どうも、嫁と嫁してます (夏之 夾竹桃)
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第1話 初めての

 あれから何年経ったか?4年?早いな。

 

「亮太?どうしたの?」

 

「いや、沙奈も活動4年目かって思って。」

 

こいつは元小畑沙奈(こばたけさな)。3年前から個人で『夜空ゆに』の名前でVtuberをしている。そして俺が菊川亮太(きっかわりょうた)。簡単に言うと沙奈のアシスタントをしている。

 

「亮太と付き合い初めても3年経つんだよ?」

 

「そうか………早いな。本当に。」

 

「だよね。」

 

「まぁ、俺の生活も安定してきたしな。」

 

「うん。」

 

「沙奈。ありがとうな。」

 

「何が?」

 

「色々と。」

 

「あぁ…そうだね。そろそろ行こっか?」

 

「あぁ、頃合いだろう。行こう。」

 

そうして俺達は待合室をあとにする。今日は式の当日。正直めちゃくちゃ緊張してる。しないわけないよな。初めてだし…。

 

「亮太?緊張してる?」

 

「あぁ…。」

 

「やっぱり。」

 

「そういう沙奈はどうなのさ?」

 

「緊張しないわけないじゃん。」

 

「知ってた。」

 

それにしても沙奈のウエディングドレス姿をこんな近くで見ることになろうとは高校生の頃だと思いもしなかった。でも実際問題その姿の沙奈は今、俺の横に立っている。綺麗だ。

 

「じゃ、行こう。」

 

「うん。」

 

「新郎新婦の入場です。」の掛け声がして扉が開く。俺はあのとき沙奈に言ったあの言葉を果たしたのだ。ゆっくりと歩いていく。

 

 なんか現実じゃないみたいだ。だって、幼馴染と結婚してその幼馴染は今やチャンネル登録者数10万超えのやべーやつ。今まで俺はそんなやべーやつのアシスタントしたり彼氏したり………。沙奈のストイックな生活に付き合ってきた俺も大概やべーかもしれない。

 

 そうして俺達は静かにゆっくりと歩みを進めた。

 

――――――――――――――――

――――――――――

―――――

 

「ふいー疲れた。」

 

式が終わり家に帰って来る頃にはもうすっかりあたりも暗くなっていた。

 

「案外疲れるもんなんだね?」

 

「あぁ。でもやっぱり上げてよかったな。」

 

「うん。さてとこっからだよ?声出る?」

 

「わかんない。」

 

そう言って俺は少し咳き込み声の調整をする。

 

「どう?出てる?」

 

そうに沙奈に聞いてみると「疲れが見えるね。」と言われた。

 

「やっぱりか…。」

 

「どうする?やめとく?」

 

「重大発表って言ってシルエットまで出したのにか?」

 

「でも、声出なきゃ本末転倒だよ?」

 

「………ちょっとお時間ください。」

 

「はい。」

 

まだ時間はある。大丈夫だお前なら行ける。うちに秘めるロリに語りかけてそいつを引き出すんだ。そうしてしばらく精神統一。

 

「コホン、あーあー、これでどう?」

 

俺の喉からは到底成人男性から出るとは思えないような女児のような声が出ていた。

 

「相変わらずどうやって出してるんだか………なにも問題ないよ。」

 

「よし、じゃあこれで行こう。」

 

今日の配信は俺の初配信の日。

 

「また亮太緊張してる。」

 

「当たり前だろ?初めてなんだし。」

 

「まぁ、いずれ慣れるよ。」

 

「慣れるまでだよ。」

 

「大丈夫、私がいるから。」

 

「ありがと、沙奈。」

 

「こっから先はゆに呼びね?わかりましたか()()()()()さん。」

 

「はい、わかりましたゆにさん。」

 

ノリにノッて女声で答える。

 

「じゃあ本編は呼び捨てで。」

 

「了解。」

 

「では始めます。」

 

そうして沙奈は配信スタートのボタンを押した。待機時間。あぁ更に緊張してきた。初配信のときって皆さんこんな感じなんだろうか?

 

 そうして…。

 

「はい、皆様お疲れ様です。夜空ゆにです。」

 

これが配信者の見ている景色…。まさか自分がこっち側になるとはな…。

 

「ということでですよ。重大発表ですよ。本当に。私の初期の配信見てくださっている方ならご存知かと思います幼馴染君。今回Vtuberデビューすることになりました!ということでドン!はいこれが幼馴染君です。」

 

流れ通り俺のアバターが表示される。小柄でショートで銀髪。一見するとショタにもロリにも見える。さぁあとは声を吹き込む簡単なお仕事だ。俺なら出来るだろ?

 

「はい私、夜空ゆにさんの幼馴染、夜空おとめです。」

 

俺の中では完璧だったが…怖い。そんな自分に自信を持てるかと聞かれたらそうでもないほうだからな…。

 

 そうしてコメントが流れてくる。[ゆにさんが君付けしてたから男の子かと思った。]

 

「あ、男の子です。」

 

元よりここまでは公表するつもりだった。気になる反応は[なるほど男の娘。]など。まぁ間違いじゃない。ということはこれは成功か?

 

「はい。これからはこの2人で頑張っていきます。」




どうか感想、評価等お願いします。


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第2話 雑談

 そうして、雑談配信は続いていく。緊張もいつしかなくなっていた。率直な感想を言えば楽しい。その一言だった。

 

「さてとここまで雑談配信してきましたけど、そろそろお時間でしょうか。」

 

「え、まだゆにと話してたい。」

 

素でその一言が出てしまった。

 

「おとめは私と一緒にいるんだから話なんていくらでも出来るでしょ?」

 

「…うん。」

 

「今は我慢してね?」

 

「…うん。」

 

結構ちゃんと素が出てしまった。この先今回の件がいい方向に転ぶのか、はたまた悪い方向に転ぶのか………今はまだわからない。

 

「じゃあ今日はこのへんで、おやすみなさい。」

 

「おやすみなさい。」

 

そうして配信は終了する。しばらくしてようやく配信の緊張感から開放された俺達は我に返った。

 

「はい、お疲れ様。初配信どうだった?」

 

「緊張感もあったけど楽しかった。」

 

「私達の見ている世界、分かった?」

 

「あぁ。」

 

「にしても亮太、まさか最後にあんなこと言うなんてね。」

 

「素が出ただけだよ。」

 

「嬉しいこと言ってくれんじゃん。そんな嬉しいこと言ってくれたからご褒美。」

 

そう言っては沙奈は俺の顔に迫る。何をするかなんて分かってる。俺はそのキスを受け入れた。

 

「結婚式のときはみんなに見られてて集中できなかったからね。実質これがファーストキス。」

 

「物理的な話をするなであればもういつだったかも覚えてないときに済ませてるんだよな。」

 

「え!?いつ!?」

 

「だから、歳なんて覚えてないくらい前。俺の部屋で。」

 

「…なんて言ってたか覚えてる?」

 

「何だったかな………お嫁さんになってあげてもいいよ…みたいなこと言ってた。」

 

「うわーなんか…私らしいな。」

 

「沙奈、負けず嫌いだからね。でも実際俺がプロポーズする形になってるっていう。」

 

「そりゃあ亮太が変なプライド発揮したからでしょう?」

 

「間違いない。でも、俺達本当に結婚したんだな。」

 

「今更すぎない?」

 

「じゃあ実感ある?」

 

「………やることあんまり変わんないね。」

 

「でしょう?まぁ強いて言うのであれば俺がVtuberとして活動することになったくらい。」

 

「あとあれじゃん。亮太の就職決定。おめでとう。」

 

「やめろやめろ。バイトから正社員になっただけなんだから。」

 

「それでも十分でしょ。」

 

「そうかもしれんが今までよりちょっと出る回数が増えてやることが多くなっただけだよ。」

 

「そこまで割り切るか。」

 

「割り切らないとやってられないよ。」

 

「まぁお互いに支え合っていきましょ。」

 

「そうだな。」

 

そうやって他愛のない会話をし時計を見る。午前0:50程を指していた。配信終了が同30分だったので実に20分もの間喋っていたことになる。1人でいるときはあんなに長かったのに。なるほどこれが相対性。

 

「どっちから先お風呂はいる?」

 

そう切り出す。

 

「何言ってんの?一緒に入るよ?」

 

沙奈の方こそ何をおっしゃっておられるのです?

 

「え?マジなの?」

 

「だって今日初夜ですよ?何もしないわけには行かないじゃん?」

 

「理屈は分かった。」

 

「じゃあ行こう?」

 

「………。」

 

待ってくれ。なんだこの過剰なまでのためらいは。やはりあれか?沙奈の裸体を見ることに対する恥じらいか?今更すぎる。今までだってこんな状況になったことくらい………いや、ねぇな!!一度もねぇ。今日この瞬間が初めてだ。

 

 逆に今までよくこれで続いてきたな………。一途かよ。

 

「亮太?」

 

「………分かってる。行こっか。」

 

別になにもやましいことなんて無いです。覚悟を決めただけなので。夫婦ですし初夜ですし。

 

「あ、タオルはつけるよ。」

 

「先に言え!」

 

お陰さまでこちらの葛藤は無意味に終わりました。

 

「つけないほうが良かった?」

 

「そうでなく。」

 

全くもう。夫婦漫才じゃないんだから。

 

 そうしてお風呂場で何かあったのかと聞かれれば、そんなこと何もなく。かと言ってイチャついてないのかと聞かれれば十分イチャついた時間を過ごした。結構これが幸せなのだ。

 

 そうして俺達の部屋まで戻ってきて沙奈は開口一番「シますか?」と聞いてきた。

 

「欲求不満?」

 

確かに付き合って4年間シたこと無い…ってなんで今までマンネリ化しなかったんだ?

 

 まぁ俺がアシスタントの立場っていうのがデカイか?




私を助けると思って感想、評価等お願いします。


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第3話 幸せです!

 朝というのはどうしてこうも憂鬱なのだろうか?まぁ妥当に考えて物事の始まりだからだろう。仕事の始まり、学校の始まり…各々思うものはあるだろう。私にとっては孤独の始まりだ。

 

「じゃあ私もそろそろかな。」

 

そう言って立ち上がる。バイトの時間だ。憂鬱で仕方ないが貯金のため。それに亮太だって頑張ってるし。

 

「よし。頑張ろ。」

 

そうして私は家を後にする。

 

 私がやっているのは亮太が行っているのとはまた違うところのコンビニ。朝から昼の時間帯のほんの6時間程度。確かにもう慣れたものだが面倒なことに変わりはない。おそらく流れ作業だからこそ面倒なのだろう。

 

「おはようございます。」

 

いつもの挨拶を交わし中へと入る。やはりこの制服が私のスイッチなのだろう。気持ちが切り替わる感覚というのだろうか。モードチェンジ?まぁそれがはっきりしている。

 

 ここから先は単純なお仕事。作業をこなして接客するだけ。朝礼を済ませレジへと向かう。よしここから先の私頑張れ。

 

 とは言ったもののである。そんなすぐに頑張れる人間なんているのだろうか?私はいないと考えている。何事も急にアクセル全開で出来る人がいたら化け物すぎる。

 

 ここから先は愚痴にしかならなそうなので切り上げよう。さぁ、無心無心。

 

 

 そうして、なにも考えずに作業をこなしどれだけの時間が経っただろうか?6時間か。このように時間感覚がバグることも増えた。疲れているのか?多分疲れているのだろうな。

 

「お疲れ様でした。」

 

そうしてバイト先を後にする。昼下がりの町並みを眺めながらただ歩く。もしかしたらこの中にも夜空弓のことを知っている人がいたりして…。もしも知ってる人が今の私のことを見たらどう思うかな?

