護衛艦きりしま、参ります! (OPRETER)
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01.なぜかアレができていた。

思いついてしまったので書いてみました。
作者は正直そこまで業界に詳しくありません。
休日アーケード提督(しかもエンジョイ勢)です。
なのでおてやわらかにお願いしますね!



 爆発音。

「がぁっ!」

 神霊装甲(アストラルアーマー)のおかげで傷こそないものの、盛大にゆさぶられて一瞬目がくらむ。

「ん……のっ!」

 生き残っている3番砲塔、最後の1門で照準! 

()ェ!」

 射撃指示したあとの記憶はない。

 

 

 

「んが」

 やべ、変な声でた。

 目を開けると、ぼやけた白い天井。

 ああ、なんとか生き残れたか、と息を吸おうとして、

「んぎ!」

 胸に走る鋭い痛み。

 肋骨まではイッてないはずだけど……

 眼鏡を探そうと腕を動かすがそれすら痛い。全身イッてるなコレ。

 どうにかこうにか手に触れたナースコールのボタンを押してしばらく、からりと部屋のドアが開いて、看護師さんが入ってきた。

「起きました? 霧島さん」

「うい~」

 変な声で応えてしまった。

「先生よんできますね」

 と、ふたたび出ていってしまった。

 あ、申し遅れました。

 私、艦娘やっている、金剛型戦艦4番艦、霧島といいます。

 

 

 数時間後、どうにか起き上がれるようになった私は、病室を辞して工廠へ赴いていた。

「あ、霧島さん」

「大丈夫か? 霧島」

 工廠には明石さんとうちの提督がいた。

「まぁ、全身痛いですけど、なんとか」

 実際、神霊装甲(アストラルアーマー)のおかげで外傷はない。

 運動エネルギーは殺しきれないため、打撲や筋肉痛は茶飯事ではあるが。

 ……このことから運動エネルギーを殺しき「れ」ないのではなく、殺しき「ら」ないのではないかといわれているのは余談。

「で、私の艤装は……」

 あれだけやられたのだ、制服もまだ戻ってきていない……なのでいまの服装はジャージてある。頭の、いわゆる「電探カチューシャ」もつけていない。

 最低でも大破、下手すると轟沈、破棄扱いもありうる。

「あ~……」

 と、工廠のすみを向く明石さん。

 つられて私も向くと、視線の先にはボロボロになった私、霧島改二の艤装が台に置かれていた。

 右の船体は脱落、左の船体はかろうじてつながっているが、外部装甲はない。

 船体も大きな穴が開いていて、4番砲塔はすでになく、唯一残った3番砲塔も砲身が2本とも曲がっている。

 ……ホントにこれは破棄したほうが早いかもだな……

 ……まぁこれは私の戦いかたにも原因の一端はある。

 私の戦いかたとして、他の娘が被弾しないように射線に割り込んで私の装甲で受けるということをよくやる。

 戦艦が簡単に沈むか! ってのもあるし、実際、私の装甲はやわではないし。

 閑話休題。

「で、修復のめどは?」

「それなんだけど……」

 と明石さんに向き直る提督。

「……ちょっと来ていただけますか、霧島さん」

 と、奥へ歩き出す明石さん。

 ついていくと、真新しい艤装の前で立ち止まる。

「これなんですが……」

 その艤装は、なんだかへんなものだった。

 メインの船体の両脇に四角い箱がついている。その上面にはいくつもの蓋。

「ん?」

 前側に廻ると、腰に位置するあたりに4本束ねた丸い筒のようなものが左右に1セットづつ。

 足元には3本セットになった魚雷発射管のようなもの、しかし駆逐艦用にしては明らかに小さい。

「んん?」

 船体部分には板のようなものが4枚折り畳まれてある。

「んんん?」

 ふたたび後ろに廻ると、艦尾にプレートが。

 そこにはひらがなで「きりしま」と刻まれていた。

「……ちょっとまって……」

 おもわずうずくまって頭をかかえた私を変な目で見ないでほちい……

「どしたんですかコレ……」

「建造したらこれができたんだそうだ」

「なにやってんだよ妖精さん……」

 提督の言に思わずノータイムでツッコミを入れてしまう私だった。

「で、これなんだかわかります? 霧島さん。艦名入ってるから霧島さんの艤装だとは思うんですけど」

 いやわかんないほうがおかしくない明石ィ! 

「『護衛艦きりしま』の艤装やんけぇぇぇ!」

 思わず叫んでしまった……

 あ、ちなみに私、いわゆる異世界転生者(しかもTS)だったりもします……

 



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02.これまでのおはなし

設定説明回です。



 私がソレを自覚したのは、小学校高学年のころだと思う。

 『前世』の存在だ。

 ある日、なんとなく自覚していた。私はすこし前、ヲタクな男のおっさんだった、と。

 まぁそれでなにが変わるわけでもない……いや、自分がわりと綺麗系な顔立ちで、「美人になるぜ自分!」と自覚できたのはいいのか。

 おまけに魂が命じるままにヲタク趣味に走ってしまったのもアレなのか……

 コンテンツからすると、私の前世の記憶からは何年かさかのぼっているらしい。

 前世では女っ気がまったくなかったため、TS化したら大興奮するかなーとか思っていたがそこまでではなかった。まったくないわけでもないけど。

 幼少期は「解放」されていなかったのがよかったんですかね。男より女の方がかわいいからいいよね! 

 閑話休題。

 

 どうにかこうにか高校生活を終えようとして、さぁ大学受験だというところで「世界」が分岐した。

 そう。深海棲艦の登場である。

 

 最初はそこまで話題にのぼらなかったように思う。

 だが、あれよあれよという間に世界の海は人類の手から奪われた。

 特に甚大な被害を受けたのはやはり海上施設。海底油田のくみ上げリグ、海底トンネルや海峡橋などが破壊された。

 当然、洋上船舶も被害を受け、海上物流が完全に停止。

 また海底通信ケーブルなども切られたが、幸いにも衛星回線は生きていた。

 さすがに海上200キロ以上の衛星までは手が出せなかったのだろう。同様にGPS衛星も生きてはいた。

 航空物流はというと、こちらも深海棲艦の航空機に被害をうけてこちらも一部停止。ただし海上航路のみがつぶされていて、地上の上を通る航路は被害はなかったらしい。

 沿岸部も海上の深海棲艦からの砲撃を受けて被害が出ていた。とはいえ、海岸線から1kmも離れた地域では被害はおよばなかった。

 沿岸地域では一日に1~2回は深海棲艦が姿を見せ、動目標に対して無差別に攻撃が行われていた。

 

 当然だが、時の政府も黙ってはいなかった。

 特に当時の日本の総理大臣は、初期段階で国会も閣議決定も待たずに3自衛隊に防衛出動を命じ、離島地域からの引き揚げを命じたとか。

 後で相当突き上げはあったらしいが、結果的には人的被害はかなり抑えられたと後に分析されているとか。

 

 反撃が始まったが結果としては芳しいものではなかった。

 攻撃の効果がないわけではない。しかしその効果がかなり限定的だったのだ。

 想定している威力の1/4、いや1/10も与えられない。小さな最も数の多い深海棲艦────後にイ級と呼ばれる────を一隻破壊するのに対艦ミサイル10数発を要したとかそれでも足りなかったとか。

 とうてい費用対効果か釣り合わず、さりとて攻撃しなければこちらがやられる、というジレンマ。

 英欧米露が戦略核を持ち出さなかったのは幸いだろう……戦術核は噂では……

 

 だが「世界」は人類を見捨ててはいなかった。そう、妖精さんと艦娘である。

 「オカルトかよ!」というツッコミは当然あったらしいが、効果によって世論は黙らざるをえなかった。

 実際に深海棲艦はオカルトに片足突っ込んでいる存在なのだから仕方がない。

 

 そして志願兵と徴兵がはじまった。

 私は志願兵の方だ。行くべきだと思った。

 その理由は名前。私の本名は「霧島三弥(きりしまみつや)」。がっつり苗字に霧島がある。

 転生者としての記憶もあるし、これで無関係とは思えなかった。

 予想通り、私は金剛型戦艦4番艦「霧島」として、金剛型の姉たちや他の艦娘たちとともに戦場を駆けた。

 

 それから6年。日本近海はほぼほぼ取り戻し、亜、欧、米との航路もほぼ確立し、海上物流も艦娘の護衛があれば開戦前の3割ほどのレベルまで復興しつつあった。

 なお、艦娘の損耗は出ていない。少なくとも人的損耗はないという公式発表である。

 

「そこに来てコレか……」

 私の目の前には、ミサイル護衛艦こんごう型2番艦「きりしま」の艤装と思われる物体。

 ちなみに、この世界にも護衛艦きりしまは存在していた。

 深海棲艦との初期の戦闘で大破、除籍処分となっていることを資料で見たことがある。

「使えるんですかね? これ」

 明石さんはかなり懐疑的だ。まぁ、初期の自衛隊の体たらくを知っているからだろう。

 だが私はそこらへんは楽観視している。

「使えると思うわよ? 妖精さん謹製だし」

 要はそこなのだと思う。単純な物理的存在ではなく、霊的、多次元的な存在である深海凄艦に対しては同様に多次元的存在である妖精さんの存在が不可欠なのだと。

 残念ながら、現在はまだ、人類は妖精さんの助力がなければ、深海凄艦に有効打を与える術はない。

「問題は補給か……? そこらへんも妖精さん頼みだし大丈夫だとは思うが……」

 鎮守府の運営面からの懸念を口にする提督。

 まぁわかる。私も前世では艦これプレイヤーの端くれだ。エンジョイ勢でアーケード専門ではあったが。

「で、使うんですか?」

「使うよ。当然だろう」

 明石さんの問いにノータイムで答える提督。

「戦艦艤装の修復にも時間はかかる。その間、霧島という人材を遊ばせずに済むのだしな」

 この世界、同じ艦娘は二人存在しない。

 前世で数多あった艦これ二次創作のように、別の鎮守府に同じ艦娘がそれぞれ存在するのではなく、世界に一人だけ存在する。

 つまり、私以外の「霧島」は存在しないのだ。

 なので艦娘は全世界規模でみても決して多くはない。前世の艦これに実装されていなかった艦もいるが。

 だがやはり第二次大戦期の艦が多く、中東や印、中韓などには艦娘は現れていないらしい。いわゆる大東亜圏は日米で警備している状況にある。

「まぁとにかく、明日演習して、性能を調べんとなぁ」

「ですね。あと、金剛お姉さまにも連絡とったほうがいいと思います」

 私は提督にそう返す。

「そうだな。2番艦の『きりしま』がここにある以上、一番艦の『こんごう』も現れているかもしれん。三番艦はだれだったっけ……?」

「三番艦が『みょうこう』、四番艦が『ちょうかい』ですね。妙高さんと鳥海さんには私から連絡してみます」

 明石さんが連絡を受け持った。

「あ、それから霧島さん」

「ん?」

 はいこれ、と明石さんから袋を渡される。

「なに?」

「新しい制服です」

「……そゆこと」

「そゆことですね」

 




ストックはここまで。次は艤装の説明回でその次が演習回かな~


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03.『きりしま』出航!

というわけで、設定説明回その2



 翌朝。

 私は真新しい制服……『戦艦』の巫女服ではない……に身を包み、工廠へ赴いた。

「あ、おはようございます、『きりしま』さん」

「おはようございます、明石さん」

「……なかなか似合ってますよ」

 くすりと笑う明石さん。笑うなお。

「そう? この歳でセーラー着るとは思わなかったわ……」

 そう。『護衛艦きりしま』としての制服は、軽巡系のセーラー服だったのだ。

 全体的なデザインとしては夕張に近いか。

 上着の丈はウェストの上のショート丈。ベースカラーは青で、セーラーカラーは薄いグレイ。いわゆる船体色かなこれは。

 夕張と違ってセーラーカラーの下には肩章がある。鹿島さんのような豪華なやつではなく、普通の制服用らしい。

 昨夜少し調べたら海自の『三等海佐』のものだった。まじか。

 タイはループタイ。タイ止めは探照灯の意匠になっている。

 夕張のようにへそ出しではなく、わりとぴっちりしたインナーを着ているので露出としては低いといえるがぴっちりしすぎてへそのライン出てるじゃねーかよ! かえってエロくないか?! ダイエットしておなかひっこめなきゃ……

 ちなみにインナーの色は暗めの赤。いわゆる艦底色ってやつか。

 下半身はあまり変わっていない。スカートは黒、サイハイソックスも同じものだ。

 え? スカートのした? アンスコですよあたりまえですよ。

 ちなみに、まだブーツはもらってないので靴は私物のスニーカーだ。

「……さてさて」

 一晩ぶりに新しい艤装と向き合う。

 接続は戦艦艤装と同じく腰に着けるタイプ。

 ちなみにこういうタイプは一見重そうに見えるが、いや実際重いが、艤装を起動すると霊的に接続されて、『体の一部』という認識になるので、艤装の重さを感じなくなる。

 ……こういうところも艦娘艤装が多次元的存在なのだと、私の魂に刻まれた中二病患者がふるえるぜハート。

「明石さん」

「はい」

 ブーツは、と振り向くとブーツとスツールを渡された。さすが。

 スツールに座ってブーツを履き替える。ブーツは艦娘としてはよくみるハイヒールでヒール部分が舵になっているタイプだ。

 さらに68式3連対潜魚雷管を太腿に着ける。コレは装備的には爆雷扱いになるらしい。アクティブホーミングするけどな! 

 艤装にはデフォルトで短距離水中探信儀(アクティブソナー)はあるので使えないわけではないが、当面は僚艦にお願いしましょう……

 ブーツと魚雷管を着け終わったらいよいよ艤装のマウント。

 腰の後ろに艤装接続部をあてて固定。

 一度深呼吸して────

「機関始動」

 数えきれないほどやった始動手順(ルーティーン)。意識を艤装に接続し、艤装内の妖精さんたちに発令する。

『機関始動!』『機関始動!』

 妖精さんたちの復唱が私にだけ聞こえ、艤装内のエンジンに火が入る。

 唸りとともに艤装が震え、煙突からわずかに煙が吹き出す。

 なんとなく音が軽く聞こえるのは艤装の出力もそうだが、重油系の艦本式タービンと軽油系のガスタービンの違いだろうか。

 台から艤装を外して、

「じゃ、行ってきます」

「了解です」

 明石さんにあいさつしてから、歩いて工廠の建物の外へ。

 スロープから水際、水面へ降り──うん、沈まない。

「両舷前進微速」

『両舷前進微速(びそーく)

 波をけたてて進み始める。

 集合までに各部のチェック終わらせなきゃ。

 護衛艦『きりしま』の装備はというと、

 

 ・SPY-1 フェイズドアレイレーダー

 ・RGM-84 ハープーンSSM

 ・Mk.41 mod6 VLS

 ・オートメラーラ54口径127mm単装速射砲

 ・68式3連装短魚雷発射管

 ・Mk.15 Mod2 20mm CIWS

 

 なんとびっくり6スロである。

 もっともイージスシステムの根幹をなすSPY-1レーダーは外せない(物理的に外せないのを確認済)ので実質5スロだが。

 主力は対艦ミサイルであるハープーンになるだろう。

 背中の船体部分やや下あたり、ちょうどヒップの後ろあたりにアームでぶら下げられたハープーンの発射器(キャニスタ)がある。

 今回は4×2の8発のキャニスタのうち、左右2発ずつの半分を演習弾としている。

 ひときわ目を引く船体左右の箱。垂直型ミサイル発射器(バーティカルローンチシステム)。VLS、いわゆるミサイルポッドである。だいぶでかいけど。

 VLSの中身は対空のスタンダードミサイルと対潜のアスロックミサイル。どちらも対艦には使えない。いまはスタンダードを多めに入れている。

 いちおう主砲の127mm砲。中央の船体部からアームがのびて、右腰のあたりにある。

 グリップもあり、アームから切り離して手持ちとして使うこともできるらしい。

 が、手持ちで使うと自動射撃が使えなくなるから最後の手段かな。

 そして20mmCIWS(シウス)CIWS(シウス)の代名詞でもある白いレドームをもったMk.15ファランクスが、船体からのアームで両肩の上に配されている。完全に対空防御用。

 ……と、まぁ、こうして装備を見渡すと、正直、対深海凄艦としては力不足は否めない。

 イージスシステムの広域探査能力とハープーンの超長距離射程に負っているので相手の射程外からの先制はとれるが、おそらく1発1殺とはいかない。

 特に戦艦相手となると、ル級でも4発ぐらいいりそうな気がする。ミサイルの数が足らねえ……

 専門はやっぱり対空なのよ。種別でいえば『防空軽巡洋艦』なんだよなイージス艦って……

 おまけに速度をとるために装甲は紙だし。

 そんな感じで、私は各部兵装の動作確認を進めつつ、今回演習に同行してくれる第六駆逐隊との合流地点まで航行してゆく。

 





【挿絵表示】

個人的に作成中の『きりしま』艤装モデル。
ただしほとんどのパーツを「むらさめ型艤装」から借用しているので公開とかは無理ですね。
いちおう個人的にMMD化したいんですが、リギングがうまくいかんのですよ…

いかん。一押しアイドル重音テトさんの誕生祭が近い。
そっちの作業進めねば…


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04.演習戦闘、始め!

戦闘シーン書くのすっげぇかかった…
今回、「擬音を使わない」という縛りを入れたのでそれも理由のひとつかねぇ…


「……いよいよか」

 ひととおりの兵装チェックを終えて、いよいよ真骨頂のイージスシステムを試す。

「レーダー展開。警戒索敵始め!」

『索敵始め!レーダー展開!』

 船体上部に折り畳まれていた4枚の板のようなSPY-1レーダーが頭上に展開し、四方を向く。

 それと同時に、CIWSが置かれている両肩装甲から光が走り、目の前に半透明の空中ディスプレイが現れた。

「おおー」

 レーダー索敵の結果が表示されてゆく。

 距離とレーダー反射量から脅威度判定が行われ、A(アルファ)からD(デルタ)までの群の分類がなされる。

 一番近いのはA(アルファ)群だが01(マルヒト)から04(マルヨン)までの4つで、移動する先にいる。ということは……

A(アルファ)01(マルヒト)から04(マルヨン)はおそらく第六駆逐隊の4隻ね。敵性判定から解除」

『CIC了解』

 CICからの返信でA(アルファ)群の色が赤から青に変わる。

 一番遠いが、脅威度も高いと判定されたのは、

C(チャーリー)群は……」

 全部で23の輝点(フリップ)があり、動いているものといないものがある。

「恐らくC(チャーリー)群が演習目標になるわ。追跡(トレース)を継続、SSM1番と2番に諸元入力しておいて。目標は一番大きい21(フタヒト)番と17(ヒトナナ)番」

 

「見えた」

 水平線に艦娘が4人。

 背はそんなに高くないので間違いなく六駆の4人だろう。

 大きく手を振っているのは暁かな?雷かな?

