どうやら大洗の戦車に男がいるらしい (第六位)
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0話 戦車道が始まるようです!

不 定 期 更 新
誤字脱字の報告や感想よろしくお願いいたします。


 爺さんは言った。

 

「別に今の時代に男が戦車に乗ってもいいんじゃぞ」

 

 爺さんは言った。

 

「平和な世の中だからこそ楽しく戦車道をやれるんじゃ」

 

 爺さんは言った。

 

「戦車動かすのは楽しいぞい」

 

 爺さんは言った。

 

「ちっとは興味もたんか」

「いや、普通に危ないでしょアレ。弾当たった後煙出てるよ……」

「科学の発展は凄いんじゃ」

「謎カーボンだっけ。本当にどうなってるんだ」

「まあ、戦車道やってみれば分かるじゃろ」

「見る専でいいよ」

「……今はそれでいい。その代わりしっかり見ておくんじゃぞ。特に『西住流』と『島田流』は」

「オーキードーキー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか戦車道ない学校に来たはずなのに戦車道復活するとは……」

 

 教室の隅の席に居る俺は大洗高校の戦車道の隊長を務め、聖マグロなんたら学園との闘いで良いとこまで持っていき、唐突に参加が決定した戦車道の全国大会においても大洗チームの隊長を務めるであろう人間、西住みほを見た。

 ここ大洗学園は二年前まで女子校であったが、今年から共学になった。一人暮らしに憧れていた俺は地元を離れこの学園艦に引っ越して来た。数ある高校から俺がこの学校を選んだ理由はただの一つだ。

 

 大洗学園は戦車道をやっていない。

 

 昔から爺さんに戦車道を勧められてきた俺はその反抗心故か戦車道の「見る専勢」になっていた。別に見ててそこまで興奮するわけじゃない。ただ「今こうすれば良かっただろうになあ」とか思ったりすることがあるだけだ。去年まで女子高だったこの高校を選ぶのはどうなのかと迷いもしたが戦車道をやっている高校に入学しようものなら爺さんを筆頭とする戦車道大好きなmy famillyが無理やり俺をその輪の中に引きずり込むので妥協だ。

 

「しかし男子が俺だけってどうなのよ。共学になったのに男は興味ないってか? そもそもなんで乙女の嗜みのはずの戦車道が行われてなかったこの学校に大量に女子が入ってるんだ。もう共学になってから二年目だし少し男子いても良かったろ」

 

 そんなことを一人呟いてたら俺の視線に気づいたのか西住がこちらを見てくる。俺はそれを見てさっと視線を外した。

 ……正直気まずい。

 西住みほは高校二年生になってからこの学校に転入してきた。新入生に男子が俺しかおらず、今以上に捻くれていた俺は見事1年をぼっち道で駆け抜けた。二年になり、いきなりの転入生。西住は最初に色んな人に話しかけられていたがコミュニケーションが苦手なのかあたふたしており、しだいに皆離れていった。結果俺と西住はぼっち同士となった。

 俺は女子と話せないわけじゃないが学校で男子が俺だけであるので場違い感を感じたというか、とにかく周りの女子の輪に入ることが出来ずにいた。二年になってからもう少し輪を広げてみたいと思ったのだがこれが中々上手くいかない。

 西住に友達が出来る前に俺は話しかけられたことがある。それまで何度かちらちら見られていたことは知っていたがそれは別に西住だけではない。多くの生徒がそうしてた。そりゃそうだ。女子校にいる新任男教師を見てるようなものだろう。

 

 余談だが女子校の男教師は若けりゃ顔が良くなくてもモテるらしい。ラブレターやチョコを貰うこともあるそうだ。おじいちゃん先生は愛されキャラとして馴染むとか聞いた。いつか顔が良くない俺でもモテたりするのだろうか。

 いや、希望的観測はよくない。光を見た後に見る闇は特段に怖いのだ。

 俺は虚ろ目で窓の外を眺めながら西住との思い出を振り返る――――

 

 

 

 

 

「え、えええと。すいません!」

「え、何々なんなの」

 

 昼休み、多くの人間が学食を食べに食堂へ行く。これは新入生の恒例行事らしい。必然と教室に残る人間は限られる。そんな中俺はお手製のおにぎりを頬張っていた。そんな時、不意に西住が話しかけてきた。

 

下田(しもだ)平野(へいや)さんですよね!」

「うん。そうだけど」

「私西住みほっていうんですけど、その」

「西住さんね。覚えた」

「あ、ありがとうございます! それでその、私とご飯食べて貰ってもいいですか!」

「別にいいけど声は少し落とそうね。皆こっち見てる」

「ごめんなさい……。私弁当こっちに持ってくるよ」

 

 そして、空いていた俺の隣の席に座った西住はというと。 

 

「……」

「……」

「「……」」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 俺たちは一切喋ることなく昼休み終了のチャイムを聞くことになった。

 

「あの、今日はありがとうございました!」

「別に何もしてないけどね」

「いえいえ! 一緒に食べてくれただけでも嬉しかったよ。今度は少し話せたらいいな」

「あ、次があるのね。いいけど」

「誕生日の話とかどう? 確か下田君って誕生日4月2日だったよね。私10月23日なんだ」

「凄い会話デッキの切り方だな。びっくりした」

「……ごめんなさい」

「謝らなくていいって」

 

 次の日、西住はまたもや俺の隣で弁当を食べていた。

 

「私てんびん座なんだよ」

「お、おう」

 

 それがどうした? とツッコミたいがまた謝られたらこっちが気まずいので言わないでおく。

 

「そういえば4月2日って一年で一番誕生日早いよね」

「そうだな。そして皆春休みの宿題が忙しくなる時期だから俺の誕生日なんて記憶にも留めてないよ」

 

 これあるあるだと思う。長期休暇の終わり間近が誕生日の人間は誕生日スルーされがち。

 

「ごめんなさい」

 

 結局こうなるのか。でもなんとなく謝ってしまう気持ちは理解できなくもない。というのも中学の頃そんな友達がいたのだ。西住と同じかそれ以上にコミュ障の奴だったな。友達が居なさ過ぎて誰とも遊ばず勉強をし続けた結果県内の偏差値トップの高校に入学してた。今アイツは何してるんだろう。

 

 次の日、また西住は俺の隣の席で食べようとしたが俺の隣の女子は今日からは学食じゃなくて教室で友達と食べるようで空きがない。俺から西住の方に行こうにも西住の席の周りも元々そんな感じだった。いや、入れてやれよ可哀そうに。

 

 とまあ、そんなことも続き結局俺と西住が一緒にご飯を食べることも、会話することも無くなったのだ。そしていつの間にか西住は同じクラスメイトの武部と五十鈴と仲良くなるのであった。

 

 女子の、それも性格の良い人間と友達になった西住はみるみる変わっていった。よく笑い、放課後に一緒に遊ぶ約束までしていたようだ。

 俺は「ああ、西住は上手くやれたんだな」と思っていた。思っていたのだが、あることをきっかけに西住のテンションは俺と話した時以下にまで落ち込んでしまう。

 

 

 

 

 

「二人とも友達になってくれてありがとう!」

「「こちらこそ」」

 

 めっちゃいい感じに仲良くなってんじゃん。武部と五十鈴の距離の縮め方上手過ぎるだろ。

 あれ、生徒会の人間が入ってきたけどどうしたんだ?

 

「会長……?」

「なんでしょうか……?」

 

 ちらほらと不思議に思うクラスメイトの声が聞こえる。それまで楽しく話していた西住達も生徒会の3人を見た。

 

「やあ! 西住ちゃん」

「ほえ?」

 

 いきなり会長から名前を呼ばれ戸惑う西住に武部が「生徒会長、それと副会長と広報の人」と教えてあげる。それでも頭からハテナマークを出していた。

 

「少々話がある」

 

 川嶋広報はそう告げると西住を教室の外へ連れ出した。

 

 

 そして、西住が教室に戻ってきた時、彼女の目は死んでいた。

 一体何があった!?

 

 

 

 

『戦車道、それは伝統的な文化であり、世界中で女子のたしなみとして受け継がれてきました。

礼節のある、淑やかで慎ましく、そして凛々しい婦女子を育成する事を目指した武芸でもあります。

戦車道を学ぶ事は――』

 

「なんだこの名演説は。しかも凄い特典もついてくるみたいだし。パパネット高田もビックリのスピーチだよ」

 

 全校生徒が体育館に集められていた。そしてこれからの選択授業のようなものを決めるらしく、各科目の代表によるスピーチが行われていたのだが、最後にまさかまさかの番狂わせ。生徒会一行による戦車道の追加を告げられた。館内は大盛り上がり、対する俺のテンションはだだ下がり。これ、もしも爺さんが知ってしまったら……。

 何のためにこの学校に来たと思ってるんだ。しかし大洗高校は今年から戦車道を取り入れる言わば無名校。爺さんにバレなければよかろうなのだ。俺は選択科目の内茶道にチェックを入れ、提出した。

 

 その日の放課後、俺は角谷生徒会長と遭遇した。

 

「君は下田平野君だよね。学校唯一の男子生徒の」

「そうですよ。角谷会長の今日の演説は凄かったですね」

「いやーそうだった? 照れるなあ」

「戦車道、今年から始めるんですね。会長もするんですか?」

「そうだよー。君は茶道を選択してたね」

「お茶好きなんですよ」

「へえ、戦車は好きじゃないの?」

「別に、爺さんが大好きだったので時々戦車道の試合を見るくらいです。他の人もやってるでしょ」

「そだね。で、そんな君にあたしが言いたいのは」

 

 角谷会長は干し芋を一かじりするとこう言った。

 

「男とか女とか関係なくさ、いつでも戦車道に来てよ。取り消しはあたしがさせるから」

「その件は持ち帰って慎重に考慮したいと思います」

 

 後日丁寧にお断りさせていただきます。

 

「ははは。今はその気はないってことね。いいよ。あたしが言いたかったのはそれだけ」

 

 別れ際に角谷会長はたったったっと小走りで俺の前にやって来た。夕焼けをバックに映す真っ赤なツインテールは魅せるものがある。角谷会長は何を言うのだろう。

 

「良ければ西住ちゃんに言っといて―。『戦車道やって』ってね」

「え、凄く嫌なんですけど。言いませんよそんなこと。もしかして彼女があんな顔したのもあなたの仕業なんですか」

「んじゃ、おねがいねー」

「あ、ちょ」

 

 言うだけ言って角谷会長は方向転換し、走り去っていった。西住への伝言を頼む際の会長が若干悲しそうな眼をしていたのは夕日がそう幻覚を起こさせたのだろうか。いずれにしても厄介な事を頼まれたものだ。

 今の西住に言おうにも彼女にはもう友達がいる。近寄りがたい。特に武部は恋愛沙汰に敏感らしく変な噂が流れたら嫌だ。

 そもそも俺は大洗で戦車道をやらない方法を考えることで精一杯なのだ。どうしたらあの爺さん、いや家族にバレないか。もしくは戦車道をさせる気にしないようにするか。……だめだ。学園艦をマジックミラーで囲って伝播遮断するくらいしか思いつかない。発想力アンコウかよ。

 

 

 次の日、俺は結局西住に会長の言葉を伝えなかった。三人の会話の内容によると、西住は戦車道を選択しないらしい。どうしてだろう。西住は「西住流」の人間じゃないのか? 生徒会が昨日ああ言ったのは西住が西住流の者だったからと思っていたのだが。

 疑問には思ったが選択科目は基本自由。縛り付けるなど会長の意思でするのはありえないであろう。十中八九本人に特別な理由があるのだろうから他人が関与するものではない。

 

 この日は俺は昼飯のおにぎりを作り忘れていた、というか寝坊していた。登校時間には間に合ったけどね。そんなわけで俺は学食を利用することにしたのだ。

 ふむ、意外とメニューが多い。

 

 俺は結局適当な食べ物を取って食べ始める。

 

「選択何にした―?」

「私戦車道!」

「私も—」

 

 あの演説の熱がまだ冷めてないのだろう。いつまでそのやる気が続くのか。意外と集まるのは少人数だったりして。

 元々大洗学園は長い間戦車道をやってこなかった学校だ。見つかった戦車が少なくても不思議ではない。その場合例え多くの人間が集まったとしても戦車に乗れる人間は限られる。

 

「男子戦車道って、確かに聞いた事ないよねー」

 

 ふとそんな声が聞こえてきた。そうだよ。爺さん聞いてくれよ。

 

「男子と戦車って、何かミスマッチー」

 

 え、それはどうなのか。元々戦争では男性が戦車に乗って戦ってたんだぞ。競技の影響力って凄まじいな。 

 あれかな? 女子プロレスの中に男子が入ってきたって感覚か、それただのプロレスじゃねえか。 

 

 

 そんなことを考えていると俺の後ろの席に西住一派が座ってきた。お前らも学食使うのかよ。というか俺に気づいてない? ならば逆に好都合だ。ひっそりと食事を終えてバレないタイミングでこの場から離れよう。

 

「あ、帰りサツマイモアイス食べてく?」

「大洗はサツマイモが名産なんですよ」

「あ! 知ってる! 干し芋とか有名だよね」

「一部では乾燥芋とも言われているらしいよ」

 

 よし、抜けるならこのタイミングか。俺は皿が乗ったトレイを持ち、席を立ちあがる。その時だった。校内放送が入った。

 

『普通一課二年A組西住みほ普通一課二年A組西住みほ、至急生徒会室に来ること。以上』

「ど、どうしよう……」

「私たちも一緒に行くから!」

「落ち着いてくださいね」

 

 うーん。これ完全に戦車道案件だ。西住が戦車道を選択しなかったことをツッコまれるんだろうな。こうまでして勧誘するのは西住が戦車道経験者であり、「西住流」の人間だからに他ないだろう。

 あれ、一応西住流の人間は知っていたはずだが……。俺の知っている現在の西住流の学生はもっと髪が黒くて学年は俺の1年上、そして何よりおどおどしておらず、キリッとした表情をしている人間だ。名前は知らん。

 てかこれ完全に公開処刑じゃん……。完全に引き込む気だこれ。

 

「あれ? 下田君じゃん!」

「え?」 

 

 心の中で念仏を唱えていたら後ろから話しかけられる。

 武部か。西住も俺を見て目を大きく開いていた。

 

「下田君もここに来てたんだ……気づかなかったよ」

「下田君っていつもおにぎりばっかり食べてるよね。今日はなんで学食なの?」

「まあまあ沙織さん。色々事情があるのでしょう。それより私たちは行かなければならない場所があるでしょう?」

「別に変な理由とか無いんだけどな。ただ今朝作り忘れただけで」

「あ、その話今度詳しく聞かせて! 本当はずっと話してみたいって思ってたんだから」

「詳しくと言われても何もないんだが」

「あ、あの! 私も後で下田君と話してみたい、です」

「でしたら私も是非お話させていただいても?」

「はよ行け。それと西住」

「え?」

「生徒会の前であまり力むなよ。二人が付いて行くんだろ? 安心して行け」

「う、うん」

 

 それだけ言うと俺はトレイを片づけその場を去った。本来だったら俺から直接西住に言っておいた方が心の準備期間も出来ただろう。だからこれは一種の贖罪だ。いや、食材も何もない。ただ俺は彼女の願いを聞き、それらしいアドバイスじみた言葉を投げかけたに過ぎない。

 しかし、そんな俺の言葉でもほんの少しでも彼女を安心させる手伝いが出来たのなら嬉しい。

 

 

 生徒会室から出てきた後の西住は清々しい顔をしていた。結果はあの表情を見れば分かるだろう。

 そして俺は楽しく話していた3人を待っていたのだが彼女たちはその楽しさ故か全く俺に気づかずにいた。え、話しかけやすいようにと思って生徒会室の近くの廊下で立っていたんだけど。目の前を笑顔でスルーして行ったぞあいつら。

 

「あらら。フラれちゃったね下田君」

「別にそんな関係でもないですよ。ただなんとなくここに居たかったんです。……自分で言っても苦しいですねこの言い訳」 

「あはは。そだねー」

「まあ、これで大幅に戦力強化されたでしょう。応援してますよ、見る専として」

「あたしとしては君が入ってくれるともっと嬉しいんだけどねー」

「高校の選択は3年間茶道にするって決めてます」

「貴様会長の誘いを断るのか!」

 

 え!? この人いきなり口を開いたかと思ったら叱責飛ばしてきたんだけど。こりゃ西住も結構圧かけられてるな。

 

「まーまーいいって川嶋。元々戦車道て女子がやるもんでしょ?」

「確かにその通りですが……」

「昨日も言ったけどいつでも席は用意しているからね。遊びに来てよ」

「……会長はなんで俺の事をそんなに気に掛けるんですか?」

「楽しみたいからだよー。ほら、行くよ」

「「はい」」

「じゃねー」

 

 角谷会長は手を振って行ってしまった。「楽しみたいから」か、単純すぎる回答に戸惑ってしまった。別に俺が居なくても楽しめるだろうに。

 

 

 

 

 

 あれから何日経っただろうか。大洗高校は聖グロリアーナ女学院に練習試合を持ち込み、接戦を繰り広げた。アホみたいな塗装をしてた大洗高校は大分アドバンテージを取られていたようだがよく殲滅戦で1対1までに持っていけたよ。その試合を見て少しだけ、少しだけだが自分の心の中で熱くなっている何かを感じた。

 

 

「聖グロリアーナ、略して聖グロ……セグロ……マグロ、じゃなくてあれなんだっけ。聖マグロ学園? 学院? 名前なんだっけ……」

 

 まあ、いっか。



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第1話 反省会です!

誤字指摘ありがとうございます。

あと、杏の一人称を「私」から「あたし」に統一することにしました。何となくアニメではそうだった気がするので……。
あと小山さんの喋り方が難しすぎる。
設定は調べながらやっておりますので結構ミスとか出てると思います。
変な点あれば感想欄にて教えてくださると助かります。


 一度だけ戦車に乗ったことがある。何もかもが初体験。知識だけじゃ感覚までは分からない。

 操縦してみた。弾を装填してみた。動いてる戦車から顔を出して周りを見渡してみた。通信もやってみた。どれも初心者らしくぎこちないものだった。ただ一つの技術を覗いては。

 

 

 

 

 

「それで、下田君ならあの試合どうやって勝つの?」

 

 

「――します」

 

 

 

「何やってるんだ?」

 

 きっかけはこの言葉だった。

 俺は現在大洗学園の戦車倉庫に来ている。昼休みになっており、西住、武部、五十鈴の3人が食堂に行ったのを確認(正確には3人が食堂に行くという内容の会話をしていたのを盗み聞きしただけなのだが)し、彼女たちが教室から出て数分経った後に俺は戦車庫へ向かった。

 別に特段理由があるわけではない。少しだけ気になったことがあるだけだ。

 

「……流石にⅣ号の履帯はだめになってるか」

 

 そんなことを呟いてた。その時に()()に遭遇したのだ。

 

「何やってるんだ?」

「……えっと、君は確か……冷泉さんだっけ?」

「ああ、それであってるが」

「おう。よかった」

 

 そう言うと俺は他の戦車を一つ一つ見ていく。

 フム。どれもザ・売れ残りというか微妙な性能のばっかだな。強いて言えばⅢ突が他と比べて強い。というか八九式とかこれどう見ても戦車道向きじゃないだろ。攻撃力と機動力の低さに定評のある機体だぞ。これで敵戦車倒すには一苦労ってレベルじゃないだろうな。

 いや、本当に微妙なのか? 俺は有名どころの戦いくらいしか見てないからその戦車が基準になっている。しかし全国大会に出るチームは大体が「全て○○製」といった感じで校風から見て取れるもっともその高校に影響を与えたであろう国の戦車しか使わないという統一感を持たせている……のだが、しょうがないことであるのは間違いないけど大洗(うち)はばらけて居るなあ。

 いやしかし、だからこそでき――

 

「おい。私はお前に何をやっているんだと聞いたはずだが」

「え、ああすまない。別に怪しいことをするわけじゃないからそっとしておいてくれ」

「今のお前の行動が完全に怪しいのだが。というかなんでこの高校に男がいる」

「大洗高校は2年前から共学になっているらしいぞ。俺しか男子いないみたいだけど!」

「知らなかった……」

「普通に学校来てたら悪い意味で俺の噂はよく聞くだろうけど。出来るだけ問題とみなされる行為は起こさないようにしているが、どうしても学園唯一の男子という肩書は色んな効果を持つらしい」

「なるほど。私がお前のことを知らない理由がよく分かった」

「ほう。そしてその答えは」

「私は不登校だからだ」

「わお。戦車の上で寝転がる不登校少女、どう考えても君も怪しい人間じゃん」

「なんでだ。私はその戦車の操縦手だぞ。ここに居て何が悪い」

 

 冷泉はぴょんと身軽に38(t)戦車から降りるとⅣ号戦車を指さした。

 

「え、マジで?」

「マジだ」

「君がⅣ号の履帯壊しちゃったの?」

「西住さんに許可は取ってある」

「まあ、あの動きをしたらこうなるのもしょうがないな。それにしてもよく西住はお前にその許可を出した、いや、そういう動きをするように指示したな。よほど信頼されてないとできないことだ。昔に戦車道やってた経験があるのか?」

「一度だけ校内戦である。その時マニュアル見て憶えた」

「何言ってんのこの人」

 

 戦車の動かし方をマニュアル見てすぐに動かせるなんて聞いたことないぞ。戦車動かして2回目であの操縦テクニックは異常だ。もしかしたら今の冷泉のレベルは既に黒森峰と比較しても差異ないのかもしれない。しかしあそこはそもそもそういう動きをして試合で勝つとこじゃないはずだ。少なくとも「西住流」の戦いはそうじゃない。

 撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心とは誰の言葉だっただろうか。統制された陣形で、圧倒的な火力を用いて短期決戦で敵と決着をつける単純かつ強力な戦術、要は課金装備でやる究極のごり押しだ。それで勝ってしまうのだから不思議だ。実際の戦争ならば爆弾等を陣形に投げ込まれてゲームセットだが、この戦術は戦車道を極めていく上で出来たものなのだろう。現に戦車道の流派といえば「島田流」か「西住流」と言われるほどまでに強力なものだ。

 しかし大洗(うち)の西住も西住流を使えそうなものだが、これでは流石に無理があったか。というかこの前の戦いは西住流のそれとは全くの逆で臨機応変に戦う戦法を取っていたように見えた。西住は本当はそっちの方が適正あるのか? しかしそんなことを考えても仕方ない。実際に西住流の戦いが出来る装備を手に入れないと分からないからだ。

 

「うーん、これで全国か……。完全に西住次第って感じだな。それじゃ」

「おい待て。いきなり来ておいて名前を名乗らずに出て行くのかこの不審者」

「あー別に名乗ってもいいんだが、一つだけ約束してもらえるか?」

「条件次第では呑む」

「西住と武部、五十鈴には俺がここに来た事黙ってほしい。あいつら同じクラスメイトなんだよ。教室で戦車道の話をしたくない」

「戦車道が嫌いなのか? その割には結構楽しそうだったぞ」

「嫌いじゃない。でも好きでもない」

 

 俺は冷泉の方を見て言った。

 

「下田、下田平野だ。次会うのがいつか分からないがよろしく」

「下田……、ん? どこかで聞いたことがあるような」

「だから俺の噂はどこでもされているからそれを聞いたんだろうよ、不登校だったから俺の噂をあまり聞いてこなかっただけで」

「噂じゃない気がするが……。まあいい、これ以上昼から考え事してしまうと私は持たない。そもそも朝苦手なのに沙織が無理やり……」

「おい大丈夫か!?」

「じゃない……眠……い」

 

 途中で意識がこと切れる冷泉に急いで駆けつけて体を受け止めた。そして元々冷泉が乗ってたⅣ号の上にそっと寝させた。

 かっる……。身長低いのもあると思うけどここまで軽いのは正直びっくりした。こいつの身体空気だけで出来ているんじゃないか?

 

「さてと、アイツらが来る前にトンズラするか」

 

 足先を校舎に向けた。

 

『二年A組、下田平野、西住みほ。至急生徒会室に来るように。繰り返す。二年A組、下田平野、西住みほ。至急生徒会室に来るように』

 

 ?????????????

 

 

 

「俺なんで呼ばれたんだよ」

 

 生徒会室前に来てはみたものの入りづらい。ここに来る途中も結構恥ずかしかった。でも俺より恥ずかしがり屋の西住の方が大変だっただろうな。

 うーん。どうしよう。このままバックレる……ってのは無しか。でもなあ

 そうやって扉の前で一人頭悩ませていた。

 

「入っていいよー」

 

 生徒会室から角谷会長の声が聞こえてきた。どうしてわかったんだ。

 覚悟を決め扉を開く。中には生徒会の3人に加え、西住が既に来ていた。

 

「おい! 貴様遅いぞ!」

「すいません」

 

 川嶋広報は平常運転のようだ。今日もキレッキレ☆それを見て俺はイラッイラッ☆

 

「二人ともどうして呼ばれたのか分かる?」

「え、大喜利ですかそれ」

「わ、分からないです……」

 

 小山副会長がゆっくりと諭すように俺たちに問う。えーと、本当に呼ばれた理由が分からないんだけど。もしかしたら戦車庫に監視カメラがついてて俺が侵入したのを見て怪しいと思ったから呼び出したのか? だとしたら西住は別件なのか。

 

「西住は何か心当たりは?」

「私は特に何もしてないはずだけど……」

「だよなあ。西住が変な問題起こすようなタイプには見えないし」

「いいからいいから。取り敢えずなんで呼ばれたか考えて言ってみ」

 

 角谷会長は楽しそうに言った。更に干し芋を一かじり。いつでも食べてるなこの人。そんなに美味しいのか?

 

「……空き巣ですかね」

「えぇ!? 私そんなことしてないよ!」

「いや、これは俺の話だ。そもそも理由が同じって言われたわけじゃないだろ」

「あ、そうか。でも私分からないよ」

「一応二人とも同じ用件なんだけどね。でも何か問題起こしたから呼んだってわけじゃないよ。だからさっき下田君が言ったことは初めて知ったわ」

「下田! 空き巣とはどういうことだ!」

「あはははやっぱ面白いねー君たち」

 

 どこがだよ。そもそも空き巣といっても戦車庫とその戦車は一応大洗高校の物であって戦車道選択者の物ではないはずなので茶道選択の俺が見に行っても悪くないと思う。小山副会長は素であの言い方したのか。完全に尋問する時のセリフだろ。それとも会長の指示なのか? 駄目だ。この人たち癖が強すぎて全くわからん。小山副会長だけは常識人であってくれ。

 

「それで答えは何ですか会長」

「いいよ教えたげる」

 

 ビクッと西住の方が震えた。そこまで怖がらなくていいだろうに。さっきからずっとソワソワしてるけど一応西住と生徒会の人間は共に戦ったメンバーなわけでそんなに話すときに緊張することは無いと思うんだが。それかむしろ原因は西住自身にあるのか? 例えば「西住流」関係で家元とこんな状況になったことが何度もあるとか、そういう嫌な既視感が出てきたのかもしれない。

 

「この前の聖グロ戦は下田君も見てたでしょ? どうだった?」

「どう、と言われても」

「んじゃ考えといてね。西住ちゃんはどう思った?」

「ご、ごめんなさい! 私の判断が悪くて負けました!」

「うわピックりした!」

 

 物凄い勢いで頭を下げ、それと負けず劣らずの声を張り上げる西住に俺は動揺を隠しきれなかった。

 

「別に謝ってほしいわけじゃないんだよ」

「でも私のせいで会長たちまであんこう踊りをする羽目に……」

「あれはあたし達が勝手にしたいって言っただけでしょ? しかも結構楽しかったよ。ね、川嶋」

「全然楽しくありませんでした!」

「あははは……」

 

 小山副会長の目が死んでる! だめだ。この人を怒らせてはいけない。これ以上刺激してはいけないと俺の脳内警報機が初期微動している。角谷会長が小悪魔だとしたら小山副会長は天使の顔をした閻魔だ。地獄に落とされないようにしなければ。川嶋広報? ラージャン……ですかねぇ……。

 

「単純にさ、二人にどう思ったか聞きたいんだよ。こうすれば良かったーとかね」

「なるほど。俺一応部外者なわけだから当事者であり、全国大会でも隊長を務めることになる西住が先に言ってくれ」

「分かったよ」

 

 西住が頷くと小山副会長は棚から今回の戦闘地の地図といくつかのコマを取り出した。赤色と青色のがあるってことは一方が大洗学園でもう一方が聖グロかな?

