最後の残虐 (ぴえろー)
しおりを挟む

第一話「襲われた友ッ!」

キン肉マンの2次創作小説です。外伝として見ていただければ幸いです。なお、pixivに同じ内容の小説(こちらは9話まで掲載)がありますので、興味がある方はpixivのほうも見ていってください。


これは、王位争奪編から後のお話。キン肉マンをはじめとする正義超人たちは、第58代キン肉星大王であるキン肉スグルをはじめとした仲間たちが戦いを繰り広げた、様々な場所を練り歩いていた。

 

「…ここが」

 

「ここが、親父が死んだ場所…」

 

驚きと悲しみが混じったようなため息をつき、そう言ったのは正義超人の一人、ブロッケンjr。情に厚い男であり、荒々しいファイトに定評がある男だ。

 

「そうだ。私が、お前の父親を倒した場所だ」

 

今、この場所には血の匂いやむせかえるような感じはしない。ただ、ブロッケンと、彼の師匠であり、敵であったラーメンマンの二人には確かに、その2つが感じ取れていた。

 

第20回超人オリンピック1回戦、中国代表「ラーメンマン」対ドイツ代表「ブロッケンマン」この戦いは、大会史上最も凄惨かつ残虐な試合として、今も語り継がれている。

 

「……」

 

ブロッケンは黙った。何かを考えているようにも見える。

 

「…考えているな。父親のことを」

 

「…親父は」

 

ブロッケンはためらいながら

 

親父の最期は…どうだったんだ」

 

「……」

 

立派な最期だった、そういいたかったのだろう。しかし、言えなかった。

 

「…ラーメンマン?」

 

もう幾分昔の話だのに、ブロッケン自身ももう気にしていない、そう言っていたのに。金網に対する恐怖を克服した時よりも、その言葉を言うほうが、今の彼には、覚悟が必要だった。

 

「おい、ラーメンマン!」

 

「!」

 

「な…なんだ?」

 

「どうしたんだ、急に黙り込んだりして」

 

「い…いや、何でもない」

 

「どうした?…ああ」

 

「別に、気にしなくてもいいんだぜ。もうずいぶん昔のことだからよ」

 

「もうお前が憎いなんて、思っちゃいないさ」

 

「…そうか」

 

ラーメンマンは、いつの間にか厳しくなっていた表情をすこし緩めた。

 

ただ、その顔はすぐにまた、厳しいものへと変わった。

 

「お~い!大変だーっ!」

 

遠くから聞こえる、明らかに普通ではない声音。異常事態が起こったのだ。

 

「ハア…ハア…」

 

ものすごく急いできたのか、息切れが激しい。

 

「おいおい、ウォーズマンじゃないか、どうしたんだ?」

 

ブロッケンが問う。

 

「ば…バッファロー…」

 

「えっ?」

 

「バッファローマンが…何者かに、襲われ…た」

 

「な…なんだとっ!?」

 

とある病院

彼、すなわちバッファローマンは、何者かに襲われた後、偶然通りかかった人に見つけられ、何とか一命をとりとめていた。しかし、体全体をズタズタに切り裂かれ、その際に起こった大量出血のせいで昏睡状態に陥っており、いつ目を覚ますかもわからない状態だった。

 

「バッファローマン…」

 

ブロッケンはため息交じりに彼の名を呼んだ。

 

「くそっ!俺がもう少し早く気づいていればッ…!」

 

彼は壁を叩き、そう言った。

 

「……」

 

ラーメンマンは黙っていた。

 

それからしばらくしてキン肉マン達が病室へとやってきた。

 

「バッファローマン!!」

 

キン肉マンの声が病室中に響いた。

 

「一体どういうことなんじゃ!なぜバッファローマンが!」

 

「落ち着けキン肉マン!」

 

そう静止したのは仮面の貴公子、イギリス代表の超人ロビン・マスクだ。

 

「これが落ち着いていられるか!私たちの仲間が襲われたんじゃぞ!」

 

「気持ちはわかる!だがキン肉マン、お前は王位争奪戦の時の傷がまだ癒えていない」

 

「ここまで歩くのだってドクターに止められていたんだ。治らなくなったらどうするんだ」

 

「…そうじゃな、すまん」

 

ロビンに諫められると、キン肉マンは素直に謝った。

 

「だが、いったい誰が…」

 

ロビンがそういうと、周りにいた仲間たちが一斉に考え始めた。

 

「フェニックスとか?」

 

そう口火を切ったのはロビンの弟子であり、かつてキン肉マンを窮地に陥れた殺人マシーン、ソ連(今のロシア連邦)出身の超人、ウォーズマンだ。

 

「ばか言うな!フェニックスはあの後改心したんじゃ!反旗を翻すわけないわい!」

 

キン肉マンは半ば感情的にそう反論した。

 

「そ…そうだな、すまない」

 

彼は素直に謝った。

 

しかしその会話の後は特にこれといった意見もなく、ただ時間だけが過ぎていった。

 

「くそ、誰か思い当たる奴はいないのかっ…!」

 

言うまでもなく、彼らは焦っていた。手がかりもなく、ただやみくもに行動するわけにもいかない。

 

しかも最悪なことに、今回の件は誰も目撃者がいないという点で、特定の難しさに拍車をかけていた。バッファローマンが襲われた、その事実以外に何もないのである。

 

もうだめか、院内にいた全員があきらめかけていた時、ブロッケンはバッファローマンの包帯を取り換えようとしていた。親父に言われて、よく戦場で負傷した兵士の看病をしていたので、これくらいはお手の物なのだ。

 

「ごめんよ…ちょっとだけ我慢しててくれ」

 

彼はバッファローマンにそう言うと、上半身の包帯から外していった。彼が半分くらい外し終わったころだろうか。ブロッケンはバッファローマンの受けた傷を見て顔をゆがめた。

 

「うっ…」

 

医者からズタズタだと聞いてはいたが、思いのほかひどかった。

 

これまで幾多のひどい傷を戦場で見てきたが、これほどまでにひどい傷はあまりない。筆舌には尽くしがたい、それほどまでにひどい傷なのだ。

 

ブロッケンは彼の傷を痛ましく思いながら、何とか我慢して包帯を外した。傷を見た瞬間に感じた、少しばかりの違和感を持ちながら。

 

