間違った「世界」の正し方! (/\三瀧/\)
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プロローグ

初めまして!あるいはお久しぶりです!三瀧です!

思いつきで始めた作品ですが、感想やお気に入り一つでも貰えたら続けます!

要は、構ってもらえると頑張ります!

なかなかヘヴィな話ですが、是非最後までお願い致します!

では、どうぞ!


 俺の腕の中で、魔法使いの衣装を身にまとった少女が眠りにつこうとしている。

 

「なぁ、こんな所でなんてお互いに嫌だろ?起きて帰ろうぜ?まだ虹の半分を見つけられてないんだしさ。」

 

 何せ、ここは荒野のど真ん中。

 

 枯れた大地に乾いた風が吹き荒れる、人が住むにもなんなら少し過ごすだけでも辛い環境だ。

 

 オマケに、人を襲う魔物だってウヨウヨいる。

 

 虹なんて見えそうもない曇天の下、俺は彼女に語りかける。

 

「あ、ははは……。そう……だね。私も……ここは嫌だね……。」

 

 力なく笑ってみせた彼女だが、しかしうつらうつらし始めてしまう。

 

 もう限界は近いのだろうか。

 

「おい、起きてくれよ。こんなとこで寝たら来世まで後悔するぞ。」

 

「うん。うん……。分かってる……よ。」

 

 分かったって言ってるくせに、彼女は今にも眠ってしまいそうだ。

 

 食後の赤子みたいに目を開こうとして、襲い来る眠りに負けて閉じての繰り返し。

 

「分かってるなら起きろよ。立ってその足で帰るぞ。」

 

 発破をかけるが、彼女は曖昧に笑って誤魔化すばかり。

 

 その身体から力が抜けていくのを感じる。

 

 どれだけ揺すっても反応があまり無いのだ。

 

「あの……さ。聞いて欲しことが……あるんだよ……。」

 

 彼女は、弱りきった瞳で俺を見据えて今にも消えそうな声で言葉を紡ぐ。

 

「なんだよ。そんなの今じゃなくたって良いだろ?帰って風呂は入ってからでもゆっくり話せば良いだろ?」

 

 あたかもこれが最期かのような言葉が気に食わない俺は、全力で遮る。

 

「私ね……レイが誘ってくれたから……こんなに……自由に……さ……。」

 

 それでも続く力無い言葉はもう、風が邪魔をしてろくに聞こえない。

 

「喋る余裕があるなら起きろよ!後で出来ることに無駄な体力使うなよ!」

 

「だから……ね。」

 

 __ありがとう。

 

 最後の言葉は彼女の口から出てきたのか、俺の妄想なのか分からない。

 

 ただ、何か伝えようとして、それを完遂すること無く彼女は眠りについてしまった。

 

 それも当然だ。

 

 彼女の一つに結んだ艶やかな黒髪も、服が破れてむき出しのお腹も、彼女を支える俺の手も全てが真っ赤に染っている。

 

 眠りについた彼女は少しも息をしていないし、多分心臓だって止まっている。

 

 そう。

 

 彼女がつくのは永遠の眠りで。

 

 何も出来ない俺は現実から逃げるように彼女に呼び掛けていた。

 

 風穴の空いた彼女の腹部からは今も真っ赤な血が流れ出しており、俺の脚を濡らし続けている。

 

 俺と彼女はこの荒野に指名手配されていた魔物の討伐に来て、彼女の犠牲を対価に勝利したのだ。

 

 ただ、今となっては正直そんなことはどうでもいい。

 

 自分の不甲斐なさで大事な人を死なせてしまった。

 

 恩人であり、親友でもある彼女を。

 

 その事実は、俺の思考を停止させるに十分な重さをもってのしかかってくる。

 

 だから、

 

「ねぇ君。今、後悔してるんでしょ?この私がどうにかしてあげようか?」

 

 という荒れ果てた地には場違いに思える少女の明るい声にも何も反応出来なかった。

 

「えぇ?無視ー?酷いね、君は!」

 

 いきなり現れた少女は空気が読めないのだろうか。

 

 俺の現状を見てそんなノリで話せると思うのか?

 

 まぁ、さっきまで誰もいなかったはずのこんな荒野にいきなり現れる時点で、常識を求めるのは違う気もするが。

 

「……うるさいな。そっとしておいてくれ。」

 

「やだよーだ!悪魔は人の嫌がる事をするもんだからね!」

 

 悪魔……?

 

 悪魔とは、魔物を生み出した?

