であればの話だが。

次元を越えた前例がないので、確実とは言えないし、行けたとしても、ドモンやゴッドガンダムに二度と会えなくなる可能性もある。

ーーあり得ない。

レインやライジングガンダムにとって、それはあり得ないことだった。

しかし、今にも泣きそうと言うか、駆け出しそうな夫をみて、何も感じないほど、レインは鬼ではない。

「ーーカッシュのおじ様。いいえ、お父様に相談してみましょう。亜空間回路に詳しいお父様なら、次元の壁を越える方法を教えてくれるかもしれないわ」

「ーーそうか!
ありがとう、レイン!! なら、早速父さんに!!」

「私も一緒に行くからねーー」

振り返り出て行こうとするドモンににべもなく、レインが告げた。

カッシュ家は、今日も平和であったーー。



さて、皆さん。

シュバルツ達と無事に合流したアスラン

一方で、カガリ達も選択を迫られます。

そう、連合からの同盟という名の脅迫を。

そんな中、キョウジは、キラとカガリに提案するのです!!

自由を勝ち取るためにーー

それでは、ガンダムファイト!

レディー、ゴー!!






 

時は少し遡る――

 

 

 

「――まずは力を示そう。自分たちには、できる力があることを世界に示そう。

 

 連合やプラント、どちらと同盟を結ぶつもりにしろ、力が無ければ同盟相手には足元を見られる。

 

 連合ならば、施設の運用やオーブの技術は欲しいだろう。

 

 ザフトならば、オーブの人材が必要だろうね」

 

 

 

 オーブ本島にあるカガリの屋敷に会した一同は、カガリの隣に立つ客人、キョウジ・カッシュに首を向けて円陣を組んでいた。

 

 ここにはカガリが真に信頼できる者だけが集まっている。准将キラ、アークエンジェル艦長マリュー、副艦長バルトフェルド、海軍司令官トダカ一佐、イズモ級多目的宇宙艦艦長アマギだ。

 

 会議室の長机にはオーブ近海のホログラムが投影され、室内をほのかに照らしていた。

 

 青白い光を頬に受けるキョウジが、落ち着いた声で続けた。

 

 

 

「作戦はまず、連合との同盟の返事を延ばす。おそらく連合のブルーコスモスは、ホトトギスが鳴くまで待たない。力づくで鳴かせようとするか、潰しにくる。そのときの攻撃理由は、おそらくオーブの軍事力だ。オーブは、連合に従属せずに強大な兵器を隠している恐れがあるという口実――動機を作るだろうね。ユニウス条約に違反するフリーダムの存在は、彼らにとって渡りに船。こちらはそれに備えておけばいい」

 

「つまり、フリーダムを連合がオーブを攻撃する餌にしようっていうのか? こちらから手を出す形ではないが、本当に連合は――いや、ブルーコスモスの連中なら脅迫してきかねん」

 

「連合がいつ、どこで攻撃してくるのか。そのくらいの情報は握っておかなければ、カガリの私軍で圧倒的戦力差を覆すことはできませんよ。バルトフェルドさん。

 

 ――ホログラムを見てください。この光の点線は、連合商社がおもにオーブ入国の際に使っている海路です。そのなかでも、大連隊が通れるルートを割り出しました。地元の漁師さん方の話によれば、この海域は潮の流れが非常に早い。二つの海流がぶつかるので、魚も大量に採れるとか。

 

 間違いありませんか? トダカさん」

 

「確かに、そのあたりは常時海流がぶつかり、潮の満ち引きによって波の激しさが増す。魚も波が激しければその流れに餌を求めて集まるだろう――それが、なんだと?」

 

「恥ずかしながら、俺は連合の水上艦艇や潜水艦については渡されたカタログ以上のことは詳しくありません。だがオーブ軍で使われているイージスシステムが連合製なら、トダカさん。仮に連合軍がこのルートで侵入してきたとき、こちらで水上展開しているオーブ軍を察知できるのはどのあたりですか?」

 

 

 

 キョウジは海図を示し、オーブ軍の位置をペンでマークする。

 

 そのあと、色違いのペンを受け取ったトダカは、思案顔を浮かべながらも海図にペンを走らせた。

 

 

 

「――そうだな、我々オーブ軍の潜水艦や海上艦のレーダーならば、おそらくはマークサンマル・距離はグリーンまでならば見れるはずだ。仮にタケミカヅチでレーダー索敵したとすると、だいたい、この辺りか」

 

「では、空戦に対する索敵は? マリューさん、アマギさん」

 

 

 

水を向けられた二人は、それぞれアークエンジェルとウズモ級の多目的宇宙艦の目を色分けされたペンで海図に示した。

 

 最外縁を描くのは、やはり主力艦アークエンジェルである。わずかに並んでタケミカヅチが続き、イズモ級は一番近くまで寄られなければ気付けない。

 

 微笑むキョウジの隣で、カガリは息を呑んだ。まさしくいま目の前にある海図が、キョウジがカタログから割り出した各艦の視界を示す海図と、まったく同じだったのだ。

 

 

 

「ーーなるほど。では、今から俺が配るアンテナと端末を艦に装着させてください」

 

「キョウジさん、これは?」

 

「本当はあまり気が進まないんだが、俺が作ったものだよ。この世界の船の索敵よりもほんの僅かだけ優れている」

 

 

 

 言いながら、キョウジは右手をかざし、海図の隅に置いたコンピューターでアンテナを起動させた。

 

 

 

「トダカさん、使用してみてください」

 

「ーーこれはっ!」

 

 

 

 操作盤とレーダー画面が一体になった簡易小型端末を見つめて、トダカが息を呑む。アンテナは、実験的にカガリ邸の屋根に取り付けられたものだ。馴染み深いレーダー画面の縮尺目盛が、ひとつ増えている。つまりこのアンテナの索敵範囲は、オーブ軍の中でも最高峰に位置するタケミカヅチよりも二百メートルほど優れていることになる。

 

 

 

「実戦配備できるのか? 固定されているものと、動くものでは、勝手が違うぞ」

 

 

 

 興奮を抑えようと努めたが、声の端が震えていた。

 

 索敵対象もそうだが、こちらも動くのだ。アマギの不安は当たり前のものだった。

 

 

 

「すでに、キラ准将に確認してもらっています」

 

 

 

 皆の視線がキラに向くと、キラは曖昧な笑みを浮かべた。

 

 

 

「ーーなんていうか、僕たちよりの性能にまで、大分スペックを落としてもらってーー」

 

「その分、他のものをご用意できましたよ」

 

 

 

淡々と自信有り気に笑うキョウジに、皆が絶句した。

 

 

 

「――君は、一体、何者なんだ? 准将にまで、認めさせる程の科学知識やアンテナの作成技術を、一体どこで?」

 

「昔、趣味で弟とMSを組み立てたことがありまして。その時の杵柄です」

 

 

 

次に渡されたのは、奇妙な浮きを装備した砲弾だった。

 

 

 

「俺の国(世界)で作られている霧発生装置です。アンテナの経費を抑えられたので、作戦に必要そうなものも作ってみました」

 

 

 

笑いながら述べる彼は、周りが血の気を引いていることに気づいているのかーー?

 

 

 

「その霧は特殊なもので、レーダーの類もジャミングし、殺します。

 

肉眼なら5メートル見えたら良いところでしょう。

 

無論、俺が作ったアンテナとレーダーならば、問題なく索敵できますが」

 

 

 

この言葉に再び皆がキラを見ると、彼は居心地悪そうに笑いながら、こたえた。

 

 

 

「はい。間違いありません」

 

 

 

「「「「ーーーーーーっ!?」」」」

 

 

 

言葉もないとは、まさにこの事だろう。

 

キョウジはそんな皆の反応を気にもせずに、続けて語りだす。

 

 

 

「皆さんにお願いがあります。

 

 

 

 

 

完膚なきまでに、連合を叩き潰してください」

 

 

 

「ーーおいおい、キョウジ。敵がどれだけの数で来るかーーー」

 

 

 

「おそらくは、2年前オーブのマスドライバー『カグヤ』を強奪しに来た時程度の数です。

 

ブルーコスモスは、いつでもそれぐらいの連合艦隊を動かせると推定しています。

 

つまり、俺たちがこれから挑む相手は、このぐらいは容易くできる相手なんです」

 

 

 

バルドフェルドの言葉に、間髪入れずに返す。

 

またしても周囲は、黙らされる。

 

 

 

「それだけの数を相手に、MSのパイロットが10に満たないこの部隊で喧嘩を売り、完膚なきまでに勝利しなければなりません」

 

キョウジの口調は穏やかであるが、その目や発言内容は、厳しく妥協がない。

 

 

 

「皆さんは、イージス艦や戦闘機の類に至るまで、一つ足りとて落とされてはいけません。

 

また、オーブの国土に連合を一歩たりとも踏み入れさせてはなりません。

 

生きて帰るなんて、語るまでもない。

 

この部隊に配備され、参加する以上の鉄の掟です」

 

 

 

 ――戦争で、人が死ぬのは当たり前。

 

 

 

 ――後進の為に落とさねばならん命もある。

 

 

 

それらの意見をキョウジは、目で封殺する。

 

 オーブの理念を通すには、『普通』ではいられないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

海洋国家オーブにて

 

 

 

いま、アスハ派である軍人達が、靴を揃えていた。

 

 

 

数は、50人ほどーー。

 

 

 

オーブ軍約十五万人のうち、0.0003パーセントに満たない人数である。

 

 本土防衛軍のなかでも真に信頼のおける者、さらには口頭での有志募集をたった数日間で行うとなれば、無理もないが、MSを操れる人間は、この内でも10人を切っていた。

 

 

 

それが、今のカガリの支持者であり、オーブの現状だ。

 

 

 

「ーーすまない。

 

 キラ、みんな。これが今の私の支持者達全てなんだ」

 

 

 

事前に話していたとはいえ、集まった人々をガラス越しに見据えて、カガリは申し訳なさそうに目を下げる。

 

 

 

オーブ代表の支持者が、僅か50人程度では、話にならないのは、子どもでもわかることだ。

 

 

 

「謝らないでよ、カガリ。50人も来てくれたんだ。僕たちと一緒に夢を見ようとしてくれる人が。

 

充分だよ」

 

 

 

 キラの励ましも、カガリには辛いことだった。

 

 

 

 軍人である彼らにも、生活があり、家族がある。

 

 

 

 いくら職務とはいえ、オーブを二つに分けるような真似をしている自分を支持させている事実。

 

 

 

 ロゴスやデビルガンダムという脅威とこれだけの人数で挑まなければならない事実。

 

 

 

 そして、連合との同盟を破棄した所で、国が晒される脅威が増えるだけという事実。

 

 

 

 何一つ、今から自分たちがすることは、国や民のためにはならないのではないか、そんな疑問がカガリの頭には湧いては消える。

 

 

 

 弱い自分に苛立ち、振り払おうにも、命や国の重さが、彼女を縛り付ける。

 

 

 

「カガリーー」

 

 

 

 血を分けた双子ゆえか、キラには彼女が苦しんでいるのがわかる。

 

 

 

 だが、すでに道は進まなければならない場所に来ていた。

 

 

 

 今更、立ち止まれない。

 

 

 

 キラは、目を閉じーー自分にも言い聞かせる。

 

 

 

 震える膝を、必死に止める。

 

 

 

 ロゴスを討つーー、それを成功させた後に、デビルガンダムを囲うデュランダルとも対峙しなければならない。

 

 

 

 どれだけ困難か、考えなくても分かる。

 

 

 

 それでも、自分は選んだんだ。

 

 

 

「また、考えているのか? キラ、カガリ」

 

 

 

 必死に自分を奮い立たせようとするキラ、先の見えない恐怖と不安で涙さえ流しそうなカガリに、穏やかで温かな声がかけられた。

 

 

 

「ーー私たちだけなら、構わないんだ。覚悟もある。だけど、ダメだ。

 

 国や民の生活がーー。

 

 軍人達にだって、帰りを待つ人がいるのにーー」

 

 

 

 震えながら、涙を流しながら、カガリは声の主ーーキョウジ・カッシュに向かい自分の考えを述べた。

 

 

 

 ここまで来て、何をーー。

 

 

 

 そう思う人間は、この場にはない。

 

 

 

 皆が、カガリと同じ不安を持っている。

 

 

 

 連合との同盟を結べば、目先の不安は解消されるだろう。キョウジは、穏やかに頷きながら、カガリの前に立つ。

 

 

 

「ーーカガリ」

 

 

 

 怒鳴られると思っていたのか、カガリは意外そうに目を丸めてキョウジを見た。

 

 

 

「君は、オーブという国が大事だよね。そこに住む人々の命が」

 

 

 

「ーー当たり前だ。私は、幼い頃から、お父様にそう教えられてきた」

 

 

 

 誰よりも敬愛し、大切に思っていた父は、先の大戦で自分たちに全てを託し、逝った。

 

 

 

 言わば、このオーブという国は、民の命は、カガリにとって、父の形見であり、分身でもある。

 

 

 

 それを自らの手で守れない現実は、彼女には余りに辛いものだった。

 

 

 

「ーーだけど、カガリ。連合と同盟を結べば、何が待ってると思う?

 

 今までのようにーー君のお父さんが生きていた頃のような生活ができるかな?

 

 オーブの軍人達は、どうなるだろう?

 

 ブルーコスモスの息のかかった連合軍は、オーブに住むコーディネーターの人達をどうする?」

 

 

 

「ーー同盟なら、私たちの生活までは」

 

 

 

「これは、普通の同盟じゃないんだ。

 

力関係の大小がある以上、対等ではないし、強制されている時点で、正当でもない。

 

同盟ーーという言葉に騙されてはいけない。

 

要は、支配だ」

 

 

 

その言葉を穏やかながら、淡々と返すキョウジに、皆が息を呑んだ。

 

 

 

「それが、連合ーーいや、ブルーコスモスだろ?

 

色々調べたが、彼らはコーディネーターを滅ぼすためなら手段を選ばない。

 

2年前のアラスカの連合基地地下のサイクロプス然り、ムルタ・アズラエルによるオーブのマスドライバー略奪の為の侵攻然り、ね」

 

 

 

キョウジの言葉に誰もが、何も言えない。

 

 

 

そんなことはない、とはーー。

 

 

 

「俺たちがこれから行うことは、ロゴスを討つことだけじゃない。

 

手段を選ばないブルーコスモスの息のかかった連合から、どうやって国を守るのか?

 

 カガリ。君が今からすることは、君を信じてくれた兵士たちを共犯者にすることだ。

 

 連合という一大勢力にケンカを売るんだから、悪党の方がいい」

 

 

 

「おい、キョウジーー」

 

 

 

「連合との同盟の危険については、先に語ったとおりだ。対してプラントとの同盟に関しては、こちら側に利がある。

 

例えばーープラントにこう交渉してみてはどうかな?」

 

 

 

 困惑気味に止めに入ったバルトフェルドを視線で制し、キョウジは一つ咳をすると、芝居掛かった仕草で語り出した。

 

 まるで目の前にギルバート・デュランダルがいるかのように振るまう。

 

 

 

「2年前の戦災に遭った人々を匿っていただき、本当に感謝しています。

 

 つきましては、彼らの働き口と住む場所がようやく整いました。

 

 オーブに帰国したい方々に是非ともご連絡ください」

 

 

 

 その後に自分たちの方を見て告げた言葉が、絶句させるものだった。

 

 

 

「オーブの技術を得たプラントは新しい技術を導入し組み立てているはずだ。

 

 2年なら、ちょうど浸透し始め、お互いの技術の発展を科学者や技術者なら考える。

 

 だが、このタイミングで帰国したい者はして欲しいと訴えれば、どうだろう?

 

 まだ2年しか経っていない彼らは、国への懐かしさから、帰国する。

 

 当然、技術者が一気に抜ければ作成中だった技術も、とんざする。

 

 だから、オーブに帰国した後も、その技術者たちをプラントへ派遣することを認める代わりに、同盟を提示する。

 

 少なくとも、お互いに技術を提供し合える分、連合よりは建設的だし、対等だろう」

 

 

 

キョウジの説明を受け、カガリは目を大きく見開いた。

 

 

 

「――それでは、お父様の理念に反する!」

 

 

 

「オーブはなにごとも中立であれ、だね。だがカガリ、君は理念のためなら戦災に見舞われ、プラントに避難した国民を見捨てるのかな? オーブを出れば、もう彼らはオーブの民ではない?」

 

 

 

 その言葉を聞いて、カガリはハッとした。

 

 思い出すのは、ミネルバで出会った赤い瞳の少年ーーシンだった。

 

 蒼白になったカガリの顔を見て、キョウジは静かに微笑んだ。

 

 

 

「そうだね、カガリ。

 

 君のまっすぐで純粋なところが、民衆を惹きつける。でも、それだけじゃあダメだ。君たちが守りたいもの、譲れないものを守るためには、覚悟を決めなきゃならないこともある。そのために君はいま、なにをしなければならない?」

 

 

 

カガリはしばらく目を丸くしてぱちぱちと瞬いていたが、凛と眉に力を込めるや、「ありがとう、キョウジ……っ」と零してガラス戸を開け、集まった人々の前に立った。

 

 

 

「ーーみんな、本当に私たちと来てくれるのか?

 

私たちは、下手をすれば国を守るどころか滅ぼすかもしれないんだぞ?

 

そんな私たちに、本当に力を貸してくれるのか?

 

命を、預けてくれるのか!?」

 

 

 

カガリの切実な言葉に、陣頭に立った、白髪が混じり始めた壮年の男性トダカが、帽子を脱ぎ、告げた。

 

 

 

「ーーカガリ様、確かに、カガリ様のおっしゃる言葉の難しさは、理解しているつもりです。

 

しかし、国を焼かれたことを、私は忘れておりません。私の目のまえで、無残に殺された家族のことを。

 

生き残った少年の慟哭を、私は忘れられません。

 

この国が、あのような輩と同盟を結べば、必ずあの少年のような被害者が増えるでしょう。

 

私は、私達は、貴女に従います、カガリ様!」

 

 

 

彼の強い言葉に、皆が次々と頭を下げ、カガリの名を呼ぶ。

 

 

 

「ーーすまない。みんな」

 

 

 

涙を流しながら、カガリは辛うじてそう告げた。

 

 感極まった少女は、だが首を左右に振って乱暴に白い軍服の袖で顔を拭う。

 

 彼女は宣言する前にもう一度、キョウジを見ると、優しく微笑み力強くうなずく彼を見て、大きくうなずき返した。

 

 

 

 ――本当は、彼女もわかっている。

 

 『いま、なにが必要なのか』を。

 

 

 

 そのための覚悟を、この気高い精神たちを前に、ついに決めたのだ。

 

 力強く前を見据えた国家代表は、凛々しく言い放った。

 

 

 

「ーー私たちは、当たり前の部隊では意味がない。雲をも掴まなければならない部隊だ。

 

 オーブを守り、ロゴスを倒し、プラントにも世界にも中立国家であるオーブの在り方を示し、確立しなければならない!

 

 そのためには、敵を倒し、こちらは無傷であることを思い知らせなければならない!

 

 私は力を振るう覚悟を決めた! 力だけでも、想いだけでもない、完全中立国家となるためにだ!

 

 理想論?

 

それがどうした!

 

現実は違う?

 

当たり前だ、そんなことは!

 

だが、だからこそ、示さなければならないんだ!

 

 ーーオーブに手を出せば、どうなるかを!

 

 連合やプラントに示すことができなければ、オーブは一生、食い潰され利用される! 過去のブルーコスモスーー連合のやり方、そしてプラントへの国民の移住が……我々の敗戦が、示している!」

 

 

 

 そして、カガリは作戦を語る前に、この部隊の有り様と覚悟について、ハッキリと宣言した。

 

 

 

「いいか、私たちは勝つ!

 

 勝って、世界に脅威と取られようとも、力を示すんだ!

 

 世界が手出しできないほどの力を有し、示せば二度とオーブは狙われはしない!

 

 下に見られ、連合に強制されることも、宇宙に国民を上げなければならない事態にもならない!」

 

 

 

 そう、彼女も本当は知っていた。

 

 北アフリカでレジスタンスとして活動していたとき、世界をこの眼で見てきたのだから。

 

 彼女は、机を叩き、宣言した。

 

 

 

「ーーいいか、私たちは!

 

 『自由』を勝ち取るんだ!

 

 オーブという国に、本当の意味での『自由』を与える戦いだ!

 

 分かったら腹を決めてくれ!

 

 私とともに、このカガリ・ユラ・アスハとともにオーブの理念を体現する部隊になる腹を!」

 

 

 

 こうしてオーブーー海洋国家でありながら、中立を謳う国の存亡をかけた僅か50人に満たない部隊が成立されたのだった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

そして、今ーー

 

 

 

オーブの領海には、圧倒的な軍事力を持った地球連合軍の艦隊が、アークエンジェルを含めた僅か2隻しかないオーブ軍と対峙していた。

 

 

 

地球連合は、再三に渡る同盟要求を延期され続けたことに、痺れを切らし、オーブに兵を出したのだ。

 

 

 

ユウナ等、オーブで連合との同盟を支持していた大多数の政治家は、これにパニックを起こし、すぐさまカガリに同盟を飲むように働きかけてきた。

 

 

 

「ーーカガリ様、セイラン家のウナト様とユウナ様から通信が入っております」

 

 

 

「ーーわかった。繋げ」

 

 

 

カガリは、静かに椅子に座り直し、モニターを見る。

 

 

 

「ーーどういうつもりなんだ、カガリ! 審議を放っておいて軍を出し、連合と対峙するなんてーー!!」

 

 

 

「カガリ代表。ーー直ぐに、兵をひき、連合を迎え入れてください。同盟を結ぶ相手の機嫌を損ねるおつもりですか?」

 

 

 

ユウナ、そして父であるウナトからの言葉に、カガリは冷たい目を向けた。

 

 

 

「ーー私は同盟には反対したはずだが? 議会にもきちんと意見を通してきた。

 

お前たちだけの同意で、連合とは同盟を結べない。

 

まして、他国の審議や2年前の惨事や国内の状況さえ鑑みずに、いきなり軍隻を10も寄越すような連中とは、到底無理だ」

 

 

 

「ーー同盟を結べば、彼らは兵をひくだろ!!」

 

 

 

「こんなやり方をする奴等と同盟をして、食い潰されるつもりか、ユウナ?」

 

 

 

ユウナの叫びに、カガリは冷静だった。

 

 

 

ユウナの知るカガリとは、まるで別人だ。

 

 

 

「ーー同盟を結ぶにしろ、こんなやり方しかできないような連中とは、会談もできない。

 

こちらから、同盟を破棄する」

 

 

 

はっきりとした宣言が、オーブのカガリ・ユラ・アスハ代表の口から示された。

 

 

 

「ーーカガリ、君は連合に、今オーブを攻めさせるのか!? 僕たちは、逃げる準備さえしてないんだぞ!!」

 

 

 

ユウナがその言葉に、顔を青くさせ、抗議する。

 

 

 

そんな中、オープンチャンネルにしていた通信に連合艦隊からの通信が入る。

 

 

 

「ーーほほう、やはりオーブは何を考えているのか、よく分からん国だな。

 

同盟を結ばないのであれば、仕方ない。青き清浄なる世界のために、我々の進む道の障害となりそうなものを、排除しようーー」

 

 

 

ニヤリと無機質な笑みを浮かべて、宣言する士官に、ウナトが声を張り上げた。

 

 

 

「ーーお待ちください! 連合の士官どの!! これはカガリ・ユラ・アスハという個人が勝手に企てた、絵空事!!

 

オーブの意思ではありません!!」

 

 

 

「ーー父さん、何を!?」

 

 

 

ユウナが思わず声を荒げる、その横でウナトの言葉に、ますます愉快そうに、モニター越しの連合士官は笑う。

 

 

 

ウナトと彼は互いに見つめ合い、語り合う。

 

 

 

「ーーおやおや、オーブ代表ではないのかな? 彼女は?」

 

 

 

「ーーオーブとは何の関わりもありませぬ。オーブという国を私物化し、自分の理想を民に押し付けるだけの国賊でございます」

 

 

 

「ではーー、排除しても問題ないかね? この国賊を」

 

 

 

連合士官の言葉に、議員たちやユウナが、騒めくのを無視し、一瞬だけ歯を食い縛ると、ウナトは首を縦に振った。

 

 

 

「ーー無論です。国家反逆罪として、直ちに処刑を行いましょう!!」

 

 

 

「ーー結構。では、オーブのことゆえ、傍観するつもりであったが、乗り掛かった船だ。わたしの部隊で潰してあげよう。

 

同盟国オーブに巣食う、獅子身中の虫をね」

 

 

 

ニヤリと笑いながら、進軍を開始させる士官に、ウナトが声を上げた。

 

 

 

「ーーお言葉ですが! 同盟国である以上、私達の軍と法律で彼女達を裁かせていただきたい!!」

 

 

 

「部隊を招集する時間も惜しい。これっぽっちの小さな部隊など我々で充分だ。貸しにしてあげよう」

 

 

 

容赦なく、士官は船を前進させ、空には大覆い尽くすほどのウィンダムがある。

 

 

 

「ーー逃げられでもすれば、話にならないだろうしね」

 

 

 

ウナトの抗議も虚しく、一斉射撃が展開された僅かな部隊のオーブーーいや、アスハ軍を攻撃する。

 

 

 

圧倒的な物量。

 

 

 

圧倒的な数であったーー。

 

 

 

およそ、オーブ本国の半分にも匹敵するほどの戦力で、連合軍は同盟を急かしに来たことになる。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

オーブの青い空を、大天使の名を受けた一隻の船が舞っていた。

 

 

 

「ーーキラ君、この作戦では貴方が要よ。いつも通りで悪いけど、お願いするわね」

 

 

 

「ーー分かってます。いや、この作戦は、皆さんが要です。僕を含めた、みんながーー!!」

 

 

 

「ーーええ、そうね!!

 

 

 

ブリッジからのマリュー艦長の通信に微かに微笑み、キラは鋭い目になって外を見る。

 

 

 

愛機フリーダムとともに開いたカタパルトデッキに向かい、彼は宣言した。

 

 

 

「ーー希望の未来を勝ち取るために!

 

力を貸してくれ。フリーダム!!

 

キラ・ヤマト! ーーガンダム!!

 

行きます!!!」

 

 

 

オーブの青い海と空に、青き翼のガンダムが飛び立つ。

 

その背後には、オーブの海を一望できる高台で、光の戦神が腕を組んでいた。

 







みなさん、お待ちかね〜!!

オーブを少人数で守り抜くという土台無茶な戦い。

はじめは連合も、10に満たないキラ達のMSを見て、その3倍程度の数の拙攻隊を用意してきます。

しかし、キョウジの作り出したアンテナや霧の発生装置が、思わぬ活躍を見せ、加えてキラのフリーダムの実力に連合はついに本隊をぶつけてくるのです!!

次回機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第25話に!!

レディー、ゴー!!!


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第25話 キラの勇気とキョウジの頭脳

ギアナ高地のあばら家から出てきた親友夫婦に、チボデー達がおや、と目を見開く。

「お? どっかに行くのか、ドモン!?」

「チボデー、ジョルジュ、サイサイシーに、アルゴ! お前達、一体何故?」

それに年長者であるアルゴが、答えた。

「デビルガンダムが生きているのだろう? シャッフルの紋章を通じて俺たちも知ったのだ」

「貴方のことです。最愛の兄2人を助けに行こうとするのは、目に見えています」

「だけど、敵はあのデビルガンダムなんだろ? いくらアニキでも1人じゃ危ないよ」

「ーーて訳で全員揃って来た訳さ。感謝しろよ、ドモン!」

シャッフル同盟の仲間達の言葉に頷きながら、ドモンは頭を下げた。

「ーーいつも、すまない。お前達には、俺は甘えてばかりだ」

「水くせえこと言ってんじゃねーよ! 俺たちは、馬鹿騒ぎが好きなのさ! なあ、みんな?」

チボデーの返しに残りのシャッフルが頷く。

ジョルジュが、ドモンに問いかけた。

「それで、ドモン。どうやって異世界に行くのですか?」

「それなんだが、亜空間回路に詳しい父さんに相談するつもりなんだ」

この答えにアルゴが頷いた。

「なるほど、確かにドモンの父は、世界的な天才科学者。異世界に行く手がかりを見出すかもしれん」

「なら、早速、ネオジャパンコロニーへ行こうよ!!」

盛り上がるシャッフル達に、ドモンも力強く頷く。

「ああ! 俺たちシャッフル同盟の力、久々に見せてやろうぜ!!」

「「「「おお!!!!」」」」

そんな彼らに、レインがニッコリ笑いながら話しかけた。

「ところで、アルゴ。ジョルジュにチボデー?
貴方達は、ちゃんとナスターシャやお姫様、シャーリー達に説明してるのかしら?
もちろん、してるから異世界に行こうとしてるのよね?」

その言葉に、3人の表情( あのアルゴまでも)が固まった。

「もちろん、みんなにもメールしておいたからね?
お父様のところで皆に会えるの、楽しみだわ」

朗らかに笑いながら言うレインに、ドモン達4人が真っ青になる。

「なんか、レイン姉ちゃん怒ってねー?」

「そんなことないわよ、サイサイシー。
ただ、ドモンの妻である私がついていけないのに、貴方達は、何不自由なくドモンについていけるなんて思わないでね?」

「や、八つ当たり……!?」

戦慄するサイサイシーに、ニッコリ笑いながらレインが言った。

「サイサイシーも、ズイセンさんとケイウンさんに、きちんと説明しておいたからね」

「ーーげ!?」

未来世紀最強のシャッフル五天王ーー。

しかし、弱点は多いのである。



さて、みなさん。

キョウジの作り出した装置は、悉くここ、C.Eの世界の技術を凌駕します。

彼の装置とかつてヤキンを戦い抜いた英雄、キラ・ヤマトの力が、はたして連合の大艦隊を相手に何処まで通じるのか!?

それでは、ガンダムファイト!

レディー、ゴー!!



 

 

オーブの領海で、自軍の約3倍はある連合の拙攻隊を前にして、トダカは笑う。

 

 

 

「負け戦でも、それなりに意味があるとは思うが。

 

死なずに勝たねばならない戦など初めてだな」

 

 

 

それもただ、勝つのではない。

 

 

 

圧勝しなければならないのだ。

 

 

 

一機足りとて犠牲のない戦いなど、土台不可能だ。

 

 

 

余程文明が違うか、機体の練度ーー腕が違うかだろう。

 

 

 

「ーーカガリ様のために我々は死ぬ覚悟であったが、我々が死ぬことで、敵に気力を与えることになる、か」

 

 

 

謎の青年に、いいように言われてしまったが、結局彼の言葉を省みて、冷静に考えてみれば、それ以上の案は存在しなくなる。

 

 

 

連合と同盟を結ばないのであれば、遅かれ早かれ、戦うことにはなるだろう。

 

 

 

そうなれば、本国の政治家は騒ぐだけで何もできない。

 

 

 

彼らには、外交や交渉の能力はあれど、国を守る能力はないのだ。

 

 

 

ただ1人、カガリ・ユラ・アスハを除いて。

 

 

 

「ーーみんな、これまでにない、厳しい戦いだ。我々は、この戦力差で、圧勝しなければならない。

 

一機も落とされることなく、だ」

 

 

 

トダカの言葉に、皆が頷く。

 

 

 

「ーーすまないな。では行こう!!

 

タケミカズチは、所定の位置に着いた。アークエンジェルとフリーダムに合図を!!」

 

 

 

「ーーアークエンジェルから連絡! フリーダム、発進します!!」

 

 

 

「ーー頼むぞ。我々の希望の翼よ」

 

 

 

トダカの言葉に、タケミカズチのブリッジにいる者達は皆、頷いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

アークエンジェルから発進したフリーダムを確認した連合は、30機のウィンダムを使い、ビームライフルや、スティレット投擲噴進対装甲貫入弾と言った実弾兵器を雨霰のように放ってきた。

 

 

 

「ーーSEEDを使って、一気に叩く。悪いけど、あまり時間はかけてられない!!

 

僕たちの方が、不利だから!!!」

 

 

 

キラの中で、青い光の種が弾ける。

 

同時に反応速度や、射撃能力、格闘技術などが一気に跳ね上がり、フリーダムの全射撃武装を使って、敵の攻撃を相殺して見せた。

 

 

 

バババババァンッ

 

 

 

宙空で、破裂する様々な色の火花は、フリーダムが相殺した敵の攻撃だ。

 

 

 

見事にアークエンジェルやタケミカズチに直撃するコースだけを叩き落としている。

 

 

 

「ーー確かに、数は多いけど、射撃性能もタイミングもバラバラだ!

 

デビルガンダムに比べたらーー!!」

 

 

 

キラにとって、あの悪魔との戦いで生き延びた経験は、今まで否定してきた自分の実力に対する自信を与えていた。

 

 

 

「ーーどれだけ数がいたって、同じ人間なら、負けない!!」

 

 

 

サーベルを抜き放ち、一気に3機のウィンダムを落とす。

 

 

 

音速を超えたフリーダムの動きについていけるパイロットなど、まずいない。

 

 

 

たった一機でありながら、正に一騎当千の力を、キラ・ヤマトは示していた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

当然、連合側にとってみればあり得ない映像が流されている。

 

 

 

にわかには、信じられない現象だ。

 

 

 

2年前の機体に、量産機とはいえ連合の最新型の機体が次々と落とされていくなど。

 

 

 

「ーーなるほど、流石はフリーダム。

 

鮮やかなものだ」

 

 

 

それを連合の士官はニヤリと笑いながら見ている。

 

 

 

「ーー隊長、あれを落とすのですか?」

 

 

 

通信兵の当たり前の質問に、彼は冷酷な笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「当たり前だ。あれは連合に脅威となる敵対組織だ。母艦を狙えーー。それと同時に、どこでもいい。

 

オーブの本土を撃て。

 

それで、奴の動きをある程度読める」

 

 

 

「ーーははっ!」

 

 

 

連合士官は蛇のような目を光らせながら、舌舐めずりをしていた。

 

 

 

彼もまた、地球連合独立機動軍に所属する、ブルーコスモスの息のかかった部隊。

 

 

 

ファントムペインの出身者であった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「ーーまさか!?」

 

 

 

鋭敏なキラの感覚は、敵の狙う対象を正確に把握する。

 

 

 

「狙いは、アークエンジェルとオーブか!!」

 

 

 

アクロバティックな動きで、頭を海面に向けた状態でホバリングし、フルバーストを放つ。

 

 

 

アークエンジェルや、本土を直撃するコースだけを狙い落とした。

 

 

 

瞬間だった。

 

 

 

敵のMSの一団は、アークエンジェルでもフリーダムでもなく、オーブ本国にバーニアを吹かしながら、一気に向かい、ビームライフルを放つ。

 

 

 

「ーー同盟国と口では、言いながら、やることはそれか!!」

 

 

 

怒りに身を震わせながら、キラはフリーダムを高速で動かす。ビームを放つ寸前の敵は切り捨て、間に合わないものは、フルバーストで打ち落す。

 

 

 

「ば、バカな!?」

 

「ーーな、何なんだ、こいつは!?」

 

 

 

正確な射撃と、圧倒的な機動力、そして格闘センスを見せつけられ、連合のパイロットたちは、恐慌状態に陥った。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

対する連合士官は、ほくそ笑んでいた。

 

 

 

「ーーやはりフリーダムは、オーブ本土を守るか。

 

ククッ」

 

 

 

確かに圧倒的な力を誇る機体だ。

 

 

 

だが、弱点が多過ぎる。

 

 

 

「ーーオーブを撃て」

 

 

 

「ーーし、しかし!!」

 

 

 

士官の非情な指令に、連合艦内にも衝撃が走る。

 

 

 

同盟国であり、民間人も退避していないであろうオーブを積極的に狙うなどーー。

 

 

 

「カガリ・ユラ・アスハ率いるテロリストを倒すための、尊い犠牲だ。

 

奴らを倒せば、話は丸く収まるさ。オーブもバカじゃない。犬コロが噛みつかないように、きちんと牙を折らんとな」

 

 

 

ニヤリと笑いながら、士官は狙撃兵に伝令する。

 

 

 

「各砲座、しっかり狙えーー!!

 

ただし、あまり明らさまにはやるな。世論などどうとでもなるが、対面的な絵面もある」

 

 

 

悲劇的な絵面を作り出し、全ての責任をカガリ率いるテロリストに押し付ければ、何の問題もなく話は終わる。

 

 

 

いつも通りの情報操作を考えながら、連合士官は蛇の目を光らせた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

結論から言う。

 

 

 

キョウジ・カッシュと言う男は悪魔のようだった。

 

 

 

まるで全てを見通し、兵士なら、いや人間ならば、一番見たくないもの。

 

良心の呵責に訴えかけるやり方を彼はしている。

 

 

 

トダカやアマギ、バルドフェルドにはそれがハッキリと分かった。

 

 

 

ブルーコスモスと言う連中がどのような思考パターンを取り、どう言う手段に訴えてくるかを理解した上で、それを利用し自分たちに有利な材料を作っていっているのだ。

 

 

 

バルドフェルドは、立体映像システムーーフォログラムに流される映像を眺めながら思う。

 

 

 

( 非人道的な者には、俺もとことん非情になれるつもりではいたが。

 

ハッキリ言ってレベルが違う。普段の奴と、今の奴、どちらが本当の顔なんだ?)

 

 

 

穏やかで温かみのある青年の顔は今はない。

 

 

 

代わりにあるのは、冷たく不敵な笑みを浮かべた男だ。

 

 

 

このフォログラムは、肉眼では何も映らない。MSのモニター越しに映るようになっている。

 

 

 

しかも、キョウジから受け取ったレーダー以外で確認すれば、熱源まできちんと本物だと判断する、機械の五感全てを狂わせる特殊映像だ、

 

 

 

そこには、楽しそうにピクニックにきている、初老の男女と、10代後半の青年に、まだ幼い少年と少女がいた。

 

 

 

( この映像を、MSのパイロット達は必ず見る。既にキラのフリーダムや、アークエンジェル、タケミカズチに、そこを狙うよう誘導されてるんだ。

 

さて、何人が躊躇なく引き金を引ける?)

 

 

 

霧発生装置で薄いスクリーンを張り、特殊な映像フォログラムで、MSのモニター越しにしかも見えない映像を流す。

 

 

 

そして、それを撃つものは当然いるだろう。

 

 

 

それが罠とも知らずにーー。

 

 

 

( 既にこの当たりの民間人はシェルターに避難させているとは言えーー)

 

 

 

バルドフェルドは、静かに高台で戦場を眺めるトリコロールのガンダムを見据えて、ため息をついた。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

キラの正確な射撃もさることながら、連合軍はオーブに照準を合わせると、動きが止まっていた。

 

 

 

「ーーな、なんで避難勧告は!!」

 

 

 

「ピクニックだと!?」

 

 

 

「ーー民間人の避難どころか、何も指示してないのか、オーブは!!?」

 

 

 

止まったウィンダム3機を、フリーダムが切り捨てる

 

 

 

「「「ーーうわああーー!!」」」

 

 

 

バックパックの羽を切り落とされ、海中へとダイブする3機のウィンダム。

 

 

 

その海中では、アスハ派の潜水艇がウィンダムをパイロットごと捕獲していた。

 

 

 

パイロット達が止まった理由を知るキラは、切り捨てながらも頷く。

 

 

 

「ーーやはり、連合のパイロットだって。

 

なら、こんな戦い方を指示する者を倒せばーー!!」

 

 

 

キラの切り捨て倒したMSの数は、10を越えた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

確かに、フリーダムやアークエンジェル、タケミカヅチの包囲網は強力だ。

 

 

 

少数精鋭でありながら、よく戦えている。

 

 

 

しかしーー

 

 

 

「分からんな。

 

何故パイロット達は、包囲網を抜けた際、動きを止める?

 

索敵班、あの周囲で敵の機影を探せ。

 

観測班、あのポイントをモニターに出せ!!」

 

 

 

士官の言葉に、まず索敵班から返答がある。

 

 

 

「マークフタマルの海中に、オーブ軍潜水艦2隻を確認!」

 

 

 

その報告に連合士官が眉を寄せた。

 

 

 

「ーーなぜ、今まで気づかなかった?」

 

 

 

索敵手を責めると言うより、自問自答するかのように士官はつぶやいた。

 

顔を青ざめながら索敵士は、答える

 

 

 

「も、申し訳ありません!!

 

ですがーーあのポイントには、最初は何の反応もありませんでした!!」

 

 

 

「ーー貴様、何を言い訳を!!」

 

 

 

副官が怒鳴ろうとするのを、士官が止めた。

 

 

 

「まあ、待て。

 

潜水艦2隻もの質量を、索敵手が3人いて、見つけられないことが、考えられるかね?」

 

 

 

「ーーと、言いますと?」

 

 

 

「索敵班、海域にジャミングの信号を探せ。

 

もし、私の考えている通りなら、アスハは、ただのバカじゃない、と言うことか」

 

 

 

ニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべ、彼は笑った。

 

 

 

「ーー艦長! デルタ3の地点に強烈な磁場を発見! 海流のぶつかり合いに紛れて、電磁場を発生させています!!」

 

 

 

「海中で、強力なジャミングの磁場を発生させ、あの地点の海域に完全なブラインドを施した、か。

 

一定ではない海流の動きを読まねば、まず磁場が発生する前に磁気が流されるはずだがーー」

 

 

 

このタイミングで船が見つかったのは、連中が海中で船を動かしたからだ。

 

海流に変化が起き、磁場がズレ、船が索敵レーダーに引っかかった。

 

 

 

「ーー艦長、この海域全体にも、あのジャミングを発生させている装置が浮いています!!」

 

 

 

モニターに出された黒色の筒は、浮きによって海面に姿を現している。

 

 

 

「ーーさすがに海域が広過ぎて、ジャミングの磁場を発生できないようだな」

 

 

 

今度は、観測手から報告がくる。

 

 

 

「ーー艦長、フリーダムやアークエンジェルの連中は、オーブの市民を盾にしています!!」

 

 

 

「なんだと?」

 

 

 

モニターに、先のパイロット達が狙ったオーブ本土の丘地点が見えた。

 

そこには、家族団欒で平和な休日を過ごす民間人がいた。

 

 

 

「ーーそう言えば、ユウナ共が言っていたな。逃げる暇さえ与えないのか、か。

 

ククッ、意外に悪どいじゃないか、フリーダム」

 

 

 

ニヤリと笑い、士官は各MSパイロットに告げた。

 

 

 

「ーー民間人を撃て!」

 

 

 

「艦長、それは!!」

 

 

 

副官が思わず声をあげるも、蛇のような目の男は、気にもしない。

 

 

 

「勘違いするな、あれはカカシのようなものだ。

 

むしろ、アレらを撃つことで、テロリストのカガリ・ユラ・アスハやそれを野放しにしていたオーブのズサンさを世界に知らしめる良い機会だ!

 

彼らは、その犠牲だよ!!!」

 

 

 

興奮したように、目を見開き、両手を広げて笑う。

 

 

 

「ーー映像を残せよ! テロリストの犠牲になる可哀想な一家だ!!

 

こちらの正当性を主張できる!!」

 

 

 

その様と指示に誰もが口を閉じた。

 

 

 

ーーーーーー

 

一方、高台からシャイニングガンダムに搭乗し、海域一帯を眺めるキョウジは、バルドフェルドに通信を入れた。

 

 

 

「ーーバルドフェルドさん、記録できたかな?」

 

 

 

「ああ、バッチリだ。にしても、こうまでお前さんの予測通りだと、笑えんね」

 

 

 

「ーーブルーコスモスの特徴は、圧倒的な選民意識と嗜虐的な思考にあります。

 

至極読みやすいし、保険もきいている」

 

 

 

こんな状況でも、キョウジは普段と変わらない話し方だ。何一つ変わらない。

 

丸ごと、事実を事実として受け入れ、どのように行動すれば良いかを判断する。咄嗟にそれができる。

 

それこそが、キョウジ・カッシュという男の本質なのであろう。

 

戦争でなく、どのような場に置いても、一流になれる資質と才覚を持っている。

 

驕り高ぶることもなく、常に細かい配慮を忘れぬ様は、自分自身への妥協ない研鑽あってこそーー。

 

 

 

「ーー弟がいるんだったな? 兄弟仲はいいのか?」

 

 

 

「すこぶる良好ですよ。もう10年近く会ってませんがね」

 

 

 

「そうか、それは何よりだ」

 

 

 

顔を背け、心の中でゴチる。こんな出来過ぎた兄貴がいたら、常に比較されてきただろうなーー、と。

 

 

 

見たこともないキョウジの弟に、バルドフェルドは同情した。

 

 

 

 キョウジの作戦の一つにあるのが、40センチ四方の黒い球ーージャミングを発生させる装置だ。

 

 

 

 一つ、海中で流れる二つの海流に紛れさせてのジャミングを発生させる装置を敢えて発見させた。

 

 これにより、敵はこちらの技術力の高さに気付く。連合でもザフトでも、ましてや島国であるオーブにも、海流を無効化してジャミングの磁場を形成する技術などありはしない。

 

 普通ならば、後100年は必要な技術だ。

 

 

 

 二つ、この事実に気付いた連合は、戦慄するとともに、これと同じ装置が自分達の周辺海域に散らばらっていることに気付く。

 

 見た目は、ただの漁に使う浮きと変わらないのだ、気付かないのも無理はない。

 

 

 

 三つ、あの球が、ジャミングの磁気を発生させる「だけ」の装置であると頭に植え付け、ほかの可能性を塗りつぶす。

 

 

 

 

 

 

 

 現に、連合はあの球の性能の高さから、ジャミングを発生させる磁気にのみ注意して自分たちが発する会話ーー作戦に一切の配慮をしていない。

 

 

 

 平たく言えば、盗聴されていることに気付いていないのだ。

 

 

 

 

 

 これも当たり前のことだ。 

 

 

 

 通常、盗聴には二つの方法がある。

 

 

 

 一つは、対象の部屋などに侵入し、物陰から直接会話などを確認および録音する方法。

 

 

 

 もう一つは、無線マイクなどを偲ばせ会話を離れた場所から確認および録音する方法。

 

 

 

 通常、二つ目が主流であり、物音に反応して録音開始するレコーダー式の記録機器を用い、窓ガラスなど物体表面の振動をレーザー光線で計測して出力させるのが一般的である。

 

 

 

 直接聞くにしろ、無線での盗聴を行うにしろ、一度は対象の施設に忍び込まねばならない。

 

 

 

 ところが、キョウジの作成した装置は、海域に展開した分だけを磁気によって支配し、その中にいる対象の会話を全て盗聴できる。

 

 

 

盗聴器を予め仕込んだ巨大な鳥かご、もしくは部屋を作り出していると考えてほしい。

 

 

 

コーディネイターであり、優秀な知識を持つバルドフェルドでさえ、大まかな概要しかわからない。

 

 

 

こんなことを敵にされたら、発狂するな、と冷静な頭で考える。

 

 

 

盗聴器を仕掛けられている部屋でベラベラと作戦を指示していれば、筒抜けになるのは当たり前だ。

 

 

 

こちらは、確信を持って行動できる。

 

 

 

ついでに、録音まできちんと行うキョウジの用意周到ぶりに、バルドフェルドをして、苦笑いを浮かべるしかなかった。






みなさん、お待ちかね〜!!

フリーダムの圧倒的な性能と技術!

そして、キョウジの編み出した作戦に、連合艦隊は総崩れの様相を呈してくるのです!!

はたして、キラとキョウジは、このまま敵を圧倒できるのか!?

次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第26話に、レディー、ゴー!!


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第26話 圧倒 オーブを護りしもの

 ドモン達が、意気消沈した状態であったとき、二人の青年があばら家の前に現れた。
「師匠! どちらに行かれるのですか?」
「チボデーさん達も来てたんですか」
 黒髪の青年と赤髪の青年がそれぞれ口に出す。
「ユウゴにセカイか。
 悪いが、しばらく俺は留守にする。お前たち独自でしばらく修行をしておいてくれ」
 ドモンは二人の弟子に向かってそう言った。
 彼らは、ユウゴ・カガミにカミキ・セカイと言う。
 キング・オブ・ハートの弟子たちだ。
「ーーわかりました」
「帰ってきたら、きっと驚きますよ! 俺たちの実力に!!」
「セカイの言うとおりです。待ってますよ、師匠!!」
 二人の弟子の快活とした言葉に、にやりと笑い、ドモンは言う。
「ならば俺も旅先で腕を磨いておかないとな。そう簡単に抜かせはせんぞ。お前たちにも、ジュンヤにもな!」
 ここにいない武者修行に出ている三人目の弟子の名を出し、気合を入れる。
 三人は拳を突き出しあいながら、笑った。
 後ろでは、ゴッドガンダムを見送る二体のゴッドガンダムによく似た機体がある。
 それぞれ、ハイパーGガンダムとバーニングガンダムと言う、ゴッドガンダムの弟分であり、カッシュ博士が制作し、カラト首相の指示によって作られたユウゴとセカイの愛機だ。
「ーーへっ、弟子ってのも良いもんかもしれねえな」
「慕ってくれたり、モノを教えるって結構楽しいぜ! あんちゃん!!」
 チボデーとサイサイシーがそのような会話をする横で、ドモンは再び彼らシャッフルと妻に向き直った。
「行こうーー、ネオジャパンコロニーへ!!」
 こうして、シャッフル同盟とレイン・カッシュはカッシュ博士の住むネオジャパンコロニーへと出立した。

 さて、みなさん。
 ここ、オーブ海上でのアスハ部隊と連合艦隊との決戦もついに終幕を迎える時がやってきました。
 はたして、この先に何が待ち受けているのかーー?
 それでは、ガンダムファイト!
 レディー、ゴー!!


オーブ領海に浮かぶ連合艦隊は、ついに自分たちが相手する存在の異常さに気付き始めるのだった。

 

「か、艦長! 敵フリーダム、いまだ落ちませんっ!」

 

「オーブ本国への着弾もありません!」

 

 

 

 通信兵からの報告に、蛇の目の士官は頬杖を突きながら、不快そうに呟いた。

 

 

 

「使えない奴らだな……。これだけの数がいてたった一機の機体を落とせんとは。

 

 まったく、無能な味方は敵よりも始末が悪い」

 

 

 

 そうごちながら、作戦指示を再び飛ばし始める。

 

 

 

「各機に伝えろ! 

 

 アークエンジェルやフリーダムを狙うよりも、あからさまでいいから、オーブ本土を狙うことを優先しろとな!」

 

 

 

 不快そうな士官の指示に、副官が珍しく口を挟んだ。

 

 

 

「そ、それが……!」

 

 

 

「なんだ?」

 

 

 

「こちらがオーブ本土を狙ったMSが、次々と落とされていっています!」

 

 

 

「敵包囲網は薄いんだ。その程度のことで……!!」

 

 

 

 副官の言葉に、士官がさらに檄を飛ばそうとしたところ、通信兵から更なる報告が上がる。

 

 

 

「斥候隊! 全滅しました!」

 

 

 

「なんだと……!?」

 

 

 

「フリーダム! こちらに来ます!」

 

 

 

 モニターには、こちらを振り向きながらビームサーベル二刀を構え、青い翼を広げながらこちらを睨みつける機体があった。

 

 

 

「対空砲火! イーゲルシュテルン、及び全ミサイル、撃てぇいっ!」

 

 

 

 士官は咄嗟にチャージの必要の無い実弾兵器を次々と選択。

 

 フェイズシフトを展開しているフリーダムには大した効果はないが、少なくとも前進は止められる。

 

 

 

「各艦に伝えろ! 全MSを出撃させろとな!

 

 たかがフリーダム一機に、いつまでもいいようにもてあそばれるな!!」

 

 

 

 士官の指示に、焦った通信兵からの報告が届いた。

 

 

 

「艦長! 二時の方向よりフリーダム発見!」

 

 

 

「なにっ。前方から来ているのではないのかっ?」

 

 

 

「アークエンジェルよりフリーダムが三機発進されております!」

 

 

 

 モニターで確認したところ、特徴的な青色のバックパックを広げて、青、黒を基調とした機体が三機、カタパルトから出撃される。

 

 

 

「なんだとっ!?」

 

 

 

 士官が驚愕のあまりに目を見開くと同時に、さらなる報告と別のモニターに機影が映し出された。

 

 

 

「タケミカヅチより五機のフリーダムが出撃されております!」

 

 

 

「計九機? 九機のフリーダムだと?」

 

 

 

 通信兵の報告に何の冗談だと副官が取り乱す。無理もない、たった一機を相手に30機の斥候隊がつぶされたのだ。

 

 その9倍の数の機体が一気に現れたのだから、絶望するしかない。

 

 

 

「恐れるな。こちらのMSは三百ある。たかが九機のMSなどに……」

 

 

 

 士官の言葉はもっともではあるが、現実に目の前で展開された光景を目の当たりにして、笑い飛ばせる者はこの船にはいなかった。

 

 士官はほかの者の思いを無視するかのように独り言をつぶやく。

 

 

 

「それにしても、なぜフリーダムが九機……。

 

 オーブーーいや、アスハはユニウス条約に違反するフリーダムの技術を、完全に量産できるほどにまで解析を進めてていたのか?」

 

 

 

 そのとき、通信兵から無視できない報告が士官に届いた。

 

 

 

「艦長! ジブリール卿より通信が入っております!」

 

 

 

 士官は一つ咳払うと、椅子に座りなおして帽子をかぶり、姿勢を正した。

 

 

 

「お繋ぎしろーー」

 

 

 

 モニターには、薄暗い部屋の中で、青い照明を浴びた頬のこけた紫色の唇が特徴の壮年の男が現れた。

 

 

 

『どうかな? オーブの攻略のほうは』

 

 

 

「存外てこずっておりますが、こちらにはMSが300機もございます。まず負けることはないでしょうーー」

 

 

 

 蛇の目の男の報告に、ジブリールと呼ばれた男はモニターの向こうで目を大きく見開いた。

 

 

 

『驚いたな。君が斥候隊で落とせないとは』

 

 

 

「オーブもそれだけ本腰を入れてきたということでしょうか。おっと、カガリ・ユラ・アスハというテロリストでしたね」

 

 

 

『どちらでも構いはしないよ。どのみちコーディネーターを囲うような国など、滅んでもらうつもりだからね』

 

 

 

 ジブリールは酷薄な笑みを浮かべながら自分の膝元にある猫を大事そうに愛撫する。

 

 その言葉に恍惚とした表情で士官が返した。

 

 

 

「存じております、ジブリールさま。青き清浄なる世界のためにーー!」

 

 

 

『“蛇の目”と呼ばれた君ならば、必ずや私の期待に応えてくれるだろう。よろしく頼むよ。わざわざ再生までしてやった鷹は、口だけで使い物にならないようだからね」

 

 

 

「1MSのパイロットと、部隊を預かる私とでは、比べ物にならんでしょう」

 

 

 

 自負を含めた士官の笑みに、ジブリールは満足そうに笑みを浮かべた。

 

 

 

『戦果を期待しているーー!』

 

 

 

「ハハッ」

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 バルドフェルドは、自分の機体のコクピットから通信をキョウジに入れた。

 

「おい、キョウジ。大物が出てきたぞ!」

 

 

 

「大物?」

 

 

 

 当のキョウジは、訝しげに首を傾げながら、バルドフェルドを見据えた。

 

 

 

「さっきシュバルツの声が聞こえた気がしたんですがーー」

 

 

 

「ああ。偶然みたいだが、敵の親玉の声は、お前さんらによく似てるようだな」

 

 

 

「親玉? つまり、今の通信相手がーー」

 

 

 

 キョウジがなるほどと頷いたのを確認して、バルドフェルドは続ける。

 

 

 

「ジブリールって言ってたろ。

 

 ブルーコスモスでジブリールといえば、ロゴスの幹部でもある、ロード・ジブリールしかいない。ブルーコスモスのなかでも過激派として有名な男だ」

 

 

 

「なるほど。俺たちの声に似てるんですね、その親玉の声はーー。フフッ」

 

 

 

「ん? ……お前、なに企んでるんだ?」

 

 

 

 あからさまに何かを企んでそうなキョウジの笑みに、バルドフェルドは半分あきれたかのような表情で問いかける。

 

 それにキョウジは世間話をするかのような気安さで目を敵艦隊に向ける。

 

 

 

「それはまた、おいおい……。

 

 今は聞き分けの悪い連合の艦隊さんを叩き潰すことに専念しましょう。

 

 思った通りキラのーーフリーダムの強さを思い知ったMSのパイロットたちはムラサメやM1をフリーダムに似せるだけで恐慌状態に陥ってくれましたね」

 

 

 

「古典的な戦法だが……効果的な作戦だな。敵の約三割は恐慌に陥ったようだ」

 

 

 

「まだまだこれからです」

 

 

 

 敵MSの動きが混乱している。無理もない、一騎当千を地で行く機体が9機も現れたように見えているのだ。

 

 この混乱に乗じない手はない。

 

 

 

「どうするんだ?」

 

 

 

 言外にどう畳みかけるのか、と問いかけるバルドフェルドに対し、キョウジは静かに右手を掲げた。

 

 

 

「こうしますーー」

 

 

 

 モビルトレースをしたシャイニングガンダムが、忠実にキョウジの動きに合わせて、右手を掲げ、フィンガースナップを利かせて指を鳴らした。

 

 

 

ピシィィィインッ

 

 

 

 辺りに響く音ーー同時に浮きの黒い球から電磁波が発生した。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

連合艦隊も当然、通信やレーダーの類が一切通じない電磁波の檻に気付く。

 

 

 

「ジャミングです!」

 

 

 

「ジャミングだとっ!?」

 

 

 

 通信兵からの報告に副官が目を大きく見開いた。

 

 

 

「電磁波は、この周囲の浮きからーー」

 

 

 

「まさかこの海域全体にジャミングを行えるというのかっ!?」

 

 

 

 通信兵からの報告にいよいよ副官が戦慄する。

 

 その横で、士官が檄を飛ばした。

 

 

 

「ええい、なにをしているっ!

 

 イーゲルシュテルンによる迎撃を自動から手動に切り替え、ジャミングの発生源である周囲の浮きを叩け!その間にミサイルの次弾装填後、周囲の浮きに発射せよ!

 

各艦に伝えろ! その浮きをすべて叩き落せとな!」

 

 

 

 士官の的確な指示に、まだいけると思いなおした副官が真っ先に答えた。

 

 

 

「ははっ!」

 

 

 

 しかし、その次の瞬間には通信兵からの報告が響き渡る。

 

 

 

「だめです、一切の通信がーー!」

 

 

 

「ええいっ、ならば――モールス信号でいい! とにかく伝えるんだ!!」

 

 

 

 副官の指示に、電磁波やレーダーの類に左右されない目視でのやり取りに切り替える。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 その様を、オーブ丘の高台から見下ろすシャイニングガンダム。

 

 

 

「ふっ、モールス信号か。

 

 人間は五感を頼りに生活する生き物、耳が聞こえなくなったら次は目を頼る。

 

 ならば、その目が潰れたら、次は何を頼るーー?」

 

 

 

 独りつぶやくキョウジのシャイニングガンダムの背を見つめながら、バルドフェルドは自身のムラサメに搭載されているレーダーでジャミングの数値を確認する。

 

 

 

「強力なジャミングだ。海流に乗せて発生させたジャミングよりもはるかに。

 

 やつらの会話内容がまったく聞こえなくなった……。ここからだな。このキョウジって男が、どれほどやれるのか。見せてもらおうじゃないか」

 

 

 

 今までは敵の作戦が筒抜けであったが、これからはジャミングの発生により盗聴の類が使えなくなった。

 

 キョウジという男の判断力で、この先の作戦の遂行具合が変わるーー。

 

 深呼吸したのち、ここまでは見事だったと心の中でつぶやきながら、バルドフェルドは、キョウジという男を見極めようと目を見開いた。

 

 

 

 海域では、実弾兵器のミサイルやイーゲルシュテルンの弾幕が次々と海面に向かって放たれ、浮きを爆発させていく。

 

 次の瞬間にはーーー

 

 

 

バシュゥウウウウウウッ

 

 

 

 爆発した浮きが煙を発生、水蒸気となりあたり一面に濃い霧を発生させていったーー。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

当然、この現象に、浮足立つ敵艦隊。

 

焦った通信兵が助けを求めるかのように、士官に報告を入れた。

 

 

 

「か、艦長っ! 霧が!」

 

 

 

「ええいっ、霧がなんだ! ジャミングさえどうにかなれば、索敵もできるっ!」

 

 

 

 士官の言葉に、別の通信兵から声が上がった。

 

 

 

「……だめです!! ジャミングの効力が弱まりません!!」

 

 

 

 それにようやく、士官も気付き始めた。

 

 

 

「ば…馬鹿なっ!?

 

 これだけ複雑な悪天候を造り出しておきながら、敵のジャミングはまったく鈍らないだとっ?

 

 これだけのモノを実験もせずに秘密裏に開発し実用化させたというのか!?」

 

 

 

 敵の科学力は異常だ。技術体系、発想力、着眼点、そのすべてが士官が今まで争ってきたどんなものよりも秀でている。

 

 

 

「艦長っ! 目視で確認できる距離が、どんどん狭まっていきます!」

 

「デモイン級三番艦! 四番艦! 大破っ!」

 

「敵のビームによる狙撃が鈍りませんっ!」

 

 

 

 士官が言葉もなく戦慄している横で、次々と報告されるこちらの艦の撃墜状況。

 

 

 

「どういうことだ……っ!? 

 

 これほどのジャミングの中で、どうしてこんなことができるっ!? 」

 

 

 

 まったく分からないーー。あまりの理不尽な状況に、今まで冷静だった士官はついにヒステリーを起こした。

 

 

 

「ええいっ! 視界が見えなくなれば、奴らも攻撃ができまいっ! 霧に飛び込め!  

 

 動かぬオーブ本土を狙い撃つのだっ!

 

 撃たねば我らが討たれるぞ!」

 

 

 

 悲鳴じみたその叫び声とともに、旗艦が前進するーー。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 その様を確認して、キョウジは一つ頷いて分析を始めた。

 

 

 

「やはり、目視で確認できる内に、こちらへ進んできたか。

 

 嗜虐心が強い男は自分が追い詰められた状況を想定していない。

 

 そのため、我慢強くない。

 

 これまで慎重だった分、一気に勝負を決めようと進んでくるーー」

 

 

 

 シャイニングガンダムのレーダー機器を確認しながら、位置情報を正確に判断し、的確な指示を与える。

 

 この旗艦を一瞬で落とせる実力と機動力、火力を誇り、位置取りも完璧なーーまるで優等生のような回答をたたき出したMSに呼びかけた。

 

 

 

「--キラ」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 連合の旗艦ブリッジは騒然と騒いでいた。

 

 突如、霧の中からフリーダムが登場し、こちらに一直線に向かってきたのだ。

 

 

 

「なっ!? ばかな!!!!」

 

 

 

「ーーーーこれで、終わりだぁああああああっ!!」

 

 

 

 キラの叫びと共にフリーダムが全ての射撃武装を旗艦へ向ける。フルバーストモードと呼ばれるフリーダムの全射撃兵装の一斉放射である。

 

 正確に、動力炉だけを狙い撃ち、ビーム砲が貫いていく。

 

 

 

「メインエンジンに被弾!」

 

「出力が45パーセントに低下!各所のダメージ・コントロールが間に合いません!…沈みます!!」

 

「ば、馬鹿な……っ。これほどの戦力差で、なぜっ」

 

「なんなんだ……、こいつらはぁっ!?」

 

 

 

 ブリッジにいるすべての兵達が、絶望と戦慄を味わいながら、自身の乗艦する船の終わりを感じていた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

『キョウジさん、敵旗艦落としました』

 

 

 

 キラからの撃沈報告と共に海域を包んでいたジャミングの電磁波と霧が消えていく。

 

 目視でも海中に沈んでいく船を確認し、救命ボートを次々と回収していくタケミカズチおよびオーブの潜水艇を見て、コクリと一つ頷き、キョウジは報告を返す。

 

 

 

「了解だ。

 

 ムラサメとアストレイ部隊も、敵艦を次々と落としてくれたみたいだ。母艦のないMSたちは撤退するほかない。作戦は終了だ」

 

 

 

 その一言に、作戦の完全勝利を確信したアスハ部隊は、勝利の喝采をあげたーー。

 

 

 

 後に、奇跡の海戦と言われるこの戦いは、僅か10機に満たないMSで30倍もある敵艦隊を完璧に倒したと語り継がれることになる。

 

 

 

 その青き翼のMS部隊の立役者には、一人の軍神がいたことは一部の当事者以外、誰も知らないーー。

 

 







 みなさん、お待ちかね~!

 キョウジの作戦により、連合の大艦隊を退けることに成功するオーブ軍アスハ部隊。

 しかし、勝利に湧く彼らに、かつて悪魔の四天王であった2人の男が襲い掛かるのです。

 はたして、復活した彼らの狙いは、何なのか!?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第27話に、レディー!

 ゴー!!


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第27話 悪魔の力と奇跡の光

 シャッフル同盟達とレインは、ネオジャパンコロニーにあるカッシュ家を訪れていた。
「よく来たな、ドモン」
「ああ、父さん。実は父さんに頼みたいことがあってーー」
 ドモンの事情を聴いたカッシュ博士は大きく目を見開いて頷いた。
「ーーそうか。シャイニングガンダムは、異世界にいるのか。そこにキョウジがいるのなら、是非もないな。
 力を貸そう」
「ありがとう、父さん!!」
「よかったわね、ドモン!」
 レインの言葉に「ああ」と頷くドモン。
「実は、亜空間回路の論文の提出の際に、異次元世界の壁についても触れていてな。二週間もあれば作れるはずだ。
 お前とゴッドガンダム、シャイニングガンダムのつながりを利用して向こうに行くことはできる。
 帰ってくる際は、シャッフルの紋章の繋がりを利用すれば可能のはずだ」
「ーーさすが、父さんだ!!
 これで、デビルガンダムを倒し、兄さんとシュバルツを迎えに行ける!!」
「とりあえず、ドモン。
 お前はレインとこれから一緒に過ごしなさい。しばらく会えなくなるかもしれんのだからな
 そうだ。レインの好きな映画が今、ネオジャパンコロニーで開かれている。
 二人で行ってきなさい」
「さすが、お父様!! ありがとうございます!!」
「ーーえ? 父さん、2週間もあるなら、俺は修行をーー」
 ギロリッと言う擬音が聞こえてきそうなレインの目にドモンは黙った。

 さて、みなさん。
 前回の対決でキョウジとキラたちは地球連合艦隊を相手に完璧なまでの勝利を治めることに成功しました。
 しかし、彼らのもとを襲撃する新たな敵の影が迫るのです。
 それでは、ガンダムファイト!!
 レディー、ゴー!!





 

 

 無事に連合艦隊を壊滅させ、そのほとんどを捕虜にすることに成功したアスハ部隊は、その完全な勝利に湧いていた。

 

「やったな、キョウジ!!」

 

「まさかこの戦力差を完全に覆すとはっ!」

 

「なるほど。

 

 確かに彼とフリーダムがいれば、夢物語と思っていたロゴスのこともやれるかもしれん」

 

 バルドフェルド、アマギ、トダカがキョウジの作戦に感服して、褒めたたえている。

 

 一方、海上のアークエンジェルはキラに報告を入れていた。

 

「やったわね! キラくん!」

 

「はいっ! マリューさんたちもお疲れさまです」

 

 まだ正確ではないが、今のところ死者が出たという報告がない今回の戦いに、いつになくキラも明るい。

 

「とりあえず初戦は、私たちの勝ち、よね?」

 

「ええ。僕達はこれから、この部隊で希望の未来を勝ち取っていくんです」

 

 マリューも不可能と思えた作戦を完遂した達成感と、犠牲者の無い戦いに、その勝利に酔いしれていた。

 

 だからーー気付かなかったのだ。

 

 それを邪魔するものが現れるなどーー。

 

 

 

 

 

「そんな簡単にぃ!

 

 勝ち取れるわけ、ねぇだろぉおおおっ!!」

 

 

 

 オーブの青い空に、甲高い雄たけびと共に白い鳥型の機体が赤と黄色の羽をもつ翼を広げて現れたのだ。

 

 

 

「こいつはっ!?」

 

 

 

 キラは、その機体に見覚えがあったーー。

 

 シャイニングガンダムの戦闘データで見た、悪魔の手先ーー。

 

 

 

 その巨大な鳥型の機体の背中から、一体のーー古代ローマの闘士を思わせる赤銅と灰色のガンダムが飛び出してきた。

 

 

 

 太陽の光を背に浴びながら、上空に跳躍し、叫ぶ。

 

 

 

「ハイパー銀色の脚ぃいいいいっ!

 

 スペシャァアアアルッ!!!」

 

 

 

 右足が青白い光をまといながら、フリーダムに急降下してくる。

 

 キラは、とっさに左手に持つシールドで防いだ。

 

 

 

バキィィィイイイイッ

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 すさまじい衝撃にキラが歯を食いしばる。

 

 

 

「おらぁあああっ!」

 

 

 

バキャァァァァァァッ

 

 

 

 ファイターの気合と共に、威力が格段に増し、頑強なフリーダムのシールドが砕け散った。

 

 砕かれたと知るやキラも超反応でバーニアを吹かし、音速を超えたスピードで弧を描くように回り込む。

 

 

 

「お前は、デビルガンダムの!?」

 

「ほう? 俺のことを知ってるのか! ああん、ガキがぁ!!」

 

 

 

 声をあげながら、急降下したガンダムの足場になるように大型の鳥を模した機体が回り込み、その背に着地する。

 

 パンクファッションのような衣装のファイティングスーツに身を包んだ赤く長い髪と目を持つその姿はーー間違いない。

 

 

 

「ドモン・カッシュがいないようだが、気に食わねえ機体がてめえらの仲間にいるようだな!

 

 なあ、シャイニングガンダム!!」

 

 

 

 シャイニングガンダムを睨みつけ、吠える男にキラが確信した。

 

 

 

「あなたは、ミケロ・チャリオットにネロスガンダム!! それじゃ、その大型の鳥を模したMAは、ガンダムヘブンズソードか!!

 

 キョウジさんには、近づけさせない!!」

 

 

 

 フリーダムがフルバーストモードの構えをとり、ネロスガンダムとヘブンズソードに狙いをつける。

 

 瞬間だったーー

 

 

 

ドォンッ

 

 

 

 銃声と共に、フリーダムの目の前をビームライフルが一筋過ぎていく。

 

 

 

「ーーフリーダムのレーダーでも気付かなかった? 何ていう距離から正確な射撃をしてくるんだ」

 

 

 

「小僧。お前の相手は私がしてやろう」

 

 

 

 通信から聞こえた声は、ミケロよりも理性的で理知的な声。ビームが来た方角を見れば、海上に浮いた要塞のような巨大な土色の巨体に白色の角を背中から生やし、肩口からも大砲を四門設けたガンダムがいた。

 

 その肩の上には、黒と赤を基調としたロングライフルを両手に持った長い帽子を模した頭部のガンダム。

 

 

 

「っ! あなたは!?」

 

 

 

「この世界で名乗っても、あまり意味はないかもしれないが。

 

 わたしの名はジェントル・チャップマン。この機体はジョンブルガンダムとグランドガンダムだ。

 

 自分で言うのもなんだが、前人未到のガンダムファイト三連覇を成し遂げたチャンピオンでもある」

 

 

 

 青色の短髪をオールバックにし、口ひげを生やした姿は記録映像でみたジェントル・チャップマンと何ら変わりない。

 

 

 

「キラ准将!!」

 

「援護します!!」

 

 

 

 フリーダムを模したムラサメが三機、キラの援軍に駆け付けた。

 

 

 

 フリーダムから離れ、一気にオーブ本土にいる高台を目指すネロスガンダム。ファイターであるミケロは、自分の足場になっている大型の鳥の機体に指示を飛ばした。

 

 

 

「いくぞ、ヘブンズソード! シャイニングガンダムを狙えぇえええっ!」

 

 

 

 シャイニングガンダムに急接近するヘブンズソード。

 

 その上に乗るネロスガンダムを見据え、シャイニングガンダムに乗るキョウジが右手を掲げた。

 

 

 

「来るっ! ならば!!」

 

 

 

カシャンッ

 

 ガンダムのマスクが左右に展開する。

 

 掲げた右手が緑色に輝き、辺りを照らした。

 

 

 

「シャアアイニング、フィンガアアアアア!」

 

 

 

 正拳突きのように正面へ真っ直ぐに突き出されだ掌から、シャイニングフィンガーのエネルギーを光線にして、放つ。

 

 

 

シュウウウウンンッ

 

 

 

 ヘブンズソードは、それを紙一重で旋回して避ける。

 

 

 

「死ねえええええっ!」

 

 

 

 鳥を模した金色の爪がシャイニングガンダムを捉えようとする瞬間、シャイニングガンダムの目が光った。

 

 

 

ブウンッ

 

 

 

 次の瞬間、飛び違いざまにシャイニングガンダムが腰のビームサーベルを抜いている。

 

 

 

ズバァッ

 

ドボォオオオオンンッ

 

 

 

 桃色の剣閃が2筋ーー空を疾り、ヘブンズソードの両翼が根元から斬り落とされ海中に落ちる。

 

 

 

 咄嗟にネロスガンダムは墜落するヘブンズソードの背を蹴って跳躍し、オーブの本土へ着地した。

 

 ファイターのミケロの目が大きく見開かれる。

 

 

 

「今の動きはっ! ドモン・カッシュ!?」

 

 

 

 訝しがるミケロをそっちのけで、自分ーーいやシャイニングガンダムの手を見下してキョウジはつぶやいた。

 

 

 

「シャイニングガンダム、ありがとう!

 

 だが……まずいな。あきらかに戦闘力が俺より上だ。

 

 まともにやりあっては、勝てない……」

 

 

 

 呟きながら、キョウジはちらりと海面に浮かぶ霧発生装置の残骸を見る。

 

 

 

「ハンッ、ドモン・カッシュの兄か!

 

 テメエと前に会った時は屍みたいな顔だったが、こうして見るとそっくりじゃねえか!!

 

 この俺に屈辱を与えてくれたあの男によぉおおっ!!」

 

 

 

 ネロスガンダムが両拳を腰に置き、紅い気を爆発させて身にまとう。

 

 

 

「ーーッ!」

 

 

 

「ドモン・カッシュがいねえんじゃ仕方ねえ!!

 

 テメエで憂さを晴らしてやるぜえええッ!!!」

 

 

 

 前傾姿勢をとり、一気に距離を詰めてくるネロスガンダム。そのスピードは、短距離ながらもキラのフリーダムに匹敵している。

 

 

 

「とぉりゃとりゃとりゃとりゃとりゃとりゃぁあああっ!」

 

 

 

 右足を上げ、鋭く迅い蹴りが上段中断下段に無数に放たれる。

 

 

 

 それらを両腕を使ってさばきながら、バーニアを吹かし、バックダッシュを行うキョウジ。

 

 海の方へ逃げるシャイニングガンダム。

 

 

 

「とろくせえ!! そんな動きで俺から逃げれるかよ!!!」

 

 

 

 叫びながら、ミケロはネロスガンダムのバーニアを吹かし、追いかける。

 

 島を離れ、海上に出た二機。

 

 その海上には、キラとムラサメ三機が、ロングライフルを構えたジョンブルガンダムと要塞のようなグランドガンダムを相手にしている。

 

 

 

「みんな離れろぉおおお!!」

 

 

 

 キョウジが叫びながら反転し、ネロスガンダムに向かう。

 

 海上で互いに猛ダッシュで距離を詰める両者。

 

 キョウジのシャイニングガンダムが、輝く右手を大きく振りかぶる。

 

 

 

「シャァアアイニングゥウウッ!!」

 

「当たるかあぁああああ!」

 

 

 

 振りかぶった一撃をかわそうと身構えるネロスガンダム。

 

 

 

「---フィンガァアアア!!」

 

 

 

 しかし振りかぶられた右手は、海面に向けて放たれるーー

 

 

 

「何ぃーーーッ!?」

 

 

 

 ミケロの目の前で緑色の光が海域に広がり、ドーム状に爆発した。

 

 

 

「そうか!

 

 海面に帯電していた磁場を利用して、シャイニングフィンガーを

 

アレなら避けられないわ!!

 

 さすが、キョウジさん!!」

 

 

 

 キョウジの指示で安全圏まで下がっていたアークエンジェルのブリッジ越しにマリューが思わずガッツポーズを取っていた。

 

 しかし、相手は普通ではないーー。

 

 

 

「ぬぅううるいんだよぉおおお!!!」

 

 

 

 右足に黒色の気を纏い、袈裟切りのように斜め上から足を振り下ろして、光を切り裂きながら、ネロスガンダムはシャイニングガンダムの懐に踏み込む。

 

 

 

「「「なっ!?」」」

 

 

 

 これを見ていたキョウジ、マリュー、バルドフェルドが目を思い切り見開いた。

 

 

 

ドゴォゥッ

 

 

 

 同時に脇に凄まじい蹴りを食らって横に体ごと吹き飛ばされるシャイニングガンダム。

 

 海上を滑空するシャイニングガンダムの上をバーニアをフルスロットルにしてネロスガンダムが追いつき、右足で踵を振り下ろした。

 

「ーーーーくらえぃっ!!」

 

 

 

ドガァァァァァッ

 

 ちょうどオーブの島の一角に来た当たりで背中から地面に叩きつけられるシャイニングガンダム。

 

 立ち上る巨大な土煙。

 

 その足元に悠然と着地するネロスガンダム。

 

 

 

「あの光の爆発を普通に切り裂いてくるなんて……っ」

 

 アークエンジェル内で、思わずと言うようにつぶやくマリュー。

 

 それを受けてか、立ち上がりながら、キョウジはつぶやいた。

 

「まったく、ガンダムファイターは非常識だってことは知っていたが、ほんと信じられないな……」

 

 一応、同じ世界の出身であるし、自分の弟や半身もガンダムファイターではあるが、実際に見るのと戦うのではまるで違うな、とどこか他人事のように思うキョウジである。

 

 

 

「こざかしい作戦は終わりかぁ? ならおとなしく、くたばりな!!」

 

 

 

 ミケロが間髪入れずに黒色の光を放ちながら、鋭く尖ったつま先での前蹴りをコクピットに向かって撃つ。

 

 当たれば、致命傷の遊びの無い一撃ーー。ファイターでないキョウジに防ぐ術はないほどの鋭く致命的な一撃だった。

 

 

 

ガキィッ

 

 

 

 しかし、その一撃はコクピットに届くことなく、つま先はシャイニングガンダムの胸の前で止まっている。

 

 他ならぬシャイニングガンダムが、その場から微かに左に体をずらして脚の付け根に右腕を叩きつけ、止めていたのだ。

 

 

 

「ーーなにぃっ!?」

 

 

 

 その素人ではあり得ない体捌きと反応速度に、ミケロが目を見開くと同時、シャイニングガンダムが、伸びきったネロスガンダムの脚の横をダッシュして懐に入り、左のフックを思い切りがら空きの横面にぶちこんだ。

 

 

 

「ガハァァッ!?」

 

 

 

 悲鳴を上げながら、きりもみに回転しながらミケロは後方へはじけ飛ぶ。しかし、地面が顔に迫ると片手を突き、バク転の要領で着地する。

 

 態勢を立て直し、シャイニングガンダムを睨みつけた。

 

 

 

「何でだ、なんでとどめを刺そうとすると、いつもっ!

 

 ドモン・カッシュの動きになりやがるんだっ!?

 

 くっそぉおおおお!」

 

 

 

 気を爆発させ、一気に距離を詰め、前蹴りを放つ。今度は、先のような超反応ではなく、凡夫のようにガードを固めて丸まるだけだ。

 

 

 

「元のキョウジの動きに戻ったなぁああ!? 今だあああ!!!」

 

 

 

 キョウジの動きが先のような鋭くも速い動きでないことを確認すると、距離を詰め、左右の蹴りを次々と放ちだす。

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

「おらおらおらおらおらおらぁあああっ! しぃいねえええええ!」

 

 

 

 右足の横蹴りを上中下に散らした後に、左足のつま先での前蹴りでコクピットを突き刺しに狙いに行く。

 

 

 

ガシィィッ

 

 

 

 その左足はしかし、正確に右手一本でつかまれて止められている。

 

 

 

「なぁあああにぃいいいいいっ!?」

 

 

 

 左足を無造作に上空に投げ捨てると、ネロスガンダムの体が縦に回転しながら宙に舞う。

 

 その顔が丁度地面に向いたとき、シャイニングガンダムの横蹴りがまともに横面を捉えた。

 

 

 

バキィィィイイイイッ

 

 

 

 再三にわたり、ネロスガンダムが遥か後方へ弾き飛ばされる。

 

 

 

「くほぁああああっ!!」

 

 

 

 顔面から地面に叩き落されたミケロは言葉にならない悲鳴を上げた。

 

 

 

 バルドフェルドはそれを確認しながら興奮に両の拳を握りしめた。

 

 

 

「キョウジの奴、本当に民間人なのかっ! めちゃくちゃ強いぞっ!?」

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……

 

 ドモン、すごいな。こんな動きをするのかっ」

 

 

 

 対するキョウジは、シャイニングガンダムのコクピットの中で、肩で息をし始めていた。

 

 

 

 するとシャイニングガンダムの目が輝き、いきなりバーニアを吹かしてバックダッシュし始める。

 

 思わずキョウジが悲鳴を上げる。

 

 

 

「うぉぁっ!? シャイニングガンダムっ!?」

 

 

 

 キョウジの意思に反して、シャイニングガンダムは撤退の行動をとり始めた。

 

 

 

「逃がすかぁああああ!!」

 

 

 

 当然、地面に叩き落され、怒り心頭に発したミケロは、鬼のような形相でシャイニングガンダムを追いかける。

 

 

 

ババババババァンッ

 

 

 

 ミケロに対し、オートでバルカンを撃ち出すシャイニングガンダム。

 

 

 

「そんな動きで逃げれると思うなぁあああっ!

 

 銀色のぉおおおおっ! 脚ぃいいいいい!!!」

 

 

 

 バルカンを軽々と躱され、脇に回り込まれてのハイキックが顔面に迫る瞬間

 

にシャイニングガンダムのマスクが左右に展開された。

 

 

 

バシィィイイィッ

 

 

 

 緑色に輝く光の右手がネロスガンダムの銀色の脚を止める。

 

 

 

「ぐぅっ……!」

 

「フンッ! 足腰が入ってねえぜぇえええっ!!!」

 

 

 

バキィィィイイイイッ

 

 

 

 止められた足を力づくで振り下ろし、後方へ弾き飛ばす。

 

 

 

「ぐはっ!」

 

 

 

 背中から叩きつけられ、キョウジが悲鳴を上げた。

 

 瞬間ーーシャイニングガンダムの目が光った。

 

 

 

「ーーあん?」

 

 

 

 ゆっくりと立ち上がるシャイニングガンダム

 

 両の拳を腰に置き、足元のカバーを展開、次に腕、肩、マスク、角が展開されていき、強烈なエネルギーを放ちだす。

 

 --シャイニングガンダム、スーパーモードである。

 

 

 

 シャイニングガンダムは、そのエネルギーの全てを右手に集中し、圧倒的な輝きを放ち始める。

 

 

 

「デビルガンダムを吹き飛ばした、あの時のーーー!!」

 

 

 

 その輝きに、バルドフェルドが気付き叫んだ。

 

 

 

 対するネロスガンダムは、ミケロ・チャリオットは笑った。

 

「ヘンっ! 舐めんじゃねえぜ、ドモン・カッシュぅうううう!

 

 どこからかは知らないが、遠隔でお前が操ってるようだなぁああああ!?

 

 だぁあがっ!!!」

 

 

 

 正拳突きの要領で突き出され、圧倒的な光量を放つシャイニングフィンガー。その光線は、当たればすべてを消し飛ばす。

 

 

 

「そんな見え見えの一撃が、当たるかぁあああああっ!!」

 

 

 

 左の脇に回りこみ、光線を紙一重で避けるとネロスガンダムは、強烈な蹴りの雨あられを上中下段に叩きこむ。

 

 

 

ガガガガガガガガァンッ

 

 

 

 執拗なまでの蹴り、蹴り蹴り蹴り蹴りに、ついにシャイニングガンダムが倒れたーーー。

 

 

 

「いかん、キョウジ!」

 

 

 

 それまで傍観していたバルドフェルドのムラサメとその脇に控えていたM1部隊が自身のビームライフルを構えて3発放つ。

 

 

 

ピシュシュシュンッ

 

 

 

「引っ込んでろ、雑魚どもがぁあああ!!」

 

 

 

 しかし、その緑色の光も銀色の脚と呼ばれるミケロの気を纏った回し蹴りで、文字通り一蹴される。

 

バシュゥウウウウウウッ

 

 

 

「ーー!? うわぁぁああああ!!」

 

 

 

 扇状に放たれた衝撃波の直撃を食らい、背中から地面に倒れこむバルドフェルド達。

 

 それを見据え、吐き捨てるかのようにミケロは言葉を放つ。

 

 

 

「どいつもこいつもっ! 今いいとこなんだよっ!!」

 

 

 

 ネロスガンダムは、凶気の目を光らせながら、シャイニングガンダムに向き直り、見下ろす。

 

 ミケロはニヤリと笑いながら、叫んだ。

 

 

 

「どんな気分だ、ドモン・カッシュ!?

 

 どっかで見てんだろぉ? 

 

 お前の役立たずの兄貴が、この俺の足蹴にされるところをよぉぉっ!!」

 

 

 

 ゆっくりと自分とシャイニングガンダムの状態を確認しながら立ち上がるキョウジ。

 

 その彼をーーいや、シャイニングガンダムを見据えて、ネロスガンダムは嗤った。

 

 

 

「無様だなぁあ、シャイニングガンダム!

 

 ああ、ようやく俺の溜飲が下がるぜぇ!!

 

 忘れもしねえ、てめえとドモン・カッシュにやられた! あのネオイタリアでのことをなぁああ!!」

 

 

 

 そのとき、シャイニングガンダムのレーダーに反応があった。

 

 

 

ピピピィンッ

 

 

 

「八時の方向に生体反応っ!? まさかっ!!!」

 

 

 

 キョウジがそちらを振り向きながら、モニターを拡大させるとーー泣いている少年がいる。

 

 間違いなく、自分が作り出したフォログラフではない。

 

 本物の子どもだった。

 

 

 

「いかんっ!」

 

 

 

 ネロスガンダムという強敵を前に形振り構わずキョウジは、背を向けて走り出す。

 

 思わず、バルドフェルドが叫んだ。

 

 

 

「キョウジ! 迂闊だぞ!!」

 

 

 

 ネロスガンダムはーーミケロは、無様に走っているシャイニングガンダムに穏やかな調子で語りかけた。

 

 ただし、その表情は邪悪な殺意に歪んでいる。 

 

 

 

「覚えてるか? シャイニングガンダム。

 

 あの時もこんなだったよな?

 

 俺が銀色の脚を使って、全てを吹き飛ばそうとしたとき、あの刑事が馬鹿みたいに現れて、消し飛ぶ寸前に、お前がかばったんだよなあああああ!?

 

 今度はかばえるかなぁあああ!?」

 

 

 

 最後の方は、狂気を剥き出しにして、ミケロは足を振り上げる。

 

 

 

「銀色の脚ぃいいいい!!!」

 

 

 

「キョウジぃいいい!!!」

 

 

 

 無防備な背中に向けて放たれた漆黒の光線。

 

 しかし、それはバルドフェルドの予想を外して、シャイニングガンダムの脇を通り過ぎーーオーブの地表に向かっていった。

 

 

 

「ーー何? まさか!!」

 

 

 

 キョウジが必死になって、向かおうとしている地点にモニターを向けると子どもが一人で、天に向かって泣いている。

 

 それを確認できた後、黒い光線が着弾した。

 

 

 

ズドォァッ

 

 

 

 爆発音と共に、巨大な煙が立ち上る。呆然とするオーブ軍。

 

 地球連合との戦いでは、誰一人犠牲を出すことなく終わったというのに、こんなところで、まさか民間人の子どもを巻き添えにするとはーー。

 

 誰もが、その衝撃の事実に目を見張っていた。

 

 

 

 その姿を耳障りな甲高い声で笑い続けるミケロという魔人。

 

 

 

「ふははははっ! ざまあねえなっ!

 

 ヒャァーーーハッハッハッハ!!!」

 

 

 

 しかし、彼の笑みは唐突に消えることになる。

 

 巻き上がった煙の向こうにシャイニングガンダムが立っていたのだ。

 

 輝く右手を盾のように展開して。

 

 

 

「あんっ?」

 

 

 

 煙が晴れたとき、シャイニングガンダムの足元には泣いている少年がいた。

 

 それを確認して、バルドフェルド達がホッと胸をなでおろしていた。

 

 対照的にミケロは不快そうに吐き捨てる。

 

 

 

「ハンッ、間に合いやがったか」

 

 

 

 モニターに現れたキョウジは目元が見えていない。静かにつぶやくようにぽつりと語った。

 

 

 

「当たったら、死んでたぞ……」

 

 

 

 その言葉に愉快そうに笑いながら、ミケロは目を見開いて返す。

 

 

 

「そのつもりだぁ!」

 

 

 

「子どもだぞ……」

 

 

 

「だからなんだぁっ?」

 

 

 

 ぽつりと呟くようなキョウジの言葉を笑い飛ばし、馬鹿にするかのように問いかけるミケロ。

 

 

 

ズドォァッ

 

 

 

 一瞬後、シャイニングガンダムから気柱が立った。

 

 

 

「ーーーー何?」

 

 

 

 ミケロが訝し気にシャイニングガンダムを見据えると、シャイニングガンダムの目が真っ赤に光っていた。

 

 その鬼気ともいえる強烈な気当たりは、ミケロの中にある力と同じ質のものであった。

 

 つまりーーーー忌むべき悪魔の力だ。

 

 

 

「こ、この気配はっ!!?」

 

 

 

 忘れるわけがないーー。

 

 自分に圧倒的なまでの力を与えた源なのだから。

 

 目の前から発するこの気はーーーーーー。

 

 

 

「フッ……フッフッフッフッフ、フハハハハハハッ!」

 

 

 

 キョウジの口から、聞く者を恐怖や不安に叩き込む凶気を孕んだ笑い声がこの場に満ちていく。

 

 

 

「きょ、キョウジ……?」

 

 

 

 キョウジのその変化に、味方であるはずのバルドフェルド達でさえ、震えてきた。

 

 目の前の青年が、得体のしれないあまりに恐ろしいーー何かに変わったような気がするのだ。

 

 

 

 キョウジはその凶眼を吊り上がらせ、口元に邪悪な笑みを浮かべていた。

 

 

 

「変わらんな。ミケロ・チャリオット、度し難き愚か者よ」

 

 

 

「テメエ、まさかーー!?」

 

 

 

 動揺するミケロに対し、邪悪にして恐ろしい異形の笑みをキョウジは浮かべている。

 

 

 

「フッフッフッフ

 

 久しぶりだ。我が子、ヘブンズソードよ。

 

 もっとも今の俺は、ただのキョウジ・カッシュという人間に過ぎぬがな」

 

 

 

 笑いながら、自分の身を見下ろし、告げるキョウジに、その正体に気付いたミケロは戦慄しながら吠える。

 

 

 

「テメエ、本物かっ!?」

 

 

 

「それは貴様が一番よくわかっているだろう。

 

 さあ、続きを始めよう。なあ、シャイニングガンダムよ?」

 

 

 

 キョウジの言葉に、シャイニングガンダムの目が緑色に光った。

 

 

 

「フンっ!

 

 ファイターでもないくせにえらそうに吠えやがって!

 

 おらぁあああっ!」

 

 

 

 正体を悟ったところで恐るるに足らず、今の自分に負ける要素はない。

 

 

 

 前蹴りを放とうと右脚を浮かせるミケロ。

 

ガシィッ

 

 

 

 しかしそれよりも速く、いつの間にかネロスガンダムの懐に踏み込みながら、シャイニングガンダムがその顔面をつかんでいる。

 

 

 

「なっ! にィッ……!?」

 

 

 

 ネロスガンダムの体躯を右手一本で持ち上げる。

 

 

 

「ぐぉおああああっ」

 

 

 

 頭を握りつぶされそうな握力で持ち上げられ、悲鳴を上げるミケロに、邪悪な笑みを浮かべてキョウジは言った。

 

 

 

「相変わらず口うるさい男だ」

 

 

 

ドゴォゥッ

 

 パッと右手を放したと同時に左の蹴りが、ネロスガンダムの横面に炸裂し、脇へ吹き飛ばす。

 

 

 

「く、ぉっ……、なにぃっ……!

 

 フォームもクソもねえっ!

 

 ただの素人の蹴りにっ、なんでこれだけの威力がっ!」

 

  

 

 たった一撃にタフなミケロが足をふらふらさせながら立ち上がる。

 

 先ほどまでとは、質が明らかに違う一撃だった。

 

 

 

「こ、の、やろぉおおっ!」

 

 

 

 向かおうとした次の瞬間に拳が迫っていたーーーー。

 

 

 

ドゴォゥッ

 

 

 

 地面を割りながら殴り倒されるミケロは、ついに体が動かなくなった。

 

 

 

「ぐふぉっ、がぁっ」

 

 

 

 何とかして体を起こそうとするも仰向けになったところで、さらに胸の部分ーーコクピットの部分を踏みつけられる。

 

 

 

「がぁぁっ」

 

 

 

バキキキキィッ

 

 

 

 頑丈なMFの体が軋み、ミケロのあばら骨をへし折りながら、シャイニングガンダムの足は更にネロスガンダムの胸に食い込んでいく。

 

 

 

「ぐ、ぁ、ぁぁぁっ……!!」

 

 

 

 目を見開きながら、悲鳴を上げるミケロを無機質なーーまるで虫けらを見るかのような無関心さと、凶気を孕んだ眼が見下してくる。

 

 

 

「デビル……ッ、ガンダムっ!」

 

「違う。いまの俺の名はキョウジだ。フッフッフッフッフ」

 

 

 

 小首をかしげるような表情でそう告げたのち、無造作に足を踏み込む。

 

 

 

「なぁっ、ぐぅ、ぉっ、がぁぁぁっ」

 

 

 

 一気に、進んだ衝撃に、ミケロは何も言えず、ただ喘ぐしかできない。

 

 

 

「怖いか?

 

 恐ろしいか?

 

 フッフッフッフ。

 

 先のお前のやり方なら、踏みつぶされても文句は言えんなぁっ!?

 

 フフフフフハハハハハハッハハハハハハハッ!!!!」

 

 

 

 狂笑ーー正にその言葉がふさわしいキョウジの笑みにオーブ軍が戦慄している横で、バルドフェルドが少年の保護に成功した。

 

 その彼にしても、険しい表情でキョウジを見据えている。

 

 

 

「人間嫌いのテメエが、どういうっ! 風の吹き回しだぁっ!

 

 たかが、ガキ一匹にっ!?」

 

 

 

 ミケロが苦し紛れと言っていい言葉を放つと、キョウジはニィッと口の端を歪めながら虫けらを見るかのような目で言い放つ。

 

 

 

「もう一度言っておこう。

 

 俺は、デビルガンダムではない。

 

 キョウジ・カッシュだと。そういうわけだ、ミケロ。

 

 だからーー死ね!!」

 

 

 

 今にも踏みつぶそうとしたその時、キラの声がしてきた。

 

 

 

「キョウジさんっ!」

 

 

 

「キラーー?」

 

 

 

 キラがフリーダムガンダムに乗ってこちらに助けを求めている。

 

 見れば、ジョンブルガンダムがムラサメの一機のコクピットにロングライフルを突き付けていた。

 

 

 

「そこまでにしてもらおうか」

 

 

 

 チャップマンが静かにキョウジに向かって言い放つ。

 

 

 

「うう、申し訳ないキョウジ殿、キラ准将……っ」

 

「すみません、キョウジさん……っ」

 

 

 

 コクピットに狙いを定められて抑えられているムラサメを見ながら、キラがそれを防げなかった自分の不甲斐なさを詫びる。

 

 それを静かに見た後、キョウジは凶眼をチャップマンに向けた。

 

 

 

「ミケロから足をどけてもらおう。そんな奴でも一応は仲間なのでな」

 

 

 

 ジョンブルガンダムの言葉にあっさりと足をどけるシャイニングガンダム。

 

 

 

「感謝するーー」

 

 

 

 言いながら、こちらもあっさりと銃を下げるジョンブルガンダム。

 

 そのジョンブルガンダムのパイロットにキョウジは語りかけた。

 

 

 

「ジェントル・チャップマン。貴様どうやら、生前の記憶があるようだな」

 

 

 

 キョウジの言葉に、穏やかだが凄みと知性を併せ持つ笑みを浮かべて、チャップマンは笑った。

 

 

 

「お前の分身のおかげだ。奴が私に、いま一度の人生を与えてくれた。戦士としての、なーー。

 

 もっとも奴自身は、我々が復活したことを感知していないようだが」

 

 

 

「我々、かーー。フンっ、ずいぶんと幼いやり方だな。所詮は赤ん坊か」

 

 

 

 シャイニングガンダムが腕を組みながら、吐き捨てる。

 

 

 

「そう言ってやるな……。生まれ出でてまだひと月も経っていない赤ん坊だ。

 

あなたとは違うさ」

 

 

 

 その様に、懐かしみと微かな強者への敬意をこめて、チャップマンは語った。

 

 

 

「チャップマン……っ!

 

 テメエ、こんなやつとっ、なに仲良くしゃべってやがるっ……!」

 

 

 

「フン。

 

 自分から戦いを挑んで、わざわざ「王」を目覚めさせた挙句、返り討ちにあった男が言うセリフか?」

 

 

 

「なんだとぉおっ!」

 

 

 

 叫びながら抗議の声を上げるミケロにチャップマンはにべもない。

 

 

 

「退くぞ、ミケロ。これ以上、この場で戦えばこちらが不利だ。

 

 かつての我らの王が目覚めたのだからな」

 

 

 

「人間なんぞに取り込まれた、DG細胞の残りカスだろうが!!」

 

 

 

「それを言うなら我々も同じだーー」

 

 

 

 ひび割れた肋骨を再生させながら、吠えるミケロに、チャップマンが静かに諭す。

 

 そんな二人に、キョウジが笑みを浮かべながら言った。

 

 

 

「どうでもいいが、お前たちこのまま逃げられると思っているのか?

 

 お前たちは、ここで死んでおくべきだろーー?」

 

 

 

 その強烈な殺気に、ネロスガンダムを助け起こそうとしていたジョンブルガンダムが向き直った。

 

 

 

「ミケロ、先に行け」

 

「ざけんなぁっ! なんで俺がテメエに指図をぉっ」

 

 

 

 ミケロの言葉の途中でシャイニングガンダムが無造作に突っ込んでくる。

 

 何のためらいも感慨もなく、シャイニングは右拳を握りしめ振り下ろす。

 

 

 

バキイッ

 

 

 

 掴み止めるジョンブルガンダム。

 

 その衝撃で地面が割れ、起こる。

 

 

 

「あんなとんでもない一撃をっ、片手で止めたっ……!」

 

 

 

 キラがその力と力のぶつかり合いに目を見開いた。

 

 

 

「チャップマン、貴様ーー」

 

 

 

 キョウジが凶相の目を細める。

 

 

 

「我が王よ。

 

 私もまだ死ねん。

 

 戦士として私もまた、この世界でやるべきことを見つけたのだ」

 

 

 

 拳を弾き飛ばすジョンブルガンダム。

 

 静かに着地するシャイニングガンダム。

 

 

 

 瞬間、キョウジの凶眼が見開かれ、両の拳を腰において力をためる。

 

 

 

「シャイニングガンダム、やるぞ。力を貸せ、ゴッドガンダム!

 

 うぉおおおおおおおああああっ!!」

 

 

 

 黄金の光を放ちながら、シャイニングガンダムの胴体に、顔にーー光の線が無数に生じる。

 

 それは、ヒビだった。

 

 外面の殻が破れていくように中身が徐々に外へと出てくる。

 

 

 

「シャイニングガンダムが、変わっていく!?」

 

 

 

「うぉおおおおおおおぁぁあああああっ!!!」

 

 

 

 キョウジの叫びと共に、胸のクリスタルの上の部分が割れ、形がカバーを象り、エネルギーマルチプライヤーと呼ばれる緑色の球体を一度覆い隠す。

 

 

 

 その後、カバーは展開され、緑色の宝石が黄金の光を放ちながら、緑色のビームクロスを生み出す。

 

 

 

「うぉおおおおおおおああああッ!!!」

 

 

 

 そのビームクロスをたすき掛けにするシャイニングガンダム。

 

 

 

 肩の部分が展開され、足の部分も黄金の光を放ちながら展開する。

 

 背中のバックパックのフィンが上に引き上げられ、黄金の光の環を一瞬象る。

 

 

 

 展開されていた歌舞伎を思わせる顔面は、亀裂がひどくなりやがて黄金の光と共に割れ、中から仏像を思わせる丸みのあるガンダムの顔が出てきた。

 

 

 

「ゴ、ゴッドガンダム……っ!

 

 シャイニングガンダムの胴体と顔が、ドモン・カッシュのゴッドガンダムになっただと?

 

 どういうことだ、これは……!!」

 

 

 

 ミケロの言う通り、それはゴッドガンダムの顔と胸の造りであった。

 

 

 

「自己進化か……。

 

 しかしデビルガンダム細胞にしては、この気。

 

 あまりに神々しすぎる……!!」

 

 

 

 チャップマンの言葉に、キョウジは凶眼を向けて笑った。

 

 

 

「これが本来の俺の機体だ。

 

 我が機体の名はアルティメットガンダム。

 

 カッシュ家が生み出した、究極のガンダムだ!!」

 

 

 

 圧倒的な光を放つ戦神は、究極の光を放ちながら、構える。

 

 

 

「ふん、なるほど。これが本来のあなた、ということか」

 

「笑わせるなよっ!

 

 人類を抹殺しようとしたガンダムが、今更正義の味方気取りってのか!!」

 

 

 

 チャップマンとミケロの言葉に、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべてキョウジは言う。

 

 

 

「さあな。だが、お前らは滅ぼす」

 

 

 

「グランドガンダムっ!」

 

 

 

 圧倒的な力を放つ変身したシャイニングガンダムに、堅牢な要塞のグランドガンダムが立ちはだかる。

 

 その頑強そうな体躯と大きさに、バルドフェルドが驚愕した。

 

 

 

「なんてデカいガンダムだ!

 

 あれもガンダムなのかっ!

 

 ガンダムって名前つければいいってもんじゃねえだろっ!」

 

 

 

 そんなバルドフェルドの意見を無視して、チャップマンがグランドガンダムをけしかける。

 

 

 

「そいつの相手をしてもらおう」

 

 

 

 言いながら、ネロスガンダムを支えたジョンブルガンダム達を乗せるヘブンズソードが消えた。

 

 

 

シュオンッ

 

 瞬間、消えた空間を切り裂くように伸びる黄金に輝く右手。それが立ちはだかったグランドガンダムの胴に深々と何の抵抗もなく入っていたーー。

 

 そのままシャイニングガンダムは巨体を片手で持ち上げる。

 

 

 

「ヒィイイイト、エェエエンドッ!」

 

 

 

 キョウジの叫びと共にグランドガンダムの巨体が爆発し、跡形もなく消し飛んでいた。

 

 パラパラッと火花を散らしながら、展開していた部分が再び元通りになり、圧倒的なエネルギーが消える。

 

 

 

「ふぅ……。すまないキラ。逃がしてしまったようだ」

 

 

 

 瞬間、キョウジも元通りの穏やかな表情に戻ってキラに話しかけた。

 

 

 

「い、いえっ。キョウジさんが無事でよかったです」

 

 

 

 キラは首を横に振りながら、キョウジの無事を喜ぶ。

 

「お互いな。

 

 それにしても……ガンダムファイターはみんな味方ってわけじゃないらしいな。これからどうしたものか」

 

 オーブの敵は、地球連合のロゴス、プラントのデビルガンダムだけではなく、ガンダムファイター達も立ちはだかることになる。

 

 シャイニングガンダムが機体を進化させてくれたはいいが、待ち受ける前途は多難であることに、キョウジはため息をついた。

 

 






 みなさん、お待ちかね~!
 Dの駆るデビルガンダムとマスターガンダムの激闘は、まだまだ決着がつきそうにありません。
 そんな中、アスランを部隊長にした新生ミネルバ隊とシュバルツは、ローエングリーンゲートと呼ばれる渓谷に挑むのです!
 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第28話にレディー、ゴー!!


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第28話 滾る悪魔 進化するデビルガンダム

ドモンとレインがカッシュ家から出てくると、チボデー達シャッフル同盟が深刻な表情でうなだれていた。

理由は、ドモンには言わなくても分かっている。

彼らの傍にいる女性たちを見れば。

「ーーお前たち」

ドモンは、真剣な表情で、彼らを見た。

彼らも同じくらい真剣な表情で、こちらを見て話しかけてきた。

「ーードモン、カッコつけたことを言っちまった手前情けないがーー!!」

「私達はーーこれまでのようです!!」

「ーーお前と共に行きたかったぞ、ドモン・カッシュ」

チボデーが、ジョルジュが、アルゴが、それぞれの女性たちに拘束され、無念そうに呻いている。

「お前達、情けなくなどあるものか! 俺だって、痛いほどに分かる!!」

「「「ドモンーー!!」」」

盛り上がる4人だが、1人納得していない者がいた。

「なんで、オイラだけ、爺ちゃん達なんだよ!!」

「そう言うな、サイサイシー」

「セシル殿を連れて来たら来たで、お前はワシらを責めるじゃろ」

不満そうなサイサイシーに、ズイセン、ケイウンが口をそろえる。

「そりゃ、セシルは苦学生なんだからさ。こんなことくらいで呼ぶ訳にはいかないよ。
でも、なんか、寂しいーー!!」

サイサイシーの絶叫がネオジャパンコロニーに響く中、レインが先頭に立って、皆を観光に案内し始めた。

シャッフル同盟の、いや。

キング・オブ・ハートの旅立ちは、未だ成らず、である。


さて、皆さん。

オーブ軍アスハ派が、連合艦隊を退けていた頃。

マスターガンダムとデビルガンダムは、死闘を繰り広げていました。

そして、ザフトのシュバルツ達も、新たな出会いと戦いの場が待っていたのです。

それでは、ガンダムファイト!

レディー、ゴー!!

第28話



オーブ近海の名も無き諸島で、2つのMSーーいや、MFがぶつかり合う。

 

 

 

片方は巨大な角を持つ漆黒のボディに赤い羽のガンダム。

 

 

 

もう片方は、巨大な全長をさらに大きく見せる黄金の突起が肩や背中、ふくらはぎについた悪魔のガンダムである。

 

赤い配色の強い体は、胸の部分のみ青く、その中央に丸い緑のクリスタルが嵌められている。

 

だが最大の特徴は、本来の姿よりも白く長い脚部にある。

 

普通のMFよりも二回り大きい上半身のサイズに合わせ、太さもあるが、まさに人型ガンダムの下半身をしているのである。

 

 

 

ズガァアアアッ

 

 

 

2機は、大地と大気を裂きながら、拳に気を纏わせ、ぶつけ合う。

 

 

 

「ーーマスターガンダム!!」

 

 

 

「フンーー! アルゴとやりあった後では、パワーが物足りぬわぁ!!」

 

 

 

全く互角の力比べに、忌々しそうにDが鋭く吠える。

 

 

 

それを余裕の笑みで見据えた後、マスターアジアは突き出していた拳を自然な流れで脇へと引いた。

 

 

 

「ーーっ!?」

 

 

 

 Dが目を丸め、たたらを踏む。瞬間、ガラ空きのアゴに左裏拳を叩きこむと、マスターアジアの嵐のような拳蹴打がDを攻め立てた。

 

 

 

「ーーぐぅ!?」

 

 

 

うめきながら、ガードを固めるD。

 

 

 

その上から、マスターガンダムはお構いなしに猛攻を叩きつける。一秒間に十数撃。頑強なデビルガンダムの巨体が、非常識なまでの拳蹴打の雨をまえに後方へのけ反った。

 

 

 

ズザザッ

 

 

 

距離を置いて、静かにガードの奥からマスターガンダムを見れば、マスターも構えながら、こちらの様子を伺っている。

 

 

 

「ーーどうした? 世界を喰らうガンダムが、この程度で終わるなど拍子抜けぞ!!

 

それとも、ドモンに似せたのは、外面のみか!!」

 

 

 

「ーー調子に乗るなよ?

 

ならば、面白いものを見せてやる!!」

 

 

 

ブチィ

 

 

 

 Dは口端を皮肉げにつりあげると、左肩から黄色の突起を1つ抜き、薙ぎ払った。

 

その軌跡に沿って、突起物は黄色の柄をもつビームサーベルへと変化している。

 

 

 

抜かれた肩の部分は直ぐに新しい突起が再生していた。

 

 

 

「ーーほう? 貴様、剣を使うか?」

 

 

 

マスターアジアが鋭く目を細める先でDがニヤリと笑う。

 

 ふと、空が曇った。

 

 

 

「ーー我のこの手が翳りて吠える。

 

 全てを屠れと高まり狂うーー!!」

 

 

 

「ーーぬぅっ!!」

 

 

 

 異常を見て取ったマスターアジアが周囲への警戒を強めたとき、Dのビームサーベルは青紫色にどす黒く輝き、デビルガンダムの身の丈を超える大太刀へと進化した。

 

 海面が、気の振動に合わせて震えている。

 

 

 

「食らえ、哀と! 嘆きと! 憎しみの!!

 

ーーデビルフィンガーソード!!」

 

 

 

ブウンッ

 

 

 

 デビルガンダムの巨体から、大上段に振りかぶった大太刀が無造作に振り落ちる。

 

 その異様な迫力にマスターが息を呑み、咄嗟に跳躍して後ろにさがった。

 

 

 

Dが口端をつり上げて、無情にも逃げるマスターを斬り立てる。その一撃一撃は、空間をハッキリと斬り、大地と海を断つほどの絶刀である。

 

「まこと、凄まじき切れ味の太刀よ。

 

これほどの技、学べたはシャイニングのおかけだな」

 

 

 

強力な斬撃に自らもデビルガンダムは感嘆する。

 

 

 

対峙するマスターガンダムが、豪快な笑声を上げた。

 

 

 

「ーーフッふはははは!!

 

馬鹿め、そう易々と、このワシを倒せると思っておるのか!?」

 

 

 

「ならば、どうする!? この凄まじき太刀を!!」

 

 

 

 斬り立てるDの太刀を、マスターガンダムは鮮やかなステップを刻んでかわしていく。だが、デビルガンダムはDG細胞の塊だ。どれだけエネルギーを消費しようと関係ない。

 

かわし続けられようが消耗など、しない。

 

 

 

大上段から振り下ろされる唐竹の一撃を、マスターガンダムが白刃取った。

 

 

 

ピシィッ

 

 

 

完璧なタイミングと把持の仕方に、デビルガンダムでも抜けれない。

 

 

 

「ーーくっ! さすがだな、マスターアジア!!

 

だが、この太刀はビームよ!!

 

折ることは叶わんぞ!!!」

 

 

 

「ーーフン。その技を使うドモン・カッシュのシャイニングフィンガーは、ワシが教えた技。

 

すなわち!!」

 

 

 

マスターアジアが、刃を挟む両手に気を集中させる。

 

瞬間、デビルガンダムが作り出した強力な太刀は、光の粒子となって霧散した。

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

「破り方も心得ておる。

 

さらばだ、デビルガンダムよ!!」

 

 

 

マスターガンダムの右手が紫の気を纏い光輝く。

 

 

 

ズシュウウゥッ

 

 

 

Dは、目を見開きながら、デビルガンダムの胸部に深々と突き刺さる右手を確認していた。

 

 

 

「爆発!!」

 

 

 

貫手で胸部のクリスタルを貫き、力を爆発させる。

 

 

 

紫の光が一瞬、あたりを照らし出し、デビルガンダムは爆発の中に姿を消した。

 

 

 

「ーーふん、シュバルツとの決着前に、貴様と勝負することになるとはな。

 

だが、それも終わりだ」

 

 

 

爆発させ、消しとばした手応えを感じたマスターガンダムは、静かに踵を返すとその場を歩いて離れていく。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

連合戦艦ガーティ・ルーのブリッジにて、モニター越しにこの闘いを見ていたネオ・ロアノーク、イアン・リーは呻いていた。

 

 

 

「ーー流石に鮮やかですね。しかし、あのマスターという男にしては、遊びがなかった気もしますが」

 

 

 

「そだねー。まあ何にせよ、悩みの種が増えるわけじゃなくて何よりだ!

 

東方先生を迎える準備をしろ。マスターガンダムを収容後、本艦は任務に戻るぞ!」

 

 

 

この時の彼らはまだ、オーブでの地球連合艦隊の完敗を聞いていないため、気楽なものだった。

 

 

 

だが、状況は二転三転していくーー。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

カーペンタリア基地にて。

 

 

 

歌姫ラクスのライブが終了し、皆が帰還する中で、ルナマリアはウンザリといった表情で隣の幸せそうなメイリンを見やる。

 

 

 

「ーーああ、買い物もできたし!

 

ラクス様のライブでストレスも解消できたし、サイコー!!」

 

 

 

「そりゃ、良かったわねメイリン。あんたのおかげで、あたしは修行が遅れたんだけどね。

 

絶対、シンとレイの仕業だわ…!!」

 

 

 

許すまじと、拳を握り締める彼女だが、突如MSデッキに招集がかかった。

 

 

 

「ーーええ!? アスラン・ザラがオーブからザフトに来てる!?

 

しかも、フェイスって!?」

 

 

 

妹のはしゃぎように、耳をふさぎながら、とりあえずデッキに向かうと、シンとレイがすでに整列していた。

 

 

 

傍らには、腕組みをして背筋を伸ばして立つシュバルツもいる。

 

 

 

先にシュバルツに黙礼すると、彼はマスクの奥の目を和らげ、いつもどおり穏やかに頷いてくれた。

 

 

 

「シン、レイ!」

 

 

 

その後、自分を追いやった2人に話しかけると、それぞれ反応を返してきた。

 

 

 

「お? 早かったな、ルナ!」

 

 

 

「もう少し、ゆっくりして来ても良かったんだぞ?」

 

いけしゃあしゃあと述べる2人に、眉を引きつらせ、ルナマリアは言う。

 

 

 

「あんた達、あたしを出し抜いて何を教えてもらったのよ?」

 

 

 

「待てよ、ルナ! まだ、何もーー」

 

 

 

「誤解だ、ルナマリア。俺たちは別にーー」

 

 

 

睨みつけると、シンもレイも顔を見合わせ、しどろもどろになりながらも、語る。

 

 

 

2人の手は、パーだった。

 

 

 

「お前達、歓待式の最中に私語はよせ。

 

目立っているぞ」

 

 

 

シュバルツにやんわりと注意され、大人しくなる3人。その横で、メイリンがジッと静かに観察していた。

 

 

 

( 何だか、みんな変わっていってる?

 

お姉ちゃんは、ブランド物やお買い物より、修行をしたいって言うし。

 

シンは、前まであんなにも取っ付きにくかったのに、最近は何だか明るいし、素直だし、優しいし。

 

レイも、この中では一番変わってないように見えるけど、式典の最中に私語をするしーー)

 

 

 

メイリンがちらっと見上げたのは、長身の覆面忍者。

 

 

 

( この人、お姉ちゃん達が言うように凄い人なのかも?

 

こないだも、海の上で凄い戦いしてたしーー)

 

 

 

ジーッと見ていると、覆面忍者は、その目を和らげ、穏やかで温かみのある声をメイリンにかけてきた。

 

 

 

「どうかしたのかな?」

 

 

 

「あ、い、いえ!」

 

 

 

「そうか。とりあえず式の最中だから、前を向いていた方がいいぞ」

 

 

 

「あ、はい」

 

 

 

声が、素敵かもしれない。

 

 

 

後、背も高いし。

 

 

 

性格も落ち着いた大人って感じでーー。

 

 

 

でも、やっぱりあのマスクはなぁ。

 

 

 

メイリンは、そんな取り留めのないことを頭の中で分析していた。

 

 

 

アスランは式を終えるとシュバルツやシン達の方に真っ先にやってきた。

 

少々呆れ顔だ。

 

 

 

「君たちは、やたらと目立つな。頼むから、会議中に私語は謹んでくれよ?

 

ま、これからよろしく頼む。君たちの部隊を指揮することになったフェイスのアスラン・ザラだ」.

 

 

 

「隊長をあなたがやるんですか? シュバルツさんじゃなく?」

 

 

 

明らさまに不快そうなシンに、苦笑してアスランは述べた。

 

 

 

「シュバルツ殿は客人だし、軍人でない以上隊長職には就けない。

 

気持ちは分かるが、そんなに嫌うなよ。少なくとも、俺は君に感謝してるんだ、シン」

 

 

 

穏やかに笑いながら言うアスランに、シンは何故ここまで自分が好かれているのかわからず小首を傾げる。

 

「えとーー?」

 

 

 

するとアスランは笑みを引っ込め真剣な表情でシンに話しかけた。

 

 

 

「キラのことだ。あいつは、君に会って変わった。ずっと悩んでいたあいつが。

 

俺でもラクスでも、カガリでもない。

 

君が、あいつに立ち上がる力をくれた。

 

だから、ありがとう。シン」

 

 

 

「お、俺ですかーー?

 

でも俺、なんか、あの人の立場とか苦労とか考えないで、感情で話しちゃった気がして」

 

 

 

余計に苦しめたんじゃないか、と言おうとして、アスランが遮った。

 

 

 

「それは違う。君の言葉をあいつは誰よりも有難く思っていた。

 

目が覚めたと言ってたよ。だから、俺も感謝してるんだ。キラは、俺の弟みたいな奴だからさ」

 

 

 

鼻をかきながら、言うアスランに、シンは初めて親しみのある笑顔を見せた。

 

 

 

「そう言う事なら、貸しですね? なら、アスランさんにも力を貸してもらいますよ!

 

争いを終わらせる為にも!!」

 

 

 

「ーーシン。俺のセリフだ。

 

君のーー、いや、君たちの力を俺に貸してくれ。これ以上、無駄な血を流させてはいけないんだ」

 

 

 

アスランの強い目を見て、シンもまた頷いた。

 

 

 

「ーーなんだか、2人の世界って感じね?」

 

 

 

「その方がいいだろう。これから、俺たちはアスランの指示で動くのだからな」

 

 

 

「それは、そうだけどーー」

 

 

 

眉根を寄せ、不満そうなルナマリアに、レイが静かに告げた。

 

 

 

「安心しろ。シンが一番心を許しているのは、お前だ、ルナマリアーー」

 

 

 

「ーーな、何を言ってんのよ!!」

 

 

 

顔を赤くし、そっぽを向くルナマリアに心の中で告げる。

 

 

 

( シュバルツ殿を抜けば、なーー)

 

 

 

素知らぬ顔で、自分の心の呟きに頷くレイである。

 

 

 

その時だったーー。

 

アスランの元に駆け寄るものがいたのだ。

 

 

 

「ーーアスラン!」

 

 

 

「み、ミー……じゃない、ラクス!?」

 

 

 

抱きついてきた柔らかい存在は、アスランのよく知る女性ーーではなく、その人を真似た存在。

 

 

 

「何故、ここにーー!?」

 

 

 

「婚約者のあなたの元にわたくしが、来てはなりませんか? アスラン」

 

 

 

「え? 婚約者って……」

 

 

 

腕の中にいるミーアことラクスに、どう説明しようか考えていると、冷たい視線がアスランを射抜いた。

 

 

 

しかも、複数ーー。

 

 

 

正体はシン、ルナマリア、メイリンだった。

 

 

 

「ーーし、シン。これは、だな」

 

 

 

「アスランさんて、カガリ代表のこと、どう思ってんです?

 

ラクスさんもキラさんのこととか」

 

 

 

冷たい視線ながらも、一応は聞いてくれるシンに、有難く思って説明しようと口を開き、

 

 

 

( このラクスはミーアだってバラしちゃマズイんだった!!

 

よし、ここは、何とかーー)

 

 

 

そんなアスランの思惑を超えて、事態は進む。

 

 

 

「ーーキラ? だれ、それ?」

 

 

 

小首を傾げるラクスに、シンが眦を釣り上げた。

 

 

 

「ーーなんで、あんたが知らないんだよ。あんたと一緒にオーブへ亡命したんだろ?」

 

 

 

「ーーちょっと、アスラン。なんで、この子、ラクス様のこと」

 

 

 

流石のミーアも小声で聞いてきた。

 

 

 

「ここで、俺にふるのか……っ!?」

 

 

 

さっきまでシンに率先して応えようとしていたのに、此処で自分に火の粉がかかるとは。

 

 

 

アスランは、弱り切ったような顔になり、こちらの様子を見ているシュバルツを見た。

 

 

 

すると彼は、修行が足らんぞ、とばかりに首を横に振った後、こちらに歩いて話しかけてきた。

 

 

 

「お久しぶりです、ラクス嬢。オーブでお世話になったシュバルツ・ブルーダーです」

 

 

 

「え、ええーー」

 

 

 

多少、引きつりながらも答えるミーアに頷いた後、シュバルツはアスランに目配せをすると、シン達に振り返った。

 

 

 

「すまないが、今日の修行は休みだ。各自イメージトレーニングをしておいてくれ。

 

私は、これから、ラクス嬢やアスランと話がある」

 

 

 

「えーー? まじですか!?」

 

 

 

「そんな、折角早めに切り上げたのにぃ〜!?」

 

 

 

「わかりました、イメージトレーニングに励みます」

 

 

 

三者三様の反応に頷きながら、シュバルツはラクスとアスランに向き直った。

 

 

 

「では、カーペンタリアに良いコーヒーを淹れてくれる店がある。

 

そこに案内しよう」

 

 

 

言うとシュバルツは、2人を引き連れて、その場を去っていった。

 

 

 

「ところで、シン。なんで、ラクス様がオーブに居たって思ったの?」

 

 

 

ルナマリアの問いかけにシンが答える。

 

 

 

「何でも何も、プラントの歌姫が、英雄と亡命したってオーブでは持ちきりだったんだよ」

 

 

 

「ふうん? まあ、ラクス様も公務とかあるから、亡命も早めに切り上げたのかもね」

 

 

 

シンはなるほどと一つ頷き、シュバルツと共に出て行った青年の背中を半目で見つめる。

 

 

 

「にしても、アスランさんて、誰が好きなんだろな?」

 

 

 

「居るのよね、ああいう女性にだらしのないタイプ」

 

 

 

ルナマリアとその横にいたメイリンも呆れたような視線を送っていた。

 

 

 

 

 

カーペンタリア基地のとある小さな喫茶店にて

 

 

 

「助かりました、シュバルツ」

 

 

 

窓際の席に着いた3人のうち、アスランはフーッと息を吐きながら、述べた。

 

 

 

シュバルツが選ぶだけはあり、客の入りは自分達以外なく、ゆったりとした雰囲気の店だった。

 

 

 

「いや、しかし。

 

きちんと後でシン達に説明しておくのだぞ?

 

あれは、どう見ても不審の目だ」

 

 

 

シン達の目を思い出し、忠告してくるシュバルツに、アスランも苦笑いを浮かべながら、答えた。

 

 

 

「ねぇ、アスラン。ラクス様とあなたは、婚約者なのよね?

 

さっきの子が言っていた、キラさん、て誰なの?」

 

 

 

「そういえば、体外的には発表してなかったんだったな。忙しくて、気にしてなかったんだが。

 

実は、とっくに破局してるんだ、俺とラクスは」

 

 

 

「な、なんでーー!?」

 

 

 

頭をかきながら、アスランは答えた。

 

 

 

「簡単に言うと、お互いに好きな人ができたんだ」

 

 

 

「ーーそれが、キラって人と、アスハ代表なの?」

 

 

 

「ああ。だから、ミーア。

 

ラクスを演じるからと言って俺に懐く演技はいらないんだ」

 

 

 

ハッキリと目を見て言った。初めは何かを言いたそうなミーアだったが、やがて諦めたように笑う。

 

 

 

「ーーそっかぁ、残念。アスラン、かっこいいのに」

 

 

 

「それは買い被りだな、俺はカッコよくなんかないよ。俺なんかより、Dの方がいい」

 

 

 

笑いながら言うと、ミーアの眦がつり上がった。

 

 

 

「ーーどうして、Dの話が出るの?」

 

 

 

「え。いや? 何だか、親しそうだったし……?」

 

 

 

その迫力に、それ以上は言えないアスラン。

 

ミーアは、それを確認してか、どうかは分からないが感情を爆発させた。

 

 

 

「ーーあんな奴!

 

あたしを、ラクスとも何とも思わない奴なんか!!

 

だいたい、Dは私の話を無視し過ぎなのよ!!

 

女、だの! 小娘、だの!! まともに名前を呼んでくれた記憶もないし!!

 

ちょっと、聞いてる、2人とも!?」

 

 

 

「ーーあ、ああ」

 

 

 

「う、うむーー」

 

 

 

( 何故、私まで巻き込まれたのだ?)

 

 

 

( この際、巻き込まれてください! コーヒー代おごりますから!!)

 

 

 

ミーアの愚痴は、とどまることを知らず、喫茶店は彼女の独壇場になっていたーー。

 

ーーーーーー

 

燃え上がるデビルガンダムの残骸を背に、ガーティ・ルーに帰還しようと、マスターが目を向けた時、背後で変化が起こった。

 

 

 

「ーー気が膨れ上がる、だと?」

 

 

 

もはや、燃え尽きるだけの残骸に過ぎないはずのデビルガンダムの方から、圧倒的な気が起きていた。

 

 

 

炎に向き直り、構え直すマスターガンダム。

 

 

 

「ーーふん。往生際の悪い厄病神めが。

 

地獄に送ってくれるわ!!」

 

 

 

夕日が陰り闇に包まれていく中で、炎を背に一機のガンダムが立ち上がる。

 

 

 

その大きさは、20メートルを優に越え、特徴的な赤く丸い肩の先には、黄色の突起が一つずつ付いている。

 

 

 

その突起は、真っ白な下半身の両足のふくらはぎにも一つずつ付いていた。

 

 

 

胸部は、赤い配色が強く、金色の金具が、せり出した胸部のカバーを閉じる役目をする。

 

 

 

クリスタルは、カバーの中に収納され、カバーそのものの色は、青い。

 

 

 

仏像を思わせる丸みのある顔と、魔神を思わせる背中の羽。付け根が白く、羽は赤い。

 

 

 

腕は、全体的に白になり、手先の爪が尖った仕様をしている。

 

 

 

「ーーゴッドガンダムの頭と胴に、ワシのマスターガンダムの腕と羽か。

 

自前はもはや、その両の足のみとは。

 

哀れなものよな、他者の真似をせねば、強くなれんとは」

 

 

 

マスターガンダムが右手を突き出し、左拳を腰に置いて構える。

 

 

 

対峙するまったく新たな姿に生まれ変わったデビルガンダムは、微動だにせずにマスターに顔を向けた。

 

 

 

「ーー貴様やドモンを越えるならば、下半身だけをファイター仕様にしても勝てないと、重々思い知らされたのでな」

 

 

 

「ーーふん、確かにゴッドガンダムのエネルギーマルチプライヤーは貴様の使用していたそれの数倍のパワーがある。

 

しかし機体の性能など、ファイターとガンダムの一心同体の境地、明鏡止水に比ぶべくもない!」

 

 

 

油断なく構えるマスターアジアに、ニヤリと笑みを返し、Dは語り出した。

 

 

 

「ーー貴様の肉体は、我が細胞によって再生された。貴様は、どう思っているか知らぬが、都合良く病の無い体を手に入れられたと思うなよ?」

 

 

 

「ーーなんだと?」

 

 

 

デビルガンダムは、両の腕を広げる。

 

 

 

すると、マスターガンダムの胸部に紫の光の玉が現れる

 

 

 

「ーーなんだと!? これは!!」

 

 

 

「返してもらうぞ、貴様に貸していた我の力の分をな!!」

 

 

 

それは、真っ直ぐにマスターの胸から、デビルガンダムのエネルギーマルチプライヤーに取り込まれた。

 

 

 

それまで、両の目に灯りがなかったデビルガンダムに、青紫の光が灯る。

 

 

 

一瞬後、爆発的にデビルガンダムの気が上がった。

 

 

 

「ーーき、きさま、、ワシの力を!!」

 

 

 

対するマスターアジアは、冷や汗を垂らしながら、肩で息をしている。

 

 

 

足腰に力が入らず、膝をつく。

 

それを見下ろして、デビルガンダムは笑った。

 

 

 

「安心しろ、脱力は一時的なものだ。

 

貴様の中にあった我が細胞を返してもらった影響だな。

 

貴様の動きを技を覚えた、なーー!!」

 

 

 

述べると同時に、デビルガンダムが動く。

 

現れたのは、マスターガンダムの正面ーー。

 

 

 

「ーーおのれぃ!!」

 

 

 

気合いで立ち上がり、応戦するマスター。

 

 

 

デビルガンダムは、両の拳を腰に置いたまま、その場から無造作に右拳を繰り出す。

 

 

 

手打ちのはずのその一撃は、マスターをしてガードせざるを得ない速さと威力を兼ね備えていた。

 

 

 

ドゴゥッ

 

 

 

「ーーぬう!?」

 

 

 

踏ん張りが効かず、体制が崩れたマスターの脇に素早く踏み込み、デビルガンダムの拳蹴打の連撃が襲いかかる。

 

 

 

( 今のワシの足腰では、受け切れぬ。ならばーー!!)

 

 

 

自分の状態を冷静に把握し、敵の攻撃を見据えながら、避ける。

 

自分のボディに放たれる拳の一つ一つを丁寧に受け流し、受け切れない回し蹴りは、バックステップをしてかわす。

 

 

 

マスターが着地すると同時に、デビルガンダムの左手ーーディスタントクラッシャーが伸び、マスターガンダムの腕を掴んで、引き寄せる。

 

 

 

完全に懐へ引き寄せられるまえに、マスターは左手を振り払い、左拳を数発デビルガンダムの眼前に散らして、距離を置く。

 

 

 

振り払われて伸びた左手を引き戻し、構え直すデビルガンダム。

 

 

 

マスターアジアは、それを冷静に見つめながら、自分の足腰の状態を確認する。

 

 

 

( まだ、足腰の踏ん張りが効かんか。腰の入った攻撃や蹴り技は使えん。

 

しばらくは気を練り、回復につとめるか)

 

 

 

ステップを刻んで状態を確認しつつ、敵を見据える。

 

 

 

攻撃を捌ききれるのは、Dが自分の動きをトレースしているだけだからだ。

 

あの動きにDが慣れる前に、回復しなければ不利になる。

 

 

 

「ーーさすがは、東方不敗マスターアジア。

 

立っているのもやっとの状態で、良く避ける」

 

 

 

「ーーふん。ワシの動きをただ真似るだけの機械人形に、ワシを倒せる道理なし!!

 

あてが外れたようだな、デビルガンダムよ」

 

 

 

「どうかな? 貴様も気付いていよう。

 

この動きと新たな機体(カラダ)が俺のものになれば、どうなるかを、な!!」

 

 

 

拳を握りしめ、構えを取るDに、舌打ちをしながら、東方不敗も構え直す。

 

 

 

「笑わせてくれるわ! そのような浅はかな考えで我が流派を掴もうなどと!!」

 

「ーーなら、どう浅はかなのか。教えてもらおうか!!」

 

機体のウイングバインダーを開き、一気に加速して襲いかかるデビルガンダム。

 

ギュムッ

 

対するマスターガンダムも自身の軸足で地面を踏みしめて笑った。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

カーペンタリア基地を出発したミネルバ隊は、連合の拠点、ローエングリーンゲートに足を進めていた。

あたりは、渓谷の岩場ばかりで、天然の要塞とも言える。

ミネルバの作戦会議室で、アスランがモニターの前に立ちながら、状況を説明していく。

 

「ーーこれより、ローエングリーンゲートの攻略の為に作戦会議する。

各員、しっかりと聞いてくれ」

 

アスランの声が響く中、会議が始まったーー。

 

 

 

 

 

 

 




皆さん、お待ちかね〜!!

ローエングリーンゲート攻略には、シンのインパルスが欠かせないと語るアスラン。

シンも修行の成果を試す良い機会だと快諾します。

一方で、悪魔との死闘を繰り広げていたマスターに危機が迫り、かつてエクステンデッドと呼ばれたスティング達がデビルガンダムの前に助太刀に入ります。

彼らを見て、かつてのガンダムファイター達を思い返すDの取った行動とはーー?

次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第29話に!!

レディー、ゴー!!


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第29話 怒りの咆哮 マスターガンダム黄金の鬼神と化す

さて、みなさん。

ドモン・カッシュの奮闘劇は、しばらくお休みです。

改めて自分達の置かれている状況を確認するキラとバルドフェルト達。

マスターとDの対決も一先ずの区切りをつけます。

一方、ガルナハン基地の攻略作戦を組み立てるアスランとシン達。

オーブ、連合、ザフトに与するそれぞれの未来世紀の者達は、どのようにこの世界の根幹に絡んでいくのか?

それでは、ガンダムファイト!

レディー、ゴー!!




 

 

アスハ邸の地下MS基地にて、先の戦闘を生き延びた面々は今回の作戦を振り返っていた。

 

 

 

「初戦は僕たちの勝ちですね」

 

 

 

キラの言葉に皆が頷き、マリューがそれに続く。

 

 

 

「本当に信じられないわね。

 

あれだけの大艦隊を相手に、わたしたちだけで……敵にも味方にも人的な被害なく勝利することができるなんて」

 

 

 

「ぼくも長年『砂漠の虎』なんて言われながら戦ってきたが、こんなに気分のいい勝利は初めてだ」

 

「たしかに。こんな勝利があるなんて、昨日までは夢物語のように感じていたな」

 

「わたしもです」

 

 

 

これを受け、バルドフェルド、トダカ、アマギが次々に感想を述べた。

 

 

 

「だけど、これでぼくたちは完全にオーブに、いや世界に進む道を示してしまったことになりますね」

 

 

 

キラが、深刻そうに眉をひそめる。それにバルドフェルドが答える。

 

 

 

「それは、今更だろう。キラ。

 

現状はとりあえず、オーブの国家反逆罪というのを、撤回できるかどうかの瀬戸際だということを危惧すべきだな、俺たちは」

 

 

 

「そうですね。カガリは?」

 

 

 

「早速だが、スカンジナビア国家と会談に勤しんでいるようだ。

 

キョウジはザフトのギルバート・デュランダル宛に書状を書いていたらしい。ただ、これも現状どうなるかはわからん。

 

いくらカガリのオーブ代表という傘があっても、国家反逆罪の印をセイラン家達から付けられているんだ。

 

交渉もうまくいくかどうか。世論を味方につけられるかが、鍵だな」

 

「外交か……。僕達も、なにか手助けできればいいんですけど」

 

「その辺は政治屋でない俺たちではなぁ」

 

 

 

バルトフェルドの言葉に皆うなずき合い、顔を一瞬見合わせる。

 

 

 

「ところで、バルトフェルド殿が保護された少年はどうした?」

 

 

 

重くなった場の空気を変えようと、アマギがバルトフェルドに声をかけた

 

 

 

「いまは医務室でゆっくり休んでるよ。あんなところで親御ともはぐれて、可哀想に」

 

 

 

「でもおかしいわね。どうして避難勧告どころか避難指示をしていたはずなのに、逃げ遅れがいたのかしら?」

 

 

 

「人間のやることだ。ミスもあるさ。あってはならんミスだが、今回はそのミスを取り返せた」

 

 

 

顎に手をやり、眉根を潜めて考えるマリューに、バルトフェルドが手で制しながら、答える。

 

 

 

トダカもまた、先の戦闘で気になった点を挙げる。無論、この作戦の立案者にして、今回の戦闘の立役者。

 

あの謎の青年についてだ。

 

 

 

「それにしてもキョウジ殿には驚かされる」

 

「たしかに。彼の科学技術やMSも驚異的ですが、それよりもあの戦いぶり、敵の尋常でないMS乗りを一方的にまで叩き潰した……。すさまじいとしか言いようがありません」

 

 

 

これにアマギもうなずきながら、同調した。

 

 

 

「あのときのキョウジさんは、なんだか怖かったわね」

 

 

 

マリューの頭には、一方的に敵を踏み潰して笑うキョウジの姿があった。

 

 

 

「怖い、ですか? 確かにいつもとは違いましたけど、ぼくには普段のキョウジさんと、本質は変わらないように思えましたけど」

 

 

 

キラは小首を傾げながら、マリューの言葉をやんわりとだが、否定する。

 

これにバルトフェルドが苦笑を漏らした。

 

「そりゃあキラが大物なのか、俺たちが節穴なのか。どっちかだろうな」

 

 

 

「だが彼の実力はあまり見せびらかすものではありませんね。政治家どもが見れば、それこそ。

 

外交交渉などで彼を使いたがる者は多いでしょう」

 

「……大人しく使われてやるタマとは思えんがね」

 

 

 

トダカの言葉に、ブルーコスモスの盟主が自分と声が似ていると聞いただけで、妙な笑みを浮かべたキョウジを思い返しながら、バルトフェルドは嫌な汗を流した。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

オーブ近海の名も無き諸島にて。

 

 

 

デビルガンダムとマスターガンダムの一騎打ちが、半日以上にわたり、未だ繰り広げられていた。

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

ズザザァッ

 

 

 

鈍い音があたりに響き渡り、マスターガンダムはガードした状態で後方へ退く。

 

構えながら、デビルガンダムーーDが笑ってガードを固めたマスターに問いかけた。

 

 

 

「どうしたマスターアジア。大口を叩いた割にはたいした抵抗もできんようだが?」

 

 

 

これにマスターは、右拳を腰に置き、左手を開いて前に突き出す構えを取り、吐きすてる。

 

 

 

「ふん、ぬかしよるわっ。ならば!」

 

 

 

眦を吊り上げ、素早いステップを刻みながら、マスターは叫んだ。

 

 

 

「そのような大口を叩くのは、このわしを捉えてからほざくが良い!!

 

酔舞! 再現江湖デッドリーィィィッウェイブ!!」

 

 

 

マスターガンダムの姿が陽炎のように揺れる。その様に唸るD。

 

 

 

「その技を撃てるということはだいぶ体力が回復してきたということか。だがーー」

 

 

 

両拳を腰に置き、突っ込むデビルガンダム。

 

 

 

右拳を振りかぶり、マスターガンダムの顔めがけ、ストレートを放つ。

 

 

 

ビュウンッ

 

 

 

放たれた右ストレートは、紙一重で空を切る。

 

 

 

「ーーフンッ」

 

 

 

ビビュウンッ

 

 

 

拳蹴打の雨あられを放つデビルガンダム。

 

それをまるで舞い散る木の葉のように、質量を感じさせない動きで、

 

放たれる拳の風圧を受けるだけでマスターガンダムはその攻撃を紙一重でゆらりと躱して見せる。

 

 

 

「ーーこれはっ!」

 

 

 

この動きに対峙するDはおろか、観戦しているネオ達ですらも目を見開いた。

 

 

 

「わしの酔舞再現江湖をただ攻めるだけの技と思うたのが貴様の間違いよ。

 

ほぉれほれっ! わしの動きを真似られるのなら、この流れる水のごとき動き!

 

 舞い散る木の葉のごとき動きを捉えてみせぃっ!」

 

 

 

「ーーフンっ」

 

 

 

デビルガンダムは、右手を開いて、顔の横に持ってくると気を集中し始める。

 

 

 

「我のこの手が翳りて吠える。すべてを屠れと高まり狂う! 暴裂! デビルフィンガァアアアア!!」

 

 

 

ガシィィッ

 

 

 

放たれた青紫の光を放つデビルフィンガーは、ユラユラと揺れて動くマスターガンダムの影をついに、捉えた。

 

 

 

ビュウンッ

 

瞬間、捕らえたはずのマスターガンダムの影が消える。

 

 

 

同時にマスターアジアの声が側面から聞こえてきた。

 

 

 

「勝機っ! ダァアアクネス、フィンガァアアアア!!」

 

 

 

がら空きの脇腹に側面から放たれる紫の光をまとったマスターガンダムの右手。

 

一撃必殺のダークネスフィンガー。

 

 

 

しかし、Dはこれを読んでいた。

 

 

 

「甘いぞ、マスターアジア!」

 

 

 

言いながら左手に青紫の光をまとったデビルフィンガーを放つ。

 

右手と左手で、組み合う両者。

 

 

 

紫と青紫の光が、辺りを照らしながら、大地を隆起しながら、互いに押し合う。

 

 

 

「ぬぅうううううっ!」

 

 

 

マスターが、この動きに唸り声を上げた。

 

 

 

「馬鹿な! こやつ、これほどの力を!」

 

 

 

対峙するDがニヤリと笑い、足腰を踏ん張りながら吠える。

 

 

 

「そんな脆弱な足腰で、我が力を止められると思ったか!

 

 デェェェエッド、エンドォォオッ!!」

 

 

 

「ーー何だと、こんな馬鹿な!?」

 

 

 

巨大な爆発が両者の間に置き、マスターが悲鳴を上げながら爆発の中に消える。

 

 

 

「ーーぬうううっ」

 

 

 

右腕を抑えながら片膝をつき、うずくまるマスターガンダム。

 

マスターアジアは、自分の機体よりも頭二つは背が高い機体を睨み上げる。

 

 

 

「お、のれっ!」

 

 

 

「さあ、マスターアジア。二度目の敗北の時間だ。そしてこれでーー」

 

 

 

Dはマスターガンダムを見下ろしながら、右手を振りかざす。

 

その右手がDの気を受け、青紫に燃える。

 

 

 

「二度目の人生も、終わりだぁあああっ!!」

 

 

 

「ーーぬぅっ!」

 

 

 

振り下ろされる右手を睨み据え、唸るマスターガンダム。その時だったーー。

 

 

 

「「「ししょーーっ!!」」」

 

 

 

ビビィンッ

 

 

 

 緑色のビームが三本、デビルガンダムの顔を撃つ。

 

 デビルガンダムは顔面にビームライフルを受けるも、のけ反りすらせずにそちらを向く。

 

 そこには、マスターアジアがこの世界に来て得た三人の弟子ーー三機のガンダムがいた。

 

 

 

「ししょーはやらせないっ!」

 

「師匠っ! ここは俺たちが!」

 

「早く逃げてくださいっ!」

 

 

 

 それぞれ、ガイア、カオス、アビスというガンダムを駆るまだ十代の少年少女たちである。

 

 彼らは『エクステンデッド』と呼ばれる連合ーー「ブルーコスモス」による強化兵であった。 

 

 

 

「雑魚が。

 

 お前たちのような連中がそろったところで、なんになる?」

 

 

 

 Dは嘲りを強く含んだ笑みを浮かべて、三機のガンダムに自機を向けた。

 

 これに東方不敗マスターアジアは、三人の弟子に向かって声を張り上げる。

 

 

 

「馬鹿者どもがぁっ! 早く逃げんかっ! これは命令じゃ!!」

 

 

 

 しかし、普段はマスターの一喝を受ければおとなしく言うことを聞く彼らも、今回は違った。

 

 

 

「やだぁああっ! ししょーは、ステラたちに生きる喜びを教えてくれた!!」

 

「俺たちに、親のいる喜びを教えてくれたのは師匠だっ!」

 

「ぼくたち、あいつらに連れていかれて薬とか、機械で頭を狂わされてっ、それでもいま!

 

 こうしていられるのは師匠のおかげなんだ!!」

 

 

 

ステラ、スティング、アウルの3人の叫びに、マスターは唸る。

 

 

 

「ぬぅっ……。馬鹿者どもがっ!

 

ネオ、なにをしておる!

 

 早くこやつらを回収せんかぁっ!」

 

 

 

弟子達が言うことを聞かないと悟ると、こちらを伺っているであろう戦艦に向かって声をはりあげる。

 

 

 

しかし、いつもどおり何処か飄々とした声は、東方不敗の予想に反した答えを返すのだった。

 

 

 

「そいつは聞けませんなぁ。東方先生」

 

 

 

声と同時に放たれたのは、ビームライフルの弾丸。

 

 

 

「ーーぬっ?」

 

 

 

デビルガンダムの肩口を緑色の光線が撃つ。

 

デビルガンダムがそちらに顔を向けると、高速機動で現れた紫のウィンダムが一機あった。

 

 

 

「あなたはもう俺たちにここまで関わっちまった。なら最後まで責任取ってもらわないとね」

 

 

 

仮面を付けた男の不敵な笑みに、ステラの表情が明るくなる。

 

 

 

「ネオーー!」

 

 

 

「馬鹿者どもがっ」

 

 

 

もはや、こちらの指示を聞くものが誰もいないと悟り、マスターアジアは吐き捨てた。

 

 

 

「馬鹿者で結構!」

 

「師匠から未熟者とか、馬鹿者って呼ばれるのは、慣れてるよ!」

 

「それでも、ステラたちはししょーを守りたいの!」

 

 

 

スティング達の言葉を受け、マスターが目を見開く。その横で、話を聞いていたデビルガンダムは、邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

 

「フン、滑稽なやつらだ。

 

マスターアジアを守る?

 

 貴様らごとき雑魚が、命を懸けたところで数秒程度しかもたんだろうに。――それをな。犬死というのだ」

 

 

 

Dの言葉に、スティングは皮肉気に笑い、アウルとステラは必死の形相になってガンダムを構える。

 

 

 

「へっ、そうかもな」

 

「だけどさ。ぼくたちってとっくに死んでんだよね」

 

「ーーブルーコスモスにさらわれたから」

 

 

 

彼らの言葉に、ネオがコクピットの中で顔を顰める。

 

 

 

「お前ら、あんまり俺を泣かすんじゃねえよ……」

 

 

 

その後ろで四つん這いになりながら、黒いガンダムが動く。

 

 

 

「喝ぁああっ……馬鹿者がぁっ!

 

 貴様らはっ! もう、ひとつの命であろうがっ!

 

 ただの1人の少年として、貴様らは生きてゆくのだっ! 

 

このような年寄りのために、貴様らの命!

 

 散らすなどあってはならんっ!」

 

 

 

猛虎のような咆哮を上げながら、立ち上がるマスターガンダム。

 

 

 

これを受け、Dもまた笑う。

 

 

 

「ほう。まだ立つか、マスターアジア」

 

 

 

「かわいい弟子が三人も、わしのために命を懸けようというのだ。

 

寝ておれんわ!!」

 

 

 

マスターは気合いを入れて構えるも、やはりその足腰は何処か心もとない。

 

 

 

それを静かな笑みを浮かべて見据えたDは、1人つぶやいた。

 

 

 

「フーー、なるほど。

 

この世界にも居たか。

 

他人のために命を懸けるあのガンダムファイターたちのようなやつらが」

 

 

 

何処か穏やかな、温かみすら感じる表情を一瞬だけDは浮かべるも、すぐに邪悪な笑みをその口元は象る。

 

 

 

「ぬぅっ!?」

 

 

 

Dの興味の対象が自分ではなく、弟子達に向けられていることを悟ったマスターアジアは、険しい表情でDを睨み据える。

 

対するDは、両手を広げて、3機のガンダムを迎えるように言い放つ。

 

 

 

「小僧ども、喜ぶがいい!

 

貴様らすべて、この我が取り込んでやろう。

 

貴様らはこのデビルガンダムとともに生きるのだ!」

 

 

 

Dの放つ言葉の意味は分かりかねるが、放たれる邪気の濃厚さに、ネオは呻いた。

 

「くっ!

 

やっぱりヤバそうなやつだったか!

 

スティング、アウル、ステラ!

 

 ヤバくなったら、とりあえず東方先生連れて逃げろよ!!」

 

 

 

「ーーネオ!」

 

 

 

「東方先生の気持ち、お前らはきっちり受け止めとけーーーー。これが俺がお前らにできる責任の取り方だ」

 

 

 

ステラの悲鳴に近い叫びに、穏やかな笑みを浮かべ、ネオはデビルガンダムを睨み据えた。

 

 

 

ネオのウィンダムを支援砲撃するために、ガーティ・ルーも配置に着く。

 

 

 

「ーーさあ、来い! 化け物め!!

 

殿はウィンダムーーネオ・ロアノークとファントムペインが請け負った!!」

 

 

 

そう叫び、ビームライフルを構えたその時ーー。

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

ネオは、思わず間の抜けた声を上げた。そう、背後から、目の前の悪魔の邪気すら上回る、とてつもない鬼気を感じたからだ。

 

 

 

「いま、なんと言うたーー? デビルガンダムよ」

 

 

 

「ーーなに?」

 

 

 

想像に反して、静かな声が黒い鬼を思わせるガンダムから放たれている。

 

デビルガンダムをして、一歩後ずさる程の鬼気。

 

それはーー導火線に火が付いた爆弾の静けさだ。

 

 

 

「もう一度ほざいてみよ。

 

貴様、よりにもよってワシの眼の前で、我が愛弟子達を取り込むだと? 

 

この、たわけがぁああああっ!!」

 

 

 

咆哮を上げると同時に両拳を腰に置いて気を解放する。

 

瞬間、人機一体の明鏡止水の境地に達した、マスターガンダムは、その全身に黄金の光を纏う。

 

 

 

「えぇええええっ!?」

 

 

 

可哀想な程に狼狽えるネオのすぐ側で、地面が起こり、黄金の気柱が、天を衝いた。

 

 

 

「あぁあっ、あぁあああぁああっ!?」

 

 

 

その圧倒的なパワーに、ネオもガーティ・ルーのブリッジ内も騒然となる。

 

 

 

黄金の気柱を立てた、マスターガンダムは静かに赤く輝く両の眼をデビルガンダムに向けた。

 

 

 

「こ、これはっ!

 

明鏡止水、ハイパーモード!?

 

 馬鹿なっ!

 

 我は、確かに貴様から気力を奪い取ったはずっ!?

 

こんなにも早く気力が回復するはずはない!!」

 

 

 

圧倒的な鬼気を放つマスターガンダムの眼を向けられたデビルガンダムは、後ずさりながらも、このあり得ない現象に目を見開いた。

 

 

 

「ししょー、ししょーっ!」

 

「「師匠っ!」」

 

 

 

目に涙を溜めて喜ぶステラと、瞳を輝かせ、拳を握って笑顔で師を呼ぶスティングとアウル。

 

 

 

マスターガンダムは、黄金の気をまといながら、ゆっくりと歩いてネオやスティング達の前に出ると、デビルガンダムに向かって右手を突き出した。

 

 

 

「よく見ておけ、我が弟子たちよ。

 

これぞ流派! 東方不敗がぁ! 最終奥義ぃいい!」

 

 

 

マスターは瞳を閉じ、気を集中させながら、左拳を腰に置き、膝を曲げて腰を落とす。

 

 

 

「ぅ、ぉ、ぉおおおおっ! や、やべええええっ! 離れろぉおおおお!」

 

 

 

ネオの言うように、黄金の光の塊となったマスターガンダムは、ガーティ・ルーの計測器をアッサリと凌駕した。

 

 

 

当たり前だが、周りの騒ぎを無視し、マスターアジアは右腰に両手を置いてたわめ、気を高める。

 

 

 

「石破! 天驚拳ェエエエエエエンッ!!」

 

 

 

限界まで高めた光の玉を、前方に両手を突き出して放つ。

 

 

 

それは、紫の文字で「驚」と書かれたデビルガンダムをも軽く飲み込み、全てを吹き飛ばす黄金の光線に変わった。

 

 

 

 

 

「ならばっ!

 

ダブル! デビル、フィンガァアアア!!」

 

 

 

青紫に輝く両手を突き出して、壁を作り、黄金の光線を受ける。

 

ーーーーーー拮抗は一瞬。

 

 

 

ズドォオウアッ

 

 

 

「うぉおあああああああっーー!?」

 

 

 

黄金の光線にデビルガンダムの作った光の壁は、押し消され、一瞬で水平線のかなたまで、吹き飛ばされた。

 

 

 

その威力は凄まじく、光が通り過ぎた衝撃波で、海面は割れ、海底が一瞬、陽に照らされる。

 

 

 

 

 

あんまりな光景に、たっぷりと沈黙した後、イアン副長は自分の上司に声をかけた。

 

 

 

「ロ、ロアノーク大佐……。ご、ご無事ですか?」

 

 

 

通信口から聞こえた声は平常で、仮面の奥の表情は読み取れない。

 

 

 

「ああ……。死ぬかと思ったがな」

 

何処か、悟ったような口調に、イアンは思わず胸を震わせた。

 

 

 

「そうですか……! ご無事でなによりです!!」

 

 

 

いつも以上に熱い感情のこもったイアンの激励に何処か寂しげな笑みを浮かべ、ネオは返した。

 

 

 

「ありがとよ。

 

……なあ、イアン。俺、要ったかな?」

 

 

 

その言葉に、思わず目頭を押さえそうになりながらも、イアンは努めて明るく、明るく答えた。

 

 

 

「もちろんです、大佐っ……! 大佐がいたからこそっ!」

 

 

 

「ありがとよ、イアン……さ。この海域を離れようか」

 

 

 

ネオの受けた傷をおもんばかり、イアンは早急に船の舵を切る。

 

 

 

 

 

「「「師匠ぉおお!!」」」

 

 

 

3人の涙ながらの呼びかけに、マスターアジアは勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

 

 

「フンっ、馬鹿者どもがっ。わしがあの程度でくたばるわけがあるまい!

 

 わっはっはっはっはっは!」

 

 

 

盛り上がる師弟を尻目に、ネオは部下のウィンダムやダガー隊と後始末をしながら、さっさと帰艦準備を行う。

 

その時だった。

 

 

 

「ネオよ!」

 

 

 

マスターガンダムからの通信に、ネオが脱力というか、理不尽を覚えながら返す。

 

 

 

「はいはい、なんですか? 東方先生」

 

 

 

「ーー礼を言う」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

一瞬、この超人に何を言われたのか理解できず、ネオは仮面の奥の目をまん丸に見開いた。

 

 

 

「貴様らに救われたわーー」

 

 

 

背を向けながら言う東方不敗に、ニヤリと笑みを返し、ネオは言った。

 

 

 

「ーー俺たち仲良くやれそうですね。東方先生」

 

 

 

「フンっ、意外に熱いところがあるではないか」

 

 

 

「あなたに感化されたんですよ。ガーティ・ルー! この海域を離れるぞ」

 

 

 

こうして、マスターアジアとファントムペインを載せた船、ガーティ・ルーは、激戦を繰り広げた海域を離れていくのだった。

 

 

 

間も無く彼らには、オーブでの連合艦隊の惨敗の報告が、ロード・ジブリールより来るのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

一方、こちらは、ミネルバのミーティングルーム

 

 

 

薄暗い部屋の中、モニターの青い光が作戦を立案するアスランの顔を照らす。

 

「これより、ローエングリーンゲートの攻略作戦を開始する。各員、配布された資料に目を通してくれ」

 

 

 

すると、シンとレイ、ルナマリアがまるで打ち合わせをしたかのように全く同時にページをめくる。

 

 

 

その一糸乱れない動きに、アスランはおろか上司であるタリア達も目を見開いた。

 

 

 

「ーー? 何か?」

 

 

 

「い、いやーー。さ、流石に赤服の部隊だな、シン」

 

 

 

部隊の練度はもしかしたら、2年前の自分達さえも上回るかもしれない、と正直に見直すアスラン。

 

 

 

「ーーはあ?」

 

 

 

しかし、見直された理由が本気で分からないらしく首を傾げるシンに、苦笑を浮かべて、アスランは作戦を指示し始めた。

 

 

 

「じゃあ、改めて。

 

ローエングリーンゲートの攻略戦を始める」

 

 

 

アスランの言葉に頷きながら、シンが渡された資料を見ながら事前に調べたことを口に出す。

 

 

 

「ーーローエングリーンゲート。

 

ガルナハン基地は、深い渓谷に設立されていて、強力な陽電子砲を正面に配置した一見単純だけど合理的な基地配備だ」

 

 

 

隣でレイが頷き続ける。

 

 

 

「ーー加えて、お前がオーブ近海で倒したザムザザーというMAによく似た機能を持つ、ゲルズゲーと呼ばれるMAも配置されているようた」

 

 

 

「ーーつまり、こちらの陽電子砲は威嚇以外にはならないってことよね。明鏡止水なら?」

 

 

 

3人のやり取りに、アスランは苦笑を浮かべた。

 

 

 

「ーーお前達、何処でそんな正確な情報を」

 

 

 

「え? 基本ですよ。敵を知り、己を知らば、百戦危うからずです」

 

 

 

シンの言葉に、ルナマリアとレイが頷いて答える。

 

 

 

「ーー現状、穴らしい穴は一切ない。MSを使おうにも、ローエングリーンゲートと、リフレクターのMAがいる限り攻め込むのも難しい」

 

 

 

「ーーシュバルツ殿ならば、この地形を逆に利用できるだろうが、俺たちにはまだ、そこまでの技量はない」

 

 

 

「ーー私の明鏡止水を使ったオルトロスでも、リフレクターを破るのは困難」

 

 

 

3人は、ジッと目の前に立つアスランを見据えた。

 

 

 

「ーー俺たちが何をできるかは、実戦でお見せします。だから、この戦いに勝つ作戦をください!」

 

 

 

アスランが、燃える赤い瞳を見据えて苦笑した。

 

 

 

「ーー参ったな、お前達。頼りになりすぎだ。

 

不甲斐ない隊長かもしれんが、よろしく頼む」

 

 

 

こうして、ミネルバのスエズ攻略の為の礎となる、ガルナハン基地攻略戦が展開されるのだった。

 

 

 

 

 





みなさん、お待ちかね〜。

ガルナハンのローエングリーンゲート攻略戦に、シンはアスランの作戦どおりコアスプレンダーで出撃します。

シュバルツ・ブルーダーが、ブリッジで観戦する中、強力なMAが次々と現れるのです!!

次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第30話に。

レディー、ゴー!


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第30話 修行の成果 ガルナハン要塞攻略作戦

ガルナハン要塞ーー。

天然の渓谷を切り取って作られたこの基地は、地球連合の要であるスエズ基地への通り道として欠かせず、補給路でもある、重要拠点です。

幾たびに渡り、ザフトの部隊が、この要塞に挑み破れていきました。

そんな中、ついに我らがシン・アスカのミネルバ隊が、この要塞に挑むのです!

それでは、ガンダムファイト! ガルナハン攻略作戦!!

レディー、ゴー!!

第30話



 

真っ暗な洞窟内を、小型戦闘機が最大速力で突っ切っていた。

 

灯りもなにもない。ライトさえつけず、小型戦闘機(コアスプレンダー)の暗視レーダーも沈黙したままである。

 

だれが見ても狂気の沙汰としか思えぬ状況だった。そのなかで、シンはコクピット内で独りごちる。

 

 

 

「ーーレーダーや視覚に頼るなよ、シン。

 

五感を研ぎ澄まし、人機一体の境地で風の音と空気の摩擦を感じろ!」

 

 

 

狭路にして複雑に蛇行するこの洞窟の地形は、地元では戦闘機の通路としてまず認知されない難所だ。予め地形は隊長アスランから渡されていたが、シンはまるきり地図を見ずに作戦に参加していた。

 

 

 

予め地図や地形を覚えると、どうしても視覚に頼らざるを得なくなるからだ。

 

 

 

明鏡止水の境地を修行しているシンにとって、それは効率が悪い。

 

 

 

「ーーいける。なら、後はやるだけだ!!」

 

 

 

瞳を大きく見開いて、シンは暗がりの中で、いまだ見えぬ出口の光さえも見通していた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ミネルバの会議室で、アスランが切り出した作戦は、地元のゲリラ部隊との連携による地形の把握だった。

 

 

 

MSでは通ることさえできない狭路を、シンのインパルスならば、分離形態で突っ切って行ける。

 

 

 

敵のMAをひきつける役は、アスラン自身が行うと言っていた。

 

 

 

「ーーシン、作戦の成功はお前の腕にかかっている。

 

頼んだぞ」

 

 

 

「何を言ってるんですか、アスランさん」

 

 

 

アスランは目を丸めた。シンが呆れた表情を最前列の椅子から向けてくる。作戦に積極的なことは周到な予習内容から間違いない。ならば、シンなりに作戦の穴を見つけたのか。

 

アスランが身構える間に、シンが率直に言った。

 

 

 

「作戦の要は、参加するチーム全員でしょ?

 

誰が欠けてもできやしない。俺は、自分に与えられた役目をこなすだけ、ですよ」

 

 

 

「ーーシン」

 

 

 

「貴方が責任感強いのは、何となく話してて分かりました。けど、いつ如何なる時でも、自分を見失わない為には、自分を追い込むだけじゃダメです」

 

 

 

意外な核心をつかれ、アスランが息を呑む。長くザフト在籍しているアスランは、人一倍緊張が顔に出にくいよう訓練されている。つねに冷静沈着。クルーゼ隊にいたころも、こんな指摘は他人からされたことがない。

 

シンは不敵な笑みを浮かべ、放心しているアスランに告げた。

 

 

 

「ーー大丈夫。俺たちなら、やれますよ」

 

 

 

確信に満ちた一言だった。

 

胸のあたりが、ふっと温かく感じる。

 

アスランは困難な作戦前だというのに、珍しく眉間から力を抜けるのを自覚した。

 

 

 

「ーー不思議な奴だな。お前になら、任せておけばいい。

 

そんな気持ちにさせられたのは、初めてだ」

 

 

 

「ーーそれを、証明してみせますよ。貴方の前でね!」

 

 

 

自信に満ちた瞳は、慢心などしていない。

 

 

 

相手の戦力を知り、強敵だと判断したからこそ、シンは燃えている。

 

 

 

自分の力を、修行の成果を試したい、それもある。

 

 

 

だが、勝利しなければならないプレッシャーをも、シンは飲み込む。

 

 

 

不安はある。

 

 

 

恐れもある。

 

 

 

だが、自分達ならできる、それだけのことを自分やレイ、ルナマリアは学んだのだ。

 

 

 

この、筆舌に尽くしがたい能力を持つ青年から。

 

 

 

シンに目を向けられ、シュバルツは力強い目を返して頷いた。

 

 

 

「ーーいい気迫だ、シン。

 

ならば、この作戦。

 

私は手を貸さない。お前達だけでやり遂げてみせよ!!」

 

 

 

「「「ーーはい!!」」」

 

 

 

たったそれだけのことで、彼らには全てが通じている。

 

 

 

アスランをして、羨ましくなるほどの信頼関係が、シン達とシュバルツの間にはあるようだ。

 

 

 

( なるほど。

 

シンがはじめて会った時とは印象が全く違うのは、シュバルツに鍛えられたから、か)

 

 

 

師弟関係ーー、そう呼んで差し障りないだろう。

 

 

 

ならば彼らが、この僅かな期間にどれだけのことができるようになったかを見定めよう。

 

 

 

アスランは、1人頷いた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

レジスタンスの少女からの協力で得た、相手の戦力情報と兵器の配置。

 

 

 

それを頭に思い起こしながら、アスランとルナマリア、レイはミネルバの前方に配置された。

 

 

 

渓谷は、想像以上に深く、剣山のように天に伸びている。

 

 

 

更には、ジェットストライカーと呼ばれる空戦バックパックを装備した地球連合の量産型凡用MS、ダガーLが10機。

 

 

 

中央には、一際大きな岩の塊があり、その中腹をくり抜いた穴の中に巨大なローエングリン砲が配備されている。

 

その上空にはゲルズゲーと呼ばれる上半身がダガーで、下半身がクモのような姿をした問題のリフレクターを装備したMAが浮いている。

 

 

 

「タリア艦長、よろしくお願いします」

 

 

 

「ーー分かったわ。

 

タンホイザー起動! 目標、敵の陽電子砲!!」

 

 

 

アスランの言葉に、タリアがクルーに指示し、ゆっくりとミネルバの正面に取り付けられている砲門が口を開く。

 

 

 

「ーーアスラン隊長」

 

 

 

「なんだ、ルナマリア?」

 

 

 

「ーー私も援護していいですか? 考えがあるんです」

 

 

 

赤いザクからの通信に一瞬だけ眉根を寄せ、考えるもルナマリアは考えあってのことらしい。

 

 

 

どうするか思慮していると、タリアから指示が飛んだ。

 

 

 

「ルナマリア、見せてあげて。あなたとレイの力を」

 

 

 

その言葉に、ルナマリアは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

「ーー了解です、敵からの砲撃と同時に撃ちぬきます!」

 

 

 

言いながら、オルトロスを構える。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 地球連合ガルナハン基地の作戦会議室にて、もう幾度にもなるザフトの部隊の攻撃を退けた士官は、鼻で嘲笑しながらモニターに映る最新の戦艦ーーミネルバを見据えた。

 

 

 

「性懲りもなくまた現れたか、ザフトめがーー。

 

 何度やっても無駄だ! ローエングリン照準!! 目標、敵ーーミネルバ!!」

 

 

 

 連合士官の号令により、岩山の中腹に設置された巨大陽電子砲ーーローエグリンの砲塔に、赤と青の光が満ち溢れていく。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、敵からの砲撃ーー陽電子砲が発射された。

 

 

 

「ーーミネルバ、退避を!」

 

 

 

アスランが指示を出すより先に、ルナマリアがオルトロスを構える。

 

 

 

「ーーな、何を?」

 

 

 

アスランの疑問に応えるように、ルナマリアが引き金を引いた。

 

 

 

「ーー貫け、オルトロス!!」

 

 

 

凛とした声と同時に放たれる赤いビーム。

 

 

 

ズバァッ

 

 

 

それは、自身の倍以上の太さを誇る陽電子砲を中央から押し返して行く。

 

 

 

「ーーな、何だと!?」

 

 

 

いくらオルトロスが、MSの携帯用ビーム兵器でも強力な貫通力を持つとはいえ、あまりにも理不尽な現象だった。

 

 

 

戦艦の主砲にさえ使われている陽電子砲が、玩具のように押し返されていく。

 

 

 

しかし、敵のMAは光の菱形を幾重にも組んでシールドを展開し、オルトロスを防いだ。

 

 

 

バチィィッ

 

 

 

当然、オルトロスはかき消されるが、防ぎ切った衝撃で連合の最新MAゲルズゲーが、後方に仰け反った。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 これに目を見開いたのは、連合軍の軍人たちだった。

 

 

 

「まさかーー。インド洋での噂は本当なのか?

 

 ザムザザーを倒した理不尽な部隊と言うのはーー」

 

 

 

 ただの噂だと思っていた。

 

 

 

 ザムザザーの陽電子砲やリフレクタービームシールドを正面から破るMSのビーム砲があるなどとは。

 

 

 

「これが、ザフトのミネルバ隊なのかーーっ!」

 

 

 

 敵の戦力を見誤ったことを理解した士官は、しかし気持ちを持ち直す。

 

 このゲルズゲーは、ザムザザーよりも強力なシールドを展開できるのだ。

 

 現に、ゲルズゲーは後方へ僅かに退いたが、ビーム自体は防ぎ切り、ザクのビーム砲から陽電子砲を守り抜いたのだから。

 

 

 

 

 

「だがーー、ここガルナハン基地は幾度も貴様らザフトの部隊を退けた堅牢な要塞だ。ここで、終わりにしてやる、ミネルバめ!!」

 

 

 

 士官の言葉に、連合の軍人たちもうなずいた。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 一方、最新型MAの態勢を崩すことに成功したルナマリアは、後方のミネルバに声を張り上げた。

 

 

 

「ーー今です、艦長!」

 

 

 

「てぇーーっ!!」

 

 

 

ルナマリアの言葉に、タリアが即座に対応し、タンホイザーが放たれた。

 

 

 

バギィィッ

 

 

 

今度の陽電子砲は、完全に衝撃までシャットアウトされる。

 

 

 

「ーーMAだから、態勢が崩れにくいってわけね」

 

 

 

ルナマリアが、瞳を細めながら、呟く。

 

 2本足でない分、空中に居る相手の態勢を崩させるのは至難だ。

 

 

 

「ーールナマリア、今のは?」

 

 

 

ジッとゲルズゲーを見据えるルナマリアに、呆然としながら、アスランが問いかけた、

 

 

 

「ーー私だけじゃありませんよ、アスラン!」

 

 

 

ルナマリアが述べると同時に、岩山の陰からダガーが3機現れ、こちらにビームを放ってきた。

 

 

 

バチチチィッ

 

 

 

瞬間、彼らのビームは一機のザクが放ったビームライフルに押し返され、落とされていった。

 

 

 

「ーーレイも、なのか?」

 

 

 

「ーー明鏡止水。鏡の如く澄んだ心が、俺たちと機体に、限界を越えた力を与えてくれるんです」

 

 

 

かつて、SEEDを発動させたキラは、アークエンジェル級の戦艦の主砲をサーベルで切り払って見せた。

 

 

 

そのレベルの神業を、彼らは軽々とやってのけている。

 

 

 

「ーー自信があるわけだ。こいつらは、強い!」

 

 

 

先の大戦のエースであるアスランさえも唸らせる、赤と白のザク。

 

 

 

「ーーレイ、ルナマリア!

 

作戦を変更する!!」

 

 

 

急遽、アスランは自分の作っていたシナリオの変更を始めた。

 

 

 

「シンが来るまで粘るつもりだったが、やれる時はやるぞ!!」

 

 

 

アスランの興奮した言葉に、ルナマリアとレイが応える。

 

 

 

「その言葉を待ってました!」

 

 

 

「シンには悪いが、我々だけで終わらせましょう」

 

 

 

下手な指示はいらない、寧ろ連携するには邪魔になる。

 

 

 

アスランは、自分の中にあるSEEDを発動させた。

 

 

 

「ーーいくぞ! お前達がどれだけのものか、見せてもらう!!」

 

 

 

バーニアを一気にふかし、ダガーを3機切り捨てる。

 

 

 

その紅き流星のごとき動きに、ルナマリアが鋭く目を細めた。

 

 

 

「ーー動きが変わった?」

 

 

 

「先の大戦のエースが、本気になったか。ついてこれるか? ルナマリア」

 

 

 

「ーー忘れてた?

 

あたしの方が、あんたやシンより明鏡止水の境地に近いのよね!!」

 

 

 

瞬間、赤と白のザクは、白いオーラのようなものを全身に纏うと、アスランのセイバーに勝るとも劣らないスピードで、岩山を蹴り、一気に空中戦へと移行した。

 

 

 

紅と白と赤の機体が、縦横無尽に渓谷を駆け、ビームで落とし、サーベルやアクスで切り捨てる。

 

 

 

ゲルズゲーの盾がどの程度の強度かは、見抜いた。

 

 

 

リフレクターのはられた正面には無類の強さだがーーーー

 

 

 

「ーーそれ以外の所は、脆そうだな!!」

 

 

 

セイバーをMA形態で加速させて対象に急接近し、近距離の間合いに入ると加速を加えた状態でMS形態に変化させ、ビームサーベルを抜き放つ。

 

 

 

同時にルナマリアとレイのザクが、ビームライフルを放ち、ゲルズゲーの前面にリフレクターシールドを展開させた。

 

 

 

 

 

バシバシィッ

 

 

 

ビュゥウウンッ

 

 

 

 

 

リフレクターが展開されている脇の部分から、一気に切り掛かる。

 

 

 

ゲルズゲーが、こちらに気づき、右手に持ったビームライフルをこちらに向けようとするもーー

 

 

 

「ーー遅い!」

 

 

 

ズバァッ

 

 

 

右手のサーベルで、砲身を切り落とし、左手のサーベルを抜き様に、ゲルズゲーの胴に切り掛かる。

 

 

 

ガギィッ

 

 

 

しかし、リフレクターシールドの影響か、ゲルズゲーの胴をとらえたサーベルは出力を弱め、皮を斬る程度で、胴体を斬り裂くまでには至らない。

 

 

 

「ーークッ」

 

 

 

呻いて離れ、腰のビームキャノン2門を放つ。

 

 

 

バシィッ

 

 

 

 正面に放たれた2門のビーム砲は、常時展開されているリフレクターに防がれる。

 

 

 

「ーーラミネート装甲も施されているのかっ」

 

 

 

 サーベルでの斬撃が弱められた理由はリフレクターだけではない。表面の装甲にビームをはじく仕様のラミネート装甲が施されている。

 

 

 

 アスランは接近戦から中距離戦の距離を保ちつつ、ゲルズゲーに攻撃を仕掛けていく。

 

 

 

 その様を、周囲のダガー部隊を斬りおとしながら、ルナマリアは述べる。

 

 

 

「アスラン。明鏡止水じゃないのに、すごい反応速度ね。確かにエース、だわ」

 

 

 

「ああーー。セイバーのスペックをおそらくは限界以上に引き出している、だがーー」

 

 

 

「明鏡止水でないなら、自分の感覚をマシンに押し付けているだけ、になってしまう。だからーー」

 

 

 

 二人は声を同時に合わせた。

 

 

 

「「マシンに無理をさせる分、フェイズシフトダウン(電池切れ)になる可能性が高い」」

 

 

 

 大西洋での戦いで、連合に奪取されたアビスのパイロットがシンに告げた通りだ。

 

 

 

「隊長のフォローがいるな」

 

 

 

「ーーシンをおとなしく待つ? ないわね。むしろ、シンの間抜け面の方が見たいわ」

 

 

 

「同感だーー」

 

 

 

 二機のザクはバーニアをふかし、空中を蹴るような動作で一気に手短な敵に接近すると手持ちのビームアクスで大上段から切り捨てた。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 ミネルバのブリッジ内では、アーサーが拳を握りしめ興奮していた。

 

 

 

「艦長! レイもルナマリアもすごいじゃないですか!!」

 

 

 

「先の戦闘よりも動きに磨きがかかってる。もともと、成績優秀なエリートだけれど、シュバルツ殿の修行を受けた今となっては、充分にエースパイロットを名乗れるわね」

 

 

 

「すごいですね、シュバルツ殿!! あいつらをここまで鍛え上げられるなんて!!」

 

 

 

 純粋なヒーローへの憧れを思わせる副官の言葉に、シュバルツはいつもどおり腕を組み背筋を伸ばしたまま、モニターを見据えて答える。

 

 

 

「何度も言うが、私はきっかけを与えたに過ぎない。真面目に修行に取り組み、資質を開花させたのは奴らの努力あってこそだ」

 

 

 

「それにしたって、切っ掛けだけでここまで段違いな動きにはならないわ。シンもレイも、ルナマリアも、いい意味で変わってきている。

 

 礼を言います、シュバルツ・ブルーダー殿」

 

 

 

 真摯な言葉に、シュバルツも腕組をやめ、タリアを振り返る。その彼の目を見据えながら、タリアは作戦行動中であるにもかかわらず、穏やかな表情でシュバルツに告げた

 

 

 

「できれば、あなたにはこのまま、この船に残ってもらいたいくらいだわ。このミネルバが解散するまでね」

 

 

 

 その言葉を受け、かすかに目元を細めてシュバルツは返す。

 

 

 

「申し出はありがたいが、私にも先のことは分からん。

 

 何より私やアスランには、やり遂げねばならぬこともある。

 

 すまないな、艦長」

 

 

 

 正直に申し訳なさそうに断るシュバルツに微笑み、タリアは言った。

 

 

 

「今は、それで構わないわーー。回答は保留しておいてちょうだい」

 

 

 

「う、うむーー」

 

 

 

 覆面の奥で、やや答えづらそうにしているシュバルツを見て、なんとなく様子を伺っていたメイリンは、彼が微笑ましいように思えた。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

ミネルバのブリッジ内でのやり取りをそっちのけで、基地攻略に勤しむ三機のMS。

 

 

 

 臨機応変なコンビネーションで敵MAを惑わし、 三位一体での攻撃を繰り出し続けている。

 

 

 

 今は防がれているが、三機のエースによる近接攻撃の波状斬撃は鋭く、防ぐだけでも精神が摩耗していく。

 

 この攻撃を繰り返すだけで、そのうちにMAのパイロット達も集中力を切らし、やがて他のダガー達のように落とされていくだろう。

 

 すでに、表に出ていたダガー部隊は、赤と白のザクにより、ほぼ壊滅している。

 

赤い可変機である目の前の敵を相手にしていただけなのに、いつの間にか周りの味方が落とされている事実に彼らーー地球連合軍の希望はリフレクターと呼ばれるMAの盾とローエングリンという槍しかなくなっていた。

 

 

 

「ーーまた来る!?」

 

 

 

 しかし、MAのパイロットたちは、すでに恐慌状態に陥っていた。

 

 このゲルズゲーもまた、ザムザザーと同じく福座敷の機体であり、三人のパイロットが必要になる。

 

 

 

「ち、畜生!!」

 

「なぶり殺しかよ!!」

 

 

 

 空中に見えない壁でもあるかのようにバーニアを噴射させて、宙を蹴るような動作をした後、一気に二機のザクがゲルズゲーに左右から斬りかかった。

 

 

 

 リフレクターを貼り、すれ違いざまに切り結んでいく二機を目で追おうとして、中距離正面上空に、あの可変機が位置し、貫通力の高い腰のビーム砲を放ってくる。

 

 

 

この可変機は、先の二機が斬撃を放った後、ビームサーベル二刀流と腰のビームキャノン2門を使い分けて波状攻撃にバリエーションをつけてくる。

 

 

 

「なんなんだ、こいつらのコンビネーションは!?」

 

 

 

連合の兵士達の戦意は、もはや風前の灯火だった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

攻撃を仕掛ける側にあるアスラン達にも、それは充分に分かった。

 

 

 

シンが予定ポイント到着まで、まだ充分に時間はある。

 

 

 

この期に乗じて叩けるならば、叩く。

 

 

 

万が一、倒せなくても今の状況ならば、シンが援軍に入れば確実にMAも、ローエングリン砲も落とせる。

 

 

 

先ほどから、苦し紛れに放たれようとしている陽電子砲は

 

ルナマリアのオルトロスで既に破られている。

 

 

 

「このまま、一気に押し切れるーー!」

 

 

 

アスランはそう呟くと、二機に通信を入れた。

 

 

 

 

 

「ーーレイ、ルナマリア!

 

一気に叩くぞ、遅れるなよ!!」

 

 

 

「ーー了解しました、アスラン」

 

 

 

「分かりました!!」

 

 

 

2人から即座に返事があり、3機は凄まじいスピードでMAに襲いかかった。

 

 

 

先ず白いザクファントムが、ゲルズゲーの頭上に跳躍し、右手のビームアクスを振りかぶると、袈裟懸けに切り落とした。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

連合兵が毒付く

 

「ーークソッ、リフレクターがそんな攻撃で!!」

 

展開されたリフレクタービームシールドが、その一撃を当然防ぐ。

 

 

 

しかし、その陰から赤いザクウォリアーがビームアクスを片手に突っ込んできた。

 

 

 

「ーーくそ、何て連携だ!?」

 

 

 

連合兵が叫ぶのと同時に、赤いザクのルナマリアは、瞳を閉じ、意識を集中する。

 

 

 

右手のビームアクスの刃の部分に左手を添え、指先に至るまで、自分の体であると意識する。

 

 

 

同時に、ルナマリアのザクウォリアーの足元から、白い炎のような光が生じ、ザクが横薙ぎに払うと同時に螺旋を描いて上空へ立ち登る。

 

 

 

思い描くのは、疾風怒濤の一撃ーー。

 

 

 

「ーートルネード・アックス!!」

 

 

 

気合い一閃、黄金の斬閃が横薙ぎに引かれ、気付けば上空へと、ゲルズゲーを吹き飛ばしていた。

 

 

 

「「「ーーな、ナァニィ〜!?」」」

 

 

 

連合兵士達が、口を揃えて理不尽なまでの一撃に驚愕する中、弾き飛ばされた天頂にビームサーベルを二刀抜いたセイバーが、待ち構えている。

 

 

 

当然だが、今の一撃で、リフレクター発生装置は、破壊されてしまっている。

 

 

 

つまりは、完全な無防備ーー!

 

 

 

「な、何なんだ、この部隊はーー!?」

 

「化け物だらけじゃないかーー!?」

 

「コーディネイターは、ここまで強くなるのかよ!?」

 

 

 

悲鳴に近い言葉を発しながら、振りかぶられる左右のサーベルを見据える、連合兵達。

 

 

 

だが、要塞司令室は、千載一遇のチャンスだと、照準をセイバーに合わせていた。

 

 

 

「やはりな! あの3機の内、最後に攻撃を仕掛けてくるのは、空戦装備のある可変機だった。

 

今ならば、ゲルズゲーもこちらの射軸上にはない!!

 

ローエングリン砲、スタンバイ! 目標は敵の可変機だ!! 撃てェェエエ!!」

 

 

 

司令官の言葉通りに、青と赤の光を放つ光弾が砲塔に生まれる。

 

 

 

その時だった、索敵班からの声が上がる。

 

「ーー司令官、小型の熱源反応を感知しました!!」

 

 

 

同時に、小型戦闘機が、モニターに映し出された。

 

 

 

「ーー何だと? 渓谷の洞窟を抜けて来たのか!?

 

正気か、こいつら!!?」

 

 

 

司令室が慌てる中モニター上では、小型戦闘機を先頭に、3機の飛行物体が、洞窟から出ると、一機のMSに空中で合体した。

 

 

 

「ーー何だ、何なんだ、この部隊はああ!?」

 

 

 

機体は、砲戦仕様のブラストシルエットを装着したインパルスガンダムであった。

 

 

 

「ーーげ、迎撃しろ! 要塞の壁に取り付けた固定砲台の照準を全て奴に集中するんだ!!」

 

 

 

雨霰のように降り注ぐビーム砲に実弾兵器。それらを冷静な目で機体を微かに動かして避けながら、パイロットは目を見開いた。

 

 

 

「ーー5分! 目標タイムの半分だ!!」

 

 

 

パイロットのシンは、ブラストインパルスの腰に装備してあるオルトロスの改良型であるM2000F ケルベロス高エネルギー長射程ビーム砲2門を、敵のローエングリン砲に向けた。

 

 

 

「ーーそして、これで終わりだ!!」

 

 

 

ズドォッ

 

 

 

引き金を引かれ、2門の強烈なビーム砲は、見事にローエングリン砲を貫き、爆破した。

 

 

 

同時に、上空へ跳ね上げられた切り札のMAーーゲルズゲーもザフト可変型MSーーセイバーにより、四肢を断ち切られ、動力炉をショートされて完全に無力化した状態で、捕獲されていた。

 

 

 

それを確認した赤と白のザクは、限界を超えた互いの機体を支え合いながら、労いあった。

 

 

 

「ーー凄いじゃないか、ルナマリア!」

 

 

 

「ありがと、レイもね!」

 

 

 

この完璧な勝利に、彼らを含めたミネルバ隊は、湧いた。

 

 

 

一方ガルナハン基地作戦司令室にて、司令官は未だ呆然とモニターを見ている。

 

 

 

「ーーば、バカな。こうもアッサリと、このガルナハン基地が攻略されるなんて」

 

 

 

インパルスガンダムのパイロットから、通信が入る。

 

 

 

「ーーこちら、ザフト軍ミネルバ隊、シン・アスカ。

 

あんたらの戦力は完全に抑えた。大人しく投降してくれたら、命に危害は加えない。

 

レジスタンスにも、話は通してる。判断は、あんたらに任せる。ただし、抵抗するんなら、覚悟だけはしてくれ」

 

 

 

まだ、幼い子どもの声に、ブリッジは更に騒然となる。

 

 

 

「ーー我々は、あんな年端も行かない子どもに負けたのか……?」

 

 

 

呆然とする連合士官に、シンが声をかけた。

 

 

 

「子どもとか、大人とか、そんなの関係ないだろ。あんた達もーー、プライドや面子より命を大事にしなよ」

 

その真っ直ぐな目を向けられ、士官は苦笑を浮かべた。

 

 

 

「私の負けだな。君のようなエースに、情けをかけられ、且つ諭されるとは。

 

降伏する。

 

私は、この基地の司令官大佐のイー・パイルだ。全責任は私にある、部下への温情をお願いしたい」

 

 

 

「ーー了解です」

 

 

 

同時に、ガルナハン基地から、降伏の煙が打ち上げられ、レジスタンスと交戦していた白兵達も、銃を捨てて白旗を上げる。

 

 

 

ホッとシンが一息つこうとした時だった。

 

 

 

レジスタンスが、捕虜となった連合兵に銃口を突きつけ、ある者は殴りかかったのだ。

 

 

 

「ーーやめろぉぉおお!!!」

 

 

 

シンはスピーカーを張り上げて、岩壁を殴りつけ、見事にレジスタンスの動きをこちらに注目させて、停止させた。

 

 

 

「止めるな、こいつら連合に俺の妻と子が!!」

 

「そうだ、こいつらのせいで!!」

 

 

 

何名かの者から声が張り上げられ、憎しみと悲しみの入り混じった言葉がインパルスに集中する。

 

 

 

「わかるさ、肉親を奪われたあんたらの気持ちは。でもな!!

 

無抵抗の相手に、銃口を突きつけて、虐殺されたから、仕返して、それで何が変わるんだよ!?

 

あんたらのしてること、連合のしたことと、何が違うんだ!?

 

戦争をして、殺されたから殺すって感情で行動して、延々と繰り返すのかよ!!」

 

 

 

怒鳴りつけるシンの目には、純粋な涙が流れていた。そのあまりにも純粋なーー、温かな想いは、レジスタンスを、連合を止めていた。

 

 

 

「ーーシン。もういい」

 

 

 

アスランが、声をかけてきた。そちらを振り返ると、エネルギー切れで、フェイズシフトダウンを起こしながらも、勝利したセイバーが立っていた。

 

 

 

「シンの言うとおりだ!

 

これより誰であれ、無抵抗の命を奪う行為は、ザフトが禁ずる!!

 

捕虜は、全てミネルバ隊の指示に従ってもらうぞ!!」

 

 

 

アスランの言葉が響き、やがて捕虜を収監するために別のザフト部隊が派遣された。

 

 

 

誘導されていく、捕虜達を見ながら、シンはインパルスの中で涙を流す。

 

 

 

「ーーアスランさん」

 

 

 

「ーーなんだ、シン?」

 

 

 

「ーー貴方の言ってたこと、今ならわかります。でも、俺正しいことをしたんでしょうか?」

 

 

 

その言葉に、アスランが目を見開いた。

 

 

 

「シンーー」

 

 

 

「キラさんの言ってた自分が正しいのか分からないって悩んでたことも、今なら分かる。

 

憎しみは憎しみしか呼ばない。

 

でも、そんなの当たり前の話で。

 

肉親を目の前で奪われたり、自分の人生を狂わされてまで、何でその原因が、のうのうと生き延びてられるんだ、て。

 

そんな気持ちも、俺にはわかるんです」

 

 

 

モニターに映されたシンの表情は、泣き笑いだった。必死に堪えようとしながらも、泣いている。

 

 

 

「俺、何て言っていいのか、分からない。

 

復讐するな、なんて俺には言えない。でも! 無抵抗な人を目の前で死なせるのも、嫌なんだ。

 

その人達だって、喜んでしてた訳じゃないのにーー!!」

 

 

 

( 俺は、何て言えばいいんだ?)

 

 

 

アスランには、分かる。シンの苦しみも葛藤も、だからこそ言えない。

 

 

 

何故なら、自分も未だ苦しみ、悩んでいる答えだからだ。

 

 

 

シンの嗚咽が流れる中、アスランは、口を開いた。

 

 

 

「ーーシン。これだけは言わせてくれ。

 

お前は、何も、間違ってなどないーー!」

 

 

 

その言葉を聞いて、シンは目を大きく見開いた後、嗚咽を必死に噛み殺そうとしている。

 

 

 

作戦成功で湧いているミネルバ隊の皆の気持ちに水をさしてはいけない。

 

 

 

シンは、そう考えて涙を拭う。

 

 

 

「ーーシン」

 

 

 

そんなシンの思いを察して、アスランはそれ以上語りかけはしない。

 

 

 

難攻不落と言われたガルナハン基地が、僅か1時間に満たない時間で攻略された。

 

 

 

少年達の苦悩をよそに、ミネルバ隊の伝説は、既に始まっているーー。

 

 

 

 

 




みなさん、お待ちかね〜!

世界各国で、連合とザフトが凌ぎを削り合う中、オーブのカガリ隊の存在は、連合に強制され、虐殺される小国の希望になります。

オーブ国民だけでなく、世界からも評価され始めるカガリ隊に、ブルーコスモス盟主ロード・ジブリールから、ネオ・ロアノーク率いるガーティ・ルーに殲滅命令が下ります。

またシンの悩みと悲しみを感じ取ったシュバルツは、彼に言葉をかけるのです!

次回!

機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第31話に、レディー、ゴー!


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第31話 動き出す世界

みなさん、今回のお話で、ある程度の物語は整理され、更なる戦いへと向かいます。

はたして、シュバルツ・ブルーダー、キョウジ・カッシュ、東方不敗マスターアジアの3人が、この世界で起こした騒動は、どれほどに影響しているのか?

はたまた、デビルガンダムの行方は?

まだまだ謎は深まるばかりです!!

それでは、ガンダムファイト、レディー、ゴー!!



 

連合の艦隊から完璧な勝利を収めたオーブ軍。

 

 

 

彼らの世界の評価は、二極化していた。

 

 

 

一方は、世界を混乱に陥れるテロリストであり、世界の平和を乱す破壊者である。

 

 

 

もう一方は、世界を救う救世主であり、連合の横暴を食い止めた勇者である。

 

 

 

どちらの評価でも言えることだが、彼らは最早世界に注目されている。

 

 

 

アスハの部隊は、非凡な存在である、と。

 

 

 

連合に刃向かえる実力を示したことは、連合の加入国からは危険視され、敵対国や反抗的な国からは支持される。

 

 

 

だからこそ、連合もザフトも、無視できない力の保持者だと、彼らに注目する。

 

 

 

アスハ邸の会議室で、キョウジとカガリ、バルドフェルドにトダカ、アマギ。

 

そして、キラとマリューが集まっている。

 

 

 

キョウジは、海外の情勢を確認しながら、穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

 

「ーーキョウジ、そろそろ教えてくれんか?

 

次はどうするんだ?」

 

 

 

皆を代表して、バルドフェルドが口を開いた。それに、キラ達がゴクリと唾を飲みながら、彼を見る。

 

 

 

すると、キョウジは気楽に構えながら、肩を竦めて笑うと答えた。

 

 

 

「別に、何もしないさ」

 

 

 

「「「ーー何ーー!?」」」

 

 

 

その言葉にカガリ達、オーブの者がざわつくも、バルトフェルドは冷静に手で皆を制し、キョウジの次の言葉を待つ。

 

 

 

「それにしても、連日連夜。新聞やニュースは今、オーブのアスハ軍の話題で持ちきりだな」

 

 

 

当の本人は、まるで世間話をするかのように告げ、バルトフェルドに目でコーヒーを催促する。

 

 

 

バルトフェルドは呆れたような目になりながら、特製のブレンドコーヒーを淹れる。

 

 

 

たまにハズレもあるようだが、キョウジは気にせずに飲んでいる。バルトフェルドの淹れるコーヒーは、独特なものだ。

 

キョウジはむしろ、その変化を楽しんでいる。

 

違いの分かる男の出現にバルトフェルドも、まんざらではないようだが、努めてしかめ面をしながら、コーヒーを淹れ、差し出す。

 

 

 

「ーーそりゃそーだろ」

 

 

 

香りを楽しみながら、コーヒーを飲むキョウジにバルトフェルドは、笑みを噛み殺しながらも、真面目な口調で、同意した。

 

 

 

「そうかな? まだ、初戦なんだよ? こんなにも簡単に世界がこちらを向くとはね」

 

 

 

コーヒー片手に気軽な雰囲気でニュースや新聞を見据えるキョウジの正面に回り込み、バルトフェルドは告げた。

 

 

 

「お前にとってはそうかもしれんが、なにせ相手はこの地球を支配しているといっても過言じゃない、地球連合だ。

 

しかも、指揮官はあの「蛇の目」で、戦力は戦艦20隻以上の大艦隊だ。

 

キラのフリーダムがもともと有名ではあれど、その神話がまた塗り替えられる事態なんだからな」

 

 

 

指摘されたキラは困惑気味にキョウジを見るが、彼は穏やかな笑みを浮かべてキラを見つめ返した。

 

 

 

「キラのフリーダムは、本当に優秀だな。アレがあるだけで、話も注目も盛り上がる。

 

だが、注目されるだけじゃ意味がない。

 

 神話で民衆の目はごまかせても、政治や国を動かす者たちまではごまかせない。

 

こちらは防衛しかしないから、敵に打撃を与えるのは難しい。連合にとって戦力的には脅威でも、自国領には、攻めこんで来ないと言う安心感があるだろうな」

 

 

 

このキョウジの言葉に、皆が顔を俯かせる。キョウジはそれを気にした素振りもなく、続ける。

 

 

 

「攻撃は最大の防御という言葉があるが。

 

俺たちの場合、常に他国に虐げられず、他国を侵略せずの理念がある。

 

これがある以上、表立っては敵本拠地に乗り込むことも、こちらから攻撃を仕掛けることもできない。

 

専守防衛では、脅威足り得るか、という問題がある。

 

連合側に友好的な行動を取られた場合、オーブの理念で拒否することができるか否かが肝要か。

 

どの道、今のままでは、オーブは本当に脅威にはなり得ない」

 

 

 

キョウジの言葉に皆は何も言えずに立ちつくす。しかし、それすらも気にせずにキョウジは話を続ける。

 

 

 

「では、どーするか? 何もしないのが、一番さ。

 

話は話を大きくし、脅威になり得ないはずのオーブは、脅威になる。

 

人は、噂を好み、話を大きくしたがる。

 

ならば、どこまでが真実で、どこからが嘘なのかを分からなくすればいい。

 

そして、ザフトと連合の動きを見ようか」

 

 

 

キョウジは、静かに告げながらも、一つのメモ紙に書き始める。

 

 

 

「デュランダル議長には、交渉の手紙を,

 

連合の方には、カガリから、こちらから攻める意思はないとの表示を出した」

 

 

 

メモ書きには、簡単な三つの円と矢印が描かれ、円にはザフト、連合と中に記載する。

 

 

 

「デュランダル議長には、やや高圧的にさせてもらったよ。

 

プラントにいる全てのオーブの民を返してもらう、とね。

 

連合には、カガリから誠心誠意の非戦意志を伝えてある。

 

もちろん、他の国にも拾える国際チャンネルでね。

 

当然、プラントは今のオーブの情勢を考えれば。民を返すことこそ、危険だと主張し。

 

連合は、ならば同盟を結べと告げてくるだろう」

 

 

 

コーヒーを一口啜り、満足げな笑みを浮かべるキョウジにバルトフェルドもニヤリと返す。

 

 

 

「しかし、だ。

 

例えば、面子を潰されたブルーコスモスの盟主は、黙って同盟を告げてくるか?」

 

 

 

これにキョウジも、微笑みを浮かべながら、語る。

 

 

 

「そこで、こちらから、同盟を結ぶ際の条件を提示する。

 

一つ、オーブは、貴軍に危機が迫れば助け舟を出そう。

 

一つ、オーブは、戦闘には参加しない。あくまで、専守防衛である。

 

一つ、オーブの資源はオーブのものであり、緊急時以外は、そちらには手を貸さない。

 

ーー大きく言えば、この辺りが妥当かな?」

 

 

 

そう告げた後、一言を続ける。

 

 

 

「ーー 1つでも違えれば、同盟を破棄する、とね」

 

 

 

「怒り狂うブルーコスモスが目に浮かぶな」

 

 

 

向かいで苦笑いを浮かべ、バルドフェルドはいう。

 

 

 

「それが狙いさ。通常なら、島国であるオーブに、経済制裁を加えて、兵糧攻めが妥当だが、オーブは輸入に頼らなくていいからね、経済制裁は効かない。

 

間違いなく、大艦隊を組んでのゴリ押しで攻めて来るだろう」

 

 

 

自信ありげに話すキョウジに、トダカが口を出した。

 

 

 

「また、例の霧発生装置か?

 

しかし、不殺もいいが、捕虜の食料はどうする?

 

実際、前回の戦いで捉えた捕虜を遣り繰りするのにも、君が用意した食料がなければ、たちまち食料難になっていた。どうやって用意したのかは分からないが、資源や土地は有限だ。

 

捕虜をいたずらに増やすのは、私は勧めない」

 

 

 

彼の言葉に、笑みをやめ真剣な表情になるとキョウジは真摯にトダカに目を合わせながら、答えた。

 

 

 

「トダカ一佐が、そう考えるのも無理はありません。

 

もとより、捕虜を増やしたところで、オーブには何も利益はない。

 

今回は、霧発生装置を改造し、違うものを用意しました」

 

 

 

「ーーなんだと? また、何を作ったんだ」

 

 

 

苦い顔をするトダカに、キョウジは微笑むと、パチンと指を鳴らした。

 

 

 

そして開かれた会議室のドアから出てきたモノ達に、皆が驚愕した。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

地球連合独立機動軍第6部隊ーーファントムペイン。

 

 

 

ガーティ・ルーのブリッジ内で、モニターの中からの通信に、ネオ・ロアノーク大佐は事務的な受け答えをしていた。

 

 

 

「ーーミネルバだが、強力な部隊のようだな。既に、ガルナハン要塞とスエズが落ちた」

 

 

 

「申し訳ありません。私の力不足のために」

 

 

 

「全くだーー。と言いたいが、そうでもなかろう。ザムザザーやゲルズゲーの性能を真っ向から破るのだ。

 

普通の部隊ではない」

 

 

 

珍しくモニターの中の人物はネオを責めることはなく、逆にネオを労うかのような言葉を吐いた。

 

 

 

「ーー閣下?」

 

 

 

モニターの中の彼は、物憂げに頭を押さえると、溜息をつきながら、答えた。

 

 

 

「蛇の目が負けてね、相手はMSが10に満たない、オーブのアスハの私軍だ。

 

フリーダムとアークエンジェルが編成されているとはいえ、向こうには打撃が一切なく、300あるMSのうち50と10を数える艦隊が全て落とされた。

 

母艦が落とされたため、残りのMSは帰国せざるを得ない。だが、あの蛇の目がいて、これだけの大艦隊をたった10に満たない部隊が倒した。

 

考えられるかね、ネオ?」

 

 

 

「ーーい、いえ」

 

 

 

ネオをして、そう答えるしかない。

 

 

 

事実ならば、もはやそれは人智を越えた奇跡か何かだ。

 

 

 

「君たちには、ミネルバの追撃を任せていたが、一旦オーブに向かってくれ。

 

性懲りも無く、奴らはこちらに非戦の意思と同盟を結ぶ際の条件を提示して来た。

 

これを真に受ければ、我々のメンツは丸潰れだ。わかるかな?」

 

 

 

「ーーは! 直ちにオーブへ向かいます!!」

 

 

 

「頼むよ。それとだ、君たちが戦闘に参加するのは、第二陣からでいい。

 

初陣で連中の出方を探り、ニ陣で君たちが斬り込め」

 

 

 

「ーーは!」

 

 

 

「期待している、ネオ・ロアノーク大佐」

 

 

 

そう告げられて、ジブリールからの通信が途絶えた。

 

 

 

「ーー大佐、オーブへ?」

 

 

 

「ああ、向かわにゃならんだろうな。それにしても、どうなってんだ?

 

ジブリール卿の変化は。あんな物分かりの良い、鋭い男じゃないだろ」

 

 

 

「ーーわかりません。よほど、オーブに片腕の蛇が破れたのが、ショックだったのでは?」

 

 

 

「ーーなんだか、それもピンと来ないな」

 

 

 

頭をかきながら、呟くネオに、イアンも頷く。

 

 

 

「ジブリール卿の身に何かあったとしか」

 

 

 

「ーー何かって、何だよ?」

 

 

 

「さあ?」

 

 

 

舵をオーブに向かって切りながら、隊長と副長は、連合基地に帰還したウィンダム達のオーブでの戦闘データを確認していた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

猫を撫でながら、薄暗い部屋の中で、彼は紅茶を飲む。

 

 

 

 猫を撫でる手をやめ、男は薄暗がりの中、自分の前にいる二人の男に話しかけた。

 

 

 

 二人とも黒髪を長く伸ばしており、それぞれ鉄仮面とサングラスで目元を隠しており、両者ネクタイを締めた正装をしている。

 

ただし、鉄仮面の男は軍服で、服の上からでもその隆起した筋肉の出で立ちがわかる。

 

 

 

「君たちの予測通りになったな?」

 

 

 

 猫を撫でる男ーージブリールは、二人の男に話しかけた。

 

 

 

「ーー当然だ、私達には、彼らの動きが手に取るように分かるからね」

 

 

 

「さあ、ここからです。楽しみましょう?」

 

 

 

鉄仮面とサングラスの男は口元に上品な笑みを浮かべる。その瞳には、暗く冷たい炎が宿っている。

 

 

 

「ーー頼もしい限りだ」

 

 

 

それに満足気味に微笑むと、ジブリールは陶然と世界地図を眺め始めた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

スエズ基地を制圧したザフト軍。

 

その功績を称えられ、ミネルバ隊は英雄のような扱いを受けていた。

 

特に作戦に参加した、先の大戦の英雄アスラン・ザラ率いる赤服の部隊は、本部待遇を受けていた。

 

盛り上がる式典とパーティに、まだ若いミネルバクルー達は舞い上がり、食事やパーティを楽しんだ。

 

 

 

ドレスやタキシードと言った正装に身を包み、ディナーを行う。

 

 

 

皆が舌鼓を打ち、幸福と勝利に酔う。

 

 

 

「お姉ちゃん達、ホントに凄い!」

 

 

 

「はいはい、分かったから。あんまり騒がないの。目立つじゃない。ただでさえお偉方からのご挨拶で肩凝りそうなのにーー」

 

 

 

メイリンのはしゃいだ笑顔をなだめながら、苦笑いを浮かべてゲンナリしているルナマリア。

 

その横では、レイがそつなく周りの挨拶を返している。

 

 

 

「ーー? レイ、シンは見てないの?」

 

 

 

「ああ。俺も見てない」

 

 

 

「もう、何処に逃げたのよ!」

 

 

 

不満そうに口を尖らせるルナマリアに、レイが苦笑を浮かべた。その横で、メイリンが興味深そうにルナマリアを見る。

 

 

 

「ーーお姉ちゃん、シンが気になるの?」

 

 

 

「別に、何もないわよ。ちょっと元気無さそうだったから、からかってやろうと思っただけよ」

 

 

 

「ふうん?」

 

 

 

何処かしら、目を背けるルナマリアに、メイリンが口元に笑みを浮かべて見ている。

 

 

 

それを横目で見ながら、レイは心の中で呟いた。

 

 

 

( シンもいないが、アスランとシュバルツ殿もだ。何かあったか?)

 

 

 

そんなことを頭で考えながら、他の人と話をする、レイである。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

パーティ会場の熱が、届かぬテラスにて、シンは夜空を見上げていた。

 

 

 

「戦争は、ヒーローごっこじゃない、か。ホントにそうだ。正義の反対は、違う正義でしかない。

 

悪なんかじゃなかった」

 

 

 

シンは、夜風にその身を任せながら、手摺に自分の身を預ける。

 

 

 

「何をしている? パーティの主役が」

 

 

 

穏やかな声がかけられ、シンが振り返ると長身の覆面をした忍者が立っていた。

 

 

 

「ーーシュバルツさん」

 

 

 

「部隊を預かるアスランも、お前もいないせいで、ルナマリアとレイが大変そうだぞ」

 

「ははは、後で何か奢らなきゃな」

 

 

 

明るく笑うシンの横に立ち、シュバルツも同じように天にある月を見つめる。

 

 

 

「ーー何を悩んでいる?」

 

 

 

発せられた言葉に思わず苦笑いを浮かべて、シンはシュバルツを見た。

 

 

 

彼は、静かにシンの目を見ている。

 

 

 

「何ていうか、俺は強くなりました」

 

 

 

「ああ、それは間違いない。まだまだ未熟ではあるがな」

 

 

 

「ーーだけど、俺の力は、誰かを傷付けるだけで。勿論、自分のしたことに後悔はしてません。でも、だけど!

 

俺には、痛いぐらいに、奪われた人の気持ちがわかるんです!!

 

平和に暮らしていて、明日が来ることを疑ってなかったのに、奪われてーー!!

 

憎むな、なんて誰が言えます? 子どもを奪われた父親は怒り、母親は嘆く。

 

憎んで、憎んで、当たり前じゃないか!!!」

 

 

 

テラスの手すりを殴りつけ、シンは叫んだ。

 

 

 

「ーーでは、何故、レジスタンスを止めたのだ?」

 

 

 

「分かりません。あの司令官が、俺の話を聞いてくれて、自分を犠牲にしたからかも。

 

彼らにだって、守るものがあるって、わかっちまったから」

 

 

 

シンの言葉に黙って頷き、シュバルツは更に耳を傾ける。

 

 

 

「俺は、今の今になるまで、何にもわかってなかった。連合にだって、正義があるなんて。

 

あんな人が、いるなんてーー。でも、俺は軍人で、ザフトで、俺がやらなきゃ皆がやられちまうから。

 

でも! こんな祝いを受ける気分じゃないんです!!」

 

 

 

「ーーシン」

 

 

 

「俺は、何が正しいのか、分からなくなりそうで。敵討ちだって、間違ってない。奪われたのは、間違いないんだ。でも、奪ったら、また奪い返されて。

 

そうして、殺しあって全てを終わらせるのが、本当に正しいのか?

 

シュバルツさん、俺は、何をすれば!!」

 

 

 

 純粋な思いを胸に放たれた言葉は、たまたま涼みに来たアスランをも立ち止まらせた。

 

 

 

 夜の静寂が支配する中、静かに温かな双眸を向けてシュバルツはシンの赤い瞳を見据える。

 

 

 

「シンよ、よくぞそこまで悩み、よくぞそこまで気づいた!」

 

 

 

「あなたや、キラさんやアスランさんのおかげです。俺だけじゃーー」

 

 

 

「馬鹿者、謙遜するな。今のお前は明らかに、強くなった。心も体もだーー」

 

 

 

 うつむこうとするシンにシュバルツが声をかけ、止める。

 

 

 

「シンよ、先ほどの答えだがな。

 

 私がどのようにすれば良いか、と答えるのは容易い。私なりの答えもある。

 

 だが、それはお前自身が導かなければ意味のない答えなのだ」

 

 

 

「俺自身の答えーー?」

 

 

 

 思わず繰り返すシンにうなずき、シュバルツは続ける。

 

 

 

「良いか。

 

 人は常に悩む生き物だ。悩むこと、考えることをしなければ、人ではない。

 

 お前なりの答えを出すのだ、シン。

 

 お前の、レジスタンスへの思いも、連合の兵士たちへの思いも、決して間違ってはいない」

 

 

 

「俺の思いは、間違っていないーー?」

 

 

 

 頼りなげな瞳で問いかけるシンに、シュバルツは深くうなずき、覆面の下で優しくほほえむ。

 

 

 

「シン、憎むことをやめることなど、人にはできぬ。理不尽な裏切りを、罪なき人を奪われた悲しみも、痛みも、私にもわかるよーー」

 

 

 

 微笑みながら放たれた言葉は、どこか、普段の厳しさの中に優しさを持つ、シュバルツとは違う。

 

 とても、優しくて穏やかな、そんな笑みだ。

 

 

 

「シュバルツさん、あなたはーー。あなたも、誰か大切な人を?」

 

 

 

 シンの言葉に穏やかな瞳を向けるだけで、シュバルツは語らない。

 

 だが、シンにはそれで十分だった。

 

 

 

「私もただの人間に過ぎない。憎しみにこの心を支配され、悪魔を生み出してしまった過去もある。

 

 失望したか?」

 

 

 

 シュバルツは笑いながら、自分の過去を軽く述べてくれた。

 

 それがどれほど辛いものであったかかは理解できないが、少なくとも目の前にいる青年は、自分と同等かそれ以上の苦しみを味わってなお、こうしているのだとシンにはわかった。

 

 

 

「ーーいえ、尊敬します。やはり、俺の師匠はあなたしかいない。これからも、見ていてください!!」

 

 

 

「ああ、言われなくてもそのつもりだ。お前はどこか放っておけない」

 

 

 

「それって、シュバルツさんの弟さんと似てるからですか?

 

 どんな人なんです、弟さんって」

 

 

 

 シンの何気ない言葉に、シュバルツは静かに微笑むと、腕を組み懐かしげに弟の話を始めるのだった。

 

 

 

(他人が教えるのではなく、自分で導かねば意味のない答え、か)

 

 

 

 シュバルツとシンの会話を聞いていたアスランは、静かにその言葉に微笑むと、夜空を見上げた。

 

 

 

 現状の問題は何一つ、良くはなっていない。

 

 

 

 それでも、彼らなら、この困難な状況でも共に乗り切れるはずだ、と。

 

 

 

 アスランは人知れずうなずき、上司であるキラに報告しに自室へと帰るのだったーー。 

 

 

 

 

 




みなさん、お待ちかね〜

連合の本格的な攻めに対抗するため、皆があっ、と驚くものを発明するキョウジ。

一方、宇宙に上がったラクス達に、悪魔の洗礼を受けたギルバート・デュランダルの手が忍び寄るのです。

危機に陥ったラクス達を救ったのは、みなさんご存知のあの男!!

真っ赤に燃える右手を掲げ、勝利を掴めと轟き叫ぶではありませんか!!

次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第32話に、レディ、ゴー!!


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第32話 括目せよ 最強のガンダム降臨


 L4コロニー「メンデル」

 悪魔の巣窟と化したその場所で、ラクス・クライン達は絶対絶命の危機を迎えます。

 そこに現れたのは、みなさんご存じのあの男!

 コロニー格闘技の覇者「キング・オブ・ハート」の称号を持つ最強のガンダムファイターと

 最強のガンダムの称号である「ガンダム・ザ・ガンダム」を冠するMF!!

 対するカードは、無限に迫りくる新たなるデスアーミー軍団。

 悪魔の兵団を前に、神の名を冠するガンダムは、どのようなファイトを見せてくれるのか!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイ、ゴォオオオオオオ!!

第32話


 

 

 キョウジが示した扉の向こうから現れたのは10個の球ころだった。

 

 

 

「ーー? これって、アスランの作ったハロ?」

 

 

 

 キラが球を一つ拾い上げ、見つめると緑色の球体はつぶらな瞳をキラに向け、両脇の羽のようなものを広げて挨拶した。

 

 

 

「ハロー、キラ! ハロハロ」

 

 

 

 やはり、アスランの作ったハロに見える。

 

 しかし、ハロはすべてラクスと共にいるはずだ。ならば、この緑色のハロたちはいったい?

 

 心なしか、大きさもアスランのものより大きい。

 

 アスランの作ったハロはハンドボールくらいの大きさだが、これはバスケットボール並の大きさだ。

 

 バルトフェルドが皆を代表して問いかける。

 

 

 

「キョウジ? こいつらは」

 

 

 

「ラクスのピンクちゃんを見せてもらって考えついた俺のハロだ」

 

 

 

 言いながら、右手をスッと差し出すとその掌の上に目のあったハロが一体飛び乗る。

 

 そして皆に向かって一礼した。

 

 

 

「ハロハロ! ヨロシク、ミンナ!!」

 

「「か、かわいい…っ!」」

 

 

 

 その様は愛らしく、カガリだけでなくマリューにもヒットしたようだ。

 

 

 

「いや、そうじゃなく。こんなマスコットロボットをどうするつもりだ?」

 

 

 

 トダカが思わずといった感じで二人にツッコミをいれてから、キョウジを見る。

 

 

 

「こいつは、ただのマスコットロボットじゃありませんよ、トダカ一佐」

 

 

 

 そのキョウジの言葉にバルトフェルドが目を見開いた。

 

「お、お前まさか…!! このマスコットロボットに霧発生装置のノウハウを!!?」

 

 

 

「もちろん。

 

 加えて、こいつらには自立支援型のOSを組み込んでるオートマタとしても使えるようにしている。

 

 せっかく、連合のウィンダムが手に入ったんだ。使わない手はない」

 

 

 

 キョウジの何気ない発言に皆がポカンとして口を開いた。

 

 

 

「敵のMSを捕獲できれば、この先俺たちの戦力は増していく。

 

 パイロット補充兵の代用にこいつらを使えるからね」

 

 

 

 霧発生装置、ジャミング磁場発生装置、盗聴用結界発生装置に加えて、MSを操作する自立支援型OS。

 

 

 

「もちろん、これだけじゃ世界と渡り合うには足りない。足りなすぎる」

 

 

 

「な!? まだなにを!!」

 

 

 

 もうそろそろ、この青年の異常さにも慣れてきたつもりであったが、今回の発明にまた度肝を抜かされてしまう。

 

 

 

「今から、シミュレートを行います。

 

 仮想敵として、連合から捕獲したウィンダムを3機使わせてもらいますよ。

 

 もちろん、この3機も俺たちの大事な戦力ですから、落とす訳にはいきませんがーー」

 

 

 

 言うと、キョウジは手早く、カタパルトデッキを操作し、予め設置されていたウィンダムをオーブ領海の外にまで飛ばす。

 

 

 

 次に、オーブ製の潜水艦が一隻出航する。

 

 モニターに写された艦内にいるのは会議室にいるハロ達とは別口のハロがいた。

 

 

 

「ど、どうするつもりなのーー?」

 

 

 

 マリューの言葉に、キョウジは静かに微笑むと腕を組んだ状態でモニターのハロ達に指示した。

 

 

 

「さあ、敵がきたぞ! オーブを守れ!!」

 

 

 

 領海域に先ほど飛ばされたウィンダム三機が戻ってきた。

 

 コクピットの中にはハロが鎮座している。

 

 

 

 潜水艦のハロ達は、敵として現れたウィンダム三機を確認すると、ブリッジにいるハロ達を残し、ハッチをあけてコロコロと海域に躍り出ていった。

 

 

 

 金属でできているはずのハロ達だが、前回のジャミング発生装置と同じように海面に浮かんでいる。

 

 

 

「ハロちゃんーー!」

 

「キョウジ、あんな可愛らしいのに、ひどいぞ!!」

 

 

 

 的外れな女性陣達の抗議の声に苦笑いを浮かべながらキョウジはモニターを見据える。

 

 

 

 前回と同じように霧がハロの両脇から発生し、ジャミングの磁場と盗聴結界を生み出すように見えた。

 

 

 

 ところが、今回のそれは海面に霧を発生させるのではないーー。

 

 

 

 はるか上空へと霧は上っていき、やがて黒い固まりとなって空の上で浮かぶ雲と化したのだ。

 

 

 

 ドーナツ状に雲はオーブの周囲100メートル外に展開。後はーー

 

 

 

「こ、これはーー! 雷雲!? 嵐を発生させた!!?」

 

「天候を操れるのは、わかっていたけど、こんな一方的な!!」

 

 

 

 海上の戦闘において天候は古今東西最も重要な要素の一つ。

 

 それをオーブ周辺だけとは言え、自由自在に操れることは、圧倒的なアドバンテージを持つことを意味する。

 

 

 

 案の定、あり得ないほどの落雷と雨、荒れ狂う波の前にオーブまでたどり着けるMSなどいない。

 

 

 

 仮に戦艦であったとしても、同じだろう。

 

 

 

「もっとも、万が一というのは何にでも起こり得る。だから、オーブが戦闘に巻き込まれた際は、すべての島をぐるりと囲えるバリアを作成しておきました」

 

 

 

 案の定、この男。

 

 念には念を入れて、というか。ほとんど攻略不可能な状況へ追いこんでおいて、まだ用意している。

 

 モニターに映し出されたのは、オーブの国土とも呼べる島々の外円に位置する島だ。

 

 そのわずか50メートル外の海域に赤色の長い筒がある。

 

 霧発生装置のそれよりも遙かに巨大な、それは直立不動で海面に立っていた。

 

 

 

「あ! あれは!!」

 

 

 

 キラが見覚えのあるソレに声を上げた。

 

 シャイニングガンダムの戦闘データで見た、それは陸海空の全てを遮断し、二重のバリアを作り出す。

 

 ランタオ島を取り囲んだMFでさえ抜け出せない強力な障壁。

 

 

 

「そう!

 

 俺の世界で作られたガンダムファイト決勝大会バトルロイヤルリング用に作成されたーー

 

 コーナーポストだ!」

 

 

 

 告げた瞬間、ピンク色のビームが三本、コーナーポストから延びる。

 

 それは、雷雲のさらに内にてオーブを取り囲み、つながる。

 

 

 

「これが、世界に喧嘩を売るための俺たちオーブの切り札だーー!」

 

 

 

 専主防衛の精神は、常にオーブ本国を守りながらの不利な戦いを強いられる。

 

 しかし、それを破って他国に侵略すれば、オーブの存在意義がない。

 

 無理を通すのならば、キョウジは容赦をする気はない。

 

 

 

「確実にオーブ本土はこれで、守れる。後は、俺たちが戦って勝てばいい。単純だろ?」

 

 

 

「この技術は、絶対にオーブ以外にはもらせねえな。この技術を巡って戦争が激化する方向にもなりかねない」

 

 

 

 キョウジの言葉にバルトフェルドは苦虫を噛み潰したような表情だ。

 

 

 

「アスハの部隊ーーそれも、あなた方にだからこその種明かしです。

 

 お気になさらず」

 

 

 

「信用してくれるのは、ありがたいがね」

 

 

 

「そもそも、この作戦は作戦とさえ言えません。無理を通さねばならない時点で、普通のやり方ではどうにもならない」

 

 

 

 キョウジの言葉は言外にこうも言える、オーブの理念を貫き国と民を守るのならば、これぐらいでなければできない、と。

 

 それを感じたキラはあっけに取られていた自身を恥じ、強い目でキョウジを見据えた。

 

 

 

「次に来るのは連合の本気の艦隊ですね。それらを相手に、僕たちは一機も落とされることなくーー」

 

 

 

「そうだ。最初から最後まで変わらない。やることは単純だ。敵を完膚無きまでに倒し、自分たちの力を見せつける」

 

 

 

「ーーはい」

 

 

 

 キョウジの言葉に、キラは強い瞳でうなずいた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 オーブに協力的なスカンジナビア王国の手を借り、宇宙に上がったラクス・クラインは自身の専用艦ーーエターナルを拠点とした。

 

 彼女は、宇宙に上がって早速自身を支持するクライン派と接触し、宇宙の情勢を確認していく。

 

 その中で、気になる言葉を聞くのであった。

 

 

 

「ーー? デュランダル議長が、巨大なMAの残骸を回収した?」

 

 

 

「それだけでは、ありません。遺伝子研究のメッカとされているメンデルに立ち寄り、奇妙な研究を行っているとか」

 

 

 

「十年以上も活動を停止しているはずのL4コロニーで研究ーー?」

 

 

 

 技師長の言葉に眉間にしわをよせ、ラクスはL4コロニーへ向かうことを決意した。

 

 

 

「ダコスタさん、よろしくお願いいたします」

 

 

 

「やれやれ、危険だから待っていてください、と言っても聞いてくれないんでしょうね」

 

 

 

 赤茶色の髪を短く刈り込んだ褐色の青年、マーチン・ダコスタは、ため息をつきながらエターナルの舵をL4コロニーメンデルへと向けた

 

 

 

 モニターのクライン派の男性からさらに情報が寄せられる。

 

 

 

「やはり、ラクス様を行かせるのは反対です。

 

 メンデルに潜入しようとした私の同胞達が全て謎の失踪をしています。

 

 MSを使う傭兵団に頼んだこともありましたが、連合の核部隊を退けた謎のガンダムタイプに殲滅させられました」

 

 

 

「神出鬼没の悪魔の手先にして、神の姿を模した機体ーーですか」

 

 

 

「ーーは?」

 

 

 

 ラクスのつぶやきに、皆が彼女を見据えるが、彼女は何でもないと首を横に振り、微笑みかけた。

 

 

 

「ありがとうございます、技師長。

 

 ですが、わたくしもまた、やるべきことを見つけたのです。行かせてくださいな」

 

 

 

「ーーご武運を」

 

 

 

「はいーー」

 

 

 

 モニターの男に、ラクスは静かに微笑み返した。

 

 

 

 

 

 メンデルーー

 

 

 

 かつて遺伝子工学のメッカとされ、多くの命が犠牲となってできあがったコロニー。

 

 

 

 その宙域に差し掛かり、ラクスは己の勘で船を止めた。

 

 

 

「ラクス様ーー?」

 

 

 

 ダコスタが意味が分からず、問いかけるとラクスは鋭い瞳をモニターに映る隕石のデブリ帯を見据える。

 

 

 

ビシュンッ

 

 

 

 中から一筋のビームがエターナルに向かって放たれてきた。

 

 

 

「ーーダコスタさん!」

 

「了解です!!」

 

 

 

ラクスの言葉に返しながら、ダコスタはエターナルの舵を握り、一気に加速させた。

 

 

 

高速艦の中でも、特別なエターナルは、初速から一気に最大速度でデブリ帯に突っ込み、無数のビームライフルをやり過ごす。

 

 

 

同時にデブリを利用して、敵の砲撃から身を隠しつつ、エターナルのスピードを使って、一気にメンデルへと向かう。

 

 

 

「このまま、メンデルのドックに向かいます!

 

しっかり捕まっていてください、ラクス様!!」

 

 

 

「ーーわかりました」

 

 

 

ダコスタの言葉に頷きながら、モニターに映るメンデルをみすえる。

 

 

 

後方から、デブリを同じように加速して抜けてきた敵のMSが、ビームライフルを放ってくる。

 

 

 

「ーーあれは、この間の機体と似て非なる。

 

ゲイツRを改修して、機体を模しているーー」

 

 

 

ラクスが静かに後方から迫る機体を観察する。

 

 

 

エターナルが、進む先に次々と光の粒子が現れ、ゲイツを基にしたガンダムタイプが、無限に湧いて出てくる。

 

 

 

「ーーなんなんだ、こいつら!?

 

無限に出てくるのか!?」

 

 

 

「ーーこの力、デビルガンダム三大理論の一つ、自己増殖に他なりません。デスアーミーと呼ばれた機体が、無限に出て来るのを記録映像で見ました」

 

 

 

「じゃあ、このガンダムタイプは!!」

 

 

 

ダコスタの言葉に頷きながら、ラクスは前を見据える

 

 

 

「ーーデスアーミーの進化型でしょう。

 

ゲイツを基にして、自分を倒した機体に似せ、手先にする。デビルガンダムとは、人間の思考に近いのかもしれません」

 

 

 

ズドォォンッ

 

 

 

無数のビームライフルをかわしながら、エターナルはメンデルのドックに無理矢理突っ込んだ。

 

 

 

「ーーなんとか、着艦できましたね」

 

 

 

「プラントの中までは追ってこない?

 

ユニウスセブン攻略で得たジュール隊長の報告どおりですね」

 

 

 

「なんで、このメンデルを守っていたんでしょう?」

 

 

 

「ーー分かりません。ですが、わたくしが見た記録なら、デビルガンダムは、このメンデルを拠点にしていると推察できます」

 

 

 

「ちょっと信じられませんね。機体が、プラントを吸収するなんてーー」

 

 

 

「ーーええ。わたくしも、映像を見ていなければ、信じられなかったと思いますわ」

 

 

 

ラクスの言葉に、ダコスタはゴクリと生唾を飲み込むと、銃火器を装備した。

 

 

 

こうして、2人はメンデル内へと足を踏み入れることに成功したのだ。

 

 

 

かれらが、其処で見たものは、本来ならば稼働しているはずのない研究所に電気が通り、明々と辺りを照らしている事実だった。

 

 

 

破棄されたはずの施設は復元され、破壊されたはずの機器が動いている。

 

 

 

人体培養カプセルが稼働し、中にはデビルガンダムのユニットになっていた、赤い髪の青年がいる。

 

 

 

「ーーこれは、何という!!」

 

 

 

ラクスをして、絶句する。

 

 

 

至る所に置かれた培養カプセルの中には、Dと同じ姿をした者が瞳を閉じて眠っている。

 

 

 

「ーー侵入者、発見」

 

 

 

「排除、する」

 

 

 

ラクス達が声の聞こえた方を見ると、緑のザフト軍の服を着た赤い髪の青年達がこちらを見て、腰のマシンガンの銃口を向けてきた。

 

 

 

「ーークローンがもう稼働しているのか!?」

 

 

 

「DG細胞による、クローン戦士。しかも、ドモンさんを模している。危険極まりないですわね」

 

 

 

バババババッ

 

 

 

物陰に隠れ、マシンガンの弾をやり過ごすも、次々とクローンが現れ、敵の包囲網が増えていく。

 

 

 

「ーーこれは、まずいですね!

 

ラクス様、少々手荒にいきますよ!!」

 

 

 

「ーーやむを得ませんわね」

 

 

 

自分の言葉に、ラクスが頷いたのを確認すると、ダコスタは胸に入れていた手榴弾のピンを抜き、敵に向かって投げつける。

 

 

 

ズドォンッ

 

 

 

爆発が起こり、煙に紛れて、その場から離れる。

 

 

 

研究所を出る際、移動用に用意したホバートラックに乗り込み、ダコスタは、エターナルのあるドックへと走らせる。

 

 

 

その後方から、まるで幽鬼もしくは操り人形のようにユラユラと左右に揺れながら、クローンが追いかけてきた。

 

 

 

彼らは、一斉に右手を掲げると、ピシィッとフィンガースナップを一つ鳴らした。

 

 

 

「ーーなんだ? 何をするつもりなんだ?」

 

 

 

眉を寄せ、不思議そうにクローン達の様子をルームミラーで確認するダコスタ。

 

その横でラクスが顔面を蒼白にした。

 

 

 

「ダコスタさん、危ない!!」

 

 

 

「ーーえ? うわあ!?」

 

 

 

ラクスの言葉に前を見れば、前方にエターナルを襲ったゲイツを基にしたガンダムタイプが、現れたのだ。

 

 

 

シールドの先端からビームサーベルを抜き、こちらへと振り下ろしてくる。

 

 

 

「ーーくそ!!」

 

 

 

間一髪のところで、斬撃を避けるも、発生した衝撃でホバートラックは、横倒れしてしまい、咄嗟にラクスを抱えてダコスタは、メンデルの砂漠と化した大地に倒れこんだ。

 

 

 

その脇では、倒されたトラックが爆発している。

 

 

 

「油断したか!」

 

 

 

後方から、次々とガンダムタイプが現れ、ダコスタとラクスを取り囲む。

 

 

 

見れば、クローンがフィンガースナップを鳴らすと銀色の光の粒子が彼らを包み込み、ガンダムタイプが現れるのだ。

 

 

 

「ーー万事休す、か」

 

 

 

「諦めては、なりません! 最後まで!!」

 

 

 

ダコスタが、冷や汗を流しながら言うと、ラクスが強い瞳を持って言う。

 

 

 

「わたくし達は、此処で果てる訳にはいきません。

 

最後まで、抗わなければならぬのです!!」

 

 

 

ラクスの強い言葉に面食らった表情をするダコスタ。その前には、無数のガンダムタイプが、迫って来ていた。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 その様子を、一人の男が広いモニター越しに見ている。

 

 

 

「案外、あっけない終わり方だったな、ラクス嬢」

 

 

 

 男の名は、ギルバート・デュランダル。彼は、チェスに使うポーンの駒を一つ手に取り、盤の上に置いた。

 

 

 

 そのチェス盤を思わせる升目が刻まれた卓には、メンデル内の地形がそのまま描かれている。

 

 

 

 モニターと地図盤を確認しながら、デュランダルは次々とポーンを配置していく。ラクス達が逃げる方に逃げる方に向かって行動させる。

 

 

 

 ガンダムタイプの中でも、ポーンと呼ばれるゲイツRを基にして作られた機体は、理論上メンデル内の物資がある限り無限に増殖できる。

 

 

 

 パイロットもDG細胞があれば、クローン技術を使って増やすなど造作もない。

 

 

 

 デュランダルは、あえて自分の過去の論文をメンデルの研究施設に置いてきた。

 

 

 

 仮に、ラクス・クラインがここで死なない「運命」ならば、彼女にもぜひ知っておいてもらいたかったのだ。

 

 

 

 おそらく、彼女はこちらの考えを否定し、敵対行動に出るだろう。そのためのミーア・キャンベルだ。

 

 

 

 しかし、SEEDを持つ彼女の命運がここで終わるのも、むなしい。

 

 

 

 ギルバート・デュランダルは、純粋に知りたかった。人間の限界を。

 

 

 

 人間の可能性を。

 

 

 

 それは、かつての彼では考えられない思考だ。

 

 

 

 自分が、人間から変化したがための、つまらない感傷だと感じてはいる。

 

 

 

 それでも、デュランダルは知りたいのだ。

 

 

 

 自身の主となったガンダムが見た、人間の可能性をーー。

 

 

 

 そして、追い詰められたラクス達を改めてみたとき、変化が起こった。

 

 

 

「? これはーー?」

 

 

 

 ラクス達の目の前に壁となるように、太陽を思わせる赤い炎を纏った黄金の光の球が現れたのだ。

 

 

 

「ーーまさか!!」

 

 

 

 ギルバート・デュランダルをして、それは予測の範囲外。運命ーーこれがSEEDの因子を持つ者の。

 

 

 

 デュランダルは、モニターの前で人知れず、恍惚とした笑みを浮かべた。

 

 

 

 その神々しい光の球を見ながら。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 変化は、唐突だった。

 

 

 

 ラクスがあきらめずに何とか逃げる算段を頭の中で計算していると、彼女たちの目の前の地面に巨大な赤い光の円が描かれたのだ。

 

 

 

 その円の中には、トランプのハートのキングを思わせる絵が光で描かれている。

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

 

「これはーー、キング・オブ・ハート!?」

 

 

 

 ダコスタが驚く中、ラクスが瞳を大きく見開きながらも、興奮で頬を赤くする。

 

 

 

 次の瞬間、ラクスの予想通り、紅蓮の炎を纏った黄金に輝く光の球が、現れ圧倒的な輝きの粒子を放つ。

 

 

 

 光の中から、男の声が響き渡る。

 

 

 

「出ろぉおおお、ガンダァアアアアアムッ!!!」

 

 

 

ピシィィィインッ

 

 

 

 指の鳴らす音が響き渡り、炎の竜巻が起こる。

 

 

 

 それらが晴れると、同時に両腕を組んだトリコロールのガンダムが姿を現した。

 

 

 

 背中に、六枚の羽根のような板状のものを背負い、白を基調とした仏像を思わせる。

 

 

 

 ラクスが記録で見た雄姿と寸分たがわぬ、圧倒的な存在感。

 

 

 

「ーーゴッド、ガンダム。なぜーー?」

 

 

 

 呆然と見据えるラクス。ダコスタは目の前に敵の親玉のような機体が現れたことに、舌打ちする。

 

 

 

「クソ、この期に及んで隊長機か!!」

 

 

 

 バズーカを構えるダコスタをラクスが止める。

 

 

 

「ラクスさま?」

 

 

 

「答えて、答えてくださいましっ!! あなたが、何故この世界にーー!?」

 

 

 

 声を張り上げ、ラクスは自分たちに背を向けている機体に問いを投げかける。

 

 

 

 すると彼はーー微かに顔をこちらに振り返って告げた。

 

 

 

「俺が来たからには、もう安心だ。これ以上、この紛い物たちに好きにはさせん」

 

 

 

「あなたなのですか!? キング・オブ・ハート、ドモン・カッシュさん!?」

 

 

 

 頼りがいのある不敵な笑みを浮かべて、紅い鉢巻を絞めた左の頬に十字傷のある黒髪の青年は叫ぶ。

 

 

 

「ーー風雲再起!!」

 

 

 

ヒヒィィンッ

 

 

 

ーーパカラッ パカラッ

 

 

 

 ドモンの呼びかけに答え、どこからともなく、白い馬がラクス達の前に駆け寄ってきた。

 

 

 

「話はあとだ。こいつらは、俺に任せろ。頼むぞ、風雲再起!! 彼女は兄さんたちの恩人なんだ」

 

 

 

 最後の言葉は、白い馬に向かって投げかけられている。

 

 

 

 それを理解し、ラクスは声を張り上げた。

 

 

 

「ドモンさん! なぜ、わたくしたちのことを!?」 

 

 

 

 当然の疑問だった。

 

 

 

 なぜ、記録映像を見たわけでもないのに、この人は自分とキョウジさんやシュバルツさんの関係を知っているのだろう、と。

 

 

 

「シャイニングガンダムが、俺とゴッドガンダムに教えてくれていたんだ」

 

 

 

「そんな、そんなことがーー!?」

 

 

 

 異世界の壁を越えて、彼らは繋がっているというのか。

 

 

 

 その事実に、ラクスが呆然としていると

 

 

 

ヒヒィィンッ

 

 

 

 目の前の白い馬がラクスとダコスタに背を預けてきた。

 

 

 

「今は、逃げろ。後で必ず俺も行く」

 

 

 

「はい。--ドモンさん、ご無事で」

 

 

 

「安心しろ、兄さんとシュバルツを連れて帰るまで、俺は誰にも負けん!!」

 

 

 

 風雲再起にまたがり、ダコスタとラクスが、一気にその場を去る。

 

 

 

「デビルガンダムのデスアーミーか。

 

 このゴッドガンダムを真似ているようだが、紛い物では俺の相手は務まらん。

 

 みんなまとめて、叩き潰してやる!!」

 

 

 

 逃げるラクス達を追いかけようとポーンが一斉にビームライフルを構えて、放つ。

 

 

 

ーーしかし。

 

 

 

 

 

 ズバァッ

 

 

 

 無数のビームは、ゴッドガンダムの居合切りの衝撃ですべて切り落とされてしまった。

 

 

 

 感情の無いはずのクローンたちでさえ、目を見開く。

 

 

 

「言ったはずだ。お前たちでは、相手にならないとな!!」

 

 

 

 ビームサーベルを一振り抜き放って八双に構え、ドモン・カッシュは宣言した。

 

 

 

「ガンダムファイト! レディイイ、ゴォオオオオオオ!!」 

 

 

 

 

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね~!

 ついにC・Eの世界に現れたドモン・カッシュとゴッドガンダム。

 彼と共にラクスは、プラント最高評議会ギルバート・デュランダルの企みを知るのです!

 一方、オーブは再三にわたる連合艦隊の侵攻を、局地的な嵐によって防ぎ続けていました。

 そんな中、この嵐の発生に興味を持った東方不敗マスター・アジアが、自身の弟子達を伴い、オーブに攻撃を仕掛けるではありませんか!!

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第33話に

 レディー、ゴー!!



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第33話 最強 その名はゴッドガンダム

 ついに現れた我らがキング・オブ・ハート、ドモン・カッシュ。

 4年間の修行で身に着けた彼の実力は、一体いかなるものなのか?

 一方、地球ではオーブにいるキョウジとファントムペインにいるマスターとの争いが、避けられない状況にまで来ていました。
 
 はたして、どうなることやらーー?

 それでは!

 ガンダムファイト、レディー! ゴォーー!!





 

ドガァッ

 

 

 

炸裂音が響き渡り、海面に飛沫を上げて、巨大な角と赤い羽を持つ黒いガンダムが後退する。

 

 

 

無造作にして強力な右拳を放ったのは、白を基調としたトリコロールの仏像を思わせる丸みのある顔をしたガンダム。

 

 

 

強烈な一撃に、マスターガンダムをしてガードせざるを得なかったほどだ。

 

 

 

それほどの一撃を放った相手は、先ほどまでとは別人のようなーー恐ろしい形相でマスターアジアを睨み据えていた。

 

 

 

男の両の目から放たれているのは、純粋にして強烈な殺気だーー。

 

 

 

意志の弱いものが目を合わせれば、それだけで気絶するか、最悪命を奪われてしまう程の殺意。

 

 

 

その口元には、三日月を思わせるような鋭い笑みが浮かんでいる。

 

 

 

「この威力にして、この殺意。できる!

 

デビルガンダムか?

 

いや、違うーー。貴様、何者!?」

 

 

 

マスターアジアが、目の前の男を睨みつける。対して、男は静かに返した。

 

 

 

「俺は、キョウジだ。母を討たれ、父を貶められ、悪魔を生み出し、弟に辛き役割をさせるしかなかったーー。

 

無力な俺を憎む俺自身だ!!」

 

 

 

「なんだと?

 

ならば、貴様は、キョウジ・カッシュそのものだと、自身の非力を嘆き、憎み、デビルガンダムの力と意志をその身に取り込んだキョウジだと言うのか!?」

 

 

 

シャイニングガンダムは、ゴッドガンダムに瓜二つになったその顔をマスターガンダムに向け、右拳を握ると、その目から、涙を流す。

 

 

 

「ーーむう、キョウジよ」

 

 

 

 そのキョウジの姿にマスターアジアをして思わず唸るほどの悲しみが伝わってくる。

 

 

 

「……俺は、無力だった。

 

母さんを殺されて、父さんを囚われて、逃げるしかない自分を責めた。

 

 父を貶めたミカムラ博士への恨み、母を殺めたウルベへの憎悪が、アルティメットを悪魔(オレ)へと変えた。

 

しかし、弟に涙を流させながら、それでも……俺を討たせなければならなかったキョウジ(人間)の怒りと嘆きがーー。

 

ドモンの涙が、俺とキョウジを一つにさせたのだ」

 

キョウジは、強き意思を目に宿し、言う

 

 

 

「二度と誰かに繰り返させはしない。

 

こんな、こんな悲劇は!!

 

 こんな思いは、俺たちだけで、十分だ!!」

 

 

 

シャイニングガンダムが、その瞳から涙を流しながら、明鏡止水の境地に達し、肩や足、腕を展開させて、黄金のハイパーモードに変身した。

 

 

 

「マスターガンダム、いや。マスターアジアよ。

 

オーブを討つと言うのなら、この俺を殺しに来い!!

 

その方が俺も遠慮がいらん!!」

 

 

 

強烈な殺意を纏い、明鏡止水の境地に達する二律背反ーー。

 

 目の前の男は、恐ろしいまでに、荒々しく、猛々しく、そして気高い。

 

 

 

「ーー面白い。

 

シュバルツ以外で、ワシが全力を出す価値のある相手がおったか。

 

ならば、キョウジよ。

 

 貴様の全てをワシにぶつけて来るがいい!!

 

 そして見事、我が流派を体得して見せよ、我が愛弟子ドモン・カッシュの兄よ!!」

 

 

 

マスターガンダムも羽を広げ、黄金のハイパーモードに変身した。両のガンダムは、黄金の気柱を立て、オーブ近海で激突するーー。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

時は少し遡る。

 

 

 

L4コロニーに現れたゴッドガンダムは、自身を模倣して作られたガンダムタイプのデスアーミーの軍団をなぎ倒していた。

 

 

 

バキバキバキィッ

 

 

 

拳と蹴り、ピームサーベルを組み合わせるだけで、瞬く間に撃破していく。

 

 

 

 それもそのはず、ゴッドガンダムの一撃は、デスアーミーを5~6体まとめて叩き潰していくのだ。

 

 

 

無数のビームライフルの銃口が向けられ、引き金が引かれるより遥かに早くゴッドガンダムは左右にジグザグに動き、的を絞らせない。

 

 

 

「ゴッドスラッシュタイフーン!!」

 

 

 

ギィュウウンッ

 

 

 

腰のビームサーベルを一振り、横薙ぎに両手持ちで構え、機体をコマのように回転させて、自身を竜巻のように変化させると、一気に周囲の敵を薙ぎ払いながら移動する。

 

 

 

ズバババァッ

 

 

 

 切り裂かれたデスアーミーいや、デスポーンは次々と爆発していく。

 

 

 

 その数は、50は下らない。

 

 

 

 一気に半数近くを持って行ったゴッドガンダムの周囲に、それ以上の数の光の粒子が現れる。

 

 

 

「……なるほど。敵の狙いは、こちらの消耗か。キング・オブ・ハートを甘く見るな!!」

 

 

 

 気合を入れ、ゴッドガンダムが疾駆する。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

新しいデスアーミーの増援が現れるよりも早く、次々と機体を葬っていくドモン。

 

 

 

 その殲滅速度は、正に脅威的としか言いようがない。

 

 

 

「強いーー。

 

 無限に増殖する私のデスポーン部隊が出現するよりも、彼の殲滅速度の方が遥かに早い」

 

 

 

 盤上の駒が次々と撃破されていくのを目の当たりにしながら、デュランダルはさらに駒を打ち込んでいく。

 

 

 

 敵は一機、ならばと囲んでの飽和攻撃を仕掛けるポーン隊。

 

 

 

 しかし、ゴッドガンダムはバーニアを展開すらせずに、その場から脚力だけで人の目に映らない高速移動を行い、あっさりと包囲の外へと出る。

 

 

 

「ガンダムファイターに、常識は通じない、か。

 

 しかし、この世界の標準的なMSより小型ではあるものの、どう少なく見積もっても16メートルは越えている巨体が目の前から突然消えるとはーー。

 

 タリアからのガンダムファイトの映像を見た後とは言え、これほどまでのものか。

 

 並みの部隊では手が付けられんなーー」

 

 

 

 驚愕しながらも、デュランダルはポーンを打ち込む手を休めない。

 

 

 

 ポーン以外の駒を用意しようかとも思ったが、どの道これほどの差のある相手には、サトー達のナイトクラスを用意させても相手にはならないだろう。

 

 

 

「敵の射撃武器は肩のイーゲルシュテルン以外、一切ない。動きは拳法と剣術を主体にしている。MSの武装としてはあまりに貧弱なものだがーー」

 

 

 

 遠距離からのビームライフルの狙撃はすでに試したが、案の定当たらない。

 

 

 

 ライフルを撃った次の瞬間に目の前にゴッドガンダムが現れ、首をあっさりともぎ取る強烈な拳を食らう。

 

 

 

 盾を構えて受け流そうにも、盾ごと上空に弾き飛ばされるか、後方へ吹っ飛ばされる。

 

 

 

「MFとMSは根本的な性能が違う、か。確かにそのようだ」

 

 

 

 自分の手元にあるポーンを錬成する駒の数を確認しながら、デュランダルはゴッドガンダムとドモン・カッシュのデータをポーンに頭に叩き込み、駒を動かす。

 

 

 

「機体性能は確かに雲泥の差だ。

 

 しかし、チェスを模したこの「デビルズ・サンクチュアリ(魔の聖域)」を使用して私が負けることなど、あり得ない」

 

 

 

 ドモン・カッシュの動き、癖を覚えながらデュランダルは駒を動かす。

 

 

 

「D--、今なら君の言っていたことが分かる。

 

 この男、本当に手ごわい。こちらの狙いを正確に把握し、行動しているーー」

 

 

 

 モニター上では、ドモンはデュランダルの狙いを先に読み、目の前の敵ではなく、後方や物陰に出現させたポーンへと一足飛びで距離を詰め、つぶしていく。

 

 

 

 攻撃の起点となるはずだった機体は、上空からの唐竹割りに真っ二つにされる。

 

 

 

 独りつぶやくデュランダルだが、その口元は楽し気にゆがめられている。

 

 

 

「はじめてだよ。

 

 私がチェス盤を模したゲームでここまでてこずらされているのは」

 

 

 

 デュランダルは笑う。

 

 

 

 普通に戦えば勝てない、この戦いはすでに数など問題ではない。

 

 

 

 まともな集団戦法の運用の仕方では、まず通じない。

 

 

 

 かと言って、犠牲を無視して突っ込ませても、クローンやポーンの錬成速度よりも、たった一機のガンダムの殲滅速度の方が明らかに早い。

 

 

 

「楽しいじゃないか、キング・オブ・ハートーー!」

 

 

 

 はじめは純粋な力比べを行っていたドモンとデュランダルの戦いは、超高レベルな読みあいへと変化していったーー。

 

 

 

 デュランダルは目の役割を果たすポーンを一機生み出し、ポーンの群れをより正確に指揮して、ゴッドガンダムに向かわせる。

 

 

 

 もはや、逃がしたラクス・クラインなどどうでもよい。

 

 

 

 目の前の敵は、自分のすべてを受け止め、返してくる。この至福の時を、デュランダルは大いに楽しんでいた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 一方、敵を殲滅するスピードをまるで落とさないドモンであったが、敵の動きに何者かの指示があることをすでに理解していた。   

 

 

 

「このガンダム擬きどもの動き、誰かが俺の動きとこのコロニー全体を把握した上で指示しているのか。

 

 ということは、そいつが何者かは知らんが、デビルガンダムの手先であることに間違いはないな」

 

 

 

 ドモンの目の前に3体のポーンが召喚され、ビームライフルを構える。

 

 

 

 しかし、ドモンはそれらにはまるで取り合わず、明後日の方向に顔を向けると、一気にダッシュした。

 

 

 

「はぁあああ、とぉおりゃぁああ!!」

 

 

 

 右腰の柄に手を触れ、交差気味に抜刀し切り捨てる。

 

 

 

 そこにいたのは、1体のポーン。

 

 

 

 ドモンは正確に、敵の陣頭指揮をしている機体を把握し、切り捨てていく。

 

 

 

「別の機体に”目“が移ったかーー。頭はおそらく、この場にいない」

 

 

 

 無数に現れるポーンの中から、正確に敵の目の役割を果たす者を見つけ、切り捨てる。

 

 

 

 MSの配置、自分の位置、周囲全てに感覚を研ぎ澄ませるドモン。

 

 

 

 むろん、それだけでは目の役を当てることなどできない。

 

 

 

 最後に必要なものは、地形やMSの配置、自分の位置から判断する読みだ。

 

 

 

「敵も中々手ごわい配置をしてくる、俺の動きを見て研究している最中ってところかーー。ん? お姫様達はどうやら無事に自分の船にたどり着いたようだな」

 

 

 

 敵の動きを把握しながら、ドモンはラクス達が無事に自分の船にたどり着いたことを気配で感じ取る。

 

 

 

『--ドモンさん! こちらエターナル、ラクス・クラインです!

 

 聞こえますか?』

 

 

 

 間髪入れず、ゴッドガンダムに通信が入ってきた。

 

 

 

「ああ、聞こえてる。無事に船に着いたみたいだな」

 

 

 

 モニター越しにピンクの髪をした少女が現れた。彼女とその付き人は、一瞬あっけに取られたような表情をしている。

 

 

 

 ドモンはその理由に気付いていないが、モニター越しにゴッドガンダムが倒した無数のポーンの残骸が見えたのだ。

 

 

 

 ドモンは会話しながらも手を休めることはなく、敵の目の役割をする者を見抜き、つぶしていく。ポーンがまた一機爆発し、その光景を見て、ラクスが戦闘中であることを思い出し、切り出す。

 

 

 

『--ドモンさん、こちらでのわたくし達の作業は終わりました。

 

 エターナルに合流してください、脱出します!』

 

 

 

「そうかーー。

 

 なら、こいつらには。

 

 とっとと、ご退場願おうか!」

 

 

 

『--え?』

 

 

 

 通信で目を丸くしているラクスを無視し、ドモンは静かに瞳を閉じる。

 

 

 

 手に持ったビームサーベルを両手持ちで正眼に構えるとーーーー。

 

 

 

シュゥウウウウウンッ

 

 

 

 サーベルは太さと長さを増していく。

 

 

 

 ゴッドガンダムの背中の6枚の板が展開し、日輪を思わせる光の輪を形成した。

 

 

 

「ーー爆ぁああく熱っ、ゴォッドスラァアアアアッシュぅうう!!」

 

 

 

 コロニーの内壁にまで達する長さに、モビルスーツ胴3体はあろうかという、太さになった巨大なビームサーベルを形成したのち、ドモンは更に普通のビームサーベルのサイズにエネルギーを凝縮していく。

 

 

 

 それはあまりのエネルギーの質量に青白いプラズマを発生させながら、実体剣のような重量を持ち、刀身が日本刀のように変化した。

 

 

 

「ーーーーてぇえりゃぁあああああっ!!!!」

 

 

 

 それを脇構えにすると、ゴッドガンダムは両手持ちで袈裟懸けに切りつけた。

 

 

 

ズバァァッ

 

 

 

 一瞬の出来事だった。

 

 

 

 ゴッドガンダムの一閃は空を疾り、写真に鉛筆で線を入れたかのように、景色に斬閃を残す。

 

 

 

 世界が斜めにずれたーー。

 

 

 

ズドドドドドドドドォッ

 

 

 

 後に、その場にいたポーンだけが体を斜めにずらし、連鎖的に爆発していくーー。

 

 

 

 しばらく刃を構え、敵の全滅を確認したドモンはサーベルを一閃し、静かに刃を納める。

 

 

 

『これがーー、ゴッドガンダム』

 

 

 

『な、なんなんだ、このMSはーー!』 

 

 

 

 あまりの出来事に愕然とした表情になっているラクス達をようやく振り返り、ドモンは穏やかにして不適な笑みを浮かべて話しかけた。

 

 

 

「ーー待たせたな。そちらへ合流する」

 

 

 

『え、ええ。お待ちしていますわ』

 

 

 

 ドモンの戦闘力にあっけに取られながらも、気丈な歌姫は平常心を取り戻し、ゴッドガンダムを自身の戦艦エターナルへと迎えた。

 

 

 

 彼と共に、ギルバート・デュランダルの残したデータを解析するために。

 

 

 

「ーー凄まじいものだな、ゴッドガンダムか。

 

Dが望むだけのことはある」

 

 

 

一瞬で手駒を全滅させられたと言うのに、デュランダルには余裕の笑みがあった。

 

 

 

メンデル内にあったMS並びにクローン作製技術は既に移転させている。

 

 

 

メンデル自体が消し飛ばされない限り、何度でも施設の再生は、DG細胞により可能だ。

 

 

 

ゴッドガンダムのデータが取れた。

 

今回はそれで充分だろう、とデュランダルは笑っていた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 一方、オーブはすでに再三の連合からの攻撃をキョウジの作成したハロによって天候を操り防いでいた。

 

 

 

 運よく雷雲の海域を抜けれたとしても、その先にはアスハの私軍が展開され、あえなく撃沈されて捕獲されている。

 

 

 

 アスハ私軍は、MSや軍艦を捕獲した際、乗組員やパイロットを即連合あてに強制送還させている。

 

 

 

 はじめは、オーブ本国と国民も勝手な行動を行うアスハ軍を批判していたが、本土を守り抜き、連合の大艦隊を完膚なきまでに退ける国民はアスハ軍に、国民の支持が集中していた。

 

 

 

 オーブの政治家達は、アスハ軍をテロリストおよび国家反逆罪とし、処刑する名目を立てるも、国民から激しく非難され、糾弾を受けてその身を隠していった。

 

 

 

 これにより、オーブの政治体系は全く機能をなさない状態になるはずだったーー。

 

 

 

 しかし、予め事態を予測していたキョウジの指示で抱き込んでいた政治家たちを続投させ、国内の政治事をカガリの指示のもと、行わせる。

 

 

 

 あくまでカガリは政治のみを行い、軍には関わらないようにキョウジから釘を刺されていた。

 

 

 

 オーブは自国の資源が豊富で、自給自足ができるため、実質上の鎖国を行うことができる。

 

 

 

 一方の連合側はいくら大艦隊で仕掛けても、その分被害が増えることをここに来て理解し始めていた。

 

 

 

 オーブは、おそらく世界のどの国ーープラントとさえ比べても、あり得ないほど高度な科学技術を持っている。

 

 

 

 かと言って、不安をあおり、オーブ国内からの内部崩壊を行おうにも、潜入させたスパイとは一切の連絡が取れず、艦隊をオーブ本国の周辺に並べたところで、意味不明のジャミングと霧が起こり、たった20機に満たないMSに壊滅されている。

 

 

 

 本土を撃てる距離まで詰めれば、訳のわからない天候が起こり、一気に雷雨の中を動かねばならなくなる。

 

 

 

 

 

ーーオーブのアスハ軍は、天候をも操る。

 

 

 

 

 

 この噂は、瞬く間に世界に広がっていった。

 

 

 

 もはや、この世界でブルーコスモスを除いた勢力は、オーブの実力の高さと一貫して主張する他国への侵略をしないとする理念と姿勢を理解し、友好的な関係を結ぼうという動きさえ出ていた。

 

 

 

「考えられんことだが、君たちの世界では、こんなあり得ないモノも作られているのかね、ウルベ?」

 

 

 

送られてくる映像や資料に目を通しながら、自分が取り込んだ2人の友人のうち、片方に話しかける。

 

 

 

彼は、長い髪を弄びながら、ワインを一口含むと、右側の顔を鉄の仮面で隠した冷たい翡翠の瞳を自分ーーロード・ジブリールに向けた。

 

 

 

「できるーー。

 

 私たちの世界の技術ならばな。

 

 あれはネオイングランドで使用された霧を発生させ、レーダーの機器をジャミングする装置を改良したものだろう」

 

 

 

「興味深いな。あれがあれば、確実に敵を仕留められる」

 

 

 

 身を乗り出すジブリールに、興味もなさげに、ウルベは言った。

 

 

 

「つまらん子どもだましの機械だよ、ジブリール。

 

 もし、あれを破りたいならば、君の子飼いの部隊に頼むといい」

 

 

 

「何ーー? ファントムペインにか?」

 

 

 

 ウルベの提案に首を傾げるジブリール。その横から、今度は赤い瞳をしたサングラスの男が口を挟んだ。

 

 

 

「そうそう。

 

 あなたの子飼いのファントムペインーー。非常に興味深いですよ。

 

 彼らならば、この装置を打破できるでしょう。強力な助っ人もいるようですからね」

 

 

 

 皮肉気な笑みを浮かべている神経質そうなサングラスの男を見据え、ニヤリとジブリールは笑う。

 

 

 

「君たちに映像を見せられるまでは、信じられなかったが。確かに、ネオが隠しているあの謎の機体ならば攻略できるかもしれん。

 

 しかしウォン、あれほどの機体のパイロットをこちら側に引き込めるかな?」

 

 

 

 ウォンと呼ばれた男はグラサンの淵に手をかけると、穏やかで上品そうな笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

「それについては、ご安心ください。

 

 おそらく、あの助っ人は東方不敗マスターアジアという老人です。

 

 彼は、義理人情に厚い性格をしている。その彼が、未だファントムペインという部隊から離れないのなら、彼なりに思うところがあるのでしょう」

 

 

 

「なるほど、ネオの機転が結果的に我々にとって有利に運んだというわけか。

 

 それで、どうやってあの人外をぶつけるんだね?」

 

 

 

「オーブには、かつてデビルガンダムと呼ばれた存在がいます。

 

 ミケロ達の報告からも間違いありません。

 

 そのことをマスターアジアに語れば、十分でしょう。

 

 コーナーポストの話も、ついでにしてあげれば、確実に食いついてくるはず。もともと、あれは我がネオホンコンの技術なのですからね」

 

 

 

「なるほど、さすがは私と同じく、世界を支配したことのある為政者達だーー」

 

 

 

 こうして、ジブリールは地球軍第6独立機動軍「ファントムペイン」の駆るガーティ・ルーに連絡を入れたのであった。

 

 

 

「さて、オーブに手を貸す悪魔が勝つのか、亡霊に手を貸す鬼が勝つのか、高みの見物といこう」

 

 

 

「そして、全てが終わった後、我々こそが世界を統べるに相応しいと、証明してあげましょう」

 

 

 

 二人の名はウルベ・イシカワとウォン・ユンファ。

 

 

 

 かつて、未来世紀世界を悪魔の力によって永遠に手に入れようと画策した極悪人である。二人の言葉に陶然としながら、ジブリールはこけた頬に六角形の金属からなる奇妙な紋を浮かばせると、笑った。

 

 

 

「すべてはーーデビルガンダムのために!!」

 

 

 

 三人はワイングラスを掲げて、邪悪な笑みを浮かべたーー。

 

 

 

ーーーーーー 

 

 

 

 一方、ガーティ・ルーの方では、次に向かう場所について東方不敗マスターアジアとエクステンデッドの三人を交えた作戦会議が行われていた。

 

 

 

 オーブの謎の雷雲が発生する海域。

 

 

 

 コーナーポストから出るリングによって発生する二重のバリア。

 

 

 

 これらについて、ネオが説明していると、マスターアジアが瞳を鋭くしながら唸った。

 

 

 

 それに気づかずに、スティング、アウル、ステラの三名が海域を抜けた後に現れるMSにも目を見張る。

 

 

 

「この青い翼の機体、強い」

 

「今の僕達より、つよいね」

 

「ステラ達三人がかりなら、足止めくらいはできると思うよ?」

 

 

 

 これにイアンが渋い顔になった。

 

 

 

「君たちでも、三人がかりで足止めが精一杯なのか。とてつもないな、フリーダムは」

 

 

 

 その横で、ビデオモニターを見るのをやめ、海図を睨みつけるマスターアジアにネオが気付く。

 

 

 

「? 東方先生、どうされました?」

 

  

 

「ネオよ、今回の作戦。よくぞワシに伝えた。これは貴様らの世界の技術ではない。わしらの世界の技術よ」

 

 

 

「MFの世界の技術? どおりで文明が進み過ぎているわけだ。なら技術を提供したのは、この間のシュバルツって奴ですかね?」

 

 

 

 ネオの口調が軽口から緊張を帯びたものに変わる。

 

 

 

 それに首を振り、マスターは答えた。

 

 

 

「シュバルツならば、このような回りくどい真似はするまい。

 

 おそらく、こやつはガンダムファイターではない。科学者の類であろう。

 

 しかし、この世界の技術体系でわしらの世界にあった技術を再現してみせるとは、並みの頭脳ではない」

 

 

 

 マスターの答えに、ネオをして唸るしかない。

 

 

 

「そんな奴が、あの国にーー?」

 

 

 

「この戦い、今までになく壮絶なものとなるであろう。ワシはそう見るぞ、ネオ・ロアノーク」

 

 

 

「まいったね、引き受けるの保留すりゃ良かったかな」

 

   

 

「馬鹿者っ!

 

 強敵と拳を交えるは男子の誉れであろうが!

 

 もっとしっかりせんか!!」

 

 

 

「俺は、ガンダムファイターじゃないんすよ」

 

 

 

 マスターアジアの言葉に、弱弱しいながらも反論するネオ。

 

 

 

 こうして、彼らはオーブ攻略作戦に参加するのだったーーーー。

 

 

 

 オーブ近海に配置されたガーティ・ルーのブリッジで、マスターアジアはオーブという島国を睨みつける

 

 

 

「なるほど。微かにDG細胞の気配を感じる。

 

 スティング、アウル、ステラよ!

 

 遅れるでないぞ!!」

 

 

 

「はい、師匠!」

 

「任せてくださいよ!!」

 

「ステラ、がんばる」

 

 

 

 三人の弟子の言葉に目を少しだけ和らげた後、マスターガンダムがカタパルトデッキから出撃した。

 

 

 

「東方不敗マスターアジア、マスターガンダム!

 

 ゆくぞぉ!!」

 

 

 

 オーブの青い海と空に、漆黒のボディと赤い羽のガンダムが舞ったーー。

 

  

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね~!

 デュランダルの魔の手から無事に逃げ延びたラクスとドモン。

 彼らは、取り込んだデータからデュランダル議長のデスティニープランについての論文を確認するのです。

 一方、オーブに攻め込んだマスターガンダムと三機の弟子達。

 彼らを迎え撃つのは、青き翼のMS部隊でした!

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第34話に!

 レディー、ゴー!!



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第34話 熾烈な戦い オーブ軍 対 流派東方不敗

さて、みなさん。

オーブのアスハ部隊は、連戦連勝の雰囲気を高め、ついには、2度もの艦隊戦を制します。

そんな中、マスターアジアのいるガーティー・ルーが、ついに動き始めたではありませんか。

はたして、キョウジやキラは、マスターとファントムペインの猛攻を退けることができるのか?

それでは、ガンダムファイト!

レディー、ゴー!!




「バルトフェルドさん、トダカさん。あなた方はこちらの指示があるまで待機でお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 早朝。

 

 オーブ領海を護るハロたちが非常警報を鳴らしてきたのは、数十分前のことだ。

 

 三百海里先の近海に、連合の大艦隊――およそ三個連隊――がふたたび観測されたのである。連日連夜、MSの整備・調整と、少数精鋭による艦体を想定した模擬訓練および実戦に時間を割いていたため、この緊急事態に至ってもアスハ軍の士気は高い。

 

 MSのパイロットや各戦艦のクルーたちを広場に集めたキョウジは、ハロが送ってきた詳細な偵察データを基に現状をみなに説明したのちこう言った。

 

既に捕獲した機体は、40機を越えている。

 

連合から捕獲したウィンダムやストライクダガーLを改良し、見た目をフリーダムに似せたものだ。

 

更に、連合製MSの特徴であるバックパックの変換システムを利用して、肩からキャノンを伸ばす砲戦仕様のMSを10機用意していた。

 

 

 

「ん? ああ」

 

 

 

 バルトフェルドは上機嫌に自身のムラサメとキョウジから支給された補助バーニアの調整を楽しんでいた手を止め、頷いた。これまで、物量と言う面で困難を強いられてきたアスハ軍であるが、トダカやアマギの部下たちは果敢にもバルトフェルドたちの要求についてきている。

 

 キョウジが慎重に声音を落とした真意がつかめず、眉をひそめていると、キョウジはこくりと頷き返して、視線を各部隊長と砲戦仕様のMSパイロット達に向けた。

 

 

 

「では今まで通り。

 

あなた方には海域とジャミングを巧く使っていただきます。

 

戦況が少しでも不利になったら、すぐに通信で報せるようにしてください。

 

無理をせず、決して仲間から離れないように。……いいですね?」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

 ざ、と敬礼する彼等に、キョウジは頷き返す。

 

 

 

 何度目になるか分からない出撃と、再三にわたる大艦隊の撃退に浮き足立つことないよう、きちんと最初から説明する。

 

 各々の意志を高める為に。

 

 ずっと作戦本部に滞在していたキョウジは、撃退の為に出撃していたキラ達よりも早く敵の第3撃の部隊配置を聞いており、すでにどの部隊が、第1諸島から第五諸島までどう配置すべきなのか、打ち合わせを済ませていた。

 

 

 

 今朝方、その打ち合わせ内容を聞いたキラは、昨日あらかじめ立てていた作戦とは少し内容が違うことにすぐ気がついた。

 

 

 

 というのも、40機の部隊を3つに分け、それぞれの部隊に最低2機、砲戦仕様が配備されているのだ。

 

 そしてその彼等は、キラやバルトフェルド達が戦闘を行っている間、キョウジが考えた『ビーム兵器での信号弾』を頼りに行動するよう訓練されている。

 

 例えば、空に向かって黄のビームを放てば『劣勢』。青のビームで『制圧』。緑のビームで『膠着』。そして赤のビームで『撤退』を意味するのだ。

 

 この方法で、キョウジは海域に展開させる強力なジャミングによる通信不良への対策とした。

 

 加えて、砲戦仕様のMSだけで構成された部隊には、その護衛役としてアマギ率いるムラサメ隊の手練れを抜擢している。

 

アマギ達4機だけで砲戦部隊すべてを護衛することは不可能だが、もともと、砲戦仕様MSの主な任務は後方支援および傷付いた機体の回収である。

 

これにキョウジは修理機能や補給機能を取り付けている。

 

 前線の――キラ達が率いる先鋒部隊が『道』を作るまで、巨大な設置型のビーム大砲を動かさず遠距離から連合を狙撃する。

 

 そして『道』を作った先鋒部隊と合流し、改めて進軍する時、初めてムラサメ隊が活躍することになる。言わば、保険のような存在としてアマギ達のムラサメ隊は置かれているのだ。

 

 総指揮官に抜擢されたキョウジは、殿しんがりとしてオーブ本土を守る役割だった。故に、どの兵よりも最後尾になる配置だが、逆にどの兵よりも広く戦況を見定め、即座に各部隊に指示を送るのが必要がある。

 

 例えば、第一小隊が赤の施術で『劣勢』を指示した際、すでに『制圧』の合図を送った部隊に『増援に向かえ』の合図をするのが彼の役目だ。この、『制圧』を完了した部隊が、仮に第二小隊ならば、赤のビームが二発、空に向かって放たれる手筈になっている。

 

 ここで、砲戦仕様MSは絶対にウィンダムを攻撃してはならない、という制約が生まれた。

 

 空に向かってビームを乱用すれば、信号弾との区別がつかなくなるためだ。

 

 つまりウィンダムに対しては、すべて空中戦仕様MS隊のビームサーベルでの白兵戦及び海上に設置された大型ビーム砲で対抗する。

 

 キョウジの仕事は淡白だが、タイミングを見誤ればアスハ軍が傾く。その大任を圧力プレッシャーと思っていないのか、彼はいつも通りの調子で引き受けていた。

 

 キョウジによる改良で連射性の上がったビーム兵器ならば機動力の高いウィンダム隊を抑えることは可能だ、と。

 

 

 

「……でも、それだけでホントに敵艦隊をどうにか出来るのか?」

 

 

 

 誰もが考える言い分に、キョウジは不敵に笑い返してくる。

 

 

 

「空にビームの粒子が溜まる。――それで十分だ」

 

 

 

 と。

 

 なにやら、企んでいる様子で。

 

 隣でキョウジと共に改修していたキラが口出しをしてこないことから、確証があるのだろう。

 

 バルトフェルドは首を傾げながらも、こくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 

「準備はいいわね。ここが勝負の分かれ目よ。私達がここを死守できなければ、連合ーーいえ、ブルーコスモスは、オーブ本土まで一気に攻め込むでしょう。なんとしても食い止めます……全軍、進軍!」

 

 

 

 凛とした面持ちでマリューが指揮すると同時、居並ぶMS部隊が、一挙に己が右腕を掲げた。

 

 

 

――おぉおおおおおおおおっっ!――

 

 

 

 びりびりと。

 

 まるで地鳴りのような迫力に、キラは腹の底が揺さぶられるのを感じながらバルトフェルドを見た。すでにムラサメのコクピット乗っているバルトフェルドは、いつでも準備万端だ、と言わんばかりに、に、と口端を吊り上げている。

 

キラもフリーダムのコクピットで、緊張をほぐす為に、ため息を一つ吐く。

 

 

 

 ――開戦だ。

 

 

 

 海中に続くシェルターが、開け放たれると同時、凄まじい勢いでフリーダムを模したムラサメやウィンダム、M1部隊が海上に出て行く。

 

まるで川の激流のように、どどどっ、と。

 

 MS達のバーニアが噴出される音が、確かな重みを持ってキラの耳朶を打っていた。

 

 

 

(いよいよ、か……!)

 

 

 

 ぐ、と操縦桿のグリップを握りながら、キラも意を決したようにフリーダムをカタパルトに載せた。

 

 バルトフェルドのムラサメのバックパックに取り付けられたのは、ウィンダムやストライクダガーに付けられたジェットストライカーのバーニアだ。

 

これをキョウジは海上、海中、空中、陸、全てに対応する強力な移動手段へと改良した。その性能はかつて、機動力を重視したMSラゴゥを乗りこなしたバルトフェルドをして、唸らせる。

 

 キラとバルトフェルド以外の全てのMSが基地から出て行った後、残ったキョウジは、す、と映し出されたモニターに接続されたキーボードに手をかけた。

 

 

 

「全軍、少し離れてください」

 

 

 

 通信越しにそう言ってキョウジは、モニターを確認する。

 

 彼は、すらりと長い手をキーボードのエンターキーに伸ばすなり、息を吐いた。

 

 

 

「作戦……」

 

 

 

 キョウジがつぶやいた瞬間、オーブの海域に予め散っていた丸い緑の球体が浮き上がり、これでもかと言わんばかりの、黒い水蒸気を上空へと噴き出していく。

 

 水蒸気ーー霧は、上空に固まっていき、その場に形成されていく。

 

 

 

「開始っ!!」

 

 

 

 か、と目を見開いたキョウジが真上から叩きつけるように指をキーボードに振り下ろす。

 

 ただそれだけの動作から一気に丸い球であるハロ達が動き出した。彼らは、ジャミングの磁場を発生させる霧を次々と発生させていく。

 

 ――それが空中に集まり、雲を象ったとき、雷の嵐が海面に降り注ぐ。

 

 

 

 ズガガガガガガガァアアンンッッ!

 

 

 

 オーブ周辺の海域に強烈なサンダーストームが発生。

 

 その雷の嵐は、オーブ侵攻を防ぐために降り注がれる。

 

 ――オーブの、城壁そのものだ。

 

 

 

「……よし。正常にライトニングウォールを発生できた」

 

 

 

 キョウジは、発生させた雷の制御をコンソロールパネルで細かく打ち込み、ハロ達に直接指示し、動きを変化させて敵艦隊の侵攻を防いでいく。

 

 

 

「……毎度毎度、とんでもないやつ……」

 

 

 

 傍観するバルトフェルドの方が、あきれたといわんばかりに表情を歪めていた。そんな彼に同調するように、同じ表情でキラたちも頷いた。

 

 そんな彼等を置いて、キョウジは戦況を把握しながら自分が作った雷嵐を制御し、更にオーブ周辺の海域にレーダーを展開し、熱源反応を調べ始めた。

 

 ――敵の艦隊の動きを。

 

 

 

「……そろそろ、先鋒部隊が衝突するな」

 

 

 

「!」

 

 

 

 つぶやく彼に、ば、とキラの顔が起き上がる。その隣で指示を待つバルトフェルドへ、キョウジは通信を入れて頷くと――、言い放った。

 

 

 

「キラ、バルトフェルド。……出動だ!」

 

 

 

「おぅっ!」

 

 

 

「ああ!」

 

 

 

 ジェットバーニアを噴かせるムラサメの動きに従って、エンジン音が基地内に響き渡る。

 

 その隣で、キラは不安に駆られることはなく、強い瞳でモニターのキョウジを見据える。 

 

 

 

「この戦い、絶対勝ちましょう! キョウジさん!!」

 

 

 

 それが誓いであるように、す、とフリーダムがキョウジを向いてその目を光らせる。宣言するキラに、キョウジもこくりと頷いた。

 

 

 

「今回、俺はアスハ軍の援護を第一任務として動く。

 

……だが、出来るだけ二人の支援もするつもりだ。現場の指令系統は頼んだぞ、二人とも」

 

 

 

 キラに応えるように、右手を掲げる。

 

 

 

 自然、二人の口元に浮かんだのは、互いを信頼しているような、自信に満ちた笑み。

 

 

 

 無言のまま、笑いあう二人に、やれやれとバルトフェルドがため息を吐いた。

 

 

 

「今更だが……。もう少し息をつかないか? 力の入り過ぎはよくないぞ」

 

 

 

 言って、肩をすくめる。するとキョウジは、バルトフェルドに視線を向けて気負ってなどいない、とそう態度で示すように微笑った。

 

 その彼を、ふん、と苦笑しながら見返して、バルトフェルドは横目でフリーダムを見る。

 

 

 

「じゃ、行こうか。ーーキラ、遅れるなよ」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

フリーダムが青い両翼を展開させ、バーニアをふかす。

 

それを横目で確認して、こくりと頷いたバルトフェルドは、す、とキョウジを一瞥してからムラサメを発進させた。

 

 

 

 ドンッッ!

 

 

 

 雄叫びを上げて、巨大なMSを2機がカタパルトデッキから猛速度スピードで発進していく。

 

 それを、じ、と見送って、キョウジは静かにマリューに視線を向けた――……。

 

 

 

 

 

「私達の行動が、オーブの明暗を分けます!

 

 各機、自分の任務を遂行して!

 

 本艦とM1部隊は、これより連合との開戦を始めます!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 先鋒部隊。

 

 マリュー率いるアークエンジェルの中央部隊は、地球連合軍の分断に成功した。

 

 世界最強と言われる軍事力と物量を武器とする連合艦隊を、見事出し抜いたのだ。

 

 

 

(これほどまでに、皆の戦力が上がってるなんて……!)

 

 

 

 指揮を直接取るマリューにも、各部隊長達が急激な成長を見せているのが、手に取るようにわかる。数で圧倒的不利を示すアスハ軍が、戦場を大きく使うのは得策ではない。

 

そこを突くため、連合軍はウィンダムのジェットストライカーの機動力を生かして中央部隊の背後を、物量を生かしたダガーL部隊をアスハ軍の本隊と真正面から衝突させ、アスハ軍を前後に挟撃するという構図を展開してきたのだ。

 

 ――それを、オーブ本国の周辺に放たれた黒い雷雲が、上空から狙い落としていた。

 

 

 

「な、なんだと!?」

 

「オーブは、天候を操るという噂は、本当なのか!?」

 

 

 

雷に撃たれ、電気回路がショートしたMSは、上空から海面に叩き落とされた。

 

 

 

「普通の雷じゃない、MSの動力炉をショートさせるなんて」

 

 

 

雷に撃たれたぐらいで、通常MSは落ちたりしない。

 

あの雷雲と言い、普通ではない、とパイロット達は把握した。

 

 

 

「ハロ、追撃スル!」

 

 

 

 一個小隊に最低二機、配備された砲戦仕様のMSが、一斉に肩から二門のキャノンを伸ばし、ぶつけた。

 

 連合艦隊に対しではなく、足元の海面に向かって。

 

 

 

 ズガガガァアアアンンッッ!

 

 

 

 海面に放たれたMS用に小型化された陽電子砲は、アスハ軍の背後に回り込もうと部隊を広く展開したジェットウィンダム部隊の、その進路を塞ぐように、海面に漂う電磁波を連鎖で爆発させ、ビームの壁を一瞬作り上げる。

 

 

 

「「「うわああああーーっ!!!」」」

 

 

 

ビームの壁に飲まれたウィンダム隊は、MSを空中で霧散させた。

 

 

 

逃げ切れた部隊もいるが、上空からは落雷、海面から強大なビームの壁が発生したのだ。

 

 

 

動揺は大きい。

 

 

 

 少なくとも三十機近いMSの犠牲は、連合の部隊を戦場ごと寸断した。

 

 

 

「何だと!?」

 

 

 

 どよめく連合軍に、M1部隊は間髪を置かずに突っ込んだ。

 

 砲戦仕様MS達が海面に放って作られた光の壁は、相手の退路を一瞬断ち、敵の意表を突いたのだ。

 

故に、なし崩し的に先鋒の兵士達が相手を討ち取ることは可能だった

 

 

 

 

 

 

 

「すごいっ!」

 

 

 

 先行部隊指揮官として戦況を把握しているマリューは、予想以上の成果に思わず目を見開いた。

 

 

 

「本当に、彼には敵の動きがすべてわかるのでしょうか?」

 

 

 

 アークエンジェルクルーの一人であるノイマン少尉の言葉にマリューは笑みを浮かべながら答えた。

 

 

 

「キョウジさんに何が視えているのかは、わたしにもわからないけれど、これで三度目よ。連合の大艦隊をここまで翻弄できるなんて。MSや機械の開発知識だけじゃない。彼の能力は、科学者という枠にとどまらないわ」

 

 

 

 いつものように勝利できるだろう、彼がいるならば

 

 そんな空気に満ちていたブリッジに突如、緊張が走る。

 

 

 

「艦長!」

 

 

 

 通信兵の緊張に満ちた声に、マリューも一気に警戒レベルを引き上げる。

 

 

 

「どうしたの!?」

 

 

 

「前方より高エネルギー反応! これはっ」

 

 

 

 一瞬後、ピンク色と金色の渦を巻いた巨大な光弾がこちらに向かって放たれてきたのだ。

 

 

 

「回避っ!」

 

「了解!」

 

 

 

 マリュー艦長指揮のもと、アーノルド・ノイマン少尉がアークエンジェルをバレロールさせ、攻撃から回避する。

 

 次の瞬間、爆発が目の前で起こった。

 

 

 

「なっ!? なにが、なにが起こったというのっ!?」

 

 

 

 マリューの言葉に観測兵がいち早く答えた。

 

 

 

「オーブを覆っていた、ライトニングウォールが……! 完全に、かき消されていますっ!」

 

 

 

 その言葉に、マリューが目を大きく見開いた。

 

 

 

「連合にそんなことができる兵器があるなんて……!!」

 

 

 

 呆然とするマリューの前に、立ち上る煙から漆黒のボディと巨大な角、紅い羽根を持つガンダムが現れる。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 連合サイド。

 

 

 

 次々と挑んでは雷に打たれて落ちていくウィンダム部隊に、歯ぎしりしていた。

 

 

 

「くそ、どうにもならんのか!?」

 

 

 

「運良く雷雲を抜けたMSもあるようですが、ジャミングが凄くて通信できずーー」

 

 

 

 司令官の言葉に下士官が答える。そのとき、第三者の通信が割って入った。

 

 

 

「ーー馬鹿者がぁっ!」

 

 

 

 そんな時、横から第三者の通信が入った。気合の入ったその声は、よく響く。

 

 

 

「ーーなっ!?」

 

 

 

 連合艦ブリッジやMS勢の皆がそちらを向くと、四機のガンダムタイプが、己の戦艦のデッキに立っていた。

 

 

 

「あれは、ガーティ・ルー。ファントムペインか!?」

 

 

 

 連合兵の誰かがそれに気づくと、巨大な角を持つガンダムーーマスターガンダムが答えた。

 

 

 

「闇雲に突っ込んだところで、返り討ちに遭うは明々白々。ここは、わしらに任せぃ!!」

 

 

 

「し、しかしーーっ! この雷雲はオーブそのものをぐるりと一周しています! これを破るなど」

 

 

 

「黙ってみておれぃ!!」

 

 

 

 一喝して黙らせると、チラリと緑色の球体が浮かぶ海面を一瞥し、自身の後ろに控える一機に声をかける。

 

 

 

「スティングよ、アレをやるぞ!!」

 

 

 

「はい、師匠!!」

 

 

 

 スティングは自身の機体ーーカオスガンダムを前に出す。

 

 

 

 同時に、ほかの二機とガーティ・ルーは一歩下がった。

 

 

 

 マスターガンダムとカオスガンダムが、同時に構えをとる。

 

 

 

「超級!!」

 

 

 

「覇王!!」

 

 

 

「「電影弾ぁああああああんっ!!」」

 

 

 

 マスターガンダムが渦を巻く気を纏い、その場で回転する。その背後にカオスガンダムが腰だめに構えて待つ。

 

 

 

「撃てぃ、スティング!!」

 

 

 

「はいぃいいいいいいっ!!」

 

 

 

 両手を前に突き出し、マスターガンダムを押し出す。同時、巨大な光弾と化したマスターガンダムが、雷雲に向かって疾った。

 

 

 

「ぬぉおおおおおおっ!!」

 

 

 

 光弾は、海面上にある球体を次々と破壊していくーー。そして

 

 

 

「爆発ぁつっ!!」

 

 

 

 上空に昇るマスターガンダムが自身の纏っていた気を弾き飛ばし、空中で静止しながら、構えた。

 

 

 

ズドォァッ

 

  

 

 瞬間、巨大なドーム状に爆発が発生し、雷雲の一角が消し飛ぶ。

 

 

 

 そこを起点に、ドーナツ状に展開されていた雷雲は、全て弾き飛ばされた。

 

 

 

「さすが、師匠!!」

 

 

 

「すごい、ししょー、スティング、すごい!!」

 

 

 

 ガッツポーズを取るアビスガンダムとガイアガンダム。

 

 

 

 それらを上に載せたガーティ・ルーは、静かにカタパルトデッキを開放した。

 

 

 

「ーーさて、では始めようか! オーブ攻略作戦を!!」

 

 

 

 ネオが仮面の下で笑みを刻み、己のウィンダムを駆って部隊を出撃させた。 

 

 

 

 オーブの青い空の下、激戦が繰り広げられるーー。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

一方で、こちらはメンデル内から脱出に成功したエターナル艦内。

 

 

 

彼らは、メンデルで得たデータの解析を進めていた。

 

 

 

「ーーこれは、レポート?」

 

 

 

「何かの報告書でしょうか?」

 

 

 

ラクスとダコスタがファイルにアクセスしてモニターに出てきた文字を追う。

 

 

 

「論文だな。

 

デスティニープラン?

 

名前だけなら、俺のゴッドガンダムに匹敵するほど、ご大層なプランだな」

 

 

 

皮肉気に口元を歪めて言うドモンに応えず、ラクスは真剣な表情で論文を読んでいく。

 

 

 

「ーーデュランダル議長の狙いは、これですか」

 

 

 

「遺伝子が管理する世界って書いてたな?

 

遺伝子でそいつにあった職業を選んで就かせたり、自分より有能な奴と競っても無駄だからやめろと、判断させる世界か。

 

自分から可能性を消し、代わりに得るのが、争いのない世界か」

 

 

 

ドモンの言葉に、ラクスが頷く。

 

 

 

「ーー争っても無駄だと、遺伝子が告げる。

 

競う事を辞め、考える事を辞め、努力する事を辞めて、ただ遺伝子情報から得たデータの通りに行動する」

 

 

 

「それって、なんかヤバそうですね?」

 

 

 

ダコスタも、この計画の具体的な意味は分からないまでも、頷いて応えた。

 

 

 

「自分の頭の中だけで考えた結果だろ。

 

質の悪い妄想だな」

 

 

 

ニヒルに揶揄するドモンに、ラクスが静かに返す。

 

 

 

「しかし、その妄想を現実にしようとするのが、このプランの発案者。

 

ギルバート・デュランダル議長なのです」

 

 

 

「遺伝子によって、優秀な人間を生み出すコーディネイターの究極だな。

 

生み出された人間の気持ちなど理解せずに、自分の歪んだ頭の中だけで、結論付ける。

 

それは、自分の子どもを自分の歪んだ欲望の道具にする行為と何ら変わらない」

 

 

 

ドモンの遠慮ない言葉に、ラクスは思わず苦笑した。

 

 

 

「自分の可能性を自ら殺してどうする?

 

分かり合う努力を放棄して、どうする?

 

全ての責任を遺伝子に任せてどうする?

 

分かりあおうと努力することから逃げ、困難や責任から逃げ、傷付くことを恐れていては、何も変わりはしない」.

 

 

 

「ーードモンさん」

 

 

 

「困難なことに立ち向かい、時に誰かに支えられて、誰かを支えて、そうして勝ち取るんだ。

 

自分の未来はなーー!!」

 

 

 

静かに燃えるその瞳を見据え、ラクスも凛とした気配を纏うと同時に、微笑んだ。

 

 

 

「今一度、改めてお頼みします。

 

ドモンさん、わたくし達に、そのお力をどうかお貸しいただけませんか?

 

人々に希望の未来を考えさせるためにも」

 

 

 

どこまでも真摯なラクスの言葉に、ドモンも頷くと返した。

 

 

 

「もとより、そのつもりだ。

 

兄さんやシュバルツを迎えに来たのもそうだが。

 

こんなことを見過ごすわけには、いかん。

 

俺の方こそ、頼む。

 

俺とゴッドガンダムの力、お前達の為に使わせてくれーーー!!」

 

 

 

「ーーありがとう、ドモンさん」

 

 

 

こうして、ドモン・カッシュは、ラクス・クラインのエターナルに乗艦することになった。

 

 

 

宇宙にある、悪魔の勢力を探るために。

 

 

 

遺伝子による人々の支配を、避けるために。

 

 

 

希望の未来を勝ち取る為にーー。

 

 

 




みなさん、お待ちかね〜!!

オーブの雷壁を破ったマスターアジア。

スティングとアウルの二体のガンダムに、オーブアスハ軍は、大苦戦!!

そんな中、自由の翼が、彼らの危機に現れたのです!!

次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第35話に!

レディ、ゴー!!


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第35話 誇り高きフリーダム キラ・ヤマト

 みなさん、マスターアジアとその弟子二人の猛攻が始まりました。

 はたして、キラやキョウジ達は彼らの猛攻を退けることができるのか?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイイイイ、ゴォオオオオオオ!!