そしてすべて外し終え、ブロッケンはほっと息をついた。外している最中でも出血の危険性があったので、かなり精神を使ったのだ。さて、包帯をつけようかと、意気込んだその時だった。

 

彼はバッファローマンの傷全体を見た。筆舌に尽くしがた…くはない。いやむしろ、とても分かりやすい。

 

体に刻まれた大きな「×(ペケ)」の文字。バッファローマンの体には何かを暗示するように、そう刻まれていた。

 

「!!これはっ!」

 

彼の傷口を見るや否や、ブロッケンは声を上げた。

 

「どうしたんだ!ブロッケン」ラーメンマンが聞く。

 

「…ラーメンマン、いや、みんな」

 

ブロッケンは口を紡ぎ、一拍置いた後、大きな声で言った。

 

「俺に心当たりがある。もう一度あの男が戦った場所へ行こう」

 

「あの男?そいつはいったい誰なんじゃ!」

 

キン肉マンが問う。

 

「…それは行ってみればわかる、(はんにん)は恐らく、そこにいる」

 

「…ついてきてくれないか。俺が、案内する」

 

ブロッケンの表情は決意に満ちていた。

 

「ブロッケン…」

 

「よしわかった。みんな、ブロッケンについていこう」

 

ブロッケンの意図を汲み取ったのか、ラーメンマンが納得したように言う。

 

「なんじゃ?よくわからんのう」

 

キン肉マンは状況がうまく呑み込めていないようだった。

 

「じゃが、犯人が分かるのであれば何処にだって行ってやるわい!」

 

「よしみんな!ブロッケンに続けっ!」

 

キン肉マンがそう言うと、仲間たちはブロッケンに連れられ、「ある男」が戦ったというスタジアムへと向かった。ブロッケンが突如抱いた、決意の心を引っ提げて…

 

とあるスタジアム

 

ここは、とあるスタジアム。スタジアム、というと連想できるのは熱気に包まれた歓声、盛り上がる試合、観客の視線というスポットライトに当てられた選手たちが、その強さを誇示するべく、汗ほとばしる試合を繰り広げる…そんなところだろうか。

 

 だが、このスタジアムにはそんなものは一つとして見当たらない。歓声もなければ、選手もいない。ただ静寂とした空気が流れているだけである。

 

…そこにあった不気味な人影とそいつの周りを纏っていた、不気味なオーラを除いて。

 

「へへへ…」

 

人影は不気味に笑った。

 

「来るな…超人たちの熱い血の匂いがムンムン伝わってくるぜ…」

 

ニヤリ、と、またその男は不気味に笑う。

 

「楽しみだぜ…少なくとも、さっきの牛野郎よりかは楽しませてくれそうだ」

 

「待っているぞ、正義超人ども…そして」

 

その男は一拍おき、目をカッと見開いた。

 

「我が息子よッ!」

 

それからすぐに、場内に高笑いが響いた。それはたった一人、純粋な残虐性を持った超人の、歪んだ笑い声だった…。

 

                    -続く-

 

 




2021年 5月1日

 本作品の総合UAが初めて投稿してから1000人を超えました。いつもご愛読いただきありがとうございます。これからもより良い作品を執筆できるよう精進してまいりますのでよろしくお願いします。
              ~作者より~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話「謎の男」

最後の残虐第2話です。pixiv版の小説に少しだけ改変を加えてあります。差し支えなければどうか見ていってください。


~とあるスタジアム・前~

 

キン肉マンをはじめとした正義超人たちは、ブロッケンJrに連れられて、「ある男」が戦ったというスタジアムの前へと来ていた。

 

「ここだ…」

 

ブロッケンが静かに言う。

 

「ここかっ!バッファローマンを切り裂いた奴がいる場所というのは!」

 

ロビンマスクは叫んだ。

 

「なんじゃ、犯人がいるっていうからどんな禍々しい場所かと思えば」

 

「以前、超人オリンピックが開かれていた場所ではないか、ずいぶんと懐かしいのう」

 

「ああ、そうだなキン肉マン」キン肉マンの言葉に対し、ロビンが答える。

 

「思い出すのう、あの時は確か、私がロビンをローリング・クラッチホールドで…」

 

「…なるほど、確かに以前のスタジアムとは違う…不気味なオーラを感じるぞ…」

 

キン肉マン達の話を遮るようにそういうのは、キン肉マンの一番の友であり、最も古い付き合いのある友人、アメリカのテキサス出身、情熱あふれるテキサスブロンコ「テリーマン」

 

前回紹介できていなかったので、ここでしておく。

 

「ラーメンマン、ここは確か…」

 

なにかを勘繰るようにラーメンマンに対して疑問をぶつけるテリーマン。

 

「……」

 

その問いに対しラーメンマンは厳しい表情のまま黙っていた。

 

そして

 

「…できれば、ここへ来るのはあの時で最後にしたかった…」

 

ラーメンマンは静かにそう言った。

 

「…俺と来た時か?」

 

ブロッケンはそう返す。それからすぐに、ラーメンマンは静かにうなずいた。

 

「だが、大切な仲間、もとい相棒を傷つけられたとあっては、話は別だ」

 

「このラーメンマン、必ず犯人を見つけ出して見せる」

 

そう言うと、彼は中へと入っていった。

 

「あっ!ラーメンマン!一人で中に…」

 

テリーの制止も聞かず、ラーメンマンは中へと入っていった。

 

「なんじゃ、どうかしたのか?」

 

思い出話に花が咲いていたのか、キン肉マン達は状況が分かっていなかったようだ。

 

「ラ…ラーメンマンが先に中へ…」

 

ブロッケンが状況を伝えようとすると

 

「なに!!ラーメンマンが先に入ったじゃと!?」

 

「くそ~、犯人を捕まえてヒーローになろうというのじゃな!?」

 

「犯人を見つけるのは私じゃ!アイツばかりにいいカッコさせんぞ―ッ!」

 

キン肉マンはそう言うと、急いでスタジアムの中へと入っていった。

 

「ああ、キン肉マン!」

 

今度はキン肉マンを静止したが、もちろんこれもスルーされた。

 

「まったく…相変わらずせっかちだぜ」

 

テリーは呆れていた。

 

「どうする?追いかけるか?」

 

ロビンが期待するように問いかけると

 

 

「もちろん。仲間を見捨てない…それが俺達"正義超人"だ」テリーはそう言った。

 