 やがて4人の側まで到着する。

「はわわ、本当に霧島さんなのです!」

すごいね(ハラショー)、まるで違うんだね」

「まぁ、名前が同じな別の(ふね)だからねぇ」

 驚いた声をあげる電と響に私はそう答える。

 響は今日は『響』だ。『ヴェールヌイ』ではない。

 この世界では『改二』相当や『改』で艦種が変わる場合、艤装が新しいものになり、『改二』前の艤装はそのまま残り、装備しなおすこともできる。

 艦これのコンバート改装──いや、完全ノーコストだからアーケード版のカード入れ替えに近いか。

 なので私も『霧島改』として出撃することは可能だ。

「今日はありがとね、4人とも」

「問題ないわ!もともと今日は警戒待機日だったしね!」

「それより霧島さんは大丈夫なの?大破轟沈寸前までいったって聞いたわ」

 雷と暁がそう言ってくる。

「意識はもっていかれたけど僚艦が拾い上げてくれたみたいね。艤装はかなりやられたけど機関はギリギリ持ってくれたのかしら」

 機関が停止すると艦娘本人と艤装とのリンクが切れる。そうすると水上に浮けなくなるので文字通り『沈む』。

 なのでその前に僚艦が引っ張りあげて、あらゆる作戦を放棄してなにがなんでも帰還することが徹底的に義務付けられている。

 このルールのおかげで開戦から6年間『人的損耗』はなんとかゼロに押さえられている。

 

 女三人寄れば(かしま)しい、というが、自分も含めて5人もいれば話題は尽きない。

 体感時間はさほどもなく、演習用海域に到着する。

「司令官?演習用海域に到着したわ」

 代表して暁が提督に報告。

『了解した。演習用標的は設置完了している。はじめてくれ』

 提督から許可がおりる。

「ん~……」

 雷と電は、艤装についている記録用全方位カメラのスイッチを入れ、

「記録開始」「記録開始なのです」

 記録を開始する。

 それを確認してから、

「じゃぁ、始めるわ」

 私は海域に向き直る。

 すでに展開済のモニターを再度確認し、目標が予想どおりであることを確認してから、

「演習戦闘よーい!ハープーン攻撃始め!発射弾数2(フタ)発!目標はC(チャーリー)21(フタヒト)および17(ヒトナナ)!」

『ハープーン攻撃始め。発射弾数2(フタ)発!目標入力完了!』

「ハープーン発射後両舷全速、戦闘機動!残りの目標は主砲攻撃を行う!C(チャーリー)23(フタサン)から攻撃!3連射したのち次目標判定を行う!」

『主砲対水上攻撃用意!』

『戦闘機動用意!』

 右腰のハープーンが外側を向いて発射位置に。

『ハープーン攻撃用意!よーい、()ーッ!』

 ハープーンのロケットモーターに点火、ミサイルは砲弾と異なり、ゆっくりと、発射器(キャニスタ)から現れ、しかし次の瞬間、あっという間に煙を引いて空へ上がってゆく。

「おおー……」

 暁だろうか響だろうか、驚嘆の声が聞こえた。

『続いて2(フタ)番!よーい、()ーッ!』

 二発目のハープーンを発射。

 私は次の行動に移る。

「両舷全速!戦闘機動!主砲攻撃用意!目標C(チャーリー)23(フタサン)!射程圏内到達次第、全自動射撃!雷!電!ちゃんとついて来なさいよ!」

『両舷全速!』

 ぐっ、と踏み込んで全力加速する。

 護衛艦『きりしま』の最大船速は駆逐艦並みの速度が出せる。

 ちなみに戦艦『霧島』も29kt(ノット)と高速戦艦の名に恥じない速度なのは余談。

 今回は限界性能を知る必要もあるので限界までぶんまわすつもりだ。

 標的群を視界にとらえたところで爆発音。2つ。

C(チャーリー)21(フタヒト)目標命中(マークインターセプト)。続いてC(チャーリー)17(ヒトナナ)目標命中(マークインターセプト)

『まもなく主砲射程圏内!主砲攻撃用意!』

 主砲の127mm砲は艦これ的にいえば射程中距離砲だ。それなりに近づく必要がある。

「取り舵っ!」

 接近しすぎず、かつ速度維持のためにあて舵をとる。

『主砲射程到達!主砲攻撃始め!』

『撃ち~方始め!射撃開始(コメンスファイヤ)!』

 発砲。約5秒間隔で3発。

「速い?!」

 雷か電の驚きの声。秋月型の長10cm砲ちゃんでも装填にこの倍はかかるからだろう。

 ……2発命中。小目標だったおかげでなんとか破壊できた。

「目標C(チャーリー)22(フタフタ)!主砲、撃ち~方始め!」

 

 

「ふぅ……」

『予定目標なし』

 20個の演習用目標を破壊し終えた。今回は砲撃訓練予定だったので反撃されることはなかったのだが。

「雷、何分?」

「あ、ええと、開始から53分、かな」

「……だいぶ速かったわね」

 自分でも驚きだ。戦艦『霧島』なら射程は長いが装填に時間がかかるので3時間はいきそうだ。駆逐艦、巡洋艦連中だと装填は早いが射程は短いので走り回ることになり結果2時間ぐらいが普通だろうか。

 とはいえ、主砲(127mm)だけで18隻はさすがにキツかった。

 大型目標はさすがに無理があったのでハープーンを1発使ってしまった……演習弾は残り1発……

「……提督?終わりました」

 提督に連絡をとる。

「……で、この航空機は演習目標ですか?」

「「え?!」」

 そう。終盤にSPY-1レーダーに航空機を捉えていた。

 捉えた時点では演習領域外だったが、いまは演習領域内に入って来ている。

『あらら、もうばれたんかい』

「……龍驤さんでしたか」

『ま、そういうこっちゃ』

 はぁ、と息をついて、

「ハープーン6番発射用意。目標C(チャーリー)13(ヒトサン)

『ん?』

 左側のハープーン発射器(キャニスタ)が外側を向く。

「撃て」

 爆音と共にハープーンミサイルが発射される。目標は航空機を発進させたC(チャーリー)13(ヒトサン)こと、龍驤さんだ。

 いちおう、龍驤さん自身も演習領域内にいることは確認済み。そして撃ったのも演習弾だ。

『な、なにしたんや?!』

 それには答えずに、

「対空戦闘用意!」

『対空戦闘!』『対空戦闘!』

「VLS、対空戦闘。まずはスタンダード4発。目標はCICに一任。主砲対空戦闘用意」

『CIC指示の目標、スタンダード攻撃始め!』

 妖精さんのその声のあと、船体横のVLSからミサイルが立て続けに4発発射される。

「両舷全速!」

 ふたたび全速航行を始める。

『のわ~!』

C(チャーリー)13(ヒトサン)目標命中(マークインターセプト)

 龍驤さんの悲鳴が通信越しに聞こえた。演習弾だから怪我も破損もしてない……はずだ。

 上空で爆発音。離れてはいるが……遠いとも言い切れない。

『主砲対空戦闘!撃ち~方始め!射撃開始(コメンスファイヤ)!』

 主砲が仰角をあげ、発砲を始める。

「あと4発はスタンダート使っていい!迎撃はCICに一任するっ!全力回避行動!」

 なにしろ一発もらった時点で大破轟沈してしまうのが現代艦の宿命だ。

 CICという『もうひとつのアタマ』があることをこれ幸いに、迎撃行動はCICに丸投げし、私はレーダー画面とにらめっこして回避動線を頭の中で計算する。

目標(オブジェクト)E(エコー)04(マルヨン)から07(マルナナ)、さらに接近!E(エコー)08(マルハチ)以降は高度を下げてる、おそらく雷撃機!』

E(エコー)04(マルヨン)から07(マルナナ)は主砲照準!E(エコー)08(マルハチ)以降はスタンダードで迎撃!諸元入力!』

「魚雷回避運動!ランダム加速に備え!」

 魚雷の対抗手段は往年からの鉄則『避ける』以外の方法はない。魚雷の迎撃システムなぞ2000年代になっても存在しない。

 ホーミング魚雷に対しては「誘導装置を騙してそらす」ことはするが結局「避ける」ことには変わりはない。

 なので基本、魚雷に対しては「魚雷を撃たせる前に搭載機/艦を落とす」ことが大前提になっている。

『スタンダード迎撃開始!射撃開始(コメンスファイヤ)!』

 第二波のスタンダードが撃ち出される。

 さすがは龍驤さんの艦載機、というべきだろう。第一波のスタンダードの迎撃で一旦は散開(ブレイク)したものの、すぐさま間隔が広い編隊に組み直し、攻撃、雷撃態勢を整えている。

 上空の攻撃機は主砲でなんとかなるだろうが問題は低空の雷撃機だ。スタンダードで迎撃するがさすがのSPY-1レーダーでも波のある海面上の雷撃機は識別が困難になる。

 警告音!

「!」

 左に振り向く。主砲砲撃。

 主砲が右腰にマウントされている関係上、どうしても左側が死角になる。おまけにSPY-1レーダーのエレメントを背中にでかでかと広げているので後方射角もほとんどない。

「実戦だとこのへん気を付けないとだめね」

 どうあってもミサイルの弾数が足りないから主砲頼みになりそうだしね……

 さて、現状は、とレーダー画面を見ると、いまの砲撃で上空の目標は残り1、低空の雷撃機群は……スタンダードが命中し始めたか次々消えてゆく。

 しかし、

「!」

E(エコー)11(ヒトヒト)撃破失敗(ロスト)!』

E(エコー)06(マルロク)撃破失敗(ロスト)!仰角範囲外!』

CIWS(シウス)迎撃!右が上だ!」

 とっさに見上げながら叫ぶ。両肩のCIWS(シウス)がすぐさま動き、右肩のCIWS(シウス)が上空の攻撃機、左肩のCIWS(シウス)が水平線の雷撃機を狙い、次の瞬間、甲高い音をたてて射撃を始める!

 すぐに上空には火球、つづいてもうひとつ。

 雷撃機は、とレーダーを見ると敵機は映っていない。

『対空目標な』

探信音打て(ピンガー)!」

『!』

 水中探信儀(アクティブソナー)が放たれると、

『魚雷探知ィ!』

 レーダー画面に合成される。

「回避!面かーじ!右舷逆転!」

 左右のスクリューを逆転させて無理やり航路をねじ曲げる。

 さっきまでの未来位置に魚雷の雷航が過ぎ去るのが見えた。

「………………」

『……探知圏内に対空目標なし……』

「……はぁ~……」

 ようやく息がつけた。

「状況終了、対空戦闘用具収め」

『対空戦闘用具収め』

 ……な、なんとかなった……!

 




戦闘シーンは「フェアリィ鎮守府(後編)」(https://www.nicovideo.jp/watch/sm25442848)がイメージベースになってます。
…つか台詞回しまんまですね(^^;;;
きりしまさんの場合、シースパローは積んでないのでスタンダードになってますが。
というわけで、次回はデブリーフィングの予定。
そのあとはどうしようかなぁ。アンケートでもやってみるか。



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05.デブリーフィング

ないようが、ないよう…



「はぁ……なんとかなった……」

 演習海域から鎮守府に戻ってきた。

 そこで待っていたのは、

「やってくれたのお、自分」

 先に上がっていた龍驤さんが腕組みして待っていた。

「……せやかて工藤」

「誰が工藤やねん」

 いいツッコミです龍驤さん。

「……いや実際、演習なんですから、攻撃受けることは折り込み済みですよね? ちゃんと演習弾使いましたから実質のダメージないですよね? 演習海域内にいたのを確認してから撃ちましたけど?」

 といいつつ、スロープを上がって上陸する私たち。

「……まぁ、せやけど。あの距離から来るとは思わんかったわ」

「いまの私を誰だと思ってます? 戦艦『霧島』ではなくイージス護衛艦『きりしま』ですよ?」

「……せやったな。あんな短時間で12機全機撃墜たぁさすがやな」

「でも結構ギリギリな気がしたのです」

 と電の言。

「……まぁ、ね。あとはデブリーフィングにしましょう。いろいろ反省点も多いし」

 一旦この話は打ち切る。

「そうね。潮を落としたいわ」

 うーん、と伸びをしながら言う暁。

「龍驤さんは?」

「うちは先に入ったからええよ。会議室押さえて提督に連絡しとくわ」

 ひらひらと手を振って建物へもどる龍驤さん。

「……あんな眼の毒見せつけられて轟沈しそうになるのは一度で充分や」

 聞こえそうに無いよう小声で言ったのだろうが私には聞こえてしまった。申し訳ないです龍驤さん……! 

 

 

「ぶへ~……」

 風呂はいいねぇ……リリンの生み出した最高の癒しだよ……(嘘)

 という訳で、私と六駆の5人は風呂に入っていた。

 この基地(ウチ)では24時間態勢で艦娘専用大浴場が艦娘持ち回りで運営されている。

 これは通常の施設ではなく、艦娘がなかば勝手に作ったもので、基地の施設管理部とは別管理になっている。

 艦娘運用が始まった最初期に、海から上がったあとに風呂に入れないとは何事だ! という声が上がったが、施設管理部は風呂の使用制限を解かなかったため、なら自分たちでやる! と言い出してはじまったもの。

 最初は駐車場に私物のコンテナトラックを持ち込み、その中に風呂釜と風呂桶を設置したのが始まりで、現在では工廠近くのプレハブ小屋に、設置、撤去コストとメンテナンス性からブルーシートの湯槽になっている。

 閑話休題

 

「……あいかわらずものすごい迫力なのです……」

「見てるだけでも眼福ではあるけどね」

「ま、まぁ、レディーにはあそこまでのは必要ないのよ、うん」

「そ、そうよね! うん」

 ……聞こえとるよおまえら。

 まぁ、なにかというと、私の目の前でぷかぷか浮かんでいる私の胸のふくらみである。

 ……うん。片手の手のひらで支えられないくらいあるんだこれが……

 ……龍驤さんがちょっと毒づいてたのもこのせいである。

 いや、艦娘はじめたころはこんなになかったのよ?! 

 改になったあたりから増えはじめて、わりと大きめな海外艦娘にまじってトップクラスなサイズになってしまっている。

 いつもはサラシでがっちがちに固めているのでそこまで暴れないが。

 とはいえ、『元絵』から外れたサイズな艦娘は私以外にもそこそこ見かけるので、もうそういうものなんだと割り切ることにしている。

「……そろそろあがりましょうか」

「「「「はーい」」」」

 

「では、デブリーフィングをはじめる」

 という提督の宣言から、プロジェクターでホワイトボードに映しだされた2枚の画像が動き始める。

 さっきの演習で同行していた雷と電が撮影した全方位カメラのデータから、(きりしま)が入っている画角を切り出したものだ。

 さらには高高度から撮影した空撮の動画もある。さすがに実戦では制空権の問題からやらないが、演習の場合、立ち位置の確認のため撮影することがある。

 画面の中の(きりしま)が、開幕ハープーンを撃ち放つ。

「いきなり撃ったんかい」

「そら撃ちますよ。対艦攻撃能力はほぼハープーンに負ってるので」

 龍驤さんの言葉に答える私。

 ちなみに、デブリーフィングの出席者は提督、私、六駆の4人に龍驤さんと、機材操作と書記に大淀さんの8人だ。

「あー、こうして見ると、結構無駄な動きしてますね」

 俯瞰画像はほぼ定位置から撮っているので動線はわかりやすい。

 自分としては近場から潰していったつもりだったが、俯瞰画像からするともっと近い目標があったりして後で戻るという動きがあった。

「それでも、ちゃんと距離を取って攻撃してるあたりさすがですね」

 そらぁ、一発食らえばオシマイですからね、と暁の言葉にひとりごちる。

 画面の中の(きりしま)は、主砲を撃ちまくって、ひとつひとつ目標を潰していっている。

「ハープーン使わんのはアレか? 弾数か?」

「ですね。今回演習弾は4発しか入れてきてないので」

 提督の問いに私はそう答える。

 そもそもの装填数が1回の出撃で8発しかないのだ。(1戦闘ではない)

「……127mmじゃかなりキツいな」

「そもそもが駆逐艦クラスですからね」

 護衛艦きりしまの艦種はDDG……Guided Missile Destroyer、すなわち駆逐艦である。

 画面の中では、大型目標に対処し損ねたあげく、3発目のハープーンを撃ったところだ。

「結局撃ったか」

「積み重ねればなんとかなるかと思ったんですが」

 カスダメ重ねてもなんともならんと思い知っただけで終わりましたとさ。

「……やはり対艦攻撃能力が限定的すぎるか」

「基本、防空艦ですから。それ以上は無理かと」

 イージス、神の盾の意味は、航空機に対する能動的防御(アクティブディフェンス)にある。

 画面の(きりしま)は、さらに主砲を撃ちまくって、20個の標的を撃破した。

「航空機を確認したのはいつだ?」

「もう少し前、40分前後です」

「ええと……」

 大淀さんが画面のタイムカウントを巻き戻す。

 さらにレーダー画面が表示され、40分ごろからC(チャーリー)13(ヒトサン)のナンバリングが振られた目標、龍驤さんから発進した航空機のE(エコー)群が映る。

「……こんな前から捉えられとったんかい」

「この時点では演習海域外でしたから、追跡はしつつも脅威判定は保留してました」

 龍驤さんの言に補足する。

「で、連絡とって演習目標と判定、まず発艦させた龍驤さんを最優先で叩くために最後のハープーン使いました」

 私の言葉に合わせるように画面の(きりしま)がハープーンを撃った。

 その後もスタンダードと主砲で航空機を撃っていく。

「対空ミサイルはわりと撃ったんか」

「VLSは多少余裕ありますからね。それでもなるべく主砲で撃ってますが」

 龍驤さんの言葉にそう答える。

 VLSは見かけ8×2の16セルだが、実際は90セル(90発)分の搭載量がある。

 これは原型の『きりしま』の性能(前29+後61)に準ずる。

 ちなみに、原型が端数なのは原型の『きりしま』のVLSが、3セル分づつ搭載作業用のクレーンになっているためだ。

 約1/4の25発は対潜用アスロックをいれていて、残りが対空用スタンダードの構成になっている。

「あ、外した」

 暁の呟きのとおり、標的を外す。

「ミサイルって、撃ったら必ず当たるんじゃないの?」

 と暁が言うので、

「そんなわけないでしょ。誘導するとはいえ、いろんな要因で当たらないことはあるわよ」

 当たり前な話である。

 画面では、結局CIWS(シウス)まで使って撃墜し、ギリギリで魚雷を避けて終了、となっていた。

「……なるほどなぁ。おおよそカタログスペックは出せる、と考えてよさそうだな」

 提督かそう総評する。

「正直言えばもう少し対艦能力が欲しいところだな。Mk.41にハープーン積めなかったっけか?」

「いやそりゃ無理でしょう。スタンダードを無理やり(ふね)に当てることはできるでしょうけど。第一、対空ミサイルの数を減らしてどうするんですか」

 提督が珍しくすっとんきょうなことを言いやがった。

 対空ミサイルの数減らすとか、本末転倒でしょうが。

 たしかに対艦能力欲しいけど! 

「まぁ、防空担当が増えるのは正直ありがたいしな。しばらくは頼むぞ霧島」

「了解ですが、戦艦艤装のほうは?」

「そっちも修理はすすめてるが、優先順位は下げてる。しばらくは大規模攻勢は無理そうだしな」

 資材的な意味でですねわかります。

「扶桑姉妹か伊勢姉妹のうち一人を廻してもらえるか相談中だが、いざって時には『改』艤装で出てもらうかもしれんから、心づもりはしといてくれ」

「了解です」

「まぁ、とうぶんは護衛艦艤装で運用することになるだろう。沿岸警備や船団護衛には充分だ。次の予定は追って伝える。以上」

 




とゆーわけで、前話のアンケートで、
遠征:14票
実戦:12票
となりましたので、遠征任務となりました。

遠征船団護衛にでも行きますか…



【挿絵表示】

ちなみに、護衛艦きりしまはこんな感じです。
つみだんご式霧島改二ベースで作成しました。(まだ一部未完成)
艤装のパーツ配置は、いわゆる「\イージスです/」こと「宮城地元からやってきた金剛型2番艦」を元にしています。
霧島「あの、胸部装甲がえらく増量されてるんですが」
性癖に従った結果だからシカタナイネ!