 西住はコマと地図を使って本番での大まかな展開をリプレイした。敵戦車の位置は全部分からないので予想を交えて進めていく。

 

「多分もう少し早く路地裏に辿り着いてたら良かったと思います」

「なるほどねー。確かに挽回したのはそっからだもんね」

「うう、私があの時当てていれば……」

「桃ちゃんあまり気にしないで」

「桃ちゃん言うなあ!」

「下田君はどこが駄目だったと思う?」

「別に特段目立ったのは無い、わけじゃないな。寧ろ出すぎた杭は打たれない論を実践してるくらいツッコミどころが多い。川嶋副会長の近距離外しは置いておくとして、先に高台を取ったのに全然敵を撃破してないのはどうなのかと思うぞ。攻撃力のない戦車はそれ同士で挟み込めば撃破されても回収班が来るまでその戦車はどかせないんだから上から撃ち放題で撃破された数の倍以上の敵を倒せたと思う」

「うわー中々えげつないこと言うね下田君」

「むしろ正々堂々やって1対1に持ち込めたのが異常なんですよ。普通こういう裏道使ってようやく成しえる奇跡です。よって西住、お前の非はどこにもない」

「そんな……ありがとう!」

 

 相手の隊長、確か田尻さんだっけ。その人が西住のことをどう評価したのか分からないが少なくとも西住みほの戦い方は「西住流」らしいものではない。しかしそれとは別に光る強さがある。それは今回のような圧倒的な戦力差を覆しうる強力な武器だ。

 

「でもこれ見ると明らかに西住の乗った戦車だけオーバースペックなんだよな。戦車の性能ってよりも乗ってる人間が強すぎる。操縦手……たしか冷泉だったっけか。よくこんなルートを運転することが出来たな」

「うん。麻子さんは凄いよ。麻子さんがいなかったら絶対にすぐ負けてた」

「これでついこの前まで戦車道未経験なんだろ? 天才かよ。確かマニュアル読んだだけで憶えたとか言ってたし」

「うんうん。うん? それ麻子さんから聞いたの?」

「そうだよ」

「いつ?」

「あー、えー、ノーコメントで」

 

 あっぶねえ。ついうっかり喋りそうだった。確か俺は戦車庫に入ったと言ってなかったな。バレて戦車庫に見守りが配属されたらちょっとだけ困る。別に乗りたいわけじゃないがたまに見に行きくなることがあるかもしれない。だから、うん。このことは黙っておこう。

 

「私とはまだまともに喋ってないのに……」

「ええ……」

 

 俺なんかと喋るよりずっと喋ってて楽しい人間がもういるだろ。それに冷泉は不登校故に俺と親しくしててもまだ影響が少ないが西住はただでさえ今注目を浴びつつあるんだからそんな人が学校唯一の男子と親しくしてたら変な噂が立つだろ。主に近くにいる脳内恋愛サトウキビ畑のせいで。

 

「じゃあさー」

 

 停滞していた空気を断ち切るように角谷会長が口を開いた。

 

「さっき君が言った戦法が使えないとして」

「はい」

「それで、下田君ならあの試合どうやって勝つの?」

「そうですね……」

 

 所詮俺は戦車道は見る専問。実践の事なんて何一つ分からない。だから西住の本当の凄さなんて正しく理解できてないのだろう。俺がつらつらと意見をそれらしく述べていたがあんなの理想論だ。

 しかしそんな俺でも一回だけ戦車に乗ったことがあるのだ。何年前だったか忘れたけど当時からそこそこ戦車道の知識はあったと思う。でもやっぱり実際に動いた戦車に乗る時の感覚は形容し難く、思い通りにいかないほど何かをすることが困難だ。

 でもどうやら俺には一つだけ才能があるらしかった。単騎で敵戦車十五輌抜き、十二時間に渡る激闘の一騎打ちとかいう馬鹿げた実績を持った蝶野亜美さんが言ってくれたんだから多分本当にそうなんだろう。……そういえば蝶野さんが大洗高校来たって話だけど本当なのか?

 

「もしもあの場に俺がいて、戦車を動かしていたならば」

 

 存在しないifの世界の話。その世界で実際に勝ててたかは微妙だ。大体良くて8割の確率だろう。

 

「全部狙撃します。フラッグ戦ならばフラッグ車を。殲滅戦ならその全員を。弾の数が許す限り撃ち続けて、たとえ撃破出来なかったとしてもより良い条件で西住につなぎます」

「ひゃー凄いこと言うね下田君」

「あとそもそも近距離射撃の練習を皆にさせてます。川嶋広報に限らず撃ち漏らしが多いと感じました」

 

 懐かしいな。爺さんに無理やり連れてこられてやって来た先が戦車道体験施設。蝶野さんはその時の俺の担当をしていた。もしあの感覚、敵が撤退の判断をする間もなく撃破する時の高揚感をずっと感じれるのなら――

 いや、違うだろ。そもそも俺は男だし、それに敵の動きによっては俺は全く役に立たない。考えること自体が無意味だ。

 

「とまあ、そんな感じで。でも正しいアドバイスを聞きたいんなら蝶野さんとかにでも聞いた方がいいと思いますよ」

「いやーでもあの人は適当だからどうだろうなー」

「そうじゃん。そうだった」

 

 言い訳をするが俺が射撃以外全くダメだった理由の3割くらいは教え方だと思うの。

 

 

 

 

 

「二人ともありがとねー」

 

 俺と西住は生徒会室を後にした。あんの会長人に色々聞いておいて「実は自分は戦車の中で芋食ってるだけでした」そりゃねえよ。しかもそのスタンスは続けるっぽいし。自分の分の穴を俺に埋めてもらいたいんじゃなかろうか。残念無念そうはいかないんだわ。というわけでグッドラック西住!

 

「じゃ、俺はこれで」

「あ、待って!」

 

 喉が渇いたためジュースを買いに行こうと思い、西住と別れるとこだったが、西住から待ったがかけられた。

 

「放課後、一緒に帰れないかな? できたら二人で」

 

 ?????????????

 俺なんで呼ばれるんだよ。あ、これデジャヴ。

 




大学に入ったばかりで投稿頻度が安定しません。
いずれ安定すると思うので……。

感想、誤字脱字ガバ指摘お待ちしております。


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第2話 食事会です!

少し期間が空きました。
一応アンケートで票を見たかったので……。
これからも不定期にアンケートを取ると思うので投票よろしくお願いいたします。


 男子と女子の友情はありえない、というが果たしてそれは真実なのだろうか。中学の頃の俺はそこそこ友達がいて、その中に女子もいた。互いに恋愛感情は持ってなかった、と思う。しかしこの場合中学生と高校生の違いはとても大きいものだ。高校の方が中学よりも恋愛沙汰について敏感な人間が多いのではないか?

 武部は高校以前からあの性格だったのだろうか。であればいよいよ彼氏がいたことがないことが不思議に思える。もしかしたらずっと女子高育ちだったのだろう。

 現在俺は大洗学園戦車道チームの隊長を務める西住みほから一緒に帰ることを提案されている。きっと俺が生徒会室で余計なことを言ったからだろう。しかしあの恥ずかしがりの西住がそれだけを理由にそんなことを提案するのか? 

 

「えーと、2人でってことは武部とかそこら辺はついてこないってことか?」

「うん。だめかな?」

「とりあえず理由を聞きたい。さっき生徒会室で俺が言ったことは出来れば忘れて欲しいしあまり詮索しないで欲しいんだが」

「聞かないよ。ただ話をしたいんだ」

「話だけなら……ほい、これ俺のライン。追加してくれればチャットで会話出来るぞ」

「文章じゃなくて口で話したいんだ」

「……西住って結構ぐいぐい来るのな。意外だ」

「え、えっとそんなことないよ! ただ……ええっと」

 

 言葉が中々出てこないのか首を四方に動かしたり腕を頭に持ってきたりと忙しいな。姉や兄がいたら溺愛されてそうな可愛さがある。

 

「分かった。そこまで必死に考え込まれると俺の負けだ。一緒に帰ろう西住」

「いいの!? やった!」

「確認するが他の奴らは来ないんだよな? ここまで来たらもう構わんが」

「うん。今日は2人で話がしたいから」

「そうか。ちなみに家はどこなんだ?」

「えーと」

 

 どうやら俺と西住の家は凄く近いことが判明した。登下校ですれ違わなかったのは単純に朝は出る時間が俺の方が早く、帰る時間も俺は西住と違って友達もいないので早いからだろう。自分で言ってて悲しくなってきた。高校に入って初めてのライン交換の相手が西住流の家元の子供だったとは夢にも思わなかった。そもそも男子が俺だけってことが想像しえなかった。

 

 午後になった。不安なことがある日の時間の流れようは体感数倍早く感じる。

 この時ばかりは普段長く感じる授業でさえ一瞬だった。

 そして来た放課後。今日の戦車道は主に戦車の簡易的な修繕や整備の練習らしい。西住曰く、相手の行動を見る時間や、試合中停滞状態になった時、戦車の調子を良くすることをするのとしないのではその後の動きのキレに差が出るらしい。西住は事前にどういうことをするかを戦車道選択者に教えているらしく、今日は西住が抜けても問題ないとのことだ。逆に言うと今日のような日にしか俺なんかと放課後に時間を潰せる日はないようだ。ここまで来ると普段から気を張っているに違いない西住を俺なりに楽しませたいと思った。

 

「ちょっとコンビニ寄ってもいいかな?」

「別に構わないぞ」

 

 西住と共にコンビニに入った。俺は卵や納豆等の食材を買ったのだが……。

 

「一度に買うの多くないか!?」

「えへへ。私コンビニ大好きなんだよね」

「弁当にカップラーメン、ジュース、スイーツ……。もしかしてお前いつもコンビニで食べるもの調達してんの?」

「うん。菊代さんからは止めておけって言われているんだけどね。つい買っちゃうんだ」

「さっき一番くじの方を結構見てたけどそれは買わないで良かったのか?」

「えーと、今日持ってきているお金がそこまで多くなかったから……」

「ふーん。あ、ちょっとこれここに置いとくから見張っててくれない?」

「え?」

「トイレだよ」

 

 俺はコンビニに戻ると自分の財布の中身を確認した。

 

「あまり多くはないが……。あ、そう言えばカードがあったな。確か結構あったはず」

 

 俺は一番くじのコーナーからくじ券を一枚レジに持っていく。3回くらい引いておくか。

 

「お待たせ」

「うん。……えっ!? ボコのぬいぐるみ!」

「あー、なんか買ってみたらA賞が当たった。あとはそんなに大したものじゃないけどな」

 

 俺が引き当てたのはA賞のボコの巨大なぬいぐるみ、D賞のボコのストラップ、F賞の下敷きだった。

 

「見張っててくれてありがとうな。お礼にお前の荷物持たせてくれよ。俺の方が力あるし俺の分と二つ持つくらい全然問題ないから」

「え、でも両手ふさがったらそのボコのグッズはどうするの?」

「俺が持てないことはないんだが、持っててくれると嬉しい」

「ありがとう!」

 

 俺達は持っている物を交換してコンビニを後にした。

 

「下田君ってボコ好きなの?」

「うーん。好きってわけじゃないけどくじは好きだな。当たらない前提で引いて良いやつが出た時嬉しいから。西住はどうなんだ?」

「私はボコ大好きだよ! 何回やられても立ち上がる姿が凄く好きなんだ!」

「ふーん。やられまくってるから包帯巻いてるのか」

「そうだよ」

 

 そこから少し歩くと西住が住んでいるアパートに着いた。取り合えずこの荷物を置いて、そこから帰るか。

 西住の家は散らかっているわけではないがところどころにコンビニの商品が見えることから通い詰めてることが見て取れた。あまりジロジロ見るのは良くないので程々にする。

 

「じゃ、ここに置いていいか?」

「あ、うん。ありがとね持ってくれて」

「いや、お互い様だ。大した話できなかったな。そのお詫びとしてボコ(それ)あげるよ」

「え! でも……」

「さっき言っただろ? 俺はくじを引くのが好きなだけなんだ。勿論いらないなら持って帰るが」

「本当にいいの?」

「ああ」

「ありがとう!」

「どういたしまして。さて、俺はこれで帰るとするよ。何か話したいことあったらいつでも連絡くれ」

「え? もう帰るの? 私下田君の分も御菓子買っちゃったんだけど」

「何それ初耳。別に明日食べれば良くない?」

 

 流石に長時間異性の家に居座るのは気が引ける。

 

「だめ……かな?」

「……はあ、分かったよ」

「やった!」

 

 そんな子犬みたいな目で見られたら断れない。それに今日は西住に優しくすると決めたのだ。

 

「俺の買ったやつ食材だから冷蔵庫入れていいか?」

「うん。いいよ」

 

 冷蔵庫に先ほど購入した食べ物を入れる。……え、ボコ印のプリン、ボコ印のイチゴ、ボコ印のレトルトカレーボコ印の……。こいつボコ好きすぎだろ!

 

「それで、俺は何をすればいいんだ?」

「えっとね、単刀直入に言うね」

「ああ」

「私下田君のことが知りたいの」

「なんだそれ。別に語ることなんて全然無いが」

「私この学校に来て初めてまともに喋ったのが下田君なんだ。最初に一緒にご飯を食べた時私達全然喋らなかったよね。でも不思議と嫌じゃなかったというか」

 

 喋ったのか喋ってないのかどっちなんだ。なんとなく言いたいことは分かるけど。

 

「多分、私は下田君と自分を重ねてたんだと思う。あの頃の私と同じ、周りから孤立していて、なにより」

「西住」

 

 西住がその先を言う前に俺は被せて言った。ここは強く言わなければならないと思ったからだ。

 

「お前戦車道好きか?」

「え?」

「言い方を変える。『大洗チームの戦車道は好きか?』」

「好き……だよ? どうしてそんなこと聞くの?」

「もう一つ答えてくれ。『大洗に来る前の戦車道は好きか?』」

「……好きだったよ」

 

 ひねり出したようなか細い声だった。

 これはきっとその場しのぎで言った言葉じゃないだろう。西住みほが戦車道を避けるきっかけは何か別の理由があるように思える。

 

「きっとお前は前の学校で――」

 

 って、何やってんだ俺。今日はそんなくだらないことを話す日じゃないだろ。西住を問い詰めてどうする。

 

「すまない。話を続けてくれ」

「うんうん。下田君こそ続きを教えて?」

「いや、しかし……」

「私ね、この前聖グロリアーナ女学院と戦っている時、下田君が観戦しに来てたのを見たんだ。色々終わった後急いで近づいたんだけど、その時下田君は凄く辛そうな目をしてた。だから私その時はっきりと分かったんだ」

「……何を?」

「下田君、」

 

 続きの言葉は分かっている。きっと西住は自分と同じく俺が何かトラウマを抱えており、それが理由で戦車道から逃げていた、と言い、その後に優しい彼女らしい言葉を投げてくれるのだ。

 しかし、違うんだ西住。俺が戦車道から逃げているのはそんな理由じゃなくて、ただ単にガキの頃から抜けていない反抗期なだけなんだ。ただ、周りの人間が戦車道に興味を持たせようとしてたからその逆張りをしているだけだ。そんな軽い理由で避けている俺と戦車道の家系で生まれ、小さな頃からずっと戦車道に向き合ってきたであろうお前と同一視されるなんてあってはならない。「避ける」の重さが違う。

 だから――。

 

「本当は戦車道やりたいんだよね?」

「……え?」

 

 あまりの予想外の言葉に俺は情けない声を発することしか出来なかった。俺が戦車道をやりたい? 何故そう思った?

 

「私ね、大洗に来るまで黒森峰で副隊長を務めていたんだけど、黒森峰は戦車道全国大会優勝校の常連だから必然と試合に出るメンバーは厳選されるの。そしてそのメンバーに入れなかった人たちをたくさん見てきた。あの時見た下田君の顔はそれと同じだったよ」

「偶然だよ。俺みたいな人間がそんな人間と同一視されて良いわけがない」

「でも、今日生徒会室で下田君が戦車道の作戦について話してた時、笑ってた。凄く楽しそうな顔してたよ」

「そんなこと……」

「私ね、下田君の事がもっと知りたい。私と下田君は同じじゃない。でも凄く似ているから、もっともっと話したいの」

「……」

「さっき聞いてくれたよね、私が戦車道好きかって」

「……あ」

「私が大洗に(にげ)た理由を話したいの。それが終わったら、一つだけお願いを聞いて欲しいんだ」

 

 西住の意思は固い。撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 か。今の西住が西住流らしい戦い方は全くしてないが、確かに彼女の心は西住流だった。

 こんなの勝てるわけがない。だから、白旗を挙げよう。

 

「聞かせてくれ、西住の話を」

 

 この時の俺は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

「え、どうしたの? 確かに自分でも危ないことをしたと思ってるけど……。でもその反応は少し傷つくなあ」

「いやいや戦車道の試合中とか安全とかそれ以前にだな。お前どうやって大雨の中水の中に落ちた戦車の蓋を開けたんだよ。火事場の馬鹿力ってレベルじゃねえぞそれ」

「最近の戦車道用の戦車はそういう風に作られているから……」

「また謎カーボンなのか? そうなのか!?」

 

 西住が言った内容はこうだ、去年の全国大会の決勝戦で大雨が降った。そして両チーム崖で戦うことになった。西住が所属しているチームの戦車が落下、川に沈没。それを見た西住はフラッグ車から抜け出して川に飛び込んでそのまま中の人間を救出、だがフラッグ車の戦車長を失ったチームは動転、そして敗北……。いや突っ込みどころ多すぎだろ! そもそもなんで大雨の日に崖際で戦っているんだよ。確かに撃てば必中なのかもしれないけども! それ相手も同じだから! 河嶋広報くらいだから外すの! 同時に守り弱すぎ! なんなら弾機体に当たらなくても壁崩れて全部仲良く崖下にドボンだろ。こえーよ。

 

「えーと、でそれが理由でお前のチームは敗北し、準優勝となったってわけか」

「うん……」

「んで、それから戦車道から距離を置くことになったってことか。確かに色んなやつから責められそうではあるがな」

「そう。それで戦車道が無い大洗まで来たんだけど……」

「戦車道が今年から追加された、と。何とも不運な……。いや、その後の結果を見れば幸運だったのか?」

「うん。今は凄く戦車道が楽しいし、やっていて良かったなって思ってるよ」

「そうか。それは良かったな」

 

 西住の声が明るくなっていった。俺に対してもこんな顔をするんだな。

 

「ところで一つ質問してもいいか?」

「うん。何?」

「西住は『西住流』の人間なんだよな?」

「そうだよ」

「えらくそれとは違った戦いをするのな。いやまあ、うちの戦車の戦力だと相性は最悪かもしれんが、それにしてもその面影が全く見当たらない」

「そうだね。でも私はお姉ちゃんやお母さんみたいに才能無かったから……。下田君は西住流に詳しいの?」

「んー、どうだろう。有名どころは結構知ってるって感じだからな。西住流や島田流は結構見させられてきた。てか、西住流の人間チェックしてたのにお前の事知らなかったんだが、もしかしたら俺がよく見てたのはお前の姉貴だったのか」

「多分そうだと思うよ。お姉ちゃんは色んなメディアにでてるからね」

「今見ると結構似てるな」

 

 西住を見る。顔は妹の方が優しそうな感じだが、姉の方はきりっとしている。それと、どこかとは言わんが姉の方が大き……いや、意外と同じくらいなのか?

 

「……下田君」

 

 そうやって見ていると西住から睨まれた。やべ、どこ見てたかバレたか? 女の子は意外とそういう視線に敏感っていうしな。

 

「あー、そのなんだ。何か西住から俺に聞きたいことってあるか?」

「昨日の話について聞いてもいい?」

「あー、まあいいか。どうぞ」

「ありがとう」

 

 本当はあまり触れてほしくなかったがこの流れで言わないってのは変だろう。

 

「下田君っていつ麻子さんと会ったの?」

「え、そっち?」

「うん」

 

 ええ……。しかも顔笑ってないしなんなんだ。いくら自分と似てるからってそこまで気にするのか。 

 

「普通に放送で呼び出される前に戦車庫で遭遇しただけだ。あいつ戦車の上でくつろいでたぞ」

「あはは……。麻子さん朝弱いからなあ」

「朝とは」

「でも麻子さんはずっと成績も1位だし凄い人だよ」

「知ってる」

 

 元々名前だけは聞いたことがあった。しかし学校で冷泉を見たのは1、2回くらいしかなかった。

 

「下田君は勉強得意なの?」

「得意じゃないし好きでもない。なんなら大嫌い」

「あ、そうなんだ。でも麻子さんと戦っていたってどういうこと?」

「俺が大洗で一人暮らしをするための条件の一つが学校での成績上位をキープすることなんだよ。一応頑張って2位まで行ったけど、せっかくなら一度くらい1位になりたいなと思って努力したがずっと2位だった。まさか学年1位が不登校の人間だったなんて思いもしなかった」

「私からしたら2位でも凄いと思うよ。でも、そんなに成績良かったらほかの人から勉強教えてほしいって言われなかったの?」

「ないんだな、それが。そもそも俺テストの用紙もらったらすぐにカバンに入れてるし」

 

 それに俺が成績良いのを周りに知られたとして、本当に周りから話しかけられるかは微妙だ。授業でのグループ活動は邪魔にならない程度に参加していた。幸か不幸か俺が今まで一緒に活動をすることになったメンバーは皆優秀で俺が持ちうる知識を見せる機会など無かった。

 

「もういいだろこの話は。1位がアレなら俺も諦めがつくってもんだ」

「あ、ごめんね。それじゃああと一つだけ聞いて良い?」

「どうぞ」

「下田君は戦車動かしたことあるの? あの時『狙撃する』って言ってたと思うんだけど」

「動かしたというか体験会みたいなのに連れていかれたって感じだ。その時蝶野さんが俺に諸々教えてくれたんだよ」

「……あの人の教え方ってなんというか」

「ああ。雑すぎる。『ハンドル切ってGOGOGO!』とか言われて上手く操縦できるわけがない」

「でも、射撃は出来たの?」

「そうだな。元々俺叔父が開いている射撃場で銃撃ってたし、中学の頃弓道少しだけやってたが結構得意だった。厳しすぎて辞めたけど」

 

 体験入部の期間の内に最上級生と同じ実力になっていた俺は足りない筋肉をスパルタで鍛えられた。あの時の俺はいわゆる期待の新人ってやつだったんだろう。顧問の先生は他の1年生そっちのけで俺ばかり鍛えてきた。あの時が俺の人生で一番辛かった時期だと思う。

 

「別におごるわけじゃないが蝶野さんに『才能がある』って言われたから戦車での砲撃の才能もあったんだろうよ。戦車の性能が良かったとはいえ射程距離ギリギリの的を10回連続で撃ちぬけたし」

「凄い。でもよくそんな遠い的に当てようと思ったね」

「蝶野さんが『君はこっちのコースでやってみなさい』って言ったんだよ。最初は普通に近い的だった。今日狙撃するとか言ってたけど性能が違うから出来るか分からないわ。俺何偉そうなこと言ってたんだろうな」

「そんなことないよ。そもそも会長が下田君に聞いたんだし」

 

 それから色々な話をした。西住の乗っている戦車の班の名前はアンコウチームという名前だということや八九式に乗っている人間が全員バレー部だったりとか。一番楽しそうに話してたのはアンコウチームの人間の話だ。装填主の秋山は戦車オタクであり、他人を○○殿と呼ぶようだ。想像ができない。小さい頃から友達多くなさそう。良かったな秋山。アンコウチームにいることで、君はヒーローになれる。既に仲いいっぽいし。

 装填主は地味だがとても重要な役割を担っている。河嶋広報は装填主をやればいいのでは? あの人仕事めちゃくちゃ出来そうだし、単純作業こそが得意分野だと思うんだが。生徒会チームは3人だけってのはほかの二人の役割どうなってるんだろう。

 

 

 

 

「お腹、すいてきたね」

「そうだな。そろそろ俺帰ろうかな。西住は晩飯はどうするんだ?」

「さっきコンビニで買ってきたよ」

「そうなんだ。ところで今日はコンビニ食何日目だ?」

「多分、2週間くらいかなあ」

「まさかのdayじゃなくてweekだった」

「私ご飯作るの苦手だし……コンビニのお弁当美味しいし」

「……はぁ。ちょっと待ってろ。朝弁当用に作った料理が俺の家にある。どうせ俺一人じゃ食いきれないしそれ食べてくれよ。流石に西住の体が心配だ」

「でも悪いよ!」 

 

 そういう西住の顔はとても嬉しそうだった。犬だったら尻尾ぶんぶん振ってる。本当は一人でも食べきれる量だがそこまで食欲があるわけじゃないから西住に食べてもらおう。

 タッパーを二つ用意して家の残り物をいい感じに詰め込んだ俺は再び西住の家の扉を叩く。本来であればスープを晩飯に別に作る予定だったが……。

 

「西住、みそ汁作ってもいい? 材料は持ってくるから」

「材料なら冷蔵庫あるよ。昨日いつか作ろうと思って買ってきたんだ。私も手伝うよ」

「いや、座っててくれ。なんだか怖い」

「……」

 

 20分もすればそこそこのが出来た。出汁を取ってるわけじゃないからそこまでうま味が深いわけじゃないが十分だろう。

 

「いただきます」

 

 不味い料理を作ったわけじゃないが、西住の舌に合うだろうか。少なくとも体に悪い食べ物は入れてないはずだが。

 

「おいしい……なんだか菊代さんを思い出すなあ」

「舌に合ったら良かった。で、さっきも言ってたけど菊代さんって誰?」

「西住家の家政婦さんだよ。よく気にかけてくれるんだ。菊代さんは和食が凄く上手なんだけどその味に似てる」

 

 今日持ってきたのは肉じゃがと白飯とほうれん草とシラスのポン酢漬けだ。肉じゃがには酒を混ぜているから日持ちがいい。ほうれん草とシラスのボンズ漬けは簡単に作れるわりに栄養も取れて美味しい。からよく作っている。

 

「下田君はこの料理はどうやって覚えたの?」

「俺爺さんが無理やり戦車道勧めてくるからそれから逃げるようによく婆さんの方に行ってたんだよ。そして婆さんの料理の味見をしたり、一緒に作ったりして覚えた感じだな。基本的にはあるもので作るからこれといって得意な料理があるわけじゃないが」

「沙織さんも前作ってくれたけどそれより美味しいかも」

「そうか。嬉しいけど本人には絶対に言うなよ」

「い、言わないよ」

 

 

 数日後に西住家に集まったアンコウチームの人間での食事の際に西住がうっかり俺の料理の話をして翌日俺に武部が問い詰めてきた。うん、分かってたよ。西住は臨機応変に対応できる易しくも強い女の子だがうっかり屋であった。「今度私と女子力勝負してもらうんだからね!」とは武部の言葉だ。別に料理出来る=女子力高いってわけじゃないだろ。それだったら某オリーブの王子はオリーブの王女なっちまう。

 意気揚々としていた武部だが、俺が食べていた弁当を使ってなかった予備の割りばしで二口食べるとぐぬぬと唸り声をあげていた。その後はっとして赤くなりながら「これって関節キスじゃん!」と言い、殴ってきた。うーん、可愛い。これは近所のおじ様方に好かれるタイプだわ。




誤字報告、感想お待ちしております。
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第3話 宝探しの始まりです!