ロビンは納得したようにうなずくと、「よしいくぞ!」と、残っていた仲間全員に号令をかけ、スタジアムの中へと入っていった。

 

~スタジアム・廊下~

 

スタジアムの中は暗かった。前回も言った通り、だれもいないのだから仕方がないことだが、管理人の一人や二人いないのか、と思ってしまうくらいに暗かった。

 

「…なんだ、外観はいささか広く見えたが」

 

「中の構造は割と簡単にできているようだ」ラーメンマンは中の構造をくまなくチェックしていた。これがキン肉マンなら、すぐに迷って、あちこち回っているうちにブレーカーの一つでも落としてしまうのだろう。

 

「これならすぐにホールへ着きそうだ」

 

ラーメンマンは着々と、中央ホールへと歩を進めていく。

 

そのとき、ラーメンマンは目をこすった。

 

「…?」

 

「なんだ?目が…」

 

すると、すぐにラーメンマンの視界は大きくゆがみ、そして何も見えなくなった…

 

ラーメンマンの意識が途切れた時間から何分かたった頃だろうか。

 

ラーメンマンの視力は次第に回復し、徐々に周りが見えてきた。

 

「…ここは?」

 

少し、周りを見てみると、見覚えのある景色のようだった。

 

明るい照明、恐れおののく審判、そして、赤く染まったリング…

 

「赤いリング?」

 

「…はっ!」

 

ふと下を見ると、ラーメンマンの足元にはリングを赤く染めている元凶が転がっていた。

 

自分が真っ二つに割った、ブロッケンマンの亡骸だった…

 

「!!」ラーメンマンはカッと目を見開いた。

 

「わ…私はこの試合がラジオ中継であったことにホッと胸をなでおろしています!これがテレビ放送だとどうなっていたことでしょうか…」

 

腰を抜かした実況者が、震えた声で実況している。

 

同じだ。あの時と同じだ…!

 

「人殺しーッ!」

 

「それでもヒーローかよ!!」

 

「残虐超人めーッ!」

 

スタジアムのあちこちから彼を罵倒する声が上がる。

 

(違う…違うんだ…こんなつもりじゃ…)

 

彼の手は明らかに震えていた。

 

すると、周りが暗転し、ブロッケンJrが出てきた。

 

「ブ…ブロッケン!」

 

「親父を殺した人殺しめ…」

 

「えっ…?」

 

「お前は正義超人などではない、正義超人の皮をかぶった、残虐超人だ!」

 

「そ…そんな…」

 

「懺悔をしているつもりなら、大人しく俺に殺されろ!」

 

「くぅ…」

 

「ベルリンの…赤い雨――ッ!!」

 

ブロッケンの手刀がラーメンマンの首元に襲い掛かる。

 

「う…うわーーッ!!!」

 

その時、不意に目の前が明るくなった。

 

目が覚めたのは、彼が最後に見た、薄暗い廊下だった。

 

「はあッ…!」

 

ラーメンマンは荒々しく息を吐いた。そして、息を整えると辺りを見渡し、何もないことを確認すると

 

「ゆ…夢か…」

 

ラーメンマンはほっと胸をなでおろした。

 

「しかし…いやな夢だった…」

 

「気を失っていたのか、しかしなぜ…」

 

「フフフ…毒ガスを吹きかけただけで気を失うとは…弱くなったな、ラーメンマン!」

 

突然、どこからか声が聞こえた。

 

「誰だ!」

 

ラーメンマンは暗闇に向かって叫ぶ

 

「軟弱者に名のる名はない!お前は決してあの男に、そして俺達には敵わん!」

 

声の主はラーメンマンに対してそう返した。薄暗い空間の中にいるため声の主がどこにいるのかがわからない。

 

「ブロッケンマンのことか!なぜ知っている!」

 

「俺はブロッケンマンの仲間であり、唯一の理解者だ…息子であるブロッケンJrよりも、俺はアイツのことを知っている!」

 

「答えていないぞ!なぜお前がブロッケンマンのことを知っているのかと聞いて…」

 

「教えてやろう!あの男…お前の永遠の難敵、"ブロッケンマン"は生きている!」

 

謎の男はラーメンマンの話を遮り、そう言い放った。

 

「な…何だと…!」

 

「覚えておけ!お前があの男を倒すには…あいつを上回る"純粋な残虐性"が必要だということを!」

 

そう言うと謎の男は去っていく、足音が徐々に離れていくのが聞こえる…

 

「ま…待てッ!」

 

ラーメンマンは足音を頼りに薄暗い廊下の中、謎の男を追いかけた。

 

(逃がしてなるものかっ…みんなのためにも…)

 

(バッファローマンのためにもッ…!)

 

無我夢中で走るラーメンマン。しかしもう男の足音は聞こえなかった。

 

それでもまだ近くにいるかもしれないと、必死で走った。

 

すると不意に、目の前がパッと明るくなった。

 

さっきのよりかは大分ましだったが、明るさに一瞬目がやられてしまった。

 

ラーメンマンは目をこすると、あたりを見渡した。

 

どうやらドームの反対側に出たようだ。人の気配はない。

 

「逃がしたか…」

 

ラーメンマンは悔しさをかみしめるようにそう言った。

「まさか…」

 

「まさか…ブロッケンマンが生きていた…とは」

 

ラーメンマンは地面に手をついた。

 

「純粋な…残虐性…」

 

 

「ブロッケンマンが生きていた」

 

 

これは彼にとっても、ブロッケン達にとっても衝撃的な事実だ。しかし、今の彼にはそんなことよりも、謎の男に言われたことのほうが重要なようだった。

 

「私に…私にもう一度…」

 

「"残虐"になれ、というのか…?」

 

ラーメンマンは震えていた。これまでにないほど、彼はおびえていた。

 

その震える姿に、もう先ほどまでの気高さは見受けられない。ラーメンマンは、決して誰にも、弟子であるブロッケンJrにも話すことのできない葛藤に苦しめられていたのだった…

 

                -続く-

 

                                                                           

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話「明と暗」

最後の残虐第3話です。ブロッケンマンが生きていたという事実に動揺を隠せない正義超人たち。その事実を確かめるべく調査に乗り出す一方で「彼ら」もまた動き出そうとしていた。果たしてブロッケンは父親とどのような形で再開するのだろうか?