 

「嫌われるかな?」

 

現実とは非常なものだからね。

 

 じゃあその現実でも受け止めてくれた人は?

 

「亮太…。」

 

道端でひとり誰にも聞かれないように呟く。

 

 そうだ、受け止めてくれて手伝ってくれて…そんな人と一緒に住んでるところに帰るんだ。帰ってもまだ亮太はいない。じゃあ待とう。亮太が帰ってくるまで待っていよう。

 

 私ってそんなに孤独じゃないかもしれない。そう思えた。

 

 そこから先はあっという間だった。家に帰りまだ誰もいない部屋に向かって一言。

 

「ただいま。」

 

そう呟く。勿論返事なんて帰ってこない。でも今はそれでいい。亮太にお帰りと言える立場になれたのだから。

 

 

 今何時だ?もう17時か。そろそろ上がるか?こっからは結構きつい時間だが………。

 

「後はやるから大丈夫。もう時間でしょう?」

 

店長にそう声をかけられる。因みに店長はあれからも変わってない。

 

「はい。でも本当に大丈夫ですか?」

 

「いいのいいの。奥さん待たせちゃ駄目でしょう?」

 

あぁそうか知ってたんだった。

 

「はい。じゃあすみません。お先失礼します。」

 

「はい、お疲れ様。」

 

そうして俺はバイト先を後にする。とっとと帰らねば。今の俺には待ってくれる人がいる。じゃあその人にできるだけ早く会いに行かねばなるまい。

 

 俺は、いつも通りの町並みを駆けていく。まぁ周りからしたらおかしなやつだろうな。そんな目で見られようとも構わない。俺にとっては関係のないことだからだ。

 

 ただ進む。ただ1人を求めて。

 

 そうしてたどり着く。俺達の家に。扉を開けただ一言。

 

「ただいま。」

 

「お帰り。」

 

そこに沙奈がいる。それだけの安心感が半端なかった。

 

「お疲れ様。」

 

「そっちもね。」

 

「よしじゃあ、夕飯作りますかね。」

 

「待ってました。」

 

「沙奈はなに食べたい?」

 

「なにがある?」

 

「一応ハンバーグでも作ろうかと。リクエストは?」

 

「無いです。」

 

「では始めます。」

 

「はーい。」

 

ハンバーグか。作るのは久々だが、忘れることはないだろう。そもそも簡単だしそれに母さんに教えてもらった初めての料理だからだ。

 

 そんなこと今はどうでもいいや。目の前のことをこなす。それだけでいい。

 

 

「はい。完成。」

 

「やったね。」

 

「どうぞ。」

 

「いただきます。」

 

「いかがでしょうか?」

 

「美味しいよ。」

 

心の中でガッツポーズを決める。

 

「じゃあ俺も。」

 

自分でもなかなかにいい出来ではないだろうか?いや、それにしても幸せなものだな。




例のごとく感想、評価お願いします。(…なんか自己顕示欲の塊みたいになってきた気がする。)


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第4話 コレジャナイ感

「配信、そろそろかな。」

 

私はそう呟く。

 

「そうだな。」

 

「今日も亮太お願いね?」

 

「なにが?」

 

「亮太の評判結構良かったからさ。」

 

「マジで?」

 

「マジマジ。」

 

軽く私が嫉妬するくらいには評判が良かった。まぁ、あの声のクオリティーだろうな。何食べたらあんな声出るんだよ?それともなんか薬?危なくないなら私もほしい。

 

 なんていうのは冗談。努力の賜物なことくらい分かってる。

 

「亮太ちょっと声だしてみて?」

 

「おとめの?」

 

「そう。」

 

「あーあー、はいお疲れ様です。夜空おとめです。」

 

「や~………。慣れてないと随分気持ち悪いよ?」

 

「え、酷い。」

 

地声に戻ってちゃんと傷つかれた。

 

「まぁそう意味じゃなくてそうだな………腹話術見てるときとおんなじような違和感。」

 

「コレジャナイ感?」

 

「それだ!」

 

「まぁ、それを目指したからね。」

 

また得意げにおとめの声を出す。

 

「その声ってさどうやって練習したの?」

 

「主には我流。後はいろいろな先駆者の動画を見ながら。」

 

「え、すご。」

 

『先駆者』を素で使っていることに関しては触れないでおこう。それはそれとして主には我流っていうのが凄い。普通真似るところから入ると思うけど………やっぱり考え方が違うんだろうな。

 

「で、なんでいきなりそんなこと聞いてきたんだ?」

 

「声ちゃんと出るかなって。ほら、他の人に聞いてもらったほうが確実でしょう?」

 

「そこまで気遣っていただけますか?」

 

「当たり前です。」

 

「ありがたや、ありがたや。」

 

「崇めなさんなて。」

 

さて切り替えていこう。

 

「じゃあ準備しますか。」

 

「了解です。」

 

そうして打ち合わせが始まる。亮太も私も心配性だから念入りに行う。配信前にイチャイチャ出し切ったと思うから多分………支障はないはず。まぁ、出てしまったら出てしまったでリカバリーしていこう。次につなげるこれ大事。

 

 

 そうして本番ギリギリまで続いた打ち合わせが終了。

 

「さて亮太、行ける?」

 

「行けます。ゆにさん。」

 

早くもおとめボイス………あぁそうか。

 

「じゃあ行きましょうか。おとめさん。」

 

配信、開始だ。

 

 いつもどおりの雑談配信。ASMRはまだ亮太が練習中だからしばらくはこのスタイルになる。まぁそれでも私は楽しい。ただいつか一緒にやってみたいな。ASMR配信。

 

「はい、次の質問です。『ゆにさん、おとめさんこんにちは。お二人は自分たち専用の挨拶とかって作らないのですか?』とのことですけど。おとめさんは何かありますか?挨拶の案?」

 

「私はでも安直にするんだったら…こんおと?こんとめ?うーんゴロ悪いかな?」

 

「まぁそうですね。」

 

「あ、こんせのす?」

 

「あぁ…?…あぁ!いや多分誰もわかんないよ?パルセノスなんて?」

 

因みにパルセノスとは、ギリシャ語でおとめ座の意味だ。私は昔十二宮を各国語でなんて言うか調べて言いふらしてたことがある。今思えば何してたんだろうか。しかしその知識がここで引き出されるとは…。

 

「だってヴァルゴっていかついからさ。」

 

「ついてこれない人だっているでしょ?」

 

因みにヴァルゴは英語。

 

「うん…。」

 

ちょっとしょんぼりするんじゃないよ。

 

「でもあれだよ?一等星にすると一角獣座はないよ?」

 

「マニアックすぎるから。ストップ。いいね?」

 

「……はい。」

 

「挨拶は、また一緒に考えよう?」

 

「…わかった。」

 

いやー収集つかなくなる前で良かった。多分ギリギリセーフだと思うけど………。

 

「じゃあ、次行こっか?」

 

「はい。」

 

「はいじゃあ次この質問ですね。『実際のところおとめさんって本当に男の子なんでしょうか?』とのことですが………実際のところもなにもねぇ。」

 

「どう転んでも男じゃないですか?」

 

「おおよそそんな声してないから。」

 

「じゃあどんな声出したらいいんですか?」

 

「ほらいつも聞かせてくれるじゃない?」

 

「………え?それって、この声?」

 

流石亮太。予定通りショタボへのシフトチェンジ完璧。完璧すぎて若干引いてる私がいることはここだけの秘密だ。

 

「そうそう。」

 

「[これは…男子か?]え?違う?」

 

まぁ、確かにショタだ。たまに聞かせてもらってるショタボだ。問題があるとすればおおよそ男子が出すショタボではないことだろう。多分女声からトーンを下げたんだと思う。

 

「違うわけじゃなくておおよそ男子の出せる声じゃないからだと思う………。」

 

「…え?」

 

だめだこりゃ。




因みに私は女声を出すことができます。1人の時に録音して聞いて束の間の優越感を得ることができます。友人にバレた場合周りからどんどん人がいなくなっていく可能性が大いにありますので今はオススメできません。

 いつか私のような人が世の中に普通に出てくるような世の中になったらやって頂いて結構です(世も末)。


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第5話 強み

更新遅れました。新学期始まってなんやかんやありまして。まぁこれまでより更新頻度は落ちそうですがどうにかこうにか頑張ります。


 夜も更けて来た。配信もそろそろ終盤に差し掛かった頃だ。

 

「さてそろそろお時間ですが、おとめ初配信どうだった?」

 

「案外楽しいね。」

 

「おぉ良かった良かった。これからも定期的に出てくれるよね?」

 

「えぇ出ますとも。」

 

「ありがと。助かる。配信前にも言ったけどおとめの評判かなり良かったからね。」

 

「まぁ、ありがたい限りです。」

 

別に俺の緊張が吹っ飛んでいるわけではないのでこのように固くなることも多少あった。しかし、大まかには何かあったわけでもない。このまま無事に配信は終わるだろう。

 

「じゃあ………どうする?」

 

「どうするって?」

 

なんか不穏な空気が漂ってきたな。

 

「このあと。」

 

「こ、このあと?」

 

「えー言わせないでよ。」

 

待て待て、色々聞いてない。コメント欄もまぁまぁ不穏動きをしている。

 

「その先って言って大丈夫なの?」

 

「うーん………言わせる?私は女の子だよ?」

 

「待って、わかったこの後の話はこの後しよう?流石にこの場じゃまずいから。」

 

「うん、わかった。それでは皆様お疲れ様でした。」

 

「お、お疲れ様でした。」

 

そうして配信は終了。ということで問いただそうか。

 

「これもう切れてるよね?」

 

「うん。」

 

「さて、沙奈さん。」

 

「はい。」

 

「最後のあれはなんのおつもりで?」

 

「………関係性ちらつかせたいなって………。」

 

「そっか………分かった。ネタにするとそういうわけね。」

 

「そういうこと。」

 

「多分質問とかかなり来るよ?」

 

「それが目的。配信枠が一個潰れる。こういうのからもネタを作っていく。私は今までそうしてきたからね。」

 

あれ、この人って案外とんでもない人なんじゃなかろうか?或いは大抵の人はこんな感じで配信内容をねってるんだろうか?どっちにしたってヤバいな。

 

「かなり………ヤバいな。」

 

「私にとっちゃ普通だよ。こうやって更新頻度を確保してるからね。」

 

「なるほど。」

 

「さてと、もう少し色々考えてから寝よっか。」

 

「ストイックだな。」

 

「そういうもんだよ。さて亮太さん。何か案はあるかね?」

 

びしっと俺の方に指を立てて沙奈はそう言った。1つ無いこともないんだが………まぁ言うだけ言ってみるか。

 

「例えば晩酌配信。」

 

「あぁ、いろんな人がやってるしね。ただ、問題があるとすればおとめの声って出るもんなの?」

 

「それに関してはへべれけになるまで飲まない限りは大丈夫。問題もっと別。ノリにノッたまま地声で話してしまった時。それが1番問題。」

 

「あぁ、そりゃあそうだ。亮太ってお酒そんなに強いってわけでないもんね。どちらかと言うと弱いほうだし。」

 

「まぁ一旦保留かな。この問題をどうこうしない限り駄目か。何か他には………。」

 

「そうだね。何か無いかな。最悪私が亮太にASMR教えるっていう体でイチャラブASMR配信なんて言うのもあるけど。」

 

「まぁそうな。取り敢えずネタ自体はいくらかできてる。ただ、なんか新しいことやりたいよね。」

 

「それは本当に大事。」

 

新しいことにも手を出しておかないとどうにもこうにも人気を伸ばすことなんてできない。そのうえでなにかこう………例えば俺と沙奈でしかできないような………まずはそもそもVtuberとしての強みってなんだろうか?顔出しせずに配信が出来る?いやいやそれだけならこんなに流行ってない。実際真新しさがこの人気の所以なんだろうが………何よりルックスと言ったところか。では、配信内容として何か無いだろうか?どういうことが強みになる?