今回は大洗チームの人間は出ません。蝶野教官&主人公回です。
少し短めなのですが、それには理由がありまして、アンケートを取らせていただきたいなと。
詳しくはあとがきにて


 ピーンポーン。

 

「今出ます」

 

 ガチャリ。

 

「久しぶりね! 下田君」

 

 バタン。

 

「えーと、スマホスマホ」

「ちょっと待ちなさい!」

 

 俺がポケットからスマホを取り出していると、勢いよくドアが再度開かれた。

 

「このドアそんなに強く設計されてないんですよ。あまり乱暴にしないでください」

「君がすぐにドア閉めるからでしょう!」

 

 ごもっともである。

 

「久しぶりですね蝶野さん」

「ええ、久しぶり。握手でもしたい気分よ。……ちょっと待って。今スマホの画面に変なのが見えたのだけれど」

 

 俺のスマホの画面には110の文字があった。

 

「前3回くらい家に乗り込んできたでしょ。次は先手を打とうと思って」

「通報は止めてちょうだい。一応私自衛官だから……」

「冗談です。で、何の用ですか」

「中で話をしたいのだけれど」

「……何もしませんか? 次俺のパソコン壊したら新しいの買ってくださいね」

「壊さないわよ。絶対に」

「分かりました。どうぞ」

「お邪魔します」

 

 畳の上に置いてある小さい机のそばに蝶野さんを座らせると俺はお湯を沸かしに台所へ向かう。

 

「悪いわね。急に来ておきながらお茶まで用意してもらって」

「いえ、そもそも俺の連絡先持ってないでしょう?」

「持って……ないわよ」

「おい、何故そこで詰まる」

「んー! 緑茶のいい匂いがする!」

 

 わかりやすく話題を逸らしたな。一体誰が俺なんかの連絡先を広めたんだよ。

 

「どうぞ」

「ありがとう。……やっぱり下田君の淹れるお茶は美味しいわね」

「ありがとうございます。それで、お茶(それ)飲み終わったら本題お願いしますね」

「ん……。そうね。それじゃあ早速本題に入らせてもらうわ」

「はい」

「君、大洗高校のメンバーとして戦車道出てみない?」

「え、酔ってます? まあ、別に興味がないわけじゃないですけど」

「嫌とは言わないのね。少し驚いたわ。もしかして西住さんに影響受けたの?」

「まぁ、正解ですね。どうして分かったんですか」

「女の勘よ」

 

 この人の場合マジで勘が鋭いからあながち馬鹿にできない。普通に考えて連続15両撃破なんてヤバすぎるし。何か本来の技術とは別に力を持ってるに違いない。

 

「でも俺が大洗チームに入るとして余りの戦車なんてないですよ」

「そうかしら。もしかしたら君の努力次第で戦車が()()()()()()

「増えるってどういうことですか」

「知ってるでしょう、大洗高校も昔は戦車道が盛んに行われていたことを」

「ええ、知ってます。でもその時の戦車のほとんどは売られて今使われているのはその売れ残りなんですね?」

「そう。でもね、君のお爺さんが言うには『大洗の学園艦には当時の主力級の戦車が一つだけ置いてある』だそうよ」

「『学園艦』ですか。学園内じゃなくて」

「そう。そして君にこれを渡そうと思って」

「……なんですかこれ」

 

 蝶野さんは持っていたカバンからクリアファイルを取り出すと複数枚のカラー付きの用紙を渡した。一枚一枚内容を確認していく。

 一枚目のプリントに写されていたのは夕焼けを背にしたベンチ。二枚目のプリントに写されていたのは「老舗のアンコウ料理店」と書かれた看板が端に見える路地裏のような場所。三枚目に写されていたのは……俺の住んでるアパートの誰も使っていなかった小さな駐車場。

 

「最後のこれって多分ここの駐車場の写真ですよね?」

「あら、そうなの? ああ、そう言えばこのアパートは自分で選んで部屋を借りたの?」

「いきなりですね。このアパートは父さんが選んだんですよ。……もしかして」

「その先の話は今は置いておきましょうお。この写真はすぐ近くの場所なのよね? 善は急げ。早速行ってみましょう!」

 

 

 俺のアパートは3階建てだ。エレベーターはついてないので階段で下に降りることになる。その途中で蝶野さんに問いかけた。

 

「もしかして俺の家族に大洗で戦車道が始まったって伝えました?」

「いいえ。私からは何も言ってないわ」

 

 そうなのか。でも爺さん達もまさか残った戦車が5両だけだったとは思ってなかっただろうな。

 

「着きました。やっぱり写真と一致してますね」

「よく見て、あの壁に取っ手があるでしょ」

「ありますね。それがどうかしたんですか?」

「下げてみましょう。そうしたら何か起こるかも」

「それも女の勘ってやつですか?」

「そうよ。分かってきたじゃない」

「蝶野さんのことだから分かるんですよ。他の女性の気持ちや考えなんててんでダメです」

「あら、そう言ってくれるなんて嬉しいわね。もしかして私に好意抱いてたりする?」

「俺は釣り合わない恋はしないタイプです」

「それはいったいどっちの意味なのかしらね……。それよりも、ちょっと力を貸してくれない?」

「分かりました」

 

 俺と蝶野さんは二人で不自然に壁に取り付けられていた錆付きの取っ手を思いっきり下に押すとガコンという音と共に下に下がった。

 

「結構堅かったですね」

「そうね。それでこれからどうなるのでしょうか」

「何も起こらないじゃないですか……うわ!」

 

突如地面が二つに分かれたかと思うとそこからは階段が見えた。どれくらい使われていなかったのだろうか、しかし

さっきの取っ手よりかは古臭くないし、むしろ綺麗な方だ。

 地下室に続くのか? ここの駐車場は俺が来てから一度も使われたのは見たことがなかったが誰かがこの仕掛けのために仕組んでたのだろうか。

 

「これは驚いたわね。とりあえず中に入ってみましょうか」

「明かりとかついてないのにどうするってんですか。ちょっと待ってください。部屋から色々持ってきますので」

「了解!」

 

 俺は階段を一段飛ばしで駆け上がっていくと自分の部屋の鍵を開け、懐中電灯とゴキブリ対策のためのフローズンスプレーを取り出して蝶野さんの元へ戻ってきた。

 

「持ってきましたよー……って、蝶野さんどこ行った。もしかしなくてもこの中に入っていったのか。おーい、蝶野さん」

 

 穴の中に向かって大声で名前を呼ぶと蝶野さんの返事が聞こえてきた。やっぱりこの人中に入っていったのか。少しくらい待ってよ。

 

「今入ります」

 

 懐中電灯を使って周りを照らしながら地下室を歩いていく。少し歩くと蝶野さんが見えた。内装も意外と綺麗だな。地形が悪くなってるわけでもないし、照らしたところ汚れもあまり見えない。

 

「ちょっと待っててって言ったじゃないですか。蛇とかいたら危なかったですよ」

「まあまあ、結果的に何もなかったんだしOK! それよりも、前照らしてみてちょうだい」

「はあ、分かりました。……これは!」

 

 照らした場所にあったのは大きな戦車の砲台だった。これは……。

 

「ティーガーですか。少し形が異なるようですけど」

「そのようね。でも砲台しかないわね」

「なんとなく察してしまった。あの爺さんならやりかねないことです」

「私も多分同じことを思ったわ。これから始まるようね『宝探し』が」

 

 爺さんからもらった3枚の写真のうち、一つがこの戦車の砲台だ。多分他の写真の場所にも戦車の部品が置いてあるのだろう。それらを全て集めると、一つの戦車になる。俺はそう理解した。

 

「しかしこれどうやって運びだしましょうか。俺と蝶野さんだけじゃ無理ですよね」

「そんなことないわ。戦車道に使われる戦車は普通の戦車よりも軽く作られているから軍人の私と男の君がいればおそらく運び出せるわよ。前の学校で結構鍛えられてたんでしょう?」

「確かにそんな話聞いたことありますね。しかし、まさかこんなとこであのスパルタ教師による筋トレが役になってくるとは」

 

 思い出すだけで身震いしてしまう。毎日地獄のような鍛錬、一度外したら腕立て30回。全部当てたら褒美に腹筋30回。毎日居残りでの雑巾がけ。

 いい思い出が一つもない。先輩たちにもあまりよく思われていなかったし、俺にばっか構ってくる顧問に嫌気がさして辞めていった同期もいた。前の学校では俺は自分で言うのも何だがそこそこの人気者だったので、辞めていった友達ともその後遊んだり、他の人間を集めてパーティーを開いたりと楽しくやっていた。卒業するころには俺が中に入らずとも、そいつらは俺の多くの友達と仲良くなっていたので、きっと高校でも時々会ったりして遊んだりしているのだろう。

 懐かしいな。夏休み辺りで一度実家に帰ってあいつらとまた遊んでみたいな。

 

「持てると言っても、結構……! 重いじゃないですか!」

「それはそうよ。そうじゃないと火力の高い銃弾を受けた時に中の選手がケガするじゃない」

「持てなくはないけど、絶対応援を呼んだ方が良かったと思いますよ……!」

「そうね、それじゃ次からは大洗の友達と協力して頑張りなさい。私が付き合える日は暫くないから」

「え?」

「グッドラックよ下田君!」

 

 何とか地下室から運び出すと、砲台を地面に置く。そして再び蝶野さんと一緒に先ほど下げた錆付きの取っ手を上げると、開いてた地下室への扉がしまっていく。

 

「これから蝶野さんが手伝ってくれないってマジで言ってます?」

「そうね。ほら、私結構忙しいから」

「確かにそうなんだろうですけど……せめて力持ちの人間に手伝ってもらうことはできませんか」

「どちらにせよ大洗でチームの一員として戦うならコミュニケーションは必要でしょう。これもいい機会よ。戦車の取り付け方や調整方法は知ってる?」

「知りませんよ。でも大洗にはスーパーエリートの自動車部の人間がいるからそこら辺のことは何とかなると思います」

「それはいいわね! もしも、私としてはそうなってほしくないのだけれど、君がこの戦車に乗らないってなったらその人たちに乗ってもらうって選択しもあるかもしれないわね」

「それは割とアリな選択しかもしれません」

 

 その後、砲台に「大洗高校関係者以外触れるの厳禁」の張り紙を貼って俺達はそこから立ち去るのであった。

 

「それじゃ、何か最後に聞きたいことある?」

「本当は操作とか色々教えてもらいたいんですけど、蝶野さんの教え方で俺が上手くできるようになるとは思えないのでいいです。代わりと言ってはなんですが、蝶野さんの連絡先を教えてもらってもいいですか」

「あはは……実は最近人にものを教えることが苦手だって気づきつつあるのよね……。連絡先ね、これよ」

 

 蝶野さんの差し出したスマホから電話番号を見て、電話帳に登録した。

 

「またね! 何か連絡したいことがあったら電話して頂戴」

「ありがとうございます」

 

 さて、どうしたものかね。




 前書きにも書いた通り、アンケートを取りたいと思います。戦車の部品探しのメンバーの厳選です。
 各学園の隊長+誰かでやりたいと思います。部品運びは自動車部に手伝ってもらうとして、一緒に探すメンバーです。
 部品はあと二つなので2人募集したいと思います。
 投票よろしくお願いいたします。


追記
 誤字報告感謝します。感想や誤字報告が大変モチベになっております。


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第4話 宝探しの始まりです!その2

アンケート投票ありがとうございます。


 夕焼けを背にしたベンチ。写真から読み取れる情報だ。ひょんなことから宝探し、もとい戦車の部品探しが始まったわけだが、これに対してそこまで驚いているわけじゃない自分がいる。というのも、過去に爺さんが俺の初めての自分用のパソコンを買ってくれた時、ディスプレイやマウス、本体等を家のあらゆる場所に置き、探させたことがある。

 何かを得たい時は自ら模索しながら動け、とのことだ。また、パソコンに限らず、色々な物であった。そのおかげなのか、俺は現在では物を無くした時にそれを見つけるのに苦労しなくなった。見つけ方のコツを知ったのだ。

 

「しかし今回は規模がデカすぎないか? 学園艦規模での探し物なんて……」

 

 参った。取り合えず外に出て思考をリフレッシュしよう。それに、誰かに協力をお願いするのなら直接会ってお願いするのが礼儀というものだろう。

 

「外に出たら何だか腹減ってきたな。何か食べに行くか」

 

 少し家から出てぶらつくとどこからかいい匂いがしてきた。そういえば今日はまだ食パンしか食べてない。どこに行こうか……。

 

「あれ、下田君。どこか行くの?」

 

 振り返るとそこには皿を手に抱えた西住がいた。

  

 

 

 

「――というわけで、戦車の部品探しをすることになったわけだが」

 

 西住を俺の家に上げて、戦車探しの件について説明した。

 

「え、もう砲台は見つかったんだよね? それは今どこにあるの」

「蝶野さんの知り合いに戦車倶楽部の店員がいるんだけど、その人に渡してある。昔戦車道が大洗で栄えてた時、あの店は戦車の調整とか部品を売ったりとかしてたらしくて、そのスペースが空いてたみたいでな。お願いしたら引き受けてくれたよ」

 

 流石に無料無料(ただ)じゃ忍びないので取り合えず一週間という契約で2000円払っておいた。これでも安い方だろうが向こうはお金を受け取るのも躊躇っていたので額はこれ以上上げることはしなかった。しかし、流石に戦車道が廃れた今、その調整を詳しく出来る人間はいなくなっており、昔から運営していた店長も感覚を忘れていたのでその辺は予定通り自動車部の方々にお願いすることにしよう。

 

「探す部品はあと二つなんだよね?」

「そうだな」

「私、手伝いたい」

「いいのか? 助かるけど」

「うん。それと、これなんだけどね。この前の料理のお礼にと思って」

「別に気を使わなくていいのに。えーと、これは」

「うん。もし良かったら食べてくれない?」

 

 そう言って西住が差し出した皿にかけられていたラップを剥がすと、なんとも美味しそうなオムライスが見えた。確かこれはタンポポオムライスといったっけ。真ん中からナイフを入れたらそこから分かれてトロトロの中身が見えるやつだ。

 

「ありがとう。あーその、早速で悪いんだが。このオムライス食べてもいいか? 結構腹減ってるんだ。西住はまだ腹減ってないのか?」

「私はまだいいよ。さっきちょっと食べたし」

「そうか。それじゃありがたく食べさせてもらうよ」

 

 俺はスプーンを持ってきて西住作のオムライスを食べる。

 普通に美味しい。特別に工夫を加えたりしたわけではなさそうだが、丁寧に作られている。

 

「美味しいよ、凄く。これ一人で作ったのか?」

「うん。たくさん練習したからそう言ってくれてよかったあ」

「たくさん練習って。なんだか悪かったな。あの時俺の飯を押し付けただけなのにそこまで頑張ってもらったのは」

「うんうん。そんなことないよ」

 

 

 

「ごちそうさまでした。これ明日洗ってから西住の家に持っていくよ」

「別にいいよそんな。自分で洗うよ」

「そんなこと言うなって。流石にそこで粘られると困る」

「……分かったよ。ありがとうね」

「それはこちらの台詞だよ。ありがとうな」

 

 俺は皿洗いを済ませた後、西住の元へ戻り、例の写真を見せた。

 

「こんなのなんだが……」

「あれ、これって……」

「え、心当たりあるのか?」

「うん。多分だけど――」

 

 

 

 

 

「まさかこんなに早く見つかるとは……」

「あはは……。ここは私達が聖グロリアーナ女学院との試合が終わった後、一緒に集まって遊んだ場所だからね。なんとなく見覚えがあったんだ」

「そうだったのか。それで、このベンチにどんな仕掛けがあるのかな?」

 

 俺は写真とその場を何度も見比べながら何か異常がないか探ってみる。

 

「何もないね」

「ああ。おかしいな。これがただの写真だとは思えないけど……」

 

 もしもなんとなく撮ってみた写真なら芸術家気質の完成を持っているのだろう。俺には分からない。

 それから西住と付近を調べてみたが何も変わったものはなかった。

 

「なんだか疲れたな。ここに来るのに徒歩ってのが不味かったか」

「ごめんね。私自転車持ってないから……」

「別に責めようとしてるわけじゃねえよ。それに悪いことばかりじゃない。俺もこの辺りは来たことなかったから色々見てまわれたし楽しかった。ただ、少しだけ疲れたから座って休もう」

 

 西住本人は何も言ってないけど表情から疲れが読み取れた。ただでさえいつも忙しい西住に俺の都合で疲労を溜めるのはだめだろう。

 

「自販機で飲み物買ってくるけど西住は何がいい?」

「え、いいよ私は」

「そうか」

「あ、やっぱり私も行く!」

 

 俺と西住は近くにあった自販機でエナジードリンクと烏龍茶を購入し、再び例のベンチに戻った。

 

「中々見つからないね」

「ああ。でも申し訳ないがもう少しだけ付き合ってもらえないか? てか今思ったけど俺と西住だけじゃ運ぶの厳しくないか」

「そうだね。私も少し思った」

「……まあ、見つけてからでいいか」

 

 俺馬鹿じゃん。なんで普通の女子高生と二人で戦車運ぼうと思ってたんだ。手分けして探せば効率良いとはいえ、ヒントがこの写真ならこの付近にしかないから一人で十分だった。

 

「あと何人か呼んだ方がいいよな。そうだ。あの人たちに協力願おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は来てくださってありがとうございます」

「下田君の方から協力お願いされるとはねー」

「下田君が戦車道やる気になってくれるなんて嬉しい! 是非私達も手伝うわ」

「西住ちゃんも下田君のお手伝い?」

「はい。でもまさか生徒会の皆さんが来てくれるとは……」

 

 というわけでやる気になったら連絡くれ、と言っていた生徒会の皆さんに協力を要請した。なんか一人足りない気がするけど。

 

「河嶋広報は今日は無理だった感じですか?」

「桃ちゃんは今日は親が家にいないから下の子の面倒をみなきゃって。『あの下田がやる気を出したのか!?』と驚いてたよ」

「そうですか。でもお二人が来てくれただけでも助かります」

「いやいやーあたしも面白そうだから来たわけだしね。西住ちゃんは下田君が戦車道やるって知ってたの?」

「知ってたというか……。やりたそうだなって思ったんです。でも本当にやろうとしてたのは今日知りました」

「なるほどねー。それで? その戦車はどこにあるの?」

「それが……この写真がヒントみたいなんですけど」

 

 俺は生徒会の二人に写真を見せた。二人はふむふむと頷くと目を見合わせた。

 

「アンコウ鍋、食べようか」

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほらじゃんじゃん食べてー。これ生徒会の活動の費用にするから値段は気にしないでいいよ」

「なんて横暴な……。そもそもなんで俺ら鍋食べてるんですか。家出る前に少し食べたんですけど」

「下田君は男なんだからたくさん食べてね。それとももうお腹いっぱい?」

「いえ、そんなことないですよ。普通に疑問に思っただけです」

 

 俺達4人は会長に連れていかれ、アンコウ料理専門店に来ていた。大洗といえばアンコウというほどこの町では定番だ。

 

「そういや西住のチームってアンコウって名前らしいな。なんで?」

「えっと……可愛いから?」

「それは、そのなんだ。凄い感性をお持ちで……。生徒会のチームはどんな名前でしたっけ」

「あたし達はカメさんチームだよ。可愛いでしょ?」

「アンコウよりはそうですね。角谷会長はどんな戦車の中で役割してるんですか?」

「んー、あたしは干し芋食べてるよ」

「は?」

「まあまあ。ちゃんと色々やってるよ」

 

 その色々を知りたいんですが。別にいいけど。

 

「でもね、下田君これには理由があって」

「あたし達の話はここまででにしよーよ。どうして下田君がやる気になったかが知りたいな」

 

 小山副会長の言葉を遮るように角谷会長が言い始める。何か言えない理由でもあるようだし深入りはしないでおこう。

 

「別に。ただ西住と話して興が乗っただけですよ。それに加えて俺が乗る戦車が見つかりそうなら丁度いいかなって思ったんです」

「やるねえ西住ちゃん」

「私はそんな! ただ本当は下田君は戦車に乗りたかったんだろうなあって思って、そういう話をしただけで」

「なんにしても下田君を誘ってくれて助かったよ西住さん。ありがとうね」

「確かに今の大洗は俺みたいな人間でも欲しいくらいの戦力ですよね。でもいってはなんですけども俺短期間で上手くなれる自信ないですよ。物覚えは悪い方なので」

「いやいやー。大洗(うち)は西住ちゃん以外戦車道経験者いなかったからねー。ちょこっと試合したりしたくらいじゃ全然変わらないよ」

「はぁ、そうですか。因みにこの戦車が見つかった時に俺以外に乗れる人間います? 一応俺の戦闘スタイル的にそこまで動いたりしないはずなので下手でも構わないんですけど」

「それがねー。一番人が多い一年生チームはあそこで団結しちゃってるから引きはがそうとするのは難しいと思うんだよね。西住ちゃん達も主戦力だから減らせないし。ま、そこまで重く思わないでいいから、一人で動かしてよ」

「それ正気で言ってます? 俺一人で動かすって……。マジで狙撃しかできないじゃないですか」

「……そもそもティーガーは攻撃力と防御力が高い代わりに機動力があまり高くない機体だからあながち単騎が向いてないわけじゃないのかも……」

「……分かりました。取り合えず一人で頑張ってみます。でもそうなると西住、俺の待機位置を考えるのはお前になるぞ。相手戦車を俺の狙える範囲に連れてきてもらえないと何もできないと思う」

「分かった。頑張るよ」

「ほらほら二人とも話が終わったらじゃんじゃん食べ物取っていってよ。二人は大洗出身じゃないでしょ? たくさん味わっておきなよ」

「そうですね。いただきます」

「いただきます」

 

 

 

 

 

「いやー美味しかったねー流石大将だよ」

「あの人と角谷会長は知り合いだったんですか?」

「そんなとこ。それよりさ、もう夕方だね」

 

 俺達は体感より長く店の中にいたらしい。すっかり夕焼けが射す時間になっていた。再び4人で写真のベンチに戻ってきた。

 

「あ……これこの写真と同じ状況」

「え、本当だ。この写真はこの角度から撮ったものっぽいな。それでどうなるんだ……」

「あ! 下田君あれって」

「なんか文字が出てるな。見に行くか」

 

 近くの銅像の土台に夕焼けに当てられ、黒くなっている文字があった。元々酸化によって緑がかっていた銅像だ。オレンジの光に当てられて黒く浮き出ているといことは元々灰が交じった青色だったのだろう。太陽光のテカリにより目立たなかったが夕焼けの時に見られるってことか。にしても、写真からは写らない位置じゃねえか。分かりにくすぎる。

 

「えーと、『近クノ鮟鱇(あんこう)料理店ノ主人ニティーガーニツイテ聞ケ』か。なんでカタカナ?」

「下田君何か分かった?」

「角谷会長。さっきの大将と話させてください」

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。ん? さっきのあんちゃんじゃねえか。どうしたんだい」

「あのー、勘違いだったらすみませんが、ティーガーについて知りませんか? 大洗にあるやつです」

「……あんちゃん確か角谷の嬢ちゃんの知り合いだったな。大洗高校の学生さんってことか」

「はい。今戦車を探しているんです。何か情報をお持ちでありませんか?」

「……ついてきな。おーい! 今日はもう店は終いだ。注文はもう受け付けないぞー!」

 

 大将のおじさんは奥さんらしき人間に少し離れるので後は頼んだと言うと、俺をとある場所に連れてきた。 

 

「普通の車庫、ではないみたいですね」

「そうだ。今中を見せる」

 

 大将は俺に反対側を持つように言うと、二人で一気にシャッターを開けた。

 

「ごほっごほっ。流石に埃っぽいな。思ったよりは全然マシだけどよ。そんでもってほれ、これがお前さんが欲しかったやつだろ?」

「これは……部品というよりもう本体ですね。履帯と砲台以外の全部付いてますし

「一つ聞いてもいいか? 俺にティーガーについて聞いたってことは銅像のメッセージを読んだってことか? どうやって見つけた」

「この写真を蝶野さんから渡されたんですよ。まあ、蝶野さんは繋ぎになっただけで渡したのは俺の爺さんだと思うんですけどね」

「ちょっと待て。あんちゃんの苗字教えてもらってもいいか?」

「下田です」

「!! なるほどな。どうりで。納得したよ。ほれ、下田さんの孫さんとなれば拒む理由もない。持ってけ」

「ありがとうございます。俺の爺さんと知り合いだったんですか?」

「下田さんは俺の娘の戦車道の講師をしてたんだよ」

「なるほど」

 

 この人はよく見たら結構年齢が高そうだ。20年前のをここに隠した、教え子が戦車道を習っていたってことは大体60前後かな?

 

「えーと、持っていくのは良いんですけど……どうやって運ぼうか」

 

 もう少し分解されているかと思っていた。どうしようか。いっそのこと分解して何回かに分けて戦車倶楽部に持っていくか?

 

「俺大型トラック持ってるからそれ使おう」

「何から何までありがとうございます。行先は戦車俱楽部でお願いします。位置分かりますか?」

「おうよ。無事送り届けてやるからあんちゃんは嬢ちゃん達の元へ戻りな」

「……ありがとうございます。また食べに来ます」

「おう! 楽しみにしてるぜ」

 

 

 

 来た道を戻ると、西住、会長、副会長が待っていた。

 

「どうだった?」

「見つかったよ。ティーガーの本体。大きすぎるから大将が戦車倶楽部に運んでくれるらしい」

「あちゃーあたしたちの来る意味無かったね」

「そんなことありませんよ。アンコウ鍋美味しかったですし、何より夕焼けにならないとあの暗号は分からなかったわけですから。それに結構重要な話もできましたしね」

「そうかそうか。んじゃこれからよろしくね」

「よろしくね」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 俺と角谷会長は握手した。

 これで残る部品はあと一つ、あの感じだと履帯だけか。それだったら少ない人数でも出来そうだ。俺と西住は生徒会の二人と解散した。

 

「よかったね。見つかって」

「ああ。西住も今日は付き合ってくれてありがとうな。多分俺だけだったらあの銅像の文字見逃してた」

「全然大丈夫だよ。これから下田君が戦車道やるなら私も嬉しいし手伝いたかったから。あ、でもこれから数日は予定が埋まっているから手伝えないかも……」

「分かった。今日付き合ってくれただけでも助かった。それと、西住さっきあまり食べてなかったけどあまり腹減っていなかったのか?」

「あの時はね。慣れない店で緊張したってのもあるけど少し食欲が無くて」

「確かにああいう雰囲気の店って慣れてないと違和感あるよな。今でも食欲ないのか?」

「いや、今はあるよ。この後晩御飯を買って帰るつもり」

「……コンビニ弁当をか?」

「うっ……そう、だよ」

「はあ……西住俺の家来い。皿渡すついでにカレー食っていけよ。どうせ一人では一晩じゃ食べきれないしな」

「いいの?」

「ああ。なんなら今日は武部達も呼んでいいぞ」

「そうなの? それじゃ呼んでみるね」

 

 

 

 

「全員今日は用事があるって……」

「そうか。それじゃしょうがないな。二人で食うか。そんなに特別に美味いのは作れないけど」

「うん!」

 

 

 

 




遅くなりました。
アンケートで10票集まった順に書こうと思ってました。
宝探し編の先はもう書いているので投稿頻度は戻ると思います。


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第5話 宝探しの始まりです!その3

ガバ指摘を読者様にいただいたので、少し変えて再投稿です。本当にすみませんでした!!
この小説を書くにあたってアニメをもう1周したのですがあと3回はしないとだめみたいですね……。



 「老舗のアンコウ料理店」と書かれた看板が端に見える路地裏のような場所。三枚目の写真から読み取れる情報だ。

 昨日行った店とは雰囲気が違う。昨日のは昔から続いてはいるようだが、何度かにわたってリフォームしたように感じた。そもそもこんな看板どこにも見つからなかったしな。

 さて、今日はどうやって探そうか。人を呼ぶのは見つかってからでもいいかな? でも昨日みたいに誰かといることで出来たこともあるわけだし。

 

「でもそもそも俺大洗の人間の連絡先あんまり知らねえ……」

 

 でもこれだけはっきりした特徴あるならネットで調べれば出てくるかもな。

 スマホの電源を付ける。

 付ける。

 ……付ける。

 

「付かねえ……。ならパソコンを……。え? マジで言ってる? 付かないんだけど!?」

 

 我が家はネット環境を失いました。

 

「そうだ。西住に……って暫く都合が悪いんだったっけか。どうすればいいんだ」

 

 そもそも何故付かない? 配線を見る。確か昨日はスマホの電池がギリギリだったから充電器に繋いで寝たはずだ。なのにスマホが付かない、恐らく充電切れになっているのだろうが……。それにパソコンも……。

 パソコンの配線とスマホの充電器のコードのどちらとも千切れていた。なんで?