~キン肉マンの家~

 

「おいブロッケン、いったいどういことなんじゃ!ぜんぜん犯人なんていなかったじゃんか!」

 

キン肉マンは怒りながらブロッケンに言った。

 

キン肉マン達はあの後、結局ブロッケンマンを見つけられず、いったん田園調布にあるキン肉マンの家に集合していた。

 

「す…すまん」

 

ブロッケンは落ち込んでいるようだった。

 

「まあまあ、ブロッケンもわざとじゃないんだし、いいじゃないか」

 

テリーマンはキン肉マンを諫めた。

 

「だが…なぜあそこに犯人がいると思ったんだ?」テリーが聞く。

 

「…傷口だ]

 

ブロッケンは噛みしめながらそう答えた。

 

「えっ?」

 

「俺…さっきバッファローマンの包帯を外していたんだ、その時に…」

 

「その時に、親父とそっくりの技を使ったと思われる、傷跡があったんだ…」

 

ブロッケンはうなだれながら以前、謎の男がラーメンマンを襲った場所に言った理由を説明した。

 

当てが外れた、というのもあってかブロッケンの表情は暗い。

 

「そうか…それでお前は…」

 

「ブロッケンマンの偽物があのスタジアムにいると思って、私たちをそこへと誘導したんじゃな」

 

「ああ…そうだ」

 

ブロッケンはうなだれるようにそう言った。

 

「そうか…怒鳴ってすまんかった、ブロッケン」

 

キン肉マンは怒鳴ったことを詫びた。

 

それに答えるように、ブロッケンも軽く頭を下げた。

 

「それにしても、ひどいことをするものだな、実の親になりすますとは」

 

ロビンは自分の腕を組み直した。

 

「ああ、度が過ぎる冗談だぜ…!親父を、まるで生きているように見せかけやがって…!」

 

「見つけたら必ず、俺が始末してやるッ…!」

 

ブロッケンはわなわなと震えていた。

 

 

「…まてブロッケン」

 

ラーメンマンは静かに、ブロッケンを静止した。

 

「お前がさっき言ったこと、それは冗談ではないようだぞ」

 

「えっ?」

 

「ブロッケンマン、もといお前の親父は…生きている」

 

「なにっ!?」一同はどよめいた。

 

「おいラーメンマン!それは本当なのか!?」

 

ブロッケンJrは、のどが裂けんばかりと大声を張り上げて彼に問う。

 

「ああ…確かにその男は言っていた」

 

「"ブロッケンマン"は生きている、と」

 

ラーメンマンは冷静に答える。

 

「その男?」

 

どういうことだとウォーズマンは首をかしげる。

 

「さっきスタジアムに行ったときに、偶然出会ったんだ」

 

「そいつは、ブロッケンマンに最も近い男らしい…」

 

「そいつが、「生きている」と言っていたんだ」

 

「誰なんじゃ?その…最も近い男というのは」

 

「…私にもわからない、出会ったときは、暗闇で見えなかったものでな」

 

「そうか…なら仕方ないのう」

 

「でも、親父が…まさか…」

 

ブロッケンは信じられないといった表情で、ラーメンマンのほうを見る。

 

「しかし、にわかには信じがたい話だ」

 

ロビンはもう一度、腕を組み直しながら言う。

 

どうにも落ち着かない様子である。

 

「死んだ超人が、そうやすやすと生き返るものなのか?」

 

ロビンはキン肉マンに対して質問した。

 

「…そうじゃのう、死んだ超人が生き返るのは、しょっちゅう起こることではないからのう」

 

 

「フェイスフラッシュの影響を受けたんじゃないか?」テリーが返す。

 

「いや、あの時生き返らせることができたのは、王位争奪戦でやられた奴らだけだ」

 

「第一、私の能力はあくまで超人墓場に行く必要のない奴らのみが生き返る仕組みになっている。基本、悪行を犯した超人は生き返らせることはできないんだ」

 

「そ…そうだったのか」

 

首をかしげながらキン肉マンは訝しげにテリーマンが問うた質問に返して答えた。

 

しかし、今までの話の中で割と超人達が生き返ることはよくある話のような気がするのだが…

 

筆者である私の気のせいなのだろうか?

 

「じゃ、じゃあどうやってブロッケンマンは生き返ったというんだ?」

 

ウォーズマンが続けて聞く。

 

「…おそらく、超人墓場で生き返ったというのが妥当だろう、それしか考えられん」

 

ロビンは動揺を隠すようにそう答えた。

 

「だとすると、そいつの言ったことは…」

 

「…手がかりがない以上、信じるしかないだろうな。それに」

 

「奴らは様々な場所を荒らしまわっている、厳重に警戒すべきだろう」

 

「すでにバッファローマンが襲われ、つい先ほどウルフマンも襲われたという情報が入ったんだからな…」

 

一同は再び、どよめいた。

 

「な…なにぃ、ウルフマンが!?」

 

「バカな!アイツはアイドル超人の一人だぞ!そう簡単にやられるはずは…」

 

「バッファローマンが瞬殺、これでわかるだろ?」

 

「…確かに」

 

このロビンの一言は、皆を黙らせるのには十分だった。

 

一同が納得するのも無理はない。バッファローマンは、今回こそいち早くやられてしまったが、本当はキン肉マンをはじめとした正義超人を、一番最初に窮地に陥れた超人"悪魔超人"の一人であり、彼はその中でも別格の存在なのである。

 

1000万パワーを誇る彼の強靭な肉体から放たれる技の数々は、どんな敵をも凌駕する。

 

「とにかくだ。超人が2人もやられている以上、もうブロッケンの話だけでは済まなくなっている」

 

「今回こそ逃がしたが、次こそは必ず仕留めて見せる」

 

「…だがロビン、親父はいったいどこを根城にしているんだ?さっき親父を見失ったスタジアムか?」

 

ブロッケンが問う。

 

「うむ、そうだったのかもしれない」

 

「だった?」ブロッケンとロビンの言葉に割って入るようにして、テリーマンが聞く。

 

「日本人のことわざに"犯人は現場に戻ってくる"という言葉があるそうだ。つまり、よからぬことを起こした奴というのは、証拠隠滅や状況確認のために、元の場所へ戻ってくるということだな」

 

「だから、"だった"ってどういうことなんだ」

 

テリーは食い気味に聞いた。

 

「根城を変えたということさ。奴らは場所を転々として、我々の行動を随時観察しているのだ」

 