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06.遠征船団護衛任務(往路)

復路は書くか不明です。
(めんどいからたぶん書かない)



 夜の海。

『海はいいねぇ。夜の海はさらにいい。

 穏やかな波、すずしい風、明るい月。

 今夜は最高だ!』

 ……どこぞの夜戦バカの声か通信から響く。

「無線封鎖してるわけじゃないからいいんですけど。もすこし静かにできませんかね」

『なんだよー。いいじゃん。だまーって航行(はし)るなんてつまんないし』

「島風ですかアナタは」

『なんだとー』

「はいはい。ちゃんと仕事してください」

『仕事はしてるよ。電探にも目視でも敵影なし』

「綾波、そっちは?」

『こちらも同じです。電探、目視、ともに敵影なし』

「そうですか」

『まー、私らより遥かに高性能な『きりしま』の電探なら、わたしらよりとっくの昔に見つけてるでしょ』

『まぁ、そうかもしれませんね』

 そう言って笑う川内さんと綾波。

「……」

 ……笑えねぇ。

 というのも、有効範囲300kmを誇るSPY-1レーダーの探知範囲ギリギリに、ちらちらと反応があったりなかったりしているからだ。

 この距離になると、さすがのSPY-1 レーダーでもノイズを疑わざるを得ないし、そもそもとして40ktで突っ走ったとしても2時間以上かかる。

 深海棲艦(むこう)船団(こっち)を認識できない距離のはずだし、藪をつついて蛇を出す必要はない。

 ちょっと沖に出たらこれだもんなぁ。海は広いぜ……

『きりしま?』

「ああ、いえ、なんでもないです」

 川内さんの言葉にとりあえずそう答えておく。

 

 さて、私たちが何をしているかというと、物資輸送・資源回収船団の護衛である。いわゆる遠征任務だ。

 正確には、船団はこの時間は港に停泊中。さすがに夜間航行は深海棲艦に襲われたらひとたまりもないからだ。

 私は港の出口辺りでSPY-1レーダー全開で走査中。

 川内さんと綾波は港の外側を哨戒中だ。

 面子は第三水雷戦隊を率いる川内さん隷下の第19駆逐隊、磯波、浦波、綾波、敷波の4人に、副旗艦として名取さんを加え、そこに私、きりしまが入る形になっている。

 ローテーションは、私と川内さんが夜間哨戒固定。名取さんが昼間の哨戒と道中航行の指揮をとり、19駆は昼夜を3交代でローテーションする。

 川内さんが夜間哨戒固定なのはまぁお察しとして、私も夜間担当なのはSPY-1レーダーの索敵能力を使うため、私から提案した。

 ほぼ視界ゼロとなる夜こそレーダーの出番と考えた訳である。

 ……ある意味この選択は当たりで、沿岸から200km以上の沖合いに深海棲艦の反応がいくつかあることがあった。藪をつついたら本末転倒になるので向かって来たもの以外はこれまでも対処していない。

 しかし、本来この距離だと水平線越え(オーバーザホライズン)になるはずで、電波的には海面上の深海棲艦がみえるはずがない。

 ……ということは電波以外のナニカで深海棲艦をとらえているはずだが……まぁ、いいか。

 ちらりと時計をみる。日の出まであと2時間と少し。

 気合い入れ直すか! 

 

「川内以下3名、哨戒任務を終了。敵影確認できず。交戦もありません」

「名取、了解しました。お疲れさまでした」

 日が昇り、港入り口の海上で交代の名取さんたちに申し送りをする。

 仕事はちゃんとするんですよ川内さんは。でなけりゃ三水戦を任されるはずがない。

「んぁ~! やれやれ、寝るか~」

 伸びをしつつ港へ向かう川内さんと綾波。

 私も続こうとすると、

「きりしまさん」

 名取さんに呼び止められた。

「……なに?」

「本当に敵影はなかったんですね?」

「……なかったわよ」

 こっちに向かってくるのは。

「……そういうことにしときましょう」

「そういうことにしといてください」

 ……まぁ、半分くらいバレとるねコレ。

 名取さんも戦術目標はわかってるはずだからこの程度で流してくれたんだろう。

 船団が出港準備を進めているなか、私たちはただ1隻いる護衛艦へ。

 艦番号(シップナンバー)はDE-232、あぶくま型護衛艦『せんだい』である。

 この『せんだい』が、川内さん旗下第三水雷戦隊の出先母艦となっている。

 さすがの艦娘といえど、眠らずに24時間航行することは不可能だ。

 燃料的には数日間ぶっ続けの行動は可能ではあるのだが、艦娘のほうがもたない。

 このため、行動が数日間におよぶ遠征任務などの場合は運用母艦が付けられ、休息などを行う。(補給はできない)

 『せんだい』は、深海棲艦との緒戦で、例に漏れず被弾、損傷したものの、大破まで至らず修理され、艦娘運用後は川内さんの出先運用母艦として運用されている。

 『せんだい』に限らず、旗艦級の艦娘で同名の護衛艦が生き残っている場合、可能であるならば同名の護衛艦を出先運用母艦として優先的にあてることがある。

 『せんだい』へ近づいた私たちは、艦尾に追加された梯子を昇って甲板へ。

 本来はヘリ甲板である甲板に仮設されたテントへ。

「お疲れさまです」

「お疲れさまです」

 歩哨が敬礼したのにあわせて返礼する。

 テントに入って中にある台に艤装を置く。

 背中にそれなりの大きさがある私や綾波は少しかかるが、腰後ろの魚雷管と手甲の砲だけの川内さんはすぐ終わる。

「じゃ、お先~」

 と言う間に出ていった。

「……軽巡系はああいう装備多いよねぇ……」

「……あれで駆逐艦(わたしたち)より威力高いからうらやましいですよね」

 綾波がひとりごちる。

 川内さんに限らず、艦娘の兵装は見かけの大きさと威力が比例しない。

 ここからも艦娘とは物理的な存在ではないことがわかる。

「まぁ、それはそれとして。とりあえず寝ましょう」

「……ですね」

 艤装を徐装して艦内へ入り、割り当てられた部屋へ。

 部屋へ入ると、2段ベッドが2つあるだけの部屋で、うち1つにカーテンが引かれている。

 (きりしま)は軽巡扱いで川内さん、名取さんと一緒の部屋になっている。

 割り当てられたロッカーを開けてぱぱぱっと寝間着に着替え、ベッドへダイブする。

 カーテンを引く頃になると汽笛が聞こえ、ゆらりと揺れる。

 出港したらしい。

 とりまオヤスミナサイ……

 

 

「…………」

 夜の海。月明かり。外洋であるため結構波はあるが、航行には支障なし。

 ……物資輸送船団は外洋を航行中だ。

 夜間航行は極力避けるべきだが、どうやっても途中に停泊できる港がなく、10時間以上かかる航路はある。

 まぁ、そういう場合に備えて私ら艦娘護衛艦隊が随伴するわけだが。

 300m以上ある大型貨物船が6隻、200m前後という、至近距離とも言える間隔で航行し、その外側を私ら艦娘護衛艦隊がかためる。

 連合艦隊の第三警戒航行序列の配置に近い。

 本来は旗艦がつとめる先頭を(きりしま)が航行し、まいどおなじみレーダー全開で周辺走査中。

『……どう? きりしま』

 さすがの川内さんも声に緊張が走る。

「……相変わらず方位074から073、相対距離は82km、ってところでしょうか。進行方向はほぼ方位0です」

『磯波、敷波、そっちは?』

『敷波、水中聴音機には目立った音はありません』

『磯波。こちらも同じく』

『こちら護衛艦『せんだい』、こちらのソナーにも音紋照合なし』

 磯波、敷波、そして『せんだい』の水中聴音機(パッシブソナー)にも反応なし。少なくとも潜水艦はいないと思ってよさそうだ。

 さすがの深海棲艦でも水中では音を出す。これは艦娘用のソナーと通常艦のソナーでも反応の差異が認められなかったため、ソナー関連に関しては解析能力の差で護衛艦が有用であったりする。

 ……まぁ、前述の通り、(きりしま)のレーダーに深海棲艦の反応があったのだ。しかも100km圏内に。

 なんとかやりすごす方向で、灯火管制を敷き、本来航行法的に消してはいけない航行灯まで消して、近接レーダーだよりの目くら航法で航行中。

 私たちは方位190、南南東に向かって航行中のため、方位0、ほぼ真北に進んでいる深海棲艦とは逆方向になる。

 このため、徐々に相対距離は離れていっている。

 じりじりと時がすぎ、

「……方位031から030、相対距離は120kmを越えました。追跡(トレース)は続けますが、警戒態勢は緩めて大丈夫かと」

「『『『『『はぁ~~……』』』』』」

 全員のため息が聞こえた。

『気は緩めすぎずにいくわよ。警戒態勢は維持。灯火管制も継続ね』

『『『『了解』』』』

 川内さんがそう締める。

『しかし何だ、見えすぎるってのもメンドクサイねぇ』

『早期に警戒できるんですから、それはそれでありがたいのでは』

 川内さんの言葉に名取さんがかぶせる。

『そうだけどね』

『川内さん的には夜戦の獲物が見えてるのに手が届かないのが残念なんですかね』

『敷波、あんたね、いくら私でも輸送船団抱えてるのに無駄な夜戦はしないわよ?!』

 無駄じゃなければするんですね。

『無駄じゃなければするんですね』

 ……って、敷波、あんた、

『……覚えておくわよ敷波』

『……っっ!』

 ……おバカ……

 敷波のやらかしに頭をかかえたその時、警告音! 

「!」

 レーダー画面で確認する。

「方位191、相対距離280kmに反応、進行方向はほぼ方位0! 速度約20kt ! 向かって来ます!」

 川内さんにそう報告し、更なる情報を得るためロックオン。

 距離は遠いが、進行方向からぶつかる可能性が高い。

『せんだい!』

『こちら護衛艦せんだい、最終記録上はこの航路を通る予定は我々だけです!』

『最終更新は?』

『47分前!』

『きりしま!』

レーダー反射量(RCS)からの推測では駆逐艦級、数は、3!」

『迎撃する! 浦波! 敷波! 行くよ! 名取! あと頼んだ! きりしま! ナビ頼む!』

「『『『了解!』』』」

 川内さん以下、浦波と敷波の3人が艦隊列を離れて、夜の海の向こう側へ消えてゆく。

 

 

「敵艦、川内さんとの相対距離9万メートルを割りました。敵艦の進路、方位、速度、変わらず」

『敵艦の右舷からしかける。210か?』

「……そう、ですね。いいと思います」

『よし。進路、210』

 船団を離れて迎撃に向かった川内さんたちを示す、レーダー画面の輝点(フリップ)の進行方向が変わる。

『きりしま、せんだい、他にはないわね?』

 名取さんから問いがあがるが、

『こちら護衛艦『せんだい』、ソナーには音紋照合なし』

「きりしま。探知圏内に他の反応なし」

 今のところ、川内さんたちが対処している以外の反応はない。

 とかやっているうちに、

「川内さん、相対距離が5万メートルを割りました。警戒を」

 航空機ならひとっ飛びだ。深海棲艦の偵察機は夜間だろうがお構い無しだし。

 戦艦なら射程圏内もありうる。

『ッチ、わずかに黄色い光が見える。フラだ』

 マジかー……

「っと、川内さん、そろそろ変進を。100です」

『了解。変進、進路100』

 川内さんたちは変進し、深海棲艦の方向へ向かう。

『先手は取れそうだ。砲戦用意!』

 川内さんの主砲射程は約2万メートル。

「方位101.2から1、距離2万8千」

『ああ、もう見えた』

 レーダー画面の川内さんと敵艦の距離が2万6千を割った瞬間、

()ェ!』

 通信ごしに砲声。

『突っ込むぞ! 全速!』

 既に全員改二なのでフラ3隻であろうが駆逐艦なら問題ない。レーダー画面上でもはっきりわかる蹂躙が始まった。

 

 

「川内さんとの相対距離4千。探知圏内に他の反応ありません」

『探照灯、点けます』

 名取さんから探照灯の光が伸びる。

『確認した。探照灯消していいよ』

 その川内さんの言葉に探照灯の光が消える。

 しばらくすると暗闇の中から川内さんたちが姿をあらわした。

「おつか、れ……」

「お疲れさん。ナビありがとねきりしま」

「いえ、それはいいんです、が……」

 川内さんは何か持っていた。

 一辺が5、60cmほどの立方体の物体。

「ドロップキューブ、ですか?」

 深海棲艦を倒すと、その体が再構築され、立方体状のナニカになることがある。

 これはドロップキューブと呼ばれ、普通は一辺30cmほどのそれを、工廠妖精さんに渡すと、艦娘の艤装になったり資源になったりする。

 ……しかし、こんなデカイのを見たことはない。

「ああ。このサイズだと、中に誰か捕らわれてるな」

「え?!」

 ちょっと待って! この世界って陽抜方式じゃないの?! 劇場版D案件なんて聞いたことないよ?! 

「ああ、きりしまは知らなかったか。極ごくまれに艦娘適合者が深海棲艦に取り込まれてて、撃破時に回収されることがあるんだ。と言っても私もコレを見たのは5年ぶりだよ」

 ……D案件アリ、ってことか……

「この件は提督と大本営には報告されるけど、基本極秘案件になる。みんなも他言しないように。漏らした場合、処罰対象になる」

 ……だから聞いたことなかったのか……

「とりあえず、コレは『せんだい』に安置する。以後は予定通り航行する」

「『『了解』』」

 




てなわけでドロップしましたが、これが今後に影響するかは決めてません。


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07.「正義の鉄拳をふるう者は、しばしば鉄拳をふるうために正義をマウントする」(c)あかやま壽文

前回、ああは言ったものの、やっぱりかかわってきてしまったり。

あと、「シルキーフレーム -絹肌機械-」(あかやま壽文)が電子化したので。
シルキーフレームとミューフレアーは(マイナーだけど)美少女ロボ黎明期の聖書だと思ってます個人的に。
読め。<命令形




「はいよー、ソーキそば、上がったよー」

「あ、すいませーん」

 カウンターに上がったどんぶりを受けとり、三水戦(みんな)のいる席にもどる。

 席に座って、

「いただきます」

 ずるずると麺をすする。

( ゚Д゚)ウマー

 

 往路の船団護衛を終えた三水戦(わたしたち)は、目的地である沖縄・嘉手納基地で休息中だった。

 船団はこの先で別の護衛艦隊の護衛で台湾、東亜方面へ向かうことになる。

 私たちは逆に、東亜方面からの船団を護衛しつつ、内地へ帰還することになる。

「アレ……どうなったんでしょうね」

 その綾波のことばに、全員が一瞬止まる。

「……気にしても仕方ないわよ。私たちの管轄じゃないんだから」

 魚の唐揚げを頬張りつつ、川内さんがそう答える。

 ……先日の戦闘で入手したドロップキューブは、嘉手納基地の工廠妖精さんに渡した。

 その中から「何」が出てくるか、出てきた「モノ」を「どう」するのかは、嘉手納基地の提督の決めることだ。

「内地まで持って帰ることはできないんですか?」

「アレは最寄りの基地に提出することになってる。それは遠征艦隊(わたしたち)も同じよ」

 妖精さんの助力が必要とは言え、ドロップキューブは貴重な補給物資といえる。遠征艦隊に横取りされてはたまったものではないため、担当区域内の基地に提出することが義務づけられている。

 ましてや、D案件となれば戦力拡充にもつながるだろう。

「Hi、センダイ」

 私のうしろから川内さんへ向けての声。

 英語ネイティブなイントネーション。

 振り向いてみると、長い茶髪の女性がいた。

「アリゾナ? どうしたのこんなところに」

 と川内さん。

 ああ、この人がアリゾナさんか。前世の艦これでは実装されていなかった人。

 Pennsylvania(class) 戦艦(battleships) USS Arizona。

 わりと初期からこの沖縄を母港としているという噂は聞いていた。あのアイオワさんより前だったので驚いた記憶がある。

 ……彼女の本来の母港であるハワイは、いまだ深海棲艦の手の内だ。

 ちなみに、アイオワさんは主に米本土西海岸を守っているらしい。

「この娘がね、あなたに会いたいって」

 そう言って、後ろにいる女の子を示す。

 青いショートカット、金色の瞳、青と白を基調としたセーラー服と、緑色のプリーツスカートに身を包んでいる。

 おずおずと()()()()()()()()()()()敬礼をして、

「あ、あのあの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()! オキナワ(ここ)に配属になった、John C.Butler(crass) 護衛駆逐艦(destroyer escote) DE-413 USS Samuel B.Roberts、です! Sam、あるいはSammy.Bと呼んでください!」

 と名乗った。

「!!!」

 全員が固まった。

 ……なんてことのない挨拶に聞こえるが、客観的によく考えると言葉が矛盾している。

 当事者からすればすぐにわかるが。

 ……噂をすればなんとやら、まさか本人の登場とは。

 おそらく彼女は、先日のドロップキューブから「再生」された娘だ。はっきり言わなかったのは極秘事項のために口止めされているからだろう。

 しかも「護衛駆逐艦(destroyer escote)」と、艦娘としての艦名を名乗った、ということは艦娘として戦うことを決めた、ということだ。

 ……背格好からおそらくまだ成人していないだろうに。

 もっとも、艦娘艤装を装備すると外見が艦娘の「元絵」に引っ張られることがある。髪の色とか長さとか髪型とか。

 それを考えると、「再生」されたときに背格好も引っ張られたか……? 

「あ……あ、うん。大丈夫だった?」

 ようやく再起動した川内さんがそう聞くと、

「はい、もう、すっかり」

 とサムはそう答えた。

「あの……聞いていいのかわかんないけど」

 続いて綾波がおずおずと聞く。

「……どこまで、憶えてるの?」

「……」

 その綾波の問いに少しうつむき、

「……『喰われた』ところまでははっきりと。そのあとは……まるで映画でも観ているようにうっすらと」

 ……深海棲艦だった間のことを憶えてるのか……

「ごめんなさい。嫌なこと思い出させちゃったわね」

いいえ(Non)。だからこそ、『戦える力』がある、と知ったとき、嬉しかったんです。みんなを守れる。戦える」

 サムはそう言って、自分の手を見つめ、ぎゅ、と握る。

 ……あまりよろしくないな。手段と目的が反転しかねない。先達として釘をさしておくか。

 ……そういえば、サミュエル・B・ロバーツって、確か……

「そういえば、サミュエル・B・ロバーツって、『戦艦のように戦った駆逐艦』って言われたって聞いたことあったわね」

 と、私がサムに向かっていう。

「えっ」

「確か……随伴していた空母艦隊を守るために殿(しんがり)をかってでて、

 敵艦隊に突っ込んで、

 砲弾も魚雷も本当に全部撃ち尽くして、

 轟沈した、って話よ」

「「……」」

 一瞬、場が静まり返る。

「でもね、サミュエル・B・ロバーツ」

 私はサムに向き直り、その眼を見据える。

「その名と魂を受け継いだとは言え、あなたがそんな風になる必要はないわ」

「……!」

 眼を見開くサム。

「そうだねぇ」

 川内さんが続ける。

艦娘(わたしたち)(おか)の民間人を護るために、僚艦を護るために、自分の命をチップに戦って(ベットして)いる。

 だけど、この戦い(ギャンブル)は負けは許されない。

 場合によっては逃げて(ベットオフして)でも生き残らないといけない。

 負けなければ勝つ目は残る」

「こと、深海棲艦との戦いで、逃げることは恥でもなんでもないわ。無理なら逃げてもいいの。

 まぁ、何のために戦うのか、を常に考えなさい、ってことね。

 たまにいるのよね。『正義の鉄拳を振るうために正義をマウントする』やつが。

 戦うことだけを目的に目標を設定するのはバカを通り越して無能のすることだけど」

 これは私の持論である。

 手段と目的が入れ替わっては意味がないどころか最悪害悪になる。

 ……どこぞの夜戦バカは微妙だが。

「…………」

 私の言葉に何人かはどっかの軽巡に目をやるが、

「……まぁ、どこぞのバカはいちおーわきまえてる範囲でやってるのよあれでも」

 いちおうそう言っておく。

 口では言っているが実際は余力がある時にしかやってないのだあの人は。

 ……やってる時点で、ではあるが。

「……」

 サムは口をつぐむ。なんと言っていいのかわからないのだろう。

「すぐ実戦、ってわけでもないでしょうから、ゆっくり考えなさい。

 艦娘(わたしたち)の力は、いったい何のためにあるのかを」

「……はい」

 そういってうつむき、考えるサム。

「あの」

 再び顔を上げ、

「お名前、教えていただけますか?」

「私? 金剛型の霧島よ」

 嘘は言ってない。

本当ですか(Really)?! 戦艦の(It's battleships)?!」

「ええ、そうね。今は戦艦艤装は修理中で別の艤装だけど」

「…………」

 ……なんかすんげぇ尊敬の眼差しでみられてんだけど……

「あなたがキリシマだったのね。お手合わせ願いたいわね」

 アリゾナさんまで食いついて来やがった。

「今回はご勘弁願いますか。また次の機会に」

「あらそう……」

 さすがにいまは戦艦の相手はできねぇー! 

