ペルソナ5~怪盗従者~ (砂原凜太郎)
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プロローグ~紅茶とテフ~

 


 帝国歴1186年翠雨の節。この日、帝都アンヴァルでは、敗戦を重ね、帝都まで攻め込まれたアドラステア帝国軍と、

 死んだはずの王子、ディミトリが率いる、ファーガス神聖王国軍の、全総力を持った戦いを繰り広げていた。

 

「これで、終わりだ!!ヒューベルト!!」

 

 現在帝都の城下町で指揮を執っていた帝国宮内卿、ヒューベルトはかつての級友、フェルディナントに追い込まれていた。

 

「こうして貴殿を帝都で迎え撃つとは、この世は何が起こるか分かった物ではありませんな。」

「ああ。だが私は、先生を信じると決めたのだ。」

 

 フェルディナントは騎馬から降り、槍を手に取った。オレンジのブロンドをなびかせる彼の顔は、ヒューベルトを討つ。その決意で満たされていた。

 

「そうでしたか………しかし私も、エーデルガルト様の為に負ける訳にはいきません。」

 

 そう言う彼は、その手に持った、魔導書(グリモア)を開いた。

 

「分かっている。ここにきても君は、絶対に引かない男だと。だから!!私が君を討つ!!」

「出来るものなら………やってみなさい!!」

 

 彼の描いた魔法陣から闇の魔道が放たれる。しかし、それを神聖武器、アッサルの槍にてフェルディナントは打ち払った。

 

「ハアアァァァァッ!!」

 

 彼の放つ刺突を、ヒューベルトは体をひねって躱した。

 

「真っ直ぐな攻撃、単調なんですよ。貴方は昔から、透き通った紅茶のように!!」

 

 そう言う彼の放った魔法で、フェルディナントの槍が弾かれた。

 

「ほら、これであなたは得意な槍が。ッ!!」

 

 しかし、とっさに魔法空間から彼が取り出したのは、もう一本の槍。英傑の名槍、グラディウスだ。

 投擲されたそれは、魔力媒介だった魔導書(グリモア)を縫い留めた。

 

「そう言う君は、相も変わらず真っ黒なテフ(コーヒーの事)の様だな!!」

「ッ!!その減らず口を、今すぐ叩いて差し上げます!!」

 

 更に激しく、己の魔力を使い放つが、それをフェルディナントは腰に差していた剣で防ぎ、ヒューベルトに斬りかかる。

 

「ハアアァァァッ!!」

「オオオォォォッ!!」

 

 そして、ヒューベルトの泥ににじんだ白手袋に包まれた手が、フェルディナントの顔を掴んだ。

 

「ク………クク。非常に残念ですね。もう少しでその貴殿のムカつく正義面を吹き飛ばせたのですが………。ガフッ!!」

「ヒューベルト………。」

 

 苦し紛れに憎まれ口を叩く彼の腹には、フェルディナントの剣が突き出ていた。

 

「何故だ。君の魔力なら………。」

「勘違い………しないで………いただきたい。情が移ったのでは………ありません………。貴殿のような………優秀な人材が………なくなるのは………惜しい………ですからな………。」

「ヒューベルト………。」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ヒューベルトSide

 

 何故そんなつらそうな顔をするのです?フェルディナント殿。戦場でよく呟いているではないですか………貴殿に戦場で敵に情けを駆ける猶予などなかったのですよ。

 これでいい。フェルディナント殿。貴方は帝国に逆らった帝国貴族と言う十字架を背負い、時代の国を育てていくのです。

 貴方の様なまっさらな紅茶には………光の世界がお似合いだ。

 

「フェルディ………ナント………どの………。」

「ッ!!ヒューベルト!!」

 

 まだだ、まだ大切なことを伝えなければ!!動け!!我が身体!!今までずっと、私の意思で動いて来たでしょうが!!

 己に鞭を打ちつけながら、左手の手袋を取る。中指に付けた指輪を、外した。

 

「私の………書斎の………隠し扉を開くための………。」

「ッ!!分かった!!書斎だな!!」

「フェルディナント殿…………。貴殿はやはり………紅茶ですな。」

「ッ!!ヒューベルト。」

 

 全く。そんな顔で看取らないでいただきたい。敵にそのような顔をされても全く嬉しくない。

 

「エーデルガルト様を………主の………意思を………。」

「分かっている………!!お前たちの遺志を継ぎ、私は素晴らしき国を作ってみせる………!!」

「託し………ますよ。」

「ッ!!」

 

 そんなに驚かないでいただきたい。私だって、生涯で一度は、本音をさらけ出してもいいでしょう。

 

「貴殿は………勝ったのです………だから………この私を………エーデルガルト様の国を………越えて見せろ………!!」

「ヒュー………ベルト………。」

「分かっているな………!!勝者の義務を………必ず果たせ!!でなければ………呪う!!」

「分かっているさ………だから、せめて………安心して逝け。」

「ええ………期待………しておいて差し上げます。」

 

 全く。貴殿と言う男は………。託しましたよ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 そして、一人の男が逝った。

 フェルディナントは、その後、貴族の中の貴族と呼ばれるほどの男となり、名采を振るい数々の逸話を残した。

 一方ヒューベルトはと言うと………。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ここは………?薬品の匂い………病院ですかな?何故だろう?身体が上手く動かない………眼もかすんで見えますな………。

 そもそも私は死んだはず。あの時の感覚は確かに………

 

「おめ……………ます。おと…………す…。」

 

 何か聞こえますな。

 

「よかった………本当に………。」

 

 鬱陶しいですな。一体何に泣いているというのです?

 

「で、名前はどうするんだ?」

「う~ん、そうね。ヒューベルト、なんてどう。」

「いい名前だな。良かったな、ヒューベルト。」

 

 何故私に向かって行ってくる!?何を言っているのだこの夫婦は、私がお前達から生まれた赤ん坊だとでもいうのか⁉

 待てよ………生まれた………赤ん坊………。

 とっさに体を動かしてみる。見ると、私の手と思しき、ちんちくりんな手が見えた。

 これは………まさか………。

 

「ヒューく~ん。ママですよ~。」

 

 やめろ!!私をそんな目で見るな!!

 

 顔を真っ赤にして悲鳴を挙げたくなった。これが私の、転生だった。




 次回。渋谷へ、


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2話

 私がこの世界、この世界共通の年号、『西暦の世界』とでも呼びましょうかな。この世界に転生してから早17年。人生とは早いものですな。

 私は転生してからこの世界のありとあらゆることを調べつくしました。幸いこの世界には、スマホやパソコンなる、情報収集に長けた機械がありましたからね。

 分かったのは、この世界はフォドラの世界とは全く別の世界であるという事。

 フォドラと言う大陸は、どの地図を捜し、どの歴史書を見ても確認されませんでした。まず間違いないでしょう。…………寂しいのは否めませんね。

 この世界に魔法の文化は無いという事。無いだけであって、魔法自体は何の問題もなく行使できるようです。魔方陣の展開だけにとどめていますがね。

 

 私は去年から親の勧めで入った秀尽学園に通っている。私が住んでいる都市は東京と言い、この国の首都の様だ。

 この学園には、鴨志田卓という、元はオリンピックと言う国際大会のバレーボール部門で金メダルを手にした男が体育の教師を務める、ぜいたくな学校ですな。

 しかしこの鴨志田、昔から体罰の噂があり、正直この男は好きませんな。あの鳥の巣頭め。

 そんな事を思いながら、スマホでニュースを見る。最近は精神暴走やら廃人化と言った物騒な事件が相次いでいる。この国の政治に文句が問われているようですな。

 そう言えば、学校の裏サイトに『前歴持ちの転校生が来る』と言う噂が立っていましたね。全く、平和ボケした非武装国家の癖して物騒な世の中です。

 

 そんな他愛のない平和ボケした国にふさわしい話題の記事を読みながら、秀尽学園への最寄駅、青山一丁目に到着する。

 改札を出て、空を見上げる。あいにくの雨ですな。ふと隣を見れば、パーカーを被った金髪の少女が雨宿りをしていた。

 彼女は確か…………高巻杏殿。私のクラスの同級生で、イギリス人の血を引いている人間でしたな。

 件の体育教師、鴨志田卓と関係があるとの噂もありますが、あのエロゴリラが彼女の趣味とは思えませんし。デマでしょう。

 ふとその奥を見れば、黒髪のくせっ毛の生徒が、高巻殿に見とれていた。彼の顔は覚えがありませんね。

 まさか、噂で書き込まれていた転校生でしょうか?私は事情は知りませんが、とても暴力を振るうような体質には見えませんね。

 裏サイトでは無免許運転に恐喝、常にナイフを持ち歩いており、目と目があったらタイマンバトルと言うポ○モントレーナーみたいな感じで殴ってくる。

 挙句麻薬に象牙の密売、ホントは殺しもやっている。実は裏社会で犯罪業界の若きナポレオンと呼ばれている。

 と、まるで現代のモリアーティであるかのように言われている人間みたいには見えませんな。

 まぁここまで尾ひれがついていれば信じるのはただのバカでしょうが。

 

 そんな事を考えながら、雨宿りをしていると、クラクションの音がした。ふと見てみると、件のモジャ公鴨志田卓が、車の中から顔を出していた。

 

「おはよう、遅刻するぞー。」

 

 そして、車からそう忠告してくる。自分は屋根付きの四輪自動車に乗っているから雨の中でも余裕でしょうがね。そのまま事故を起こして死ね。

 まぁ、この言葉の対照は、恐らく関係を持っていると噂されており、彼が一方的に色目使っている高巻殿でしょうが。

 

「よかったら送ってこうか?」

 

 その人当たりのよさそうな言葉に甘えるように、彼女は了承した。無言で椅子に座るが、彼女の表情は暗い。何か事情があるのでしょうかな?