「ひえ~、おっとろしいのう」

 

「…ということは、探しようがないということか…」

 

ウォーズマンが頭を抱えると

 

「いや、方法はある」

 

ロビンは腕を崩し、立ち上がった。

 

会話を切るたびに腕を組んだり組みなおしたりするのは、彼の癖なのだろうか。

 

ロビンは少し考えた後、ブロッケンマンを見つけるために自分が提案した、2つの役割分担について説明し始めた。

 

「まず、ブロッケンマンが戦ったスタジアムに何人かの超人を配備し、見張りに当たらせる」

 

「こうすることによって、ヤツが来るのを待つんだ」

 

「そしてもう一つ。スタジアムの周辺をはじめとした、様々な場所を見回る係だ。これに関しては、比較的実力のあるものが行くことにしよう」

 

「わかった。で、配備はどうする」

 

「うむ、じゃあまず、ここにいる者たちだけで配分しよう」

 

「まず、見張りに"ラーメンマン・ブロッケンJr"の二人」

 

「…そして、"キン肉マン・テリーマン・ウォーズマン"そして私の4人が見回りに行く」

 

「…ずいぶんと見張りが少ないが」

 

テリーマンは不安そうな顔つきでロビンに言った。

 

「大丈夫だ。見張りには、ここにいるもの以外の超人たちにも協力してもらう」

 

「面識がなくとも、みな正義超人だ。きっと力を貸してくれるはずさ」

 

「…わかった。お前がそういうなら」

 

テリーは納得したようにそう答えると、どこからか取り出したメモに計画の内容を書き込み始めた。

 

それが皮切りとなったのか、他の正義超人たちもロビンの打ち出した計画に向けて準備を進めようとしていた。

 

こうして彼らはそれぞれの役割分担を決め、各自がやるべきことに奔走していったのだった。

 

ちなみに、この分担が完全に決まるまで、仲間内でひと悶着あったのだが…それは後で語ることにしよう。

 

~とある路地~

 

とある路地…日本の都会にある、典型的な路地を想像してくれればいいだろうか

そこを一歩離れると、電光掲示板が女優の顔を大きく映し出し、様々なお店の電飾が夜の街並みを飛び交う。まさに「明と暗」、表裏一体の形相を成していた。

 

…そこにいた男たちが原因だったのかもしれないが。

 

「…おい」

 

男の顔は曇っていた。

 

「なぜ俺を、息子と戦わせてくれないんだ…」

 

ブロッケンマンだ。バッファローマンを圧倒し、ウルフマンまで倒した、猛者だ。

 

「……」

 

聞かれた男は黙っていた。

 

どうやら、二人は少しばかり言い争いをしているようだ。

 

「聞いているのか?なぜ俺を息子と戦わせてくれないんだ、と聞いているんだ」

 

「場所を転々としてまで、俺はお前の行動に付き合っているんだ。理由の一つくらい聞かねえと、納得がいかねえ」

 

ブロッケンマンが訴えるようにそう言うと

「…お前にはまだ、やることがある」

 

謎の男はそう口火を切った。

 

「なに?」

 

「お前はまだ、息子を倒すには早すぎる」

 

「何を言っているんだ、俺はあのバッファローマンという牛野郎を倒し、張り手が強烈だった、ウルフマンとかいうスモウ野郎も倒したじゃねえか」

 

「どちらも息子の仲間だ。十分アイツを揺さぶるきっかけには、なったんじゃねえのか?」

 

「…まだだ、まだ足りない」男は首を振り、そう言った。

 

「どうにも、お前の言うことはわからねえな。俺はもう十分だと思うがよ」

 

「いいや、十分じゃない。なぜなら」

 

すると男は指をさし、声高に

 

「お前はまだ、超えなければならない奴がいるからだ!」

 

と、ブロッケンマンに対して言い放った。

 

その声は以前、スタジアムで聞いた声よりも低く、圧があった。

 

「…!!」

 

ブロッケンマンは目を見開いた。

 

謎の男はさらにブロッケンマンに対して発破をかける。

 

「お前は超人墓場から生き返り、さらにそこで身に着けた実力を宿したまま、年老いた体から偶然若返ることが出来たんだ。…アイツを倒したいとは思わないか?」

 

「…ラーメンマン、か」

 

「そうだ。ヤツは今、メキメキと実力をつけ、"秒の殺し屋"とまで言われている」

 

「へえ、"秒の殺し屋"ねえ」ブロッケンマンはニヤリと笑った。

 

「面白そうじゃねえか、んじゃ、息子に会うにはまず、ラーメンの野郎と戦わなくちゃいけないってわけだ」

 

「その通り。そのためにはまず、ラーメンマン以上の実力を持つものと、戦わなくてはいけない」

 

「なるほど…武者修行、もとい"超人狩り"ってわけだ」

 

ブロッケンマンは再びニヤリと笑った。好戦的な性格であろう彼の眼は、さながら|獣のように鋭かった》

 

「違いない。より強くなるため、そしてラーメンマンを倒すために"超人狩り"に行こうじゃないか」

 

二人は不敵に笑っていた…。

 

こうして徐々に、二人の意見はまとまりかけようとしていた…。

 

そのときである。

 

不意に、背後の方から声が聞こえてきた。

 

「おい、そこの二人」

 

2人は声のする方角へと目を向けた。

 

するとそこには巨大な影が2人の前に立ちはだかっていた。ネオンの明かりで背後が照らされているせいか全貌は見えないものの、ある程度シルエットは把握することが出来る。

 

「そこで何をしている?」

 

巨大な体、青い肌、そして鍛え抜かれた6本の腕…

 

悪と、そして正義が入り混じったオーラを暗闇に放ちながら

 

真剣勝負(シューティング)マシーン」が、彼らに近づこうとしていた…

 

               ~続く~

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話「残虐(マダー)VS悪魔(デビル)

最後の残虐第4話です。路地裏で作戦会議をしていたブロッケンマン達の前に突如として現れた悪魔超人アシュラマン。超人狩り作戦を阻止するべく彼らに戦いを挑むが…果たしてアシュラマンはブロッケンマン達の計画を阻止することが出来るのか?