「そろそろ行きましょうか」

「はい」

「「では、失礼」」

 もう一度敬礼して、去っていった。

「「……」」

 場が静まり返るが、私は座り直し、

「とりあえず、食べちゃいましょう」

 まだ飯の途中だよ! 

 

 

 提督室のドアを川内さんがノックする。

入れ(Good to enter)

「失礼します」

 室内へ入り、提督に敬礼。

「第三水雷戦隊、川内以下3名、参りました」

「ご苦労様」

 室内には女性提督が一人。

 ユミコ・ナンブ米海軍(US Navy) 特例(special) 准将(brigadier)

 もともとは日本人で、高校まで日本で育ったが、高校卒業後に米海兵隊に入ったという異色の人だ。

 生まれたのがハワイだったのでもともと米国籍を持っていたらしい。

 提督適性(艦娘適性はないが、妖精さんを認識でき、コミュニケーションがとれる)があったため、海兵隊(Marines)から海軍(Navy)へ転属、沖縄米海軍艦娘艦隊の指揮をとっている。

「ああ、あなたが霧島ね」

 そう言って私の方へ。

「聞いたわよ。初めて発見された現代艦娘だ、って。しかもイージス艦娘とは」

「お耳が早いですね」

「この仕事、情報収集が命に直結するからね」

 さすが叩き上げ。解ってらっしゃる。

「で、そんなあなたにお願いなんだけど」

「何でしょうか」

「さっきうちのサミーに会ったそうね。よければ稽古つけてくれないかしら」

「……演習をせよ、と?」

 うなづくユミコ提督。

 ……うーん、どうだろう……

「……どうでしょう? あの娘もまだ艦娘になったばかりでしょう。練度的にもスペック的にも重荷かと。

 まず成功体験をしてからのほうが良いかと愚考します」

「あなたがあの娘に言った言葉を聞いたわ。おかげでモチベが爆上がりしてて。この機を逃したくないのよ」

「では、三水戦との合同訓練というのはどうでしょうか」

 と名取さんが提案する。

「きりしまさんだけでなく、三水戦(わたしたち)も一緒にやれば駆逐艦としての参考になるでしょうし、きりしまさんは、いまはイロイロとアレですし……」

 ……イロイロとアレってなんや。まぁそうだけど。

「悪くはないわね……あなたたちの予定は……」

 と、テーブルに戻って資料をひっくり返す。

「あった。あら、明日出発?」

「だったんですが、船団が少し遅れているので明後日にずれ込みそうです」

 と、川内さんが答える。

「じゃあ時間は取れそうね。お願いできるかしら」

「「「了解しました!」」」

 

 

 翌日。

「本日はよろしくお願いします!」

 元気よく敬礼をキメるサム。

 なるほど確かにテンション高い(キラつきだ)な。

「じゃあ始めようか。まずはお手本ってことで、磯波」

「はーい」

 川内さんの言葉に磯波は少し前へてで停船、主砲を構えて沖合いにある標的に狙いをつける。

()ッ!」

 主砲発射。標的にペイントが当たる。

「よーし。じゃあ次、浦波」

「はい」

 それを見ている私の隣に、サムの監督官として同行しているアリゾナさんが来た。

「まさかイージス艦艤装とはね。私との手合わせ断ったのはそのせい?」

「さすがに単艦で戦艦のお相手はできませんよ……」

 イージス艦単艦で戦艦の相手しろなんて自殺行為にもほどがあるわな。

「きりしまさーん! 次、いきます?」

「りょうかーい」

 そう答えて前へ出る。

「さてさて」

 主砲ユニットの下にあるグリップを握って、ユニットごとアームから切り離す。

 主砲ユニットはそのままハンドガンのような武器となる。

「上手くできるかしらねぇ」

 実際、手持ち兵装使ったことないんだよね私。

 戦艦艤装もイージス艤装も砲は艤装側のマウントだし。

 停船して、砲を両手で構えて、

「!」

 発砲! 

 標的の横に水柱がたった。

「「……」」

「うーん、普段手持ちしないからねえ」

 ふたたび構えて、撃つ。

 ……6発目でようやく根元に当たった。

「……じゃあ次、サム、いってみましょう」

「は、はい!」

 私と入れ替わりにサムが前へ。

 停船して構える。サムの主砲はPDWのようなストック付きなのでブレにくいだろう。

 私は主砲ユニットをアームにマウントし直してアリゾナさんの隣に戻る。

「……外したのはわざと?」

「まさか。通常、こいつは自動射撃ですからね。手持ちで射たないと訓練になりません。

 まぁ、普段手持ちで撃たないのであのていたらくでしたが」

 実際、マジでブレブレやったわ。主砲ユニットでかいし重いしなー。エアガンでも買って練習するかなー

 

 

「ありがとうございました!」

 砲撃訓練を終えて、ふたたびサムが敬礼で挨拶する。

「お疲れさま。参考になったかしら?」

 その川内さんの問いに、

「はい!」

 と元気よく答えるサム。

 うむ、初々しいねぇ。

 ……しかし……よくよく考えると、だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()? 

 サムは確か、ブラウザ版5周年任務の任務報酬だったはず。

 でも、こちらではすでに開戦から6年経っている。

 ……()()()()()()6()()()()()()()()()

 アケでの記憶に残っているのは、確かAL/MIだっけ。

 ブラウザ版はやってないから、Wikiで調べた程度なんだよな。あとはシブとかツイートで画像が廻ってきたとかさ。

 サムが降りてきたのは、なんてことはない遠征任務だ。たまたまいままで降りてこなかったといえばそれまでだが。

「……」

 それを言えば『きりしま』艤装(コレ)もとびっきりだ。

 いままでのルールではあり得ないイージス艦艤装。

 横紙破り(ルールブレイカー)にもほどがある。

 近いうちになんかありそうだな。改二の艤装、早めに上げてもらわないとアカンかも……

「キリシマ? 大丈夫?」

 とか考えていたらアリゾナさんに心配されてしまった。

「ええ、ちょっと考え事を」

「どうしたの?」

「……そろそろ大規模戦、来そうかな、と」

「あれ? 日本だとこの間あったばかりでしょう?」

「ええ、まぁ」

 確かに。つい先日、ブーゲンビル島での大規模戦「ブイン防衛作戦」が終わったところだ。

 ……ちなみに私は本土待機組でしたのよ。

「さすがにそんな短いスパンじゃ来ないでしょう。いくら深海棲艦ども(Monsters)でも、削られた資材(Resource)の回復を優先すると思うわ」

「まぁ、その筈でしょうけど」

 フラグがクソ怪しいんだよなー……

「きりしまー! 帰るわよー」

「はーい!」

 川内さんの言葉に、とりま、港への帰路についた。

 




 アリゾナは(大方は予想したと思いますが)この世界では泊地棲姫から中身ごとドロップしました。この世界の泊地棲姫はアリゾナと五航戦艤装2隻分のトリプルドロップという超レアケースだったのです。
 容姿はとりあえずアズレン準拠で。
 ちなみに、その時霧島さんは後方支援艦隊だったので前線のドロップ騒ぎは知らなかったのです。
 ユミコ准将は某漫画の人がモデル。まんまですが。
 ちなみに、艦娘の自衛隊内での階級は一律三佐(少佐)扱いとなっています。これは艦娘は戦闘艦艇扱いになるので左官以上で、運用母艦の艦長(一佐(大佐)クラス)が場合によっては命令を下せるようにこの階級になってます。
 つまり長門も占守も階級としてはおなじ。また、階級が上がることもありません。


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08.発動!友軍救援「第二次ハワイ作戦」

というわけで、きりしまさんの懸念が当たることになります。



 41cm砲の爆音! 

 しばらくして、遠くの標的が粉々に吹き飛ぶ。

「────!」

 感慨深いねぇ。

 そう、苦節ン日、ようやく改二艤装が修復完了したのである。

 『ほとんど造り直しでしたよ!』と、明石さんにどなられましたわ……

 という訳で、今日はひさびさの『戦艦』の巫女服に身を包み、改二艤装の慣らしのために砲撃訓練中である。

「……っと、だいたい調整おわったかしら?」

『おっけーです( ´∀` )b』

 視界の端にサムアップする艦内妖精さんズ。

 よしよし。

『……霧島さん?』

「大淀さん?」

 大淀さんから通信だ。

『戻れますか?』

「あ、はい。もう戻れます」

『では、お願いします。提督室までお越しください』

「了解しました」

 ……なんだ? 

 …………フラグきたか?! 

 

 

 提督室のドアをノックして、

「失礼します」

 中へ。

「おっ……とぉ……」

「ああ、来たか、霧島」

 と提督。

 中にはそうそうたる面子が。

 総旗艦たる長門さんに陸奥さんに大和さん、って、大和さん動かすのかよ?! 

 そして私の改二艤装修復中のヘルプで来ていた伊勢さん。

 いまうちにいる戦艦勢フルメンバーじゃねえの。

 そして工廠を預かる明石さんに大淀さん。

「簡単に言おう。米国がハワイ奪還作戦をぶち上げた」

「「「!」」」

 マジか。

「だが、米国にそれほど艦娘の数はいなかったのではないか?」

 その長門さんの懸念に

「いや、それなりの数はいる。戦艦も空母もいるしな」

 と答える提督。

 アイオワさんとかアリゾナさんとかな。サラとかホーネットもいるはずだ。

 前世の艦これで実装されてなかった駆逐艦系もいるなら全員まわせばなんとかなるか。

「多少足りなくても米帝らしく物量ですりつぶす気だろう。通常艦艇の攻撃も全く効かないわけじゃないし」

 ……ソレものすごく非効率ですよね……

「米国人は『自分たちが確保した土地』に対する執着心は強いからな。硫黄島しかり沖縄しかり。ハワイ奪還は悲願だろう」

 提督はそう分析している。

「で、その支援を頼まれたわけだが」

「どういう作戦なの?」

 と陸奥さんが聞く。

「主力は北まわりだ。まず単冠(ひとかっぷ)湾に資材を集めてシーソーゲームになってるアリューシャン列島を確保する。これは陸奥と伊勢に明石を連れていってもらう。頼む」

「はぁい」

「了解です」

単冠(ひとかっぷ)湾からそらすためと、南西諸島から米艦隊を動かすために増援部隊をまわす。大和と霧島はこっちだ」

「はい」

「了解しました」

 沖縄防衛の米艦隊をハワイ攻略へまわすわけだ。

「霧島、イージス艤装も持っていってくれ。どっちを使うかは任せる」

「大和さんがいるなら対空のイージス艤装をメインにしたほうがいいですね。了解しました」

 せっかく改二艤装直ったのになー。シカタナイネ。

「なんとか金剛級のだれかを廻す予定だ。南西諸島の抑え、たのんだ」

「「はい」」

 

 

「南西諸島防衛、第二戦隊、出撃!」

 その大和さんの号令下、艦隊が動き出す。

 艦隊構成は以下のようになっている。

 

第一艦隊

旗艦 戦艦 大和(改)

軽空母 鳳翔(改)

重雷装巡洋艦 北上(改二、甲標的装備)

駆逐艦 潮(改二、対潜仕様)

駆逐艦 涼月(改、対空仕様)

護衛艦 きりしま(対空イージス仕様)

 

第二艦隊

旗艦 戦艦 金剛(改二丙)

軽巡洋艦 矢矧(改)

第一七駆逐隊

駆逐艦 浜風(乙改)

駆逐艦 磯風(乙改)

第二一駆逐隊

駆逐艦 初霜(改二)

駆逐艦 朝霜(改)

 

 いわゆる『坊ノ岬沖組』を中心とした艦隊構成だが、雪風と霞はAL攻略組へ廻ってもらった。

 第二艦隊の駆逐艦4人は、出発時点ではいわゆる『ドラム缶ガン積み状態』である。

 妖精さんが準備した、物資を納めたドラム缶を、艤装の弾薬類を収めるスペースへ格納するらしい。

 まるでいわゆる4次元ポケットのように、1mのドラム缶が小さな艤装に入っていく様は、何度も見ているとは言えちょっと圧巻だった。

 この為、この4人は弾薬搭載量が1/10以下になっている。

 物資揚陸後、嘉手納基地で実戦仕様に装備変更する予定。

 幸い、金剛お姉さまが来てくれたので、メイン火力(ダメージディーラー)メイン盾(タンカー)を担ってもらうことになる。

 正解にはこれに300m級物資輸送船が4隻に加え、遠征母艦としてあきづき型護衛艦DD-117『すずつき』が加わっている。

 第一艦隊が先行して露払いを行い、第二艦隊は船団護衛を行うことになる。

『霧島が一緒なのは嬉しいケド、ちょっと残念デース』

「どーしましたお姉さま」

 無線封鎖してないからいいんだけど。

『一緒の艦隊じゃないのも残念ですが、霧島が護衛艦になっているのが何より残念なのデース!』

 お姉さま……って、これどっちの意味だ? 

「……いやでも、お姉さまの妹であることには変わりないですよ?」

 と言っておこう。

 ……実際、そういう意識はかなり強い。

 艦娘になって初めて金剛型の他3人と会ったとき、()()()()()()()()()()()()()()()()『ああ、この人たちは間違いなく私の姉たちだ』と納得し、自然と『お姉さま』と呼んでいた。

 阿頼耶識ってるよなよく考えると。まぁ艦娘自体がそういうものだけど。

 そして、私が金剛お姉さまの妹であることにも変わりがない。護衛艦きりしまは護衛艦こんごうの2番艦だ。

『────ー!』

 感極まった唸り声が聞こえる。

『霧島をハグできないのが残念過ぎデ────ス!』

「あとでゆっくりしてくださいねー」

『いましたいんデ────ス!』

「自重してください」

 どうしてもツッコミになる私だった。上3人がボケなんだからシカタナイネ。

『……いい加減、姉妹漫才はやめてください』

 さすがに矢矧さんから制止が入った。お姉さまを止めてください……無理だろうけど。

「金剛さん、その辺にしてください。

 きりしまさん、どうですか?」

「現時点で探知圏内に対抗目標ありません」

 さらに大和さんからもくすくす笑いとともに制止が入った。さすがにそろそろ自重してくださいねお姉さま。

『夜にゆーっくり話すデスよ霧島!』

「残念ですが、きりしまさんは基本夜番です」

 さらに大和さんから断罪が。

『No────ゥ!』

 しばらくはあきらめてくださいお姉さま。

「大和さん、すみませんウチのお姉さまが」

「まぁ、金剛さんですから。姉妹仲がいいのはいいことですよ」

 そう言っていただけるとありがたいです……

 

 




ちょっと短いですが、切りが悪かったので戦闘前で切りました。
そんなわけで、きりしまさんはE-2「防備拡充!南西諸島防衛作戦」に参加することに。
自分はアーケード提督なのでブラウザ版はやってません。
なので、Wikiの資料+アーケードの戦闘をベースに書いていこうと思います。
ある程度、決めていることといえば、
・ボスゲージはなし(面倒なので、1回ボス撃沈で終わり)
・輸送ゲージもなし(こっちも面倒なので。ただし今回のように連合艦隊扱いで第2艦隊が輸送艦隊構成。羅針盤に怒られるなぁw)
・いちおう、Wikiの資料ベースで敵艦隊構成は決める。甲扱い。
・ボスは変えるかも
・あんまり長くしない(自分が飽きる)
こんなところ?


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09.防備拡充! 南西諸島防衛作戦・Cマス

ちょっと短いですが、戦闘1回分で切ることにしました。



「…………」

 そんなこんなで出たものの。

 なんだよコレ。

 九州を出発し、いよいよ南西諸島へ足を踏み入れると、早速SPY-1レーダーに反応が。

 しかも複数艦隊ときたもんだ。

 まだ探知範囲ギリギリの280km以上あるが、ルート的に、どれかには必ず引っかかる範囲に散らばっている。

 ……間違いない。イベント海域化してやがる。

 米軍のハワイ奪還作戦がトリガーか……

 情報を大和さんと提督へ伝え、現在協議中。

 とはいえ、艦隊の足を止めるわけにはいかず、約1/4速で進めている。

 そろそろ羅針盤妖精さんが騒ぎ出す頃合いなんですが。

 艦これ最大の敵、羅針盤妖精さんはこの世界でも絶大な威力を持っている。

 何しろ羅針盤妖精さんがいないと艤装はまともに航行して(はしって)くれないのだ。

 艤装の舵を持っているのは艦娘本人ではなく、羅針盤妖精さんと理解するのが正しい。

 羅針盤妖精さんは艦娘の意思を無視して、艤装を航行させることさえある。

 戦闘機動はまだしも、巡航航行は羅針盤妖精さんに縛られるのだ。

 閑話休題。

 

「……切り札(カード)を切りましょう」

「!」

 大和さんがぽつりと言う。

 独り言か、それとも提督に言ったのか。

「きりしまさん!」

「はい」

C(チャーリー)群は空母艦隊で間違いないのね?」

「はい。レーダー反射量(RCS)からの推測ですが、正規空母()級が2、軽空母()級が1、あとは軽巡か駆逐級と思われます」

 反応の大きさからの推測だが、SPY-1担当妖精さんはなかなか優秀っぽくて、いまのところ推測と大きく外れたことはない。

 しかし、推測できるのは規模までで、elite(エリ)なのかflagship(フラ)なのかは不明だ。

 ましてやイベント海域化している以上、改フラもあるし。

C(チャーリー)群は完全に航路上に居座っています。距離はおよそ200km」

「対艦ミサイルの射程距離は?」

「!」

 ……そゆことか。

「およそ140kmです。マージンは欲しいところですね」

「……もう一枚切るか」

 ぽつりと大和さんが呟いたが、

「第一艦隊速度上げ! 先行して空母艦隊を叩きます! 