 

「なぁ沙奈、Vtuberの強みってなんだと思う?」

 

「Vtuber強み?顔出しせずに配信できるとか?」

 

「もっと唯一無二な感じの………特徴、特色みたいな。沙奈はなんだと思う?」

 

「なんか難しいこと聞いてくるな………私が思うにキャラと声のマッチ感かな。それによって人気って変わってくるし。」

 

「そうか………。」

 

キャラと声………まぁ至極当然のことだ。じゃあそれを基点として考えるのであればどんなことが出来る?シチュボが真っ先に思いつくが、よくやられていることだ。そうじゃなくてな………シチュボの一歩先。プラスαが思いつかない。

 

「あとは………リスナーとの距離感とか。」

 

「なるほど。」

 

なるほど。距離感。コメント欄。リクエスト………アドリブ?

 

「………アドリブシチュボASMR?」

 

「え、何その横文字羅列。」

 

「コメント欄のリクエストに沿ってセリフ言ったりシチュエーションを決めてASMRをするっていう………自分で言っといてなんだけどなかなか難しいな。」

 

「やってることが声優のそれ。まぁ亮太が出来るなら私はいいけど?」

 

「俺を誰だと思ってる?」

 

「元声優志望の一般人。」

 

「元声優志望の現両声類Vtuber。」

 

「肩書変わったね。」

 

「これでも成長してるもんで。」

 

決まったな。



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第6話 深夜のおかしなテンション

 よし決定だな。

 

「じゃあ、決定。アドリブシチュボASMR枠。」

 

「でもかなり難しいよね。」

 

「あぁ、馬鹿みたいに難しい。」

 

正直自分でもかなりハードなことを言ってるのは分かってる。ただ、できないことはないだろう。

 

「まぁこの性質上寝落ち枠にはならないだろうな。」

 

「そうだね。リクエスト前提だしね。」

 

「結構博打だよな。」

 

「うん。でも面白そうではある。ただもう少しパンチ効かせてもいいんじゃないかな?」

 

「確かに弱いかな………なぁ沙奈誰かとコラボの予定ってなかったか?」

 

「今のところ無い。それがどうかしたの?」

 

「コラボ企画でやったら面白そうかなって。」

 

「なるほど、それはありかもしれない。ただコラボできそうな人なんて居ないんだよな………。」

 

「マジで?」

 

「マジ。なんか恐れ多くてさ、誘えないんだよ。」

 

「それは分かってるが………そろそろコラボしてもいいんじゃない?もう4年目だし、それに結構な人から認知されてるから。」

 

「まぁそうだよね。でも当面はしない方向で行こうかな。」

 

「まぁそこは任せる。じゃあこの企画は一旦保留で。」

 

結局これも保留か。いや、しかしどうしたもんかな。難しい。Vtuberの企画やらネタ考えるのってこんなに難しいものなんだろうか?うーん………。

 

「難しい。」

 

「知ってる。」

 

「どうしたもんか。」

 

「最悪、百合百合ASMRなんてものも出来る。問題自体は何もない。」

 

「待って、それさっきも似たような案、出してなかった?」

 

なんかデジャブを感じた。どうやら推されているようで。

 

「………だってやりたいんだもん!しょうがないじゃん!配信中でもいちゃつきたいんだもん!」

 

「………凄い熱意を感じた。なんと言うか………本音隠してたんだな。」

 

「…だって、こういうこと言うのって恥ずかしいんだもん。」

 

「………急に乙女だしてくるじゃん。」

 

ついさっきまでストイックなVtuberだったのに今や1人の乙女。何という変わり様だろうか。いやストイックなふりをしてたただの乙女か。

 

「そりゃ時間無いんですもん。昼は本業、夜はVtuber。亮太との時間は一体どこなんだい!っていうくらいじゃん。」

 

「まぁそうだよな。」

 

「自分の中では配信中はイチャつかないって決めてたけど、多分駄目かもしれない。亮太はそういう急なフリに対応してくれる?」

 

畳み掛けてくる沙奈。しかしまぁ沙奈を支えるのが俺の役目。それにできないお願いではない。

 

「いいよ。あんまり過度なもの意外な。」

 

「それだけでも十分。亮太とイチャつけるのであればそれでいいから。」

 

「なんか………凄い求めてくるじゃん。」

 

「そりゃ求めたくもなるよ。だって夫婦ですよ?なのにここまで時間が足りないのはなんか違うじゃん。」

 

「確かに、普通と比べたら新婚にしてはあまりにも時間が少ないかもね。」

 

「本当はずっとイチャイチャしてたいんだよ!」

 

沙奈さん熱量が凄いです。

 

「わかった、沙奈のその気持ちは凄く分かった………何なら今からイチャイチャタイム入りますか?」

 

「…今?」

 

「今。そんなにイチャつきたいのであれば俺は構いませんよ?」

 

「………ん、する。」

 

コテッと頭を寄り添わせる沙奈。めちゃくちゃ可愛い。

 

「こうやってさ、起きてるときにこういう距離でさ、色々したいんだよ。時間が許してくれるならずっと。でもそんなことなかなかできないからさ………好きな人と一緒に居るのに、自分の欲に忠実に従えないってこんない歯がゆいんだね。」

 

「あぁ、そんなもんだよ。しょうがない。でもまぁ、今はやりたいことで来てるんじゃないか?生活とVtuberの両立。」

 

「確かに案外できてる。でも、私が求めてるのはもっと………亮太がほしい。」

 

意外な言葉と言えば嘘になってしまう。正直自分でも感じていた。沙奈との時間が少ないことくらい分かっていた。

 

「もう配信中でも容赦なくイチャついたっていいんじゃない?苦しむようなことはしないでいこう?」

 

「それはそうだけどさ………歯止め効かなくなったら怖いなって。だってそんな好きな人に『何でもしていいよ』って言われて何もしないほうがおかしいじゃん。だから、切り替えのスイッチだけは持っておきたいなって………。」

 

「分かった、俺がブレーキになるから。だから沙奈は思いっきりやりな?せっかく2人居るんだしそのくらい出来る。」

 

「じゃあ次の配信はイチャラブ配信でもいい?」

 

ここで下から目線は反則だと思う。断れるわけがない。まぁ元より断るつもりなんて微塵もないが。

 

「いいよ。俺だって沙奈との時間ほしいし。」

 

「ありがと。」

 

そうして俺達はそのまま眠りについた。朝起きてお互いに昨日の夜のことを思い出して急に気恥ずかしくなり、顔を見合わせるもお互いに赤面状態だったのは言うまでもない。深夜テンションとはこうも恐ろしいものなのかと思い知らされた一夜だった。




どもども2日連続更新を果たした夾竹桃です。どうにかこうにか書く気力が出てきました。なんとかやっていくのでこれからもお願いします。


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第7話 シチュボASMR

 そうして迎えた次の配信。なんとびっくり2人でASMR配信。こんなことになるとは一切思ってなかったが沙奈がどうしてもというのでこうなった。しかしながら俺も少し楽しみにしてる部分がある。今までそれなりに練習してきたし力加減は覚えた。だからだろうな。

 

「緊張してる?」

 

「少し。」

 

「落ち着いていこう。」

 

「あぁ。分かってる。」

 

「じゃあ始めるよ。」

 

「はい。」

 

そうしてパソコンの画面は配信待機画面に移り変わる。なんだかんだこの間が1番緊張感あるような気がする。

 

「はい皆様お疲れ様です。ゆにです。」

 

「おとめです。」

 

「今日は、しばらくやらないと言いつつも私が欲に負けて結局やることになったASMR枠です。まぁ、おとめはちょっと下手かもしれませんがご容赦を。」

 

なんだか変な感覚だ。2人してマイクに向かい小声でささやく。こんな感じの声の大きさで大丈夫なのだろうか?緊張してる。なにせ俺の隣に居るのはこのASMRを4年やってここまでほぼ1人でチャンネルを動かしてきたヤバい人だ。俺が蛇足になってないか、或いは足手まといか。とにかく心配だ。

 

「緊張してるの目に見えてわかるよ?」

 

隣のヤバい人からそう言われた。

 

「そりゃ緊張くらいするよ。まだまだデビューしたてなのにいきなり万人単位の前で配信なんですもん。」

 

言葉には出さなかったが何より思っていることとして、女声でやっているささやき声がこのクオリティーで大丈夫なのだろうかと言うのもある。これが結構力加減が難しい。喉をどのように使うのか、それが重要なのだが如何せんささやき声。ほぼ吐息だったりもする。これがなかなかに難しい。

 

「いつもと同じ感覚でやれば大丈夫だから。」

 

「が、頑張ります。」

 

頑張るとは言ったもののどうしようか。

 

「取り敢えず私の真似してみて。こうやって………ふーふーって。」

 

そう言ってゆには耳ふーをしてみせた。見様見真似でやってみる。

 

「ふー……ふー………。」

 

「そうそう、そんな感じ。上手いね。」

 

「えへへ、褒められた。指導者のおかげだよ。」

 

言ってなかったな。今回は前に言っていた百合百合ASMRを採用して配信している。所謂シチュボ枠。だがここのチャンネルでのこの手のシチュボはほぼノンフィクションだ。ただただ新婚夫婦のイチャつき具合をVtuberとして垂れ流した配信になっている。

 

「ただ………私的にいつも聞いてるのはその声じゃないな。もっと自然に近づけて?」

 

アクセルの踏み込みが凄まじいようで。

 

「こっちの声?」

 

「オッケイ。それで行こう。」

 

ある程度理性を保ってるようで良かった。これがもしも振り切った沙奈だったらまずかったな。なだめるのに結構時間がかかってた。

 

「さてと、その声だとおとめくんになるのかな?もう1回やってみて?」

 