 

 人の平穏な生活という願いを一蹴してしまった、人類史上最低の敵か?

 

 彼女を殺したあの魔物を生み出した?

 

「はい、ステイステイ!何も君をおちょくりに来た訳じゃないんだよ!」

 

 振り返り睨み付ける俺の目に映ったのは、へらへらとニヤけた少女だ。

 

 身長は百六十センチ程で、ピンク色の髪を肩のあたりで切り整えている。

 

 露出の多いバニーのような衣装の背中からは黒い翼が、おしりからは尻尾が生えており、ゆらゆら楽しげに揺れる。

 

 まだ幼げな顔立ちは、十六歳程に見える。

 

 悪魔、と言うには随分可愛らしい容姿だ。

 

「なんの用だ?」

 

 悪魔とはきまぐれな種族であり、何をするか分からない事で有名なのだ。

 

 害意は感じられないが、悪魔が人間の為に何かするとも思えない。

 

 まぁ、仮に俺が今襲われたとして、抵抗出来る余力はないが。

 

「私が来たのはね、救済だよ!ほら、そこに転がってる死体をどうにかしてやろうってね!」

 

 なかなか酷い物言いだ。

 

 だが、内容は非常に興味深い。

 

「で?どうするんだ?」

 

「時を戻すんだよ、魔法でね!」

 

 俺の圧なんてものともせず、仰々しくてを広げた悪魔はウィンクしてみせる。

 

「そんな都合のいい事出来るわけないだろ?」

 

 「魔法」というのは神様の力じゃないんだ。

 

 俺だって火を出したり電気を流したり出来るが、時間なんて言う絶対的なモノに干渉なんて出来っこない。

 

 科学と並ぶ人類の武器ではあるが、所詮はその程度である。

 

「それが出来るんだね!もちろん代償は伴うけど。ずばり、「他者を殺すこと」だよ!」

 

 ニィと意地悪く笑った悪魔は、心底楽しそうに続けた。

 

「どうせ時は戻るからね!大切なものの為に何かを犠牲にする!人間様の得意で大好きな事だね!さぁ、どうする?」

 

 語りきった悪魔は、俺を試すような顔で見下ろす。

 

 荒野に吹き荒れる突風の中、座り込んだ俺を見下ろすその姿は、なかなか迫力があり、そして悔しいが美しかった。

 

「どうするもこうするもない。そんなことが出来るなら、やらせてくれよ。」

 

 もうやぶれかぶれだ。

 

 悪魔にだってなににだって魂を売ってやる。

 

 風に舞う砂粒一つ分でも可能性があるなら、そこに賭けるんだ。

 

 例えその賭けの結果が世界を滅ぼすことになろうとも。

 

「うんうん!素直で良いね!じゃあ、手を貸して?」

 

 そう言って差し伸べられたのは、黒いネイルの華奢な手だ。

 

 こちらも手を伸ばし、悪魔と握手する。

 

 思ったよりも小さくて柔らかな悪魔の手に少し戸惑いながら。

 

 しばらくすると、悪魔と繋がった手と手と間で光が生じ始める。

 

「さぁ、これから君は精々頑張って誰かを犠牲にそこの女を助けるんだね!」

 

「言われなくてもそうする。だが、お前にメリットがあるのか?」

 

 この際理由なんて何でも良いのだが、それでも知ってるに越したことはない。

 

「それはね、君が困っているからさ!私も困ってるんだけどね!いや、むしろ私のが困ってるも?無関係な話じゃないんだけど、まぁ、そこら辺はそのうち分かるかもね!とりあえず、これは悪魔ちゃんとの契約だよ!」

 

 含みのある言い方だ。

 

 俺と悪魔の間に何らかの因果関係があるというのか。

 

 両親のことが脳裏に過ぎったが、それを考えると今理性が保てないかもしれない。

 

 とにかく、考えるのは彼女を救った後だ。

 

 悪魔は契約は絶対に破らない。

 

 その単語を使った以上、信頼は出来るのだろう。

 

「はい、終わり!君が誰かを殺した上で戻すことを求めれば時は巻きもどるよ!ただし、気をつけて欲しい事が二つある!」

 

 パッと手を離した悪魔は、二本指を立てる。

 

「一つ!時は関係の深い人物を殺す程遠くに遡れる!二つ!残忍な殺し方程時戻しの効果は強くなるよ!」

 

 なんとも悪魔らしい悪趣味なルールだ。

 

 つまりは、戻したければ仲のいい人……考えたくは無いが、例えば彼女のような人間を、痛めつけなきゃいけないと。

 