 

  問 得られる情報源が近くにありません。どうすればいいでしょう。

 選択肢その1 歩いてなんとか探す。

 選択肢その2 ネカフェに行く。

 選択肢その3 大洗をよく知る人に尋ねる。

 

「……取り合えず外出てみるか」

 

 答 行動に出てみる。

 

 家を出る際、窓が開いていることに気づいた。ん? もしかして昨夜開けたまま寝てしまったのか。我ながら不用心だな。

 一旦靴を脱いで窓を閉めに戻る。その時だった。

 

「うわっ!」

 

 何かが目の前に飛び込んできた。咄嗟にそれを抱える。ってこれ……。

 

「猫!?」

 

 

 

 

 

 問 取り合えず行動に出てみた結果何になったか。

 

 

「そう、貴方も私と同じ迷子なのね」

「違わないけど違います」

 

 解 旅行者と迷子友達になる。

 

「えっと、田尻さんですよね? 聖グロリアーナ女学院の戦車道隊長をやってる」

「……ダージリンと呼んでくださる?」

「初手であだ名呼びさせてくる人初めて見ましたよ」

「万物において躊躇うものは敗れる運命なのよ」

「何に敗北するんですか……」

「それにしてもその猫、随分と貴方になついているのね。飼い猫なのかしら?」

「違いますよ。朝起きたら家に侵入していた泥棒猫ならぬ強盗猫です。何も盗んでないですけど」

 

 ネカフェがあるなら街の方だろうと思って歩いていたのだが、疲れたので休憩をしていると隣に金髪の女性が座ってきた。うっかり独り言をこぼしていたらしい。彼女は俺を迷子だと思っているらしく、共感したかのように頷いていた。あと何故か猫を外に出したのだが、俺にどこまでもついてきている。

 最初ダージリンさんと会った時はいきなり話しかけられてなんだこの人と思ったけど、いや今でも若干思ってるのだけれど、他校の学園の人間と話すことになるとは。しかもこの人結構有名人だぞ。

 

「ダージリンさんはどうして大洗の学園艦に訪れたんですか? しかも制服で」

「あらご存じでないのかしら? 今日はここで全国から集まった紅茶の販売会があるのよ」

「知りませんでした。でも一人で来たんですか?」

「いえ、本当は3人ほど……いえ、1人は含めれないようなものなので2人ね。一緒に来たのだけれど」

「はい」

「はぐれてしまったの」

「そりゃまたなんで」

「あら? 迷子になるのに理由がいるのかしら」

「意図的に迷子になる人間はいないでしょうね。でも原因とかあるんじゃないんですか?」

「こんな格言を知っている? 失敗は、成功を引き立たせるための調味料だ」

「知りません。食べ物の匂いに釣られたとか? なんてことはないか」

 

 俺は学校ではテストの範囲をひたすら頭に詰め込んで本番に臨んでいるだけなので、テストが終わると大抵の場合直ぐに忘れる。自分が頭が他の人より悪い自覚は持っている。また、学校で勉強してない知識はほとんど持ち合わせていないので格言等はさっぱりなのだ。

 

「……少し行っただけなのよ。皆がお手洗いに行った時に少し廻ってたらどこか分からなくなって、頑張って戻ってきても皆いないし……」

「あー、なるほど。確かにこの学園艦って道が複雑なところ多いですからね。だからこそ大洗と聖グロはそこそこ戦えたわけで。あれ? もしかして大洗に来るの初めてじゃない?」

「あの時は楽しく回るつもりなんてなかったのよ。だから道は覚えてすら無かったわ。恥ずかしいことにね」

「なるほど。で、迷子になったのに一緒に来た人たちに連絡は取らないんですか?」

「……置いてきてしまったのよ」

「え?」

「ローズヒップは直ぐにどこかへ飛んでいく性格なのだから携帯電話を渡しておけばいつでも呼べると思って」

 

 ローズヒップって誰だよ。ダージリンさんみたいに人のあだ名なことはなんとなく予想つくが。

 

「本人が迷子になっては元も子もないじゃないですか。因みにその販売会ってのはどこであるのかわかりますか?」

「確か街の方だったはずよ」

「なら俺と同じ方角ですね。案内しますよ。そこまでは分かります」

 

 携帯電話を無くしているのに紅茶とティーカップは携帯しているのには敢えてツッコまないでおく。俺とダージリンさんは同じく街に用事があるようなので一緒に行くことにした。街といっても他より少し賑わっているだけだけどな。大洗の観光品は大体そこで買っていく人が多いらしい。知らんけど。俺の場合はネットさえあれば直ぐに見つかりそうだし、少し長めに付き合っても大丈夫かな。一応ほら、大洗高校がお世話になった学校の隊長なわけだし。困っていたら何かお礼替わりにしたいものだ。

 

 

 

「ここら辺ですかね」

「そうね。それとさっきから気になっていたのだけれど……重くないの?」

 

 ダージリンさんが気にしているのはきっと俺の頭の上に乗っている猫のことだろう。下に降ろしても懲りずに何度もよじ登ってくる。その度に爪が服に食い込んで痛いので諦めた。周りの目が気になるが意外にも俺の方を見る人は少なかった。

 

「奇跡的なバランスで落ちないんですよこの猫。見た目以上に楽ですよ」

「そうなの……」

 

 ダージリンさんと俺with猫は少し賑わっている中を巡っていると「全国紅茶祭」の看板が見えたのでそこへ向かう。

 

「財布は持っているんですよね?」

「ええ。その心配はないわ」

「分かりました。どうしようかな。飯も売ってるとこあるしここで昼飯済ませるか。ダージリンさんはあのら辺にしか行かないんですよね?」

「ええ。本当だったらお土産の一つでも買いたいところだけどね。それは後にするわ」

「そうですか。俺はそこら辺の屋台で食べ物買って食べとくんで後から見つけに来ます。結構時間かかるでしょ?」

「そうね。聖グロリアーナ女学院の代表生として恥ずかしくないものを選ばないといけないから」

「そういえばそんな話でしたね。他に一緒に来ている人がいるならその人たちもここに来ているかも」

「確かにその通りね。ローズヒップはともかくアッサムとペコは来るでしょう」

 

 俺とダージリンさんは一旦分かれて別行動をすることになった。えーと鮭弁当とかないかな?

 

「お、ラッキー。すぐに見つかった。滅茶苦茶良い匂いするな」

 

 1周するまでもなくすぐに見つかった。しかしそこそこ時間がかかるらしい。クーラーボックスみたいなのに入ってる鮭を捌くとこから始まるようで、他の一緒に入っている料理も中々凝っているのが原因のようだ。別にそこまで腹が減っているわけじゃないから素直に待つことにした。

 にゃーんと猫が鳴く。頭から膝上に降ろし、猫の体を撫でていると大人しくなった。実家ではペット等は飼ったことが無かったので新鮮な気持ちだ。確か今の俺の家もペット禁止では無かった気がする。でも正直餌代とか病気をした時の費用とかが積み重なると馬鹿にならないので飼うつもりはない。俺みたいな奴にも懐くということは人慣れをしていて、他の人にも懐くのだろう。

 そんなことを考えていると、あることに気づいた。あれ、この首輪のマークってダージリンさんが着ていた制服に描かれていたものと同じじゃないか? ということは聖グロリアーナの学園艦から遥々俺の家までやって来て侵入してきたことになるのか。なんでそうなるホワーイ。

 

「お、出来たか」

 

 完成したようなので、屋台から料理を受け取る。美味しそうだ。再び猫が鳴いた。はいはい分かってるよ。

 

「猫舌って言葉があるくらいだし焼きたての鮭はまずいよな。ちょっと待ってろ」

 

 俺は焼き鮭の半分だけを細かく分けると、一緒についてきた容器の蓋に置く。猫が食べてはいけないので膝上に固定した。

 

「いただきます。……美味い」

 

 味は絶品の一言。大洗に来て二番目に美味しいと感じたかもしれない。付け合わせの高菜やひじき和えも美味しい。バランスの取れたザ・和食って感じの料理だ。これで500円はお得すぎるな。今度俺もこんな感じの味付けで作ってみるか。試食はまあ、西住にでもしてもらおう。コンビニ弁当よりは体に良いだろう。

 

「ほれ、冷めたぞ。食って良し」

 

 俺が膝から猫を降ろすと猫は真っ先に冷ました焼き鮭に食いついた。しかしまだ猫には熱かったようで何度かに分けてちまちまと食べている。俺と猫が食べ終えたのはほぼ同時だった。「食べ終えた容器はここへ」と書かれていたのでそこに捨てに行った。勿論猫を俺の頭に乗っけて。

 

「え? もしかしてあれって」

 

 俺が捨てに行った時、その少し先にある路地裏のような場所に古びた看板を見つけた。えーと、何々? 「老舗のアンコウ料理店」かな。・・・・・・え。

 

「今回は予想より早くミッションコンプリートしそうだな。と思ったけど前回はここからが遠かったのか」

 

 どうしようか。取り合えず路地裏に面している店の人に尋ねてみようか。

 

「すみません」

「はい! 一名様でしょうか?」

「あ、その自分はここの店長に用がありまして、今ここにいらっしゃいますか?」

「あー、すいません。今は店長は外の販売会の周りで屋台開いているんです」

「何という名前の店ですか?」

「『干し芋じゃらん』ですよ。あそこの中心より奥側に店を建ててます。恐らくそこにいると思いますよ」

「ありがとうございます」

 

 さて、前回は大将に聞いたら教えてくれたけど暗号ありきだったな。今回はそのようなものは見つけていない。何にせよ取り合えず行ってみるしかないか。

 俺が店を出る前に店員から話しかけられた。

 

「あの、良かったらこれどうぞ。その猫さんが気に入ってくれれば良いんですけど」

「かつお節ですか。えーと、これいくらですか?」

「いえいえ量も少ないですしただでいいですよ」

「そういえばナチュラルにペットを店内に連れてきてましたね。すいません。頂けるのならありがたく頂戴します」

「はい。私実は家で猫3匹飼っていて、このかつお節が好物なんですよ」

「なるほど。ありがとうございます」

 

 思わぬ収穫(猫にとっての)があった。しかし、さっき食べたばかりなので一旦時間を置くとする。最悪ダージリンさんに渡しておけば後から学園艦で食べるだろう。

 俺は言われた通りの場所へ向かった。

 

 

 

「いらっしゃい」

「すみません。あそこにある店の店長さんで間違いないでしょうか」

「ん? 俺に用があるのかい?」

「はい。実はこの写真なんですけど」

 

 俺は例の写真「老舗のアンコウ料理店」と書かれた看板が路地裏に置いてある写真を見せた。

 

「この写真の場所がどうやら店長さんの開いている店の隣の路地裏っぽいんですよね。それで、何か戦車に関わる情報をお持ちではないでしょうか。ティーガーとかの」

「……君は大洗学園の生徒なのか?」

「そうです。名前は下田平野といいます」

「下田……もしかして君下田さんの孫さんか!?」

「多分そうですね。それで、何かご存じですか?」

「ああ知ってるとも。でも、あー。すまないな。下田さんから戦車の履帯を昔預かっていたんだが……」

「はい」

「今はそこの販売会の中心にある戦車像の履帯にしてるんだ。丁度履帯のパーツが一昨日に無くなってな。急遽使わせてもらったってわけだ。だから販売会が終わったら持って行っていいぞ」

「そうなんですか。ありがとうございます。でもそんなりすんなり渡してくれていいんですか?」

「いいさ。それに俺はこの前の大洗学園の試合で大興奮したんだよ。多分戦車道で使うんだろう?」

「そうです」

「なら断る理由がないってもんだ。それに下田さんの御孫さんとくればいよいよだな」

「店長さんも俺の爺さんと関係があるんですか?」

「まーそんなこった。俺は元々戦車道が好きでな。昔下田さんが大洗学園の講師をやっていた時、その試合が大好きだったんだよ。何回か話もしたことがある。大洗学園で戦車道が廃止されるって決まった時にゃ俺はがっくり来たもんだよ。でも、その時に下田さんからあの履帯を預かったんだ。『いつかこれを受け取りに来る人間がいるから持っといてください』ってな」

「そうなんですか」

 

 俺の爺さんは色んな人に尊敬されていたんだな。俺もいつか何かを極めて、誰かに尊敬される日が来るのかな。そんなことを考えつつ、店長さんに別れを告げると、ダージリンさんを探し始めた。

 

「お、いたいた」

 

 金髪にあの制服。すぐに見つけれた。

 

「色々俺の用事は終わりましたよ」

「あら、下田さん。ごめんなさいね。まだこちらは終わりそうにないわ。それと」

「こんにちわですわ。この度はダージリンさんがお世話になりました。感謝します」

 

 茶髪の低身長の女の子がその場にいた。制服がダージリンさんと同じってことは聖グロの人か。あと金髪の人とピンクの髪の人もいるな。恐らくこのピンク髪の人がローズヒップさんだろう。もう雰囲気が猪突猛進って感じだ。

 

「私からもありがとうございます、ですわ!」

「ローズヒップ、大声を出さないで頂戴」

「分かりました、ですわ!」

「下田様、私からも感謝の言葉を言わせてください。それとダージリン、私のデータによると右から2番目の紅茶が良いかと」

「ありがとう、アッサム」

「皆と合流出来たんですね。それじゃ……君、名前はなんて言うの?」

「私ですか? 私はオレンジペコですわ」

「なるほど」

 

 そういうあだ名なのね。別に本名を知りたいわけでもないしいいけど。

 

「この猫、多分聖グロで飼われてたやつだと思うので持って行ってもらってもいいですか?」

「あ、この猫私が連れてきた猫ですわ! ありがとうございます、ですわ!」

「ローズヒップ、貴方ね……」

「なんだか忙しそうなので一旦俺は離れておきますね。俺の最後の用事はこの販売会が終わってからありますし」

「その用事とは?」

 

 アッサムと呼ばれた女性が聞いてきた。この人はあれだな、俗にいうデータキャラってやつか。リアルでは初めて見た。

 

「あの中心にある戦車の履帯なんですけど、あれ大洗学園で使うんで持って帰りたいんですよ」

 

 どうやって運ぶのか。俺を含めて、ダージリンさん、アッサムさん、オレンジペコさん、ローズヒップさんの5人なら運べると思うが、他校の人だしな……。あれはここに保管しておいて、後日大洗の人と運ぶのもありか。

 

「そう。では最後にあの履帯は私達が運びましょう。今日一日のお礼でしてよ」

「いいんですか? いってはなんですけども他校の人でライバルでもあるわけですし」

「私達はどんな相手にも全力で戦いますの。ここで大洗の戦力が増えたとしても構いません。それに大洗とはもう一度戦いたかったから大洗が勝ち上がる為にも手伝いたいのよ」

「聖グロと大洗って確か反対のブロックでしたっけ。戦うなら決勝戦か準決勝くらいになるって感じですか。確かに今の戦力だったらあれが無いと難しいですよね。ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」

「いえいえ」

 

 ダージリンさんが良い人で助かった。これで一件落着といった感じか。結局俺のパソコンとスマホは使えないままだからどうにかしないといけないのは変わらないけど、一番の用事が終わるのならいいや。

 

「じゃ、向こうで待ってます。猫は多分邪魔だと思うのでもう少し預かっておきますね」

「ええ。そうしてくれると助かるわ」

 

 

 

「♪~」

「ブリティッシュ・グレナディアーズですか。とても素晴らしい選曲ですね」

「ブリティッシュ……なんて?」

 

 待ってる間猫と戯れていたのだが、無意識に口笛を吹いてたらしい。なんとなく聞いたことある曲を吹いてた、と思うのだが名前は知らなかった。やってきたアッサムさんが曲名を言ったが全然聞き覚えないな。

 

「ブリティッシュ・グレナディアーズ。イギリスの伝統的な曲ですよ」

「はあ、そうなんですか。そういえば聖グロって全体的にイギリスの雰囲気を取り入れている気がしますけどそれは何故ですか?」

「それも我が校の伝統ですわ」

「一応確認しておきますけど皆さんは日本人なんですよね」

「……」

 

 無言でこれ以上言うなと言われた気がする。

 

「やっぱり隊長と離れて結構焦ったりしましたか?」

「はい。ですがこれは隊長のせいというよりローズヒップとそれに振り回された私達のせいというか……」

「もしかしたらローズヒップさんを他校の学園艦に連れてきたこと自体が悪手だったのでは?」

「そうですわね……。しかしダージリンはローズヒップのことをたいそう気に入ってるようですので」

「手のかかる子供みたいな感覚なのかな。この猫みたいに」

「ふふっ。確かにそうですわね。それにしても良く懐いているんですね」

「なんでだろう。でもこの猫俺のパソコンとスマホ使えなくした犯人説あるんだよなあ」

「あら? 何かあったのですか?」

「パソコンの配線とスマホの充電器のコードが千切れていたんですよ。だから家でネットを使う手段が無くて、ネカフェに行こうとしてたらダージリンさんに出会ったって感じです」

「なるほど。最初にダージリンを見た時どう思いましたか?」

「癖が強いなあ、と。迷子になってスマホも持ってないのに紅茶とティーカップはちゃんと持ってるのは普通じゃないと思いますよ」

「イギリス人はどんな時も紅茶を手放さないのですよ」

「日本人でしょあなた達……」

「……」

「すみません」

「いえ。それよりもほら、終わったようですよ」

「本当だ。でも思ってたより荷物多いですね。これ履帯運べなくね」

「大丈夫です。私が全て持ちます。ローズヒップとダージリンとペコなら一つは運べるでしょう」

「あと一つは俺か。ま、無理っぽかったらもう一度取りに来るか」

 

 販売会が終わり、中心の戦車像の解体が始まった。俺がそこに行って事情を説明すると、既に話は伝わっていたようで、すんなり渡してくれた。

 

「お疲れ様でした。早速で申し訳ないんですけど、3人でその履帯一つ運べます?」

「ええ。構いませんことよ」

「がってんですわ!」

「ローズヒップさんは力持ちですから恐らく大丈夫ですよ。あと一つは下田さんが一人で――」

「あれ? 平野じゃん」

 

 オレンジペコさんが俺の負担の心配をしていたところで、どこからか俺を呼ぶ声が聞こえてきた。この声はもしかして――。

 

「姉貴!?」

「久しぶりね!」

 

 

 

 

 

 

「ここでいいの?」

「ああ。ダージリンさん達も降ろしていいですよ。ちょっと店員さん呼んできます」

 

 まさかのゲリラゲストの姉貴が来たことで俺の負担は一気に軽減された。昔から力が強かった姉貴だが、大学生になった今はさらにパワーアップしていた。

 戦車俱楽部に着いた俺達は一旦履帯を降ろし、俺は店員の元へ行った。ここに置いておいてもらうためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉貴side

 

「さて、この中で平野のお嫁さん候補は誰かな?」

「「「え?」」」

「あれれ? 平野は大洗で共学のはずなのに男子が自分だけ―とかずっとボッチとか言ってたから平野と仲良くしているってことはそういうことじゃないの?」

「あのー、私達は大洗学園の人間じゃないです……」

「そうなの? ごめんね。勘違いしちゃった! それじゃ、あの紅茶の販売会のために大洗に来た他学園の人達ってことかな?」

「そうです」

「当ててみるよ。……紅茶……聖グロリアーナか!」

「当たりですわ。どうして分かったのですか?」

「私戦車道やってるのよ。紅茶を大事にしている強豪校があったのを思い出したの」

「高校でも戦車道をやっていたのですか?」

「そうよ。継続高校でやっていたわ。ごめんね。本当だったら最初に制服で気づくべきだったわよね」

「いえ。ところで戦車道は今でもやっているんですよね? どんな役職をされているのですか?」

「んー言っちゃう? 言っちゃおうか! 私は操縦主をやっているよ」

「操縦主として、何か気を付けていることとかはありますか?」

「特には無いかな? 私は命令に従って動かしているだけだし。ってこんな話したところで何の役にも立たないよね。ごめん!」

「命令通りに役割をこなせるだけでも凄いと思います。是非貴方様のデータを拝見したいのですけど、よろしいですか?」

「勿論いいけど、本当に役に立たないと思うよ?」

「因みにお名前はなんというのですか?」

「そういう貴方はダージリンさんかな? さっき平野がそう呼んでたけど」

「ええ。私はダージリンといいます。よろしくお願いしますわ」

「ああ、私の名前言ってなかったね。そうだな……君たちあなた達みたいに私の大学内での呼び名で名乗ろうかしら」

 

 ここはかっこよく決めたいね。んんっ……。あ、あ。

 発声練習をする。よし、これで決めようかな!

 

「ミハエルよ。せっかくだから覚えててね!」

 

 僕は決め顔でそう言った。

 

「何やってるの姉貴……」

 

 戻ってきた弟に引かれた。

 

 

 

 

 

 

「では、私達はこの辺でお暇しまさせていただくわ」

「今日はありがとうございました」

「こちらこそありがとうございました、ですわ」

「ありがとうございました」

 

 聖グロの4人と別れの時間が来た。既に日は落ちており、ひんやりとした空気が肌を触る。

 

「ペコ、持ってきて」

「はい。ここに」

 

 ダージリンさんが俺に渡してきた袋には縦長の箱と小さい袋があった。

 

「開けてみて頂戴」

「……ティーカップですか。いいんですかこんなに高そうなのを」

「いいのよ。本来であれば聖グロリアーナは好敵手と認めた者にしか渡さないのだけれど、これは私個人からの贈り物よ」

「ありがとうございます。もう一つ入ってたこの袋に入ってるのは茶葉ですか」

「私のおすすめの茶葉よ。飲むとリラックスできるわ」

「なんて名前の茶葉なんですか?」

「さあ、なんでしょう? それは貴方が色んな紅茶を飲んでいくと分かるかもしれないわね」

「さいですか。勉強に疲れた時とかに飲みますね」

「ええ。是非そうしてちょうだい。これで本当にさよならね」

「はい。今日は色んな意味でお疲れさまでした」

 

 ずっとローズヒップの腕の中にいた猫が別れを察したのか、こちらを見て鳴いた。さっきからずっとローズヒップさんがうるさくしてなかったのは猫の相手をしていたからか。

 ダージリンさん達は自分の学園艦に戻っていった。こうしてみると「でっけー(ヴィラン)」と言いたくなるな。出久くんこれからどうなるんだろうね。

 

「さて、帰りましょうか!」

「で、姉貴はいつまでいるのさ」

「明後日までは大洗にいるよ。あ、言い忘れてたけど平野の家に泊めてね」

「いいよ。元々使ってなかった小さな部屋あるし」

「ありがとう!」

「抱きつくな……」

 

 

 

 

宝探し編 完




訂正箇所
ローズヒップは操縦主
アッサムは操縦主


ローズヒップはクルセイダーの車長でしたね……。
アッサムは砲手でした。
本当に申し訳ありませんでした!!!!


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第6話 模擬戦です!

前回はお騒がせしました……。以後このようなことはしないようにします、と言いたいところですが多分作者の実力的に今後何回かやらかすと思います。その度に言ってくださるととても助かります……。

さて、それはともかく本編の話をしましょう。
作者の中ではこの話からこの物語は始まると思ってます。それと共に、一気に原作改変が起きると思います。例を挙げるなら平野が活躍しすぎて敵がより警戒するようになったりして全体的に戦力のインフレがあったりですね。ノンナやナオミ等の優秀な砲手はそれが顕著に表れます。
それと裏設定なのですが、主人公の姉貴は蝶野さんを含めて作中人物で一番の才能があります。経験値があるのを加味すると、蝶野さんと実力は互角くらいかな? といった感じです。元々主人公の姉貴のモデルになった人物が人物なので……。

前書きが長くなりましたね。本編が短いのでその代わりみたいなものです。次回からは普通の長さに戻ると思います。


「うーん、無理だこれ」

 

 俺は手元にある戦車操縦マニュアルを眺めては操作し、また眺めるという行動をかれこれ3時間。

 やるからにはもう、気遣いは無用だろう。他の人からどう思われようが、噂されようが関係ない。俺は大洗チームの人間と仲良くする。早速だが、頼ることにしよう。

 

「学年主席、冷泉麻子さんに教えを乞うかね」

 

 

 

 

 

 

「冷泉にいつ暇か聞いてくれない?」

「ええ!! ど、どうして」

「そんなに驚くことある?」

「どうしたのみぽりん」

「あら、珍しいですね。下田さんが自分から西住さんに話しかけるなんて」

「まあな。というかお前らにも関係のある話だ」

「え、なになに? もしかして好きな人できたの?」

「冷泉と話がしたいんだが」

「えーーー!!!」

 

 うるせぇ!!!

 

 

 

 

 

「皆ー新しく戦車道をやることになった下田平野君だよー」

「よろしく」

 

 俺はそれまで履修していた茶道を辞めて戦車道選択に切り替えた。茶道を辞める際に3年生から「下田さんはいい味のお茶を作れる男の子です。これからもその才能を大事にしていってくださいね」と言われた。才能というよりただ教えてもらっただけだが……。ついでに結構高そうな茶葉を貰えた、今度蝶野さんあたりが家に来た時にお出しするか。

 

「先輩、なんで男子が戦車道やるんですか?」

「なんか変じゃない?」

「紅一点ならぬ黒一点だな」

「「「それだ!」」」

「バレー部のコーチをしてもらえませんか?」

 

 戦車道選択者の人間から多くの言葉が飛んでくる。バレーは得意じゃないので教えることはできません。

 

「あれ、西住の班に一人見慣れない顔がいるが……」

「あ、この人は秋山優花里さん。アンコウチームの装填主をしてるの」

「よろしくお願いいたします! 西住殿達と一緒にⅣ号に乗らせてもらってます秋山優花里と申します!」

「よろしくな。めっちゃ礼儀正しいじゃん。それに殿呼びって」

「ああこれ癖なんです。あはは……中々抜けなくて。変ですよね」

「変というより変わってるなって感じかな。別に変える必要はないと思うぞ。本人も嫌がってないっぽいし」

「で、では! 親しみを込めて下田殿と呼ばせてもらっても構いませんか!?」

「お好きにどうぞ。俺からはどういう風に呼べばいい?」

「私のことなどはどうでも! それこそ好きにしてください!」

 

 うーん、秋山って言いたいところだけれど中学の頃の友達にいたんだよな同じ名前の奴。なんだか呼びにくい。

 

「初対面で慣れ慣れしいかもしれんが下の名前で優花里さんって呼んでもいい?」

「どうぞどうぞ! むしろさん付けじゃなくてもいいですよ」

「そうか、じゃあ優花里で。よろしくな」

「はい!」

 

 なんだか、あれだな。本人に言ったら怒られるだろうけどこの人犬っぽいな。個性強いけど皆から好かれるタイプだ。君を絶対に連れ戻しに来るから待っててねとか言われそう。本物の戦車にだけは乗らんといてくださいよ!

 

「そいや優花里と西住ってどんな関係なの? 役割って意味じゃなくて。……西住?」

「優花里さんには下の名前なんだ」

「なんだよいきなり。お前だって優花里さんって言ってるだろ」

「もう、いいよ」

「ええ……」

 

 西住は優花里から西住殿って言われてるじゃんか。何がいけなかったんだ。

 

「それじゃ早速模擬戦いっちゃおうか」

「えーでも会長、下田先輩はどの戦車に乗るんですか?」

「まだ余りの戦車あったっけ?」

「生徒会の戦車に乗るんじゃない? 3人しかいなかったし」

「いーや、違うよ。下田君にはね、新しい戦車に乗ってもらうよ」

 

 角谷会長がそう言うと、待ってましたと言わんばかりに自動車部の人が俺が乗る戦車、ティーガーを戦車倉庫に運転してきた。

 

「ティーガーじゃないですか! でも少しフォルムが違いますね」

「少し改造されてるっぽい。でもまあ、そこまでスペックが変わるわけでもないらしいぞ」

 

 西住がティーガーへと近づいて、触れた。

 

「懐かしいなあ」

「このティーガーが完成した姿は見てなかったよな。トラウマ、思い出したりしないか?」

「大丈夫だよ。前の私だったら立ち止まってたかもしれない、でも今の私なら大丈夫。一緒に全国優勝目指しましょう!」

「「「おーーー!!」」」

 

 西住が掛け声を出すと皆がそれに続いて盛り上がる。各々がティーガーの装甲に触れたり、履帯を見たり、内装はどうなっているのか確かめたりしている。俺はそれを横目に見て、生徒会の3人の元へ行った。

 もしかしたらこのティーガーも他の戦車みたく動物の絵を塗られるのかな。となれば何がいいかな。いや、そもそもこれ乗るの基本的に俺一人になるからあまり意味なくね?