 輸送船団は警戒しつつ半速で追走のこと!」

『護衛艦すずつき了解!』

『第二艦隊、了解デース!』

「きりしまさん!」

「ハープーン、発射準備かかれ! 射程到達次第、発射する!」

 大和さんの指示を読んで準備を始めさせる。

「発射は1発でいいわ。マージンとって130で撃ってください。

 あと、こっちへ測距データまわして」

「大和さん!」

 撃つ気ですか。

「100を切ったら遠隔レーダー射撃します」

 それが二枚目か。

 

 

「敵艦隊まで140kmを切りました!」

「全艦、戦闘態勢。

 潮! 潜水艦はいないわね?」

 大和さんが戦闘指示を始める。

「ち、聴音機にはありません。

 探信音、打ちます」

「鳳翔さん、発艦開始してください」

「早すぎませんか?」

 とはいいつつも弓を引く鳳翔さん。

「まずきりしまさんがミサイルを当てます。そのあとに私の超長距離砲撃、そのあとに航空機隊の攻撃、というタイミングにしたいんです」

「なるほど。そのタイミングなら、第一次攻撃の制空権取れるかもですね」

 そう言いながら、鳳翔さんは弓を放って第一陣の戦闘機隊を発艦させる。

 続いて艦攻隊、艦爆隊も発艦。

「探信音の反応、ありません!」

 潮から潜水艦はまずいないと報告。

「SSM1番、諸元入力。発射準備」

『ハープーン攻撃始め。発射弾数1(ヒト)発! 目標入力完了!』

 私の艤装にあるハープーン発射器(キャニスタ)が外側を向く。

「ハープーン攻撃用意! よーい」

 一度、大和さんの方を向く。

 アイコンタクトで頷かれた。

()ーッ!」

 発射器(キャニスタ)からミサイルが放たれて、空へ消えて行く。

「……超長距離砲撃用意」

 大和さんの46cm砲が天をつく。

「大和へ射撃諸元データ、送れ」

 現在の敵艦隊位置、予測未来位置、46cm砲の装薬量から想定される弾道計算、そこから導き出された方位角と仰角が(きりしま)のCIC妖精さんから大和さんの砲塔妖精さんへ指示される。

 仰角はかなり低くなった。超長距離を届かせるために放物線はかなり低くなるようだ。

『カウントダウン、入ります。

 4、3、2、1』

()ェ!」

 轟音とともに46cm砲が放たれる。

 その音が収まった頃、大和さんは4つ目の手を打つ。

「北上さん、甲標的の発艦、お願いします」

「りょうかーい」

 北上さんは甲標的を取り出して海面へ。

「きりしまさん、目標データ、ちょうだい」

「はい」

 CIC妖精さんから北上さんへ座標が送られ、その座標を受け取った北上さんは甲標的妖精さんへ伝えると、甲標的を放出する。

「対空、対艦戦闘用意! 対空監視は厳に!」

 その号令に、潮は主砲を構え直し、涼月は水平線を睨み付け、長10cm砲ちゃんも水平線上を指向する。

 北上さんも主砲を構え直す。

「複縦陣!」

 隊列を組み直す。

 前列が潮と涼月、中段が(きりしま)と鳳翔さん、後列が北上さんと大和さんという順だ。

 あらかじめ打ち合わせたもので、装甲が脆弱な私と鳳翔さんを守るフォーメーションだ。

『ハープーン、自己誘導(スタンドアローン)に移行、目標まで3、2、1、目標命中(マークインターセプト)

 続いて砲撃……弾着!』 

「航空機隊が敵艦隊を確認。

 ヲ級改flagshipが2、

 ヌ級改flagship、ツ級が各1、

 イ級が2です。

 ヲ級の2隻、およびツ級に損傷がみられます! 

 迎撃機、ありません。制空権取れました! 

 爆撃、雷撃開始します!」

 鳳翔さんが航空機(バードアイ)視点から報告する。

「敵艦隊まで7万メートル!」

「航空機隊、攻撃終了。

 イ級2隻撃沈! 

 ヌ級に軽微!」

 レーダー画面に映る鳳翔さんの航空機隊ーもう視界内にいるーを追って、敵艦隊から輝点(フリップ)があらわれる。

「敵艦隊の航空機を確認!」

「数は?!」

「約100!」

 艦戦、艦爆、艦攻の合計とはいえキツいわー! 

「対空戦闘用意!」

「「対空戦闘用意!」」

 大和さんの号令下、涼月と私は対空戦闘の準備に入る。

 その合間にも、鳳翔さんの航空機隊か着艦してくる。

「補給、再爆装、急いで!」

 着艦した航空機はすぐに矢の形に戻るが、すぐには発艦でき(うて)ない。

 矢筒に収めて霊的エネルギーを再充填しないと航空機に変化しないのだ。

 それはそれとして対空迎撃だ。

 今後を考えると撃ち尽くすわけにもいかない、しかし数が多すぎるから撃たないわけにも、ええい! 

「8発イッたれ!」

 VLSのハッチが開く。

「VLS、1番から4番、9から12番、スタンダード、対空目標ロックオン!」

『VLS、スタンダード、CIC指示の目標、諸元入力!』

 8機をロックオン! 

『スタンダード攻撃始め!』

 VLSからミサイルが立て続けに発射。

「全艦、対空回避運動用意!」

 その大和さんの号令で、複縦陣の間隔が広がり、回避運動用のスペースを確保する。

「主砲対空戦闘! 撃ちィかた始め!」

『主砲対空戦闘! 撃ちーかた始め! 射撃開始(コメンスファイヤ)!』

 主砲の攻撃が始まる。

「敵、発見。皆さん、ご用意を。合戦、準備!」

 涼月も長10cm砲ちゃんでの射撃を始めた。

 全自動射撃(オートショット)で確実に撃墜している(きりしま)と、ある程度ばらまくことで撃墜する涼月。順次、撃ち落としているがやはり数は多い! 

 VLSもう一斉射……いや、スタンダードじゃたいしてかわんね。

 さすがのSPY-1レーダーでも、同時目標は12目標までだ。

 それならシーケンシャルに処理できる主砲のほうがいい! 

「空襲警報!」

 全艦に怒鳴り付ける。さすがに数が多すぎる、撃墜は無理! 

 あっという間に視界内に敵機が迫り、雷撃が放たれ爆弾が投下される! 

 うわわわわわ! 

 どうにかこうにか爆弾を避け魚雷をかわし、その合間にも射撃は続け、敵機は通りすぎてゆく。

「損害報告!」

 その大和さんの言葉に、

「潮、損害ありません」

「涼月、同じく損壊なし!」

「北上、損害ないよ。あと甲標的が敵艦隊に接触」

「鳳翔、損害ありません。補給はまもなく完了します」

「きりしま、損害ありません」

「大和、損害なし。まもなく艦隊砲戦距離! 鳳翔さんは発艦待ってください」

 大和さんの砲塔が動き、

「斉射、始め!」

 発砲! 

「じゃあ、潮、涼月、行くよ」

「「了解!」」

 その北上さんとともに、潮と涼月は敵艦隊へ。

 (きりしま)と鳳翔さん、大和さんは敵艦隊との距離を保つ。

 これも私や鳳翔さんを守る戦術だ。アケ(アーケード)なら6艦1ユニット扱いになるので一緒に突っ込むところだが、あえて自艦隊を二分して前衛後衛に分けた。

 大和さんが撃った砲弾がヲ級に命中! さすがのヲ級もなす術なく沈んでゆく。

 見たところ、敵艦隊の残ったヲ級は中破以上とみた。

 あとはヌ級さえ黙らせれば、というところでヌ級に水柱! 

 ……あ、甲標的か。

 ヌ級が轟沈して、これで残りは発艦できない空母と対空専門軽巡。

 ……さほどの時間もかからず、北上さんたちの魚雷と大和さんの砲弾の餌食となった。

 

 

「……よし。近距離には敵艦隊はいません。ルートは確保できたかと」

「大和より第二艦隊へ。ルートを確保しました」

『第二艦隊、了解ネ! 

 第一艦隊と合流する! 速度上げ!』

第一艦隊(わたしたち)もしばらく待機、第二艦隊と一度合流します」

「「了解」」

「きりしまさん」

「はい。この先のルート、索敵します」

 さて、この先は……やはりこのF(フォックストロット)群、かな。

 




というわけで、初戦は終了。
次は飛んで輸送ボスマス戦です。


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10.防備拡充! 南西諸島防衛作戦・Lマス

「────!」

 へ級が沈んでゆく。

「……よし。これで沖縄本島までのルートが確保できました!」

「大和より輸送艦隊へ。沖縄本島までのルートを確保した! 

 第二艦隊へ! 最後まで気は抜かないで!」

『第二艦隊了解ネ!』

 やがて輸送船団と第二艦隊がやって来て、私たちを追い抜き、一路沖縄本島へ向かって航行して行く。

 私たちもそれを追いつつ、沖縄本島へ向かう。

「……これでひと安心……でしょうか」

 ぽつりとこぼす潮の言葉に、

「輸送船団が錨を下ろすまで気ィ抜いちゃだめだよぅ」

 北上さんがきっちり釘をさす。

 さて、周辺敵艦隊の状況は……

「!」

 ……来たか……! 

 これがボス艦隊(ユニット)だな……! 

「……大和さん、もうひとつ敵艦隊来ます」

「……規模は?」

「軽巡駆逐級が3、輸送艦(ワ級)が1……問題は、艦種不明(アンノウン)が2です。おそらくは、鬼姫級……」

「「「!!」」」

 さすがに全員がざわつく。

「距離は約250km。ルート的に、本島へまっすぐ向かっています」

「他の迎撃部隊は?」

「……困ったことに、30分くらい前に別の敵艦隊が現れてて、いまだ交戦中です」

 SPY-1担当妖精さんの報告ログが残っていたりする。

「出撃した艦数から考えると、沖縄本島はわずかな護衛艦隊が残ってるだけで、これを動かすと丸裸です。

 第二艦隊は物資の揚陸が終わるまで動けません」

「……あたしたちがやるしかないわけだ……」

 北上さんが正しく結論をだす。

「……」

 大和さんは少し考えて、

「潮!」

「はい!」

「第二艦隊へ行って。金剛さんと交代!」

「はいっ!」

 そう答えて、潮は本島の港へ。

「金剛さん! すみませんが、こちらへ!」

『了解ネ! すぐ行くネ!』

 金剛お姉さまを呼び寄せ、

「発、増援第二戦隊旗艦大和。

 宛、沖縄嘉手納基地司令部。

 我、敵艦隊捕捉せり! 

 此れの迎撃に向かう!」

 基地へ一報をいれる。

「移動開始します。金剛さんなら追いつけるでしょう。

 きりしまさん! 敵艦隊の進路は変わってないのね?」

「敵艦隊の進路は変わりありません。

 いまだ交戦中の他の艦隊への増援の可能性もあるかとも思いましたけど、目もくれずに本島を目指すルートです。

 カラに近い本島の攻略するつもりかと。

 ワ級がいるから資材を掠めとるのも目的かな?」

 敵艦隊の目的を予測してみる。

「偵察機、出します。きりしまさん」

「はい。座標送れ」

 大和さんへCIC妖精さんから座標が送られ、大和さんは艤装から偵察機を発艦させる。

「上空警戒、出します」

 鳳翔さんも弓を引き、上空警戒機を上げる。

 

 

「お待たせネ!」

 金剛お姉さまが合流。

 敵艦隊までの距離は200kmを切っているが、まだまだ交戦距離ではない。

「……敵艦隊捕捉」

 大和さんが言う。偵察機が敵艦隊をとらえたようだ。

「ロ級が2、ツ級eliteとワ級eliteが1……」

 一度言葉を切って、

「……戦艦棲姫と、南方棲鬼を確認」

 ……南方棲鬼?! しかも戦艦棲姫(ダイソン)付き?! 

 ……いやまぁ、この世界ではダイソンとは呼ばれてはいないけど。

 手札は戦艦2、軽空母1、雷巡1、対空駆逐2か。(きりしまはこの場合駆逐扱いでカウント)

 大和さんとお姉さまの戦艦最強格がいるから火力は足りるかな。

「きりしまさん、ミサイルは何発残ってますか?」

「4発あります」

 大和さんの問いにそう答える。

「沖縄に戻ればミサイルの補給はきくんですよね?」

「そのはずです」

 輸送船団の補給物資の中にミサイルを収めた発射筒(キャニスタ)ごと、SSMを20発ほど積んできた。

 数発残しておけば、沖縄の工廠妖精さんに頼めば、再生産もなんとかなるはずだ! 

「大盤振る舞いで行きましょう。130でお願いします」

「了解。

 SSM、3、4、7、8番、発射用意! 諸元入力!」

『ハープーン攻撃用意!』

「3、7番はシースキミング、4、8番はポップアップに設定。攻撃目標はすべて南方棲鬼だ!」

 どーせ戦艦棲姫(ダイソン)が勝手に受けるやろ……

 

 

 水偵が着水する。

「お帰りなさい」

 そう言って仕事を終えた水偵を回収する大和さん。

「敵艦隊まで140km、SSM発射用意」

 私のSSM発射器(キャニスタ)が発射態勢に入る。

「艦戦隊、艦攻隊、発艦!」

 鳳翔さんが弓を引き、航空隊を上げる。

「よーし、行って」

 北上さんも甲標的を放出する。

「ハープーン、()ェ!」

 ミサイルが4発、立て続けに撃ち上がる。

 4発のミサイルは、ロケットブースターで撃ち上がった後、ブースターを切り離し、内蔵のジェットエンジンでの飛行に切り替わり、水面スレスレ(シースキミング)で敵艦隊へ向かう。

「敵の航空隊が来る前に砲戦距離まで近づきます! 複縦陣! 全艦最大戦速!」

 フォーメーションを組み直す。

 潮が下がりお姉さまが加わったため、涼月と北上さんが前列、中段が大和さんとお姉さま、後列が私と鳳翔さんの突入陣形。

 私と鳳翔さんは、あえてついて行かずに後方に残る形になる。私は鳳翔さんの護衛だ。

『ハープーン、自己誘導(スタンドアローン)に移行、3番、戦艦棲姫に命中! 

 7番、4、8番は南方棲鬼に命中!』

 1発は戦艦棲姫(ダイソン)に喰われたがもう1発とポップアップの2発は南方棲鬼に当たったか。さすがの戦艦棲姫(ダイソン)も多方向からの飽和攻撃は捌ききれないとみえる。

「敵艦隊捕捉! 迎撃機と交戦開始!」

 鳳翔さんの航空隊も交戦に入ったようだ。

「ッ! 制空権喪失!」

 南方棲鬼相手じゃ鳳翔さん一人じゃ無理か……

「しかしロ級2隻は撃破!」

 さすが鳳翔さん! きっちり仕事はした! 

「各艦増速! きりしまさん! あとお願いします!」

「了解!」

 大和さんを始めとした打撃艦隊はさらに増速、敵艦隊との砲戦距離へ。

「イラッシャイ……カンゲイスルワネ……!」

 南方棲鬼の『声』が響きわたる。

「あなたにやられるわけには、いかないんですよ! 

 さぁ、やるわ。砲雷撃戦、用意!」

 大和さんの主砲が敵艦隊を指向する。

「第一、第二主砲。斉射、始め!」

「Bur────ning! L────ove! 」

 大和さんの主砲とお姉さまの主砲斉射! 

 燃え盛る砲弾が南方棲鬼に向かって伸びる……が、その前に戦艦棲姫(ダイソン)が立ち塞がる! 

 轟音とともに砲弾が起爆するが、戦艦棲姫はそれを耐え抜く。

「Shit!」

 さすがは戦艦棲姫と言うべきか。

 とはいえ、いまの一発で戦艦棲姫も南方棲鬼も小破寄りの中破といったところ。

 ミサイル3+1発、当てた甲斐はあったかな。

「鳳翔さん」

「まだ補給中です。もう少し」

 鳳翔さんの航空隊はまだ出せないか。

「ココハ……トオシマセン……!」

 南方棲鬼が両腕をぐっと引く! いけない! CI砲撃! 

「────!」

 咆哮とともに両腕の主砲から無数の砲弾が放たれる! 

 砲弾は大和さんを直撃! 

「そ、それで直撃のつもりなの!?」

 さすがは大和さん、戦艦の装甲は伊達じゃない! 

「40門の酸素魚雷は伊達じゃないからねっと!」

 北上さんと涼月が魚雷を放つが、

「オロカナ……!」

 南方棲鬼も両腰の艤装から魚雷を放つ! 

「あぁあっ!」

 お姉さまが被雷した! 

 しかしこっちも戦艦棲姫とツ級に魚雷をあてている。ツ級はこれで沈んだ! 

「鳳翔さん!」

「やるときは、やるのです!」

 鳳翔さんが航空隊を上げる! 

「オチナサイ!」

 南方棲鬼も迎撃の航空機をその手のひらから飛び立たせる。

「全砲門! Fire!」

 お姉さまが撃つが、その射線にまたしても戦艦棲姫(ダイソン)が割り込み、南方棲鬼への攻撃を防ぐ。

 やっぱり戦艦棲姫(ダイソン)を先に片付けないと南方棲鬼へ通らないか?! 

 上空では戦闘機隊が交戦中、艦攻隊、艦爆隊はそこから外れて南方棲鬼へ攻撃をしかけるが、艦攻隊の雷撃はまたしても戦艦棲姫(ダイソン)に防がれる。

「チッ……!」

 とはいえ、艦爆隊の爆撃は通った! 

 って、ヤバい! 上空の敵機も何機かこっちへ来た! 

「VLS! 迎撃!」

 VLSのハッチが開き、スタンダードミサイルを発射! 同時に主砲でも攻撃する! 

 神の盾(イージス)をナメるな! (ミサイル)があるなら10機未満は瞬殺じゃぃ! 

 不意に爆音が響いた! 

 見るとワ級と戦艦棲姫に水柱が上がっている! 

「ィよし!」

 北上さんの甲標的だ! ワ級をスナイプしたのか! 

 ワ級はその一発で沈んでゆく。

「まぁ、ここは本気で殺っときましょうかね……うりゃあっ!」

 さらに北上さんと涼月の砲撃! 

「────!」

 これでついに戦艦棲姫が沈んだ! 

「オ……ノ……レ……!」

「敵艦捕捉、全主砲薙ぎ払え!」

「さぁ、決めますヨー! 全主砲、Target!」

 大和さんとお姉さまの主砲斉射! 

 ついに砲撃が南方棲鬼に突き刺さる! 

「ワタシハ……モウ……ヤラレハシナイ!」

 まだ耐えるか! 

 両腕をぐっと引く! あのモーションはCI砲撃! 

「────!」

 両腕の主砲が放たれる! 

 大和さんとお姉さまが被弾! 

「く……こ、こんな所で大和は沈みません……!」

「Shit! 提督に貰った大切な装備が!」

 あれじゃ二人とも大破状態だ……! 

 でも南方棲鬼も大破状態、あと一撃食らわせられれば! 

 せめてお姉さまたちの装填が終わるまで! 

「主砲! 照準!」

『無理です! 射程外! どうやっても届きません!』

 (きりしま)の主砲妖精さんが、後方にいるいまの位置からでは砲撃できないと否定する。

「牽制でいい! スタンダードを無理やりブチ当てろ!」

『なんとかします!』

 VLSのハッチが開き、

『スタンダード! 射撃開始(コメンスファイア)!』

 スタンダード2発発射! 

「オワリ……ダ!」

 南方棲鬼が両腕を伸ばして構える! 

 間に……合え! 

「!」

 南方棲鬼の両腕が爆発! 

 スタンダードが両腕の艤装に当たった! 

「──────!」

 南方棲鬼が吠える! 

「……助かりましたよ、きりしまさん!」

 大和さんの3番砲塔が南方棲鬼を指向している! 

「3番! ()ェェェェ!」

 大和さんの砲撃が南方棲鬼のどてっ腹を貫く! 

「ソンナ……マサカ……ソンナ、コト、ガ……!」

 南方棲鬼の艤装が次々と爆発し、その炎に呑まれていく。

「────!」

 南方棲鬼がひときわ大きく吠え、その全身が爆炎に包まれる! 