「分かった。どうせ今回しか使わないから問題は無い。」

 

 殺人なんて普段の俺には出来そうもない。

 

 それこそ、彼女の死のような大層な出来後でも起きない限り。

 

 だったら、どれだけ重いペナルティだってそんなに負荷にはならないだろう。

 

 彼女を失った今のような精神状態なら、どんなことだってしでかしてしまうだろうし、倫理観なんて消し飛んでいるだろうし。

 

「イヒヒ。君がどんな行動をとるのか心底楽しみだよ!誰を殺すのかな?どうやって殺すのかな?街に帰ってからが楽しみだよ!それじゃ、バイバイ!また会う時はどうなってるかな?」

 

 こちらに背中を向けて手を振りながら悪魔が立ち去ろうとする。

 

「……けどな。」

 

「ん?なんて?」

 

 風に掻き消された俺の独り言が引っかかったのか、悪魔が振り向く。

 

 そして、その大きな瞳を驚きに見開いた。

 

「あぇ……?」

 

 間の抜けた声を上げた悪魔は、「どうして」と言わんばかりに俺を見つめる。

 

「そんなに意外か?」

 

 俺の酷く冷めた声に、悪魔は混乱しているようだった。

 

「だって、君は私を信用してくれて……。」

 

「それとこれじゃ話が違うんだよ。」

 

 悪魔に突き刺した剣を、その背中を蹴るようにして引き抜く。

 

「あぅぅ……!」

 

 血の尾を引くようにして、うつ伏せで悪魔が砂地に倒れ込む。

 

 普通の人間なら苦痛に悶える所だが、流石は悪魔だ。

 

「待ってよ、私悪いことしてな……。」

 

 地を這うようにして後ずさる悪魔だが、

 

「だから、お前は悪魔だ。それ以上でもそれ以下でもない。」

 

 オマケにピンク髪なことはさておき。

 

「うくぅっ!」

 

 逃げられないよう右足に剣を突き立てる。

 

 筋を断ち切られだらんとした右足を引きずりながら、更に逃げようとする悪魔はそれでも説得にかかる。

 

「私があげた魔法じゃない!そんな恩知ら……あぁ!」

 

 黙って振り下ろされた剣は左足を貫き、地面と縫い合わせる。

 

 さっきまで銀色だった剣は、足から引き抜いた時には真っ赤に染まっている。

 

「あ、取り引きをしよ……。……ぅ……。」

 

 絶対に逃がさないよう二の腕も切り裂く。

 

「うぁぁ!」

 

 間髪入れず羽ばたこうとした翼をまとめて切り落とす。

 

 その度に今まで見たことが無いほどの血が溢れる。

 

 流石に翼は堪えたらしく、

 

「うぅ……。はぁ……。あ……。」

 

 呻き声を上げながら悶えている。

 

 こちらを覗く顔は絶望的に満ちていて、もはやさっきまでの余裕など微塵も感じられない

 

 息を荒らげ血の泉に沈む悪魔はすっかり力を失ってしまった涙目で俺を見つめた。

 

「なんで……なんでこんな酷いこと……。」

 

 俺からすれば悪魔なんてこんな目にあって当然だと思うのだが、悪魔の中で俺や自分の評価はどうなっているのやら。

 

「悪魔にはろくな思い出が無いんだ。親も、彼女も、国も、何もかも悪いことばっかりだ。こんな機会、滅多にないからな。」

 

 時を戻す魔法なんて大それた事を言われても信じられる程、悪魔は強大な力を持つのだ。

 

 それこそ、不意打ちでもしない限り俺なんかじゃ勝てない。

 

 苦しむ悪魔の姿に罪悪感が無いと言ったら嘘になる。

 

 だが、ここまで来たらやるしかない。

 

 トドメを刺すために俺が近付くと、悪魔は近寄るなと言わんばかりに尻尾を振り、体をうねらせ逃げようとする。

 

 しかし。

 

「あぅぅ。」

 

 そんなことで逃げられるはずもなく、俺が馬乗りのになる。

 

 圧迫されたことで翼の傷跡から血が溢れ、悪魔は情けない呻き声を上げる。

 

「……なぁ、死にたかないんだろ?もし嘘だってんなら見逃してやる。ただ、二度と陽の当たるとこに出てくるな。」

 

 悪魔を押さえ込んだはいいものの、いざトドメとなると少し気が引けてくる。

 

 完全優位に立ったことで冷静になった頭が、あまりに哀れな悪魔に同情している。

 