さてこの使い分けというのが難しい。ショタとロリ。声の出し方的に本質的なものは同じだ。同じだが声色は違う。俺の場合は声色のみで差別化を図っている。つまりささやき声になると声色も何も吐息でしゃべるのとほぼ同じなので『さっきと同じじゃん』ってなる。さてこれをどう回避したもんか。

 

「ふー………ふー。」

 

「え、上手じゃん。前に使い分けは難しいとか言ってなかったっけ?」

 

なんとか喉の開き具合で差別化を図れたようだ。じゃあこの感覚で続けていこうか。

 

「ありがと。」

 

「うーん………可愛い。」

 

「え?」

 

「やっぱり、おとめのショタボ可愛いんだよな。なんか別格。」

 

ようやく想定していたシチュエーションに入った。この感覚で配信を進めていくのだが………やはり適度にクールダウンさせるつもりだ。じゃないと多分この後が大変だ。深夜のおかしなテンションと相まって鎮めるのが大変になってしまう。

 

「なんか………ありがと。」

 

恥らったようにそう言う。

 

「なんでこんなに可愛いんだろうな?やっぱり好きだからかな?」

 

「そ、そんなに好きとかいきなり言うなよ………恥ずかしい。」

 

「そうやって恥ずかしがってる姿とかもさ………もう反則だよ、反則。可愛すぎるもん。」

 

シチュエーションは進んでいく。因みにこのシチュエーションは俺と沙奈で一緒に考えたものだ。どこまで素を出しつつなおかつ違和感なくイチャつけるか。で百合っぽく出来るか。必死になって考えた末がこれだ。後悔はしてない。

 

「も、もうやめてってば………。」

 

ささやき声でバイノーラルマイクを挟んでのイチャつき。おとめが恥ずかしがってゆにがひたすらにからかいう。この構図で配信は進んでいく。当初の案のように俺に沙奈がASMRを教えると言う構成もそのままだ。時間は進んでいく。ただ俺は隣を見ながらずっと笑いをこらえていた。その理由。シチュエーションではおとめが恥ずかしがっているが現実では沙奈のほうが顔を真っ赤にしてセリフを読み上げていたからだ。やっぱり沙奈は可愛いらしい。




どもども夾竹桃です。燃え尽きた灰からまた出てきました。さて感想も何件かいただきまして嬉しい限りです。返信はしておりませんがちゃんと読ませていただいております。と、言うのもです。この夾竹桃コミュ力がマイナス方面に極まっておりましてあまりむやみやたらに返信を書いたら誤解を招いたりしかねませんので書かないという選択肢をとっております。しかしながら先にも述べたようにちゃんと読ませていただいておりますのでこの場でお礼をさせていただきます。
 こんな感じで頑張っていくのでこれからもどうぞよろしくお願いします。


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第8話 あれから

 時間というものはこうも早く進んでいくものだっただろうか?いや、明らかに加速していってる。数年前まではこんな感じじゃなかった。俺も成長したと、そういう訳かもしれない。

 

「ということで今回はそろそろ終了ですかね。」

 

「ご、ご指導ありがとうございました………。」

 

「はい、よく言えました。」

 

シチュエーション的に俺が調教されたみたいになってるのは大丈夫なのだろうか?まぁシチュエーションだし問題はないだろう。

 

「ということで、お疲れ様でした。」

 

「お疲れ様でした。」

 

いつものように配信終了。ASMRも楽しいもんだな。

 

「亮太、お疲れ様。初ASMR、どうでした?」

 

「楽しかった。」

 

「いつか個人でやるおつもりは?」

 

「無いです。だって沙奈のほうが上手いしさ。そもそもメインは沙奈でしょう?」

 

「え、チャンネル名見た?」

 

「いや。見てない。」

 

「見てみ。」

 

言われたとおりに確認すると『夜空ゆに・おとめ』の文字。いつの間に改名したんだか。

 

「亮太ももうメインだよ。」

 

「マジか。」

 

「これで私が体調崩しても亮太が居る。」

 

「何言っての?流石にそんなことになったら看病に専念します。」

 

「亮太ならそう言うと思ってた。」

 

「沙奈のこと支えるって言ってこの立ち位置についたんだからな。当たり前。」

 

「懐かしいね。4年前のあれ。」

 

「あぁ、頑張り過ぎだよ。本当にさ。いきなり電話かかってきてさ。」

 

「迷惑そうに言ってるけど、亮太もあれワンコールで出たからね。」

 

「あぁ、あれは………反射だよ。条件反射。」

 

それはそれでどうなのだろうか。

 

「でもお使い頼んでから来るまでもめちゃくちゃ早かったよね。」

 

「それは沙奈が心配させるからだろ?バイトもして配信して、それで体調崩して。ほんと凄いよ。」

 

「えへへ、ありがとう。」

 

「半分褒め言葉だが半分褒めてない。」

 

「??」

 

なんで分かってないんだか。

 

「自己管理、大切でしょう?まぁ、今は俺が居るからそれなりにできてるかもだけどさ、その負けず嫌いな性格。いつ無理しだすかわかんない。」

 

「お恥ずかしい話です………。」

 

「にしたって懐かしいな。もう4年か。」

 

それでも昨日のことのように覚えてる。

 

「亮太のあの告白?」

 

「あれは、あれだ、深夜テンションってやつだ。」

 

焦りながら一言入れる。いや………恥ずかしい。マジで恥ずかしい。まだまだ若かったとは言えあれは………本当、思い出しただけで死にたいくらいに恥ずかしい。

 

「結構嬉しかったよ。」

 

「そ、そうか。」

 

「恥ずかしがってる。可愛い〜。」

 

あ、これあれだ。さっきの仕返しだ。

 

「だってしょうがないだろ!恥ずかしいんだからさ!」

 

「そのくらい知ってる。私だって同棲したての頃はめちゃくちゃ恥ずかしかったんだから。」

 

「それは本当にそう。恥ずかしいったらなかった。」

 

「そう言えばあれいつだったっけかな?亮太がさ、作業中もずっと見てきてさ、結局お互い目があって顔真っ赤になってさ。」

 

「ものすごく些細なことすぎる………よくそんなの思い出したな。」

 

「だってあの時さ、亮太に『なんでそんなに見てくるの?』って聞いたら『ごめん可愛すぎて。』って返ってきてさ。」

 

「なーっ!恥ずかしい!言うな!」

 

「あはは、ちょっとからかいたくってさ。でもホント私達も変わったよね。」

 

「あ、あぁ。」

 

「ん?どうしたの?」

 

「いや、俺は変わったかなって………。」

 

「………まだ、引きずってるの?」

 

「まだ、何も解決してないからな。」

 

「いっそ割り切って考えるのも1つの手だよ?勿論、それが最善ってわけじゃないのは分かってるけどさ。」

 

「でもやっぱり首を突っ込まないのが現実的な手だよな。」

 

「いつか分かりあえるって。きっと。」

 

「あぁ、ありがとう。こんな親子喧嘩にまで首突っ込んでくれて。」

 

「私だって亮太が否定されるのは悔しいんだもん。」

 

「本当に………ありがとう。」

 

「うん………ほら、こっちおいで。」

 

そう言っていつかみたいに沙奈は両手を広げた。

 

「うん………。」

 

それに従い、俺は沙奈に身を預ける。

 

「………全くもう。私の憧れた強い亮太は一体どこに行ったんだか?早くホントの亮太を見せてほしいよ。」

 

優しく頭を撫でながら沙奈はそう言う。

 

「ごめん。」

 

「責めてるわけじゃないよ。いつかでもいい、ホントの亮太になってくれればそれでいい。」

 

本当の俺。胸張って自分を認めることが出来る日。そんな日を俺だって待っている。待ってるだけじゃ駄目なことだって分かってる。でも待つしかでき無い。まだ俺が弱いままだから。何より4年前のあの日以来、俺は母さんに会ってない。理由は完全に連絡も取れなくなっているから。結婚の報告をしに行こうとしても引っ越しまでしていた………本格的に距離を置かれた。何も解決してないのに。あの人が何を考えているのか何もわからない。俺の人生の中で解決しておきたい問題なのに。なんとも面倒な人生だ。




はい、どうも。今日も根強く生きております、夾竹桃です。今回ですね過去回想回に当たるんですかね、そういう回にさせていただきました。そろそろ前作の片鱗を見せてもいいかと思いまして。この後取り敢えず現段階では次回、或いはその次が分岐点になるのではと言ったところです。まぁ構成しつついい案が思いつくなり歓喜し部屋で1人笑い転けている毎日ですが今日も更新できました。これからもどうぞよろしくお願いします。


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第9話 やっぱり馬鹿

 朝一、俺はその着信音で目が覚めた。

 

「ん?」

 

誰かと目を向けてみれば小畑由良の文字。沙奈のお母さんだ。なぜ俺に電話を?

 

「もしもし、どうしたんですか?」

 

『亮太くん、真矢が………。』

 

真矢、母さんの名前だ。

 

「母さんが………どうかしたんですか?」

 

『事故にあって、意識はあるみたいなんだけど骨折して入院してるって………。』

 

「そう………ですか。」

 

『行ってあげてくれないかな?』

 

「………母さんは………俺に会いたいんですか?」

 

『話をつけるいい機会なんじゃないかなって思って。まだ何も解決してないんでしょう?』

 

「はい………どころか、あれ以来あってないです………。」

 

『まぁ、それは知ってる。』

 

「なんでですか?」

 

『話せば長くなるからまたの機会に。ほら行ってあげて。』

 

そう何度も後押しされ、俺は結局母さんの元へ向かった。仕事も今日は昼からなので今から行こうとなった。病院の場所は沙奈のお母さんから聞かされた。行きたくないわけじゃない。ちゃんと話をつけたい。でもいざこうなってみると怖い。俺は、あのときのままなんじゃないかって思っしまう。感情的になって………また繰り返してしまうかもしれない。でも、何もしないのはもっと嫌だ。だから行かないと。

 

 電車に揺られ数十分、歩いてさらに数分。

 

「ここか………。」

 

病院を見上げ一言呟いた。受付から病室の番号を聞きその部屋へと向かう。

 

「母さん………。」

 

扉の前まで来たんだ。もう後戻りはできない。意を決して目の前の扉ノックする。

 

「どうぞ。」

 

中からそう声が聞こえた。紛れもなく母さんの声だ。

 

「………由良さんに教えてもらった。」

 

「はぁ………由良ったら余計なことを………。」

 

ため息混じりにそう言った。母さんのその目は、何故か穏やかだった。

 

「沙奈ちゃんとは上手くやってるの?」

 

「あ、あぁ。」

 

まるで人が変わったみたいだ。一体何があったんだ?