「「………………」」

 警戒しつつも炎が収まるのを待つ。

 炎が収まると、そこには静かな水面だけがあった。

「「「「……はぁ────……」」」」

 全員が息をつく。

「とりあえず、終わったかな?」

 その北上さんの言葉に、

「とりあえずは、ね」

 大和さんがそう答えて空を見上げる。

 私も同じように空を見上げる。

 そう、一瞬だが見えていた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ……次はまず間違いなく、棲戦鬼となって来るだろう……

 




スタンダードが南方棲鬼の砲塔に当たったのは、終末誘導がIR(赤外線)だったので、最も温度が高い発射寸前の砲塔だった、ということにしといてください。

さて次はゲージ破砕のUマスなんですが…それまでのルートをどうするかなー…


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11.防備拡充! 南西諸島防衛作戦・哨戒中

戦闘前段階が思ったより長くなったので分割。
戦闘も下手すると前後編になっちゃうか…?



「じゃあヤマト、オキナワ(ここ)を頼んだわね」

「任されました、アリゾナさん」

 アリゾナさんの言葉に大和さんが答える。

 いよいよハワイ奪還へ向けて、米艦隊が沖縄を出発する。

 ……とはいえ、おそらくそう簡単にはいかないだろうというのが、ウチの提督と大本営の分析結果だ。

 何しろあそこは、アリゾナさんの化身にして最初の姫、泊地棲姫のいた場所であり、アイオワさんの化身にして最強の姫、中枢棲姫のいる場所だ。

 まず間違いなく、深海棲艦の中枢の中枢と言える場所。

 そんな場所に、こんな短い準備期間で攻撃を仕掛けるのはかなり分の悪いギャンブルと言える。

「アナタと手合わせできなかったのがちょっと心残りかしら? キリシマ」

「作戦が終わったら改めて。お姉さまと二人でゆっくりお相手しますよ」

 と私も答える。

 ちなみに、今日の私は『戦艦』の巫女服で見送りに来ている。

 護衛艦のセーラーのほうが着るのは楽なんだけど、こっちのほうが気が引き締まるのよね。

「Kongo CrassのSisters Powerを見せるネー!」

「……さすがに2対1じゃないでしょうね」

 いわゆるジト目でお姉さまをみるアリゾナさん。

「なに? 2対1でやりたいの? ワタシは別にかまわないケド?」

「おねーさま。ボケもいい加減にしてください」

 

 

「「「…………」」」

 水平線に艦隊が消えて行く。

「……大和さん、正直、どう思います?」

「ハワイ作戦?」

「はい」

「……橋頭堡の確保まではいけるでしょうけど……正直、いつまで維持できるか、な気がするわ……」

「ソウダネー。米国が補給(Supply)の重要性を理解していないはずがないケド、いつまで抑えられるか……」

「主補給線としてはALからのラインのつもりでしょう。問題なのはALを抑え続ける大駒を配置できるか、と、この南西諸島の抑えの駒」

「……駒が足りない?」

「それも大駒が。特に北方棲姫(ほっぽ)を抑え続けるだけの力量を持っている駒は、米国にもほとんどいない」

「Fumm……確かに、今回も陸奥さんと伊勢さん使いましたしネー……」

 北方棲姫(ほっぽ)のような、場所に縛られるタイプの陸上型深海棲艦は、涌く(リポップする)のだ。

 AL列島がシーソーゲームになっているのはこれが理由。

 涌く(リポップする)原因はまだわかっておらず、ゆえに確保し続けるにはそれなりの戦力を張り付かせなければならない。

 時期もまちまちで、一説には戦力をある程度引き上げたらそこで出た、なんて話すらある。

「……ハワイ作戦のドロップに期待ですかねぇ……」

「敵からの戦力をあてにするのもアレですけど、それしかないでしょうね」

 大和さんはくるりと振り返り、

「さて、哨戒行きましょうか」

「……大和さんはまだ修理終わってないんで、待機で秘書艦だそうですよ」

 その私の言葉に思わずズッコケる大和さん。珍しい……

 まぁ、哨戒に大和さん使うなんてできるはずがない。燃料どんだけ飛ぶと思ってるねん! 

 

 

「さぁ、砲撃戦、開始するわよー! 

 主砲、敵を追尾して! ……撃て!」

 私の41cm砲が火を吹くぜ! 

「────!」

 砲弾が空母ヲ級改flagship(フラヲ)に突き刺さり、沈んでゆく。

「……なんとか、なりましたか、ね」

 朝霜の言葉に、

「なんとか、ね」

 そう返す私。

 ……さすがに私と初霜、朝霜の3隻でのイベント海域哨戒はキツイわー……いや、(ユニット)ないから仕方ないんだけども。

 というわけで、戦艦『霧島』(わたし)は21駆の二人と共に、イベント海域と化した沖縄周辺南西諸島を哨戒中である。

 大和さんはまだ修理が終わってないのと、哨戒に使うにはコスパの問題で基地に詰めている。

 お姉さまは修理を終え、私とは別班で哨戒中。

 ちなみにこの世界、高速修復剤(バケツ)に類するものはあるが、工廠妖精さんに多大な負荷をかけ、使いすぎると妖精さんがストを起こしたりするので、なるべく使わない傾向にあるが、さすがに今回は使っている。

 ……大和さんの艤装はそれでも終わってないわけだが。

 閑話休題。

 

 米艦隊がハワイ奪還作戦へ出発したのち、私たち第二戦隊は3班に分かれて周辺一帯の哨戒、掃討にかかった。

 今回は火力必須のため、私は戦艦(改二)仕様だ。

 同時運用はできないけど、着替えと装備変更で戦艦と護衛艦を使い分けられるのはいいよね我ながら。

 ……ひさびさの戦艦装備の実戦でちょっとうきうきしてたのはここだけの秘密で。護衛艦装備じゃ俺Tueeeeはできねぇんだよ……

『北上より全艦!』

 ん? 北上さんから通信? 

『敵、主力艦隊発見!』

「!!」

 なんですと?! 

『沖縄本島より南西約400km、進行中!』

『北上さん! 交戦中ですか?!』

 基地の大和さんが反応した。

 私はそれを聞きつつ、初霜、朝霜にアイコンタクト。

 二人ともうなづき、ともに全速で基地へのコースをとる。

『まだ交戦してない。電探と偵察機で遠方確認した時点で撤退に移ったから。

 艦隊構成も詳細は不明だけど、鬼姫級らしき姿は確認した!』

『……出せますか? 出せますね?! 

 ……はい。

 金剛さん! 霧島さん!』

「こちら霧島、補給と装備変更のため帰還中!」

 と答える。

『金剛! こっちはちょっと距離があるネ! 合流までしばらくかかるネ!』

 お姉さまはしばらくかかるか……! 

『こちら護衛艦『すずつき』、きりしまさんの護衛艦艤装を搭載して緊急出港した! 基地に向かっているなら30分で合流できる!』

「ありがとうございます! 助かります!」

 すずつきの艦長さん有能! 

『私と鳳翔さんも出撃します! 洋上で合流、敵主力艦隊を迎撃します!』

 大和さんと鳳翔さんも出撃す()る! 

 なんとかフルメンバー揃えられそうだ! 

 

 

「見えた!」

 やっと護衛艦『すずつき』が見えた。

 その艦尾に近づき、梯子に手を掛ける。

 初霜と朝霜に周辺監視を頼み、私は甲板へ昇る。

「お疲れさまです」

 甲板上に仮設されたテントの中へ入ると、台に置かれた私の護衛艦艤装が鎮座していた。

 よく見るとわらわらと妖精さんたちが最後の整備を行っているのが見える。

「みんな、よろしく」

 グッ、とこちらに気づいた妖精さんたちが一斉にサムアップ。

 戦艦艤装を台に置き、

「機関停止。

 こっちも、ごめんね、みんな」

 こちらも妖精さんたちにサムアップで返された。

 戦艦艤装を外し、テントの隅に置かれているバッグを開いて中に護衛艦艤装の制服が入っているのを確認、戦艦の巫女服をその場で脱ぎ始める。

 恥じらい? んなもん気にしてる場合じゃねぇ! 見られたって減るもんじゃねぇし、なんなら見られたほうが綺麗になるんだよ! 

 ……まぁ、いずれにせよ、艦娘(このしごと)してると、そーゆーのがだんだん麻痺してくるのはたしかだ。

 ただでさえ女所帯なうえ、被弾すれば神霊装甲(アストラルアーマー)の効果で怪我こそしないが代わりに制服が弾け飛ぶ。それをはじらって気にしていたらさらに被弾して最悪轟沈だ。

 なので艦娘は肌の露出には無頓着になってくる。

 女としてそれはどうよ? という意識もなくはないので、少ないプライベートではわりとガーリーな服装をする者も多い。

 それはともかく、着替えた私は艤装を装備して機関を始動、テントからとびでて甲板から水面へジャンプ! 

 水面に着水したら全速で航行する。

「初霜! 朝霜! あとよろしく!」

「「はいっ!」」

 初霜と朝霜は基地に戻り、別動隊に備えることになっている。

 さて、それはともかく、

「SPY-1起動。周辺走査開始」

『全力走査開始!』

 SPY-1(イージスシステム)で周辺走査する。

 ……ええと、これがすずつき、これが大和さんと鳳翔さん、お姉さまは……範囲外か。

 北上さんたちは……いた。これだ。

 私から見て南南西に約200km、沖縄本島からは南西約240km。

 となるとそのさらにおおよそ100~150km向こう側に敵主力艦隊、と。

 まずは大和さんと合流だな。

 



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12.防備拡充! 南西諸島防衛作戦・Uマス

「北上さん!」

 おーう、と手を上げて答える北上さん。

 敵主力艦隊を発見した北上さんたち、北上、矢矧、磯風、浜風の4艦と合流した。

「お姉さまは……間に合いませんね」

 お姉さまと涼月、潮がこちらに向かっているが、まだ100km近く。

 しかし、敵艦隊もすでに200kmを切っている。

 お姉さまたちを待っていたら攻撃タイミングを逃すだろう。

「……金剛さん、残念ですが今の位置では間に合いません。後詰めをお願いします」

 大和さんがそう連絡する。

『了解ネ……』

 お姉さまは悔しげに答え、進路を基地へ向けたのがレーダー上で確認できた。

 涼月がいないから対空は事実上私一人か……かなりキツイけど、神の盾(イージス)の名に懸けてやるしかないね。

「矢矧さん、あなたも後詰めお願いします。

 北上さんと磯風、浜風はこのまま敵艦隊の迎撃に」

「「はいっ!」」

 矢矧さんをいったんその場に残し、私たちは敵艦隊へ向かう。

 

「北上さん、敵艦隊の構成ですが」

「撤退中に矢矧の偵察機でもう一度確認した。

 ナ級eliteが2、ツ級flagship、ヌ級flagshipが各1。んで、空母棲鬼と南方棲戦鬼。()()()()()()

 マジすか。

「どっちも鬼ってことは……」

「そう。どっちも『変身』残してるよ」

 ……うわぁ……限りなく無理ゲーだコレ……

 南方棲戦鬼に空母棲鬼にヌ級の3タテ? 瞬間の航空機数300超えるぞソレ……

 SPY-1の同時走査数をも超える数の暴力……

「……金剛さん、すみません」

 大和さんがお姉さまに連絡をとった。

『……どうしたネ?』

「敵主力艦隊に南方棲戦鬼と空母棲鬼を確認しました。()()()()()()()

『Really ?!』

「第二艦隊をまとめてこちらに向かってください。必要に応じてメンバーを入れ替えます」

『了解ネ! 艦隊をまとめてすぐ向かうネ!』

 交代要員の支援艦隊が確保できたが、まずは落とせるかどうかだ。

「少しでも削りましょう。鳳翔さん、140を切ったらお願いします」

「なにもしないよりはましですね。了解しました」

「きりしまさんは、」

「130で撃ちます。1発づつで」

 先回りして大和さんにそう言う。

「お願いします」

 

 

「敵艦隊まで150km、ハープーン攻撃用意はじめ」

『ハープーン攻撃用意、発射弾数2(フタ)発、目的諸元入力』

 私のSSM発射器(キャニスタ)が発射態勢に移る。

「こちらもそろそろ行きましょう。

 艦戦隊、艦攻隊、艦爆隊、発艦はじめ!」

 鳳翔さんが弓を放ち、その3本の矢は艦戦隊、艦攻隊、艦爆隊に変わり、敵艦隊へ向けて飛び去ってゆく。

「ハープーン1番、2番攻撃用意! よーい、()ーッ!」

 発射器(キャニスタ)からミサイルが撃ち上がる。

「きりしまさん、測距データ、ください」

 大和さんがそう言った。

「……はい、CIC、大和へ測距データ、送れ」

 CIC妖精さんから大和さんの砲塔妖精さんへデータが送られる。

「1番、2番、超長距離砲撃、用意! 

 ()ェ!」

 大和さんの46cm砲発砲! 

「頼むよ~」

 北上さんも甲標的を放出する。

「全艦増速! 砲戦距離まで近づく!」

 打てる手は打った。あとは実際対峙するしかない! 

「突撃陣形! 複縦陣!」

 増速しつつ陣形を組み直す。

 前列が磯風と浜風、中段が大和さんと北上さん、後列が私と鳳翔さんの突入複縦陣。

『ハープーン、目標に近づく! 

 4、3、2、1、目標命中(マークインターセプト)! 

 推定両鬼目標に命中! 

 続いて弾着、今!』

「航空機の追跡処理を中止して! 航空機数がこちらの処理能力を超える可能性が高い!」

『了解!』

 CICに航空機追跡を止めておくように言っておく。無理でも処理能力には余裕をとっておきたい。

「!」

 っていう間に敵航空機隊が上がってきた。

 レーダー画面に煇点(フリップ)が映り、追跡用のマーカーが設定されるがすぐに外される。

 それがまぁ雨のように。こんなんいちいち追跡してられっか……

「航空機隊、敵航空機と接触。さすがに多いですね」

 さすがの鳳翔さんもうんざりしているようだ。

「……さすがに制空権は取れません、が……!」

 顔をしかめる鳳翔さん。航空機隊を必死に指揮しているようだ。

 空母は麾下の航空機をある程度操れる。もちろん主体は搭乗している妖精さんにあるのだが、妖精さんに同調し、指揮することで航空機隊を操れるのだ。

 これは戦艦、巡洋艦が偵察機を操る場合も同様だ。偵察機妖精さんに同調することで、偵察機の視界を得られる。

 ……ちなみに、『きりしま』は、航空機(ヘリコプター)運用能力を持たない。(原型艦から持ってない。着艦甲板はあるが格納庫がない)

「いけました! ナ級1隻撃破、1隻中破!」

 さすが! 

「甲標的も敵艦隊に接触~」

 北上さんがそう言うとともに、

「砲戦距離突入! 全艦砲雷撃戦用意!」

 大和さんの声が響く。

「ワタシノ ホウゲキハ……ホンモノヨ……」

 そして南方棲戦鬼の声も。

「…………」

 私と鳳翔さんは警戒しつつ減速し、大和さんたちから離れて後方支援位置につく。

「第一、第二主砲。斉射、始め!」

 大和さんの砲撃! 

「ココハ……トオシマセン……」

 南方棲戦鬼も撃った! 

 ……どちらの砲撃も双方とも避けたのでダメージにはなっていない。

 その間に、

「総員、対空戦闘用意! 対空走査制限は解除!」

『対空戦闘よーい!』

 対空戦闘の準備に入る。

 さすがの南方棲戦鬼でも砲撃が届く距離じゃないが、航空機は来るからね……

「オチナサイ!」

 って言う間に来やがったよ! 

 南方棲戦鬼、空母棲鬼、ヌ級から航空機が上がる! 

「スタンダード迎撃はじめ! 発射弾数5発! 大和さんたちへ向かった機体を狙え! 

 こちらに来る機体は主砲で迎撃! 主砲対空戦闘!」

『スタンダード迎撃用意! 目標ロックオン諸元入力!』

『主砲対空戦闘用意!』

「スタンダード、()ェ!」

射撃開始(コメンスファイア)!』

 VLSからスタンダードミサイルが発射される。

「──!」

 と、ヌ級に水柱! 

「ィよーし!」

 北上さんの甲標的からの先制雷撃か! 

「ここで、確実に、落とーす!」

 さらに北上さん+駆逐2人の集中砲火! 直撃を受けたヌ級が沈んでゆく。

『敵機主砲射程内!』

 っと、見とれてる場合じゃないや! 

「主砲対空戦闘! 撃ちィかたはじめ!」

『主砲、撃ちィかたはじめ!』

 私の右腰に位置する主砲ユニットから砲撃開始! 上空の敵機を落としてゆく。

 ちらりと前線をみると、北上さん+駆逐2人がナ級とツ級を抑え、大和さんが鬼2体を相手取っている。

「…………!」

 知らず握る手に力がこもる。こういうときは『戦艦』ではない自分がもどかしい。だけどいまはこらえるとき! 

『敵機直上! CIWS(シウス)迎撃!』

 直上から落とされた爆弾を両肩のCIWS(シウス)が自動迎撃! 

「きりしまさん! 左、雷撃!」

 鳳翔さんの声。左にいた雷撃機からの雷撃! 

「左逆転! 船首(バウ)スラスター全開!」

 航路をねじ曲げ、魚雷をかわす。

「鳳翔さん?!」

「大丈夫です! 損傷ありません!」

 よかった。

「補給完了。お返しです!」

 鳳翔さんが弓を引き、航空機隊を上げる。

「ナ級とツ級は磯風さんたちが抑えてるから」

「いえ、先にナ級を片付けて下さい。鬼級を削るより北上さんたちをフリーにしてリソースを集中させたいです!」

 鳳翔さんに意見具申する。

「……ツ級の相手は正直つらいのですけど、ね!」

 応じてくれたらしい。航空機隊が北上さんたちが交戦しているナ級とツ級に向かっていく。

「!」

 ツ級がそれに反応して対空砲火をしようとしたが、

「させません!」

 浜風と磯風の砲撃でタイミングをずらされた。

 爆撃と魚雷が2隻を襲い、

「────!」

「ナ級撃破! ならばこちらもいくぞ! 

 磯風の戦歴は伊達ではないぞ。忘れるな!」

 さらに、磯風と浜風の砲撃でツ級も沈む! 

「さすが鳳翔さん!」

 北上さんがそう叫んでくるりと振り返り、

「40門の酸素魚雷は伊達じゃないからねっと! 

 ……あんたらにブッ込むために取っておいたんだからねェ!」

 魚雷を全門斉射! 北上さんはナ級たちを抑えつつも、いつでも鬼2隻を相手取れる位置をキープしてたのか! 

 魚雷が走り、南方棲戦鬼と空母棲鬼の足元で起爆! 

「ワタシハ……モウ……ヤラレハシナイ!」

 私が対空戦闘している間に何度か撃ち合っていたのだろう、いまの北上さんの一撃で2隻とも大破状態! 

「いいや、終わりだね!」

 空母棲鬼にさらに魚雷! どこから……甲標的か! 

「ええ、終わりにしましょう!」

 さらに大和さんからの砲撃が南方棲戦鬼に突き刺さる! 

 そのダメージで空母棲鬼、南方棲戦鬼の艤装が全体的に起爆していく! 

「ソンナ……マサカ……ソンナ、コト、ガ……」

 炎が全体に周り、爆発に包まれる2隻。

「「…………」」

 しかし、全員警戒は解かない。なぜならば……

「……ヒノ……カタマリトナッテ……シズンデシマエ……!」

「……ナンドデモ、ミナソコニ、オチテイクガイイ……!」

 その炎の中から、空母棲姫と南方棲戦姫が現れることを知っていたからだ。

「……そう、わかっていた!」

「「!」」

 空母棲姫と南方棲戦姫の左右に爆発! 