 

「受け入れてもらったみたいで良かったですよ」

「そりゃそうだよ。ただでさえ大洗(うち)は戦力が少ないんだし。何より西住ちゃんが良いっていうんなら皆それに従うでしょ」

「それもそうですね。しかしよくあの一戦でここまで団結力が深まりましたね」

「それがねー、あの日うちらと西住ちゃんと下田君で反省会したでしょ? その後色々やったんだよ」

「そうですか。模擬戦では結構苦戦を強いられそうですね」

「そだねー」

「俺のチームの班はどの戦車ですか?」

「え? 今回はティーガー対それ以外だよ?」

「は?」

「んじゃ、後は頑張ってねー、下田()()()

 

 どうじでだよ”お”お”。

 

 

 

 

 

「なんで私がこの人と二人で戦わなければいけないんだ」

「しょーがないでしょ? 流石にまだ一人で動かせるわけじゃないっぽいし」

「私が抜けたらアンコウの操縦は誰がやるんだ」

「あ、私が出来ます!」

「確かに! ゆかりんは操縦も得意だもんね! 麻子が朝練習に来れなかった時とか操縦の練習やってるし!」

「えへへ、いやー、装填主って砲撃の前以外であまりすることないんで、何かの時のために色々出来るようになってた方がいいかなーと思いまして。流石に麻子殿みたいに動かすことは無理ですけどね」

 

 大丈夫だ優花里よ。できないのが普通だ。

 と、いうわけでティーガーに乗るのは俺と冷泉のみとなった。つまり、冷泉が操縦、俺が装填、射撃、状況判断を行う。通信は一人しかいないからいらないとして、もし本番だったら俺は操縦まで一人でやるわけで、状況判断は全部西住に任せることになるだろう。冷泉の代わりに優花里がⅣ号の操縦をするみたいだ。装填主は大事な役割を持ってはいるが、同時に代用が効く役職でもある。優花里がどれほどの運転手なのか分からないが、十分に気を付けた方がいいだろう。

 

「よろしくな。冷泉」

「まあ、こうなったからはしょうがないが。よろしく」

 

 

 

 

 

 試合開始前、俺は西住と二人で会っていた。

 

「なあ、西住。こういう時って立会人いないといけないんじゃないのか?」

「そういえば……。公式戦じゃないしダメというわけじゃないけど誰かいた方がいいよね。どうしよう」

「蝶野さんにはさっき電話したけど今日は無理っぽかったし他の戦車道に通じてる人間に来てもらうしかないな」

「うーん。でもそんな人いるかな……」

「幸いにも今日は休日だ。そして昨日から半、居候している人間がいる。戦車道に詳しいぞ。とても」

「え、誰?」

「今呼ぶ」

 

 俺は俺の住んでる部屋の電話にダイヤルをかけた。

 ツーツーツーツーツー……。

 

『はい』

『姉貴だよな?』

『うん。そういう貴方は平野だよね? どうしたの?』

『そうです。下田平野ですよ。今暇?』

『暇だよ』

『大洗学園来てくれない? ちょっと戦車道の模擬戦の立会人になってほしいんだえど』

『いいよ。少し待っててね』

 

 

「よし。立会人は見つかったぞ。ちょっと待ってな」

「ねえ、下田君今喋っていた人は誰なの?」

「俺の姉貴だよ」

 

 

 

 

「待たせたわね」

「急に呼び出してごめん」

「いいよ。それに弟の初試合を見てみたいってもんよ」

「期待に応えれるように頑張りますよ」

「うん。お姉ちゃん見守ってるよ」

「おう」

 

 俺が姉貴と話をつけると、ティーガーに乗り込む準備をする。不備が無いか最終点検するためだ。

 

「あ、私も一緒にやる!」

 

 そう言ってついてきたのは意外な人物だった。

 武部沙織。彼女から積極的に俺に話しかけたことはなかった気がする。弁当の件で問い詰められた時以来かな?

 

「どうした武部」

「どうしたって! 下田君の……もう! ややこしいから平野君って言うから!」

「ええ……」

「それでその、平野君のお姉ちゃん美人すぎない!?」

「そうか? 肉親にそんな感情抱いたことないな。そもそも姉貴とは昨日久しぶりに会ったし」

 

 姉貴は中学に上がると他県の私立中学に進んだ。そのまま他県の公立高校に進学、現大学生だ。

 

「もしかして彼氏とかいるのかな?」

「知らねえよ……」

「後でモテるためのコツ教えてもらお!」

「おいちょっと待て、せっかく来たんだったら少しそこに異状ないか見てくれ」

「あ、うん。分かった」

 

 姉貴がモテようがモテなかろうが興味ないね。俺の青春は思い出の中で死んでいった。

 全ての準備を終え、俺達は集合した。

 

 

 

「これより、模擬戦を始めます」

「「「よろしくお願いします」」」

「「よろしくお願いします」」

 

 ティーガーに乗り込む前に西住に呼び止められる。

 

「下田君」

「ん?」

「私……全力でやるよ」

「分かってるよ。でもこちらには冷泉がいるからな。簡単には負けてあげないぞ」

「うん。麻子さんが強敵なのは分かってる。蝶野さんに認められた下田君の才能も警戒してる」

「……そうか。こちらとしては油断してくれると助かるんだけどな。八九式を突っ込ませるとか、壊れかけの橋を渡ろうとしたりとか、退路の狭い場所で籠城したりとかしてくれないか?」

「あははは……」

 

 八九式はマジで試合向きじゃないので何が強い戦い方なのか分からんが、取り合えず倒すだけで注意を引かせることが出来るだろう。いや、案外一番厄介だったりするのか? 相手は西住だ。ダージリンさん達とほぼ引き分けの形に持ち込んだ人間。冷泉はともかく俺が聖グロ全体ほどの実力を持っているとは思えない。油断だけはするな。

 

「俺も、頑張るよ」

 

 こうして、下田平野にとって人生初の戦車道の試合が始まった。

 

 




因みに現時点での主人公とノンナとナオミが全員を相手にしても撃破は不可能です。防衛戦ならワンチャンかな?

あとどうでもいい話ですが、作者の一番好きなガルパンキャラはノンナです。


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第7話 決戦です!

今回も短いです。



「どこに行く」

「取り合えずはここだな」

 

 冷泉に地図を見せ、ペンでその経路を辿っていく。俺が選んだ場所は森だ。俺は冷泉と二人で戦車を動かしているので、障害物がない場所では戦いのリスクが高いと感じたからだ。もしも障害物が無い場所で囲まれてしまったら確実に撃ちぬかれるだろう。それは冷泉の技術云々の話ではない。プロレスラーがハチの巣に私服で近づくようなものだ。そんな情けない負け方はしたくない。

 

「途中、橋を一つ落としていく」

「どうやってだ」

「橋の手前の方の入り口から1000mくらいまで近づけば対岸の方の支柱を壊せると思う。でも、出来るだけ引き付けてからだ。相手はどれくらいの距離から狙っているか分からないはずだからな。敵に位置を勘違いさせることができる」

「最初に誰を倒すんだ」

「さあな。そればっかしは運だ」

「臨機応変にってことか」

「んーま、そんな感じかな」

 

 俺が示した通りに冷泉は時々止まりながら、森に入っていった。問題は西住がこちらの実力をどれだけ高く見ているかだ。西住の性格的に特攻なんてさせないだろうから均等に戦力を振り分けるとは思うが……。だとしたら、最初に機動力に優れた八九式を偵察に向かわせるのが普通か。

 だとすれば、この方角か。

 

「冷泉、一発撃ってみる。でも止まらなくていい」

「威嚇射撃か」

「いや、布石を撒く。冷泉は10時方向にある端にジグザグに動きながら向かってくれ」

「分かった」

 

 うお、予想しているたより機体のが揺れるな。これではいくらなんでも正確に撃ち抜くなんて不可能だろう。しかし、今回の目的にはそこにはない。俺の目的は『装填速度を勘違いさせる』ことにある。

 そろそろか。俺は3時方向、俺達が森に入ってきた場所よりも若干スタート地点に近い位置に向かって撃った。そして、20秒後に装填を開始、また同じ方向に撃つ。そして最後に30秒以上かけてもう一発。

 

「三発じゃないか」

「そういや一発って言ってたな。すまんかった」

「別にいいが……。当たってないんじゃないか」

「だろうな。でもこれでいいんだよ」

 

 いける。そう確信した。あの時乗った戦車よりも反動が少ない。

 

「着くぞ。もうすぐで橋から300mだ」

 

 冷泉はそう言うと一時停車した。

 

「えーと、ああ確かこれ使って距離を測るんだっけか。……本当だ。340m、よく狭い視界で距離感つかめたな」

 

 きっと視力がいい、だけではなく緻密な脳内演算による勘が鋭いんだろうな。俺も視力は2.0あるが、距離感までは掴めない。

 

 

「少し回り込んで近づいてくれ。木の根や、小さい植物の中をかき分けながら行けるか?」

「できる。でも位置ばれるぞ。射程を悟られないようにするんじゃないのか」

「そうだぞ。この砲身の最大有効距離は2000m。勘のいい西住なら俺の目的が戦車じゃなく橋の破壊ということに気づくだろうよ。だが、ここまで近づいたことはで不信感を煽ることが出来るだろう。仮にもティーガーは西住が昔使っていた戦車だ。少し改造されているとはいえ、その性質がそこまで変わっているとは思わないんじゃないか?」

「まあ、私は構わんが」

 

 冷泉は俺の要求通り、木の根を踏み、小さい植物の間をかき分けながらポイントへ近づく。これで移動中の音は向こうに聞かれたはずだ。

 ポイントは森を出て、少し移動した場所だ。体を丸出しにすることになる。場所に着くと、俺は間髪入れずに弾を放つ。

 ヒット、橋は踏み場に当たったわけじゃないので完全に壊れたわけじゃないが、通ることはこれで出来なくなった。あとは他の橋を使って俺が破壊した橋の向こう側に進めばいい。そこで待ち伏せをしよう。

 

「確認だが()()使ってもいいんだよな?」

「ルール違反にはなってないはずだ。しかしどこで使うんだ?」

「最後だよ」

 

 さあ、西住はここからどう動く。先入観を捨てろ。相手は圧倒的に格上だ。確実に分かること以外は全て想定外が想定内だ。

 集中しろ。俺ならやれる。冷泉は間違いなく大洗のチート戦力のナンバー2だ。ある程度の無茶は許容してくれるだろう。思考を止めるな。

 

「勝つぞ」

「元より私は負けるつもりはない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みほside

 

 

 

 

「キャプテン! 敵、森から出ました! 対岸側にいます!」

「分かりました。こちらは10時方向の橋に乗って渡ります。アヒルさんは回り込んで左手にある橋を渡ってください」

「西住! 我々はどうすればいい?」

「カメさんは私達の後ろをついてきてください。カバさんはアヒルさんと一緒に橋を渡ってください」

「「了解!」」

 

 アヒルさんは何度か下田君が砲弾を撃ったと言ってたけど見つかってたのかな。私達が少し近づいたところで撤退してもらったけど、その時一発だけ撃ってた。でも一体どこに撃っていたんだろう。

 

「アヒルさん。最後に相手の射撃音が聞こえた時、砲台がどこに向いてたか分かりますか?」

「えーと、確か森の方じゃなかったと思います!」

「……分かりました。アヒルさんとカバさんは一時停止してください。そこから橋は見えますか?」

「んー、あ、見えます! でもよく見たら向こう側の支柱が脆くなってるような……」

「分かりました。一旦そこから離れてください。先に私達とカメさんがあちらの橋を渡り切った後、合図しますので一両ずつ同じ橋を渡ってください」

「何故だ西住。二つの橋を使った方が包囲もできるし時短もできるから良いだろう!?」

「先ほど相手が狙ったのは私達ではなく橋です。もしもあの橋に乗ったら崩れる可能性があります。そしてもう一つの方の橋に一気に渡ろうとすると前方の車両が倒された時、後ろの車両が全滅する恐れがあります」

「せんぱーい、私達はどうしたらいいですか?」

「ウサギさんはまだその場で待機していてください。相手車両は()()()()へ向かいました。挟み撃ちの形にしましょう」

 

 取り合えずは予定内だけど、これからどうなるのかな。

 戦車道で使用可能なティーガーの射程距離は大体1900m。でもあのティーガーは少し改造されているようだから100m前後変化してるかなと思ったけど……。本来だったらあの通り道だったら森の中でも狙えたはず。跡をつけられていると気づいていたとしたら余計に森を出て、体を見せるようなことをするのかな? 

 

「確かこの先は……」

「聖グロリアーナ女学院と戦った時通った坂道ですね。私達がそこで相手を迎え撃ったけど結局撃墜出来なかった所……」

 

 優花里さんが地図を見ながら言う。確かにそこなら高度の利を活かして有利に戦いを進めれる。

 

「でも下田君なら当ててくるかもしれません。迂回しましょう」

 

 私がウサギさんチーム以外に迂回の支持を出した時だった。

 

「キャプテン。私達が先に下見に行きます! もし、私達が倒れたら皆でアタックを決めてください!」

「確かに1台倒されても逃げ道を封鎖できるという利点があるのは事実ですが……でも、それじゃアヒルさんが」

「戦車道もバレーもチームプレイです! 私達のトスを受け取ってください!」

「西住ちゃん。どうするの? 私達は西住ちゃんの支持に従うよー」

 

 どうしよう。アヒルさんをほぼ特攻のような形で動かしたくないよ。そんなことを考えていると、私の握り拳にアンコウの皆の手が触れた。

 

「大丈夫だよ。みぽりん」

「アヒルさんチームは私達を信じてくれています。それにまだ倒されると決まったわけじゃないですからね」

「落ち着いて考えてみましょう、みほさん。こんな時こそ柔軟に考えるべきです。そうですね、例えば……」

 

 柔軟な思考。思い返せば下田君は近距離射撃の練習の話やさっきの射程距離に大幅な余裕を持った砲撃。蝶野さんがいる場所で射程距離ギリギリの的に当てたのも子供の時期ならば、それ相応の距離、つまりそこまで遠くないのかもしれない。もしかしたら長距離射撃自体、慣れてないのかな。だったらまだやれる。

 

「作戦があります。聞いてください」

 

 

 

 

「「「後退する!?」」」

「どうしてだ西住! せっかく橋を渡ってきたのに!」

「キャプテン。私たちは別に良いんですよ」

「先輩、私達は引き続きここにいた方がいいですか?」

「時には神風のような犠牲を試みない突撃も必要ぜよ」

「あーもう、一気にしゃべらない! みぽりんが困惑するでしょ!」

 

 完全に攻めの雰囲気だったからであろう。私の急なお願いに多くの反論が飛んでくる。それをなんとあk沙織さんが仲裁してくれていた。

 

「アヒルさんもこちらに来てください。でも、今から言う道程でお願いします。私達に必要なのは犠牲覚悟の特攻ではありません。敵は一人、ならば堅実にチャンスを待つのが最善だと思います。もしもあの場で一両だけでなく、他の戦車もやられてしまったり、逃げられた時のリスクを考えるとあえて撤退をするのがいいと思います」

「まー、西住ちゃんがそう言うんだったらいいんじゃない? いーじゃん、そうしよーよ」

 

 会長の声もあり、一時撤退の選択を取ることに決定した。

 

「しかし、またゆっくり、1両ずつ渡るつもりか? それこそ無防備になるのではないか?」

「いいえ。一つだけ橋を通らなくてもいい場所があります。橋から少し北に進んだところに、水が少ない通り道があります。そこなら谷になってるので、内陸部にいる人間からは見えにくはずです。近寄るのも、下から撃たれる可能性を考慮すれば避けると思います。一気に渡りましょう! 向こう側に渡ったら通れる橋の先と、上ってくる谷の前で待ち伏せします。森があるので見つかりくいはずです」

 

 

 これでもう一度停滞状態に戻る。勝負はここから。諦めなければ大丈夫。

 もう、戦車道からは逃げない。でも、ここで撤退することで、私は前に進んでみせるよ。

 

「あ、キャプテン。一つだけいいですか?」

「はい」

「当然と言えば当然なんですけど……相手車両のサーブ間隔が結構長かったです。着弾してから、30秒以上かかっていました」

「……! 分かりました!」

 

 

 

 

 

下田side

 

 

 

「まさか博打が当たるとはな」

「本当に博打だった。でも、7割くらいは自信あった。西住はあそこで前に動かせない。俺とあいつは似ている」

「似ているってどこがだ。全然そうには見えないが」

「俺は西住のことを深く理解できているわけではないが、黒森峰はエリート学校だ。俺のように射撃が得意だった奴もいたに違いない。そして、無意識のうちにそいつと俺を重ねるだろう。自分と相手が似ているからこそ、脳内で足りない部分の補完がされ、架空の俺が出来上がる」

 

 とは言っても、作戦の直前で出てきた発想だからそれが当たったってことは本当にまぐれなんだろうな。

 

「西住は下田さんが射撃に自信があるってことを知ってたのか」

「この前流れで、な。別に悪気は無かった。元々その時は戦車道をやるかは微妙って感じだったし」

「……来たぞ」

 

 今、俺達がいる位置は「俺が壊した橋のすぐ傍」だ。絶対に考慮から外れるはずの場所。そして、ここから西住達が渡ろうとしている場所から1900mの位置。ここからなら十分狙える。途中に橋があるが、それに弾が当たらないような位置に停車した。

 手先に血液を集中させる。イメージするのは、伸びた砲身。体と同化した砲身を伸ばして、伸ばして、伸ばして、、、目標にタッチするような感覚。

 繋がった。。引き金を引く。

 

 ドォン!

 

 命中し、白旗が上がる。Ⅳ号だ。

 次の伏線だ。俺の弾の装填速度。森で撃った時は、20秒以上の間隔を空けて撃った。西住達は戦車同士の車間距離を結構空けて移動していた。もしも前後の車両が行動不能になった時、加速し、横を無理やり通り抜けれることが出来るようにするためか。

 関係ない。俺は腕の筋肉をフル稼働させ、早く装填させる。スコープから目を離して5秒程だ。そして、引き金を引く。

 

 ドォン!

 

 ヒット。八九式の白旗が上がる。もう一両だ。相手が大洗の戦車じゃなければ、反撃も考慮しなければならないが、あいにくⅢ凸は頭部が回転しないので、どうしても相手方向に弾を発射するのに時間がかかってしまう。

 

「ぐっ……!」

 

 これが中々重い。そんな弾をもう一度詰め込むと、急いで狙いを合わせて、撃つ。

 

 ドォン!

 

 対岸へ渡ろうとしたすべての戦車から白旗が上がっていた。

 終わった……。無理に動かした筋肉が悲鳴を上げている。本当なら4発までいけるように頑張っていたのだが、緊張も合わさり、余計に力を使ってしまったのだろう。

 ……4発? どうしてだっけ。ああ、そうだ。少し前から……俺が戦車道をやると会長に言った時にこの模擬戦の話は聞いていた。そして4両倒すのが俺側の勝利条件だということも……。

 

「ウサギチームだけいないぞ。移動するか?」

「……そうだった。敵は4両だ。今は腕が痛い。一度障害物のある方に戻って腕を休めたい」

 

 俺達が乗った戦車は稼働を始め、方向転換をし、再び岩等の障害物がある方向へ向かった。

 

 

「「あ」」

 

 その途中でもう一両の戦車に出くわした。完全に今の俺達は履帯を相手の砲台に向けている状態だ。

 

 ドォン!

 

「くっ……!」

 

 機体に砲撃が命中する。しかしこの戦車は戦時中最も強かった戦車の一つと言われていたティーガーだ。M3リーの砲撃一回じゃ白旗が上がるに至らない。しかし、そこは障害物が並ぶ場所への入り口。地面は真っ平なわけじゃなく、相当にバランスを崩してしまった。それでもなお、冷泉は必死にコントロールしている。

 なんとか反撃を……! 

 しかし、腕が思うように上がらない。装填に時間が――。

 

 ドォン!

 

 白旗が、上がった。

 

 

 

『勝者、西住みほチーム!』

 

 姉貴の声が放送で聞こえてきた。

 

 

 




ここからの大まかなストーリーです。

サンダース偵察→サンダース戦→日常パート→主人公強化パート(みほ達はアンツィオと戦っており、別行動)→模擬戦→日常パート→プラウダ戦→日常パート→黒森峰→日常パート→劇場版

日常パートが多いのは単純に作者が戦闘シーンが苦手だからです。
もしよければこんなイベント(カラオケ等)が欲しい、といったものがあれば活動報告にお願いします。

誤字、ガバ指摘いつも助かっております。ありがとうございます!


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第8話 罰ゲームです!

3回データ飛びました。すみませんでした。
1回だけならまだしも複数回……。
今後はこういうことがないようにします。


「三両倒して即油断とは、とんだ間抜けの集まりじゃのう……まあ、車長が車長……それも仕方ねェか……!!」

「……」

「”下田平野”は所詮……先の時代の”()()()”じゃけェ……!!」

「ハァ……ハァ……()()()……?」

「?」

「取り消せよ……今の言葉!」

「取り消すも何もその通りだけどな」

 

 正論だけどさ、ツッコまないでくれよ冷泉さん。

 現在俺は西住チーム&冷泉と姉貴と集まっていた。

 

「えっと、下田君お疲れ」

「ああ。やっぱり西住には勝てなかったな」

「でも3両もやられちゃったし、凄く強かったよ」

「完全に読み勝ったと思ったんだけどな」

「そういえばこれ、何のために使うつもりだったんだ?」

 

 そう言って冷泉が持ってきたのは俺がティーガーに積んでいた発煙筒だ。

 

「ああ、それか。本来はそれを使うつもりだったんだが急遽作戦を変更したから使わなかったんだよ」

「作戦を変更?」

「そうだ。俺が事前に組み立ててた作戦はこうだ」

 

 俺は橋を破壊したことで、次に近い橋を使わずには対岸に渡れない。それよりももっと先に行った場所でならば橋下から渡れなくもないが、俺が橋を破壊するところは相手に見せている。その時に射程に対し不信感を抱かせる。直接橋を狙うにしたら狙いがお粗末であることから俺が狙うなら体を見せる位置で確実にと思うだろう。また、相手が対岸にいることが確定してることから向かうのであれば早めに移動し、質量で押しつぶすことも考えると橋下の道は候補に外れる。西住辺りなら無意識的にここら辺の判断はするだろう。

 橋を渡った後、その先にあるのは聖グロ戦でも通った高台だ。大洗チームが高台から相手を迎え撃ち……何故か戦闘不能になったのは大洗側だったという謎のばしょ。ここから出るなら正しい手順を踏まなければならない。何故か?

 

「そこでコイツが使用されるってわけだ」

 

 俺は高台の更に上にいた。そこから相手戦車を狙うことは不可能だ。しかし出入口は塞ぐことが出来る。簡単だ。壁を壊して戦車が通りにくい地形にすればいいのだ。

 退路が封鎖されると注意は否応なしに後ろに向く。そしてそこは出口が正面しかない場所だ。障害物が一切なく、退路を封鎖するために壁を壊すならまず、正面から狙撃したと思う。だから西住達は動けなくなる。橋を攻撃したみたいに近づかないと当てられないと信じてその場で待つ。

 そこで俺は高台から発煙筒を投げ込む。するとそこは岩場が目立つ坂道だ。完全に身動きは取れなくなる。後は移動した俺達が冷泉と相手戦車の位置の記憶をすり合わせて、元いた位置に撃ちこみ、ゲームセット。その予定だった。

 

「ということは先に高台に登っていたってことなの?」

「いや、途中で引き返してた。なんとなくだが、俺がそこの射撃戦の話を生徒会室でしたこともあり、警戒して行先を変更すると思ったんだ。あとは試合結果の通りだな」

「一つ見落としてない? 平野達を倒したM3リーの行動は?」

「えーと、あれは本当にたまたまというか。一両だけ別行動をさせようってことで、本当にそれだけで……。もしかしたら下田君なら全車両まとまっていたら一気に倒してしまうかもしれないし。それに『西住流』の戦いを良く知ってるならまとまった相手の殲滅方法も分かってるのかなと思ったんだよね」

「え、じゃあ本当に最後遭遇したのはまぐれ?」

 

 俺がそう問いかけると、M3リーに搭乗していた本人たちがやってきた。

 

「なんか射撃音が近くで聞こえるなーと思ったら結構近くに先輩がいて、そしたら何故か私達の横をすり抜けようとしていたから撃ったら当たりました!」

「あの時は装填と狙撃に必死だったからな。周囲に気を配る余裕は無かった。そういうことだったのか」

「結論、やっぱ一両だけじゃどんなに強くても倒しきれないってことねー」

「いやそもそもこちらは2人だけだから。しかも俺初心者だから」

「確かに経験値が足りないってのは一番の弱点ね。大学生選抜の車両なら2人でも倒せたかもね。隊長含む3人なら確実かな」

「そりゃ大学生と比べたらそうだろうよ。年季が違う」

「んー、そう結論付けるのは早計よ。うちの隊長はみほちゃん。貴方よりも戦車道歴は短いよ」

「は?」

 

 そんな奴いるのか? というか姉貴が所属しているチームってどこだよ。まだ教えてもらってないな。

 

「まあ、そんな人もいるって話よ。取り合えずは両チーム共お疲れ様。流石に全国高校大会ではそんな敵いないだろうから気持ちは楽にしていいと思うよ」

「そりゃそうだ。そんな化け物何人もいてたまるか」

 

 俺達は一息を付き、雑談を始めると姉貴が笑顔を俺に向け、近づいてきた。

 

「じゃ、罰ゲームの内容決めよっか」

「は? 何言って」

 

 反論しようとすると姉貴が俺の手を引き寄せ、顔を近づけてきた。

 

「ここで更に距離を詰めるのよ。これくらいの空気は読んでよ」

「別に罰ゲームじゃなくても……」

「こうでもしないと平野は積極的に心の距離詰めていかないでしょ」

「……確かに」

「分かったらよし。闇鍋差し出されたって受け入れな」

「それは嫌だ」

 

 小声での話し合いが終わると女子達が何やら色々企んでいる声が聞こえてきた。特に武部はぶつぶつと呪文のようなものを唱えた後一人で悶絶している。一体彼女は何を企んでいるのか。

 

「あ、あの! 私に提案があります!」

 

 鶴の一声と言うのだろうか、一人の声によって、それまで話し合っていた者たちの声が止む。その声の主は秋山優花里だった。

 

「下田殿を1日だけ貸してもらえないでしょうか?」

「えええ!? ど、どうするつもりなの!?」

「えーと、秘密ですけど……皆さんにとっても必ず良いことになると思います」

「……本当に?」

「はい! 約束しますよ」

「……分かった。他の皆はどうかな?」

 

 西住が確認を取ると誰も手を挙げる者はいなかった。それを確認すると、西住は小さく頷き、秋山優花里に俺の使用権が渡ることになった。

 姉貴もその一連の行動を見て満足そうに頷くと、「それじゃ優花里ちゃんよろしくね」と言い残すと先に俺の家に戻っていったのであった。

 時期にその他の各々も解散していく。そんな中俺は優花里と一緒に話していた。

 

「何をするつもりなんだ?」

「そんなに怖がらなくていいですよ。少し手伝ってもらいたいことがあるだけです」

「それは戦車道関連のことか?」

「はい。下田殿には私と一緒にあるミッションを遂行してもらいます」

「ミッション?」

「サンダースに潜入します!」

 

 

 

「……これ本当に大丈夫か?」

 