「一体何の話をしている?」

 

路地にいたブロッケンマンたちは、ある男に声をかけられた。

 

「"超人狩り"と、聞こえたが」

 

巨大な体、青色の肌、そして鍛え抜かれた6本の腕が、暗闇から現れた。

 

悪魔6騎士の一人、そして魔界のプリンスでもあるアシュラマンだ。

 

彼は幾度となく正義超人たちの前に現れそのたびに苦戦させてきたが、とある事情により正義超人と行動を共にするようになった人物である。

 

ちなみにバッファローマンとは王位争奪編で共に「超人血盟軍」として戦った仲でもある。

 

「フン…俺たちの話を聞いていたのか」

 

「盗み聞きとは…趣味が悪いな」

 

へへへ、とブロッケンマンは笑う。

 

「カカカッ…ありがたい。あいにく、悪魔超人は批判されることが、名誉なものでな」

 

「悪魔超人?…初めて聞くなぁ」

 

不思議そうにアシュラマンの方を見るブロッケンマン。

 

屈強な見た目と他の超人とは大きく異なった見た目に惹かれたという事なのか。

 

「おいブロ、こいつはアシュラマンだぜ」

 

「"冷血、残虐、憎悪"が詰まった魔界の中でトップに君臨する」

 

「魔界のプリンス様だ…」

 

謎の男は彼に対し、まるで今までそのことを知っていたかのように、冷静に言った。

 

「ほほう、王子(プリンツ)か…」

 

「いきなりエライ奴と出会っちまったモンだ」

 

ブロッケンマンは壁に寄りかかり、腕を組みながらそう言った。

 

そのとき、何となく彼の表情は(悪い意味で)明るかった。

 

(久々に骨のありそうなやつだぜ。果たしてどれくらいの実力なのか…)

 

「説明してもらおう、"超人狩り"とは何だ?」

 

アシュラマンは語気を強めてそう言った後、彼らに詰め寄っていく。

 

…いや、詰め寄ったんじゃない。

 

アシュラマンは一歩を踏み出した瞬間、すでに自分がブロッケンマンに対して攻撃を仕掛けられる距離まで移動していた。

 

恐るべき速さ、さすが魔界のプリンスといったところか。

 

「ブロッケンマン!」

 

男が叫んだ時にはもう遅かった。

 

アシュラマンはすでに空高く舞い上がっており、彼の必殺技の一つ「阿修羅稲綱落とし(あしゅらいづなおとし)」の体制となっていた。

 

「お前らを遠くから観察していた。暗闇でもう一人のほうはよく見えなかったが、貴様はよく見えたぞ"ブロッケンマン"!」

 

怒りと憎悪が混じった声で叫ぶアシュラマン。

 

その声は路地裏全体に響き、夜の街を駆け巡った。

 

「へへへ…俺の名前を、知ってやがったのか」

 

「バッファローマンの雪辱は…俺が果たすッ!」

 

「くらえッ!阿修羅稲綱落としーッ!!!」

 

宙に浮かんでいたアシュラたちが勢いよく落ちてくる。

 

この技は、今のコンディションにはうってつけだ。「基本」縦方向に落とす技のため、技の出しにくい、路地のような狭い場所でも大ダメージを与えられる。

 

おまけにこの技は、相手の足を完全に封じて逃がさない。この技を使われたらまず、足技を繰り出すことはおろか、軽く足を動かすことすらままならないだろう。

 

…それにしても、一体どうやって彼はブロッケンマンの足を封じているのだろうか。

 

「……」

 

ブロッケンマンは目をつむり、黙っていた。

 

もはやこれまで、と覚悟を決めたのか。それとも別の策を考えているのか…。

 

するとブロッケンマンは目を見開き、アシュラマンのほうを向いた。

 

「うっ!?」

 

不気味な眼光だった。さっき見た不敵な笑みとは違い、殺気に満ちた「残虐者(マダー)」の目だった。

 

例えるなら、猛獣が獲物を見つけた時に時折見せる、鋭い眼光…といったところだろうか。

 

アシュラマンはその目を不意に見てしまったため、一瞬たじろいでしまった。

 

そしてその一瞬の隙を狙い、ブロッケンマンはアシュラマンに向けて手刀を放った。

 

切っ先は一文字。技を外すためだけに放ったようだ。

 

「うぐっ…!」

 

アシュラマンは痛みを感じた。

 

今の手刀を、太ももへもろに食らってしまったのだ。

 

彼の鍛えられた太ももから赤黒い鮮血が流れ出る。

 

アシュラマンは痛さに顔をゆがめた。不意打ちでやられたことも相まって、

精神的ダメージもあったのだろう。そんな顔のゆがめ方だった。

 

ブロッケンマンは彼の足を外し、空中から彼の腹に向けて回し蹴りを放った。

 

彼のキックがアシュラマンの腹に突き刺さる。

 

ドズッ!!

 

鈍い音が街中を突き抜ける。

 

例えるなら、ボクサーがサンドバックを叩く音…だろうか。

 

その音が聞こえたと同時にアシュラマンは壁へ激突し、それをつたって

ずり落ちるように落ちていった。

 

それに対し、ブロッケンマンは空中で回転しながらきれいに着地した。

 

そして、アシュラマンのほうを見てニヤリ、と笑うと

 

「果敢に挑みに来るから、ちゃんと俺のことを調べてきてるのかと思ったら…」

 

「とんだ思い違いだった見てぇだな。…がっかりさせるぜ」

 

「くっ…」アシュラマンは唇をかんだ。

 

「不意打ちで短期決戦を狙ったんだろうが、このブロッケンマンに不意打ちは聞かねえぜ」

 

「不意打ちは"残虐超人"の十八番(オハコ)だからなぁ…」

 

「…不意打ちの対策はできているということか」

 

「へへ、そういうことだ」ブロッケンマンは得意そうににニヤついていた。

 

その時

 

「…で?お前はどこで俺たちの情報を得たんだ?」

 

ふいに、どこからか声が聞こえた。

 

「…おい、なんだよ。戦いの邪魔をするんじゃねぇよ」

 

ブロッケンマンが声の主の方へ向かってうっとうしそうにそう言った。

 

その方角はもともと謎の男がいた場所…

 

どうやら声の主は謎の男だったようだ。

 

勝負を邪魔されたからなのかブロッケンマンの声は若干曇っていた。

 

「…?」

 

あまりに唐突な質問だったので、アシュラマンは呆然としていた。

 

「重要なことだぜ、ブロッケンマン。これは俺達の作戦にも関わってくるんだからな」

 

「聞かないわけにはいかねぇ」

 