 鴨志田はその経歴から行内でも強い発言力を持つ。クズが権力を持つとどうしようもなくなるのは道理なのでしょうな。

 

「君達も同だ?」

 

 私と恐らく転校生であろう青年に声を駆けますが、貴殿の汚らしい心に染まった車などこちらから願い避けですな。

 転校生も、恐らく高巻殿に遠慮をしてでしょうが、首を横に振った。

 

「そっか。遅刻するなよ~。」

 

 そう言って車は地球に有害な二酸化炭素を掃出しながら走り去って行った。すると、

 

「クソッ!!間に合わなかったか。」

 

 そこに来たのは、金髪のいかにも『ヤンキーです。』と言う札を掲げて歩いていそうな男が居た。

 高巻殿とは昔からの知り合いらしい、坂本竜司殿だ。

 こんななりをしていますが、元は陸上部のエースだった青年だ。件の鴨志田相手に暴力事件を起こしたとされていますな。

 まぁ、何があったのかは知りませんが。

 

「あの変態教師め……………。」

 

 地面を蹴飛ばし、恨めしそうに毒づく竜司殿。よほど恨みがあるのでしょうな。

 

「変態教師?」

 

 その言葉をオウム返しするように転校生が疑問符を投げかけた。

 

「ん?」

 

 その声に坂本竜司が彼に顔を向けた。

 

「何だよ?」

 

 そして、彼に詰め寄る。

 

「もしかして、鴨志田にチクる気か?」

「鴨志田?」

 

 しかし、転校生は首をかしげた。

 

「さっきの車だよ。鴨志田だったろ。」

「もじゃもじゃの…………。」

 

 彼が思いだしたかのように言うと、

 

「へぇ。言うじゃん。」

 

 そうまんざらでもないと笑う坂本竜司。

 しかし、鴨志田の事を思い出したのか舌打ちする。

 

「好き放題しやがって。お城の王様かよ。…………そう思うよな?」

 

 そう転入生に問いかける。

 

「?」

 

 しかし、転入生は鴨志田の事を知らないのか、頭にはてなを浮かべている。

 

「どこの城だ?」

 

 そして飛び出したのは唐突な天然発言だった。

 

「あ、いやそうじゃなくて…………。」

「随分ともどかしそうですね。坂本殿。」

 

 仕方ないので話しかけてやると、

 

「ヒューベルトか。こいつ話が合わなくてよ……………。」

「ならさっさと別れを告げればいいでしょうに。」

「いやそういう訳にもいかね―じゃん。」

「ククク。貴殿はお人好しですな。」

 

 本当に、どこかの紅茶(誰か)に似ている。

 

「お前が陰気すぎんだよ!!つーか、コイツ誰なんだ?」

「決まっているではないですか。噂の転校生君ですよ。」

 

 そう言うと、彼は驚く。

 

「マジか⁉前歴持ちの!?」

「…………まぁな。」

 

 坂本竜司の投げかけに彼はメガネを直して頷いた。小洒落た動作ですね。

 

「何はともあれ、急ぎましょうか。このままでは遅刻ですよ。」

「…………そうだな。来いよ。近道教えてやる。」

「……………頼む。」

 

 そして、坂本殿の案内で歩いていく。狭い路地裏を抜けると、

 

「…………………へ?」

「道を間違えましたかな?」

「…………………ディズ○ーランドか?」

「「どう見ても違うだろ(でしょう)。」」

 

 そこにあったのは、禍々しい城だった。しかし、決して金で動いている鼠と夢の国(笑)ではないと思いますな。

 見ると、『目指せ!!全国大会!!』や、『祝!!バレー地区大会優勝!!』と言った華々しい文章が、書かれた横断幕。この横断幕、それに、表の看板、

 見ると学校の石碑に酷似した物、そこには、『秀尽学園高校』と書かれている。妙ですな。妙なものを食わされたり幻覚剤を投与されたり嗅がされた覚えはないのですが………。

 

「……………とりあえず、入ってみようぜ。」

 

 ……………それは愚策だと思うのですが、

 

「私はここで待たせていただきますよ。」

「?何でだよ?」

「どう見たって怪しいでしょう。私はここで待ちますな。」

「そうかよ。行こうぜ。」

「………わかった。」

 

 どうやら転校生殿は愚策の方を選んだ用ですな。坂本殿と一緒に扉を開けて入って行く。心配ですな。後をつけるとしましょう。

 しかし、門から入るのは不味いでしょうな。どこかに潜入経路は…………。

 そう考え辺りを見回すと、十字の換気口が見えた。おやおや、鉄格子も付けないとは。

 

 飛び上がり、換気口の入り口に手を掛け、そのまま体を入れる。フム。少々体が鈍っていますな。これでは見つかるかもしれない。

 

 反対側の出口となりうる部分には鉄格子が駆けられていますが、このタイプなら、掴んで、外せば…………。

 

 ガコン!!

 

 力を入れれば、鉄格子はあっけなく外れた。換気口の出口の下には棚が、これならば、物音を立てることなく、この格子を処理できますな。

 さも前から立てかけられていたかのように立てかける。そのまま棚から飛び降り、地面に降りる。

 小さな小部屋ですな。ん?

 外から、ガコン!!ガコン!!ガコン!!と言う音が響いてきた。これは………重層鎧の足音?

 

 少しだけ扉を開け、中を覗く。そこには、転校生殿と坂本殿を脇に抱え、歩いていく鎧の一団が。後を付けてみましょうかな。

 幸い、あちこちにソファーが配置されており、隠れる場所には困りませんな。一定の距離を保ちながら移動して行く。

 そのまま螺旋階段を下りて行く。これは…………もし相手が上ってきては困りますな。

 見ると、無骨な長剣が壁に立てかけてある。仕方ありません。これを使いましょうか。

 近くにあった鞘におさめ、ベルトに差し込む。十分使えますな。

 螺旋階段を下りれば、そこは地下牢だった。

 じめじめとしており、水が流れている。牢に入れられている人間たちは頭に矯正具の様な物をかぶされており、うめき声が絶え間なく聞こえる。

 なんなんだこの空間は……………まるで……………。

 まるでアガルタの実験施設だ。その考えが言葉に出そうになり、呑み込む。

 

「いったい誰なのでしょうな。このふざけた城の主は。」

 

 そんな言葉をこぼし、さらに奥へと進んでいく。




 ヒューベルトのペルソナ覚醒はもう少し先になります。


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色欲の城主

 あの全身鎧の兵隊たちは、竜司殿と転校生殿を牢獄に放り込み、どこかへと行ってしまった。

 先ほど目が覚めたお二人は、出口が無いか、懸命に探している様子。

 フム………助けたいのは山々ですが………、鍵が無い事にはどうしようもありませんな。今はまだ、様子を見ているしかないでしょう。

 そう考えたのも、束の間だった。再び鎧の兵士がやってきていたのだ。

 

「喜べ、お前たちの処刑が確定した。罪状は、【不法侵入】である。」

 

 そう、偉そうに宣言する。何だコイツ。頭がわいているのか?すると、

 

「鼠が入り込んだと聞いたが、まさか貴様とはな、竜司。」

 

 そう言って、奥からもう一人、男がやって来た。

 

「…………は?」

 

 流石の私もそう言葉をこぼさずにはいられない。何故ならそいつは、ハートの模られたケープに、玩具の様な王冠を頭に乗せた、ピンクのブーメランパンツ一丁の正真正銘の変態だったから。

 しかも、そのスネ毛ぼうぼうの変質者の、黒のモジャモジャの頭部。目が怪しく金色に光っているが、認めたくはないが、ぜぇったいに認めたくないが、栄えある我らがベレー部顧問、鴨志田でしょう。

 

「は?鴨志田?」

 

 思わず、そう声を出してしまい、

 ガッ!!と、鎧兵に押さえつけられる。不覚…………!!