 現在俺達は作業員に紛れて全国大会の第一回戦の相手であるサンダースの学園艦に潜入した後、サンダースの制服に着替え終えた所である。

 サンダースには男性もいるようだが、相手戦車等を観察するなら戦車道をやっている女性の方がいいとのことで、俺も女装している。

 

「俺の身長とこの姿はミスマッチだろ……」

「いえいえ、凄く似合ってますし美人に見えますよ!」

 

 身長180近い俺が短めのツインテールをし、頭にベレー帽を被っている姿を自分のスマホで確認する。勿論鬘なわけだが、わざわざここまでやる必要は果たしてあるのだろうか。俺は元々声真似が一発芸のようなものだったので、叫ばなければ怪しまれない程度には女声が出せた。優花里は胸に何か仕込んだ方が良いと言ったのだが、流石にそれは拒否した。

 にしても女性用の服なんて初めてだ。勿論下着はそのまま男性用なのだが、外装は女性用そのものだ。違和感が凄い。

 

「ここら辺で二手に分かれましょう。私は校内の戦車庫を目指します。下田殿は戦車道選手から情報の聞き取りをお願いします」

「あいわかった」

「……にしても凄く美人ですね。お姉さんそっくりです」

「間接的に姉貴の外見をディスってないか」

「いえいえ、本心ですよ」

「まあ、バレないならそれでいいんだが」

「もしかしたら男性から声を掛けられるかもしれないですね」

「別に男性でも情報を持ってたらそれでいいんだけどな」

 

 そうして二手に分かれた後、それらしい女性がいないかうろつきながら捜していると、ある興味深い施設を見つけた。

 

「射撃場……?」

「興味がおありですか?」

「え?」

 

 つい声に出てしまってたらしい、男声に聞こえてただろうか心配だ。そんな俺の声を聞いた近くに居た人間に声を掛けられた。

 えーと、ベリーショートの髪にシュッとした顔立ち。それにどこかクールな雰囲気を感じさせられる。俺ほどではないが身長も高い方だ。ん? もしかしてこの人って。

 

「ええ。興味があります」

「そうですか。私も趣味なんです。もしよければ先輩もやってみませんか」

「いいの?」

「もちろん。大学生でも大丈夫です」

 

 どうやらサンダース大学の生徒と間違えられているらしい。優花里はサンダース大学付属高校の制服だったが、俺みたいな高校生にしては身長が高い人間は高校内でも目立つと判断し、私服にしたのは正解だったようだ。多分だが、この女性は戦車道選手のナオミさんだ。高校3年生のはずなので制服を着ていたら高校内の先輩という言い訳も出来なかっただろう。

 ナオミさんは高校生戦車道の選手の中でも有名な砲手だ。サンダースの主力選手でもある。これはラッキーだ。是非とも情報を引き出したい。

 

「案内、お願いしてもいい?」

「勿論です」

「その、貴方の名前を聞いてもいい?」

「ナオミです。呼び捨てで構いません」

「そう。ナオミね。えーと、私は……ライフです。好きに呼んでもらって構わないよ」

 

 ライフ、ライフルから取った単純な名前だ。でも一時しか使わないであろう名前なのでこんなもんでいいだろう。

 ナオミさんについていくと射撃場の中は結構本格的なものとなっていた。流石に本物の銃弾は使わないようだが。

 

「ナオミは戦車道をやっているの?」

「はい。砲手を務めています」

「そう。ここの射撃場にはよく来るの?」

「そうですね。訓練にもなりますし頻繁に来てます」

「なるほどね。どんな戦車に乗っているの?」

「ファイアフライです。遠距離射撃に秀でた機体です」

「そのファイアフライという戦車は沢山使われているんだね」

「いいえ。もしかしてまだ私達の戦いを見たことが無いんですか?」

「そうなの。戦車道の知識自体そこまで知らないんだよね」

「そうでしたか。今時珍しいですね」

「よく言われる」

 

 一応俺は初心者であり知識も経験も不足していることには変わりない。

 その後もサンダースの戦車関連について聞きながら移動していると、自分たちの順番が回ってきた。最初はナオミがやるらしい。俺はそれを観察した。

 

「まずは拳銃。6発まで撃てます」

 

 ナオミが6発続けて発砲する。やはり本物と違って音はそれほど出ない。ナオミの弾は全て的に命中していた。流石だ。

 

「ではどうぞ」

「意外と重いんだこれ。では、私もやってみるよ」

 

 最初い一発だけ放った。結果は的の真ん中に命中。反動も少ない。これなら余裕だな。

 俺は続けて残りの5発を連続で撃った。

 

「……凄いですね。全弾真ん中に当たるなんて。やっぱり経験があったんですね」

「やっぱり?」

「いえ、こちらの話ですから気にしないでください。それよりもあの早打ちでこの精度は凄いです」

「ありがとう。他の銃はある?」

 

 サブマシンガンや狙撃銃、色々な銃を試した。久しぶりの射撃は楽しかった。

 

「もしかして射撃大会に出たことあります?」

「ないよ。ただの趣味だし」

「……戦車道で砲手、やってみませんか」

「あー、止めておく。興味はあったから。一つ聞きたいんだけど、ナオミは戦車道やってて楽しい?」

「楽しいですよ凄く。ケイ(マム)もいますし」

「? その人が隊長なの?」

「そうです。凄く明るくて他の高校と比べても断然人数が多い我が校の生徒の指揮官です。カリスマ性とその判断能力に私値は何度も救われました」

「……その人の話をもう少し聞きたい」

「分かりました。では最後にこの銃使ってみてくれませんか。私はまだ使いこなせてないんです。反動が凄くて」

「偽物がそうなら本物は更に凄いんだろうな」

「撃ったことはないですが恐らくは」

 

 ナオミが渡してきたのはAK47に似たような銃だった。あー、確かにこのタイプの銃は狙いを定めることは難しいよな。

 

「それじゃ折角だしあの動いている的を狙おうか」

 

 相談数は3つ。一発撃つと今日使ってきた中で一番反動が大きいと感じた。実際の拳銃はるかに劣るがそれでも結構なものだ。しかし的を外すほどのものではないな。

 

「……凄い」

「どうも。凄く楽しかったよ」

 

 銃を返すと俺達は施設を出た。その時に後からご飯に誘われたのだが遠慮しておいた。

 

「また、私とここで撃ちませんか」

「これでも結構忙しいからね。でも楽しかったし時間があったら来たいな。また戦車道の話も君から聞きたいし」

「結構今日は話したけど……というか話しすぎたんですけど、うちは規模がとにかく大きいからまだまだ色々話せることはあります」

「そう。それは楽しみ」

 

 流石に作戦等は教えてくれなかったが、陣形や出撃させる戦車等色々な情報を得ることが出来た。話し終えると、ナオミは重要な会議があったことを思い出したようで走ってどこかに行ってしまった。優花里が今潜伏しているのはそこだろう。グッドラック。

 

 

 

 

 

 

「ナオミさんとそんなに話したんですか!? 凄すぎます!」

「運が良かっただけだよ」

 

 大洗の学園艦に戻ってきた俺達は優花里の家に向かっていた。先ほど優花里が編集していたビデオを他の皆に見せるためだ。でも俺も優花里も欠席の連絡はしていなかったので心配されるかもしれないな。

 

「2階から侵入します」

「普通に入らないの?」

「親が心配してるかもしれないんで」

「親にも言ってなかったんかい」

 

 身軽な動きで屋根を駆け上がる優花里に続いて俺も上る。そして優花里が窓から勢いよく飛び込んだ後、俺はゆっくりと中へ入っていった。

 

「おじゃまします」

「え、ゆかりん!? それにえ、誰その人」

「ああ、この人は下田殿ですよ。我々はサンダースに潜入して参りました!」

「そういうこと。俺もいつまでこんな服装してるんだ」

「え!? 本当に下田君なの?」

「ああ。本当に変装上手くできてるみたいだな」

「凄く美人で下田さんのお姉さんとはまた少し違った美しさを感じます」

「……似合っているぞ」

「というか何故お前らはここにいる。優花里、もう呼んでたのか?」

「いえ、そういうわけじゃ……」

 

 どうやら優花里を心配して皆来ていたらしい。好都合ではあるな。

 

「サンダースから奪い取った情報が詰まったビデオです。ご覧あれ!」

 

 ビデオが流れる。途中で優花里の着替えシーンが流れたがそこは編集しなかったのな。それと西住こっちを見ない。

 その後は情報共有をした後、少しの作戦会議をして解散となった。

 家に帰るともう既に姉貴の姿は見当たらない。帰ったのだろう。なんとも騒がしい人だ。でも、ありがとうな。

 

「ナオミさんに言われた射撃のコツ、練習で試さないとな」

 

 買ってきたガムを噛みながら呟いた。




感想お待ちしております。


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番外話 どんな女がタイプだ

タイトル通り本編とはほぼ関係ない話です。時系列も完全無視なので都合よく解釈してくだせえ。
本編の文章が難しすぎて思い付きで書きました。


「下田君何読んでるの?」

「ん? 西住か。今呪術廻戦読んでた」

「じゅじゅつかいせん? 面白いの?」

「めっちゃ面白い。西住も読むか? 俺単行本3巻ずつ持ってるし一冊ずつ貸すよ」

「ありがとう。今日読んでみるよ」

「おう。今度感想教えてくれよ」

 

 

 

 

 Twitterを漁ってたら栃木県で離れた場所で呪術廻戦のイベントが明後日にあることを知った。丁度その日は祝日で予定もなかったので行くことにした。

 イベントの公式サイトによると、呪術廻戦のイラスト大募集とのことだ。折角なのでデジタルイラストを仕上げてくるとしよう。趣味で時々イラストを描いてはネットにアップする俺だが、こうして現実で自分の絵を晒すのは初めてかもしれない。あとは……コスプレとかしていこうかな。サンダースの件で意外と悪くないことに気づいたのでやってみたくなった。こういうのは優花里にお願いするのがいいか。

 

「というわけだが」

「いいですよ。釘崎がいいですよね」

「なんでやねん。男でいいだろ」

「……それもそうですね。身長的にもおかしいですし。今何センチでしたっけ」

「最後に計った時は178とかだっけか。全体的にあの世界の人間の身長高すぎるよな」

「伏黒とかもいいと思いますがいっそのことナナミンにしてみませんか。見る側からすると違和感ないと思うんですけど」

「あーそうするか。てか優花里結構呪術廻戦詳しかったりするの?」

「本誌勢です」

「なるほど」

 

 強い。

 

「でもあまり時間ないんだけど大丈夫か?」

「ナナミンの服装は普通の服装なので意外と手持ちで済むかもしれませんよ。下田殿の家で一回探してみてください。ヒョウ柄のネクタイはうちの親が持っているので大丈夫です」

「お、おう」

 

 貸してくれる前提なんだ。

 

「本当は私もそのイベントに行きたいんですけどその日は丁度用事がありまして……」

「そりゃ残念。何かいい思い出あったら買ってくるよ」

「いいんですか? ありがとうございます」

「おう」

「因みにナナミンの声真似は出来ますか?」

「海馬社長と同じ声だろ。出来るぞ多分」

「何か台詞言ってみてください」

「んん……『労働はクソである!!』」

「おお! そのままじゃないですか」

「いけそうか?」

「いけますよ上々です」

「あのヘンテコ眼鏡は……別にいらないか」

「あ、それ私持ってますよ」

「え、どこで入手したの」

「自分で作りました」

「お前凄いな……」

「えへへ」

「じゃあそれ使わせてもらうわ。髪は……流石に染めるわけにはいかないしどうするか」

「うちの店でなんとかできると思いますよ。私から親に頼んでみます」

「そうか。床屋だったなお前の家」

「はい。鬘も店にあったやつでした。でもうちの学校は頭髪に関してそんなに厳しいわけじゃないんで染めるのも大丈夫だったはずです。どうせ今後の戦車道で女装するならイメチェンも兼ねて金髪にしてみては?」

「あー、どうしよう。今までこんなことなかったからなあ」

「私、下田殿の金髪ツインテール見てみたいです! それに結構早い内に色が落ちる染め方もあるのでそういうのをするのも良いと思います」

「でも、お高いんでしょう?」

「流石にただってわけにはいかないと思いますが私が父に頼んで安くします」

「んーそうだな」

 

 迷う。でもコスプレでもしない限り俺髪染めるなんて体験しないだろうしな……。1度は経験してみたいとい願望はあった。

 

「じゃあお願いするわ」

「はい!」

 

 

 

 

 

「小僧は優花里の何だ」

「え、何だと言われてもただの友人関係としか」

「小僧は男女の友情はありえると思っているのか?」

「ありえるありえないも……俺学校で唯一の男子生徒なわけですし誰かと仲良くなったら必然的にそうなるしかないでしょう。別にそういう関係ではないですよ」

「娘に変なことをしたら今度この店に来た時にツインテールにしかならないような髪にしてやるからな」

 

 秋山家は何故そこまでツインテールを推してくる。それに開幕から小僧って……。でも腕は確かなようで、口は悪いが感覚は心地いいまま散髪は進んでいる。そして本来であればもっと手をかけて色を定着させないといけないようだが、今回は長期間染められたままである必要はないので面倒な過程は省くことになった。

 

「ところで先ほど見せた画像は誰なんだ」

「今流行りの呪術廻戦って漫画のキャラクターです」

「かっこいいのか」

「はい」

「僕がこの格好をしてもか」

「いやそれは知らないですけど多分無理だと思いますよ」

「そうか……」

 

 鏡に映る秋山さんの顔はとても残念そうだった。

 

「でもこの漫画には色んな登場人物がいますから探せば可能性があるのもいるかもしれません」

「本当か!? 優花里に聞けば分かるか?」

「恐らくは。それより出る前にこの髪型にセットするコツを教えてください」

「ああ、それは――――」

 

 

 

 

 

 当日、電車とバスを乗り継いで会場についた俺はイベントの主催者らしき人を訪ねることにした。

 

「失礼します」

「ん? おお! ナナミンだー、じゃなくてどちら様ですか」

「ネットで連絡を取らせていただきましたはちみんです。描いてきたイラストのデータを持ってきました」

「ありがとうございます! ではこちらでプリントして、デジタルのイラストも展示しますね。前に申し上げた通り、このイベントが終わったら色々グッズを差し上げますのですぐに帰らないようにしてくださいね」

「分かりました」

「それにしても……本当に似てますね」

「そうですか。ありがとうございます」

「あ、これさっき買ってきたおにぎりですけどいりますか?」

「必要ありません」

「出たー! 本当にナナミンそっくりだ!」

 

 言わせたかっただけかい。

 

 

 

 

「写真撮ってもいいですか?」

「構いませんよ」

「キャー!」

 

 イベント開始して早3時間。写真を撮られた回数は数え切れなくなっていた。この会場にはコスプレしている人間は俺以外にもいる。五条先生をはじめにまさかの東堂(という名のただの筋肉)も存在していた。後にコスプレ参加者同士が集まってなんらかのイベントがあるようだが、その時に俺も写真撮ってもらおう。

 

「お、俺のイラスト展示してある。って周りレベル高いなおい」

 

 いつの間にかきれいに印刷されていた俺のイラストが展示されていた。周りにある絵も公式のかと思うくらいクォリティが高いものばかりだ。なんだかそれと同列に並んでると嬉しいな。

 イベント内ではグッズが多数販売されていたり屋台形式で料理も売られていた。

 

「丁度昼時だし食べるか。すみません」

「はい! おお! ドゥーチェ! ナナミンっすよナナミン」

「え? わー! 本当じゃないか……じゃなくて! ご注文はいかがなさいますか?」

「ではナポリタンで」

「かしこまりました!」

 

 黒髪の女性店員が料理を作りながらドゥーチェと呼ばれた緑の髪の女性店員に叱られている。もう一人金髪の店員もいるようだが、全体的に明るくにぎやかな感じだ。

 

「はい! 出来上がりましたアンツィオ印のナポリタン!」

「ありがとうございます」

 

 アンツィオってなんなんだろう。

 とても美味しかった。

 

 

 

 一通り回って疲れた俺はベンチに座ることにした。

 

「結構買っちまったなあ」

 

 俺の推しキャラは東堂なのだが世間一般的な反応からして五条、伏黒辺りに人気が集中してるかと思ったら端にあった東堂のコーナーが予想外に人気出ててグッズを買うのに苦戦した。

 

「隣失礼します。人どんどん増えてきましたよね」

「ええ。貴方は開始時からいた方ですか?」

「そうです。ナナミンさん。一つお尋ねしてもいいですか」

「一応登録名ははちみんなのですが……まあ、構いませんよ」

 

 俺の隣に座ってきた女性は立ち上がり、手を前に突き出し腰を下げて言った。

 

「どんな女がタイプだ!」

「はい?」

「気にしないでください。品定めみたいなものですから」

「はあ」

 

 この人多分俺が東堂のグッズを買ってるのを見て東堂好きを察したんだろうな。綺麗な金髪のロングだ。染めたのだろうか? 俺も現在染められた状態ではあるが違いが一切分からない。それと、このお決まりのセリフにどう答えるべきか。「ケツとタッパがデカい女性」と答えるべきか、それとも本編でナナミンと良い感じだったパン屋の女性の特徴を言うべきかはたまた。

 

「あ、別に深く考えなくていいですよ。単純にはちみんさんの好みを聞いてみたいんです」

 

 それはそれでいきなり詰め寄りすぎではと思ったがオタク同士の間にATフィールドはないのだ。詰め寄られたらこちらも詰め寄るのが鉄則。

 

「落ち着いた雰囲気で俺より身長が低い人が好みです」

「……どうやら私達は親友だったみたいだな……」

「どうしてですか」

「いやーここまでがセットみたいなとこ、ありません?」

「確かに。貴方も東堂、好きなんですね」

「はい。大好きですよ。あ、私はカルパッチョと言います。ここの近くに住んでいます。貴方はどこから来たんですか?」

「俺は茨城の大洗ってとこからですよ」

 

 カルパッチョという名は流石に俺みたいに登録名なのだろう。

 

「大洗! 大洗学園にいるをやっているたかちゃん……鈴木貴子って知ってます?」

「知りません。すいません。俺も大洗学園に通っている身なのですが」

「そうですか……。今何やってるか知りたくて」

「幼馴染みたいなものですか?」

「そんな感じです。今度戦車道の全国大会があるんですけど、もしかしたら戦うかもしれないんです。私達と大洗学園は恐らく2回戦で」

「そちらの高校名はアンツィオですか?」

「はい」

「なるほど。でも大洗はまだ戦車も良いのは揃ってませんし経験も浅い。正直俺が言うのもなんですけど余裕だと思いますよ」

「どうでしょうか。噂によると聖グロリアーナとの殲滅戦で惜しいとこまでいったらしいですし」

「まあ、そんなこともありましたね。アンツィオはどんな戦車を使うんですか?」

「うーん、はちみんさんになら言ってもいいですけど……男性ですし」

「いえ、やっぱり聞かなかったことにしてください。ここでそういう話はしたくない」

「? ああ。今はイベント中ですもんね。今はこれを楽しみましょう」

 

 この前は元々()()()()()()()でサンダースから情報を集めた。でも今は違う。こういう場でついでに相手の秘密を知るようなことはしたくない。この俺の判断が原因で負けたとしてもそれは責められるべきことじゃないだろう。

 

「お、コスプレしてる人間に集合かかってる。行ってきます」

「頑張ってきてくださいね」

「いえ、そこそこで済むならそこそこで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々あったが、無事イベントは終了した。サプライズゲストにまさかのアニメ関係者が来たりと大盛り上がりだった。そして何故かコスプレ大会で優勝を果たした俺は作者のサイン入りの色紙と(作者曰く)これをモチーフとした物を本編の東堂が付けているらしきゴムを入手することができ、更にアニメの裏話も聞くことができた。ここまで素で楽しむことが出来たのはいつ以来だろう。

 アンツィオ高校の人間ともよく話した。主にイタリア料理のコツや戦車道の観戦の楽しみ方を教えてもらったり、呪術廻戦の魅力を俺が話したりとアンツィオ高校の人間はノリが良いこともあり興味を持ってくれたようだった。それと勢いでアンチョビというアンチョビのリーダーと連絡先を交換することに成功。この人の名前安斎千代美って言うのか……。ドゥーチェやらアンチョビやら言われてるが本人がそう呼べと言っているのだろうか。

 大洗は茨城にあるのだが、去年まで魅力が低い県ランキングで不動の1位だったのだが、なんと今年からは栃木が一位。今度また来ることがあれば栃木巡りをするのもいいかもしれない。本当に茨城に匹敵するのかこの目で確かめようではないか。その前に茨城をもっと知らなければならないが。

 

 大洗に帰ってきた。帰りがけに西住一派と出くわす。疲れていたのでバレないようにして家に帰ろうと思ったのだが。

 

「え? ナナミン!?」

 

 西住に見つかってしまった。優花里が「あちゃー」と言いたげなのが顔に出てる。元々友達がおらず、周りの目を気にしていた優花里のことだ。いち早く気づいていたのだろう。どうしようか。逃げるか?

 

「えっと、コスプレの方……ですよね」

「……そうですが」

「良かったら写真、一枚撮ってもらえませんか!」

「「「「!?!?!?」」」」

 

 ええ!? あの恥ずかしがりの西住が初見の人間に写真を懇願!? 彼女を突き動かしたのは一体……。

 

「私、その。友達に最近呪術廻戦を勧められて、読んでみたら凄く面白くて。それでナナミンが一番好きで……。あ、その人は私の大事な友達で。いやいやそれは今関係ないか! 恥ずかしいなあ……」

「分かった。分かりました。えーと、じゃあここで撮りますか?」

「良いんですか!? 丁度その人は貴方と同じくらいの身長なんです。でもまだ一緒に写真撮ったことないんです」

「西住殿……」

 

 優花里分かるぞ。どうにかして西住を止めようとしてくれているんだよな。ありがとう。でもどうすることもできないんだろう。武部に関してはいつも通りだ。すぐに恋愛に繋げている。そしてそのメモ帳はなんだ。

 

「ではそこの方にお願いしてもいいですか」

「あ、はい。分かりました。では撮りますよ。はい、チーズ」

 

 パシャリ。

 

「あ、ああありがとうございます!!!」

「いえいえこのくらい」

 

 俺はメガネを取り、髪型を崩した。優花里から西住のスマホを受け取ると。

 パシャリ。

 

「えええ!? どうして!?」

「まだ、『俺』とは撮ってなかったろ。普段はあまり好まないんだけど今日は沢山写真を撮ったから抵抗感あんまりないんだ。撮るなら今かと思って。嫌だったか?」

「え、その声は……下田君?」

「ビンゴ。声戻したら案外すぐ分かるんだな」

「え、本当に下田君なの? え、えええ!?」

「そうだよ」

「本当にそうだ! でも何でその恰好をしているの?」

「イベントが栃木であったんだよ。あとは少し興味もあった。それより、ちゃんと読んでくれたんだな」 

「うん! とっても面白かった!」

「そりゃ良かった」

 

 結局正体を明かしたわけだが、これが正解だったのかは分からない。でも普段見せない西住の反応も見れたし、何より凄く楽しそうだったから良しとしよう。

 

「あのさ! 下田君は!」

 

 武部が急に大きな声を出した。意識がそちらに向く。

 

「下田君、今凄く楽しそうだったし、みぽりんに積極的になってたんだけど……」

「確かに普段の下田さんからは考えられない感じでしたね」

「見た目が変わるとここまで性格も変わるのか」

 

 俺はこいつらにどう思われていたんだ。でも一応彼女らの言い分は分かる。アンツィオの彼女らに影響を受けていたのかもしれない。割と中学までの俺っぽい立ち振る舞いだし変わりやすかったのだろう。

 

「一つだけ聞いてもいい?」

「ん? 構わんが」

 

 武部は目を合わせるのが恥ずかしいのか、若干斜めに顔を逸らして言った。

 

「どんな顔の女がタイプなの?」

 

 その意外過ぎる……いや、武部らしいといったらそうなのか。そんな質問に対して俺と優花里、西住は思わず笑ってしまう。

 

「な、なによ3人ともいきなり笑って!」

「ははは! いや、すまない。でもこれは不可抗力なんだ」

「いいから! 答えてよ」

 

 すっかり顔を赤らめた武部に俺は髪をたくし上げ、ゴムで括り、膝を曲げ()()()()()を作る。そして3人で顔を見合わせた後に言った。

 

(ケツ)身長(タッパ)の高い女が好きです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某雪国の学園艦にて――――。

 

 

「クシュン!」

「どうしたの――。――が風邪をひくなんて珍しいわね」

「いいえ。風邪ではありませんよ。しかし何故でしょう。急に鼻が痒くなりまして」

「もしかしたら誰かが――の噂をしていたのかもね!」

「どうでしょうか。それより口に付いてますよ。少し動かないでください」

「ん……」

 

 

 もしも私の噂を誰かがしているとしたら恐らく戦車道の、それも射撃のことだろう。私の二つ名はブリザード。狙った獲物は逃さない氷の女。

 ……この二つ名と周りと比べても高すぎる身長で近寄られにくいのが最近の悩みだ。




完全なギャグを組み込みたかったのですが技量不足により無理でした。すまねえ……。
でもこの作品は基本的にシリアス展開は訪れないと思うのでその辺は安心を……。多分。
最近呪術ロスすぎて辛い……。


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第9話 大会前日です!