「ナ……ニイ……!」

 さらに! 

「!」

 2隻の頭上から光の矢が1本づつ落ちる! 

「ガ……ァァァァ!」

 ひときわ大きな爆発が起き、その煙が晴れると2隻とも中破状態にまて損傷していた。

 種明かしをすれば、爆発は(きりしま)SSM(ハープーン)だ。

 鬼級の艤装が起爆し、変移が始まったと思われるタイミングで2発づつ、水平射撃(シースキミング)上空曲射(ポップアップ)で回り込むように撃っていた。

 今回、大和さんと鳳翔さんは基地から直接、そして私は途中で戦艦から護衛艦へ装備変更していて()()()()()()()()()()。残弾に余裕があるのだ。

 SSMは8発すべて使える。

 開幕で1発づつしか使わなかったのも、この変移のタイミングで使うつもりだったから。

 さらに発射器(キャニスタ)にはまだ2発残している。ボス戦だから使いきっても問題はない! 

「……キ……サマァァァァ!」

 南方棲戦姫がその手のひらから航空機を発艦させる! 

 だけども相手が悪いぜ! 神の盾(イージス)なめンな! 

「対空戦闘、VLSスタンダード! 10(トオ)発! 

 主砲対空戦闘用意!」

『スタンダード諸元入力!』

()ェ!」

射撃開始(コメンスファイア)!』

 背中の艤装のVLSからミサイルが撃ち上がる! 

 空中に火の玉が踊り、それを抜けた航空機隊がこちらに迫るが、

「主砲対空戦闘!」

 すでにこちらも対空戦闘準備を終えている! 

 が、SPY-1が警告音を発する! 

「……後方から砲撃?」

 空に火花が走り、航空機隊をまとめて吹き飛ばした! 

「三式弾!」

 振り向いたその先に、

「真打ち登場ネ!」

「お姉さま!」

 お姉さま率いる支援艦隊が現れた! 

「あとは任せるネ!」

 私と鳳翔さんを通りすぎ、砲戦距離へ突入する! 

「冥土の土産に全弾持っていけ!」

 北上さん、磯風、浜風が魚雷を全弾発射! 

 そのまま、後方へ下がる。

「砲雷撃戦、始めます!」

 入れ替わりで、21駆の二人と、涼月、潮を率いて、矢矧さんが突っ込んでくる! 

「阿賀野型を軽巡と侮らないで! 

 全艦! ()──ッ!」

 2隻の姫級に北上さんたちの撃った魚雷が命中! 間髪入れずに矢矧さんたちからの砲撃が突き刺さる! 

「ワタシハ……モウ……ヤラレハシナイ! 

 オチナサイ!」

 南方棲戦姫が魚雷を放つ! 

 しかし、ヒット&アウェイした矢矧さんたちには追いつけずかわされる。

「こっちも忘れてもらっちゃ困るネ! 

 Bur──ning L──ove!」

「敵艦捕捉、全主砲薙ぎ払え!」

 お姉さまと大和さんの砲撃が両姫に突き刺さる! 

「オチロ──!」

 空母棲姫が艦載機を上げる。が、

「近づけるわけにはいかない……撃て!」

「対空迎撃! VLSスタンダード10(トオ)発! 撃てィ!」

 対空専門職が2隻も(わたしと涼月が)いれば恐るるに足らない! 

 ゲーム的に(前世で)はあり得ない姫2隻VS連合艦隊、艦娘側(こちら)が有利な条件ではあるものの、17駆2隻と北上さんはすでに魚雷なしのため離脱。

 大和さんもなんだかんだで、すでに大破寄りの中破。

 姫級の火力は馬鹿にできない。一発大破は充分ありうる。

「残機数的に、これが最後ですね……!」

 鳳翔さんが艦載機を上げ、姫2隻に襲いかかる! 

「サクテキヲ、オロソカニスルカラダ……!」

 空母棲姫はこれで大破状態に! 

「チッ……!」

 南方棲戦姫の砲撃! 火線は大和さんへ向かうが、

「やらせないネ!」

 お姉さまがフォローに入り、砲撃を弾く! 

「さぁ、決めますヨー! 

 全主砲、Target!」

 お姉さまの砲撃! 南方棲戦姫に突き刺さる! 南方棲戦姫大破! 

「オ……ノレ……!」

 南方棲戦姫と空母棲姫はお姉さまたちのほうに向き直るが、その後ろに水柱が立った! 

「!」

 振り向く南方棲戦姫。

「────!」

 空母棲姫の艤装が爆発し、沈んでゆく。

「!」

 その向こうに、矢矧さん率いる水雷戦隊! 魚雷で仕留めたんだ! 

「これで……終わりですね!」

 大和さんの46cm砲が狙いをさだめ、

「敵艦捕捉、全主砲薙ぎ払え!」

 発砲! 

「────!」

 ふたたび振り向いた南方棲戦姫に砲撃が突き刺さる! 

 ついに、南方棲戦姫の艤装も火を吹きはじめる。

「ワタシモ……ワタシモ……モウイチド……ヨミガエル……ノ、カ……」

 南方棲戦姫の艤装全てが炎に包まれ…………

「…………」

 ついに、その姿が海中に消えた。

「……終わりました、か?」

 鳳翔さんがそう呟き、

「……ええ、終わったようですね」

 私はそう答えた。

 見ると、南方棲戦姫の炎から立ち上った火の粉のような粒子が、大和さんとお姉さまのもとへ集まって……それぞれ、30cm四方の『ドロップキューブ』となった。

 そのキューブを、大和さんは大事そうに抱え、

「さあ、帰りましょう」

「「はいっ!」」

 




さて、これでネタ尽きた。
次はなにをしようかな。


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13.発動!友軍救援「第二次ハワイ作戦」・リザルト

今回も内容はありません。
女5人が飲んで駄弁ってるだけです。



「だ~~……」

「う~~……」

「「「…………」」」

 ……なんだかなぁ……

 米艦娘艦隊が沖縄を出発してからだいたい半月、私たちが空母棲姫、南方棲戦姫を撃破してからだとおよそ8日ほど。

 ハワイ攻略作戦は終了した。

 ……そして今、私たちの目の前で、提督二人はクダを巻いている。

「あー! もう!」

 荒々しくグラスをテーブルに叩きつけるのは、米艦娘艦隊提督のナンブ提督。

「なんであんなタイミングで中枢棲姫があんなところから出てくるわけ?!」

「……なんか、そーとーヤバイ場所から出てきたそうですね」

 大和さんが相づちをうつ。

「……帰還中の基地航空隊の滑走路のど真ん中からね。単体じゃなくてワ級の揚陸部隊込みってナニソレ! 想定外にも程があるわ!」

 グラスの中身を飲み干し、叩きつけるように置くと、かたわらの瓶の中身を手酌で注ぐ。

「タイミングも悪すぎ! 太平洋深海棲姫(ボス)を倒した直後に現れたのよ?! どっかで見てただろあいつー!」

 怒りが収まらないらしい。

 苦労の末にやっと奪回したハワイを、内側から突き崩されて再奪取されればそうもなるわな。

 

 話をまとめよう。

 

 今回のハワイ作戦、戦術的にはほぼ成功したのだが、戦略的には最後にひっくり返されたのである。

 一度は中枢棲姫を下し、ハワイ諸島ほぼ全域を掌握したのだが、周辺一帯の掃討で発見された太平洋深海棲姫の撃破直後のタイミングで中枢棲姫が再生(リポップ)、攻略艦隊は太平洋深海棲姫の攻略でほぼ半壊状態だったうえ基地内で再生(リポップ)した中枢棲姫の陸上部隊に内側から崩され、まともな反撃もできずにやむなく米艦娘艦隊はハワイから撤退。

 シーソーゲームは最終的に深海棲艦側がハワイ海域を取り返して終わったということになってしまった。

 つまり、戦術的にはほぼ勝利したのだか、最後の最後に裏技(運営のつごう)で潰されたわけなのだ。ありかよそんなん……さすがにコレはクソゲーと言わざるを得ない……

「……先輩のほうはまだいいですよ。ドロップすごいのきたんでしょ?」

 と言ったのはもう一人の提督、沖縄基地艦娘艦隊提督、秋川由里子特例准将。

 提督適性を持った民間徴用組で提督となってからはまだ1年と半年ほど。

 沖縄はどうしても米軍の影響力が強く、日本艦娘艦隊は固定した駐留艦隊は置けていない。このため、秋川提督も麾下の固定した艦娘はおらず、遠征で訪れた艦娘をローテーションでまわしている。

「エート、FletcherとColoradoでしたっけ?」

 とお姉さまが、今回の作戦で確認された艦娘の名前を上げる。

「あと、Giuseppe Garibaldi、ね。

 3隻とも艤装だけで、適合者はこれから探すけど」

 ナンブ提督が補足する。

「こっちはまだ見つかっていない占守(しむしゅ)型ですよ。

 こないだの川内さんのキューブも、やっとウチにも艦娘が! と思ったら米艦娘ですし!」

 突っ伏す秋川提督。

 

 南方棲戦姫からドロップしたキューブは、2つとも占守(しむしゅ)型海防艦の艤装、石垣と八丈だったそうな。

 ……海防艦は、いくつかドロップで確認されてはいるが、適合者はまだ発見されていない。

 ……まぁ、前世のゲームの艦これ(オリジナル)を知っている身としては、さもありなん、としか言えない。

 陽抜方式なこの世界だと……ねぇ? 

 ちなみに、南方棲戦姫を撃破したあとは、沖縄南西諸島海域は散発的な戦闘に終始した。 イベント海域化が終息したと考えていいだろう。

 

 ああ、そうそう。

 私たちが飲んでいるのは秋川提督の執務室である。時刻は2215(フタフタヒトゴー)を過ぎたころ。

 30分前ごろにハワイから戻ってきたナンブ提督が突入してきた。

 

「そういえば、米艦娘艦隊の皆さんはどうなりました?」

 と私はナンブ提督に聞く。

 米艦娘艦隊が戻って来ないと私たちは内地へ帰れない。

北方棲姫の根拠地(ダッチハーバー)で修理中よ。さすがに沖縄(こっち)まで戻るにはダメージがキツかったから」

「北方棲姫は? 再生(リポップ)したら……って、陸奥さんと伊勢さんと龍驤さんがいるか……」

 と自分で納得する。

 あの3人がいれば大抵はなんとかなる。

 逆に言えばあの3人も動かせないわけだが。

「Coloradoの適合者が見つかったら沖縄(こっち)まわしてもらって、ArizonaはAL常駐にしてもらうように上申してみますか……」

 とナンブ提督はひとりごちる。

 米海軍としては念願の大駒(コロラド)なわけで、ALが確保できればいちおうトータルではプラス、と言えなくもない。

「となると、Coloradoの中の人が来るまではワタシたちは沖縄駐留(こっち)デスかネー……」

 とお姉さまが言うが、

「できればArizonaの修復が終われば、沖縄(こっち)へ戻してもらうように言うつもりよ。印から東亜圏は物資物流のメインラインだもの」

 ナンブ提督としては、印-沖縄のシーレーンが気になるらしい。

「……ALにいつまでも陸奥さんたち置けませんよ? アイオワさんたちだけでは無理では。東海岸側もありますし」

 と私が指摘する。

 ……実際、両大洋に接する米国は、どうしても2正面戦を強いられる。

 今回のハワイ作戦のために、東海岸側からも戦力を結集したはずだ。

「そうなのよね~……」

 そう言って突っ伏すナンブ提督。

「……せめて南にアレがいなければなんとでもなるんでしょうけどね……」

 ……正確には、米国は3方塞がりなのだ。両大洋が接する米大陸中央、もうひとつの深海棲艦の中枢。運河棲姫だ。

 PSVita版艦これ改での真のラスボス。2つの大洋をつなぐ運河が深海棲艦化した運河棲姫。

 前世のゲームの艦これ(オリジナル)では激弱だったらしいと聞いたが、この世界では随伴がえげつないことになっていて、米国は未だ攻略できていないらしい。

「……まぁ、それを見越してウチの提督もこんなことにしたんでしょうね」

 と、大和さんが秋川提督に手元の書類を見せる。

「んぁ?」

 突っ伏していた秋川提督はその書類を見て、

「え?!」

 驚いて立ち上がる。

「こ、これホント?!」

 大和さんに詰め寄るが、

「はい。大本営からの正式な辞令です。

 私、戦艦『大和』と空母『鳳翔』は、ハワイ作戦終了後から、沖縄嘉手納基地艦娘艦隊へ異動となります」

 え?! 

「「「ええ?!」」」

 お姉さまとナンブ提督も驚いている。

 大和さんと鳳翔さんが沖縄常駐?! 

 ……いや、運用コストからして大和さんは軽々には動かせないだろうけども。今回だって相当イッたと思うし。

 とはいえ、いざとなったら動かせる超戦力がいるといないとでは大きくちがう。

 アジア圏との通商ルートである沖縄ルートは、日本としては押さえておきたいルートだが、今までは米国が先に押さえていたままだったため、ある意味、手が出せなかった。

 だがハワイ作戦で米国は戦力を集中せざるを得なくなり、その穴埋めは日本がすることになる。

 そこでこれ幸いに大和さんを派遣した。

 大和さんはそもそも坊ノ岬で沖縄に因縁もある。派遣はそこまで不自然ではないし、さらには坊ノ岬沖組をほぼ全員派遣している。

 書類上は常駐するのは大和さんと鳳翔さんだけ。巡洋艦、駆逐艦はいままでどおり、遠征艦隊からの抽出になるが、超戦艦の存在、さらに空母もいるとなると影響は大きい。

 大和さんは簡単には動かせないがその分は鳳翔さんが艦隊指揮をとれば充分だ。

 たとえ米艦娘艦隊がフルメンバーで戻ってきたとしても、戦略主導権をある程度は保持できる。

「やってくれたわねー……」

 ナンブ提督も一本取られたという顔だ。

 米国としてはあまり面白くない話ではあるだろう。政治的に。米国にとって沖縄とは『自国が占領した土地』であり、特に米軍人にとってはれっきとした『自国内』という意識が、多かれ少なかれ、ある。

 いわば、『自宅(借家)に大家の家族が一人、住み込んで来た』という感覚になるのだろう。一度留守番を頼んだのも自分だし理由もあるし大家だから反対もしずらい。

「17駆と21駆、あと矢矧さんも米艦娘艦隊が戻るまでは残します。次の遠征艦隊と入れ代わりで金剛さんと霧島さんは北上さんと潮、涼月とともに帰還してください」

 と大和さん。

 3艦隊20隻弱が残るなら米艦娘艦隊が戻るまでは大丈夫か。

「了解ネ」

「わかりました」

 頷く私とお姉さま。

「いやー、めでたい! やっと私にも部下が!」

 とグラスに手酌で注ぐ秋川提督。

「まぁ、私は提督の秘書艦も兼ねてますから。びしばしいきますよ」

 と大和さん。

「うぐぅ」

 ちょっとひきつる秋川提督。キャリアとしては大和さんのほうが長いからね、シカタナイネ。

「あー、もう。今回米軍(ウチ)は踏んだり蹴ったりだわね」

 と立ち上がるナンブ提督。

「もどるわー。一人で飲み直そう……」

「……一人だとつまんないからこっち来たんじゃないんですか?」

 と秋川提督がツッコむ。

「あんなもん聞いちゃあアナタとなんか飲めるもんですか。とはいえ、戻っている米軍艦娘(うちのれんちゅう)駆逐艦(みせいねん)ばっかだから飲ますわけにもいかないしねー……」

 グラスと酒瓶をもって、ひらひらとてを振って部屋を出ていくナンブ提督。

「……今日はもう寝ましょうか」

 と締める大和さん。

 それがいいでしょう……

 




これで完全にネタ切れしたので次回はとうぶん先です。
ハワイ作戦の次って、欧州作戦でしたっけ?
きりしまさんの出番あるかな~…


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14.艦娘・八丈

なんとか…書いてみた。
どうにもネタが出なかったため、今回からAIのべりすと(https://ai-novel.com/)の支援を受けました。
当面は戦闘にかぎらず日常ネタになるかも…



 ことの発端は、ハワイ戦後の欧州派遣戦だった。

 この戦いにおいて、海防艦「御蔵(みくら)」が回収された(ドロップした)のである。

 …適合者(なかのひと)を含めて。

 多少の質疑応答の後、身元が判明する。何の事はない、深海棲艦犠牲者(行方不明者)名簿に記録があっただけだ。

 問題だったのはその年齢だった。襲われたのは2年前で、当時11歳。書類上でも現在13歳ということになる。

 大本営司令部は本気で頭をかかえたと聞く。さすがにこんな児童を戦場に出すのかと。

 だが本人はやる気であり、他に御倉の適合者はいない。

 艦娘の傾向として、「元艦」の船体規模と、適合者(なかのひと)との体格は、ある程度の関連性があることは経験則でわかりはじめていた。例外はあるが。

 確かに甲型海防艦は戦時建造艦で、船体規模としては駆逐艦より小さい。

 しかしまさか、10台前半の児童が適合者だとは誰も思わなかった。

 まさかということで、10~15歳までの適合者検査が行われた。名目上は予防接種と平行として。

 …そして、現在発見されている全ての海防艦の適合者が見つかってしまったのだ。

 大本営司令部はまたしても頭を抱えることとなった。

 見つかった以上、使わないという選択肢はまずあり得ない。現在でも手が足りてるとは言い難いからだ。

 とはいえ、児童を戦場に送るというのも問題だ。現在でさえ、駆逐艦級の主力は10台後半が多く、20台はほんの数名。

 この状況でも、人権保護団体()に何度も凸されている状況なのだ。

 この上、10台前半の女子児童を戦場へ送り出すなどと発表すれば、どうなるかは火を見るより明らかというやつだ。

 せめて15歳を過ぎるまで待つ、という意見もあったが、戦況がそれを許してくれるとは思えなかった。

 結局、やむをえず大本営はそのまま発表。大ブーイングの中、志願者のみ、本人および保護者の許可を得た者のみ、という条件付きでの徴用となった。

 

 前置きがえらく長くなったが、そういう訳で、(きりしま)は、通達と事情説明に同行することになり…現在、とある家…実は仮設住宅…の前にいる。

 同行している自衛隊広報官の青年がドアをノックする。基本的には私は付き添いであり、口を出すことはない、はすだ。

 ちなみにここは八丈島避難民仮設住宅である…

 着いたとき、思わず天を仰いだのはバレてないと思う。

 

「…そう…ですか…」

 一組の男女。彼らが「八丈の適合者」の両親だ。

 読んでいた書類をテーブルに置く。

「お辛いかもしれませんが、なにとぞご検討を、」

「いつになりますか?さすがに今日ということはないでしょうけど」

「は?」「え?」

 …母親のほうが、ノータイムで答えやがった…!

 父親のほうを見ると、こちらもなにか醒めた眼で書類を見ている。止めないの?!

「あんな娘、早く連れていっていただいたほうが、」

「ちょ、ちょっとまってください。いったい何が」

 広報官の青年がなだめる。

 …自分で腹を痛めて産んだ娘だろ?!なんだこの反応…って、ん?