 様々な感情で麻痺していた倫理観が戻りつつあるのだ。

 

「……悪魔の……契約は……はぁ……。絶対……だから……ね。」

 

 嘘をつけば良いくせして、悪魔は苦しそうな顔で笑ってみせる。

 

 ……やるしかないんだ。

 

 自分で始めた癖して後悔しながら。

 

「そうか。両親の、彼女の、国の為だ。」

 

 言い訳のように、自分に言い聞かせるように呟い俺は、悪魔の肩甲骨辺りに剣を深く突き立てる。

 

 一度では力尽きないから、何度も刺し込む。

 

 その度にビクンと震える悪魔は、次第に呻き声すら上げなくなっていく。

 

 手に伝わる肉を切り裂く感触や生暖かい血液に吐き気を覚えながら、後戻り出来ない俺はひたすらに続ける。

 

 あと何回この手を動かせばいいのか。

 

 そもそも自分は何のために何をしているのか。

 

 意識が徐々に遠のいていく。

 

 ぼーっとした頭の中で、今日の出来事が走馬灯のように浮かぶ。

 

 腕の中で弱りゆく彼女の姿。

 

 魔物の凶刃が彼女を貫く瞬間。

 

 この荒野の環境への文句。

 

 長い道に疲れ果てた彼女の駄々をこねる可愛らしさ。

 

 忘れ物に気が付き走り帰った街道。

 

 遅れた朝食のベーコンエッグ。

 

 機嫌を取ろうとする彼女の気遣い。

 

 俺の制止を聞かず依頼を受ける身勝手な姿。

 

 人助けをせずには居られない彼女のそそっかしさ。

 

 そして……。

 

「ねぇ、見てよ。私この依頼受けたいんだけど、ダメかな?」

 

 彼女の甘えるような声。

 

 上目遣いでこちらを見る彼女は生気に満ちている。

 

 疲れた精神が見せる幻覚だろうか。

 

 今朝の一連のやり取りの巻き返しのようだ。

 

「ねぇ、聞いてる?おーい。」

 

 ぼーっとする俺の顔の前で、彼女がブンブン手を振る。

 

「ねぇ寝てるの?お目目開けて寝てるの?」

 

 俺が無反応なことにイライラしてきたのか、少し煽り口調になる。

 

 ……こんなやり取りあっただろうか。

 

「もうそろそろ怒るよ?」

 

 頭が追いつかず呆然する俺に痺れを切らした彼女は大きく右手を振りかぶり、

 

「はい!起きる!」

 

バチン!

 

「ってぇ!」

 

 彼女の平手がもろに入った俺の頬に強烈な痛みが襲いかかる。

 

 それは現実そのものであり、幻や妄想なんかじゃない。

 

「良かった。起きたみたいだね。」

 

 暴力をふるった癖して満足気な彼女の笑顔に思わず、

 

「あ……。」

 

 言葉を失い立ち尽くしてしまう。

 

 そんなの当然じゃないか。

 

 今俺の目の前にいるのは、眠ってしまったはずの彼女で。

 

 その可愛らしい顔には、笑顔がいっぱいに咲いているのだから。

 

 こんなの嬉しくないはずがない。

 

 こんなに嬉しいんだから、感情が溢れてるんだから頭が回る訳ないじゃないか!

 

「え、なに?そんな痛かった?」

 

 明らかに様子のおかしい俺に彼女が戸惑い始める。

 

「うわ、泣いてる……。ごめんね、ちょっと強すぎたよ。」

 

 少し申し訳なさそうな彼女は、顔を目と鼻の先まで寄せて俺の頬を少し冷たい手でさする。

 

 それでようやく自分が泣いている事を自覚した俺は、

 

「いやいや、問題無い。おかげでよく目が覚めたわ!」

 

そう言って彼女の顔を両手で挟み込んでやる。

 

「ひょっひょ!はにふるの!」

 

 タコみたいな顔で暴れる彼女の姿は元気そのものだ。

 

 しばらく眺めていると、

 

「もう!ウザイ!ぼーっとしたりちょっかいかけたりどしたの?」

 

 俺より二十センチ程低い小柄な彼女はするりと抜けて、不思議そうにしている。

 

「何でもないよ。今日は一日休もうぜ?なんかかったるいわ。」

 

 あんなことがあったなんて、彼女に教えられるはずがない。

 

 どうやら、戻れたらしい。

 

 あの惨劇が起きる前へと。

 

 だったら、俺の歩める道は一つだ。

 

 「彼女を守りきる」

 

 これを全うするため、俺は二回目の今日を、そして未知のこれからを過ごしていくんだ。

 

 彼女の死ぬ世界なんて間違っている。

 

 だったら。

 

 例え、どんな傷を負ったとしても。

 

 他の誰を犠牲にしたとしても正してやるんだ……。




かなり重い雰囲気の話ですが、楽しい日常だって待ってます!