 そのまま殴られ、私は意識を失った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ぐ…………。」

 

 その後、目を覚ました時には、私は鎖で柱に縛りつけられていた。

 

「ここは…………。」

 

 見ると、目の前にはニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべた鴨志田がいた。

 

「鴨志田………グフッ!!」

 

 そう声に出した瞬間、腹を殴られる。

 

「気安く呼び捨てるな。全く、さっきはあのくせ毛の奴のせいでひどい目にあった。」

 

 くせ毛………?自分のことを言っているのか?そんな訳は無いと思うが………。

 

「少し、いたぶらんと気がすまん。恨むのなら、俺様の城に入って来た、いや、俺様の機嫌を損ねたことを、後悔するんだな。」

「何を………ふざけたことを………ガッ!!」

 

 再び殴られる。

 

「まったく、自分の罪にも気が付かないのか?オレはアイツを、坂本を一人にさせたかったというのに、お前ときたら、俺の気持ちも理解せず、坂本に手を差し伸べる、仲良くつるむ、、せっかく潰した元陸上部の奴らにも、奴との仲を取り直そうとする。邪魔なんだよ。」

「それはそれは………エロゴリラではなくクズゴリラでしたがっ!!」

 

 今度は顔だ。

 

「フフッ、機嫌を見事に損ねられて、私としては満足ですよ。ざまぁみろ。」

 

 口が切れたか………ぽたぽたと血が出る。

 

「フン。それにあの天才少年の件だ。輝くのは俺様一人で十分なんだよ。所詮は子供、そう考えて、アイツに孤立感を与えて鬱にさせ、やめさせてやろうと思ったのに、コイツもお前に邪魔されたせいで、のうのうと学校生活を送ってやがる。」

 

 彼の件ですか………何とも身勝手ですね。

 

「お前をはめようにもずる賢いからなぁ。ここにきてくれて感謝するよ。何の証拠を残すこともなく、お前をいたぶり殺せるんだ。」

 

 下卑た笑みを浮かべる鴨志田。

 

「ふざけていますな………。」

 

 思えば、そんな言葉が口からこぼれていた。

 

「金メダリストにしては、品性も無く、下劣な輩とは思っていましたが、ここまでとは。」

 

 そんな時、バンッ!!音がして扉が破られ、マジシャン風の服装をして、仮面を付けた男、髪型と、特徴から見るに、転校生殿でしょうか。と、竜司殿、そして得体のしれない黒猫が、突っ込んで来た。

 

「自信が輝くため、他人を貶め、いたぶる。人を人とも思わないクズ。私は………そう言うたぐいの人間が、反吐が出るほどに、心の底から大嫌いなのですよ!!」

 

 自分らしくもなく、そう怒鳴り、鴨志田を睨みつける。

 

《ようやく、その気になった様だね。》

 

 その瞬間、私の頭に経験したことのないレベルの痛みが迸った。

 

「がっ!?」

 

《現世に戻ってはや16年。この平和な世界じゃ、無理もない。

 しかし、弱者をしいたげ、搾取する。人を人とも思わない悪魔、それが目の前にいるとしたら、どうする?

 討つべき悪魔が目の前にいる。それを放っておく、キミじゃないだろう?》

 

「………当然でしょう………。」

 

《なら、契約と行こうか。我は汝、汝は我。さぁ、ぬるい日々に別れを告げ、悪魔を打倒して見せよう》

 

 ボッ!!と、黒の仮面が私の顔に付く。

 蒼き炎が、私を縛る鎖を溶かし、仮面を手に取った。

 

「さぁ、始めましょう、来なさい!!」

 

 その言葉と共に、現れたのは、長コートに、杖、シルクハットをかぶった紳士。

 その瞳は、赤く輝いている。

 

《ボクは憂国の反逆者、『モリアーティ』さぁ、悪魔どもに裁きを下す時間だ。やり方は任せるよ?》

 

 そう言い、私に目を向けてくる。見れば私は、アドラステアの宮内卿だったころ(あのころ)の服を身に纏い、腰に短いナイフと、闇色の長剣を携えていた。

 

「マジかよ…………。」

「ありゃぁトンデモねぇ。」

 

 竜司殿と猫が、そう言葉をこぼす。

 

「お手並み拝見だ。ヒューベルト。」

 

 見れば、私の隣に転校生殿が立っていた。

 

「クソッ!!貴様ら、やれェッ!!」

 

 その言葉で、衛兵が次々と現れる。それは赤黒い光と共に、カボチャみたいな見た目をした怪物と、羽の生えた女に変貌する。

 

「ククク、お見せしましょう。」

 

 カボチャの怪物が向かってくる。

 

「ハァッ!!」

 

 その突撃を躱し、長剣で一蹴。背後を取った妖精の雷撃を躱し、ナイフを投擲。

 そのまま流れる動作で、仮面を外す。

 

「仕留めなさい、モリアーティ!!」

 

 その言葉に呼応するように、闇の球体が、カボチャと妖精を葬る。

 

「残念ですが、貴方はもう終わりですな。鴨志田殿。」

 

 そう言い、剣を突きつけた私の瞳は、きっと輝きを取り戻していたのでしょうな。




 ペルソナ解説【モリアーティ】
 属性は今作オリジナル、【闇】
 アルカナは【運命】
 今後強化されて行きます。お楽しみに!!
 
 次回、城から抜け出すヒューベルト達。だが、竜司は城で見た光景が、どうにも忘れられず、再び城を訪れる。次回【四番目の髑髏】


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夢か誠か。

「ここまでのようですな、鴨志田殿。」

 

 そう言い、鴨志田殿の喉元に剣を突きつけた。しかし、

 

「がっ!!」

 

 頭痛が響き、剣を取り落とした。これは…………反動ですかな?

 

「ふ、ふふふふふ。」

 

 さっきまで腰を抜かしていた鴨志田が、無様に笑いだした。

 

「ど、どうやら運は俺様に向いてるようだな。衛兵!!コイツを殺せ!!」

 

 その言葉と共に、金の鎧をまとった衛兵が現れる。

 

「チッ!!」

 

 この世界に転生してから17年。もちろん鍛錬は欠かしていない。この近くにはジムと言う便利な施設がありましたからな。

 その鍛えた脚で飛び上がり、階段を下りて雨宮達のもとへ降りる。

 

「ヒューベルト!?」

「脱出ルートがあります。こちらに。」

「え?脱出って、」

「でかしたな!!行くぞ!!」

 

 謎の黒い猫がそんな事を言う。が、今はまさに猫の手も借りたい状況。仕方ないですな。

 

「ええ。付いて来てください。」

 

 そう言い、素早く近くの扉になだれ込む。見た限りここはバルコニー。だとしたら私が侵入した通気口は…………私から見て左側の扉!!

 

 バンッ!!と勢いよく扉を開けて廊下を見れば、この城に初めて入った時私が出て来た扉が開けたままになっている。チャンスだ。

 

「雨宮殿!!それとそこの猫!!扉を!!」

「任せろ!!」

「分かった!!あとワガハイは猫じゃねぇ、モルガナだ!!」

「はいはいそれはいいですからきりきり働きなさい!!」

 

 何か抗議する猫を一蹴し、二人がかりで扉を押さえる。

 

「竜司殿、あそこの通気口から外に出られます。貴殿は足手纏いですので早く。」

「あ、足手纏いって…………。」

「何でもいいのでさっさとなさい。」

「アッハイ。」

 

 おずおずと棚を上り、通気口に入る竜司殿。あとは、

 

「雨宮殿、モナ猫、準備完了です。この部屋の通気口から逃げてください。」

「ああ。」

 

 謎の服装の蓮殿は軽やかな動きで通気口を抜ける。

 

「だからワガハイはモル…………」

「ええい鬱陶しい!!」

「うがッ!?」

 

 うるさい猫の顔面を鷲掴みにし、

 

「さっさと出なさい!!」

「ギャース!!」

 

 見事な放物線を描いて飛んで行ったそして最後に私が通気口に足をかけた時、

 

「待て!!」

 

 兵士が入り込んで来たが、

 

「遅かったですな。」

「ぐがッ!?」

 

 投げナイフが顔面に直撃し倒れる。最後に、

 

「モリアーティ!!」

 

 ドーラΔで壁の一部を吹き飛ばしてから、通気口を抜けた。

 

「雨宮殿、竜司殿、大丈夫ですかな?」

「あ、ああ。」

「大丈夫だ。」

「いやまずワガハイの心配しない!?」

 

 猫が抗議してますが、知ったこっちゃありませんな。

 

「さてと、こんな気味の悪い所は、さっさとオサラバしましょうか。」

「お、おい、いいのかよ!?」

 

 竜司殿が、何か未練がましそうに私に抗議してくる。

 

「それとも何か?あそこで拷問生活を送るのがいいのですか?まあそう言う趣味の人間もいる事ですし、死んでも自己責任という事で。」

「そう言うシュミはねーよ!!そうじゃなくて、ちょっと…………」

「何か気になることが?」

 

 私がそう問い返すと、

 

「ああ、実は…………。」

 

 牢獄の様な場所に、秀尽学園(我々の学校)の体操服を着た者達が捕らわれていたとか。

 

「ふむ。まぁ、後でゆっくり考えればいいでしょう。」

「え?」

「一旦出ますよ。」

「で、でも」

「何度も言いますが、このまま残っていても何もできません。一旦帰るが最善です。」

「ぐっ…………。」

 

 言葉と共に睨みつければ、竜司殿は押し黙る。まったく、一時の感情で動こうとする無能はこれだから困る。冷静に全体を見極める必要が、今の様な命を左右する局面においては大事だと言うのに。

 感情の正義出来ない奴はゴミですよ?