サンダース戦難しすぎて手が止まってます。
作者はcodではいつも狙撃銃を使うのですが狙撃がそこまで得意じゃないので近距離で敵倒してたりします。主人公の間隔が分からねえ。


 幼い頃から射撃大会に何度も出た。その時に気を付けたことがいくつかある。

 一つ、体調管理。二つ、睡眠時間。三つ、イメージトレーニング。四つ、リラックス。そして最後に「今度こそ勝つ」という闘争心。

 神様は平等に才能を与えない。例えそれが努力の果てに辿り着いた力であっても、才能は努力の過程で真の姿を取り戻していく。

 俺には寝起きの時にのみ覚えている記憶といものが確かに存在する。夢の内容だけではない、本物の記憶。忘れているということだけを覚えている。そして俺はその記憶を思い出す度に何故か涙を流している。

 ペロリと涙を舐めた。胸の奥が熱くなるのを感じる程の敗北の味だ。

 

 

 

 

「相手の作戦は分かっている。正直言って俺達が一番苦手であろう質量作戦だ。しかしこのような大ピンチには歴史に学ぶのが一番だ。でははい質問」

 

 俺は五十鈴にアンチョビさんから譲り受けたスペアの指差し棒を向けた。

 

「ソ連VSフィンランドの冬戦争において圧倒的数量で不利を取ったフィンランド軍が取った作戦とは?」

「……すいません。存じていません」

「了解。じゃ、冷泉正解をどうぞ」

「出没、撤退を繰り返し吹雪を待ち、吹雪の日に慣れていないソ連軍を現地人でも迷う森に誘導したり、狙撃などの攻撃を仕掛けた」

「ビンゴ。流石だな」

「でもさ、私達の試合では吹雪なんて吹いてないしそもそも慣れてないよ」

「そうだ。で、この場合、俺達がこの歴史から学ぶべきことはなんでしょう。はい西住」

「『自然を利用する』、かな?」

「正解」

 

 優花里が目をキラキラさせて拍手をしている。完全に弟分だ。

 

「しかし、今回それも望めないとしたら、更に抽象的に考えよう。例えば、『相手の作戦を利用する』とかな」

「でもそれが出来たら苦労しないじゃない」

「そうだ。でもそれが出来ないと俺達は絶対に勝てない。連弩も力も足りてないからな」

「はっきり言われると傷つきますがその通りですね……」

「俺達は賭けを行うしか勝算はないってことだ。二つのな」

「賭け、ですか」

「ああ。とても厳しいものだが、上手くいけば最も楽に勝てる」

「上手くいかなければ?」

「西住の咄嗟の判断でなんとかしてもらう」

「ええ……」

 

 いやだってそれしかないじゃん。ぶっちゃけ俺いなくても西住が持ちうる全ての力を発揮すれば結構簡単に勝てたりしそうなくらいだ。

 

「それでその賭けって?」

 

 俺はホワイトボードに水性ペンで書きだす。

 

「一つ、相手の隊長の指示とは別に独断行動をするがいる。二つ、こちらの動きをなんとか相手に予測してもらう」

「それは、どうして?」

「サンダースはマンモス校だ。それの選抜組、今回戦う相手だな。そいつらとなると自分の才能を過信しているやつらもいるだろう。特にフラッグ車を任せられた奴とかな。それで、優花里の話によると向こうの隊長さんはカリスマ性が強く、優しい性格らしい。そうだよな?」

「はい。とは言っても私が観察した限りでの判断ですけど……」

「となると、フラッグ車の人間は『忠実にサンダースの隊長の命令のみを守る』、もしくは『より気に入られようと、自分の判断を信じ独断行動をする』かのどちらかだろう。今回は後者に賭ける」

「どちらにも対応すればいいんじゃないの?」

「無理無理。対応するには車両数絶対に足りない。それに俺は後者の方が可能性が高いと思っている」

「……相手には絶対的な信頼を寄せられているスナイパーが存在するからか」

「そうだ。意外かもしれないが狙撃というものは攻めではなく防衛において真の強さを発揮する。的が近づいてくるわけだからな。であれば少々無謀なことをしてもいいという思考に至るんじゃないか?」

「……確かに。その可能性はあるね。でも二つ目の賭けの理由は何?」

「先ほども言ったが自然を利用することで数的戦力差は少なからず縮まる。だが、この場合の自然はnatureの自然に限らない。流れ自体を利用するんだ。例えば相手が独断行動に自信を持つきっかけって何があるだろうか。腐ってもフラッグ車。自ら体を相手に晒すまでのことはしないだろう。だが、何らかの形で相手の行動を読むことが出来れば、より、手柄を立てやすい動きができる。逆に言うとそうでもない限りマンモス校の代表の人間は迂闊な行動を出来ない」

「でもそんなのどうやれば――」

「それは分からん。だが、最初から警戒しておいてこちらの変則的な動きに対して相手の動きが上手く行き過ぎている場合、それが一番のチャンスだ。そこで武部、お前の出番だ」

「へ? 私?」

「そうだ。通信主として作戦を皆に伝えるんだ。敵に悟られない形で、そして西住はブラフの情報を相手に渡す。そうして釣れたフラッグ車をズドンだ」

「そんな上手くいくかなあ」

「武部なら出来るさ。お前には才能がある。恋愛以外のな」

「ちょっと! 一言余計!」

「冗談だよ」

 

 ぶっちゃけこの作戦の本質はサンダース戦におけるものではない。寧ろその後だ。実力ある高校の代表は他校の試合を観戦するだろう。そしてそういう人間ほど「最初から全て掌の上だった」ことに驚愕し、警戒する。例えば黒森峰の西住の姉とかは確実にそうだろうな。なんせ実力が確かなことを知っている実の姉なのだから。

 狙撃兵としてサバゲ―やFPSをよくやっていると自ずと見えてくるものがある。「全てを見通された人間は自分自身を疑い始める」それが他人の場合であってもそうだ。逆に「自分はそうなるまい」と思った時ほど危険だ。

 俺がよくやる戦術はこうだ。わざと敵を倒さず、敵の進行方向に弾を撃つ、それを何度も続ける。やがて自分で考えることを放棄した敵は仲間に頼りだす。不安になればなるほど、精神的にだけではなく、身体的にも体を近づけようとするのだ。そうすれば敵自ら位置を炙り出したようなもの。まとめて倒す。

 つまりこの試合は大きな宣戦布告なのだ。

 決勝戦で戦うであろう黒森峰以外へのな。西住の姉貴は西住流の考えに基づいて今までやってきて、勝利してきた。例え自分が信じられなくなってもその信念を曲げるわけにはいかない。だから決勝戦は決勝戦で考え直さないといけない。

 

「それと、これは言っておかなければならないと思うんだが、今回フラッグ車を倒すのは恐らく五十鈴、お前だ」

「どうしてですか? 他の人でもいいのでは?」

「単純な理由だよ。アンコウチームがうちの最高戦力だ。それを攻めに使わないとまず勝てない」

「でも、下田さんも攻撃力の面ではとても強いと思うのですが……」

「俺は他にやることがある。さっき言ったろ? 狙撃が一番力を発揮するのは防衛なんだよ。俺の仕事は狙撃でフラッグ車を守る、場合によっては危険なフラッグ車を見捨て、俺達のフラッグ車を狙いに行く、そういうことに狙撃をするだろう。俺はそいつを叩く」

「……ということは下田殿はナオミさんとの戦いに集中するってことですか」

「そうだ。だから俺は今回倒す戦車は多分一両だけになるな。もしかしたら早い内に倒してしまって他の戦車も倒してその後撃沈って感じもあるだろうが」

「そこはちゃんとやられるのね……」

「当たり前だろ。こっちは機動力ほぼ0なんだからな」

 

 運転技術はこの数日じゃあまり身に着けられなかった。残念。

 

「下田殿の実力を疑うわけではないのですが、本当にあのナオミの相手を任せても大丈夫なのですか?」

「出来ることはやる。でもどうしても無理ならその時また考えるよ。サンダースで普通の射撃をやった時には俺の方が実力は高かったと思う」

「そうなんですか……凄いですね」

「俺は今まで本物の銃を扱っていたからな。完成度高かったとはいえ比較的安全に作られたやつだしその分やりやすかった」

 

 もちろんサバゲー等では実際の銃は使ってはいないが。

 

「最後に、西住、お前の意見を聞きたい」

「私?」

「そうだ。隊長はお前だし大洗の最高戦力もお前だ。その意見が最優先でないといけないはずだ」

「そうだなー……うーん。よく分からない。でも、この方向性でいいとは、思う。でも他の皆が賭けに納得するかな」

「それはしてもらわないと困るが、如何せんまだ出会って時間があまり経っていない。信頼関係が築かれるのはまだ先かもしれない。ぶっちゃけ言わせてもらうと、誰か1チームを自由にさせて、撃破されるのを見せつけるのもアリだと思っている」

「そのやり方はしたくない。出来るなら協力し合って、犠牲を出さずに勝つのがいい」

「了解した。でも本番で切羽詰まった時、そういう戦い方もあるということを頭の隅に置いておいてくれ」

「……うん」

 

 西住は善良な人間だ。俺のこんな卑劣な考えに賛同しないのは分かっている。だが、西住流と違って自由な思考ができるのが西住みほだ。それに犠牲というもう一つの選択肢を用意することでより、強くなるのは想像に容易い。

 俺が出来ることは少ない。だから力を持った人間の手伝いくらいはしなければならない。俺は西住が思いつかないことを片っ端から伝えないとだめなのだ。例えそれで俺が傷ついたとしても。

 

「例えば、例えばなんですけど。一両犠牲にするならちなみにどれを……?」

「八九式」

「即答!?」

 

 あたぼうよ。あんなの他にどうやって使うんだ。

 

 

 

「――――これで話し合いは終わりにしたいと思うが、何か意見出したい人いるか?」

「特にはないよ」

「そうか。それじゃ俺から一つお願いがある。武部」

「私?」

「今日から本番の日まで冷泉と一緒に寝てくれ。本番で冷泉の体調が悪いとか言われたら敵わん」

「……私をなんだと」

 

 遅刻常習犯。

 

「んもー仕方ないなあ。麻子! 早寝早起き頑張るよ!」

「嫌だー」

 

 

 武部のおかん力ヤバい。




単位を落とさない程度に頑張ります。


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第10話 決着です!

期間が空いてすみません……。
サンダース戦は原作よりナオミが強くなってる設定上活躍のさせ方が難しかったです。説明不足な点が結構あるのでもしかしたら主人公以外の視点からの試合内容を書くかもしれません。


 さてさて始まりました戦車道全国大会第一回戦。その相手は有名校であるサンダース大学付属高校。この高校の特徴はなんと言ってもスケールがデカいことだ。保有戦車両数は全国ナンバーワン。もちろん戦車道履修者数もたくさん。

 よく言うだろう。「量より質」と。なるほど確かにこの言葉は汎用性が高い。しかし、絶対ではないのは誰もが分かっていることだろう。

 例えば戦車道。戦車道で使える戦車はなんでもいいというわけじゃない。よって、使用される戦車の性能差も基本的には絶望的までには変わらないのだ。その性能差は使用する人間の技術だったり、体調の扱いだったり……。まあ、色々あるのだ。最も簡単なのは性能差を量で埋めることだ。

 サンダースが優れているのはそこだ。相手の戦車の性能が高くても、数ある戦車で突撃して少数の犠牲覚悟でいけば確実に戦力を削れる。

 では、大洗の話で考えてみよう。

 性能差、、、、負け。

 車両数、、、、大敗。

 経験、、、、、負け。

 

 ????????????? 

 

 よって、この勝負は危険な賭けをしなければ勝てないと踏んだ俺は作戦を立てた。簡単に言うと、100人を超えるメンバーから選抜された人間の出世欲による独断行動だ。

 もう一つの賭けがある。相手に有能な指揮官、それが隊長でもいいし、そうでなくてもいい、その指揮官がこちらの動きを超敏感に察知することだ。そんな人間に更なる読みで勝つなんて不可能に近いだろう。ならば相手に偽情報を掴ませる。いくらなんでもその人間が常に大洗の戦車を観測できる位置にいることはないだろうから、そこをつく。例えばこちらの指揮官を二人にし、それを明かさないままその二人を中心とした陣形を作ったり。どちらも独立した指揮だから先読みもかみ合わない部分が出てくるだろう。

 より自然な動きを味方にしてもらいたいので、アンコウチーム以外の人間にはこの作戦は伝えないでおいた。

 

 

 

「下田殿、さっき結構見られてましたね……」

「流石に身長を誤魔化しきれなかったか。出来るだけバレないように屈んでたんだがな」

「あはは……。それよりも、なんというか、下田君って結構何にでも似合うんだね」

「せめて女装以外で言ってほしかったよ」

 

 始まり前の挨拶が終わった後、用意された戦車に乗るために場所へ向かっていたのだが、その時西住達から何とも微妙な気持ちになる言葉を言われる。

 本日の恰好は金髪ツインテールwith大洗の女性用制服だ。ちらりと鏡を見たが、これまた何とも言えない。だがバレなければそれでよかろうなのだの気持ちでやっていこう。

 

 

 

 

 

 

 時は流れて試合中。俺は最初に決めておいたポイント、見晴らしのいい高台に岩で戦車を隠しながら待機していた。

 

 

「さっきから驚くほどこっちに向かう車両が見つからないな……。全部通り過ぎる。深読みかもしれないが、一応西住に退路としてこの道を使うことを伝えておくか?」

 

 位置を教えないために狙える位置にいる敵も攻撃しないでおく。俺の予想だと、今回のマップで一番の狙撃ポイントはあの高台だ。あの高台だったら、森から追い出したフラッグ車が通っていく平野を狙撃出来る。

 最終的に俺はそこにいる戦車を狙撃することになる。そう思ったのだが。

 

 ピロン♪

 

「え? 試合中に武部からメール?」

『今からみぽりんが伝える情報は全部嘘だから! 必要な情報は全部私が文章で送る!』

 

 どういうことだってばよ。

 

『相手が盗聴していたの。だから通信が全部聞こえてた』

 

「……まさかこんな感じで作戦が進んでいくとは。しかし、これはこれで不味くないか?」

 

 俺が事前に伝えていたせいで、ただでさえぐちゃぐちゃの指揮をしていたわけだ。相手も困惑しているだろうが、味方が立て直すのに時間がかかるはずだ。これは俺がナオミを相手する以前に時間稼ぎをするべきではないのか。

 

『俺は様子を見つつ倒せる敵いたらその都度倒していく。完全に建て直したらまた移動して狙撃のポイントにつくよ』

 

 しかし予想外なのは未だに大洗の車両が一つも撃破されてないことだ。俺の無線機には武部の指示と西住の指示のどちらも別に聞こえてくるため、状況整理が出来なかったが、いい感じに嚙み合ったのか。もしかしたら盗聴してた相手も俺みたいな感じに聞こえていたのだろうか。しかし、俺と違ってもっと上手く聴き分けれるんだろう。実際に支持を読み取り、先読み出来てないとそもそも西住達は気づかないわけだ。

 となると結局相手が機械に頼らなかった場合、俺達は反撃の手段が無かったわけだ。程度にもよるだろうが……。

 

 すぐに武部の声がなくなり、西住の(恐らくブラフ)の指示のみが聞こえてくるようになった。俺は武部が送ってくる情報を整理しながら、移動する位置を考える。

 

『上手くフラッグ車を罠にハメれた! 追いかける!』

『了解。先にいる敵倒しておく』

 

 なんというとんとん拍子。さて、では俺は俺の仕事をこなさなければ。

 第一目標はナオミ。ファイアフライに乗っていると思われる。見つけたら即対処だ。

 

「あれ? なんで戦車の集団が動かずにいるんだ?」

 

 移動した先に見えたのは留まったまま動かない戦車達。サンダースの一番の強みはその物量なはずだが……。

 

『車両数、釣り合って無くないか?』

『そうみたい。みぽりんも6両しか来てないことに不信がってた』

『こちらに残りがいる。念のために全員倒しておくぞ』

 

 動く気が無いのか、それとも動けないのか。よく分からないが一両倒して、他の戦車が散開しないのであれば一気に倒すことに越したことはないだろう。

 

 

 ……おお、1両くらい逃げられるかと思ったけど結構近づいたこともあって、全両射程距離内から抜け出す前に倒せたな。腕が滅茶苦茶痛い。取り合えず撤退をせねば――。

 

 ドゴォン!!

 

 !?!? 俺の真横の岩石が爆ぜた。危なかった。10秒判断が遅れていたら命中していた。しかも俺が全く気付かなかった位置からだ。それにこの位置は相手側からも見えにくい位置のはずだ。そんな中、ここまで正確に位置を補足し、弾を撃てるのは一人だけだろう。

 

「ナオミ……!」

 

 俺の戦いはここから始まるようだ。

 

 

 

 

『現状、そちらの被害はどうなってる?』

『ごめん! 忙しくて報告遅れた! 今はフラッグ車とアンコウ以外全員倒されてる……。多分相手はファイアフライだと思うってみぽりんが言ってる』

『え? ファイアフライならさっき俺を狙って……。今お前らはどこにいる?』

『今森から出て下田君のいる場所に向かってる!』

『方角は? 太陽はどっちの方向にある?』

『えーと、左手!』

『了解。だったら相手は移動しているってことか。フラッグ車は?』

『私達の前にいる!』

『了解』

 

 先ほどまで俺の方を見張ってた。そして他の戦車も撃破した。んで、今アンコウとフラッグ車を追ってるか。ここまで情報がそろえば嫌でも場所は浮き出てくる。

 俺は無線機を手に持ち、伝えた。

 

「今から私はフラッグ車を狙いにいく」

 

 

 

 

 

 

「もー! どうするのこれ~!」

「冷泉殿! 頑張ってください!」

「うるさい……」

「6両しか来なかったから心配だったけど残りを下田君が倒してくれたのは安心したけど、まさかここまで正確にファイアフライに狙われるなんて」

「やはり、黒森峰と比べても凄いんですか?」

「うん。誰も敵わないと思う。……下田君大丈夫かな」

 

 どうすればいいのだろう。ここから勝つにはファイアフライをどうにかしないと不可能。地形を利用する? どうにかフラッグ車を守る形で逃げていってるけどそれもいつまでもつか……。

 分からない。焦る。やっぱり私は隊長に向いてない。私のせいで負ける……。下田君の事前の作戦は上手くいった。流石に先読みの方法が盗聴とは分からなかったけど、きっと昨日の下田君の話が無かったらもっと状況は悪くなってただろうし、あのファイアフライならその隙を突いてフラッグ車を倒されてたかもしれない。多分このまま下田君の言ってた場所に誘導なんてできない。どうすれば――――。

 

「今から私はフラッグ車を狙いに行く」

「え!?」

 

 誰の声だろう、と思ったがこれは下田君の声だ。でもどういうつもりだろう。相手はまだ盗聴してるはず。

 ああ、そういうことか。そうだよね。最初から下田君はああ言ってたもんね。

 

「麻子さん。今からUターンしてフラッグ車を狙いに行ってください」

「でも!」

「大丈夫です沙織さん。ファイアフライなら問題ありません」

「……了解した」

「みほさんがそう言うのであれば、私は確実に仕留めてみせます」

「お願いします!」

 

 この試合、ここからだ。

 

 

 

 

「上手く伝わったかな……」

 

 俺が言ったのはブラフ。俺の目的は依然変わりなくファイアフライだ。今アンコウチームがやられてない理由は冷泉の技術のみによるものではない。優秀なスナイパーほど慎重だ。相手は俺がまだ生きているのを知っている。それに気を付けながら射撃しなきゃいけない。しかも今アンコウチーム達が向かっているのは俺がいた方向だ。普通に考えたら待ち伏せを警戒する。この地形は上の人間が圧倒的に有利だ。

 

「信じるしかない、よな」

 

 俺は一直線に森へ向かう。確実にナオミを仕留めるためだ。

 

 

 

 

 

「多分、この辺だな」

 

 一発

 姿は見えないが位置は大体あっているはずだ。すぐに後退する。俺の狙いはこれで相手に当てることではない。相手の警戒心を煽り、注意を完全にこちらに向けさせることこそ真の目的だ。

 間もなく先ほど俺がいた位置に弾が放たれる。いい感覚だ。音だけで完璧に方角と位置までほぼ理解している。

 こちらのハンデは何より俺がこの戦車の仕事を一人でこなしているということ。この差をどうやって埋めるか。

 

「そんなの決まってるだろ……!」

 

 俺は弾を装填した。

 右手を損傷した武士が相手に勝つ方法。もしも相手が小細工が通じないのであれば真っ向から斬りあうに他ない。それで相手に勝つにはどうするか。

 簡単だ。力まずに相手を斬る術を持っていればいい。手に力が入らないなら入らなくても斬れるのであれば関係ない。しかし、長い戦いになるとどうしても痛みは響くだろう。だからすぐに終わらせる。戦車も同じだ。機動力のハンデがあるのであればそれを技術で埋めるのだ。そして、2発もあれば決着はつく。相手も相当な技術を持っている。だが、まだ甘い。このティーガーは改造されており、正面からの耐久力が本来より若干落ちているとはいえ、いくらファイアフライであっても至近距離での攻撃でない限り、一発でやられることはない。それは事前にⅣ号戦車で試し、計算済みだ。

 つまり、相手の有効射程ギリギリでもない限り、こちらが撃ち勝つ。

 ……見つけた。ナオミは撃った場所から動いていない。確実に俺を仕留めようとしているらしい。また、俺にそんなに時間はかけてられないのだろう。俺が逃げればまだまだやりにくい状況が続くわけだし、さっさと倒しておきたいのだろう。

 上等だ。

 しかし、普通にここから顔を出せば撃たれてしまう。こちらが構えてないのに一方的に撃たれるのはまずい。ならばまずは。

 

「こういう時にも使えるんだな!」

 

 俺は発煙筒を取り出し、後ろに投げた。間もなく煙が立ち上がる。直後、俺はを弾が通る音を聞いた。

 飛びだした。そして、撃った。その先にあるのは戦車の砲身の付け根。

 直撃。だがしかし、白旗は上がらない。砲身にダメージが大きく加わったから上手く射撃することは不可能になったであろうが。

 俺はもう一発弾を装填する。その時だった。

 

 ドオン!!

 

「くっ……」

 

 車体が揺れる。しかし、こちらもまだ旗は上がってない。俺は少しだけ砲身の角度を変えると、もう一度放った。

 ……直撃! 旗が上がる。

 

「ファイアフライ撃破」

 

 煙が晴れる。相手戦車を確認した。やはり、そうだったか。

 ()()()()()()()()

 あの位置周辺には障害物が存在しない。そんな中で相手の狙撃手と戦うのは不利だ。だったら無理やり用意すればいい。ファイアフライはシャーマンを前にして、その隙間から弾を放ったのだ。一発目は外れた。その直後に俺の弾が前にしていたシャーマンの砲身の付け根に命中した。白旗は上がらずとも相手を撃破するのは難しいくらいのダメージは与えられている。そんなシャーマンの代わりに、弾を装填しなおしたファイアフライが弾を放つ。今度は命中したが、ティーガーは撃破されなかった。最後に俺はシャーマンの横にはみ出ていたファイアフライの側面に命中させた。

 俺がシャーマンを倒さなかったのはまぐれではない。戦車道のルールでは、倒した戦車は追激することが出来ないらしい。だが、倒さなくても攻撃力を減らすことは出来る。また、最初にファイアフライを狙わなかった理由は簡単で、ファイアフライは確実に倒す必要があったからだ。もしもシャーマンを倒してしまってたとしても、ファイアフライのみを狙うことは出来ると思う。しかし、不確実だ。今回だってもしかしたらシャーマンにも当たっていたかもしれない。反則負けは避けたかった。また、やはりしっかり視認しなければ正確に撃破することは出来なかっただろう。側面を撃ち、相手がその場から動けないだけで、砲撃は出来る状態になっていた場合、脅威は続く。

 

「あともう一仕事だ」

 

 俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

「華さん! 狙えるタイミングはありますか!?」

「すみません……! まだ停止射撃じゃないと……」

「無理だ。あのシャーマン追跡上手いぞ」

「そう言えば下田殿は大丈夫でしょうか……」

「だ、大丈夫だよ! あんなに自信あったんだもん! あとさっき分かれたカメさん達ももうあまりもたないかも!」

「うん……」

「西住! そこから相手フラッグ車までの距離は有効射程距離に入ってるか!?」

「下田君!? ……入ってるよ! でも、停止射撃じゃないと……」

「大丈夫だ! 次後ろのシャーマンが撃ったら停止して撃て!」

「……っ! 分かったよ! 華さん、麻子さん! 私が合図したら停止射撃お願いします!」

「「了解しました(わかった)」」

 

 

「HEY!HEY!HEY! フラッグ車に攻撃はさせないわよ! どんどんこっちは撃っちゃって!」

 

 ドオン!!

 

「外れた……。今です!」

 

 Ⅳ号が急停車する。しかし、その慣性はまだ残っている。完全な停止をし、射撃する間に比較的距離が近いシャーマンに撃たれる可能性が――

 

 ドオン!!

 

「その可能性は0だ」

 

 白旗が上がる。Ⅳ号を追跡していたシャーマンは撃破された

 

「What!?!?」

 

 やがて、Ⅳ号は無事停止射撃をし、

 

 ドオン!!

 

 相手フラッグ車を撃破した。

 

『大洗学園の勝利!』

 

「……疲れたぁ」

 

 急いでたし、相当距離も離れていて、角度もあったから不安だったが、上手くいって良かった。

 まずは一回戦勝利、おめでとう。




戦闘描写は苦手です。
継から暫く日常が入ると思います。
アンツィオは多分、主人公の能力の性質上あまり重要な試合じゃないので
……。(フラッグ車を連続で狙撃して終了のため)
カットはしないと思いますが、それを入れたとしてもプラウダ戦まで結構長いと思います。
ここから地獄(主に主人公とノンナ)が日常パートの後に続きます。
でもあまりシリアスな展開にはならないと思います。
あと、主人公一家と主人公についての秘密が徐々に明かされていきます。


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第11話 風邪です!

今回はネタ成分多めです。
主人公の昔と今の性格の違いに目を向けていただけれるといいかと。



 ジリリリリリ!!

 

「うるさい……」

 

 ガチャ!

 

「あと5分だけ……」

 

 

 

 

 

 

 ピーンポーン

 

「……誰だこんな朝早くから」

 

 ガチャリ

 

「おはよう下田君?」

「えーあー、にしず、み? それに武部、れいせん……なんで来てんの」

「ちょっと大丈夫? もう8時だけど。もしかして寝起き?」

「んー? ああ、今日は学校だったな……」

「ほれみろ沙織。人間は朝早く起きれる生き物じゃない」

「いや、ちょっとおかしいよ。本当に大丈夫?」

 

 扉を開けると制服姿の西住、冷泉。武部がいた。え、今何時なんだ?