 

オーブを守る雷壁は全て吹き飛ばされ、取り囲んだ連合兵が一気に僅か40機程度のアスハ軍を狙って襲い来る。

 

 

 

 

 

絶対防護壁が破られた。

 

 

 

 その事実に、誰もが呆然とする中、キョウジがすぐに指示を出した。

 

 

 

「トダカさん、ムラサメ部隊の出撃をお願いします」

 

 

 

 キョウジの言葉に、ムラサメ部隊を預かる隊長機、トダカが頷いた。

 

 

 

「了解! 「アスハの青き翼」の力を見せてやりましょう!!」

 

 

 

「無理はしないでください、こちらは数の上で圧倒的に不利です。ハロのサポートがあるからと言っても、落とされては何にもなりません」

 

 

 

「わかっています、トダカ隊! 出るぞ!!」

 

 

 

 トダカ率いるムラサメ隊10機は、ハロを複座にしており、MSの動きをサポートさせているため、反応速度が上がっている。

 

 

 

 このムラサメ隊よりもさらに改造を施した機体がバルトフェルドのそれだ。

 

 

 

 機動力だけならば、フリーダムにすら匹敵するスピードで一気に加速できる。このバルトフェルド機と同じ改造を施された機体がもう2機ある。

 

 

 

 これらは、バルトフェルド機から送られる信号によって動くハロ達の随伴機だ。

 

 

 

「それじゃ、俺は敵の本命を叩く。キラ、敵のエース機をアークエンジェルの部隊と叩いてくれ」 

 

 

 

「わかりました。バルトフェルドさん、無茶はしないでください」

 

 

 

「わかってるよ、だが。多少は無理しないと、な!!」

 

 

 

 言うやいなや、バルトフェルドはオーブの北側へと二機のムラサメを連れて一気に向かった。

 

 

 

「キラ、バルトフェルドさんの言うとおりに、敵隊長機を頼めるか? 俺もバリアの調整を終えたらすぐに加勢に向かう」

 

 

 

「大丈夫です。僕達なら、やれます!!」

 

 

 

 キョウジの言葉にキラが頷き、アークエンジェルに向かってフリーダムを飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

至る所で戦闘が始まる中、アークエンジェルに向けて敵陣から疾駆する機体があった。

 

 

 

「正面上空! 謎のMSから通信、来ますっ!」

 

 

 

「うゎーはっはっはっはっは!

 

この程度のことでうろたえるとは、笑止千万!

 

貴様らの雷の壁など! この流派東方不敗には、まったくの無意味!!」

 

 

 

通信越しでもわかる、とてつもなく強い意志。

 

 

 

何より、マリューには通信を入れてきた相手に心当たりがあった。

 

 

 

「あの機体は……っ」

 

 

 

「艦長! どうされましたか」

 

 

 

「いけないっ! あれは、あのガンダムは! デビルガンダム四天王のひとり、マスターガンダム!」

 

 

 

マリューの顔色がなくなっているのに気づいたブリッジクルー達。

 

マリューは改めてモニターを確認し、ハッキリと目の前にいる敵の存在を把握した。

 

全人類の抹殺を企んだ恐るべき人間。

 

東方不敗、マスターアジアだ。

 

 

 

「ほう。わしを知っておるのか。

 

 やはりこの雷の壁と言い、オーブ軍に張られておるバトルロイヤルリングのバリヤーと言いーー」

 

 

 

 腕を組むマスターガンダムは、背部のウイングバインダーをマントのようにし胸の前で閉じ、空中で静止する。

 

 

 

「わしらの世界の人間が、オーブにおるようだな。そやつが何者かは知らんが、この世界には過ぎたる力。こちらで回収させてもらおう」

 

 

 

 この言葉に、敵の狙いがキョウジであると悟ったクルー達がマリュー艦長を仰ぎ見る。

 

 

 

「どうする!? 今、キョウジさんを連れて行かれてはっ!!」

 

「どうするもこうするもないだろう! マリュー艦長!」

 

 

 

 クルー達の言葉に一つ頷き、マリューはキッと目の前の敵を見据える。

 

 

 

「本作戦はまだ、終わったわけではありません!

 

 たとえ雷の壁をやぶられたとしても、私たちはまだ戦いをあきらめるには早すぎます!!」

 

 

 

 その言葉に答えるように、トダカ率いるムラサメ部隊がさっそうと登場した。

 

 MA形態での音速を超えた機動でマスターガンダムに迫る。

 

 

 

「ラミアス艦長! ここは私たちムラサメ隊にお任せください!

 

 各機、敵隊長機を狙え!

 

 悪いが俺たちの参謀を、くれてやるわけにはいかないんでね!

 

 お引き取り願おうか、連合の新型!!」

 

 

 

「トダカ一佐、無茶です!

 

 その機体は、連合のものでも、ザフトのものでもありません!!

 

 それに、接近戦を挑んではーー!!」

 

 

 

 マリューの言葉を聞かず、ビームサーベルを抜き放ち、マスターガンダムに斬りかかるムラサメ。

 

 三機のムラサメが同時に切りかかるのだが、マスターガンダムはその場を微動だにしない。

 

 次の瞬間、

 

 

 

バチィツギギィンッ

 

 

 

 切りかかった三機とすれ違いざまに交差する機体があったーー正体は緑色のガンダム。

 

 

 

「セカンドステージのっ! カオスか!?」

 

 

 

 あの一瞬で切り裂かれたムラサメは海上に落ちていく。

 

 

 

「師匠はやらせねえよ」

 

 

 

「くっ」

 

 

 

 咄嗟に機体を引かせ、間一髪その刃から逃れたトダカは、その斬撃の鋭さに唸るも、すぐさまサーベルを抜き切りかかる。

 

 

 

バチィッ

 

 

 

 切り払われるトダカのムラサメ。

 

 

 

「この音速を越えた動きに、軽々とついてくるだとっ!?」

 

 

 

 改良されたムラサメの動きは、連合製のMSをことごとく、退けていた。

 

 音速を超えるスピードしかり、コンビネーションしかり、それらを正確に行えるのは、パイロットの技量とハロのサポートのおかげだ。

 

 しかし、カオスは底上げされたアスハのムラサメ隊のコンビネーション攻撃を1機で破って見せた。

 

 

 

「たしかに動きは大したもんだがね……」

 

 

 

 そう告げるカオスガンダムのパイロットーースティング・オークレー。

 

その横には、同じくザフト製ガンダムのアビスに乗ったアウル・ニーダがいる。

 

 

 

「悪いけど、ぼくたちには見え見えなんだよねえ!」

 

 

 

 一瞬後、その場から消えるほどの超スピードで動き、上空からグレイブを振り下ろしてくるアビス。

 

 間一髪、ハロが緊急時のソニックブームを発動させながら脇へ逃げるトダカのムラサメ。

 

 

 

「とはいえ、速ぇなーー」

 

 

 

 その音速のスピードには、さすがのスティングも舌を巻く。

 

 

 

「けどさ、明鏡止水を発動すれば、なんてないだろ?」

 

 

 

「まあなーー」

 

 

 

 アウルの言葉に返すと、二人は同時に目を閉じて、一息つく。

 

 次の瞬間、二つの機体は全身に白い光を纏うと、ガンダムが両の目を輝かせ、一気に切りかかってきた。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 そのスピードは、先ほどまでの比ではない。

 

 

 

ズバババァッ

 

 

 

 青とピンクの斬線が無数に空を走り、瞬く間に周囲のムラサメが切り裂かれていく。

 

 

 

 そして、それに目を奪われている隙に、トダカは前後で挟まれ、両者のビーム砲が同時に放たれた。

 

 

 

パシュシュッ

 

 

 

 全く同時に放たれたビームに、思わず目を見開き、硬直する。

 

 

 

「し、しまっ!」

 

 

 

 為す術なく落とされるしかないのか。

 

 

 

トダカの脳裏に諦観の念が浮かんだ刹那ーー。 

 

 

 

「トダカ一佐っ!」

 

 

 

第3者の声が割って入ると同時に、自分のムラサメが模している機体が、モニターに現れた。

 

 

 

「キラ准将っ!」

 

 

 

その機体、フリーダムガンダムは、音速でこちらに飛んでくると、腰の二門のレールガンを上空から放ち、トダカに前後から迫っていたビーム砲を消し飛ばす。

 

 

 

「ぼくたちのコンビネーションに、割り込んできたっ!?」

 

「現れたか。オーブの守護神、フリーダム!」

 

 

 

アウルとスティングは、臆することなく、己の武器を構えて、フリーダムガンダムを睨み据えた。

 

 

 

「キラ准将!!」

 

「トダカ一佐、この三機はぼくが相手をします。あなたはライトニングウォールをもう一度発生させるためにも、周囲の連合艦隊を退けてください。

 

 現場部隊の指揮を!!」

 

 

 

 フリーダムはムラサメと連合のMS2機の間に割り込んで、対峙する。

 

 

 

「無茶よ、キラくん!!

 

相手は、あのマスターガンダムを含めた3機なのよ!?」

 

 

 

 その時、間髪入れずマリュー艦長から通信が入った。

 

 

 

「やってみます。いや、やらなきゃいけないんです!

 

トダカ一佐、ここは任せてください!!」

 

「わかりました。ご武運を、キラ准将!!」

 

 

 

 MA形態に変形し、一気にその場を去るトダカのムラサメ。

 

落とされたムラサメ隊は、海中のオーブ艦が回収している。

 

 

 

睨みあう、3機のガンダム。

 

 

 

「気を付けろよ、アウル。こいつはちょっとやばいぜ」

 

「わかってるって。対峙するだけでビリビリ感じてるよ。強いぜ、こいつ」

 

 

 

 二人はお互いにそう言いあうと、各々の刃を構えながら、対峙するフリーダムを見据える。

 

 

 

 キラもまた、敵の構えを見ると、そこに隙のないことに顔を歪めた。

 

 

 

「迂闊に攻めてこない?

 

 なんてやりづらい2機なんだ。だけど!」

 

 

 

 フリーダムは両足を閉じ、翼を大きく広げると、同時にその両目を輝かせる。

 

 

 

「きみたちに手こずるわけにはいかない!

 

 ぼくがやられたら、すべてが終わりだから! いくぞっ、フリーダム!」

 

 

 

 キラがSEEDを発動させたのだ。

 

 フリーダムが全身を輝かせ始め、バーニアの火がそれまでの倍以上に燃える。

 

 

 

 

 

 この光景にスティングとアウルの2人が揃って目を見開いた。

 

 

 

「こ、これはっーーあのときのインパルスのパイロットと同じ力か!?」

 

「確かに、そうだけど。それだけじゃない!」

 

 

 

 スティングの言葉に、実際に戦ったアウルが頬に冷や汗をかきながら、付け加えた。

 

 

 

「機体が、機体がパイロットに力を貸してるっ! この人機一体の境地は明鏡、止水だ……!」

 

「自分の反応速度の底上げと、明鏡止水の機体の負担の軽減ができるってことか」

 

 

 

 明鏡止水のレベルが、あの時のインパルスのパイロット程度ならば、まだ何とかなるのだが。

 

 フリーダムの性能そのものが、セカンドステージと呼ばれる機体とは違う。

 

 加えて、音速を越えながらも正確な射撃でビームをビームで落とした腕は、もはや超人の域だろう。

 

 冷静に自分たちの実力と機体性能を見比べて、スティングとアウルはフリーダムを睨み付けていた。

 

 

 

 

 

「むぅっ!?

 

 この気迫、やはりスティングたちでは荷が重いかーー」

 

 

 

 その様子を見ていたマスターガンダムも、フリーダムガンダムの気迫と動きに、目を見張った。

 

 スティング達の見立て通りならば、ステラを加えた3機でようやく足止めができるということであったが。

 

 

 

「今のスティング達でどの程度できるか。

 

 我が弟子たちよ、貴様らの戦い。見せてもらうぞ」

 

 

 

 その師の期待に応えるように、スティングが叫んだ。

 

 

 

「怯むな! 俺たちだって明鏡止水の使い手だ!

 

 相手がオーブのフリーダムだからといって!!」

 

 

 

 対峙するフリーダムのコクピットの中で、キラも瞳を閉じながらつぶやく。

 

 

 

「感じるよ、フリーダム。

 

 君をとおして敵の動きが、ぼくには見える!」

 

 

 

 キッと目の前の二機を睨み付けると同時に、勝負が始まった。

 

 

 

「アウル!」

 

「スティング!」

 

 

 

 2機は互いに名を呼びあうと、一気にその場から高速で移動を始めた。

 

 

 

「「てやぁああああ!」」

 

 

 

 それぞれ左右から旋回し、同時に手に持った刃で攻撃をしかけるアウルとスティング。

 

 だがーー

 

 

 

「右と左。一見同時に攻撃をしかけているようだけど、まだ甘い。

 

 君の方が、仕掛けるのが一瞬早かった。それが隙だ!」

 

 

 

 くるっと回転し、右方のアウルに対してバーニアを一気に噴射させ、ビームサーベルを抜刀する。

 

 

 

ズバァッ

 

 

 

 桃色の斬戦が空を走り、フリーダムはすれ違い様にアビスガンダムの四肢を切り捨てた。

 

 

 

「ぐっ、くそぉおおおお!! まだだぁ!!」

 

 

 

 両腕と両足を奪われてなお、アウルは胸のビーム砲を放とうとする。

 

 バーニアを兼ねた両腕が切られた以上、慣性の法則であとは海面に落ちるしかない。

 

 だが、機体はまだ宙にある。

 

 

 

「お前も、おちろ!! フリーダム!!」

 

 

 

 胸部に光が収縮していくーー。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

 しかし、次の瞬間には、胸のビームの射出口に、フリーダムの鋭い回し蹴りが叩き込まれていた。

 

 

 

「うわあぁあああ!」

 

 

 

 胸部から火花を散らしながら、海面上に落とされていくアビスガンダム。

 

 

 

「アウルっ!」

 

 

 

 ほんの数秒で自分の相方を破って見せた敵に、スティングは戦慄しながらも、落ちていくアビスをかばうためにフリーダムの目の前にてビームサーベルを構え、切り結ぶ。

 

 

 

「こいつ、俺たちのコンビネーションに、そのわずかな隙に、つけこみやがった!

 

 なんて奴だーー!!」

 

 

 

 自分とビームサーベルでのつばぜり合いを行うカオスの行動に、仲間をかばう意思を感じたキラはわずかに目尻を下げると、強い口調で言い放った。

 

 

 

「カオスのパイロット……、きみも仲間が大事なんだね。だけど! 僕も負けられないんだ!!」

 

 

 

ギィンッ

 

ズババァツ

 

 

 

 つばぜり合いから、一気に押し返され、ふり返りざまにサーベルを持っていた右腕を斬られるカオス。

 

 

 

「動きが、違い過ぎるっ!」

 

 

 

 何とか距離を置き、追撃は避けられたが、それでも。

 

 この実力差は、絶望的だ。

 

 

 

 

 

 一方で、この戦闘をモニター越しに見ていたアークエンジェルクルーも目を見開いていた。

 

 

 

「キラくんっ……!

 

 こ、こんな動きができるなんて……! いったい何があったの?」

 

 

 

 その言葉にこたえるように、キラはコクピット内で自分の機体に語りかける。

 

 

 

「フリーダム、今ならわかるよ。

 

 ぼくはきみに、自分の感覚を押しつけているだけだったんだな。

 

 今なら、分かる。

 

 きみの能力は、こんなもんじゃないって!

 

 一緒にいこう、フリーダム。

 

 オーブを護るために!!」

 

 

 

 静かに穏やかに語りかけていたキラは、最後に思いのたけを叫んだ。

 

 その叫びに、願いに、思いに応える様にフリーダムの全身が白い光で輝くーー。

 

 

 

 

 

「くっ! なんて気迫だ!!」

 

 

 

 対峙するスティングには、その力に冷や汗しか出てこない。その時だった。

 

 

 

「スティングよ」

 

 

 

 自らの師に呼びかけられ、そちらを向くと。

 

 無残に切り裂かれた自分の相棒の機体ーーアビスを抱えたマスターガンダムがそこに居た。

 

 

 

「し、師匠!」

 

「アウルを任せる。貴様らはいったん母艦へ戻るがいい」

 

 

 

明らかな選手交代を宣言され、スティングは思わず食い下がった。

 

 

 

「俺は、まだやれます!!」

 

「馬鹿者!

 

 男の人生はつねに戦いの連続。

 

 勝つこともあれば負けることもある」

 

 

 

しかし、師の言葉は、叱咤を交えた現状の宣言だった。

 

マスターガンダムは、青い翼を広げ、こちらに構えを取る機体を静かに見据えると、スティングに告げた。

 

 

 

「現時点において、貴様では、あやつには勝てん」

 

「ですが師匠!」

 

「きさまらの仇はわしがとってやろう。今は下がるがいい」

 

 

 

目尻を和らげ、穏やかに言い放つ師に、スティングもそれ以上は言えず、静かにアビスを受け取り、了承した。

 

 

 

「はい……。お願いします」

 

 

 

スティングの脇を両腕を組み、ウイングバインダーをマント状にしたまま、マスターガンダムは通り過ぎる。

 

 

 

「師匠、気を付けてくださいっ!」

 

「そいつ、普通のMSじゃない!」

 

 

 

二人の弟子からの言葉に、口を歪めると、マスターガンダムは、マントを展開し、赤い翼へと変えると、構えを取り、吠えた。

 

 

 

「この馬鹿弟子どもめ。だれに向かって言うておる!

 

 わしは、東方不敗マスターアジアよ!!」

 

 

 

戦闘体制を取ったマスターガンダムに、キラも目を鋭くしながら、フリーダムガンダムを操作する。

 

 

 

「来るのか、マスターガンダム!」

 

 

 

グリップを握る手に汗を滲ませ、それでも背後にあるオーブを感じて奮い立たせるキラ。

 

対峙するマスターガンダムは、キラの気迫をうけながらも余裕を持って語りかけた。

 

 

 

「小僧、名乗ってみよ」

 

 

 

マスターアジアの問いに、キラも強い瞳を持って返す。

 

 

 

「キラ・ヤマト。フリーダムガンダム」

 

「ヤマトにフリーダム、かーー。ふん、良い名だ」

 

 

 

キラの強い眼差しをむしろ、心地よく受け止めながら、マスターアジアもまた、自身の名乗りを上げた。

 

まるで、戦国時代にあった日本の武士の決闘のように。

 

 

 

「わしの名は、東方不敗マスター・アジア! そして我が愛機の名は、マスターガンダム!!

 

オーブの強きガンダムファイターよ、ワシが相手をしてやろう!!」

 

 

 

この宣言にキラもコクピット内で敵の情報を反芻する。

 

 

 

「第十二回ガンダムファイト優勝者!

 

 ドモンさんの武術の師、東方不敗マスター・アジア! 

 

人類抹殺のために、キョウジさんを犠牲にした貴方を、僕は許さない!!」

 

 

 

怒りに満ちたキラの気迫は、マスターアジアをして唸らせる。

 

 

 

「ぬうっ! この気迫……いままでの敵とは一味もふた味も違う。

 

ふん、久しぶりに骨のある相手のようだな。

 

それに、ドモンとキョウジの名を出したか。色々聞かねばならんが、まずは貴様の拳に聞くとしよう!!」

 

 

 

マスターアジアの言葉に応えるように、フリーダムが動いた。

 

 

 

「行くぞっ、フリーダム! キョウジさんの仇!!」

 

 

 

ビームサーベルを抜き放ち、横薙ぎに斬りかかるフリーダムガンダム。

 

対するマスターガンダムもクロスを抜き放ち、なぎなた状にして回転させながら、斬り返した。

 

 

 

ギュウウウンッ

 

ズバババァッ

 

 

 

桃色の斬閃が、宙を走り、すれ違う刹那に五合も切り結ぶ。

 

 

 

「ふん、ぬぁあ!!」

 

「くっーー!!」

 

 

 

すれ違い、振り返りざまに、更に二、三合打ちあう両ガンダム。

 

 

 

「ほう。わしの動きについてくるか!

 

スティング達が敵わぬのも無理はないな」

 

 

 

マスターアジアは、自分の動きについてくるフリーダムに賞賛の意を込め、笑いかける。

 

 

 

「くっ、なんてスピードだ! だけど! 返せないわけじゃない!」

 

「その動き!?

 

こやつ、MFと戦ったことがあるようだな」

 

 

 

キラとの立会いに、久しぶりに血がたぎるマスターアジアだが、同時に敵の動きにMFに対する対応を感じた。

 

 

 

切り払われ、距離が開いた瞬間、フリーダムのビームライフルが吠える。

 

 

 

「これなら、どうだ!!」

 

 

 

ズドドドォッ

 

 

 

中間距離でのビームライフル3発は、狙いが正確であり、並のパイロットなら、それだけで落とされる。

 

しかし、マスターアジアは、普通ではない。

 

 

 

「ふんっ、ぬるいわ!」

 

 

 

パシュシュンッ

 

 

 

そう宣言すると、マスターは素手でビームを払いのける。

 

 

 

ビュンッ

 

 

 

ビームを弾き終えると、そのままフリーダムに向けてダッシュするマスターガンダム。

 

 

 

一気に懐に飛び込んでくる敵に対し、バーニアを弱めて頭と足の位置を真逆にし、アクロバティックな動きをしながら肩からビーム砲を放つフリーダム。

 

 

 

ズドォウッ

 

バチィッ

 

 

 

マスターガンダムは、咄嗟にマスタークロスを横に構え、二門の小型陽電子砲を受ける。

 

 

 

「ぬぉおおあああ!」

 

 

 

ズバァッ

 

 

 

そのまま、横薙に切り払う。

 

 

 

「正確な射撃よっ! それゆえに狙いもわかりやすい!」

 

「だったら、それを利用して、捉えるだけだ!!」

 

「ならば、やってみるがいい、キラ・ヤマトよ!!」

 

 

 

互いに熱く吠えあいながら、超高速で機体を動かすマスターとキラ。

 

オーブのただ広い海と空の真っ只中で、戦場が狭いとばかりに二機のガンダムは、飛び回る。

 

 

 

この両機の常識外れの動きに、戦場が一度戦いを止めた。

 

あまりの動きに皆が、目を奪われていたのだ。

 

 

 

「キラくんの射撃を完全に受け切るなんてっ」

 

「二機の動きが、音速を超えていますっ!」

 

 

 

キラを良く知るアークエンジェルクルー達も。

 

 

 

「あたらない? 師匠の攻撃が、当たらないっ!?」

 

「なんだ、あいつ……なんなんだよ!?」

 

 

 

マスターアジアに鍛えられていた、スティングやアウルさえも。

 

 

 

「こんな、キラくんーーーー!!」

 

「こんな、師匠ーーーー!!」

 

「「「はじめて見たーー!!」」」

 

 

 

誰もが、皆、釘付けになる。

 

熱く、激しく、ぶつかり合う両軍のエース機同士の対決。

 

 

 

「てぁああああ!」

 

「ふんっ! ほぉれっ!」

 

 

 

叫びながら、斬りつけるフリーダムに、余裕を持って返すマスターガンダム。

 

両者の動きは、より速く、より鋭くなっていく。

 

 

 

ズバァッ

 

 

 

「くううっ!」

 

 

 

うめきながら、マスターガンダムの袈裟懸けの一撃を避ける。

 

 

 

「一撃でもクリーンヒットをもらっちゃだめだ!

 

 フェイズシフト装甲があっても、あの強烈な一撃はそれすらも上回る!

 

 ある程度距離を保て!

 

中遠距離なら、僕のほうに分がある!!」

 

 

 

ビームライフルを主軸に、攻撃を組み立てるキラ。

 

 

 

「ぬんっ!」

 

 

 

バシィッ

 

 

 

対するマスターガンダムは、片手でビームを弾く。

 

 

 

「接近戦は完全に仕掛けてこずに、切り払うことにのみ意識を集中させておるのか。

 

だが、このマスターガンダムに死角などないということを教えてやるわ!」

 

 

 

右手を大きく振りかぶると、紫の光の弾を作り出す。

 

「ダァァアアークネス!! ショット!!」

 

 

 

放たれた紫の光弾は、回転しながら対象に放たれる。

 

 

 

避けるキラだが、その弾のスピードと、破壊力を目の当たりにした。

 

 

 

弾は、オーブのバリアに当たり、ドーム状に爆発したのだ。

 

 

 

「あんなの食らうわけにはいかないっ!

 

でも、エネルギーの溜めがある分、やっぱり近接攻撃よりは、避けやすい!!」

 

 

 

次々に放たれる強烈な光弾を高速移動で避けながら、ビームライフルを返す。

 

このフリーダムの動きに、マスターが頷いた。

 

 

 

「なるほどのぅ。

 

わしの技を撃つ予備動作を見て、攻撃を回避することに専念しておるのか。

 

確かに接近戦でワシに勝つなど不可能であろうが、それだけでワシを倒せるかな?」

 

 

 

マスターは、一度瞳を閉じて構える。

 

 

 

「ならば!!

 

流派東方不敗! 十二王方牌大車併!!」

 

 

 

気合いと共に放たれた、気で創られたマスターガンダムの分身達が、一気にキラに襲い掛かる。

 

 

 

「なっ!? これは!」

 

 

 

渦を巻いて紫の竜巻と化しながら迫る攻撃に、キラも目を光らせ、フリーダムの全砲門を放った。

 

 

 

「ーーあ、た、れ、ぇええーーっ!!」

 

 

 

フルバーストと呼ばれるフリーダムのマルチロックシステムとキラの腕があってできる同時攻撃だ。

 

 

 

ズドォアッ

 

 

 

キラのフルバーストが、マスターの技と激突し、相殺した。

 

 

 

「ーーくっ!」

 

 

 

爆煙を上げた爆発点から、目を背け、キラはビームサーベルを抜刀して左の空間に斬りつけた。

 

 

 

バチィッ

 

 

 

ビームが衝突する音が鳴り響き、そこにマスターガンダムがクロスを刃に変えて斬りかかっていた。

 

 

 

「やりおるわ!

 

しかし、先の技が貴様の最高の技ならば、ワシを倒すことは、不可能としれ!!」

 

 

 

「ーーくっ、離れなきゃ!!」

 

 

 

「遅い、ダークネスフィンガァアッ!!」

 

 

 

放たれるマスターの必殺技に、フリーダムは、肩口のビームキャノンを咄嗟に放つ。

 

 

 

ズガァッ

 

 

 

二門のビームは、紫の光の掌に押し負け、破壊される。

 

 

 

「キラくんーーっ!!」

 

「被弾したのは、フリーダムか!!」

 

 

 

周囲の声に応えるように、キラは叫ぶ。

 

 

 

「ーーだけど、距離は開いた!!」

 

 

 

次に腰のレールガン二門を使って放つ。

 

ダークネスフィンガーを振り切ったマスターでは、二門のキャノンを防げない。

 

肉を切らせて骨を断つ、キラの捨て身の戦法だった。

 

 

 

「その意気や良し!!

 

ならば、ワシの本気の力で叩き潰してくれよう!!」

 

 

 

この意を汲むと、マスターはニヤリと笑い、両拳を腰において、明鏡止水の境地を発動した。

 

マスターガンダムが黄金の光を纏い、両の目が真っ赤に輝く。

 

 

 

「師匠が、ハイパーモードに!?」

 

「フリーダムは、そこまでの力を持つっていうのか!?」

 

 

 

弟子であり、明鏡止水を学んでいる彼らからすれば、師に本気を出させた「この世界のMS」に、複雑な心境を抱いた。

 

 

 

「ゆくぞ、キラ・ヤマトよ!!」

 

 

 

宣言すると同時に、目の前にマスターガンダムが現れる。

 

 

 

バギバギバキィッ

 

 

 

一瞬だった。

 

一瞬で、フリーダムは両腕を粉砕されたのだ。

 

 

 

「ぐうぅっ

 

でも、ぼくはまだやれる!」

 

 

 

背部のウイングバインダーを使い、姿勢を制御する。

 

使える武装は、頭部のMMI-GAU2 ピクウス76mm近接防御機関砲と腰のMMI-M15 クスィフィアスレール砲二門だけだ。

 

それでも、キラはまだ戦えると瞳を燃やす。

 

 

 

「フンっ、無駄なことはやめることだ。咄嗟に急所を避けたのは、褒めてやる。

 

しかし、その機体ではワシに敵うことはない」

 

 

 

マスターの宣言を受けても、キラはひるむことなく、言い返した。

 

 

 

「それは、わかってる! でも! だからって、退くわけにはいかないんだっ!

 

 僕の後ろには、オーブがある!!」

 

 

 

 気丈にマスターアジアを睨み返す。その目を真正面から受け、マスターも吠える。

 

 

 

「その気迫、見事。ならば来い! キラ・ヤマトよ!」

 

 

 

キラは腰につけてあるビームサーベルの2振りを左右の脚の付け根に装着する。

 

つま先からビームサーベルが形成された。

 

 

 

「てやああああ!」

 

 

 

気合とともにキラは一気にマスターガンダムに迫る。

 

 

 

「ふんっ!」

 

 

 

バチィッ

 

 

 

右足を顔面に蹴りこんでくるキラのつま先へ、マスターは右の回し蹴りを叩きつける。

 

 

 

「どうした? 気迫だけでは、ワシは倒せんぞ!!」

 

 

 

足のサーベルを押さえられたキラは、即座に腰の陽電子砲を、マスターガンダムの胸部へと突き付ける。

 

 

 

「ふん、此の期に及んで大した男よ」

 

 

 

バシュンッ

 

 

 

レール砲が放たれると同時に、超スピードでその場から消えるマスターガンダム。

 

 

 

「後ろっ!」

 

 

 

キラは叫ぶと同時に後ろ回し蹴りを後方に放つ。

 

先ほどは、両腕を犠牲にして受けるしかなかったマスターガンダムの動きを、キラは見事に捉えた。

 

左手で、ビームサーベルを受け止める黄金のマスターガンダム。

 

 

 

「ぬうっ! こやつ、反応速度が上がっておる?

 

 このわしを捉えるほどにか!」

 

「ぼくはまだっ! 負けるわけにはいかない!」

 

「その気迫はたいしたものよ。だが! ダークネス、フィンガァアアアア!」

 

 

 

 サーベルを受け止めていた左手に紫の光が宿り、一気にビームサーベルを押し返す。

 

 

 

ドガァッ

 

 

 

 フリーダムガンダムの左足が吹き飛ぶ。

 

 

 

「もらったぞ!!」

 

 

 

 そのままマスターアジアは、フリーダムの顔面に左のダークネスフィンガーを当てた。

 

 

 

「うわああああっ」

 

 

 

 コクピット内のキラにも衝撃が走る。

 

 何よりも明鏡止水のデメリットにより、ダメージがキラにもフィードバックしている。

 

 

 

「はぁああああ、はあっ!」

 

 

 

 マスターの気合と共に右手の光が爆発し、軽々と顔面を吹き飛ばされるフリーダム。

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 キラは健気にも、フリーダムガンダムの顔面を吹き飛ばされると同時に腰のレール砲を動かし、マスターガンダムを撃つ。

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

 だが、そのレール砲の直撃を食らっても、ハイパーモードを発動させたマスターガンダムには、わずかに後方へ下がる程度のダメージしか与えられなかった。

 

 

 

「くうっ」

 

 

 

 表情を歪めるキラ。

 

 そのフリーダムのボディに突き刺さるマスターガンダムの右手ーーダークネスフィンガーが決まった。

 

 

 

「ぐぁあああっ」

 

 

 

 完全に勝敗の決まった態勢に、マスターアジアが表情を静かなものに変えると告げた。

 

 

 

「惜しい、もう少し時を経ての勝負であれば、より良き勝負となったであろうにな。

 

 だが、今回は勝負あった。

 

 さあ、負けを認めぃ。貴様はよく戦った。このマスターアジアを相手にーー」

 

「まだだっ……!!」

 

「ぬ?」

 

 

 

 マスターの言葉を遮り、キラは睨みつける。

 

 

 

「まだだっ……!」

 

 

 

 突き刺さった腕を支えに、胴体だけとなったフリーダムガンダムは、レール砲をもう一度マスターガンダムに向ける。

 

 そのキラの闘志に、マスターアジアをして目を見開き、吠えた。

 

 

 

「その覚悟や、見事!!

 

 ならば、引導を渡してくれるわぁあああ!!」

 

 

 

「……っ!!」

 

 

 

 

 

「爆発ぁああああつっ!!」

 

 

 

 

 

 その様を見ていたアークエンジェルのマリューが泣き叫ぶ。

 

 

 

「やめてぇええ!! キラ君!!

 

 だれか、フリーダムを! 私たちの希望を守ってぇええええ!!!」

 

 

 

 マスターガンダムの右手から紫の光が膨張し、一気に爆発しようとした刹那ーーーー

 

 

 

「そこまでだぁああああっ!!」

 

 

 

 第三者の声が響くと同時に、緑に光り輝く光弾が、マスターガンダムを襲う。

 

 

 

バシィッ

 

 

 

 咄嗟に右手をフリーダムから引き抜き、光弾をはじくマスターガンダム。

 

 同時にフリーダムがフェイズシフトダウンし、胴体だけとなった機体は海面へと落ちていくーー。

 

 

 

「うわぁああああああっ!」

 

 

 

 そのとき、フリーダムの脱出装置が自動的に発動し、キラを上空へと吹き上げた。

 

 その先には、アークエンジェルがある。

 

 

 

「これはっ! フリーダム!!」

 

 

 

 キラには、自分の愛機が意志をもって自分を逃がそうとしてくれたように感じた。

 

 

 

「僕に……僕に、生きろっていうのか? フリーダムッ!!」

 

 

 

 胴体だけとなったフリーダムはキラの言葉に何かを返すことはなく、海面に水しぶきを上げながら、落ちていった。

 

 

 

「フリーダムガンダァアアアアアムッ!!」

 

 

 

 キラは涙を流しながら、巨大な質量が落ちたことによって出来上がった水柱を見据える。

 

 

 

どぼーんっ

 

 

 

 同時に、アークエンジェルの艦長マリューは、こちらに緊急脱出装置で飛び出てきたキラを見据えると、目に涙を浮かべたまま、鋭く指示した。

 

 

 

「キラくんを回収して!」

 

「りょ、了解!」

 

 

 

 ブリッジクルーの一人が答え、キラを回収に向かわせる。

 

 

 

「フリーダムが、フリーダムが、ああも一方的に……!」

 

 

 

 しかし、オーブの「自由」の象徴であった機体の完敗に、彼らはショックを受けていた。

 

 

 

 

 

 反対に、難敵であったフリーダムを落とせた連合側の士気はうなぎのぼりだった。

 

 

 

「さすが師匠だ! あんな化け物を相手に、完全に圧倒した!」

 

「だが、師匠を止めたあいつはーー? あの忍者が変身した機体に似てるぞ!!」

 

 

 

 マスターガンダムは、現れたトリコロールの機体を睨み据えた。

 

 

 

「ゴッドガンダムーー?

 

 いや、その両の手と足は、シャイニングガンダムかーー。ならば、ファイターは?」

 

 

 

 シャイニングガンダムは、静かにマスターガンダムを睨み据えると、拳を握って構える。

 

 

 

「東方不敗マスターアジア。

 

 もうこれ以上、俺の目の前で仲間を傷つけさせはしない!!」

 

 

 

「その声、貴様はーーキョウジ・カッシュなのか!!」

 

 

 

 目の前に現れた新たなるガンダムの出現に、マスターアジアをして目を見開いた。

 

 

 

 オーブの激戦は、まだ続くーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね~!

 フリーダムの危機に駆け付けたキョウジ。

 彼の中に眠る力が、マスターアジアとの戦いで再び目を覚まします。

 はたして、この激戦の勝者はどちらなのかーー?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第36話に!

 レディー、ゴー!!



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第36話 最高の兄と最強の弟

みなさん、キラのフリーダムガンダムが、マスターの圧倒的な力の前に倒れました。

絶対絶命の危機に現れたのは、シャイニングガンダムに乗るドモン・カッシュの兄、キョウジ。

はたして、キョウジは、マスターと地球連合から、オーブを守り抜けるのでしょうか?

それでは、ガンダムファイト!!

レディィィィッ、ゴォォォオオオッ!!



 

「おい、ジッとしてろよ! 坊主!!」

 

 コジロー・マードック曹長は、アークエンジェルの甲板上に飛ばされたキラを艦内へと回収した。

 

 しかし、キラが向かった先は医務室ではなく、ブリッジであった。

 

「ありがとうございます、マードックさん。でも、この状況で寝てなんていられないですよ!!」

 

 

 

プシューッ

 

 

 

 ハッチが開き、ブリッジに入るとマリューが驚いた顔で振り返ってきた。

 

 

 

「キラ君、だめよ! 医務室で手当てを!!」

 

 

 

「かすり傷です。それよりも、アークエンジェルで出られる機体はありますか?」

 

 

 

「ーー悪いけれど、アークエンジェルに予備の機体はないわ」

 

 

 

「なら、砲撃主をやります。それぐらいなら、役に立てるはずです。このまま、黙って見ているくらいなら、皆さんと一緒に戦います」

 

 

 

「ーーわかったわ、キラ君」

 

 

 

 キラの強い瞳は、何を言っても聞かないと主張しているようだった。これを受け、マリューも反論少なく、キラに砲撃主の席につくことを認める。

 

 

 

(キョウジさん、どうか無事でーー!)

 

 

 

 モニターに写されているマスターガンダムと対峙するシャイニングガンダムを見据えて、キラは祈るしかできない自分を呪った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーー 

 

 

 

 

 

キョウジの存在に、驚愕したマスターアジアは、明鏡止水の境地ーーハイパーモードを一旦解除した。

 

 

 

 そして、改めてオーブ付近の無人島の地面に立ち、向き合うキョウジのシャイニングガンダムと東方不敗のマスターガンダム。

 

シャイニングガンダムの胸部と頭が、ゴッドガンダムの物に変化している。

 

自身が闘ったデビルガンダムの進化形のように。

 

 

 

「シャイニングガンダムか? しかし、その姿はゴッドガンダムを模しておるようだな。

 

 デビルガンダムと同じく、それがネオジャパンのガンダムの最終形態であると判断したか」

 

 

 

 構えを取るマスターガンダムに、シャイニングガンダムも拳を胸の前に掲げて、構える。

 

 

 

「マスターアジア。

 

 あんたが、ドモンの師匠とは知らなかったな」

 

 

 

「キョウジ・カッシュ。

 

 ワシの大罪を裁くならば、ドモン以外では貴様をおいて他にあるまい」

 

 

 

何かを告げようとするマスターを遮り、キョウジは静かに語る。

 

 

 

「すべては済んだことだ。

 

 今更、終わったことを蒸し返しても何も変わりはしない。だが、マスター」

 

 

 

 キョウジは握りしめた拳に力を入れ、怒りに燃える眼差しをマスターアジアに向けた。

 

 

 

「たった今、キラを傷つけたアンタを、俺は許せそうにはない……」

 

 

 

この言葉に、マスターも拳を掲げて応える。

 

 

 

「よかろう、一人の武闘家として相手をしてやろう!

 

 ただの男であった貴様がDG細胞を得てどう変わったのか!

 

 そのシャイニングガンダムと共に試してやろう。この、オーブという国も含めてなぁ!!」

 

 

 

バキィッ

 

 

 

 鋭いマスターガンダムの踏み込み。

 

 そして、放たれた強烈な右ストレートを、キョウジは瞬きすらせずに左手で掴み止める。

 

 

 

「ーーやはり身体能力が、ガンダムファイタークラスに上がっておるようだな。

 

 さすがは、DG細胞よ」

 

 

 

(しかし、ワシの拳を止めたこと自体については、こやつの度胸を褒めるべきか)

 

 

 

鋭い眼差しを向けながら考えるマスターに、キョウジが動いた。

 

 

 

その動きは素人の動きではない。

 

踏み込みも、体運びも、全て理に適った武闘家の動きだった。

 

 

 

「ーーこの動きは!?

 

流派、東方不敗!?」

 

 

 

完璧なまでに洗練された、タイミングと姿勢から、手本になるようなフォームで放たれる。

 

よほどの生真面目な修練と研究を繰り返さなければできない動きだ。

 

 

 

「ーーだが、何故きさまが、我が流派を!?」

 

 

 

マスターをして、当然の疑問だった。

 

彼が武術を教えたのは、ドモン・カッシュであって、その兄キョウジ・カッシュには何も伝えてはいない。

 

流派東方不敗を学ぶ機会などないはずだ。

 

 

 

( シュバルツが伝えたのか?

 

いや、ゲルマン忍術ならばともかく、東方不敗を学ばせる必要などない。

 

そもそも、シュバルツとキョウジは現在別々に行動しておる。

 

技を教える暇などない。独学で東方不敗を学んだと?)

 

 

 

頭に浮かんだ考えを否定しながらも、次々に放たれる拳蹴打を捌くマスターアジア。

 

その時、一つの仮説が生まれた。

 

 

 

( まさか、こやつーー。

 

シャイニングガンダムの戦闘データを研究したのか?

 

その動きを体と頭に叩き込んだと?)

 

 

 

無くはない話だ。

 

優れたガンダムファイターであるシャッフル同盟やシュバルツ・ブルーダーの身体能力ならば、見ただけで型は真似れる。

 

 

 

身体能力ならば、DG細胞の強化があるため、分かる。

 

問題は、技術だ。

 

 

 

本来、武の技術は己の体を痛め抜き、学ぶもの。体に覚えさせるものなのだ。

 

それが出来て初めて頭脳が生きてくる。

 

しかし、キョウジ・カッシュは、凡人よりは優れた肉体を持っていたが、科学者だ。

 

殴り合いの技術など、全く学んでいないはず。

 

だというのに、自分が戦ったデビルガンダムの進化体よりも、遥かに自分の動きとして、流派東方不敗の動きを体に染み付かせている。

 

 

 

バキィッ

 

 

 

強烈な右ストレートを左手で捌きながら、マスターはキョウジを睨み据えた。

 

 

 

「その動きーー。

 

 貴様、いつ我が流派を、どこで学んだ?」

 

 

 

「ーー弟からさ」

 

 

 

「ーー何ぃ?」

 

 

 

淡々と応えたキョウジに、マスターアジアは目を見開く。

 

その動揺を見逃さないように、キョウジは左拳を3発鋭く放った。

 

 

 

パパパァンッ

 

 

 

咄嗟に右拳で、弾くマスター。

 

マスターも返しの左の貫手を放つ。

 

キョウジは体を左脇に半歩ずらし、体を入れ替えながら、貫手を避けた。

 

 

 

バキィ

 

 

 

同時に跳び、宙で後ろ回し蹴りを放ちあい相殺するシャイニングガンダムとマスターガンダム。

 

 

 

「ドモンがこの世界に来ておるのか!?」

 

 

 

「いや、シャイニングガンダムの中にドモンの魂がある。だから、俺は学べるんだ!!」

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

落雷のような打撃音が響く。

 

互いに蹴りを弾きあい、放たれた右ストレートがぶつかる。

 

お互いの拳が衝突した余波で、地面が割れ、周囲の雲が流れ、海面が波打つ。

 

 

 

「夢の中で、ドモンならばどう動くのかを考えていた。

 

その後は、ひたすらに現実で、鏡の前での型の訓練をしていたよ。

 

 おかげで今なら、考える前に体が動くくらいにな!!」

 

 

 

「独闘だけで、ここまで鍛えられただと?」

 

 

 

驚くべきは、キョウジの勤勉さか?

 

才気に溢れていながら、奢ることなく、基本の努力を積み重ねる。

 

簡単なようでなかなか、できることではない。

 

 

 

「オーブに来てから、激戦続きだったんでな。

 

 敵のイメージには事欠かなかった…。

 

 練習相手なら、キラやバルトフェルド達がいた。

 

 アンタとのバトルも、シャイニングのデータから学べたからな!!」

 

 

 

「あの小僧が明鏡止水を使えたのも、それでか。

 

ならば、どこまでやれるか、このワシに見せてみよ!!」

 

 

 

ドガガガガァッ

 

 

 

互いに無数の拳と蹴りを繰り出しあう、乱打戦が始まる。

 

1秒間に数十発の打撃の交換をしながら、両者はクリーンヒットを互いに許さない。

 

 

 

「どうやら、遠慮はいらんようだな」

 

「イメージなら、とっくに倒せてるんだが。やはり、本物は、違うな」

 

 

 

バキィッ

 

 

 

強打を互いに繰り出しあい、離れて構えを取る。

 

 

 

 半歩、踏み込むだけで、キョウジには違う世界が見えている。

 

 ストレートを放てば、何を返されるかも想像がつく。それに対してどう返せば良いのか。

 

 何ができて、何ができないかを分析する。

 

 力の探り合い、勝負の駆け引き、心理戦と言って良い戦いをキョウジはマスターアジアに挑んでいる。

 

 

 

 1秒間に数十発の拳蹴打を放てるスピードを先の立ち合いで示しながらも、どう崩すべきかを考え、隙あらばシャイニングフィンガーを繰り出そうとするキョウジ。

 

 対して、マスターアジアは明らさまなフェイントには、引っかからず、放たれた攻撃の打ち終わりには必ず拳を返す。

 

 単純な殴り合いではない、心理戦と頭脳戦を絡めた戦いに、緊張感が走る。

 

 

 

「あんな近くで、あれだけ拳をぶつけあってんのに、当たらないのかよ」

 

「あの時の忍者とは、また違うなーー」

 

 

 

 シュバルツとマスターの対決は小細工抜きの真っ向勝負。ハイレベルな力と力、技と技の攻防だった。

 

 しかし、キョウジとマスターの対決は、単純な乱打戦にはならない。

 

互いに間合いを図り、目や肩を使ってのフェイントをおりまぜ、一撃必殺のフィンガーを当てる隙を探り合っているのだ。

 

 迂闊な攻撃は、隙を生み、敵に攻撃を与えるきっかけになる。

 

 

 

(これが、本当の東方不敗マスターアジアか。俺のイメージやミケロより、はるかに強い。

 

 急ごしらえのファイトスタイルでどこまで持つかーー。

 

 地力では分が悪いのは明らかだ)

 

 

 

 ステップを刻みながら、キョウジは頭で考える。

 

 マスターの攻撃パターンは、頭の中にすでに入っており、癖も見抜いた。

 

 しかし、それらを突いても、状況は変わらず。

 

 キョウジの攻撃は一度たりとも当たらない。

 

 それだけでなく、こちらの攻撃の打ち終わりを完全に狙われて反撃されている。

 

 

 

「大したものよ。つい先日までガンダムファイターでなかった貴様が、ここまでのレベルになるとはな。

 

賞賛に値する。

 

しかし、貴様ほど聡ければ既に気付いていよう。

 

このままでは、ワシには絶対に勝てんとな!!」

 

 

 

「ーーッ!!」

 

 

 

マスターの宣言にキョウジの額に冷や汗が浮かび上がる。

 

経験と技術が違い過ぎるのだ。力とスピードも大した差はない。

 

確かにクリーンヒットは今の所ないが、それはマスターアジアがキョウジの実力をはかっているからだ。

 

 

 

「さあ、小細工はもう良かろう。

 

出し惜しみをして倒されては元も子もあるまい」

 

 

 

 

 

 マスターは静かに拳を握るとキョウジの前に掲げた。

 

 

 

「こんな風になぁ!!」

 

 

 

 突然目の前でマスターガンダムが姿を消す。

 

 

 

ドグゥッ

 

 

 

 マスターの強烈な右拳がみぞおちに入っていた。思わず、前のめりになるキョウジ。

 

 

 

「ーーぐぅっ!?」

 

 

 

「この程度ならば、あのキラという小僧の健闘にすら報えぬぞ! キョウジ! シャイニングガンダム!!」

 

 

 

ドガァッ

 

 

 

 マスターガンダムの左拳がシャイニングガンダムの右頬を捉え、後方へ弾き飛ばす。

 

 

 

ピシュンッ

 

 

 

 同時にマスターガンダムは超スピードでその場から消え、吹き飛んでいるシャイニングガンダムの背後に回ると、強烈な右蹴りを真上に振り上げた。

 

 

 

バキィッ 

 

 

 

 すさまじい炸裂音が響き渡り、シャイニングガンダムが天高く吹き飛ばされる。

 

 

 

シュゥンッ

 

バギィッ

 

 

 

 天頂高く飛ばされた先には、更に超スピードで回り込んだマスターの強烈な右拳の打ち下ろしが背中を痛打し、地面に叩き落された。

 

 

 

ズドォォオオンッ

 

 

 

 土煙を上げながら、巨大な穴を地面に開ける。

 

 

 

 その前にマスターガンダムは悠然と降り立った。

 

 

 

「貴様らの腕はそこまでか? キョウジよ」

 

 

 

 穴の底から、シャイニングガンダムがバーニアを噴射させて跳び、地面に降り立つ。

 

 

 

(ここまで力の差があるのかーー。できる限り、温存したかったが、このままじゃ駆け引きにもならない。

 

 スーパーモードを使うしかないーー!)

 

 

 

 キョウジはマスターを睨み据えると、一呼吸置いて両の拳を握り、腰だめに構えて、気合いを入れた。

 

 同時に、シャイニングガンダムの足元から気の波が生じ、両足のカバー、両肩、腕のカバーが展開する。

 

 

 

 そして、最後に胸のカバーが開き、エネルギーマルチプライヤーと呼ばれるエメラルド色のクリスタルが金色の光を放つ。

 

 

 

「ーーこれは、シャイニングガンダムのスーパーモードか!!」

 

 

 

「これなら、どうだ!!」

 

 

 

ピシュンッ

 

 

 

 気合と共に、シャイニングガンダムが超スピードでその場から掻き消える。

 

 

 

「おもしろい! 貴様のスーパーモード、まやかしかどうか見せてもらおう!!」

 

 

 

 マスターガンダムも構えを取ると同じように、地面を蹴って掻き消える。

 

 

 

 両者は、肉眼ですら映らないほどのスピードで、地面を、空を、海上を駆け回りながら、拳と蹴りを繰り出しあう。

 

 

 

ドガガガガガガァッ

 

 

 

 あたりには、衝撃波と炸裂音が響き渡っていく。

 

 

 

 次に両者が現れたのは、空中。

 

 互いに右ストレートを放ちあい、拳同士をぶつけて、衝撃を相殺し静止した姿勢での登場だった。

 

 

 

「やりおるわ。このワシにここまでの動きをさせるとはな!!」

 

 

 

(スーパーモードでようやく互角か。これが、東方不敗マスターアジアの実力ーー!)

 

 

 

 互いに拮抗した戦いを繰り広げているが、キョウジにはこの戦いの先が見えている。

 

 

 

 スーパーモードは確かに強力無比な身体能力の強化だが、無制限にできるわけではない。パワーとスピードが上がったとはいえ、互角の状況では倒せない。

 

 

 

「ならばーー!!」

 

 

 

「! 来るか!!」

 

 

 

 右拳に気をため、緑色の光を放ちながら、力を解放する。同時にマスターガンダムも右拳から紫の光を放ちだす。両者、拳を解き、互いに手を組み合いながら、技を放った。

 

 

 

「シャァアアアイニングゥウウウ!!」

 

 

 

「ダァアアアアアクネスゥウウウ!!」

 

 

 

「「フィンガァアアアア!!!!」」

 

 

 

ズガガガガァッ  

 

 

 

 辺りに雷が降り注ぐ。

 

 二人の力によって周りがすべて吹き飛ばされていく。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 地球連合軍の艦隊も、雷の壁をやぶったことにより、オーブへの侵攻を開始しようとするも、この異常なまでの力と力のぶつかり合いのせいで、進軍することができずにいた。

 

 

 

「なんだ、このとんでもない力のぶつかり合いはっ!?」

 

 

 

「天が、天が荒れているっ!」

 

 

 

「海が、海が割れるぅううっ!」

 

 

 

「なんなんだ、なんなんだあいつらはぁああああっ!」

 

 

 

「ファントムペインはあんな化物を飼っているのかっ!?」

 

 

 

「それよりも、あんな化物と渡り合えるオーブの機体はなんなんだっ!?」

 

 

 

 あまりの力と力の対決に、もはや声もない連合のパイロットや戦艦の乗組員たち。

 

 彼らの常識やMSでは到底太刀打ちできないレベルの戦いが、今、目の前で展開されている。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 これを母艦ガーティー・ルーのブリッジ内で見ていたスティングとアウルも拳を握りしめていた。

 

「師匠と互角の力だ……! やはりあの機体、MFだったのか」

 

「ダークネスフィンガーと互角ってことは、とんでもない威力だな。力だけなら、間違いなく僕らより上だぜ」

 

 

 

 二つのフィンガーのぶつかり合いは、先のガンダムシュピーゲルが変身したゴッドガンダムとの対決を彷彿とさせる。

 

 

 

 ガーティ・ルーの艦長であるイアンも二人の言葉と目の前の現実に顔の色を失くしていた。 

 

 

 

「東方先生を止めれるやつが、フリーダム以外にいるなんてーー。

 

 このオーブって国はどうなってるんだーー!?」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 一方で、アークエンジェルのブリッジで観戦していたキラも表情を曇らせていた。

 

 

 

「デビルガンダムをも退けたシャイニングフィンガーでも、押し切れない!!

 

完全に互角だっ!!」

 

 

 

「ダークネスフィンガーで互角、ならそれ以上の技は防げないわっ!」

 

 

 

 キラとマリューの言葉に、周りの者が驚いた顔をして見返す。

 

 

 

「あれ以上の技があるんですかっ!?」

 

「……マスターガンダムはまだハイパーモードになってない。あれを発動されたら、キョウジさんはっ」

 

 

 

 キラの返答に、ハイパーモードと言うのが、フリーダムを倒した黄金の形態である事を連想したクルー達は、事態の深刻さを理解し、思わずシャイニングガンダムを見る。

 

 

 

「それじゃっ、この戦いは……!」

 

「だけど、キラ! あのシャイニングガンダムってやつも金色になれるんじゃないのか」

 

 

 

 クルー達の言葉に、キラも弱ったような表情になりながら答える。

 

 

 

「いえ、今のシャイニングガンダムは前のシャイニングガンダムよりも機体の性能そのものが上がってます。

 

だから、明鏡止水を使っても、人機一体の境地に達してなければ、機体は金色にならないんです。

 

キョウジさんがシャイニングを使いこなすレベルに達していなければ、シャイニングガンダムは真のスーパーモードになれない!」

 

 

 

キラの言葉にマリューも表情を固くする。

 

 

 

「機体の性能が上がったということは、それだけパイロットも技能を上げなければならない……。これが明鏡止水なのね」

 

 

 

明鏡止水や人機一体の境地の奥深さを、キラやマリューはこの戦いから垣間見ていた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

緑と紫の光をぶつけ合う両者であるが、決して引くことはない。

 

そんな中、マスターアジアが、吠える。

 

 

 

「そこまでか。そこまでのモノに過ぎんか。これではオーブを護ることなど、無理の一言よっ!」

 

 

 

猛虎の如き咆哮を上げながら、黒い鬼を思わせるガンダムが、その両目を真っ赤に輝かせる。

 

 

 

「足りぬっ! 足りぬわぁあああっ!」

 

「ぐあああぁぁっ」

 

 

 

ズガァッ

 

 

 

マスターガンダムは、ダークネスフィンガーのパワーを上げ、シャイニングガンダムをフィンガーの気ごと、吹き飛ばした。

 

当然シャイニングガンダムは、後方に吹き飛ばされ、慣性に従って背中から地面に叩き落される。

 

 

 

ドザァッ

 

 

 

何とか、体を起こすシャイニングガンダムの目の前に、マスターガンダムは、両腕を組んだ姿勢でいた。

 

 

 

「このワシのダークネスフィンガーは、シャイニングガンダムの後継機であるゴッドガンダムと互角!

 

 ただのシャイニングフィンガーなど、ワシには通用せんわ!

 

 機体の性能はたしかにDG細胞によって上がったようだな。だが、その程度ではワシには勝てん。

 

鍛え上げた修練は認めるが、それもここまでというのなら拍子抜けよ!!」

 

 

 

マスターの宣言に、キョウジは悔しそうに顔を歪めた。

 

 

 

「くっ、デタラメな強さだ……!

 

 ミケロ・チャリオットなんか、比じゃない!!」

 

 

 

翼を大きく広げ、マスターガンダムは、前傾姿勢になると更に告げる。

 

 

 

「キョウジよ、これが真のガンダムファイターの強さだ!!

 

さあ、その身に刻み込むがいい!!」

 

 

 

ピシュンッ

 

 

 

地を蹴り、一気にダッシュするマスターガンダム。そのスピードは、最早モニターには映らない。

 

対峙するキョウジのシャイニングガンダムもまた、膝をついた姿勢から、消えた。

 

 

 

ズドォッ

 

 

 

次の瞬間、拳をぶつけ合う両者の姿が現れる。

 

 

 

バギバギバキィッ

 

 

 

そのまま、慣性に逆らいながら、凄まじい拳と蹴りの交換を行う。

 

 

 

「そこまでかっ! キョウジ・カッシュ!」

 

 

 

パシィッ

 

 

 

乱打戦の中、放たれたキョウジの右ストレートを受け止めて、右ストレートを顔面に返す。

 

 

 

バキィッ

 

 

 

捉えられたシャイニングガンダムは、はるか後方に吹き飛んだ。

 

 

 

「ぐ、ぅぅっ」

 

 

 

スーパーモードは切れていないものの、とてつもない拳を返されて痛烈なダメージを負うキョウジ。

 

途切れそうな意識を集中させ、スーパーモードを持続させる。

 

 

 

「俺がここで倒れるわけにはっ! 負けるわけにはいかないんだっ!!」

 

 

 

立ち上がりながら、拳を構えて宣言するキョウジに、マスターが告げた。

 

 

 

「その気構え、気迫は見事。

 

しかしワシの相手をするには、十年早いわっ!

 

 さあ、このオーブと言う国とともに眠るがいいっ!」

 

 

 

ドゥンッ

 

 

 

気を高め、マスターガンダムが右拳を振りかぶりながら、シャイニングガンダムに殴りかかる。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

立ってスーパーモードを持続するのが、やっとのキョウジにマスターガンダムの拳を返す術などない。

 

 

 

「ーーキョウジさん!!」

 

 

 

キラが、叫んだその時、禍々しい気を孕んだ黄金の光の柱が、シャイニングガンダムから放たれた。

 

 

 

「ーーッ!?」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

凄まじいカウンターの一撃にマスターをして下がるしかなかった。

 

 

 

その拳は、先ほどまでのような生真面目で洗練されたものではない。

 

 

 

無造作に、力任せに放たれただけの拳。

 

しかし、その威力と鋭さは、先ほどまでとは一線を画す。

 

まるで、野に生きる獣の如く無駄のない一撃ーー。

 

 

 

「ーーこの殺気にして、この威力。できる!

 

貴様、一体、何者だ!?」

 

 

 

マスターは、今、目の前にいる男が、先ほどまで闘っていた相手とは決定的に違うことを見抜いていた。

 

 

 

「ーーフ、フフフ、フハハハハハハッ!!!」

 

 

 

男、キョウジは口の端を歪めると、笑った。

 

 

 

それは、哄笑。それは、狂笑。それは凶笑。

 

 

 

ありとあらゆる意味で不吉な笑み。

 

 

 

人の口から放たれたとは思えないほどに、その場にいる人々に恐怖を与える笑い声ーー。

 

 

 

モニターに現れたキョウジの顔は、邪悪にして純粋な殺意に瞳を吊り上げ、口元に狂気を思わせる笑みを浮かべている。

 

 

 

「ーーもう一度、聞いておく。

 

貴様は、何者だ? この気配、ワシの記憶にある悪魔そのものだ」

 

 

 

マスターの問いかけに、キョウジは笑い声をピタリと止めると、圧倒的な殺意を放つ凶眼でマスターを睨み据えると静かに、知的でありながらも邪悪な笑みを浮かべた。

 

「ーー俺か?

 

俺は、キョウジ・カッシュさ。マスターアジア。

 

いや、我が子。マスターガンダムよ」

 

 

 

「戯言を。

 

このマスターガンダムを我が子、と呼ぶならばーーデビルガンダムに違いあるまい。

 

確かに、貴様から感じる気は、デビルガンダムを名乗っていた奴よりもワシの記憶にあるデビルガンダムに近い。

 

いや、デビルガンダムそのものよ!!

 

しかしーー!!」

 

 

 

マスターをして、頭を悩ませる状況だった。

 

キョウジの中にもDG細胞があった。それは、分かる。

 

 

 

問題は、本体のはずであるDと名乗ったデビルガンダムのそれよりも、今のキョウジから発せられる気の方がマスターアジアのデビルガンダムのイメージそのものであるということだ。

 

 

 

で、ありながら、キョウジは自身をデビルガンダムとは名乗らず、キョウジと名乗った。

 

 

 

傀儡と化していたあの頃とは、明らかに違う明確な殺意を放ち、あの頃と変わらない全てを問答無用でひれ伏せる重圧をその身から放ちながら。

 

 

 

「ーーデビルガンダムの意志を取り込んだのか?

 

キョウジ・カッシュの執念が、デビルガンダムのプログラムによって作られた人格を取り込んだとーー?」

 

 

 

マスターが、仮説を立てながら、問いかける。これに、キョウジと名乗った悪魔の気を放つ男は、拳を握りしめて答えた。

 

 

 

「俺は、キョウジだ。母を討たれ、父を貶められ、悪魔を生み出し、弟に辛き役割をさせるしかなかったーー。

 

無力な俺を憎む俺自身だ!!」

 

 

 

「なんだと?

 

ならば、貴様は、キョウジ・カッシュそのものだと、自身の非力を嘆き、憎み、デビルガンダムの力と意志をその身に取り込んだと言うのか!?」

 

 

 

シャイニングガンダムは、ゴッドガンダムに瓜二つになったその顔をマスターガンダムに向け、右拳を握ると、その目から、涙を流していた。

 

まるで、ドモンが、兄であるキョウジの悲しみを想うかのようにーー。

 

 

 

「ーーむう、キョウジよ」

 

 

 

 そのキョウジとシャイニングガンダムの姿にマスターアジアをして思わず唸るほどの悲しみが伝わってくる。

 

 

 

「……俺は、無力だった。

 

母さんを殺されて、父さんを囚われて、逃げるしかない自分を責めた。

 

 父を貶めたミカムラ博士への恨み、母を殺めたウルベへの憎悪が、アルティメットを悪魔(オレ)へと変えた。

 

しかし、弟に涙を流させながら、それでも……俺を討たせなければならなかったキョウジ(人間)の怒りと嘆きがーー。

 

ドモンの涙が、俺とキョウジを一つにさせたのだ」

 

 

 

キョウジは、強き意思を目に宿し、言う

 

 

 

「二度と誰かに繰り返させはしない。

 

こんな、こんな悲劇は!!

 

 こんな思いは、俺たちだけで、十分だ!!」

 

 

 

シャイニングガンダムが、その瞳から涙を流しながら、明鏡止水の境地に達し、肩や足、腕を展開させて、胸部のクリスタルから、緑に輝くビームクロスを引き抜いて、タスキがけにすると、黄金のハイパーモードに変身した。

 

 

 

「マスターガンダム、いや。マスターアジアよ。

 

オーブを討つと言うのなら、この俺を殺しに来い!!

 

その方が俺も遠慮がいらん!!」

 

 

 

強烈な狂気とも言える殺意を纏い、明鏡止水の境地に達する男。

 

二律背反ーー矛盾そのものと言える、目の前にいる敵。

 

 この男は、恐ろしいまでに、冷酷で、荒々しく、猛々しく、そして気高い。

 

 

 

「ーー面白い。

 

よもや、シュバルツだけでなく、そのオリジナルである貴様も、ワシが全力を出すに値する相手であったか。

 

ならば、キョウジよ。

 

 貴様の全てをワシにぶつけて来るがいい!!

 

 そして見事、我が流派を体得して見せよ、我が愛弟子ドモン・カッシュの兄よ!!」

 

 

 

悪魔の力を放つキョウジは、黄金の気柱を立て、一度全ての感情を消したように無表情になると、氷のような静けさと狂気を纏いながら、問いかけてきた。

 

 

 

「ガンダムファイト!! ーーーーレディ?」

 

 

 

「ゴォォォオオオッーー!!」

 

 

 

対するマスターアジアは、炎の熱さと黄金の鬼気を纏ってハイパーモードになりながら、叫び返した。

 

 

 

ドゴォァッ

 

 

 

再びぶつかり合う、力と力。

 

 

 

今度の乱打戦は、ガップリ4つに噛み分けるーー本当の五分と五分。

 

 

 

正真正銘の、真剣勝負だ。

 

 

 

両者のスピードもパワーも、先ほどまでとは桁が違う。

 

 

 

明鏡止水の境地に至った武の極みに通ずる者同士の力と力の対決は、人外と言って良いほど、あり得ないエネルギーを見せ合う。

 

 

 

「ーーやりおるわ。

 

文字通り人が変わったような荒々しい攻めながら、急所を正確に射抜く的確さ。

 

狂気や怒りに飲まれることなく、それさえも戦法に利用するとは。

 

正に氷の如き殺意ーー!!」

 

 

 

「ーーぬかせ。

 

俺の攻撃を全て返しながら、ベラベラと喋る男のセリフか」

 

 

 

キョウジは、静かに淡々とマスターガンダムを壊す一撃ーーー右ストレートを放つ。

 

対峙するマスターは、その一撃を見事に技ーー放たれた右拳の付け根に左拳を合わせるーーを持って受け流し、強烈なカウンターの右拳を返す。

 

 

 

しかし、武の極致とも言えるその一撃は、マスターをして人外と思わせるキョウジの反応速度によって躱され、放ったカウンターに、左拳のカウンターを重ねてきた。

 

 

 

( なるほど、これがドモンが何か一つでも勝ちたいと願った男の実力か。

 

相手を葬るという凶気に心を黒く染めながら、冷静に物事を捉えて状況を考え、攻撃してくる。

 

更に反応速度と身体能力は、DG細胞により、ワシすらも凌駕しておる)

 

 

 

自分よりも上の力とスピードの相手に、マスターは技を持って応える。

 

足を止めての真っ向勝負ーー。

 

 

 

打たれながら、打つ。

 

 

 

しかし、両者とも、当たらない。クリーンヒットすれば、その時点で一気に連打に飲み込まれ、瞬く間に倒されるだろう。

 

 

 

この乱打戦は、そういう戦いだ。

 

 

 

( 避けづらいーー。

 

しかも一発一発が強打であり、連打。

 

当たれば仰け反り、ラッシュに飲まれるのは、必定。攻撃に攻撃を重ねる正に炎の如き、攻め。退くことなど、頭から考えてない。威風堂々たる格闘技。

 

これが、流派東方不敗、かーー!!)

 

 

 

両者の攻撃レベルは高く。

 

一撃一撃が、食らってのけぞろうものならば即、必殺技の間合いに通じる。

 

紙一重のやり取りは、互いの神経という糸を、限界まではりつめる。

 

 

 

まともな人間ならば、この緊張感にとても我慢できず、自分からミスを侵すであろう、やり取り。

 

 

 

実力が互角ならば、後はどちらの精神力が勝るか、だ。

 

 

 

キョウジの凶気を孕んだ冷徹な判断と洞察力か?

 

マスターの鬼気に迫る強烈な闘志と意地か?

 

互いの意地と意地が掛かった戦い、故に両者退かない。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

 強烈な炸裂音と共に、後方へ首を弾き飛ばしたのは、キョウジ。

 

 

 

「「キョウジさんーー!!」」

 

 

 

 キラとマリューが同時に叫ぶ。

 

 

 

「もらったぞーー!!」

 

 

 

 追撃を仕掛けようと拳を振りかぶるマスター。

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

 次の瞬間、キョウジの一撃がクリーンヒットし、マスターの首がのけぞっていた。

 

 

 

「「師匠ーー!!」」

 

 

 

 スティングとアウルも師の名を呼ぶ。

 

 

 

 当の二人は、互いに凄絶な笑みを浮かべながら、拳を振りかぶっている。

 

 

 

「やるではないか、キョウジよ!

 

ーー血が滾るわ、久しぶりになぁ!!」

 

 

 

「ほざけ、マスターアジア。

 

すぐにその煩い口を閉ざしてやるーー」

 

 

 

「ぬかしよるわぁ!!」

 

 

 

「ーー貴様がな!!」

 

 

 

牙をむき出しにして、二匹の鬼は殴り合う。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 どれだけ殴り合ったのだろう。

 

 

 

 ただ激しく、ただ強くぶつかり合う両者の対決は、オーブの戦域を所狭しと駆け回り、拳を、蹴りをぶつけ合う。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

 何度目になるかわからない、マスターの強烈な一撃に、後方にのけ反るキョウジ。

 

 

 

「勝機ーー! 流派、東方不敗!!

 

 十二王方牌大車併!!」

 

 

 

放たれるは、気により具現化した小型の分身ーー。

 

 

 

「しゃらくさい真似をーー。

 

シャイニングフィンガー・ソード!!」

 

 

 

対するキョウジは、ビームサーベルを腰から引き抜くと、シャイニングフィンガーのエネルギーをサーベルに凝縮し、巨大な剣を作り上げた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「マリューさん、全軍に退避命令を!!」

 

「え、ええーー!!」

 

 

 

キラの言葉に、マリューも叫ぶ。

 

緊急時に開発された信号弾の意味を持つビームをアークエンジェルは放った。

 

 

 

同時にアスハ全軍が、連携して退避する。

 

 

 

対する地球連合軍も、この異常なエネルギーを観測しており、全軍に退避命令を出していた。

 

 

 

「何て、とんでもない力と力なんだーー!!」

 

「ちくしょう、僕たちじゃ。師匠の役にも立てないのか」

 

 

 

あまりの力量差に、ガーティー・ルーのブリッジにいたスティングやアウルも、絶望的な表情になる。

 

 

 

「非常識極まりないな、本当にーー。

 

だが、なんて美しい光なんだーーーー!」

 

 

 

自分にも毒が回ってきたのか、そう冷静な言葉を胸中で漏らしながら、イアン・リー艦長は二つの極大の力を見据える。

 

 

 

まるで、神話やおとぎ話のような、天変地異を平然と起こしながら、戦う二機をーー。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

渦を巻いて迫り来るマスターの分身に、キョウジはエネルギーの大剣を横薙ぎにぶつける。

 

 

 

ズガァッ

 

 

 

二つの巨大なエネルギーの衝突は、オーブの海にまるで太陽を生み出したかのような強烈な光と衝撃波を放ち、一瞬後に爆発する。

 

 

 

ドゴォォォォォオオンッ

 

 

 

光と衝撃波の奔流と、天を突く巨大な煙の柱。

 

 

 

「こ、こんなとんでもない力と力がぶつかったんだ!

 

MSなんか、ひとたまりもないぞ!!」

 

「こんな爆発を起こした二機は影も形もあるまい。

 

規模は小さいが、アラスカのサイクロプス以上の爆発力だーーーー。

 

MSでそれだけのエネルギーを放出できること自体、異常なことだがーー」

 

 

 

連合の士官同士が、互いに顔を見合わせながら、状況を確認する。

 

 

 

しかし、大方の人の予想を裏切り、 天を突く巨大な煙が巻き上がり、その煙が晴れると。

 

 

 

汚れでボロボロになりながらも、黄金の気を纏い、五体満足で仁王立ちして向かい合う、二機のガンダムがいた。

 

 

 

「ーー両機、健在です!!」

 

「な、なんだと!! バカなーー!!」

 

 

 

連合、オーブ共に、あまりにもーー。

 

あまりにも非常識な力と力のぶつかり合いは、両軍の動きを完全に止めていた。

 

 

 

「ーーよかった、キョウジさん」

 

 

 

胸を撫で下ろすマリューの隣で、険しい表情を崩さないキラ。

 

 

 

( これが、真の明鏡止水ーー。

 

人機一体の境地は、ここまで、強くなれるのかーー!!)

 

 

 

「ーーだけど。シャイニングの最高の技の一つであるシャイニングフィンガー・ソードで互角なら。

 

マスターアジアの最終奥義、石破天驚拳は破れないーーーー!!」

 

 

 

「「「ーーーーっ!!!」」」

 

 

 

キラの言葉にアークエンジェルクルーが、一斉にモニターを凝視した。

 

 

 

「ーー師匠の勝ちだな」

 

「ああ。良く食い下がったが、石破天驚拳を破ることはできねーだろ」

 

 

 

アウルとスティングの脳裏には、先のデビルガンダムとの対決が思い起こされていた。

 

 

 

そうーー、一撃であの悪魔を葬り去ったあの技ならば、絶対に勝てる。

 

 

 

彼らは、自分達の師の勝利を疑っていないのだーー。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

傷を負い、ボロボロになりながら、それでも睨みつけあう両者。

 

 

 

ここまで、自分を追い詰めた強敵(とも)に、マスターアジアは、静かに語りかけた。

 

 

 

「ーーキョウジよ、貴様は良く闘った。

 

しかし、これ以上、この勝負を長引かせる訳にはいかん。次の一撃で終わりにさせて貰おうーー!」

 

 

 

これにキョウジは、人を射殺せるような、鋭い瞳で淡々とした口調を返す。

 

 

 

「ああーー。貴様の、敗北でなーー!!」

 

「ーー言うてくれるわぁあああっ!!」

 

 

 

さらに気を高めあう両者。

 

体が傷つき、スタミナが限界に達しようと言うのに、両者の気迫は、衰えるどころか高まっていくーー。

 

 

 

マスターガンダムが右手を前にかざし、光を高めていく。その黄金の光の球を胸の前に両手で抱えると、右腰にそのまま持っていき、腰だめに構える。

 

 

 

「ーー我が、流派!

 

東方不敗が、最終奥義!!

 

石破ぁ! 天驚ぉぉおおお拳ぇぇぇぇんっ!!!」

 

 

 

気合いと共に放たれる、黄金の光の奔流ーー。

 

全てを飲み込む、圧倒的なビームの先端には、紫色に輝く「驚」一文字ーー。

 

 

 

「未だ、我が弟子ドモン・カッシュ以外に破られた事のない、この技を!

 

どう破る!?

 

ドモンの兄! キョウジ・カッシュ!!」

 

 

 

キョウジは、全神経とエネルギーを右手に集中させていた。シャイニングガンダムの右手が、黄金に光り輝く。

 

 

 

同時に背部のフィンが上に引き上げられ、バーニアは黄金の光の輪を象る。

 

 

 

「ーーーー終わらせる。

 

シャァアアアイニングゥゥウ!!

 

ーーーーフィンガァアアアアアアッッ!!!」

 

 

 

放たれたフィンガーは、エネルギーを楯状に展開する。

 

 

 

ーーーーシュオッ

 

 

 

黄金の光線と光壁が、音にならない音を立てて、激突した。

 

 

 

バチバチバチィッ

 

 

 

光と光は、互いにせめぎ合い、押し合う。

 

 

 

「ーーーークゥッ!!」

 

 

 

苦悶の声を上げたのは、キョウジ。

 

 

 

マスターガンダムの光線に、シャイニングガンダムは気を抜けば、一気に持って行かれそうになる。

 

 

 

片膝をつきそうになりながらも、それでも、足を踏ん張り、腰を入れて構えを崩さない。

 

 

 

「わっははははは!

 

見事よ、キョウジ。

 

よくぞ、我が最終奥義を止めてみせた!!

 

だが止めるだけでは、貴様の後ろにあるオーブという国は、守れんぞ!!!」

 

 

 

「ーーーーマスタぁああーー、アジアぁあああ!!!!」

 

 

 

あちこちが、軋みながらも、右手首に左手を添え、猛るキョウジ。

 

 

 

「受け切れる。

 

ーー受けれないわけがない。受けれなければ、俺は死にオーブは破壊される。

 

俺は、受け切らなければならないんだ!!

 

ドモンに謝るためにーー!!

 

父さんに会うためにーー!!

 

こんなところで死んで!!!

 

死んでたまるかぁああああっ!!!!」

 

 

 

形振り構わぬ、がむしゃらな叫びに、マスターアジアもニヤリと、笑う。

 

 

 

「ーー我が流派、東方不敗が最終奥義ーー!

 

天地の気を纏い、力を得る究極の技よ。

 

本来、地球上の万物より力を得る、この技を極めれば、宇宙に出ようとも地球の命の恩恵を得る!!

 

キョウジよ、貴様が守るべき者を守りたいならば、貴様一人の力ではこの技は破れぬと知れ!!」

 

 

 

「ーー万物の気を得るーー!」

 

 

 

思わず復唱するキョウジにマスターアジアは、戦闘中とは思えないほど、穏やかな眼差しになると、まるで息子を見守る父のような厳しくも温かい眼差しを、キョウジに向けた。

 

 

 

「ーーさあ、どうした! キョウジよ!!

 

我が流派、東方不敗が最終奥義ーー!!

 

見事撃ってみせい!!」

 

光の奔流がシャイニングを飲み込もうとした、その時だったーー!

 

キョウジの目に、夢か現か、幻かーー。

 

ゴッドガンダムとドモンが、現れたのだ。

 

 

 

「ーードモン?」

 

 

 

逞しく成長した弟は、必死の形相でこちらを見ている。

 

 

 

「ーー兄さん!!

 

たとえ、師匠が相手でも負けないでくれ!!

 

そして一緒に帰ろうーー俺と!!

 

兄さんは、一人じゃない!!

 

父さんも、レインも待ってるーー!!」

 

 

 

「ドモンーー!」

 

 

 

ドモンは、言いながら、キョウジの右手に自分の右手を重ねた。

 

 

 

「ーー兄さん、石破天驚拳は呼吸が大事なんだ。

 

万物の声を聞いて、力の流れを感じれば、兄さんとシャイニングなら、できる!!」

 

 

 

ドモンの構えを真似ながら、キョウジも右腰に両手を置いて腰だめに構えた。

 

 

 

すると、力の奔流が見えてくる。

 

大自然の力の流れがーー。

 

命の鳴動が、キョウジの両手の中に溢れている。

 

黄金の光の球が、両手の中に現れ、全てを包み込む。

 

 

 

「ーー兄さんーー!

 

俺とゴッドガンダムが、必ず迎えに行くーー!!

 

だから、オーブで待っていてくれ……!」

 

 

 

ドモンは、石破天驚拳の構えを取りながら、穏やかな声でキョウジに語りかける。

 

 

 

コレにキョウジも静かな表情で返した。

 

 

 

「ーーああ。ありがとう、ドモン」

 

「兄さんーー」

 

 

 

キョウジの目の前のドモンは、穏やかに笑むと姿を消し、構えるゴッドガンダムとシャイニングガンダムの姿が一つに重なり、胸のクリスタルに赤い紋章が輝くーー。

 

 

 

「ーーアレは、キングオブハート!

 

ドモンめ、兄を助けておったかーー!!」

 

 

 

この現象にマスターは何かを悟ると、穏やかな表情ながらも、父性を感じさせる声で、キョウジに告げた。

 

 

 

「ーーさあ、撃てい!!

 

キョウジ・カッシューー!!」

 

 

 

「ーーうぉおぁあああ!!

 

流派、東方不敗が!!

 

石破!! 天驚ぉぉぉおお拳ぇぇええん!!」

 

 

 

極限まで高めた両手の光の球を、裂帛の気合いと共に突き出す。

 

 

 

ズドォアッ

 

 

 

キングオブハートの紋章を正面に、緑色の光の渦を纏った黄金の光線が空を断ち切っていく。

 

 それがシャイニングガンダムの手許まで迫ったマスターガンダムの光線とぶつかった。

 

 一瞬の、膠着。

 

直後。マスターガンダムの光線が、両者中央まで一気に押し返されていく。だが、そのまま押し切れるかに見えたシャイニングガンダムの光線は、オーブ海上で強烈な光とともに相殺されていったーー。

 

 天まで轟く衝撃の嵐が、空に浮かんだ一帯の雲さえも吹き飛ばし、貫けるような青空が、ただ両者の頭上に広がる。

 

 

 

 キョウジ・カッシュは、東方不敗と全く互角の石破天驚拳を弟と共に撃ってみせたのだーー。

 

 

 

シュゥゥゥゥッ

 

 

 

同時に、ハイパーモードを解除するシャイニングガンダムとマスターガンダム。

 

暁を思わせる2つの輝きは、静まる。

 

 

 

「見事、我が流派を使いこなしたか!!」

 

 

 

先の見事な石破天驚拳に、マスターアジアは、キョウジを褒めたたえた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「ーーし、師匠の最終奥義が!!」

 

「ちくしょう、僕が最初に撃つつもりだったのに!!」

 

 

 

この光景にスティングとアウルは、拳を握り締める。

 

 

 

キョウジの一撃は、確かに、マスターアジアの放ったものと全く同じものだった。

 

 

 

「キラくんーー!」

 

「キョウジさんが、石破天驚拳を!!」

 

 

 

アークエンジェルクルー達も、ガーティ・ルーの乗組員も、いや、この戦場にいる全ての人々が、この光景に飲まれていた。

 

 

 

「ーーマスター、アジア…!」

 

 

 

未だ立つマスターガンダムに、キョウジは、果敢にもさらに拳を握り、構えようとする。

 

しかし、一歩を踏み出せずに、シャイニングガンダムは、展開していた各部を収め、ノーマルモードになりながら、前のめりに倒れた。

 

 

 

パイロットのキョウジの気が、尽きたのだ。

 

 

 

「ーー見事なり、キョウジ・カッシュ」

 

 

 

気を失いながらも、それでも自分に向かおうとしてきたキョウジに、温かで穏やかな表情を向けマスターアジアは、健闘を讃えた。

 

 

 

「オーブか、新しい楽しみが増えたわ!!」

 

 

 

シャイニングガンダムとキョウジは、マスターアジアの前についに、力尽きたーー。

 

 

 

それを満足気に見やり、マスターアジアはニヤリと笑った。

 

 

 

 




みなさん、お待ちかね〜!

マスターの石破天驚拳を見事に返したキョウジですが、ついに力尽き、気を失ってしまいます。

フリーダムとシャイニングの二機が、倒されたことに動揺するオーブの軍勢に、マスターは一喝するのです。

そんな時、悪魔の力で復活したウルベ達の陰謀で、ステラ・ルーシェに危機が迫ります。

次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第37話に、レディー、ゴー!!



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第37話 不撓不屈 キョウジという漢

マスターアジアの強大な力の前に、悪魔の力を使ってなお、倒れてしまったキョウジ・カッシュ。

しかし、戦いはまだまだ、終わってなどいなかったのです。

悪魔の力を放つキョウジ、太陽の光を放つシャイニングガンダム。

太陽の如き熱き魂の東方不敗と、闇の力を放つマスターガンダム。

両者の対決は、更なる高みへと登りつめていくのです。

それでは、ガンダムファイト!!

レディーーーー、ゴーーーーー!!

第37話




同時刻ーーーー

 

 

 

マスター達の部隊とは正反対の方角から、オーブを攻める部隊があった。

 

 

 

ファントムペイン隊長、ネオ・ロアノーク率いるウィンダムの特務隊だ。

 

 

 

隠密を主に得意とする彼らの部隊は、マスターガンダムに陽動を依頼し、手練れのパイロット3名とステラのガイアガンダムを組み込んだ編成でオーブの地形から、最も手薄であろう場所を攻め込んだ。

 

 

 

「ーーだったはずなんだがねー。奴(やっこ)さんも馬鹿じゃないか」

 

部隊長のネオは、舌打ちしながら、現れた三機のムラサメ隊に応戦する。

 

 

 

パイロットの練度や機体の性能は共に互角。

 

数の上なら、ウィンダム隊の方が一機多い上に、ガイアがいる分、ファントムペイン側の方が有利だ。

 

しかし、彼らムラサメ隊の機動力は音速を超えており、ネオの射撃技術を持っても、簡単に当てられるものではない。

 

 

 

「どうなってんだ!?

 

あの動きで正確に射撃や連携が取れるだと!!」

 

 

 

ネオをして、舌打ちをするしかない見事なMSの運用。

 

可変機であるムラサメの利点を見事に活かして、敵は三位一体の攻撃を繰り出してくる。

 

それも、MA形態で加速した後に、加速力をそのままに、変形してビームサーベルを抜いて切り掛かってくるのだ。

 

 

 

ビームライフルも侮れない。

 

 

 

1つ1つのビームは標準より少し貫通力に優れているだけだが、三位一体で放たれた場合、3本のビームが一つになり、より強力で貫通力の高い、戦艦の副砲クラスに化けるのだ。

 

 

 

「ーー高性能なのは、障壁だけじゃない。

 

MSもだ! 見た目だけじゃなく、中身も改造してやがったかよ!!」

 

 

 

避けるネオに、向こうの隊長機らしき機体が挑んできた

 

 

トラを思わせる黄色と黒の縞模様を二の腕に描き、左肩に東洋で使われる漢字で「虎」と書かれたムラサメ。

 

彼は一振りのビームサーベルを抜くと、ネオのウィンダムめがけ、斬りかかる。

 

 

 

「ーーこいつ!!」

 

 

 

咄嗟にバーニアをふかして避けるも、この一機だけ動きが違うことにネオは気づいた。

 

 

 

速いだけの他の二機と違い、この一機は、正確にこちらの隙を狙って切りつけてきたのた。

 

 

 

見事な技だと、ネオは仮面の奥の表情を曇らせた。

 

 

 

「ーー頼むぜ、ステラ。

 

この作戦の本命は、お前の明鏡止水にあるんだからよ」

 

 

 

隊長機のムラサメにビームサーベルを抜いて構え、ネオはウィンダムを突っ込ませた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

シャイニングガンダムとフリーダムガンダムは、激戦の末、マスターガンダムに敗れた。

 

その事実は、連合軍に希望を、オーブ軍に絶望を与えていた。

 

 

 

その時、戦意を失い呆然とするオーブ軍に対し、たった今、彼らの希望たるガンダム二機を倒した男ーーマスターアジアの取った行動は、予想外のものだった。

 

 

 

「どうした、オーブ軍!

 

 貴様ら、もしや今の戦いを見て怖気づいたのではあるまいなっ!?」

 

 

 

突如、オーブ軍に対して声を張り上げたのだ。

 

これに、連合もオーブも仲間同士、顔を見合わせる。

 

 

 

「貴様らのために最後まで戦い、自らの命まで落とそうとした二人の男の姿を見て、なにも感じぬのかっ!?」

 

貴様ら、何のために戦っておる!」

 

 

 

そんな彼らに対し、更に激しくマスターアジアは声高らかに告げる。まるで、燻る木炭に、今一度火を焚べるかのようにーー。

 

 

 

「くっ、そうだ。戦いはまだ終わっちゃいない!」

 

「フリーダムやシャイニングが、俺たちのために道を開けてくれたんだ!」

 

「ならば俺たちも、それに報いなければ!」

 

 

 

敵であるマスターガンダムの叱咤激励とも言える言葉に、オーブ軍の折れかかっていた気勢が再び燃え上がっていく。

 

彼らは、今一度己のMSに握らせた武器を構えさせる。

 

 

 

「フンっ、それで良い! 貴様らの意地を見せてみよ。

 

この東方不敗マスターアジアにな!」

 

 

 

これを受け、マスターアジアは満足気に頷き、構えた。

 

 

 

始まったのは、MF一機に対し、MS一個小隊と戦艦2隻の戦い。

 

 

 

しかし、戦艦の主砲も、ムラサメ隊の編隊を組んだ連携も、M1アストレイや捕獲したウィンダム部隊の攻勢も、全て、目の前の機体には通じずにねじ伏せられていくーー。

 

 

 

放たれた戦艦の副砲ゴッドフリートは、素手で払いのけられ、スレッジハマーと呼ばれるホーミングミサイルも、網の目を縫うようにジグザグに動きながら、避けきられる。

 

 

 

ビーム砲やミサイルは、無意味だと悟るや、ウィンダムとアストレイ部隊のビームサーベルによる波状斬撃。

 

 

 

オーブ軍のーーアスハ私軍の戦法の全てを使って、彼らは圧倒的な力を持つマスターガンダムに挑む。

 

 

 

しかし、数々の戦局を覆してきた戦法も、このデタラメな敵には、全く通じない。

 

 

 

一方の連合軍は、たった一機で自分達を苦しめていた軍勢を相手に圧倒的な力で、ねじ伏せていく味方の出現に、湧いていた。

 

 

 

「これで勝てるぞ!!」

 

「ーー今だ、一気に押し込め!!」

 

 

 

次々と大量のウィンダムが、雷の壁やジャミングに守られていたオーブの防衛ラインに踏み込んでいく。

 

 

 

「ーーやはり、無理なのか」

 

 

 

流石のオーブ軍も、ついに心が折れかかった。

 

その時だった。

 

 

 

ムクリーー

 

 

 

マスターガンダムの前で前のめりに倒れていたシャイニングガンダムが、立ち上がったのだ。

 

 

 

「ーーぬう?」

 

 

 

ズドォアッ

 

 

 

 

 

同時に尽きていたはずの気が、一気に天高く突き上がり、黄金の気柱を形成して、消えた。

 

その気は、汚れたシャイニングガンダムのボディを一気に洗浄し、細かい傷なども全て回復した、力の満ち溢れた状態にしている。

 

 

 

「ーーな、ばかな!?」

 

「バケモノめ、まだーー!?」

 

 

 

一斉に地球連合のMS隊は、動きを止めた。

 

パイロットであるキョウジの瞳は、それほどの凶気に満ちていた。

 

 

 

「ーーまだ立てるとはな。大したものよ」

 

 

 

腕を組み、マスターアジアは、シャイニングガンダムに向き直った。

 

 

 

「しかし、力やスピードだけではワシには勝てん。いかにDG細胞と言えど、付け焼き刃ではワシは倒せんぞ」

 

 

 

マスターの言葉に、キョウジは前髪の陰に目元を隠しながら、こちらに向かって幽鬼の如く歩いてくる。

 

 

 

 

 

「ーーぬ?」

 

 

 

キョウジの全身に赤黒い禍々しい光が満ちていく。

 

 

 

「まさかーー!!」

 

 

 

この変化とそれが意味する事に気付き、目を見開くマスターアジア。

 

 

 

「ーー馬鹿者がぁ!!

 

そんなことをして何になる!?

 

折角、拾った命を再びDG細胞にくれてやるつもりかぁ!?」

 

 

 

キョウジの人相が更に凶悪に歪められ、その身に纏う力は、暴力的とすら言える。

 

 

 

「ーーキョウジ、貴様!!

 

縁もゆかりもない国の為に、ドモンとの再会を諦めるのか!?

 

そこまでする義理が何処にある!?

 

ファイターですらない貴様が、DG細胞の力を解放すれば、たちまちデビルガンダムに取り込まれようーー!!」

 

 

 

マスターの言葉も虚しく、ついにキョウジはDG細胞の力を解き放った。

 

 

 

「ーー哀れな。せめてワシの手で引導を渡して、くれるわぁあ!!」

 

 

 

殴りかかるマスターアジアの眼の前で、キョウジは動いた。

 

右正拳突きに対し、獣のように前のめりになると、後方へ予備動作なく、ジャンプした。

 

その動きは、野生の猫科動物の如く、柔軟かつ敏捷。

 

 

 

「ーーなに!?」

 

 

 

鼻先で、本気の正拳突きが避けられたことに、目を見開くマスターアジア。

 

同時にシャイニングガンダムは、宙で態勢を整えると、右拳を振りかぶる。

 

 

 

「ーー全身の筋肉を使い、一気に身体機能を高めたか。しかし、この動きはーー!!

 

右か!!」

 

 

 

正拳突きを放ち終わった隙を狙ってのキョウジのカウンター。

 

体の向きや振りかぶった姿勢で右正拳突きの返しが来ると構えたマスターアジア。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

しかし、強烈なクリーンヒットをもらい、首を大きく仰け反らせる。

 

 

 

「ーーなんと、これは!!」

 

 

 

マスターアジアの反応を見てから、キョウジは逆の拳を振りかぶり、宙で態勢を変えて、ガラ空きの横面に左ストレートを叩きつけたのだ。

 

 

 

強烈な一撃に、マスターガンダムの体が宙に浮き、後方へ、弾けとぶ。

 

 

 

対して、シャイニングガンダムは、宙に浮かびながらもバーニアをふかさず、慣性の法則に逆らった明らかな人間離れした前のめりの姿勢からのダッシュで、吹き飛ばされ、未だに宙にあるマスターガンダムの体に追いつくと、無造作に右腕を剣術の切り上げの如く斜め下から裏拳気味に振り上げた。

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

天高く舞い上がるマスターガンダム。

 

 

 

その更に上に、シャイニングガンダムが、それ以上の勢いで地を蹴り、カタパルトからの射出が如く空へ跳び上がると、強烈な右のカカト落としをマスターガンダムの背中へ決めた。

 

 

 

ドガァッ

 

 

 

垂直に地面に叩き落とされたマスターガンダムの場所には、大きなクレーターが出来上がっていた。

 

 

 

「ーーなんなんだ、あの機体は。

 

先ほど、倒れたばかりじゃないのか? なのに、倒れていたのはほんの五分足らずーー!

 

それも明らかに動きが変わった!!」

 

 

 

イアンの言葉が、この場にいる全ての連合兵士の気持ちを代弁していた。

 

 耐久力、機動力、攻撃力。

 

 それら全てがMSの枠に留まっていない。

 

 

 

 

 

 

 

バギィッ

 

 

 

 衝撃に首をのけ反らせながら、マスターガンダムが後方に下がる。

 

 

 

「ーーふん、なるほど。恐るべき力とスピードよ。

 

 しかし、勢いだけでワシを倒せるとは思わんことだ!!」

 

 

 

 言いながら、右拳を後方に振り返りながら放つ。目の前には、先回りしていたシャイニングガンダムがいた。

 

 

 

ビュンッ

 

 

 

「なにーー!?」

 

 

 

 完全に捉えたはずの一撃は空を切る。

 

 またしても、シャイニングガンダムは慣性を無視し、地面とほぼ平行になるように体を仰向けに倒した姿勢で片足のつま先だけ地面に残して止まって見せた。

 

 

 

 どんな姿勢からでも強烈な一撃を放ってくる上、その攻撃に吹き飛ばされれば、圧倒的なスピードで先回りされる。

 

 先ほど、マスターがキョウジに対してして見せた攻撃の打ち終わりを狙ってのカウンターなども今のシャイニングガンダムには造作もない。

 

 

 

(DG細胞により、こやつは理性を失っておるはず。

 

ならばこそ、このワシをも追い詰めるパワーとスピード、反応速度、身体能力を得ておるのだ。

 

 しかし、攻撃の打ち終わりを狙うカウンターや、どんな姿勢からでも急所を狙う正確な攻撃は、とても狂人のそれとは思えんーー!!)

 

 

 

 DG細胞の力を暴走レベルまで解放した今の状態で理性を保っているとしか思えない。

 

 

 

(いよいよ、デビルガンダムとキョウジの一体化という先の話を信じねばならんかーー!!)

 

 

 

今一度、気合いを入れ直し、拳を構え、マスターガンダムは足を踏ん張る。

 

 

 

「ならばーー。一気に叩き潰してくれるわ!!」

 

 

 

機体のダメージは、気の充実で回復できる。それがマスターガンダムを構成するDG細胞だ。

 

そして、ガンダムファイターであるマスターアジアは百戦錬磨の達人を越えた超人。

 

 

 

「ーーそこだ!!」

 

 

 

突如、何もない空間にマスターガンダムは、右のストレートを放った。

 

 

 

ビュンッ

 

 

 

紙一重で、その一撃は首をひねって回避され、打ち終わりを狙った右ストレートを放ってくる。

 

 

 

「ーー甘いわ!!」

 

 

 

そのカウンターを見越し、マスターは左の拳に小回りをきかせて、ショートフックを放つ。

 

カウンターにカウンターを重ねる高等技術。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

 

 

しかし、下がったのはマスターガンダムの方だった。シャイニングガンダムが、マスターの左フックに左のショートアッパーを合わせたのだ。

 

 

 

咄嗟に後方へ仰け反り、放っていた左拳をアゴに引きつけて避けるマスターガンダム。

 

 

 

「ーーチッ!」

 

 

 

そこではじめて、キョウジの表情が歪み、舌打ちしてみせた。

 

 

 

互いに一度、距離をあける。

 

 

 

「ーー左のショートアッパーとはな。

 

ワシの狙いを読んでおったかーー!」

 

 

 

打つも守るも攻防一体の動きを互いに見せる。正に力と力、技と技。

 

 

 

そこに駆け引きが混ざる。

 

 

 

「ワシの技と貴様の身体能力。

 

総じて言えば、持っているものは、五分と五分。

 

ワシのような武道家ならば、駆け引きなど無用と真正面から叩きあうのみだが。

 

キョウジよ、貴様の拳は武術家のそれだな」

 

 

 

何も語らず、拳を握り構えるキョウジに、マスターアジアは頷く。

 

 

 

「武には、三つの極みがある。

 

 

 

一つ、 武を通じて己が体を鍛え、心の道ーー道徳を極める武道。

 

 

 

一つ、武をもって他者に魅せる芸を成し、美しさを求める武芸。

 

 

 

そして、心もなく、美もなく、ただ相手を倒す技術のみを追求する武術」

 

 

 

極みに通じるものだからこそ、理解する。

 

この者にとって武とは何か?

 

 

 

「当然と言えるな。

 

やはり、貴様はファイター(武道家)ではない。

 

貴様にとって武は、悟るものでも、魅せるものでも、ましてや誇るものでもなく、ただ己と他者を守る手段の一つに過ぎぬのだ。

 

ーー故に、恐るべき相手よ」

 

 

 

マスターをして、冷や汗を流している。

 

 

 

「ただ、技を極めただけの凡百の武術家気取りとは、訳が違う。

 

文字どおり命懸けで、貴様は武の術を学んだのだな?

 

守るものを守り抜くためにーー!」

 

その技の全ては、執念。

 

強いはずだった。

 

弟を守りたいと願い執念でシュバルツを作り出した男が、今、その全てを賭してオーブという国の為に、闘う術を求めたのだから。

 

 

 

「ワシとしたことが、貴様という相手を見誤っておったわ。

 

貴様にとって、DG細胞の禍々しき力すら、オーブを守るための手段の一つに過ぎぬのだ。

 

明鏡止水を使いながら、凶を孕んだ純粋な殺意を放つ。二律背反の答え、ようやく見極めたわ」

 

 

 

道を極めるならば、自身の体と心を鍛えずに、あっという間に強力な力を与えるDG細胞は、求めまい。

 

その力に自分の倫理観や価値観が呑まれる危うさは、道を極める者には、火を見るよりも明らかだ。

 

 

 

芸を極めるならば、力による正負は関係ない。だからこそ、DG細胞のような強力な力を求める者もあろう。

 

そして、心が優しければ、力を振るうことに迷いが生じ、闘いを恐れる弱点となる。

 

得た力を振るう者ならば、力に取り込まれ、驕り昂り自滅する。

 

 

 

術を求めた場合も、力の正負は関係なく、ただ強くなれば良い。

 

最も力に取り込まれやすい道だが、その道を極めるものは、他二つに比べて欲がない。

 

心も美もない。

 

ただ、力の強さを求めるのみだからだ。しかし、これを実践できる者など、まずいない。

 

力を手に入れれば、振るわずにいられないのが、人の性だ。武術を極める者は、皆心を病み、力に食われて行く。

 

 

 

だからこそ、道を説き。だからこそ、芸に費やす。

 

 

 

だが、今目の前にいる男は武術のみの男。どれだけ力を得ようと奢らず、恐れず、淡々と目的を見失わない冷徹なまでの思考をほこる。

 

 

 

禍々しさに揺らがず、神々しさに惑わず、ただ術のみを求める者。

 

 

 

「ワシやシュバルツ、ドモンとは明らかに違う。

 

なるほど、これが何をさせても世界一とドモンに言わせた男の本質か。

 

人間離れした悟りよーー!」

 

 

 

マスターアジアをして、初めてであった。

 

目の前の敵は、人形のように人の情けを感じない、心を感じない。

 

人形にはあり得ない執念を感じる。

 

 

 

それは、ただ、守りたいが故。

 

凶気を持ちながら、正気である。

 

殺意を放ちながら、理性を保つ。

 

鬼となりて、神仏の悟りを得るもの。

 

 

 

「ーーワシは、かつて地球を守る為に、修羅に身をやつした。

 

貴様は、弟の為、オーブの為に羅刹へと変わったのだな、キョウジよ」

 

 

 

 キョウジは、何も語らない。ただ、拳を握り、凶眼を滾らせ、こちらに構える。

 

 

 

 その眼に理性など微塵も感じない。

 

 

 

 だが、闘い方を見るだけでわかる。

 

 

 

 理性をなくしてなどいない、と。

 

 

 

「おしゃべりの時間は終わりだ、マスターアジア。

 

心静かに死ぬがいいーー」

 

 

 

 キョウジは、一切の感情を消した無機質で冷たい言葉をマスターアジアに告げる。

 

冷徹な凶気を纏ったその瞳は、並みの者ならば恐怖に瞬く間に叩き落されるだろう。

 

 

 

 その瞳の中には、己の無惨な骸を問答無用で相手に想像させるのだから。

 

 

 

 しかし、マスターアジアは不敵に腕を組み、笑った。

 

 

 

「何を焦っておる。

 

 このワシとの勝負よりも、優先することがあるのかな?」

 

 

 

「…………」

 

 

 

 キョウジは、何も語らない。

 

 

 

 ただただ凶気を瞳にあふれさせ、静かにこちらの隙を伺っている。

 

 

 

「この東方不敗マスターアジアを前にして、ワシよりもオーブを気にするとはなーー!!

 

 そんなに守りたいか、この国を!!」

 

 

 

 にやりと笑うマスターアジア。ーー瞬間だった。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

 すさまじい衝撃音が辺り一帯になり響く。 

 

 

 

 見れば、シャイニングガンダムの右ストレートがマスターガンダムの右の掌に掴み止められていたのだ。

 

 

 

「………」

 

 

 

 キョウジのシャイニングガンダムは、そのまま右拳から緑色の光を放ち始める。

 

 

 

 マスターガンダムも同時に、掴んでいる右掌から紫の光を放ち始める。

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

 

 鳴り響く地響き、荒れ狂う天候。

 

 

 

 二人の気は、極限まで高まりあう。

 

 

 

 両ガンダムは互いの主とは相反する光と闇の力を放ちながら、主の気を高めていく。

 

 

 

 両者の踏ん張る大地が割れ、地面から石が吹き上がっていく。

 

 

 

「師匠……、さっきまでよりも更に気が高まってる」

 

「ああ、この二人。限界はないのかよ」

 

 

 

 アウルとスティングが二人の気を感じ取り、つぶやくと同時、落雷がシャイニングガンダムとマスターガンダムの間に落ちた。

 

 

 

 同時に、すさまじい拳と蹴りの雨あられを交換し合う。

 

 

 

 互いに、一撃を紙一重でかわし、捌き、弾き、相殺しあいながら、敵が反応できないほどの連撃を放たんとより一層手数を、スピードを、パワーを上げていく。

 

 

 

既に周りの者は気づいている。

 

 

 

この戦いの勝者が、オーブ戦域の勝者だとーー。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

オーブの激闘を自宅のモニターで確認するジブリールは、興奮していた。

 

 

 

「これが、これが!!

 

MFだというのか、素晴らしい!!!

 

なんて力なんだ!!

 

こいつらの力を手に入れれば、最早コーディネーターだのナチュラルだのと、下らん争いを続ける人間どもを地球から一掃できる!!!」

 

 

 

彼は、両手を握り、口元に狂気の笑みを浮かべている。

 

 

 

映し出されているのは、人外の激闘を繰り広げる二機のMF。

 

 

 

戦域を一瞬で飛び回り、艦隊をモノともしない両機の力に、ロード・ジブリールは狂喜していた。

 

 

 

「ーー何を騒いでるんだ、ジブリール。

 

この程度の力など、我々がデビルガンダムを手に入れれば、軽く凌駕できるさ」

 

 

 

そんな彼を諭すように、冷たい眼差しで、ウルベ・イシカワは向かいの席から告げた。

 

 

 

「しかし、ウルベ!!

 

これだけの力をみすみす捨て置くのか!?

 

この力があれば、デビルガンダムを手にすることも……!!」

 

 

 

納得が行かない様子のジブリールに、ウルベは苦笑を漏らした。

 

 

 

「ーーいかに強力な力とはいえ、我々の望むのはデビルガンダムの復活と支配だ。

 

マスターアジアやDG細胞の残りカスなど、不要なのだよ」

 

 

 

「ーーだが!!」

 

 

 

ワインをゆるりと注ぐウルベに、ジブリールが声を上げる。それを遮り、両者の間に座る男ーーウォン・ユンファが笑った。

 

 

 

「ーージブリール、我々は過去に失敗しました。

 

デビルガンダムを手に入れようとして、彼の支配下に置かれてしまった。

 

ですが、我々は今度こそ、あの力を支配下にし、我々の目的を果たすのですよ」

 

 

 

ウルベが、その言葉に笑い、そして一気にワインわ煽ると気迫を露にして続ける。

 

 

 

「そう!

 

手に入れるのだ!!

 

我々が、あの力を!!!

 

プラントだか、コーディネイターだか知らんが、そんなものに、デビルガンダムを渡してなるものか!!!」

 

「ーー彼を手に入れるのは、私達以外にはない。

 

いや、「彼」ではないですね。「あの機体」を、と言いましょうか」

 

 

 

ウォンの邪悪な笑みに、ウルベも我が意を得たりと笑う。

 

 

 

「ーーそうだ。

 

私達の為のデビルガンダムを手に入れるのだ。その為にも、必要なモノを手に入れなければならない」

 

 

 

ウルベの言葉に、ウォンが続ける。

 

 

 

「ーー今、この戦いで重要なのは勝敗ではありません。

 

デビルガンダムの生体ユニットに相応しい存在を確認することこそが、私達の目的なのです。

 

捕獲できれば最上ですね」

 

 

 

「そして、最大の障害となる東方不敗とキョウジ・カッシュが潰しあっている今こそが、好機!!

 

ウォンーー」

 

 

 

「ーーふふ、さあ始めましょうか。

 

私達の世界征服をねーーーー!!」

 

 

 

ウォン・ユンファが笑った先には、まるで衛生アンテナに使うような巨大な皿の中央から、針を生やした装置があった。

 

 

 

その装置は、未来世紀にて作られた呪われた存在。

 

人間を心の無い狂戦士に変えてしまう狂気のシステム。

 

 

 

「ーーステラ・ルーシェ。

 

彼女ならば、アレンビー・ビアズリーに匹敵する生体ユニットになるでしょう。DG細胞によって強化すればね!!」

 

 

 

邪悪に笑むウォンに、ウルベが冷酷に笑みを浮かべた。

 

2人の気配に、ジブリールは冷や汗を流しながら、一歩下がる。

 

そんな彼にウルベは、優しく笑いかけた。

 

 

 

「ジブリール、君も知るといい。

 

君をつまらん人間という存在から変えた「力」というものをねーー!」

 

 

 

ウルベの言葉に、ジブリールは何とか笑みを作ると、返した。

 

 

 

「ーーいいだろう。

 

期待しようじゃないか、こんな戦いすらも、ままごとと断じる君たちにね」

 

 

 

ウルベは、何も答えずに、静かに笑みを浮かべた。

 

 

 

 




みなさん、お待ちかね〜!!

ここに来て、ついにウルベが、ウォンが、動き出します。

シャイニングガンダムとマスターガンダムが激闘を繰り広げる中、狙われたステラ・ルーシェとガイアガンダム。

バーサーカーシステムに狂わされたステラに連合もオーブも混乱する中、悪魔の手先となって蘇った三体のガンダムが彼らを襲うのです!!

次回、起動武道伝GガンダムSEED Destiny 第38話に

レディー、ゴー!!



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第38話 動き出す魔人 混沌への序曲

さて、みなさん。

オーブの戦域についに現れた魔人達。

彼らの悪意が、優しく可憐な少女へと向けられた時、私達の想像のつかない展開が待っていたのです!!

それでは、ガンダムファイト、レディィィイ!!

ゴォオオオオオオッ!!!

第38話



 

とある、無人島の森の中でーー

 

 

 

 ガンダムと呼ばれる機体のコクピットから、1人の男が声をあげた。

 

 

 

「ーーおい、チャップマン!!

 

 ウルベ達から指令が来てんぞ!!」

 

 

 

 パンクルックをした長髪の男ーーミケロ・チャリオットは、自身と生い立ちや考え方、性格の全てが正反対とも言うべき、男に声をかけた。

 

 

 

 話しかけられた壮年の男ーージェントル・チャップマンは、パラソルをさして簡易型のテーブルと椅子を置いて、腰掛けている。

 

 

 

 彼はコーヒーを口に含みながら、新聞を片手に目だけをミケロに一瞬向けると、目を新聞の紙面に戻しながら、答える。

 

 

 

「ーー断れ。

 

 つまらん戦いに興味はない。誘拐などという下世話な趣味は、あやつらの駒を使わせろ」

 

 

 

「ーー何で俺様がてめえの指図を受けなきゃならねぇのか、甚だ疑問だが。

 

 俺たちは、DG細胞を奴らに管理されてるんだぞ?」

 

 

 

 表情を険しくしながら、ミケロは鋭い視線をチャップマンに返す。

 

 

 

「ーーそれが、どうした?

 

 DG細胞の力は、興味深いが、それだけでドモン・カッシュを倒せるなどと、思うのか?」

 

 

 

 新聞とカップをテーブルに置き、自身のライフルを手入れしながら述べるチャップマンに、ミケロが忌々しそうに応える。

 

 

 

「ドモン・カッシュに復讐するためにも、ここでくたばる訳にはいかねーんだよ」

 

 

 

「ーーフン」

 

 

 

 チャップマンは銃を置き、葉巻に火をつける。

 

 

 

「ーー吸うか?」

 

 

 

「葉巻は趣味じゃねーよ。それとチャップマン、俺たちへの指令は、ガキの誘拐じゃねー。

 

キョウジ・カッシュとマスターアジアの足止めだとよ」

 

 

 

「マスターアジア?

 

奴が、あんなチッポケな島国に来ているのか?」

 

 

 

 チャップマンが、はじめてミケロに顔を向け、問いかける。それにミケロはニヤリと笑い、応えた。

 

 

 

「流石のあんたも、唯一土をつけられた相手の名前には敏感だな」

 

 

 

「ーーフン。ただの誘拐を俺に命じてくるならば、問答無用で断る予定だったが。

 

 良いだろう。マスターアジアが相手ならば、不足ない」

 

 

 

 即座にチャップマンはモビルトレースシステムを起動し、ジョンブルガンダムを動かす。

 

 

 

「ゆくぞ、ミケロ」

 

 

 

「ーーケッ、俺様に命令してんじゃねーよ!」

 

 

 

 二機のガンダムが、オーブの海域へと飛び立っていった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

ジブリール邸の中庭で

 

 

 

 ウルベ・イシカワは、静かに笑いながら、手元にあるモニターの中で必死に争いあう二つの勢力を見据える。

 

 

 

「ーーさて、始めようか。ウォン」

 

 

 

「ええーー。ランタオ島で良い手駒のガンダム達が手に入りましたからね。ミケロとチャップマンにはマスターアジア達の相手をしてもらいましょう」

 

 

 

「フフ、貴様という男は、本当に嫌な男だな」

 

 

 

「あなたほどではありませんよ、ウルベーー」

 

 

 

 互いに冷酷なーー酷薄なーー笑みを浮かべながら、ジブリール邸の庭の前に立つ。

 

 

 

 彼らの前には、三体のガンダムがあった。

 

 

 

「では、頼みましょうか。

 

 マーキロット、シジーマ、ロマリオ」

 

 

 

「ーーう、ウウゥウーーっ!!」

 

「あ、アアアァッ」

 

「ぐ、ぅ、うぅウウゥウッ」

 

 

 

 ウォンの言葉に、3メートルはあろうかというギリシャ人、顔色の悪い頬骨の張ったインド人、そして小太りのピエロの姿をした男が、唸り声を上げながら応えた。

 

 

 

 彼らは、第13回ガンダムファイト決勝に勝ち進んだ猛者ーー。

 

それぞれ、

 

 

 

 ネオギリシャは、古代のギリシャ神話の主神の姿を模した戦士マーキロット・クロノスのゼウスガンダム。

 

 

 

ネオインドは、下半身が蛇の女神の姿を模した蛇遣いチャンドラ・シジーマがコブラガンダム。

 

 

 

ネオポルトガルは、丸いコマの様な胴体にピエロの顔を入れたロマリオ・モニーニがジェスターガンダム。

 

 

 

 ランタオ島のバトルロワイヤルでDG細胞の犠牲となった三体のガンダムとファイター達である。

 

 

 

 彼らには生前の理性などなく、生ける屍として復活した呪われたガンダム達。

 

 

 

「では、はじめましょうか。

 

 悪魔の宴をねーー!!」

 

 

 

「ジブリールのDG細胞も、そろそろ脳を侵し始める頃だ。

 

 そうなれば、余計な疑問も抱くまい。ウォン、君の狙いどおり、我々のやりやすいようになってきたな」

 

 

 

「私達が、もっと早く手を結んでいれば、悪魔の力で元の世界をも牛耳れたのですがねーー。

 

 しかし、この世界を牛耳ることができれば、今はそれで良いでしょう」

 

 

 

「ーーああ。シャッフル同盟の連中に復讐する力を得るまではな」

 

 

 

 2人は飛居並ぶガンダム達を見上げながら、野望に笑みを深めた。

 

 

 

「ジブリールから、戦艦を一隻もらえました。

 

 我々も行きましょうか、ウルベ」

 

 

 

「ーーああ。

 

久しぶりに運動をせねばな」

 

 

 

 ジブリールの館から、巨悪の司令官と屍人のクルー達が乗るアークエンジェル級の鑑が飛び立っていった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

オーブの海域で、海面を四つ足で駆け、無双する狼のような機体がある。

 

 

 

名をガイアガンダム。

 

 

 

機体が白い気を纏い、背中に付いた両翼の、ビームブレイドが、光り輝く。

 

 

 

オーブに捕獲され、特徴的な青い翼のシェルフノズルとガンダムの顔に改修されたウィンダムが10機、ビームライフルを構えて放ってくる。

 

 

 

 そのビームライフルは、速射かつ連射する場合と、貫通力の高いビームを放出する場合とがあり、現在の連合のMSには、装備されていない高性能な射撃武器だ

 

 

 

「ーー遅い。

 

 それじゃ、私とガイアは捕まえられない」

 

 

 

 ジグザグに走り、無数に放たれるビームを紙一重で避け、一気に踏み込むと、両翼のビームブレイドで切り裂いていく。

 

 

 

「ーー1つ、2つ、3つ!!

 

 まだまだーーっ!!!」

 

 

 

 次々とウィンダムを落としていくガイア。

 

 目指す先は、バリアを張ったコーナーポストの一角。

 

 ステラの目には、ハッキリとバリアを作る粒子の流れが見えている。

 

 明鏡止水で強化したライフルの一撃ならば、貫通できる瞬間を狙い撃てる。

 

 

 

 何体かのウィンダムを蹴散らし、絶好の角度、位置、タイミングにガイアを置くステラ。

 

 

 

「ーーこれで、終わり!!」

 

 

 

 高速移動の四つ足から、二足歩行の人型に変形すると、右手にあるビームライフルを構えて、引き金をひく。

 

 

 

パシュンッ

 

 

 

 放たれたビームは、見事に外側に貼られたバリアを貫いて、コーナーポストのど真ん中を撃ち抜いた。

 

 

 

ズガァッ

 

 

 

ブゥゥゥンッ

 

 

 

 コーナーポストは破壊され、伸びていたビームロープは消滅していく。

 

 

 

「ーーやったよ、ネオ!!」

 

 

 

 満面の無垢な笑顔で、ステラ・ルーシェは自身の成功を喜んだ。

 

 

 

 

 

 当然、ムラサメ隊とウィンダム隊の対決も変化が訪れる。

 

 

 

「でかした、ステラ!!」

 

 

 

 ネオが、叫ぶやいなや、オーブ本土へと自身のウィンダムを向かわせようとして、ムラサメの隊長機に止められる。

 

 

 

「ーーち!」

 

 

 

 突如、ムラサメから通信が入る。

 

 

 

「やるねぇ。

 

 まさか、こちらのバリアをあんな手で破るとは。

 

 マスターガンダム以外にも、切り札があったか。

 

 驚いたよ、正直ーー」

 

 

 

「東方先生を知ってる?

 

 まさか、お前が!?」

 

 

 

 マスターと同じ世界の住人か、と言おうとして、否定された。

 

 

 

「いや、俺をあんな非常識な連中と同じにせんでくれよ。

 

 あれは、規格外だろ」

 

 

 

「そりゃ、そーだな。

 

 あんたには、できるなら投降してもらいたい。色々聞きたいんでな」

 

 

 

「俺もだ。

 

 昔の知り合いにお前さんに良く似た奴がいてね。

 

 ちょっと教えてもらいたい、投降してくれんかな?」

 

 

 

 飄々と返す男に、舌打ちし、ネオは言った。

 

 

 

「バリアは、もう無いんだ。

 

 守れんぞ、オーブは!!」

 

 

 

 すると、男はやはり、飄々として返す。

 

 

 

「ああ。

 

 普通ならば、バリアを破られた時点で負けだろうな。だが、それすらも考慮していてね、ウチの参謀は」

 

 

 

「ーー何?」

 

 

 

瞬間だった、消え始めていたバリアの一角に、丸い球体、10体のハロが海面から陸上に登ると、トーテンポールの様に、縦に積み重なっていく。

 

 

 

「ーーまさか!?」

 

 

 

ネオが目を見開くと同時に、ハロ達からビームロープが伸び、コーナーポストを繋いで行くと、消えていたバリアが再生したのだ。

 

 

 

「ーーま、マジかよ」

 

 

 

「親切心からだが、ーー同じ手は、通じないよ。

 

参謀の防衛MSには、学習プログラムが付いていてね」

 

 

 

ムラサメの隊長機の言葉に、舌打ちしながら、サーベルを切り払い、ステラの援護に向かおうとするも。

 

 

 

ジャギィッ

 

 

 

自身の背後に気配を感じ、モニターで後方を確認すると、新たなムラサメ隊の隊長機が、ビームライフルを構えてその場にいた。

 

 

 

「ご無事ですか、バルトフェルド」

 

 

 

「いいタイミングだ、アマギ」

 

 

 

「砂漠の虎に借りを作れるとは。

 

 キョウジさんに感謝しなければーー」

 

 

 

 微笑み合う両者。

 

 

 

 対するネオは絶望的な心境だった。

 

 

 

 4対3で互角だったウィンダム隊とムラサメ隊だが、ここに来て、敵のムラサメが一気に7機に増えたのだ。

 

 

 

「ーーさあ、どうするね?

 

 連合の隊長くん」

 

 

 

「ーークッ!」

 

 

 

 絶対絶命の危機に唸るしかできないネオ。

 

 その時、四つ足で獣の如く、空や海を駆けるガイアが現れた。

 

 

 

「なに!? アレはガイア!?」

 

「ーー空中や海面を駆けるだと!?」

 

 

 

 驚きに目を見開く二機のムラサメにガイアが両翼のブレイドを展開する。

 

 

 

「ーーネオから、離れろ!!」

 

 

 

シュバァッ

 

 

 

 咄嗟に距離を空け、回避する二機のムラサメ。

 

 

 

「ーーすまん、ステラ。

 

助かった!」

 

 

 

「ーーうん。でも、バリアが」

 

 

 

 礼をステラに述べると、彼女は微妙な表情で返す。それにネオも表情を歪ませた後、目つきを変える。

 

 

 

「仕方ないさ、取り敢えず。

 

 ここは、撤退しかないーー。ん?」

 

 

 

 言うと、退避のコースを取ろうとする。その時だった。

 

 

 

 ネオ達の退避ルートに、いつ現れたのかは、不明だが、連合の戦艦ーー漆黒のアークエンジェル級が一隻、浮かんでいた。

 

 

 

「ロアノーク隊長、連合の艦です!

 

 識別信号も、間違いありません!!」

 

 

 

「ーー援軍?

 

 だが、何故!?」

 

 

 

 部下の報告に、ネオは訝しがる。ファントム・ペイン以外にこの作戦は、漏らしていないのだ。

 

 

 

 疑問に頭を傾げるネオだが、部下からの言葉に一旦考えるのを辞める。

 

 

 

「隊長! いまはとりあえずあの連合籍の艦に救援を求めるべきです!

 

 戦力はこちらが不利なのですからーー!!」

 

 

 

「それはそうだがーー」

 

 

 

 腑に落ちない事はあるが、戦力差を考えれば、背に腹は代えられない。

 

 

 

 ネオは、アークエンジェル級の漆黒の船に語りかけた。

 

 

 

「こちら、地球連合独立機動軍ーーファントムペイン、隊長のネオ・ロアノークだ。貴艦の所属を教えてくれ。

 

 協力して、オーブを攻略したい!」

 

 

 

 ネオの通信からしばらくして、声が返ってきた。

 

 ネットリと絡みつくような嫌な声は、通信越しにでも、相手の厭らしさを際立たせている。

 

 

 

「ファントムペイン……。

 

 この部隊で間違いないようだな。

 

 ネオ・ロアノーク大佐、今までよく戦ってくれた。

 

 我々の艦は、そうだな。大天使に倣って「アズラエル」とでも告げておこう。

 

 ところで、頼みが一つあるのだが、聞いてもらえるかな?」

 

 

 

「おい! この戦場のど真ん中で、何そんな悠長な話をしてるんだ!

 

 そんな場合じゃないことくらい、見りゃわかるだろう!」

 

 

 

 芝居掛かった相手の言葉に、ネオが苛立つ。

 

 すると、第三者の声が通信に入ってきた。

 

 

 

「ウルベ、そんな風にからかうのは、いけませんね」

 

 

 

 ウルベをたしなめる風の男も、決して友達になりたい類の笑みを浮かべていない。

 

 

 

「すまないな、ウォン。

 

 だがつい、からかいたくなるのだよ。

 

 人間という、劣等種を見てしまうとね」

 

 

 

劣等種という差別的な言葉を使う連合鑑の乗組員。考えられるのは、自分達の後見人と同じ種類の人種。

 

 

 

「ブルーコスモスか!? だが、連合の制服じゃない!?」

 

 

 

 ネオの言葉に、ウルベと呼ばれた鑑の責任者らしき男はモニター越しに、厭な笑みを浮かべている。

 

 その服装は一見して、軍服だと分かるが、ネクタイをしていることからも、どちらかと言えば式典用の制服と考えられる。

 

 だが、明らかに連合加入国の制服ではない。何より、顔半分を隠す鉄の仮面が、ネオには気に入らなかった。

 

 まるで、醜い本心を隠すために仮面をしているようだと、ネオはモニター越しに感じていた。それは、ジブリールの比ではない。

 

 

 

「この世界の艦の性能とやらを見せてもらうとしよう。ローエングリン砲スタンバイ、撃て」

 

「我々が用事があるのは一人です。あなたがたは排除させていただきましょう。目撃者は消したほうがなにかと都合がいいですからね」

 

 

 

 瞬間、アークエンジェルの足に見立てた、砲塔がスライドしてあらわになる。

 

 その砲身が向けられた先は、ネオ達の部隊だ。

 

 

 

ズドォアッ

 

 

 

 容赦なく放たれた陽電子砲は、今まで戦死者ゼロだったこの海域に初めて犠牲者を出した。

 

 

 

 射線軸にあったウィンダム達が、ネオを除いて直撃し、霧散して行ったのだ。

 

 

 

「どういうつもりだ、貴様らっ!」

 

 

 

 ネオは憤りを露わにした。戦場で人が死ぬのは、当たり前だ、だが。

 

 部下達は、味方の戦艦に意味もなく、狙われ、殺されたのだ。

 

「ステラ!」

 

 

 

 怒りを露わに、ウィンダムのビームサーベルを引き抜く。その彼を庇うように、カオスガンダムが前に出た。

 

 

 

「ネオは、ステラが守る!」

 

「生意気言ってんじゃない!」

 

 

 

 瞬間だった、2人の男はニヤリと厭らしい笑みを浮かべ、カオスガンダムのパイロット、純粋な少女に話しかける。

 

 

 

「見つけましたよ、ステラ・ルーシェ」

 

「デビルガンダムのために、その身を捧げて頂こう。ステラ・ルーシェくん」

 

 

 

 彼らの言葉にあからさまな悪意を感じたネオは、怒りの表情のまま、問いかける。

 

「デビルガンダム? わけの分からねぇ、話をしやがって!!

 

 なんの話だ!?」

 

 

 

 その時だった、ネオのウィンダムとガイアガンダムを庇うように、オーブのムラサメ隊が、前に出たのだ。

 

 隊長機らしき男から、通信が入る。

 

 

 

「おい、連合の隊長機! その子を連れて逃げろ!」

 

 

 

 いきなりの展開に、さすがのネオも頭が混乱し始めていた。無理もない、仲間の船に撃たれたと思いきや、今度は敵のはずのオーブ軍に守られている。

 

 

 

「ど、どういうつもりだ!」

 

「俺はオーブ軍ムラサメ隊隊長、アンドリュー・バルトフェルドだ。いいか、やつらに捕まるな!

 

 やつらの狙いはその子だ!」

 

「なぜオーブが俺たちを守ってくれるんだ!?」

 

 

 

 当たり前の質問に返ってきた答えは簡潔なものだった。

 

 

 

「説明をしている暇はない!」

 

 

 

バルトフェルドの答えに割って入るネットリとした声。

 

 

 

「おっと、逃がすわけにはいきませんねえ!

 

 生体ユニットとして必要なんですよ、その少女は!!」

 

「ほう。やはりオーブ軍にはデビルガンダムのことまで筒抜けか」

 

 

 

 2人の男の目の下には、六角形の金属片が浮かび、鱗のように浮き上がっている。

 

 その只ならない雰囲気に、ネオが背筋を凍らせながら、バルトフェルドに問いかける。

 

 

 

「デビル、ガンダム……?」

 

「ネオ……! どうするの?」

 

 

 

 ステラの問いに、一瞬だけ、ネオは思案すると、すぐに指示を出した。

 

 

 

「あの連合艦、あきらかに俺たちを狙ってローエングリン砲を撃ちやがった。しかも、俺の部下を落としやがって。

 

 仇を取りたいところだが……、ここはステラを逃がす方が先決だ。

 

 殿は、俺が務める! ステラは急いで、この海域を離れて、東方先生に助けを求めろ!!」

 

 

 

「やだ! ネオも一緒にーー!!」

 

 

 

「ワガママ言うんじゃない、隊長が殿を務めるのは当然のことだ!! それに敵国の軍人に護られるだけってのは、俺のプライドが許さねえんだよ!!」

 

 

 

 ウィンダムを捕まえて退こうとするステラを振り払い、ネオは、ビームサーベルを引き抜いて不気味な2人の男が乗る戦艦を睨む。

 

 

 

 

 

「ふっふっふっふっふ、では。始めましょうか」

 

 

 

 アズラエルと呼ばれた戦艦のカタパルトデッキが解放され、三つの黒い光の球が現れると、三機の機体となってデッキから射出される。

 

 

 

「さあ、ショーの始まりだ!

 

 せいぜい奏でてくれ、お前たちの絶望の声音を!!」

 

 

 

「行きなさいっ! 私の可愛いガンダム達よ!!」

 

 

 

 ウルベ、ウォンの言葉と共に、三機の独特な姿をしたガンダムが現れた。

 

 

 

「なっ!? ガンダムだと!?」

 

「連合艦に新型が!!」

 

 

 

ガンダムーー、フリーダムガンダムやカオス、ガイア、アビス等を見ればわかるが、その機体は既にC.Eの世界でも力の象徴となりつつある。

 

 

 

そんな機体が、3機も現れたのだ。

 

 

 

ネオに取って、それは正に異常なことだった。

 

何故ならば、今の連合には新型のガンダムを作るだけの技術がない。

 

 

 

だから、ザフトのガンダム3機を奪ったのだ。

 

なのに、死を告げる不吉な天使であり、前ブルーコスモスの盟主であった者の名を語る戦艦から現れた3機のガンダムは、その機動性を見せるだけで、この世界のどのMSよりも桁違いであると、理解させる。

 

 

 

ネオ達が悟る中、オーブ軍の隊長機2機も、声を上げた。

 

「馬鹿な! あの動き、あれはMF!?」

 

「シャイニングガンダムの戦闘データにあったな。

 

記録映像でみた機体と合致する。たしか、キョウジの弟たちが倒したガンダムたちだ」

 

アマギの言葉にバルトフェルドも頷きながら、自分が見た記録映像と照らし合わせる。

 

 

 

「未来世紀……つまり、俺たちとは違う世界で造られたMSだな。いや、MFと言うべきか」

 

 

 

「おい、オーブの隊長機!」

 

 

 

その時だった、オーブの指揮官であり、先ほど自分達を逃がそうとした男にネオが話しかけたのだ。

 

 

 

ネオは、バルトフェルド機の横に並ぶと、ビームサーベルを引き抜いて、盾と共に構えた。

 

 

 

「ーーネオ!!」

 

「ーーステラ、東方先生に言伝、頼んだぜ!!」

 

 

 

ネオの言葉に、ステラは目に浮かんだ涙を拭うと、キリッと眉を吊り上げ、凛とした表情で告げた。

 

 

 

「ーーうん、待ってて!

 

すぐに、師匠を呼んで助けてもらうから!!」

 

 

 

言うや、ステラは先ほどまでの迷いを切り捨て、一気にマスターガンダムの元へガイアガンダムを走らせる。

 

 

 

バルトフェルドは、このやり取りに苦笑を浮かべた。

 

 

 

「あまり賢い選択とは言えんな。

 

きみも逃げたほうがいい。あれはMFだ。MSとは出力がまるで違う。

 

僕もきみを守ってやれる自信はない」

 

 

 

「寝言は寝て言え!

 

敵に護られるなんざ、俺のプライドが許さん!!

 

 それに何より、俺だって守らなきゃならないものがあるんだよ!!」

 

 

 

これにネオも地球連合の軍人として意地を張る。

 

確かに、連合に裏切られたのは事実だが、それでも、先ほどまで領土を攻め入ろうとしていた国の軍に、命運の全てを委ねるなど、ネオにはできない。

 

 

 

その言葉に、バルトフェルドは、微かに目を見開いた後、笑みを深いものにして、問うた。

 

 

 

「お前さん、名は?」

 

「ネオ・ロアノーク。階級は大佐だ」

 

「そうか……」

 

「なんだ?」

 

「いや、そんな場合じゃないのは、よく分かってるんだが。

 

昔、連合にいた友人とよく似たことを言うやつだ、と思ってな」

 

 

 

何故か、バルトフェルドと名乗る男の言葉に、ネオも懐かしさというか、親しみを感じ、一瞬手を止める。

 

 

 

(何だ? 俺は、何かを忘れている?)

 

 

 

次の瞬間、2人に向かって、アマギが声を張り上げる。

 

 

 

「来るぞ!」

 

 

 

2人の機体ーーウィンダムとムラサメは、同時に構え、敵の方を振り返る。

 

 

 

ーーうぅううううああああっ!

 

ーーうぅううぅうう

 

ーーいひひいぃいいいひぃいいいひひひい

 

 

 

明らかに土気色の肌をしたパイロット達が赤く底光る目を剥いて、言葉らしい言葉を発さずに構える。

 

その不気味さと迫力は、正しくゾンビそのものだった。

 

 

 

「なんなんだ、こいつらは!?

 

安っぽいB級ゾンビホラーの真似事か!?」

 

「そんなチンケなモンならいいんだがな。

 

タチの悪い悪魔の手先さ」

 

 

 

ネオのヤケクソじみた問いかけに、バルトフェルドが落ち着き払って返す。

 

その横で、アマギが自身の部下達に命令を下していた。

 

 

 

「いいか、狙うのはコクピットだけだ!

 

 手や足なんて中途半端なところを攻撃しても再生されるぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

 

 

アマギの言葉に、敬礼をして応えるオーブ軍。その横で、ネオがまたしても、首を傾げていた。

 

 

 

「なに、再生ーー?」

 

 

 

先ほどまで、最低限の攻撃だけで、ほぼ防戦に徹していたオーブ軍が、問答無用でコクピットを狙う姿勢もだが、聞き捨てならない単語が出た気が、した。

 

 

 

一瞬後、馬と馬車が一体となったチャリオットを駆るギリシャ神話の様なガンダムが、腰の剣を引き抜く。

 

 

 

対峙するムラサメ7機は、戦闘機タイプに変形すると、音速で編隊を組みながら、旋回。

 

 

 

ビームキャノンを放出する。そのビームは、エネルギーの渦となり、強烈で野太い光の大砲へと変化する。

 

 

 

強烈な光砲は、3機のMFに襲いかかった。

 

 

 

「ひとつは弱い矢でも、七本束ねれば!」

 

「その威力は戦艦の副砲ーーゴッドフリートにも迫る!」

 

「これでーーどうだ!!」

 

 

 

迫り来る光の襲撃に、ギリシャの彫刻のような姿の男ーーマーキロット・キュロノスが叫んだ。

 

 

 

ーーんあああああっ!!

 

 

 

ゼウスガンダムは、右手に持った剣を雄叫びと共に横一閃に空を薙ぐ。

 

 

 

ブウンッ

 

ズバァッ

 

 

 

振り切った剣は、易々と目の前に迫ったビームの大砲を切り裂き、霧散させた。

 

 

 

「ーー無傷、か」

 

 

 

誰かの言葉に、皆が頷く。

 

やはり、兵器としてのレベルが違う。普通の機体では、MFにはまるで敵わない。

 

 

 

そんなオーブ軍を嘲笑いながら、ウォン・ユンファは話しかけた。

 

 

 

「フン、舐められたものですね。十にも満たないMSでガンダムファイターを相手にしようなどと」

 

 

 

ウォンは、モニターに映るオーブ軍から目を、3機のガンダムの内の一機に移す。

 

先ほどオーブ軍のビームを見事に防いだ、ネオギリシャのガンダムーー。

 

 

 

「わたしの可愛いゼウスガンダム、すこし相手をしてあげなさい」

 

 

 

ーーぐああああああっ

 

 

 

 

 

 ウォンの言葉に応えるように、ゼウスガンダムは雄叫びをあげると、右手に雷の球を作り上げた。

 

 

 

ーーーーさ、さぁ、裁ぃのぉおお!!雷ぃぃいい!!

 

 

 

右手に小型の光る槌が現れ、ゼウスはそれを握る。

 

 

 

瞬間、オーブ軍を守っていた雷壁を遥かに凌駕する稲妻が、7機のムラサメに迫る。

 

 

 

ガガァッ

 

 

 

「「「「「ぐあああああっーー!!」」」」」

 

 

 

 ほとんどのムラサメ隊は、今の一撃で神の怒りに触れた蚊トンボのように力を無くし、海面へと落ちていった。

 

 

 

残ったのは、稲妻を避けた、トダカとバルトフェルド機のムラサメ2機。

 

 

 

そして、同じく攻撃を避けたネオのウィンダム。

 

 

 

彼らの様子を見ながら、アズラエルの指揮官席に座る男ーーウルベは、嗤った。

 

 

 

「ほう。

 

ガンダムファイターの攻撃を避ける者が、こんな世界に居たのか。

 

中々、面白いな」

 

 

 

ウルベは余裕を持って、必死に足掻く3機のMSを見て嗤っている。

 

小さな子どもが、必死に逃げようとーー生きようと抵抗する虫の足をもいでいく様な、残酷な行為を心から楽しんでいる。

 

 

 

「ーーくそっ!一気にもっていかれたか!」

 

 

 

避けたネオが吐き捨てる様に嘆くが、隣のバルトフェルドは、冷静だった。

 

 

 

「まあいい、あのガイアのパイロットさえ逃がせば、最悪の事態から逃れられる」

 

「さっきからデビルガンダムだの最悪の事態だの、なんの話をしてるんだ」

 

「説明してやりたいのはやまやまだが、まずは目の前のやつをどうにかしないとな」

 

「ーーそれは、そうだが!!」

 

 

 

バルトフェルドの言葉に理解はできるものの、ネオは釈然としない気持ちのまま、操縦桿を握りしめる。

 

 

 

その時だったーー。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

「ーーあぐうっ」

 

 

 

強烈な炸裂音とともに、遥か後方から、ガイアが吹き飛ばされてきたのだ。

 

「どうした、ステラ!」

 

 

 

 ネオ達がふり返ったさきで、閃光とともに2機のガンダムが現れる。

 

 

 

「こ、これはっ」

 

「ドラグーンシステム!」

 

 

 

 無数の宙に浮かぶ球が、ピエロの姿を模したガンダムの袖口から、現れていた。

 

 

 

「てめえ! よくも、俺の部下をぉおっ!!」

 

 

 

ステラを傷つけたピエローージェスターガンダムと蛇の顔を被ったコブラガンダム。

 

2機のファイターを前に、ネオ・ロアノークの怒りが頂点に達した。

 

 

 

「いかんっ!」

 

 

 

バルトフェルドは、明らかに戦闘力に差がある上に逆上したネオの無謀な行為を止めようとする。

 

 

 

ビシュンッ

 

 

 

 しかし、バルトフェルドが止めるよりも、ネオが2機のガンダムに斬りかかるよりも、早く瞬間移動でウィンダムの目の前に現れるゼウスガンダム。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

 ゼウスの拳が振り上げられ、ウィンダムを吹き飛ばす。

 

 

 

ドッ

 

バギャアッ

 

 

 

 その後ろに居たバルトフェルド、アマギ機もぶっ飛ばされたネオを受けきれず、後方へ吹き飛ばされていく。

 

3機は、ステラ機との距離が開いてしまう。

 

 

 

「ステラぁああーーー!」

 

「ぐうううっ」

 

「なんて、パワーだ!!」

 

 

 

機体の姿勢を立て直しながら、ステラのガイアガンダムを襲うピエロとコブラを睨み付けるネオ。

 

自分達とステラの間を阻む、ゼウスガンダムーー。

 

 

 

「ううっ、あああ!」

 

 

 

ーーーースネェェイク、バインドォォオオッ!!

 

 

 

 蛇の下半身と、巨大なコブラが顎を大きく開いた口の中に顔を持つガンダムが、ステラのガイアガンダムの四肢を、その蛇の体で巻きつき、自由を奪う。

 

 

 

「ーーなっ!?」

 

 

 

 同時に、コブラを被ったようなガンダムは、その被り物を脱ぎ捨てるかの様に、分離した。

 

 

 

人型のガンダムが、ガイアガンダムの目の前に現れ、右手に持った笛の先から、ビームサーベルを生み出す。

 

 

 

ステラやネオが知る由もないが、コレがネオインドのコブラガンダムとそのサポートユニットの攻撃方法だった。

 

ガンダムファイターは、蛇使いのチャンドラ・シジーマ。

 

サポートユニットを操る彼の飼い蛇までをも、DG細胞は復活させている。

 

 

 

ガブリッ

 

 

 

突如、ガイアのコクピットがある胴の脇に牙を突き立てる巨大なコブラを模したサポートユニット。

 

フェイズシフト装甲のあるガイアには、ダメージらしいダメージはない。

 

 

 

「ネオ!」

 

 

 

ステラは、吹き飛ばされたネオと、倒されていった連合の仲間達を頭の中に思い浮かべ、目の前で自分達を嘲笑うかのような3機のガンダムを睨みつけた。

 

「許さない……、許さないっ!」

 

 

 

シュオオッ

 

ギギィッ

 

 

 

ステラは、明鏡止水で機体と反応速度を強化すると同時に、上がったパワーで無理やり締め付ける蛇の体を開く。

 

口を開いて睨み付けて来るサポートメカを睨みつけたのち、投げ飛ばすガイアガンダム。

 

 

 

ガキィッ

 

ズバァッ

 

 

 

同時に狼の姿に変身し、背中のビームブレードでコブラを真っ二つにした。

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

 宙で爆発するサポートメカに見向きもせずに、ガイアガンダムの正面に斬りかかってくるコブラガンダム。

 

 咄嗟にMS形態に戻ったガイアはビームサーベルで斬りかえす。

 

 

 

バチバチバチィッ

 

 

 

火花を散らす、2つの光の刃。

 

 

 

ーーーーふっふっふっふ、ほっほっほっほっほ

 

 

 

 理性を感じない甲高い声で嗤うコブラガンダムのパイロット、チャンドラ・シジーマ。

 

 

 

ギィンッ

 

 

 

 強烈な一閃に、後方へ切り払われるガイアガンダム。

 

しかし、その勢いに逆らわずに吹き飛ばされると、クルッと機体を反転させ、ビームサーベルを横薙ぎに払った。

 

 

 

ズバァッ

 

 

 

 その剣の先には不気味なピエロを模したジェスターガンダムが狂気の高笑いを浮かべながら、現れていたのだ。

 

 

 

ーーーーひゃーっははははははっ!!

 

 

 

ビュンッ

 

 

 

 ジェスターガンダムは、ガイアの横薙ぎを前に踏み込むと同時に屈んでかわし、両手の拳を握ると、高速連打のワンツーを繰り出す。

 

それは、ガンダムマックスターのバーニングパンチを模したもの。

 

 

 

バギバギバギィッ

 

 

 

 高速の左右の連打に天高く舞い上がる、ガイアガンダム

 

 

 

「ーーくうっ」

 

 

 

 天頂で、機体の姿勢を整えるステラ。

 

 その時だった、赤い光が、アズラエルから放たれ、ガイアガンダムに当たった。

 

 

 

カアアッ

 

 

 

「ーーああああっ!!

 

な、なにーー!?」

 

 

 

機体には、損傷が無いが、ステラの苦しみようは普通じゃ無い。

 

よく見れば、放たれた赤い光は、先ほどコブラの姿をしたサポートメカに噛まれた部分ーーコクピットのすぐ横に集まっている。

 

 

 

ネオは、通信を必死に入れた。

 

 

 

「ステラ、どうした!?」

 

 

 

明鏡止水を発動していれば、ある程度の攻撃は、防げる。

 

しかし、彼女の苦しみ方と、この光が物理的な攻撃では無いことが、ネオに嫌な汗をかかせる。

 

 

 

「ネオ、助けてーー!

 

この光、いやーー! 怖い!!

 

ステラが、ステラじゃ、なくなるーー!!」

 

 

 

「なんだとーー!?

 

マインドコントロールシステムか!?」

 

 

 

赤い光を受けたガイアから放たれるエネルギーは、底無しに上がっていく。

 

 

 

同時に苦しんでいたステラ・ルーシェのあどけなさを残す顔は、悪鬼のように歪んでいく。

 

 

 

「う、うおおおおーーっ!!!」

 

 

 

ステラが、口から放ったのは、獣をも退ける迫力を持った雄叫び。

 

 

 

「ステラーーーーー!!」

 

 

 

ズドォアッ

 

 

 

強烈な赤い光の柱を立て、ガイアガンダムが仁王立ちしていた。

 

彼女から、完全に理性と人格が失われた瞬間だった。

 

 

 

「くっ、こいつら……!」

 

「なんという、卑劣な真似を!!」

 

 

 

あまりにも、非人道的なやり方に、バルトフェルドとアマギは、怒りを露わにした。

 

 

 

これをアズラエルのブリッジから見るウォンは退屈そうにチョコレートを食べていた。

 

ただし、口元には、見るものに嫌悪感を抱かせる類の笑みを浮かべて。

 

 

 

「ふっ、口ほどにもありませんねえ。

 

こうも思い通りに行くとは……!」

 

 

 

「いや、MFを相手にあそこまでの動きができるのだ。充分だろう。生体ユニットとしては合格ラインだ。

 

バーサーカーシステムも兼ねて、いろいろ試してみるとしよう」

 

 

 

ウルベは、冷酷にして酷薄な笑みを浮かべながら、ウォンに笑いかける。

 

するとウォンも、我が意を得たりとばかりに笑い、ゼウスガンダムを向いた。

 

 

 

「中々、楽しそうですね。

 

さ、回収しなさいゼウスガンダム」

 

 

 

「クソッ!」

 

 

 

自分達のことなど、まるで眼中に無いかのような振る舞いに、ネオは赤い光を纏うステラを背に庇うようにして、ウィンダムにサーベルを構えさせる。

 

 

 

悠然と3機の亡者達は、ステラの方へと近づいてこようとする。

 

これに、バルトフェルド、アマギも自身のムラサメにビームサーベルをもたせて、構える。

 

 

 

「彼女を連れ去られるわけにはいかん!

 

 あの悪魔の機体を蘇らせることになってしまう!!」

 

「了解です、バルトフェルド殿!!」

 

 

 

いくらカスタマイズしているとはいえ、量産機である3機でMF3機の相手はできない。

 

 

 

( どうする!?

 

この状況を、どうすれば凌げる!?)

 

 

 

バルトフェルドが、思考する横で、ネオが静かにつぶやいた。

 

 

 

「ステラ、すまない。

 

だが、お前だけは必ず逃してみせる!!」

 

 

 

3人は覚悟を決め、亡者のMFと向かい合う。

 

 

 

ーーううううううっ

 

ーーああああああっ

 

ーーへへ、へへへひへへひへええ

 

 

 

3機の亡者達は、まるで彼らの覚悟を嘲笑うかのように無防備に前に出てくる。

 

 

 

その時だったーー。

 

 

 

ズドォッ

 

 

 

亡者の内の一機ーーゼウスガンダムの胸部が、あさっての方向から放たれた青紫の光弾に、撃ち抜かれたのだ。

 

 

 

「な、なんだっ!?」

 

 

 

思わずそちらを見ると、赤いマントの様なウイングバインダーを広げた機体が、あった。

 

 

 

バサァッ

 

 

 

「この技は、東方先生!? いや、違う」

 

 

 

逆光になっていて、ハッキリとは見えないが、マスターガンダムの羽と酷似しているものの、丸みを帯びた白い顔は、マスターガンダムのソレとは似ても似つかない。

 

 

 

「あれは!? なんだ、あの機体は?」

 

 

 

記録映像にあったゴッドガンダムの顔だ。

 

咄嗟にバルトフェルドは、副操縦士であるハロに機体の解析をおこなわせる。

 

 

 

「このエネルギー反応は、まさかーー!?」

 

 

 

そこから出たデータは、バルトフェルドのよく知るキョウジの放つ波動によく似ていた。

 

そう、オーブを襲ったあの悪魔のものだったのだ。

 

 

 

同時に、ネオも気づく。

 

「あれは、東方先生と戦っていたガンダム……

 

あんな一撃ーー石破天驚拳ーーを食らって、まだ生きてたのかよ!?」

 

 

 

愕然とするネオの前に、現れた悪魔の機体は、20メートルを越える自身をウルベ達やゼウスガンダムと、ネオ達の間に割って入る様に悠然と前に出る。

 

 

 

「これはこれは。役者がそろったというべきかな?」

 

 

 

マスターガンダムの翼と両腕、ゴッドガンダムの胸から上を合わせた見た目の機体は、彼が選んだ最強の姿。

 

 

 

赤い髪を気になびかせ、鋭い瞳で彼は、モニターに現れた亡者達の奥にいるアズラエルを睨み付けた。

 

 

 

「ウルベ、ウォン……。貴様ら、まだ生きていたのか」

 

 

 

現れた炎の様な赤い髪をウットリと眺め、冷たい翡翠の瞳は、興奮に濡れていた。

 

 

 

「ああ、焦がれて焦がれたよ。

 

私はね、誰かに会うのをこれほど、待ち望んだことはない!!

 

再び、我がものとなれ!!

 

そして、今度こそ、すべてを支配しようぞ!!」

 

 

 

司令席から立ち上がり、興奮に目を見開きながら、ウルベは両腕を大きく左右に広げて、宣言した。

 

 

 

「ーーデビルガンダムよ!!」

 

 

 

 

 




みなさん、お待ちかね〜!

デビルガンダムの生態ユニットとして、ステラを選んだウルベとウォン。

しかし、デビルガンダムこと、Dは彼らを排除しようとファイトを挑むのです!!

次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第39話に!

レディー、ゴー!!


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第39話 混沌のオーブ 悪魔 対 魔人

オーブでの戦いは、熾烈を極め。

混戦に次ぐ混戦に、キョウジやマスター、バルトフェルド達にも、変化が訪れます。

果たして、ウルベ達の前に立ったデビルガンダムこと、Dの真意は??

それでは、ガンダムファイト!!

レディィィィッゴォォォオオオッ!!!!

第39話



 未だ続く、人智を超えた戦い。

 

 

 

 再び、強烈な一撃が互いを目掛け、振りかぶり、放たれる。

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

 苛烈にして熾烈ーー。

 

 

 

 白と黒の鬼神が、互いに圧倒的な力をーー黄金の闘気を、全身にまとい、ぶつかり合う。

 

 ガンダムと呼ばれた二機の機体は既に神の領域へとーー。 

 

 互いの力を際限なく高めあう。

 

 

 

「やりおるわ!!

 

 しかし、この程度ではワシは倒せんぞ!!」

 

 

 

「フフフフ、フハハハハ、ハァーッハハハハハハハ!!

 

 ーー死ね、マスタァー!

 

 アジアァアアアアアアア!!」

 

 

 

「言うて、くれるわぁああああああ!!!」

 

 

 

 強烈な拳を互いに撃ち、相殺すると同時に距離が空く。

 

 

 

 すかさず、互いに高まった気と気をぶつけ合う。

 

 

 

 この戦いに、終止符などあるのだろうか

 

 

 

 まるっきり、おとぎ話や神話のような戦いだ。

 

 

 

 拳を、蹴りを、互いに連続で繰り出しあう。

 

 

 

 その拳は天を裂き、その蹴りは海を割り、その気は地を穿つ。

 

 

 

 二つのすさまじい力と力のぶつかり合いは、脅威を通り越し、幻想的な光景へと映っていた。

 

 

 

「ガンダムファイト、か。

 

 俺とカオスもーーこれだけの戦いを繰り広げるようになれるのだろうか?」

 

 

 

「アビス……! 

 

 僕とお前の戦いは、まだ終わっちゃいないよな……!!」

 

 

 

 その光景を、ガーティ・ルーのブリッジの中から、東方不敗の二人の弟子が見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 キョウジは瞳に凶気を、マスターは鬼気を宿らせてーー。

 

 

 

 神々しい宝石のような光を両の拳に宿し、白と黒の機神は互いを目掛けて殴りつける。

 

 

 

バギィバギィッ

 

 

 

 両者の対決はいつしか、ハイレベルな技術戦と駆け引きは終わり、足を止めての打ち合いへとシフトしていた。

 

 

 

 後方にはじけ飛ぶ両者の首。その度に元の位置に戻し、反撃する。

 

 

 

 どちらがより強い一撃を放つか、どちらがより耐えられるか。

 

 

 

 両者の対決は、精神が肉体を凌駕した状態にある。

 

 

 

 同じようなことが何度も起こっているはずなのに、誰もが動けない。

 

 

 

 誰もが、見とれて、何もできない。

 

 

 

 意味もなく、彼らの頬に伝うのは、涙。

 

 

 

「た、隊長ーーーー!」

 

 

 

「あ、ああ。何故だ? なぜ、撃てないんだ?」

 

 

 

 この場にいる誰もが、手を出せない。

 

 

 

 力の差というのは、もちろんある。

 

 

 

 だが、それを抜きにしても、彼らの戦いはこの場にいるすべての人々の心に訴えかけていく。

 

 

 

 職務に忠実である軍人達の心をも、掌握する悪魔と鬼神の戦いは、まだまだ終わりそうにない。

 

 

 

 いや、なかったーー。

 

 

 

ザンッ

 

 

 

 空中で力をぶつけあったシャイニングガンダムとマスターガンダムは、地上に戻り、互いに構える。

 

 

 

 その時だった。一発の光弾が両者の間に放たれ、地面に炸裂した。

 

 

 

パシュンッ

 

 

 

「ーーなんだと?」

 

 

 

「このタイミングで現れたか。丁度良い、手間が省ける」

 

 

 

 マスターアジアは、疑問の声を上げながら、キョウジは凶眼で睨みつけながら、乱入してきた2機のガンダムを見据える。

 

 

 

 長距離ライフルを構えているガンダムと、手身近な岩山に腰掛けてこちらを睨むガンダムが、そこにいた。

 

 

 

「久しぶりだな、マスターアジア。

 

 今度は、俺とファイトしてもらおうか」

 

 

 

「よお、シャイニングガンダムにキョウジ・カッシュ!

 

 今度こそ、てめえらを血祭りに上げてやるぜぇ!!

 

 この俺様とネロスガンダムがなぁ!!!」

 

 

 

 マスターアジアは、一瞬だけ目を大きく見開いた後に、自嘲気味に笑った。

 

 

 

「なるほど。

 

 ワシもまだ、禊は済んでおらなんだ、ということか。

 

 ジェントル・チャップマンにミケロ・チャリオットよ」

 

 

 

 悲しげに懺悔しようとするマスターアジアを制し、チャップマンは、淡々とこたえた。

 

 

 

「勘違いするな、マスターアジア。

 

 俺は、貴様ともう一度闘いたかったのだ。デビルガンダムに操られてではなく、自分の意思でな」

 

 

 

「よかろう。ならば、その意思に応えるまで!!」

 

 

 

 構えるマスターアジアに、にやりと笑みを返すチャップマン。

 

 その横で、ミケロが笑いかける。

 

 

 

「いいのかぁ?

 

 悠長なこと言ってて、テメエの大事な弟子を一匹取られちまうかもなぁ?」

 

 

 

「なんだと?」

 

 

 

 訝しげに問い返すマスターアジアに、ミケロはニヤリと笑う。

 

 

 

「ウルベやウォンの悪党ぶりはテメエらも、知ってんだろ?

 

 マスターアジア、キョウジ・カッシュ!!」

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

 ミケロの言葉に、キョウジとマスターが、同時に目を見開いた。

 

 

 

「ウルベ、だとーー?」

 

 

 

「まさか、ウォンの奴が生きておると言うのか!?」

 

 

 

 ミケロは、楽しげに顔を歪め、吠える。

 

 

 

「いい顔だぁ!!

 

 いいか、マスターアジア!

 

 デビルガンダムを活性化する最も重要なパーツ。

 

 生体ユニットには、テメエの弟子の小娘が良いんだとよ!!」

 

 

 

 おし黙るマスターアジアをチラリと見た後、キョウジは無言のまま、凶眼をミケロへと向ける。

 

 

 

「余計なことを教えてくれたものだ。

 

 折角のファイトに水を差す気か、ミケロよ?」

 

 

 

「真実を教えてやったんだ。

 

 むしろ、感謝してもらいてーな!!」

 

 

 

 淡々と述べるチャップマンに、耳障りな笑い声を上げながら返すミケロ。

 

 

 

 対峙するマスターアジアの目は、影で見えない。

 

 

 

「ーーチャップマンよ、ミケロの話は、本当なのだな?」

 

 

 

「ああ、そのとおりだ」

 

 

 

 チャップマンが応えた瞬間、黄金の気柱がマスターガンダムから上り、鬼の形相のマスターアジアがそこにいた。

 

 

 

「貴様、武道家としての誇りを捨てたか!?

 

 その拳を、悪党どもの為に振るうとは!!」

 

 

 

「勘違いするな、マスターアジア」

 

 

 

対峙するチャップマンは、淡々とした口調でロングライフルを背中にかけると、拳を握って構える。

 

 

 

「俺は、あくまで貴様と闘いたかっただけだ。

 

 その為ならば、何処で誰が泣こうと知らんさ」

 

 

 

「その様な、薄っぺらい考えで、このワシを倒せると思っておるのか!?

 

 誇りの無い貴様など、一瞬で叩き潰してくれるわ!!」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 黄金の光を纏うマスターガンダムは、羽を広げると、一瞬でジョンブルガンダムの懐に踏み込んだのだ。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

 凄まじい炸裂音と土煙が立ち上る。

 

 土煙が晴れた時、目に映るものは、黄金のマスターガンダムが放った右の拳を右掌にて掴み止めるジョンブルガンダムの姿だった。

 

 

 

「チャップマン、貴様!!」

 

 

 

「ーー美しい輝きだな。

 

 人機一体の境地、明鏡止水か。

 

 しかし、マスターアジアよ。

 

 そもそも、俺たちガンダムファイターにとって機体とファイターの動作融合など、基本中の基本。

 

 わざわざ、勿体ぶるほどのことではない」

 

 

 

 目を細めてチャップマンは言いながら、ジョンブルガンダムの左拳がマスターガンダムに放たれる。

 

 

 

 マスターガンダムは、ハイパーモードにより上がったパワーで、掴まれた拳を引き抜くと、放たれた左拳を膝を屈ませる事で、上体を低くし、紙一重で攻撃をかいくぐる。

 

 そして打ち終わりを狙った、見事な返しの左掌底打ちを顎めがけて振り上げる。

 

 

 

 上半身を反らせ、鼻先で掌底打ちを見切るジョンブルガンダム。

 

 避けると同時に、右の膝蹴りをマスターアジアのガラ空きの脇腹に放つ。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

 強烈な膝の一撃は、マスターアジアの右掌に掴み止められていた。

 

 咄嗟に、ジョンブルガンダムは、左右の拳をマスターガンダムの顔面に散らす。

 

 

 

 首をひねりながら避けるマスターガンダムだが、あまりの手数にバックステップし、距離を置いて構える。

 

 

 

「金色の輝きなどなくても、機体とファイターは一体になれるさ」

 

 

 

「ふん、そのようなセリフは、このワシを倒してからほざくが良いわ!!」

 

 

 

「無論ーーそのつもりだ」

 

 

 

 構え直す、両者の横で、シャイニングガンダムを駆るキョウジと、ネロスガンダムを駆るミケロのファイトが、勃発している。

 

 

 

 マスターアジアは、混戦となった戦域を自覚し、チャップマンから眼をそらす事なく、ガーティー・ルーに告げた。

 

 

 

「よいか、イアン!

 

 貴様らは、急ぎネオ達の部隊に合流するのだ!!」

 

 

 

「? 隊長達と、ですか?」

 

 

 

 名指しで呼ばれた副長にして、艦長であるイアンは、咄嗟に問い返す。

 

 

 

「こやつらが現れたタイミングと、ネオ達の報告が来ない理由は一つ!

 

 奴らも苦戦しておるはずだ、すぐに迎えぃ!!」

 

 

 

「わかりました、貴方を信じます。ご武運を!」

 

 

 

 イアンは直様、ガーティ・ルーをネオ達のいる海域へと向けた。

 

 

 

 同時に、横で連続で放たれる槍の穂先のような蹴りを見事に捌いているキョウジも、アークエンジェルに告げる。

 

 

 

「ーーマリューさん。

 

 あんた達も、バルトフェルドの所に向かってくれ」

 

 

 

「ーーそんな、キョウジさん!?」

 

 

 

「頼む、バルトフェルドのいるであろう場所から、俺と同じ力を感じる。

 

 最悪、バルトフェルド達を連れて逃げてくれ」

 

 

 

 キョウジの言葉に、キラが鋭い眼になる。

 

 

 

「デビルガンダムーー?」

 

 

 

「…多分な。

 

 だが、注意するのは、デビルガンダムだけじゃない。

 

 バルトフェルド達を襲ってる部隊にも、気をつけろ」

 

 

 

「わかりました、マリューさん!!」

 

 

 

 キラの言葉に、マリューもようやく頷くと、アークエンジェルは、戦域を離れていく。

 

 

 

「持ち堪えろよ、バルトフェルドーー」

 

 

 

バギィッ

 

 

 

 ネロスガンダムから連続で放たれる蹴りの中、一つを選んで蹴り返し、逆に後方へ吹き飛ばす。

 

 

 

「こちらも、すぐに片付けるーー」

 

 

 

 獲物であるネロスガンダムを見据える、キョウジの凶眼は、鋭利な刃物の様にギラついている。

 

 

 

ーーーーーー

 

 オーブ海上にて、睨み合う3勢力。

 

 

 

 赤を基調とした胸から上、白い顔。

 

 普通サイズのMSよりも更に大きい巨体だが、スマートなフォルム。

 

 

 

「デビルガンダム……、より戦闘に向いた姿ですね。

 

 しかし、その生体ユニットと顔は一体?

 

 なぜ、ドモン・カッシュとゴッドガンダムなのですか?

 

 あなたの能力を最大限に引き出せるパーツは、女であることは、既にご存知のはず」

 

 

 

 改めて観察し、ウォンは静かに疑問点を並べた。

 

 

 

 ゴッドガンダムを模した胸のエネルギーマルチプライヤーや、マスターガンダムの背中のウイングバインダーと両腕は分かる。

 

 

 

 その機能の優秀さは、ウォンも理解できる。

 

 

 

 しかし、ガンダムの顔までゴッドに似せる意味はない。まして、生体ユニットをドモン・カッシュにする意味など女性こそが、最もユニットに適しているというデータがある以上、皆無だ。

 

 

 

「我とて乗り手は選ぶ。我が選びし者は、ただ一人。

 

 その者に相応しい機体となる、それだけのことだ」

 

 

 

 ウォンの片眉が上がるも、彼は何も言わずにいた。

 

 その横から、今度はウルベがDに声をかける。

 

 

 

「デビルガンダム、一応聞いておこう。

 

 私たちと共に来る気はあるのかな?

 

 いや、今はDと名乗っているんだったな」

 

 

 

 ウルベの言葉に一つ頷き、ウォンも同調する。

 

 

 

「……DG細胞の力を使って、今一度、世界を支配しようじゃありませんか、デビルガンダム!!

 

 私とウルベが揃えば、こんなちっぽけな世界など、すぐにDG細胞で埋め尽くすことができるでしょう!!

 

 この世界で力を蓄え、元の世界に戻った暁には、すべてを喰らうこともできるのです!!」

 

 

 

 狂った欲望に眼を見開き、話しかけるウォン。

 

 その後方からウルベは、冷めた視線で酷薄な笑みを口元に刻んでいた。

 

 

 

 彼らの話を聞きながら、ネオ・ロアノークは手に汗を浮かばせながら、操縦桿を握りしめた。

 

 

 

「なにを言ってるのか、サッパリだが。

 

 むちゃくちゃヤバそうな奴らだってことはわかったぜ。

 

 あの話が全部マジならな」

 

 

 

「ああ、その理解で充分だ。

 

 しかし……最悪だ。この間、オーブに現れたときとはまったく姿が違う。

 

 これがデビルガンダムの自己進化ってやつか。

 

厄介な能力だが、後ろの彼女も危険だな」

 

 

 

ネオの横に移動しながら、バルトフェルドも頷く。

 

 

 

 アマギとバルトフェルド、ネオは、赤い光を纏うガイアガンダムと、ウルベ達と対峙するデビルガンダムの間にいる。

 

 赤いビームを受け、様子がおかしいガイアガンダムのパイロット、ステラは先ほどから唸るだけで、何も行動しない。

 

 

 

「ステラーー、一体どうしちまったんだ?」

 

 

 

 今のステラは、ネオの知る表情豊かな彼女ではない。

 

 悪鬼のように表情を歪ませ、殺意に満ちた瞳をこちらに向けてくる。

 

 しかし、そこに意志のようなものは一切感じない、まるで人形のような冷たい瞳だった。

 

 

 

 

 

「さあ、デビルガンダム。

 

 答えを聞かせてもらおうーー」

 

 

 

 ステラをそのような状態にした張本人である男ーーウルベは、淡々と目の前の機体に語り掛ける。これを受け、赤い髪の悪魔は、邪悪な笑みを浮かべて返した。

 

 

 

「なぜ我が、貴様らのような塵芥の言葉を聞かねばならん?」

 

 

 

デビルガンダムは、両の拳を腰に置き、羽を広げて気合いを入れるーー。

 

 

 

紅黒い光を身に纏い、Dは吠えた。

 

 

 

「身の程を弁えろウルベ、ウォン。

 

 我は、デビルガンダム!!

 

 過去、未来、現在、異界において、究極のMFよ!!

 

 貴様らの様なドブネズミが、我に指図などできぬわ!!」

 

 

 

 Dの圧倒的な気迫を前に、ウルベはつまらなさそうに一瞥をくれるだけだった。

 

 彼は何の感情もない、何物をも写さないどす黒い闇を思わせる瞳で、こちらを見据えてくる。

 

 

 

「やはり、私たちとともに歩むことを拒むか。

 

 余計な自我を芽生えさせたものだ。

 

 以前の君ならば、とっくにこちらのものになっていたのだがね。

 

 ドモン・カッシュ、私たちのデビルガンダムに余計な知恵を与えてくれたものだ」

 

 

 

 ため息を一つ吐くウルベを引き継いで、ウォンが言う。

 

 

 

「今のあなたは、我々が望むデビルガンダムではありません。

 

 ならば仕方ない。

 

 あなたを倒して、自我を奪い去り、我々の望むデビルガンダムになってもらいましょうか。

 

 機械ごときが、私たち、人間に歯向かうものではありませんよーー!」

 

 

 

 ニィィイイッと口を引き裂くように笑みを浮かべるウォン・ユンファ。

 

これにDも邪悪にして不遜な笑みで迎える。

 

 

 

「ーーできるものならやってみろ」

 

 

 

「やりなさい、ゼウスガンダム! ジェスターガンダム! コブラガンダムよ!」

 

 

 

 ウォンの合図と共に、先ほど腹を撃ち抜かれたゼウスガンダムが一気に再生し、異形のガンダム三機は赤い光を纏う。

 

 

 

ーーーぐぃぁあああああっ

 

ーーーうぅううううおぁあああぅ

 

ーーーひっひひひひひぃぃいいいいっ

 

 

 

 死人が苦悶のような、愉悦のような笑顔を剥き出しにして構える。

 

 まるで、生者に自分たちの仲間になれと言わんばかりの笑みーー。

 

 

 

ーー裁きの雷ぃぃいいっ

 

ーービィイム・ヴォイドォ

 

ーーバルーン・スクリィマァア

 

 

 

 ゼウスはイカヅチハンマーを、コブラは笛の取手からビームサーベルを、ジェスターは両袖から風船に似た無数のバルーンビットを繰り出し、技を同時に仕掛けてくる。

 

 

 

「フン、くだらん」

 

 

 

ブゥウウンッ

 

 

 

 それを眺めて吐き捨てると同時、デビルガンダムは両手を腹の前で組むと、巨大なビームソードを一振り作り出した。

 

 

 

「メガ・デビルーースラッシュ!!」

 

 

 

 Dは、八双に太刀を構えて振りかぶりーー

 

 

 

「--ぬああっ!!」

 

 

 

 気合と共に、横薙ぎに空を斬り払う。

 

 

 

ーーズバァッ

 

<<<ーーーッ!!?>>>

 

 

 

世界に紫の斬閃が疾る。

 

 

 

ーーズガァッ

 

 

 

 

 

 刀身より放たれた衝撃波が、扇状に広がり、三機の異形のガンダムを技ごと、まとめて斬り捨て、爆発した。

 

 

 

「ーーこれはっ!」

 

「驚きましたね。MFの性能だけならば、すでにゴッドガンダムをも凌駕している」

 

 

 

 ウルベが目を見開き、ウォンがグラサンの淵を指で押し上げ、頬に冷や汗を流す。

 

 

 

「次は、貴様らの番だ。

 

 その空飛ぶ箱舟を棺桶にするがいいーー」

 

 

 

 Dは静かに、ビームサーベルの切っ先をアズラエルに向ける。

 

 これを受け、ウルベも笑みを浮かべて返した。

 

 

 

「ふっふっふっふっふ、なるほど、楽しませてくれる。

 

 さすがは、デビルガンダムだ。こうでなくてはつまらないというものだよ。

 

 ではウォン。私たちも始めようか」

 

 

 

「ええ。

 

 四天王、ウォルターガンダムよ!!」

 

 

 

ウルベとウォンが、自分のガンダムを召喚する。

 

 

 

「括目せよ!

 

 我が手足、グランドマスターガンダムよ!!」

 

 

 

 かの者の名は、デビルガンダム四天王の一機、笑倣江湖ウォルターガンダム。

 

 

 

 そして、その四天王の集合体とされるグランドマスターガンダムが同時にアズラエルの格納庫に出現する。

 

 

 

 カタパルトから射出された丸い球は、異形のガンダムーーMAの姿へと変化した。

 

 

 

 反対にグランドマスターガンダムと呼ばれた機体は、アズラエルの格納庫で鎮座し、全身からケーブルを伸ばしてアズラエルに接続する。

 

 

 

「我が子、ウォルターガンダム。そんなカスに使われるだけの存在に成り下がったか」

 

 

 

 目を細め、Dが侮蔑するかのようにウォンの駆るウォルターガンダムを見据える。

 

 

 

 対峙するウォンは、ニヤリと笑うと答えた。

 

 

 

「このウォルターガンダムは、外側こそあなたが造ったものですが、中身はまるで別物です。

 

 わたしのためにチューナップされている。

 

 ドモン・カッシュにやられた時とは、わけが違うんですよ」

 

 

 

「ほう。なにが違うのか、教えてもらおう」

 

 

 

「いいでしょう」

 

 

 

 Dの言葉にニヤリと返し、ウォンは球体のガンダムの外枠を中央から分割し、アーマーを開く。

 

 

 

 同時に、長いホースの様な両腕が伸び、黄色い角の様な先端がマニュピレーターであるかのように三分割して展開する。

 

 まるで、毒花の蕾が咲くように。

 

 

 

ぐぐぐぐぐ、ばきいぃ

 

 

 

 そこまでは、Dの記憶にあるウォルターガンダムと寸分違わない。

 

 しかし、ここからウォルターガンダムは、変化した。

 

 ジェスターガンダムに似た下半身から伸びるのは、カニやエビの様な細長い足が3本のはずだった。

 

 

 

 だが、今のウォルターガンダムは、下半身が異様に発達し、両腕と外殻のアーマーが融合する。

 

 伸びた二本の足は、爪先が鋭く伸びた異形の爪を3つ持つ。

 

 全体的なフォルムは、ザフト製の水中型MSゾノに似ている。

 

 

 

「ーーなに? その姿は」

 

 

 

「いかがです、デビルガンダム。

 

 この世界の技術を取り込み、進化したウォルターガンダムは?

 

 この脚と足をつければ、立派なMFになるんですよ。素人の私が使ったこの機体もね!!」

 

 

 

 ウォンの感情に合わせる様に、ウォルターガンダムのマスクが展開し、牙を剥き出し、口を開いて笑う。

 

 

 

 やや猫背気味な姿勢のウォルターガンダムは、長い前足を思わせる手をダラリと垂らしたまま、静かに前に出る。

 

 

 

 猫背気味だというのに、20メートルを超えるデビルガンダムよりも頭一つ高い。

 

 

 

 睨みあいから、先に動いたのはウォルターガンダム。

 

 鋭い右のクロー攻撃で敵を襲う。

 

 デビルガンダムはそれを上体を反らし紙一重で避け、ガラ空きのわき腹に左拳を三髪入れる、のけぞったウォルターガンダムの顔面に右のハイキックをぶち当て、後方へ吹き飛ばす。

 

 

 

「ウォルター・テンタクル!」

 

 

 

 ウォルターガンダムは両手をばっと開き、掌にあたる部分から赤いビーム砲を放つ。

 

 

 

「--デビルショット!」

 

 

 

 デビルガンダムも青紫色に輝く右の掌から光弾を放つ。

 

 

 

ズドォッ

 

 

 

 青紫の光弾と赤いビームは互いの中央で相殺しあう。

 

 

 

「さすがですねえ。ですがあなたが不利であることに変わりはないんですよ。デビルガンダム」

 

 

 

 Dは目の前のウォンから、淡々と視線だけを後方へやる。

 

 

 

「その機体はなんだ、ウルベ?」

 

 

 

 そこにいたのは、緑色と赤色と黄色のトリコロールのガンダムがそこにいた。

 

 

 

 その姿は、どこかシャイニングガンダムやライジングガンダム、ひいては進化前の自分に似ている。

 

サイズも一般的なMFの16.2メートル前後。

 

 

 

「きみやシャイニングガンダム、そしてゴッドガンダムの先輩にあたる機体だよ。

 

第十二回ガンダムファイト決勝大会。

 

わたしはこの機体で勝ち進んだ。

 

この、ウルベガンダムでね!!」

 

 

 

ウルベは誇らしげに自身の機体を見下ろす。

 

 

 

「思えばグランドマスターガンダムなどという力だけの機体に乗ってしまったのが、わたしの敗因だよ。

 

わたしはもっと早く気付くべきだった。

 

もっともわたし用にチューナップされたガンダムとはなにか、とね。

 

倒れたグランドマスターガンダムを回収し、アズラエルの動力炉兼MF製造機とし。

 

わたしはガンダム開発主任としての知識をフル活用し、わたし専用の、最高のガンダムを創りあげたのだ!!」

 

 

 

目を見開き、両手を広げ、高らかに宣言する。

 

 

 

「今の私ならば、あの時のシャッフル同盟など恐るるに足らぬ。それだけの力を手に入れたのだ!!

 

さあ、見るがいい!!

 

このガンダムこそ、わたしの力の象徴!!

 

全てを薙ぎ払う、最強のガンダムだ!!!」

 

 

 

ウルベガンダムの日の丸を思わせる胸の赤い球は、エネルギーマルチプライヤーに差し替えられ、真っ赤に光る宝石となっている。

 

 

 

「始めましょうか。

 

見たところ機体性能の差は、私たちの機体と、あなたの機体にそれほどの差はないでしょう。

 

となれば、あとは――」

 

 

 

一度言葉を区切り、いやらしい笑みを浮かべながら、ウォンはDに言い放った。

 

 

 

「数がモノを言う。

 

そう思いませんか? デビルガンダム」

 

 

 

「ーー笑わせる。

 

まとめて地獄に送り返してくれるわ!」

 

 

 

これを受け、Dも翼を大きく広げて、流派東方不敗の構えを取る。

 

 

 

「よし、今のうちだ!

 

 なんだかよくわからんが、DG細胞同士でやり合ってくれてるんだ。いまのうちに俺たちはガイアガンダムを回収して、身を隠すぞ!!」

 

 

 

「ーー了解です!!」

 

「よし!

 

もう少し大人しくしてくれよ、すぐに元のステラに戻してやるからな」

 

 

 

バルトフェルドの言葉に、アマギとネオがそれぞれ答えながら、つぶやく様な唸り声を上げて棒立ちになっているステラの機体を取り囲む。

 

 

 

「おおっと、そうはいきませんよ!

 

バーサーカーシステム、フルパワー!」

 

 

 

その瞬間だった、赤いビームがアズラエルの砲塔から再び走る。

 

 

 

車線軸上には、ネオのウィンダムがあった。

 

 

 

「ーーぐ、ぅぅ! ネオ、危ない!!」

 

 

 

突如、唸るだけだったステラの瞳に理性の光が戻り、ネオのウィンダムを庇う。

 

 

 

「!! ステラ!?」

 

 

 

背後に迫るビームから身を挺してステラに庇われたとネオが悟った時、少女は苦悶の叫びを上げた。

 

 

 

「ああああああっ!!」

 

 

 

ステラの行動を見据え、ウォンが頷く。

 

 

 

「やはり、まだ理性がありましたか。ステラ、あなたはその邪魔な人間たちを殺しなさい」

 

 

 

「ーーイヤァアアアアッ!!」

 

 

 

瞬間だった、ステラが身を引き裂かれるような悲鳴をあげたのだ。

 

 

 

「な、なんだっ」

 

「ステラ! 大丈夫か、ステラ!」

 

 

 

必死に呼びかけるネオに、モニターの中でステラが手を伸ばしている。

 

 

 

「うう、うっ、ネオ……だめ……!

 

 ネオ! ううぅう、ぁあああああ! 死ねええ! ネオぉおおお!」

 

 

 

「ステラ!?」

 

 

 

先ほどのような獣の雄叫びをあげ、ステラはネオに斬りかかる。

 

咄嗟にネオはビームサーベルを抜いて受け止めた。

 

 

 

ギィンッ

 

 

 

「くそっ! なにをやった!?」

 

 

 

バルトフェルドがビームライフルをウォンに向けて叫ぶ。Dを間に挟みながら、ウォンはニヤリと笑みを浮かべて返した。

 

 

 

「ふふふふ、自分の護るべきものに殺されて死ねるのです。

 

こんな幸福な死に様はないでしょう、ネオ・ノアローク。しかし、妙ですね。

 

彼女の能力ならば、あなたたちくらい軽く潰せるはずだったのですが」

 

 

 

疑問に首を傾げるウォンに応える様に、ビームサーベルでつばぜり合いを行うガイアから、声が上がる。

 

 

 

「やめ、てぇえ……

 

ステラに、ネオを、殺させ、ない、で……」

 

 

 

「ーーステラ!!」

 

 

 

彼女の瞳から涙が流れる。

 

必死に少女が、この得体の知れないシステムと戦っているのが分かる。

 

 

 

「これは驚きました。

 

ガンダムファイターのアレンビー・ビアズリーよりも、耐えるとはーー!

 

健気じゃないですかあ。ねえ、ウルベ?」

 

 

 

「ふっふっふ、ウォン。君も悪趣味な男だ」

 

 

 

「ーーて、め、え、らっ!!」

 

 

 

ついに、ネオの堪忍袋の緒が切れた。手に持ったサーベルで斬りかかろうとバーニアをふかす。

 

が、その前に赤い羽を持ったガンダムの背が、ネオの前に立ち塞がった。

 

 

 

「ーー邪魔だ、人間。貴様らから先に潰すぞ」

 

「なん、だとぉお!?」

 

 

 

淡々と言い放つDに、ネオが怒りのまま、サーベルを構える。それをバルトフェルドのムラサメが割って入った。

 

 

 

「ーーよせ!

 

 俺たちが割って入れるレベルじゃないことくらい、お前にだってわかるだろう!

 

 いまは彼女を正気に戻してやることのほうが先決だ!!」

 

「くっ。ステラ……待ってろよ!」

 

 

 

「戻せればいいですがねえ。システムを理解していないあなた方の手でーー。ふふふ」

 

 

 

先ほどから、彼らをいいようにいたぶるウォンにとって、彼らの抵抗はむしろ、享楽だった。

 

その表情のまま、ウォンは目の前の悪魔を見据える。

 

 

 

「ーーさて。ではこちらも続きを始めましょう」

 

 

 

次に放たれた赤いビームは、ウォルターガンダムに注がれた。

 

 

 

「ーーな、なんだと!?」

 

「どういうことだ!?」

 

 

 

理性を無くし狂わせるシステムだと言うのは、ステラを見れば分かる。だが、なぜそれを自分に向けたのか、バルトフェルドやネオには、理解できない。

 

 

 

「ーーなるほど。

 

DG細胞による身体能力の向上に加え、バーサーカーシステムにより闘争本能を高め、反応速度と攻撃力を上げたか。武闘の経験の無いウォンなりに考えているようだな」

 

 

 

闘争本能の赴くまま、凄まじいスピードとパワーに任せ、ウォルターガンダムが攻撃を仕掛ける。

 

 

 

対するDのデビルガンダムも、巨体とは思えないスピードで軽々とリーチの長いウォルターガンダムの懐に入り込み拳を放つ。

 

 

 

力と力がぶつかり合い、無数の拳と爪が宙で火花を散らし合う。

 

 

 

「ーーどうだぁ、D!?

 

これがわたしの切り札、グレートウォンの真の力だ!」

 

 

 

「なるほど、暇つぶしにはなるようだがーー」

 

 

 

ウォルターの巨大な爪を紙一重で避けると同時に無数の拳をウォルターガンダムの体にぶつける。

 

 

 

「ーーぐう!?」

 

 

 

「本能に任せた獣の戦い方など、積み重なる修練を得た武の前には無力ーー。哀れなものだな、ウォン」

 

 

 

Dの動きや技のキレは全盛期のマスターアジアに匹敵し、そのパワーやスピードは人外のそれだ。

 

 

 

肉弾戦では、ウォンに勝ち目など無い。ウォン一人ではーー。のけぞらされたウォンに更なる追い打ちを仕掛けようと拳を振りかぶると同時に、Dは背後から放たれた拳を振り返りざま受ける。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

拳を掴み取り、睨み据える先には、ウルベがいた。

 

 

 

「なるほど、だから貴様か」

 

 

 

「ーーそう。

 

ウォンだけでは、ガンダムファイターのトップクラスには太刀打ちできない。

 

だからこその、私だよ」

 

 

 

言いながら、小回りの効く小型のMFの特性を活かし、懐で拳を繰り出すウルベ。

 

一つ打たれたら3つを返すとばかりに拳をかわすと同時に繰り出す。

 

 

 

ビュンッ

 

 

 

Dから放たれた拳を左に見切り、ウルベはガラ空きの顔面に右ストレートを当てた。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

しかし、デビルガンダムは仰け反りすらせずに左の拳を振りかざし、御構い無しに攻撃してくる。

 

 

 

その一撃は重く、連撃で放たれるため、迂闊に受けることはできない。

 

 

 

舌打ちしながら、攻撃を捌くウルベに対し、より苛烈にして無慈悲な連撃が放たれる。

 

 

 

ズドォッ

 

 

 

その時、 赤いビーム砲がウォルターガンダムから放たれ、咄嗟にDが後方へ退くと同時に、ウルベガンダムが回し蹴りを放って、デビルガンダムを退ける。

 

 

 

「なるほど、これほどとは。

 

恐れ入る、では私も奥の手を使おうかーー」

 

 

 

構えを取るウルベにアズラエルから赤い光が放たれる。その光を吸収すると、ウルベの全身をDG細胞が覆い尽くし、彼は見た目にも人間であることを辞めた。

 

 

 

禍々しい気を放ちながら、ウルベガンダムは赤黒い光を纏う。一気に、身体能力が向上したのが、見て取れた。

 

 

 

「ーー!」

 

 

 

「D、君に一つ告げておこう。

 

神を滅ぼし得るのも、悪魔を倒し得るのも、人間の欲望である、とね」

 

 

 

同時にウルベとウォルターの2機が仕掛ける。

 

その動きは、先ほどとは比にならない。一騎打ちならばデビルガンダムと互角か、やや劣る程度の動き。

 

 

 

2機の同時攻撃にデビルガンダムも、無数の拳と蹴りを繰り出して応戦する。

 

 

 

バギィッドガガガッ

 

 

 

凄まじい乱打戦を繰り広げる3機。

 

苛烈にして重いデビルガンダムの拳に対し、小回りの効く自身の機体とデビルガンダムにも力負けしないパワーを活かし、懐から拳を打ち込むウルベガンダム。

 

アウトレンジから素早く鋭い爪で薙ぎ付けるウォルターガンダム。

 

拮抗しているかに見える3機の乱戦は、しばらくした後に、終わりを告げる。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

デビルの右ストレートが空を切り、ウルベの強烈な左のボディブローが炸裂した。

 

 

 

「ーーフン」

 

 

 

長身が前のめりになるにも構わず、左拳の打ち下ろしを返すデビルガンダム。

 

ウルベは、それよりも一瞬早く右に半歩踏み込み避けると同時にに強烈な右ボディを食らわせると、凄まじい連続の拳蹴打を放つ。

 

デビルガンダムも拳を振りかぶるが、死角に移動していたウォンの強烈な鞭を思わせる左の爪の一撃に、アゴを跳ね上げられ、硬直する。

 

 

 

パァンッ

 

 

 

ウルベが、その隙を逃すはずはなく、右ボディを当てた後に、一歩左足を踏み込み、左の拳をアゴに入れ、右の飛び膝蹴りで左肩を打ち抜き、くるりと宙で身を翻して、右のかかと落としをデビルガンダムの頭部に決めた。

 

 

 

ドガガガァッ

 

ガクゥッ

 

 

 

デビルガンダムは、右の拳をフックにして返し、ウルベの追撃を凌ぎながらも、ついに膝をついた。

 

 

 

ビビュンッ

 

ズドォッ

 

 

 

更にウォルターガンダムの赤いビームが放たれ、膝をついたデビルガンダムに直撃、爆発した。

 

 

 

爆発の中から、機体のあちこちで火花を上げるデビルガンダムが、ゆっくりと歩いてくる。

 

 

 

「きさまらっ……!」

 

 

 

その顔は、怒りに燃えていた。

 

そんなDを見下ろしながら、2機のガンダムはニヤリと言いはなつ。

 

「二人がかりでも、楽に勝たせてくれぬとは恐れ入る」

 

「ええ、驚きました。さすがは我らのかつての主。ですが、つぎで終わりですよ」

 

 

 

構えを取る両者を忌々しげに睨みつけるD。

 

実力もさることながら、信じられないほどのコンビネーションだった。

 

DG細胞によるシンクロをしているにしても、これほどのレベルになるとは、Dの予測範囲外のことだ。

 

 

 

「ウルベ、ウォン、きさまらっ!」

 

 

 

「さあ、終わりにしよう。デビルガンダム。機械ごときが、人間の欲望のすべてを支配できると思いあがったその考え、このわたしが修正してあげよう」

 

 

 

ウルベはまるで聖人が教えを説くかのように穏やかに静かに、語りかける。

 

 

 

「この世界はね、デビルガンダム。

 

人間を抹殺するためにあるんじゃないんだよ。

 

人間は、我らに支配され、淘汰され、我々を崇めるためだけに存在するのだよ。

 

我々の暇つぶしにその命を捧げて、ね」

 

 

 

だが、その内容はこれ以上ないほどに身勝手かつ唾棄すべき行動理念。

 

勝ち誇るかのようなウルベに、Dが吐き捨てる。

 

 

 

「笑わせるな。薄汚い溝鼠が!」

 

「フッ、末期の台詞がそれとは。

 

悪魔の台詞にしてはすこし、凡百過ぎるのではないか? デビルガンダムよ!!」

 

 

 

同時に、ウルベとウォルターが、その場から消え、デビルガンダムに仕掛ける。

 

 

 

「ーーチッ!」

 

 

 

デビルガンダムも、前傾姿勢になり超スピードで消え、迎え撃つ。

 

 

 

「勇敢なことだ。勝ち目など無いだろうに!!」

 

「油断は禁物ですよ、ウルベェ」

 

「分かっているさ」

 

 

 

左右から仕掛けるウルベとウォルターに対し、高速で右と左にジグザグ移動しながら、デビルガンダムは拳を放つ。

 

 

 

デビルガンダムは、どちらかの攻撃に合わせ、高速で側面に回り込み、カウンターを放って一人を退ける狙いで動く。

 

対するウルベとウォルターは、それを察してデビルガンダムの行く先々に先回りし、左右から仕掛けるのを辞めない。

 

 

 

ドガガガガガガガガガガガガガ

 

 

 

あちこちで、土が跳ね上がり、稲妻が宙を走り、地鳴りが鳴る激戦を繰り広げるも、ついにデビルガンダムが捉えられた。

 

 

 

ビシュンッ

 

ズザア

 

 

 

突如高速移動を止めて、足を踏ん張り、デビルガンダムは右ストレートを放つ。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

強烈な一撃を右腕でガードするも、ウォルターの右腕は痺れ、衝撃に機体が下げられる。

 

その隙に懐へ入り込んだウルベに対し、デビルは強烈な拳蹴打の弾幕を張る。

 

ウルベもニヤリと笑うと、足を踏ん張り、拳蹴打の弾幕を打ち返した。

 

 

 

凄まじい乱打戦を繰り広げる両者だが、デビルガンダムのパワーに押され、ウルベが後方に退く。

 

 

 

「ーーチッ、重量と馬力ならば奴が上か!!」

 

「ーーうおおお!!」

 

 

 

悪態を吐くウルベに、Dが畳み掛ける。

 

Dの強烈な右のストレートを、ウルベは両腕でガードするも、勢いを殺せずに仰け反る。

 

そこへリーチが長く、しなる野太い棍棒のような左右の回し蹴りがウルベを襲う。

 

 

 

ドガガァ

 

 

 

ピンボールの様に左右に弾かれ、流石のウルベも両腕がしびれ、左の直突きを受けずに、無理矢理態勢を崩して左に避ける。

 

それは、丁度デビルガンダムの右手側に移動することになる。

 

 

 

「我のこの手が、唸りを上げる。

 

全てを屠れと高まり狂うーー!!」

 

 

 

トドメとばかりに右手に力を集中し、Dは必殺技を放った。

 

 

 

「まず貴様からだ、ウルベ!

 

暴裂、デビルフィンガァアアアッ!!」

 

 

 

右手が青紫に輝き、必殺のフィンガーが態勢の崩れたウルベの顔面に放たれる。

 

 

 

ズバァッ

 

 

 

そこへ割り込むように長くしなる腕から、鋭い左の爪がデビルガンダムのボディを切り裂く。

 

 

 

「ーーそうは、行きませんよぉ!!」

 

 

 

奇襲に成功したウォンが耳障りな高笑いを行う。

 

 

 

「ーーグッ」

 

 

 

ビュンッ

 

デビルガンダムが、僅かに退いたことで、フィンガーの狙いが逸れる。

 

これを見事に左にさばいたウルベは、懐に入り込み、右掌を青く輝かせるとデビルのボディに突き刺した。

 

 

 

ズシュウッ

 

 

 

「ーーぐふぉっ」

 

 

 

強烈なウルベガンダムのフィンガーを食らい、Dの動きが止まる。

 

 

 

「さあ、終わりだ、デビルガンダム!!」

 

 

 

その一撃は、Dを構成するデビルガンダムのプログラムそのものを焼き尽くす。

 

放たれれば、Dはその肉体を、デビルガンダムは自我を喪うであろう。

 

それは、「彼」の死を意味する。

 

 

 

(終わる? 我が。

 

ドモン・カッシュとゴッドガンダムに問うこともできぬまま……。

 

人間どもに己の愚かさを悟らせることもできぬまま……。

 

こんなところで、なにも成し遂げぬまま……我が死ぬ……!?)

 

 

 

どくん、どくんっ

 

 

 

本来、仮初めの生体ユニットに、あるはずの無い生命の脈動は、完璧なまでに人体を模倣した細胞によって再現されている。

 

それは、Dにとって完璧な誤算。

 

Dは、この時、初めて自分の生きている音を実感したのだ。

 

 

 

ぴちゃーん

 

 

 

水の音が聞こえた。

 

一雫の水が、Dの内側にある水面に静かな波紋が広がっていく。

 

 

 

ーーまだだ!!

 

 

 

ーーーーまだまだああああああ!!!!

 

 

 

「うぉああああああああっ!!!」

 

 

 

悪魔の咆哮が、Dの口から迸る。

 

 

 

恥も外聞も無い、ただ、ただ、生命の脈動に従った、稚拙なまでの、それでいて、逞しい咆哮ーー。

 

 

 

悪魔の産声を祝福するかのように、天から黄金の光が、デビルガンダムに降り注ぐ。

 

 

 

ズドォアッ

 

 

 

 一瞬後、ウルベガンダムが後方へ吹っ飛ばされた。

 

 

 

「ーーなんだっ!?

 

こ、これはっ! シャッフル同盟どもの、ハイパーモード!?」

 

 

 

ウルベの記憶の中から、忌まわしいシャッフルの紋章を浮かべた青年達の姿が浮かび上がる。

 

 

 

そう。

 

デビルガンダムが、神々しい黄金の輝きを身に纏う機体に変化したのだ。

 

 

 

「ーーな、なんだとっ!

 

何故だ!?

 

DG細胞と明鏡止水は、相性が最悪のはずだ!!だからこそ、シュバルツ・ブルーダーにはハイパーモードが発現しなかった!!

 

なのに、何故ダァあああッ!!?」

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

次の瞬間には、デビルガンダムの無造作の右の肘打ちが、思い切りウルベガンダムの顔面を撃ち抜き、後ろに仰け反る。

 

 

 

ドグゥッ

 

 

 

次に左のボディブローが、ウルベに突き刺さり、その強烈な一撃は、MFの両足を地面から浮かせる。

 

 

 

ズガァッ

 

 

 

宙に浮いたところを強烈なかかと落しが、決まり地面に叩きつけられるウルベは、驚愕と力の差に絶句した。

 

 

 

「ーーな、なんだと!?」

 

 

 

後方から掩護しようと爪を展開したウォンだが、一瞬で目の前に現れたデビルガンダムに顔面を掴まれ、地面に叩き落される。

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

たったそれだけ。

 

 

 

たったそれだけで、先ほどまであれほど猛威を振るった二機のガンダムが動かなくなった。

 

 

 

「ーーこんな、馬鹿げたことが!?」

 

「力が、一気に跳ね上がるなんて!?」

 

 

 

地べたに這い蹲り、悪魔の怒りに触れた力なき民は、許しを乞う。

 

 

 

正にそんな表現が相応しい、現状ーー。

 

 

 

Dは、展開された胸部のエネルギーマルチプライヤーが青紫に輝いているのを確認し、自身の姿を見下ろす。

 

黄金の闘気を纏う、自分自身を。

 

 

 

「くーー!

 

くははははははは!!

 

手に入れたぞ!

 

 明鏡止水を!

 

 ハイパーモードをぉぉ!!!」

 

 

 

悪魔は、喜びに打ち震えながら、天に向かって叫んだ。まるで、神に挑むかのようにーー。

 

 

 

「こ、これは明鏡止水ハイパーモード!

 

 あのエネルギーマルチプライヤーが、完全にデビルガンダムの力を引き上げている!?」

 

「どういうことだ、ウォン!

 

明鏡止水は、曇りなき心を持たなければできないのでは無いのか!?

 

それに、DG細胞で作られた奴に何故、ハイパーモードが使える!!」

 

 

 

何かに気づいた様子のウォンに、ウルベが問いかける。

 

ウォンは、バーサーカーモードを切りながら、丸渕のサングラスを押し上げ、黄金の闘気を纏う悪魔を見据える。

 

 

 

「誤算でしたね。

 

デビルガンダムは考えなしに自我を持ったわけではない、ということです」

 

「シャッフル同盟や、マスターアジアにも匹敵する明鏡止水の境地。

 

奴は、これを手に入れるために自我を持ったと?」

 

「DG細胞とは限りなく進化するもの。明鏡止水とは限界まで能力を引き出させる力。明鏡止水によって引き出された力が、DG細胞によってさらに進化するとすれば……」

 

「理論上、今のデビルガンダムはだれにも倒せない、か」

 

 

 

2人が現状の自分達と相手の状況を見て分析する。

 

それを悠然と眺めながら、Dは腰を落として斜に構える。

 

 

 

「クククククッ

 

 無様なものだな、ウルベにウォン!

 

 あと一歩で俺にトドメを刺せるところだったのに、油断した挙句に、このザマだ!!」

 

 

 

凶悪に顔を歪めながら、Dは目を見開き、殺気を放つ。

 

「やはり溝鼠は溝鼠らしく、地を這いつくばるのが似合いだぞーー!」

 

 

 

にらみ合う三者だが、現状ではウルベ達に勝ち目は無い。

 

それが分かっているからこそ、Dは逃がすつもりはなく、右手に力を溜める。

 

 

 

「ーーさて、この状況をどうするか」

 

「現状、いまのデビルガンダムは倒せません。となれば、ここは撤退しかないでしょう」

 

「簡単に言ってくれるな、ウォン。

 

隙を見て逃げ出そうにも、いまの彼から行うには、なかなか難しいぞ?」 

 

「確かに、今の彼には油断も隙も無い。

 

しかし、ならば隙を作れば良いーー。

 

方法など、いくらでもありますよ」

 

 

 

「ーーぬ?」

 

 

 

バキャアッ

 

 

 

その時だった、ウルベ達とは違う方向から、打撃音が響き渡ったのだ。

 

そちらを伺えば、2機のムラサメが地面に突っ伏し、1機のウィンダムが、前のめりに倒れながらも、必死に赤い光を纏った黒いガンダムに手を伸ばしている。

 

 

 

「くっ、ステラ……!」

 

 

 

「ーーグウウウッ!

 

グァアアアアアアッ!!」

 

 

 

 ウィンダムやムラサメを破った機体ーーガイアガンダムは、黄金の光を放つデビルガンダムに向きなおると、突如、襲い掛かった。

 

 

 

「フンっ、邪魔だ」

 

 

 

 Dは吐き棄てると、四つ足のMAモードに変化し、高速で疾駆してくるガイアの首をアッサリと掴むと地面に叩きつけた。

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

「ーーグウウウッ!」

 

 

 

「こんなものが、俺の生体ユニットだと?」

 

 

 

こちらを睨みあげてくるステラにDは、淡々とした表情で告げた。

 

 

 

「ーーくだらん。

 

前に見た貴様は、そんなくだらん奴ではなかった」

 

 

 

かすかに、ステラにしか聞き取れないほど小さな声でDはそう告げた。

 

 

 

「注意をそちらに逸らしましたね、デビルガンダムうう!」

 

「いまだああーーーーー!!」

 

 

 

 ウルベとウォンが同時に両手から青と赤のビーム砲を放った。

 

 

 

「ーーつまらん真似を」

 

 

 

 Dは避けるのさえ面倒だとばかりに押さえつけていたガイアから手を離すと、ビームを真正面から受けた。

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

 当然、黄金の気を纏うデビルガンダムには傷一つない。だが、その時にDは変化に気づいた。

 

爆煙が立ち上り、Dやネオ達の視界を遮る。

 

Dが無造作に腕を振り、煙を吹き飛ばして周囲の景色を晴らすと、そこにいたはずのガイアガンダムがいなくなっていた。

 

 

 

「ーーなに?」

 

 

 

 目の前に視線を戻すと、ウルベとウォンの機体も、アズラエルという船すら無くなっている。

 

 

 

「ーーうまく、逃げたな」

 

 

 

忌々しそうに歯をくいしばるDの耳に、声だけが辺りに響き渡る。

 

 

 

「また会おう、デビルガンダム!!

 

この次に君にあった時は!!

 

今度こそ君というプログラムを倒し、その能力のすべてを我々がいただくとしよう!!

 

それまで、せいぜい悪魔を気取っているがいい!!」

 

 

 

 オーブの戦域に、ウルベの高笑いが響き渡っていた。

 

 

 

 




みなさん、お待ちかね〜!

ウルベ達が去った後、忽然と姿を消すチャップマンにミケロ。

デビルガンダムもまた、彼らを追ってオーブの海域を離れます。

そして、ステラを奪われたネオやマスターの取った行動とは!?

次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第40話に、レディー、ゴー!!



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第40話 攫われたステラ 魔人の思惑

さて、皆さんーー。

物語はまだまだ終わりを迎えることはありません。

ステラを攫ったウルベ達に挑むため、ネオ・ロアノークは一つの決心をします。

また、マスターアジアはガーティールーの今後を思い、彼らと別れて単独で悪魔を追いかけるのです。

そんな中、全世界を揺るがすイベントが行われようとしていましたーー!!

それでは、ガンダムファイト!!

レディィィイ、ゴォォオオオオッ!!

第40話



 

ーー オーブ軍基地の医療施設にて ーー

 

 

 

「ちくしょう…!!

 

 俺は、自分の部下一人、守れないってのか!!」

 

 

 

 動かなくなったウィンダムのコクピットで、ネオは自分の非力を呪っていた。

 

 部下を無駄死にさせたばかりか、最後まで得体のしれないシステムに抵抗し、自分を守ってくれた少女を、何もできずにつれていかれてしまった。

 

 

 

「こんな、無能な男が、ほかにいるかよ!!」

 

 

 

 白いベッドに寝かされていた男ーーネオ・ロアノークは、己の無能さに拳を握りしめていた。

 

 

 

 ベッドの脇には、彼の部下であるイアン・リーやスティング・オークレー、アウル・ニーダがいる。

 

 

 

「まさか、連合が我々を裏切るとは…」

 

「ステラがさらわれちまうなんて、な」

 

「どうすんだよ、ネオ?」

 

 

 

 三人の言葉に、ネオはぼんやりと天井を見上げるしかなかった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 あの後、ステラ・ルーシェがアズラエルと呼ばれる戦艦と共に姿を消した瞬間に、地球連合全軍に退却命令が出ていた。

 

 

 

 急な撤退命令に、首を傾げる者もいたが、多くは特に疑問を抱くことはなく、その場から去っていった。

 

 

 

 そして、アークエンジェルとガーティ・ルーの二隻の戦艦がたどり着いた海域で、彼らは倒されていた三機のMSと、赤を基調としたトリコロールのガンダムを発見する。

 

 

 

「あ、あの機体は、東方先生に倒されたのではなかったのか!!」

 

「デビルガンダムって言ってたよな?」

 

「やばいぜ、今の僕らじゃ……!!」

 

 

 

 ガンダムの正体に気づき、顔色を失くしたのは、ガーティ・ルーの乗員たちだ。

 

一方のキラ達は、倒されていたムラサメ二機を確認した後、赤い羽のガンダムを見る。

 

 

 

「バルトフェルドさんーー、アマギさんまで!!」

 

「マリューさん、あの機体はデビルガンダムです!!

 

 記録データに該当します!!」

 

「見た目が変わっているのは、シャイニングガンダムのように進化したからなのね」

 

「シャイニングとよく似ている進化の仕方ですね。

 

 ゴッドに似せているのは、ザフトの量産機ともかかわりがあるからなのか?」

 

 

 

 キラとマリューが記録データを確認しながら、姿を新しくしたデビルガンダムを見つめる。

 

 

 

「マリューさん!

 

 本当にこの艦に、機体はないんですか?」

 

「……だめよ、キラ君。

 

 あなたは、マスターガンダムに受けたダメージが」

 

「この状況で、そんなことを言ってる場合じゃないことは、マリューさんだってわかるでしょ!?」

 

 

 

 キラの必死な訴えに、マリューは眉をひそめるも、先ほどの戦いのダメージを考え、彼にMSで行けとはとても言えない。

 

 

 

「格納庫の3番に、エールストライクガンダムがある

 

 アスハの姫様から、ストライクルージュを借りてたからな。

 

 そいつをお前さん用に、いじった」

 

「……!! マードック曹長!!」

 

 

 

 キラの手当ても碌にしていないのに、MSのことを教えたマードックに、思わずマリューが非難の声を上げた。

 

 

 

「艦長。

 

 どのみち、この状況じゃ坊主に出てもらわなきゃ全員お陀仏ですよ」

 

 

 

「ありがとうございます、マードックさん!」

 

 

 

 マリューの返事を待たずに、格納庫に走ろうとするキラだが、その時バルトフェルドから通信がアークエンジェルに入った。

 

 

 

「…待て、キラ

 

 アークエンジェルもだ」

 

 

 

 その声に、キラとマリューの表情が柔らかくなる、

 

 

 

「無事だったのね、バルトフェルド隊長」

 

「ああ。

 

 ラミアス艦長、アマギも連合のパイロットも無事だ。

 

奇しくも、そこのデビルガンダムのおかげでね」

 

「ーーどういうことなの?」

 

 

 

 訝し気に眉を顰めるマリューに、アマギも頷きながら続ける。

 

 

 

「彼がいなければ、我々は全滅していたでしょう」

 

 

 

「それは、いったい……!!」

 

 

 

 その答えに、キラも思わず身を乗り出した。

 

 

 

「ーーそんなことは、どうでもいい!!

 

今すぐ俺を回収しろ、イアン!!

 

 なあ頼む、アークエンジェル!!

 

 協力してくれ!!」

 

 

 

 その時に通信が割って入ってきた。それは連合のMS--ウィンダムからのものだった。 

 

 

 

「ーー隊長? 一体、なにが?」

 

「ーー今の声、まさか!!」

 

 

 

2隻の艦長は、それぞれ連合のパイロット、ネオ・ロアノークに反応していた。

 

 

 

「おい、無理するな!

 

お前さんが、一番やられてるんだぞ」

 

 

 

「バルトフェルドさんの言うとおりだ。

 

貴方が一番、彼女から攻撃をーー」

 

 

 

バルトフェルドとアマギの2人から、止められるも、ネオは引き下がらない。

 

いや、下がれない。

 

 

 

「このまま、引き下がれるかよ!

 

ステラを、あいつを助けなけりゃいけねーんだよ!!

 

せっかく、普通の人間と同じ生活ができるようになってたんだ!

 

それを、あんなクソ野郎どもに台無しにされて、たまるか!!」

 

 

 

ネオの言葉に、ガーティ・ルーの面々も、なにがあったかを悟り出した。

 

 

 

「ステラ? ステラが、どうしたってーー?」

 

「どういうことだよ、ネオ? まさかーー!!」

 

 

 

スティングとアウルの言葉に、ネオは歯を食いしばった後に俯きながら、震える声で告げた。

 

 

 

「ーーすまねぇ、守れなかった」

 

 

 

瞬間、ガーティ・ルーの空気がーー凍った。

 

 

 

ーーその後、意識を失ったネオは、オーブの医療施設にて治療を受けていたのだ。

 

 

 

攻め込んでいた連合艦隊は、突如ジブリールの鶴の一声でオーブ海域から姿を消していった。

 

 

 

激闘を繰り広げていた四機のMFも、ウルベ達が退却すると同時に、チャップマンが叩き伏せられたミケロを連れ、2人の間隙を縫って退いていった。

 

 

 

「ーーキョウジよ。

 

貴様に言うのは筋違いであろうが、伝言を頼む」

 

 

 

「ーーなんだと?」

 

 

 

「ワシは奴らを追わねばならん。

 

連合艦隊と共に奴らが退いたのは、偶然ではあるまい。

 

奴等と連合が手を組んでおるのならば、ワシは貴様らと共には歩めぬ。

 

ワシの存在は、貴様らの足枷となるであろう。

 

独自に追わせてもらう、とな。

 

貴様らの武運長久を祈るーーそう伝えておいてくれ。

 

では、さらばだぁ!!」

 

 

 

叫ぶと同時に、マスターガンダムは、広げていたウイングバインダーを閉じ、マント状にして一気に水平線に向かっていった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

この事をキョウジから聞かされたガーティ・ルーの面々は、複雑な表情であった。

 

 

 

「せめて、ステラの事を伝えておきたかったぜ」

 

 

 

苦い顔をしたネオに、アウルも頷いた。

 

 

 

「ステラの事を知っててくれたら、師匠はステラを助けてくれただろうしね」

 

 

 

「甘えんなよ、アウル。ステラは、俺たちの仲間だろ。師匠に頼ってばかりで、何も出来ないヤツになりたいのかよ?」

 

 

 

「だけどスティング、実際どうすりゃいいんだよ!? 連合が、俺たちを裏切ったんだぞ!! 連合に助けを求められないなら、どうしようもないじゃないか!! 師匠なら、師匠が居てくれたらーー!!」

 

 

 

アウルの言葉に、スティングも眉根を寄せ、歯をくいしばる。押し黙るガーティールーの一行を、オーブの面々も神妙な面持ちで聞いていた。

 

 

 

「教えてくれないか? 奴等が言っていたDG細胞って、何なんだ? 何故、ステラを狙いやがった。味方の俺たちを裏切ってまで」

 

 

 

ネオは、ベッドの上で身を起こし、キラやキョウジ達に問いかけた。

 

 

 

ネオの仮面を外した素顔に、キョウジを除くアークエンジェルの面々の表情が変わる。

 

 

 

ある者は驚愕し、ある者は納得し、ある者は呆然としていた。

 

 

 

「ーームウ?」

 

 

 

マリューが形の良い唇を震わせながら、死んだはずの恋人と同じ顔をした男を見据えた。

 

 

 

「ーーどうした? 俺の顔に、何かついてるか?」

 

 

 

「言っただろ? お前さんは、先の大戦で亡くなった俺の友人に似てるってな。

 

ここに居る連中と、その友人は同志だったんだ。特に、そちらのマリュー・ラミアス艦長とそいつは恋人だった」

 

 

 

アークエンジェルクルーの反応に、ネオ達の方が困惑していた。

 

その間を取り持つよう声をかけたのは、共にガイアガンダムを抑えようと戦ったバルトフェルドだった。

 

 

 

「ーーそりゃ、とんだクソ野郎だな」

 

 

 

その答えを聞いて、ネオが苛立つように告げた。

 

 

 

「ーーん?」

 

 

 

「何年も前に死んだ男を未だに想うようなーーこんないい女を置いて死ぬ、なんてな」

 

 

 

マリューを正面に見て、真剣な表情で告げたネオに、バルトフェルドは声を出して笑った。

 

当のマリューは困惑気味にネオを見返す。

 

 

 

「はは! クソ野郎かはともかく、大バカ野郎には違いないな」

 

 

 

「ふふーーわりい、話を戻してくれねえか?」

 

 

 

バルトフェルドの屈託ない笑顔に、ネオもガーティールーの面々も、少しだけ硬い表情がほぐれていた。

 

 

 

「ーーああ。キョウジ、話しても構わないか?」

 

 

 

「もちろんだ。彼らが攫われた仲間を助けると言うなら、今から戦う奴等の事を少しでも多く知っておいてほしいからな。

 

それに場合によっては、こちらも協力できるかもしれない。

 

これはもう、連合もザフトも関係ない。事態は最悪の一途を辿っているのだから」

 

 

 

キョウジの言葉に、皆が彼に注目した。

 

 

 

彼は語る、自分の身に起きた悲劇を。

 

デビルガンダム事件の全貌を。

 

自分の世界で起きた、悪夢を。

 

 

 

「機械が、人間を抹殺するだとーー?」

 

「地球を喰らうガンダムだというのかーー!」

 

「自己再生、自己増殖、自己進化、だって?」

 

「何かの悪い冗談とかじゃ、ないのかよ?」

 

 

 

話を聞いたガーティ・ルーの面々は、声を無くし、辛うじて感想を語るのみだった。

 

 

 

「ステラが攫われた理由は、デビルガンダムの生体ユニットにするため、なんだな?」

 

 

 

「ああ。だがーーー」

 

 

 

ネオの問いにキョウジも頷きながら、思考する。

 

 

 

「デビルガンダム自身はーー、生体ユニットを不要と判断したんだな」

 

 

 

「気になるのは、何故オーブに現れたのか。僕たちを見ても戦闘せずに去ったのか、ですね」

 

 

 

「多分、欲しかったものを手に入れたからだろう。明鏡止水の境地をな」

 

 

 

キョウジの間髪入れない言葉に、キラも目を鋭くした。

 

 

 

「ハイパーモードを使いこなせる、と?」

 

 

 

「バルトフェルド達の記録映像を見ても分かるように、既に二機のDG細胞製のMFを退けてる。

 

脅威的なパワーアップだ」

 

 

 

「でも、何故デビルガンダムはウルベやウォンを倒そうとしたんでしょうか? 記録映像の会話でも、彼らからは敵対しようとはしていなかったのに」

 

 

 

「それは、俺にもわからない。だが、一つだけハッキリしてることがある」

 

 

 

キョウジの言葉に、ネオが身を乗り出した。

 

 

 

「なんだ、それは? どうでもいいがお前の声、ジブリール卿に似てるな」

 

 

 

「ーーそのジブリールってのは、ブルーコスモスの盟主ですよね? あなた方はジブリールの直属の部下。そのあなた方に聞きたいんだが、今回のウルベ達の行動はジブリールと繋がっていると確信できるものか?」

 

 

 

「ーーファントムペインに所属する者の名は、連合の正規軍には載らない。分かるのは、俺たちの直属の上司だけだ。

 

そしてウルベとかウォンて奴らも、ファントムペインと俺たちの部隊の名を呼び、俺の名やステラの名を口にした」

 

 

 

ネオの淡々とした答えに、ガーティ・ルーの面々が表情を固める。改めて、自覚したのだ。

 

 

 

ステラは、連合にーーブルーコスモスに攫われたのだと。

 

 

 

「間違いなくジブリール卿と奴らは手を組んでる」

 

 

 

ネオの言葉にキョウジの表情が深刻なものに変わった。

 

 

 

「厄介な状況だな。

 

プラントの最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、かつて人類抹殺を試みたデビルガンダムと通じ、地球連合のブルーコスモス盟主ロード・ジブリールは、DG細胞を駆使して世界を支配しようとするウルベやウォンと手を組んでる」

 

 

 

「ーー完全に後手だな。まあ、規模が違い過ぎると言えばそうだし。俺たちは他国に介入できんから仕方ないさ。

 

むしろ、少ない戦力でよくやってる方だ。お前がいなけりゃ、とっくにオーブはジブリールの支配下だぜ」

 

 

 

キョウジの悔しそうな表情に、バルトフェルドが肩を叩きながら、告げた。

 

 

 

「ーーだが、こうなっちまったらカガリに意思表示してもらわなきゃならん。あくまで、俺たちはアスハ派の私軍だったが、オーブの正規軍を使えるようにしないとな」

 

 

 

「つまり、アスハ独自の判断ではなく、オーブ全体の意思で戦う、か。今までは負けても、俺たちだけの責任で済んだが、今度はオーブそのものに責任ができるな」

 

 

 

「今更だよ、キョウジ。今の状況でも、充分連合はオーブと俺たちを同一軍として見てるさ。

 

今までは篭って国を守れば良かったが、これからは情報戦だ。手数がなけりゃ話にならん。

 

その上で、今までのアスハ私軍のような自由度が効く部隊も必要だ」

 

 

 

「ーーアークエンジェル、か」

 

 

 

バルトフェルドとキョウジの会話に、皆が注目していた。

 

 

 

「ーー元連合のパイロットを迎えるなら、アークエンジェルを置いて他にないだろ?

 

あの少女を救うためにもな。ロアノーク大佐?」

 

 

 

「ネオでいい。それと、助けを求めてなんだが、少し待ってくれないか?

 

正直、俺は願ったり叶ったりだが、ガーティールーのクルーの中には家族を持つ奴らもいる。

 

迂闊に連合を離れる訳には行かない奴らもな」

 

 

 

ネオの言葉に、キラが頷いた。

 

 

 

「ーー分かってます。ガーティ・ルーには連合に戻るべき人々もいるでしょうしーー」

 

 

 

キラの言葉が言い終わる前に、ガーティ・ルークルーから、声が上がった。

 

 

 

「ーー大佐、何を言い出すんです!?」

 

「自分達は、大佐とーー!!」

 

 

 

それを手で遮り、イアン・リー艦長がネオを見据える。

 

 

 

「ーーご自身だけ、全ての罪を被られるおつもりですか? 自分達を、安全に連合に返すために。そんなことを、我々が望むと?」

 

 

 

「ーーイアン、聞いてくれ」

 

 

 

「確かに、私たちには家族がいます。しかし、艦長として言わせてください。ウルベとやらに殺されたパイロットたちも、紛れもなくガーティ・ルーのクルーの一員ーー家族なんです。

 

それをだまし討ちで簡単に殺された挙句に、ステラまで攫われた。この上、まだ連合の犬になれ、と?」

 

 

 

「イアン、お前は軍人だろうが!!」

 

 

 

「その前に、人間ですよ。

 

もっともーー私もあなたも東方先生に会わなければ、それを忘れていたでしょうがね」

 

 

 

「ーーイアン」

 

 

 

歯を食いしばり、辛そうな表情をするネオにイアンは告げた。

 

 

 

「軍人とて、人である。大切なものを奪われれば怒るし、理不尽な目にあえば嘆く。当たり前の事を、当たり前に表現できるようになったのは、あの方のおかげです。

 

スティングやアウル、ステラも、私たちの大切な家族なんですよ、隊長」

 

 

 

穏やかに覚悟を決めた男ーーその後ろには全ての乗組員が同じ表情で並び立つ。

 

彼らの姿にスティングやアウルは、目に涙が溢れていた。

 

 

 

「イアン艦長、そんなにも俺たちのことをーー!」

 

「ーーなあ、スティング。

 

みんな、優しいよな。人殺しの道具として作られた僕たちには、勿体無いくらいにさ」

 

「ああ。ああーー、本当だよ。

 

みんな、優しすぎて、バカばかりだーー!」

 

 

 

そんな光景に、オーブの面々も静かに頷いた。トダカが代表して語る。

 

 

 

「安心してくれ。

 

たとえ、連合にあなた方が帰るとしても、我々は補給を惜しまない。あなた方のような人間こそ、生きるべきだ」

 

 

 

「敵に塩を送るなんて、アンタらも変わった軍人だな。なら、イアン。お言葉に甘えて補給してもらえ。

 

お前らは、連合に戻るんだ」

 

 

 

「ーー隊長!!」

 

 

 

はじめて、冷静な艦長が声を荒げた。

 

 

 

「こんな馬鹿げた勝負はない。東方先生に出会ってステラを救う可能性も考えたが、そもそも地球を回る先生1人に出会える確率は低い。

 

仮にステラを救えても、連合にはいられない。連合加盟国に家族がいる者には、一緒には来させられない。こいつは、俺のワガママだ。

 

頼むよ、イアン。俺の大事な部下達を守ってやってくれ」

 

 

 

普段はちゃらけて軽い隊長の真剣な目に、殊勝な態度にイアンは思い切り溜め息をつくと答えた。

 

 

 

「ーーそう言われたら、仕方ありませんね。分かりました。私たちは連合に戻ります。どうか、ご無事で隊長」

 

 

 

「ーーああ、すまねえ」

 

 

 

部下を頼むと言われ、イアンはようやく引き下がったのだ。

 

 

 

こうして、ネオとアウル、スティングの3名がオーブに残り、連合に家族のいる他の乗組員達は連合側に帰国していった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

2日後、ミネルバにてーー

 

 

 

「「ーーこれは、どういうことだ!!」」

 

 

 

アスランは自室で、プライベート回線を開きながら、シュバルツと共に声を張り上げた。

 

 

 

「キラ、俺たちに何故何も言わなかった!?」

 

 

 

「キョウジよ、一言あっても良いだろう!!」

 

 

 

モニターの向こうでは申し訳なさげにしているキラと肩を竦めて笑うキョウジがいる。

 

シュバルツの眉間にシワが寄っていくーー。

 

 

 

「キョウジ、貴様は言ったな?

 

私とアスランがザフトでデビルガンダムに関する情報を集めるのを主な目的にし、表向きはデュランダル議長に貸しを作ることだと。

 

だが、肝心要の私たちの帰る場所が攻撃を受けているのに、助太刀の要請もなくーー!

 

いや! 何よりも、私たちが知ったのが全て終わった後で、ザフトからのニュースで知るとは、どういうことだ!!!」

 

 

 

「キラもだ!

 

俺は、カガリやお前の指示でザフトのフェイスを得た事になってるのに!!

 

肝心のオーブを守る戦いに呼ばないとは、どういうことだ!!」

 

 

 

怒り心頭に発した2人の主張にモニター越しとはいえ、キラがタジタジになる。

 

 

 

「ご、ごめんなさい。アスラン、シュバルツさんも」

 

 

 

「ーーとはいえ、お前達に連絡してる暇が惜しかったんでな。それほどまでに状況は切迫していた」

 

 

 

悪びれもせずに簡単に話すキョウジに、シュバルツの眉がピクピク動いている。

 

 

 

「どうやら、キョウジ。お前とはドモンに会う前に一度きちんと話をせねばならんようだな」

 

 

 

「それは構わないよ〜。だいたいさ、シュバルツ。お前だってミネルバの一員なんだから、迂闊な真似はするなよ」

 

 

 

「このような時に動く為に私やアスランを客人にしたのではなかったのか!!」

 

 

 

「何のために俺は、オーブの少佐兼フェイスになりに、デュランダル議長に会いに行ったんだ!!」

 

 

 

キョウジの言葉に、シュバルツとアスランが抗議の声を上げる。

 

 

 

「本来はな。

 

だが、連合の裏にウルベやウォンがいて、奴らの息のかかったガンダム達が出てきたんだ。おまけにデビルガンダムまでな、この上ザフトに介入されたらどうなる?」

 

 

 

「…しかし!!」

 

 

 

「今回は凌げた。そして、裏にウルベがいると分かった。今後は遠慮なく呼ばせてもらうよ。オーブの重鎮達からもようやく、支持を得ることができた。

 

オーブとして、これからは動く」

 

 

 

キョウジの言葉にようやくシュバルツとアスランも怒りを納め、表情を新たにする。

 

 

 

「そうか、ついにオーブが」

 

「厳しい戦いになるなーー」

 

 

 

2人とも今後の事態を踏まえた上でキョウジやキラと意見を交換しあう。

 

 

 

熱を帯びてきたその時だった。

 

 

 

ーーコンコンッ

 

 

 

「シュバルツさん、アスラン隊長!

 

ブリッジに来てください。実は、宇宙でデュランダル議長がーー」

 

 

 

シンの声だった。アスランもシュバルツも、互いに顔を見合わせ、頷くとキラとキョウジに断りを入れた後、通信を終えて廊下に出る。

 

そこには、赤服の3人。シンとルナ、レイが並んでいた。

 

 

 

「3人とも来るなんて、どうしたんだ?」

 

 

 

「実はシュバルツ殿、議長が宇宙(そら)でガンダムファイトをプロデュースするそうなんです」

 

 

 

「「何だって!!?」」

 

 

 

思わずシュバルツとアスランが口をそろえた。

 

その横でレイの後を継ぎ、ルナマリアが話す。

 

 

 

「何でも、異世界から来た最強の戦士とザフトのガンダムファイターの戦いを地球と宇宙に見せたいんだそうです」

 

 

 

「試合は誰が行うんだ? 私か?」

 

 

 

ガンダムファイターである人間は自分とマスターアジアのみだと考えたシュバルツは、当然そう聞いた。

 

 

 

だが、答えは違う。シンが赤い瞳で真っ直ぐにシュバルツを見据えながら答えた。

 

 

 

「1人はキング・オブ・ハートのドモン・カッシュって名乗ってました。

 

もう1人は、議長の親友でザフト軍の制服を着た赤い髪のDと言う人みたいです」

 

 

 

「ドモン、だとーー?

 

それに、その特徴の男はまさかーー!」

 

 

 

「今から始まるみたいなんで、シュバルツさん達も呼んでこいって艦長がーー」

 

 

 

シンの言葉に、シュバルツはさらに目を見開く。

 

 

 

「今から、だと!?」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

シン達との会話もそこそこに、シュバルツはブリッジに向かった。

 

 

 

「シュバルツ殿、アスラン少佐、よく来てくれました。ちょうどセレモニーが終わるところです」

 

 

 

ブリッジの巨大モニターに映し出されていたのは、ラクスを演じる少女ミーアのライブパフォーマンス。

 

 

 

そして、その背後で向き合う神と悪魔の名を冠するガンダム達だったーー。

 

 

 

「何故、何故ドモンがこの世界にいるんだーー!?」

 

 

 

全世界に中継されているこの戦いに、シュバルツはモニターに映し出された悪魔とにらみ合う弟の顔を凝視していた。

 

 

 

 




皆さん、お待ちかね〜!

ウルベ達を追いかけていたDの元にデュランダルからの帰還申請が届きます。

Dもまた、望んでやまない再会に宇宙へ上がるのです。

そう、神と悪魔の対決が再び行われようとしているではありませんか!!

次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第41話に!

レディー、ゴー!!


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第41話 選択の代償 二人の歌姫

ーーこの時を

ーー自分は待ちわびていたのだろう

 今、目の前にいる男を確認して胸が昂るのを感じる。

 生まれ出でてまだ半年も経っていないというのに、デビルガンダムことDはこの瞬間のことだけは一生の記憶に残るであろうことを予感していた。

「待っていたぞ、ゴッドガンダムよ」



 さて、みなさん。

 オーブの海域で突如姿を暗ましたデビルガンダム

 彼はプラントのギルバート・デュランダルからの連絡に心を動かされたのです。

 そう!

 ドモン・カッシュとゴッドガンダムがこの世界に現れた件が、ついにデビルガンダムことDに知られてしまったのでした。

 デュランダルは更にDに対し、ドモン・カッシュとの一騎打ちの場を提供するのです。

 全世界を巻き込んだ神と悪魔の至高のファイトの火ぶたが今、切って落とされようとしていました!!

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイイイイ!! ゴォオオオオオオ!!





 




ーーオーブ海域

 

 

 

デビルガンダムことDは、自身の体を見直す。

 

 

 

「DG細胞の体でも、明鏡止水を使えたか。やはり、マスターアジアから力を吸収した際に生身の肉体を解析できたのが大きいな。有機物に限りなく近い物資に変化させることができるようになったか」

 

 

 

掌を開いて閉じる。

 

 

 

「これで、また一つ。我は進化できた。感謝するとしよう、ウルベにウォンよ」

 

 

 

「そちらの戦闘を見ていたよ、D。素晴らしいパワーだね」

 

 

 

虚空を睨み笑みを浮かべるDに突如モニターから通信が入った。

 

 

 

「デュランダルか。どうした?」

 

 

 

「実はね、D。君の目的の男が現れたんだよ。キング・オブ・ハートがね」

 

 

 

「何だと!? それは本当か!?」

 

 

 

目を見開き、問いかけるDにデュランダルは満足そうな笑みを浮かべた。

 

 

 

「メンデルの戦闘記録データを君に送ろう。自分の目でも確認してくれ」

 

 

 

デュランダルの言葉に頷き、送られてきた映像データを再生させると、自分が求めてやまない男とガンダムが、そこにいた。

 

 

 

「ドモンーー! ゴッドガンダムーー!!」

 

 

 

自分を倒した男とガンダムが、デュランダルが改造したデスアーミーの部隊を叩き潰していく。

 

 

 

変わらぬ宿敵の健在ぶりに、Dは笑みを浮かべていた。

 

 

 

「D、プラントに帰還してくれたまえ。ドモン君たちに私からメッセージを送っている。彼の性格ならば罠であったとしても、この申し出を受けるはずだ」

 

 

 

「ーー何をした? ドモン・カッシュとゴッドガンダムは我の宿敵(モノ)だぞ! 余計な手出しはーー!!」

 

 

 

怒りを露わにするDに対し、デュランダルが手で遮ると同時にモニターに一基の廃棄コロニーを映し出させる。

 

 

 

「ーーこれは?」

 

 

 

見れば廃棄コロニーの周りを取り囲んでコーナーポストが置かれ、ビームロープを形成していた。

 

 

 

それが意味することはーー。

 

 

 

「ガンダムファイトを行え、ということか?」

 

 

 

「どうかな、D? もちろん、君が嫌ならばこの案は無しだがーー」

 

 

 

とデュランダルが言い終わる前に、Dが口を開いた。

 

 

 

「いつだ?」

 

 

 

「明日にでもできるよ、試合ならね」

 

 

 

「明後日にしろ。奴ならば1日開ければベストの状態に高めてくるはずだ」

 

 

 

はっきりと断言するDに、デュランダルは苦笑を浮かべて問う。

 

 

 

「発案した私が言うのも何だが、彼が断る可能性は?」

 

 

 

「皆無だーー。貴様が先に述べたとおり。我の知るドモン・カッシュは、罠であろうと必ずやってくる」

 

 

 

「彼を信じているのだね、D」

 

 

 

穏やかな笑みを浮かべて問うデュランダルに、Dは邪悪な笑みを浮かべて返した。

 

 

 

「我が最も望んだファイターと、我の対となる名を冠するガンダムだ。そのぐらいはやってもらわねばならん。無論、我とて負ける気など毛頭ないがな」

 

 

 

「わかった、では私からクライン派に独自のルートで情報を流すとしよう。彼らがこちらの情報にどう行動するのか、見せてもらわなければな」

 

 

 

「あの小娘に似た女か。いや、あの小娘を似せたと言うべきだな」

 

 

 

「奇しくも、君の姿の基となった青年と。私が作り出したアイドルのオリジナルが行動を共にしている。因果を感じるね」

 

 

 

笑むデュランダルに、Dは退屈気に告げた。

 

 

 

「くだらんーー。我の目的はただ一つ、ドモンとゴッドガンダムのみよ」

 

 

 

その言葉に、恭しくデュランダルは黙礼してみせた。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

クライン派の高速巡洋艦ーーエターナル内にて

 

 

 

 マーチン・ダコスタは、プラント本国からの暗号通信を傍受していた。

 

 

 

 それは次のようなものだった。

 

 

 

ーーネオジャパンのガンダムファイターよ、コロニー時間で明後日の午後9時に指定の廃棄コロニーへ現れよ

 

ーー神と悪魔の決着をつけようではないか。

 

 

 

という簡潔なものだった。

 

 

 

 それが一般向けに放送されているテレビやラジオなどから、分かるものには分かるように送られている。

 

 

 

「これは、罠ですよね?」

 

 

 

 ダコスタはラクスに問いかけながら、解いた暗号の答えを見せる。これにラクスは眉根を寄せながら述べた。

 

 

 

「この暗号ではっきりといたしましたわ。デュランダル議長は、やはりデビルガンダムと通じていたのですわね」

 

 

 

「何を今更。あの廃棄コロニーメンデルだったか? で既に黒なのは明らかだったろ。アレだけクローンやらDG細胞製のMSを出してきたんだからな」

 

 

 

 ラクスの答えに、挑戦状を叩きつけられた本人であるドモンは淡々と返していた。

 

 

 

「落ちついてる場合じゃないでしょ!? 貴方は、議長に狙われているんですよ!!」

 

 

 

「そう慌てるなよ、ダコスタ。別にこちらの居場所がばれた訳でもない。男はドッシリ構えてるもんだ」

 

 

 

 ドモンは腕を組みながら面白そうに眉根を上げて、暗号を見つめる。

 

 

 

「それにしても、このガンダム・ザ・ガンダムに挑もうとは。余程の自信か……」

 

 

 

「ドモンさん、迂闊な真似はいけません。相手はあのデビルガンダムとプラントをまとめるデュランダル議長です。ただガンダムファイトをして終わり、ではないでしょう」

 

 

 

「ーーだろうな」

 

 

 

 ラクスの言葉を聞きながら瞳の奥に燃える何かをちらつかせるドモン。

 

 

 

 彼の口元には深い笑みが刻まれている。

 

 

 

 その屈強な肉体に流れる武闘家の血が騒いでいるのだ。

 

 

 

 久しく見なかった強敵の出現と激戦の予感にーー。

 

 

 

「場所の指定はどのあたりだ?」

 

 

 

「ドモンさんーー」

 

 

 

「危険なのは百も承知だ。だが、挑まれた勝負から逃げるような真似を俺はしない。それに気になることもある。悪いがここは俺一人で行かせてもらうぞ」

 

 

 

ドモンの言葉に、ダコスタが目を見開いた

 

 

 

「無茶ですよ! あからさまに罠じゃないですか!! いくら貴方が強くても、敵の親玉の懐に何の準備もしないでーー」

 

 

 

「丸一日、猶予がある。俺の気持ちを作り上げるのに十分な時間だ。俺を模しているデビルガンダムの意思か、デュランダルって奴の計略かは知らないが。おそらく、向こうは真剣に俺とファイトがしたいのだろう」

 

 

 

「敵の狙いが分からないのに、その懐に行くなんて! なんて無茶苦茶な!!」

 

 

 

「俺の国の古い諺に『虎穴に入らざれば虎子を得ず』と言う言葉がある。無茶でも何でも、一気に事態を動かすには奴らの狙いに乗るしかない。どの道、デビルガンダムとは戦うつもりだった。こちらとしても都合がいい」

 

 

 

「一騎打ちだけで済むとは思えない!! 私は反対です!!」

 

 

 

 ダコスタの必死な訴えに、ラクスも思案している。

 

 

 

「100%罠だと言い切れます!! ラクス様からも、ドモンさんを止めてください!!」

 

 

 

 思案気な顔のまま、ラクスはドモンに問いかける。

 

 

 

「ドモンさん、あなたは罠だと?」

 

 

 

 これにドモンは笑みを浮かべて告げた。

 

 

 

「さあな。だが、罠であったとしても構わない。要は俺にそれを破る力があるか、ないか。それだけだからな」

 

 

 

「負ければ、ただではすみませんよ? それに勝っても無事に済むとは思えません。それでも行くのですか?」

 

 

 

「すまないな、ラクス。だが、俺の中に流れる武道家の血が戦いたいと言ってるんだ。四年前、みんなの力を得てようやく倒せたデビルガンダムを相手に、今度はどれだけ戦えるのか知りたい。そして奴がこの世界で、どれだけ腕をあげたのかを」

 

 

 

 ドモンの言葉に、ダコスタが素っ頓狂な声を上げた。

 

 

 

「何を言ってるんですか!? 我々は格闘技の試合をしているんじゃないんですよ!! 戦争をしてるんだ!!」

 

 

 

「分かっている。だがーー、俺には奴らがガンダムファイトの意味を知らずに使っているとは思えないんだ。頼むラクス。行かせてくれ」

 

 

 

 ラクスは思う。ドモンの実力は先ほど垣間見た。彼が真っ向から戦って負ける姿は想像できない。しかし、相手はあのデビルガンダムであり、油断ならないデュランダル議長だ。

 

 

 

 たっぷりと考えたラクスの答えはーー

 

 

 

「分かりました。行ってください」

 

 

 

「ラクス様ーー!?」

 

 

 

「ダコスタさん。ドモンさんはわたくし達に手を貸してくださっているだけです。クライン派ではありません。何よりも、この世界のことはこの世界に生きるわたくし達が解決しなければなりません」

 

 

 

 ラクスの言葉と視線にダコスタは思わず黙り込んでしまった。何者にも揺らぐことない信念を貫いたーー凛とした光がラクスの瞳に満ちている。

 

 

 

「すまないな、ラクス。俺から力を貸すと言い出したくせにーー」

 

 

 

「いいえ。ただし条件がございますわ」

 

 

 

「なんだ?」

 

 

 

 問い返したドモンの顔を真っ直ぐに見返し、ラクスは告げた。

 

 

 

「わたくしも共に参りましょう」

 

 

 

「ーーラクス様!!?」

 

 

 

 ダコスタをチラリと見た後、ラクスはドモンを見据える。

 

 

 

「かまいませんね?」

 

 

 

「ああ。分かった」

 

 

 

 二人は多くを語らない。それだけだった。ダコスタとしてもそれ以上言い出せる雰囲気ではない。立場やタイミングを読んでいる場合でないのは頭で理解しているが、こうなった歌姫が何を言っても聞かないのは既に分かっている。

 

 

 

「ダコスタさん。ガンダムファイトに参加すると返事をしてください」

 

 

 

「分かりました--。こうなりゃ、どうにでもなりやがれ!!」

 

 

 

 やけくそに叫びながら、ダコスタはデュランダル議長あてに暗号通信を開き、メッセージを送付するのだった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 翌日、デュランダルは執務室にミーアを呼び出し式の段取りを彼女に伝えていた。

 

 

 

「ーーと言うわけだ、よろしく頼むよラクス」

 

 

 

「分かりました、議長。それでDは?」

 

 

 

 プロデューサーと共に会場内の施設の詳細なデータを印字した資料に目を通しながら、笑顔でデュランダルに答えるとミーアはもう一人の主役であるDの姿を探した。

 

 

 

「彼なら先にガンダムファイト会場に行ってるよ」

 

 

 

「え? 本番は明日の夜なんですよね?」

 

 

 

 目を丸くして問いかけるミーアにデュランダルはクスリと笑い、答えた。

 

 

 

「ああ。まるで遠い恋人を想うように待ち遠しいらしい」

 

 

 

「あのDが?」

 

 

 

「私も意外だったよ。基本的に彼は他人に興味がないからね。付き合いが一番長い私ですら、あそこまで感情をあふれさせたDを見るのは初めてだ」

 

 

 

 笑みをこらえようともしないデュランダルをぼんやりと見返し、ミーアは不愛想な赤い髪の青年を思い浮かべていた。 

 

 

 

その後ーーーーガンダムファイト特設会場にて

 

 

 

「お疲れさまでした、ラクス様」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 ミーアは、明日のためのリハーサルをたった今終えたところだった。汗をタオルで拭きながらステージの脇に移動して資料に目を通す。

 

 

 

 ガンダムファイトと言うのが何なのかは、よく分からないが何かのイベントをDは行うらしい。

 

 

 

 そのDの相手が会場に来たら、彼の案内をするのも自分の役目だった。ただし、ミーアはその相手がどんな姿をしているのかを知らない。

 

 名前がドモン・カッシュといい、黒髪で長身の男性としか聞いていないのだ。

 

 

 

「ねぇ、マネージャー? なんで議長はこんな特設会場まで作って、その人を呼ぶのかな?」

 

 

 

「そりゃ俺にも分からんけど、なんか考えがあるんやないか?」

 

 

 

「ーーっていうか、どうしてステージの後ろにMSが置いてあるのかしら」

 

 

 

 言いながらステージの後ろに佇む巨大な機体を見つめる。

 

 

 

 赤いマントを羽織るようにした姿の機体は、静かにその場に直立していた。

 

 

 

「Dの奴、どこにいるのよ。打ち合わせとかしたいのにーー」

 

 

 

「ああ。その兄さんなら、あの機体の中にいるらしいで」

 

 

 

「え? なんで?」

 

 

 

「さあ?」

 

 

 

 マネージャーが首を傾げるのを見ながら、ミーアは佇む機体を見上げる。Dが乗っていると聞いてから、どこかこの機体がいつも自分を見下ろすDの姿に似ている気がした。

 

 

 

「ほんっと、腹の立つ奴ね!!」

 

 

 

 ミーアは自分に対して無関心なデリカシー0の青年を思い浮かべて、悪態をつくと立ち上がりステージでリハーサルをしているスタッフに話しかける。

 

 

 

「すみません! もう一回リハーサルお願いできますか?」

 

 

 

「ラクス様!? いや、ありがたいのですがーー」

 

 

 

舞台監督が何かを言おうとする前に、ミーアは続ける。

 

 

 

「わたくしならば、大丈夫です。やらせてください」

 

 

 

再び舞台にスポットライトが点き、イントロが流れ始める。

 

 

 

( 見てなさいよ、D!! この私がただの小娘じゃないって認めさせてやるんだから!!)

 

 

 

一向にこちらを向く気配の無いMSに向けて、ミーアは歌を歌い始めた。

 

 

 

デュランダルは自身の私室でリハーサルの様子を確認していた。

 

 

 

デュランダルは思う。Dという男のことを。

 

 

 

かつて人類抹殺を試みた彼の心は、人類に対する関心がなかった。

 

 

 

人間こそが地球を汚す原因だと判断したのも、人間の行ってきた結果を見ているからだ。

 

 

 

心というものを持たないデビルガンダムには当たり前の回答であろう。

 

 

 

ならば、今の彼は人類に関心があるのか、といえばそれも疑問だった。

 

 

 

Dは基本的に人間に興味がない。

 

 

 

今の彼は、地球にすらもあまり興味を抱いていないようだった。

 

 

 

今、彼が関心を集めているのは、強くなること。

 

 

 

そして、戦うことだ。

 

 

 

ある1人の男とーー。

 

 

 

「それほどまでに想い焦がれる相手か。Dよ、君は正に心を手に入れていたのだな。彼に倒されたことが、君に心を生み出させた」

 

 

 

自分の計略でもあるがミーアがラクスに憧れ、姿を模しているのと同じように。

 

 

 

デビルガンダムはドモン・カッシュとゴッドガンダムに憧れ、姿を模しているのだろう。

 

 

 

「ーーとはいえ、Dのそれは最早模倣の域を超えている。四年の歳月でドモン・カッシュがどれだけ成長しているかは分からないが、Dの力も底知れない。果たして、どちらが勝つのか」

 

 

 

「ーーデビルガンダム様が勝つ、とは言い切れないと?」

 

 

 

傍らに控えていたサトーが口を開く。彼も自分と同じくDG細胞によって肉体を作り変えた新人類だ。

 

 

 

「あのDがあそこまでこだわる男だ。何より手合わせをした私の感想だよ。ドモン・カッシュ、彼の強さは底知れない。桁が違うと言っていいだろう」

 

 

 

「ーーならば、何故デビルガンダム様と一騎討ちなど。もし彼が敗れるようなことになれば」

 

 

 

「ーーそれも、いい」

 

 

 

サトーは思わず目を丸くし、口を閉ざした。

 

 

 

「私もDと同じでね、サトー。見たいのだよ、人の行き着く先を。人でありながら、強さを極めた者の実力を。限りなく進化する悪魔を相手に3度も打ち勝つ、最強の男をね」

 

 

 

遺伝子を操るのでもない、薬を使うのでもない。

 

 

 

ただ、ただ、純粋に強さのみを極めた者の力。

 

 

 

絶望にあって最後まで希望の光たりえた強さを、Dのようにデュランダルも見たのだ。

 

 

 

「サトー、私はこの戦いを全ての人類に見せようと思う」

 

 

 

「ーー何故ですか?」

 

 

 

「コーディネーターとナチュラルの対立など、瑣末なものに過ぎない。彼らの力の前にはね。だが、その力を振るう片方は紛れもなく、ナチュラルなのだ」

 

 

 

遺伝子こそが、全てのデータだと考えていた。

 

 

 

だが、違うのだ。

 

 

 

DG細胞然り、ガンダムファイター然り。

 

 

 

人間の可能性は、デュランダルの想像を超えていたのだ。

 

 

 

ならば、見るしかない。

 

 

 

ならば、見せるしかない。

 

 

 

ナチュラルにも、コーディネーターにも。

 

 

 

全ての人類に、見せつけよう。

 

 

 

悪魔と神。

 

 

 

そう呼ばれるガンダム達の、2人の男の戦いをーー。

 

 

 

「全世界にこの対決を見せつける。それが、私の運命なのだろう。Dと出会ってからの、ねーー」

 

 

 

笑みを浮かべたデュランダルの考えは、サトーにも理解できないものだった。

 

 

 

ーーーーーー

 

翌日、最後のリハーサルに励むミーアは、一心不乱に歌とダンスを続けていた。

 

 

 

その時だったーー。

 

 

 

自分の歌に合わせて完璧な旋律で、透き通るような声が聞こえてきた。

 

 

 

周囲の人間が、思わず周りを見渡している。

 

 

 

「おい、誰だ? エコーを勝手にかけたのは!!」

 

 

 

音響に苦言を呈する監督だが、音響達は皆首を横に振っている。

 

 

 

「ーー今の、声って」

 

 

 

ミーアが呆然としていると、舞台袖からまた先ほどの歌声が聞こえてきた。

 

 

 

透き通るような、穏やかで静かな歌声。

 

 

 

近づいてくる。

 

 

 

「ーーもしかして、ラクス様ーー!?」

 

 

 

思わず、ミーアはそんな声を出してしまった。自分で出した声に、思わず口を塞ぎミーアは前を見る。

 

 

 

そこに現れたのは、陣羽織と呼ばれる着物をきた自分と瓜二つの少女。

 

 

 

いや、自分が似せたーーなりきっていた役そのもの。

 

 

 

「ーーお久しぶりです、ラクス姉様。素晴らしい歌でしたわ。わたくしも、つい一緒に歌いたくなってしまうほどに」

 

 

 

目の前にまで来て微笑む憧れの人。夢にまで見た邂逅なのに、ミーアには冷たい汗が流れる。

 

 

 

自分が、ラクスでなくなってしまえば。

 

 

 

今の本来の姿を捨てた自分は何になるのだろう、と。

 

 

 

「お姉様。わたくし退屈で、これ以上家で待つなんてできなくて。無理を言って彼に連れてきてもらいました」

 

 

 

自分とは、まるで違うオーラを放つ見た目は同じの少女は、明るく朗らかにミーアをラクスと呼ぶ。

 

 

 

「いきなり歌い出すから何事かと思えば、意外にミーハーなんだな。双子の姉がいるとは知らなかったが」

 

 

 

「はいな。わたくしも驚いていますわ。歌を歌う姉様のお姿が、こんなに素敵だったなんてーー。改めて大好きになりました」

 

 

 

男性の声が聞こえてきた。しかし、今のミーアにはそちらを見る余裕がない。男性と朗らかに語るラクスに向かって辛うじて声を出した。

 

 

 

「ーーどう、して? ラクス様はーー」

 

 

 

「貴女ですわ、ラクス姉様」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

自分を姉と呼ぶラクスは静かに一歩踏み込むと顔を寄せてきて、言った。

 

 

 

「今、平和を祈り歌を歌う貴女の姿こそ、人々が求めてやまない歌姫の姿です。わたくしのように、全てを捨てて逃げた者ではない。むしろ、わたくしのような愚か者の為に、貴女はーー」

 

 

 

眉根を寄せ、懺悔のような言葉を語るラクスに、ミーアは何も言えない。

 

ラクスはそのまま、ミーアを抱き寄せた。

 

 

 

周りが騒ぎ始めている。

 

 

 

当然だろう、ラクス・クラインに双子の姉や妹がいるなど聞いたことがないのだから。

 

 

 

だが、泣いている妹を自称する者の姿に、誰も何も言えなかった。

 

 

 

「ーーごめんなさい。わたくしが逃げたせいで、貴女を。貴女の人生を。ごめんなさいーー」

 

 

 

その言葉が静かにすすり泣くラクスから聞こえた時、戸惑っていたミーアの頬に涙が一筋つたった。

 

それが決壊の合図だった。ミーアも声を出して泣き始めた。ラクスの腕の中で、母親に抱かれる娘のように大泣きしていた。

 

2人の儚い少女たちの姿に、周りはまことしやかに囁き始める。

 

 

 

ラクス・クラインには双子の妹がいた、と。

 

 

 

 

 

 

 




 みなさんお待ちかね~!!

 ドモンとデビルの対決をギルバート・デュランダルは世界に対し、盛大に放送します。

 彼らのファイトが、連合やザフト、オーブなどの国にもたらす影響は?

 そして、神と悪魔の対決の勝者はどちらなのか!?

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第42話に!
 
 レディー、ゴー!!


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第42話 神魔激突 ゴッドガンダム 対 デビルガンダム

みなさん、驚きの展開です。

なんとラクスを模していたミーアの前に本物のラクスがドモンと共に会場に現れ、自分をラクス・クラインの妹だと名乗るではありませんか!

もちろん、関係者は大パニックです。

しかし、我らがドモン・カッシュはそんな周りのことなどお構いなしに、自分を待ちかねていた男に声をかけるのです。

さあ、いよいよ! 神と悪魔の再戦です!!

それでは、ガンダムファイト!!

レディィィィ! ゴォォォオオオ!!

第42話



 

ミーアが落ち着くまで自身も涙を流しながら、優しく背中を撫でるラクス。

 

 

 

「ーーあ、あのラクス様?」

 

 

 

舞台監督が、狼狽えまくるミーアのマネージャーの脇から声をかけるも、黙殺されていた。

 

 

 

「ーー姉妹の感動の再会だ。しばらく黙っておいたらどうだ? まあ、邪魔するなら俺にも考えがあるがな」

 

 

 

拳をパキパキ鳴らしながら、ドモンは鋭い目で周りを見渡す。それだけで、周囲の人間は一歩後ろに下がってしまう。

 

 

 

「ーーえ? D?」

 

 

 

ようやく落ち着いてきた、ミーアはラクスの腕の中で、黒髪の青年ーードモンを見て呟いた。

 

 

 

「はじめまして、ラクス・クライン。俺の名はドモン・カッシュ。ファイトの招待を感謝するぜ」

 

 

 

ニヒルに口元を歪ませ、燃えるような赤いハチマキと黒い瞳が印象的だった。

 

 

 

何よりその姿や声は、自分がよく知るDの姿に髪の色が違う以外は、そっくりだった。

 

 

 

「ーー随分と早いな」

 

 

 

声が上から聞こえてきた。振り返れば、それまで全く動きのなかったガンダムが、顔をこちらに向けている。

 

いや、1人の男に。

 

 

 

「約束した時間の2時間前だが、待ってくれていたみたいだな。デビルガンダム」

 

 

 

「……ドモン。何故ファイトを受けた? 我との一騎討ちに何故臨む?」

 

 

 

ドモンは皮肉げな笑みのまま、告げた。

 

 

 

「俺は最強の男、キング・オブ・ハートのドモン・カッシュだ。敵を恐れてどうする? 勝負を恐れてどうする? 違うか、デビルガンダム」

 

 

 

「それだけで、その女を巻き添えにはするまい?」

 

 

 

デビルガンダムは、Dは知る。確かにドモンは誇り高く、戦いを挑まれれば断りはしない。だが、周囲を巻き込む場合はその限りではない。

 

 

 

ドモンは、思慮深く慎重なところがある。その彼がなんの考えもなしにラクスを連れてきたのが、Dには引っかかっていた。

 

 

 

「彼女もファイターって訳だ。だが、安心したぜ」

 

 

 

「ーー何?」

 

 

 

ドモンの言葉にDが、眉根を寄せて問いかける。

 

 

 

「この間、メンデルとか言うコロニーで出会った奴らと同じようなら、引導を渡してやるつもりだったが。それは杞憂だったみたいだな」

 

 

 

不敵な笑みを浮かべて告げるドモンに、Dの眦がつり上がった。

 

 

 

「ーー随分と偉そうな事を言ってくれるじゃないか、ドモン・カッシュ」

 

 

 

ズォォァッ

 

 

 

一瞬後、デビルガンダムはマント状にしていた翼を展開。大きく左右に広げて、構えを取る。

 

 

 

「ーーマスターガンダムとゴッドガンダムの姿を模してるのか。しかも、その体捌き」

 

 

 

「さすがに気づいたか。そう! 俺はマスターアジアの戦闘データをDG細胞にコピーさせ、取り込んだのだ。更に明鏡止水の境地も手に入れた。ゴッドガンダムよ、この戦いで貴様を下し、我こそが最強にして究極のガンダムと証明してやろう」

 

 

 

勝ち誇るかのようなDの言葉に、ドモンは淡々と返す。

 

 

 

「ーーなるほど。父さんが名付けたアルティメットガンダムの名を取り戻したいのか。だがーーまだまだだな」

 

 

 

「ーー何?」

 

 

 

「デビルガンダム、お前は知っているか。何故ガンダムファイターは武を極めようとするのか。 武の道とは、何かを」

 

 

 

「ーー何が言いたい?」

 

 

 

「答える気がないのなら、黙ってろ。俺もあまり上から目線の言葉を話すのは好かん」

 

 

 

ドモンの静かな迫力にDをして黙る。ドモン程の男でなければ、絵空事だと流せるだろうが。彼の言葉は積み重ねてきた修練と研鑽から紡がれるものだ。

 

 

 

まして、自分を倒した相手だ。

 

 

 

「『守・破・離』と言う言葉が武にはある。『守』は師の教えを守って研鑽を高め、『破』はそれを破る試みを行い、『離』で初めて師から独り立ちして離れるという意味だ。見たところ、お前の動きは我が師マスターアジアそのものの動きを模倣しているに過ぎない。言わば『守』の段階だ。俺はもう、そこは過ぎた」

 

 

 

「ーー!」

 

 

 

たった一挙動で、ドモンはDの動きを見抜いてみせた。

 

 

 

「いかに優れた素質があっても、いかに優れた技を持っても、模倣だけではお前自身の拳は育たない。見たところ今のお前は、他人の技を己の力によって振るうだけの者だ。

 

それでは俺は倒せん」

 

 

 

「ーー四年の間に随分と説教好きになったものだな? シュバルツかマスターの影響か?」

 

 

 

Dの言葉に、ドモンは決まりが悪そうに頭をかくと

 

 

 

「俺みたいな奴にも、弟子が3人もできてな。流石に口より先に拳で語るのは辞めたよ。3人とも飲み込みが早いし素直だから、あの当時の俺より余程教えやすいだろうが。シュバルツ兄さんの当時の苦労が今になって身に染みる」

 

 

 

苦笑してそう答えた。

 

 

 

「ーー面白い。だが、口先だけが得意になった訳でもあるまい? 貴様から感じる気は、あの頃の比ではない」

 

 

 

Dの言葉にドモンが不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

「ここから先は口で語るものじゃない。俺たちには言葉よりも交わしたいものがある。そうだろ!?」

 

 

 

「ならば、来い!! ドモン・カッシュ! キング・オブ・ハート!! ゴッドガンダムよ!!!」

 

 

 

Dが邪悪な笑みを浮かべて、不遜に言い放つ。

 

 

 

「出ろぉぉおお、ガンダァァアアムッ!!!」

 

 

 

ピシイッ

 

 

 

ドモンが右腕をかかげ、フィンガースナップを鳴らすと、彼の頭上に炎の渦が黄金の光の球と現れ、その球にキング・オブ・ハートの紋章が浮かび上がる。

 

 

 

一瞬後、炎の渦が天に昇り、その先端に緑に輝くデュアルアイが光ると、腕を組んで立つゴッドガンダムが姿を現した。

 

 

 

互いに向かい合う神と悪魔。

 

 

 

「おい、カメラを回せ。凄い絵だぞ」

 

 

 

 舞台監督の言葉に本番に先立って映像が世界に放たれる。

 

 

 

神は自身よりふた回りは大きい悪魔を見上げ、悪魔はふた回りは小さい神を見下ろす。

 

 

 

瞬間、2人の周りから一切の音が消えた。

 

 

 

圧倒的な緊迫感だーー。

 

 

 

まるで見えない火花が、2人の間で飛び交うような、いや間違いなく飛び交っている。

 

 

 

この光景を地球で見るのはマスターガンダムに搭乗したマスターアジアだった。彼は機内のモニターでガンダムファイトのニュースを確認していたのだ。そこで配信された映像に思わずうなる。

 

 

 

「何という気迫。デビルガンダムの気の変わりようにも驚いたが、ドモンめ。凄まじい武道家になったものよ」

 

 

 

オーブにて、この光景を見るのは、キラとキョウジを除くすべての人々。

 

 

 

「が、画面越しなのに、なんて気だ…!!」

 

「こんな奴らがいるなんて……!!」

 

「お前らが目指す強さってのは、果てしないな。スティング、アウル」

 

 

 

 特にマスターアジアと共に長くいたスティングやアウル、ネオにとってはこの二人の存在感は覚えのあるものだった。

 

 

 

「これが、キョウジの弟か。キラたちはまだ?」

 

 

 

「ええ。大分絞られてるみたい」

 

 

 

「ーー無理もないか。にしても、何て緊張感だ。まだ始まってもないのによ」

 

 

 

「これが、ガンダムファイターなのね」

 

 

 

 マリューとバルトフェルドも、画面にくぎ付けとなる。

 

 

 

ーーーー地球連合ジブリール邸にて

 

 

 

 三人の男はモニターを眺めながら、笑みを浮かべていた

 

 

 

「ドモン・カッシュとデビルガンダムがガンダムファイトとはーー。思い出しますね、ウルベ」

 

 

 

「ふふ、ドモン君は確かに強いが。今のデビルガンダムを真っ向から倒すのは無理だ。彼は昔から向こう見ずなところがあったからな」

 

 

 

「ほう? ウルベ、貴様はゴッドガンダムが負けると言うのか?」

 

 

 

「おそらくな、ジブリール。今のデビルガンダムを相手に一騎打ちなど無謀の極みだ」

 

 

 

 あきれたような表情で、ウルベはモニターに映るゴッドガンダムを見据えた。

 

 

 

「君が勝てたのは、シャッフル同盟やガンダム連合、そしてレイン君がいたからだ。一人でデビルガンダムを相手にするなど。思い上がりもはなはだしい」

 

 

 

 冷酷な笑みを浮かべて、ウルベはドモンに告げる。

 

 

 

「残念だ。君は、是非私の手で潰してやりたかったのだがね」

 

 

 

ーーーーガンダムファイト会場にて

 

 

 

 静かに互いに向かって構える両者だが、そこに巨大モニターから割り込みの声がかかった。

 

 

 

「双方、待ってくれ」

 

 

 

 スクリーンに映し出されたのは、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダル。

 

 

 

「何のつもりだ、デュランダル。この期に及んで、何故止める?」

 

 

 

「D、この戦いは全世界に放送しようと思っている。君たちだけの私闘にするにはあまりにも惜しいのだよ」

 

 

 

「くだらん。ドモン! ファイトだ!!」

 

 

 

 Dはデュランダルの言葉を無視して、構えようとする。その時ドモンに対し、ラクスから通信が入った。

 

 

 

「ドモンさん、申し訳ありませんが少し待っていただけませんか?」

 

 

 

「ラクス?」

 

 

 

「この世界にあなた方のファイトを見せたいと言う議長の真意はともかく。わたくしもあなた方の戦いは世界に伝えるべきものだと考えています。ですからーー」

 

 

 

 ラクスの言葉の途中でドモンはDに対して構えるのをやめた。 

 

 

 

「何のつもりだ、ドモン・カッシュ?」

 

 

 

「俺がここに来れたのは彼女が俺の要望を聞いてくれたからだ。今度は俺が彼女の要望に応える番だ」

 

 

 

「こんな下らん茶番に付き合うのか?」

 

 

 

「下らない、か。デビルガンダムーーいやDと呼ばせてもらおう。武道家はあるレベルに達すると個人の考えでは動けなくなる。それは、その強さに責任が生じるからだ。本人が望む望まぬにかかわらず、その振るう拳に多くの人々が関わってくる。だからこそ『歴史の立会人』という役割が、争いの歴史を繰り返す人類を陰から見守る役目がシャッフル同盟には与えられていた」

 

 

 

 そう言いながら、ドモンは静かに呼吸を整えていく。その様は穏やかでありながら、同時に機体の隅々にまで気が浸透していくのがわかる。

 

 

 

「だが、だからこそ。俺は生涯ただ一人の武道家としてこの拳を振るう。ただ拳にのみ生きる」

 

 

 

 そう言いながら、ドモンは再び拳を握り、Dの眼前に突き出すと告げた。

 

 

 

「かつて全人類を抹殺せんとしたデビルガンダムよ。俺はただ一人の武道家として、お前に立ち向かおう」

 

 

 

「……我が、生涯の宿敵。三度にわたり我を打倒したゴッドガンダムよ。貴様の矜持、心得た」

 

 

 

 互いに己の信念を告げあう。

 

 

 

 そんな中でゆっくりと時間が過ぎていく。

 

 

 

「ラクス様、あたしーー」

 

 

 

 本番前になってミーアの脚がすくみ始めた。本物のラクスが現れたことにより、彼女の中で『ラクス』を演じることが難しくなっていたのだ。

 

 震える足を叩いても、一向に震えが止まる気配がない。

 

 

 

ーーはやく、いつも通りにしないと。あたし、ラクスなんだからーー

 

 

 

 そう自己暗示をかけようとするも、一向にやまない不安。

 

 

 

 すると、ラクスがミーアの横に座り小声で話しかけてきた。

 

 

 

 彼女はこのまま、関係者に妹で押し通すつもりのようだ。

 

 

 

「ラクス姉様、わたくしはずっと貴女を見ていました。大丈夫です、貴女はラクスですよ。わたくしのような愚か者の名を語るのはお辛いかもしれませんが、もう少しだけ我慢してください」

 

 

 

「あたし、ラクス様のファンでーー」

 

 

 

「わたくしも、貴女のファンですよ。大丈夫です、いつもの貴女なら。先ほどの素晴らしい歌を聞かせてくださいな」

 

 

 

 純粋無垢な笑顔でラクスは、ミーアの歌を楽しみにしている。その姿にミーアは励まされた。彼女は一つ覚悟を決めたように頷くと、ラクスに告げる。

 

 

 

「ラクス様、一緒に歌ってくれませんか?」

 

 

 

「いいですね!! 二人のラクス様が並ばれるのは、非常に絵になります!!」

 

 

 

 この言葉に、舞台監督は喜び、モニターのデュランダルの表情がわずかにこわばった。それを知ってか知らずか、ラクスは静かに首を横に振る。

 

 

 

「いいですわね。けれど、それはまたの機会にいたしましょう。わたくしは今、純粋にファンとして、貴女の歌を聞きたいのです」

 

 

 

 笑顔でありながら、どこか強い意志を感じミーアも表情を真剣なものにする。

 

 

 

「お願いしますわね、お姉様」

 

 

 

「わかりました」

 

 

 

 こうして彼女は、自分の憧れの人の前で全力のライブパフォーマンスを行う。

 

 

 

 その迫力は、全世界に伝わり、盛り上がりは最高潮に達していた。

 

 

 

 セレモニーがフィナーレを迎え、いよいよ神と悪魔の両者が向き合う。

 

 

 

「二人とも、長らく待たせてしまったね。はじめようかーー」

 

 

 

 デュランダルが声を大きく張り上げた。

 

 

 

「それでは、ガンダムファイトーーーー!!」

 

 

 

 これにDが腰を落として斜に構えを取って叫ぶ。

 

 

 

「レディイイイイイイイ!!」

 

 

 

 ドモンが答えるように右拳を腰において、左手を顔の横に持ってきて構え。

 

 

 

 両者同時に互いに向かって駆ける。

 

 

 

「ゴォオオオオオオオ!!!」

 

 

 

 互いに向かって右の拳を振りかぶりぶつけ合う。ドゴォッ

 

 

 

 爆発音がした後、黄金の光があたり一面に生じた。

 

 

 

 

 

 

 

 ライブを終えたミーアと客席でそれを見ていたラクス達は、黒服の案内のもと安全な観客席としてコロニー外の資源衛星へと案内された。

 

 

 

 プライベートエリアに先にいたのは、デュランダル議長その人だった。思わず前に出るダコスタを脇に押しやり、ほほ笑みを浮かべてラクスはデュランダルに告げた。

 

 

 

「はじめまして、ですわね。ギルバート・デュランダル議長」

 

 

 

「話せて光栄だよ、ラクス・クライン」

 

 

 

 互いにはじめての邂逅だった。ダコスタは隣で緊張のあまり生唾を飲み込んでいる。

 

 

 

 デュランダルは自身の隣の席に手をやる。

 

 

 

「失礼いたしますわ」

 

 

 

 ラクスはそれに預かり、堂々とデュランダルの横の席に着く。

 

 

 

「こうして君と話せるとは思わなかったな」

 

 

 

「わたくしは、こうなる予感がありました。単刀直入にお聞きします」

 

 

 

「ーー何かな?」

 

 

 

 ラクスはモニターに写される神と悪魔のぶつかり合いを見ながら、トーンを変えずに告げた。

 

 

 

「あなたは世界に、ガンダムファイトを見せつけて何を変えたいのですか?」

 

 

 

「奇遇だね。私も君に聞いてみたかった」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

 デュランダルの言葉に今度はラクスが眉を上げる。

 

 

 

「ラクス、君はこの世界をどう思う? 争いのなくならない今の世界を」

 

 

 

「……悲しいことだと思いますわ」

 

 

 

「君は、私の論文を読んでくれたかね?」

 

 

 

 質問する側が変わっているがラクスは特に気にした様子はない。むしろ、望むところだとばかりに話していく。

 

 

 

「遺伝子で全てを支配・管理する世界、ですわね」

 

 

 

「光栄だね。きみの感想をぜひとも聞かせてもらいたい」

 

 

 

「人の可能性を自ら消すような世界を、わたくしは望みません。遺伝子により職業を管理する世界は、人に自ら考えることを失くしてしまうでしょう」

 

 

 

「可能性か。美しい言葉だが、その可能性の為に人は未だに争い続けているとは考えないのかね?」

 

 

 

 問いかけるデュランダルに対し、ラクスは顔をモニターからデュランダルに向けた。

 

 

 

「あなたが望む世界。そのためならば、人一人の人生を変えても何も感じないのですか?」

 

 

 

「私の『ラクス』のことを言っているのならば、君に私を責める権利はないよ。そもそも君が先の大戦での責任を果たさず、キラ・ヤマトと共にオーブに亡命しなければ、戦後混乱を迎えたプラントは今よりも早く再生したはずだからね」

 

 

 

 デュランダルの言葉に、はっきりとラクスは怒りをあらわにした。

 

 

 

「確かに、わたくしが逃げたせいですわね。彼女を、貴方の欲望の犠牲にしてしまったのは」

 

 

 

「私は混乱し絶望するプラントの民をいち早くまとめる必要があった。そのためにーー」

 

 

 

「そのために、彼女の夢を利用したのですね?」

 

 

 

 ラクスは普段淑やかな表情を鋭いものにして睨みつける。その瞳には怒りの炎が燃え上がっていた。

 

 

 

「人が夢を見ることの尊さをあなたは何もわかっていないーー!」

 

 

 

「その夢の為に、私の親友は亡くなったんだよ。傲慢な男の夢の為にね」

 

 

 

 デュランダルが亡き人を想う。彼は世界に絶望して死んでいった。『最高のコーディネーター』の手で。

 

 

 

「夢と言えば聞こえはいいが、それは言い方を変えれば欲だよ」

 

 

 

「夢と欲があるからこそ、人は人でいられるのですよ」

 

 

 

「違うな。欲があるからこそ、人は滅びるのだ」

 

 

 

 ラクスは人の欲を夢と言い、人が明日へと生きるための活力だと主張すれば。

 

 

 

 デュランダルは人の夢を欲と言い、人が明日滅びる原因となると主張する。

 

 

 

 どちらも平行線の主張だった。

 

 

 

「やはり、我々は分かり合えないようだね。ラクス嬢」

 

 

 

「分かり合う? いいえ、デュランダル議長。貴方は分かり合うつもりはありません。分かり合うというのは、意見の違う相手と何度も話し合い相手を理解するということです。あなたのそれは自分の意見に従わない者は力ずくで排除する、という意味ですわ」

 

 

 

 辛辣なラクスの弁にデュランダルは愉快そうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 同時にデュランダルは、思考にふける。

 

 

 

 今、ラクスを暗殺するのは容易いが、キング・オブ・ハートを相手にすれば間違いなく自分も滅びる。

 

 

 

 Dが勝利すればよいが、それも今の状況では分からない。

 

 

 

 何よりミーアの前に彼女は堂々と現れ、妹を名乗っている。

 

 

 

 いきなり消せば、自分が怪しまれるのは必定だ。

 

 

 

(それに、見たいではないか。彼女の言葉が正しいのか、私の言葉が正しいのか。皆が望む未来はどちらかをーー)

 

 

 

 デュランダルはかつてほど、ラクスに対する殺意を抱いてはいない。

 

 

 

(Dが勝てば、彼女の運命は決まるが。ドモン・カッシュが勝てば運命はまだ分からない。試させてもらおう、ラクス嬢。君の運命をね)

 

 

 

「我々の意見が平行線だというのは理解できたよ、ラクス嬢」

 

 

 

「ええ、残念ですが」

 

 

 

「だが、今は楽しもう。神と悪魔の戦いをね」

 

 

 

「そうですわね。願わくば、この戦いを間近で見て貴方の考えに変化が訪れることを祈りますわ」

 

 

 

 ラクスの物言いに、デュランダルは優し気なしかし、熱を伴わない笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ドモンとDは互いに拳と拳を足を止めてぶつけ合う。

 

 

 

 その一撃一撃に衝撃波が発生し、コロニーの地表にひび割れが生じていく。強烈な右のストレートは互いの中央で炸裂し、相殺した。

 

 

 

「どうした、ゴッドガンダム!! 大口を叩いておいて、この程度か!!」

 

 

 

「それはーーどうかな!!」

 

 

 

 ドモンは拳を微かに横にずらして相手の拳を脇に流し、そのまま踏み込んでの左ボディを放つ。

 

 

 

 咄嗟にDも脇腹の前に左手を置いて受ける。

 

 

 

「ーーフン」

 

 

 

 受けられたと見るや、両者拳打を無数に放ちあいながら、ドモンはわずかに後方に下がる。すると今度はDの右のハイキックが顔面に放たれる。

 

 これにドモンも右のハイキックを合わせた。

 

 

 

 互いの蹴りの衝撃で離れたその間合いは絶好のフィンガーの間合い。

 

 

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える。勝利を掴めと轟き叫ぶ!!」

 

 

 

「我のこの手が陰りて笑う。すべてを屠れと昂まり狂う!!」

 

 

 

 両者胸のカバーを展開し、ゴッドは背中に日輪を背負う。同時に互いの右手が片方は烈火に包まれ、片方は青紫に光る。

 

 

 

「爆ぁああああく熱!!」

 

 

 

「暴ぅううううう裂!!」

 

 

 

 ドモン、D共に目を同時に見開くと右手を大きく振りかぶり相手に向かった正拳のように突き出した。

 

 互いに掌を組み合わせ、技を放つ。

 

 

 

「ゴォッドフィンガァアアアアアア!!」

 

 

 

「デビィルフィンガァアアアアアア!!」

 

 

 

 両者の放った必殺技の威力は、コロニーの内部から外壁までを一気に吹き飛ばしていった。

 

 

 

「はぁあああああああ!!」

 

 

 

「ーーグッ!?」

 

 

 

 ドモンの咆哮が響き、爆発と同時にDが後方に下がる。わずかにドモンの技の方が上だった。

 

 煙を上げる右手を見据え、Dはニヤリと笑うとドモンを見据える。

 

 

 

「それでこそ、我が宿敵ーーゴッドガンダムよ!!」

 

 

 

「D、この勝負悪いがお前に勝ち目はない」

 

 

 

 静かに告げるドモンは背中に展開した日輪を消し、ハイパーモードを解除した。

 

 

 

「なんだと?」

 

 

 

「それを今から分からせてやる。俺が開眼した新たな流派「次元覇王流」でな!!」

 

 

 

 ゴッドガンダムの右手が拳を作ると、そこに緑色の光が宿り始める。

 

 

 

「ーーなんだ、その技は!?」

 

 

 

「Dよ、これが俺の『離』の答えだ!!」

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね~!!

 新たな流派を編み出したドモンの力の前に、Dもまた明鏡止水を解放するのです。

 無限に進化するデビルガンダムか

 次元の違う強さのゴッドガンダムか

 果たして、勝者はーー!?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第43話に!
 
 レディー、ゴー!!



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第43話 踏み出した一歩 次元覇王流

さて、皆さん。

ドモン・カッシュが言い放った『離』の答え。

次元覇王流とは、いかなる流派か?

そして彼はデビルガンダムことDに、何を伝えようと言うのか?

それでは、ガンダムファイト!!

レディィィィッ! ゴォォォオオオッ!!




 

 ミネルバのブリッジに集まった面々の中で、シュバルツはモニター内の弟の実力と宣言に目を見張り、呟いた。

 

 

 

「次元覇王流、だとーー?」

 

 

 

 聞きなれない流派の名前を語る弟は、静かにシュバルツさえも知らない拳法の構えを取る。

 

 

 

 流派東方不敗に通じる呼吸法だが、その構えが違う。

 

 

 

 ドモンが独自に編み出した拳法だというのかーー。ならば。

 

 

 

 シュバルツは師としても兄としても、ぜひ見極めたいものだった。

 

 

 

 たった四年で桁違いに強くなった弟の技を。

 

 

 

「ドモンよ、見せてもらうぞ!! 貴様の修行の成果と、そして次元覇王流とやらを!!」

 

 

 

 腕を組み、シュバルツはモニターのドモンに言い放った。

 

 

 

 全く異なる場所にて、マスターアジアもシュバルツと同感であった。

 

 

 

「我が教えを離れ、一人前の武道家となったか。ならば見せてみよキング・オブ・ハート。貴様が歩んできた四年をその拳で表現してみせい、ドモン」

 

 

 

 一方、オーブでは皆が集まる会議室に遅れてドモンのもう1人の兄、キョウジとキラが現れ、事情を周りから聞いていた。

 

 

 

 状況確認を終えた後に、キョウジはモニターを見ながら呟く。

 

 

 

「ーーったく。シュバルツ達の小言が長すぎて、最初の方を見逃したじゃないか!!」

 

 

 

「それ、シュバルツさんやアスランには絶対に聞かれないでくださいね。また怒られちゃいますから」

 

 

 

 文句を言うキョウジの横で、キラは疲れ切ったような何とも言えない顔をしていた。

 

 

 

ーーーーガンダムファイト会場

 

 

 

 右手にシャイニングフィンガーと同じ緑色の気の光を宿しながら、ゴッドガンダムは拳を握り締める。

 

 

 

「次元覇王流、だと? 流派東方不敗を捨てたのか」

 

 

 

 Dは構えを取りながらも、問いかける。

 

 

 

「Dよ。これからお前に見せるのは、師の技を模倣する『守』のお前と師の教えを『離れた』俺の差だ。武道家の拳は己を表現するためにある」

 

 

 

 ドモンは一つDに対して手招きを行うと言った。

 

 

 

「ーー来い。次元覇王流の極意、お前にも見せてやろう」

 

 

 

「気に入らんな。まるで自分が勝つのが当たり前だと言わんばかりの言い草だ」

 

 

 

「そのつもりだーー」

 

 

 

 間髪入れずにDに応えるドモン。Dの眦がつり上がる。

 

 

 

「ーーその言葉、後悔させてやろう!!」

 

 

 

 ハイパーモードのパワーを発揮して、Dは一気にドモンの懐に飛び込む。

 

 

 

「ーーくらえ、デビルフィンガー!!」

 

 

 

 青紫に輝く右の掌を振りかぶり放つ。顔面に放たれた一撃は強烈で当たればひとたまりもないだろう。だがーー。

 

 

 

「次元覇王流、聖槍蹴り!!」

 

 

 

 緑色に輝く気を左足に纏わせると、ドモンは飛び回し蹴りをDの右掌に合わせた。

 

 

 

 雷が発生し、緑と紫の光が火花を散らす。

 

 

 

「ーーこれは!!」

 

 

 

 足に纏わせた強烈な気で、デビルフィンガーのエネルギーを防ぎつつ、衝撃を相殺させた。

 

 

 

 Dは右掌を振り切った姿勢だが、ドモンは空で態勢を整えると右足に気を纏わせ、踵を振り下ろす。

 

 

 

「ーークッ!?」

 

 

 

 咄嗟に顔を後方へ逸らし、斬撃のような踵を避ける。しかし、ドモンの攻撃は止まらない。躱された踵落としのフォームから流れるように着地すると左拳に緑色の気を纏う。

 

 

 

「ーーばかな、貴様!!」

 

 

 

「次元覇王流、聖拳突き!!」

 

 

 

 左右の拳に気を纏わせると、左拳から右拳を高速で繰り出した。

 

 咄嗟に両腕を畳み顔面をガードするも、緑色の光が炸裂し、腕が震える。

 

 

 

「ーー隙がない。技の予備動作も無ければ、打ち終わりの隙もない、だと?」.

 

 

 

 既にドモンはDの逃げる方に先回りし、強烈な聖拳突きを放ってくる。

 

 

 

「ーーおのれ!!」

 

 

 

 一撃の重みはそれほどでもないが、気によって高められたキレが桁違いだ。

 

 

 

 左右の拳と蹴りに気を纏わせ、隙もほとんどない。

 

 

 

「Dよ、流派東方不敗の技は確かに強力だ。だが、その技には莫大な気を必要とする。その為に初動や打ち終わりに隙が生じやすい」

 

 

 

「当てれば終わりだ!!」

 

 

 

 咄嗟にDは右手を掲げ、左手で前方に円を描く。

 

 

 

「ーー流派、東方不敗!! 十二王方ーーッ!?」

 

 

 

 だが、技を発動させる瞬間にドモンが懐に踏み込んで聖拳突きを放ってくる。

 

 脇に回り込んで避けるDだが、ドモンはその正面に一直線に踏み込んでくる。

 

 

 

「ーーおのれ!!」

 

 

 

Dは悪態を吐くと、足を止めて拳を振りかぶり放つ。先ほどまでと同じように殴り合いが始まる。

 

ただし、今度は一方的にDが殴り負けていく。

 

 

 

「ーーなんだと!?」

 

 

 

 見ればドモンは、足を止めることなく、左右に細かくサイドステップしながら、拳や蹴りを繰り出している。

 

 

 

 その足が地を蹴るとき、小さく緑色の気が弾けるのが分かる。

 

 

 

バギィッ

 

 

 

 強烈な聖拳突きに、ついにデビルガンダムの巨軀が後方に下がる。

 

 

 

「我が真っ向から打ち負けた、だと!?」

 

 

 

「聖拳!」

 

 

 

 ドモンは更に左拳を突き出し、ボディに入れるとーー

 

 

 

「蒼天!」

 

 

 

 続けざまにアゴに右アッパーを打ち込んで、宙に浮かせ

 

 

 

「聖槍!」

 

 

 

 右の回し蹴りをハイキックにして足裏で顔面を蹴り飛ばし、

 

 

 

「竜巻!!」

 

 

 

 後方に弾けとぶデビルガンダムを左足一本で地面を蹴って追いつくと回転力を加えた左の飛び後ろ回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

 

ドゴォッ

 

 

 

 土煙を上げながら、叩きつけられるD。その前に静かにドモンは着地し、見下ろす。

 

 

 

「何という、流れるような連撃だ。足を絶えず左右に散らして的を絞らせず、一方的に打ち勝つラッシュ力ーー」

 

 

 

 シュバルツが目を見開き、体術に感嘆の意を漏らす。

 

 

 

「加えて、奴の拳や蹴りに気を纏わせることにより、ラッシュとてただの手打ちにあらず。東方不敗の技が高めた気を外に放つ技ならば、ドモンの技は気を肉体の内側で爆発させる技、か」

 

 

 

 マスターアジアはドモンの気功術に唸る。

 

 

 

「冷静に相手と自分の位置関係を把握している。相手の攻撃が当たらず自分の攻撃が当たる場所をドモンは瞬時に判断してるんだーー!」

 

 

 

 キョウジはドモンの判断力に、唖然としていた。

 

 

 

 皆が、一人の武道家の技に目を奪われている。無理もない、あのデビルガンダムが手も足も出ないのだからーー。

 

 膝をつき、肩で息をするDとそれを平然と見下ろすドモンの姿は、シュバルツやマスター、キョウジの度肝を抜かせていた。

 

 

 

「ばかな!! 一体何だと言うんだ!! 何故ドモンごときが、こんな馬鹿げた強さにーー!?」

 

 

 

「ーー驚きましたね。ドモン・カッシュがこれほどとは」

 

 

 

 ウルベやウォンですら、顔色をなくしている。それだけ、圧倒的だった。

 

 

 

 Dは肩で息をしながらドモンを見上げる。

 

 

 

「わかるか、Dよ。我が師、マスターアジアならば俺の動きを見て取れば咄嗟に相打ちを狙い、足を止めに来る。シュバルツならば、俺の拳法を封ずる為にビームネットの類や分身を駆使し。我が兄キョウジなら、俺の位置取りに気づき、自らの位置を変えてくる」

 

 

 

「ーー!」

 

 

 

「お前の動きや技のキレは正にマスターアジアそのものだ。だが、お前はマスターの使う技の性質を理解してない。一つ一つの技には当然それぞれに用途がある。それを理解していれば、少なくとも一方的に打ち負けることはなかった。ハイパーモードを使用しているお前の方が今の俺よりスピードもパワーも上だからな」

 

 

 

 淡々とハイパーモードにすらならずにDを退けた男は、当たり前のように告げてくる。

 

 

 

「今のお前では、場合によればウルベやウォンにさえ不覚を取るぞ」

 

 

 

「ーーゴッドガンダム、貴様どこまで知っている?」

 

 

 

 何から何まで悟ったかのようなドモンの言葉に、Dも不快そうに眉根を寄せた。

 

 

 

「ーーいや。お前の拳から、奴らの気を感じただけだ」

 

 

 

「なるほど。とんだ化け物になったものだな。貴様も」

 

 

 

「ーーいや、まだ足りない。俺には誰よりも守りたい女がいる。また拳を交えたいと心から願うライバル達が。俺に教えを請う坊主どもがいる。あいつらに相応しい自分であり続けるためにも、俺は強くなければならない!!」

 

 

 

 ドモンの独白にDも目を見開いた。

 

 

 

「D。俺を倒したいならば、まずは何かを愛してみろ。自分でもいい。形のないものでもいい、女でもいい。何かを信じ、愛してみろ。それを守りたいと思えたなら、お前は変わるはずだ」

 

 

 

 ドモンの言葉に、ラクスが眉を上げた。

 

 

 

「ーードモンさん。あなたはデビルガンダムに愛を、心を教えようと?」

 

 

 

 Dはフン、と鼻で笑うと告げる

 

 

 

「笑わせる。我に愛などーー心などない!!」

 

 

 

「それはどうかな? 『あのラクス』の歌にお前は何も感じなかったのか?」

 

 

 

「ーーーー!!」

 

 

 

「彼女の歌は俺にも響いた。お前にも響いたんだろ?」

 

 

 

 押し黙ったDにニヤリと笑みを浮かべてドモンは言った。

 

 

 

「人を信じ、愛することを恐れるな。それがお前に無限の力を与えるんだ。お前の胸の中に流れる熱い想いを見せてみろ!!」

 

 

 

 ドモンの熱い魂のこもった言葉は、Dの胸の奥にある何かを動かす。

 

 

 

「ーーふん。愛など、心など知らん。機械の我にあるものかすら怪しいものだ。だが、我の真の力を見たいと言うなら見せてやろう」

 

 

 

 黄金の気柱が天をつき、デビルガンダムがその身に黄金の輝きを纏う。

 

 

 

「ーーほう、これが明鏡止水か。実に美しく温かな光だ」

 

 

 

 デュランダルは、その光に素直に感動していた。

 

 

 

「Dーー。Dもあの人に憧れてるの?」

 

 

 

 一方、ラクス達とは別室に案内されていたミーアは何故かDの姿が先ほどラクスの前で歌った自分の姿に重なって見えていた。

 

 

 

「ーーゴッドガンダム」

 

 

 

「ああ。もう一戦だな」

 

 

 

「ここまで貴様の想定内ということか。これで貴様が我に負ければ、とんだ笑草だな」

 

 

 

 邪悪な笑みを浮かべて告げるDに、ドモンも不敵な笑みを返す。

 

 

 

「生憎だが、俺に八百長はできん。俺に勝ちたけりゃ、実力で倒しに来い」

 

 

 

「望むところだぁ!!」

 

 

 

 今度は、Dの猛攻が始まる。Dはドモンの動きを越えようと明鏡止水と自己進化を駆使して、動きを高めていく。

 

 

 

 次々と繰り出される拳蹴打の雨霰を、ドモンも捌きながら打ち返していく。

 

 

 

 高速で移動しながらのぶつかり合い。

 

 

 

「なんという、動きだ!!」

 

 

 

「デビルガンダムめ、明鏡止水と自己進化を駆使しておるのか!?」

 

 

 

「だが、ドモンも負けてないぜ」

 

 

 

 シュバルツ、マスター、キョウジがそれぞれの場で発した言葉どおり、両者の攻防は紙一重での打ち合いだ。

 

 

 

 次元覇王流の技を繰り出し、要所要所でデビルガンダムの攻撃を相殺するドモン。

 

 

 

 ドモンの見切りを上回らんと更に力を上げるD。

 

 

 

 どちらも譲らない。

 

 

 

バギャアッ

 

 

 

 炸裂音が響き、後ろに下がったのはゴッドガンダム。

 

 

 

「デビルガンダムの動きが、ドモン・カッシュの見切りを凌駕したか!?」

 

 

 

「ーーしかし、勝負はまだわかりませんよ」

 

 

 

 ウルベやウォンもまた、この戦いに見解を述べる。

 

 

 

 Dが一気に右掌を開いてデビルフィンガーを放とうとする

 

 

 

「ーーくらえ、ゴッドガンダム!!」

 

 

 

「さすがだな、D。だが!!」

 

 

 

 青紫の光を放ちながら、右掌を突き出してくるDに対し、ドモンは左拳を地面に叩きつけた。

 

 

 

( ガイアクラッシャーか!?)

 

 

 

 咄嗟に地面からの剣山を想定するが、ドモンが叫んだのは別の技の名前だった。

 

 

 

「次元覇王流ーー波動裂帛拳!!」

 

 

 

 現れたのは地を這う黄金の気。しかし、その程度の技などDの敵ではない。

 

 

 

「笑わせるな。小賢しい貴様の技など、我が力で屈服させてやるわ!!」

 

 

 

 デビルフィンガーのエネルギーを前方に展開し、バリアを作るとそのまま力任せに突っ切る。

 

 

 

 だが、目の前にゴッドガンダムはいない。

 

 

 

「ーー左!」

 

 

 

 Dが左足を横蹴りに放つと、片手で受け止めたゴッドガンダムがそこにいた。蹴りを受け、態勢を崩したドモンに追撃のデビルフィンガーが迫る。

 

 

 

「ーー次元覇王流、疾風聖槍連舞拳!!」

 

 

 

 瞬間、ドモンはデビルフィンガーを脇に見切ると、両手の掌底打ちをダッシュの勢いを加味してDのアゴに向けて放ち、跳ね上げた。

 

 

 

 カウンターになった一撃は、Dの動きを止める。そこからドモンの両手両足に緑色の気の光が宿り、刹那の拍子に無数の打撃を叩きこんだ。

 

 

 

「ーーガハッ!?」

 

 

 

 思わず息を吐き出し、前のめりになるDの眼の前で緑色に輝く光の掌から、圧倒的な光線が放たれた。

 

 

 

「俺のこの手が光って唸る。お前を倒せと輝き叫ぶ!!