 

「行きましょう。」

 

 そう言い、彼らに背を向け元来た道を戻って行く。

 

「あ、ヒューベルト待てよ!!」

「…………。」

 

 無言でついてくる蓮殿と慌てて追いかけてくる竜司殿。

 

「あ、おい、待てよ!!おーい!!」

 

 あと猫の声が聞こえますけど、無視しましょう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 そして、路地を抜けると…………

 

「どうやら帰って来たようですな。」

「あ、ああ。」

「そのようだな。」

 

 いつも通りの風景が広がっていた。となるとあの風景は何だったのか。異様な城は?ハダシのゲンならぬパンイチのカモシダは?まぁ、気になることもありますが、今は急ぎましょうか。

 

「学校へ行きましょう。」

「あ、おお、そうだな。」

「あ、あれは夢だったんだ。夢…………。」

「君達、何をしているんだい?」

 

 すると、チャリに乗った警官が二人こちらにやってくる。

 

「こんな昼時に何やってるんだい君達。さぼりか?」

「あ?違うって!!学校行こうとしたら変なしr」

 

 余計な事を言う前に祖父から頂いたヴィンテージスティールの鉄の踵で踏みつけておく。

 

「あぎゃあ!!」

「見つかってしまったのなら仕方ないですね。行きますよ。」

「そうだな。遅刻したくない。」

「多分遅刻は確定ですがね。」

「ま、マジか……コイツら…………。」

 

 脚を抑える竜司殿を引きずって行く。なんか警官が呼びとめてくるが、無視しましょう。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「マジかよ…………。」

 

 坂本殿は、唖然としていた。

 

「同じ道…………来たよな?」

 

 先ほどと同じ道を言った私達は、普通の秀尽学園に到着した。城らしきものは一切見当たらない。やはり、あの日私達があそこで見た物は…………。

 

「まったく、お前達はどうなってるんだ。」

 

 すると、玄関から出て来た指導教員が腕を組んでこちらを見下ろしてくる。

 

「補導の連絡があったぞ。」

 

 あの警官チクったんですね。まぁ、逃げたんで仕方がないですな。

 

「それにしても、お前が一人じゃないとは珍しいな、ヒューベルト、お前が坂本と、あと雨宮と一緒にいるなんて、どういう事だ?」

「いえ、ちょっと学校の外でゴタゴタがありましてね。詳しい話は中で話したほうがいいと思うのですが、」

 

 一応私は、表向きは人当たりのいい優等生を演じている。さてと、あのモジャシダが出てこなければこれで穏便に…………。

 

「まったく。坂本。こんな時間まで何処ほっつき歩いてたんだ。」

 

 私の態度にため息を付いた教師は、竜司殿に目を向ける。対して竜司殿は目を合わせようとせずに、

 

「……城?」

 

 と、一言。

 

「真面目に答える気は無いわけか。まぁいい。それなら」

「『城』がどうしたって?」

 

 何で来たこのゴリシダ。

 そんな言葉と共に現れて来たのは我らがゴリシダではなく鴨志田。

 

「呑気だな、坂本。陸上の朝練やってた頃とは大違いだ。」

「るっせ!!テメェが…………。」

「鴨志田先生になって口きいてんだ!!」

 

 竜司殿が鴨志田に何かを言おうとすると、指導教員が怒鳴りつける。

 

「坂本、お前なぁ、もう後ないんだぞ。」

「向こうが煽って来たんだろうが!!」

「ほんとに退学になりたいのか!!とにかく事情聞くからな!!来い!!」

「はぁ!?ふざけんな!!」

 

 あきれたように言う指導教員を、竜司殿は睨み返す。

 怒ってるところ悪いですが竜司殿、大遅刻は事実ですからな。

 

「まぁまぁ、私も配慮が足りませんでしたし。ここは両成敗という事で!!」

 

 クズシダおっと間違えた。鴨志田殿は人当たりのよさそうな笑みを浮かべ、そんな言葉を口にする。

 

「え?まぁ、鴨志田先生がそうおっしゃるなら…………とにかく来い!!大遅刻は事実だ!!」

 

 そう言うと、我々三人は指導教員に連れて行かれた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《Side 雨宮》

 

 あの後昨日のあいさつで会った担任の川上先生にちょっとしたお説教を受け、教室に付いた。あの不思議な空間は夢だったんだろうか。しかし、あの不可思議な空間に居た男と、モジャモジャの体育教師の顔。それから…………

 

『新しい学校生活。せいぜい楽しめよ。』

 

 人当たりのよさそうな笑みから放たれた、すれ違いざまの言葉。あれがどうにも気になる。

 

「ほら、挨拶して。」

 

 担任の川上先生の言葉でふと、我に返った。

 

「…………宜しく。」

 

 そう言うと、

 

「大人しそうだけど…………キレたら、」

「だって、傷害でしょ?」

「えっと…………。」

 

 生徒たちの噂話に、先生も困っている。それも仕方がない。地元で酔っ払った男性から女性を引き離そうとしたら男性がもんどりうって転び、訴えられ、とんとん拍子に進んだ裁判で見事に『障害』の前科だ。

 おかげで上京出来て、転校初日に人気者だ。皮肉なものだな。

 

「それじゃ、そこ座って。空いてるとこ。」

 

 そう言われて空いている席に座った。教室の隅。隣の席には…………

 

「…………。」

「……えっと…………なに?」

 

 びくびくしながらこちらを眺めている少年がいた。

 …………小さい。どう見ても小学生くらいしか身長が無い。驚いてみていると、おずおずと声がかかった。

 

「ああ、すまない。初日だから教科書が無くてな。見せてくれないか?」

「え?あ、うん。」

 

 そう言うと、教科書を渡す。

 

「?これじゃお前の教科書が無いだろ。」

「え?えっと…………。」

「オレは貸してもらってる立場だ。君が持ってるのを覗かせてもらうだけでいい。」

「そ…………そう?じゃ、じゃぁ…………。」

 

 俺の渡した教科書をおずおずと取る。なんか動きが小動物みたいだな。

 

「あの…………あんま…………見ないで…………。」

「あ、ああ。すまない。」

 

 こうして、授業が始まった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

放課後

 川上先生から坂本と関わるなと言われたが、屋上にヒューベルト共々呼び出された。遅刻の件は、ヒューベルトが最もな感じの理由をでっち上げた。

 

 坂本の話を聞いた限りだと、あの城で見た男は鴨志田卓。この学校の体育教師であり、元オリンピックバレーボール金メダリスト。彼のバレー部も全国大会で優勝しているらしい。しかし、坂本曰く、黒い噂があるそうだ。

 その話を聞きたかったが、あまり遅くに帰ると身元引受人の佐倉さんの逆鱗に触れる。

 今日はもうこの辺にして変えることにした。

 

 そして校門を出ると、

 

「あ……あの…………。」

 

 と、後ろから声をかけられた。振り返ると、小学生くらいの背丈の少年。俺に教科書を貸してくれた子が、話しかけていた。

 

「どうした?」

「…………待ってた。」

「俺をか?」

「…………(コクリ)」

「そうか。家は何処だ?」

「…………東太子堂」

「近くだな。なら、一緒に帰るか?」

 

 ついつい地元の子供をあやすような口調になってしまうと、

 

「あんまり子ども扱いしないで。」

 

 ムッとした表情でそう言った。

 

「すまない。そうだな。行こう。」

 

 フッ、と笑って、背を向ければ、おずおずと付いて来た。




 次回、少年との絡み。そして、竜司とヒューベルト、雨宮は再び城へ赴く!!


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【天才少年】

 投稿遅れて大変申し訳ございませんでしたぁ!!APEXにドハマリしてしまい、申し開きの使用もございません!!サーセンでした!!


 朝、変な城で変なもじゃもじゃに会って死にかけ、昼間に大遅刻を喰らう羽目になった。俺、雨宮蓮の転校初日は、そんな摩訶不思議で散々な形で終わった。

 まぁ、元々、ここに来たのも散々な理由だったな。と、自虐する。

 そんなこんなで、帰路に就いた俺の隣には、小学生位の背丈の、いや、話を聞いたところ、本当に年齢は小学生らしい。海外で実証されている【飛び級制度】その日本での実用化の為の実証例として、この修尽学園高校に通う、【天才少年】。

 飯伏銀がいた。

 

「なぁ、」

「な…………何?」

 

 話しかけると、このようにまるで小動物のようにビクついた動きで反応する。もともとコミュニケーションが苦手なのか、それとも、常時、年上が周りにいる空間がプレッシャーなのか。

 

「なんで俺に声なんかかけたんだ?俺のうわさは、広まってるのだろう?」

 

 かかわらない方がいいんじゃないか?というのは、少し意地悪な質問かもしれない。だが、俺の今の学校でのかかわりと言えば、暴力沙汰を起こしたらしい竜司と、なんか悪役参謀みたいで何考えてるか分からないヒューベルト。まぁ、あいつは信頼できると思うが、正直、この二人は、純粋無垢な12歳(子供)の教育にはよろしくない気がする…………。

 

「…………うん。…………障害で捕まった…………って。あと、カツアゲ、殺人、盗みに、…………象牙の密売?…………あと、田舎の裏社会の裏のトップだとか。」

 

 なんか気が付いたら大犯罪者になってないか?何だそのモリアーティ的な存在は、

 