 

「母さん………もう咎めたりしないのか?」

 

「何を咎めるのさ?アンタは頑張ってるじゃない。」

 

まさか………その言葉が飛んでくるとは全く思っても見なかった。

 

「ごめん、私はアンタのこと舐めすぎてたよ。いつまでも子供扱いばかりしてさ。どうもアンタは私の想像以上に大人だったみたいだよ。」

 

「ま、待って話が見えない。」

 

「あぁ、そうだね。由良のおかげだよ。一旦距離をおいてみなって言われてね。そのとおりにして見たんだ。最初のうちはすぐに謝ってくるだろうと思ってたけど全然そんなことなかった。」

 

「だから仕送りもなくなってたと。つまり、試してたのか?」

 

「そう。でもいつまで経っても謝ってなんてこないからさ。独り立ちなんてとっくにしててんだなって気がついた。ちゃんとしてることは由良の話からも分かってたからね。」

 

「じゃあ………引っ越ししたのは?」

 

「同じ街にいたら絶対にアンタのところに行くと思ったからね。連絡先も変えて連絡もこさせないように………会わないようにしてた。」

 

「そっか………。」

 

「まぁ、今日はありがとうね。アンタもスッキリしたでしょう。」

 

スッキリはしたが………唖然ともしてる。色々まさか過ぎた。由良さんにお礼しておかないと………。

 

「こんな感じで解決するなんて思ってなかったからな。」

 

「私もだよ………こんな醜態晒すなんて思ってなかった。」

 

「………痛々しいな。」

 

「ちょっとぼうっとしててね。今度からは気をつけるよ。」

 

「死ななかっただけスゲーよ。」

 

「ほんと、自分でもびっくりしちゃうよ。そんなに状態も悪くないし。で、そろそろ帰るのかい?」

 

「あぁ、昼から仕事だからな。」

 

「朝早くに悪かったね。」

 

「いや、いいんだ。これでスッキリしたからな。あ、そうだこれ。」

 

そう言って俺はここに来る途中買ったお茶を差し出した。

 

「お茶一本?」

 

「何があるかわからなかったからな。取り敢えずって感じだ。」

 

「………ありがとね。」

 

「じゃあ。」

 

「うん。」

 

そう言って俺は病院を去った。これで親子喧嘩には終止符が打たれた。まさか由良さんが色々してくれてるなんて全く思っても見なかったが、一件落着と言っていいだろう。何かお礼をしなければ。さて一旦帰って支度するか。

 

 今日、俺の一日はそんなふうにして始まった。久々だな。ここまで爽やかな朝ってのは。さてと何か忘れてるような気はするが………あ、沙奈にどこ行ってるか伝えてない。怒ってるかな?そんなことを思いながら一旦帰宅。予想は大ハズレ。心配そうな顔の沙奈が出迎えてくれた。

 

「おかえり、亮太………お母さんから聞いたよ。どうだった?」

 

「無事仲直り。解決した。怪我もそんなに悪い状態じゃないって。」

 

「良かった……。」

 

まるで自分のことのように喜んでくれる沙奈。

 

「あぁ、良かったよ。」

 

心の底からそう思った。




今日も更新できました。並木道に植えられてる者、夾竹桃です。取り敢えずものすごく区切りっぽい回にすることができました。まぁまだやりたいこととかやらなきゃならないこととかいっぱいありますから全然まだ続きそうですね。個人的に『ゆに』と『おとめ』がまた他の誰かとコラボするまでは続ける気です。ニュアンス的には一章終了みたいな感じですかね。前作とだいたい同じようなペースです。こんな感じでやっていくのでこれからもよろしくお願いします。


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第10話 成長

 俺と母さんの喧嘩は一段落した。何年もかけた割にはあまりにもあっさりしていて正直腑に落ちてない感覚はある。と同時に考え込んでしまうことが1つある。仮に母さんがあのときのままだったとしたら、俺は一体どうなっていたんだろうかと。またあのときと同じようになってしまうのではないか………と。リビングで1人考えていた。

 

「亮太?」

 

聞き慣れた声が耳に入ってきた。

 

「沙奈………俺さ、成長してるのかなって。」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、なんか振り返ってみると俺って助けられてばっかりだなって。なんか………昔から一切変わってない感じがしてさ。」

 

「そんなことないと思うけどな。私は亮太に支えられてきたし少なくともこの4年で成長してると思うよ。」

 

「そっか………ありがと。」

 

口ではそういったものの、やっぱり引っかかっていた。俺は本当に成長したのか、なんて自分じゃわからない。だから沙奈の意見は1番説得力があるが………今回に関して問題はそういうことじゃない。俺はちゃんと向き合えるようになっているのか。そこだ。なんと言うか俺は………焦ってる。劣等感を感じてる。沙奈に対してのものだろう。俺の中で沙奈は比較対象になっていた。自分を図るものさしと言ったらいいだろうか。それで基準を決めていた。だからなのだろうか。なんだか少し寂しいような気がする。

 

「ん、まだ気にしてるねその顔?」

 

「そりゃあ………気にしてるよ………この前言ってくれてたよな、昔の俺は一体どこに行ったんだって。もう一度………変わりたいんだよ。今までみたいな風じゃなくてさ、もっとちゃんと強くなりたい。」

 

「なるほど………でもそんなに急に変われるようなもんじゃないし、それに………ちゃんと向き合えてるじゃん。」

 

「そうかな………?」

 

「そうだよ。亮太はちゃんと問題と向き合って解決しようとしてた。そりゃあ昔みたいに向こう見ずな性格もかっこよかったけど、今の亮太も好きなんだよ。多分今の亮太ならちゃんとできてたと思うよ。なにせここ4年ほぼ毎日亮太と関わってきた私が言ってるんだから間違いない。亮太がどう成長してきたかは私が1番知ってるんだから。」

 

「………それなら…いいな。」

 

「もう、うじうじすんな。ほら思い出してみな。亮太は私に告白する時なんて言った?ほら付き合ってって言った時。」

 

俺が沙奈に告白した時………『結婚は俺がちゃんと生活できるようになったら、そのときにプロポーズさせてくれ。』

 

「………ちゃんと…生活できるようになったら………。」

 

「そう。亮太はそのちゃんとにどんな意味を込めたの?」

 

俺があの時『ちゃんと』の一言に込めた意味。金銭的な意味もそうだが………もっと他にもある。

 

「………今よりももっと成長できたら………強く成れたら………。」

 

「でしょう?で今私たちの関係性は?」

 

「夫婦………です。」

 

「そう。つまり私達は結婚した。それは亮太の中で覚悟がついたのと同時に亮太が自分の成長を感じ取ったからじゃないの?」

 

「………それは………そうかもしれない。」

 

「でしょう?亮太自身、自覚はないかもだけどさ気がついてるんじゃないの?それともあの台詞のほうが嘘だった?」

 

「あの言葉が嘘なんてことは無い………それだけは絶対に。」

 

「じゃあ成長したんだよ。そうでしょう?」

 

「あぁ、そう、だな。うんありがとう。元気出てきた。」

 

「その粋だよ。それでこそ、亮太だよ。さてと元気が出てきたならそろそろ本題に入りましょうかね。」

 

「本題?」

 

「そう、ちょっとお話があってね。前言ってたじゃん、コラボの話。」

 

「コラボ………するの?」

 

「したいなぁって。それで誰がいいかなって、まずは話し合いかと思ってね。」

 

「なるほどな。誰がいいか………。」

 

「まずそもそも繋がりがそんなに無いんだけどどうしようかな?」

 

「………え?繋がりがない?沙奈今お前のチャンネル登録者って?」

 

「二十万はとっくに超えてる。」

 

「そろそろ繋がりがあってもおかしくはないと思うんだけど………でもそうか。今までのメインだとASMRとか雑談とか歌枠とかか。ゲーム実況とかもやったことなかったもんな?」

 

「そうだね。全く。と、言うか1回もなかった。」

 

「なるほど………にしたってそんなに絡み少ないものかね。」

 

「まぁ、そんなもんなんじゃないかな?って言っても私から声かけていくのもな………どこも浅い人ばっかりだし。」

 

「難しいよな。俺もなにかいい案があるわけでもないし………。」

 

どうにかコラボができないものなのか思案するもやはりいい案は思い浮かばずじまいだった。やはり保留か………。

 

「ともかくまずは声をかけられないとな。繋がり浅いって言ってるけどどのくらいなんだ?」

 

「うーん………たまに話すくらい?」

 

「………それでも十分じゃない?」

 

「え、そうなの?」




どもども、一週間ぶりですかね、夾竹桃です。やはり私にはラブコメしか無いのでは?と思い今一度帰ってきました(別に離れてない)。今回投稿が遅れた理由につきましては、今季のアニメを見て影響されたことが主に挙げられます。そのため異世界系を書いてみるなどという奇行に走りました。あまりにもスロースタートすぎる作品なのによく書こうと思ったなと自分でもびっくりしてます。まぁどっちにしてもメインはこっちなのでこれからもよろしくお願いします。


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第11話 叶鳥 あおい

「繋がりあるって言ってたけど一体誰なの?」

 

「あーっと知ってるかな、個人の叶鳥 あおいさんって方。」

 

「叶鳥さん………知ってる。いっときハマってた………。」

 

「え、いつ頃?」

 

「えっと、沙奈を見つけるちょっと前。」

 

「へー。」

 

確か沙奈の配信を見るようになったきっかけだったか。まぁ単に俺が叶鳥さんの配信スケジュールを勘違いしてただけだったけど。寝落ち枠かと思ってたら雑談枠でそっから他の人の配信を漁った結果的に沙奈もとい、ゆにの配信にたどり着いたんだっけか?

 

「そんなリスナーの1人だったはずの俺も転がりに転がってアシスタント兼Vtuberって………。」

 

「大出世じゃん。」

 

「沙奈様のおかげです。」

 

「ふはは、もっと褒めてもよいのだぞ。」

 

「沙奈様ー。」

 

この幼馴染だから出来るノリがとてつもなく心地良い。

 

「さて亮太よ。ちなみにあおいさんのことはどのくらい知ってる?」

 

「あおいさん………忙しくて最近見てなかったな。今どのくらいチャンネル登録者居るの?」

 

「40万。」

 

「………40万か………ヤバいね。」

 

「ヤバいでしょう?コラボできない理由がこれなんだ。」

 

「なるほど納得した。」

 

かなりプレッシャーがあるのだろう。その上あおいさんのほうが先輩なのだから無理もない。にしてもそんなことになってたのか………。

 

「あぁどうしよう………いっそ『コラボしませんか?』言ってみようかな。」

 

「何事も挑戦が大事だし………待って、それって俺居るの?」

 

「当たり前じゃん。チャンネル名にも、おとめの名前入れたでしょう?」

 

「了解です………怖いな………。」

 

「とは言ったって亮太ももう結構な人数に認知されてるからね?万人単位で。」

 

「………怖いこと言うなって………。」

 

「まぁ大丈夫だって。そんな突拍子もないことでも言わない限りは。」

 

「ま、まぁそうだよな。」

 

そうなのだが………それでも怖いもんは怖い。いやたしかにもうかなりの人に認知されて入るが………その倍ってなるとな………。

 

「って沙奈?何してるの?」

 

「あおいさんに連絡してる。」

 

「気が早いわ!!」

 

「そんなこと言ったってもうしちゃった。」

 

「………仕事が早い………。まぁいいけど。頑張る。」

 

「私も頑張る。っと連絡来た。」

 

レス早くない?こんな即座に来るものなの?