温度差に風邪を引かないよう体温調節ファイトです!

最後までお付き合い頂きありがとうございます!次の話もお願いします!

あと、感想お気に入り欲しいです……


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平和な日常へ

めっちゃかかって申し訳ないのです。

伏線とか色々考えてたらこんなにかかってしまって……。

オマケに部活引退目前だったり進路やらで忙しいのでまた遅くなることもあるけど、気長に待ってやってもらえると幸いです!


 むかしむかし。

 

 まだ人間と悪魔が仲良しだった頃。

 

 虹は半円ではなく円形をしていて、よく人間達の傍にも現れていました。

 

 その七色の姿は美しく、あらゆる生物を魅力して止みません。

 

 人間も悪魔もこの虹を大切にし、その美しさを共有していました。

 

 その状況を虹も快く思っていました。

 

 しかし。

 

 ある日、平和な日常は崩壊します。

 

 欲に溺れた悪魔が多数の人間を操り、虹の半分を切り取って持ち去ってしまいました。

 

 半身を失った虹は人間達を恐れ、絶対に人間達の手の届かないところに逃げてしまいます。

 

 この事件を機に人間と悪魔も対立状態になり、今でも和解は出来ていません。

 

 はたして、悪魔は虹を返し人間と和解する日は来るのでしょうか……。

 

 

 

 さて、これが何かと言うと、この国の状況をよく表した昔話だ。

 

 虹が何かの比喩なのかそのものなのかは不明だが、実際に人間から何かが奪われたらしい。

 

 その事件で悪魔と人間は仲違いし、お互いに牽制し合っている。

 

 いや、人間が一方的に嫌ってると言う表現が正しいのかもしれない。

 

 昔から今でも変わらず、悪魔はちょっかいを掛けたり、怪しい契約を仕掛けてしてくるのだ。

 

 変わったのは人間の方で、徹底して悪魔を排除するようになっていった。

 

 もちろん欲に負けて契約を結ぶ者……例えば俺みたいな奴はいるが、国全体としては立ち入り禁止や契約を結ぶ事を規制している。

 

 そんで、その管理を行う大臣が俺の育ての親であり、彼女……リンカの実の父親でもある。

 

 俺がまだ七歳の頃、フラっと現れた悪魔に両親を殺され、更には家まで焼かれ完全に孤児となった俺は、親同士で仲の良かったリンカの父に拾って貰ったのだ。

 

 つまり、俺は恩人の娘であり兄妹のような存在であるリンカを守りきれなかった訳だ。

 

 だから悪魔との契約に応じたし、悪魔をあんな目に遭わせた。

 

 後悔はしてない。

 

 どうせ時が戻るのだ。

 

 だったら、別に悪魔がどうなろうが知ったことじゃない。

 

 そもそも、これについては悪魔が言い出したことで……。

 

「ねぇレイ。考え込んじゃってどうしたの?さっきから変だよ?」

 

 一人考え込んでいるのを、リンカの声が遮る。

 

 駄々をこねるリンカをどうにか説得し帰路に着いたのだが、何分ついさっきまで地獄のような状況にいたもんでつい考え込んでしまうのだ。

 

 本来の朝の俺はハイテンションだった気もするし、ずっとしんみりしてるのは気持ち悪いだろう。

 

「いやな、俺は重大な事実に気付いちまったんだよ。」

 

 だったらここは一つ、ビッグニュースでも伝えてやろうじゃないか。

 

「え、なになに?」

 

 やっと構ってもらえたとばかりに食い付いてくるリンカに至って真面目な顔で報告する。

 

「実はな、肘と顎って付かないんだよ。そう、まるで月と太陽のように……。」

 

「えぇ!……どうでも良すぎるよ。オマケにセリフがなんか痛いし。」

 

 呆れた様な顔でそう言いながら、どうでもよさそうに肘を顎にすぃーっと寄せる。

 

 そして。

 

「うわっ、本当に付かない!なにこれ!」

 

 白いローブに包まれた肘を必死に寄せるリンカの姿は、とても女の子とは思えない。

 

 うーん、うーんと踏ん張るリンカだが、骨格上絶対に付かないのだ。

 