「ちょっと待て。なんかうわさが暴走してないか?それは確定で少年院行きじゃないのか?…………。」

「うん…………。ここまでやったら…………少年法でも…………守り切れないし。…………そのそも、そんな田舎じゃ象牙の密売は無理。だと思う。」

 

 まぁ、面白半分で流された噂という事か。

 

「…………大変だね。」

「…………ああ。」

 

 12歳児にそう言われるとは、これは相当疲れた顔をしてるな…………。

 

「しかし、天才少年…………か。何か、詳しい科目とかあるのか?」

「…………心理学。」

「心理学?」

「ボクは…………あんまり上手く人と絡めないんだ。」

「…………ギフテッドというやつか?」

「ううん…………それとは別。ボクは…………『じへーしょー』とかいう病気らしくて。」

 

 自閉症。さっきから目を合わせようとしないのはそれでか。確か、どこかの本にそんなことが書いてあったな。

 

「あんまり周りと上手くなじめないんだ。…………だから、相手の心が分かれば、上手く空気が読めるかな…………って。」

「…………難しい話だな。」

 

 人の心というのは、そんな単純なものじゃないだろう。

 

「…………わかってる。でも、皆と、仲良くなりたいし…………。」

「そうか…………。すまない、話をそらしてしまったな。話を戻すが、なんで俺に声をかけたんだ?」

「…………興味があったから。」

「興味?」

「傷害で捕まったって。それで、転校初日に理由もなしに大遅刻。オマケに、坂本君と一緒にいたっていうし。」

「ああ。」

「でも、ボクが教科書丸々渡したら、返してくれたし。なんか、【超絶ヤバい問題児】のイメージとはちょっと違って、もしかして、何か逮捕には理由があったんだと思ったんだけど、でもそうしたら大遅刻の説明がつかないし…………。」

 

 なるほど。

 

「まぁ、お前の読みは正しいな。確かに逮捕には理由があったな。」

「…………大遅刻の方は?」

「まぁ、それも理由がある。」

「何?その…………理由って、」

「気が付いたら謎の城にいて、鴨志田によく似たピンクのブーメランパンツ一丁の変態の王様に殺されかけたって言ったら?」

「…………。」

 

 ジト目で返された。まぁ当然か。

 

「本当は?」

 

 さっき話したことが真実だ。

 

「冗談だ。他校の不良ともめててな。時間がかかってしまった。」

「ふぅん…………まぁ、ヒューベルト兄ちゃんも一緒だったみたいだし、そうなら納得…………。」

「ヒューベルト…………兄ちゃん(・・・・)?」

 

 あの悪役参謀が…………兄ちゃん?血縁…………じゃないよな。確かあいつは、ドイツ人の血が入ったクォーターだったはずだ。

 

「ボクもさ…………入学当初、色んな噂を流されたんだ。」

「…………。」

「選ばれたのはコネだって、ほんとはそんな学力なんてないって。ボクだって、努力はしてるのに…………。」

「似た者同士だな。」

 

 口からこぼれた第一声は、それだった。俺は前科者、彼は天才少年。立場のイメージは真逆だが、心無いうわさを流され、周囲から浮いたあぶれ者。俺達は、似た者同士だ。

 

「…………そう…………だね。」

「俺ではだめか?」

「…………え?」

「友達が欲しいんだろ。」

 

 銀の望みを簡単に訳せば、そうだ。心を理解するなんて難しいことを言っているが、そういうことだ。

 

「…………うん。でも、ボクはじへーしょーだし…………きっと迷惑かけちゃう…………。」

「そんなことは関係ない。」

「関係…………ない?」

「多少の迷惑も笑って受けるのが友達という物だ。」

「…………そうなの?」

「ああ。」

 

 そう言うと、銀は、初めて俺に目を合わせた。

 

「うん。ありがと。」

 

 そして、笑いかけてくる。なんだか、心にしみる笑顔だな。

 

『次は~東太子堂。東太子堂駅です。』

「おや、降りる駅なんじゃないのか?」

「…………うん。…………あのさ…………。」

「ん?」

 

 席を下りた銀は、こっちを振り返る。

 

「蓮兄ちゃん……って、呼んでもいいかな?」

「ああ。好きにしろ。」

 

 そう言うと、パッと顔を明るくして、

 

「じゃぁまたね!!蓮兄ちゃん!!」

 

 と、笑って走っていった。

 

「まったく、微笑ましいな。」

 

 一人残された俺は、帰りの電車でそう呟いた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「聞いたぞ、学校、初日から半日もさぼったんだって?」

 

 そして、帰った先に待っていたのは、佐倉さんの追求だった。

 

「…………、すみません。」

「朝ちゃんと起きたと思ったらこれだ。なんかあったら、人生終わっちまうんだ。保護観察の意味、分かってるんだろうな?まぁ、今回は仕方なかったみてぇだから怒らねぇけどよ。」

 

 ヒューベルトのホラ話を、皆信じ切っているみたいだな…………やっぱり、悪役参謀の才能があるんじゃないだろうか…………彼。

 

「…………すみません。」

 

 すると、佐倉さんの携帯が鳴った。

 

「おっと。」

 

 通話ボタンを押して、五本の指を使って携帯の上部を持つ独特な持ち方で、携帯を耳に当てる。

 

「…………おう。今店閉めたところだよ。…………わかってる。ちゃんと30分で帰るって…………。」

 

 と、甘い声で言う。…………佐倉さん、結婚指輪はつけてないが………そういえば、初日に車で送ったとき、サブシートには女意外なんたらかんたらと…………

 私服も妙に小洒落ていたし、まさか、愛人?

 

「おい、何悟ったような顔してる。なんでもねぇ。」

 

 そんなことを考えていると、佐倉さんから釘を刺された。

 

「…………ああ、何でもないよ。最近、バイトを雇ってな。」

 分かったらさっさと上がって寝ろ。俺は帰るからな。店の品に手を付けようとするんじゃないぞ。…………だから、ただのバイトだって。」

 

 聞けば聞くほど愛人に見えるな。まぁ、佐倉さんにはそう釘を刺されたし、そうだな。

 

「分かりました。」

 

 電話を切った佐倉さんと入れ違いに、俺は屋根裏部屋に上った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《翌日》

 …………大変だった。昨日半日サボったせいで周りの視線が痛かったし、厳しいと噂の公民の牛丸先生のチョークを額に受けてしまった。

 傷害でパクられた俺が言うのも難だが、これって体罰じゃないのか?文字通り額が痛い。

 そんな中、俺達は昨日坂本に教えてもらった屋上に集まった。

 

「なぁ、あの城、俺達また行けんのかな?」

「さぁな。」

「行ったところでどうするのです?」

 

 正直、俺たちの感想はそれだ。俺とヒューベルト、あと謎のジ〇ニャンに見えなくもない。

 

「どうなるってよ、気にならないか、あの…………。」

「『彼ら』の事か。」

「私も、あなた方を運んだ騎士を付けている途中で見ましたがね…………あの、拷問のようなことを受けていた生徒ですか。」

「…………お前、見てたのかよ…………けど、拷問を、受けていた(・・・・・)とこ。」

「いえ。ただ、謎の拘束具が顔面につけられている生徒や、拷問を受けている人間特有の目をしている人間が多くいましたから。」

「目?」

「諦めている目ですよ。来る日も来る日も責め苦が続く。ですから、思考放棄して、はいはい相手の言うことを聞いていればいい。そうすれば、楽だと。」

「お前…………。」

 

 その言い方、もしかしてだが、

 

「経験あるのか?」

「さて、どうでしょう。ククク…………。(まぁ、前世では、する側、される側両方の訓練は受けましたが結局、することはございませんでしたな。)」

 

 …………やはり、ヒューベルトには悪役参謀の素質があるな。

 

「けどよ、あそこが夢だったって、そんなわけじゃないんだろ。だったらよ、あそこに乗り込んで、証拠写真なり物証なりを取ってくれば!!」

「そううまくいくとは思いませんが、あのゴミカスクソモジャモジャゴリラを貶められるものが手に入るならば、良いかもしれませんね。」

「ヒューベルト、お前、鴨志田にヘイト高すぎないか?」

「当然でしょう。」

 

 うん。まぁ、そうと言ってしまえばそうなんだが…………。

 

「まぁ、証拠写真を残すっていうのは、いい案だと思う。」

「加工かどうかは、専門家が見れば一目でわかりますからな。」

「?」

「堅物の教師共に送ったところで、そんな物、信じられるわけがないでしょう?だから、先にあの変体ブーメランパンツ鴨志田が暴行をしているところなんかをネットに上げて、話題をさらうのですよ。」

 

 ヒューベルト…………お前、やっぱりやる事がえげつないな。

 

「そうすれば、少なからず、専門家の目にも止まるでしょう。そうすれば、その写真や映像が合成でないことが分かる。そうすれば、自然と鴨志田に疑問が行く!!そこで、坂本殿の出番ですよ。」

「は?俺?」

 

 いきなり話を振られた坂本が、疑問符を浮かべる。

 