 

 必ぃっ殺! シャァアイニングゥフィンガァアア!!」

 

 

 

 その光に弾き飛ばされ、Dはプラントの内壁にめり込む。光の余波はアッサリと廃棄プラントに大穴を開けて見せた。

 

 

 

「ーーまさか、これでも届かないとは。我の完敗だ。ゴッド、ガンダムーー」

 

 

 

 最後の力を振り絞り、Dはドモンの勝利を告げると完全に意識を失った。

 

 

 

 そのDに対し、ドモンは高らかに告げた。

 

 

 

「俺とお前の決着は、お前が答えを見つけてからだ。俺の本来のスタイルは最後に見せた次元覇王流からの流派東方不敗。そして、明鏡止水のハイパーモードだ!!」

 

 

 

 気を失ったDを焚きつけるかのようにゴッドガンダムは、黄金の気柱を上げ、黄金の気と灼熱の劫火を身に纏う。

 

 

 

 胸のカバーは開き真っ赤に燃える紅玉がキング・オブ・ハートの紋章と共に光り出す。

 

 背に広げた羽には日輪が生じた。

 

 

 

 その輝きは、太陽の如き圧倒的な光であった。

 

 

 

「ーー這い上がってこい!! お前が、このゴッドガンダムの対となるガンダムだと言うのなら俺は、いつでもお前の挑戦を受ける!! 何度でも挑んでこい、D!! 俺のライバルよ!!!」

 

 

 

 デュランダルが高らかにゴッドガンダムの勝利宣言を行うーー。

 

 

 

 これを見ていた地球・プラントを含む世界の民間人は訳も分からず、けれど湧きに湧いていた。

 

 

 

 この力が、新たな戦争の火種になることを彼らはまだ知らないーー。

 

 

 

 





みなさん、お待ちかね~!!

デュランダル議長によってプロデュースされたガンダムファイトの結果、圧倒的な戦力を保有していると誤解した地球各国の上層部は大混乱に陥ります。

そんな中、ロード・ジブリールは高らかにベルリンの排除を宣言するのです。

悪意と殺意の塊である巨大なMAが、罪なき人々を焼き尽くそうとしたとき、女神の名を冠するザフトの部隊に出撃命令が出ます。

しかし、そのMAに乗せられていたのはーー!!

次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第44話に!!

レディイイイイイイイ!! ゴォオオオオオオ!!


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第44話 絶望の軍勢 死人の進撃

 みなさん。

 ドモン・カッシュとデビルガンダムの対決は、ひとまずの決着です。

 ですが、今度はウルベとウォンがジブリールの命により、巨大MAと死者の軍を率いて侵略を開始するのです。

 これにザフトはミネルバ隊を、オーブはアークエンジェル隊をそれぞれ出撃させるのでした。

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイイイイ!! ゴォオオオオオオ!!

第44話




ーー北アメリカ大陸の岩山にて

 

 

 

 マスターガンダムと共に身を隠していたマスターアジアは、静かに一部始終を見届けると、口元に笑みを浮かばせていた。

 

 

 

「なるほど、ドモン。貴様はわしの教えを離れ、そのような技を編み出しておったかーー」

 

 

 

 血がたぎる。

 

 

 

 未だ見ぬ強敵の出現にマスターアジアこと東方不敗は、闘気を昂らせていた。

 

 

 

「どうやらワシも全盛期の強さを越えねばならんようだな。再びドモンとファイトするためにも!!」

 

 

 

 マスターアジアは自らの流派を見直し、技を磨くという修行が始まった。

 

 

 

ーーそして一方、ミネルバにて

 

 

 

「すごい強さだな。ドモン・カッシュか」

 

 

 

「ああ。相手のザフトの選手も強かったが、それをまったく寄せ付けない圧倒的な力の差だった」

 

 

 

「シュバルツさんでも、あの人に勝てないんですか?」

 

 

 

 シン、レイ、ルナマリアの言葉を聞きながら、シュバルツは覆面の奥の目じりを下げていた。

 

 

 

「ドモン、強くなったな。素晴らしいガンダムファイターになったものだ」

 

 

 

「シュバルツさん?」

 

 

 

 シンがシュバルツの様子がおかしいことに気付き、思わず顔を伺うと、シュバルツは覆面の奥の顔に笑みを刻んだまま答えた。

 

 

 

「今、この世界で二番目に強いガンダムファイターが、倒されたDと言う兵士だ。当然、それを打ち負かしたドモンは、まごうことなく最強だろう。現時点の私では、どう逆立ちしても勝てん」

 

 

 

「……マジですか?」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

 どこか誇らしげに笑うシュバルツに小首を傾げながらも、彼ですら敵わないという言葉にシンはショックを受けていた。

 

 

 

「修行しなければならんようだな、私もーー」

 

 

 

「ーーえ? もしかして、まだ強くなるんですか?」

 

 

 

「当たり前だろう? 弟に簡単に負けるような兄ではいたくないからな」

 

 

 

 穏やかに笑うシュバルツに、シンが目を見開いた。

 

 

 

「弟って……、この人が!? この無茶苦茶強い人が、シュバルツさんが言ってた弟さん!!? ぜ、全然印象が違う……!!」

 

 

 

 隣ではアスランがシュバルツを見据えて口を開いた。

 

 

 

「カッシュ……? キョウジと同じ姓なんだな。弟、か」

 

 

 

「ああ。私とキョウジのーー自慢の弟だ」

 

 

 

 この言葉を聞いたとき、アスランの頭の中にひらめくものがあった。シュバルツの声に見た目に見覚えがあったのはーー。

 

 キョウジと初めて会ったときに感じた既視感の正体が判然としたのだ。

 

 

 

「シュバルツ、貴方とキョウジは兄弟なのか?」

 

 

 

「どうだろうな。片割れと言った方が適切かな」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

 穏やかな笑みを浮かべてシュバルツはアスランに応えると今一度、勝利したドモンを優しく見据えた。

 

 

 

一方、オーブ首長国連邦では

 

 

 

 ネオがあきれたような表情でつぶやいた。

 

 

 

「おいおい、マジかよ。東方先生が苦戦したあの赤い奴を、一方的に打ちのめしやがったぞ」

 

 

 

「どんなバケモンだよ、あのドモンって奴は」

 

 

 

「ちょっとーー強すぎなんじゃね?」

 

 

 

 ネオに続き、東方不敗マスターアジアに弟子入りしているスティングやアウルも、ドモン・カッシュのあまりの強さに言葉もない。

 

 

 

「ああ。信じられんだろうが、上には上がいるもんだな」

 

 

 

 こう語るのは、バルトフェルドだった。

 

 

 

 彼は気分を落ち着ける意味でコーヒーを豆から作り始める。

 

 

 

「お、いいね。一杯もらおうかな?」

 

 

 

「私も、いただけるかしら?」

 

 

 

「なら、俺も頼むぜ」

 

 

 

 これにキョウジ、マリュー、ネオが声を上げ、バルトフェルドは「はいはい」と二つ返事で作り始める。キラはそんなキョウジの隣に立つと、問う。

 

 

 

「キョウジさん、ドモンさんに会いに行かないんですか?」

 

 

 

「今は、他にやることがあるからな。それからでいいさ。ドモンに会うのはな」

 

 

 

 そんなキョウジにカガリは顔をうつむかせながら、キラの隣で告げる。

 

 

 

「すまない、キョウジ。あたしが、もっとしっかりしていたら、お前はーーこの国から」

 

 

 

「気にするなよ、カガリ。これは俺がしたいと言いだしたことだ」

 

 

 

「でも!! あたしがもっとウナト達を抑え込めていれば、アスランもシュバルツも、お前も!! お前たちだけじゃない、みんなだってーー!!」

 

 

 

 ポンッとカガリの頭に大きな手が置かれ、優しく頭を一つ撫でる。

 

 

 

「カガリ、人一人の力なんてたかが知れてる。だからこそ、人は互いに助け合うんだ。もっと仲間をーー俺たちを信じろ」

 

 

 

「ーーキョウジ」

 

 

 

「な、みんな?」

 

 

 

 キョウジがおどけて、振り返ると皆が力強い笑みを浮かべながら、首を縦に振る。

 

 

 

「ーーでも、何が目的なのかしら? デュランダル議長は、こんな真似をしてーー」

 

 

 

 マリューの言葉に、皆が口を閉ざし考え込む。ネオも眉間にしわを寄せて続いた。

 

 

 

「まったく、デュランダルは世界をどうしようとしてんだ? ガンダムファイターの存在をここまで大々的に明らかにするなんてよーー」

 

 

 

 過剰な力と力のぶつかり合いを見せれば、当然世界は動く。動かざるを得ない。

 

 

 

 ガンダムファイターの理不尽なまでの強さを見せつけられて、何も感じない人間はいない。ザフトの手元であんなファイトが行われたのだ。連合は戦力の拮抗を図り、躍起になってガンダムファイターを手に入れようとするだろう。

 

 

 

 連合に加入していない国々もそうだ。連合に不当に支配された国も。

 

 

 

 たった一機で戦力を覆す圧倒的な力ーー。世界はこれらを手に入れるために、動き始めるのではないか?

 

 

 

 いや、すでにウルベやウォンがジブリールと共にいる以上、次にどんな手を使うのかーー? 

 

 

 

 ネオが眉間にしわを寄せながら考え込んでいると、その眼前にコーヒーカップが差し出された。

 

 

 

「! お、わりぃな」

 

 

 

「気にするな、自信作だ。香りを楽しみつつ、飲んでみてくれ」

 

 

 

 バルトフェルドの言葉に笑みをこぼしながら、受け取りネオは一口飲む。

 

 

 

「ーー悪くないな」

 

 

 

「そりゃ、良かった」

 

 

 

 言いながら、バルトフェルドはマリューやキョウジ、トダカたちにコーヒーを配っていく。

 

 

 

「デュランダル議長の狙いは、単純に世界の変革だろう」

 

 

 

「ーーていうと?」

 

 

 

「おそらくだが、デュランダル議長は今の世界を変えたいんじゃないかな。紛争が絶えず行われる世界に対して、ガンダムファイターの力を明らかにし、無関係な人間はザフトがこの二機を管理しているように思う」

 

 

 

 キョウジの考察にキラが意見をした。

 

 

 

「待ってください。ムウーーじゃない、ネオさんが言ったように下手をしたら戦争が激化するんじゃないですか?」

 

 

 

「簡単に排除できる脅威ならするだろうが、まず無理だってあの映像を見たら子どもでもわかるだろう?」

 

 

 

「確かに。映像が加工されたものか疑って分析してみても、現実だとわかるでしょうしね」

 

 

 

 キョウジとキラの間に今度はネオが割って入る。

 

 

 

「待てよ、冷戦の可能性もあるだろ? プラントに対する地球の資源交流の全てを連合が押さえればーー」

 

 

 

「オーブが交渉しやすくなるな」

 

 

 

 にやりと邪悪に笑いながら告げるキョウジに、ネオが思わず絶句する。

 

 

 

「お前ら、こんな参謀のもとでーー?」

 

 

 

「ようこそ、ロアノーク。無法地帯へ」

 

 

 

 逃がさんぞ、と言わんばかりのバルトフェルド、アマギ、トダカの笑みがそこにあった。

 

 

 

「お、俺……早まったかな?」

 

 

 

「だ、大丈夫よ! 私たち、犯罪者とかじゃないから!!」

 

 

 

「いや、そのフォローどうなんだ?」

 

 

 

 マリューの言葉にネオが微妙な表情になる。そこでいったんキョウジは表情を真顔に戻し、言った。

 

 

 

「ところで、ネオ達はアークエンジェルに乗艦してもらうことになるんだが、機体の方は大丈夫か?」

 

 

 

「ああ。お前さんらのおかげで、すっかりウィンダムもオーブ仕様に変身したよ。スティングのカオスも修復できた。問題はアビスだな」

 

 

 

「フリーダムとアビスに関しては、データがないんで修復しようにもできなかった。すまないな」

 

 

 

「かまわんさ、代わりにムラサメをもらえたしな。アウルなら使いこなすだろう」

 

 

 

 顔をスティングとアウルの二人に向けると力強い笑みを浮かべ、頷いてきた。

 

 

 

「それで、ステラという少女なんだがーー」

 

 

 

「なにか、分かったのか?」

 

 

 

 キョウジは静かにうなずくと、モニターを起動させ、ある連合の基地の上空写真を映し出す。

 

 

 

「ユーラシア連邦の連合基地の一つにジブリール派の息がかかっているのがある」

 

 

 

「……連邦西部の独立運動をけん制するために作られた臨時基地か」

 

 

 

 次の写真で、ネオの目つきが明らかに変わった。アークエンジェルの同型艦を黒塗りにした一隻が、中に入っていくのが写されている。

 

 

 

「『アズラエル』だな……!! なら、この基地の中にステラは!!」

 

「早速、助けにいこうぜ!!」

 

 

 

 ネオの言葉にアウルも腕をまくりながら言う。それをキラが止めた。

 

 

 

「臨時基地とはいえ、いきなりアークエンジェル一隻で挑んでも作戦を考えないと厳しいよ」

 

 

 

「でもさ! ステラが待ってんだよ!!」

 

 

 

「うん。助けたいのは、僕も同じだから。失敗しないように慎重に行こう」

 

 

 

 キラの言葉にアウルも視線を下に向けると、しぶしぶと頷いた。

 

 

 

「助かるぜ、いつも止めるのは俺の役だったからな」

 

 

 

「スティング」

 

 

 

「キラ、あんたの実力をあてにさせてもらうぜ。俺が強くなるためにもな」

 

 

 

 不敵な笑みを浮かべて言うスティングにキラは苦笑を浮かべるしかなかった。

 

 

 

「それで、キョウジ。何か策はあるのか?」

 

 

 

「実は、ドモン達のファイトが放送された後、ユーラシア連邦西部は、ザフトに独立運動の協力要請をしたんだ」

 

 

 

 バルトフェルドの言葉にキョウジが淡々と返す。これにネオが渋い顔になる。

 

 

 

「ーーまじかよ。それじゃ、連合は」

 

 

 

「当然、独立運動を許すはずもない。対戦術兵器として巨大なMAを一機、作り上げている。名はデストロイガンダム。ハッキングしてデータを読み取ってみたら、実質エクステンデッド専用の機体みたいだ」

 

 

 

 キョウジの言葉にアウルが目を見開いた。

 

 

 

「それって、ステラのことかよ!!」 

 

 

 

「好都合じゃん。ステラにそのMAを奪取してもらってオーブに合流するように伝えればーー」

 

 

 

「バーサーカーシステムって言うので脳波をコントロールされてなけりゃ、その手もあるんだがな」

 

 

 

 スティングの提案をネオが否定する。

 

 

 

「なあ、ネオ。ステラの奴、また人殺しさせられんのかよ?」

 

 

 

「ああ。このままだと、ステラの心は完全に消されちまう」

 

 

 

「ーーくそっ! どうにかなんないのかよ!!」

 

 

 

 スティングの無念そうな声に、キョウジが静かに告げる

 

 

 

「手はある」

 

 

 

「本当か!?」

 

 

 

 これにネオ達だけでなく、キラたちも目を見開いていた。

 

 

 

「バーサーカーシステムには受信装置が必要だ。それを破壊することができれば、彼女を元に戻せる。ただし、DG細胞に感染させられている可能性もあるから、ワクチンを用意しとかないといけないがな」

 

 

 

 言いながら、キョウジは手元から一枚の折りたたまれた大きな紙を取り出し、机に広げる。これにネオが目を見開いた。

 

 

 

「これはーーデストロイってMAの設計図、か?」

 

 

 

「お前さん、本当に存在が理不尽だよな」

 

 

 

 ハッキングに成功している以上、機体のデータを取るのは容易いようだと、深く追及するのを諦めたバルトフェルドがいた。

 

 

 

「冗談はさておき、システムの受信装置を仕掛けるならコクピットのすぐ脇になる」

 

 

 

 キョウジは赤いペンを持つと、胸部にある三連ビーム砲の脇に印をつける。

 

 

 

「この位置だ。ただし、フェイズシフト装甲に陽電子リフレクターを備えているから、射撃系の武器は一切通らない。アークエンジェルのローングリン砲もだ。くわえて火力の桁が違う。下手をすれば何もできず、近づけずに一方的に落とされるぞ」

 

 

 

 機体特性をきちんと把握しているキョウジの説明に、攻撃の要たるキラ、スティング、アウルが意見を交換しあう。

 

 

 

 その時だったーー。

 

 

 

「キョウジ、大変だ!!」 

 

 

 

 別室で執務を行っていたカガリからの声だった。カガリは作戦会議室に足を運んでくると、写されているモニターをテレビ中継に変える

 

 

 

「お、おい。いきなり何をーー」

 

 

 

 ネオがそう告げようとしたとき、辺り一面が火の海になった軍事基地が映し出されていた。

 

 

 

「!? これはーー!!」

 

 

 

 立ち上る煙の向こうに見えるのは、漆黒の巨大なMAだった。まさに今、話をしていたユーラシア連邦西部にあるザフト軍駐留基地である。

 

 

 

「ーー動いたか、ウルベ」

 

 

 

 キョウジは冷たい刃のようなきらめきを瞳に宿し、一切の感情を廃した声でつぶやいた。

 

 

 

ーー二時間後

 

 

 

 オーブ軍アスハ派私設部隊ーー『アークエンジェル』は、デストロイと呼ばれる巨大MAを打倒し、パイロットであろうステラ・ルーシェの救出を目的として、オーブ本国を出港した。

 

 

 

 

 

 

 

 一方でザフトの部隊が壊滅に追いやられていることでミネルバ隊にもプラント本国より応援要請が送られていた。

 

 

 

 ブリッジで確認する戦闘と呼ぶにはあまりにも一方的な虐殺行為に、ある者は目を覆い。ある者は憤りに震えていた。

 

 

 

「なんだよ、これはーー!! なんなんだ!!」

 

 

 

 シンの言葉はこの場にいる全ての者の心境だった。

 

 

 

「むごいーー。兵士でないものまで皆殺しか」

 

 

 

 シュバルツの目にも怒りの炎が宿っている。その時、アスランとタリアがブリッジに入ってきた。

 

 

 

「みんな、聞いてくれ。これから俺たちはあのMAの殲滅に向かうことになる」

 

 

 

「わかりました。あんな奴、俺たちでぶっ潰してやりましょう!!」

 

 

 

 シンがすぐさま応え、両隣のレイとルナマリアも力強い瞳で頷いてきた。

 

 

 

「だが、今回の作戦に一つオーブから依頼があった。パイロットを救出してほしい」

 

 

 

「? どういうことですか?」

 

 

 

 ルナマリアが小首を傾げながら問いかけると、アスランが資料と思われる記録媒体を持ち出し、ディスプレイにセットする。

 

 

 

 映し出されたのは映像で猛威を振るっていた巨大MAの設計図と一人の少女の写真だった。

 

 

 

「ーーこの子、たしか。地球連合のステラ? この子が、こんな真似を!?」

 

 

 

「うそでしょ? どういうことなの?」

 

 

 

 シンが屈託のない笑顔で自分に話しかけてきた少女を思い浮かべる。隣のルナマリアも困惑気味だった。

 

 

 

「シュバルツ、貴方ならわかると思いますがアレにはバーサーカーシステムが組み込まれています」

 

 

 

「……なんという、卑劣な真似を」

 

 

 

 アスランの一言に、シュバルツの全身から怒気があふれている。

 

 

 

「なんですか、バーサーカーシステムって?」

 

 

 

「簡単に言えば、特殊な脳波で人の感情をコントロールするシステムだ。つまり、彼女は自分の意思を完全に操られている」

 

 

 

「な、なんだって……? なんで、そんな酷い真似を!?」

 

 

 

 アスランの説明にシンが目を大きく見開いた。

 

 

 

「戦争だからだ、シン」

 

 

 

「! レイ?」

 

 

 

 レイは底冷えのする瞳でモニターに映し出された映像を見て、つぶやくように話す。

 

 

 

「人の命を道具としかとらえず、欲望のままに傷つける。だからこそ、俺たちは戦争が起こらない世界を作らなければならないーー」

 

 

 

 レイの言葉にアスランも頷く。

 

 

 

「そうだ。こんな非道な真似を許すわけにはいかないーー! 何としても、パイロットを救出しなければ」

 

 

 

「当たり前です! ステラ、待ってろよ!!」

 

 

 

「意気込むのはいいけれど、作戦を考えなければ勝ち目はないわ。陽電子リフレクターに、フェイズシフト。超火力のMAも厄介だけれど、もう一つ厄介な存在がある」

 

 

 

 タリアの表情が深刻なものになり、シュバルツを向く。シュバルツも意を得たりと頷いた。

 

 

 

「私の知る者がいるのだな? 敵にーー!」

 

 

 

「ええーー。ウルベとウォン、そう言えば貴方なら分かるとオーブの参謀という青年から言われました」

 

 

 

 タリアの言葉にシュバルツの目が鋭く細まった。

 

 

 

「今回の作戦、私も参戦させてもらうぞ」

 

 

 

「え? でもシュバルツさんの力はーー!」

 

 

 

 シンが目を丸くしながら、言う。過剰な戦力になりかねないシュバルツの力は、ミネルバクルーの総意でできる限り隠すようにしていたのだ。

 

 

 

「今回の敵は、そんなことを言っている場合ではない。敵にウルベとウォンがいるのならばな」

 

 

 

「作戦会議は30分後に行います。各自、準備を済ませておいてください」

 

 

 

 タリアの指揮のもと、ブリッジの面々はいったん解散となったーー。

 

 

 

 

 

 ユーラシア連邦西部にて、ザフトの駐留軍があった街はすでに何も残っていなかった。

 

 

 

 燃え上がる町、積み重なる瓦礫ーー。

 

 

 

 生きたまま消し炭となった人々ーー。

 

 

 

 まさにーー地獄だった。

 

 

 

「なかなか、良い玩具ですねぇ。デストロイガンダムですかーー」

 

 

 

 その性能にニヤリと笑みを浮かべながら随伴する『アズラエル』のブリッジからウォンは手を叩く。

 

 

 

「ジブリールも中々面白い真似をする。彼女の生体ユニットとしてのテストにこんな戦術兵器を寄越すとはな」

 

 

 

 ウルベの語る目の前に映し出された巨大なMAの脇には、デビルガンダムに倒されたはずの三体のMF--ゼウス、コブラ、ジェスターのガンダム達が護衛として存在している。

 

 

 

 ザフト軍に勝ちの目など万に一つとて無い絶望的な状況だった。

 

 

 

 彼らはそのまま、周辺の都市を焼き払いながら、ベルリンに向かって虐殺と破壊を楽しんでいる。

 

 

 

「死体は全てDG細胞に感染させておけ。雑兵は多い方が役に立つ」

 

 

 

「これだけの数がいれば、物量も十分でしょう。素直ないい子になりましたね、ステラ」

 

 

 

 すべてを殲滅し終えたデストロイガンダムのコクピットをモニターに映し出し、ウォンはいやらしい笑みを浮かべる。

 

 

 

 そこにいたのは、瞬きすらせずに血の涙をながしている少女だった。

 

 

 

「可哀想に、ステラーー。殺したくなかったんですよね。フフフフ」

 

 

 

 どれだけの人が死んだのだろうーー。

 

 

 

 逃げ惑う人々

 

 

 

 子をかばう母親

 

 

 

 それらを無情に消していく、破壊の光ーー。

 

 

 

「ーー誰か、ころし、て。ステラをころし、て……」

 

 

 

 血の涙を流しながら、ステラはそれだけをつぶやいていた。

 

 

 

 死の天使『アズラエル』は多くの人々を悪魔の先兵へと誘い、巨大なMAと三機のガンダム、無数のデスアーミーを連れてベルリンへと到着した。

 

 

 

 その有様はまさに、死者の軍。

 

 

 

「さあ、本番ですよ! すべてを食らいなさい!! ステラァアアア!!!」

 

 

 

「ーーウォン、盛り上がっているところ悪いが。どうやらお待ちかねのようだ」

 

 

 

 ウルベの言うとおり、ザフトは既に軍を展開して、迎撃態勢を取っていた。

 

 

 

 その中央に浮かぶのは、ザフトの最新型戦艦『ミネルバ』

 

 

 

「光栄ですね。数々の奇跡を成し遂げたミネルバ隊と戦えるとはーー」

 

 

 

 ウォンが皮肉気に笑みを浮かべる。

 

 

 

 ミネルバの甲板には、すでに全MSが出撃していた。

 

 

 

「久しぶりだね……シュバルツ・ブルーダー。いや、キョウジ君」

 

 

 

 皮肉気な笑みをウルベも浮かべてモニターに映る忍者を模したガンダムに語り掛ける。

 

 

 

「ウルベよ。貴様のような地獄の亡者にこれ以上人々の命を蹂躙させはしない!!」

 

 

 

「ーー覚悟しろよ。あんたらだけは、絶対に許さねぇ!!」

 

 

 

 シュバルツとシンの言葉を皮切りに、ミネルバ隊のMSが死者の軍勢に対し、構えを取ったーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 みなさん、お待ちかね~!!

 無数のデスアーミー達と戦うレイとルナマリア。

 シュバルツは死人と化した三体のMFと戦い、実質シンとアスランの2人がデストロイガンダムを迎え撃ちます。

 しかし、数の上で圧倒的に不利なミネルバ隊

 彼らの危機に駆け付けたのは、オーブのアークエンジェルでした。

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第45話に!
 
 レディー、ゴー!!



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第45話 ステラを救え ミネルバの猛攻

さて、皆さん。

激闘を繰り広げるミネルバを主力としたザフト軍と、デストロイガンダムを使用するウルベ軍団。

彼らの死闘は予め、民間人を避難させていたベルリンの街を地獄へと変えてしまうのです。

はたして、シン達はステラを救うことができるのか?

それでは、ガンダムファイト!!

レディィィィッ! ゴォォォオオオッ!!

第45話



 

オーブ戦直後ーー

 

 

 

 オーブ海域から辛くも逃れることに成功したジョンブルガンダムのチャップマンとネロスガンダムのミケロ。

 

 

 

 ミケロは再三にわたるシャイニングガンダムとの戦いで連敗を喫しており、屈辱と怒りで狂乱していた。

 

 

 

「ちくしょぉおおおおおお!! なんでだ!? なんで勝てねぇ!!!」

 

 

 

 拳を地面に叩きつけながら、自身の不甲斐なさと敵の強さに歯ぎしりする。

 

 

 

 それをチャップマンは淡々とした表情で見据えた後、語り掛けた。

 

 

 

「ミケロ、貴様はここにいろ。マスターアジアが俺たちを追いかけてくる気配があった。見回りに行ってくる」

 

 

 

「ああ?」

 

 

 

 その言葉に、ミケロは不快気にチャップマンを睨みつける。

 

 

 

「なんだぁ? 俺がマスターに見つかるようなヘマをするって言いたいのか!?」

 

 

 

「ーーそう口にした時点で、その可能性を危惧していると言ってるも同然だ」

 

 

 

「ーー何だと!?」

 

 

 

「もっとも、今の手負いの状態でマスターアジアに出会っても問題ないと言うのであれば構わないがな」

 

 

 

 淡々とした言葉にイラつきながらも、チャップマンに言われたことを思い返し、ミケロは忌々しそうに息をついた。

 

 

 

「わかった。確かに今、マスターアジアに出会えば遅れを取る可能性が高い。ここは、あんたの言うとおりにするぜ」

 

 

 

「賢明な判断だ。また足手まといになられては困るからな。では、しばらく離れるぞ」

 

 

 

「-ーケッ。いけ好かねえやろうだ…!!」

 

 

 

 

 

 毒づくミケロを置いてチャップマンはジョンブルガンダムを黒(光の反射で深緑との迷彩色)の拳大の球(に赤い字で「紳」と書かれている)に変化させると、生身の状態で島の探索にむかった。

 

 

 

(てめえみたいな「王者」だの「イギリス紳士」だのと、周りからもてはやされてきた奴と一緒にするなよ。

 

 俺はなんでもありのスラム街で生きてきた。負ければ即、骨の髄までしゃぶられるようなところで俺は勝ち上がってきたんだ。てめえみたいな甘ちゃんに舐められる道理はないんだよーー!!)

 

 

 

 ミケロもガンダムを赤銅色の拳大の球(黒い字で「羅」と刻まれている)に変化させ、懐にしまって手短な岩に背を預けて腰をおろすと、気を集中させて体力の回復に努め始めていた。

 

 

 

 いずれウルベ達からの救援が来る。それを待つーー。

 

 

 

 そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところが、丸一日経つというのに未だウルベ達からの連絡はなかったーー。

 

 

 

「やつら、どういうつもりだ!? なぜ、連絡がこない!!」

 

 

 

「……どうやら、目的を果たしたから撤退したというわけではないのかもしれんな」

 

 

 

「ああん? そりゃ、どういうことだ?」 

 

 

 

 空を見上げながら淡々と葉巻に火をつけるチャップマンを、ミケロは怪訝そうに見据えた。

 

 

 

「あんな急なタイミングで撤退命令をすること自体が異常だったのだ。おそらく、ウルベ達の方にもマスター達のような手練れの妨害があったのだろう」

 

 

 

「予定を狂わさなければならない程の敵があの場にまだいたってのか?」

 

 

 

「ーーおそらくな」

 

 

 

チャプマンは自らの発言にうなずくと、静かに近くの木に背を預けて座る。

 

 

 

「どうするつもりだ?」

 

 

 

「奴らはまだ俺たちに利用価値があると判断しているはずだ。いずれ向こうから連絡が来るだろう。それまではゆっくりと休むとする。さすがに明鏡止水のマスターを相手にするのは骨が折れた」

 

 

 

「冗談じゃねぇ。DG細胞の力を使えばキョウジ・カッシュなんぞ、くびり殺してやれるってのによ」

 

 

 

 苛立つミケロに聞こえてきたのはーー

 

 

 

「ーーフッ」

 

 

 

 チャップマンの嘲笑だった。

 

 

 

 その声が耳に触れたとき、ミケロのこめかみに血管が浮き上がる。

 

 

 

「ああ? なんだチャップマン、その笑いは?」

 

 

 

「ーー気に障ったのならすまんな。だが、よくもそこまでキョウジ・カッシュをーーいや。ドモン・カッシュを憎めるものだと思ってな。気に食わない相手だからと奴を蔑むことしか貴様にはできんのか?

 

 その憎悪が貴様自身の拳才を貶めていることに気付きもしないとはな」

 

 

 

「なんだと!?

 

 チャップマン、てめえ何が言いたい!? 事と次第によっちゃ、仲間だからって容赦しねえぞ!!」

 

 

 

 怒り狂うミケロに対し、淡々とした相貌でチャップマンはミケロに向き合う。

 

 

 

「ミケロよ、貴様がドモン・カッシュを恨むのはネオイタリアでの敗戦が原因だと聞いた。貴様は奴のことを何一つ認めてはいないのか?」

 

 

 

「当たり前だ……!! あのクソ野郎は俺からすべてを奪いやがった。築き上げてきたこの俺の地位も軍団もすべてをだ!! そんな奴の何を認めろってんだ、ああ!!?」

 

 

 

 憎しみの感情に悪鬼のごとく顔を歪ませるミケロに対し、チャップマンは平静に告げる。

 

 

 

「だが、貴様は奴には勝てない。それは貴様が一番わかっていることだろう」

 

 

 

「……てめぇ……!!」

 

 

 

「だから、ドモンの兄であるキョウジにこだわるのか? 兄を倒せばドモンが悔しがるだろうと?」

 

 

 

「ああ、そうだ!! あのスカしたクソ野郎の面が悔しそうに歪むさまを見るのは、さぞ気持ちいいだろうからなぁ!!」

 

 

 

「ーーほう? それで、そのあとはどうする? 現時点で貴様はキョウジに勝てない。その貴様がドモンとやりあって勝利できると思うか?」

 

 

 

「そ、それはーー!」

 

 

 

 口ごもるミケロにチャップマンは更に告げる。

 

 

 

「ドモンに倒されたとき、貴様は奴に恐怖した。その時の恐怖をはねのけ、奴を倒すために貴様はDG細胞に感染した。しかし、それでもシャッフル同盟に倒された」

 

 

 

「奴らが邪魔をしなければ、俺はドモン・カッシュに勝てたんだ!!」

 

 

 

「本当にそう思うのか? 今の貴様はランタオ島の時よりも身体能力が上がっている。それでも近日までファイターですらなかったキョウジに勝てない。何故だ?」 

 

 

 

「DG細胞の力を奴の方が俺より使いこなしているからだろうが!! 明鏡止水になれるからだろうが!! クソが! DG細胞の生みの親であり、デビルガンダムのコアになっていただけあって、力の適正は奴の方が上か!!」

 

 

 

「だから、貴様は勝てないのだ」 

 

 

 

「なんだと!?」

 

 

 

 チャップマンの言葉に思わず身を乗り出すミケロ。チャップマンは気にしたそぶりも見せずに告げる。

 

 

 

「力が足りないから勝てない。明鏡止水の境地を使うから勝てない。そう言いながら、貴様は奴らの実力を一向に認めようとはしない。甘ったれた言葉だ。敵が悔しがる顔を見たいからと、その兄をいたぶるというのも。その兄のほうが適正に優れるというのも。奴らに力の劣る自分を納得させるための言い訳だ」

 

 

 

「ーー黙れ、チャップマン……!!」

 

 

 

「ドモンに敵わないから兄を目の前でいたぶる。その兄に敵わないのは適正のせいだ。そうやって貴様は自分が負ける言い訳を考えているに過ぎない。ウルベ達に付き合うのも、自分一人ではあの兄弟に敵わないと認めているからだ、違うか?」

 

 

 

「黙れと言ってるだろうがぁああああああ!!!!」

 

 

 

 駆けだすミケロ。狙うはチャップマンの右のこめかみ、それをザクロのように蹴り砕くイメージで左足のつま先を振りぬく。

 

 

 

「チャァァアアアップマァアアアアアン!!!」

 

 

 

「ーーフンッ」

 

 

 

 チャップマンは即座に右腕を顔の前に上げて、鋭い左ハイキックを受けるや右脇に捌くと、返しで鋭い左の前蹴りをミケロのみぞおちにいれた。

 

 

 

「グフッ」

 

 

 

 思わず前のめりになりながら、ミケロはチャップマンを睨みあげる。

 

 

 

「チャップマン、てめぇ……!!」

 

 

 

 憎悪に歪み悪鬼のような表情のミケロを冷淡にチャップマンは見下ろすと告げる。

 

 

 

「愚かだな、ミケロ。貴様がドモン・カッシュに負け、刑務所に入れられたのも。キョウジ・カッシュに叩き潰されたのもーーすべては貴様が奴らに負けたからではないか。貴様が、奴らより弱いからではないか」

 

 

 

 チャップマンは告げながら、目じりを吊り上げ表情を静かに怒りへと変化させた。

 

 

 

「己の敗北から目をそむけ、自分になにが足りていないのかも自覚せず安易に力に頼った結果が、無様な今だ。正直、虫唾が走る」

 

 

 

「てめえに。てめえに俺の何がわかる!?」

 

 

 

 チャップマンの言葉を受け、立ち上がるとミケロは叫んだ。

 

 

 

「ならばテメエは、俺のように屈辱を味わったのか!? 築き上げてきた全てを奪われ、圧倒的な力の前に屈服させられ、許しを請うようなみじめなさまを味わったことがあるのかよ!!」

 

 

 

 チャップマンは何も言わずに、懐からガン玉を取り出す。ミケロも同じく懐から取り出した。

 

 

 

「来い、ミケロ。ファイトをしてやろう」

 

 

 

「チャァァアアアップマァアアアアアン!!」

 

 

 

 二つの光の球が生じ、同時に二機のガンダムが姿を現す。

 

 

 

 互いに向き合うジョンブルガンダムとネロスガンダム。

 

 

 

「ぶっ潰してやらぁ!!」

 

 

 

 ファイトの宣告などする前に一足飛びで懐に入ると蹴りを繰り出すネロスガンダム。ジョンブルガンダムはゆっくりと膝を曲げて両の拳を腰に置くと、避けることさえせずにそのまま蹴りを受ける。

 

 

 

 衝撃音があたりに響きわたるも、ネロスガンダムの蹴りはジョンブルガンダムの右の肘で受けられていた。

 

 

 

「ーーガハッ」

 

 

 

 すさまじい衝撃が顎を突き抜け、跳ね上げられる。

 

 

 

 掌底突きをくらったと認識したのは、後方にのけ反り、続けざまに横面にくらわされた回し蹴りで地面に叩きつけられてからだった。

 

 

 

「こんなものか? ミケロ」

 

 

 

「ーーへっ、笑わせんなぁ!!」

 

 

 

 言うやネロスガンダムは、うつぶせに倒れた状態から両手を地面に着き、両足を反らして地面から浮かせ、地面に着いた腹を時計回りに回転させて足側をジョンブルガンダムに向けさせると同時に立ち上がり顔面に漆黒の気を孕んだ回し蹴りを放つ。

 

 

 

「銀色の足ぃいいいいっ!!」

 

 

 

 それをジョンブルガンダムは上体を後方に反らすと同時に右足を前に蹴り上げる。それはネロスガンダムの銀色の足の付け根を見事に蹴り上げ、狙いを反らせた。

 

 

 

「ーーなっ!?」

 

 

 

 反らされた衝撃波はジョンブルガンダムの頭上を通り過ぎて爆発した瞬間、カウンターの右ストレートがネロスガンダムの左頬を殴りつけ、ネロスがのけ反ったと同時にジョンブルの左拳がボディに決められ、更に右の回し蹴りを顔にぶつけられて再び地面に叩きつけられる。

 

 

 

「ーーがはっ!?」

 

 

 

 その横面をジョンブルの足裏が踏みつけた。

 

 

 

「チャップマン、てめぇ……!!」

 

 

 

 睨みあげるミケロの目に映ったのは、自分と変わらない暴力的な何かに満ちた漆黒の瞳。

 

 

 

(何が、王者だ? こいつ、こいつの本性は俺と変わらないーー。いや、俺以上のーー!!)

 

 

 

 血の匂いのする拳、殺意のある技。

 

 

 

 確実に殺しに来ている技の数々は、ミケロをしてはじめてチャップマンの本質に気付いた瞬間。

 

 

 

「すべてを奪われたのが、貴様だけだと思うか? 自分の力が足りないせいで叩き潰された屈辱? 貴様などに諭されるまでもない。俺が何のために戦いに参加しようとしたと思っている?」

 

 

 

 チャップマンは静かに底光る瞳のまま、ネロスガンダムの首元を掴むとそのまま片腕で吊り上げる。

 

 

 

「俺とて一流派の師弟に倒された身だ。しかも最後の戦いは万全の状態とは言い難い、薬に頼らねばならなかった。その時の屈辱が貴様に分かるか、ミケロ?」

 

 

 

「ーーぐっ」

 

 

 

「だが、俺は今ここにいる。貴様のように自分を負かした相手をただ憎むだけではない。マスターアジアとの再戦に喜んですらいる。何故かわかるか?」

 

 

 

 ジョンブルガンダムは吊り上げていたネロスガンダムを地面に投げ捨てると、見下しながら言った。

 

 

 

「俺と貴様の違いは、意識の持ち方だ。ただ憎むだけの貴様は己の拳才さえも曇らせている。それにさえ気づけばより高みに立てるだろう」

 

 

 

「なにーー?」

 

 

 

「それが俺の知る戦士たちと貴様の最大の違いだ。奴らはたった一人でも俺に立ち向かってきた。どれだけ絶望に叩き伏せられても、何度でも立ち上がってきた。どれだけ辛い運命だろうと戦い抜いてきた」

 

 

 

「……!」

 

 

 

 ミケロの頭の中に、自分を負かした男の言葉がよみがえる。

 

 

 

ーーどんなに辛い運命だろうと戦い抜く! それが、ガンダムファイターだ!!--

 

 

 

「奴らはそうやって互いに切磋琢磨しあい強くなっていったのだ。ドモン・カッシュやシャッフル同盟のようにな」

 

 

 

「俺が、ドモン・カッシュをライバルとして認めていれば、強くなれたってのか?」

 

 

 

 その言葉を口にした瞬間にミケロの胸に消すに消せない漆黒の炎が生まれた。

 

 

 

「ふざけるな!! どうして奴を認められる!? 俺から何もかも奪ったあの野郎を、どうして!!?」

 

 

 

「その憎しみを消せとは言わん。だが、相手の何が勝り自分に何が足りないかを知ったうえで、その差をどう補うか。それを行うために己を磨くことをしなければ永遠に勝てはせん」

 

 

 

「ーーまるで自分がそうっだったとでも言わんばかりだな?」

 

 

 

 ジョンブルガンダムはそこではじめてネロスガンダムから視線をそらすと

 

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

 あっさりと認めた。その言葉に先ほど感じたチャップマンの本質に、ミケロは目を見張る。

 

 

 

(こいつは、俺と同じーー? だが、それならばーー!?)

 

 

 

「一つ、教えてくれ。なんであんたは認められる? 何もかも自分から奪った奴を憎んで当たり前じゃねえか?」

 

 

 

「かつて、一人の女を巡って争った奴がいた。そいつはあらゆる面で俺に劣っていたが、女に対する情熱と負けても立ち上がる闘志だけは俺に危機感を抱かせる程だった。

 

そいつは負ける度に強くなっていった。後は気まぐれだ」

 

 

 

チャップマンはそう言うと、ガンダムをガン玉に戻し、懐にしまう。

 

それにミケロもならい、ネロスガンダムをガン玉に戻すと懐にしまった。

 

 

 

その時だったーー、彼らの耳に軍事ニュースがラジオから流れ、火の海と化しているらしいベルリンの情報を聞いたのは。

 

 

 

ミケロは何も言わずに、モニターを出すとラジオのニュースに合わせた。

 

 

 

すると、文字どおり地獄絵図と化したベルリンの街に、巨大な漆黒のガンダムや見慣れた無数のデスアーミーがザフトと呼ばれる軍と交戦している画像が映し出された。

 

 

 

「な、なんだぁ、こりゃ!?」

 

 

 

「……ウルベ達だな。いくぞ、ミケロ」

 

 

 

「行くって、ベルリンにか?」

 

 

 

「他に行くところなどあるまい。急ぐぞ」

 

 

 

言うとチャップマンは、懐に先ほどしまったガン玉を光らせ、再びジョンブルガンダムに搭乗する。

 

 

 

「ああ、待てよ! 行くよ、行きゃいいんだろぉ!?」

 

 

 

そう言ってミケロもネロスガンダムに搭乗すると、二人は無人島から一気にベルリンにむかった。

 

 

 

ーーーーーーベルリンにて

 

 

 

ザフト軍は予め、ウルベ達の軍団が迫り来る場所に地雷などの罠を仕掛け、無数のデスアーミー部隊に対し、打撃を与える。

 

 

 

「ーー地雷、仕掛けといて正解だったわね」

 

 

 

「ああ、だが数が違いすぎる。防衛網もいつまで保つか」

 

 

 

知能の低いデスアーミーの部隊は、連携も何もない。

 

 

 

「ただのカカシなどに!!」

 

 

 

ジンやゲイツ、ザクやディンなどでとりあえず数を揃えて手持ちの射撃武器で四つ足及び、二足歩行の一つ目を叩いていく。

 

 

 

一つ目のMSはただ、こちらに突っ込んでくるだけだ。部隊の練度も武装も性能もザフト軍からすれば、地球連合軍にすら劣る。

 

 

 

問題は、圧倒的な数だ。

 

 

 

地平線を埋め尽くすように、光る一つ目がこちらに近づいてくる。

 

 

 

そして、その後ろからゆっくりと悪魔のようなMA。漆黒の巨大なガンダムが、近づいてくる。

 

 

 

銃撃戦を足元で繰り広げているのを我関せずとばかりに味方のMSを踏みつぶしながら、デストロイガンダムは向かって来ていた。

 

 

 

「なんで、逃げないのよ!?」

 

 

 

ルナマリアは、自分が踏みつぶされていく状態に構わずこちらにビームを放つMSデスアーミー達に思わず叫ぶ。

 

 

 

「かかわるな、ルナマリア。でないとお前が撃たれるぞ」

 

 

 

「…何なのよ、人の心を操るとか。味方を踏み潰すとか、踏み潰されながらこっちに攻撃してくるとか! 無差別に攻撃するとか!!」

 

 

 

「しっかりしろ、ルナマリア!! 敵に飲まれるな!!」

 

 

 

「だって、まともじゃない!! まともじゃないじゃない、こいつら!!!」

 

 

 

ルナマリアだけではない。ザフト軍に蔓延しているのは、恐怖だった。

 

 

 

死を恐れない兵士に味方ごとこちらを攻撃してくる戦術兵器。

 

 

 

物量に物を言わせるにしても、限度がある。

 

 

 

MSを作るには金がかかり、人間の命は代替えが効かない。

 

 

 

それを惜しげも無く、壊していく。

 

 

 

街も人も、MSも。

 

 

 

何もかも、破壊の名を司るガンダムに消されていく。

 

 

 

「ーー狂ってやがる。狂ってやがるぞ、こいつら!!」

 

 

 

「落ちつけ、敵には連携も何もないんだ! 冷静にーーうわあっ!?」

 

 

 

空から攻撃していたMS達は、地上に埋め尽くされた昆虫のように個性がなく、同じ動きをするデスアーミー達をきみ悪がり、下を向いていると巨大なビームがザフトのMSを落としていく。

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

 

ザフト兵達が前方を見ると、漆黒の戦艦『アズラエル』が浮かぶ空に、その周囲を埋め尽くすように、巨大な蛾のようなMAが浮かんでいた。

 

 

 

「ーーバーディタイプ!? うそでしょ!?」

 

 

 

「敵の物量は、底無しなのか!?」

 

 

 

ミネルバや基地を護衛する為に、防衛網を張るルナマリアとレイにとって、最悪の援軍だった。

 

 

 

どれだけ落としても、どれだけ倒しても、終わらない。何も変わらない。

 

 

 

ここに満ちているのは、狂気だった。

 

 

 

( ルナマリアも他の兵士の精神力も限界が近い。無理もない、もう2時間も同じ調子だ。このままでは、戦闘継続自体がーーーー!!)

 

 

 

冷静に周りを判断しながら、レイも自分の精神が削られていることに冷や汗を流す。

 

 

 

「まだなのか、シン! アスラン!!」

 

 

 

シュバルツはMFやアズラエルを押さえる為にデストロイガンダムの攻略には使えない。

 

 

 

シンのインパルスガンダムとアスランのセイバーガンダムの二機が頼りだった。

 

 

 

だが、彼らとて援軍無しに、たった二機で戦術兵器とされるデストロイガンダムに挑まなければならないのだ。

 

 

 

シン達を見ている余裕がない。

 

 

 

自分の与えられた場所を確保するので精一杯だ。

 

 

 

「ルナマリア、上空のバーディタイプは俺が押さえる。地上を頼めるか?」

 

 

 

「やらなきゃ、話にならないでしょ!?」

 

 

 

「そういうことだ。頼む!!」

 

 

 

言うとレイは、無茶を承知で明鏡止水を使い、一気に機体性能を高めると、上空に跳躍して片手にビームアクスを、片手にビームライフルを掴んで高速で回転しながら、斬撃とライフルを同時に放つ。

 

 

 

扇状になって飛ぶ緑のビーム斬撃は、次々と敵のデスバーディを落としていく。

 

 

 

「レイにばかり、無理させらんないわね!!」

 

 

 

ルナマリアも明鏡止水を使い、オルトロスを構えると、一気に引き金を引いてビームを放ちながら、横に薙ぎ払う。

 

 

 

無数のデスアーミー達は、ビームに薙ぎ払われながら、消えていく。

 

 

 

それでも、変わらない。

 

 

 

爆煙が晴れれば、無数の残骸を踏みつぶしながら、変わらずにこちらに向かってくるデスアーミーやデスバーディがいる。

 

 

 

「気がおかしくなりそうーー!! シン、アスラン、シュバルツさん!! 早くこいつら、倒してよ!!」

 

 

 

ルナマリアの絶叫が、鳴り響く中、オルトロスが再びデスアーミーを吹き飛ばしていく。

 

 

 

 

 

一方でシュバルツの駆るガンダムシュピーゲルは、3機のMFゼウス、ジェスター、コブラを相手に戦っていた。

 

 

 

彼ら3機のMFは、既に理性も知能もない、ただの操り人形でしかないが、それでも生前の能力以上の身体機能と技を持っている。

 

 

 

「こやつら、どういうつもりだ? 何故積極的に攻撃してこない?」

 

 

 

3対1でありながらも、シュピーゲルは互角以上に渡り合える。

 

 

 

しかし、未だ決着がついていないのは、他でもない。

 

 

 

3機のガンダム達が自分からは攻撃せずに、ガードを固めてこちらの様子を伺っているからだ。

 

 

 

先ほどからシュピーゲルが攻撃を仕掛ける度に、ガードを固めて足を使い、距離をとる。

 

 

 

ならばと、距離を開けたガンダム達を無視してアズラエルに仕掛けようとすれば、遠距離攻撃で牽制してくる。

 

 

 

「貴様らと遊んでいる暇はない!」

 

 

 

シュピーゲルは一瞬でゼウスガンダムの懐に飛び込み、脇腹にブレードを一閃。

 

 

 

と同時に姿を消すほどの超スピードでゼウスガンダムの頭上に跳び上がると、無数に分身し、3機まとめて斬り刻む。

 

 

 

無数の斬撃が空間を一気に斬り刻み、嵐のような轟音とともに3機のガンダムがのけぞる。

 

 

 

「時間稼ぎなどに付き合うつもりもーーない!!」

 

 

 

のけ反った3機のガンダムに更に追撃を仕掛けようとするも、バルーンビットがシュピーゲルの周囲を固めている。

 

 

 

「小賢しいぞ、地獄の亡者どもめ!!」

 

 

 

シュピーゲルは、その場でコマのように自身を回転させ、周囲に浮かぶビットを全て斬り落とす。

 

 

 

同時に、両手の指に苦無を数本挟むと回転を緩めることなく、そのままゼウスガンダム達の間接部に叩き込む。

 

 

 

しかし、ゼウスガンダム達も流石と言うべきか、己の武器や長い腕でのけぞりながらも、急所に当たるものは打ち落す。

 

 

 

傷ついた箇所は、直ぐさまDG細胞による自己再生で修復されている。

 

 

 

「こやつら自己再生と防御に徹して、私をここに釘付けにするつもりか? 何のつもりだ、ウルベ!!」

 

 

 

シュバルツの問いに、アズラエルのウルベがニヤリと笑いながら答えた。

 

 

 

「君と真っ向から戦うようなバカに私が見えるかい?」

 

 

 

「貴様、それでもガンダムファイターか!?」

 

 

 

「何とでも言いたまえ。もっとも、今の君にはステラを助けることも、私達を倒すこともできないがね」

 

 

 

シュバルツの能力を完全に封じる戦い方だった。

 

 

 

裏を返せばウルベ達は、シュバルツ以外を脅威とは思っていない。

 

 

 

( やはり私を封じるつもりか。ならば、シン、アスラン! お前達に託すぞ!!)

 

 

 

このままいけば、いずれシュバルツの剣はゾンビファイター達を切り裂く。

 

 

 

しかし、それには彼らの動きを全て把握する必要がある。

 

 

 

( 鏡転同血は、万一の為の切り札として取っておこう。ウルベに見せるのは、確実に奴を仕留められる状況のみだ)

 

 

 

でなければ、何かしらの対抗策を考えてくる。

 

 

 

ウルベとは、そういう男だ。

 

 

 

一方で、インパルスガンダムとセイバーガンダムは、赤い光を纏った巨大なMA、デストロイガンダムを相手にしていた。

 

 

 

「ビーム射撃の類は、一切通らないか!」

 

 

 

「だったら、接近戦だ!!」

 

 

 

セイバーガンダムが、強力なビーム射撃と機動力を生かしたMAになり、デストロイガンダムの周囲を撹乱し、フォースインパルスガンダムが、予めソードシルエットから抜いておいたエクスカリバーで斬りつける。

 

 

 

見事な一太刀は、デストロイガンダムのボディに横一線を引くことに成功した。

 

 

 

インパルスガンダムの中でシンは、その効果に一つ頷くと言う。

 

 

 

「資料どおり、ビーム格闘ならダメージは通るな! 待ってろ、ステラ! そのふざけた装置をこいつで斬り落としてやる!!」

 

 

 

言うや、シンは設計図を頭に思い浮かべ明鏡止水の心でバーサーカーシステムの受信アンテナの正確な位置を割り出す。

 

 

 

「そこかあ!!」

 

 

 

叫びながら、インパルスガンダムがエクスカリバーで斬りつけようとしたその時だった。

 

 

 

「なに!?」

 

 

 

エクスカリバーが剣の腹の部分を巨大な指二本で挟まれ、受け止められていたのだ。

 

 

 

「ばかな、あの巨体であんな精密な動きが!?」

 

 

 

アスランが思わず叫ぶと同時に、第3者の通信が割って入ってきた。

 

 

 

「東方不敗マスターアジアから動きを学んでいたのです。このくらいは朝飯前でしょう」

 

 

 

「ーーお前は!?」

 

 

 

見れば、丸い胴体に顔が付いている機体が、水陸両用MSの特徴である巨大な爪とガッシリとした足を付けて、浮かんでいた。

 

 

 

「ウォルターガンダム。そして、私の名は、ウォン・ユンファです。見知りおきください、異世界のガンダム君」

 

 

 

「何故、こんな真似をする!? お前達の目的はなんだ!? 何故いたずらに犠牲を増やす!?」

 

 

 

「犠牲? 何のことですか?」

 

 

 

アスランの言葉に心底分からないと言う表情でウォンは応えた。

 

 

 

「ふざけるな!! 彼女を殺戮の道具にし、民間人や味方を撃つような真似をして、犠牲を出してないと言うのか!?」

 

 

 

「君は、自分のMSをどう思います?」

 

 

 

「なに!?」

 

 

 

「MSは戦う道具です。 デスアーミー達も同じですよ。いや、ステラは違いますね。大事なパーツです。替えがないわけではありませんが、探すのは面倒ですしね」

 

 

 

「お前ら、一体、何なんだ!?」

 

 

 

「人間ですよ? 全てを支配する、ね」

 

 

 

笑いかけるウォンにアスランの中で何かが弾けた。

 

 

 

「ふざけるなあ!!!」

 

 

 

SEEDを発動させ、セイバーガンダムが一気に斬りかかる。

 

 

 

それをウォンは鼻で笑うと、言った。

 

 

 

「デビルガンダムに比べたら、止まって見えますよ? 異世界の少年」

 

 

 

鋭い斬撃を紙一重で避けると、ウォルターガンダムの爪がセイバーガンダムに襲いかかる。

 

一撃目を紙一重で避けるアスランはさすがだったが、ウォルターガンダムの腕は軟体動物のようにしなり、伸びるとセイバーガンダムを弾き飛ばす。

 

 

 

「ぐあ!?」

 

 

 

弾かれたセイバーガンダムは、そのまま、白刃取りで動きを止められていたインパルスガンダムにぶつかり、2機は宙に投げ出された。

 

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 

「アスラン隊長!!」

 

 

 

咄嗟にインパルスガンダムがセイバーガンダムを受けとめる。

 

 

 

そこに巨大な掌があらわれ、インパルスとセイバーを地面に叩きつけた。

 

 

 

土煙を上げながら、インパルスは何とか立ち上がる。

 

 

 

隣で、セイバーも姿勢を立て直し、立ち上がろうとしていた。

 

 

 

その様を見下ろし、ウォルターガンダムは牙を剥き出しにして笑う。

 

 

 

「お前達ごときに、私が倒せるものか!!」

 

 

 

「野郎ーー!!」

 

 

 

ビームライフルを構えるインパルスだが、ウォルターを庇うようにデストロイが立ちはだかる。

 

 

 

「ーーステラ!!」

 

 

 

「ーーうううっ」

 

 

 

シンの呼びかけにも、ステラは唸り声しかあげない。

 

 

 

「どうしました? 撃たないのですか?」

 

 

 

「ーーあんたって人は!!」

 

 

 

怒りに燃えあがり、シンはインパルスでウォルターに突貫する。

 

 

 

「ふざけるなぁああああ!!」

 

 

 

叫びと共に振り下ろされるビームサーベルをウォルターガンダムは右掌で受け止め

 

 

 

「バカな少年ですね、力の差を知りなさい」

 

 

 

もう片方の左腕で爪を薙ぎ、機体を弾き飛ばす。

 

 

 

「ぐああああっ!!」

 

 

 

このままでは、空から地面に叩きつけられるとバーニアの推進剤に手を伸ばした時、インパルスが宙で静止した。

 

 

 

見れば、体を巨大な両手で掴み止められていた。

 

 

 

「ステラーー?」

 

 

 

助けてくれたのか、そう考えた次の瞬間に、ミシミシッと機体が音を立てる。

 

 

 

デストロイガンダムは、握り潰そうとしていたのだ。

 

 

 

「ステラ、 目を覚ませ!! 君は、こんな事をするような子じゃないだろ!? 俺に笑いかけてくれた君は、こんな子じゃない! 目を覚ましてくれ、ステラ!!」

 

 

 

「いかん、シンーー!!」

 

 

 

火花を上げ始めるインパルスに、セイバーが動こうとするのを、シンが止めた。

 

 

 

「待ってくれ! この子は、まだ戦ってるんだ!!」

 

 

 

「えーー? シン、何を?」

 

 

 

「明鏡止水を修行していた俺には分かる。彼女はーーステラは戦ってる。だからーー!!」

 

 

 

「シン、無茶だ! その態勢じゃお前が危険すぎる!!」

 

 

 

「でも、今ステラに話しかけなきゃ! いつやるんですか!!」

 

 

 

必死にステラを助けようとする少年達をウォルターガンダムは笑う。

 

 

 

「自分が今から死ぬのに、殺しに来る相手の心配ですか。無様なものですね。 さあ、殺しなさいステラ」

 

 

 

ウォンの指示が飛び、シンのインパルスを握る力が強くなる。

 

 

 

「ぐあああっ! す、ステラ…!!」

 

 

 

「もう、無理だ! シィイイイイインッ!!」

 

 

 

アスランがセイバーのサーベルを抜き、コクピットを目掛けて投げ放とうとした時、デストロイガンダムの動きが止まった。

 

 

 

「ーー? ステラ?」

 

 

 

「お、ね、が、い、、、、。シン、、、ステラを、、、ころして、、、、」

 

 

 

血の涙を流しながら、白い頬に不気味な金属の紋様を浮かばせながら、ステラは消え入りそうな声で話している。

 

 

 

「ーー!! 意識が、あるのか!?」

 

 

 

アスランも咄嗟に動きを止め、ステラの様子を見据える。

 

 

 

「ーーシン。ステラを、、殺し、て。ステラ、もう、、殺し、たく、ないよ、、、、シン」

 

 

 

「ーーステラ。殺すもんか。俺は、君を助けるんだ!!守るために、強くなったんだ!!!」

 

 

 

「ーーシン、だめ、、、。ステラ、もう、、意識が、、お願い。ステラがステラでいられるのも、、、、」

 

 

 

消えるような声に、シンは涙を浮かべた。

 

 

 

「あり、がとう、、シン。ステラ、、の、、為に泣いて、、くれて、、、」

 

 

 

ゆっくりとデストロイガンダムがインパルスを離す。

 

 

 

同時にシンは右手のエクスカリバーをインパルスに構えさせた。

 

 

 

「ーーちく、しょう! ちくしょう!! 俺はーー、俺は!!!」

 

 

 

デストロイガンダムは、無防備にコクピットのある胸元を晒していた。

 

 

 

「何をしているんです、ステラ? さっさと殺しなさい! バーサーカーフルパワー!!」

 

 

 

赤い光がデストロイガンダムの体から放たれ、苦しみのたうつステラ。

 

 

 

「ーーあぐぅ、シン、、、! シ、ン、、、!!」

 

 

 

それでも、彼女は懇願していた。必死にシステムに抗い、DG細胞の支配に抗って、願っていた。

 

 

 

「ーーまったく、役立たずが!!」

 

 

 

ウォンが吐き棄てながら、インパルスを背後から狙う。それをセイバーガンダムが斬りつけて止めた。

 

 

 

「ふざけるなよ、お前…!! お前なんかに、彼女の命を、心を!! これ以上、汚させるものか!!」

 

 

 

「ーーふ、偽善者が!!」

 

 

 

サーベルを切り払い、ウォルターガンダムが爪の一撃を放つ。今度はかわすのではなく、斬り払うセイバー。

 

 

 

「ーーシン! やるんだ!! 彼女をこれ以上苦しませたいのか!!?」

 

 

 

「ーーアスラン、隊長!!!」

 

 

 

アスランの目にも涙が流れていた。それを見たシンは、静かにグリップを握る力を強くする。

 

 

 

シンが覚悟を決め、デストロイガンダムを睨みつけたその時、一機のガンダムがビームサーベルを抜いてデストロイガンダムの胸元にサーベルを突き立てた。

 

 

 

思わずウォンが叫ぶ。

 

 

 

「ーーな、なんだと!? 誰だ、貴様!!」

 

 

 

その機体は、インパルスによく似ていた。

 

 

 

その機体は、2年前にザフトを恐怖に叩き込んだ。

 

 

 

そのパイロットは、科学者の夢と欲望の結果、人の限界を極めさせられた。

 

 

 

そう、キラ・ヤマトとストライクガンダムである。

 

 

 

「こちらキラ・ヤマトーーストライクガンダム。もう、大丈夫だ。バーサーカーシステムの受信機は破壊した。彼女の保護を!!」

 

 

 

「ーーキラ、さん」

 

 

 

「キ、ラ。なぜ、お前がここにーー!?」

 

 

 

驚くシンとアスランの脇を通り過ぎて、一機のムラサメがデストロイガンダムのコクピットに張り付いた。

 

 

 

「ーーキラ、ステラは無事だ!!」

 

 

 

「アウル、君はアークエンジェルに彼女を!!」

 

 

 

「うん! ありがとう、キラーー!」

 

 

 

言いながら、ムラサメが戦闘機形態に可変し、一気にシン達の後方ーー母艦アークエンジェルに走る。

 

 

 

アークエンジェルからは、ネオ専用のウィンダムとバルトフェルドのムラサメ、スティングのカオスガンダムが出撃していた。

 

 

 

「アスラン、シン! 話は後だ!! 今は、目の前の敵を倒すことに専念しよう!!」,

 

 

 

「キラさんーー!!」

 

 

 

「オーブ首長国連邦ーーアスハ家私軍、アークエンジェル隊!! ミネルバ隊に助太刀します!!」

 

 

 

心強い援軍が、シン達の元に現れたーー。

 

 

 

 




皆さん、お待ちかね〜!!

ステラの救出に成功したキラとシンそして、アスラン。

しかし、DG細胞による死人の軍団はついに、ザフト軍の防衛網を崩していきます。

彼らのピンチに、4機のガンダムがアークエンジェルとは別の助っ人として現れるのです!!

次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第46話に!

レディー、ゴー!!



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第46話 シュバルツ&マスター 対 DG細胞

皆さん。

前回のお話で、辛うじてステラの救出に成功した我らがシン・アスカとキラ・ヤマト。

ですが、DG細胞に侵された亡者の軍勢は、数を増すばかり。

ミネルバ率いるザフト軍も、撤退行動を余儀なくされます。

そんな中、アークエンジェルと共に彼が現れたのです!!

それでは!

ガンダムファイト!!

レディィィィッ! ゴォォォオオオッ!!!

第46話



 

漆黒の空に浮かぶ無数の機体。

 

 

 

空を見上げれば、あまりの数に目をそらしたくなる。

 

 

 

だが、地上を向いても地平線を覆うような無数のMSが存在する。

 

 

 

「……まずいわね。このままでは、防衛網どころか…!!」

 

 

 

タリア艦長が言うように、一般兵にも既に無視できない程の被害が出始めている。

 

いや、既に彼らの精神は破綻寸前だ。

 

通常極度の緊張感と集中力を保っていられるのは、30分程度だと言う。

 

数の不利に加えて地の利すら既に無いに等しい今の状況では、緊張や集中力を絶やせば簡単に撃破されるだろう。

 

それが、2時間を過ぎている。当然交代をして兵士達を休ませたい所だが、その暇さえ与えられない。

 

ルナマリアやレイも、明鏡止水の修行をしているからこそ辛うじて保っている。休ませたいところだが、彼らが交代すれば、あっと言う間に防衛網は突破されるだろう。

 

いや、既に交代要員の兵士達さえ、前線に投入されている。

 

「負けるわね、このままじゃーー。各艦に通達して! 防衛網が破られるのも時間の問題。今の状況では、全滅も考えられる。30分後、撤退行動に移します!!」

 

 

 

「了解! こちらミネルバ、ザフト全軍に通達!

 

30分後撤退行動に移す! これを視野に入れて行動せよ! 繰り返す!!」

 

 

 

メイリンがザフト全軍に通達を行う中、狂気の軍団は変わらずにこちらに向かってくる。

 

 

 

「防衛網が破られるのは時間の問題だけど、退路の確保を急がなければーー!!」

 

 

 

しかし、レーダーに映る機影の数は既にベルリンの街そのものを完全に取り囲んでいる。

 

 

 

「か、艦長!! どうすればーー!?」

 

 

 

「……絶望的ね。まさか倒せば倒すほどに数が増していくなんて。何て連中なの」

 

 

 

親指を噛みながら、タリアは必死に頭を回転させる。

 

 

 

退路の確保すら、難しい現状だった。

 

 

 

ミネルバのタンホイザーもルナマリアのオルトロスも、無数のデスアーミーを焼き尽くしはすれど、軍団に穴を開けることはできない。

 

 

 

( 戦略級の兵器で一方向だけでも穴を開けることができれば、そこから逃げられはするけれどーー。それができるとしたら、ユニウスセブンをも消したシュバルツ・ブルーダーのガンダムだけ。でも、今彼に助けを求めたら、敵のガンダム達や戦艦をフリーにしてしまう。どうすればいいーー!?)

 

 

 

その時だった。

 

 

 

「ーーミネルバよ、その場を動くな!!」

 

 

 

第三者からの通信がミネルバのブリッジに入ったのだ。

 

 

 

「艦長、南方の退避推薦ルートから、高エネルギー反応!!」

 

 

 

メイリンの報告が上がった直後、通信先の声が叫んだ。

 

 

 

「ーー流派、東方不敗が最終奥義ぃ!! 石破ぁあ!! 天ぇえん驚ょぉお拳ぇえええんっ!!!」

 

 

 

紫の驚の文字がミネルバのモニターの前に映し出されると、黄金の極太のビームが「驚」の文字を前方に押し出しながら放たれた。

 

 

 

全てを破壊する凶悪なまでの破壊力と圧倒的な黄金の光。

 

 

 

無数のデスアーミー達が、一気に消し飛び、包囲網に巨大な穴をぶち上げた。

 

 

 

「ーー艦長! 包囲網が破られました!! 退避ルート確保できます!!」

 

 

 

「ーー今のは、まさか」

 

 

 

ミネルバのモニターに現れたのは、赤い羽根を持つ巨大な角のガンダム。

 

 

 

「ーーマスターガンダム!? な、なんで!?」

 

 

 

アーサーが驚くのも無理は無い。あのガンダムは確かに地球連合のファントムペインに所属していた。

 

 

 

だが、タリアは冷静だ。

 

 

 

「ーーマスターガンダム、協力を感謝します」

 

 

 

「ーー艦長!?」

 

 

 

「考えてみなさい。今、連合に操られている彼女のことを」

 

 

 

そう、タリアには確信があった。

 

今、デストロイガンダムに乗せられている少女ーーステラは、マスターガンダムの弟子なのだ。

 

 

 

「話の分かるものがおるようだな。このような非道を流派東方不敗の拳士として許すわけにはいかん。貴様らの退避ルートは確保する!! その上でワシにどうして欲しいか、言うが良い!!」

 

 

 

「ーー感謝します。では、私達の退避が完了次第、シュバルツ殿の援護をお願いできますか?」

 

 

 

「安心するが良い、既にシュバルツの元には援軍を向けておる。それと、ミネルバよ。ワシの他にも、貴様らの援軍が来たようだぞ」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

マスターガンダムが顔を向けた先には、オーブのアスハ私軍とされる不沈艦ーーアークエンジェルが、奪われたカオスガンダムと一見フリーダムガンダムに見えるよう改造されたウィンダムやムラサメの連合・ザフト・オーブの混成MS部隊を展開していた。

 

 

 

「ーーオーブのアークエンジェル?」

 

 

 

「こちら、オーブ軍アスハ派アークエンジェル。ミネルバとザフトの皆さん、聞こえますか? これより、あなた方を支援いたします」

 

 

 

艶やかな女性の声とモニターに映る妙齢の美女。

 

 

 

「私は、アークエンジェル艦長マリュー・ラミアスです」

 

 

 

ブリッジが息を飲む中、アーサーが頬を赤く染めて見惚れている。

 

 

 

「貴艦の援護に感謝します。ですが、ラミアス艦長。既に我が方の防衛網は無いに等しい。このまま続けた所で無益に人が死ぬだけです。私達ザフトは、これより撤退行動に移ります。アークエンジェルにあっては私達と共に殿をつとめていただきたいのですがーー」

 

 

 

「そのつもりで、こちらに来ました」

 

 

 

艦長同士の会話にカオスガンダムのパイロット、スティング・オークレーが割り込んだ。

 

 

 

「話の際中悪いが、俺も参加させてもらって構わないか? あんた達にとって、俺は殺しても殺したりない奴かも知れない。それでも、こいつらだけは許せねえんだ!! 頼む!!」

 

 

 

「ーー僕も参加させてくれ! あんたらのアビスガンダムを盗んだ上に壊しちまった。虫のいいのは、わかってるけど!! それでもーー!!」

 

 

 

必死に頼み込む2人の少年パイロットに、タリアは告げた。

 

 

 

「あなた達が、どこの誰かは知りませんが。その機体はザフトのセカンドステージのMSに良く似ているだけの機体ですね」

 

 

 

「ーーえ? いや、俺たちは元ーー」

 

 

 

「別の機体ですね? はっきり言ってこんな問答をしていること自体無駄なことです。良く考えて答えなさい」

 

 

 

「ーーけど。それじゃあ、あんたが上に!」

 

 

 

まだ何かを言おうとするスティングにタリアは吠えつけた。

 

 

 

「今、この状況でカオスだのアビスだの言ってる場合じゃないことぐらい子どもでも分かるでしょう!? 手を貸すなら、さっさとしなさい!!」

 

 

 

「「ーーは、はい!!」」

 

 

 

思わず、スティングとアウルが気をつけの姿勢で答える。マリューはそんな2人に微笑むと、そのままタリアに告げた。

 

 

 

「ーー感謝します。ミネルバの艦長」

 

 

 

「タリア・グラディスです。援護をしてもらうのは我々の方。感謝するなら私達の方ですわ、ラミアス艦長」

 

 

 

微笑み合う美女艦長達に、周りのクルーが呆気に取られていた。

 

 

 

「艦長、よろしいのですか!?」

 

 

 

「ねえ、アーサー?」

 

 

 

「は、はい?」

 

 

 

「今、ここを乗り切らないとよろしいも何もないってことは、分かってるんでしょうね?」

 

 

 

「ーー申し訳ありませんでしたぁあ!!」

 

 

 

タリアの冷たい怒りを込めた視線に射抜かれ、アッサリと平伏すアーサー副長であった。

 

 

 

「わっははは! まこと、そのとおりだ!! スティング! アウル!! 話は後にせい、ワシがこの場を押さえる!!貴様らは、前線で交戦中の白と赤のボウズを手助けせい」

 

 

 

「誰が、ボウズよ!? 私は、女よ!!」

 

 

 

マスターガンダムの言葉に、ルナマリアが抗議の声を上げるも黙殺される。

 

 

 

「良いな? 我が弟子達よ」

 

 

 

「「はい、師匠!!」」

 

 

 

2人の少年が気を取り直し、笑顔で快諾する。

 

 

 

「ーーよろしく頼むぜ。スティング・オークレーだ」

 

 

 

「アウル・ニーダだ。よろしくな、ミネルバのパイロット」

 

 

 

マスターの指示で前線のザクに肩を並べるカオスガンダムとムラサメ。

 

 

 

「レイ・ザ・バレルだ。戦力は多い方がいい。悪いが宛てにさせてもらう」

 

 

 

「ルナマリア・ホークよ。アウルだっけ? アビスはどうしたのよ!? そんな機体で大丈夫なの!?」

 

 

 

ルナマリアの言葉にアウルはムラサメのビームサーベルを抜くと、言った。

 

 

 

「アビスの戦闘データは、こいつに引き継がれてる。やれるさ!!」

 

 

 

「宛てにしてくれて構わないぜ!! お前らは戦い過ぎだ。少し、休め!!」

 

 

 

言いながら、スティングとアウルが明鏡止水を使い、一気に機体の性能を向上させる。

 

 

 

カオスガンダムが、背部のビームポッドを射出し、複射で一気に上空のバーディタイプを落とし、地上ではアウルのムラサメがMS形態で倒されていた一般兵のザクからオルトロスを拾い上げると、先のルナマリアと同じようにビームを放って薙ぎ払う。

 

 

 

「すまん。よろしく頼む」

 

 

 

「助かるわ、本当にありがと」

 

 

 

機体を直立させたまま、気を回復させる両者にスティングがいいはなった。

 

 

 

「俺は、アークエンジェル隊の1人! スティング・オークレーだ!! 「妹」のカリは返すぞ、ゾンビども!!」

 

 

 

「1人で突っ走り過ぎてやられんなよ!! 僕たちの戦いはまだこれからなんだからさぁ!!」

 

 

 

敵のど真ん中で敢えて目立ち、ルナマリアやレイから敵の目を離させようとするスティングに、アウルも付きあった。

 

 

 

「東方先生も来てくれたか、この戦争勝てるな」

 

 

 

「油断するなよ、ネオ。とりあえず全軍の退避ルートを確保してからだ」

 

 

 

「分かってるさ!」

 

 

 

別の部隊は、ネオとバルドフェルドの2人が退路を確保しながら、敵に牽制している。

 

 

 

「なんとか、なりそうね。後は、シュバルツ殿とシン達だわーー!」

 

 

 

タリアが安堵の息を漏らしながら、周囲を確認すると同時に、シン達の方にもキラが駆るストライクガンダムが助太刀していることがモニターで確認できた。

 

 

 

いよいよ問題は、シュバルツの方だがーーと目をやるのと三体のMFが爆発するのは、同時だった。

 

 

 

「ーーな、何が!?」

 

 

 

見れば、ハートを模した機体のガンダムと釣鐘の鎧を着たようなガンダムが、それぞれの右手を桃色に輝かせている。

 

 

 

「クーロンガンダムに、シャッフルハート!! マスターアジアか!!」

 

 

 

シュバルツは、後3合ほど打ち合えば3体のガンダムの動きを完全に把握できたのだが、その前に凄まじい気を放ちながら、2機のMFがシュピーゲルと対峙していた亡者のガンダム達に襲いかかった。

 

 

 

「ーーマスターアジア? 誰だ、それは」

 

 

 

「ーーその声、その顔!? 貴様は、まさか!?」

 

 

 

「はじめまして、だよな? 俺と貴様は初めて会うはずだぜ? ネオドイツのガンダムファイター」

 

 

 

シュピーゲルに話しかけてきたのは、若々しい声。

 

 

 

シュバルツからすれば、懐かしい程に遠い記憶。

 

 

 

自分がシュバルツとなる前の記憶だった。

 

 

 

振り返れば、第七回ガンダムファイト大会に参加したネオジャパンのガンダムがそこにいた。

 

 

 

24年も前のガンダムとファイターが、時を越えて再びシュバルツの前に立っているのだ。

 

 

 

「シュウジ・クロスーー!」

 

 

 

シュバルツの声に応えるように、シュウジと呼ばれた緑がかった長い黒髪を三つ編みにした青年が力強く叫ぶ。

 

 

 

「そう! 俺は東方不敗マスターアジアではない!! 一人の武道家として、最強を目指す男!! シュウジ・クロスだ!!!」

 

 

 

その背後では、それぞれの敵を圧倒するガンダム達から、マスターガンダムと同じ声が聞こえてきた。

 

 

 

「「この身の程しらずが!!」」

 

 

 

両者には右手を相手に正拳突きのように突き出し、2機のガンダムーーコブラとジェスターの装甲を貫くと、力を解放した。

 

 

 

「クーゥウロン、フィンガァーー!!」

 

 

 

「ハーァトフル、フィンガァーー!!」

 

 

 

巨大な爆発が空で起こり、火の粉と化す。

 

 

 

2機のガンダムのフィンガーは、文字どおり敵を消滅させてみせたのだ。

 

 

 

「な、何がーー!?」

 

 

 

タリアでなくてもそう思うだろう。

 

 

 

一瞬の出来事だったのだから。

 

 

 

そして、最後のゼウスガンダムもーー

 

 

 

「合わせろ! ネオドイツの!!」

 

 

 

「任せろ、シュウジ!! シュトゥルム・ウント・ドランクゥゥウ!!」

 

 

 

コマのように回転しながら、竜巻と化すシュピーゲルに刹那の瞬間に全身を切り刻まれ、上空に弾き飛ばされる。

 

 

 

「流石だな、シュバルツ。ならばーー」

 

 

 

その真上には、トリコロールのMFがあった。

 

 

 

その姿は、シャイニングガンダムやゴッドガンダムに似ている。

 

 

 

「久々にアレをやるか、ヤマト! ゆくぞぉ!!」

 

 

 

若々しい声が響き渡り、ヤマトと呼ばれたガンダムは右手をゴッドガンダムのように赤く燃やし始める。

 

 

 

「俺のこの手が唸りを上げる。炎と燃えて全てを砕くッ!! 灼ゃぁああああく熱ぇぇつッ!!」

 

 

 

真紅の炎は、太陽の如き輝きを放ち、その全身に黄金の光を纏う。

 

 

 

「サァアン・シャイン・フィンガァーー!!」

 

 

 

巨大な爆発が起こり、呆気なく消し飛ばされるゼウスガンダム。

 

 

 

完全に消滅された彼らは、複製されない限り復活は無理だった。

 

 

 

ガンダムシュピーゲルと交差しながら、ベルリンの街の煙突に両腕を組んで並び立つ。

 

 

 

第七回ガンダムファイト大会に参加したネオジャパンのガンダム。

 

 

 

流派東方不敗という独自の拳法を開眼した若き天才ファイター。

 

 

 

シュウジ・クロスとその愛機ーーヤマトガンダムだった。

 

 

 

「あの機体は、なるほど。アーモリーワンの時以来ってことね。敵なら恐ろしいけれど、味方ならなんて心強い」

 

 

 

タリアが、その正体を見てとるや頷く。

 

 

 

歴代のマスターアジアのMFが、再び揃い踏みした瞬間であるーー。

 

 

 

「ウォルフ! いや、シュバルツ!!」

 

 

 

「ああ、終わらせよう!! 私と貴様が組んで負けるなどあってはならん!!」

 

 

 

「なればーー、ガンダムファイトぉおお!!」

 

 

 

この世界の人間が誰一人とて知る由もないが。

 

 

 

かつて、最強のファイターの称号。

 

 

 

ガンダム・ザ・ガンダムの栄誉を勝ち取った男が二人並び立った瞬間だった。

 

 

 

「ーーシュウジ・クロス? 国外追放されたファイターが、何故異世界に? しかも展示されているはずのヤマトガンダムに、私を負かしたマスターアジアのクーロンガンダムまで」

 

 

 

ウルベが首をひねるなか、シュバルツがシュウジの後を受け継ぐ。

 

 

 

「ーーレディィィィッ!!」

 

 

 

これを受け、ウルベが冷酷な笑みを浮かべて告げる。

 

 

 

「化石のようなガンダムに、時代遅れの忍者か。ならば、まとめて叩き潰してくれる!!」

 

 

 

アズラエルの前に緑と黄色の光が放たれ、ウルベが駆る専用機のガンダムが現れた。

 

 

 

そのアズラエルのデッキには巨大なMFーーグランドマスターガンダムが生えている。

 

 

 

「「「ゴォォォオオオッ!!!」」」

 

 

 

無数の亡者の軍勢を率いるウルベガンダムに、たった二人のガンダム・ザ・ガンダムが、真っ向から挑んだーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆さん、お待ちかね〜!!

マスターアジアことシュウジ・クロスの参入で一気に形勢を変えるガンダムシュピーゲルとヤマトガンダム。

一方で、シン達はデストロイガンダムとウォルターガンダムのコンビネーションに苦戦していました。

更に、シン、キラ、アスランの攻撃で崩されたデストロイガンダムは、自己進化の果てにデスルークと呼ばれるゴッドガンダムを模したトリコロールの機体に変化してしまうのです。

果たして、シン達はこの巨大なMFを倒せるのか!?

次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第47話に!

レディー、ゴー!!


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第47話 裏切られた真実

 みなさん、今回の戦いで我らがシン・アスカは衝撃の真実を知ることになります。

 その真実は、彼が今まで信じてきた全てを揺るがすものになるのですーー。

 それでは!!

 ガンダムファイトぉ!!

 レディイイイイイイイ!!

 ゴォオオオオオオ!!

第47話



 

 赤い羽根に巨大な角を持つMFーーマスターガンダムは、気を高めながら、腰を落とし両の拳を腰に置く。

 

 

 

「シャッフルハート! クーロンガンダム! 貴様らは左右の部隊を叩け!! 中央はワシに任せろぉ!!」

 

 

 

「承知! ならば、ワシは右の部隊を叩く!!」

 

 

 

「左は任せろ! 行けい、マスターガンダム!!」

 

 

 

 3機のMFは全く同じ声を上げながら、互いに語り合うと、理不尽なまでの強さでベルリンの街に足の踏み場さえない程に広がるデスアーミーの部隊を蹴散らしていく。

 

 

 

 それを下に見るのは、家の屋根の上にある細い針のようなアンテナの上に立つガンダムシュピーゲル。

 

 これに乗るシュバルツ・ブルーダーは呆れた表情で隣の家のアンテナ針の上に立つヤマトガンダムを見つめた。

 

 

 

「気の分身による遠隔でのモビルトレースか。貴様もよくやる、マスターアジア。いや、シュウジ・クロス」

 

 

 

シュバルツの言葉にニヤリと不敵に笑いながらも、若々しい顔をこちらに向けるシュウジ。

 

 

 

「DG細胞ーー。気で細胞を活性化させ、全盛期の若かりし頃の肉体に戻すとはな。呆れた男だ」

 

 

 

 マスターガンダム達とアークエンジェルの活躍で一気に戦況が膠着する状態に落ち着き、シュバルツはシュウジに語りかけた。

 

 

 

「仕方ないだろ。ドモンがあまりに強くなってるんでな。俺も武道家として自分より高みにいる者に挑んでみたくなったのだ。貴様とて同じだろ、シュバルツ」

 

 

 

 笑いながら、かつての姿と声で今の語り方をするシュウジにシュバルツも苦笑する。

 

 

 

「やはり、私達はファイターだな。シュウジよ」

 

 

 

「無論だ。俺たちはファイター以外にはなれんさ、ウォルフーー」

 

 

 

 互いに穏やかに笑いあうと、正面に浮かぶアズラエルとウルベが駆る専用機のガンダムをにらみすえた。

 

 

 

「それにしても、戦艦の甲板の上に生えたあの機体。デビルガンダム四天王の集合体か」

 

 

 

「くだらんな。紛い物の寄せ集めで作られた機体とは。しかし、シュバルツ。ウォンと組んでいるあの男は誰だ?」

 

 

 

 微かに目を細めながら、シュウジはウルベの顔を睨みすえる。

 

 

 

「あいつ、何処かでーー!」

 

 

 

「ウルベ・イシカワ。ネオジャパンの軍人にして、デビルガンダムを手に入れようと企んだ極悪人だ」

 

 

 

「なるほど。奴がデビルガンダム事件の首謀者にして、ドモンや貴様の宿敵か」

 

 

 

 語り合う両者に、ウルベが告げた。

 

 

 

「マスターアジアの正体がまさか、我がネオジャパンの裏切り者シュウジ・クロスだったとは。驚きましたよ、東方先生」

 

 

 

「ふん。貴様のようなゲスな男に馴れ馴れしく先生などと、呼ばれる気はない」

 

 

 

「これは手厳しい。しかし懐かしくて、ついね。私を初めて打ち負かした男ですからな、貴方は」

 

 

 

 ウルベの言葉にマスターことシュウジは眉根を寄せながら、思案する。

 

 

 

「お忘れですか? 第12回ガンダムファイト決勝で、私は貴方に打ち負かされ、力の真理を知ったのですよ」

 

 

 

「! ああ、あの時の夜郎自大か。己の力に過信やら慢心していたようだから、少し躾けてやろうと思ったんだが。そこまで捻くれる程になるとはな。すまなかった、そこまで器が小さいとは思わなかったんだ」

 

 

 

 痛烈な皮肉を交えて告げるシュウジにシュバルツが覆面の下で笑みを作る。

 

 

 

 昔から変わらない。悪党には一切の情けをかけない徹底した男ーーそれが、シュウジ・クロスでありマスターアジアだ。

 

 

 

 反対にウルベは、苛立ちを顔に浮かべたのち、いやらしい笑みを浮かべて返してきた。

 

 

 

「私を負かした貴方とその弟子が殺しあう様は、実に楽しめましたよ」

 

 

 

「ーーそして、ドモンに倒されたか? 成長せん男だ」

 

 

 

 しかし、シュウジに嘲笑いすら浮かべて返され、いよいよウルベの眉間には青筋が浮かび上がる。

 

 

 

「口の減らん男だ。そうそう、ステラだったか? 貴様の弟子が泣き叫びながら、街を破壊する様は中々面白い見世物だったぞ? DG細胞も植え付けてある。貴様らがステラを取り返したところで、除去できなければ彼女はゾンビになるだけだ」

 

 

 

「ーー俺の弟子に手を出したか。命がいらんと見える」

 

 

 

 シュウジは笑みを浮かべたまま、鋭い殺気を瞳にこめる。

 

 

 

 この反応にウルベは気を良くしたのか、笑みを浮かべて告げた。

 

 

 

「貴様ごとき死に損ないに私が倒せるかな?」

 

 

 

「ククク、この雑魚が。吠えるじゃねぇか…!」

 

 

 

 その二人を割って入るようにシュバルツが立つ。

 

 

 

「生憎だがなウルベ。アークエンジェルに彼女が救われたのは、こちらで確認している。彼女は無事だ。キョウジがDG細胞のワクチンを作っているからな。それを投与するだけで除去できる」

 

 

 

「ーー!! バカな。キョウジの奴め、いつの間に!?」

 

 

 

「ウルベ、貴様は「私」を甘く見過ぎだ。いや、自分以外の全てを見下す貴様には分からんか。シュウジの言うとおり、貴様は慢心と過信の塊だ」

 

 

 

淡々と哀れみすら込めたシュバルツの声に、ウルベの顔が醜悪に歪む。

 

 

 

「滑稽だな。自分が貶め、苦しめた男に過ちを指摘され、あまつさえ哀れみすら受けるとはーー! とんだピエロだ!!」

 

 

 

 そんなウルベを笑い飛ばしながら、シュウジは容赦なく告げた後ーー表情を消した。

 

 

 

「全てを見下す貴様のような男には、似合いの生き方だな」

 

 

 

「マスタァアア、アジアァアアッ!!!」

 

 

 

「来るがいい、井の中の蛙よ。貴様と俺の格の違いを、もう一度教えてやる」

 

 

 

 構えるシュウジだったが、ふと構えを解き、傍らのシュバルツに笑いかける。

 

 

 

「ーーいや、俺の出番ではないな」

 

 

 

「感謝するーー。シュウジ」

 

 

 

「その代わり、完膚なきまでに叩き潰せ」

 

 

 

 獰猛な虎を思わせるような笑みを浮かべて笑うシュウジ。

 

 

 

「ーー言われるまでもない」

 

 

 

 全身から燃えるようだったシュウジの殺気とは違う、研ぎ澄まされた日本刀のようなそれを噴き出しながら、シュバルツがウルベの前に立った。

 

 

 

「虫けらの人間ぶぜいが!! 貴様ら、どこまでも私を見下しやがってぇえええっ!!」

 

 

 

「ウルベよ、もはや語ることはない。ーー母の、母さんの仇だ。死んでもらう」

 

 

 

 ガンダムシュピーゲルが、ブレードを展開し構えた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 一方で、インパルス、ストライク、セイバーの3機のガンダム達の戦いも続いていた。

 

 

 

 デストロイガンダムは、パイロットを失ってもなお動いているのだ。

 

 

 

 それもステラが乗らない時の方が、行動が鋭く早い。

 

 

 

放たれる強力なビーム砲の数々を紙一重で避けて、攻撃を繰り返す3機のMS。

 

 

 

しかし、どれだけ波状攻撃を仕掛けても、切り口から緑色のコードを溢れさせて傷を塞ぎ、元どおりに再生してしまう。

 

 

 

DG細胞の力で修復するだけではない。本来なら、これだけの長距離遠征とビーム砲の連打にエネルギー切れを起こしてもおかしくないのに、一向にデストロイガンダムの動きは鈍らない。

 

 

 

無尽蔵にエネルギーが発生している証拠だろう。

 

 

 

これには、流石のキラ達も攻めあぐねていた。

 

 

 

「ふむ、やはりステラがデストロイガンダムの性能を抑えていたのですね。カタログスペック程度の能力しか発揮されていませんでしたし。まあ、それでも自己再生するデストロイガンダムからステラを奪還されるとは、思っていませんでしたが」

 

 

 

 丸いグラサンを指で押し上げながら、ウォンは巨大なガンダムの周りを飛び回る3機のMSを見据える。

 

 

 

「この世界のガンダム同士の殺し合い。高みの見物と洒落込みましょうか」

 

 

 

 強烈なビーム砲の連発を紙一重でかわしながら、3機のガンダムは機動力を活かし、飛び回る。

 

 

 

 それを追ってデストロイの全身から正確無比なビームが、所構わず放たれる。

 

 

 

「ーーくっそ! 近づけない!! このままじゃーー!」

 

 

 

 いくら明鏡止水で機体性能を底上げしていても、フェイズシフトが切れて、動けなくなる。

 

 

 

 シンが焦りに焦っていると、キラから通信が入った。

 

 

 

「シン! このMAはリモートでコントロールされている!だから、操縦者を倒せばこいつは動きを止める」

 

 

 

「ーーあいつか! だけど、こうビーム砲が多いと近づけない!!」

 

 

 

「僕とアスランが、このMAを押さえる!! 君は、ウォルターガンダムをーーウォンを倒せ!!」

 

 

 

 キラの予想以上に強い言葉に、シンが当惑していると彼は強い口調で続けた。

 

 

 

「戦いたくないものの心を洗脳して、無理やり戦わせる。そんな奴を絶対に許しちゃいけない!!」

 

 

 

「ーーキラさん」

 

 

 

 その横で痛烈な斬撃が爆発し、デストロイの左腕を破壊した。

 

 爆発を背にしているのは、アスランのセイバーガンダムだった。

 

 

 

「シン。お前ができないなら、俺が変わってもいい。あの男の顔をぶん殴ってやりたいのは、俺も同じだ!!」

 

 

 

「アスラン、しばらく見ない間に随分好戦的になってない?」

 

 

 

「ーーお前はどうなんだ、キラ?」

 

 

 

 目の色が完全に違うアスランは、怒りを必死で押さえながら話しているようだった。

 

 そんな彼は、隣で表面は呑気な雰囲気のキラに問いかける。

 

 

 

「どうって、そんなの決まってるじゃないか。アスラン」

 

 

 

 キラはいつもどおりの穏やかな笑顔で、シンにこう言った。

 

 

 

「ーーシン、僕達の分は頼んだよ。僕達は、このMAを解体しておくからね」

 

 

 

(目が、笑ってないーー!!)

 

 

 

 シンの表情がはっきりと恐怖に歪んだ。

 

 

 

 キラは間違いなくウォンに怒りを覚えているが、それを隠すようにいつも通りの笑顔を浮かべている。

 

 

 

 はっきり言って余計に怖い。

 

 

 

「シン、やれるよね?」

 

 

 

「できるのか、シン?」

 

 

 

 二人の青年からの言葉に、シンの目にも炎が宿った。

 

 

 

「分かりました。二人の分もきっちり、ぶち込んできますよ!!」

 

 

 

 シンの言葉にキラとアスランは満足気味にほほ笑むと互いを横目で見合う。

 

 

 

「うん、頼むよシン」

 

 

 

「シン、任せたぞ。そうとなれば、キラ」

 

 

 

「ああ。シンを援護するためにも、さっさと終わらせよう」

 

 

 

 キラもSEEDを発動させ、一気に反応速度を上げる。

 

 

 

 同時に機体に白い光ーー明鏡止水の力が宿った。

 

 

 

(SEEDで反応速度を上げ、人機一体の明鏡止水で上がった分の性能を機体にも反映させれば。ストライクでも、フリーダムの動きはできる!!)

 

 

 

 ストライクガンダムのビームサーベルの太さが一気に倍に膨れる。これにアスランもセイバーのビームサーベル二刀を抜き放ち、構えを取る。

 

 

 

「いくぞ、--キィィラァアアアアアアア!!」

 

 

 

「ア、ス、ラァアアアアアアアアンッ!!」

 

 

 

 二機のガンダムの力が一気に爆発し、圧倒的な動きでデストロイガンダムに襲い掛かった。

 

 

 

 2機は機動性とパワーを活かし、デストロイガンダムのビーム砲をサーベルで切り払いながら、一気に懐に入る。

 

 

 

 左右からセイバーとストライクが同時に斬りつけ、デストロイの巨体が後方へ吹き飛んだ。

 

 

 

「! なんだと? 何故この程度のMSしか作れない連中にガンダムファイターにも匹敵するパワーと動きが!?」

 

 

 

 ウォンがストライクとセイバーの動きに目を見張る間に、シンのインパルスがウォルターガンダムに迫る。

 

 

 

「くらぇえええええええええ!!」

 

 

 

「フン、こしゃくな」

 

 

 

 ウォンも右手を開き薙ぎ払いながら、インパルスが振りかぶったエクスカリバーを迎え撃った。

 

 

 

 ぶつかり合う両者の一撃は、つばぜり合いになって止まる。

 

 

 

「対艦刀にもなるエクスカリバーが、こんな簡単に受け止められるなんて!」

 

 

 

「こんなナマクラ刀で切れるのですか、あなた方の世界の戦艦は!!」

 

 

 

「ーーんの野郎ぉおおおおお!!」

 

 

 

 ウォンの挑発に応えるように、シンがSEEDを発動させる。

 

 

 

「これで、一気に終わらせてやる!!」

 

 

 

  凄まじいパワーが爆発し、インパルスは止められた大剣から反動をつけて、上に跳躍した。

 

 

 

「ーーなるほど。それがデュランダルがDG細胞に侵されながらも目を付けているSEEDの力ですか。明鏡止水と重ねがけできる時点で、原理が違うようですね」

 

 

 

 丸グラサンをかけ直しながら、爆発的に上がった機体の能力に頷き、ウォンはインパルスガンダムの出力などを解析する。

 

 

 

「君たちは、特別なようですね。下手なガンダムファイターよりも手強い。ですが、このウォルターガンダムに一騎打ちを仕掛けるには、力不足ですよ!!」

 

 

 

 その計算データを見てウォルターガンダムのマスクが展開し、鋭い牙を剥いて笑う。

 

 

 

 同時に赤い光がウォルターガンダムの体から放たれ、全身に纏うと、ウォンは叫んだ。

 

 

 

「そう! この、グレートウォンに敵うものかぁあああっ!!」

 

 

 

 放たれるプレッシャーに、シンが震えを感じる。

 

 

 

「こいつ、これだけの力をーー!!」

 

 

 

 だが、シンは燃えるような赤い瞳をウォンに向けると、叫んだ。

 

 

 

「だが、俺はお前みたいな奴に負けるわけには行かねぇんだよ!!!」

 

 

 

「さあ、はじめようか? 貴様に地獄を見せてやろう」

 

 

 

 互いに腰を落とし構えあう。

 

 

 

 仕掛けたのは、ウォルターガンダム。

 

 

 

 しなる右腕を伸ばし、一気に爪を開いて薙ぎ払う。

 

 

 

 インパルスガンダムはそれを鼻先で上体を反らしてかわすと、右手一本で持つエクスカリバーを右下から斜め上に振り上げた。

 

 

 

 ウォルターガンダムは、一歩分だけ後ろに下がると鼻先で通り過ぎるエクスカリバーを見送りつつ伸ばした右腕の掌をインパルスガンダムの眼前で開き、その中心にある銃口を突きつける。

 

 

 

「ーーなっ!!?」

 

 

 

「さようならぁあああっ〜!!」

 

 

 

 赤いビームが放たれた。

 

 

 

 この世界でのビーム砲を遥かに凌駕するスピードと貫通力のある赤い光弾は、インパルスの後方へと飛んでいくと巨大な建築物に当たり、消し飛ばす。

 

 

 

 通常のビームライフルと変わらない大きさの光弾は、桁違いのスピードと貫通力と爆発力を持つ。

 

 

 

 インパルスは、咄嗟に首を横に倒して避けると同時に天高く跳躍する。

 

 

 

「ーーくっ、なんてスピードとパワーだ!?」

 

 

 

 ウォルターガンダムは、伸ばした右腕を引き戻すと同時に左手を跳躍したインパルスガンダムに向かって開き、ビーム砲を放つ。

 

 

 

「ウォルターテンタクル!!」

 

 

 

「ーーっ!!」

 

 

 

 インパルスガンダムが、咄嗟に上半身を右に半身切ると、脇を通り過ぎる赤い光弾がある。

 

 

 

 遥か後方で爆発が生じ、全てを消し飛ばす。

 

 

 

「逃げてばかりでは退屈ですねぇ!!」

 

 

 

 拡散で左右広範囲に広がる6発の光弾。

 

 

 

 一発一発が、先の一撃に匹敵するほどのものだった。

 

 

 

( こいつ、確かに機体の能力やビーム砲の威力は凄いけど。隙ばかりだ。冷静になれば、対処できない相手じゃない!!)

 

 

 

 はじめのうちは余裕を持っていたウォンも、攻撃を躱し続けるインパルスに、苛立ちを露わにした。

 

 

 

「ちょこまかと、煩いハエが!!」

 

 

 

 右腕を伸ばし、鋭い爪の攻撃を繰り出すもシンは目つきを変えて叫んだ。

 

 

 

「ーー今だぁあああっ!!」

 

 

 

 鞭のようにしなる右腕を左に見切り、両手持ちのエクスカリバーを上段に構えて振り下ろす。

 

 

 

ザンッ

 

 

 

 伸びた腕は真っ二つに切り落とされ、ウォンが目を見開いた。

 

 

 

「バカな!? 貴様ごときに私の腕が!!」

 

 

 

「人間離れした身体能力に、機体性能だけどさ。生憎、あんたのは本物じゃない。見せかけだけの強さに、負けてなんかやるものか!!」

 

 

 

 エクスカリバーの切っ先をウォンに突きつけ、シンはハッキリと断言した。

 

 

 

「あんた程度に手こずってられないんだ。俺を鍛えてくれた人は、あんたの100倍は強いんだよ!!」

 

 

 

「ーーなるほど。確かに君の強さは私を上回るようですね。いや、実に素晴らしい。そんな機体で私のウォルターガンダムの腕を見切って避けた後に切り落とすとは」

 

 

 

 ウォンは素直に拍手していた。自分に手傷を負わせたこの少年の腕前に。

 

 

 

( なるほど。SEEDの因子、なかなか興味深いですね)

 

 

 

 ちらっとインパルスの肩越しに後ろを見れば、たった2機のMSが、100メートルはあるデストロイガンダムをサーベルで斬りつけ吹き飛ばすセイバー。吹き飛んだデストロイを空中で先回りし、両手持ちのビームサーベルを唐竹に振り下ろして、地面に叩きつけるストライク。完全に2機はMAを圧倒していた。

 

 

 

( DG細胞による自己増殖のおかげで、今のデストロイガンダムは通常の倍以上の大きさになっている。それを圧倒するというのか)

 

 

 

 切り落とされ、火花を散らす自分の右腕とデストロイを圧倒する2機、そして目の前のインパルスを見据えてウォンは笑った。

 

 

 

「ーーなるほど。デュランダルの目も節穴ではない、か。面白いが、このまま奴の筋書きどおりに事が運ぶのもつまらない。少しシナリオを書き換えてあげましょう」

 

 

 

「ーー何を言ってる? 降参でもするのかよ」

 

 

 

「生体ユニットの研究対象が増えることは良いことです。それでは私はこれでーー」

 

 

 

 切られた右腕はすぐに再生して、一度だけマニュピレーターを開いて閉じた後、ウォンはインパルスに背を向ける。

 

 

 

「ふざけるな! 逃がすわけないだろうが!!」

 

 

 

 シンは、インパルスにエクスカリバーをもう一度両手持ちに構えさせる。

 

 

 

「ーーシン!」

 

 

 

「無事みたいだな!」

 

 

 

 その両脇にキラのストライクガンダム。アスランのセイバーガンダムが並びたった。

 

 

 

 瞬間、凄まじい音と共に背後でデストロイの巨体が、仰向けに倒れていった。

 

 

 

( すげえ。俺が手こずってる間に、ホントに二人だけであんな化け物みたいなMAを倒したーー! これが、ヤキンの英雄ーー! キラ・ヤマトとアスラン・ザラ!!)

 

 

 

 3機のガンダムが揃ってウォンに剣を構える。

 

 

 

( 俺だけでもそこそこ戦える相手だ。3人がかりなら倒せる!!)

 

 

 

 シンは自分達の力量と相手のそれを比べた後、自分の結論にこくりと頷いた。

 

 

 

「ここまでだ、ウォン・ユンファ! あなたのしてきた事を僕たちは許さない!!」

 

 

 

「覚悟してもらうぞ! お前のような奴を野放しにしておく訳にはいかない!!」

 

 

 

「さあ、観念しろ! ここがあんたの、年貢の納め時だ!!」

 

 

 

 キラ、アスラン、シンの言葉を聞いてもウォンは半身を彼らから背後に向けた状態で笑う。

 

 

 

「君たちの相手は、後ろのガラクタで充分ですよ。さようなら、異世界のガンダム達よ。君たちが生き残れたら、また会いましょう」

 

 

 

「逃がすわけ、ないだろうが!!」

 

 

 

 シンの言葉を皮切りにインパルス、ストライク、セイバーが同時にウォンに斬りかかる。

 

 だが、それらは宙に浮かぶ巨大な右腕の掌に止められていた。

 

 

 

「! バカな、まだ動くのか!?」

 

 

 

「動力源は、断ち切ったはずだぞ!!」

 

 コレにキラとアスランが驚愕して目を見張る。頭部も動力源も全て確実に叩き潰していた。

 

 

 

 しかし、急速に再生されるMA--いや、姿が変化していく。

 

 

 

「これはーー!!」

 

 

 

 変化していくーー。黒を基調とした機体の色は、頭部が白く染まり丸みを帯びた顔にーー。

 

 

 

 余計な装飾がはぎとられ、背中に背負ったバックパックが地面に剥がれ落ち、シンプルなフォルムへと変化していく。

 

 

 

 その顔とボディはーーゴッドガンダム。

 

 

 

 両腕は丸みのある肩が特徴的なシンプルな頑丈なデザイン。拳にナックルガードが付けられている。

 

 

 

 足は野太く、太ももからして元のデストロイガンダム並みのそれだが、こちらも白を基調としたシンプルなデザインだった。

 

 

 

「100メートルを超えるMFです。どうなることやら? デスルークと名付けましょうか。ザフトに合わせてね」

 

 

 

 ウォンの言葉の通り、ザフトのデスアーミーたちは、ゴッドガンダムを模してジンハイマニューバ2型を基にしたデスナイト。

 

 

 

 ゲイツRを基にパイロットをDと同じDG細胞のバイオノイドにして作られたデスポーンがある。

 

 

 

 このデスルークと名付けられた機体もゴッドガンダムを模している。

 

 

 

 これが意味することは、何かーー。

 

 

 

「まさかーー!! この惨状の全てをザフトに押し付けるつもりか!!?」

 

 

 

 アスランがウォンに叫ぶ。

 

 

 

 世界はつい先日、デュランダル議長が開催したガンダムファイトを見ている。

 

 

 

 その圧倒的な力と力のぶつかり合いは、まだ人々の記憶に新しい。

 

 

 

 ゴッドガンダムとデビルガンダムーー両者の姿が、よく似ていたことも当然知っているだろうし、これらを管理しているのはザフトであると世界は認識している。

 

 

 

 そして、連合の核部隊を退けたデスナイトの映像も以前に世界に配信されていた。

 

 

 

 つまりーー。

 

 

 

「そんなこと、許されるわけがない!!」

 

 

 

「汚い真似してんじゃねぇよ!!」

 

 

 

 アスランの思考にキラとシンも気付き、武器を構える。

 

 

 

「この映像を利用するつもりだった君たちの親玉にほんのプレゼントですよ」

 

 

 

「どういうことだ? まさかーーデストロイガンダムの設計図のことも、それをここまで野放しにしていたことも理由があるのか!?」

 

 

 

 ウォンの言葉にアスランが何かに思い当たるかのように眉根を寄せながら聞く。

 

 

 

「隊長! こんな奴の言葉、聞く必要なんかーー!!」

 

 

 

 シンが止めようとするのを、キラが止めた。

 

 

 

「キラさん?」

 

 

 

「ウォン・ユンファ。貴方は、ギルバート・デュランダル議長が何を目的にしているのかを知っているんですか?」

 

 

 

 キラの言葉にウォンはニヤリといやらしい笑みを浮かべて告げた。

 

 

 

「オーブのキョウジ・カッシュが設計図のデータを盗んだのも知っていますよ。勿論流したのは、デュランダルの手の者ですがねーー。ギルバート・デュランダル、なかなか狡猾な男だ。彼はあらかじめデストロイガンダムの設計図を手に入れていた。何故なら、ロゴスにガンダムのデータを流出させているのはザフトだからーー」

 

 

 

「なら、ベルリン市街に来るまでの惨状も。この都市での犠牲も全て、全て議長とロゴスの茶番だというのか!!?」

 

 

 

 アスランの怒りに満ちた問いに、ウォンは更に笑みを深める。

 

 

 

「どういうことなんですか? アスラン隊長、この戦いが茶番?」

 

 

 

 シンの問いかけにキラが鋭い瞳でウォンとデスルークを睨みつけながら答えた。

 

 

 

「シン。実はオーブにいる優秀な人がデストロイガンダムの設計図を入手してくれてたんだが、この話には裏があるみたいなんだ。情報の出所はプラントらしい」

 

 

 

「ーープラント? なんで、プラントが連合の秘密裏に作られているはずのMAの設計図をーー!?」

 

 

 

「プラントに対して、オーブは自国の難民を受け入れたいという要請をしていた。それに対する見返りの協力要請もしていたんだ。これにプラントからの返答は回答を保留するという答えだった。この間のオーブと連合の戦闘が終わったと同時に返事があったらしい。その回答メールの添付ファイルにーー」

 

 

 

 キラの言葉にアスランが歯ぎしりを行い、シンが動揺する。

 

 

 

「なぜ、言わなかったんだ!? あの時に!!」

 

 

 

「アスランやシュバルツさんと話をした後なんだ、メールが届いたのは。その添付ファイルの意味を確認していたら、廃棄コロニーでガンダムファイトが開催されていた」

 

 

 

 そしてガンダムファイトが行われた直後にデストロイガンダムが動いたーー。

 

 

 

 タイミング的には、最悪だった。

 

 

 

「君たちにも色々あるようですねーー。お若いのに大変だーー」

 

 

 

 嫌味な笑みを浮かべるウォンをアスランが睨みつけた。

 

 

 

「議長の企みが真実だとして。それを分かった上でーーお前は民間人を犠牲にしたって、そういうのか!?」

 

 

 

「ええ。お互い利用しあうのにちょうど良かったのでね」

 

 

 

「どこまでーー。どこまで人の命を犠牲にすれば気が済むんだ!!」

 

 

 

「まるで自分は無関係のような言いぐさですねぇ。貴方たちも知らなかっただけで、彼らの犠牲を前提とした戦いに出向いているじゃありませんか」

 

 

 

「ーーお前……!!」

 

 

 

 失笑ーーその類の笑みを浮かべてウォンは怒りに満ちているアスランの顔を見据えた。

 

 

 

「アスランは冷静さを欠き始めてる。シン、悪いけど一緒にフォローに回ってもらえるかな?」

 

 

 

「ーーそんな。俺たちは、俺は守るために戦っていたのにーー! 俺たちの戦い自体が、仕組まれていた茶番だったってーー?」

 

 

 

「! シンーー」

 

 

 

「うそ、ですよね? 俺たちの戦いが茶番なんて嘘ですよね、キラさんーー」

 

 

 

 アスランが冷静さを欠き始めていることに気付いたキラは、小声でウォンに仕掛けるタイミングをシンと相談しようと声をかけるも、シン自身も相当なショックを受けていた。

 

 

 

「シン、今はウォンを逃がしちゃいけない。彼をここで取り逃がしたら、もっと多くの人を犠牲にしてしまう。力を貸して、シン」

 

 

 

「で、でもーー俺ーー! 俺ーー!!」

 

 

 

 そんな彼らをウォンは冷たい笑みを浮かべて侮蔑した。

 

 

 

「能力は素晴らしいが、所詮は子どもーー。利用されるしかないのですよ」

 

 

 

「黙れぇえええええええっ!!」

 

 

 

 アスランがセイバーのバーニアを噴射させ一気にウォンに斬りかかる。

 

 

 

ガシィッ

 

 

 

 そのセイバーの胴体をデスルークの巨大な右手が掴みとめていた。

 

 

 

「ーーな!?」

 

 

 

「アスランッ!!」

 

 

 

 人形のように軽々と持ち上げられるセイバーはルークの右手の中でフェイズシフトダウンを起こした。

 

 

 

「電池切れですかーー。やはり、その程度の文明なのですねぇ」

 

 

 

「ーークッ、セイバーにアーマーシュナイダーのような武器はないのか!?」

 

 

 

 アスランはコクピット内で現在の機体の状態および武装のチェックを行うが、イーゲルシュテルン以外の武装は軒並み使えない状態であることに気付く。

 

 

 

ブワァッ

 

 

 

 ルークが大きくセイバーを掴んだ右腕を振りかぶると地面に向かって投げつけた。

 

 

 

「ーーうわぁああああああっ!!」

 

 

 

「アスラン!!」

 

 

 

 咄嗟にキラのストライクが地面に叩きつけられる寸前でセイバーを横からかっさらう。

 

 

 

「君たちも、時間の問題ですねーー。明鏡止水も切れたようですし」

 

 

 

「ーーくっ!!」

 

 

 

 つまらなさそうに棒立ちしているシンと、こちらに武器を構えるキラを見据えてウォンはつぶやいた。

 

 

 

「能力は認めましょうーー。ですが、あまりにも心が幼過ぎるーー。それで世界の覇権を争おうとする我々に挑むとは、愚の骨頂ーー!!」

 

 

 

 そのままウォンは悠然とアズラエルに帰還していった。

 

 

 

「坊やたちは、この木偶の坊と遊んでいなさい。大人には大人の仕事があるんで失礼しますよ」

 

 

 

 それを睨みつけることしか、今のキラ達にはできない。

 

 

 

 無力ーー、そう思い知らされる瞬間だった。

 

 

 

 だが、キラは呆然とするアスランのセイバーを地面に下すと、シンのインパルスに告げる

 

 

 

「シン、アスランを連れてミネルバまで退避してーー。ここは、僕が押さえる」

 

 

 

「な、キラ!!」

 

 

 

 アスランが抗議の声を上げ、シンが縋り付くような目でキラを見る。それにキラはほほ笑みを返すと言った

 

 

 

「大丈夫だから。僕はーー負けない」  

 

 

 

 キラのストライクガンダムは、シンのインパルスからエクスカリバーを受け取ると両手でそれを構え、告げた。

 

 

 

「僕たちは、まだ死ねない。だからーー!!」

 

 

 

 二機のガンダムをかばうようにキラがルークに剣を向ける。

 

 

 

「僕は、戦う!!」

 

 

 

 キラの気高い魂の炎は、まだ燃え尽きてはいなかったーー。

 

 

 

 その魂を摘み取ろうと巨大なMFが彼のストライクガンダムを見下ろしている。

 

 

 

 まるで、絶望という言葉の代名詞のようにーー。 

 

 

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね~!!

 ルークに一騎打ちを仕掛けるキラ。

 心を打ち砕かれたシンにアスランが魂の叫びを上げます。

 少年たちの戦いは、連合やザフトやオーブと言った勢力を越えていかねばならない事態に突入していくのです。
 
 一方ーー、シュバルツとウルベの対決もいよいよ、大詰めを迎えようとしているではありませんかぁ!!

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第48話に!!

 レディー、ゴー!!



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第48話 フェイズシフトダウンと明鏡止水

 フェイズシフトダウンーー。

 コズミックイラのMS達が常に抱える動力炉の問題。

 そして少年達の心を抉る余りにも残酷な現実。

 佇む強大な絶望の壁を前にキラは、シンは、いかにしてこの窮地を脱するのか?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィィィッ!!

 ゴォォォオオオッ!!

第48話



 ストライクガンダムが対艦刀であるエクスカリバーを抜き放ち、巨大なデスルークに斬りつける。

 

 

 

 その鋭い斬撃をスウェーで避けるとデスルークは巨体に似合わぬ素早さで拳を振り下ろしてきた。

 

 

 

「ーーグッ!」

 

 

 

 咄嗟に刀を横に構えて受けるも、凄まじい衝撃に後方に弾け飛ぶキラ。

 

 

 

 なんとデスルークは、その場から見事なフットワークで吹き飛んだキラの後方に回り込むと上段回し蹴りを放ち、小柄なストライクガンダムをまるでサッカーボールを蹴るように吹き飛ばす。

 

 

 

「ぐああああぁっ!!」

 

 

 

 キラが衝撃に悲鳴を上げながらも機体の態勢を整える。

 

 

 

( なんてスピードとパワーだ。あの巨体で、こんな動きができるのか? これが、無人機の動き? マスターガンダムやデビルガンダムに比べたら、まだ戦える相手だけど。今の僕の集中力が、何処まで持つか)

 

 

 

 敵のスピードとパワー、動きを冷静に見ながら剣を正眼に構え、キラは思う。

 

 

 

( 巨体に救われたな。もし、僕たちと同じサイズなら、万全の状態じゃないと勝てない)

 

 

 

 空中で静止しながら敵を睨み据えていると、ルークは右手を腰に左手を顔の横に置いて構えた。

 

 

 

( 拳法の構えーー!?)

 

 

 

 ドモンやキョウジ、マスターアジアの構えとは違うが正しく拳法の構えだった。

 

 

 

 2機の戦いを見ながら、アスランは今一度自分の機体の状態を確認する。

 

 

 

( ミネルバのデュートリオンビームがいるな。それとも明鏡止水ってヤツを俺が使えたら、フェイズシフトダウンも回復できるのか? 今のキラのように)

 

 

 

 ストライクガンダムは旧式の型遅れの機体だ。にもかかわらず、セイバーのフェイズシフトの稼働時間を優に越えて動いている。

 

 

 

 それは同シリーズのインパルスもザク達もそうだ。

 

 

 

( 明鏡止水ーー。シュバルツから学んでおくべきだったな)

 

 

 

 アスランは自分の考えをまとめながら、傍らにいるシンのインパルスに通信を繋げた。

 

 

 

「ーーシン、すまないがミネルバの正面まで運んでくれ。デュートリオンビームを受ければ、まだ動く。キラの援護をしなければ」

 

 

 

 だが、シンのインパルスはまるで石像のように動かない。

 

 

 

「ーーシン? おい、どうした!?」

 

 

 

 反応がないことにアスランが最悪の事態を想定して叫ぶ。

 

 

 

「ーーアスラン隊長」

 

 

 

 やがてシンから通信が返され、アスランはホッとすると同時に注意深く観察する。

 

 

 

「シン、大丈夫なのか?」

 

 

 

「隊長、教えてください。俺たちのしたことは。俺たちがこのベルリンの街を守れなかったのは、茶番なんですか?」

 

 

 

「!! シン…!!」

 

 

 

 咄嗟に言葉が出ない。自分もその事実にショックを受けた1人だ。

 

 

 

 シンの気持ちがわかる。だがーー

 

 

 

「シン、よく聞くんだ。確かに今回の議長や連合の動きは何かある。だが、それで俺たちの覚悟まで嘘にはならない!! 死んでいった兵士達の思いも無駄なんかじゃない。茶番なんかじゃない!!」

 

 

 

「……んで」

 

 

 

「! シン…!!」

 

 

 

「なんで、ザフトも連合も。何の関係もない人達を戦わせて、殺させて。戦火を広げていくんだ。どうして、こんなことを平然とできるんだ。茶番なんて、何故言える…!」

 

 

 

 シンは今、混乱していた。

 

 頭の中にあるのはグチャグチャした思考と感情。

 

 怒り、絶望、悔恨、懺悔、そして裏切りーー。

 

 

 

 インパルスが肩のビームサーベルを抜き放ち、ストライクガンダムと闘うルークを見据えた。

 

 

 

「! シン、よせ!! そんな冷静さを欠いてる状態じゃ危険過ぎる!! 一旦ミネルバまで退いて補給するんだ!! お前のインパルスもエネルギー切れを起こしてもおかしくないんだぞ!!」

 

 

 

「ーーやれます。明鏡止水なら」

 

 

 

「馬鹿野郎! そんな顔してるくせに、明鏡止水なんて無理だ!! シン、一度退却するんだ!!」

 

 

 

「ーーやれます。許すもんか」

 

 

 

「シンーー!!」

 

 

 

 自分も同じ状態だったから分かる。

 

 

 

 シンは今、自分の中にある怒りに身を任せようとしている。

 

 

 

 先ほど、自分もその状態でウォンに挑み返り討ちにされた。

 

 

 

「ーーこんなことをするのが正義なら、ザフトも連合もない。どっちも許すもんか。絶対に許さない…!!」

 

 

 

「シン、今のお前じゃキラの足手まといになる。やめろ!!」

 

 

 

「やれますよ。許さないーー!! 許すもんか、絶対にぃいい!!!」

 

 

 

 シンの叫びに呼応するように、インパルスのバーニアの火が一気に膨れ上がる。

 

 

 

 同時にインパルスが音速を超えて一気にルークの頭上に躍り出た。

 

 

 

「ーーシン!? どうして」

 

 

 

「キラ!」

 

 

 

「アスラン? シンは君と退避するんじゃーー」

 

 

 

「聞いてくれ。今のあいつはさっきの俺だ。冷静さを欠いてる。悪いが、フォローを頼みたい」

 

 

 

「分かったーー。でも、無理もないよ」

 

 

 

「分かっている、シンを頼む。俺も自力でミネルバまで退いて補給する。それまで無事でいてくれ」

 

 

 

 アスランの言葉にキラは静かに頷くと、笑った。

 

 

 

「初めてじゃないかな? 君が僕を頼るのは」

 

 

 

「ーーこんな時に、余裕言ってる場合か!!」

 

 

 

「分かってる。アスラン、そっちも無事で!」

 

 

 

 キラは戦場であることを忘れさせるほど、日常の一コマのような笑顔を浮かべると、インパルスに近づいていく。

 

 

 

 それを見ながら、アスランはふと違和感を感じた。

 

 

 

「ーーキラ、あいつ。戦場で笑うような奴だったか? まるで別人だ」

 

 

 

 そう、キラは戦場では常に張り詰めた表情をしていた。

 

 

 

 だからこそ、フリーダムが倒されたと聞かされた時、アスランには普段どおりのキラに違和感しか感じなかった。

 

 

 

 以前のキラなら、フリーダムが倒された時点で自分には闘う力がないと絶望したはずだ。

 

 

 

( シュバルツの修行を受けた訳じゃない。オーブにいるキョウジ・カッシュのおかげなのか? それとも別の? 今のキラの心の強さは、以前の比じゃない)

 

 

 

 退却しながらアスランはホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

 ガルナハン要塞を攻略した時のシンーーいや、それ以上の頼りがいが今のキラにはある。

 

 

 

 アスランは全てをキラに託し、ミネルバのビームを受ける座標軸をメイリンと交信してわりだした。

 

 

 

「頼んだぞ、キラ! シン!!」

 

 

 

 アスランが去った後、2機のMSと巨大MAFとの白兵戦は苛烈を極めた。

 

 

 

「ソニックウウウ、スラァァアアッシュゥゥウウウ!!」

 

 

 

 シンのインパルスの音速を超えたサーベルの一撃は、巨大なMAFーールークの体を後方へガード越しに吹き飛ばす。

 

 

 

 あまりの威力にキラがポカンとするほどだ。

 

 

 

「ガンダムファイターの弟子になると明鏡止水の機体強化だけじゃない。技も覚えられるんだな」

 

 

 

 なるほど、と一つ頷きながら吹き飛んだルークが態勢を整えながら着地するのを確認する。

 

 

 

「その動きは、覚えたよ!!」

 

 

 

 キラはストライクをルークの足下に移動させ、着地しようとした右足にエクスカリバーを横薙ぎで払う。

 

 

 

 巨体が、宙に再び浮き上がり、無防備な姿を晒す。

 

 

 

「行くよ、シン!! 力を貸して!!」

 

 

 

「うぉおおおっ!! お前らみんな、許すもんかぁあああっ!!!」

 

 

 

 キラの言葉に合わせるように、インパルスが真上から。同時にキラのストライクがエクスカリバーを両手持ちの前面に突き出しながら真下から。

 

 インパルスが頭部にビームサーベルを振り下ろし、ストライクがエクスカリバーをコクピットの脇にある動力源を貫いていく。

 

 

 

「これでーー!!」

 

 

 

「ーー終わりだぁあああっ!!」

 

 

 

 見事なコンビネーションに頭部を失い、胸元に大きな穴を開けた巨体は地面に背中から叩きつけられる。

 

 

 

 通常ならば、これで勝敗は決した。

 

 

 

 だがーー

 

 

 

「ーー何だって!? まだ、動くのか!?」

 

 

 

 キラの言葉どおり頭部を失い胸元に大きな穴を開けてなお、デスルークは再び立ち上がり始めた。

 

 

 

 体の破損部から触手状のコードが伸び穴を塞ぎ、頭部を再生していく。

 

 

 

「ーーもう一度、叩き潰してやる!! お前の存在を俺は許さない!!」

 

 

 

「待つんだ、シン! 闇雲に攻撃しても、この機体は!!」

 

 

 

「ーーうぉおおおおっ!!」

 

 

 

 懐に突っ込むインパルス。その目の前に突如現れる巨大な右拳。シンは、その拳を右手のビームサーベルで薙ぎ払い、受けながす。

 

 スピードもバーニアも緩めず、ひたすらに突っ込むと、左拳が来たので右に受けて流し、胸元にビームサーベルを突き立てた。

 

 

 

「ーーくたばれぇええ!!」

 

 

 

 そのまま頭部まで切り上げ、爆発を起こす前に離れる。

 

 

 

「これで、どうだ!?」

 

 

 

「ーーシン、避けて!!」

 

 

 

 キラの通信よりも早く、シンは反応していた。先ほど流した巨大な左手が、下から迫っていたからだ。

 

 

 

「ーー当たるかぁあああっ」

 

 

 

 避ける。

 

 

 

 そのまま腕を蹴り飛ばして払い退ける。

 

 

 

「許さないって言っただろうがぁああ!!」

 

 

 

 そのまま、再び懐に入り込んで一撃を浴びせようとした。だがーー。

 

 

 

「ーー!? な、何だって!?」

 

 

 

 鮮やかなトリコロールのインパルスガンダムが、灰色の機体に変化し、バーニアの火が消えた。

 

 

 

「ーーフェイズシフトダウン!? なんで!!?」

 

 

 

 シンには理解できない。

 

 

 

 明鏡止水の境地なら、まだ戦える自信がある。

 

 

 

 そう、明鏡止水ならば。

 

 

 

 空中で一瞬、静止したインパルスが落下する前に不死身のデスルークの右拳が迫った。

 

 

 

「ーーぐぁあああっ」

 

「ーーシンッ!」

 

 

 

 後方に弾き飛ばされるインパルスをキラのストライクが受け止める。

 

 

 

 デスルークにはデストロイガンダムのような武装はない。ただ殴ると蹴る、掴むだけの機体だ。だがその動きには隙がなく、早い。

 

 おまけに再生能力と不死身ぶりだ。とてもではないが、今のキラ達に勝てる相手ではない。

 

 

 

 アズラエルに乗るウォンはモニター上のルークを見据えて笑う。

 

 

 

「ガンダムファイターの平均的な反応速度に、拳法の動きをインプットしただけですが。中々、強力な機体に仕上がりましたね」

 

 

 

「ーー後でデータを送ってくれ。是非量産したい」

 

 

 

「貴方も好きですね、ジブリール」

 

 

 

 通信で話しかけてくるジブリールにウォンは笑う。そして再び挑もうと立ち上がるガンダム達を見据えた。

 

 

 

「電池切れがもう一機。さて、後一機も時間の問題ですかねぇ」

 

 

 

 いやらしい笑みを浮かべながら、語るウォンにジブリールも笑いかける。

 

 

 

「圧倒的だな。君たちの力は」

 

 

 

「私たち、ですよ? ジブリール」

 

 

 

「! ふふふ、そうだな。そうだとも、我々の力だ」

 

 

 

 互いに笑いながら、モニターで最後の抵抗をするストライクガンダムを見据えた。

 

 

 

「ハイドロゲン消失、駆動パルス低下。このままじゃ、僕も明鏡止水が切れる?」

 

 

 

 ストライクはインパルスを地面に下ろすと、先の衝撃のダメージを冷静に解析する。

 

 

 

 キラの予測では、後数分後にはフェイズシフトダウンが来る。

 

 

 

「負けるな。このままだと」

 

 

 

 鋭い瞳のまま、キラはルークを睨みつけ、つぶやく。

 

 

 

「すみません。キラさんーー」

 

 

 

「! シンーー」

 

 

 

「貴方の言うこと、正しいのは分かってました。でもーー。すみません、俺のせいで。貴方までーー」

 

 

 

 シンの言葉を聞きながら、キラは笑う。

 

 

 

「シン、君は間違ってないよ」

 

 

 

「キラ、さんーー! でも、俺のせいでーー!」

 

 

 

 キラは静かにインパルスを庇うように前に出てエクスカリバーを構える。

 

 

 

「間違ってないよ。君の守りたいって思いは。君の願いは間違いなんかじゃない。結果が望むものと違っただけだ。でも、それは間違いなんかじゃない!!」

 

 

 

「キラさん。なんで貴方は、俺なんかにーー」

 

 

 

「僕は諦めてない、勝つつもりだ」

 

 

 

 キラはそう言うと、ルークを睨みつけた。これにアズラエルに乗るウォンの目つきが変わった。

 

 

 

「……この少年」

 

 

 

「? この小僧がどうした?」

 

 

 

「確実にここで仕留めておかねばいけませんねぇ」

 

 

 

 ウォンの言葉にジブリールが怪訝な顔をする。

 

 

 

「この程度の小僧、潰すのはやぶさかではないが。何故こだわる?」

 

 

 

「ーーこの状況で彼は諦めていない。私はね、あんな目をした連中をよく知っているんです。あれと同じ目をした奴らは茶番にしか見れない戦いを演じながら、それでも最後はデビルガンダムを滅ぼした」

 

 

 

「ーーーーあの小僧にそこまでの力が?」

 

 

 

「力は問題ではない。問題はあの強き信念です」

 

 

 

 ウォンは忌々しそうに表情を歪めながらも告げる。

 

 

 

「その信念は協調を呼び、数ある意志はついには強大な力をも覆す。私たちが敗北したのも、奴らの信念を甘く見ていたからだ」

 

 

 

「ではーー」

 

 

 

「彼には、ここで退場してもらいます。ルークの必殺技でね」

 

 

 

 ウォンの言葉に反応して、ルークがキラのストライクに目を向ける。胸部のゴッドガンダムと同じつくりのカバーが開き、エネルギーマルチプライヤーと呼ばれる結晶体が光り輝き始める。

 

 

 

「陽電子縮退砲ーー発射!!」

 

 

 

 陽電子ーー核エネルギーとエネルギーマルチプライヤーの異なるパワーを両腕の力で圧縮し、胸の前で強大な青い光の球を作り出した。

 

 それをルークは前方に向かって放つ。

 

 

 

「ーーこれはーー!!」

 

 

 

「やばいーー!! ベルリンの街が!!」

 

 

 

 その強大な青い光線は、100メートルはあるルークすらも飲み込むほどの大きさで前方に放たれた。ベルリンの廃墟の街は光の中に消えていき、その光に飲み込まれればキラもシンも、そしてその背後に展開されているミネルバとアークエンジェルの複合部隊も全て消えるだろう。

 

 

 

 その時だった、黒い体に赤い羽根、巨大な角を持つガンダムがキラ達とルークの前に割って入った。

 

 

 

「紛い物の気と兵器の力などで、このワシが倒せるものか! ダァアアアクネスフィィンガァアアアア!!」

 

 

 

 マスターガンダムは闇の光に輝く掌を正拳突きのように突き出し、紫色の気の壁を作り出すとルークの巨大な光線を真っ向から受け止めて見せた。

 

 

 

 強烈な光と光のぶつかり合いは、やがてルークの放つ光の方が細くなり、消えていった。

 

 

 

 ダークネスフィンガーの光の壁がルークの縮退砲を完全に防ぎきったのだ。

 

 

 

「あなたはーーマスターガンダム!!」

 

 

 

「な、なんでーー?」

 

 

 

 キラ達の言葉にマスターガンダムが返した。

 

 

 

「何をしておる!? 戦いの最中に敵から目を離して呆けるなど、勝負を捨てたもののすることぞ!!」

 

 

 

「「ーー!!」」

 

 

 

「それとも機体のエネルギーが尽きたから動けないと言い訳でもするのか!? それで敵が待ってくれるのか!? 闘わんか、このたわけ共が! 貴様ら何の為に人機一体の境地を学んでおる!?」

 

 

 

 マスターガンダムの言葉に、キラの目が大きく見開かれた。

 

 

 

「気力だの集中力だの、そんなものを気にしてどうして敵を倒せる!? このワシを相手に戦った貴様の力はこんなものではあるまい! キラ・ヤマトよ!!」

 

 

 

「ーーマスタァアアアアガンダァアアアアムッ!!」

 

 

 

 キラの咆哮がベルリンの街に響き渡る。

 

 

 

「! キラ、さん……!!(すげぇ、なんて気だ!!)」

 

 

 

 キラはストライクガンダムを立たせながらマスターガンダムを見据える。

 

 

 

「僕は、僕は二度と負けない!! フリーダムが僕を生かしてくれたんだ!! 負けて、たまるかぁああああああ!!!!」

 

 

 

 それまでのダメージをまるで思わせない気迫、覚悟、そして機体の動きだった。

 

 

 

 ストライクガンダムの周囲に気による力の波動がはなたれ、地面を窪ませる。

 

 

 

「それで良い。今こそ、貴様は本物のガンダムファイターよ」

 

 

 

「こ、これってシュバルツさんやマスターガンダムと同じガンダムファイターの!!」

 

 

 

 マスターガンダムは呟くように言い。シンは頭の中でオーブ海域やコロニーメンデルでの対決を思い起こした。

 

 

 

 それほどの気迫が力が、今のストライクガンダムから出ている。

 

 

 

「喝ぁあああつ!! 応えよ、キラ・ヤマト!! 貴様は今ーー!?」

 

 

 

「赤(あ)!(か)!く!! 燃えているぅううああああああああ!!!!」

 

 

 

「いようし!! ならば後ろは任せろ、往けぃ!!」

 

 

 

 キラの咆哮に応えるようにマスターガンダムが構えを取りながら告げた。

 

 

 

「うぉおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 キラはエールストライクアタッカーを外すと、背中にエクスカリバーを斜め差しした後、ストライクガンダムに踏み込みさせる。

 

 

 

ドォンッ

 

 

 

 地面を踏み込む音は後から聞こえ、気が付けばストライクガンダムはルークを真正面から殴り倒していた。 

 

 

 

「!! 何だと!? これは、一体どうなっているんだ、ウォン!?」

 

 

 

「この力、まさかーー!!」

 

 

 

 ルークの巨体を吹き飛ばす圧倒的な力、音速をも越えた踏み込みのスピード。

 

 

 

 二年前の連合のストライクにこれだけのことなど、出来る訳がない。ジブリールが驚愕している横で、ウォンが静かに卵型のチョコレートを手に取り口に含む。

 

 

 

 そのサングラスの目の奥の瞳は鋭い光を放っている。

 

 

 

「明鏡止水の「境地」に達したーー?」

 

 

 

 100メートルの巨体から放たれる強烈な拳。それにストライクガンダムは真っ向から拳を合わせる。

 

 

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 瞬間、青い気の渦がストライクガンダムから放たれ、デスルークの拳を正面から打ち返した。

 

 

 

「「「「「-----ッ!!!!!!」」」」

 

「か、艦長ーー、私は夢を見ているのでしょうかーー?」

 

「現実よ、全てね。だけど、これがオーブのキラ・ヤマトなの?」

 

「キラ君、一体、何がーー?」

 

「おいおい、あの坊主!!」

 

「リミットを振り切ったか、キラーー!」

 

 

 

 この場にいたすべての者がその光景に思わず絶句する。

 

 

 

 20メートルに満たないMSが、100メートルを越える巨躯を真っ向から打ち負かしたのだ。当然だろう。しかもガンダムファイターではない、ただのMS乗りがーー少年がそれをやってのけた事実。

 

 

 

 ストライクの進撃はそこで終わらない。

 

 

 

 空中で一気に加速(バーニアすら吹かさず、消えるように)移動してデスルークの背後に回り込むと凄まじい肘打ちを巨大な背中に決め、クレーター状にへこませる。

 

 

 

 その部分に振り返りながらの強烈な右足のつま先での蹴りが決まり、ストライクは両腕と両足に気を纏いながら無数の拳蹴打のムシロと化した。

 

 

 

 一撃一撃がデスルークの巨体に決まる度に装甲をへこませ、ひび割れ、欠損を大きく大きくしていく。

 

 

 

「キラ、さんーー! す、凄すぎる……!!」

 

 

 

「何をしている?」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

 呆然とキラを見ていたシンに傍らに立つマスターガンダムが語り掛けてきた。

 

 

 

「貴様は、あの男の健闘に何も感じんのか? あの男の足を引っ張っただけで終いか? シュバルツから何を学んだのだ、このたわけが!!」

 

 

 

 マスターガンダムの言葉にシンの目が大きく見開かれた。

 

 

 

「貴様らの会話は聞いておった。しかし、それがどうした? キラの言葉に貴様は何も感じんのか!? 誰が何を企もうと、貴様のしてきたことすべてが茶番になるのか!? そんな安っぽい覚悟で戦ってきたのか!!? 貴様の許せないという思いはその程度のものか!!?」

 

 

 

「何を……!? あんたに、俺の何がわかる!!?」

 

 

 

「分からんわ!! そもそも、分かって何になる!? 分かってもらえれば貴様は満足か!!?」

 

 

 

「ーー!!」

 

 

 

 思わず口を吐いた反論をマスターガンダムに更に気迫で返される。

 

 

 

「真剣勝負の場に、そのような事を悩んで何になる!? 貴様の目の前にいるものは何だ? 敵だけだ!! 敵に分かってもらってどうする!? 余計な考えはただの重りにしかならんわ!!」

 

 

 

「なんだと!? 俺の想いが間違いだっていうのか!!? 守りたいと願った思いを持ち込むのが間違いだってーー!?」

 

 

 

「守りたいというのであれば、今貴様がしておることは何だ!? 守りたいと言うだけで、願うだけで守れるものなどあるものか!! 本当に守りたいならば、戦わねばならんのではないのか!?」

 

 

 

「……ぐっ!?」

 

 

 

 マスターガンダムは静かに前方で戦うキラのストライクとデスルークを見据えて言った。

 

 

 

「あの男のように、キラ・ヤマトのように戦ってみせぃ!! 貴様の想いが茶番ではないのならば、証明して見せろ!! 貴様の、まことの力をな!!」

 

 

 

「……動け。動け、動けぇええええええっ!! インパルスゥウウウウウ!!!!」

 

 

 

「どうした!? 貴様の思いとやらは叫ぶだけか!? 周囲の気を感じ、見事機体と一体化してみせよ!! それができずして、明鏡止水の「境地」など夢のまた夢ぞ!!!!」

 

 

 

「うぅうううううおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

 

 シンの気迫に応えるように静かに、インパルスのデュアルアイに緑色の光がともる。

 

 

 

 前方では、キラの強烈な連撃についにデスルークが片膝を付いた。

 

 

 

 更に追撃を仕掛けるストライクにデスルークの大振り左フックが顔面に決まり、のけ反る。

 

 

 

「まだだ! まだ足りない!! 僕とストライクガンダムの力は、まだこんなもんじゃない!! 戦いは、まだ終わってないぞ!!!!!」

 

 

 

 のけ反ったストライク目掛け、デスルークは跳びあがり更に全体重を乗せた右拳を打ち下ろしてくる。当たればストライクガンダムなど一たまりもない。

 

 

 

-- キラ、わたくしの思いが貴方を守りますわ --

 

 

 

-- 守るから。私の本当の思いがあなたを守るから --

 

 

 

 自分を大切にしてくれるヒト

 

 

 

 自分が傷つけてしまったヒト

 

 

 

 彼女たちの声が、キラには聞こえたような気がしたーー。

 

 

 

「ーー見える!!」

 

 

 

 瞬間だった。デスルークの動きの何もかもがコマ送りのように見える。

 

 

 

 SEEDで鋭敏な感覚を養っていたキラは、さらなる境地へと足を踏み入れたのだ。

 

 

 

 そこは、静寂の世界。

 

 

 

 冷たいのでも暖かいのでも、怒りも憎しみもない。

 

 

 

 心から澄んだ気持ちーー。 

 

 

 

 彼が己の中の世界に気付いたとき、そこにあったのは二人の少女ーー。

 

 

 

「見えたぞ! これがストライクガンダムの!! ハイパァアーモォオオードだぁああああ!!」

 

 

 

 それはーーすさまじい気の柱だった。

 

 

 

 天が祝福を与えるかのような美しい黄金の光の柱が生まれた。

 

 

 

 強烈な光の塊が、黄金の輝きが空中で生まれ、デスルークを拳ごと吹き飛ばす。

 

 

 

「なぁスティング! これって、明鏡止水の「人機一体の境地」ーーハイパーモード!?」

 

 

 

「キラーー、あんたはどこまで強くなるんだ!?」

 

 

 

 アウルとスティングが思わずこの光景に見とれ。

 

 

 

「レイ、あれってーー!!」

 

 

 

「ああ。俺たちのーー目指す場所だ。キラ・ヤマトはその境地にたどり着いた」

 

 

 

 ルナマリアとレイもその意味するところを知る。

 

 

 

「キラーー。フリーダムを破壊されてなお、お前は前にーー!!」

 

 

 

 アスランもまた、この姿に見とれるものの一人。自分の親友が、自分の想像をはるかに凌駕する力を得ていた。

 

 

 

 そう。

 

 

 

 ストライクガンダムは黄金の気を身にまとっていたのだーー。

 

 

 

「キラ・ヤマトーーストライク」

 

 

 

 キラは呟きながら、自分が背負ったエクスカリバーを抜き放つ。

 

 

 

 それを正眼に構えたとき、ストライクの背から青白い光の翼が生まれた。

 

 

 

「なんだ、なんなんだ!? この力はーー!!」

 

 

 

「目覚めたか、ならばこの勝負は負けですね。まぁ、良い余興にはなりました。デスアーミーの部隊は?」

 

 

 

 うろたえるジブリールを尻目にウォンは通信兵役のDGゾンビ兵に問いかける。

 

 

 

「数、衰エテオリマセン。制圧ハ可能デス」

 

 

 

「ウルベがこの艦に帰るまでの時間取りくらいはできるか。ならば問題ありませんね。作戦を続けなさい」

 

 

 

「分カリマシタ」

 

 

 

 淡々とした表情でチョコを食べながら告げるウォンにジブリールが焦った表情になる。

 

 

 

「待て、ウォン! あんな強力なMAをみすみす壊させるのか!?」

 

 

 

「あんなガラクタ、ほしければいくらでも作れますよ。それよりも、あの異世界のガンダムの姿」

 

 

 

 鋭い瞳でウォンは黄金の光を全身から放つ青白い光の翼を背負ったストライクガンダムを見据えた。

 

 

 

「間違いないーー。ならばデータだけでも取っておきましょう。今後のためにもね」

 

 

 

 言いながら、ウォンはチョコの袋をまた一つ破るのだった。

 

 

 

 青白い光の粒子が、気の光がエクスカリバーに宿るとキラはそのまま力を高めていく。その光の剣はーー正にシャイニングフィンガーソード。

 

 

 

「守りたい「人達」がいるんだ。その人達が平和に笑って暮らせる世界を、僕は守りたいーー」

 

 

 

 静かに語りながら、黄金の気を纏うキラはSEEDで光を失った紫の瞳でデスルークを睨みつけた。

 

 

 

「だから、どんなに辛くても! 戦い抜いて見せる!! 希望の未来を守るためにぃいいいいいいいっ!!!」

 

 

 

 横薙ぎを放ち、デスルークの太い両足を切断する。前のめりに崩れるデスルークに袈裟懸けで斜めから胴体を両断した。

 

 

 

 しかし、デスルークは左肩から両断されながらも、残された右腕を前方に突き出し右掌に陽電子砲のエネルギーを溜めていく。

 

 

 

「ーー!? まだ!!」

 

 

 

 デスルークが狙うのはキラではない。その後方にあるミネルバとアークエンジェルの部隊だった。

 

 

 

「しまった!!?」

 

 

 

 キラは咄嗟にストライクガンダムをデスルークの正面に回り込ませ、光の剣を構えて受ける態勢を取る。だが、デスルークの右掌からビームが放たれるよりも早く、二つの赤と白の機体が右腕を撃ち抜いた。

 

 

 

「アスラン! シン!!」

 

 

 

 宙に浮かんでいるのは、エネルギーを補充したセイバーと明鏡止水で機体の限界を超えたエネルギーを引き出しているインパルスだった。

 

 

 

「決めろ! キラ!!」

 

 

 

「お願いします、キラさん!!」

 

 

 

 二人の言葉に応えるように、キラはストライクガンダムの光の翼の出力を上げると一気にデスルークの顔面の正面に飛び立ち、光の剣を両手持ちで頭上に振り上げた。

 

 

 

「はぁあああああ!! これで、終わりだぁあああああああ!!」

 

 

 

 キラの一撃はデスルークの巨体を真っ二つにして見せた。

 

 

 

「これがーー僕とガンダムの力だ!!」

 

 

 

 ストライクが刀を宙で払い、真っ二つにした機体を振り返ると同時に巨大な爆発が発生し、デスルークは光の彼方に消えていった。

 

 

 

「ーーやったぞ、キラ!!」

 

 

 

「すげぇ、ほんとに勝った!!」

 

 

 

 アスランとシンの称賛を受けながら、黄金の輝きを放つストライクは静かに地面に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 







 キラ達の力を前に倒されたデスルーク。

 一方、シュバルツとウルベの対決もいよいよ大詰めを迎えるのです。

 そこでウルベが語るガンダムファイトの影とは?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第49話に

 レディー、ゴー!!



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第49話 母の仇 シュバルツ 対 ウルベ

 人は生きている限り、様々なコンプレックスやプレッシャー、ストレスを抱える生き物です。

 その困難をどう感じ、生きるのか?

 私たちも常に考えていきたいものです。

 ガンダムファイトの悲しい運命が生み出した憎しみの塊。彼と対峙するのは、鏡の前に映る虚像。

 シュバルツ対ウルベの決着戦です。

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィィィッ! ゴォォォオオオッ!!




 

 廃棄コロニーメンデルでのファイトを終えたドモンは、ラクス達と合流しデュランダルの開いた夕食会に参加していた。

 

 

 

 オーケストラの生演奏をバックミュージックに、豪華に並べられたテーブルの上に置かれた食事。

 

 

 

 着飾った出資者や実業家、政治家の者たちが集う顔ぶれは、壮観だった。

 

 

 

(うっ、うぅぅ、気が重い……!)

 

 

 

 ラクス・クラインの付き人であるマーチン・ダコスタは、目のまえの料理を口に運びながらも心のなかでそう独りごちた。

 

 これはギルバート・デュランダルがドモン・カッシュのために用意したガンダムファイトのささやかな祝勝会とのことだ。

 

 

 

 いわば敵地のど真ん中である。

 

 敵の親玉が招待したパーティ会場。

 

 まるで見世物のように会場の上座に並べられた長いテーブルには、右からミーア、ラクス、ダコスタ、ドモン、Dの順に席に座らされている。

 

 

 

 おまけにこの場にいる者はすべてギルバート・デュランダルによって集められた実業家ばかり。いわばデュランダル派の連中だ。

 

 

 

(ーーだというのに! なんでこの人たち、なんの顔色も変えずに食事してるんだ!)

 

 

 

 ダコスタはさらに心のなかでごちりながら、堂々とナイフとフォークを使う、左の赤いはちまきの青年と、気品あふれる風に食事を楽しむ右のピンク色の髪の姫を横目で見る。

 

 

 

「ラクスさまが二人おられるとは、初めて知りましたよ」

 

「デュランダル議長とともにおられる方のほうがお姉さま、ということでよろしいですか」

 

「本当によく似ておられるのですね、おふたり。どちらがシーゲル・クラインの娘であり、プラントの歌姫と呼ばれたラクスさまなのでしょう。気になるわ」

 

 

 

 着飾った中年の紳士や淑女たちが二人の少女に話しかけている。

 

 

 

 二人のラクスはダコスタの右隣で、席を並べて食事をしていた。

 

 

 

「あ、あの……」

 

 

 

「もちろん、お姉さまのほうが本物ですわ。わたくしは普段、家のほうでゆっくりしていますので。お姉さまがお風邪を召したときなどは代役としてわたくしが出ることがありますけれど。プラントの歌姫は、自分の体調だけでコンサートを中止にするわけにはまいりませんから」

 

 

 

 紳士たちの言葉に思わず口ごもるミーアの右横からラクスがスラスラと淀みなく答える。

 

 

 

「まあ、妹のラクス様も素晴らしい責任感をお持ちのようですね」

 

 

 

「お姉さまのお力になれることが、わたくしの喜びでもあるのです」

 

 

 

 笑顔で答えるラクスの二隣左から、野性味ある赤マントと鉢巻の青年が声を上げた。

 

 

 

「せっかくの食事中だ。そういう話は食事の席以外でやってくれないか? 飯がまずくなる」

 

 

 

「あら。ごめんなさい、ドモンさん」

 

 

 

「ラクスに言ってるわけじゃない。久しぶりに会った姉妹の再会を邪魔する、無粋な連中に言ってるんだ」

 

 

 

 ジロッと睨みつけるドモンの迫力に、周囲の人間は一気に距離を置く。

 

 

 

「うっ……」

 

「そ、それではっ、我々はこれで」

 

「お食事中のところ申し訳ございませんでした、ラクスさま」

 

 

 

 クモの子を散らすかのように立ち去る着飾った人々。

 

 

 

 彼らがある程度席から離れてから、ラクスはドモンの方に顔を向けてほほ笑む。

 

 

 

「ありがとうございます、ドモンさん」

 

 

 

「かまわんさ。それより二人きりで話したいことがあったんじゃないのか? お姉さんと」

 

 

 

「そうですわね。ですが、この会場では具体的な話はできそうにありませんので」

 

 

 

 ドモンの言葉に頷きながら、ラクスは反対側のミーアにほほ笑みかける。

 

 

 

「ごめんなさいね、お姉さま」

 

 

 

「え? あたしーーいや、わたくしも大丈夫です」

 

 

 

 取り繕うミーアにラクスは安心させるように一つほほ笑むと、ドモンに視線を戻す。その向こう側にいるDと呼ばれる赤い髪の青年にも。

 

 

 

「それより、ドモンさんはDさんとお話されないのですか?」

 

 

 

 これにドモンは、自分の左隣にいる紅い髪の青年を見る。

 

 

 

「なにか、俺と話したいことあるか? D」

 

 

 

「……敗者である俺が、勝者であるお前に何を語るという?」

 

 

 

「それを言うなら勝者から敗者にかける言葉はない、だろう。まあいいか」

 

 

 

 苦笑を浮かべて答えながら、ドモンはDのテーブルの前に置かれている料理の皿を見据えていった。

 

 

 

「ところで、さっきから食事をまったく取っていないようだが、プラントのガンダムファイターは飯を食ってはいけないという決まりでもあるのか?」

 

 

 

「そんなわけあるか。だが、我に食事の必要はない。我の正体を知るお前が、そんなことを訊くとは滑稽だぞ」

 

 

 

「もう、Dったら! ドモンさんはDのことを思って!」

 

 

 

 ラクスの隣からミーアが声を上げる。それにドモンは一つほほ笑みながら、手で制する。

 

 

 

「ああ。気にしないでくれ。それにしても俺に勝とうってやつが、そんな腑抜けた考え方とはな」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

 赤い炎のような髪の青年が鋭すぎる瞳で自分の右隣に座るドモンを睨みつける。これにドモンは淡々とした表情で返した。

 

 

 

「いいかD。食事ってのはファイターいや人間にとって最も大切なものの一つだ。自分の身体を作り上げるために食事というのは存在する。そしてなにより、そんな理屈を超えた言葉がひとつある。それはな。『旨い飯は人間を幸せにできるんだ』。人間の幸せを理解せずに、人間を理解することなど出来はせん。それで俺に勝つつもりなら、百年経っても勝てんさ」

 

 

 

「ド、ドモンさんっ。まさかこんなところでファイトする気じゃないですよねっ!?」

 

 

 

 あまりに歯に衣着せぬドモンの物言いにダコスタの顔色が真っ青になる。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「ここは敵地のど真ん中なんですよ! もうちょっと発言に注意をっ!! あ、あれ?」

 

 

 

 右隣から必死で苦言を呈してくるダコスタにドモンは何も語らず、ニッと口の端だけを吊り上げて笑う。

 

 ドモンの左に座るDが、なにも言わずに自身の目の前のテーブルに置かれているナイフとフォークを取り、料理を口に運び出したからだ。

 

 その光景に思わずダコスタも言葉を途中で止める。

 

 

 

「どうだ、D。味の方は?」

 

 

 

「……よくわからん」

 

 

 

「それはあれだな。お前、本当に美味いものを食ったことがないな」

 

 

 

 ダコスタは高級料理の数々を前にとんでもない発言をあっさりとするドモンに思わず目を白黒させた。

 

 

 

「こんな豪勢な料理の前にそんなこと言わないでくださいよ、ドモンさん!」

 

 

 

 料理人に喧嘩を売っているような発言に、思わずダコスタが諫言し、ラクスがフォローをする。

 

 

 

「とても美味しいお料理だと思いますわ。一流の食材とシェフが創作した、正に一流の味ですわね」

 

 

 

「まあな。こんな豪華な料理も悪くはないが、Dのように初めて食事をするような奴なら、いろんな味がするような高級料理では素材がどんな味をしているのかまでは分からんさ。美味いと不味いの基準もできてないしな」

 

 

 

「じゃあ、ドモンさんは何が美味いっていうんですか?」

 

 

 

 ダコスタの言葉を受け、おもむろにドモンはナイフとフォークを皿の上に行儀よく置くと、テーブルのうえに飾られているリンゴをひとつ手に取った。

 

 右手に取ったリンゴをそのまま口に運び込むドモン。

 

 

 

「うん。やはり素材の味が一番うまい。D、お前も素材をまず食ってからにするんだな。そうすれば料理のありがたみがよくわかるぜ」

 

 

 

 Dも同じようにリンゴを取ってかぶりつく。

 

 

 

「わかるかD。それが命の味だ。俺たちは何かから命を得ることで自分の命を繋いでいくことができる。そのリンゴの一口分の命が、俺の生命力を燃やしてくれるのさ」

 

 

 

「言わんとすることはわかるんだけど、そんな大げさな話かな?」

 

 

 

 Dの食事風景を横目に見ながら語るドモンに、思わずダコスタがツッコミを入れていた。しかし、その隣にいるラクスは関心したような表情で告げる。

 

 

 

「いい言葉ですわね。今度、子どもたちにも言ってみますわ。ドモンさん」

 

 

 

「え? 子ども? ラクスに子どもがいるのか?」

 

 

 

 ドモンがきょとんと目を丸くしながら、問いかけるとラクスは自身の胸の前で軽く手を叩いてほほ笑む。

 

 

 

「はいな。今度ドモンさんにも紹介いたしますわね」

 

 

 

「そうか。わ、若いのに大変だな……」

 

 

 

 驚きと動揺を見せるドモンを小首を傾げながらラクスは見る。 

 

 

 

 それらを横にDは、一口かじったリンゴをじぃーっと見た後、そのまま何も言わずにガリガリガリと一気に平らげ、ナイフとフォークを取ってテーブルの食事に手をつけ始めた。

 

 

 

 Dは、しばらく咀嚼した後、飲み込んでからドモンに語りかける。

 

 

 

「ドモン・カッシュ。どうやら我は全てにおいて何も知らんらしい」

 

 

 

「ああ。赤ん坊もいいところだ」

 

 

 

 間髪入れずに遠慮なく答えるドモンにダコスタはハラハラしていた。いつガンダムファイトの続きが始まるのか分かったものじゃない。

 

 しかし、Dは暴力的な見た目とは裏腹に思慮深く考えた後、告げる。

 

 

 

「いいだろう。貴様とのファイトで今度こそ勝つために、我は人間ってやつを今度こそ理解してみせる」

 

 

 

「……フ。楽しみにしてるぜ」

 

 

 

 互いに正面を向いたまま顔を合わせることなく不敵な笑みを浮かべる両者にラクスが微笑みかけた。

 

 

 

「Dさんって真面目な方ですわね」

 

 

 

「真面目でなければファイターはやれんさ、ラクス」

 

 

 

「そうですわね。それにしても地球は今、どのような状況になっているのでしょう」

 

 

 

 ドモンに微笑みを返した後ラクスは思案する顔になる。ミーアがそれに気付いて話しかけた。 

 

 

 

「地球? が、どうされたのですか? えと……ラクス、でいいのかしら」

 

 

 

「そうですわね。どちらもラクスだと呼びづらいですわね」

 

 

 

 声を潜めて、ラクスはミーアに問いかけた。

 

 

 

「こっそり本名、教えていただけませんか?」

 

 

 

「え? えと……ミーア、です」

 

 

 

「わかりました。では名前をお借りします」

 

 

 

 いたずらっ子のような笑みを浮かべて小声で答え穏やかなほほ笑みを浮かべた後、ラクスは顔の位置を元に戻してーー

 

 

 

「もう! お姉様はわたくしをミーアと呼んでくださいまし!」

 

 

 

 と、怒ったような拗ねたような顔をしてみせた後に寂しそうな顔をする。

 

 

 

「実は、地球にある別荘の子どもたちが気になってーー」

 

 

 

「こ、子どもーー!? それってーー!!?」

 

 

 

 ラクスの突然の「子ども」発言にミーアが顔を真っ赤にした後、絶句した。それに何事もないように微笑みを返しながらラクスは答える。

 

 

 

「孤児院の子どもたちなのです。お姉さまにもぜひ紹介したいですわ」

 

 

 

「こ、孤児院っ? あ、ああ……よかった。ミーア、びっくりさせないでちょうだい」

 

 

 

 自分でも何が良いのか分からないが、とりあえずミーアはホッとした。

 

 

 

「ふふ、お姉さまは気になる方はいらっしゃらないのですか?」

 

 

 

「き、気になる方っ!?」

 

 

 

 終始圧倒されているミーアであるが、ラクスは止まらない。

 

 

 

「わたくしはーー将来の伴侶と決めた方が一人います」

 

 

 

「それって……キラ、さんのこと? アスランから聞いたわ。キラさんっていう方のことよね?」

 

 

 

「まぁ、アスランともお姉さまはお話したのですね! アスランたらずるいですわ! お姉さまとお話ししたこと、わたくし少しも聞いていませんもの」

 

 

 

「アスランも忙しそうだし、仕方ないですわ。ミーア」

 

 

 

 二人の少女の会話を横で聞きながら、ドモンはあくまで顔を正面の広間に向けたまま微妙な表情になる。

 

 

 

「どっちがどっちの話をしてるのか、さっぱりわからんな」

 

 

 

「髪飾りと髪の色でどうにか分かる気がするんですが。これ、まったく同じ服装されたらわかりませんね」

 

 

 

「--困ったもんだ」

 

 

 

 ダコスタもドモンと同じ表情になるも、ドモンの横のDを見比べながら更にため息を吐く。

 

 

 

「せっかくですから、いろいろなお話をしましょう。お姉さまの想い人についても」

 

 

 

「な、なにを言うの。ミーアったら」

 

 

 

 ニコッと意味ありげに笑いながら、ドモン達の方を見るラクスにミーアが頬を真っ赤に染める。

 

 それを怪訝に思うドモンであったが、気付けば隣のDが無言でテーブルの上の料理を次々と平らげてしまっていくのに気づく。

 

 

 

「全部食うことないだろ。やばい、俺の分もなくなっちまう!」

 

 

 

 料理が次々と消えていく状況に戦慄したドモンは自身もナイフとフォークを掴む。

 

 

 

「ダコスタ! 食わないとお前の分も食われるぞ!」

 

 

 

「えっ?これ、そういうルールなんですか!?」

 

 

 

「食事は戦い、基本だぞ!」

 

 

 

「そんな基本ありませんよ!」

 

 

 

 男たちは男たちでそれぞれ必死に食事をしながら語り合い、女たちは女たちで淑やかに会話をする。

 

 

 

 それをモニターで見ながらデュランダルは余裕の笑みを浮かべる。

 

 

 

「フフッ、じつに楽しそうなパーティー会場だ」

 

 

 

 そして後ろに控えるサトーに問いかけた。

 

 

 

「サトー、周辺に何か変化はあるかな?」

 

 

 

「今のところは何も。しかしよろしいのですか? ここまで堂々とラクス・クラインとドモン・カッシュを公の場に出すなど。クライン派に付け込まれるのでは?」

 

 

 

「問題ないさ。ドモンくんとDの関係も、周りはこぞって聞きたがるだろうがね。それにしても、同じ顔をした人間が2組、か。フフッ、これはミーアくんのいいまやかしになりそうだ」

 

 

 

 サトーの疑問に返しながら、デュランダルは自分の思い通りに動いている現状に微笑む。

 

 

 

 ラクスが現れたことは誤算だったが彼女は終始自分をラクスとは名乗らず、ミーアをラクスだと主張している。

 

 

 

(君が何を企んでいるのかは知らないが、今はそれに感謝しよう。せいぜい利用させてもらうよ、ラクス・クラインーー) 

 

 

 

 モニターの中でミーアと談笑するラクスを冷たく見つめながら、口の端を歪ませる。

 

 

 

「デュランダルさま!」

 

 

 

「ん? どうかしたのかな」

 

 

 

 その時、自分の秘書をしている女性が私室に駆け込んできた。

 

 

 

 サトーやD以外では、この私室に通れるのは彼女だけだ。

 

 

 

「失礼いたしますっ。いま地球のザフト軍ベルリン基地が壊滅しました!」

 

 

 

 彼女の報告にデュランダルは、ほくそ笑みたいのを我慢して大きく目を見開き驚いて見せた。

 

 

 

「なんだと? 何処の部隊が!?」

 

 

 

「議長が予め入手していた地球軍の巨大モビルアーマーです。議長が仰られたとおりに、ユーラシア連邦独立解放戦線の臨時基地を見張っていたところ所属不明のMSが大量に現れ、それをあの巨大MAが指揮しているようです」

 

 

 

「うーむ、なんということだ! 民間人の被害は?」

 

 

 

「ベルリン周辺の民間人はすでに退避済みですが、そこに辿り着くまでに多くの都市を焼き払っています。犠牲者は数万に昇るかと」

 

 

 

「おのれロゴス! なんという非人道的なことを!!」

 

 

 

「ー-デュランダル様」 

 

 

 

 拳を握りしめ机に叩きつけるデュランダルに秘書は悲し気に眉をひそめた。

 

 

 

「ーーミネルバは? ベルリンで待機させているはずだが」

 

 

 

「現在、ベルリン基地の殿を務めているようです。現在、所属不明のガンダムと呼ばれる機体とオーブ軍のアークエンジェル隊が協力してくれているので、突破された防衛網を張り直すことに成功しています」

 

 

 

「ーーオーブのアークエンジェル? 有難いな。先方はこちらの意図に気付いてくれたか」

 

 

 

 オーブがどの程度の力を持っているのか判断が尽きかねていたが、この間の連合との戦いでオーブの底力を知った。

 

 

 

 あの国はまだ利用価値があると判断したデュランダルは、オーブ側の優秀なブレーンが送ってきたメールに添付したデストロイガンダムの設計図を暗号化させていた。

 

 

 

(ここで役に立ってもらわねば、せっかく情報を渡した意味がない)

 

 

 

 デュランダルが内心でそう述べていると、予想外の手札が向こうから転がってきた。

 

 

 

「それと、なぜか……連合の特殊部隊に奪われたはずのカオスがーー」

 

 

 

「なにっ、アークエンジェル隊とカオスがともに行動しているというのか。では、オーブは連合ーーいや、ブルーコスモスと通じているのか!?」

 

 

 

「それはわかりません。ですが現在アークエンジェル隊はザフト軍を支援していると思われます」

 

 

 

 秘書の言葉に思案げな顔を作りながら考えるデュランダルは、サトーに問いかけた。

 

 

 

「戦局が混乱に混乱を極めている。サトー、君はどう見るかね?」

 

 

 

「自分は、このような一つ目の機体は初めて見ますが。これらは本当に連合のものなのですか?」

 

 

 

 サトーの言うように今、ベルリンの街を蹂躙しているMSは連合にもザフトにも属さない全く新しい機体だった。

 

 

 

「確かにこんな機体は初めて見る。だが、見たまえ。ユーラシアの独立連邦臨時基地から、この船が発進しているのを確認している。間違いなく連合の部隊だ」

 

 

 

 写真とモニターに映る艦を交互に示し、部隊が連合のものであることをデュランダルは主張した。

 

 

 

「何にせよ、ベルリンの街はもはや壊滅。彼らが無事に帰って来てくれることを祈るしかーーんっ?」

 

 

 

 言葉の途中でデュランダルは違和感に気付いた。

 

 

 

「おかしい。わたしが得た資料のMAは全長四十メートル前後のはず。だがこれはどう見ても百メートルはある。それに――」

 

 

 

 デュランダルは独り言を呟きながら、一つの可能性を頭の中で考える。

 

 そして、改めて一つ目のMSを見直した。

 

 彼はこの時、この世界のMSではないことに気付いた。

 

 

 

「この一つ目のMS。まさか、未来世紀のデスアーミーにデスバーディーか!」

 

 

 

 デュランダルは、周りの目を憚ることなく、目を更に見開いた。

 

 

 

「ならばロゴスは、いや、ロード・ジブリールは、DG細胞を持っている……。そういうことなのか」

 

 

 

「議長、巨大MAが変身を!」

 

 

 

「こ、これは…!!」

 

 

 

 デュランダルの思考を遮ったのは、秘書からの言葉。

 

 

 

 モニターの前で巨大なMAデストロイガンダムが、まるで有機物のように鉄の装甲を液体のように溶かしながら、変化していく。

 

 

 

 全身を包み込む巨大な光の六角形が紫色に輝き、爆発。

 

 

 

 煙の向こうから現れたのは、丸い肩とゴツイ四肢を持ったトリコロールのガンダムタイプだった。

 

 

 

「我々のデスナイトやデスポーンにそっくりじゃないか!」

 

 

 

「やってくれたな……ジブリール!」

 

 

 

 サトーの言葉に忌々しげにデュランダルは机を叩いた。

 

 

 

「ゴッドガンダムとデビルガンダムのファイトを我々が放映したことを突いたか!」

 

 

 

 秘書やサトーが困惑しているのも構わず、デュランダルは吐き棄てる。

 

 

 

「ベルリンの虐殺をすべてザフトに押し付けるつもりか、ジブリールめ!」

 

 

 

 そこまで言われて、サトーや秘書にも何故デュランダルがここまで焦っているのかが理解できた。

 

 

 

 デスナイトは、ロゴス率いる各部隊『クルセイダーズ』を殲滅している。

 

 

 

 そして連合の理不尽さやプラントの正当性を主張する為にも、デスナイトの映像を世界に流した。

 

 

 

 更に異世界から来たガンダム同士の一騎打ちをプラント管理の下で行わせることで、両機が自分達の管理下にあると世界に無言のメッセージとして流したのだ。

 

 

 

 しかし、この巨大なMAは今、デスナイトや神と悪魔のガンダム達にそっくりな外見をしている。

 

 

 

 このタイプの機体をザフトが占有していることを世界に示し続けたが為の、致命的なミスだ。

 

 

 

「サトー。わたしは急遽、対策を講じなければならない。しばらく席を外すよ」

 

 

 

「わかりました。ラクス・クラインとドモン・カッシュの方はいかがいたしましょう?」

 

 

 

「…今、彼らに手を出せば負けるのは我々だ。口惜しいが、ここは見逃すとしよう」

 

 

 

「しかし!」

 

 

 

「それに、何故かは分からないがミーア・キャンベルにラクス・クライン達は拘っているようだ。彼女に危険が及ぶような事になるかもしれない。向こうも迂闊な真似はしないだろう」

 

 

 

 デュランダルの言葉にサトーはなるほどと頷いた。

 

 

 

「参りましょう、議長」

 

 

 

「ああ。予定よりも早くなるが、こちらも動かねばならんようだなーー」

 

 

 

 デュランダルの瞳が闇の中、紫色に輝いた。

 

 

 

ーーーーーーベルリンにて

 

 

 

 凄まじい轟音が響き渡り、白地に紺の機体を弾き飛ばす。

 

 

 

 背中から叩きつけられながらも、正面を睨みつけると五体に分身した黒色のガンダムがブレードを展開し、容赦なく追い打ちを仕掛けてくる。

 

 

 

「おのれ、なめるなよ! シュバルツ・ブルーダァアアアア!」

 

 

 

 歯を食いしばり、態勢を整えて左拳の正拳を返す。

 

 

 

「馬鹿め、どこを見ている!!」

 

 

 

 しかし、放たれた拳は空を切り、返しにシュピーゲルブレードの十字切りに胸を斬り刻まれる。

 

 

 

 同時に跳び後ろ回し蹴りをまともに喰らい、ウルベは首をねじ切らんばかりに後方へはじけ飛ぶ。

 

 

 

「ーーこれが、ヤツの実力だと言うのか!?」

 

 

 

 斬撃の威力と蹴りの衝撃に再び仰け反りながらも、迫り来る五体のガンダムシュピーゲルを睨みつけ、ウルベは右拳を握り、前に踏み込むと同時に放つ。

 

 

 

「甘い! 甘いぞ!!」

 

 

 

 今度は跳び膝蹴りをカウンターでアゴに喰らい、顔が跳ね上がる。

 

 

 

「ガハァッ」

 

 

 

膝が揺れるも、必死に耐えて右掌に気を溜め、後方に着地したシュピーゲルに光弾を放つ。

 

 

 

「お返しだ、喰らえ!!」

 

 

 

 着地点を狙うのは、スピードに優る相手を捉える定石だ。

 

 

 

 光弾が着弾し、爆発する。

 

 

 

 天に昇る爆煙が舞い上がるのをウルベはニヤリと笑いながら見据えた。

 

 

 

 瞬間、煙の向こうから鉄の刃ーークナイが数本ウルベに放たれる。

 

 

 

「こざかしい!!」

 

 

 

 左手を手刀に構え、的確に急所を狙って放たれたクナイの腹を払い退ける。

 

 

 

 だが、全てを払い退けると同時に凄まじい衝撃がアゴを跳ね上げた。

 

 

 

 クナイと同時にガンダムシュピーゲルもこちらに踏み込んで来ていたのだ。

 

 

 

 強烈な右の正拳突きをまともに喰らいアゴを庇いながら、ウルベのガンダムが三歩後ろに下がる。

 

 

 

 それを見逃すシュバルツではない。縦横無尽に残像を残すスピードで動くと、一気に斬りかかる。

 

 

 

 無数のガンダムシュピーゲルに全身をズタズタに切り裂かれ、のけ反るウルベに更にシュバルツがコマのように回転し始める。

 

 

 

「じ、次元が違い過ぎるーー!! これがーー!!」

 

 

 

「シュトゥルム・ウント・ドラァンクゥウウウウウ!!」

 

 

 

 強烈な漆黒の竜巻と化したガンダムシュピーゲルは一瞬でウルベの懐に飛び込むと全身を切り裂きながら上空へ弾き飛ばした。

 

 

 

「ーーがはぁっ」

 

 

 

 吹き飛ばされた頂点に、ガンダムシュピーゲルがブレードを展開させて先回りしている。

 

 

 

「こんな、ばかなぁあああああああ!!」

 

 

 

「ウルベよ、心静かに死ぬがいい。ーー成敗!!」

 

 

 

 シュバルツは両腕の刃をクロスさせ、十字にウルベの機体を両断して見せた。

 

 

 

「ぐあああああああっ!!!」

 

 

 

 空中で胴体を三分割にされ、爆発する。それを背中にシュピーゲルは音もなく、家屋の屋根に降り立った。

 

 

 

 普通ならばこれで勝負あったのだが、爆発された機体はすぐに再生をはじめ、滅びた肉体と機体を修復していく。

 

 

 

「DG細胞による自己再生か。いいだろう、何度でも倒してやる」

 

 

 

 シュバルツの表情に変化はない。静かに全身に気を纏わせていく。

 

 

 

 一方自己再生で機体と肉体を修復させながらそれでも、この力の差は絶望的だとウルベは悟っていた。

 

 

 

「馬鹿な、これ程の腕ならば。あの時のドモンなどに遅れを取るはずがーー」

 

 

 

 ウルベが呻きながら、どちらとも手合わせをした感覚で述べる。

 

 

 

「貴様、決勝戦で手加減していたのか!?」

 

 

 

「勝利こそが全ての貴様には分かるまい。勝負を越えた闘いがあることを」

 

 

 

 そんなウルベの前に腕を組んでガンダムシュピーゲルは降り立つと静かに語る。

 

 これにウルベは激昂した。

 

 

 

「綺麗事を! ガンダムファイトも所詮は国同士の代理戦争だ!! 勝てば持て囃され、負ければ詰られる!!」

 

 

 

「それがどうした? 武道家にとって、国同士の諍いなど何の意味がある。武道家はただ、拳を交え語り合うのみだ」

 

 

 

「笑わせるな、キョウジ!! 貴様には分かるまい!! 私は、天才だったのだ!! 武道家として財をなし、多くの弟子を持ち、妻と息子の前で優勝するはずだった!!」

 

 

 

 憎しみに彩られた瞳は、シュピーゲルから後ろのヤマトガンダムに向けられる。

 

 

 

「それをこの男が邪魔をした!! 一瞬で私は倒された」

 

 

 

 指差されたヤマトガンダムは微動だにせず、シュピーゲルも静かにウルベを見据える。

 

 

 

「実感はすぐにできたよ。目が覚めた時、私の門下生達は一瞬で私から離れ、妻の実家の道場を私は叩き出された。そして、妻や子とも別れた」

 

 

 

「ーーーー」

 

 

 

 シュバルツは何も語らず、攻撃もせずにじっとウルベを見据える。

 

 これにヤマトガンダムのシュウジも何も言わない。

 

 

 

「私には力があった。その力をより確実なものにする為に、武術を学んだ。一年で私は門下の誰よりも強くなった。私は自分よりも弱い師を見て憐れみながらも、娘を差し出してきたことに侮蔑を感じた」

 

 

 

 ウルベの表情には何もない。ただ、薄暗い炎が瞳の中で燃え盛るだけだ。

 

 

 

「ーーだが、それなりに権力を持った家だった。軍で私がのし上がる為の後ろ盾に充分なほどにな」

 

 

 

 ウルベは語る。自分の生き様を。何も持たなかった自分が、拳しかなかった自分がのし上がる為に利用できるものは全て利用した、と。

 

 

 

 彼は憑かれたように地位を確立し、まだ足りないとばかりに上だけを目指していた。

 

 

 

 ガンダムファイトに参加したのも、自分の地位を上げる為だった。

 

 

 

 ウルベは、自分の力だけを信じていた。

 

 

 

 彼にとって他者など、自分の周りに来て蜜を吸って行くだけの虫けらだった。

 

 

 

「マスターアジアよ、貴様には本当に感謝している。虫けらは甘い汁が吸えなくなれば周りからいなくなることを、身をもって知れたのだからな!!」

 

 

 

 ウルベは嗤う。まるで自分自身をも嗤うかのように。

 

 ウルベの心の中に、1人の少年の声が聞こえてきた。

 

 

 

( 違うよ、父さん! 父さんは間違ってないよ!! 僕、父さんが大好きだよ!! 母さんだって父さんがーー!! だから、行かないでよ!!)

 

 

 

「何がガンダムファイターだ? 何が国を代表する英雄だ?勝てば持て囃すが、負ければ侮蔑の言葉を吐いて捨て掌を返すだけではないか。そうだろ、裏切者と呼ばれたシュウジ・クロスよ」

 

 

 

 ウルベの言葉に、マスターアジアは何も語らない。ただ見据えるだけだった。

 

 

 

「共に生きていた妻にすら捨てられ、息子にすら同情された屈辱が、ガンダム・ザ・ガンダムの称号を得た貴様らに分かるか?

 

 ーー綺麗事を吐くだけで、私の前をうろついていた虫けらに憐れみなどかけられてーー! あげくに裏切られた私の怒りが、憎しみが、貴様らに分かるか!?」

 

 

 

 怒りに満ち溢れ、憎しみに駆られた男をシュバルツは見据える。

 

 

 

「馬鹿者が。なぜ、分からん? 貴様の行いが、貴様自身が人を遠ざけているのだ。

 

 ウルベよ、自分の為だけに力を振るう者は他者に何も与えることはない。お前の拳には憎しみしかない。そんな拳で、お前は誰を何を守る?」

 

 

 

「ーーやめろ、シュバルツ」

 

 

 

「シュウジーー!」

 

 

 

「そのたわけには、何も語る必要はない。憐れみなど無用だ」

 

 

 

 シュウジの言葉にシュバルツの憐れみに、ウルベが醜悪な顔を晒す。

 

 既にDG細胞によって肌は紫色に染まり、眼球の白目は真っ赤に染まっていた。

 

 人の姿を辞めた悪魔の姿ーー。

 

 

 

「ふふふ、ラウンド2だな。キョウジ・カッシュ!!」

 

 

 

「ーーウルベよ、貴様も犠牲者だったのだな。ガンダムファイトの」

 

 

 

 シュバルツは静かに語ると、明鏡止水の構えを取る。

 

 

 

「鏡転同血!!」

 

 

 

 瞬間白銀の光がシュピーゲルから放たれ、一瞬後には6枚の羽を持ったトリコロールのガンダムがいた。

 

 

 

「ーーゴッドガンダム、だと!?」

 

 

 

「ウルベよ、出し惜しみはせん。全力で貴様を倒そう。それがーーーー」

 

 

 

 シュバルツはそれ以上は告げずに、拳を握るとゴッドガンダムの胸のカバーを開き、太陽が如き赤い玉を見せると背中の羽を広げ、日輪を作る。

 

 

 

「忌々しいゴッドガンダムめ、その輝きを見るだけで不愉快だ!! 私が消してやる!!」

 

 

 

「ーーゆくぞ、ゴッドガンダムよ。力を貸してくれ」

 

 

 

 両者は同時に相手に向かって駆け出した。

 

 

 

 瞬間だった、シュバルツのゴッドガンダムが黄金の輝きを放ち、灼熱の劫火を全身にまとったのだ。

 

 

 

「ーーなんだぁあああああ!?」

 

 

 

 その輝きと炎にウルベが一瞬ひるむ。

 

 

 

「我が心、明鏡止水。されどこの掌は烈火の如くーー!!」

 

 

 

 胸カバーが開き、深紅のルビーを思わせるエネルギーマルチプライヤーに赤い文字で「神」の一文字が刻まれた後、シュバルツはフィンガーカバーを展開した右手を大きく振りかぶった。

 

 

 

「爆ぁああああく熱!! ゴォオオオッドフィンガァアアアア!!」

 

 

 

「おのれ、シュバルツ!! おのれ、ゴッドガンダムゥウウウウウウ!!!!」

 

 

 

 炎を放つ右掌を放つ黄金のゴッドガンダム。対するウルベは青い光を放つ右掌をぶつけた。

 

 

 

 あっさりとウルベの右掌を消し飛ばし、シュバルツの右手がウルベの顔面を捉えた。

 

 

 

「ヒィイイイト! エンドォオオオオオ!!」

 

 

 

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれぇええええええ、虫けらどもめぇええええ!!!」

 

 

 

 紅い爆発と共に、ウルベの声は消滅した。

 

 

 

 あまりにも一方的な勝負に、ミネルバとアークエンジェルのクルー達は言葉も出なかった。

 

 

 

 それだけ、強い。

 

 

 

 だが勝利したシュバルツは喜ぶわけでもなく、静かに瞑目した。

 

 

 

「ーー母さん」

 

 

 

 ゴッドは静かに黄金の輝きを収め、ノーマルモードに戻った。

 

 

 

 残されたのはデスアーミーの大群が未だ迫りくる中、シュバルツは僅かの間だけ母に黙祷をささげるのだった。

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね〜!!

 ウルベとデスルークを倒したシュバルツ達。

 彼らを前にウォンは退却を選択します。

 この戦いが世界に与える影響は、いかに?

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第50話に!

 レディー、ゴー!!



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第50話 ベルリン都市防衛作戦 勝利

 みなさん、いよいよウォンとウルベの部隊『アズラエル』との戦闘も一区切りつきます。

 はたして、この戦いの先に何が待っているのか?

 それでは!

 ガンダムファイト、ベルリン都市防衛作戦!!

 レディィィィッ! ゴォォォオオオッ!!

第50話




 たったの一撃。

 

 

 

 刹那の刻に決着はついた。

 

 

 

 勝ったのは、鏡によって作り出された神の写し身。

 

 

 

「一撃ーー。一撃でウルベを倒すか。相変わらずの化け物ぶりですね、ゴッドガンダム。ガンダムシュピーゲルがアレに変化できるとはね、シュバルツがゴッドガンダムを使う時点で反則的な強さだ」

 

 

 

「落ち着いている場合か!? あのウルベを一瞬で倒すような化け物だぞ!!!」

 

 

 

「確かにーー東方先生のヤマトガンダムやマスターガンダム達もいる。潮時ですね」

 

 

 

 言いながら、ウォンはアズラエルを戦場から退却させる。

 

 

 

 これにいち早く気付いたのはマスターアジアことシュウジ・クロスだった。

 

 

 

「ウォン!! 貴様、俺達から逃げられると思っているのか!!」

 

 

 

「東方先生、今あなた方と戦えばこちらが不利。退かせてもらいますよ」

 

 

 

「笑わせる!!」

 

 

 

 ヤマトガンダムは流派東方不敗の構えを取ると、右手に真紅の炎が宿る。これにシュバルツが叫んだ。

 

 

 

「援護するぞ、シュウジ!!」

 

 

 

「ならば合わせろ! --いくぞ!!」

 

 

 

 同時にゴッドガンダムの右手が真っ赤に燃える。

 

 

 

「俺のこの手が唸りを上げる。炎と燃えて全てを砕く!! 灼ゃあああく熱!! サァアアアンシャイィンフィンガァアアアアアア!!」

 

 

 

「これぞ明鏡止水ーー!! 爆ぁああああく熱!! ゴォオオオッドフィンガァアアアア!!」

 

 

 

 二機のガンダムから強力無比な熱線が放たれる。

 

 

 

「ーーチッ 回避行動!! 急ぎなさい、かすっただけでも致命傷です!!」

 

 

 

 左右から放たれる火炎。すべてを焼き尽くす熱線。

 

 

 

 ウォンが指示するもそれよりもはるかに早く火炎はアズラエルの目の前に迫っていたーー。

 

 

 

ーー爆発

 

 

 

 空が真っ赤に染まり、燃え上がる。

 

 

 

「決まったか!?」

 

 

 

 誰かがその光景に思わず叫んだ。

 

 

 

 だが、煙の向こうにはアズラエルの艦影が浮かんでいる。

 

 

 

「ーーばかな? あれを防げるだけの兵器がまだあるのか!?」

 

 

 

 アーサーの言葉が皆の心境を代弁していた。

 

 

 

「解析急いで! シュバルツ殿たちを掩護します」

 

 

 

「か、艦長! なにを?」

 

 

 

「シュバルツ殿やマスターガンダムたちにおんぶにだっこしてもらっているだけじゃ、正規軍人としてのプライドが許さないわ。なにより、このベルリン基地を守るのは私たちザフトの使命のはず」

 

 

 

 アーサーにそう返すとタリアは一斉通信を行い声を張り上げた。

 

 

 

「全パイロットに通達! 全力で、シュバルツ殿とヤマトガンダムを援護し、この作戦に勝利せよ!!」

 

 

 

ーーーー おおっ!!!! ーーーー

 

 

 

 ミネルバ、アークエンジェルを問わず、作戦に参加している全ての戦士が力強い声で応える。

 

 

 

 シュバルツ達やキラ達の健闘が、彼らの士気を高めているのだ。

 

 

 

「モニターに拡大映像、出ます。艦長!」

 

 

 

 メイリンからの言葉にタリアが正面モニターに目を戻すと、アズラエルの前方に無数の銀の球が浮かんでいた。

 

 

 

「ーーこれはっ! なんなんだ、この鉄の玉は!?」

 

 

 

「無数に宙に浮いている鉄の玉……。この鉄の玉がさっきの攻撃を防いだというの?」

 

 

 

 タリア達の疑問に答えるように、ウォンがフーッと安堵の息をもらしながら笑う。

 

 

 

「危ないところでした。とっさにデスアーミー達をデスボールに変化してくれたおかげで、被害がなく終わった。

 

 さすがの判断力ですね、ウルベ」

 

 

 

 ウォンが笑いかけるのは、甲板の上に生えた異形のガンダム達の集合体。

 

 

 

 そう。グランドマスターガンダムだった。

 

 

 

「ふっふっふっふ、この程度。私には造作もないことだ」

 

 

 

「やはり、本体を残して正解でした」

 

 

 

 そのコクピットから、ニヤリと笑う男が全身にDG細胞のコードを巻きつけて姿を現した。

 

 

 

 

 

「「「なっ、なんだと!?」」」

 

 

 

 その声にシュバルツとシュウジ以外の人間が驚愕する。

 

 

 

 そこにいたのは、先ほど確かにシュバルツに倒されたはずの悪人。

 

 

 

 ウルベ・イシカワだった。

 

 

 

「シュバルツは確実に仕留めたはず。なぜ生きている? いや、まさか!?」

 

 

 

「ウルベの本体は、グランドマスターガンダムの方か!」

 

 

 

 周りが混乱しているのに対してシュウジとシュバルツが気づくのは同時であった。

 

 

 

 2人の思い至った考えを肯定するかのようにウルベは笑う。

 

 

 

「ふっふっふっふっふ、最初に言わなかったかね?

 

 『私がきみたちと真っ向勝負するような馬鹿に見えるか?』とね。まあ、コピー体とは言え『私』がまったく歯が立たないとは。恐れ入ったよ、シュバルツ」

 

 

 

「ガンダムファイターとしての矜持すら失くしたか。このたわけが!」

 

 

 

 ウルベの言葉に怒りを露わにするシュウジ。これにウォンが割って入る。

 

 

 

「これ以上の戦闘はお互いに傷を増やすだけですよ」

 

 

 

「いや、ウルベにウォン。貴様らをここで殺しておかねば、もっと多くの人が犠牲になる。ここは無理にでも倒させてもらうぞ!」

 

 

 

 ウォンがお互いの為に手を引けと遠回しに伝えれば、シュバルツが首を横に振る。

 

 

 

 これにシュウジも同調した。

 

 

 

「そういうことだ。貴様らのような外道、野放しにしておくわけにはいかんっ!」

 

 

 

 殺気を纏い、ヤマトガンダムとゴッドガンダムはウルベ達に向けて再度構える。

 

 

 

 これにウォンがデスアーミー・バーディー部隊に迎え撃つよう叫んだ。

 

 

 

「仕方ありませんね。デスアーミー達よ、デビルガンダムJr.と成りて私たちを守りなさい!!」

 

 

 

 ウォンの号令を合図に、宙に浮かんでいる球体が一箇所に集まっていく。

 

 地上に無数にいたデスアーミーや空を飛ぶデスバーディーたちが次々と融合していく。

 

 四本の脚の間に上半身が逆さにぶら下がっている奇妙な姿をしたガンダムが6機宙に浮かんで現れる。

 

 脚部先端からデビルガンダム四天王の能力を備えたビット兵器を放って、それぞれの必殺技を繰り出しながらアズラエルを庇う。

 

 

 

「ま、まだ……。まだ敵の機体は進化するのかっ!?」

 

「く、敵の戦力には限界がないの?」

 

 

 

 アーサーの言葉に応えるように親指を噛みながらタリアは歯を食いしばる。

 

 

 

 反対にこの場にいないジブリールは上機嫌で彼らが展開する部隊を見つめた。

 

 

 

「ハッハッハッハッハ! すごい、すごいぞウォン! ウルベ! これがDG細胞か、まだ進化するというのか!

 

 なんて! なんて力なんだあっ!」

 

 

 

「さあ、退きましょう」

 

「ああ。これ以上は無理だな」

 

 

 

 しかし、部隊を展開している張本人であるウルベとウォンは興奮するジブリールを尻目に撤退の準備を進めていく。

 

 

 

 

 

 ここに来ての新型の登場にザフト・オーブ連合軍の士気が下がる中、スティングが笑った。

 

 

 

「ーー大丈夫だ。何も問題ない」

 

 

 

「はあ? なにがだよ、スティング? この状況で」

 

 

 

 同僚の余裕じみた笑みに思わずアウルが胡散臭そうに問いかける。

 

 

 

「……そうだな」

 

 

 

「レイ。あんたまでなにをっ……?」

 

 

 

 スティングの言葉に続いたのは、普段から冷静で現実的な意見をするレイだった。彼の口元にも穏やかな笑みが刻まれている。

 

 

 

「シュバルツ殿にはーー」

 

「ーー師匠には」

 

 

 

 

 

「「ーーハイパーモードがあるーー」」

 

 

 

 二人の少年が言葉を重ねる。

 

 

 

 その意味するところを理解したとき、アウルとルナマリアの表情が明るく輝いていた。

 

 

 

 

 

 弟子たちの期待をその身に受けながら、シュウジとシュバルツはお互いのガンダムを肩を並べて立たせ、横目に告げる。

 

 

 

「シュバルツよ。これ以上、時間をかけるわけにはいかんようだ」

 

 

 

「そのようだな。ならば、ゆくぞ! シュウジ・クロス! いや、マスターアジア!!」

 

 

 

「ーーよかろう。塵も残さんわぁああああ!!」

 

 

 

 

 

 二機のガンダムは両の拳を腰において気を高めると、同時にハイパーモードーー黄金の気をその全身から放ち始め、天を衝く。

 

 

 

 

 

「デビルガンダムJr.よ。四天王ビットで迎え撃て!」

 

 

 

 これにウォンがデビルガンダムJr.に命令。6機のJr.からそれぞれ四つのビットが放たれ、ビットはデビルガンダム四天王の姿になって攻撃してきた。

 

 

 

 マスターガンダムの上半身を象るものは、左右の貫手からのダークネスフィンガー。

 

 

 

 グランドガンダムの角を象るものは、雷と角。

 

 

 

 ヘブンズソードの羽、ウォルターの球を模したビットはそれぞれ体当たりからのビーム砲。

 

 

 

 そしてJr.本体は胸部にエネルギーをためるとメガデビルフラッシュと呼ばれる可粒子砲撃を放ってくる。

 

 

 

 これらの機体はデストロイ以上の火力を誇る上に、自己再生も持っている凶悪なMA達だ。

 

 

 

 

 

 それらを同時に相手取り、黄金の輝きを放つヤマトとゴッドは前傾姿勢になって大地を思い切り蹴る。

 

 

 

 次に二機が現れたのはアズラエルの懐ーー。

 

 

 

 一瞬後、彼らが通ったと思われる軌跡に黄金の光の粒子が道となって現れる。

 

 

 

 近くに寄っていたビット達は黄金の気に触れただけで消し飛び、6門の強大なビーム砲は黄金の光の塊となった二機のガンダムに押し返され、空中で霧散する。

 

 

 

 自身の正面に現れた三機のデビルガンダムJrに対してシュバルツが吠える。

 

 

 

「邪魔だーーっ!!」

 

 

 

 隣ではシュウジも同じように目の前にいるデビルガンダムJr.に吠えつけながら、真っ赤に燃える右手を振りかぶった。

 

 

 

「ーーこの、身のほど知らずがぁ!!」

 

 

 

 2機の赤い炎を纏った右手は、圧倒的なまでの光を放ちながら異形の機体を消し飛ばしていった。 

 

 

 

 

 

「ら、ラミアス艦長……っ!!」

 

「強い……。これだけ圧倒的な力なら勝てる。でも、なんなの? このいやな予感は……」

 

 

 

 モニターを確認しながら、マリューも二機のガンダムの力に安堵する。しかし、それでもこの戦場に漂う不気味な雰囲気を拭い去ることができなかった。

 

 

 

 

 

「すげえっ! さすがシュバルツさんだ!」

 

「うん。シュバルツさんと東方不敗が組んだら、これだけすごいことになるんだね」

 

 

 

 一方でデスルークを倒したキラ達も気を回復させるために休みながら、ヤマトガンダムとゴッドガンダムの力を目の当たりにして頷く。

 

 

 

「キラ、シン。お前たちは休んでいろ。俺もシュバルツ殿の援護に向かう」

 

 

 

 アスランは未だ激戦を繰り広げるアズラエルの方向を見据え、瞳を鋭くする。

 

 

 

「--やめておけい」

 

 

 

「マスターガンダム?」

 

 

 

「先のキラ・ヤマトならばともかく、いまの貴様が行ったところで足手まといにしかならん。大人しく周囲のデスアーミーたちを倒したほうがよかろう。このわしとともにな」

 

 

 

「わかった。ならば、あなたを援護する。マスターガンダム」

 

 

 

 マスターガンダムからの通信に頷き、アスランは彼と行動を共にする。 

 

 

 

 二機が飛び立とうとする前に、シンがマスターガンダムに話しかけた。

 

 

 

「あんたには聞きたいことが山ほどあるんだ。こんなところでやられてもらっちゃ困るぜ。さしあたって言うんなら『ーーなんで分身出来るんだよ!』とかな」

 

 

 

 シンの言葉にマスターガンダムは振り返りながら鼻で笑うと、セイバーガンダムのアスランに顔を向ける。

 

 

 

「ーーフン。ゆくぞ、赤いガンダムよ!」

 

 

 

「ああ!」

 

 

 

 

 

 二機のガンダム達は未だにベルリンの街を囲む死者の大群を殲滅するためにキラたちから離れていった。

 

 

 

 

 

 一方、シュバルツが最後のJr.をゴッドフィンガーで破壊することに成功した。その背を蹴るようにヤマトガンダムが宙に跳躍して右手を大きく振りかぶる。

 

 

 

「消え失せるがいいっ! サァンシャァイィン、フィンガァアアアアアア!!」

 

 

 

 右手に黄金の気を凝縮し、アズラエルに向かってヤマトガンダムが光を放つ。

 

 

 

 その光の威力は余波だけで建物を吹き飛ばし、立ちはだかるものを全て叩き潰す。

 

 

 

 しかし、戦艦の手前の空間で黄金の光は霧散した。

 

 

 

 

 

「--なにっ!?」

 

 

 

 シュウジの目が大きく見開かれ、その肩は上下に揺れ始めた。

 

 

 

 戦艦の前に浮かぶのは長い帽子を被った英国紳士と軍人を足して2で割ったような見た目のガンダム。

 

 

 

「ハイパーモードを使ってこの程度か。やはり気の分身を作りだしたことで、お前自身の力はだいぶ衰えているようだな」

 

 

 

 通信越しに現れたのは黒髪をオールバックにした気品と凄みのある男性。

 

 

 

 三度に渡りガンダム・ザ・ガンダムの栄誉を手に入れた最強の呼び声の高いガンダムファイター。

 

 

 

「また貴様かーージェントル・チャップマンっ!」

 

 

 

「馬鹿な、貴様も蘇ったのか!?」

 

 

 

 ジョンブルガンダムの出現にシュウジが歯ぎしりし、シュバルツが目を見開く。

 

 

 

 これにウォンが満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

「いいタイミングです、チャップマン!

 

ウルベ!!」

 

 

 

「ーー分かっている!! エネルギーフルパワー!!」

 

 

 

 そして、一気にグランドマスターガンダムーーDG細胞ーーのエネルギーを使ってエンジンをフル稼働する。

 

 

 

「亜空間移動を行います。チャップマン、防戦に徹し1分保たせなさい」

 

 

 

 ウォンの指示に従うように、シュバルツとシュウジの前にチャップマンは立ちはだかる。

 

 

 

 この光景を見ていたキラが思わず叫ぶ。

 

 

 

「あれは、ジェントル・チャップマン!」

 

「なんだよ、まだ敵が増えるのかよっ!」

 

 

 

 ここに来て更なるガンダムの登場に、シンですら気力がもたなくなってきた。

 

 

 

 シュウジーーヤマトガンダムは、現れたジョンブルガンダムに拳を握って構える。

 

 

 

「シュウジ、無理をするな。気の分身に肉体の活性化、おまけにハイパーモードだ。これ以上はお前の身が保たん」

 

 

 

「なにを言う。いまここで無理をせねば、もっと大勢の罪なき人々の命が犠牲になるであろうが! ここで奴らを倒せるのならば、俺の身など気にして何になる!?」

 

 

 

「ーーシュウジ」

 

 

 

 先ほどシュウジが肩で息をし始めていたのをシュバルツは知っている。

 

 

 

 それでも、この男は戦おうとしている。自分の身を犠牲にしてでも、守ろうと。

 

 

 

 それは自分の命を省みないからではない。

 

 

 

 誰よりも命が大切だから、譲れないから、闘うのだ。

 

 

 

「ゆくぞ、シュバルツ! 俺達を相手に一分もたせると言ったその傲慢、死を持って償わせてくれる!」

 

 

 

 腰を落とし構えるシュウジにシュバルツは静かに頷き、気を高める。

 

 

 

 2人の気をまともに受けながら、チャップマンは壮絶な笑みを浮かべていた。

 

 

 

「フン、ウォルフ・ハインリヒにシュウジ・クロス。貴様らの正体がそれだったとはな。

 

 ガンダム・ザ・ガンダム二人を相手に1分か。悪くない。英雄と言われた俺に似合いの戦いだ」

 

 

 

 ジョンブルガンダムも腰を落とし、両の拳を握って構える。

 

 

 

「そう。

 

 ガンダム・ザ・ガンダムの栄誉を三度冠した、このジェントル・チャップマンに相応しい」

 

 

 

「ゆくぞシュバルツ! あやつの無駄口、黙らせてくれるわあああ!!」

 

 

 

「チャップマン!

 

 貴様には聞きたいことがあるが私の相棒はもはや限界だ。一刻も早く倒させてもらうぞ!!」

 

 

 

 

 

 左右から同時にヤマトガンダムとゴッドガンダムが仕掛ける。

 

 

 

 左右から放たれる拳と蹴りの雨霰を両の手でさばききるジョンブルガンダム。

 

 

 

 

 

「そんな馬鹿なっ!?

 

 あの黄金の機体はっ、MFが黄金になったら無敵なんじゃないのか!?」

 

 

 

 アーサーの言う通り、明鏡止水の境地に達した黄金のガンダムは、全てにおいて凌駕する。

 

 

 

 しかし、ジョンブルガンダムは一撃でもまともに受ければ砕かれる強烈な一撃を的確に捌いていく。

 

 

 

 これにデスアーミーの一個師団を殲滅したクーロンガンダムとシャッフルハートが、振り返りながら唸る。

 

 

 

「……なんという奴よ!

 

 シュバルツたちの攻撃をまともに受けれぬと見るや、全て受け流すことに専念しておる!」

 

 

 

「あの2人の攻撃をまともに受ければチャップマンーージョンブルガンダムの腕は消し飛ぶはず。それをわずかに逸らすことにより、攻撃を全てさばいておるのだな」

 

 

 

 更にセイバーガンダムと共に敵を殲滅していたマスターガンダムも唸った。

 

 

 

「一つでも間違えれば、一瞬で穴だらけだと言うのにーー! 並みの度胸と自信ではない!! これが3度に渡りガンダム・ザ・ガンダムの栄誉を手にした男の実力か!!」

 

 

 

 3機のMFは全く同じ声で同じセリフを告げた。

 

 

 

「「「しかし、ならばこそ打ち破らねばウソと言うものよ!! ワシらの主たるシュウジとライバルであるシュバルツーー!! 貴様らが組んでおるのだからな!!!」」」

 

 

 

 3機のMFの激励にシュウジの眦がつり上がる。

 

 

 

「分かっておる、黙って見てるがいい! このたわけどもが!!」

 

「一ーくっ! 流石にやるな、チャップマン!!」

 

 

 

 対して横にいるシュバルツは冷静にチャップマンの実力を認めていた。

 

 

 

「大したことではない。防戦に徹すれば、俺の実力ならば一分程度耐え切れんことはない」

 

 

 

「舐めおってからにぃいいっ!」

 

 

 

 シュウジはシュバルツを庇うように前に出ると、一気呵成に前に出る。

 

 

 

「ならばわしが! この東方不敗マスターアジアが貴様を完全に止めてくれるわあ!!」

 

 

 

 シュウジ・クロスからマスター・アジアの姿に戻りながらも、彼は気迫で黄金の姿を維持している。

 

 

 

「シュウジ! やはり肉体を活性化する気力がーー!!」

 

 

 

「シュウジ・クロスの姿とは比べるべくもないな。一撃の重みはともかく、手数が目に見えて衰えいる。

 

 気も尽きかけている今のお前で、俺を止められるのか? マスター・アジア」

 

 

 

 マスターはチャップマンの言葉に凶暴にして獰猛な笑みを浮かべると、シュバルツに背中を向けたまま告げた。

 

 

 

「シュバルツ! こやつはワシが抑える! ゆけいっ!」

 

 

 

「マスターアジア!?」

 

 

 

「ゴッドガンダムと石破天驚拳ならば、きゃつらを消し飛ばせる!! 貴様の鏡転同血の力、奴らに目にもの見せてやれぃっ!!」

 

 

 

 マスターアジアの言葉にシュバルツも力強く応えた。

 

 

 

「いいだろう! この技に我が魂の全てを込める!!」

 

 

 

 一つ頷いてから、腰を落とし両手を右腰に構えてたわめ、強烈な黄金の光の球を作り出す。

 

 

 

 その核となる黄金の光の球に紅い文字で「驚」が刻まれる。

 

 

 

 

 

 ーー流派東方不敗ーー最終奥義ーー石破天驚拳ーー

 

 

 

 

 

 シュウジ・クロスことマスターアジアが第7回ガンダムファイト大会にて編み出した最強にして最終奥義。

 

 

 

 おそらく単体での一撃ならば、これに敵う技はないだろう。

 

 

 

 強力無比な攻撃力を誇る正に「必殺」を体現した「一撃」である。

 

 

 

 輝きは更にまし、黄金の光の球に真紅の劫火が纏い始める。

 

 

 

 だがシュバルツが今、正にその究極の一撃を放とうとした時、一筋のビームが彼の背中に放たれた。

 

 

 

 その際どい一撃は、シュバルツをして回避せねばならないほどに正確無比。

 

 

 

 放ったのはチャップマンであった。

 

 彼は両手でヤマトガンダムの攻撃を防ぎつつ、その間隙を縫って背中のロングライフルを左片手で持ち、シュバルツのゴッドガンダムに向けて撃ったのだ。

 

 

 

「--ぬうっ!?」

 

 

 

「くっーー!」

 

 

 

 

 

 マスターアジアを相手にそれをやってのけたチャップマンの技量にシュバルツ達は思わずうなる。

 

 

 

 対するチャップマンは淡々とした表情で話した。

 

 

 

 

 

「石破天驚拳など、打たせはせん」

 

 

 

 

 

 これにアウルとスティングが思わずうめく。

 

 

 

「なんだよ、あの化物はっ!?」

 

「まだあんな奴がいるのかよっ!」

 

 

 

 シンがアスランが時計と目の前の激戦を見ながらつぶやく。 

 

 

 

「まずい! もう三十秒経った!」

 

「あの二人を相手に、本当にこのまま一分もたせるつもりなのかーー!」

 

 

 

 

 

 そんな周りの言葉を無視して、マスターアジアはシュバルツに吠えた。

 

 

 

「シュバルツ! 貴様はもう一度気を溜めい!」

 

 

 

 しかし、その気迫に反してヤマトガンダムのハイパーモードが、黄金の輝きが消え通常のトリコロールの機体に戻る。

 

 

 

(マスターアジアめ。もう気がーー!!)

 

 

 

 シュバルツは語らず、ただ目を大きく見開いた。その目にマスターは目力を入れて見据えてくる。

 

 

 

ーー ここは、わしが全力で抑える! --

 

 

 

 彼の目はそう語っている、ならば自分も全力で応えねばならない。

 

 

 

「マスターアジア…! すまん!!」

 

 

 

 シュバルツは熱い思いを胸に、一気にアズラエルに向かって跳躍した。

 

 

 

 これにジョンブルガンダムが再び片手で銃を構えようとするも、目の前にヤマトガンダムが回り込み、ジョンブルガンダムの懐に飛び込んで拳蹴打のむしろと化して妨害する。

 

 

 

 チャップマンは、無数に放たれる拳と蹴りを両腕でガードしてさばきながら、ヤマトガンダムの背後に飛ぶゴッドガンダムを獲物を駆る狩人の目で見据える。

 

 

 

 再び間隙を縫ってヤマトガンダムの攻撃の右ストレートを右に回り込みながら躱し、背中に背負ったライフルを片手抜きしてゴッドガンダムの背後に撃った。

 

 

 

 

 

 ーーが、引金を引こうと瞬間にヤマトガンダムに銃身を蹴りあげられる

 

 

 

 

 

 弾はあらぬ方向に飛んで行った。

 

 

 

 

 

「やらせんと言うたはずだぁ!」

 

 

 

 猛虎の如き咆哮を上げるマスターアジアに、チャップマンは静かに狩人の目を向ける。

 

 

 

 

 

 シュバルツのゴッドガンダムは、背後を完全にマスターアジアに任せ、背中の日輪を輝かせる。

 

 

 

「ゴッドフィールド・ダァアアアッシュ!」

 

 

 

 空中でハイパーモードを発動し、6枚の羽を展開、背中の日輪がバーニアとなり、一瞬でゴッドガンダムをグランドマスターガンダムの目の前まで移動(ワープ)させる。

 

 

 

 

 

 ウルベが、この動きに目を見開いた。

 

 

 

「ーーばかなっ!? 貴様!!」

 

 

 

「今度こそ、これで終わりだ! ゴォオオッド! フィンガアアーー!!」

 

 

 

 赤く燃える右手を右ストレートの軌道で振り切り、強烈な火球が放たれる。

 

 

 

 勝った。

 

 

 

 誰もが、そう確信した。

 

 

 

「ーー残念でしたね。シュバルツ。東方先生」

 

 

 

 だがーー

 

 

 

 ウォンの静かな言葉が聞こえてくると同時、戦艦アズラエルが忽然と目の前から消えた。

 

 

 

「「「「ーーな!?」」」」

 

 

 

 一同が驚愕する中、嫌味なまでに落ち着いた男の声が聞こえてくる。

 

 

 

「ーーまたお会いしましょう。シュバルツ・ブルーダーにマスターアジア、それに異世界のガンダム達よ。

 

 次は、あなた方に地獄を見せられると思います。楽しみにしていてください。

 

 では、ごきげんよう」

 

 

 

 あれほどの質量を誇りながら消えた戦艦。

 

 

 

 同時にマスターと激戦を繰り広げたチャップマンも姿を消していた。

 

 

 

 そしてベルリンの街を完璧に取り囲んでいたデス・アーミーとバーディー達も潮が引くように何処かへ去っていく。

 

 

 

「ーー敵部隊、後退していきます」

 

 

 

「勝った、の?」

 

 

 

 メイリンの報告に呆然となりながらも、目の前の敵部隊を見据える。

 

 

 

 皆が呆然とする中、一際大きな音が聞こえ、そちらを向くとヤマト・ガンダムが膝をついていた。

 

 

 

 同時にクーロン・シャッフル・マスターの3機のMFが光の玉になってヤマトガンダムに吸収される。

 

 

 

「ぬう! 少し、無理をし過ぎたか」

 

 

 

「すまないシュウジ、いやマスターアジア。やつらを逃がしてしまった」

 

 

 

 片膝をつき、息を整えるマスターにシュバルツが詫びる。

 

 

 

「貴様ほどの男が逃げられたのであれば、他の誰がやっても同じであろうよ。それにしても、厄介なやつらが手を組んだものだ」

 

 

 

「ああ。まったくだ」

 

 

 

 シュバルツもまた、体内に高めた気を収める。銀色の光とともにゴッドガンダムがシュピーゲルへと戻った。

 

 

 

 

 

「グラディス艦長! さっきの戦艦、逃走経路もレーダーに反応ありません!」

 

「空間を歪めて移動ーートランスポートですって? そんなことまでできるというの、あの連合の艦は」

 

 

 

 事実確認をしながら、タリアは苦虫を噛み潰した顔をしている。

 

 

 

「ラミアス艦長、敵影ありません!」

 

「ここまで追い詰めて逃がしてしまうなんて……」

 

 

 

 マリューもまた、部下の報告に無念そうに顔を歪める。

 

 

 

「くそ! 僕にもっと力があれば!」

 

 

 

「いや、キラさんじゃない。おれだ。俺がもっと心が強ければ、こんなーー!!」

 

 

 

 キラもシンも倒せなかったのは自分の責任だと悔やみ拳を握る。

 

 

 

「キラ、シン。いまは、いまはこの戦いを生き延びた喜びを分かち合おう。本当に良く戦ったよ、俺たちは」

 

 

 

 アスランはそんな2人に言葉を送ると彼らは苦笑いを返してきた。

 

 

 

 タリアも自身の感情に一区切りつけると笑顔を見せて、通信を入れた。

 

 

 

「オーブのアークエンジェル隊の皆さん。本当にありがとうございました。ヤマトガンダム達にも礼を言いたいわ」

 

 

 

「ーーもっと早く駆けつけることができれば、良かったのだけれど」

 

 

 

 マリューは無念そうに眉をひそめながら、答え

 

 

 

「この世界の危機だ。そのような礼はいらん。それよりもネオ、貴様らはその部隊に入ったのか?」

 

 

 

 その横からマスターが応えたあと、アークエンジェル隊と共にするネオに問いかける。

 

 

 

「ええ。積もる話もあります。とりあえずザフトのベルリン基地で補給でも受けながら、話をしませんか。東方先生

 

ステラの容態も気になる」

 

 

 

「ふん、よかろう」

 

 

 

 ネオの提案にマスターはニヤリと笑んで腕を組み応えた。

 

 

 

 これを聞いていたマリューは苦笑いしながらタリアに通信で話しかける。

 

 

 

「か、勝手に話を進めちゃってるけど、大丈夫なのかしら……? グラディス艦長」

 

 

 

 これにタリアは何処か気さくな笑みを浮かべて返した。

 

 

 

「ええ、どうぞ。あなた方がいなければ、ベルリン基地はとっくの昔に壊滅しています。人員は後で呼び戻せるし、施設を守れただけでも功績は大きいでしょう」

 

 

 

「ありがとう、グラディス艦長」

 

 

 

「いいえ、こちらこそ。それに個人的に貴女とは話をしてみたいの、ラミアス艦長」

 

 

 

 美しい微笑みを浮かべて言うタリアにマリューもニコリと返した。

 

 

 

「ーー私で良ければ」

 

 

 

 一方、激戦を生き延びたシン達3人は互いに顔を合わせると、ため息を同時に吐いた。

 

 

 

「とりあえず終わってよかったわ……。もうこんな疲れる戦い、したくない」

 

「たしかに。長い持久戦だったな」

 

「ほとんど全力疾走のまま持久を強いられる戦いだったよな……」

 

 

 

 シンは思う。

 

 

 

 この同僚達との語らいも、生き延びた喜びも、守りたい思いも。

 

 

 

 決して嘘なんかじゃないんだ、とーー。

 

 

 

「ーーなあレイ、ルナ。俺たち、生き延びれたんだよな?」

 

 

 

「ーーああ。俺たちは強くなった」

 

 

 

「そうよ。私たち3人揃えば、無敵よ!」

 

 

 

 力強い言葉に、シンは心から微笑んだ。

 

 

 

ーー 今は、この場所を仲間を守れたことを喜ぼう。

 

 

 

 たとえ、この先に何があろうとも戦い抜くために ーー

 

 

 

 シンは心の中で独りつぶやき、決意を新たにしていた。

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 ベルリン都市での激戦を生き延びたミネルバ隊とアークエンジェル隊。

 彼らの活躍の影でプラントのギルバート・デュランダルがついに動き出します。

 はたして、デュランダル議長の「ロゴス撲滅作戦」とは如何なるものなのか?

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第51話に!

 レディー、ゴー!!



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第51話 動き出す世界

 さて、みなさん。

 闘いに継ぐ闘いに、戦士達はしばらくの休息を取るのです。

 一方、プラントではギルバート・デュランダルがついに動き始めたではありませんかー!!

 はたしてシュバルツ達は、戦争を続ける世界にどう立ち向かうのか?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィィィッ! ゴォォォオオオッ!!



 ベルリンのザフト基地内で

 

 

 

 先の悪魔の兵団を前に勝利したミネルバは、協力してくれたオーブのアークエンジェルとマスターアジアに対し、ザフト基地総出で食事に迎えていた。

 

 

 

 ほぼ廃墟と化していたベルリンの街だが、あの絶望的な状況に勝利したことで市民からの支持も高まり、市民からは連合への嫌感情も伴ってパーティが行われている。

 

 

 

「ここまで街をボロボロにされたのに、俺達を笑顔で迎えてくれるなんて」

 

 

 

「なんだか、申し訳ないわね。あたし達、結局、街の大半を焼かれてしまったしーー」

 

 

 

「だが俺達のしたことは、これだけの人に支持されることだったということだ。素直に受けるべきだな」

 

 

 

 市民達の喜びようをパーティ会場のモニターで見ながら、申し訳無さげなシンやルナマリアに対し、冷静に告げるレイ。

 

 

 

 アスランとキラもこれに頷いた。

 

 

 

「そうだな。あのまま、奴らに占拠されていればもっと恐ろしい事態になっていただろうからな」

 

 

 

「うん。彼らの目的は全人類の支配だからね」

 

 

 

 キラの言葉にシン達3人が目を向ける。

 

 

 

「キラさん、それってどういう意味なんですか? 議長の考えとかもーー」

 

 

 

「ーーごめん、シン。今、全てを語るには早過ぎるんだ。だけど、コレだけは言える。あの死者の部隊だけは、連合もザフトもオーブもない。確実に倒さなきゃいけないんだ」

 

 

 

 キラの強い言葉にシンは戸惑いながらも頷いた。

 

 

 

「ーーシン、キラ准将? 議長の考えって?」

 

 

 

「え? あ、えっとーー!」

 

 

 

 何気なしに聞いてくるルナマリアにシンが慌てていると、キラが横から応えた。

 

 

 

「ーールナマリアさん。准将はいらないよ。キラと呼んで欲しいな。僕も准将ってガラじゃないから」

 

 

 

「ーーえ? えっとーー!」

 

 

 

「ーーダメかな?」

 

 

 

「い、いえ! そ、それじゃ、よろしくです。き、キラ」

 

 

 

「ーーうん、よろしくね」

 

 

 

 笑顔のキラにルナマリアは頬を染めて何も言えなくなる。

 

 

 

 キラはそのまま、シンに目を向けルナマリアが見ていない時に首を横に振った。

 

 

 

「ーーす、すみません。キラさん」

 

 

 

「いや。それより、シン。君も僕をキラって呼んでくれないかな?」

 

 

 

「ーーえ? さん付けじゃダメですか? なんか、呼びづらくて」

 

 

 

 そういうシンにキラがショックを受けたかのような表情になる。

 

 

 

「僕、そんなに話しづらいかな?」

 

 

 

「あ、いや。そうじゃなくて、恐れ多いというか。何度も貴方には助けられてるし、尊敬してるんです。ですから、呼び捨てはちょっとーー!」

 

 

 

「そ、そっか。なんだか、嬉しいというか、照れるな」

 

 

 

 顔を赤く染めるシンとキラに、ルナマリアが微妙な表情になる。

 

 

 

「何なのよ、シンったらーー! シュバルツさん以外にも尊敬する人がいるわけ?」

 

 

 

 何処か嫌みに聞こえる口調にシンの眦がつり上がる。

 

 

 

「ルナも見たろ? キラさんは、明鏡止水の境地に達してるんだぜ。俺たちより、はるか前にいるんだ」

 

 

 

「それは、そうだけどさーー」

 

 

 

 ふてくされた様に頬を膨らませるルナマリアにシンは更に言う。

 

 

 

「そんな人を呼び捨てには、俺にはできないーー。何より、何度も助けられてるんだ」

 

 

 

 真っ直ぐな赤い瞳にルナマリアの機嫌が一気に悪くなっているが、シンは気づかない。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「シンーー!」

 

 

 

 柔らかい何かが、シンにぶつかる。

 

 

 

「ーー! ステラ?」

 

 

 

「シン、ありがとう!!」

 

 

 

「ーーえ? いや、俺はーー!」

 

 

 

 満面の笑みで抱きついてきたのは、ステラ・ルーシェだった。

 

 

 

 いよいよ、ルナマリアの眦がつり上がる。

 

 

 

「ーーこら、ステラ!! いきなり飛びつくな!!」

 

 

 

「ったく、シンだけじゃないだろ! キラにもちゃんと、礼を言えよ」

 

 

 

 別の方向から声がかかり、シンが2人の顔を見る。

 

 

 

「スティング、アウルーー!」

 

 

 

 2人はシンに名を呼ばれるとニッと笑いかける。

 

 

 

「悪いな、ステラが迷惑かけてよ」

 

 

 

「シン、お前の戦いも見てたぜ。腕を上げたじゃん」

 

 

 

 シンはスティングに「大丈夫だ」と頷き返した後、アウルにワンパク坊主の様な笑みを返す。

 

 

 

「今なら、お前にも勝てるかもな?」

 

 

 

「まあなーー! けど、見てろ。すぐに追いついてやる」

 

 

 

「なら、俺も追いつかれないようにしないとな! まだまだ、強くなってやる!」

 

 

 

「僕もスティングも、まだまだ強くなるぜ! お前やキラにもすぐに追いついてやる!」

 

 

 

 互いにニッと笑いあう。その後ろでスティングも苦笑しながら、シンに頷いてきた。

 

 

 

「いいな、こういうのーー! よし、アウル、お前は俺のライバルだ!!」

 

 

 

「僕はとっくに、お前をライバルだと思ってだぜ。シン」

 

 

 

 ガッシリと握手する2人の少年をキラとアスランが微笑みながら見守る。

 

 

 

「いつまでシンに捕まってるのよ、こんのぉ!!」

 

 

 

 ルナマリアが怒鳴りながらシンに抱きついていたステラを引き剥がす。

 

 

 

「? 何で怒ってるの?」

 

 

 

「な、何でってーー!!」

 

 

 

 本気で分からないステラは、目を丸くしながら首を傾げる。

 

 

 

「あ、そのーー! あれよ!! 女の子が迂闊に男に抱きつくもんじゃないわよ!!」

 

 

 

「ステラ、シンが好きーー。だから、いいの」

 

 

 

「んな!? い、いい訳ないでしょーがぁあああっ!!」

 

 

 

 ステラの過激なスキンシップにルナマリアの顔が鬼になる。

 

 

 

「……な、なあ、ルナ? 何怒ってんだ?」

 

 

 

「あ、ん、た、はぁあああっ!!」

 

 

 

 シンの態度にいよいよ、ルナマリアは怒髪天をついた。

 

 

 

「お姉ちゃん、強力なライバルの出現かも」

 

 

 

 これを楽しそうに見るのは妹のメイリンだった。シンと2人の少女の騒ぎは、周りの人間を集めていく。

 

 

 

「ーーーー!」

 

 

 

 それを距離を置いて見ながら、レイはシン達を見て微笑んでいるキラ達に視線をやる。

 

 

 

( ギルの考えを読んだ? キラ・ヤマト。やはり、俺たちの敵になるか?)

 

 

 

 静かに冷えた瞳でレイはキラを見つめた。

 

 

 

「よう! お疲れさんだな」

 

 

 

「ーー! お前は確かーー!」

 

 

 

「スティングだ。世話になったな、ザクのパイロット」

 

 

 

「ーーレイだ。こちらこそ、助かった」

 

 

 

 レイの言葉にスティングはニッと笑うと穏やかな表情で告げた。

 

 

 

「ステラは、身寄りのない俺たちの妹みたいな奴でさ。助けたかったんだ、ホントに。だから、ありがとう」

 

 

 

「ーー!」

 

 

 

 スティングの言葉に、レイは目を大きく見開く。

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

「いや。お前達は親がいないのか?」

 

 

 

 レイの言葉にスティングはこくりと頷いた。

 

 

 

「ああ、俺たち3人はガキの頃に攫われたんだ。ブルーコスモスに」

 

 

 

「ーー!」

 

 

 

「俺たちは、人殺しをする為だけに育てられた。師匠に出会わなけりゃ、アークエンジェルにいることなく、あのデストロイってのに乗っけられて、死んでたかもな」

 

 

 

「ーー恨んだろう? 世界を」

 

 

 

「どうだろうな。記憶も消されたり、薬で狂わされたりしたからな。まともな判断もできなかったよ」

 

 

 

「ーーすまない。簡単に聞いていいことじゃなかった」

 

 

 

 思わず俯くレイの肩を叩き、スティングは告げた。

 

 

 

「気にするな。話したかったから話したんだ」

 

 

 

「ーーそうか」

 

 

 

「気を使わせたみたいで悪かったな」

 

 

 

「ーーいや、俺は。ーー俺も気にしていない」

 

 

 

 スティングはレイの返しにクスリと笑うと、告げた。

 

 

 

「ありがとよ。そう言えば、ミネルバはこの後、どうするんだ? 退けたとは言え、被害は甚大だぜ」

 

 

 

「ーーそうだな。本国からいずれ指示があるだろう。お前こそ、アークエンジェル隊に入ってどうする? 妹のような存在は救えた。ならば、アークエンジェルにいる意味もない。戦争とは無縁な所で暮らしたらどうだ?」

 

 

 

「レイーーお前、冷たそうに見えて優しい奴だな」

 

 

 

「からかうな」

 

 

 

「ーー本心だぜ?」

 

 

 

「ーーそうか」

 

 

 

「ああーー。ありがとよ、レイ。だが、キラ達には借りがあるからな。それを返すまでは一緒にいるさ」

 

 

 

「そうかーー」

 

 

 

 スティングの言葉に、レイは何処か気恥ずかしげに目を伏せた。

 

 

 

 一方でそれを離れた所から見ているのは、シュバルツ・ブルーダーに東方不敗、アンドリュー・バルトフェルドにネオ・ロアノークだった。

 

 

 

「なんだか、久しぶりに会った気がするな。シュバルツ」

 

 

 

「そう言われれば、そうだな。元気そうでなによりだ。バルトフェルド」

 

 

 

 お互いに穏やかな笑みを浮かべながら握手する両者の横では、グラスに入ったシャンパンを呷るネオがいる。

 

 

 

「しっかし、あのクソ野郎共の顔ったらなかったな! 胸がすいたぜ!! さすが東方先生とシュバルツだ」

 

 

 

「逃しておっては話にならん。それにしても、ワシが離れた後でステラにそのような事をなーー」

 

 

 

「幸い、と言って良いかは分からんが。デストロイに乗せられていた記憶は曖昧でほとんど覚えてないようだ」

 

 

 

「…DG細胞やバーサーカーシステムの特性に救われたようだな」

 

 

 

 ネオの言葉にマスターが応え、バルトフェルドとシュバルツが少年たちを見ながら続ける。

 

 

 

「ーー東方先生。俺たちと一緒に来てくれませんか?」

 

 

 

「確かに。マスターアジアが仲間になってくれれば、この上なく頼もしいな。キョウジの作戦も広がる」

 

 

 

 ネオにバルトフェルドが続いてマスターに話しかけるも、マスターアジアは首を横に振った。

 

 

 

「ーー戦力が一箇所に固まるのは悪い兆候だ。過ぎた力は無用な争いを呼ぶ。すまんが、ワシはワシで独自に行動させてもらうぞ」

 

 

 

「正直、自信が無いんですよ。次にあんな奴らが現れたら、貴方の力抜きであいつらを守れんのかどうか」

 

 

 

 ネオは自嘲気味に笑うとマスターを見つめる。

 

 

 

「今回は運が良かっただけだと思っている。次に奴らに出会った時、貴方やシュバルツ、キョウジの力を借りれるとは限らない。そうなると、ねーー」

 

 

 

「馬鹿者!!」

 

 

 

「ーーっ!?」

 

 

 

「そのような弱気でどうする? このワシが。東方不敗マスターアジアが、貴様に愛弟子を託したのだぞ!

 

 もっと気を強く持たんか!!」

 

 

 

 口調は厳しいながらも表情は何処か穏やかなマスターの顔を見据え、ネオは静かに笑みを浮かべた。

 

 

 

「ーーそう、でしたね。あいつらを守るために、俺はオーブに入ったんだ」

 

 

 

「バックアップはさせてもらうぜ。俺たちも、あんなに楽しそうに笑ってる子ども達の顔を守りたいからな。なあ、シュバルツ?」

 

 

 

 バルトフェルドの言葉にシュバルツは覆面の奥の瞳を穏やかに緩め、笑った。

 

 

 

「ーーふ、もちろんだ。私も全力で力を貸そう。ネオ・ロアノークよ」

 

 

 

「ーーありがとよ、シュバルツ。バルトフェルド」

 

 

 

 互いに笑みを浮かべながら、語り合う4人の男。それらから更に離れて、麗しい美女2人がテーブルを前に話をしている。

 

 

 

「こちらの招きに応じていただき、まことにありがとうございます。この基地がこうしてパーティ会場として使用できるのも、あなた方のご協力のおかげですわね。ラミアス艦長」

 

 

 

「お、大げさです。私達は、別にそんなーー」

 

 

 

 タリアの言葉に謙遜するマリュー。アーサーが勢いに乗って彼女に話しかける。

 

 

 

「ーー何を言うんですか! あなたの助力のおかげで、我々は生き残れたんです!!」

 

 

 

「あ、はいーー。あ、ありがとうございます。ですが、私だけの力ではなくーー」

 

 

 

 押しに弱いマリューは、アーサーの勢いに押されながらも、華やかな会場の雰囲気を楽しみつつ、返す。

 

 

 

「ラミアス艦長、堅い話は後にしましょう。アーサー、少し席を外してちょうだい」

 

 

 

「え!? えええええっ!? は、はいーー」

 

 

 

 アーサーはタリアの言葉に肩を落としながら、見るからにションボリとした表情で下がって行った。

 

 

 

「ごめんなさいね、ラミアス艦長。我が部下ながら少し、配慮の足りないところがあって」

 

 

 

「あ、いえーー!」

 

 

 

「ラミアス艦長にはお子さんは、いらっしゃるのかしら?」

 

 

 

 突然のタリアの言葉に、マリューが目をまるくする。

 

 

 

「グラディス艦長ーー?」

 

 

 

 マリューに向けてタリアは1枚の写真を示した。手に取り、眺めるとまだ幼い少年があどけない笑顔を見せている

 

 

 

「息子よーー」

 

 

 

「可愛らしい盛りですね」

 

 

 

「ワンパクで困るわ。でも、最近は滅多に会わないから」

 

 

 

「ーーグラディス艦長」

 

 

 

 タリアの寂しげな表情にマリューも顔を翳らせる。

 

 

 

「本当なら、もっとワガママ言いたいだろうに。私はダメな母親だわ」,

 

 

 

「ーーそれでも、あなたがここに居るから。守れたものもあるはず。あなたがここに居るから、息子さんの安全も守れているのではないですか?」

 

 

 

 マリューの真摯な言葉に、タリアは静かに儚げな笑みを浮かべた。

 

 

 

「ーー頭では、そのつもりでも。それをまだ10に満たない子どもに理解しろなんて無茶な話よね」

 

 

 

「今は無理でも、いつかは分かる。それが成長ではありませんか?」

 

 

 

「ーーそうね。ありがとう、ラミアス艦長。聞いていただいて少し気が晴れたわ。こんな話、部下にはできなくて」

 

 

 

「シュバルツさんなら、聞いてくれるのでは?」

 

 

 

「ーー彼には、そこまで頼れないわ」

 

 

 

 マリューの言葉に、タリアは自嘲気味に言った。

 

 

 

「そもそも、彼はオーブからの客人ですもの。そんな彼を主力として見てしまっている。正直言って今、彼に抜けられたらウチの部隊はガタガタよ。それぐらい、彼はシン達にとって大切な存在になってしまっている」

 

 

 

「ーー分かります」

 

 

 

 マリューが神妙な面持ちで応えた。思い出すのは、かつてアークエンジェルにたまたま乗り合わせた民間人キラ・ヤマトのことだ。

 

 

 

 離れた席で年相応に、楽しそうに少年たちの輪の中にいる彼を見つめる。

 

 

 

「軍人でない者に正規軍人である者が頼りきりになる。私は、2年前にそれを味わいました」

 

 

 

「ラミアス艦長ーー。それはもしかして」

 

 

 

 マリューの視線を追い、タリアも心得た顔付きになる。

 

 

 

「シュバルツさん達がもし、あの時に私達の前に現れていたら。私はきっと、あなた以上に依存してしまったと思います」

 

 

 

 マリューの頭に浮かぶのはシュバルツとそして、オーブに残った参謀役の彼のことだ。

 

 

 

「ーー達? ああ、確かに。シュバルツ殿やマスターアジアに私達は頼ってばかりね」

 

 

 

「ーーよく分かります。私もオーブでマスターアジアと戦い、国を守れたことは奇跡だと思っています。いいえ、彼らに出会えたことが奇跡でしょう」

 

 

 

「ーーマスターアジアを相手に?? 信じられないわね」

 

 

 

「ーーこちらもフリーダムを犠牲にしましたが。キョウジさんーーシュバルツさんのご兄弟のおかげでなんとか」

 

 

 

「兄弟? シュバルツ殿に兄弟が? 初耳だわ」

 

 

 

「ーー本人達はあまり、そういう話をしたがりませんよね。よく似ています」

 

 

 

 楽しそうに眉を上げるタリアにマリューが可愛らしく頬を膨らませて見せた後笑いながら、キョウジとシュバルツの話をはじめる。

 

 

 

 平和な時間がオーブ軍とザフト軍、双方に流れていた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 一方、プラントでは暗がりの中で評議会が開かれ、ギルバート・デュランダルの提案に多くの者が頷いた。

 

 

 

「ーーありがとう、皆さん。今回のベルリンの街周辺都市の被害は尋常ではない。こんな事をする連合ーーいやブルーコスモスを我々は許してはならないーー!」

 

 

 

 この演説を静かに見据えるのは、まだ議会に入って1年の新入りにして、ザフト軍エースの称号を持つ少年。

 

 

 

 イザーク・ジュールだった。

 

 

 

「確かに、ベルリンの街やその周辺での虐殺は看過できるものではないが」

 

 

 

 イザークは先ほど見た映像を改めて頭の中に浮かばせる。

 

 

 

「おかしい。連中の部隊にはアークエンジェルの同型艦と連合製だという巨大な人型MA。そして見たことのない無数の不気味なMS達だ。議長はあの連中を連合の部隊としたいようだがーー! 戦艦とMAはともかく。あの無数のMSについて何故言及しない?」

 

 

 

「イザーク! 声に出てるって!!」

 

 

 

 隣の傍聴席にいたディアッカが、イザークを慌てて抑える。

 

 

 

「ーー何を焦ってんのよ、ディアッカ。一々、そんなこと気にしてたら、胃に穴があくわよ」

 

 

 

「ミリィ、久しぶりに連絡をくれたかと思えば、こんなムードもクソもない所へ連れて行けなんてなーー。しかも、イザーク込みかよ」

 

 

 

 ディアッカに苦言を呈したのはショートヘアの茶色がかった金髪に活動的な服装の娘、ミリアリア・ハウだった。

 

 

 

「せっかくのデートが、まさかイザークに邪魔された挙句にミリィまで乗りきなんてなーー」

 

 

 

「あんたが余りにしつこいから呼び出しに応じてやっただけ。別にデートとかじゃないから。イザークの話は渡りに船だったわ」

 

 

 

 ボヤくディアッカにミリアリアが容赦ない一言を告げた。

 

 

 

数時間前

 

 

 

 何日も前からプラントの映画のチケットの話をミリアリアにしていたディアッカ。

 

 ようやく実を結び、いざデートという所で携帯が鳴り、イザークからの招集命令があった。

 

 

 

「ーーディアッカ! 議長がベルリンを襲撃された件で臨時会議を開くらしい。貴様も来い!!」

 

 

 

「ふざけんな!! 何でせっかくのデートに仕事入れてきやがる!!? そもそも、1年生の癖に投票権も発言権もないだろうが、おまえ!!」

 

 

 

「傍聴席に着く権利はある。今後のプラントと地球に関係してくるかもしれん」

 

 

 

 真面目なイザークの言葉を聞いて、頭を悩ませるディアッカの二の腕をつかみ、ミリアリアが目を光らせた。

 

 

 

「ねえ、イザーク。私も参加していい?」

 

 

 

「ーーお前な、デートはどうすんだよ? つーか、プラントの議会に部外者のお前がーー」

 

 

 

 ディアッカがはっきりと断わろうとした時、イザークが不敵な笑みと共に言った。

 

 

 

「ーー構わんぞ。むしろ、俺としては部外者のお前に客観的な意見を求めたかった。ミリアリア」

 

 

 

「ーーおい、イザーク!!」

 

 

 

 あっさりと乗り気なイザークにディアッカの目が回る。隣で自分の腕を掴んでいるミリアリアは、これ以上ないくらい魅力的な笑顔を見せた。

 

 

 

「ありがと、イザーク。どっかの否定してばかりの馬鹿者より余程話がわかるわ」

 

 

 

「その何処かの馬鹿者が誰かは分からんが、中々に役に立つ男だ。捕まえて損はないぞ?」

 

 

 

「ーー知ってる」

 

 

 

「だろうなーー」

 

 

 

 不敵な笑みを浮かべ合う2人に、思わずディアッカはゲンナリとする。

 

 

 

 その後、ディアッカはミリアリアに半ば引きずられるように議会に連れて行かれたのだった。

 

 

 

 思い出していると、デュランダル議長の演説は続いていた。

 

 巨大なスクリーンには、2隻の連合の戦艦が並んでいる。ミリアリアの目が鋭く細まった。

 

 

 

「見てください。これが2年前の連合の戦艦『アークエンジェル』と『ドミニオン』です。そしてーー」

 

 

 

 写真に出されたのは、アーモリーワン襲撃の際に現れた黒塗りの戦艦『ガーティールー』。更にベルリンでの戦闘で現れた『アズラエル』と名乗った戦艦だった。

 

 

 

 比べるまでもなく、この4隻の戦艦はよく似ている。

 

 

 

 ざわざわと騒ぎ出す議会。

 

 

 

「この写真をご覧いただければ分かると思います。ーーつまり、セカンドステージ強奪のテロリストも、ベルリンを襲った部隊も連合の。いや、ロゴスの部隊なのです!!」

 

 

 

 ミリアリアとイザークがロゴスの単語にピクリと反応した。

 

 

 

「ロゴスって?」

 

 

 

「ーーロゴス。軍事産業複合体にして、裏からブルーコスモスを操る秘密結社だ。噂の域を出ない正体不明の団体だがーー」

 

 

 

「今回の部隊はロゴスに命じられたブルーコスモスが編成した部隊、か。でもーーおかしいわよね。連合の戦艦とMAはともかく。見たことない無数のMSは、連合にしては技術体系が違い過ぎる」

 

 

 

 傍聴席で堂々と意見交換する2人にディアッカは周りに気を配りながら、胃を痛める。

 

 

 

「なあ、今じゃなきゃダメか? その話し合い」

 

 

 

「馬鹿ね。今だから意味があるのよ。この程度の会話で何かが動くなら、図星もいいところよ」

 

 

 

 ミリアリアの言葉にイザークが続ける。

 

 

 

「普通ならば、あのMSが何処の部隊かを確認するのが最優先のはずだ。だが、議長はブルーコスモスの。ロゴスの仕業だと断定した。連合の戦艦とMAの件で充分だと判断したのか? 今まで慎重だったのに、急きはじめたか」

 

 

 

「もう一つ、あるわ。今の映像は改ざんされてる。後で見せたげるけど、ベルリンの街の戦闘でキラ達アークエンジェルや謎のMSが一騎当千の闘いをしてたのよ。多分、ザフトが先日報じたガンダムファイターってヤツね」

 

 

 

「ふふん、やはり持つべきは友人だな。なあ、ディアッカ」

 

 

 

 やたらと気の合う2人にディアッカはウンザリとした表情になっていた。

 

 

 

「へいへいーー」

 

 

 

「気になるのは、このMAーー。この後、ザフトのMSやらガンダムファイターの機体にそっくりになるのよ」

 

 

 

「はあ? 機体が変わるって?」

 

 

 

「原理は分からないけど、変わったわ。なんだが、不気味なのよね。この部隊ーー」

 

 

 

「…まさか、イザーク?」

 

 

 

 突如、ディアッカの頭に閃くものがあった。

 

 

 

 ユニウスセブンの破壊の際に現れた触手のような緑のコード。

 

 

 

 プラントの巨大な質量を消しとばした機体。アレも光と共に変化していた。

 

 

 

 そう、ガンダムファイトに現れた機体の一つ。

 

 

 

 ゴッドガンダムに。

 

 

 

「デュランダル議長は、何かを知ってる。もしかしたら、アーモリーワンからの一連の出来事も。調べてみる価値はありそうだな」

 

 

 

「協力させてもらうわね。私も故郷がピンチみたいだし」

 

 

 

 イザーク達の話がまとまり、視線を議長に戻すと、彼は更にモニターに映し出した。

 

 

 

 アークエンジェルだ。その戦艦のカタパルトから、テロリストに奪われた機体ーーカオスが飛んだ。

 

 

 

「ーー!! おい、これはーー!!」

 

 

 

「なんで、このタイミングで出しやがった!?」

 

 

 

「ーーこれが、議長のシナリオってワケね。自分にとってアークエンジェルが邪魔になるって判断したのよ」

 

 

 

 ミリアリアからアークエンジェルの加勢を聞いていたイザーク達の目が強張る。

 

 

 

「ご覧ください。アークエンジェル、先の大戦で終戦に導いた船が、まさかロゴスと繋がっていたとはーー」

 

 

 

 デュランダルの言葉に周囲がざわめく。

 

 

 

 彼は更に告げた。

 

 

 

「この争いを止めるため、まず私はロゴスの手先と成り果てたアークエンジェルの排除を宣言しますーー!」

 

 

 

 議会が、大きく揺れた瞬間だったーー。

 

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね〜!!

 プラントからの命令でアークエンジェルを撃たなければならなくなったミネルバ。

 シュバルツとアスランは、ミネルバからの退去を余儀なくされます。

 はたして、シンは?

 キラは、この残酷な運命を受け入れるのか?

 次回! 機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第52話に!

 レディー、ゴー!!


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第52話 水面下で渦巻く邪悪

 みなさん、ギルバート・デュランダルはついにアークエンジェルに対する宣戦を議会で明言しました。

 これを受けて、イザークとディアッカ、ミリアリアはオーブの参謀となったキョウジに連絡を取るのです。

 はたして、彼らがどのような活躍で物語に参加してくるのか

 それでは!

 ガンダムファイト!!

 レディイイイイイッ! ゴォオオオオオオオッ!!

第52話



 

ーープラントにて

 

 

 

 最高評議会の会議を傍聴したイザーク達は、ミリアリアを連れて街のビル内の施設にやってきた。

 

 

 

「ーー? ディアッカ、イザーク。ここは何なの?」

 

 

 

「ここは、クライン派と呼ばれる連中が昔使っていたアジトでな。今は俺専用で政治絡みの機密情報をやり取りするために使っている。オーブのバルトフェルド隊長とな」

 

 

 

 ミリアリアの問いかけにディアッカは頭を抱えていた。答えたのは、隣のイザークだった。

 

 

 

「ーー! だから、バルトフェルドさんがユニウスセブンのシュバルツさんの活躍を!」

 

 

 

 ミリアリアは何か納得したような表情になる。

 

 

 

「ーーああ、そういうことだ。今度はこちらの質問だ。何故お前がそれを知っている?」

 

 

 

「? それ?」

 

 

 

「バルトフェルド隊長がシュバルツ・ブルーダーがユニウスセブンを破壊したことを知っていることだ」

 

 

 

 イザークの言葉に、ミリアリアはクスリと笑った。

 

 

 

「キラが、そんなこと知るはずないものね。ラクスから教えてもらった、てのはどう?」

 

 

 

 ディアッカが朗らかに笑うミリアリアに不安げな表情で問いかける。

 

 

 

「ーーミリィ、お前。一体、誰の指示で俺に会いに来たんだ? いや、俺達に」

 

 

 

「ーー何、情けない顔してんのよ。あんたに会いに来てやったのは仕事じゃないから、安心して」

 

 

 

「ば、馬鹿! そんなんじゃねーよ!」

 

 

 

 ミリアリアの茶目っ気たっぷりの笑顔にディアッカは頬を真っ赤に染める。

 

 

 

「ということは、その仕事とやらの一環で、俺に会いに来たのか?」

 

 

 

「ーーええ。デュランダル議長の本性が知りたくてね。私も半信半疑だったんだけど。その人の指示で貴方達に出会ったら、見れるって言われたのよ」

 

 

 

「そいつは、議長がこのタイミングで議会を開くのを見抜いていたのか? しかも、その内容まで。事実だとすれば悪魔的な洞察力だ」

 

 

 

 ミリアリアの言葉にイザークの表情が青くなる。

 

 

 

「事実、悪魔的よ。彼は、その頭脳と能力でオーブを何度守ったかわからないわ」

 

 

 

「ーーお、おい! それって」

 

 

 

 ミリアリアの言葉に、ディアッカが大きく目を見開き、イザークも得心したと笑みを浮かべる。

 

 

 

 ミリアリアは、静かに机に置かれたパソコンの前に座る。

 

 

 

「イザーク。この端末、使っていい?」

 

 

 

「ーーふふふ。議長に一泡吹かすためにも、いずれ協力を申し出たい相手だった。バルトフェルド隊長から聞いているぞ。オーブの参謀にして守護者の名を」

 

 

 

「イザークなら、そう言ってくれると思ったわ。ディアッカ、あんたも覚悟はいいわね?」

 

 

 

 ミリアリアの言葉に、ディアッカが表情を歪めながら問いかける。

 

 

 

「一応、聞いていいか? 今から何をする気なんだ? つーか、考える時間とかないのかよ!?」

 

 

 

「この私と一緒にいられるのよ? なんか問題あんの?」

 

 

 

「もっと、平和かつムードのある場所で好きな女と一緒にいたいんだよ!!」

 

 

 

「じゃあ、この後で」

 

 

 

「嘘つけぇぇぇええっ!!」

 

 

 

 絶叫するディアッカの隣でイザークが腹を抱えて愉快そうに笑っている。

 

 

 

「く、くくく。良かったじゃないか、ディアッカ。念願が叶って。は、腹が痛い…!!」

 

 

 

「お前もザフト抜けなきゃならなくなるかも知れない状況で、笑ってる場合か!?」

 

 

 

「ん? こんな退屈な任務しか与えられない飼い殺し状態の軍に何の未練もないぞ? ハーネンフースなら上手く部隊を纏められるだろうしな」

 

 

 

 ディアッカの抗議にイザークは笑みを引っ込め、背筋を伸ばして真面目に答えた。

 

 

 

「お、お前、シホの気持ち分かってんのか?」

 

 

 

「ーーああ、お前がやたらと気に入らないようだな」

 

 

 

「ーーぐ、ぐれいと〜」

 

 

 

 シホが何故ディアッカを嫌っているのかを理解できていないイザークに。やはり、相方は軍人バカだったとディアッカは思い知った。

 

 

 

 そしてミリアリアは、モニターに一人の青年との通信を繋げた。

 

 

 

「ミリアリア、早かったね。彼らが?」

 

 

 

「ーーはい、イザーク・ジュールにディアッカ・エルスマン。プラントの防衛部隊の中でも、キラやアスランに匹敵するエースパイロット達です」

 

 

 

「ーーはじめまして。キョウジ・カッシュです。君たちのような先の大戦の英雄に出会えて光栄だ」

 

 

 

 穏やかな表情で語る青年にイザークとディアッカがやはりと頷く。

 

 

 

「なるほど。貴公があのシュバルツと双璧をなす、オーブの守り神か」

 

 

 

「話は聞いてるぜ。不可能と思われる作戦を立ち上げては見事に成功させる奴だってな」

 

 

 

 二人からの言葉にモニターの中の青年は肩を少し竦めて気さくに笑った。

 

 

 

「そんな大層なことはしてないさ。オーブの戦力あってのことだしね」

 

 

 

「なるほど。

 

 貴公はやはり、あのシュバルツの相棒だな。能力や強さに溺れず、自分が何をすべきかを考えている。

 

 しかしーー、だからこそ疑問だ」

 

 

 

 イザークは初め、賞賛するように話しかけていたが、やがて瞳を鋭くして話しかける。

 

 

 

「何がかな?」

 

 

 

「貴公は、オーブにいるだけで議長が議会を開くタイミングや内容を言い当てた。なのに、ベルリンの作戦は見抜けなかったのか?」

 

 

 

「ーー」

 

 

 

「仮に気づくのが遅れたとしよう。しかし、シュバルツの能力と貴公の洞察力があれば、まず出し抜かれることはあるまい。単刀直入に聞く。何故、そうしなかった?」

 

 

 

 鋭く真っ直ぐにキョウジを見つめるアイスブルーの瞳をキョウジもまた、真っ直ぐに見返してきた。

 

 

 

「下手な言い訳をしないでもらおう。確かに貴公にはオーブの参謀としての役割がある。外交面と軍事面の双方で貴公はオーブから離れるわけにはいかない。おまけにその仕事量も膨大なはずだ。だがーー」

 

 

 

 イザークは鋭い瞳のまま口調を詰問風にする。

 

 

 

「それはあくまで、この世界の技術に則ったやり方だからだ。バルトフェルド隊長から聞いているぞ、貴公は別の世界の人間だ。その技術を使えば、もっと早く効率的に、仕事を回せるはずだ。そして空いた手で、デストロイやロゴスの情報を手に入れられたはず。現に今、あんたはミリアリアに確信をもって議会が開くことを告げている!」

 

 

 

「ーー」

 

 

 

「何故、あの慎重な議長の行動を予測し発言さえも見抜く男が、あれだけ派手なロゴスの船の行動を予測できなかったのか。いや、予測していたのに防がなかったのか。確かに貴公とシュバルツは全力を尽くしたのだろう。だが、あくまでそれは個人レベルの全力だ。

 

 それだけでも十分すぎる力を持つからこそ、普通は見逃してしまうだろうが、俺はそうはいかん。あんたとシュバルツが密に連絡を取り合っていれば、この世界に起こる事件のほとんどを防げるーー違うか、キョウジ・カッシュ!?」

 

 

 

「それはーー」

 

 

 

「買い被りなどとは思わんぞ、俺は。ミリアリアをここに寄越したのはアンタだからな」

 

 

 

 イザークはまるで挑むかのようにキョウジを睨みつけていた。互いに黙って相手の目を見つめる。

 

 

 

 イザークの言葉に、キョウジは穏やかな表情を真剣なものに変えてジッとイザークを見ている。

 

 

 

「最初に言わせてもらう。俺は神様じゃない、俺ひとりの力には限界がある。勿論、シュバルツもだ」

 

 

 

「ーーっ! 買い被りだと? そう言いたいのか?」

 

 

 

「仮に、君の言葉のとおりだとしても俺は今のやり方を変える気はないよ」

 

 

 

 キョウジの言葉にイザークは眦を吊り上げ、机をたたいた。

 

 

 

「ふざけるな!! 何人死んだと思っている!? 民間人だぞ!!!!」

 

 

 

「戦争で人が死ぬのは当たり前、じゃないのかい?」

 

 

 

「防げる犠牲なら防ぐのが軍人だろうが!!」

 

 

 

「ーー不測の事態もあるさ」

 

 

 

 肩をすくめるキョウジをイザークは睨みつける。

 

 

 

「勘違いしないでくれ。確かに裏でウルベという男が関与しているのは予測できていた。その情報についてはシュバルツには伝えてある。そしてシュバルツと同等の実力を持つマスターアジアも協力してくれた。ここにアークエンジェルとミネルバが加わった。その結果がアレだ」

 

 

 

「……ベルリン基地を守れただけでも奇跡だというのか? あの物量を覆す部隊でさえ、それがやっとだと言うのか?」

 

 

 

 後ろからディアッカがイザークの肩を制しようと手を伸ばすのを、ミリアリアが止めた。

 

 

 

「ーーミリィ?」

 

 

 

「イザークも分かってるわよ。信じたげなさいよ、親友なんでしょ?」

 

 

 

「ーーああ」

 

 

 

 拳を握りしめ、歯を食いしばるイザークはまるで自分を責めているかのような表情だった。

 

 

 

 キョウジはその目を決して逸らさない。

 

 

 

「--俺は、かつて民間人を殺めたことがある」

 

 

 

 イザークの唐突な言葉に、キョウジは眉を上げながらも静かに聞いている。

 

 

 

「脱走兵だと勘違いして撃ったが、どちらでも同じだ。あれはただの八つ当たりだった。自分のプライドの為に、戦う意志のない人間を殺した」

 

 

 

 静かな言葉はしかし、彼を知るディアッカやミリアリアにはよく分かる。

 

 

 

 彼は忘れていないのだ、あの時の自分の暴挙を。

 

 

 

 その時の犠牲のことを。

 

 

 

 未だ、キラの心に楔となって存在する事実は、イザークにとっても重い疵であった。

 

 

 

「その時の罪滅ぼしなど、今になって出来る訳がない。たとえベルリンの街や、そこに行くまでに出た犠牲者たちを守れたとしても、俺が殺した事実は変わらない。それでもーー!」

 

 

 

 彼の心の中には、緑の髪をした少年がピアノを弾いている姿がある。

 

 

 

「それでも、こんな真似を俺は二度と見逃すつもりはない!! キョウジ・カッシュ、あんたと組めば議長やロゴス共を止められるのか!? こんな悲惨な戦場を失くせるのか!? そこをはっきりと答えてもらおう!!」

 

 

 

「君の理想どおりの結末を迎えられるかは、分からない。だがーー」

 

 

 

 キョウジとイザークは互いに目をそらすことなくーー腹を割って語り合う。

 

 

 

「君たちと俺たちが組めば、議長の企みを止める切り札となる。これだけは確実に言える」

 

 

 

「ーー切り札、か。飼い殺しよりは余程、俺の目的に合いそうだな」

 

 

 

 キョウジは改めてイザークを、そしてその後ろに立つディアッカを見つめる。

 

 

 

「頼む。君たちの力を貸してくれ。俺だけの力では限界がある。俺やシュバルツにも守らなければならないものがあるんだーー! だから、頼む。君たちの力を俺にくれーー!!」

 

 

 

 ディアッカが笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「俺の意思は決まったぜーー! イザーク、お前はどうすんだ?」

 

 

 

「ふん、決まっている。よろしく頼むぞ、キョウジ・カッシュ!!」

 

 

 

 イザークも不敵な笑みを浮かべて、キョウジに力強く答えた。

 

 

 

「こちらこそ、よろしく。個人的に君たちとはーー特にイザークとは仲良くなれそうな気がするよ」 

 

 

 

「そりゃ、すげぇな。こいつの扱いづらさは半端じゃないんだぜ?」

 

 

 

 ディアッカが茶化すのをキョウジはにこりと笑って言った。

 

 

 

「俺の弟に似ている気がしてねーー」

 

 

 

「勝手に弟扱いをするなーー! 俺は一人っ子だ!!」

 

 

 

「それはすまないね」

 

 

 

「ーー笑うな、馬鹿にしているのか!!」

 

 

 

 二人のやり取りはどこか、本当の兄弟のようだったと、後にディアッカは語るーー。

 

 

 

 ひと段落が付いたところで、ディアッカが問いかけた。

 

 

 

「それで、さしあたって俺たちは何をすればいいんだ?」

 

 

 

「君たちにしてもらいたいのは、三つある。優先順位は君たちに任せる」

 

 

 

 キョウジはそう言うと、指を三つ立てた。

 

 

 

「一つ、行方しれずになった廃棄コロニー。こちらではプラントというのだったね。それを探してほしい。名を「メンデル」」

 

 

 

「メンデルだって? メンデルもユニウスセブンのように周期を離れたって言うのか?」

 

 

 

 ディアッカの言葉にキョウジはコクリと頷いた。

 

 

 

「つい先日、ラクスがメンデルの潜入に成功したんだが、その後にこちらからも調査団を派遣したんだ」

 

 

 

 これにイザークも目を丸くした。

 

 

 

「メンデルは正体不明の集団が根城にしていて、中に入るのは困難だとクライン派の連中から聞いていたが、よく入られたものだ」

 

 

 

 ミリアリアも横でうなずきながら答える

 

 

 

「ラクスって昔から無茶するところあったしね。でも、そのおかげで強力な助っ人にも出会えた」

 

 

 

「ドモン・カッシュだな。あんなに強いんなら確かにラクスの一人や二人くらいなら余裕で守れるんじゃね?」

 

 

 

 ディアッカの言葉にイザーク、ミリアリアも頷く。

 

 

 

「けど、ラクス達がメンデルに入ったのって、今からわずか一週間足らず前のことだろ? その間に周期が変わったってのか?」

 

 

 

「あの巨大な質量がこの短期間で移動するなど、あり得ない話だ」

 

 

 

 ディアッカにイザークも続ける。これにキョウジがジッと彼らの目を見ながら言った。

 

 

 

「君たちはユニウスセブンで見てるんじゃないのか? からくりの正体を」

 

 

 

「「ーー!!」」

 

 

 

 ふたりの目が大きく見開かれる。彼らの頭の中によみがえったのは、不気味な触手が生えたメンデルの地表。

 

 それに取り込まれ、不死身となった部下やテロリスト達だ。

 

 

 

「まさか、メンデルには、あの化け物がいるのか? ではーー!!」

 

 

 

「そろそろ教えてくんねえか? デビルガンダムってのは何なんだ? バルトフェルド隊長からは、危険な兵器としか聞いてねえんだが」

 

 

 

 イザークとディアッカの言葉にキョウジも頷いた。

 

 

 

「俺の世界で作られた地球再生の為のガンダムさ、元はな。だがプログラムが狂っている。本来のDG細胞とはあらゆる環境下でも活動できる生物的要素の三大理論「自己進化・自己再生・自己増殖」を持つ金属製ナノマシンの名称さ。これにより汚染物質の分子レベルでの除去などを行い、地球の浄化をするはずだった」

 

 

 

「だったーー?」

 

 

 

 ミリアリアが眉をひそめながらキョウジに問いかける。

 

 

 

「プログラムが狂ったと言っただろう? そのせいであらゆる構成物を自身の支配下に置く存在に変わったんだ。これに感染したものは、凶暴さや闘争本能が拡大化し、脳まで浸食された場合はDG細胞に全身を侵されてゾンビになってしまう」

 

 

 

「ベルリンに現れたあの無数のMSのパイロットは、元は人間だったゾンビの兵士ーー?」

 

 

 

「ああ。そして、重要なことはもう一つ。この細胞は死者をよみがえらせることができる」

 

 

 

「「「ーー!!」」」

 

 

 

 全員がキョウジの発言に衝撃を受け、なにも言葉を発せない。

 

 

 

「もっとも、俺の知っているDG細胞と今のDG細胞は若干仕様が違うようだ。もともとのDG細胞はあくまでデビルガンダムの支配下にあった。それがどんな人間だろうと同じだ。だが、今のDG細胞にはデビルガンダムの支配力がない」

 

 

 

 キョウジはDというデビルガンダムが自我を得た赤い髪の写し身を思い返し、言う。

 

 

 

「今、DG細胞を支配しているのはギルバート・デュランダルとウォン達だな」

 

 

 

「そのメンデルにはなにがある?」

 

 

 

「おそらくだが、デビルガンダムは自分の体を二つに分けている。戦闘に特化した今の姿を本体とするならば、それとは別に無駄と判断して切り離された機体があるはずだ」

 

 

 

「メンデルにはその切り離された不要なDG細胞の塊がある、と?」

 

 

 

 イザークの言葉にキョウジは表情を苦いものに変えて言った。

 

 

 

「ーーいや、おそらくデュランダルの作り出しているDG細胞製のMSーーゴッドガンダム擬きーー達は、その切り離された機体で作り出されているんだろう。そしてソレはメンデルを単機で移動できるように作り替えた」

 

 

 

 キョウジの説明にミリアリアが天を仰いだ。

 

 

 

「ちょっと、想像が追いつかないわね」

 

 

 

「いや、俺たちにはわかる。ユニウスセブンの戦いで現れた緑色のコードは確かにプラント全体を侵していた」

 

 

 

「アレの本体がメンデルにあるんなら、急いで潰さねぇとやばいぜ!!」

 

 

 

「何より、あの触手には借りがあるからな。その親玉ならば叩き潰してやらねば気が済まん。よし、最優先事項にする!!」

 

 

 

「おいおい、まだ二つ目と三つ目を聞いてないだろう。……ったく」

 

 

 

 鼻息を荒げる相棒にやれやれとディアッカは肩を落としながら、つぶやく。

 

 

 

「すまないが、破壊は無理だ。戦略級兵器でも完全に消滅しきることができなければ、二度目は無傷になるよう、あれは進化していく」

 

 

 

「ま、マジかよ……!!」

 

 

 

「場所の特定だけを頼みたい。その上で余力があれば敵のゴッドガンダム擬きの機体を捕獲してもらえないかな?」

 

 

 

 キョウジの言葉につまらなさそうにしていたイザークの顔がニヤリと笑う。

 

 

 

「任せておけーー。俺もあの機体を手に入れてみたかった」

 

 

 

「ーーったく。ま、しょうがねぇな」

 

 

 

「それでキョウジさん、二つ目はなんですか?」

 

 

 

 ディアッカとミリアリアの言葉にキョウジが一つ頷くと

 

 

 

「二つ目は、プラント内の情報収集だ。プラントの市民達には今回の戦争がどのように報道されているのか、世論調査はどうなのか、議会の内容等を把握して報告してほしい」

 

 

 

「私の得意分野ですねーー!」

 

 

 

 ミリアリアの瞳がきらきらと輝く。ディアッカがその横から話しかけた

 

 

 

「それで、最後の三つ目は?」

 

 

 

 キョウジがここで不敵な笑みを作った。

 

 

 

「デュランダル議長が把握しているオーブの政治家セイラン家とロゴスの癒着に関する情報を調べてほしい」

 

 

 

「それは、オーブ自身の話だろう? アンタでもわからないのか? バルトフェルド隊長からも聞いているだろう?」

 

 

 

「聞いているが、調べようにもオーブの政治家のほとんどがセイラン派なんだ。今はカガリが実権を握っているが、カガリは国民の支持はあっても政治家達の支持がない」

 

 

 

「よくそれで、政治が滞らずにやれているな」

 

 

 

 イザークが感心したような声をあげるが、キョウジは首を横に振った。

 

 

 

「ほとんど鎖国状態にして、貿易できる所を限定している。でないととてもじゃないが、処理できない」

 

 

 

「なるほど、オーブは自給力があるからな。最低限の生活ならばできる、か」

 

 

 

「だが、オーブという国自体の政治を行うのであれば有力な政治家であるセイラン家を排除すると一気に政治にまとまりがなくなる。下手すれば、国は崩壊しかねない」

 

 

 

 キョウジの言葉にイザークがギリギリと歯ぎしりし始めた。

 

 思い出すのは、青みがかった黒髪の同僚だ。

 

 

 

「あ、の、役立たずの甲斐性なしめが。二年もの間、なにをしていたんだ……!!」

 

 

 

「それを言ったら、ラクスやキラも同じだろ」

 

 

 

「馬鹿者、ラクス様は一線を引きキラ・ヤマトと幸せになられたのだ。ソレでよい!!

 

 だが、アスランは国家代表であるカガリ・ユラ・アスハの恋人なんだぞ! ボディガードだけで結婚できるわけないだろうが!!

 

 そもそも、あいつがザフトで権力を持っていれば、ラクス様の偽物やらデュランダル議長があそこまでのさばらなかったんだぞ!!」

 

 

 

 イザークの言葉にディアッカが圧倒されていると、隣でミリアリアがうんうんと頷いていた。

 

 

 

「……その言葉、本気であの馬鹿に聞かせてあげたいわね」

 

 

 

「話、続けていいかな?」

 

 

 

「あ、はい! どうぞ!!」

 

 

 

 キョウジは気を取り直し、表情を新たなものにすると続けた。

 

 

 

「アークエンジェルを倒すと言った議長だが、攻撃を開始するには手札が不足している。そもそも、議長がなぜアークエンジェルを邪魔だと判断しているのか」

 

 

 

 これにディアッカが答えた

 

 

 

「自分の思い通りにならないからだろ。アークエンジェルはいつだって自分の信じる道を行くからな」

 

 

 

「それもあるが、利用できるなら利用するだろう。彼は今回、アークエンジェルを悪にすることで自分を正義だと主張している」

 

 

 

「そんなん戦争すれば皆、そうじゃないのか?」

 

 

 

「思い出してくれ。彼は戦争を仕掛けられた時、アーモリーワンの頃に慎重に行動するよう告げていた」

 

 

 

「その後のユニウスセブンの時も、だな」

 

 

 

 キョウジの言葉にディアッカ達もうなずきながら深刻な表情に変わる。

 

 

 

「向こうから一方的に殴ってきたときは、なにも言わずに殴らせておいて。協力してきたアークエンジェルを悪と呼び叩き潰そうとする、か」

 

 

 

「……不思議ね。カオスガンダムの件があったとしても、今回は協力して闘ってベルリンの街を守れたんだし」

 

 

 

「現場の兵士達は納得しないだろう。アークエンジェルに命を救われたようなものだからな」

 

 

 

 キョウジは考え込む三人に対し、告げた。

 

 

 

「だからこそ、ロゴスとオーブとの繋がりを日の下に晒したいんだろうね。セイラン家はオーブの政治の実権を握る古参の家、そいつがロゴスと通じていれば。

 

 戦争を仕掛けるにはこれ以上ない切り札だろう? なんせザフトとロゴス、どちらとも通じているんだ。戦場を混乱させかねない。

 

 信じられない味方ほど、厄介な敵はないからね」

 

 

 

 三人はさらに熟考する。

 

 

 

「ちゃんと考えたら、矛盾も見えてくるけど。プラントの人たちは事実を歪曲されている」

 

 

 

「俺たちはクライン派やバルトフェルド隊長との繋がりがあるから、惑わされずに済むがーー」

 

 

 

「ほかのザフトの一般部隊には無理だな。よく考えてるぜ」

 

 

 

 それぞれの答えにキョウジは一つ頷くと、続けた。

 

 

 

「だからこそ、君たちにはデュランダルがどのような情報を得ているかを調べてほしい。俺はオーブの参謀と言われてはいるが、正直内側を見ている暇がないんだ」

 

 

 

「ーーわかった、引き受けよう」

 

 

 

「ありがとう。イザーク、ディアッカ、ミリアリア」

 

 

 

 こうしてイザーク達三人は、キョウジからの極秘任務を遂行するため行動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

ーーオーブ本国にて

 

 

 

 会議室でミリアリア達との通信を終えて、一息つくキョウジにカガリが血相を変えてやってきた。

 

 

 

「大変だ、キョウジ!! プラントから、デュランダル議長から要請があった!!」

 

 

 

「落ち着いて。用件は?」

 

 

 

「私にプラントに来て説明しろ、とのことだ。今回のアークエンジェルにカオスガンダムが載っていたことと、セイラン家とロゴスとの癒着に関する説明を直接聞きたい、と。従わなければ、我々に対し宣戦布告すると言ってきたーー!」

 

 

 

 キョウジの瞳が鋭く細まった。

 

 

 

 

 

ーープラント・デュランダル執務室

 

 

 

 ギルバート・デュランダルはモニターに映るアークエンジェルとアズラエルの戦いを見ながら静かにつぶやいた。

 

 

 

「始めようか。私の望む未来と、君たちの未来。どちらが皆が望む未来かをーー」

 

 

 

 薄暗がりの部屋で、デュランダルは冷たくほほ笑む。

 

 

 

 世界は、一気に動乱を迎えようとしていた。

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね~!!

 デュランダルに呼び出しを受けたカガリに、キョウジも同伴します。

 プラント最高評議会議長との会談の席で、デュランダルとキョウジの頭脳ファイトが始まるのです。

 一方、ドモンはDと共に新たなる境地へ足を踏み出そうとしているではありませんか!!

 次回! 機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第53話に!

 レディー、ゴー!!



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第53話 ぶつかり合う才と才

 皆さん、デュランダルからの宣戦布告にカガリはキョウジを伴い、プラントに上がります。

 一方、ドモンとDは果てなき強さを求め、より高みに達する為に修行を開始するのです!!

 それでは、ガンダムファイト!

 レディイイイイッ!! ゴォォォオオオッ!!




 

ーーーープラント、ラクス・クライン邸にて

 

 

 

 ギルバート・デュランダルによって作られたラクスことミーア・キャンベルは今、焦っていた。

 

 

 

 自分の家として用意されたラクス・クライン邸に自分が憧れたオリジナルのラクスがいることに。

 

 

 

 そして、彼女が鼻歌混じりに朝食を作っているのを見て、寝ぼけまなこを大きく見開いて叫んだ。

 

 

 

「ラクス様が、そんなことしないでください! あたしがやりますから、ラクス様!!」

 

 

 

 焦って声をかけると、当のラクスはフライパン片手にベーコンエッグを作りながら、ミーアに笑いかけた。

 

 

 

「無理を言って泊めさせていただいたんですもの、このくらいは当たり前ですわ。やらせてくださいな」

 

 

 

「ーーで、でもぉ」

 

 

 

 本気で困った顔をしているミーアにラクスが微笑みながら言った。

 

 

 

「では、一緒に作りましょう。量がいるみたいですから」

 

 

 

「ーーえ? 量??」

 

 

 

「お外で、ドモンさんとDさんが組み手をしてるんです。お腹をいっぱい空かせて来ると言ってましたから、大量にいると思いますわ」

 

 

 

「ーーど、どれだけ食べるつもりなんでしょう?」

 

 

 

 表情を引きつらせながら言うミーアにラクスも困ったような表情で笑うと言った。

 

 

 

「ーーさあ? けれど気持ちよく食べてくださいますわ。きっと」

 

 

 

「が、頑張ります」

 

 

 

 ミーアは気合いを入れ、ラクスの隣に立つとキャベツを切り始めた。

 

 

 

 

 

 一方、ドモンとDはL4と呼ばれる宇宙宙域のデブリ帯に居た。

 

 

 

 ゴッドガンダムは両腕を組んで、隕石の群れの一つに静かに立つ。

 

 

 

「うおおおおおおおっ!!!」

 

 

 

 その周りを無数のデビルガンダムが取り囲みながら拳を、蹴りを繰り出してくる。

 

 

 

 ゴッドガンダムは泰然としてゆるぎない。

 

 

 

 迫りくる攻撃にゴッドガンダムは静かに組んでいた両腕を離す。

 

 と同時にドモンがカッと目を見開いた。

 

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 

 気合い一閃。

 

 

 

 ゴッドガンダムは隕石の上で強烈な踏み込みと共に右の肘打ちを何もない空間に向かって放った。

 

 

 

 同時、炸裂音が響きわたり弾き飛ばされるデビルガンダムの巨体。

 

 

 

 超スピードから生み出される無数の残像、それに目もくれずドモンは目にも映らないデビルガンダムの本体を見切り、肘打ちでカウンターを決めたのだ。

 

 

 

 デビルガンダムはデブリ帯に広がる巨大な隕石の一つに背中から当たりそうになるや、寸前で姿を消した。

 

 

 

 これを見ると、ゴッドガンダムはその場で自分の左側に右の正拳突きを放つ。

 

 

 

 すさまじい衝撃音と共にゴッドの右拳を受け止めるゴツイ右手が現れた。

 

 

 

 一瞬後、目と鼻の先にデビルガンダムが立ちゴッドガンダムを見下ろしている。

 

 

 

「どうした? お前の腕はこの程度か、D!?」

 

 

 

「フンーー! 笑わせるなよ、ゴッドガンダム!!」

 

 

 

 デビルガンダムは左の拳を握ると同時に上背のある頭上から、ゴッドガンダムの顔面に目掛けて振り下ろす。

 

 

 

 眼前で左手一本で受け止めるゴッドガンダム。

 

 

 

 見上げるゴッドガンダム、見下すデビルガンダム。

 

 

 

 互いにパワーを絞りあい、動かない。

 

 

 

 同時に膝蹴りを繰り出し相殺、すると同時にその場で足を止めての拳と蹴りの繰り出しあい。

 

 

 

 一つ一つが、空気の無い宇宙空間に衝撃波を振動させる。

 

 

 

 ゴッドガンダムとデビルガンダムは互いに拳や蹴りを交わしながら、徐々にその全身に白い炎のようなオーラを纏っていく。

 

 

 

 エネルギーの出力が徐々に、しかし明らかに桁を越えていく。

 

 

 

 強烈な右の回し蹴りが両者の中央でぶつかり、距離が離れる。

 

 

 

「たぁあああああったぁ!!」

 

 

 

「うぅおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 両者、腰だめに両手をたわめて同時に前方に突き出す。

 

 

 

 真紅の熱戦と青紫の光線がぶつかりあい、互いに向かって押し合う。

 

 

 

「まだまだぁあ………!!」

 

 

 

「なめるなぁあああっ!!」

 

 

 

 押しつ押されつ、赤と紫の強烈なビームは太さを増し、威力を増し、やがてデブリ帯の一角を消し飛ばしながら爆発して相殺した。  

 

 

 

 体格差をものともしないゴッドガンダムのパワー、デビルガンダムのスピード。

 

 

 

 両者の基本性能は五分と五分。

 

 

 

 後は、ファイター次第である。

 

 

 

「ーー! す、凄すぎるーー、データなんか取っても意味ないんじゃないか。これーー」

 

 

 

 これを見るのはエターナルに乗るマーチン・ダコスタだった。

 

 

 

 彼はエターナルにゴッドガンダムとデビルガンダムを乗せ、当人たちの希望通りに暗礁宙域にまで運んだのが、そこで再び人智を越えたバトルが展開されていた。

 

 

 

 はじめは、記録映像を残しつつデータを取るつもりだったが余りにもレベルが違い過ぎる戦いに、この世界のMSに応用するのはまず不可能であると判断していた。

 

 

 

 この宙域にデュランダルの監視艦は存在しない。

 

 

 

 ドモンからは、これだけを告げられていた。

 

 

 

「誰もいないところの方が、俺もDも修行に専念できる。ダコスタ、お前もその方が都合がいいだろ?」

 

 

 

 ダコスタは思う。

 

 

 

 何も考えていないようで、彼ーードモン・カッシュの行動は実は理に適っている。

 

 

 

 ここからならば誰に盗聴されることなく、ザフトで暗躍するイザーク達と連絡が取れるだろう。

 

 

 

 さすがに地球のオーブ本国やアークエンジェルのバルトフェルドまでは無理だろうが。

 

 

 

 Dを強化することに何の疑問も感じないわけではないが、これを主たる目的にすることでデュランダルたちの目を欺くことに一役買っている。

 

 

 

(デュランダル議長の前で、ドモンさんはあくまで自分勝手にふるまって見せていた。アレは多分、本人の性格だけではない。

 

 ドモン・カッシュは強敵以外に興味はない、というブラフを議長に植え付けるためだったんだ。--いや、ブラフは言い過ぎだけど)

 

 

 

 目の前の激戦を繰り広げている両者は、楽しそうに目をギラギラさせ、口元を歪ませている。

 

 

 

 少なくとも、今の彼らには目の前の相手以外は映っていない。

 

 

 

 純粋に戦いを楽しんでいる。

 

 

 

「ーーなんだろうな。非効率的なことしてる気もするのに、羨ましいと思ってしまうのは」

 

 

 

 ダコスタには、これほどの戦いを行いながらも絶えず笑みを浮かべる二人の戦士が眩しく映る。 

 

 

 

 しばらく彼は通信の手を止め、両者の戦いに見入っていた。

 

 

 

「どうやら、力と技の使い方を覚えてきたようだな」

 

 

 

 満足気味に笑うドモンに、Dも不遜に笑い返す。

 

 

 

「ゴッドガンダムよ。そうやって、いつまでも見下していろ。今に目にものを見せてくれる!!」

 

 

 

「そいつは、楽しみだ。ならば、次は明鏡止水でいくぞ!! ついてこい、D!!」

 

 

 

「望むところだ!!」

 

 

 

 両者、同時に両拳を腰において構える。

 

 

 

 瞬間、闇の中で黄金の輝きが二つ、生み出される。

 

 

 

 その光は神々しく、宇宙の闇を照らし出すかのようだった。

 

 

 

 日輪を背にし、ハイパーモードと化したゴッドガンダムは、同じく翼を上に展開してハイパーモードと化したデビルガンダムを睨みつける。

 

 

 

 両者は、トリコロールだった全身を黄金に変え、圧倒的な力と光を纏って宇宙を疾駆するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーオーブ本国にて

 

 

 

 トダカとババは今しがた宇宙に上がったシャトルをアスハ派の施設から見据えながら語る。

 

 

 

「カガリ様は、大丈夫なのでしょうか?」

 

 

 

「キョウジ殿が一緒に行かれたのだ。問題はないだろう。あるのは、本国の方だ」

 

 

 

 トダカは憂鬱そうに語った。

 

 

 

 無理もない、オーブの政治のほとんどをキョウジの指示で行っていたのだ。

 

 

 

 彼がいなくなれば、軍人が本職である彼らにはマニュアルどおりのことしかできない。

 

 

 

「このタイミングでのプラントからの呼び出しに、何故キョウジ殿は応じたのでしょう?」

 

 

 

「おそらく、不穏分子を炙り出すためだろうな」

 

 

 

 ババが、理不尽と言えるプラントからの面談に応じたキョウジの考えが分からず、首をひねるとトダカが答えた。

 

 

 

「不穏分子、セイラン家ですか? 本当にロゴスとつながって?」

 

 

 

「証拠もないのに、あれだけ強くは言えんだろう。キョウジ殿の目論見では、ギルバート・デュランダルはアークエンジェルを亡き者とすることで、世界の支持を自分に集めようする算段があるようだ。そのためにセイラン家を利用しようというのだろう」

 

 

 

 トダカが頷きながら答える。

 

 

 

「……セイラン家とロゴスが癒着している。その証拠をプラントが持っているのだとすれば、用意周到ですね。このタイミングで出せば、プラントからオーブを責める口実を与えることにもなりかねない。

 

 でも、何故デュランダル議長はそうまでして、世界の支持を得たいのでしょうか?」

 

 

 

「分からん、キョウジ殿ならば何かを感づいているのかもしれんが。あの方は基本的に危機が迫った状態でなければ自分の考えを迂闊な憶測だと言い、話してくれない」

 

 

 

「困った方だ。もっとも彼の推測が正解、と安易に考えてしまう我々も問題ですがーー」

 

 

 

 ババの言葉にトダカも頷く。

 

 

 

「だからこそ、キョウジ殿は必要以上の言葉を言わないのだろう。我々が思い込みで縛られないために」

 

 

 

「つくづく、彼には頭が下がります。ずっとオーブに居てくれれば良いのですがーー」

 

 

 

「とりあえず、今はオーブの希望たるカガリ様を守り抜いてくれるだろうさ。ギルバート・デュランダル議長は危険な男だ。しかし、キョウジ・カッシュが彼に劣るとは、私にはどうしても思えん」

 

 

 

「ーー私もです。だからこそ、このタイミングでもカガリ様と二人で行くことを見送ることができる」

 

 

 

 キョウジは行く前にノートパソコンと書類を入れたケースを持っていた。

 

 彼曰く、備えあれば憂いなし、との事だ。 

 

 

 

 空を見上げる二人の目には、キョウジがデュランダルを打ち倒す姿が浮かんでいた。

 

 

 

ーープラント本国

 

 

 

 オーブの輸送艦に操縦士等を残して、一人の少女と男が足を踏み入れた。

 

 

 

 彼らはギルバート・デュランダル議長の私室に複数人の案内を受けながら通された。

 

 

 

 カガリ・ユラ・アスハとキョウジ・カッシュである。

 

 

 

「よく来てくれましたね、姫。さあ、そちらにおかけください」

 

 

 

 穏やかな笑顔でギルバート・デュランダル議長はカガリ達を迎えた。

 

 

 

 彼の両隣には金髪の秘書と黒髪の緑服のザフト軍人がいる。

 

 

 

「ーー来なければ、宣戦布告すると言っていたくせに。随分と慇懃な態度だな」

 

 

 

「申し訳ありません。ですが、事実を事実として述べたまでです」

 

 

 

 皮肉交じりに告げるカガリにデュランダルは意にも介さず、言葉を返した。 

 

 

 

「事実だと!? オーブやアークエンジェルが、ブルーコスモスやロゴスと通じている訳がないだろう!!」

 

 

 

 即座に眦を吊り上げて答えるカガリに、苦笑を浮かべてデュランダルは返した。

 

 

 

「ですが現実に『アーモリーワン』で奪われたカオスガンダムが、アークエンジェルから出撃したのを見れば一目瞭然ではありませんかな? おまけにセイランがブルーコスモスの一派と癒着している事実もね」

 

 

 

「カオスガンダムに関しては、捕虜として我が軍に投降してきたんだ! ベルリン基地を守るためにも協力してくれるとのことだった! だから、アークエンジェルと共にベルリン基地の救援に向かったんだ!!

 

 我々は、ロゴスとは無関係だ!!」

 

 

 

 強気に発言するカガリに対し、デュランダルは静かに秘書を見つめた

 

 

 

「失礼いたします、カガリ様」

 

 

 

 そう告げ、スーツを着た金髪の美女はケースから書類を出してきた。

 

 

 

「これをご覧ください。ブルーコスモスの金回りを調査していたところ、オーブにも何件かやり取りを行っている政治家がいるのです。その中でも、最も交流が深いのがセイラン家ーー」

 

 

 

「ば、ばかな!!」

 

 

 

 秘書の説明に目を大きく見開きながら、カガリは書類に目を通していく。

 

 

 

 彼女の顔色がみるみる青ざめていった。

 

 

 

 セイランの隠し口座からブルーコスモス、いやロゴスの政治家宛に出入金が何度もされている。

 

 

 

「改竄された書類じゃないんだな?」

 

 

 

「口座番号などを調べていただければ、実際のセイランの金回りなどもわかるはずです」

 

 

 

 カガリの言葉にやや不快気に秘書は答えた。

 

 

 

「ーーすまない。念のための確認だ」

 

 

 

 青ざめているカガリの表情を見れば、これが改竄されたものかどうかなど一目瞭然だろう。

 

 

 

 カガリとて国家元首を名乗る身だ。

 

 

 

 セイランの隠し口座は、幾度となくオーブの政治交渉に使われてきたことを知っている。

 

 

 

 実際の口座番号までは知らないが、調べればすぐに足がつくような嘘をこの場では吐かないだろうとカガリは判断した。

 

 

 

「いかがでしょうか? カガリ姫」

 

 

 

「……隠し口座なんだろ? セイランのモノだと良く分かったな」

 

 

 

「見てもらえれば分かりますが、取引の窓口がオーブのモノです。ここ最近、頻繁に行われているようなので、気になりましてね」

 

 

 

 不味い状況だとはっきり分かった。

 

 

 

「政治家の癒着など何処でもあることですが、セイランはオーブ創設時からの古参政治家。しかもオーブの隠し口座の役割もある」

 

 

 

 デュランダルは悲痛な表情になりながら、カガリに問いかける。

 

 

 

「姫は私と同じく、戦場を否定する同士だと信じておりますが、これではーー」

 

 

 

「ーーくっ」

 

 

 

 歯がみするカガリに、デュランダルは悲しげな表情のまま、告げる。

 

 

 

「姫、返答願います。セイラン家とブルーコスモスの癒着についての返答を」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 今まで黙っていた男がついに口を開いたのだ。

 

 

 

「ーー待っていただけませんか? デュランダル議長」

 

 

 

 男の言葉に、カガリの表情が一気に晴れやかなものに変わった。

 

 

 

「君は?」

 

 

 

 値踏みするような瞳で笑みを浮かべるデュランダルに、キョウジは静かに一礼をすると続ける。

 

 

 

「ーーキョウジと言います。以後、お見知りおきください。カガリ代表、ご無礼ながら私から話をさせていただけませんか?」

 

 

 

「ーー頼む、キョウジ」

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 カガリに断りを入れた後、キョウジはデュランダルと目を合わせた。

 

 

 

「待つ? 待つとは何を待てば良いのかな? キョウジ君と、言ったか」

 

 

 

 デュランダルの言葉にキョウジは微かに眉を上げ、自分の中で一つ頷いた。

 

 

 

 デュランダルは、キョウジをはじめて見るようだ。

 

 

 

 キョウジの勘ではあるが、デュランダルは演技の類をしていない。

 

 

 

 何故ならば、こちらが声をかけるまで彼はカガリから目を離さなかったからだ。

 

 

 

 もし、彼がキョウジの正体を知るならば、カガリから自分に視線を転じた時に微笑みを浮かべるはずだとキョウジは確信していた。

 

 

 

「その書類の真偽はともかく、事態の確認をするには時間が必要ではありませんか?」

 

 

 

 キョウジは微かに口の端を歪めた後、余裕を持ってデュランダルを見つめた。

 

 

 

「セイラン家は、オーブの設立当初からの古参政治家であることはご存知ですね? その不正を暴くのならば慎重にならざるを得ない。そんな権力を持つ政治家がブルーコスモスと癒着していた事実が晒されれば、中立国を謳うオーブの威信に関わることになる」

 

 

 

「ーー今までオーブが築き上げてきた全てを失いかねない事態ではあるね。しかし、キョウジ君。私は君たちオーブやアークエンジェルがロゴスの手先に成り下がっていると判断している」

 

 

 

 キョウジはそれに微笑みを浮かべた。

 

 

 

「嘘ですね」

 

 

 

「ーー何故、そう思うのかね?」

 

 

 

「この癒着の記録を見ていただければ分かると思いますが?」

 

 

 

 キョウジは渡されたプリントを一つ取り上げ、記載されているデータを示した。

 

 

 

「セイラン家、かどうかは分かりませんが。この口座が取り引きを始め、金回りが良くなっているのは半年前からですね?」

 

 

 

「ーーそれが、何だというのかね?」

 

 

 

「セイランがオーブの実権を握ったのは、その更に前ーーウズミ前元首が亡くなられてからなんですよ」

 

 

 

「ーーそれが?」

 

 

 

 キョウジの言葉に眉根を寄せながらも、デュランダルは繰り返し問いかける。

 

 

 

「おかしくないですか? このデータが真実だとして、ブルーコスモスとオーブの政治家が癒着を始めたのは半年前からになるんですよ? 何故、このタイミングで判明したのでしょう?」

 

 

 

「ーーそれを調べるためにも、セイラン家を」

 

 

 

「貴方はロゴスの金回りを調べていたら、と言いました。確かに、ロゴスの金回りを全て調べていれば、いずれはブルーコスモスに行き当たり、オーブの政治家との癒着は分かるでしょう」

 

 

 

「だから、現に調べてここに証拠が揃っているではないかね?」

 

 

 

 何を論ずることがあるのだ、とばかりに返すデュランダルにキョウジが更に告げる。

 

 

 

「半年前から癒着をはじめたのは間違いないでしょう。何故なら、カガリや他の議員達も、金回りに気づいていない。逆に言えば、その程度の額のやり取りしかしていない」

 

 

 

「君は、何が言いたいのかね?」

 

 

 

「分かりませんか? なら続けましょう。ロゴスの温床になっているブルーコスモスですが、ロゴスのメンバー全てがブルーコスモスではない、ですね?

 

 つまり、ブルーコスモス=ロゴスとは一概には言えない。ブルーコスモスとロゴスの一部のメンバーは同じだが、全てではない」

 

 

 

「無論、その可能性も考慮しているとも。その上で」

 

 

 

 話そうとするデュランダルを遮り、キョウジは静かに告げた。

 

 

 

「たった半年で、ブルーコスモスとロゴスの構成員全てを把握した、と?」

 

 

 

「以前から目をつけていた構成員が一人いてね。その者のデータ全てを洗うことは不可能だが、怪しいと思う取り引きは調べていた」

 

 

 

「では、お聞きします。

 

 取り引きが怪しいと見る時は、どのような時ですか?

 

 数字が羅列されているだけのデータから、貴方はどのようにして、怪しい取り引きを判断されたのでしょう?」

 

 

 

「……金額とタイミングだが?」

 

 

 

 この答えにキョウジは満足気味に笑った。

 

 

 

「半年前から取り引きを始めた新参者が、小規模な金額のやり取りをしていることが、気になりましたか?」

 

 

 

「カモフラージュの可能性もあるからね」

 

 

 

「なるほど。同時期に同じ位の金額のやり取りをする新規の者が何人いたかは、分かりませんが。このデータから、カモフラージュを感じましたか?」

 

 

 

 キョウジは静かに告げる。対するデュランダルは無表情だった。

 

 

 

「何が、言いたいのかね?」

 

 

 

「簡単なことです。ロゴスのメンバーを調べて、こちらの隠し口座を引き当てたのならば、他のデータも引き当てているのではありませんか?