 

「で、なんて?」

 

「いいよって。今週末打ち合わせだそうで。」

 

「ま、マジか………まぁいやってわけではないけど。めちゃくちゃ緊張する。」

 

「まぁ大丈夫だよ。あおいさん優しい方だし。」

 

「それならまぁ………。」

 

それにしたって相手が相手だからな………40万か………馬鹿みたいな数だわほんと………。想像もつかないくらいにでっかい数。もうなんかインフレが凄い。まぁ………頑張るけど。

 

「にしてもあおいさんと面識あったんだな。何がきっかけ?」

 

「ASMRつながりでちょっとね。あおいさんの方から声かけてきてくれてさ。」

 

「気さくな方なんだね。配信内の清楚系のイメージしか無いからさ。」

 

「しっかりした方だよ。まぁ1つだけ難点を上げるのであれば………人見知りが凄い激しい方なんだよね………。」

 

「はえー、意外。え、でも待って。なんで沙奈の方に連絡してきたの?」

 

「流石にこのままじゃまずいって思ったらしい。周りの他の人からもちょくちょく言われてたらしいし。」

 

「なるほどそれでか。なんか向上心っていうのかな。そういうのが凄い人なんだね?」

 

「もう本当に真面目な人。たまにゲームとかしたりしたときもさめちゃくちゃ律儀だし。とにかく可愛い人だよ。」

 

「めちゃくちゃ推してくるじゃん。」

 

あれ?そもそも俺のほうが推してなかったっけ?なんか推しについて熱く熱く語られているような気がする………。

 

「当たり前だよ。亮太も1回話したらわかるって。可愛いから。配信内よりも可愛いから。」

 

「なんか楽しみになってきたかもな。」

 

記念すべき初めてのコラボ相手。まさか知ってるVtuberさんだったとは………。しかもその方が今では結構な大物になっていたとはな。しかしまぁ沙奈も可愛いと絶賛していたことだしなんとなくは安心した。叶鳥 あおいさん………うん。楽しみだな。




どもども今日も根強く生きてます。夾竹桃です。今回少し短めになってしまいました。まぁ理由としては焦ったことが原因ですね。次回からバチバチに本気出していきます。多分明日あたり更新します。まぁ中継ぎみたいな感じの回になってしまいましたがマジで明日から頑張るんで大目に見てください。と、いうことで夾竹桃でした。これからもよろしくお願いします。


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第12話 人見知りが凄い………?

 そうして迎えた週末。ここまで来てまだ緊張を隠せないところがある。

 

「何も緊張しなくて大丈夫だよ。打ち合わせなんだからさ。」

 

「ま、まぁそうだけど………あぁ質問。」

 

「ハイなんでしょう。」

 

「俺は亮太として話したほうがいい?それともやっぱりおとめの方なのかな?」

 

「あぁそれね。うーん………おとめでお願い。」

 

「了解。じゃあそろそろ時間だな。」

 

「うん。かけるよ。」

 

そうして沙奈はあおいさんに電話をかける。あぁ………心臓バクバク言ってるな。無理もないか。一時期めちゃくちゃ好きだったもんな。あおいさんの声で寝てた時期もあるくらいだし。

 

『あ、もしもし。ゆにさん?』

 

「もしもしあおいさん。こうやって話すのはお久しぶりですね。今回本当ありがとうございます。」

 

『いやいやとんでもないですよ。こっちの方からも誘いたいなって思っていたので。』

 

「で、早速本題に入っても大丈夫ですか?」

 

『はい。お願いします。』

 

「まず概要なんですけど、おとめが考えてくれた企画でして………アドリブシチュボASMRって名前なんですけど。まぁ内容はだいたいわかると思うんですけどね。完全にアドリブでリスナーさんからシチュエーションなり送ってもらって極力それに応えながらASMRをするっていう………大丈夫そうですか?」

 

『たしかに面白そうですね。まぁまだ細かいところまでは決まっていない感じですかね?』

 

「そうですね。まだそこまで練ってはいない感じです。まぁ細かいところに関しては本人から聞いてもらったほうがいいですかね。」

 

『え!?』

 

あ、このタイミングで俺に振るのか。ちゃんと声出るか不安だが………まぁやろう。逃げ道なんて無いし、そもそもやってみようと言い出したのは俺なんだから。

 

「あ、もしもしはじめまして。おとめです。」

 

『え、あ、はい。はじめまして………。』

 

なんか凄いキョドってるような気がする………。人見知りが凄いって言ってたけどこういうことか。

 

「あの説明しても大丈夫ですか?」

 

『は、はい!お願いします。』

 

「そんな緊張しなくても大丈夫ですからね。」

 

沙奈のフォローが入る。

 

『はい………。』

 

「じゃあ、まずこれやろうと思った時にやっぱり寝落ち枠は難しいと思うんです。だから時間帯は22:00から1時間程度。でもらったシチュエーションを5から10分程度やり切る。という形にしたいと思ってます。」

 

『なるほどです………。』

 

「えっと………どうでしょうか?」

 

『ひぇ!?あ、は、はい。いいと思います。』

 

これ人見知りって言うよりコミュ力の問題では………?

 

『あんまり突拍子もないものでなければ私でもできますし、ゆにさんもいますし多分大丈夫だと思います。』

 

「ありがとうございます。まさかあおいさんと本当にコラボしてもらえるなんて………。」

 

『えっと………おとめさんは、私のこと知ってたんですか?』

 

「はい………あの…配信見てました。」

 

『それはつまり………元リスナーさんということですか?』

 

「そうですね。今回もめちゃくちゃ緊張しちゃって………。ちゃんと話せるか不安だったんですけど。」

 

『そんな素振り全然なかったですよ?』

 

「キャラに入り込んでいるのもそうですし、ゆにだっていますし。」

 

『そう、ゆにさんと一緒に居るって結構親しい間柄なんですね。』

 

「え、えぇまぁ。」

 

「何、恥らってるの?おとめくん?」

 

待て待て、この場に漬け込んで俺を責めないでくれ。

 

「な、なんでも無いです。て、言うか恥らってるって言うわけじゃないです!」

 

『仲、いいんですね。2人とも。』

 

「まぁ幼馴染ですからね。」

 

『幼馴染ですか………どういうご関係で?』

 

あれ?なんか食らいついてきた?イキイキしてきた気がする。雰囲気が変わった。

 

「えっと………ゆに、どうしよ。」

 

「どうにかできたらどうにかしてるんだよな………こうなったあおいさんは見たこと無いからな………。」

 

『なんですか?もしかして付き合っていらっしゃる?もしかして百合ってやつですか??』

 

「付き合ってないですし百合でもないですよ!」

 

『いいや信じないね、おとめさん。君は男の子じゃない。だってゆにさんが男の子と居るところなんて想像できないし、だいたいその声しといて男はない。』

 

「そこまで言います?」

 

『そこまで言うレベルなんです。だって今までゆにさんが男の影をちらつかせたことなんて無いでしょう?』

 

「あぁ………たしかに私無いかもな。」

 

「………いや、一度か二度ある。ゆにの初期の方の配信で幾度か話に上がってるのを知ってる………。」

 

「え、そんなことあった?」

 

『え、そんなことあったんですか?』

 

なんで沙奈は覚えてないんだよ。

 

「歌枠前の雑談配信。もう忘れたの?」

 

「待ってそれめちゃくちゃ初期じゃん。」

 

『………ゆにさんって歌わくやったことあるんだ…。』

 

「今のところまだ1回だけだったか?4年前の話です。」

 

「よくそんなこと覚えてるね………。」

 

『そんなに前からゆにさんのこと知ってるんですね。で、そのちらつかせた男の人っていうのは?ゆにさん。』

 

「え、私?………その時は確か………初恋の質問が来ててそれで幼馴染の話を挙げたんだっけ?」

 

「そう。あの時はびっくりしたな。」

 

「あの後1番びっくりしたのは私だよ。」

 

「まぁそうだろうな。色々あったもんな。」

 

ついつい素が出てしまった。このように熱中すると周りが見えなくなってしまうものだ。現に俺と沙奈は完全にあおいさんのことを忘れて思い出話に浸ろうとしていた。

 

『えっと………なにがあったんです?』

 

「あ、すみません………あの、その…こっちの話です。」

 

「その………ちょっと色々あって………。」

 

『ほう………色々ですか。その話詳しくお聞かせ願えますか?』

 

またさっきと同じだ。空気が変わった。まさかこの後待っているものは………考えるのはもうやめにしよう。どうにか乗り切れたらいいかな………。人見知りが凄いんじゃなかったのかよ!!!




はい、いつもの夏之です。今回少し長めの回になりました。まぁいつもと比べればですが。次回からはラブコメパートに当たると思います。どうにかこうにかやっていきますんでこれからもよろしくです。


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第13話 だんだん崩れていく………

 それからしばらくして、結局質問攻めに耐えられなかった俺と沙奈は自身達の関係性、つまり結婚していることをあおいさんに打ち明けることになった。まぁそこまで必死になって隠そうとしていたわけでもないので別に良かったのだが………あおいさん、この手の話になると盛り上がってしまう性格のようで結婚していると打ち明けるまでに色々と聞かれた。総合して1時間ちかくほど時間が過ぎていた。

 

『………マジですか?』

 

やはり唖然としていらっしゃっている。無理もない。ただのてぇてぇかと思ったらまさかの夫婦だったのだから。そりゃあ驚くよなっていう話だ。

 

「マジです。」

 

『そんな青春経験されてからのご結婚………なんかこういいですね。』

 

なんだろうか。薄々感づいていたのだが、この人饒舌になると語彙力がどこかに飛んでいくらしい。それほどまでに恋バナとは面白いものなのだろうか?俺にはわからない。

 

「あの時はまだ私もおとめも10代でしたしあんな痛々しいことが言えたのかなって………。」

 

「言うてあの時は19歳だったろう。もう十分痛々しかったわ。」

 

と言うか痛々しい。俺もなんかとんでもないこと言っていたような気がする………。思い出すのはよしておこう。

 

「それもそうなんだよね。私も大概だったけどさ。でも、おとめもなんか言ってたよね?あれなんだったかな?」

 

「まって。やめて。多分思い出したら死んじゃう。」

 

あおいさんそっちのけで話はヒートアップしてしまいそうになっていた。

 

『凄い仲がよろしいんですね。』

 

あおいさんの声で我に返る。

 

「あ、すみません………。」

 

『いえいえ大丈夫ですよ。こちら側からしたら百合ボイスにしか聞こえませんので。』

 

多分それは大丈夫じゃないと思うのは俺だけだろうか?と言うか何が大丈夫なのだろうか?なんだろう、俺の中のあおいさんの像がどんどん崩れていく。

 

「それは、大丈夫なんですか?」

 

沙奈から純粋な疑問。俺も今最も聞きたかったことだ。

 

『大丈夫ですって。私が満足できてるので。』

 

余計に分けがわからなくなってきた。

 

「大丈夫ですか?眠たかったりしますか?」

 

深夜テンションを疑ったのか沙奈から純粋な疑問。

 

『え?そんなことないですよ?どうしてです?』

 

あれだ、この人自覚がないんだ。1番まずいタイプの人間なんじゃなかろうか?こうも推しに対してのイメージとは変わるものなのだろうか?いや、現に今変わっている。かつて無いほどまでに。

 

「一回落ち着きましょう。」

 

そう促してみる。

 

『………もしかして暴走気味でした?』

 

うーん、「暴走気味」と言うより「暴走してた」のほうが正しい気がするが………しかし相手はコラボ相手。そんなことは言えない。

 

「暴走気味と言うより暴走してましたね。」

 

………なんだ、沙奈のあおいさんに対する当たりが強いような気がする。以前から面識がああるからだろうか?