「ええ。『俺、秀尽学園に所属してんだけど、バレー部、何時もボロボロになっててヤバい。』とか、『鴨志田先生の預かりになった陸上部、暴力沙汰起こした部員がいるんだけどさ、暴力沙汰が起きた原因が、鴨志田先生の厳しすぎる体制が原因だったって。』とか、色々と悪評を流すのですよ。もちろん。複数のアカウントでね。」

 

 あ、アカウントと携帯なら貸しますよ?と、数台のスマホを見せてくるヒューベルト。

 

「金持ちかよ!!」

「ええ。少々、株などを嗜んでおりまして。いいですな。ああいうのは。」

「すげぇ…………。」

 

 と、竜司は戦慄しているが、正直、俺もこれには驚いたぞ。

 

「でもよ、何で俺じゃなきゃいけないんだよ?」

「やはり、実体験をした人の言葉の方が、しっくりと来るのではないでしょうか。」

 

 と、悪い笑みを浮かべながらサラッとそんな事を言うヒューベルト…………怖いぞ、そろそろ。

 

「さてと、それでは行きましょうかね。」

「へ?行く?」

 

 そう言って扉を開け、階段を下りて行こうとするヒューベルトに、坂本が聞き返す。

 

「決まっているでしょう。思い立ったのであれば、行動に移すしかありません。我々意外にあの世界に行けた者もいないのですから、この実験の実験台(モルモット)は、我々でないといけませんので。」

 

 そう言い、ニヒルに微笑む。まったく、それは、今から実験場に行くモルモットの顔じゃないぞ。

 

「じゃぁ、行くか。」

「おう。鴨志田に一泡ふかせてやろうぜ!!」

 

 こうして、俺達は、屋上を後にした。




 次回、ヒューベルトの目論見は果たして成功するのかどうか、そして、竜司、覚醒!?


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髑髏の旗 前編

《Side 雨宮》

 

「で、どうやってあの城に行くんだ?」

 

 例の城に向かおう。という話になって学校は出たはいいものの、提案者の竜司はまさかの無策だった。

 

「まさか、何の策もなしにあの謎の国まで行こうと思ったのですか?」

 

 これにはヒューベルトも唖然とするしかないようだ。

 

「う、うるせぇ!! 見とけよ!! ぜってーたどり着いて」

「そのまま行っても、」

 

 歩き出した竜司に、ヒューベルトは声をかける。

 

「絶対にたどり着けないでしょうな。」

「なっ!?」

 

 それに竜司が振り向いて、こっちに戻ってきた。

 

「ンだと!?」

「そもそも、あのような城はこの付近にはありません。それは分かりますね?」

「そ、そうだけどよ……。」

「ええ。ですから、これからいうことは、突拍子もないことだとお考え下さい。」

 

 そう言い、ヒューベルトは指を一本、顔の前に立てた。

 

「現実には存在しない城、謎の魔物、私と雨宮殿が扱えたあのちから。様々な観点から、私が考えられる可能性は、一つだけです。あれは、この世界ではないのでしょう。」

「は?」

 

 淡々とそう語るヒューベルトに、竜司は何言ってんだこいつ。というような顔をした。

 

「この世界じゃないってお前……ゲームのやりすぎ? それともマンガの読みすぎ? それとも」

「ラノベの読みすぎでもございませんよ。」

 

 と、竜司の言葉にそっけなく答えてから、

 

「言ってみればわかることです。そういえば雨宮殿?」

「ん?」

 

 俺?

 

「先日の事を思い出していたのですが……どうも、あのヘンタイ城から逃げ出した後、携帯から音が鳴っていませんでしたか?」

「ん? あ、そういえば!!」

 

 竜司も声を上げる。たしかに、『ホームに帰還しました』という音声を聞いたな。

 

「試しに、スマホを調べていただけますかな?」

「……ああ。」

 

 試しに、スマホを見てみる。

 

「もしかして、これが原因かもしれないな。」

 

 この間唐突に入ってから何度消そうとも戻ってくる謎のゾンビアプリ。というか、これ以外に原因が思いつかない。

 

「……アン? なんだそれ?」

「いくらアンインストールしても気が付いたらインストールされてる謎のゾンビアプリ。」

「……ウィルスじゃねぇよな?」

「多分、きっと、もしかしたら、違うかもしれない……と思う。」

「不安要素山盛りじゃねぇか!!」

 

 と、竜司が鋭いツッコミを入れた。

 

「雑談はそこまでにして、始めましょう。」

「……そうだな。」

「ああ。試しにやってみるか。」

 

 アプリを起動すれば、

 

『キーワードを入力してください』

 

 という電子音性が響いた。

 

「……えーっと、キーワード、わかる?」

「そうですな……あ、ログ検索なんてものがあるではないですか。」

「え? あ、ホントだ。」

 

 全然気が付かなかった。

 

「あったな。なんだこれ? 《カモシダパレス》?」

「……文面から、某ゴリラ教師の存在をひしひしと感じるのは私だけですかな?」

「いや、多分全員。」

 

 と、ヒューベルトの問いに答えてやる。竜司も、渋い顔をしていた。

 

「と、とにかく!! 言ってみようぜ!!」

 

 そう言い、竜司がナビ開始のボタンを押した。

 

「さ~て、どうやって連れてってくれるのか……へ?」

 

 驚くのも無理はない。そんな事を言っていたら、何やら視界が揺れ動いて、気が付いたら俺たちは、あの城にいたのだから。

 

「……マジで異世界だったのかよ!?」

 

 唖然としていた竜司はそう声を上げた。

 

「なるほど、さしずめそのみょうちきりんなアプリは異世界に移動する際の出口まで案内し、その扉を開くアイテム、と言ったところでしょうか。」

「…………。」

 

 すごい品なんだな。今まで消そうとしていて悪かった。と、心の中でアプリに頭を下げておく。

 

「あ、お~い!!」

 

 すると、声がした。シャドウどもが騒がしいと思ったら…………とこちらにはよくわからない単語を使いながら向かってくる黒いマスコットみたいなこいつは……

 

「モナネコ」

「モルガナだ!!」

 

 神速のツッコミが帰ってきた。

 

「確かヒューベルトがそんな風に呼んでなかったっけ?」

「そうでしたかな?」

「忘れてんじゃねーよ!!」

 

 と、モルガナのツッコミが炸裂する。

 

「ま、そんなことはどうでもいいですな」

「よかねぇ!!」

 

 と、手を振って抗議するモナモナ。じゃなくてモルガナ。

 

「で、お前ら、何でこんなところに来たんだ?」

「貴殿こそ、なぜこのような場所に単身でいるのですかな?」

 

 モルガナの問いにヒューベルトが問い返す。

 

「ああ……それが、思い出せないんだ」

「は?」

 

 ヒューベルトが何言ってんだコイツ。という顔になる。

 

「……トンチキなモナネコ…………どうやらモナチキ殿でしたか」

「だからモルガナだよ!! モナネコでもモナモナでもモナチキでもねぇよ!! 俺にはモルガナって名前しかねぇよ!! ファ(ピー)チキみたいなあだ名付けるんじゃねぇよ!!」

 

 何やら漫才を披露している…………。

 

「ここの事とか、名前は覚えてるんだけどな……気が付いたらあそこにいて、ワガハイ、何にも覚えていないのさ……」

「…………。ひとまずは、信じましょう。」

「え? いいの?」

「マジ?」

 

 ヒューベルトの言葉に、二人が驚く。俺も、そう簡単に信じれるのかと驚いたが、

 

「貴方からは噓をついている感じがしませんからな」

 

 腕を組んでそういうヒューベルト。

 

「記憶喪失の振りの人間は何度も見てきました。しかし、貴方からはそれらと似た雰囲気は感じない。嘘を追求するよりここの事を聞いた方が利点があるので、モルガナ殿の記憶喪失云々は後回しにしましょう。してモルガナ殿」

「ん?」

「ここのことは分かるのですね?」

「お、おう!! ここがどういうところなのかとか、大体わかるぞ!!」

「ならば、教えていただきましょうか? ここについて。ここは一体何なのか? そして、どこなのか。」

 

 近くにあった木箱に腰かけて、そう言う。

 

「ここ? ああ。パレスの事か」

「パレス? 現実世界じゃねぇってこと?」

 

 オウム返しに竜司が問いかける。

 

「ああ。ここは、欲望が具現化した認知の世界だ。」

「認知?」

「欲望?」

 

 どういうことだろうか。

 

「つまり、このパレスの主は、学校が城だって認識してんのさ。」

 

 これを聞いた瞬間、もう確信した。

 

「つまり、パレスの主はどこぞのヘンタイ体育教師で確定ということですな。」

「それってあのパンイチの奴の事か?」

「おう。」

「はい。」

「ああ。」

 

 モルガナの問いに俺たちは三者三葉だが意味は全く同じで即答した。

 

「…………。おう。」

 

 それにはモルガナもドン引きな様子だ。

 

「まぁ、とにかく、そいつみたいに、すごく強い欲望を持った奴が、こんな世界を生み出すんだよ。」

「……鴨志田みたいなやつが他にもいるってことかよ…………。」

「まぁ、欲望ってのは人間を作る根幹の一つみたいなもんだからな…………それがあまりに強いやつも、中にはいるんだよ。」

「なるほど。それに入る為のアイテムが、このアプリという訳ですか。」

「は? アプリ?」

 