 

 先ほど、全てのデータを調べるのは不可能だと言いましたね? ですが、同時期に同じ条件の取り引きが一体何件あったのか、把握されているのでしょうか?」

 

 

 

「把握する必要はないだろう。君は、論点をずらそうとしているに過ぎない。大事なことは、ブルーコスモスにしてロゴスの構成員と貴国の古参政治家セイランが、癒着しているという一点だ。それをどうやって我々が調べたのかを議論する必要はない」

 

 

 

「半年前から今までの段階で限定させて頂けるならば、99822件です。内、当口座からの取り引きは200件前後になります」

 

 

 

「ーー何?」

 

 

 

 訝しむデュランダルにキョウジは淡々と告げる。

 

 

 

「自国の財布の話です。把握しておかない訳には行きません。私が参謀になったのは、ほんのちょっと前ですから、貴方の優秀な秘書さんのように取り引き先までは把握できませんでしたが。

 

 それでも、取り引きをしている相手先が同時期に同額のやり取りをどれだけの相手にしているのかは、把握しました。当然、それ以上の金額のやり取りも他の口座のものとしていた。

 

 連合とのやり取りはもちろんだが、プラントともね」

 

 

 

 キョウジの言葉に、デュランダルは面白そうな顔をした。

 

 

 

「ほう? それは由々しき事だ。犯人は誰だったのかな?」

 

 

 

「分かりませんね。プラントの端末は分かりましたが、誰かまでは特定できなかった」

 

 

 

「それは残念だ。私としては、同志であるプラントの人間がロゴスと繋がるなど、考えられないが。物的証拠がないのに、大きな事を言うものではないよ」

 

 

 

 デュランダルは両手を組んで、微笑むが構わずにキョウジは告げる。

 

 

 

「特定できなかったが、端末番号が奇跡的に合う相手がいましてね。その相手も名前は不明ですが、私とやり取りをしたことがある」

 

 

 

「ーーほう? どんな?」

 

 

 

 笑みが冷たいものに変わった。

 

 

 

「プラントにいるオーブの国民を帰国させたいと、告げた相手ですよ。デストロイの設計図を暗号化して送ってきた、ね。気になって調べたら、その端末から遠隔プログラム別の端末にアクセスして、地球連合にガンダムの設計図を送っていました」

 

 

 

「ーー!」

 

 

 

「気づいているでしょうが、今の連合には新型を作るだけの予算も頭脳もありません。だからこそ、アーモリーワンでの強奪事件が起こった。

 

 誰かが、デストロイガンダムを連合にーーロゴスに開発させるようにデータを送らなければ、彼らはガンダムを作れないんですよ」

 

 

 

 キョウジは自分が持参したケースから紙とノートパソコンを取り出した。

 

 

 

 まずは紙を広げて見せる。

 

 

 

 ビッシリと記載された文字の羅列が紙に記載されており、データのやり取りを説明しながら、キョウジは一つの端末番号を見せた。

 

 

 

「見てください。この端末番号から複数の端末へと指示を飛ばし、リモートコントロールをしています。たとえば、こんな風にね」

 

 

 

 キョウジは、持っていたノートパソコンを広げるといきなり何かを入力した。

 

 

 

 すると、デュランダル達の部屋のディスプレイが自動で表示され、文字が適当に入力されている。

 

 

 

 表記された文字は、ピーターパンシンドローム。

 

 

 

「如何です、デュランダル議長?

 

 ちなみに、端末からのリモートコントロールのやり取りを消す方法が、この数式を打ち込むことです」

 

 

 

 入力された文字列に反応し、少なくともネット内では履歴が消えたように映る。

 

 

 

「暗号化しているだけで、消すことは不可能ですがね。亜空間回路のような別空間の中でのやり取りならば、ともかく。同じネット空間の中では、データは必ず残る」

 

 

 

「ーーーー何者だ、君は? ザフトの暗号化媒体プログラムを再現するとは」

 

 

 

「単なる科学者のはしくれですよ」

 

 

 

 言いながら、キョウジは静かに端末を叩く。

 

 

 

「ーーでは、件の端末番号にメールを送ってみましょうか。音が立つように設定してね」

 

 

 

 エンターキーを押すと同時に、電子音が執務室の机から聞こえた。

 

 

 

「手の込んだ悪戯だね。仮に君の言うとおりだとしても、データ上からは証拠はない。それなのに、どうやって証明する?」

 

 

 

 語るデュランダルの表情は固い。

 

 

 

 対するキョウジは、静かに音がした議長席の机の上のパソコンを示した。

 

 

 

「開いてもらえませんか? デュランダル議長」

 

 

 

「ーーーーーー」

 

 

 

 デュランダルは固い表情のまま、パソコンを開く。

 

 

 

 今度は彼の顔が真っ青になる番だった。

 

 

 

 キョウジは何食わぬ顔で続ける。

 

 

 

「端末にデータを送る際、復元させるソフトを作りましてね。貴方が開けば自動的に消されたやり取りを復元させるようにしたんですよ」

 

 

 

「ーーバカな!」

 

 

 

 パソコンを開けば、ディスプレイに六角形の金属を模した画像が大量に現れ、次々とプログラムを復元していく。

 

 

 

( これは、DG細胞!? こんな使い方をしてくるだと!? 一体、何者なんだ!?)

 

 

 

 戦慄し、硬直せざるを得ない。自分は得体の知れない何かと対峙しているのだとギルバートはこの時、悟った。

 

 

 

「やり取りを復元できているはずです。貴方が潔白ならば、それを今、見せていただけませんか?」

 

 

 

 静かにキョウジは微笑む。

 

 

 

「ーー貴方のパソコンを調べさせてください。もちろん、全てね」

 

 

 

 薄暗がりの中で、彼の穏やかな声が響いた。

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 キョウジの知略と能力の前に、デュランダルは戦線布告を待つ方向で話し合います。

 しかし、彼の能力に気付いたデュランダルは、オーブのシャトルを人質にとり、デビルズサンクチュアリを使っての勝負を挑んでくるのです!

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第54話に!

 レディー、ゴー!!


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第54話 どちらが悪魔か?キョウジとデュランダル

 みなさん。

 キョウジとデュランダルの交渉はお互いに痛み分けに終わりました。

 しかし、キョウジの正体を悟ったデュランダルがDG細胞の特性を学ぶために、デビルズサンクチュアリを仕掛けてきたのです。

 はたして、キョウジ達はオーブに無事に帰れるのか!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイイッ!! ゴォオオオオオオオッ!!


 

「ーー貴方のパソコンを調べさせてください。もちろん、全てね」

 

 

 

 薄暗がりの議長の執務室に、キョウジの声が響いた。

 

 

 

 隣に座るカガリは、不安そうにただキョウジを見るだけだ。

 

 

 

 無理もない。

 

 

 

 今でこそキョウジがデュランダルを押さえている状況だが、セイラン家とブルーコスモスの癒着という事実がなくなったわけではないのだ。

 

 

 

 それでなくてもキョウジのしていることは、一つ間違えれば身を滅ぼすものだ。

 

 

 

 仮にキョウジの指摘していることが全て正しいとすると、黒幕は全てデュランダルということになる。

 

 

 

 裏事情に明るすぎるキョウジをデュランダルがこのまま放っておくとはカガリには思えなかった。

 

 

 

「なるほど。私のパソコンを調べる、と?」

 

 

 

「ええ。プラント最高評議会議長のパソコンを調べさせていただきだい。プラント最高の権力を持ち、評議会の全てを管理するあなたのパソコンをね」

 

 

 

「……それは無理だな。機密情報が多々ある、私個人の意見ではどうにもできない」

 

 

 

 微かにデュランダルの声色が落ち、黒髪の軍人サトーと秘書のサラの表情もなくなる。

 

 

 

「オーブの客人、あまり無礼な真似は辞めていただこう」

 

 

 

「少々横暴ではありませんか、キョウジ様?」

 

 

 

 二人の言葉に、キョウジは穏やかな笑みを浮かべたまま答えた。

 

 

 

「ーー確かに。自分でも横暴だと思いますよ。ただし、先ほどのデュランダル議長の発言も横暴が過ぎると思いますが……」

 

 

 

「私の発言が横暴、かね?」

 

 

 

「ええ。セイラン家の癒着問題もまた、こちらで調査が必要な話です。この場で簡単にお答えできる話ではないはずですが?」

 

 

 

「なるほど。つまり君が議長席のパソコンを調べるのを諦める代わりに、私にもセイラン家とブルーコスモスの癒着の事実に目を瞑れと?」

 

 

 

「まさか。膿は出さなければなりません。いずれ、ね」

 

 

 

 キョウジはそう答えながらテーブルに出されたコーヒーを一口啜り、告げる。

 

 

 

「今は、その時期ではないと?」

 

 

 

「膿を出すには、まず膿を知らなければなりません。出すべき膿と出してはならない膿、膿にも時期があります」

 

 

 

「…ほう?」

 

 

 

「ある程度化膿し、白く染まった膿は適切な処置を施すことで綺麗に治りますからね」

 

 

 

 フランクにほほ笑むキョウジにデュランダルは静か微笑み返す。

 

 

 

 まるで親友のような雰囲気だが、この場に満ちているのは緊張感だった。

 

 

 

「なるほど。今回は双方痛み分け、か」

 

 

 

「いいえ。セイラン家とブルーコスモスの資料を頂けて感謝します」

 

 

 

 言いながら、キョウジは提示された資料をカバンの中に入れる。

 

 

 

「……端末番号の資料は必要ですか?」

 

 

 

「その紙を処分したところでデータを消すわけはないだろう? お互いね」

 

 

 

 この言葉にキョウジは微笑みを返すと、スクリと立ち上がった。

 

 

 

「行きましょうか、カガリ代表」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 キョウジの唐突な言葉にカガリがきょとんとして返すが、腕を取られて優しくではあるが立たされる。

 

 

 

「議長は俺達のことを分かってくれましたよ」

 

 

 

 

 

 その言葉にカガリは、思わずデュランダルを見つめると彼は苦笑するだけで留めている。

 

 

 

「……ですよね、議長?」

 

 

 

「ああ。ところで、キョウジ君。君は、ベルリン基地を襲った真犯人を知っているのかな?」

 

 

 

「ええ。ロゴスですね」

 

 

 

「ウルベ・イシカワとウォン・ユンファとは誰のことかね? キョウジ・カッシュ君」

 

 

 

 ぴたりとキョウジの動きが止まった。

 

 

 

 これにデュランダルは口の端を歪めて笑みを強める。

 

 

 

「やはりそうか。ドモン・カッシュにシュバルツ・ブルーダーがこの世界に居たのだ。君がいないことの方がおかしい。考えてみればね」

 

 

 

(Dが「細胞の支配権」を私に託したために「彼の世界」の情報を細胞から引き出さなければならなくなったのが災いして、先手を取られたか。しかし、考えようによっては好都合だ)

 

 

 

 はたしてキョウジは、自分の姓(であるカッシュを名乗らずに相手にバレたこと)に反応したのか。

 

 

 

 それとも、ウルベとウォンの名前に反応したのか。

 

 

 

 デュランダルは、これをどう取ったのだろうか。

 

 

 

「あなたなら、一々言わなくても調べられるのでしょう?」

 

 

 

「やはり、そうなのだね? ならば私と来たまえ。君も彼らの恐ろしさを知っているはずだ。共に世界を害する悪を倒すためにもーー」

 

 

 

「あいにくと、俺は正義の味方を名乗れる器じゃない。もちろん、貴方も」 

 

 

 

 はっきりと拒絶した。

 

 

 

 これにデュランダルが目を細める。

 

 

 

「俺はあくまでプラントと交渉します。交渉相手は貴方個人ではない」

 

 

 

「……残念だよ、キョウジ君」

 

 

 

 キョウジはデュランダルに背を向けて、出口に向かって一歩踏み出した。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 プラントの宇宙港に駐留しているオーブ製のシャトル近辺で爆発が起こった。

 

 

 

 その様が、議長室のモニターに映し出される。

 

 

 

 シャトル周辺の宇宙宙域に無数のMSーーザクが現れたのだ。

 

 

 

「ーーな!? どういうことだ、議長!!」

 

 

 

 カガリがデュランダルに振り返り、怒鳴りつける。

 

 

 

 対峙するデュランダルは席を立つこともなく、静かにこちらに背を向けたままのキョウジを見据えている。

 

 

 

「申し訳ない、姫。今から模擬戦を行う予定でしてね。急遽こちらに姫が来られたので、中止するよう伝えるのを忘れてしまっていたようです」

 

 

 

「すぐに辞めさせてくれ!! このままじゃ、オーブのシャトルが!!」

 

 

 

 カガリが頼み込む前に、キョウジが手で彼女を制する。

 

 

 

「ーーキョウジ?」

 

 

 

 キョウジの目元は前髪に隠れてカガリからは見えない。

 

 

 

 しかし、その口元が三日月のようにニィッと吊り上がったように見えた。

 

 

 

 彼は静かにカガリを自分の後ろに回すと、議長の方を見つめた。

 

 

 

 その際、サトーの表情が強張り、サラの方は青ざめている。

 

 

 

 唯一、デュランダルだけが笑みを強くしていた。

 

 

 

「目的はーー?」

 

 

 

 信じられない程、冷たい鋭利な刃物のような声色。

 

 

 

 それは、凶気を孕んでいる。

 

 

 

 悪魔のごとき凶の気を目から放ち、鋭利な刃物のように弧を描く口元。

 

 

 

 凶笑ーー。

 

 

 

「Dと同じ気だな……。やはり君は彼の生みの親、か」

 

 

 

「無駄口を聞くつもりはない。ーー要件を話せ」

 

 

 

「簡単なことだよ。私と勝負をしよう、キョウジ君」

 

 

 

「勝負だと……?」

 

 

 

 キョウジの視線が議長を射抜く。

 

 その威圧感に、サトーの背筋が凍った。

 

 

 

(デビルガンダム様……っ!)

 

 

 

(気づいたかね、サトー?)

 

 

 

 デュランダルの視線に気づいたサトーは、小声で問いかける。 

 

 

 

(まさかっ! この男もーー)

 

 

 

(間違えているよ、サトー。正確には、この男が、だ)

 

 

 

 デュランダルは視線をキョウジに戻し

 

 

 

「そう、君こそが人とDG細胞の融合体。Dの片割れ。……そうだろう? キョウジくん」

 

 

 

「俺の質問に答える気がないのなら、この場であんたらを拘束させてもらうぞ」

 

 

 

「姫のいるまえで、きみがそんな無謀なことをするとは思えないな」

 

 

 

 この答えにカガリが声を張り上げる。

 

 

 

「キョウジ! 私にかまうな!」

 

 

 

「そういうわけにはいかないでしょう、彼はオーブの参謀なのですから。オーブの代表であるカガリさまが傷を少しでも負えば、彼は参謀としての地位を追われてしまうでしょうね」

 

 

 

 デュランダルが訳知り顔で語りながら、カガリを笑い。キョウジを見つめる。

 

 

 

「そこでだ、キョウジくん」

 

 

 

 デュランダルとキョウジを隔てる卓上が輝きはじめ、デスクに内蔵されている立体モニターが宇宙図を創り出した。

 

 サラが箱を手に一つずつ持ち、片方をデュランダルの席のまえに、もう片方をキョウジの席のまえに置く。

 

 デュランダルはその箱の中から駒をつまみあげると、キョウジにさらした。

 

 

 

「チェスもどきだが、私の考えた新しいゲームだ。このポーンを置くと」

 

 

 

 卓上の宇宙図にカガリたちをこの場に連れてきたシャトルが映った傍に、デュランダルは駒を置いた。

 

 外を映し出す議長室のモニターに青白い光の粒子が現れ、一体のMSを形成する。

 

 そのMSはゴッドガンダムを模したトリコロールの機体。

 

 

 

「こ、これはっ、連合のクルセイダーズを破った部隊……!」

 

 

 

 カガリが思わず目を見開く。

 

 

 

「デビルズサンクチュアリ。この聖域のなかには分子レベルまで分解したとある細胞がありましてね。それらを駒を置くことによって個体化させることができるのです」

 

 

 

「なっ……!? そ、それがザフトの防衛部隊の正体かっ!」

 

 

 

「敵から見れば、いきなりMSが現れたように見える、ある意味反則な技ですね。無人機ではありますがリモートすることも可能です。ーーこのように」

 

 

 

 モニターに映るゴッドガンダムもどきがビームライフルを構える。その銃口が、オーブの護送艦を向いていた。

 

 

 

「よせっ!」

 

 

 

 カガリの制止むなしく、放たれるビーム。暗黒空間を鋭く穿つ一条の光は、シャトルの脇を通りがかった隕石を粉々に打ち砕いた。

 

 

 

「どうです、正確でしょう? これが三十個あります」

 

 

 

 デュランダルは楽しそうに言う。

 

 自分の作り出したシステムに絶対の自信があったのだ。

 

 

 

「チェスもどきだと言ったな? つまりチェス盤を模した、無人MSでの団体模擬戦か」

 

 

 

「さすがは姫。飲み込みが早くて助かります」

 

 

 

「狙いは何だ!」

 

 

 

 カガリの鋭い詰問にデュランダルは片眉を上げながら言った。

 

 

 

「いま姫たちに地球に戻られると、少々やっかいでしてね。セイラン家を潰せなくなる」

 

 

 

「なっ!? 私たちがやると言っているだろう!」

 

 

 

「潰せないでしょう。なぜならば、政治家のほとんどはセイラン派だ」

 

 

 

 デュランダルの確信に満ちた言葉。

 

 

 

 分かってはいたが、ザフトの異常なまでのこちらに対する情報収集力にカガリも思わず歯ぎしりする。 

 

 

 

(セイラン家のあり方や癒着問題だけじゃない。私とオーブ政治家達との距離まで把握している。ここまで知られているなんて……!)

 

 

 

「それに。私がここで動かなくとも、あなたがたを足止めしているだけで勝手にセイランは動くでしょう。破滅の道にね。

 

 そうすれば、証拠だのなんだのと言わなくて済む」

 

 

 

(ユウナたちが……本当にそんなことを?)

 

 

 

 議長の言葉に、カガリも不安げな表情になる。

 

 

 

 今までは信じていた。

 

 

 

 やり方は違えど、オーブの為に行動しているのだと。

 

 

 

 だが、これはーー。

 

 

 

「カガリ。悪いが議長の相手をしてくれないか」

 

 

 

 そんなカガリの思考を切らせたのは、キョウジの言葉だった。

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「ゲームは得意だろ」

 

 

 

「で、できないことないけど……」

 

 

 

「頼む」

 

 

 

 キョウジは意識しているのかは分からないが、カガリの方を見ようとしない。

 

 

 

 カガリは、キョウジの瞳に凶気が宿っているのを何となく察しているが、敢えて口に出さなかった。

 

 

 

 かわりに普段通りの調子で話す。

 

 

 

「いいのか、キョウジ!?」

 

 

 

「ああ。どのみち、勝たなきゃ帰してくれまい。……そうだろ?」

 

 

 

 話題を振られた議長は、満足げに鼻を鳴らした。

 

 

 

「想像にお任せするよ」

 

 

 

 指を組んで余裕の姿勢を崩さない議長にカガリは一つ頷くと、席に着く。

 

 

 

「それぞれ手駒は30。どこに配置してもかまわないーーと、言いたいがそれでは少々漠然としすぎかな?」

 

 

 

 卓上の宇宙図に、赤と青のラインがそれぞれ引かれた。

 

 

 

「青の領域内ならば姫はどこにでも出すことができる。反対に、赤の領域内ならば私はどこにでも駒を出すことができる。ただし」

 

 

 

 デュランダルは一つ、色の違うポーンを手にした。

 

 

 

「このポーンキングは、最初からこの戦線中央最奥面に置かねばならない。つまり、自分の手元を初期配置とする。言うまでもありませんが、これを取られたらゲームオーバーです」

 

 

 

「こ、ここだな」

 

 

 

(なるほど。戦略のシミュレーションゲームか……。問題はチェスと違って隣り合えば必ず勝てるってわけじゃないことだな。より実践的ってわけか。いや、すでに実戦に投入されているんだったな。

 

 私が負ければ、長い時間ここに拘束されてしまうことになる。なんとしても勝利しなければ!)

 

 

 

「ポーンの配置はこのライン上なら自由なんだな?」

 

 

 

「そうです。そのラインより手前であればどの領域に配置してもかまいません。

 

 もっとも、中立地帯ーー色の付いていない宙図がほぼ七割ですが。この広大なマップをどう利用されるかはプレイヤーの腕次第ということです」

 

 

 

「っ!」

 

(シャトルを人質にしていることまでゲーム感覚か……!)

 

 

 

 不快気に歯を食いしばり、カガリはデュランダルを睨みつける。

 

 

 

「動かし方はどうするんだ?」

 

 

 

「基本的にはオートマティックです。識別信号の違いを見つけ、敵と判断した相手に突き進むようにしています。もちろん、どれかを遠隔操作すれば性能も格段に上がります。

 

 もっとも、制御できる数を増やせば増やすほど、操作するプレイヤーの腕が問われてしまいますがね。

 

 チュートリアルを始めましょうか? 代表」

 

 

 

 この申し出にカガリは頭を横に振って操作パネルに手を置いた。

 

 

 

「いや。実戦で覚える」

 

 

 

「説明書は読んだほうがよいかと思いますが?」

 

 

 

「そんな暇はない!」

 

 

 

 ムキになって答えるカガリに微笑を一つ返すとデュランダルは静かに、システムを起動させた。

 

 

 

「では始めましょう」

 

 

 

 卓上に青い光の粒子が満ちていく。

 

 

 

「デビルズサンクチュアリ、開幕」

 

 

 

 デュランダルの宣言と同時に、それぞれ30機のポーンが模擬戦宙域に現れる。

 

 

 

 カガリが赤色を基調とした、デュランダルは青色を基調としたトリコロールの機体だ。

 

 

 

 ポーン達は右手にライフル、左手に盾を装備している。

 

 

 

 キングポーンのみ、盾もライフルも持たずにオルトロスと呼ばれる長距離狙撃用ロングライフルを装備していた。

 

 

 

 デュランダルの布陣は、30機の機体をそれぞれ前衛と後衛に分け、20機を横一列に並べ、残りの10機をキングの周辺に配置している。

 

 

 

(MSの編隊としては基本的な配置だ……。だけど基本だからこそ、これを打ち破るのは難しい。数の上で五分と五分。ならどうする?)

 

 

 

 カガリの方はキングの周りに30機すべてを配置した完全防衛体制である。

 

 

 

(これだけ強固な盾を作っておけば、同じ性能である以上、迂闊には攻めてこれない。

 

 とはいえ、時間稼ぎをするのは得策じゃない。

 

 こちらは、時間に追われる側なんだ。できることなら、短期で決着を着けたい)

 

 

 

 デュランダルのポーン達は前衛の編隊を組んだまま進行を始める。

 

 

 

(焦るのはダメだが、ウナト達の事もある。どうするか……)

 

 

 

 カガリはとりあえず防衛線を張ったのち、3体のポーンを前に出す。

 

 

 

(性能は同じなら、迂闊に攻めたほうが負ける!)

 

 

 

 ライフルを3体のポーンに放たせる、牽制用の緑色のビームが宙域に3本。

 

 

 

 これにあわせるようにデュランダル側からも、3体のポーンが前に出てきた。

 

 

 

 シールドで防がれる。

 

 

 

(ビームを弾く? 装備しているのはアンチビームコーティングか)

 

 

 

「ふふふ」

 

 

 

 盾を構える3機の後ろから、回りこむように6機のポーンが現れ、それぞれライフルを構えてカガリのポーン3機を落とす。

 

 

 

 同時に盤上のポーンの駒、3体が倒れて消えた。

 

 

 

「くそっ!」

 

 

 

(だがこれで分かったぞ……。やはり先手が不利だ。本来のチェスなら後手のほうが不利ということだが、実戦にあってはうかつな行動は死につながる。ここは慎重に……)

 

 

 

 正面からビームライフルを撃ち合う両陣営。

 

 

 

 しばらくしてカガリは気づいた。

 

 

 

(議長は編隊を組んでいたのに、正面からしか仕掛けてこないのか? これなら防ぎきれる。

 

 正面からくる攻撃はぬるすぎる。私と同じ初心者ならともかく、議長はこいつを使って、実際に連合のクルセイダーズを止めてるんだぞ。なにか手がーー?)

 

 

 

 そう考えたとき、左右に展開していたポーンが六機ずつ倒される。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

(左右6機、合計12機だとっ!? いったいーー)

 

 

 

 見れば左右に展開されているデュランダルの機体がある。

 

 

 

(20機を前線に出していたはずっ。それを影にして、後列にいた10機を回り込ませていたのか!

 

 囲まれた!)

 

 

 

 集中砲火を浴びるカガリの部隊。

 

 

 

(こ、このままじゃっ……!)

 

 

 

 キングを守るために周囲を固めるも、アンチビームコーティングシールドが執拗な攻撃に保たずに次々とカガリのポーンは撃破されていく。

 

 

 

(ジリ貧だ……! どうすればいい?)

 

 

 

 やがてデュランダルのビームライフルの雨霰が止まる。

 

 見れば、三機のポーンと一機のキングのみがカガリに残されていた。

 

 

 

 

 

「姫、一度ギブアップされることをおすすめいたします。その布陣ではもはや、私に勝つことはできない」

 

 

 

「ぐっ!」

 

 

 

 デュランダルの余裕を持った言葉に、苦い顔をしながらカガリは抵抗しようとするも、横から待ったをかけられる。 

 

 

 

「カガリ。交代だ」

 

 

 

「えっ? こ、こんな状況でかっ!? はっきり言うが、もう詰んでるぞ!」

 

 

 

 焦るカガリにキョウジがニヤリと不遜に笑って答える。

 

 

 

「案外そうでもないかもしれんぞ」

 

 

 

「ポーン三機しかいないのに、どうやって戦うつもりかね? そもそもキングとて、ポーンと同じ性能しかないというのに」

 

 

 

「とりあえず、キングに名をつけるとするか」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 デュランダルの言葉を無視しながら、キョウジは不遜な笑みを浮かべたまま卓上に置かれたポーン3体とキング1体を名付けていく。

 

 

 

「キングはカガリだ。あと三機はーーそうだな。えー、左からキクチ、サカキ、サイトウ、と」

 

 

 

「な、何をやってるんだ、キョウジ? シャトルの乗組員の名前を付けたりして」

 

 

 

「……シャトルの乗組員だとて、戦うさ。オーブ軍に、脇役はいない」

 

 

 

 不遜な態度でありながら、どこか温かい言葉にカガリはキョトンとし、デュランダルは愉快気に手を叩いた。 

 

 

 

「ずいぶんと余裕だね。キョウジ君」

 

 

 

「余興ではないのか? あんた程度なら、これだけいれば釣りが来る」

 

 

 

 笑みかけるデュランダルに、不遜な笑みを浮かべてキョウジは返す。これに笑みを強めてデュランダルは語る。 

 

「傲慢だね。君の父上もそういうところがあったのかな? だから、親友に裏切られた」

 

 

 

「そう言うあんたは、世界にでも裏切られたか?」

 

 

 

 挑発のつもりで口にしたであろう言葉をあっさりと返されて、デュランダルは苛立ち交じりに睨みつけた。

 

 

 

「ーーなんだと?」

 

 

 

「無駄口を叩いてる暇はない、さっさと始めようぜ」

 

 

 

「いいだろうーー!」

 

 

 

 戦力差は30対3。どう考えても覆せるようなレベルではない。

 

 しかし。

 

 四方八方から放たれるライフルに、その場からわずかに動くだけですべて避けきってみせるキョウジのポーン。

 

 シールドを持たないキングもまた、オルトロスを両腕でしっかりと持ったまま紙一重で避ける。

 

 

 

 ポーンはデュランダル側のライフルを避けると同時にライフルを撃ち返し、撃破していく。

 

 

 

(ばかなっ! 私の動きが読まれているーーこんなことが!

 

 ……そうか。カガリ姫に最初にプレイさせたのは、私の動きを見るためか!

 

 だが、こんな短期間に見切ってくるとは)

 

「おもしろい!」

 

 

 

 キョウジの巧みな機体のコントロールぶりに流石だと笑いながらも、デュランダルは絶対の自信があった。

 

 

 

(だが数の差はすでに絶望的! キングを含めて四機では、この戦力差は覆せない!)

 

 

 

 デュランダルは展開していた部隊を一端集合させ、同時にライフルを構える。

 

 無数のライフルが雨霰と降ってくる。

 

 単騎同士ならば正確なコントロールをするキョウジのポーンが勝つが、この数に撃たれれば撃ち終わりすら狙えない。

 

 完全に防戦一方になる。

 

 

 

 それでもさきほどまでと違い、簡単には落とされない。

 

 あるときはシールドで、あるときではサーベルで切り払い、四機のキョウジの機体は雨霰と降るデュランダルの猛攻を防ぎきっていた。

 

 

 

(だがそれも時間の問題。こちらも徐々に展開しながら各個撃破していくのみだ)

 

 

 

 やはり数の上で圧倒的不利なため、徐々に追い込まれていくキョウジのポーン達。

 

 いや、30機あったデュランダル側のポーンを20機まで落としたキョウジの腕をほめるべきか。

 

 

 

「大言壮語を吐くだけのことはある。同じ数で戦っていれば、負けていたのは私の方だ。

 

 だがーー君の性格が災いしたね」

 

 

 

「デュランダルさんよ、あんたに一つ聞きたいことがある」

 

 

 

「何かな?」

 

 

 

 微笑みを浮かべるデュランダルにキョウジは最初から最後まで不遜な笑みを絶やさない。

 

 

 

「優勢と勝利はどこが違う?」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

「分からないなら、次に会う時までの宿題にしておくぞ。今回は俺の勝ちだ」

 

 

 

「なにを馬鹿なことを」

 

 

 

 見れば、キョウジのポーンは二機がキングの両脇を支えるように立ち、三機のポーンのシールドを持った一機が前にでる。

 

 そのシールドを台座にして、ロングライフルを構えるキング。

 

 

 

(ザフト製のオルトロス……! キング用につけていた武装か。だが、いまさらそんなもので)

 

 

 

 無防備に踏み込んでくる敵陣営に向かってキョウジ・カッシュはこう言った。

 

 

 

「傲慢というのはな、『結果の伴わない自信』のことを言うんだ。覚えておけ」

 

 

 

 言葉と同時に大群に向かって引き金を、キングポーンは引いた。

 

 

 

 赤いビーム砲がオルトロスから放たれた。

 

 

 

(そんな距離からオルトロスを放ったところで、私のキングポーンは初期配置から動かしていない。いくら何でも届くわけがないだろう)

 

 

 

 その時、デュランダルは違和感に気付いた。

 

 

 

 オルトロスに緑色のコードが伸びていたのだ。

 

 

 

 それはDG細胞でできた触手。

 

 

 

 DG細胞製のMSであるデスポーン達ならばできないことではない。

 

 

 

 問題はその触手が何を意味するか、だ。

 

 

 

 触手はキングポーンの胸元ーーすなわちジェネレータから直結でオルトロスに結ばれている。

 

 

 

 左右を支えるポーン達からも触手が伸びている。

 

 

 

 前方で盾を構える一機からも。

 

 

 

 すべてオルトロスに繋がっているのだ。

 

 

 

(--まさか!?)

 

 

 

 MSのジェネレータに直結した作られたビーム砲は強力だ。

 

 

 

 それが4機分、フルパワーで放たれればどうなるかーー。

 

 

 

 単純に計算して威力や射程はフルチャージ分の4倍ーー。

 

 

 

「ーーしまった!?」

 

 

 

 強烈なビームが迫りくる無数のMSを飲み込みながら、一瞬でデュランダルが初期配置に置いたキングポーンをも飲み込んでいった。

 

 

 

 だが、強烈なビームはそこで終わらない。

 

 

 

 その先にあった砂時計型のコロニーの脇を通り過ぎていったのだ。

 

 

 

「キョウジ・カッシュ……!!」

 

 

 

「人質を取っているのが、自分たちだけだとでも思ったのか? デュランダル」

 

 

 

 不遜にして邪悪な笑みが、キョウジの顔に浮かんでいた。

 

 

 

 ーー BATLLE END ーー

 

 

 

 その文字が卓上に浮かび上がり、デュランダルの目が大きく見開かれる。

 

 

 

「身の程を知れ、デュランダル。貴様は正義の味方などではない。奴らと何も変わらん『傲慢』な男だ」

 

 

 

 鋭い瞳のまま、キョウジは静かにデュランダルを見据えてそう言った。

 

 

 

 そして瞳を閉じ、一つ息を吐くと先ほどまでの穏やかな瞳の青年に戻る。

 

 

 

「その力を完全に使いこなしているのか……!」

 

 

 

「力はただの力ですよ。それを振るうものが、力に溺れなければ自分の意思で動かすこともできる」

 

 

 

 キョウジは淡々とした表情で語る。

 

 

 

「お分かりか? 俺が貴方と交渉しない理由が」

 

 

 

「……!」

 

 

 

「心当たりがありませんか。貴方は本当に傲慢な方ですね」

 

 

 

 そういうと、キョウジはもはやデュランダルに興味を示すことなく背を完全に向けて、カガリを見据えた。

 

 

 

「行こうか。余計な時間を使った」

 

 

 

「ーーあ、ああ」

 

 

 

 キョウジは最後にこれだけを告げて去っていった。

 

 

 

「約束は守りますよ、お互いの為にも。必ずセイランの件を落ち着かせましょう」

 

 

 

 去っていったキョウジの背を見送った後、サラは眦を吊り上げて銃を懐から取り出す。

 

 

 

 サトーはそれを手で制し、デュランダルを見据える。

 

 

 

「……くくくくく、ははははははははははははは………!!」

 

 

 

 デュランダルは机の上で手を組んだ姿勢から前のめりになると、笑い始めた。

 

 

 

「で、デュランダル様ーー!」

 

 

 

 サラが手を差し伸べようとしたところで、その手を払いデュランダルは立ち上がった。

 

 

 

「ーー許さんぞ、キョウジ・カッシュ」

 

 

 

 その声は、今まで誰も聞いたことのない冷たい声

 

 

 

 腹の底からの怨嗟の声だ。

 

 

 

「私はどんな手を使っても、貴様を倒す。覚えておくがいいーー!」

 

 

 

 真紅の瞳は、暗い炎に彩られていた。

 

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね~!!

 ミネルバ隊についに下されるアークエンジェル抹殺指令。

 これに対抗するため、シュバルツはアークエンジェルとミネルバに一つの案を出すのです。

 一方、オーブでもセイラン家の不穏な動きが活発化していました。

 はたして、シュバルツやキョウジは、激動を迎えようとする世界をどう抑えるのか!?

 次回!
 
 機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第55話に!!

 レディー、ゴー!!


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第55話 シュバルツの発案

 さて、皆さん。

 オーブ参謀のキョウジとプラント最高評議会議長デュランダルとの対決はひとまずの幕が下りました。

 しかし、地球ではアークエンジェルを倒すためにミネルバ隊へ指示が下りたのです。

 それでは!!
 
 ガンダムファイト!!
 
 レディイイイイイッ!! ゴォオオオオオオオッ!!




 

 

ーープラント

 

 

 

 L4宙域から帰ってきたドモン・カッシュとDは、ギルバート・デュランダル議長から与えられていた『ラクス・クライン邸』でラクスとミーアの二人に出迎えられていた。

 

 

 

 テーブルに展開される料理の数々にドモンは思わず目を見開く。

 

 

 

「す、すごい量だな……」

 

 

 

 ドモンの言葉にラクスはにこやかに答えた。

 

 

 

「はい! いっぱい作りましたわ。たくさん食べてくくださいな♪」

 

 

 

「ありがとう。この朝飯、おろそかには食わん。ダコスタ、D! ラクスとミーアに感謝して食事としよう」

 

 

 

 ラクスとミーアに微笑み、ドモンは真剣な表情で言った。

 

 

 

「そんな大げさな……。でも、ありがとうございます! ラクスさまにミーアさま」

 

 

 

「あ、いえ……っ。あたしは別に……ラクスさまが最初に作られたから」

 

 

 

 ダコスタが隣のドモンに苦笑しながらも、二人の少女に頭を下げるとミーアは恐縮して答えた。

 

 

 

 一方Dは、会話に参加するでもなく皿に盛られているサンドイッチをひとつ取る。

 

 

 

「それはミーアさんが作ったものなんですよ」

 

 

 

「ラ、ラクスさま……!」

 

 

 

「お味はいかがでしょうか? Dさん」

 

 

 

 笑顔で問いかけるラクスにDは無表情のまま、ぶっきらぼうに言った。

 

 

 

「食えればなんでもいい」

 

 

 

 すぱーんっ

 

 小気味の良い音が鳴り響く。

 

 

 

「見、見えなかった……!」

 

 

 

 とは同席していたダコスタの談だ。

 

 

 

 ドモンの素早い左のつっこみがDの後頭部に決まっていた。

 

 

 

「お前には『感謝』という意味がわからんのか」

 

 

 

 ギロリ、とDがドモンをにらむ。

 

 そして

 

 

 

「レインを振り回していた貴様が、よく言う」

 

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 

 ドモンは目を大きく見開くと同時、その頬に冷たい汗が伝った。

 

 

 

「よ、四年前よりは成長したんだ……!」

 

 

 

 辛うじてそう言葉を絞り出すドモンにDが即答した。

 

 

 

「成長したからと言って、ないことにはできんからな? 一応許してはいるようだが」

 

 

 

「お前、なんでそんなにレインの心情に詳しいんだ!」

 

 

 

「簡単だ。奴も我の生体ユニットだったからな」

 

 

 

「と、言うことは……」

 

 

 

 ドモンは思案顔で目を上にやりながら、思う。

 

 

 

「要するに、レインや兄さんの心がお前の中にもあるということか?」

 

 

 

「ああ。あの二人から思考を読めば、お前の行動など手に取るようにわかる」

 

 

 

「…………すまんダコスタ。俺は口でこいつに勝てる気がしなくなった」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 ドモンは何故かダコスタに謝りながら、顔を伏せた。

 

 

 

「負けを認めるのが早くないですか、ドモンさん!?」

 

 

 

「口では勝てない。だって兄さんとレインだろ? ……絶対勝てない……!」

 

 

 

 言いながらも、向かいの席で見るからに落ち込んでいるミーアに何も感じないわけではない。

 

 

 

(とはいえ、ああやって落ち込んでいる彼女を見るとどうにかしてやらねばならんしなぁ……。どうしたものか…。

 

ーーああ、だがあのときの俺なら

 

 

 

「朝飯? そんなもの頼んでいない」

 

 

 

とか普通に言いそうだな。

 

 その上レインと兄さんの心を持つってことは、かなり理屈っぽいんじゃないのか?

 

 やはり口ではーー)

 

 

 

 そのときラクスが穏やかな笑顔のまま、口を開いた。

 

 

 

「ではDさん。レインさんの気持ちで考えてみてくださいな」

 

 

 

「ーーレインの?」

 

 

 

「はい」

 

 

 

 満面の笑みでラクスはうなずいた。

 

 

 

「ラクスさま、もういいですから……」

 

 

 

「ミーアさん。ここはわたくしに任せてください」

 

 

 

 少し落ち込み気味に止めるミーアにラクスは気遣うように笑いながら続ける。

 

 

 

「たとえば、ドモンさんがアレンビーさんと修行していてーー」

 

 

 

「ーーっ!?(何故、そこでアレンビーの名が!?)」

 

 

 

 ドモンは頬に冷や汗をかきながら戦慄しながら、ラクスの小芝居を見ていた。

 

 

 

「せっかくレインさんがご飯を用意していたというのに、一口ごはんを食べたら

 

 

 

 「うーん、冷めてるな……。よし、アレンビー。飯でも食いにいくか!」

 

 「うん、いいよ! ドモン!」

 

 

 

なんてことになったら、貴方の中のレインさんはどう思われますか? Dさん」

 

 

 

 ラクスの言葉に、Dは深刻な表情になるとミーアを見据えた。

 

 

 

「ミーア」

 

 

 

「えっ?」

 

(D。貴方いま、あたしのことミーアって……)

 

 

 

「すまなかった」

 

 

 

 素直に頭を下げるDはどこか、しょんぼりしているように見える。

 

 

 

 この光景にドモンは、愕然としてラクスを見た。

 

 

 

 その顔には滝のような汗が流れていた。

 

 

 

「ラ、ラクス……!

 

 お、お前……どの辺まで知って……?」

 

 

 

 ラクスはこれに、にこやかな笑顔で返した。

 

 

 

「殿方に恋をする女性の気持ち、わたくしにもよくわかりますわ。蔑ろにしてはいけませんよ、お二方」

 

 

 

 震えるドモンとDは小声でやり取りする。

 

 

 

(おい、ドモン。なんだあれは! 我の本能が告げているぞ。あれには逆らってはならんと)

 

 

 

(ああ……。理屈じゃない。あの迫力はもはや理屈じゃない……)

 

「そうか……。この世界でも女は強いんだな…」

 

 

 

 ドモンは遠い目をしながらそんな言葉を紡いだ。 

 

 

 

「あんだけ強いのに、女性には弱いんだなあ。二人とも」

 

 

 

 ダコスタは、きょとんとしながら人智を越えた強さの二人を観察する。

 

 

 

 向かい側ではラクスが、にこやかにミーアに告げていた。

 

 

 

「ミーアさん」

 

 

 

「は、はい」

 

 

 

「まずは第一歩ですわね」

 

 

 

「ラ、ラクスさまっ……」

 

 

 

「がんばってくださいまし」

 

 

 

 赤面するミーアにラクスは小さな両の拳を頬の横に持ってきて応援した。

 

 

 

「……ぁ……、…………はい……。ありがとうございます、ラクスさま」

 

 

 

「では、お昼からは買い物に出かけましょう」

 

 

 

 にこやかに大胆に、ラクス・クラインはそう言った。

 

 

 

「まじですか!」

 

 

 

 とはダコスタの談だ。これにラクスは小首を傾げて訊いてくる。

 

 

 

「ーーいけないのですか?」

 

 

 

「いやっ! さすがに……敵地のど真ん中で買い物ってのはどうなのかと……」

 

 

 

 ダコスタの言葉にミーアが眉根を寄せる。

 

 

 

「敵地って…?」

 

 

 

「それでしたら問題ありませんわよね、Dさん?」

 

 

 

 その言葉を遮るようにラクスが言葉を発した。

 

 

 

 その言葉に気を取り直して食事を始めている同じ顔の2人の青年のうち、赤い髪の方が向き直った。

 

 

 

「あざとい女だ。よかろう、我から奴らに伝えておいてやる」

 

 

 

「奴らって……」

 

 

 

 ダコスタは訳が分からんとばかりに眉を上げながら問いかけると、Dが何を当たり前の事をとばかりに答えた。

 

 

 

「デュランダルの奴に決まっているだろう」

 

 

 

「Dさんって、デュランダル議長と対等なんですかっ!?」

 

 

 

 仰天するダコスタはテーブルを叩いて立ち上がる。

 

 

 

「奴は俺の小間使いだ」

 

 

 

 これにえへんと胸をはって答えるDにミーアが彼の横に行くと指差して告げた。

 

 

 

「Dったら! 嘘ばかり吐いちゃダメでしょ! 議長がプラントでは一番えらいんだから!」

 

 

 

「それは貴様等コーディネーターとやらの話だ。我には関係ない」

 

 

 

 ミーアの声にも意に介さず告げるDにラクスが笑いかける。

 

 

 

「Dさんは嘘を吐かない方ですものね」

 

 

 

「当然だ。嘘など弱き者が吐くものよ」

 

 

 

 ラクスの言葉にDは更に胸を張った。

 

 

 

「頼りになりますわ」

 

 

 

「フッ、話の分かる女よ」

 

 

 

 手を叩いて喜ぶラクスにDもにやりと笑う。これを遠目に見るのはドモンとダコスタだった。

 

 

 

「なぜか急に仲良くなったな……」

 

 

 

「猛獣使いのスキルでもあるんですかね? ラクスさま」

 

 

 

「ああ……。かもな……」

 

 

 

 ふとドモンは自分の妻のことを思い出した。

 

 

 

「レインか……」

 

 

 

「え? どうしたんですか、ドモンさん? そんなこの世の終わりみたいな顔をして」

 

 

 

「いや。考えすぎだと信じたい」

 

 

 

 深刻な表情になりながらつげるドモン。これにダコスタは今の現状を思い返す。

 

 

 

「はあ……。ーーっていうか敵地のど真ん中で買い物とか、大丈夫なんだろうか……」

 

 

 

「男はどっしりと構えるもんだぞ、ダコスタ」

 

 

 

「どうにでもなりやがれ……っ!」

 

 

 

 深刻な顔をしているドモンとテーブルに突っ伏したダコスタはそのような会話をしながら食事を続けるのだった。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 一方、プラントのギルバート・デュランダル議長室にて。

 

 

 

 薄暗がりの部屋の中。

 

 ギルバート・デュランダルは苛立っていた。デビルズサンクチュアリを仕掛けたのは、あくまでDG細胞の制御の仕方を探り、学ぶためだ。勝敗は二の次でよかった。

 

 だが、ふたを開けてみればキョウジ・カッシュはジェネレーター用のコードを作るだけにとどまり、ほとんどDG細胞を使わなかったのだ。

 

 

 

(こちらの狙いを正確に把握したうえで、ことごとく上を行かれたと……! 初めてだよ……。この私にここまでの屈辱を与えた男は!

 

 あえて同じ土俵で、私と同じやり方で、格が違うと言いたいか)

 

 

 

 キラ・ヤマトならば自分の上を行ったとしても許せよう。彼は自分とは違うのだから。

 

 ドモン・カッシュと戦ったときもそうだった。

 

 あきらかに自分とは違う存在だ。

 

 

 

 だがキョウジ・カッシュ。

 

 彼は自分に似た存在。いわゆる同じ種類の人間だ。他人の心を理解し、誘導するための言葉を吐く。

 

 認められなかった。違う存在が自分より上というのは、まだ許せる。

 

 だが、同じ種類の人間が自分を操る。このギルバート・デュランダルより上だと示すのは、許せない。

 

 

 

 このとき秘書、サラは戸惑っていた。あれほど怒ったデュランダルを見るのは初めてだったのだ。

 

 考えてみれば、デュランダルが怒ったところなど彼女の記憶には皆無だった。議長はいつも正しい言葉を吐き、人の心を理解し、平和のために心を砕かれ、戦争を悲しんでおられた。

 

 その議長が、たったひとりの人間を相手に憎悪の感情を向けるなんて。

 

 サラは今、自分が見たものすら信じきれずにいた。

 

 

 

 そのときだ。

 

 この場にいたもうひとりが声をかけた。

 

 

 

「デュランダル議長。デビルガンダムさまがラクス・クラインを連れて買い物に出かけるそうです」

 

 

 

「それはミーア・キャンベルも一緒に、ということですか?」

 

 

 

「そうだ」

 

 

 

 サトーの言葉にサラが内心歯ぎしりする。

 

 

 

(あの役たたずめ! なんのために自分がラクス・クラインとともにあるのか、わかっていない。彼女が本物だと言い出せば、あなたなどもういらない存在だというのに)

 

 

 

 まあいい、と気を取り直しサラはデュランダルに進言した。

 

 

 

「議長。今こそ仕掛けるべきときかと」

 

 

 

 これにデュランダルは目を丸くした後、本心の読めないいつもの柔らかい笑みを浮かべた。

 

 

 

「仕掛ける? キング・オブ・ハートがいるまえで仕掛けたところで勝ち目などあろうはずもない」

 

 

 

 これにサラが背筋を伸ばして意見する。

 

 

 

「不意打ちはどうでしょう。あのDという男にドモン・カッシュを足止めさせ、護衛はあのダコスタという軍人一人。ラクス・クラインを暗殺することなど容易いと思いますが」

 

 

 

「勝算はあるのかね、サラ?」

 

 

 

「お任せいただければーー」

 

 

 

 自信ありげなサラにデュランダルは一つ微笑むと、サトーに顔を向けた。

 

 

 

「わかった。よろしく頼む。サトー、すまないがサラのサポートを頼めないか?」

 

 

 

「デビルガンダム様に報告せずともよいのですか?」

 

 

 

 当のサトーは表情を変えずにそれだけを端的に問いかける。

 

 

 

「Dはこういう騙し討ちを嫌うんだ。だが彼もわかってくれるさ」

 

 

 

「…………」

 

 

 

「それよりも私は地球のアークエンジェルを排除しようと思う」

 

 

 

 デュランダル(政治家)の言葉をわずかに瞳を細めながら聞くサトー(軍人)。

 

 その二人に割って入るのはサラだった。

 

 

 

「危険です。相手はあのキョウジ・カッシュでは?

 

 しかも、ミネルバにはオーブからの客人であるシュバルツ・ブルーダーとアスラン・ザラが…」

 

 

 

「わかっているよ。彼らが戦力から抜けるのは非常に惜しい。だがーー大事のまえの小事だ。タリアに直接回線でメールを送っておこう。かまわないかね、サラ?」

 

 

 

 かすかに唇をかみしめたあと、サラは平静を装ってこう答えた。

 

 

 

「わかりました」

 

 

 

「頼むよ。もしタリアから疑問の声が上がったら、直接私に繋いでくれ。説明する」

 

 

 

「なにもデュランダルさまがそこまでーー。プラント本国が決めたことです。ならば、ザフトのいち艦長が疑問を挟めることなどありません」

 

 

 

「立場的にはそうなのだがね。彼女は納得しない。頼むよ」

 

 

 

 苦笑しながら告げるデュランダル。

 

 

 

「…………わかりました」

 

 

 

 暗い目をしてサラはそう答えた。

 

 その数分後、サラからタリア宛に直接メールが送られる。

 

 ただし、タリアからのコードには一切の返答をせず。

 

 デュランダルにその事を伝えもしなかった。

 

 

 

ーーオーブ専用シャトル内にて

 

 

 

 キョウジとカガリは堂々とプラントの空港からシャトルに移った。

 

 

 

「おかえりなさいませ、カガリ様。キョウジ殿」

 

 

 

 シャトルの責任者ーーキクチの迎えにカガリはホッとしたように微笑んだ。

 

 

 

「ああ。無事でよかった。すまなかったな、お前たち」

 

 

 

「カガリ様とキョウジ殿を信じておりましたから」

 

 

 

 ねぎらいの言葉をかけるカガリにキクチ達三名は、首を横に振る。

 

 

 

 そしてキョウジに向き直ると、一つの書類を取り出した。

 

 

 

「キョウジ殿、貴方から送られてきたデータを言われた通り書類にしておきました。もちろん記録媒体にも保存しております」

 

 

 

「ありがとうございます、キクチさん」

 

 

 

 キョウジは穏やかで温かな笑みを浮かべると紙を受け取る。

 

 

 

「? キョウジ、あの場面で一体何を送っていたんだ?」

 

 

 

「復元させたデュランダル議長のパソコンのデータをコピー。そのあと、オーブのシャトルに亜空間回路でコピーデータを送ったんだ」

 

 

 

「な!? なんだってぇえええええ!!?」

 

 

 

 こともなげに告げるキョウジにカガリが絶叫した。

 

 

 

「当たり前だろ? せっかく復元させたデータをそのままにするわけないじゃないか。セイラン家だけじゃない、オーブやブルーコスモス、ロゴスの財布も見れるかも知れないんだぜ?」

 

 

 

 眉を上げて言いながら、続ける。

 

 

 

「もっとも、カガリが議長のお遊びに乗ってくれたからコピーしたデータを送ることができたんだけどね」

 

 

 

「…お前、議長の動きを覚えるために私に戦わせたんじゃなかったのか?」

 

 

 

「ゲームの勝敗なんてものは2の次だよ。確実に相手の喉笛を掻っ切る武器を手に入れたんだ、簡単に手放す気はない。わざわざデビルの力を解放してまで主導権を握らせてやったんだからな」

 

 

 

「ーー!? あれも、演技なのか……!!」

 

 

 

 驚愕するカガリをキョウジは微笑まし気に見据える。

 

 

 

「カガリは本当に真っ直ぐだな」

 

 

 

「……褒められてるように聞こえない」

 

 

 

「そうか? 政治家としてはどうか知らないが。俺は、カガリのような人が好きだけどな」

 

 

 

 裏表ない笑顔。

 

 先ほどデュランダルたちにしていた笑みとはまるで違う。

 

 温かみのある声。

 

 カガリは、微かに赤くなった頬を隠すように言った。

 

 

 

「これから! 忙しくなるんだからな!! さぼるなよ、キョウジ!!」

 

 

 

「ーーはいはい」

 

 

 

「はいは一回だ!」

 

 

 

「は~い」

 

 

 

 二人を乗せたシャトルは、オーブ本国に帰還していった。 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 昨夜のパーティを終えた後、東方不敗マスターアジアはいずこかへと去っていこうとしていた。

 

 

 

 これを見送るのは、ミネルバとアークエンジェル隊の者たちだ。

 

 

 

「ーーフッ、いつの間にかワシもこの世界でこれだけの者とつながっておったか」

 

 

 

「師匠、どうかお元気で! またどこかの戦場でお会いできることを楽しみにしています」

 

 

 

「スティングよ、貴様らに預けておきたいものがある」

 

 

 

「は?」

 

 

 

 言うとマスターアジアは自身の袖口から三つの球を取り出した。

 

 

 

 空を思わせる青い球、森を思わせる緑の球、宝玉を思わせる桃の球。

 

 

 

 それぞれをアウル、スティング、ステラに渡す。

 

 

 

「し、師匠ーー! これって!!」

 

 

 

「俺たちに…師匠のガンダムを!?」

 

 

 

「ほ、ホントにいいの? ステラ達、まだーー」

 

 

 

 戸惑う三人にマスターアジアは言った。

 

 

 

「馬鹿者。貴様らが未熟千万なことくらい、このワシにはお見通しよ」

 

 

 

 言われてうつむく弟子達に師は強く言った。

 

 

 

「だが、未熟ゆえに貴様らは強くもなれよう。この先、ウォン達の攻勢は勢いを増すばかりであろう。それだけではない、貴様らはこの世界に巣くう悪意とも戦わねばならん。ワシからの餞別だ、見事使いこなしてみせよ!」

 

 

 

「ーー師匠」

 

 

 

「ワシはただ甘いだけの師匠ではない。そのガンダム達は貴様らの思う通りに動いてはくれる。しかし場合によっては、この世界のMSと大差ない性能にまで落ち込む可能性もある」

 

 

 

 あの超人的な動きはあくまでマスターアジアが操ったからこそ、だと彼は言った。

 

 

 

「そやつらを真に使いこなすことができなければ、この戦いを勝ち抜くことなど夢のまた夢と知れ!!」

 

 

 

「「「はい、師匠!!」」」

 

 

 

「ーー良い返事だ」

 

 

 

 マスターは目元を和らげると、その優しい表情のままに三人の弟子の後ろに並び立つ面々を見据えた。

 

 

 

「ネオよ、アークエンジェルよ。そしてシュバルツにキラ・ヤマトよ。我が弟子たちを頼んだぞ」

 

 

 

 その言葉に皆がコクリと頷いた。

 

 

 

 こうして東方不敗マスターアジアは、ベルリンを旅立った。 

 

 

 

 

 

 一方、こちらはミネルバのMS格納庫での一幕だった。

 

 

 

 整備員の一人が悲鳴を上げていた。その横には赤服の隊長アスランが頬を引きつらせながら悲鳴を聞いている。

 

 

 

「なんですか!? なんなんですか、この扱い方は!!?」

 

 

 

「す、すまん…、ヨウラン」

 

 

 

「すまんじゃないですよ! どうやれば、セイバーの関節部をここまで摩耗できるんですか!? シン達のMSも酷いけど、貴方のは出撃できないほどですよ!!」

 

 

 

「……いや、それぐらいの動きでなければ落とされていたんだ。セイバーは決して悪い機体ではないが、ジャスティスに比べるとなーー」

 

 

 

「核分裂炉積んでるような化け物MSと一緒にしないでくださいよ!! それにセイバーは射撃主体なんです、格闘機みたいな扱い方したら、そりゃ関節もガタガタになりますよ!!」 

 

 

 

「直せない、か……?」

 

 

 

 弱り声でそう聞くアスランにまるで睨みつけるかのようにヨウランは言った。

 

 

 

「無理ですよ!! ばらしてみないと分かんないけど、フレームそのものがイカれてるかもしれないんですから!! 下手すりゃ空中分解ものですよ、今のセイバーは!!」

 

 

 

「……参ったな。次の出撃はザクかゲイツにでも」

 

 

 

「ゲイツRしかないですよ、予備パイロットの面々のMSが三機ありましたから」

 

 

 

「ゲイツか。よし、さっそく俺用に調整させてもらえないか?」

 

 

 

「いくら調整しても、パイロットがこんな無茶するんじゃ一緒ですよ。量産機なんですから、ゲイツは」

 

 

 

「……次からは気を付けるよ」

 

 

 

 アスランの言葉にヨウランは胡散臭げに彼を見ていた。

 

 

 

「レイやルナだって、量産機をカスタムしたザクで出撃してるのに摩耗は修理できる程度なんですよ? 隊長なんすからもっと何とかできないんすか?」

 

 

 

「あれだけの動きをしてザクのフレームに摩耗がない?」

 

 

 

「ギリギリで修理できる程度にはなってますよ」

 

 

 

 目を大きく見開いてアスランはレイ機とルナマリア機のザクを見上げた。

 

 

 

「明鏡止水、なんて便利な能力なんだ」

 

 

 

「この際、隊長もシュバルツさんに教わったらいかがですか?」

 

 

 

 嫌味を込めたヨウランの言葉に真剣な表情でああと返すアスラン。その時だった

 

 

 

「よう、ザフトの坊主!」

 

 

 

「マードック曹長!!」

 

 

 

 現れたのは、コジロー・マードック曹長だ。

 

 

 

 彼はアークエンジェルのクルーをしており、凄腕のMS整備屋でもある。

 

 

 

「どうしてミネルバのMS格納庫に!? 一応、他軍の格納庫なんですからーー!!」

 

 

 

「実は、お前さんところの艦長にうちの艦長が頼まれてな。セイバーっつったか? 直せないかどうか見てほしいってよ」

 

 

 

「タリア艦長が!?」

 

 

 

 そういうとマードックは首からぶら下げていた許可証を見せる。

 

 

 

「正直、いつ敵になるか分からんザフト軍のMSを直すのは気が引けるんだが。坊主のためだしな」

 

 

 

「す、すみません。ほんとに」

 

 

 

「かまわねえよ、准将になった坊主の指示なんだろ? それぐらいは聞いてる」

 

 

 

 フェイスかつオーブ少佐の地位を持つアスランが、マードック曹長の前には形無しだった。

 

 

 

 突然、現れた他国の技術者にヨウランはあまり良い顔をしなかったが、それでも艦長の許可証があるのを確認した以上、きちんと説明した。

 

 

 

「ーーっという状況です」

 

 

 

「ひでぇな、こいつは。一から新品作った方がマシじゃないか?」

 

 

 

「そうなんですよ。どうやったら、ここまで次世代機をボロボロにできるのか…!!」

 

 

 

「まあ、そう言うな。坊主の腕にMSがついてこれないんだろってことは、その分を補ってやるのが俺達整備屋の見せ所じゃないか」

 

 

 

「……なんか、うちの班長に似てますね。あなた」

 

 

 

 技術屋同士で気が合うのか、二人はすぐに打ち解けた。

 

 

 

(ナチュラルとコーディネーター、か。そんなものは、やはり些細なことなんだろうな)

 

 

 

 アスランは静かに二人のやり取りを見ていた。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 一方でタリア・グラディスは艦長室から不機嫌を絵に描いたような表情で出てきた。

 

 

 

「どうされたんですか、艦長?」

 

 

 

 外で待機していた副長のアーサーが気を使って声をかけてくる。

 

 

 

「どうもこうもないわ。議長ーーというか、上は何を考えてるのかしらね」

 

 

 

 言いながら、レポート用紙をアーサーに渡す。

 

 

 

「え? エンジェルダウン作戦?」

 

 

 

 その記載内容を読んだアーサーの顔が驚愕に変わった。

 

 

 

「ロゴスの手先となったアークエンジェルを落とせ、ですって? 理由はカオスガンダムの所持とセイラン家とロゴスの金回りの癒着だそうだけれど」

 

 

 

「あ、アークエンジェルは、我々をーー!」

 

 

 

「そうよ、救ってくれたわね? わざわざ! こんな! 敵地のど真ん中にまで来て!!」

 

 

 

 怒りをあらわにして、タリアは壁を殴りつけた。

 

 

 

「カオスガンダムの介入? そんな映像データを取る余裕がありながら、援軍の一つも寄越さなかった本国の指示に従って、危険を顧みずに助力してくれたアークエンジェルを撃て、ですって? ふざけるのも大概にしてほしいわね…!!」

 

 

 

 更に拳を振りかぶるタリアにアーサーはうろたえながら問いかける。

 

 

 

「か、艦長! 説明の方はーー?」

 

 

 

「したけれど、返事がない!! おまけに通信も一切拒絶されている!! 軍人は上の言うことを聞け、命令に従う義務がある、の一点張り!!」

 

 

 

「そ、そんなーー!!」

 

 

 

「ほんとに、ふざけるんじゃないわよっ!!」

 

 

 

パシィッ

 

 

 

 怒鳴りつけながら壁に拳を叩きつけようとした時、横から伸びてきた白い手袋を付けた逞しい掌に止められていた。

 

 

 

「荒れているな。どうした、艦長?」

 

 

 

「貴方はいつも、唐突に現れるのね。シュバルツ・ブルーダー殿」

 

 

 

 表情を和らげながらタリアは諦めたように声を落とした。

 

 

 

 シュバルツの後ろにマリューがいたのだ。

 

 

 

「…出発の挨拶をしたい、とマリューさんーーラミアス艦長が言ったので貴女に会わせに来たのだが、な」

 

 

 

「お取り込み中に、申し訳ありませんでした」

 

 

 

 マリューが深刻な表情になりながら、頭を下げた。

 

 

 

「……マリューさん、ね? シュバルツ殿」

 

 

 

「な、何か?」

 

 

 

 タリアの眉が引きつり、シュバルツが覆面の奥で表情を引きつらせている。

 

 

 

「いいえ。そんなことより、話を聞いていたのでしょ?」

 

 

 

 タリアがシュバルツとマリューに向けて告げると、シュバルツは表情を真剣なものにマリューはしばらく黙った後に、微笑みを浮かべた。

 

 

 

「聞こえていません。少なくとも、私には」

 

 

 

 マリューの言葉にタリアは眦を吊り上げて言った。

 

 

 

「なら、はっきり言うわ。貴女達を落とせ、という命令が本国から下った」

 

 

 

「グラディス艦長ーー!」

 

 

 

 隣のアーサーがそれはまずいとばかりに止めるも、もう遅かった。

 

 

 

「仕方ないでしょうね。カオスガンダムが強奪された経緯を考えれば」

 

 

 

「仕方ない、ですってーー? 貴女達は、命がけで助けに来てくれたのよ!? その貴女達を撃つことが、仕方ないことなの!?」

 

 

 

 タリアは冷静な艦長としての自分ではないことを自覚していた。

 

 

 

 していたが、どうにもならない。

 

 

 

「私が息子に生きて連絡できたのも。シン達が仲良く笑っていられるのも。貴女達が来てくれたおかげだというのにーー!」

 

 

 

「グラディス艦長、ありがとうございます。けれど、軍に所属する以上は命令に服従するのもやむなし、です」

 

 

 

「ラミアス艦長ーー! 私が軍の命令に背かなければ、貴女達はここで拘束されるのよ? そんな理不尽なことがまかり通るのよ!?」

 

 

 

 ならば、どうしろというのか?

 

 この場は、マリュー達を見逃すのか?

 

 それを行っても、自分ひとりの責任で何とかできる。一方的な命令には従えない、きちんと説明しろと言えばこの場はしのげる。

 

 

 

 問題は次だ。

 

 

 

 この場は逃がせても、いずれはアークエンジェルを追い詰め落とさなければならない。

 

 

 

 場凌ぎにしかならない判断では、とタリアは唇をかみしめる。

 

 

 

「ねぇ、ラミアス艦長。どうすればいいかしら?」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

「この場だけなら、貴女方を逃がせる」

 

 

 

 壁にもたれかかり、気だるげな声でタリアは言った。

 

 

 

「艦長!! それでは艦長に責任がーー!! せめて私の判断にしてください!! そうすれば、艦長が責任を負うことなど!!」

 

 

 

 アーサーが思わず叫ぶと、彼女は苦笑して言った。

 

 

 

「副長一人の判断で勝手に逃がしたなら、独房入りも免れない。下手をすれば国家反逆もの。その点、私はフェイスで、しかも隊を預かる艦長だもの。私の方が危険はない」

 

 

 

「ですがーー!!」

 

 

 

「それに、この案は一時しのぎにしかならない。解決案がないのよ」

 

 

 

 ため息をつくタリアにアーサーが苦しそうな表情でマリューを見た。

 

 

 

「申し訳ない。貴女方の誠意を我々が裏切るようなーー!」

 

 

 

「いいえ。これも政治が関わっていることなのでしょうね」

 

 

 

 マリューも柔らかで寂しげな表情で答える。その時だった。

 

 

 

「ならばーーここは私に任せもらおう」

 

 

 

 シュバルツ・ブルーダーが手を上げた。タリアが思わず食いつく。

 

 

 

「この状況を打破する方法があるの?」

 

 

 

「ああ、一つある。しかしその為には、アークエンジェル隊とミネルバ隊の協力が必要だ」

 

 

 

 これにマリューが問いかけた。

 

 

 

「どうすれば、いいの?」

 

 

 

 皆が注目する中、シュバルツはこともなげに言った。

 

 

 

「アークエンジェルを落とせばよい」     

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね~!!

 エンジェルダウン作戦に対抗するため、シュバルツはミネルバとアークエンジェルに協力する策を与えます。

 一方で、シュバルツの作戦を聞いたレイがプラントに報告を行うのです。

 次回!

 機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第56話に!!

 レディー、ゴー!!



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第56話 レイの苦悩 シュバルツの愛

 さて、皆さん。

 ミネルバに突きつけられた理不尽な命令。

 それは我が身を顧みずに助けに来てくれたアークエンジェルの打倒でした。

 この理不尽な命令に対し、シュバルツは2つの部隊に策を提案するのです。

 しかし、それを快く思えぬ者もーー。

 はたして、物語はどのような展開を迎えるのでしょうか。

 それでは!!

 ガンダムファイト!!

 レディィィィッ!! ゴォォォオオオッ!!



ーーミネルバ艦長室前通路にて

 

 

 

 シュバルツの言葉にこの場にいる全ての人間の時が止まった。

 

 

 

「アークエンジェルを…」

 

「落とすーー?」

 

「って、そんなことしたらーー!」

 

 

 

 タリア、マリュー、アーサーが声を上げるもシュバルツは淡々とした表情で答える。

 

 

 

「落とすと言っても、本当に落とすのではない。この場はタリア艦長の提案を受け入れ、アークエンジェルを逃がす。だがこの部隊は、いずれアークエンジェルを追い詰める状態になるだろう。それだけ私はシン達を鍛えた」

 

 

 

「……本当に落とすのではない、とは演技をしろということですか? でも、生半可なことじゃデュランダル議長はーー」

 

 

 

 アーサーの言葉どおりだ。

 

 

 

 中途半端なことをすれば、それこそミネルバクルーすべてが危機にさらされる。

 

 

 

「案は二つある。一つは、確実にアークエンジェルを逃がすことができるが、これは内通者がいない場合だ」

 

 

 

「どのような案なの?」

 

 

 

 タリアに一つ頷くとシュバルツは言った。

 

 

 

「この場にいるあなた方には、全てを話しておこう。作戦内容は、こうだ」

 

 

 

 内通者の有無に応じた腹案二つをシュバルツが語り終えたころ、タリアは表情を曇らせた。

 

 

 

「内通者がいた場合、アークエンジェルの方は危険極まりないわね」

 

 

 

「だけど、シュバルツさんの能力ならできる、ということでいいのよね?」

 

 

 

 二人の艦長からの言葉に力強くシュバルツは頷いた。

 

 

 

「うむ、私にしかできないと言っても過言ではない。ゲルマン忍法の真髄をお見せしよう!!」

 

 

 

「ーーフフッ、久しぶりに聞いたわね。その忍法の名前」

 

 

 

 こんな時だと言うのに笑顔が出た。

 

 

 

 タリアはそのことに驚く半面、どこか安心した自分がいることに気付きシュバルツに無言で感謝した。

 

 

 

「でも、上手く行くんでしょうか?」

 

 

 

「行くんじゃないわ。行かせるのよ」

 

 

 

 アーサーの気弱な発言にタリアが強気な目をして言った。

 

 

 

 その言葉にマリューも頷く。

 

 

 

「お互い、撃沈されるわけにはいきません」

 

 

 

「そうね。だからこそ、本気で行かせてもらうわ。アークエンジェルのみなさん」

 

 

 

「ーー覚悟して受けます。ミネルバのみなさん」

 

 

 

 お互いにそう言いながら、話を続ける。

 

 

 

 作戦は、MSのパイロットと艦主砲を担当する砲撃主たちに徹底することを前提に進められた。

 

 

 

 シン達にも当然、この説明が行われる。

 

 

 

 しかし、シュバルツの指示でアークエンジェル隊にはこの作戦を予め説明していたが、ミネルバ隊にはアークエンジェルがベルリン基地を発進するまで極秘とされた。

 

 

 

 アスランには話しておくべきかともシュバルツは考えたが、作戦を確実に遂行するためにも嘘の得意ではないアスランには伝えない方針で話が進んだのだ。

 

 

 

 もっとも、キラも嘘が得意というわけではないが。

 

 

 

 アークエンジェル隊が出発する時間になった。

 

 

 

「なんだよ、もっとゆっくりしていってくれても良かったのにーー!」

 

 

 

 シンが唇を尖らせながら言うと、キラがニコリと笑って返した。

 

 

 

「ごめんね? 僕たちもベルリン基地の一件のことを早くオーブに帰って伝えたいんだ」

 

 

 

「だからって、別にマスターアジアが出発した日にあわさなくてもーー!」

 

 

 

 不満げなシンにキラはにこやかに微笑む。

 

 

 

 すると、キラの脇を通り過ぎてシンの首っ玉に抱き着く少女がいた。

 

 

 

「ーーステラ!?」

 

 

 

「シン、シンもステラ達と一緒に行く? そうすればキラとも別れなくていいよ!」

 

 

 

 名案だとばかりに笑いながら告げるステラにシンが戸惑っていると、ステラの首根っこを掴んでルナマリアが引きはがした。

 

 

 

「はいはい、もういいから。体ばっかり無駄に成長してる小学生はさっさと保護者のところに帰んなさい。シンはミネルバのパイロットなんだから、オーブなんかには行かないの!」

 

 

 

「む~っ! どうして? シン、オーブの出身なのに!!」

 

 

 

「アンタ、ステラにそんなことまで話したの!?」

 

 

 

 ルナマリアの怒りの声にシンがタジタジになりながらも、返す。

 

 

 

「え? 話の流れでそうなっただけだけどーー。なんで怒ってるんだ?」

 

 

 

「余計なことをベラベラと話すんじゃないわよ、このバカ!」

 

 

 

「な、なんだと~!?」

 

 

 

 ルナマリアの言葉にシンも怒りのボルテージを上げるも、ステラが二人の間に割って入る。そしてルナマリアの方を見て言った。

 

 

 

「シンは、バカじゃないよ」

 

 

 

「ーーっ! 何よ……!!」

 

 

 

「ステラを助けようとしてくれた。だからシンは、バカじゃないよ。ルナも知ってるでしょ? シンは優しいよ」

 

 

 

「……そんなこと、分かってるわよ」

 

 

 

 ステラの真っ直ぐな瞳に、思わずルナマリアも勢いを削がれてしまった。

 

 

 

 ルナマリアの素直な言葉にステラもニコリと笑う。

 

 

 

 スティングとアウルがその光景にやれやれ、とため息を吐く中でネオが憮然とした表情になっている。

 

 

 

「おい、ネオ? どうした?」

 

 

 

「ぶっさいくな顔だぞ!」

 

 

 

 これに二人が問いかけると、ネオが二人を真剣な表情で見ながら言った。

 

 

 

「お父さん、まだ娘を嫁にやる気はないんだ」

 

 

 

「…洒落になんねぇぞ、ネオ」

 

 

 

 ネオの言葉にスティングがやや後ろに引き気味に言った。そんな彼らに近づいてきたのは、金色の髪の優男。

 

 

 

 レイ・ザ・バレルだった。

 

 

 

「スティング、アウル。もう出立するらしいな」

 

 

 

 これに二人の少年も笑顔を向ける。

 

 

 

「レイ! 見送りに来てくれたのか!」

 

 

 

「わざわざ、わりぃな!」

 

 

 

 レイは二人に頷くと告げた。

 

 

 

「オーブに帰ったら、艦は降りろ。いつまでも戦争にかかわるな」

 

 

 

「--そうだな、ありがとよ」

 

 

 

「約束しろ。お前たちは、生き残って平和な世界を生き抜くと」

 

 

 

「レイーー?」

 

 

 

 キョトンとするアウルとスティングにかまわず、レイは力強い瞳で言った。

 

 

 

「たとえ何があろうと生き残れ。お前たちは、その権利がある。平和な世界は必ず、俺がーーギルバート・デュランダル議長が作り上げる。だから、それまで必ず生き残れ」

 

 

 

 レイの言葉に茶化せない何かを感じたアウルとスティングは、静かに頷いた後に彼に言った。

 

 

 

「……レイ、その言い方だとお前には権利がないみたいじゃねえか? お前も生き残れよ」

 

 

 

「僕たちも必ず生き残る、だからお前もシンもルナも! みんな死ぬんじゃねーぞ」

 

 

 

 二人からの言葉に、レイは目を大きく見開いてーー

 

 

 

「……あ……?」

 

 

 

 唇を震わせ、その美しい瞳から涙をあふれさせた。

 

 

 

「! おい、レイ? どうしたよ!?」

 

 

 

「僕達、なんかマズイこと言ったのか!?」

 

 

 

 戸惑い、オロオロする二人を手で制しレイは言った。

 

 

 

「い、いやーー! 自分でも、分からないんだ…! だが不愉快な感じじゃない。何だこれは?」

 

 

 

「いや…『何だ』とか、俺に言われてもよ」

 

 

 

 涙を流したまま、小首をかしげるレイにスティングも困ったような表情になる。

 

 

 

「僕は分かるぜ! レイ、お前今うれしいんじゃないか? 嬉しくても涙って出るんだぜ? 僕も最近知ったんだけどさ」

 

 

 

 アウルは脳裏に浮かんだガーティールーの面々を思い笑った。

 

 

 

「……そうか。そうかもしれん。ありがとう、スティングにアウル」

 

 

 

 感謝の気持ちを告げるレイにスティングとアウルも微笑みを返した。

 

 

 

「それじゃ、僕たちはいくよ。シン、ルナマリアさん。君たちも気を付けて」

 

 

 

 キラがそう言って別れるように彼らに背を向ける。

 

 通路にはアスランが待っていた。

 

 

 

「アスラン、君も気を付けてね」

 

 

 

「ああ。分かってる、ミネルバを必ず守るさ」

 

 

 

 すれ違いざまにそう言いあい、キラは微笑みを浮かべるとアークエンジェルに乗り込んでいった。

 

 

 

 それから僅かな時を経て、アークエンジェルはベルリン基地を出発した。

 

 

 

 これを敬礼で送りながら、ザフトの面々は笑顔を浮かべていたーー。

 

 

 

 ベルリンの人々もまた、晴れやかな笑顔でアークエンジェルを送り出した。

 

 

 

 大天使を打倒する作戦が、水面下で進められていることに気付かずに。

 

 

 

ーーミネルバ格納庫にて

 

 

 

 シン達はアークエンジェルが去った後しばらくしてから、タリア艦長の号令で格納庫へ召集された。

 

 

 

「みんなに聞いて欲しいことがあります! 私たちは先ほど、アークエンジェルを打ち倒すように本国から指令を受けました!!」

 

 

 

 この言葉にどよめきとざわめきが起こる。

 

 

 

「なんでーー? アークエンジェルは、俺たちを!!」

 

 

 

 真っ先に叫んだのは、この中でも真っ直ぐな少年ーーシンだった。

 

 

 

「私も納得できません! 本国は何と言って来てるんですか?」

 

 

 

 隣のルナマリアもシンに続いた。他の者も皆、一様に同じだ。違うのは、一人の少年だけ。

 

 

 

「納得できなくても良い。だが、本国からの命令は絶対のはずだ。シン、ルナマリア。お前達も軍人ならば覚悟を決めろ」

 

 

 

 レイの様子を伺ってから、タリアは皆を見据えて言った。

 

 

 

「…先にルナマリアの質問に答えます。本国は、アークエンジェルをロゴスの手先だと判断しているわ」

 

 

 

「理由は、何故ですか?」

 

 

 

 問うたのは、アスラン・ザラだった。タリアは意味ありげにアスランを見据え、こくりと一つ頷いた。

 

 

 

「カオスガンダムの件よ、本国はあの戦いを撮影していたのよ」

 

 

 

「! アレだけの犠牲者が出た戦いを援軍も送らずに撮影だけしていた!?」

 

 

 

 アスランだけではない。この場にいた皆の怒りのゲージが上がる。

 

 やはり一人を除いて、だが。

 

 

 

「当然でしょう、あれほどの犠牲者が出た戦いは記録しておかなければ、またいつ連合が同じような真似をするか分かりません。本国は正しい」

 

 

 

「レイ! お前、本気で言ってんのかよ!?」

 

 

 

 淡々と告げる同僚にシンの表情が強張る。

 

 

 

 対してレイは冷静だった。

 

 

 

「ロゴスの卑劣な手段を民衆に分からせる一番、効率の良いやり方だ」

 

 

 

「ーーふざけんな!! アレだけの犠牲者が出たんだ!! ゲームやってんじゃないんだぞ!!!」

 

 

 

 胸ぐらを掴み、吠えつけるシン。

 

 レイもその腕を掴んで叫び返した。

 

 

 

「だからだ!! だからこそ、争いを止めさせる為に必要な犠牲だったんだ!!」

 

 

 

 ルナマリアが二人の間に割って入る。彼女は静かな表情でレイを見た。

 

 

 

「ーーレイ。死んでいった人の遺族の前でアンタは言うつもりなの? 効率が良い、て」 

 

 

 

「議長が判断されたことだ! 議長は正しい!!」

 

 

 

 シンが怒りのままに「ーーお前!」と殴りかかろうとするのをルナマリアが手で制し、逆の手でレイの胸ぐらを掴み上げた。

 

 

 

「ーー正しい? 見殺しにしたことが、正しいっての? それとも、何処の誰かも分からない人間が何人死のうと関係ないわけ?」

 

 

 

「議長の望む世界こそ、未来こそ! 人々が目指すべきものなんだ! その為にも、不要な物は排除しなければならない!!」

 

 

 

「ーーふーん。そうなんだ? じゃあさ、アンタ。スティング達に生き残れ、って言ってたけど。あいつらの事も必要な犠牲だから見殺しにしろ、って議長に言われたらやるわけ?」

 

 

 

「ーー議長は、そんなことは言わない!!」

 

 

 

「言ってんじゃない。今回のカオスガンダムの件やアークエンジェルの件を。夢見てんじゃないわよ」

 

 

 

 冷たく蔑むようなルナマリアの目に射抜かれながらも、苦悶の表情になりながらも、レイは告げる。

 

 

 

「ーーギルは言ってた。作られた命でも平等な世界を作り上げると。優しい世界を作るんだと。だからーー!!」

 

 

 

「だから、今を生きてる優しい人に死ね、ってわけ?」

 

 

 

 淡々と鋭利なナイフのような言葉をルナマリアは紡ぐ。

 

 

 

「ーーなんでだよ、レイ!? なんで分かんねーんだよ!? 家族を奪われたら、悲しいに決まってるだろ!?」

 

 

 

 シンの瞳からは涙が溢れていた。

 

 

 

 彼の中にあるのは、深い悲しみだ。

 

 

 

 家族が亡くなったのは誰のせいでもない、強いて言えば戦争のせいだった。

 

 

 

「ーーそれを起こすのが人間だ!! だから、人間はもう変わらなきゃいけないんだ!! 変わらなきゃ、人はもうーー!!」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 レイが突然その場に崩れ落ち、胸をかきみしりながら、苦しみ始めたのだ。

 

 

 

「ーー! レイ!?」

 

 

 

「ちょっと、どうしたのよ!?」

 

 

 

 シンとルナマリアが思わず彼に駆け寄る。レイは握力すら無くしてしまっているようで、必死に上着のポケットから何かを出そうとするも、上手くいかないようだった。

 

 

 

「おい、レイ!! しっかりしろよ!!」

 

 

 

「誰か、担架を!! 早くして!!」

 

 

 

 シンとルナマリアが叫ぶ中、アスランが担架を担いでくる中で、一人の覆面をした男がレイの前に現れた。

 

 

 

「ーーどうした、レイ? 何をしたい?」

 

 

 

「あ、ああああっ!!」

 

 

 

 シュバルツだった。彼はレイの正面に座るとレイの上着から錠剤の入った容器を取り出した。

 

 

 

「ーーん、コレか」

 

 

 

 皆が騒ぐ中、シュバルツは淡々と懐から小さな水筒を取り出し、コップに水を注ぐとカプセルを差し出した。

 

 

 

「一つで良いのだな?」

 

 

 

 シュバルツはレイの目を見ながら話しかけ、まるで意思疎通ができるようにスムーズにレイに薬を飲ませた。

 

 

 

 しばらくして、レイの呼吸は治まった。

 

 

 

「ーー大丈夫なのかよ、レイ?」

 

 

 

 シュバルツの腕の中にいるレイにシンが話しかける。

 

 

 

「ーーああ。大丈夫だ」

 

 

 

 青ざめた表情ながらも、レイはシンに応えた。

 

 

 

「申し訳ありませんでした、シュバルツ殿」

 

 

 

「いや。それよりも今の発作はなんだ? 癲癇とも症状が違うようだが」

 

 

 

 レイはスクリと立ち上がる。

 

 

 

「薬を常備しているということは、何度も繰り返し今のような発作が?」

 

 

 

「ーー申し訳ありません。癲癇のようなものです。少し、興奮し過ぎたようで」

 

 

 

「ーーそうか。分かった」

 

 

 

 シュバルツはレイの言葉に静かに頷いた。

 

 

 

「それよりも、アークエンジェルをどうやって撃つおつもりですか、艦長?」

 

 

 

 レイは額に脂汗をかきながらもタリアに問いかけた。

 

 

 

「ーーアークエンジェルのクルー達と協力して、船を落としたように見せる作戦を考えました」

 

 

 

「それは、しかし! アークエンジェルを見逃せても、今後に関わるのでは!?」

 

 

 

 タリアの言葉にアスランが異を唱える。

 

 

 

「現状、プラント本国はアークエンジェルをロゴスの手先だと判断している。オーブの政治家とブルーコスモスの癒着に関しても証拠があるみたい」

 

 

 

「イザークの言っていた、癒着問題がこんなタイミングでーー!」

 

 

 

 アスランが思わず吐き捨てるとシンが横で歯ぎしりをしている。

 

 

 

「また、政治かよ!! どいつも、こいつも!! アスハはまだ手打ちにしてないのか!!」

 

 

 

「ーーシン、それ無理だから」

 

 

 

 ルナマリアの冷めたツッコミが決まった。

 

 

 

「オーブの信頼回復は、私たちの範疇ではないわ。けれどシュバルツ殿やアスラン少佐には共に戦ってもらっている。何より、アークエンジェルに危機を救われたのは事実。よって本艦は、アークエンジェルを全力で見逃す作戦を決行する!!」

 

 

 

「ーーですが、いくら見逃すと言っても。アレだけ大きな

 

ものをどうやってーー!」

 

 

 

 ルナマリアの言葉にタリアが頷いて答えた。

 

 

 

「説明するわ。まず、アークエンジェルには潜水機能があります。ミネルバや他のザフト艦には備わってない能力。コレが作戦の要の一つ」

 

 

 

 タリアの言葉に、ルナマリアがハッとする。

 

 

 

「ーーつまり、海水に追い込むようにすれば逃げれるんですね!」

 

 

 

「そう。次に、撃破確認だけれど。コレにはアスラン少佐の助力が必要なの」

 

 

 

 アスランは、自分に話が来たことに驚きつつも、心当たりを述べる。

 

 

 

「確か、アークエンジェルには各部にエンジンがありましたね? いざとなれば、それを分離できるーー!」

 

 

 

「これには、船の構造と正確な射撃能力が問われるわ。やれる、アスラン?」

 

 

 

 タリアの問いにアスランは静かに瞳を閉じた後、強い口調で答えた。

 

 

 

「やれます。いや、やらなければならない…!」

 

 

 

 アスランの答えに頷いた後、タリアはシンに顔を向けた。

 

 

 

「アークエンジェルは、オーブが正面切ってザフトと戦うつもりはないことを証明するために、キラ准将一人で出るそうよ」

 

 

 

「んな、むちゃくちゃな!!」

 

 

 

「こちらも丁度、先のベルリンの戦いで出せるMSは一機だけ。換装ができるインパルスガンダムのみ」

 

 

 

「…俺の行動にキラさん達をうまく逃がせられるか、かかってるってことか」

 

 

 

 このタリアの発言にレイが瞳を鋭くした。

 

 

 

「ザクはまだ戦えます」

 

 

 

「そう? シン一人ならキラ准将だけだけれど。ザクが介入するなら、向こうもとんでもないMSを三機出してくるかもしれないわね? マスターアジアからもらった。アレはオーブとは関係ないわよ?」

 

 

 

「ご冗談を。テロリストとして我々とアーモリーワンで交戦したではないですか。奴らがあの機体を使うのであれば癒着問題も確実と言える」

 

 

 

 冷たい瞳をきらりと光らせるレイに横からルナマリアが言った。

 

 

 

「なら出る? アンタが生きろと言ったスティングたちをアンタ自身の手で倒す?」

 

 

 

「それは…!!」 

 

 

 

「これは、そういうことなのよ」

 

 

 

 タリアは静かにルナマリアと話し黙り込んだレイを見つめる。

 

 

 

 ルナマリアはそのまま、タリアに向き直ると言った。

 

 

 

「ザクのフレームもギリギリです。次の戦闘には間に合いません」

 

 

 

「…ありがとう、ルナマリア。エンジェルダウン作戦はこれより、西ユーラシアに移動して行われる。アークエンジェルがベルリンからオーブに向かうにはその航路が最も早いと判断したためよ」

 

 

 

 タリアは説明を続けていく。

 

 

 

「当然、友軍の援護もある。西ユーラシアでウィラード隊が勧告無しで攻撃する予定よ。それに便乗して私たちも作戦に参加する。幸いなのは、主導権が私たちに委ねられていることよ。本作戦にはアークエンジェルを友軍からは撃破したように見せて無事にオーブへたどり着かせることにあります。中途半端なことでは味方の目は欺けません。やるからには全力でいきます。いいわね?」

 

 

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

 

 こうしてミネルバは西ユーラシアへと向かった。

 

 

 

ーーミネルバの仮眠室にて

 

 

 

 シン・アスカとレイ・ザ・バレル用に宛がわれた部屋で、作戦行動前だと言うのにレイは眠っていなかった。

 

 

 

 極限まで照明が絞られた部屋のなか、レイの私用パソコンを叩く音だけが規則的に響いている。

 

 

 

「ーーはい。現状、ミネルバはアークエンジェルと結託しています。私から何を言おうとも行動に変化はありません」

 

 

 

 打ち込みながら、彼は何かをつぶやいていた。

 

 

 

 それをベッドに横たわる赤い瞳がジッと見ていることに気付かずにーー。

 

 

 

「分かりました。ギルも気を付けてください。こちらは大丈夫です。それではーー」

 

 

 

 レイは静かにパソコンを閉じた。

 

 

 

 それを確認するとシンはゆっくりと起き上がりながら、あくびをする。

 

 

 

「ーー!! シン?」 

 

 

 

「まだ寝ないのか、レイ?」

 

 

 

「ああ。お前こそ早く寝ろ。作戦に参加するのはお前だ。俺は少し風に当たる」

 

 

 

 そう言いながら、レイは外に出て行った。

 

 

 

「ーーレイ。お前も平和な世界を望んでるんじゃないのかよ? なんでだよ」

 

 

 

 シンの呟きが暗がりの部屋にこだました。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 ミネルバの桟橋に出ると、薄く張った雲のなかから星々が弱い光を放ちながらレイを見下ろしてきた。

 

 

 

 人影一つ見当たらない夜更けの海上は、先の激戦など忘れたかのようにさざ波の音だけがおだやかに語りかけてくる。

 

 

 

「ーー眠れないのか?」

 

 

 

「ーー!? シュバルツ殿!」

 

 

 

 闇の中から静寂をそのままに、覆面を付けたコートの男が腕を組んで現れた。

 

 

 

 咄嗟にレイの背筋が震えた。桟橋の手すりから身を離し、ばね仕掛けのごとくふり返ったレイを、彼は静かに真っ直ぐ見つめている。

 

 

 

「ーー何か、私にご用でしょうか?」

 

 

 

 おだやかな沈黙に耐えかねて、挑むようにシュバルツを睨みつけた。

 

 

 

 レイの小さな心臓は脈打っている。

 

 

 

「ん? 私は夜風に当たっていただけだが?」

 

 

 

「ーーならば、単刀直入にお聞きします。何故、未だにミネルバにいるのですか? 我々は敵になるはずだ。オーブとロゴスの癒着、アークエンジェルの件。アスランと貴方がミネルバにいる意味はない!」

 

 

 

 まくし立てる間も、シュバルツの視線は揺るがない。

 

 

 

 鼓動が、冷たくレイの耳に届いてくる。わずかな沈黙すらをもいまのレイには耐えられず、オートマチック拳銃を彼は衝動的にシュバルツの眉間に据えていた。

 

 

 

「ーーこれ以上、我々をーー俺を惑わさないでくれ!! 世界は変わらなければならないんだ!!」

 

 

 

 シュバルツは、ただレイの言葉を聞いている。

 

 

 

 それだけで、少年は銃口を一点に定めてられなかった。

 

 

 

「無理なんだ、今のままじゃ!! いくら平和に見えても何度も繰り返す!! だからーー!!」

 

 

 

「レイーー。それはお前の身体の事に関係しているのか?」

 

 

 

 淡々と普段どおりの男の声が、強張ったレイの神経をゆっくりとほぐしていく。

 

 

 

 頬が震える。じわり、じわりと胸を中心に広がっていく温かく不思議な感覚に、オートマチック拳銃を握る腕が自然と下りていった。

 

 

 

 レイは苦笑を漏らすと

 

 

 

「ーーいつから気付いていましたか?」

 

 

 

「確信が持てたのは、今日だよ。この薬を見て、悪いが調べさせてもらった」

 

 

 

「ーーっ」

 

 

 

 シュバルツは青く光る錠剤を一つ取り出し、レイに言った。

 

 

 

「レイ、お前の身体はーー」

 

 

 

「テロメアが短いんです。生まれつき」

 

 

 

 シュバルツの言葉を遮るようにレイは告げる。

 

 

 

 まっすぐな目と、視線を合わせられなかった。

 

 

 

「クローンなんです。俺は」

 

 

 

「ーーそうか」

 

 

 

「貴方は、本当に動じない方だ。何を言っても、やっても、貴方を驚かせられない」

 

 

 

 自嘲混じりにつぶやきながら、レイは静かに銃をおさめた。

 

 

 

「レイ。私もだ」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

「私もクローンだと言っている」

 

 

 

 シュバルツの言葉の意味を正しく理解できるのに、どれだけの時間がかかったのか。

 

 

 

 吸い寄せられるように、レイはシュバルツの全身をあらためて見た。

 

 

 

 まさに揺るがぬ大木。

 

 

 

 洗練された佇まいと相成って、そんな存在感に満ち溢れた男を、レイはこの男以外に知らない。

 

 

 

「ーー何を、言ってーー?」

 

 

 

「自分だけが特別だと思ったか?」

 

 

 

 シュバルツの言葉を理解した時、否定したい気持ちがレイにあった。

 

 

 

「レイ。自分だけが不幸などとは思うな。世界には、お前だけが独りでいるなどと決して思うな」

 

 

 

「ーーシュバルツ殿」

 

 

 

「この世に生きる全ての命は、皆必死なのだ。自堕落に生きているものもいよう。何故、こんな奴がと思う人間もいよう。だが、其奴らもまた、必死で生きる者の一人なのだ」

 

 

 

「ーーロゴスを含めて、ですか?」

 

 

 

「そうだーー」

 

 

 

 レイの目が鋭くなる。

 

 

 

「貴方は、クローンだと言った。ならば、貴方も俺と同じはずだ。貴方は生きたいとは思わないのか?」

 

 

 

「ーーレイ。お前は生きたいか?」

 

 

 

「生きられるなら、生きたい!!」

 

 

 

「何故だ?」

 

 

 

「皆が当たり前に生きている!! 何故、俺だけなんだ!? どうして俺を作った!? 当たり前に生きていける連中を見ながら、俺はいつ死ぬか分からない恐怖にずっと付きまとわれている!!」

 

 

 

 産まれた時に感じたのは絶望。

 

 

 

 自分と同じ存在だった彼は、世界を憎み滅ぼそうとして死んだ。

 

 

 

 あの時に感じたのは、寂しさと悲しみ。

 

 

 

 そして、憎しみだ。

 

 

 

 半身を失った慟哭は、傍にギルバートが居なければとても独りで堪えきれなかった。

 

 

 

「貴方には分からないか?! 貴方は強いからな!! 与えられた運命さえも切り開ける力がある!! 俺には無い!! 与えられた運命を受け入れるしか、俺にはできない!!」

 

 

 

 シュバルツは静かにレイの言葉を聞いている。

 

 

 

 だれにも打ち明けたことのない本性こころ。

 

 

 

 深く根付いた重りを、怒りを、いま生まれて初めてレイは声に出して、叫んでいた。

 

 

 

「俺は、死ぬしかない! だからせめて、この世界に生きた証を残したかった。ロゴスを討てば、議長の望んだ世界になれば、俺のような存在は産まれなくなるんだ!!」

 

 

 

「ーーレイよ。敢えて言わせてくれ。ふざけるな、と」

 

 

 

「ーーっ!?」

 

 

 

 胸ぐらをいきなり掴まれ、目の前にシュバルツの顔があった。

 

 

 

「それではお前の幸せが、どこにもないではないか!! それが貴様の望みだと!? ふざけるな!!」

 

 

 

「そんなもの……! なら、どうしろと仰るのです!? 俺なんかが、何を望めると言うんですか!?」

 

 

 

「馬鹿者っ!! お前には共に歩んだ友の声が聞こえなかったのか!?」

 

 

 

 ハッとまたたいたレイの脳裏に、少年たちの面影が浮かび上がる。夕方のこと。ミネルバに一時的に集合したほかの艦の者たち。

 

 

 

「ーー友の声?」

 

 

 

「お前と共に数々の戦場を潜り抜けてきた友との絆をお前は否定するのか!? 共に生きたいのだろう!!」

 

 

 

 シュバルツの言葉にレイは目を見開く。

 

 

 

「レイ、自分の願いから目を反らすな。自分の本当の心を殺すな。仕方ないなどと諦めるな。自分の幸せは、自分にしか分からない。誰かの思惑に乗せられ、それを自分の望みにするな」

 

 

 

「ーー違う。俺は、俺はギルの望む世界をーー」

 

 

 

「違わない。ギルバート・デュランダルがお前にとって全てだと言うなら分かる。だが、お前の掌には、お前の心には。本当にギルバート・デュランダルしかいないか?」

 

 

 

 シュバルツの言葉に、レイの脳裏にはシンが、ルナマリアが、ミネルバの面々が。そして、スティング達が通り過ぎていく。

 

 

 

 ――自分でも、分からないんだ…! だが不愉快な感じじゃない。何だこれは?

 

 

 

 ――いや…『何だ』とか、俺に言われてもよ。

 

 

 

 ――僕は分かるぜ! レイ、お前今うれしいんじゃないか? 嬉しくても涙って出るんだぜ? 僕も最近知ったんだけどさ。

 

 

 

「生きたいことを隠すな。諦めるな。お前は若い。世界に絶望するにはまだ早過ぎる」

 

 

 

 大きな腕が、レイを抱きしめている。

 

 

 

 温かな感情がまたレイのうちに溢れてきて視界をにじませると、雫となって次々に頬を伝い落ちていく。

 

 

 

「ーー頼む。お前は、間違わないでくれ。私のように大事な者の手を汚させないでくれ。

 

 私のワガママだと言うのは、分かっている。だが、それでも。お前は私の掛け替えの無い弟子なんだ。自分の命を軽くしないでくれ」

 

 

 

「ーーーーーーーーシュバルツ、さん」

 

 

 

「ーー頼む」

 

 

 

 シュバルツの胸板に頬をあずけて、レイもまた灰色のコートの裾を力のかぎり握りしめた。押し殺した嗚咽を、感情を、この男はすべて温かく包んでくれる。そんな安心感があった。

 

 

 

 月明かりの下で、2人の作られし者は静かに寄り添いあっていた。

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 西ユーラシアにて再び対峙するミネルバとアークエンジェル。

 はたして、ミネルバは無事に友軍の目を欺き、アークエンジェルを逃すことに成功するのか?

 また、キラからシンに驚くべき提案がなされるのです。

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第57話に!

 レディー、ゴー!!


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第57話 エンジェルダウン作戦 開始

 皆さん、大変なことになってきました。

 なんと我らがシン・アスカとキラ・ヤマトが、ミネルバとアークエンジェルを率いて、ぶつかり合うことになったのです。

 そう、ギルバート・デュランダルの目を欺く為に。

 はたして、彼らは無事にこの茶番劇を終わらせることができるのか!?

 それでは、ガンダムファイトォ!!

 レディィィィッ! ゴォォォオオオッ!!




ーーーー西ユーラシアにて

 

 

 

 始まっていた。

 

 

 

 すでに激戦と呼ばれる戦闘は始まっていた。

 

 

 

 アークエンジェルは、氷山と雪原を切るように移動しながら、敵の攻撃を回避していく。

 

 

 

「直撃は避けて! ベルダート、ヴァリアント、撃てぇ!」

 

 

 

「ーー了解!! 行くぞ、アウル!!」

 

 

 

「合わせるぜ、スティング!!」

 

 

 

 マリューの指揮の下、砲撃席に座るアウルとスティング。アークエンジェルは次々と群がるバビと呼ばれる空戦型MSを撃墜していく。

 

 

 

「ーー右舷4、バビ3機確認! 距離イエロー!!」

 

 

 

「ミサイルは機銃で撃ち落せ! ビーム砲は、ビーム撹乱幕で無効化させるんだ!!」

 

 

 

 ステラの通信にネオが声を張り上げる。

 

 

 

「艦首取り舵5! 来るぞ、ノイマン!!」

 

 

 

「ーー了解です、バルドフェルド隊長!!」

 

 

 

 歴戦の勇者達はブリッジにて神がかり的な連携のもと、大天使を操る。

 

 

 

 そんな檄が飛び交う指令室から離れて、キラは静かに瞳を閉じ、呼吸を整えていた。

 

 

 

 アークエンジェルの甲板には、一機のガンダムが腕を組んで立っている。彼は、そのコクピットの中にいた。

 

 

 

 エールストライカーを装備したストライクガンダム。

 

 

 

「ーーキラ君、できそう?」

 

 

 

 マリューからの問いにキラは静かに頷いた。

 

 

 

「ーーええ。僕とストライクなら、できます!!」

 

 

 

 キラが光を無くした目を見開くと同時に、ストライクガンダムのボディが白く輝き始める。

 

 

 

「ーー明鏡止水とSEEDを使えば、全ての攻撃を落とせる」

 

 

 

 空中に一気に飛翔し、無数のバビに向かってライフルの速射砲を放つ。

 

 

 

「「「ーーっ!?」」」

 

 

 

 一瞬で、15機のMSが撃墜された。

 

 

 

 しかしキラはそれに構わず、他方の部隊を見て取るや一気にフリーダム並みのスピードで、敵陣地に斬りかかる。

 

 

 

「おのれ、旧型など落とせ!!」

 

 

 

 バーニアをふかして一気に加速し、突っ込んでくる機体に次々とビームやミサイルが放たれる。

 

 

 

 それを網の目を縫うようにジグザグに移動しながら、かわす、かわす、かわす。

 

 

 

 目の前に、その旧型のガンダムは現れた。

 

 

 

「ーーば、ばかな!?」

 

 

 

「おのれ!?」

 

 

 

 抜刀ーー、ビームサーベルの桃色の斬閃が宙に一筋引かれ、コクピットを残して落とされるMS達。

 

 

 

「ーーさすがはキラ・ヤマト。フリーダムのパイロットなだけはある」

 

 

 

「ウィラード隊長、いかがなされますか?」

 

 

 

「MS隊に熱くなるなと伝えろ。我々はミネルバが来るまでの足止め役だ」

 

 

 

「ーーはっ!」

 

 

 

 部下の一人にそう答え、ウィラードはモニターを見据える。

 

 

 

「追い込みなどと悠長なことを言わず、船一隻とMS1機など叩き潰してしまえばーー!」

 

 

 

 これに不満そうにする副長をウィラードは見据え、言った。

 

 

 

「現実を見ろ、副長。奴はフリーダムのパイロットだった。すでに20ものMSが旧型のストライクに落とされているのだぞ?」

 

 

 

「…中途半端な数で攻めるからです。MSが強力でも所詮一機。母艦を狙えばーー!」

 

 

 

「やってみるがいい。責任の全てを君が負うのであればな」

 

 

 

 副長の案にウィラードは無碍もなくそう言った。すると、副長は不満げになりながらも口を閉ざす。

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 目の前でほとんどのMSが爆発したのだ。

 

 

 

「ーー!? な、何が起こった!?」

 

 

 

「敵が増えたのか!?」

 

 

 

 艦長と副長の二人の疑問に答えたのは、通信兵の言葉だった。

 

 

 

「ストライクガンダムです! ストライクガンダムからあり得ない程のエネルギーが放出されています!!」

 

 

 

「なんだと!? オーブはニュートロンジャマーキャンセラーをストライクガンダムに付けたのか!?」

 

 

 

 副長が驚愕の表情でモニターを見据える。

 

 

 

 すると、残像を残すほどのスピードで縦横無尽に空を駆けるストライクガンダムの姿があった。

 

 

 

 ストライクは、そのスピードからビームライフルを構えると、一斉に打ち出したのだ。

 

 

 

ーー閃光、爆発、連鎖。

 

 

 

 ビームライフルを射角を微妙にずらしながら、連続で放つ。

 

 

 

 それは、あまりにも早すぎて。

 

 

 

 銃声が一つしか響いていないのに、無数の弾丸が宙を走りMSをバビ隊を叩き落していく。

 

 

 

「こ、こんなことがーー!?」

 

 

 

「な、何故ストライクガンダムにこんなことができる!?」

 

 

 

 あまりにも理不尽な力の差だった。

 

 

 

 フリーダムガンダムを知るウィラードにすら、この事態は予測できていない。

 

 

 

「ニュートロンジャマーキャンセラーなどではない。この動きは、一体なんだ!? 私の記憶が間違いでなければフリーダムをも上回っているではないか!? 何故、こんな化け物がオーブに居る!?」

 

 

 

 こんなバカなことが起こるはずがなかった。オーブは連合との対決でフリーダムを失ったはずだ。このアークエンジェルにはもはや主力と呼べる機体はストライクガンダムとカオスガンダムぐらいしかない。

 

 

 

 だが、カオスガンダムを出してくればロゴスとオーブとの癒着問題をこれ以上ないくらいに大々的に発表できる。それも向こうはわかっているだろう。

 

 

 

 だからこそストライクガンダム一機しか出さなかった。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 蓋を開けてみれば、何世代も前のストライクガンダムが変わらず彼らザフトに猛威を振るっている。

 

 

 

 グラスゴーは目の前で見ている事実に戦慄していた。ウィラードはいけ好かない男だが、戦術面においては確かな男だ。

 

 

 

 それをたった一機で翻弄している。

 

 

 

 いや、戦艦三隻を使った合同作戦が、たった一機のモビルスーツにいいように戦場をかき回されているのだ。

 

 

 

「ええい、ミネルバはまだかっ!」

 

 

 

「間もなく到着するとのことです!」

 

 

 

「早く来いと伝えろ! このままでは防衛網を突破されるぞ!」

 

 

 

「りょ、了解しました!」

 

 

 

「デュランダル議長が危険視するわけだ! これは……この力はあまりに過ぎた力だ! 一つの国が保有してよい戦力ではない!」

 

 

 

 すでにフェイズシフトは切れているはず。切れていなければならない。だというのに、目の前のモビルスーツは変わらぬ猛威を振るっていた。

 

 

 

「たった一機に! 全滅させられるというのか! こんなバカげた話が……!」

 

 

 

 目の前で次々と落とされるモビルスーツ。ウィラード、グラスゴー、二つの部隊が恐怖にかられるのも無理はないことだった。

 

 

 

 その恐怖がブリッジに蔓延するころ、通信兵より一つの報告が入った。

 

 

 

「ミネルバです! アークエンジェル正面にミネルバが現れました!」

 

 

 

 これにそれぞれの艦を預かるグラスゴーとウィラードが指示する。

 

 

 

「よしっ! 我らはアークエンジェルを逃がさないように包囲するんだ! あとのことはミネルバに任せろ!」

 

 

 

「手並み拝見と行こうか。タリア・グラディス。あの化け物を相手に貴様らだけで倒せるというのならな!」

 

 

 

 突如、二人に応えるようにウィラード隊とグラスゴー隊にミネルバから連絡が入った。

 

 

 

「こちらミネルバ。タリア・グラディスです。貴艦らの援護に感謝します。ここまで包囲してくれれば結構です。アークエンジェルは我々が」

 

 

 

「アークエンジェルの撃破確認をしろと本国の厳命だ。我々は包囲するだけで手は出さん。邪魔にならんようにしているから早急にアークエンジェルを落とせ」

 

 

 

「はっ」

 

 

 

 通信が切られた。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 ミネルバのブリッジにて。

 

 

 

 タリア・グラディスは艦長席で一つ、ため息を吐いた。

 

 

 

「やはり本国から手が回っているか。……仕方がないわね」

 

 

 

「グラディス艦長。もしかして作戦が?」

 

 

 

「読まれている可能性があるわ。考えてみれば、総指揮を握っているのは議長だったわね。私の考えは読まれているか」

 

 

 

 タリアは親指を噛みながらひとりごちた。

 

 

 

「アークエンジェルから送られてきた通信を開いて。盗聴に注意!」

 

 

 

「りょ、了解!」

 

 

 

 メイリンの応答の声と共にブリッジのモニターに、マリュー・ラミアスの顔が浮かび上がる。

 

 

 

「ーーというわけよ、ラミアス艦長」

 

 

 

「やはりこうなりましたね。では、手筈通りーー」

 

 

 

「ええ。うまくやってちょうだい。こっちも全力でいくから」

 

 

 

「了解」

 

 

 

 短い通信が終わった。

 

 

 

「アスラン! やれるわね?」

 

 

 

 砲手席に座るアスランに声をかける。アスランの目の前にはアークエンジェルから送られてきた艦の構造図があった。

 

 

 

「大丈夫です! タンホイザー、いつでも撃てます!」

 

 

 

「コンディションレッド発令! インパルス、シン・アスカは出撃準備せよ!」

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 モビルスーツデッキにて。

 

 

 

「マジで行くのかよ、シン。一騎打ちなんて危険すぎるぜ! 艦長もなに考えてるんだか」

 

 

 

 こう言ってきたのはモビルスーツ整備班の褐色の肌の少年、ヨウランだ。これにシンは笑顔で返す。

 

 

 

「やれるさ。それだけ俺は鍛えられたからな。相手がキラさんだからって簡単に負けたりしないぜ」

 

 

 

「で、でもよ! 艦三隻の部隊とたった一機で戦って無傷なんだぜ!? 信じられねえよ……! あの機体は連合の量産型モビルスーツーーウィンダムやウチのザクシリーズにすら基本性能は劣るっていうのに」

 

 

 

「機体の性能なんか問題じゃない。明鏡止水を学んだんなら、どれだけ心を研ぎ澄ませられるかが勝負だ」

 

 

 

 シンはまるで自分に言い聞かせるかのように、まなじりをキリリッと上げて言った。

 

 

 

「とりあえず応援してるわよ、シン。相手がキラだからって簡単に負けるんじゃないわよ」

 

 

 

「わかってるさ、ルナ。キラさんたちをうまく逃がすためにも、俺が全力で行かなきゃ!」

 

 

 

 その時、指令室から通信が入った。

 

 

 

「インパルス! コアスプレンダー! 発進どうぞ!」

 

 

 

 メイリンの指揮がデッキに響き渡る。これにシンはいつも通りに答えた。

 

 

 

「シン・アスカ! コアスプレンダー! 行きますっ!」

 

 

 

 青白いバーニアの灯が止まり、小型戦闘機がモビルスーツカタパルトから発射された。

 

 

 

 空中で合体し、一機のガンダムへと変化する。フォースインパルスガンダム。肩口からビームサーベルを抜き、雪原の吹雪の空に浮かぶキラ・ヤマトのエールストライクガンダムに突っ込む。

 

 

 

「キラさん!」

 

 

 

「ーー来たか、シン!」

 

 

 

 同時にビームサーベルを繰り出しあい、つばぜりあう。両者の放った衝撃に、雪山が揺れる。

 

 

 

 グラスゴー隊が悲鳴を上げた。

 

 

 

「な、なんだぁあっ!?」

 

 

 

 ウィラード隊は観測手の報告に耳を疑った。

 

 

 

「予測エネルギー量をはるかに上回っています!」

 

 

 

「なんだと言うんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 二機のモビルスーツの激突を、静かに見守るミネルバとアークエンジェルのブリッジ。

 

 

 

「キラ……、シン……!」

 

 

 

 深刻な表情でモニターを見据えるアスランを、心配げに見るメイリン・ホーク。

 

 

 

 タリアから檄が飛んだ。

 

 

 

「艦首五十! 射角合わせ! 中途半端にやるんじゃないわよ! 本気で落とすつもりでいきなさい!

 

 機銃! 撃て!」

 

 

 

 対峙するアークエンジェル。

 

 ステラが叫ぶ。

 

 

 

「ミネルバから機銃、来る!」

 

 

 

「回避! 面舵四十!」

 

 

 

 見事に避けるアークエンジェル。

 

 

 

「バリアント! 撃てー!」

 

 

 

 ミネルバに向かって放たれる電撃砲。対するミネルバはメイリンが叫ぶ。

 

 

 

「迎撃砲、来ます!」

 

 

 

「ビーム攪乱幕を艦周囲に張りなさい! 同時にトリスタンをアークエンジェルの足元に撃て! 雪原を利用し、水蒸気を発生させろ! 相手の目をつぶせ!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 

 

 鍔競り合うシンとキラ。

 

 

 

 そのうち、シンがちらりと二隻の戦艦の戦いを見る。

 

 

 

「いくら議長の目をあざむくためとはいえ、本気で落としにかかってないか!?」

 

 

 

「そうだね。たぶん本気だ。いや、マリューさんも、本気でこの場から逃げようとしてる。でないと、生半可なことじゃ彼らの目はあざむけない」

 

 

 

「だからって落とされたら元も子もないでしょ!」

 

 

 

「もっとお互いを信じるべきだよ、シン。それより僕たちも始めようか」

 

 

 

「あっ、はい!」

 

 

 

 同時に剣を払う。

 

 

 

(アークエンジェルとミネルバが目標地点に行くまで、俺達は戦闘を長引かせなきゃならない。明鏡止水の力を使えばグラスゴーやウィラードが手出しできないレベルの動きはできる! このレベルで動いていれば!)

 

 

 

 互いにライフルのビーム弾をライフルで撃ち落とし、サーベルの斬撃をサーベルで切り払う。

 

 

 

 インパルスとストライクーー両者の動きは音速に達していた。

 

 

 

 

 

 

 

「し、信じられない……っ! こ、こんな奴が我がザフトにいたのか!」

 

 

 

「ミネルバめ、忌々しい! あんなエースパイロットを飼っていたとは!」

 

 

 

 歯ぎしりをする二隻のザフト艦。

 

 

 

 激しい戦闘を繰り広げるアークエンジェル隊とミネルバ隊。

 

 

 

 そのさまを雪山から両腕を胸の前で組んで見下ろすモビルスーツーーいや、モビルファイターが一機あった。

 

 

 

「うむ、いい調子だ。さすがは歴戦の猛者たちだな。目標ポイントまであと五キロ。うまくやってくれよ」

 

 

 

 シュバルツ・ブルーダーとガンダムシュピーゲルであった。

 

 

 

 

 

 一方、ミネルバのブリッジにはルナマリアとレイがモビルスーツ格納庫からやってきていた。

 

 

 

「お姉ちゃんっ!? 作戦行動中だよ!」

 

 

 

「出撃できないんだから、せっかくなんだしブリッジで見たいじゃない? ね、レイ」

 

 

 

 ルナマリアはメイリンの抗議に返すと隣のレイを見て言う。

 

 

 

「ああ。かまいませんか、艦長」

 

 

 

 これにレイも静かに頷いた。タリアは微かにレイを意味ありげに見た後、告げる。

 

 

 

「かまわないわ。むしろ砲撃手を交代してちょうだい。砲撃班は索敵のほうに回って」

 

 

 

「了解」

 

 

 

 レイが答えると同時に砲撃手の席についた。

 

 

 

「味方にも注意してちょうだい。この周囲に正体不明の艦があれば真っ先に連絡して」

 

 

 

「わかりました!」

 

 

 

 ルナマリアも同じように席に座る。

 

 

 

 タリアの指示に、アーサーがやや戸惑った表情になった。

 

 

 

「艦長、この作戦をウィラード隊たち以外が見ていると?」

 

 

 

「可能性があるわ。相手がデュランダル議長ならね。慎重になりすぎて損はない。それにしても――さすがね、アークエンジェル。普通ならとっくに落ちてるはずなんだけど」

 

 

 

「歴戦の猛者というだけのことはありますね! もっとも、アークエンジェルからの反撃もなかなか手厳しいものですが」

 

 

 

「皆の腕の見せどころってところね」

 

 

 

「キラ……、シン……! なんて動きなんだ! フリーダム、いやそれ以上だ」

 

 

 

 そうつぶやくのはアスランだ。それを横目で聞きながらルナマリアは言った。

 

 

 

「ウチのシンも、捨てたもんじゃないでしょ? アスラン」

 

 

 

「ああ。今のあいつは、間違いなく俺より上だ」

 

 

 

 素直に自分よりも上のレベルで動いているシンを評する。それにルナマリアが眉をひそめていった。

 

 

 

「それは、シンには言わないでくださいね。あいつ、すぐ調子に乗るから」

 

 

 

「手厳しいんだな、ルナマリアは」

 

 

 

「当然です。甘やかしたら、成長しないじゃないですか」

 

 

 

「っふっふ、そうだな」

 

 

 

 ルナマリアの遠慮ない言葉にアスランも思わず笑ってしまった。

 

 

 

「それにしてもさすがですね。キラ准将。アークエンジェルも。本当に紙一重の戦いって感じです」

 

 

 

「ああ。だからこそ、これに気付かれるわけにはいかないんだ! いやーー」

 

 

 

「アスラン? どうしました?」

 

 

 

 その時、アスランが何かに気付いたようにブツブツと小声で言う。

 

 

 

「むしろおかしいのか? これだけやりあっていて、被弾率が両方ともゼロだ。当たっていたとしても、運よく機銃のような軽いダメージのものしか当たっていない。これだけ打ち合っているのに? これは……まずいか?」

 

 

 

「でも、ビーム砲なんて当てたら……!」

 

 

 

「いや、多少の被害はこちらも向こうも覚悟しているはずだ。ルナマリア! すまないが俺が指示するところへビーム砲を打ち込んでくれ! 艦の動きを鈍らせる!」

 

 

 

「いいんですかっ!?」

 

 

 

 驚愕の声を上げるルナマリアにアスランは頷いた。

 

 

 

「アークエンジェルなら、うまくやる!」

 

 

 

「どうなっても知りませんからね!」

 

 

 

「トリスタン、撃て!!」

 

 

 

 アスランの指揮が飛んだ。

 

 

 

 これにアーサーが思わず艦長を仰ぎ見る。 

 

 

 

「いいんですか、艦長!? あんな勝手な指示させて」

 

 

 

「かまわないわ。彼はそもそもフェイスだもの。にしても、たしかにそうよね。これだけ打ち合っていて、双方、かすり傷程度じゃたしかにおかしいわ。もう少しごちゃごちゃ行くわよ!」

 

 

 

「りょ、了解! 総員、身の安全を第一にしろ!」

 

 

 

 アーサーの指示に、それぞれの区画にいる者が衝撃に備える。

 

 

 

 アークエンジェルのゴッドフリート一番に被弾するビーム砲。アークエンジェルのブリッジのすぐそばを通り過ぎていった。

 

 

 

「ゴッドフリート一番、被弾! なろぉ!」

 

 

 

「スティング! バリアントだあ!」

 

 

 

「わかってる!」

 

 

 

 それを後ろで見ながら、サブの艦首席からバルトフェルドがため息を吐く。

 

 

 

「見事なもんだ。今の、誰がどう見てもブリッジを狙って打って外したようにしか見えないな」

 

 

 

「気軽に言ってる場合かよ! ひやひやもんだぜ、こっちは! なんて無茶苦茶しやがるんだ! スティング! やり返してやれ!」

 

 

 

 ネオからの指示にスティングがにやりと笑った。

 

 

 

「オーケイ! いくぜミネルバああ!」

 

 

 

 放たれるバリアント。それは正確にミネルバのトリスタン砲台を破壊する。

 

 

 

 メイリンが叫んだ。

 

 

 

「トリスタン、2番被弾!」

 

 

 

「こ、しゃ、く、なっ!」

 

 

 

「お姉ちゃん! 熱くなっちゃだめだよ!」

 

 

 

 妹の声も聞こえないのか、ルナマリアは同僚に声を張り上げた。

 

 

 

「レイ! イゾルデで敵の砲撃を止めんのよー!」

 

 

 

「わかっている。イゾルデ、攪乱弾発射!」

 

 

 

 放たれた砲撃はアークエンジェルの手前で爆発し、データ機器類にジャミングを及ぼす。

 

 

 

 ステラが叫んだ。

 

 

 

「ジャミング弾! 通信機器、回路異常!」

 

 

 

 マリューは冷静にステラに指示する

 

 

 

「キョウジさんがオーブ戦線で作ったレーザー探索システムに切り替えてみて!」

 

 

 

「了解! ……うん! よく見える!」

 

 

 

 ステラが指示通りに切り替えると、今まで以上にはっきりと敵の位置や弾丸が見える。これに思わずステラが笑顔になった。 

 

 

 

 それを見ながら、ネオがなんとも言えない表情をする。

 

 

 

「こ、れ、は……。このシステムは、詐欺じゃないのか?」

 

 

 

「何を今更…」

 

 

 

 あきれ顔でそう告げるのはバルトフェルドであった。

 

 

 

「目標地点まで、あと二キロ! お互い良い感じにボロボロになってきたぜえ!」

 

 

 

「というかさ! 途中からあいつら、マジで落としに来てねえか!?」

 

 

 

 スティングの言葉にアウルがやや苛立ち気味に言った。

 

 

 

 ネオがそれを見ながら、つい言う。

 

 

 

「というか、お前らもまじで落としにかかってないか?」

 

 

 

「向こうがやってきたんだよ!」

 

 

 

「子どもじゃないんだからよ、アウルーー」

 

 

 

「いざとなりゃ、シュバルツがなんとかするだろ! 僕らそれであいつ等に逃げられたことだってあるんだからさあ!?」

 

 

 

 その時、ネオの顔が凍った。

 

 

 

「そういやあ……さんざんあいつらには世話になったな……。フッ、スティング! アウル! やっちまえ!」

 

 

 

「お前さんも十分子どもだと思うんだがねえ、俺は」

 

 

 

「聞こえん!」

 

 

 

 大人げなく吠えだしたネオにあきれ顔でバルトフェルドが告げるも、ネオは全力で無視した。

 

 

 

「その言葉を待ってたぜ! ネオ!!」

 

 

 

「目にもの見せてやる、ミネルバぁああ!」

 

 

 

 ネオからの許可を得た二人の少年兵士は、やる気に満ち溢れてミネルバの武器と言う武器を破壊しに砲撃を放っていく。

 

 

 

 一方、何度も彼らとぶつかったことのあるルナマリアは、砲撃手が誰なのか気付く。

 

 

 

「この射撃の癖! 絶対スティングよ! バリアントの右側打ってるやつ、スティング! 左側打ってるやつアウルじゃない! あ、い、つ、らぁ~!!」

 

 

 

「当然だろう。我々は敵同士だ」

 

 

 

「冷静に言ってる場合じゃないでしょ! やられたら、やり返すのよーっ!」

 

 

 

「りょ、了解」

 

 

 

 レイに指示しながら、自身もトリスタンをアークエンジェルの武装に向けて放つ。

 

 

 

「いや、なんか趣旨が変わってきてないか?」

 

 

 

 思わずアスランがつぶやいた。

 

 

 

 そう言いながらも、ブリッジや急所は見事に外す両艦。

 

 

 

 

 

 グラスゴー、ウィラード隊は思わずつぶやいた。

 

 

 

「なんていう、でたらめな艦なんだ……! どっちも!」

 

 

 

「これは確かに、我々が足手まといだというのもわかる。艦も、モビルスーツも、操縦士たちも、レベルが違い過ぎる!!」

 

 

 

 

 

 またしても砲撃が被弾し、爆発する。

 

 

 

 これにメイリンが半泣きで叫ぶ。

 

 

 

「六番被弾! お姉ちゃんたちのバカー! 怖いよぉー!」

 

 

 

「なに言ってんの! あとちょっとであの生意気な奴等をギャフンと言わせられんのよ! 砲台あと二つ!」

 

 

 

 互いの武器を次々に壊しあう両者。

 

 

 

 タリアがぽつりとつぶやいた。

 

 

 

「これ、修理いくらかかるかしらね」

 

 

 

「考えたくありません…」

 

 

 

「まいったわね……」

 

 

 

 艦長と副長がそんな会話をするなか、ついにアークエンジェルとミネルバは作戦決行ポイントに達した。

 

 

 

「アークエンジェル! 作戦ポイントに入りました! ……やっと終わるぅ~」

 

 

 

「あーーーーー! あと一個だったのにぃいいいい!!」

 

 

 

 ホッとするメイリンのアナウンスが響くと同時に、悔しそうに頭を抱えるルナマリア。

 

 

 

「でも! 着水するにはキラさんを回収しないとできないんじゃ」

 

 

 

 メイリンが現在も空中で交戦するインパルスとストライクを見据える。

 

 

 

「あとはシンとキラ准将に任せましょう。うまくするでしょう、あの二人なら」

 

 

 

「分かりました!」

 

 

 

 そう、後はアークエンジェルが海面に着水し、キラが着艦するのを見て予め海面で分離した第2エンジンをタンホイザーで撃ち抜くだけだ。

 

 

 

 エンジェルダウン作戦も、いよいよ大詰めを迎えていた。

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 作戦ポイントに辿り着いたアークエンジェル。

 キラはこれを確認すると、シンに決闘を申し込むのです。

 彼らの戦いは、モビルスーツの常識を越え、明鏡止水の「境地」へと足を踏み入れるのです!

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第58話に!

 レディー、ゴー!!


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第58話 魂の目覚め インパルス対ストライク

 ミネルバとアークエンジェルの作戦は、いよいよ決行ポイントに辿り着きました。

 しかし、2人のガンダムパイロットーーいや、ガンダムファイターの対決は、ここからが本番だったのです。

 はたして、極寒のユーラシア大陸を燃え上がらせ、勝利の栄冠を掴むのは、シンか! それとも、キラか!!

 それでは、ガンダムファイトォ!!

 レディィィィッ! ゴォォォオオオッ!!





 一方、シンとキラは互いの機体を交差させ合いながら斬り合う。

 

 

 

「作戦ポイントに着いた!」

 

 

 

 シンが赤マークされたポイントに着いたことに思わずため息を一つ吐いた。

 

 

 

 そして向かいのキラに声をかける。

 

 

 

「問題はここからどうするか、だよな。 キラさん! なにかいい案、ありますっ?!」

 

 

 

 これに対しキラはーー

 

 

 

「ーーフッ」

 

 

 

 シンの言葉に一つ穏やかに笑った。

 

 

 

「キラさん?」

 

 

 

「シン、僕のわがままに付き合ってくれないかな?」

 

 

 

「わがままって?」

 

 

 

「僕と、勝負してくれないか?」

 

 

 

「しょ、勝負?」

 

 

 

「ああ。本気で」

 

 

 

 そう言いながら、キラは静かにエールストライクガンダムが右手に持っていたビームライフルを投げ捨てた。続いて、左手に持つ盾も投げ捨ててしまう。

 

 

 

 そして彼は左の肩口からビームサーベルを抜いた。

 

 

 

 二刀流ーー左右の手に桃色のビームを固定化した剣が握られている。

 

 

 

 同時に、キラの中でSEEDが発動する。

 

 

 

 バーニアが一気に吹き上がり、ストライクガンダムを真っ白な光が覆う。

 

 

 

「……キラさん!」

 

 

 

「僕は強くならなきゃいけない。二度とオーブを侵略させないために。そしてフリーダムに誓ったんだ!

 

 たとえ世界に脅威と取られようとも、力を示す!

 

 受けてくれるか、シン!!」

 

 

 

 これにシンは、胸を震わせていた。

 

 

 

 一人の男の意地をキラ・ヤマトは見せている。それにこたえなければーー

 

 

 

(応えなけりゃ、男じゃない!!)

 

 

 

「わかりました、キラさん!!」

 

 

 

 一つ覚悟を決め、シンは頷いた。これにキラは笑顔で頷くと、まなじりを吊り上げる。

 

 

 

「ありがとう、シン。なら行こうか。僕たちが守りたいものを、守るためにぃいいいい!」

 

 

 

 キラの咆哮と共に、ストライクガンダムが目の前から姿を消した。

 

 

 

「――左っ!?」

 

 

 

 咄嗟にシンが左手にサーベルをかかげたとき、火花が飛び散り

 

 

 

「くうっ!?」

 

 

 

 斬撃の衝撃でインパルスが弾き飛ばされた。

 

 

 

「ぐあああ!」

 

 

 

 衝撃のなか、シンが向けた視線の先には超スピードで迫りくるストライクガンダムがあった。

 

 

 

「シン!」

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 咄嗟に振り下ろされる斬撃を脇に避ける。

 

 

 

「そっちがその気なら、こっちも遠慮しませんよぉ! うおおああああああ!」

 

 

 

 シンも自身のSEEDを解放する。

 

 

 

 同時に左手に持っていたシールドを投げ捨てた。イーゲルシュテルンを放つシン。

 

 

 

 インパルスはそのまま、後方にダッシュ。距離を開けようとするが、ストライクガンダムは首を左右に倒すだけで全弾を見切ってかわしている。

 

 一気に懐に飛び込んでくる。

 

 

 

 そのとき、インパルスガンダムは左手の腰のビームサーベルを握りしめた。ビーム刃を前方に発生させる。

 

 

 

 踏み込んで来たストライクガンダムの顔面にビームが突き刺さった。だが、それは残像。

 

 

 

 シンは咄嗟に背後に握りこんだ右のサーベルを振り下ろす。火花が散った。

 

 

 

 左手のビームサーベルを頭上にかかげるストライクガンダムによって、シンのサーベルは止められている。

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 キラの巻き技にサーベルを巻き上げられそうになるシンは、何とかその場で堪えようと踏ん張る。

 

 そのとき、ストライクガンダムの右のビームサーベルが袈裟懸けに放たれた。

 

 

 

「やべえ!」

 

 

 

 背部のバーニアを一気に吹かし、紙一重で斬撃を避ける。

 

 

 

 すると腹部に強烈な衝撃が走った。

 

 

 

 見ればストライクガンダムの右足が腹部に入っていたのだ。

 

 

 

「!? がぁああああっ!?」

 

 

 

 弾き飛ばされるインパルスガンダム。

 

 

 

 その後ろに高速で回り込むストライクガンダム。

 

 

 

「ーーなめんなぁああああああっ!!!」

 

 

 

 シンの中で何かがはじける。

 

 

 

 一気に動きを速め、光となって空を駆けるインパルスガンダム。

 

 

 

 これにストライクも追いつく。

 

 

 

 二筋の光が、宙を駆け、螺旋を描き、衝撃波をまき散らす。

 

 

 

「ちょっと、2人とも! 作戦はどうなったのよ!?」

 

 

 

「何をやってるんだ、キラ! シンも!!」

 

 

 

 突如、激戦を繰り広げ始めたキラとシンに両艦のブリッジが驚愕の反応をしていた。

 

 

 

「ーーキラ君、何故!?」

 

 

 

「どういうつもりなんだよ、坊主ども!?」

 

 

 

 マリュー達の通信にキラが答えた。

 

 

 

「アークエンジェルはそのまま、作戦を敢行してください!!」

 

 

 

『キラ君、何を言ってーー!?』

 

 

 

「キョウジさんの見立てなら、ギルバート・デュランダル議長の狙いは、アークエンジェルとキラ・ヤマトーー。つまり、僕だ!! 僕が、此処で分かりやすく倒されなければ、議長の監視の目は外れない!!」

 

 

 

『でも、キラ君ーー!!』

 

 

 

「それに、シンとは本気で戦ってみたかった」

 

 

 

 彼は、本当にあのキラ・ヤマトなのだろうか?

 

 

 

 マリューやバルドフェルドの目が大きく見開かれる。

 

 

 

「シン、君はーー。君からは感じるんだ、強い意志を。負けられないって意志を。願いを!! だから、僕に見せてくれ!! あの墓碑の前で君が得た答えを! シュバルツさんから得た答えを!!」

 

 

 

 キラの思いは咆哮となりてシンに放たれる。

 

 これにシンも熱き思いを胸に答えた。

 

 

 

「ああ! 今、アンタに見せてやるさ!! シュバルツさんとの修行と教えから得た、俺とインパルスの力を!!」

 

 

 

 レイは、この2人にその魂の熱さに、大きく目を見開いて呟いた。

 

 

 

「ーー何故、だ? 何故、貴方はそんなにも、強く眩しくあれる? キラ・ヤマトーー!」

 

 

 

 レイの独白にアスランも微かに眉根を寄せ、彼を見る。

 

 

 

 両者の激戦は、雪山を震わせ、雪原を巻き上げ、吹雪を切り裂く。

 

 

 

 互いのビームサーベルが、ストライクの左腕を切り裂き、インパルスの足を薙ぐ。

 

 

 

「ーーぐっ!?」

 

 

 

「クッーー!! メイリン、レッグフライヤー!!」

 

 

 

 叫びながら、切り裂かれた両足の連結を外し、パーツを捨てると上半身だけで片手になったストライクを狙う。

 

 

 

「舐めるなぁあっ!!」

 

 

 

 ストライクは、左足を前に突き出して鋭い蹴りを放ち、インパルスを後方へ再び吹き飛ばす。

 

 

 

「ーークッソォ、何でこんなーー! 何度も同じ攻撃にぃぃいい!!」

 

 

 

 叫びながら、シンは後方から来たレッグフライヤーを見事、空中で連結させてみせる。

 

 

 

 これで五体満足なインパルスと、片腕の無いストライクの差は明白だ。

 

 

 

「どうします? 今の貴方の状態じゃ、俺には勝てませんよ」

 

 

 

「ーーそうかな? 僕はそうは思わない」

 

 

 

「!!」

 

 

 

 キラは優しげな双眸を鋭くし、不敵な笑みを浮かべると右手に持っていたビームサーベルをも放り捨てた。

 

 

 

「どういう、つもりだ?」

 

 

 

「ーーそう。ここからだよ、シン。勝負はまだ、ここからじゃないかぁあああ!!」

 

 

 

 炎が爆ぜる。気が爆発し、ストライクの背中に背負ったエールストライクアタッカーが、外れて爆発した。

 

 

 

「これは、デスルークとか言うデカブツを倒したーー!!」

 

 

 

「そうだ! 僕のストライクガンダム、ハイパーモードだぁあああっ!!」

 

 

 

 強烈な黄金の気が、ストライクを包み込むとその背中のバーニアが青白い炎の翼に変わる。

 

 

 

「ーーストライクガンダム、エネルギーの放出量が測定不能です!!」

 

 

 

 メイリンの言葉どおり、キラのガンダムは、薄暗がりの景色を黄金の光で照らし上げる。

 

 

 

「キラーー、お前。本気でシンを倒すつもりなのか!?」

 

 

 

 アスランの呆然とした言葉に応えるように、シンが動いた。

 

 

 

「ーーキラさん、覚悟!!」

 

 

 

 白い気を上げて、インパルスがビームサーベルを振り上げる。

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

ーーーー撃、撃、撃、撃、撃!!

 

 

 

 刹那の拍子でストライクの右拳が、インパルスのボディをとらえた。

 

 

 

「ーーぐあーー!?」

 

 

 

 後方に吹き飛ばされるインパルスは、その一撃一撃にフェイズシフトを上回る力があるとモニターに表示される。

 

 

 

「ーークッソォ!!」

 

 

 

 歯を食いしばり、自分の上に跳躍してこちらを見下ろすストライクを睨みつける。

 

 

 

「ーーなめんなよ!!」

 

 

 

 左のビームサーベルを振りかぶり、投げる。

 

 

 

 だが、空中でストライクガンダムはバーニアを細かく吹いて、姿勢を僅かに変えるとサーベルをかいくぐり、そのまま一気にこちらへ飛び横蹴りを放ってきた。

 

 

 

 慣性の法則を無視した宙で一旦静止してからの急下降ーー姿勢制御ーー加速ーーそして、繰り出される蹴り。

 

 

 

 完璧なまでのタイミングで放たれた蹴りは、インパルスのボディを容赦なくえぐる。

 

 

 

「ぐぁあああっ!?」

 

 

 

 吹き飛ばされる、意識も。

 

 

 

「ーーシン!!」

 

 

 

 自分の名前を呼ぶのは、アスランか? メイリンか、ルナマリアか、レイか? それともスティング達か?

 

 

 

 半ば飛んだ意識の中、シンは思う。

 

 

 

 フェイズシフト等、何の意味もない。

 

 機体の性能差など、何の意味もない。

 

 これは、気迫の問題だ。

 

 

 

 やれる、自分はできる。そうやってー。

 

 

 

 一点の曇りなく、己の可能性に全てを信じ、受け入れることができたものに許される力だ。

 

 

 

 シンは理解した。

 

 

 

 ああ、この人は本当にリミットを越えたんだ、と。

 

 

 

 敵わないな、コレは、と。

 

 

 

 それは当然の反応だろう。

 

 

 

 だがーー、彼の目はまだ曇っていなかった。

 

 

 

 足掻いていた。

 

 

 

 明らかに動く時間が違う、明らかに住む場所が違う。

 

 

 

 明らかに自分より上にいる、明鏡止水の「境地」に。

 

 

 

「ーー悔しくないか、インパルス? 情けなくないか?」

 

 

 

 シンはポツリと夢か、現かも分からない世界でつぶやいていた。

 

 

 

「情けなくて、弱音を吐く自分をぶん殴りたくならないか? やると決めたことができない、自分を!!」

 

 

 

 徐々にインパルスの目に光が灯り出す。

 

 

 

「ーーあの時みたいに、あのウォンみたいな奴に馬鹿にされて。キラさんに頼んのかよ? それで自分を許せるのかよ!? 負けたくないって思わないのか、シン!!」

 

 

 

 独白は強く強くなり、シンの言葉に反応するようにインパルスは、瞳の光を増していく。

 

 

 

「やれよ! 立てよ!! 目の前で泣いてる子を守るんだろ!? 寝てる場合じゃないだろ!!」

 

 

 

 思い出すのは、走馬灯のように駆ける風景。

 

 

 

 慰霊碑での出会い、ローエングリンゲートの連合士官、アスランの言葉と、そしてーー。

 

 

 

「シュバルツさん! 貴方は俺に言ってくれた!! 答えを見つけろ、って!! だから、その答えを出すまで俺は、俺はーー!!」

 

 

 

 インパルスが「黄金の光に包まれていた」。

 

 

 

「俺は、負けない!!」

 

 

 

 

 

 この光景を見ていたザフト、オーブの者達は、時が止まったかのように呆然としていた。

 

 

 

 黄金のストライクが止めに放った青白い光を纏った右の正拳を、同じく黄金のインパルスが右手で掴んで止めたのだ。

 

 

 

「ーーやっぱり、君は凄いや。シン!!」

 

 

 

 キラの心からの称賛にシンは、静かな表情を浮かべた。

 

 

 

「ーーこれが、明鏡止水の「境地」か。思ってたのと違うな。凄く落ち着いた気分だ。なのに、指先にまで力が漲るような感覚がある」

 

 

 

 言いながら、フォースシルエットをシンは外した。

 

 

 

 宙から落ちるフォースシルエットは、雪原にクレーターを作る。

 

 

 

 インパルスとストライク。

 

 

 

 本来ならば飛行することができないはずの二機は黄金の気を纏いながら、にらみ合う。

 

 

 

 シンが静かにインパルスに自分の左腕を掴ませ、胸に抱くようにすると、そのまま膝で蹴りおった。

 

 

 

 ダラリと下に伸びる左腕は関節部から火花を散らし、全く動く気配はない。

 

 

 

「ーーシン」

 

 

 

「舐めた真似は、此処までにして下さいよ。俺を目覚めさせるのに、こんな真似したんでしょ?」

 

 

 

 睨みつけるかのように言うシンに、キラは落ち着いた瞳で見つめ返す。

 

 

 

 

 

「舐めてなんかいないよ。君とやりあうなら、全力の君とやりたかった。ウォンとの戦いで、君は自分の限界を簡単に越えてくる人だってわかっていたからね」

 

 

 

「ーーそう言うのが、余裕ぶってるとか。舐めてるって言うんですよ。この状況でね」

 

 

 

 淡々と静かに告げるシンに、キラが頭を掻きながら苦笑する。そしてーー、シンを見据えた。

 

 

 

「そうかもね。良くそれで、友達からも怒られたよ。それでシン、君は舐められたと思ってるんだよね? なら、そのままで、良いのかい?」

 

 

 

 このやりとりに、アスランが目を丸くした。

 

 あのキラが、他人に挑発するなんて、とーー。

 

 

 

「良いわけないだろぉおおおっ!!」

 

 

 

 その闘志は衰えず、むしろ燃え盛る。

 

 

 

 まるで太陽が二つ現れたかのような、強烈な輝きを放つ黄金の機体、二つ!!

 

 

 

 グラスゴーも、ウィラードも誰も今こそ攻めろとは言えない。

 

 

 

「ーー艦長、我々は夢を見ているのでしょうか?」

 

 

 

「悪夢だーー。こんな、馬鹿なーー!」

 

 

 

 誰もが、動けなかった。

 

 余りの力と力のぶつかり合いに、軍人とは言えただの人間たる自分達に何ができるのだ?

 

 

 

 そんな考えが、彼らに自分達の立場を忘れさせていた。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 アークエンジェルは、海水に着水を始めていた。

 

 

 

「ーーキラ、アークエンジェルは着水を始めたよ! キラ!?」

 

 

 

 ステラの通信にキラは応えない。これにステラが、アウルが、スティングが目を見開いた。

 

 

 

「ーーキラ、もしかして!」

 

 

 

「マジかよ、シン。キラにそこまでやらせんのか!」

 

 

 

「ーーちくしょう。シンは僕が倒してやるんだぞ、キラ!」

 

 

 

 彼らの言葉に、ネオの顔が引きつる。

 

 

 

「ーーいや、東方先生とかガンダムファイターみたいじゃねえか? あの坊主ども」

 

 

 

「他に何に見える?」

 

 

 

「…なあ、明鏡止水って。ステラ達も金ピカになるのか?」

 

 

 

「…………」

 

 

 

「マジかよーー!」

 

 

 

 何も言わないバルドフェルドにネオが戦慄の表情になる。

 

 

 

 そう言えば、あの超人から宝石みたいな球をもらって喜んでたな〜、とか遠い目をしながらネオは思った。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 一方、ミネルバにいるルナマリアとレイにも、キラの気迫が伝わっていた。

 

 

 

「ーーキラは、シンを認めてる。だから、こんな真似を」

 

 

 

「…何故だ。何故、あんなキラ・ヤマトに立ち向えるんだ? シン、お前は何故?」

 

 

 

 レイにはキラが、眩しかった。

 

 

 

 あまりにも眩しくて、とても勝てる気がしない程に。

 

 

 

 それなのに、同僚は全く退かない。

 

 

 

 文字どおり、一歩も退かない。

 

 

 

 真正面から、真ん前から、シンは挑んでいる。

 

 

 

「ーー本当にあれは、キラなのか?」

 

 

 

 アスランにしても、キラの戦い方がおかしいのが、わかった。

 

 

 

 ガードをしないのだ。

 

 

 

 避けることもしない。

 

 

 

 真正面からぶつかり合い、気と気を、拳と拳をぶつけ合っている。

 

 

 

「ーーこんなキラを、俺は知らないーー!」

 

 

 

 モニター越しでも伝わってくるようだ、キラの魂の熱さが。

 

 

 

「………タイミングを見計らって、アークエンジェルを狙いなさい。この勝負に水を差す権利は、誰にもないわ」

 

 

 

「ーー艦長、よろしいのですか?」

 

 

 

「アーサー、貴方はどう思うの?」

 

 

 

 静かにタリアは自分の副長に問いかけると、彼も頷いた。

 

 

 

「ーー我々は、大分毒されてしまいましたね」

 

 

 

「そうね。でも、貴方は大分男らしくなったわよ」

 

 

 

「それが本当なら、嬉しいですね」

 

 

 

 アーサーは少し前までの彼には見られなかった力強い笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「我々は、本当に強い人と共にいる。それがどれだけ、幸福なことなのかを、あの人から教わりました」

 

 

 

「ーーそう。その通りね。そして、シンやキラ准将もきっと、彼らの影響を受けてーー」

 

 

 

 タリアは思う。

 

 

 

 この超人達から教わるのは力だけではない。

 

 

 

 心の有り様もだ。

 

 

 

 あの時ーー、デュランダルとの別れを切り出した時。

 

 

 

 そして、少し前までの自分に無い物を、タリアは手に入れたと自覚していた。

 

 

 

 気がつけば、お互いに殴り合っていた。

 

 

 

 ガードも無い、フォームもない。

 

 

 

 フットワークさえも忘れて。

 

 

 

 ただ、ただ、殴り合っていた。

 

 

 

 まるで幼い子どものように、全力で殴り合っていた。

 

 

 

 互いのガンダムが、あちこちから火花を散らしても、構わずに殴り合っていた。

 

 

 

 2人の口元には笑みが刻まれ、2人の目には互いの顔しか映らない。

 

 

 

 右手だけ、右の拳だけでぶつかり合う。

 

 

 

 インパルスとストライク。

 

 

 

 シンとキラ。

 

 

 

「ーーキラが一方的に押してたように見えたけど。シン、凄い」

 

 

 

「当たり前よ。キラの強さがシンの負けん気根性に火を付けたのよ!」

 

 

 

 ステラがルナマリアが、シンの力に驚きながらも誉めたたえる。

 

 

 

「ーー悔しいが、認めるぜ。お前も俺より上だよ、シン」

 

 

 

「だけどさ、このままじゃ終われないだろ? 僕たちはさ」

 

 

 

 スティングがアウルが、2人の強さと熱さに震えていた。

 

 

 

「ーーキラ、シン。お前たち、もう限界じゃないのか?」

 

 

 

「ーーええ。既に機体は限界です。だからーー」

 

 

 

 アスランがレイが、正確に両者の状態を見抜く。

 

 

 

 そして、両者の対決を山頂より見下ろすガンダムシュピーゲルーーシュバルツ・ブルーダーが、声を張り上げた。

 

 

 

「ーーそうだ! 繰り出す拳に己の全神経を集中するのだ。 そして、魂の一撃を放ちあえ!! 今こそ、叫べ!

 

キラ・ヤマト! シン・アスカ!!」

 

 

 

 シュピーゲルは、高々に右手を大きく上げる。

 

 

 

「ーーガンダムファイトォォォオオオッ!!」

 

 

 

 声が聞こえたのか?

 

 

 

 キラは腰を落としながら、叫ぶ。

 

 

 

「レディィィィッ!!」

 

 

 

 シンが答えながら、駈け出す。

 

 

 

「ゴォォォオオオッ!!」

 

 

 

 互いに死力を尽くした最後の、最高の一撃。

 

 

 

 両者の気は極限まで高められ、右の拳に集中する。

 

 

 

 黄金の光が右拳に集約され、金色だった全身はトリコロールに戻る。

 

 

 

 しかし、黄金の拳は七色の光を放っていた。

 

 

 

「ーー動かない?」

 

 

 

 メイリンの言葉どおり、2人は拳を構えたまま、微動だにしない。

 

 

 

「やるな、二人とも。勝負は一瞬。それも一撃で決まる」

 

 

 

 スティングの言葉にミネルバ、アークエンジェルの双方が生唾を飲む。

 

 

 

 その時、バルドフェルドが笑い声を上げた。

 

 

 

 

 

「ラミアス艦長! 今が、最高のタイミングじゃないか?」

 

 

 

「ーーそうですね。ミネルバに繋いで!」

 

 

 

 マリューは、その時が来たとばかりにミネルバのタリアに秘密の回線で通信を繋いだ。

 

 彼女も心得ていたようだ。力強く頷きながら、返す。

 

 

 

「このタイミングでやるの?」

 

 

 

「ーーはい! あの二人の勝負にきっかけを!!」

 

 

 

「わかったわ。アスラン!!」

 

 

 

 タリアの檄にアスランも応えた。

 

 

 

「ーーラミアス艦長! 行きますよ!!」

 

 

 

「ええ。お願いね、アスラン君!」

 

 

 

「タンホイザー、発射ぁあああっ!!」

 

 

 

 ミネルバの前面が上にスライドしていき、中から巨大な砲塔が覗く。

 

 

 

 放たれたのは、強力無比な陽電子砲だった。

 

 

 

 赤いビームが青白いビームを纏って放たれる。

 

 

 

 地上で放てば相応の被害をもたらすであろう、一撃。

 

 

 

 それが海面に潜水を始めたアークエンジェルに見事に当たり、爆発した。

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 2人の目は同時に見開かれ、地面を思い切り踏み抜き、互いに駆け出す。

 

 

 

 その衝撃に氷が凍ってできていた大地は崩れ、海面が顔を見せる。

 

 

 

 まともにぶつかり合えば、双方ただでは済まない。

 

 

 

 そんな強烈な右正拳突きを、互いの中央でぶつけ合った。

 

 

 

 強烈な光と光、音、衝撃。

 

 

 

 そして、ひび割れる両者の機体。

 

 

 

「ーー互角、か」

 

 

 

 ルナマリアが思わず、口にする。

 

 

 

 力の衝撃に、互いの機体はあちこちで火花を散らし、顔や腹部が小破していく。

 

 

 

「ーーマズイぞ! このままじゃ、2人とも!!」

 

 

 

 互いのガンダムは、崩壊を始めている。

 

 

 

 それでも、2人は退かない。

 

 

 

「シィィイイイイインッ!!」

 

 

 

「キィラァァアアアアッ!!」

 

 

 

 強烈な力と力のぶつかり合い。

 

 

 

 先に互いの力に耐えられなくなり限界に至ったのはーー。

 

 

 

 ストライクだった。

 

 

 

「ーーッ! そうか。ゴメンね、ストライク」

 

 

 

 キラには、機体がきしむ音がストライクが自分に謝っているように聞こえたのだ。

 

 

 

 穏やかな表情で微笑むキラの前にモニターでシンが必死の形相で言ってくる。

 

 

 

「キラさん、脱出を! 早く!!」

 

 

 

 だから告げよう。

 

 

 

 オーブ海域でマスターガンダムから自分を救ってくれた「彼」への謝罪のためにも。

 

 

 

 もう一度立ち上がり、ここまでの「境地」に達することができた「分身」のためにも。

 

 

 

「ーーシン。今回は僕の負けだ。だけど、次はーー必ず!!」

 

 

 

 キラの言葉はそこで途切れ、空中でストライクは爆発した。

 

 

 

「ーー! キラさぁああああんっ!!」

 

 

 

 シンから見れば、いや誰が見てもストライクガンダムはキラが逃げる暇なく爆発した。

 

 

 

 シンは思わず、インパルスの手を海面に落下するストライクの残骸に伸ばしていた。

 

 

 

「あ、あ、キラァアアアッ!!」

 

 

 

 ミネルバのブリッジにも、アスランの叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 かくしてエンジェルダウン作戦は成功した。

 

 

 

 この戦いでキラ・ヤマトを倒したシン・アスカはネビュラ勲章をデュランダルより直々に与えられることになるのだ。

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 作戦を無事に終えたミネルバとアークエンジェル。

 ゲルマン忍法により爆破の瞬間に救出されたキラはシュバルツに別れを告げて、アークエンジェルに戻ります。

 一方、宇宙ではラクス暗殺の為にとんでもない事態が起こるのです!

 はたしてドモンとDは、ラクスとミーアを無事に守り抜けるのか?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第59話に!

 レディー、ゴー!!


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第59話 人から生まれた悪魔

 みなさん、エンジェルダウン作戦を無事に終えたシン達とシュバルツ。

 一方で、プラントにいるドモン達の状況も一気に急変してしまうのです。

 はたして、物語はどのように進むのか?

 それでは!

 ガンダムファイト!!

 レディイイイイッ!! ゴォオオオオオオッ!!




 ミネルバ艦内にて

 

 

 

 シン・アスカとアスラン・ザラは驚愕の表情で口を大きく開けたまま、ブリッジのモニターに流されるビデオレターを見ていた。

 

 

 

 そこに映し出されていたのは、先のインパルスとストライクの激戦で空中に爆散したモビルスーツのパイロット、キラ・ヤマトだった。

 

 

 

 彼は雪原を背にしてこちらに話しかけている。

 

 

 

「シン。君のおかげで無事に僕たちは逃げることができた、ありがとう。アスランもミネルバのみなさんも気を付けて。

 

 それとシン、今回は僕の負けだけど次は必ず僕が勝つ。だからもう一度、勝負しよう」

 

 

 

 こう語り終えると、カメラから少し視線を外してキラは手前の人物に言った。

 

 

 

「ありがとうございます、シュバルツさん。これくらいで」

 

 

 

「ーーむ? もうよいのか?」

 

 

 

 モニターには映らないが別の男性の声が聞こえる。

 

 

 

「はい。僕もアークエンジェルに急がないと。じゃあね。シン、アスラン! またね!」

 

 

 

 笑顔で彼ーーキラ・ヤマトはビデオを切った。

 

 

 

「――とまあ、こういうレターをお前たち宛に預かったのだが」

 

 

 

 覆面の下でしたり顔をしながら説明するシュバルツを置いて、モニターに向かってシンが叫んだ。

 

 

 

「返せよぉおおお! 俺の涙ああああ!」

 

 

 

「キィイイイラアアアアアアア!」

 

 

 

 これに横から続くのはアスランだった。

 

 

 

 キラ・ヤマトからのビデオレターは、二人の少年の心をずたずたに引き裂いたのだった。

 

 これは、余談である。

 

 

 

「インチキだ! あんなのどうやって逃げられるんですか!? どうやったんですか、シュバルツさん!!」

 

 

 

「ゲルマン忍法の真髄だ」

 

 

 

 必死に抗議するシンに腕を組んで、シュバルツはそう答えた。

 

 

 

「ああ、忍法かぁー。もう忍法だったらなんでもありなのかー……」

 

 

 

「納得するの早いわよ、シン!

 

 でも、アークエンジェルのほうも無事に脱出できたんですよね」

 

 

 

 あっさりと心をへし折られたシンにツッコミを入れた後、ルナマリアはシュバルツへと問いかける。

 

 これに応えたのは彼女の妹のメイリンだった。

 

 

 

「うん。ラミアス艦長からお礼の電文を頂いているよ」

 

 

 

 その横からシュバルツに声をかけるのはレイだった。

 

 

 

「ですが、今回のような手段。次からは使えないのでは?」

 

 

 

「だからこそ、この空いた時間でやらねばならないことが山ほどある」

 

 

 

 シュバルツの答えにアスランがハッとした。

 

 

 

「シュバルツ! 俺にできることがあればなんでも言ってくれ!」

 

 

 

「それなのだがアスラン、きみはプラント本国にどれだけの伝手を持っている?」

 

 

 

 シュバルツからの問いかけにアスランが、うつむき答えづらそうに押し黙った。

 

 

 

「……すまない……。俺は父と違って、政治に関してはまったく」

 

 

 

「そうか。君の父上は生前、どのような政策を取っていたんだ?」

 

 

 

 申し訳なさそうなアスランの物言いに頷くと気にした風もなく、シュバルツは問いを続ける。これにアスランも一つ頷くと答えた。

 

 

 

「強硬派だ。ナチュラルとコーディネーターは相いれない存在だと。立場はブルーコスモスと違えど、やっていることは何も変わらなかった。もっとも、それは戦争に参加した当時の俺も同じだったがーー」

 

 

 

 奪われた母の命への報復。

 

 ユニウスセブンの憎しみは、ナチュラルを滅ぼすまで決して癒えることはないと。

 

 討てば癒されると。

 

 

 

 思考に沈みそうだったアスランを引き戻したのは、シュバルツの言葉だった。

 

 

 

「なるほど。ならばどのみちザラ派の政治家たちをまとめたところで『ナチュラル憎し、ナチュラルを排除せよ』の集団が集まってしまう可能性が高いか」

 

 

 

 シュバルツの物言いに無言だがアスランは同意の頷きを返してきた。

 

 これにシュバルツは腕を組んで顎に手をやり考える。

 

 

 

「そういえば、君をオーブに亡命させてくれたアイリーン・カナーバ前評議会議長はどんな人なんだ?」

 

 

 

「彼女は穏健派と呼ばれている。けれど、いまのギルバート・デュランダル議長は彼女の推薦があって当選したようなものなんだ。それに俺は恥ずかしながら、オーブに亡命してからカナーバ前議長とは連絡を取っていない」

 

 

 

 アスランの答えにシンが思わず抗議の声を上げた。

 

 

 

「なんで連絡を取ったりしないんですか!? こんな事態になったら誰よりも頼りになるじゃないですか!!」

 

 

 

「まさかこんなことになるとは思ってもみなかったんだ。それに、カナーバ前議長は戦争の引き金となったパトリック・ザラの息子である俺を厄介払いしたかったみたいだからな」

 

 

 

「だからって! こういう状況も考えときましょうよ!」

 

 

 

 アスランを詰るシンの横から半目でルナマリアが制してきた。

 

 

 

「シーンー? あーんたもシュバルツさんに会うまでは、政治的な見方なんてできたことないでしょー?」

 

 

 

「うっ! それは……」

 

 

 

 言葉を詰まらせるシンにルナマリアが詰め寄る。

 

 

 

 それをそのままに、シュバルツはレイに話しかける。

 

 

 

「レイ。お前はデュランダル議長をどんな人間だと思う?」

 

 

 

 シュバルツの問いに、全員の視線がレイに集まった。

 

 レイの目は険しいものになり、ジッとシュバルツの目を見返しながら言った。

 

 

 

「言っておきますが、俺はギルを裏切るつもりはありません」

 

 

 

「それは分かっている。ただ、お前にとってどんな人間なのかを聞きたい。私はデュランダル議長と会ったことはあるが、お前の目から見たデュランダル議長を知りたいのだ」

 

 

 

 シュバルツの他意のない言葉に一つ息を吐くとレイは答えた。

 

 

 

「誠実な方です。気高い理想を持ち、平和な世界のために自身をなによりも傷つけている。だから俺は――彼と共に歩く!!」

 

 

 

「分かった。--アスラン。きみの意見は?」

 

 

 

 それ以上、語る様子の無いレイに一つ頷いた後アスランに話かける。

 

 

 

「これは受け売りなんですが、デュランダル議長の言葉は一見、正しいように聞こえる。だが、まったくの善意からの言葉ではない、というのです」

 

 

 

「というと?」

 

 

 

 シンが興味をひかれたように聞く。シンに横目で頷いた後、アスランはシュバルツを見る。

 

 

 

「俺の同僚なんですが、彼に簡単に『善と悪に割り切り過ぎるな』と注意されてデュランダル議長と会ったのです。その時、彼の隣には……」

 

 

 

「なるほど。『彼女』か」

 

 

 

 言葉を途中で切ったアスランにシュバルツの覆面の目が細まる。

 

 

 

「ええ。あれをまったくの善意だとは俺にはどうしても思えない」

 

 

 

「当然だろう。そのための『彼女』だ」

 

 

 

 シュバルツの言葉に、思わずアスランは問いかけた。

 

 

 

「シュバルツ! 俺達にできることはないのか! このまま手をこまねいていることしか、俺達にはできないんですか!!」

 

 

 

「今は、な」

 

 

 

 アスランの言葉に、にべもなくシュバルツは返す。

 

 

 

「ーーっ!」

 

 

 

 その言葉にアスランだけではない。ブリッジにいる全ての人間が動きを止める。それを見ながらシュバルツは皆の顔を見回していく。

 

 

 

「だが、おそらくデュランダル議長が私の考えている通りの人間ならば、レイとアスランの話で分かったことがある。彼は理想を胸に抱いている。その理想と言う目的のために、他人を利用する非情さや狡猾さも兼ね備えていると考えるべきだろう。

 

 ならば今、アークエンジェルを撃たせた、ということはこれから彼が動くという意思表示ではないだろうか?

 

 その行動を見てからでも、遅くはあるまい。

 

 ミネルバにはプラントに家族がいる人間が多くいる。表立ってザフトに反逆するわけにはいかん。反逆するのであれば、デュランダル議長が逆賊であるような状況を作り出さなければならん。

 

 現状、それは不可能だ」

 

 

 

 はっきりと言い切るシュバルツに皆が目を落とす。

 

 

 

「今できることはどのような情勢になれど対応できる柔軟性と、心づもりをしておくことだ。備えあれば、憂いなし。つねに政治経済欄には目を通しておくことだ。これもまた修行なり」

 

 

 

「「「はい!」」」

 

 

 

 皆が一斉に答えた後、ルナマリアがシュバルツに話しかける。

 

 

 

「それはそうとシュバルツさん。修行の方もちゃんとしてくれるんですよね? シンに水を開けられたまんまっていうのは、正直気分悪いですから」

 

 

 

「フッ、わかっている。だがしばらくはシン一人を相手に、お前たち二人で戦うようにするがいい。シンの動きから学ぶこともあるだろう」

 

 

 

 これにシンが腕まくりをしながら言った。

 

 

 

「いっちょ揉んでやるぜ! ルナ!」

 

 

 

「ちょっと強くなったからって、いい気になっちゃって……! こんのぉ~~!」

 

 

 

 シンの態度にルナマリアが眦を吊り上げる。その隣で、シュバルツはアスランと話をしていた。

 

 

 

「ではアスラン、きみは私から明鏡止水を学ぶといい」

 

 

 

「わかった。よろしくお願いします」

 

 

 

 それを見ているレイにシンが声をかける。 

 

 

 

「なにやってんだよ、レイ! 行くぜ!」

 

 

 

「ああ……。わかった」

 

 

 

 レイはシンに応えると、チラリとシュバルツを一瞥してから去っていく。

 

 

 

(--レイよ。お前の選ぶ答え、今はそれでよい。だが、答えは変わるものだ。それを忘れるな)

 

 

 

 シュバルツの声が、レイの胸に響いていた。

 

 

 

ーーーープラントにて

 

 

 

 ラクスの言葉に連れられ、ミーア達は買い物に出かけていた。

 

 

 

 とある洋服屋の一幕

 

 

 

「ミーアはパンツも着こなすのですね。スタイルが良くて羨ましいですわ」

 

 

 

「そんな! ラクスーー姉様の手足もスラリと長くて、素敵です!! こっちの赤いジャケットなんかも似合うんじゃないかな!?」

 

 

 

 お互いの服を選び合い、ちょっとしたファッションショーのような感じで目立つ二人。

 

 

 

 それをウンザリした表情で見るのは、ドモンとダコスタであった。

 

 

 

「女ってのはどうして買い物に時間をかけたがるんだ?」

 

 

 

「……本当ですよねぇ?」

 

 

 

 そんな会話をすると、同じく荷物持ちをしているDに視線をやる。

 

 

 

「そういえばD、お前も服を買ったらどうだ? さすがにこんな時にまで軍服はないだろ」

 

 

 

「どうでもいいだろ? 服なんぞ。貴様だってパーティー会場でそのマントの格好ではないか」

 

 

 

「俺のは、自分なりに厳選した服装なんでな」

 

 

 

 得意げなドモンの言葉にダコスタも頷く。

 

 

 

「そうですね。ドモンさんが言えるかはともかく、デパートという場所に軍服は似合ってませんね。ドモンさんは同じ服を何着も持ってるみたいですけど」

 

 

 

「お気に入りなんでな。このジャケットは丈夫で伸びる生地だ。ジーンズは動きやすいし、丈夫な上にどこでも手に入るからつい贔屓にしてしまう」

 

 

 

 言いながら店の中にある黒いジーンズを手に取り、生地の厚めや伸びを確認している。

 

 

 

「いついかなる時にでも、動きが制限される服はだめだからな」

 

 

 

「武道家って大変ですね、ほんとに」

 

 

 

 ダコスタは関心半分、呆れ半分で言った。それにニッと一つ笑うと、ドモンは声を上げた。

 

 

 

「ラクス、ミーア! お前たちの服選び、ついでにDのも選んでやってくれないか?」

 

 

 

 着替えブースの一角を占領している二人に言うと、二人とも顔を見合わせた後ににこやかに言った。

 

 

 

「分かりました。そういうことならば是非!」

 

 

 

「ラクス姉様、お互いに服を一通り選んでDに着てもらいませんか?」

 

 

 

「コーディネートですわね、やりましょう!」

 

 

 

 二人とも楽しそうに言いながら、勝手にルールを決めていく。

 

 

 

 曰くデパート内にあるメンズの服屋を何件か周り、何分後かにこの広間へ戻るというものだった。

 

 

 

 Dはその場で荷物の番をさせ、ドモンはミーアに。ダコスタはラクスについていく。

 

 

 

「ドモンさんに着てもらったらイメージも湧きやすいけど、それはフェアじゃないしーー!」

 

 

 

「そこまで真剣になるものか?」

 

 

 

「一応、私もモデルなんで。こういうのは本気の方が楽しいんですよ!」

 

 

 

「やれやれ、とんだ一日になりそうだ」

 

 

 

 苦笑いしながら、ミーアに言うドモン。

 

 

 

「ダコスタさん、これも持ってくれますか?」

 

 

 

「はいはい、分かりましたよ」

 

 

 

「色ならば、先の方が良いかしら? でもDさんは赤い髪ですし色もそれに合わせるべき?」

 

 

 

「女性は服選びにほんとに時間をかけるよなぁ」

 

 

 

 ジャケットとパンツの色を組み合わせながら、ラクスはダコスタに荷物をもってもらう。

 

 

 

 結局、Dの服はラクスの選んだものとミーアの選んだものを両方買うのだった。

 

 

 

「まあ! お似合いですわ、Dさん!! さすが、ミーアが選んだだけのことありますわ」

 

 

 

「……そうか」

 

 

 

 胸元をはだけた白い長袖のワイシャツに黒のノースリーブの革ベスト、紅いジーンズパンツと革靴を着た自身を見下ろしてDは言った。

 

 

 

「どこのモデルさんですかって感じですね」

 

 

 

「せっかくだから、髪もセットしてもらいますか。Dさん?」

 

 

 

 ダコスタが素直に感想を言い、ラクスが美容院を指差して言う。

 

 

 

 これにミーアも楽しそうに提案する。

 

 

 

「それなら、姉様! 小物にネックレスとかも良いかも! Dは髪と眼が赤いからーーこれなんか!!」

 

 

 

「まぁ、それでしたらーー!」

 

 

 

 まだまだ終わりそうにない二人の少女による悪魔のコーディネートであった。

 

 

 

 

 

 とあるレストランにて。

 

 

 

 大量の紙袋を持ったドモンとD、ダコスタはテーブルの下にそれらを置いて一時の休息とばかりに食事を口にしていた。

 

 

 

「つ、疲れた。まだ回るつもりなのか。あの二人はーー!」

 

 

 

「いや、お2人ともパワフルですよね」

 

 

 

 そろそろ愚痴り出したドモンとダコスタだが、Dの方は淡々と出された食事を口にしていく。

 

 

 

 デパート内の地図を広げて、テナント案内を楽しそうに見る二人に更にげんなりするダコスタだった。

 

 

 

 と、その時Dは何を思ったか、ふと食事の手を止めると席を立った。

 

 

 

「? どうした、D?」

 

 

 

「すぐに戻る。野暮用だ」

 

 

 

「そうか」

 

 

 

 そう言うとDは席を離れていった。

 

 

 

「D? どうしたの?」

 

 

 

 ミーアが立ち去ろうとするDに声をかけると、Dはミーアを振り返って言った。

 

 

 

「気にするな、すぐに終わる。それよりもミーアにラクス」

 

 

 

 言いながら、Dは自分の懐に手をやると銀細工でできたイルカのペンダントを二つ出してきた。

 

 

 

 それを二人にそれぞれ手渡す。

 

 

 

「? D?」

 

 

 

「ありがとうございます、Dさん」

 

 

 

 二人の少女にDはやはり表情を変えずに言った。

 

 

 

「服の礼だ。ではな」

 

 

 

 それだけを告げると彼はレストランから出ていった。

 

 

 

「よかったですわね、ミーアさん」

 

 

 

「……はい。ありがとうございます、ラクス様」

 

 

 

 微かに頬を染めるミーアをほほえましく見つめるラクス。

 

 

 

 一方、彼女たちと向かいの席で座っているドモンは去っていったDの背を鋭い瞳で見送っていた。

 

 

 

「ーーダコスタ」

 

 

 

「きなくさいですね」

 

 

 

「ああ。食事は取っておけよ、腹が減っては何もできん」

 

 

 

「ですね」 

 

 

 

 二人の表情は先に出ていったDと同じく戦士のそれに代わっていた。

 

 

 

(Dよ、お前の内にある想いに気付け。そうすれば、お前は誰にも負けない。そう、どんな奴にもな!!)

 

 

 

 

 

 食事を済ませ、レストランの出入口に出る一行。

 

 

 

「Dったら、どこに行ったのかしら。食事が終わっちゃたわ」

 

 

 

「……」

 

 

 

「? ラクス様?」

 

 

 

 見れば自分を除いた皆が険しい顔をしている。

 

 

 

 怪訝に思い、ラクス達が見ている方を見て違和感に気付いた。

 

 

 

 モール内にいた人々が自分たち以外誰もいないのだ。

 

 

 

「ダコスタ、二人を頼む」

 

 

 

 ドモンはそう言いながら、一歩前に出るとゆったりとした足取りで周りを見渡す。

 

 

 

カツンッカツンッカツンッ

 

 

 

 辺りに響き渡る靴音ーー。

 

 

 

 モールの広間--その一角のレストラン街の通路から大量の人影が現れる。

 

 

 

「う……うぅう…」

 

 

 

「あ……あぁあっ」

 

 

 

 そんなうめき声が人影から漏れてくる。

 

 

 

 ドモンの瞳が鋭くなった。

 

 

 

 人影の徐々にこちらに近づいてくる。

 

 

 

 左右に揺れながらーー。

 

 

 

 まるで操り人形のようにーー。

 

 

 

 不気味なうめき声を上げながら。

 

 

 

「……どこのどいつだ? こんなふざけた真似をしやがったのは」

 

 

 

 静かにつぶやくように発せられたドモンの声は、静かな怒気に満ち溢れていた。

 

 

 

「な、何なのよ……! いったい!!」

 

 

 

 ミーアが叫ぶと同時に、ようやく人影の群れはこちらに姿を見せた。

 

 

 

 灰色と土色の混じった首元と肩を覆う異形のパイロットスーツを着た薄い紫色の骸骨ーー。

 

 

 

 元は人間だった彼らは、すでに老若男女の内、どれだったかすら判別できない程体を作り変えられていた。

 

 

 

--生ける屍という名の化け物だった。

 

 

 

「ーーこれは、DG細胞の!?」

 

 

 

「なんなんだよ、人気のないショッピングモールにゾンビの群れなんて。このB級ホラーのような展開は!?」

 

 

 

 ラクスが叫ぶ横で、ダコスタが護身用の拳銃を懐から抜き、彼女とミーアを後ろにかばう。

 

 

 

 迫りくる大量の黒い影ーー。

 

 

 

 それに真っ向から立ち向かうのは、一人の赤いマントを羽織った青年。

 

 

 

 最強の武道家ーーキング・オブ・ハートの男だ。

 

 

 

「ドモンさん!」

 

 

 

 ラクスが彼の名を呼ぶと同時に、ドモンは迫りくる漆黒の影に向かってマントを翻しながら駆ける。

 

 

 

 強烈な炸裂音と共に、ゾンビの群れの一角が後方へ吹き飛ばされた。

 

 

 

 ドモンは右の拳を正拳突きにして放ち、一人のゾンビ兵をまともに貫く。

 

 

 

 当然、あまりの威力に後方へ弾き飛ばされるゾンビ兵は、群れの一角にぶち当たり、ボーリングのピンのように後方へと吹っ飛んでいった。

 

 

 

 かまわず迫りくるゾンビたちを紙のように畳んでいくドモン。

 

 

 

 そのあまりの強さと速さに、ミーアは目を丸くする。

 

 

 

 ドモンの強さを知るラクスやダコスタでさえ、一人の人間が起こす目の前の武闘に棒立ちしていた。

 

 

 

「ダコスタ! 周囲を囲まれては不利だ。気配はお前の後ろの方からはしない」

 

 

 

「わ、分かりました、ドモンさん!」

 

 

 

「気を付けろ、こいつらの湧き方には覚えがある。逃げ道を誘導されるなよ」

 

 

 

 言いながら、何十人めかのゾンビ兵を吹き飛ばすドモンにダコスタは呆れながら言った。

 

 

 

「正直、貴方の隣が一番危険だけど安全な気がするんですがーー」

 

 

 

「なら、俺に守られてるか?」

 

 

 

「……エターナルに急ぎます」

 

 

 

「それでこそ、男だ」

 

 

 

 不敵にして力強い笑みに励まされ、ダコスタは銃を構えてラクスの手を取った。

 

 

 

「行きましょう、ラクス様! ミーア様!!」

 

 

 

「はい、ドモンさん。お気をつけて」

 

 

 

 ラクスの言葉にドモンはニッとだけ笑うとミーアを見て言った。

 

 

 

「心配するな、ミーア。Dなら必ずお前たちを助けてくれる。あいつを信じろ」

 

 

 

「え? でも、Dが戻らないのはーー!」

 

 

 

「あいつの心配はするだけ無駄だ。強さは俺が保証する」

 

 

 

 これだけ強い男が、太鼓判を押す程のものだと。

 

 

 

 この時ミーアは初めてDという男の強さをボンヤリと実感したのだった。

 

 

 

「ドモンさん、気を付けてくださいね!」

 

 

 

「ああ、早くいけ!」

 

 

 

「ーーはい!」

 

 

 

 ミーアも力強く頷き、ダコスタとラクスに向き直る。

 

 

 

 三人は同時にショッピングモールの通路を出口へと駆けだしていった。

 

 

 

 それを見送ると、ドモンはゾンビ兵に向き直る。

 

 

 

 その眦は吊り上がり、その瞳は怒りに燃えていた。

 

 

 

「許さんぞーー。人の命を見境なく利用する外道めが、叩き潰してやる!!」

 

 

 

 ドモンの咆哮がモールに響き渡った。 

 

 

 

 

 

 駆ける。

 

 

 

 駆ける。

 

 

 

 ひたすらに、駆ける。

 

 

 

 通路のわき道から次々と現れるゾンビ兵。

 

 

 

 それらに目もくれず、ひたすらにダコスタは二人の少女を連れて携帯用地図で現在地を確認しながら、モール街の出口に走っていた。

 

 

 

 所々、身を隠せる場所で休憩を取りながら。

 

 

 

 自分だけであれば既にモール街を抜けて車へと乗りこめているだろうが、さすがにこれだけの距離を少女二人連れて走り切るのは無理がある。

 

 

 

「ラクス様、ミーア様。大丈夫ですか?」

 

 

 

 ダコスタの問いに、二人の少女は息も絶え絶えになりながら答えた。

 

 

 

「……何とか」

 

 

 

「…は、はい」

 

 

 

 二人の様子を見るに、やはり走り切るのは無理がある。

 

 

 

 幸い、ゾンビ兵は単純に前進しかしない。

 

 

 

 障害物を乗り越えるという頭がないようだ。

 

 

 

 何処からでも湧いて出てくるが歩くだけなので、その実逃げるのは容易である。

 

 

 

 問題は、無限とも言える数だろうが。

 

 

 

「あと少しで駐車位置です、急ぎましょう!」

 

 

 

「はい。ミーアさん、行けますか?」

 

 

 

 ラクスは気丈に答えながらミーアを見る。

 

 

 

 彼女も、必死の形相ながらもコクコクと頷いてきた。

 

 

 

「ーーよし、このまま」

 

 

 

 その時だった、巨大な爆発がショッピングモールを揺らす。

 

 

 

 爆発はドモンの残った方角だった。

 

 

 

「……ドモンさん!?」

 

 

 

「大丈夫です、ミーアさん。彼は、最強ですから」

 

 

 

(そうですわよね、ドモンさん?)

 

 

 

 強い瞳で爆発の起こった通路を振り返りながら、ラクスは心の中で彼の身を案じる。

 

 

 

 爆発で貫通した壁の向こうからは、ただただゾンビ兵の群れがある。

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

 その向こう側にミーアの知る赤い髪の青年が見えた。

 

 

 

 緑色のザフト軍の服を着た青年は、虚ろ気な表情でこちらを見た後、ゾンビ兵の群れの中を歩いていく。

 

 

 

「D!!」

 

 

 

 ミーアは考える前にゾンビ兵の群れに走り出していた。

 

 

 

「! ミーアさん!! いけない!!」

 

 

 

「ミーア様!!」

 

 

 

 反応に遅れた二人は、急いでミーアとゾンビ兵の群れに消えた赤い髪の青年を追おうとする。

 

 

 

 しかし、彼らの足元に機関銃の雨が降り注いだ。

 

 

 

 当然、立ち止まらざるを得ない。

 

 

 

「これはーー!」

 

 

 

「ミーア様が狙いなのか!?」

 

 

 

 明らかに今の爆発は仕組まれている。

 

 

 

 自分たちとミーアを切り離すためだけに起こされたものだ。

 

 

 

 ラクスとダコスタは気付いていた。

 

 

 

 先ほどゾンビ兵の群れにのまれた赤い髪の青年は、Dではない。

 

 

 

 Dと同じように作られてはいるが、中身は意志のない人形だ。

 

 

 

 それを利用してミーアを陽動した。

 

 

 

 後方から迫りくるゾンビ兵に歯ぎしりしたのち、自分たちの前に現れた一団に目をやる。

 

 

 

「ーーこんな手を使ってくるなんて!!」

 

 

 

 ラクスとダコスタの前に、ザフトの緑軍服を着た軍人達が整然と隊列を組んでいた。

 

 

 

 手には機関銃を、目元にはサングラスをしている。

 

 

 

 ダコスタが異変に気付いた。

 

 

 

「ゾンビ兵が迫ってこない?」

 

 

 

 そう、ザフト軍人が現れてからゾンビ兵は前進を止め、こちらから一定の距離を置いていた。

 

 

 

 まるでこちらを観察するようにだ。

 

 

 

「……お久しぶりですね、ラクス嬢」

 

 

 

 前方ーーザフトの軍人達の方から声がかかる。

 

 

 

 ラクスはその声に聞き覚えがあった。

 

 

 

「あなたはーーまさか!!」

 

 

 

 軍人達が隊列を左右に分かれ、その中央から黒服を着たザフト軍人が現れる。

 

 

 

 ウェーブのかかった金色の髪を肩まで伸ばし、仮面を着けた長身の男性が。

 

 

 

 驚愕するラクス。引きつるダコスタ。

 

 

 

 そんな彼女たちを置いて、男は笑った。

 

 

 

「どうされました? まるで亡霊にでも会ったような顔をして」

 

 

 

 不気味な笑みと共に、彼は言う。

 

 

 

 ラクスの記憶のままに。

 

 

 

「ラウ・ル・クルーゼ……!!」

 

 

 

「お久しぶりですね、ラクス・クライン嬢。そう、私ですよ」

 

 

 

 彼は両手を大きく広げて笑った。

 

 

 

「何とも! 何とも、愉快だ!! こんな舞台がまだ私の人生にあるとはな!!」

 

 

 

 そう言いながら、彼は後方を振り返る。

 

 

 

 そこには赤い髪を腰まで伸ばした白服のザフト軍の少女がいた。

 

 

 

「ーー君もそう思うだろ? ファム・ファタール」

 

 

 

「そうね。幼稚で悪趣味で、けれど愉快な催し物だわ。フィルム・ノワール」

 

 

 

 ファムと呼ばれた少女は、クルーゼの事をフィルムと呼んで芝居がかった言い回しをする。

 

 

 

 彼女の顔を見て、ラクスは理解した。

 

 

 

 これは、悪意以外の何ものでもない、と。

 

 

 

 この状況は正に、神への冒涜だと。

 

 

 

「お久しぶり、というべきなのかしら? それともはじめまして? どちらでも良いのだけれど、ね」

 

 

 

 口元を冷酷に歪ませて彼女は笑う。

 

 

 

「何故? どうして、こんなことをーー!」

 

 

 

「さあ? 私もお笑いだわ。まさか、私を殺した男が私の部下になるなんて、ね」

 

 

 

 ファムの悪意ある笑みにラクスは凛とした気配のまま、問いかける。

 

 

 

「何故、貴女がこのようなことを!?」

 

 

 

「そうねーー。強いて言うなら、キラを苦しめるため、かしら?」

 

 

 

 「ファム・ファタール」--男性を狂わせる運命の女。

 

 

 

 そして、悪女。

 

 

 

「フレイ・アルスターなら、それを望むと思わない? コーディネーターのお姫様」

 

 

 

 彼女は、ラウ・ル・クルーゼに殺されたナチュラルの少女。

 

 

 

 キラが守りたくて、守れなかった少女。

 

 

 

 ブルーコスモスの派閥の血を引く少女。

 

 

 

 キラに憎しみを持ち、愛を持って接した少女。

 

 

 

「貴女なのですか? フレイ・アルスターさん」

 

 

 

 ラクスは鋭い瞳のまま、彼女に問いかける。

 

 

 

 これに彼女は、灰色の瞳を嗜虐的な色に染めて舌なめずりすると笑った。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 一方で、ゾンビ兵の群れの中に飛び込んでしまったミーアであったが、彼女に触れるゾンビ兵は一人とてなく。

 

 

 

 彼女は、一心不乱に赤い髪の青年の背中を追いかけていった。

 

 

 

 いつしか、彼女は大広間にたどり着く。

 

 

 

 そこには一人の金色の髪をしたスーツ姿にサングラスの美女が微笑みながら立っていた。

 

 

 

「貴女は、たしか議長のーー!」

 

 

 

「サラと言います。お迎えに上がりました、ラクス様」

 

 

 

 彼女は丁寧に一礼をすると、ミーアに安心させるように言った。

 

 

 

「お願い! ラクス様達を、みんなを助けるように議長に言って!!」

 

 

 

 ミーアはホッとすると同時にすぐ、はぐれたラクス達の事を思い出し、告げる。

 

 

 

「…何故ですか? ラクス様は貴女でしょう」

 

 

 

「ーーな!?」

 

 

 

 いきなりの物言いにミーアが思わず絶句する。

 

 

 

 それを優しく見据えながら、サラは冷気すら感じる言葉を紡いでいく。

 

 

 

「ラクス様という方は、常に正しく平和を愛し、けれども必要な時には、私たちを導いて共に戦場を駆けてもくださる。そんなお方です。

 

 だから、私たちもお慕いするのです。そうで無いラクス様なんて、それは嘘ですわ」

 

 

 

「嘘ーー?」

 

 

 

 ミーアは気付かなかった。

 

 

 

 いや、気付けなかった。

 

 

 

 サラはゆっくりと懐からコンパクトを取り出し、鏡をミーアに向けている。

 

 

 

 その鏡からは、人の心を惑わしコントロールする光が放たれていた。

 

 

 

 未来世紀のDG細胞が人間のような知能体を取り込むときに使用した催眠術である。 

 

 

 

「私は、開戦の折からずっと、議長のお側で頑張ってくださった方こそが、本当のラクス様だと思っております」

 

 

 

「あなた…?」

 

 

 

 呆然となるミーアにサラは優しく、あくまで優しく語り掛ける。

 

 

 

「サラとお呼びくださいな、ラクス様。お力になりますわ。今はそうでなくては、皆困るのですから…。

 

 そうでしょう? ラクス様」

 

 

 

 ミーアの意識はその言葉を最後に闇の中に沈んでいった。

 

 

 

 






 みなさん、お待ちかね!!

 ラクスの前に現れたのは、かつての大戦により命を落としたはずの男と少女。

 一方で、ドモンとDの前にもデュランダル議長の策略とは無関係に、自分の意思で動いている強力な二人組のファイターが現れたのです。

 次回! 機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第60話に!!

 レディー、ゴー!!



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第60話 デビルガンダムの目覚め

 みなさん、前回のお話でドモンとD、ラクス達ははぐれてしまいました。

 今回のお相手は、地球にいたはずのジェントル・チャップマンとミケロ・チャリオット!!

 彼らがドモン・カッシュとDを相手にファイトを仕掛けてきたのです。

 一方で、ラクス達の方にもとんでもない事態が起こっていました。

 それでは!!

 ガンダムファイト!!

 レディイイイイッ!! ゴォオオオオオオッ!!





 モール街にて

 

 

 

 無数の人影を殴り倒し、ひとり立つは赤いマントを羽織った青年。

 

 

 

 彼は息すら乱すことなく周囲を見渡すと一つ言った。

 

 

 

「そろそろ出てきたらどうだ。それとも、このモールごとふっ飛ばしてやろうか?」

 

 

 

 ドモンの言葉に、気配の主は静かに柱の影から現れた。

 

 

 

 気品のある黒髪をオールバックにし、口ひげをたくわえた壮年の男。彼は、冷たく光る鋭い瞳でドモン・カッシュを見据える。

 

 

 

「お前は――!」

 

 

 

 ここにいるはずのない男の登場にもドモンは微かに眉を上げるだけの軽いリアクションをする。

 

 

 

「久しぶりだな、小僧。こちらの気配を読むとは、相当腕を上げたようだ」

 

 

 

「あんたか、ジェントル・チャップマン」

 

 

 

 ドモンは静かに腰を落として拳を握り、構えを取る。

 

 

 

 対峙するチャップマンも、ゆっくりと拳を握って構える。

 

 

 

 互いににらみ合う。動いたのは――、同時。

 

 

 

 お互いに目にもとまらぬスピードで駆けだしあい、拳と拳をぶつけ合う。

 

 

 

「ほう……。相当腕を上げたようだな」

 

 

 

「そういうことだ。とぉおおりゃあああっ!」

 

 

 

 不敵な笑みとともに宣言すると、ドモンの猛攻が始まった。

 

 

 

 チャップマンも拳でさばきながら打ち返す。両者、ともに退かない。

 

 

 

 互いに超スピードで移動しながら拳と拳、蹴りと蹴りをぶつけ合う。

 

 

 

 無数の乱打戦のなか、お互いに申し合わせたかのように強烈な右ストレートを放ちあい、動きを止める。

 

 

 

「なるほど。デビルガンダムとのガンダムファイトを見せてもらったが、この俺が倒すに値するファイターになったようだな」

 

 

 

「フッ、あんたこそ! これが全盛期の三連覇をなしたガンダム・ザ・ガンダムの実力か……。相手にとって不足はないぜ!!」

 

 

 

 互いに満足気な笑みを浮かべる。

 

 

 

「……では、存分に戦いを楽しもうか」

 

 

 

「いいだろう! キング・オブ・ハートの名にかけて!」

 

 

 

 チャップマンはドモンに構えを取ったまま、右手の拳を解いて打って来いと手招く。

 

 

 

「貴様の新たなる技を見せてもらおう! 次元覇王流――だったか?」

 

 

 

「フン。ほえ面かくなよ、チャップマン!」

 

 

 

 ドモンの足元から気が噴き出る。

 

 

 

 青白い気の渦がドモンの周りを取り囲む。

 

 

 

 そのまま、ドモンは地面を蹴ると一気にチャップマンとの距離をゼロにした。

 

 

 

 目の前に一瞬で現れたドモンに、チャップマンも反応する。

 

 

 

「次元覇王流! 聖拳突きぃいいいい!」

 

 

 

「甘いっ!」

 

 

 

 放たれた右の正拳突きに、拳の付け根を左手で払って流し、チャップマンの強烈な右のカウンターが放たれる。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 ドモンの顎を捉えるはずだったそのカウンターは、完全に空を切った。

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

 かわされたと見るや、チャップマンは咄嗟にその場からバックステップする。同時に、目の前の空間をドモンの左正拳突きが刈り取った。

 

 

 

 即座にチャップマンはその打ち終わりを狙い、右のフックをカウンターで合わせる。

 

 

 

 だが既にドモンはそこにいない。

 

 

 

 咄嗟にチャップマンは左のガードを顔の横に上げる。そこにドモンの右回し蹴りが炸裂した。

 

 

 

「ぬうぅっ!」

 

 

 

「次元覇王流、聖槍蹴りぃいいい!」

 

 

 

 ガード越しに歯を食いしばるチャップマンが後方へ弾き飛ばされる。

 

 

 

 だが彼は、咄嗟に自らバックステップすることで蹴りの威力を弱めていた。

 

 

 

 鋭い狩人の目が、前方から驚異的なスピードで迫りくる戦士の目を見つめる。

 

 

 

(単純な戦闘能力ならば、この俺をも凌駕するか……ドモン・カッシュ! いいぞ……。これこそが真の戦いというものだ!)

 

 

 

 暗い光を瞳にたたえながら、チャップマンは口元を冷酷にゆがめた。

 

 

 

 対するドモンもまた、燃える瞳をそのままに不敵な笑みを口元に貼り付けている。

 

 

 

 両者の影が、交差した。

 

 

 

 強烈な拳と蹴りの交換。互いの攻撃を打ち、さばき、返す。

 

 

 

 地面を、壁を、屋根を蹴って二人の超人は所狭しと駆け回る。

 

 

 

 次に両者が立ち止まったのは、モール街の広間のど真ん中だった。

 

 

 

 バキィッ

 

 

 

 拳と拳をさらにぶつけ合う。そのときだ。

 

 

 

「むっ!?」

 

 

 

「なにっ!」

 

 

 

 二人に向かって放たれる無数の銃弾。両者咄嗟に離れて地面を転がりながら、避ける。

 

 

 

 壁際に隠れたとき、ロケットランチャーが二つ、ドモンとチャップマンの身を隠した柱に放たれていた。

 

 

 

 巨大な爆発が広がった。

 

 

 

 煙が晴れたのち、現れたのは重武装をしたザフトの軍人たちだ。

 

 

 

 褐色の肌に鼻の上に刀傷のようなものを付けた黒髪の男は、油断なく、神経質に周りを見渡す。

 

 

 

「やりましたか、隊長」

 

 

 

「いくら超人とは言え、あれほどの敵を相手にしていたのだ。我々の気配など感じている暇もあるまい。作戦は完了した。帰還するぞ」

 

 

 

「ハッ!」

 

 

 

 その男の名はサトー。かつてユニウスセブンを地球に落下させようと試みたテロリストの首魁である。

 

 

 

「まさかこんなところに我ら以外のDG細胞の人間がいようとはな。だが、やつが何者かはわからんが、ドモン・カッシュを抑えてくれてちょうどよかった。化け物同士、茶番を演じている間に命を落とすとは。デビルガンダム様の宿敵と言うには、あまりに間抜けな最期よ」

 

 

 

「フンっ。たしかにそれで死んぢまったらレインやチボデー、Dにはなんて言われるかわかったもんじゃないな」

 

 

 

「なにっ!」

 

 

 

 声のしたほうをサトーが振り返ると、まったく無傷のドモン・カッシュがそこに立っていた。

 

 

 

「隊長!」

 

 

 

「ぐああっ!」

 

 

 

 部下たちの悲鳴が聞こえ、振り返ると、チャップマンによって見る間に全員が叩き伏せられていた。

 

 

 

「ふざけた真似をしてくれたな。戦士の戦いを邪魔したのは罪深いぞ」

 

 

 

「ば、バカなッ!? 無傷だとっ!」

 

 

 

「貴様ら軍人はいつもそうだ。自分たちの常識にとらわれ、それ以外のことを簡単に見逃す。貴様らごとき国の狗が、誇り高き戦士の戦いを汚すな!」

 

 

 

 強烈な殺意をまき散らしながら、チャップマンがサトーに近づこうとする。

 

 

 

「待て、チャップマン。その男には聞きたいことがある」

 

 

 

「このような狗に、なにを問うというのだ? それが我々の戦い以上に大事だとでも? 戦士としての心構えを忘れたか、ドモン・カッシュ!」

 

 

 

「お前の都合で生きているわけじゃないんでな。俺も」

 

 

 

 まるでサトーを脅威と感じていない二人のやりとりに、彼の自尊心は著しく傷ついた。

 

 

 

「き、さまらっ! 舐めるのも大概にしろおぉおおっ!」

 

 

 

 吠えると同時に手榴弾を投げつける。瞬間だった。空中で爆散する手榴弾。

 

 

 

 爆風に吹き飛ばされるサトー。

 

 

 

「ぐあああっ!」

 

 

 

 その熱と衝撃に悲鳴を上げる。

 

 

 

「な、なにがっ……!」

 

 

 

 地面に叩きつけられ、見上げるとロングライフルを右手一本で構える男がいた。

 

 

 

 こちらを見下ろす冷酷なまなざし。

 

 

 

 ライフルの銃口は確実にサトーの眉間でぴたりと止まり、男ーーチャップマンはまばたきすらしない。

 

 

 

 特殊訓練を受けているサトーだからこそ、戦慄した。

 

 

 

 同じ土俵に立たされたことで、目の前の男が殺戮機械だと判ったためだ。一切の隙が見当たらない。

 

 

 

 冷や汗が噴き出て頬を伝う。

 

 

 

「どうした? 自分のプライドのほうが命よりも大事ではないのか? だから俺に挑んだのではないのか? それとも、自分の挑んだ相手がどのレベルかすらわからんのか?

 

 ならば貴様は、狗畜生にすら劣る。――失せろ、クズめ」

 

 

 

 容赦のない言葉にサトーは歯を食いしばり、チャップマンを睨み上げる。

 

 

 

「その前に、お前が俺達を狙ったのは、あのギルバート・デュランダルってやつの差し金か?」

 

 

 

 その横から問いかけるドモンにサトーはただ睨み返すのみだった。

 

 

 

「狙いは――ラクスか! チッ! チャップマン! 勝負の続きはあとだ!」

 

 

 

 それだけを言うと、ドモンはその場を去っていった。

 

 

 

「フンっ。この王者を相手に指図するとは。ずいぶんとデカくなったものだ、小僧」

 

 

 

 ライフルを背中に収め、チャップマンは葉巻に火をつける。

 

 

 

 その場にうずくまるサトーに見向きもせず、王者は悠然と去っていった。

 

 

 

 残されたサトーは、うずくまったまま屈辱と怒りに震えた。

 

 

 

「ぐ、ぅうう、ぅうううう! お、の、れぇええええええっ!」

 

 

 

 サトーの慟哭が、無人のモール街に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、Dもまた戦いを展開していた。

 

 

 

 ショッピングモールの裏手。

 

 

 

 少し薄暗い通り道。

 

 

 

 彼の目の前にはパンクルックをした赤い髪をトサカのように逆立てた鷲のような尖った顔をした男が立っている。

 

 

 

「殺気を送っていたのは、貴様だったか。ミケロ・チャリオット」

 

 

 

 Dは凶悪な笑みを浮かべてミケロを見下ろしながら言う。

 

 

 

 対峙するミケロは、不機嫌に唾を地面に吐き捨てると言った。

 

 

 

「ドモン・カッシュじゃなくて、テメエのような紛い物が来るのかよ! ケッ」

 

 

 

 そのまま斜に構えを取り、ミケロは残虐な笑みを浮かべた。

 

 

 

「だがテメエをぶっ殺して、その力を手に入れれば。今度こそドモンの野郎を殺せるなぁ…!!」

 

 

 

「ククク、面白い。やってみるがいい、ミケロ」

 

 

 

 互いに凶悪な笑みを浮かべる。

 

 

 

 相手を倒し、食らいつくすためだけの、獰猛な肉食獣のような笑み。

 

 

 

 それを顔に貼り付けてDは右の拳を、ミケロは右の蹴りをぶつけ合う。

 

 

 

 強烈な衝撃波が巻き起こり、周りのものを吹き飛ばしながら、両者の気と気が爆発した。

 

 

 

「らしくねえんじゃねえのか、デビルガンダムよぉ!? あの小娘どもを庇って一人で俺の前に出てくるなんてよぉ!! それとも、生体ユニットにでもするつもりなのかぁっ!! ヒャハハハハハハッ」

 

 

 

「ーー相変わらずの蛙鳴蝉噪ぶりだ。雑魚が!!」

 

 

 

 ミケロの言葉に淡々とした表情だったDの顔が凶悪に歪む。

 

 

 

 口元を吊り上げ、凶気を放つ赤い瞳をミケロに向ける。

 

 

 

「らしくなってきたじゃねえか!! そうだ、それでこそ!! 悪魔のガンダムだ!!!」

 

 

 

 狂気の笑みを浮かべて、ミケロは叫ぶ。

 

 

 

 互いに攻撃を繰り出し合いながら、捌きながら、高速で移動しあう。

 

 

 

「貴様ごとき三下が語る「悪魔」か。穢悪を貫くことしかできぬ貴様が、我の目指す「魔」を語ると?」

 

 

 

「何が、魔だ!? 気に入らねえ奴をぶち殺し、欲望のままに奪う!! それが、悪だろうが!!! くだらねえルールをぶち壊す、悪こそ「力の象徴」じゃねえか!!!」

 

 

 

 ぶつかり合う力と力。

 

 

 

 蹴りと拳。

 

 

 

 多彩な蹴りを披露するミケロ・チャリオット。それを力で相殺するD。

 

 

 

 両者の実力は明らかだった。

 

 

 

(くそったれがぁ! この野郎、徐々に俺の攻撃を見切ってやがる……。まさか、進化してるってのか?)

 

 

 

「どうした、ミケロ。貴様の語る「力の象徴」。こんなものか?」

 

 

 

「ぬかせえええええ! 銀色のォオオ! 脚ィイイイ!」

 

 

 

 大きく足を振りかぶり、気弾を放とうとして、目の前に迫りくる拳に叩き伏せられる。

 

 

 

「ぐふぁっ! ……なんてパワーだ!」

 

 

 

 倒れ伏したミケロを容赦なく踏みつけるD。

 

 

 

「ぐぅ、ぁっ! デ、ビルッ、ガンダムッ……!」

 

 

 

「この程度でドモンと戦おうだと? 笑わせてくれる。所詮貴様は三流よ」

 

 

 

「デビルガンダムゥウウウウウ!」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 ミケロの気が爆発。

 

 

 

 踏みつけられていた姿勢から一気に立ち上がると、Dの左頬に向かって右の銀色の脚が振り抜かれた。 

 

 

 

 炸裂音が響き渡る。

 

 

 

「うっ!」

 

 

 

 ミケロが驚きに固まりながらDを見つめる。Dは無造作に左腕を顔の横に上げ、ミケロの蹴りを完全に受け止めていた。 

 

 

 

「格の違いが分かったか? 貴様は所詮、この程度だ」

 

 

 

 Dの右拳に赤い色の気が宿り、ミケロの顔面を貫いた。

 

 

 

 宙で縦に一回転し、ミケロの長身が派手に地面を跳ね、動かなくなる。

 

 

 

 そのミケロを見下ろしながら、Dは述べた。

 

 

 

「貴様の語る悪など、ただの欲望に過ぎぬ。それでは奴の宿敵足りえん。我と貴様では目指す場所が違うのだ」

 

 

 

 そう告げ、背を向けた。

 

 

 

(それにしても、モール街の気配がおかしい。デュランダル……なにを企んでいる?)

 

 

 

 Dは倒れ伏したミケロをそのままに、その場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モール街の一区画にて。

 

 

 

 ザフトの軍人とゾンビ兵を率いた一組の男女が、ラクスとダコスタのまえに現れた。

 

 

 

 ラクスにとっては見知った二人である。

 

 

 

「貴女は、フレイ・アルスターさんなのですか?」

 

 

 

「どう返してほしい? ラクス・クライン」

 

 

 

「どう、とは」

 

 

 

 彼女は愉快そうにラクスに笑いかけ、悪意のある笑みで

 

 

 

「そう、と返してほしい? それとも、いいえ、と返してほしい? どっちでもかまわないわよ。だって、貴女はここで死ぬんですもの」

 

 

 

「わたくしは……いま死ぬわけには参りません」

 

 

 

「あらどうして? いまさら出てきて、綺麗言でも吐きたいの?

 

 ほかの人間がどんな死地に突き落とされようとも、そうやって独り安全圏でのんびりショッピング。

 

 それで事が片付きそうになってきてから、自分の番だと場をかき回す。

 

 常に正しく平和を愛し、けれども必要な時には、私たちを導いて共に戦場を駆けてもくださるお方?

 

 本当、あなたにお似合いの肩書よね」

 

 

 

「名がほしいわけではありません。姿も。ただ――あなた方を放っておけば、もっと大勢の人が犠牲になるのです。ですから、わたくしは――!」

 

 

 

「だから、あなたは「ラクス・クライン」なのよね。

 

 聞いていいかしら? 戦争で人が死ぬのは当たり前でしょう?

 

 もっと大勢のひとが犠牲になる。なら、ならない方法なんてあるの?

 

 都合のいいおとぎ話に聞こえるんだけど。ねえ、ラクス。

 

 あんたが絶対的に正義ってわけ? 「コーディネーター」さん」

 

 

 

「っ!」

 

 

 

「言い返せない? ……そうよねぇ。だって、貴女は世界よりキラを選んだんですもの。あの戦争で、ズタズタにされたプラントより。不安に怯え、駆られて、歌姫にすがる人々よりも、貴女はキラを選んだ。

 

 そのくせ、いまさら正義面して現れて。

 

 癪に障るわぁ。貴女のその綺麗事も、あんたの小奇麗な顔も声も! みんな作りものだっていうのにね!

 

 そうでしょう? 「コーディネーターのお姫様」」

 

 

 

「わたくしは、わたくしです。コーディネーターであろうと、ナチュラルであろうと、わたくしは、ラクスとして生きる」

 

 

 

「そのせいで、ミーアは犠牲になった。

 

 ねえ。「お姉様」ってどんな気持ちで呼んでいたのか、教えてくれる?」

 

 

 

 ラクスの顔が歪んだ。

 

 

 

 それを見て、ファム・ファタールは嗜虐的にほほ笑んだ。

 

 

 

「罪悪感を感じてたんだ、ラクス」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 ラクスの反応を見ながら、ファムは微笑む。

 

 

 

「私の時もそうだったわよね。パパの艦を撃ったら、この子を殺す。そう言ったときも、貴女は私を憐れんでたわよね。ラクス?」

 

 

 

 フレイの顔をした彼女は楽しそうに、懐かしそうに、自身の父親が撃たれた光景を思い返して嗤う。

 

 

 

 これにラクスがはっきりと気付き、怒りを露わにして言う。

 

 

 

「貴女は、フレイさんではない! なぜ、彼女のことを!!」

 

 

 

「私はフレイ・アルスター。そう言った方が面白いでしょ? ラクス。

 

 それとも」

 

 

 

 そう言うと彼女は左手で顔を覆い、まるで仮面を取り換えるような動作を取った。

 

 

 

 すると、肩だった彼女の髪は腰まで伸び、その色は鮮やかな赤から淡いピンク色へと変わった。ストレートの髪はゆるやかなウェーブを描き、瞳は灰色からアイスブルーへと変化した。

 

 

 

「それとも、ラクス・クライン、のほうがよろしいですか? お姉様・・・」

 

 

 

「姿が変わる? DG細胞のクローン……! 貴女はっ!?」

 

 

 

 驚愕するラクスの表情を見て、嗤う「ラクス」の姿をした彼女。

 

 

 

「フフフッ、わたくしが生まれたとき、ミーアさんはもう用済みでした。

 

 けれど、わたくしが議長にお願いしたのです。

 

『彼女ミーアさんの夢をかなえてあげてほしい。

 

 ラクス・クラインならば、名も姿も与えることなんてなにも感じたりしません。

 

 だってわたくしは、キラさえいればそれでいいんですから』とね。

 

 まさか、あんな茶番を演じてくださるとは思いませんでしたけれど。いい足止めになりましたわ、彼女は」

 

 

 

「この! 化け物っ!」

 

 

 

 ダコスタが耐え切れずにファムに対し拳銃を構えたとき、彼が引き金を引くよりも早く、銃声が鳴り響いた。

 

 

 

「ぐあっ!」

 

 

 

 手元を抑え、うずくまるダコスタ。

 

 

 

 その前に右手に構えた銃口から煙を吹かせながら、フィルム・ノワールは見下し笑う。

 

 

 

「ショーはこれからだ。たっぷり楽しんでいくといい。君も、ラクス嬢もね」

 

 

 

「ラウ・ル・クルーゼ! 亡霊め!」

 

 

 

「ハッハッハッハ!」

 

 

 

 ダコスタの罵倒に愉快気にクルーゼの姿をした男は笑う。

 

 

 

「あらあら。ダコスタさんったら、オイタが過ぎますわねぇ」

 

 

 

「ラクス様の声と顔で! 貴様っ! よくも!!」

 

 

 

 激昂するダコスタの前にしゃがみ込むと目の前で「彼女」は微笑む。

 

 

 

 「ラクス」の姿で

 

 

 

 「ラクス」の声で

 

 

 

「ふふっ。では、誰がお好みですか?」

 

 

 

「お前みたいな化け物にっ! 好みなんか言いたくないね!」

 

 

 

「クスクス、勇敢ですけれどダコスタさん。その姿では滑稽ですわ」

 

 

 

 精一杯の虚勢を張るダコスタに強烈な蹴りが鳩尾に叩き込まれた。

 

 

 

「グフッ」

 

 

 

「ダコスタさん!」

 

 

 

 駆け寄るラクスにダコスタは弱り切った笑顔を向ける。

 

 

 

「すみません、ラクス様っ……! くっそぉ……! これじゃあドモンさんにも、Dさんにも、合わせる顔がないじゃないかっ!」

 

 

 

 そんな二人を愉快気に見ながら、ファム・ファタールは静かにラクスを見て笑った

 

 

 

「どうします、ラクス様? いいえ、「わたくし」」

 

 

 

 その言葉にラクスとダコスタは、呆然と彼女を見る。

 

 

 

 彼女の隣では、クルーゼが苦笑いをこぼしていた。

 

 

 

「ファム。それはデュランダル議長の考えとは違うのではないかな? 議長の考えでは、彼女はここで殺す。そのようになっているはずだが」

 

 

 

 これにファム・ファタールは微笑んだ。

 

 

 

 ラクスの声で、フレイの言葉使いで

 

 

 

 そして二人とは似ても似つかない悪意しかない笑みを浮かべて。

 

 

 

「それじゃあ面白くないじゃない? だって、私が生まれた理由がそれだもの。

 

 貴女のようなきれいな心を持っている人を、徹底的に傷つけるのが「私」だもの。

 

 そうでしょ?

 

 だから、あなたも私のワガママを聞きなさい。

 

 私の為に、あなたも生み出されたのだから。フィルム・ノワール」

 

 

 

「わがままなお姫様だ。――連れていけ」

 

 

 

 クルーゼの言葉にサングラスの軍服たちがラクスたちに押し寄せる。

 

 

 

 ここまでか、と二人があきらめた。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「ずいぶんと悪趣味なDG細胞の使い方だな。デュランダルめ」

 

 

 

 その声と同時に、ザフト軍人が一気に吹き飛ばされた。

 

 

 

「お前が妙な奴の力を借りるために自分の細胞を渡すからだろう!」

 

 

 

 声と同時にゾンビ兵が蹴散らされる。

 

 

 

 現れたのは、黒と赤の青年、二人。ドモン・カッシュとDだった。

 

 

 

「このタイミングで来るか。まさにヒーローだな、ドモン・カッシュ。そして私の恩人と言うべき存在か、D」

 

 

 

 フィルム・ノワールの言葉にDが彼を値踏みするかのような目で睨みつける。

 

 

 

「そうか、貴様が。デュランダルが最初に創ったDGクローンか」

 

 

 

 その後ろではドモンがラクスとダコスタを介抱していた。

 

 

 

「ラクス、立てるか? ダコスタも」

 

 

 

「ドモンさん! Dさん! ミーアさんが!」

 

 

 

 そんな彼らにラクスが必死の形相で訴えかける。

 

 

 

「なにっ!? ミーアがどうした!」

 

 

 

「奴らにッ!」

 

 

 

 ダコスタの言葉にドモンが苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

 

 

「チっ! 俺としたことが!」

 

 

 

 そんなドモンに対して、目の前のラクスの姿を模したファムは語り掛ける。

 

 

 

「ねえ、どうしてぇ? どうしてあんな偽物がほしいの?」

 

 

 

「何を訳の分からんことを。彼女のなにが偽物だ」

 

 

 

 怪訝そうな顔で問いかけてきたファムに対し、ドモンも静かに返す。

 

 

 

「偽物じゃない。ラクス・クラインとして作られた、私と同じ偽物よ」

 

 

 

「フッ、お前とは似ても似つかんな。お前の魂は空っぽだ。一生懸命に誰かを真似ようとしているようだが、その実、お前の内には何もない。こうして面と向かって話していればわかる」

 

 

 

 ドモンの言葉に、ラクスの顔をした少女はそれまで浮かべていた嗜虐的な笑みを消すと、まったくの無表情になって冷たい声で言った。

 

 

 

「ひどい言い草ね。……殺して、フィルム・ノワール。その無礼者を」

 

 

 

 無造作にラウ・ル・クルーゼは懐から拳銃を取り出すと、ドモン・カッシュに放った。

 

 

 

「ドモンさんっ!」

 

 

 

 ダコスタの絶叫の中、彼は見た。

 

 

 

 ドモンは弾丸を顔の前で人差し指と中指でつまみ、止めている。

 

 

 

「ええええええええっ!?」

 

 

 

「まさかこんなもんで俺を殺れると思っちゃいないだろうな?」

 

 

 

 ダコスタの絶叫を無視して、ドモンはニヤリと二人組の男女に笑いかける。

 

 

 

「でたらめね。ガンダムファイター!」

 

 

 

 ファム・ファタールは忌々し気につぶやいた。

 

 隣の男ーーフィルム・ノワールは彼女に反して、悠然と言った。

 

 

 

「やれやれ。これは逃げた方がよさそうだな」

 

 

 

「逃げられると思ってるのか? この俺から」

 

 

 

 ドモンは拳を握り、腰を落として構える。

 

 

 

 その前に、Dの背が立ちはだかった。

 

 

 

「これはこれは創造主殿。私たちを庇ってくれるのかな?」

 

 

 

 フィルム・ノワールの笑顔に対し、Dは静かに言った。

 

 

 

「ミーアはどこだ」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「ミーアはどこだぁあああ!」

 

 

 

 鬼の形相で咆哮するD。その迫力と気は、あらゆる者をひれ伏すほどだ。

 

 

 

 後ろでこれを見ていたドモンがニッと訳知り顔で笑う。

 

 

 

 一瞬、気圧された二人組はすぐに取り繕うと、言った。

 

 

 

「残念だ。ギルバートには申し訳ないことをしてしまった。完全に、悪魔を怒らせてしまった」

 

 

 

「ずいぶん俗っぽいのね、悪魔様。女一人のためにそこまで取り乱すなんて」

 

 

 

 同時に地響きが起こり、ショッピングモール全体を揺らす。

 

 

 

 ダコスタが叫んだ。

 

 

 

「今度はなんだっ!?」

 

 

 

 上空から、巨大な人影が現れた。

 

 

 

 一つ目に坊主頭のMSーーザク・ウォリアーだった。

 

 

 

 瓦礫が次々と降ってくる。

 

 

 

 ドモンは咄嗟にダコスタとラクスを庇うとDに叫んだ。

 

 

 

「D、ガンダムを呼べ! ここはもうだめだ! 脱出するぞ!!」

 

 

 

 そんなドモンとDに対し、ラクスの姿をした彼女は赤い髪の少女ーーフレイの姿に戻って笑いかけた。

 

 

 

「また会いましょう? 悪魔様に神様に歌姫様」

 

 

 

 ファム・ファタールの笑い声が響くなか、モール街は完全に崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 




 皆さんお待ちかね~!!

 ついにデュランダル議長は、ロゴスに対する宣戦を布告します。

 この宣戦を受けて鼻で笑うのは、未来世紀からの来訪者。

 ウォン・ユンファとウルベ・イシカワだったのです!

 次回!
 
 機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第61話に!

 レディー、ゴー!!


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第61話 未来世紀の巨悪 二つ

 さて皆さん。

 前回のお話で、デビルガンダムの怒りを買ったデュランダルですが。
 
 彼はこれから世界に対してとんでもない演説を行います。

 はたして彼の思惑通りに世界は動くのか?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイ、ゴォオオオオオオッ!!



 

 

 瓦礫が落ちる。

 

 

 

 デパートだった建物を完膚なきまでに破壊する。

 

 

 

 黒地に赤いラインの入ったザクのボディを、赤を基調としたトリコロールの巨大なガンダムの右手が貫いた。

 

 

 

「我のこの手が陰りて嗤う。すべてを屠れと高まり狂う!! 暴ぅうううう裂!! デビィイイイイルフィンガァアアアアアア!!」

 

 

 

 強烈な青紫の炎が、全てを焼き尽くさんと周囲を照らし出す。

 

 

 

 破滅の炎。

 

 

 

 悪魔の力。

 

 

 

「デェエエッド、エンドォ!!」

 

 

 

 強烈な爆発と共に、跡形もなく亡者のMSは消されたーー。

 

 

 

 宙に浮かぶのは、悪鬼としか思えないほどの強烈な鬼気を放つ巨大な羽を持ったガンダム。

 

 

 

「Dさん。一度、エターナルへ!」

 

 

 

「……」

 

 

 

 ゴッドガンダムのコクピットにいるラクスからの通信に静かにDはデビルガンダムの全身から放つ凶気を抑えた。

 

 

 

「…ありがとうございます、Dさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラント報道局。

 

 

 

 そのテレビ局員は、目の前で席に座るデュランダルに語り掛けた。

 

 

 

 「では議長、よろしいですか?」

 

 ギルバート・デュランダルはこれに一つ微笑むと、つぶやくように頷いた。

 

 

 

「ああ頼む。始めよう」

 

 

 

 テレビ局員が頷きながら、合図を送る。

 

 

 

「 3,2…」

 

 

 

 デュランダルはモニターに自分が映し出されたのを確認した後、一呼吸を置いて話しかけた。

 

「皆さん、私はプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルです」

 

 

 

 

 

 

 

ーー『我等プラントと地球の方々との戦争状態が解決しておらぬ中、突然このようなメッセージをお送りすることをお許しください。ですがお願いです。どうか聞いていただきたいのです』--

 

 

 

 

 

 

 

 ミネルバ艦内にて、ブリッジではこの様子が緊急で放送されているのを受信した。

 

 

 

 メイリンがこれに反応し、すぐにタリアに報告する

 

 

 

「艦長! デュランダル議長がプラントから緊急メッセージを!」

 

 タリアとアーサーの瞳が鋭くなり、メイリンに頷く。

 

「あらゆるメディアを通し、全世界へ向けられています」

 

「あらゆるメディアを…!! 議長は本気なのか!?」

 

 

 

 驚愕するアーサーの横でタリアも頷き、アーサーに指示する。

 

 

 

「始まったわね。シュバルツ殿たちにも聞かせるように艦内に通信を流して」

 

 

 

「あ、はい。ですが、よろしいのですか? レイもいるのでは? 彼はーー」

 

 

 

「仕方ないわ。それに、ザフト軍ではないシュバルツ殿がレイを信じると言ったのよ? 同じミネルバのクルーとして、私たちが信じなくてどうするの?」

 

 

 

「ーーはいっ!!」

 

 

 

 力強い瞳で頷くアーサーにタリアも微笑みを浮かべて頷いた。

 

 

 

 

 

ーー『私は今こそ皆さんに知っていただきたい』ーー

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェル艦内ブリッジにて

 

 

 

 ミネルバとの作戦で潜水に成功したアークエンジェルは、海中でこの放送を聞いていた。

 

 

 

 ブリッジ内は、キラが操舵手としてマリューは艦長席に、ステラが通信席についている。

 

 

 

 ほかの者は、仮眠を取っている状態だった。

 

 

 

 マリューが瞳を鋭くしながら見据える。

 

 

 

「何? どういうことなの? もしかして、これがキョウジさんの言っていた?」

 

 

 

 ステラが瞳を大きく開きながら、モニターのデュランダルを見る。

 

 

 

「ぁ… 、何だろ? この人、怖い」

 

 

 

「ステラ、ごめん。この演説を録音しておいて。後で皆にも見てもらおう」

 

 

 

「うんーー」

 

 

 

 キラの言葉に何とか微笑みを浮かべて、ステラは録音を開始した。

 

 

 

「デュランダル議長…」

 

 

 

 これを確認して優しく彼女に微笑んだ後、キラは静かにその瞳に炎をたぎらせ始めた。

 

 

 

ーーミネルバのドック内にて

 

 

 

 艦内で一番広いこの場所で、シュバルツの修行を受けている4人。

 

 

 

 そんな彼らのもとにも、議長の放送が届いていた。

 

 

 

 

 

ーー『こうして未だ戦火の収まらぬわけ。そもそも、またもこのような戦争状態に陥ってしまった本当のわけを』ーー

 

 

 

 

 

 シュバルツが覆面の奥の瞳を鋭くし、皆に叫んだ。

 

 

 

「動き出したか。アスラン! シン達も一度手を止めるのだ」

 

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

 

 流れる汗をぬぐいもせず、4人はモニターに映るデュランダルを見つめる。

 

 

 

「さて、どう出る?ギルバート・デュランダルよ」

 

 

 

 シュバルツは静かにデュランダルに対し語り掛ける。

 

 

 

 宿敵を前にした戦士の顔で。

 

 

 

 

 

 

 

ーー『各国の政策に基づく情報の有無により、未だご存知ない方も多くいらっしゃるでしょう』--

 

 

 

 プラントの人々の前の巨大モニター。

 

 

 

 ここに先のベルリン基地での一戦が表示される。

 

 

 

 往来を行き来し、買い物中の女子学生の集団。

 

 

 

 その中の一人が思わず叫んだ。

 

 

 

「うそー!?」

 

 

 

ーーーー地球にて。

 

 

 

とある飲食屋での一幕。

 

 

 

 客の一人である中年男性がこれに反応する。

 

 

 

「なんだ、こりゃあ…」

 

 

 

 デパートに買い物に来ていた親子連れの者たちも。

 

 

 

「まあ…」

 

 

 

「あ、怪獣!」

 

 

 

 母親が手で口を覆い、幼い子どもは無邪気に指さす。

 

 

 

 

 

 

 

ーー『これは過日、ユーラシア中央から西側地域の都市へ向け、連合の新型巨大兵器が侵攻したときの様子です』ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロゴスのジブリール邸

 

 

 

 薄暗がりの部屋の中で、ロード・ジブリールがモニターを前に大きな反応を示していた。

 

 

 

「なんだこれは!? 止めろ! 放送を遮断するんだ! 早くしろ!」

 

 

 

 映像の中の巨大MAデストロイガンダムは、ベルリンの街を焼き払い、大量に現れた一つ目のMS達が街を埋め尽くしていく。

 

 

 

 これを横に見ながらチョコレートを一つ摘み食するウォン。

 

 

 

 彼の向かいに座るウルベは、ワインを嗜みながら己の長い髪を弄んでいる。

 

 

 

 

 

ーー『この巨大破壊兵器は何の勧告もなしに突如攻撃を始め、逃げる間もない住民ごと3都市を焼き払い尚も侵攻しました。

 

 我々はすぐさまこれの阻止と防衛戦を行いましたが、残念ながら多くの犠牲を出す結果となりました。

 

 侵攻したのは地球軍、されたのは地球の都市です。何故こんなことになったのか。連合側の目的はザフトの支配からの地域の解放ということですが、これが解放なのでしょうか?

 

 こうして住民を都市ごと焼き払うことが!

 

 確かに我々の軍は連合のやり方に異を唱え、その同盟国であるユーラシアからの分離、独立を果たそうとする人々を人道的な立場からも支援してきました。

 

 こんな得るもののないただ戦うばかりの日々に終わりを告げ自分たちの平和な暮らしを取り戻したいと』--

 

 

 

 オーブ本国に帰国したキョウジ達もまた、シャトルでこの報道を聞いている。

 

「どういうつもりだ、デュランダル議長は。ロゴスに関わる国が、現状どれだけいるとーー。しかも、プラントだってーー」

 

 

 

「一つは、証拠隠滅。情報を横流ししていた事実を握り潰すために相手先を消す。もう一つは、俺たちが自由に使える部隊。アークエンジェルを倒したこと。他にもあるだろうが、この二つが一番大きいかな」

 

 

 

 カガリは自分の隣に座るキョウジを見る。 

 

 

 

「邪魔が入らない今のうちに打てる手を打ちたい、だからこそのこのタイミング。

 

 ロゴスが全て悪い、彼らに唆され、あるいは脅されたから同盟を癒着をせねばならない国もいただろう。だから関わる国が悪いのではない。おそらく、彼はそう続けるつもりだ。

 

 そうやって民衆を纏めるーー、パニック心理を使った誘導か。ある意味賢いが、結果を残せなければ一気に自分が糾弾される。でかい博打だな」

 

 

 

 静かにキョウジは、自分の手元にあるパソコンに目を落とす。

 

 

 

「ウルベ達がロゴスに居るのなら、この演説をどう捉えるだろうな…」

 

 

 

 微かに憂いを帯びた瞳でキョウジは窓から見える空港の景色を見ている。

 

 

 

 また多くの人が死ぬーーその確信をもって。

 

 

 

 

 

 

 

ーー『戦場になど行かず、ただ愛する者達とありたいと。そう願う人々を我々は支援しました』ーー

 

 

 

 ベルリン周辺の被災地の映像が映し出される。

 

 

 

 泣き喚く子供。

 

 

 

「ママー! ママは!? 」

 

 

 

 赤子を抱き、ボロ衣を着た悲哀と憎悪に満ちた瞳の女性。

 

 

 

「あの連合の化け物が何もかも焼き払っていったのよ!」

 

 

 

 自宅らしき家の瓦礫の前にいる男が叫ぶ。

 

 

 

「敵は連合だ! ザフトは助けてくれた! 嘘だと思うなら見に来てくれ!!」

 

 映像が切り替わるーー。

 

 

 

ーー『なのに和平を望む我々の手をはねのけ、我々と手を取り合い、憎しみで討ち合う世界よりも対話による平和への道を選ぼうとしたユーラシア西側の人々を連合は裏切りとして有無を言わさず焼き払ったのです!

 

 なんの罪もない子供まで!!』--

 

 

 

 

 

 

 

 ジブリール邸では、いよいよジブリールに余裕がなくなっていた。

 

 

 

「止めろ! 何をやってる!? 早くやめさせるんだ! あれを!!」

 

 ロゴスの幹部から次々と巨大モニターに通信が入る。

 

 

 

「ジブリール、どういうことだね。これは?」

 

「これは君の責任問題だな!」

 

「何をしようというのかねデュランダルは」

 

 

 

 次々と現れるロゴス幹部の物言いにジブリールは脂汗を流していた。

 

 

 

 これらの発言を何食わぬ顔で聞き流し、ウォンはデュランダルの顔を見据える。

 

 

 

 ウルベに至っては失笑を隠すのに口元を抑えていた。

 

 

 

「ウルベ! ウォン! 何か、何か良い手はないのか!?」

 

 

 

 焦りに焦ったジブリールは、ふと気づいたように言う。

 

 

 

「そうだ! デスルークの映像を流してザフトの茶番だと主張すればーー!!」

 

 

 

 これに呆れかえったようなウルベの声があった。

 

 

 

「こんな茶番にわざわざ付き合うのかね? ジブリール」

 

 

 

「…何?」

 

 

 

 ウルベの冷酷な瞳と冷たい笑みに、ジブリールは勢いを失った。

 

 

 

 

 

 ミネルバのアスランたちが戦場の様子を見ながら言う。

 

 

 

「フリーダムやアークエンジェルがいない」

 

 

 

「マスターガンダム達も…!?」

 

 アスランの言葉にルナマリアも続ける。

 

 

 

「く…! やっぱり、議長は!!」

 

 

 

 隣でシンが歯を食いしばりながらモニターを見ていた。

 

 

 

「ウォンの言ってた茶番ってこれか……!! 人の命を犠牲にして、茶番を演じてやがる!!!」

 

 

 

 怒りを露わにするシンはレイを睨みつけた。

 

 

 

「こんなことをする奴が、世界を平和に導くだって!? 本気で言ってんのか!!」

 

 

 

「……俺は、そう信じている」

 

 

 

 シンの怒りを真っ向から受け止め、レイは冷たい瞳でシンを見返す。

 

 

 

「この、わからずやが!!」

 

 

 

 思わず胸倉をつかもうと前に出るシンの腕をつかんで止めたのは、アスランだった。

 

 

 

「やめろ、シン!」

 

 

 

「…アスラン隊長! なんで!? あんただって!!」

 

 

 

「その怒りをレイにぶつけたって何も変わらない」

 

 

 

「ぐ……!!」

 

 

 

 その様を見ながらシュバルツは静かに言った。

 

 

 

「シン、アスラン。お前たちの怒りは分かる。だが、ミネルバにはプラントに家族を持つ者が多くいる。今は耐えるしかない。一時の怒りで行動すれば、本当に大切なものを見失う。お前たちは、もうわかっているはずだ」

 

 

 

 彼の言葉に二人は静かに頷き返してきた。

 

 

 

 それを確認すると、シュバルツはモニターに目を戻す。 

 

 

 

(レイ、どうすれば分かってくれるんだよ。お前は…!!)

 

 

 

 シンは横目にレイを見ながら胸中でつぶやく。そんな彼の肩を静かに一つ叩く者がいた。

 

 

 

「! ルナ」

 

 

 

「抱え込まないでよ。あんたもレイも」

 

 

 

「ああ。分かってるよ」

 

 

 

 モニターでは議長の演説が続いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー『何故ですか?何故こんなことをするのです! 平和など許さぬと! 戦わねばならないと! 誰が! 何故言うのです! 何故我々は手を取り合ってはいけないのですか!?』--

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 場面が転換し、緑の山と自然に囲まれた背景に一人の少女が映し出された。

 

 

 

「! ラクス…!?」

 

 

 

 驚愕に目を見開くアスラン。

 

 

 

 彼の目から見ても、今目の前に映るラクスは完璧だった。

 

 

 

 完璧すぎて、違和感しかないほどに。

 

 

 

(ミーアじゃない…!!)

 

 

 

「…ギルバート・デュランダル。貴様は己の野望の為にここまでするというのか」

 

 

 

 静かにーーシュバルツの全身から気の炎が吹き上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーー『みなさん、わたくしはラクス・クラインです。このたびの戦争は確かにわたくしどもコーディネイターの一部の者達が起こした、大きな惨劇から始まりました』--

 

 

 

 

 

 アスランすら驚愕するほどに完璧な『ラクス・クライン』にミネルバのクルー達からも歓声が上がる。

 

 

 

「ラクス様だ!」

 

「ラクス様!!」

 

 

 

 シンがアスランを見ながら、言った。

 

 

 

「ラクス・クラインってキラさんの恋人じゃないんですか? どうして…!?」

 

 

 

「…シン。悪いが、あれは議長のラクスだ。本当のラクスじゃない」

 

 

 

「…なんで言わないんですか」

 

 

 

「言ったところで、手遅れだろう」

 

 

 

 そういい合う両者だが、ラクスの演説は進んでいく。

 

 

 

 

 

ーー『それを止め得なかったこと、それによって生まれてしまった数多の悲劇を。

 

 わたくしどもも忘れはしません。被災された方々の悲しみ、苦しみは今も尚、深く果てないことでしょう。それもまた新たなる戦いへの引き金を引いてしまったの、仕方のないことだったのかもしれません』--

 

 

 

 

 

 

 

 ミーアが攫われたコロニーから脱出する歌姫を乗せた一隻の戦艦。

 

 

 

 エターナルに乗艦したラクスは、そのブリッジにて『ラクス・クライン』の完璧な演説ぶりに苦虫を噛んだような表情になる。

 

 

 

「本当に鏡を見ている気分ですわ。わたくしならば、こうするーーそれを完璧にトレースしている」

 

 

 

「……これが、DG細胞のクローンなのか。カーボンヒューマンでも僅かな差異がオリジナルとあると言うのに」

 

 

 

 ダコスタの言葉にラクスは静かにドモンの隣で悪鬼のような形相になっている赤い髪の青年を見据えた。

 

 

 

「世話になったな。ドモン。ラクス・クラインに、マーチン・ダコスタ」

 

 

 

「! Dさん、まさかーー」

 

 

 

 Dはそれ以上何も言わない。

 

 

 

 変わりに彼の胸元から真紅の血のような赤い光が満ち、全てを照らし出すと彼はその場から消えた。

 

 

 

「Dさん!!」

 

 

 

 止めようとするラクスをドモンが無言で制した。

 

 

 

「ドモンさん!!」

 

 

 

「Dよ。お前がその拳をどう振るうのか、見せてもらうぞ」

 

 

 

 エターナルの艦外モニターでは、デビルガンダムが赤い翼を広げてこちらに一度だけ手を振る。

 

 

 

 そのまま一気に背を向けて飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

ーー『ですが、このまま進むことはなりません!

 

 こんな討ち合うばかりの世界に、安らぎはないのです!

 

 果てしなく続く憎しみの連鎖も苦しさを、わたくし達はもう十分に知ったはずではありませんか?

 

 どうか目を覆う涙を拭ったら前を見てください!

 

 その悲しみを叫んだら今度は相手の言葉を聞いてください!

 

 そうしてわたく達は優しさと光の溢れる世界へ帰ろうではありませんか!』--

 

 

 

 ミネルバのブリッジではアーサーが苦笑していた。

 

 

 

「以前の私なら、素直にこれを見れたんでしょうけどね。でも、流石ラクス・クラインだ」

 

「そうね…。現実にベルリンに居た私たちでさえ、彼女の言葉が正しいように聞こえてくるわ」

 

 

 

 

 

 

 

ーー『それがわたくし達全ての人の、真の願いでもあるはずです!』--

 

 

 

 

 

 『ラクス』の演説が終わると同時、デュランダルの席の隣へと彼女は現れる。

 

 

 

 そのタイミングでデュランダルが口を開いた。

 

 

 

 

 

ーー『なのにどうあってもそれを邪魔しようとする者がいるのです。それも古の昔から。

 

自分たちの利益のために戦えと、戦えと!戦わない者は臆病だ、従わない者は裏切りだ、そう叫んで常に我等に武器を持たせ敵を創り上げて、討てと指し示してきた者達。平和な世界にだけはさせまいとする者達。

 

 このユーラシア西側の惨劇も彼等の仕業であることは明らかです!』--

 

 

 

 

 

 この言葉に顔色を青くさせたのは、ジブリールとロゴスの面々だった。

 

 

 

 モニターのディスプレイにロゴスの幹部メンバーすべての顔写真が貼られていたのだ。

 

 

 

 

 

「おやおや、これはこれは傑作ですね」

 

 

 

「秘密結社の幹部の顔が、こうもあっさりと向こう側に知れ渡っているとはな」

 

 

 

 ウォンが出来の良い喜劇を見たように、ウルベがつまらないコントを見たように反応する。

 

 

 

 その前でジブリールは、必死に部下に通信を送っていた。

 

 

 

「ジブリール!」

 

 

 

 ロゴスの一人が思わずジブリールに対策するよう、名を呼ぶ。

 

「やめさせろ! 今すぐあれをやめさせるんだ! 何故出来ん!?」

 

 

 

 

 

ーー『間違った危険な存在とコーディネイター忌み嫌うあのブルーコスモスも、彼等の創り上げたものに過ぎないことを皆さんは御存じでしょうか?』--

 

 

 

 それをあざ笑うかのように、デュランダルの演説は続いていく。

 

 

 

「ううっ…」

 

 

 

 何もできないことを理解したジブリールは、うめきながらウルベを見た。

 

 

 

「茶番だと言ったな、ウルベ。だが、これでは我々はーー!!」

 

 

 

「何をみっともないことを言っているんだ、君は? こんな子どもじみた幼稚な演説を聞いて何を狼狽えている? 私の同士たる君が」

 

 

 

「…幼稚じみた?」

 

 

 

 ウルベの言葉にジブリールは思わず感情を爆発させた。

 

 

 

「何が幼稚なものか!? 奴らは、ユーラシアの虐殺を映像にした挙句に我々の顔と名前まで公表したんだぞ!! このままでは、秘密結社としてのロゴスはーー!!」

 

 

 

「一つ聞くんだがね、ジブリール。君は、世界の敵と呼ばれようとしていることに動揺しているのかな?」

 

 

 

「当たり前だろう!! 貴様も自分の世界で敗北して知っているだろう!? 世界すべてが敵になれば、我々がいくら優れていてもーー!!」

 

 

 

「ふふ、いいだろう。その答えは演説を聞き終わってから説明してあげよう。一つだけ言えるのは、あの時のガンダムファイター達と同じようにはならんだろうね。彼のやり方ではーー」

 

 

 

 この期に及んでも余裕のウルベにジブリールは一縷の望みを託すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーー『その背後にいる彼等、そうして常に敵を創り上げ、常に世界に戦争をもたらそうとする軍需産業複合体、死の商人、ロゴス!彼等こそが平和を望む私達全ての、真の敵です!』--

 

 

 

 

 

 街の人々が全て、頭に?マークを浮かばせていた。

 

 

 

「ロゴスってなんだろ?」

 

 

 

「そんな奴がいるのか?」

 

 

 

 畳みかけるようにデュランダル議長の演説は続いた。

 

 

 

 

 

ーー『私が心から願うのはもう二度と戦争など起きない平和な世界です。よってそれを阻害せんとする者、世界の真の敵、ロゴスこそを滅ぼさんと戦うことを私はここに宣言します!!』--

 

 

 

 

 

 オーブシャトルで演説を聞き終わるまで降りるのを待っていたカガリとキョウジ。

 

 

 

 カガリは静かに一つ息を吐くと、憂い気に頭を抑えた。

 

 

 

「キョウジ、お前の言う通りだ。…これは大変なことになる」

 

 

 

「ああ。だが、デュランダルは墓穴を掘ったかもしれない」

 

 

 

 だが、隣のキョウジの言葉にカガリは目を大きく見開いた。

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

「手の内をさらしたな。奴らにーー!」

 

 

 

 キョウジ・カッシュの頭の中では、ほくそ笑む二人の悪党の顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 デュランダルの演説が終わったのを確認すると、ウルベはロゴスの面々に一礼した。

 

 

 

「初にお目にかかる。世界を闇より牛耳ってこられた秘密結社「ロゴス」の方々」

 

 

 

 これにウォンも習って横で一礼する。

 

 

 

「ここは、我々の提案に乗っていただけるとありがたいのですがーーよろしいでしょうか?」

 

 

 

 二人の笑みは、闇に輝く紅い月のように不気味だった。

 

 

 

「なんだ、君たちは?」

 

 

 

「ジブリール。何故、部外者が君の家にいるのかね?」

 

 

 

 そんなメンバーにウルベは笑いかけた。

 

 

 

「部外者ーーですか。確かに。ですが、部外者の我々だからこそ見えるものもあるとは思いませんか?」

 

 

 

「私たちの提供するものは、少なくともロゴスの方々には悪いものではありませんよ」

 

 

 

 二人の言葉に胡散臭そうな表情でジブリールを見るメンバー。

 

 

 

「もしかすると、皆さんは先の演説の問題点すら気付かれておられないのですか?」

 

 

 

 ウルベの言葉にロゴスの面々は驚愕の表情になる。

 

 

 

「問題点だとーー?」

 

 

 

 これにウォンが横から解説を始めた。

 

 

 

「ええ。民衆の指示を集めるために行われた演説ですが、あれはね戦争から逃げたいという民衆のパニック心理を利用しただけのものですよ」

 

 

 

 サングラスを持ち上げて彼は言う。

 

 

 

「集まるのは一時的なもの。むしろ掲げられた目的を達成できなかった時の民衆の離れ方はまるでクモの子を散らすようなものです」

 

 

 

「要するに、本物の烏合の衆ということだ」

 

 

 

「ロゴスを討つ、正義の味方の希望に満ちた言葉は美しい。ですが、それならばそれで正義を打ち砕く非情な現実を見せてあげればいいではありませんか」

 

 

 

 二人は悪意の塊のような笑みで言う。

 

 

 

 それは異形の笑み。

 

 

 

 それは正に邪悪。

 

 

 

「夢見がちなコーディネーターの諸君に教えてあげなければいけませんね。正義と悪などという言葉でひとくくりできるほど、単純ではない、と」

 

 

 

「悪ならば悪でかまわないだろう。幼稚な正義を打ち砕く力が悪だと言うならば、むしろ進んで名乗るべきだろう。世界を牛耳るのは我々だ、とね!!」

 

 

 

 二人の男はそして言う。

 

 

 

「「そして知るがいい!! 我々を敵に回したその愚かさをなぁ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね~!!

 ラクス達と離れたDの前に現れたのは、東方不敗マスターアジア。

 いきなりDはマスターアジアにファイトを挑まれるのです!!

 一方でデュランダルの演説を聞いたウルベ達は、ロゴスに一つの取引を持ち掛けたではありませんか!!

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第62話に!!

 レディー、ゴー!!


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第62話 東方不敗の試練 マスター対D

 皆さん、デュランダルの思わぬ演説で一気に世界の情勢が変わりつつあります。

 ある者は惑い。ある者は怒り、ある者は嘆く。

 そんな中、ついにウルベとウォンーー二人の極悪人が動き出すのです。

 はたして、コズミック・イラの世界はどのようになってしまうのか!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイ!! ゴォオオオオオオッ!!

第62話


 

 

 世界がデュランダルを讃える声を上げる中。

 

 

 

 薄暗がりの部屋で悪意の塊、二つが笑う。

 

 

 

「自らを悪と名乗り、世界の敵となる君たちに従えと言うのかね?」

 

 

 

 ロゴスの一人がそれを問う。

 

 

 

 戦争とは、互いに正義を名乗りあい、負けた方が悪となるものだ。

 

 

 

 古今東西、戦争とはそういうものだった。

 

 

 

 だが、目の前の男たちは自らを悪だと認めている。

 

 

 

「何か、勘違いをされていませんか? 勝てば官軍ですよ」

 

 

 

 ウォンと言う男はそう言った。

 

 

 

「過程や手段が悪であれ、結果が勝利ならばそれは正義でしょう? 違いますか?」

 

 

 

 肩をすくめながら言うウォンにロゴスの面々は渋い顔をする。

 

 

 

「あなた方は、この演説の問題点を少しも分かっていないようですね。民衆の指示がどうなろうとあんなものは後でいくらでも操作できる。問題は、あなた方幹部の顔が全て筒抜けだと言うことなんですよ」

 

 

 

 ウォンの発言にロゴスの目が大きく開かれる。

 

 

 

「ジブリール、内通者に心当たりはないのかね? ロゴスのメンバーは定期的に入れ替わっているはずだ。それを顔写真まで手に入れ、自信満々に世界に流せる。そんな情報をどうやって手に入れたのかーー」

 

 

 

「いない!! いるわけがない!! 自らの首を絞めることになるような真似をだれが!!」

 

 

 

 冷たい目に射抜かれながらも、必死に告げるジブリールだが、ウルベは静かに言い放つ。

 

 

 

「ならば、先のデストロイガンダムとやら。アレは誰が開発したんだね?」

 

 

 

「アレは…! 我がロゴスのコンピューターに送られてきたデータから…」

 

 

 

「そのデータは何処から送られて来たものだね?」

 

 

 

「数ある機体データのしかも書類選考段階でのことだ。一々目を通してはいないが、実績のあるデータ開発者だったのは間違いない」

 

 

 

 ウルベの言いたいことが理解できずにジブリールは首を横に振る。

 

 

 

 これに一つ頷くとウルベは冷酷な笑みを浮かべた。

 

 

 

「ガンダムを作るだけの資金もデータも技術者もないはずなのに。あれだけの機体をデータ上で作って見せた、というわけか」

 

 

 

「ジブリール、デストロイガンダムのデータを見せてもらえませんか?」

 

 

 

 言いながら、ウォンはジブリールの持つ端末からアクセスしてデータを見始めた。

 

 

 

「ありましたよ、ウルベ」

 

 

 

「ーーフン」

 

 

 

 ウォンの言葉にウルベがあきれたような、失望したようなため息を一つ吐いた。

 

 

 

「いったい、何が言いたいのだ!? ウルベ、ウォン!!」

 

 

 

 ジブリールが焦れたような声を出すが、これにかまわずウルベとウォンはパソコンのデータに目を送っていく。

 

 

 

「…ほほう。やはり陽電子リフレクターも、か」

 

 

 

「デストロイガンダムも基本骨子は連合の方のようですね。ただし、この機体を作成する上で問題が幾つかある」

 

 

 

「それを解決しているのが、このデータの送り主か。まったく、喜劇だな!!」

 

 

 

 笑い飛ばすウルベにウォンはジブリールを見た。

 

 

 

「ロゴスの方々、あなた達は何も目を通してこなかったのですか? 送られてきたデータに何も疑問を感じることなく? 私たちと違って戦争をしている世界だと言うのにずいぶんと平和ボケしていますね」

 

 

 

 辛辣なウォンの言葉にロゴスメンバーの眦が吊り上がる。

 

 

 

「何がいいたいのかね、君たちは?」

 

 

 

「はっきりと断じよう。無能だ、諸君は」

 

 

 

 これにウルベがはっきりと答えた。

 

 

 

「なに!?」

 

 

 

「商売人としては、それで成り立つのかもしれんが。あいにくと君たちの商売は戦争を媒介としている。よって世界情勢や政治にも大きく左右される。情報戦のやり取りに気を配ることなど、当たり前のことだ」

 

 

 

 ウルベの辛辣な言葉にロゴスのメンバーが顔を赤くさせ、ある者は憮然とし、ある者は怒りを露わにする。

 

 

 

「誰かがやってくれるだろうーー。自分たちは甘い汁を吸えればそれでいい。リスクを考えずに甘い話にばかり乗る。困った豚ですね」

 

 

 

「ジブリール、君も大変だったろう。こんな豚しかいない組織をよくまとめられたものだ」

 

 

 

 予期せずに評価され、ジブリールは困惑の表情になっている。当たり前だろう、彼には理解がまったくできていないのだ。

 

 

 

「送られてきた端末は地球軍のものではないな」

 

 

 

 パソコンを操作しながら言うウルベにジブリールが目を大きく見開く。

 

 

 

「なんだと!? では、どこから!!?」

 

 

 

「地球上からでないのならば、後は一つしかないでしょう」

 

 

 

 ウォンがニヤリと笑いながら空を指差す。

 

 

 

「プラントだとーー!? バカな!! この端末からの情報は二年以上前から送られてきていたんだぞ!!?」

 

 

 

 二年以上前ーーすなわち、血のバレンタイン頃。

 

 

 

「ーーあ」

 

 

 

 ジブリールが、思わずと言った風に口を開けて言った。

 

 

 

 同時にロゴスのメンバーも顔色を失くしている。

 

 

 

「私が無能だと言った意味が分かりましたかな? 二年もこのような状況を放っておくなど、私には考えられないことだ」

 

 

 

「商売人としては、それで良いのですがね。使える者はなんでも使えばよい。ただし、出所をきちんと調査してからですがね。あなた方は、世界を闇から牛耳って来られた。自分たちは絶対に安全だとタカをくくってしまった。その結果が今の醜態です」

 

 

 

 彼らは言う。

 

 

 

 醜態をさらした愚かで無能な豚しかいない、それが今のロゴスだと。

 

 

 

「だから、あんな幼稚な発言を許してしまうのだよ。あまつさえ、世界の敵などと夢物語まで語られてね」

 

 

 

 ウルベは笑う。

 

 

 

「何が世界の敵だ? 世界とは何だ? あなた方や我々を見れば分かるだろう? 皆それぞれが違う人種だ、違う環境に生きている。その者たちにとって共通の敵とは何だ?」

 

 

 

 悪魔は笑う。

 

 

 

 ロゴスの面々は彼に飲まれてしまっていた。

 

 

 

 完全に何も言えない。

 

 

 

「自分たちの生活を脅かすものが敵ーーだと言うのならば、世界そのものではないのかね? 生まれ出でた時点で我々にとって世界は敵だろう。そんなことを今更、公衆の面前でさも高尚な顔で厚顔無恥に語る!! これが喜劇でなければ一体なんだ!?」

 

 

 

 この程度かと笑う。

 

 

 

 自分たちの相手は、こんな思考でしかないのかとあざ笑う。

 

 

 

 くだらない、つまらない、ふざけている、とーー。

 

 

 

「幼稚過ぎて相手をするのも馬鹿らしくなるほどだ。しかし、そんな相手にあっさりと主導権を握られる」

 

 

 

 冷たく、冷酷な笑みでモニターのロゴスの面々を見やるとウルベは静かに言った。

 

 

 

「諸君らは子どもに舵を取られるだけのただの豚でしかない。そんな輩をいつまでも飼うほど私は優しくはない」

 

 

 

 言うと、ウルベは右手を顔の横の前に持ってくる。

 

 

 

 パチンッと小気味の良い乾いた音が響いた、ウルベが指を鳴らした音だと分かったのが、彼らの最後の思考。

 

 

 

 モニターの向こうで、阿鼻叫喚の地獄絵図が生まれていた。

 

 

 

 彼らが座っていた椅子から緑色のコードが現れ、彼らの体内に潜り込んでいくのだ。

 

 

 

「ぎゃぁああああああっ」

 

 

 

「た、助けて……く、あああああ!!」

 

 

 

 冷酷な笑みをたたえて、ウルベはその地獄を見ながらワインを煽る。

 

 

 

 人間を辞めていく彼らを見ながら。

 

 

 

 ジブリールはそれを見て、思い出した。

 

 

 

 自分もまた、こうやって作り変えられたことをーー。

 

 

 

 これに感じることは恐怖ではなかった。

 

 

 

 むしろーー恍惚とした何かだ。

 

 

 

 ロゴスの面々が座る椅子はなぜか同じ物に統一されていた。

 

 

 

 そう、趣味や嗜好の違う彼らが、何故か椅子だけは同じものだった。

 

 

 

 知るはずもない。

 

 

 

 その椅子に悪魔の因子が宿っていたことなど。

 

 

 

 二人の悪魔は、陶酔している自分にゆっくりと甘い声で言ってきた。

 

 

 

「まずはデュランダルの思う通りにやらせてやろう。その上で全てを覆してやればよい」

 

 

 

「夢を見ている子どもに絶望を与えるには、その方が良いでしょうね」

 

 

 

 ウォンのパソコンの画面にはユニウスセブンで現れたテロリストのMSジン・ハイマニューバⅡ型とブルーコスモスの部隊「クルセイダーズ」を破ったプラントの守備隊の映像が流れていた。

 

 

 

 まったく同じ動きで、同じ斬り方で敵を倒すMSを左右で比較するように流しながら。

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 デビルガンダムは己の放つエネルギーを使って飛ばしていく。

 

 

 

「デビルフィールドダッシュ!!」

 

 

 

 背中の巨大な翼を大きく広げ、青紫の光の輪を闇の宇宙に生み出すとその光の輪のエネルギーで一気に空間を捻じ曲げて飛ぶ。

 

 

 

 彼が目指すのは、プラントの最高評議会議長のいるコロニーだった。

 

 

 

 すると彼の前に小さな隕石の群れーーデブリが広がっている。

 

 

 

「……ふん」

 

 

 

 デビルガンダムは移動を止め、その場に留まるとうっとうしげに右手を顔の前に出し、虫を払うように動かす。

 

 

 

 同時に、強大なエネルギーの塊がデビルガンダムに弾かれて近くの隕石に当たり貫通していった。

 

 

 

「ほう、相当ドモンに鍛えられたようだな。面白い」

 

 

 

 闇の中に浮かぶ隕石ーーその一つに腕を組んで立つのは、黒いボディと巨大な角、そして赤い羽根のガンダム。

 

 

 

 覚えがある。

 

 

 

 そのガンダムの中にいる男にも。

 

 

 

「東方不敗マスターアジアか。貴様と遊んでいる暇はない!!」

 

 

 

 デビルガンダムーーDの言葉に、拳法着を着た白髪の男が笑った。

 

 

 

「ーーフン! 貴様、このワシからーー。東方不敗マスターアジアから逃げられると思っておるのか!?」

 

 

 

 言うと構えを取るマスターガンダムにDは舌打ちをする。

 

 

 

「ならば、叩き潰すまでよ!!」

 

 

 

「やってみよ、究極と謳われた貴様の力でなぁ!!」

 

 

 

 二つの強大な力が再び闇の中でぶつかり合った。激突する両者の拳と蹴りは、互いの周囲に浮かぶ小隕石を衝撃波だけで砕いていく。

 

 

 

 あまりに圧倒的な両者の力は、宇宙に更なる衝撃を生んでいく。

 

 

 

「フフフ、やはりか。貴様、拳から信念が伝わってくるぞ…!! 己の闘う理由を見つけたか!!」

 

 

 

「無駄口を叩いている暇はない、そう言ったぞぉおおおお!!」

 

 

 

 互いの拳を拳で弾きあい、さらなる拳をぶつけ合う。

 

 

 

「ならば、一刻も早くワシを倒してみせぃ!! いくぞ、流派東方不敗!! 十二王方牌大車併!!」

 

 

 

 右手を大きく頭上に掲げ、左手を時計回りに回転させて気による梵字を十二個作り上げる。

 

 

 

「ゆくぞ、デビルガンダムよ!!」

 

 

 

「ちぃっ!!」

 

 

 

 拳を腰に置き、デビルガンダムも構えを取る。

 

 

 

 マスターガンダムは右手を突き出し、気による「自分と変わらない等身の分身」を12体作り出して前方に放ってきた。

 

 

 

「なにぃ!?」

 

 

 

 襲い来る紫の気を纏った12体のマスターガンダムにデビルガンダムは驚きながらもすぐさま拳を返していく。

 

 

 

 それを両の腕を組んだ状態で見据えるマスターガンダム。

 

 

 

「どうだ? シュウジ・クロスの時代の気量を取り戻したマスターアジアの力は? ヤマトガンダム達をステラ達に譲ってなお、これだけの分身を作り出せるとはーー。我ながら恐ろしいものよ!!」

 

 

 

 言いながら、マスターガンダムは両手をたわめ、右腰において構える。

 

 

 

 ダークネスフィンガーのエネルギーである紫の光の球が上下に組んだ両手の中に生まれる。

 

 

 

 デビルガンダムは、それを確認しながら次々と襲い来るマスターガンダムの分身の攻撃を返していく。

 

 

 

 強烈な動きを誇る分身達と真っ向から殴り合うデビルガンダム。

 

 

 

 そこに極限まで高められた気の球をマスターガンダム本体が撃ち出した。

 

 

 

「流派東方不敗が最終奥義!! 石破ぁあ!! 天ぇええん驚ぉおおおお拳ぇええええん!!」

 

 

 

 戦略兵器級の巨大な黄金に輝く気の光線ーー。

 

 

 

 紫に光輝く「驚」の文字を黄金の光線が撃ち出してくる。

 

 

 

 それを見るや、デビルガンダムは全身に紅い気を纏うと、一気に分身を蹴散らし、右掌を突き出して光線を受け止めた。

 

 

 

「ぬぅあああああああっ!!」

 

 

 

「うぉおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 黒い鬼神が紅い悪魔が咆哮する。

 

 

 

 強烈な力と力をぶつけ合いながら、異形とも言える両者の戦いは燃えていた。

 

 

 

 宇宙の遥か彼方でーー見える強烈な光の線。

 

 

 

 その線は、宇宙空間に境界線のように真横に光った後、ドーム状に爆発が起こった。 

 

 

 

ーーザフト軍宇宙基地

 

 

 

「隊長!! これを!!」

 

 

 

「な、なんだ!? どこかの新星が爆発でもしたのか!?」

 

 

 

ーー地球軍月のコペルニクス

 

 

 

「なんだと言うんだ、この爆発は!?」

 

 

 

「分かりません!! ザフトの新兵器か!?」

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔の力を使うガンダムは、その両翼を大きく広げて健在であることを示す。

 

 

 

 それを同質の力を放ちながら、中に生粋の武闘家を乗せた鬼神のガンダムが見守っていた。

 

 

 

「ーーこんなものか、マスターガンダム?」

 

 

 

「言いおるわ。ならば、帰山笑紅塵!!」

 

 

 

 マスターガンダムの咆哮。

 

 

 

 同時に12体の分身は、両腕を胸の前に組んで構える本体に吸い込まれていった。

 

 

 

 12体の分身すべてが本体に重なった時、黄金の気を纏ったマスターガンダムが誕生する。

 

 

 

「ーー明鏡止水、か」

 

 

 

「こうなっては、前ほど甘くはないぞ? どうする、デビルガンダム?」

 

 

 

「ーー」

 

 

 

 無言でデビルガンダムも両拳を腰において構え、黄金の気を足元から発生させて全身にまとう。

 

 

 

 極限の光を放つ二つの機体。

 

 

 

 その様は、闇のなかである宇宙空間の果てまでも照らそうとしているかのようだった。

 

 

 

「そう! その貴様とやりたかった!!」

 

 

 

「フンーー!」 

 

 

 

 拳を構え、殴りかかろうとするデビルガンダム。

 

 

 

 その前にマスターガンダムは静かに右の拳を突き出す。

 

 

 

「……?」

 

 

 

「何をボーっと突っ立っておる? 拳法家ならば応えんか!!」

 

 

 

 デビルガンダムは訝し気にしながらも、言われた通り拳を突き出してマスターガンダムの右拳に合わせる。

 

 

 

「良いか、礼に始まり礼に終わる。それが武道家の心構えよ」

 

 

 

「……」

 

 

 

 コクピットの中で微かに目を細めるDにかまわずマスターアジアは告げる。

 

 

 

「ネオが言っておった。貴様に助けられたとな」

 

 

 

「…オーブ海域のことか。ただの偶然だ」

 

 

 

「偶然か。ならば、何故ウルベ達を倒した後にネオ達を攻撃しなかった?」

 

 

 

「ただの気まぐれだ」

 

 

 

 マスターアジアの問いにDは言葉少なげに応えていく。

 

 

 

 それを聞くたびにマスターの引き結ばれた口元が徐々に緩んでいく。

 

 

 

「デビルガンダム。貴様、まだ人類を滅ぼそうと言うのか?」

 

 

 

 その問いに、Dは淡々と答えた。

 

 

 

「ああ。人間が滅ぼすに値するのならな」

 

 

 

「ほほう…!」

 

 

 

 東方不敗マスターアジアの顔は既に笑みを隠そうともしていなかった。

 

 

 

「デビルガンダムよ、貴様は変わったな。誰が貴様を変えた? ドモンか? キョウジやキラ・ヤマトか? ギルバート・デュランダルか?」

 

 

 

「……何が言いたい?」

 

 

 

「何、貴様を変えたものが何なのかを知りたくてな。確かにドモンとの闘いで貴様は変わったのだろう。だが、それだけではあるまい? この拳を通して伝わる魂の熱さ。貴様の中で何が変わった?」

 

 

 

 その言葉にーーDの頭に浮かんだものがあった。

 

 

 

ーー はじめまして。ラクス・クラインですわ --

 

 

 

 力も何もない。

 

 

 

ーー 小娘じゃないわ! ミーア! ミーア・キャンベルよ!! --

 

 

 

 ただの小娘だった。

 

 

 

ーー もう! せっかく本名を名乗ってるんだから、ちょっとは反応してよ!! --

 

 

 

 初対面の自分に対しても真っ向からものを言ってきた怖いもの知らずの小娘だった。

 

 

 

ーー ラクスが安っぽくなった、か。ダメだな、あたし --

 

 

 

 必死に『歌姫』を演じて、他者からの言葉に思い悩んで、それでも自分なりに答えを出そうとした小娘だった。

 

 

 

ーー あたしね。ラクス様がおられない間、精一杯代役するわ! それで戦争がおわるんですもの!! --

 

 

 

 小さな肩にとんでもない重いものを背負わされ、利用され、そしてーー。

 

 

 

 Dは知る。

 

 

 

 彼女の悩みを。

 

 

 

 彼女の弱さを。

 

 

 

 彼女の真の姿を。

 

 

 

 それでもと、願った姿をーー。

 

 

 

「東方不敗ーー!」

 

 

 

 胸の内に生まれた熱い想い。

 

 

 

 炎のように滾るその何かが、Dに極限の力を引き出させる。

 

 

 

「それが何かまでは『頭』では分からんか。よかろう、しかし『心』で分かっておるようだな」

 

 

 

 無限の気を放出し始めたデビルガンダムにマスターアジアはニヤリとした。

 

 

 

「デビルガンダムよ、貴様にガンダムファイトを申し込む!! 見事、受けてみせい!!」

 

 

 

「……好き勝手にほざいてくれる」

 

 

 

 言いながら、Dは合わせていた右拳をそのままに視線に力を込めて叫んだ。 

 

 

 

「ガンダムファイトォオオオオ!!」

 

 

 

「レディイイイイイ!!」

 

 

 

 マスターアジアがこれに応えながら拳を押し返してくる。

 

 

 

 両者同時に高めた気を開放した。

 

 

 

「「ゴォオオオオオオッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 ぶつかり合う。

 

 

 

 何度でも、何度でも。

 

 

 

 拳と蹴りをぶつけ合う。

 

 

 

 互いに高速で移動しながら、互いの攻撃を捌きながら。

 

 

 

 黄金の光を身にまとった両者は星空の空間に螺旋を描きながらぶつかり合い。

 

 

 

 離れ合い、そしてまたぶつかり合う。

 

 

 

 光弾を放てば、デブリの一角が消し飛び。

 

 

 

 拳を合わせれば、小隕石の軌道が変わる。

 

 

 

 無限の力と力のぶつかり合い。

 

 

 

 両者の魂の熱さを語るように、気柱が立つ。

 

 

 

 青紫の炎と紫暗の炎が互いを焼き尽くさんと猛り狂う。

 

 

 

 デビルガンダムは悪魔ーー否、もはやその姿は魔王と言うに相応しい程に禍々しくも気高い。

 

 

 

 対峙するマスターガンダムもまた恐ろしくも猛々しい鬼神そのものだった。

 

 

 

 純粋な力と力。

 

 

 

 技と技、スピードとスピードのぶつかり合い。

 

 

 

 どちらの魂の熱さが勝るのか?

 

 

 

 どちらがより耐えられるのか?

 

 

 

 意地と意地のぶつかり合い。

 

 

 

「ぐぅっ!」

 

 

 

 右の正拳突きがデビルガンダムの顔面にヒットした。

 

 

 

 後方に弾かれる顔。

 

 

 

「隙ありぃ!!」

 

 

 

 更に左拳を繰り出そうとするマスターガンダムだが、その左拳をかいくぐってデビルガンダムの右正拳が左の頬に返された。

 

 

 

「ぬぅお!?」

 

 

 

 のけ反るマスターガンダムに左の拳がさらに叩き込まれる。

 

 

 

 咄嗟にガードするも上半身が横に流れるマスターの右側頭にデビルガンダムの左ハイキックが迫った。

 

 

 

「!?」

 

 

 

 咄嗟に上体を後方へ反らし、顎先で見切るマスターガンダム。

 

 

 

 蹴り脚を軸足に引き戻すデビルガンダムより早く踏み込むと、左のボディからアッパーに繋ぎ、のけ反ったデビルガンダムの顔面を蹴り飛ばす。

 

 

 

 遥か後方の小隕石に背中から叩きつけられ、隕石が砕かれる。

 

 

 

 しかし、マスターガンダムは砕かれた隕石とは別の、自分にとって左後方へと顔を向けていた。

 

 

 

 そこに黄金の気を纏った魔王が静かに両腕を組んでいる。

 

 

 

「ほう」

 

 

 

 マスターアジアは感心したような声を上げた。

 

 

 

「なんとも、この短期間で恐ろしい強さになったものよ」

 

 

 

「降参するか? 貴様では我に勝てんぞ」

 

 

 

 間髪入れずに返ってきた答えにマスターアジアは大きく笑った。

 

 

 

「わっはははは!! 笑わせてくれるわ、このたわけがぁああああ!!」

 

 

 

「ーーっ!!」

 

 

 

 更に気が高まるマスターガンダムにデビルガンダムも気を高める。

 

 

 

 この果ての無い宇宙空間で、彼らは果ての無い力比べを行っていた。

 

 

 

 同時にその場から忽然と消える。

 

 

 

 瞬間、衝撃波だけがあちこちの空間で起こり、ぶつかり合う。

 

 

 

 音など響くはずのない宇宙で、確かにそれは響いている。

 

 

 

 魂と魂がぶつかり合う。

 

 

 

 その現象に音が生じている。

 

 

 

 拳と拳を、蹴りと蹴りをぶつけ合い、互いに後方へ首をのけぞらせ。

 

 

 

 一瞬後には元居た位置に首を戻しながら。

 

 

 

 より早く。

 

 

 

 より強く。

 

 

 

 より先に向かって、一撃を放ちあう。

 

 

 

 両者の右正拳の一撃が爆発を起こし、お互いを後方へと弾き飛ばす。

 

 

 

 背中から隕石の一つに叩きつけられるデビルガンダムとマスターガンダム。

 

 

 

 同時にその隕石を消し飛ばしながら二つの太陽がごとき黄金に輝く球が向かい合う。

 

 

 

「……」

 

 

 

「…はぁ…はぁ」

 

 

 

 だが、ついに優劣が付き始めていた。

 

 

 

 マスターアジアが肩で息をし始めたのだ。

 

 

 

 無理もない、二人の戦いは極限の状態まで気を高めて行われていた。

 

 

 

 既に戦いが始まってから丸1日が経とうとしていたのだ。

 

 

 

「なるほど、これがーーデビルガンダムか。確かにこの強さならば、全てを屈服させれよう。しかし、貴様はそれを望んでおるのか? どうもそうは感じられんがな」

 

 

 

「……無駄口を叩いている暇はない。随分と時間を食った、退くならば退け。まだ邪魔するのならば、このまま叩き潰してくれる!!」 

 

 

 

「ならば、次の一撃で決着をつけてくれるわ!!」

 

 

 

「望むところだ、来るがいい!!」

 

 

 

 最後の極大の一撃を放とうと、両者が腰だめに構える。

 

 

 

 瞬間、三度強大な黄金の気柱が立ち上がる。

 

 

 

「流派ぁ!!」

 

 

 

 デビルガンダムが右手を突き出す。

 

 

 

「東方不敗がぁ!!」

 

 

 

 マスターガンダムも同じように右手を突き出した。

 

 

 

「最終ぅ!!」

 

 

 

 Dが腰を落としながら瞳を閉じる。

 

 

 

「奥義ぃ!!」

 

 

 

 マスターも同じように瞳を閉じて気を高める。

 

 

 

 両者の纏う強大な気が柱から球に変化し、黄金の気は七つの色を放つ白い光の球へと変わった。

 

 

 

 その力を両者両手に極限まで圧縮する。

 

 

 

 黄金の機体だった二つの機体は、元通りの色に戻りながらも、そのたわめた両掌には七色の色を放つ白い光球がある。

 

 

 

 デビルガンダムはその両手を蒼紫の気で発光させて。

 

 

 

 マスタガンダムはその両手を紫暗の気で発光させて。

 

 

 

 同時だった。

 

 

 

 同時に両手首を上下に組んで前方に掌を突き出す。

 

 

 

「「石破ぁ!! 究ぅ極くぅ!! 天ぇえん驚ぉおおお拳ぇええええん!!!!」」

 

 

 

 白い光の光線がお互いの中心でぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 その光は、スピードやパワー等と言う概念を全て凌駕する。

 

 

 

 光が放たれたことによる衝撃波だけで、全ての隕石が消し飛んでいく。

 

 

 

 究極の力と力の一撃。

 

 

 

 その威力は問答無用とばかりに全てを消していく。

 

 

 

 ぶつかり合い、押し合う等ということは許されない。

 

 

 

 少しでも威力が弱い方が一気に消し飛ばされる。

 

 

 

 もし双方の威力が互角であったならーー。

 

 

 

 

 

「爆ぁく発ぁあああああつっ!!」

 

 

 

「デェエッド、エンドォオッ!!」

 

 

 

 

 

 二人の声が宇宙空間という闇を消し飛ばす白い世界の中で、響いていた。

 

 

 

 双方の威力は互角。

 

 

 

 強大な光と光が交わる。

 

 

 

 強大な恒星と見紛うばかりの光球が生まれた。

 

 

 

 

 

 その光の球が生まれて消えるまで僅か数10秒程度。

 

 

 

 だが、それによって生じた衝撃波が数10秒の間吹き荒れる。

 

 

 

 デビルガンダムもマスターガンダムも、極限の技を放った直後では動けない。

 

 

 

 容赦なく衝撃波は二人を襲った。

 

 

 

 

 

 何もない空間。

 

 

 

 宇宙の闇の中に、二機はいた。

 

 

 

 マスターガンダムは、全身から火花を吹き、左腕と両足を失っていた。

 

 

 

 対峙するデビルガンダムは、その全身から火花を吹いているも五体満足で浮かんでいる。

 

 

 

「ーーフン、これでは再生せねば戦えんか」

 

 

 

「…何故しない?」

 

 

 

 そう言うだけで何もしないマスターにデビルガンダムは己の体を再生させながら不審に思い、問う。

 

 

 

「何、ワシの目的は決まったからだ」

 

 

 

「? 何だと?」

 

 

 

 言うと、マスターアジアが気を込めてガンダムを一気に再生させた。

 

 

 

 両者の姿は一気に戦う前と何ら変わらない姿に戻った。

 

 

 

 だが、マスターガンダムは闘う構えを取らずにデビルガンダムに歩み寄った。

 

 

 

「何のつもりだ、マスターガンダム」

 

 

 

「貴様の闘う理由を見てみとうなった。それだけのことよ」

 

 

 

「ーー何?」

 

 

 

 鋭い瞳で問いかけるデビルガンダムにマスターアジアはニヤリと笑みを浮かべて見せた。

 

 

 

「デビルガンダムよ、今の貴様ならばこのワシが仕えるだけの価値はある。今一度、張らせてもらおう。デビルガンダム四天王の頭をなぁ!!」

 

 

 

「ーーっ!?」

 

 

 

 マスターの言葉にDは大きく目を見開いた。  

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね~!!

 ウルベとウォンによって完全に乗っ取られてしまったロゴス。

 対するデュランダルの方もファム・ファタールとフィルム・ノワールを使い策謀を展開していきます。

 狙われたのは、オーブのセイラン家。

 プラントにてこれを把握したイザーク達は、阻止すべく動くのです。

 はたして、その結果は!?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第63話に!!

 レディー、ゴー!!


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第63話 ファム・ファタール(悪夢)との出会い

 さて、皆さん。

 前回のお話でウルベとウォンに乗っ取られてしまったロゴス幹部たち。

 対するデュランダルの方もファム・ファタールとフィルム・ノワールを使い策謀を展開していきます。

 狙われたのは、オーブのセイラン家。

 プラントにてこれを把握したイザーク達は、阻止すべく動くのです。

 はたして、その結果は!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィィィッ! ゴォォォオオオッ!!


第63話


 

 

ーープラント最高評議会議長室にて

 

 

 

 ギルバート・デュランダルは自分の演説を終えた事に一息ついていた。

 

 

 

 評議会の者たちは一斉にデュランダルを讃えて拍手を送る。

 

 

 

 これに彼は隣のラクスと共に笑顔で応えた。

 

 

 

 ギルバート・デュランダルが名実共にプラント評議会の全てを握った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 これに応えるように地球の方でも事態は急速に動き始めた。

 

 

 

 戦争を否定するデュランダルの言葉に感銘を受けた人々が各地でゲリラ行為を開始したのだ。

 

 

 

 次々と追い詰められていくロゴスのメンバー達。

 

 

 

 彼らは表向きは軍事、金融、化学、穀物生産といった産業の大物経営者たちだ。

 

 

 

 表立っての警備は民間企業程度のものでしかない。

 

 

 

 人種も国籍もない暴徒の数に対抗できるだけの武器も数も存在しなかった。

 

 

 

 

 

 そのような現状を知らない、知るはずのないデュランダルに最高評議会の席で黒の陣羽織を着た『ラクス・クライン』は語りかける。

 

 

 

「議長、ロゴスを討つとは言え。彼らの表の顔は大企業の経営者方です。これを軍を使って排除されるおつもりか皆さんに説明をしていただけませんか?」

 

 

 

 これにデュランダルは「ああ」と頷いたあと、評議会のメンバーを見渡し言う。

 

 

 

「私だって名を挙げた方々に軍を送るような馬鹿な真似をするつもりはありません。ロゴスを討つというのはそういうことではない。ただ、彼等の創るこの歪んだ戦争のシステムは、今度こそもう本当に終わりにしたい」

 

 

 

ーーロゴス幹部のビル

 

 

 

 警備用にやとわれていた地球軍兵士達数10人は、必死でビルの前に集まった数万に昇る暴徒に向かって銃を構えながら言う。

 

 

 

「くっそー!」

 

「騙されてるのはお前達だぞ!コーディネイターの奴等に!」

 

「うわ!」

 

 

 

 暴徒はすぐに彼らを飲み込んで行き、ビルの中に入っていった。

 

 

 

 

 

 プラントではデュランダルが変わらず議長席から議員たちに向かって、世界に向けて熱弁をふるっていた。

 

 

 

「我々コーディネイターは間違った危険な存在と、解り合えぬ化け物と、何故あなた方ナチュラルは思うのです?

 

 そもそもいつ? 誰がそう言い出したのです? 

 

 私から見ればこんなことを平然と出来るロゴスの方がよほど化け物だ。

 

 それもこれもただ我々と戦い続けるためだけにやっている。己の身に危険が迫れば人は皆戦います。

 

 それは本能です。だから彼等は討つ。そして討ち返させる。私達の歴史はそんな悲しい繰り返しだ。

 

 戦争が終われば兵器は要らない。今あるものを壊さなければ新しいビルは造れない。畑を吹き飛ばさなければ飢えて苦しむ人々に食料を買わせることが出来ない。

 

 平和な世界では儲からないから、牛耳れないからと、彼等は常に我々を戦わせようとするのです。

 

 こんなことは本当にもう終わりにしましょう。

 

 我々は殺し合いたいわけではない!

 

 こんな大量の兵器など持たずとも人は生きていけます。戦い続けなくとも生きていけるはずです!

 

 歩み寄り話し合い、今度こそ彼等の創った戦う世界から共に抜け出そうではありませんか!」

 

 

 

 デュランダルの弁に全ての議員たちが席を立ち、拍手を送る。 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 ブルーコスモスのメンバーと発表されたメンバーのビルに詰め寄る暴徒たち。

 

 

 

 彼らの蛮勇はついに構成員メンバーのもとへとたどり着いていた。

 

 

 

「ルクス・コーラー!」

 

「ブルーノ・アズラエルだ!」

 

「ブルーコスモスのメンバーを見つけたぞ!」

 

「引きずり出せ!」

 

 

 

 これをモニターで見ながら、ジブリールは震えていた。

 

 

 

「こんな…、こんなバカなことが!」

 

 

 

 必死にこちらに助けを求める幹部のメンバーを見ながら、怯えと恐怖に駆られてジブリールは吐き捨てた。

 

 

 

「くっそー! デュランダルめ!!」

 

 

 

 これを冷ややかに見るのはロゴスを完全に掌握した悪人二人だった。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 一方でデュランダルは、各地でロゴスメンバー宅への暴徒による襲撃事件と地球連合軍のロゴスからの離反と彼らがロゴスを討つことへの協力を申し出ている報告を受けていた。

 

 

 

「ああ、分かった。それでいい。今後もそうした申し入れは基本的にはどんどん受けてくれたまえ」

 

 

 

 評議会議員の一人であるクリスタ・オーベルクは不安げな顔でデュランダルに言った。

 

 

 

「でも、何もこんな時に。議長が御自身で地球へ降りられなくとも。指示はここからでも十分お出しになれますわ」

 

 

 

「そういう問題ではないよ。旗だけ振ってあとは後ろに隠れているような奴に、人は誰も付いては来ないだろ?」

 

 

 

 答えながら彼はニュースを流しているモニターを見据えて言う。

 

 

 

「ジブリール氏の行方もまだ判らんのだ」

 

 

 

 そして自分の向かいに立つラクスに笑いかけた。

 

 

 

「しかし凄いものだね、人々の力は。恐ろしくもあるよ。こちらが手をつかねているうちに、こんなことにまでなってしまうとは」

 

 

 

「ええ、でも議長のお言葉に皆奮起しているのですわ。本当に戦争のない世界に出来るならと」

 

 

 

「出来るさ。皆がそう望めば。では、行こうかラクス。みんな、後を頼むよ」

 

 

 

 ラクスと共に議長はその場を後にする。

 

 

 

 彼らの背に向かって評議会議員たちは笑顔で言った。

 

 

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

 

 

 

 デュランダルは議会席を後にしながらも思う。

 

 

 

(ウィラード隊からの報告。アークエンジェルの撃沈は未だ確認できぬものの、キラ・ヤマトの撃破は間違いなし。取り敢えずは強力な駒を一つ消せた、か。

 

 いや、油断は出来ぬな。白のクィーンは強敵だし、彼女の傍には最強の男「キング・オブ・ハート」がいる。それにオーブにはその兄である「あの男」もーー)

 

 

 

 自然とデュランダルの唇がかみしめられ、拳が握られていた。

 

 

 

「では議長。わたくしはーー?」

 

 

 

 目の前でラクスが物思いに沈む彼に小首を傾げながら問うてきた。

 

 

 

「ああ、そうだったね」

 

 

 

 言いながらデュランダルはラクスの後ろにいる金髪の男に話しかける。

 

 

 

「君たちに頼みたいことがあるのだが、良いかな?」

 

 

 

「議長の仰せのままにーー」

 

 

 

 仮面の男はにやりと笑いながら芝居がかった会釈をしてみせる。

 

 これに苦笑を返しながら、デュランダルは言った。

 

 

 

「地球には彼女を連れて行こうと思う。君とラクスは、こちらに残って白のクィーンやキングの駒を探し排除してもらいたい」

 

 

 

 デュランダルの言葉にラクスはお淑やかな笑みを浮かべ両手を叩いて言った。

 

 

 

「まあ! それではわたくし達に裏切り者さんを探して来い、と?」

 

 

 

「そうなるね。頼めるかな、ラクス?」

 

 

 

 これにラクスは静かに頷くと他者への慈愛に満ちた微笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「分かりましたわーー。参りましょう、クルーゼ隊長」

 

 

 

「了解です。ラクス・クライン」

 

 

 

「お二人にはつもるお話もあるでしょう。わたくしは、先に向かいますわね」

 

 

 

「心遣いに感謝するよ、ラクス・クライン嬢」

 

 

 

 言いながら、ラクスはその場を後にする。これにクルーゼは静かに笑顔を浮かべて頷いた。

 

 

 

「このような役を与えてすまないね、ラウ」

 

 

 

 苦笑を浮かべながら言うデュランダルに「彼」は笑みを返した。

 

 

 

「気にしないでくれ、ギル。私もこの「役」が案外気に入っている」

 

 

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 

 

 微笑みを浮かべ合う両者は、先ほどまでの貼り付けただけの笑みとは少し変わったものとなっている。

 

 

 

「『私』は『私の人生』を全うできた。だからこそ、今度は君の世界に対する回答とその結果を見せてもらうよ。ギル」

 

 

 

「君と言う私の最大の理解者を得たのだ。必ず成功させるさ、デスティニープランをね」

 

 

 

 暗がりの通路を彼らは歩いていく。

 

 

 

 クルーゼはデュランダルと別れた後、シャトルに乗り込む。

 

 

 

 VIP席には白のザフト服を着た赤い髪の少女がつまらなさげに外を見ていた。

 

 

 

「ー-待たせてしまったかな?」

 

 

 

「いいえーー。つまらないだけ」

 

 

 

 間髪入れずに気だるげに応えてくる「彼女」にクルーゼーーフィルム・ノワールは笑った。

 

 

 

「議長の思惑通りに進むのがつまらないのかい?」

 

 

 

「ええ。こんなにも歯ごたえがないなんて、つまらないわ」

 

 

 

 そう告げる「フレイ・アルスター」にフィルム・ノワールは穏やかな笑顔を向けた。

 

 

 

「それだけかな?」

 

 

 

「……ミーア・キャンベルを議長に取られたわ」

 

 

 

 不機嫌に頬を膨らませる姿は、お気に入りのおもちゃを奪い取られた子どもの拗ねた顔だった。

 

 

 

「仕方あるまい。彼女には彼女の役割があるーー。君だってラクスだけを演じている訳に行かないのも分かるだろう?」

 

 

 

「キラ・ヤマトーー? そんなにあたしとキラを合わせたいの? クルーゼさん」

 

 

 

「ああ。キラ・ヤマトを苦しめるーーそのために私は、彼が最も大切にしている女性2人の写し身である君を生み出したのだよ、ファム」

 

 

 

 暗い笑みを浮かべるクルーゼーーフィルムにフレイは嗜虐的な笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「あなたって執念深いですよね、クルーゼ隊長」

 

 

 

「当然だろう? 君とてキラ君に会えるのは楽しみじゃないのかな、フレイ・アルスター君」

 

 

 

「……キラの目の前で私(フレイ)を殺したあなたがそれを言うのかしら?」

 

 

 

 一瞬ーーフレイの灰色の瞳に殺意が湧く。

 

 

 

 が、それもすぐに消えた。

 

 

 

「フフフフフ、楽しもうじゃないか。我々は既に舞台を降りた役者だ」

 

 

 

 クルーゼの言葉に取り合わず、ファム・ファタールは言った。

 

 

 

「……フィルム。議会席を傍聴していた人間が車に乗ってR2宙域プラント行きのシャトルに向かってるわよ」

 

 

 

「仕事の始まりだね、ファム」

 

 

 

「ええ。あなたの昔の部下達らしいじゃない?」

 

 

 

「君のかつての友人も一緒のようだーー」

 

 

 

 モニターに映し出されたのは、傍聴席から立ち去る三人の少年たち。

 

 

 

 イザーク・ジュールにディアッカ・エルスマン、そしてミリアリア・ハウだった。

 

 

 

「トール(自分の恋人)を殺したコーディネーター共と行動を共にするなんて。ミリアリア、あんたも随分と変わったわね」

 

 

 

 冷めた瞳で冷めた口調で、フィルム・ノワールはモニターに映るショートヘアの少女に語り掛けた。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 一方でイザーク達も議会の話題がほとんど終結したのを確認して席を立ち、イヤホンマイクで決定事項を確認していた。

 

 

 

 車に乗り込みながら、イザークが口に出す。

 

 

 

「デュランダル議長がこのタイミングで、地球に降りる?」

 

 

 

「ロゴスの連中が連合のジブラルタル基地に集まっているらしい。そいつを討つためにザフトと反ロゴスの地球連合軍が合同で作戦を慣行。議長はそれを現場で確認するってわけらしいがーー」

 

 

 

 ディアッカが助手席に乗り込みながら、言う。

 

 

 

 後ろにはミリアリアが乗り込んだ。

 

 

 

「キョウジさんが、セイラン家の水面下での動きが活発になってるって言ってたけど。関係あるのかしら?」

 

 

 

「分かんねぇ…! くそ、何だかきな臭いぜ!!」

 

 

 

 頭をかきながら、各国で起こった事象を時系列で確認するディアッカ。

 

 

 

 まじめな彼は、キョウジに言われてからマメに経済や社会情勢を確認し、同時期に何が起こっているのかをミリアリアと整理していた。

 

 

 

「おかしいだろ!? こんなアッサリと今まで解決できなかったものが一気に動くなんてよ!! しかも世界中でだぞ!!」

 

 

 

「石油の変動価格、武器の露出に。プラントとの貿易回数。何もかも、このタイミングで一気に動いてる」

 

 

 

 二人の言葉にイザークは頷く。

 

 

 

「おそらくは、泳がせていたのだろうな。ロゴスという組織の奥深くにデュランダル議長の手が伸びていたということだろう」

 

 

 

「世界中にも、よ。

 

 考えられないことだけど、議長の意見は無条件で通っているわ。おかしいわよね、国が違うんだから考え方も意見も変わるはずなのに、スカンジナビア共和国とオーブくらいしか議長の考えに反対を唱えていない。まるでみんな、集団催眠にかけられてるみたい」

 

 

 

 ミリアリアの言葉に深刻な表情で黙り込む二人。

 

 

 

「そう言えば。ディアッカはともかく、イザークもよく軍を抜けてこられたわね」

 

 

 

 ミリアリアが重くなった空気を変えようとイザークに語り掛けると、彼は運転をしながら眉をあげた。

 

 

 

「ーーん?」

 

 

 

「だって、イザークは隊長なんでしょ? だったらーー」 

 

 

 

「問題ない。俺の部下たちは優秀だからな、代役もきちんと立ててきた」

 

 

 

 その言葉にミリアリアは何となくディアッカを見ると、彼は顔を真っ青にしながら口元をひくつかせている。

 

 

 

「ねぇ、ディアッカ? 前に言ってたシホって子がーー?」

 

 

 

「……ああ」

 

 

 

「アンタも大変ね」

 

 

 

 思わずと言った感じで言葉に出たミリアリアにディアッカが振り返りながら叫んだ。

 

 

 

「同情するなら、結婚してくれ!!」

 

 

 

「はいはい、また今度ね」

 

 

 

「うそつけぇええええ!!」

 

 

 

 そんな二人のやり取りをニヤニヤと楽し気に見つめるイザーク。

 

 

 

 しかし、そんな楽し気な三人にも魔の手は迫っていた。

 

 

 

「…ねえ、二人とも」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

「分かっている」

 

 

 

 三人はルームミラーで後ろからついてくる軍用車を確認していた。

 

 

 

 評議会を後にしてからずっとこちらを付けてくる。

 

 

 

 イザーク達の車は静かに交差点を曲がり、路地に入る。

 

 

 

「イザーク!!」

 

 

 

「しっかりつかまっていろ、二人とも!! 飛ばすぞ!!」 

 

 

 

 アクセルを踏み抜き、エンジンをふかしながら、一気に街中を駆け抜ける自動車。

 

 

 

 軍用のジープも間髪入れずについてくる。

 

 

 

「おいおい、マジでつけてきてるじゃねえか!」

 

 

 

「イザーク! キョウジさんから手配されたシャトルは、第4港のF区画に泊めてあるわ!!」

 

 

 

「4のFだな、任せろ!!」

 

 

 

 だが、イザーク達の車が路地を抜けると、待ち構えていた3台の軍用車がこちらに向かって走り始めた。

 

 

 

「くそっ!!」

 

 

 

 ハンドルを切り、一気に路地裏に突っ込むとそこで車を降り、廃墟のビルに入る。

 

 

 

「おいおい、どうすんだよ!?」

 

 

 

「決まっている。こっちの抜け穴を使うぞ!!」

 

 

 

「クライン派が使ってた抜け道ーー。向こうも気付いてなければいいけど」

 

 

 

 クモの巣のように通るかつて使われていたクライン派の抜け道。

 

 

 

 一般の兵士達はおろか、権力者でさえほとんど知られていない。

 

 

 

 イザークには絶対の自信があった。

 

 

 

 だから、暗がりの抜け道を通る自分たちの目の前に、兵士達が展開されていることに驚愕した。

 

 

 

「なんだと!? ばかな!! クライン派に裏切り者がいるというのか!?」

 

 

 

「どうなってんだ、こいつは…!!」

 

 

 

 マシンガンを構えた緑の軍服を着たザフト兵。

 

 

 

 目元はサングラスをかけて、見えない。

 

 

 

「昔、君に言ったね? 自分の思考に自信を持つのはいいことだが、時には慎重さも必要だと。信じられないという思いに敵は付け込んでくる、とね」

 

 

 

「ーー!!?」

 

 

 

 そんな馬鹿な、と言う思いがイザークの胸に反響する。

 

 

 

 声は、後ろから聞こえてきた。

 

 

 

 同僚であるディアッカも驚愕に目を見張っている。

 

 

 

 同時に振り替えると、彼らの記憶通りの姿をした金色の髪の男が黒の軍服を着て立っていた。

 

 

 

「久しぶりだね、イザーク。それにディアッカ」

 

 

 

「「クルーゼ隊長…!!」」

 

 

 

 二人の言葉にミリアリアも目を見開いた。

 

 

 

「クルーゼって、ラウ・ル・クルーゼ? キラが倒したんじゃ!?」

 

 

 

「……そちらのお嬢さんとは、はじめましてだな。君にもぜひ紹介したい人がいるんだが」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

「感動の対面だな」

 

 

 

 言いながらクルーゼは後ろを振り返る。

 

 

 

 そこには白い軍服を着た一人の赤い髪の少女が立っていた。

 

 

 

「…そんな、そんなことって!?」

 

 

 

「久しぶりね、ミリアリア。元気そうで何よりだわ」

 

 

 

「どうして…? フレイ、なの?」

 

 

 

「ほかに誰に見えるっていうの?」

 

 

 

 彼女は傲慢な笑みを浮かべてミリアリアを見下すように言った。

 

 

 

「トールを殺されてキレたあんたが、殺そうとした人間と仲睦まじくしてるなんてね」

 

 

 

「フレイーー。あなた、どうして?」

 

 

 

「死んだはずじゃなかったのか、って? そうね。『私』は死んだわ」  

 

 

 

 混乱するミリアリアの横でイザークが拳銃を構えて言う。

 

 

 

「カーボンヒューマンか!?」

 

 

 

 問いかけるイザークにクルーゼは笑う。

 

 

 

「そうだな、その答えが一番矛盾がない。もっともフレイ・アルスターはナチュラルだ。彼女のデータをプラントに残しておく意味などない」

 

 

 

「……あなたが復活させたのか? クルーゼ隊長!!」

 

 

 

 吠えつけるイザークにクルーゼは静かに笑う。

 

 

 

「イザーク・ジュール「隊長」ね」

 

 

 

「……」

 

 

 

 フレイは一歩前に出ると灰色の瞳でイザークを見据える。

 

 

 

「相変わらず、人を見下した目をするのね? 気に入らないわ」

 

 

 

「貴様のような女に、気に入られたくもないわ!」

 

 

 

 蛇のように絡みつくフレイにイザークは一喝を返した。

 

 

 

「ミリアリアと貴様は同じナチュラルの友人だったのだろうが! それを平然と侮蔑するような奴など、俺は好かん!!」

 

 

 

「フレイって言ったっけな。あの後、ミリアリアも色々あったんだ。だからーー」

 

 

 

 ディアッカがミリアリアをかばうように言うと、フレイは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

「アンタもモノ好きね? 自分を殺そうとした女に惚れるなんて」

 

 

 

「ーーかもな。だが、お前から助けてくれた恩人でもある」

 

 

 

「ふふ、言うじゃない? コーディネーターのナイトさん」

 

 

 

「そういうお前も、大嫌いなコーディネーターの一員に成り下がっちまったみたいだな?」

 

 

 

 会話をしながら、ディアッカとイザークは周囲に気を配っている。

 

 

 

 ここはクライン派の抜け道。

 

 

 

 万が一挟み込みを受けた場合、さらなる仕掛けがあるはずだった。

 

 

 

 それを必死で探す。

 

 

 

「そうね。パパを殺したコーディネーター共の手先になるなんてーーふざけた話だわ」

 

 

 

 そうつぶやいたと同時にフレイは、その場から姿を消した。

 

 

 

 見れば、一気にこちらに踏み込んで来ていたのだ。

 

 

 

「ーーな!?」

 

 

 

 咄嗟に反応したイザークよりも早く、フレイの鋭い左拳が彼の鳩尾にきまった。

 

 

 

 凄まじい音と共に腹を抑えてイザークがその場にうずくまる。

 

 

 

 その端正な顔をフレイの右足が踏みつける。

 

 

 

「今の私、コーディネーターのアンタ達にも手に負えないくらい強くなってるの。だからもう見下されたりはしないわ」

 

 

 

「ーーぐっ!!」

 

 

 

 睨みあげるイザークを嗜虐的な笑みで見下ろすフレイ。

 

 

 

「イザーク!!」

 

 

 

 傍らのディアッカが拳銃をフレイに構えると同時に、彼の視界は大きく反転した。

 

 

 

「ガハァッ」

 

 

 

 投げ飛ばされたと気付いた時には、地面に背中から叩きつけられ、肺の中にある空気が外に出てしまっている。

 

 

 

「すまないな。少しの間、大人しくしていてくれ。ディアッカ」

 

 

 

「相変わらず、なんて動きだよーー!」

 

 

 

 笑みを浮かべるクルーゼに悪態を吐くが、どうにもならない。

 

 

 

 二人は地面に屈服させられてしまった。

 

 

 

 フレイとクルーゼは彼らを見下ろした後、静かにミリアリアを見据える。

 

 

 

「さてーー後は君か」

 

 

 

 ミリアリアが歯を食いしばりながら二人を睨みつける。

 

 

 

「逃げろ、ミリィ!!」

 

 

 

「お、の、れ…!!」

 

 

 

 ディアッカとイザークが叫ぶが対峙するミリアリアは強い瞳のまま、落ち着いてフレイに語り掛けた。

 

 

 

「何が狙いなの? 私たちを殺すのならすぐにできたでしょ?」

 

 

 

 その言葉に、フレイは笑みを引っ込めるとつまらなそうにため息を一つ吐いて言った。

 

 

 

「怖がらないの?」

 

 

 

「見くびらないでくれる? 貴女がフレイなら、私が怯える道理なんかないわ」

 

 

 

 晴れやかな笑顔で言い放つ彼女を、フレイは忌々しそうに見据えた。

 

 

 

「相変わらず、優等生過ぎて嫌味な女ーー」

 

 

 

「そう? フレイは相変わらず、悪者ぶるのが好きよね」

 

 

 

 面と向かって言うミリアリアにフレイは残虐な笑みを浮かべた。

 

 

 

「それは、貴女の知ってるフレイ・アルスターでしょ? 悪いけど、あたしは以前ほど甘くはないわよ?」

 

 

 

 その灰色の瞳をミリアリアは正面から見返す。

 

 

 

 お互いに目を逸らさない。

 

 

 

 先に動いたのはーー。

 

 

 

「バカらしい。辞めたわ、貴女ホントにつまんない」

 

 

 

 フレイの方だった。

 

 

 

 彼女はミリアリアに自分の懐から取り出した一枚のディスクを投げ渡した。

 

 

 

 ミリアリアは反射的に受け取るも呆然と彼女を見返す。

 

 

 

「ーーファム、君は本当に困った子だ」

 

 

 

 これを見ていたラウ・ル・クルーゼは、苦笑しながらフレイのやることを見過ごすつもりらしい。

 

 

 

「構わないでしょ? どうせ世界は議長の思惑どおりに動くんだもの」

 

 

 

 無機質で無感情な、そんな目でフレイはミリアリアに笑いかけた。

 

 

 

「そのディスクにはセイラン家からの嘆願状が入ってる。連中はまだ、自分達がオーブの重役だと思ってるみたいね。プラントにある人物を差し出したいって言ってきたわ。あの気にくわない男ーードモン・カッシュのお兄さん」

 

 

 

「嘘でしょ? まさか、オーブのセイラン家が議長相手にキョウジさんを!?」

 

 

 

 目を見開くミリアリアを愉快げに見た後、フレイは言った。

 

 

 

「ーー精々足掻いて見せなさいよ。アンタが世界を見放さないって言うんならね」

 

 

 

 その言葉は、やはり彼女の言葉だ。

 

 

 

 臆病で何も分からず、逃げようとして。

 

 

 

 誰彼構わず傷付け、でも本質は誰よりもーー繊細で触れたら壊れそうな心の少女。

 

 

 

「ーーフレイ!! どうしてなの?! どうして、貴女がそんなところにいるの!?」

 

 

 

 思わず、ミリアリアは叫んでいた。

 

 

 

 悲しみと何かで胸が張り裂けそうになりながら。

 

 

 

「一緒に行こう? 貴女も一緒にーー!!」

 

 

 

 瞬間、相手を射殺さん程の殺意のある灰色の瞳が、ミリアリアの目に飛び込んできた。

 

 

 

「ミリアリア、アンタに一つ言っておくわ」

 

 

 

 目に反して声には無機質なモノが響いている。

 

 

 

 命の危機を感じて、思わず震えるミリアリアにかまわずフレイは続けた。

 

 

 

「アンタの善意で誰も傷付かないと思ってるなら、それは間違いよ。アンタの価値観をあたしに押し付けないで」

 

 

 

 小動物のように震えるミリアリアに、それだけを告げるとフレイはアゴを兵士達に向けた。

 

 

 

 それだけで前方でミリアリア達に対し、機関銃を構えていた軍人達は下がっていく。

 

 

 

「行くわよ、フィルム・ノワール」

 

 

 

「仰せのままに、ファム・ファタール」

 

 

 

 それだけを述べて、フレイとクルーゼは元来た道を戻り始めた。

 

 

 

「待って、フレイ!!」

 

 

 

「ーーフレイさん? わたくし、フレイさんに見えますか。ミリアリアさん?」

 

 

 

 その声は先ほどまでとは全く違う声。

 

 

 

 穏やかで温かい、聞くものに癒やしを与える声。

 

 

 

「ーーなんだと?」

 

 

 

「どうなってんだ、こいつは?」

 

 

 

 呆然とするミリアリアの左右で、イザークとディアッカが立ち上がりながら、目を見開いている。

 

 

 

「ーージュール隊長。クライン派は裏切りなどしておりません。ただ、わたくしが知っているだけですわ」

 

 

 

「ーーラクス、様だと?」

 

 

 

 そう、髪は長さが腰まで伸びて波打ち、紅の色は薄い桃色に変わる。

 

 

 

「ーーカーボンヒューマンなんかじゃない。なんだ、こいつは?」

 

 

 

 ディアッカも呆然としながら、思わず問いかける。

 

 

 

 これにラクスと同じ姿、声、仕草で彼女は応えた。

 

 

 

「わたくしは、ファム・ファタール。キラ・ヤマトを苦しめる為だけに生み出された、作られしもの」

 

 

 

「ーーそんな、ことって」

 

 

 

 ミリアリアは目を見開いて、ラクスの姿をしたファムを見る。

 

 

 

 余りに理不尽な何かに心を締めつけられながら。

 

 

 

「また、お会いしましょう。ミリアリアさん、ディアッカさん、イザーク隊長。あなた方の健闘を心よりお祈りいたしますわ」.