「面倒くせぇやつ…」

 

呆れたように謎の男に対して言うブロッケンマン。

 

しかし、それを無視するように質問を続ける男。

 

「それで、どこで俺たちの情報を得たと言っているんだ」

 

「…それをなぜ言う必要がある」

 

アシュラマンは問い返した。

 

「当然だ、俺たちのことを話されては困るからな。場合によっては死んでもらうことに…」

 

すると突然、男とアシュラマンの会話を遮るように男の首に対して手刀が向けられた。

 

まぎれもなく、ブロッケンマンのものだ。

 

「お…おいブロ!お前何を…」

 

突然のことに面を食らう謎の男。たまらずブロッケンマンに対して怒りの言葉をぶつけた。

 

「へへへ…余計な言葉は慎めよ」

 

「そんなことどうだっていいじゃねえか、ここに強ええ奴がいて、そいつが俺に挑戦してきている…」

 

「それだけで十分、戦う理由にはなるはずだぜ」

 

「うっ…」

 

男はブロッケンマンの言葉にたじろいだ。

 

勝負を邪魔された不快感から来ているのか、ブロッケンマンの顔はいつも以上にギラついていた。

 

その気になれば、仲間でも躊躇なく始末してしまいそうな…

 

そんな表情だった。

 

「…随分と強気だな」

 

男とブロッケンマンの会話に割りこむように話しかけたアシュラマン。

 

その言葉に対しブロッケンマンが切り返す。

 

「性分なんだ。…ま、目ぇ瞑ってくれや」

 

「残虐超人は、好戦的だからな。死に場所を探してるのかもしれねぇぜ…」

 

「そうか…」

 

「そんなに死にたいのなら…そうさせてやる!!」

 

そう言うと、アシュラマンは猛然とブロッケンマンに向かっていき

 

「竜巻地獄ッ!!」

 

6本の大きな腕を振りかぶり、ブロッケンマンに向けて、何かを投げた。

 

(…なんだ?投てき技か?)

 

ブロッケンマンが不思議に思っていると

 

「ブロッケンマン逃げろーっ!」

 

「そいつは阿修羅バスターを放つつもりだーっ!!」

 

突如謎の男からのアドバイス(?)が彼の耳を突き抜けた。

 

(阿修羅バスター…?なんだぁそりゃ)

 

「竜巻だっ!!奴は風を起こしたんだーっ!!」

 

(竜巻…?)

 

「もう遅い」

 

すると彼の体は勢いよく上昇し、屋根が見えるほどまで上がった。

 

「なにぃ…」

 

ガシィッ!!

 

それからすぐ、彼は全身を何かでつかまれたような感触を感じた。

 

「!!」

 

アシュラマンだ。彼がブロッケンマンをつかんだのだ。

 

腕に2本、足に2本、そして頭を支えるのに2本。

 

また、彼は何となく自分の視点が逆転していることに気づいた。

 

本来頭の上にあるはずの月が、足の下にある。ブロッケンマンにとっては何とも奇妙な感覚になっている事だろう。

 

「ブロッケンマーンッ!!」男は悲痛に叫んだ。

 

「残念だったな。今までの奴は簡単に倒せたのかもしれんが…」

 

「この私の技"改良・阿修羅バスター"は簡単には外せんぞ」

 

「くっ…」

 

ブロッケンマンは、少なくともこの場面の中で始めて顔をゆがめた。

 

「抜け…出せねぇ…?」

 

「改良・阿修羅バスター」を一言で表すなら、"完璧"だ。

 

先ほども言ったとおり、かけられる側の腕、足、頭の3つが見事に彼の腕で固められている。

 

これと同じ技にキン肉マンの必殺技の一つである「キン肉バスター」と呼ばれる伝説の技があるが、そいつはかける側の位置を逆転させることで返すことが出来たりと、少し頭をひねれば割りと外せる方法がある。ただし、この技はバスターと似てはいるものの、決して誰にも外せない。

 

以前、彼がまだ「正義超人」と対立していたころに、正義超人の一人、ジェロニモに対してこの技を放ったことがあった。

 

その技を受けた際に、彼は腕・足が千切れ、おまけにアシュラマン特有のメットの突起物で頭を貫かれるという凄惨な事態となった。

 

抜け出せないうえに、凶器攻撃もできるというまさに一石二鳥の技なのである。

 

まさに完璧。もう抜け出せない。ブロッケンマンは彼の技を確実に食らってしまうのだろう。

 

「そうだ。抜け出せない」

 

「阿修羅バスターは数々の相手と戦い、そのたびに弱点を克服してきた究極の技なのだ」

 

「そうやすやすと破ることが出来ると思うなよ」

 

空中で冷静、かつ沈着にそういうアシュラマン。

 

このまま彼の阿修羅バスターが決まれば間違いなくブロッケンマンはやられてしまう。

 

勝負が決まる…ブロッケンマンは息子に会うことなく勝敗が決するのである。

 

「へへへ…」

 

しかし、当のブロッケンマンは笑っていた。自分の状況が分かっていない…というよりも、相手を見下したかのような笑い方だった。

 

「きさま…何がおかしい!」

 

アシュラマンは落ちながら彼に怒鳴った。

 

王子(プリンツ)…お前、俺の息子は知ってるか?」

 

「えっ…?」

 

ブロッケンマンからの突然の質問にたじろぐアシュラマン。

 

「…なぜ言う必要がある、これから倒されるお前に」

 

しかし、あくまで冷静沈着にアシュラマンはブロッケンマンに対してそう切り返した。

 

「聞いてるんだぜ…答えねえか」

 

「…ちっ」

 

不満そうに舌打ちをするとアシュラマンはブロッケンマンの質問に答えた。

 

「…知っている、貴様の息子は、ブロッケンJrだッ!」

 

「かつて共に超人血盟軍として戦った、戦友(とも)だ!」

 

「ほう…アイツ、そんなモンにまで入ってやがったのか」

 

「お前とは似ても似つかぬ、正義の心を持った情熱にあふれる男だッ!」

 

「……」

 

ある程度アシュラマンの怒りに任せた答えに聞き入っていたブロッケンマン。

 

そこから少し考えたようなそぶりを見せると、アシュラマンに

 

「なるほど…」

 

「よしわかった、それでいい」

 

「何っ!?」

 

「情報は十分だといったんだ。用済みだぜ、王子(プリンツ)…」

 