 服の袖をくいくいと引っ張られる感覚。

 見ると、妖精さんが私の服の袖を引っ張っていた。

「…(なに?どうしたの?)」

 不審がられないように小声で妖精さんに話しかける。声に出さずとも通じる場合があるが、声にしたほうが意思が伝わりやすい。

『我々のせいらしい、です』

 ナニソレ。

「おかしいんですよあの娘は。なにもない空に向かって話しかけたり、へんに力が強くなって近くの子供に怪我させたり」

 ああ…なるほど。だいたいわかった。

「おかあさま」

 私は母親の女性に向き直り、声をかける。

「…はい?」

反応はあった。話を聞く気はあるらしい。

「ちょっとお聞きしますが…艦娘とはどういうモノだとお考えでしょう?」

「えっ、」

 ちょっと面食らった反応をして、それから彼女は言った。

「それは…国を守るために造り出されたモノ…じゃないんですか?」

 …やっぱそうきたか。

「すこし違います。お手元の資料にもありますが、艦娘は基本的にはただの人間です。違うとすれば」

 目線を下ろし、手元にいる妖精さんを見る。

「妖精と呼ばれる存在を知覚し、かつての船の魂をその身に降ろすことでやっと戦うことができるのです」

「…妖精?」

「ええ。ちょうどここにひとりいますけど」

 と、私の右袖を掴んでいる妖精さんを左手で指し示す。

「…?」

 眼をこらすが、見えるわけがない。

「妖精さんは普通の人間では見えません。声も普通の人間では聞こえません。それは妖精さんや深海棲艦が、この世のモノではないからです。

 ですが、艦娘の素養がある人間は、妖精さんを認識し、その助力を得ることで、やっと深海棲艦に対抗できます。

 ですが、それ以外では基本的にはただの人間です」

 例外が出る場合もあるけどね言わないけど。

 口調とか髪の色とか眼の色とかな!

 でも人間であることには変わりはない。

「それまでの人生が無くなったわけでは決してないのです」

 …転生者の私が言うのも何だけどな。

「娘さんは、人間をやめたわけでも、人間でないモノになったわけでもありません。

ましてや、あなたがたの娘であることをやめたわけでもないのです」

「……」

 二人は二の句がでないらしい。

「虚空に向かって話したように見えたのは、おそらく妖精さんと話していたのでしょう。

 力が強くなったのは…恐らくですが、無意識に(ふね)の力を借りたのでしょう。妖精さんに頼むと、艦娘としての力を借りることができます。

 艤装がない場合はごく短時間なら、という条件つきですけれど。私だってできますし」

「あ、そういえば、あなた…」

「自己紹介が遅れましたね。戦艦『霧島』を預かっている者です。本名はご容赦を」

「…!」

 艦娘の『現物』を目の前にしていたことに気づいたのか息をのむ二人。

「ところで、彼女はどこに?」

 

 

「…すみませんでした、霧島さん」

 広報官が私に謝るが、

「気にしなくていいわ。てか、こういう場合に備えて艦娘が付き添うんでしょうから」

 すでに家を辞し、八丈がいるはずの公園に着いたところだ。

「…さて、どこにいるんてすかね」

 と広報官は見回すが、

「…いたよ」

 私の眼はすぐに見つけた。

 …公園の一角に、妖精さんたちが山盛りに集まっている。そしてその中心にいるのは、間違いなく彼女…八丈だった。

 私はそこに近づく。

「こんにちわ」

 その声に彼女は振り向く。

「…お姉さん、だれ?」

「霧島、っていうの。こんにちわ、みんな」

 と、私はしゃがんで彼女に目をあわせつつ、妖精さんたちに対しても手をのばす。

『わ~~』

 伸ばした手に、妖精さんたちが群がる。

「……!」

 その光景に、彼女は驚く。

「…お姉さん、この子たちが見えるの?!」

「もちろん。だってこの子たちの仲間とお仕事してるんだもの」

「ええっ!?」

 目を丸くする彼女に、妖精さんたちは次々飛び乗っていく。

 それを見ていると、思わず笑みが出てくる。

「ところでお名前は?」

鈴原八実(すずはらはちみ)だよ。あ、はちみは八つの実、って書くの。ハチって呼んで!」

 …本名に艦名の一部が入っているタイプか。出身地が八丈島といい、かなりシンクロ高いな…

「じゃあ、ハチ、って呼んでいい?

 …実は仕事仲間に『はっちゃん』て呼ばれてる人がいるから、間違えそう」

 伊8ですね。

「別に構わないけどー」

 と言いつつ顔を赤くしている。かわいいな、おい!

「ところで、お姉さんって、自衛隊の人?それ、自衛隊の制服だよね」

 …察しもいいな。

「まぁ、ね」

『霧島さんは戦艦なんですよー!とってもつよいんですよー!』

 と妖精さんがハチに話す。ちょ、こら!

「戦艦、って、でっかいお舟でしょ?なんでお姉さんが戦艦なの?」

 あ、この子、艦娘の概念を知らない?

 …いや、そういえば情報統制であまり公にはしてないんだっけ。少し調べれはかんたんに出てくるレベルだけど。(ネット上ではかなり有名)

 ニュースなんかでは単に「戦闘艦艇」として報道されることになっている。また、法的には特殊小型船舶、つまり水上バイクの同類の扱いで、じつは船舶免許がいる。

「うん、まぁ、戦艦とおんなじチカラをもった武器が使えるの」

 こんなとこにしとこう。

「そうなんだ。ふぅーん」

 とりあえず納得してくれたらしい。

「で、その戦艦のお姉さんがなんでここにいるの?」

 まぁそうきますよね。

「あ、もしかして、わたしをスカウト?!」

「!!」

 …そこまで察する、か。

「…海にバケモノがいるの、しってる?」

「……うん。おとうさん、お魚とるりょうしなんだけど、あぶないからってこっちに引っ越してきたから」

 深海棲艦のことまで知ってるか。なら説明は省ける。

「それでね、そんな怪物たちを退治するために、この子たちのチカラを借りてるの」

 私は妖精さんたちを見る。妖精さんたちも私たちを見上げている。

 そして彼女は妖精さんの一人を手に乗せると、

「そっか。……ねぇ、私にもできるかな?」

 

 

 数日後。

「すっげー…」

 わいわいと甲高い歓声が響く。

「あぶないからなー!さわるなよー!」

「「はーい!天龍せんせー!」」

「先生じゃねェッ!何度いったらわかるんだ!」

「……」

 私は苦笑するしかない。

 今回、スカウト…というか徴用…された、占守(しむしゅ)型海防艦の艤装フィッティングのため、工廠へ来ていた。

 今回の対象は占守、石垣、八丈の3人。

 引率&警備として、天龍、龍田、そして私、護衛艦きりしまが付き添っていた。

「すまねェな霧島さん、本来戦艦のあんたにこんなことさせて」

「気にしないで天龍さん。それに、今の私は『護衛艦』だから」

 私の制服は護衛艦仕様のセーラー服てある。

「霧島さんも大変ですねぇ、悠々自適な戦艦としてのお仕事だけじゃなくて、こんなことまでするなんて」

 龍田さんがそう言ってくる。

 実際、戦艦の火力と護衛艦の多用性を使い分けられるようになった私はあっちこっちに駆り出されている。

「気にしないでって言ってるでしょう。最近はわりと手が空いてたし、ちょうどいいのよ」

 …前世で社畜だったせいか、仕事中毒(ワーカホリック)が再発してるかもしれないけどね。仕事楽しいからいいんだけど。

「はいみんなー!こっちきてー!」

 っと、明石さんが呼んでいる。

「はい。これがあなたたちの艤装よ!」

 と明石さんが示したのは、台にのった占守型の艤装3つ。

 3人はそれぞれ自分の艤装に行き、艤装を台に載せたまま背負う。

「んーーー!」

 台から立とうとするが…立てない。艤装は素では重いからね。

「無理に立たなくていいわ」

 明石さんのその声に、うなだれながら従う3人。

「なんか懐かしいな」

「そうね天龍ちゃん」

 その姿にどうしても苦笑してしまう私たち。

「目をつぶって、艤装の中を聞いて」

「………」

 その明石さんの言葉に素直に従う占守たち3人。

「あっ」

 ぽつりと八丈が声を上げる。なにを『みた』のやら。

「そろそろいいかしら…じゃあ、妖精さんたちにお願いして。エンジン始動、って」

「「「エンジン始動!」」」

 わずかに重低音が聞こえ、煙突から煙があがる。

「「「…………」」」

 3人とも目を開けた。

「いいわ、立って」

 その明石さんの言葉に素直に従って、すっ、と立つ3人。

「あ、あれ?」

「立てた?」

「あんなに重…くない?!」

 驚く3人。

「戸惑ってる戸惑ってる」

「私たちもああでしたねえ」

「不自然なほど違和感が無くなるからなぁ」

 艤装を『装備』すると、それは体の一部という認識になり、重さなどをまったく感じなくなる。自分の腕の重さを感じないように。

 わいわいと騒ぐ占守たち3人を横目に、私たちも自分の艤装を装備しにいった。

 



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15.ありあけ海域戦

昨年末の復活コミケを機に書き始めていたのですよ。



 どさりと段ボール箱を積み上げる。

「秋雲先生、こっち、終わったわよ」

「あーい。そんじゃ……これが最後かな?」

 最後のダンボールを床に置くと、私は伸びをした。

 ばさりと長い袖が腕にまとわりつく。

 いまの私の服装は、『戦艦』の巫女服…のニセモノである。

 そう、ここは東京有明の展示場。年末のもうひとつの期間限定戦場、コミケ会場である。

「やー…今年も来れたねぇ」

 と、感慨ぶかい声をだすのは秋雲先生である。

「いやいや、秋雲先生には今回もお世話になりまして」

 拝んどこ。

 サークルチケットなんてプラチナチケットをまわしてくれる秋雲先生は神様やけん。

 …え?深海棲艦との戦争中のはずなのにコミケなんてするのかって?

 ……いちおう、東京湾内への侵入は阻止できてるので、なんとか。

 浦賀水道には24時間体制で艦娘艦隊が張り付いて、常時警戒体制が敷かれています。実際、私や秋雲先生もコミケ後は浦賀水道の警備任務の予定だったりするし。

 ちなみに、秋雲先生はきちんとサークル申し込みして参加してます。その辺は一般人と同じ扱い。艦娘としての仕事は休暇扱いです。

 ちなみに、今回のメンバーは、サークル主の秋雲先生、風雲、巻雲、青葉さん、売り子として霧島(わたし)と鳥海さんか会場入りしている。

 秋雲先生の新刊は二冊でひとつは日記まとめ本。艦娘としての視点で、鎮守府のあれやこれやを機密に触れない範囲で漫画として描いている。数日おきに描いてネットで公開しているものをまとめたものだ。

 ついでに青葉さんも寄稿している。

 現役艦娘による内情暴露本なので、サークルとしてはかなりの大手だ。

 当然のようにシャッター前サークルである。

 なお、私と鳥海さんは単なる売り子。サークルチケットありがたや。

「開場まであと1時間とちょい、なんとか準備、間に合いましたねえ」

 椅子に座って休んでいる鳥海さんがそうこぼす。

 ちなみに鳥海さんも改二の制服(ニセモノ)だ。さすがにプライベートで艦娘制服は持ち出せない。あれは兵装扱いだからだ。なのでコスプレである。

「そろそろ先頭列はガレリアに入るころかな?」

 時計を見ながら私が言う。

「…今日はどれくらい出てくれますかね…」

 そう秋雲先生がぽつりといいながら見つめるのはもう一冊の新刊だ。

 …秋雲先生の創作本である。

 こちらは、日記本とはわざと離して置いてある。こっちが秋雲先生の『本命』だ。

 秋雲先生はNLもBLも百合もアニパロもなんでもござれの雑食系絵師だが、やはり創作系となるとやや売り上げは落ちるという。

 それでも『描きたいものを描く』という欲求には素直に従って形にするのは流石だと思う。

 ……実は私も、今世では無理だったが前世ではコミケにサークル参加していたこともあったのでよくわかる。

 

 

 そして、チャイムの音が会場に鳴り響く。

『ただいまより、開場いたします!』

 どっと会場内が拍手につつまれる。

「いらはいいらはい~!秋雲亭はこちらでーす!」

 秋雲先生の声とともに、ぞろぞろと人が入ってくる。

「すみません、4列でお願いしまーす!」

 巻雲の舌足らずの声が列整理を促す。

「はい、新刊1部ですね。ありがとうございます」

 風雲と青葉さん、鳥海さんと私の4人で客対応する。

「新刊1部で」

「はい、ありがとうございます」

「……」

 その人はお金をだそうとしたときに、ふと机の隅を見て、もう一冊の新刊を手に取った。

「…………」

 ぱらぱらと内容を見て、

「すみません、これも」

「はい。ありがとうございます!」

 

 

「ありがとうございました~!」

 全員でお辞儀する。

「新刊日記本完売でーす!今夜0時に電子版がリリースされるのでそちらをおまちくださーい!」

 秋雲先生が声をあげる。

 お昼過ぎ、日記本が完売した。これでひと段落だ。

 わらわらと列がバラけていく。

「…………」

 秋雲先生はしばらくそれを見ていたが、

「じゃあ、挨拶まわりと会場ひとまわりしてくるわ」

 といって、荷物をまとめはじめた。

「了解。留守番してるわ」

 風雲がそう答える。

 秋雲先生は、艦娘になる前からのコミケ参加者だったそうだ。なので、他のサークルの人たちとも顔見知りはいる。

「いってきまーす」

 と、手を振る秋雲先生を見送る。

「さて、じゃあ私も会場ひとまわりしてきます」

 と、私もバッグをかついでサークルスペースを後にする。

「え~っと、どの辺だ……?」

 まず向かうのは艦娘系サークル……前世でいえば艦これ系サークルである。

 お目当ては霧島本です。エゴサみたいだけど、見たいじゃん?

 実際、艦娘の存在は公開されており、ときおりイベントなどもある。

 なにしろ艦娘は例外なく、見目麗しい美女ぞろい。世間を鼓舞する意味でも、アイドル的に扱われている。

 実際、コミケ後にエゴサすると、「霧島さんが霧島本買いに来たwww」と、わりと有名だったりするようだwww

 そんなこんなで、私はあちこちのサークルを回る。

 

 

「あの、すいません」

「はい……って、霧島?!」

「この艦娘本ってまだありますか?」

「あ、ああ、それなら」

「あの、こっちのこれって再販とか」

「申し訳ないですけど……」

「そうですか……」

 無念。

 

 

「こんにちはー」

「はい、いらっしゃいませ……っ!」

「この本ってもう売り切れました?」

「いえ、少しだけ残ってますよ」

「じゃあ、一冊ください」

「はい。ありがとうございます」

 

 

「いやぁ……買ったぜ」

 ひととおり会場をまわって大漁大漁。秋雲先生のサークルスペースまでもどる。

「ただいま」

「「おかえり~」」

 ……あれ?

「秋雲先生は?」

 そう私が聞くと、

「2回ぐらい戻ってきてまた行ったわよ」

 風雲がそう答えた。

 ……同人歴長いだけあるわ。知り合い多いんですね。

 

 

「たっだいま~」

「「「おかえり~」」」

 秋雲先生が戻って来られた。紙袋を両手に下げて。

「収穫はどんなもんで?」

 と私か聞くと、

「まぁそれなりにね」

 どさりと紙袋を下ろす。中身を見ると、同人誌(ほん)がぎっしり詰まっていた。

「おぉう……。結構ありますねぇ」

「まぁね。同人誌(おたから)の吟味はまぁあとでとして……」

 そう言いながら時計を見る。

「……まだちょい早いね」

「ですね」

 時刻は13時過ぎ。撤収するにはもったいない。

「そいえば、お昼は?」

 そう私が聞くと、

「サンドイッチ買ってあったから」

「うん」

 風雲と巻雲はそれで済ませたらしい。

 青葉さんと鳥海さんはまだ出ているらしい。

「先生は?」

 と秋雲先生に聞くと、

「まだ。回ってたからねぇ」

「私もまだだし、いっしょにどうです?」

「おk。風雲、悪いけどもうしばらくよろしく」

「はいはい」

 

 

 というわけで、私と秋雲先生はガレリアを上がってごはんにする。

「んまい!」

「やっぱカレーは外れないですね」

 ガレリアのカレー屋でお昼ごはん。

 鎮守府の海軍カレー(いつもの)もいいが、やはり店ごとに味は違うので、『外』に出るとちょいちょいカレーにしてしまうことが多い。

「お、艦娘さんだ」

 そんな声が聞こえた。

 横目でちらりと見ると、男二人連れがこちらを見つつ席に座るところだった。

「出来いいなぁ。あの巫女服は戦艦かな?」

「眼鏡してるし霧島かな?もう一人は、あのえんじ色のスカートは夕雲型?」

「ってことはあのポニテ、秋雲か?

 そういえば、秋雲ってコミケで本出してるって噂、あったな」

「まさか本人だったりしてなぁw」

「んなわけねーだろw」

 そのまさかなんだよなぁwww

 秋雲先生と二人して密かに大ウケでしたわww

 

 

「ってなことがあったのよwww」

 サークルスペースまで戻り、風雲、巻雲と、同じく戻ってきた青葉、鳥海さんにさっきの出来事を話す私と秋雲先生。

「まぁ、まさか『本人』がいるとは思わないわよねぇw」

 笑う鳥海さん。

コミケ会場(ここ)なら、艦娘の格好してても逆に目立ちませんしねw」

 私もそう言って笑う。

「コスエリア行ったんですけど、結構出来いい人いましたよ~」

 と、デジカメを出す青葉さん。

「へぇー、そうなんだ」

「ほらこれ。この子なんか凄いですよ」

「どれどれ?」

 見せてもらった写真には、確かに見覚えのある人。

「あら、金剛お姉さま」

 なかなか出来がよろしい。あの特徴的なお団子ヘアを上手く再現している。

 ……毎朝アレを結っているお姉さまはホント尊敬するですよ。

「あとまぁ、コレとか」

 と青葉さんが出した画像は、

「うわ~……」

 思わず声が出た。

 ……写っていたのは武蔵さんである。

 この真冬に、上半身丸出しはキツそうだ。

 ……ちなみに、本物の武蔵さん本人は冬季は南方に出ていて本土に帰って来ようとしてなかったりする。

 

 

「そろそろ撤収準備しますかね」

 秋雲先生が時計を見てそう言った。

 ふと気付けぼ14時半、もうそんな時間か。

「そうね。片づけ始めましょう」

 風雲が答えて、私たちは荷物をまとめ始める。……さぁ、今日はここまでだ!

 

 

 というわけで、撤収完了。時刻は15時を過ぎたころ。

 青葉さんをスペースに番として残し、他全員で宅配便の受付へ。

 着替えと貴重品意外の全ての荷物を発送する。

 ……この後は仕事やけんねぇ……(遠い目)。

 スペースにもどり、青葉さんと再合流、椅子と机を片付けて、

「お疲れ様でしたー」

 両隣のサークルさんへ挨拶して、着替えのため更衣室へ。全員私服に着替える。

「秋雲、申し送り何時だっけ」

1900(ヒトキュウマルマル)ですね。食事する時間くらいはありますか」

 移動時間を考えるとちと微妙ではあるが、

「打ち上げってことで出しますよー」

 と秋雲先生がおっしゃって下さった。

「秋雲先生!神!」

「そこにシビレル憧れるゥ!」

「まーっかせなさい!」

 ってなことをいいながら、会場を後にしたのだった。

 




 というわけで。
 …じつは裏テーマは「とくになにも起こらないコミケ一般サークル参加者の一日」だったりします。
 実際、自分も一時期サークル参加していたので。(超弱小小説サークルでしたが)
 もう一つは、まぁお察しでしょうが、秋雲先生が描きたかったのですよ。
 …ところが、自分の中の秋雲先生が全然動いてくれませんでしたわ…orz


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