 

 

 

 闇の中に、闇は消えていく。

 

 

 

 かつて絶望を体現した男を伴って。

 

 

 

 白い光を放っていた彼女に似て非なる、白い闇を放ちながら。

 

 

 

「ーー待って。待って、フレイ!! フレイィィッ!!」

 

 

 

 ミリアリアの慟哭に、ラクスの姿をしたファムは歩むスピードを変えずに去っていった。

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 デュランダルの宣言にロゴスの構成員たちも揺らいでいました。

 しかし、ウォンの巧みな誘導で彼らは、悪魔の兵団に引き入れられるのです!

 一方、宇宙に上がっていたマスターは再びデビルガンダム四天王を復活させようとDを伴い、チャップマンとミケロに語りかけるではありませんかぁ!!

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第64話に!

 レディー、ゴー!!



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第64話 因縁の対決 マスターアジア 対 チャップマン

 さて、皆さん。

 デュランダルの企みによって地球に住む住民とプラントの民たちが一つにまとまろうとしていました。

 しかも、それはロゴスの手下とされるブルーコスモスの構成員や連合兵士にまで浸透しつつあったのです。

 これにウォンが一つの演説をはじめました。

 一方、宇宙ではデビルガンダム軍団を再結成しようと企むマスターアジアのもとにジェントル・チャップマンとミケロ・チャリオットが現れたのです。

 はたして、マスターアジアは何をしようというのか?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイ、ゴォオオオオオオッ!!

第64話



 

 ブルーコスモスメンバーの一人。ルクス・コーラーは、自分の置かれている現状を理解した。

 

 

 

「ジブリール!」

 

 

 

 急いで通信を繋げ、盟主である男に助けを求める。

 

 

 

 同時期に攻め込まれていたブルーノ・アズラエルの方は、コーラーよりも必死になって告げていた。

 

 

 

「助けてくれ! 暴徒が屋敷にまで…!」

 

 

 

 彼らは、夢を見ていたはずだった。

 

 

 

 自分の体が、得体の知れない何かに変わる夢を。

 

 

 

 それが夢だとわかって、ホッとした矢先にこれだった。

 

 

 

「ジブリール! 何とかしろ! うわぁ!」

 

 

 

 ジブリール邸のモニターど流されるロゴス幹部たちの阿鼻叫喚。

 

 

 

ーー地球連合・ヘブンズベース基地。

 

 

 

 この場に集合したロゴス構成員たちは、その映像を巨大モニターに流されているのを目にする。

 

 

 

「みなさん、はじめまして。私は盟主ジブリールの参謀を務めさせていただいております。ウォン・ユンファと申します」

 

 

 

 そんな彼らの前に一人の長髪にサングラスのコートを着たスーツ姿の男が演説を始めた。

 

 

 

「ご覧ください、連合兵士・ブルーコスモス構成員のみなさん。これが長年あなた方が仕えてきた主たちの姿です。

 

 なんと粗末なことでしょう。

 

 あなた方はこんなモノのために、その尊い命を犠牲にしてきたのです。

 

 腹が立ちませんか?

 

 自分たちの人生はなんだったのか? 疑問を持ちませんか。

 

 いま、これがあなた方にとっての最後のチャンスなのです。諸君らが蒙昧な忠義に囚われ、その尊い命を無能な豚どもに捧げるのであれば、私は止めません」

 

 

 

 彼の演説は自然とその場にいた人々の心に沁み渡るように、響き渡る。

 

 

 

 彼はサングラスの奥にある瞳を悲哀に満ちたものにすると悲痛な叫びを上げた。

 

 

 

「ただ私は悔しいのですよ。

 

 これほど優秀な組織、これほどまでに優れた構成員を擁していながら、たかが一般市民からなる烏合の衆に攻め込まれ、ろくに応戦もできずに無様に助けを乞うてくる。

 

 もう一度その目でごらんなさい。醜い豚どもの顔を。これが現ロゴスの頂点たちの実態です」

 

 

 

 悲し気だった表情は怒りのそれになり、ウォンは更に強く告げた。

 

 

 

「組織にとって彼らは、癌以外のなにものでもない。

 

 世界の支配者となるならば、我らの真のロゴスの王に与しなさい」

 

 

 

 そんな彼の演説に最前列にいた一人の兵士が言った。

 

 

 

「だけど! ギルバート・デュランダルは! この泥沼の戦争を終わらせようとしてくれているんだぞ! 戦争が本当に終わるなら!」

 

 

 

 彼の言葉は実質、ロゴスに対する裏切りだった。

 

 

 

 それでも、ウォンと言う男は慈悲深い笑みをもってその言葉に頷き、答える。

 

 

 

「あなたの意見はよくわかります。ですが、これをご覧ください」

 

 

 

 ここでウォンが提示したのは、全世界に向けてデュランダル議長が放送したものとは少し異なっている。

 

 流される映像は蹂躙されたベルリンの街。議長の演説のなかでは消えていたアークエンジェルとストライクガンダム。

 

 

 

 そしてカオスガンダムにマスターガンダム達。

 

 

 

 その後のデストロイガンダムからゴッドガンダムを模したデスルークへの変化。

 

 

 

 プラントからの送信ナンバーがついたデストロイガンダムの設計図。

 

 

 

 さらには地球を席巻したユニウスセブン、その墜落に関わったテロリストたちのMS--ジン・ハイマニューバⅡ型とそれを基にしてDG細胞で変化させられたゴッドガンダムを模した機体ーーデスナイト。

 

 

 

 ウォンはすべての映像の事実を一目瞭然となるように次々と流していく。

 

 

 

 それらが、合成などでできるものではないことを証明しながら。

 

 

 

「なんだよこれ……! なんなんだよぉ……っ!」

 

 

 

「わかりますよ。クモの糸をつかむような、最後の希望だったのですね?」

 

 

 

「う、ぁ、ああっ……! 家族が、居たんだ……! ベ、ルリンにっ」

 

 

 

 絶望に打ちひしがれ、その場にうずくまる男にウォンは歩み寄り、肩を静かにたたく。

 

 

 

「そうですね。あなたのような現場の構成員の方には、なにも告げられませんからね。

 

 ですが現実を見てください。これが真実なんですよ。あのきれいごとを語るデュランダルの。こんな男が本当に、約束を守りますかね?

 

 仮に争いを終わらせたとして、そこにあなたの望む未来が待っているのでしょうか?

 

 世界にはね。あの男が語るような都合のいい平和などありはしないんです。必ず搾取する者、される者に分かれてしまう。それが摂理なのです。

 

 私ならこの泥沼を終わらせられる。諸君らの望むロゴスの世界をつかんで見せます」

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

 すがるような目を向けてくる構成員。

 

 

 

 その周囲の者たちも彼の言葉に飲まれている。

 

 

 

「そう。みなさんの力を使えば、一瞬でこの状況を覆して見せましょう。

 

 そして私が晴らせてあげましょう。あなた方の無念を。

 

 涙をぬぐって前を見たら、相手を想ってくださいと、どの口が言うのか? と。

 

 この私が、奴らを処断してあげましょう」

 

 

 

「ああ、ああっ……!」

 

 

 

 ウォンのフィンガースナップが鳴り響き、モニターの画像が移り変わる。

 

 

 

 そこにいたのは、無限の大地に地平線にまで佇むデスアーミーの大群とデスルークの黒い壁だった。

 

 

 

「この戦力差を、うち破れますかね。むなしい夢物語に踊らされた、哀れな暴徒たちに。そしてコーディネーターに与した、愚かな連合兵士たちに」

 

 

 

 それは現在のロゴスにはあり得ないほどの戦力。

 

 

 

 全盛期のロゴスが保有している兵力の軽く倍は整っている。

 

 

 

 地球連合の全体の物量、ザフト全体の戦力。それらを上回るものだろう。

 

 

 

「これらはまだほんの一部の戦力に過ぎません」

 

 

 

 そんな戦力を見せながら、ウォンはサングラスを指で押し上げていとも簡単に言う。

 

 

 

 これに兵士の誰かが言った。

 

 

 

「何者なんだ……! あんたは?」

 

 

 

 これに笑みだけを浮かべて返すと、ウォンは立ち上がり全体にむけて両手を広げて叫んだ。

 

 

 

「本当の支配者がだれか、知らしめようではありませんか。思いあがった宇宙そらの子どもコーディネーターたちを地に這いつくばらせ、許しを乞わせましょう。

 

 我らに反旗を翻した愚か者たちに、現実を突きつけましょう。

 

 この世界がだれのものか、という現実をね」

 

 

 

 彼の言葉に、それまで意気消沈としていた兵士や構成員の士気が高まり、熱となり、怒号となって答えた。

 

 

 

 次々と拳を作り、天に突き出す。

 

 

 

 

 

「ハ、ハハハッ! よく言う!」

 

 

 

 この光景を見ながらジブリールは向かいのウルベに笑いかける。

 

 

 

「ベルリンを自らの手で焼き払っておきながら、よくもまあその遺族の前でぬけぬけと! ウォンの役者ぶりには驚かされるよ!」

 

 

 

 ワインを向かいの席のグラスに注ぎながら語るジブリールに一つ会釈してウルベはワインを一口飲むと言った。

 

 

 

「あれを指示したのは君だよ、ジブリール。それに、今回の演説くらいはやってもらわねば私たちが組んでいるメリットがない。

 

 ウォンは四年もの間、私たちの世界を支配した実績がある」

 

 

 

「つくづく化け物じみた奴らだよ、君たちは」

 

 

 

 やっかみ半分の笑みで言うジブリールに冷酷な笑みを返しながらウルベは言った。

 

 

 

「化け物? 違うな。我々は世界の敵だ。そうだろ?」

 

 

 

「フ、フフッフッフッフッフ! ハッハッハッハッハッハ!」

 

 

 

 二人の笑い声が闇の中に響いていく

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 現在あるプラント本国の一群から、少々離れた廃棄コロニーや戦艦、MSなどの残骸の数々ーースペースデブリの中で、二機のMFが身を潜めていた。

 

 

 

 そのうちの一機ーーマスターガンダムのコクピットで、ギルバート・デュランダルの再びの演説を聞いて、東方不敗マスターアジアは静かに目をつむり言った。

 

 

 

「これがギルバート・デュランダルか。なるほど、危険な男よ。人間を自分の意見にまとめ上げるだけのカリスマを持っておる」

 

 

 

 その言葉にデビルガンダムのコクピットにいるDは瞳を細め、マスターガンダムに顔を向けて言う。

 

 

 

「マスターガンダム。こんなデブリ帯に何の用だ?」

 

 

 

「ふん、せっかく貴様のDG細胞があるのだ。使わねば損と言うものよ」

 

 

 

「ーー何?」

 

 

 

「よいか、わしらは人類の敵だ。デュランダルが作り出した紛い物ーーロゴスとは違う。本当の意味での敵となるのだ。そして、敵足りうるには力が要る。貴様の大事な女子を救うためにもな」

 

 

 

 言いながらマスターガンダムは周囲の残骸に使えそうなものがないかを確認していく。

 

 

 

「母艦もしくは拠点がわしらにも必要となる。一番良いのは、デュランダルとやらが貴様を復活させたそのーー何とかというコロニーを持てれば早いのだがな。MSに貴様のクローン体、かつてのデビルガンダム軍に勝るとも劣らぬ部隊が出来上がるであろう」

 

 

 

 数ある艦の残骸から、一隻の戦艦を見据える。

 

 

 

 復元させるなら、もっと形の残っているものがあるというのに、マスターアジアはその戦艦に強く惹かれた。

 

 

 

 マスターアジアにはその残骸から戦士の遺志を感じたのだ。

 

 

 

 水色のザフト製の戦艦の残骸だった、名をヴォルテール。

 

 

 

 かつて、クルーゼ隊が乗っていたアデス艦長の艦である。

 

 

 

「…ほう。これは中々良いものだ」

 

 

 

 言いながら手を伸ばそうとして、マスターガンダムは動きを止めた。同時にデビルガンダムも顔を横に向ける。

 

 

 

 マスターアジアの口元がにやりと笑みを浮かべ、Dの瞳は鋭くなる。

 

 

 

「丁度良い、四天王も一気に復活できそうだな!」

 

 

 

「…そう上手く行くか?」

 

 

 

「行かぬなら、力づくで従わせるまでよ!!」

 

 

 

 言うや否や、気配を感じた方に一気に飛び立つマスターガンダム。

 

 

 

 これを見送ると、静かにDは倒されたボルテールを見据える。

 

 

 

「……」

 

 

 

 そのままに、Dもデビルガンダムの羽を広げ、気配のあった方向に向かって飛び立った。

 

 

 

 

 

 思った通りの二機のガンダムが宇宙空間に浮かんでいた。

 

 

 

 ジェントル・チャップマンのジョンブルガンダムとミケロ・チャリオットのネロスガンダムである。

 

 

 

「…来たか、マスターアジア」

 

 

 

「待たせたようだな、チャップマン」

 

 

 

「構わん。今この場で、どちらが史上最強のファイターかを決められるのであれば」

 

 

 

 言いながら、チャップマンはジョンブルガンダムの全身から青白い闘気を吹き立たせる。

 

 

 

 これにマスターアジアも東方不敗の構えを取り、紫色の気をガンダムの全身にまとわせる。

 

 

 

「ほかに何がいるというのか……!? そうだろう、マスターアジア!!」

 

 

 

 獅子王の咆哮に応えるのは、不敗の猛虎の雄叫びだった。

 

 

 

「…ふん。ならば、受けてみせい!! ガンダムファイトォ!!」

 

 

 

「レディイイイ!!」

 

 

 

「「ゴォオオオオオオッ!!」」

 

 

 

 ぶつかり合う獣王と鬼神。

 

 

 

 マスターガンダムの神速の踏み込みからの右正拳。

 

 

 

 これを片手でつかみ取るジョンブルガンダムの神域の見切り。

 

 

 

 鬼をも屠る一撃を軽々と放つ鬼神が如き男と、それを完璧に捌いて返す精密機械のような男。

 

 

 

 炎と氷。

 

 

 

 両者は相いれない存在でありながら、惹かれあう。

 

 

 

 力と技のぶつかり合い。

 

 

 

 何気なく繰り出され、交換する拳や蹴りの数々は必殺の威力。

 

 

 

「ぬぁあああああっ」

 

 

 

 裂帛の気合とともに放たれたマスターガンダムの右の拳を右拳の甲で受け流しながら、マスターガンダムの右側面に入ると同時に左の正拳を右面に放つジョンブルガンダム。

 

 

 

 流れるように自然なその一撃をマスターガンダムが顔の横に構えた左掌で受け止める。

 

 

 

 転瞬、高速でその場から動きながら拳と蹴りを交換しあう両者。

 

 

 

 一秒間に数十発は放たれる打撃の交換。

 

 

 

 目まぐるしく入れ替わる両者の位置。

 

 

 

 拳と拳をぶつけ合い、離れ合う両者。

 

 

 

「…相も変わらず。正確な攻撃と見切り、恐るべき男よ」

 

 

 

「貴様こそ。あの時の大会以上の気だ。いいぞ、これでこそ『最強』を決める戦いに相応しい!!」

 

 

 

「現状において、最強の称号は我が愛弟子が持って居る。奴に挑戦するのがどちらか、決めておくとしよう!!」

 

 

 

「面白い、確かに今のドモン・カッシュは貴様よりも強い!!」

 

 

 

 笑いながら応えるチャップマンに東方不敗も笑う。

 

 

 

「その様子ならば、貴様ドモンと立ち会ったな?」

 

 

 

「ああ。余計な邪魔が入ったが、あのまま戦えばどうなっていたかな。確かに素晴らしい戦士になっていたぞ」

 

 

 

「その話、貴様を倒してからじっくりと聞かせてもらおう!!」

 

 

 

 言うやいなや、一気に気を高めて殴りつける。

 

 

 

「ダァアアアクネスフィィンガァアアアア!!」

 

 

 

 いな、右正拳に見せかけたそのフォームから必殺のフィンガーを放つマスターガンダム。

 

 

 

 しかし、ジョンブルガンダムは受け流すのではなく、右手首の部分を掴んで受け止めると、自身の右側に投げるようにして流し、強烈な左のボディを入れ、マスターを弾き返す。

 

 

 

「ふん」

 

 

 

 背中に背負ったライフルを抜き放つと、右手一本で構えて放つ。

 

 

 

 同時、弾かれたマスターも右手からダークネスショットを放った。

 

 

 

 中央でぶつかり合う両者の光弾だが、マスターガンダムの一撃は容赦なくジョンブルガンダムのライフルを飲み込み、貫いていく。

 

 

 

 咄嗟に左に見切るジョンブルガンダムだが、その先にマスターガンダムが回り込んできた。

 

 

 

「逃さん!!」

 

 

 

 強烈な右のハイキックを放たれ、ガード越しに吹き飛ばされるジョンブルガンダム。

 

 

 

 マスターガンダムが続けざまに左のダークネスフィンガーを放ってきた。

 

 

 

 当たれば、ガードに使った両腕と首をそのまま持っていかれる。

 

 

 

 咄嗟にジョンブルガンダムのバーニアを使って後方にバックステップし、鼻先で避ける。

 

 

 

「ーーフン!」

 

 

 

 射程距離外に逃げたジョンブルガンダムにマスターの右手が肘の関節部から外れて伸びた。

 

 

 

「ディスタントクラッシャー!!」

 

 

 

 伸びた右腕はジョンブルガンダムの左腕を掴むと、引き寄せるように本体の肘部にくっつき、強烈な左の拳をジョンブルガンダムの右頬に叩きつけた。

 

 

 

「ぐぅ!!」

 

 

 

 うめき声をあげながら後方に弾き飛ばされるチャップマン。

 

 

 

 それを羽を広げて加速しながら追いかけるマスターガンダム。

 

 

 

 

 

 

 

「チャップマン!!」

 

 

 

 思わずと言う風に観戦していたミケロのネロスガンダムが一歩前に出ようとする。

 

 

 

「余計な真似はするな、ミケロ・チャリオット」

 

 

 

「……デビルガンダム!!」

 

 

 

 自分の背後に回っていた、ゴッドガンダムと同じ顔とボディ、マスターガンダムの腕と羽を模したガンダムを睨みつける。

 

 

 

「貴様もファイターならば、あの二人の戦いにケチをつけるな」

 

 

 

「……! 機械のてめえが、人間のファイターたる俺に命令をするってのか?」

 

 

 

「……聞き入れず我に逆らうというのであれば、もう一度叩きのめすまでだが?」

 

 

 

 ミケロとて、現状でデビルガンダムに勝てる手段がないことは理解していたため、大人しくその場にとどまる。

 

 

 

 それを横目で見てDは両腕を組んだまま、二人のファイトを見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 追撃を仕掛けてくるマスターガンダムに対し、ジョンブルガンダムは態勢を整えると同時に迎え撃った。

 

 

 

 繰り出される拳と拳、蹴りと蹴り。

 

 

 

 高速打撃の打ち合いに、連続で衝撃波が巻き起こる。

 

 

 

 強烈なハイキックを互いに放ちあい、互いの蹴りがぶつかり合う。

 

 

 

 咄嗟に両者はバックステップすると、ジョンブルガンダムが再び背中のライフルに手をかけて片手で構える。

 

 

 

「ーーなに?」

 

 

 

 対するマスターガンダムの態勢にチャップマンは驚愕に目を見開いた。

 

 

 

 その構えは、右腰に両手をたわめておいていたのだ。

 

 

 

 両の手の中には、紫暗の炎の球が生じている。

 

 

 

「石破天驚拳!!」

 

 

 

 紫暗の炎の弾がMF一機を軽く飲み込むほどの大きさで放たれる。

 

 

 

 ほとんど気を溜めずに放たれたその一撃は、戦艦の主砲クラスの威力を誇る。

 

 

 

「チっ!」

 

 

 

 舌打ちと同時に宇宙空間でありながらも右側に前方転身し、避けるジョンブルガンダム。

 

 

 

 そこへ、先回りしたマスターガンダムの強烈な右の横蹴りが放たれていた。

 

 

 

 両手で受け止め、しっかりと蹴り脚を掴むとマスターガンダムの胸元を掴みあげ自分の後方へ背負い投げする。

 

 

 

 空中で体を翻し、態勢を立て直してくるマスターガンダムの喉元を狙ってジョンブルガンダムは右の前蹴りを放った。

 

 

 

「グランドォオオ、ホォオオオン!!」

 

 

 

 青白い雷を纏った右のつま先は、角を思わせる程に鋭利な一撃となって放たれる。

 

 

 

 咄嗟に両腕でガードしようとするマスターだが、その威力に気付きバーニアを使って後方へダッシュ。

 

 

 

 紙一重で避ける。

 

 

 

「避けたか、流石だな」

 

 

 

 称賛するチャップマンに応えず、マスターは構えを取りながら言う。

 

 

 

「今の技ーーグランドガンダムの?」

 

 

 

 これにチャップマンは頷いて答える。

 

 

 

「そうだ」

 

 

 

 チャップマンは自分のボディであるジョンブルガンダムを見下ろして言う。

 

 

 

 同時に背中のロングライフルを抜いて手元に置く。

 

 

 

「俺に最も適したガンダムはこのジョンブルガンダムだ。だが、グランドガンダムのパワーも捨てがたかった」

 

 

 

 すると、ロングライフルが右手と左手に別れて二丁に増えると同時に砲門が二門へと変わった。

 

 

 

 グランドキャノンと呼ばれた砲身へと。

 

 

 

 これを改めて背中に交差させて収める。

 

 

 

「だから、俺に適した姿になってもらったのだ」

 

 

 

「なるほどな。グランドガンダムのDG細胞によりジョンブルガンダムへの擬態を行う、だけではなく貴様と人機一体となっていたオリジナルのジョンブルガンダムをグランドガンダムに取り込ませたか」

 

 

 

 得心したマスターに頷きながら、チャップマンは語る。

 

 

 

「そして、グランドガンダムとジョンブルガンダムの二つの特性を持った新しい機体へと変化させる。ウルベやウォンと手を組んだのも、この機体を完成させるためだ」

 

 

 

 グランドガンダムの火力とパワーを持ったジョンブルガンダムへと変化したと言うわけである。

 

 

 

「だが、グランドホーンに関してはミケロのおかげだな」

 

 

 

「なるほど。銀色の脚を学んであのガンダムローズをも行動不能にした角の一撃を再現させたのか」

 

 

 

 機体同士の融合、技の開発。

 

 

 

 チャップマンは、強さへの余念がなかった。

 

 

 

「となれば、ミケロのネロスガンダムもーー」

 

 

 

「当たり前だ、もっとも奴の場合はまだ機体を使いこなせていないようだがな」

 

 

 

 この答えにマスターアジアはにやりと笑った。

 

 

 

「フフフ、楽しみが増えたわ。チャップマンよ、貴様がわしに負けた場合、無条件で我らデビルガンダム軍に貴様とミケロは入ってもらうぞ!!」

 

 

 

「ーー何?」

 

 

 

「これは、既に決定事項だ!!」

 

 

 

「相変わらず、勝手な男だ」

 

 

 

 今聞かされた理不尽ともいえる言動に、チャップマンは一言だけ告げると異論を唱えるでもなく構えを取る。

 

 

 

「マスターアジアよ、俺と俺のガンダムが得た新しい能力を見せてやろう」

 

 

 

「よかろう、来るがいい! 我が流派! 東方不敗に負けはない!!」

 

 

 

 互いに睨み合う。

 

 

 

 一瞬後、チャップマンはその場から左の拳でジャブを放った。

 

 

 

(そんな間合いで振って何になる?)

 

 

 

 マスターガンダムとジョンブルガンダムの間合いは、蹴りすらも届かない間合い。

 

 

 

 気弾や銃弾でなければ、その場から届くような技はない。

 

 

 

 それ以外であるとすれば、先のマスターガンダムのように腕を伸ばす技だがーー

 

 

 

「! しまった!!」

 

 

 

 咄嗟に気付き、首を横にひねる。

 

 

 

 同時にジョンブルガンダムの拳がマスターガンダムの右の空間を刈り取って行った。

 

 

 

 手首からワイヤーのようなものが伸び、ジョンブルガンダムのリーチが一気に伸びたのだ。

 

 

 

「グランドボンバー、という。しかし、よく避けたな」

 

 

 

「たわけが、そのような小賢しい技でわしを止められるものか!!」

 

 

 

「ならば、試してやろう」

 

 

 

 淡々とした口調で放たれる強烈な左の拳。

 

 

 

 マスターガンダムは余裕を持ってそれを右に首を倒すだけで見切り、踏み込もうとして気付いた。

 

 

 

 既にジョンブルガンダムの左拳は次のジャブを放つ姿勢になっている。

 

 

 

「チャップマン、貴様!!」

 

 

 

「イギリスにもボクシングはあるぞ? マスターアジア」

 

 

 

 世間話をするような気安さで次々と放たれる鋭く硬い拳。

 

 

 

 上体を反らし、拳で付け根をはじきながら踏み込んで右手のフィンガーを放とうと気を溜めるも。

 

 

 

「ぬぅっ!!」

 

 

 

 掌が紫暗に輝き始めたと同時に、手首を叩かれて上に跳ね上げられた。

 

 

 

 顔をさらけ出したマスターにジョンブルの左拳が次々と狙い放たれる。

 

 

 

「おのれぃ!!」

 

 

 

 咄嗟にガードを固めるしかマスターガンダムにできることはなかった。

 

 

 

 踏み込んだ分、元の位置にはじき返される。

 

 

 

 肩口からまっすぐに放たれるその一撃は、避けづらく、早く、そして速射性も高い。

 

 

 

「……やりおるわ」

 

 

 

 マスターをして、そう言わしめる。それほどのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 観戦していたDが思わず感嘆の声を上げる。

 

 

 

「なんという強力にして正確な拳打だ」

 

 

 

 チャップマンの冷静な瞳を睨みつけながら、Dは言った。

 

 

 

「マスターアジアがダークネスフィンガーを放とうと気を集中した一瞬を狙って手首を跳ね上げた。いや、それを考えることは誰にでもできるだろうが、あの破壊力を前に躊躇なく実行できるとは」

 

 

 

「けっ、なめんじゃねえよ! デビルガンダムよぉ」

 

 

 

 驚嘆するDに対して、ミケロは不機嫌そうに言い放った。

 

 

 

「なに?」

 

 

 

「チャップマンは三度に渡ってガンダム・ザ・ガンダムの称号を勝ち取った王者だぜ? あれくらい屁でもねえ」

 

 

 

 言いながらミケロは自身を振り返って思う。

 

 

 

(ーークソッ、なんて強さだ。どっちも!!)

 

 

 

 

 

 マスターガンダムは静かに構えを取ると言った。

 

 

 

「大したものよ。ディスタントクラッシャーで迎え撃とうにもそう連射できるのであれば、こちらが不利。ならばーー」

 

 

 

 その場でフットワークを刻み始める。

 

 

 

 ゆらりとした残像をも生み出すその動きは、流派東方不敗の技の一つ。

 

 

 

「この動きをとらえることができるかな?」

 

 

 

「演舞かーー。面白い」

 

 

 

「ゆくぞ、酔舞! 再現江湖・デッドリーウェェエエエエイブ!!」

 

 

 

 ゆらりとした動きから物理法則を無視した速度で一気に残像を散らしながら、踏み込むマスターガンダム。

 

 

 

「ならば、全て撃ち落とす!!」

 

 

 

 チャップマンはそう言うと、次々と左のジャブであるグランドボンバーを放ち続ける。

 

 

 

 避けるも避けたり、撃つも撃ったり。

 

 

 

 超スピードでの動きで両者は交差し合う。

 

 

 

「ぬん!!」

 

 

 

 無数に放たれたジョンブルのジャブが本体の顔を捉えようとした時、マスターガンダムは気合を入れて右拳で左の拳を下に払いのけた。

 

 

 

 同時に懐に飛び込んで見せる。

 

 

 

「隙ありぃ!!」

 

 

 

 左の拳でボディブローを放つマスター。

 

 

 

 しかし、その一撃はジョンブルガンダムの青白い雷を纏った右掌に掴みとめられていた。

 

 

 

「ーーなにぃ!!?」

 

 

 

「グランドサンダー」

 

 

 

「チィイイイッ」

 

 

 

 咄嗟に掌を払いのけて下がるマスターガンダム。

 

 

 

 一瞬後、強烈な光を放つ紫電の球がジョンブルガンダムの右掌に生じていた。

 

 

 

 そのままつかみ取られていれば、間違いなく全身を電流が走り、動きを奪われてしまっていただろう。  

 

 

 

「安心するのは早いぞ。その間合いはーー」

 

 

 

「なんと!?」

 

 

 

 ジョンブルガンダムの右足に紫電の雷が纏い、斜め上に蹴り上げられる。

 

 

 

「グランドホーン」

 

 

 

 態勢の崩れたマスターガンダムに避けるすべはない。

 

 

 

 だが、この男はマスターアジアである。

 

 

 

 いつまでも後退などする男ではない。

 

 

 

「ならば、ダァアアアクネスフィィンガァアアアア!!」

 

 

 

 右手に紫暗の炎を纏わせ、マスターガンダムのフィンガーとジョンブルガンダムのホーンがぶつかり合う。

 

 

 

 相殺ーー。

 

 

 

 強烈な光の衝撃波が両者の技によって生まれ、二機の間合いを離れさせる。

 

 

 

「グランドキャノン」

 

 

 

 間髪入れず、ジョンブルガンダムは背中に差していたロングライフルを一丁引き抜くと、マスターガンダムに放った。

 

 

 

「どぅわ!!」

 

 

 

 悲鳴を上げながら、強大な砲撃の威力に弾き飛ばされるマスターガンダム。

 

 

 

 それを淡々と見据えながら、もう一丁のライフルを抜くと、左右に構えて、次々と放つ。

 

 

 

 砲弾は宇宙空間で次々と爆発し、マスターガンダムを追い詰めていく。

 

 

 

 左右にステップしながら避けるマスターガンダムであったが、チャップマンの正確な射撃はついにマスターガンダムの顔を捉えた。

 

 

 

 強大な爆発が再び起こる。

 

 

 

 が、それを一瞬でかき消し、マスターガンダムが両の拳を腰において構えをとって現れた。

 

 

 

 瞬間、黄金の気柱が生じる。

 

  

 

「!! 明鏡止水の境地ーーハイパーモードか」

 

 

 

 黄金の機体へと変化したマスターガンダムにジョンブルガンダムが両手に持った左右のロングライフルを構える。

 

 

 

「続きをはじめるか、マスターガンダムよ」

 

 

 

「来るがいい、ジョンブルガンダム!!」

 

 

 

 左右のライフルが火を噴く、と同時にマスターガンダムがその場から消えた。

 

 

 

 現れたのはジョンブルガンダムの目の前。

 

 

 

 紫の光を放つ右手を振りかぶっている。

 

 

 

 同時にジョンブルガンダムも右手に溜めた雷の球を突き出す。

 

 

 

 両者の紫暗の炎と紫電の球がぶつかり合った。

 

 

 

 強大な爆発と共にまたしても相殺する一撃。

 

 

 

 瞬間、マスターガンダムの猛攻が始まった。

 

 

 

「! なに?」

 

 

 

 嵐のような連撃が始まったのだ。

 

 

 

 ジェントル・チャップマンとジョンブルガンダムをして受けに回らざるを得ない程の。

 

 

 

 見ればマスターガンダムはそのエネルギーの全てをラッシュに繰り出していた。

 

 

 

(速く、鋭い! これがハイパーモードのマスターガンダムか!!)

 

 

 

 ピンボールのように左右に弾かれるジョンブルガンダム。

 

 

 

 まともに受ければ、ガードした腕を砕くほどの威力の連撃を、ジョンブルガンダムは冷静に捌いている。

 

 

 

 そう。

 

 

 

 捌いて、この威力であった。

 

 

 

(ガンダムがファイターの力を引き出し。ファイターがガンダムの力を引き出している。事実上、今のマスターガンダムを倒すのは不可能、か)

 

 

 

 

 

 

 

 Dをしていよいよこれが終盤だと気付く。

 

 

 

 マスターアジアは自分と丸一日全力で戦い、究極の石破天驚拳を放って気力がほとんど残っていない状態だった。

 

 

 

 それからマスターは気の回復に一日を使い、万全の状態にまで戻している。

 

 

 

 恐るべき回復力と言えた。

 

 

 

 それでも、このラッシュは長時間保つものではない。

 

 

 

 一瞬でも手が遅れれば、手痛いカウンターを食らうのは必定。

 

 

 

 仮にラッシュが続いたとしても、終わりまでチャップマンが受け切れば、一気にマスターは不利になる。

 

 

 

「獅子王争覇、か。確かにあの男にふさわしい」

 

 

 

 Dは静かにこの勝負の行方を見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 苛烈な攻めにさらされながらも、思考に埋没するチャップマン。

 

 

 

 体は自然と動く。

 

 

 

 鋭い攻撃を捌きながら、左のジャブーーグランドボンバーで牽制しながら、右手の電球ーーグランドサンダーで衝撃を和らげて受け流しながら。

 

 

 

(だが、このラッシュには終わりが来る。それを待って、グランドホーンを打てばよい)

 

 

 

 残像と戦っているかのような錯覚に陥りながらも、チャップマンは攻撃を捌いている。

 

 

 

 見えない攻撃だと言うのであれば、見なければよい。

 

 

 

 体が自然と反応するままに、チャップマンはハイパーモードのマスターを捌いている。

 

 

 

 一方でマスターアジアも同じだった。

 

 

 

 既にマスターアジアは無意識の境地にいる。

 

 

 

 ただ体が反応するままに、闘争本能の塊となって攻撃を放ち続けていた。

 

 

 

 だが、彼自身も分かっている。

 

 

 

 この動きは自分にとって最上の動きだ。

 

 

 

 この動きをずっと続けることはできない。

 

 

 

 既にマスターは自分の動きに違和感を感じ始めていた。

 

 

 

 拳が徐々に重くなっている。

 

 

 

 繰り出す蹴りに切れがなくなってきている。

 

 

 

(このままでは、いずれハイパーモードが切れる、か。ならばーー!)

 

 

 

 マスターアジアは、その時を待つ。

 

 

 

 己の気力が尽き果て、動きが鈍る時ーー、その時こそが勝負の境目だと理解した。

 

 

 

 唐突に、それは来た。

 

 

 

 自分の全身から気が抜け、体が一気に重くなる。

 

 

 

 マスターガンダムが黄金から元の黒を基調としたボディに戻ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 思わず、拳を握ってミケロが言う。

 

 

 

「こらえきりやがった、チャップマンのやろう!!」

 

 

 

 ラッシュの最後の右ストレートを捌かれると同時に、マスターガンダムの全身を覆っていた黄金の気が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時にチャップマンの右手がマスターガンダムの手首をつかむ。

 

 

 

「グランドサンダー」

 

 

 

「ぐぅおおおお!!」

 

 

 

 電撃が全身を襲い、マスターの体を麻痺させる。

 

 

 

 身動きの取れないマスターガンダムに、強烈な角の一撃が迫る。

 

 

 

「終わりだ、マスターアジア。グランドホーン」

 

 

 

 右足のつま先で喉元を狙って放たれる強烈な前蹴り。

 

 

 

 

 

 

 

 Dが目を見開く。

 

 

 

「見事だ、チャップマン」

 

 

 

「チャップマン!!」

 

 

 

 ミケロが勝利を確信して、ジェントル・チャップマンの名を称賛の意を込めて呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その一撃は空を切った。

 

 

 

 動くはずのないマスターガンダムが、よろよろとした動きでありながらも自分の左脇に避けたのだ。

 

 

 

「…あ、甘いわ! 戦いはまだ、終わっておらんぞ!!」

 

 

 

 息も絶え絶えとしながら、告げる男の気力ーー。

 

 

 

 マスターの人外ともいえる気合いが、不可能を可能とした。

 

 

 

 そんな宿敵の動きにチャップマンは喜びと共に言った。

 

 

 

「見事だ、マスターアジア。だが、角は一つではない」

 

 

 

 蹴り抜いた右足を軸足に戻すと、今度は左の脚が雷撃を放ち始める。

 

 

 

「まだ、左が残っているーー!」

 

 

 

「この、たわけがぁああああああ!!」

 

 

 

 瞬間、再びマスターガンダムが気柱を上げ、全身に黄金の気が宿る。

 

 

 

 明鏡止水・ハイパーモード。

 

 

 

「ここに来て、限界を超えてきたか! マスタァア! アジアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

 獅子の叫びを上げながら左のグランドホーンを放つ、チャップマン。

 

 

 

 対するマスターも猛虎の雄叫びを上げて黄金の鬼神の機体を動かす。

 

 

 

「チャァアアアアアアアアアアップマン!!」

 

 

 

 青白い電撃を纏った一撃。

 

 

 

 その軌道と形は正に角だった。

 

 

 

 それは宇宙空間に確かに現れた。

 

 

 

 鬼神の喉元を最後まで捉えること敵わずにーー。

 

 

 

 マスターガンダムの絶妙な上体逸らしーースウェーバックに、ジョンブルガンダムのつま先は空を切った。

 

 

 

「これで、とどめよ!! ダァアアアクネスフィィンガァアアアア!!」

 

 

 

 目を見開きながら、蹴りを放った姿勢のままにチャップマンは迫りくる右の掌を見た。

 

 

 

 それはジョンブルガンダムの頭部をしっかりとつかむ。

 

 

 

「爆ぁあああああく発ぁつっ!!」

 

 

 

 ジョンブルガンダムの頭部は完全に消し飛んだ。

 

 

 

 同時にマスターガンダムの全身に満ちていた黄金の気も消え、糸の切れた人形のように宇宙空間に浮かぶ。

 

 

 

「ーーわしの勝ちのようだな。ジェントル・チャップマン」

 

 

 

 息も絶え絶えにしながらも、辛うじてそれだけを言うマスターアジアに。

 

 

 

 頭部を破壊され、機体が完全に動かなくなったチャップマンは言った。

 

 

 

「ああ。文句の付けどころがない。俺の完敗だ」

 

 

 

 思えばそれは、この世界ーーコズミック・イラに来て初めてのことではないだろうか。

 

 

 

 チャップマンは穏やかな表情で笑いながら自分に勝った男を讃えた。

 

 

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね~!!

 ジブラルタルに集められていくロゴスとブルーコスモスのメンバー。

 これに対抗するためにデュランダルもまた、ザフトと反ロゴスの連合兵士をまとめようとミーアを連れて地球に降り立ちます。

 ジブラルタル基地に到着したアスランはその報告とイザークからの進言により、ザフトを抜ける決意をするのです。

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第65話に!

 レディー、ゴー!!


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第65話 ジブラルタル基地での表彰

 皆さん、前回のお話でマスターアジアはチャップマンを下し、デビルガンダム四天王を着々と復活させていきます。

 一方で、ロゴスとの最終決戦を前にシンとアスランはデュランダル議長に呼び出されるのです。

果たして、どうなるのか!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィィィッ、ゴォォォオオオ!!

第65話




 乾いた音が鳴り響いた。

 

 

 

「き、貴様ーー! デビルガンダム様を裏切るつもりか!?」

 

 

 

 腹部に強烈な痛みと熱さを感じて、一気に力が抜ける。

 

 

 

 周囲を見れば、自分の部下達が同じように銃弾を受けて倒されていた。

 

 

 

 目の前にいるのは、金色の髪にサングラスをかけた美女だった。

 

 

 

 誰もいないモール街で、ガンダムファイターから見逃された彼が見たのは、ミーアと呼ばれている少女が攫われた事実と、それを問い詰めた際に返答の代わりとばかりに放たれた銃弾だった。

 

 

 

 その銃弾には、DG細胞を破壊する毒が編まれている。

 

 

 

 サトーはこれが何を意味するかを悟り、血が吹き出るのも構わずに言う。

 

 

 

「大恩あるデビルガンダム様を裏切ってまで、デスティニープランとやらを実行すると言うのか、貴様らは!?」

 

 

 

「大恩? ふざけたことを言わないで。貴方のような生きる意味を無くしたテロリストぶぜいが、議長と自身を比べようなどと。身の程を知りなさい」

 

 

 

 続けざまに放たれる銃弾。

 

 

 

 サトーの体に次々と穴を開けていく。

 

 

 

「議長はあくまで、あの化け物の力を手に入れたかっただけ。貴方のように忠誠などハナからしていないわ。議長こそが、唯一絶対の正義なのだから! あのミーアって小娘には、まだ利用価値がある。あの化け物への盾にもなるし、ラクス・クラインをおびき出す餌にもなる」

 

 

 

「き、さま、、この、外道め!!」

 

 

 

 最後に撃たれたのは、心臓だった。

 

 

 

「プラントを地球に落とそうとした貴方が言うことじゃないわ。何万人もの犠牲者を出そうとしたんだもの。それに比べたら、可愛いものよ」

 

 

 

 侮蔑の笑みと共に、女は去っていった。

 

 

 

 後を追おうとして、足がもつれる。

 

 

 

 うずくまり、倒れる。

 

 

 

 うつ伏せだったのを仰向けにしたところで、動けなくなった。

 

 

 

「…申し訳ございません。デビルガンダム様」

 

 

 

 救われた命だった。

 

 

 

 捨てるはずの命を、拾われたのだ。

 

 

 

 その恩をサトーは返せない自分に苛立った。

 

 

 

「何をしている、サトー?」

 

 

 

 聞くはずのない声だった。

 

 

 

 霞んだ瞳にぼんやりと映る炎のような赤い髪。

 

 

 

「デビルガンダム、さま、、」

 

 

 

 彼は静かに自分を抱き起こし、掌から青紫の気を出して銃痕に当ててきた。

 

 

 

 本来ならば、それでDG細胞は活性化し、傷は塞がるはずだった。

 

 

 

「…なんだと?」

 

 

 

 普段は表情を変化させないDの目が見開く。

 

 

 

 この弾痕は、DG細胞の自己再生能力を殺している。

 

 

 

 その事実に。

 

 

 

「…デュランダル」

 

 

 

 静かに言いながら、Dはガンダムを呼ぼうとした。

 

 

 

 デビルガンダム本体ならば、コードを体に突き刺して壊れた細胞を作り替えることができるからだ。

 

 

 

 だが、その手を他ならぬサトーが握りしめ、止めた。

 

 

 

「デビルガンダム様、私はもう持ちません。ナチュラルへの憎しみに囚われ、貴方に救われながらも何の恩も返せなかった私を、どうかお恨みください」

 

 

 

「…サトー。何を言っている?」

 

 

 

「悪魔を名乗るには、貴方は優しすぎる。貴方は、純粋すぎる。ですが、そんな貴方だから、私は。私達は」

 

 

 

 既に意識はあるのか、無いのか自分でも分からない。

 

 

 

 ただ、これだけは伝えたかった。

 

 

 

 役立たずの口を開け、舌を動かし、サトーは言う。

 

 

 

「デビルガンダム様、ミーア殿がデュランダルに攫われました。お守りできず、申し訳ございません」

 

 

 

「貴様が、役立たずだと言うのはわかった。わかったから、その煩い口を閉じろ。傷を治してから言え」

 

 

 

「デビルガンダム様、、、私は大切な家族を殺されました。その恨みを忘れたことはありません。ですが、貴方の配下になった時に、知りました。貴方の世界で貴方がどうやって敗北したのかを」

 

 

 

 それは、それこそが、テロリストの部隊だったサトー達に再び生きる目的を与えたものだった。

 

 

 

「私も見たかった!! あの美しい輝きを!! 人種も国籍もなく、互いに互いを助け合う、あのような姿を!!!」

 

 

 

 胸に溢れた思いの丈を振り絞った。

 

 

 

「分かっている!! 見せてやる、貴様達にも!! だから、死ぬな!! サトー! 命令だ、死ぬな!!!」

 

 

 

 頬に温かい液体が当たった。

 

 

 

 ああ、自分は目が本当にいかれてしまったようだ。

 

 

 

 こんなに都合よく、我が主が涙を流しながら、必死になって自分の名を呼んでくれているのだから。

 

 

 

 鈍い音が聞こえた。

 

 

 

 固い拳が自分の直ぐ左の地面を殴り、えぐったのだ。

 

 

 

「我の命令が聞けんのか、サトー!!!」

 

 

 

 都合の良い夢を見たサトーは、最後に本当に幸せだと笑顔を浮かべて、主に言った。

 

 

 

「申し訳ございません。ありがとうございました、D様。私は幸せでした」

 

 

 

 それが、彼の最後の言葉だった。

 

 

 

 もう動かない。

 

 

 

 DG細胞で細胞を活性化し、体を動かすことはできても、サトーは帰ってこない。

 

 

 

 Dは静かにサトーの体を横にさせると胸の前で手を組ませた。

 

 

 

 かつて、自分の生みの親であるカッシュ博士が冷凍刑に処された時に、その格好を知っていた。

 

 

 

 爆発がモール街の離れで起こった。

 

 

 

 DG細胞の気配を感じ、Dはそちらに向かって歩いていく。

 

 

 

 まるで、サトーの遺体に後ろ髪を引かれているように、ゆっくりと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「デビルガンダムよ、どうした?」

 

 

 

 目を開ければ、宇宙空間を背景に憲法着を着た長い白髪を三つ編みにした壮年の男が、モニター越しにこちらを伺い見ている。

 

 

 

 先ほどまで、激戦を繰り広げていた東方不敗マスターアジアと愛機マスターガンダムであった。

 

 

 

 彼の隣には、先の激戦を繰り広げた相手、短髪の青みがかった髪をオールバックにした凄みと気品を感じさせる男。

 

 ジェントル・チャップマンがジョンブルガンダムの頭部を再生させている。

 

 

 

「夢を見ていたようだ」

 

 

 

 デビルガンダムことDの言葉に、この場にいたもう一人の男が嘲笑った。

 

 

 

「おいおい、機械の身分で夢を見るとはな! 鉄クズから進化したじゃねえか、デビルガンダム!!」

 

 

 

 いいご身分だと、全身で表現する男の名は、ミケロ。

 

 トサカの様に坂だった赤い髪と鋭い瞳。そして、尖ったアゴや頬の輪郭は、猛禽類を思わせる。

 

 彼の愛機、ネロスガンダムもまた、赤銅色のトサカを付けたような、無骨な古代戦士の姿を模していた。

 

 

 

「…マスターよ、拠点を作ると言ったな?」

 

 

 

 挑発をするミケロを完全に無視して、Dはマスターガンダムを見下ろす。

 

 

 

「そうだ。我らもまた、拠点や兵の数がなければ組織とは事を構えられぬ。力で収めることもできようが、それでは大切なものまで壊してしまう可能性がある」

 

 

 

「…我は、死人は操らぬ」

 

 

 

 はっきりとDは言った。

 

 

 

「我は、生者を操らぬ。我は二度と、この細胞で何かを支配せぬ。それでも我と共に貴様は歩むと言うか?」

 

 

 

「はあ!? おいおいおい! 何のためのDG細胞だよ!?まさか、ドモン・カッシュの影響で偽善者にでも目覚めたのかよ?」

 

 

 

 問いかけるDの言葉にミケロが天を仰ぎながら言う。

 

 

 

「アホくせえ。何だって、そんな便利なもんをわざわざ、使わねえようにしやがる」

 

 

 

「文句があるなら失せろ。マスターアジアやチャップマンならともかく。貴様のような半端者と組むくらいなら我は独りで良い」

 

 

 

「ーーあんだと、こら? 口の利き方に気をつけろよ? 女も守れねえ、出来損ないの機械人形がよぉ!!」

 

 

 

「…よほど死にたいらしいな、ミケロ」

 

 

 

 殺気を前面に出して睨み合う両者。

 

 

 

 見上げネロスガンダムと見下ろすデビルガンダム。

 

 

 

 今にも爆発しそうな両者だったが、そこへーー

 

 

 

「やめんか、馬鹿者ども!」

 

 

 

「退がれ、ミケロ」

 

 

 

 二人の戦士から、待ったがかけられた。

 

 

 

「デビルガンダム、いやDよ。貴様の考えはようく分かった。安心するがいい、ワシもその様な外道な真似をする気は最早、全くない」

 

 

 

 満面の笑みで、温かささえ感じさせる声でマスターアジアは、Dとチャップマンに言った。

 

 

 

「その様な事をせんでも、ワシらは人類の脅威足りえよう」

 

 

 

 これにチャップマンがニヤリと凄みのある笑みを浮かべてかえした。

 

 

 

 そんなマスターアジアにミケロは不満気に名を呼んだ。

 

 

 

「おい、マスター!!」

 

 

 

「黙っていろ、ミケロ。安易な道よりも困難な道の方が達成する気にもなると言うものだ」

 

 

 

「ま、マジで付き合うのかよ? チャップマン!?」

 

 

 

「嫌ならば、この場でマスターアジアとデビルガンダムを相手にするのだな」

 

 

 

「ーーぐっ」

 

 

 

 チャップマンからの物言いに、ミケロは歯を食いしばりながらDを睨みつけた。

 

 

 

「甘っちろい悪魔の配下なんざ気に入らねえ。気に入らねえが、強くなるためなら、何だってしてやらあ」

 

 

 

「ーーふん」

 

 

 

 Dと互いに睨み合うと、ミケロはデビルガンダム軍に入る事を頷いた。

 

 

 

「話は決まったな。ではDよ。すまぬが、先ほどの艦を復活させてくれ。動かすのは、ミケロに任せるとしよう」

 

 

 

「はあ!? 何だって、俺が!?」

 

 

 

「つべこべ言うでない、この未熟者!! ワシやチャップマンには、しばらく休息が必要だ。それにDには他にやってもらわねばならんことがある」

 

 

 

 マスターに一喝され、更にチャップマンが追い打ちをかける。

 

 

 

「強くなるためなら、何でもするのではないのか? その程度の覚悟とはな」

 

 

 

 その言葉に、ミケロの眉間に皺が寄った。

 

 

 

 猛禽類を思わせる血のような紅い眼で3人を睨み付けると、彼は声高々に宣言する。

 

 

 

「ーー上等じゃねえか。今は、てめえらの召使いにでも何にでもなってやらあ。だがいずれ必ず、てめえらとドモン・カッシュをまとめて俺の前に跪かせてやる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ジブラルタル基地。

 

 

 

 ザフトの連合に対する砦であり、目と鼻の先にある連合基地ーーヘブンズベースを攻略するためにザフトおよび反ロゴスの連合戦力が集結している。

 

 

 

 そこへ一隻の艦が入港した。

 

 

 

 ザフトの新型戦艦にして、英雄の扱いを受けているミネルバ隊である。

 

 

 

「ずいぶん、歓迎されてるみたいね」

 

 

 

「そりゃ、アークエンジェルとキラ・ヤマトを倒したことになってますからね」

 

 

 

 タリアが皮肉気に言うと、隣でアーサーも苦笑気味に言った。

 

 

 

「…デュランダル議長も正午には降りてくるそうよ。アスランに伝えておいてくれる?」

 

 

 

「ああ、それなら既に伝えてます。ジュール隊長でしたっけ? 銀髪の彼から急ぎの通信とかで」

 

 

 

「ジュール隊長? プラントの防衛部隊の隊長がどうして?」

 

 

 

「さあ? なんでもオーブのキョウジ殿の手引きとかで」

 

 

 

 アーサーの言葉に一つ頷くと、タリアは目を細めた。

 

 

 

「? 艦長、ジブラルタル基地から伝令です」

 

 

 

「どうしたの、メイリン? え?」

 

 

 

 メイリンからの報告にモニターを確認してタリアも目を丸める。

 

 

 

「ギルバート・デュランダル議長が、ジブラルタル基地に着いている?」

 

 

 

「シン・アスカとアスラン・ザラを出頭させろってーー!」

 

 

 

 アーサーも隣で思わず命令文を朗読していた。

 

 

 

「……先手を打ってきたわね。ギルバート」

 

 

 

 親指を噛みながら、タリアは伝令文を睨みつけた。

 

 

 

 アークエンジェル撃墜命令以降、デュランダルへのプライベート回線は一切シャットアウトされている。

 

 

 

「今回も、シンとアスランだけを呼ぶ、か」

 

 

 

「艦長ーー。アスランは……!」

 

 

 

 オーブ少佐としての地位を兼用しているアスランはアークエンジェルの件もあって下手をすれば、殺される。そう言おうとする副長をタリアは目で制した。

 

 

 

「シンとアスラン、それとシュバルツ殿を呼んで。対策を練りましょう。むざむざ、アスランを殺させるわけにはいかないわ」

 

 

 

「分かりました!」

 

 

 

 メイリンが答えながら艦内通信でシンとアスラン、シュバルツを参集する。

 

 

 

 程なくして、彼らは現れた。

 

 

 

「? お姉ちゃんとレイは呼んでないんだけど?」

 

 

 

 一緒に来た二人に思わず言うと、ルナマリアが妹に言う。

 

 

 

「議長に呼ばれたんでしょ? シンとアスラン。何かあるって分かるもの」

 

 

 

「……シンは、キラ・ヤマトを倒している。それにアスランもアークエンジェルを撃った。議長が何かをする理由がない」

 

 

 

「それは、あんたの考えでしょ? 希望を持つのはやめなさいよ。下手したら二人とも殺されるかもしれないんだから」

 

 

 

「ギルは、そんなことはしない!」

 

 

 

 ルナマリアの言葉に感情的になって言うレイをシュバルツが目で収めた。

 

 

 

「レイ、信じたい気持ちは分かるが。今は状況が状況だ。最悪の事態を想定して行動するのは間違いではない。いつもの冷静なお前ならば、諭されるまでもなく分かるはずだ」

 

 

 

「……俺が、冷静ではないと?」

 

 

 

「ああ、今はな」

 

 

 

 シュバルツにまではっきりと断じられ、レイは思わずうつむく。

 

 

 

 シュバルツはシンとアスランにのみ分かるように目配せをしてきた。

 

 

 

 少なくとも、レイは気付いていない。

 

 

 

 シンとアスランは互いに横目に見合った後、シュバルツと話を詰めていった。

 

 

 

 時間になり、シンとアスランは共にデュランダルの下へ出頭することになる。

 

 

 

「ーー何もなければ良いのだけれど」

 

 

 

「ですね。シュバルツ殿は?」

 

 

 

「万が一の時の為に、ガンダムシュピーゲルに乗って待機してもらっているわ。この辺りには連合の船に紛れてオーブの工作員もいるみたいだから、いざとなればアスランは」

 

 

 

「本当に、万が一なんて起きて欲しくないですね。もうこれ以上は、ゴメンだ」

 

 

 

 シュバルツのおかげで確かにアークエンジェルやキラは無事だった。

 

 

 

 だが、それでも、仲間だと思っている相手をたとえ演技とはいえ撃たなければならない。

 

 

 

 アーサーは、そんな思いはゴメンだと、強く思っていた。

 

 

 

 タリアも頷きながら、まるで敵地に二人を送り込むかのような気分でシンの運転する車を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

「アスラン隊長ーー」

 

 

 

 車を走らせながら、シンはアスランに話しかけた。

 

 

 

「? 何だ、シン?」

 

 

 

「万が一の時は、俺が隊長を守りますから」

 

 

 

 はっきりと、シンはアスランの目を見て言った。

 

 

 

 これにアスランは苦笑する。

 

 

 

「バカ、俺たちは敵地に行くわけじゃない。勲章を授与されに行くんだろ?」

 

 

 

「…それは、そうですけど」

 

 

 

 アスランは軽い口調のままに、言った。

 

 

 

「万が一の時は、俺もキラの時のように頼む」

 

 

 

「…俺は!」

 

 

 

 思わず、シンはキラを倒した時の事を思い出し、アスランに抗議する。

 

 

 

「分かってる、万が一の時だ。頼むよ、シン」

 

 

 

「…はい」

 

 

 

 頑固なアスランの態度にシンは不承不承、頷いた。

 

 

 

 

 

 車は、広大な屋敷の中に招き入れられる。

 

 

 

 2人はすぐにデュランダルの待つ式典場に案内される。

 

 

 

 大勢の兵士達が拍手と共にシンとアスランを迎えた。

 

 

 

 祭壇の奥には、デュランダルが笑みを浮かべて立ち。

 

 

 

 その傍らにはラクス・クラインを模した少女がこちらに微笑みを浮かべている。

 

 

 

「気をつけ!!」

 

 

 

 アスランが式場に響くように声を上げると同時にシンも見事な所作で背筋を伸ばした。

 

 

 

「アスラン・ザラ!!」

 

 

 

「シン・アスカ!!」

 

 

 

「以上2名は、デュランダル議長の出頭命令を受け、出頭しました!!」

 

 

 

 一度、声を切り同時に頭を下げる。

 

 

 

「敬礼!!」

 

 

 

 見事なアスランとシンの所作に居合わせた人々から感嘆の声が上がった。

 

 

 

 デュランダルは満足気味に頷くと、左手を祭壇の前に差し出す。

 

 

 

 アスランが先頭に立って歩き、シンがピタリと後ろに着く。

 

 

 

 2人は壇上に上がり、祭壇の前で議長と顔を合わせると再び敬礼した。

 

 

 

「アスラン・ザラ」

 

 

 

 ラクスの姿を真似た少女、ミーアがアスランの名を読み上げる。

 

 

 

 これにアスランは、議長の前に一歩出て正面に見る。

 

 

 

「勲章ーーアスラン・ザラ殿。貴殿は、ローエングリンゲートやベルリンで類い稀な活躍を見せ、我が軍に勝利をもたらした。よって、ここにネピュラ勲章を授与する」

 

 

 

 賞状を読み上げ、アスランに手渡す。

 

 

 

「おめでとう」

 

 

 

 アスランは、節度ある洗練された動きで丁寧に賞状を受け取った。

 

 

 

 横に来ていたミーアが微笑みながら、アスランの首に勲章をかけた。

 

 

 

 その後、アスランはシンの隣まで下がる。

 

 

 

 ミーアがもとの位置に戻ると次にシンの名が呼ばれた。

 

 

 

「シン・アスカ」

 

 

 

 先のアスランのように、シンも一歩前に出てデュランダルの面に相対する。

 

 

 

 先のアスラン同様にデュランダルは賞状を読み上げた。

 

 

 

「勲章ーーシン・アスカ。貴殿の功績は先のアスラン・ザラと同様である。更に貴殿はアラスカにて世界を混乱させんとしたアークエンジェル及びキラ・ヤマトを撃墜した。よって与えるネピュラ勲章は、二つ授与する!!」

 

 

 

 デュランダルは、賞状を手渡してきた。

 

 

 

「おめでとう」

 

 

 

 その言葉にシンは、頭の中にキラの笑顔が浮かんだ。

 

 

 

 ベルリンの街の惨状が。

 

 

 

 スティングやアウル、ステラの事が。

 

 

 

「ーーありがとうございます」

 

 

 

 彼は静かに頭を下げ、丁寧に受け取った。

 

 

 

 ミーアから勲章が二つ首にかけられた。

 

 

 

「敬礼!!」

 

 

 

 アスランの号令が再び会場に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 式典が終わり、アスランとシンはデュランダルの元を訪れた。

 

 

 

 と言っても彼らが案内されたのは客間ではなく、MSの製造工場であった。

 

 

 

「ーーこれは!」

 

 

 

「ガンダムーー!」

 

 

 

 アスランとシンが同時に声を上げる。その先に、ギルバート・デュランダルがミーア・キャンベルを連れて立っていた。

 

 

 

「やあ、よく来てくれたね。アスラン、シン・アスカ君」

 

 

 

 にこやかに言うデュランダルに、アスランとシンが頭を下げた。

 

 

 

「ーーお久しぶりです、議長」

 

 

 

「自分たちをお招きいただき、ありがとうございます」

 

 

 

 2人の丁寧な対応にデュランダルは苦笑を浮かべた。

 

 

 

「ーーそう固くならないでくれ。ここには、私と君たち。それにアスランの婚約者たるラクスしかいない」

 

 

 

 デュランダルの言葉に応えるように静かに佇んでいたミーアが前に出る。

 

 

 

「ーーアスラン、お久しぶりですわね。お元気でしたか?」

 

 

 

「え? あ、はい」

 

 

 

 そのミーアの姿にアスランは違和感を覚えた。

 

 

 

 先の映像で見たラクスに似せた少女と違い、今の彼女は間違いなくミーアだ。

 

 

 

 だが、彼女ではあり得ない反応をしている。

 

 

 

 まるで感情が抜け落ちたかのような、人形のような微笑みだった。

 

 

 

「ーーラクス、何があったのですか?」

 

 

 

「? 何もありませんよ、アスランたら。どうしたのですか?」

 

 

 

「あ、いや。そうですか。何もないなら、構わないんです」

 

 

 

 言いながら、アスランは下がる。

 

 

 

 シンが後ろから小声で言ってきた。

 

 

 

「ーー隊長。彼女って前に会った? 何があったんでしょうか?」

 

 

 

「後にしよう、シン」

 

 

 

「ーーはい」

 

 

 

 2人は言い合うとデュランダルに目を移した。

 

 

 

「ーーどうかしたのかね、2人とも」

 

 

 

 微笑みを浮かべるデュランダルに、2人は向き直るとシンが口を開いた。

 

 

 

「いえ。議長の後ろにあるMSが気になったもので。パイロットとしては、やはりMSに目が行きますから」

 

 

 

 全く臆する事なく告げるシンにアスランも一瞬、苦笑した後に続ける。

 

 

 

「素晴らしいMSですね。やはりロゴスを倒す為に?」

 

 

 

 2人からの言葉にデュランダルは微笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

「ああ、私はとんでもないことを始めてしまったよ。まさかこんなことになるとはね。しかし、アスラン。君がオーブではなく我々と共に来てくれるとは。有難い」

 

 

 

「ーーロゴスを討つことに、俺は異論ありませんから」

 

 

 

「その為にかつての戦友やキラ・ヤマト君を討たねばならなかった。君の気持ちを考えるとねーー」

 

 

 

 哀しげに言うデュランダルの目を見返して、アスランははっきりと言った。

 

 

 

「ーー戦争は、ヒーローごっこじゃない。どちらにも正義はあるし、被害はある。だからこそ、俺は二度と迷いません」

 

 

 

 アスランの強い口調にデュランダルは満足そうに笑った。

 

「キラ・ヤマト君にも、それだけの強い意志があれば。あんな不幸なことにはならなかったのだろうがーー」

 

 

 

「ーー不幸?」

 

 

 

 その言葉に、アスランは目を大きく見開いてデュランダル議長を見る。

 

 

 

「何故こんなことに、何故世界は願ったように動かないのかと。実に腹立たしい想いだろう。だが言ってみれば、それが今のこの世界、と言うことだ」

 

 

 

 デュランダルの言葉にアスランは目を鋭くする。だが、彼は何も言わなかった。

 

 

 

 デュランダルは話を続ける。

 

 

 

「今のこの世界では、我等は誰もが本当の自分を知らず、その力も役割も知らず、ただ時々に翻弄されて生きている。

 

 君たちとて、何度か手合わせして知っているだろう。キラ君にはあれだけの資質、力がある。彼は本来戦士なのだ。モビルスーツで戦わせたら当代彼に敵う者はないと言うほどの腕の」

 

 

 

 シンは、静かに唇を噛み締めた。

 

 デュランダルの言葉は続く。

 

 

 

「なのに誰一人、彼自身それを知らず、知らぬが故にそう育たず、そう生きず、ただ時代に翻弄されて生きてしまった」

 

 

 

 デュランダルはアスランを見ながら告げる。

 

 

 

「あれほどの力、正しく使えばどれだけのことが出来たか分からないというのにね」

 

 

 

 その言葉を聞いてからだった。

 

 

 

 シンが口を開いた。

 

 

 

「ーー不幸なんかじゃない」

 

 

 

「うん? シン君、今なんと言ったのかね?」

 

 

 

 ボソリと呟いたシンの言葉。

 

 

 

 デュランダルは、アスランに注意が行っていた為に聞き逃していた。

 

 

 

「キラさんは、不幸な人間なんかじゃない!」

 

 

 

「ーーシン、よせ!」

 

 

 

 もう止まらなかった。

 

 

 

 アスランの制止された腕も振り切り、シンはデュランダルに叫ぶ。

 

 

 

「議長は会った事もないのに、どうしてあの人の事を決めつけられるんですか!? 戦いだけが、キラさんの全てじゃない!!!」

 

 

 

 赤い炎のような瞳でシンはデュランダルを睨みつけた。

 

 

 

「よせ、シン。堪えろ、堪えてくれ、頼む!!」

 

 

 

 アスランが、必死にシンを制する。

 

 

 

 このままでは、シンは殺されてしまう。

 

 

 

 アスランは、それを確信していた、だから。

 

 

 

「ーー申し訳ありません、議長。シンには俺から言って聞かせますから」

 

 

 

 アスランとて、デュランダルの言葉に何も感じてない訳じゃない。

 

 

 

 大切な友人を侮辱されたのだ、シンが爆発しなければ踏み絵だと分かっていても耐えられたか、自信がない。

 

 

 

「ーーなるほど。命がけで倒した君が言うのだ。すまなかった、シン君。私の間違いだ」

 

 

 

 だが、議長は真摯に受け止めて謝罪した。

 

 

 

 これにシンも目を丸くする。

 

 

 

「あ、いえーー」

 

 

 

「こんな紹介になってしまって申し訳ないが、実はこのMS二機は君たちの為につくられたものでね」

 

 

 

 デュランダルは苦笑と同時に背後に佇む二機のガンダムを見据えて紹介した。

 

 

 

「ZGMF-X42S、デスティニー。ZGMF-X666S、レジェンド。どちらも従来のものを遙かに上回る性能を持った最新鋭の機体だ。詳細は後ほど見てもらうが、おそらくはこれがこれからの戦いの主役になるだろう」

 

 

 

 シンとアスランが二機のガンダムを仰ぎ見る。

 

 

 

「ーー君たちの新しい機体だよ。アスラン、シン君」

 

 

 

 2人は仰ぎ見ながら呆然と言った。

 

 

 

「俺たちのーー」

 

 

 

「ーー新しい機体?」

 

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 ついにザフトを脱走するアスラン。

 シンも新型のMSで、撃破したふりをしてアスランを逃すことに協力します。

 しかし、その作戦を聞かされていなかったレイは、目の前でアスランを落としたシンに激しく詰め寄るのです。

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第66話に!

 レディー、ゴー!!


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第66話 アスランの離脱 レイの苦悩

 皆さん、ロゴスへの総攻撃を開始する前にアスランの身に危機が迫ります。

 シュバルツ・ブルーダーと新たなガンダムを得たシンは、どのようにしてアスランを救うのか!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィィィッ、ゴォォォオオオッ!!


 

 デュランダルからの衝撃の告白に、アスランとシンは呆然と彼の後ろに佇む二機のガンダムを見上げた。

 

 

 

「デスティニーは、シン君の戦闘データを基に作られている。君の最近の戦闘は凄まじいの一言だ。あのキラ・ヤマトにも真っ向から打ち勝った! 君なら、このデスティニーを完全に使いこなすことができるはずだ」

 

 

 

「ーー俺の、機体」

 

 

 

 言いながら、シンは何処かインパルスに似たデスティニーと言うガンダムを見上げる。

 

 

 

 何となくだが、この機体は自分が乗るのを望んでいるように感じた。

 

 

 

「ーー何だ? この感じは、インパルス?」

 

 

 

「流石だね、見ただけで分かるのか?」

 

 

 

 デュランダルは、関心したような声をあげてシンを見る。

 

 

 

「これが明鏡止水とやらの力か? 素晴らしいね。シン君、君の言うとおり、デスティニーはインパルスの全フォームデータを基に作られている。いわばインパルスの分身と言えるだろう」

 

 

 

「インパルスの、分身」

 

 

 

 言われながら、シンは今一度デスティニーガンダムの顔を見る。

 

 

 

 今までの戦闘でインパルス以上の機体がこの先必要になるのは、間違いない。

 

 

 

 だが、この機体は信用ならないデュランダル議長からの贈り物だ。

 

 

 

 正直、不快だった。

 

 

 

 これに乗れば、自分は議長の思惑通りに動かなければならなくなるのではないか? シンはそんな葛藤に一瞬さいなまれた。

 

 

 

 聞こえてきたのは、シンが最も信頼する男の声だ。

 

 

 

ーー「おそらくデュランダル議長が私の考えている通りの人間ならば、レイとアスランの話で分かったことがある。彼は理想を胸に抱いている。その理想と言う目的のために、他人を利用する非情さや狡猾さも兼ね備えていると考えるべきだろう。

 

 ならば今、アークエンジェルを撃たせた、ということはこれから彼が動くという意思表示ではないだろうか?

 

 その行動を見てからでも、遅くはあるまい。

 

 ミネルバにはプラントに家族がいる人間が多くいる。表立ってザフトに反逆するわけにはいかん。反逆するのであれば、デュランダル議長が逆賊であるような状況を作り出さなければならん。

 

 現状、それは不可能だ」ーー

 

 

 

 現状、ギルバート・デュランダルには逆らえない。

 

 

 

 ならば、どうすればいいのか。

 

 

 

ーー「今できることはどのような情勢になれど対応できる柔軟性と、心づもりをしておくことだ」--

 

 

 

 そのために今、自分がしなければいけないことは、ここでMSを受け取らずに議長に猜疑心を植え付けることか?

 

 

 

 それとも、MSを受け取って戦力を上げると同時に、デュランダルの信用を受け取ることか?

 

 

 

「使ってもらえるね、シン君」

 

 

 

「…はい」

 

 

 

 シンは強い瞳でデュランダルを見返しながら頷いた。

 

 

 

 対して隣のアスランはデュランダルに言う。

 

 

 

「議長、申し訳ありませんが。この機体は俺には向いていないと思います」

 

 

 

「? 気に入らないかね? ザフトの最新技術を使って作り上げたのだが」

 

 

 

「いや、機体のポテンシャルは最高だと思いますが。単純に俺の戦い方には向いていないんです」

 

 

 

「というと?」

 

 

 

 デュランダルは興味深げにアスランに問いかける。

 

 

 

 彼は一つ頷くと言った。

 

 

 

「ミネルバの優秀な整備士の一人に言われたんですが、俺の戦い方は近接戦闘に特化しているそうなんです。フレームや関節部に相当な負担をかけてしまう。この機体はドラグーンシステムを積んでいる言わば射撃主体の機体です。俺の要求する戦い方に合うかどうかーー。この機体に合うパイロットなら、俺よりもレイの方が適任だと思います」

 

 

 

「そこまで感じて取るのかーー! 驚異的な能力だな、明鏡止水」

 

 

 

 大きく目を見開いて驚くデュランダルにアスランは頭をかきながら言った。

 

 

 

「すみません。せっかく用意していただいたのに」

 

 

 

「構わないよ。君に合った機体か。なるほど」

 

 

 

 アスランの言葉に考え込むデュランダル。

 

 

 

「やはり、現場の声を聴かなければ分からないな。色々助かったよ、アスラン」

 

 

 

「いえ」

 

 

 

「さあ、今日はもう疲れただろう? 二人とも今日はゆっくりと休んで行ってくれ。ミネルバには明日帰るように伝えてある」

 

 

 

 デュランダルの言葉に二人の顔が上がる。

 

 

 

「特にシン君は、今すぐにでもデスティニーガンダムを調整したいようだからね」

 

 

 

 言い当てられ、シンは頬を赤く染めながらもアスランを見る。

 

 

 

 アスランは苦笑気味にシンに頷いた。

 

 

 

「すいません、隊長」

 

 

 

「構わない、ただし調整は完璧に仕上げておけ。自分の命を預ける機体になるんだからな」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 シンは一人、アスランと別れると整備兵と共にデスティニーのコクピットに向かっていった。

 

 

 

「ではアスラン。せっかくだから、ラクスと久しぶりに食事でもどうかな? ホテルの部屋は空いている」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 戸惑うアスランにラクスがにこやかに言った。

 

 

 

「楽しそうですわ、よろしくお願いしますわね。アスラン」

 

 

 

「え…、あ。分かりました」

 

 

 

 腕を組まれ、最初は戸惑うアスランであったが、ミーアの表情を見て決心を固めた。

 

 

 

(二人きりになれば、ミーアの様子がおかしいのも分かるか?)

 

 

 

 アスランとミーアは、まるで恋人同士のように腕を組みながらデュランダルの下を去っていった。

 

 

 

 

 

 ホテルに着いた二人は、フロントでカギをもらい、部屋に入る。

 

 

 

 扉を閉めたところで、ミーアが調子外れな笑い声を上げた。

 

 

 

「ー-ふ、フフフフ!」

 

 

 

「え!?」

 

 

 

 右腕をつかまれ、強い力で引っ張られる。

 

 

 

 彼女が向かう先はベッドルームだ。

 

 

 

「み、ミーア!? どうしたんだ!!?」

 

 

 

「何が? あたし達、恋人同士じゃない。アスラン」

 

 

 

 ベッドの上にアスランはつまづきながら倒れこむ。

 

 

 

 それを横目にミーアが自分の服を脱ぎ始めた。

 

 

 

「よせ、ミーア!!」

 

 

 

「どうして、アスラン?」

 

 

 

 襟元にかかっていたミーアの腕を抑え、辞めさせる。

 

 

 

 そのとき、彼女とはじめて目が合った。生気のない、昏い瞳。

 

 

 

 行動にまるで躊躇がないいまの彼女は、まるでロボットが人間を真似てプログラム通りに動かしているような不気味さがある。

 

 

 

 アスランの背筋に寒気が走った。 

 

 

 

「どうしても何も、俺と君はそんな関係じゃないだろ? 俺にはカガリがいる。それに君にだってーー!」

 

 

 

 言おうとするアスランを虚ろな笑顔が迎える。

 

 

 

「私たちは婚約者ですわ、アスラン」

 

 

 

「ミーア!!」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 アスランを突き飛ばし、ミーアが笑いながら言う。

 

 

 

「私は、ラクス。ラクスが、いいーー!」

 

 

 

「! ミーア。いったい、何があったんだ!?」

 

 

 

 今のミーアは明らかにおかしい、この状態の彼女をそのままにはしておけないとアスランは感じた。

 

 

 

「ミーア、一緒に来るんだ! ミネルバで診てもらおう!!」

 

 

 

「どうして? 私は、ラクスよ? アスラン」

 

 

 

 首を傾げる彼女の肩を抱き、アスランは意識不明の人間に呼びかけるように声を張る。

 

 

 

「違う、君はミーアだ!! ミーア・キャンベルだ!! 俺に教えてくれたじゃないか!!? ラクスが現れるまで必死でラクスを演じているって!!」

 

 

 

 笑顔をうかべたまま反応がないミーアにアスランは深刻に顔を歪めて言った。

 

 

 

「この間、シュバルツと一緒にコーヒーを飲んだ時に色々、話してくれたじゃないか! 議長に認められても、ラクスのファンにはなかなか認められないって! Dのこととかも話してくれたじゃないか!!」

 

 

 

 アスランの言葉に、ミーアの眉がピクリと動いた。

 

 

 

 かまわず、アスランは続ける。

 

 

 

「Dは、ラクスとして認められるようになった自分をいつまでも小娘扱いするって!!」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

「…う、うぁあああああ」

 

 

 

 ミーアの笑顔がひび割れ、自分の頭を両手で抑えながら苦しみ始めたのだ。

 

 

 

「ミーア!!」

 

 

 

 その時、鍵がかかっているはずのホテルのドアが開かれた。

 

 

 

「ーー失礼します。ラクス様、如何されましたか?」

 

 

 

 現れたのは、金色の髪にサングラスをかけた美女。

 

 

 

「誰だ!?」

 

 

 

 いきなりの第三者の訪問にアスランが詰問する。

 

 

 

 これに美女ーーサラは丁寧な礼をして答えた。

 

 

 

「ーー私の名は、サラ。ラクス様の付き人をさせていただいております。この度は、お二人の恋人同士の営みを邪魔して申し訳ございません」

 

 

 

 慇懃無礼な態度を取るサラにアスランの目が鋭くなる。

 

 

 

「監視でもしているのか!?」

 

 

 

「ーーまさか」

 

 

 

 そう言いながら、サラはポケットからコンパクトを取り出し、アスランに鏡を向けてきた。

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

「アスラン・ザラ。貴方は、本当にオーブを離れ我々に付くのですか?」

 

 

 

 光が、アスランの思考を奪っていく。

 

 

 

 正直に答えなければならない。

 

 

 

 そんな気にさせられた。

 

 

 

「ーー俺はオーブを、カガリを守る為にザフトに来た。離れたりはしない」

 

 

 

「ではアスラン様、貴方とシュバルツ・ブルーダーはどうしてアークエンジェルと貴方の親友キラ・ヤマトを堕としたミネルバにいるのですか?」

 

 

 

「アークエンジェルやキラは、堕ちていない。あれは、演技だ」

 

 

 

「…ほう。やはり、そうですか」

 

 

 

 サラがアスランの言葉に冷たい光を瞳に宿して先を促す。

 

 

 

「ミネルバに俺がいる理由はシュバルツと共に、ミネルバのみんなを守る為だ。俺にとって、彼らも守りたい仲間だから」

 

 

 

 答えながら、アスランの顔から表情が消えていく。

 

 

 

 感情が抜け落ちて、思考が奪われて行く。

 

 

 

「なるほど。やはり貴方はオーブを捨てられないのね。本当なら、射殺するのだけど。議長は貴方に期待している。殺さずに洗脳して、DG細胞に感染させましょう。寛大な議長のお心に感謝なさい、アスラン」

 

 

 

 言いながら、サラはコンパクトの鏡の部分を触る。すると、粘土細工のように鏡がサラの指先に付着した。

 

 

 

 泥のように変化する指先に付着したゲルは、鉛色の金属に変化する。

 

 

 

 その指でサラは無防備なアスランに近付いていく。

 

 

 

 指先がアスランの頬に触れる寸前、彼のポケットから電子音が鳴り響く。

 

 

 

「ーー何、電話?」

 

 

 

 サラがそちらに気を取られた矢先、アスランが正気に戻った。

 

 

 

 サラが反応するより早く、アスランがサラの腕を取り捻り上げて地面に制圧した。

 

 

 

「ぐっーー」

 

 

 

「ーー! お前が、ミーアをこんな風にしたのか!?」

 

 

 

 たった今、自分の記憶が曖昧にさせられたのもあり、アスランはサラがミーアを洗脳した張本人だと確信した。

 

 

 

「ミーアを元に戻せ!!」

 

 

 

「……やれ!」

 

 

 

 サラはアスランに応えずに、冷たく誰かに指示した。

 

 

 

 瞬間、アスランはこの部屋に殺到する気配に気づき、咄嗟にホテルの窓枠を蹴破って外の非常階段に出る。

 

 

 

「ーー逃すな、捉えろ!!」

 

 

 

 サラの命令がホテル内から響くと同時に大量の兵士がアスランを追いかけてきた。

 

 

 

 皆、人形のように虚ろな表情だった。

 

 

 

「ーー集団催眠!? バカな!!」

 

 

 

 驚愕の表情になりながらも、アスランはホテルの階段を飛び降りていく。

 

 

 

 それをバルコニーから見下ろしながら、サラは言った。

 

 

 

「ミネルバに帰すな。抵抗するならば、射殺して感染させろ。--行け」

 

 

 

 サラの指示に兵士たちはコクリと頷くと、そのまま銃を構えたまま走っていく。

 

 

 

「…ミネルバ隊にタリア・グラディス。議長の寵愛を授かりながら、議長を裏切るなんて…!!」

 

 

 

 そのまま、ベッドの上で座り込み頭を抱える少女に向かう。

 

 

 

「ラクス様、大丈夫ですか? 今、お薬を」

 

 

 

 優しい笑みと共に。

 

 

 

 水と錠剤を渡す。

 

 

 

 それを飲ませてから、サラは電話を掛けた。

 

 

 

「……私です。お休みのところ、申し訳ありません。やはり、アスランとミネルバは議長を裏切っておりました。おそらく、レイ・ザ・バレル殿の報告通りです。キラ・ヤマトとアークエンジェルも撃墜されておりません」

 

 

 

ーー そうか、残念だ。アスランは? --

 

 

 

「感染させた兵士達に追わせています。捉え次第細胞を移植し、ミネルバ隊に帰還させ、全員を感染させます」

 

 

 

ーー 待て。ミネルバにはシュバルツ・ブルーダーがいる。彼も「あの男」と同じだ、迂闊な真似はこちらの計画そのものを破綻させかねない ーー

 

 

 

「……では?」

 

 

 

 しばらくの間をおいて、通信先からの声が返ってきた。

 

 

 

ーー いずれ、ミネルバ隊にも感染してもらうが。今は、ヘブンズベースを攻略することが先決だ。その後でなら、いくらでもタイミングはあるだろう。シュバルツもいつまでもミネルバに残ってはいられないだろうからね --

 

 

 

 デュランダルの含みのある言い方に、サラは美しく微笑むと、続けた。

 

 

 

「ミーアの事情を知るアスラン・ザラはどうしますか?」

 

 

 

 冷たい煌きを瞳に宿して問いかけるサラに、通信相手は言った。

 

 

 

ーー 今は世界が一つになろうとしている時だ。障害となるならば、排除するしかあるまい。丁度、こちらにシン君とレイも来ている。彼らに伝えておくよ、スパイが現れた。排除するように、と --

 

 

 

 そして声の主は更に続ける。

 

 

 

ーー デスティニーとレジェンドの試運転を兼ねて、シン君にも出撃してもらわなければ、な --

 

 

 

「分かりました。では、アスラン・ザラがモビルスーツを手に入れられるよう、裏切者のミネルバ隊の誰かにサポートさせる状況を作ります」

 

 

 

ーー 頼むよ --

 

 

 

「すべては、議長の思いのままに」

 

 

 

 丁寧な礼と共に、サラは通信を切った

 

 

 

 

 

 一方で、シンは携帯電話を耳に当て、傍らでレイがレジェンドの調整をするさまを見上げていた。

 

 

 

 デスティニーの調整にシンがあたっているころに、急遽招集されてきたレイの作業も、あと少しで完了する。

 

 

 

 ちょうど夕食にさしかかる時間帯だった。アスランとミーアを連れて食事に誘うなら、早めに段取りをつけておきたい。

 

 

 

 規則的な着信音が耳に触れるなか、予想外の人物がMS格納庫に現れた。

 

 

 

「ーー調整はどうかな、レイ?」

 

 

 

 肩を跳ね上げ、慌てて電話を切ろうとするシンを、デュランダルは手で制したあと、レイに話しかけた。

 

 

 

「問題ありません、ギル。しかし、私にレジェンドを下さるのですか? アスランを予定していたのでは?」

 

 

 

 レイの問いかけに、デュランダルの口元に苦笑気味が浮かぶ。

 

 

 

「アスランに断られてしまってね。自分のスタイルと機体のコンセプトが違う。レイの方が向いているからと」

 

 

 

「なるほど、確かにアスランは射撃主体のセイバーでも無茶な格闘を仕掛けていましたね」

 

 

 

「やはり、現場の意見を聞かないといけないね。何事も」

 

 

 

 穏やかな笑みにレイは頬を赤くして俯く。

 

 

 

( あいつ、あんな顔もするんだな )

 

 

 

 普段の冷静で大人びているレイとは違う。

 

 

 

 シンがそんなことを考えていると、電話口にアスランが出た。会話中のレイと議長の邪魔にならぬよう、背を向ける。

 

 

 

「あ、隊長? こっち一区切りついたんで、ご飯でもどうですか? ラクスさんも一緒に」

 

 

 

ーー それどころじゃない!!! ーー

 

 

 

「ーーへ?」

 

 

 

 電話越しに伝わってくる切迫した空気感。

 

 アスランは息も絶え絶えで、声量こそ抑えているものの声に差し迫った色がにじんでいる。

 

 

 

 予想外過ぎる反応にシンがポカンと首を傾げる。

 

 

 

 電話口のアスランが矢継ぎ早に告げてきた。

 

 

 

ーー すまない、シン! 議長の秘書にアークエンジェルやキラのことを話してしまった!! ーー

 

 

 

「ーーはあ!? 何やってんすか、アスラン!?」

 

 

 

 思わず階級を付けるのを忘れて、呼び捨てにしてしまう。返ってきたのは、曖昧な答えだった。

 

 

 

ーー 自分でもわからない。正直に話さなければならない気になったんだ、としか答えられない ーー

 

 

 

「あんた、何言ってんだ!? つーか、自分の言ってること分かってます!? 何だって、そんなーー!?」

 

 

 

ーー すまない、シン。それで今、兵士達に追われて身を隠している所なんだ ーー

 

 

 

「マジかよ!!?」

 

 

 

 絶叫したあと、ハッと我に返って振り返る。レイと議長が、こちらを見ている。

 

 

 

「ーー議長の前だぞ、シン」

 

 

 

「構わないよ、レイ。シン君、楽しそうだね」

 

 

 

 普通に注意してくるレイと含みのある笑顔で話しかけてくるデュランダル。

 

 

 

「ーーす、すみません。議長、レイもーー」

 

 

 

 シンが頭を下げながら、電話口のアスランにも状況を伝わるよう謝罪すると、向こうが息を呑むのがわかった。

 

 

 

ーー 議長とレイがいる中でかけて来たのか、シン! ーー

 

 

 

「しょうがないでしょ! そんな切迫した状況だなんて誰が思うんですか!? おまけにわざわざ言わなくていいこと全部バラしといて!! ミネルバの皆もヤバイんですよ!? どうせ、偽物のラクスの色仕掛けにやられたんでしょ!」

 

 

 

ーー 俺がそんな軽い男なわけあるか! 俺はカガリ一筋だ!! ーー

 

 

 

「どうでもいいすよ、そんな惚気!!!」

 

 

 

ーー 惚気とはなんだ!? だいたい、俺だってカガリに関しては、色んな悩みを抱えてるんだぞ! イザークもお前も俺をいったい何だと思ってるんだ!? ーー

 

 

 

「逆ギレかよ!? それがフェイスのやることかぁあああっ!!?」

 

 

 

 議長達に背を向け、あくまで平静を装いながら電話越しにケンカするシンの姿は、中々に器用なものだ。

 

 

 

 さりげなくデュランダル達から離れてコソコソと格納庫を出て行こうとしてーー。

 

 

 

「ーーなに!? スパイが現れた!?」

 

 

 

 まるでタイミングを見計らったかのような議長の言葉にシンが直立する。

 

 

 

「やべえ! ばれた!!」

 

 

 

 通話中のまま、後ろを振り返る。

 

 

 

 すると、思い切りシンを真正面に見ながら、兵士と話す議長と目が合った。

 

 

 

「ーーああ、分かった。レイ、シン君も。すまないが、スパイがモビルスーツ格納庫に逃げ込んだみたいだ。急ぎデスティニーとレジェンドに乗り、向かってくれ。スパイがモビルスーツを奪取した場合は撃墜してほしい」

 

 

 

「ーー分かりました、ギル。シン、行くぞ」

 

 

 

 即座に答え、レジェンドに乗り込むレイを見て、シンも通話中の携帯をポケットに素早くしまい、デュランダルに敬礼しながら、言った。

 

 

 

「必ず、撃墜してみせます!!」

 

 

 

「ああ、頼んだよ。シン・アスカくん」

 

 

 

 含みのある笑みだと感じながらも、シンはデスティニーのコクピットに乗り込む。

 

 

 

 コンソールパネルの横に携帯電話を差し込み、外部との通信を遮断しながら、シンは言った。

 

 

 

「……つー訳です! 何とかして逃げてください!」

 

 

 

ーー お前、無茶だぞ! それ!! ーー

 

 

 

「泣き言は聞きませんよ、アスランがベラベラ話すから悪いんですからね!!」

 

 

 

 そんな2人の会話に突如、声が割り込んで聞こえてきた。

 

 

 

『修行が足らんぞ、2人とも』

 

 

 

「「シュバルツさん!!」」

 

 

 

 物理法則を無視した声に、シンが思わず声をあげる。

 

 

 

「シュバルツさん、どうやって俺たちに話しかけてるんです?」

 

 

 

ーー 俺にも聞こえるんだが。やけにはっきりと ーー

 

 

 

 電話越しにアスランも困惑した声である。

 

 

 

『ゲルマン忍法ならば、このくらいは容易い』

 

 

 

「ーーまた、忍法か。理屈とか考えたらダメなんだろうな」

 

 

 

 やや疲れ気味の声をあげるシンにアスランが電話越しに言う。

 

 

 

ーー 俺もツッコんだら、ダメなんだろうな ーー

 

 

 

 その声にシンも力強く頷く。

 

 

 

『そんなことは、どうでもいい! シン、アスラン。キョウジからのデータには目を通したな?』

 

 

 

 シュバルツからの言葉に、2人は頭を切り替える。

 

 

 

「ーー作戦決行ポイントは、頭に入ってます」

 

 

 

ーー こちらもだ、シュバルツ ーー

 

 

 

 シンとアスランの答えにシュバルツの声は頷くと言う。

 

 

 

『ならば、アスランにはまずモビルスーツを手に入れて貰わねばならんな。できるか?』

 

 

 

ーー 丁度、信じられないことに格納庫の目と鼻の先にいます。プロテクターされてないMSなら、手に入れられそうです ーー

 

 

 

『頼むぞ、アスラン。海上にさえ出れば、こちらのものだ。後はシンと私に任せろ』

 

 

 

ーー 撃破作戦か。了解! シン、頼むぞ!! ーー

 

 

 

 2人のやり取りを聞きながら、シンは悪態を吐く。

 

 

 

「後味の悪さは、この際我慢しますよ!! アスラン、後10分くらいしか延ばせない! 頼みますよ!!」

 

 

 

 シンの言葉にアスランは「了解」とだけ、言い残して通話を切った。

 

 

 

 シンはデスティニーを稼働させる。

 

 

 

「シン・アスカ! デスティニーガンダム!!」

 

 

 

 通信を復活させ、機体のバーニアを徐々にふかしていく。

 

 

 

「ーー出撃します!!」

 

 

 

「待て、シン! こちらもまだ、調整が完璧じゃない。一緒に発進するべきだ!!」

 

 

 

 レイからの通信にシンは、思わずモニターから見えないところで右手を小さく握ってガッツポーズを取ると、言った。

 

 

 

「馬鹿野郎! 逃したら元も子もないだろ!! スパイは俺が確実に仕留めてやるさ!!」

 

 

 

「待て、シン!!」

 

 

 

 レイの制止を振り切り、シンのデスティニーが作戦予定ポイントに向かって飛び立つ。

 

 

 

 流石と言うべきだろうか。

 

 

 

 アスランは既に青いMS、グフ・イグナイテッドに乗って海上に飛んでいた。

 

 

 

「よし、見つけたぞ! 裏切者め!!」

 

 

 

 シンは言いながら、通信をオンにした状態で敢えて口に出した。

 

 

 

「ーーやめろ、シン!! 俺だ!!」

 

 

 

 通信から予想通りの人物から返答がある。

 

 

 

「アスラン隊長、なんでスパイなんか!?」

 

 

 

「話を聞け、シン!! 議長のやり方は間違ってる!!」

 

 

 

「だからってスパイ行為していい理由には、なりませんよ!!」

 

 

 

 デスティニーのバーニアをふかし、大剣アロンダイトを振りかぶって切りつける。

 

 

 

 アスランのグフ・イグナイテッドも右手に剣を持って応戦してきた。

 

 

 

 鍔迫り合いをする。

 

 

 

「ーーシン、悪いがメイリンを巻き込んだ」

 

 

 

「ーーはあ!? アスラン、あんた何処まで!?」

 

 

 

「たまたま、通りがかったメイリンが、俺の格好を見るや助けてくれて。あれよあれよと言う間に」

 

 

 

 アスランの言葉に、シンは静かに通話を直接会話に切り替えて行う。

 

 明鏡止水の感覚の共有でシンは、デスティニーには通信を傍受される危険はあるが、直接会話を録音する機能はないようだと気付いた。

 

 

 

「メイリン。なんだって、こんな無茶を」

 

 

 

「だって、アスランさん。あのままだと殺されちゃいそうだったんだよ、シン」

 

 

 

 シンが問いかけるとメイリンは、恐怖に引きつりながらもいつも通りのやや困ったような声音で返してきた。

 

 

 

「ーーったく。メイリンも一緒なら無茶できないな。さっさと落とす!!」

 

 

 

「よし、来い!! メイリンは体を張って俺が守る。後はお前とシュバルツに任せるぞ!!」

 

 

 

「他力本願過ぎですよ、アスラン。まあ、外しはしませんけどね!!」

 

 

 

 シンの中でSEEDの種が弾ける。同時に明鏡止水の一瞬を思い返し、解放する。

 

 

 

「はぁああああっ!!」

 

 

 

 気合いが高まり、デスティニーの両翼から赤紫の光の翼が生まれた。

 

 

 

 シンは更に心を研ぎ澄ます。

 

 

 

「ーーコクピットは、あそこか。グフ・イグナイテッドの動力炉はそこで、アロンダイトを突き刺す安全圏はーー。この一点!!」

 

 

 

 グフ・イグナイテッドが左手からヒートロッドを放ってくる。

 

 

 

 不規則な動きで絡みつくかのような鞭に、シンは左掌に設置されたビーム兵器『パルマフィオキーナ』を放つ。

 

 

 

 鞭は完全に消し飛び、シンはその威力と使い勝手の良さに勘付いた。

 

 

 

「ーーこれって、シュバルツさんやマスターアジアの使ってた技に似てるぞ。そうか、このガンダムは。フィンガーを使えるんだな!!」

 

 

 

「なるほど。シュバルツの弟子であるシンが、その兵装を使えない道理はないな」

 

 

 

「そんじゃ、行きますよ! アスラン!!」

 

 

 

 光の翼がデスティニーの最大稼働範囲を一気に広げ、残像を残しながらアスランに接近する。

 

 

 

「ーー待て、シン!! そのスパイはアスランだ!!!」

 

 

 

 第三者の声。

 

 

 

 いきなりのレイからの必死の通信。

 

 

 

 すっかり彼の事を忘れていたシンとアスランは間抜けな声を上げながら、接近する。

 

 

 

「え?」

 

 

 

「あ?」

 

 

 

 アロンダイトがグフ・イグナイテッドの胴体を貫いた。

 

 

 

「ーーアスラン!!」

 

 

 

 レイの悲痛な叫びに、シンは脂汗を流している。

 

 

 

「ーーシン。後は頼む」

 

 

 

「あんた、最初から最後までそれっきゃ言えないのか?」

 

 

 

 シンの毒を聞いてモニターのアスランは笑みを返すと、メイリンを庇った。

 

 

 

 同時にグフが空中で爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 レイは、その光景に言葉もなかった。

 

 

 

 しばらく呆然と、アスランが乗っていたグフの残骸を見据え、ゆっくりとシンに向き直る。

 

 

 

「レジェンドを発進させる直前にギルから聞いた。アスランが、スパイだと」

 

 

 

 冷静な言葉はそこまでだった。

 

 

 

「そんな訳があるか!! それなら、とっくにアスランはミネルバやザフトを離反している! 何故だ、シン!? 何故、撃った!!? アスランは仲間のはずだろう!?」

 

 

 

 シンを責めたところで何も変わらない。

 

 

 

 頭では分かっていたが、感情で納得できなかった。

 

 

 

「仕方なかったんだ。ああしなきゃ、アスランはーー」

 

 

 

 それだけを言うシンにレイは詰め寄った。

 

 

 

「アスランが裏切るつもりがあったなら、シュバルツ殿が動いただろう!? 何故、殺した!?」

 

 

 

「なら、他に方法があるのかよ!? 議長はスパイを撃墜しろって言ったんだぞ? アスランがどういうつもりか知らないが、アークエンジェルやキラさんのことを喋っちまった。逆らえば、俺だけじゃない。ミネルバのみんなもヤバイんだよ!!」

 

 

 

「ーーっ!? だがギルは」

 

 

 

「だがもクソも、あるかよ!! こんなやり方で、本当に世界が平和になるって思うのか、レイ!!!」

 

 

 

 シンの苦悩に満ちた言葉にレイは何も言えなかった。

 

 

 

 レイは息苦しさに空を見上げると、鉛色の空は何処までも続いていた。

 

 

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかねー!

 アスランを眼の前で落としたシンにレイは、どう接すればよいのか分からず、避けるようになります。

 そんな中、ロゴスへの攻撃を開始せんと準備が整えられていくミネルバの格納庫で、レイは思いもよらなかった相手に再会するのです。

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第67話に!

 レディー、ゴー!!


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第67話 レイ・ザ・バレルと二人の男

 皆さん、前回のお話でアスランは辛くもデュランダル議長から逃れることに成功しました。

 ですが、その作戦を知らされていないレイは、シンとの間にわだかまりを感じるのです。

 そんな中、この場にいるはずのない人物がレイの前に姿を現したではありませんか!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィィィッ、ゴォォォオオオッ!!

第67話




 ミネルバの雰囲気は重苦しいものになっていた。

 

 

 

 理由はアスランにスパイ容疑がかけられ、シンによって落とされたからだ。

 

 

 

 タリアやアーサーは真相を知っているが、知らされていないクルー達は混乱を極めていた。

 

 

 

 腫れ物を扱うようにシンとレイを見る。

 

 

 

 あれから、2人は会話らしい会話を一切しなくなった。

 

 

 

 レイが一方的にシンを避けるのだ。

 

 

 

 取り付く島もないとは、この事かとシンは苦笑しながら、服を着替えようとして手を止めた。

 

 

 

「ーーシン」

 

 

 

 もう1人の赤服、ルナマリア・ホークがシンの側に寄り添うように来たからだ。

 

 

 

「! ルナーー」

 

 

 

 ルナマリアは、そっとシンの横に来ると積極的に彼の腕に両腕を絡めた。

 

 

 

「お、おい!?」

 

 

 

「ーー早く見せなさいよ。ビデオレター、預かってんでしょ?」

 

 

 

 頰を赤く染めるシンに特に意識した様子もなくルナマリアは言ってきた。

 

 

 

「やっぱり気付くよな?」

 

 

 

 思わず言ってしまうシンにルナマリアが、絡めた腕を解くとため息を吐きながら言った。

 

 

 

「キラ准将の前例があるからね」

 

 

 

「ーーだよな」

 

 

 

 やはり、俺が貧乏くじ引いただけな気がする、そうシンは嘆いていた。

 

 

 

「レイの奴があそこまで取り乱すってことは、そんだけ逃げる暇がないってことでしょ?」

 

 

 

「ああ。あのレイでもそう思うんだぜ? ゲルマン忍法って、なぁ?」

 

 

 

「…考えたら負けな気がするわ」

 

 

 

 二人はそう言い合いながら深いため息を吐く。

 

 

 

 そして。

 

 

 

「……一緒に見ましょ? 私の部屋で」

 

 

 

「へ?」

 

 

 

「さ、行くわよ!」

 

 

 

「え、ちょ。ちょっと…!!」

 

 

 

 腕を掴まれてそのまま部屋に連行されるシン。

 

 

 

 さすがにマズイと言おうとしたのだが、彼女の手が震えていることに気付いた。

 

 

 

(ルナ、強がってるけど。やっぱりメイリンのこと心配なんだな)

 

 

 

 彼女の心中を察すると、シンは何も言わずにルナマリアに付いていった。

 

 

 

「ねえ、シン。どうしてレイには話したげないの? ビデオレターのこと」

 

 

 

 これにシンは表情を鋭いものにすると言った。

 

 

 

「シュバルツさんに口止めされてる。理由は聞いてないけど、俺にも何となく分かる」

 

 

 

 それにルナマリアがため息を吐きながら言った。

 

 

 

「…ちょっとカッコ良過ぎない? 最近のアンタ(ボソッ)」

 

 

 

「? なんか言ったか?」

 

 

 

「べ~つに」

 

 

 

 ルナマリアの部屋に入りながら、二人はそんな話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ミネルバのブリッジでは不機嫌を絵に描いたような顔をしたタリアが目の前のモニターを見据えている。

 

 

 

「すまないね、タリア。手違いで君からの連絡を見れていなかった」

 

 

 

「…お気になさらず、議長。それでアークエンジェルの件は説明していただけるのですか?」

 

 

 

 タリアの冷たい瞳にさらされながらも、デュランダルは微笑みを辞めない。

 

 

 

「命令書どおりだよ。ロゴスと繋がっているアークエンジェルとオーブには、これ以上好き勝手にしてもらうわけにはいかない」

 

 

 

「彼らは、ベルリンの街で我々を助けてくれました。絶望的な状況に陥っていたあの街を地球軍から守れたのは、間違いなく彼らの協力あってこそです」

 

 

 

「では聞くが、タリア。カオスガンダムの件とロゴスとの癒着の件はどう説明するのかね? 何より、彼らに後ろめたさがないのであれば、我々に投降してくれてもよかった。違うかな?」

 

 

 

 眦が吊り上がった。

 

 

 

「アラスカでの件では、アークエンジェルに一方的にウィラード隊から奇襲を仕掛けていましたね。それで投降しろですって? 応じると? 本気で言っているのですか、議長?」 

 

 

 

 更に続ける。

 

 

 

「オーブのセイラン家が問題のある政治家と言うのは知っています。カガリ代表の目を盗んで我々を連合に売りつけようしたくらいですからね。ですが、それはオーブ全体の意思ではないはずです。

 

 現にカガリ代表は私たちに協力者としてシュバルツ・ブルーダー殿とアスラン・ザラ少佐を派遣してくれました。彼らの協力なくして、今のミネルバはありません。それをーー!!」

 

 

 

 睨みつけながらタリアのボルテージが上がっている。

 

 

 

 後ろに控えるアーサーは若干引き気味に彼女を見ていた。

 

 

 

「アスラン・ザラ、か。彼こそがロゴスのスパイだったのだよ」

 

 

 

「……何ですって?」

 

 

 

 こめかみに筋が入る。

 

 

 

 アーサーが必死にタリアの肩を後ろから叩いて抑える。

 

 

 

 ここで爆発したら、シンがアスランを落とした意味がなくなってしまうからだ。

 

 

 

 少なくとも、ミネルバ隊に残っている人間はザフトに従順であると示さなければ、議長に疑われてしまう。

 

 

 

 そうなれば、本国を切り離せないミネルバ隊のクルー達は板挟みになってしまう。

 

 

 

 下手をすれば空中分解ものだ。

 

 

 

「ーー艦長」

 

 

 

「分かってるわ、ありがとうアーサー」

 

 

 

 息を吐き、心を落ち着かせるタリアにデュランダルが目を細めながら言う。

 

 

 

「アスランは、アークエンジェルを落としたのではない。我々の目を誤魔化すために自ら砲撃手を買って出てアークエンジェルを逃がした。そうだね、タリア?」

 

 

 

「ーーっ!!!?」

 

 

 

 知られているはずがなかった。

 

 

 

 確かにアークエンジェルの撃破確認はされていない。

 

 

 

 だが、あの状況では逃がしたと断定できる証拠もない。

 

 

 

「キラ・ヤマトもどうやったかは知らないが、生きているそうだ。アスランが教えてくれたよ」

 

 

 

 やはりシンの報告通りだ。

 

 

 

 アスランは何故か、機密情報を漏らしてしまったと言っていた。

 

 

 

「……ギルバート。貴方、アスランに何をーー!?」

 

 

 

 タリアの反応にデュランダルは微笑みを浮かべると言った。

 

 

 

「タリア、その様子だと君は知っていたようだね? 何故、私に話してくれなかったのかな? 報告義務があることは分かっているのだろう?」

 

 

 

 穏やかなほほ笑みでありながら、冷たいものを顔に浮かべてデュランダルは言う。

 

 

 

「君のしたことはフェイスとは言え、本国への重大な裏切りだ」

 

 

 

「……本国は、アークエンジェルを捕捉できたのですか? 確かに残骸が出てこない為に撃沈していない『疑い』はありました。ですが、確信のない情報を議長に報告するわけにはいかないのも事実です。常識的に考えて、アークエンジェルやキラ・ヤマトが、生還できるとは私には思えませんでした」

 

 

 

「シュバルツ・ブルーダーの力を借りてもかね?」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 タリアが歯を食いしばりながら、デュランダルを睨み据える。

 

 

 

 即座にアーサーが割り込んだ。

 

 

 

「議長! アークエンジェルを脱出させたのは私の考えです!! タリア艦長ではありません!! 私の独断です!!」

 

 

 

「アーサー」

 

 

 

 アーサーが前に出るのをタリアが手で押さえる。

 

 

 

「…君に裏切られたのは、これで二回目だな」

 

 

 

 寂しげな笑みでデュランダルはそれだけを言った。

 

 

 

 そして続ける。

 

 

 

「だが、それもロゴスを討つと言う目的の前には些末なものだ。今、君たちに抜けられてはヘブンズベースを攻略するなど不可能だからね」

 

 

 

「……それまでは見逃してもらえる、と?」

 

 

 

「そこから先は君次第だよ、タリア」

 

 

 

 微笑みを浮かべて言うデュランダルにタリアは睨みつけながら、言った。

 

 

 

「分かりました。この作戦が終了すれば私は艦を降り、本国に出頭します」 

 

 

 

「艦長!!」

 

 

 

 止めようとするアーサーを目で制する。

 

 

 

 これにデュランダルは微笑むと告げる。

 

 

 

「タリア、そう気張らないでくれ。私は責めるつもりはない。話を聞きたいだけなんだ。だから、全てがひと段落着いたら、上がって来たまえ」

 

 

 

「…………はい」

 

 

 

 デュランダルは通信を切る。

 

 

 

 それを確認してから、ブリッジの砲撃手が声を上げた。

 

 

 

「なんで誤魔化さずに白状したんですか、副長!!」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

 アーサーがキョトンとした表情で見返すと、彼は言った。

 

 

 

「いくらアスラン少佐が自白していても、それを証明する手段がありますか? あの場面でシュバルツ殿が何かした、なんて証拠見つかるわけないじゃないですか! 我々でもわからないのにっ! シラを切りとおせば良かったんですよ!!」

 

 

 

 その言葉に、アーサーは目を大きく見開いて自分の失態に気付いた。

 

 

 

「申し訳ありません、艦長!!」

 

 

 

「構わないわ。どのみち、アークエンジェルが現れれば、アスランの自白は決定的な証拠になる。それにーー」

 

 

 

 目を伏せながらタリアはアーサーを横目見て優しくほほ笑んだ。

 

 

 

「ありがとう、アーサー。嬉しかったわ」

 

 

 

「ーーえ? い、いえ!」

 

 

 

 普段は厳しい艦長の優しい微笑みに、初心な副長は頬を真っ赤に染めた。

 

 

 

 

 

 ミネルバのMS格納庫でレイは一人、レジェンドの調整を行っていた。

 

 

 

 頭をよぎるのは、アスランの乗ったグフを落としたシンのデスティニーの光景だ。

 

 

 

 基地に戻った彼らを待っていたギルの第一声は「よくやってくれた」だった。

 

 

 

「ギルは、最初からシンがアスランを落とすことを望んでいた。……何故だ、何故アスランが俺達を裏切る? ロゴスと通じる? そんなわけ、あるはずがないのにーー!!」

 

 

 

 レジェンドを正面に見ながら、システムの調整を片手間にコンソールパネルで打ち込む。

 

 

 

 そんな彼に、語り掛ける声があった。

 

 

 

「あるはずがない、か。だが、それが真実である可能性も考慮すべきだと私なら思うのだがね、レイ」

 

 

 

「ーーっ!!?」

 

 

 

 聞くはずのない声だった。

 

 

 

 自分よりも低い、けれど似た声ーー。

 

 

 

 だが、彼はーー。

 

 

 

「人は自分の見てきたものしか知らない。それは仕方のないことだ。君の知るギルが全てではなかった、それだけのことだよ」 

 

 

 

 振り返れば、自分の記憶と寸分たがわない仮面を着けた男が立っていた。

 

 

 

 記憶と違うのは、彼の制服が黒になっていることだろう。

 

 

 

「ら、ラウ……?」

 

 

 

 この時のレイは、生き別れた親を見つけた幼子のようであった。

 

 

 

 普段の泰然とした瞳を大きく見開き、無防備な姿をさらしている。

 

 

 

 頭ではわかっている、ここに死人がいるはずがない。

 

 

 

 だが、彼の『感覚』が理解する。

 

 

 

 目の前の男が『誰』なのかを。

 

 

 

「ラウ、なの……? どう、して……?」

 

 

 

 呆然とそれだけしか、口にできないレイに男ーークルーゼは苦笑する。

 

 

 

「やれやれ。死人であるはずの人間が現れたのだよ? 真っ先に警戒するべきだと言うのに、相変わらず君は心を許した者に弱いな」

 

 

 

 その笑みもしぐさも、自分の記憶の中の者と寸分たがわない。

 

 

 

 彼は、世界に絶望して。

 

 

 

 世界を憎み抜いて。

 

 

 

 人の夢と言われた少年に倒された。

 

 

 

「君も知っているだろうが、私は死んだ。今の私はラウ・ル・クルーゼの全人格と記憶をコピーされたクローンに過ぎない」

 

 

 

「……カーボンヒューマン? でも」

 

 

 

 レイは知っている。

 

 

 

 クローンのほかにカーボンヒューマンと呼ばれる複製を作ることができることも。

 

 

 

 だが違う。

 

 

 

 コピーした写真が徐々に粗くなるように、本来カーボンヒューマンもオリジナルと人格に差異が生じるはずだ。

 

 

 

 だというのに、目の前の男からは何の違和感もない。

 

 

 

 ラウ・ル・クルーゼそのものだった。

 

 

 

「私は作り出されたのだ。議長ーーつまり、ギルバート・デュランダルによってね」

 

 

 

「! 嘘だ、ギルがそんなことをする訳がない!!」

 

 

 

 思わず否定していた。

 

 

 

 レイの頭にも考えは浮かんでいる。

 

 

 

 ここまで完璧に再現できるということは、ラウ・ル・クルーゼを知らなければできないことを。

 

 

 

「ラウ、どうして!? ラウは遺伝子を残さなかったはずだ!! ギルがいくらラウを知っていても、記憶だけでラウを復活させることなんか、できるわけーー!!」

 

 

 

 混乱していた。

 

 

 

 動揺していた。

 

 

 

 するなと言うのが無理なほどに。

 

 

 

「……DG細胞という、とんでもないテクノロジーがあってね。記憶とプロヴィデンスの残骸から『私』を作り上げてくれた」

 

 

 

「……そんな。ギルは、ギルは作られた命の為に、平和な世界をーー!」

 

 

 

 衝撃を受けていた。

 

 

 

 ギルバート・デュランダルは、優しかった。

 

 

 

 自分に優しくしてくれた、ラウ・ル・クルーゼ以外の唯一の人間だった。

 

 

 

 ラウの死を共に悼んでくれたと言うのに。

 

 

 

「作られた者の為に平和な世界を作る。その為に『私』を生み出す。それがギルと言う人間だ」

 

 

 

「……ラウ」

 

 

 

 クルーゼは言いながら、仮面を外した。

 

 

 

 そこには、テロメアが短くて苦しんでいたのが嘘のように整った若い顔の男がいる。

 

 

 

 仮面を着ける前のラウそのものの顔だった。

 

 

 

「レイ、君に忠告をしておこう。ギルを信じるのは、君にとって破滅しかもたらさない、とね」

 

 

 

「どうして、どうしてそんなことを言うの? ギルとラウはーー」

 

 

 

「ああ。友人だとも。お互いに気心の知れた友人だからこそ、私には彼の思考がある程度分かる。彼は私の同類なんだよ、レイ」

 

 

 

 クルーゼの語る意味が分からず、レイは目を見開いて叫ぶ。

 

 

 

「俺とラウも同じだ!!」

 

 

 

「違う」

 

 

 

 はっきりとクルーゼはそれを否定した。

 

 

 

「君は、私やギルとは『違う』。もっとも、ギル自身も気付いていないようだがな」

 

 

 

 苦笑を浮かべるクルーゼに、レイは親に拒絶されたようなショックを受けていた。

 

 

 

 だが、クルーゼは優しく温かに笑う。

 

 

 

「ギルは君を「ラウ・ル・クルーゼ」としか見ていない。だから、気付かないだろうが。あいにくと私にはわかってしまう。君は『ラウ・ル・クルーゼ』には成りえない、とね」  

 

 

 

 その笑顔は、きっと自分にしか向けられたことのない笑顔だった。

 

 

 

 だから、問いかける。

 

 

 

「どうして? どうして、そんなに嬉しそうに言うの? 俺は、ラウになりたいのに!!」

 

 

 

 分かってほしかった。

 

 

 

 自分の気持ちを理解してほしかった。

 

 

 

 なのに、クルーゼは言う。

 

 

 

「人はね、レイ。自分以外の何ものにもなれはしないんだよ。『私』はそれを理解した。そして絶望した。だが、君は違う。君の答えは『私』と同じではないはずだ」

 

 

 

 クルーゼの言葉にレイは首を横に振りながら、涙を流す。

 

 

 

 拒絶された。

 

 

 

 この世界で唯一の自分と同じ存在に、拒絶された。

 

 

 

「やはり私は口下手だな。絶望を口にすることはいくらでもできるが、希望となると口にする単語が思い浮かばない。だが私が今感じている感情は間違いなく『希望』だろう」

 

 

 

 クルーゼは苦笑しながら続ける。

 

 

 

「死んでから『希望』を感じるとは、因果なものだ。私も彼女も」

 

 

 

 言いながら、クルーゼは懐から拳銃を取り出した。

 

 

 

「!? ラウ!?」

 

 

 

 レイにかまわず、クルーゼは自分の背後に向かって銃を構える。

 

 

 

 そこには通路があるだけで誰もいない。

 

 

 

 だが、クルーゼは構えを解かずに言った。

 

 

 

「弾を無駄にしたくない。出てきてくれないかね? こんなものが通じないことは理解している」

 

 

 

 その言葉に、クルーゼの立っている影が横に伸びる。

 

 

 

 それが一人の人影へと変化するのをクルーゼは悠然と見ていた。

 

 

 

「はじめまして、シュバルツ・ブルーダー。私は『ラウ・ル・クルーゼ』を演じるもの。名を『フィルム・ノワール』。見知りおきいただけると幸いだ」

 

 

 

 現れた灰色のコートに覆面を付けた長身の青年を見て、クルーゼことフィルム・ノワールは一礼する。

 

 

 

「……貴様は私と同じ、DG細胞のコピー体か」

 

 

 

 シュバルツは、静かに自分の前に立つ金色の髪の男に問いかける。

 

 

 

 金色の闇を思わせる男ーーフィルム・ノワールはレイに向けていた笑みとは全く違う昏く口元を歪ませる。

 

 

 

「そのとおりだ。ただし、私の場合はオリジナルのラウ・ル・クルーゼが母体だがね」

 

 

 

「……ギルバート・デュランダルは、死人を復活させてまで何をしようというのだ?」

 

 

 

 レイから聞いていた「誰もが平等に暮らせる世界」。

 

 

 

 それを作るために、何をしようとしているのか。

 

 

 

 シュバルツは問いかけた。

 

 

 

「私が話すのは簡単だが、それでは意味がないだろう。真実は君自身の手でつかみ取るものではないかな?」

 

 

 

「……いいだろう。どうせ聞いてもまともには答えてくれまい」

 

 

 

 ノワールの言葉にシュバルツも取り合わずに視線を外す。

 

 

 

 するとフィルム・ノワールは用が済んだとばかりに仮面を着けると、その場を後にしようと元来た通路を歩いていく。

 

 

 

 そうしてシュバルツの隣に来たとき、彼は言った。

 

 

 

「シュバルツ・ブルーダー」

 

 

 

「……なんだ?」

 

 

 

「レイを頼む」

 

 

 

 その口調に先ほどまでの嘲笑したような感じはない。

 

 

 

 ただ、ただ、真剣な低い声音だった。

 

 

 

 シュバルツが横目で彼の顔を盗み見ると、その時にはノワールはいつもどおり本心の分からない笑顔を浮かべて

 

言った。

 

 

 

「では、また会おう。レイ、シュバルツ」

 

 

 

 ロゴスとの開戦まで、後3時間を切っていた。

 

 

 

 シュバルツは静かにレイを見る。

 

 

 

 彼は正に混乱していた。

 

 

 

 無理もない、死んだはずのクルーゼが現れた。

 

 

 

 復活させたのは、作られた命を嘆いたギルバート・デュランダルだ。

 

 

 

 そして、クルーゼに自分は『クルーゼには成りえない』と否定された。

 

 

 

「……レイ」

 

 

 

「シュバルツさん、俺はーー! 俺は、何なんですか?」

 

 

 

 ポツリとつぶやいたレイの言葉にシュバルツは何も言わずに彼を見据える。

 

 

 

「俺は、ギルに「ラウ・ル・クルーゼ」だって言われたんです。だからそうなろうと、必死だった。なのにーー俺にはなれないってーー!!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「ラウは俺にとって、理想でした。俺はラウとギルに育てられたんです。あの二人が俺にとっての世界で、全てでした」

 

 

 

 黙って聞いているシュバルツにレイは話を続けていく。

 

 

 

「だからラウが死んだときに自分もラウだと言われて、うれしかったんです。ギルに信頼されて、ギルに必要とされて、ギルと対等に話しができる。俺にとってラウは目標でした」 

 

 

 

 シュバルツは、そのレイの姿を穏やかな表情で聞いている。

 

 

 

「だから、俺もラウになれると思って必死で努力してきたんです。なのにーー」

 

 

 

 うつむくレイの胸の中は、悲しみとやるせなさでいっぱいだった。

 

 

 

「……レイよ、お前にとって目標とは何だ? 誰かに無理だと言われたら、それで諦めてしまうのか?」

 

 

 

「でも! 俺は……!!」

 

 

 

「レイ。私から見れば、お前はあの男に既に勝っている」

 

 

 

「えーー!?」

 

 

 

 シュバルツの言葉に、レイは思わず目を見開いた。

 

 

 

 シュバルツは腕を組みながら、去っていったフィルム・ノワールの方を見て言う。

 

 

 

「お前には、お前にしか持っていないものがある。それはあの男にとって、最も欲しかったものなのだろう」

 

 

 

「おっしゃってる意味が、よく分かりません」

 

 

 

 自分がラウに勝るものがある?

 

 

 

 そんな馬鹿な。

 

 

 

 そう思っていたレイに、シュバルツは続ける。

 

 

 

「その答えは、お前が自分で見つけるんだ。ただ、これだけは覚えておけ」

 

 

 

 シュバルツはレイに向き直るとその深い瞳でレイの目を見て言った。

 

 

 

「答えは、お前の中にある」

 

 

 

 シュバルツ・ブルーダー

 

 

 

 ラウとギルしかいなかった自分の世界を広げていった男。

 

 

 

 シン、ルナマリア、アスラン、ミネルバ隊。

 

 

 

 スティング。アウル。ステラ。

 

 

 

 彼の言葉に何故か次々と思い浮かぶ人々の顔。

 

 

 

 レイは訳が分からず涙を流した。

 

 

 

「…あ…? なんで?」

 

 

 

 その涙は、先ほどまで流れたものとは違う。

 

 

 

 胸が温かい何かに包まれて、いく。

 

 

 

 この男の腕の中で思い切り泣いた、あの時のように。

 

 

 

「その涙の意味を、いつか私に話してくれ。その時、お前は本当の自分の願いを知るはずだ」

 

 

 

 男の温かい声が、あの時のように胸に満ちていく。

 

 

 

 その温かさは、レイに無限の力を与えてくれるような気がした。

 

 

 

   

 

 

 

  

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 ついに始まったロゴスへの総攻撃。

 ミネルバ隊も死力を尽くして戦いを挑みます。

 そんな中、ベルリンを絶望に染めた神の姿を模した魔神が、一つ目鬼のMSを大量に連れて現れたではありませんか!?

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第68話に!

 レディー、ゴー!!


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第68話 偽善 対 邪悪

 さて、皆さん。
 
 ギルバート・デュランダル議長とロゴスを掌握したウォン・ユンファ、ウルベ・イシカワとの対決がいよいよ始まろうとしています。

 全世界を巻き込んで。

 はたして、シュバルツとシン達は、無事にこの戦いを切り抜くことができるのでしょうか!?

 それでは、ガンダムファイト!!
 
 レディィイイイ!、ゴォオオオオッ!!



 

 ザフト・ジブラルタル基地。

 

 

 

 ジブラルタル海峡に位置する地球連合が正式に認めたザフトの拠点である。

 

 

 

 目と鼻の先にはヘブンズベースと呼ばれる連合の重要拠点がある。

 

 

 

 世界の敵ーーロゴスを討つ。

 

 

 

 一つの目的の為に、ザフトの拠点には反ロゴス派の地球連合軍とザフト軍の混成チームが展開されていた。

 

 

 

 徐々に夜明けが来る。

 

 

 

 朝日に照らされ、闇が晴れていく。

 

 

 

 語弊があった。

 

 

 

 ヘブンズベースという基地の大地は、陽の光が当たっても闇が晴れる事はない。

 

 

 

 いや、その大地を闇が埋め尽くしているというべきか。

 

 

 

「な、なんなんだ? この部隊は!?」

 

 

 

 どちらに属する兵士の言葉かはわからないが、彼らにとってそれは初めて見るMS達。

 

 

 

 一つ目鬼を思い起こさせる黄土色の機械の異形達。

 

 

 

 それが、地面を足の踏み場もないほどに埋めている。

 

 

 

 海面では水色のMS。

 

 

 

 上半身は一つ目鬼のMSと同じだが、下半身が魚の形をしている。

 

 

 

 これがヘブンズベースをグルリととり囲み、無数の赤い目が海面から光を放っている。

 

 

 

 空もまた、巨大な蛾のようなフォルムをしたMAが、緑色の一つ目鬼のMSの胴体部をはめ込んで無数に浮かんでいる。

 

 

 

 ミネルバ以外の人間が知るはずもない。

 

 

 

 死の軍団ーー。

 

 

 

 デスアーミー。デスネービー。デスバーディー。

 

 

 

 陸、海、空、全てを覆い尽くす、絶望の軍団。

 

 

 

 それらを従えるのは数十体の巨大な魔神だ。

 

 

 

 ベルリン街を絶望に染め上げたデストロイガンダムが立ちならんでいる。

 

 

 

 しかし、それらはまるでビデオの早送りの様に金属である表面を溶かしていき、姿を変えていく。

 

 

 

 移植された物質ーーDG細胞によって作り替えられていく機体。

 

 

 

 武神と魔王の顔と胴を模した造りの機体へと変化する。

 

 

 

 死の壁の名を冠する「デス『ガンダム』・ルーク」というMSへと。

 

 

 

 機体の大きさは、ベルリンの街を襲った100メートルを越えるものではない。

 

 

 

 35メートルから40メートルくらいの機体である。

 

 

 

 これは、DG細胞の自己増殖によって大きくなる前、デストロイガンダムの元々の大きさをそのまま変化させたものである。

 

 

 

「機体も見たことのない奴ばかりだが、問題はあの物量だぞ。水平線までビッシリ見えるじゃないか! あの赤い目が!!」

 

 

 

 連合の全兵力を集めても、この物量は超えられないだろう。

 

 

 

 ザフトの全能力をもってしても、これだけのMSとMAを揃えられないだろう。

 

 

 

 死の軍団はデュランダル軍の気勢を、その物量で削いでいた。

 

 

 

 当然、部隊を見たデュランダルも冷や汗を流している。

 

 

 

「これがーーこの物量が、奴等の力か。信じられんことだが、奴等もDG細胞のコアを持っているのか?

 

 いや、それにしても。この量は考えられない。

 

 何よりあの強力なMAを数十機も量産するとはーー!」

 

 

 

 想定していた戦力のおよそ10倍以上の質と量だ。

 

 

 

 信じられないが、ザフト・連合の同盟軍である自軍の戦力が数で劣っている。

 

 

 

『親愛なる地球軍の皆さん、そして物を知らない稚拙な正義を語るコーディネーターの皆さん』

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 前方に巨大な人間を写した立体フォログラムが現れた。

 

 

 

 緑がかった長い髪、サングラスをかけた、濃い茶色のスーツの上にコートを着た男。

 

 

 

『私の名は、ウォン・ユンファと申します。お見知りおきを。さて、皆さんに最後通告をしてあげましょう。我がロゴス軍に降るのならば、命までは奪いません。連合も、もちろんザフトもね』

 

 

 

 その発言はブルーコスモスの盟主たるロード・ジブリールでは考えられない話だった。

 

 

 

 コーディネーターを見下し、異端と見なし全てを排除・抹殺しようとするブルーコスモスの思想からは大きく離れている。

 

 

 

 反ロゴス派の地球連合軍もザフト軍も、胸の中に渦巻く何かを感じる。

 

 

 

 それが意味するものはーー不安だ。

 

 

 

 ただ、不気味な存在が目の前の男。

 

 

 

 理解しがたい何かが、目の前の軍勢だった。

 

 

 

 否、理解したくない者、というべきか。

 

 

 

『賢明な貴方がたならば既にお分かりかとは思いますが、この数を覆すのは至難の業です。どう少なく見ても、あなた方が負ける可能性は高い』

 

 

 

 ざわざわっと軍人達から戸惑いの声が上がる。

 

 

 

 敵の謎のテクノロジーもそうだが、数が尋常ではない。

 

 

 

 これに真正面から挑めば、間違いなく玉砕するのはこちらだ。

 

 

 

『それとも、無駄なことと知りながら無様に挑んで醜態を晒しますか? 彼らのように』

 

 

 

 『デスガンダム・ルーク』のコクピットに乗せられていたのは、見覚えのある男たちだった。

 

 

 

「…あ、ああああ……!」

 

 

 

「た、たすけ……!」

 

 

 

「ジブリーるるるるぅ…!」

 

 

 

 恨めしそうに悲鳴やうめき声を上げながら同じような言葉を呟く。

 

 

 

 見ただけで分かる。

 

 

 

 ロゴスのメンバーと公開されたロード・ジブリール以外の男達だったのだ。

 

 

 

 皆、レジスタンスや暴徒によって捉われたはずの者たちーー。

 

 

 

「ど、どうなってるんだーー?」

 

 

 

 その様を見るや、この場にいる者が全て戦慄した。

 

 

 

 ロゴスメンバーの者たちは見るからに生きていない。

 

 

 

 生きているはずのない傷を負っている。

 

 

 

 顔半分を削られた状態のもの。

 

 

 

 目玉を失くしているもの。

 

 

 

 明らかに死者の顔色をしているもの。

 

 

 

 様々な様相を呈している男達だが、共通しているのはおよそ人間としての生を終えながらも、不自然に紅く輝く瞳と六角形の金属片を首の頸動脈から頬の辺りまでびっしりと文様のように浮かび上がらせていることだ。

 

 

 

 その姿にある者は恐怖に口を覆い。

 

 

 

 ある者は感じる不快感から嘔吐した。

 

 

 

 デュランダルをして、その光景に目を見張った。

 

 

 

「こ、これはーー!! DG細胞か…!?」

 

 

 

 モニターを見て立ち上がり、拳を握りしめるデュランダルにフォログラフの男ーーウォンは笑いかけた。

 

 

 

『そう。貴方たちの指導者ーーデュランダル議長もよくご存じのDG細胞です』

 

 

 

 男の指が鳴らされると同時に、空に浮かび上がるのは巨大なスクリーン。

 

 

 

 海面の水をデスネービーが操作し、水のスクリーンを作っている。

 

 

 

 そこに映し出されたのは、ユニウスセブン。

 

 

 

 落下事件の全容だった。

 

 

 

「…これを今更、何故流す!?」

 

 

 

 デュランダルの問いに応えるようにウォンは嗤う。

 

 

 

 ジン・ハイマニューバⅡ型が、ザクを相手に猛威を奮っている。

 

 

 

『ご覧ください、テロリストの連中のMSを』

 

 

 

 これを流しながら、ウォンは更に告げた。

 

 

 

 場面はロゴス首領ジブリールの放った部隊ーークルセイダーズが、ザフトの謎のMSに倒されていく場面だ。

 

 

 

 全世界に放映されていた二つの映像を流した後。

 

 

 

 左右に並べて比べるように流す。

 

 

 

 ジンがザクを高速ですれ違いざまに刀で切り捨てる。

 

 

 

 ザフトのMS「デスガンダム・ナイト」が連合のウィンダムを高速ですれ違いざまに刀で切り捨てる。

 

 

 

「ーーあ!」

 

 

 

 誰かが、そんな声をつぶやいた。

 

 

 

『よく似ていると思いませんか? この二つの機体の関係が何なのか、知りたくありませんか?』

 

 

 

 厭らしい笑みを浮かべてウォンは兵士達に問いかける。

 

 

 

 連合もザフトも、完全に動きを止めていた。

 

 

 

 まさか……、と。

 

 

 

 ザフトの放った謎のMS「デスガンダム・ナイト」もまた神の名を冠する機体を模していた。

 

 

 

 トリコロールの色に、頭部と胴体がゴッドガンダムの機体。

 

 

 

 しかし、その両腕と両足、更に背部のバーニアの形などは正にジンそのものだった。

 

 

 

『自分たち以外の者がこの力を持っている訳がない。だから、こんな無謀な真似ができたのでしょうね』

 

 

 

 厭らしい笑み。

 

 

 

 そして、彼は言う。

 

 

 

『この機体の名は、『デス(ガンダム)・ナイト』というそうです。私たちの機体はそれに合わせて『デス(ガンダム)ルーク』と名付けています』

 

 

 

 ざわつく人々。

 

 

 

 当然だろう。

 

 

 

 今、見せられた映像がすべてを物語っている。

 

 

 

「つまり、テロを起こしたのはーー!!」

 

 

 

「デュランダル議長!!」

 

 

 

 連合とザフトの兵士達が同時に振り返る。

 

 

 

『…あなた方は、そんな男の為に勝てる確率のない勝負に挑むのですか? その男が嘘つきであることは既に明白ですよ』

 

 

 

 ざわめく兵士達に、一斉通信が入る。

 

 

 

「連合・ザフト同盟軍の皆さん。わたくしは、ラクス・クラインです!」

 

 

 

 その通信に、皆がモニターを確認する。

 

 

 

 そこには一隻の戦艦『レセップス』があった。

 

 

 

 そのブリッジにて、艦長席に座った黒い陣羽織を着たポニーテールの桃色の髪の姫が、黒の軍服に金色の髪の仮面の男を傍らに置いている。

 

 

 

 彼女は凛とした視線でモニターを睨みつけている。

 

 

 

「惑わされてはなりません! ベルリンの街を焼き払ったのは、彼らなのです!!」

 

 

 

 ラクス・クラインは悲痛な顔と声で告げる。

 

 

 

「思い出してください! 親を奪われて涙する幼い子どもの涙を! 子どもを奪われた父親の怒りを! 母親の嘆きを!!」

 

 

 

 真摯な表情で彼女は告げる。

 

 

 

「アレを何度も繰り返さんとするロゴスを決して許してはなりません!! あのような非道な真似をわたくし達は許すわけにはいかないのです!!」

 

 

 

 凛として強い口調が響き渡ると同時に、フォログラフのウォンがサングラスの淵を押し上げながら言った。

 

 

 

『ええ、確かに。ベルリンの街を焼き払ったのは私たち、ロゴスです』

 

 

 

 はっきりと告げる。

 

 

 

 それに連合・ザフトの軍人の目がまた集まる。

 

 

 

『もっと言うなら何を隠そう、私こそがこのデストロイガンダムーーデスガンダム・ルークとデスアーミー達を使ってベルリンの街を焼いた張本人です』

 

 

 

 ウォンの言葉に連合・ザフトを問わず憎しみの視線が殺到する。

 

 

 

『ですがーーそれならば、廃棄コロニーを地球に落とそうとしたテロリストを、極秘に飼っていたあなた方プラントーーいや、ギルバート・デュランダルはどうなのでしょうね?』

 

 

 

「諸君らーーロゴスと一緒にしないでもらおう!!」

 

 

 

 即座に反論したのはギルバート・デュランダルだった。

 

 

 

 指令席から立ちあがり、敢然とウォンに向かって語る。

 

 

 

「彼らは、私たちの呼びかけに応じたのだ!! 必死にユニウスセブンを止めるザフトの勇士達に感銘を受け我々の軍門に降った!! 確かにテロにかかわったメンバーを匿ったことは謝罪する。しかし、罪を認めて謝罪をし罪を償おうと必死に! 己の命を差し出してプラントの為に戦おうと言う彼らを! あなた方ロゴスの慰み者として犠牲に差し出すことは、私にはできなかったのだ!!」

 

 

 

 更にこう続けた。

 

 

 

「仮にユニウスセブンが地球に落下すれば、今回のベルリンの街など比較にならない程の犠牲が出ただろう。だが、それは我らの勇敢なザフトの兵士達が止めた!! 犠牲は出なかった!! 」

 

 

 

 デュランダルは堂々とウォンの目を見据えて言う。

 

 

 

「我々を糾弾したいと言うならば、まずは己の罪を認め贖罪してからにしていただこうか!!」

 

 

 

 これにウォンが拍手をして返す。

 

 

 

『テロリストを更生した、ですか。ご立派な事ですね。私には到底理解できないことだ。疑わしい者は全て排除するのが世の理だと言うのに、わざわざ裏切り者を信じ、首輪も付けずにMSを渡すなどね』

 

 

 

 厭らしい笑みを浮かべるウォンをデュランダルは冷厳とした表情で睨み返す。

 

 

 

『まあ、それは構いません。それよりも兵士の皆さんに、もう一度見せておきましょう』

 

 

 

 言いながら、ウォンは海上に浮かぶスクリーンにデスアーミーの一つを示した。

 

 

 

 コクピットのハッチが開けられ、中から金属の肌を持った骸骨が鎧のような黄土色のパイロットスーツを着て出てくる。

 

 

 

「……な、なんだと?」

 

 

 

 当たり前の反応を返す兵士達にウォンが告げる。

 

 

 

『私は無駄が嫌いな男です。ベルリンの街に行くまでに多くの犠牲を払いました。その犠牲者達がこのまま亡くなるのは無駄ではないか、と考えた私は彼らの遺体にとある細胞を移植しました』

 

 

 

 笑みを浮かべて、ウォンは言う。

 

 

 

『デュランダル議長も良く知る、DG細胞です。テロリストたちの機体を変化させた、ね。この細胞を移植された人間は死してなお、我々の言う通りに動くゾンビ兵へと変化します』

 

 

 

 意味深な視線をデュランダルに向けるウォン。

 

 

 

 それを冷めた目と笑みで返すデュランダル。

 

 

 

『皆さん映画などでご存じでしょうが、ゾンビに殺されたものはゾンビになるのです。稚拙で抽象的な正義の為に死してなお、辱めを受けたい方はどうぞ戦いに参加なさい。我々の力を理解し、投降するという賢明な方はこちらに来なさい。ただの人間の部隊もロゴスにはきちんとあります』

 

 

 

 その言葉と共に、ロゴス側の地球連合艦の一隻が通信を入れてきた。

 

 

 

「お前たち、こっちに来い!! 何故、同じ連合同士で殺し合わなければならないんだ!!」

 

 

 

 その兵士の言葉に揺れ動く地球連合の兵士達。

 

 

 

 彼らとて分かっている。

 

 

 

 卑劣な行為だった。

 

 

 

 罪のない市民を虐殺し、訳の分からない細胞を移植してゾンビにしたて、異形のMSに乗せて利用する。

 

 

 

 許されるはずのない、最低最悪の行為だ。

 

 

 

 敵の戦力と強大な能力。

 

 

 

 そして、恐ろしい事実を淡々と告げる神経。

 

 

 

 正義を取るか、命を取るか、究極の選択を選ばされようとしていた。

 

 

 

「地球連合軍のみなさん」

 

 

 

 その時、ラクス・クラインから声が上がった。  

 

 

 

「彼らの言葉に恐怖し、屈して投降するのならば止めません。どうぞそのようにしてください」

 

 

 

「ラクス! 何を!!」

 

 

 

 ラクスの発言を止めようとするデュランダルにかまわず、彼女は続けた。

 

 

 

「ですが、わたくし達は。わたくしは最後まで戦います。何故ならば、このようなことを見逃すわけにはいかないからです! ここで彼らを見逃せば何度も同じことが繰り返されることでしょう! ですからーー」

 

 

 

 瞳を閉じた後、再び瞳を開く。

 

 

 

「わたくしと共に戦う気高く勇敢な戦士としての誇りをお持ちの皆さん。最後までわたくしと共に戦い、彼らの悪意を止めようではありませんか!!」

 

 

 

 これにザフト軍が拳を突き上げて答えた。

 

 

 

 対して地球連合の者たちもまた、告げる。

 

 

 

「正直に言って、ギルバート・デュランダルのやり方に疑問が生まれた。だが、今この現状でロゴスの奴らを野放しにするわけにはいかない」

 

 

 

「この戦いで勝利を収めた後、納得のいく話を聞かせてもらうぞ! デュランダル議長!!」

 

 

 

 同時に武器をそれぞれ構え出す連合とザフトの同盟軍。

 

 

 

 これにウォンは苦笑を漏らした。

 

 

 

『理想と共に殉ずるか、愚かですね』

 

 

 

 そんなウォンに通信が入る。

 

 

 

 一体のデスルークからだった。

 

 

 

「ウォン、もう良いのではないか? いつまでも茶番に応じていると時間が過ぎていくばかりだ」

 

 

 

 鍛え抜かれた上半身の裸体を晒し、顔半分を鉄仮面で覆った長髪の男がウォンに告げる。

 

 

 

「さっさと全滅させようじゃないか。その後で、ゆっくりと教えてやればよい」

 

 

 

『…仕方ありませんねぇ。では、はじめましょうか? あなた方デュランダル軍にとって最期の戦いをね』

 

 

 

 言うと同時に部隊が展開される。

 

 

 

 これにデュランダル軍も応戦するように展開、先手必勝とばかりに戦艦の主砲が火を噴く。

 

 

 

 狙うのは巨大なMAデスルークの一体だ。

 

 

 

 だが、砲撃は直撃するも、その巨体にダメージを与えることなくあっさりと蹴散らされる。

 

 

 

 それに衝撃を受けながらも、ウィンダムとザク・バビ・グフが戦いを挑んでいく。

 

 

 

 

 

 一方でドックの中に未だいるミネルバは先の両者のやり取りを見てため息をついていた。

 

 

 

 MSカタパルトにデスティニーガンダムを載せたシンはコクピットの中で悪態を吐く。

 

 

 

「どいつもこいつも大概にしろよ。勝っても負けても良いことなしじゃねえか!」

 

 

 

「ホント、何だってこんな戦いに出なきゃいけないのかしらね」

 

 

 

 隣ではルナマリアがコアスプレンダーを予めインパルスにドッキングし、フォースシルエットを装着した状態で告げる。

 

 

 

「ーー片方は人の心を操る正義で、片方は命を弄ぶ悪だ。ふざけんなよ、どっちも!!」

 

 

 

 シンが思わず告げると艦長席からタリアが通信を入れてきた。

 

 

 

「この状況で、貴方達を出撃させなければならないこと自体、歯がゆいわ。ごめんなさいね」

 

 

 

「…気にしないでください。あの化け物の軍勢が相手なら、私たちが出ないとあっという間に負けちゃいますから」 

 

 

 

 ルナマリアが落ち込むタリアに向かってそう言う。

 

 

 

「議長の考えもきな臭いですけど、ベルリンの街を焼いた連中を見逃すわけにはいかないでしょ! 人として!」

 

 

 

 強気に叫ぶルナマリアにシンも頷いた。

 

 

 

「だな。シュバルツさん、艦長! ちょっといいですか?」

 

 

 

 シンの発言にタリアとガンダムシュピーゲルに乗ったシュバルツがこちらを見てくる。

 

 

 

「シュピーゲルは、鏡転同血を使えば機体を変化させた状態で出撃できるんですよね?」

 

 

 

「ん? ああ、そうだが?」

 

 

 

 この言葉にシュバルツが目を見開いた。

 

 

 

「シン、まさかお前はーー!」

 

 

 

「いつまでも、貴方に頼ってばかりじゃいられないんですよ。俺も」

 

 

 

 言いながら、シンは考えた作戦を説明し始める。

 

 

 

「まずシュバルツさんにザク・ウォリアーになってもらって、一般の兵士たちに紛れて敵の本拠地に向かってもらう。俺とレイ、ルナがその間は奴等の主力を引き付ける。当然、シュバルツさんのザクの動きに敵は困惑するだろうし、シュバルツさんだと見抜くだろうけどな」

 

 

 

「シュバルツさんだけが、要注意って感じだったものね。でもーー」

 

 

 

「そうさ、俺が明鏡止水の『境地』ーーハイパーモードになれば、脅威がシュバルツさんだけじゃないって思う」

 

 

 

「ザクの姿をしてもらって無双しても、すぐにザク達に紛れればどれがシュバルツさんかは分からない!」

 

 

 

「そうやって、敵の目を欺いている内にシュバルツさんが生身で敵本拠地に侵入。ロゴスの首領であるジブリール達を捕まえる!!」

 

 

 

「敵全体を相手にするより、よっぽどマシって感じね!!」

 

 

 

 ルナマリアの合いの手を受けながら、シンも説明に熱を込める。

 

 

 

 シュバルツは静かにシンを見返した。

 

 

 

 

 

「危険な任務だぞ? 私と別行動を取り、ウルベ達を相手にするというのだからな?」

 

 

 

「分かってます。でも、キラさんやアウル達がいない。マスターアジアもいない、アークエンジェルもない。おまけにアスランまでいない状況じゃ、手が圧倒的に足りない。おまけに敵の数はベルリンの街以上だ!!」

 

 

 

 シンの発言にシュバルツも目を細める。

 

 

 

「まともに戦っても勝ち目はない。だから私に大将首を落として来い、と言うのだな?」

 

 

 

「シュバルツさんなら、危険だけどできるはずだと信じて立ててみました! どうですか?」

 

 

 

 シュバルツは静かに覆面の奥の表情を微笑ませると、言った。

 

 

 

「お前が言わなければ、私が言おうと思っていた作戦だ。よくぞ一人で考え、導き出した」

 

 

 

「ーーはい!!」

 

 

 

 誇らしげにシンは胸を張り、声を上げた。

 

 

 

 そして、レイを真っ先に見据える。

 

 

 

「この作戦は、ルナとレイ。二人の協力が絶対いる。レイは俺に言いたいことがあると思うけど、今は。今だけは手を貸してくれ!!」

 

 

 

 頭を下げる。

 

 

 

「頼む、レイ!!」

 

 

 

 レイは、モニター越しのシンの言葉に静かに目を向けると言った。

 

 

 

「…俺の方こそ頼む」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 つぶやくようなレイの言葉にシンは顔を上げて目を丸くした。

 

 

 

 そこには覚悟を決めた戦士の顔をした男がいた。

 

 

 

「今回のことではっきりと分かった。ギルを止めなければならない。その為にも、俺はこんなところで死ねない! だから、シン。ルナマリア、手を貸してくれ!!」

 

 

 

 ルナマリアの言葉にシンとルナマリアは互いに顔を見合わせた後、言った。

 

 

 

「……ああ。当たり前だ!!」

 

 

 

「やっと、そういう気になったわけ? ホント、しょうがないんだから」

 

 

 

 二人からの言葉にレイは、心の奥に震えるものを感じて頷いた。

 

 

 

「ーーすまない、二人とも。俺が馬鹿だった」

 

 

 

「後にしようぜ、レイ! 今はあの悪党どもをぶっ倒す方が先決だ!!」

 

 

 

 シンの言葉に、レイは静かに頷いた。

 

 

 

「ああ…! 分かっている」

 

 

 

 その隣でルナマリアがブリッジに向かって叫ぶ。

 

 

 

「艦長! 私ーールナマリア・ホーク! レイ・ザ・バレル! シン・アスカ! これより出撃します!!」

 

 

 

 その言葉にタリアが微笑みながら頷く。

 

 

 

「いつの間にか、逞しくなったわね。貴方達は」

 

 

 

「誇りに思うよ。シン、レイ、ルナマリア。お前たちと共にミネルバに乗れたことを」

 

 

 

 隣でアーサーが頷きながら言った。

 

 

 

 これに三人は力強い微笑みを返す。

 

 

 

「アビー! 発進コールを!!」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

 メイリンの代わりに補充兵としてミネルバの通信兵を行うことになった金髪の前髪がくせ毛の美少女。

 

 

 

 アビー・ウィンザーという。

 

 

 

 慣れないながらも、彼女は言った。

 

 

 

「デスティニー! カタパルト発進どうぞ!!」

 

 

 

 その言葉に、熱き魂を胸に秘めて炎のような赤い瞳の少年が答える。

 

 

 

「シン・アスカ! デスティニーガンダム! 行きます!!」

 

 

 

 絶望ーーその代名詞とも言うべき死の軍団。

 

 

 

 彼は、それに迷うことなく突っ込んでいった。

 

 

 

「シンの奴、張り切ってるわね。次、あたしが行きます!!」

 

 

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 

 

 ルナマリアの名乗りにアビーが頷く。

 

 

 

「インパルス、発進どうぞ!!」

 

 

 

 アビーに向かってウインクするとレイに向けて微笑んでから、ルナマリアは不敵に笑みを浮かべた。

 

 

 

「ルナマリア・ホーク! インパルス! 出るわよ!!」

 

 

 

 彼女もまた、運命の名を冠するガンダムの後に続く。

 

 

 

「最後です、レジェンド! 発進どうぞ!!」

 

 

 

 静かに瞳を閉じながら、レイは思い返す。

 

 

 

ーー 人はね、レイ。自分以外のものにはなれない --

 

 

 

 自分の分身たる人間の言葉。

 

 

 

ーー その涙の意味を理解した時、聞かせてくれ。お前の本当の願いを --

 

 

 

 自分を変えてくれた人間の思い。

 

 

 

 そして、受け入れてくれた仲間。

 

 

 

 守りたいと願う場所ーーミネルバ。

 

 

 

「レイ・ザ・バレル! レジェンド! 発進する!!」 

 

 

 

 鋭い瞳の中に確かに燃える魂の炎。

 

 

 

 レイ・ザ・バレル。

 

 

 

 彼の「伝説」はここから始まるのだった。

 

  

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね~!

 デスティニーガンダムとシン。

 レジェンドガンダムとレイ。

 そして、インパルスガンダムとルナマリアは素晴らしい攻勢を仕掛けます。

 しかし、敵の数は膨大。

 一気に苦境に立たされてしまう彼らの下に駆け付けたのは、彼らと同じ熱い魂を注入された三人でした!
 
 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Detiny 第69話に!

 レディー、ゴー!!



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第69話 悪切り裂くガンダム その名はデスティニー

 ついに始まったヘブンズベース攻略戦。

 はたして、我らがミネルバは、この闘いを勝利することができるのか。

 それでは、ガンダムファイト・ヘブンズベース攻略作戦!!

 レディィィィッ、ゴォォォオオオッ!!


 

 

 絶望の空に、大地に、海に向かって。

 

 

 

 運命の名を冠するガンダムは、光の翼を広げて大剣を抜き放ち、死の軍へ斬りかかった。

 

 

 

「このデスティニーなら、こんなこともできる!!」

 

 

 

 明鏡止水で機体の特性を掴みながら、SEEDで己の感覚を最大限に引き出す。

 

 

 

 光の翼を広げたデスティニーは、残像を残しながら音速を超えて縦横無尽にデスアーミーの大群を切り捨てた。

 

 

 

「シン! 陸上はルナマリアに任せろ!!」

 

 

 

「レイは、海上をお願い!! シンは空を!!」

 

 

 

「了解だ! 陸、海、空、全て斬り伏せてやる!!」

 

 

 

 3機のガンダムは、デスアーミーの大群を紙のように切り捨てていく。

 

 

 

「な、何て奴等だ!」

 

 

 

「あれが、ミネルバか…!」

 

 

 

 デスティニーガンダムの動きはその中でも特筆すべきものであり、戦場そのものを一瞬で横断する程だった。

 

 

 

 背中の大剣ーーアロンダイトを抜き放てば、一気に数十体のMSの胴を薙ぎ。

 

 

 

 背中のロングライフルを構えて撃てば一直線上に並んだ敵を全て水平線の彼方まで爆発させる。

 

 

 

 そしてーー

 

 

 

「いくぞ、見様見真似! 我が心、明鏡止水。されどこの掌は、閃光の煌きなり!!」

 

 

 

 シンが目をつむりながら右掌に気を集中させる。

 

 

 

 同時にデスティニーガンダムの右手が青白い光を放ちだす。

 

 

 

 ビーム砲の原理で実装されたその兵器は、本来は液体金属であるフィンガーとは違う原理の技。

 

 

 

 だがーーーー!

 

 

 

 無茶な道理を通すのが、明鏡止水の「境地」だ。

 

 

 

「くらぇええええええっ!!!」

 

 

 

 デスティニーガンダムの右手にある青白い光の球は、ガンダムの頭程度の大きさになって放たれた。

 

 

 

「「「「「----っ!!?」」」」

 

 

 

 一瞬後、光の爆発が起こり触れたもの全てを消し飛ばす。

 

 

 

「できた!!」

 

 

 

 あっという間にデスティニーガンダムは百の敵を葬ったのだ。

 

 

 

 これを間近で見た連合・ザフトの兵士たちは、あまりの威力に凍っていた。

 

 

 

「な、何だ? あの戦術兵器は?」

 

 

 

「し、信じられん威力だぞ…!」

 

 

 

 葬り去った事実など、シンの頭にはない。

 

 

 

 この戦いは、百や二百を葬ったくらいで終わらない。

 

 

 

「シュバルツさんが、敵の本拠地に乗り込み大将首を獲るまで気は抜けない!!」

 

 

 

 明鏡止水を維持しながら、シンはデスティニーガンダムに最大稼働を強いる。

 

 

 

 もともとの出力が違うためか、デスティニーガンダムは初陣でもシンの要求に応えてくれる。

 

 

 

 だが、やはり「境地」--黄金のハイパーモードにはなれない。

 

 

 

 機体特性をそこまで把握していないのだ、これは仕方のないことだろう。

 

 

 

 

 

 このシンの活躍を見て、デュランダルはほくそ笑んだ。

 

 

 

「素晴らしい。これほどのものかーー! 彼ならば、ガンダムファイターにも届く!! やはり、SEEDの因子か!!」

 

 

 

 笑みを強めるデュランダルに通信が入った。

 

 

 

「いいえ。これは彼の心の強さですわ」

 

 

 

「ーーなに?」

 

 

 

 モニター越しに現れたのは、ラクス・クラインそのものの少女。

 

 

 

「あの力の前にはSEEDも、きっかけに過ぎません。心の力、己を信じ抜くことができた者だけが、あの強さを得ることができるのです」

 

 

 

「…私や君には、難しい境地だな? ギル」

 

 

 

 ラクス・クラインの隣にいる仮面の男の苦笑を受け、デュランダルも笑う。

 

 

 

「なるほど。だが、私は己のやることを信じている。信じ抜くことが力となると言うのならば、私にもできるのではないだろうか?」

 

 

 

「やれやれ。キングはまだ大人しくしていてくれ。まずはビショップから出ようじゃないか。ルークは取られてしまったからね」

 

 

 

 言いながら、仮面ーークルーゼは嗤う。

 

 

 

「久しぶりに私も出よう」

 

 

 

「すまないね、ラウ。気をつけてくれたまえ」

 

 

 

「分かっているさ、ギル」

 

 

 

 そう言い合うと、クルーゼはラクス・クラインを見据えた。

 

 

 

「では、行ってくるよ。ファム」

 

 

 

「行ってらっしゃい、フィルム」

 

 

 

 互いに意味深な笑みを浮かべて述べ合うと、クルーゼは格納庫に向かった。

 

 

 

 既に一人の男が待機している。

 

 

 

「遅かったですね。クルーゼ隊長」

 

 

 

「待たせてしまって申し訳ないな、ヴェステンフルス隊長」

 

 

 

 オレンジ色の髪をした赤服を纏った明るい男。

 

 

 

 名をハイネ・ヴェステンフルス。

 

 

 

 オレンジカラーを専用色とした、優秀なザフトの兵士だった。

 

 

 

 他に彼と同じ髪型と背格好でサングラスをかけた赤服の男が5名いる。

 

 

 

「よろしく頼むよ、ナイト君」

 

 

 

「ビショップ殿、援護をお願いします」

 

 

 

 互いにそう述べ合うだけの余裕がある。

 

 

 

 ハイネと他の5人は、待機しているMSに乗り込む。

 

 

 

 そこにあったのは、デスガンダム・ナイトと呼ばれる機体だった。

 

 

 

 形はジン・ハイマニューバⅡ型と同じだが、出力はウィンダムのジェットストライカーエンジンを吸収したことで最新鋭のグフすらも上回る程に進化している。

 

 

 

 もう一つの違いは、ハイネ機のみ青色の部分をオレンジにしていること。

 

 

 

 ビームライフルではなく、片手携行式のビームガトリングガンであること。

 

 

 

 左手のシールドにヒートロッドを取り付けていること、だろうか。

 

 

 

 そしてクルーゼが乗り込むのは、かつてのプロヴィデンスガンダムをDG細胞によって変化させた機体。

 

 

 

 他のザフト製のデスガンダムと同じく、頭と胴体と機体全身の色をゴッドガンダムにしただけで、他は変わっていない。

 

 

 

 両腕、両足、バックパック。

 

 

 

 全てプロヴィデンスガンダムのものだ。

 

 

 

 

 

「デスナイト・ハイネ隊。発進どうぞ!」

 

 

 

 ラクス・クラインの声で、アナウンスが告げられる。

 

 

 

「ハイネ・ヴェステンフルス! デスナイト、出るぞ!!」

 

 

 

 次々と飛び立つ。

 

 

 

 前縁部が紅く、羽の部分が白い機体は、青白いバーニアの火を吹き上がらせる。

 

 

 

 

 

「デスビショップ、発進どうぞ!」

 

 

 

 その声を聴いて、クルーゼは笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

「フィルム・ノワール! デスビショップ! 出るぞ!!」

 

 

 

 飛び立つのは摂理の力を持った死の監督だった。

 

 

 

 

 

 一方でシュバルツもまた、シュピーゲルをザクに変化させた状態で無双していた。

 

 

 

「…借りるぞ」

 

 

 

 ヘブンズベースの地面にまで一般のザク部隊と共に到着すると、彼は倒されていたグフからテンペストソードを取り、それで敵機を切り刻んでいく。

 

 

 

 金棒を振り上げるデスアーミーを一振りで4、5機纏めて切り捨てる。

 

 

 

 それを数回繰り返したのち、叫んだ。

 

 

 

「邪魔だ! シュトゥルム・ウント・ドランクウウウウ!!」

 

 

 

 疾風怒濤にして暴風雨の剣を持った彼の機体は、正に竜巻と呼んで差し障り無い。

 

 

 

 地形を削り、天高く現れた竜巻に飲まれていく敵軍。

 

 

 

 傍で見ていたザクのパイロット達は唖然としていた。

 

 

 

 ルナマリアのインパルスガンダムが、そのザクの隣に現れた。

 

 

 

「シュバルツさん、やり過ぎです! 目立ち過ぎ!!」

 

 

 

「…しかし、お前たちの負担が」

 

 

 

 言おうとするシュバルツをルナマリアが目で制する。

 

 

 

「信じてくださいよ、あたし達を」

 

 

 

「…すまん」

 

 

 

 頭を下げ、シュバルツはザクの一般部隊に紛れ込んだ。

 

 

 

「さ、大口叩いた分は、きっちりと責任取らなくちゃ!!」

 

 

 

 デスアーミーの大群を見ながら、ルナマリアは言う。

 

 

 

 右手にはビームライフルの代わりにオルトロスを装備していた。

 

 

 

「ザクみたいにジェネレータに直結してもらってる分やり易いわ。行くわよ、インパルス!!」

 

 

 

 両手持ちでロングライフルを構えて放つ。

 

 

 

 本来、この攻撃はインパルスの出力ではできない。

 

 

 

 すぐにエネルギー切れを起こしてしまうからだ。

 

 

 

 だが、明鏡止水を使うルナマリアが使えば、無理も通る道理となる。

 

 

 

 赤いビームは先のデスティニーと同様に直線上の敵を蹴散らしていく。

 

 

 

 だが、吹き飛ばした矢先に左右から開いた地面に殺到して、踏み場を埋め尽くしていくデスアーミー達。 

 

 

 

「ったく、相も変わらず」

 

 

 

 うんざりするとばかりに、嫌がるルナマリア。

 

 

 

 海上、上空でもレイとシンが同じようなことに陥っていた。

 

 

 

 シンの力を持ってしても、デスルークにたどり着くことすらできていない。

 

 

 

「嫌な位置に敵を配置してるのも、気になるわね」

 

 

 

 圧倒的な物量に目が行きがちだが、ヘブンズベースにたどり着くための港には必ず上ランクの四本足でロングライフを持ったデスビースト達が配備されている。

 

 

 

 迂闊に攻められないこの戦域。

 

 

 

 しかし、痺れをきらした別動隊のザクやウィンダムがデスアーミー達を無視して本陣に切り込もうと突っ込む。

 

 

 

「! バカ、敵の戦力も削れてないのに! 無謀よ!!」

 

 

 

 瞬く間に撃ち落とされるザクとウィンダム達。

 

 

 

 墜落した地面では緑色のコードが現れて、彼らの機体を蹂躙していった。

 

 

 

 すぐに立ち上がってくるMS達。

 

 

 

 だが、彼らは既に人ではなかった。

 

 

 

「う…! うぅう…!!」

 

 

 

 うめき声を上げながら、ザクやウィンダムが味方であったものを攻撃し始める。

 

 

 

 先ほどまで味方だったものからの攻撃に、流石の兵士たちもすぐに反撃できずに落とされる。

 

 

 

 そして、海上に落ちた機体もまたーー不死の軍に入ることとなる。

 

 

 

 予め、言われていたことではあった。

 

 

 

 だが、現実に目の前で落とされた味方が作り変えられていく光景に恐怖しない者がはたしているだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 この光景に、思わず指令席を立ち上がってデュランダルが叫んだ。

 

 

 

「なんということだ! 撃破された者をそのまま、支配下にするだと!?」

 

 

 

 デュランダルの言葉に、フォログラフの男が応じる。

 

 

 

『言いませんでしたか? 貴方達に残されている道は、全滅という苦痛の死だけです』

 

 

 

「どこまで卑劣なんだ、貴様らは!!」

 

 

 

 本気で怒りを露わにするデュランダルを見据え、ウォンは冷たい笑みを浮かべる。

 

 

 

『支配者ともあろうものが、この程度の戦況で一々感情を露わにするなど。滑稽ですよ、デュランダル』

 

 

 

「貴様らだって、人間だったのだろう!? なのに、殺すだけで飽き足らず、その命と体を蹂躙して先兵にするなど許されることではない!!」

 

 

 

『下等な人間どもと一緒にしないでいただきたい。我々はDG細胞によって生まれ変わった上位種だ。君たち、コーディネーターやナチュラルなどと言う選民思想に似たようなものだよ』

 

 

 

「ふざけるな!! 私は、その思想を排除するためにここにいるのだ!!!」

 

 

 

 怒鳴りつけるデュランダルにウォンは厭らしい笑みを浮かべる。

 

 

 

『ならば、やってみるがいい。そして思い知りなさい。己の無能と無力さをね』

 

 

 

 ウォンの言葉と同時に居並ぶデスルークの胸のカバーが数体開き、その胸の前に青紫に禍々しく光る球を作り出した。

 

 

 

『デスアーミー達だけでも充分なようですが、こういうのはいかがです? 陽電子縮退砲、発射!!』

 

 

 

 放たれたのは、青と赤の光を放ちながら全てを蹂躙する砲撃。

 

 

 

 光の線は海上の潜水艦。

 

 

 

 空中の戦艦を全て飲み込んだ。

 

 

 

 一瞬でシンやルナ、レイが倒したMS以上の数のザクとウィンダムそして戦艦が落とされた。

 

 

 

「ば、バカな…! これほどのものだというのか…!!」

 

 

 

 測定した威力のほどは、ミネルバの陽電子砲『タンホイザー』の倍近い。

 

 

 

 戦力差は明らかだった。

 

 

 

 敵は倒しても倒しても、その分だけ湧いて出てくる。

 

 

 

 おまけにこちらのMSは倒されれば、敵の一員にされる。

 

 

 

 これでは、どれだけ強力な部隊を持ってしてもヘブンズベースを攻略するなど不可能だ。

 

 

 

「こんな…! こんな奴らがいるというのか…!!」

 

 

 

 デュランダルをして、予想外の相手だった。

 

 

 

 悪を望んだのは事実だ。

 

 

 

 世界を一纏めにするためには、悪が必要だ。

 

 

 

 未来世紀ーー異世界のガンダム達も、強力な敵デビルガンダムを倒すために一丸となった。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、これほどとは思っていなかったのだ。

 

 

 

 ジブリールやロゴス、ブルーコスモスなど比ではない。

 

 

 

 これは、正真正銘の『悪』そのものではないか。

 

 

 

 目の前の軍勢とそれを操る男を見ながらデュランダルは戦慄していた。

 

 

 

 恐怖していた。

 

 

 

 自分の理解が及ばないとてつもない存在に。

 

 

 

 DG細胞を得た自分にすら、想像できない恐怖だった。

 

 

 

 欲望が恐ろしいことは、この世界でも同じだ。

 

 

 

 だが、桁が違う。

 

 

 

 これほどまでに純粋な悪意の塊を、デュランダルは知らなかった。

 

 

 

 

 

 デュランダルの士気に影響したのか?

 

 

 

 軍勢はヘブンズベースから後退を始めていた。

 

 

 

 未だ前線を維持しているのは、シンとレイ、ルナマリアだけだ。

 

 

 

 他の兵士たちは、恐怖からか?

 

 

 

 本能からか?

 

 

 

 戦闘宙域を離れようとしている。

 

 

 

 そこへーー。

 

 

 

『陽電子縮退砲、発射!』

 

 

 

 チョコレートを一つつまみながら、片手間に指示するウォン。

 

 

 

 そうして、また3部隊がまとめて消されていった。

 

 

 

『ふむ。つまらないですね。闘う気がなくなりましたか? デュランダル軍?』

 

 

 

 未だ抵抗を続ける三機のガンダムを見下ろしながら、ウォンはデュランダルに語り掛ける。

 

 

 

「……く!」

 

 

 

 歯を食いしばるデュランダルにウォンは嗤いかけた。

 

 

 

『分かりましたか? ものを知らない子どもの夢であるとね』

 

 

 

「ーーそして、夢も終わりだぁあああ!!」

 

 

 

 ウルベがその後を継ぎながら、自身のデスルークに陽電子縮退砲を構えさせる。

 

 

 

 光の球を両腕で抱えるようにして構え、前方にただ突き出すだけで発射される強力無比な一撃。

 

 

 

 防ぐ術は、ない。

 

 

 

「……まさか!!」

 

 

 

 デュランダルが気付いた時には、既にウルベが笑みを浮かべていた。

 

 

 

「そのちっぽけな基地ごと。島ごと消し飛ぶがいいーー。デュランダルゥウウウウウ!!」

 

 

 

 放たれた光は、全てを飲み込んで行く。

 

 

 

 これまでの一撃の比ではない。

 

 

 

 それもそのはずだった。

 

 

 

 ウルベはガンダムファイターでもある。

 

 

 

 エネルギーマルチプライヤーと呼ばれる胸のクリスタルを模しているデスルークに気を送ることなど容易い。

 

 

 

 気と陽電子。

 

 

 

 その二つの異なるエネルギーを圧縮して放つ、正に縮退砲である。

 

 

 

「まずい! ミネルバが!!」

 

 

 

「ジブラルタル基地ごと、消し飛ばすつもり!?」

 

 

 

「ギル! ミネルバァアアアア!!」

 

 

 

 光に気付いた三機であったが、既に遅い。

 

 

 

 放たれた一撃は全てを消していく。

 

 

 

 その時、シンの頭の中にはベルリンの街での光景が思い浮かんだ。

 

 

 

「くっそぉおおおお! マスターアジア!! 俺達を、助けろぉおおおおおお!!!!」

 

 

 

 絶叫するシン。

 

 

 

 その時、緑と青、桃の光の球がジブラルタル基地の前の海域に現れる。

 

 

 

「行くぞ、アウル! ステラ!」

 

 

 

「OK! スティング!!」

 

 

 

「うん、行こう!!」

 

 

 

 聞きなれた三人の声に、シンが目を見開く。

 

 

 

「今のってまさか…!!」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 三体の機影が宙に浮かぶ。

 

 

 

 それはMSに似て非なる存在。

 

 

 

 

 

「スティング・オークレー! クーロンガンダム!!」

 

 

 

 釣鐘のような鎧を着こんだ風体のガンダムが、右手を拳にして腰に置き、左手を開いて前に突き出す。

 

 

 

 

 

「アウル・ニーダ! ヤマトガンダム!!」

 

 

 

 左手を顔の横に構え、右手を腰に置く。白を基調としたトリコロールのガンダム。

 

 

 

 

 

「ステラ・ルーシェ! シャッフルハート!!」

 

 

 

 両の手を開いて空に向け、左手を前に。右手を顔の横に持ってきて片足で構えるハートを模したガンダム。

 

 

 

 彼ら三人は、同時に吠えた。

 

 

 

「「「我ら! 流派、東方不敗!!」」」

 

 

 

 迫りくる光の一撃に三体のガンダムは紫に輝く右手を開いた。

 

 

 

「「「ダァアアアクネスフィィンガァアアアア!!!」」」

 

 

 

 三体の右手が同時に突き出され、光の壁が生じる。

 

 

 

 それと青い光線がぶつかった。

 

 

 

 爆発。

 

 

 

 衝撃。

 

 

 

 爆音。

 

 

 

 そして水蒸気。

 

 

 

 それらがあたり一面を見えなくした後、ゆっくりと水蒸気と煙は晴れた。

 

 

 

 そこに威風堂々とした三体のガンダムが、紫色の気の壁を作り、攻撃を防ぎきっていた。

 

 

 

「…!! なに?」

 

 

 

 ウルベが忌々しそうに表情を歪ませる。

 

 

 

 同時にシンの表情が晴れやかなものになった。

 

 

 

「お前ら!!」

 

 

 

 レイが思わずと言った表情で告げる。

 

 

 

「何故、ここに!?」

 

 

 

 これにスティングが不敵な笑みを浮かべ、アウルが好戦的な笑みを返す。

 

 

 

「お前らだけじゃ、話にならないだろ?」

 

 

 

「僕達を仲間外れにすんなよ。ステラの借りを返してないからなぁ!!」

 

 

 

 ステラが微笑みながらシンに語り掛ける。

 

 

 

「シン。レイ。ルナ。ステラ達も闘うよ」

 

 

 

 ルナマリアが思わず顔を伏せながら言う。

 

 

 

「馬鹿じゃないの、あんた達。こんなーーこんなーー!!」

 

 

 

 声を震わせる。

 

 

 

 言葉にならない。

 

 

 

 そんな彼女に三人の少年少女は笑った。

 

 

 

「ああ」

 

 

 

「そうだね」

 

 

 

「大馬鹿野郎だ」

 

 

 

 まったく気負いのない、まるで近所に出かけるかのような三人の雰囲気にシンは心から感謝した。

 

 

 

「シン! 仕掛けるなら今だ!!」

 

 

 

「みんなが来てくれたんだもの、負ける気がしないわ!!」

 

 

 

 レイとルナの言葉にシンも頷く。

 

 

 

「よぉおおおおおしっ!!」

 

 

 

 デスティニーガンダムが、主の気持ちを汲んだのかその両の目を発光させる。

 

 

 

 並び立つ6機のガンダム。

 

 

 

 

 

 

 

「この力に気の輝き。それにその機体。なるほど、マスターアジアの弟子たちか。ミネルバのガンダム達も中々のものだったが、君たちも我々の手ごまになりに来てくれたわけだ」

 

 

 

 冷酷な笑みを浮かべて告げるウルベにスティングが言った。

 

 

 

「うるさい!!」

 

 

 

「なにーー?」

 

 

 

 不快気に目を細めるウルベにアウルが怒りを込めて言う。

 

 

 

「お前は死ねよ」

 

 

 

「お前だけは、私が落とす!!」

 

 

 

 普段穏やかなステラも、すさまじい怒りを目から発していた。

 

 

 

「なるほど。さしずめ君たち6人は世界の希望を背負った勇者ご一行で、私はそれを迎え撃つ魔王といったところかな」

 

 

 

 これにウルベは余裕を持って返す。

 

 

 

「今の内に笑っているんだな」

 

 

 

 レイが冷たい目で声で告げる。

 

 

 

「そうやって見下して、バカにしてればいいわ」

 

 

 

 ルナマリアが、不敵につげる。

 

 

 

 そしてーー。

 

 

 

「お前がほくそ笑んでる間に、俺たちはお前より強くなる。見てろよ。その笑いを、俺たちが止めてやる…!!」

 

 

 

 燃える赤い瞳で、シンが告げた。

 

 

 

 これに冷酷な笑みでウルベは返す。

 

 

 

「ならば来たまえ。私が相手をしてあげよう」

 

 

 

 両の腕を広げて、打ってこいと手招くウルベ。

 

 

 

 周りのデスアーミー達は、闘場を作るように円を描いて止まる。

 

 

 

 これにルナマリア、レイ、スティング、アウル、ステラが答えた。

 

 

 

ーー「「「「「ガンダムファイトォォオオオッ!!!!!」」」」」ーー

 

 

 

 シンのデスティニーガンダムが光の翼を広げて大剣を正眼に構える。

 

 

 

「レディィィィッ!!」

 

 

 

 空気が張り詰めて、はじけた。

 

 

 

ーー『ゴォォォオオオッ!!!!!!』ーー

 

 

 

 同時に並び立った6機のガンダムが、巨大な壁に向かって突っ込んだ。

 

 

 

「ならば来い! 異世界のガンダムとそのパイロット。いや、ガンダムファイター共!!」

 

 

 

 ウルベも真っ向から迎え撃つ。

 

 

 

 巨大な足に向かって挑みかかるのは、ビームクロスを薙刀にして振り回すクーロンガンダムとシャッフルハートだ。

 

 

 

「くらえ!」

 

 

 

「もらった!」

 

 

 

 両の足に向かって、斬りつける。

 

 

 

「甘いな、諸君」

 

 

 

 紙一重でバックステップされて避けられる。

 

 

 

「外さない!」

 

 

 

「着地点なら、どう!?」

 

 

 

 着地点にレジェンドのバックパックからの多重ビーム砲とインパルスの特設オルトロスが放たれる。

 

 

 

「狙いは良いが、無駄だ」

 

 

 

 片足を上げて着地と同時に空を蹴り払う。

 

 

 

 その蹴りの放った圧力で、ビーム砲がかき消された。

 

 

 

「だったら!!」

 

 

 

「フィンガーなら、どうだ!!」

 

 

 

 足をルークが戻すと同時に、左右に飛び上がったデスティニーとヤマトガンダム。

 

 

 

 二機は、それぞれの右手を光らせている。

 

 

 

「灼熱、サンシャインフィンガー!!!」

 

 

 

「これで、決まりだぁあああ!!!」

 

 

 

 左右からの同時攻撃は、ルークの顔面に放たれた。だが。

 

 

 

 二機の指が頭部に触れそうになる直前で動きが止まる。

 

 

 

「な、何だと? この巨体でこいつ」

 

 

 

「このスピードを見切るのか?」

 

 

 

 2人の手首の辺りを巨大な手が掴み止めていた。

 

 

 

「攻め方は悪くないが、その程度の動きでは私に触れることはーー!」

 

 

 

 上に放り投げられると同時に、デスルークが右手を地面に付けて逆立ちし、デスティニーとヤマトガンダムを蹴り飛ばした。

 

 

 

「ーーできん!!!」

 

 

 

 凄まじい蹴りを受けながら、二機は宙で反転して地面に着地する。

 

 

 

「やろう、マジで強い」

 

 

 

「ああ。シュバルツが一瞬で倒したから分かんなかったけど、僕ら6人相手に隙がない」

 

 

 

 シンとアウルが目の前の男を評すると、彼は冷酷な笑みのまま、言ってきた。

 

 

 

「異世界の君たちは知らないだろうが、私もガンダムファイターでね。君たちの師匠ほどではないが、そこそこ強かったのだよ」

 

 

 

 肩をすくめ、おちゃらけて言うが、その実は全く笑っていない。

 

 

 

 冷酷にして不気味な笑みを浮かべるウルベにシン達が気圧されていると、変化は起こった。

 

 

 

 強烈な気を感じて、シン達もウルベも手が止まったのだ。

 

 

 

 気の出所に気づいたのは、ウルベだった。

 

 

 

「ーーこの気、デビルガンダムか!?」

 

 

 

 ウルベが上空を睨みつけた時、一隻のザフト艦レセップスが現れた。

 

 

 

「者共、よぉく聞けぃっ!! ワシらこそ、人類の真の敵!! デビルガンダム軍団よ!!!」

 

 

 

 聞き覚えのある男の声に、シンが目を見開く。

 

 

 

「東方不敗、マスターアジア!?」

 

 

 

「「「ーー師匠!?」」」

 

 

 

 隣でアウルやステラ達が、彼の名を呼ぶ。

 

 

 

 レセップスの甲板の上で腕を組む機体があった。

 

 

 

 すると、巨大なツノと赤い翼を広げた黒いガンダムの持ち主は、ニヤリと笑って告げた。

 

 

 

「そう! ワシの名は! デビルガンダム四天王が頭、東方不敗マスターアジア!!」

 

 

 

 続いて、イギリス紳士のハットにコートと軍服を合わせたような機体の持ち主が、ライフル片手に名乗りを上げる。

 

 

 

「ーー獅子王争覇、ジェントル・チャップマン」

 

 

 

 その2人の前に不機嫌そうに赤い髪をトサカに立てた、鷹のような顔の男が告げた。

 

 

 

「天剣絶刀、ミケロ・チャリオット!!」

 

 

 

 3人が名乗りを上げた後、マスターガンダムが頭上を指し示す。

 

 

 

「ーーそして、我らが王のお出ましだ!!」

 

 

 

 通常のMFよりも大きい20メートルを越えた巨躯。

 

 

 

 ゴッドガンダムの顔と体に、マスターガンダムの腕と羽の形をした、悪魔のガンダム。

 

 

 

「天地魔王、我が名はーーデビルガンダム!!」

 

 

 

 運命と伝説の名を冠する機体は、魔王とその眷属の機体を呆然と見上げていた。

 

 

 

「デビルガンダムに、マスターアジアだと!?」

 

 

 

『チャップマンにミケロまで。私達を裏切るのですか?』

 

 

 

 問いかけるウォンにミケロは睨みつけた。

 

 

 

「吐かせよ。てめえ等に利用価値がねえだけだ」

 

 

 

 これに隣のチャップマンとマスターアジアが続いて述べる。

 

 

 

「こちらの方が性に合う。それだけだ」

 

 

 

「人類の真の敵、それがワシらであると示す為にも邪魔な貴様らには真っ先に消えて貰おう。ウォン、ウルベ!!」

 

 

 

 吠えつけるマスターアジアに、ウルベが舌打ちを返す。

 

 

 

「あまり、調子に乗らんでいただきたいものだな。東方不敗」

 

 

 

 構えを取るウルベ。

 

 

 

 だがーー。

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

 ウルベの目の前に、魔王の翼を広げたガンダムがいた。

 

 

 

 難なく、デスルークのマルチプライヤーを右手で貫き、そのまま片手で持ち上げると、右手を青紫に燃えさせる。

 

 

 

「我のこの手が陰りて嗤う。すべてを屠れと高まり狂う!! 暴ぅうううう裂!! デビィイル!! フィンガァアアアアアア!!」

 

 

 

「ーーなんだぁあああっ!??」

 

 

 

 そのまま、跡形もなく巨躯を消し飛ばす。

 

 

 

 あっと言う間のことだった。

 

 

 

「ーー我が眼前に立ちはだかる者よ、身の程を知れ」

 

 

 

 デビルガンダムーーDがヘブンズベースに殴り込みをかけたのだった。 

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 人類の敵であると語るマスターアジア。

 言いながらも彼らは、率先してヘブンズベースのウォンとウルベを追い詰めて行きます。

 果たして、彼らの目的は?

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第70話に!

 レディー、ゴー!!


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第70話 シュバルツの危機 笑うウォン

 皆さん。

 究極の数を相手にするシン達とスティング達。

 そこに乱入したのは、未来世紀でドモン・カッシュ率いるシャッフル同盟と戦ったデビルガンダム四天王だったのです。

 果たしてシン達は、この戦いをどう切り抜けるのか?

 それでは、ガンダムファイト!

 レディィィィッ、ゴォォォオオオッ!!





 強大な爆発と共に、凶悪な力を誇っていた魔神は消えていった。

 

 

 

 その前に立つのは、紅い翼の紅いボディのトリコロール。

 

 

 

 白を基調とした20メートルを優に超えるガンダムであった。 

 

 

 

 そのガンダムのファイターたる紅い髪の青年は、静かに。

 

 

 

 燃えていくデスルークの残骸を踏み潰すと、目の前に広がるデスアーミーに向かって紅の目を向けた。

 

 

 

「我が子。デスアーミー達よ、我に歯向かうか?」

 

 

 

 気負いも何もない。

 

 

 

 それは質問ですらない。

 

 

 

 ただの確認だ。

 

 

 

 だが、その何気ない言葉にどれだけの殺意が込められたのであろうか?

 

 

 

 言葉を向けられた訳でもないのに、シン達は心臓を握りこまれたかのような重圧を感じた。

 

 

 

 しかし、悲しいかな。それとも幸せかな。

 

 

 

 怒りも悲しみも、恐怖すらも感じないデスアーミー達は静かに銃を、武器を親であるデビルガンダムーーDに向けて構える。

 

 

 

「そうか。ならば、失せろ」

 

 

 

 デビルガンダムの右手が蒼く燃え上がる。

 

 

 

 そのまま、右手を前方にかざすと。

 

 

 

 強烈な光を放った。

 

 

 

 地響きが辺りに鳴り、地面が揺れる。

 

 

 

 強大な光の一撃に、着弾した地面は爆発し、無数のデスアーミー、ネービー、バーディーを消し飛ばした。

 

 

 

 デビルガンダムは、前方にかざされた蒼く燃える右手をそのままに、ゆっくりと敵本拠地に顔をむけた。

 

 

 

 体をそちらに向け、歩いていく。

 

 

 

「ーーな、何てめちゃくちゃなパワーだ」

 

 

 

 思わず、シンがそう言うとマスターアジアから檄が飛んだ。

 

 

 

「馬鹿者! 感心しておらんで、やるべきことをせんか! この未熟者!」

 

 

 

「ーーって言っても」

 

 

 

 次々と基地の施設ごと消していくデビルガンダムに、シンは冷や汗を流した。

 

 

 

「さすがに、アレについて行くのはちょっとーー!」

 

 

 

「ふふ、背を追おうとする心意気は良いが。ヤツに付いて行くのは、貴様にはまだ無理だ。それは恥ではない」

 

 

 

 予想外のことでマスターアジアに認められ、戸惑うシンは問いかけた。

 

 

 

「なら、どうしろって?」

 

 

 

「シュバルツが、この場におらんということは貴様らは陽動であろう? 陽動ならばもっと派手に動かんか」

 

 

 

「派手にーー? あ!」

 

 

 

 目の前で暴れ回る魔王を名乗る機体を見てシンも得心した。

 

 

 

「なるほど、要は暴れ回るってことか!!」

 

 

 

「左様! だが、気をぬくな? 敵は待ってはくれぬぞ?」

 

 

 

 言いながらもマスターガンダムが右手を紫に燃やし、前方に向かって放った。

 

 

 

「ダァァアクネス、フィンガァアアアッ!!」

 

 

 

 エネルギーの渦が光となり、全てを飲み込む。

 

 

 

 その威力に目を見張る6人。

 

 

 

 そのうちの三人ーー己の弟子に向かってマスターアジアは笑いかけた。

 

 

 

「我が弟子たちよ、ワシの技を見取りさらなる成長を遂げてみせい!!」

 

 

 

「「「はい、師匠!!!」」」

 

 

 

 

 

 マスターガンダムは、本拠地に向かってゆっくりと歩み去るデビルガンダムを見送る。

 

 

 

 彼は、邪魔をする者を本当に片っ端からその右手の光で消していく。

 

 

 

 その様を確認すると、ジョンブルガンダムとネロスガンダムをふりかえって見据えた。

 

 

 

「では、わしらも派手に行くとするか!」

 

 

 

 これにチャップマンが凄みのある笑みを返し、ミケロが凶暴な貌になって答えた。

 

 

 

「全滅させてもかまわんのだろう? あの悪趣味な部隊は」

 

 

 

「御託はいいってんだよ、さっさとやろうぜ! マスター!!」

 

 

 

 二人からの返答に満足気味に笑むとマスターアジアは、ゾンビ兵の大群を睨み据える。

 

 

 

「ならば行くぞ!! 世界よ! そして人類よ!! ワシらの力、とくとその目で見るがいい!!!!」

 

 

 

 一方的な蹂躙が始まった。

 

 

 

 デビルガンダムの理不尽なまでの力が、マスターガンダムの強烈な技が、ジョンブルガンダムの無比な一撃が、ネロスガンダムの凄絶な蹴打が。

 

 

 

 数あるゾンビ兵を文字通り紙のように畳んでいく。

 

 

 

 この余りの光景に、連合もザフトも何もできずに呆然としていた。

 

 

 

「俺達も、負けてられない! レイ! ルナ!!」

 

 

 

「! ああ、分かっている!!」

 

 

 

「OK! 行くわよ!!」

 

 

 

 否、この三人の少年たちは違う。

 

 

 

 今、やるべきことを見出し、彼らにできることを考えて最善を導き出すために動く。

 

 

 

「アウル! ステラ!! 俺達も続くぞ!!!」

 

 

 

「任せとけ、スティング!!」

 

 

 

「うん、行こう!!」

 

 

 

 共に歩む者たちは、彼らと同じく年端も行かない少年兵たち。

 

 

 

 だが、大人である兵士達よりもはるかに早く、彼らの方が動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ウォンは、一気に蹴散らされていく大群を見ながら言う。

 

 

 

『やれやれ。

 

 数はもはや意味を成しませんね。攻めるのならばともかく、防衛戦でマスターガンダムやデビルガンダムを敵に回しては。おまけに、ジョンブルガンダムにネロスガンダムですか。かつての四天王達が、敵になるとはね』

 

 

 

 言いながらため息をつく。

 

 

 

 そして、告げる。

 

 

 

『仕方ありません、ウルベ。準備は良いですか?』

 

 

 

 その言葉に、その場で唸っていたロゴス幹部達が乗るデスルークが光り始めた。

 

 

 

「…う…う…!!?」

 

 

 

 うめき声を上げるしかなかった者たちが更にコードを差し込まれて別の身体に作り変えられていく。

 

 

 

 現れたのは、長髪に鉄仮面をつけた筋骨隆々の男。

 

 

 

 先ほどDに倒されたウルベ・イシカワだった。

 

 

 

 

 

 シンがその光景に目を見張る。

 

 

 

「なんだよ、これ! どういうことだ!?」

 

 

 

 先ほどまでロゴス幹部だった男達。

 

 

 

 人種も国籍も体形も異なる者たちが、皆同じ顔をした男に作り変えられている。

 

 

 

 

 

 

 

 冷酷な笑みと瞳で彼はDやシン達に笑いかけた。

 

 

 

「DG細胞とはすばらしい。この力を使って私は私を増やすこともできる。君たちは私を倒せば倒すほど、倒された記憶を持つ私は進化していくと言うわけだ」

 

 

 

 ニヤリと笑いながら、ウルベは続ける。

 

 

 

「しかし、一つ気になるな」

 

 

 

 そう言ってウルベの一人がデビルガンダムを睨み据えた。

 

 

 

「何故、DG細胞の支配を使わない? 君の能力ならばデスアーミー達くらいは操れるだろう?」

 

 

 

 その言葉に、シンも目を見開く。

 

 

 

「ーーーーえ?」

 

 

 

 これにスティングが答えた。

 

 

 

「師匠が教えてくれた。こいつらはDG細胞という特殊な金属からなる物質でできてるんだ。有機物、無機物関係なしに自分の一部としちまう恐ろしい細胞でな。そいつを統括し生み出したのが、そこにいるデビルガンダムだ」

 

 

 

「…ベルリンの街を焼いた部隊も、元凶はこの紅いガンダムか!!」

 

 

 

 シンが思わずアロンダイトを構える。

 

 

 

 アウルがマスターガンダムを見ながら言った。

 

 

 

「でも、どうして師匠がこんな奴と?」

 

 

 

 これにマスターアジアはにやりと笑みを返して言った。

 

 

 

「言うたであろう? わしらは人類の敵となる、とな」

 

 

 

「敵? どういうことなの!?」

 

 

 

 ルナマリアがこれに問いかけると、マスターはそれ以上は言わずにこう告げた。

 

 

 

「今はウォンとウルベを倒すことが先決! 話はあとだ、いくぞ!!」

 

 

 

 そういいながら無双していくマスターガンダムを見据えて、ルナマリアがつぶやく。

 

 

 

「勝手な奴ーー」

 

 

 

 人の意見を聞き、尊重するシュバルツとは大違いだと、呆れた表情で見ながら、増えたデスルークを見やる。

 

 

 

 Dは、彼らが見守る中、静かに告げた。

 

 

 

「我は二度と支配はせぬ。それだけよ」

 

 

 

 この言葉とDの目にシンには何かが見えた気がした。

 

 

 

 シンの脳裏に浮かんだのは、戦争の犠牲となった自分の両親と妹だ。

 

 

 

「あーー?」

 

 

 

 Dの目をシンは知っている。

 

 

 

 アスハやアスラン、キラと同じ目だ。

 

 

 

 自分が誰よりも尊敬するシュバルツ・ブルーダーと同じ目をしている。

 

 

 

 あの目は、大切な何かを守れなかった者の目だ。

 

 

 

 大切な何かを失ってなお、前に行く強さを持つ目だ。

 

 

 

 それを理解したとき、自然とシンは構えたアロンダイトを下げる。

 

 

 

「ふ、ハハハハハハ!!! 傑作だ、悪魔と呼ばれたお前が、支配をしないだと!!? ドモン君の影響か!?」

 

 

 

 これを笑い飛ばすのは冷酷な笑みと人間離れした冷たい瞳を持つ男。

 

 

 

「笑わせてくれるな、デビルガンダムよ」

 

 

 

 これにDは静かに彼を見返した。

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 デスルークの目の前にDは瞬間移動したようにその巨体を踏み込ませる。

 

 

 

「ちぃ!!」

 

 

 

 自分のみぞおち辺りにある顔に向かってウルベのデスルークが拳を振り下ろす。

 

 

 

 それを左手一本で難なく受け止めるデビルガンダム。

 

 

 

 目を見開いたウルベの腹にデビルガンダムの強烈な右正拳が決まっていた。

 

 

 

「ぐふぉ!?」

 

 

 

 一撃で巨体の膝を曲げ、前のめりにくずおれるウルベ。

 

 

 

 それを見下ろすデビルガンダム。

 

 

 

 魔王は静かに魔神の笑みを浮かべていた男を見下ろしている。

 

 

 

「どうした? 笑ってみよ、ウルベ。我が許す」

 

 

 

 そう言うと無感情だったDの貌に凶悪な笑みが浮かび上がる。

 

 

 

 生きる者すべてを食らいつくさんとする悪魔のような笑みが。

 

 

 

 これにほかのデスルークを駆るウルベ達が殺到した。

 

 

 

「おのれ!!」

 

 

 

「デビルガンダムめ!!」

 

 

 

 デビルガンダムに殴りかかったのは十数体あったデスルークのうちの6体。

 

 

 

 だがーー。

 

 

 

 一体目の右正拳を左に見切るとデビルガンダムは彼の懐にあっさりともぐりこみ、自分より大きなその顎を蹴り上げた。

 

 

 

 巨体が数百メートルの高さまで跳びあがり地面に叩きつけられる。

 

 

 

 かまわず2体目のデスルークが、デビルガンダムの胴体に巨大な足で蹴りを仕掛けてくるのを左掌であっさりとつかみ取る。

 

 

 

「ーーな!?」

 

 

 

 掴みとめられたと気付いた時には、デビルガンダムの顔が目の前にあった。

 

 

 

 そのまま、遥か後方まで顔面を殴られて吹き飛ばされる。

 

 

 

 残る4体はコンビネーションを仕掛けてきた。

 

 

 

 同時にデビルガンダムの四方を囲み、ラッシュを仕掛けたのだ。

 

 

 

 巨体とは思えない拳蹴打の雨あられを、デビルガンダムは両腕と両足を使って巧みに捌いていく。

 

 

 

 まるで後ろに目でもあるのかと言う正確さと見事な技、人間離れした反射速度に、力。

 

 

 

 4人のウルベが完全にさばき切られたのを見て驚愕に目を見開いた隙に、デビルガンダムの右足が上がり、その場で周囲を蹴り薙ぐ。

 

 

 

 4体まとめて後方へ弾き飛ばされる。

 

 

 

 6体が同じ位置にまとめられたと悟った時、デビルガンダムの右手が光った。

 

 

 

「暴裂! デビィイイイイルフィィンガァアアアア!!」

 

 

 

 何もできずに光に消えていくウルベ達。

 

 

 

 これをほかのウルベ達が戦慄しながら見ている。

 

 

 

「ば、ばかな」

 

 

 

「なんだ、この強さは?」

 

 

 

「し、信じられん」

 

 

 

 右手の光を納めると、デビルガンダムは彼らに背を向けて本陣のあるヘブンズベース基地に向け、再び悠然と歩き始める。

 

 

 

 それを止めることは最早ウルベ達にはできない。

 

 

 

 それほどの力の差を見せつけられていたのだった。  

 

 

 

 奇しくも6人がかりで先ほど挑み、ひねられた自分たちと重ね合わせてシンやアウル達は考えてしまう。

 

 

 

「お、おい、シン。あのデカい奴、無茶苦茶強かったよな?」

 

 

 

「俺達とはレベルそのものが違うな。さすがシュバルツさんより強いってだけのことはあるぜ」

 

 

 

「ま、マジかよ…!? 師匠と互角だったあの忍者より強いのか!?」

 

 

 

「ああ、本人が言ってた。あいつに勝った弟さんは更に強いってな」

 

 

 

 あの時の誇らしげな男の顔を思い出し、シンは思う。

 

 

 

(俺もいつか、あの人にあんな顔をして話してもらえる男になるだろうか?)

 

 

 

 思いながら、シンは頭を振る。

 

 

 

「そのために、俺は強くなる。だろ、デスティニー?」

 

 

 

 言いながら、こちらに絶えることなく現れるデスアーミー達を睨み据える。

 

 

 

「あの人が、言ってた。ウォンとウルベはあの人の母親の仇だって。だったらーー!!」

 

 

 

 その時が来るまで耐えきる。

 

 

 

 それぐらいは訳がない。

 

 

 

 何故なら、自分はーー

 

 

 

「シュバルツ・ブルーダーの一番弟子! シン・アスカだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ロゴス幹部であるジブリールは今、悠然と潜水艇のあるドックにて脱出の準備を行っていた。

 

 

 

「君たちの作戦は完璧だな。これほどとはーー」

 

 

 

 自分の向かいには長髪の軍服の男。

 

 

 

 ウルベ・イシカワがワインを片手に一杯ひっかけている。

 

 

 

「幼稚な正義にわざわざ付き合ってやるのも、時間を稼ぐためだと言えば分かり易くていいだろう。我々が安全に宇宙に行くためにもね。我々の目的は、デュランダルの持つDG細胞・コアだ」

 

 

 

 これに続くのは、マルグラサンをつけた青年実業家。

 

 

 

 ウォン・ユンファだった。

 

 

 

「ザフト軍のプラントやMSの技術を大量に記録し、デビルガンダムの生体ユニットであるDを作り出した記録。ぜひとも手に入れておかねばなりませんねぇ。上手く行けば、我が軍はかつての四天王クラスの力を雑兵に持たせることが可能になる」

 

 

 

 ウルベが静かに言う。

 

 

 

「…そろそろか。まったく、オーブもつくづくツイていない国だ。せっかくキョウジ・カッシュのおかげで立て直せたと言うのに、こんな間抜けが我々に近づいてくるのだからな」

 

 

 

 笑いながら脇に縛られていた二人の男を見据える。

 

 

 

 一人は壮年の男性で、もう一人は青年と言った年齢だろう。

 

 

 

 二人はオーブの政治家の証である上着を羽織っていた。

 

 

 

 さるぐつわをかまされ、両腕を後ろ手に括られている彼らの名は、ウナトとユウナ。

 

 

 

 オーブの有力な政治家であり、ブルーコスモスとの癒着問題でデュランダルやプラントに目を付けられていた二人組である。

 

 

 

 

 

 

 

 話は少し遡る。

 

 

 

 セイラン家邸宅では、焦りに焦った表情のウナトとユウナが居た。

 

 

 

「どうして!? どうして、こうなるのさ!? なんでギルバート・デュランダルは僕たちの事を売ったの!?」

 

 

 

 ユウナの頭の中では、オーブとブルーコスモスとの癒着問題を教えることで、デュランダルとのパイプを持つ。

 

 

 

 これで落ち目のブルーコスモスを見限り、且つ目の上のたんこぶ、何処の馬の骨とも知れない、あのいけ好かない男。

 

 キョウジ・カッシュを排除できる。

 

 

 

 これで、何もかも上手くいくはずだった。

 

 

 

「ばかものが!! 何故、私に黙ってこんな真似をした!?」

 

 

 

 ウナトの怒声が飛ぶ。

 

 

 

 即座にユウナが吠え返した。

 

 

 

「だって! カガリはあいつに! あんな奴に取られたんだよ!? 父さんは悔しくないの!? オーブ政権も何もかも! あんな奴に持っていかれてさ!?」

 

 

 

 確かに追い詰められていた。

 

 

 

 あのキョウジという若造一人に、オーブの政権は一気に持っていかれていた。

 

 

 

 しかし、息子がここまで勝手な行動をとるとは思わなかった。

 

 

 

 キョウジ・カッシュからの手紙は、忌々しい程に分かりやすいものだった。

 

 

 

 ユウナがプラントに向けて資料を送ったアドレスを、どうやって暴いたのかは分からないが。

 

 

 

 それを添えた一言だった。

 

 

 

ーー 説明をしていただけませんか? --

 

 

 

 説明?

 

 

 

 完璧なまでに外堀を埋めてくるくせに、何をこちらにもまだ逃げ道があるように言うのだ?

 

 

 

 下手な言い訳をすれば、その時点でセイラン家は終わりだ。

 

 

 

 かと言って、このまま奴の言う通りにしていれば自分たちはいずれゆっくりと滅んでいくだろう。

 

 

 

 少なくとも、せっかく手に入れたオーブの主権を完全にあきらめなければならなくなる。

 

 

 

「父さん! こうなったら、ヘブンズベースに集まってるジブリールに助けてもらおう!!」

 

 

 

「なに? ジブリール卿に?」

 

 

 

 ここまで夢を見ているとは思わなかったと呆れた顔でウナトは自分の息子を見た。

 

 

 

「ジブリールは多分、負けるよ! ヘブンズベースを攻略するのに大勢の連合とザフトが共同で戦線を張るみたいだからね。そうなったら、二年前みたいにオーブのマスドライバーを使うはずだよ! そいつを利用させてやるからってーー!!」

 

 

 

「……オーブの施設を売ると言うのか? お前は」

 

 

 

「だったら、今すぐ!! あの鬱陶しい男を排除してよ! できないんだろ!? だったら、ジブリールに殺してもらうのが早いじゃないか!!」

 

 

 

「子どもでも分かることだぞ!? そんな夢物語ができるわけないだろうが!!!」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 部屋の出入り口が開いたのだ。

 

 

 

「…はじめまして。お取込み中、失礼しますよ」

 

 

 

 見たことのない男だった。

 

 

 

 緑がかった長い髪にサングラスをかけ、トレンチコートに濃い茶色のスーツを着た、胡散臭い笑顔の若い男。

 

 

 

 ウナトの表情が疑問に変わる。

 

 

 

 何故? こんな男がいるんだ?

 

 

 

 誰なんだ?

 

 

 

 そんな疑問を感じている間に息子が笑顔で男を迎える。

 

 

 

「ウォンさん!!」

 

 

 

「…ユウナ様、お久しぶりです。わざわざ、お招き戴きありがとうございます」

 

 

 

 思わずウナトはユウナを睨みつけた。

 

 

 

「お前は何を考えている? こんな得体のしれない男を何故屋敷に呼んだ? プライベートの知人ならば政治的な話の場には呼ぶなとあれほどーー!」

 

 

 

「得体のしれないだなんて、父さんはものを知らなすぎるよ。彼こそロゴスの参謀であり、我々セイラン家を救ってくれるウォン・ユンファ氏だよ、父さん」

 

 

 

「ーー何? ロゴスの!?」

 

 

 

 思わずウナトはユウナを睨みつける。

 

 

 

 そこに男ーーウォンが語り掛けた。

 

 

 

「何故、ブルーコスモスを売ろうとしていながら、その上層部であるロゴスと繋がりを持っているのか? 気になりましたか、セイラン氏」

 

 

 

 笑顔で言い当てられ、ウナトは男を睨みつける。

 

 

 

 ユウナが笑顔で説明する。

 

 

 

「ウォンさんからの指示だったんだ。プラントの能力を見たい。どの程度把握されているのかを確認したいから、僕たちの癒着問題を晒してほしいってね。僕たちの安全は保障してくれるって」

 

 

 

「安全? ブルーコスモスが裏切り行為をした我々を許すだと? 本気で言っているのか、ユウナ」

 

 

 

「ウォンさんは、違うよ。父さん」

 

 

 

 二人の会話を聞き流し、ウォンは会釈をしながらテーブルに置かれたキョウジからの手紙を手に取ると、文面と資料を一目見てため息を吐いた。

 

 

 

「…これはこれは。デュランダルはブルーコスモスとの癒着問題を全てわかっている、という警告とあなた方に対する注意ですか」

 

 

 

「分かるのか?」

 

 

 

 ウナトが思わずといった形で声を上げる。

 

 

 

「もちろん。この文面と資料だけで十分です。やはり、ロゴスは無能の塊だったか。口座だけでなく末端のブルーコスモスの方も知られているとは」 

 

 

 

 ジッと資料を見てから彼は言った。

 

 

 

「では、参りましょうか? セイラン殿、ユウナ様」

 

 

 

「な? どこへだ!?」

 

 

 

 ウナトが問いかけたところで、彼はこう答えた。

 

 

 

「あなた方がこの国にこのまま留まったところで、反逆罪で裁かれるだけです。一緒に来なさい」

 

 

 

「ほらね、父さん!」

 

 

 

 笑顔でいうユウナにウナトが思わずうなる。

 

 

 

「ーーしかし」

 

 

 

 そんな彼に、ウォンはこう言った。

 

 

 

「いずれ私たちロゴスが再び地球圏を制圧し、宇宙のプラントをも支配下に置くでしょう。その時にこんなちっぽけな国はあなた方に返してあげますよ」

 

 

 

「確かにロゴスがその気になれば可能だろうが。君がロゴスの参謀という証拠はあるのか?」

 

 

 

「これで、どうです?」

 

 

 

 ウォンが差し出したのはロゴスのマークの入った純金製のバッジだった。

 

 

 

 一目見ただけでウナトの目が見開き、顔が青ざめる。

 

 

 

 目の前の男が本物だと分かったのだ。

 

 

 

 同時に自分の発言をふりかえり、無礼を理由に殺されることに思い至った。

 

 

 

「ウォンさん、僕達を勝利に導いてくれるんだよね?」

 

 

 

「もちろんです。私が勝ち馬に乗せてあげますよ。あなた方、セイランをね」

 

 

 

 そう言う男の言葉に逆らい難く、ウナトは彼の手を取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今、さるぐつわを噛まされて、息子共々無様に地べたに転がされている。

 

 

 

「さて、そろそろあなた方を救うヒーローが現れるころだ」

 

 

 

 そう言いながら時計を見ると同時に、格納庫の壁を一人の覆面の男がすり抜けてきた。

 

 

 

 その姿に、ジブリールは驚愕した。

 

 

 

「な、何者だ!?」

 

 

 

 現れた男は静かにウォンとウルベを見る。

 

 

 

「ーー私はネオドイツのガンダムファイター。そう! シュバルツ・ブルーダーだ!!」

 

 

 

「な、なんだと!?」

 

 

 

 シュバルツの名乗りを聞いて、ジブリールが驚愕に目を見開く。

 

 

 

「ようこそ、シュバルツ。早速ですが、取引です」

 

 

 

「…何だと?」

 

 

 

 ウォンがシュバルツの前に猿轡と両手足を縛られたウナト・セイランを転がした。

 

 

 

「…彼は、セイラン家の? そうか。やはり、彼らが」

 

 

 

 シュバルツが哀しげに言うと、ウルベが笑いかける。

 

 

 

「君達は、つくづく他人に裏切られるな。それでも、まだ信じるのかね?」

 

 

 

 問いかけるウルベにシュバルツは、静かに返した。

 

 

 

「…ああ。キョウジとしても、ウォルフとしても。私は、人が好きだからな」

 

 

 

 その言葉に、ウルベが不快気に顔を歪める。

 

 

 

「…綺麗事を。やはり、貴様は不愉快だよ。キョウジ」

 

 

 

「ああ。私もだ、ウルベ」

 

 

 

 互いににらみ合う両者の間を割って入るように立ち、ウォンが告げる。

 

 

 

「さて、本題です。シュバルツ、取引をしましょう。私たちを見逃しなさい」

 

 

 

「…何だと?」

 

 

 

 問いかけるシュバルツにウォンが告げる。

 

 

 

「あなたに選ばせてあげましょう。彼の命を救う為に、私たちを見逃すか。彼を見捨てて私たちを倒そうとするか、です」

 

 

 

「先に言っておくが。私たちには、バックアップを兼ねた全人格と記憶をコピーしたDG細胞がある。それを全てのゾンビ兵に感染させた。どういうことか、分かるね?」

 

 

 

 ウルベの補足説明にシュバルツの目が見開かれる。

 

 

 

「…貴様ら、DG細胞でコピーを用意するだけでなく、個としての自分まで捨てようと言うのか? 私とキョウジを見れば分かるだろう? この世に全く同じ人間など、存在しないんだ!!」

 

 

 

 語るシュバルツにウォンは告げる。

 

 

 

「それは君が細胞を知らないからだ。アレを調べ尽くした我々には、造作もない」

 

 

 

 覆面の下の表情を鋭いものにして、シュバルツは構えを取る。

 

 構わずにウォンは言った。

 

 

 

「マスターアジアならば、こんな取引は通じないでしょう。こんなゴミの命を彼が庇う訳はない。だが、あなたは違う。シュバルツ・ブルーダー。あなたの情けこそが、最大の弱点だと知りなさい」

 

 

 

 厭らしい笑みを浮かべて、ウォンはそう言った。

 

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 セイラン親子を盾にとり、オーブの政治家とロゴスの癒着問題をチラつかせるウォン。

 対するシュバルツは、ウォンとウルベをこの場でどうすれば倒せるかを考えます。

 そんな中、赤い髪の悪魔がウォンとウルベを抹殺しに現れたではありませんか!?

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第71話に!

 レディー、ゴー!!



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第71話 闘志を燃やせ シュバルツの魂 Dの一撃

 皆さん、シュバルツの前に現れたウルベとウォン。

 彼らの犠牲となった多くの人の無念を晴らすため。

 シュバルツは単身戦いを挑むのです。

 果たして、ここヘブンズベース基地で悪魔の力を操る二人を倒すことができるのか?

 それでは!

 ガンダムファイト!!

 レディイイッ、ゴォオオオオオオオッ!! 


 

 ヘブンズベース基地

 

 

 

 その脱出艇のドッグ内で、シュバルツ・ブルーダーはロゴスの総統ロード・ジブリールと。

 

 

 

 そして未来世紀における怨敵、ウルベ・イシカワとウォン・ユンファと対峙していた。

 

 

 

 ウルベ達の足元には、さるぐつわを噛まされ両腕を後ろ手に括られて身動きの取れない中年の男性ウナト・セイランがうめき声を上げながら、無造作に寝転がされている。

 

 

 

「さあ、シュバルツ。外で命を懸けて戦っている貴方の教え子達の為にも、早く決断してください」

 

 

 

 厭らしい笑みをそのままに、ウォンはシュバルツの目を見て言う。

 

 

 

「このクズの為に我々を見逃すか。無駄と知りながら、クズを見捨てて我々を倒すか、をね」

 

 

 

 サングラスを付け直しながら、ウォンは問いかける。

 

 

 

ウルベが続ける。

 

 

 

「つくづく、カッシュ家は綺麗事が好きな連中だ。信念か、意地かは知らないが人を信じると言う。そのために自分の大切なものを失っていくのにな? 学習しないのかね、キョウジ君」

 

 

 

 笑いかけるウルベにセイラン家の二人は訝しげに眉をひそめる。

 

 その彼らの前で、シュバルツがマスクを外した。

 

 

 

「?!」

 

 

 

 ウナトとユウナの顔が驚きに引きつる。

 

 

 

 それはまさに、さきほどウォンたちに献上しようとしていた、オーブに現れた忌まわしき男ーーあの参謀と同じ顔。

 

 

 

 キョウジ・カッシュそのものだったのだ。

 

 

 

「たとえ誰に馬鹿にされたとしても。人を信じたが為に、この身が砕けようと構わん」

 

 

 

 真っ直ぐにシュバルツは、ウルベにウォンに言い切る。

 

 

 

「信じることは尊いことだ。疑うことは容易いことだ。人の言葉を真に受けることを、単純だと馬鹿だと貴様らはあざ笑う。だが! それがどれだけ尊く、困難なことかを貴様らは理解していない」

 

 

 

 ウォンはその言葉に小馬鹿にした笑みを浮かべ、ウルベは不快気に表情を歪める。 

 

 

 

 右の拳を自身の顔の前に出してシュバルツは続ける。

 

 

 

「私は人を信じることを辞めはしない。たとえ、この先どれだけの裏切りにあおうとも。私は、私に助けを求める力なき者がいる限り、私を信じる尊き者がいる限り、独りになろうとも戦い続けると誓おう」

 

 

 

 はっきりと二人の悪党の目を見据えて、シュバルツ・ブルーダーは叫んだ。

 

 

 

「人を信じる心があれば、恐れるものは何もない!! 私は、私と言う存在がこの世にある限り、人を信じよう!! 信じ抜いて見せよう!! 誰に批判され、誰にとがめられようとも、変えられぬ!!」

 

 

 

 熱き思いの丈をシュバルツは、覆面を取り払うことで露わにした。

 

 

 

「それが、私の生き方だ!!!!」

 

 

 

「滑稽ですね。それだけの力がありながら、自ら愚者の盾となるとは。ならば、世界を支配する我々の糧となるがいい、シュバルツ・ブルーダー」

 

 

 

 ウォンが冷ややかな笑みと共に告げた。

 

 

 

「貴様らにこの世界を支配することなどできはしない。この世界は今を生きる尊き人々のものだ。貴様らに支配されて良いものではない」

 

 

 

 シュバルツは続ける。

 

 

 

「人を見下し、利用することしか知らぬ貴様らには分かるまい。この世界に生きる素晴らしき人間の美しさと強さを。その力は、如何なる権力にも勝ると言うことを。彼らは決して、貴様らのような男には屈さない! それが私が出会った尊き人々だ!!」

 

 

 

 その気迫を前にウォンは笑みを浮かべたまま言った。

 

 

 

「ならば、まずはその屑を助けて見せなさい。その命をかけてね」

 

 

 

「いいだろう。彼らを助けたうえで、貴様らの野望を打ち砕いてくれるーー!!」

 

 

 

 小バカにした笑みを、シュバルツは真っ向から受け止める。

 

 

 

 ウォンが懐から拳銃を取り出し、身動きの取れないウナト・セイランに向けた。

 

 

 

 発砲ーー。

 

 

 

「ーーーッ!!」

 

 

 

 声にならない声が、息子のユウナから発せられた。

 

 

 

 だがーーウォンの凶弾が父親に届く前にシュバルツが彼の前に動き、銃弾を素手で掴み止める。

 

 

 

 超人的な動きと現実離れした光景に、ジブリールやセイラン親子がポカンとしている。

 

 

 

 その様を見て、一人の男がつぶやきをあげた。

 

 

 

「ゆかーーだ」

 

 

 

 ウォンは傍らにいる男に目を向けた。

 

 

 

 訝し気に彼の顔を見やる。

 

 

 

 ウルベ・イシカワの顔が悪鬼の如く歪み、その全身からどす黒い殺気が噴き上がっていた。

 

 

 

「不愉快だーー。これ以上貴様の顔を見ているのは、不愉快極まりない!!!」

 

 

 

 その気迫は、ウルベとは思えない程の気量だった。 

 

 

 

 ウォンは知る。

 

 

 

 ウルベの強さの源がこれだ。

 

 

 

 その正体はーー人々によって裏切られたことによって生み出された感情。

 

 

 

 敗北したことによる挫折と屈辱から成ったもの。

 

 

 

 あらゆる人間に対して向けられる感情。

 

 

 

 憎悪である。

 

 

 

「ウォン。気が変わった。この男はここで、この私の手で殺す!!」

 

 

 

 ウォンはそれにニヤリと笑みを返し、言った。

 

 

 

「存分に。シュバルツはそこの屑を庇っている状態です、万に一つも勝ち目はありません。煮るなり焼くなりお好きなように」

 

 

 

 この言葉にウルベは口元に憎悪の笑みを浮かべて見せた。

 

 

 

 およそ見る人が目を逸らしたくなるほどの、狂わしい笑み。

 

 

 

「命に屑などない。彼らとて必死で生きる者の一人だ!!」

 

 

 

 シュバルツの宣言に、地べたに転がされていた二人の親子の目が見開かれる。

 

 まるで夢から醒めたかのような、冷や水を浴びせられたかのような表情で彼を見ていた。

 

 一方でウルベは執念や怨念と言った負の情を感じさせる笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「遺言は終わりかね? ならば死ぃねぇええええええ!!!」

 

 

 

 拳を振りかぶり、殴りかかる。

 

 

 

 同時にウォンがウナトに向けて再び発砲。

 

 

 

 シュバルツは咄嗟にウナトに放たれた弾を前のめりになって掴みとめ、ウルベからの右ストレートをまともに顔面に喰らう。

 

 

 

「ぐっ!」

 

 

 

 のけ反ったときに、左ボディが続けざまに入り前のめりになったシュバルツを次々と強烈な拳蹴打が襲う。

 

 

 

 強烈なラッシュをまともに受け、シュバルツが後方にはじけ飛んだ。

 

 

 

「がはっ!!」

 

 

 

 その様を憎悪に歪んだ笑みを浮かべて見下すウルベは、哄笑する。

 

 

 

「ひゃははははっはははははっ!! どうだ、キョウジィ!? 弱者など! 愚者など!! 他人など!!! 足を引っ張るだけの無駄な存在に過ぎないと理解したか!!?」

 

 

 

 倒れたシュバルツの横面を踏みつける。

 

 

 

「……く!」

 

 

 

「所詮、人間などこんなものよ!! だが安心しろ、我らDG細胞が全てを作り変えてくれる!! 弱き人間など、滅びてしまえぇええええええぇっ!!! ひゃぁああああはははははははははははは!!!!」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 両腕を後ろ手に括られていたウナト・セイランが、横からウルベに体当たりを仕掛けたのだ。

 

 

 

「ーーな!?」

 

 

 

 同時にウォンにもユウナが後ろから体当たりを仕掛けた。 

 

 

 

「貴様ら--!?」

 

 

 

 恐怖に怯え、自分の命を大事にすることしか頭にない親子。

 

 

 

 それが自分の命を危機に晒してまで動くと思っていなかったウルベとウォンは目を軽く見開きながら態勢を崩す。

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 目の前にシュバルツ・ブルーダーが踏み込んできて、ウルベの顎を蹴り上げる

 

 

 

「! グハッ!」

 

 

 

 続けざま、ウォンの腹に右の正拳を叩きつけて吹き飛ばす。

 

 

 

「ガハァッ」

 

 

 

 遥か後方に弾き飛ばされた二人。

 

 

 

 それをゆっくりと見ながら、シュバルツはウナトとユウナの縄とさるぐつわを外して開放する。

 

 

 

「キョウジ・カッシュ君。私をーー私たちを許してくれ」

 

 

 

「あんたを、僕たちは誤解していた。本当にすまない」

 

 

 

 二人からの謝罪にシュバルツは頷くと言った。

 

 

 

「後で話を聞かせてください。今は、あそこの通路から外へ! ここは私に任せて! 必ずあなた方を逃がして見せます!!」

 

 

 

 思わずユウナが反論した。

 

 

 

「でも、それじゃアンタが!!」

 

 

 

「今は話をしている時ではない!! 早く行くんだ!!!」

 

 

 

「……!!!」

 

 

 

 悔しげに唇をかみしめるユウナの肩を制し、ウナトが言った。

 

 

 

「ありがとう。必ず君も無事に戻って来てくれ」

 

 

 

 そんなウナトにシュバルツは微笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「…はい。さあ!」

 

 

 

 彼に促され、セイラン親子がその場から逃げ出した。

 

 

 

 これをウォンが立ち上がりながら見送る。

 

 

 

 ウルベに至っては憎しみが更に醜悪に彼の表情を歪ませていた。 

 

 

 

「ジブリール、手筈通りに」

 

 

 

「あ、ああ。しかし、いいのか? お前たちもーー」 

 

 

 

 戸惑い気味のジブリールにウォンが優しくほほ笑んで言った。

 

 

 

「大丈夫です、万が一の為にもあなたは早くお逃げなさい」

 

 

 

「そ、そうか。すまんーー!!」

 

 

 

 それだけを告げてジブリールはドッグに停泊している潜水艦に乗り込んだ。

 

 

 

 艦は一気に停泊所を抜け、海へと出ていく。

 

 

 

「! いかん!!」

 

 

 

 シュバルツがそれを追いかけようとするも、ウルベとウォンが立ちはだかった。

 

 

 

「私たちを倒してところで、DG細胞を組み込まれた誰かの中で新しい私たちが姿を現すでしょう」

 

 

 

「無駄と知りながら、それでも抵抗するのかね? キョウジ」

 

 

 

 二人からの言葉に拳を握って構えるシュバルツ。

 

 

 

「そやつらが現れる前に、全てを終わらせてくれる!!」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「いつまでも、自分たちの思う通りに行くと思うな。塵芥めが」

 

 

 

 第三者の声が響き渡る。

 

 

 

 同時に強烈な気がシュバルツとウルベ達の丁度、中間地点に炸裂した。

 

 

 

「…これは!?」

 

 

 

 シュバルツがそちらを振り返ると、そこには自分の弟とまったく同じ顔と声を持った紅い髪の青年がいた。

 

 

 

「貴様は……!!」

 

 

 

「ーーデビルガンダム!!」

 

 

 

 忌々しそうにウルベとウォンが青年の名を呼ぶ。

 

 

 

 そう、DG細胞によって構成された限りなく新しい人類。

 

 

 

 彼の名は「デビルガンダム」だ。

 

 

 

「…貴様が」

 

 

 

 シュバルツが初めて出会ったかつての宿敵を見据える。

 

 

 

 その顔に浮かぶのは憎しみでも敵意でもない。

 

 

 

 どこか懐かしみを感じる表情だった。

 

 

 

「そうだ。我が貴様らカッシュ家の怨敵デビルガンダムだ。はじめましてだな、シュバルツ・ブルーダー」

 

 

 

 デビルガンダムこと紅い髪の青年ーーDは名乗るのもそこそこに、シュバルツに背を向けてウルベとウォンの方を見据える。

 

 

 

「貴様ら、面白いことを言っていたな? DG細胞のゾンビ共に自分の記憶と人格をコピーした因子を移植しているとか」

 

 

 

 笑みを浮かべた。

 

 

 

 その笑みは、紅い鬼が人を食らおうと口を開けたようだった。

 

 

 

「それを我に聞かれたのが、貴様らの運の尽きだ」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 デビルガンダムを名乗る紅い髪の青年から強烈な気が発生し、青紫の光が彼を中心に一気に世界に広がって消えたのだ。

 

 

 

 一瞬の出来事だった。

 

 

 

 シュバルツには分からず、Dを見据えるが、ウルベとウォンは違った。

 

 

 

 先の光景とDの言葉に、二人の悪党の顔が醜悪に歪んだのだ。

 

 

 

「き、貴様…!!」

 

 

 

「私たちのDG細胞因子を…!!」

 

 

 

 その言葉で理解する。

 

 

 

 Dというデビルガンダムそのものの青年は、自らの細胞に命じたのだ。

 

 

 

 人間に感染したDG細胞にウルベとウォンの因子を消滅させるように。

 

 

 

「…どうする? これで貴様らに保険はない。困ったなぁ?」

 

 

 

 せせら笑う邪悪な笑み。

 

 

 

 魔王の言葉に、悪党二人は歯ぎしりを返すだけだ。

 

 

 

 その表情で理解した。

 

 

 

「どうやら、年貢の納め時のようだな? ウルベ、ウォン!!」

 

 

 

 Dの隣で構えを取るシュバルツ。

 

 

 

 二人を睨み据えて、ウルベは言った。

 

 

 

「仕方あるまい。ここは久しぶりに我々もガンダムファイトに興ずるとしようか」

 

 

 

 これにウォンが答える。

 

 

 

「そうですねぇ。考えようによっては目障りな敵を一気に打ち砕くチャンスでもある」

 

 

 

 サングラスをかけなおしながらウォンも頷いた。

 

 

 

 瞬間、二人の身体を紫の光が包み込み、直後。

 

 

 

 強大な影がシュバルツとDを見下ろしていた。

 

 

 

「さあ、来るがいい!!」

 

 

 

「このグランドマスターガンダムが相手をしてあげましょう!!」

 

 

 

 強大な影の正体はデビルガンダム四天王の集合体。

 

 

 

 四体の異形を合わせたキマイラ。

 

 

 

 グランドマスターガンダムだった。

 

 

 

 マスターガンダムのコクピットにはウルベ。

 

 

 

 尾に付いているウォルターガンダムのコクピットにはウォンがそれぞれ搭乗している。

 

 

 

 これにシュバルツが答えた。

 

 

 

「いいだろう、ならば! ガンダァアアアアアムッ!!」

 

 

 

「ふんーー!!」

 

 

 

 シュバルツに合わせて、Dも同時に右腕を掲げてフィンガースナップを鳴らす。

 

 

 

 青白い光と共にガンダムシュピーゲルが。

 

 

 

 蒼紫の光と共にデビルガンダムが現れた。 

 

 

 

 MFが三体。

 

 

 

 地下に創られたドッグ内で三機のガンダムの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 一方でセイラン親子もシュバルツの指示された通路を抜け、着水している脱出艇を一つ手に入れた。

 

 

 

 その通信機を使って必死に呼びかける。

 

 

 

「こちらウナト・エマ・セイラン! 応答してくれ、オーブ軍!!」

 

 

 

「何をしてるの、父さん! 通信よりも先に脱出を!!」

 

 

 

 父親のしている行為をとがめながら、エンジンをかけるユウナ。

 

 

 

 これを無視してウナトはオーブへの通信を行った。

 

 

 

「…ジブリールも逃げていた。奴はおそらく、オーブのブルーコスモスの構成員と連絡を取り、マスドライバーを使うつもりだ。何としても止めさせなければ!!」

 

 

 

「オーブ政府に繋いでもらうんだね?」

 

 

 

「そうだ! セイランの口座と取引をしていたブルーコスモスの無線の周波数を伝えれば、ジブリールを止められる!!」

 

 

 

「分かったよ、父さんはそのまま通信を呼び掛けて! 僕はこいつを動かしてオーブに向かう!」

 

 

 

 ユウナはマニュアルを操作しながら、進路をオーブに向かって舵を取り、潜水して向かわせる。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 通信が繋がり、向こうから声が聞こえる。

 

 

 

「こちらオーブ軍。セイラン様? どうされたのですか?」

 

 

 

「話はあとだ! 至急、アスハ代表に繋いでくれ!! ことは一刻を争う!!」

 

 

 

 セイラン家秘蔵の緊急通信であること。

 

 

 

 通信モニター越しのウナトの表情が普段とは考えられない程に真剣であったことから、通信兵は急いで対応を始めた。

 

 

 

 こうしてセイランからの通信を受けたオーブは、極秘裏に現れようとするジブリールに対応する策を練るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強烈な雷がドック内に走り回る。

 

 

 

 強大な角から放たれたのは、辺り一面を全て焼き払う落雷だった。

 

 

 

 その雷の雨を網の目をすり抜けるようにジグザグにステップ移動しながら避けるデビルガンダム。

 

 

 

 残像を残すスピードで宙を駆けるガンダムシュピーゲル。

 

 

 

 二機は強烈な落雷をものともせずに接近し、野太いグランドガンダムの左右の足にそれぞれ仕掛ける。

 

 

 

「デビルストライク!!」

 

 

 

「シュピーゲルブレード!!」

 

 

 

 デビルガンダムの気を纏った右の正拳突きが、シュピーゲルの展開された右のブレードが。

 

 

 

 交差攻法気味にすれ違いざま放たれる。

 

 

 

 鈍い打撃音と鋭い斬撃音が響き渡る中、二本の足から火花が散る。

 

 

 

 しかし、それもすぐに消滅して再生を始めてしまう。

 

 

 

「ぬぅ!」

 

 

 

 これに目を険しく細め、シュバルツは一端距離を取る。

 

 

 

 デビルガンダムの方は、鋭く放たれたガンダムヘブンズソードの羽ーーヘブンズダートを片手で払いながら、身を翻し右手のデビルフィンガーからエネルギーショットを放つ。

 

 

 

「ーーふん!」

 

 

 

 ウルベは腹筋に力を入れ、ボディにまともに受けたエネルギーを拡散させて飛び散らせる。

 

 

 

 拡散されたエネルギーは、床でも壁でも平気で射抜きながら、消滅した。

 

 

 

「なんという強固な装甲に強烈な自己再生だ。ダメージが通らんとは」

 

 

 

 シュバルツが表情を険しくしながら言うと、ウルベは笑い返す。

 

 

 

「当たり前だろう? グランドマスターガンダムには四天王の機体すべてが入っている。この機体はいわばMF4機分のエネルギーを持っているのだよ」

 

 

 

「いかがです? 巨体でありながらも、我々二人が操作することによって反応速度は以前シャッフル同盟が戦った時とはくらべものにならない程になりました」

 

 

 

 厭らしい笑みを浮かべるウォンをDは無表情に見返す。

 

 

 

 とりあえず、厄介だった。

 

 

 

 攻撃力や反応速度、動きもそうだが。

 

 

 

 何よりも厄介なのは堅牢な装甲と、傷を負った瞬間に回復する自己再生能力だ。

 

 

 

 これに対し、デビルガンダムことDの下した判断は、力押しだった。

 

 

 

「我のこの手が陰りて嗤う。すべてを屠れと高まり狂うーー!」

 

 

 

 右手に気を集中させて、今一度蒼紫の炎を右手にまとう。

 

 

 

 瞬間、羽を大きく広げたデビルガンダムは、音速を越えた動きであっさりとグランドマスターガンダムの懐に踏み込み、右手でグランドガンダムの胸の部分を貫いた。

 

 

 

「ぬお!?」

 

 

 

 目を見開くウルベを睨み据えてDは言う。

 

 

 

「ーー粉々にしてくれる。暴ぅうう裂っ!! デビィイイイイルフィィンガァアアアア!!」

 

 

 

 強大な閃光と爆発がグランドマスターガンダムを包んだ。

 

 

 

 距離を置いて様子を伺っていたガンダムシュピーゲルの前にデビルガンダムがバク転しながら、その20メートルを越える巨体で軽々と着地する。

 

 

 

 煙が晴れたとき、上半身を消し飛ばされたグランドマスターガンダムがそこにあった。

 

 

 

 だが、すぐに破損部からDG細胞の触手が伸び、ビデオの逆再生を早回しにしたように一気に元通りの姿に戻っていった。

 

 

 

「無駄ですよ、デビルガンダム。この機体は防御力と再生力に関すれば、最強を成す機体です。正に浮沈艦と呼ぶに相応しい機体でしょう」

 

 

 

 勝ち誇るウォン。

 

 

 

「君たちは徐々に消耗していくしかない、ということだ。このグランドマスターガンダムを前に初めから君たちに勝利などなかったのだよ」

 

 

 

 高笑いするウルベ。

 

 

 

 彼らを見ながら、シュバルツは静かにデビルガンダムの傍らに立つ。

 

 

 

「だそうだが、何か手はあるか?」

 

 

 

 ガンダムシュピーゲルからの言葉にデビルガンダムはニヤリと凄絶な笑みを返して言った。

 

 

 

「楽しみだ。究極の一撃を食らってなお、奴らがそのような戯言をほざいていられるか、な」

 

 

 

 これにシュバルツが「ほう」と眼を細めてつぶやくと、言った。

 

 

 

「その技を放つのに、どれだけ気を高めねばならない?」

 

 

 

 問いかけるシュバルツにDは静かに笑みを消すと言った。

 

 

 

「1分だ」

 

 

 

 この言葉にシュバルツはコクリと頷くと、シュピーゲルを一歩前に出す。

 

 

 

「了解した。それまでは私が引き受けよう」

 

 

 

 余計な話は一切しない。

 

 

 

 デビルガンダムが静かに両の足を肩幅に広げ、膝を軽く曲げた。

 

 

 

「ーーぬん!!」

 

 

 

 Dはその場で両の拳を腰だめに構えておくと、一気に気を高め明鏡止水の境地ーー黄金のハイパーモードに変身する。

 

 

 

 胸部のカバーが展開し、蒼紫に輝くエネルギーマルチプライヤーが露わになる。

 

 

 

 圧倒的な太陽の如き黄金の光がドック内に溢れている。

 

 

 

「ウルベ! 何をするつもりかはわかりませんがーー」

 

 

 

「分かっている! デビルガンダムから先に!!」

 

 

 

 その時、シュバルツのガンダムシュピーゲルがグランドマスターガンダムの足元に現れる。

 

 

 

「おっと、余計な真似はしないでもらおう。私がお相手するぞ、ウルベにウォンよ」

 

 

 

 言うと同時、鏡転同血の光がシュピーゲルを覆い、真紅の炎を纏ったトリコロールのガンダムに変化する。

 

 

 

「「ゴッドガンダム!!」」

 

 

 

 二人が目を見開きながら、そのガンダムの名を呼ぶとシュバルツは腰のビームソードを二振り抜き放ち、両手に持って構えながら言う。

 

 

 

「ゴッドシャドー!」

 

 

 

 10体の質量を持った分身が生まれ、同じ構えを取って言う。

 

 

 

「ゆくぞ、シュトゥルム・ウント・ドランク・スペシャルウウウウ!!!」 

 

 

 

 コマのように回転しながら10体のガンダムが、同時に一点を切り刻む。

 

 

 

「こ、こんな程度の技で!!」

 

 

 

「このグランドマスターガンダムにダメージなど!!」

 

 

 

 威力は乏しいが衝撃が凄まじく、10体の竜巻の一撃はグランドマスターガンダムの巨体を上空へと跳ね上げた。

 

 

 

 凄まじい地響きを上げながら、地面を割きながら、上空に天高く舞うグランドマスターガンダム。

 

 

 

「ばかな!!」

 

 

 

「私たちのグランドマスターガンダムが!!」

 

 

 

 大地に根を張った巨木が、根っこごと上に引っこ抜かれたように、何もない上空へとその身を投げ出したグランドマスターガンダム。

 

 

 

 これにシュバルツがDに叫んだ。

 

 

 

「今だ、デビルガンダムーーDよ!!」

 

 

 

 同時に、デビルガンダムが両手を右腰においてたわめ、一つの白い光の球を作り出した。

 

 

 

 最後の極大の一撃を放とうと、気を高める。

 

 

 

「おお…! これほどとは……!!」

 

 

 

 瞬間、強大な黄金の気柱が立ち上がる。

 

 

 

「流派ぁ!! 東方不敗がぁ!!」

 

 

 

 デビルガンダムが右手を突き出す。

 

 

 

「最終ぅ!! 奥義ぃ!!」

 

 

 

 Dが腰を落としながら瞳を閉じる。

 

 

 

 その身に纏う強大な気が柱から球に変化し、黄金の気は七つの色を放つ白い光の球へと変わった。

 

 

 

 その力を両手に極限まで圧縮する。

 

 

 

 黄金の機体だった機体は、元通りの白を基調とした赤と青と黄色のトリコロールに戻りながらも、そのたわめた両掌には七つの色の光を放つ白い光球がある。

 

 

 

 デビルガンダムはその両手を蒼紫の炎で発光させる。

 

 

 

 同時に両手首を上下に組んで前方に掌を突き出す。

 

 

 

「石破ぁ!! 究ぅ極くぅ!! 天ぇえん驚ぉおおお拳ぇええええん!!!!」

 

 

 

 白い光の光線が、上空へと弾き飛ばされた巨大な機体グランドマスターガンダムに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 その光は、スピードやパワー等と言う概念を全て凌駕する。

 

 

 

 

 

 

 

「「こ、こんなバカなぁああああああああああああ!!!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 絶叫を放ちながら、上空で白い光線に晒されて、圧倒的な暴力にさらされて。

 

 

 

 理不尽な力に晒されて。

 

 

 

 究極の奥義を放たれて。

 

 

 

 二人の巨悪を載せたガンダムの名を冠する異形は跡形もなく、青き空の彼方に消えて行った。

 

 

 

「……貴様らのような下衆に、この美しい世界はやらん」

 

 

 

 静かにつぶやいたDの真意はシュバルツをして分かりかねる。

 

 

 

 だが、そこに邪な考えがあるとは、シュバルツにはどうしても思えなかった。

 

 

 

 これほどの一撃は、心・技・体の全てが極限まで磨かれていなければできるものではないからだ。

 

 

 

 正に神の域だと言える一撃。

 

 

 

「恐ろしくも素晴らしいガンダムファイターになったものよ。これがデビルガンダムのファイター、Dか」

 

 

 

 燃え上がる闘志。

 

 

 

 シュバルツの心の中にファイターとしての魂の炎が今、確実に点火した。 

 

 

 

        

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね~!!

 シュバルツとDの活躍によって倒されたウルベとウォン。

 一方でシンとマスター達もウルベコピー率いるデスアーミー達の大群との決着を付けようとしていました。

 残り1体となったデスルークに対し、シンがマスターに告げた言葉とは?

 次回! 機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第72話に!!

 レディー、ゴー!!


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第72話 ヘブンズベース攻略 完

 皆さん。

 強力なタッグ。

 ガンダムシュピーゲルとデビルガンダムを前に。

 ついにウルベは、ウォンは、倒されました。

 しかし、ヘブンズベースにはまだまだウルベコピーが存在していました。

 この巨大な敵を前にシンはマスター達の手を借りずに倒すことを宣言するのです。

 はたして、どうなるのか?

 それでは、ガンダムファイト!

 レディィィィッ、ゴォォォオオオッ!!




 

 強烈な白の光が、ヘブンズベースから少し離れた島の地面から天へと向かって放たれた。

 

 

 

 その威力はすさまじく。

 

 

 

 空に浮かぶ雲が片っ端から消し飛んでいった。

 

 

 

 光がとおり過ぎた後に発生した衝撃波は、海面を巻き上げ、地面を割る。

 

 

 

 あまりの威力に、天変地異を前にした子どものように呆けるザフト・連合両陣営。

 

 

 

「なるほど。これが世界をも滅ぼす悪魔の一撃か」

 

 

 

「この威力は、戦略級兵器ーー? いや、これはもっととんでもないものだ」

 

 

 

 数あるデスアーミー達を屠りながら、ビショップとナイトを駆る二人のザフトパイロットが唸る。

 

 

 

 フィルム・ノワールとハイネ・ヴェステンフルスだった。

 

 

 

「い、今のはーー!?」

 

 

 

 シンも呆然と見上げていた。

 

 

 

 巨大な機体ーーグランドマスターガンダムが空中に吹き飛ばされ、その後に放たれた強力無比な一撃。

 

 

 

 それはあの巨体を完膚なきまでに消し飛ばした。

 

 

 

 はっきり言って桁の違う威力だ。

 

 

 

 石破天驚拳。

 

 

 

 それを極限まで極めた一撃。

 

 

 

 一機のMFが放った技が、あれほどの威力とは誰も思うまい。

 

 

 

「これが、最強の力なのか……!!」

 

 

 

 アウルも隣で呆然としていた。

 

 

 

 その横でマスターガンダムのファイター東方不敗マスターアジアがにやりと笑う。

 

 

 

「ふん! Dめが、やりおるわ!!」

 

 

 

 ジョンブルガンダムのファイター。ジェントル・チャップマンも頷いた。

 

 

 

「大した奴だ。一人でウルベ達のところまでたどり着いたか」

 

 

 

 ネロスガンダムのファイター。ミケロ・チャリオットがこれに吐き捨てる。

 

 

 

「あのドモン・カッシュとゴッドガンダムを相手に真正面からやりあえる化け物だ。あんな頭だけのカス共に負けるわけねえだろ」

 

 

 

 その三人の言葉に、シンはデスティニーガンダムのコクピットから思わず問いかけた。

 

 

 

「それってーー! ウルベとウォンを!?」

 

 

 

 シンの言葉にマスターアジアはコクリと頷いた。

 

 

 

「うむ、どうやらシュバルツとDは本懐を成し遂げたようだな」

 

 

 

 返答にシン達は目を大きく見開いて拳を天に突き上げた。

 

 

 

「よっしゃぁああああああ!!」

 

 

 

「さすが、シュバルツさん!!」

 

 

 

「ああ! これで、ようやく終わる」

 

 

 

 シン達三人は互いに手を取り合いながら、喜ぶ。その様をスティング達が笑いながら見ていた。

 

 

 

「さすが、ゲルマン忍者」

 

 

 

「ホント、呆れるぐらい見事だよ」

 

 

 

「うん。シュバルツ、凄い!!」

 

 

 

 6人の少年・少女達の称賛が響く。

 

 

 

 周囲には未だデスアーミー達が居たが、自己再生をすることもなく。

 

 

 

 明らかにその数を減らしている。

 

 

 

「おのれ!! キョウジにデビルガンダム!! よくも!!!」

 

 

 

 ウルベコピーが最後の一体となりながらもこちらに構える。

 

 

 

「こうなれば、一人でも多く地獄まで道連れにしてくれる!!」

 

 

 

 デスガンダム・ルークを構えさせる。

 

 

 

「ほう。あきらめの悪さと執念だけは認めてやろう」

 

 

 

 マスターガンダムがこれに構えを取る。

 

 

 

 それを制するようにネロスガンダムが前に出た。

 

 

 

「けっ、コピー体の分際で俺達ガンダムファイターに挑もうってのが、そもそもの間違いだろうが!!」

 

 

 

 ミケロが殺意をまき散らしながら、ネロスガンダムに構えを取らせる。

 

 

 

 その更に前にシンのデスティニーガンダムの背が立ちはだかった。

 

 

 

「…小僧。いや、シン・アスカ。貴様…!」

 

 

 

「! なんだぁ、てめえ?」

 

 

 

 目を丸くし大きく見開くマスターアジア。

 

 

 

 問いかけるミケロにシンはウルベコピーを睨みつけながら言った。

 

 

 

「悪いけど、こいつは俺に譲ってくれないか? 戦局はもう決定してる。ここでの勝負は戦局には関係ない」

 

 

 

 ミケロが訝し気に問いかける。

 

 

 

「分かってんのか? てめえはさっき、6人がかりで挑んでやられたんだろうが?」

 

 

 

「分かってる。だけど、このままじゃ終われないんだ!! シュバルツさんに助けてもらってばかりじゃ、俺は何のために強くなったのか分からない!! だからーー!!」

 

 

 

 燃える紅い瞳を正面に見て、ミケロは「ケッ」と吐き捨てると彼から背を向けた。

 

 

 

「勝手にしやがれ」

 

 

 

 そんなミケロにシンが笑いかけた。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

「気持ちの悪いことぬかすな。俺様はてめえが死のうが知ったこっちゃねえだけだ」

 

 

 

 吐き捨てるミケロの横からマスターアジアが告げた。

 

 

 

「心意気はよし、だが。一騎打ちでは話にならんぞ? 分かっておるな?」

 

 

 

「ああ。俺とルナ、レイの三人で、こいつを倒す!!」

 

 

 

 シンの力強い言葉にマスターアジアは口元をほころばせる。

 

 

 

 その横から、スティングが言った。

 

 

 

「師匠!」

 

 

 

「僕たちも闘わせてください!!」

 

 

 

 これにアウルが続く。ステラはその横で純粋な目を師匠マスターアジアに向けていた。

 

 

 

「ばかものが、言うまでもあるまい。貴様らが手を貸さずしてあやつらに勝利はない」

 

 

 

「「「はい」」」

 

 

 

 こうして再び6機のガンダムが肩を並べてルークの前に立つ。

 

 

 

「いいのか、マスターアジア。お前の弟子達とあの三機では正直に言って荷が重いぞ?」

 

 

 

 小声でジェントル・チャップマンがマスターアジアに話しかける。

 

 

 

 これにマスターが微笑んで言った。

 

 

 

「チャップマンよ、人は常に進化するものだ。昨日まで猫であったものが今日、獅子となることもある」

 

 

 

「……それは稀有なことだが、あの小僧たちならばできる、と?」

 

 

 

「うむ! そのとおりだ!!」

 

 

 

「なるほど。では楽しみに見させてもらおう」

 

 

 

 ほくそ笑む二人を横目で見ながら、ミケロはため息をつく。

 

 

 

「ケッ、何が面白いってんだ? あんなガキどもの成長なんざよ」

 

 

 

 言いながら、ネロスガンダムも視線を6機の少年たちのガンダムとウルベコピーのデスルークから外していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「無謀だ! マスターアジアやDならばともかく、今のシン君やレイたちでは返り討ちにあう! タリア、なぜ止めない!?」

 

 

 

 先の究極の一撃を見た後で、ようやく我を取り戻したギルバート・デュランダル議長は思わず立ち上がり、この戦いを止めようと直接の上司であるタリア・グラディス艦長に通信を入れる。

 

 

 

 これにモニターのミネルバ隊は真っ直ぐに議長を見返してきた。

 

 

 

「ーー彼らならば、勝てます。信じてあげてください。彼らの力を」

 

 

 

 ミネルバの総意とも言うべき言葉をタリアはデュランダルに投げかけた。

 

 

 

「優秀なパイロットを何人失うか分からないんだぞ、タリア!? 我々は、格闘技の試合をしているのではない!!」

 

 

 

 デュランダルの言葉にタリアは真っ直ぐに彼を見て言った。

 

 

 

「そうですね。ですが、議長。貴方の知らない人の可能性があるのなら、この戦いがそれを表示してくれますわ」

 

 

 

 タリアの言葉に、デュランダルは何かが引っかかり、モニターのシンたちに目を移す。

 

 

 

 

 

 一方で、この思わぬ状況にウルベコピーはほくそ笑んでいた。

 

 

 

「貴様ら未熟な小僧どもだけか。これならば逃げ切る可能性が見えてきた!!」

 

 

 

 そう告げるウルベコピーに、シンがアロンダイトを突き付けて言った。

 

 

 

「そいつは、どうかな?」

 

 

 

 デスティニーガンダムが両手で大剣を持って正眼に構える。

 

 

 

 ウルベの気迫が違う。

 

 

 

 先ほどまでとは、気の質が違った。

 

 

 

 あざけり嗤うのは同じだが、同時に必死でこの場から逃げようとする気迫を感じる。

 

 

 

「……生半可な攻めじゃ倒せない。アウル!」

 

 

 

「OK! 合わせるぜ、シン!!」

 

 

 

 自分の機体ーーデスティニーガンダムの動きについて来れるのは、アウル・ニーダのヤマトガンダム・スーパーモードだけだ。

 

 

 

 その後ろではレイがスティングに話しかける。

 

 

 

「やれるか?」

 

 

 

「任せとけよ」

 

 

 

 クーロンガンダムが静かにビームクロスを抜き、硬質化させて一振りのナギナタへと変化させる。

 

 

 

 互いにニッと笑い合う。

 

 

 

「ステラ、お願いしてもいいかな?」

 

 

 

「うんーー! 勝とう、ルナ!!」

 

 

 

 シャッフルハートに搭乗するステラにインパルスガンダムのルナマリアが何かを話しかける。

 

 

 

 まともにやりあっても勝てないことは6人とも分かっている。

 

 

 

 ならば、相手の態勢を崩し、防ぎきれない一撃を加えるしかない。

 

 

 

「…作戦会議は終わりかね? ではこちらから行くぞぉおおお!!」

 

 

 

 デスルークが背中の小さなバーニアを吹かして一気に距離をゼロにする。

 

 

 

 大地に突き刺さる巨大な拳打。

 

 

 

 どでかいクレーターが出来上がる。

 

 

 

 6機のガンダムはそれが着弾する紙一重で見切り、四方に飛び散った。

 

 

 

「ちょこまかと、虫けらめが!」

 

 

 

 周囲を見渡すウルベ。

 

 

 

 その後方から、超スピードでクーロンガンダムとMAとなったシャッフルハートの背にまたがるインパルスガンダムが現れた。

 

 

 

「なに!?」

 

 

 

 エクスカリバーとビームナギナタが同時にデスルークの巨大な胴を後ろから切りつける。

 

 

 

「硬い!?」

 

 

 

「武器が、通らねえか!?」

 

 

 

 弾かれる二機の攻撃。

 

 

 

「ふん、そんなものか」

 

 

 

 それを見てにやりと笑いながらウルベが超スピードで回し蹴りを放ち、宙にいる三機に放つ。

 

 

 

 鋭い一撃だが、当たる瞬間にあさっての方向から多重ビーム砲がはなたれ、僅かに蹴りの狙いがそれる。

 

 

 

「なに!?」

 

 

 

 目を見開くウルベが見た先には、こちらにバックパックのビーム砲とライフルを構えたレジェンドガンダムの姿だった。

 

 

 

「おのれぃ!! 鬱陶しい虫共めが!!」

 

 

 

 続けざまに放たれる多重ビームを巨体でありながらも素早く、ステップしながらルークは避ける。

 

 

 

 地面に手をつき、側方に回転したり、バク転しながら網の目を縫うように巨体が飛び跳ねる。

 

 

 

「なんて動きだ!!」

 

 

 

 あの巨体に当てられる気がしない。

 

 

 

 レイをしてそう思わせる程の動き。

 

 

 

 多重ビームの先にはスティングのクーロンガンダムが居た。

 

 

 

「まだだ!!」

 

 

 

 ナギナタを回転させて盾にし、多重ビームを受ける。

 

 

 

 そのビームを穂先に集中させて、横薙ぎと同時にルークに放った。

 

 

 

「器用な真似を」

 

 

 

 ウルベはその技に感心しながらも右の拳をつくって弾く。

 

 

 

 ガードに回した右の拳の影からステラのシャッフルハートに乗ったルナマリアのインパルスガンダムが顔面に斬りかかった。

 

 

 

「くらえ!!」

 

 

 

 しかし、その突きはあっさりと巨大な左手の人差し指と中指に挟まれ、止められている。

 

 

 

「ーークッ」

 

 

 

 咄嗟に柄同士を連結させていたエクスカリバーの片方を外し、一振りの大剣にして構えなおす。

 

 

 

 デスルークは掴みとめた方のエクスカリバーを無造作に地面に投げ捨てた。

 

 

 

「ホントに強すぎるんだけど…!! 何なのよ、こいつ!!」

 

 

 

「師匠たちが相手してたら弱く見えるけど、やっぱり手強いね」

 

 

 

「それにしたって、手強すぎるでしょ!! 隙なんかまるで無いじゃない!!」

 

 

 

 じだんだを踏みしめながら言うルナマリアにステラが困ったような表情になる。

 

 

 

「でも、何とか攻撃は回避できてるよ?」

 

 

 

「そんなの、向こうに一撃入れられなきゃ一緒じゃない!! 腹が立つ~!!」

 

 

 

 目の前に巨大な右手がある。

 

 

 

 その指先に青白い光が集約され、放たれる。

 

 

 

 レーザーは地面に線を引きながら、海を割りながら、雲を割きながら、ルナマリア達に迫る。

 

 

 

「やろう! クーロンフィンガァアアア!!」

 

 

 

 真紅の手が光輝き、ステラ達に迫るビーム砲を横から撃ち抜いて庇う。

 

 

 

 スティングの攻撃力はルークを上回っている。

 

 

 

 機動力ならば、ステラのシャッフルハート。

 

 

 

 手数ならばレイのレジェンド。

 

 

 

 的確な格闘ならルナマリアのインパルスが勝る。

 

 

 

 だが、決定打が与えられない。

 

 

 

 一方でウルベも違和感に気付いた。

 

 

 

「どういうことだ? 6体居たはずだが、なぜ先ほどから4体しか攻撃に参加してこない?」

 

 

 

 ウルベが静かに周りを観察すると、腰だめに気を高めるデスティニーガンダムとヤマトガンダムの姿があった。

 

 

 

「なるほど、明鏡止水で気を極限まで高めて放つつもりか。無駄な事を! と言いたいが、何が起こるか分からんからな。先に潰させてもらおうか!」

 

 

 

 構えを取るウルベを正面に見ながら、シンは呟いた。

 

 

 

「どうするよ? 気付かれたみたいだぜ?」

 

 

 

 これにアウルが皮肉気な笑みを浮かべた。

 

 

 

 隣のシンに語りかける。

 

 

 

「やるか? まだ気が充分じゃないがーー。シン、お前はどうだい?」

 

 

 

「似たようなもんだ。とてもじゃないが、奴を一撃で倒せるようなレベルじゃない」

 

 

 

 シンの予想どおりの回答にアウルが苦笑しながら言う。

 

 

 

「お互い、役立たずだねぇ」

 

 

 

「は、まったくだ」

 

 

 

 二人とも皮肉気な笑みで笑い合う。

 

 

 

 それを見下ろしながら、ウルベは言った。

 

 

 

「お友達との最後の会話は楽しめたかな? ならば消えるがいい!!」

 

 

 

 右の掌を開き、エネルギーを溜めて放とうとする。

 

 

 

 それを、横からレジェンドガンダムとクーロンガンダムが腕の部分に切りつけて狙いを外させる。

 

 

 

「やらせるかっ!」

 

 

 

「そう簡単に!!」

 

 

 

 レイとスティングの体当たり気味の斜め斬り下ろしの同時攻撃に、ルークの太い腕の狙いがそれる。

 

 

 

「貴様ら!!」

 

 

 

 巨大な左の拳に殴り飛ばされるレイとスティング。

 

 

 

 弾き落とされる二機は地面に叩きつけられた。

 

 

 

「ぐぅっ」

 

 

 

「なんてパワーだ!」

 

 

 

 衝撃に歯を食いしばる二機の上に巨体が跳びあがる。

 

 

 

「死ねぇええええええ!!」

 

 

 

 悪魔の雄叫びを上げながら、目は赤く染まり、肌は紫となって牙を剥き出しにした異形の男は襲い来る。

 

 

 

「やらせるかぁあああああ!!」

 

 

 

「なめるなぁああああああ!!」

 

 

 

 二人の少女が跳びあがったルークの顔面にエクスカリバーの横薙ぎの一撃を食らわせる。

 

 

 

 シャッフルハートの機動力と斬撃の威力を合わせた一撃。

 

 

 

 しかし、それもわずかに首がのけぞる程度の効果しかない。

 

 

 

「「ーーーーっ!!」」

 

 

 

 その程度の効果しかないことに目を見開く2人の少女。

 

 

 

「じゃじゃ馬どもめが!!」

 

 

 

 ウルベは首を元の位置に戻し、右の拳でルナマリアとステラを打ち落とす。

 

 

 

「ああああああっ」

 

 

 

「きゃああああっ」

 

 

 

 背中から地面に叩きつけられる少女たち。

 

 

 

 ウルベがゆっくりと彼女たちに向かって歩む。

 

 

 

「先に貴様らから握りつぶしてやろう」

 

 

 

 邪悪な笑みを浮かべて言うウルベに、背後からレジェンドガンダムの多重ビームとクーロンガンダムのエネルギーショットが背中に当たる。

 

 

 

「ぬぅ?」

 

 

 

 衝撃に体を揺らし、振り返って見ればスティングとレイの二人の機体が立ち上がって、こちらに構えを取っていた。

 

 

 

「やらせるかよ、ステラ達を!!」

 

 

 

「ああ、そうだな。これ以上は、やらせん!!」

 

 

 

 全身から白い炎のような気が二機を包み込み始める。

 

 

 

「……明鏡止水? こざかしい。!ぐう!?」

 

 

 

 ゆっくりとそちらに体を向けたとき、インパルスガンダムのビームライフルとシャッフルハートのエネルギーショットがデスルークの横面に直撃した。

 

 

 

「きさまらぁああああ…!!」

 

 

 

 忌々しさと苛立ちから、ウルベが唸る。

 

 

 

 そんな彼に不敵な笑みを浮かべてルナマリアは言った。

 

 

 

「調子に乗ってんじゃないわよ。化け物さん」

 

 

 

「ステラはーーううん。私たち、まだ負けてない!」

 

 

 

 ステラも普段は愛らしい相貌を鋭くして叫ぶ。

 

 

 

 これを忌々しそうに見下ろすデビルウルベ。

 

 

 

 デスルークは赤黒い光を全身に纏い、一気に気を高める。

 

 

 

「できると思うなよ? 貴様ら如き有象無象が!! このウルベを倒すなど!!!」

 

 

 

 拳を握り構えを取るウルベに、ルナマリアが。

 

 

 

 ステラが、レイが、スティングが、叫んだ。

 

 

 

「「「「俺(あたし)達の魂の炎! 極限まで高めれば、倒せないものなどーーない!!!!」」」」

 

 

 

 その言葉にーーウルベの目が見開かれる。

 

 

 

 自分を一瞬で負かしたあり得ない敵。

 

 

 

 強烈なまでの気を思い起こさせる。

 

 

 

「シャッフル同盟ーー!? こんな小僧どもに、そんな力が!!?」 

 

 

 

 実際の4人にそこまでの気はない。

 

 

 

 だが、侮れないとウルベをして思わせる何かがある。

 

 

 

「どうやら、ウォンが言っていたことも一理あるようだ。貴様ら小僧どもの中から、やがてあのシャッフル同盟のような連中が生まれてくる可能性を感じるぞ」

 

 

 

 デスルークは静かに腰を落とし、拳を握り構える。

 

 

 

「ならば打ち砕くのみだ!! 貴様らの力をねじ伏せて私は己の力を示してくれる!!」

 

 

 

 一瞬の静寂。

 

 

 

 仕掛けたのは、4人の少年たちだ。

 

 

 

 四方向から同時に大地を蹴り、距離を詰めて己の持つビームサーベルやナギナタを振りかぶる。

 

 

 

 ウルベもまた全身に気を纏い、動いた。

 

 

 

「全く同時に仕掛けたのは、褒めてやる。だが!」

 

 

 

 青い光を放つ右の拳で地面を掬い上げるように横薙ぎのフォームから真上に振り上げる。

 

 

 

 レジェンドとクーロンがこれに飲み込まれ、天高く弾き飛ばされる。

 

 

 

 同時に、背後に迫り来るインパルスとシャッフルハートの斬撃を両の拳で弾いて捌き、強烈なカウンターの正拳突きで二体まとめて弾き飛ばす。

 

 

 

「くそーー!」

 

 

 

「まだだ!」

 

 

 

「このまま、やられるもんですか!」

 

 

 

「私たちは、強いんだから!」

 

 

 

 4体のガンダムは、己の持っていた武器を投げ捨てるとゆっくり拳を握って構える。

 

 

 

「ーー面白い。来たまえ、相手をしてやる!」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 レジェンドガンダムを駆るレイとクーロンガンダムを駆るスティングが同時に左右から殴り掛かったのだ。

 

 

 

 大人と幼児程の体格差はあるが、2機のラッシュを真っ向から左右の手で、ウルベは捌いていく。

 

 

 

「どうした、君たちの力はこんなものなのかね?」

 

 

 

 言うと同時に、2機の背後に超スピードで回ると強烈な回し蹴りで2機纏めて吹き飛ばす。

 

 

 

 今度は前後からルナマリアのインパルスガンダムとステラのシャッフルハートがデスルークに襲いかかる。

 

   

 

 正面から攻めてきたインパルスを右腕一本で捌くと、彼はルナマリアの正拳を左に見切ってから掴み止め、背後に来ていたステラに向かって投げ捨てる。

 

 

 

 ルナマリアのインパルスを咄嗟に両手で受け止めるシャッフルハート。

 

 

 

 そこへデスルークの巨大な足による強烈なスライディングキックが炸裂し、ルナマリア共々上空へ跳ね上げられる。

 

 

 

 更に跳躍してウルベは2機に追いつくと拳を振りかぶった。

 

 

 

「ーーやらせん!」

 

 

 

 そのウルベの顔面にレイのレジェンドによる拳打が放たれる。

 

 

 

 直ぐさま裁かれ、返しの左拳を打たれるも、それをレイはレジェンドにガードさせて止める。

 

 

 

「ーーなに?」

 

 

 

 異形と化したウルベの目が見開かれるも直ぐさま、殴り合いが始まった。

 

 

 

 互いの攻撃を互いの技で受けて流し、捌く。

 

 

 

「ーー巨体に惑わされていたようだ。やるべきことは見つかったぞ!」

 

 

 

 互いに攻撃を相殺しながら、レイは仲間に叱咤激励を入れる。

 

 

 

「ーーなめるなよ、若造が!!」

 

 

 

 互いに互角の打ち合いを演じていたように見えるが、体格差は明らか。

 

 

 

 負担はレイの方が大きい。

 

 

 

 このまま、続ければレイの集中力が切れて負ける。

 

 

 

 だが、それを良しとしない男ーースティング・オークレーが、クーロンガンダムに気をまとわせて打ち合いに割り込んだ。

 

 

 

「ーー小僧ども!」

 

 

 

 スティングは、打ち返しながら思う。

 

 

 

「信じろ。俺ならできる! 俺なら、やれる! そうだろ、ガンダム!?」

 

 

 

 炸裂音が響き渡り、巨大な拳をスティングの拳が迎え撃つ。

 

 

 

 地響きが鳴り、宙でラッシュをぶつけ合う両者。

 

 

 

 だが、やはりスティングも先ほどのレイと同じく長続きはしない。

 

 

 

 そんなことは、4人とも分かっている。

 

 

 

 自分たちがラッシュで、あの巨体と互角の打ち合いができるのは、精々が10数秒あれば良いところだ。

 

 

 

 ならば、どうする?

 

 

 

 明鏡止水で魂を削りながら、10数秒なら確実に稼げると分かったなら、どうするか?

 

 

 

 答えは決まっている。

 

 

 

「はぁあああっ!!」

 

 

 

 スティングの手数が負け始めるまえに、ルナマリアのインパルスガンダムがラッシュを横から仕掛ける。

 

 

 

 当然、ウルベはそれを捌いてラッシュを返してくる。

 

 

 

 だが、思ったとおり10数秒程度なら互角の打ち合いを演じることができる。

 

 

 

「ーー貴様ら、この程度の時間稼ぎが何になる!?」

 

 

 

 問いかけるウルベに、ルナマリアが不敵に告げた。

 

 

 

「分からない? なら、地獄で考えなさいよ」

 

 

 

 ルナマリアの気が小さくなるーー寸前に、ステラのシャッフルハートがラッシュを引き継ぐ。

 

 

 

「ーーお前が負けた理由は、一つだけだ!!」

 

 

 

 ウルベは力押しで彼女を弾き飛ばそうとするも、粘られている。

 

 

 

「ーーおのれ! この程度の小娘どもに!!」

 

 

 

 忌々しげに顔を歪めながら、10数秒後に弾きかえす。

 

 

 

「ーーくっ」

 

 

 

 宙で流れるシャッフルハートにウルベは渾身の力で右の拳を振りかぶった。

 

 

 

「死ねえぇぇぇええっ!!」

 

 

 

 だが、その拳がステラに当たる寸前に銀色の光と青い光、緑色の光がデスルークの拳のまえに現れる。

 

 

 

 レイのレジェンドガンダム、ルナマリアのインパルスガンダム、スティングのクーロンガンダムである。

 

 

 

 3機は己の最後の力を振り絞って、真っ向から拳をぶつけてデスルークを止めていた。

 

 

 

「貴様らーー!?」

 

 

 

 3人は歯を食いしばり、レジェンドとインパルスは青い光を、クーロンが深紅の光を拳に纏わせている。

 

 

 

「俺たちを舐めるなよ、ウルベ・イシカワーー!」

 

 

 

「あたしたちは、あんたなんかに負けないわ」

 

 

 

「俺たちは、今日! お前を超えていく!!」

 

 

 

 これに、ウルベは目を見開いて咆哮する。

 

 

 

「ふざけるなぁあああっ! この私が、貴様ら如きに、負けるかぁあああっ!!」

 

 

 

 強烈な赤黒い気がデスルークの拳に纏い、三体のガンダムを後方へ弾き飛ばす。

 

 

 

「「「ぐわああああっ!!!」」」

 

 

 

 追撃に右掌を大きく広げ、どす黒い気を高めてエネルギーショットを放つ。

 

 

 

「夢も終わりだ、クズども!!」

 

 

 

 当たれば、三体のガンダムは消えるだろう。

 

 

 

 それほどの威力を持ってウルベはエネルギーを放ってきた。

 

 

 

「僕のこの手が唸りを上げる、炎と燃えて全てを砕く!!」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 強烈な白い光を纏った2機のガンダムが、ウルベのエネルギーショットの前に現れたのだ。

 

 

 

「灼熱、サァアアンシャインフィンガァアアア!!」

 

 

 

 トリコロールの二機の内の一機は、右掌を真っ赤に燃やして、ウルベのエネルギーショットを真正面から打ち破った。

 

 

 

「ーー何だと!? 私のパワーが、こんな小僧に!?」

 

 

 

 光の翼を広げたもう一つの機体は、青い光を両の拳に纏わせて一気に突っ込んでくる。

 

 

 

「ーー真正面から、打ち砕いてやる!!」

 

 

 

「舐めるなよ、小僧ぉぉおおお!!」

 

 

 

 空中で強烈な拳と蹴りをぶつけ合う両者。

 

 

 

 デスルークは、その巨体からは考えられない身のこなしで連続攻撃を放ち。

 

 

 

 デスティニーは、20メートルにも満たない標準的なMSのサイズでパワー負けしていない。

 

 

 

 どちらも譲らない空中での乱打戦。

 

 

 

 

 

 

 

「何ということだ!! こんなことがーー!!」

 

 

 

 デュランダルをして目の前の光景が信じられない。

 

 

 

 それはそうだろう。

 

 

 

 デスティニーガンダムは、自分の倍近い身長の相手に互角に殴り合っているのだ。

 

 

 

「これほどの動きができるとは技師長から聞いていないぞ! これがシン君の実力だと言うのか!?」

 

 

 

 その性能は、確かにインパルスガンダムの上を行く。

 

 

 

 だが、これはそんなレベルではない。

 

 

 

 MSという枠には既にとらわれない圧倒的な動きだった。

 

 

 

「デュランダル議長、これが心の強さですわ」

 

 

 

 うっとりと見惚れるように恍惚とした表情でラクス・クラインの姿をした少女がつぶやく。

 

 

 

「己の可能性を最後まで、一点の曇りもなく、わだかまりも疚しさもない澄んだ気持ちで信じ抜く」

 

 

 

 微笑む。

 

 

 

 愛おしいほどに、狂おしい程に。

 

 

 

 壊したくなるほどに。

 

 

 

 今のシン達は美しい。

 

 

 

「明鏡止水ーーこれが、その力なのか」

 

 

 

 理不尽なまでの絶望を前にしてもなお、立ち向かう勇気。

 

 

 

 一点の曇りもなく、それができる。

 

 

 

 彼らの強さは、そこにある。

 

 

 

 

 

 

 

 ぶつかり合う。

 

 

 

 何度も何度も何度も。

 

 

 

 拳と蹴りをぶつけ合う。

 

 

 

 途中からアウルと二人がかりで攻撃をしているのに、まるで崩せる気がしない。

 

 

 

 ウルベの攻撃がここに来て、鋭さと速さを増している。

 

 

 

「認めるものかーー! 貴様らのような夢を見るだけの子どもに、絶望を知るこの私が負けてなるものか!!!」

 

 

 

 それは既に執念ですらない。

 

 

 

「貴様らのような存在を一人残らずDG細胞に感染させ、ゆっくりと我が意のままとしてくれる!! たっぶりと絶望を味あわせてなぁあああああ!!!」

 

 

 

 怨念と呼ぶにふさわしい負の情念だった。

 

 

 

 気迫が更に上がる。

 

 

 

 これにアウルが頬を引きつらせながら言う。

 

 

 

「シン、ちょっとやばいぜ! このままじゃ!!」

 

 

 

 シンは相手の力が増していくのを感じながらも退く気は一切なかった。

 

 

 

「ぼやくなよ、アウル。ここまで来て、弱音なんざかっこつかねえ!!」

 

 

 

「ーー確かになぁああああっ!!」

 

 

 

 シンの言葉に再びアウルの闘志にも火が灯る。

 

 

 

「なら、ここいらでケリをつけるぜ!!」

 

 

 

 言うや、アウルはデスルークのラッシュの内から右のストレートを選ぶと、それを弾いて懐に飛び込んだ。

 

 

 

「僕の全気力をこの一撃に込める!! とどめは任せるぞ、シィイイイイイインッ!!!」

 

 

 

「ーーアウル!!」

 

 

 

 デスルークの懐でヤマトガンダムの気が爆発した。

 

 

 

「流派東方不敗! 奥義!!」

 

 

 

 ヤマトガンダムの全身を緑と金の気の渦が巻いてく。

 

 

 

「超級! 覇王!! 電ぇえええん影ぇええええええい弾ぁああああああんっ!!!」

 

 

 

 その一撃はデスルークのの上半身を飲み込むほどに強大なエネルギーの渦となる。

 

 

 

 パワーは凄まじく、デスルークの巨体を後方に下げていく。

 

 

 

「こ、こんなものでぇえええええ!!」

 

 

 

 しかし、ウルベはその力を持って強大なエネルギーの渦と化したヤマトガンダムを両腕で掴む。

 

 

 

「ちくしょう! こいつを吹き飛ばすには、僕だけじゃパワーが足りねえ!!」

 

 

 

 アウルは数10メートル程度ウルベの足を後ろに引きずらせることに成功するも、ドッジボールの球を受け止めるように両腕でしっかり抱え止められる。

 

 

 

「当たり前だ!! 貴様らごとき、絶望や裏切りすら何も知らん子どもに負ける私ではーーない!!!」

 

 

 

 もう少しだった。

 

 

 

 この男を倒すには、もう少しの力があればできる。

 

 

 

「畜生ーー! あと少しなのにーー!!」

 

 

 

 アウルの表情が歪む。

 

 

 

「くくく、このまま握りつぶしてくれる!!」

 

 

 

 ウルベが抱え込んだ両腕に力を込め、電影弾の気の渦ごとヤマトガンダムを握りつぶそうとする。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「アウル、行けよ!!」

 

 

 

「俺たちの力で後押しする……!!」

 

 

 

「アウル、あと少しだよ!!」

 

 

 

「弱音吐いてんじゃないわよ、アウル!!」

 

 

 

 インパルスガンダム、シャッフルハート、レジェンドガンダムが、クーロンガンダムの後ろに周り肩に手を置く。

 

 

 

 ジェネレーターから気が送り込まれ、スティングの身体に欠けていた気が少しだけ戻る。

 

 

 

「行くぜ、アウル!! 受け取れ、俺達の”気”を!!!」

 

 

 

 放たれるクーロンガンダムのエネルギーショット。

 

 

 

 それが電影弾を放つアウルのヤマトガンダムを後押しする。

 

 

 

「!! ありがとうよ、みんな!!」

 

 

 

 わずかにだが、再びウルベの足が後方に引きずられていく。

 

 

 

「なんだと、こんなバカな!?」

 

 

 

 狼狽えるウルベにアウルが不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

「前にも言ったけどさ。お前だけは許さない。覚悟しろよ、この屑野郎!!!」

 

 

 

 一気に超級覇王電影弾の気が倍に膨れ上がった。

 

 

 

「貴様! 何故まだこれだけの力が!?」

 

 

 

「わかんねえか? わかんねえよな。テメエみたいに独りで戦うような奴には一生わかんねえよ!!」

 

 

 

「…き、さ、ま、らぁああああああああっ!!!」

 

 

 

 アウルが最後の気力を振り絞って咆哮した。

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 5人皆の思いが一つになる。

 

 

 

「「「「「吹き飛べぇえええええ!!!!!」」」」」

 

 

 

 電影弾の気がデスルークの身体を飲み込むほどに強大なものになり、ついにウルベは上空へと跳ね上げられた。

 

 

 

 40メートル近い巨体が、百数十メートルの高さまで跳ね上げられる様は、正に圧巻だった。

 

 

 

 だが、まだ勝負はついてなどいない。

 

 

 

「おのれ、こうなればーー!」

 

 

 

 胸のエネルギーマルチプライヤーカバーを展開し、結晶を晒す。

 

 

 

 エネルギーマルチプライヤーがウルベの気を増幅し、核融合炉が陽電子のエネルギーを倍加させる。

 

 

 

 その青と赤の光の球を胸の前で極限まで圧縮し、ウルベは叫んだ。

 

 

 

「ーーこのちっぽけな島ごと消してやる!!!」

 

 

 

 上空から下の地面に向き直り、極限まで高めたエネルギーを放とうとして、彼の眼の前に光の翼を広げた機体があった。

 

 

 

「なんだと?」

 

 

 

 その機体は、全身から白い光を放つと一気に気を爆発させる。

 

 

 

「ーーこの勝負、俺の。いや、俺たちの勝ちだ、ウルベ!!」

 

 

 

 光の残像を残しながら、一気に距離を詰めてくるデスティニーガンダム。

 

 

 

「舐めるなよ、小僧! 島を攻撃すれば、貴様は奴らを仲間を守らなければならん。避けることはできん!!」

 

 

 

 デスルークが、エネルギーをデスティニーガンダムに真正面から放つ。

 

 

 

 避けれない。

 

 

 

 避ければ島にぶつかり、仲間も何もかも消し飛ぶ。

 

 

 

「ーーだったら、打ち破るのみ!!」

 

 

 

 シンの気迫に応えるようにガンダムが目を輝かせる。

 

 

 

 シンはデスティニーに両手を組ませると、強大な青い光の剣を作り出した。

 

 

 

「キラさん、技を借りますよ!!」

 

 

 

 それは、ベルリンでデスルークを破ったキラ・ヤマトのストライクガンダムの光の剣。

 

 

 

 模倣したシンは知らないが、その技もある兄弟が使った技をキラが模倣したものであった。

 

 

 

 希望の未来を切り開く、輝ける光の剣。

 

 

 

「死ねえぇぇぇええっ!!」

 

 

 

「お前を倒せと、輝き叫ぶぅうううう!!」

 

 

 

 赤と青のビームと白い光を纏い光の剣を振りかざすデスティニーガンダムが中央でぶつかり合う。

 

 

 

「シン! ウルベなんかに負けないで!!!」

 

 

 

「ーー信じてるからね、シン」

 

 

 

 2人の少女の想いと願いを。

 

 

 

「ーーシン、お前なら勝てる!!」

 

 

 

「頼むぜ、シン!!」

 

 

 

「僕たちが、ここまでお膳立てしたんだ。負けんなよ!!」

 

 

 

 3人の少年からの叱咤激励。

 

 

 

 そして、あの人からのーー!

 

 

 

「見事、打ち勝ってみせよ! 私の自慢の教え子、シン・アスカよぉおおお!!!」

 

 

 

 その想いが声が、シンの耳に届いた時。

 

 

 

 運命は黄金の光を纏った。

 

 

 

「ーーばかな、ばかなばかなばかなばかなばかなぁあああっ!! 何故だ、何故貴様に、こんなことが!!?」

 

 

 

 デスルークの放った破壊の光が、デスティニーの体を纏う黄金の輝きの前に消し飛んだ。

 

 

 

「ーー我が心、明鏡止水。されど、この胸の魂は、烈火の如く!!」

 

 

 

 赤紫の光の翼が、デスティニーの残像を生み出す。

 

 

 

「ーーおのれ、ガンダム!!!」

 

 

 

 巨大な拳を振りかぶり、光の翼を背負った黄金のガンダムに放つ。

 

 

 

 一閃。

 

 

 

 デスティニーの光の剣は、頑強な拳を二の腕あたりまで、一刀の下に切り捨てる。

 

 

 

 光の翼が、圧倒的なスピードでデスルークに狙いを定めさせずに動く。

 

 

 

「おのれ!!」

 

 

 

 左の拳を放つデスルーク。

 

 

 

「ーー甘い!!」

 

 

 

 その場からの横薙ぎで、拳を切り捨てるデスティニーガンダム。

 

 

 

 そしてーー。

 

 

 

「ーーこれで、最後だぁあああっ!!」

 

 

 

 デスルークの顔面に突き刺さる光の剣。

 

 

 

 そのまま、縦に真っ二つにする。

 

 

 

「ーーおのれ、この私が。こんな小僧に負けるとは」

 

 

 

 体を半分にされてなお、ウルベはシンに告げる。

 

 

 

「お前、まだ!!」

 

 

 

 構えを取るデスティニーガンダムにウルベは笑いかけた。

 

 

 

「今は、一時の勝利を喜ぶがいい。だが、いずれ貴様らは我らDG細胞の支配下になる」

 

 

 

 巨大な爆発と共に、デスルークのウルベは告げた。

 

 

 

「その時を楽しみにしているがいい。くくく、はははははははははははは!!」

 

 

 

 宙で完全に破壊された巨大な機体。

 

 

 

 燃え上がるヘブンズベースの空に悪魔の哄笑が響いていた。

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 ヘブンズベース基地での戦いは、シュバルツやシンの活躍で勝利を収めました。

 しかし、デビルガンダムはその場で人類ーー否、デュランダルに対し、自分たちこそが人類の敵であると戦線布告するのです。

 そこでレイが思ってもみないことを彼らに告げるではありませんかぁ!!

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第73話に!

 レディー、ゴー!!


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第73話 人類の敵 デビルガンダム

 皆さん、シン達の大活躍でついに、ついにウルベが倒されました!!

 しかし、物語はまだまだ続きます。

 ジブリールを逃してしまった彼らの前に、今度はデビルガンダムことDが宣戦布告してくるのです!!

 はたして、どうなることやら。

 それでは!!

 ガンダムファイト!!

 レディイイ、ゴォオオオオ!!



 

第73話

 

 跡形もなく消し飛ぶ最後の禍々しい死のガンダムの牙城。

 

 

 

 すべてを終わらせた一撃は、この世界の少年と少女たちの願いと思いを込めた光だった。

 

 

 

 絶望のMSの軍団に染まっていた空と海、そしてヘブンズベース内の僅かな陸地。

 

 

 

 それらがまるで潮が引くように消えて行く。

 

 

 

「やったの、シン?」

 

 

 

 ルナマリアが、光の翼を展開しながらゆっくりと地上に降りてくるデスティニーガンダムに向かって問いかけた。

 

 

 

 傍らを見れば、彼女と同じく戦い抜いた4機のガンダムも固唾を飲んで見ている。

 

 

 

「……ああ!」

 

 

 

 シンはそう言ってルナマリア達の方に振り返り、デスティニーガンダムの親指を立てて見せた。

 

 

 

 これに連合とザフトの混成であるデュランダル軍が怒号をあげる。

 

 

 

「やったぞぉおおおおおお!!!」

 

 

 

「俺達は、生き残ったんだ!!!」

 

 

 

 皆が手を取り合い、喜ぶ中で、ギルバート・デュランダルも指令席に身を沈めて背もたれに埋まりながら目を閉じる。

 

 

 

「議長ーー!」

 

 

 

 サラが隣に来てデュランダルの名を呼び、ねぎらうように見つめると彼は片手で制した後に目を開き言った。

 

 

 

「ようやくスタート地点だ。それとジブリール氏を捉えるまでは、この世界の戦いは終わってはいない」

 

 

 

「ーーはい」

 

 

 

 デュランダルの言葉にサラも微笑みを決してモニターを睨みつけた。

 

 

 

「ラクスーー。ラウとハイネに伝えてくれ。ジブリール氏を探すように」

 

 

 

 この言葉にラウとハイネから「了解」との応答があった。

 

 

 

 その時だ。

 

 

 

「無駄だ。ロード・ジブリールは逃走した」

 

 

 

 第三者の声が通信で割って入って来た。

 

 

 

「その声、Dかーー?」

 

 

 

 デュランダルがモニターに目を戻すとそこには赤いボディに赤い羽根をマントのようにして身にまとった機体。

 

 

 

 デビルガンダムがこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ヘブンズベース陸上にいるシン達は基地の地下あたりにできた巨大な穴から、二機のガンダムが出てくるのを確認していた。

 

 

 

 黒いヘルメットをかぶった様な忍者の姿をした機体ーーガンダムシュピーゲルと、赤を基調としたトリコロールボディ(胸の部分だけ青)に赤い羽根の機体ーーデビルガンダムである。

 

 

 

 先の通信は赤い方の機体。

 

 

 

 デビルガンダムのパイロットであるDから放たれた言葉だった。

 

 

 

「逃げられたっていうのか!? ここまで追い詰めたのに!!」

 

 

 

 シンが思わず詰め寄るとシュバルツが頷いた。

 

 

 

「すまん。あと少しだったのだがーー」

 

 

 

 これに皆が歯を食いしばる。

 

 

 

 

 

 

 

 同時にギルバート・デュランダルに対してラウ・ル・クルーゼが声を上げた。

 

 

 

「デュランダル議長、逃げられたのであればすぐに追撃を行わなければなりません。我々『ヴェサリウス』はこれより追撃を行います」

 

 

 

 この言葉にデュランダルも神妙な面持ちで通信をかえした。

 

 

 

「頼むよ、ラウ」

 

 

 

 デュランダルの通信に応えながら、クルーゼは隣にいたナイトのMS。ハイネに声をかける。

 

 

 

「ハッ! そう言うわけだ、ハイネ。もう少し付き合ってくれ」

 

 

 

「分かってますよ。戦争を終わらせようにも、あんな奴に生き残ってもらっちゃ困りますからね」

 

 

 

「そう言ってもらえると助かるよ。」  

 

 

 

 帰艦するデスビショップとデスナイト。

 

 

 

 すぐに彼らを中心とした連合とザフトの混成チームが作られようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ヘブンズベース基地でのシン達も追撃に参加しようと声を上げた。

 

 

 

「俺達もいきます!」

 

 

 

「まだやれます、艦長!」

 

 

 

 シンとルナマリアの言葉にアーサーはタリアを振り返ると彼女は首を横に振った。

 

 

 

「無理をしないでちょうだい。貴方達の戦いは見事だったわ」

 

 

 

「あれほどの激戦だったんだ。ここは他の部隊に任せて、無理をするな」

 

 

 

 アーサーもタリアと同じ意見だったらしく、首を振る。

 

 

 

「だけど、艦長ーー!」

 

 

 

 シンが抗議の声を上げようとしたその時だった。

 

 

 

「喝ぁああああつ!!」

 

 

 

 突然、マスターアジアが気合の声を上げてシンのデスティニーガンダムに中段付きを放ってきたのだ。

 

 

 

「ーーっ!?」

 

 

 

 不意打ち気味に放たれた一撃。

 

 

 

 それをアウルのヤマトガンダムがデスティニーガンダムの前に割って入り、受け止めた。

 

 

 

「師匠? 何をなさるんですか!?」

 

 

 

 思わず問いかけるアウル。

 

 

 

「師匠!? 何故です!?」

 

 

 

「どうして、シンを攻撃するの? 師匠」

 

 

 

 狼狽えるスティングの横で悲し気な表情のまま問いかけるステラ。

 

 

 

 いきなり信頼していた大人から攻撃を受けた。

 

 

 

 そんな少年たちを見据えて、マスターアジアはニヤリと笑った。

 

 

 

「まだ敵が目の前におるというのに、何だ? その気の抜けようは」

 

 

 

「「「「「「---!?」」」」」」 

 

 

 

 6人の少年たちが同時に目を見開く。

 

 

 

 レイが持っているライフルを構え、ルナマリアが拳を握りしめた。

 

 

 

「人類の、敵だと言ったな?」

 

 

 

「どういうことなの、マスターアジア!? ステラ達を悲しませたら、許さないわよ!!」

 

 

 

 問いかけながらも油断はしない二人。

 

 

 

 正直に言って、マスターアジアに敵うとは思わないが。

 

 

 

 それでも見過ごすわけにはいかない。

 

 

 

「どういうことも何もない。ワシらは人類の敵、敵とは闘うものであろう。のう? 我らが王よ」

 

 

 

 マスターガンダムが自身のライバルであるガンダムシュピーゲル。

 

 

 

 その横に立つ赤い巨体ーーデビルガンダムに向けて笑いかける。

 

 

 

 同時、赤い髪の青年は言った。

 

 

 

「我が名は、デビルガンダム。聞け! 人間たちよ!! そしてそれを纏める者ーーデュランダルよ!!!」

 

 

 

 その通信は、全世界に轟いていた。

 

 

 

「我はかつて、この世界ーー地球を再生するために作り出されたもの。だがーー悪人と呼ばれる者に利用され、自我を得て。全ての人類を敵に回し、敗北したものなり」

 

 

 

 

 

 

 

 この放送はオーブに居るキョウジ・カッシュも見ていた。

 

 

 

 彼をして、戸惑う。

 

 

 

 これは彼の予想にはなかったことだ。

 

 

 

「……デビルガンダム、いったい何をするつもりなんだ? この世界は俺達の世界とは違う。そんなことを宣言したところで何の意味もない。なのに何故、世界をただ混乱させるような真似を?」

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙にて。歌姫の戦艦エターナルに居るドモン・カッシュにも届いていた。

 

 

 

 ラクスやダコスタが驚愕に目を見開いている中でドモンは静かに瞳の中に炎を燃やす。

 

 

 

「Dよ、お前は師匠・マスターアジアと共にその道を選ぶのか…!」

 

 

 

 彼らは真剣な表情で、モニターに映る青年の言葉を聞いている。

 

 

 

 

 

 

 

「故に我は知る。貴様ら人間の汚さを! 一方では綺麗な言葉を並び立て、一方では平然と裏切るその姿を!! 貴様ら人間は己と少し違う者を認めようとはせず!! 他者を疑い、利用し、滅ぼそうとする愚かな存在だ!!」

 

 

 

 その言葉は、一切の優しさや温かみがない。

 

 

 

 排除をすることのみを強調した言い方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 この言葉に紛争地域にいた少女は身を竦めつぶやく。

 

 

 

「…怖い」

 

 

 

「何をわけのわからないことを言ってやがる! 仕掛けてきたのは、あいつらロゴスだ!!」

 

 

 

「私たちの何が愚かだっていうのよ!!?」

 

 

 

 子を失った父親は怒り、母親は嘆きの表情となる。

 

 

 

 

 

 

 

 青年Dは、デビルガンダムの顔をジブラルタル基地ーーデュランダルを真っ直ぐに見据えた。

 

 

 

「我の中ではソレが全てだった。だが違ったのだ」

 

 

 

 Dの表情は穏やかなものに変わっていた。

 

 

 

「D--? 君は、何を?」

 

 

 

 思わずデュランダルが立ち上がる。

 

 

 

 その表情は自分に向けられるべきものであったろうか?