 

『あぁ………やっぱりですか?あんまり人と関わってこなかったので加減がわからなくて。これからは気をつけますね。』

 

「普段通りで大丈夫ですよ。なんだかんだ話してるの面白いですし。」

 

沙奈はそう言っている。まぁかく言う俺もそのとおりだと思っている。

 

「あ、ただコラボの時に私とおとめが結婚しているってことは内緒でお願いします。これを発表するのはなんか違うかなって。」

 

『あぁ、確かにそうですね。それはハイリスク過ぎますしね。そこは気をつけます。』

 

「ありがとうございます。」

 

まぁ当然だ。結婚してる報告をしたとして、これまでのファンが離れてしまうかもしれない。それだけではなく炎上も待ったなしだろう。

 

「本当にありがとうございます。」

 

『これに関しては当然ですよ。だって同業者じゃないですか?苦労はよく知ってますし。それにこのことは独り占めしたいですしね。』

 

最後に不穏な言葉が聞こえたがまぁそれ以外はありがたいな。

 

「まぁ………そういう昔の話はまたプライベートということで………。」

 

そう沙奈が言う。

 

『そんなこと承知しておりますとも。』

 

それなら良いのだが。これからも絡んでいくことになりそうだな。いや、嬉しいんだよ。推してたし。でも………その推しに今までの恋愛事情を暴露するって………生憎俺も心臓をストックできるタイプのクリーチャーじゃないのでちょっと持ちそうにないかな。まぁ………恥ずかしすぎて死にたいくら位のことだ………それだだけで済んだらとっくに決意なんて決まってるんだよな。

 

「で、では準備等あるのでコラボは来週の金曜日ということで。」

 

『はい、了解です。いやーようやく私もコラボですか………。アドリブシチュエーションとかやったことないですけど頑張りますね。』

 

「はい、お願いします。」

 

そうして俺と沙奈、そしてあおいさんにとっても初めてのコラボが幕を開けるのだった。




どもども、夏之です。最初想定していたよりとんでもないキャラになってしまったあおいさん。しかしここまでしておいたほうが後のギャップも凄いというもの。いずれ本名出したいな………。なんならスピンオフ書いてみようかな?まぁここ気分次第か。というわけで面白かったらお気に入り登録やら感想やらよろしくです。これからもお願いします。


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第14話 波乱のコラボ

 そうして迎えた金曜日の夜。打ち合わせのときから俺はすでに緊張している。自分で考えた企画ながらなかなかに無茶なことを言ったなと、今更になって思い返すがそれももう遅い。

 

「おとめさん分かりやすすぎですよ。さっきまでとテンション大違いじゃないですか?」

 

あおいさんがそう言った。電話越しでもわかるものなのか………。

 

「す、すみません。」

 

「やっぱり緊張しいなんだから。」

 

沙奈からはそう言われた。しょうがないじゃないか。そういう性格なんだから………。とは思いつつもこのままじゃまずいか。まぁいつも通りだ。大丈夫。

 そうして、そのコラボ企画は始まった。

 

「はい、音入ってますか?お疲れ様です。夜空ゆにと。」

 

「夜空おとめです。で、今回お伝えしたとおり、私達だけじゃありません。ま、コラボですから。早速呼んでいって大丈夫ですか?」

 

「はい、じゃあ呼びますか。今回私達の配信に参加してくださるのはこの方!」

 

「はーい、皆様こんにちはでーす。あなたの願い、叶えます、幸せの青い鳥、叶鳥あおいです。」

 

あぁそうそう、あおいさんの挨拶ってこんな感じだったな。

 

「はいご存知の方も多いと思われます、叶鳥あおいさんです。」

 

やっぱりあおいさんの影響力って凄いな。同接数が今までよりとんでもなく多い………。

 

「ゆにとつながりがあったので今回、コラボするに至りました。で、早速本題に行っていいですか?」

 

「はい、お願いします。」

 

説明は俺だ。以前の打ち合わせのときから少し変わっているところもあるがあらかたは同じだ。

 

「じゃあ今回なんですけど、私が考えてきたやつですね。サムネ、タイトルにもある通りです。今週の水曜日にコミュニティの方で告知をていた、アドリブシチュボASMRですね。リスナーの皆さんには自分の考えたシチュエーションをそのコミュニティの方のコメント欄に書いてもらってます。で、その中から私達がこれ出来そうだなって思ったやつや、これ面白いんじゃないかなって思ったやつで5分程度シチュエーションASMRをやります。」

 

「はい。で、これ事前に台本とかなかったわけだけど………。」

 

ここはまだ台本。シチュエーションに入ったら全部アドリブだ。

 

「まぁアドリブっていちゃった手前見るのは駄目かなって。私達も見てません。」

 

これはホント。

 

「じゃあ、ここから先は本当にアドリブということで、早速見てみましょうか。」

 

そうしてコミュニティのコメント欄を開く。ここのコメ欄を配信で乗せるってわけには行かないからな………。今度この手の企画やる時はもっと別の媒体で募集しようか。にしてもあぁこんなことになってたんだ。本当に初めて見たから結構驚いてる。

 

「さてと、どれから行ってみます?」

 

ゆにがそう話しかける。

 

「取り敢えずジャブ的な感じで、軽めのものって無いかな?」

 

そう思いコメントを漁って見る。やはりと言うべきだな、百合またはおねショタが多い。ん?………あおいさんとゆにさんに挟まれるおとめ………一旦見なかったことにしよう。

 

「あ、私これやってみたいです。」

 

そう言ったのはあおいさんだった。

 

「どんなのです?」

 

「この『あおいさんとおとめくんにイチャついてほしい』ってやつ。」

 

なんですか?冗談ですか?悪ふざけですか?

 

「………ほーう…。そうですか。まぁうちのおとめですし、まさか他の子に堕とされるなんてことないでしょうね。とっくの昔に私に堕ちてるんですもんねぇ?ね?おとめ?」

 

圧が怖いです。沙奈さん。

 

「はい…ダイジョブ。シチュエーションだから。」

 

「じゃここに耳あてておくよ。」

 

そう言うと沙奈は俺の胸部に耳を当てた。この次点で凄いドキドキしてるんですが。なんのドキドキか全然わかんない。あの頃思い出してるのかな?或いは緊張か?と、取り敢えず今を切り抜けよう。

 

「じゃあ、あおいさんとおとめのシチュエーションボイスまで3,2,1,どうぞ。」

 

「ほら、おとめくん。もうちょっとこっち来てよ?」

 

バイノーラルマイクのせいだろうか?余計に優しいその声。しかし気を抜けば俺の懐にいる堕天使がその本性を顕にするだろう。

 

「ちょ、あおいねーちゃん何してるのさ?」

 

取り敢えず要望どおり『おとめくん』の召喚には成功した。後はただ時間が過ぎていくのを待つのみ。

 

「おとめくんは私のこと嫌いなの?」

 

なんでそんな質問ふっかけてくるかな?て、そうだ。俺、今試されてるんだった。

 

「そうじゃないけど………。」

 

「じゃあちゃんと好きって言って?」

 

これは………沙奈さん審議では?そう思い沙奈に目をやってみると………言いたいことは圧だけでなんとなくわかった。私は亮太を信じるっていう目だ。そうだ今の俺は………亮太でもあるがおとめでもある。あくまでもシチュエーションだ………。

 

「あおいねーちゃん……好きだよ?」

 

「ゔゔ………。」

 

堕天使のうめき声が聞こえます………もしかしたら、やばいかもしれない………。誰か、救いはないでしょうか?




お疲れ様です。夾竹桃です。まぁ次回は今作で1番ラブコメラブコメしたパートになるんじゃないかなって思っております。まぁ気長に待っていてください。ということでこれからもよろしくお願いします。


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第15話 修羅場チック

 非常にまずい。ここ最近で1番まずい。

 

「ゔゔ………。」

 

依然として沙奈のうめき声が聞こえている。しかし………ここでシチュをやめるのもいかがなものだろう。きっと………大丈夫だ。

 

「うん、おとめくん可愛いね。」

 

あぁ………気が狂いそうになる。なんだこの背徳感。本当にきつい。

 

「あおいねーちゃん………1回タイム。」

 

「だーめ。まだこうしてるの。」

 

「なんでなのさ。」

 

シチュエーションとしても、今の率直な気持ちとしてもその言葉が1番似合う。

 

「そりゃぁ、恥ずかしがってるおとめくんが可愛いからだよ。」

 

そんなさも当然のごとく言われても困る。今、俺は後戻りなんてできない状況だ。この先に何があるのか。全く持って見たくないが見なければいけない。あぁ………マジで修羅。

 

「や、やめてよ。」

 

このシチュは止めることはできないのか………。できないんだろうな。

 

「やーめない。ほら、ぎゅうっ。」

 

あぁ複雑。本当になんだこれ。全く………。

 

「………ん。」

 

小さくそんな声がした。そしてあおいさんの『ぎゅうっ』の声とともに何故か実際に締め付けられる感覚があった。まぁわかっていることだが沙奈だ。まさかヤキモチ………?もうちょっと修羅場チックになると思ったが………まさかこっちで来るとはな。純粋だな。

 

「あおいねーちゃん。」

 

少し間を開ける。その間に俺は沙奈の身体に腕を回した。そして一言。

 

「暖かいね。」

 

なんでシチュエーション中もいちゃつけるんだか。どれだけ馬鹿なんだよ。

 

「とまぁジャブとしてはこんな感じですね。」

 

あおいさんの声でシチュエーションから現実に戻る。沙奈は………どうやらご満悦のようで。まぁ何よりと言ったところだ。

 

「いやーゆにさん、おとめさんの心拍数どうでしたか?」

 

「あぁもう全然大丈夫です。」

 

良かった………。難は逃れたという解釈でいいのかな。

 

「じゃあ次行きますか。」

 

そうしてまたコメントを漁る。なにか良さげなものはないだろうか?