 怒りに震える竜司の側で、モルガナがそう言って目を丸くした。

 

「ご存じなかったのですか?」

「いや、ワガハイ、そもそも目が覚めたらここにいたから、そんなアプリなんてわからねぇぞ?」

「……なるほど。それで、認知の世界、と言いましたな?」

「おう。」

 

 ヒューベルトの問いにモルガナはそう答える。

 

「この世界は鴨志田の認知。つまり、鴨志田はこの学校を自分の城のように思っていると。」

「ああ。そういうことなんじゃないか?」

「なるほど……では、奴隷のような仕打ちを受けていた生徒は」

「そのカモシダってヤツの認知上の存在だよ。ようは、意志を持って動いてるだけで、それはこの城の石像やツボと似たような存在だ。まぁ、その思考も、カモシダってヤツが『こうだ。』って考えてるものなんだが。」

「じゃぁ、あの高巻も…………そういうことかよクソッ!!」

 

 高巻。というのはあの時鴨志田の車に乗った彼女か。そういえば、パレスから出ようとしたときにきわどい水着姿で出てきてたな。つまり、鴨志田は彼女をああ思っていると。

 同じ結論に至った竜司が悔しそうな声とともに木箱を蹴飛ばす。

 

「この世界に真の意味で存在しているのは、我々とあの鴨志田だけだと。」

「ああ。だが、お前らの行動が現実世界にバレることもねぇぞ。」

「バレていたら、すでにここにはこれなかっただろうな。」

 

 そもそもここのヘンタイと現実のヘンタイが思考を共有しているなんて現実であっても信じたくもない。

 

「ま、そういう世界なんだよ。ところで、お前たちは何しに来たんだ?」

 

 モルガナの問いに、俺たちはヒューベルトの策を話した。

 

「へぇ、面白いことを考えるもんだな。」

 

 と、モルガナは感心したように言うが、そのあと口を開いた。

 

「でも、」

「無理のようですな。」

 

 そして、モルガナの言葉を遮り、ヒューベルトがスマホを見せる。

 

「圏外。それどころか、すべてのアプリが機能しません。雨宮殿、貴殿のスマホはどうですかな?」

 

 そう言われて、スマホを取り出して確かめてみる。

 

「例のナビ以外動かないな。」

「オイ、それってさっそく計画が破綻してね?」

 

 不安そうな顔で竜司が問いかけてくる。

 

「破綻していますな。」

「オイ!!」

 

 冷静なヒューベルトに竜司が怒鳴った。

 

「どうすんのよ?」

 

 頭を掻きながらそう問いかける竜司。

 

「作戦の練り直しですな。」

「はぁ? マジかよ~。」

 

 腕を組んでそういうヒューベルト。竜司は天を仰いでからガックリと項垂れた。

 

「すみませんなモルガナ殿。せっかく色々答えていただきましたが、」

「気にすんな。………でもよ、」

 

 モルガナが何か言おうとした時だった。

 

「こうしちゃいられねぇ!!」

「おわっ!? おい、どうしたんだよ?」

 

 と、竜司が声を上げた。

 

「せっかくここまで来たんだぜ。写真が取れなくても、やられてる奴ら全員の顔覚えて帰ってやる!!」

「……愚策ですな。」

「竜司、一旦落ち着け。」

 

 俺たち二人で宥めようとするが、竜司は聞かなかった。仕方ないから、竜司の要求をのむことに。ヒューベルトも、しぶしぶ、

 

「貴殿の心が収まるなら。ただ、引き際を間違えないように。」

 

 と竜司にくぎを刺して、歩いていく。

 

「よしっ、そうと決まれば、」

「馬鹿正直に正門から入ろうとか考えないように。」

「うぐっ!?」

 

 まっすぐ門の方に向かった竜司を、ヒューベルトは言葉で制した。

 

「……で、侵入経路が、ここか。」

 

 ヒューベルトに案内された先にあったもの。それは俺たちが前回の逃避行の時に利用した、換気口だ。

 

「でもよ、ここって不味いんじゃねぇの? 前回大騒ぎしたじゃねぇか。」

 

 と、モルガナが言うが、

 

「それには及びません。」

 

 と、ヒューベルト。そして、指したのは換気口近くの塞がれた大穴。

 

「私のペルソナ。モリアーティで壁を破壊しました。奴らが賊の侵入は壁を壊してだと考えるように。」

 

 そう言い、軽い身のこなしで換気口の中に入る。

 

「……問題ありません。近くにトラップがあるのでかからないように。」

 

 と、声で指示を伝えた。見ると、確かに、乱雑な修繕が施された壁の近くに、トラバサミが所狭しと置いてある。

 

「…………。」

「トラップを仕掛けた気になって安心しているのでしょうな。さ、行きますよ。」

 

 そのトラップを冷ややかな目で見るモルガナにヒューベルトは声をかけて、そして、この城を隠れながら、地下牢の道までを移動した。

 道中、番兵をやっていたモンスター(モルガナによると、シャドウ、というらしい。)を不意打ちからのタコ殴りで倒す。

 

「うわぁ…………。」

「さすがに、敵とはいえ哀れみを感じますな。」

「…………。」

 

 言うな。俺だって良心はあるんだ。そして、【鴨志田・愛の修練場】と書かれた場所に到着した。

 

「愛の修練場……だァ?」

「とことん性根がねじ曲がっているようですな。」

 

 それに竜司とヒューベルトが冷ややかな目を向けていた。

 

「おい、早くいくぞ。」

 

 モルガナの言葉で、俺たちはその修練場に入っていく。

 

「これは…………。」

 

 俺は、その光景に思わず顔をそむけた。

 そこに広がっていたのは、水を飲ませずに何時間と走り続けられる生徒。

 シャドウに剣でシバかれている生徒。

 砲台から放たれるバレーボールを縛り付けられた体にぶつけられ続ける生徒。

 

「こんなの…………指導でもなんでもねぇ!!」 

 

 怒りのままに叫ぶ竜司。

 

「いかに私とは言え……流石に怒りを通り越して、何も出てきませんな。」

 

 額に手を当て、そうつぶやくヒューベルト。

 

「しっかし、ひでぇな。認知世界だからいくらか飛躍してるとはいえ、現実でも似たような扱いなんだろ。」

 

 生徒たちに憐れむような眼を向けるモルガナ。

 そして、俺の中には、複数の気持ちが渦巻いていた。

 

「許せないな。」

 

 理不尽な体罰を、平気な顔で行使する鴨志田に対する怒り。

 理不尽を強要する学校に対する怒り。

 そして、そんな理不尽に打ちのめされた生徒たちを、救いたいという気持ち。

 

「そうだな。」

「…………ここにいる奴ら、バレー部だ。鴨志田が顧問の。」

「バレーボールが一生モノのトラウマになりそうですな。」

 

 ヒューベルトがそう言うと、竜司は、

 

「戻んぞ。」

「……気は済みましたかな?」

「……ああ。」

「現実世界に戻ったら、この後の事を決めるか。」

「そうだな。」

「戻んのか?」

「ええ。世話になりましたなモルガナ殿。色々と。」

「気にすんな…………と言いたいところだが、また来てくれ。その時に恩を返してもらうぜ。」

「ククク。考えておきましょう。」

 

 モルガナの言葉に含み笑いで返すヒューベルト。その後、ホールまで移動して、侵入経路の通気口のある部屋に向かおうとした時だった。

 

『見つけたぞ!! 侵入者め!!』

「ッ!?」

「ヤバい!? 囲まれたぞ!!」

 

 俺たちは、兵士に包囲され、強力な金色の鎧のシャドウに捕まってしまったのだ。



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髑髏の旗 後編

「ぐっ!!」

 

 鴨志田のパレスとやらに潜入した我々は、うっかり逃げそびれて衛兵に捕まり、我々は押さえつけられている。遠くで見ていた竜司殿は…………兵士は抑えていませんな。敵とみなす価値もない。ということか…………。

 

「く、クソッ…………。」

 

 力なく毒づくモルガナ。

 

「おぉおぉ、また来たのか。」

「鴨志田…………。」

 

 私がにらみつけると、

 

「様を付けろよ陰険野郎!!」

「ぐがっ!!」

 

 顔面に蹴りが飛んだ。…………この程度は慣れていますが、見ている方はそうではないでしょうな。

 

「おい、やめぐおっ!!」

 

 詰め寄ろうとした竜司殿が、兵士の一人に殴り飛ばされる。

 

「無様だなぁ、坂本。」

「あ……ぐぁ…………。」

 

 倒れた竜司殿の顔面を、醜悪な笑みを浮かべて靴底で踏みつける。

 

「目障りだったお前も、俺様のおかげで落ちるところまで落ちた。そうだろう? 陸上部を廃部に追い込んだ、裏切りのエース君?」

「裏切り……?」

「ちが……アレは…………!!」

 

 雨宮殿の疑問に、竜司殿がかすれた声を漏らす、が、このクソ教師は、

 

「何も違わないよなぁ、お前が、監督が休みの間勝手に、この、せっかく代わりに指導をしてやっていた俺様に暴力事件を起こして、部を廃部に追い込んだんだから。」

「ふざ……ふざけんな……!! あんなの……あんなのしごきじゃねぇ。純粋な体罰じゃねぇか……!!」

 