 

「ああ、そうか。もう出る時間なのか。早く着替えなきゃ……」

 

 振り返り、制服に着替えようとしたその時、意識が一瞬飛んだ。体が倒れる。膝のガクッという感覚によって意識は戻る。

 

「下田君!?」

 

 西住が俺の体を支えた。大丈夫。大丈夫だから。

 

「先に行け。俺は後から追いつく……」

「それ絶対にこないやつじゃん! ……もしかして」

 

 武部が俺の額に手を当てる。西住、離してくれ。俺は着替えなきゃ。

 

「……少し熱い。風邪かも」

 

 え? 風邪だと。俺は今のところ高校に入って皆勤賞なんだが。長期休暇にも体調を崩した日はない。でも、そっか。こういう日もあるらしい。

 

「取り合えず、寝かせないと。下田君、入るね」

 

 返事を聞く間もなく、西住は靴を脱ぎ、俺を引っ張って家の中に入ってくる。西住が来るのは2回目だろうか。それに続いて他の二人も入ってきた。

 

「お前らは学校にいきなよ」

「私は今猛烈に眠たい。沙織の補助がないと歩けないほどにな」

「だめ! 今はしも……平野君の看病をしなきゃ!」

「武部、お前こそ風邪じゃないか? 顔赤いけど」

「う、うるさい! 平野君呼びにするって決めてたのにすっかり忘れちゃってたから……じゃなくて! 別に風邪なんて引いてないから!」

「うわぁ、武部の声がハウリングしてる」

「あ、ごめん。大声出しちゃった」

「えっと、ベッドに寝かしたいんだけどどこにあるの?」

「ベッド……あっちだ」

 

 俺はベッドがある部屋を指さす。そしてその部屋のベッドに寝ると、幾分か楽になった。

 

「最近下田君無理してたんじゃない? 戦車探したり、操縦の練習も朝早くから。そして作戦も考えてくれてたし」

「あー、確かに最近の睡眠時間は短くなってたかもな。それに今日は2時間睡眠だし」

「2時間!? 何してたの? 昨日は疲れてすぐ寝なかったの」

「鉄は熱いうちに打てって言うだろ……。一人で反省会的なのをな」

「もう! 無理しすぎ! みぽりん。私今日一日学校休む。みぽりんは麻子を連れて学校に行ってよ。私こう見えても女子力高いから看病は得意なの!」

「女子力といかおかん力……」

「うんうん。私も一緒に看病するよ。麻子さんごめんね」

「いや、私は別にいい。戦車道で優勝したら遅刻欠席も取り消されるしな。それよりあのソファーが私は気になる。きっとよく眠れる」

「はいはい。麻子は寝てていいよ。それじゃ私学校に連絡入れるから!」

「私はタオル取ってくるよ。あと、必要なもの家から取ってくる」

 

 あーだめだ。皆の声が途切れ途切れになってる。意識を保つのが困難になってきた。もういいや。さよなら俺の皆勤賞。

 俺の意識は完全に深い海の底へ行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔のことだ。俺が中学の頃、俺の周りには色んな友達がいた。多分だけど同級生の過半数の人間と交流を持っていたと思う。

 

「平野! 今回のテストどうだった?」

「安定の学年ワースト30入りだ。そっちは?」

「中の中って感じ。ふつーだったよ。それにしても平野って本当に勉強苦手なのな」

「しないだけだ。それにわざと間違えて面白い回答書いたのもあるしな」

「それ抜きにしても低い方だろー」

「それはある」

「自信満々に言うなよ」

 

 二人して笑った。そうしてると、他の皆も集まってくる。

 

「あ、そうだ。今度平野の家行ってみたいんだけど。いつも集まる時他のとこじゃん?」

「あ、俺行ったことある! めっちゃ広かったよ」

「そうなの? 見てみたいわ」

「いや、でも遠いから。集まるのに躊躇った理由はそこなんだよ」 

「でもでも私も一度見てみたい」 

「俺も!」

「別に面白い物なんて何もないんだけどな。でも、そうだな。たまにはそれもいいか」

「やった!」

 

 

 

 

「すっごーい!」

「welcome to ようこそ下田パーク」

「本当に広いな。親どんな仕事してんの?」

「分からんけど戦車道関係。我が家は代々そんな感じだよ」

「へー。じゃあ平野君もそっちに行くの?」

「いやいかない。俺戦車道嫌いだし」

「えーなんで。かっけえじゃん。俺は好きだよ。一回黒森峰の戦車道生で見て感動したし」

「いいから。俺は嫌なの」

「ふーん」

 

 それにしても1,2,3,4……8人か。多いな! 結構広めの家とはいえ想定以上すぎる。

 俺はお茶を用意しようと一旦俺の部屋に友達を連れてきた後部屋を出た。

 

「なんじゃ。友達連れてきたんか」

「うん。なんか沢山来た。ダメだった?」

「いやそんなことない。ゆっくりしてもらいなさい」

「そう言いながら『戦車道入門』の本を渡さないでくれる?」

「……その友達の中に女子はいるか」

「うわおっさんくさい台詞……。女子は3人いるよ」

「そうか……じゃあ」

「じゃあ、じゃないよ。言わないったら言わないからな!」

「……」

「そんなハムスターみたいな目をしないでくれよ……」

 

 自分の祖父が孫にしていい表情じゃない。さしずめ「お願い! ヒマワリの種ちょうだい!」と言ったところか。嫌です。

 しょんぼりとした爺さんの横を通り、麦茶をコップと共に持ってきた。

 

「うーす、茶だぞー」

「平野お前すげえなこれ!」

「は?……っておい!」

 

 8人がかりで俺の部屋を物色していた。特にベッドの下……そこは不味い! エが付くものは持ってないがそれとは別に不味いのだ。

 

「モデルガンこれ何個あるんだ?」

「『サバゲー入門』『サバゲー中級者入門』『元自衛官が教える戦場での立ち回り』まだまだいっぱいある」

「漫画もいっぱい!」

「ん? これって」

「おい、それだけは!」

 

 そういってアイツは俺のベッドの下からスケッチブックを取り出すと、開いて見せた。

 

「馬鹿……!」

 

 他の7人も俺を押しのけてその内容を見ようとする。もうやめてくれ……。

 

「平野っち絵上手くね!? マジヤバなんですけど!」

「これ知ってるべ! 進撃の巨人ってやつっしょ?」

「え! 皆見てよまだまだ沢山スケッチブックが――」

 

 その時、俺は理性を捨てた。

 

 パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン

 

「いっでぇ!」

「何!?」

 

 俺は両手に持ったエアガンで8人全員を3秒かからずに撃った。どこから取り出したかは敢えて言うまい。

 

「それ以上他のスケッチブックを開くことも、ページをめくることも許さん。次は目だ」

「「「「「「「「ごめんなさい」」」」」」」」

「分かったならいいんだよ。あと一発だけで許してやる」

「「「「「「「「ええええええ!!」」」」」」」」

 

 人の絵を見ていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけだ。

 嗚呼、なんて恐怖政治……。

 

「平野って結構話す割には自分のことはあまり話さなかったから新鮮だったわ」

「そうそう。なんか常に自信満々って感じだし」

「勉強も出来ないし部活もすぐやめたくせにさー」

「うるせえ! お前らまた撃つぞ!」

「はいはい動かないよ……で、まだ?」

「あと少し」

「……もう疲れたっす」

 

 只今俺はデッサン中である。誰を? わが友をだ。わが友と言えばバトスピブレイヴはいつヒロインは報われるんですかねえ……。

 それはそれとして。

 

「出来たぞ」

「見せて見せて!」

「おおおおおお!!!」

「ほいよ。誰でもいいからいるなら貰ってくれ」

 

 争奪戦が始まった。実は最近はデジタル絵にはまっており、アナログで描くのは久しぶりなのでノリノリだったりする。

 

 

「そういえばお前一回この家来た事あるんだよな? こんなに面白いんなら教えてくれよ」

「いや、前は庭で遊んだだけだったから」

「庭で? 何したんだ?」

「サッカー」

「庭でサッカー!?」

「そんなに大きいの!? ちょっと見てみたい!」

「あああもう! うるさい!」

「じゃあ、こうしよう。今から自称勉強出来なくはない下田君に簡単な英語の質問をします。それにちゃんと答えられたら大人しくここで遊ぶ。出来なかったら庭で遊ぶ!」

「いや別にここで遊べって話でもないけど」

「え? もしかして自信ないの? 今まで散々言ってきた癖に?」

「あ? やってやろうじゃねえか!」

「ほいきた。じゃあ質問します」

「おん」

 

 簡単な質問か。英語は比較的得意教科だからなんとななるだろ。

 

「この部屋に爆弾が仕掛けられました」

 

 いきなり物騒だな!

 

「貴方は戦車で犯人に報復しなければなりません」

 

 ?????

 

「その時貴方はどう思いますか」

「え、a……hap」

「hap? happen? 」

「happy……」

 

 俺はhappy以外の感情を表す単語を知らなかった。

 

「ぶははははははは!!!」

「叩くな叩くな……」

「だって! あんなに意気込んで! ぶふっ」

「うるせえ! 見せればいいんだろ! 庭を!」

「よっしゃ来た!」

 

 

 

 

「でっけー!!」

「東京ドーム何個分だこれ」

「分からないけど2個分くらいだろ」

「そんなわけないじゃん……」

 

 そうなの? そもそも東京ドームってどれくらいの大きさなんだ。

 

「早速遊ぶか」

「せっかくなら面白い遊びしようぜ」

「面白い遊び?」

「鬼ごっこだ」

 

 鬼ごっこ? なんで?

 

「普通の鬼ごっこじゃないさ」

「え?」

「その名も『人間ごっこ』」

「俺達人間じゃなかったの!?」

「一番怖いのは鬼ではなく人間なんだよ……」

「何言ってんのよ」

「普通の鬼ごっことは違う点が一つある。触っていいのは首だけ。あと触る時は呼吸を強めること」

「過呼吸なるだろそれ」

「そうなったら『次の型、どうぞ』だよ」

「もしかして鬼滅の刃かよ」

「え? あ、『過呼吸、次の型、どうぞ』か。くっだらね」

「上手い!」

 

 美味い! じゃねえ上手いだ。いや、上手くもねえ。

 

「何でもいいから何かやるならさっさとしようぜ」

「んじゃ普通にサッカーするか。この中でサッカーのルール知らないやついるか?」

 

 基本的には手を使わず足でボールを動かし、相手ゴールにボールを入れるスポーツだ。オフサイドとか考えなければそこまで難しいルールではない。

 

「スラムダンク読んでたから多分大丈夫」

「いやそれ全然大丈夫じゃねえよ」

  

 むしろ使っていい部位逆だよ。

 

「左足は添えるだけ……」

「やかましいわ!」

 

 右足だけで運ぶハンデ辛すぎない?

 

「取り合えずやってみるぞおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったぜ。またよんでくれよな」

「私もまた来てみたい!」

「俺も!」

「あたしも!」

「せめて次はこんな大人数じゃないようにしろ。……別に来てもいいからさ」

「んじゃさ、今度頭いい人も何人かよんで勉強会とかどう?」

「話聞いてた? これ以上追加する気かお前ら」

「こんなに広いんだから多い日も安心!」

「紙オムツじゃないんだからそんなわけありません」

 

 確かに楽しかった。休み時間に騒いでいたのがそのまま時間が伸びたような感じだ。「俺達を作った奴はこう考えた。色んな奴がいた方が面白いってな」ってのは本当なんだ。

 それにあれだ。俺は高校生になったら地元を出ていくつもりでいる。こいつらと遊べるのもずっとじゃない。地元の高校であればすぐに集まったりもできるが、県外だとそうはいかない。だから今精一杯楽しんでおこう。

 

「でも確かに勉強しないと不味いかも……」

 

 そもそも偏差値低すぎて狙った高校を受けれないとなるとそれは最悪だ。

 

「じゃあ、また今度な」

 

 俺は手を振り、別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

「起きた! みぽりん平野君が起きたよ!」

「えっ! だ、大丈夫? 気分はどう?」

「今の大声のせいで頭がいてえ」

「「ごめん(ね)」」

「嘘だよ。その感じだと看病してくれたんだろ? ありがとな」

 

 目を開けると俺はベッドに寝転がっていた。そんでもって横で本を読んでいる武部と目が合うと、武部が騒ぎ出す。それに連鎖して西住も駆け寄ってきた。

 

「おかゆ作ってるんだけど今食べれそう?」

「ありがとう。誰が作ってくれたんだ?」

「一応私達二人なんだけどね……」

「あれ、後一人確かいなかったっけ……って普通に俺のソファーで寝てるし」

「定期的に起きるんだけどね。そして何かする必要があることがあったらそれを教えてまた寝るって感じだった」

「なんじゃそれ」

 

 熱は今あるのか? 武部が持ってきたのか、近くにあった体温計を腋に挟んだ。

 ・・・37度4分か。安静にしておいた方がいいか。そうだ。確かこの前ダージリンに貰った物の中に英国のお茶に混ぜて飲む薬草があったんだった。結局貰った紅茶全く手つけてなかったしいい機会だ。

 俺は起き上がって棚に入っているケースから聖グロ印の付いたカップと茶葉、薬草を取り出した。こういう時どんな格言が使えるんだろうな。

 

「え? 下田君それって……」

「ん? ああ、これ聖グロの隊長から貰ったんだよ。風邪の時にいいらしくてな。今まで飲む機会無かったからどんな味か結構楽しみだ」

「ふーん……え? ダージリンさんと前に会ったことあるの?」

「うん」

「なんで言ってくれなかったの」

「別に言う必要ないだろ……」

「もう! 平野君は女心が全く分かってないんだから……」

 

 女心とかそういう問題なのかこれ。別に相談するような情報も無かったし良くないか。

 

「えーと、お湯が沸く前に……おい、武部今何読んでる」

「え」

 

 気づいてしまった。どうせ武部のことだろう。ゼクシイとか読んでるんだろうなと思ってたらどうやら違うようだ。それは……それだけは……!

 

「平野君って絵上手いんだね」

 

 あの時、俺が地元の友達に見られたそれと同じ物だった。

 

「おい見るな!」

「ご、ごめん。つい綺麗な絵だから見とれてしまって」

「……そうでもないだろ」

 

 ぶっちゃけ数年前よりも断然今の方が上達してる自信があるし、粗探しも容易だろう。

 

「そんなことないよ! あ、そうだ。今度私達の絵も描いてよ」

「ええ、面倒くさい。それに達ってなんだ達って」

「私も描いてもらいたいな」

「私も興味はある」

「冷泉起きてたんかい!」

 

 ぬっと出てきたな。それにしてもなんか懐かしい気がするこのやり取り。

 

「でも、そうだな。看病のお礼に今度描くよ」

 

 その後、西住にダージリンさん達とのやり取りを深く聞かれたのはまた別の話。

 ちなみに絵は西住達が帰る前に(何故か俺も含めた)写真を撮り、次の日の夜に一気に描きあげた。




地元の友達の名前を書こうと思ったのですが、ぶっちゃけ今後出番ないんで混乱を防ぐためにも敢えて書きませんでした。
昔の主人公は怠慢なのに自信満々、積極的に馬鹿するタイプでした。
やんちゃしてたって意味ではみほと似てるとこがあると思います。
みほが最初に主人公と仲良くしようと思ったのはそういうとこを見抜いていたという背景があります。


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第10.5話 結束です!

普通に忘れていた部分があったので書きました
それとご報告
近日中にこの小説の1,2,3話を大きく書き替えることにします。
理由は読みにくすぎるのと、原作をほとんど知らない人にでも楽しんでもらいたいためです。
今後ともよろしくお願いします


 サンダース戦が終わり、挨拶の後西住がサンダースの隊長と話しているのを横から見ていた。さっさと帰って変装解きたい……。

 

「シャーマンに勝てるなんて感激です!」

 

 本当にその通りだよ。一回戦で当たる敵じゃねえわ。

 

「Exciting!こんな試合が出来るとは思わなかったわ!」

「う……うう」

 

 西住がサンダースの隊長、確かケイさんか。彼女に抱き着かれていた。それに西住が固まっている。誰だってそうなる。俺だってそーする。

 

「あのティーガーに乗っていた人ってどの子なの?」

「えっと……」

 

 西住が「ごめん」と言いたげな表情でこちらを見てくる。はぁ……。

 

「お……私です」

 

 あっぶね。素で間違えそうになってしまった。

 

「凄かったわ! まさかナオミと撃ち勝つなんて!」

 

 そう言ってケイさんが飛びかかってきた。西住とのやりとりを見ていたからか、それに反射的に受け身を取ろうとしてしまい、ケイさんの体を後ろに流してしまいそうになったが、寸でのところで気が付き、手を伸ばしてケイさんを抱きかかえる形になった。所謂社交ダンスでよくある男性が片腕で女性の片腕を掴み、もう片腕で女性の背中を抱えるヤツだ。

 更にバランスを保とうとそのポーズのまま揺れ動いていたら、俺の被っていた帽子が落ちてしまう。女装した変態金髪ツインテの登場だ。

 

「あ」

「えーと」

「ご、ごめんなさい!」

 

 3秒程見つめ合ってしまった……。みるみるうちにケイさんの顔も赤くなっていたが、俺も多分そんな風になっていたであろう。だって恥ずかしいもん。

 俺は引っ張ってケイさんを立たせた。

 

「貴方身長凄く高いのね。ノンナよりも高いのかしら?」

「ノンナ? ああ、プラウダでブリザードのノンナとか言われている人ですか。身長高いんですかあの人は」

「そうなのよ。しかも貴方と似て、凄く上手い砲手なの! このまま順調に行けば貴方とノンナの戦いが見れるかもね!」

「その人は……ナオミさんよりも強いんですか?」

「うーん。どうだのかしら? 見る感じナオミの方が技術は上だけど今のノンナを私は知らないからわかんない!」

 

 ナオミよりも強かったら経験値的にも追いつけるかどうか……。どうか弱くあってくれ。

 「それと」と、ケイさんは咳を一度した後に続けて言った。

 

「盗み聞きなんかして悪かったわね、あなたの言った通り、フェアプレイじゃなかったのはうちの方だったわ」

「いえ……おかげで勝てたところもありますし。それに」

 

 西住が俺の方を見て、その続きを言うのをやめた。大方俺が予知能力を予想していたことを言おうとしたのだろう。

 

「いえ……。それより、5両しか来なかったのは?」

「ああ、それ? 貴方達と同じ数だけ使ったの。でも結局待機させてた戦車は全部この人にやられてしまったけどね」

 

 ケイさんが笑いながら言う。ラフな人だなあ。

 

「……どうして?」

「That`s戦車道!これは戦争じゃない、道を外れたら戦車が泣くでしょ?」

 

 戦車が泣く、か。その通りなのか。第二次世界大戦が終わり、戦車道が競技として広まったこの時代。戦争の道具であった戦車を使うからこそ、美学が大切になっているのだろう。

 なるほど。爺さんがやけに俺に勧めてきたのは、爺さん自体がこういう考えを持って戦車道に携わっており、俺の固定概念を無くそうとしたからだったのかもしれない。

 ケイさんも、爺さんもこういうところにカリスマがあったのだろう。

 

「あ、あの…隊長、そろそろ撤収の準備を」

 

 ケイさんともう一人の茶髪の女性が近づいてきた。俺は落ちた帽子を再び深く被る。茶髪の女性は妙におどおどしている所をみると、多分この人が盗聴していたのだろう。そいや開始の時にケイさんが「戦いはフェアプレイ」とか言ってたっけ。すっかり忘れていたけど、ケイさん自体は本当にそう思っていたんだろうな。だからこそ、この茶髪の人は引け目を感じている。

 俺が事前に予測していた通り、出世狙いだったのか。それとも貢献して褒められたかっただけなのか。それの答えを聞くことは出来ない。しかしどちらにせよケイさんのことを思っての行動だったには違いない。

 ケイさんは茶髪の女性の肩に手を置いて言った。

 

「反省会するから」

「ヒッ!」

 

 とても冷たい声だった。それを聞き、茶髪の女性はぐにゃあと文字が見えそうな感じに倒れこんだ。それを見てナオミが優しい顔をしていた。この女性の気持ちも分かるし、ケイさんの気持ちも分かるって感じか。

 そうしてナオミを見ていると、目が合ってしまった。しまった。

 

「げ」

「げ、とは酷いですね」

 

 ナオミは苦笑いをする。

 

「」 

 

 

 

 

 

 

「」 

 

 

 

 

 

 

 

 サンダース戦が終わった後、俺は女装を解いて私服に着替えた。バレないように結構工夫していたので戻すのに時間がかかった。皆の場所に戻ると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてアンコウチームの皆の下に向かうと、何やら雰囲気が重くなっていた。

 

「どうしたんだ?」

「下田君! あのね!」

「泳いで行く……」

「おいおいいきなり服を脱ぎだすとは何事」

「それがね。麻子さんのおばあちゃんが倒れたってさっき電話がかかって……」

「……冷泉。お前のおばあさんの近くにいつも誰かいるか?」

「いない」

 

 夕焼けで照らされていたからであろうか。その表情はとてもという言葉では表せないほど悲しい顔をしていた。

 

「なんとかならないかな?」

「取り合えず通報があったってことはもう既に救急車に連絡が言ってるってことだろうから大丈夫とは思うけど、万が一のこともある。その時は冷泉が近くにいてやらないといけない。向かう方法は――――」

 

 考えろ。学園艦が来るまでもう少し時間がかかる。サンダースはとにかく規模がデカい。ならばボートの一つや二つあるんじゃないか?

 

「ケイさんの所に行ってくr」

「私たちが乗ってきたヘリを使って」

 

 俺が最後まで言い切る前に声がかかった。聞きなれた声、だが聴きなれてない声。

 西住流後継者、西住まほ、その人だ。

 

「え……」

 

 戸惑う西住(みほ)に、「急いで」と言う。その表情からは一切の感情が読み取れない。

 

「隊長! こんな子達にヘリを貸すなんて」

「……これも戦車道よ」

「お姉ちゃん……」

 

 西住まほの隣にいた女子生徒の意見も最もだ。だが、それに対しての西住まほさんの台詞。ケイさんも言っていたが戦車道とは一体何なんだ。礼儀を尽くしてこそ、フェアプレイを尽くしてこそ戦車道なのか? 今回はそれに甘えるしかない。

 

「操縦頼んだわね」

「はい……」

「私も乗る!」

 

 武部も同行するらしい。西住まほさんの隣の女子生徒はヘリには乗ったが、まだノリ気じゃないらしい。

 

「ありがとう……」

 

 西住みほの言葉に反応することなく、西住まほさんは通り過ぎて行った。こと後彼女はどうするのであろうか。彼女は黒森峰の隊長だ。他の生徒と一緒に来たのか、と思ったが、あのヘリの大きさを見るにそこまで多くの人間とは来れてないだろう。それに私達が乗って来た、て。どうやって帰るんだ。もう夕方だし、次ヘリが来るのは相当後になるだろう。

 俺は西住みほ達の方を見た。彼女達は冷泉の事を心配してるようだ。なら余裕がある俺が行くべきだろう。

 

「あの!」

「ん? 君は……」

「大洗学園、西住と同じ学校の生徒です。今回はありがとうございました」

「そうか。大洗女子学園は共学になったのだな」

「はい。といっても男子生徒は俺だけですけどね」

「君はみほと親しい仲のように見えた。みほは人見知りのはずなのだが」

 

 あの一瞬で俺と西住が仲いいと判断したのか。 

 

「君はみほにとっての何だ?」

「なんだ、興味津々じゃないですか。てっきりさっき西住がありがとうと言ったのに無視してたから完全に冷めているかと思いましたよ」

「そう、なのか?」

「え?」

「みほがそんなことを言ったのか。聞こえなかった……」

「ええ……」

 

 西住まほさんよりも離れていた俺でも聞こえたのだが。もしかして緊張とかして周りの音が聞こえなかったりしたのか?

 

「取り合えず、どこかで座って話しませんか。あのヘリがここに帰ってくるのに結構時間かかるでしょう?」

「……そうだな」

「いい店を知ってます。そこで話しましょう」

 

 俺が潜入調査した時、少しだけ寄った店だ。雰囲気が良く、価格も安い物が多かったので丁度いいと言えるだろう。

 

 

 

 

「今回試合を見に来たのは西住の試合が気になったからですよね?」

「……お母さまは西住流から逃げたみほを許していない。だから代わりに私が見届けに来た」

「でも、結果としては大洗の勝利だった。途中で色々ありましたけどね。あんな戦いは邪道だと思いますか?」

「あの戦いは西住流のそれではない。だが、それが勝利へと繋いだのは事実だ」

「そうですね。全くもってその通りだと思います。西住の戦い方は西住流の動きとは違いますが、それでも勝ち切るだけの力は持っている」

「これはさっきも言ったことだが……そういう君はみほの何だ?」

「ただのクラスメイト、と言いたいところですがもう少し親しい仲です」

「君はみほの戦車道が好きなのか?」

「好き嫌いとか、そういうものじゃないですよ」

「? なら何故君はここに来ている」

 

 戦車道に関してそこまで詳しいわけじゃないし、西住まほさんの考える戦車道がどんなのかも分からない。だが、ここで「なんだって良いじゃないですか」と答えるのは何か違う気がした。

 

「求められたから、ですかね」

「……君の名前を聞いても良いか?」

 

 そう、俺は求められたから来ている。そこに噓偽りはない。だが、俺が戦車に乗っていたことまで話す必要はないだろう。

 

「下田平野です」

「下田……もしかして君は――さんの親戚か?」

 

 姉の名前が出てきた。姉貴は戦車道をやっているようだが、それで交流があったのだろうか。

 

「まあ、そんな感じです」

「そうか、君が」

「え?」

「あのティーガーに乗っていたのは君だな?」

「ん? 何のことですか?」

 

 俺はとぼけてみる。それに加え、注文ボタンを押し、空気を換えようと試みた。

 

「隠す必要はない。私はきっと君が、――さんの弟が戦車道をやると知っていた」

「おかしいことを言いますね。普通に考えて戦車道を男がやるわけないじゃないですか」

「確かにそこに疑問は少々残る。だが、あのレベルの射撃技術。相当限られた人間にしか出来ない。私の高校にも恐らくあのレベルのはいない」

「……もしかして姉貴が俺の話をしたんですか?」

「そうだ。私は下田家の人間にお世話になったことがある。それにしても……こんなところで出会うとは」

「はあ。もう確信してるようですしいいか。そうです。俺があのティーガーを動かしてました」

 

 遅れてやってきた店員さんに俺は適当に注文をした。

 

「これまでに戦車道経験は?」

「少しだけです」

「……なるほど。流石はあの人の弟といったところか。素晴らしい才能を持っているのだな君は」

「俺は俺に出来ることだけを絞った結果、射撃の技術が上がっただけです。総合力でいったら西住の10分の1にもなりません」

「戦車道は団体競技だ。必ずしも総合力が高い人間が勝つわけではない」

「だが、定石を知っている人間とそうでない人間とでは天と地ほどの差がある。そうでしょ?」

 

 戦車道という競技に流派が存在するのはそういうことだろう。先人たちが積み上げてきた理論を使うことで勝率を上げている。

 

「少し俺からも質問したいんですけど、姉貴ってどんなことを戦車道ではやっているんですか?」

「あの人はメディア露出を極力好まない。だからあの人の技術を知っている人も少ない」

「そうですね。だから調べても全然出てきませんでした」

 

 そもそもどこの大学に所属しているのか。

 

「あの人は今、戦車道の日本代表チームの一員となっている。そして」

 

 心なしか今まで表情が変わらなかったその顔に変化が起きたように見えた。自然と身構えてしまう。

 

「私が知る限り、あの人の実力は歴代最高だ」

「え?」

「あの人は操縦主をやっている。その技術は並外れており、何度もチームの危機を救ってきた」

「そんな選手なら猶更隠し切れないと思うのですが」

「全部他の人の手柄にしているんだよ。そして、それをチームの誰も止めない。君の姉上が本気を出せば、味方を含む全車両を倒すことが出来る実力があるからだ」

「なんだそれ。実力があるからって手柄を黙って受け取る理由にはならないでしょう」

「なるんだよ。彼女と一緒のチームになった人間は全員知っている。いつも飄々としている彼女が一番自由になった時、大量破壊を楽しむ化け物になることを。それを見た者は全員何も言えなくなるのだ」

 

 俺の全く知らない姉の顔。俺は弟でありながら、戦車道を受け入れてなかったためか、そんなことをしていたなんて全然知らなかった。二面性があるなんて一緒に住んでいた頃には気づかなかった。

 

「例えば……そうだな。これは本当の話なのだが、フラッグ車に乗っていた君の姉上は自軍の残りが自分たちだけになった時、全ての敵の戦車の攻撃をかいくぐり、敵フラッグ車を撃破した。それも、一定以上の知識がないと理解できないような技術で」

「へえ……」

「あの人が一番その強さを発揮するのは一人になった時だ。本来は団体行動など得意ではない。現在日本代表の隊長をしている島田流の時期家元候補もその実力を引き出すことに成功していない。同じ車両に乗っている人間は度々自信を無くし、交代をするとも聞いている」

「ええ……」

「そして、君の姉上が唯一自分のパートナーに成り得る人間として選んだのが、下田平野、君だ」

「俺!?」

「そうだ。君の姉上は君の才能を誰よりも認めていた。そして、正に今日、君は私が予想してた通りの実力を見せた」

「……姉貴も見る目が無いですね。俺なんかよりも凄い人なんて幾らでもいる。あの人は俺が敗北してきた回数を知らないんですよきっと」

「断言する。私達と君達、当たるなら決勝戦だ。その時には一番の脅威は君となるだろう。今の君は君の姉上から聞いた弱点は既に消えている部分もあるようだしな」

「そうですか。期待してくれているのは嬉しいですけど、そもそも決勝戦までいけますかね」

「私達は相手になった者達を倒す。それだけだ。君が敗北した相手も、倒してみせる」

「……そうですか」

 

 俺は注文した物がやってきたタイミングで姉貴にメッセージを送っておいた。俺はもっと姉貴について知る必要があるらしい。

 

「……君は随分と知り合いが多いのだな」

「え? ああ、これですか」

 

 別に覗き込んだわけではなさそうだが、俺のスマホの画面が見えていたらしい。

 

「中学までの友人とか、今の戦車道のメンバーとかくらいですけどね。西住さんこそ有名人なわけですし、俺なんかよりも沢山連絡先持ってるでしょう?」

「……ない」

「え?」

 

 よく聞こえなかった。

 

「持って、ない」

「ん?」

「みほの連絡先でさえ、持ってない。黒森峰の人間とも……エリカくらいか」

「エリカ? ああ、さっきまで一緒にいた人ですか。って、ええ!?」

「……」

 

 もしかしてこの人友達自体少ないんじゃ? それにさっきからちらちらと期待を込めたような顔でこちらを見てくる。

 

「連絡先交換、しますか?」

「……ああ!」

 

 バイクに乗っている決闘者のような言い方だ。実際に乗ってるのは戦車なわけだが。いきなりティーガーⅡをシンクロ召喚とかするのだろうか。

 丁度好感したタイミングで西住さんのスマホに連絡が一通。

 

『隊長、今着きました』

「……どうやらここでお別れのようだ。代金は私が払おう」

「いや、普通に自分の自分で払いますよ」

「心配することはない。私達は連絡先を交換した仲だしな」

「でってう」

 

 重い! 重いよ!

 

「あの……西住の連絡先も教えましょうか?」

「……ちょっと気まずい」

「ですよねー」

「あと、紛らわしいから私のことは下の名前で呼んでくれ」

「分かりました西住さん」

「……」

「冗談ですよまほさん」

 

 この人感情が分かりやすいのか分かりにくいのかよく分からない。いつか西住姉妹の仲が良くなるといいのだが。

 

「今回は助かった」

「いえ。お気を付けて」

 

 俺はまほさんを見送った後、西住達と合流しようとしたのだが。何故かまほさんが俺の元へ戻って来た。

 

「どうしたんですか?」

「……エリカが着いたのは大洗の病院だったらしい」

「は? だったら今からこっちに来るってことですか?」

「うん」

 

 なんじゃそれ。




次から普通の話です


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