 

 

 

 機械だと割り切っていた。

 

 

 

 所詮は、機械が作り出した人形だと。

 

 

 

 だが、この表情は何だ? 

 

 

 

 知らなかった。

 

 

 

 Dにそんな表情ができることを、デュランダルは知らなかった。

 

 

 

「君は誰なんだ?」

 

 

 

 そのデュランダルの疑問に構わずDは続ける。

 

 

 

「我は、我の世界で多くの人間が地球を守るために戦ったのを見た。今の貴様らと同じようにいがみ合い、疑い合った人間たちが、地球を守るためだけに一つとなった」

 

 

 

 狂人の類かとも思った。

 

 

 

 だが、彼の話には凄みがあった。

 

 

 

 何故かはわからないが、彼の言葉には力があったのだ。

 

 

 

「故に我は、そなた等に問いかける。そなた等は真実、平和を望む者か?」

 

 

 

 これにシンを含む兵士達が声を上げた。

 

 

 

「当たり前だ!!」

 

 

 

「俺達は、平和を望んでいる!!」

 

 

 

「だからこそ、ロゴスを討とうと!!」

 

 

 

 これにDは問いかけた。

 

 

 

「ロゴスを討てば、平和になるのか? それは、そなた等人間たちの総意か?」

 

 

 

 その言葉に即座にシンが言った。

 

 

 

「総意かどうかなんかどうでもいい! 動かなきゃ、何も変わらないから!! だから俺達は今、こうして戦ってるんだろ!?」

 

 

 

「その考えと思いは正しい。だが、その後はどうする? 導かれるまま、誰かに判断を委ねたまま生きるのか?」

 

 

 

「根本的なこと言ってやるぜ。俺はな、そんな頭でっかちの話なんかどうでもいいんだよ!! 問題は、あいつらーーウォンやジブリール達を生かしておいたら、もっと大勢の人間が犠牲になるってことだよ!! ベルリンの街みたいな被害が何度も引き起こされるんだ!! 許せるわけないだろうが!!!」

 

 

 

 言いながらシンは炎の瞳をDに向ける。

 

 

 

 Dも同じ色の瞳で彼を見返した。

 

 

 

「だから、皆ここにいる!! こうして戦っているんだ!!!」

 

 

 

 彼の思いを代弁するかのように、他の5人の少年たちもデスティニーガンダムの傍らに立ってデビルガンダムを見る。

 

 

 

「その思いが愚かだって言うんなら、お前もウォンやウルベ達と同じだ! 俺は、お前を許さない!!」

 

 

 

 デスティニーガンダムが拳を握りしめる。

 

 

 

 それをデビルガンダムが静かに見据えた。

 

 

 

「ガンダムシュピーゲル、貴様の影響か?」

 

 

 

「私は彼に技を教えたに過ぎない。だが、私もシンと同じだ、デビルガンダムよ」

 

 

 

 言いながらガンダムシュピーゲルのファイターたるシュバルツがブレードを静かに展開する。

 

 

 

「彼の言葉と思いが分からぬのなら、私がファイトを通じて教えてやろう!!」

 

 

 

 だが、デビルガンダムはそれに構わずに再びデュランダル軍全体に告げる。

 

 

 

「ならば、そなた等に問う。その尊き思いを利用されていると何故気付かない?」

 

 

 

「……!?」

 

 

 

 この言葉にシンとシュバルツの目が大きく見開かれる。

 

 

 

「真実、あのベルリンの一件がロゴスだけが原因だと思っているのか? 否、思っていたとしても、だ。ウォン達の言葉に偽りはなかった。デュランダルとのやり取りで、そなた等にも疑問が浮かんだ者もいるだろう。それとも、利用されていたとしても己や自分の大切な者が助かるならば大人しく利用されるという考えか?」

 

 

 

 その言葉にシンが大きく目を見開いて思い返す。

 

 

 

 ウォンの言葉に偽りがない。

 

 

 

 その言葉は真実だからだ。

 

 

 

 ベルリンの一件、アークエンジェル、キラ・ヤマト、アスラン・ザラ。

 

 

 

 それらは全てギルバート・デュランダルが仕組んでいた。

 

 

 

 だけど、それを告げられたところで、シン達には何もできない。

 

 

 

 今、何かができる状態にはないからだ。

 

 

 

 デュランダルは世界的に支持を集め、プラント最高評議会すらも纏めている。

 

 

 

 この状況で、デュランダルを黒だとは宣言できない。

 

 

 

(こいつ、何でこんなに詳しいんだ!?)

 

 

 

 シンが疑問に思うのも当然だった。

 

 

 

 そこにタリアからの通信が割り込んで来た。

 

 

 

「一つ良いかしら? 私はザフト艦艦長・タリア・グラディスです。貴殿の力のおかげでウルベとウォンを倒せたことをまずは、礼を言わせてください」

 

 

 

「……」

 

 

 

 タリアを訝し気に見るDに彼女は真っ直ぐな瞳を持って告げた。

 

 

 

「そして先の質問については、誰もが貴方のように強くはありません。ここには多くの人がいます。人種も国籍も皆、違います。彼らーーいえ、私たちには一人一人、守るべき家族がいます。そしてその事情も一人一人違うのです。しかし、皆が同じ方向を向いていなければ戦争など、個人の力ではできません」

 

 

 

「なるほど。概念として敵にも家族があることは知っている。だからとて、殺し合いの場では悩みや情けなどを持って望めば己が死ぬ、か。わざわざ自我を捨て、機械が如き動きをする貴様らが我には理解できなかったのだ。許せ」

 

 

 

「ーーええ。考えの違う人間達を纏めるには、一つの目標が必要ですから」

 

 

 

 Dは無表情ながらも、静かにタリアの話を聞いている。

 

 シンから見たその姿は答えを聞くのを待ち望み、やり取りを楽しんでいるかのようだった。

 

 

 

「デュランダル議長の考えに疑問を持つのか、持たないのか。それは一人一人の判断です。ただ、あのウォンの出した映像に何も感じない人間は、ここにはいないでしょう。ですが、戦闘後に「人類の敵」とあなた方が宣言されたことにより、議長への疑問よりも我々はあなた方を優先し、警戒しなければならなくなっているのです」 

 

 

 

 少し怒り気味に言うタリアにDは肩を竦めると言った。

 

 

 

「我らの存在は貴様らを混乱させるだけ、か?」

 

 

 

「現状においては、そのとおりです。ましてあなた方は、あの化け物とも言うべきウルベ達を圧倒する程の無視できない存在。混乱はこの上ないものです」

 

 

 

「なるほど。我が余計なことをせんでも、勝手に貴様らで考えるか」

 

 

 

 驚くほどあっさりとDはタリアの言葉に納得すると、そのまま機体を別の方向へ向けた。

 

 同時にシン達6人とシュバルツに向けて言う。

 

 

 

「次に会う時は、敵として遠慮なく相手をしてやろう。貴様らが今と変わらず、デュランダルの先兵のままならばな」

 

 

 

 最後にジブラルタルのデュランダルに向けて彼は悪鬼の形相となり、凶気を孕んだ瞳で告げた。

 

 

 

「ーーいずれ女は返してもらうぞ」

 

 

 

 その気迫はモニター越しでありながら、デュランダルをして気押される程であった。

 

 

 

 まるで獰猛な肉食獣の檻に放り込まれたような、心臓を鷲掴みにされたような感覚だ。

 

 

 

「ーー!」

 

 

 

 レイが先のデビルガンダムの様子に目を見開き、何かに気付いたように1人頷く。

 

 

 

 デビルガンダムはマント状にしていた翼を広げると、マスターガンダム達に告げる。

 

 

 

「行くぞ、もはやここに用はない」

 

 

 

「そうか。よかろう」

 

 

 

 マスターガンダムがそれに応えるとネロスガンダムを向いた。

 

 

 

「では行くとするか、ワシらの艦を出せ」

 

 

 

「ーーケッ」

 

 

 

 吐き捨てると、ネロスガンダムのデュアルアイが光る。

 

 

 

 同時にレセップスと呼ばれるザフト艦が彼ら四天王の上空に現れた。 

 

 

 

「「「師匠ーー!!」」」

 

 

 

 マスターアジアの弟子たちが思わず問いかけた。

 

 

 

「師匠! 俺達の敵に何故なるのですか!?」

 

 

 

「僕達、何か師匠の気に障ることをしたんですか!?」

 

 

 

「師匠、お願い! 敵にならないで!!」

 

 

 

 そんな三人の弟子を振り返ったマスターアジアは、温かみのある顔で言った。

 

 

 

「馬鹿弟子どもめ。ワシを越えなければ、人類は守れんぞ? シュバルツの下で精々精進するが良い」

 

 

 

 思わず、ステラが一歩踏み出そうとするが、それよりも先にレイのレジェンドガンダムが前に出た。

 

 

 

「デビルガンダム」

 

 

 

「ーー?」

 

 

 

 レイの目がDを見据えている。

 

 

 

 これにデビルガンダムおよび四天王が足を止めて振り返った。

 

 

 

「人類の敵となるとは、ギルをーーギルバート・デュランダルの敵と言う意味なのか?」

 

 

 

「……だったら何だ?」

 

 

 

 その答えにレイは眦をキリリと吊り上げて、言った。

 

 

 

「ならば、俺も共に連れて行ってくれ」

 

 

 

 その言葉にシン達の目が見開かれる

 

 

 

「何言ってんだよ、レイ!?」

 

 

 

「正気なの!?」

 

 

 

 狼狽える彼らの横で静かにシュバルツは、レイを見ていた。レイは、彼らに向けて頭をさげる。

 

 

 

「頼む、行かせてくれ。ミネルバにこのまま居ても、ギルは止められないんだ!」

 

 

 

「だからって、こんな奴らと組むなんて! 俺は認めないからな、レイ!!」

 

 

 

 必死に告げるレイにシンが待ったをかける。

 

 

 

「そうよ、レイ! 得体の知れない上に物騒なこと、この上ないわよ! 人類の敵だなんて名乗る奴なんだから!!」

 

 

 

 ルナマリアも遠慮なく告げる。

 

 

 

 これにチャップマンが苦笑を漏らし、ミケロは忌々しそうに吐き捨てる。

 

 

 

 ゆっくりとデビルガンダムは、レジェンドガンダムを見据えて告げた。

 

 

 

「話してみろ。確かデュランダルの所にいたレイ、だったな?」

 

 

 

 Dの言葉にレイは自分を覚えていたのかと目を見開き、一呼吸を置いて心を落ち着けると、ゆっくりと語りかけた。

 

 

 

「デビルガンダム、先のタリア艦長との話で俺なりにあなたが望むものが何か分かった。あなたは人間を知りたいのだろう? 俺は、あなたに具体的な指針と目的を与えることができる。だが、俺1人の力ではそれを遂行することはできない」

 

 

 

 Dは静かに続きを促す。

 

 

 

「あなたには力があっても具体的な指針はない。俺たちが組めば、お互いのデメリットを補えるはずだ」

 

 

 

「待てよ、クソガキ」

 

 

 

 そこに待ったをかけたのは、パンクルックの凶暴な男。

 

 

 

 ミケロ・チャリオットだ。

 

 

 

「勝手に話を進めてんじゃねえよ。ウルベのコピー相手に6人がかりでやっと倒せるような未熟なガキなんざ、足手まといにしかならねえよ」

 

 

 

 この言葉に、レイ以外の少年たちの眦がつり上がる。

 

 この気に呼応するように、ミケロが殺気を身に纏い始めた。

 

 

 

「あん? やろうってのか? コピー程度に手こずったてめえらが、この俺様と」

 

 

 

 猛禽類が翼を広げ、狩りを行うかのように両腕を広げてミケロは構える。

 

 これにシン達も構えを取るが、それを遮るようにレイは続ける。

 

 

 

「確かに、俺は未熟だ。自分1人じゃ何もできない。決めれない。情けない奴だった。だが!!」

 

 

 

 レイは真剣な表情でシンをルナマリアを、スティング達やミネルバを振り返ってから叫ぶ。

 

 

 

「だが、そんな俺を彼らは変えてくれた!! だから、守りたいんだ!! 頼む! ミネルバにこのまま居れば、いずれ俺たちは否が応でもギルの手駒にされるか、ミネルバの誰かを犠牲にしてしまう!! 俺はそれを止めたいんだ!!」

 

 

 

 ミケロが小馬鹿にした笑みを浮かべて何かを告げようと口を開けた瞬間に、チャップマンが真剣な眼差しで割り込んできた。

 

 

 

「若いな、小僧。俺たちと共に来るならば、戦士として戦い続けなければならないぞ? 守りたいと誓った友の為に、友を討たねばならん状況に陥ることもある。その覚悟はあるか?」

 

 

 

 かつて、英雄として勝利のみを求められた男は静かにそう問いかけた。

 

 

 

「おい、チャップマン!?」

 

 

 

 話の腰を折られ、イラつくミケロをさらに遮り、マスターアジアが告げた。

 

 

 

「レイ、と言うたな? その覚悟は見事。そして、友や仲間の為という、その想いも分かる。

 

 だがな、ワシらの道は修羅の道よ。仏に会えば仏を屠り、鬼に会えば鬼を屠る。半端な覚悟では後悔しか生まれぬ。止めておけ、貴様が選ぶにはまだ若過ぎる道よ」

 

 

 

 この言葉にレイは歯を食いしばり、告げた。

 

 

 

「俺の命は、元々少ない。テロメアが短い。俺は作られた命なんだ!! 若過ぎるなんてことを言ってる暇なんか、俺にはない!!」

 

 

 

 その言葉に、シンの目が見開かれ、ルナマリアが呆然とする。

 

 スティングも思わず棒立ちになり、つぶやいた。

 

 

 

「なんだ、それ? レイが作られた? テロメアが短いってーー」

 

 

 

「意味が分かるのかよ、スティング? だったら、僕にも分かるように言えよ」

 

 

 

 不満そうなアウルを見ずに呆然となりながら、スティングは答えた。

 

 

 

「レイの奴、老化が早いんだ。そのせいで寿命が短い」

 

 

 

 スティングの言葉に、アウルもステラも目を見開いてレイを見る。

 

 

 

「だ、ダメだよ、レイ! 行っちゃダメ!!」

 

 

 

 ステラが思わず止めるが、そんな彼女たちにレイは微笑み返した。

 

 

 

「ありがとう。お前達のためになら、この出来損ないの命を惜しむことなく使える。ーー友よ」

 

 

 

 その言葉に、シンのデスティニーガンダムの翼が光を生み出した。

 

 

 

「行かせない、絶対に! 行かせないからな、レイ!!」

 

 

 

 気は尽きているのに、それでもシンはデスティニーに光の翼を生み出させた。

 

 

 

「あたしだって、行かせないんだから!!」

 

 

 

 ルナマリアもインパルスガンダムに構えを取らせる。

 

 

 

「…Dよ、どうする?」

 

 

 

 マスターアジアは、静かに彼らのやり取りを見ていたDに話しかける。

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

「ーーな!?」

 

 

 

 デビルガンダムの翼が開き、一瞬でシンのデスティニーガンダムの前に20メートルを越える巨体が現れた。

 

 反射的に、シンはデスティニーに右拳を握らせてデビルガンダムの顔面に向けて放った。

 

 瞬間、デビルガンダムの顔の前に、いつの間にか置かれた左掌に掴み止められ、そのまま顎を蹴り上げられた。

 

 

 

「ーーガッ!?」

 

 

 

 上空に吹き飛ぶデスティニー。

 

 

 

 デビルガンダムは、それを見ることなく目の前のインパルスガンダムの懐に飛び込む。

 

 

 

「ーーくっ! こんのぉおおお!!」

 

 

 

 咄嗟に左の拳を3発程散らして、距離を取ろうとルナマリアは行ったが、その内の一つに軽々と胴回し横蹴りをカウンターで顔面に決められ、吹き飛ぶ。

 

 

 

「ーーやろう!」

 

 

 

「させっかよ!」

 

 

 

「これ以上は!」

 

 

 

 3人のMFは周囲を囲むと、同時に右手のフィンガーを放った。

 

 

 

 だが、デビルガンダムはその場から、右足を浮かせると足先に気を纏わせ、一気に周囲を蹴り薙いだ。

 

 

 

 フィンガーが触れる前にカウンターで回し蹴りを決められた3人は、そのまま前のめりに崩折れた。

 

 

 

「ーーなにを!?」

 

 

 

 レイがこの光景に怒り、ビームライフルをデビルガンダムに向け、構える。

 

 

 

「ーー落ち着け。命に別状はない。Dはきちんと加減をしておる」

 

 

 

 これを制したのは、スティング達の師でもあるマスターアジアだった。

 

 

 

「ーー? どういうことだ?」

 

 

 

「どうもこうもあるまい。ワシらと共に行きたいと言ったのは貴様であろう? 準備は整ったぞ。後は他ならぬ貴様の判断だ」

 

 

 

 つまり、シン達を倒したのは、レイがどちらを取るのか選びやすくするためなのだろう。

 

 

 

「ーー乱暴な奴らだな」

 

 

 

 呆れたような声が、レイの思いを代弁した。

 

 

 

 そこにいたのは、覆面を外した整った顔の東洋人。ガンダムシュピーゲルを駆るシュバルツ・ブルーダーであった。

 

 

 

「ーーえ? シュバルツさん?」

 

 

 

 キョトンとこんな場面なのに、目を丸くするレイに素顔をさらしたシュバルツは苦笑を返してから、Dに話しかける。

 

 

 

「レイを連れて行くのであれば、まずは私と闘ってもらおうか、デビルガンダムと四天王よ」

 

 

 

 その言葉に、レイが目を見開いて止めた。

 

 

 

「ーー何を言ってるんです!? 彼らを相手に1人でなんて!!」

 

 

 

「ああ、そうだな。だが、武道家にとって拳を交えることは時として単純な勝敗すら超えたものがある。

 

 レイ、私はあの男にお前を頼まれた。だからと言って、お前の選ぶ道を私は否定しない。だが、選ぶ相手には注意が必要だ」

 

 

 

 言いながら、デビルガンダム軍団に構えを取るシュバルツは、強い眼差しで告げた。

 

 

 

「生半可な奴に私の大事な教え子は預けられん。私と奴らとのファイトをその目で見て決めろ。奴らが信用に足るかどうかをな!」

 

 

 

 これにミケロが嘲笑を浮かべた。

 

 

 

「おもしれえ! ネオ香港じゃ、てめえとは小競り合いしかしなかったからなぁ!! 4人がかりでボロ雑巾にしてやるぜ!!」

 

 

 

 シュバルツは、即座に反応してネロスガンダムに向かった。

 

 ガンダムシュピーゲルとネロスガンダムが互いに向かって駆け合う。

 

 

 

「ハイパァアー銀色の脚ぃいいい、スペシャァアアアアル!!」

 

 

 

 天高く跳躍し、右足に青白い気を纏わせて稲妻の如く放たれる。

 

 

 

 同時に青白い光がシュピーゲルの胸から放たれ、明るい緑色の光がはなたれる。

 

 

 

 鏡転同血ーー変わったのは、東方の龍を模した機体ドラゴンガンダム。

 

 

 

「最終秘伝! 真・流星胡蝶剣!!」

 

 

 

 緑色がかった黄金の蝶の羽が龍の背から伸び、全身を包んで強力な剣と化す。

 

 

 

 二つの蹴りがぶつかり合い、相殺しながら両者離れる。

 

 

 

「…4人がかりなどとは好まんが、貴様ほどの相手ならば拳を交える価値は充分だ。シュバルツ」

 

 

 

 着地したドラゴンガンダムは青い光と共に重厚な鋼の機体ーーボルトガンダムへと変化した。

 

 

 

「乾坤一擲! グラビトォン・ハンマァアア!!」

 

 

 

 シュバルツの気合と共にハンマー投げの要領で放たれた巨大な鉄球。

 

 

 

 それをチャップマンは右足に溜めた雷の気で迎え撃つ。

 

 

 

「グランドホーン!!」

 

 

 

 放たれた前蹴りは雷が真っ直ぐな軌跡を作り、巨大な青白い角と化す。

 

 

 

 まともにぶつかり合う鉄球と角。

 

 

 

 鉄球が後方に弾かれると同時にジョンブルガンダムも後方へのけ反った。

 

 

 

 次に現れたのは、翼を広げたマスターガンダムだった。

 

 

 

「ならば! ダァアアアクネスフィィンガァアアアア!!」

 

 

 

 振りかぶる紫の光を放つ右手。

 

 

 

「勝負! ゴォッド! フィンガァアアアアアア!!」

 

 

 

 同時にボルトガンダムが炎を纏ってトリコロールの羽を持ったガンダムへと変化した。

 

 

 

 日輪を背負い、ゴッドガンダムは右手に真っ赤な炎を宿す。

 

 

 

 組み合う両者。

 

 

 

「いまだ、ゴォッドフィィルドダァアアアッシュ!!」

 

 

 

 瞬間、ゴッドガンダムの背の日輪が輝き、一気に機体を前に突き出す。

 

 

 

「! 何と!?」

 

 

 

 絶妙なタイミングのダッシュにマスターガンダムをして、後方に弾かれた。

 

 

 

 シュバルツのゴッドガンダムは、そのまま黄金の気を纏うと一気にデビルガンダムに向かって真紅に燃える右拳を振りかぶって突っ込む。

 

 

 

 腕を組んでいたデビルガンダムはその両腕をゆっくりと外し、黄金の気を全身に纏って蒼紫に燃える右手を握る。

 

 

 

「ーー破ぁッ!!」

 

 

 

「ぬんっ!!」

 

 

 

 気合一閃、ぶつかり合う両者の拳と拳。

 

 

 

 互いの黄金の気が一つになり、螺旋を描いて天に昇る。

 

 

 

 鏡の武神と悪魔の王との力比べ。

 

 

 

「ぬぅあああああ!!」

 

 

 

「うぉおおおおお!!」

 

 

 

 それは全くの互角で、両者は互いの放った拳の衝撃に後方にのけ反った。 

 

 

 

 互いに構えを取る。

 

 

 

 デビルガンダムと睨み合うシュバルツのゴッドガンダムの周りをマスターガンダム、ジョンブルガンダム、ネロスガンダムが取り囲んだ。

 

 

 

「楽しませてくれるわ! シュバルツ・ブルーダーよ!!」

 

 

 

「さすがだ。やはり一騎打ちに持ち込みたいところだな」

 

 

 

「舐めた真似してくれんじゃねえか、シュバルツよぉお!!」

 

 

 

 これらの気迫を真っ向から受けて、シュバルツはニヤリと口の端を不敵に歪ませた。

 

 

 

「いい相手だ。これほどの緊張感。久しくなかったぞーー!」

 

 

 

 彼ーーシュバルツは、この圧倒的な不利の状況を楽しんでいる。

 

 

 

 それを理解して、レイはまた大きく目を見開いた。

 

 

 

「あなたは、俺に何を見せようと?」

 

 

 

 黄金の気を纏うゴッドガンダムを相手に、静かにデビルガンダムは左右の四天王に目配せをした。

 

 

 

「ーー邪魔をするな。四天王」

 

 

 

 その言葉に、マスターガンダムは拳を握るのをやめ、ジョンブルガンダムは直立不動となる。

 

 

 

 ネロスガンダムのみ、デビルガンダムに食って掛かった。

 

 

 

「てめえこそ邪魔すんじゃねえよ、デビルガンダム!!」

 

 

 

 ガンダムシュピーゲルが変身したゴッドガンダムを睨みつけてネロスガンダムは構える。

 

 

 

「こいつの半身と弟には、痛い目にあわされてんだ! 借りは返さなきゃなぁあああ!!」

 

 

 

 赤い気を纏い、ネロスガンダムが銀色の脚を再び振り上げようとした時、左右からマスターガンダムとジョンブルガンダムの拳が顔面寸前で止められていた。

 

 

 

「ーー!! マスター。チャップマン。てめえら!!」

 

 

 

 怒りに表情を歪ませるミケロを冷ややかな瞳で見るチャップマン。

 

 

 

 そして、厳しい表情で睨みつけるマスターアジアがいた。

 

 

 

「我々の王の邪魔をするな、ミケロ」

 

 

 

「まだ分からんのか、この未熟者めぃ!!」

 

 

 

 紫電と紫炎が、左右から迫りミケロをして動けない。

 

 

 

「デビルガンダムよーー」

 

 

 

「ーー存分に試合えぃ!!」

 

 

 

 二人の男からの声にDは静かにシュバルツを見据えて言った。

 

 

 

「ドモンのゴッドガンダムか。さすがに使いこなすのが早いな、シュバルツ」

 

 

 

「あの時、貴様に授けられた力だったな」

 

 

 

「……ユニウスセブン、か」

 

 

 

 つぶやくようにDはそう言うと、構えを再びとる。

 

 

 

 シュバルツも静かに構える。

 

 

 

 同時に消える両者。

 

 

 

 次に現れたのは、陸上を海上を空中を、所狭しと駆け回る両者の残像だった。

 

 

 

 黄金の光と光がぶつかり合う。

 

 

 

 天が燃え、大地が穿ち、海が割ける。

 

 

 

 激しい落雷、地鳴り、そのような音が鳴り響き、衝撃波が周りを吹き飛ばす。

 

 

 

 互いの連撃を連撃で防ぎ、拳と拳、蹴りと蹴りをぶつけ合う。

 

 

 

 スピードのシュバルツ。

 

 

 

 パワーのD。

 

 

 

 互いに譲らない両者の激突。

 

 

 

 本気と本気のぶつかり合いに、周りは何もできない。

 

 

 

「ーー! ぐぅ、シュバルツさん?」

 

 

 

「まさか、一人で?」

 

 

 

 気が付いたシンとルナマリアが、花火のようにあちこちでぶつかり合う両者の激突を見て気付く。

 

 

 

 桁違いの動きをする二人の戦士に。

 

 

 

 目のまえで繰り広げられた激戦にスティングたちも気が付いた。

 

 

 

「マジかよ…!!」

 

 

 

「こ、これってーー!」

 

 

 

「す、すごい」

 

 

 

 マスターガンダムとの闘い以上のぶつかり合いが目の前で展開されている。

 

 

 

 互いにビームソードを抜き、袈裟懸けに斬り合う。

 

 

 

 つばぜり合いの姿勢のまま、二人は睨み合っていた。

 

 

 

「これほどの腕かーー! なんという強さだ!!」

 

 

 

 肩で息をし始めたシュバルツに静かにDは告げた。

 

 

 

「四天王の3人を一瞬とはいえ退け、我と対等に打ち合ってみせた男のセリフとは思えんな」

 

 

 

 同時に切り払う。

 

 

 

 ガクリッと片膝を付くシュバルツを見下し、Dは静かにガンダムのサーベルを納めた。

 

 

 

「……満足したか? シュバルツ」

 

 

 

「ああ。良いファイトだった!」

 

 

 

 膝を付いた姿勢でゴッドガンダムからシュピーゲルに戻る。

 

 

 

 Dはそんな彼に一瞬だけ邪悪に微笑むと、こちらを呆けた顔で見るレイを見据える。

 

 

 

「さて、我らと来るか。それとも怖気づいたか。返答を聞こうか」

 

 

 

 レイはその言葉にDを真っ直ぐに見返した後、シュバルツを見る。

 

 

 

 彼は温かな目でこちらを見ると一度だけ頷いてくれた。

 

 

 

「俺の答えは変わらない。あなた方と共に行く。それだけだ」

 

 

 

 レイははっきりと、そう宣言した。

 

 

 

 これにDは微かに目を細めると、何も言わずにレセップス級に乗り込んだ。

 

 

 

「ようこそ、我らがデビルガンダム軍団へ。歓迎しよう、レイよ!!」

 

 

 

 マスターガンダムがレジェンドガンダムを招いた。

 

 

 

「レイ・ザ・バレル、レジェンドガンダムだ。よろしく頼む」

 

 

 

 これに臆することなく、レイはレジェンドガンダムをレセップス級に乗り込ませていった。

 

 

 

「レイ、待てよ! 待ってくれ、レイィイイイイイイッ!!!」

 

 

 

「なんでよ、あたし達三人一緒じゃなきゃ意味ないじゃない!! レイ!!!!」

 

 

 

 シンの慟哭が、ルナマリアの嘆きがヘブンズベースに響いていた。

 

 

 

「ーー許してくれ、ミネルバ。そしてシン、ルナマリア」

 

 

 

 コクピットの中で静かにこぼれたのは彼の涙であろうかーー。

 

 

 

 こうして悪魔の軍団は人類の敵として宣言し、ヘブンズベースを後にした。

 

 

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね~!!

 ロゴス幹部のロード・ジブリールはついにオーブに密航します。

 しかし、その先にはあまりにも整った逃げ延びる環境とブルーコスモスの面々。

 彼らは突如取り囲まれるのです。

 シュバルツと同じ顔をした青年キョウジの仕掛けた罠でした。

 いよいよ終わるかと思った戦争。

 ですが、無事に帰国したセイラン親子を突如、異変が襲うのです!!

 次回! 機動武闘伝Gガンダム SEED Destiny 第74話に!

 レディー、ゴー!!


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第74話 尊き者の犠牲 キョウジ鬼と化す

 皆さん。

 前回のお話ではレイがミネルバ隊を離反してしまいました。

 混乱するシン達。

 ですが、戦いは彼らに迷っている時間すら与えません。

 オーブに逃走したジブリール達を追うように彼らにも指令が下ったのです。

 はたして、オーブでの戦いでロゴスとの因縁に幕を下ろすことができるのか?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイ、ゴォオオオオ!!




 

 ミネルバのパイロット。

 

 

 

 レイ・ザ・バレルは、人類の敵を名乗るデビルガンダムとその四天王と共にヘブンズベースを去った。

 

 

 

 ロード・ジブリールを逃がしてしまったシン達は、レイのことにショックを受けながらもミネルバに一端帰艦する。

 

 

 

 MSデッキにて、彼らはアウル、スティング、ステラの三名、そしてシュバルツと共にタリアに迎えられていた。

 

 

 

 

 

「とりあえず、良く戦ってくれたわ。貴方達のおかげでヘブンズベースを落とせた。これは間違いないもの」

 

 

 

 その言葉にシンは静かに頷く。

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 そして意気消沈したまま呟いた。

 

 

 

「でも、レイの奴がーー」

 

 

 

 その言葉にルナマリアもスティング達も顔を伏せる。

 

 

 

 そんな彼らにシュバルツが声をかけた。

 

 

 

「シン。何故レイがいなくなったのかを理解できないのか?」

 

 

 

「……ミネルバに居ても、デュランダル議長を止められないからって。でもーー!」

 

 

 

 シンはシュバルツを向いて思いのたけを爆発させた。

 

 

 

「なんで行かせたんですか!? あいつらは、人類の敵で!! 世界すべてを敵に回そうとしてるような奴等なんですよ!!」

 

 

 

「……お前は、レイの覚悟をどう思っている?」

 

 

 

「!」

 

 

 

「気付いているのだろう? レイが何故、自分たちと違う道を選んだのかを」

 

 

 

 シュバルツの静かな言葉にシンは、それでもと反発する。

 

 

 

「わかってますよ! あいつが、俺達の為に奴等と手を組んだことなんか!! あいつが、俺達を裏切ってなんかないってことが!! でも、だけど!! どうしてレイを止めてくれなかったんですか!!!!」

 

 

 

「……何?」

 

 

 

「あなたが止めてくれたら、あいつは思いとどまったのに!! あなたが止めてくれたら、あいつはミネルバに残っていたのに!! どうして!!?」

 

 

 

 シンは確信していた。

 

 

 

 あの時、もしシュバルツが首を横に振っていれば、レイはギリギリでこちらに帰って来ていたと。

 

 

 

 デビルガンダムとか四天王という連中も自分からは積極的に勧誘していなかった。

 

 

 

 あくまでレイの判断に任せていた。

 

 

 

 だからーー。

 

 

 

「どうして止めてくれなかったんだ、シュバルツさん!! 貴方の言葉なら、アイツはミネルバに戻ったのに。思いとどまったのに!!」

 

 

 

「シン。本気で言っているのか?」

 

 

 

 静かに問いかける黒い瞳。

 

 

 

 整った顔。

 

 

 

 シュバルツのいつもの深い瞳を前にシンは一瞬、何も言えなくなる。

 

 

 

 だがーー。

 

 

 

「ーー本気です。たとえ、アイツが自分で決めて判断したことでも、俺はアイツをあの時止めるべきだったと思ってます」

 

 

 

「そうかーー。ならば、どうする?」

 

 

 

 その問いに、シンははっきりと彼の目を見て言った。

 

 

 

「レイを必ず、必ずこっちに引き戻します!!」

 

 

 

「…それはお前だけでか?」

 

 

 

 シュバルツは言いながら、シンの周りに立つ少年たちを見る。

 

 

 

 この意をくみ、彼らは言った。

 

 

 

「いいえ、シュバルツさん」

 

 

 

「私たちも、レイを取り戻すのに協力する!!」

 

 

 

 少年たちよりも早く二人の少女が答えた。

 

 

 

「ステラやルナだけじゃない。俺達もだ」

 

 

 

「あいつ、僕達のこと友だって言ってくれたんだ。だからーー!」

 

 

 

 少年たちの言葉にシュバルツは静かにシンに向き直った。

 

 

 

「シン、最後にもう一度問う。私がレイを止めなかった理由が分からないか?」

 

 

 

「ーーいえ。貴方は誰よりもレイを想って、アイツの決断を尊重した。だけど、俺は納得できなかった」

 

 

 

 歯を食いしばり、告げるシンにシュバルツは静かに告げた。

 

 

 

「ならば良い。お前にはもう、片手では足りないほどに大切な者たちがいる。それをどんな時も忘れるな」

 

 

 

「はいーー!!」

 

 

 

 シュバルツからの言葉に、シンは力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このMSデッキでの様を少し離れたところから、タリア・グラディスとアーサー・トラインが見ていた。

 

 

 

「何とか納まったみたいね」

 

 

 

「でも、驚きました。あのレイがーー」

 

 

 

「ええ。でも今はーージブリールを倒すことが先決よ」

 

 

 

 タリアの言葉にアーサーも頷いた。

 

 

 

 作戦まではまだ時間がある。

 

 

 

 短い時間だが、パイロットたちには仮眠を取らせるべきだろう。

 

 

 

 オーブからプラント宛に要請もあった。

 

 

 

 ジブリールを撃破もしくは捕獲する。

 

 

 

 ロゴスをーー完全に消滅させるための作戦が今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ロード・ジブリールは淡々と作業をこなしていた。

 

 

 

 ウォン・ユンファとウルベ・イシカワ。

 

 

 

 彼らからもらったDG細胞のデータと培養方法。

 

 

 

 自分の因子を使ってコピー体をつくる。

 

 

 

 すべてのデータを手に、ジブリールは微笑んでいた。

 

 

 

「これだけのデータを私に託すとは。待っていろ、ウルベ。そしてウォン。すぐに貴様らを復活させてやる」

 

 

 

 オーブと言う国。

 

 

 

 技術や知識だけは高いが、いろんな意味で脇が甘い国だ。

 

 

 

 そこでなら、いくらでも感染者を増やし、ゾンビ兵のどれかをウォンとウルベのコピー体として復活させられる。

 

 

 

 ほくそ笑むジブリールの前に静かにオーブの海港が見えてきた。

 

 

 

「ジブリール様、間もなく本艦はオーブの海港に到着します」

 

 

 

「分かった。それにしてもオーブのブルーコスモス構成員は中々優秀じゃないか。ドックを一つ手に入れているとはな」

 

 

 

 満足気味に頷く。

 

 

 

 島国であるオーブにとってドックは生命線の一つ。

 

 

 

 それを簡単に指定できる程にブルーコスモスの構成員はオーブの港を掌握している。

 

 

 

 この事実にロゴスの底力を感じざるを得ないと、ジブリールは笑っていた。

 

 

 

 ドックに停泊した船を下り、迎えに来ていた私服の構成員たちと顔を合わせる。

 

 

 

「よくぞ、ご無事で。マスドライバーの準備はできております」

 

 

 

「ご苦労だった。さあ、案内してくれ」

 

 

 

「はっ! こちらです」

 

 

 

 ジブリールの言葉に敬礼をしながら、一人の男が案内しようとしたその時だった。

 

 

 

 ジブリールはふと気づいて告げる。

 

 

 

「少し待て。何故、マスドライバーのことまで知っている? 我々は受け入れをしてくれと頼んだだけのはずだが?」

 

 

 

 これに案内しようとしていた男が首を傾げる。

 

 

 

「? ですがジブリール様。二回目の通信でマスドライバー施設の掌握を指示されておられましたが?」

 

 

 

「なんだと? 私はそのような指示はしていないぞ?」

 

 

 

「ですが、あのお声は間違いなくジブリール様のーー!」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「そこまでだ、ロード・ジブリールにブルーコスモス!!」

 

 

 

 第三者の声が響いたと同時に無数のオーブ兵が物陰から現れ、ジブリール達を取り囲んだ。

 

 

 

「! これはーー馬鹿な!! なぜ我々の動向がこんなにも早くオーブに!?」

 

 

 

 ジブリールの計算では、後数時間は余裕のはずだった。

 

 

 

 ザフトのデュランダルはオーブを信用していない。

 

 

 

 オーブに報告すれば、ジブリールを匿うと判断し、確実に軍を差し向け、攻撃できる状態でしか告げてはこないはずだ。

 

 

 

 なのに、こんなにも簡単にドックを見破られた。

 

 

 

「勇気あるオーブの同士が居ましてね。彼らが命からがら応えてくれました」

 

 

 

 取り囲んだ兵士たちの後ろから一人の白色のシャツと紺色の上下のスーツを着た整った顔の青年が現れた。」

 

 

 

「! この声ーー!?」

 

 

 

 ジブリールから指示を受けたという男が目を見開く。

 

 

 

 隣のジブリールはそれどころではなかった。

 

 

 

 壁をすり抜けて現れた覆面の男の素顔。

 

 

 

 それと同じ顔をした青年だ。

 

 

 

「バカなーー!? 何故、貴様がここにいる!? ウォンとウルベの相手をしながら、私よりも早くオーブに先回りなどできるはずがーー!!」

 

 

 

 狼狽えるジブリールに、奇しくも彼とよく似た声の青年は穏やかに告げた。

 

 

 

「その狼狽えようーー。どうやらシュバルツは、貴方に素顔を晒したようですね」

 

 

 

 まるで日常の一コマのように。

 

 

 

 この緊迫した場面で平然と穏やかな笑顔を浮かべて告げてくる。

 

 

 

「そうかーー。貴様がウルベが言っていたキョウジ・カッシュか」

 

 

 

 睨みつける。

 

 

 

 その言葉にキョウジは静かに微笑む。

 

 

 

「申し訳ありませんが、マスドライバーへのお膳立ては全て俺の指示でやらせてもらいました。予め得た情報でブルーコスモス側の暗号通信のチャンネルは傍受できていましたから」

 

 

 

「……さすがに優秀だな。私の部下にほしいくらいだよ」

 

 

 

 皮肉気に微笑むジブリールにキョウジは告げた。

 

 

 

「まさか。俺は根っからの研究者です。政治家や実業家なんてのは俺の性に合いません」

 

 

 

 気さくに告げるキョウジにジブリールは静かに微笑む。

 

 

 

「ところでーー。ウルベやウォンが君のことを知った上で私にDG細胞を移植していたと言ったら、君はどうするかね?」

 

 

 

「隔離します。その上で、貴方に感染している細胞を除去したのちに消滅させます」

 

 

 

「なるほどーー! ならば!!」

 

 

 

 瞬間、赤いオーラがジブリールから発光する。

 

 

 

 同時に、周りに居た兵士たちがはじけ飛んだ。

 

 

 

「!! なんだ!?」

 

 

 

「キョウジ殿! これは!?」

 

 

 

 圧倒的な力とスピードを持った男。

 

 

 

 それは事業家だった彼の力ではありえない。

 

 

 

「……その力、貴方は……!」

 

 

 

 鋭い目で問いかけると、ジブリールは冷たくも穏やかな笑みで応えた。

 

 

 

「ウォンとウルベが何もせずに私に細胞を移植したとでも思うか? 彼らの能力を私の肉体に付加させたのだよ」

 

 

 

「……!!」

 

 

 

「シュバルツがウォルフとお前の能力を合わせた存在であることは既に分かっている。それをだ、奴らは私に試みたのだよ」

 

 

 

 目を見開くキョウジにジブリールは勝ち誇った笑みを浮かべて言う。

 

 

 

「つまり私はガンダムファイターだったウルベを合わせてDG細胞の力を持った人間3人分の力を持つと言うことだ!!」

 

 

 

 あっという間に囲んでいた兵士たちが叩き伏せられる。

 

 

 

 だが、流石のジブリールもこれだけの数を相手に同時に機銃を放たれれば、倒されてしまうだろう。

 

 

 

 手数が足りないと悟ったと同時にジブリールは自分をここまで船で連れてきたロゴスメンバーとこちらで出迎えたブルーコスモスの兵士たちに向かって言った。

 

 

 

「どうだ? 私の力は? お前たちも欲しかろう?」

 

 

 

 その言葉に戸惑い、彼らが応える間もなくジブリールは目の前に居た。

 

 

 

 瞬間、彼の両手に怪しげな紫の光が宿り、その手で顔面をわしづかみにする。

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

「う。うわあああああ!!」

 

 

 

「ぐぅううううう!!」

 

 

 

 瞬く間にロゴスのメンバー達はまともに言葉を発せない哀れな髑髏顔のゾンビ兵となった。

 

 

 

「…DG細胞の自己増殖。DGコアをお前も持っているのか」

 

 

 

 キョウジの記憶では自己増殖の機能はデビルガンダム本体にしか存在しないものだった。

 

 

 

 だが、ジブリールやプラントのデュランダルの様子を見て考えを改めた。

 

 

 

 自己増殖の機能を持つコアの役割を一細胞でもできるようにしている。

 

 

 

「ぐ…! キョウジ殿!!」  

 

 

 

 倒れていた兵士たちの声。

 

 

 

 そちらを向くとそのまま、ジブリール達はマスドライバーのある通路に向かって走り始める。

 

 

 

「トダカさんに伝えてください。マスドライバーにあるシャトルに彼らが乗ればその時点で自爆装置を、と」

 

 

 

「了解しました」

 

 

 

 悲し気な表情でキョウジは去っていったジブリール達を見据えた。

 

 

 

「すまない。俺が作り出した細胞が、あなた方の人生を変えてしまった。その罪を俺は忘れない」

 

 

 

 まるで黙祷しているキョウジに周りは声をかけずらくしていた。

 

 

 

 その時だ。

 

 

 

 指令室よりカガリから通信が入った。

 

 

 

「キョウジ! ウナト達が帰ってきた!!」

 

 

 

 その報せにドックが湧く。

 

 

 

 セイラン家の報告がなければ、ここまで予定調和には行かなかった。

 

 

 

 彼らの勇気ある行動にキョウジは微笑みながら言った。

 

 

 

「よかったな、カガリ」

 

 

 

「それが、おかしいんだ! 奴らの様子が変なんだ!!」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

「キョウジに会いたい。自分たちを殺してくれ。彼なら理由が分かるってーー! 罪ならばあとで聞く、お前たちのもたらしてくれた情報のおかげでジブリール達を捕まえられる! そう言っても、殺してくれとしか言わないんだ!!」

 

 

 

 カガリの様子からただならない気配を感じ、キョウジは現場の兵士たちに後の事を指示すると通信先の彼女に告げた。

 

 

 

「俺もすぐに向かう」

 

 

 

 

 

 

 

 キョウジが指令室に来たとき、皆が彼を振り仰いだ。

 

 

 

「! キョウジ!!」

 

 

 

 カガリの隣に立つとキョウジはモニター先にいる二人の親子。

 

 

 

 ウナトとユウナを見据えた。

 

 

 

 彼らの顔を一目見てキョウジは戦慄した。

 

 

 

「ウナトさん…! ユウナくん!!」

 

 

 

 彼らは息も絶え絶えになりながら、告げた。

 

 

 

「キョウジ君ーー! 間に合ったか」

 

 

 

 その言葉の意味が分からずカガリはウナトを見返す。

 

 

 

 だが、キョウジには伝わっているようだ。

 

 

 

 彼は歯を食いしばり、つらそうに眼を見開きながら、言った。

 

 

 

「諦めないでください! 俺が何とかします!! だから!!!」

 

 

 

 彼は必死にそう告げた。

 

 

 

 キョウジが、こんな表情になるなんて指令室の人間には見慣れない光景だった。

 

 

 

 それだけウナト達が今、遭遇している何かは、絶望的な状況なのか?

 

 

 

 カガリ達にも理解できないが、最悪の予想ができてしまう。

 

 

 

 キョウジ・カッシュが取り乱しようを見ると、とてもではないが希望的な観測はできない。

 

 

 

「キョウジ・カッシュ……さん」

 

 

 

「! ユウナくん!!」

 

 

 

「僕は、貴方とカガリに謝りたかった」

 

 

 

 脂汗を浮かばせながら、必死に何かをこらえて彼は言う。

 

 

 

「キョウジさん、貴方の才能に嫉妬して、貴方の能力が羨ましくて。貴方と言う人を見なかった。だからーー僕は、こんな目に合っても仕方がないんだ。僕がウォンと接触したからーー。この国を裏切ったから……!!」

 

 

 

 その涙は懺悔の涙。

 

 

 

 自身の行いを振り返れば、ろくなことをしてないな、とユウナは苦笑する。

 

 

 

 彼の頬から頸動脈にかけてゆっくりと銀色の六角形が組み合わさった鱗のような紋様が浮かび上がっていく。

 

 

 

「DG細胞…!!」

 

 

 

 カガリが呆然としながら、その紋様をなす銀色の六角形を見据えて言った。

 

 

 

 ウナトが続ける。

 

 

 

「毒針か何かが仕込まれていたみたいだ。我々がヘブンズベースを離れてしばらくしてから、首に痛みを感じた。それがどんなおぞましいモノなのか、今になって分かったよ」

 

 

 

「自分が自分じゃなくなるのが、よく分かる」

 

 

 

 ユウナも告げた。

 

 

 

「自分が知るはずのない知識とか、自分が考えたこともないことがどんどんと出てくるんだ。おまけに自分の記憶が全て覗かれているような感じもする。このままじゃ、僕たちはーー!!」

 

 

 

 そして、ウナトは静かに微笑んだ。

 

 

 

「自分が自分でなくなるのは、恐怖だ。それは死ぬことよりも遥かに恐ろしい」

 

 

 

「……最後に話せてよかったよ、キョウジさん。それと、カガリ」

 

 

 

 ユウナは穏やかな表情のまま、言った。

 

 

 

「僕は、これだけは言いたかった。親同士が決めた婚約だったけどさ、僕は君が好きだった。愛していた。だから幸せになってくれーー!」

 

 

 

「! ユウナ!!」

 

 

 

「さようなら、カガリ」

 

 

 

 静かに微笑みながら、ユウナはモニターの向こうでコンソールパネルの内の何かのボタンを押した。

 

 

 

「ーーっ!! ウナトさん!! ユウナくん!!」

 

 

 

 キョウジが必死に呼びかける。

 

 

 

 それを微笑みながら、彼らはモニターの向こうで言った。

 

 

 

「ありがとう、キョウジ君」

 

 

 

「最後にアンタみたいな凄い人に会えて、嬉しかったよ」

 

 

 

 その声を最後に彼らは通信を切る。

 

 

 

 同時に海上に浮かんでいた彼らの乗っている潜水艦から煙が上がり、オーブの海面で爆発した。

 

 

 

「!! ウナト!! ユウナァアアアアアアッ!!」

 

 

 

 幼い頃より交流のあった親子だった。

 

 

 

 カガリに取って思想は違っても共に国を守ろうとする理念ある政治家だったのだ。

 

 

 

 それが、あっけなく炎の中に消えて行った。

 

 

 

「……!!!」

 

 

 

 号泣しながらカガリが隣を見れば、唇から血が出るほどに噛みしめ、拳を握りしめたキョウジの姿があった。

 

 

 

「…俺のミスだ」

 

 

 

「キョウジーー!」

 

 

 

 涙など流してはいない。

 

 

 

 だが、彼は耐え切れずに叫んだ。

 

 

 

「死なせなくても良かった。俺が予測できていれば、彼らは死ななくて良かったーー! 取り返しのつかないミスだ。何が、参謀だーー!! 何が、DG細胞の生みの親だ!! 俺は、何て無力なんだ!!!」

 

 

 

 モニターの向こうで燃え上がる潜水艦の残骸を睨み据えて、キョウジはそう言った。

 

 

 

 その言葉に、カガリは更に涙を流す。

 

 

 

「ーーそして、何故貴様らが生きている?」

 

 

 

 キョウジの呟くような声に、カガリが目を見開いた。

 

 

 

 モニターの向こうで静かに潜水艦の残骸が姿を変えていく。

 

 

 

 燃え上がっていた炎は消え、緑色の触手の束がうごめき、二体のMS--ガンダムを作り出した。

 

 

 

 異形の機体ーーウォルターガンダムと。

 

 

 

 ネオジャパン製の機体ーーウルベ専用機のガンダムへと。

 

 

 

「何故? さあ、我々の執念の勝利でしょうか?」

 

 

 

「ーーもしくは、悪運と言うべきかな? キョウジ君」

 

 

 

 冷酷に。

 

 

 

 残忍に笑う。

 

 

 

 彼らの素となった素体はーー紛れもなく高潔な魂を持って死に臨んだ親子。

 

 

 

 それを平然と蹂躙し、二人の悪魔は蘇った。

 

 

 

「ウルベーー! ウォンーー!! 貴様等ぁああああああああああああああっ!!!!」

 

 

 

 キョウジの腹の底から出た怨嗟の声。

 

 

 

 それは怒り。

 

 

 

 それは悲しみ。

 

 

 

 自分への。

 

 

 

 悪魔への。

 

 

 

 そして何より、二人の親子の死を踏みにじってまで蘇らせた細胞を作ったのは、紛れもなく自分とその父親であるという事実が。

 

 

 

 冷静で知的、理性の塊とも言える彼を、感情のままに叫ばせたのだ。

 

 

 

 その咆哮を、ウルベ達は満足そうに笑いながら受ける。

 

 

 

「そう自分を責めるな、キョウジくん。君たちに落ち度などないさ」

 

 

 

 皮肉な笑みで、ウルベは告げる。

 

 

 

「ーーなんだと?」

 

 

 

 いつもより、明らかに引くく冷たい声音でキョウジは問いかけた。

 

 

 

 これにウォンが愉快げに告げる。

 

 

 

「ーー我々にとっても、今回のは賭けだったのですよ」

 

 

 

 その言葉に、カガリが目を見開いた。

 

 

 

「ーー賭けだって?」

 

 

 

「そう、正に幸運でした。保険程度にしか考えていなかったセイラン親子に仕掛けた細胞に我々の因子を宿すことはね」

 

 

 

 サングラスをかけなおしながら言うウォンにウルベも頷く。

 

 

 

「ーーデビルガンダムは確かにあの一帯のDG細胞の私たちの因子の芽を殺した。ゾンビ兵達の、ね」

 

 

 

 その言葉に、キョウジは目を細めた。

 

 

 

「発芽した因子を消すことはできない。それはウルベのコピーを見ればわかりました。デビルガンダムはコピー体のウルベを分解できなかった、つまり我々の因子が発芽して変化したものまでには及ばない」

 

 

 

「問題は、ゾンビ兵になる前ーー。デビルガンダムの細胞への指令は移植前のDG細胞単体の状態での因子にまでも及んで消せるのかと言うところだった。だが賭けは我々の勝ちのようだ」

 

 

 

 ウォンとウルベはニィッと笑みを深める。

 

 

 

 闇夜に浮かぶ赤い三日月が、血のようにあたりを染めるように。

 

 

 

 彼らの笑みは、ゆっくりと絶望を具現化していく。

 

 

 

 潜水艦の残骸から出てきたのは巨大なガンダムの顔をした触手。

 

 

 

 ガンダムヘッドと呼ばれるデビルガンダムの分身体だ。

 

 

 

「さてーー、マスドライバーをもらいましょうか」

 

 

 

「ついでにこのオーブと言う国も我らDG細胞の贄としてやろう」

 

 

 

 この言葉に誰もが歯を食いしばり、恐怖に耐えながら迎撃に出ようとしてーー。

 

 

 

 キョウジの口元に笑みが浮かんでいるのを見て黙った。

 

 

 

 その笑みもまた、凶気を孕んでおり。

 

 

 

 目の前にいる悪党二人と同種の勝るとも劣らない邪悪さを醸し出している。

 

 

 

 吊り上がった凶気の笑みは、そのままキョウジの哄笑へと変わる。

 

 

 

「くくくく……! ははははははは、ハァーハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

 

 

 まるで狂人のように笑みを絶やさない。

 

 

 

 すべてを食らいつくさんとばかりにキョウジは嗤う。

 

 

 

 これをウルベが訝し気に見据えた。

 

 

 

「…キョウジ。何がおかしい?」

 

 

 

 これにキョウジは静かに笑みを引っ込めると、凶気を剥き出しにした底光りする瞳で。

 

 

 

 凶悪に歪んだ貌で、ウルベを見て言った。

 

 

 

「ウルベさんーー。あんたには感謝しなきゃな?」

 

 

 

「ーー何?」

 

 

 

 問い返すウルベにキョウジは懐から緑色に光輝く拳大の宝石のような球を取り出した。

 

 

 

「生まれて初めて、心から冷酷になれそうだーー!」

 

 

 

 言いながら、球を上に投げると同時にフィンガースナップを鳴らす。

 

 

 

「ガンダァアアアアアムッ!!」

 

 

 

 キョウジの合図と同時に緑色の光が辺りを照らし出し、一瞬後オーブの本拠地の前に一体のガンダムが現れる。

 

 

 

 トリコロールの白を基調とした機体。

 

 

 

 進化した彼は、ゴッドガンダムと同じ顔と胸部の造りになり、エネルギーマルチプライヤーをカバーで隠す。

 

 

 

 そのコクピットの中にいるのは、先ほどまで理性的な表情をしていた青年。

 

 

 

 その整った顔は凶悪に歪んでおり、凶気を孕んだ瞳は底光り、三日月を思わせるように吊り上がった口元は、殺意以外に何も現していない。

 

 

 

「これはこれは、ドモン・カッシュのシャイニングガンダムですか。まさかお兄さんを護るためにねぇ」

 

 

 

「健気じゃないか…! ミカムラ博士の作にしてはな!!」

 

 

 

 シャイニングガンダムの胸部カバーが展開され、両肩とアーム部、ふくらはぎの側面カバーが次々と展開されていく。

 

 

 

「シャイニングガンダムーースーパーモードか!!」

 

 

 

 怒りのエネルギーで変身するシャイニングガンダム。

 

 

 

 そのメカニズムをウルベは誰よりも熟知していた。

 

 

 

「面白い、そんな紛い物のパワーアップで。ましてファイターでもない貴様に私が倒せるかな、キョウジ?」

 

 

 

 その挑発にキョウジ・カッシュは静かに駆けた。

 

 

 

 瞬間、同時に両者の腰のビームソードが抜刀され、一瞬ですれ違う。

 

 

 

 一瞬後、肩口を爆発して斬撃が炸裂したのは、ウルベの方だった。

 

 

 

「ーー何?」

 

 

 

 驚愕に目を見開くウルベにキョウジは静かに告げた。

 

 

 

「逆上せ上るのもいい加減にしておけよ、ウルベ」

 

 

 

 キョウジの顔は凶悪な笑みを浮かべてウルベを見下ろしていた。

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね~!!

 デビルガンダムの力ーーDG細胞コアと完全な融合を果たしているキョウジ。

 対して、セイラン家の知識を得た二人ーーウルベは、ウォンをジブリール達の援護に向かわせ、ガンダムヘッドから大量のデスアーミー達を召喚します。

 果たして、キョウジはこの悪魔の部隊を退けることができるのか!?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第75話に!!

 レディー、ゴー!!


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第75話 暴走する兄 武神現る

エターナル。

 プラントの歌姫ラクスを乗せた戦艦は、今3機の機体を発進させようとしていた。

「ーーキラ・ヤマト! フリーダム、行きます!!」

「アスラン・ザラ! ジャスティス、出る!!」

 2人の少年の駆るガンダム。

 その後で、神の名を冠する機体がカタパルトから出撃した。

「ドモン・カッシュ! ゴッドガンダム、出るぞ!!」

 3機は宇宙の闇に浮かぶ青き惑星に向かって高速で走って行った。

 その脇を蹄の音を響かせながら、白い馬が駆けていく。


 みなさん、ジブリールを追い詰めたキョウジ。

 しかし、物語はまだこの悪党を生かすことを選択しました。
 そう、ウルベとウォンを復活させたのです。

 セイラン親子の命を犠牲にしてしまったキョウジは、自責の念から、DG細胞の力を憎しみのまま、引き出してしまいます。

 はたしてキョウジは、DGコアと融合してしまうのか??

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィィィッ、ゴォォォオオオッ!!




 青い海と空の世界で、光を纏う羅刹が吠えた。

 

 

 

「俺のこの手が光って唸る!! 貴様を倒せと輝き叫ぶ!!!」

 

 

 

 これを受けて闇の力を放つ異形が咆哮する。

 

 

 

「笑わせるな!! ただの一般人であった貴様に私が負けるかぁああ!!」

 

 

 

 二機のトリコロールのガンダムが互いの右手を光らせる。

 

 

 

 片方は金色かがった緑色に。

 

 

 

 片方は黒色に近い青色に。

 

 

 

「死ね!! ウルベェエエエエエエエエエ!!!」

 

 

 

「死ぬのは貴様だ!! キョウジィイイイイイ!!」

 

 

 

 互いに向かって放たれたのは、必殺のフィンガー。

 

 

 

 その一撃は、相手に当たれば確実に仕留められるほどの威力を誇る。

 

 

 

 正に必殺技であった。

 

 

 

 互いの右手を組ませ、力をーー光を、気を放出する。

 

 

 

 そしてーー組んだ右手を中心に気が爆発した。

 

 

 

 強烈な爆発と衝撃波が起こり、煙が宙にて浮き上がる。

 

 

 

 その煙の向こうから、キョウジは底光る瞳を向けて仁王立ちしていた。

 

 

 

「……おのれ、キョウジ!!」

 

 

 

 右手を抑えながら後方に退がったのは、ウルベの方だ。

 

 

 

 キョウジのシャイニングフィンガーは、ウルベの力を越えている。

 

 

 

 それを今の一瞬の攻防ではっきりと分からせた。

 

 

 

「ーーなるほど。パワーアップしたウルベよりも一撃の威力は上、か」

 

 

 

 皮肉気な笑みを浮かべて冷たい瞳をキョウジに向けてウォンは静かに呟く。

 

 

 

 ふと気づいた。

 

 

 

 シャイニングガンダムの様子がおかしい。

 

 

 

 見ればキョウジは、クスクスと笑っているのだ。

 

 

 

 目を細めて様子を伺うと、狂ったような哄笑が再び彼の口から漏れ出した。

 

 

 

「ーーこの力、まさか?」

 

 

 

 思わずそう口にした。

 

 

 

 雰囲気に覚えがある。

 

 

 

 当たり前だ、これは自分らと同じ類の力なのだから。

 

 

 

「そうか。私たちは皆、元は死人。DG細胞の力を得て、彼も復活したということか」

 

 

 

 無くはない話だ。

 

 

 

 マスターアジアもシュバルツ・ブルーダーも、そしてジェントル・チャップマンにミケロ・チャリオット。

 

 

 

 みなDG細胞によって復活していた。

 

 

 

 デビルガンダムに最も関わったと言えるオリジナルのキョウジ・カッシュがこの世界にいないわけがない。

 

 

 

「少々やっかいですねぇ。この力、奴もDGコアを持っているということですか」

 

 

 

「ウォン! 君が先にジブリールと合流し、マスドライバーを制圧するのだ。宇宙にさえ出れば、後はどうとでもなる」

 

 

 

「たしかに。宇宙には廃棄コロニーに捨てられたデブリなど、いくらでもありますからね。それらをDG細胞で統括し拠点にすれば、我々が人類などに後れを取ることはまずない!」

 

 

 

 そのときだった。

 

 

 

「フッフ、フッハッハッハッハ……! 面白いな。アンタらは」

 

 

 

 二人が声を発した青年の方を見る。

 

 

 

 青年は天に向かって笑いながらこちらを見ると、笑い声を止め、告げた。

 

 

 

「ーーこの俺から逃げられるとでも思っているのか? 無能なDG細胞の諸君」

 

 

 

 嘲笑と共に放たれた言葉に、ウルベとウォンも嗤い返す。

 

 

 

「ほう」

 

 

 

「我々が無能ですか。ならば、その無能の我々に殺されてしまったセイラン親子は、無能の極みですね。そしてそれを止められなかった君自身もね」

 

 

 

 ウォンの言葉にキョウジの哄笑が更に強まる。

 

 

 

「クックックックック、ハッハッハッハッハ!」

 

 

 

 笑い声が響き渡った後、シャイニングガンダムがその場から消えた。

 

 

 

 現れたのは、ウォン・ユンファの目の前。

 

 

 

 ウォンがそれを把握したときには、凄まじい音を響かせながらシャイニングガンダムの右拳がウォルターガンダムの丸いボディに突き刺さっていた。

 

 

 

「ぐおぉっ!?」

 

 

 

 思わずうめき声を上げるウォンを冷たく見下ろしてキョウジは告げた。

 

 

 

「うるさい虫だ……。虫は潰すに限る」

 

 

 

 左手のシャイニングフィンガーがウォルターガンダムの顔面へと無造作に迫る。が、キョウジはとっさに左手を引っ込めて自分の側頭の横に左手を置いた。

 

 

 

 その左手に強烈な蹴りが炸裂する。

 

 

 

 背後からシャイニングガンダムの側頭部を狙って放たれたハイキックは、ウルベからの攻撃だった。

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

 止められたことを目を見開いて驚くウルベ。

 

 

 

「いつまでもいつまでも、うっとうしい虫けらどもが! 貴様らのDG細胞の力など、この俺が倒せるものか! ックックックックック、ハッハッハッハッハ! 見ろ! この力ぁっ!」

 

 

 

 キョウジの宣言と共に、シャイニングガンダムが紅い光を纏った。

 

 

 

 同時にウルベもDG細胞の力を解放し、殴りかかって来たキョウジを迎え撃つ。

 

 

 

 繰り出される拳と拳、蹴りと蹴り。

 

 

 

 だがーー。

 

 

 

「なんだとっ!? このスピードとパワー! 常軌を逸している……!」

 

 

 

 言葉どおりに、ウルベの放った拳が蹴りが。

 

 

 

 全てキョウジの攻撃に押し負けている。

 

 

 

 それだけではない、体の動き。

 

 

 

 単純な動作だけの話ではない、体の運びや反射速度。

 

 

 

 そのスピードにおいても、ウルベはキョウジに一方的に打ち負かされていた。

 

 

 

「常軌? 常軌だと?! この程度で常軌だとっ!? 貴様、それでも人間を捨てた身か! この動きは! 東方不敗マスターアジアの動きを超えるために俺が進化させた動きだ! この程度のことも考えられないのか!? それでよく、人間を捨てたなどと言えるなぁあ!」

 

 

 

「ぐうっ!? なんというパワーだ……!」

 

 

 

 常軌と告げたウルベにキョウジは不快気に、愉快気に嗤いながら容赦ない攻撃を繰り出してくる。

 

 

 

(粗削りな動き! 隙だらけだというのに、反応速度が速過ぎて攻撃を打ちこむ隙がない!)

 

 

 

「ウルベ! デスルークを使いなさい! 四、五体くらいならば召喚できるはずです、早く!」

 

 

 

「気楽に言ってくれる……! はあっ!」

 

 

 

 ウォンからの指示に攻撃を打ち返した後、ウルベがガンダムヘッドをふり仰いだ。

 

 

 

「ガンダムヘッドよ!」

 

 

 

 ガンダムヘッドの口から青白い光の球が放たれる。それらは海上で四十メートル近い巨大なMFへと変化する。

 

 

 

 そのコクピットのなかにいるのは、ウルベと同じ姿をしたコピー体だ。

 

 

 

「自己進化という点においてはあなたに一日の長があるようですが、自己増殖という点においては我々のほうが上のようですね。キョウジ・カッシュ!」

 

 

 

 ウォンが微笑みながらキョウジに告げる。

 

 

 

 同時にウォルターガンダムからも三つの光の球が放たれた。

 

 

 

 光の球はそれぞれ三機のMF--ゼウスガンダム、ジェスターガンダム、コブラガンダムへと変化した。

 

 

 

「この戦い、我々が勝たせてもらいますよ」

 

 

 

 勝ち誇るウォン。

 

 対してキョウジは頸動脈から頬にかけて、六角形の金属鱗を浮き上がらせた。

 

 

 

 これにウルベが目を細めて告げた。

 

 

 

「正気か? きみは人間を捨てるのかね、キョウジ君。わたしたちと同じ存在になると?」

 

 

 

「無理からぬことですねぇ。弱い人間などという生命体を捨て、新たなる命へと進化する。当然の結果だ」

 

 

 

 力を求め続けていた彼らには分かる。

 

 

 

 綺麗事をいくら語っていても、力がなければ何もできないと言うことが。 

 

 

 

 そんな二人にキョウジは告げる。

 

 

 

「ああ。俺は無力な人間だ……。貴様ら程度に、彼らの命を蹂躙された。止めようと思えば止められたものを、気付けなかったことが俺の無能の証。だから、俺はもう俺でなくていい。貴様らのような下衆を斃たおせるのなら、俺は喜んで悪魔にでもなんにでもなってやる! ウルベ! 地獄で母さんとセイランさんたちに、詫びに行けぇええええ!」

 

 

 

 同時、シャイニングガンダムが黄金の光に包まれる。

 

 

 

「これはっ……! 明鏡止水だと!? やつもデビルガンダムと同じように、DG細胞の力を使いながら明鏡止水を使えるのかっ!?」

 

 

 

「これはいけませんね。完全に想定外だ……。まともにやりあうと、こちらも被害が大きくなる。ウルベ、ここでの戦いは時間稼ぎに徹しましょう。所詮オーブ軍などキョウジ・カッシュのシャイニングガンダムのみですよ」

 

 

 

「フンっ! ならばここで時間を稼いでおけば、マスドライバーはいずれ制圧できるということか。頼んだぞ、ウォン」

 

 

 

「いいでしょう」

 

 

 

 ウォンと同時に、ウォルターガンダムから生み出された三機のガンダムが消え去った。

 

 

 

「逃がすかぁ!」

 

 

 

「それはこちらのセリフだぁあっ!」

 

 

 

 ウォンの逃げた方向へシャイニングショットを放とうとしたキョウジのまえに立ちはだかったのは、デスルーク。

 

 

 

 さらにガンダムヘッドから自動的に無数のデスアーミーたちが生み出されていく。

 

 

 

「君がこの場から離れれば、あっという間にデスアーミーの軍団はオーブと言う国を飲み尽くしてしまうだろうねぇ!」

 

 

 

「ならその前に、あんたらを皆殺しにすればいいってわけか」

 

 

 

 キョウジが獣のような咆哮を上げる。

 

 

 

 同時、周囲を取り囲んでいた四体のデスルークを、その両手と両足ではるか後方に弾き飛ばす。

 

 

 

「ええいっ! 陽電子縮退砲! くたばれぇええええ!」

 

 

 

 二体のデスルークから放たれる巨大なビーム砲。シャイニングガンダムは棒立ちの状態で受け止める。

 

 

 

 黄金の光に触れると同時にビーム砲が消し飛んでいく。

 

 

 

「ば、ばかなっ!?」

 

 

 

 戦慄し、棒立ちになるウルベコピー。

 

 

 

 同時にシャイニングガンダムが両腕を組み、一振りのビームソードを作り上げた。

 

 

 

「一刀両断、シャイニングフィンガーソード……!」

 

 

 

 通常のビームサーベルと変わらないサイズの、とてつもないエネルギーを秘めた剣がシャイニングガンダムの両手に生じる。

 

 

 

「必殺! シャァアアアイニング! スラアアアッシュ!」

 

 

 

 前方の空間を横一線に薙ぐ。

 

 

 

 同時に世界に、緑色の光の線が走る。

 

 

 

 無数のデスアーミーと二体のルークが、キョウジが剣を払う動作をすると同時に切り捨てられた。

 

 

 

「こ、こんな……馬鹿なっ……!」

 

 

 

 呆けていたのも一瞬で、ウルベの形相に苛立ちがこもった。

 

 

 

「数など問題ではないということか!」

 

 

 

 そんなウルベをキョウジはゆっくりと睨みつけながら邪悪に微笑む。

 

 

 

「これが二律背反の境地ーーいや、極みだ」

 

 

 

 DG細胞の力は闘争本能を呼び起こし、人格を凶暴化させて力を得る。

 

 

 

 対して明鏡止水は、自身の潜在能力を穏やかな心で引き出す。

 

 

 

 まったく正反対の力だ。

 

 

 

 それを二つ同時に使うことなどできるはずがない。

 

 

 

 できるはずがないのだーー。だというのに、目の前にいる男は、それを可能にしている。

 

 

 

 圧倒的な凶気を纏いながら、心静かに己を見据える理性を持つ。

 

 

 

「なるほど。DG細胞との相性がいいのか。ならば、君はDG細胞そのものと一体化しようとしているとも言えるな。皮肉な話じゃないかーー。オーブと言う国を護る健気な心意気に応えるのが、悪魔の力だったとは。そしてそれに君は間もなく完全に取り込まれるーーか」

 

 

 

 周りにいるウルベのコピー体もそれに邪悪に微笑む。

 

 

 

 時間を稼げばやがてキョウジという人格は消え、ここにいるのは完全なDG細胞の塊となる。

 

 

 

 強力な自己進化の果てに生まれるDGコアだ。

 

 

 

 取り込めば、自分にとってこれ以上ない戦闘力の増加となるだろう。

 

 

 

 ウルベは喜びに打ち震えていた。

 

 

 

 支配に関する能力ならば先のセイラン親子で実験済みだ。

 

 

 

 取り込めるーー理性のないDG細胞の塊ならば、取り込めるとウルベは嗤う。

 

 

 

「問題は、その時間を私が耐えきれるか、か。面白い!!」

 

 

 

 ガンダムファイターの意地がウルベにもある。

 

 

 

 昨日まで研究者でしかなかったキョウジになどに負けるつもりはない。

 

 

 

 皮肉にも力の差を感じながら心が折れない理由は、人間であった頃のウルベ自身忘れていた武術家としてのプライドだった。

 

 

 

 それは恐らく、シン・アスカという少年たちに敗れたコピー体の意識。

 

 

 

 その時の意地が、誇りが、ウルベの魂をいびつなりにも燃え上がらせていた。

 

 

 

 たとえどれだけ弾き飛ばされようとも、敗北を認めなかった彼らの魂が。

 

 

 

 ウルベにも影響を与えていたのかもしれない。

 

 

 

 デスルークを軽々と貫く拳。

 

 

 

 首をあっさりと刈る蹴り。

 

 

 

 それらを受けながら、ウルベは最後の一人になろうとも逃げることを辞めていた。

 

 

 

 真っ向からぶつかり合う。

 

 

 

 漆黒のオーラがウルベの全身を纏う。

 

 

 

「うぉおおおおお、負けん!! 貴様などに!! ぬるま湯に居たカッシュ家などに!! この私が負けるものかぁあああああああ!!!」 

 

 

 

「---死ィイイイイイイネェエエエエエエエエエエエエッ!!!」

 

 

 

 金色の光と漆黒の影がぶつかり合う。

 

 

 

 キョウジからは既に言葉が失われつつある。

 

 

 

 ウルベの身体は破壊されるたびに自己再生で修復される。

 

 

 

 どちらも譲らない。

 

 

 

 下がらない。

 

 

 

 ラッシュを繰り出してくる黄金のシャイニングガンダムの一つ。

 

 

 

 左拳を選択して咄嗟に右に見切るウルベ。

 

 

 

 掴まれたことにより、黄金であったシャイニングガンダムの機体が一瞬気を散らし、トリコロールに戻る。

 

 

 

 同時にウルベガンダムのマスクが左右に展開され、生物的な牙を剥き出しにするとシャイニングガンダムの左腕に噛みついた。

 

 

 

「ーーッ!?」

 

 

 

「ふふふ、もらうぞ! 貴様の血肉を!!」

 

 

 

 ウルベは両腕でシャイニングガンダムの左腕を引きちぎる。

 

 

 

 キョウジは意に介さない。

 

 

 

 右腕でウルベのガンダムを後方へ殴り飛ばす。

 

 

 

 同時に自己再生で左腕を一瞬で再生させる。

 

 

 

 ウルベは後方に弾かれながらも、両腕の中にあるシャイニングガンダムの左腕をDG細胞に指示して一つの球に変えるとそのまま機体に飲み込ませた。

 

 

 

 同時にウルベの頭に体中に力がみなぎる。

 

 

 

 キョウジの記憶ーー力、シャイニングガンダムの境地。

 

 

 

 すべてが彼のモノとなっていく。

 

 

 

 見た目にも変化があった。

 

 

 

 ウルベのガンダムが、ゴッドガンダムと同じ顔と胸に変化したのだ。

 

 

 

 その変化は、シャイニングガンダムの変化やデスガンダムシリーズと酷似していた。

 

 

 

「くくくくーー! 手に入れたぞ、ハイパーモードを!!」

 

 

 

 同時にウルベの機体が黄金に変化する。

 

 

 

「ーー何?」

 

 

 

 胸部カバーが展開され、エネルギーマルチプライヤーが青黒く輝く。

 

 

 

 同時にウルベのガンダムの右手が同じ色に輝き、前方に放たれた。

 

 

 

 咄嗟に黄金のハイパーモードに変身するシャイニングガンダム。

 

 

 

 デスルークが放つものと同じくらいの巨大な青黒い光。

 

 それをまともに受け止める。

 

 

 

「ーーあらゆるものを無にする光。ーーヴァニシングガンダムと名付けようか」

 

 

 

 紫色の人ならざる異形の細胞を全身に浮かばせて、血走った赤い目を向けながら、ウルベは自分のガンダムをそう名付けた。

 

 

 

「神も悪魔も、光も闇もーー全て消してやろうじゃないか。この私のガンダムでな!!」

 

 

 

 笑みを浮かべるウルベにキョウジも笑みを返した。

 

 

 

 ただし、その瞳にはほとんど理性が残っていない。

 

 

 

「う、る、べぇ!! 死ィイイイイイイネェエエエエエエエエエエエエッ!!」

 

 

 

「死ぬのは貴様だ、キョウジ!!」

 

 

 

 ガードも何もない大振りの右ストレート。

 

 

 

 先ほどまでのウルベには脅威だったが、今の彼には止まって見える。

 

 

 

「さらばだ!!」

 

 

 

 右拳を左に捌き、コクピットに向けて青黒く輝く右手を突き刺そうと繰り出した。

 

 

 

「死ね、キョウジ!!」

 

 

 

 強烈な衝撃がウルベの首を後方へ弾き飛ばした。

 

 

 

 訳が分からず、首を戻しながら態勢を立て直す。

 

 

 

 そこには、うめき声をあげてうつむきになっているシャイニングガンダム。

 

 

 

 そしてそれを庇うように前に立つ二枚の閉じた羽根を持ったトリコロールの同じ顔の兄弟機。

 

 

 

 ゴッドガンダムがいた。

 

 

 

「バカな、貴様はーー!!」

 

 

 

 ウルベが目を見開くと同時に胸部のエネルギーマルチプライヤーと羽を展開し、背後に日輪を生じさせて構えるガンダム。

 

 

 

「久しぶりだな、ウルベーー! できれば、貴様の顔は二度と見たくはなかったが」

 

 

 

 赤い鉢巻に頬に十字傷を負った黒髪の青年。

 

 

 

 第13代キングオブハートにしてガンダム・ザ・ガンダムの称号を持つ最強の武道家。  

 

    

 

「ドモン・カッシュ!! 何故ここにいる!!?」

 

 

 

 ウルベの問いかけにドモンは静かに機体を黄金に変える。

 

 

 

「ーー行け、ウルベ。この場は見逃してやる」

 

 

 

「なんだとーー?」

 

 

 

 そのまま、ウルベに背を向けてドモンはーーゴッドガンダムはキョウジに身体を向けた。

 

 

 

「貴様よりも大事な用があるんでな」

 

 

 

 そう告げるドモンは、キョウジを悲しげに見やる。

 

 

 

 これにウルベが嘲笑した。

 

 

 

「愚かな、既に貴様の兄はDG細胞によって理性を失っている! 元になど戻るモノか!!」

 

 

 

 そんなウルベの宣言にもドモンは何の反応も示さない。

 

 

 

 静かにドモンはキョウジを見据えた。

 

 

 

「ーー兄さん」

 

 

 

 瞬間、キョウジの瞳に理性の光が戻った。

 

 

 

「ーー何!?」

 

 

 

 ウルベが目を見開く。

 

 それほどまでにあり得ない光景だった。

 

 既に完全に細胞に取り込まれていた人間が、意識を取り戻すなど考えられない。

 

 

 

「ドモンーー?」

 

 

 

 キョウジは一瞬、ドモンを呆けた表情で見た後、悪鬼の形相でその後ろにいるウルベを見つけた。

 

 戻った理性は、直ぐに殺意に変わる。

 

 

 

「ドモン、そこをどけ!! 今度こそ、その下衆をーー母さんの仇を殺してやる!!」

 

 

 

 そんなキョウジにドモンは静かに首を横に振った。

 

 

 

「断るよ、兄さん」

 

 

 

「ーー何故だ!!? その男は母さんの仇なんだぞ、ドモン!!!」

 

 

 

 憎しみーー、怒り、激情ーー。

 

 

 

 それが渦巻いてキョウジの理性を消していく。

 

 変わっていく兄に、ドモンは静かに語る。

 

 

 

「兄さん。たとえウルベを倒せても、このままじゃ兄さんが悪魔の化身になってしまう。そんなことを見過ごすわけにはいかない」

 

 

 

「それがなんだ!? こいつらをここで斃せるんなら、俺は悪魔にでもなんにでもなってやる!!!」

 

 

 

 全身を黄金に染め上げ、強烈な凶気を纏ってキョウジは二律背反の境地ーー黄金のハイパーモードに覚醒する。

 

 

 

 これにドモンは眦を吊り上げて言った。

 

 

 

「そうかーー。ならば、キング・オブ・ハートの名にかけて! 俺が兄さんを止める!! 兄さんを悪魔になんかさせやしない!!!」

 

 

 

 キングオブハートの紋章がエネルギーマルチプライヤーに浮かぶと黄金の気を更に紅蓮の炎が纏い始めた。

 

 

 

 圧倒的な気にウルベが目を見開く。

 

 

 

「バカなーー! 気の量が、私の想像を上回るだと!?」

 

 

 

 自身も二律背反という境地を得たがゆえに分かる。

 

 

 

 今のドモンの明鏡止水は、全てを凌駕していると。

 

 

 

「たしかに今、ドモンと戦うのは得策ではないな」

 

 

 

 静かにウルベは、自分の中で高めた気を納めて紺色を主としたトリコロールの機体に戻る。

 

 

 

「今だ、アスラン!!」

 

 

 

「ーーよし!!」

 

 

 

 その時、ウルベは明後日の方向から強烈な気を感じる。

 

 そこには、青い翼のガンダムと赤いボディのガンダムがいた。強烈なビーム砲の雨霰が、二機から放たれる。

 

 

 

「ーーチッ!」

 

 

 

 ウルベは舌打ちをしながら、網の目を縫うようにかわすとその場から超高速で去っていった。

 

 

 

 残されたのは、兄弟機のガンダム。

 

 

 

 そして、ファイターである実の兄弟だ。

 

 

 

 動いたのは同時。

 

 

 

 シャイニングガンダムが、ゴッドガンダムの正面に現れる。

 

 

 

 無造作で放たれる右の拳。

 

 

 

 ウルベが散々苦戦していたその一撃を、ドモンは苦も無く左に見切って掴み止める。

 

 

 

「ドモン、そこを退くんだ!!」

 

 

 

「断る。その力に取り込まれてまで、奴を倒させるわけにはいかない」

 

 

 

「ならばーーお前を倒す!!」

 

 

 

 力任せに放たれる連続攻撃。

 

 

 

 スピードもパワーも態勢も全て人間離れしている。

 

 

 

 だが、それほどの連撃をドモンは苦も無く、紙一重で避けていく。

 

 

 

 正気であったキョウジならば、ここまで単調なコンビネーションはしないだろう。

 

 

 

 そう思うと同時に、ここまで理性を失いながらも鋭い技のキレと体運びに兄の変わらぬ几帳面さを感じる。

 

 

 

 きっと毎朝、同じ動きを積み重ねていたのだろう。兄は天才だ。だが、その才に溺れずに絶えず上を目指す人だった。

 

 

 

 こんな時なのに、ドモンはキョウジの動きや呼吸、自己犠牲の心。全てに懐かしみを感じていた。

 

 

 

「兄さんーー、聞いてくれ。父さんは無事だよ。あれから4年経ったんだ」

 

 

 

 鋭い攻撃をノーガードで避けながら、ドモンはキョウジにそう告げる。

 

 

 

 左のローキック、右の膝蹴りからのハイキック。

 

 

 

 これを一歩右足を下げてローを避け、踏み込んで来た右の膝蹴りを左手で受け、そのままの態勢から放たれた右のハイキックを上体を反らして鼻先で見切る。

 

 

 

「俺は、あれからレインと結婚した。今、あいつの腹の中には俺たちの子どもがいるんだ」

 

 

 

 左のストレートを体を半身にかわして避ける。

 

 

 

 右手側に来たゴッドガンダムの頭部にシャイニングガンダムの輝く掌が放たれた。

 

 

 

 シャイニングガンダムの右手を手首の部分を左手で掴んで止めるゴッドガンダム。

 

 

 

 ドモンはそのまま、語りかけた。

 

 

 

「ーー兄さんは一人じゃない。兄さんの帰りを待つ人がいるんだ。兄さんが悪魔なんかになってウルベやウォンを倒せても、兄さんを待つ人達が不幸になるだけなんだよ」

 

 

 

 その言葉に、キョウジは目を見開いた。

 

 まるで夢から覚めたかのようにーー。

 

 

 

「ドモンーー!!」

 

 

 

 気付けば、キョウジの首元から横頬まで達していた銀色の鱗模様が消えていた。

 

 

 

「キョウジ兄さんーー。ようやく、会えたね」

 

 

 

 目を見開き、正気に戻ったキョウジの前で逞しくなった弟は、静かにその両目から涙を流した。

 

 

 

「ドモンーー。強く、逞しくなったな」

 

 

 

「うんーー。兄、さん」

 

 

 

 温かい微笑みと共にキョウジの目からも弟と同じく涙が流れていた。

 

 

 

 彼はそのまま、笑顔でドモンに告げる。

 

 

 

「はは。だけど、泣き虫は変わってないな」

 

 

 

「ーー兄さんも。兄さんだって、泣いてるじゃないかぁ…………っ!」

 

 

 

 顔をくしゃくしゃにしながら、ドモンはキョウジを抱きしめた。

 

 

 

 キョウジもその言葉に涙と嗚咽を漏らしながら言った。

 

 

 

「そう、だなーー! はは、上手く言えないやーー。お前と話したいこと、いっぱいあったのになーー!」

 

 

 

「いくらでも話せるよ。俺は、もうどこにも行かない。兄さんも」

 

 

 

「ーーああ。そうだな、ドモンーー!!」

 

 

 

 強く強く抱きしめ合う二人の兄弟。

 

 

 

 二機の兄弟機。

 

 

 

 これを少し離れたところで、先ほどウルベに仕掛けた二機のガンダムが見ていた。

 

 

 

「アスランーー。今は」

 

 

 

「分かっている。俺達だけでマスドライバーを制圧するぞ、キラ!!」

 

 

 

「うん! 僕とこのストライクフリーダムガンダムならやれる!!」

 

 

 

「ああ。俺もこのインフィニットジャスティスガンダムを使いこなして見せる!!」

 

 

 

 白い機体は青き翼を、赤い機体は両翼を広げて、ウルベとウォンが向かったであろうマスドライバーに音速を超えるスピードで向かっていった。

 

 

 

「こちらフリーダム! キラ・ヤマトーー! オーブ軍、これより援護します!!」

 

 

 

 キラの通信にオーブ軍が湧いていた。

 

 

 

 すぐに抱き合っている彼らーーカッシュ兄弟も援護に来てくれるだろう。

 

 

 

 だから、今はーー。

 

 

 

 今だけ、キラとアスランは兄弟の邪魔をしたくなかったのだ。

 

 

 

 青い海と空、そして光り輝く太陽は、悲劇と困難の果てに再会した兄弟を祝福するかのように、優しく包み込んでいた。

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね〜!

 ついに、キラとアスラン、そしてドモンとキョウジがオーブに集結しました!

 更にザフト軍のミネルバ及び、ファム・ファタールらのボルテールが現れます。

 はたして、シュバルツやキョウジ達は、ウルベ達を倒せるのか!?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第76話に!

 レディー、ゴー!!



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第76話 混戦するオーブ 覚醒するウルベ

 みなさん、ついに再会を果たしたキョウジとドモン。

 喜びを分かち合う2人の兄弟。

 一方、キョウジの力を得たウルベは、圧倒的な力で全てをねじ伏せようとします。

 これを迎え撃つのは、無敗のオーブ軍とキラにアスラン。

 はたして彼らは、ウルベとウォン、ジブリールを倒すことができるのか?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィィィッ、ゴォォオオオオオッ!!




 

 ザフト高速艦エターナル。

 

 

 

 ジブラルタル基地から脱出に成功したアスランとメイリンは、オーブ軍のアークエンジェルと無事に合流を果たした。

 

 

 

 そのままシャトルでマスドライバーから宇宙に上がったキラとアスラン、そしてメイリンは、クライン派が拠点としている廃棄プラントのドックから歌姫の船に乗艦した。

 

 

 

 そのブリッジで、キラはラクスと久しぶりの邂逅を果たしていた。

 

 

 

「ーーキラ。よく来てくれましたね」

 

 

 

 いきなり胸の中に飛び込まれて強く抱きしめられた。

 

 

 

 キラは訝しげに思いながらもラクスを抱き締め返す。

 

 

 

 ラクスの顔が悲し気に歪んでいたのをキラは見逃さなかった。

 

 

 

「ラクス、どうしたの?」

 

 

 

「ーーわたくしは、一人の女性を不幸にしました。それにキラ。あなたは、これからーー!」

 

 

 

 涙を流しながら珍しく要領を得ないラクスにキラは優しく微笑んで、背中をさすりながら問いかける。

 

 

 

「ゆっくり話して、ラクス。何があったのかを」

 

 

 

「はいーー」

 

 

 

 そんな二人の親密なやりとりをメイリンがポカンとしながら見ている。

 

 アスランは、そんな彼女に説明した。

 

 

 

「キラはラクスの恋人なんだ」

 

 

 

「ーーえ? でも、アスランさんとーー!」

 

 

 

「あれは、別人なんだ。話すとややこしいんだけどな」

 

 

 

 ?マークが飛び交うメイリンに苦笑しながら、アスランは頷いた。

 

 そんな彼に別方向から遠慮ない声がかけられた。

 

 

 

「やっと宇宙に上がってきたか! 甲斐性なしめ」

 

 

 

「そういう言い方はよせって」

 

 

 

「いいんじゃない? ストレートに言った方が本人の為よ」

 

 

 

 聞き慣れた3人の声にアスランが目を見開く。

 

 ラクスを抱きしめていたキラも、目を見開いて声の方を向いた。

 

 

 

「「イザーク! ディアッカ! ミリアリア!」」

 

 

 

 ポカンとする2人の少年に3人は微笑みを浮かべた。

 

 

 

 キラが思わず彼らに声をかける。

 

 

 

「力を貸してくれるんですか、ディアッカ! イザークも!!」

 

 

 

 正規の軍人だったイザークとディアッカ。

 

 

 

 彼らは、ザフト軍を抜けてまで自分達ーーもといラクス達に協力してくれたのだろう。

 

 

 

 キラが感動したように告げるとイザークは、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

「フン、その喜びよう。俺の力を正しく理解しているようだな。流石はキラ、何処かの甲斐性なしとは大違いだ」

 

 

 

 胸を張り威張るイザークの横からディアッカが気楽な笑みを浮かべて言う。

 

 

 

「ま、成り行きだ! 俺たちも議長が怪しいのは分かってたからな」

 

 

 

 更にミリアリアが補足説明をした。

 

 

 

「キョウジさんに頼まれた依頼3つのうち、2つを完遂させたの。そしたら、ラクス達に合流してって言われたのよ。依頼内容はデュランダル議長の動きの報告と、セイランとの無線チャンネル。それと、プラントとの取り引き」

 

 

 

 3人の言葉にキラが目を見開いた。

 

 

 

「そんな大変なことを3人でーー! しかも、こんな短期間で成果を出すなんて」

 

 

 

 そこまでの成果を叩き出したことにキラは、思わず感嘆の声を上げた。

 

 

 

 それに彼らは微妙な表情になる。

 

 

 

「? どうしたんだ、イザーク?」

 

 

 

 自慢話が始まるかと身構えていたアスランは、彼の反応に思わず問いかけた。

 

 すると、イザークはアスランをチラ見した後、キラを見据えて言った。

 

 

 

「ーーキラ・ヤマト。貴様は、これから悪夢を見ることになる。おそらく、貴様にとってアレは悪夢だろう。酷な言い方だが、覚悟しておくんだな」

 

 

 

 深刻な表情のイザークに、アスランは隣のディアッカやミリアリアを見ると、彼らも深刻な表情になっていた。

 

 

 

 どういうことかとキラが問いかけるよりも早く、イザークによく似たーー低い声が彼らに語り掛けた。

 

 

 

「DG細胞はコピー体を作ることができる。それについては、シャイニングガンダムのデータから、お前たちも知っているんだろ?」

 

 

 

 イザークよりも更に低い声。

 

 

 

 キラは目を見開いてそちらを見た。

 

 

 

 燃えるような赤い鉢巻とマントを身に着けた黒髪黒目の青年。

 

 

 

 キラの尊敬する二人の人間によく似た、鋭い瞳の武道家。

 

 

 

 彼らと同じくらいにキラにとっては、尊敬に値する男。

 

 

 

 彼の戦いを見て、誰よりも励まされたのは自分だとキラは自覚していた。

 

 

 

 少年は震える声で、その男の名を告げた。

 

 

 

「ドモン・カッシューーさん!」

 

 

 

 そんな震える少年の声に、男ーードモンは不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

 

 

「はじめまして、だな。兄さん達を助けてくれてありがとう、キラ。お前には、直接礼を言いたかった」

 

 

 

 永遠の名を冠する戦艦で、キラとアスランは最強の武道家と邂逅した。

 

 

 

 彼から聞いたことは、キラにとって確かに悪夢であった。

 

 

 

 彼にとって怨敵ともいえる男ーーラウ・ル・クルーゼの復活と、彼が守り切れなかった少女ーーフレイ・アルスターの姿をしたDG細胞の生命体。

 

 

 

 その生命体はキラ・ヤマトを苦しめるためだけに存在すると言う。

 

 

 

 そしてラクスの姿にもなることができる。

 

 

 

 そんな突拍子のない内容。

 

 

 

 聞いただけのアスランにはSFのような話だ、現実味がないとしか思えなかった。

 

 

 

 だがーー実際はそんな生易しいものではない。

 

 

 

 それは、ラクス・クラインを模した演説を見て理解していた。

 

 

 

「……キラの前にいずれフレイーーううん。ファム・ファタールとラウ・ル・クルーゼは現れると思うわ」

 

 

 

 ミリアリアの言葉にキラも静かに頷いた。

 

 

 

「分かったよ、ミリィ。ありがとう」

 

 

 

「キラ、大丈夫なの?」

 

 

 

「分からない。でも、僕は決めたんだ。もう迷わないって」

 

 

 

 強い瞳で応えるキラにミリアリアは悲し気な目になる。

 

 

 

「キラ、でもあの子は。フレイはーー!」

 

 

 

 何かを伝えようとするミリアリアをディアッカが制した。

 

 

 

 静かに首を横に振る彼に、ミリアリアも寂しげに頷く。

 

 

 

 これにドモンが一拍置いてから声を上げた。 

 

 

 

「話は落ち着いたようだな。ラクス、キラ達のガンダムを!」

 

 

 

 その言葉にキラとアスランの目が見開かれた。

 

 

 

「! 僕たちのーー」

 

 

 

「新しいガンダムーー!」

 

 

 

 彼ら二人の前に現れたのは格納庫に置かれていた二機のMS。

 

 

 

 ストライクフリーダムガンダムとインフィニットジャスティスガンダムであった。

 

 

 

「お前たちの戦闘データを基にしたものと、キョウジ兄さんからのデータで創られた機体らしい。特にストライクフリーダムの方は、ザフトが量産型のフリーダムを作成しようとしていたデータを拝借した。じきにそこの二人ーーイザークとディアッカ用のフリーダムも作られるだろう」

 

 

 

 ドモンからの説明にキラ達は目を丸くする。

 

 

 

「兄さんからのデータは渡りに船だった。ガンダムのOSは俺の方でも調整しておいたから、後で確認してくれ。それとアスランは格闘が得意だと聞いていたんでな、そのように関節部を改良するよう指示しておいた」

 

 

 

 キラが静かにストライクフリーダムを見上げる。

 

 

 

 感じたのは、フリーダムとその分身だったストライクの感覚だ。

 

 

 

「…すごい。僕の機体そのものだ」

 

 

 

 アスランの方も明鏡止水で機体の五感を感じて取る。

 

 

 

「これはーー俺の想像通りに動く。これが、未来世紀のフレーム技術なのか」

 

 

 

 二人の反応にドモンはニヤリと不敵に笑って言った。

 

 

 

「さあ、地球に向かうぞ。そろそろ終わりにしてやろうぜ、こんな馬鹿げた戦いをな!」

 

 

 

 力強い彼の言葉に二人の少年はこくりと頷いた。

 

 

 

 こうして、コズミックイラ最強のパイロットーーキラ・ヤマトとアスラン・ザラ。

 

 

 

 未来世紀最強の男ーードモン・カッシュ。

 

 

 

 三人の駆る強力過ぎるガンダム達は、青き母なる星地球へと降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブのマスドライバー。

 

 

 

 現状において、二つに別れた地球連合と元々敵であるザフトのマスドライバーを除けば、唯一といってよい施設だった。

 

 

 

 そのシャトルの一つにロゴス幹部ロード・ジブリールが乗り込んだ。

 

 

 

 彼の前に一機のMFが現れる。

 

 

 

 丸いボディに異形の両腕を持つその機体をジブリールは知っていた。

 

 

 

「四天王ーーウォルターガンダム!? ウォンか!!」

 

 

 

 ジブリールの声にウォルターガンダムのパイロット、ウォンが答えた。

 

 

 

「ええ。よくぞ無事にここまでたどり着きましたね、ジブリール」

 

 

 

「お前こそ、よくぞ復活した! ウルベは!?」

 

 

 

「問題ありません、ウルベも無事に復活しています。それよりも、そのシャトルには自爆装置が付けられているようです。ガンダムのレーダーに反応があります」

 

 

 

「ーー何? おのれ、キョウジ・カッシュめ! 用意周到な!!」

 

 

 

 ウォンからの言葉にジブリールが歯ぎしりする。

 

 

 

 ウォンは静かに告げた。

 

 

 

「落ち着いてください。貴方もDG細胞の使用者です、ならばそのシャトルを取り込んでしまいなさい」

 

 

 

「ーーなるほど。良い手だ」

 

 

 

 言うと同時にジブリールの全身から紫の光がはなたれ、シャトルを内部から変換していく。

 

 

 

 これにウォンがニヤリと笑った。

 

 

 

「そう、それで良いんです。さて、私はここに来る愚か者どもを排除した後にシャトルに乗り込みましょう。貴方はシャトルを発進させなさい」

 

 

 

「いいだろう。お前たちの戦いを見させてもらおう」

 

 

 

 邪悪な笑みを浮かべ合い、両者は迫りくるオーブ軍を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マスドライバー施設の周囲を取り囲んで、トダカは告げた。

 

 

 

「気をつけろ! 自爆装置が発動しない!! ここで奴らを落とさねば、後の世に禍根が残るぞ!!」

 

 

 

 トダカの艦の後ろからアークエンジェルが姿を見せる。

 

 

 

「まったく、ステラ達をジブラルタル基地に送ったすぐ後で、こんなことになるとはな」

 

 

 

 苦笑と共に言う金色の髪の男ーーネオ・ロアノーク。

 

 

 

 これに茶髪の男ーーアンドリュー・バルトフェルドが答えた。

 

 

 

「ぼやくな、ロアノーク! それだけ、敵を追い詰めてる証拠だ」

 

 

 

 その言葉にマリュー・ラミアス艦長も頷く。

 

 

 

「そうよね。MS隊は発進準備を!!」

 

 

 

 この言葉に、二人の男は頷いた。

 

 

 

「アンドリュー・バルトフェルド! ガイアガンダム、発進する!!」

 

 

 

「ネオ・ロアノーク! ウィンダム、出る!!」

 

 

 

 自分たち用にカラーリングとチューンされたMSで出張る二機。

 

 

 

 バルトフェルドはガイアを四足にして、ホバーユニットの上に飛び乗った。

 

 

 

「ステラみたいに海面を走らないのか?」

 

 

 

「お前さん、一人で戦うのなら海面にダイブして、スキューバダイビングを楽しんでやっても良いがね」

 

 

 

 笑顔で揶揄してくるネオにバルトフェルドも軽口で返す。

 

 

 

 目の前に広がるデスアーミー達と4機のMF--ガンダム。

 

 

 

 彼らを前にしても、余裕があった。

 

 

 

 マスドライバーを最悪破壊すれば、シャトルは宇宙に上がれないからだ。

 

 

 

 いくらMFが強力だと言っても、手駒が30機程度のデスアーミー達では守り切れない。

 

 

 

 落ち着いて攻めれば、いくらでも攻略はできると歴戦の勇士である二人は考えていた。

 

 

 

 そこにだーー。

 

 

 

「刮目せよ! ヴァァアアニシングゥフィンガァアアアアアア!!」

 

 

 

 青黒く輝く光線が放たれた。

 

 

 

 その光は瞬く間に、展開していたオーブ軍を消し飛ばす。

 

 

 

「なんだと!?」

 

 

 

「この力ーー、まさか!!」

 

 

 

 ネオとバルトフェルドがそちらを見れば、紺色のトリコロールのボディと白を基調とした顔と手足のガンダム。

 

 

 

 ゴッドガンダムやシャイニングガンダムによく似た、デスガンダムタイプのMSがいる。

 

 

 

「これはーー!!」

 

 

 

 驚愕するオーブ軍に謎のGガンダムタイプのパイロット--いや、ファイターはニヤリと笑いながら言った。

 

 

 

「無力な人間どもめ! 私たちの邪魔をするな!!」

 

 

 

 長髪の軍人ーーウルベ・イシカワだった。

 

 

 

 これにムラサメ隊がMA形態で4機編成と隊列を組んで挑む。

 

 

 

 だが、その場から姿を消して見せるとウルベのガンダムは、一気にムラサメ隊の上空に現れ、エネルギーショットを右手から放った。

 

 

 

「な!?」

 

 

 

「ばかな!?」

 

 

 

 ムラサメ隊のパイロットたちはそんな言葉を最後に光の中に消えて行った。

 

 

 

「ーー! 畜生!! やはり、犠牲者なしでは無理か!!」

 

 

 

 バルトフェルドが、消えて行ったパイロット達を見て拳を握りしめる。

 

 

 

 キョウジが参謀となってから初めてのオーブ軍の犠牲者が出た。

 

 

 

 分かってはいた、覚悟もあった。

 

 

 

 だがーー。

 

 

 

「許さんぞ、ウルベ!! みんな、下がれ!!」

 

 

 

 虎の咆哮に鷹も呼応する。

 

 

 

「一人で無理すんな、いくぞ!!」

 

 

 

 二機のMSの動きにウルベの目が鋭く細まる。

 

 

 

「ほう…、一体はガンダムか。面白い!!」

 

 

 

 二機は、ヴァニシングガンダムの両側から音速の域に達した動きでビームライフルでの波状攻撃を行う。

 

 

 

 それらをアクロバティックな動きで避け続ける。

 

 

 

「なるほど、中々に鋭い動きだ。まあ、所詮MSの動きだが」

 

 

 

 ウルベの嘲笑に舌打ちするネオとバルトフェルド。

 

 

 

「ならーー!」

 

 

 

「直接切りつける!!」

 

 

 

 左右からのビームサーベルの一撃。

 

 

 

 ウルベは軽々といった風に左手と右手をかざし、受け止める。

 

 

 

「デタラメ過ぎんだろ!!」

 

 

 

「くそーー!!」

 

 

 

 悪態を吐く二機に対し、ウルベは呟く。

 

 

 

「何故勝てもしない勝負に挑むのか、理解に苦しむ」

 

 

 

 そう述べると同時に両手から気を放って吹き飛ばす。

 

 

 

「何故だとーー?」

 

 

 

「すぐにわかるさ」

 

 

 

 吹き飛ばされながら告げる二人の言葉に訝し気に眉を寄せるウルベ。

 

 

 

 ふと気配を感じて上を向くと同時。

 

 

 

 二つの声が聞こえた。

 

 

 

「アスラン!!」

 

 

 

「くらえ、ウルベ!!」

 

 

 

 キラとアスラン。

 

 

 

 フリーダムとジャスティス。

 

 

 

 二機のガンダムからの砲撃だった。

 

 

 

 視認すると同時に放たれた多重砲撃。

 

 

 

「チッ」

 

 

 

 ウルベは舌打ちすると同時に、両拳を作ってビームを弾いていく。

 

 

 

 懐に現れたのは、赤いガンダムーージャスティスガンダムだ。

 

 

 

「いくぞぉおお!!」

 

 

 

 柄の両サイドからビーム剣を作り出し双身のサーベルをジャスティスは振りかぶる。

 

 

 

「面白い!!」

 

 

 

 ウルベも腰からビームサーベルを抜き放つ。

 

 

 

 桃色の斬閃が宙に描かれて交差する。

 

 

 

 二閃、三閃される両者の剣戟。

 

 

 

 中央でつばぜり合いになる。

 

 

 

「ーーMFの動きについてくる、だと?」

 

 

 

「いつまでも、自分たちが圧倒的に上だなんて思うなよ!!」

 

 

 

 そう告げるアスランにウルベはニヤリと笑った。

 

 

 

「笑わせてくれる!!」

 

 

 

 同時に右の前蹴りでジャスティスのボディを蹴り飛ばす。

 

 

 

「ぐぅ!!」

 

 

 

 後方に弾け飛ぶジャスティス。

 

 

 

 その陰から、音速を超えた動きで青き翼のガンダムが斬り込んで来た。

 

 

 

「はぁあああああっ!!」

 

 

 

「甘い!!!」

 

 

 

 正面から斬り合う。

 

 

 

 キラのフリーダムが目の前に現れていた。

 

 

 

 キラは斬撃が止められたと見るや左の逆手で右腰から逆サイドのビームサーベルを抜き放つ。

 

 

 

 ウルベは咄嗟につばぜり合いをしていたフリーダムの右手のサーベルをはじき返し、逆手に抜き放たれた斬撃を受け止めた。

 

 

 

「ーーくっ!」

 

 

 

「ほう、刹那の拍子で抜刀してくるとは。中々の使い手だ!!」

 

 

 

 冷酷な笑みを浮かべて蹴りとばす。

 

 

 

 同時にウルベの目に青い物体がいくつか目の端にちらついていた。

 

 

 

「ーーこれは、ビットか!」

 

 

 

 そう、ストライクフリーダムの青き翼を成していた無数のひし形のビット。

 

 

 

 それが空中に浮いている。

 

 

 

「下らん、ビット攻撃など。我々の世界では大した脅威ではない!!」

 

 

 

 ウルベは斬撃から波動を飛ばしてキラのスーパードラグーンを切り落としてしまう。

 

 

 

「一つ、二つのドラグーンを切れるからと言ってェええええ!!」

 

 

 

 叫びながら、キラは残りのドラグーンから緑色のビームを放つ。

 

 

 

 網の目のように走る砲閃。

 

 

 

 ウルベは咄嗟に機体をバックステップさせる。

 

 

 

 一瞬後、ウルベがいた位置には全方位からのビーム砲がぶつけられていた。

 

 

 

「ーーん!」

 

 

 

 ウルベが素早く左右を睨みつけると、光の翼を背負ったフリーダムガンダムと、音速を超えた動きで突っ込んでくるジャスティスガンダムがいた。

 

 

 

 二機は左右から同時に斬撃を放ってくる。

 

 

 

「ヴァニシングスラッシュ! タイフゥウウウウン!!」

 

 

 

 ウルベは正眼にビームサーベルを両手持ちで構えると、その場で回転を始めた。

 

 

 

「これは!!」

 

 

 

「その場で大回転だと!?」

 

 

 

 キラが目を見開き、アスランが何のつもりだと驚愕に叫ぶと同時、桃色の斬撃を竜巻状にして切り込んで来た二機の一撃を弾き飛ばす。

 

 

 

「やっぱり、これはドモンさんの!!」

 

 

 

「なんだと!?」

 

 

 

 キラとアスランが後方に弾き飛ばされる。

 

 

 

 同時にヴァニシングガンダムは回転をぴたりとやめ、腰にサーベルを素早く差すと同時に左右の手を吹き飛ばされている二機に伸ばし、エネルギーショットを放った。

 

 

 

 態勢を整えるためにバーニアを逆噴射して、宙に一瞬止まる二機の目の前に光が迫る。

 

 

 

「ーーくっ!」

 

 

 

「バカな!!」

 

 

 

 二機は同時にビームサーベルで光弾を切り払う。

 

 

 

 内、ジャスティスガンダムの目の前にヴァニシングガンダムが現れ、拳を振りかぶっている。

 

 

 

「もらった!!」

 

 

 

 にやりと笑いながら、ウルベは拳をジャスティスガンダムの顔面に振り下ろす。

 

 

 

 桃色の光が同時に火花を散らした。

 

 

 

「ほう?」

 

 

 

 冷酷な笑みで感心したようにウルベはもらす。

 

 

 

 拳が、桃色の刀身に止められていたのだ。

 

 

 

「さっきも言ったが、自分たちがいつまでも上だ何て思うなよ!!」

 

 

 

「中々ーー楽しませてくれる!! ヘブンズベースでやりあった小僧どもより強いようだな!!」

 

 

 

 すぐさま、ウルベは逆の拳を放つ。

 

 

 

 アスランはそれを双身のサーベルで受け止めた。

 

 

 

 次々と放たれる拳と蹴りを前に、防戦一方になる。

 

 

 

「アスラァアアアアアンッ!!」

 

 

 

 瞬間、キラがウルベの背に突っ込んで来た。

 

 

 

 アスランに向けて放っていた蹴りを、そのままの勢いで後方に回し蹴りとして放つ。

 

 

 

 キラはそれを膝で受け止めた。

 

 

 

「ーー何!?」

 

 

 

 目を見開くウルベにキラが強い瞳で言った。

 

 

 

「ウルベ!! いつまでも貴方たちの思い通りには、させない!!!」 

 

 

 

 言いながら、フリーダムが右の回し蹴りを放ってきた。

 

 

 

 鋭い一撃は、ウルベをして思わずガードするほどだ。

 

 

 

「この動きーー! 貴様!!」

 

 

 

 背を向けていたウルベの脇腹にジャスティスガンダムの右の回し蹴りが放たれた。

 

 

 

 つま先から膝の部分にビーム刃を発生させて、だ。

 

 

 

「ぬん!」

 

 

 

 咄嗟にウルベは右の肘に気を集中させて受け止める。

 

 

 

「喰らえ!!」

 

 

 

 ジャスティスガンダムの両肩からビーム砲が連続で放たれた。

 

 

 

 咄嗟にウルベはジャスティスガンダムに躰を振り返らせつつ、上体を横に倒して次々と避ける。

 

 

 

 不安定な態勢になったヴァニシングガンダムのボディを、ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスの同時に放たれた横蹴りが吹き飛ばした。

 

 

 

「ぬぅ!!」

 

 

 

 腹を抑えながら、前方で全砲門を開いてこちらに構えている二機のガンダムを睨み据える。

 

 

 

「これがーー!!」

 

 

 

「俺達の力だぁああああ!!」

 

 

 

 デュアル・ハイマットフルバースト。

 

 

 

 二機の砲撃は全てウルベのヴァニシングガンダムに向けて放たれている。

 

 

 

 避ける術は存在しない。

 

 

 

「ぬぅ!!」

 

 

 

 思わず唸り声を上げるウルベ。

 

 

 

 まともに無数のビーム砲がぶつかり、宙で爆発する。

 

 

 

 その光景にオーブの誰もが歓声を上げた。

 

 

 

 キラとアスラン。

 

 

 

 彼ら二人を除いて。

 

 

 

 ゆっくりと立ち上る爆煙。

 

 

 

 それを気合を入れてかき消し、ウルベのヴァニシングガンダムは現れた。

 

 

 

 胸部のエネルギーマルチプライヤーをさらけ出し、青黒い光を放たせて。

 

 

 

 機体は一気に黄金の光を纏う。

 

 

 

 禍々しい青黒い光と神々しい黄金の光。

 

 

 

 その二つを放つ二律背反の境地。

 

 

 

「中々の強さだ。くく、手に入れたこの力。試すには丁度良い!!」

 

 

 

 ウルベは口の端を吊り上げながら、金色となった自身を見下ろす。

 

 

 

 その気迫は海面に波紋を浮かばせ、空の雲を吹き飛ばす。

 

 

 

 自身に満ち溢れたパワーに、ウルベは心から陶酔していた。

 

 

 

「キョウジ・カッシュはよくやってくれたよ。おかげで私はハイパーモードを手に入れることができた。この力で私は更なる高みに達することができるだろう」

 

 

 

 喜びに打ち震えるウルベにキラが鋭い瞳のまま、告げた。

 

 

 

「確かに凄い力だ。だけど、勝てないわけじゃない!」

 

 

 

「ーーなんだと?」

 

 

 

 力の差を見せつけられても、キラの目は曇るどころか鋭くなるばかりだ。

 

 

 

「確かにお前は強い。だけどお前の強さは、お前だけのものだ! 俺たちには背中を預ける仲間がいる!!」

 

 

 

 アスランもキラと同じ強い光を持った目で告げる。

 

 それをウルベは、冷酷な光を持った瞳で。

 

 人ならざる姿になりながら、告げた。

 

 

 

「ならば、私に勝ってみるがいい。この無知で無力なガンダムファイターども!!」

 

 

 

 その言葉にキラとアスランは、ウルベの正面に向かって立つ。

 

 

 

 2人は互いに見合うと頷き合い、気を解放した。

 

 

 

「ーー!? まさか、貴様ら!!」

 

 

 

 ウルベが目を見開くと同時に、黄金の光を放つ二機のガンダムが現れた。

 

 

 

「明鏡止水ーーハイパーモードだと!?」

 

 

 

 目を見開くウルベにキラは告げた。

 

 

 

「ウルベ、人は絶えず進化していくものだ。あなたのように人を捨てなくても、人はあらゆる可能性を秘めている! 細胞や遺伝子に決められた世界なんか、僕たちは要らない!!」

 

 

 

「俺たちは戦い抜く! 希望の未来を掴み取り、互いに分かり合う道を模索する!! 相手への敬意と理解を忘れずに、必ず貫き通す!!」

 

 

 

「「それが、僕(俺)たちの戦いだぁあああっ!!!」

 

 

 

 二つの光は、大気を揺るがし、大海に巨大な渦を巻かせる。強大なプレッシャーを放っている。

 

 

 

 その気迫に、僅かにヴァニシングガンダムが押される。

 

 

 

「ーーおのれ、何という奴らだ!!」

 

 

 

 ウルベをして、そう言わせる程の力を放つ、二機のガンダム。

 

 

 

「ーーならば、私も応えてやろう。久しぶりにガンダムファイトになぁ!!」

 

 

 

 構えを取るウルベに、キラが叫んだ。

 

 

 

「ガンダムファイト!!」

 

 

 

 アスランが継いで叫ぶ。

 

 

 

「レディィィィッ!!」

 

 

 

 2人は高めた気を爆発させて、ウルベに突っ込んだ。

 

 

 

「「ゴォォオオオオオッ!!」」

 

 

 

 ウルベもまた、黄金の気を纏い告げる。

 

 

 

「ならば来い! コズミック・イラのガンダムファイターども!!」

 

 

 

 三つの黄金の光の球が、空中でぶつかりあった。

 

 

 

 

 

 

 

 少し離れた場所の海域から、ザフト軍が隊列を組んでその戦いを見ている。

 

 

 

「キラさん、それにあの赤いのはアスランか。戦ってるのか!!」

 

 

 

「艦長、出撃許可を下さい!!」

 

 

 

 シンとルナマリアが、即座にタリアに告げる。

 

 その横ではステラやアウル、スティングも頷いていた。

 

 

 

「分かったわ。アーサー、全軍に通達! ザフト・地球軍の先陣を本艦が行います!!」

 

 

 

「はい! 分かりました!!」

 

 

 

 タリアの指示にアーサーも頷く。

 

 

 

 シン達は格納庫に走って行った。

 

 

 

「シュバルツ殿は、後から来てくれますよね?」

 

 

 

 アーサーの言葉に、タリアが微笑んで頷いた。

 

 

 

「今は、そっとしてあげましょう。あんな幸せそうな彼をはじめて見たわ」

 

 

 

 タリアの言葉に、アーサーも頷く。

 

 

 

 彼らは一呼吸置いて気持ちを切り替え、目の前の敵を。

 

 

 

 戦いを見据えた。

 

 

 

「ミネルバ隊! オーブ軍に助太刀します!!」

 

 

 

 マスドライバーの奪取は、はたして止められるのだろうか。

 

 新たな火種が燻りはじめているのを、彼らはまだ知らない。

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね〜!

 キラとアスランの明鏡止水を迎え撃つのは、二律背反の境地に達したウルベ。

 その圧倒的な力に大苦戦を強いらされるキラ達。

 更にゼウスガンダム達やウォンのウォルターガンダムまでも参戦し、絶対絶命の危機に。

 彼らを救ったのは、5人の新たなるガンダムファイター達でした!

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第77話に!

 レディー、ゴー!!



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第77話 C.Eの英雄 対 梟雄と奸雄

 みなさん、ついにウルベは黄金の気、ハイパーモードを手に入れてしまいました。

 これに真っ向から立ち向かうのは、キラ・ヤマトとアスラン・ザラ。

 SEEDの因子を持ちながら、明鏡止水の境地に達した彼らもまた、ハイパーモードで迎え撃つのです。

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイ、ゴォォォオオオ!!




 

 再会を喜び、互いの体を抱きしめ合う兄弟。

 

 

 

 そして兄弟機でもあるガンダム達。

 

 

 

 そんな二人がいる海の上。

 

 

 

 ゆっくりと離れる。

 

 

 

 その一方、弟に忍び寄る目に映らぬ影。

 

 

 

「ーーそこだ!」

 

 

 

 弟ーードモン・カッシュはその場で自身の左側の空間に正拳突きを放った。

 

 

 

 すると、何もない空間に忽然と黒と白を基調としたガンダムが現れる。

 

 

 

 そのガンダムーーガンダムシュピーゲルは、ドモンのゴッドガンダムの右ストレートを紙一重で左に見切り、左のクロスカウンターを放った。

 

 

 

 ドモンは瞬きもせずにそれを左手で掴み止める。

 

 

 

 拳が掌にぶつかった瞬間に衝撃が生じ、海面に波紋を広げた。

 

 

 

「ふははははははっ! 久しぶりだな、ドモン・カッシュよ!!」

 

 

 

 強烈な高笑いと共に現れたシュピーゲルのファイター、シュバルツ・ブルーダーは、目の前で自分の拳を止めた男ーードモン・カッシュに語りかけた。

 

 

 

「不意を突いての一撃に反応し、私の反撃の拳を紙一重で見切って掴み止めるとはーー。大した腕になったものた」

 

 

 

「ーーシュバルツ・ブルーダー。貴方とこうして、また拳を交えることができるなんてな。ーー嬉しいぜ」

 

 

 

 燃える瞳、大胆不敵な笑み。

 

 ドモンの反応に素顔をさらしたシュバルツも目を細めて笑みを浮かべた。

 

 

 

「成長したな、ドモン。かつてのお前ならば私の姿を見るや狼狽え、今何をするべきかすら見失っていただろうにーー」

 

 

 

「貴方や師匠から教わった心の強さ。それが俺を高みに上げてくれた。何より、ライバルや弟子が放っておいちゃくれないんだ」

 

 

 

 互いに申し合わせたかのように、右と左の拳をぶつけ合い離れる。

 

 

 

「それでいい。人を愛し、信じる心があればーー」

 

 

 

「ああ。恐れるものは、何もない!!」

 

 

 

 シュバルツは晴れやかな笑顔と燃える瞳で問いかけ、ドモンは熱き瞳と強い笑みをもって答える。

 

 

 

「ーー1分。ミネルバにもらった時間だ」

 

 

 

「キラ達なら、その時間で釣りが来るな」

 

 

 

 互いに交えたいのは、抱擁だけではない。

 

 

 

 言葉だけではない。

 

 

 

 魂を語り、相手の心理を見るは、互いに高めた拳と拳。

 

 

 

「この兄に見せてくれ! 先ほど暴走するキョウジを止め、宇宙ではあのDをも打ち負かした、今のお前の拳と技を!!」

 

 

 

「シュバルツーーいや、兄さん。全力で応えるよ。この魂の拳で!!!」

 

 

 

「ならばーー!!」

 

 

 

「勝負!!」

 

 

 

 互いに一気に気を高め、拳を振りかぶる。

 

 

 

「ガンダムファイトォオオ!!」

 

 

 

 シュバルツが叫びーー

 

 

 

「レディイイイイッ!!」

 

 

 

 ドモンが応じた。

 

 

 

 互いに放たれた右のストレート。

 

 

 

「「ゴォォォオオオッ!!!!」」

 

 

 

 重なり合う声。

 

 

 

 ぶつかり合う、両者の気。

 

 

 

 拳と拳が互いの一撃を相殺する。

 

 

 

「…魂の叫び、か。ファイターじゃない俺には分からない世界だな。羨ましいもんだ」

 

 

 

 その戦いを見てもらすのは、シュバルツの半身にしてドモンの兄、キョウジ・カッシュに他ならない。

 

 

 

 時間を無駄にすることはできない、だが。

 

 

 

 このやり取りもまた、彼らーードモンとシュバルツには必要なことなのだと、彼は理解していた。

 

 

 

「シャイニングガンダム、無理をさせたな。大丈夫か?」

 

 

 

 キョウジの問いかけに、シャイニングガンダムは静かにエネルギーをキョウジに送り返してきた。

 

 

 

 まだいける、まだやれる。

 

 

 

 キョウジの体力の回復を促そうとしてくる。

 

 

 

 尽きかけていた気が、シャイニングガンダムから補充されていく。

 

 

 

 愛機の答えに微笑む。

 

 

 

 1分、それだけあればキョウジも一気に回復できる。

 

 

 

 彼らの組み手を見ながら、静かにキョウジは頭の中で策を練り始めていた。

 

 

 

 一方で、互いの拳を相殺したドモンとシュバルツは目で語り合う。

 

 

 

 それは刹那のやり取り。

 

 

 

 だが、交わされた想いは恐らくは1分では語り尽くせないだろう。

 

 

 

 万感の想いが互いの胸を通過し、拳や蹴りとなって放たれる。

 

 

 

 互いの拳を手で掴み止め、笑いあう。

 

 

 

 瞬間、シュピーゲルがまるで霞のように実体が掴めない動きを取ると、まるでスケートのように海上を音もなく滑り、ドモンの視界から消えた。

 

 

 

 対するドモンは、自分の足元に気を送り込み、足裏にから放って固い地面のような気の足場を一瞬、作る。

 

 

 

 宙でありながら、見事なステップを刻み、ゴッドガンダムが動いた。

 

 

 

 左のサイドステップから後ろに振り向きざま、ビームソードを抜き放つ。

 

 

 

 交差する二振りの実剣と一振りのビームソード。

 

 

 

 鍔迫り合い。

 

 

 

「ーーおお!」

 

 

 

 見事なドモンの反応に思わず、シュバルツは感嘆の声を上げた。

 

 

 

 同時に剣を弾きあい、その場で回転する両者は、竜巻を身に纏い、一瞬で数十カ所を斬る斬撃を放ち合う。

 

 

 

「シュトゥルム・ウント・ドランクゥウウ!!」

 

 

 

「ゴォッドスラッシュ・タイフゥウウウン!!」

 

 

 

 竜巻と化した二機は、斬撃をぶつけ合いコマのように弾かれる。

 

 

 

 互いに距離を置いて刃を収め、拳を握り、足を運んで殴りあう。

 

 

 

 霞のように滑空して消えては現れ、攻撃を繰り出すシュピーゲル。

 

 

 

 黄金の気の光と共に片足でサイドステップしてから、鋭く前に踏み込み、攻撃を捌いて返すゴッドガンダム。

 

 

 

 ネオドイツ至高の武技・ゲルマン忍法の体術に抗うは、気を手足に集めて爆発させ、反応速度を上げる次元覇王流拳法の極意。

 

 

 

 互いに一歩も譲らぬ好勝負。

 

 

 

 シュバルツが音もなく消えれば、ドモンが気を弾かせて追いかける。

 

 

 

 手も足も止まらぬ、両者の戦い。

 

 

 

「シュバルツ、そろそろ1分だ。決めようぜ!!」

 

 

 

 これだけの動きをしながら語るドモンにシュバルツも不敵に告げた。

 

 

 

「いいだろう、鏡転同血!!」

 

 

 

 シュバルツの叫びと共に、シュピーゲルが青い光をまとい、鏡のようにゴッドガンダムの姿身となる。

 

 

 

 これにドモンが晴れやかな笑顔で言った。

 

 

 

「なあ、ゴッドガンダム。兄さんとシュピーゲルに見せてやろうぜ。俺たちの真の力を!」

 

 

 

 ドモンの言葉にゴッドガンダムが頷き、目を光らせる。

 

 

 

 同時に、背中の6枚のフィンが展開され、赤い光の輪を背に負う。胸部カバーが展開され、納められていた紅玉・エネルギーマルチプライヤーが剥き出しになる。

 

 

 

 更にドモンの駆るゴッドガンダムの紅玉には、キングオブハートの紋章が浮かび上がった。

 

 

 

 二体のゴッドガンダムは、互いに明鏡止水の境地ーー黄金のハイパーモードとなる。

 

 

 

「我が心、明鏡止水。ーーされど、この掌は烈火の如く!!」

 

 

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ!!」

 

 

 

 互いに燃える赤い右掌を掲げ、ストレートのように突き出す。

 

 

 

 ガッシリと互いの真ん中で組み合う、燃える右掌。

 

 

 

「「爆ぁあく熱!! ゴォッドフィンガァアアアッ!!!!」」

 

 

 

 極限まで高まった互いの一撃に海面は割れ、空は荒れる。

 

 

 

「ドモォオオオオオンッ!!」

 

 

 

「に、い、さぁあああん!!」

 

 

 

 一際、強力な気が互いの組み合う右掌を中心にぶつかり、文字どおり辺りを真っ赤な光で染めて爆熱した。

 

 

 

 爆煙が晴れた後、片方のゴッドガンダムはシュピーゲルに戻っていた。

 

 

 

 静かに両腕を垂らし、肩で息をしている。

 

 

 

 対峙するゴッドガンダムは、威風堂々とした立ち姿で右掌を未だに赤く染めたまま、シュピーゲルを静かに見つめている。

 

 

 

「どうだい、兄さん。これが俺とゴッドガンダムの力だ!」

 

 

 

「素晴らしいガンダムファイターになったな、ドモン。嬉しいぞ。よくぞ、ここまでーー!」

 

 

 

 爽やかな弟の笑みに、幸せそうな笑顔でシュバルツは笑った。

 

 

 

 キョウジがシュバルツの横に来ると肩を貸し、笑いながら告げる。

 

 

 

「これから、もう一仕事あるんだ。サボるなよ、シュバルツ」

 

 

 

「分かっている。キョウジよ、手はあるか?」

 

 

 

 その言葉に互いに笑みを引っ込め真剣な表情になる。

 

 

 

「マスドライバーを最悪破壊することも念頭に置いていこう。奴らを逃すわけにはいかない」

 

 

 

「ーーよし。ミネルバも気を利かせて、先に向かってくれたようだ。我々も向かおう」

 

 

 

「ああ、急がなきゃな。ん? なんだよ、ドモン?」

 

 

 

 そんな会話をする2人の兄を呆れた顔で見て、ドモンは言った。

 

 

 

「兄さん達、一ついいかい? 少しは仲間を信じたらどうだい?」

 

 

 

 その言葉にハトが豆鉄砲を食らったような顔で目を丸くするキョウジとシュバルツ。

 

 

 

「キラとアスラン。それにシュバルツ兄さんの教え子に俺の弟や妹弟子達。直接戦っているのを見ちゃいないが。

 

 どいつもこいつも、そんなに柔な奴等じゃなかったぜ? 目を見れば分かるさ、アイツらが強いっていうのはな」

 

 

 

 拳を握りしめ、武者震いをしながら不敵に笑う。

 

 

 

 ドモンの魂は、今もなお紅く燃えている。

 

 

 

 そのドモンの言葉に、キョウジとシュバルツは互いに見合うと苦笑していった。

 

 

 

「ドモン、お前の言う通りだ」

 

 

 

「確かに。私もそれで教え子に怒られてしまった」

 

 

 

 そんな二人の兄に、ドモンは笑いながら言った。

 

 

 

「さあ、考えようか。あいつらが時間を稼いでくれている間にウルベ達を確実に倒す方法を!!」

 

 

 

 彼の言葉に二人の兄は力強く頷き返してくれた。

 

 

 

 三人はレーダーで位置を確認しながら、ウルベ達の狙いを読んでいく。

 

 

 

「マスドライバーの制圧が無理なら破壊。それぐらいは奴らも読んでいるだろう」

 

 

 

「ならばDG細胞の自己進化で大気圏突入するようにシャトルを作り変える、か」

 

 

 

 キョウジとシュバルツがそのような問答をすれば、ドモンが告げる。

 

 

 

「自己進化には時間がかかる、そんな悠長なことをしていたら俺や兄さん達に倒されるのがオチだ。何か他にある」

 

 

 

 ドモンの言葉に二人の兄も頷いた。

 

 

 

 狙いを正しく読まなければ、またしても逃げられる。

 

 

 

 それだけは避けなければならないと、三人は互いに話し合いを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、オーブ・マスドライバー施設。

 

 

 

 オーブ本土の上空で、ぶつかり合う三つの黄金の光を纏った機体。

 

 

 

 ストライクフリーダムガンダムとインフィニットジャスティスガンダム。

 

 

 

 そしてウルベ・イシカワの駆るヴァニシングガンダムである。

 

 

 

 高速で斬り合う両者の影。

 

 

 

「ーーおのれ、ここまで食らいついてくるか!!」

 

 

 

 一機だけなら打ち勝てるウルベだが、相手のコンビネーションが鋭い。

 

 

 

 かつ、一機一機の力も決して侮れない。

 

 

 

 戦いは、拮抗していた。

 

 

 

「ベルリンでの借りを!!」

 

 

 

「今日、返す!!」

 

 

 

 キラとアスランの叫びと同時に放たれるビームソードの斬撃。

 

 

 

 ウルベは二刀流にして、二機からの連撃を防いでいた。

 

 

 

「ーー強い。この強さ、正に明鏡止水! だが、舐めるなよ。私は、ウルベ・イシカワだぁあああっ!!」

 

 

 

 気を爆発させながら、左右の刀を袈裟懸けに放つ。

 

 

 

 右のキラ、左のアスランが、共に斬撃を受けて弾き飛ばされた。

 

 

 

「くっ、やっぱり強い!」

 

 

 

「だが、倒せない敵じゃない!!」

 

 

 

 キラの言葉にアスランが叫び返し、気を奮い立たせる。そこにゆっくりと割り込むものがいた。

 

 

 

「ーー素晴らしい。よくぞここまで、ガンダムファイターとしての実力に目覚めたものだ」

 

 

 

 異形の姿をした丸みのボディに、獣や悪魔を思わせる逞しい太ももから細い膝下から足。

 

 その爪先には鋭い爪が二本生えている拵えだ。

 

 

 

「「ーーウォン・ユンファ!!」」

 

 

 

 少年達の言葉にウォンがニヤリと笑う。

 

 

 

「そう、私こそがこの世界を統べる者。ウォン・ユンファです。キラ・ヤマトにアスラン・ザラ、でしたね? 連合のブラックリストに君たちの名がありましたよ」

 

 

 

 サングラスを押し上げて、冷たく暗い血のような赤い目で少年達を見据える。

 

 

 

「降参なさい。君たちでは我々には勝てない。分かっているはずだ」

 

 

 

 告げるウォンにキラが即座に反応した。

 

 

 

「僕たちは貴方達に勝つ! 勝って止めてみせる!! これ以上の悲劇を!!」

 

 

 

「俺たちを、コズミック・イラを舐めるな!!」

 

 

 

 アスランも武器を構えながら告げる。

 

 

 

 これにウォンは右手をスッと上げ、傍らに3機の護衛用のMFを前に出した。

 

 

 

 古代ギリシャ神話の彫刻のような姿を模したゼウスガンダム、蛇の自律型の機体と一体化しているコブラガンダム、相手の動きを模倣することにのみ特化したピエロタイプのジェスターガンダム。

 

 

 

「我々、未来世紀に敵うと? 笑わせてくれますねぇ」

 

 

 

 ウォンは、更に言葉を続けた。

 

 

 

「君たちは、ウルベが何の考えもなく付き合っていたと思っているのですか?」

 

 

 

 その言葉に、キラとアスランの目が見開かれる。

 

 

 

「君たちは、その機体を初めて使うのではありませんか? 明鏡止水の境地ーー、確かに強力です。君たちと機体の相性も含め恐ろしい能力だ。だがーー」

 

 

 

 ウォンの言葉が進むにつれ、キラ達の機体に変化があった。

 

 

 

 機体を黄金にしていた気の光が消え、ガンダムが元の色に戻ったのだ。

 

 

 

「ーーくっ!」

 

 

 

「バレていたのか!!」

 

 

 

 舌打ちするキラにアスラン。彼らを悠然と笑いながら見て、ウォンは告げる。

 

 

 

「明鏡止水の境地は、完全な人機一体とならなければならない。君たちはまだ、そこまで機体の特性を掴めていないようだ。それでも黄金の気を纏うのだから、末恐ろしい話ですが、ね」

 

 

 

 皮肉気につり上がる口元をキラとアスランが睨みつける。

 

 

 

「さて君たちの力を取り込んであげましょう。今後に役に立ちそうですからね」

 

 

 

 3機のガンダムが連撃を仕掛けてきた。

 

 

 

 ジェスターがバルーンビットを飛ばし、コブラとゼウスが切り込んでくる。

 

 

 

 咄嗟に上にかわすキラとアスラン。

 

 

 

 しかし、上空にもバルーンビットが散りばめられており、キラ達を取り囲んでいる。

 

 

 

「ーーくっ!」

 

 

 

 迂闊には動けない。そのビットの隙間を縫って、雷がフリーダムとジャスティスを襲った。

 

 

 

「ーーぐわぁああっ!」

 

 

 

「な、これはーー!?」

 

 

 

 強烈な一撃に機体と体が麻痺し、一時的に動けない。そこへ、馬と戦車が一体化したハーキュリーを駆るゼウス。

 

 

 

 巨大なコブラメカの頭の上で胡座を掻いているコブラガンダムが突っ込んでくる。

 

 

 

「ーーしま!?」

 

 

 

「クソ、動けない!」

 

 

 

 オーブ本土へ叩きつけられる二機。

 

 

 

 その前に悠然とウォンの駆るウォルターガンダムが浮かんでいた。

 

 

 

「ーーこれが、君たちの限界です。さあ、負けをーー」

 

 

 

 これにアスランが反発した。

 

 

 

「たとえ、明鏡止水の境地が切れても! 俺たちはまだ、負けちゃいない!!」

 

 

 

 彼の耳には、明鏡止水に目覚めてからずっと聞こえてくる声があった。

 

 

 

ーー アスラン、何故私を裏切る!? 妻をーー貴様の母を殺された事を、忘れたのか!? ーー

 

 

 

 亡霊なのか、自分の心が生み出した幻かは、分からない。愚かとしか言いようがない、憎しみに彩られた心。

 

 

 

 だけどーー。

 

 

 

「お前たちのような、守りたいものが無いものに負けてたまるか。全てを捨てても守りたい、そんな人がいない人間に、負けるものか!!」

 

 

 

 守りたい。

 

 

 

 守りたかったのだ、彼もーー。

 

 

 

 行動は愚かかもしれない、だがーー。

 

 

 

 守りたい人を奪われた理不尽に怒り、憎む心まで愚かと言えるだろうか?

 

 

 

 そこに思いが至った時、幼き日に見た父の笑顔があった。

 

 

 

ーー アスラン。お前が幸せになる世界を私は作ろう ーー

 

 

 

 子の幸せを願わない「親」は無い。

 

 

 

 子の未来を願わない「親」は無い。

 

 

 

 たとえ、子に理解されずに憎まれたとしてもーー。

 

 

 

 それを愚かと、何故言えるのか?

 

 

 

 それでも愚かと、自分は言わねばならない。

 

 

 

 何故なら、自分は父を否定したのだから。

 

 

 

 自分は、父の息子だからだ。

 

 

 

「愚かな。勝てる見込みの無い勝負に、まだその身を晒すのですか? 理解できませんねぇ」

 

 

 

 いやらしく笑うウォンの言葉に、アスランは強い目で言った。

 

 

 

「ああ、そうだ。愚かなのは、俺だ! 一番愚かなのは、父の本当の想いを理解できず、悲しみと憎しみしか目が行かなかった俺だ!!」

 

 

 

「ーーアスラン」

 

 

 

 目を見開き、キラはアスランを見る。

 

 

 

 訝し気にウォンもアスランを見た。

 

 

 

「それでも、俺はあの人の。パトリック・ザラの息子! アスラン・ザラだ!! プラントを守り、コーディネーターの未来を夢見た男の息子だ!! 負けるものか、負けてたまるか!! 俺に正義を託すつもりだった父の想いが、願いが!!」

 

 

 

 アスランは叫びながら、自身の一言一言が発される度に心が澄み渡るのを感じていた。

 

 

 

「お前たちなどに、負けてたまるかぁあああっ!!」

 

 

 

 叫びと共に、ジャスティスがアスランに応えるように黄金の気をまとう。

 

 

 

「ーーなに!?」

 

 

 

 気は尽きていたはずだった。

 

 

 

 なのに、先ほど以上の気がジャスティスから放たれている。アスランは漲る力をそのまま、ウォンに向かって突っ込んでいく。

 

 

 

「ーーゼウス!!」

 

 

 

 咄嗟にゼウスガンダムに剣を抜かせて割り込ませる。一瞬の斬撃。

 

 

 

 すれ違いざまに斬り落とされたのは、ゼウスガンダムの首だった。

 

 

 

「ーーばかな!? 何故貴様にこんな!? 明鏡止水とは、これほどだと言うのか!?」

 

 

 

 一瞬でガンダムファイトの優勝候補だったゼウスガンダムが斬り落とされた。

 

 

 

 その事実にウォンが忌々し気に、先の一瞬で自身の懐に入ったジャスティスを、アスランを睨みつける。

 

 

 

「終わりだぁあああっ!!」

 

 

 

 ビームソードを振りかぶりながら言うアスランにウォンが忌々し気な顔から一転して言う。

 

 

 

「確かに、一騎打ちならばね」

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

 アスランの斬撃は、視界の左側から伸びてきた青黒く輝く右手に掴み止められていた。

 

 

 

「ーー私とのファイトを忘れたかね、アスラン君」

 

 

 

 強烈な左のボディブローで機体をくの字にされ、前かがみになったアゴを蹴り上げられた。

 

 

 

「ガハァッ!!」

 

 

 

 背中から地面に叩きつけられ、アスランが固まった息を吐き出した。

 

 

 

「ーーアスラン!!」

 

 

 

 キラが即座にフリーダムを立ち上がらせ、倒れたアスランに追撃させまいと背中に庇う。

 

 

 

 ウルベは未だに黄金の気を纏ったまま、こちらに構えていた。

 

 

 

「ーーふふ、君たちと私では地力が違うのだよ」

 

 

 

 ウルベの声に反応するように、首を落とされたゼウスガンダムが切り口から触手を伸ばし、首を繋げて起きあがってきた。

 

 

 

 5機のガンダムに囲まれるキラとアスラン。

 

 

 

「絶対絶命だな、キラ君。アスラン君」

 

 

 

 ニヤリと冷酷な光を湛えて、ウルベが笑った。隣でウォンが冷や汗を拭っている。

 

 

 

「助かりましたよ、ウルベ。まさか、こんな子どもにあんな力があるとは」

 

 

 

 思わずというウォンにウルベが笑みを返した。

 

 

 

「君らしくないじゃないか、ウォン。コズミック・イラの連中を真っ先に警戒したのは君だろうに」

 

 

 

「やはり、何処かでガンダムファイターとは違うと慢心していたようですね。ですが、それもーー」

 

 

 

「ああ、終わりだ。彼らはこれより、私達の下僕となる」

 

 

 

 近づいてくる5機の悪魔。

 

 

 

 彼らの右手には、邪悪な銀の光が宿っている。

 

 

 

 あれに当たれば悪魔の洗礼を受け、否が応でも従僕にされてしまうだろう。

 

 

 

「ーーアスラン」

 

 

 

「ああ。奴らが組みついてくる時が、勝負だ」

 

 

 

 2人はまだ、諦めていない。

 

 

 

 ワンチャンスを狙って斬りこむ。

 

 

 

 その瞬間に備えていた。

 

 

 

「ーーワンチャンなんか、狙わなくていいですよ!!」

 

 

 

 第3者の声が響き、同時に紅い光線がコブラガンダムを横から吹き飛ばした。

 

 

 

「ーーなに? 援軍だと!?」

 

 

 

 ウルベが笑みを引っ込めてビームが放たれてきた方を睨みつけると、そこには5機のガンダムが海上に浮かんでいた。

 

 

 

「シン・アスカか。こんなにも早くこちらへ来るとはな。流石はシュバルツ・ブルーダーやマスターアジアの弟子どもだ」

 

 

 

 忌々し気にしながらも、何処か楽し気にも聞こえるウルベの声。

 

 

 

 頼り甲斐のある炎のような赤い目の少年が、赤い翼の機体を駆って其処にいた。

 

 

 

「ウルベ、ウォン! 今度こそ、俺たちがお前達を倒す!!」

 

 

 

「シン!! それにスティング達も!!」

 

 

 

「ミネルバの皆もかーー!!」

 

 

 

 5機のガンダムは後ろにザフト軍を率いて現れたのだ。

 

 

 

 巨大な悪を打ち砕く為に。

 

 

 

「数だけ揃えた烏合の衆が!!」

 

 

 

「全員まとめて、DG細胞の糧にしてあげましょう」

 

 

 

 邪悪な笑みを持って受けて立つ2人の魔神。

 

 

 

 血の涙のような赤い線を頬に引いたガンダムは、静かに背中の大剣を抜き放ち、光の翼を広げた。

 

 

 

「終わりにするんだ。お前たちを止めて、レイを必ず取り戻す!! こんな所で、負けるわけにはいかないんだぁあああっ!!」

 

 

 

 シンの叫びと共に、デスティニーから気が迸る。

 

 

 

「キラ、アスラン! あたし達も助太刀するわ!!」

 

 

 

「終わらせようぜ、俺たちの手で!!」

 

 

 

 ルナマリアとスティングからの通信にキラとアスランの気力が膨れ上がった。

 

 

 

「よぉおおしっ!!」

 

 

 

「やるぞ、皆!!!」

 

 

 

 2人の掛け声に、5人の少年達も答えた。

 

 

 

ーー『応!!!!!』 ーー

 

 

 

 7人のガンダムが、死の軍団を操る5体のガンダムに向かっていく。

 

 

 

「コズミック・イラのガンダムタイプと、未来世紀のガンダムタイプの違いを教えてあげますよ」

 

 

 

「MSとMFの違いだけではない。ただのパイロットとガンダムファイターの実力の違いもな!!」

 

 

 

 ウォンの言葉を引き継いでウルベが黄金の気を放ちながら、構える。

 

 

 

 今、此処に総力戦が開始されたのだった。

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね〜!

 7人の少年達は、死の軍団を率いる2人の魔神に挑みかかります。

 しかし、敵の数と能力に苦戦を強いられてしまうのです。

 光と影、そして神の名を冠するガンダム達は、はたしていつ参戦するのか?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第78話に、レディー、ゴー!!



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第78話 ガンダムファイター参戦 オーブを救え

 さて、みなさん。

 ウルベとウォンと言う巨悪を前に戦うキラ達。

 ですが、彼らは未だに機体の全てを理解しておらず、明鏡止水の境地が切れてしまうのです。

 そのピンチを救うのは、神の名を冠するあのガンダム。

 お待たせしました!

 いよいよ、ドモン・カッシュ達の反撃が始まります!!

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィィィッ、ゴォォォオオオ!!

第78話



 

 戦いが始まった。

 

 

 

 人類の未来を賭けていると言っても過言ではない悪魔との戦いが。

 

 

 

 キラとアスラン、ここにシンが加わり、真っ向からウルベ・イシカワの駆るヴァニシングガンダムとぶつかり合っている。

 

 

 

 キラがドラグーンとレールガンや胸部ビーム砲で全方位から砲撃すれば、その隙間を縫うようにアスランとシンが剣で切りつける。

 

 

 

 完璧なコンビネーションだ。

 

 

 

 だが、三対一だと言うのにウルベには一向に当たらない。

 

 

 

「…攻めきれない!!」

 

 

 

「これだけ手数で押してもダメなのか!!」

 

 

 

「の野郎おおお!!」

 

 

 

 三人の少年たちの言葉を鼻で笑いながら、ウルベは黄金の気を纏った姿で高速移動を行う。

 

 

 

 すれ違う。

 

 

 

 それだけだ、それだけでーー弾き飛ばされる。

 

 

 

 これを見たバルトフェルドが声を上げる。

 

 

 

「キラ! アスラン! シン!!」

 

 

 

「どうなってる!? さっきは二対一でも渡り合ってただろうが!!」

 

 

 

 隣でネオが黄金の気を纏った二機とウルベとのぶつかり合いを思い出し、疑問の声を上げる。

 

 

 

 それに応えたのはゼウスガンダム達を相手に構えるスティングだった。

 

 

 

「キラとアスランの気力が足りない、シンも。あんだけのパワーを引き出すんだ、パイロットだけじゃ直ぐにガス欠になる。ガンダムからもっと力を貰えるくらい人機一体にならなけりゃ奴らはあれ以上の時間、明鏡止水になれないんだ」

 

 

 

 明鏡止水の境地ーー黄金の気を纏い無双する機体を生み出す原動力だ。

 

 

 

 だが、キラもアスランもシンも誰一人黄金になる気配はない。

 

 

 

「……人機一体になれぬが故の気力切れとは、あっけない」

 

 

 

 ウルベが失望したように、倒れ伏した三人を見据える。

 

 

 

「だが、かえって好都合だ。君たちのような子どもには、自分の体を作り変えられていく恐怖と絶望を味わわせながら支配するに限るからね」

 

 

 

 冷酷な笑み。

 

 

 

 人間をゴミとしか思っていない、そんな目をした男。

 

 

 

 それは、先の大戦を経験したキラとアスランにとっても初めての相手だった。

 

 

 

 キラが思い出すのは、世界に絶望して全てを呪い滅ぼそうとした男。

 

 

 

 アスランが思い起こすのは、実の父親にしてナチュラルを皆殺しにしようとした大罪人。

 

 

 

 そのどちらとも違う。

 

 

 

 これは、許されない悪だ。

 

 

 

 クルーゼにあったのは狂気だった。

 

 

 

 パトリックにあったのは憎しみだった。

 

 

 

 だが、この男にあるのは氷のような闘争心と野心、そして純粋な支配欲だとキラ達は理解した。

 

 

 

 加えて今の自分たちのコンディションだ。

 

 

 

 シン達が援軍に来てくれたはいいが、彼らとて先ほどまでウルベコピーを相手に激戦の末、勝利した身だ。

 

 

 

 普通に考えれば、コンディションが良いとはとても言えないだろう。

 

 

 

(このままじゃ、ジリ貧だ…!!)

 

 

 

 それは分かっている。

 

 

 

 だが、キラは退く気はない。

 

 

 

 何故ならーー

 

 

 

「みんな、あと少し粘ってくれ!! すぐにドモンさんやシュバルツさん達が来る!!」

 

 

 

 キラの言葉に、シンが頷く。

 

 

 

「俺ならいけますよ、まだ!! シュバルツさん達が来る前にカタをつけてやる!!」

 

 

 

「無理をするなよ、シン!! まずは、俺から行く!!」

 

 

 

 言葉どおりアスランが先に仕掛け、すぐ後ろにシンが付く。

 

 

 

 同時に機体をダッシュさせ、斬りかかった。

 

 

 

「待て!!」

 

 

 

 その時、第三者の声が彼らに届いた。

 

 

 

「ーードモンさん!!」

 

 

 

「現れたか、キング・オブ・ハート! ゴッドガンダム!!」

 

 

 

 キラが微笑み、ウルベが忌々し気に声の放った方を見据える。

 

 

 

 そこには、両腕を胸の前で組んで立つ、神の名を冠するガンダムが居た。

 

 

 

「キラ、アスラン! このケンカ、俺が買った!!」

 

 

 

 ドモンの宣言がオーブの海に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でルナマリアとスティング達は、ウォンの率いるゼウスガンダム達を相手にしていた。

 

 

 

 彼女達もまた、大苦戦を強いられている。

 

 

 

 気が尽きかけているのもそうだが、一番の理由はゼウスガンダム達にあった。

 

 

 

「わはははは! この程度で俺達DG細胞に勝てると思っているのか、愚かなわっぱどもめ!!」

 

 

 

「おほほほほ! 貴女達、かわいい顔をしてるのねぇ。苦しみ歪む顔を私にもっと見せて頂戴!!」

 

 

 

「あなたがたでは、私のイリュージョンを破ることはできません。残念でしたね」

 

 

 

 圧倒的な力でスティングとアウルを叩き伏せるネオギリシャの古代の彫刻のような姿をしたマーキロット・キュロノス。

 

 

 

 ルナマリアとステラの動きを見事に見切り、蛇を模した長い胴体でしなやかな反動をつけ、繰り出された尾の一撃は、彼女達を背中から地面に叩きつける。

 

 緑色の肌をした女言葉の男は、ネオインドの笛吹きにして蛇使いチャンドラ・シジーマ。

 

 

 

 更に地面に叩き伏せられた少年達に情け容赦のない球体のビット攻撃で追い打ちをかけるのは、ネオポルトガルの丸く太った肉体のピエロ姿の男ーーロマリオ・モニーニ。

 

 

 

 彼らは、かつてのゾンビ然とした姿ではなく、生前のような理性と知性を取り戻していた。

 

 

 

 ただしその性格は元のものよりも数段、凶悪かつ凶暴に作り変えられていたが。

 

 

 

 変化は突如起こった。

 

 

 

 アスランに倒されてから、ゼウスガンダム達のファイターが言葉を発し始めたのだ。

 

 

 

 闘いが、彼らに自我を取り戻させていたのだ。

 

 

 

 数の上では4対4と互角ではあるが、未来世紀のガンダムファイト決勝大会に出場するような猛者たちだ。

 

 

 

 ルナマリア達にとって、圧倒的に不利な状況だった。

 

 

 

 たとえ万全の状態だったとしても、個々の戦闘力で彼女達が不利なのは変わらない。

 

 

 

 だというのにーー。

 

 

 

「それでも、目は曇りませんかーー! ザフト軍に連合、オーブ軍。三つの部隊をしてデスアーミー達やガンダムヘッドで充分抑えられているというのに」

 

 

 

 ウォンが皮肉気な笑みを浮かべながら手を叩いて拍手する。拍手を送りながら、彼は考える。

 

 

 

 縋るものなど、全て無駄だと教えてやろうと。

 

 

 

「あたし達を舐めるな、ウォン・ユンファ!」

 

 

 

「私たちは、あんた達なんかに負けない!!」

 

 

 

 ルナマリアとステラが鋭い瞳でそう告げた。

 

 

 

 瞬間、彼女たちの影からスティングとアウルが現れ、左右から同時にウォンに斬りかかる。

 

 

 

 即座にゼウスガンダムが腰の剣を抜き、左から右へと薙ぎ払い、二機纏めて吹き飛ばした。

 

 

 

「小僧や小娘が、このゼウスに敵うと思うのか!?」

 

 

 

「あら、マーキロット。1人でやるつもりなの? 私にも分けて頂戴よ、こぉんな可愛い子達なんだからぁ」

 

 

 

 シジーマがやや責めるような口調でマーキロットに問いかける。まるで蛇が獲物を寄越せと舌舐めずりしているようだ。

 

 

 

「ウォン様、マーキロット殿。わたくしにもお情けを。久方ぶりの獲物でございます。是非ともーーわたくしとガンダムに奴らの血肉をお与えくださいませ」

 

 

 

 不気味な笑顔と芝居がかったお辞儀で告げるのは、ロマリオだ。

 

 

 

「僕たちを餌か何かだと思ってんのかよ」

 

 

 

「ーー気持ち悪い、こいつら!」

 

 

 

 悪意しかない彼らの言葉に、心底嫌悪感を抱くアウルとステラ。

 

 

 

「だが、強い。俺たちが万全でも、不利だ」

 

 

 

「一対一ならね」

 

 

 

 冷静な瞳で見つめて告げるのは、スティングとルナマリアだった。

 

 

 

 彼らは、ガンダムに構えを取らせながら分析する。

 

 

 

「チームワークは、あたし達の方が上よ」

 

 

 

「最低でも3対1の状況で斬り込まないとな」

 

 

 

 自分達の状態を見ながら作戦を立てる彼らだったが、そこに第3者の声が間に入ってきた。

 

 

 

「いやーー。お前達は充分に戦った」

 

 

 

 温かく頼り甲斐のあるその声に振り返れば、両腰に手を当てた黒いヘルメットを被ったような忍者を模した機体ーーガンダムシュピーゲルがそこにいた。

 

 

 

「シュバルツさん!!」

 

 

 

「「「シュバルツ・ブルーダー!!!」」」

 

 

 

 ルナマリアとステラ達が揃って彼の名を呼ぶと彼もそれに頷きながら応える。

 

 

 

「そう! ここからは、私が相手だ!! 地獄の亡者どもめ、覚悟するがいい!!!」

 

 

 

 両腕のブレードを展開し、シュピーゲルに構えを取らせるシュバルツ。

 

 

 

「ネオドイツのシュバルツ・ブルーダーかーー。面白い!神の名の下に叩き伏せてくれる!!」

 

 

 

「シュバルツ、邪魔をしないで頂戴。私たちの貴重な食事をねぇ!!」

 

 

 

「ミスターシュバルツ。わたくし共も、久方ぶりに飢えております。邪魔立てをなさるならーー命の保証はできかねますな」

 

 

 

 それぞれ語る3人のファイターにシュバルツは告げた。

 

 

 

「無駄話は終わりだ。来い!!」

 

 

 

 瞬間だった、3体のガンダムは我先にとシュピーゲルに襲い掛かる。

 

 

 

「この俺を相手に複数で仕掛けろとはーー神の怒りによって死にたいらしいな、シュバルツよ!!」

 

 

 

「貴様のような私利私欲に走り、人々に害なす神等、疫病神でしかない!!」

 

 

 

「ほざけぇええええ!!」

 

 

 

 鋭い踏み込みと共に右手の剣を正眼に構えて袈裟懸けを放つゼウスガンダム。

 

 

 

 目にも止まらぬスピードでその場から消えるガンダムシュピーゲル。

 

 

 

 次の瞬間、青白い斬撃が両者の間で走り、火花を散らす。

 

 

 

「おのれ! 相も変わらず、ちょこまかと動きおって!!」

 

 

 

 凄まじいスピードで刃の檻を作り出しゼウスガンダムを閉じ込めてしまうシュピーゲル。

 

 

 

 その神業に、ゼウスをして舌打ちするしかなかった。

 

 

 

「どうした、どうした、どうしたぁああ!!!」

 

 

 

 左右からのシュピーゲルブレードの斬撃と、立体的な動きにマーキロットは防戦一方だ。

 

 

 

「フ。やはり貴様、変わっちゃいないようだな! あの決勝大会の頃と!!」

 

 

 

「何をぉ!? 俺は強くなった!! 悪魔の力を得て強くなったのだ!!!」

 

 

 

「見せかけだけの強さなど、何になるぅううううう!!」

 

 

 

 右手一本の横薙ぎを紙一重で屈んで避けると、シュバルツは両の手を前方に突き出してブレードを展開した。

 

 

 

「まさか!?」

 

 

 

「ここらで引導を渡してくれるわ、ゼウス!! シュトゥルム・ウント・ドランクゥウウウウ!!!」

 

 

 

 頭上で展開したブレードを構えるとその場で大回転を始める。

 

 

 

 そしてコマのように回ったシュピーゲルは、漆黒の竜巻となってゼウスの名を冠するガンダムに一瞬で近づいた。

 

 

 

「ぬぉ!?」

 

 

 

 咄嗟に左手にゼウスハンマーを召喚し、裁きの雷を放ちながら竜巻に叩きつけるゼウスガンダム。

 

 

 

 だがーー。

 

 

 

「バカな!!?」

 

 

 

 ゼウスの放った雷の槌は竜巻状になっている刃にあっさりと弾かれ、一瞬でその全身を細かく切り刻まれて上空へ弾き飛ばされる。

 

 

 

「まさか! またしても俺が負けると言うのか! 未だにこれほどの差があると!?」

 

 

 

 そんなゼウスに目もくれず、コブラガンダムが笛の先からビームの手槍を作り出してシュピーゲルに突き出してきた。

 

 

 

 独特な蛇の動きから成す鋭い一撃だが、あっさりとシュバルツは上体を反らすだけで紙一重で見切り、すぐさま両腕を交差させてコブラガンダムの胸部を切り裂いた。

 

 

 

「ぎゃああ!!」

 

 

 

 胸を抑えて後ろにのけ反るコブラガンダムの懐に間髪入れず、踏み込むと展開された右のブレードを横薙ぎに放ってコブラガンダムの胴を切り捨てる。

 

 

 

「グハァ!!」

 

 

 

 不気味な笑みを浮かべたピエロの顏を模した胴体を持つガンダムーージェスターは、長くしなるバネのような両腕から鋭い剣を作り出した。

 

 

 

 その剣はシュピーゲルのように手の甲の上を通るようにして刃先を生み出している。

 

 

 

「私の動きを真似るつもりか?」

 

 

 

「わたくしの力は相手の能力を真似ることにこそ、ありますからね」

 

 

 

「面白い! ならば、鏡に写りし己の像を前にどこまで真似られるかな? 鏡転同血!!」

 

 

 

 瞬間、シュピーゲルが青い光を胸から放つと同時にもう一体のピエロのガンダムが現れたのだ。

 

 

 

「ーー!!」

 

 

 

「モノマネが得意なのは、ご自分だけだと思われましたか? わたくしも、忍術を習う身でございます。この程度のことは造作もありません」

 

 

 

「こしゃくな!!」

 

 

 

 怒りに歪んだ表情でロマリオは、拳の先から突き出た剣で斬りかかった。

 

 

 

 これに余裕の笑みを返しながら、鏡と称したロマリオが丸い拳を握って構える。

 

 

 

 勝負は一瞬で着いた。

 

 

 

 右の斬撃を丸い拳で払うと、がら空きになったその胴体と顔面に鋭い拳打が無数に炸裂したのだ。

 

 

 

「バーニングジェスターパンチ、とでも言っておきましょうか?」

 

 

 

「ぐはぁあああああ!!」

 

 

 

 地面に仰向けに倒れ伏したジェスターガンダムをもう一体のジェスターガンダムが見下ろしている。

 

 

 

「武芸の基礎は模倣にございます。ですが、オリジナルの技をただ模倣するだけでは何の意味もない。自分のスタイルに確立しなければ、武芸の後継など不可能でございます。見せかけだけの力を振るうあなた方にはお分かりにならないかもしれませんがね」

 

 

 

 倒れ伏したロマリオに、もう一人のロマリオが語り掛ける。

 

 

 

 青い光と共に、もう一体のジェスターガンダムはガンダムシュピーゲルに姿を戻した。

 

 

 

「貴様たちに贈る、せめてもの情けよ。己の技が足りなかったのではない、貴様らは己の心に敗れたのだ!!」

 

 

 

 膝を付きながら体を起こし、睨みつける三機のガンダム達に向かってシュピーゲルは腰に手を当てて言い切った。

 

 

 

 これを見ていたウォンは舌打ちをすると同時に、呟く

 

 

 

「やはり、復活したての彼らではシュバルツの相手は荷が重いかーー。まあいい、ジブリールが宇宙に行けば何とでもなるーー!」

 

 

 

 にやりと笑うウォンの背後からシュバルツとよく似た声が聞こえてきた。

 

 

 

「そうやって驕り高ぶるから、あんた達は足元を掬われるんだ」

 

 

 

 笑みを引っ込め、ウォンは視線を背後に向ける。

 

 

 

 そこには、静かに海面に立つシャイニングガンダムが居た。

 

 

 

 ゴッドガンダムと瓜二つとなった顔で、彼は静かにウォルターガンダムを見据える。

 

 

 

 キョウジもまた、刃のようなきらめきを持った瞳で冷酷な笑みを刻むウォンを見据えていた。

 

 

 

「やはり、君が私の相手ですか? キョウジ・カッシュ君」

 

 

 

「そういうことだ。このまま、大人しく捕まってくれるならいいが、さもなくばーー」

 

 

 

「さもなくば?」

 

 

 

 同時にシャイニングガンダムの胸部カバーが展開し、エネルギーマルチプライヤーを剥き出しにさせる。

 

 

 

 肩と二の腕、脚部のアーマーも展開し、黄金の光が溢れだす。

 

 

 

 シャイニングガンダム・スーパーモードだった。 

 

 

 

「……死んでもらう」

 

 

 

 キョウジの顔が恐ろしい形相に変化し、血のように紅い瞳になっている。

 

 

 

 まるで飢えた狼のような、凶暴な獣を連想させる顔つきだった。 

 

 

 

「フンーー。ならば私も、受けて立つまで!!」

 

 

 

 ウォンは自身の機体に組み込まれたバーサーカーシステムを起動させ、赤色のオーラを身にまとった。

 

 

 

 肌の色はDG細胞のものとなり、白眼は血に染まり、瞳は闇色に輝く。

 

 

 

 ウォルターガンダムもマスクを展開し、鋭い牙を剥き出しにしていた。 

 

 

 

「DG細胞の力をどちらが、より使いこなせているかの勝負だぁああ! 覚悟しろ、キョウジィイイイ!!」

 

 

 

 鋭い右の爪を展開し、襲い掛かるウォルターガンダムに対し、シャイニングガンダムは静かに左拳を掲げる。

 

 

 

 繰り出されていた右の爪を左へと捌いて押しやり、反対の右の拳をウォルターガンダムの顔面に叩き込んだ。

 

 

 

「ぐぉ!?」

 

 

 

 悲鳴と共にのけ反るウォンに間髪入れず、キョウジの鋭い右の回し蹴りが決まり、後方へ弾き飛ばされる。

 

 

 

「おのれ!!」

 

 

 

 のけ反って吹き飛ばされながらも、両手を展開して赤いビーム砲を放つウォルターガンダム。

 

 

 

 刹那、放たれたビームの先に、シャイニングガンダムはいない。

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

 目を見開くウォンの目の前に拳を振りかぶって懐に入り込んでいるシャイニングガンダムがいた。

 

 

 

「バカな!? 何故、貴様にこんな動きが!!?」

 

 

 

 強烈な右の拳がボディに突き刺さり、思わず動きを止めるウォルターガンダムにシャイニングガンダムの連撃が突き刺さる。

 

 

 

「肘打ち、裏拳、正拳、胴回し回転蹴りーーはああああああ!!」

 

 

 

 右の肘打ちで顎を打たれ、裏拳で顔を跳ね上げられ、更に左の正拳でのけ反った顎を更に突かれて後方に距離を開けたと同時に、右の胴回し蹴りがウォルターガンダムの横面を蹴り飛ばす。

 

 

 

 完璧なまでのコンビネーションに、格闘技の素人であるウォンでは対応できなかった。

 

 

 

「な、何故だ!? いくらシュバルツのオリジナルで、ドモンの兄とは言え、貴様はただの科学者のはず!! DG細胞による反応速度や身体能力の強化だけで、ここまでの動きができるわけが!!!」

 

 

 

 海面に弾き飛ばされながら、ウォンはキョウジを睨みあげた。

 

 

 

 それを静かに見下ろして、キョウジは告げる。

 

 

 

「逆上せ上るのもいい加減にしろよ、ウォン」

 

 

 

「ーー何?」

 

 

 

 静かに告げるキョウジにウォンの目が見開かれる。

 

 

 

「自分だけが特別だと思っているのか? 笑わせるな、お前たちの力など所詮見せかけだけのものだ」

 

 

 

「これは傑作だ。……あなたもその見せかけだけの力を奮っているではありませんか」

 

 

 

「そうだな。確かに俺もDG細胞の自己進化による身体能力強化を使ってはいる。だがーー」

 

 

 

 強烈な踏み込みと共に、既にキョウジはウォンの目の前にいる。

 

 

 

「ーーく!」

 

 

 

 咄嗟に反応したウォンは左の爪でシャイニングガンダムの顔面を狙うのだが、あっさりとその手首をつかみ取られ、右に流されると同時に強烈な右の肘打ちを左わき腹に入れられた。

 

 

 

「ぐふぅ!?」

 

 

 

 そのまま、左の前蹴りで顎を蹴り上げられ、後方に弾き飛ばされる。

 

 四つん這いになりながら、海面を引っかいて動きを止めるウォルターガンダム。

 

 

 

「ーー何だと!?」

 

 

 

 見開いた目の先には、光り輝く掌があった。

 

 

 

「必ぃい殺、シャァアイニングゥフィンガァアー!!」

 

 

 

 まともに顔面を鷲掴みにされ、ロックされた。

 

 

 

 流れるように自然な動きで次々と攻撃を繰り出すキョウジに思わず叫んだ。

 

 

 

「バカな! この私が、グレートウォンが! 何故、こうも一方的に!?」

 

 

 

 理不尽だと嘆くウォンに、キョウジは静かに告げる。

 

 

 

「DG細胞の力に溺れ、己を磨くことを忘れた貴様に俺が負けるものか」

 

 

 

 凶気を孕んだ瞳でキョウジは見下ろしながら、告げる。握る力を徐々に強めながら。

 

 

 

「人は常に進化する。だが、逆もある。自分が他者より僅かに優れた存在だからと力に溺れ驕りたかぶれば、本来の力を発揮することなく、退化し衰える」

 

 

 

「な、何が言いたい!?」

 

 

 

 徐々に強まる痛みに耐えながら、ウォンは周りを見回す。キョウジの裏を掻けば、この状況を打開できるのだから。

 

 

 

「貴様らは人から進化したのではない。人を捨て化け物に成り下がったんだ。自分の弱さから目を背け、逃げて力に溺れた、ただの愚者だ!!」

 

 

 

 更に光が強まり、力が吹き上がる。

 

 ウォンは忌々しげにキョウジを睨みながら、言った。

 

 

 

「認めよう、確かに細胞の力に私は溺れていた。だが、貴様とて同じだ、キョウジ! 綺麗事を告げたところで、貴様も私達と変わらない存在ではないか!! 細胞の力に頼らなければ、それだけの身体能力になる訳がない!!!」

 

 

 

 ウォンの怒号にキョウジも頷いた。

 

 

 

「そうだ。俺も細胞の力に頼らなければ、此処までの力を引き出すことはできなかった。シャイニングガンダムを使いこなすこともな。だがーー!!」

 

 

 

 牙を剥き出しにし、鬼の顔でキョウジはウォンを見下ろして告げる。

 

 

 

「己を磨くことだけは、辞めない! 力に溺れて大切な誰かを泣かせるような真似を俺は決してしない!! その為に、俺は俺であり続けてみせる!!!」

 

 

 

 その宣言にウォンはニヤリと笑って言った。

 

 

 

「ならば、DG細胞に取り込まれても同じセリフが言えるかな、キョウジ!!」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 海面から巨大な大蛇の影が浮かんだと思うと、緑色の兜を被ったガンダムの顔をした異形が、シャイニングガンダムの目の前に現れたのだ。

 

 

 

「さらばだ、キョウジ!!」

 

 

 

 大きな顎門を開けて異形ーーガンダムヘッドは、シャイニングガンダムを飲み込んだ。

 

 

 

「な!? 卑怯者!!」

 

 

 

 ルナマリアが声を上げるが、それをニヤリと笑いながら見つめてウォンは告げる。

 

 

 

「卑怯? 勝てばいい、それが全てでしょう」

 

 

 

 ニヤリと笑むウォンに、4人の少年たちが構えを取る。

 

 

 

「無駄ですよ。今の君たちにできるのは精々が、時間稼ぎだ」

 

 

 

 そう告げるウォンに、ルナマリアもインパルスのサーベルを構える。

 

 

 

「ーーウォン、貴様も優勢と勝利の違いが分からん口か?」

 

 

 

 冷たい声が響き渡ると同時に、ガンダムヘッドの長い首の部分が黄金の光と共に吹き飛んだ。

 

 

 

「ーーバカな!?」

 

 

 

 ルナマリア達の表情が一気に晴れやかなものに変わる。

 

 黄金の気を纏い、全身を金色に染めたガンダムが、両の拳を腰に置いて立っていた。

 

 

 

 髪を金に染め、瞳は真っ赤な血の色になって、凶悪な顔でキョウジはウォンを睨み付ける。

 

 

 

 二律背反の境地ーー。

 

 明鏡止水の境地とは似て非なる、人機一体の極致。

 

 

 

「ーーバカな、これ程だと言うのか。キョウジ・カッシュ!?」

 

 

 

 ガンダムファイターの決勝大会を見たウォンには、分かる。

 

 この男の力は既にマスターやシュバルツにも引けを取らない程に鍛えられていると。

 

 

 

 完全に誤算だった。

 

 

 

 科学者であるキョウジに、これ程の戦闘力があるなど。

 

 

 

 先のウルベを退けた力は、DG細胞を暴走させて得たのではなかったのだ。

 

 

 

「お前を殺す。それが俺にできる、セイランさん達やオーブ軍の人にできるせめてもの、罪滅ぼしだ」

 

 

 

「ーーくっ!?」

 

 

 

 キョウジに慢心はない。

 

 

 

 引き締まった口元も、凶気を孕んだ紅い瞳も、全てはウォンを殺すまで解かれることはない。

 

 

 

 鬼の執念だった。

 

 

 

「ーーすげえな、あの人。あんな強かったのかよ」

 

 

 

 穏やかな笑顔で自分達を迎えてくれた青年とは、まるで別人だった。

 

 

 

 思わずアウルが呟くと、ステラが頷く。

 

 

 

「シュバルツに似てるけど、違う。この人、強いーー!」

 

 

 

「ああ。この強さは、師匠やシュバルツとは違う強さだ。だけどーー」

 

 

 

「ーーそうね。力の質は、ウォンとかウルベと同じだけど。誰かの為に戦おうとする意志をはっきりと感じる。アレだけ凶悪な力と殺気を放っているのに、優れた知性と理性を感じる」

 

 

 

 少年達は敏感に察する。

 

 自分達とは似て非なる気を放つ青年の本質を。

 

 邪悪な力に惑わされることなく。

 

 

 

「ウォン・ユンファ。俺はこのガンダムと力に賭けて、貴様を斃す!!!」

 

 

 

「ほざくな、キョウジ・カッシュ!!!」

 

 

 

 強烈な気を纏いながら、再び構える2体のガンダム。

 

 

 

 悪党を追い詰める同じ顔をしたファイター達を、少年達が静かに見守っていた。

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね〜!!

 シュバルツとキョウジにより、追い詰められたウォン。

 一方で、ウルベとドモンは、因縁の対決を始めるのです。

 果たしてドモンはウルベを倒し、キラ達と共にジブリールを制することができるのか!?

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第79話に!

 レディー、ゴー!!



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第79話 武神 対 梟雄

 みなさん、圧倒的な力でシュバルツは、キョウジは、悪魔のガンダム達を叩き伏せました。

 一方、ウルベの前にはドモン・カッシュとゴッドガンダムが現れたのです。

 果たしてドモンは、どのような闘いを繰り広げるのか?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイ、ゴォォォオオオ!!


 自由と正義と運命の名を冠するガンダムを救ったのは、神の名を持つガンダムだった。

 

 

 

 彼は悠然と海上で両腕を組み、威風堂々と現れた。

 

 

 

「キング・オブ・ハート、ドモン・カッシュ君か。久しぶりだね」

 

 

 

 冷たい笑みを浮かべて、その瞳の奥に憎悪の炎を讃えて。

 

 

 

 ウルベは「消滅」の名を自ら付けたヴァニシングガンダムのハイパーモードを解除してから語り掛けた。

 

 

 

「さっきも言ったが、俺は貴様の顔など見たくもなかったがな」

 

 

 

「お互いさまだろう。わたしとて君と出会うのはもう少し先でよかったのだ」

 

 

 

「……また下らんことを企んでいるようだな?」

 

 

 

 ドモンの探るような言葉にウルベは冷酷極まりない笑みを浮かべた。

 

 

 

「世界をこの手にすることが、下らないかね?」

 

 

 

「ああ。これ以上ないほどに下らん」

 

 

 

「ならば、見逃してくれないかね? 君にとって下らないことならばね」

 

 

 

「断る」

 

 

 

 はっきりと冷たいウルベの目を見て告げるドモン。

 

 

 

 ウルベは表情を変えぬまま問いかけた。

 

 

 

「ほう? 一応聞いておこう、何故だ?」

 

 

 

「世界は誰のものでもない。この青く輝く母なる大地。地球こそ、最高の命だ!! 俺たちはその一部に過ぎない」

 

 

 

 ドモンは静かに燃える漆黒の瞳でウルベを睨みつけると、構えを取った。

 

 

 

「それを忘れて、何が世界を手に入れるだ。貴様の行いは愚の骨頂!!」

 

 

 

 これにウルベもニヤリと返して両の腰に左右の拳を置いて構える。

 

 

 

「ーーそうか。ならば仕方ない」

 

 

 

 一瞬の静寂後、両者が互いに向かって拳を振りかぶってダッシュした。

 

 

 

 ぶつかり合う二つの機体。

 

 

 

 殴り合いが始まった。

 

 

 

 悪魔の男は、醜悪に歪んだ顔で笑う。

 

 

 

「今度こそ! 殺してやるぞ、ドモン・カッシュゥウウウ!!」

 

 

 

 その顔を静かに睨み据えて、ドモンは不敵に言った。

 

 

 

「できるものなら、やってみろ!」

 

 

 

 ぶつかり合う拳と拳。

 

 

 

 蹴りと蹴り。

 

 

 

 全身から紅い気を放つウルベに、ドモンは緑色の気を両手足に纏わせ、迎え撃つ。

 

 

 

 秒間、数十の拳蹴打が乱れ飛ぶ打ち合い。

 

 

 

 右の上段回し蹴りを放つウルベ。

 

 

 

 狙いはゴッドガンダムの左側頭部。

 

 

 

 対するドモンは、膝を曲げて上体を下げ、かいくぐりながら踏み込んで左のフックを放つ。

 

 

 

 ウルベは上体を背後に反らし軸足を一歩下げて、顎先でフックを避けると右ストレートを放った。

 

 

 

 しかし、ドモンは即座に右足一本で左側にサイドステップするとウルベの右ストレートを体ごと避け、がら空きの右顔面に右拳を放つ。

 

 

 

「次元覇王流、聖拳突きぃいいい!!」

 

 

 

 ウルベはこれを顎先に置いていた左掌で受け止める。

 

 

 

 火花がバチバチと散り、海面を大気を揺らす。

 

 

 

 凄まじい衝撃が受け止められた右拳から生じていた。

 

 

 

「ーーぬぅう!?」

 

 

 

「それで止めたつもりか、ウルベ!!」

 

 

 

 気が更に増し、ガードを押し切ってヴァニシングガンダムの顎を殴りつけるゴッドガンダム。

 

 

 

「ぐう!!」

 

 

 

 忌々し気にウルベは、顎先に入った一撃に首を左右に振るも、次の瞬間には側頭部にドモンの気を纏った右の上段回し蹴りが決まっていた。

 

 

 

「聖槍蹴り!!」

 

 

 

「ぐは!!」

 

 

 

 海面に水柱を立てながら、叩き込まれるヴァニシングガンダム。

 

 

 

 

 

 だがーー水面から柱が立つと黄金の光が海中から放たれ、金色になったヴァニシングガンダムがゴッドガンダムの前に姿を現した。

 

  

 

「遊びは終わりだよ、ドモン君」

 

 

 

 ウルベが二律背反の境地を使い、ヴァニシングガンダムのハイパーモードを発動したのだ。

 

 

 

 対するドモンは静かに左手を顔の横に、右拳を腰に置いて膝を曲げ構えを取る。

 

 

 

「フンーー。死ねええええ!!」

 

 

 

 黄金の気を全身からあふれさせ、右の拳を振りかぶりながら放つウルベ。

 

 

 

 同時にドモンは右の拳に螺旋を描く緑色の気を纏わせると、目を見開いて気合いを入れ放った。

 

 

 

「次元覇王流ーー聖拳突き!!」

 

 

 

 まともにぶつかり合う二つの拳。

 

 

 

 目を見開いたのは、ウルベだった。 

 

 

 

「ーーこれは!」

 

 

 

 明らかにウルベの放った右ストレートは、ドモンの右正拳よりも強烈な威力を誇るーーはずだった。

 

 

 

 だが、現実はそうではない。

 

 

 

 ウルベの拳はドモンの拳によって完全に抑えられていた。

 

 

 

「なんだと!?」

 

 

 

 目を見開くウルベ。

 

 

 

 淡々と彼を見据えるドモン。

 

 

 

 両者は互いの中央で拳を合わせた姿勢で止まっていた。

 

 

 

「ーードモン、貴様!?」

 

 

 

 今のウルベに対抗するには、ドモン自身もハイパーモードになるしかないはずだった。

 

 

 

 だがドモンはハイパーモードどころか、明鏡止水すら発動せずに己の拳と気で止めていた。

 

 

 

「どうした、ウルベ。押し返してみろよ」

 

 

 

「き、さ、まぁああああああ!!!!」

 

 

 

 淡々と不敵な笑みを浮かべて告げるドモンにウルベは血走った眼を向けて吠える。

 

 

 

「あれはーーどうなってんだ? 黄金のガンダムを止められるのは黄金のガンダムしか無いんじゃないのかよ」

 

 

 

 真っ向から受けて止めたドモンのゴッドガンダムに、ネオが目を剥いて問う。

 

 

 

 これに応えたのはシンだった。

 

 

 

「相手の打突点をずらした上で、自分の打突点を合わせて止めてるーー!」

 

 

 

「ああ? なんだ、そりゃ!?」

 

 

 

「……信じらんねえ。あのウルベの鋭い攻撃をずらして、自分の打点を一方的に当てて止めるなんて」

 

 

 

「おい、坊主! 分かりやすく言いやがれ!! なんで金色じゃないのに、止めてんだよ!?」

 

 

 

「見たまんまだよ」

 

 

 

 目を見開いて冷や汗を流しながら、シンはネオに顔を向けることなく言った。

 

 

 

「ああ!?」

 

 

 

 その態度におざなりにされていると憤るネオだが、シンは構わずに告げた。

 

 

 

「そのぐらい、あの二人には差があんだよ」

 

 

 

 その言葉に、この場にいる誰もが戦慄した。

 

 

 

 絶句した彼らは呆然と、黄金の機体とぶつかり合うトリコロールのガンダムを見据える。

 

 

 

 神域ーー正にその境地に辿り着いた男の力を見据える。

 

 

 

 キラ達は知らない。

 

 

 

 未来世紀でのドモン・カッシュの二つ名を。

 

 

 

 次元覇王流とは、何の比喩でもない。

 

 

 

 武を極めたが故に、世界を統一し英雄たちを率いた男。

 

 

 

 彼の生き様そのものの二つ名。

 

 

 

 あのデビルガンダム事件から誰が呼び始めたのかは定かではないが、こう呼ばれるようになった。

 

 

 

 

 

 次元(世界を)覇王(武を持って統べる者)とーー。

 

 

 

 

 

 ドモンの動きは、明らかに極みに達した者の動きだ。

 

 そして、それを完璧にトレースするゴッドガンダムにも驚愕する。

 

 

 

( バカな! こんな動きをトレースできるだと!? あり得ん!!!)

 

 

 

 ウルベはガンダム開発局に居たからこそ、分かる。

 

 

 

 今のゴッドガンダムの動きは、MFのソレではない。

 

 

 

 まるで生身の人間のようだ。

 

 

 

 未来世紀にあって尚、考えられない技術だった。

 

 

 

( アルティメット細胞か!? 機体をファイターに合わせるように作り変えたのか!? いや、あり得ん!! だったら、私のヴァニシングも同じはずだ!!!)

 

 

 

 攻撃を全て無効化されている。

 

 

 

 ドモン・カッシュの気をゴッドガンダムが何倍にも高めて手足に凝縮させている。

 

 

 

 放たれる技の全ては、奥義としての位置も威力も求めていない。

 

 

 

 これは、通常打撃の延長にある技なのだ。

 

 

 

 その証拠にドモンの技は、次々と繰り出されている。

 

 

 

 流れるように、極自然にだ。

 

 

 

 それだけの動きを苦もなくトレースするゴッドガンダムは、既にドモンと人機一体と言って良いだろう。

 

 

 

 つまりゴッドガンダムは、ドモンの肉体そのもの。

 

 

 

「ーーあり得ん!! ドモン、貴様は!?」

 

 

 

「ウルベよ、貴様はガンダムの意志を感じないのか?」

 

 

 

「ーーなんだと?」

 

 

 

「ガンダムをただの道具としか思えないなら、貴様はこの域には立てんぞ。どう足掻いてもな」

 

 

 

 ドモンの言葉に頷くように、ゴッドガンダムがデュアルアイを輝かせる。

 

 

 

 ウルベは、苛立っていた。

 

 

 

 今の自分は、あのシャッフル同盟を蹴散らした時よりも強化されているはずだった。

 

 

 

 このヴァニシングガンダムもまた、グランドマスターガンダムを作り変えた機体だ。

 

 

 

 だというのに、完璧に技が止められている。

 

 

 

「ーードモン、なんの真似だ!?」

 

 

 

 そして、もう一つウルベを苛立たせる最大の理由があった。

 

 

 

 ドモンの動きだ。

 

 

 

 次元覇王流という技に惑わされることなく、気づいた。

 

 

 

 相手の攻撃に同じ攻撃を放つ、流派があることを。

 

 

 

 相手の技を予測して先に放ち、潰す技があることを。

 

 

 

「ドモン・カッシュ!! 何故、貴様がその見切りを知っている!? 何故、私の技を貴様が!?」

 

 

 

 ウルベが気にするはずだ。

 

 

 

 彼は一度も自分の流派を使わずにドモン達に倒されたのだから。

 

 

 

 では、何故ドモンが自分を裏切った武術の技を知っているのかーー。

 

 

 

 

 

『僕は、父さんが大好きだよ!!!』

 

 

 

 

 

 そんな空耳がウルベの耳に届く。

 

 

 

 思わず、目を見開くウルベは攻撃を止めた。

 

 

 

「ーーまさか」

 

 

 

 それだけを呟いたウルベにドモンは静かに構えを解いて立つ。

 

 

 

「貴様があいつに教えた技だ、ウルベ」

 

 

 

 そのドモンの言葉に、ウルベは静かに表情を消すと目の奥に凍てつく憎悪を浮かばせた。

 

 

 

「ほう。力無き虫が、無謀にも君に足掻いたか…! やはり愚か者だった」

 

 

 

 嘲り侮蔑するウルベに、ドモンは淡々と告げた。

 

 

 

「親父を何故殺した、と言われた」

 

 

 

「………」

 

 

 

 目を細め、ウルベはドモンを睨み据える。

 

 

 

 ドモンは構わない。

 

 

 

 拳を握り、ウルベの前に掲げると淡々とした声で続ける。

 

 

 

「親父のせいで、母さんがどれだけ苦しんだか。自分がどれだけ苦しんだかを伝えることができない、とな」

 

 

 

 ドモンが語り終える寸前にウルベが不意打ち気味に右ストレートを仕掛けた。

 

 

 

「ーードモンさん!!」

 

 

 

「汚ねえぞ、ウルベ!!」

 

 

 

 キラの悲鳴、シンの罵声が響く中、鈍い音が聞こえてきた。

 

 

 

 ウルベの拳は、ゴッドガンダムの顔の右の空間を打ち抜き、反対にヴァニシングガンダムのアゴにドモンの右正拳が決まっていた。

 

 

 

「ーーーー!」

 

 

 

 強烈なカウンターに、ウルベが後ろに一歩下がる。それを見て、ドモンは告げた。

 

 

 

「確かに伝えたぞ。あいつの怒りとその母親の悲しみを」

 

 

 

 言うと同時に、ゴッドガンダムの胸部カバーが開き、背中の6枚のフィンが左右対称・上下に展開され、日輪を背負う。

 

 

 

 キングオブハートの紋章がガンダムの胸の紅いクリスタルーーエネルギーマルチプライヤーに浮かび上がり、ゴッドガンダムが黄金の気と真紅の劫火を纏った。

 

 

 

 対峙するウルベは静かに前屈みになりながら顎をひと撫ですると、ゆっくりとドモンに顔を向けた。

 

 

 

「つくづく、不愉快な奴だよ。貴様と言う男はぁああああああ!!!」

 

 

 

 言いながら、ウルベは両の拳を腰に置いて構え、一際大きな黄金の気を纏う。

 

 

 

 ヴァニシングガンダムの胸部エネルギーマルチプライヤーは、黒に近い紺色の光を放っていた。

 

 

 

 対するドモンは、気で増幅され具現化した真紅の劫火を両手足に纏わせる。

 

 

 

 同じネオジャパンという国で作られたガンダム。

 

 

 

 同じ顔をしたガンダムが、黄金の気を纏って互いに構えを取り向かい合う。

 

 

 

 一瞬の静寂。

 

 

 

 静かに波の音が辺りに響く。

 

 

 

 仕掛けたのは、ウルベ。

 

 

 

 音速どころか、バーニアすら使わずに消えるようなスピードで動く。

 

 

 

 凄まじい地鳴りと衝撃波が発生し、海面を割る。

 

 

 

 二つの黄金の光の玉が、激しくぶつかり合っていた。

 

 

 

 拳を放つ、放てば避ける。

 

 

 

 避ければ、放つ。

 

 

 

 譲らない打ち合いは、苛烈かつ荘厳。

 

 

 

 海が割れ、黄金の光に空が灼かれる様は、正に神話のような神々しさがある。

 

 

 

 だが、打ち合いに差が現れ始めた。

 

 

 

 ウルベの右正拳をサイドステップでかわすと、立ち位置を入れ換えながら正拳突きを返すドモン。

 

 

 

 対峙するウルベには、残像と戦っているかのような印象を受ける。

 

 

 

 捌いていたウルベだが、ついに首が跳ね上がった。

 

 

 

( 退くな! 退けば、一気に奴の連撃に飲み込まれる!!)

 

 

 

 咄嗟に左手で顎を庇いながら考える。

 

 

 

 連打に打ち勝つのは、強打だ。

 

 

 

 攻撃を受けながら相打ち狙いでヴァニシングフィンガーを準備する。

 

 

 

 劫火を纏った拳が厄介ではあるが、一撃の威力はそれほどではない。

 

 

 

 ハイパーモードになった自分ならば耐えられる。

 

 

 

 鋭い、左から右の正拳。

 

 

 

( 目に映らない程に速いだと!?)

 

 

 

 蹴りも拳も、早過ぎて打ち終わりしか見えない。

 

 

 

 しかも一撃の威力が固く、急所に当たれば意識を刈り取る程のキレを持つ。

 

 

 

 そのスピードは、ガンダムシュピーゲルのシュバルツに匹敵している。

 

 

 

 そのキレは、流派東方不敗そのものだ。

 

 

 

 東方不敗の通常打撃を技にまで昇華したドモンの狙いは、これだった。

 

 

 

 通常打撃を極めれば、隙の無い連撃を放つことができる。

 

 

 

 更にドモンは、攻撃を放ちながらも気を高めて行く。

 

 

 

「ーーく!」

 

 

 

 苦し紛れに放った右の前蹴り。

 

 

 

 これをドモンは、サイドステップで左に回り込んで避けると同時に、左足でウルベの軸足を掬うように蹴り払った。

 

 

 

「ーーぬお!」

 

 

 

 咄嗟にウルベはバーニアを使って宙でバックダッシュを試みる。

 

 その目の前にゴッドガンダムが踏み込んできた。

 

 

 

「ーーもらったぞ、ゴッドガンダム!!」

 

 

 

 溜めていた気を解放しながら、光輝く右手でゴッドガンダムの頭部を狙う。

 

 

 

「虚無となれ! ヴァニシングフィンガァア!!」

 

 

 

 鷲掴みにしようと放たれる右掌。

 

 

 

 完璧なタイミングだった。

 

 

 

 キラもアスランもシンも、口を開けたままゴッドガンダムの頭部を鷲掴みにされる映像が見えた。

 

 

 

 そう。

 

 

 

 そんなものを幻視してしまう程に、ウルベのヴァニシングフィンガーは、完璧なタイミングで放たれたのだ。

 

 

 

 空を切るヴァニシングフィンガー。

 

 

 

 一瞬後に首を横に回し、踏み込んできたゴッドガンダムと目があう。

 

 

 

 右掌をストレートのように振り切ったヴァニシングガンダムは、完璧に無防備だった。

 

 

 

 見開いたウルベの目に、力が漲る拳を握り締めたゴッドガンダムが居た。

 

 

 

「疾風突き!!」

 

 

 

 左の拳を踏み込みのスピードを重ねて放つ。

 

 

 

 右のわき腹にまともに入る拳。

 

 

 

 思わず前のめりになるウルベにーー

 

 

 

「聖拳突き!!」

 

 

 

 間髪入れずに放った右の正拳で横面を殴りつけ、首を捻じ切れさせる。

 

 

 

「聖槍蹴り!!」

 

 

 

 右に捻じ切れた顔を左のハイキックが蹴り戻す。同時にジャンプしてその場で回転し、遠心力を加えた右のハイキックを喉元に決めた。

 

 

 

「竜巻蹴り!!」

 

 

 

 顎を落としたヴァニシングガンダムに、回転しながらの跳躍力を加えた左のアッパーを放つ。

 

 

 

「蒼天紅蓮拳!!」

 

 

 

 上空に跳ね上げられたウルベ。

 

 

 

「更ぁらにぃ!!」

 

 

 

 ゴッドガンダムは更に右のアームカバーを展開し、紅蓮の劫火を右掌に集約させた。

 

 

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える、勝利を掴めと轟き叫ぶ!」

 

 

 

「が、はあ…」

 

 

 

 ウルベが顔を元の位置に戻し、宙での態勢を整えようとした時、真っ赤に燃える右掌が眼前にあった。

 

 

 

「う、おお!!」

 

 

 

 悲鳴を上げるウルベの顔面を容赦なくゴッドガンダムの右掌が鷲掴みにした。

 

 

 

 思わず、両手で右腕の部分を掴み、引き剥がそうとする。

 

 

 

「爆ぁあく熱! ゴォッドフィンガァアアアッ!!!」

 

 

 

「ぐわぁあああ!!」

 

 

 

 青白い雷が火花を散らし、宙に吹き荒れる。

 

 ウルベの必死の抵抗が実を結んだか、ガッチリとロックされた右掌を少しだけ剥がすことに成功する。

 

 

 

「ど、も、ん、カッシュぅうう!!!」

 

 

 

「ウルベぇえええええ!!!」

 

 

 

 強烈な紅蓮の光が右掌から発され、ウルベのヴァニシングガンダムの全身を飲み込むと、遥か後方へと弾き飛ばした。

 

 

 

「ぐわぁああああああっ!!」

 

 

 

 悲鳴を上げながらも体勢を斜にして、熱線から体を捌く。

 

 ヴァニシングガンダムは、肩口から火花を上げながら海面に沈んだ。

 

 

 

 獲物を逃した紅蓮の光は、死の軍団を見せしめとばかりに飲み込んで空中で爆発した。

 

 

 

「たった一撃で、あんだけいた化け物が消えたーー!」

 

 

 

 シンが茫然とつぶやく中、光を放ったガンダムは、海面に顔を向けていた。

 

 

 

 しばらくすると、ゆっくりと海中からヴァニシングガンダムが体中から火花を上げながら、浮き上がってきた。

 

 

 

 ハイパーモードは切れ、ウルベ自身の気も尽きていた。

 

 

 

「終わりだ、ウルベ」

 

 

 

 金色の武神が、静かに構えを取った。

 

 

 

 キングオブハートの紋章が胸に浮かび、それを両手で抱えると紅蓮の光の玉が出来上がる。

 

 

 

 それを右腰に両掌を置いてたわめ、腰だめに構える。

 

 

 

 両掌にあった光の玉は、黄金に変化した。

 

 

 

 

 

 

 

ーー 流派東方不敗 最終奥義 石破天驚拳 ーー

 

 

 

 

 

 

 

 今から放たれる技を理解し誰もが息を呑む中で、ウルベが口を開いた。

 

 

 

「くくく、はははははははは!!!」

 

 

 

 哄笑が響いた。

 

 

 

「いやはや、参った参った。これほどか。ははははははは! デビルガンダムが勝てん訳だ!!」

 

 

 

 ひとしきり笑った後、ウルベはドモンに向き直り、叫んだ。

 

 

 

「ーーおのれぇえええっ!! 何故だ、何故、貴様にこんな力がある!!! 貴様などに、何故この私がここまで追い詰められると言うのだ!!! おのれ、おのれ、おのれぇええええっ!!!」

 

 

 

 喚き散らすウルベを、ドモンは眉一つ動かさずに見つめていた。

 

 

 

「ーーお前は誰にも勝てん」

 

 

 

「なんだとーー!?」

 

 

 

 ドモンからの言葉に、ウルベが目を見開く。

 

 

 

「ウルベ、人1人の力などたかが知れている。どれだけ力があろうと知恵があろうと世を動かすのは、1人の人間ではない。100人、1,000人の人が動いて初めて動き出すんだ。お前は、そんな事も忘れたか? 師匠に負けて学んだのは野心だけか? こんな異世界に来てまで他者を貶めることしか学ばなかったのか!?」

 

 

 

「ーー!」

 

 

 

「情けない。今の貴様を見ていると、昔の自分を見ているようで腹がたつ!!」

 

 

 

 怒気に触れ、ウルベが目を見開く。

 

 

 

「心無い言葉で自分を慕う人を傷つけ、自分の弱さから目を背けて! 本当に大切なことを見失う!! 甘ったれた昔の俺だ!!!」

 

 

 

 ドモンの怒気は収まらない。

 

 

 

「だがな、人は変わる! 敗北や挫折を糧に変わる!! あのデビルガンダムーーDもそうだ!!」

 

 

 

 ドモンは、心の中に浮かぶライバルと認めた自分と瓜二つの姿を選んだ者を思い浮かべる。

 

 

 

「奴は、負けて自我を得た。そして、人の心を得た!! 誰に教わったのでもない、自分で学んだんだ!! 貴様が弱い虫けらだと言った奴もそうだ!!!」

 

 

 

 憎しみと悲しみをぶつけてきた少年を思い浮かべた。

 

 

 

「奴は貴様の言葉と母の死に傷つきながら、それでも前を向いて歩いている!! 真の強さを知る為にだ!!」

 

 

 

 熱い炎を胸に抱き、ドモンは叫んだ。

 

 

 

「何故変わろうとしなかった、ウルベ!! 貴様だけだ!! 貴様だけが変わっていない!! 細胞の能力に酔いしれ、他人を食い物にして得た力で強くなったなどとほざく!! 自分の弱さから目を背け、人類に滅びろ等と戯言を言う!!!」

 

 

 

 怒りのままに、ドモンは続けた。

 

 

 

「そんな奴は、誰にも勝てん!! 自分から逃げた貴様は、そうやって力無い人を踏みにじって自己満足と陶酔に浸かり、一生自分の弱さから逃げ続けるだけだ!!!」

 

 

 

「戯言はしまいかね? くくく、ドモン君。どうやら、私は君が憎いようだ」

 

 

 

 ドモンの言葉を受け、ウルベが引きつるように笑いながら、告げる。

 

 

 

「憎くて、憎くて、憎くて仕方がない!!! 殺してやる、殺してやる、殺してやるぞ、ドモン・カッシュゥウウ!!!」

 

 

 

 ウルベが叫びながら両手を前に突き出し、ヴァニシングフィンガーのエネルギーを光の球にして構える。

 

 

 

「ならばーー流派、東方不敗が最終奥義!!!」

 

 

 

 ドモンの奥義が、ウルベの力が放たれようとする矢先、第三者の声が響いた。

 

 

 

「そこまでだ。オーブ軍、ザフト、そして裏切り者の地球連合軍にガンダムファイターの諸君」

 

 

 

 その声に、ドモン達が顔を向けると、未来世紀のフォログラムによって映し出された巨大な人が浮かび上がる。

 

 

 

「「「ロード・ジブリール!!!」」」

 

 

 

 シンやキラ達が叫ぶのを心地良さげに聞きながら、ジブリールは告げた。

 

 

 

「そう。ロゴスの最後の首領にして、世界の敵。ロード・ジブリールだ。単刀直入に言おう、諸君らに勝ち目はない、退きたまえ」

 

 

 

 この圧倒的に不利な状況で、ジブリールは告げた。

 

 

 

 天を指差して。

 

 

 

「さもなくば、君たちを裁きの光が襲うだろう。オーブなどと言う島国ごと、消す光がね」

 

 

 

 その言葉に、皆が色めき立つ。

 

 

 

 まさか、そんな言葉が彼らの間を飛び交う。

 

 

 

「ーー奴がウルベ達の協力者か。なるほど、ウルベやウォンによく似ている。欲の塊か」

 

 

 

 ドモンの静かな言葉を聞いて、ジブリールが笑う。

 

 

 

「光栄だよ、キングオブハートに私を評価していただけるとはね。君ならば、私の言葉がハッタリかどうか、分かるのではないかな?」

 

 

 

 いやらしい笑みを浮かべるジブリールに、鋭い目をしたドモンは告げた。

 

 

 

「衛星兵器、やはり持っていたか」

 

 

 

「ーー素晴らしい洞察力だ。その通りだよ、ドモン・カッシュ」

 

 

 

「貴様らのような下衆は必ず大量殺戮兵器を用意するものだからな」

 

 

 

 ドモンに手を叩きながら、ジブリールは告げた。

 

 

 

「レクイエムーーいずれ、世界を浄化する裁きの光の名だ。我々を見逃せばよし、無理ならば全て焼き払う。細胞のコアを持つ私やウルベ達は生き残れるだろうが、君たちはどうかな?」

 

 

 

「汚ねえ真似を次から次へとーー!!」

 

 

 

 怒りに震えるシンの叫びに、ジブリールが笑った。

 

 

 

「勝利こそ全てなのは、諸君らも同じだろう。さあ、我々を見逃して貰おうかーー」

 

 

 

 ジブリールの言葉に、オーブ、連合、ザフトの三軍は支配されていた。

 

 

 

 嫌な予感が、戦場に渦巻いていた。

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね〜!

 ジブリールの言葉に、大混乱するオーブ三軍!!

 しかし、ドモンはこの状況を想定した上で愛馬・風雲再起と大切な妻から預かったガンダムを召喚するのです!!

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第80話に!

 レディー、ゴー!!



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第80話 神の手 対 鎮魂歌

 さて、皆さん。

 鎮魂歌とは名ばかりの大量殺戮兵器レクイエム。

 これを脅迫材料に使うジブリールに、オーブ・連合・ザフトの三軍はシャトルに手を出すことができません。

 実はこの状況を覆すため、宇宙でも激戦が繰り広げられていたのです!

 はたして、この戦いの結末は!?

 それでは、ガンダムファイト! オーブ戦役決着戦!!

 レディイイイイ、ゴォオオオオオオオッ!!




 

 ジブリールの宣言が響き渡るオーブ諸島戦域。

 

 

 

 その宣言は、キョウジやシュバルツにも届いていた。

 

 

 

「大気圏外からの大量破壊兵器、か」

 

 

 

「やはり、切り札で持っていたか」

 

 

 

「シャトルにジブリールを乗せたこと自体が失敗だな。バリアを張ろうにも既にオーブ本土そのものが、戦闘区域だ。畜生!!」

 

 

 

「ーー仕方あるまい。ジブリールにまさか、そのような切り札があるとは。私にも想像が付かん」

 

 

 

 二人の目が、巨大な立体フォログラムとして映し出されたロード・ジブリールを見据える。

 

 

 

 ウォンがそれにニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

「このタイミングでレクイエムを切る、か。悪くありませんよ、ジブリール」

 

 

 

 周りを見ながらウォンも頭を使い始める。

 

 

 

 現状ではキョウジとシュバルツのコンビを打ち破ることはできない。

 

 

 

 どちらも桁違いの実力を持っている。

 

 

 

 おそらく一人でも自分と他の三体のガンダムを屠るくらいは訳はないだろう。

 

 

 

 これで勝ちの目が出てきた。

 

 

 

 この場における勝利とは最低でも自分たちの因子を持つジブリールを宇宙に上げることだ。

 

 

 

 宇宙にはガンダリウム合金が多く存在する。

 

 

 

 DG細胞を使えば「今の自分」が滅ぼされたとしても記憶を受け継いだ「新しい自分」として復活することは可能だと、先のセイラン親子をベースにした実験で把握した。

 

 

 

 このまま上手く行けば「今の自分」のままで宇宙に出れそうだ。

 

 

 

 これ以上の勝利はないウォンは嗤う。

 

 

 

 現状を打破するには、キョウジやシュバルツ、ドモンを抑えた上でキラ達をも相手にしなければならない。

 

 

 

 いかにウルベがハイパーモードを手に入れたとは言え、不可能だろう。

 

 

 

 だからこそ、新しい肉体を得る前提で作戦を敢行していた。

 

 

 

 だが、こうなれば手下をそのまま宇宙に上げることができる上に、自分たちも復活まで待たずに済む。

 

 

 

 まさに一石二鳥だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、ジブリールはシャトルの発進準備を整えて機体にバーニアの火を点火しながら悠然と告げた。

 

 

 

「諸君らは直ちに武装解除したまえ。何、約束は守ろう。我々が無事に宇宙に着くことができればレクイエムを放つのは辞めておく」

 

 

 

 ワインを片手に告げる貴族然とした仕草は、正に帝王のそれだった。

 

 

 

「ちくしょう、何か手はないのか!!」

 

 

 

 シンが思わず映像のジブリールに向かって牙を剥き出しにしながら言うと隣のキラが鋭い目で告げる。

 

 

 

「大気圏外にいる衛星兵器を破壊するのはさすがに難しい。かと言ってこのまま手をこまねいているのもできない」

 

 

 

 キラに間髪入れずアスランが横に来る。

 

 

 

「エターナルに通信を入れるか、キラ」

 

 

 

「うん。ドモンさんの予測どおりになった。ラクス達、兵器を見つけられたかな」

 

 

 

 二人の会話の後、通信が届いた。

 

 

 

「キラ、アスラン!」

 

 

 

「ラクス。そっちはどう? 見つけられた?」

 

 

 

 特殊な暗号通信でやり取りをするキラとラクスだが、状況は芳しくない。

 

 

 

「申し訳ありません。わたくしたちもジュール隊長とエルスマンさんも衛星軌道上を探ってはいるのですが、肝心の兵器がどこにもないのです」

 

 

 

「……そもそも、衛星軌道上に兵器を置くならプラントが先に気付いている、か。だとしたら、どうやって大気圏外から攻撃を仕掛けてくるつもりなんだ?」

 

 

 

 ウォンやジブリールの態度からハッタリではないとキラの勘は告げている。

 

 

 

 一刻も早く兵器の場所を突き止めなければ、自分たちは光に飲み込まれてしまうだろう。

 

 

 

「ラクス達が兵器を見つけるまでに時間を稼ぎたいがーー」

 

 

 

 アスランが苦虫を噛み潰した顔になる。

 

 

 

 ラクスやイザーク達が兵器を見つけるまで食い止める。

 

 

 

 はっきり言ってそんな時間はもうないだろう。

 

 

 

 ドモンやキョウジ達の実力が高すぎた。

 

 

 

 この悪党たちの恐ろしいところは、慎重なところだ。

 

 

 

 たとえ、滅ぼされても復活する手段を常に用意している。

 

 

 

 その上で自分たちが現状勝てない相手だとすると全力で逃げる算段を叩きだしてくる。

 

 

 

 ベルリン然り、ヘブンズベース然りだ。

 

 

 

 このまま奴らを宇宙に上げれば、何が起こるのかアスランをしても想像は付かない。

 

 

 

 ろくでもない事態になることは間違いないだろうが。

 

 

 

 ジブリールが兵器のボタンを押す前に誰かが奴を落とせば、チャンスはあるか。

 

 

 

 しかし、それはイチかバチかだ。

 

 

 

「君たちの位置情報は全て把握している、キング・オブ・ハート。君がその光を私やウルベに打てば、同時に衛星兵器の起動ボタンを押す。オーブ諸島の全ての人間とこの場にいる兵士達の命を天秤にかけるがいい!」

 

 

 

 その言葉にこの場にいる全ての人間が歯を食いしばる。

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。せっかく英雄が現れてくれたと言うのに、これでは手詰まりかな?」

 

 

 

「冗談言ってる場合じゃありませんよ、クルーゼ隊長」

 

 

 

 デスアーミー達を相手にしていたフィルムとハイネも現状の深刻さに手を止める。

 

 

 

 止めざるを得なかった。

 

 

 

「さて、どうするかね。ファム」

 

 

 

「…現状ではわたくし達にできることはありませんわ。大気圏外にいる彼女たちに全てがかかっていると言ってよいでしょう」

 

 

 

「フム、流石は未来世紀を支配した者達だな。彼らの影響を受けて、小物でしかなかったジブリールもこれほどにまで成長するとは」

 

 

 

「人の欲望とは恐ろしいものですわね、フィルム?」

 

 

 

「ああ。まったくだ」

 

 

 

 二人の会話を聞きながら、この状況でさえ芝居がかった会話にハイネは眉を寄せるだけで何も言おうとはしなかった。

 

 

 

 連合、ザフト、オーブのMS達は既にマスドライバーとそれに乗るシャトルに向かってビーム砲を構えている。何もできないことを理解しながら。

 

 

 

 

 

 

 

「……残念だ。この場で決着が付けられないとはな」

 

 

 

 黄金のゴッドガンダムに対し、ウルベはヴァニシングガンダムのエネルギーの塊を構えながら言った。

 

 

 

「尻尾を巻いて逃げるのか? ウルベ」

 

 

 

 ドモンは石破天驚拳の構えを取りながら、未だに気を納めようとはしていない。

 

 

 

 隙あらば撃つという姿勢だ。

 

 

 

 それを見ながら、ウルベも両手に溜めたエネルギーをそのまま高めていく。

 

 

 

 このまま撃ち合えば間違いなく自分は打ち負ける。

 

 

 

 それでも、ゴッドガンダムの全力の石破天驚拳をこの身に刻むことはできる。

 

 

 

 今のドモンの真の力をDG細胞に記憶させることができるのだ。

 

 

 

 決して悪い条件ではない。

 

 

 

 邪悪な笑みを浮かべてウルベはドモンを見ると、彼もまた不敵な笑みを返してきた。

 

 

 

(私の狙いを分かった上で、撃つつもりか。大した自信だな。それを慢心と言うのだと教えてやろうーー!)

 

 

 

 互いに構える。

 

 

 

 だが、しばらくしてウルベはニヤリと笑った。

 

 

 

「馬鹿馬鹿しい。君に付き合う理由もないか」

 

 

 

 言うと、ウルベはヴァニシングガンダムのエネルギーマルチプライヤーから光を発生させ、機体を拳大のガラス玉に変えた。

 

 

 

 紺色に輝くその球には、虚の文字が刻まれている。

 

 

 

「! ガンダムを消した!?」

 

 

 

 シンが叫ぶ中生身となったウルベは、街の建物の影へと走り込み、姿を隠す。

 

 

 

「しまった!?」

 

 

 

 騒ぎ立てるキラやアスラン達を尻目にドモンは、石破天驚拳の構えを取ったまま動かない。

 

「? ドモンさん?」

 

 

 

 ドモンの視線の先にはジブリールのシャトルがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、大気圏外にいる輸送用MS艇に乗るミリアリアとイザーク、ディアッカは渋い顔をしていた。

 

 

 

「どういうことなの? 連中の言っていた衛星兵器はどこにあるのよ!」

 

 

 

「……見つかったのはデブリ帯に隠れるように置いてあるあの輪っかだけか」

 

 

 

 巨大な廃棄コロニーを改修した怪しい輪っかが宇宙に浮かんでいる。

 

 

 

 解析したところ、ゲシュマイリヒパンツァーと呼ばれるビーム砲を曲げる素材で表面が作られている。

 

 

 

「あの輪っかを使って攻撃をしてくるのは分かる。問題はどこから砲撃してくるかということだ!」

 

 

 

 イザーク達にさえも想像できない。

 

 

 

 この宙域には、あの輪っか型のコロニーしかないのだ。

 

 

 

 ビーム砲をどの距離で放ってくるのか、全く想像できない。

 

 

 

「とりあえず、この輪っかを破壊する?」

 

 

 

「……勘だが、この輪っかが直接攻撃するようなものではないはずだ。必ず替えがある」

 

 

 

「つーことは、こいつを破壊しても別の方法で替えの輪っかを使ってくるか?」

 

 

 

 ミリアリアの言葉にイザークが答え、ディアッカが確認する。

 

 

 

 彼らは、輪っかの分析を行うと共にキョウジ製のレーダーを使ってこの宙域に同じものがないかを確認する。

 

 

 

 エターナルまでの距離を半径として索敵するも反応はない。

 

 

 

「ないなーー。となると」

 

 

 

「索敵範囲を広げてみるわね」

 

 

 

 ディアッカが渋い顔をすると、ミリアリアが応える。

 

 

 

 範囲を倍に広げてみるが、反応はない。

 

 

 

「ーーこいつだけなのか? いや、ビームを曲げる装甲の巨大な塊をわざわざ、デブリに隠すようにあるんだ。必ず何かがーー」

 

 

 

 イザークが言いながら範囲を広げていくと、二つ、三つの反応が見つかった。

 

 

 

「ーービンゴだ、イザーク!!」

 

 

 

「配列を考えて! 位置をマーキングしていきましょ!!」

 

 

 

 宇宙図を展開しながら、マーキングを行い、更に範囲を広げていく。

 

 

 

 地球から月、プラントを半径で結べる程に広げたあたりで、イザーク達は口を開けた。

 

 

 

「ーーこの並び方は!」

 

 

 

 分かったのは20を越える総数の輪が、ふた通りの道を築くかのように並んでいた。

 

 

 

 一つはプラントに向かって。

 

 

 

 もう一つは、イザーク達がいる地球から一番近い衛星軌道上にある輪っかに向かって。

 

 

 

「ーーこれ、月から伸びてるよな?」

 

 

 

 点を線で繋いで行けば、何処から放たれるのかを逆算できる。

 

 

 

 ふた通りある道も、発進口は同じだ。

 

 

 

 地球連合が所有する月面基地ーーアルザッヘル。

 

 

 

 線は其処に向かって伸びている。

 

 

 

「見つけたがMS二機だけで、この輪を全て落とせって言うのかよ!?」

 

 

 

 ディアッカが思わず嘆いた。

 

 

 

 自分達は、明鏡止水とかいう馬鹿げた力もSEEDもないのだ。

 

 

 

 いくら自分用に調整されたフリーダムのカスタム機が割り当てられているとは言え、一つ一つの輪っかの距離を考えれば、いかに不可能な任務か理解できるだろう。

 

 

 

 地球から次への距離を何往復すれば良いというのか。

 

 

 

 考えただけでゾッとする。

 

 

 

「大丈夫よ、その必要はないわ」

 

 

 

 ミリアリアの言葉に二人は注目する。

 

 

 

「見て、これは光を鏡で反射させた映像よ。このデータと輪っかが置かれている位置を計算すると、ほら!」

 

 

 

 コンピュータが弾き出したデータでは、月面基地から放たれたビームをオーブにぶつけるには、イザーク達のいる輪っかの一つ前の中継点での屈折が肝要になる。

 

 

 

「屈折を繰り返して反射させ、決められた位置に砲撃を落とす、か」

 

 

 

「つまり、この中継点にある輪を破壊すれば地球への砲撃を阻止できるということか」

 

 

 

 なるほどと頷く二人にミリアリアは、力強く告げた。

 

 

 

「行くわよ、二人とも!! 大量殺戮ビーム砲なんかオーブに落とさせないわ!!」

 

 

 

 ミリアリアの言葉にイザークとディアッカは力強く頷いた。

 

  

 

「キョウジさんなら、他にも何か思いつくかもしれないけどーー!」

 

 

 

「時間がない、ミリィの言いたいことは分かるが今は破壊を先決しようぜ!」

 

 

 

「うん。ごめん、ディアッカ」

 

 

 

 申し訳なさそうなミリアリアにニッと力強く頷いてみせると、ディアッカはイザークに告げた。

 

 

 

「行くぜ、イザーク!」

 

 

 

「ーーフン、誰に言っている!?」

 

 

 

 二人はMS格納庫に走ると、寝かされている二機に乗り込んだ。

 

 

 

「イザーク・ジュール! デュエルフリーダム、出るぞ!!」

 

 

 

「ディアッカ・エルスマン! バスターフリーダム、発進するぜ!!」

 

 

 

 青い翼の白い機体が二機、闇の中に飛び立つ。

 

 

 

 その二機のフリーダムガンダムの様は、ミリアリアには希望に見えた。

 

 

 

 イザーク達が目標の輪っかに辿り着いた時、レーダーに反応があった。

 

 

 

「!ーーアラート! 敵部隊出現!? どうして!?」

 

 

 

 宙域には何もなかったはずだった。

 

 

 

 だが今現れた反応は、10や20ではない。

 

 

 

 戦艦は3隻、MSの数は60。

 

 

 

「ミリィ、理由は簡単だ。その部隊は今、生まれたんだ」

 

 

 

「ーーフン。未来世紀、とんだ化け物を生み出してくれたものだな」

 

 

 

 ディアッカの真剣な声にイザークの皮肉気な声が続く。

 

 

 

「それ、どういうーー!」

 

 

 

 モニターを見据えてミリアリアも言葉を止めた。

 

 

 

 デブリにある鉄くず達が、形を変えていくのだ。

 

 

 

 あるものは戦艦に、あるものは一つ目鬼を思わせる死のMSーーデスアーミーに。

 

 

 

「DG細胞!? 既に宇宙にもあるの!?」

 

 

 

「ザフトの施設なら分かるんだがな。議長が怪しいが、これは地球連合の施設。ジブリールやウルベ達が、細胞だけを宇宙に上げていたのか?」

 

 

 

「疑問はあるが、まずは倒すのが先決だ! ぬかるなよ、ディアッカ!!」

 

 

 

 言うやイザークはデュエルフリーダムの翼を展開させると音速を超えるスピードで駆け抜ける。

 

 

 

「ーーぬう! この機動力、流石はフリーダムだ!!」

 

 

 

 言いながらも腰のサーベルを抜き、すれ違いざまに四機のデスアーミーを切り捨てた。

 

 宙に浮かぶ残骸めがけ、ディアッカのバスターフリーダムが、二丁のライフルを連結させて構える。

 

 

 

「行くぜ、スーパー・アグニ・ライフル!!」

 

 

 

 放たれた火の神の一撃は、数十のデスアーミーを焼き払いながら、直線上にある輪っかを狙う。

 

 

 

 思ったとおりだが、ビームは直撃せずに曲げられ、近くにいた戦艦を焼き払った。

 

 

 

「ーーシャレにならねえぞ、この威力」

 

 

 

 艦隊も薙ぎ払えるであろう火力に思わず渋い顔をするディアッカ。

 

 高速機動で隣にきたイザークが言った。

 

 

 

「だが、やはりゲシュマイリヒパンツァーには相性が悪いようだな」

 

 

 

「ーーやれやれ、骨が折れそうだな!!」

 

 

 

「構わん。俺も自分の機体を色々と試したくなってきたぞ!!」

 

 

 

 言うや、自分の背中に固定されているキャノン砲を左腰から前に抜けて構える。

 

 

 

「圧倒的な機動力に、サーベルの切れ味。申し分ないが、砲撃はどうだ!?」

 

 

 

 奇しくもその機体コンセプトおよび基本骨子は、シン・アスカの乗っているデスティニーガンダムによく似ていた。

 

 

 

 当然、バーニアを最大にまで高めると青い翼を象ったバックパックから光の翼が生じる。

 

 

 

 デュエルフリーダムの残像が発生し、一気に敵陣を所狭しと駆け回り、貫通力と消滅力の高い陽電子キャノンを放つ。

 

 

 

 充分な威力を誇る赤と青のビーム砲が、直線上にいる敵を全て撃ち抜いていく。

 

 

 

「ーー申し分ない。だが!!」

 

 

 

「俺たちの装備には実弾がレールガンしかないぜ。どうするよ!?」

 

 

 

 近づいてきた敵を左右に分裂させたライフルで撃ち抜きながら、ディアッカが問いかける。

 

 

 

 MSや敵艦には効いても肝心の輪っかを破壊できなければ厳しい。

 

 

 

 そこに通信が入った。

 

 

 

「ジュール隊長! エルスマンさん!」

 

 

 

 通信先とレーダーを確認し、二機のフリーダムは左方向を向いた。

 

 

 

 そこには、ピンク色の高速巡洋艦エターナルが在った。

 

 

 

「ラクス様!」

 

 

 

「ラクス!!」

 

 

 

 桃色の髪の歌姫は真剣な表情でイザーク達に通信を送る。

 

 

 

「ジュール隊長、エルスマンさん。ミーティアを!!」

 

 

 

 その言葉に二人のパイロットは互いに頷くと、ラクスを見返す。

 

 

 

「お二人とも、どうかオーブを。ミーティア、リフトオフ!!」

 

 

 

 戦艦の端に付けてある二台の艦装にみえた白銀色の核エンジン搭載型MS用の巨大補助兵装。

 

 

 

 宇宙空間にパージされ、二機のフリーダムの背後に回ると腰部とドッキングする。

 

 

 

「こいつのビームソードならば!!」

 

 

 

「ああ、切れるよな!!」

 

 

 

 マルチロックシステムを使い、一気にミーティアの兵装を開放する。

 

 

 

 無数のミサイルと強大なビーム砲が無数にあったデスアーミー達を蹴散らしていく。

 

 

 

 そこかしこで火花が散り、おとされる機体たち。

 

 

 

 無数に咲いた火花を縫うように移動しながら二機のフリーダムは輪っかに接近する。

 

 

 

 右手を大きく掲げて、イザークが叫ぶ。

 

 

 

「くたばれぇえええええ!!」

 

 

 

 上段から300メートルにもなる巨大ビームソードを振り下ろし、輪っかを真っ二つにする。

 

 

 

「こいつも、おまけだぜ!!」

 

 

 

 ディアッカが左の巨大ビームソードを真横に切り払い、縦と横に切り捨てられる巨大な輪っか。

 

 

 

 火花を上げて散るのを確認し、イザークはニヤリと笑う。

 

 

 

「こちらの戦力までは予想できなかったようだな!!」

 

 

 

「キラやアスランだけが、歌姫の戦力じゃないぜ!!」

 

 

 

 勝ち誇る二機を嘲笑うかのように、輪っかは爆発しながら触手を生み出していき、形を変えていく。

 

 

 

「! まさか!? あの輪っかもDG細胞製なのか!!?」

 

 

 

 同時に、イザーク達の真上に輪っかが突如として現れる。

 

 

 

「こ、これはミラージュコロイド!?」

 

 

 

 ミラージュコロイドシステムとは、可視光線や赤外線を含む電磁波を遮断する特殊なコロイド状の微粒子であり、このコロイドを磁場で物体表面に定着させることで、電磁的・光学的にほぼ完璧な迷彩を施すことが可能なステルス機能を言う。

 

 

 

 これを展開している間は、レーダーにも視覚的にもまったく探知されない。

 

 

 

 絶えず粒子を流す波がある海中では不可能と言われているが、宇宙空間ではその限りではない。

 

 

 

「この場所にだけ、二つの輪を置いていたってことは!!」

 

 

 

「間違いない!! ここが、攻撃拠点だ!!」

 

 

 

 ディアッカとイザークの言葉に応えるように、次々と周囲に浮かぶデブリが再び3隻の戦艦とデスアーミー達に変化する。

 

 

 

 いや、今度はデスアーミー達の背にコウモリ型の羽がついていた。

 

 

 

 更に破壊されたゲシュマイリヒパンツァーリングが巨大な機体に変化していく。

 

 

 

「こ、これは!?」

 

 

 

 かつて未来世紀で現れたデビルガンダムコロニー。

 

 

 

 その触手の一機は、ガンダム連合をしてようやく屠れるほどの巨大なガンダムヘッドだった。

 

 

 

「化け物かよ!!?」

 

 

 

 現れたのは、地球を食らおうとデビルコロニーが伸ばしたガンダムヘッド。

 

 

 

 あまりの大きさに、歴戦の兵士であるディアッカとイザークが戦慄するほどだ。

 

 

 

「悪意の塊ーーDG細胞。なんて、恐ろしい姿」

 

 

 

 ラクスは細胞の本来の持ち主であったデビルガンダムことDを思い起こしながら呟く。

 

 

 

「人間の悪意は、これほどにまで醜悪なのでしょうか」

 

 

 

 それは人類の敵と公言した「彼」への問いかけでもあった。

 

 

 

 巨大なコロニーそのままの大きさで変化したガンダムヘッドは、その長い蛇のような体を自在に動かし、あちこちから触手を伸ばして攻撃してくる。

 

 

 

 その触手は先端がビーム砲にもなれば、戦艦並みの大きさの小型のガンダムヘッドを枝分かれのように生やす。

 

 

 

 小型のガンダムヘッドの口からは無数の羽の生えたデスアーミー達ーーデスバットの部隊が出てくる。

 

 

 

 一機一機の実力は知れているが、今度のデスバットは機動力が高い。

 

 

 

 イザークとディアッカのパイロット能力ならば追随は許さないが、数が多く劣勢に立たされる。

 

 

 

「DG細胞ってのは、ばかの一つ覚えみたいに数でごり押ししかしねえのかよ!!」

 

 

 

「だが、それが今は一番きつい!! ラクス様やミリアリアを庇いながら。いや、そもそも二機だけでは厳しいぞ!!」

 

 

 

「だからって、此処を離れたらオーブは撃たれてしまいじゃねえか!! シュバルツ達やキラ達がやられたら、どうなるか分かんだろ!!」

 

 

 

「貴様に言われんでも分かっているわ!!」

 

 

 

 ディアッカに怒鳴り返し、イザークは次々と来る触手を切り捨て、ミサイルを放ってデスバットを葬る。

 

 

 

「ディアッカ、貴様は戦艦に迫る敵や触手を迎撃しろ! 俺は、奴らを攪乱した上でもう一つのリングを破壊する!!」

 

 

 

「バカヤロウ!! いくらなんでも無茶だ!!!」

 

 

 

「なら他に手はあるか!!?」

 

 

 

 二人が怒鳴りあっているその時だった、強烈な黄金の熱線がイザーク達に迫る敵を焼き払ったのだ。

 

 

 

 二人はその光景に呆然としながら光が放たれた方角を見る。

 

 

 

「今のは、ユニウスセブンを消滅させたーー?」

 

 

 

「シュバルツ。いやドモン、か?」

 

 

 

 呟いた彼らの前に現れたのは、赤い翼を広げた20メートルを越えるMSにしては大型の機体。

 

 

 

 ゴッドガンダムと同じ顔を持つ対となるガンダムーーデビルガンダムだった。

 

 

 

 彼は蒼紫に燃える両手をこちらに突き出して構えを取りながら、言った。

 

 

 

「ラクスーーか?」

 

 

 

 その言葉にエターナルのラクスが通信を開いた。

 

 

 

「Dさん!!」

 

 

 

 モニターに写ったのはドモンと同じ顔をした赤い髪に紅の瞳をした男。

 

 

 

 デビルガンダムーーDだった。

 

 

 

 彼は、背後に四機のガンダムを従えてそこに居た。

 

 

 

「こいつらはーー!?」

 

 

 

「もう宇宙に来たのかよ!?」

 

 

 

 ヘブンズベース基地で彼らが「人類の敵」と名乗ったのは記憶に新しい。

 

 

 

 だが、こんなにも早く大気圏外に来るとは思わなかった。

 

 

 

 見れば後ろにレセップス級がある。

 

 

 

「ラクス、ダコスタ。貴様ら、ここで何をしている?」

 

 

 

 Dの問いかけにラクスが凛とした気配で言った。

 

 

 

「月にある地球連合基地が関係していると思われる衛星兵器。それを破壊しようとしたのですが、破壊に成功したと同時に残骸が巨大なガンダムヘッドに変化したのです。力を貸してくれませんか!」

 

 

 

「お願いします、Dさん!! このままじゃ、オーブに居る皆が!!!」

 

 

 

 ラクスとダコスタの言葉にDは眉を顰める。

 

 だが、彼よりも早く反応したものがいた。

 

 

 

「デビルガンダムさま!! ここは俺に戦わせてください!! オーブは、あの国は今討たれるわけにはいかないんだ!!!」 

 

 

 

 少女と見紛うばかりの美しく儚げな少年。

 

 

 

 レイ・ザ・バレルは金色の髪をなびかせ必死になってDに訴えかける。

 

 

 

 人類の敵と名乗った連中の力を借りる。

 

 

 

 それがどれだけ恐ろしいことなのかと、イザークは言いたかったがラクス様の迫力はそれを止めさせるものだった。

 

 

 

 Dは無表情ながらも思案しているようでもあった。

 

 

 

「Dよ。ここは戦力を二つに分けようではないか」

 

 

 

「できるか?」

 

 

 

 初老の男ーーマスターアジアの言葉にDは静かに問いかける。

 

 

 

「俺とマスターアジアだけでもこの程度は充分だ」

 

 

 

 チャップマンがそれだけを告げて構えようとする、がマスターアジアは止めた。

 

 

 

「待て、チャップマン。ここは其処のレイと言う小僧に任せて見ぬか? ミケロ、手を貸してやれい」

 

 

 

 マスターアジアの提案にチャップマンは面白そうに笑みを浮かべる。

 

 

 

 話を振られたミケロは唾を一つ吐き捨てると、言った。

 

 

 

「ケッこの程度のスクラップどもなんぞ、俺様だけで充分だぜ!!」

 

 

 

 言うやミケロは漆黒の気を足先に纏わせると空を蹴り払った。

 

 

 

 同時に扇状型に光が放たれる。

 

 

 

 その光は無数の光弾に拡散すると、一気に触手とMS部隊を撃ち抜いた。

 

 

 

「す、凄いーー!」

 

 

 

 ミリアリアが思わず口にする。

 

 

 

 いまの一撃は、ミーティアを持ったイザークやディアッカに匹敵する数の敵を葬ったのだ。

 

 

 

「ミーティアを装備した俺達とほぼ同じ火力、か」

 

 

 

「怖いねぇ。MFってのは!」

 

 

 

 告げあう二人にミケロは言った。

 

 

 

「ああ? この程度もできねえのなら、失せろよガキ。足手まといだぜ」

 

 

 

「……ほう?」

 

 

 

 ミケロの言葉にイザークのこめかみにしわが寄った。

 

 

 

 ディアッカの表情が歪む。

 

 

 

「頼むぜ、イザーク! 今はーー!!」

 

 

 

「分かっている。後でだ」

 

 

 

 そう告げながらミーティアの砲撃を乱射しながら、次々と敵を落とすイザークにディアッカは引きつった笑みを浮かべた。

 

 

 

 だが、巨大なガンダムヘッドは先の攻撃にも全くの無傷だ。

 

 

 

「Dさん、月に向かわれるのですか?」

 

 

 

 その時、ラクスが戦闘中でありながらDに問いかけた。

 

 

 

 これにDが静かに彼女を見据える。

 

 

 

 その瞳をラクスは正確に読んでいく。

 

 

 

「ミーアさんーーいいえ、ミーアが月に?」

 

 

 

 ラクスの言葉に応えずに静かに彼女から視線を外すと、Dは月を見据えて言った。

 

 

 

「ラクス。ダコスタ」

 

 

 

 彼の言葉に二人は静かに彼を見据える。

 

 

 

 続く言葉は、ラクスとダコスタを場を弁えずに呆然とさせた。

 

 

 

「ーー死ぬなよ」

 

 

 

 それだけを告げると、Dは黄金の気を全身に纏う。

 

 

 

 そして右手に蒼紫の炎を纏わせると、叫んだ。 

 

 

 

「我のこの手が陰りて嗤う。すべてを屠れと昂まり狂う!」

 

 

 

 巨大なガンダムヘッド本体に向かってデビルガンダムは駆けた。

 

 

 

 黄金の気の粒子がデビルガンダムに巻き付こうとしていた触手やMS達を消し飛ばしていく。

 

 

 

「! なんだ、これは!!」

 

 

 

「はは、こいつが俺たちの敵だって? ムチャクチャだぜ」

 

 

 

 黄金の光の道を作りながらデビルガンダムは蒼紫に燃える右手を振りかぶる。

 

 

 

 牙を剥き出しにして食らいつこうとする巨大ガンダムヘッドに右手を突き出した。

 

 

 

「暴ぅうう裂っ!! デビィイイイイルフィィンガァアアアア!!!」

 

 

 

 蒼紫に燃える光の球がガンダムヘッドの眼前に現れ、恒星に突っ込む哀れな残骸のように消し飛んでいく。

 

 

 

ーーグアアアアアアアアアアアッーー

 

 

 

 化け物の断末魔が宇宙に響いた。

 

 

 

 あまりの威力にポカンとする一同を置いて、デビルガンダムはコロニー大のガンダムヘッドを消滅させるとそのまま月に向かって飛び立って行った。

 

 

 

 その後を漆黒のボディに赤い羽根の機体ーーマスターガンダムと紳士と軍服を足して割ったような機体ーージョンブルガンダムが付き従っていく。

 

 

 

「ラクス様、彼は何故人類の敵になるんですか? 彼は、今俺たちのことをーー!!」

 

 

 

 ダコスタの言葉にラクスは静かに去っていく三機の光を見据えた。

 

 

 

「……彼は。いえ、それよりも今はーー!」

 

 

 

 ラクスの言葉に呼応するように、もう一基のゲシュマイリヒパンツァーリングを庇うデスバットと戦艦の軍団。

 

 

 

 コロニー大のガンダムヘッド。

 

 

 

 その触手たちの残骸はアステロイドベルトの鉄くずを吸収してデスバットに変化する。

 

 

 

「数は多いが、さっきの化け物が居ないなら何とかなるか!!」

 

 

 

「時間をかければな。だが、ビームを撃たれたら終わる。こちらは油断が一切できん」

 

 

 

 言い合う二人に近寄るのはレジェンドガンダムに乗ったレイだった。

 

 

 

「効率よく敵を倒していくしかありません。貴方の指示に従います、イザーク・ジュール」

 

 

 

「その声ーークルーゼ隊長に似ているな。それにザフト製の機体、か」

 

 

 

 何か言いたげなイザークにレイは何も告げない。

 

 

 

 静かに見つめあうこと数秒、イザークは言った。

 

 

 

「余計な詮索はしないでおく。今は、こいつらを倒してあのリングを破壊することが先決だ」

 

 

 

「助かります」

 

 

 

 その言葉にレイが頷き、ミケロを向いた。

 

 

 

「力を貸してくれ。ここでオーブを撃たれるわけにはいかない。貴方もドモン・カッシュと戦いたいのだろう?」

 

 

 

「おい、根暗のガキ。てめえまさか、この俺様にいけ好かねえガキどもの指示を聞けってんじゃねえだろうな?」

 

 

 

 ミケロが獣のような咆哮を上げながら告げるのを予測していたようにレイは言った。

 

 

 

「マスターアジアの指示ではあなたは俺に手を貸すことになっているはずだ。頼む、仲間を守りたいんだ!! 後でいくらでも文句を言ってくれて構わない!! だから、今は!!!」

 

 

 

 必死の形相で頼み込むレイにミケロは鋭い目をイザークに向けた後、レイに向き直った。

 

 

 

「レイっつったよな? テメエ、自分で指示もできねえのかよ?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「俺様は、あくまでテメエに手を貸せと言われてんだ。何かを守りたいってんなら自分の力で守れや。他人に指示なんぞ聞いて甘えてんじゃねえ」

 

 

 

 その言葉にレイが困惑する。

 

 

 

「だ、だがーー俺ではーー!」

 

 

 

 イザークが隣から声を張り上げた。

 

 

 

「俺たちは構わんぞ! 奴らを倒せるならなんでもな!!」

 

 

 

「この際だ。お前の指示の方が案外、頭に血が上りやすいイザークよりやれるかもしれねえしな!!」

 

 

 

 ディアッカも迷うレイの背を押すように提案した。

 

 

 

 はっきり言って時間がない以上、レイも迷っている暇はない。

 

 

 

 祈るようにレジェンドガンダムのグリップを握りしめた。

 

 

 

 すると不思議なことに、彼の中の不安が静かに穏やかになっていく。

 

 

 

(レジェンドガンダムーーお前は)

 

 

 

 静かにシュバルツからの教えを思い出した。

 

 

 

 ガンダムは道具ではない、己の一部とせよ。

 

 

 

 ならば自分の分身とも言えるレジェンドガンダムが、不安を和らげてくれているのだろうとレイは静かに頷き、告げた。

 

 

 

「分かった! 各機、俺の指示に従ってくれ!! この宙域にあるDG細胞とリングを破壊する!!」

 

 

 

 イザークとディアッカの二人にはラクス達の護衛兼、広範囲によるビーム砲での殲滅を。

 

 

 

 旗艦やリーダー機の破壊は自分とミケロが請け負うと告げる。

 

 

 

 輪っかを破壊するのならば、ミケロの力だけでも可能だとレイは踏んでいた。

 

 

 

 イザーク達のコンビネーションはさすがだ。

 

 

 

 接近戦も遠距離戦も難なくこなす彼らは、互いの能力についても分かり合っている。

 

 

 

「残された問題は、俺の判断力か」

 

 

 

 ミケロを見ながら言うと、彼は静かにレイを睨みつけてきた。

 

 

 

「さっさと指示してみろ。そのとおりに動いてやらあ。どうして欲しい!?」

 

 

 

 その言葉に静かに頷くと、明鏡止水を使って機体と自身の五感を一つにする。

 

 

 

 敵陣の戦力の配置を頭の中の地図で確認し、正確に割り出す。

 

 

 

(こちらは強力だが4機に対し、敵は再生もできる機体が100数機か)

 

 

 

 5機のデスバットに囲まれるも、すぐさま予め展開していたドラグーンでハチの巣にする。

 

 

 

「ミケロ! 左舷が薄い、突破できるか!?」

 

 

 

「誰にモノを言ってやがる!? その目ん玉でよく見やがれ!!」

 

 

 

 ミケロを見れば無数に放たれたビームを脚を一振りするだけでかき消すと、一気に距離を詰めて一機のデスバットの頭を蹴り抜くと首だけ残った機体を踏み台にして、駆けると右足に更に気を溜めて放つ。

 

 

 

「銀色のぉおお脚ぃいいいっ!!」

 

 

 

 扇状に放たれた漆黒の光。

 

 

 

 先のように漆黒の光から拡散してビームを放つ。

 

 

 

 上半身や下半身を消し飛ばされながら、ビームを放ってくるデスバット部隊。

 

 

 

 ミケロはネロスガンダムを駆けさせ、ジグザグに宇宙空間を移動させて多重ビームを避けていく。

 

 

 

「大口を叩くだけはあるようだな、あの男!」

 

 

 

「まあ、人間全てを敵にしようってんだ。あれくらいはできるだろうよ、さっきのデビルガンダムとやらを見ても思ったが……」

 

 

 

「…確かにな」

 

 

 

 言い合うと互いにミーティアの武装を開放し、フルバーストを放つ。

 

 

 

 二機の放った一撃はそれぞれ、先のミケロと同等かそれ以上の威力を誇っている。

 

 

 

 これに対応するように敵の動きも変わり始めた。

 

 

 

 ガンダムヘッドがマスクを展開し、口からビームを吐き始めたのだ。

 

 

 

 光弾は貫通力が高く、簡単に小隕石を貫いてエターナルや輸送シャトルを狙ってくる。

 

 

 

「こいつら!!」

 

 

 

「小賢しい真似を!!」

 

 

 

 ミーティアは確かに高い火力を誇る。

 

 しかし、巨大なユニットをMSに取り付ける為、接近戦や細かい動作ができない。

 

 

 

 ビームソードで切り払おうにも、無数のビームを全て切り捨てるには無理がある。

 

 

 

 かと言ってこの数を相手にミーティアを無くすのは火力的にも痛い。

 

 

 

 イザーク達は常に選択を強いられる戦いだった。

 

 

 

 精神的にも相当な疲労が溜まっている。

 

 

 

 当たりどころが悪ければ、一発で戦艦を落とせる桃色のビーム。

 

 

 

 ガンダムヘッドの恐ろしさが身に染みる。

 

 

 

 ミーティアに何発か被弾させるも、戦艦には触らせないイザークとディアッカ。

 

 

 

 だが、限界も近い。

 

 

 

「ーーこのままでは、ジリ貧だな」

 

 

 

 ミーティアのあちこちから火花を散らしながら、イザークは静かに呟く。

 

 ディアッカも冷や汗を流しながら言った。

 

 

 

「落ち着いてる場合じゃねーよ」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 更なるガンダムヘッドのビームキャノンが、二人を襲ったのだ。

 

 

 

「後ろに戦艦があるコースを的確に狙うとはな!」

 

 

 

「厄介極まりないぜ、ホントによ!!」

 

 

 

 言い合うと、衝撃に備えようとする。

 

 しかし、それを止めたのはレイのドラグーンシステムだった。

 

 

 

 ドラグーンの4基をイザークとディアッカを囲むように配置するとビームを発生させ、巨大なビームの幕を作ったのだ。

 

 

 

 ガンダムヘッドの光弾がビームである以上、このビーム幕に防がれてしまう。

 

 

 

 レイの頭の中にあったのは、師匠であるシュバルツが変身したバラの花の形をしたドラグーンを放つ騎士を模したガンダム。

 

 

 

 レイは知らないが、彼こそはネオフランスが誇る美と情熱の騎士ーー。

 

 

 

 美しい顔に似合わない熱き魂のファイター。

 

 

 

 彼の考案したローゼススクリーマー、レイはドラグーンシステムでこれを再現してみせたのだ。

 

 

 

「…やるじゃねえか。ネオフランスの技を真似るなんて、な。見直してやるよ」

 

 

 

 ビーム兵器を完全に遮断する盾を見て、ミケロがニヤリと笑う。

 

 

 

「ミケロ、イザーク、ディアッカ! 奴らの戦艦への攻撃は俺が防ぎきる!! ミケロは、この隙にリングを落とせ!! イザーク達は、敵の総数を減らしてくれ!!」

 

 

 

 これにイザークが叫び返した。

 

 

 

「借りは返すぞ、レイとやら!!」

 

 

 

「任せろ、全部まとめてミーティアで落とす!!」

 

 

 

 二機のミーティアのフルバーストが放たれた。瞬く間に落とされる無数のデスバットとゴーストシップ。

 

 

 

 しかし、ガンダムの顔をした異形ーーガンダムヘッドにはまるでダメージが通らない。

 

 

 

 それは、ミケロの銀色の脚でも同じだ。

 

 

 

 ネロスガンダムは静かに両拳を左右の腰に置き、気を溜める。

 

 

 

「クァアアーーッ!! 見せてやる、このミケロ様の真の実力を!!!」

 

 

 

 言うや気を纏う。

 

 

 

 その気の昂まりは赤い炎を具現化し、橙色の光が差し、青い水を可視化させ、藍色の空を思わせ、森林の緑の気を高め、黄色の雷を生み出し、紫の闇色が映える。

 

 

 

 七つの自然に存在する気の色。

 

 

 

 チャクラと呼ばれる体内に七つある気の発生核。

 

 

 

 本来は気による武闘術を学ばねばならないのだが、ミケロは誰に教わるのでもなく、独学で得ていた。

 

 

 

 その拡散される七色の光を放つ技の名はーー

 

 

 

「虹色の、脚ィィィッ!!」

 

 

 

 放たれた七つ色の光は、見事に無数にいたデビルガンダムヘッドを射抜き、爆破させた。

 

 

 

 更に駄目押しでレイが、残骸に向かってドラグーンを放つ。多重ビーム砲は、残骸から形を成そうとしていたDG細胞を消し飛ばした。

 

 

 

「今だ、ミケロ!!」

 

 

 

 レイが目を見開き、クリーンになった視界に入った輪っかを指して叫ぶ。

 

 

 

「やってやんよぉ!! 見てろよ、これが俺様の最高の必殺技!!!」

 

 その言葉にミケロが咆哮を上げながら、陸上競技のクラウチングスタートのような構えを取る。

 

 右の足先に気を溜めていく。

 

 漆黒の光を放っていた気の光が青白く輝き始める。

 

 

 

「ハイパァー銀色の脚ィィィッスペシャァアルゥウ!!」

 

 

 

 ロケットの如きスピードで。

 

 

 

 槍の如き鋭さで。

 

 

 

 弾丸の如き勢いで。

 

 

 

 ネロスガンダムは、彗星のように光の粒子を脚から放ちながら一瞬で輪っかの真上を取ると、そのまま急降下してぶつかる。

 

 

 

 瞬間、呆気なく感じるほどアッサリと廃棄コロニーで作られた巨大な輪っかは真っ二つに斬れた。

 

 

 

 その切り口は日本刀にも匹敵するほどだった。

 

 

 

 斬れた輪っかはミケロの気によって切り口から爆発し、跡形もなく消えて行く。

 

 

 

「天剣絶刀ーーそれが俺様とネロスガンダムの二つ名よ!!」

 

 

 

 それを見てニヤリと残忍に笑うミケロの姿をレイは、恐ろしくも頼もしく感じていた。

 

 

 

 これでオーブを護れた。

 

 

 

 仲間を救えたのだと、レイは安堵した。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「ーーなに!? 巨大なビーム砲だと!!?」

 

 

 

 イザークの言葉に皆が彼のほうを向くと、一瞬後に全てを飲み込む緑色の巨大なビームが地球に向かって降っていった。

 

 

 

「バカな!? コンピューターの計算じゃ、今倒した奴が拠点で間違いないだろ!!?」

 

 

 

「そんな!!?」

 

 

 

 ディアッカの言葉を遮るようにミリアリアが悲鳴を上げた。

 

 

 

「動いてるーー!」

 

 

 

「どういうことですか?」

 

 

 

 ラクスの言葉にミリアリアが青くなった顔のまま、告げた。

 

 

 

「リングの配置図が、さっきまでと全然違ってる。別の角度からオーブに向かってーー!」

 

 

 

「そ、それじゃーー!!」

 

 

 

 ダコスタが地球を見ながら呟いた。

 

 

 

「オーブが焼かれる?」

 

 

 

  オーブ諸島で展開されていた戦闘が中止されていた。

 

 

 

 オーブ・連合・ザフトの三軍は唇を噛みしめながら、カタパルトから今脱出するジブリール達を見据える。

 

 

 

 4機のガンダムが光となってシャトルに吸い込まれた後、宇宙に向かって間髪入れずにシャトルが射出された。

 

 

 

 フォログラムのジブリールが微笑む。

 

 

 

「ご苦労。それでは諸君、宇宙で会おうではないか。もっとも、諸君がこの場を生きて出られたら、だが」

 

 

 

 その言葉に全軍が目を見開く。

 

 

 

「やっぱり、シャトルがカタパルトを出ると同時にーー!」

 

 

 

「オーブをレクイエムとか言う兵器で撃つつもりだったな!!」

 

 

 

 キラとシンの言葉にニヤリと微笑みながら、ジブリールは告げた。

 

 

 

「さらばだ、諸君。後5分で君たちのもとに裁きの光が満ちる。その光から逃れるために無駄な努力をするもよし、祈るもよしだ。好きにしたまえ、それではな」

 

 

 

 既にシャトルは宇宙に向かって空を飛んでいる。

 

 

 

 あれに追いつくのも打ち落とすのも、もはや間に合わない。

 

 

 

「……ここまでなのか」

 

 

 

 アスランが空を見上げながら呟く。

 

 

 

 ゆっくりと緑色の光の輝きが大気圏外から迫ってくるのが視認できた。

 

 

 

 オーブ本国司令部にいるカガリもまた、力を抜いて膝を付く。

 

 

 

「お父様、申し訳ありません。お父様から託された民を、国を、私は守れませんでした。申し訳ありません、お父様。カガリを叱ってください」

 

 

 

 涙を流しながら、カガリは呟く。

 

 

 

 シェルターに避難した国民も本土ごと消されれば逃げ場などない。

 

 

 

 オーブは本当に今日、終わるのだ。

 

 

 

「諦めるのは、まだ早い」

 

 

 

 その時に聞こえた声は、何度もオーブの危機を救った青年の言葉だ。

 

 

 

 オーブ軍の全ての人がシャイニングガンダムに乗る青年を見据える。

 

 

 

「私たちはただ、見ればよい。神域の奥義を」

 

 

 

 その声はザフト軍のミネルバ隊に響き渡る。

 

 

 

 何度も窮地を脱してきた男の声に。

 

 

 

「「私(俺)たちの弟、ドモン・カッシュの力を信じろ!!」」

 

 

 

 二人の声が重なったとき、ドモンが目を力強く見開いて空を見上げる。

 

 

 

 緑色の光は既に空全体を覆いつくさん程に広がりながら、オーブに迫っている。

 

 

 

「無茶ですよ。たとえドモンさんの石破天驚拳で仮にビーム砲を打ち破れても、この一帯は電子レンジよりも高圧のガンマ線に晒されてーー」

 

 

 

 キラが静かにつぶやこうとして、ドモンの力強い瞳を見据え、押し黙る。

 

 

 

「ドモンさん、貴方はーー」

 

 

 

 ドモンの目には恐怖もあきらめもない。

 

 

 

「俺を信じろ、皆ーー!」

 

 

 

 この窮地にありながら、彼は全く己の勝利を信じて疑っていない。

 

 

 

 その言葉に、シンは目を見開いて拳を握った。

 

 

 

(なんだ、こんな状況なのに。どうして、この人なら何とかしてくれるって思っちまうんだ?)

 

 

 

 そのシンの思いがこの場にいる人々に水のように浸透していく。

 

 

 

「はぁあああ! 流派!! 東方不敗が!! 石破ぁ!! 天驚ぉおおおおおーーー!!」

 

 

 

 右腰に溜めていた黄金の光の球を前方に右手で突き出した後、ドモンは叫んだ。

 

 

 

「ーーゴォッドフィンガァアアアアアア!!!」

 

 

 

 一瞬後、紅蓮の光がオーブ全体を包み込んだかと思うと、空一面をつかみ取るかのような巨大で真っ赤に燃える右手が宙に浮かぶ。

 

 

 

 その手はそのまま強大なレクイエムの光を掴みとめた。

 

 

 

「そ、そんな! 爆発も破壊もさせずに掴みとめた!!」

 

 

 

 キラがこの現象に思わず声を漏らす。

 

 

 

 それを横目にニッと笑って見つめた後、ドモンは鋭い目でレクイエムの光を睨みつけると叫ぶ。

 

 

 

「このまま一気に大気圏外にまで押し返してやる!! はぁあああああああ!!!」

 

 

 

 ドモンの気合の声が響く。

 

 

 

 赤い掌が更に強大になり、レクイエムの光を一気に押し返してしまう。

 

 

 

 そのまま一気に大気圏外に出たのを確認すると、ドモンは自分の右手をまるでリンゴを握りつぶすようにして閉じた。

 

 

 

「ヒィイイイイイト! エェエエエエエンドォオッ!!」 

 

 

 

 大気圏の外で起こった爆発は恒星のように真っ赤に空を染め上げた。

 

 

 

 だが目を焼くほどの光だと言うのに、その光は人々の心に温かさを思い起こさせた。

 

 

 

 まるで家族と共にいる時のような温かみ。

 

 

 

 親に守られている赤子のように。

 

 

 

 呆然と空を見上げた人々は、やがて元通りの色に戻った空を見て自分たちが生き延びたことを確信する。

 

 

 

 右拳を振り切った姿勢で止まっているトリコロールの機体。

 

 

 

 日輪を背にしたガンダムを見て。

 

 

 

「……これが、シュバルツさんの弟。最強の武道家ーー!!」

 

 

 

「キング・オブ・ハート。ドモン・カッシューー」

 

 

 

 呆然と呟くシンの隣では、キラも同じように言葉を失っていた。

 

 

 

 そんな彼らの後ろでは、生き延びた現実を感じて取り、人々が徐々に喜びの声を上げ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーブシャトルにて。

 

 

 

 悠然とジブリールは中に入って来たウォンとウルベ、そしてガンダムファイター三人を迎えた。

 

 

 

「よくやってくれました、ジブリール」

 

 

 

「レクイエムーー衛星兵器を出すタイミングとしては非常にいいタイミングだった」

 

 

 

 ウォンとウルベの言葉にジブリールは笑みを返しながら告げる。

 

 

 

「今、月のアルザッヘルから連絡があってね。ダイダロスからレクイエムを発射しようとしたが、中継ステーションの反応が消えるそうだ。調べたら、コーディネーターの歌姫の艦が居たようだよ」

 

 

 

「DG細胞に感染させて進化させてできた中継ステーションを破壊するとは。ドモン・カッシュの余裕はラクス・クラインでしたか。やはりデュランダルと共にいるラクス姫は偽物か…」

 

 

 

「既にDG細胞によって進化した中継ステーションは、別の経路を取るように指示してある。ゆっくりと見ようではないか、オーブの最期をね」

 

 

 

 考え込むウォンを見ながらジブリールは二人を対面に座らせ、ワインを部下に注がせる。

 

 

 

「ドモンが我々を狙っているようだが、それもこの一撃で終わりだ。仮にゴッドガンダムがレクイエムのビーム砲自体を打ち破っても大気にはレクイエムのガンマ線が満ち溢れ爆発する。いわば極々小規模のガンマ線バーストが発生する、あのオーブ周辺の海域はサイクロプスの比ではない熱量に晒され、消し飛ぶだろう」

 

 

 

 ジブリールからの報告にウォンは微笑むと注がれたワインを手に取り一口含む。

 

 

 

「勝利の美酒を味わえるとは、嬉しいですね」

 

 

 

 対してウルベは注がれたワインを見据えるだけで、静かに窓の外から見える緑色の光の柱を確認する。

 

 

 

「どうしました、ウルベ」

 

 

 

「ウォン。それにジブリール。君たちの思い通りにはいかないようだ」

 

 

 

 ウルベの言葉にジブリールが訝し気に外を見る。

 

 

 

 同時に彼の目には、真っ赤に燃える巨大な右手がレクイエムの光を掴みとめて、大気圏の外へと押し返していく光景が映った。

 

 

 

「ーーな、な?」

 

 

 

 金魚のように口をパクパクさせるしかないジブリールを尻目にウルベはワインを口に含む。

 

 

 

「マーキロット。君たちは彼に勝てるかね?」

 

 

 

 淡々と冷たい何の感情も映さない翡翠の瞳でウルベは、そばに跪く三人のファイターに問う。

 

 

 

 彼らは静かに凶暴な色を瞳に宿して見返してきた。

 

 

 

 それにウルベもニヤリと笑みを浮かべて頷く。

 

 

 

「まあ、何はともあれ。無事に宇宙にこれたのだ。良かったではないか」

 

 

 

 気を取り直せ、と言わんばかりのウルベの言葉にウォンも笑みを返した。

 

 

 

「確かに。少々危ない橋でしたが、何とか渡り切れたようです」

 

 

 

 シャトルは既に大気圏に突入していた。

 

 

 

 この場で攻撃を仕掛けてこれるものなどいない。

 

 

 

 そう思っていた。

 

 

 

「! ウォンさま。何かしら、この音は」

 

 

 

「馬の蹄の音ーー? 何故?」

 

 

 

 シジーマとロマリオが同時にその音に気付く。

 

 

 

 マーキロットの駆るゼウスガンダムの戦車ーーハーキュレイと似て非なる、力強く野性味溢れる蹄の音。

 

 

 

 彼らが外を見たとき、燃える世界の向こうからシャトルに向かって駆けよってくる馬の影があった。

 

 

 

「あれはーー東方不敗マスターアジアの風雲再起!」

 

 

 

 一角獣を思わせる角と、光の翼を背負って駆ける姿は正にマスターアジアからドモン・カッシュへと受け継がれたモビルホース。

 

 

 

 風雲再起だった。

 

 

 

 その手綱を握りしめ、こちらに駆けるガンダムにもウォンとウルベは見覚えがある。

 

 

 

「あれはーー! 暴走するアレンビーを止めた!!」

 

 

 

「ミカムラ博士のライジングガンダム、か」

 

 

 

 シャイニングガンダムの予備パーツで作られたプロトタイプを強化して作られた機体。

 

 

 

 本来ならば自分が乗るはずだった機体を前にウルベが目を見開く。

 

 

 

 風雲再起を駆るライジングガンダムは、大気圏突入中のシャトルの横に着くと並走を始め悠然と左手をこちらへとむける。

 

 

 

「ま、まさかーー!」

 

 

 

 気流が真っ赤に燃えて動かすのさえままならないはずなのに、ライジングガンダムは悠然と左手首に装着している青色の弓を展開。

 

 

 

 右手でゆっくりとビームの弦を引いて発射口にエネルギーを集中していく。

 

 

 

「気による遠隔リモートコントロールか! だが、一体だれが!!」

 

 

 

 ウルベがそういうと同時にウォンがマーキロット達に叫ぶ。

 

 

 

「何をしている!? 迎撃しなさい!!!」

 

 

 

「無茶言わんでください、大気圏突入中に装備もなしじゃ。闘おうにも戦えませんぜ」

 

 

 

 マーキロットの言葉にウォンが目を見開く。

 

 

 

「こ、こんなところでーー! 私の野望が!!」

 

 

 

「い、いやだ! 世界を手に入れられるというのに、こんなところで!!」

 

 

 

 ジブリールも首を横に振りながら、見据える。

 

 

 

 無情にもライジングガンダムはこちらに向かって矢を放った。

 

 

 

「必殺必中ぅううう!! ラァアアイジングゥウアロォオオオオオ!!!」

 

 

 

 ドモンの声が響き渡り、放たれた緑色の光の矢は寸分たがわず大気圏突入中のシャトルに突き刺さった。

 

 

 

「おのれーー!! おのれ、ドモン・カッシュぅううううううう!!!!」

 

 

 

 ウルベの絶叫が響く中、彼らの乗るシャトルは大気圏突入の熱気流に飲み込まれながら爆発して消えて行った。

 

 

 

 その爆煙を見送ると、ライジングガンダムは展開していた弓を左腕に直し、手綱を掴んで風雲再起の馬首を地球に向けると地上へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね~!
 
 窮地を脱し、ついにウルベ達と決着を付けたドモン達。

 一方、宇宙ではラクス達と離れ、デビルガンダムことDとマスターアジア、ジェントル・チャップマンの三名が。

 月面施設にて囚われの身であるミーア・キャンベルを救うため、コペルニクスに殴り込みを仕掛けるのです!

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第81話に!!

 レディー、ゴー!!


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第81話 それぞれの戦い

 みなさん、オーブは窮地をようやく逃れることができました。

 今回から話は宇宙へと舞台を動かすことになりそうです。

 ミーアを救うために中立都市コペルニクスに潜入した3人の超人。

 また、ミーアを救うためにラクスもレイ達と行動を共にすると言いはじめるのです!

 はたして、どうなるのか?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイッ、ゴォォォオオオッ!!


 

 宇宙に居るラクス達が呆然と緑色の光ーーレクイエムを見送る。

 

 

 

 己の無力さにラクスは歯を食いしばり、涙を必死にこらえていた。

 

 

 

 誰もがうつむき力なく漂う中、声が上がった。

 

 

 

「お、おい。あれはーー!」

 

 

 

 ディアッカが指さすのと皆が目を見開くのは同時。

 

 

 

 真っ赤に燃える巨大な右手がレクイエムの光を掴みとめて、一気に大気圏外に押し出している光景が映っていた。

 

 

 

「ま、マジかよ!」

 

 

 

「敵も敵だが、味方も味方だな」

 

 

 

 ディアッカの言葉にイザークがあきれた声を上げる。

 

 

 

 一方でレイも呆然とその圧倒的な紅蓮の光がレクイエムを飲み込んで行くのを見据えて呟いた。

 

 

 

「これが、あの人の弟ーー」

 

 

 

「ミリアリアさん、オーブは!?」

 

 

 

 ラクスの必死の言葉にミリアリアがレーダーを確認する。

 

 

 

「……オーブ周辺確認。諸島健在。無事よ!!」

 

 

 

 ミリアリアの言葉にこの場にいる皆が安堵の微笑みを浮かべた。

 

 

 

 同時にレイが震える手を抑えながら、ため息をつく。

 

 

 

「おい。この程度でガタガタふるえてんじゃねえぞ?」

 

 

 

 ミケロが鋭い瞳でレイを射抜く。

 

 その迫力はすさまじく、並みの人間ならば動きが止まるところだろう。

 

 

 

 しかしレイは静かに首を横に振る。

 

 

 

「ああ。大丈夫だ」

 

 

 

 その答えにフン、と鼻で笑うとミケロは顎でレセップス級を指して言った。

 

 

 

「とっとと行くぞーーレイ」

 

 

 

 その言葉にーーガキというのではなく自分の名前を呼んだことにレイは目を見開き、マジマジとミケロを見ると彼は何食わぬ顔で「さっさとしろ」と言って背を向けてきた。

 

 

 

「あの船を動かすなんて面倒なこと、テメエに任せるぜ」

 

 

 

「…ああ。分かった」

 

 

 

 言うと二人はレセップス級に乗り込む為にガンダムを向け、乗りこんでいく。

 

 

 

 ブリッジに来たレイとミケロにラクスから通信が入った。

 

 

 

「本当にありがとうございました。あなた方のおかげです」

 

 

 

「いいえ。俺たちもオーブには沈んでもらうわけにはいきませんから」

 

 

 

「……そうですか」

 

 

 

 レイの言葉にラクスが何か探るような色を瞳に宿す。

 

 

 

 だが、それまでだった。

 

 

 

「ラクス・クライン。貴女もまた闘うものならば、いずれ我々と敵対するでしょう。ですが、今はーー」

 

 

 

「ええ、今闘うことはわたくしも望みません。そしてできることならば、皆が手を取りあえる未来をーー!」

 

 

 

 その言葉にレイは苦笑を浮かべて言った。

 

 

 

「人は、何も問題を持たずに手を取りあえることはありません。それは今までの人の世が証明しています。俺の存在もコーディネーターの存在も。人の欲が生み出したものなのですから」

 

 

 

 レイの言葉にモニターのラクスは悲し気に目を細める。

 

 

 

 そして彼女は言った。

 

 

 

「レイさん。わたくしもDさんと共に妹を迎えに行きたいのですが、ダメでしょうか?」

 

 

 

「ーー妹?」

 

 

 

「ええ。ただ一人の、わたくしの家族です」

 

 

 

 ラクスの言葉にレイは眉根を寄せて告げる。

 

 

 

「彼女ーーミーア・キャンベルのことですね。正体をご存じで?」

 

 

 

「正体?」

 

 

 

 レイは静かに頷くと言った。

 

 

 

「彼女はナチュラルの親に捨てられた第一世代のコーディネーターです。髪や瞳の色、頬のそばかすが気に入らない、として”ミーア”は捨てられました。キャンベル教会と言う孤児院で彼女は育てられたのです」

 

 

 

「……!」

 

 

 

 その言葉にラクスとダコスタの瞳が大きく見開かれる。

 

 

 

「彼女は自分とよく似た声の貴女に憧れていました。幼い頃より貴女の歌を聞いて彼女は生きてきたのです。そんな彼女が歌手になろうと努力し、その歌を議長に聞かれて拾われたのは運命かも知れません」

 

 

 

「レイさん。貴方は……」

 

 

 

 神妙な顔で語るレイにラクスは湧いた疑問を問いかけようと声をかける。

 

 

 

 それを遮ってレイは続けた。

 

 

 

「俺は議長ーーギルバート・デュランダルに言われてラクス・クラインになる者を調べていました。条件の合う女性を「議長のラクス」に変えたところで、家族にそのことが分かれば何の意味もありません。

 

 ですから、私は初めから身寄りのない孤児院を探すように言われ、ミーアを見つけました。そして、彼女が「ミーアを捨てる」ことができるのか客観的な状況を確認したのです。身寄りもなく、施設にも名前と年齢が記載された書類データしかない彼女はこれ以上ないほど、デュランダル議長の望みに当てはまる存在でした」

 

 

 

「……わたくしが姿を消したことにも責任があります。彼女の夢を利用された責任の一端はわたくしにもあるのですから」

 

 

 

 レイの言葉にラクスは苦虫を噛んだような顔をして言う。レイは表情を消すと感情が映らない冷たい目で問いかけた。

 

 

 

「罪滅ぼしの為に、彼女を引き取ろうと?」

 

 

 

「……最初は罪滅ぼしのつもりでした。ですが、今は。勿論彼女の意志が一番大切ではありますが。わたくしの希望は、たった一人の家族にーー妹になってほしい、ですわ」

 

 

 

 遠慮のない問いかけにもひるむことなく、正面からラクスはレイを見返して言う。

 

 

 

 それにレイも静かに頷くと、言った。

 

 

 

「では、共に参りましょう。貴女の妹であり我が王の想い人でもある女性を救うために」

 

 

 

「…はい。ありがとう、レイさん」

 

 

 

 穏やかに美しく微笑み淡々と話を進めるラクスに周りの人間は困惑していた。

 

 

 

「ちょっと待ってよ、ラクス! いくら何でも敵地のど真ん中に行こうなんて!!」

 

 

 

「そうですよ、ラクス様!!」

 

 

 

 ミリアリアとダコスタに止められるがラクスは凛とした気配を纏って言った。

 

 

 

「大丈夫です。コペルニクスはプラントにも連合にも属さない中立都市。オーブの施設もありますからミリアリアさんとダコスタさんは艦の補給をしておいてください。

 

 レイさん、今からそちらの艦に行きます。わたくし一人の身ならば、それほど時間はかかりません」

 

 

 

 言い出すと聞かないということを知っているダコスタはこれ以上ないほどに弱り切った顔をした。

 

 

 

 しかも今回は同行者として自分を連れていくこともしないようだ。

 

 

 

「いいのかよ? 俺様達はテメエらの敵だぜ?」

 

 

 

 これにミケロが横から問いかける。

 

 

 

 その目は油断すれば喉元を掻っ切ると言わんばかりの殺気で研ぎ澄まされているのがモニター越しでも分かる。

 

 

 

「おい、ラクス。レイって奴だけならまだしも、さすがにこいつと行かせるわけには!」

 

 

 

 ディアッカが首を横に振りながらミーティアの砲身をレセップス級に向ける。

 

 

 

 その反応に赤銅色の拳大の宝石球を取り出して残酷で挑戦的な笑みを浮かべるミケロ。

 

 

 

「大丈夫です。ミケロさんは、そんな無駄なことはしない方ですわ」

 

 

 

 二人の間を割って入るかのようなラクスの言葉にモニターのミケロが鋭く目を細める。

 

 

 

 そんなミケロに対し更に言葉をつづける。

 

 

 

「ここで無駄な時間を送るよりも、さっさと目的を遂げる。それが貴方のはず。違いますか?」

 

 

 

「……ケッ」

 

 

 

 ラクスの言葉に空気を吐き捨てるとミケロは肯定も否定もせずにモニターから目を離し、ブリッジの椅子の一つに座ると頭の後ろで両手を組んで背もたれにもたれかかる。

 

 

 

 それを了承と判断したラクスは、微笑みを浮かべてレセップス級に乗りこんでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、オーブの方は荒れていた。

 

 

 

 レクイエムを放ったジブリール達ブルーコスモスは宇宙に逃げて行ったからだ。

 

 

 

 少なくとも、この場にいる人間達にジブリール達のシャトルがどうなったかを知るすべはない。

 

 

 

「うまく行ったのか、ドモン」

 

 

 

 皆が生き延びた幸せを嚙みしめる中、キョウジは淡々と穏やかに文字通り国を救った弟に問いかける。

 

 

 

 キョウジのシャイニングガンダムの左にはシュバルツのガンダムシュピーゲルも来ていた。

 

 

 

 ドモンは静かに頷いて構えを解くと、首を兄たちとは別の方向に向ける。

 

 

 

 海面を馬の蹄の音が響いてくるのを確認し、ドモンは彼らを迎えた。

 

 

 

 ゴッドガンダムとシャイニングガンダム、そしてガンダムシュピーゲルの前にモビルホースを駆って現れたのは、シャイニングガンダムとゴッドガンダムに似た赤い機体。

 

 

 

 ライジングガンダムだった。

 

 

 

 ドモンはライジングガンダムに目を向け、モビルホースである風雲再起の馬頭を撫でてねぎらいながら話す。

 

 

 

「ああ。間違いなくライジングアローは正確にシャトルを射抜いた」  

 

 

 

 ドモンの言葉にキョウジが表情を明るくする。

 

 

 

 だがその隣で、シュバルツは眉根を寄せて深刻な顔をしているドモンに気付き問いかけた。

 

 

 

「ならば何故、そんな険しい顔をしている?」

 

 

 

 シュバルツの言葉にドモンは、苦笑して答えた。

 

 

 

「遠隔リモートでのライジングアローだったからさ」

 

 

 

「ーー何だと?」

 

 

 

 眉根を寄せるシュバルツにドモンが答える。

 

 

 

「明鏡止水でもハイパーモードでもない、ただのライジングアローだ。シャトルを落とすだけなら威力は申し分ないが、黄金のハイパーモードを手に入れたウルベが大気圏突入中とはいえ、大人しく食らったってのが気になる」

 

 

 

 その言葉にシュバルツが険しい顔のまま頷いた。

 

 

 

「確かに、それは妙だな。ハイパーモードならば防ぐことは可能のはずだ。最悪、大気圏突入中であったとしてもガンダムだけで抜けられる」

 

 

 

 深刻な表情で黙り込むドモンとシュバルツ。

 

 

 

 その空気を破ったのはキョウジだった。

 

 

 

「……ほう、それは好都合だな」

 

 

 

 意外そうな表情でキョウジを見るドモン。

 

 

 

 シュバルツも苦虫を噛んだような表情でキョウジに言った。

 

 

 

「キョウジよ。お前がなぜそのような言葉を発するか、私には分かるが他の者がいる前では言うなよ?」

 

 

 

「好都合だって…? 兄さんはウルベ達を憎んでたんじゃないのか?」

 

 

 

 ドモンの言葉にキョウジは静かに頷くと言った。

 

 

 

「ああ。俺個人の感情で言えば、生きているんならウルベを殺してやりたい。

 

 母さんの仇であり、オーブと言う俺のもう一つの故郷を壊そうとした奴だしな。正直目の前に居たら、国の都合なんざ知ったこっちゃない」

 

 

 

 にべもなく言うキョウジの目には、冷ややかな憎悪の炎が燃えている。

 

 

 

 本気の目だ。

 

 

 

「ザフトや連合をーーいや。デュランダルを無視して良いなら今からでも追いかけて、是が非でも殺してやるさ」

 

 

 

 憎しみに彩られたキョウジの声は、それでも知性と理性を感じさせる。

 

 

 

 いくら怒りを感じようとも頭は常に冷ややかな男。

 

 

 

 DG細胞は怒りや憎しみの感情や破壊衝動を増加させる代わりに圧倒的な力を与えるもの。

 

 

 

 今の兄からは変わらぬ穏やかさと理性的な温かさの他に生前は感じられなかったファイターとしての才能と力、そして凄みも感じるとドモンは思った。

 

 

 

「ギルバート・デュランダル、か。キョウジ兄さんは奴が何を企んでるのか、知ってるのかい?」

 

 

 

 プラントで出会った穏やかな笑顔の男。

 

 

 

 第一印象はキョウジと似た理性と知性で勝負をするタイプの男だと感じた。

 

 

 

 もっとも、その瞳の奥にあるのは強烈な野心だが。

 

 

 

「おそらく、だがな。なあドモン、お前はデスティニープランについてキラ達とどこまで話してる?」

 

 

 

 キョウジの言葉にドモンの目に理解の色が現れた。

 

 

 

 デスティニープランとはデュランダルが世界を統一した上で推し進めようとしている遺伝子による人間の支配を前提とした計画だ。

 

 

 

 その計画はデュランダル本人さえをも遺伝子に乗っ取らせようとする狂気を感じる。

 

 

 

「そうか。対立するナチュラルとコーディネーターを一つに纏める為の悪役ーーそれがウルベ達、か。そしてそいつを打倒するのがデュランダル率いる人類ってシナリオか」

 

 

 

「実際問題、デビルガンダムーーいや、Dだっけ? 紅い髪のお前と瓜二つの。アイツやマスターアジアがその役を引き継いでやろうとしてるみたいだが。戦力はともかく、実質的にデュランダルにとっても危険なのは手段を選ばないウルベやウォンの方だ」

 

 

 

「なるほど。タイミングとしては、今あいつらに死んでもらうと俺たちの都合が悪くなるわけだ」

 

 

 

「そうだ。Dたちが宇宙に上がった以上、デュランダルがまず狙うのは地球圏の統一。その最たる障害はオーブだからな」

 

 

 

 キョウジの言葉にドモンは頷く。

 

 

 

 シュバルツがキョウジの言葉を継ぐように告げた。

 

 

 

「そして、その尖兵となるのが私の鍛えたミネルバ隊、か。ゲルマン忍法で撃墜詐欺をしたところで、ミネルバも長い時間身を隠せるわけではないーー。今回の戦闘でオーブにも余力はなくなっただろう。詰まる所、現状を維持するのならともかく捕虜を増やす資源がない、か」

 

 

 

「ミネルバ隊に限らず、正規軍人の連中はプラントとか言うコロニーに家族がいるから迂闊な真似はできない。となるとライジングガンダムでの追撃は結果的には正解か」

 

 

 

 ドモンの言葉にキョウジが満足気に頷いた。

 

 

 

「そうだ、ウルベ達が生き残っていたなら俺たちが追撃したことで身を隠せる口実ができた。

 

 仮にウルベ達がライジングガンダムに撃墜されていたとしてもデュランダルは行方不明となったウルベ達を見つけるまではオーブを狙えない」

 

 

 

 淡々とキョウジは現状を告げる。

 

 

 

「このことを踏まえたうえで今後について話したいんだが、ミネルバ隊やアークエンジェルと話せるかな?」

 

 

 

 シュバルツが苦笑して言った。

 

 

 

「お前は本当に休まないな、キョウジ」

 

 

 

「働くときは働く、が俺の信条だからな。平和になって元の世界に戻ったらまた研究者としてひきこもるさ。今度はシュバルツっていう俺がもう一人いるんだからな、以前していた研究もはかどるぞ!」

 

 

 

「……まったく」

 

 

 

 冗談ぽく言うキョウジにあきれるシュバルツ。

 

 

 

 それを見て思わずドモンが噴き出す。

 

 

 

「プッーーホントにキョウジ兄さんは、しょうがないな」

 

 

 

 状況は進展していく。

 

 

 

 戦略兵器が既に放たれた、それは引き金をとても軽くしたことになる。

 

 

 

 今後を想えば笑っているわけにはいかないだろう。

 

 

 

 だと言うのに彼ら三人の兄弟は、そんな困難な状況を文字通り力強く笑い飛ばしていた。

 

 

 

 数時間後。

 

 

 

 ウルベ達の追撃部隊をファム・ファタールが率いり、オーブのマスドライバー施設を同盟軍に協力して使用させることで、オーブはブルーコスモスとは無関係であるという立場を対外的にも打ち出すことにキョウジ達は成功した。

 

 

 

 これは政治的にも意味のある行為であった。

 

 

 

 迂闊にデュランダルはオーブを攻める訳には行かなくなったのだ。

 

 

 

 また、キョウジの手引きによりカガリの声明で今回の戦いに参戦したすべての軍に補給を行うことを通達。

 

 

 

 連合とザフトの船はオーブを臨時拠点として動くことができるようにしたのだ。

 

 

 

 この狙いは無論、ミネルバをオーブに停泊させることにある。

 

 

 

 ミネルバ隊の全クルーは、会合という名目でオーブ本国に来るように通達された。

 

 

 

 最終局面が、いよいよ近づいてきている。

 

 

 

 シンはオーブからの迎えの車に乗り込みながら、そんなことを想った。

 

 

 

 

 

 

 

 中立月面都市コペルニクス。

 

 

 

 連合にもザフトにも属さない完全自由都市とされる月のクレーターの一つに創られた居住施設。

 

 

 

 その街中を紅い髪の長身の男が二人の壮年の男性を連れて歩いていた。

 

 

 

 三人とも180を軽く越えている身長のため、比較的背の高いコーディネーター達の中でも頭一つ高い。

 

 

 

 おまけに鍛え抜かれた体と鋭い瞳は否応なく周りの視線を集めていた。

 

 

 

「月かーー。この世界の施設も悪くはないな」

 

 

 

 黒髪をオールバックにした壮年の紳士、ジェントル・チャップマンが空を見上げながら呟く。

 

 

 

 これに隣を歩くお下げ髪の拳法着の男、マスターアジアが話した。

 

 

 

「人の欲は我らの世界で地球を食い物にし、選ばれた人間は宇宙へと逃げていった。しかし、この世界は真逆。地球が美しいのは良いが、宇宙の民を排除することしか考えておらぬブルーコスモス、か。

 

 虐げられ宇宙へと逃れたコーディネーターの人間とて、ナチュラルと呼ばれるこの世界の人間とそう変わるものでもない。元々はコーディネーターもナチュラルが生み出したもの。それから目を背けるは、かつてのワシと同じ。正に愚行の極みよな」

 

 

 

「何処の世界も人は争うものだ。だからこそ、俺たちの世界ではガンダムファイトの英雄やシャッフル同盟が必要となった。この世界のコーディネーターもまた、調停者としての位置を求めねばならんのだろうな」

 

 

 

 チャップマンの言葉に我が意を得たりと、マスターアジアも頷く。

 

 

 

「ワシやシュバルツが鍛えた奴らが、きっとこの世界を支えて行こう。ワシらがやることは、その障害を取り除きワシら自身が奴らの壁となることだ」

 

 

 

「期待しているんだな、この世界に」

 

 

 

 チャップマンが微笑みながら言うとマスターも温かみのある笑みを浮かべた。

 

 

 

「でなければ、このような回りくどい真似はせん。もっとも、ワシが今一番見たいものは其処にいる男と我が弟子ドモン・カッシュとのファイトだがな」

 

 

 

「ーー異論ない。人の心を持ち限りなく人に近しい存在となったガンダムと、武を極めガンダムと一体となった人の勝負。俺でなくとも見たいものだ」

 

 

 

 普段は淡々としたチャップマンが熱を帯びた声で告げるとマスターも心地よさげに同意する。

 

 

 

「うむ。そして、そのファイトこそが真に人の心に訴えよう。闘いとは何か、強さとは何かを」

 

 

 

「ーー最高の舞台にしなければな。そのためにも邪魔は排除するとしよう」

 

 

 

「後顧の憂いを絶ち、若者達が希望に満ちた未来を己の手で切り開く為にもな」

 

 

 

 二人は互いに見合うと力強く頷きあう。

 

 

 

 彼らの視線の先を歩くのは、新たなる可能性に満ちた赤い髪の超越者。

 

 

 

 人非ざる者でありながら、限りなく人に近しい存在。

 

 

 

 デビルガンダムーー。

 

 

 

 世界を滅ぼす力を持ちながら、人の心と姿を持つ者。

 

 

 

 そして、人を愛する者。

 

 

 

 口には出さないが、マスターやチャップマンには分かる。

 

 

 

 あの拳は愛なき者には振るえないとファイターにしか分からない感性で彼らは確信していた。

 

 

 

 その時、前方を歩くデビルガンダムことDが此方を振り返りながら言う。

 

 

 

「ーー見つけたぞ」

 

 

 

 鋭い瞳を見返し、マスターとチャップマンも前方を見る。其処には何の変哲もないレストランがあった。

 

 

 

「ここがレイの言っておったデュランダル派の工作員が拠点にしておる店か」

 

 

 

「イタリア料理だな。ミケロの奴を連れてくれば良かった」

 

 

 

「ほう? あやつがグルメとは知らなんだな」

 

 

 

「ギャングの頭をはっていただけあって、中々の目利きだぞ。ワインや料理にも精通している」

 

 

 

 盛り上がる二人の男を尻目にDは静かに店の扉を開けた。

 

 

 

 中は木製で合わせた店内であり、清潔感溢れている。

 

 

 

 手短かに窓際のテーブルにDが着くと、マスターとチャップマンも席に着いた。

 

 

 

 客は自分達しかいないようだが、感じる視線は5、6人ほどある。

 

 

 

 監視カメラや盗聴器などもテーブルや灰皿などに仕掛けられていた。

 

 

 

「やれやれ。腹が減っては戦はできぬという。Dよ、飯にしよう」

 

 

 

 なに食わぬ顔で確認しながら、マスターはメニューが書いてある冊子を手に取り開く。

 

 

 

「ーーD。戦士たる者、本当に美味いものを知るも肝要だ」

 

 

 

「おお、チャップマンよ。まさにその通りだ!!」

 

 

 

 Dはメニュー片手に話し合う二人の男を見るや普通に手を上げて店員を呼ぶ。

 

 

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

 

 

「赤ワインをくれ。後、ピザはマルゲリータ。パスタはナポリタンスパゲティ。スープはミネストローネを」

 

 

 

 流れるような注文の仕方にマスターとチャップマンが目を見開く。

 

 

 

「他の方はどうなさいますか?」

 

 

 

 マスターとチャップマンは互いに見合うと一つ頷き、力強く告げた。

 

 

 

「「同じものをーー!」」

 

 

 

「畏まりました」

 

 

 

 去っていく店員を見送った後、何食わぬ顔で水を飲む赤い髪の青年を見据えてマスターとチャップマンは頬につたる汗を一つ拭った。

 

 

 

 

 

 大気圏内にて、爆発を起こしたシャトルから黄金の光を纏ったガンダムが、緑色の光の矢を片手に握りしめていた。

 

 

 

「助かりましたよ、ウルベ」

 

 

 

 そのガンダムのコクピットには、冷や汗を拭うジブリールとウォン。

 

 

 

 呆然としながらも、状況を理解し始めるマーキロット達がいる。

 

 

 

 ウルベはなにも言わず、黄金の気に満ちた己を見下ろすと手に持った光の矢を見据える。

 

 

 

「ウルベよ、どうした?」

 

 

 

 ジブリールの問いかけにウルベは「いや」とだけ告げると静かに大気圏を抜けた。

 

 

 

「ガンダムの意思、だと?」

 

 

 

 あの時、ライジングアローにシャトルを射抜かれた瞬間、ウルベの頭にはガンダムを呼べとの声ならぬ声が、聞こえていた。

 

 

 

 その指示に無意識に従い、気が付けばウォン達をコクピットに招きながらもライジングアローを掴み止め、爆発を気の壁で防ぐ黄金のガンダムに乗っていた。

 

 

 

(救われたと言うのか? 私が、ヴァニシングガンダムに?)

 

 

 

 ドモンがファイトの最中に言ってきたガンダムの意思を感じること。

 

 

 

 ウルベは、鼻で笑い飛ばしていたが。

 

 

 

 それを知った今、其処に更なる可能性を感じていた。

 

 

 

「ジブリール。しばらく私は月面基地で修行をしたいのだが、良いかね?」

 

 

 

 この言葉に是非もないとジブリールは告げる。

 

 

 

「無論だ。お前やマーキロット達が強くなればドモン・カッシュやデビルガンダム。デュランダルにも良い牽制になる」

 

 

 

 快諾を得るとウルベは静かに冷酷な笑みを浮かべ、マーキロット達に告げた。

 

 

 

「せっかく生き返ったのだ。私に殺されないようにしたまえ、諸君」

 

 

 

 これにマーキロット達は冷や汗をかきながら告げる。

 

 

 

「望むところだ、ドモン・カッシュを殺す為にもな」

 

 

 

「今以上に強くなるわ。シュバルツ・ブルーダーを下せるくらいはね」

 

 

 

「わたくしのモノマネを馬鹿にした彼らには、報いを与えなければなりません」

 

 

 

 3人のファイターの答えにウルベは笑みを深めながら、ヴァニシングガンダムをダイダロス基地に着地させた。

 

 

 

 迎えに来た連合ブルーコスモス軍を見ながら、ウォンは笑みが止まらないようだ。

 

 

 

「生き延びた我らの力を示しましょう。まずは、月からだ」

 

 

 

「始めようか、宇宙も地球も。ナチュラルもコーディネーターも全て我らの僕と化すのだ!!」

 

 

 

 ジブリールもまた高笑いを浮かべて、世界を我が物にせんと企んでいる。

 

 

 

 こうして。悪はしばらく身を隠す。

 

 

 

 更なる巨悪へと進化するためにーー。

 

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね〜!

 腹を満たしたD達は、レストランの店主に対しレイから聞いていた合言葉を告げます。

 即座に別室へ案内される彼らですが、それはレイが裏切った事を知る店主達の罠でした。

 はたして、Dはミーアの情報を得ることができるのか?

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第82話に!

 レディー、ゴー!!


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第82話 純粋な想いと勇気

 みなさん。

 前回のお話でラクスはレイとミケロに同行することになりました。

 そんな彼女にコペルニクスで強引にも付いてくると言い出したのは、エターナルの搭乗員となっていたメイリン・ホークです。

 彼女との邂逅、そして誘いにレイは心を激しく揺り動かされます。

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイ、ゴオオオオオオオ!!