 子供っぽいなんとも微笑ましい光景に少し気が緩む。

 

 改めて安心出来るところに来れたんだ。

 

 そう思った瞬間、リンカはすぅっと目を細め、咎めるような表情に豹変した。

 

「なんてなると思った?十年も一緒にいて誤魔化せるわけないでしょ?いい加減教えてよ。」

 

 俺より少し低いリンカは上目遣いで見つめてくる。

 

 その瞳には嘘をつく俺への怒りの中に、心配の色も見え隠れしていた。

 

 あぁ、そりゃそうだ。

 

 もしリンカがずっとこんなテンションだったら心配するに決まってる。

 

 だが、本当のことなんて言えるはずが無い。

 

 何せ、悪魔を排除しようと活動する家に育ててもらった癖して、悪魔と契約したのだから。

 

 それにそもそも、自分が死んだなんて言われたら不快にこそなれど楽しくは無いだろう。

 

 オマケに、時間が戻るなんてのも嘘くさいし、本当のことを言える理由が見当たらないのだ。

 

 しかし、嘘はつけない。

 

 とてもじゃないが、今のリンカは騙せないだろう。

 

「あのな、実は大事な人が大怪我してな。今はもう何ともないんだが、またそうなりかねないんだ。それを考えたら不安でな。」

 

 だから、嘘をつかず、しかし本当の事も言わない。

 

 ただ、曖昧に誤魔化すしかないのだ。

 

「そうだったんだ……。」

 

 大事な人という単語にピクリと反応したリンカは、少し考えるような仕草をし、

 

「なら私を頼ってよ、水くさいなぁ。困ったらいつでも呼んでもよ?レイより私のがそういうの得意なんだからさ。」

 

ニコッと笑顔を返した。

 

「ま、まぁちょっと合わせられないけどな。困ったら頼むよ。」

 

 今度は演技じゃない、心からの笑顔だ。

 

 そうだ、これで良い。

 

 やっぱり嘘なんてつくもんじゃないよな、幼なじみに。

 

 

 

 すっかり機嫌を直したリンカと共に石畳の街中を進むこと二十分。

 

 レンガ造りの住宅街を抜けた先に広がるのが俺とリンカの住む家。

 

 大臣の家とだけあって、館という言葉が似合うこの街で一番大きな建物だ。

 

 しかし、使用人数人で管理される広すぎない適度な面積で、茶色を基調としたデザイン。過度な装飾もなく至ってシンプルな建物でもある。

 

 悪魔除けの結界を張る門を抜け、

 

「ただいま帰りました!」

 

「ただまー!」

 

玄関を抜けると、目の前には階段が二階に伸びている。

 

 床は赤いカーペットが敷かれていて、慎ましくも美しいデザインだ。

 

「それじゃあ、荷物置いて朝ご飯食べいこっか。」

 

「おう、そうするか。」

 

 これから二階にあるそれぞれの部屋に荷物を置き、そのまままた一階の食堂に向かうのだ。

 

 多分、今俺は一周目とおなじ行動パターンに入っている。

 

 というのも、俺のローテンションでリンカは一周目と違う行動をとったのだが、機嫌を直してからは朝と同じ会話だった。

 

 空が何故青いのか、とか雲が灰色の理由だとかとにかく他愛のないことを一言一句変わらずリピートされていく。

 

 前回は依頼を嫌がる俺の機嫌をとるために明るく振舞っていたが、今回はあんな重い話をした俺を気遣ってハイテンションで励まそうとしてたのだ。

 

 そして、この後出かける準備までは同じことの繰り返しなのだろう。

 

 だったら流れに身を任せよう。

 

 ベッドや勉強机が置かれてなお物寂しさを感じる程広い部屋の隅にバックやライトアーマーを投げ捨てて、うぅーんと伸びした。

 

 丸一日くらい続いた緊張の糸がやっと切れたのだ。

 

 ここからは誰かを殺す必要も、誰かに殺される心配もない。

 

 ただ、危険が危なくないよう静かに過ごせばいいんだ。

 

 あんな殺伐とした状況思うと、考えるだけで頭痛が痛い。

 

 なんて冗談みたいなジョークはさておき。

 

 俺の部屋も一周目と何一つ変わらない。

 

 いや、部屋の景色なんてものはそんな頻繁に変わったりしないが、我らが屋敷の名物、ドジっ子メイドのララさんが風魔法を活用した掃除機を忘れて行っていることまで同じだ。

 