 鴨志田は、以前監督がケガで不在だった、今は秀尽に無い陸上部の顧問を代わりに担当していた。

 そして、それは、

 

「あんなことしてたら、じきに体が…………!!」

「知ってるよ。」

「なっ!?」

 

 その言葉に竜司殿が息をのむ。

 

「この学園で輝くのは俺様だけで十分なんだよ。そのために陸上でいい成績を残してたエースの坂本、お前が邪魔だった。」

「てめ……まさか…………!!」

「本当ならお前だけつぶれればそれ以外はどうでもよかったんだ。だけどなぁ、お前が。他ならぬ、お・ま・えが、俺様に歯向かって殴り掛かってきやがった。」

「…………!!」

「かわいそうだから命だけは何とかしてやろうと、足をつぶすだけにしておいてやったのに、もう完全につぶすか? どうせ学校が、『正当防衛』ってことにしてくれるからな。」

「テメェ!!」

「俺を起こるのはお門違いさ。そもそも、お前だけ潰れてくれりゃあ他はどうでもよかったんだ。それをお前が事を大きくしてしまったからこういうことになった。」

「なっ!?」

「今回もそうだ。どうせお前が駄々こねたんだろ?」

「ッ!!」

「そういう事なんだよ。お前は周りに不幸しかふりまかない。」

「俺は……俺は…………!!」

 

 いけませんな。聞くに堪えない妄言ですが、竜司殿の、陸上部をつぶしてしまったこと、そして現に今我らがとらえられていること、その罪悪感にとらわれている…………。

 

「諦めるのか?」

 

 その瞬間、雨宮殿が口を開いた。

 

「え?」

「言われるがまま、諦めるのか? 言いなりか?」

「で、でも、俺は……陸上部を潰しちまって、お前らにも迷惑をかけて…………!!」

「迷惑、か。それをあきらめの言い訳にするのは、違うんじゃないか?」

「え?」

「竜司、お前が苦しんでいるのは分かる。だが、本当に大事なのは何があったかじゃない。これからどうするか、じゃないのか?」

「これから…………。」

「お、オイ!! そいつを黙らせろ!」

 

 鴨志田が声を上げる。

 

「ぐっ!! 竜司、お前はこれから諦めて、鴨志田の言いなりになってしまって良いのか!?」

 

 黄金の鎧兵に踏みつけられながら、雨宮殿はそう叫ぶ。

 

「そうか……そうだよな。言い訳がねぇ!!」

 

 竜司殿はそう言い、鴨志田をにらみつける。

 

「そんなこと、許せるわけがねぇ!! 許しちゃいけねぇ!!」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《No side》

 

 その時、竜司の頭に声が響いた。

 

「ようやく決断したか。」

「ぐあっ!!」

 

 頭痛と共に響くその雄々しい声を前に、竜司は倒れこむ。

 

「まったく、ずいぶんと待たせたものよ。

力が要るんだろう?ならば契約だ

どうせ消しえぬ汚名なら

旗に掲げてひと暴れ…

お前の中の『もう一人のお前』が

そう望んでいる…

我は汝、汝は我…

覚悟して背負え

これよりは反逆のドクロが貴様の旗だ!」

「うおおアァァァ!!」

 

 咆哮と共に、竜司は仮面をはぎ取った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「竜司殿……。」

「スゲェ……。」

「フッ。」

 

 竜司殿にも仮面が現れ、それをはぎ取ったその背後に現れたのは、海賊船をサーフボードのようにし、右手首から先に大砲の砲身を覗かせた海賊服の骸骨。

 

「俺はもう、屈しねぇ!! ぶっ放せよ!! キャプテン・キッドォ!!

 

 右手の砲身から放たれた雷が、兵士を薙ぎ払ったおかげで、我々の拘束が解けた。

 

「感謝しますぞ、竜司殿。」

「金髪!! お前やるじゃねぇか!!」

「へっ、いくらでも頼ってくれよモルガナ!!」

「油断するな、来るぞ!!」

 

 残っていた金鎧の兵士が、深紅の鎧を着た魔将に変身した。

 

『鴨志田様に楯突いた貴様らには、死あるのみ!!』

 

 周囲に、複数の馬も出現する。

 

「行くぜ、キャプテン・キッド、ジオ!!」

「威を示せゾロ!! マハガル!!」

 

 竜司殿が赤い将兵を怯ませ、モルガナ殿が範囲攻撃で周囲の馬を攻撃する。

 

「アルセーヌ!!」

「モリアーティ!!」

 

 雨宮殿のペルソナを援護したとドーラΔで奴らに隙が出来る。

 

「畳みかけます!!」

「ああ!!」

「任せな!!」

「援護するぜ!!」

 

 息を合わせた様な連携で、奴らを叩き、斬り、弾を浴びせる。

 

― ご苦労様でした、ククク………… ―

Liebe Prinzessin

 

「ハァッ、ハァッ、や……やったぜ!! くっ。」

 

 笑みを浮かべる竜司殿でしたが、よろめいてしまう。ペルソナを発現したばかりですからな。

 

「フン。まぁいい。その様子ではもう逃げるしかないだろう。」

 

 今日がそれた、というような目を向ける鴨志田。ロビーに続く廊下の奥から、鉄の靴音が響く。

 

「じゃあな。」

 

 そう言う鴨志田の側にやってきたのは、際どい水着姿の金髪の少女。

 

「お前、高巻!?」

「な、な…………。」

 

 見知った顔に驚いている竜司殿と、震えるモルガナ殿。

 

「にゃんて綺麗な女の子だにゃ!!」

「ヘンタイモナネコとでも言われたくなかったら逃げますよ?」

「あだだだだ!! 痛い!! 痛い!! あとすでに言ってるし耳は引っ張らないで!! 耳はやめて!!」

 

 悲鳴を上げるモナネコを引っ張って、私達は城を後にした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《Side 雨宮》

「時間を有意義に使えばよかったと後悔するときはありましたが、まさかこんな後悔の仕方があるなんて思いませんでしたよ。」

「うぅ……ワガハイの耳…………。」

 

 耳を抑えるモルガナと腕を組むヒューベルト。合掌くらいはしてやるが自業自得だ。

 

「今日はもう、お開きと行きましょう。集合は後日、でよろしいですな?」

 

 そう言って異世界から出ていこうとするヒューベルト。

 

「あ、ちょ、おい、ワガハイまだ言いたいことが。」

「いったん頭を冷やしてきなさい。」

 

 そう言って出ていくヒューベルト。

 

「俺たちも行こうぜ。」

「……そうだな。」

「あ、ちょ、待て。待てって!! おーい!!」

 

 

 モルガナの悲鳴を無視して、俺達はパレスを後にした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「さてと、どうするつもりです?」

 

 翌日、カフェテリアの側の自販機エリアに集まった俺たちは、ヒューベルトの問いに、

 

「その件なんだがな、竜司、」

「ん?」

 

 竜司がこっちに顔を向ける。

 

「パレスを出るときに見た金髪の」

「あのふしだらな服装の彼女ですか。」

「言うなヒューベルト。ああ。高巻杏。昔の知り合いだよ。」

「なるほど。おそらくあの姿は本物ではなく、鴨志田の認知。」

「アイツをああいう風に見てるッつうことか?」

「チャットで見ましたが、例の件、駄目だったのでしょう?」

「ああ。」

 

 そう。俺と竜司はバレー部のいろんな奴に問いかけたのだが、

 

「どいつもこいつもだんまりだ。」

「この学校で鴨志田は絶対。被害者だからこそ、それが染みついているのでしょう。」

 

 そう言って缶コーヒーを口にする。

 

「でしたら、その高巻殿とやらにお話を聞くほかありませんな。」

「マジで言ってんのかよ…………。」

「ええ。雨宮殿、」

「俺か?」

 

 そう問いかけるとヒューベルトは頷いて、

 

「数日、高巻殿を尾行しようかと。何かあった日に連絡いたします。コンタクトを取っていただけませんか?」

「何故俺が? 直接尾行をするヒューベルトか顔なじみの竜司あたりが」

「貴方には少々才能を感じていましてね。」

 

 つまりなんだ、俺が女たらしとでも言いたいのか。

 

「ええ。」

 

 ええって言いやがったコイツ。

 

「要は、やればいいのだろう?」

「物わかりがいいと、助かりますよ。」

 

 ククク。と悪い笑みを浮かべてそういう。いつか絶対後悔させてやる…………!!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《Side ヒューベルト》

 

 本当ですよ雨宮殿。私は貴殿に、期待しているのです。

 貴殿には、先生(あの男)にも似た才覚を感じるのです。

 私がこの世界に来たならば、エーデルガルト様やフェルディナント、ベルナデッタ殿がいてもおかしくはない。ですが一高校生が見つけるには限界がある。しかし、貴殿と共にいれば、あるいは…………そう思ってしまうのです。

 エーデルガルト様に再び会えるの可能性が一番高いのが、貴殿の側にいること。そのためならば、私の持てるすべてを使いましょう。

 期待していますよ雨宮殿。ククククク…………。



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