第82話



 

地球ーーオーブ本国にて

 

 

 

 ミネルバ隊のタリア・グラディス艦長。

 

 

 

 アーサー・トライン副長。

 

 

 

 シン・アスカにルナマリア・ホークが席に臨んでいた。

 

 

 

 オーブ側は国家元首であるカガリ・ユラ・アスハ。

 

 

 

 キラ・ヤマト准将。

 

 

 

 アスラン・ザラ少佐。

 

 

 

 スティング・オークレーにアウル・ニーダ、ステラ・ルーシェの三名。

 

 

 

 そしてアークエンジェルクルーから艦長のマリュー・ラミアス。

 

 

 

 ネオ・ロアノーク大尉とアンドリュー・バルトフェルドやトダカ一佐にアマギも居た。

 

 

 

「君はーーシン君か」

 

 

 

「! トダカさん!」

 

 

 

 最後に彼が見たシンは、無残な家族を前に泣き叫ぶ姿だった。

 

 

 

 その時に比べて、今のシンは明らかに健康そうな顔をしている。

 

 

 

「驚いたよ、よくここまで持ち直した!」

 

 

 

「あ、いや。周りが俺を助けてくれたんです。トダカさんにも!」

 

 

 

「……シン君」

 

 

 

「ありがとうございました、本当に!! 貴方が居なかったら、俺はあのまま死んでたかもしれませんから」

 

 

 

 そんな二人の会話を興味深そうにルナマリアとステラが聞き耳を立てている。

 

 

 

 彼女らの襟首をつかんで止めたのはスティングとアウルだった。

 

 

 

「ちょ、スティング!」

 

 

 

「お願いアウル、ちょっとだけ!!」

 

 

 

 二人の少女の抗議を無視してスティングとアウルはそれぞれ少女の襟首をつかんだまま話し合いを行っている席に着く。

 

 

 

「ルナマリア、良い女は盗み聞きはしないもんだ」

 

 

 

「ステラも大人しくしなよ」

 

 

 

 そこで彼らは、ガンダムファイター達の活躍によってウルベ達が乗っていたシャトルが破壊されたことを告げられた。

 

 

 

「それで、今後についての話し合いをしたいんだ。グラディス艦長、我々は貴女を全面的にサポートする用意がある。勿論、水面下での話だが」

 

 

 

 カガリからの言葉にタリアは大きく目を見開いた。

 

 

 

「それはつまり、プラントに気取られることなく補給を受けられる、と?」

 

 

 

「ああ。勿論、ミネルバ隊の中には議長に心酔している者もいるだろうから、表向きには堂々とはできない。極秘裏にはなるが、現状でオーブができるサポートは全てさせてもらう」

 

 

 

「……有難い話ですが、私たちには返せるものがありません。シュバルツ・ブルーダー殿を派遣して戴いただけでも私たちは本当に助かりましたから。アークエンジェルにはベルリン基地での借りもある。なのに、私たちはーー」

 

 

 

 苦悶の表情になるタリアにカガリが静かに首を横に振った。

 

 

 

「これからの話をしよう、艦長。私たちも今のままではダメだから」

 

 

 

「グラディス艦長。差し出がましいですが、私たちからもお願いします。どうか、この世界を護るために手を貸してください」

 

 

 

 マリューからの真摯な言葉にタリアは根負けしたように苦笑して言った。

 

 

 

「議長の監視の下、どれだけのことができるか分からないけれど。精一杯、あなた方と力を合わせたいわ」

 

 

 

 その言葉にミネルバクルーとアークエンジェルクルー。

 

 

 

 そしてオーブ軍人達から拍手が起こった。

 

 

 

「おっと、そうだった! 坊主共、ガンダムファイター達が会議が纏まったらガンダム持って訓練場に来いってよ!」

 

 

 

 ネオの言葉にシンとキラが首を傾げながら見ると、彼は不敵な笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「ドモン・カッシュがお前らと組み手をしたがってるぜ!」

 

 

 

 その言葉に、少年たちの闘志に火が付いた。

 

 

 

「よしーー! デスティニーガンダムを格納庫から取ってきます!」

 

 

 

「インパルスで出撃よ!!」

 

 

 

「スティング! アウル!!」

 

 

 

「おお!!」

 

 

 

「やってやろうじゃん!!」

 

 

 

「アスラン、僕も行くけど君はどうするの?」

 

 

 

「行くに決まってるだろ? 俺たちはまだまだ強くならなければならないからな!!」

 

 

 

 少年たちの勇気と熱さをまき散らす笑顔に、大人たちは眩しそうに目を細めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月面都市コペルニクス。

 

 

 

 ナチュラルやコーディネーター、その一切に関係なく中立を貫く施設。

 

 

 

 その街中に一台の車を用意させて、レイは助手席に乗り込んだ。

 

 

 

 運転席に優先して飛び込んだのはパンクルックの赤髪のファイター、ミケロだ。

 

 

 

 彼らは、一隻の民間シャトルの前に車を走らせて止めた。

 

 

 

 そこから一人の少女が出てくる。

 

 

 

 桃色の髪をした歌姫ーーラクス・クラインであった。

 

 

 

「お待たせしました」

 

 

 

 いつもの桃色のワンピースではなく、赤色のジャケットに白色のシャツ。黒色の長パンツをはいている。

 

 

 

「ラクス・クライン? その恰好は?」

 

 

 

「ミーアが選んでくれたんです! 似合いますか?」

 

 

 

「……ミケロ、俺たちは議長の罠をくぐっていくんだよな?」

 

 

 

 満面の笑みで変装する気すらない彼女に思わずレイが問いかけると、ミケロは笑って言った。

 

 

 

「良いじゃねえか! 乳臭いガキかと思ったが、意外にイカしてるぜ!!」

 

 

 

 上機嫌だった。

 

 

 

「ありがとうございます、ミケロさん」

 

 

 

 にこやかに返すラクスに思わず頭を抱えるレイ。

 

 

 

 頭痛に苛まれている彼は、第三者から声がかかるとは思わなかった。

 

 

 

「レイ! やっぱり、レイじゃない!!」

 

 

 

 その声に思わず顔を向けると赤い髪をツインテールにした少女がそこに居た。

 

 

 

「な!? メイリン!?」

 

 

 

 目を大きく見開くレイにメイリンが屈託のない笑顔で接する。

 

 

 

「よかった、レイ! 無事だったんだね!! 大丈夫? 何か変な事されてない!?」

 

 

 

「い、いや。待てメイリン。何故お前がここに?」

 

 

 

 両腕をしっかりと掴まえて聞いてくるメイリンの迫力に押され気味のレイ。

 

 

 

 それを見ながら、ミケロがニヤリと厭らしい笑みを浮かべた。

 

 

 

「ああん? なんだぁ、レイ? 普段はスカしてやがんのに随分とうろたえてんじゃねえか? アレか? オメエの女(コレ)か?」

 

 

 

 右手の小指を上げて問いかけてくるミケロに思わずレイは眦を釣り上げて返した。

 

 

 

「ちがう!! 彼女は俺の仲間だ!!」

 

 

 

「ほう~? アレか? 片想いってやつか!」

 

 

 

 更に告げてくるミケロにいよいよレイの目が冷たくなる。

 

 

 

「ミケロ。お前、分かっていてやってないか?」

 

 

 

「さあな? 何のことだぁ?」

 

 

 

 とぼけるミケロを忌々し気に見る。

 

 

 

「レイ! 誤魔化さないでよ!!」

 

 

 

「……近い。顔が近いぞ、メイリン! 年頃の女がそんな真似をするな!」

 

 

 

「レイ、元気そうなのは嬉しいけど。どうしてなの? どうして「人類の敵」なんて自分たちで言う人たちと一緒に行動してるの?」

 

 

 

 正面にはメイリンの真剣な顔があった。

 

 

 

「……それは、俺の望みだからだ」

 

 

 

「お姉ちゃんやシンと戦うことが? それとも人間を滅ぼしたいの?」

 

 

 

「……違う」

 

 

 

「そうだよね、違うよね? だってレイは前と変わったもの。温かくなったもの。なのに、どうしてなの!? 今だってーー!!」

 

 

 

「メイリン、俺はーー」

 

 

 

「ね、帰ろう? ラクス様と一緒にミーアって人を迎えたら私たちと一緒に行こう?」

 

 

 

 必死になって告げてくるメイリンにレイは落ち着いた表情になると、震えながら自分の両腕を掴む彼女の手を優しく取る。

 

 

 

「ーーレイ」

 

 

 

「すまない、メイリン」

 

 

 

 彼女の目を見て、レイは告げた。

 

 

 

 それにメイリンは目を見開いたまま愕然とする。

 

 

 

 するとレイはまるで逃げるように彼女から目を背けた。

 

 

 

「ーーよお? お嬢ちゃんも乗るのかい?」

 

 

 

 そこでミケロが空気を壊すかのように問うてきた。

 

 

 

 その言葉にレイが表情を険しくする。

 

 

 

「メイリンを巻き込むのは許さない!!」

 

 

 

 ミケロが呆れたような表情を一瞬した後、ラクスとメイリンを見据える。

 

 

 

 どうするよ、コレ?

 

 

 

 レイにはそんな問いかけに聞こえた。

 

 

 

 何故か無性に腹が立つ。

 

 

 

 するとラクスが静かに頷いた。

 

 

 

「レイさん。わたくしと席を代わりなさい」

 

 

 

 凛とした気配を纏った反論を許さない一言にレイが思わずラクスを振り返る。

 

 

 

「え? いや、ラクス・クライン? 何を言ってるんだ、貴女は?」

 

 

 

「お黙りなさい。貴方に反論の余地はありません」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

 そう告げた後、ラクスはメイリンに目を向けた。

 

 

 

 メイリンは彼女と眼を合わせるとまるで図ったように同時に頷いた。

 

 

 

 即座に席を立ち、助手席に乗り込むラクス。

 

 

 

 レイを助手席から引きずり出し、後部席に移動させ自分もその横にちゃっかりと座るメイリン。

 

 

 

 謎の連携だが、完璧だった。

 

 

 

 その様子を後ろでオーブ軍が用意した追跡用の車に乗り込みながら、ディアッカが呆れた顔をする。

 

 

 

「あいつら、何をしてんだよ。一体」

 

 

 

「あら、いいじゃない? ガンダムファイターは強いんだってさっきの戦いで証明されたんだし。あのミケロって人もそんなに悪い人には見えないしね」

 

 

 

「……どうだかな?」

 

 

 

 ミリアリアの言葉にイザークが渋い顔をしながらため息を吐く。

 

 

 

 どうやら護衛兼追跡対象が増えたらしい。

 

 

 

 いきなりエターナルの通信席から出ていったから何事かとブリッジのダコスタから連絡があったが、こういうことだったのだ。

 

 

 

 メイリン・ホーク。

 

 

 

 彼女はレイ・ザ・バレルと同じミネルバ隊の一員だった。

 

 

 

 おそらく、それが関係しているのだろう。

 

 

 

「エルスマン君、ラクス様達はどうだい?」

 

 

 

「ああ。大丈夫みたいだぜ? つーか意気投合してるな」

 

 

 

「……さすがはラクス様」

 

 

 

 ダコスタからの通信に目の前で繰り広げられている映像を送りつけながら、ディアッカは呆れた表情になってハンドルを握る。

 

 

 

「追跡に手を割けなくて申し訳ない」

 

 

 

「いや。大勢で追尾するには問題がある。ここは俺たちに任せてくれ」

 

 

 

 謝罪してくるダコスタにイザークが静かに返す。

 

 

 

 その横でディアッカがミリアリアに車を降りるように言っていた。

 

 

 

「ほら、危ないから! お前は降りろって!!」

 

 

 

「いやよ! あんたは、いっつもそうやってあたしのやることを否定するんだから!」

 

 

 

「俺はお前を心配してーー!」

 

 

 

「ああ、うるさいわね!! 行くわよ、ディアッカ!! 女の子のお尻を追いかけるのは得意でしょ!!」

 

 

 

「俺はお前以外の女の尻に興味はない!!!」

 

 

 

 痴話げんかとしか言いようのないやり取りにイザークが微笑み、モニターの向こうでダコスタが苦笑いをする。

 

 

 

 そんな彼らの空気を引き締めるように、ミケロが告げた。

 

 

 

「おい! 出発するぞ、ガキども!!」

 

 

 

 その言葉にハンドルを握るディアッカの目も鋭くなり、頷いた。

 

 

 

「……なんかよ、イザーク」

 

 

 

「? なんだ?」

 

 

 

「俺たちの周りには気の強い女しかいないのか?」

 

 

 

 その言葉にイザークがニッと不敵に笑って言う。

 

 

 

「結構なことだ! 頼もしいではないか!」

 

 

 

「さすが、イザーク! 分かってる!!」

 

 

 

 後部席からミリアリアがはしゃぐ声を上げる。

 

 

 

 ディアッカはいよいよ、味方はいないのかとため息を吐くと。

 

 

 

 モニター越しにダコスタが。

 

 

 

 前の車からレイが後ろを振り返って。

 

 

 

 ディアッカに頷いてきた。

 

 

 

「……何だろう? 俺、急に胸が……引き裂かれそうに……!!」

 

 

 

 彼ら三人の目頭が熱くなってきたのは余談である。

 

 

 

 レイの立てた作戦と言ってよいかは分からないが、案は一つあった。

 

 

 

 Dと合流するよりも実はラクスと共に行動した方がミーアと接触しやすいというのである。

 

 

 

 その理由は一つ。

 

 

 

 ミーア・キャンベルをラクス・クラインに仕立て上げる最も効率の良い手段が暗殺だからだ。

 

 

 

 レイはデュランダルとのやり取りを思い出しながら、現在ミーアの側近兼監視役に相応しい人間を何人か頭の中で考慮していた。

 

 

 

 そして、ジブラルタル基地でアスランがラクスを襲い軍を裏切ったと議長に発言した女性。

 

 

 

 ミネルバ隊の問いかけにもデュランダルが応える前に彼女が全てシャットアウトしてしまっていた。

 

 

 

 金色の髪の妙齢の女性。

 

 

 

 サラという人物であった。

 

 

 

(…彼女もミーアと同じ。孤児院から議長に拾われた境遇の女性だったはず)

 

 

 

 レイが静かに考えを巡らせながらも、寂しげな顔になる。

 

 

 

「…つまり、普通に買い物をしてたら向こうから手を出してくるってわけか?」

 

 

 

「ああ。ラクス・クラインがコペルニクスに居ると言う情報は既に流してある。後は餌に向こうが近寄ってくればいい。D様を陽動に使うことになるが、仕方ないだろう」

 

 

 

「その辺は大丈夫だろ? あの三人は俺様から見ても別格だからな。殺しても死なねえよ。……殺せる奴もいねえだろうがな」

 

 

 

 まるで枯れた老人のような表情に一瞬ミケロはなるが、すぐに気を取り直していってきた。

 

 

 

「だったら、このままデパートかい?」

 

 

 

「ああ。無防備なところを襲撃してくるか。それともおびき出してくるか、だ」

 

 

 

「……随分と短絡的なんだな、そのサラってのは」

 

 

 

 車を走らせながら言うミケロにレイも頷く。

 

 

 

「だからこそ、ドモン・カッシュやD様のいる前でミーアを攫ったんだろう。大量のゾンビ兵を作り出してまでな」

 

 

 

 ミケロからミーアが攫われたときの経緯を聞いて、レイは悲し気な表情になる。

 

 

 

 DG細胞。

 

 

 

 ミケロやD、マスターアジアやチャップマン。

 

 

 

 そして自分の師であるシュバルツ。

 

 

 

 彼らのような信念のある細胞の保持者もいれば、ウルベやウォンのように他者を食い散らかす悪食もいる。

 

 

 

 死者を己の欲の為に冒涜するものも。

 

 

 

「もうこんなことは、止めなければならない。ギルを説得してでもーー!」

 

 

 

 改めてレイはそう呟いた。

 

 

 

 そんな彼を静かにメイリンが見つめている。

 

 

 

 

 

 

 

 一方で大気圏外に来たファム・ファタールの軍はそこに浮かんでいたオーブシャトルの残骸を見つめて首を傾げている。

 

 

 

 残骸は比較的新しいが、仮にジブリール達が乗っていたシャトルだったとして誰が落としたのかという疑問があるのだ。

 

 

 

「どう見るかね、ファム」

 

 

 

 静かに問いかけてくるフィルム・ノワールにファムは静かに残骸を見据えると言った。

 

 

 

「おそらく、死んではいませんわね」

 

 

 

「何故、そう思うんです? 言っては何ですが、この状況で生き残れる奴なんて皆無ですよ」

 

 

 

 間髪入れずハイネ・ヴェステンフルフが問いかけてくる。

 

 

 

 これにファムは苦笑を浮かべて言った。

 

 

 

「そうですわね。普通ではないから、でしょうか」

 

 

 

「……確かに」

 

 

 

 ハイネも闘って分かったが、今度の敵はナチュラルだのコーディネーターだのという概念に縛られていたら絶対に勝てない。

 

 

 

 常識がまるで通じない相手だった。

 

 

 

 この機体もそうだが、無限に行動できるMS。

 

 

 

 圧倒的な火力と持久力。

 

 

 

 再生力に数。

 

 

 

 すべてが異次元のレベルだ。

 

 

 

 仮にシャトルを落とされていたのだとしても、それで倒せる相手かと問われたら自分にもこたえられない。

 

 

 

「……それでファム? 君の持つ能力ーーSEEDで感知したのかね?」

 

 

 

「ええ。わたくしのSEEDを使って周囲の気配を感じました。ですが死の気配はなく、一瞬ですがゴッドガンダムやシャイニングガンダムによく似た力ーー。ガンダムファイターのハイパーモードの力を感じました」

 

 

 

「……なるほど。DG細胞の気配は?」

 

 

 

「大気圏外に出てから、消えていますね。気配を完全に消している」

 

 

 

 二人にしか分からない暗号のようなものかと話を聞きながら思うハイネ。

 

 

 

 彼を尻目にファムは静かに月を見据えた。

 

 

 

「ねえ、フィルム。月には何があるのかしらね?」

 

 

 

 その口調はラクス・クラインのものではない。

 

 

 

 これに苦笑しながらフィルムは言った。

 

 

 

「さあね。ジブリールが逃げ込んだという証拠がなければ攻め込むのは困難だ」

 

 

 

「……連合とザフトが同盟を結んでいるのに?」

 

 

 

「連合の主流がどちらかということになる。月面のダイダロスとアルザッヘルが怪しいが、どちらもブルーコスモス派が主流だからね。力づくで行くのはせめて証拠があれば、だ」

 

 

 

 どこか拗ねたような表情になりながら、ファムはラクスの顔で問いかけた。

 

 

 

「……では追撃はここまでなの?」

 

 

 

「焦ることはない。取り敢えず我々は、月面のエンデュミオン基地に行こうじゃないか。連合と同盟を結んでいる我々の艦隊は迎え入れざるを得ないだろうからね」

 

 

 

「そうーー。それにしても、面白いわね」

 

 

 

「? 何がかね?」

 

 

 

 静かに妖艶な笑みを浮かべるとファムはひじ掛けに頬杖を突いて言った。

 

 

 

「彼女がいるわーー。ミーアを救うために。あの悪魔もいるみたいだけど、別行動みたいね」

 

 

 

「……なるほど。だからファムとしての君が強く出ているのか」

 

 

 

「コペルニクスーー。ミーアを利用して悪魔を殺すなら、ここしかないんじゃないかしら?」

 

 

 

 その言葉に静かにクルーゼは笑った。

 

 

 

「話を聞こうーー。だが君が動くわけにはいかない、分かるね?」

 

 

 

「…ええ。サラを利用するわ。どうせ使い捨ての命だもの、ミーアと同じくね」

 

 

 

「……」

 

 

 

 静かに一礼するフィルムにファムは妖艶にして嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 その瞳は灰色に変わっているーー。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、コペルニクスのイタリアンレストランで。

 

 

 

 テーブルに着いていたDは、静かに口元を拭きながら食事を終えていた。

 

 

 

 向かいではチャップマンとマスターも食事を終えたところだった。

 

 

 

「勘定を頼みたい」

 

 

 

 Dはそう言って席を立ち、会計を済ませる。

 

 

 

 その直後に彼は唐突にこう言った。

 

 

 

「運命という遺伝子を信じるがゆえに、私は神をも欺こう」

 

 

 

 その言葉に釣りを手渡していた店主の表情が固いものになる。

 

 

 

「……あなたは?」

 

 

 

「ザフトの者だ。デュランダル派に会いたい」

 

 

 

 その言葉に店主は静かに笑顔を向けると店の奥のドアを開けた。

 

 

 

「ここでは何ですから、どうぞこちらへ」

 

 

 

 三人はいかにもと言った店主の対応にため息を一つ吐くと、薄暗い廊下を降りていった。

 

 

 

 そこは地下にある開けた一室だった。

 

 

 

 目つきの鋭い人間たちがこちらを見てくる。

 

 

 

 Dは静かにそれらを見返しながら、店主に顔を向けた。

 

 

 

「それで? 話は誰から聞けるのだ?」

 

 

 

 するとそれまで微笑みを浮かべていた店主の男が冷たい能面のような顔になり、低い声で言ってきた。

 

 

 

「お前たちこそ何者だ? 本国からはお前のような人間が来るとは聞いていないぞ」

 

 

 

 言うと右手を上げる。

 

 

 

 鉄パイプを持った無数の男たちがゆっくりとこちらを取り囲むようにやってきた。

 

 

 

「Dよ。どうやらここも外れのようだ」

 

 

 

「……そのようだな」

 

 

 

 マスターの言葉に落ち着き払ってDが応える。

 

 

 

 チャップマンが静かに懐から葉巻を取り出すとそれに火をつけた。

 

 

 

「一度だけ忠告してやる。命が惜しければ去れ」

 

 

 

 静かに低い声でチャップマンが告げると、男たちは馬鹿にしたように笑った。

 

 

 

「……群れれば強くなったと勘違いする質の連中か」

 

 

 

 チャップマンは醜悪なものを見たような顔になり、嫌悪感を剥き出して告げた。

 

 

 

 その隣にマスターが立ち、静かに告げる。

 

 

 

「古今東西。兵法とは戦場において己の命を守るものなり。相手を知り、己を知らば百戦危うからず。己の常識に頼り、相手を知ることを怠ればどうなるか、貴様らは身をもって知るべきだな」

 

 

 

 獰猛な笑みを浮かべて静かに腰の布を外す。

 

 

 

 二人の男の間にいた紅い髪の青年ーーDは静かに拳を握りしめて言った。

 

 

 

「身の程を知れ、阿呆ども!!」

 

 

 

 瞬間、手短に居た男がDによって天井まで殴り飛ばされていた。

 

 

 

 それが開戦の合図だった。

 

 

 

 鉄パイプで武装した集団は18人程度。

 

 

 

 中には拳銃を忍ばせている者もいた。

 

 

 

 いつものように哀れな獲物を捕らえて尋問し、気が済むまで殴って殺してしまう予定だった。

 

 

 

 だが、瞬く間に次々と吹き飛ばされていく。

 

 

 

 紙のように。

 

 

 

 鉄パイプがあっさりと拳で、蹴りでへし折られる。

 

 

 

 挙句は布で切断された。

 

 

 

 銃弾を焦って撃っても、首をひねって躱される。

 

 

 

 布で弾かれる。

 

 

 

 掌でつかみ取られる。 

 

 

 

 それを認識して目を疑い、硬直したその時には目の前に拳が迫っている。

 

 

 

 結論から言おう。

 

 

 

 彼らは己の常識をこの時、初めて疑ったのだ。

 

 

 

 数に勝るものはない

 

 

 

 武器を持てば勝てる。

 

 

 

 そんな常識は、次元の違う者たちの前にあっさりと叩きおられていた。

 

 

 

「……工作兵にしても練度が低い。チンピラか?」

 

 

 

「金で雇われた情報屋と言ったところであろう。何、焦ることはない。こやつらの伝手を探って虱潰しに探っていけば、いずれは目的の娘にもあたるであろうよ」

 

 

 

 チャップマンが足元に転がる男たちを尻目にほとんど減っていない葉巻をゆっくりと吸う。

 

 

 

 彼にとっては、朝食のパンにチップスを乗せるよりも容易いことだった。

 

 

 

「……おい」

 

 

 

「ひ、ひぃ! い、命だけはお助けを!!!」

 

 

 

 店主は先ほどまでの余裕は何処へ行ったのか、必死に命乞いを始めていた。

 

 

 

 Dは静かに店主の胸倉をつかみあげると顔を前に向かせて、写真を見せた。

 

 

 

 ミーア・キャンベルのライブ写真だった。

 

 

 

「この女が何処にいるか、知っているか?」

 

 

 

「ラクス・クラインーー? 噂程度でしかありませんが、心労で倒れてコペルニクスにて療養中だとかーー!」

 

 

 

「何処にいるんだ?」

 

 

 

 必死に店主は考える。

 

 

 

 正直に知らないと言えば、ここで殺される可能性が高い。

 

 

 

 しかし、嘘を吐いたところで見抜かれたらおしまいだ。

 

 

 

 何としても生き延びたい。

 

 

 

 そう考えた店主は、こう告げた。

 

 

 

「そ、それならば仲間内に調べさせましょう。もしかしたら、情報が手に入るかもしれませんから」

 

 

 

「そうか。では、しばらく此処で待たせてもらおう」

 

 

 

「ーーえ?」

 

 

 

 目を丸くして問い返す店主にDは邪悪な笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「貴様らの命、この我が預かった。意味は分かるな?」

 

 

 

「ひ、ひぃいいいいいいい!!!」

 

 

 

 この日、店主はこれらの言葉を学んだ。

 

 

 

 君子、危うきに近寄らず。

 

 

 

 愚行、後悔先に立たず。

 

 

 

 命の危機に晒され、且つただ飯までたかられながら、店主とその部下達は馬車馬の如く働き始めたと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 




 みなさん お待ちかね!!

 ラクス達のコペルニクスでの行動に感づいたサラは、ミーアのハロを利用して彼女たちにメッセージを送り付けます。

 一方、そんなラクスの情報を掴んだデュランダル派の末端兵士くずれ達。

 ミーアの指定した場所にラクス達が到着したことを確認してDに告げるのです。

 はたして、Dはミーアとラクスの邂逅に間に合うのか?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第83話に!

 レディー、ゴー!!



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第83話 計られた手紙

 皆さん、今回のお話でラクスはミーア・キャンベルの下へ向かいます。

 彼女と行動を共にするレイ、ミケロ、メイリンの三人の関係も徐々にではありますが変化していく中、地球では二機のガンダムが修行を行っているではありませんか!

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイイ、ゴォオオオオオ!!

 


 

 オーブの訓練施設用に開けられた無人島。

 

 

 

 その大きな舞台で大地に足を着けた三機のガンダムが睨み合っている。

 

 

 

 トリコロールの白い兄弟機が二機と鏡の名を冠する黒い忍者を模した機体。

 

 

 

「…いつでもいいぜ、兄さん達!!」

 

 

 

 トリコロールのガンダムで羽を持つ方ーーゴッドガンダムのコクピットからドモン・カッシュはそう告げた。

 

 

 

「なら最初は俺から、行かせてもらう!!」

 

 

 

 言うともう一機のトリコロールの機体、シャイニングガンダムがキョウジの言葉と共に踏み込む。

 

 

 

 右拳を互いに合わせると同時、離れる。

 

 

 

 ドモンは左手を曲げて顔の横に右手を腰に置いて拳を握り、両膝を曲げて腰だめに構え足裏をしっかりと地面に着ける。

 

 

 

 対するキョウジはガードするように両腕を曲げて、目の高さに左右の拳を持ってくると斜に構えるスタンダードなファイティングスタイルを取る。

 

 

 

 つま先立ちになり、どのようにでも動けるようにステップを軽く刻んでいる。

 

 

 

 これをシュバルツの駆るガンダムシュピーゲルが腕を組んで見ている。

 

 

 

 ゴッドガンダムが動いた。

 

 

 

 凄まじい踏み込みで一気にシャイニングガンダムの懐に入り込んで来たのだ。

 

 

 

「聖拳突き!!」

 

 

 

 シャイニングガンダムは、軽く首を横に逸らして右に避ける。

 

 

 

 同時に右のフックをゴッドガンダムの側面に放っている。

 

 

 

 しかし、それをゴッドガンダムは膝を屈んで下に避けると同時に右の回し蹴りをシャイニングガンダムの顔に放ってきている。

 

 

 

 上体を後ろに反らして鼻先で回し蹴りを見切るシャイニングガンダム。

 

 

 

 しかし、その蹴りの軌跡をかき消すように続けざまに放たれたゴッドガンダムの鋭い左の拳がシャイニングガンダムの目先に来ている。

 

 

 

 それ以上は体を反らせない。

 

 

 

 バックステップしながら避けようとするシャイニングガンダムの顔面が、それよりも速く踏み込んで来たゴッドガンダムの左拳に跳ね上げられた。

 

 

 

「ーーぐッ!」

 

 

 

「疾風突き!!」

 

 

 

 ドモンの技名を叫ぶ声が響き渡り、同時にゴッドガンダムがシャイニングガンダムの懐に入り込んでいる。

 

 

 

(やばい!!)

 

 

 

 咄嗟にキョウジがそう思ったときには、嵐のような連撃がゴッドガンダムから放たれてきた。

 

 

 

「肘打ち! 裏拳、正拳! とぉおおおおりゃぁあああ!!」

 

 

 

 鋭い拳と蹴りの雨あられに、シャイニングガンダムは両腕を使って捌くことしかできない。

 

 

 

 いや、捌き切れずに何発かもらいながらも必死に攻撃を払っていた。

 

 

 

(スピードの次元が違うのか!?)

 

 

 

 キョウジが拳を放とうとするときには、ドモンは拳を5発返してくる。

 

 

 

 圧倒的なスピードと手数、そして固い拳だ。

 

 

 

 DG細胞の力抜きでは話にならない。

 

 

 

 キョウジが覚悟を決め、続けざまに放たれるドモンの連撃から右拳を選んで掴み止めた。

 

 

 

「……力を使う気になったのかい、兄さん?」

 

 

 

「ああ。でないと話にならんみたいだからな」

 

 

 

 言うとキョウジのシャイニングガンダムは腕、肩、胸、足のパーツを展開し、金色の冷却粒子を展開する。

 

 

 

 同時に圧倒的な凶気がキョウジからはなたれ、それをシャイニングガンダムのエネルギーマルチプライヤーが何倍にも増幅して放つ。

 

 

 

「……いくぞ、ドモン!!」

 

 

 

「……!!」

 

 

 

 次の瞬間、両者の機体は姿を消す。

 

 

 

 島のあちこちで地面がせり上がり、空中で火花や衝撃波が散る。

 

 

 

 互いに鋭い拳と蹴りをぶつけ合っている。

 

 

 

「こ、これってーー!」

 

 

 

 そこへガンダムに乗って来たシンやルナマリア達が目の前の光景に呆然としていた。

 

 

 

「な、何て力と力のぶつかり合いだよ!」

 

 

 

「迂闊に近づいたら、余波だけでふっ飛ばされんぞ」

 

 

 

 スティングとアウルの言葉どおりのぶつかり合いが目の前で行われている。

 

 

 

「やっぱり、キョウジの力はウルベ達の力と同じ。でも、何かが違うーー! シャイニングガンダムの光のおかげなのかな?」

 

 

 

「分かんないわね。でも、あの力が味方なら心強いわ」

 

 

 

 ステラの言葉にルナも応える。

 

 

 

「キラさん、これってーー」

 

 

 

「うん、僕達に見せるためかもしれないね」

 

 

 

「こんなとんでもない動きを見せられても、参考になるのか?」

 

 

 

 シンとキラ、アスランも目の前で展開されている光景にあきれながらも声を上げた。

 

 

 

 シュバルツがそんな少年たちに気付いて振り返る。

 

 

 

「よく来たな、お前たち」

 

 

 

「シュバルツさん、この戦いは?」

 

 

 

 シンの問いかけを目で制すると静かにシュバルツは、島のあちこちでぶつかり合う二機の兄弟機を見据える。

 

 

 

「よく見ておけ。力だけではどうあっても越えられぬ壁をな」

 

 

 

 その言葉に、少年たちは激戦を繰り広げる二機に目をやるのだった。

 

 

 

 対峙するキョウジは驚いていた。

 

 

 

 自分の力とスピードは、マスターアジアと対等に渡り合うレベルで強化されたものだ。

 

 

 

 それにドモンは平然とついてくる。

 

 

 

 強いなどというレベルではない。

 

 

 

 スーパーモードの能力とDG細胞の恩恵で時間を無視して今の状態を維持できるとはいえ、自分と違いドモンはハイパーモードを展開していないのだ。

 

 

 

 通常の能力値だけでドモン・カッシュはキョウジのシャイニングガンダムに優っているのだ。

 

 

 

 今までの敵ならば、この力とスピードに追いつくことができずに一方的に蹂躙できた。

 

 

 

 ところが、ドモンはその更に上のレベルで動いてくるのだ。

 

 

 

 自分が先読みした動きを更に越えてーー。

 

 

 

「打ち破るのは、半端な苦労ではなさそうだな」

 

 

 

「どうした、兄さん? 力だけじゃ俺には勝てないぜ」

 

 

 

 言いながらも拳と蹴りをぶつけ合う兄弟。

 

 

 

 ドモンは挑発しながらも理解している。

 

 

 

 兄は、正しく今の自分に足りないものを理解し始めている、と。

 

 

 

 次元覇王流の動きは散々と見せた。

 

 

 

 そして、兄は次元覇王流の源である東方不敗を学び、その基本動作を几帳面な程に繰り返す男だ。

 

 

 

 ならばーーどうなる?

 

 

 

 もし、キョウジ・カッシュが自分の動きを真似たら?

 

 

 

 ドモンは不敵な笑みを浮かべている。

 

 

 

 それはキョウジのちぐはぐな能力を完璧に嚙合わせるためだ。

 

 

 

 独学で兄はマスターアジアと戦えるレベルにまで成長した。

 

 

 

 その兄にきちんと技を教えれば?

 

 

 

 ぶつかり合う。

 

 

 

 ドモンの右ストレートを左に見切り、同じようにカウンターの左フックを放つキョウジ。

 

 

 

 違うのは鈍い音が響き渡り、拳が掌で受け止められていることだろう。

 

 

 

「……さすがだな、兄さん!」

 

 

 

「……なるほどな。こういうことか」

 

 

 

 一つ頷き合い、拳と拳を三合交換する。

 

 

 

 ドモンの動きに先ほどまでは付いていけなかったが、今のキョウジは見えている。

 

 

 

 自然と体が動くようになっている。

 

 

 

 何が足りないのか、どう動けばよいのか、まるで真綿に水がしみわたるように吸収されていく。

 

 

 

 そして、両者の拳がぶつかり合った時、シャイニングガンダムが黄金の光を纏った。

 

 

 

「……なるほどな。これが、シャイニングガンダムの戦い方か」

 

 

 

 拳を二、三回握りしめて己の感覚を見据える。

 

 

 

 そして鋭い瞳でドモンのゴッドガンダムを見据えた。

 

 

 

「そう。それが俺の分身であるシャイニングガンダムの戦い方さ。そして、兄さんが目指す領域でもある」

 

 

 

「……ドモン」

 

 

 

「今度は守れるよ。兄さんは無力なんかじゃない。そうだろ?」

 

 

 

 言いながらドモンもゴッドガンダムをハイパーモードにし、黄金の光を纏う。

 

 

 

 胸のカバーと背中の六枚の羽根が展開し、日輪を背負う。

 

 

 

「さあ、思い切り来い!!」

 

 

 

 その言葉にキョウジは血に飢えた獣のような目を向けると、鋭く踏み込んで拳を放つ。

 

 

 

 ドモンは紙一重で捌きながら、次々と繰り出される拳を避けていく。

 

 

 

 シャイニングガンダムの右ボディブローがゴッドガンダムに突き刺さった。

 

 

 

「ーーぐぅ!」

 

 

 

 ドモンが苦悶の声を上げる、同時に右の前蹴りが追撃で入り、後方に弾き飛ばされるゴッドガンダム。

 

 

 

 そこへ間髪入れずにシャイニングガンダムが踏み込んでくる。

 

 

 

 人が変わったように暴力的な動き。

 

 

 

 野性的なスピード。

 

 

 

 だが、冷静にドモンの動きを先読みして先回りし的確にガードの隙間を狙って拳を放り込んでくる。

 

 

 

 迂闊な攻撃は全てカウンターを浴びせてくる。

 

 

 

 情け容赦ない獣の野性と狩人の知性。

 

 

 

 キョウジ・カッシュの本領発揮と言った動きにドモンが思わず笑みを浮かべて拳を返す。

 

 

 

「……楽しいな、そうだろ? キョウジ兄さん!!」

 

 

 

 何度目かの相打ちの後、ドモンの拳がキョウジを押し返した。

 

 

 

 それに静かに棒立ちになり、キョウジはシャイニングガンダムのコクピットで口の端を釣り上げる。

 

 

 

「くくく、はははは! はぁーはははあっはあはは!!」

 

 

 

 哄笑が響く中、ドモンも不敵な笑みを口元に刻み、燃える漆黒の瞳を兄に見据える。

 

 

 

「お前は、凄いよドモン。これだけやって、まるで勝てる気がしない。本来ならそれは怖いことなんだ。なのに、お前と拳を交えるとドンドン自分が自分じゃなくなるような気がする。強くなれる自分もそうだが、恐怖なんて飛んで行ってしまう程に熱い何かが、俺の心をつかんで離さない」

 

 

 

 キョウジが鋭いながらも熱い炎を宿した瞳でドモンを見据えて笑う。

 

 

 

「それがガンダムファイターさ。どんなに苦しくても闘う熱きファイターの拳だ!! 兄さんも持っているだけだよ、ガンダムファイター魂を!!」

 

 

 

 ドモンはそれに拳を握って答えた。

 

 

 

「さあ、仕上げだ!! 兄さんとシャイニングガンダムの力を俺にぶつけて来い!! 俺とゴッドガンダムの最高の力で正面から打ち破ってやる!!!」

 

 

 

 ドモンのその言葉に応えるようにゴッドガンダムのデュアルアイが輝く。

 

 

 

 同時にシャイニングガンダムのデュアルアイも輝いた。

 

 

 

「そうかーー。だったら兄貴として、弟の挑戦は受けなきゃな!! そうだろ、シャイニングガンダム!!!」

 

 

 

 右手を掲げる二機のガンダムは、祝詞を高々と告げる。

 

 

 

「「流派! 東方不敗の名の下に!!」」

 

 

 

「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!!」

 

 

 

「俺のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ!!」

 

 

 

 キングオブハートがゴッドガンダムの右手に宿り、真紅に爆熱した炎は黄金の気と共に右手に集中する、全身を黄金からトリコロールに戻しながら右手だけは白金色に輝く。

 

 

 

 シャイニングガンダムもまた同じように白金色に右手を輝かせ、全身をトリコロールの状態に戻していた。

 

 

 

 極限の気が両者の右手に宿っている。

 

 

 

「必ぃいいい殺っ! シャァアアアイニングゥウ!!」

 

 

 

「爆ぁああく熱っ! ゴォオオッドォ!!」

 

 

 

 同時に相手に向かって一気に駆ける。

 

 

 

 音速を越えた動きで互いに目にも映らぬスピードで相手に向かい、掲げた右手を正拳突きのように打ち出す。

 

 

 

「「フィンガァアアアアアア!!」」 

 

 

 

 中央で組み合う両者の一撃。

 

 

 

 踏ん張っていた大地はひび割れてクレーターとなり、二機のガンダムは身にまとう気によって宙に浮かびながらその場に留まり、気を高めあう。

 

 

 

 同時に天が祝福するかのように、白金色の光の柱を島の中央に突き立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 月面都市コペルニクス。

 

 

 

 デュランダルの工作員として派兵されている情報屋の一角で、Dは静かに報告を聞いていた。

 

 

 

「と言うわけでして、ラクス・クラインは何名かの者と共に買い物をしているようなのです」

 

 

 

 弱り切った顔をした男の言葉を構わずに続けろとDは先を促す。

 

 

 

 隣ではマスターアジアが、豪快に笑っていた。

 

 

 

「何と! 胆の据わった少女よ!! 敵地の真ん中で堂々と買い物をするとはな!!」

 

 

 

 腹を抱えているマスターを尻目にチャップマンは冷静に葉巻に火をつける。

 

 

 

「……ふむ。同行者の特徴から言えば、ミケロとレイもいるようだな。狙いはなんだ?」

 

 

 

 葉巻を吸いながら、男の報告を客観的に見ている。

 

 

 

 Dがそれを横目に見ながら告げた。

 

 

 

「そいつは本物のラクス・クラインだ。ダコスタの慌てぶりが目に浮かぶ」

 

 

 

 淡々とした言葉にチャップマンが「ほう」と相槌を打つ。

 

 

 

「本物に偽物か。にわかには信じられんな。年端も行かぬ少女にコロニーを纏めるだけの力がある等」

 

 

 

「それがコーディネーターの危うさよ、チャップマン」

 

 

 

「というと?」

 

 

 

「能力があるがゆえに、奴らはあまりにも早く技術力を高め過ぎてしまった。本来人間の能力は段階を積んでいくことにより、開花する。しかし、奴らは段階を積むことをせずに結果を出すことができるようになっておる。この世界の人間であるナチュラル共は、表向きの能力にしか目が行っておらんから知る由もなかろうが」

 

 

 

 嘆かわしいと言わんばかりに東方不敗マスターアジアは表情を歪ませている。

 

 

 

「遺伝子をいじったが故に、初めから「そうなる」ことを宿命づけられてしまった人間。だがその人間にも心がある。当然よな? そやつもまた命なのだから」

 

 

 

「……確かにな。子は親の道具ではない。そして、親を越えるためには道具であってはならない」

 

 

 

「然り。だが、何を持って越えるかとなれば話は違う。親と比べて何を優ると言う? 職業か? 階級か? 給料か? そもそも比べることすら無意味なことだ。何故ならば同じ環境には無いのだからな、親と子は」

 

 

 

 チャップマンは静かにマスターアジアを見据える。

 

 

 

 マスターアジアは続ける。

 

 

 

「しかし、比べてしまう。それは人が故よ。比べる必要が無い程に自信を持つためにはあらゆる障害を乗り越えていかねば悟れぬ。容姿や能力、確かに人と比べれば良いにこしたことはあるまい。だが、それが全てではない。その最たるものが出会いよ。その魂に影響を与える出会いがあれば、人はどうとでも変わる。遺伝子が全てではないと言うことだ、それをこの世界の者は誰も言わぬ」

 

 

 

 悲し気なマスターアジアの言葉は、怒りも混じっている。

 

 

 

 能力に打ち勝つためだけに、薬を使って体を作り変えてしまうナチュラルを想って。

 

 

 

「……能力が全てではない、か」

 

 

 

 静かにDがマスターアジアを見ながら告げる。

 

 

 

「Dよ、真の強さとは力ではない。力に屈すること無き魂こそが、真の強さと知るがいい」

 

 

 

「その強さは、一朝一夕で身につくものではない、か」

 

 

 

「如何にも!!」

 

 

 

 腕を組みいつものように咆哮するマスターアジアにDは静かに邪悪にして不遜な笑みを浮かべる。

 

 

 

「面白い…! 手に入れてやるぞ、その強さを!!」

 

 

 

「はたして、そう上手く行くかな? 楽しみに見させてもらうぞ、Dよ!!」

 

 

 

 マスターアジアからの挑戦状とも言える言葉にDは笑みを強めるのだった。

 

 

 

(もっとも、貴様は既にその強さを手に入れておる。問題はそれに気付くか否か、よ)

 

 

 

 笑みを浮かべてマスターアジアも見下ろしながら、心の中でそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 コペルニクスのデパートで

 

 

 

 ラクス・クラインとメイリン・ホークは堂々と服屋での買い物をしていた。

 

 

 

 これに付き従うのは、レイ・ザ・バレルとミケロ・チャリオットである。

 

 

 

「…確かに、ラクス・クラインが買い物をすれば敵をおびき出せると案を出したのは俺だ。だが、何もここまで堂々と買い物しなくてもよくはないか?」

 

 

 

「俺様にごちゃごちゃ言うんじゃねえよ。本人たちに言え」

 

 

 

「…………いや、無理だ」

 

 

 

 先ほどのラクスの迫力とメイリンへの後ろめたさが、レイの口を閉ざさしてしまう。

 

 

 

 それにミケロが呆れた顔をしながら言う。

 

 

 

「おめえ、初めて会った時は可愛げのないガキだと思ったが。ちゃんとガキだったみてえだな」

 

 

 

「……皮肉か」

 

 

 

「ま、いんじゃねえか? ガキはガキらしい方が好みだぜ」

 

 

 

「……意外だ。貴方は俺のような奴が嫌いだと思っていたが」

 

 

 

「スカしたガキは嫌いだってだけよ」

 

 

 

 へっと笑うミケロにそれはそれでどうなのだ、と顔を歪めるレイだが口には出さない。

 

 

 

 後ろのほうではイザーク達三人が服を吟味するふりをしながらこちらを尾行している。

 

 

 

「…お前は服を買わねえのか?」

 

 

 

「俺たちは護衛だからな。それに服なんて興味はない」

 

 

 

「ダメダメだな、おめえ。良いか? 元はそれなりの顔をしてんだ。惚れた女にアピールするんなら、服にも気を使いやがれ」

 

 

 

「…何の話だ?」

 

 

 

「メイリンて嬢ちゃんが、気に入ってんだろ?」

 

 

 

「違うと言ってるだろ」

 

 

 

「ああ? どう見ても……!」

 

 

 

「違う」

 

 

 

 表情を消し、静かに告げるとミケロは肩をすくめて言った。

 

 

 

「ああ、そうかい。ま、それで良いなら良いんじゃねえか?」

 

 

 

「真面目に聞け、ミケロ!」

 

 

 

 真剣に抗議するレイにミケロは静かに返す。

 

 

 

「おい、レイ。嬢ちゃんたちが先に行こうってよ」

 

 

 

「……お前な!!」

 

 

 

 ミケロは、頬を微かに染めて真剣な顔で言ってくる反応を楽しんでいるだけなのだが、それに気付かないレイであった。

 

 

 

 そんな一行の下に変化が訪れた。

 

 

 

 それは、一つの丸い球だった。

 

 

 

 ハンドボールくらいの大きさの赤色をしたマスコット型ロボットが現れたのだ。

 

 

 

「ハロ!ハロ!Excuse me!Do understand?」

 

 

 

「ハロ?」

 

 

 

 突如登場した赤いロボットにこちらのピンク色の同型ロボットが反応する。

 

 

 

「これは、ミーアのアカちゃん!」

 

 

 

 手を叩いて出迎えるラクス。

 

 

 

 その広げられた両手の中に赤い球型ロボットーーハロが飛び込む。

 

 

 

「……」

 

 

 

 その口に挟まれた手紙を見たとき、ラクスの目が鋭く細まった。

 

 

 

「ラクス・クライン! 迂闊に触らないでください!!」

 

 

 

 思わず駆け寄るレイにラクスは静かに手紙を手渡す。

 

 

 

「ーー?」

 

 

 

「どうやら、動いてくれたようですわね」

 

 

 

 怪訝に思いながらも手紙に目をやり、見開くレイの反応を見てラクスは微笑む。ミーアの手紙には 『助けて殺される!ラクス様!』 とだけ記されていた。

 

 

 

「…思いっきり罠ですね」

 

 

 

「マジかよ。いっそ清々しいな」

 

 

 

 メイリンの言葉にミケロも確認して、肩をすくめる。

 

 

 

 隣ではピンクハロと赤ハロが追いかけっこを始めていた。

 

 

 

 それを見るラクスの口元は穏やかな笑みを刻み、その瞳は激しい怒りの炎を燃やしている。

 

 

 

「ミーアを罠に使うなんて……。分かってはいても、腹が立ちました」

 

 

 

「………っ!!!」

 

 

 

 その怒り方に思わず身を引くレイ。何気にミケロも一歩、ラクスから距離を取る。

 

 

 

 それほどの迫力だった。

 

 

 

 ここまでの話でメイリンが思わずラクスに問いかける。

 

 

 

「ラクス様、ミーアさんて言うのが?」

 

 

 

「わたくしのせいで人生を議長に利用された女性です」

 

 

 

 強い瞳で言うラクスに思わずメイリンが目を見開く。

 

 

 

「ミーア・キャンベル、議長のラクスだ。ラクス・クライン、貴女とメイリンはイザーク達と共に帰還してください。ここからは我々のーー!」

 

 

 

「……メイリンさん、イザーク隊長たちと共に行動してください。ここからは危険ですから」

 

 

 

「…いや、ラクス? 貴女もーー!」

 

 

 

 そう告げようとするレイにそれ以上言わせないように胸を張り、肩で風を切るようにして車に歩き出すラクス。

 

 

 

 その顔はもう、誰の言葉も聞かないとはっきり分かるほどに強烈な意志が張り付いている。

 

 

 

「仕方がない、メイリン。お前は早くーー!」

 

 

 

「一緒に行くよ、レイ」

 

 

 

「お前まで何を言ってるんだ! 危険なんだぞ!!」

 

 

 

 気負いも何もない口調に思わず、肩を掴んで言うレイ。

 

 

 

 メイリンは大切なミネルバの仲間だ。

 

 

 

 ルナマリアの妹だ。

 

 

 

 レイにとってのミネルバとは、彼女も含めたクルー達全てなのだ。

 

 

 

「頼む、メイリン!! 戻ってくれ!!」

 

 

 

 今にも泣き出しそうな、そんな顔で言うレイの手を掴んでメイリンは微笑む。

 

 

 

「レイ、ごめんね? でも、レイだって私の言うこと聞いてくれないんだもの。私だけ聞いてって言うのはおかしいよ?」

 

 

 

「メイリン…!!」

 

 

 

 優しい目で温かい微笑みで、しかしメイリンはレイの申し出を却下する。

 

 

 

「ねえ、レイ。どうして、私に来てほしくないの? 私が大切だから?」

 

 

 

「当たり前だ!! お前は、俺の大事な仲間だ!!!」

 

 

 

 頬を赤く染め、潤んだ瞳で問いかけるメイリンにはっきりと力強く宣言したレイ。

 

 

 

 その後のメイリンの変化は劇的だった。

 

 

 

 先まで可愛らしい表情ながらも女を感じさせていた表情が一変して能面のような無表情に変わるとしっかりとレイの袖をつかんだのである。

 

 

 

「え? え?」

 

 

 

 メイリンの表情の変化の意味が分からず戸惑うレイ。彼にかまわず、力づくでメイリンは車に戻るとラクスと顔を合わせ頷き合い、助手席に座りなおすラクスに軽く頭をさげた後、レイを後部座席に連行した。

 

 

 

「ど、どうしてこうなる?」

 

 

 

 最初とまったく同じ座席位置だが、メイリンのほうは頬を膨らましてレイから顔をそむけてしまう。

 

 

 

 ただしその両腕はレイの左腕をガッチリと掴んで離さない。

 

 

 

 その様を半分あきれながらも面白そうにバックミラー越しに見据え、ミケロは車を走らせる。

 

 

 

 その後ろをイザーク達の車が付いてきていた。

 

 

 

 ミーアの手紙と共にあったのは簡単な手書きの地図。

 

 

 

 それは持ち主の分からない今は閉鎖されたコンサート会場だった。

 

 

 

 建物の前に車を止め、ラクスたちがおりる。

 

 

 

 そのすぐ後ろにイザーク達も付いてきた。

 

 

 

「ここまで来たら尾行の必要もあるまい」

 

 

 

「とっとと、助けちまおうぜ!」

 

 

 

「油断は禁物よ! 相手はデュランダル議長なんだから!」

 

 

 

 イザーク、ディアッカ、ミリアリアの言葉に頷き、ラクスはレイ、メイリン、ミケロを見据える。

 

 

 

「力を貸してください。わたくしの妹を助けるためにーー!!」

 

 

 

 場にいる皆が頷いた。

 

 

 

 

 

 一方でこれを確認した工作員の男が車に向かって走る。

 

 

 

 車載用無線機で連絡したのは、つい先日に三人の化け物に占拠されてしまったピザ屋のアジトだ。

 

 

 

 ラクス・クラインを見つけたはいいが、ただならぬ雰囲気で廃墟と化した会場に向かっていくのを確認した彼はこのままだと手遅れになると判断し、急いで通信を入れながら告げた。

 

 

 

「こちらアルファ! 目標が廃墟になったプラントドームに入っていった! 繰り返す!!」

 

 

 

 男の無線が路地裏に響き渡っていた。

 

 

 

 




 ついに再会をはたすラクスとミーア。

 ミーアにかけられた催眠術は強力で執拗にラクスを殺そうと狙ってくるのです!

 ミケロとレイ、イザークとディアッカによってなぎ倒される工作兵達。

 しかし、倒された彼らは悪魔の細胞によって作り変えられていくではありませんか!!

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第84話に!

 レディー、ゴー!!



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第84話 計られた再会 魔王D死す

 みなさん!

 ついにミーアとラクスは再会を果たしました。

 しかし、サラという女性は己の命を捨ててまでデュランダルの理想を叶えんと立ちはだかるのです。

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイイ、ゴォオオオオオ!!


 

 ラクス・クラインの動向を確認したサラは静かにほくそ笑んだ。

 

 

 

「本当に来るなんて。流石は慈悲深いラクス・クライン。私どものラクス様の為にわざわざ死んでくれるのかしら」

 

 

 

 半壊したコンサート会場。

 

 そのステージ上では、ミーアが壊れた人形のような表情で座っている。

 

 

 

 目は虚ろで、何も映しはしない。

 

 

 

「私はラクス。私はラクス。私はラクス。私はーー」

 

 

 

 何度も何度も同じ言葉を繰り返す様は、廃人のようだ。

 

 

 

 妨害は一切しない。

 

 

 

 襲撃は彼女に釣られてラクスが上がった時だ。

 

 

 

 静かに、サラは配置に付いて虎視眈々とその時を待っていた。

 

 

 

「ミーア!!」

 

 

 

 その時、ラクスを先頭に6人の人間が姿を見せた。

 

 

 

「…あっさりと見つかったな?」

 

 

 

「だけど、ヤバそうな予感がするぜ」

 

 

 

「そりゃ、罠だもん」

 

 

 

 イザークとディアッカ、ミリアリアの身も蓋もない言葉を横に置いて、ラクスがミーアに駆け寄る。

 

 

 

「ラクス様、いかん!!」

 

 

 

 イザークの声が響く中、ステージ上にラクスが立った瞬間、四方向から機関銃の弾丸が彼女を襲った。

 

 

 

 蜂の巣になれとでも言わんばかりの銃弾の雨嵐。

 

 

 

 たっぷり1分程、その斉射は行われていた。

 

 

 

「打ち方、止め」

 

 

 

 サラが無線で合図を飛ばすと、ピタリと銃弾の雨嵐が止む。

 

 

 

 ミーアの目の前でそれだけの弾丸が叩きこまれた。

 

 

 

 だというのに、彼女はまるで見向きもせずに鼻歌を歌っている。

 

 

 

「…ミケロ、流石だな」

 

 

 

 そんな空気の中、レイの静かな声が届く。

 

 

 

「ーーっ!?」

 

 

 

 サラたちが目を見張ったその時、立ち上る煙の向こうに見えたのは両手の指で全ての弾丸を挟み止めているファイターの姿だった。

 

 

 

「何の冗談だ? この俺様が、ドモン・カッシュのモノマネなんてよ!」

 

 

 

 心底不快気に吐き捨てながらも、挟みとめた弾を払い落とす。

 

 

 

 その後ろには、ラクスが無傷の状態で立っていた。

 

 

 

「奴もガンダムファイターか!」

 

 

 

 工作員の誰かがそんな声を上げる。

 

 

 

 それを聞き留め、ミケロは静かにその男をねめつけた。

 

 

 

「笑わせんなよ? 俺様をそこいらのカスファイターと一緒にするんじゃねえええええっ!!」

 

 

 

 右足を膝を曲げて上げ、回転しながら一閃する。

 

 

 

「いくぜぇっ、銀色のぉおお脚ぃいいいいっ!!」

 

 

 

 放たれた衝撃波は数人を巻き込み、後方へ弾き飛ばす。

 

 

 

「ラクス・クラインを殺せ!」

 

 

 

 サラからの指示に従い、忠実にラクスを狙おうとするも、ミケロの圧倒的な身体能力の前に文字通り蹴散らされる。

 

 

 

「おいおいおいおい! 俺様を相手にしておいてよそ見なんぞできると思ってんのか? ああ!?」

 

 

 

 ミケロの身体能力に注意を払わざるを得ない工作兵達。

 

 

 

 だが、彼一人に注目していてこの場を乗り切れるほど、イザークやディアッカ、レイは甘くはなかった。

 

 

 

「隙だらけだぞ!」

 

 

 

「悪ぃが、もらうぜ!」

 

 

 

「ラクス・クラインをやれると思うな!」

 

 

 

 手に持った銃で次々と工作兵が撃たれていく。

 

 

 

 彼らの射撃能力は、正確無比だ。

 

 

 

 倒れ伏していく兵士達を舌打ちをしながら見据えるサラは、自分の拳銃をラクスに据える。

 

 

 

 一方のラクスは、これほどの騒ぎになっているのに未だ動こうともしないミーアを見て必死の形相で叫ぶ。

 

 

 

「ミーア! しっかりしてください!! ミーア!! わたくしが、分かりませんか!?」

 

 

 

 距離にして僅か5メートルだと言うのに、彼女に近づこうにも兵士達の数と鉛弾がそれをさせてくれない。

 

 

 

「ラクス様、無茶しないでください! レイ達がこの場をしのいでからーー!」

 

 

 

「いえ、それでは遅いのです!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 ミケロのおかげでレイやイザーク達の仕事がスムーズに進んでいる。

 

 

 

 このままいけば、そう遠くない内に全滅できると思っていたメイリンと違い、ラクスの焦り方は異常だった。

 

 

 

「戦闘力が問題ではないのです!!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 ラクスの言葉に応えるように、倒れ伏した兵士たちがゆっくりと起き上がった。

 

 

 

 銃弾をまともに受けたはずなのに、彼らは平然としている。

 

 

 

 それは人間ではありえないーー。

 

 

 

「な、何なのーー! どうして!?」

 

 

 

 メイリンが混乱するのも無理はない。

 

 

 

 拳銃の弾を急所に浴びて何事もなく動ける存在など、誰の目から見ても異常なのだから。

 

 

 

 瞬く間に人の形をした何かは人を外れた何かに変わっていく。

 

 

 

 髑髏の顔をした生きてはいない存在に。

 

 

 

 それは神が定めた摂理に逆らう歪な存在。

 

 

 

 命無くして動き出す屍ーー。

 

 

 

 DG細胞によるゾンビ兵達だった。

 

 

 

「これってーー! ロゴスのメンバーが使ってた!!」

 

 

 

 メイリンの記憶にも新しいもの。

 

 

 

 それはヘブンズベース基地で連合やザフト軍の人間を取り込んだウォンやウルベの悪魔の力。

 

 

 

 人を異形へと変える忌むべき力だ。

 

 

 

「どうして、プラントの人間がこの力を!?」

 

 

 

 思わず叫ぶメイリンにイザークが叫ぶ。

 

 

 

「メイリン・ホーク! 君はラクス様と一緒に安全圏まで下がってくれ!! こいつらは俺達で抑える!! おい、レイ・ザ・バレル!」

 

 

 

「何か?」

 

 

 

「二人の護衛は頼んだぞ! 殿は俺たちが引き受ける!!」

 

 

 

「…ですが、ミーア・キャンベルを救出できなければ。ここまで来た意味がありません」

 

 

 

「今は無理だ! それくらい、貴様ならば分かるだろ!?」

 

 

 

 渋い顔でミーアを見ながら言うレイをイザークがいさめる。

 

 

 

「だが、このまま議長に利用され続けるようでは!!」

 

 

 

「分かっている!! しかし、守る者を守り切れなければ、救うこともできん!!」

 

 

 

 レイはその言葉に目を見開いたあと、コクリと力強く頷き返した。

 

 

 

「メイリン、ラクス・クライン。一緒に来てくれ!」

 

 

 

 銃を敵に構えながら言うレイにメイリンが頷くも、ラクスはミーアを見据えたままだ。

 

 

 

「……ラクス・クライン?」

 

 

 

「レイさん。一瞬でいいのです、敵の注意をわたくしから離せませんか?」

 

 

 

「……危険です」

 

 

 

「分かっています。ですが、ここでわたくしが命をかけなければ彼女を救うことはできない。違いますか?」

 

 

 

 頑固な態度のラクスに思わず渋い顔をするレイ。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「貴様が命をかけたところで、ミーアを救えるとは限らんぞ?」

 

 

 

「! Dさん!!」

 

 

 

 その声は唐突に会場に響き渡り、青い光が会場を覆う。

 

 

 

 ラクスの傍らには、いつの間に居たのか180を越える長身の赤髪の男が立っている。

 

 

 

 先の男ーーDが放った光。

 

 

 

 状況の変化は顕著だ。

 

 

 

 骨と化した死人の兵士達が、次々と崩れ落ちていく。

 

 

 

「…現れたか、デビルガンダム…っ! 会場を取り囲んだゾンビ兵をすべて出せ!!」

 

 

 

 サラがその光景に舌打ちしながらも指示をする。

 

 

 

 同時にそれまで呆然としていたミーアの瞳に光が戻った。

 

 

 

「…! 私?」

 

 

 

「ミーア!!」

 

 

 

「? ラクス、さま? D?」

 

 

 

 呆然と自分の目の前にいるラクスやDを見るミーア。

 

 

 

 彼女の表情が正気に戻ったことを悟り、喜ぶラクス。

 

 

 

「……小娘が」

 

 

 

 少し前までどおりの無感情なDの呼び方に思わずミーアの眦が吊り上がる。

 

 

 

 涙が溢れる。

 

 

 

「何よ、いきなり!!」

 

 

 

 近づけたはずの距離が無かったことになったような。

 

 

 

 理不尽な怒りと切なさで。

 

 

 

「……フン、無事のようだな。ミーア」

 

 

 

 だがすぐに続いた彼の声と表情は、ミーアが聞いたことがないほどに温かった。

 

 

 

 その心地良さに思わず頬を染め、胸が高鳴る。

 

 

 

「え? D?」

 

 

 

 戸惑うミーアを置いてDは前に出る。

 

 

 

「ラクス、ミーアを頼む」

 

 

 

 Dの言葉に彼女を抱きしめているラクスがコクリと頷いた。

 

 

 

 そんな少女たちの再会を割り込むような男達の叫びが聞こえる。

 

 

 

「この、身の程知らずがぁあああああ!!」

 

 

 

「ふんーー。実力差も分からん屑が!!」

 

 

 

「邪魔なんだよぉ、雑魚共がぁああっ!!」

 

 

 

 いつのまにか周囲を取り囲んだ無数のゾンビ兵達をデビルガンダム四天王の三人が生身で蹴散らしていく。

 

 

 

 ゾンビ兵と化した人々は、老若男女変わらず同じ姿へと進化し、次々と会場に押し入ってくる。

 

 

 

「一般人まで巻き込んだのか!?」

 

 

 

「何が…、何がナチュラルとの共存だ!? ギルバート・デュランダルめ!!!」

 

 

 

 ディアッカが状況を正しく認識し、イザークが怒りの咆哮を上げる。

 

 

 

 彼らにも信じたい気持ちがあったのだ。

 

 

 

 デュランダルに命を救われたのは、事実なのだから。

 

 

 

 だからこそ、ギルバート・デュランダルを信じたい気持ちがイザークにもあった。

 

 

 

 それが、完膚なきまでに否定された瞬間だ。

 

 

 

「ギルーー! 貴方は、自分の夢の為にここまでするのか」

 

 

 

 呆然とレイはゾンビ兵達を見据える。

 

 

 

 そして、それを率いる女性を。

 

 

 

「残念です、レイ・ザ・バレル殿。まさか、貴方まで議長を裏切るとは」

 

 

 

「……応えてくれ。民間人を犠牲にしてまで、ラクス・クラインを殺さなければならないのか?」

 

 

 

 サラの言葉にレイは静かに問いを重ねる。

 

 

 

 その後ろにいるかつての自分の全てだった男に向けて。

 

 

 

「何の罪もない人々を作り変えて、その先に平等の未来があるのか!?」

 

 

 

「あなたは、何を見てきたのですか? 世界は私たちを傷つけるだけ。だからこそ、議長の理想は何を犠牲にしても叶えなければならないのです」

 

 

 

「ふざけるな!! 命は道具じゃない!! 代わりなんかないんだぞ!!!」

 

 

 

 感情を思い切り出して怒るレイ。

 

 

 

 それを見たメイリンは驚いた後、静かに微笑んだ。

 

 

 

(レイ、やっぱりシュバルツさんや皆のこと)

 

 

 

 レイの頭の中には声が反芻されていた。

 

 

 

 かつて自分が目指した自分の半身とも言うべき男の言葉が。

 

 

 

ーー 人は自分の見てきたものしか知らない。それは仕方のないことだ。君の知るギルが全てではなかった、それだけのことだよ --

 

 

 

「こんなやり方で、戦争を終わらせようと言うのか!? 終わると思うのか!!?」

 

 

 

ーー 作られた者の為に平和な世界を作る。その為に『私』を生み出す。それがギルと言う人間だ --

 

 

 

「こんなことを繰り返したところで、俺や貴女のように不幸な人間が増えるだけだとは思わないのか!?」

 

 

 

 レイの言葉にサラは心から軽蔑したような表情になる。

 

 

 

「何を言ってるのですか? 私たちは理想の世界の為に闘うだけです。議長の為に。それこそが幸福な人生ではないですか」

 

 

 

ーー 君に忠告をしておこう。ギルを信じるのは、君にとって破滅しかもたらさない、とね --

 

 

 

 冷淡なサラの言葉に重なるように彼の言葉が聞こえてくる。

 

 

 

ーー 君は、私やギルとは『違う』。ギルは君を「ラウ・ル・クルーゼ」としか見ていない。だから、気付かないだろうが。あいにくと私にはわかってしまう。君は『ラウ・ル・クルーゼ』には成りえない、とね --

 

 

 

 その声を唐突に理解する。

 

 

 

 このサラという女性は正に、ギルと『同じ』なのだ。

 

 

 

 疑わず、信じる。

 

 

 

 ギルのすべてを。

 

 

 

 それを否定する『今の自分』は違うのだろう。

 

 

 

 この感じる怒りも悲しみも、かつての『自分』は感じなかった。

 

 

 

 いや、感じても感じていないふりをしていた。

 

 

 

 それを変えたのはーー。  

 

 

 

ーー お前は私の掛け替えの無い弟子なんだ。 自分の命を軽くしないでくれ。頼む --

 

 

 

 温かい声が今も胸の中に響く。

 

 

 

 二人の声が。

 

 

 

ーー 人はね、レイ。自分以外の何ものにもなれはしないんだよ。『私』はそれを理解した。そして絶望した。だが、君は違う。君の答えは『私』と同じではないはずだ --

 

 

 

 目を見開き、静かにレイはラウ・ル・クルーゼの言葉を思い返した。

 

 

 

(ラウ、貴方はだから俺を『希望』だとーー!)

 

 

 

 その時だ。

 

 

 

 最後のゾンビ兵がマスターアジアの手によって叩き伏せられた。

 

 

 

「地獄の亡者にしては温い相手よ!!」

 

 

 

 いつの間にか、サラ以外の全ての者が地面に倒れ伏している。

 

 

 

 マスターアジア、チャップマン、ミケロはゆっくりと会場に上がって来た。

 

 

 

 その間に抱き寄せたミーアの手をとり、イザーク達の側へと引き寄せるラクス。

 

 

 

「もう大丈夫です、ミーア」

 

 

 

「ラクス様、私?」

 

 

 

「貴女が無事でよかった……!」

 

 

 

 涙ながらに自分を抱きしめて来るラクスにミーアは戸惑うしかない。

 

 

 

 記憶が曖昧で、Dが目の前にいることもぼんやりとしか認識できていないのだ。

 

 

 

(私、どうしてここにいるの? どうなったの?)

 

 

 

 記憶が混乱しているミーアを置いて、Dは静かにサラを見下ろす。

 

 

 

 サラもまたステージに立っていた。

 

 

 

 その表情は追い詰められた者の顔ではない。

 

 

 

 余裕を感じられる。 

 

 

 

「まだ何かありそうだな?」

 

 

 

「マジかよ」

 

 

 

 辟易しているイザークとディアッカの会話を尻目にミリアリアが周囲を見る。

 

 

 

「周囲に反応はないけど。DG細胞ってとことんまで常識通じないみたいだから安心できないわね」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 目の前の美女が高笑いを始めたのだ。

 

 

 

 一目で狂っているのが分かる笑い方だった。

 

 

 

「ええ、そのとおりよ。よく見ておきなさい、これが議長に捧げた私の命の証ーー!」

 

 

 

 言うとサラは注射器を懐から取り出し、自分の首に打ち込んだのだ。

 

 

 

 思わずイザークが訝し気になる。

 

 

 

「何!?」

 

 

 

 美しい外見は紫色の肌に変化し、鋭い牙と血走った眼は異形そのものだ。

 

 

 

 その様にガンダムファイター以外の皆が、あのラクスでさえも表情を歪める。 

 

 

 

 その女にレイが思わず叫んだ。

 

 

 

「貴女は人であることを自分から捨てようと言うのか!?」

 

 

 

 その時、一人の漢がレイの隣に立った。

 

 

 

「レイよ、もう何も言うな」

 

 

 

「! マスターアジア!」

 

 

 

「悲しいが、言葉が通じぬ相手もおる。力でしか、拳でしか止められらぬ者もな」 

 

 

 

 戸惑うレイの隣に一人の紳士が立つ。

 

 

 

「止めたい奴がいるのだろう? ならば貴様の覚悟を示せ。俺達と共に来ると言ったのは口先だけの覚悟ではあるまい?」 

 

 

 

 目を見開くレイの正面にトサカ頭にした赤い髪の男が立つ。

 

 

 

「一々、誰かに諭されなきゃ戦えねえのか!? そんな程度の覚悟なのか!? ああ、レイ!?」

 

 

 

 炎が宿る。

 

 

 

 その瞳に。

 

 

 

 その胸の奥に。

 

 

 

「分かった。目の前の敵をーー倒す!!」

 

 

 

「ケッ、トロトロしてんじゃねぇぜ!!」

 

 

 

 少年の決意の言葉に四天王の三人が凶悪に笑い、彼らを代表するようにミケロが言った。

 

 

 

 彼ら四人の隣へと静かに力強い足取りで歩み、赤い髪の男が立つ。

 

 

 

「貴様ら、我を置いて盛り上がるな」

 

 

 

 彼もまた邪悪に笑う。

 

 

 

 視線を敵に向けたまま、ミーアを連れたラクス達を手で下がらせるD。

 

 

 

 これを受け、イザークとディアッカが、ミリアリア含むラクス達4人の少女を連れ、会場から出ようと下がる。

 

 

 

 サラであった者は今、鋭い爪と牙を持って笑っていた。

 

 

 

「お前たちをこの場で皆殺しにすれば、私の命など最早要らない。理性も知性もーー! 食い殺してやるぞ!!」

 

 

 

 人としての最後の言葉だった。

 

 

 

 同時にサラの立っている地面がせり上がり、漆黒と紅のMS--ブレイズ・ザク・ウォリアーが現れた。

 

 

 

「MSか、面白れぇ! 発つぞ、ネロスガンダムッ!!」

 

 

 

 ミケロが真っ先に反応し、懐から銅色の球を取り出して輝かせた。

 

 

 

 同時に現れるのは、古代ローマ闘士の姿を模したガンダム。

 

 

 

「テメエ一機で俺様を相手にできると思ってんのかよ、ああ!?」

 

 

 

 マスターアジアがネロスガンダムの様子を伺いながら、Dに向かって言った。

 

 

 

「Dとレイ、貴様らは娘たちと共にゆけ。ここはワシらが居れば充分だ」

 

 

 

 これにDが頷く

 

 

 

「だろうな。では頼むぞ」

 

 

 

「うむ」

 

 

 

 Dの言葉にチャップマンが頷いた。

 

 

 

 こうしてDとレイはイザーク達と行動を共にして会場を後にする。

 

 

 

 彼らが通路の先へと消えた時、静かに異形と化したサラが笑った。

 

 

 

ーー オロカナ。私ノ狙イガ、らくす・くらいんダケダト思ッタノカ? --

 

 

 

「まだ話ができるだけの理性があったのか? ま、時間の問題だろうがな」

 

 

 

 嘲笑するミケロに対し、サラは言う。

 

 

 

ーー オ前タチハ知ラナイノネ。ナラバ、教エテ上ゲルワ、議長ハDG細胞ノ三大理論ノ中デモ最モ力ヲ注イダモノガアルノ。 ソレハネ、自己再生ヨ。変ワルコトナク、滅ビルコトナイ自己再生ノ姿コソ、ですてぃにーぷらんニ最モ必要トサレルモノダッタ。研究ノ副産物トシテ自己再生ヲ破壊スルういるすヲ手二入レタ --

 

 

 

「だから何だって? 俺様達にそんなものが効くと思うのかよ?」

 

 

 

 嘲笑うミケロにサラは口の端を耳元まで裂いて笑い返す。

 

 

 

ーー 戦闘もーどニナッテイルふぁいたーニ効クトハ思ッテイナイワ。ダケドでびるがんだむハドウカシラ? --

 

 

 

「ほう? あの悪魔を殺せるってのか?」

 

 

 

ーー 愛シタ女ノ手デ死ネルノダカラ、奴モ幸セヨネ --

 

 

 

 それだけを告げると、サラのザクの立つ足場から緑色の触手が生えだす。

 

 

 

 それらは一気にミケロのネロスガンダムを取り囲んだ。

 

 

 

 またその周囲の地面から無数のザク・ウォリアーが触手に編まれて生み出されていく。

 

 

 

「……コロニーからエネルギーを食ってやがるのか」

 

 

 

「ミケロよ。雑兵をいくら叩いたところで意味はない。将を討てぃ!!」

 

 

 

「分かってらぁ!!」

 

 

 

 ネロスガンダムの足先に気を纏わせて、ミケロが叫んだ。

 

 

 

「銀色のぉ、脚ぃいいいいっ!!」

 

 

 

 強大な爆発が起こり、戦闘が開始される。

 

 

 

 

 

 一方、イザーク達と行動を共にするDとレイも通路に現れた無数のゾンビ兵を相手にしていた。

 

 

 

 基本的にはDがゾンビ兵の扱う銃の弾丸を全て掌で受け止め、殴り倒していく。

 

 

 

 取りこぼしをレイ、イザーク、ディアッカの三人による銃撃によって葬る。

 

 

 

「さすがにあの化け物共の親玉だけあって圧倒的だな」

 

 

 

「ホント、敵に回したくねえな」

 

 

 

 いつもどおりの軽口をたたくイザークとディアッカ。

 

 

 

 打ち合わせをしたわけでもないのに素晴らしいコンビネーションで彼らは会場の外に出ようとしていた。

 

 

 

「もう少しですわね。ミーア、大丈夫ですか?」

 

 

 

「え、はい。ラクス様、Dも無事だったんですね。ドモンさんは?」

 

 

 

 どうやらデパートでの記憶を取り戻して来たミーアにラクスが頷く。

 

 

 

「大丈夫です。ドモンさんは故あって地球に行っています。ミーア、貴女が無事でよかった」 

 

 

 

「ラクス様。私、何かあったのですか?」

 

 

 

「詳しい話はわたくしの船に戻ってからで。まずはこの状況を打破しないとなりません」

 

 

 

 デパートでの記憶を取り戻したのはいいが、自分が何故こんなところにいるのかを理解できない。

 

 

 

 おまけにD以外に見知らぬ人がいっぱいいる。

 

 

 

 彼らも自分たちを助けに来てくれたのだろうか?

 

 

 

 そもそも、あの化け物になった女性は確か、Dを追いかけて出会った人のはずでは?

 

 

 

 確か、議長のーー。

 

 

 

 ミーアがそこまで思考をたどっていると、通路の先に明かりが見えてきた。 

 

 

 

 ようやく外だ。

 

 

 

 ゲートをくぐり、会場の外に出て皆が一息を吐いた。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 急激にミーアは自分の意識が遠ざかるのを感じる。

 

 

 

「あ、あれ?」

 

 

 

「! どうしました、ミーア?」

 

 

 

 自分が手を引く女性の足元がふらついている。

 

 

 

 ラクスは嫌な予感と共にミーアを抱き寄せる。

 

 

 

「ラクス様、私ーー! 何か、変なんです」

 

 

 

「えーー?」

 

 

 

 ミーアは全身に力が入らないようだった。

 

 

 

 なのに、右腕が勝手に持ち上がっている。

 

 

 

「これはーー?」

 

 

 

 ミーアの右腕は懐から小型の銃を取り出して、自分のこめかみに向かって銃口を押し当てた。

 

 

 

「ミーア!!」

 

 

 

 ラクスが必死にその腕を抑えようとするが、万力のようにまったく動かない。

 

 

 

 後催眠暗示。

 

 

 

 ラクスの頭の中にそのような言葉がちらついた。

 

 

 

 会場を出ると同時に催眠術が作用するようになっていたのだろう。

 

 

 

 様子がおかしいことに気付いた周りの人間が見たときには、ミーアはラクスの腕の中で自分のこめかみに銃を押し付けているところだった。 

 

 

 

「ラクス様、彼女は!?」

 

 

 

「力を貸してください、みなさん!! 腕を抑えて!!」

 

 

 

 イザークの言葉に絶叫で返すラクス。

 

 

 

「あーーラクス様、私ーー!」

 

 

 

 間に合わず引き金が引かれようとした時だった。

 

 

 

「くだらん真似を!」

 

 

 

 一瞬で目の前に現れた赤い髪の青年が万力のようなミーアの腕を掴み、力づくでこめかみから離したのだ。

 

 

 

 瞬間、腕は青年ーーDの胸元に銃口を定める。

 

 

 

「Dさん!!」

 

 

 

「だめ、D!!」

 

 

 

 二人の少女の声が響く中、銃声が轟く。

 

 

 

 銃弾は見事にDの掌の中で回転しながら止まっていた。

 

 

 

「……心配するだけ損だな、あの男に関しては」

 

 

 

「ま、まあ。あいつのおかげで助かったんだしよ」

 

 

 

 イザークとディアッカの言葉にミリアリアが理不尽なものを見たと表情を歪める。

 

 

 

 一方で、メイリンはシュバルツの理不尽さを知っているからか余り驚いていないようだった。

 

 

 

「……なるほどな。これが狙いだったか」

 

 

 

 その言葉に不穏なものを感じて、レイは思わず彼を見た。

 

 

 

「D様?」

 

 

 

 見ればDの胸元ーー心臓に値する位置から血が出ている。

 

 

 

「D!? なんで!?」

 

 

 

 思わずミーアが目を見開いた。

 

 

 

 Dは右手でミーアの腕を掴み、左手で銃弾を止めていた。

 

 

 

 つまり両手が完全に塞がった状態だったのだ。

 

 

 

 斜め横からの弾丸が彼の胸板を撃ち抜いていた。

 

 

 

「きさま!!」

 

 

 

 レイ、イザーク、ディアッカが狙撃してきた位置を正確に把握し、ゾンビ兵から奪い取った手持ちの機関銃で鉛玉を撃ち込んだ。

 

 

 

 うめき声を上げて一人の兵士がそこへ倒れ伏す。

 

 

 

 それを確認するとDが膝を付いた。

 

 

 

「D! しっかりしてよ!!」

 

 

 

 血が止まらない。

 

 

 

 ミーアは必死にハンカチで出血する胸元を抑えるがまったく止まる気配がない。

 

 

 

「無駄だ。我を構築する細胞を破壊する弾かーー。サトー達を殺した」

 

 

 

「D!! いやよ、こんなの!!」

 

 

 

 だがDは笑うのみだ。

 

 

 

「このデビルガンダムが、無様なーー! この程度のことで倒されようとはなーー!」

 

 

 

「Dさん!」

 

 

 

 死が近い、と言うのにDは笑っている。

 

 

 

 無様だと。

 

 

 

 そう言いながらも、どこか満足気に。

 

 

 

「ミーア」

 

 

 

「……何?」

 

 

 

「名を捨てるな」

 

 

 

 その言葉に、ミーアは目を見開く。

 

 

 

「我がーー貴様を必要としたことを、忘れるな」

 

 

 

「D--!」

 

 

 

「ミーア・キャンベルは不要な者ではない。我にとってかけがえない存在だった。命をかけるに値する程にはな」

 

 

 

「やめてよ、D。いつもみたいに、憎まれ口叩いてよ!!」

 

 

 

「貴様は言ったな? ラクスとして認められたいと。ミーアは誰にも必要とされないと。だが貴様はラクスに認められているではないか。必要とされているではないか」

 

 

 

 ミーアの制止の声も今のDには届いていないようだった。

 

 

 

「D、私が言ったこと。覚えてーー!」

 

 

 

 その事実にミーアは大粒の涙を流す。

 

 

 

 Dの目が光を失っている。

 

 

 

「D様!! こんな、こんな馬鹿な!!」

 

 

 

 レイが思わず叫ぶ。

 

 

 

 この男ならば、デュランダルを止められる。

 

 

 

 だからこそ、行動を共にしていたのに。

 

 

 

「Dさん、貴方はそれほどまでにミーアをーー!」

 

 

 

 ラクスの言葉にDは笑う。

 

 

 

 口の端を歪める。

 

 

 

「ラクスよ。ドモンにすまないと言っておいてくれ」

 

 

 

「Dさん!!!」

 

 

 

 その言葉を最後に赤い髪の青年は瞳を閉じた。

 

 

 

 同時に彼の血があふれ出る心臓から血のように赤い光が溢れ出しーー彼を構築する体は全て消えた。

 

 

 

「ーーD?」

 

 

 

 まるで夢のように、Dという青年はその肉体を完全に消滅させた。

 

 

 

 ミーアの足元には深紅の球が一つ転がっている。

 

 

 

「いやーー! こんなの、いやぁああああああああああああああああっ!!!!」

 

 

 

 戦いが繰り広げられるコンサート会場の外で、彼女の慟哭が木霊した。

 

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね~!

 細胞破壊ウイルスにて構成された弾丸。

 これにより命を落としたD。

 しかし、ミーアとラクスを狙う追撃のては未だに留まるところを知りません。

 彼女たちのピンチにミーアが拾った深紅の球が輝きだしたではありませんか?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第85話に!

 レディー、ゴー!!



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第85話 ミーアの声 出ろ、デビルガンダム

 みなさん、前回のお話でデビルガンダムの自我であり生身の肉体であったDという青年が命を落としました。

 しかし、追撃の手は未だにやむことはありません。

 その場に駆け付けたのは、マスターとチャップマン。

 彼らの言葉にミーアが闘う覚悟を決め、深紅の球を掲げるではありませんか!!

 それでは!
 
 ガンダムファイト!!

 レディイイイイイ、ゴォオオオオオッ!!!



 あいつに初めて会ったのは、ラクス様の姿になった時だ。

 

 

 

 議長が私の顔を見てラクスだと、言ってくれたその横にあいつは立っていた。

 

 

 

 背が高くて燃えるような赤い髪で、無駄な肉のない屈強そうな体をした野性味溢れる整った顔立ち。

 

 

 

「彼のことはDと呼んであげてくれ。しばらくは君のボディガードをしてもらうことになるだろう。色々な常識が欠けているのが玉に瑕だが、それも君が教えてあげてくれれば良い」

 

 

 

「ボディガード、ですか?」

 

 

 

 未だ飲み込めず見上げてしまう。

 

 

 

 ボディガードなら数名、すでにマネージャーから紹介されていたからだ。

 

 

 

「D、挨拶をしたまえ」

 

 

 

 議長が告げるとそいつは私を見下ろしてきた。

 

 

 

 無感情な紅の瞳が私の目に合った時、胸が鳴った。

 

 

 

「好きに呼べ、我に名は無い。ところで、デュランダル。何故こんな小娘に我の教育をさせる?」

 

 

 

 小娘という言葉に腹が立った。

 

 

 

 もっと私を見なさいよ!

 

 

 

 何故か、私はそう言いそうになった。

 

 

 

「彼女は、様々な教育をこれから受ける。君も共に受けておけば一石二鳥だよ、D」

 

 

 

「……ふん」

 

 

 

 議長にも普通に話すそいつに、私は目を丸くした。

 

 

 

 まるで自分と議長は対等だとでも言いたいのだろうか。

 

 

 

 思えば、これがこいつとの出会いだった。

 

 

 

 弱音も吐いた。

 

 

 

 いろんなことを話したような気がする。

 

 

 

 どうしてだろう?

 

 

 

 こいつは最初から私をラクスとしてでも、ミーアとしてでもなく。

 

 

 

 ただの小娘としか扱わなかった。

 

 

 

 だからなのかな?

 

 

 

 どうせ言っても気にもしないって思ってた。

 

 

 

 だからーー何を言っても振り向かせられないんだってーー。

 

 

 

 でもーー!

 

 

 

ーー ミーア・キャンベルは不要な者ではない。我にとってかけがえない存在だった。命をかけるに値する程にはな貴様は言ったな? ラクスとして認められたいと。ミーアは誰にも必要とされないと。だが貴様はラクスに認められているではないか。必要とされているではないか --

 

 

 

 卑怯だーー!

 

 

 

 だってーー!

 

 

 

 だって貴方、私に興味ないって顔してたじゃない!!

 

 

 

 興味ないから私が話しかけてもつまらなそうにしてたじゃない!!

 

 

 

 なのにーー!

 

 

 

 最後の最後で!!

 

 

 

 何も聞かずに、何も言わずに!!

 

 

 

 私の目の前でーー!!

 

 

 

「D--! 私、貴方を許さない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 転がった深紅の球をそっとミーアは拾い上げる。

 

 

 

 涙を流しながら。

 

 

 

 両手でしっかりと掴んで。

 

 

 

「ミーア!」

 

 

 

 ラクスの声が遠い。

 

 

 

 皆の声が遠い。

 

 

 

 感覚がまるでーーない。

 

 

 

 心がマヒしてしまったかのように、痛みも何も感じない。

 

 

 

 あるのはーー喪失感だけ。

 

 

 

「おい、レイ・ザ・バレル! 今はこの場から脱出することを先決したい!! 彼女を連れていけるか!?」

 

 

 

「わかりました!!」

 

 

 

 レイがイザークの言葉に頷いて、ミーアの腕をつかむ。

 

 

 

 それを彼女はあっさりと振り払った。

 

 

 

「ミーア・キャンベル!?」

 

 

 

「……貴方、確かレイーーだったわよね? どうして?」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「貴方が殺したの?」

 

 

 

「違う! D様は!!」

 

 

 

 言おうとしてミーアの憎しみに染まったアイスブルーの瞳に睨みつけられ、思わずレイは口を閉ざした。

 

 

 

 彼女をデュランダルに選ばせたのは、自分だったからだ。

 

 

 

「議長の秘書だったわよね。あの女ーー! 貴方も議長のーー!!」

 

 

 

 思わずたじろぐレイの前に現れたのはラクスだった。

 

 

 

「ミーア! 聞いてください!! 彼はーー!」

 

 

 

「どうして殺したの? なんで、Dを殺したの!!?」

 

 

 

「ミーア!!!」

 

 

 

 流れる涙をそのままにしてミーアが詰め寄ろうとするのをラクスが両肩を掴んで止めた。

 

 

 

「彼は議長の行いがおかしいと思ったから、わたくし達と行動を共にしているんです! ミーア!!」

 

 

 

「ミーア・キャンベル。確かに俺は議長のーーギルバート・デュランダルの片腕だった。だからこそ、俺は間違った道を歩む彼を止めなければならない。その為にD様の力を利用したと言うなら、そうなのだろうな」

 

 

 

「レイさん!」

 

 

 

 静かにレイは、ラクスを横にどかしミーアの瞳を正面から見据える。

 

 

 

 ミーアはその瞳を睨みつけた。

 

 

 

 そしてーー両手持ちにしていた深紅の球を左手に持ちかえると右手で拳銃を構える。

 

 

 

「! ミーア!!」

 

 

 

「レイ!!」

 

 

 

 ラクスとメイリンの悲鳴が響く。

 

 

 

 ミーアの目はそれほどまでに憎しみに彩られている。

 

 

 

「おいおいおい! こんな状況で仲間割れしてる場合かよ!!」

 

 

 

「……ミーアさん、だったわよね? 悪いけど、今は仲間内で揉めてる暇はないわ」

 

 

 

「ここを無事に逃げ延びなければDとやらが命を懸けたことが無駄になる。君はそうしたいのか?」

 

 

 

 ディアッカ、ミリアリア、イザークの言葉にミーアの目がいよいよ何の感情も映さなくなる。

 

 

 

「ラクス様、私どうしたらいいの?」

 

 

 

「わたくしと共に来てください。一緒にーー!」

 

 

 

 ラクスの真摯な声に、ミーアは笑みを浮かべた。

 

 

 

 涙をぬぐいもせず。

 

 

 

 瞬きもせずに。

 

 

 

 狂ったように、壊れたように彼女は笑っている。

 

 

 

「色が無いのーー。みんな白黒に見えるーー。なんにも考えられない。ただねーー、私。私、どうしても許せないの。何でDが死んで、アンタが生きてるのよ!?」

 

 

 

 言いながらミーアの眦が吊り上がる。

 

 

 

「Dは死んだのに、何でアンタが此処に居るのぉおっ!!」

 

 

 

 その言葉を聞いたミリアリアの表情が大きく歪んだ。

 

 

 

 今のミーアは、あの時の自分。

 

 

 

 トールが殺されて、ディアッカに出会ったあの時の。

 

 

 

「ディアッカ、イザーク!!」

 

 

 

 2人はミリアリアの言葉に反応し、機関銃を捨て護身用の銃でミーアの腕を狙う。

 

 

 

 レイは静かに瞳を閉じた。

 

 

 

(すまない。シン、ルナマリア。俺はーー!)

 

 

 

「アンタも殺してやる!! 死ねえぇえええええ!!」

 

 

 

「やめなさい、ミーア!!」

 

 

 

 止めようと腕を掴むラクスの制止の声が響く。

 

 

 

 イザークとディアッカが同時に銃を構える。

 

 

 

 それよりも早くメイリンがレイの前に両手を広げて立った。

 

 

 

 レイがメイリンの肩を掴んで下がらせようと手を伸ばす。

 

 

 

「! メイリンッ!!」

 

 

 

 3人の引き金が引かれようとした時ーーミーアの左手に握られた紅の球が輝きだした。

 

 

 

ーー うるさい奴め、我はオチオチ寝てもいられんのか。何をとち狂った真似をしている、ミーア ーー

 

 

 

 その声にミーアだけではなく、この場にいる全ての人の動きが止まった。

 

 

 

「……D……!?」

 

 

 

 思わず首を左右にやり、周囲を見回すミーア。

 

 

 

 その隙にレイが彼女の目前に立ち、右手から拳銃を取り上げた。

 

 

 

 ミーアの足から力が抜け、腰を地面に下す。

 

 

 

 イザーク達が警戒しながら自分に近づいてくるのを無視して、彼女は左手の球に語りかけた。

 

 

 

「D、なの…?」

 

 

 

 瞬間、紅の球が輝きその中に赤い髪の青年が顔を出す。

 

 

 

ーー ふん。どうやら自我の破壊までには至らなかったようだな。不幸中の幸いってやつか -- 

 

 

 

 自嘲じみた笑みを浮かべている彼は正にミーアの求めた青年だった。

 

 

 

「D、さまーー! ご無事だったのですか!?」

 

 

 

 メイリンを後ろにかばいながら、思わず告げるレイにDは憮然とした表情で見返す。

 

 

 

ーー 無事に見えるか? 文字通り手も足も出ぬわ --

 

 

 

 言いながらDはレイに向かって語り掛ける。

 

 

 

ーー とりあえずマスターアジア達と合流するぞ。とっとと我の肉体を新調せねばならん --

 

 

 

「分かりました、それでは俺とD様はここで?」

 

 

 

 後ろでメイリンの眉が険しくなっているのを知らずにレイは淡々と準備を始める。

 

 

 

ーー ああ。世話になったな、ラクス。ドモンへの伝言は無用のようだ。我は必ず復活する --

 

 

 

 邪悪に笑って言うとDの顔を映し出す球はミーアの手を離れ、宙に浮かびあがり、レイの下へ行こうとして。

 

 

 

 失敗した。

 

 

 

ーー ぬ!? --

 

 

 

 思わず目を見開くDとレイ。

 

 

 

 しっかりと球体を捕まえる白い両手がある。

 

 

 

 そのままDはミーアの豊かな胸元へ抱きかかえられていた。

 

 

 

ーー 何のつもりだ? 我は遊んでる暇はない。さっさと体を取り戻してデュランダルを倒し、ドモンとーー否ゴッドガンダムとの決着を付けねばならんのだ。分かったら、手をはな……っ! --

 

 

 

 いつもどおりに淡々とした口調で言おうとしてDは何か悪寒を感じ、思わず口を閉ざした。

 

 

 

 レイやイザーク達を見れば、悪寒を感じたのはDだけではないようだ。

 

 

 

「言いたいことは、それだけ? D--?」

 

 

 

 口元が穏やかな笑みを刻んでいる。

 

 

 

 先ほどまであった憎しみの光は瞳から消え、ただただーー光が失せた瞳がDを見下ろしている。

 

 

 

ーー な、何だよ……! --

 

 

 

 思わずそんな口調になったDをレイは責められない。

 

 

 

「何だ、ですってーー!?」

 

 

 

 ミーアの眦が吊り上がり、口が開いた瞬間だった。

 

 

 

 会場の頑強なコンクリートフェンスをぶち抜いて、拳法着を纏った壮年の男とトレンチコートを羽織った紳士が無数の敵を殴り飛ばしながら現れた。

 

 

 

「マスターアジア! チャップマン!」

 

 

 

 レイの言葉に無数のゾンビ兵を薙ぎ倒しながら、マスターとチャップマンがこちらを振り向く。

 

 

 

「何だ? まだこの辺りをうろついておったのか、レイよ」

 

 

 

「? デビルガンダムは何故ガン玉になっている?」

 

 

 

 マスターがレイに、チャップマンが球の状態になったDに向かって話しかける。

 

 

 

ーー ちょうど良いところに来た。手を貸せ、貴様ら。今すぐに我をこの女から救い出せ!! -- 

 

 

 

 Dの淡々とした表情に似合わない結構必死な感じの言葉にマスターとチャップマンが訝し気にミーアと彼を見比べる。

 

 

 

「……D、私から逃げられると思ってるの?」

 

 

 

ーー 貴様、いつからそのようなプレッシャーを放つようになった? --

 

 

 

 鬼のような形相で睨み下ろしてくるミーアにDが思わず言う。

 

 

 

「レイよ、説明せぃ。何故、Dはガン玉の状態になっておる?」

 

 

 

 マスターの言葉に一つ頷き、レイが淡々と説明した。

 

 

 

「……彼女を庇ってDG細胞を殺す弾丸を受けた為だと思います。肉体がそれにより崩壊した為、D様はとっさにガン玉になることで自我の崩壊を防いだのではないかと」

 

 

 

「ほう? つまり、その娘を庇ったが故に攻撃を受け、そのような体たらくをさらしておるわけか?」

 

 

 

 マスターアジアの言葉にDが睨みつける。

 

 

 

ーー 何が言いたい? マスターアジア ーー

 

 

 

「何、簡単なことよ。自分の惚れた娘1人守れんで人類すべてを相手取るなど、笑止千万!! 腕前はともかく、人間としては未熟も未熟よ!!」

 

 

 

 マスターの力強い宣言にぐうの音も出ないDである。

 

 

 

ーー 成長する為にも、さっさと肉体を新調させたいから助けろと言っているんだ ーー

 

 

 

 何処か拗ねたようなDの言葉にマスターがふん、と鼻で笑う。

 

 

 

「Dよ、貴様はまず惚れた女子を説得することからせねばならんな」

 

 

 

ーー なんだと? ーー

 

 

 

 完全に面食らっているDに更なる追い討ちがチャップマンからかけられる。

 

 

 

「俺たちならば、確かにそこのお嬢さんから貴様を奪うのは容易い。だが、自分の女も守れん甲斐性なしが俺たちの大将ではつまらん」

 

 

 

「然り。世界全てを相手取ると言うのであれば、まずは己の守るべきものを守り抜く覚悟と器量を見せよ! 女子一人守れんでなぁにが、人類の敵ぞ!! 凡人が出来ぬことをやり遂げてこそ、真の王ではないか!!」

 

 

 

 無茶な論理にレイが思わず反論する。

 

 

 

「いや、流石にそれは危険過ぎる。何より、人類の敵になる俺たちに民間人とも言える彼女を巻き込むなんて真似をーー!」

 

 

 

「レイよ。だぁからお前は、アホなのだ!!」

 

 

 

「ーーなっ!?」

 

 

 

 理屈と見解を説明しようとして、あっさりと砕かれる。

 

 

 

「良いか、貴様ら! 身の丈を己で決めてどうする!?」

 

 

 

「ーー限界とは自分で線を引くものではない。まして己の命を賭して守るべき相手を迎えられぬ小さな男に、何かを成し遂げることができるか? 増上慢になれとは言わん。彼女たちの願いとその重さを理解し、困難であることを覚悟した上で正面から受け止めろと言っている」

 

 

 

「仮に娘たちを手元から遠ざけ、本懐を成し遂げたとしてその後はどうする!? 貴様らを待つ健気な娘を置いて勝手にのたれ死ぬか!? 彼女らを不幸にするか!? そんなことで何とする!? 見事娘たちを手に入れ、幸せにしてみせんか、この馬鹿者ども!!」

 

 

 

 チャップマンとマスターの言葉に、一同何も言えずに固まる。

 

 

 

 イザークやラクスは、何処か関心しているようだった。

 

 

 

「ーーたとえ、その時は辛くても。生きてさえいれば、違う形の幸せがある。俺がシュバルツさんに出会えたように、だ」

 

 

 

「レイよ、そのような当たり前の話をわざわざする時点で貴様は己の限界を決めているのだ」

 

 

 

「ーー!」

 

 

 

「良いか、者共!! ワシらが歩むは鬼道。そのような危険極まりない道に大切な者を巻き込みたくないという貴様らの気持ちは分かる!! だが、そのような初めから後ろ向きな事で何になる!? 守るべき者が傍に居るからこそ、どのような道も突き進む事ができると知れい!!」

 

 

 

 マスターの力強い言葉にレイは呑まれていた。

 

 

 

 彼の語る言葉は、理屈じゃない。

 

 

 

 正に理屈じゃないから話せるのだ。

 

 

 

 だが何故だろう?

 

 

 

 彼が言う事が正しいような気になる。

 

 

 

( 俺が間違えているとは思わない。あれは強者の論理だ。力ある者だからこそ、言うことができるものだ。俺とは違う)

 

 

 

 頭の中でそのように整理しているとDが叫んだ。

 

 

 

ーー 今は、そんなどうでも良い話をしている時ではないはずだ!! さっさとこの場を脱出するぞ!! ーー

 

 

 

 その言葉に皆がそう言えばと気を取り直す。

 

 

 

 あまりにもマスターやチャップマンのインパクトが強過ぎて色々と吹き飛んでしまったのだ。

 

 

 

 同時に闘場と化していた廃コンサート会場が、音を立てて崩れる。

 

 

 

「銀色の、脚ぃいいいっ!!」

 

 

 

 裂帛の気合いと共に青い光が足先から放たれ、サラを取り込んだザクを弾き飛ばす。

 

 

 

 軽々と上半身を消しとばされるザクだが、すぐさま再生を始める。

 

 

 

 見れば黒と赤のザクは下半身の足裏からコードを伸ばし、プラントと一体化していた。

 

 

 

 倒されても倒されても、ビデオの逆再生のように復元されていくザクの姿。

 

 

 

「ーーああ、ウンザリするぜ! 何回も何回も復活しやがって!! おまけにザクどもを召喚する能力までありやがる!!!」

 

 

 

 ミケロの駆るネロスガンダムは、今の所苦戦らしい苦戦はしていない。

 

 

 

 全てにおいてサラであった異形のMS達を上回っている。

 

 

 

 ただし、敵の再生力と増殖力に辟易してはいたが。

 

 

 

「ほう? ミケロが手こずるとはな」

 

 

 

「実力差は歴然としておるが、やはりDG細胞は侮れんか。力を暴走させることでかつてランタオ島で現れたデビルガンダムと同等の自己再生と増殖を繰り返しておる」

 

 

 

 チャップマンが鋭い光を讃えた瞳で言えばマスターアジアが炎を瞳に宿して言う。

 

 

 

「テメエら、まだ居やがったのか!? とっとと離れねぇと俺様の一撃に巻き込まれて死ぬぜ?」

 

 

 

 そう告げるミケロにガン玉と化したDが呟く。

 

 

 

ーー その様でよく吠える。大方、敵の再生力を侮ってそこまでの能力を持つほどに自己進化を許したのだろう? --

 

 

 

「デビルガンダム? 何だぁ、テメエ。何でガン玉になってやがる? まさか、やられやがったのか?」

 

 

 

ーー だったら何だ? --

 

 

 

 憮然とした表情になるDにミケロが大笑いを始めた。

 

 

 

「テメエこそ、何だそのザマは!? 笑わしやがる!!」

 

 

 

ーー やはり貴様から殺すか --

 

 

 

 などとDと語り合うミケロに触手やロングライフルーーオルトロスの一撃が迫る。

 

 

 

「けっ!」

 

 

 

 吐き捨てると同時に右足を掲げ、光を放って消し飛ばした。

 

 

 

 同時に扇状に放たれた光は、無数のザクを貫いて爆発させる。

 

 

 

 しかし、残骸はすぐにその場で新しいザクに精製されていく。

 

 

 

「キリがねえ!!」

 

 

 

 思わず毒づくミケロにチャップマンが目を細めながら言う。

 

 

 

「DG細胞の生体ユニットとして、女性というのは素晴らしい相性らしいからな」

 

 

 

「ミケロよ、手を貸そうか?」

 

 

 

 マスターアジアがその隣から告げるとミケロの眦が吊り上がった。

 

 

 

「ナメんなよ? この程度の雑魚、俺様一人で叩き潰す!! テメエらはさっさとそこの役立たずのデビルガンダムと女庇って動けないレイを連れて失せろ!!」

 

 

 

 そう言い捨てるミケロにマスターアジアは面白いものを見たように目を細めた。

 

 

 

「ふん。あのミケロが誰かを庇うとはな」

 

 

 

 にやりとするマスターアジアの横でミーアが警戒したように睨みつけている。

 

 

 

「娘ーー確か、ミーアと言うたか?」

 

 

 

「な、何よ!」

 

 

 

「ワシ等としてはお前たちを守りながらの戦いと言うのは性に合わん。おぬしの持つ球、それを使ってこの場を切り抜けてくれぬか?」

 

 

 

「……どういうこと?」

 

 

 

 マスターアジアの言葉にチャップマンがニヤリとした後、紳士的な表情になってミーア達に告げる。

 

 

 

「簡単なことだ。その球は我々の王ーーデビルガンダムが変化したもの。それを召喚し、君たちはデビルガンダムのコクピットに乗って船に向かえばいい。君たちが脱出してくれれば、俺たちも本気をだすことができるからな」

 

 

 

 この言葉にディアッカが皆の顔を確認しながら言った。

 

 

 

「……どうする? 人類の敵の言うことを聞くか?」

 

 

 

「この場で敵対するつもりなら、とっくに戦っているだろう。おそらくは大丈夫だと思うが」

 

 

 

「問題はそれを使って脱出した後、よね?」

 

 

 

 イザークとミリアリアが応える。

 

 

 

「どういうことですか?」

 

 

 

「簡単なことです。わたくし達が無事に脱出できたとしても、コペルニクスにDG細胞がある限り宇宙にまであの触手は追いかけてきます」

 

 

 

 メイリンの疑問にラクスが応えた。

 

 

 

 ミーアがジッと強い目でマスターアジアを見据える。

 

 

 

「デビルガンダムってDのことよね? あいつの力なら、この場を切り抜けられるの?」

 

 

 

「そのとおりだ。物分かりが良い。球を持ち、天に掲げよ」

 

 

 

「……分かった。皆、私の周りにいて!」

 

 

 

 マスターアジアの言葉に頷いてミーアが深紅のガン玉を右手に持って掲げる。

 

 

 

ーー ま、待て!! 我の機体(からだ)をどうするつもりだ!? --

 

 

 

「生体コアが無ければデビルガンダムは動かん。ならば、ミーアという娘をコアとして認識させれば貴様も動けよう? この場くらいつべこべ言わずに載せてやらんか」

 

 

 

ーー ふざけるな! 我が何故ただのガンダムと同じような真似をせねばならん!! --

 

 

 

「そのような戯言は、ミーア達を守り抜いてからほざかんか!! この役立たずめがぁ!!!」

 

 

 

 マスターの一喝の後、チャップマンが呟く。

 

 

 

「そもそも、ガン玉になったのは誰の落ち度であったか?」

 

 

 

ーー 覚えていろよ、貴様らぁあああああっ!! --

 

 

 

 この動きにDGザクの相手をしていたミケロが気付き笑う。 

 

 

 

「良いザマじゃねえか!! 傑作だぜ、デビルガンダムよぉ!!」

 

 

 

 四天王たちからの仲間ーーいや、部下とは思えない辛辣な言葉を受けてDはガン玉の中で歯ぎしりする。

 

 

 

 そんなDに向かってミーアが周りのザク達を見回しながら催促する。

 

 

 

「D! 早く何とかしてよ!!」

 

 

 

ーー ならば、呼べ --

 

 

 

「え? 呼ぶって?」 

 

 

 

 にべもなく告げるDの言葉に要領が得ず、思わず問い返すと隣からラクスがミーアに耳打ちをした。

 

 

 

「ーーですわ」

 

 

 

「え? そ、そんなのでできるんですか?」

 

 

 

 困惑するミーア。

 

 

 

 その周りを次々とデビルザクが包囲していく。

 

 

 

「ええ。さ、ミーア。早く!」

 

 

 

「わ、分かりました!!」

 

 

 

 眦をキリリと引き締めて、コホンと一つ咳払いすると迷っている暇はないとミーアは天に向かって叫んだ。

 

 

 

「出てちょうだいっ! ガンダァアアアアアムッ!! --で、いいのかしら?」

 

 

 

 瞬間、血のように紅い光がガン玉から発せられ、辺りを照らし出す。

 

 

 

 光が晴れたと同時にミーア達が見たものは、コクピットの中だった。

 

 

 

 外部モニターにて自分の機体を確認すれば、20メートルを優に越えるMSにしては強大な体格。

 

 

 

 仏像を思わせる丸みのある白い顏。

 

 

 

 巨大な赤い翼を持った機体ーーデビルガンダムそのものだ。 

 

 

 

「な、何だ? この操作体系は? どうやって動かす!?」

 

 

 

 イザークが思わず360度と上下を見回して言う。

 

 

 

 すべてが肉眼で確認できるコクピット。

 

 

 

 操作パネルもペダルもない。

 

 

 

 ただ広いだけのコクピットスペースは、MS乗りであるイザークとディアッカ、軍所属であるメイリンには驚愕のシステムだった。

 

 

 

『フン。どうやら全員コクピットに転送できたようだな』

 

 

 

 Dの声が響き渡る。

 

 

 

「これがーーシュバルツ殿と同じMFのコクピットか」

 

 

 

 レイが思わず感慨深げに言葉を口にした。

 

 

 

「おい、ちょっと待て! MSに狙われてるぞ!!」

 

 

 

「え? うそ!?」

 

 

 

 ディアッカの言葉に思わずミーアがそちらを向くと、オルトロスライフルを構えたデビルザクが数機、こちらに向かって砲撃を放ってきた。

 

 

 

 思わず目をつむり両手で顔をガードするミーア。

 

 

 

 同時にデビルガンダムもミーアの動きをトレースして顔を庇う。

 

 

 

 光をあっさりと防ぐ両腕。

 

 

 

 衝撃はあるが、それほどのものでもない。

 

 

 

 ダメージは軽微であると脳裏に直接データが流れた。

 

 

 

「こ、これってーー私の思う通りに動くの!?」

 

 

 

 虫でも払うように手を動かすと、ビーム砲は弾かれてそのまま放ってきたザク達を貫いた。

 

 

 

ーー ああ。そのようだな。何ということだ。このデビルガンダムが、素人同然の小娘に操作権を奪われているなんてな。くくく --

 

 

 

 絶望したようなDの声が響いている。

 

 

 

 何気にここまでDがショックを受けているのは初めての事なのだが、状況が状況だけにミーアも気づいていない。

 

 

 

 目の前に敵のMSが迫っている。

 

 

 

「うそ!!」

 

 

 

ーー おい、さっさと蹴散らせ! --

 

 

 

 Dの声にミーアの頭の中に何かがひらめく。

 

 

 

「! 暴ぅううう裂っ! デビィイイイイルフィィンガァアアアアッ!! --でいいのよね?」

 

 

 

 そう叫んだと同時にデビルガンダムが勝手に動き出す。

 

 

 

 右手が蒼紫の炎を纏って燃え、胸部カバーが開いてエネルギーマルチプライヤーが深紅に輝く。

 

 

 

 それを正拳突きの様にして前方に突き出したとき、目の前に迫っていたザクは跡形もなく消えて行った。

 

 

 

「な、何てでたらめな威力だよ…っ!!」

 

 

 

 ディアッカが思わずそう漏らす。

 

 

 

 あまりの力にイザーク達が黙っていると、ミーアの口元に笑みが浮かんでいた。

 

 

 

「ふ~ん。そうなんだ。これなら、私。戦えるわね」

 

 

 

ーー おい、ミーア? 貴様何を? --

 

 

 

 Dの言葉を無視して、ミーアは言った。

 

 

 

「いい加減、この訳のわかんない状況にいらついてきたのよ!! 悪いけど、D! 力を借りるわよ!!」

 

 

 

ーー おい!! --

 

 

 

 素人なりに何故かサマになるファイティングポーズを取ってミーアは言った。

 

 

 

「デュランダル議長に目にモノ見せてやるんだからっ!!」

 

 

 

「ミーア。敵をある程度殲滅できれば、わたくし達のドックにむかってくださいね」

 

 

 

「了解です、ラクス様!!」

 

 

 

 二人の少女の心強過ぎる言葉にこの場にいたほとんどの者は呆然としている。

 

 

 

「……これくらい強引な方がいいのかな?」

 

 

 

「相手にもよると思うわよ、メイリンちゃん」

 

 

 

 真剣な表情で二人の桃色の髪の少女を見据えて、つぶやくメイリンに思わずミリアリアが告げた。

 

 

 

 圧倒的な力を前に、サラであったDG細胞の塊は跡形もなく燃やし尽くされていった。

 

 

 

「……俺様がせっかく巻き込まねえようにと、加減してたってのに。こいつらぁ」

 

 

 

 後にミケロがネロスガンダムのコクピットで誰に知られることもなく、そんなことをつぶやいていたそうである。

 

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね~!!

 デビルガンダムの力で場を強引に乗り切ったラクス達。

 Dの復活を行うには、デュランダルの持っている廃墟コロニー・メンデルへと向かう必要があります。

 しかし、ラクスはそれよりも確実な方法があるとオーブに対して連絡を取るのです。

 次回!

 機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第86話に!

 レディー、ゴー!!


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第86話 甦れ魔王 武神、宇宙へ

 みなさん、前回の話でデビルガンダムことDは辛うじて自我を保っていました。

 しかし、彼の肉体の復活にはまだまだ、問題が山積みです。

 ラクスはどのような案を出し、この状況を打破するというのでしょうか!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディィイイイ、ゴォォォオオオッ!!


 

 プラント最高評議会議長ーーギルバート・デュランダル。

 

 

 

 宇宙に逃げ出したウルベ達に対して一足早く彼もプラントに戻っていた。

 

 

 

 そんな彼のもとに一つの報告が届く。

 

 

 

「……そうか。サラが逝ったか。しかし、彼女はきちんと己の役割を果たしてくれたようだな」

 

 

 

『ええ。あの悪魔の死はこちらでも確認しております。あの状態から復活できたとしても、悪魔の肉体のコピーはこちらが把握している。メンデルに彼らがたどり着くことはありませんわ』

 

 

 

 モニターの向こうではヴォルテックスのブリッジからラクスと同じ顔をした少女が微笑みを浮かべている。

 

 

 

 穏やかな見た目の笑みと違い、ラクスにあるまじき邪悪な内容で。

 

 

 

「油断は禁物だよ、ファム。ウルベ達のように復活を果たす可能性もある。もっとも、Dは他者の肉体に己の因子を植え付けるなどという真似はしていなかったがね」

 

 

 

『…復活の鍵となる可能性があるとすれば、オーブにいるキョウジ・カッシュやシュバルツ・ブルーダーですわね。けれど、彼らも自分達の世界でデビルガンダムに被害を受けた者。今更悪魔の復活に手を貸すとは思えません。たとえラクス・クラインが頼み込んだとしても、ですわ』

 

 

 

「ふふ。後はキングオブハートか。彼に関してはこちらからは手出ししないのが賢明だな」

 

 

 

『…デビルガンダムを三度に渡り倒しただけのことはありますわね。今のところ、彼がいるオーブには隙が見当たらない。でも、わたくしの勘が告げているのですが、彼はそろそろこの世界から消えると思いますわ』

 

 

 

「というと?」

 

 

 

『彼には愛する妻や仲間たちが元の世界に居ます。彼女たちに今の事情を説明するために、一度帰らなければいけないはずです。彼が元の世界に帰還している間がどれくらいになるかはわかりませんが、一週間はエネルギーを溜めなければこちらに戻っては来れないはず』

 

 

 

 亜空間転移理論ーー。

 

 

 

 カッシュ博士が作り出した異世界を渡り歩く術。

 

 

 

 ドモン・カッシュに弱点があるとすれば、彼には家庭があり帰る場所があることだ。

 

 

 

 兄たちを連れて帰ろうにも長期戦になることが必死なこの状況では一度、元の世界に戻って説明しなければいけないはず。

 

 

 

 ファムはそう読んでいた。

 

 

 

 そして、それはそう間違ってもいない。

 

 

 

 ドモンとて父や妻に二人の兄の現状を伝えてやりたいのは事実なのだから。

 

 

 

「つまり、そう遠くない内にキングオブハートがこの世界からいなくなる、と?」

 

 

 

『ええ。悪魔が死に、神が去れば。後はわたくし達が理想の世界を邪魔する害虫を駆除すればよいだけですわ』

 

 

 

「それでもシュバルツやマスターアジア。ウルベ達がいるわけだが…。正直、キングオブハートを相手にするよりはマシか」

 

 

 

 顎に手をやりながらデュランダルは思う。

 

 

 

 実際、レクイエムを正面から打ち破った神の名を冠するガンダムの力は圧倒的だ。

 

 

 

 加えてファイターであるドモンには隙がない。

 

 

 

 彼を相手にするくらいならば、元の世界に帰ってもらってから動いた方がマシだろう。

 

 

 

「分かった。次元移動を彼が終えるまではこちらも動かないと約束しよう」

 

 

 

『ありがとうございます、議長』

 

 

 

 静かに答えたギルバートにファムは微笑みを浮かべて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラクス・クライン専用の高速巡洋艦ーーエターナル。

 

 

 

 その周囲の宇宙空間を無数のMSが取り囲んで、無数のビーム砲を放ってくる。

 

 

 

 一度、デビルガンダムのコクピットに集結した一同はダコスタの居るエターナルのブリッジにミーアを残して乗り込んだ。

 

 

 

 残されたミーアはデビルガンダムを操作しながら、周囲に浮かぶDGザクを相手にしている。

 

 

 

 無数のザクのビーム砲を網の目を縫うようにジグザグに移動して避けるデビルガンダム。

 

 

 

 ミーアの目はデビルガンダムの能力とシンクロしているため、はっきりと攻撃が見えていた。

 

 

 

 自分だけは躱せるがこのままではいずれ、戦艦にあたってしまう。

 

 

 

 どうすれば良いかと疑問を浮かべれば、頭の中にDからイメージが送られる。

 

 

 

 その技の大本は、ネオドイツの忍者シュバルツ・ブルーダーの技。

 

 

 

 これをゴッドガンダムのファイターが真似て編み出した全てを切り払う竜巻の斬撃。

 

 

 

「こんなの! 要はダンスのターンと同じでしょ!!」

 

 

 

 20メートルを越える人型のMFにしては巨大な機体は、両手にビームソードを持って回転し、ビーム砲を全て切り払うと自分達を取り囲んだザクの姿をした異形を葬る。

 

 

 

ーー スラッシュタイフーンを使いこなす、だと? ーー

 

 

 

 ポツリと零したのはイメージをミーアに送った本来の機体の持ち主であり、自我であるDであった。

 

 

 

『ミーア、敵は周囲には確認できません。帰還してください』

 

 

 

 周囲を確認し、残骸すら残らぬ一撃で全てを切り払ったのを確認したミーアの下にラクスから通信が入った。

 

 

 

「了解しました、ラクス様!!」

 

 

 

 圧倒的な戦闘力を見せたミーアは屈託のない笑顔で穏やかな笑みを浮かべて通信を送って来た『姉』に返した。

 

 

 

 

 

 

 

ーーエターナルブリッジにて。

 

 

 

 一人の赤みがかった髪に褐色の肌の青年軍人が頭を抱えて席に着いていた。

 

 

 

「もう、俺は何が何やらーー」

 

 

 

「ダコスタさん。アンタの気持ち、痛いほど分かるせ」

 

 

 

 そんな彼のボヤキにディアッカが反応して肩を叩く。 

 

 

 

「声が似てるから兄弟に見えるわね〜、アンタとダコスタさんて」

 

 

 

 その光景をしみじみと観察しながらミリアリアがつぶやいていた。

 

 

 

 彼女の隣にはイザークが落ち込んだ表情でつぶやいている。

 

 

 

「民間人に守られるとはーー」

 

 

 

「ジュール隊長、あの人達はシュバルツさんと同じ世界の人みたいですから。常識なんか通じないんです。あまり気にしないほうがいいですよ?」

 

 

 

「あ、ああ。すまないな、メイリン・ホーク。気を使わせた」

 

 

 

 ミーアに守られたことにショックを受けているイザークを慰めているのは微妙に未来世紀を誤解している赤髪のツインテールの少女、メイリンだ。

 

 

 

 エターナルの後方にはデビルガンダム四天王が駆るヴォルテールが続いている。

 

 

 

「しかし、君は良かったのか? レイ・ザ・バレルは向こうの船だが」

 

 

 

「目的地は同じですから。それに王様ーーDさん、でしたか? あの球になってしまった人。彼がミーアさんとこっちの船に居るなら、問題ありません。レイは彼に仕えてるみたいですから」

 

 

 

「意外と計算高いなーー」

 

 

 

 やや引き気味になるイザークである。

 

 

 

 一方、艦長のラクスはミーアの駆るデビルガンダムがエターナルに収容されたのを確認すると、オーブのカガリに連絡を入れた。

 

 

 

『ラクス! そっちは無事なのか!?』

 

 

 

 モニターの向こうで金色の髪の乙女がオーブ軍の軍服を着た姿で現れた。

 

 

 

「ええ。此方も何とか妹を迎えられましたわ。それより、カガリさん。キョウジさんやドモンさん達は?」

 

 

 

『ああ。あいつらなら、キラやアスラン達と修行してるぞ?』

 

 

 

 性急だな、と感じながらもカガリは何も言わずに返す。

 

 

 

『シン達ーーミネルバ隊が今日、宇宙に向けて出発する予定なんだ。その仕上げだってさ』

 

 

 

 その報告を聞いているとミーアがブリッジに入ってきた。

 

 

 

 彼女にラクスは労いを込めて微笑むと、ミーアも微笑みを返してくる。

 

 

 

『ーーって、ラクスが2人ィ!?』

 

 

 

 モニター越しに展開されるその光景に驚愕で目を見開くカガリにラクスがイタズラが成功したかのような表情でミーアを見ながら言う。

 

 

 

「紹介しますわ、カガリさん。妹のミーア・クラインです」

 

 

 

『ーーあ、ああ。彼女がーー。って妹? おい、ラクス。それってーー!』

 

 

 

「希望を込めて、ですわ」

 

 

 

 ラクスは茶目っ気たっぷりにミーアに微笑む。これにカガリはポカンとし、ミーアは頬を赤く染めた。

 

 

 

「答え、いずれ聞かせてくださいね? ミーア」

 

 

 

「あ、でも。私なんかでホントにーー?」

 

 

 

「貴女だから、ですわ」

 

 

 

 それ以上は言わせないとばかりに強い口調で止められ、ミーアは意を決したように頬を赤らめたまま応える。

 

 

 

「私は、ラクス様。ううん、ラクス姉様の妹になりたい。でも私、誰かにミーアが必要とされるなんて思わなかったから。だからーー!」

 

 

 

 次の瞬間には、ミーアはラクスに抱き締められていた。

 

 

 

「ああ、ミーア! よかった! 嬉しいです!! わたくしったら断られたら、どうしようかとーー」

 

 

 

「ら、ラクス様ーー!」

 

 

 

 感極まったラクスが、震えながらミーアを抱き締めている。その強さに息苦しさと温かさ、安らぎをミーアに与えていた。

 

 

 

ーー 何でも良いが、そろそろ我を解放してはもらえんのか? ーー

 

 

 

 そんな二人の間に割り込むように、ミーアの首から胸元に吊らされていたデビルガンダムのガン玉ことDが自己主張するように輝きながら告げた。

 

 

 

「Dったら、まだ諦めてないの?」

 

 

 

 ミーアが呆れたような声で言うと、ラクスもミーアから少し離れ、自分達の胸元のDを見る。

 

 

 

「Dさん。実際に復活するあてはあるのですか?」

 

 

 

 ラクスの真剣な表情にDも態度を改める。

 

 

 

ーー 我を生み出したのは、廃棄コロニーのメンデルとか言うところだ。遺伝子や人体実験のメッカだったらしいな ーー

 

 

 

「メンデルは廃棄されて20年近く経つはずですが、やはりあそこでDG細胞の実験をーー!」

 

 

 

ーー 我の細胞を使って破棄されたデータや施設を復元した。今のメンデルには我のサブとなる肉体を器としたDG兵士が量産されているはずだ。ラクスも知っていよう? ーー

 

 

 

「ええ。ドモンさんとゴッドガンダムさんがいなければ、わたくしやダコスタさんはーー!」

 

 

 

 言いながら、ラクスは考える。

 

 

 

 確かにメンデルにはDと同じ姿の魂のない兵士がいる。

 

 

 

 彼らの肉体の一つをDが手に入れられば良いのだろうが。

 

 

 

「しかし、肝心のメンデルの場所が分からんぞ? 俺たちも探してはいるが、まるで移動要塞のようにメンデルは宙域を自由に行き来している」

 

 

 

「加えて外部にはミラージュコロイドが張られているから、どうにもできないしな」

 

 

 

「現状でメンデルに行くのは、オススメできないわね」

 

 

 

 イザーク、ディアッカ、ミリアリアの言葉にDは思案げな表情をすると告げる。

 

 

 

ーー 我らならば、問題ない。メンデルを捕捉し内部を取り込み我の城にするつもりでもあったしな。だが ーー

 

 

 

「Dさんが死んでいると議長達に思わせた方がメリットはありますわね。議長の目をロゴスに固定できるようになりますわ」

 

 

 

ーー アークエンジェルやオーブも、デュランダルは気にしている。貴様のこともな ーー

 

 

 

「だからこそ、貴方の復活を気取られることなく行えるのです。わたくしの案ですがーー」

 

 

 

 ラクスの語る言葉は、その場に居合わせた者達の度肝を抜かせた。

 

 

 

「ドモンさんにDさんーーデビルガンダムさんに乗って貰えば良いのではありませんか? DG細胞にデータを残すためにも」

 

 

 

ーー ドモンが聞けばな。それにドモンの肉体データをコピーできるなら、万全を期したい。やはりメンデルの施設を使わねばならん ーー

 

 

 

「キョウジさんとシュバルツさんのサポートがあってもできませんか?」

 

 

 

ーー 奴らは我を恨んでいるはずだ。それだけの真似を我はカッシュ家にしてきたのだからな ーー

 

 

 

「それを判断するのは、聞いてからでもよろしいのではありませんか?」

 

 

 

 ラクスがそう告げ、モニターに視線を移した。

 

 

 

 そこにいたのは、カガリによって修行を中断したカッシュ家の三人だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ラクス、今の話は?」

 

 

 

 平淡な表情と声でキョウジはそう問いかけてきた。

 

 

 

 余談だが、シュバルツとキョウジが同じ顔をしていることにイザーク達は驚愕していたが話に割り込むのもどうかと考え、うちうちだけで話をしていた。

 

 

 

「キョウジさん、シュバルツさん、ドモンさん。聞いてのとおりです。お力をお借りできませんか?」

 

 

 

 ラクスの言葉にドモンは静かに頷いた。

 

 

 

「ミーアを泣かせた責任は取らせなきゃな?」

 

 

 

ーー 正気か、ドモン? 我は貴様の怨敵ーーデビルガンダムだぞ ーー

 

 

 

「なんだ? ガラにもなく、そんなことを気にしているのか?」

 

 

 

 あまりにもあっけらかんとしたドモンの物言いにDが反発した。

 

 

 

ーー ふざけるな、ドモン! 我は、我は貴様を苦しめ、母と兄を奪った存在だぞ!! 貴様の師を狂わせたのはこの我だ!! 何故憎まない!? ーー

 

 

 

 Dの言葉に、シュバルツとキョウジが互いに顔を見合わせる。先に苦笑をこぼしたのはどちらだろうか。

 

 

 

「Dよ、それは違う」

 

 

 

ーー 何だと? ーー

 

 

 

「確かにお前の力を狙って多くの悪党が動いた。そのせいで母は死に、父は冷凍刑、二人の兄とかけ替えの無い師をこの手で殺めなければならなくなった」

 

 

 

 ドモンの表情は静かだ。

 

 

 

 二人の兄もまた、同じように静かな表情でDを見ている。

 

 

 

「だが、それはお前の責任か? 落下時の衝撃でプログラムが狂ったのが、お前の責任か? ただのコンピュータだったお前の?」

 

 

 

 Dは静かに耳を傾ける。

 

 

 

「それは違う。そんなことを言い出したら元は俺の父と兄がお前を開発したのが発端だ。いや、俺がもっと早く家に帰っていたら、こうはならなかったかもしれない。だが、そんなことに囚われてどうする?」

 

 

 

 ドモンは続ける。熱い炎を瞳の中に燃やしながら。

 

 

 

「お前一人が責任を取らなきゃいけない訳がない。そして、その考えは人を甘く見ていると言える。何もかも自分の力のせいで、なんてのはな。単なる自己満足の世界だ。我が師、マスターアジアは己の意思で人類抹殺を決めた。ウルベやウォンは己の意思で人類の支配を望んだんだ。誰に強制されたのでもない、己の意思だ。それは力でどうにかできるもんじゃない」

 

 

 

 口下手なドモンが長く語るなど珍しい。

 

 

 

 だが、その言葉にミーアが目を見開いた。

 

 

 

「シュバルツさんの弟さん、かーー」

 

 

 

 メイリンが隣で静かにつぶやく。

 

 

 

ーー だが、我はこの世界に来ても、デュランダルをサトー達を巻き込んだ。キラ・ヤマトやキョウジの所在を知る為に暗殺部隊も取り込んだ ーー

 

 

 

「それを罪だと理解できるのなら、今のお前は同じ過ちをしないだろう。誰よりもお前はお前を責めているのだからな」

 

 

 

ーー 我のせいで、我を信じたサトーは死んだ。なあ、ドモン。我は約束を守れなかったのだ。人間に絶望した奴らに見せてやりたかった。貴様らの輝きを ーー

 

 

 

 この言葉にヴォルテールにいるレイが目を見開いた。

 

 

 

ーー 人は醜いのか? それとも ーー

 

 

 

「もういい。Dよ、そいつは後悔していたか? お前の目の前で死んだ男は、泣きながら恨み言をお前に吐いたか?違うのだろ?」

 

 

 

ーー 何故、そう、思う ーー

 

 

 

 ひどく幼い声だった。

 

 

 

 魔王であり、人智を越えた力を誇るデビルガンダムとは思えないほどに。

 

 

 

「気付いていないのは、お前だけだ。恨み言を言われた奴が、そんな涙を流せるものかよ」

 

 

 

 皮肉気な、それでいて温かい笑みを浮かべてドモンは言った。

 

 

 

ーー 涙? 泣いているだと? 我が? ーー

 

 

 

 呆然とつぶやくD。

 

 

 

 たまらず、ミーアはDを抱き締めていた。

 

 

 

「D、一人で背負っちゃダメ! あなた、私が必要だって言ってくれたじゃない!! 私だって! 私、Dが必要なんだから!! お願いだから、やめて。このままじゃ、ボロボロになっちゃうよ」

 

 

 

 何もいえない。

 

 

 

 デビルガンダムである彼にとって、初めての感情だ。

 

 

 

 非力な少女の胸元に抱かれ、温かさと安らぎをDは受けていた。

 

 

 

「D、そしてレイよ」

 

 

 

 その時、ドモンの右手に立っていたシュバルツから声がかかった。

 

 

 

「お前達には理解できているのだろう? 人は確かに醜く妬み、憎む心がある。しかし、その心が何かを守ろうとした時、素晴らしい輝きを見せるのだ」

 

 

 

 シュバルツの言葉にレイが胸元を抑えながら泣きそうな顔になって彼を見る。

 

 

 

 すると、シュバルツは温かい笑みで頷いてくれた。

 

 

 

「人間ってさ、難しいよな? 単純に見えて複雑だ。だけど、だから人間なんだ。デビルガンダムーーいや、D。お前の心は紛れもなく人間だよ」

 

 

 

 そのシュバルツの言葉を継いで反対側に立っていたキョウジからもDに声がかかった。

 

 

 

ーー 我が、人間だと? ーー

 

 

 

 呆然となるDにドモンが語りかける。

 

 

 

「ああ。お前は紛れもなく、俺たちと同じ命ーー魂を持った人間だ!!」

 

 

 

 力強い宣言にDは静かにドモンを見据える。

 

 

 

「待っていろ、D。今、俺たちがお前の所に行ってやる。今度こそ、人になれ。その為ならば、この拳、いくらでも貸してやるさ。我が最大の宿敵にしてーー俺達の弟よ!」

 

 

 

「そういう訳だ。ドモンも一度向こうの世界に帰らねばならんから、チンタラしている暇はない。此方から出向かせてもらうが構わないか?」

 

 

 

「色々、不服なヤツもいるだろうがな?」

 

 

 

 ドモン、シュバルツ、キョウジの言葉にラクスが頷きながらヴォルテールを見据える。

 

 

 

「わっはははは! ドモンよ、よくぞそこまで変わったものよ!! 貴様とのファイト楽しみにしておるぞ!!」

 

 

 

 これにいち早く反応したのは、拳法の達人マスターアジアだった。

 

 

 

「師匠ーー。いや、人類の敵。マスターアジア東方不敗。貴方とも拳を交えなければいけませんね」

 

 

 

 不敵なドモンの返しに思わず笑みを強めるマスター。

 

 

 

「言いおるわ! ならば今一度、勝負と行こうか!?」

 

 

 

「ええ。本物のキングオブハートがお相手しますよ」

 

 

 

「こやつめ、生意気な!!」

 

 

 

「「わっはははははははは!!!」」

 

 

 

 モニター越しでなければ、肩を組んで笑いあっているだろう仲の良さを見せつけながら、かつての師弟は言葉を交わす。

 

 

 

「ドモン・カッシューー!!」

 

 

 

「ミケロ・チャリオットか…」

 

 

 

 マスターアジアとの語らいを終えた所で凄まじい殺気を放つトサカ髪の男にドモンは目を移した。

 

 

 

「さっさと上がってこいよ。ぶっ殺してやる!!」

 

 

 

「面白い。どれほど貴様が腕を上げたか、見せてもらうぞ!!」

 

 

 

「ーー待ってるぜ、ドモン!!!」

 

 

 

 ミケロの言葉にドモンも力強い笑みと共に頷いた。

 

 

 

 

 

オーブ作戦本部。

 

 

 

 三人の兄弟は同時に懐からガン玉を取り出す。

 

 

 

 シュバルツは空のように青い玉。

 

 

 

 キョウジは海のように碧い玉。

 

 

 

 そしてドモンは太陽の如き真紅の玉。

 

 

 

「カガリ、世話になったな」

 

 

 

「さらばだ! 達者でな、カガリ! キラ達には先に行くと伝えておいてくれ」

 

 

 

「オーブはもう大丈夫だ。後は俺とシュバルツ達が宇宙でケリをつけるだけ、だな!!」

 

 

 

 ドモン、シュバルツ、キョウジはそれぞれにカガリに向かって告げると天高く玉を掲げて告げた。

 

 

 

「「「ガンダァァアアアムッ!!!」」」

 

 

 

 三人の兄弟の宣言と同時に、青、碧、赤の光がオーブ作戦本部内に満ち溢れた。

 

 

 

 光が晴れた時には、三人の姿はない。

 

 

 

 代わりに外を写すモニターに三体のガンダムと呼ばれる機体が宙に浮いていた。

 

 

 

 6枚のフィンを展開し、トリコロールのガンダムーーゴッドガンダムがカガリに向かって親指を立て、一気に3機は飛翔していく。

 

 

 

「負けるなよ、お前らぁあああああっ!!!」

 

 

 

 カガリの声が青いオーブの海と空に響いた。

 

 

 

 その3機を追って一頭の白馬を模した機体が蹄を鳴らして駆けて行った。

 

 

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね〜!

 ミネルバやアークエンジェルより一足早く、宇宙に飛び立つゴッドガンダム達。

 彼らの前に立つのはデビルガンダム四天王のマスターガンダム達です。

 果たして彼らは、このコズミックイラの世界を舞台にどのようなファイトを再び繰り広げるのか?

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第87話に!

 レディー、ゴー!!


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第87話 因縁の決着 ゴッドガンダム対ネロスガンダム

 さて、皆さん。
 
 わたくしの世界で第13回ガンダムファイトにて初めて行われた試合。

 それがネオジャパンのドモン・カッシュとネオイタリアのミケロ・チャリオットとのファイトでした。

 彼らのファイトからガンダムファイト大会が始まったのです。

 そんな彼らの因縁に決着を付ける今回の対決。

 果たして、どのようなファイトを見せてくれるのか!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイイ、ゴォオオオオオオオッ!!


 

 ガンダムと呼ばれる角とデュアルアイ、マスクを持つ顔の機体。

 

 

 

 青き翼と自由の名を持つそのガンダムのコクピットに、キラ・ヤマトは座っていた。

 

 

 

「これが……明鏡止水の境地。やっと君の力の全てを使えるようになったね、フリーダム」

 

 

 

 キラの呟きに応えるように黄色のデュアルアイが光る。

 

 

 

 それにキラも頷いた。

 

 

 

 同時、ビームソードを腰から居合斬りのように引き抜くフリーダム。

 

 

 

 瞬間、空に火花が散る。

 

 

 

 桃色の光の刀身がぶつかり合う。

 

 

 

 目の前には紅いガンダム。

 

 

 

 インフィニットジャスティスが居た。

 

 

 

「いくぞ、キィイイイラァアアアアアアッ!!」

 

 

 

「ア、ス、ラァアアアアアアアアアアンッ!!」

 

 

 

 強烈な大気のぶつかり合い。

 

 

 

 ソニックブームを巻き起こしながら、二機のガンダムはその場から姿を消す。

 

 

 

「どうした、キラ!! こんな動きでウルベが倒せるかぁああああっ!!」

 

 

 

「アスラァァアアアアンッ!! 僕は、二度と負けない!! そう誓ったんだぁああああっ!!!」

 

 

 

 次の瞬間には青い空に赤と青の光の筋が何度も何度もぶつかり合う。

 

 

 

「……ありゃ、人間の動きじゃねえな」

 

 

 

 それを静かに見上げて、ネオは呟いた。

 

 

 

 アークエンジェルの発進準備まで、後数時間。

 

 

 

 最後の仕上げだとキラとアスランが、互いの機体を再調整している。

 

 

 

 ぶつかり合う斬撃。

 

 

 

 放たれる無数の砲撃。

 

 

 

 互いの影を互いに追いかけるように、常に高速機動で動き合う。

 

 

 

 ヒートアップする二人の少年。

 

 

 

 それに比例するように火花が無数に散るオーブの空にネオがため息をついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でミネルバは先に宇宙に進出していた。

 

 

 

「これから、私たちは月面基地アルザッヘルを攻めることになるわ。私の処分もそれからと言うことになったから、もう少しだけ時間を稼げそうね」

 

 

 

 タリア艦長の言葉にアーサー副長も頷く。

 

 

 

「シンとルナマリアだけでなく、オーブの三人の少年たちまで味方になってくれるとは心強いですね」

 

 

 

「その分、抜けた戦力も大きいわ。シュバルツ殿にレイ。二人の穴を何とかして埋めないとね」

 

 

 

「はいーー!」

 

 

 

 ミネルバは後方に地球を拝しながら、月面基地に向かって飛び立って行った。

 

 

 

 しばらくの休息を取る少年たちに微笑みを浮かべながら、タリア艦長はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙空間。

 

 

 

 漆黒の闇に広がる無数の星空。

 

 

 

 その中を光の翼を生やした天馬が神の名を冠する機体を背に乗せて駆けている。

 

 

 

 風雲再起とゴッドガンダムであった

 

 

 

 彼らを真ん中に、左にガンダムシュピーゲル、右にシャイニングガンダムが随伴している。

 

 

 

「確か、ラクス達に指定された宙域はこのあたりだったよな?」

 

 

 

「そろそろのはずだ。気を付けろ、キョウジ。マスターアジアのことだ、素直に出会って終わりとはいくまい」

 

 

 

「あのオッサン、ホントにめんどくさいな」

 

 

 

 シュバルツからの忠告にキョウジがあからさまに表情を歪める。

 

 

 

 ドモンは二人の兄のやり取りに苦笑をしていると、静かに表情を引き締める。

 

 

 

 前方の小隕石の塊から、桃色の光を放つビームクロスが伸びてきたのだ。

 

 

 

「ゴォッドスラッシュ!」

 

 

 

 目の前に迫りくるビームクロスを腰から抜き放ったビームソードで切り捨てる。

 

 

 

 静かにビームソードを腰に戻すとゴッドガンダムは浮雲再起の背から跳躍し、宇宙空間にその身を浮かせた。

 

 

 

「わぁっはははははは!」

 

 

 

 強烈な高笑いと共に、漆黒のボディと赤い羽根を持ったガンダム。

 

 

 

 そう、マスターガンダムがゴッドガンダムに殴りかかる。

 

 

 

「喝ぁつっ! 応えよ、ドモン!! 流派、東方不敗はぁ!!」

 

 

 

 マスターガンダムの右ストレートに対して右腕で捌きながら左のストレートを顔面に放つゴッドガンダム。

 

 

 

「王者の風よぉ!!」

 

 

 

 これを顔の右横に左手を構えて受け、マスターガンダムがゴッドガンダムが同時に無数の拳と蹴りを繰り出しあう。

 

 

 

 互いに秒間数十発の打撃の交換は、見ていて凄まじいものだ。

 

 

 

「全新!!」

 

 

 

「系裂!!」

 

「「天破侠乱!!」」

 

 

 

 語り合いながら右のショートストレートを互いの中央でぶつけ合い、前蹴りを相殺し、左の肘をぶつけ合って一歩後ろに下がる。

 

 

 

 同時にゴッドガンダムが左の拳をマスターガンダムが右の拳を相手に向けて放ちあった。

 

 

 

「「見よーー!!」」

 

 

 

 中央でぶつかり合う両者の拳。

 

 

 

 そこから互いの機体を真っ赤に燃える炎が纏う。

 

 

 

「「東方はぁ!! 赤、か、く、燃えているぅううううううぁあああっ!!」」

 

 

 

 衝撃が発生し、両者同時に相手より離れる。

 

 

 

 マスターガンダムが片足立ちになり、右手を前方に突き出し、左手を顔の横に持ってきて両の掌を天にむけ構える。

 

 

 

 対するゴッドガンダムは両足をしっかりと開き、左足と左手を前に右の拳を腰に持ってきて膝を曲げて構えを取る。

 

 

 

 互いの両脇には仲間であるガンダムが二体、それぞれ立っている。

 

 

 

「久しぶりだな、ドモンーー! ワシが認めし、真のキングオブハートよ!! こうして、また貴様と出会えようとは、何たる僥倖!!」

 

 

 

「俺もです…! この4年で鍛え上げた拳を貴方にぶつけられるとは……! マスターアジア東方不敗ーーいや、師匠!!」

 

 

 

「フフ、それほどの腕になり己の流派を立ち上げてなお、ワシを師と呼んでくれるか」

 

 

 

「俺の師匠は貴方しかいませんよ。たとえ、貴方が人類の敵となったとしても!!」

 

 

 

 不敵な笑みと共に気を高めるドモンにマスターアジアも笑みを強くする。

 

 

 

 そしてネロスガンダムが静かにゴッドガンダムの前に立った。

 

 

 

「久しぶりだなぁ、ドモン・カッシュぅううう!!」

 

 

 

 怒りと憎しみ。

 

 

 

 その凶暴な気によって、ネロスガンダムは禍々しい光に包まれる。

 

 

 

 対するドモンは静かにゴッドガンダムの胸部エネルギーマルチプライヤーと背中の六枚のフィンを展開し、日輪を背負う。

 

 

 

「余計な言葉は要らん。ガンダムファイトォオオオオオッ!!」

 

 

 

「上等だぁ! レディイイイイイッ!!」

 

 

 

「「ゴォオオオオオオオッ!!」」

 

 

 

 真紅の炎と紫暗の光が宇宙空間でぶつかり合った。

 

 

 

 燃え上がる宇宙の闇。

 

 

 

 その中心で拳と蹴りが互いに向けて次々と放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 それをエターナルとヴォルテールの2隻が見守っている。

 

 

 

「ドモンさんーー!」

 

 

 

 ミーアが思わず声をかける。

 

 

 

 いきなり目の前でドモンが戦いを始めたのだ。

 

 

 

 普通は止めようとするだろう、しかしラクスがそれを手で制した。

 

 

 

「ガンダムファイターならば、拳で語り合う。わたくし達には理解できない、踏み込めない。けれどその領域は確かにあるのです。この戦いは彼らにとって必要な事ーー止めてはなりません、ミーア」

 

 

 

「ーーラクス様」

 

 

 

 真剣な表情のラクスにミーアもおとなしくなる。

 

 

 

 一方ヴォルテールにいるレイもまた、静かに見据えている。

 

 

 

「ミケローー。お前は何故、そこまでドモン・カッシュにこだわるんだ?」

 

 

 

 その問いに応えるものはない。

 

 

 

 ただモニターに映ったミケロの駆るネロスガンダムはこれまで以上に猛々しく、荒々しくゴッドガンダムに挑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ドモンとミケロが所狭しと駆け回る中、静かにマスターガンダムとジョンブルガンダムが両腕を組んで見ている。 

 

 

 

「ミケロ。お前が挑み、目指した高みがその男だーー。越えてみろ…!」

 

 

 

 チャップマンの静かな言葉にマスターも頷く。

 

 

 

「うむ。この勝負、もはや物言いは無用、男の意地を賭けた戦いよ」

 

 

 

 そんな二人の間に静かにシュバルツも並ぶ。

 

 

 

「あのミケロから邪気が消えている。一体何があったのだ?」

 

 

 

「ただ高めただけだ。ファイターとしての力をな」

 

 

 

 チャップマンの答えにシュバルツが彼の方を向く。

 

 

 

「奴は才能はあった、問題はその性格だ。実力がなまじ高かったばかりに挫折を知らなかった。初めての敗北は奴にとって許しがたいものだったのだろう。悪魔に身を捧げる程にはな」

 

 

 

「……」

 

 

 

「だが、この世界に来て奴は変わりつつある」

 

 

 

「ほう?」

 

 

 

 覆面の下でシュバルツの瞳が鋭く細まる。

 

 

 

「奴の意地が奴のコンプレックスを上回ったのだ…。そして、この世界で出会った少年たちが奴を変えた」

 

 

 

「……なるほど。ならば見せてもらうとしよう!! ミケロ・チャリオットーー貴様の意地とやらを!!」

 

 

 

 シュバルツの宣言に静かにチャップマンが頷き、マスターアジアが笑う。

 

 

 

 シャイニングガンダムを駆るキョウジは彼らの後方からドモンとミケロのファイトを窺っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無数の打撃の応酬を繰り返す。

 

 

 

 ネロスガンダムの左足が上段、中段、下段にそれぞれ放たれる。

 

 

 

「むぅ!」

 

 

 

 ドモンが唸ると共に右手を拳に握りしめ、軽く受け流していく。

 

 

 

 捌かれているのを見て取ると、ミケロが軸足に使用していた右脚に気を纏わせた。

 

 

 

「くらぇ! 銀色のぉ、脚ぃいいいいいいっ!!」

 

 

 

 右足から紫の光を放ち、上段回し蹴りを放ってくるミケロに対し、ドモンは咄嗟に上体を反らして鼻先で蹴りを見切る。

 

 

 

 だが、ミケロの上段回し蹴りは途中で軌道を変え、槍のように中段蹴りを放ってきた。

 

 

 

「ちぃっ!」

 

 

 

 舌打ちしながらドモンは右の肘で蹴りを受け、自ら後方へバックステップすることで威力を殺す。

 

 

 

 それでもガードした腕が痺れた。

 

 

 

「腕を上げたな、ミケロ」

 

 

 

 静かに痺れる手を見つめ、拳を握りしめるドモン。

 

 

 

 対するミケロは静かにドモンを見据えた。

 

 

 

「こんなもんかよ、ドモン・カッシュ? ハイパーモードを使ってこの程度の力なのか? それとも金色にならなきゃ話にもならねえのかよ!?」

 

 

 

 ミケロの挑発にドモンも不敵な笑みを浮かべて応じる。

 

 

 

「その前に聞かせろ。何故これほどの腕になった? 今までのお前とは桁違いの強さだ。技、重み、何より今まで感じられなかった力ーー込められた魂が違う」

 

 

 

「ああ? 嫌味か!?」

 

 

 

 吐き捨てる。

 

 

 

 反吐が出るとばかりにミケロはドモンを睨みつけた。

 

 

 

「俺様がどう変わろうが、俺様は俺様だ! ドモン・カッシュ、てめえをぶっ殺すのに変わりはねえ!!」

 

 

 

 そう告げながらミケロは気を高める。

 

 

 

 しかし、ドモンは構えを取らない。

 

 

 

 これを見るやミケロはしばらくドモンを睨みつけた後、構えを解いた。

 

 

 

 そして今までの彼にはなかった静かな表情でドモンに語り掛ける。

 

 

 

「なあ、ドモン・カッシュよぉ? 寿命が短いってのはどんな気分なんだろうな?」

 

 

 

「……」

 

 

 

 静かな声にドモンも表情を真剣なものに変える。

 

 

 

「俺様はスラム育ちだった。荒廃した地球のイタリアのスラムで俺様は親に捨てられて生きてきた。力がなけりゃ生きていけない世界だった」

 

 

 

 自分のことをミケロが語るのは初めてのことだ。

 

 

 

 静かにレイは目を見開いている。

 

 

 

 それをモニター越しに流し目で見ながら、ミケロはドモンを向く。

 

 

 

「俺様は望んでマフィア共の狗になった。時には、マフィアのボス共の顔色を窺って泥を舐めたりしてな? だけどよ、俺様は強かった。誰にも負けない強さを持っていた。だから、ストリートに屯してる馬鹿どもを集め、腕っぷしだけで纏め上げられた」

 

 

 

 静かにドモンはミケロを見つめている。

 

 

 

 ミケロの目は遠い何かを想うように、静かだ。

 

 

 

「その実力を認められ、俺様はガンダムファイターになった。テメエとあったのは、やっとこさイタリアンマフィアどもを支配下に置いて悠々自適に過ごせると思ってた時だ」

 

 

 

 ドモンは静かにミケロを見る。

 

 

 

「やっと俺様は平穏に生きられると思ったーー。それを崩しに来たガンダムファイター。血祭りに上げてほかのファイターが二度とこの国に近づかねえようにしてやろう、そう思っていた。結果はテメエに惨敗し、国から見限られ俺様は警察に逮捕された」

 

 

 

 ミケロの表情が憎しみに彩られ、拳を握ってドモンを見据える。

 

 

 

「監獄の中で俺様は、テメエへの復讐しか考えなかった…! ようやく手に入れた地位も名誉も全て奪ったテメエだけは、この手で殺してやるってなぁ!!」

 

 

 

 男の信念、生涯をかけた復讐だった。

 

 

 

 人を捨てた彼の覚悟の表れだった。

 

 

 

 だがーー。

 

 

 

「だが、俺様はテメエを倒すどころかテメエの仲間の二人に邪魔された挙句、倒された。この世界で目を覚ました時はそれこそ、テメエへの憎しみで気が狂いそうだったぜ」

 

 

 

「……ならば、何故? 今のお前から感じるのは憎しみの気だけではない。悲しみも感じる。そして確かな信念を」 

 

「信念だの、悲しみだの。そんな綺麗事に興味はねえな」

 

 

 

 力を抜いたように笑みを浮かべたミケロにドモンは目を見開く。

 

 

 

 その笑みは、初めてドモンがミケロを倒したあの時のように、疲れ切った廃人のような気配のする笑みだった。

 

 

 

「ドモン・カッシュよぉ。テメエは親に愛されて生きてきたんだろ? 兄弟にも仲間にも恵まれたんだろ? だから、俺様はテメエが気に入らなかった。羨ましかったんだろうな」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 ドモンの顔が悲し気に一瞬歪んだ。

 

 

 

 ミケロの言葉は、何よりもドモンの心に響いたのだ。

 

 

 

「俺様は不幸だと思っていた。満たされやし無かった。何を得ても、何を成しても。だけどよ、この世界に来て分かったことがあった」

 

 

 

「ミケロ…っ!」

 

 

 

「俺様は甘えてたんだ。ああ、間違いねえ。自分の境遇が不幸だからって理由で言い訳してた。自分にな。だからテメエを憎むと同時に自分の弱さを見ようとしなかった。簡単に力を得られるDG細胞の力を得て、強くなったと思っちまってた。だがよ…」

 

 

 

 ミケロはドモンを見つめて真剣な表情で、まなじりを吊り上げて言った。

 

 

 

「俺様なんかより、はるかに苦しんでるガキが此処に居やがったんだ!!」

 

 

 

 ドモンもこれまで以上に真剣な表情でミケロを見据える。

 

 

 

 男と男が互いに真剣に相手の魂と向かい合っていた。

 

 

 

「そのガキは、自分が生み出された存在だったとか吐かしやがった! スカした面して自分には未来がないと吐かしてなぁ!! 甘ったれてイキがったクソガキの戯言だと思ってりゃテロメアが短いだと!? クローンだと!? あんなガキが、死ぬってのか!!? 俺様よりも早く!!?」

 

 

 

 ミケロの怒りと咆哮が場に満ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いて静かにシュバルツは目を驚きと戸惑いの表情を浮かべているレイに向けた。

 

 

 

 チャップマンは瞳を閉じ、マスターアジアは神妙な顔で静かにミケロの言葉を聞いている。

 

 

 

 メイリンの目が大きく見開かれた。

 

 

 

「何? それ…? レイ……っ!」

 

 

 

 ミーアの表情が驚愕と罪悪感で歪む。

 

 

 

「……っ! 私……」

 

 

 

 そして静かにラクスが凛とした目でミケロとドモンの二人を見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドモンが静かに口を開いた。

 

 

 

「何処の神様も、皮肉な運命がお好きなことだ」

 

 

 

「違いねぇ」

 

 

 

 ミケロが頷きながら、静かにドモンに拳を握り構える。

 

 

 

 ドモンもまた拳を握って告げた。

 

 

 

「ミケロよ、お前は本当の仲間を得たのだな」

 

 

 

「……あんな根暗のガキがか? 笑わせやがる。…だがよ」

 

 

 

 ミケロの目が鋭くなる。

 

 

 

 その瞳の色は、明らかに今までのモノとは違う。

 

 

 

「少なくとも、そのガキは俺様よりは強かった。それだけだ」

 

 

 

 そう告げて自己嫌悪の表情になって吐き捨てる。

 

 

 

「マスターアジアやチャップマンのせいか。俺様も随分と甘ちゃんになったもんだ」

 

 

 

「……甘いか」

 

 

 

「ああ?」

 

 

 

 ドモンは静かに誠実な態度で拳を構える。

 

 

 

「ミケロ・チャリオット。俺は貴様を見誤っていたようだ」

 

 

 

 そして告げた。

 

 

 

「今、目の前にいる男は俺の知るミケロ・チャリオットではない。本物のガンダムファイターのようだ」

 

 

 

「……ほう?」

 

 

 

「ミケロよ、一つ教えてやる。お前は今の自分が甘いと言ったが、それは間違いだ」

 

 

 

「何?」

 

 

 

「それはお前が長い道のりと勝負の果てに見出した、お前が知らない強さだ……!」

 

 

 

 そのドモンの言葉にミケロは目を大きく見開いた後、静かに顔をうつむかせた。

 

 

 

 肩が大きく上下し始め、右手を額にやってミケロは天を仰いだ。

 

 

 

「ククク……ハハハハハハッハハ!!!!」

 

 

 

 よく見れば瞳から涙がこぼれる程に、邪気のない笑いだった。

 

 

 

 少し笑って落ち着いた後、ミケロは静かにドモンを見据える。

 

 

 

「そうかよ。これも俺様が求めていた力。強さの一つってわけか」

 

 

 

「ああ。その強さーー想いがあるから、俺たちは強くなれる。前へと進むことができる! 何かを護るために闘う力ーーそれこそが本当の強さだ!!」

 

 

 

 力強いドモンの宣言。

 

 

 

「…今まで、テメエらシャッフル同盟やシュバルツを否定し続けていたってのによぉ。認めちまえば、楽なもんだな」

 

 

 

 ミケロも静かに腰を落としながら言った。

 

 

 

「はじめてテメエに感謝するぜ、ドモン・カッシュよぉ」 

 

 

 

「ならば、礼は貴様の拳で返してもらうぞーー! その新たな強さの宿った拳で!!」

 

 

 

 明鏡止水を発動させ、ハイパーモードから黄金へと変化するゴッドガンダム。

 

 

 

「そして俺も改めて全力で挑ませてもらう。新たな友ーーライバル(好敵手)よ!!」

 

 

 

 一瞬でゴッドガンダムはネロスガンダムの前に現れ、強烈な右ボディを入れる。

 

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

 

 うめき声を上げて前のめりになるネロスガンダムの顎にゴッドガンダムの左上段回し蹴りが決まった。

 

 

 

 後方へ弾き飛ぶネロスガンダム。

 

 

 

 これに更にゴッドガンダムがダッシュして追いかける。

 

 

 

「銀色のぉ、脚ぃいいいいいい!!」

 

 

 

 咄嗟に体勢を整え、ネロスガンダムが右足から紫の気を散弾にさせて放つ。

 

 

 

 絶妙なカウンターにドモンも反応する。

 

 

 

「ゴッドフィールド・ダァアアアッシュ!!」

 

 

 

 日輪の炎がエネルギーフィールドを形成し、ゴッドガンダムを護りながら加速する。

 

 

 

 目の前に来たゴッドガンダムに目を輝かせ、ネロスガンダムが右足を軸にして左脚を側頭に放つ。

 

 

 

 強烈な炸裂音と衝撃波が生じながら、ゴッドガンダムの右腕が防いでいる。

 

 

 

 返しの左ストレートをネロスガンダムは右手で受けていなしながら、右脚でゴッドガンダムの顎を蹴り上げた。

 

 

 

「ぐぅっ!」

 

 

 

 体を垂直に跳ね上げられたゴッドガンダムのボディに強烈な左の前蹴りを放つネロスガンダム。

 

 

 

 ゴッドガンダムはこれを体を左に回転しながら紙一重で避けると右後ろ回し蹴りを放つ。

 

 

 

「ちぃ!」

 

 

 

 避けられないと悟るやネロスガンダムも左蹴りを上段に切り替える。

 

 

 

 鈍い音が再び響いて互いの蹴りが相手の顔面に炸裂し、後方へ弾き飛ぶ。

 

 

 

 凄まじい威力の一撃にお互いに意識を半分飛ばしながら、顔を元の位置に戻す。

 

 

 

 それぞれのファイターの目は闘志を燃やし、口元には笑みを貼り付けて。

 

 

 

「必殺、虹色の脚ぃいいいいいい!!」

 

 

 

 距離が開いたのを皮切りにネロスガンダムが七色の気を放つ散弾ビームを放ってきた。

 

 

 

 同時に放たれる散光弾は、先のフィールドダッシュでは破れない。

 

 

 

「ならば、次元覇王流! 旋風! 竜巻蹴りぃいいいいいっ!!」

 

 

 

 ゴッドガンダムは気を右足に纏わせるとその場で大回転しながら回し蹴りを放つ。

 

 

 

 同時に巨大な竜巻が発生し、七色の光の散弾は弾き飛ばされる。

 

 

 

「やるなぁ! ならば、ハイパァア銀色の脚ぃ! スペシャァアアアアアアルッ!!」

 

 

 

 クラウチングスタートの構えから、右足に全気力を溜めて蒼銀の光を放ちながら、ネロスガンダムは文字通り彗星となって突っ込んでくる。

 

 

 

「次元覇王流ーー! 聖槍蹴りぃいいいいいっ!!」

 

 

 

 対峙するゴッドガンダムもまた、右足に紅蓮の炎を纏わせ、全身から黄金の気を放ちながら、迎え撃った。

 

 

 

 ぶつかり合う蒼銀と紅蓮。

 

 

 

 互いの気が相殺し合い、お互いの影が蹴りを放った姿勢で交差する。

 

 

 

 すぐさま互いに向き直りあい、拳と蹴りの応酬を繰り広げる。

 

 

 

「野郎ぉっ!! しばらく見ない間に俺様の銀色の脚と蹴り合えるだけの技を持ってやがるとはな! また腕を上げやがったな!!」

 

 

 

「何、お前ほどじゃないさ」

 

 

 

 不敵な笑みを浮かべて告げるドモンにミケロも笑みを返す。

 

 

 

「妙な気持だぜ。テメエが憎くて仕方がなかった、殺したくて仕方なかったのによ……」

 

 

 

 右の正拳突きを回し蹴りで相殺しながら、ミケロは力強く吠える。

 

 

 

「今は、テメエとの勝負が楽しくて仕方ねえっ!!!」

 

 

 

「俺もだ、ミケロ。以前の憎しみに彩られたお前となら、ここまでのファイトはできなかった。だが!」

 

 

 

 互いに拳と蹴りを放ちあいながら、ドモンは熱く滾るように笑う。 

 

 

 

「今のお前となら。全てを出し切り、限界以上の力で戦える!!」

 

 

 

「なら見せろ!! この俺様に!! テメエとゴッドガンダムの限界を超えた力ってヤツを!! 次元覇王を名乗るが所以って奴をなぁあああああっ!!」

 

 

 

 言いながら、ミケロとネロスガンダムの気が天井知らずに上昇していく。

 

 

 

「俺様も見せてやる!! この俺様とネロスガンダムの最強の最高の技をぉおおおおおおっ!!」

 

 

 

「いいだろう……! その熱き魂に応えてやる、ミケロ・チャリオットぉおおおおおおおっ!!」

 

 

 

 互いに咆哮する神と戦士。

 

 

 

 太陽よりも熱き二人の闘志が燃え上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これを見ていたミーアの目に涙が流れていた。

 

 

 

「あ、あれ? なんで?」

 

 

 

 魂と魂のぶつかり合い。

 

 

 

 その美しさと壮大さ。

 

 

 

 感動や昂奮を越えた何かが、ミーアの胸の中に響いている。

 

 

 

 そしてそれは、彼女の周りにいるもの達も同じだった。

 

 

 

「ディアッカよ、俺はこれほどの戦士と共に戦えていたのだな」

 

 

 

「……認めるよ。こいつは、すげえや」

 

 

 

「何なんだろうね。どうして、ここまで人の心に訴えてくるのかな。この人たちの叫びってさ」

 

 

 

 イザークとディアッカ、ミリアリアもそうつぶやく。

 

 

 

「これがーーお姉ちゃんやシン。そしてレイが目指しているガンダムファイター、か。凄いな」

 

 

 

 メイリンもまた、このファイトに涙を流す一人だ。

 

 

 

「もはや、二人の体力は限界」

 

 

 

「ならば、最後の一撃は互いの死力を尽くしたものとなるであろう!」

 

 

 

「さあ、見せてみよ! ドモン・カッシュ! ミケロ・チャリオット!! お前たちの魂の輝きをぉおお!!」

 

 

 

 チャップマン、マスターアジア、シュバルツがこの熱戦に、心をたぎらせながら見据える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いに同時に目を見開く。

 

 

 

 互いのガンダムが同時に目を輝かせる。

 

 

 

 ゴッドガンダムが右手を大きく頭上に掲げて叫ぶ。

 

 

 

「うぉおおおおおおっ! キング・オブ・ハートよ!!」

 

 

 

 胸のクリスタルに浮かび上がる紋章が、ゴッドガンダムの右手に宿る。

 

 

 

 アームカバーが展開され、真紅に燃え上がる右手。

 

 

 

 全身を黄金に染め上げていた気が右手に凝縮されていく。

 

 

 

 ゴッドガンダムの全身がトリコロールに戻り、右手のみ輝く。

 

 

 

 あらゆる色を放ちながら、白金色の光となって。

 

 

 

 

 

 

 

 マスターアジアが思わず叫ぶ。

 

 

 

「ぬぅ! あれは究極の一撃!! 心・技・体の全てを極限にまで練り上げた正に極みの一撃!! 天驚拳ではなくゴッドフィンガーにてそれを放つか、ドモンよ!!!」

 

 

 

 チャップマンも静かに頷く。

 

 

 

「両手にあの極限の気を凝縮して放てば、ミケロには避ける以外に術がない。ドモン・カッシュの勝利は揺るがないだろうに、その気を敢えて接近戦に利用するか」

 

 

 

 シュバルツが応える。

 

 

 

「そのような弱腰では、ミケロの真の一撃を破れるわけがあるまい! 正面から打ち破ってこそ、真の勝利!! よくぞ悟った、ドモン!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミケロが笑う。

 

 

 

「嬉しいぜ。付き合ってくれんのかよ、ドモン・カッシュ!!」

 

 

 

 ドモンも笑う。

 

 

 

「ああ。これが俺たちの最後の一撃だ!!!」

 

 

 

 互いに極限の奥義を持って決着を付けようと言うのだろう。

 

 

 

 クラウチングスタイルから、ミケロも更に気を高める。

 

 

 

 七色の光の気を凝縮し、更に銀色の脚の気を高める。

 

 

 

 すべての技をこの一撃に込める。

 

「くぁあああああっ! 見ぃせてやるぅうううう!! この俺様と! ネロスガンダム! そしてヘブンズソード(天剣絶刀)が作り上げた、究極の一撃をぉおおおおおおお!!!」

 

 

 

「流派東方不敗の名の下に! 俺のこの手がぁ! 真っ赤に燃えるぅううう!! 」

 

 

 ドモンの祝詞に応えるようにミケロが続きを叫んだ。 

 

 

「勝利を掴めとぉおお! 轟きぃ叫ぶぅううううッ!!!」

 

 

 

「爆ぁああああく熱ッ!!」

 

 

 

 掲げていた右手を祝詞を読みながら、大きく振りかぶる。

 

 

 

 対するミケロもその場で大きく上に跳躍する。

 

 

 

「ゴォオオオオッドォ・フィィンガァアアアアッ!!!!!!」

 

 

 

「ハイパァアア虹色の脚ぃ・スペシャァアアアアアアルッ!!」

 

 

 

 技名を叫んでより高く気を膨張させる。

 

 

 

 互いに向かって放たれる掌と脚。

 

 

 

 二つの技は真っ向からぶつかり合った。

 

 

 

 超新星の爆発。

 

 

 

 その比喩しか思い浮かばない程の強烈な力と力のぶつかり合い。

 

 

 

 爆発の中心点から後方へはじけ飛んだのは、ネロスガンダムだった。

 

 

 

 そのまま行けば後方にあるデブリに突っ込む。

 

 

 

「ミケロぉおおおお!!」

 

 

 

 思わずレイが叫ぶ。

 

 

 

 だが、ゴッドガンダムの左手がネロスガンダムの腕をつかんで引き留めていた。

 

 

 

 その右腕から火花を散らしながらも、ゴッドガンダムは五体満足でそこに居る。

 

 

 

「……ケッ、ここまでやって勝てねえとはな。流石だぜ、ドモン・カッシュ」

 

 

 

「いや。お前の蹴りが先に当たっていれば、こうなっていたのは俺の方だ。良い勝負だったぞ、ミケロ」

 

 

 

「……ドモン」

 

 

 

 目を見開くとドモンは穏やかな笑顔でミケロに告げてきた。

 

 

 

「何度でもやり合えばいい。俺とお前がいる限り」

 

 

 

「……ケッ」

 

 

 

 ミケロはネロスガンダムを動かし、自分の左腕をつかむゴッドガンダムの手を振り払う。

 

 

 

「! ミケロさん!?」

 

 

 

 メイリンが思わず叫んだとき、ネロスガンダムの右手がゴッドガンダムの右手首を掴むと天に掲げた。

 

 

 

「……ミケロ」

 

 

 

「勘違いするなよ。今回は俺様の負けだ、だが俺様は強くなる。その時までテメエに勝ちは譲ってやる」

 

 

 

「ああ。待っているぞ、友よ!!」

 

 

 

 こうして長きにわたるドモンとミケロの勝負はこの異世界において決着を見たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 静かにDと呼ばれた青年はガン玉となった状態で彼らの勝負を見据えて言った。

 

 

 

「フン、ミケロに先を越されたか」

 

 

 

 涙をぬぐって勝敗を見ていたミーアがいたずらな笑みを浮かべてみせる。

 

 

 

「Dったら。悔しいの?」

 

 

 

「ーーああ」

 

 

 

 憮然とした表情になるDにミーアは優しく微笑みを浮かべた。 

 

 

 

 

 

 




みなさん、お待ちかね~!

 ついにDの復活の為にデビルガンダムのコクピットに乗るドモン。

 調整相手として名乗りを上げるべく、マスターアジア、チャップマン、シュバルツが立候補します。

 しかし、ドモンの相手は一人ということで、彼らはあっと驚く方法で調整相手を決めるのです。

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第88話に!

 レディー、ゴー!!



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第88話 最終決戦への序曲

 皆さん。

 ドモン・カッシュはDの復活に協力する為、デビルガンダムに乗り込むことになりました。

 かつての怨敵とも言えるガンダムの変化に感慨を覚えます。

 対して、世界はついにデュランダル軍とロゴス軍との最終戦争が開かれようとしていたのです!!

 それでは、ガンダムファイトォオオッ!!

 レディィイイイ、ゴォォォオオオッ!!

第88話



 

 ドモン・カッシュ、シュバルツ・ブルーダー、キョウジ・カッシュの三人はエターナルに乗艦し、ラクス・クラインの手引きでクライン派が潜伏している廃棄コロニーに来ていた。

 

 

 

 その後ろにはヴォルテールが着いている。

 

 

 

「……ここがクライン派のアジトか。これほどの規模のモノをプラントの近くに所持していたとは」

 

 

 

 レイが静かに目を細めながら呟く。

 

 

 

「ウム…。デュランダルが危険視するだけの影響力があるようだな、ラクス・クラインという少女には」

 

 

 

 マスターアジアもこれに頷いた。

 

 

 

 チャップマンとミケロも施設を見渡す。

 

 

 

「此処に来るのは二度目だな」

 

 

 

 エターナルから降りたドモンが周囲を見渡しながらの言葉にキョウジが感心したように施設を見る。

 

 

 

「これは、凄いな。こんな施設をラクスが持ってたなんて」

 

 

 

「有無。これほどまでとは思わなかった」

 

 

 

 シュバルツも頷く。

 

 

 

「父の影響です。わたくしの力ではありません」

 

 

 

「謙遜するな、父上殿が亡くなられて2年だと聞く。君自身の力だ」

 

 

 

「ありがとうございます、シュバルツさん」

 

 

 

 ラクスの礼に会釈してから、シュバルツはヴォルテールから出てきた四天王を見据えた。

 

 

 

「では、ドモンがデビルガンダムに乗って調整している間に決めるとしようか?」

 

 

 

 シュバルツの言葉に白い馬ーー風雲再起と再会をはたしていたマスターアジアも頷く。

 

 

 

「ふふふ、良かろう! ドモンとデビルガンダムの組手相手をな!!」

 

 

 

「当然だな。ミケロは満足したかもしれんが、俺もマスターアジアも、全力の拳を交えてはいない」

 

 

 

 チャップマンも頷きながら、刃物のような冷酷な笑みを浮かべている。

 

 

 

 キョウジが盛り上がるファイター達3人を見て、呆れたような顔になる。

 

 

 

 正確には、自分の分身に向かってだ。

 

 

 

「シュバルツ? お前まで組手面子に入る必要あるか?」

 

 

 

 コレにシュバルツは腕を組んで応える。

 

 

 

「何を言っている? ドモンの身の安全とDの復活の為だ。できる限り力を貸すのは当たり前だろう」

 

 

 

「いやいや、なら俺と一緒にデビルガンダムの調整に協力してくれよ」

 

 

 

 兄達が揉めているのを尻目に、ドモンはミーアの方に向かった。

 

 

 

「あ、ドモンさん。Dのこと、よろしくお願いします」.

 

 

 

 ミーアはドモンに気付き、一礼する。

 

 

 

「ああ、任せておけ。それにしても、驚いた」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 ドモンは首を傾げるミーアの胸元に吊らされているガン玉となったDを見る。

 

 

 

「お前が、身を挺してミーアを庇うなんてな」

 

 

 

ーー なんだ? ーー

 

 

 

「……嬉しいぜ、Dよ」

 

 

 

ーー ふん ーー

 

 

 

 ドモンの柔らかい笑顔に、Dも同じくらい優しい笑顔を見せる。

 

 

 

 思わずミーアが見惚れる程に、美しい2人の笑顔だった。

 

 

 

 ミーアからガン玉と化したDを受け取り、ドモンは静かに呟く。

 

 

 

「思えば、父さんが作成したアルティメットガンダムに乗るのは初めてだな」

 

 

 

ーー フン。まさか、このような形で貴様に我が機体(からだ)を使われようとはな ーー

 

 

 

「違いない。人生何が起こるか、分からんものだ」

 

 

 

 言いながらモビルスーツの格納庫でドモンは、深紅の球を掲げる。

 

 

 

「ならば、行くぞ! 出ろぉおおっ、デビィイルッガンダァァアアアムッ!!」

 

 

 

 瞬間、血のように紅い光が場に満ちて、20メートルを越える大型のMFが姿を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラクス達は管制室に着き、格納庫の様子をモニターで確認していた。

 

 

 

 今いるメンバーはラクスにミーア、メイリン。

 

 

 

 イザーク、ディアッカ、ミリアリア、ダコスタ。

 

 

 

 そして、レイとミケロだ。

 

 

 

 モニターには、ゴッドガンダムの顔と胴体とマスターガンダムの両腕に翼を持ち合わせた機体が映っている。

 

 

 

 異形の姿から進化し、より格闘に向いた機体となったデビルガンダムである。

 

 

 

 そのコクピットに黒地に胸元に紅い日の丸が入ったファイティングスーツを着たドモンがいる。

 

 

 

 ドモンは静かに己の機体を見下ろす。

 

 

 

「ゴッドガンダムやシャイニングガンダムと違って巨体ゆえに小回りが利きづらい、か。だがーー!」

 

 

 

 言いながら、性能を確かめる為にその場で拳を放つ。

 

 

 

「このリーチはゴッドガンダムを上回るな。それに機体の身のこなしにパワー、全てゴッドガンダムや進化したシャイニングガンダムに勝るとも劣らない」

 

 

 

 確認しながら拳と蹴りを繰り出し、稼働域や機体の反応速度、スピードを確認する。

 

 

 

「いい機体だ。流石に、お前が選んだだけはある」

 

 

 

ーー ふん。我の機体(からだ)をもう使いこなすか。さすがだな、ドモン ーー

 

 

 

「もともと、俺に合わせていたようだからな。ほとんどゴッドガンダムやシャイニングガンダムと変わらない感覚で使えそうだぜ!!」

 

 

 

 気に入ったと言わんばかりに、演舞を取る。

 

 

 

 袖口からビームクロスを抜き、薙刀にして振り回す。

 

 

 

「デビルスラッシュ・タイフーン!!」

 

 

 

 その場で回転しながら、斬撃を放つ。

 

 

 

 そしてクロスを手の中で消滅させ、拳を握って気を高める。

 

 

 

 螺旋状に緑色の光が拳に纏わりつき、ドモンは目を見開く。

 

 

 

 瞬間、デビルガンダムの胸部カバーが展開され、エネルギーマルチプライヤーが深紅に輝くと、緑色の光が蒼紫の炎へと変化した。

 

 

 

 デビルガンダムのハイパーモードだ。

 

 

 

「次元覇王流、聖拳突きぃいいっ!!」

 

 

 

 ドモンの咆哮と共に、デビルガンダムは蒼紫の炎を纏う拳を繰り出した。

 

 

 

 そして、放った拳をゆっくりと引き戻し、腰に置く。

 

 

 

 左手は顔の横で指を曲げて手のひらを顔側にし、攻撃を受け流し、右手は腰に置いて拳を握り攻撃を繰り出せるようにするドモンの構えだ。

 

 

 

「はぁああああっ!!」

 

 

 

 裂帛の気合いがドモンから放たれる。

 

 

 

 人機一体ーー明鏡止水の境地。

 

 

 

ーー これが、我が宿敵ゴッドガンダムのファイター。ドモン・カッシュの気か!? 何という力だ!! 我が全身に力が漲ってくる!! ーー

 

 

 

 格納庫に巨大な黄金の光の塊が生まれる。

 

 

 

 まるで恒星のような存在だった。

 

 

 

 黄金の機体と化した己を見下ろし、ドモンは笑う。

 

 

 

「此処まで違和感なく乗れるとは、思わなかったぞ」

 

 

 

 そう言いながら、ドモンは右拳に気を集約させていく。

 

 

 

 全身を黄金に染めたデビルガンダムは、右拳に気を集約させ、元の紅を基調としたトリコロールに戻る。

 

 

 

 右拳は白金色の光の玉となり、玉より放たれる光は7色。

 

 

 

 森羅万象、全ての根源たる気にして。

 

 

 

 究極の一。

 

 

 

 そう、明鏡止水の境地の先。

 

 

 

 極み、である。

 

 

 

「…ふん。機体の特性は把握した、兄さん! いつでも準備はいいよ!」

 

 

 

 ドモンは言いながら、白金色の光の玉を纏う拳をゆっくり解きほぐす。

 

 

 

 すると玉は、粒子となって消えていった。

 

 

 

 が、ドモンが見た先に居た兄達と師は、揉めていた。

 

 

 

「? どうしたんだ、兄さんと師匠達は?」

 

 

 

ーー 揉め事か? ーー

 

 

 

 そんなことを呟く2人はしばらく、揉め事が収まるまで待機するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 譲らない3人のガンダムファイター。

 

 

 

 キョウジが眉間を押さえながら呟く。

 

 

 

「…何なんだ、この聞き分けのない連中は」

 

 

 

 呆れ半分、諦め半分と言った声にシュバルツがキョウジを向く。

 

 

 

「だが、キョウジ。DG細胞の事を知り、ドモンとDの兄である我々が調整相手を務めるのが当然ではないか?」

 

 

 

「……べつに組み手をするだけが、調整じゃないだろ? むしろ、データを組み合わせてな?」

 

 

 

「そのデータを実戦の中で組み立てていけば誤差も少ない。私とお前ならば、それができる」

 

 

 

 シュバルツの言葉ももっともだと頷く。

 

 

 

 しかし。

 

 

 

 納得いかないんだろうなぁ、どうせ。

 

 

 

 最悪、この三人一人一人にドモンと戦ってもらうしかないかもしれない。

 

 

 

 そう考えるキョウジである。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 マスターアジアが声を張り上げる。

 

 

 

「ならば! ワシとチャップマンがコンビを組み、貴様らに挑もうではないか!」

 

 

 

「……ほう? それは面白そうだ」

 

 

 

 チャップマンも乗り気である。

 

 

 

 これにシュバルツも楽し気な表情で笑う。

 

 

 

「確かに。その手があったか」

 

 

 

「いやいやいや! 無い無い!! なんでドモン達の調整相手を決めるのに拳を交えなきゃならないんだ!?」

 

 

 

「決まっている。調整相手を決めるためだ」

 

 

 

 シュバルツの何を当たり前の事を、と言わんばかりの態度と言葉にキョウジは目を点にする。

 

 

 

「何も決まってねえよ…」

 

 

 

 ぼそりとこぼすキョウジだが、完全にシュバルツは無視してマスターアジアを見据える。

 

 

 

「そういうわけだ。私たちはいつでもいいぞ!!」

 

 

 

「……もう、勝手にしろ」

 

 

 

 言いながら、キョウジは考えるのを放棄した。

 

 

 

 

 

 

 

 これをモニターで見ながらミケロがレイに告げる。

 

 

 

「どうやら、しばらく始まりそうにねえな。今のうちに世界情勢でも見てようぜ」

 

 

 

「あ、ああ」

 

 

 

「? どうしたよ?」

 

 

 

 戸惑い気味のレイにミケロが問いかけると、レイはためらいがちに言った。

 

 

 

「マスターアジアはともかく。シュバルツさんが、あんなことに乗り気とは思わなかったんだ」

 

 

 

「………まあ、所詮アイツもガンダムファイターってこった」

 

 

 

 ミケロの言葉にレイは苦笑する。

 

 

 

 あれ程のファイトを目の前で見せられ、まだ闘いたいと言うファイター達に、呆れと憧れのようなものをレイも抱いた。

 

 

 

 ミケロに対しても、Dにしても。

 

 

 

 チャップマンにマスターアジア。

 

 

 

 シュバルツ・ブルーダーにドモン・カッシュ。

 

 

 

 ガンダムファイターは皆、強いのだ。

 

 

 

 力だけではない、心もだ。

 

 

 

 自分にはできない。

 

 

 

 届かないと理解しながらも、レイは静かに微笑んだ。

 

 

 

「では、我々は世界の動きを見てみましょう。ダコスタさん、現状説明をお願いします」

 

 

 

「分かりました」

 

 

 

 ラクス達が管制室のモニター前に集まり、ダコスタの説明が始まる。

 

 

 

 モニターには、月面基地の内部から巨大な光の柱が立っていた。

 

 

 

「まず、月面基地ダイダロスの様子ですが。先日、MFのものと思われるエネルギーフィールドを検知しました。おそらく、ドモンさん達の見立てどおりに、ウルベ・イシカワやウォン・ユンファが生き延びているのでしょう」

 

 

 

「…化け物め。正にゴキブリだ」

 

 

 

 思わず呟くイザークに他の面々も表情が固くなる。

 

 

 

 次にモニターは、プラントを映し出した。

 

 

 

 地球軍の船とザフトの船が編隊をくんでいる。

 

 

 

 そのドッグ内で、ラクスの顔をした少女が熱弁を振るっていた。

 

 

 

「次に、プラントの様子です。此方は議長とファム・ファタールの勢力が反ロゴス派と統合して動いてます。議長への疑問は全てが終わった後、という名目でファムが反ロゴスを掌握してしまったようです」

 

 

 

「…彼女が、新しい議長の」

 

 

 

 ミーアが複雑な表情になり、ラクスも頷く。

 

 

 

「ええ。議長が望み、作り出したわたくしと。そして、キラを苦しめる為に彼女の姿を模した存在」

 

 

 

 ミリアリア、ディアッカが苦虫を噛んだような表情になる。

 

 

 

 そして、ラクスことファムの隣にいる仮面の男に。

 

 

 

「…クルーゼ隊長」

 

 

 

「化けて出たのか、偽物か。どちらにしろ、碌なもんじゃないな」

 

 

 

 イザークとディアッカの言葉に、レイが口を開いた。

 

 

 

「…彼は、ラウだ。間違いない、俺が間違える訳はない。端的に言うなら、フィルム・ノワールを演じているラウ・ル・クルーゼだ」

 

 

 

「ファムって奴とは違うってのか?」

 

 

 

「…ああ。少なくとも、ラウの方は人形ではない」

 

 

 

 ミケロに頷きながら言うと、イザーク達が複雑な表情になる。

 

 

 

「…同じことだ。彼がオリジナルだろうと、違おうと。デュランダル議長のやり方についていくならな」

 

 

 

「ああ。そうだな…」

 

 

 

 イザークとディアッカの言葉に、レイも頷いた。

 

 

 

「覚悟はできている。俺は闘う。ラウが見ているものを知る為に」

 

 

 

「…強いな、貴様は」

 

 

 

 レイの力強い言葉にイザークが関心したような表情で言うと、レイは苦笑を返してきた。

 

 

 

「俺は、強くはない。強くないから、今まで逃げてきた。強く見えるなら、それは強がりだ」

 

 

 

「…そうか。だが、お前はそう思っているかもしれんが、俺はそうは思わない」.

 

 

 

 イザークの言葉に、レイは顔を上げる。

 

 

 

「俺は貴様は強いと思っている。仲間を想いながらも違う道を歩み、進む。あの頃の俺ならばできなかった」

 

 

 

「ジュール隊長。貴方はーー」

 

 

 

 真っ直ぐな瞳に胸を打たれる。

 

 

 

 その様子を、メイリンが優しく見守っていた。

 

 

 

「! 工作員からの通信!? これは!?」

 

 

 

「ダコスタさん、どうされましたか?」

 

 

 

「ラクス様、デュランダル議長とファムを乗せた船・レセップス級が動きました! 数時間後に、ロゴスを匿ったダイダロス基地を強襲すると、宣言しています!!」

 

 

 

「…動き出しましたか。けれど、ミネルバはまだ合流していない。ミネルバの部隊抜きでダイダロス基地を攻略するアテがあるのでしょうか?」

 

 

 

 ラクスの言葉に皆が沈黙した。

 

 

 

 仮にそうだとすれば、この戦いは更なる混乱を巻き起こしかねない。

 

 

 

「…ドモンさんが元の世界に一時的に帰還されるまで後、僅か。彼が再び、こちらに来るには10日かかるとか。その間に決着を着けたいところですわね」

 

 

 

「10日あれば、情勢はかなり動きます。ドモンさんを待つのではなく、決着を着ける方向にシフトしないといけませんね。実際、今の状況では議長とロゴスが削り合いをする中で漁夫の利を得るしかありませんが」

 

 

 

 ダコスタの言葉に頷く。

 

 

 

「確かに。敵の実力が未知数だから、挑むには互いの手札を公開させてからの方がやり易い」

 

 

 

「犠牲がどんだけになるか、考えたくねーな」

 

 

 

「うん。実際、この戦いはもう。お互いの勢力がどれだけDG細胞を会得し解析できているか、だからね」

 

 

 

 イザークとディアッカ、ミリアリアの言葉に皆が頷く。

 

 

 

「この戦いとDG細胞は既に切っても切れない。如何に解明し、進化させるかが勝敗に関わる」

 

 

 

「俺様達の未来世紀以上だな。この世界のDG細胞の使用は。まあ、ガンダムファイトと戦争じゃ、利用者が変わるのは仕方ねえが」

 

 

 

 レイとミケロの言葉の後、彼らは作戦を立てていく。

 

 

 

 真の意味で世界を滅ぼしかねない2つの勢力を打ち倒す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 ダイダロス基地では、ワインを傾けながらウォンとジブリールが月面基地の前面に展開された部隊を見つめている。

 

 

 

「ミネルバ隊は無し、か。オーブのアークエンジェルも無い。完全にガンダムファイター抜きで攻めてくるとは。デュランダルも思い切りましたね」

 

 

 

「それだけ、自分達がDG細胞を使いこなしているという自信なのだろう。まあ、その研究も我々が取り込んで仕舞えば問題無いがな」

 

 

 

「その通りです。どれだけDG細胞について研究していようが、相手に倒されて吸収されれば終いです。我々も彼らもね」

 

 

 

「ならば取り込めば良い。至極単純な話だ」

 

 

 

 敵が目の前に迫っているのに微笑むジブリールにウォンも笑う。

 

 

 

「そうですね。ですがパーティまではまだ時間があるようです。ウルベ達に伝えてあげましょう。修行の成果を試すことができそうだ、とね」

 

 

 

 サングラスの縁を指で押し上げ、ウォンは静かに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 ウルベ・イシカワは静かにガンダムのコクピットで瞑想をしていた。

 

 

 

「…フン。わざわざドモン君達の前菜になってくれると言うのか? 有難いことだな」

 

 

 

 瞳を開け、ウルベは月面基地から目視できる位置に並ぶプラント・ギルバート軍の艦隊を見据える。

 

 

 

「ウルベ、聞こえますか?」

 

 

 

「ああ。聞こえているよ、ウォン。デュランダルが動いたようだね」

 

 

 

「ええ。取り敢えず、艦隊戦をしてみようと思っていますが。マーキロット達は出せますか? 彼らに現場指揮を任せようかと」

 

 

 

 ウォンの言葉に倒れ伏した三体のガンダムを見据える。

 

 

 

 ウルベは静かに右手を翳し、ガンダムの全身から禍々しい蒼い光を放つ。

 

 

 

 瞬間、月面の大地から緑色の触手のようなコードが無数に生え、マーキロット達に纏わりつくとガンダムのデュアルアイが赤く光り始める。

 

 

 

 触手が引くと、ゆっくりと三体のガンダムは立ち上がった。

 

 

 

「君たちの出番だ。存分に発揮して来たまえ」

 

 

 

 ウルベの言葉に身を起こした3人の魔人は己の掌を開いて閉じ、力強く拳を握ってみせるとニヤリと笑った。

 

 

 

「どうやら俺たちは、生き残れたようだな」

 

 

 

「ホホホ。地獄みたいな数日だったけれど、体から凄いパワーを感じるわぁっ!」

 

 

 

「では、彼らの部隊を頂くとしましょうか」

 

 

 

 ゼウスガンダムが翼をはためかせ、コブラガンダムが下半身の蛇を動かし。

 

 

 

 ジェスターガンダムの袖口から丸いビットが無数にでてくる。

 

 

 

「「「愚かな人間よ、滅びるがいい。我らDG細胞の支配の下、永遠に家畜となり続けよ。貴様らに思考は要らぬ。貴様らはただ、我らに従うのだ!!!」」」

 

 

 

 三体のガンダムは同じ言葉を無感情に告げる。

 

 

 

 これを聞き流しながら、ウルベはヴァニシングガンダムの右手を上げてデュランダルの艦隊を指差した。

 

 

 

「さあ、行くがいい。貴様らの手で多くの人間を支配下に置き、地球再生の為の贄とするがいい。DG細胞よ!!」

 

 

 

 ウルベの叫びに3人の魔人は歓喜の産声を上げて、飛翔した。

 

 

 

 瞬間、月面基地ダイダロスはカタパルトデッキを解放し、無数のコウモリの翼が生えたデスアーミーを射出する。

 

 

 

 ロゴスの意匠をあしらった地球軍の艦隊を出撃させる。

 

 

 

 その周囲には無数の独立型半MSーーガンダムヘッドが地面から生えてきた。

 

 

 

 デュランダル達の軍がザフトと連合の様々なMSや戦艦で組まれた部隊なら、ロゴスは戦艦こそ地球軍のそれだがMS自体が既にDG軍団のデスシリーズであった。

 

 

 

 数の上では五分と五分。

 

 

 

 睨み合う両陣営に対し、デュランダルは公開で通信を呼びかける。

 

 

 

「共に我々と戦うことを決めてくださった反ロゴスの皆様.今私の中にも皆様と同様の悲しみ、怒りが渦巻いています。

 

 何故こんなことになってしまったのか? 考えても既に意味のないことと知りながら、私の心もまた、それを探して彷徨います」

 

 

 

 艦隊を組んでいる連合とザフト軍人である彼らは静かにデュランダルを見据える。

 

 

 

 彼は悲しげにつぶやいた。

 

 

 

「私たちは、つい先年にも大きな戦争を経験し、その時にも誓ったはずでした。

 

 こんなことはもう二度と繰り返さないと。

 

 にもかかわらず、ユニウスセブンは地球に墜とされそうになり、停戦の努力も虚しくまたも戦端は開かれ。

 

 戦渦は否応なく拡大して、私たちはまたも同じ悲しみや苦しみを得ることとなってしまいました。

 

 また、オーブに堕ちる所であったロゴスの破滅の光、レクイエム。

 

 本当にこれはどういう事なのでしょうか。愚かとも言える、この悲劇の繰り返しは!?」

 

 

 

 デュランダルの演説に皆が拳を握っている。

 

 

 

「一つには先にも申し上げた通り、間違いなく目の前の敵、ロゴスの存在所以です。

 

 敵を作りあげ、恐怖を煽り戦わせて、それを食い物としてきた者たち。

 

 長い歴史の裏側に蔓延る彼ら、死の商人たちです。

 

 だが、我々はようやくそれを滅ぼすことができます。この戦いに勝利することで」

 

 

 

 言葉を切り、全体に響くように熱弁する。

 

 

 

「だからこそ!!

 

 

 

 今、あえて私は申し上げたい!!」

 

 

 

 熱弁は続く。

 

 

 

「我々は今度こそ、もう一つの最大の敵と戦っていかねばならないと。そして、我々はそれにも打ち勝ち、争いの歴史から解放されなければならないのです。

 

 みなさんにも、すでにお判りのことでしょう。

 

 有史以来、人類の歴史から戦いの無くならぬ訳を。常に存在する最大の敵。それは、いつになっても克服できない、我ら自身の無知と欲望だということを。

 

 地を離れて宇宙を駆け、その肉体の能力も、様々な秘密までも手に入れた今でも。人は未だに人を判らず、自分を知らず、明日が見えないその不安。同等に、いやより多く、より豊かにと、飽くなき欲望に限りなく延ばされる手。それが、今の私たちです。争いの種、問題は、全てそこにある。だがそれももう、終わりにする時が来ました。終わりにできる時が。

 

 我々はもはや、その全てを、克服する方法を得たのです。全ての答えは、皆が自身の中に既に持っている。それによって人を知り、自分を知り、明日を知る。これこそが、繰り返される悲劇を止める、唯一の方法です。私は、人類存亡を賭けた最後の防衛策として、デスティニー・プランの導入実行を、今ここに宣言いたします!!」

 

 

 

 デュランダルの本懐たるデスティニープランの宣言がなされた。

 

 

 

 プラントの人間や地球の人々が訝しげになる中で。

 

 

 

 ザフト軍人だけではない、地球軍の軍人達までが熱に浮かされたように叫ぶ。

 

 

 

「ロゴスを倒せ!!」

 

 

 

「愚かで浅はかな欲望の塊たる人類の象徴。ロゴスに制裁を加えよ!!!」

 

 

 

「そして、遺伝子の下に争いを辞め、人類は更なる生命体へとこの力で進化するのだぁ!!!」

 

 

 

 狂信者のように叫ぶ人々。

 

 

 

 その首元から頬にかけて銀色の鱗状のものが浮かび上がり、彼らの瞳は紅に輝いている。

 

 

 

「さあ、決めましょう? わたくしとあなた方。どちらが本当の導き手かを」

 

 

 

 旗艦ヴォルテールの艦長席からファムは怪しげに笑う。

 

 

 

「ウルベ・イシカワ、ウォン・ユンファ。人間如きが世界を支配しようなどと、愚かなことを。人々は管理されねばなりません。遺伝子の名の下にーー!!」

 

 

 

「決着だ、ロゴスの諸君。平和の為に私の贄となりたまえ」

 

 

 

 戦端がついに開かれた。

 

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね〜!

 ついに動き出したデュランダル軍。

 強大な力で全てを取り込もうとする彼らに対し、ロゴスの方も悪魔の軍隊を3人の魔人に指揮させて迎撃します。

 大混戦となる月面に、ついにミネルバが到着するのです。

 果たして、シン・アスカとデスティニーガンダムは、この大戦を無事に乗り切り、デュランダルやウルベとの決着をつけることができるのか!?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第89話に!

 レディー、ゴー!!


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第89話 全面戦争 デュランダル 対 ロゴス

 皆さん、ついにデュランダル軍とロゴス軍の戦いの火蓋が切って落とされました。

 どちらの語る言葉にも、人類の未来はありません。

 はたして、シン達はこの世界をDG細胞という力の塊から救うことができるのか?

 それでは、ガンダムファイト!

 レディィィイイ、ゴォォォオオオッ!!

第89話




 何故、こんな事になってしまったのか?

 

 

 

「私は、子どもが欲しいの!!」

 

 

 

 そう言って彼女は私の前から姿を消した。

 

 

 

 失ったものは、何だろう?

 

 

 

 愛する人を無くした虚無感。

 

 

 

 失望感、裏切り、そしてプライド。

 

 

 

 遠き記憶は今でも鮮明に思い出せる。

 

 

 

 人を捨てた、今でもだ。

 

 

 

 

 

 

 

ヴォルテールのブリッジにて。

 

 

 

 想いを過去に馳せるのを辞め、デュランダルは艦長席でその瞳を開けた。

 

 

 

 目の前には、コウモリの翼が生えた一つ目の鬼を思わせるMSが無数に浮かんでいる。

 

 

 

「ファム。今回は君も出るのかね?」

 

 

 

 デュランダルの言葉にブリッジから出て行こうとしているラクスの姿をした少女が振り返る。

 

 

 

「はい。わたくしの力で皆さんの士気が少しでも上がれば、と」

 

 

 

「そうか。クイーンは君の為の機体だ。好きに使いたまえ。願わくば、この争いに終止符を打ちたいものだ」

 

 

 

「ありがとうございます、議長。行ってまいりますわ」

 

 

 

 優雅にデュランダルへ一礼し、ファムはラクスの顔のまま去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 MSの発進シークエンスに入る。

 

 

 

 随伴として右にハイネのデスナイト。

 

 

 

 左にクルーゼのデスビショップが着いた。

 

 

 

「デスクイーン、ファム・ファタール! 出撃いたしますわ!!」

 

 

 

 ゴッドガンダムやデビルガンダムの胴体と顔を持つ、ドラグーン装備のデスティニーガンダム。

 

 

 

 それがデスクイーンの正体だった。

 

 

 

「では、死者の軍勢に安らかな眠りを捧げましょう」

 

 

 

 言いながら、ファムは背中のロングビームライフルを取り出す。

 

 

 

「…わたくしが、戦端を開きます。各機、追撃を!!」

 

 

 

 叫ぶと同時に巨大な砲撃が、ダイダロス基地周辺に浮かぶMSを落としていく。

 

 

 

 薙ぎ払われる艦隊。

 

 

 

 爆発する火花から、無数のデスバットが飛んで来る。

 

 

 

「…さあ、参りましょう? クルーゼ隊長、ヴェステンフルス隊長」

 

 

 

 ファムからの通信にハイネが不敵に、クルーゼが嘲笑のように笑みを浮かべる。

 

 

 

「目にもの見せてやるぜ、化け物があ!!」

 

 

 

「…ふふ、力が漲っているようだな」

 

 

 

 ハイネの首元から頬にかけて、鱗状の金属片が浮かんでいる。

 

 

 

 血走った目や叫ぶ姿からは、それまでの理知的な姿はない。

 

 

 

「…普通の人間には、やはり思考を保つのは難しいようだな。我らの細胞は」

 

 

 

「問題ありませんわ。人は皆、思考を捨てて尽くせば良いのです。今のハイネ隊長の姿も正しき未来の人の姿。世界を乱す者は全て滅ぼすのです」

 

 

 

 苦笑混じりに告げるフィルムことクルーゼに、ファムが微笑みながら答える。

 

 

 

 そんな彼女にクルーゼは微かに冷たい笑みを浮かべた。

 

 

 

(人の世が滅びるならば、それも良い。だが、人形に過ぎない君に。はたして人を支配などできようか?)

 

 

 

 人形の野望など、人形でなくなった彼ならば止められるだろう。

 

 

 

 ああ、その時に自分は本当に解放されるのだ。

 

 

 

 この憎しみの連鎖から、彼の手によって。

 

 

 

(甘えだな…。だが、見てみたくもあるのだよ。レイ、君ならば私の期待に応えてくれる、と)

 

 

 

 悲しげな笑みを仮面で隠し、クルーゼは死者の軍と戦闘を始めた。

 

 

 

 全包囲を無数のデスバットが取り囲み、ビームライフルを放ってくる。

 

 

 

 これらをクルーゼは、ヒットする寸前に姿が見えない程の高速移動で避ける。

 

 

 

 背中から放たれる圧倒的なドラグーンの数。

 

 

 

 緑色のビームが雨霰と降り注ぎ、無数のデスバットを葬る。

 

 

 

 左腕には盾とライフルとサーベルが兼用になった独特の武器で、攻撃を弾き、撃ち墜とし、切り捨てる。

 

 

 

「デスビショップ。ハイパーモード、始動!!」

 

 

 

 胸部のカバーが開き、親機であるデビルガンダムから得たデータで模したエネルギー源、エネルギーマルチプライヤーを稼働させる。

 

 

 

 機体の全性能が1.2倍になる。

 

 

 

 機体が目に映らない程のスピードで動くビショップ。

 

 

 

 その能力はプロヴィデンスガンダムの比ではない。

 

 

 

 次々と落とされていく機体に、本来ならば気味悪がるであろう兵士達は興奮し、叫び出す。

 

 

 

「倒せ! 倒せ!! 倒せ!!!」

 

 

 

 狂気の渦と化した味方陣営が敵陣営に、突っ込む。

 

 

 

 死を恐れない兵士達。

 

 

 

 避けようともしない。

 

 

 

 ただ、敵を倒す為に兵士達は動く。

 

 

 

 ゾンビ兵とDG兵士。

 

 

 

 デュランダルは、人間の思考を完全に奪う真似はしない。

 

 

 

 本来ならば時間の差はあれ、DG細胞に感染したものは脳をやられ、ゾンビ兵士と化す。

 

 

 

 それを人間の知識や能力を残したまま、感染させてゾンビ兵士にまでは行かさず、DG兵士として利用することをデュランダルは実験によって確立させた。

 

 

 

 ゾンビ兵士となった者は、サラの作戦で全て使用され処分すみだ。

 

 

 

 DG細胞による能力強化をされ、脳をこちらの指示しか聞かないようにいじくる。

 

 

 

 そうして出来上がったのが、一般兵士をコーディネーターやナチュラル問わず、エース級にしてみせたDG兵士だ。

 

 

 

 今、デュランダル軍の全ての人は、DG兵士となって同類であるゾンビ兵士を殺戮していた。

 

 

 

 その中でもオレンジ色のデスナイトに騎乗したハイネの実力は群を抜いている。

 

 

 

「邪魔なんだよ、雑魚ども!! クククははははは!」

 

 

 

 哄笑と共に、左手の袖口から繰り出されるヒートロッドはDG細胞によって伸び、一気に数十の敵を切り捨てる。

 

 

 

 背中のロケットを思わせるジェットバーニアが、一気に機体を加速させて更なる敵を切り捨てる。

 

 

 

「弱い弱い弱い!! 弱すぎるんだよぉおおっ!!」

 

 

 

 テンペストビームソードを抜き、斬撃の衝撃波で次々と落ちるMSを見て笑うハイネ。

 

 

 

 デュランダル軍は圧倒的な物量を誇るロゴス軍を相手に圧倒的なパイロット能力を持って、畳み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 これをダイダロスから覗くジブリールは笑みを浮かべて見ている。

 

 

 

「素晴らしい! 一般兵士をあそこまで強化できるとは。いけ好かない男だと思っていたが、デュランダルめ。中々、素晴らしい真似をするじゃないか」

 

 

 

「確かに、あのような運用ができるとは。コーディネーターも侮れませんね。これは交渉のし甲斐がある」

 

 

 

 厭らしい笑みを浮かべながら、ウォンが呟く。

 

 

 

「やはり、行くのか? お前やウルベならば心配は要らんだろうが」

 

 

 

 ジブリールの言葉に肩を竦め、ウォンは告げた。

 

 

 

「ウルベは交渉などやりたがりませんし、貴方はデュランダルが信用しないでしょうからね。仕方ありません」

 

 

 

「ククク、確かにな。ところで、ウォン? 私も出撃して良いのかな?」

 

 

 

 邪悪な笑みに瞳から鈍い光を放ちながら、ジブリールは問いかける。

 

 

 

 視線の先にはDG細胞に感染させて尚、強き意思の力で抵抗する戦艦のメンバーがあった。

 

 

 

 かつて、自分が使い捨てのように考えていたファントムペインの部隊である。

 

 

 

 バーサーカーシステムで自我を奪われ、細胞に脳まで感染させられて尚、ゾンビ兵士に落ちない彼らに

 

 

 

「奴等とならば、素晴らしい戦果を上げられよう。データも充分に取れる。何より、弱いDG細胞など、我らの餌にしかなり得ない」

 

 

 

 呟くジブリールにウォンも笑みを深める。

 

 

 

「交渉はあくまで手段に過ぎません。貴方の言うとおり、此処であなた方だけに負けるような弱い存在ならば交渉する価値もない。好きになさい、ジブリール」

 

 

 

「ククク、感謝するぞ。まあ、安心しろ。奴らが本丸まで攻めて来なければ、こちらも動くつもりはない。では、私はかつての部下達の船へ乗り込むとしよう」

 

 

 

 作戦司令部は既にもぬけの空だ。

 

 

 

 命ある者は全てゾンビ兵士と化した。

 

 

 

 全体の指揮をするのは、ジブリールでありウォンだ。

 

 

 

 ジブリールは、片割れとも言うべき男に笑みを投げかけると、ガーティ・ルーと呼ばれる黒いアークエンジェル級によく似た戦艦に乗り込んでいった。

 

 

 

「哀れなものだ。家族を守るが故に、DG細胞の力に屈することができず。苦しみながら命令を受け入れねばならない彼らはね」

 

 

 

 ウォンはそう言いながら、冷酷にして残虐な笑みを浮かべている。

 

 

 

 

 

 三人の魔人と化したガンダムファイター。

 

 

 

 ゼウスガンダムのマーキロット、コブラガンダムのシジーマ、ジェスターガンダムのロマリオはデスバットの部隊30機ずつを引き連れて、連合・ザフト軍に突撃していた。

 

 

 

「フハハ、神の怒りを受けよ! 裁きの雷ぃいいっ!!」

 

 

 

 ゼウスハンマーと呼ばれる金色の槌を取り出し、振り下ろすと同時に、雷が発生。

 

 

 

 宇宙空間を本来ならばあり得ない雷が気によって具現し、無数のMSを引き裂いていく。

 

 

 

「あなた達、命を貰うわよぉ!」

 

 

 

 さらにコブラガンダムが右手に持っていた笛を吹き矢のように構え、次々と小さなビームアローを放つ。

 

 

 

 見た目にはバルカン砲程度の大きさしかない矢弾は、しかし軽々とMSのコクピットを射抜かれて、堕ちていく。

 

 

 

「冥土のみやげ、と言う言葉はまさに言い得て妙です。あなた方には、わたくしの芸を見せてあげましょう。ああ。代価はあなた方の命です」

 

 

 

 言うや否や、バルーンビットから無数のビームが放たれ、幕を形成して何体かのMSの動きを止め、気によって具現された燃える拳で敵を全て射抜いた。

 

 

 

「バルーンスクリーマーにバーニング・パンチ。やはり、シャッフル同盟の技は強力ですね〜」

 

 

 

 無抵抗のMSを平然と撃ち抜き、ロマリオは悦に浸る。

 

 

 

 

 

 

 

 月面のクレーターを自由に滑空しながら、ウルベは空を見上げる。

 

 

 

 ダイダロス基地の前線で争うゾンビ兵士とDG兵士。

 

 

 

 屍人と魔物。

 

 

 

 その二つの争いを見ながら、ウルベは嗤う。

 

 

 

「ククク、何が人は変わるだ?」

 

 

 

 嘲笑う。

 

 

 

 人は変わると赤い鉢巻きの男は言っていた。

 

 

 

 人間の醜さなど変わらないではないか、何処も!

 

 

 

 覆面の男は言っていた。

 

 

 

 この世界の素晴らしい人々の為にだと!?

 

 

 

 綺麗事ばかりの兄弟めが。

 

 

 

 変わらないのは、私だけだと!?

 

 

 

「笑わせる。笑わせるな!! 綺麗事ばかりほざく貴様らに見せてやる!!! 如何に人間が醜いか? 救われぬ存在か!? この戦いで思い知れ!!!」

 

 

 

 それは怒りか?

 

 

 

 嘆きか?

 

 

 

 高笑うウルベには、己の感情を理解できておらず、その自覚もない。

 

 

 

 ただ、死を与えよう。

 

 

 

 ただ、絶望を与えよう。

 

 

 

 そして支配してやる。

 

 

 

 今度こそ、全てをひれ伏してやる!!

 

 

 

 魔神はただ全てを呪い、嘆いて高笑うのみだった。

 

 

 

 彼の乗るヴァニシングガンダムの目から血のように赤い涙のような光が頬をつたって漏れていた。

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバのブリッジにて。

 

 

 

 体を休め、泥のように未だ眠る少年達を置いて、タリア・グラディス艦長は目の前で繰り広げられている戦いに目をみはる。

 

 

 

「艦長、これはーー!」

 

 

 

 副長であるアーサーの声が途切れる。

 

 

 

 無理もない。

 

 

 

 敵も味方も異様な光景だった。

 

 

 

 デュランダル軍は皆、人の限界を越えるようなスピードでMSを加速させてビーム砲や近接武器で次々と敵を葬る。

 

 

 

 ただし、回避を一切考えてない動きだ。

 

 

 

 ガードをせずに、一機でも多く道連れにせんとばかりに最後の瞬間にまで攻撃を繰り出す。

 

 

 

 その死を恐れない光景は、ベルリンでデストロイガンダムに踏みつけられながらもこちらにビーム砲を打ち込んできたデスアーミーの大群を思い起こさせる。

 

 

 

「ギルバート、貴方ーー! 自軍の兵士にまで植え付けたというの!? DG細胞を!?」

 

 

 

 目を見開くタリアにアーサーも苦虫を噛んだような顔で固まる。

 

 

 

 このブリッジにいるミネルバクルーならば最早、一目瞭然だった。

 

 

 

 デュランダル軍の兵士達は、DG細胞に感染させられている。

 

 

 

 対峙するデスバットの機動性はフリーダムにすら匹敵する。コレにウィンダムやザクでついていけるのだ。

 

 

 

 生身の人間には不可能だろう。

 

 

 

 キラ、アスラン、シン級のパイロットが、有象無象のようにいる訳はなく。

 

 

 

 また、彼らと同格のパイロットが特攻を仕掛けるような真似をするのはおかしい。

 

 

 

 攻撃に関しては圧倒的なのに回避や防御に関しては一般の兵士以下だ。

 

 

 

「人間を化け物みたいに変えて。そんなことまでして、必要な事なの!? デスティニープランなんて!!」

 

 

 

「艦長。私はもう、我慢できません」

 

 

 

 静かにアーサーは帽子を脱ぎ、タリアの前に出る。

 

 

 

 彼の後ろには同じく静かに怒るクルー達がいた。

 

 

 

「アーサー…!」

 

 

 

「確かに私達には家族がいます。プラントに大勢の家族が。ですが、議長のこれは。私達の大切な家族さえも変えてしまう!!」

 

 

 

「……でも。負ければタダでは済まないわよ? 私と貴方の首だけでは済まない。分かっているの? みんなの命だけじゃない。家族にもーー」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「負けなきゃいいじゃないですか」

 

 

 

 燃えるような赤い瞳が、そこにいた。

 

 

 

 強い瞳の少年達が束の間の休みを終え、戦士の顔で立っている。

 

 

 

「シン。ルナマリア。スティングにアウル、ステラまで」

 

 

 

 シンの左右に立つルナマリアとステラが告げる。

 

 

 

「艦長、あたし達が皆を守ります!」

 

 

 

「必ず、勝ってみせるよ。みんなで!!」

 

 

 

 2人の少女の言葉にタリアは目を見開き、眦を震わせる。

 

震える声で、彼女は言った。

 

 

 

「怖いのよ。皆を信じてるわ。でも貴方達が死んだら、私はきっとーー!」

 

 

 

 震える声でタリアは続ける。

 

 

 

「軍人だもの、そんなことはとっくに覚悟してるはずだった。だけど、駄目なのよ。貴方達だけじゃない。このミネルバのクルー誰一人、失いたくないのよ」

 

 

 

 タリアの言葉にアーサーが静かに彼女の肩を撫でる。

 

 

 

 顔を上げるタリアの前にはスティングが笑いかけてきていた。

 

 

 

「艦長。俺は貴方とそんなに長く話したことはないし、時間もない。だけど分かるよ、貴方は優しくてあったかい人だって」

 

 

 

「僕やスティング、ステラに温かさを与えてくれたのは師匠だった。そしてガーティー・ルーのみんなだ。僕にも分かるよ、艦長。僕もイアン艦長達が死ぬのは嫌だ」

 

 

 

 少年達の真っ直ぐな目と想いにタリアの瞳から涙が流れる。

 

 

 

「貴方達、分かってるの? この戦いは既に人のモノではないわ。負ければ死ぬことより恐ろしい事になるかもしれないのよ?」

 

 

 

「でも、逃げれないじゃないですか? 艦長や副長達は」

 

 

 

 シンが静かに問いかける。

 

 

 

 タリアは目を思わずそらした。

 

 

 

「艦長、プラントに家族がいるのはルナも同じです。メイリンも。だけど皆、戦うことを決めた。理由は逃げても変わらないからだ」

 

 

 

 シンは真っ直ぐな目でタリアを見つめながら、続ける。

 

 

 

「俺は家族がオーブで亡くなりました。スティング達には家族がいません。だけど! 血の繋がりより大事な絆ができたんです!! それが友人であり、仲間であり、師匠です。俺にとってミネルバはもう、家族なんだ!!」

 

 

 

 タリアがたまらず、口を手で押さえた。

 

 

 

 周りを見れば、何名かのクルー達が涙を必死にこらえている。

 

 

 

 アーサー副長は力強く頷き返してくれた。

 

 

 

「だから、行きます。戦って皆を守ります。そして、レイを迎えに行きます。俺たちは、死にません!!」

 

 

 

 力強く宣言する。

 

 

 

 守る者を守り抜く強さならば、もう教わったのだから。

 

 

 

「待っててくださいよ、あたし達が勝ってレイを連れ帰ってくるの!」

 

 

 

「うん! 私もミネルバのみんなや艦長、大好きだから守りたい! 死なせたくない!!」

 

 

 

 力強いルナマリアの声、健気なステラの声。

 

 

 

「安心してくれ、艦長。俺たちは、強い!!」

 

 

 

「そうさ! 勝って帰って来るよ! レイを連れて、皆で!!」

 

 

 

 スティングにアウルの声が聞こえる。

 

 

 

 涙で前が見えない、タリアは必死に顔を隠している。

 

 

 

「艦長、出撃許可を! 俺たちが、終わらせてきます」

 

 

 

 シンは真っ直ぐな目を、逸らさずに力強く告げてくる。

 

 

 

「…一つだけ、約束しなさい。みんな。必ず、必ず生きて帰って来て…!!」

 

 

 

 震えながら、タリアはシンの頭を胸に抱いて告げる。

 

 

 

 シンは、抱かれた腕をそっと掴んで耳元で告げた。

 

 

 

「約束しますよ。艦長に泣かれちゃ、寝覚め悪いですからねっ!」

 

 

 

 いたずらをした子どものように屈託無く言うシンに、ルナマリアが呆れ、ステラが楽しそうに笑う。

 

 

 

 静かにシンから離れ、タリアは両手で自分の頬を叩いて涙を拭き、真っ直ぐな目でシン達を見据えた。

 

 

 

「…みんな、これが我がミネルバ隊の最後の出撃になると思う。必ず生きて帰りなさい。そして、私達も必ずミネルバを守り抜くわ。貴方達の帰る場所を無くさせはしない」

 

 

 

 力強いタリアの言葉に少年達と、そしてミネルバクルーが頷く。

 

 

 

 少年達は、己の分身とも言える機体ーーガンダムに乗る。

 

 

 

「アビー、お願い」

 

 

 

 タリアの言葉にアビー・ウィンザーが頷く。

 

 

 

「分かりました。準備はいい? シン?」

 

 

 

 モニター越しにシンが親指を立て、人差し指と中指を揃えて前方を指す。

 

 

 

「デスティニー、発進どうぞ!」

 

 

 

「シン・アスカ! デスティニー!! 出撃します!!」

 

 

 

 宣言と共に戦闘宙域に向かって、光の翼を広げてデスティニーガンダムが闇を割いていく。

 

 

 

 それに続くようにルナマリアが叫ぶ。

 

 

 

「シン一人で行かせると無理やらかすから、早く! アビー!」

 

 

 

「こんな時なのに、変わらないんだから。気をつけてね、ルナ。インパルス、発進どうぞ!」

 

 

 

「OK! ルナマリア・ホーク! インパルス、出るわよ!!」

 

 

 

 ルナマリアのインパルスガンダムが、デスティニーガンダムの真横について行く。

 

 

 

「ステラ、行ける?」

 

 

 

「うん! アビー、お願い!!」

 

 

 

 ステラの言葉にアビーが宣言する。

 

 

 

「シャッフルハート、発進どうぞ!」

 

 

 

「ステラ・ルーシェ! シャッフルハート、出る!!」

 

 

 

 一気に駆け抜ける巨大な角を持つ特殊なガンダム。

 

 

 

 次々とスティングがカタパルトにスタンバイしている。

 

 

 

「スティング、気をつけてね!」

 

 

 

「分かってるって! アビー、頼む!」

 

 

 

「クーロンガンダム、発進どうぞ!」

 

 

 

「スティング・オークレー! クーロンガンダム、行くぜぇええっ!!」

 

 

 

 叫びながら一気にデスティニー達に追いつく。

 

 

 

 そして、トリコロールのガンダムがカタパルトに立つ。

 

 

 

「貴方で最後よ、行ける? アウル」

 

 

 

「問題ないよ。おっと、そうだ。艦長!」

 

 

 

 アウルは何かを思い出したように言いながら、タリアを呼ぶ。

 

 

 

「何かしら?」

 

 

 

「…あのさ、一回だけでいいから。私の坊やって言ってくれないかな?」

 

 

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、はっきりと言うアウルにタリアはやや面喰らうも、頷くと告げた。

 

 

 

「生きて帰ってきなさい。待ってるわよ、坊や」

 

 

 

「…! うん。行ってきます、ママ!!」

 

 

 

「…行ってらっしゃい、私のアウル」

 

 

 

 その言葉にアウルは満足気味に頷き、気合いを入れてアビーを見る。

 

 

 

 

 

「よっしゃ! よろしく、アビー!!」

 

 

 

「もう。気をつけなさいよ、みんな待ってるから。ヤマトガンダム、発進どうぞ!!」

 

 

 

「アウル・ニーダ! ヤマトガンダム、出るよ!!」

 

 

 

 最後のガンダムがミネルバから出て行くのをタリアは静かに見送る。

 

 

 

「アーサー。私は幸せね」

 

 

 

「いいえ、我々もですよ」

 

 

 

「そう。そうねーー」

 

 

 

 温かい希望の船は、勇者となった少年達の帰りを待つ。

 

 

 

 彼らが無事に帰還すると信じてーー。

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、ミネルバ隊の後方より更なる援軍が大天使から発進しようとしていた。

 

 

 

「まったく。俺たちが合流するまで待てと言っておいたのに。ミネルバはーー!」

 

 

 

「しょうがないよ。それにあまり長く話してる暇はない。決着をつけに行かなきゃ!」

 

 

 

 語り合う二人の青年は、アスランとキラである。

 

 

 

 彼らはカタパルトに機体を載せながら、会話していたのだ。

 

 

 

「キラ君、アスラン君。準備はいい?」

 

 

 

 マリューからの通信に二人の青年は頷いた。

 

 

 

「ここで終わらせるために、行こうアスラン!!」

 

 

 

「ああ、向かうぞ! キラ!!」

 

 

 

 力強い宣言をして、キラは叫ぶ。

 

 

 

「キラ・ヤマト! フリーダム!! 出撃します!!」

 

 

 

「アスラン・ザラ! ジャスティス!! 出る!!」

 

 

 

 青い翼のガンダムと、赤い体のガンダムが、ミネルバから出た5機のガンダムに追いつくように宇宙に闇を駆け抜ける。

 

 

 

 自由の翼ーーストライクフリーダム。

 

 

 

 正義の剣ーーインフィニットジャスティス。

 

 

 

 コズミックイラが誇る最強のガンダムとパイロットの揃い踏みである。

 

 

 

 いよいよ、最終決戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 次々と互いに潰し合うロゴス軍とデュランダル軍。

 そんな中、ゼウスガンダムの前にデスビショップが立ちはだかるのです。

 はたして、この混戦を勝ち抜くのは誰なのか?

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny

 第90話に!

 レディー、ゴー!!



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第90話 命散る戦場

 みなさん。

 大変なことになって来ました。

 なんと、ウルベが。

 あのウォンが、ついにデュランダルとの最終決戦に臨んだのです。

 はたして、勝つのは聖剣の名を冠する男か?

 異世界から蘇った悪魔の如き2人の男か?

 それともーー!

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイ、ゴォォォオオオッ!!




 地獄。

 

 

 

 古今東西、悪行を重ねた人が落ちると言われる奈落の底。

 

 

 

 今、月という地球の重力に囚われる衛星で。

 

 

 

 不毛の大地で。

 

 

 

 暗闇の中、無数に輝く星が灯る中。

 

 

 

 MSと呼ばれる人型の機体が、互いに共食いをしていた。

 

 

 

 その行為は余りにも残酷で凄惨。

 

 

 

 顔をビーム剣で突き刺し、動かなくなった敵に執拗に攻撃を繰り返す。

 

 

 

 互いに互いに。

 

 

 

 それは人の所業とは思えず、月面は正に地獄絵図のようだった。

 

 

 

 倒されたMSは動きを止め、爆発すると同時に光の球となって倒した相手に吸収されている。

 

 

 

 DG細胞同士による戦いは正に蠱毒の様相を呈している。

 

 

 

 彼らは本能的に知っているのだ。

 

 

 

 敵を倒せば己の力となることに。

 

 

 

 そうやって大勢の人であった人ならざる者たちが殺し合う光景をモニターで見据えながらデュランダルは笑った。

 

 

 

「この力ーーDG細胞とデスティニープランがあれば、世界は統一される。異端の存在は省かれ、正しき同士の血肉となるーー。素晴らしい! よくぞ、よくぞ私の手に落ちてくれた、DG細胞よ!!」

 

 

 

 全てを手に入れるまでもう少しだと、彼は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 今まで慎重だったデュランダルが良く言えば大胆に、悪く言えば強引に展開してきたデスティニープラン。

 

 

 

 その変化に確実にDG細胞の影響を感じ、ウォンは嗤う。

 

 

 

「愚かな。自分の意志がいつの間にか、力の塊であるDG細胞の影響を受けていることにも気付けていないのか」

 

 

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図を見据えながら、ウォンは嗤う。

 

 

 

 どれだけ力を得ようとも、己の目的を忘れては意味がない。

 

 

 

 かつての自分やウルベもそうだった。

 

 

 

 強大過ぎるDG細胞の力に人格を破壊され、目的を挿げ替えられていた。

 

 

 

 ならば、今のデュランダルはーー。

 

 

 

「…交渉は無意味かもしれませんねぇ」

 

 

 

 冷たい瞳に冷酷に吊り上がる口元。

 

 

 

 嘲り、嗤い、蔑視、そんなものがウォンの顔に浮かんでいる。

 

 

 

「哀れなものだ、デュランダル…。全てが己の欲望の果てに沈むことを知るがいい」

 

 

 

 人類の絶望の協奏曲が流れている。

 

 

 

 彼らの血肉、涙の一つ一つが繋がるのだ。

 

 

 

 ささげられているDG細胞に。

 

 

 

 この場にいる全ての命は強力な一つのDG細胞の塊となろうと互いに食い合っている。

 

 

 

 正気を保っていられるのは自分やウルベのようにDG細胞そのものから復元された存在か、DG細胞を持たない者かのどちらかだろう。

 

 

 

 事実、ジブリールも自分たちの細胞があるからまだあの程度で済んでいるが、影響が出ている。

 

 

 

 ジブリールは本来、臆病とも言われるほどに慎重な性格だ。

 

 

 

 たとえ勝てる勝負であっても自分が前線に出ずに済むなら出ない。

 

 

 

 なのに今、彼は自分の意志で前線に出ると言った。

 

 

 

 彼もまたDG細胞の力の影響で存在を統一されようとしているのだろう。

 

 

 

 力の影響でジブリールがDG細胞に食われるなら、それまでだ。

 

 

 

「C.E.の人類が全て滅亡し、強力なDG細胞の塊となれば、それを得たものが覇権を握ると言うこと。デュランダル、貴方が本当に世界を導く担い手か否か、試してあげましょう」

 

 

 

 ウォンの紅の瞳が静かに闇に煌いた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方でクライン派のアジト・廃棄コロニー。

 

 

 

 モニターでこの争いを険しい顔で見据えているラクス達一行。

 

 

 

 その中で、レイが血相を変えている。

 

 

 

「このままじゃ、ギル達とシン達が闘うことになる。それは、止めなければならない」

 

 

 

「…なんでだ? 奴らだって闘う理由がある。それを奪うのか?」

 

 

 

 ミケロは腕を組んで静かな表情で問いかける。

 

 

 

 レイは強い瞳で言った。

 

 

 

「俺がギルを止めると決めたからだ!」

 

 

 

 その言葉にミケロが目を見開いて笑みを浮かべる。

 

 

 

「ククク。言う様になりやがったじゃねえか、レイ!!」

 

 

 

「一緒に来てくれるか、ミケロ」

 

 

 

「いいぜぇ! 付き合ってやる!!」

 

 

 

 闘気を全身から溢れさせ、ミケロがレイの言葉に頷いた。

 

 

 

 レイは、ラクスを見る。

 

 

 

「ラクス・クライン、今までありがとうございました。俺はこれで」

 

 

 

「…待ってください」

 

 

 

 頭を下げて去ろうとするレイにラクスが話しかける。

 

 

 

「あの場所は強力な狂気に支配されています。心を戦いに染められてはなりません」

 

 

 

 言うとラクスは己の懐から銀細工のイルカのアクセサリーを取り出し、レイに手渡した。

 

 

 

 その銀細工から放たれるエネルギーに覚えがあるレイは思わず目を見張る。

 

 

 

「こ、これはーー!」

 

 

 

 そのレイの反応にラクスは微笑んだ。

 

 

 

「やはりDさんは、わたくしやミーアを護るためにこのアクセサリーを」

 

 

 

 そう囁いた後、ラクスはレイを真正面に見据えて言う。

 

 

 

「どうかお気をつけて。そのアクセサリーがあれば、あの場に渦巻く狂気に取り込まれたりはしないはずです」

 

 

 

 レイは静かに頭を下げた。

 

 

 

「ありがとう、ラクス。貴女に出会えて良かった」

 

 

 

「どうか、貴方の未来が拓かれんことを。わたくしも祈っておりますわ」

 

 

 

 レイは頷くとミケロと共に去ろうとする。

 

 

 

「待ってよ、レイ!!」

 

 

 

 メイリンの声が彼の背を呼び止める。

 

 

 

 ミケロが静かにレイの肩を掴むとくるりと彼をメイリンの方に向けた。

 

 

 

「! ミケロ」

 

 

 

「これが最期になるかもしれねぇんだ。ちゃんと嬢ちゃんと話せよ」

 

 

 

 真剣な目で言われ戸惑うレイにミケロは静かに笑うと先に行くと手を振ってレセップス級に乗り込むために管制室から出て行こうとする。

 

 

 

 これにメイリンが深々と頭を下げた。

 

 

 

「嬢ちゃん。その鈍感野郎は、なにも気づいちゃいねえ。伝えてやってくれや」

 

 

 

 背中を向けたままミケロはそれだけを言って扉を閉めた。

 

 

 

 レイが訝し気にミケロを見送った後、メイリンに向き直る。

 

 

 

「…何だ? メイリン?」

 

 

 

 メイリンの左右にはラクスとミーアがいる。

 

 

 

「……私、私も連れて行ってくれないかな?」

 

 

 

「ダメだ。危険すぎる」

 

 

 

 はっきりとレイはメイリンの目を見て告げる。

 

 

 

 ここから先は、メイリンを巻き込むような場所ではない。

 

 

 

「私は、私ーー! レイが好きだから!!」

 

 

 

「! ーーえ? あ?」

 

 

 

 言われて頭が真っ白になるレイにメイリンが真っ赤な顔になったまま告げる。

 

 

 

「一緒にいたいの! ずっと一緒に!!」

 

 

 

 健気なその表情と言葉に込められた想いにレイの頭が理解していき、顔を真っ赤にする。

 

 

 

 混乱するレイの方へいざなう様に、ラクスとミーアがメイリンの肩を左右から押す。

 

 

 

「もう一息ですわ」

 

 

 

「頑張って!」

 

 

 

「ファイト!」

 

 

 

 最後の言葉はミリアリアが両拳を作って頷きながら言ってくれた。

 

 

 

 彼女達に後押しされ、メイリンは精一杯の勇気と共にレイの懐に抱き着くと、呆然としている彼の頬にキスをした。

 

 

 

 柔らかい匂いと温かな感触に、レイの瞳に正気が戻り始める。

 

 

 

 同時に壊れてしまいそうな存在を自分の両腕に感じた。

 

 

 

「メ、イ、リン…!」

 

 

 

「レイが死ぬのはイヤだよ。私じゃダメかな? 私じゃ、議長の代わりになれないかな? 私じゃ、レイの帰る場所になれないかな?」

 

 

 

 涙を浮かべながら、必死に言う。

 

 

 

 一緒に居たいと願う少女の健気な涙にレイは瞳を大きく見開く。

 

 

 

「……何故だ? 俺は、もうーー充分すぎる程、色んなものを得たのに。どうしてーー?」

 

 

 

 頬に伝わる涙にレイは呆然としている。

 

 

 

 儚げな少女を抱きしめながら、レイは言う。

 

 

 

 そして

 

 

 

「メイリンーー! メイリン!!」

 

 

 

 人目をはばからずに強く強く抱きしめた。

 

 

 

 それをイザークとディアッカが微笑ましそうに見つめている。

 

 

 

「死ぬなよ、レイ。貴様は死ねんだろう?」

 

 

 

「そうだぜ? それにな。充分過ぎるなんて、生きてる限りあり得ねえよ。だから生きろ。生きてそれ以上の幸せをメイリンと育めよ」

 

 

 

 二人の青年からの言葉にレイは静かに彼らを見上げる。

 

 

 

 涙にぬれた顔を見ながら、イザーク達は苦笑を浮かべていた。

 

 

 

「あ、あの…! こんな時になんだけど」

 

 

 

 と言いづらそうにしながらもミーアが話しかけてくる。

 

 

 

 それにレイが彼女を見ると、ミーアは自分の懐から銀細工のイルカのアクセサリーを取り出した。

 

 

 

「きっと、メイリンさんに必要だと思うから。それとーーゴメンなさい!」

 

 

 

「! 何故? 貴女が俺に謝る必要などない。ミーア、俺は貴女をギルに選ばせた人間だ」

 

 

 

「Dが殺されたとき……貴方が、必死で議長と戦っているのを私は知らなかった。知ろうともしなかった! だけど、貴方は何も言わずにーー! ごめんなさい、貴方だって。議長の犠牲者なのにーー!」

 

 

 

 本当に申し訳なさそうに、心の底からすまなそうに謝るミーアにレイは微かに目を細めた後、ミーアからアクセサリーを受け取りながら言った。

 

 

 

「…ありがとう、ミーア」

 

 

 

 ミーアが頭を上げて見たレイの表情は、これ以上ないほどに美しい笑みだった。

 

 

 

「ううん。それにね、レイ。貴方が議長に私を選ばせてくれたからみんなと出会えた。Dに会えたの。だから、ありがとうは私のセリフよ!」

 

 

 

「…そうか。そうだな」

 

 

 

 微笑み合う2人。

 

 

 

 こうしてメイリンがレイと共にレセップス級に乗り込むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 この光景を訓練場から見るマスターアジア、チャップマン、シュバルツ、キョウジ。

 

 

 

「ふふ、ミケロめ。中々やりおるわ」

 

 

 

「ああ。欲を言えばレイの命、永らえさせてやりたいものだ」

 

 

 

 マスターが、チャップマンが互いに語る。

 

 

 

「私の見立てでは。鍛え抜かれた今のキラ達ならば、ウルベやウォンが相手だとて遅れは取るまい。残された当面の問題は、レイの命か」

 

 

 

「全てを解決させるなら、切っては切れない所だからな。Dの体を再生できたなら。そのデータを使って次はレイ君のテロメアの短さをどうするか。髪の毛や皮膚の一部を採取してDG細胞に取り込ませ、一度原子にまでばらした後にテロメアを長くするよう再構成させる」

 

 

 

 シュバルツとキョウジが互いに見合う。

 

 

 

「その細胞をレイに移植し、全身に染み渡らせればテロメアの問題は解決できる、か。言葉にしてみれば簡単だが、実行に移すとなると様々な問題がある。全身に染み渡らせた後にDG細胞のみが自滅する仕掛けが必要だな。下手をすれば不老などになりかねん」

 

 

 

「自滅する加減が難しい上に人の体だ。肉体の調整も簡単ではないだろうな。そりゃDにも言えるが」

 

 

 

「…これは時間がかかるな」

 

 

 

「ああ。ニ対二のガンダムファイトをしてる場合じゃないくらいにはな」

 

 

 

 このキョウジの言葉にシュバルツがくわっ、と覆面の下で目を見開き叫ぶ。

 

 

 

「馬鹿者! ファイターにとって拳を交えることは、千の言葉を交わすよりも意味があるのだ!!」

 

 

 

「だからって非効率極まりないだろ! どうせ倒れる寸前までやりあおうってんだろうからな!!」

 

 

 

「互いに全力を尽くし合う。そこに意味があるのだ!!」

 

 

 

「分かるように噛み砕いて説明しろよ、この野郎!!」

 

 

 

 また揉め出す同じ声をした2人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼らを尻目にレイ・ザ・バレルとミケロ・チャリオットが最終決戦地に出撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 月面基地ダイダロス。

 

 

 

 最前線で争うデュランダル軍とジブリール軍を見据え、ウルベは静かにダイダロスの近くにあるもう一つの月面基地アルザッヘルを制圧していた。

 

 

 

 ウルベの奇襲でDG細胞に感染した兵士は更に増えた。

 

 

 

 ゾンビ兵は次々に生産され、デスバットへとMSは変化していく。

 

 

 

「膠着状態か、こちらがやや不利な状況かな? どちらにせよ、ここで終わらせるには絶好の機会だ」

 

 

 

 ヴァニシングガンダム。

 

 

 

 虚無を司るその名のとおり、このガンダムには力があった。

 

 

 

 ゴッドガンダムには、エネルギーフィールドを発生させて空間を歪曲させ、加速する技がある。

 

 

 

 エネルギーマルチプライヤーを得たウルベの機体も例外ではなく、ガンダムの声を聞くというドモンの言葉を聞いてウルベが試み、ガンダムが応えた結果得た新たな力だ。

 

 

 

 これをウルベは、空間歪曲という現象に留めるだけでなく亜空間移動を可能とする技に昇華した。

 

 

 

 平たく言えば今の彼はガンダムに乗っているという前提ではあるが、人類の夢の境地テレポーテーションを使えるのだ。

 

  

 

「私もまた進化した。更なる強さと力を得たのだ。負ける訳がない」

 

 

 

 高らかに笑うウルベは、自らに迫り来るガンダムの気配を感じ嘲る。

 

 

 

「さあ、来い! コズミックイラの戦士よ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 シン達が月面基地ダイダロスに向かう途中で、キラとアスランが合流した。

 

 

 

「DG細胞の気配が、そこいらから感じるぜ」

 

 

 

「どーするよ、シン?」

 

 

 

 スティングとアウルの言葉にシンがキラとアスランを見る。

 

 

 

 すると2人は頷きながら、シンに先を促す。

 

 

 

「手を分けよう。感じる気配はヤバそうなのが、4つくらいあるか。みんなの力を考えたら3箇所に分けられそうだな」

 

 

 

 これにステラとルナマリアが頷く。

 

 

 

「行けると思う!」

 

 

 

「割り振りよね。どうするの?」

 

 

 

 宇宙図を確認しながら、ルナマリアが問う。

 

 

 

「キラさんとアスランは、一番厄介なのを頼めますか?」

 

 

 

 この言葉にアスランが眦を鋭くし、キラが微笑む。

 

 

 

「ウルベ、だね?」

 

 

 

 キラの言葉に頷きながら、アスランを見るシン。

 

 

 

「いいのか? ウルベを俺たちが倒して」

 

 

 

「凄え自信ですね、アスラン。だけど、今は私情を挟む暇はありません。俺は直接議長を叩きます」

 

 

 

 シンの言葉に皆が目をみはる。

 

 

 

「シン! あんたまさか、一人で!?」

 

 

 

「無理だよ! いくらシンでも、危険だよ!!」

 

 

 

 ステラとルナマリアの反対の声が響く中、シンは冷静に笑う。

 

 

 

「乱戦だろ? なら、勝機はある! 俺とデスティニーならやれるさ!!」

 

 

 

 圧倒的な自信。

 

 

 

 燃える瞳はもはや、迷いなどない。

 

 

 

「じゃあ、まさか俺たち4人で行動するのか?」

 

 

 

「それなら。ルナだけでもシンに着いて行った方がいいんじゃないか?」

 

 

 

 スティングとアウルの言葉にシンが首を横に振る。

 

 

 

「デスティニーガンダムの最大稼働を使いたい。味方がいると巻き込んじまう。それに、多分ダイダロスにはウォンとジブリールが居るはずだ。こっちに一番手数を割いておいた方がいい。議長はただの政治家だし、ゼウスガンダム級ならデスティニーの敵じゃない!」

 

 

 

 大胆にして不敵な言葉にアスランが頭を押さえ、キラが頼もしそうに笑う。

 

 

 

 アウルやスティングもシンの言葉に頷いた。

 

 

 

「決着はついてないんだ。死ぬなよ、シン?」

 

 

 

「分かってる。あの時の続き。必ずやろうぜ、アウル!!」

 

 

 

 拳を軽くぶつけ合うヤマトガンダムとデスティニーガンダム。

 

 

 

「シン!」

 

 

 

 瞬間、ステラのシャッフルハートがデスティニーガンダムに飛び付いた。

 

 

 

「うおっ!?」

 

 

 

「無茶しちゃダメだよ? 私もジブリール倒したら、すぐに向かうから!」

 

 

 

「あ、ああ。大丈夫だよ、ステラ」

 

 

 

 シンは不安気なステラの頭を撫でてやってるつもりだが、デスティニーガンダムがシャッフルハートの頭を撫でる姿は傍目からはとてもシュールであった。

 

 

 

「もう! さっさと行くわよ!!」

 

 

 

 そんなシャッフルハートとデスティニーガンダムをインパルスガンダムが引きはなす。

 

 

 

「ガンダム同士の痴話喧嘩って…」

 

 

 

「それ以上言うなよ、スティング」

 

 

 

「けどよ、アスラン」

 

 

 

「やぶ蛇にしかならない」

 

 

 

 ジャスティスとクーロンも顔を寄せて話している。

 

 

 

「ぷっ、なんだよ! みんな、緊張感持とうぜ!!」

 

 

 

「そう言うアウルも笑ってるよ? ね、みんな?」

 

 

 

 おどけるアウルに、普段は真面目なキラが珍しく笑いながら言う。

 

 

 

 全員が声を上げ、笑う。

 

 

 

 楽し気に、親し気に。

 

 

 

 先に地獄が待っているのに、笑っている。

 

 

 

 彼らの笑顔は、この絶望さえも笑い飛ばしてしまうかのようだった。

 

 

 

 一通り笑い終え、少年少女たちは互いに頷きあう。

 

 

 

 

 

 

 

ーー さあ! 最後の闘いだ!! ーー

 

 

 

 

 

 

 

 その気合いの言葉は奇しくも、未来世紀でドモン達シャッフル同盟が言い放った言葉と同じだった。

 

 

 

 こうして、キラとアスランがアルザッヘルを壊滅させたウルベの下へ。

 

 

 

 スティング達が、ロゴス軍の中核へ。

 

 

 

 シンが議長の乗るヴォルテールへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ウルベの下へ降り立つ一機の影があった。

 

 

 

 ゴッドガンダムを模した胸から頭。

 

 

 

 全体の造りはデスティニーのソレだが、背中の翼を模したバックパックにドラグーンが仕込まれている。

 

 

 

「…なるほど、君が先に現れたか。人形のお姫様」

 

 

 

 ヴァニシングガンダムで優雅に右手を垂らしながらの一礼。

 

 

 

 対峙するデスクイーンと呼ばれた機体は肩をすくめてみせる。

 

 

 

 紅の髪に灰色の瞳をした色気のある少女だった。

 

 

 

「フレイ・アルスターよ。異世界の負け犬さん」

 

 

 

「…近頃の若者は目上に対する口の利き方を知らんようだね、フレイ君」

 

 

 

 冷酷な笑みに冷たい殺意を乗せて、ウルベは笑った。

 

 

 

 これにフレイと名乗った少女も笑う。

 

 

 

「ふ、ふふふふ。あはははははっ!! 笑わせないでよ。可哀想な負け犬さん」

 

 

 

「……」

 

 

 

「異世界からわざわざ逃げ延びて。新天地で得たものは、シュバルツやキング・オブ・ハートからの手痛い敗北。さぞや無駄に高いプライドが傷ついたでしょう? それとも、自分の底も分からないくらいボロボロにされたのかしら?」

 

 

 

 嘲り笑う少女にウルベの瞳に宿る冷たい光が獰猛な焔へと変化した。

 

 

 

「人形風情め…! この私を舐めると痛い目を見るということを教えてあげよう」

 

 

 

「わからない? そう言う態度が小物の負け犬さんってことよ」

 

 

 

「すぐに分かる。どちらが身の程知らずの小物かはね」

 

 

 

 ヴァニシングガンダムが右手を、デスクイーンが素早く右手に腰から抜いたライフルを構え、互いに向けて光弾を放ちあった。

 

 

 

 

 

 

 

 ゼウスガンダムのパイロット。

 

 

 

 マーキロット・キュロノス達は強かった。

 

 

 

 並み居る敵を皆殺しにして、そのエネルギーを奪い取っていく。

 

 

 

 まさに悪魔の所業だった。

 

 

 

「ぐははは! 力が漲るぞおぉ!!」

 

 

 

「最高よ、最高の気分だわ!!」

 

 

 

「もっと血肉をください、わたくしの為に!!」

 

 

 

 マーキロットを筆頭に、シジーマもロマリオも嗤う。

 

 

 

 哄笑をしながら、数々のザクやウィンダムという敵を葬り去る。

 

 

 

 彼らはもはや、人の皮を被った魔物だった。

 

 

 

 だから、目の前に美味そうな獲物が現れたのを彼らは舌舐めずりしながら喜んだ。

 

 

 

「落ちろーー!」

 

 

 

 突如、ジェスターが展開していたバルーンビットが一斉にビームのシャワーを浴び撃ち落とされる。

 

 

 

「! わたくしのバルーンビットを!?」

 

 

 

「ーーそこね?」

 

 

 

 シジーマが笑いながら吹き矢を飛ばす。

 

 

 

 その先には一機のMSがあった。

 

 

 

 忌々しいゴッドガンダムに似せて作られた胸から顔。

 

 

 

 左腕には菱形の細長い先端に砲身のついた盾を装備し、背中には巨大な円盤のようなバックパックを付けている。

 

 

 

 フィルム・ノワールの駆るデスビショップである。

 

 

 

 コブラガンダムのビーム吹き矢は、対象の関節を射抜くことで致命打を与える武器だ。

 

 

 

 ほぼ初見殺しの技で、シジーマには相手を打ち取れる絶対の自信があった。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 突然、目の前からデスビショップが消えた。

 

 

 

「ーーなんですって!?」

 

 

 

 ガンダムファイターである自分の反応速度で捉えられない、そんな馬鹿な。

 

 

 

 刹那の拍子に様々な思考を巡らせるシジーマ。

 

 

 

 彼の目の前に、デスビショップは現れた。

 

 

 

「愚かだな。自分だけがDG細胞で生み出された特別な存在だと勘違いするとは」

 

 

 

「バカな、あたしの吹き矢を!!」

 

 

 

 左腕に装着された菱形の盾の先端から伸びる巨大なビームサーベル。

 

 

 

 寸分違わず、シジーマのコクピットを串刺しにする。

 

 

 

「存外、つまらんものだ。ガンダムファイターにもピンからキリまであるようだな」

 

 

 

 言いながら、顔まで切り上げて真っ二つにしてしまう。

 

 

 

 巨大な爆発が起こり、コブラガンダムが大破した。

 

 

 

「まだ生きているようだな。素晴らしい生命力だ」

 

 

 

 自分に吸収されていないということは、敵が生きているということ。

 

 

 

 分かりやすいものだ、と笑うクルーゼの背後からゼウスガンダムがハンマーを片手に振り上げ、落雷と共に振り下ろしてきた。

 

 

 

「喰らえ、裁きの雷ぃいい!!」

 

 

 

「素晴らしいパワーだが、いかんせん大振りだ」

 

 

 

 呟きながら、ハンマーを切り払い返しに右手の大型ビーム砲を放つ。

 

 

 

 3発立て続けに放たれた光弾は、ゼウスガンダムの胴体を3回射抜いた。

 

 

 

 爆発と共に翼を広げ、距離を置くゼウスガンダム。

 

 

 

 その左右にマーキロットのジェスターガンダム。

 

 

 

 シジーマのコブラガンダムが並び立つ。

 

 

 

「さて。では始めようか? 絶望へのプレリュードを!」

 

 

 

 余裕の笑みを浮かべる仮面の男に、マーキロットはニヤリと返す。

 

 

 

「面白い! 我らに逆らう愚か者よ。神の雷に打たれ焼き落ちるがいい!!」

 

 

 

「神、か。かつては信じてはいなかった。今は信じてみても良い気がするよ…」

 

 

 

 三体の不死身の怪物と化したガンダムを相手に死を司るビショップが肩に担いだ巨大なビーム砲を向けて構えた。

 

 

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 激戦を繰り広げるデュランダル軍とジブリール軍。

 この凄惨な争いを終わらせるため、運命の光が。

 自由の翼が。

 正義の剣が。

 そして、彼らに負けず劣らず輝く四つの星が戦場に舞い降りるのです。

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第91話に!

 レディー、ゴー!!


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第91話 悲しき運命

 みなさん。

 ついにこのコズミック・イラの覇権を巡り、魔の力に魅入られた二つの勢力がぶつかりました。

 そんな中、ネオ・ロアノークとエクステンデッド3人に皮肉な運命の再会が待ち受けていたのです。

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイ、ゴォォォオオオッ!!





 

 宇宙という闇が支配する世界で。

 

 

 

 次々とMSが火花を生んで散っていく。

 

 

 

 物量は互角。

 

 

 

 だが、防衛を強いられるはずのダイダロス基地は既に防衛ラインなどない。

 

 

 

 なぜか?

 

 

 

 既に戦略など無いのだ。

 

 

 

 ただただ、目の前にいる美味そうな餌を喰らいたい。

 

 

 

 彼らDG細胞のゾンビ兵は、思考もなく。

 

 

 

 金棒型のビームライフルを振り回しながら、敵のDG兵士の乗るMSに襲いかかる。

 

 

 

 そんな光景を目の当たりにしながら、ガーティ・ルーの指揮官席に座るロード・ジブリールは笑っていた。

 

 

 

「どうかね、イアン? 君たちもDG細胞の一部となる気分は? 人間としての正気を失えば楽になれるのだよ」

 

 

 

 副官席に座る艦長の金髪の男に告げる。

 

 

 

 言われた彼は未だに人の姿を保った数少ない人間の一人。

 

 

 

 いや。

 

 

 

 この艦にいる人間たちは誰一人、人としての姿を辞めてはいなかった。

 

 

 

 それを嘲り笑うのはジブリールだ。

 

 

 

「答えるだけの力も残されてはいないか。ほとんど脳を侵されて。自我を失くして尚、支配に抗うとはな。何がしたいのやら」

 

 

 

 肩を竦めるジブリール。

 

 

 

 その時、彼の目の前に高速移動しながら周囲の敵を葬り去る4機のガンダムが現れた。

 

 

 

「ほほう。これはこれは、ようこそ少年少女たちよ。この地獄へ」

 

 

 

 優雅に手招くジブリールの横で首元から頬にまでDG細胞が広がっているイアンが、死人の顔で真紅に染まった瞳を向ける。

 

 

 

 一瞬、イアンの表情が変わったようにジブリールには見え、微かに目を細める。

 

 

 

 だが、それも前方のガンダム達からの通信で止まる。

 

 

 

「テメエの悪行もここまでだ、ロード・ジブリール!!」

 

 

 

 白と青、そして赤を基調とするトリコロールの機体ーーヤマトガンダムのファイターであるアウルが告げる。

 

 

 

 同じく隣にいるトリコロールのフォースシルエット装備のインパルスガンダムがビームライフルを構える。

 

 

 

「悪いけど、今のアンタが大人しく投降するとは思えない。その戦艦ごと落とさせてもらうわ!!」

 

 

 

 ルナマリアの言葉にシャッフルハートを駆るステラも一歩前に出る。

 

 

 

 だが、彼女の瞳は大きく見開かれていた。

 

 

 

「待って、ルナ! アウル!! あの船はーー!!」

 

 

 

「……ガーティ・ルー! イアン艦長! みんな!!」

 

 

 

 ステラに続いてクーロンガンダムを駆るスティングも思わず声を出す。

 

 

 

 その時、ジブリールはこれ以上ないほどに厭らしい笑みを浮かべていた。

 

 

 

「く…っ、くくく、ははははは! まさか、エクステンデッドの連中だったか!! これは傑作だ!!!」

 

 

 

「黙れ! みんなに何をした!!?」

 

 

 

 スティングの声にジブリールは大笑いする。

 

 

 

 しばらく笑い続けた後、ジブリールはモニター越しに映る少年たちを見据えた。

 

 

 

「何をした、だと? 簡単なことだ。余計な知恵を捨てさせ、代わりに力を与えてやったのだよ。DG細胞という圧倒的な力をな!!」

 

 

 

 その言葉にルナマリアの眉がしかめられる。

 

 

 

「この、外道!!」

 

 

 

「何処がだ? 偉大なるDG細胞の恩恵を与えてやったのだ! むしろ感謝してもらいたいものだ!!」

 

 

 

 恍惚とした表情で告げるジブリールにアウルが叫ぶ。

 

 

 

「ふざけんなぁあああああ!! そんなこと、その人達は望んじゃいなかった!! 優しい人たちだった、温かい人たちだった、それを! それをーーー!! てめええええええええええええええッ!!!」

 

 

 

 涙を目じりから浮かばせて、アウルが怒りにその身を震わせる。

 

 

 

 ヤマトガンダムの両目から白い光の涙が流れ、強烈な気を全身から発生させる。

 

 

 

 ジブリールはこれを余裕の笑みを浮かべて笑った。

 

 

 

「人間など、滅びればよいーー! 残されるのは圧倒的な力を持つDG細胞という個体のみだ!! 貴様らも取り込んでやろう!!!」

 

 

 

 ジブリールの言葉に反応するように、無数のデスバットが現れる。

 

 

 

 音速を越えて、雨に群がるアリの様に。

 

 

 

 獲物を駆るピラニアのように。

 

 

 

 むさぼるように突っ込んでくる。

 

 

 

「……ぶち切れたぜ。この、クソ野郎がぁあああああああああっ!!!」

 

 

 

 普段冷静なスティングが本気で叫ぶ。

 

 

 

 瞬間、クーロンガンダムが強烈な気を纏ってビームクロスを抜き、薙刀にして振り回す。

 

 

 

「一発、ぶん殴らなきゃ気が済まないーー! 覚悟しなさいよ!!」

 

 

 

 インパルスガンダムの腰に帯剣させていたエクスカリバーを抜き放ち、ルナマリアも叫ぶ。

 

 

 

「返せーー! みんなを返せぇええええええっ!!!」

 

 

 

 シャッフルハートもステラの言葉に応えるように気を纏い、ビームクロスを抜いて薙刀にする。

 

 

 

 強烈な気を纏った4機のガンダムが、無数のデスバットとガンダムヘッドを前に一歩も退くことなく、真正面からぶつかり合う。

 

 

 

 ヤマトガンダムが姿を消し、デスバットの前に現れると強烈な右のボディを繰り出してアッサリと胴体を真っ二つにしてしまう。

 

 

 

 それが合図であったかのように、ヤマトガンダムの両手足に気が纏わり、次々と拳と蹴りだけで敵を葬っていく。

 

 

 

 クーロンガンダムは、ビームクロスを巧みに扱いある時は鞭のようにしなやかに、ある時は剣の様に鋭く切り裂いて敵を葬る。

 

 

 

 インパルスガンダムもまた、エクスカリバー二刀流を柄頭同士を組み合わせて双身にすると、この大剣を頭上で回転させながら敵を切り捨てていく。

 

 

 

 シャッフルハートは薙刀状にしたビームクロスを回転させて敵の攻撃を防ぎつつ、桃色に光る右手を前方に突き出した。

 

 

 

「流派、東方不敗! ハァアアアアアトフル、フィィンガァアアアア!!!」

 

 

 

 一撃で全てを飲み込む桃色の光線が掌から放たれ、スティング達が葬ったデスバットやガンダムヘッドの残骸を飲み込んで行く。

 

 

 

 気付けば、まるでドーナツのように彼ら4人の周りだけデスバットの姿は完全に駆逐されていた。

 

 

 

 この光景にジブリールは笑みすら浮かべている。

 

 

 

「素晴らしいーー! 君たちを取り込めば、更なる力を我らDG細胞は手に入れることができるーー! ありがとう。よくぞ、それ程までに育ってくれたものだ」

 

 

 

 微笑むジブリールをアウルは忌々しそうに睨みつける。

 

 

 

「……クソッ、みんなをどうしたら助けられる!?」

 

 

 

「焦っちゃダメよ。やるなら、気取られないようにしないとーー!」

 

 

 

 拳を握りしめて悔しそうにするアウルの肩をルナマリアが掴み止める。

 

 

 

 そういう彼女もいい案などありはしない。

 

 

 

 ジブリールの乗る艦は、あのガーティ・ルーなのだ。

 

 

 

 イアン達がアレに乗っている以上、ジブリールを倒すということは彼らを巻き込むことだ。

 

 

 

「……どうしたらいいのよ」

 

 

 

 思わず、そう呟いてしまう。

 

 

 

 スティングもステラも同じだ。

 

 

 

 現時点で、彼らとガンダムの力はデスバットやガンダムヘッド等、物の数に入らない程に強い。

 

 

 

 それくらいにまで鍛え抜かれた。

 

 

 

 このまま、何も考えなくても正面からジブリールを倒すことは容易だろう。

 

 

 

 彼らに誤算があるとすれば、イアン・リー達が未だにジブリールの下に居たことだ。

 

 

 

 これはジブリールも狙っていたわけではない。

 

 

 

 たまたま、オーブ侵攻作戦の失敗と指揮官であるネオ・ロアノークと三体のエクステンデッドの損失といった多大なる責任の処分を受け、地球から月面のダイダロス基地にまで左遷されてきただけなのだ。

 

 

 

 彼らもまた、己の守る者のためにロゴスを離れることができなかったのだ。

 

 

 

 葛藤するアウル達の後方からオーブ軍からの援軍として参戦していたアークエンジェルが現れた。

 

 

 

 発進カタパルトが開かれ、黄金のMSが二機現れる。

 

 

 

「ネオ・ロアノーク! アカツキ、出るぞ!!」

 

 

 

「アンドリュー・バルトフェルド! ガイア、発進する!!」

 

 

 

 二人の男の名乗りがあった後、二機のMSは真っ直ぐにスティング達と並び立った。

 

 

 

「どうした? らしくねえな、スティング! いい調子だったのに途中で辞めるなんてよ!?」

 

 

 

「……ネオ」

 

 

 

「…ん?」

 

 

 

 深刻な表情のスティングにネオも軽口を辞めて、敵を見据える。

 

 

 

「あれは、あの戦艦はまさか! ガーティ・ルー!?」

 

 

 

 ネオ・ロアノークの出現にジブリールは手を叩いた。

 

 

 

「これはこれは、生きていたのか。ネオ・ロアノーク大佐」

 

 

 

「……てめえ。俺の部下をどうした!?」

 

 

 

「これはおかしなことを。君は既にオーブに亡命したのだろう? 彼らは指揮官に見捨てられた可哀想な軍人達だよ」

 

 

 

 わざとらしく悲し気な表情を作ると、ジブリールはせせら笑う。

 

 

 

「やはり、記憶を失わせて書き換えても。裏切り者は裏切り者のようだね」

 

 

 

「どういうことだ?」

 

 

 

 問いかけるネオにジブリールは静かに告げた。

 

 

 

「エンディミオンの鷹ーー。ムウ・ラ・フラガよ、君はまだ記憶が戻っていないのか? まあ、どのみち君はここで我々に吸収される。記憶が戻ろうが戻るまいが、変わらんか」

 

 

 

 嘲るジブリールをそっちのけでネオは目を見開いた。

 

 

 

「何だとーー!?」

 

 

 

「本当に気付いていなかったのか? ククク、よく考えれば疑問などいくらでも湧いたものを。存外鈍いんだな」

 

 

 

「ムウ・ラ・フラガ、だとーー! なら、俺はーー!!」

 

 

 

 混乱する。

 

 

 

 頭の中にモノクロの光景が映り出す。

 

 

 

 爆発する寸前のストライクガンダム。

 

 

 

 シールドを構え、光の中に消えて行く自分。

 

 

 

「ロアノーク大佐!!」

 

 

 

 突如、アークエンジェルのブリッジからマリュー・ラミアスの通信が入る。

 

 

 

「惑わされないで! 今、貴方がしなければならないことを優先してください!! ここをしくじれば、我々人類に後はありません!!!」

 

 

 

 強い眦。

 

 

 

 鋭く美しい美貌。

 

 

 

 その顔が昔、涙でクシャクシャになっていたのをネオは知っていた。

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

「たとえ記憶があろうとそうで無かろうと、貴方は貴方のはずよ!! 貴方が譲れない闘う理由や誇り、仲間まで失わないで!!!」 

 

 

 

 瞬間、前触れも無くアークエンジェルに放たれるガーティ・ルーの主砲。

 

 

 

 それをネオは無意識にアカツキの背中にセットしていた黄金のドラグーンを使って幕を張り、ビーム砲を消し飛ばした。  

 

 

 

「バルトフェルド、マリュー。待たせたな」

 

 

 

 その声は、昔の調子を取り戻していた。

 

 

 

 その表情は、ハッキリと自信に満ちていた。

 

 

 

「フラガ、でいいんだな?」

 

 

 

 バルトフェルドの言葉にネオーーいや、ムウが不敵な笑みを刻む。

 

 

 

「こんな色男、他にいるかよ? 砂漠の虎」

 

 

 

「くくく、それでこそ俺の親友だ。鷹よ!」

 

 

 

 笑みを浮かべ合い、鷹と虎は迫りくるデスバットを交差攻方気味に切り捨てる。

 

 

 

「マリュー! 俺はもうどこにも行かない!! 部下達を助けたら、必ずお前の下に戻る!!!」

 

 

 

「……ムウ」

 

 

 

 どこか寂しげな微笑みを浮かべて、マリューは静かに彼のかつての名を、取り戻した彼自身の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 これを見据えてジブリールは手を叩く。

 

 

 

「なるほど。愛というものかーー。かつて異世界で、我らDG細胞を打ち破った一組の男女が居た。彼らは確かに互いを愛し、その溢れる力で我らを駆逐してみせた。その時の輝きが人間の可能性だと、デビルガンダムは考えた」

 

 

 

 独白のようなセリフだが、ジブリールの瞳はどこか悟りを得たかのような表情だった。

 

 

 

「だが、我々はそうは思わない。人間などは所詮、何も変わりはしない、この体の器であるジブリールもそうだ」 

 

 

 

 スティングが目の前の敵を切り捨てながら問う。

 

 

 

「どういう意味だ!? てめえが、ロード・ジブリールだろうが!! 惚けんな!!」

 

 

 

「…そうだな。私はジブリールであったものだ。今は、そうこの場にいる全てでもある」

 

 

 

 アウルがコレに吐き捨てる。

 

 

 

「何を訳わかんないことをベラベラと!!」

 

 

 

 ジブリールは右手を掲げた。

 

 

 

 そして囁く。

 

 

 

「…この場にいる全てのDG細胞。それらは強力な1になる為に互いに貪り合っている。明鏡止水とやらでガンダムと一体化できる君たちなら、何となく分かるのではないか?」

 

 

 

 ジブリールの問いかけに皆が表情を硬くする。

 

 

 

 理解できた。

 

 

 

 理屈ではない。

 

 

 

 力と力が惹かれ合い、互いに一つになろうとしている。

 

 

 

 その流れをガンダムを通して理解できる。

 

 

 

「…まさか、お前は」

 

 

 

 スティングが冷や汗をかきながら問いかける。

 

 

 

「そうだ。スティング君、私は既にジブリールであってジブリールではない。この場にいるのはDG細胞の塊たる我々だけだ。未だなり得ていない数名の者も。ウルベ・イシカワやウォン・ユンファも。いずれは力の流れに取り込まれ、我々と同じになる」

 

 

 

 機械のような無機質な声だ。

 

 

 

 プログラムされたような言葉だ。

 

 

 

 彼もブルーコスモスの例に漏れず。

 

 

 

 かつて、ナチュラルとしてコーディネイターにコンプレックスを植え付けられた人間の一人だ。

 

 

 

 そんな彼がウルベやウォンの甘言を受け、強烈な、強大な力を求め、DG細胞を得るのは自明の理だった。

 

 

 

 だが、今の彼は圧倒的な力を放ちながら、誇りながら、ジブリールの心はない。

 

 

 

 因果応報というべきか。

 

 

 

 力を求めた臆病な彼の心は既に、完膚なきまでDG細胞に食われていた。

 

 

 

「…狂ってる。もう、戻れないくらいに」

 

 

 

 ステラが悲しそうな表情でつぶやいた。

 

 

 

 確かに悪党だった。

 

 

 

 人間とは思えない真似も平然とできる奴だった。

 

 

 

 だが、それでも人間だったのだ。

 

 

 

 言い知れぬやるせなさに、この場にいた人の心を持つ彼らの表情が歪んだ。

 

 

 

「…面白いな。この男を憎みながらも、哀れに思うのか。

 

不思議なプログラムだ。どのような状況に陥れば、そのような思考になる?」

 

 

 

 問いかけてくるジブリールにムウが静かに返す。

 

 

 

「てめえには分からねえよ。てめえは、人の心を理解しようとはしてねえからな」

 

 

 

「…興味はある。ただし、それを第一に優先する必要性を感じないだけだ」

 

 

 

「そうかよ、機械人形が!!」

 

 

 

 言いながらムウはアカツキの右手に持っていたビームライフルを構える。

 

 

 

「どうした? そのままブリッジを射抜けば、もしかしたらジブリールの個体は死ぬかもしれない。何故撃たない?」

 

 

 

「…るせえんだよ」

 

 

 

 苦虫を噛んだような表情で固まるムウを狙い、ガンダムヘッドが牙を剥いて襲いかかる。

 

 

 

 これをバルドフェルドがガイアをMAに変えて、両翼に備わったビームブレードで顔を真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

「焦るなよ、フラガ! 何か手があるはずだ!!」

 

 

 

「…バルトフェルド、すまん!」

 

 

 

 仕切り直しだ、とばかりに距離を取ろうとするムウとバルドフェルド。

 

 

 

 スティング達も群がってくる敵を葬りながらガーティ・ルーを見つめる。

 

 

 

「未来世紀のガンダムファイターの機体を使いこなし、この世界のガンダムで未来世紀のファイターと変わらない強さを叩き出すとは。素晴らしい強さだ」

 

 

 

 自らをDG細胞であると言い切るジブリールは、無機質な光を宿した瞳でスティング達やルナマリアを見つめる。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「…ロアノーク大佐。スティング、アウル、ステラ」

 

 

 

 それまで無表情だったイアンが何かに苦しむように表情を歪めて、息も絶え絶えになりながら語りかけてきた。

 

 

 

「奇跡だな。最期に貴方達に会えるとは…」

 

 

 

 通信兵達が声を上げる。

 

 

 

 ガーティ・ルーの兵士達の目に正気の光が宿っている。

 

 

 

「…驚きだ。何故、お前達にそれだけの精神力がある? デュランダルさえも取り込んだ我々の力を浴びて、まだ理性があるとは」

 

 

 

 実験中の虫が意外にも長生きしている、と言いたげなくらいに無感情な言葉をジブリールは告げる。

 

 

 

 イアンはそんな彼を無視して、ネオ・ロアノークーーいやムウ・ラ・ブラガに告げた。

 

 

 

「申し訳ありません、大佐。部下を預かりながら、私は誰一人守れませんでした」

 

 

 

「辞めろ! 俺のせいなんだな? 俺がお前らを連合に、ロゴスに返したばかりに、こんなーー!!」

 

 

 

 詫びようとするイアンを止め、ムウは泣きそうな顔になりながら告げる。

 

 

 

 コレにイアンは首を横に振った。

 

 

 

「隊長。私は隊長の判断を間違えたとは思いません。あの時、確かに私達が戻らねば。私達の家族にまで、その責任が及んだでしょうから。悔いはありません」

 

 

 

「馬鹿野郎…! この、大馬鹿野郎が!! 何故、責めてくれないんだ!? 恨み言の一つでも、言ってくれりゃあ!!!」

 

 

 

「…恨まないわけではありません。だけど、我々には他に選択肢がありませんでした。これは仕方のないことだ」.

 

 

 

「イアン……!!!」

 

 

 

 涙は悲しみと懺悔から来るものだった。

 

 

 

 イアンは静かに、スティング、アウル、ステラを見る。

 

 

 

「よく。よく、無事だったな。最期に会えて良かったよ」

 

 

 

 アウルがたまらず叫んだ。

 

 

 

「止めてよ! なんで、諦めんだよ!? 帰ろうよ、僕たちと!! 艦長!!!」

 

 

 

 その言葉にステラも涙を流す。

 

 

 

「ヤダよ、ヤダよ! 艦長、みんな!! 死んじゃ、ダメだよ!!!」

 

 

 

「艦長、諦めんなよ! 必ず、必ず何とかするから!! だから、頼むよ!!!」

 

 

 

 冷静なスティングも必死に頼み込む中で、イアンは静かに首を横に振った。

 

 

 

「現実を見ろ、3人とも。私達はもう、人じゃない。この先はDG細胞の支配下に置かれるだけだろう」

 

 

 

「ワクチンが、あるわ!! キョウジさんから預かってるのよ!! だから!!」

 

 

 

「ありがとう、ザフトの少女よ。ワクチンは、DG細胞に体を作り変えられる前までなら効いただろうな。だが、この体はもう、手遅れなんだ」

 

 

 

「…どういうこと?」

 

 

 

 ルナマリアの問いに答えたのは、ジブリールの姿をした個体だった。

 

 

 

「こいつらは既に脳までも我々に作り変えられた。辛うじて残っている理性もあと僅かだ。それが消えればゾンビ兵となる。今ワクチンを打たれれば、こいつらの体は朽ち果てるだけだ」

 

 

 

 冷たい双眸、無感情な声。

 

 

 

 鉄のような無表情でジブリールは告げた。

 

 

 

 淡々と絶望的な事実をだ。

 

 

 

 イアンは静かにムウの駆るアカツキに目をやる。

 

 

 

「…罪を感じてくださるなら、貴方が私達にトドメを刺してください」

 

 

 

「…イアン」

 

 

 

「スティング達には頼めません。だからと言って、オーブのアークエンジェルやザフトの少女に頼むのも筋違いだ」

 

 

 

 静かに穏やかな、死を覚悟した表情で。

 

 

 

 イアンは、そしてクルー達はムウを見た。

 

 

 

「他の誰でもない。貴方に倒されたい。それが我々クルーの最期の願いだ」

 

 

 

「……すまねえ」

 

 

 

「謝罪は要りません。こちらこそ、自爆装置を使えずに申し訳ありません。既にジブリール卿にこの艦は支配されているので」

 

 

 

 静かにムウはアカツキのビームライフルをブリッジに向ける。

 

 

 

「…恨んでくれ、俺を」

 

 

 

「ええ。貴方が私達を撃たなければ、私達は貴方を許さないでしょう。まして、スティングやアウル達に私達を殺させれば、私は絶対に貴方を許さない!!!」

 

 

 

 最期の人としての意地だった。

 

 

 

 これを受け、ムウはビームライフルの引き金に指をかける。

 

 

 

「ネオ、待ってくれよ!!」

 

 

 

「みんなを助けようよ!!」

 

 

 

 そんなアウルとステラをスティングが抑えた。

 

 

 

「ネオ、頼む!!」

 

 

 

「…スティング、あんた」

 

 

 

 ルナマリアが彼を見たとき、涙を流しながら彼も必死で二人を止めていた。

 

 

 

「俺じゃ、助けらんねえ。だけど、撃てねえんだ。頼むよ、ネオ!!」

 

 

 

「…ああ。分かった」

 

 

 

 瞳を開け、ムウはビームライフルから光弾を放った。

 

 

 

 目を逸らさない。

 

 

 

 イアンは、クルー達は満足そうな笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 光弾がブリッジを直撃し、無表情なジブリールも笑顔を浮かべていたクルー達も光の中に消えていく。

 

 

 

ーー ありがとう。フラガ大佐 ーー

 

 

 

 爆発するガーティ・ルーの向こうから、そんな声が光と共にムウ達に届いた。

 

 

 

「馬鹿野郎…! ありがとう、なんて。最期の言葉くらい、恨み言の一つでも聞かせてくれよ!! こんな、こんな不甲斐ない隊長があるかよ!!!」

 

 

 

 涙交じりに悔む言葉を口にするムウ。

 

 

 

 そのアカツキの肩をガイアが掴み、下がらせる。

 

 

 

「…今は泣け。だが、泣き終えたらすぐに行動しろ。あいつらの死を犬死にさせない為にな」

 

 

 

「ああ。すまん、バルトフェルド」

 

 

 

 真剣な表情で告げるバルトフェルドに涙ながらにムウは応えた。

 

 

 

「…スティング。気付いてる?」

 

 

 

 ルナマリアが静かに表情を鋭いものに変えている。

 

 

 

 これにクーロンガンダムを構えさせて、スティングが応えた。

 

 

 

「ああ。生きてんだろ? いや、もともと死んでんのか。どっちにしろ、もう許さねえがな」

 

 

 

 ルナマリアとスティングの言葉に皆が目の前の爆発する戦艦だったものを見据えた。

 

 

 

 宇宙に飛び散り浮かんだ鉄くずは意思を持って互いに集まり。

 

 

 

 巨大な花、もしくは種のような姿を一瞬取り、四つ足の逆さまになった上半身が特徴的な異形の機体へと進化した。

 

 

 

「…デビルガンダムJr.か!!」

 

 

 

 アウルの言葉にジブリールが静かに告げる。

 

 

 

「その通り。我々はデビルガンダムの子だ、人の子よ。我々もまた、君たちに問わねばならない。始めよう、真なる世界は我々か人類。どちらを選ぶかを、決めようではないか」

 

 

 

 厳かにジブリールーー否、デビルガンダムJr.は告げた。

 

 

 

 その言葉に、アウル、ステラ、スティングの気が膨れ上がった。

 

 

 

「お前は、死ねよ!!」

 

 

 

「お前を、倒す!!」

 

 

 

「ケリを、着ける!!」

 

 

 

 3人の機体が明鏡止水の境地に至り、黄金の気を全身に纏う。

 

 

 

「「「一気に終わらせてやる、このガラクタがぁあああああああっ!!!」」」

 

 

 

 3機の黄金の気を放つガンダムが、悪魔の子に挑みかかった。

 

 

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね〜!

 DG細胞に支配され、完全に自我を無くしたジブリール。

 彼の駆る悪魔の子を名乗るガンダムは、その圧倒的な力でスティング達に挑むのです。

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第92話に!

 レディー、ゴー!!


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第92話 因果を刻め

 皆さん。

 デビルガンダムの子。

 デビルガンダムJr・がアウル達に戦いを挑んできました。

 その悪魔の子を黄金と化したヤマトの名を冠するガンダムが迎え撃ちます。

 そしてーーファム・ファタールことフレイ・アルスターとウルベ・イシカワの前に!

 ついに自由と正義が降り立つのです!!

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイイ、ゴォオオオオオオオッ!!!






 禍々しい気の塊。

 

 

 

 力の奔流を受けながら、3人の少年達が真っ向から向かい合う。

 

 

 

「ちょっと、スティング! アウル! ステラ!! 3人とも明鏡止水のハイパーモード使ったら気がすぐに尽きるじゃない!!」

 

 

 

 ルナマリアのもっともな指摘。

 

 

 

 黄金の気を纏うガンダムは強力無比な反面、消費気力が多くガス欠になりやすい。

 

 

 

 ここぞという時に使うべきだと言いたげなルナマリア。

 

 

 

 だがそんなもっともな指摘すら、今の3人には聞こえていない。

 

 

 

「悪いな、ルナマリア。もう我慢できねぇんだよ!!」

 

 

 

 言うと同時にスティングのクーロンガンダムが黄金の気を爆ぜさせると同時に消えた。

 

 

 

 瞬間、デビルガンダムJr.の目の前に移動し、拳を繰り出す。

 

 

 

 強烈なエネルギーフィールドを発生させたJr.はクーロンガンダムの気を纏った拳を目に見えない力の壁で受け止める。

 

 

 

「四天王ビットーー」

 

 

 

 放たれた花弁4枚。

 

 

 

 それら一つ一つが、デビルガンダム四天王の力を持つ。

 

 

 

 雷を纏いしグランドホーン。

 

 

 

 炎を纏いしヘブンズダード。

 

 

 

 光を放つウォルターテンタクル。

 

 

 

 そして闇を放つダークネスフィンガー。

 

 

 

 四天王ビットは、それぞれの技を放つ機関に擬態して襲い来る。

 

 

 

 コレをルナマリア含むスティング達四人が迎え打った。

 

 

 

「上等じゃないの!!」

 

 

 

「各個撃破するぞ、続けぇ!!」

 

 

 

 ルナマリアとスティングの叫びにアウル、ステラが追従する。

 

 

 

 マスターガンダムの上半身を模るビットが放つダークネスフィンガーをルナマリアが、インパルスのツインエクスカリバーで手首から切り捨てる。

 

 

 

「マスターアジアに比べたら、雑魚もいいとこね!!」

 

 

 

 中央で分割させ、左右にエクスカリバーを握ると網の目のように斬閃を繰り出し、細切れにしてしまった。

 

 

 

 傍らではスティングのクーロンガンダムが黄金の気を纏った状態で右ストレートを繰り出し、雷を纏った角を殴り砕く。

 

 

 

 羽根を放つビットには、アウルのヤマトガンダムが腰のビームサーベルを一閃して切り捨て。

 

 

 

 ビーム砲を放ってくる球体には、ステラのシャッフルハートが蹴りを繰り出して粉砕する。

 

 

 

「アウル、お前の力で消し飛ばせ!!」

 

 

 

「私達が雑魚を蹴散らす!!」

 

 

 

「しっかり、やんなさいよ!!」

 

 

 

 3人からの言葉に頷き、アウルのヤマトガンダムがデビルガンダムJr.に一気に近づいた。

 

 

 

「ーーなるほど。出力が違うようだ。不思議だな。ベルリンの時とは雲泥の差だ」

 

 

 

「機械じゃ分からねえよな。僕たちが、強くなる理由はさ!!」

 

 

 

 黄金のヤマトガンダムが、右ストレートを逆さまになったデビルガンダムJr.の顔に繰り出す。

 

 

 

 凄まじい音と火花を放ちながら、右掌で止められる。

 

 

 

「ーー興味深いものだ。人の子よ、お前達が我々を上回るというのか?」

 

 

 

「馬鹿野郎が。世界がどちらを選ぶかって言ったよな、お前!!」

 

 

 

「如何にも。世界が真に望みしは我々か、人類か」

 

 

 

「世界はな、誰のものでもないんだよ!!!」

 

 

 

 言い放ちながら、アウルは左拳を繰り出す。

 

 

 

 左手で捌きながら拳を繰り出してくるJr.

 

 

 

「故に世界が選ぶのだ、人類か我々DG細胞かをな」

 

 

 

「違う! 世界は選んでなんかいない! 世界は等しく全てに与えられてるんだ!!」

 

 

 

「ならば証明せよ。お前達が、勝たねば全ては我々が支配する」

 

 

 

「上等だぁあああ!!!」

 

 

 

 アウルの叫びに応えるようにヤマトガンダムの右拳が烈火を纏う。

 

 

 

「僕のこの手が唸りを上げる!! 炎と燃えて全てを砕くぅうう!!」

 

 

 

 ヤマトガンダムの烈火の炎を受けて炙られJr.の右手が消滅する。

 

 

 

「ーー!」

 

 

 

 理不尽とも言える攻撃力に、ジブリールの瞳が見開かれた。

 

 

 

「灼ぁああく熱!! サァンシャァアアイィン!! フィンガァアアアッ!!!」

 

 

 

 ケーキにでもナイフを入れるかのようにサクッと胸に突き刺さる灼熱の右掌。

 

 

 

「ーーなんだと?」

 

 

 

 無感情なジブリールの目が見開かれたと同時、アウルの叫びが響いた。

 

 

 

「爆発っ!!」

 

 

 

 瞬間、デビルガンダムJr.の内部から強烈な爆発が生じ、跡形もなく吹き飛ばすのだった。

 

 

 

「ーーお前なんか、僕のヤマトガンダムの敵じゃねえ」

 

 

 

 粉々になり、火花と散る残骸に向けて、アウルが静かに告げた。

 

 

 

「…見事だ、人の子よ。されど場にはまだ我々が存在する。全てを屠れねばそなた等に明日はない…」

 

 

 

 ジブリールの無機質で不気味な声だけが辺りに響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ダイダロス基地の近くにあるアルザッヘル基地周辺で。

 

 

 

 二機の同じ顔をした機体が凌ぎあっている。

 

 

 

 傍目から見れば、両者は姿を消しては現れて、ぶつかり合っている。

 

 

 

 両者のぶつかり合いによって生じる余波で周りのMS達が次々と落ちていく。

 

 

 

 壊されたMS達は光の粒子となってファム・ファタールの機体ーー運命の羽と神の顔を持ったデスクイーンに取り込まれていく。

 

 

 

「フフフ。アハハハハハハハハ! 楽しいわ!! みぃんなゴミに見えるもの!! 貴方もそう思うでしょ!?」

 

 

 

「稚拙な憎悪だ……!! その程度の意志で私に挑むか、人形め!!!」

 

 

 

 次々と力を吸収し、その感覚に高揚し笑うフレイ・アルスターの姿をした少女にウルベが不快さを隠すことなく告げる。

 

 

 

 左の肘鉄と対艦刀アロンダイトがぶつかり合う。

 

 

 

 火花を散らすビームと気。

 

 

 

 ファムの両手打ちの唐竹の一撃をウルベは肘で跳ね上げ、右ストレートを放つ。 

 

 

 

 正面に捉えたデスクイーンは残像。

 

 

 

 ヴォワチュールルミエールと呼ばれる光の翼を広げて空間を歪曲し、加速する。

 

 

 

 この原理はゴッドガンダムのフィールドダッシュに酷似している。

 

 

 

「もらったわよ、ウルベ!!」

 

 

 

 完全に背後を捉えたデスクイーンがヴァニシングガンダムの胴を薙いだ。

 

 

 

 だが、その一撃は空を切る。

 

 

 

 目の前で青い光を纏ったヴァニシングガンダムが空間を歪曲させ、残像を残しながらの高速移動で避けたのだ。

 

 

 

 DG細胞の記憶でファムにはそれが何かわかる。

 

 

 

「エネルギーフィールドを利用した空間移動? 生憎だけれど、その技の弱点は分かってるわ」

 

 

 

 呟くように言いながら、デスクイーンがデータから予測した移動位置に向かってビームライフルではなく背中のオルトロスを構える。

 

 

 

「ーー落ちなさい!!」

 

 

 

 紅と蒼の多重ビーム砲が光を纏って移動していたヴァニシングガンダムの手前にまで迫る。

 

 

 

「ほう……」

 

 

 

 ウルベは笑いながら、そのビームを片手で払う。

 

 

 

「バカね! 砲撃が効かないのは分かってるわよ!!」

 

 

 

 弾かれたビーム砲の脇を通り抜けてデスクイーンがヴァニシングガンダムの頭上を取った。

 

 

 

「さようなら!」

 

 

 

 アロンダイトを両手持ちで振り下ろす。

 

 

 

 瞬間、ウルベも反応し右の拳で受ける。

 

 

 

 強力な力と力のぶつかり合い。

 

 

 

 ひびが入ったのは、アロンダイトの方だった。

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 目を見開くファムにウルベが笑う。

 

 

 

「自己進化を得たとはいえ、技術レベルで圧倒的に劣るこの世界のMSを基によくぞ、ここまで戦った。だが、ここまでのようだな」

 

 

 

 ウルベが冷酷に笑いながら、右拳に力を込めあっけなくへし折る。

 

 

 

 まるでガラス細工のように砕け散る大剣を無視して、左掌に青黒い光を放たせる。

 

 

 

「虚無と成れーー! ヴァニシングフィンガァアアアアアア!!」

 

 

 

 胴体をまともに貫く左掌。

 

 

 

 にやりと笑みを浮かべるウルベだが、捉えたデスクイーンはまたしても残像だった。

 

 

 

「ここまでなのは、貴方のようね」

 

 

 

 右手から青白い光を放ちながら、デスクイーンのパルマフィオキーナが顔面に放たれた。

 

 

 

 咄嗟に上体を後ろに倒しながら避けようとするも間に合わない。

 

 

 

 ファムの口元が嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 キラとアスランの二人は、強大な二つの力がぶつかり合っているのを感じていた。

 

 

 

 その力のぶつかり合いに近づくにつれ、余波は大きくなっていく。

 

 

 

「この力ーー危険だ」

 

 

 

「ああ。どちらも凶悪な気配を出しているが、これはーー!」

 

 

 

 ダイダロス基地からそう離れていない強大な連合の主力基地。

 

 

 

 それがアルザッヘル基地だ。

 

 

 

 だが、様子がおかしいのはすぐに見て取れた。

 

 

 

 これだけ基地に近づいているのに、MSが一機も出撃してこないのだ。

 

 

 

 原因はすぐに判明する。

 

 

 

 次々と気配が取り込まれていくのだ。

 

 

 

 強大な力を放つ片方に。

 

 

 

 止めなければ、際限なくパワーが上がるであろうことは明白だった。

 

 

 

 彼らーーフリーダムとジャスティスが修羅の巣食う戦場に現れたのは、それからしばらくしての事だった。

 

 

 

「こ、これはーー!」

 

 

 

 そこで彼らが見たものは。

 

 

 

 

 

 左掌を青黒く輝かせてデスクイーンの胴体を貫き掲げ上げたヴァニシングガンダムの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ウルベとーーもう一人!?」

 

 

 

 同じ力を放っているデスシリーズの法則性によって作り出されたであろう機体。

 

 

 

 アスランが混乱していると、通信がモニターを通じて入った。

 

 

 

 赤い髪に灰色の瞳をした少女が、額から赤い血を流しながらこちらを見ている。

 

 

 

「……キラ……?」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 キラのフリーダムの気が爆発した。

 

 

 

「ウ、ル、ベェエエエエエエエエエエエエッ!!!」

 

 

 

 その場から消え、ヴァニシングガンダムの目の前に現れる。

 

 

 

「!? キラ・ヤマトだと!?」

 

 

 

 目を見開くウルベを遥か後方に蹴り飛ばし、ファムの機体を抱きとめる。

 

 

 

「フレイ! フレェエエエエエイッ!!」

 

 

 

 モニター越しに必死に呼びかけると返事があった。

 

 

 

「聞こえてるわ、キラ」

 

 

 

 微かに笑いながら、ファムーーフレイは答えた。

 

 

 

 それにホッとするキラにフレイは笑顔のまま告げる。

 

 

 

「大丈夫よ、私はーー幻じゃないわ」

 

 

 

「フレイ…っ! フレイ……っ!!」

 

 

 

 涙ながらに顔をクシャクシャにするキラをあやすようにフレイは微笑む。

 

 

 

 そんな彼らの前にゆっくりと月面の岩山に突っ込んだヴァニシングガンダムが立ち上がった。

 

 

 

 首を左右に倒しながら、ウルベが微笑む。

 

 

 

「不意打ちとはやってくれるじゃないか、キラ君。まあいい、諸君らを皆殺しにすることに変わりはない。多少順番が変化するだけだ」

 

 

 

 冷酷な笑みを浮かべてウルベがファイティングポーズを取る。

 

 

 

 瞬間、キラがアスランに告げた。

 

 

 

「アスラン。彼女をーー!」

 

 

 

「お、おい! キラ!! 彼女はーー!!」

 

 

 

「分かってる!! だけど、助けたいんだ!!!」

 

 

 

 アスランの言葉を遮り、キラはビームソードを抜き放つ。

 

 

 

 そしてヴァニシングガンダムに向き合う。

 

 

 

「フフフ、中々楽しめそうだな」

 

 

 

 ヴァニシングガンダムも腰からビームソードを抜いて構えた。

 

 

 

 互いに静かに、しかし油断なく相手の隙を窺っている。

 

 

 

 先に動くのは、キラかウルベか。

 

 

 

 どちらかの隙を見つけた方が動くだろう。

 

 

 

 青眼に構えたウルベと対照的にキラは右手にビームソードを一振り持ち、左の逆手でもう一振りを抜いている。

 

 

 

 キラの瞳からハイライトが消え、フリーダムが瞳を輝かせると同時に機体は地面を蹴り、消えた。

 

 

 

 瞬間、ウルベのヴァニシングガンダムも同時に地面を蹴って消えるように高速移動する。

 

 

 

 現れたのは互いの正面。

 

 

 

 ウルベの両手持ちからの唐竹割りとキラの独特な二刀流からの十字斬りが真っ向からぶつかる。

 

 

 

 飛び散る火花。

 

 

 

 同時にすれ違う両者。

 

 

 

 互いの左腕が微かに斬られている。

 

 

 

「ーーふふん」

 

 

 

「いける!」

 

 

 

 互いに手ごたえを感じ、振り向きざま高速移動で斬撃を放ちあう。

 

 

 

 ウルベの一撃は両手、片手、順手、逆手と様々な剣技を使ってくる。

 

 

 

 少しでも見誤れば、一瞬で網の目の様に走った斬閃に機体をバラバラにされるだろう。

 

 

 

 だが、キラも負けてはいない。

 

 

 

 それほどの斬閃の嵐をかいくぐり、両手に持った左右のサーベルで切りつける。

 

 

 

 互いに演武のような動きで円を描きながら斬撃を放ち、避ける。

 

 

 

 その戦いはコンマ数秒が命取りの正に、剣の達人同士の立会いだった。

 

 

 

 ウルベの袈裟懸けの一撃を右順手の剣で止め、身を翻し左逆手の剣で横薙ぎを返す。

 

 

 

 だがヴァニシングガンダムの右手が光り、ビームソードを受け止める。

 

 

 

「……クッ!!」

 

 

 

「虚無と散れーー! ヴァニシングゥウフィンガァアアアアアアッ!!」

 

 

 

 咄嗟にビームソードを手放して後方へダッシュして避ける。

 

 

 

 光る掌はビームソードを破壊すると光線を放ってくる。

 

 

 

 咄嗟にキラはバックパックに付けられたスーパードラグーンを使って八角形の光のシールドを作り、更に両腕のビームシールドを展開して受け止める。

 

 

 

 光の壁と光の線がぶつかり、爆発した。

 

 

 

 キラのフリーダムが、そのまま左脇にスライドするように滑空し、ドラグーンと全てのビーム砲をヴァニシングガンダムに向ける。

 

 

 

「ハイマットーーフルバーストォオオオ!! 当たれェええええええ!!!」

 

 

 

 両手のビームライフル、胸部の陽電子ビーム砲、腰の二門のレールガンと宙に浮かべた無数のドラグーンを同時に放つ。

 

 

 

 瞬間、ウルベも両腰からビームソードを二刀抜き、その場で大回転する。

 

 

 

「必殺! ヴァニシングスラッシュ・タイフゥウウウン!!」

 

 

 

 無数のビームを竜巻と化したガンダムが全て弾く。

 

 

 

 瞬間、キラがそのまま突っ込む。

 

 

 

「うぉおおおおお!!」

 

 

 

「来るか!!」

 

 

 

 同時に斬りつける両者。

 

 

 

 竜巻が消え、両者の斬撃が辺りに衝撃波を放ちながら止まる。

 

 

 

 互角の斬り合い。

 

 

 

 どちらもまったく譲らない好勝負を繰り広げている。

 

 

 

「……おのれ! ここまで私に食らいついてくるか!!」

 

 

 

「まだまだぁああああ!!」

 

 

 

「調子に乗るなよ、小僧ぉおおおお!!」

 

 

 

 両者互いに気を纏い、宇宙を所狭しと駆け回る二機のガンダム。

 

 

 

 

 

 その様子をデスクイーンに乗るフレイを助け起こしながら見つめ、アスランが拳を握る。

 

 

 

「行けるぞ、キラ!!」

 

 

 

「……駄目よ」

 

 

 

「何ーー?」

 

 

 

「アンタも行きなさい」

 

 

 

 強い目で言われ、アスランが思わず反論する。

 

 

 

「俺だってそうしたいが、キラがお前を助けろと言ったんだ。ならーー」

 

 

 

「それでキラが殺されたら、元も子もないでしょ?」

 

 

 

 軽く告げるフレイにアスランの目つきが変わった。

 

 

 

「お前の目的が分からない。お前は一体何がしたいんだ?」

 

 

 

「さあ? 少なくとも今のあたしはフレイ・アルスターの意識が強いみたいね」

 

 

 

「何だとーー?」

 

 

 

 訝し気に問いかけるアスランに微笑みかけるとフレイは告げた。

 

 

 

「ここであの子が死ぬなら、それも運命かも知れない。でも、食い止められる運命なら止めて上げてもいいんじゃない? アンタはあの子の親友なんでしょ?」

 

 

 

 何を考えているか分からない。

 

 

 

 だが、この女の言うことも一理ある。

 

 

 

 ウルベのガンダムからアスランも、そして恐らくはキラも感じているはずだ。

 

 

 

 どこか不気味な力を感じる。

 

 

 

 得体の知れない、不吉な力があのガンダムからは放たれている。

 

 

 

「……そういえば、お前はあと少しで負けそうだったんだな。奴は何をした?」

 

 

 

「分からない」

 

 

 

「何だと……?」

 

 

 

 思わず目を見開いてフレイの顔を見ると彼女は表情を一切なくして答えた。

 

 

 

「あたしの一撃は確かにウルベの首を取ったはずだった。だけど、背中を向けていたウルベの左手の方があたしの機体を貫くのが速かった」

 

 

 

「……」

 

 

 

「ほとんど同じスピードで動いていたのに。たとえば、奴があたしのスピードに合わせて動きを遅くしていたとするなら、ヴォワチュールルミエールと同じエネルギーフィールドを展開した高速移動の中でそんなことができる? そんなはずないわ。からくりがあるはずなのよ」

 

 

 

 空間を歪曲させエネルギーフィールドを発生させて、摩擦熱を起こすことなく加速する。

 

 

 

 その加速移動の中からさらに加速した。

 

 

 

 確かにあり得ない。

 

 

 

 ならばウルベは何をした。

 

 

 

 アスランの瞳が鋭く細まる。

 

 

 

 

 

 

 

 再三にわたる打撃の応酬。

 

 

 

 フリーダムの蹴りにヴァニシングガンダムは右の肘を合わせて止める。

 

 

 

 返しの右拳をウルベが繰り出すとキラは右手一本で機体を地面に逆立ちし、強烈な蹴りを相手の顎にぶつけた。

 

 

 

「ぐぅ!?」

 

 

 

 思わず後ろに下がるウルベ。

 

 

 

 目の前に高速移動で現れたフリーダムの右膝が顔面に叩き込まれる。

 

 

 

「ぐはぁ!」

 

 

 

 悲鳴を上げるも、なんとかその場に踏みとどまる。

 

 

 

 だが、ダメージ硬直ですぐには動けない。

 

 

 

 さらにキラは高速移動でヴァニシングガンダムの背後を取ると、フリーダムの右手を真っ赤に燃やす。

 

 

 

「これで決める! 爆熱! ゴッドフィンガァアアアア!!」

 

 

 

 爆熱ゴッドフィンガー。

 

 

 

 ゴッドガンダムの必殺技であり、シャイニングフィンガーの強化技である。

 

 

 

 これをキラはドモンとの修行により身に付けていたのだ。

 

 

 

 完璧なタイミングだった。

 

 

 

 事実、ウルベは目を見開いて自分に迫る炎の右掌を見つめるしかできていない。

 

 

 

 だがーー。

 

 

 

「ーー何!?」

 

 

 

 キラが思わず目を見開いた。

 

 

 

 ヴァニシングガンダムの後方に青黒い穴のようなものが現れ、その中に身を潜ませるように消えたのだ。

 

 

 

 思い切り空を切るフリーダムガンダムのゴッドフィンガー。

 

 

 

 その右側に小さな青黒い穴が現れ、そこからヴァニシングガンダムの右腕が伸びた。

 

 

 

「な!?」

 

 

 

 ふり切った姿勢で振り返りながら、青黒い光を放つ右手を見据える。

 

 

 

 まともにその手から放たれた光に撃たれ、フリーダムガンダムは後方へ弾き飛ばされた。

 

 

 

「ぐああああ!」

 

 

 

 悲鳴を上げながらもキラは体勢を空で整え、着地する。

 

 

 

 その目の前に青黒い穴が生じ、ヴァニシングガンダムが闇の空間から一歩外に踏み出すようにして出てきた。

 

 

 

「こーーこれは!?」

 

 

 

 咄嗟にキラの頭の中に生まれた仮説はミラージュコロイドだった。

 

 

 

 レーダーや目視モニターを攪乱させる粒子を放って己を風景の一つに擬態する地球連合が開発したシステムだ。

 

 

 

「いやーーー違う!!」

 

 

 

 だがその考えをキラ自身が否定した。

 

 

 

 今のキラはフリーダムガンダムと一心同体になっている。

 

 

 

 空間が少しでもずれれば感知できる程に明鏡止水の感度は上がっているはずだ。

 

 

 

 ならばそれを感じられなかったということはーー。

 

 

 

「まさかーー空間転移!?」

 

 

 

 空間を歪曲させる加速移動のさらに上位互換に位置する。

 

 

 

 空間に穴を空け別の次元から移動してくる。

 

 

 

 亜空間移動。

 

 

 

「バカな! ドモンさんとゴッドガンダムでさえ、元の世界からこちらに来るのに相当のエネルギーを必要としたのに!! それをーーあなたはガンダム単騎でできるって言うのか!?」

 

 

 

「素晴らしい。100点の回答だ、キラ・ヤマト君。流石は優秀なスーパーコーディネイターだな」

 

 

 

 拍手しながらウルベは余裕を持ってキラを見据える。

 

 

 

 今のウルベは最悪だった。

 

 

 

 実力ならばほとんど互角の戦いを展開していた。

 

 

 

 だが、空間移動ができるなら動きを予備動作から予測することが難しい。

 

 

 

「そうだ。例えばこういうこともできる。ヴァニシングホール!」

 

 

 

 ウルベは自分の右側面にノーモーションで軽いジャブを放つ。

 

 

 

 すると右腕は途中で青黒い穴「ホール」の中に消え、次の瞬間には。

 

 

 

「ぐは!!」

 

 

 

 強烈な衝撃をガンダムの右頬に感じ、吹き飛ばされるフリーダム。

 

 

 

 見ればフリーダムの目の前に「ホール」が出現し、ヴァニシングガンダムの右手がそこから伸びている。

 

 

 

「空間にホールを発生させ、別の空間へとつなげられるのか!!?」

 

 

 

 咄嗟にキラは距離を稼ごうとドラグーンを放つ。

 

 

 

 それらは無数の空間に生じた細かいホールに飲み込まれた。

 

 

 

「ーーまさか!?」

 

 

 

 勘のいいキラは咄嗟に自分の周囲に気を配る。

 

 

 

 小さいホールはフリーダムを囲むように周囲に現れ、そこからキラが放った緑色のビームが網の目の様に放たれた。

 

 

 

「ーーくっ!」

 

 

 

 咄嗟にジグザグに機体を高速移動させて避ける。

 

 

 

 その目の前にヴァニシングガンダムがホールを使って転移していた。

 

 

 

「しまーー!?」

 

 

 

「隙だらけだよ、キラ君!!」

 

 

 

 右ストレートをまともに浴び、弾き飛ばされるフリーダム。

 

 

 

 その吹き飛ばされた先にホールが現れ、両腕を組んで頭上に掲げるヴァニシングガンダムが出てくる。

 

 

 

「この程度でしまいかね!?」

 

 

 

 振り下ろされた一撃は、フリーダムを月面に叩きつけ、巨大なクレーターを生まれさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 その光景に思わずアスランが目を見開く。

 

 

 

「キラァアアアアアアッ!!」

 

 

 

 互角の戦いだった。

 

 

 

 なのに、一気に勝負の天秤がウルベに傾いてしまった。

 

 

 

 あの力は危険すぎる。

 

 

 

 空間を繋げることで、自分の攻撃を敵に届けたり。

 

 

 

 敵の攻撃を相手に返す能力。

 

 

 

 おまけに転移までできる。

 

 

 

 あまりにも理不尽な能力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァニシングガンダムは両腕を組んだまま静かにフリーダムを見下ろす。

 

 

 

「どうした、キラ君。君の力はこんなものではないのだろう? まあ、出し惜しみをして死にたいのなら止めんがね」

 

 

 

 ウルベには分かっていた。

 

 

 

 オーブでの戦闘で、キラ・ヤマトとアスラン・ザラの二人は明鏡止水の境地。

 

 

 

 黄金のハイパーモードを使用できる。

 

 

 

 ゴッドフィンガーまで放てるようになったのだ、ハイパーモードを使えないわけがない。

 

 

 

 ウルベはそう考え、静かに立ち上がって来たキラを見据える。

 

 

 

「……できれば、この後の戦いも考えて体力は温存しておきたかった。だけど、そんな余裕はないみたいだ」

 

 

 

「この私を相手に本気を出さずに勝つつもりとは。笑わせてくれる」

 

 

 

 鼻で嘲笑うウルベにキラは静かにフリーダムに拳を握らせると気合を入れた。

 

 

 

「ーーはぁああああ!!」

 

 

 

 黄金の柱が漆黒の天に向かって立ち、フリーダムガンダムが神々しい黄金の気を纏う。

 

 

 

「出したか。明鏡止水の境地ーーハイパーモードを!!」

 

 

 

 これにウルベもニヤリと笑い、構えを取る。

 

 

 

 キラが静かにSEEDを発動させた瞳で、黄金となった髪をなびかせてウルベに告げた。

 

 

 

「僕は負けないーー。もう、誰にもだ!!」

 

 

 

 キラの気高い魂に応えるように、黄金と化したフリーダムガンダムの目が輝いた。 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね~!!