 彼女は角部屋である俺の部屋を最初に掃除するのだが、他の部屋の掃除はどうしたのだろうか。

 

 さっき廊下ですれ違った時はルンルンで外箒を抱えていたから、恐らく何らかの方法で完遂したのだろう。

 

 昔から謎の多いメイドさんだが、一応仕事はきちんとこなしていたりする。

 

 黒胡椒と屋敷にあるはずもない火薬を間違えてチキンを爆破したり、怪しいキノコのシチューで皆笑いが止まならなくなったりしたが、見逃せばやる気もあり優秀な人なのだ。

 

 さてはて、今はそんなことどうでもいい。

 

 というのも、きっと扉の向こうにはリンカが出待ちしているはずだ。

 

 一周目の時も俺が遅くてリンカが待ちくたびれていたのは記憶に新しい。

 

 俺がそっと扉を開けると。

 

「わぁ!」

 

「うわぁぁ!」

 

 俺が自室の扉を開けて廊下に出ると、案の定リンカが扉の影から飛び出してくる。

 

 もちろん脅かしてくることは知ってたが、ここで無反応過ぎるとまたしても怪しまれるからここはあえてのオーバーリアクション。

 

 全力のバックステップで唐突に現れたその姿に驚いた感を演出。

 

 景色が高速で巡っていき、かなりの浮遊感を感じる。

 

 その動きはさながらキュウリにビビる猫のようだ。

 

 リンカはさぞかし満足しているだろうと思い

表情を盗み見ると、その顔には驚きが満ちている。

 

 てっきりドヤ顔でもしてるかと思ったのだが意外だ。

 

「……え!……ろ……よ!」

 

 あまり聞こえないが、リンカが手メガホンで必死に忠告してるような仕草をしている。

 

 よく分からないが、これで怪しまれることは無いだろう。

 

 尻もちでもついて勢いを殺そうと思い手を後ろに伸ばすと、何か機械的な物に手が当たった。

 

 バフン!

 

 その瞬間、突如背中を突風が襲う。

 

 フワリと浮かされた俺はそのまま窓を突き破り、二階からまっさかまさだ。

 

 落ちる寸前見えたのは、呆れ顔のリンカと逆噴射する掃除機。

 

 ……どうやら、ララさんは掃除機を壊したから俺の部屋に捨てて行ったようだ。

 

 いや、持って帰れよ。

 

 てか、どういう壊し方したら逆噴射すんだよ。

 

 脳内でツッコミを終えた俺は、庭の芝生に着地……もとい墜落した。

 

「あのー、坊ちゃま!ララが集めたゴミ撒き散らかさないで下さいよ!」

 

 クラクラする頭の中で、明るい声が聞こえる。

 

「……。」

 

 文句も言う気になれない俺が目を開けると、掃除機から吐き出されたチリがその瞳に直撃して……。

 

「うぁぁぁぁ!」

 

「ぼ、坊っちゃま!」

 

 悶える俺の悲鳴が、街の静かな朝に響き渡った。

 

 

 

 朝から踏んだり蹴ったりの俺とアホを見る目のリンカが食堂に向かうと、既にリンカの両親が朝食を食べ始めていた。

 

 白髪に白い髭を生やしたダンディなおじ様がリンカの父親だ。

 

 優しげな顔立ちからわかる通り、温厚で慈悲深い人物である。

 

 行き先のない俺を拾ってくれた事もそうだし、他にも悪魔の被害にあった人々への支援も積極的に行っている。

 

 その隣に座るのは、ブラウンの髪を下の方で結った女性。

 

 言うまでもなくリンカの母親だ。

 

 父親似た雰囲気を纏った柔和な女性で、今年で五十になるとは思えない程若い。

 

「おはようございます。ユリウさん、ミキさん。」

 

「おはよー!」

 

「はい、おはよう。」

 

「朝から元気ね。」

 

 挨拶を交わしながら座った席には、既にハムエッグとパンが用意されていた。

 

 二人揃って食べ始めてからは、予想通りの展開だった。

 

 聞き覚えのある話ばかりだ。

 

「私トマト嫌いだから残していい?」

 

 多分これには、ミキさんがこう答えるんだ。

 

「「ダメだよ。残したら作ってくれた人に申し訳ないでしょう?」」

 

 頭の中で再生された声と現実が重なる。

 

「それでね、今日指名手配された魔物の討伐の依頼行きたかったんだ。」

 

「あぁ、いい事じゃないか。気をつけるんだぞ?」

 

 きっとユリウさんは笑顔でそう答える。

 