 

「あ、これどうです?『ゆにとおとめで告白シチュエーション。放課後の教室編。』っていうやつなんですけど。」

 

なんでこう甘ったるいものを持ってくるのか………ってまぁ気持ちはわからんでもないけれども。

 

「どうする、ゆに?」

 

「おとめがいいなら。」

 

「じゃあ、やろうか。これどっちだろう、男で行くのかな、女で行くのかな?」

 

「やりやすい方でお願い。」

 

「じゃあまぁ見方によって変わるような声で行くわ。」

 

「それ今までやってこなかったけど大丈夫なの?」

 

「大丈夫。」

 

告白シチュエーション………しかも学生時代のか。大丈夫。女声と地声の境。ショタではない別の声域。

 

「はい、ではシチュエーションまで3,2,1どうぞ。」

 

探りの間を挟み俺が切り出す。

 

「………なんかさ、最近疎遠みたいになっちゃってるな。」

 

「そうだね。こうして話すの久々。」

 

「それで話っていうのは?」

 

「放課後の教室に呼び出したんだよ?一つしか無いと思うけどな?」

 

「そっか………。」

 

無言………というより間だ。多分俺ならこうする。

 

「わかった。負けました………私と付き合ってください………。」

 

その声は妙にリアルだった。

 

「はい………お願いします。」

 

「………なーんか………調子狂うな。幼馴染なんだからもっと強く出ることができると思ったのにな………。」

 

「告白ってそういうもんじゃないの?普段慣れないことするんだから幼馴染相手だろうが関係ないと思うよ?」

 

「何その持論。って、いうか私だけこんな思いするのってなんか不公平。君も言ってよ。」

 

「えー………しょうがないな。」

 

少しマイクに近づく。

 

「ちょ、近い………。」

 

意図を汲み取ってくれた沙奈がセリフを挟む。

 

「好きだよ………。」

 

そう、囁いた。なるほど………シチュエーションでも………誰かのことを思うと恥ずかしいんだな。

 

「はい。こんな感じでいかがでしたでしょうか。」

 

「おとめ、顔赤いよ?」

 

「知ってるよ。」

 

「もしかして………。」

 

「あぁ………。って、ゆにだって顔赤いじゃん。」

 

「しょうがないでしょ?妙にリアルだったんだから。」

 

「相変わらず仲がよろしいですね。打ち合わせのときとかも思い出話聞かせてくれたりしたんですよ?」

 

あおいさん………ブレーキになってる。なんかごめんなさい。

 

「あ、ごめんなさい。ついついおもいだしてしまって。まぁ気を取り直して次に行きましょうか。」

 

そうして配信は続いていく。まだまだ始まったばかりなのだから。にしてもこういうのが後何件も来ている。果たして消化できるのだろうか?できそうにはないな。まぁ今日は今日のことをしよう。次やることがあればこういうのも含めて改善しなくちゃな。




どうも、夾竹桃です。たまに自分でも思うんです。「なんで私VtuberでもないのにVtuberの企画考えてるんだろう」って。まぁこういう作品を書いてるんで当然と言われれば当然なんですけど、たまに虚無になるんですね。まぁ多分Vtuber物はこの作品に関わり合いのあるもの以外もう書かないと思いますね。


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第16話 今や嫁と嫁してる

 配信は終了した。途中何度か修羅場チックになりはしたもののなんとか切り抜けることには成功している。

 

「さてとあおいさん、今回は本当にありがとうがざいました。」

 

『いえいえこちらこそです。案外やってみるもんですね。まぁ内容に偏りがあったのがネックでしたけど。』

 

やはり、あおいさんもそのことは気にしていたようだ。

 

「そこに関しては私も詰めが甘かったかなと………もし次この手のことする時はもう少し内容練っておきます………。」

 

『まぁやってみないとわからないことだってありますしね。その時はぜひ呼んでいただけると。』

 

「え、いいんですか?」

 

『勿論です。期待してますからね。』

 

「………ありがとうございます!」

 

「ゔゔ…おとめ………?」

 

横から不穏な雰囲気が………。

 

「ま、まぁ次回はもう少し自重した内容のものにします。」

 

完全に慌ててる。なんか圧が凄い。まぁ当然と言われれば当然のことなんだけれど。なんか沙奈に申し訳ないな………。

 

『それは………そうですね。今回私も少し調子に乗りすぎちゃったみたいですね。次は気をつけますね。にしてもあのタイミングでイチャつき出すとか………本当に仲がよろしいんですね。』

 

「まぁ、結婚してますから。もう、今回みたいなことはしないでくださいよ?おとめは私のものなんですから。」

 

『はいはい、分かってますよ。それじゃあ今回はこれでお開きですかね。』

 

「そうですね。本当に今回はありがとうございました。それでは、お疲れ様でした。」

 

沙奈が喰い気味にそういった。おそらくはこの後俺に話があるのだろう。ちょっと怖いような気がするが………まぁしょうがない。

 

『はいお疲れ様でした。』

 

そうして通話は切られた。横を向くと沙奈がいる。チョット怖い………。

 

「それで、亮太。」

 

「ハイ、なんでしょう………。」

 

「どうしてあおいさんとのシチュエーションの時あんなにドキドキしてたの?」

 

「………沙奈があんなに近いところにいるから………。」

 

正直な気持ちだ。何が起こるか分かった状況じゃなかったからな。

 

「………なかなか、嬉しいこと言ってくれるじゃん。」

 

………良かった。

 

「だって、あんな近く来ることないじゃん。ずっと心臓バクバクしてたんだからな。」

 

「まぁなんだかんだでハグしてくれたことは嬉しかったさ。でも亮太、顔真っ赤だったよ?」

 

「そういう沙奈だって顔真っ赤だったじゃん?」

 

「うるさいな。しょうがないじゃん、不意打ちだったんだからさ。」

 

「だって、気付いてないかもしれないけどあの時お前うめき声上げてたんだぞ?」

 

「え、初めて知った。それほんと?」

 

気がついていなかったらしい、って本当に無意識下だったのかよ?

 

「本当だよ。だから取り敢えず落ちつけようと思って………。」

 

「だからって配信内であんな大胆なことします?」

 

「だってあんな状況じゃ言葉じゃ伝えられないだろう?」

 

「だからってさ………あんなに恥ずかしいことしないでよ………。」

 

なんか、可愛くなってきた………。顔はもう一度赤く染まり、少しもじもじしている。最近こんな姿なかなか見なかったからな。新鮮な気持ちだ。

 

「いいじゃん。してほしそうだったから。」

 

「は、はぁ?なにそれ?」

 

「俺の胸に顔うずめてたから。やってもいいのかなって。」

 

「ば、馬鹿言わないでよ?からかっていることくらい分かってるんだから!」

 

「あ、分かってた?ついつい可愛くてさ。」

 

「あぁもう!馬鹿。」

 

「馬鹿でいいよ。沙奈の可愛いところ見れるからさ。」

 

「………阿呆。」

 

「なっ…阿呆はまた話変わってくるだろう?」

 

「いいもん、亮太にはそれが似合ってるもん。」

 

「はぁ………強がりだよな。」

 

「亮太だって。」

 

「そんなこと、とっくの昔から知ってるだろう?」

 

「まぁ、知ってるよ。………昔から、こういう話したときって切りなくなってたよね。」

 

「あぁ、毎度毎度口喧嘩した時はお互い引かなくてな。結局どっちかの母さんか父さんに止められるまで続いてたよな。」

 

「本当にそう。よくまぁ私達結婚したよね。」

 

「まぁ沙奈は俺のことずっと好きだったみたいだけど?」

 

「涼太だってずっと私のこと想ってたくせに。でもまぁ驚いたな。知名度低いときから見てくれてた人の1人が幼馴染で、付き合って、結婚して………今じゃ自分の嫁と誰かの嫁になってるって。」

 

「どんな奇跡だよって話だ。」

 

「全く持ってそうだよ。」

 

思い返してみれば今までの全部奇跡みたいだったな。

 

「これからもよろしくな。沙奈。」

 

「よろしく。涼太。」




取り敢えず一旦の区切りにしたいと思います。また創作意欲が湧いたら書こうかと思っておりますがしばらくは手を付けないでしょう。取り敢えずこの作品をここまで読んでくださってありがとうございました。


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第17話 休日

「はぁ………疲れたな。」

 

「今日もお疲れ様。」

 

 仕事帰りの俺に、そう声をかけてくれたのは他でもない沙奈だった。

 

「いや………でもここから―――――。」

 

 そこまでいいかけて気がつく。それとほぼ同じタイミングで沙奈が言葉をかぶせた。

 

「今日は配信お休みだよ?」

 

「そう………いま思い出した。」

 

「たまには休まなきゃ。」

 

 そうだ、いつかみたいに体調不良になるまで頑張ることにならないように休みの日を設けたのは俺だったな。

 

「まぁ………そうだよな。」

 

「今日は何も考えなくていいからさ。本当に2人きりの時間を過ごそ?」

 

「あぁ、そうだな。」

 

 擦寄りながらの上目使い。わかってらっしゃる。

 ご飯を食べてお風呂に入り、何時もなら配信前のちょっと緊張した時間。ベッドの上でゆっくりと、2人だけの時間を過ごす。沙奈自体、とてもストイックな人だからついていけるのかと思っていたが………案外この通り、支えになることができているようだった。

 に、してもである。

 

「なんか………落ち着かない。」

 

「わかる?私も。」

 

 急に休んだりなんかしたからだろうか?とても落ち着かない。

 

「なんていうかな………何すればいいんだろう?」

 

「………たまには私に甘えてみてはいかがですか?」

 

「え………?」

 

「ほら、休みなんて滅多になかったし、それに………配信云々以前に私達って………新婚じゃん?だったら………それっぽいことしてみたいなぁ………なんて………。」

 

「………じゃあ、甘えていいですか?」

 

「許可しますよ。亮太。」

 

 何でこんなぎこちない会話なのかと聞かれれば………あまりこういったことをしたことがないからに他ならないのだが………だったとしても、もう少し自然体にならないものだろうか?

 

「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます。」

 

 頭では自然な入り方を考えつつも、手を広げどうぞの言わんばかりの大切な人が目の前にいるんだ。もうこのまま流れに身を任せてしまえ、という精神で彼女の胸に飛び込む。

 

「なかなか、力強く来ましたな。」

 

「なんていうか………自分に正直になってみた。」

 

 たまには俺だって甘えたいときくらいある。その気持ちに素直になった結果がこれだ。なんというか、らしいといえばらしいだろうな。

 

「こういうことしてみたかったの?」

 

「全くしたくなかったって言ったら嘘になるけど………ほら、お互い忙しかったからさ。でも………沙奈の配信聞きながら想像したことは何回かあった気がする。」

 

「………やっぱしたがったんじゃん。」

 

「いやだってあれは………確か『彼女配信』のときだから………あれは完全に意識させに来てたでしょう?」

 

「あぁ………まあそりゃあ見てるよね。それについては………反論なんてできないや。」

 

「でも………やっぱり違うな。現実って。」

 

「そうであろう?あったかかろう?柔らかかろう?」

 

「………うん。」

 

「あれれ?もしかして恥ずかしがってる?」

 

「だ、だってそれは………沙奈が悪いじゃん今のはさ。意識しないようにしてたのに………。」

 

「別にいいのにさ。だって、ここはあなたの専用席ですよ?旦那様?」

 

 嗚呼………もう本当………熱い。離れる気はないけど。

 

「慣れないこと………言うんじゃないって………。」

 

「そうやって顔隠してるあたり可愛いよね。」

 

「………うるさいですね………。」

 

「きらいじゃないくせに。」

 

「………大好きですよ。あなただから………。」

 

「………そういう不意打ちね………ズルいな。」

 

 ぎゅっとしがみつく。たまにはこういうのも………アリかなって。そんなふうに思える休日だった。




さて………お久しぶりの更新です。確認をしてみたところ第16話公開日、去年の6月14日午前0時4分となっていました。1年ぶりに興が乗ったので書いてみました(現代ラブコメのリハビリがてら)。以前とは作風が違ったりなどあるかも知れませんがお付き合いいただければ幸いです。評価、感想の方お待ちしております。


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