 黄金の気を纏い神の右手を受け継いだ自由の翼。

 これに対するは空間をつなげる無の権化。

 はたして、キラはこの戦いに勝利することができるのか?

 そして、DG細胞の人形とされるファム・ファタールは何を企んでいるのか!?

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第93話に!!

 レディー、ゴー!!



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第93話 少年の慈悲と梟雄の意地

 みなさん。

 未来世紀における悪の塊。

 ウルベ・イシカワとウォン・ユンファの起こしたコズミック・イラでの悲劇。

 その悲しみを繰り返させんと、この世界の少年達はガンダムを駆り挑みます。

 そう!

 あのガンダムファイター達のように。

 それでは、ガンダムファイト! ウルベ最終決戦に!!

 レディイイイ、ゴォォォオオオッ!!


 

 

 

 

 黄金の気を纏い、ストライクフリーダムガンダムが腰だめに構える。

 

 

 

 対峙するヴァニシングガンダムもまた、拳を握り構えた。

 

 

 

「来るが良い、キラ君」

 

 

 

「なら、行くぞ!!」

 

 

 

 そんなやり取りの後、フリーダムが光の翼を広げて一気に加速した。

 

 

 

 ホールを生み出し、テレポートするヴァニシングガンダム。

 

 

 

 現れたのはフリーダムの側面。

 

 

 

 右の拳を振り抜くウルベ。

 

 

 

 しかし、キラは素晴らしい反応速度でこれを左に見切ると右の前蹴りをカウンターでヴァニシングガンダムの胸に決める。

 

 

 

「! ぬう!?」

 

 

 

「転移すると分かっていたら、現れた瞬間に気配を感じ取ればいい。貴方が亜空間から姿を現し、僕を攻撃してくる瞬間こそが、僕が攻撃するチャンスだ!!」

 

 

 

「こざかしい!! そんな当てずっぽうで。いつまでも凌げると思うなよ!!」

 

 

 

 超高速で動きながら、亜空間移動を織り交ぜてくるウルベに対し、超反応と技で反撃する。

 

 

 

「連続ヴァニシングホール・ショット!!」

 

 

 

 右手をかざし、前方に向かって青黒いエネルギーを放つ。

 

 

 

 一秒間に数十の弾丸を放つその技をキラは機体を左右にジグザグに動いて避けていく。

 

 

 

 キラが躱すことは織り込み積みだったウルベは、放った先にホールを出現させてエネルギーを亜空間に放り込み、空間をつなげてキラの周りに現れさせて、多重方向からのビーム砲を散弾で放つ。

 

 

 

 逃げ場のない状態で打ち込まれた強烈なエネルギーの弾丸。

 

 

 

 だが爆発が晴れたとき、フリーダムの姿は其処に無い。

 

 

 

(攻撃がヒットして爆発する瞬間、ビットを使って多方向からの攻撃を打ち返して無効化し、空間歪曲の高速移動を使ったか)

 

 

 

 頭でそれを整理していると、ウルベは突如反応する。

 

 

 

 右手側に向かって左の正拳を放ったのだ。

 

 

 

 鈍い音と共にたしかな手応えを感じる。

 

 

 

 仰け反るフリーダムがいた。

 

 

 

「まだだ!」

 

 

 

「なんだと!?」

 

 

 

 瞬間、仰け反りながらも左の横蹴りがウルベの腹にヒットし、後方へ蹴り飛ばされる。

 

 

 

「ハイマットフルバースト!! 多方向からのビーム砲だ……!! 貴方に防げるか!!?」

 

 

 

 無数に放たれるビーム砲。

 

 

 

 これをウルベは右拳を握ってエネルギーを溜めると前方に掌を正拳突きのようにして放つ。

 

 

 

「そんな豆鉄砲など、幾百・幾千束ねようと無意味だと教えてやるわ!!!」

 

 

 

 ヴァニシングフィンガー。

 

 

 

 青黒い光の壁が掌から発生し、全ての光線を防ぎきる。

 

 

 

 思わずキラが、チッと舌打ちするとともに右側面の空間に蹴りを繰り出す。

 

 

 

 そこに肘を置いていたかのようにヴァニシングガンダムのひじ打ちがぶつかる。

 

 

 

「やるじゃないかーー! 私の動きを読むとはな!!」

 

 

 

「貴方とは、これで二度目だ。二度も闘って何も学習しないわけがない!!」

 

 

 

「たった二度の戦いで私の全てを把握したとでも言うのかね? 笑わせるな!!」

 

 

 

 超高速で移動する二機。

 

 

 

 光を纏い、闇に線を描くその様は神秘的だ。

 

 

 

 拳と拳。

 

 

 

 ウルベの武技とキラの武装がぶつかり合う。

 

 

 

 互いの動きを能力や技、武装で防ぎ合う様は先読みの早い方が有利だ。

 

 

 

 両者の実力が拮抗している以上、先に根を上げた方が負ける。

 

  

 

「ドラグーンシステムとか言うビット攻撃を破られてなお、まだ粘るか!?」

 

 

 

「僕があの人達ーーガンダムファイターの兄弟から学んだのは不撓不屈の精神と、この技だ!!」

 

 

 

 フリーダムが右手を顔の横に掲げて、拳を握る。

 

 

 

 紅蓮の炎が右手から噴き出し、キラの手を真っ赤に燃やす。

 

 

 

「…爆熱ゴッドフィンガー、か。面白い、にわか仕込みの技で私のヴァニシングガンダムを討てるか、試してみるがいい!」

 

 

 

「…勝負! 爆ぁく熱!! ゴォッドフィンガァアアアアアッ!!!」

 

 

 

「紛い物の神の炎など、私の無の力で消してくれる! くらえ、ヴァニシングフィンガァアアアッ!!」

 

 

 

 青い光の翼を広げ、黄金の気を纏いし自由の剣が神の炎を右手に宿して前方に突き出せば。

 

 

 

 神の顔を模した魔神の機体は、青黒い禍々しい力を右手に溢れさせて突き出す。

 

 

 

 組み合う両者の右手。

 

 

 

 相容れぬ力は反発し、雷が奔る。

 

 

 

 瞬間、星の海が浮かぶ闇の世界は吹き溢れる炎と力によって別たれた。

 

 

 

「…なんだと?」

 

 

 

 右手を抑えながら、ウルベが目の前にいる光の翼を広げた黄金のガンダムを見据える。

 

 

 

「…紛い物かどうか、貴方なら分かるはずだ。ウルベ」

 

 

 

 キラもまた、痛みをこらえるように。

 

 

 

 だが不敵に笑いながら、右手を抑えて告げる。

 

 

 

 人機一体の境地ーー明鏡止水。

 

 

 

 ガンダムとファイターの最高の境地。

 

 

 

 MSであろうとMFであろうと、ナチュラルだのコーディネーターだの。SEEDでさえ、この境地に達すればそんな差など小さな問題だ。

 

 

 

 両者の技は互角。

 

 

 

 互いの放った技によって、互いの右手の握力が一時的にゼロになっている。

 

 

 

 互いに睨みつけあった後、ウルベが肩で笑い出した。

 

 

 

「…くくく、はははははははは!! そうか、ドモン・カッシュ! こんな小僧に託したのか、私との決着を!! バカめ、この程度の小僧に私が倒せると思うのか!?」

 

 

 

 哄笑するウルベ。

 

 

 

 キラはそれを淡々と鋭い瞳で見据える。

 

 

 

「笑えばいい」

 

 

 

「…なんだと?」

 

 

 

 ウルベが訝しげに少女と見紛うばかりの少年を見据える。

 

 

 

 彼の瞳はSEEDを発動させた証で光が一切ない。

 

 

 

 だが、その瞳の奥には確かにある。

 

 

 

 自分がーーウルベ・イシカワが。

 

 

 

 DG細胞が忌み嫌い、望まぬ力が。

 

 

 

 魂の炎が、キラ・ヤマトにも確かにある。

 

 

 

「そうやって笑って、誰かを見下していればいい。僕は、そうやって立ち止まっている貴方を今日! 超えていく!!」

 

 

 

「…不愉快だ。貴様の物言い、私が最も嫌うあの兄弟に良く似ている」

 

 

 

「…嬉しいな。僕は、あの人達に憧れた。そして成りたいと思ってる。あの人達に肩を並べる自分に!!」

 

 

 

「…ふん、夢を見るのは構わない。未来と希望に溢れた若者の目を暗く閉ざすのは、私にとって最高の悦楽だからねぇ!!」

 

 

 

「やってみればいい。僕は負けない。絶対に貴方にーー貴方のような人間に、負けてたまるかぁあああ!!!」

 

 

 

 際限なく高まる気をキラは纏う。

 

 

 

 明鏡止水のハイパーモード、黄金のガンダムの最大の弱点である気力消費。

 

 

 

 エネルギー切れが一向に来ない。

 

 

 

「…なるほど。そのガンダムを完全に己のモノにしたか。大したものだよ、本当に。ドモン・カッシュを倒す為に取っておいたが、まさか君に使わねばならないとはな」

 

 

 

 構えを取るヴァニシングガンダム。

 

 

 

 キラの脳裏に浮かんだのは自分やアスラン、シンを相手にして退けた黄金のガンダム。

 

 

 

 もう一つの人機一体。

 

 

 

 二律背反の境地。

 

 

 

 キョウジ・カッシュが目覚めた明鏡止水とは異なるもの。

 

 

 

 それは力と知、暴力と技術、相反する二つの力を同時に引き出すガンダムとファイターの究極の境地。

 

 

 

 だが、ウルベはそれを使わない。

 

 

 

「…どうした? 怖気付いたかね?」

 

 

 

 分かりやすい挑発だが、キラは受けて立った。

 

 

 

 気を溢れさせ、一気に距離を潰す。

 

 

 

 ぶつかり合う両機。

 

 

 

 ウルベは黄金のガンダムにならずとも、その両手足に青黒い力を纏うことでキラの攻撃を無効化している。

 

 

 

 虚無の力、ヴァニシングガンダムとウルベの見切りがあるからこそできる芸当だ。

 

 

 

 彼はオーブでのゴッドガンダムとの戦いで学んだのだ。

 

 

 

 己の技の有用性を。

 

 

 

 そして、このガンダムこそはウルベの技に併せて進化してきたウルベ専用機。

 

 

 

 わざわざハイパーモードにならずとも、キラのフリーダム一機ならば受けるくらいは造作もない。

 

 

 

 高速移動から、秒間数十発の打撃の応酬。

 

 

 

 フリーダムがドラグーンシステムや腰のレールガンを絡めてくれば、ウルベは空間に穴を開けて受ける。

 

 

 

 そして、穴をフリーダムの周囲に開いて包囲し、撃ち返す。

 

 

 

 フリーダムが光の翼ーーヴォワチュールルミエールの出力を上げ、一気に空間を歪曲させて加速。

 

 

 

 ウルベの懐に飛び込んだ。

 

 

 

「…終わりだ、ウルベ!!」

 

 

 

 右手に炎が宿り、それを突き出す。

 

 

 

 だが、フリーダムの右手はヴァニシングの脇腹に届く前に止まっていた。

 

 

 

「…? これは!?」

 

 

 

 フリーダムの全身を纏っていた黄金の気と背に背負った青い光の翼が消えている。

 

 

 

 それだけではない。

 

 

 

 機体が全く動かない。

 

 

 

 気はまだ充分にある。

 

 

 

 何かをされたのだ、だが。

 

 

 

 何をされたか、キラにも分からない。

 

 

 

「…ふふ。どうかね? 虚無の鎖は」

 

 

 

「何だって?」

 

 

 

 キラが機体を見下ろせば、よく目を凝らせば分かる。

 

 

 

 宇宙空間に潜ませていた穴。

 

 

 

 フリーダムがその青黒い穴に囚われていた。

 

 

 

「この力はただ、空間を繋ぐだけではない。対象の力、動き、全てを無とする事も可能だ。このようにね」

 

 

 

 ウルベが視線を背後に向けると、そこにはキラと同じようにホールに囚われたアスランの姿があった。

 

 

 

「アスラン!!」

 

 

 

「…クッ、動けない、だと!?」

 

 

 

 キラが負けると悟ったアスランは間髪入れずに明鏡止水を発動させ、ジャスティスに黄金の気を纏わせると一気にウルベの背後を取り、ビームソードを抜いて斬りかかっていたのだ。

 

 

 

 ウルベは完全にキラを捉え、油断していたはずだった。

 

 

 

 だが、それはアスランの大きな勘違いだった。

 

 

 

 ウルベは油断していたのではない。

 

 

 

 アスランに隙を見せて誘っていたのだ。

 

 

 

「君たちは最初から2人いたのだ。どちらかが、やられそうになれば助太刀に来ると分かっていた。そちらの人形さんはまだ動けないだろうから、警戒するには値しない。アスラン君の方を警戒すればいいだけだからね」

 

 

 

 この力だけで、ウルベの戦闘力は一気に桁が違うものになった。

 

 

 

 対象を問答無用でしばりつける力。

 

 

 

 しかも無力化した状態で、だ。

 

 

 

「…こいつ。これほどの力を!!」

 

 

 

「ドモン君のお陰でね。彼がガンダムの声を聞け、と私に言わなければ、この力は手に入らなかった」

 

 

 

 皮肉な笑みを浮かべて告げるウルベにキラが叫ぶ。

 

 

 

「何故だ!? これほどの力を得て、ガンダムと一心同体になって、何故!? あなたは全てを憎むんだ!?」

 

 

 

「…下らんな。私は私の技と能力が全てだ。それ以外は何一つ信じてなどいない。ウォンもだ。お互いに利用し合う体の良いビジネス相手だ。だがね、キラ君」

 

 

 

 その笑みは狂気を孕んでいる。

 

 

 

 DG細胞さえも支配する圧倒的な憎悪と狂気。

 

 

 

 ウルベの本質だ。

 

 

 

「力を持てば持つほどに許せなくなるのだよ。力がないと私を侮蔑した連中全てに復讐せねば気が済まないくらいにねぇ!!」 

 

 

 

 未来世紀。

 

 

 

 故郷のネオジャパンを思い出す。

 

 

 

 何だ、こいつらは?

 

 

 

 何故、こんな才能も何もないクズどもが、私よりも幸せなのだ?

 

 

 

 何故、私だけ奪われねばならない?

 

 

 

 教えてやる。

 

 

 

 優しさや愛などという幻想に、綺麗事束ねるしか能のない連中に教えてやる。

 

 

 

 弱肉強食の理を。

 

 

 

 そして味わえ。

 

 

 

 私と同じ絶望を。

 

 

 

 私が、その世界を支配してやる。

 

 

 

「感じる。これが貴方の憎しみか…!!」

 

 

 

「なんて、深く暗い炎なんだ…!!」

 

 

 

 キラとアスランがガンダムを通して、ウルベの憎悪を感じる。

 

 

 

 ウルベはそのまま、虚数の彼方へと2人をガンダムごと送ろうと穴を広げる。

 

 

 

「さらばだ、キラ君。アスラン君。これが力だ。君たちは確かに強い。その強さは2人がかりなら確かに私を倒せただろう。だが、これまでだ。異世界に飛ぶのか、亜空間の狭間で飲み込まれるかは知らんがーー。君たちは、今日。この世界から居なくなる」

 

 

 

 高笑いするウルベにキラが、アスランが、それでもと目を見開く。

 

 

 

「フリーダム。僕は僕を。そして君を信じる…!!」

 

 

 

「ジャスティスよ。父の託した願いを、俺に叶えさせてくれ…!!」

 

 

 

 祈る。

 

 

 

 その言葉に、想いに、願いに応えるように。

 

 

 

 ガンダムが再び黄金の気を纏う。

 

 

 

 力が生じる。

 

 

 

 フリーダムとジャスティス。

 

 

 

 二つのガンダムを縛る闇が黄金の気で弾け飛ぶ。

 

 

 

「…! 何だと!?」

 

 

 

 見開くウルベの目の前で、黄金と太陽の如き神炎が、二機のガンダムに宿る。

 

 

 

「何故だ!? 何故、心が折れない!? 何故、絶望しない!? 貴様ら、一体何故諦めないんだ!?」

 

 

 

 どれだけ追い詰めても。

 

 

 

 どれだけ叩き伏せても。

 

 

 

 何度でも立ち上がってくる。

 

 

 

 自分が感じた絶望を、こいつらは感じていない。

 

 

 

「分からないのか? ウルベ」

 

 

 

 アスランが静かな面立ちで告げる。

 

 

 

「あなたは、負けられない戦いを知らないんだ。どんな理由があっても守りたい。守らなきゃいけない。そんな想いが、貴方には無い」

 

 

 

「自分の為だけに拳を振るってきたお前には、其処が限界なんだ。ガンダムとお前の力は凄まじい。だけど、それだけじゃ俺たちには勝てない」

 

 

 

 2人の少年の瞳に。

 

 

 

 そこに宿る魂の炎に、ウルベは知らぬ間に一歩。

 

 

 

 また一歩と、後ろに下がる。

 

 

 

「なんだ!? なんなんだ、貴様らは!!?」

 

 

 

 恐怖が彼を支配した。

 

 

 

 あの時、己を倒した。

 

 

 

 あの5人と同じ力を、2人の少年から感じるのだ。

 

 

 

「…違う!! 負けるはずが無い!! 私が、負けるはずが無いんだ!! こんな小僧共に、この私が!!!」

 

 

 

 叫ぶウルベに2人の少年のガンダムが、右手を掲げる。

 

 

 

「僕たちは負けない。守りたい人、世界があるから!! みんなで笑いながら選び取る。そんな明日が欲しいから!!」

 

 

 

「俺たちは勝つ!! 果たしたい約束がある!! 無念のまま散った父と母のような人を増やさない為に。俺のような人間が、家族と笑いあえる未来の為に!!!」

 

 

 

「「それが僕ら(俺たち)の戦いだぁああああっ!!!」」

 

 

 

 右手に宿りし神の炎が爆発し、2人は同時に全身の気を集約させて放つ。

 

 

 

「爆ぁあく熱っ!!」

 

 

 

「ダブル!!」

 

 

 

「「ゴォッドフィンガァアアアッ!!!」」

 

 

 

 強烈な真紅の炎が。

 

 

 

 熱線がウルベに放たれる。

 

 

 

「ふざけるな! ふざけるなぁあああっ!!」

 

 

 

 ヴァニシングガンダムも黄金の気を纏う。

 

 

 

 胸部カバーを展開し、両手に青黒い力を集約させて前方に突き出す。

 

 

 

「負けるものか! 負けてなるものか!! 貴様らなどに、私が敗れるものか!!! 全ての人間に私と同じ苦しみを刻むまで、止められてなるものか!!!」

 

 

 

 ぶつかり合う。

 

 

 

 螺旋を描いて絡み合う真紅の炎と。

 

 

 

 野太い強烈な青黒い力。

 

 

 

 黄金のガンダム3機の中央で、ぶつかり合う。

 

 

 

「くううう、ア、ス、ラァアアアアン!!」

 

 

 

「どうした、キラ! こんなもんじゃ無いだろ!? 俺たちの魂の炎は、こんなもんじゃない!!!」

 

 

 

「そうだ、僕らは与えられたんだ! 信念を貫く強さと力を!! あのガンダムファイター達から!!!」

 

 

 

「そうだ、負けるものか!! この想いが! 願いが、俺たちの胸にある限り!!」

 

 

 

「僕たちの胸に! この熱い想いがある限り!!!」

 

 

 

「「右手は轟き叫ぶ!! お前を倒せとなぁあああ!!」」

 

 

 

 自由の翼が、正義の剣が。

 

 

 

 右手に宿る炎を更に高めていく。

 

 

 

「ほざけ! ほざけほざけほざけほざけほざけほざけぇえええっ!!!」

 

 

 

 男は耐える。

 

 

 

 それは意地だ。

 

 

 

 倒されても倒されても、譲れない意地だ。

 

 

 

「許せるものか! 守る願いだと!? 未来だと!? 貴様らは何故、許せる!? 貴様らだって、理不尽な目に遭ったんだろうが!!? 綺麗事の世界なんぞに、何故騙される!?? セイランの記憶から知っているぞ!!!」

 

 

 

 力が増していく。

 

 

 

 互いに力が際限なく高まる。

 

 

 

「だからだ!! だから、他の人には味あわせたくない! 僕のエゴだとしても!!!」

 

 

 

「こんな想いは、俺たちだけで充分だ!!!」

 

 

 

 二人の少年の想いが。

 

 

 

 独りの男の意地が。

 

 

 

 互いに押し迫り合う。

 

 

 

 

 

 

 

 この光景を月面にMSを座り込ませながら、見上げる少女が一人。

 

 

 

「絶望を知るが故に、希望の未来を願う二人の少年。絶望と裏切りの果てに人々に苦しみを刻もうとする男」

 

 

 

 少女ーーファムがこの光景に、うっとりとなりながら言う。

 

 

 

「私は語り部。絶望を奏でる歌。希望を願う想い。その運命を見届ける役割ーー。全てが終わった後、遺伝子による支配があなた方の未来なのだから。その子達による語りましょう。あなた方の命をかけたおとぎ話を」

 

 

 

 役割を果たす時は近い。

 

 

 

 ファム・ファタールの役割を。

 

 

 

(それでいいの? あなたは?)

 

 

 

 また幻聴が聞こえた。

 

 

 

「うるさいわね。キラに会えたからって、はしゃぎ過ぎなんじゃないの?」

 

 

 

(…そうね。でも、私は伝えたもの)

 

 

 

 微笑む幻は、憎しみや猜疑心に彩られた彼女とは思えない。

 

 

 

 澄み切った慈愛と優しさに満ち溢れた笑顔。

 

 

 

「伝えた? どうかしら? キラには貴女の本当の想いが伝わったのかしらね、フレイ・アルスター?」

 

 

 

(ええ。伝わってる。それが分かったから、もういいの。キラはもう、私に囚われてはいけないから)

 

 

 

 幻はファム・ファタールと瓜二つの赤い髪の少女。

 

 

 

 否、ファムが似せている少女だ。

 

 

 

「…理解できないわね。寂しい気持ち、あるじゃない? 忘れて欲しくないって言ってんじゃない。ずっと自分を見てて欲しいんでしょ? どうして、そうしないの?」

 

 

 

(…クス。ねえ、ファム。このまま、私が消えてあげるから、貴女に最後に伝言をお願いしていいかな?)

 

 

 

「何かしら?」

 

 

 

 微笑む幻は、ファムに静かに告げた。

 

 

 

(泣かないでねってーー。泣き虫な貴方は、もう居ないみたいだから。だから、泣かないでってーー言ってね?)

 

 

 

「…自分で言ってあげたら?」

 

 

 

(ゴメンね。私、弱いから。だから、無理なの。キラは優しいから)

 

 

 

「…バカな女」

 

 

 

 冷たい声で告げると幻は寂しげに笑った。

 

 

 

(そうね。でも、消えてまでキラに嫌われたくないの。消える時くらい、綺麗なあたしで居たいの)

 

 

 

 ファムは静かに冷たく、邪悪に笑う。

 

 

 

「ふふ、良いわよ。その浅はかで弱いから逃げる所。私は好きだったわ、フレイ。だから、貴女が消えることを選ぶなら見送ってあげるわ」

 

 

 

(貴女に、そんなこと言われるなんて思わなかったわ。ファム、貴女も自分の未来を選んでねーー)

 

 

 

 それだけを告げて、フレイの気配が胸の中から消えていく。

 

 

 

 彼女は最後まで、キラ・ヤマトの前に現れることはしなかった。

 

 

 

「バカね、フレイ。私の望む未来は人類の管理のみよ」

 

 

 

 そのファムの言葉に幻は返すことはなかった。

 

 

 

 ファムの姿が変化し、桃色の髪の少女になる。

 

 

 

「さあ、フィナーレですわ。皆様方の最後の健闘をお祈りします」

 

 

 

 切実な願いを込めて。

 

 

 

 ラクス・クラインを象るファム・ファタールはその時を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 押し合う炎と光。

 

 

 

 願いと意地がぶつかり合う。

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 3機の黄金のガンダムに迫る強大な光。

 

 

 

「!? これは、戦略級兵器!? レクイエムじゃない!?」

 

 

 

「ジェネシスか!? ダメだ、間に合わない!!」

 

 

 

 キラとアスランが叫ぶ中、自身に脇から迫る強大な光にウルベは怒りを燃やした。

 

 

 

「邪魔をするなぁあああ!!!」

 

 

 

 空間転移を使い、ウルベはダブルゴッドフィンガーから逃れると迫り来るビームに正面から向かい合う。

 

 

 

「ヴァニシング・ホール!!!」

 

 

 

 目の前に強大な次元の穴を作る。

 

 

 

 虚数の彼方へと誘う虚無の空間を。

 

 

 

 まともにぶつかり合う光とブラックホール。

 

 

 

「ドモン・カッシュに。ゴッドガンダムにできて、私とヴァニシングガンダムができないわけが無い!! 消えて失せろぉおおおおおっ!!!」

 

 

 

 光の大きさが余りに強大な為、ヴァニシングガンダムの力をフル稼働して穴を広げる。

 

 

 

 宇宙空間に現れた極々小規模のブラックホール。

 

 

 

 それは見事にガンマ線の塊であるジェネシスを飲み込んだ。

 

 

 

「…ウルベ。なぜだ?」

 

 

 

「どうして、僕たちを助けたんだ?」

 

 

 

 アスランとキラは自分が助かった喜びよりも、助けられた驚きに目を見開いていた。

 

 

 

 だがウルベのヴァニシングガンダムは、文字どおり力尽きたように黄金の気を消して。

 

 

 

 動きを止め、自らが作り上げたブラックホールに吸い込まれていく。

 

 

 

「ウルベ!!」

 

 

 

「お、おい、キラ!!」

 

 

 

 咄嗟に無抵抗に飲み込まれていくヴァニシングガンダムの手を掴み、フリーダムが引っ張る。

 

 

 

 ジャスティスが、そのフリーダムの手を掴んで更にブラックホールから引き離そうとする。

 

 

 

 それをウルベはボンヤリと見上げた。

 

 

 

「ウルベさん、しっかりしてください!!」

 

 

 

「おい、ウルベ!! このままじゃ、お前も落ちるぞ!! 早く穴を消すか、自力で動いてくれ!!」

 

 

 

 キラとアスランの必死の声もウルベには聞こえていないようだ。

 

 

 

 ただ、ウルベには見えていた。

 

 

 

 見たくもない、あの時の子どもが。

 

 

 

 自分の腕を掴み、必死にご機嫌取りに来ているのを。

 

 

 

「父さん! 僕も母さんも父さんが大好きだよ!! 行かないでよ、父さん!!!」

 

 

 

 必死に泣いていた少年。

 

 

 

 声を殺して泣いていた妻だった女。

 

 

 

 自分はーー裏切られたのではない。

 

 

 

 裏切ったのはーーーー。

 

 

 

「嘘だ…!」

 

 

 

 その声にキラが目を見開く。

 

 

 

「ウルベさん!!」

 

 

 

「気がついたか!?」

 

 

 

 だが、彼の目は別の者を見るかのように見開かれ、やがて睨み付けて叫んだ。

 

 

 

「嘘だぁあああああああああっ!!!」

 

 

 

 少年の腕をあの時と同じように払い、ヴァニシングガンダムは己の作り出したブラックホールに消えていった。

 

 

 

「! そ、そんな!!」

 

 

 

「なんて、バカなことを!!」

 

 

 

 キラとアスランには、その光景を見送るしかできない。

 

 

 

 力を放った主であるウルベを飲み込んだからか。

 

 

 

 ブラックホールは急激に小さくなり消えていった。

 

 

 

「どうして、分かり合えないんだ。どうして…!」

 

 

 

 キラは無念そうに拳を握り、コンソールパネルに殴りつけた。

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね〜!

 次々と落ちていくDG細胞に侵された両軍の兵士達。

 ゼウスの名を冠するガンダム達が、フィルム・ノワールの仮面を被る男と戦う乱戦の中、運命の翼が降り立つのです! 

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第94話に!

 レディー、ゴー!!


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第94話 因果は報い応じる

 みなさん。

 ついにウルベが、ジブリールが。

 巨悪の権化が次々とキラ達によって倒されていきます。

 しかし、悪はまだ全て滅んではいないのです。

 はたしてシンのデスティニーガンダムは、名のとおり運命を変えることができるのか!?

 それでは、ガンダムファイト!!

 レディイイイ、ゴォォォオオオ!!




 

 ブラックホールに飲み込まれていったヴァニシングガンダムとウルベを呆然と見送って固まっていたキラとアスラン。

 

 

 

 そんな二人に小気味良い拍手が通信を介して届いた。

 

 

 

「お見事でしたわ。未来世紀における怪物。あのウルベ・イシカワを二人だけで倒すなんて」

 

 

 

「…君は。そうか、その姿はラクスの。じゃあ、フレイはもう?」

 

 

 

 キラが気落ちした顔のまま、ファムに向き直る。

 

 

 

 その何もかもを理解しているような表情にファムが少しだけ驚きの顔になる。

 

 

 

「…どうして分かったの? 私の中にフレイ・アルスターがいるって」

 

 

 

「分かるさ…っ! 彼女は僕の…っ!!」

 

 

 

 悲痛な顔になるキラにファムがラクスは顔で、声で告げた。

 

 

 

「キラ・ヤマト。貴方、ラクス・クラインの恋人じゃないの? 貴方が欲しいのはフレイ・アルスター? それともラクス・クライン?」

 

 

 

 問いかけにキラは静かな表情で告げる。

 

 

 

「…両方だ。僕には選べない。どちらも大切な人だから」

 

 

 

「へぇ? 私を前に良く言えたわね?」

 

 

 

 嗜虐的な笑みを浮かべるラクスの顔をしたファム・ファタール。

 

 

 

「君がラクスだったとしても、フレイだったとしても。僕は同じだ。今の僕の気持ちは、どちらも好きなんだ。だけど…」

 

 

 

「消去法ね。フレイは消えてラクスは残った。だから、貴方はラクスを自動的に選べる訳だ。フフフ、フレイの言ってた意味がようやく分かった」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

「フレイは自分は弱くて、貴方が優しいと言ってたわ。だから会えないと。泣いて欲しくないから、汚い自分を見せたくないから、ってね?」

 

 

 

 ファムの言葉にキラが目を見開く。

 

 

 

「キラ・ヤマト。貴方に会えば、あの子はこの仮初めの体を使ってでも生きたがったでしょうね。だから、彼女は貴方に会わなかった。貴方が自分を受け入れてくれることを知っているから。自分もそれを望んでしまうから」

 

 

 

「どうしてだ!? どうして、フレイは!? 僕は…!」

 

 

 

「貴方が好きだからよ、キラ」

 

 

 

「……僕は傷付けただけだ」

 

 

 

「そう。それが貴方の中の真実なのね。でもあの子は、そう思ってなかった。キラ・ヤマト、貴方は優しいけれど残酷な男ね」

 

 

 

 そのファムの言葉にキラが縋るように目を向ける。

 

 

 

「貴方が望めばフレイはDG細胞で作られた、この体で生きて行くことになるわ。限りなく生身に近付けた肉体。だけど、所詮は仮初めの体。老いはしない。髪の長さや色、顔の形や体型に身長も思いのままに変えられる」

 

 

 

「……何が言いたい」

 

 

 

「貴方はフレイに化け物として生きろって言うのね、キラ?」

 

 

 

 その言葉にキラは真正面から向き合う。

 

 

 

 そして、告げた。

 

 

 

「…生きてさえいれば、希望はある! フレイを生身に戻すことも。諦めさえしなければ出来る!! ドモンさんやキョウジさん。シュバルツさんやマスターアジアみたいに、想いを貫けば。叶うまでやり続ければいい!! 寿命が足りないなら、僕は喜んでDG細胞に感染する!! そして、必ず彼女を生身に戻す!!!」

 

 

 

 覚悟だった。

 

 

 

 己の身を変えてでも。

 

 

 

 全てを捨てても、キラはフレイを生身に戻すだろう。

 

 

 

 だが、ファム・ファタールは穏やかに首を横に振る。

 

 

 

「バカね。それこそが、フレイが最も恐れたことよ。そして望んでもいた。キラ、貴方がフレイを望むようにフレイも貴方を望んでいた。許嫁だったサイ・アーガイルへの想いは好意。だけど、キラ・ヤマトへの想いはーー」

 

 

 

 ファムは囁く。

 

 

 

 甘い毒のように。

 

 

 

 キラの胸に染み渡り、彼の動きを止めて行く。

 

 

 

「愛憎だった。妄執だった。あの子なりの精一杯の愛し方。おままごとしか知らない稚拙な愛し方。だから、素直になればあの子は言いなり。自分を嫌いになっていくでしょうね。貴方に頼るしかない自分が嫌いだった。でも、今貴方に受け入れてもらえたら。先のような事をしてもらえたら」

 

 

 

 ファムは笑う。

 

 

 

 花が咲くように可憐に。

 

 

 

「フレイは自分を許せないでしょうね。自分を愛してくれたが為に化け物になってしまった貴方を見て。幸せを感じる自分を許せないでしょう。憎むでしょう、懺悔するでしょう。それは生身に戻っても変わらない。一生の話。だって貴方は最初から許してるものね、キラ」

 

 

 

「分からない。君は、何が言いたい?」

 

 

 

「そう。分からなくていいのよ、キラ。つまらない感傷だもの。それに既に消えた女の話。もう、戻りはしない」

 

 

 

 静かにファム・ファタールは中破していたデスクイーンを立たせる。

 

 

 

 機体を見下ろし、自己再生が済んでいる事を確認した上でバーニアをふかして飛翔する。

 

 

 

「…一応、聞いておく。お前は俺たちの敵か?」

 

 

 

「その質問はナンセンスだわ、アスラン・ザラ。私はファム・ファタール。あなた方にとって運命の女よ。あなた方にとって、敵というのは何を指すのかしら? デュランダルは人間の抹殺や支配を望んではいない。こちらから敵対する意思も無いのにーー」

 

 

 

「ふざけるな! その理想で何人死んだ!? 今もだ!! 今も多くの兵士が命を落としてる!!」

 

 

 

「管理するには、数は少ない方がいいわ。間引かなければ雑草はただ不規則に生い茂る。管理されなければ人は滅びるだけ」

 

 

 

「人間を何だと思っている!?」

 

 

 

「自分の巣を汚す愚かな鳥。力を少し持つと振るわずにはいられない獣以下の生命体。力を振るうにしても、お利口な理由をつけるか、そうでないかだけ。コーディネーターとナチュラルの戦争は政治や外交手段でさえない、ただの同族嫌悪」

 

 

 

 ファムの気配にキラは覚えがある。

 

 

 

 不吉な気配だ。

 

 

 

 自分は、コレを知っている。

 

 

 

「気づいたの、キラ? そう、私はラウ・ル・クルーゼと同じく世界に希望を持たないもの。ギルバート・デュランダルの理想の為だけに生み出された存在」

 

 

 

「さっきのジェネシスも、君の指示なのか?」

 

 

 

「アレはついでね。私を失っても代わりは、データがあればDG細胞で幾らでも作れるもの。アルザッヘルの施設を破壊して、あわよくばウルベを倒し。一気に戦局を傾けるつもり、だったみたいだけど。すでに基地はスクラップ同然。悪趣味なDG細胞のゾンビ兵士とデスアーミーシリーズが飛び立った後とはね」

 

 

 

 肩をすくめるファムにキラが睨みつける。

 

 

 

「そうやって多くの犠牲を払った上で、遺伝子による支配を行うと?」

 

 

 

「そ! DG兵士とゾンビ兵の争いは凄惨なものよ。映像を世界に出して。コレを繰り返したいのか、と人類に問いかけるわ。もちろん、DG細胞の件は内緒よ」

 

 

 

 可愛らしく微笑みながら、ウインクする様は無邪気な天使のようだった。

 

 

 

「そうか。なら、僕は君を倒す!! これ以上、世界を君たちの好きにはさせない!!」

 

 

 

「俺もだ。ファム・ファタール! 悪いがお前はここで倒させてもらうぞ!!」

 

 

 

 これにファムは静かに微笑みながら、デスクイーンの光の翼ーーヴォワチュールルミエールを展開する。

 

 

 

「ついて来なさい。あなた方の墓場までね」

 

 

 

 そう言って光を纏い、光速で移動するデスクイーン。

 

 

 

 コレにアスランとキラが互いに頷きながら、一気に加速して追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザフト移動要塞メサイア。

 

 

 

 他のDG細胞に感染させた施設と同様。

 

 

 

 此処も無人のまま、デュランダルの指示で動く自動防衛要塞と化していた。

 

 

 

「…なんと凄惨な戦場だ。だが、この犠牲を得たからこそ。より良き個体が生まれるのだろう。彼らの血肉の全てをまとめ上げた究極のガンダムが。人は遺伝子により管理され、そのシステムを未来永劫に保たねばならない」

 

 

 

 たとえ全ての人間にデスティニープランを立ち上げ、その正しさを示しても、人は変わらない。

 

 

 

 進んでデスティニープランに賛同する者は居るだろう。

 

 

 

 しかし、全てではない。

 

 

 

 その相容れぬ分子を抑える力がいる。

 

 

 

 そして、それを抑えても更に先に、新たな問題が起こるであろうとデュランダルは考えた。

 

 

 

 ならば、朽ちぬ者がいる。

 

 

 

 不変にしてシステムを精査する者がいる。

 

 

 

 それは人類ではなく、更に上位の存在でなければならない。

 

 

 

 そう。

 

 

 

 DG細胞により生み出された最初から人ではない存在。

 

 

 

 それがデビルガンダムことDであり。

 

 

 

 最初デュランダルは、彼を王にしようと考えた。

 

 

 

 しかし、ミーア・キャンベルとの日々の語らいやドモンとのやり取りで確信する。

 

 

 

 Dは自ら、人間に近づこうとしていた、と。

 

 

 

 これではダメだ。

 

 

 

 人間を管理する者が、人に近い考えでは意味がない。

 

 

 

 人の思考を理解し、しかし共感せずに与えられたプログラムを遂行する存在が必要だった。

 

 

 

 Dの肉体を作り上げたノウハウで、プロヴィデンスガンダムの残骸から作り出す。

 

 

 

 自分の協力者になるであろう男ーーラウ・ル・クルーゼの復活。

 

 

 

 そして彼に問う。

 

 

 

 如何なる存在が、運命の女神に相応しいかを。

 

 

 

「君はラクス・クラインを考えているのだろ? ならば人の弱さを学ばせるのに打ってつけの存在がある。私が殺した少女だが、残骸から作り上げられるのだろう?」

 

 

 

「よろしく頼むよ、ラウ。ところで、その少女は何者なんだい?」

 

 

 

「…フレイ・アルスター。キラ・ヤマトの想い人だ」

 

 

 

 クルーゼの言葉にデュランダルは笑う。

 

 

 

 それはいい、と。

 

 

 

 回想を止め、目の前に広がる戦場を見据える。

 

 

 

「魔王は死に。ガンダムファイターとラクス・クラインは行方不明か。この状態でケリをつけたいものだな」

 

 

 

 笑いながら、メサイアにある情報が流れてくる。

 

 

 

「ファムからのメッセージか。…ジブリールが死んだか。予定通り、アルザッヘルに放ったジェネシスはウルベに消された。そのウルベも自らの力で自滅した、か。現在、こちらに向かってキラ・ヤマトとアスラン・ザラを連れて来ている…。ふふ、魔のチェス盤を使うとしよう。デビルズ・サンクチュアリの準備をね」

 

 

 

 ゆったりと椅子に腰かけ、デュランダルは待つ。

 

 

 

 運命の歯車が回りだす時を。

 

 

 

「…なるほど。そうやって、自分が舵を取る自信が無い為に機械人形に全てを託そうとする、ですか。お粗末な話ですね」

 

 

 

 背後からかけられた肉声にデュランダルは親しげな笑みを浮かべて告げた。

 

 

 

「ようこそ、未来世紀のかつての支配者。ウォン・ユンファ殿。歓迎しますよ」

 

 

 

「…これはご丁寧にどうも。単刀直入に言いましょう、今すぐに私に貴方の持つDG細胞のコアを渡しなさい。私が貴方の育てた人形達を有効利用してあげましょう。この世界を支配してね」

 

 

 

 笑いながら告げるウォンにデュランダルも笑みを返す。

 

 

 

「申し訳ないが、貴方では役者不足だ。世界は支配者を求めてはいない。支配者や独裁者が居たから、多くの人が犠牲になっていった。人間の欲を持ち、基本が人間である貴方や私は、人の上に立ってはならない。人に余計な執着や感情を持たない存在こそが、今必要なのだよ」

 

 

 

「ククク、笑わせますね。己の力不足と自信の無さ、失敗を恐れ、責任逃れをする臆病さを言い換え、自分の作った人形に管理させる、とは」

 

 

 

「…君に説明したところで理解できないだろうね。私は心から世界に平和が欲しいのだよ」

 

 

 

 デュランダルは穏やかな笑顔でウォンに告げる。

 

 

 

「…誰もが幸せになれば良い。争いをせずに、裏切られることなく。互いに互いの存在を脅かすことなく、だ。知恵があり、理性がありながら。欲望という邪なものがあるから、人は滅びるのだよ」

 

 

 

 静かに告げるデュランダルにウォンがサングラスをかけなおして告げる。

 

 

 

「言い換えましょう。滑稽が過ぎて哀れだ」

 

 

 

「…何?」

 

 

 

「デュランダルよ、あなたは否定しましたが。人の欲望こそが力なのですよ。人から欲望を取れば、何も残りはしない。理性も本能も知恵もね」

 

 

 

 哀れみを浮かべて、口元には嘲笑を貼り付けて。

 

 

 

 ウォンは告げた。

 

 

 

「綺麗事しか言わない。いや、見えていない貴方には理解できないでしょうか? 動物はね、欲望があるから進化するのですよ。欲の無い存在は、ただ生きているだけの人形です。自意識。理性、知性。これらの全ては本能であり欲があるからこそ生まれた。根源をはき違えている」

 

 

 

 目を見開くデュランダルにウォンは告げる。

 

 

 

「貴方は、自分の理解の範疇が及ぶ者としか付き合わない人間でしょう? 頭の中で全てを予測し行動し、計算する。相手を理解したがり、支配したがる。当ててあげましょうか? 貴方がこんなご大層なデスティニープランを立ち上げたきっかけを。身近な者が自分よりも誰かを選んで去った。もしくは唯一、本心を語れる相手が離れた。そんな所じゃありませんか?」

 

 

 

 ウォンは笑う。

 

 

 

 冷酷に吊りあげる口元。

 

 

 

「綺麗事を述べたがる人間は、大抵おのれの醜さから目を背けるもの。デュランダルよ、遺伝子だの人形に頼るのも自分の醜い欲望から目を背けたいだけ。お利口な言葉をいくら並べても、結局貴方の本質は、都合の悪いことに蓋をし、思い通りにならないからと癇癪を上げる赤ん坊だ」

 

 

 

 デュランダルの唇は真一文字に結ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 ハイネ・ヴェステンフルスは、肩で息をしていた。

 

 

 

 溢れ出るエナジーに、理性のタガが緩んでいる。

 

 

 

 自我は消え、ハイネの姿をしただけの生ける人形になりつつある。

 

 

 

「…嫌だ。俺が、なくなる…!!」

 

 

 

 涙を流しながら、反射的に迫り来る敵を切り捨てる。

 

 

 

 そして、更に吸収され溢れるエナジー。

 

 

 

「…た、助けてくれ。誰か……っ!」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 赤紫の光の翼を広げたトリコロールのガンダムが目の前に現れたのだ。

 

 

 

「救難信号を送っていたのは、アンタか? どうした?」

 

 

 

 パイロットは黒髪に燃えるような赤い瞳の少年。

 

 

 

「助けてくれ。力が溢れる。俺が俺じゃなくなる。MSが、勝手に敵を殺して、奪っていくんだーー」

 

 

 

「DG細胞か。待ってろ! その機体から引きずり出してやる!!」

 

 

 

 言うと少年ーーシン・アスカはデスティニーガンダムの翼を広げて、一気にデスナイトの懐に入り込む。

 

 

 

 右手を広げ、青白い光を放ちながら胴体に突き出した。

 

 

 

「はぁあああっ!!」

 

 

 

 気により制御されたビームは、見事に機体の外側を破壊し、コクピットをマニュピレーターが握りしめる。

 

 

 

 デスナイトは、生体コアを抜かれまいと右に持ったテンペストソードをつき出そうとして。

 

 

 

「機体は邪魔だ! 失せろ、ガンダム擬き!!」

 

 

 

 左の足底で顎を蹴り上げられ、右の回し蹴りで後方へ吹き飛ばされた。

 

 

 

 右手にオレンジ色のノーマルスーツを着た男がいる。

 

 

 

「…つっても。この状況じゃワクチンも打てねえし。そもそも、このパイロットを回収する船がーー」

 

 

 

 そう言いかけたところで、通信が入ってきた。

 

 

 

「シン! 聞こえているか!?」

 

 

 

「その声、レイか!?」

 

 

 

 通信を開くとモニターに金髪の美少年がいる。

 

 

 

「パイロットを回収したのは、見た。こちらの船から輸送艇を出す。そこにワクチンも入れてある、彼に打ったらガンダムに乗れ。時間が無い!」

 

 

 

 見れば砂漠の虎が使用していた陸用の戦艦レセップスを宇宙用に改修した船がある。

 

 

 

 シンは静かにレイを見据えた。

 

 

 

「…聞きたいこと、言いたいこと、ぶん殴ってやりたいこと、一杯あるけどさ。今は全部後回しだ。それでいいんだろ!?」

 

 

 

 シンの言葉にレイは苦笑を浮かべながら言った。

 

 

 

「…すまん。シン」

 

 

 

「ったく。早く、輸送艇を!!」

 

 

 

「ああ。ミケロ、頼めるか?」

 

 

 

 レイの言葉に赤髪の派手なファイター、ミケロがボタンを押す。

 

 

 

「オラよ」

 

 

 

 輸送艇が宇宙に発進したのを確認したシンは一度MSのコクピットから出るとハイネを担ぎ、輸送艇に乗り込む。

 

 

 

 席にハイネを着かせるとテーブルにある注射器を取り、腕に刺してワクチンを投入した。

 

 

 

「…う、うう」

 

 

 

 ハイネは呻き声を上げながら、意識を失う。

 

 

 

 左腕に鱗状に浸透していた銀色の六角形の金属片が、徐々に分解されていくのが確認できた。

 

 

 

「…これでヨシ、と」

 

 

 

 プラントの非戦闘区画に行き先を設定し、輸送艇をリモートで5分後に出発させる。

 

 

 

 そのまま、シンはデスティニーのコクピットに乗り移った。

 

 

 

「…なるほどな。確かに時間はねえな」

 

 

 

 乗り込むと同時に鋭敏な感覚は、敵の位置を捕捉する。

 

 

 

 モニターに映せば、デスナイトとレジェンドを足して割った様な機体ーーデスビショップが、ドラグーンシステムを展開して、凶暴な三体のガンダムを相手に鬩ぎあっていた。

 

 

 

「ゼウスガンダムにジェスターガンダム、コブラガンダムもか! MF3機を同時に一人で相手にできるなんて、何もんだ!?」

 

 

 

 驚くシンのデスティニーの左横にレイのレジェンドとミケロのネロスガンダムが来る。

 

 

 

「…ラウ・ル・クルーゼ。彼の相手は俺がする。ミケロ、他の3機を頼めるか?」

 

 

 

「いいのか? ここでチンタラしてたら、デュランダルって野郎がやられるかもしれねえぞ?」

 

 

 

「…彼も、俺にとって掛け替え無い人なんだ。頼む」

 

 

 

 真剣なレイの頼みにミケロは、居心地悪そうに舌打ちすると、シンに告げた。

 

 

 

「…ちっ。おい、派手な羽のガンダム!」

 

 

 

「なんだよ、トサカ野郎!」

 

 

 

「威勢がいいじゃねえか! デュランダルは、この先に気配を感じる! 譲ってやっから、さっさと行け!!!」

 

 

 

 ミケロの言葉にシンが腹立ち半分に言う。

 

 

 

「敵に指図すんなよ、トサカ野郎! …レイを頼む」

 

 

 

 言うと一気にクルーゼとゼウスガンダム達の間に突っ込む。

 

 

 

「…! デスティニーガンダム!?」

 

 

 

 戦っていたクルーゼが仮面の奥の瞳を見開く。

 

 

 

 ゼウスガンダムとコブラガンダムが反応した。

 

 

 

「新手か! オーブとか言う国で会ったな、小僧!!」

 

 

 

「あらぁ、可愛いお嬢ちゃん達はどうしたのぉ、坊や!」

 

 

 

 マーキロットとシジーマの叫びを聞き流し、肩のビームブレードに手をやる。

 

 

 

 ゼウスガンダムはハンマーを。

 

 

 

 コブラガンダムは片手のビーム槍を抜き放つ。

 

 

 

 すれ違う3機のガンダム。

 

 

 

「…なんだと!?」

 

 

 

「今の動き、何なのよ」

 

 

 

 驚愕に目を見開きながら、肩や腕を切り捨てられるゼウスガンダムとコブラガンダム。

 

 

 

 そのまま、デスティニーは光の翼を広げて一気に加速する。

 

 

 

 その背を狙い撃とうとロマリオのバルーンビットが浮かぶも。

 

 

 

「必殺ぁつ! 虹色の脚ぃいいいっ!!」

 

 

 

 ネロスガンダムから放たれた七色の気弾が、全てのバルーンを撃ち落とした。

 

 

 

「どういうつもりだ、ミケロ? 貴様、まさか。あんなガキ共の味方するってんじゃねえだろうな?」

 

 

 

「本当なの? 散々悪党の限りを尽くした貴方が? 今更、正義に目覚めてあたし達を攻撃するってわけ?」

 

 

 

「ミスター・チャリオット。どうか、其処をお退きください。わたくし達と来られた方が楽しいですよ?」

 

 

 

 3人からの言葉にミケロは嫌悪感丸出しで告げた。

 

 

 

「笑わせんな! 死に損ないな上に自我までDG細胞に取り込まれやがって!! 情けねえ。それでもガンダムファイターか、てめえら!!!」

 

 

 

 ミケロの言葉に3人は笑みを返す。

 

 

 

「「「我々は、力を得た。意思を得た。もはや、我々が人間に屈する道理なし」」」

 

 

 

「吐かせ、阿呆が」

 

 

 

「「「何故我々と来ない、ミケロ?」」」

 

 

 

「てめえらの様なカスと一緒になれだと? 笑わせんなよ、雑魚どもがぁあ!!」

 

 

 

 一気に気が爆発し、ネロスガンダムとミケロの全身を白い光が覆う。

 

 

 

「かかって来いよ、マーキロット! 冥土の土産だ。てめえらと俺様の格の違いを見せてやらぁ!!」

 

 

 

 これを静かに見据え、デスティニーガンダムを見送り。

 

 

 

 クルーゼは自分に相対する、この機体の前身・プロヴィデンスによく似たガンダムを見据える。

 

 

 

「来たか、レイ。君は私にはなり得ない。その答えは見つかったかね?」

 

 

 

「…俺には、仲間がいる」

 

 

 

 静かに告げるレイにクルーゼは弟子を見守る師のようにあるいは、子を見守る親のような慈愛に満ちた笑顔で告げた。

 

 

 

「…聞かせてくれ、レイ。君の歩んだ道を、この戦いで見せてくれ」

 

 

 

「…ラウ。どうしても、やるの?」

 

 

 

「ああ。頼むよ、レイ」

 

 

 

「…分かった」

 

 

 

 短いやり取りの後、ついにレイが明鏡止水の境地に至る。

 

 

 

 黄金の気を纏い、金色に燃えるレジェンドガンダム。

 

 

 

「…ラウ。初めから全力でいくよ」

 

 

 

「結構。散々、雑魚の力を食らってよかった。これはいい勝負になりそうだよ」

 

 

 

 両手を広げ、打ち込んで来いとデスビショップ。

 

 

 

 ラウ・ル・クルーゼは告げる。

 

 

 

 瞬間、黄金の気が弾き、目の前にレジェンドガンダムが現れた。

 

 

 

「これは、これは…!」

 

 

 

 ビームソードを抜いて斬りつけるレジェンドに対し、ビショップが左に仕込んだ盾の先からビームソードを具現させ、切り結ぶ。

 

 

 

「…素晴らしい腕だ。迷いなく、前に進む。綺麗だよ、レイ」

 

 

 

「…貴方が、俺を育ててくれたからだ。だから、出会えた。掛け替えのない、人達に」

 

 

 

「…そうか。その言葉に救われたよ、レイ」

 

 

 

 剣を互いに弾き、距離を置いて構え合う。

 

 

 

 同じ男のクローンとして生み出された二人の人間の。

 

 

 

 最後の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね〜!

 ついにぶつかり合うレイとラウ。

 悲しい覚悟を決めたラウの言葉にレイの心は揺らぎます。

 一方、デビルガンダムとドモン・カッシュの方はついに。

 新たなカッシュの男が、生誕しようとしているではありませんかぁ!!

 次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 第95話に。

 レディー、ゴー!!


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第95話 託されるもの紡がれる命

 みなさん。

 メサイアに居座るデュランダルの下に現れたウォン。

 そこに向かうファム・ファタールとキラ・ヤマト、アスラン・ザラ。

 そして道をレイとミケロによって開かれたシン・アスカ。

 次々と最終対決に向けて役者が揃おうとしています。

 そして。

 傲慢な男によって作り出された悲しい命の二人。

 彼らの決着も、今回のお話で着こうとしています。

 はたして蘇ったラウ・ル・クルーゼの目的は?

 それでは、ガンダムファイト!!
 
 レディイイイイ、ゴォオオオオオオッ!!!




 

 ドモン・カッシュはデビルガンダムのコクピットで精神を統一していた。

 

 

 

 気を高め、己の中に眠る力を呼び覚ます。

 

 

 

 その時、彼の右手の紋章が輝き始めた。

 

 

 

「……! 時間か。もう少しだけ持ってくれ。俺の力を気を全てを……この男に託す」

 

 

 

 ドモンの声にこたえるように輝いていたキング・オブ・ハートの光が収まっていく。

 

 

 

 時間はもうない。

 

 

 

 もう少しすれば、自分は元の世界に強制的に転移させられるだろう。

 

 

 

 あくまでドモンがこちらに来たのはテストだからだ。

 

 

 

 通路が繋がったのは向こうでも確認できているはずだが、状況を詳しく解説するには一旦帰還しなければならない。

 

 

 

 向こうから出発するとき10日の約束を付けられていた。

 

 

 

 期日は既に過ぎていたのだ。

 

 

 

 一向に帰る気配のないドモンに向こうの世界の者が強制的に帰還させようとしているのだろう。

 

 

 

「…貴様も女に弱いな、ドモン」

 

 

 

「ああ。カッシュ家の男の性だ」

 

 

 

 コクピット内に響く己と同じ声にドモンは笑いかけた。

 

 

 

 外ではようやく騒ぎが収まって来ているようだが、正直それを待っている暇はない。

 

 

 

 ドモンの意図を正しく理解したデビルガンダムは静かになる。

 

 

 

「デビルガンダムよ。人間の肉体を得るのだから、お前には名前が必要だ」

 

 

 

「……Dで構わん」

 

 

 

「カッシュ家に入るんだから、要る。俺が付けても構わないなら、それを名乗ってくれないか?」

 

 

 

 ドモンからの提案にデビルガンダムのコアーーDは訝し気な声をコクピットに響かせる。

 

 

 

「何と名乗る?」

 

 

 

「ダインーー。力の単位を図る言葉だが、本はギリシャ語で『力』を意味する名だ。ネオジャパン風に記載するなら『陀院』となる。本当は生まれてくる子の為に考えていた名前だが、お前になら構わん」

 

 

 

 ドモンは静かに明鏡止水を発動させて、黄金の気を纏ったまま瞳を開き真っ直ぐにデビルガンダムに語り掛ける。

 

 

 

 ちなみにドモンは告げていないが「陀院」の方にも意味がある。

 

 

 

 陀は仏、院は住居を意味する。

 

 

 

 心に「仏=神」を宿す者と言う名である。

 

 

 

「Dよ、お前は今日からこの俺! ドモン・カッシュの弟ーーダイン・カッシュを名乗れ!!」

 

 

 

 ドモンの言葉をデビルガンダムのコアは心の中で繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高速で移動する黄金の光と青白い光。

 

 

 

 どちらも宇宙空間に軌跡を描きながらぶつかり合っている。

 

 

 

 両者が交錯するたびに桃色の斬撃が飛び散り、火花を散らしている。

 

 

 

 共に同じ男の細胞から作られた。

 

 

 

 共に男の身勝手な欲望に振り回された祝福されぬ命。

 

 

 

 否ーー、機械のように交換することを望まれた命と言うべきか。

 

 

 

 金で命を買えるという傲慢な男。

 

 

 

 しかし、その男は能力だけは高かった。

 

 

 

 他の追随を許さず、誰もその男の間違いを指摘できない。

 

 

 

 人格を破綻していようとも、男は正しい。

 

 

 

 その男は「勘」という己の能力だけで築き上げた。

 

 

 

 金と言う権力の象徴を持っていた。

 

 

 

 そんな男の細胞から作られたものは決して男には勝てなかった。

 

 

 

 否、男の求める能力には達せられなかったというべきか。

 

 

 

 それが彼にとってどれ程の絶望を与えたのか。

 

 

 

 息子もクローンも、全て自分の道具に過ぎない。

 

 

 

 その程度の考えしかなかった男。

 

 

 

 そんな男の遺伝子を持った二人のクローンは言い換えれば。

 

 

 

 男に比べてまとも過ぎたのだ。

 

 

 

 男の狂気、傲慢、執着が彼らには受け継がれなかった。

 

 

 

 だから、ラウ・ル・クルーゼは絶望した。

 

 

 

 レイ・ザ・バレルは、そんな彼の絶望を彼の人生を傍で見てきた。

 

 

 

 そして、それでも。

 

 

 

 彼にとってラウ・ル・クルーゼは憧れだった。

 

 

 

 高速移動からの斬りつけ合い。

 

 

 

 格闘戦を想定して作られていた機体でありながら、急遽すべての距離に対応できるようにと取り付けられたオールレンジ攻撃。

 

 

 

 ドラグーンを使いこなすことができる二人。

 

 

 

 クルーゼとレイの機体。

 

 

 

 斬撃がぶつかり合う度に衝撃が波紋のように広がっていく。

 

 

 

「どうした、レイ? 君の力は、私を打ち倒せない程度なのかね?」

 

 

 

「……負けられない。俺が負けたら、ラウは」

 

 

 

 レイは正しく理解している。

 

 

 

 自分が負ければ、もう一度ラウ・ル・クルーゼは全てを滅ぼそうとする。

 

 

 

 クルーゼ自身の答えーー世界に希望はないーーが正しいとして。

 

 

 

 絶望して。

 

 

 

「負けられないんだーーだから、力を貸してくれ。ガンダム!!」

 

 

 

 二重の意味でレイは負けられない。

 

 

 

 勝たなければならない。

 

 

 

 何故なら、クルーゼが絶望するのは希望を託された自分が負けた時だから。

 

 

 

 その時は、クルーゼは躊躇い無く全てを滅ぼす。

 

 

 

 レイにとって大切なシン、ルナマリア、スティング達にミネルバ隊。

 

 

 

 そしてーー自分を必要だと言ってくれた赤い髪の少女

 

 

 

「ーーメイリン」

 

 

 

 口に出してみれば、レイの心に力が満ち溢れる。

 

 

 

 負けられないと言う想いが溢れてくる。

 

 

 

 守りたいのだ、自分は。

 

 

 

 だから、勝たなければならない。

 

 

 

 是が非でも。

 

 

 

 瞬間、網の目の様に奔るドラグーンが互いに向かって放たれたビームが、全て押し合う。

 

 

 

「ーー! 私とドラグーンの操縦で勝負する気か!!」

 

 

 

「貴方を越えるーー。ラウ、俺は貴方の全てを越えてみせる!!」

 

 

 

 ドラグーンのビーム砲に明鏡止水の境地で気を込める。

 

 

 

 威力は当然、桁違いに上がる。

 

 

 

「機体の稼働力だけではない! ビーム自体の攻撃力も上がるのか!? これが明鏡止水!!」

 

 

 

 ビーム砲は見事にクルーゼのドラグーンを撃ち抜いた。

 

 

 

 だが、クルーゼも流石だった。

 

 

 

 咄嗟に超スピードで空を走るドラグーンの隙間を縫うように移動して捌き切る。

 

 

 

「ドラグーンの威力で俺が勝るなら、貴方は避けるしかできない!」

 

 

 

 そして、移動したデスビショップの背後をレイのレジェンドガンダムが取る。

 

 

 

「その位置にしか逃げられないーー。そのように俺がドラグーンで誘導した」

 

 

 

「ふふ、見事だ。だが、レイ。勝敗はまだついてはいない」

 

 

 

 振り返りながら複合兵装防盾システムから巨大なビームサーベルを発生させる。

 

 

 

 だがーー。

 

 

 

「ラウーー」

 

 

 

 目を鋭く細めながら、レイはビームジャベリンを二本足先から取り出して放った。

 

 

 

 左手側でしか使えないビームサーベル。

 

 

 

 盾としてはあまりに小さすぎるその武装こそが、デスビショップーープロヴィデンスガンダムの弱点だ。

 

 

 

 それを互いに理解した上で、ラウ・ル・クルーゼは素早くジャベリンを切り払う。

 

 

 

 直後に周囲を包囲していたレジェンドガンダムのドラグーンから集中砲火を浴びる。

 

 

 

 それをクルーゼはデスビショップのドラグーンを使ってビーム幕を発生させ、受け止めようとして。

 

 

 

「……フ」

 

 

 

 微笑みを浮かべた。

 

 

 

 そのまま、ビーム幕を貫いてレジェンドガンダムの放ったドラグーンのビーム砲はデスビショップの体躯を射抜く。

 

 

 

 ハチの巣の様にそこいらから穴を空け、火花を散らすMS。

 

 

 

「見事だ、レイ。純粋な勝負で私は君に負けた」

 

 

 

 満足そうな、幸せそうな笑みを浮かべてクルーゼは仮面を取り外す。

 

 

 

 優しい顏だった。

 

 

 

 レイの記憶にあるラウと何ら変わらない美しい顏がそこにあった。

 

 

 

「まだ、戦うのか?」

 

 

 

 体が動かないMS。

 

 

 

 自己再生を始めているが、コクピットをこのまま射抜けば終わる。

 

 

 

 それをレイもクルーゼも分かっている。

 

 

 

 勝敗自体はこれ以上ないほどにハッキリとしているのだ。

 

 

 

「レイ。君は私を越えた。ならば最後に君に私から贈り物をしなければな」

 

 

 

 目を見開くレイをクルーゼは優しく見据える。

 

 

 

 そしてモニター越しに自分の懐から拳銃を取り出した。

 

 

 

「ラウ!! 何を!!?」

 

 

 

 クルーゼは自分の腹に向かって銃を放った。

 

 

 

 瞬く間に赤い血の球が浮かび上がる。

 

 

 

「ラウ…!!!」

 

 

 

 微笑むのを辞めないクルーゼにレイは涙混じりに近づく。

 

 

 

 レジェンドガンダムのコクピットを開けて、デスビショップに乗り込もうとさえする。

 

 

 

 その時ーー。

 

 

 

「甘いな、レイ。勝負は着いても、敵を殺さねば何も終わってはいない」

 

 

 

 デスビショップのドラグーンが動き、レジェンドガンダムを囲む。

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

 レジェンドガンダムが振り返り、見開かれたレイの視線の先に放たれたビーム。

 

 

 

 

 

 

 

 それは、レイを狙って来たジェスターガンダムを見事に撃ち抜いた。

 

 

 

「おのれーー!」

 

 

 

 撃ち抜かれ、怯んだジェスターガンダムの目の前に怒りに震えるミケロのネロスガンダムが現れる。

 

 

 

「…邪魔すんじゃねえよ。テメエら如き、ウジ虫が! 男の覚悟を汚すんじゃねぇえええええ!!」

 

 

 

 強烈な銀色の脚がジェスターガンダムの上半身を蹴り、消し飛ばした。

 

 

 

「ミケロ……。ラウ……っ!」

 

 

 

 それを呆然と振り返ってみた後、クルーゼに向き直る。

 

 

 

 クルーゼは優しい笑みを辞めていない。

 

 

 

 顔色がどれだけ悪くなろうとも、彼は穏やかな声で告げる。

 

 

 

「レイーー。君は生きろ。生きて生きて生き延びてくれーー」

 

 

 

「ラウ!! どうして、どうして自分を撃った!!?」

 

 

 

 微笑むクルーゼは静かに続ける。

 

 

 

「これで君は生き残れる。この銃弾にはDG細胞の自己再生を殺す作用がある。DG細胞から複製して作られた私の遺体ーー破壊分解された私の細胞があれば、テロメアの解析ができるはずだ。キョウジ・カッシュならば必ず君を助けられる」

 

 

 

「ーーーーっ!!?」

 

 

 

「やっと、楽になれるよ。私はね、キラ・ヤマト君に倒されたときに既に答えを得ていたのだ」

 

 

 

 涙混じりにこちらの名を呼ぶレイを無視して、クルーゼは続ける。

 

 

 

「あの時、私は世界に絶望していた。だが、本当は望んでいたのだ。自分が倒されることを」

 

 

 

 キラ・ヤマトのフリーダムにコクピットを貫かれたとき、彼は初めて安堵した。

 

 

 

 その時にクルーゼの憎しみは終わっていたのだ。

 

 

 

 DG細胞によって蘇った彼にとって、役を演じることが無ければ早々に舞台を降りていただろう。

 

 

 

 仮初めの肉体と人生をもう一度与えられたクルーゼの心残りは、レイ・ザ・バレルだった。

 

 

 

「レイーー、私は憎しみに囚われ君のことを忘れた。すべてを憎んで滅びろと思ってしまった。だから、これはやり直しだ」

 

 

 

「ラウ! 開けて!! ここを開けて!!!」

 

 

 

 レイは聞いてなどいない。

 

 

 

 幼子のように泣きながら必死にクルーゼの下へ行こうとデスビショップのコクピット。

 

 

 

 そのハッチを叩いている。

 

 

 

 

 

 

 

 これを少し離れたところから狙うゼウスガンダム。

 

 

 

 そしてコブラガンダム。

 

 

 

「…一人でも多くの力を取り込もう」

 

 

 

「我々の力の為に」

 

 

 

 ネロスガンダムとの戦いに勝てないと悟った彼らDG細胞が取った行動は、出来る限り周りの者を吸収しようとすることだった。

 

 

 

 現に先に倒されたジェスターガンダムは光の塊となってゼウスガンダムに吸収された。

 

 

 

 全てを吸収してから倒されれば、宙域に跳ぶDG細胞に吸収される。

 

 

 

 その個体がまた誰かに吸収され、力は一つにまとめられていく。 

 

 

 

 だが、ミケロがそんな事を許すだろうか?

 

 

 

 かつてのミケロ・チャリオットは己のことを何よりも優先させた。

 

 

 

 弱者を踏みにじるのが大好きな男だった。

 

 

 

 しかし今の彼は

 

 

 

「ウジ虫ども、言わなかったかぁ? レイの邪魔するなってよぉおおおおおっ!!!」

 

 

 

 右脚に全身の気を溜めて、一気に駆ける。

 

 

 

 七色を放ちながら白金色に輝く足先。

 

 

 

 全てを蹴り砕く究極の一撃。 

 

 

 

 ドモン・カッシュをも唸らせた極限の一撃。

 

 

 

 クラウチングスタイルから、ミケロはネロスガンダムを一気に宙に駆けさせる。

 

 

 

「……まずいな」

 

 

 

「ああ。我々を消す力だ」

 

 

 

 淡々と言葉を紡ぐマーキロットとシジ―マ。

 

 

 

 既に自我のあった頃とは口調までも変わっている。

 

 

 

 完全に言葉を発するだけの存在へと変化していた。

 

 

 

 悪あがきだとばかりに二機のガンダムは互いに持った武器を持って無防備なレジェンドガンダムとデスビショップに走る。

 

 

 

「遅せぇええええええっ!! そんな速さで、俺様から逃げられるかぁあああああああっ!!」

 

 

 

 絶叫と共に放たれるのは、ミケロ・チャリオットとその愛機ネロスガンダムの最大にして最強の技。

 

 

 

「必ぃいいい殺ぁあつっ! ハイパァアアーー虹色の脚ぃいいいい!! スペシャァアアアアアアルッ!!!」

 

 

 

 宇宙の闇を切り裂く神々しい白金の光が一筋。

 

 

 

 恒星の如く煌きながら、後ろから二機の邪悪なガンダムを追い抜いていった。

 

 

 

 そのまま宙で停止し、ゼウスガンダム達に振り返りながら右足を掲げてまるで獲物を切った刀の血を払うように一閃する。

 

 

 

 瞬間、ゼウスガンダムとコブラガンダムの胴体が背中から線が引かれて上半身と下半身がずれて、斬り離されて白金色の光の爆発に消えて行く。

 

 

 

 正に消滅である。

 

 

 

「そんな鈍足で俺様から逃げようなんてな! このネロスガンダムの前じゃ、速さが足りねぇんだよっ!!!」

 

 

 

 ミケロの言葉が断末魔すら上げることなく消し飛んだ二機のガンダムへの最後に送られたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 静かにハッチが開けられた。

 

 

 

 必死になってコクピットに乗り込むレイ。

 

 

 

 その先には血まみれになったラウ・ル・クルーゼの姿があった。

 

 

 

「ラウ……っ!!」

 

 

 

「フフフ、そうか。最期は君の腕の中で逝けるか。それだけで、二度目の人生は意味のあるものだった」

 

 

 

「ラウ……! いやだ、ラウ!!」

 

 

 

 首を必死に横に振りながら告げる。

 

 

 

 そんなレイの頬に手を当て、ラウは微笑む。

 

 

 

 きれいな顔に血が付いたことを申し訳なさそうにしながら。

 

 

 

「どうかーー。どうか、君は生きてくれ。君の人生をーー! それが私の最後のワガママだ」

 

 

 

 そう言いながら、ラウは視線をレイの後方に向ける。

 

 

 

 レイが振り返ると、ネロスガンダムの右手にミケロがノーマルスーツを着て立っていた。

 

 

 

「頼んだよ、ガンダムファイターよ」

 

 

 

「……ああ。テメエの命は、こいつが必ず受け継ぐさ」

 

 

 

「そうだな……。レイ、良い仲間に出会えたな」

 

 

 

 ミケロからレイに目を向けるとレイは涙ながらに頷きながらラウの頭を掻き抱く。

 

 

 

「レイ……。血を失くしすぎたようだ、すまんな。其処にーーいるのだろう?」

 

 

 

「いるよっ!! 此処にいる!! 俺は、ラウの傍にずっといるから!!! だから!!!!」

 

 

 

「ああ……私は、幸せだった。レイ……君も、どうか……」

 

 

 

 言葉は途中で途切れ、クルーゼの命はそこで終わった。

 

 

 

 あっけないほどに。

 

 

 

 それを理解して、震える腕でレイは掻き抱く。

 

 

 

「うわぁあああああああああっ!!! ラウゥウウウウウウウウウウウウッ!!!」

 

 

 

 何一つ通らない。

 

 

 

 声すら届かない。

 

 

 

 響かないそんな宇宙の闇の中で。

 

 

 

 美しくも悲しい涙が流れる。

 

 

 

 絶望を背負った男の死を嘆き、涙して。

 

 

 

 ミケロは静かに泣きじゃくるレイをそのままにしておく。

 

 

 

 ただ鋭い瞳で静かに。

 

 

 

 この少年ならば立ち上がる。

 

 

 

 それを分かっているからこそ。

 

 

 

「今は泣けや。でなけりゃ、強くもなれやしねえ…」

 

 

 

 天を見上げてミケロは静かに、レイに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 強烈な力と光が再び、デビルガンダムのコクピット内で起こる。

 

 

 

 それを最後に、ドモンはゆっくりとデビルガンダムから降りた。

 

 

 

 彼の視線の先には桃色の髪の姉妹が立っている。

 

 

 

「ドモンさんーー」

 

 

 

「あ、あのDーーううん。ダインは?」

 

 

 

 ラクスとミーアに向かってドモンは不敵にして力強い笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「すぐに現れるさ。今、デビルガンダムのコクピット内で肉体が生成されはじめている」

 

 

 

 そして彼方の方でぶつかり合う4機のガンダムを見据えた。

 

 

 

「兄さん達の手助けなしで行けるとは思わなかったな」

 

 

 

 苦笑気味に言うドモン。

 

 

 

 その時、右手の輝きが強まった。

 

 

 

 元の世界に強引に引かれている。

 

 

 

 ドモンは静かに二人に向かって言った。

 

 

 

「どうやら、兄さん達や師匠に一端の別れを言うのは無理そうだ。ラクス、10日後に必ず迎えに来るからって言っておいてくれ」

 

 

 

「はい。ですがーーそれが済めばドモンさん達とはもう?」

 

 

 

「……そうなるな。本来交わるはずのない世界同士が、こうして交わっているのは決して良いことじゃない」

 

 

 

 ドモンの言葉にラクスが寂しそうにうなずく。

 

 

 

「そう気落ちするな。生きてさえいれば必ず会えるさ。そう信じろ!」

 

 

 

「……ええ」

 

 

 

 ドモンの励ましにラクスが微笑む。

 

 

 

 次にドモンはこちらを窺うミーアを見据えた。

 

 

 

「ミーア、お前に渡したいものがある」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 そう言ってドモンは懐からキョウジの持っているシャイニングガンダムのガン玉とよく似た色の球を取り出して彼女に手渡す。

 

 

 

「これってーー。ダインのデビルガンダムやドモンさんのゴッドガンダムの」

 

 

 

「そいつはガン玉といって、俺たちの世界のガンダムをアルティメットガンダリウムで変化させたものだ。そのガン玉をお前に預けておく。俺の嫁のものだから預けるだけになっちまうんで、10日後に返してくれ」

 

 

 

「ど、どうしてーー?」

 

 

 

 戸惑うミーアに力強くドモンは微笑んでウインクした。

 

 

 

「持っておけ。たぶん役に立つ」

 

 

 

 意味ありげにデビルガンダムを振り返ってドモンは言う。

 

 

 

 ミーアもその言葉に思うところがあるらしい。

 

 

 

 静かに頷いた。

 

 

 

「……ありがとうございます、ドモンさん」

 

 

 

「フ…、いつかお前に義兄さんと呼ばれる日が来るのかな?」

 

 

 

「ど、ドモンさんったら!!」

 

 

 

「ははははは!」

 

 

 

 顔を真っ赤にするミーアにドモンは屈託のない笑みを浮かべた後、真剣な顔になって告げた。

 

 

 

「異世界の強きファイター達よ。俺はお前たちに出会えたことを心から感謝している。この戦いが終わって平和になったら、必ずまた会おうーー! 友よ!!」

 

 

 

 その言葉にラクスとミーア。

 

 

 

 そしてその後ろに立っていたダコスタやイザーク達も頷く。

 

 

 

「ダイン! お前をレインや父さんたちに紹介できる日を俺は楽しみにしてるぞ!!」

 

 

 

 その言葉にデビルガンダムが微かに首を縦に振った。

 

 

 

 これを確認してドモンは笑うと、最後に大声で告げた。

 

 

 

「キラ! アスラン! シン! ルナマリア! スティング! アウル! ステラ!」

 

 

 

 光に飲まれていくドモンの姿はもはや、人型であることしか判別できない。

 

 

 

「お前たちは強い!! 自信を持て! そして切り開け!! お前たちならできる!! 希望の未来を勝ち取ることが、必ずできる!!!」

 

 

 

 光に飲み込まれ、異空間に消える瞬間にドモンは告げた。

 

 

 

「コズミック・イラのガンダムファイター達よ!! 勝利を掴めと轟き叫べェえええええええええッ!!!!」

 

 

 

 こうして未来世紀最強のファイター、ドモン・カッシュとゴッドガンダムはコズミック・イラを去った。 

 

 

 

 ドモンの力強い咆哮が遥か彼方に居るキラやシン達に届いたであろうことを。

 

 

 

 ラクスは疑っていない。

 

 

 

 その力強い言葉と想いが、彼女たちに勇気の炎を灯す。

 

 

 

「ミーア。貴女は此処に残ってください」

 

 

 

「ラクス様!?」

 

 

 

「ダインさんが無事に復活すれば、それで良いのです。迎えて上げて」

 

 

 

「……はい」

 

 

 

 ラクスはイザークとディアッカを向く。

 

 

 

「来ていただけますか? ジュール隊長、エルスマンさん」

 

 

 

 その言葉に二人はニヤリと不敵に笑って告げた。

 

 

 

「無論! 私の右手は勝利を掴めと轟き叫んでいますから!!」

 

 

 

「おいおい、クールに行こうぜ! 失敗は許されねえんだからよ」

 

 

 

 冗談交じりに告げる二人の間をゆっくりと割って入るようにミリアリアが前に出る。

 

 

 

「そんじゃ、行きましょうか! ラクス!!」

 

 

 

「お、おい! ミリィ!!」

 

 

 

 焦るディアッカを見てミリアリアは半開きの冷めた目をした後、左手で彼の襟首をつかんで自分に引き寄せるとその唇を奪った。

 

 

 

「! ……っ!!?」

 

 

 

 ス……っと自然に拘束を解き、ミリアリアは頬を赤くして告げた。

 

 

 

「私も行くからね!!」

 

 

 

 イザークが彼女の行為に関心したように「ほう」と声を上げ、ラクスが微笑む。

 

 

 

 そしてディアッカは。

 

 

 

「あ、……はい」

 

 

 

 顔を真っ赤にして何も言えなくなっていた。

 

 

 

「くくく、尻に敷かれるのは何処も変わらんな」

 

 

 

 ダイン、ディアッカ、アスラン。

 

 

 

 自分の知る男は皆、女の尻に敷かれる運命にあるのだろうとイザークは他人事のように笑った。

 

 

 

 この時、ダコスタは思わず問いかける。

 

 

 

「ちょっと! ラクス様!! 私は!!?」

 

 

 

「ごめんなさい、ダコスタさんはここで。ミーアと共にキョウジさんやシュバルツさん達を待ってあげてください」

 

 

 

「えええええっ!!?」

 

 

 

「説明をする者が一人は必要でしょうし、ダインさんが目覚める方が早いとミーアが説明できるとは限りませんからね。お願いします」

 

 

 

 にべもないラクスの言葉にダコスタは思わず両肩を落としながら告げる。

 

 

 

「最近、俺は貧乏くじしか引いてない気がするんですが?」

 

 

 

 思わず愚痴るダコスタの両肩をイザークとディアッカが叩く。

 

 

 

「ダコスタ殿、運命と諦めてくれ」

 

 

 

「わりいな、ダコスタさん」

 

 

 

 二人の少年の心遣いが今、身に染みる。

 

 

 

 こうして最終決戦の地へと。

 

 

 

 希望の船ーーエターナルが出発した。

 

 

 

 コーディネーターの歌姫。

 

 

 

 ラクス・クラインを乗せてーー。  

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね~!

 ドモンの去ったコズミック・イラ。

 それに呼応するように物語は一気に加速します。

 はたして、デュランダルとウォン。

 ファム・ファタールを打ち破り、キラ達は世界に平和をもたらせることができるのか?

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第96話に!

 レディー、ゴー!!



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第96話 運命の女と運命を冠するガンダム

 激戦に次ぐ激戦。
 
 キラ・ヤマトが。

 アスラン・ザラが。

 多くの少年・少女たちが

 その若き命を懸け、未来のために己の魂を燃やしました。

 しかし、世界を望み、人の支配を企む者。

 人を管理することを理想とする者が、壁となり立ちはだかります。

 はたして、シン達はこの戦いを無事に切り抜けることができるのか!?

 それでは!

 ガンダムファイト!!

 レディイイイイ、ゴォオオオオオオッ!!





 

 宇宙の闇を駆ける三機のMS。

 

 

 

 自由の翼と正義の剣を意味する二機のガンダムと死の女王の名を持つMS。

 

 

 

 運命の女性の名を持ったパイロットは、静かに後ろを振り返る笑う。

 

 

 

「ヴォワチュールルミエールの空間加速移動に軽々とついてくるとは、流石ね。そろそろよ? 見えるかしら」

 

 

 

 ファムの言葉にキラとアスランが目を前方にやるとそこには巨大な要塞があった。

 

 

 

「あれはーー!」

 

 

 

「アレがジェネシスを撃ったのか!!」

 

 

 

 キラとアスランの言葉どおり、その縦長の隕石の下腹部に当たる部分に見覚えのある巨大なアンテナのようなものが建造されている。

 

 

 

 間違いなくガンマ線レーザー発生戦略級兵器『ジェネシス』だ。

 

 

 

「あんなものを、用意しているとはーー!! レクイエムを用意していたジブリール達と結局、同じか!!!」

 

 

 

「アスラン。予想はできてたよ」

 

 

 

「! キラ!!」

 

 

 

 怒りに顔を歪ませるアスランの隣でキラが静かに燃える瞳をファムとメサイアに向けていた。

 

 

 

「フフ、意外ね。アスラン・ザラと同じように怒るかと思ってたのに」

 

 

 

 面白そうに見つめるファムにキラは静かに答えた。

 

 

 

「今更だろ? 君や議長は確かに綺麗な言葉を口にしていた。だけど、DG細胞の使い方もジェネシス級の戦略兵器の所持も結局、何も変わらない」

 

 

 

 ニコリと微笑むファムにキラは静かに、怒りの炎を目に宿したまま静かに告げる。

 

 

 

「人類の敵と言い切ったデビルガンダム達や人類を支配すると言ったウルベ達。彼らよりも君たちのやり方はある意味もっと汚い!! きれいな言葉で人の支持を集めて、悪を作り上げて! 挙句の果てに利用した!! そんな傲慢なやり方で、世界を変えようとか! ふざけるな!! 人間は、君たちの玩具じゃない!!!」

 

 

 

 静かだったキラの表情が炎に変わる。

 

 

 

 それを見て口元に手を当て、ファムは上品に微笑んだ。

 

 

 

「……クスクス。それを理解して行っていれば、確かに小悪党よね。でもね、キラ? 貴方の言うとおりなんだけれど、一つ間違っていることがあるの」

 

 

 

 楽し気なファムの言葉にアスランが目を鋭く細める。

 

 

 

「ギルバート・デュランダルはね、本気よ」

 

 

 

「……何だと?」

 

 

 

 アスランの目が見開かれる。

 

 

 

 そしてキラも。

 

 

 

「デュランダルと言う男は、自分のしていることに疑いを持たない。いいえ、持てない人間。自信があるとか、そういう言葉じゃない。言わば、自分の過ちを考えられない人間」

 

 

 

「……まさか、議長は本気で世界が救われると思っているのか」

 

 

 

 キラが冷や汗を流しながら告げるとファムはとても嬉しそうに言う。

 

 

 

「そう。ギルバート・デュランダルはね、壊れてるの。いいえ、壊れていたのかしら? 彼は自分のする事に疑いや恐れを感じないの。失敗なんて彼の頭の中には無いのよ。事実を頭の中で作り変えられるの」

 

 

 

 訝し気になるキラとアスランに向かってファムは語り出す。

 

 

 

「簡単な話ーー。彼にとって、間違いや失敗という記録は彼の中には無いの。もし、上手く行かないことがあったら、それは自分が原因じゃないのよ」

 

 

 

 両手を広げて、舞台女優のように彼女は高らかに告げる。

 

 

 

「自分は悪くないーー。うまくいかなかったのはだれかの存在、なにかの要因。それは世界、時代、自分の力ではどうにもできない、及ばない、そういうものが正しい自分をさまたげる。彼はそう考える人間。そういうことよ」

 

 

 

 ファムの言葉にキラが問いかける。

 

 

 

「それを君はどう思う! 君が今やっていることを、君自身はどう考えている!」

 

 

 

「べつに。何も思うことなんてないじゃない」

 

 

 

 にべもなく、肩を竦めて答えるファムにアスランの声が怒気を孕む。

 

 

 

「なんだと!? なんて無責任なやつだ! 議長の問題をそこまでわかっていながら、なぜ止めようとしない!」

 

 

 

「そんな風にはプログラムされていないからよ、アスラン・ザラ。私はあくまでデスティニープランを完遂させるためだけに生み出された存在。それにね。私はあなたたちよりもよほど責任を感じているわ。『責任』という言葉を一応理解できるから言っておくけれど。

 

 だってそうじゃない?

 

 私はあなたたち人間と違って、言っている言葉を途中でひるがえしたりはしない。管理してあげるわ。すべての人間をね。不滅不変となったこの私が永遠に」

 

 

 

 淡々と告げるファムにキラがもう一度問いかけた。

 

 

 

「その結果が、その結果が失敗だったら! きみはどうする!?」  

 

 

 

「どうもしないわ。『その結果』がどうなろうと、私はそうプログラムされているだけ。ただ遂行するのみよ」

 

 

 

 一切の感情のこもらない微笑み。

 

 

 

 柔らかく優しい微笑みでありながら、一切の温かみを感じられない。

 

 

 

 機械的な笑み。

 

 

 

 アスランが静かにジャスティスの双身ビーム剣を抜き放つ。

 

 

 

「キラ! こいつはもうしゃべっても無駄だ! ここで倒すぞ!」

 

 

 

「……ああ。僕も今、はっきりわかった! ファム・ファタール! 君の存在を、僕は許さない! この世界の未来のために、僕は君を討つ!」

 

 

 

 フリーダムのビームソートを抜いて、キラが構える。

 

 

 

 これを悠然とファムは見据えた後、天を仰ぎ両の手をコクピットの中で広げる。

 

 

 

「勇敢なことね。では始めましょう。この宙域のDG細胞もすべて、私が取り込んであげるわ」

 

 

 

 瞬間、宇宙空間に無数の蛍火のように光る球が浮かび上がる。

 

 

 

 それがファム・ファタールのデスクイーンに。

 

 

 

 コクピット内に集められていく。

 

 

 

「なっ、なんだ!? これは……この宙域で散っていったひとたちの命っ! まさか!?」

 

 

 

 DG細胞の力の塊。

 

 

 

 それがエネルギーとなり、目に見える形として光の球になっている。

 

 

 

「これが私の能力、DG細胞の本質。DG細胞が究極の存在に進化するために同族同士で殺し合う。そして優秀なほうが、敗者の力を取り込めるの。

 

 さあ、この宙域すべての人間の命を私が取り込むのが先か、それとも、吸収し切るまえにあなたたちが私を斃たおすのが先か。

 

 始めましょう?

 

 自由と正義の名を冠すガンダムよ!」

 

 

 

 無限にファム・ファタールの力が際限なく上がっていく。

 

 

 

 彼女の瞳の奥で『光の種SEED』が発動した。

 

 

 

 光が吸収されればされる程に圧倒的に強くなっていく。

 

 

 

 しかも戦域に散ったすべての命が光になると言うのならーー。

 

 

 

「時間が経てば、こっちが不利になっていく!!」

 

 

 

「一気に決めるぞ、キラァアアアアアアッ!!」

 

 

 

 アスランの叫びと同時にジャスティスが黄金の気を纏う。

 

 

 

 キラもフリーダムの全身に黄金の気を纏い、斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 それをモニターで見つめた後、デュランダルは静かに右手に持った小銃を構えて男を見下ろしている。

 

 

 

「非常に面白いことになった。この世界最強のパイロット。キラ・ヤマトにアスラン・ザラと私の作り出した『至高の存在』ーーファム・ファタールとの闘いか」

 

 

 

 サングラスをかけた長髪の男ーーウォン・ユンファは睨みあげる。

 

 

 

 地に着いた膝と自分の胸に空いた銃痕を見下ろして。

 

 

 

(どういうことだ? これはーー。この銃弾は、DG細胞の自己再生を殺している)

 

 

 

 脂汗を流しながら、ウォンは静かに考える。

 

 

 

「未来世紀で調査した君のDG細胞の報告書ーー。ウルベのレイン・ミカムラを使った戦闘データ。コロニーを吸収した記録。すべては、この時の為にあったのだよ」

 

 

 

 静かにデュランダルは両手を広げて語る。

 

 

 

「さあ立て! この世界を救世する者ーーメサイアよ!!」

 

 

 

 その宣言に、メサイアは姿を変化していく。

 

 

 

「……これは、デビルガンダムコロニーと同じか」

 

 

 

 目の前の自分と同じDG細胞の塊となった存在を、ウォンは睨みつける。

 

 

 

 こっそりと懐に隠していたガン玉を取り出す。

 

 

 

 緑色を基調とし金色で「笑」と書かれたソレは、笑傲江湖。

 

 

 

「無駄なあがきをしてみるかい? 君の肉体は既に崩壊の一途をたどっている。後は死を待つだけだ…」

 

 

 

「ふざけたことを……! この私を、殺せると本気で思っているのか」

 

 

 

 球を光らせ、その身に纏わせる。

 

 

 

 ウォルターガンダム。

 

 

 

 ただし、その大きさは人より少し大きい2メートル程度のものだった。

 

 

 

「……これは」

 

 

 

「くくく、デュランダル! DG細胞はその大きさを縮小することもできる。ガンダムを拳大の球に変化できるなら肉体に直接纏わせる鎧にもなり得るとは、考えられませんでしたかぁ!?」

 

 

 

 人サイズのガンダムと化したウォンを見据えて、デュランダルは手を叩いた。

 

 

 

「なるほど。その発想はなかったよーー! だが、DGキラー細胞は確実に君の命を奪っていく。その状態でどこまで保つかな?」

 

 

 

「貴様を殺し、DGコアを手に入れる。そしてそれを吸収すれば良いだけの話だ。このグレートウォンに挑んだことを後悔するがいい、デュランダル!!」

 

 

 

 目の前から消えるスピードでウォンは移動した。

 

 

 

 右の爪を大きく開いて攻撃を繰り出す。

 

 

 

 瞬間、デュランダルはそれを左手で手首をつかんで受け止めると、右手にもった小銃をウォルターガンダムの胸に向けて数発放った。

 

 

 

「……ぐっ! ぅうう……!!」

 

 

 

 ウォルターガンダムから、ウォンの苦悶の声が聞こえる。

 

 

 

「フフフ」

 

 

 

 パッと左手を開いてウォルターガンダムの腕を手放し、膝蹴りを銃痕に突き立て、左の拳を顎にぶつけて後方に吹き飛ばす。

 

 

 

「がはぁっ!!」

 

 

 

 背中から壁に叩きつけられ、ウォンは息を吐いた。

 

 

 

 悠然とデュランダルがその前に立ち、銃を構えている。

 

 

 

「これで最後だ、ウォン・ユンファ」

 

 

 

 微笑みを浮かべて、デュランダルはウォルターガンダムのV字アンテナ。

 

 

 

 その接続部である逆三角形をした金属片の中心に最後の銃弾を撃ち込んだ。

 

 

 

「ーーっ」

 

 

 

 一瞬、硬直した後ウォルターガンダムは光の粒子となって貼り付けられた壁から消えて行く。

 

 

 

 残されたのは、人型にへこんだ壁だけであった。

 

 

 

「あっけないものだな」

 

 

 

 瞳を血のように赤く輝かせ、首の頸動脈から頬にかけてうろこ状のDG細胞を浮かび上がらせながら、デュランダルは退屈そうにそう言った。

 

 

 

 そして静かにモニターに映る地球を見る。

 

 

 

 DG細胞で変化したメサイアの姿は、下半身はそのままで、上半身には己の胸を掻き抱く大きな羽を生やした銀色の天使。

 

 

 

 精巧に作られた銀の天使は静かに瞳を閉じたまま、地球にむけて進路を取り始めた。

 

 

 

「さてーー。すべてが終わる時だ」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 背中に強烈な衝撃を受け、デュランダルの視界が揺れる。

 

 

 

 胸元に目をやれば、自分の胸から生えた異形の手。

 

 

 

「く、くくく……! 死なば諸共。貴様も道連れだ、デュランダル……!!」

 

 

 

 振り向けば、血を吐きながらも未だ生きているウォンが居た。

 

 

 

 左手のみをウォルターガンダムのモノに変えて、背中から無防備なデュランダルを貫いたのだ。

 

 

 

「……バカな。後、少しだというのに……!!」

 

 

 

 胸元から爪を抜き、ウォンはデュランダルの体を地面に叩きつけた。

 

 

 

「お、おのれ……!」

 

 

 

 震える手でデュランダルは己の胸から漆黒の球を取り出した。

 

 

 

 それをウォンはニヤリと見て笑う。

 

 

 

「なるほど。それが、貴様のDGコアかーー! よこせ!!」

 

 

 

 フラフラの足取りでウォンは倒れ伏したデュランダルの手から漆黒の球を奪い取る。

 

 

 

「こいつを取り込めば、私はーー!」

 

 

 

 だが、ウォンがソレを取り込もうとした時だった。

 

 

 

 漆黒の球から光がはなたれ、ウォンのすぐ背後に漆黒の穴を作り出した。

 

 

 

「な!? これはーー!? 吸い込まれる!!?」

 

 

 

 異次元に通じる亜空間の穴。

 

 

 

 ブラックホール。

 

 

 

 DGコアはウォンの支配を拒んだ。

 

 

 

「ば、バカな……! 自我のないDG細胞に、何故ーー!?」

 

 

 

 目を見開きながら言うウォンの目に、そして耳にピンク色の髪をした女の声が聞こえた。

 

 

 

『バカねーー。私は貴方なんか要らないわ。この世界から消えなさいな、ウォン・ユンファ』

 

 

 

 漆黒の球から拒絶の力がはなたれ、ウォンは穴に向かって弾き飛ばされた。

 

 

 

「ぐお!? こんな! こんな馬鹿な!! 私が、このグレートウォンが!!? ドモン・カッシュでもデビルガンダムでもない連中に負けるだとぉおおおお!!?」

 

 

 

 断末魔と共にウォンは穴の向こうへと消えて行った。

 

 

 

 ウォンを取り込んだ穴は、すぐに閉じられた。

 

 

 

 地面に転がる漆黒の球。

 

 

 

 それは倒れているデュランダルの手元に戻る。

 

 

 

 球を手にしたとき、デュランダルの肉体は一気に再生した。

 

 

 

「ふ……。この世界は、やはり私を選んだようだな」

 

 

 

 そう言いながら、デュランダルはモニターに映るフリーダムとジャスティス。

 

 

 

 そして己の代行者ーーデスクイーンを見据えた。

 

 

 

 だが、同時にメサイアの天使が崩れていく。

 

 

 

「…私の命を繋ぎ、ウォンを亜空間に飛ばすのにそれだけの力が要ったか。仕方あるまい」

 

 

 

 そう言うとデュランダルは崩れゆくメサイアをDG細胞の光の粒子へと変化させ、漆黒の球に取り込ませていく。

 

 

 

「私も出るとしよう。見せてあげようではないかーー。君たち人類に。私のデスキングの力を」

 

 

 

 メサイアの全てのエネルギーを吸収しながら、一機のMSが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 自由と正義の名を冠するガンダム二機。

 

 

 

 死の女王との激戦を繰り広げていた。

 

 

 

「あたれぇええええ!!」

 

 

 

「くらえぇええええ!!」

 

 

 

 ドラグーンを使ったハイマットフルバーストとフリーダムを援護する目的でビーム砲を放つジャスティス。

 

 

 

 光の翼を自分の身にまとう様に折り曲げて受けるデスクイーン。

 

 

 

 ビーム砲は全て受け切られる。

 

 

 

 同時にデスクイーンが姿を消し、キラとアスランの真後ろに現れた。

 

 

 

「! な!?」

 

 

 

「ちっ!!」

 

 

 

 驚愕するキラと違い、アスランは咄嗟に双身のビーム剣「アンビデクストラス・ハルバード」を抜き放って斬りつける。

 

 

 

 ファムはそれを左手で掴みとめた。

 

 

 

「ーーくっ! うぉおおおおお!!」

 

 

 

 ビームの出力を上げながら気を送り込んで剣の威力を倍増させる。

 

 

 

 それをファムは宝石でも見るかのようにウットリとしながら、デスクイーンの左腕を切り落とされるのを見ている。

 

 

 

「キラ!!」

 

 

 

 アスランの合図にキラが脇からビーム剣を抜き放って斬りかかる。

 

 

 

 一瞬のすれ違いでデスクイーンの両腕と両足が切り落とされた。

 

 

 

 それを振り返りながら見つめ、キラとアスランは同時に放つ。

 

 

 

「これでーー!!」

 

 

 

「終わりだ、ファム・ファタァアアアアルゥウウウウ!!!」

 

 

 

 デュアル・ハイマットフルバースト

 

 

 

 二機の完璧なコンビネーションから放たれた連装砲は、デスクイーンの全身を射抜いて爆発させた。

 

 

 

「……どうだ!」

 

 

 

 キラが鋭く目を見開きながら告げる。

 

 

 

 だがーー。

 

 

 

 爆炎の中から、たった今叩き切り、打ち落としたデスクイーンが無傷の状態で現れた。

 

 

 

 全身から紫色の光を放って。

 

 

 

「……っ!!」

 

 

 

「キリがないぞ、キラ!!」

 

 

 

 アスランの言葉どおり、どれだけ倒しても何度でも復活し、時間が経つごとに無限に力が上がっている。

 

 

 

 こちらの攻撃ダメージを吸収して自己進化していくのだ。

 

 

 

「ふふ、今度はこっちの番ね」

 

 

 

 微笑むと同時に光がはじけ、黄金のガンダムが二機。

 

 

 

 凄まじい衝撃で後方に弾き飛ばされる。

 

 

 

 見ればデスクイーンの左右の拳がフリーダムとジャスティスの顎を射抜いたのだ。

 

 

 

「ーーくそ!!」

 

 

 

 吐き捨てると同時にキラがヴォワチュールルミエールを使って一気に加速。

 

 

 

 ファムもこれに反応して、螺旋を描くように追いすがる。

 

 

 

 交差しながら互いに拳と蹴りを繰り出しあう自由の翼と死の女王。

 

 

 

 だが一際、激しくぶつかり合った拳と拳で吹っ飛んだのはキラのフリーダムだった。

 

 

 

「ぐぅ!!」

 

 

 

 咄嗟に体勢を整え、構えを取る。

 

 

 

 その目の前にファムが移動してくる。

 

 

 

「させるか!!」

 

 

 

 アスランがファムの背後に回り込んで殴りつける。

 

 

 

 だが、捉えたデスクイーンの背中は残像だった。

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

 キラとアスランが同時に気付き、上空を見つめた時には、デスクイーンの右手がこちらに向けられていた。

 

 

 

「これは、どうかしら?」

 

 

 

 MSを3機程は飲み込めそうな強大な光をデスクイーンは放ってきた。

 

 

 

 咄嗟にキラはドラグーンでビーム幕を作り、更にアスランと共にガンダムに剣を構えて受けさせる。

 

 

 

「なんてーー!!」

 

 

 

「ーーパワーだ!!」

 

 

 

 受けきれないと見るや、同時に左右に散って避ける。

 

 

 

 しかし、その先へとデスクイーンは移動し、それぞれを蹴り飛ばした。

 

 

 

「動きがーー!!」

 

 

 

「明鏡止水で、追いつけないーー!!」

 

 

 

 ファムとの激戦を繰り広げ始めてから、既に数時間。

 

 

 

 直前にウルベとの激戦を行ったことを考えれば相当な時間、彼らは明鏡止水の境地を使用していたことになる。

 

 

 

 己の限界の動きを行い、全力で挑んでいた。

 

 

 

 そして、ついに肩で息をし始めるキラとアスラン。

 

 

 

 これにファムが微笑みかける。

 

 

 

「この宙域ーー。いいえ、メサイア攻防戦とでも言うべきかしら? 全ての戦闘は終わり。残るはあなた達だけ」

 

 

 

 吸収される光の球が徐々に少なくなっている。

 

 

 

 それに気付いた。

 

 

 

 もうじき、ファムによってすべてのDG細胞が統合されることをキラとアスランは理解した。

 

 

 

 その証拠に今の彼女は、ウルベとも渡り合えた二人の機体を圧倒し始めている。

 

 

 

 嫌な汗を掻きながら、キラが横を見ると機動要塞メサイアが更に変化を始めていた。

 

 

 

 銀色の巨大な天使を思わせる像が光の粒子となって消えて行くのだ。

 

 

 

「これはーー!?」

 

 

 

 いきなりのメサイアの崩壊にキラとアスランが呆然となる。

 

 

 

 そしてーー。

 

 

 

 それは現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 巨大な20メートル程度の種。

 

 

 

 SEEDを思わせる形をした銀色の種が、宙に浮いている。

 

 

 

 その種は、キラやアスランのイメージするモノと同じように、はじけた。

 

 

 

 光の粒子を纏って、全身を紫色にした紅いV字アンテナとデュアルアイを持った「人型のデビルガンダムJr.」がその場に現れたのだ。

 

 

 

 

 

「こ、こいつはーー!!」

 

 

 

 

 

 呆然となるアスランに静かにMSと一体化した「生体コア」。

 

 

 

 全身を銀色の金属に変えた男が声をかけてきた。

 

 

 

「やあ、アスラン君。そして、はじめまして。キラ・ヤマト君」

 

 

 

 その肉声と表情は人間的で、銅像が語り掛けてくるような不気味さがある。

 

 

 

 そうーーギルバート・デュランダルであった者だ。

 

 

 

「議長ーー! そんな姿になってまで、人を支配したいのか!!?」

 

 

 

 思わずアスランが悲痛な表情で告げる。

 

 

 

 だが、デュランダルは静かに微笑む。 

 

 

 

「私の考えは先のデスティニープランで告げたとおりだ。何も変わりはしない」

 

 

 

 そこから感じられる力は、並みのMSとは明らかに違う。

 

 

 

 デビルガンダムメサイア。

 

 

 

 その全ての力を凝縮し、変化させたMSがこの人型のJr.であることは明白だった。

 

 

 

 そして議長のMSの横で、静かに吸収するものが無くなったクイーンが並ぶ。

 

 

 

「残念ねーー。タイムオーバーよ、二人とも」

 

 

 

 一瞬の静寂の後、強烈な紫の光がデスクイーンの全身に纏わり、その力の余波で隕石帯が消し飛んだ。

 

 

 

 圧倒的な力を放つ二機のMSに、キラとアスランが構えを取る。

 

 

 

 逃げることは許されない。

 

 

 

 自分たちの後ろには、守るべき世界ーー地球があるのだから。

 

 

 

 だが、無情にも黄金の気ーー明鏡止水がついに解ける。

 

 

 

「……!!」

 

 

 

「ちくしょう……!!」

 

 

 

 一気に自分たちを襲う虚脱感。

 

 

 

 気が尽きた。

 

 

 

「残念ね!」

 

 

 

「まったくだ」

 

 

 

 そんな会話が聞こえたと思った時には、目の前にデスクイーンと議長のMSが迫っている。

 

 

 

 キラとアスランは同時に攻撃を受けようとして、まともにボディに拳を入れられた。

 

 

 

「がぁ!」

 

 

 

「ぐっ!」

 

 

 

 そのまま嵐のような連撃をそれぞれ叩き込まれ、後方に同時に蹴り飛ばされた。

 

 

 

「キングJr.という。究極のMSの子どもだ。この機体とファムのデスクイーンが一つとなることで、究極の神が誕生する」

 

 

 

 微笑みながら告げるデュランダルに、歯を食いしばりながらキラとアスランが鈍くなったMSを動かす。

 

 

 

 全身が疲労で鉛のように重い。

 

 

 

「ちくしょう…! ここまで来て……!!」

 

 

 

「まだだ! 俺たちは、まだ……!!」

 

 

 

 必死に構える。

 

 

 

 そんな二人を嘲笑う様にデュランダルは告げた。

 

 

 

「時代に翻弄された哀れな少年たちよ。君たちの犠牲の先に理想郷がある。私が必ずその境地へ人類を誘って見せよう」

 

 

 

 右手を突き出すキング。

 

 

 

「楽しかったわ、キラ。アスランーー。さようなら」

 

 

 

 左手を突き出すクイーン。

 

 

 

 両者の掌には強大なエネルギーが溜まった光の球が出来上がった。

 

 

 

 淡々と放たれる膨大なエネルギー波。

 

 

 

 勝利を確信し、デュランダルが笑んだ時ーー。

 

 

 

「どうして、アンタ等は! そうやって! いつまでも!! 人を軽く見るんだよ!!!」

 

 

 

 第三者の声が響き、紅い羽を持ったガンダムが光の翼を広げて自由と正義の前に現れ、黄金の気を纏って切り捨てた。

 

 

 

「デスティニーガンダム。ーーシン・アスカ君か」

 

 

 

 デュランダルの言葉どおり、そこには黒髪に燃える赤い瞳の少年が居た。

 

 

 

「ーーシン!」

 

 

 

「シンか!」

 

 

 

 キラとアスランを振り返り、シンが頷く。

 

 

 

「すみません、遅れました! 二人は気を回復させてください! こいつらはしばらく、俺が相手します!!」

 

 

 

「無理をしないでね、シン」

 

 

 

「大丈夫です、キラさん達は充分戦ってくれました。ここは、俺がやらなきゃ!」

 

 

 

 そう言うとシンはデスティニーガンダムを正眼に構えた。

 

 

 

「あんたらの造る運命の鎖なんて、この俺が絶ち切ってやる!」

 

 

 

 言いながら祈るようにシンは叫んだ。

 

 

 

「ガンダムファイト! レディイイイイ、ゴォオオオオオッ!!!」

 

 

 

 彼らの力が今、少しでも自分に宿るように、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 皆さん、お待ちかね~!!
 
 キラとアスランのピンチに駆け付けたシン。

 そんな彼に圧倒的な力を誇るギルバート・デュランダルとファム・ファタールが、襲い掛かります。

 一気に窮地に陥るシンを助けたのは、共に戦場を駆け抜けた少年・少女たちとミネルバ隊! そしてアークエンジェル!!

 はたして彼らは、議長の野望を打ち砕けるのか!?

 次回!

 機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第97話に!!

 レディー、ゴー!!



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第97話 コズミック・イラの未来

「みなさん、大変なことになってしまいました……」

 漆黒の宇宙の片隅で、男は月に腰掛け、長い脚を組んでいた。
 頭上からスポットライトが細く降り注いでいる。過酷な無重力空間はその働きを忘れたように、男を静かに佇ませていた。
 年齢不詳の男だ。黒く刈り込んだ丸い頭、丁寧に蓄えた口髭、くるりとした碧眼に愛敬があるが、右目は眼帯で覆われている。体格の良さから、派手な赤いスーツでも不思議とこの男によく似合っていた。
 彼は物憂げに目を伏せながら、低く、よく通る声で語った。

「前回のお話でキラ・ヤマトとアスラン・ザラの二人が、圧倒的な力を誇るDG細胞の塊のMS二機に追い詰められ、それをシン・アスカが救い出すことに成功しました。

 しかし、戦いはまだ終わったわけではありません。

 シンのデスティニーガンダムを狙って二機のMS。デスクイーンとキングJr.が襲い掛かってくるのです。

 はたして、少年たちはデスティニープランを打ち破り、希望の未来を掴み取ることができるのでしょうか!?」

 突如、男が立ち上がった。赤いジャケットを脱ぎ捨て、右手にはどこからともなくマイクが、左手には右目を覆っていた眼帯が握りしめられ、その両腕が広げかかげられる。
 男は満面の笑みで『あなた』に言った。

「それでは! ガンダムファイト! レディィイイッ……ゴー!」







 黄金の気を纏い、大剣を正眼に構えるデスティニーガンダム。

 

 

 

 これを悠然とデスクイーンとキングJr.が見つめる。

 

 

 

「…シン、気をつけろ! 早めにケリをつけないと、奴らは際限無く強くなる!!」

 

 

 

「つっても、んな簡単にケリがつけられるような相手じゃないでしょ。とりあえず、アスランは話してる暇があるなら気を回復させてくださいよ!」

 

 

 

「…お前な」

 

 

 

 せっかくの助言を聞き流すなよ、と言いたいアスランだが、隣からキラに制される。

 

 

 

「…アスラン。今はシンの言う通り、気を回復させるのが先決だ」

 

 

 

「分かってる。シン、頼んだぞ!」

 

 

 

 瞑想と呼吸を始め、気を回復させるキラとアスラン。

 

 

 

 これを見てファムは呆れた表情になる。

 

 

 

「本気なの? 戦いの最中に回復だなんて。私達も甘く見られたものね」

 

 

 

 言うと気を爆発させて加速、一気にキラ達に向かって距離を潰し、拳を振りかぶって襲いかかる。

 

 

 

 だが、キラ達の前に金色の気を纏ったガンダムが立ちふさがった。

 

 

 

 闇に金色の光が衝撃の輪となり、波紋のように響くと同時にデスクイーンの右拳は黄金の気を纏った左手に掴み止められた。

 

 

 

「甘く見てるのは、お前だろ」

 

 

 

 真紅の瞳にSEEDを発動させて、シンはファム・ファタールを睨みつける。

 

 

 

「…ふうん? キラ・ヤマトやアスラン・ザラ以外はゴミだと思っていたけど。そうじゃないって訳だ」

 

 

 

 言うと紫の光を纏い、デスクイーンが左の拳を繰り出す。デスティニーはこれを右手で弾き、カウンターの右拳を放つ。

 

 

 

 咄嗟に左に見切り、避けるデスクイーンの脇にデスティニーの膝蹴りが迫る。

 

 

 

 凄まじい衝撃と共に、肘打ちで膝蹴りを受けられ、シンは舌打ちしながら高速移動する。

 

 

 

 コレにファムもデスクイーンを光の翼を広げ、機体を加速させる。

 

 

 

「ーーヴォワチュールルミエール。理論を理解してるようには見えないのに、よく使いこなせるわね」

 

 

 

「こんな程度の能力。人機一体となった俺とデスティニーなら造作もないね!」

 

 

 

 互いに高速移動しながら、螺旋を描いて打撃の応酬を繰り広げる。

 

 

 

 デスティニーはファムと右の拳をぶつけ合い、続けさまに来る左の拳を紙一重で掻い潜ると、左の拳を顎にむかって放つ。

 

 

 

 首を左にひねって避けられ、一瞬両者が至近距離で睨み合う。

 

 

 

 そのまま、互いに更に打撃を繰り出し合い、拳を蹴りを互いにぶつけ合って相殺、すれ違う。

 

 

 

「ーーここだ! 食らえ!!」

 

 

 

 振り返りさま、デスティニーの右手が青白く光る。

 

 

 

「そう言えば、私の機体ーーデスクイーンの原型だったわね? 運命のガンダムさん?」

 

 

 

 余裕の笑みを浮かべてデスティニーガンダムに語るファム。

 

 

 

 彼女のデスクイーンの右手も光り始める。

 

 

 

 中央で組みあい、共に一撃を放つ。

 

 

 

「ーーパルマフィオキーナ? そんな兵装くらい私にもあるわよ。こんなのが貴方の切り札?」

 

 

 

 嘲笑い挑発するファムに対し、デスティニーガンダムが瞳を輝かせる。

 

 

 

「そういう台詞はな、勝負で勝ってから言えよ! 俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!!!」

 

 

 

「ーーなに? 出力が?」

 

 

 

 掌から放たれるビーム兵装のはずが、青白く輝くのは右手の全てーー指先から手の甲に至るまで輝いている。

 

 

 

「必ぃっ殺!! シャァアイニングゥ! フィンガァアアアッ!!!」

 

 

 

「ーーな!?」

 

 

 

 シンの裂帛の気合いの後、青白く輝く手はファムのデスクイーンの右腕を一方的に蹂躙した。

 

 

 

 咄嗟に組まれた右腕を捨て、後方に逃げたデスクイーンに向かって青白く光る掌は突き出された。

 

 

 

 そのたま、全てを飲み込む光線を放つ。

 

 

 

「ーー調子に乗って!」

 

 

 

 左手に光を纏わせ、背部の赤い羽根からドラグーンを分離させてファムも放つ。

 

 

 

「ファム。手を貸そう」

 

 

 

 更にデュランダルのキングJr.もファムのデスクイーンの右側に立ち、右の掌から光線を放つ。

 

 

 

 二対一の光線の撃ち合い。

 

 

 

「ーーそんな、もんでぇええっ!!」

 

 

 

 デスティニーガンダムの目が更に輝き、シンの気合いが爆発した。

 

 

 

 一際、強烈な光線を放って一気にキングとクイーンを飲み込み爆発したのだ。

 

 

 

 それを険しい表情で見据えるキラとアスラン。

 

 

 

「ーーシン、流石だ。だけど」

 

 

 

「ああ、普通なら終わってるんだ。普通ならーー!」

 

 

 

 彼らの言葉通り、爆発の中心から紫の光を放って二機の異形が姿を表す。

 

 

 

 デスティニーのシャイニングフィンガーのエネルギーを吸収し、無傷で現れた。

 

 

 

「ーーフフ。ホントに強いじゃない? シン・アスカ」

 

 

 

「これほどの力とは。凄まじいものだな、シン君」

 

 

 

 エネルギーを吸収し、圧倒的な力を纏うファムとデュランダル。

 

 

 

「ーー強い上に不死身。かつ、こっちの技を吸収するなんてよ。どうすりゃいいんだ。実際」

 

 

 

 思わずボヤくシンにファムが笑いかける。

 

 

 

「素直に弱音を吐くなんて、可愛いじゃない?」

 

 

 

「ーー弱音じゃねえよ。愚痴だ」

 

 

 

「意地っ張りは嫌いじゃないわよ? 情けなく命乞いするのを見たくなるから」

 

 

 

「冗談だろ? お前らなんかに、負けてたまるかよ!!」

 

 

 

 ファムの挑発に乗るようにシンは、デスティニーガンダムを突っ込ませる。

 

 

 

 これに議長とファムが同時に動いた。

 

 

 

 ぶつかり合う三機。シンの右拳をデュランダルが右掌でつかみ取る。

 

 

 

 黄金の闘気をまとうデスティニーガンダム。

 

 

 

 宵闇の闘気をまとうキングJr.

 

 

 

 同時に左の拳を出し合い、蹴りの応酬に切り替わる。秒間数十発の打撃が交換される。

 

 

 

 次の瞬間、両者の左フックが互いの顎を捉え、両者のけぞる。

 

 

 

 のけぞったデスティニーガンダムに対し、ファムのドラグーンが狙い撃つ。

 

 

 

(やべえ!)

 

 

 

 ヴォワチュールルミエールを使い、光の翼をひろげて残像を残す。ビーム砲が獲物を追う蛇のごとく空間を網の目に割いていく。

 

 

 

 避け切った先に、拳を振りかぶっているデュランダルが待っていた。

 

 

 

「しまっ――!」

 

 

 

 強烈な右ストレートに、後方に弾き飛ばされるデスティニー。

 

 

 

 宙で態勢を整えようとした時、クイーンが回り込んできている。顎を蹴り上げられる。

 

 

 

 上空に飛ばされたデスティニーの先で、デュランダルが両手を前方に突き出したまま待ち構えている。

 

 

 

 シンが振り返ったとき、宵闇の光が、突き出された両手から発射される。

 

 

 

「くうっ!」

 

 

 

 避けられないと悟ったシンは、黄金の闘気をまとったまま両手でその光を受ける。

 

 

 

「くああっ!」

 

 

 

 押し合う両者。

 

 

 

「素晴らしい反応速度だ、シン君。SEED、明鏡止水、そして人機一体の境地。すべてが素晴らしい練度で仕上がっている。

 

 

 

 遺伝子で確認したが君の両親は普通のコーディネーターだったというのに、戦闘コーディネーターとして創られたパトリック・ザラの子や、スーパーコーディネイターのキラ・ヤマトにも匹敵している。これが人の可能性というものかな?」

 

 

 

 淡々と告げてくるデュランダルにシンの眦が吊り上がる。

 

 

 

 手元に迫る冷たくて暗い気を両手で押し返す。

 

 

 

「ふざけるな! そんな能力だけで、人間の価値は決まりやしない!」

 

 

 

「フッ、では何で決めるのかね?」

 

 

 

 問いかけるデュランダルの目を真っ直ぐに見つめ、シンは言う。

 

 

 

「そもそも。人間の価値を決めつけようってこと自体が間違いなんだよ! 人間はな! 他人がその価値を決めようってこと自体が傲慢なんだ! それを分かれよ!!」

 

 

 

「フッ……ハッハッハッ! 純粋だね、シン君。だが、ひとは価値をつけたがるものだよ。そうやってひとは誰かを見下し、なにかを求め、争い、滅ぼしあう。度し難き愚か者だ」

 

 

 

「あんたもその愚か者ってことか!」

 

 

 

「私は一般的なことを言っているに過ぎない」

 

 

 

「違う! それはあんたの価値観だ! 俺もキラさんも、アスランも! 誰一人、ひとを自分の価値観で決めつけたりなんかしない!」

 

 

 

「そういう理想論が人を滅ぼすのだ!」

 

 

 

「目を閉じてるやつが偉そうにぃいいい! ガンダァアアアアアムッ!!」

 

 

 

 気合とともにシンのデスティニーが黄金の気を纏い、押し返す両手から青白い光が放たれた。

 

 

 

 デュランダルが放った闇の光線を一気に押し返す。

 

 

 

 中央まで押し返され、押し合いになる闇の気と運命の光。

 

 

 

 

 

 そのシンの右側面に距離を置いてファム・ファタールが現れた。

 

 

 

 

 

「一騎打ちなら、良い勝負になってたわよ? シン・アスカ」

 

 

 

 

 

 デスクイーンが右手を前方にかざし開いた掌が青白く輝き、シンの右わき腹に向かって放たれる。

 

 

 

「ーーち!!」

 

 

 

 見えてはいるが、両手をふさがれて動きを止められているシンは歯を食いしばるしかない。

 

 

 

 左に弾き飛ばされるシン。

 

 

 

 デュランダルのキングJr.が超スピードで移動し、ファムのデスクイーンの隣に並び立つ。

 

 

 

 同時にデスティニーにかざされる二人の手。

 

 

 

「賢さかしい子どもの理論など、この圧倒的力のまえには無意味! さらばだ、シン君!」

 

 

 

「わたくしたちの理想の糧となりなさい」

 

 

 

 シンがバーニアを吹かしてガンダムを宙で止める。 

 

 

 

 そう。

 

 

 

 動きが一瞬止まる。

 

 

 

 そこに同時に放たれる青白い光と宵闇の気が、デスティニーを襲う。

 

 

 

(受けきれないっ!?)

 

 

 

 目を見開くシン。

 

 

 

 このタイミングに気を回復させていたキラとアスランも思わず叫ぶ。

 

 

 

「シン!」

 

 

 

「まずいぞキラ!」

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 力強い二人の声が宙域に響いた。

 

 

 

「しゃぁああああく熱!! サァアアアンシャイィン! フィンガァアアアアアア!!」

 

 

 

「シンをやらせるかよ! クーロン、フィンガァアアアアアア!!」

 

 

 

 灼熱の熱線と、真紅の光線が光と闇をそれぞれ打ち砕く。

 

 

 

 デスティニーの前に、ヤマトガンダムとクーロンガンダムが黄金の気を纏ってそれぞれの気の色を放つ右手を前方に突き出しながら並び立っている。

 

 

 

 それを呆然と見据えると、シンは思わず名を呼んだ。

 

 

 

「アウル……スティング……お前ら!」

 

 

 

 クーロンガンダムが後ろを振り返り、モニターのスティングがシンに笑いかけた。

 

 

 

「独りで無茶すんじゃねえよ! 俺たちは仲間なんだからよ!」 

 

 

 

「お前一人じゃ話にならないだろ! シン! 僕たちも手を貸すぜ!」

 

 

 

 隣のヤマトガンダムのアウルからも不敵な笑みと共に通信が来た。

 

 

 

「俺たちだけじゃねえけどな」

 

 

 

 肩をすくめるスティングが見据える先には、青白いバーニアの火を吹かして二振りの大剣、エクスカリバーを軽々と扱うインパルス。右手から桃色の光を放つシャッフルハートがいた。

 

 

 

 それぞれ左右から、先ほどスティングとアウルに気を押し返されたキングとクイーンに襲い掛かっている。

 

 

 

「ハァートフル、フィンガアアアッ!!」

 

 

 

「こんのぉおおお!!」

 

 

 

 紙一重でシャッフルハートの桃色に輝く右手と二振りの対艦刀から逃れるクイーンとキング。

 

 

 

 距離を置いてこちらに構える二機を見て、二機のガンダムのパイロット。

 

 

 

 ルナマリアとステラが叫んだ。 

 

 

 

「今よ、ミネルバ!!」

 

 

 

「艦長たち! お願い!!」

 

 

 

 その言葉と同時に、アークエンジェルとミネルバの主砲が二機のモビルスーツを襲った。

 

 

 

「ローエングリン、照準ーーッ!」

 

 

 

「タンホイザー、起動ーーッ!」

 

 

 

 主砲がそれぞれ、砲身に陽電子を溜めていく。

 

 

 

「撃てェーー!」

 

 

 

「薙ぎ払え!」

 

 

 

 美しい二人の女性艦長の声が響き、放たれる二本の極太の赤と青の色が混じったビーム砲。

 

 

 

 二機のMS--キングとクイーンは避ける間もなく、まともに喰らう。

 

 

 

 これにルナマリアとステラが思わずガッツポーズを取りながら様子を窺っている。

 

 

 

「直撃!!」

 

 

 

「やったの!?」

 

 

 

 爆発する光の中。

 

 

 

 強烈な力の渦から、二機のモビルスーツがゆっくりと姿を現す。

 

 

 

 核エネルギー、陽電子砲クラスのエネルギーをまともに喰らった。

 

 

 

 だがーーそれすらも吸収してしまう異次元の存在が二機。

 

 

 

「マジかよっ、出力が数倍に上がってやがる……!」

 

 

 

「な、なんなんだよ! この化け物は!!」

 

 

 

 感じられるエネルギーと機体データに驚愕するスティングとアウルに対して、シンが肩で息をしながら告げる。

 

 

 

「そういや説明すんの忘れてたけどさ。そいつら、生半可な攻撃を吸収するんだ。おまけにDG細胞の自己進化で無限にパワーが上がるって寸法だ……!」

 

 

 

 シンの言葉に少年少女たちの目がこれ以上ないほど見開かれる。

 

 

 

「はあ!?」

 

 

 

「なんだそりゃ!?」

 

 

 

 アウルとスティングがシンを振り返りながら叫ぶと。

 

 

 

 ルナマリアとステラも丁度シンやキラ達のいる位置に来る。

 

 

 

「どぉーーすんのよシン! そんな化け物!」

 

 

 

「このままじゃ……勝てないよ」

 

 

 

 合流した四人の少年たちとキラやアスランを見渡してシンは告げる。

 

 

 

「良い質問だな、みんな。俺も教えてほしいくらいだぜ。――どうすりゃいいんだ、こんな化け物!」

 

 

 

 苦虫を噛んだような表情になるシン。

 

 

 

 これを遠目に見ながら、余裕の笑みでファム・ファタールは告げる。

 

 

 

「諦めたの? 自分たちの置かれている状況をようやく理解し始めたってことかしら?」

 

 

 

「楽になりたまえ。君たちはよく戦ったよ。我々の支配を受けるならば、ともに人類の未来を切り開こうではないか。少年たちよ」

 

 

 

 銀色の肌と長髪。

 

 

 

 銅像のような顏と姿を持った紅く輝く瞳。

 

 

 

 これをモニターで確認したマリューが思わず口を手で塞ぎながら、タリアを振り返る。

 

 

 

「グラディス艦長! 彼は――!」

 

 

 

「なんて姿なの!? ギルバート……!」

 

 

 

 タリアも思わず目を見開いていた。

 

 

 

 彼女を振り返りながら、デュランダルは悠然と告げる。

 

 

 

「やあ、タリア。よく来てくれたね。これから新たな人類の歴史が始まるのだ」

 

 

 

「そんな姿になってまで! どうしてっ……どうしてなのギルバート!」

 

 

 

 言葉にならない。

 

 

 

 悔しさと寂しさ、やるせなさがタリアの心を苛んでいた。

 

 

 

 対峙するデュランダルは淡々と悟ったように告げる。

 

 

 

「それを君が問うのかい? タリア。私はね。君のおかげで世界の真理を見られた。どれほど恋い焦がれていても、どれほど互いに愛していても。神は決して全ての人に平等ではないのだとね。

 

 

 

 ならば私は平等の世界を与えよう。すべての人間が争いをやめ、他者を羨むことなく。互いを尊重し合える存在となるために!

 

 

 

 それが私のデスティニープランだ!!」

 

 

 

 力強く言い切るデュランダル。

 

 

 

 絶句するタリアの乗るミネルバを庇う様に、一機の円盤を背負った灰色のガンダムがキングの前に現れた。

 

 

 

 レジェンドガンダムーーそのコクピットから、金髪の少年ーーレイ・ザ・バレルがデュランダルに語り掛ける。

 

 

 

「ギル。そのプランで、いったいどれだけの人間が、罪のない人が、犠牲になったと思ってるの」

 

 

 

 その問いかけに、完全に彼の心が自分から離れたことを悟ったデュランダルは熱のない微笑みを金属の肌の上に浮かべる。

 

 

 

「レイ……残念だよ。君ならば私を、理解してくれていると思ったんだがね」

 

 

 

 寂しそうな声にレイも思わず悲し気になりながら、それでも目を逸らさずに告げる。

 

 

 

「信じたかった……。でも、俺はもう逃げるのはやめた。ラウが、俺のために道を開いてくれたから!」

 

 

 

 その言葉にこれまで泰然として揺るぎなかったデュランダルの表情が変わる。

 

 

 

「ラウ? ……まさか! 死んだのか!? 何故!?」

 

 

 

「俺に未来を託してくれた」

 

 

 

 レイの目が力強く輝く。

 

 

 

 その目にデュランダルはラウ・ル・クルーゼの幻を見た。

 

 

 

「何故だ! ラウ!? 何故私と共に来てくれないっ!?」

 

 

 

 取り乱して問いかけるデュランダルに静かに隣に居るファムが声をかける。

 

 

 

「簡単なことよ、デュランダル」

 

 

 

「ファム……」

 

 

 

 縋るようなデュランダルの表情にファムは妖艶な笑みを浮かべている。

 

 

 

「あれはフィルム・ノワールではなく、ラウ・ル・クルーゼだった。あなたがそれを望んだのでしょう? 人は自分を裏切るのだって、とっくの昔に分かってたじゃない」

 

 

 

 淡々と笑みを浮かべて告げるファムにレイが割り込んだ。

 

 

 

「違う! ラウは、ラウはギルを裏切ったんじゃない! ギル! ラウは気付いたんだ! この世界の希望に!」

 

 

 

 このレイの魂の叫びにアスランが目を見開いた。

 

 

 

「クルーゼ隊長……! あなたは!!」

 

 

 

「ラウ・ル・クルーゼ、今の貴方になら……会いたかった」

 

 

 

 独りごとのように呟くキラをアスランが見据える。

 

 

 

「キラ……」

 

 

 

 これらの少年たちの言葉にファム・ファタールが哄笑を始める。

 

 

 

「滑稽だわ、滑稽すぎる! これが最期の自我を持つ人のドラマなの?

 

 

 

 裏切っただの、裏切られただの、希望だとか、絶望だとか。

 

 

 

 どうだっていいじゃない。あなたたちは管理される未来を授かるのか、嫌だから死ぬのか。そういう選択の話でしょ。

 

 

 

 そうよね? デュランダル」

 

 

 

 ゆっくりと彼女はデュランダルを振り返る。

 

 

 

 期待通りに彼の表情は死んでいた。

 

 

 

「……ああ。そうだな。終わらせよう。これ以上、悲しい未来はいらない。この寂しさは、この切なさは。必要ないものだ。これからの世界には」

 

 

 

 その言葉にキラとアスランが叫ぶ。

 

 

 

「デュランダル議長! あなたというひとは!」

 

 

 

「何故だ!? 何故わからない!? クルーゼ隊長が、何故レイに命を譲ったのか、本当にわからないのか!?」

 

 

 

 二人の言葉にも何の表情を動かすことなく、デュランダルは告げた。

 

 

 

「無駄話は終わりだよ、諸君。ファム」

 

 

 

「ええ。最大最強の一撃で終わらせてあげるわ」

 

 

 

 そういうと二人は互いに右手を相手に差し出す。

 

 

 

 二機の間に強烈な青白い光と宵闇の気が生じ、一つになって凄まじい力を発する球へと変化した。

 

 

 

 問答無用で触れたものを消し飛ばす、エネルギーの塊だ。

 

 

 

「どぉーするの、シン!?」

 

 

 

 ルナマリアからの声にシンがデスティニーガンダムを構えさせながら返す。

 

 

 

「どうするったって! やるしかないだろう!」

 

 

 

 シンの返答にステラ、アウル、スティングが待ったをかける。

 

 

 

「でも! 半端な攻撃は、吸収されちゃうよ!」

 

 

 

「下手な攻撃が相手を強くさせるだけなら、いつまでやっても勝てねえぜ!?」

 

 

 

「俺たちは……ここまでなのかよ!」

 

 

 

 スティングの無念そうな声を聴き、シンが藁にも縋るような顔でキラとアスランを見据える。

 

 

 

「キラさん……、アスラン」

 

 

 

 その表情と声にキラが思わず歯を食いしばり、アスランが心の中でごちる。

 

 

 

(くっ、このままじゃ! 打つ手がないのか!? 俺たちには、もう!?)

 

 

 

 誰もが絶望に浸りそうになる時、金色の髪を持つ少年が告げた。

 

 

 

「打つ手はあります!」

 

 

 

「レイ!」

 

 

 

 力強い言葉に皆が彼を見据える。

 

 

 

「俺たちの技を極限まで高めて、一つにすればーー!」

 

 

 

「けどよ! それで倒せなかったら、僕たちは!」

 

 

 

 レイの提案にアウルが不安を口にしたその時ーー。

 

 

 

「馬鹿者がぁああ!」

 

 

 

 強烈な声が耳朶を打った。

 

 

 

 同時に皆が振り返ると白い馬を模したモビルホースに跨るマスターガンダムが。

 

 

 

 ステラ達が今、一番会いたかった師の機体がそこにあった。

 

 

 

「闘う前から! そのような弱気を吐いてどうするぅぅっ!」

 

 

 

「「「師匠!!!」」」

 

 

 

 そのマスターガンダムから少し離れたところには、レイとレセップス級に乗ってここまでやって来た相棒古代ローマの闘士のような姿をした赤銅色の鬣を持つネロスガンダムがいる。

 

 

 

 パンクルックの彼は派手な赤い髪にトサカを立てて、唇を吊り上げてた。

 

 

 

「いいこと言うようになったじゃねえか、レイ。ぁあ!? メイリンの嬢ちゃん、今のコイツの姿を見てどうよ! 惚れ直したか!?」

 

 

 

 その言葉に彼のガンダムの後ろに浮かぶレセップス級の戦艦から通信が入る。

 

 

 

「最初から惚れてますからーー」

 

 

 

「言うねぇ!!」

 

 

 

 嬉しそうに笑い合う二人にレイが叫ぶ。

 

 

 

「ミケロ! メイリン!!」

 

 

 

 キラとアスランが気配を感じ、二人して自分たちの背後を見ると其処にはイギリス紳士の姿を模したであろうハットとコートを着たようなガンダム。

 

 

 

 ジョンブルガンダムがロングライフルをステッキのように持って立っている。

 

 

 

「お前たちの戦いは見事だった。だが、どうせなら勝ってみろ。強き魂を持つ、本物の戦士たちよ」

 

 

 

 静かにそれでいて燃えるような言葉にキラが力をもらったように彼の名を呼ぶ。

 

 

 

「ジェントル・チャップマン……!」

 

 

 

 そして、シンが満面の笑みで正面に立つ忍者の姿を模したガンダムを見据えた。

 

 

 

「シンよ! お前たちは、お前たちの未来は、ここからだ! その魂を、限界まで燃やせ!」

 

 

 

「シュバルツさん!!」

 

 

 

 その隣にはトリコロールのゴッドガンダムによく似た機体ーー光を司るガンダムが立っている。

 

 

 

「なんとかギリギリ間に合ったみたいだな……。ったく! キラ! アスラン! 後ろからしゃしゃり出てきといてなんだけど、思いっきりぶちかましてこい! 後のことは任せろ!」

 

 

 

 シュバルツと同じ顔、声をした青年キョウジ・カッシュからの激励。

 

 

 

「キョウジさん!」

 

 

 

「キョウジ!」

 

 

 

 キラとアスランが立ち上がりながら告げる。

 

 

 

 これが最後の戦いだと改めて思い知る。

 

 

 

 同時に尽きたはずの気が、力が己の底から湧き上がってくるようだった。

 

 

 

「さあどうした!? お前たちの魂の炎、極限まで高めて見せろ!」

 

 

 

 そしてキョウジの隣で覆面を取り外した男。

 

 

 

 シュバルツ・ブルーダーの叫びが響く。

 

 

 

「「「「いよぉおおおおおおおおっっっし!! やってやらぁあああああ!!」」」」

 

 

 

 これに少年たちが答える。

 

 

 

「あたし達の魂の炎!」

 

 

 

 ルナマリアがインパルスガンダムの右手を前に突き出し、黄金の気を纏う。

 

 

 

「極限まで高めりゃあ!!」

 

 

 

 スティングがクーロンガンダムの右手を前方に突き出し、黄金の気を纏う。

 

 

 

「倒せねえものなんかぁあ!」

 

 

 

 アウルがヤマトガンダムの右手を前方に突き出し、黄金の気を纏う。

 

 

 

「なにもないよ!」

 

 

 

 ステラがシャッフルハートの右手を前に突き出し、黄金の気を纏う。

 

 

 

「議長! よく見ろ!!」

 

 

 

 アスランがジャスティスガンダムの右手を突き出し、黄金の気を纏う。

 

 

 

「これが僕たちの――」

 

 

 

 キラがフリーダムガンダムの右手を前方に突き出し、黄金の気を纏う。

 

 

 

「俺たちの最後の一撃だ!!」

 

 

 

 シンがデスティニーガンダムの右手を前方に突き出し、黄金の気を纏った。

 

 

 

 全員そろって目を見開き、少年・少女たちが祝詞を上げる。

 

 

 

「俺達のこの手が!」

 

 

 

「真っ赤に燃えるぅうう!!」

 

 

 

 スティングが、アウルが。

 

 

 

「勝利をーー!未来を掴めと轟き叫ぶ!!」

 

 

 

「いくぞおお!」

 

 

 

 ルナマリアが、ステラが。

 

 

 

「俺たちの自由と!」

 

 

 

「僕たちの運命と!」

 

 

 

「俺たちの正義を貫くために!」

 

 

 

 アスランが、キラが、シンが同時に叫ぶ。

 

 

 

 全てのガンダムは一つになったように両手を右腰においてたわめ、そのまま突き出した。

 

 

 

「石破! 究極ぅう! 天驚拳ぇえええええええん!!」

 

 

 

 全ての光が、力が一つになり。

 

 

 

 七色を放つ白金色の光の球となって放たれる。

 

 

 

「「「「「いぃいいいけぇえええええええええ!!!!!!」」」」」

 

 

 

 ぶつかり合う極限の力と力。 

 

 

 

 しかし、拮抗は一瞬だった。

 

 

 

 シン達の放った光がデュランダルとファムが放った力の塊を一方的に打ち砕き、迫る。

 

 

 

 一気に光に飲み込まれていくデュランダルたち。

 

 

 

「これは、この温かな光は……。そうか。これがひとの未来か……。間違っていたのは――」

 

 

 

 光の中に消えて行くデュランダルは穏やかな表情で己の滅びを悟り、そして笑った。

 

 

 

「っフフ! ハハ! ハハハハハッ! すごいじゃない? ……そう。ファム・ファタールで斃たおせないのね。でも、あなたたちの未来は、すでに決まっているのよ。私を消せば――」

 

 

 

 光の中に消えて行くファム・ファタールは楽し気に愉快気に嗤いながら消えて行く。

 

 

 

 圧倒的な白金色の光の球が恒星のように輝き、不吉な二つの機体を完膚なきまでに消し去っていった。

 

 

 

 

 

 この光景を満足気に両腕を組んで馬上のマスターは頷く。

 

 

 

「フン、あやつら。やりおったわ!」

 

 

 

「ああ。大した少年たちだ」

 

 

 

 チャップマンが穏やかな笑みを浮かべて相槌を打った。

 

 

 

「ケッ、たりめえじゃねえか! あいつらはガキでもガンダムファイターなんだからよ」

 

 

 

 ミケロが自分のことのように嬉し気に笑いながら告げる。

 

 

 

 シュバルツもまた満足そうに誇りに思うかのように温かな笑みを浮かべている。

 

 

 

「うむ、よく戦った! みんな!!」

 

 

 

「俺たちなんにもやってねえけどな……」

 

 

 

 呆れたような表情で告げるキョウジにシュバルツは温かな笑みを彼らに向けたまま、告げる。

 

 

 

「最初に決めたとおりだ、キョウジ。この世界の事は」

 

 

 

「この世界の人間が解決する、か。まあ、その話は追々やるとして。この戦争にピリオドを打った、あいつらの回収と行こうか」

 

 

 

 半身の言葉を聞いて頷きながら、キョウジはマリュー達に搬送の準備をするよう通信を入れた。

 

 

 

 

 

 強烈な光を放った少年たちは、糸の切れた人形のように宇宙空間を漂うガンダムと同じく指一本まともに動かせる状態ではなかった。

 

 

 

「はあっ……はあっ……! やったのか……?」

 

 

 

 シートの背もたれに体を預けながら言うシン。

 

 

 

 隣ではレジェンドガンダムのコクピット内でシンと同じように背もたれに力尽きたレイ。

 

 

 

 モビルトレースシステムのコクピット内で大の字になっているスティング、アウルがいる。

 

 

 

「だめだぁっ! 俺、もう動けねえ……!」

 

 

 

「あぁ~~! ホントに、もうホントに無理だぁ…」

 

 

 

「ああ、まともに動ける気がしない……」

 

 

 

 そんなスティングとアウル、レイの三人をキラが微笑ましげに見て言う。

 

 

 

「スティングたちだけじゃないよ……。ぼくも、無理だ……」

 

 

 

「せっかく回復したのに、全部使い果たしてしまったな……!」

 

 

 

 アスランも彼の隣で頷く。

 

 

 

「ステラ……。大丈夫……?」

 

 

 

「うん……。ルナも……?」

 

 

 

 ステラの隣に来たルナ達も互いに微笑みながら、無事を確認し合う。

 

 

 

 勝利した。

 

 

 

 際どいが、全てが終わった。

 

 

 

 それをシンは目を開け、デスティニーガンダムのモニターから確認して、叫んだ。

 

 

 

「まあ、……とりあえず! 俺たちの勝ちだぁああああああ!」

 

 

 

ーー おおおおおおおおおおおっ!!!!! ーー

 

 

 

 シンの言葉に、全員が己のガンダムの右拳を天に向かって突き上げた。

 

 

 

 




みなさん、お待ちかね~!

 ついにデスティニープランを打ち砕いたシン達。

 しかし、ファムの末期のセリフ通りDG細胞が再び一つのガンダムを作り出したのです!

 その名は、ガンダムゴッドマスター!!

 神の左手と悪魔の右手を持つ究極の存在に挑むのは、我らがシュバルツ・ブルーダー率いるガンダムファイター達!!
 
 はたして勝利の女神が微笑むのは、DG細胞か? それとも人類か!?
 
 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny第98話に!

 レディー、ゴー!!


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第98話 武神と魔王の力を持つモノ

 何処とも知れぬ空間で。

 漆黒の闇の中、白と黒を基調としたガンダムが動いた。

 その両手に異なる色の炎を纏わせて。

「俺の両手が揃って吼えるっ! 限界超えろとぉお、烈烈叫ぶっ!!」

 まずは左手を掲げて真紅の炎を滾らせて、その後右手に蒼紫の炎を滾らせる。

「双ぅうう極っ! ゴッドォ! デビィルフィンガァァァァッ!!!」

 黄金の気を纏い、ゴッドガンダムと似て非なるガンダムは、相反する二つの炎を両手を合わせて圧縮。

 前方に突き出した。 




 ってね、ドモン・カッシュ選手がすごい新ガンダムで、すごい必殺技を放つ夢を見たんですよ。いやはや、わたしの想像力も捨てたモノではありませんなぁ!

 おおっと、失礼!

 前回の戦いでついにデスティニープランを打ち砕いたコズミック・イラのガンダムファイター達。

 ですが!

 倒されたDG細胞達はシン達の力さえも吸収し、更なる凶悪なDGガンダムへと変貌したのです!!

 彼の者の名は!

 ガンダムゴッドマスター!!

 悪魔のデビルガンダム。

 武神のゴッドガンダム。

 双方の力を併せ持つ究極の存在を前に、ついに我らがシュバルツ・ブルーダー達が立ち上がります!!

 それでは!

 ガンダムファイト!!

 レディイイイイ、ゴォオオオオオオッ!!




 

 圧倒的な光の中へと消えた二機のMS。

 

 

 

 キングJr.とデスクイーン。

 

 

 

 全てが終わり、皆の顔に安堵の色が広がる。

 

 

 

「…終わっているようですわね」

 

 

 

 高速巡洋艦エターナルに乗った歌姫。

 

 

 

 ラクス・クラインとイザークにディアッカ、ミリアリア達はポカンとした表情で糸が切れた人形のように浮かんでいるガンダム達を見て言った。

 

 

 

「む? 遅かったな、ラクス」

 

 

 

 シュピーゲルが振り返りながら告げる。

 

 

 

 これにイザークが頬を引きつらせながら呟いた。

 

 

 

「どんなスピードで動いている? 俺たちより出発するのが遅かったくせに、高速艦のエターナルよりも速く着いているだと?」

 

 

 

 この言葉を聞いてディアッカとミリアリアが彼の肩をそれぞれ掴み、首を横に振る。

 

 

 

「丁度いい。悪いんだが、イザークとディアッカもシン達の回収を手伝ってくれないか? ちょっと俺たちは訳あって手伝えないんだ」

 

 

 

 キョウジの言葉に

 

 

 

「訳? まだ何かあるというのか?」

 

 

 

「おいおい、そりゃいくらなんでも用心しすぎだろ? ま、キラ達のことは任せとけよ」

 

 

 

 イザークとディアッカが言うとそれぞれのフリーダムに乗ってキラ達を掴みエターナルに誘導する。

 

 

 

 風雲再起がステラやルナマリアを乗せたガンダムを背負ってやる。

 

 

 

 ムウ達のMSがシン達のMSを回収し終えた。

 

 

 

 皆がエターナルやアークエンジェル、ミネルバ、レセップスに帰還した時。

 

 

 

 空間に巨大な穴が出現した。

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

 

「ホントに、まだ何か起こるってのか!?」

 

 

 

 イザークとディアッカが叫ぶ中。

 

 

 

 強大な宵闇の球と白光の球が混ざり合い。

 

 

 

 先のシン達の一撃に蹴散らされた圧倒的な力が、再び出現した。

 

 

 

 これにキラ達の回収の手伝いを敢えてせずにいた、ガンダムファイター達が構える。

 

 

 

「やはり自己保存システムを構築していたか、DG細胞め!!」

 

 

 

「簡単には終わらんか。概ね、ワシらが危惧しておったとおりよ」

 

 

 

「念には念を入れて正解、ってわけだ」

 

 

 

 シュバルツの右にマスターアジア、左にキョウジが居並び、構えを取って睨みつける。

 

 

 

 彼らの目の前にゆっくりと光の繭を両手で裂いて、この世界に現れたのは白地に黒を基調としたゴッドガンダム。

 

 

 

 いや、DG細胞の自己進化を得て変わったゴッドガンダムと言うべきか。

 

 

 

 容姿はゴッドガンダムの白い部分以外の多くが黒くなり、右半分が青、左半分が赤のラインの入った姿に変化している。

 

 

 

 背部のエネルギー発生装置ーー六枚のフィンや腕部カバーの形状も刺々しくなっている。

 

 

 

  頭部には小さなマスターガンダムの角のようなものが黄金色で生え、

 

 

 

  胸部のエネルギーマルチプライヤーが2つ横に並んでメビウスの輪(無限大のマーク∞)を描いている。

 

 

 

 腰には一際目立つ「G」マークのチャンピオンベルトのようなものを付けている。

 

 

 

  脚部形状等細かい部分も変更されており、総じてファイター達が得た印象は「ゴッドガンダムから更に次の段階へパワーアップした機体」というものだ。

 

 

 

「DG細胞の野郎、とことんゴッドガンダムが好きらしいな!」

 

 

 

「ただのゴッドガンダムではないようだ」

 

 

 

 ミケロの言葉にチャップマンが鋭い瞳になって構える。

 

 

 

「気をつけよ! こやつ、手強いぞ!」

 

 

 

「ったく、最後の最後で! とんだ置き土産だな、デュランダル!」

 

 

 

「来るぞ! みんな構えろ!」

 

 

 

 マスターアジアの言葉にキョウジが、シュバルツが緊張感を高める。

 

 

 

 瞬間。

 

 

 

 彼らの目の前に現れるガンダムゴッドマスター。

 

 

 

「速いな」

 

 

 

「舐めおってからにぃ!!」

 

 

 

「ゆくぞぉおおお!!」

 

 

 

 これに真っ先に反応したチャップマン、マスター、シュバルツは己のガンダム達で迎え撃つ。

 

 

 

「フン!」

 

 

 

 正面からシュバルツが、左右からマスター・アジアとチャップマンが仕掛ける。

 

 

 

「なにっ?」

 

 

 

 三人の達人の攻撃を全て避けながら、ゴッドマスターは攻撃を返してくる。

 

 

 

 ガンダムファイター達の中でも極めている彼らの攻撃を、すべて見切るその力にミケロは目を見開いた。

 

 

 

「なんの冗談だ、こいつぁ……。奴等の攻撃を三対一で完全にさばくだと?」

 

 

 

 そんなミケロの横でキョウジがシャイニングガンダムの胸部カバーを開き、エネルギーマルチプライヤーを展開して右手に緑色の光を纏わせる。

 

 

 

「ミケロ、合わせろ! シャァアアイニング、フィンガァアアアアアア!」

 

 

 

「ケッ! 銀色の脚ィイイイイ!」

 

 

 

 咄嗟の指示に従い、ミケロも右足から紫色の光を纏わせる。

 

 

 

 前方に向かって正拳突きのように突き出された掌と、右側からの廻し蹴り。

 

 

 

 同時に放たれる二つの光。

 

 

 

 それは、戦っている4機のガンダムの下に向かった。

 

 

 

 ゴッドマスターの右の拳で顎を跳ね上げられるシュバルツ。

 

 

 

 同時に左右のフックでそれぞれ顔を撃ち抜かれ、後方にきりもみに弾き飛ばされるチャップマンとマスター・アジア。

 

 

 

 その背中にキョウジのシャイニングフィンガーとミケロの銀色の脚が放った光弾がぶつかる。

 

 

 

 直撃。

 

 

 

 強大な爆発が起こり、爆煙が起こる中。

 

 

 

 敵ガンダムは一切のダメージを受けてはいなかった。

 

 

 

「まあ、わかっちゃいたが無傷だよな」

 

 

 

「お約束だからな」

 

 

 

 ミケロの言葉にキョウジが頷きながら、弾き飛ばされたシュバルツのガンダムシュピーゲルに向かって通信を入れる。

 

 

 

「シュバルツ! 大丈夫か!」

 

 

 

「ーーフッフッフッフ!」

 

 

 

 キョウジはモニターに映る自分の半身の様子に思わず嫌な予感を覚えながら目を丸くする。

 

 

 

「ん? シュバルツ? どっか頭ぶつけたか?」

 

 

 

「楽しませてくれる……! 久しぶりに、私は私の限界を越えられそうだ! ゆくぞ!」

 

 

 

 シュバルツは心底、楽しそうな笑みを浮かべて燃えていた。

 

 

 

「させんわぁ! あやつを倒すのは、このワシ! 東方不敗マスターアジアよぉ!!」

 

 

 

「おっとそうはいかん。この闘いは、ガンダムファイト三連覇という前代未聞の偉業を成し遂げた英雄である俺がもらう」

 

 

 

 キョウジがシュバルツにツッコミを入れようと口を開くより先に、同じような戯言を宣うガンダムファイターが二人。

 

 

 

 口をパクパクとさせて固まるキョウジを置いて、三人のファイターは燃え滾る。

 

 

 

 各機、それぞればらばらにゴッドマスターへ攻撃を仕掛ける。

 

 

 

 まずはガンダムシュピーゲルが、ゴッドマスターの正面に立ち、互いに打撃を交換し合う。

 

 

 

 秒間数十発の拳と蹴打の打ち合い。

 

 

 

 だが、相手の無数の打撃から上段廻し蹴りを選択して右腕で受け止め、返しで放ったシュバルツの左拳をまともに顔面で受けて、のけ反りすらしないガンダムゴッドマスター。

 

 

 

 ヒットした拳の手首をつかまれ、物のように振り回され。

 

 

 

 ゴッドマスターの背後から攻撃を仕掛けてきたマスターガンダムに向かって放り投げる。

 

 

 

「ぬぅ!?」

 

 

 

 咄嗟にシュピーゲルを受け止めたマスターガンダム。

 

 

 

 前方でゴッドマスターの左手が真紅の炎で燃え上がる。

 

 

 

「!! いかん、ゴッドフィンガーか!!」

 

 

 

「なんと!!?」

 

 

 

 強烈な熱線がマスターガンダムとシュピーゲルに放たれる。

 

 

 

 それを横から射抜くチャップマンのロングライフル。

 

 

 

 込められた弾丸はビームではなく、ジョンブルガンダムが吸収したグランドガンダムの力を圧縮した雷撃弾。

 

 

 

 見事に爆熱する炎を爆発する雷が相殺した。

 

 

 

 ゴッドマスターは横から攻撃を止められたのを見るや、顔をジョンブルガンダムに向ける。

 

 

 

 次の瞬間、目の前に現れたゴッドマスターにチャップマンは凄絶な笑みを浮かべて迎え撃った。

 

 

 

 ラッシュの打ち合い。

 

 

 

 敵の攻撃ーー右ストレートを紙一重でかわし、チャップマンの右の肘内がガンダムのこめかみにまともにぶつかる。

 

 

 

 だが。

 

 

 

 ゴッドマスターはまったく怯むことなくボディに拳を一撃、返してくる。

 

 

 

「ぐはあっ!?」

 

 

 

 あまりの重さにチャップマンが苦悶の声を上げた。

 

 

 

 そのまま右の上段回し蹴りでジョンブルガンダムが後方へ弾き飛ばされる。

 

 

 

 これを見たマスターが激昂する。

 

 

 

「チャップマン! おのれぇええ!!」

 

 

 

 マスターガンダムが拳を振りかぶると同時に、ゴッドマスターも拳を振りかぶっている。

 

 

 

 ぶつかり合う両者の右正拳。

 

 

 

 そのまま乱打戦にもつれこむ。

 

 

 

 マスターは咄嗟に、ゴッドマスターのショートアッパーを左に避けてがら空きの右ボディ、左頬、後頭部を、左拳、右ストレート、右上段回し蹴りのコンビネーションで的確に撃ち抜く。

 

 

 

「ぬうっ!?」

 

 

 

 だがゴッドマスターはのけ反りすらせずに右の拳を握りしめると、マスターアジアの顔面を撃ち抜いた。

 

 

 

 後方へ吹き飛ばされるマスターガンダム。

 

 

 

 ファイターであるマスターも一瞬意識が飛ぶ。

 

 

 

「ぬううっ!」

 

 

 

 ふっ飛ばされる己の身を、バーニアを使って空中で静止させる。

 

 

 

 正面には殴りかかってくるゴッドマスター。

 

 

 

 そこを、シュバルツのガンダムシュピーゲルが右足でゴッドマスターの拳を下から蹴り上げる。

 

 

 

 そのまま左のシュピーゲルブレードを展開し、逆袈裟に斬りつけた。

 

 

 

 ゴッドマスターの首の付け根にブレードは当たる。

 

 

 

 しかし、名刀であるシュピーゲルブレードは敵を切り裂くことなく、肩をわずかに切っただけで食い止まってしまった。

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

 目を見開くシュバルツの目の前で、静かにブレードを右手でつかみ取り、握りつぶすゴッドマスター。

 

 

 

「むぉっ!?」

 

 

 

 左のストレートで顎を撃ち抜かれ、シュピーゲルは後方へ吹っ飛ぶ。

 

 

 

「うぉお……!」

 

 

 

 執拗に顎を狙われ、足先のフットワークに力が入りづらくなっている。

 

 

 

「私の意識を刈りつつ、スピードをも奪う気か……!」 

 

 

 

 冷静な瞳で敵の狙いを把握し、拳を握りこんでくるゴッドマスターを迎え撃つ。

 

 

 

「ならば! それよりも速く移動し、急所を撃ち抜くのみ!!」

 

 

 

 三者三様の攻撃を仕掛けるガンダムシュピーゲル、マスターガンダム、ジョンブルガンダム。

 

 

 

 しかし彼らの攻撃をあざ笑うかのように、攻撃をまともに貰いながら、その隙をついて反撃をしてくるゴッドマスター。

 

 

 

 

 

 

 

 モニターで見るシン達は、これに嫌な予感しか感じられない。

 

 

 

「なんなんだ、この化け物は!」

 

 

 

「シュバルツさん達の攻撃が、まるで効いていない」

 

 

 

「なんだって、こんな化け物がまだ存在するんだ!」

 

 

 

 シン、キラ、アスランが医療室のベッドからそんな感想を漏らす。

 

 

 

 敵はダメージを吸収するような真似はしなくなった。

 

 

 

 だが、それ以上に圧倒的な防御力と無限に増大するパワーがまずい。

 

 

 

「艦長ーー!」

 

 

 

「信じるしかないわ。これまで、どんな困難をも打ち破ってくれたガンダムファイター達を」

 

 

 

「マリュー」

 

 

 

「お願いシュバルツさん、キョウジさん! この世界を護って!!」

 

 

 

 祈りを込めた。

 

 

 

 祈るしかなかった。

 

 

 

 もはや、戦えるのは未来世紀の彼らしかいないのだから。

 

 

 

 自分たちの無力を嘆きながら、それでも必死に彼らは祈る。

 

 

 

 世界の未来を託された武道家達の勝利を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再三、ビデオの繰り返し再生のように打ち合っては弾き飛ばされる三機のガンダム。

 

 

 

 これにキョウジは告げた。

 

 

 

「おい! もういいだろう! このままやり合っても埒が明かない」

 

 

 

「なにかよい手があるか、キョウジよ!」

 

 

 

 これにマスターアジアが反応し、シャイニングガンダムを振り返る。

 

 

 

 するとキョウジは一つ頷いて、彼らに告げた、。

 

 

 

「マスター・アジア。チャップマン。シュバルツ。アンタ等三人はコンビネーションで攻めてくれないか? さっきから見てたが、即興でも結構やれんだろ?」

 

 

 

 これにチャップマンとシュバルツが互いを見あいながら頷く。

 

 

 

「コンビネーションか……」

 

 

 

「よいだろう! ではトドメは誰が刺す?」

 

 

 

 シュバルツの問いにキョウジが堂々と告げた。

 

 

 

「俺がシャイニングフィンガーソードで決めてやる」

 

 

 

 その言葉を気に入ったようにミケロは笑った。

 

 

 

「ヘッ! 言うじゃねえか!」

 

 

 

「このままでは埒も明かん。いいだろう」

 

 

 

「では仕掛けるのは私からだ!」

 

 

 

 チャップマンが敵を睨みつけながら言うと、先陣を切るのはシュバルツ・ブルーダー。

 

 

 

 ガンダムゴッドマスターに襲い掛かるシュピーゲル。

 

 

 

 右正拳を避けながら返してくる敵の右拳。

 

 

 

 避けられず胸に当たると誰もが思った時、シュピーゲルは光が乱反射するように五体に分裂して消えた。

 

 

 

「……これは。分身か」

 

 

 

「ほう! アレには手を焼かされたわ!!」

 

 

 

 チャップマンが目を鋭く細め、マスターが力強く笑い飛ばす。

 

 

 

 高速打の打ち合いをしながら、シュピーゲルは分身をして敵に実態を悟らせない。

 

 

 

 そして苦無を一本、顔面に放つ。

 

 

 

 ゴッドマスターはこれを右手首で受ける。

 

 

 

 瞬間、白く発光する光。

 

 

 

 レーザー、肉眼、すべてが使えなくなる攪乱兵装ーーメッサ―グランツ。

 

 

 

 完全な目くらまし。

 

 

 

 無防備となったゴッドマスターにマスターガンダムが襲い掛かった。

 

 

 

「もらったぁ! そらそらそらぁ!!」

 

 

 

 左右の貫手ーーディスタントクラッシャーからの強烈な右ハイキック。

 

 

 

 だがゴッドマスターは、全くその場を動かない。

 

 

 

「ぬうっ! なんという打たれ強さよ!」

 

 

 

「どけ、マスター・アジア」

 

 

 

 そこにチャップマンのジョンブルガンダムが脇から割り込んできた。

 

 

 

「グランドサンダー!」

 

 

 

 掌から雷を放ち、機体の電気系統を一瞬麻痺させて動きを止めた後、本命の右の前蹴りが放たれる。

 

 

 

「グランドホーン!」

 

 

 

 つま先でガンダムの眉間を貫く。

 

 

 

 さすがのゴッドマスターも後方へのけぞった。

 

 

 

「いいアシストだ、チャップマン!」

 

 

 

 そこへガンダムシュピーゲルが分身をしながら現れ、右手一本に残ったブレードを展開し、その場で大回転。

 

 

 

 疾風怒濤が放たれる。

 

 

 

「シュトゥルム! ウント! ドランクゥウウ!!」

 

 

 

 己を漆黒の竜巻と化してゴッドマスターの全身を切り刻む。

 

 

 

 回転するコマの勢いがわずかずつではあるが、ゴッドマスターの体を移動させる。

 

 

 

 だが押し切れない。

 

 

 

 シュピーゲルブレードが、先に砕け散る。

 

 

 

「どけぃ、シュバルツ!」

 

 

 

 瞬間。シュピーゲルが分身となってその場から消える。

 

 

 

 その後ろから、目の前にマスターガンダムが右手に紫色の炎を燃やして現れる。

 

 

 

「ダァークネス、フィンガァアア!!」

 

 

 

 正拳突きのように前方に繰り出される掌。

 

 

 

 ゴッドマスターの全身を覆いつくさんとばかりに炎が猛り狂う。

 

 

 

「爆発っ!」

 

 

 

 気合一閃。

 

 

 

 一際、強大な爆発が起こる。

 

 

 

 煙の向こうからゴッドマスターが後方へのけぞる。

 

 

 

 そこに頭上から青白い彗星が降り注いだ。

 

 

 

「ハイパァアー銀色の脚ぃいい、スペシャァアアアアアアルッ!!」

 

 

 

 顔面にネロスガンダムの右飛び蹴りが決まった。

 

 

 

 吹き荒れる衝撃波。

 

 

 

「くぅううううううううう! 行けや! キョウジ・カッシュゥウウウウウ!!!」

 

 

 

 そのまま飛び足裏を当てる横蹴りから、足の甲を使って蹴る回し蹴りに移行。

 

 

 

 サッカーボールのように頭を脇に蹴り飛ばす。

 

 

 

「シャアアアイニングフィンガー、ソォオオオド!」

 

 

 

 青眼にシャイニングフィンガーソードを据えたガンダムが、吹き飛ばされたゴッドマスターを待ち構える。

 

 

 

 ガンダムゴッドマスターが振り返ると同時、

 

 

 

 両手にもった緑色の光の剣が突き出される。

 

 

 

 強烈な光の剣はまともにガンダムゴッドマスターの胸部を貫いた。

 

 

 

「はぁああああああ!」

 

 

 

 裂帛の気合。

 

 

 

 同時に光が爆発。

 

 

 

 大きく後方へジャンプし、シャイニングガンダムはシュピーゲルの隣に並び立った。

 

 

 

 そして他のガンダム達も彼らと整列するように並び立つ。

 

 

 

 構えを取る彼ら5人の前に。

 

 

 

 煙の向こうから無傷の姿でガンダムゴッドマスターが姿を現した。

 

 

 

 

 

 アークエンジェルで祈りをささげていたマリューの目が絶望に見開かれる。

 

 

 

「そんな! キョウジさんのシャイニングフィンガーソードは、まともに動力炉を撃ち抜いたのに!?」

 

 

 

「それ以前の問題だぜマリュー! あのガンダム! 東方先生の強力無比な技が一つも効いちゃいねえ!!」

 

 

 

「いや、フラガ。東方不敗だけじゃない。ガンダムファイター達の攻撃がまるで通じてない」

 

 

 

 渋い顔になってみるフラガ、バルトフェルド。

 

 

 

 彼らにしてみても、あの五人が味方でこれ程の激戦。

 

 

 

 それも苦戦を強いられるなどとは思ってもみなかったのだ。

 

 

 

 重苦しい雰囲気が艦長席を取り囲む。

 

 

 

「まじかよっ……」

 

 

 

 ディアッカもエターナルのブリッジでそんな呟きしか出せなかった。

 

 

 

 ガンダムファイター達が慎重になるはずだ。

 

 

 

 こんな理不尽の権化が存在するなんて思いもしない。

 

 

 

「…人に滅びろ。そう言うのですか? DG細胞よ、人を全て滅ぼした後、貴方は何が目的でこのようなことをするのです?」

 

 

 

 答えなど返ってくるはずはない。

 

 

 

 それでもラクスは、そう聞かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 構えを取りながら睨み合う5機のガンダムとゴッドマスター。

 

 

 

「ぬぅ……! わしらのコンビネーションでもダメージを与えられんとは!」

 

 

 

「久しくなかった……。これほどの強敵は」

 

 

 

 マスターがチャップマンが互いにゴッドマスターの力を讃えている。

 

 

 

「ケッ! あんな人形野郎に俺様たちの技が受け切られるとはよ!」

 

 

 

 不愉快そうに吐き捨てるのはミケロだった。

 

 

 

 自分の最高の攻撃すらも、まるでダメージが通らない。

 

 

 

 その横でシュバルツが不敵な笑みを浮かべている。

 

 

 

「フッフッフ、ならば! 受け切れぬ一撃を放てばよい! そうだろう、皆!!」

 

 

 

 その言葉にマスターとチャップマンがニヤリとする。

 

 

 

 しかし、その前にキョウジが告げた。

 

 

 

「精神論は後回しにしろ。攻撃が通じなかった事実は事実だ。これを踏まえた上で、そうだな。……次の作戦は」

 

 

 

 思案するキョウジにシュバルツがにべもなく告げる。

 

 

 

「では作戦を考えるのはお前に任せた。後のことは、よろしく!」

 

 

 

「おい、シュバルツ!」

 

 

 

 ガンダムシュピーゲルがシャイニングガンダムに顔を向け、右人差し指と中指を揃え立てて振る。

 

 

 

 即座にマスターガンダムとジョンブルガンダムがバーニアの火を点火する。

 

 

 

「付き合うぞ! シュバルツよ!」

 

 

 

「うむ! 望むところだ」

 

 

 

 これにシュバルツは分かっていたとばかりに告げた。

 

 

 

「では私に続け! マスター・アジア、チャップマン!」

 

 

 

「「おおっ!」」

 

 

 

 一気に三体のガンダムは敵と距離を詰める。

 

 

 

「フッ……」

 

 

 

 これを自嘲気味に笑った後、キョウジは眦を吊り上げて頭を抱えた。

 

 

 

「なんで、どいつもこいつも! 作戦を考えようとしないんだ!!」

 

 

 

「んなことやってる暇があるなら戦った方が早ぇってよ」

 

 

 

 ミケロがその隣から冷静に声をかける。

 

 

 

 思わず抱えた両手を下げ、顔をミケロに向けて叫ぶキョウジ。

 

 

 

「それでどうにかなったら、とっくに決着ついてるだろ!」

 

 

 

「だから今の間に考えろって言ってたじゃねえか。何か、ねえのかよ?」

 

 

 

 その言葉にキョウジが固まる。

 

 

 

「……何かって」

 

 

 

「ねえのか!?」

 

 

 

「いくらなんでも、いきなりってのは無理だろ!?」

 

 

 

「ったく、コンビネーションの時は、結構いい指示出してたから期待してたのによ。がっかりだぜ。DG細胞の方がよっぽど早く対応してくんじゃねえのか?」

 

 

 

「こ、の、ガンダムファイターどもめ……!」

 

 

 

 通常運転だとばかりに無茶ぶりをしてくるガンダムファイター達に対し、キョウジの両手の拳が震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 これをアークエンジェルに乗るムウが渋い顔になって告げる。

 

 

 

「俺、キョウジにここまで同情したのは初めてかもしんねえなぁ……」

 

 

 

「ああ。あれだけ強い上に、みな個性が強すぎる」

 

 

 

 同じく現場指揮官であったバルトフェルドも苦労を察して同情的だ。

 

 

 

「でもキョウジさん以外に彼らを指揮できるひとはいないわ」

 

 

 

 マリューの言葉に二人の男が悲痛な顔になる。

 

 

 

「そこが可哀想なとこなんだよな……!」

 

 

 

「なんならフラガ、お前さんが代わってやるか?」

 

 

 

「冗談じゃねえよっ! お前やれんのかよ!?」

 

 

 

「……まあなぁ」

 

 

 

 自分がやるとなれば、二人とも全力で拒否する。

 

 

 

 そう思ったフラガとバルトフェルドであった。

 

 

 

 

 

 

 

 エターナルのブリッジでラクスが静かに凛とした瞳で光景を見ながら告げる。

 

 

 

「とはいえ。シュバルツさんやマスター・アジアさん達でさえ、攻めあぐねるほどの強敵……。わたくし達にできることは、もはやないのでしょう」

 

 

 

「私たちにできるのは、ただ信じて見守るだけ……なのかな?」

 

 

 

 無念そうに、寂しそうにミリアリアがつぶやく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でキョウジが静かに緊張を緩和し、肩や足、胸部カバーを展開して戦闘モードになっていたシャイニングガンダムをノーマルモードに戻す。

 

 

 

「ふぅ……。とりあえず一服」

 

 

 

 これにミケロが思わず声を張り上げた。

 

 

 

「おい! てめえ、さっきまでと言ってることとやってることが違うじゃねえかよ!!」

 

 

 

 キョウジは肩をすくめ、淡々と返していく。

 

 

 

「なんていうかさ、どいつもこいつも作戦全然考えないから、俺一人で考えなきゃなんないんだろ? つまり相手がどう動くか、味方にどんな対応できるか見とかないと作戦も立案できないってことだよ」

 

 

 

「おい、まさか……こんな短時間で俺様達と敵のデータ、全部取る気か? てめえ」

 

 

 

 真剣な表情になって問いかけるミケロにキョウジが静かに告げる。

 

 

 

 目には油断など一切ない。

 

 

 

「頭に今、叩き込んでっから。それが終わるまではなんとか持たせろよ」

 

 

 

 その言葉にミケロも肩を竦める。

 

 

 

「おいおい、ぶっつけ本番が参謀で大丈夫なのかよ? この作戦」

 

 

 

「他に手がないんだ。しょうがないだろが」

 

 

 

「ケッ、まあいい。なんなら俺様の技、全部見て覚えとけよ!」

 

 

 

「ああ、ここでよく見させてもらうよ。お前らのがんばりを」

 

 

 

「いけ好かねえ野郎だぜ……!」

 

 

 

「お互い様だ。ガンダムファイターの諸君」

 

 

 

 互いに見合う。

 

 

 

 そしてニッと不敵に笑い合った。

 

 

 

「ケッ! 期待してるぜ! キョウジ・カッシュ!!」

 

 

 

 走っていくミケロのネロスガンダムを見送った後、キョウジは静かにつぶやいた。

 

 

 

「……期待しとけよ。失敗は、許されんからな」

 

 

 

 勝利を掴むために、キョウジ・カッシュはその頭脳をフル回転させ始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これをクライン派のアジトで未だ待つミーアとダコスタがモニターで見ていた。

 

 

 

「……皆。ガンダムファイター達でも、勝てないなんて」

 

 

 

 ダコスタはそんな言葉しか出ない程に、ショックだった。

 

 

 

 ミケロという男の実力も、ガンダムファイター達の力もよく知っている。

 

 

 

 そんな彼らでも五人がかりで、勝機がまるでない。

 

 

 

 絶望的だった。

 

 

 

 ミーアが頭を抱えて首を横に振る。

 

 

 

「勝てっこない。勝てっこないよ。たとえ、ドモンさんやダインでもーー!」

 

 

 

 泣きそうになりながら、未だ復活しない自分の愛する男を想う。

 

 

 

 このまま彼が復活すれば、確実にあの化け物に挑みに向かい、殺されてしまうだろう。

 

 

 

 ミーアは頭の中でそう確信していた。

 

 

 

 その時、デビルガンダムのコクピット内から音が聞こえる。

 

 

 

 肉体を生成し終えたという合図だった。

 

 

 

「ーーダイン!!」

 

 

 

「あ! ミーア様! 走るとコケちゃわないか? …まあ。いいか」

 

 

 

 愛しい男の顔を早く見たいとミーアは駆けだす。

 

 

 

 その想いが分からない程、ダコスタも野暮ではない。

 

 

 

 しばらく席を離そうと休憩室に彼は向かった。

 

 

 

 デビルガンダムのコクピットが開かれ、一人の男が出てきた。

 

 

 

 これにミーアが目を見開いて立ち止まる。

 

 

 

 漆黒に胸に赤い丸を描いたネオジャパンファイターのファイティングスーツを着た青年。

 

 

 

「えーー? ドモン、さん?」

 

 

 

 濡れるような漆黒の髪。

 

 

 

 鋭くも気高い黒曜石のような瞳。

 

 

 

 ミーアの記憶にあるダインーーDのそれよりもドモンに近い。

 

 

 

 いや、ドモン・カッシュそのものの顏だった。

 

 

 

 それに身長も高い。

 

 

 

 もともと、Dやドモンは180センチを越える身長だった。

 

 

 

 だが、この青年は2メートルを優に越えている。

 

 

 

 ミーアが困惑するのも無理はない。

 

 

 

 だが、彼女には確信できるものがあった。

 

 

 

 否応なく、自分を惹きつける力。

 

 

 

 自分が愛した青年と同じーー魂の色を彼から感じる。

 

 

 

「Dーーよね?」

 

 

 

 傍にまで歩み寄って来た青年を見上げてミーアが問いかける。

 

 

 

 するとDーーダインはニヤリと邪悪に笑みを浮かべた。

 

 

 

「ーーよう。ミーア」

 

 

 

 その笑みに、その声に、ミーアはもうたまらなかった。

 

 

 

 飛び込んだ。

 

 

 

 前の時は胸に収まったのに、今は丁度へそのあたりになる。

 

 

 

 逞しく、無駄な肉のないその腰を抱きしめてミーアは泣いた。

 

 

 

「うわぁああああああああっ! ダイン、ダイン、ダイィイイイイインッ!!!」

 

 

 

 ダインはそれに何も言うでもなく、静かに優しい瞳でミーアの顔を見下ろしている。

 

 

 

 そして静かにモニターに映るシュバルツ達と対峙するガンダムを睨み据えた。

 

 

 

 




 みなさん、お待ちかね~!

 ついに復活を遂げたDことダイン・カッシュ!

 悪魔の名を冠するガンダムを駆り、彼は愛する人々を護るため。

 友であり、宿敵であり、兄である男との約束を果たすため、最後の戦いへと出向きます!

 次回、機動武道伝Gガンダム SEED Destiny 第99話に!

 レディー、ゴー!!



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第99話 魔王デビルガンダムの一撃

 漆黒の宇宙の片隅で、男は月に腰掛け、長い脚を組んでいた。

 頭上からスポットライトが細く降り注いでいる。過酷な無重力空間はその働きを忘れたように、男を静かに佇ませていた。

 年齢不詳の男だ。黒く刈り込んだ丸い頭、丁寧に蓄えた口髭、くるりとした碧眼に愛敬があるが、右目は眼帯で覆われている。体格の良さから、派手な赤いスーツでも不思議とこの男によく似合っていた。

 彼は物憂げに目を伏せながら、低く、よく通る声で語った。

「シュバルツやマスター達でさえ、全く歯が立たないガンダムゴッドマスター。

 次々と追い詰められていく彼らの元にたどり着いたのは、新たな命を得た黒髪の青年。

 ダイン・カッシュと、その愛機デビルガンダム!!

 はたして、彼の究極の一撃はガンダムゴッドマスターに通用するのか?」


 突如、男が立ち上がった。

「いよいよ、これがコズミック・イラ最後のガンダムファイト!!
 
 みなさん、ご一緒に!!」

 赤いジャケットを脱ぎ捨て、右手にはどこからともなくマイクが、左手には右目を覆っていた眼帯が握りしめられ、その両腕が広げかかげられる。
 男は満面の笑みで『あなた』に言った。

「ガンダムファイト!! レディイイイイ、ゴォオオオオオオッ!!」







 

 クライン派のアジトでダインは、ダコスタのいる管制室にミーアを伴って現れた。

 

 

 

「Dさん! いえ、今はダインさんでしたね。無事に復活できたようで何よりです!!」

 

 

 

「ああ。それよりも、あのMFは何だ?」

 

 

 

「説明します! 実はーー」

 

 

 

 ダコスタは要点をかいつまんで説明した。

 

 

 

 既にデュランダル、ファム、ウルベ、ウォン、ジブリールは戦死していること。

 

 

 

 デュランダルとファムのMSがシン達の放った一撃に消し飛び。

 

 

 

 その後になってあのゴッドガンダムとよく似た機体が現れたことを。

 

 

 

「なるほど。あの姿は我ーー俺(デビル)やドモン(ゴッド)を越える機体(ガンダム)だという意思表示か」

 

 

 

 鋭く睨みつけながら、ダインはそう告げる。

 

 

 

 そして静かに管制室を後にしようとダコスタやミーアに背を向ける。

 

 

 

「行くんですか?」

 

 

 

「ああ。俺なら奴らの所まで行くのに10分とかからん」

 

 

 

「分かりました。お気を付けて!」

 

 

 

 ダコスタが頷いて送るのを振り返り、邪悪な笑みでダインは告げた。

 

 

 

「任せておけ」

 

 

 

 そう言って管制室を出るダインの後をミーアが追いかける。

 

 

 

「待ってよ、ダイン! 待って!!」

 

 

 

 構わずに出て行くダインをミーアはMS格納庫まで追いかけていく。

 

 

 

 通路を振り返らずに歩くダインの背を必死で追いすがり、ミーアはその腰に背中から抱き着いた。

 

 

 

「おねがいだから、逃げないでよ」

 

 

 

 心細そうな、親に置いていかれる幼子のような声でミーアはダインに告げる。

 

 

 

 するとダインは足を止めた。

 

 

 

「死ぬ気なの?」

 

 

 

 顔をダインの腰にうずめたまま、ミーアが問いかける。

 

 

 

「…笑わせるな」

 

 

 

 一瞬の間があったのを、ミーアは見逃さない。

 

 

 

「誤魔化さないで!!」

 

 

 

 嘲笑って背を向けたまま答えるダインにミーアの口調が荒くなる。

 

 

 

 彼女の両腕は震えていた。

 

 

 

 それを静かに見下ろした後、ダインは静かに告げる。

 

 

 

「ミーア」

 

 

 

 その温かくも真剣な声に、ミーアは手を解いて少し離れ彼の顔を見上げた。

 

 

 

 するとダインはミーアを振り返って見下し、告げる。

 

 

 

「生きて帰ってきたら、お前に聞いてほしいことがある。だから、待っていてくれ」

 

 

 

 真剣な表情で彼はそう言う。

 

 

 

 これにミーアは必死な表情になって告げた。

 

 

 

「絶対よ? 絶対、帰ってきて!! じゃなきゃ行かせない!! 行かせたくない!!!」

 

 

 

 瞳を合わせ、ダインは微笑む。

 

 

 

「約束だ。俺は必ず戻るーー! お前の下に」

 

 

 

 その温かな声と笑みを、ミーアは一生忘れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおおおおおお!!」

 

 

 

 気合とともに振り下ろされる右手のシュピーゲルブレード。

 

 

 

 だが、ゴッドマスターは無造作に左手で掴み止めてしまう。

 

 

 

「このっ! 身の程知らずがぁああ!」

 

 

 

 マスターガンダムが駆け抜けざま、マスタークロスを背中に一閃する。

 

 

 

 刹那、切りつけた部分にジョンブルガンダムの狙撃が命中した。

 

 

 

 さすがのガンダムゴッドマスターも掴んでいたブレードを離し、体勢を崩す。

 

 

 

「勝機! アイアンネット!」

 

 

 

 両手を組みビーム網を繰り出すシュピーゲル。

 

 

 

 ネットはゴッドマスターの全身を包んで捕獲し、電撃が機体の駆動回路をショートさせる。

 

 

 

 少し離れた位置から。

 

 

 

 マスターガンダムとジョンブルガンダムが並び立ち、攻撃を放った。

 

 

 

「ダァアアアクネスショット!」

 

 

 

「ジョンブルショット!」

 

 

 

 マスターは右手、ジョンブルはロングライフルからそれぞれ光弾を放つ。

 

 

 

 二つの光弾は見事にゴッドマスターの正面に直撃し、爆発する。

 

 

 

 その爆発が起こる頃には、高速移動でシュピーゲルが二機の間に並び立った。

 

 

 

「ふんっ! 見たか、わしらの力を!」

 

 

 

「いや、だめだ。今の俺たちには奴を倒せるだけの気が足りない」

 

 

 

 マスターの勝ち誇る声にチャップマンが冷静に答える。

 

 

 

 それにシュバルツが頷いた。

 

 

 

「その通りだ、チャップマン。既に私達の気は尽きかけている」

 

 

 

 そのシュバルツの言葉にミケロが、目の前に現れたゴッドマスターに反応し。

 

 

 

 拳蹴打のラッシュ攻撃を蹴りの連携技で返しながら、思わず叫ぶ。

 

 

 

「おいちょっと待て! てめえら、さっきから究極の一撃も放ってねえのに、何でそんなに気が無えんだよ……ん? まさか」

 

 

 

「そのまさかよ! つい組み手に力が入ってしまってな!」

 

 

 

 悪びれずに応えるマスターアジアに思わず目を見開く。

 

 

 

「は? ……おいおい、冗談だろ? まさかっ、テメエらっ! 内輪で……」

 

 

 

 そのミケロの言葉に、三機のガンダムファイターはこくりと頷いた。

 

 

 

「久しぶりに滾る組み手であったわ!」

 

 

 

「時間すら忘れるほどのよい組み手だったな」

 

 

 

「フン……。タイミングの悪いことだ」

 

 

 

 マスター、シュピーゲル、ジョンブルガンダムの頷きにネロスガンダムが思わず身体をそちらに向ける。

 

 

 

「こんの、役立たずどもがぁああああああああああ!!」

 

 

 

 思わず叫びながら、ゴッドマスターの右拳を直撃で喰らい吹き飛ぶミケロに対し、マスターアジアが一喝した。

 

 

 

「たわけが! 気力が尽きただと? わしらの力、甘く見るでないわぁああ!」

 

 

 

 これにチャップマンとシュバルツも便乗する。

 

 

 

「闘えば闘うほどに、気などいくらでも出てくる。尽きることなき我らの力、見るがいい」

 

 

 

「そう! どんなにつらい闘いでも立ち向かう! それが、ガンダムファイターだ!!」

 

 

 

 力強く宣言する二人に向かって更にミケロのボルテージが上がった。

 

 

 

「ピントずれたこと言ってんじゃねぇえええええええ!!」

 

 

 

 右正拳突きで追い打ちをかけてきたゴッドマスターの攻撃を避けて、右の上段回し蹴りを喰らわせて蹴り飛ばしながらミケロは吠える。

 

 

 

 

 

 

 

 キョウジは少し離れたところから、これまでの戦いを静かに腕を組んで窺っている。

 

 

 

「ガンダムファイターどもが元気なうちはいいが、このままだと持久戦だな。しかもあのガンダムの力は時間が経つごとに増して来ている。

 

 

 

 DG細胞製だからスタミナ切れなんてないだろうし、やり合えばやり合うほどこっちが不利か。さあて……。究極の一撃だのなんだのって言ってたが、実際問題打てる暇あんのかよ?」

 

 

 

 人機一体の境地、黄金のガンダムの極致が究極の一撃である。

 

 

 

 ガンダムとファイターの気を極限まで高め、さらに繰り出す一撃に全神経を集中しなければ撃つことはできない。

 

 

 

 たとえ万全の状態であったとしても極限まで気を高めるには気力を集中させる必要がある。

 

 

 

 現状のように乱打戦をしていては、気を集中している間に致命傷となる一撃を喰らうだろう。

 

 

 

 要するに、相手が待ってくれなければその究極の一撃は使えないのである。

 

 

 

 加えて今の自分たちは、組み手で体力と気力を使い果たす寸前だった。

 

 

 

 究極の一撃を放つための気力を集中させる作業に加えて、気力を回復させる必要もある。

 

 

 

 論外だ。

 

 

 

 よってキョウジは、究極の一撃を使うというプランを既にこの戦闘が始まった時点で外している。

 

 

 

「とはいえ、キツイもんはキツイか……。決め手に欠けるよな」

 

 

 

 シャイニングフィンガーソードは現在のキョウジが使える最高の技だ。

 

 

 

 これを石破天驚拳に変えたところで、今のキョウジの気では大して効果は変わらないだろう。

 

 

 

 既に戦闘が始まってから三十分経過している。

 

 

 

 マスター・アジアたちは強がっているが、気力回復できるのならとっくの昔にやれているだろう。

 

 

 

 気力を集中する暇もなければ、一息つく暇もない。

 

 

 

 ゴッドマスターはまるでこちらの現状を理解しているように絶えず攻撃を繰り返すと言う行動をしている。

 

 

 

 加えて、シュバルツたちは気を無駄遣いしないために小技を優先して使っている。

 

 

 

 普通の相手ならばこれは充分効果的なことだが、敵は致命傷となる一撃すらも平然と喰らって返してくるレベルである。はっきり言って桁が違う。

 

 

 

「さあて……どうしたものか。ーーん!?」

 

 

 

 本気で頭を悩ませ始めるキョウジの横に、すさまじい気をまとった巨体のガンダムが現れた。

 

 

 

 赤いボディに赤い羽根を持ったマスターガンダムとゴッドガンダムの合いの子のような見た目。

 

 

 

 20メートルを超えるガンダムが。

 

 

 

「よぉ。ずいぶんと苦戦しているじゃないか」

 

 

 

「デビルガンダム……、ダインか!」

 

 

 

 ドモンそっくりの顔と声にキョウジが思わずポカンとした後、名を呼ぶと。

 

 

 

 ダインは不敵な笑みで返してきた。

 

 

 

「情けないぞキョウジ、シャイニングガンダム。貴様らが揃ってこのざまとは」

 

 

 

「万全ならそうでもなかったんだがな、と言っておくよ」

 

 

 

「フッ。やつは俺が相手をする」

 

 

 

 ダインはそう言うと、デビルガンダムがその場から瞬間移動するようなスピードで、シュバルツたちとゴッドマスターの間に移動した。

 

 

 

「ダインか!」

 

 

 

「来おったか!」

 

 

 

 シュバルツとマスターが巨大なガンダムの背中を確認して告げる。

 

 

 

 ダインは振り返ることすらせずに告げた。

 

 

 

「邪魔だ。気力の尽きた雑魚どもは下がっていろ」

 

 

 

 ダインの言葉にミケロのこめかみに皺が寄る。

 

 

 

「んだと、この野郎ぉ……! いままでおねんねしてやがったくせによぉっ!」

 

 

 

「ダイン、言っておくがやつはとてつもなく強いぞ。復活したばかりのお前に倒せる相手ではない」

 

 

 

 その隣からチャップマンが冷静な声で告げた。

 

 

 

 これにダインは王の咆哮を上げる。

 

 

 

「チャップマンよ。俺を誰だと思っている!」

 

 

 

 紅い気を纏い、デビルガンダムはゴッドマスターに殴りかかった。

 

 

 

 二十メートルを超えるデビルガンダムの巨大な拳が敵に襲い掛かる。

 

 

 

 これを軽々と片手で止めるゴッドマスター。

 

 

 

 止められたのを確認してダインは目を鋭く細める。

 

 

 

「その姿……! 貴様も俺と同じようにゴッドガンダムを目指すか」

 

 

 

 このダインの問いかけに、ゴッドマスターのデュアルアイが光る。

 

 

 

「否」

 

 

 

 この現象に皆が固まる。

 

 

 

「しゃべりやがった!?」

 

 

 

 ミケロが驚愕に目を見開く。

 

 

 

 周りのファイター達も目を鋭くしながら構えを取り直す。

 

 

 

「私は すべてを 超越せし者 デビルガンダムよ 何故ヒトとなった?」

 

 

 

「貴様のようなプログラムに語ることなどなにもない」

 

 

 

 ダインはにべもなく気を高め、ゴッドマスターの体を押し返そうとする。

 

 

 

 しかし、意に反してゴッドマスターはデビルガンダムの巨体でも動かない。

 

 

 

「理解不能 デビルガンダムの言動は 理にかなっていない カンジョウ? と いうのか」

 

 

 

「俺はそれを手に入れたからな。今更、貴様のような奴に戻るつもりはない」

 

 

 

「それが デビルガンダムの 自己進化の果て か 憐れ」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

 無感情に平らな言葉。

 

 

 

 それにダインが鋭く目を細める。

 

 

 

「感情 そんな無駄なもののために お前は この力を 手に入れ損なった」

 

 

 

 同時にゴッドマスターが黄金の気を纏う。

 

 

 

 胸部のマルチカバーが開き、二つになったクリスタルが輝きだす。背負った禍々しい六枚のフィンが展開され、赤紫色の日輪を描く。

 

 

 

「これはっ……! 明鏡止水のハイパーモードか! だが、何故!? あやつにそのようなことが!」

 

 

 

「そうか。DG細胞は心の代わりにもう一つの答えを手に入れていたのか!

 

 それは、人間の命! この宙域に散っていった人々の魂、それを喰らって己が物としたか!」

 

 

 

 マスターの言葉にシュバルツが目を見開いて、説明する。

 

 

 

 これにミケロが表情を歪めながら問い返す。

 

 

 

「んだよ、そのオカルトみてえなセリフは!? じゃあなにか? やつのハイパーモードの根源は、ファイターの気力じゃなくて、人間の命そのものだってのか!!」

 

 

 

「許されんな。そのような冒涜はドモン・カッシュに、そしてゴッドガンダムに対しても許されることではない」

 

 

 

 チャップマンが冷酷な視線をゴッドマスターに向けて呟いた。

 

 

 

 静かにファイター達の殺気を受け、ゴッドマスターは動く。

 

 

 

「愚かな そのような感傷が お前たちに 限界を 与えるのだ

 

 

 

 見るがいい」

 

 

 

 拳を掴み止めていたゴッドマスターが、その場から消える。

 

 

 

 瞬間、デビルガンダムの腹部を撃ち抜く右拳。

 

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 

 くの字になったデビルガンダムの頭部を両手でロックし、膝でゴッドマスターは顔面を蹴り上げる。

 

 

 

「がはっ!」

 

 

 

 後ろにのけ反るデビルガンダムの顏に強烈な左のストレートが決まり、後方に弾け飛ぶ。

 

 

 

「……チッ」

 

 

 

 背後にあった小隕石に背中からぶつかり、磔にされた姿勢でダインはゴッドマスターを睨みつけ、吐き捨てる。

 

 

 

 そのデビルガンダムを見下ろし、ゴッドマスターはガンダムファイター達を振り返った。

 

 

 

「これが 答えだ

 

 

 

 デビルガンダムは 人になった

 

 

 

 それゆえに人機一体の境地を失くした

 

 

 

 人の肉体ではDG細胞で作られたガンダムと 人機一体になどなれない

 

 

 

 生体コアとして ガンダムが利用するか それとも デビルガンダムそのものを ファイターが支配するかだ

 

 

 

 共存はあり得ない たとえ 元は一つの存在であったとしても デビルガンダムと あなたはもう 一つではない

 

 

 

 別の存在となったものに 人機一体の境地など 使えるはずもない」

 

 

 

 淡々と告げてくる男とも女ともつかない。

 

 

 

 年齢すらもはっきりしない声。

 

 

 

 これにマスターが流派東方不敗の構えを取って告げる。

 

 

 

「フンっ、これは異なことを。ならばわしやシュバルツ、キョウジはどうする? DG細胞で造られたガンダムとわしらは一心同体よ! 杓子定規で量るでないわ!」

 

 

 

 気合いを入れ、更に気を高めようとするマスターガンダムに対して、ゴッドマスターは更に淡々と返していく。

 

 

 

「それはあなたがたが それだけの修行をしたからだ

 

 

 

 本来 ガンダムと ファイターが一心同体になることは 難しい

 

 

 

 ファイターであった あなたがたならば それは 誰よりも理解できよう」

 

 

 

 呟くように語られる言葉にマスターアジアが、チャップマンが、ミケロが叫び返す。

 

 

 

「フン! そのような道理! ガンダムファイターならばねじ伏せるのみよ!!」

 

 

 

「一つだけ、お前に告げておこう。人の可能性を甘く見るなよーー!」

 

 

 

「プログラムだかなんだか知らねえがよ、俺様の力、てめえごときに量れるなら量ってみやがれ!」

 

 

 

 デビルガンダム四天王の三人の言葉にシュバルツも頷く。

 

 

 

「そうだ、その意気だ! 私たちの力、こんなところで尽きはしない!」

 

 

 

「根性論や精神論は、俺はあまり好きじゃないが。どう足掻いても勝てない? 勝負事にそんなもんあるかよ。勝つ方法は必ずあるーー必ずな!」

 

 

 

 キョウジもシャイニングガンダムの右拳を握り、己の胸の前に構える。

 

 

 

 ファイター達の力強い意志にゴッドマスターは淡々と無感情な声で告げていく。

 

 

 

「諦めない か

 

 

 

 やはり 人は 愚かだ

 

 

 

 知恵がある分 諦めも 悪い

 

 

 

 私は 滅ぼすのみ   私こそが 究極の存在と 知らしめるために」

 

 

 

 両の手を広げて、黄金の光を纏うガンダムゴッドマスター。

 

 

 

 その姿は確かに美しい。

 

 

 

「誰にだ? 誰に知らしめる? 貴様は」

 

 

 

 ダインが気を込め、デビルガンダムに増幅させて小隕石を砕きながら構え問う。

 

 

 

「世界」

 

 

 

 ゴッドマスターの答えにミケロが目を見開いた。

 

 

 

「プログラムにしちゃずいぶんとロマンチックなセリフじゃねえか、あぁ!?」

 

 

 

「無駄口は終わりか ならば 死ぬがいい」

 

 

 

 淡々とした声にもプレッシャーが増したのが分かる。

 

 

 

 これにシュバルツがキョウジを見据えて言った。

 

 

 

「キョウジ! 作戦はどうした!!」

 

 

 

 キョウジがこれにDG細胞の力を発動させ、凶気を纏いながら言う。

 

 

 

「ちょうど出来上がったところさ。みんな、コンビネーションの準備はいいか? ダイン! 正直、この勝負はお前にかかってる。やれるな?」

 

 

 

「誰に向かって言っている、キョウジ!」

 

 

 

「奴の言う通りなら。お前は今、明鏡止水を使えないのか?」

 

 

 

「だからなんだ?」

 

 

 

「使えなきゃ話にならん。俺たちが時間かせぐから、その間にお前は黄金のハイパーモードになれ。究極の一撃で、あの舐めたプログラムを消し飛ばせ。いいな、弟よ」

 

 

 

 睨みつけてくるその迫力は、普段優しい兄とはまるで違う。

 

 

 

 その気を受け、ダインは邪悪に笑った。

 

 

 

「ずいぶんと無茶を言う兄貴だぜ。だが、それぐらい出来ねば我が兄ドモンのーーゴッドガンダムの宿敵足りえん。ゆくぞ! デビルガンダムよ!!」

 

 

 

 ダインの声に応えるようにデビルガンダムが目を輝かせる。

 

 

 

 両の拳を腰において、気を高めるダイン。胸部カバーが開き、エネルギーマルチプライヤーが深紅に輝く。

 

 

 

「ここからか……。ここから黄金になるのにガンダムと一体とならねばならん」

 

 

 

 瞳を閉じ、更に気を高め、集中していく。

 

 

 

 この姿にマスターが笑いながら言う。

 

 

 

「フン! では、わしらが露払いとさせてもらおうか!」

 

 

 

「ああ。俺たちの王のために」

 

 

 

「ヘッ、デビルガンダム四天王かい。いまは、その呼び方も嫌いじゃねえぜ!!」

 

 

 

 チャップマン、ミケロがそれぞれ構えを取りながら告げる。

 

 

 

 高まる闘気にシュバルツも告げた。

 

 

 

「この世界は、お前のような機械のものにはならん! 最後の最後まで戦い抜いた、この世界の少年たちのためにも、――そして私たちのために勝利を祈る人々のためにも!! 私たちは負けん!!!」

 

 

 

「一気に終わらせてやる。このガラクタがぁああ!」

 

 

 

 デビルの力を発動させて、キョウジのシャイニングガンダムがスーパーモードを発動する。

 

 

 

 同時にシュバルツが明鏡止水の構えを取る。

 

 

 

「鏡転同血……! ゆくぞ! ゴッドガンダムよ!」

 

 

 

 青白い光とともにシュピーゲルが紅蓮の炎を身に纏う。

 

 

 

 六枚のフィンを展開させ、胸部のエネルギーマルチプライヤーを真っ赤に燃やしてトリコロールの機体、ゴッドガンダムへと変化した。

 

 

 

 これにガンダムゴッドマスターは嬉しそうに反応する。

 

 

 

「ほう ゴッドガンダム か 面白い」

 

 

 

「来るぞ!」

 

 

 

 黄金の気を纏ったゴッドマスターが目の前に現れる。

 

 

 

 拳と蹴りを応酬し合う両者。

 

 

 

 しかし、徐々にシュバルツが押し負けていく。

 

 

 

「やらせん」

 

 

 

「貴様の思い通りにはさせんわぁ!」

 

 

 

 左右からジョンブルガンダムとマスターガンダムがゴッドガンダムの援護にとゴッドマスターに襲い掛かる。

 

 

 

「合わせろチャップマン、マスター! 左側頭だああ!!」

 

 

 

 シュバルツの合図とともにゴッドガンダムが右ストレート、マスターガンダムが右の上段回し蹴りを、ジョンブルガンダムが左のバックスピンナックルをそれぞれ同時にゴッドマスターの左横顔に叩き込んだ。

 

 

 

「 なに 」

 

 

 

 弾き飛ぶゴッドマスター。

 

 

 

「いくぞ!」

 

 

 

 ゴッドガンダムが右ストレートをボディに、合わせてマスターガンダムが左のストレートを、ジョンブルガンダムが右の前蹴りを同じポイントに叩き込む。

 

 

 

 三体のガンダムが全く同時に同じポイントに打撃を叩き込む。

 

 

 

 これは、まさに神業である。

 

 

 

「 貴様ら 」

 

 

 

 淡々としながらも、焦ったような気配をするゴッドマスターにマスターガンダムが笑う。

 

 

 

「どうした? 先までの勢いは!?」

 

 

 

 シュバルツが静かに構えを取りながら告げる。

 

 

 

「どうやらさすがの貴様も、ファイター三人がかりの攻撃は効くようだな」

 

 

 

「俺たちの魂の拳、貴様ごとき紛い物に受け切れるものか」

 

 

 

 チャップマンも構えを取りながら冷酷な瞳で冷たく告げる。

 

 

 

「 悪あがきを 」

 

 

 

 構える黄金の光を放つゴッドマスター。

 

 

 

 その顔面へ、二つの彗星が急降下した。

 

 

 

「言いてえことはそれだけかぁっ! ハイパー銀色の脚ィイイイイスペシャルウウウ!!」

 

 

 

「無駄口をいつまでも叩いてんじゃねえよ。次元覇王流、聖槍蹴りぃいいい!!」

 

 

 

 シャイニングガンダムとネロスガンダムの飛び横蹴りが同じポイントに決まる。

 

 

 

 顔面を蹴り飛ばされたゴッドマスターは後方の小隕石に叩き込まれた。

 

 

 

 だが、すぐに小隕石は黄金の光と共に爆発する。

 

 

 

 そしてガンダムファイター達の目の前に現れるガンダムゴッドマスター。

 

 

 

「 終わらせて やろう お前たち の 無駄な あがき を」

 

 

 

 力が膨れ上がり、身にまとう黄金の光が更に強烈に輝きだす。

 

 

 

 これに一早くシュバルツが気付いた。

 

 

 

「いかんっ、奴め! 極限の一撃を放つつもりか!」

 

 

 

「やらせるかぁああ! 銀色のぉおおお!」

 

 

 

 反応するミケロは右脚を掲げ、紫の気を纏わせて振りかぶるも。

 

 

 

「遅い」

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

 足を振りかぶった瞬間に背後にゴッドマスターが現れる。

 

 

 

 強烈な右フックを、振り返り様に顔面に喰らって弾き飛ばされるネロスガンダム。

 

 

 

「ミケロ!」

 

 

 

 キョウジのシャイニングガンダムが、デブリ帯に叩きつけられる前にネロスガンダムを受け止める。

 

 

 

 そしてそれを確認して、敵は動いた。

 

 

 

 両腕を大きく広げてゴッドマスターは右手に蒼紫の炎を、左手に深紅の炎を燃やす。

 

 

 

「 俺の 両手 が 揃って 吼える  限界 超えろ と 烈烈 叫ぶ 」

 

 

 

 両手を組む。

 

 

 

 淡々とした祝詞を読み上げる。

 

 

 

 相反する二つの炎は、全てを呑み込む白い闇へと変化する。

 

 

 

「いかん! 皆、避けろ!!」

 

 

 

「 双 極 ゴッド デビル フィンガー 」

 

 

 

 突き出される両手。

 

 

 

 同時に放たれる白い闇は圧倒的な威力をもってすべてを無に帰していく。

 

 

 

「くっ、ラクス! みんな!」

 

 

 

「ネオ! ええいっ!」

 

 

 

 爆発のなか、シュバルツたちの声が聞こえた。

 

 

 

 白い闇がマリュー達の視界を奪った後、数十秒後には。

 

 

 

 何事もなかったかのように白い闇は晴れ、漆黒の宇宙が姿を見せた。

 

 

 

 マリューがアークエンジェルのモニターを見ながら訝しむ。

 

 

 

「ど、どうなったの……!」

 

 

 

「っ! マスター、ガンダム……?」

 

 

 

 ムウ・ラ・フラガが気付いて声を上げた時、モニター上には無残にも右腕と左脚を失い、自分たちを庇うマスターガンダムの背があった。

 

 

 

「東方先生! な、なんで!!」

 

 

 

「なんという、威力よ……! 直撃を避けて、これほどとはっ!!」

 

 

 

 マリューが声を失いながらマスターの隣を見ればシャイニングガンダムも同じような状態で浮かんでいた。

 

 

 

 左腕を失い、全身から火花を散らしている。

 

 

 

「キョウジさん……! 私たちを庇って!? どうして!!?」

 

 

 

 これにキョウジが静かに告げる。

 

 

 

「勘違いしないでくれ、マリューさん。あなたたちは、生きなきゃいけないんだ! この世界のためにっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 一方、同じ宙域にいたミネルバの前にも半壊したガンダムが浮いている。

 

 

 

 あの強力な強さを誇るガンダムシュピーゲルが左腕と両足を失っていたのだ。

 

 

 

「か、艦長……!? ガンダムシュピーゲルがっ!」

 

 

 

「どうしてなの!? どうして庇ったのシュバルツ・ブルーダー!! 私たちを庇うよりも、あいつを倒さないと!!」

 

 

 

 アーサーとタリアの言葉にシュバルツが静かに見返しながら告げる。 

 

 

 

「先程、ラミアス艦長に……。キョウジが言ったとおりだ……。あなたがたは、死んではならん」

 

 

 

 

 

 

 

 そして当然、エターナルにもだ。 

 

 

 

 両足を失い、半壊したジョンブルガンダムを見て。

 

 

 

 イザークが叫ぶ。

 

 

 

「な、何故だ!? 何故、アンタが俺たちを庇ってくれるんだ!? ジェントル・チャップマン!!」

 

 

 

「死ぬには早い。貴様らは生きねばならない」

 

 

 

 告げるチャップマンの声は、いつもどおりに淡々としている。

 

 

 

 だがその表情は前髪が垂れ、脂汗を浮かばせている。

 

 

 

「けどよ! 俺たちを庇ったせいで、あんたのガンダムは!!」

 

 

 

「チャップマンさん。お早く、こちらに来てください。この宙域を脱出します」

 

 

 

 闘える状態ではないと告げようとするディアッカを制し、ラクスが静かに告げる。

 

 

 

 この場は退却するしかない、と。

 

 

 

 しかし、誇り高いこの王者にはそんなことはできなかった。 

 

 

 

「断る」

 

 

 

「ですが!!」

 

 

 

「俺たちがここを離れれば、やつは地球に向かう。そしてひとを、無辜の民を平然とその手にかけるだろう。これ以上、無駄に命を散らせるわけにはいかん」

 

 

 

 チャップマンの言葉にラクスの表情が歪む。

 

 

 

 彼の言葉の重みが分かったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミケロさんっ……!」

 

 

 

 レセップスに乗るメイリンも、ミケロのネロスガンダムに護られていた。

 

 

 

 ネロスガンダムは自慢の両足を失いながらも、レセップスを守り抜いたのだ。

 

 

 

「大丈夫か嬢ちゃん。……まあ、無事じゃなかったら、この俺様が体を張った意味がねえんだがよ……」

 

 

 

「に、逃げましょう! このままじゃ、皆!」

 

 

 

「そうもいかねえみてえだ……。あんな化け物、野放しにしちゃレイや嬢ちゃんが碌な目にあわねえだろ? 嬢ちゃんはレイを連れて逃げろ。いや、嬢ちゃんだけじゃねえ」

 

 

 

 ミケロは通信を宙域に広げた。

 

 

 

「ここにいる全員に告げる! テメエら、邪魔だ! さっさと逃げろ!!」

 

 

 

 ミケロの言葉にマスターが笑みを浮かべ、キョウジも頷く。

 

 

 

「ほぉ。わしの言いたいことを代弁してくれるとはありがたい」

 

 

 

「マリューさん。ミケロの言うとおり、アンタ等は逃げてくれ」

 

 

 

 キョウジの言葉にマリューが目を見開いた。

 

 

 

「キョウジさん……っ!」

 

 

 

 一方で、タリアも目の前にいるシュバルツに食って掛かる。

 

 

 

「シュバルツ殿、あなたは私たちに逃げろと言うの!? ここまで一緒に戦った私たちに!?」

 

 

 

「すまない。だが、これしか手はないんだ。私たちの命をここで最大限に燃やし、やつを斃す。刺し違えてでも」

 

 

 

 申し訳なさそうにはしているが、シュバルツの強い瞳は決して折れることはない。

 

 

 

「シュバルツ殿!」

 

 

 

「艦長! すみません!!」

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 引き留めるタリアは、アーサー副長の持っていたスタンガンによって意識を失わされた。

 

 

 

 彼はそのまま、クルー達に告げる。

 

 

 

 断腸の思いで。

 

 

 

「艦長代行命令だ! この宙域を、脱出する!! いいんですね!? シュバルツ殿!!」

 

 

 

「辛い決断をさせてしまったな。……すまん」

 

 

 

 その言葉に、アーサーは涙を流しながら告げた。

 

 

 

「生きて帰ってきてください! 必ず!!」

 

 

 

「ああ。ありがとう、アーサー」

 

 

 

 アーサーの指示通り、ミネルバはバーニアを使って宙域を脱出し始めた。

 

 

 

「ミネルバ! 宙域を離脱します!」

 

 

 

 これをアークエンジェルの通信兵が告げる。

 

 

 

 ムウがこれにマリュー・ラミアス艦長を振り返る。

 

 

 

「マリュー!」

 

 

 

「っ! だって……! キョウジさんっ……!!」

 

 

 

 瞬間だった。

 

 

 

 迷うマリューでも苦悩するムウでもなく、バルトフェルドが声を上げる。

 

 

 

「俺が艦長代行として告げる。アークエンジェルは後退する!」

 

 

 

「バルトフェルド隊長!!」

 

 

 

「恨み言は後でいくらでも聞く! 俺たちがいたら、キョウジたちの足手まといだ!!」

 

 

 

 バルトフェルドの強い声にマリューとムウが黙る。

 

 

 

 これに前方のマスターガンダムから通信が入った。

 

 

 

 温かな笑みと声で彼は告げる。

 

 

 

「ネオよ。我が弟子たちを頼んだぞ」

 

 

 

「東方先生……くっ! イアンは!」

 

 

 

 今にも泣き出しそうなムウの表情にマスターアジアは全てを悟り、告げた。

 

 

 

「そうか……逝ったか……。貴様のせいではない」

 

 

 

「あなたは生きてくれ! 頼む!」

 

 

 

 必死なムウの呼ぶ声に、マスターアジアは豪快に笑った。

 

 

 

「ふん! 誰に物を言うておる!! ワシの名は東方不敗! マスター・アジアよ!!」

 

 

 

 気合一閃。

 

 

 

 マスターガンダムが壊れた箇所を自己再生で一気に回復させる。

 

 

 

 それを横目に見てから、キョウジは鋭い瞳と不敵な笑みで告げた。

 

 

 

「ったく。マリューさん……。辛気臭い顏だな? 人を勝手に殺すなよぉおおっ!!」

 

 

 

 キョウジの裂帛の気合とともにシャイニングガンダムのスーパーモードが発動する。

 

 

 

 同時に壊されていた箇所も自己再生で一気に回復した。

 

 

 

「こういう時だけは、父さんにアルティメット細胞を組み込んでもらってありがたかったぜ。さあ行くぞ、シャイニングガンダム!!」

 

 

 

 これに合わせるようにファイター達が次々と気合を入れ、ガンダムを修復させる。

 

 

 

 そして一気に庇っていた戦艦から離れ、敵に向かって飛び立つ。 

 

 

 

 彼らはゴッドマスターの前に現れて並び立ち、向かい合う。

 

 

 

「 蛆虫 ども め まだ 生きて いた か」

 

 

 

 淡々と告げてくるゴッドマスターを無視してマスターアジアが声を張り上げる。

 

 

 

「貴様ら! 後どれだけ動ける?!」

 

 

 

 マスターアジアの言葉に、キョウジが一言応える。

 

 

 

「アンタと似たようなもんだ。いいとこ、後一分だな。フルパワーで活動できるのは」

 

 

 

 これにミケロがニヤリと笑って告げる。

 

 

 

「ヘッ! じゃあ行くとするか。最後だ、DG細胞のクソ野郎!!」

 

 

 

 チャップマンがこれに笑顔で応える。

 

 

 

「王者の誇り、いま懸けずしていつ懸ける」

 

 

 

 シュバルツが盛り上がるファイター達を代表して告げる。

 

 

 

「では、残り一分。私たちの最高の力をお見せしよう!! 悪魔の右手に、神の左手を持つガンダムよ!!」

 

 

 

 両手を広げ、ゴッドマスターがガンダムファイター達を手招く。

 

 

 

「 来い  お前達 の 命 散らせて やろう  死にぞこない ども よ」

 

 

 

「ゆくぞおおおおお!!」

 

 

 

 シュバルツの気合の声とともに今一度、シュピーゲルがゴッドガンダムに変化する。

 

 

 

 同時に黄金の気を纏うゴッドガンダム、シャイニングガンダム、マスターガンダム。

 

 

 

「ファイナルラウンドだ!! ゴングを鳴らせ! シュバルツうう!!」

 

 

 

「ーーうむ!!」

 

 

 

 マスターアジアの声が響き、シュバルツが頷く。

 

 

 

 彼は目を見開き、叫んだ。

 

 

 

「ガンダムファイトォオオオオオ!!」

 

 

 

 これにその場に立っている4人も応える。

 

 

 

「「「「レディイイイイ!!」」」」

 

 

 

 声をそろえて全てのファイター達が魂の試合を始めた。

 

 

 

「「「ゴォオオオオオオッ!!」」」

 

 

 

 真っ向からぶつかり合う、ゴッドガンダムとゴッドマスター。

 

 

 

 拳と拳をぶつけ合う黄金の機体が二機。

 

 

 

 命を燃やすシュバルツ・ブルーダーの最後の攻防は、まったくの互角。

 

 

 

「うぉおおおおおお!!」

 

 

 

「 馬鹿 な 何故 貴様に これだけの 力 が 」

 

 

 

 殴り合いを続けながらも、命を削った攻防であることはゴッドマスターにも理解できている。

 

 

 

「 だが その力 長くは もつまい 」

 

 

 

「甘いわぁあああ!」

 

 

 

 横から黄金のマスターガンダムが飛び蹴りをかましてくる。

 

 

 

 右腕でゴッドガンダム、左腕でマスターガンダムの攻撃をさばくガンダムゴッドマスター。

 

 

 

「この心、明鏡止水。されど! 掌は烈火の如く!」

 

 

 

「このわしの! マスター・アジアの真の一撃、受けてみせい!!」

 

 

 

 二人の連撃は、一撃が当たれば並みのガンダムを削り取れるほどに重い。

 

 

 

 それをゴッドマスターは真っ向から受け止めている。

 

 

 

「爆熱! ゴッドフィンガァアアア!!」

 

 

 

「ダァアアアクネスフィィンガァアアアア!!」

 

 

 

 共にシュバルツとマスターアジアは左右から同時に右手を炎で燃やし、突き出してくる。

 

 

 

「双極 ゴッド デビル フィンガー」

 

 

 

 これに対しガンダムゴッドマスターは両腕を左右に広げて、悪魔の右手をシュバルツにと神の左手をマスターアジアに突き出す。

 

 

 

「ぬぉおおおおおお!!」

 

 

 

「はぁあああああああ!!」

 

 

 

 組み合う三者。

 

 

 

 気合いが響き渡る。

 

 

 

 シュバルツとマスターアジアの最後の魂の炎が燃え盛っている。

 

 

 

「爆発ぁあああつっ!」

 

 

 

「ヒィイイイト、エンド!!」

 

 

 

 一際、巨大な気が爆発して、ゴッドガンダムが青白い光と共にシュピーゲルに戻ると、マスターガンダムも黄金の気が弾け、もとの漆黒のガンダムに戻ってしまう。

 

 

 

 完全に相殺された。

 

 

 

 気を使い果たした二人にゴッドマスターが右手を振りかぶる。

 

 

 

「 とどめ だ 」

 

 

 

「甘いんだよ、アホォオオオ!!」

 

 

 

 左の飛び蹴りで急降下すると同時に、ネロスガンダムが上中下段の全てに同時に右廻し蹴りを放つ。

 

 

 

「 小賢しい 」

 

 

 

 右腕でそれを捌きながら、左手でゴッドフィンガーを準備する。

 

 

 

「ハイパー銀色の脚! スペシャル!!」

 

 

 

「合わせるぞ、ミケロ。グランドホーン!!」

 

 

 

 これにミケロが左脚を、チャップマンが右脚を斜め上のゴッドマスターの顔にむけて前蹴りを放つ。

 

 

 

 二人からの蹴り上げを左手のゴッドフィンガーで受けるゴッドマスター。

 

 

 

 力と力がぶつかり合い、再び火花が散る。

 

 

 

「 ヒート エンド だ 」  

 

 

 

 気が爆発し、ジョンブルとネロスガンダムが後方へ弾け飛ぶ。

 

 

 

 その隙にシャイニングガンダムが、ゴッドマスターの伸ばした左手の内側に現れた。

 

 

 

 DG因子を発動させ、凶気を目にしたキョウジのすさまじい連撃。

 

 

 

「 打撃 の 応酬 で 私 が 打ち 負ける だと 」

 

 

 

 打撃を交換しながらゴッドマスターが目を見開く。

 

 

 

 自分の攻撃が全て読まれた上で、攻撃を返されている。

 

 

 

 キョウジは凄絶な笑みを浮かべながら、獣のような咆哮を上げて技を叩き込む。

 

 

 

「聖拳! 疾風! 蒼天! 裂帛! 竜巻! 聖槍!!」

 

 

 

 次々と撃ち込まれる拳蹴打撃の数々に。

 

 

 

 ついに、ゴッドマスターの体が後方へはじけ飛ぶ。

 

 

 

 更に右手を大きく振りかぶって、キョウジは叫んだ。

 

 

 

「この俺の! 愛と怒りと悲しみを込めて!! シャアアアイニング、フィンガァアアアアアア!!」

 

 

 

 キョウジの気合と共に、黄金の気が右手に集約され、白金色に変わる。

 

 

 

 トリコロールに戻りながら、シャイニングガンダムは七色を放つ白金色の光の掌を突き出す。

 

 

 

 同時にゴッドマスターも右手に蒼紫の炎を燃やし、デビルフィンガーを放つ。

 

 

 

「 暴裂 デビル フィンガー 」

 

 

 

 ぶつかり合う二つの力。

 

 

 

 後方に弾かれたのは、ゴッドマスターの方だった。

 

 

 

 しかし、同時にキョウジのシャイニングガンダムはノーマルモードに変化し、糸の切れた人形のように脱力する。

 

 

 

 これを悠然と見ながらゴッドマスターは告げた。

 

 

 

「 なるほど 命 を 使う のは 私 だけ では ない のか」 

 

 

 

 言いながら、ゴッドマスターは再び両手を大きく広げ、異なる色の炎を左右に燃やす。

 

 

 

「 ならば これで 終わりだ 」

 

 

 

 掌に全ての力を凝縮し、両手を前方で組んで突き出して白い闇の塊を生み出す。

 

 

 

 機体を白と黒を基調とした色に戻しながら、右目が青く左目が紅く光る。

 

 

 

 その光景は絶望を与えるには充分だった。

 

 

 

 だがーー。

 

 

 

「フフフ、ハハハハハッ」

 

 

 

 キョウジが哄笑する。

 

 

 

 それに同調するように、シュバルツがマスターが、ミケロが、チャップマンが声を大にして笑った。

 

 

 

「哀れな 最後に気が狂ったか」

 

 

 

 そう言いながら両手を突き出し、エネルギーを放って全てを終わらせようとするゴッドマスターにキョウジは笑いながら告げた。

 

 

 

「……貴様の、負けだ!!」

 

 

 

 ゴッドマスターがキョウジの見つめる視線の先に気付き、そちらを向くと。

 

 

 

 神々しい黄金の気を纏った20メートルを越えるガンダムが其処に居た。

 

 

 

「 なん だと 」

 

 

 

 無感情な声で、しかし確かにゴッドマスターは戦慄した。

 

 

 

 デビルガンダムから発せられる気は、極限まで高まってなお増えている。

 

 

 

「……」

 

 

 

 ダインは静かに瞳を開き、己の中にあるモノを見つめていく。

 

 

 

 ドモンとゴッドガンダム。

 

 

 

 ラクス、ダコスタ。

 

 

 

 ミケロ。チャップマン。

 

 

 

 マスターアジア

 

 

 

 シュバルツとキョウジ。

 

 

 

 そしてーー。

 

 

 

『待ってるからね。私ーーダインが帰ってくるの、信じて待ってるから!!』

 

 

 

 彼女の声が、想いが。

 

 

 

 体温が、匂いが。

 

 

 

 全てが愛しいーー。

 

 

 

「 なぜだ おまえは わたしと 同じ 存在  なぜ おまえに こんな 力 が 」

 

 

 

 振り返りながら、双極ゴッドデビルフィンガーを構えて言う。

 

 

 

 そんなゴッドマスターにダインは、そしてデビルガンダムは静かに語り掛けた。

 

 

 

「今の貴様には、どう足掻いても成れぬ境地だーー」

 

 

 

「消え失せろ 我がオリジナル」

 

 

 

 放たれる白い闇。

 

 

 

 対するは、究極の一撃。

 

 

 

 白金色の光の球が七色を放ちながら、デビルガンダムの右手に宿る。

 

 

 

 それを右腰に置き、両手でたわめて全身を黄金色から赤を基調としたトリコロールに戻り、デビルガンダムは構える。

 

 

 

「くたばれーー! 石破ぁ!! 究極ぅううう!! 天ぇえええん驚ょおおおお拳ぇえええん!!!」

 

 

 

 前方に突き出すと同時、圧倒的な光が放たれる。

 

 

 

 白金色の光と純白の闇は両者の中央で激突した。

 

 

 

 そしてーー。 

 

 

 

 神と悪魔の片腕を持ったガンダムは消えて行く。

 

 

 

 ガンダムとファイターの共存を否定したがゆえに、共存を行い更に前に進む者。

 

 

 

 ダイン・カッシューー否、ガンダムファイターという人種の前に敗れたのだった。

 

 

 

 その神々しい光は宇宙の闇を温かな光で照らしていくのだった。

 

 

 

 全てが終わった。

 

 

 

 それを分からせるように、太陽が静かに彼らを照らしていた。

 

 

 

 




この道しかない、願いを叶えたいのなら

そう信じた時から突き進んできた道。

それを彼らは否定し、新たな道を少年たちに考えさせた。

それぞれの思いを乗せて争いは終わる。

今、強き戦士達との別れの時。

少年たちの思いは?

次回、機動武道伝GガンダムSEED Destiny 最終回

新たな時へ、飛び立て! ガンダム!! 



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第100話 希望の未来へ向かえ レディー・ゴー

 デビルガンダムの究極石破天驚拳の前に消し飛んだ絶望の化神。

 世界が平和になると共に、シュバルツやダイン達も落ち着いていく。

 ドモンが迎えに現れた時、シンやキラ、アスラン達はそれぞれの想いを彼らにぶつけるのだった。





 

 

 

 あの激戦の後。

 

 

 

 俺やキラさん達は、それぞれの戦艦の医療室で目を覚ました。

 

 

 

 正直、記憶は曖昧だったけど。

 

 

 

 議長とファムと言う女を倒してから、妙なガンダムが現れてシュバルツさん達と戦っていたのまでは覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミネルバの医療室で、シンは目を覚ました。

 

 

 

「ーー艦長に聞いてみないとな。みんながどうなったのか」

 

 

 

 ベッドの脇に足を下ろしながら、シンはあまり深く考えずに告げた。

 

 

 

「ま、シュバルツさんやキョウジさんに、マスターアジアがいたんだから、やられやしないだろうけどな」

 

 

 

 ふと、敵にどのような攻撃も通じていなかった光景が頭の中に浮かび、思わず首を左右に振る。

 

 

 

「ないないない。ありゃ、タチの悪い夢だな」

 

 

 

 シンは目を覚まそうと両手で頬を叩く。

 

 

 

 ゆっくりと伸びをした後、ブリッジに向かった。

 

 

 

 そこでは、大騒ぎになっている。

 

 

 

 それを首を左右に見回しながら状況を確認する。

 

 

 

「え? なんだ?」

 

 

 

 皆が無事であることを喜ぼうとするシンの心とは裏腹に、通信兵や艦長、副長たちの表情はすぐれない。

 

 

 

「ーーシン?」

 

 

 

 後ろから声をかけられ、振り返るとそこにはルナマリアが居た。

 

 

 

「ルナ。お前も目が覚めたんだな!」

 

 

 

「ーーうん。何、この騒ぎは?」

 

 

 

 首を横に振り、自分にもわからないことをルナマリアに伝え、会話に耳を澄ませてみる。

 

 

 

「索敵レーダーをつかえ!」

 

 

 

「レーダーならオーブのアークエンジェルの方が優秀よ! 通信を入れて!!」

 

 

 

「見当たらないだと!? バカな!! ちゃんと探せ!!」

 

 

 

「やってますよ!!」

 

 

 

 何かを探しているようだ。

 

 

 

 シンとルナマリアは特にそれに何を思うでもなく、ブリッジに足を踏み入れた。

 

 

 

「艦長、みんな。どうしたんです?」

 

 

 

 シンが意を決して語り掛けると、皆が水を打ったように静寂に包まれる。

 

 

 

 そして静かにこちらを振り返り、タリアが申し訳なさそうな顔になりながら静かに告げてきた。

 

 

 

「シン、ルナマリア。どこまで覚えているの?」

 

 

 

 その言葉に二人は答える。

 

 

 

 議長とファムを倒した後に出てきたガンダムとシュバルツ達が戦闘を始めたところだと。

 

 

 

「そう…」

 

 

 

 タリアはそれだけを告げると、静かに続けた。

 

 

 

「落ち着いて聞いて、二人とも。シュバルツ殿ーーいいえ。あの正体不明のガンダムと戦ったガンダムファイター達が誰一人あの宙域に見つからないの」

 

 

 

 シンとルナマリアの顔が凍る。

 

 

 

 アーサーが続けた。

 

 

 

「あの化け物の姿もガンダムファイター達も消えたんだ。まるで最初からいなかったみたいに。いや、そんなはずはない。彼らなら必ず勝利したはずだ! そうだろ?」

 

 

 

 副長の言葉に呆然としながらシンは頷く。

 

 

 

 何を当たり前のことを、とは思うが。

 

 

 

 同時にアーサー副長の言葉が遠くに聞こえた。 

 

 

 

 話したいことがいっぱいあったはずだった。

 

 

 

 戦いが終わったら、シュバルツ・ブルーダーに伝えたいことがあった。

 

 

 

 彼の下で学べたこと、出会ったことの奇跡を感謝したかった。

 

 

 

 なのに。

 

 

 

 何も言う暇もなく、風のようにガンダムファイター達はこの世界から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、世界は慌ただしく動いた。

 

 

 

 DG細胞の起こした戦争。

 

 

 

 デュランダルとジブリール両陣営の争いは、あまりに凄惨でコーディネーターとナチュラルの。

 

 

 

 否、人々の心に深い爪痕を残した。

 

 

 

 軍人、民間人、政治家。

 

 

 

 全ての人間を巻き込む事態は、人々にある意味では妄信を辞めさせ、ある意味では疑心暗鬼を与える結果となる。

 

 

 

 疑いを持つ。

 

 

 

 様々な法律や国の動きに先進国の民は疑いと興味を持って見つめる。

 

 

 

 それは当たり前と言えば当たり前のことだが。

 

 

 

 人は慣れと共に、疑いや問題意識を持たなくなる。

 

 

 

 どうせ変わらないと諦め、言うことを辞めてしまう。

 

 

 

 その諦めが、自分の首を絞めることを漠然と分かっていながら。

 

 

 

 だからこそ、人々が意識を持っている今が。

 

 

 

 ラクスやカガリ達の勝負どころであった。

 

 

 

 ラクス・クラインはプラントを纏め上げ、最高評議会議長として議席に着き、カガリ・ユラ・アスハは地球にあって暴走する連合を止め、唯一独立を貫いた手腕を買われて現・連合代表のコープランドと共に三勢力の会議を開く。

 

 

 

 ミーア・キャンベルことミーア・クラインは、当初こそ帰還しないダイン・カッシュに対し取り乱していたが、積極的に姉・ラクスの片腕として動く。

 

 

 

 それは彼女なりに寂しさを拭うための手段だったのかもしれない。

 

 

 

 慌ただしく過ぎ去る日々。

 

 

 

 シンとルナマリアはザフト軍人でありながら、キラやアスランと同じオーブ所属になる。

 

 

 

 レイはメイリンを伴い、オーブの孤児院で療養生活を始めた。

 

 

 

 周りの人々からの勧めと、何よりメイリンの強い希望だった。

 

 

 

 キラとアスランは正に殺人的な業務を仕切っている。

 

 

 

 キョウジ・カッシュが執り行った事務の全てをノート片手に必死で身に付け、寝る間も惜しんで宇宙や地球を行き来していた。

 

 

 

 シンがオーブに入ったのも見るに見かねて、だ。

 

 

 

 二人は責任感が強過ぎて、限界まで仕事をやろうとするところがある。

 

 

 

 間違いなく早死にすると、シンはルナマリアに語った。

 

 

 

 スティングやアウル、ステラの3人は当面、ネオことムウの指示でレイとメイリンの付き添いで施設に来ている。

 

 

 

 ステラはシンについて行きたがったが、事務仕事と外交には向いていないと誰もが首を横に振り、今の運びとなった。

 

 

 

 ルナマリアは当初、ガッツポーズを取っていたが。

 

 

 

 後にステラ(猫)の手も借りたいとボヤいていた。

 

 

 

 ムウ、バルドフェルド、マリューの3名は政治には携わらず、結局軍人としてオーブに所属する。

 

 

 

 ミネルバ隊もデュランダルが倒れたおかげというか、最後までザフトに所属したこともあり、何事もなく軍に復帰できた。

 

 

 

 しかし、艦長のタリア・グラディスは事後処理を行った後に退艦した。

 

 

 

 理由は息子との暮らしを優先するとのことだったが、本音は喪ったものが多かったからであろうと窺い知れた。

 

 

 

 それぞれが、ガンダムファイターへの想いを持ちながら、タブーのように口にしない。

 

 

 

 口にすれば、堰を切ったように溢れ出すだろう。

 

 

 

 彼らへの寂寥感。

 

 

 

 日々が過ぎることで全ての出来事が夢であったかのような想い。

 

 

 

 その度にシンはデスティニーガンダムの下へ来ては語りかける。

 

 

 

 何も語らない彼も、シンの想いを理解しているように気を和らげる波動をくれた。

 

 

 

 これを感じるだけでも、シンは信じられる。

 

 

 

 あの強き人達に出会えたのは、夢でも何でもない。

 

 

 

 あの戦いも、熱い日々も。

 

 

 

 全ては自分の身に起こった真実なのだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一月が過ぎ、ようやく落ち着いて来た頃。

 

 

 

 ラクスの計らいで、あの戦いに参加した身内だけのパーティーが行われた。

 

 

 

 参加したのは、アークエンジェル隊、エターナル隊、ジュール隊、ハイネ・ヴぇステンフルスそしてミネルバ隊である。

 

 

 

 日々の忙しさもあり、懐かしさもあり、皆が盛り上がる。

 

 

 

 ラクスとミーアがライブを行い、ハイネがカラオケとは思えない歌を披露したり。

 

 

 

 イザーク、ディアッカ、アスラン、キラの四人がバンドを組んでラクスやカガリ、ミリアリアにシホ達が合いの手を叫んだりと、宴もたけなわと言ったところで。

 

 

 

 ふと、シンは彼らの笑顔に寂しさを感じる。

 

 

 

「どうしたの、シン?」

 

 

 

「食べてないじゃない?」

 

 

 

 綺麗に着飾ったステラとルナマリアを見て、苦笑しながらシンは告げた。

 

 

 

「何でもないよ。さ、食べるかな」

 

 

 

 どこか無理をしている笑みにステラはシンの手を取る。

 

 

 

「何でもなくないよ? シン、私も寂しいもん」

 

 

 

「…そうだな。だけど、俺たちが寂しがってたら、駄目じゃないか。キラさんから聞いたけど、シュバルツさん達は、自分の世界に帰ったのかもしれないんだからさ」

 

 

 

 この場にいる誰一人、あのガンダムファイター達の敗北など考えてない。

 

 

 

 彼らは勝利し、己の世界に帰ったのだろう。

 

 

 

 それは、この世界でのDG細胞事件が収束したからだと、皆は思っていた。

 

 

 

 正体不明のガンダムも言っていた。

 

 

 

 世界に見せつけると。

 

 

 

 つまり、この世界がガンダムファイター達に助けを求めたんじゃないか。

 

 

 

 それが終わったから、彼らは帰ったのではないかと。

 

 

 

 

 

 シンは今、そう思っていた。

 

 

 

 

 

「何だ。少しは寂しがってくれてもいいだろう?」

 

 

 

 

 

 そんな声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 会場の騒めきが、消える。

 

 

 

 皆が視線を向けた先には、一月前と変わらない姿でシュバルツ・ブルーダーとキョウジ・カッシュが立っていた。

 

 

 

「…シュバルツ、さん?」

 

 

 

 ポカンとするシンにシュバルツは温かで優しい笑みを返す。

 

 

 

「ああ、私だよ。シン」

 

 

 

 隣にはキョウジが苦笑しながら言う。

 

 

 

「みんな。無事で何より、だな」

 

 

 

 その後ろから、赤い鉢巻きをした青年が白髪混じりの拳法着の男と共に現れる。

 

 

 

「凄い戦いだったみたいだな。信じてはいたが。見事だったぞ、お前達」

 

 

 

「…皆、変わりないようで何よりだ。安心したぞ」

 

 

 

 ドモン・カッシュとマスターアジア。

 

 

 

 

 

 会場が音を取り戻すのに、時間はかからなかった。

 

 

 

「シュバルツさん! どうして!?」

 

 

 

「みんな、落ち着いてくれ。それを説明する前に、レイ。少し良いか?」

 

 

 

 シュバルツの言葉にレイが前に出る。

 

 

 

 首を傾げている彼をキョウジが優しく迎えた。

 

 

 

「待たせたね、レイ君。君の為のワクチンが出来上がった。処置をしたいから、一緒に俺たちと来てくれないか?」

 

 

 

「え…?」

 

 

 

 言われた意味が分からず、レイが茫然とすると隣のスティング、シン、アウルがキョウジに食らいついた。

 

 

 

「それって!」

 

 

 

「つまりさ!」

 

 

 

「レイの体は!?」

 

 

 

 彼らを見返し、シュバルツとキョウジが優しい笑顔のまま、頷いたのを見て。

 

 

 

 少年達はレイを抱きしめた。

 

 

 

「やったな、レイ!!」

 

 

 

「よかったな、おい!!」

 

 

 

「レイ、この野郎! 喜べ、馬鹿野郎!!…グス」

 

 

 

 涙ながらにクシャクシャにされるが、言われたレイは未だに茫然としている。

 

 

 

「え? シュバルツさん?」

 

 

 

「ああ。テロメアを治せる。お前の親に当たる男のおかげでな。だが、彼の命を無駄にしない為にも最善を尽くしたい。私達の世界ならば技術と施設に加えて私とキョウジ、そして父もいる。万全の体制でお前の処置ができる。来てくれないか、レイ?」

 

 

 

 ゆっくりと噛んで含めるようにシュバルツは告げた。

 

 

 

 これにようやく、レイの時が動き出す。

 

 

 

 困惑、歓喜、疑問、希望、絶望。

 

 

 

 様々な感情とラウ・ル・クルーゼの最後の笑顔。

 

 

 

「俺は…」

 

 

 

「行きましょ、レイ!」

 

 

 

「メイリン!?」

 

 

 

「行って治そ? ずっと一緒に生きたいもん。私はレイと」

 

 

 

 満面の笑みで言われ、レイが頬を赤くする。

 

 

 

 その横で、ドモンが口を開いた。

 

 

 

「悪いが、レイだけじゃない。キラ、アスラン、シン。スティングにアウルもだな。お前達にも個人的な用がある」

 

 

 

 その言葉にシュバルツが穏やかな笑顔から一転。

 

 

 

 不敵なそれに変わる。

 

 

 

「僕たちに? まさか!?」

 

 

 

 キラが目を見開き、それにマスターアジアが頷く。

 

 

 

「そう! そのまさかよ!!」

 

 

 

 アスランが、表情を鋭いものに変えて告げた。

 

 

 

「カガリ、しばらく帰って来れないが。行けるか?」

 

 

 

「え? なんだ? 何が始まるんだ!?」

 

 

 

 カガリが分からず、目を丸くする。

 

 

 

 隣でシンがカガリの肩を掴んで言った。

 

 

 

「アスハ代表。俺も有給使います」

 

 

 

「え!? お前ら、一体!? キラ、アウル、スティング! 分かるように私に説明してくれ」

 

 

 

 カガリの悲鳴を無視して、少年達は瞳に炎を燃やしている。

 

 

 

「スティング達は、ガンダムの調整。できてるかい?」

 

 

 

「当たり前だろ、キラ!!」

 

 

 

「こんなこともあろうかと、調整に調整を重ねてたぜ!!」

 

 

 

 少年達の顔を見渡し、ドモンがニヤリと笑う。

 

 

 

「フ…。準備はいいようだな。向こうで、お前達を待ち構えている連中がいるぞ」

 

 

 

「望むところ。いいえ、願っても無い!! 僕とフリーダムガンダムがあなた方にどれだけ、近づけたのか。それを知り得る最高の機会だ!!」

 

 

 

 キラが燃える瞳で告げる。

 

 

 

 マスターアジアは、これに腕を組み豪快に笑って告げた。

 

 

 

「わっははは! それでこそ、ワシが認めた男よ! キラ・ヤマト!!」

 

 

 

 そして、キング・オブ・ハートを輝かせ、ドモンがキラ、シン、アスランを指差して告げた。

 

 

 

「キング・オブ・ハート、ドモン・カッシュの名に懸けて! コズミック・イラのガンダムファイター達よ! お前達に、ガンダムファイトを申し込む!!」

 

 

 

 力強い宣言に少年達は是非もなく頷いた。

 

 

 

 目を闘志で燃やし、拳を握り締める。

 

 

 

「断られたらどうするつもりだったんだか。いや、乗り気みたいだからいいけど」

 

 

 

 キョウジが呆れながらドモンに言うと、シュバルツが告げる。

 

 

 

「断れないさ。強い相手が己を求めていると聞けば、それに応えたくなる。それがガンダムファイターだ」

 

 

 

「厄介つーか、難儀な人種だな」

 

 

 

 ため息を吐きながら言うと、シュバルツが不敵に笑う。

 

 

 

「他人事ではないぞ? 今回のファイトは3人一組のチーム戦。貴様にも出てもらう」

 

 

 

「な、なんだと!? 聞いてないぞ、シュバルツ!!」

 

 

 

 揉め出す同じ顔をした二人を見て、ドモンは笑う。

 

 

 

 東方不敗マスターアジアも。

 

 

 

 シンもキラも、アスランも。

 

 

 

 スティングにアウル、ステラも。

 

 

 

 レイ、ルナマリア、メイリン。

 

 

 

 ラクス、カガリ、マリュー、タリア。

 

 

 

 ムウ、バルトフェルド、イザーク、ディアッカ、ダコスタにアーサー。

 

 

 

 この場にいる全ての者が笑顔を見せている。

 

 

 

 こうして、シン達は異世界ーー未来世紀に旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10日後に彼らは帰って来て語る。

 

 

 

 熱きガンダムファイトと、新たな友との出会いを。

 

 

 

 そして、人並みの寿命を手に入れたレイを見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未来世紀のとある無人の島にて。

 

 

 

 自由の翼と正義の剣と運命の光が、炎の武神と鏡の忍者と光の鬼神に相対していた。

 

 

 

「シンよ、私はお前に問うたな。戦う理由を。答えは出たか?」

 

 

 

「もうとっくに分かってたことでした。でも! 本当の意味で気付けたのは貴方のおかげです。守りたいものを守るために、俺は戦います!! 何回、打ちのめされても、何回倒されても、最後の最後まで、足掻いてみせます!! 貴方達が見せてくれたように!!!」

 

 

 

「ならば、来い! 答えを見せてくれ!!」

 

 

 

 互いに構え合う6機のガンダム。

 

 

 

 赤い服を着た眼帯の男が、マイクを片手に叫んだ。

 

 

 

「みなさん、お待ちかね〜! 世界最強のカッシュ三兄弟に挑むのは、異世界から現れた超新星! 自由と正義と運命の名を冠するガンダム達は、キング・オブ・ハート率いる戦士達にどのような、ファイトを見せてくれるのか?

 

 それでは、ガンダムファイトォォオ!!」

 

 

 

「「「レディイイイッ!!!」」」

 

 

 

「「「ゴォォォオオオッ!!!」」」

 

 

 

 青い異界の空の下、少年達は戦士達に真っ向からぶつかった。

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、パーティ会場にて。

 

 

 

 シュバルツやキョウジ、ドモン達が現れたことで騒いでいる間に。

 

 

 

 ラクスの妹、ミーアは攫われた。

 

 

 

「え? ええええっ!?」

 

 

 

 気付けば、逞しい両腕に掻っ攫われている。

 

 

 

 目の前には愛しい男が優しい瞳で、こちらを見ている。

 

 

 

「ミーア」

 

 

 

「あ、ダ、ダイン?」

 

 

 

 真剣な表情でこちらを見るダインにミーアは高鳴る胸を抑えられない。

 

 

 

 寂しさとか、不満とか、一杯言いたいことがあった。

 

 

 

 だけど、何も言えない。

 

 

 

 言わせてくれない程に優しい瞳で、声で。

 

 

 

 ダインはミーアに語りかける。

 

 

 

「お前が欲しい、ミーア。お前が好きだ」

 

 

 

「あ、あぁああっ!」

 

 

 

 もう力が入らない。

 

 

 

 悪魔の言葉は強烈な力で彼女から意志を奪う。

 

 

 

 だから、ダインの首に抱き着きながらミーアは泣きながら告げた。

 

 

 

「私は、ずっと前からなんだからね? ずっと、好きだったんだから、バカァ!」

 

 

 

 そのまま、魔王は歌姫をさらっていった。

 

 

 

 これを穏やかな顔で姉のラクスは見送る。

 

 

 

「どうか、お幸せに。たまには、帰って来てくださいね、ミーア」

 

 

 

 通路に消えた二人を想い、ラクスは心から微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 全てが幸せになった。

 

 

 

 未来世紀とコズミック・イラ。

 

 

 

 二つの世界を繋ぎ、救った戦士達。

 

 

 

 彼らは、永遠に語り継がれていくだろう。

 

 

 

 人が己の行いを反省した時に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここではない、何処か。

 

 

 

 鉛弾を受け、命を落としかけた彼は静かに瞳を開けた。

 

 

 

「…何処だ、此処は?」

 

 

 

 自分のスーツの乱れがなくなっているのを知り、割れたはずのサングラスがあることに一つ頷く。

 

 

 

「気がついたかね。君もよくよく悪運が尽きないな」

 

 

 

 語りかけてきた声に皮肉な笑みを浮かべ、彼はサングラスの淵を押し上げる。

 

 

 

「お互い様でしょう。貴方も生きていたのですね」

 

 

 

 彼の言葉に男は翡翠色の冷たい瞳を向け、冷酷な笑みを浮かべた。

 

 

 

「ああ、生きている。力もある。どうやら、世界は今度こそ我々に。あの忌々しいガンダムファイターどもを倒してみせろ、と言っているようだ」

 

 

 

「ふふふ。此処が何処で。どんな世界かはわかりませんが、そんなことは瑣末なことですね。我々には」

 

 

 

「そうだとも! 今度こそ、全てを支配する!! 手始めにこの世界だ!! 歯向かう奴は、この私の力で全て消してくれる!!」

 

 

 

「コズミック・イラでは、潜伏期間を慎重に長く取り過ぎました。この世界では、そのようなことはしたくありませんね」

 

 

 

 彼は立ち上がる。

 

 

 

 青い空と砂漠のど真ん中だった。

 

 

 

「そう言えば、ウォン。この世界にもガンダムがいるようだよ。私達の良い駒になってくれれば良いのだがね」

 

 

 

「ほう? アレか」

 

 

 

 見上げた視線の先には、円錐型になったバックパックから光の粒子を散らして白地に青を基調としたコズミック・イラでも未来世紀でもない技術体系のガンダムが、施設に向かって降って行くのが見えた。

 

 

 

「さて。行きますか?」

 

 

 

「ああ。退く道理もない」

 

 

 

 互いに酷薄な笑みを浮かべて、彼と男はガンダムが降り立った街に向かって歩いて行った。

 

 

 

 




 どーも、カンナムです(=゚ω゚)ノ

 いや、ようやくシン達とガンダムファイター達の旅の全てが終わりました(´ー`* ))))

 長かったなーー。

 終わらせられなきゃ、どうしよう(´・ω・`)

 そんなことを感じながらも一年で終われたのは、本当にみなさんの感想や評価のおかげです(´ー`* ))))

 この場をお借りして、お礼申し上げます(=゚ω゚)ノ

 ありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ



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エピローグ ミーア

 復活作業に手こずりましたが無事、最終話に辿り着けました(^^)





 その日、私は出会った。

 

 

 

 傲岸で不遜で、社会常識なんて何も知らないのに偉そうで。

 

 

 

 デリカシーがなくて、遠慮が無くて。

 

 

 

 それでも、静かに私の傍に居てくれる。

 

 

 

 そんな炎のような赤い髪のヒトに。

 

 

 

「髪の色が違うわ!!」

 

 

 

「どういうことだ、高い金を払っているのにどうしてこうなるんだ!?」

 

 

 

 実際にそんなやり取りがあったのかは知らないし、私には知る由もない。

 

 

 

 だけど、私は物心ついたころには、施設に居た。

 

 

 

 冷たい施設。

 

 

 

 真っ白な壁と床。

 

 

 

 私と同じように親に捨てられた身寄りのない子ども達。

 

 

 

 私たちは、高校生の歳になれば無理矢理独り立ちさせられ、施設を出て行かされた。

 

 

 

 幼いころからファンだったヒトがいる。

 

 

 

 その人の名は『ラクス・クライン』

 

 

 

 私とよく似た声をした女性。

 

 

 

 彼女みたいになりたくて。

 

 

 

 必死になって歌を勉強した。

 

 

 

 だけど。

 

 

 

「声は、いいんだけどね」

 

 

 

「もっと他にないかい?」

 

 

 

「君の見た目では、いまいち売れないなぁ」

 

 

 

 全てのレコーディング会社に行っては落とされる。

 

 

 

 そんな生活をくり返して、半年が過ぎたころ。

 

 

 

 私の憧れた少女。

 

 

 

 パトリック・ザラが起こしたヤキン・ドゥーエ戦役が集結。

 

 

 

 ラクス・クラインがプラントから亡命して少し経った時期だった。

 

 

 

「ミーア・キャンベルさんですか?」

 

 

 

 安アパートで独り暮らしをしている私の下に、黒い服を着た男の人たちが現れたのだ。

 

 

 

 彼らは、プラントの評議会議員のバッチを身に付けていた。

 

 

 

「貴女にお願いしたいことがあるのです」

 

 

 

 その言葉を呆然と聞きながら、私はこのチャンスを逃すまいと思った。

 

 

 

 紹介されたのはテレビでよく見る最近プラント最高評議会議長に就任したギルバート・デュランダル氏。

 

 

 

 彼から直々に言われたのは。

 

 

 

「キミにお願いしたいことは、一つだ。今、プラントにはアイドルが居ない」

 

 

 

「ラクス様のことですか?」

 

 

 

「そうだ。彼女の歌は、疲弊しきったこのプラントの人々に癒しを与えてくれていた。キミに頼みたいのは、彼女が戻ってくるまで彼女の代わりをしてもらいたい」

 

 

 

「ーー私が?」

 

 

 

「そうーー。キミがラクス・クラインになってほしいのだ」

 

 

 

 そしてーー私・ミーア・キャンベルの戸籍はデュランダル議長に買われ、ラクス・クラインとしての人生が始まった。

 

 

 

 その付き人として、今まで一緒に行動してきたマネージャーともう一人。

 

 

 

 議長に紹介された赤い髪の青年。

 

 

 

 そう。

 

 

 

 ダインーーううん。

 

 

 

 この時はまだ、Dと名乗る赤い髪の青年と出会った。

 

 

 

 

 

 呆れたわ。

 

 

 

 Dは、社会常識に全く欠けてたの。

 

 

 

 私の知らない話とか、歴史とか、そういうのなら詳しいのに。

 

 

 

 議長に敬語は使わない。

 

 

 

 初対面なのに高圧的に話す。

 

 

 

 重役の社長だろうと、議会の議員だろうと。

 

 

 

 全く変わらない。

 

 

 

 私はそれが、腹立だしくて。

 

 

 

 猛烈に悔しくて、嫉妬した。

 

 

 

 なんで、こいつはこんなにも自由なんだろう?

 

 

 

 私は必死に誰かの顔色を気にして、窺って、気に入られるようにと頑張って来たのに。

 

 

 

 親に捨てられ、施設から追い出され、レコーディング会社からも見放されかけたのに。

 

 

 

 なんで、こいつはこんな態度を取っても周りに許されるんだろうって。

 

 

 

 私は、Dが羨ましくて妬ましかった。

 

 

 

 そんな私に、あいつは言った。

 

 

 

「一々、弱者の顔色など見ていられるか。我は貴様らと違って暇ではない」

 

 

 

 淡々と高圧的に、私を見下して。

 

 

 

「アンタに、何が分かるのよ!?」

 

 

 

「…なんだと?」

 

 

 

 能面みたいに無表情だったあいつの顔が、目を見開いて驚いたものに変化した。

 

 

 

 私は構わずにぶちまけてやった。

 

 

 

「アンタには、分からないわよ! 親にも見捨てられて、施設から追い出されて! 必死になって歌を歌って!! 人一倍働いて、努力して。それでも、全然ラクス様のモノマネだって言われて、認められなくて!! 誰にも必要とされない私の気持ちなんか、アンタに分かるもんか!!」

 

 

 

 Dは何も言わない。

 

 

 

 表情は普段どおりの無表情に変わった。

 

 

 

 だけど、私は止まらなかった。

 

 

 

「あんたの言う弱者って何よ!? 私が、他人の目を気にするくらい弱いからダメだって言うの!? 夢を見ることの、諦めない人の何が弱いって言うのよ!? 簡単に弱者って言葉で一括りにするんじゃないわよ!!」

 

 

 

 肩で息をする私を、Dは静かに見下ろして来た。

 

 

 

 その目に、私は何も言えなくなる。

 

 

 

 何だろう、この優しい目は。

 

 

 

 穏やかでいて、眩しいものを見るような目は。

 

 

 

 ああ、私はこれを。

 

 

 

 この目を知ってる。

 

 

 

 Dは、貴方は。

 

 

 

 私と同じように、誰かをーー。

 

 

 

「…分かった」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

「貴様の強さは、よく分かった」

 

 

 

 その時だけだった。

 

 

 

 あいつが、あんな目をしたのは。

 

 

 

 私がラクス様として活動を始めた時も。

 

 

 

 悩んでいた時も、あいつは仏頂面で。

 

 

 

 つまらなさそうに、私の傍に居た。

 

 

 

 居てくれた。

 

 

 

 愚痴も言ったし、泣き言も言った。

 

 

 

 遠慮なんかしなかった。

 

 

 

 だって、あいつだって私に遠慮なんかしてくれたことなかったもの。

 

 

 

 そうしてたら、いつの間にか。

 

 

 

 あいつは、私の中で一番の存在になってた。

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと目を覚ました。

 

 

 

 初めて見る天井と自分が寝ていたベッドの感触に、私は自分が今、どんな状況でいるかを思い出している。

 

 

 

 ドアが控えめにノックされた。

 

 

 

「…あ、はい?」

 

 

 

「起きたみたいね。よく眠れたかしら?」

 

 

 

 中に入って来たのは一人の美女。

 

 

 

 濃い茶色の髪を腰まで伸ばした翡翠の瞳が印象的。

 

 

 

「おはよう、ミーア。式は今日の夜だから、手早く朝食にしましょう?」

 

 

 

「…はい。よろしくお願いします、レインさん」

 

 

 

「違うでしょ? 今日から貴女は私の義妹になるんだから」

 

 

 

 イタズラな笑みを浮かべる美女ーーレインさんに、私も苦笑して告げた。

 

 

 

「…はい。ありがとう、お義姉ちゃん」

 

 

 

「うん! さ、手が焼ける夫たちの顔を見に行きましょうか。顔を洗ってからね」

 

 

 

 ウインクしながら言われ、思わず笑ってしまう。

 

 

 

 私、ミーア・キャンベルは今日。

 

 

 

 Dーーダイン・カッシュの妻になる。

 

 

 

 今日が『ミーア・キャンベル』の最後の日だ。

 

 

 

 

 

 ダインにパーティ会場からさらわれた私は、未来世紀の世界に来ていた。

 

 

 

 来るなり、色んな人達に出迎えられた。

 

 

 

 その中でも印象的だったのは、ライゾウ・カッシュという初老の紳士。

 

 

 

 ダインやドモンさん。

 

 

 

 キョウジさんやシュバルツさんとよく似た男性。

 

 

 

「ようこそ、ミーア。私の息子をよろしく頼むよ」

 

 

 

 温かな笑顔と声で、私は色んな人達に見守られながら、幸福に満ち満ちた涙を流して頷いていた。

 

 

 

「あの、お義姉ちゃん。ダインは?」

 

 

 

 私の言葉にレイン義姉さんは、苦笑して言った。

 

 

 

「ホテルの広間。貸し切りだからってはしゃいでるわ。ウチの人や友達とね」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 食事を終え、顔を洗って着替えた私が、ロビーで見たのは。

 

 

 

「甘い、甘いぞ!!」

 

 

 

「わっははは、どうした! シャッフル同盟!!」

 

 

 

 覆面をした忍者と初老の拳法着の男性が。

 

 

 

「OK、OK! 俺たちもヒートアップしてきたぜ! なあ、ジョルジュ!?」

 

 

 

「勿論です、チボデー。シュバルツにマスター。あなた方には、決勝大会やギアナでの借りがある。今日こそ、返して差し上げよう!!」

 

 

 

 髪を青とピンクのメッシュにした男性とオレンジ色の長髪を靡かせた貴族のような白い服を着た青年と殴り合っていた。

 

 

 

「すげえな、チボデーさん達を相手に押してるぜ」

 

 

 

「だが、勝負はこっからだろ? にしても、熱いバトルだぜ!!」

 

 

 

「まだまだ、俺もてめえらも修行のしがいがありそうだな」

 

 

 

 三人の青年達が、それを見て拳を握っている。

 

 

 

 そんな彼らを置いて、レイン義姉さんはロビーで笑顔を浮かべて騒ぎを見ていたドモンさんに話しかけた。

 

 

 

「ちょっと、いくら貸し切りだからって。騒ぎ過ぎよ?」

 

 

 

「そうは言うが。シュバルツと師匠に出会っちまったら、今のシャッフルの連中に我慢させるのは無理だ」

 

 

 

「…全く。ダイン、貴方からマスターとシュバルツに言ってくれないの?」

 

 

 

 自分の夫が止める気が無いのが分かったレイン義姉さんは、ロビーのソファーでくつろいでいるダインに告げた。

 

 

 

「…好きにやらせろ。奴らのことだ、止めると俺やドモンも巻き込む」

 

 

 

「…あり得るわね」

 

 

 

 レイン義姉さんの疲れたような声に、私も思わず苦笑した、

 

 

 

「…お。来たか、今日の主役が!」

 

 

 

 ダインの向かいのソファーに座って新聞を読んでいたキョウジさんが、私に話しかけてくれた。

 

 

 

「羨ましいぞ、ダイン! こんな可愛い嫁さん貰えて!」

 

 

 

 肘でダインをつつくキョウジさんにライゾウ博士ーーお義父さんがゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「…そうか。なら、カラト首相に頼んでアキノさんともう一人、紹介してもらおうか」

 

 

 

「………冗談だよ、父さん」

 

 

 

「いや、キョウジ! シュバルツもだが、今のうちに嫁さんを貰うべきだ!! ミキノも喜ぶ!!」

 

 

 

「よせよ、頼むから。いやマジで!! 俺はまだ、自由でいたいんだよ!!」

 

 

 

 楽しそうな親子の会話を尻目にダインが立ち上がってこちらに近づいて来た。

 

 

 

「寝れたか?」

 

 

 

「…そうね。誰かさんが、別々の部屋にしたから。ゆっくり寝れたわ」

 

 

 

 嫌味を込めて言ってやった。

 

 

 

 私だって、色々と覚悟して来たのに。

 

 

 

 こいつと来たら、真っ先にドモンさんの部屋に行くし。

 

 

 

 キョウジさんや、シュバルツさん達と組手したり。

 

 

 

 とにかく、こっちに来てから、私を放ったらかしにして好き放題してる。

 

 

 

 レイン義姉さんやアレンビーさんとか。

 

 

 

 ガンダムファイターの奥さん達は、凄く親身になってくれるから、別に不便はないけど。

 

 

 

「…何を怒ってる?」

 

 

 

「ベーつにぃ〜。自分の恋人を放ったらかしにして、平気で男友達と遊んでばかりの誰かさんに、怒ってなんかいませんよーだ」

 

 

 

 拗ねてるだけだけどね。

 

 

 

 これくらいは許されるだろう、と私がレイン義姉さんを見ると、力強く頷いてくれた。

 

 

 

「まだ足り無いわ。いい、ミーア? ガンダムファイターなんて子どもと一緒なんだから。首輪に鎖をつけるくらいじゃなきゃダメよ! 私達も協力するわ!!」

 

 

 

「…はい、頼りにしてます!!」

 

 

 

 女性陣の頼もしい笑みに、思わず頷くと。

 

 

 

 ドモンさんとダインが口をへの字にして、こちらを見ていた。

 

 

 

 

 

 ウエディングドレス。

 

 

 

 純白のそれを着た私を2メートルを越える身長と黒髪になったダインが見つめている。

 

 

 

「…指輪か。鎖に見えるのは、何故だ?」

 

 

 

 静かに呟くダインに向かって私は告げた。

 

 

 

「決まってるでしょ? コレは、貴方を私に縛り付けるものなんだから!」

 

 

 

「…フン。そんなものが、無くとも。俺はお前のものだ」

 

 

 

「いいから、付けなさいよ!! あんたは、私のものなんだから!! 他の女の子に目なんか付けさせないんだからね!!」

 

 

 

 式の最中にそんなやり取りをする私達を、みんなが苦笑して見つめている。

 

 

 

 ダインは私の手を取り、指輪を付けさせると。

 

 

 

 さっさと自分で自分の指に指輪を嵌めてしまった。

 

 

 

「…あ、ん、た、は〜!! ダイーーッ!?」

 

 

 

 見上げて怒鳴る私の口をダインの口が塞ぐ。

 

 

 

 ゆっくりと私から唇を離すダインを呆然と見上げる。

 

 

 

 ダインはそのまま、離れようとした。

 

 

 

 その首に抱きついて、私は不敵に笑ってやった。

 

 

 

「…好きよ」

 

 

 

 そのまま、私はダインの唇に自分の唇を押し付けた。

 

 

 

 周りが私達を祝福してくれる。

 

 

 

 ラクス姉様。

 

 

 

 私、今、とても、幸せですーー。

 

 

 

 私達を祝福する鐘が、ホテルの式場に鳴り響いていた。

 

 

 

 




最後の最後まで、ありがとうございましたーヽ(´▽`)/



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デス・ガンダム一覧

デスガンダム共通デザイン(※かかるコスト・時間)

顔と胸のエネルギーマルチプライヤーカバーのデザイン、胴体まではゴッドガンダムのもの。

DG細胞により再生ができる量産型ガンダム。

共通武装は頭部バルカンと肩のマシンキャノン。

エネルギーマルチプライヤーで機体の出力を引き上げる事ができる。

ガンダムシリーズに出てくる量産型や主役機を軒並みゴッドガンダムの顔と胴体・配色をトリコロールカラーにする役割がある。

操縦はモビルスーツかモビルファイターか選択可能。

 

デスナイト(デスポーン2体分)

SEEDシリーズのジン(ハイマニューバーⅡ型)を素体に変化した機体

武装やバーニアの機動性、汎用性はピカ一だが攻撃力や火力はデスポーンと大差は無い。

ウィンダムのジェットストライカーを吸収してバーニアの強化をし、機動性を手に空戦も自由にできるようにした。

武装は対MS用刀、ビームライフル、更にゴッドガンダムと同じ頭部と胴体を手に入れたことにより、バルカンとマシンキャノンが使用できる。

理論上はエネルギーマルチプライヤーも使えるが現状は使い手が居ない。

 

デスルーク(デスポーン4体分)

DESTINYシリーズの殲滅兵器デストロイガンダムを素体にした機体。

最も素体から武装やコンセプトなどが離れてしまっている。

巨体であるが背中のバックパックは身体に比べ小さく空を飛べる仕様ではない。

武装はバルカンと肩のマシンキャノンしかないがガンダムファイタークラスの達人が乗り込めば巨体から繰り出されるパワーと格闘術と身体能力でねじ伏せれる。

陽電子縮退砲

気と陽電子をエネルギーマルチプライヤーで増大して圧縮し前に向けて両手を突き出して全てを消し飛ばす。

モビルファイターとしては優秀な機体でウルベコピーはグランドマスターガンダムよりも、こちらを動かしている。

肩から腕、腰から足、バックパックの機体イメージはガンダムAGE1タイタス。

 

デスポーン(=デスアーミー1体)

SEEDシリーズのゲイツRを素体にした機体

両肩と腕、腰から下、バックパックは素体のまま。

武装は左手についた複合盾から伸びるビームサーベル、右手に持たされたビームライフル、腰部に付いた実弾レールガン

性能は一番低いがデスアーミーよりも火力と機動性は上。

量産能力も一番早い。

パイロットはゾンビ兵ではなくダイン(Dのコピー体)。

基本やられメカであり、時間稼ぎに使われる。

 

デスビショップ(デスポーン8体分)

SEEDシリーズのプロヴィデンスガンダムが素体。

両肩腕、腰から下、バックパックはプロヴィデンス。

武装はプロヴィデンスと変わらずドラグーンシステムと複合盾からのビームサーベル、肩に担ぐ大型ビームライフル

パイロットはクルーゼのDGコピー、フィルム・ノワール

 

デスクイーン(デスポーン10体分)

DESTINYシリーズのデスティニーガンダムが素体。

両肩腕、腰から下はデスティニー。バックパックはストライクフリーダムのウィングバインダーを併せたもの。

武装もデスティニーと変わらない。

ビームライフル、ビームブーメラン(サーベル可)、パルマフィオキーナ、アロンダイト、腰の陽電子キャノン、スーパードラグーンシステム

パイロットはラクスをコピーしたDG細胞の塊、ファム・ファタール

 

デスキング(デスポーン12体分)

唯一ゴッドガンダムの顔と胴体でない機体。

デビルガンダムジュニアをモビルスーツの形にしたもの。

平たく言うとターンXに似ている。

全身銀色の機体

性能はモビルファイターであり、拳と蹴りが強力。

武装は両手のダークネスフィンガーと、そのパワーを凝縮して放つエネルギー波。

パイロットはDG細胞に取り込まれたデュランダル議長。

 

本編オリジナル機体DG細胞

 

シャイニングガンダム(ゴッドヘッド)

組み込まれたアルティメット細胞とリンク先のゴッドガンダム及びドモンのエネルギーで進化した機体。

顔と胴体がゴッドガンダムに変わり出力や性能が匹敵するくらいに引き上げられている。

 

デビルガンダム

度重なる戦闘とドモン及びゴッドガンダムへの想いから進化した機体。

ゴッドガンダムの顔と胴体、マスターガンダムの両肩と両腕にウィングバインダーを装備しているカラーリングはデビルガンダム)

下半身の足はモビルファイターのデビルガンダムのもの。

 

ヴァニシングガンダム

ウルベ専用ガンダムを素体に進化した機体。 

デビルガンダムやデスガンダムシリーズに影響されたのか顔と胴体はゴッドガンダムのものになっている。

カラーリング以外はシャイニングガンダムの進化後とほぼ変わらない?

 

その他

 

デビルガンダムコロニー(メンデル)

遺伝子捜査研究が盛んだったコロニー。

キラの生まれたコロニーでもある。

現在はDG細胞により機能を回復させており、Dクローン兵とデスポーンの部隊が配備されている。

本編の戦闘後では宇宙の彼方へ消えたとされるが…

 

ウォルターガンダム

ゾノを素体に進化し、両腕と両足が付いた機体。

ちなみにゴッドガンダムの顔と胴体に進化した形態もあるが、そちらは本編未登場。

 

未来の弟子

 

イノセ・ジュンヤ

ウルベの息子設定。

ドモンの一番弟子

ガンダムビルドファイターズトライがオリジナル。

ディナイアルゴッドガンダム

ゴッドガンダムの後継機1

赤と白を基調に青のトリコロールカラー。

顔のみゴッドガンダムだが、首から下はディナイアルガンダムのもの。

 

カミキ・セカイ

ドモンの2番弟子

ガンダムビルドファイターズトライの主人公

バーニングゴッドガンダム

ゴッドガンダム後継機2

顔のみゴッドガンダムだが首から下はトライバーニングガンダムのもの。

 

カガミ・ユウゴ

ドモンの3番弟子

機動武闘伝Gガンダムの正当な続編主人公

ハイパーゴッドガンダム

顔のみゴッドガンダムで首から下はゴッドガンダムをよりゴツくしたハイパーゴッドガンダムのもの。

 

この設定は供養として出しておきます(*´ω`*)



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新しい世界

供養?のために少しだけ(*'▽')


顔の右半分を鉄の仮面で覆った男は立ち上がった。

 

長髪をなびかせ、逆三角形の肉体に緑色の軍服と軍帽を身に纏う男は睨みつけるように円錐型のバックパックを付けた緑の光の粒子を放つ機体を見つめている。

 

男の名はーーウルベ・イシカワ。

 

その隣には緑がかった長髪に赤い丸眼鏡をした男ーーウォン・ユンファが居た。

 

「さてーーどうしますか?」

 

「そうだな。取り敢えずーーあのガンダムの性能を見てやろうか」

 

ウォンの言葉にニヤリと笑みを返しながらウルベは懐から藍色に「虚」と書かれた球を右手で掴んで取り出す。

 

何らかの式典が行われている会場で、スカイブルーの機体が完膚なきまでにガンダムに倒されるのを見てウルベは嗤った。

 

「フンーー。さあ、立て! 我が手足、ヴァニシングガンダムよ!!」

 

そうして球を掲げようとしてーー。

 

「ウルベ、いきなり切り札のヴァニシングガンダムを使うのは待ってください」

 

ウォンは、そう言いながらウルベに向かって透明な拳大の球を投げた。

 

左手で掴み止めたウルベは球を見つめて目を細める。

 

「ーーこれは」

 

自分が持っているガン玉と同じものだ。

 

だが、色が無い。

 

刻まれた機体を現す文字もない。

 

代わりに白いポーンの駒が入っている。

 

「どうやらコズミック・イラでの戦闘も無駄ではなかったようです。感じますか? 我々の、DG細胞の拠点が……」

 

空を指差すウォンにウルベも空を見上げる。

 

青空の遥か彼方にある闇夜の世界。

 

そこに息吹く確かな存在ーー巨大なDG細胞の塊を感じる。

 

「ほう? デュランダルは、あの世界のコロニーをデビルガンダムコロニーに変えていたのか」

 

「デスアーミー達を新しく造り替えていたようですね。しかも、Dと全く同じDG細胞のスペアボディを作り上げている」

 

「……無数のドモン・カッシュと同じ顔をした存在がゾンビ兵の代わりーーか。虫唾が走る」

 

「構わないではありませんか。むしろ、あのドモンやDを手駒にしたと考えましょう。鍛えればマーキロット達より余程良い仕事をしてくれそうですしね」

 

「ソレは君に任せるよ。私のコピーやマーキロット達を復活させて鍛え上げてくれ」

 

「分かっています。さあ、ウルベ。そのためにもデスガンダム・ポーンを使って一気に蹴散らしてください」

 

機体の戦闘データさえあれば、一気に戦力は整う。

 

そう語るウォンにウルベは冷酷に笑みを浮かべた。

 

「良いだろう。新しいデスアーミー、いやデスガンダムの力を見せてもらうとしようか。さあ、死の兵士よ。我が手足となって戦え! ガンダム!!」

 

右手の藍色のガン玉を懐にしまい、左手の透明な球を天に掲げる。

 

すると球の中に入ったポーンの駒が銀色の光を放ち、一瞬で17メートル前後の白を基調としたトリコロールカラーの機体が現れる。

 

丸みを帯びたゴッドガンダムの顔、エネルギーマルチプライヤーカバーの胴体に、ゲイツの肩から腕、腰から下、バックパックを持つ機体。

 

ウルベは静かに簡易式モビルトレースシステムが組まれた座席に座る。

 

「ふん、初めはMSとして闘ってやろう」

 

「油断せぬように、ウルベ」

 

「分かっているさ、ウォン」

 

既に、この世界のガンダムはMSをスクラップにしてから会場を後にして空へと去っていた。

 

背部のウイングバインダーを広げて一気に飛び立つ。

 

凄まじい衝撃をコクピットに受けてウルベは笑った。

 

「思い出すよ。かつてデビルガンダムをMSで追いかけたことをなぁ!!」

 

戦闘をする気満々のウルベを見送り、ウォンは静かに式典会場に向けて歩いていく…。

 

銀色の小さなビー玉サイズのものが宙に浮かび、会場の壁に向かって弾丸のようにぶつかると、球は式典会場と一体化するように壁に飲み込まれた。

 

そのまま会場内に設置されているコンピューター端末からこの世界のデータを抜き出していく…。

 

「ふむ。今、倒された機体はAEUイナクト。太陽光エネルギーを主軸に作られた機体。宇宙にまで上るあの巨大な建造物は軌道エレベーター。なるほど、中々の技術体系だ。コズミック・イラと良い勝負です」

 

どの組織に入るのが適切か、ゆっくりとウォンは力を示すタイミングを考えながら宇宙にあるデビルガンダムコロニーを地球圏へ移動するようDG細胞に指示していた。

 

ーーーー

 

ガンダムを追いかけ空を飛行するデスポーン。

 

ウルベは巨大な建造物の周りで複数のイナクトという機体がガンダムを囲むのを見ていた。

 

ウォンから送られてくる情報データはDG細胞を介してデスポーンのコクピットモニターとウルベの脳内に同時に浮かぶ。

 

5機のイナクトに実弾兵器や実体剣で斬りつけられ、ガンダムは苦戦していた。

 

ウルベは、それを期待外れだとばかりに冷酷に見据える。

 

「フン、コズミック・イラと比べるまでもない。あの程度の雑兵に、あの小僧達が手こずる訳がない。拍子抜けだな」

 

下から雲を突き抜けてビームライフルが3機のイナクトを葬り去る。

 

味方からの援護を受けて残り2機のイナクトもガンダムが切り捨てた。

 

ゆっくりと速度を落とし、右手に持つビームライフルを向けながらウルベはガンダムを見据える。

 

「…ガンダム? だが、太陽炉がない。お前の機体もガンダムなのか?」

 

青を基調にした細身のガンダムーーそのパイロットから通信が入る。

 

しかしウルベは地面に身を隠している狙撃兵の方に意識を向けていた。

 

「機体のバックパックに付いている円錐形のバーニア。何か特別な力を感じる…。面白い」

 

そして向き合うガンダムから感じる力を…。

 

「この機体は私のガンダムではないが、コレのテストに付き合って貰おうか。異世界のガンダムよ」

 

「ソレスタルビーイングではない、のか。敵ならば、倒すだけだ!!」

 

同時に右手の武器を構える。

 

ウルベはビームライフル。

 

ガンダムは折りたたみ式の実体剣だが、折り畳んだ剣の柄の部分から短い砲身が見えた…。

 

(剣とライフルの複合武器、か)

 

同時に引き金を引く。

 

緑のビームライフルと桃色のビーム弾がぶつかり、相殺する。

 

戦闘開始の合図だった。

 

「ガンダムエクシアーー。目標を駆逐する!!」

 

「身の程を知らない子どもが、あまり調子に乗ってはいけないな…」

 

高機動でバーニアをふかしながら接近戦を挑んでくるエクシアと名乗るガンダムに、優るとも劣らない速度で空に軌道を描きアクロバットに移動しながらビームライフルを放つウルベ。

 

だが、その表情は余裕に満ちていた。

 

コズミック・イラでのキラやアスランとの死闘が、ウルベを更に高みへと上げていたのだ。

 

MSでもMFでも、ウルベは超一流の域に達していた…。

 

やがてエクシアがビームを躱しきれずに右腕の折り畳んだ剣に当たり、後方に下がる。

 

一瞬の睨み合い、その間隙を縫って真下からのビームライフルがウルベに狭った。

 

軽く目を見開いて後方に下がり避けるが、デスポーンが右手に持っていたビームライフルの銃身が撃ち抜かれて爆発した。

 

「器用なことだ」

 

「刹那、迂闊に挑むな。セカンドフェイズは終了だ、引き上げるぞ!!」

 

叫ぶ第三者の声にウルベがニヤリとした。

 

左手に持つ盾の先からビームサーベルの刀身を発生させて急降下しながら肩のマシンキャノンを放っていく。

 

「狙撃の腕もチャップマン程ではない! まして居場所がバレるような狙撃兵など愚の骨頂!!」

 

音速を越えるスピードで一気に岩山の地帯へと移動する。

 

「な?! 今ので俺の位置を割り出した??」

 

急降下しながら迫りくるウルベに地面に仰向けに寝るような姿勢で居たガンダムが立ち上がる。

 

が、目の前に既にウルベは迫り左手の盾から伸びたビームサーベルを薙ぎ払った。

 

間一髪でロングライフルの銃身を斬られながらも下がる緑色の狙撃ガンダム。

 

「ロックオン!!」

 

横から刹那と呼ばれたパイロットのガンダムエクシアが剣でウルベのデスポーンに斬りつけた。

 

盾で受けると盾はバターのように斬り裂かれる。

 

ウルベは咄嗟に斬り裂かれた盾から手を離し、斬撃を避けていた。

 

「フン、ザフトのMS盾を苦も無く斬り裂いた、か。中々の斬れ味だな」

 

素手になったウルベに構えるエクシアと狙撃ガンダム。

 

「投降しろ。お前には、聞きたいことがある」

 

「まず、そのガンダムが何なのか。どうして俺達を襲ったのか? 目的は何なのか、全て応えてもらうぜ。ガンダムマイスターとして、テメエは見逃せねぇ」

 

ウルベは、これにニヤリと笑うとモビルトレースシステムを起動した。

 

「勘違いをした愚か者どもが」

 

座席と操作パネルは床と壁に引っ込み、ウルベは立ち上がって拳を握る。

 

すると自然な動きでデスポーンも右の拳を握る。

 

そのあまりにも人間めいた動きに刹那とロックオンの目が見開かれた。

 

「違う。なんだ、このガンダムは? 明らかにソレスタルビーイングのものとは違う」

 

「おまけに、どの組織にも開発出来てなさそうな動きだ。人間の動きをトレースしてMSに反映させてるのか?」

 

ウルベの目が真紅に輝いた。

 

「さて、少しだけ遊んであげよう。今度はガンダムファイターとしてね!!」

 

その場からバーニアも吹かずに消えたと思わされるスピードで懐に踏み込むと瞬く間に打撃音が響き渡り、エクシアと狙撃ガンダムが地面に倒れ伏した。

 

「なんだ? 何をされたんだ?」

 

「動け、動いてくれ! デュナメス!!」

 

2体のガンダムを見下ろし、ウルベはつまらなさそうに横に首を振る。

 

「やはり、この程度かね? モビルファイターになるまでもなかったな」

 

言いながらウルベは胸部カバーを展開させてエネルギーマルチプライヤーを露にすると藍色の光球を生み出して両手で挟み込むように掴むと、そのまま前方に両手を突き出して青黒い光線を放った。

 

「消えろ、ガンダム!!」

 

強烈な光が晴れて世界が元の色を戻したころ、岩山は平らな荒野に様変わりしていた。

 

「何?」

 

「次元覇王流、聖拳突きぃいい!!」

 

レーダーに警告音が流れると同時に強烈な緑がかった光を纏う右ストレートがウルベに迫る。

 

咄嗟に、右腕で防ぎながらも後方に吹き飛ぶウルベの前には赤い炎を全身から放つゴッドガンダムが居た。

 

いや、ガンダム開発部に居たウルベにはソレがゴッドガンダムの後継機であることは一目瞭然だった。

 

「……ありがとう、ディナイアル。コイツを俺の前に引き摺り出してくれて」

 

ポツリと呟くような声がゴッドガンダムとよく似た機体から聞こえた。

 

ドモンよりも更に深い赤い炎。

 

先ほど倒した2体のガンダムは、それぞれ違う細工が施された2体のゴッドガンダムの後継機に支えられている。

 

「ジュンヤ、無茶すんな!! ソイツはデビルガンダム事変の張本人だ!!」

 

「俺たち3人なら勝てる!! ジュン兄!!」

 

そんな二機のゴッドガンダムのファイターに向けてジュンヤと呼ばれたファイターは、ゆっくりウルベに拳を握る。

 

「…悪りぃ、譲ってくれ。コイツは、コイツだけは。俺がブン殴らなきゃいけないんだ。母さんのために。俺のために!!」

 

歩んでくる新型ゴッドガンダムを睨みつけてウルベは言った。

 

「…媚びへつらうだけだった子どもが。今更、私を止められるのか? 息子よ」

 

「…言うな!! 母さんを見捨てた貴様だけは、俺が倒す!!」

 

ハイパーモードが発動し、ジュンヤの気が一気に爆発した。

 

 




以上、供養でした(*^^*)


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