「いや、危ないからやめた方がいいんじゃないかな?リンカ達にはまだ早い。」

 

 はずだったのに、真剣な顔でリンカを制止した。

 

「え……?」

 

 別におかしくは無い受け答えに声を出してしまった俺に、二人が注目する。

 

「あ、いや、なんでもないです。ほらな?俺が止めて良かっただろ?」

 

 慌てて取り繕いながら、俺は首を傾げる。

 

 今の今まで一周目と同じだったのに、ここの部分だけ前回と違うのだ。

 

 その後話を聞いていても、それ以外は違わなかった。

 

 もしかしたら、俺がどこかで話をそらしてしまったのかもしれないな。

 

 分からないことだらけだが、一つずつ学んでいけばいいか。

 

 

 

 俺が体調が少し悪いと言い訳して依頼を受けなかったおかげで、残りはゴロゴロしながら本を読んだりお菓子を食べたり自堕落に過ごせた。

 

 特筆すべきものもない平坦な一日。

 

 自分が何をしたかを忘れかかっていた。

 

 それなのに。

 

 目を覚ますと、俺は荒野にいた。

 

 それまでベッド寝ていたのに、だ。

 

 俺の手には剣が握られていて、目の前ではうつ伏せの悪魔がうめき声を上げている。

 

 完全に、一周目と同じ状況。

 

 何が起きたのか把握しようと思い辺りを見回そうとするが、体が動かない。

 

 風の感触も剣の重みも感じるのに、動かすことだけは叶わない。

 

 ふと俺の体は勝手に歩きだし、悪魔に腰の辺りに座り込む。

 

 あとは、語る必要もないだろう。

 

 強制的に人を殺す感覚を与えられ続けた。

 

 一周目とは違い、冷静な頭でその感覚をただ味わう。

 

 意識がぐちゃぐちゃになっていき強烈な吐き気が襲う。

 

 それでも時間の感覚を失う程に続いた。

 

 一時間か、一日か、十分たった頃。

 

 ふと俺の手が止まる。

 

 滅多刺しにされ意識を失っていたはずの悪魔がこちらを振り向いたのだ。

 

「ねぇ?楽しい?」

 

 笑顔で、尋ねる。

 

 その狂気に満ちた質問に、答えなかった。

 

 トドメとばかり手に持っていた剣を、血に染った首元に振り下ろし……。

 

 

 

「あぁぁぁぁ!」

 

 強烈な不快感とともに飛び起きる。

 

 今度は体が動くし、いるのは自室のベッドだ。

 

「夢……だよな?」

 

 悪魔に剣を突き立てる感触が今も残っている。

 

「う、吐きそうだ……。」

 

 それがあまりにも生々しくて、あたかも本当にやっていたかのような感覚に陥っているのだ。

 

 夕食や夜食のお菓子が喉元まで迫っているのを感じる。

 

「ねぇ、君体調悪そうだけど大丈夫かい?」

 

「いや、大丈夫じゃない……。」

 

 心配する声をかけられてもそれどころじゃない。

 

 明るい声に少し気分が軽くなりつつ、頑張って逆流物を押し返そうとする。

 

 声の主が優しく背中をさすってくれるおかげで、一分とかからず落ち着いた。

 

 良かった。一人だと危うくゲロをぶちまけるところだった。

 

 ありがとう。

 

 そう声の主に伝えようとして、固まる。

 

 誰だ、こいつ。

 

 俺の自室には基本俺しかいないはずだ。

 

 まして月も傾き始める深夜に、起きてる人間などこの館にいるのだろうか。

 

 さっきとは違う恐ろしさに駆られて、ゆっくり、そっと後ろを向く。

 

 そこに座っていたのは。

 

「やぁやぁ!随分なことをしてくれたじゃないか!恩知らずも良いところだよ!」

 

 ピンク髪の、ヘラヘラとニヤけた悪魔だった。

 

 俺がめちゃくちゃにした、あの悪魔が今目の前にいるのだ。

 

「また無視するの?君って奴は相変わらず酷いね!」

 

 そんなふざけたような言葉に、俺はただただ固まってしまった。

 

 どうして、どうしてここに悪魔がいるのか。

 

 理解出来ない俺に、悪魔はふと真顔になり呟いた。

 

「君に会いに来たんだ。」

 

 その言葉に、俺は……。




マジで書いてると鬱になる気がします。

気がしてるだけでニヤニヤしてますけどね。

次話もお楽しみにお願いします!

感想頂けるととんで喜ぶので良ければ……


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