余裕のある表情でアシュラマンの説明に対しそう答えた。

 

空中でアシュラマンにバスターをかけられているブロッケンマンであったが、その表情はまるで怯えてない。

 

むしろ、ここの状況を楽しんでいるようにも見える。

 

「きさま…自分の状況が分かっているのか?」

 

「お前は上空へと打ち上げられ、決して逃れられない"改良・阿修羅バスター"をかけられる」

 

「…死ぬことになるんだぞ、それなのになぜ」

 

「甘めぇな」

 

ブロッケンマンはそう言った後ニヤリと笑い、

 

「死ぬことになるのは…」

 

「てめぇのほうだッ!」

 

するとブロッケンマンは自分の足と頭に決められていたアシュラマンの腕を外し、そこからいとも簡単に抜け出した。

 

「なにっ!?」

 

そして彼の横腹に足を引っかけ、ブロッケンマン、自身の両手の手刀を自分の胸の前で交差させた。

 

なにかを放つつもりである。

 

「見せてやろうッ!これがブロッケン一族の秘刀…」

 

 

「"-元祖-ベルリンの赤い雨"だッ!!」

 

 

ズブッ!!

 

大きな掛け声とともに、肉の切れる音がした。

 

その音は「スパッ」でも「ズバッ!」でもない、とても鈍い音…

 

「血なまぐさい音」が路地を突き抜け、大通りにまで響いた。

 

それからすぐ、3人がいた路地には、赤い雨が降った。

 

…アシュラマンの敗北が、確実なものとなった。

 

「両の手刀を前に交差し、一気に切りつける…」

 

「これが本当の"ベルリンの赤い雨"だ!」

 

空中でそう言い放った後、ブロッケンマンはバランスをとって地上へと舞い降りた。

 

少し遅れて、アシュラマンも空中から落ちてきた。

 

巨大なキャンバスに「(×)(ペケ)の文字」をこしらえて…

 

「へへへ…」

 

「今回はいい出来だな…いい×(ペケ)の形になってるぜ」

 

「けどよ…」

 

「……」

 

訝しげに彼の倒れた姿を見るブロッケンマン。

 

最初は満足そうだった彼の顔は徐々に曇っていった。

 

「ブロッケンマーンッ!」

 

遠くから見ていた謎の男がブロッケンマンの元へ走ってきた。

 

それからしばらく息を整えたのち、彼に歓喜が混じった声で話し始めた。

 

「おい、ブロッケンマン。お前…」

 

「お前…本当に強いな」

 

嬉しいため息をついた。

 

嬉々とした表情でブロッケンマンを見る男。

 

しかし、ブロッケンマンは黙っていた。

 

「ブ…ブロッケンマン?」

 

強敵であるアシュラマンを圧倒し、かつ相棒から激励の言葉をもらったのに。

 

彼の顔は、まるでまな板の上に乗せられたコイを見るかのように、暗い表情で遠くを見つめていた。

 

「…何でもねぇ」

 

「久々に大きいヤツを切っちまったんで、ちょいと刃が欠けちまった。

…研ぎなおしに行こうぜ」

 

「あ、ああ…そうだな…」

 

一方的に謎の男に対して話を切り上げるとブロッケンマンは去っていった。

 

それを追うように謎の男も続いた。

 

しかし、男は彼についていく前に男の様子を遠めから確認した。

 

そして、彼が起き上がってこないのを確認すると、その場から離れた。

 

その時、ブロッケンマンは去り際、倒れているアシュラマンに対し

 

「へへっ…じゃあな、プリンツ」

 

と、後ろ手を上げ、振り向くこともなく吐き捨てるように倒れているアシュラマンを揶揄するように去っていった。

 

それからすぐ、彼の後ろからうめき声のようなものが聞こえた。

 

「…くっ!」

 

言うまでもなく、アシュラマンである。

 

彼はその言葉に反応し、アシュラマンは起き上がろうとしていた。

 

しかし、起き上がろうとしたものの深手を負っているためうまく立ち上がれない。

 

また、話すだけの体力がないのだろう。声がかすれ、まともにしゃべることが出来ないのである。

 

「ま…まて…まだ…勝負は…」

 

そんな状況の中、アシュラマンは必死に彼らを呼び止めようとした。

 

だが、無駄だった。

 

アシュラマンの呼びかけも聞こえないくらい、もう彼らは遠くへと行ってしまっていた。

 

「く…くそ…」

 

手がかりが掴めずに倒れるのを悔しく思いながら、彼は去っていく二人を見つめていた…。

 

その時だった。

 

ブロッケンマンの隣にいた謎の男。

 

その男の頭の部分が、車のヘッドライトに反射し、光った。

 

「ヘ…ヘルメット…?」

 

アシュラマンは意識が遠のいていく中、男の正体に気付きかけていた。

 

「あ…アイツは…」

 

「アイツは…まさかっ…!」

 

しかし、アシュラマンの意識はそこで途絶えた。

 

雪辱を果たせなかった悔しさと、早くキン肉マン達にこのことを伝えたいもどかしさが交錯する中で

 

彼は徐々に意識を失っていった…。

 

                 -続く-

 




|-補足-
 今回の話に出てきたブロッケンマンの必殺技である「-元祖-ベルリンの赤い雨」はジョジョの一部に出てきた稲妻十字空裂刃(サンダークロススプリットアタック)のようなイメージです。
 もしよかったら参考に後書きを見ながら小説を見ていただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 前編「仲間割れ」

「最後の残虐」第5話前編です。元の文章が非常に長いため、前後編で投稿しています。
 ブロッケンマンがアシュラマンと戦っている間、キン肉マンをはじめとした正義超人たちはブロッケンマンを探すために田園調布にあるキン肉マンの家で作戦会議を行っていた。長い議論の末、ようやく各々の役割分担が決まり、彼らはそれを実行に移そうとしていた。しかし、どうやらその結論に不満を持つ超人が一人いるみたいで…


ブロッケンマンがアシュラマンと戦っていたころ…

 

~キン肉マンの家~

 

彼らはブロッケンマンを見つけるため、見つける係とスタジアムの見張りの係りの二手に分かれて行動しようとしていた。

 

しかしその矢先、正義超人たちはほんの些細なことで言い争いをしてしまうのだ。

 

それは、ロビンがそれぞれの配役を決め、それを決定しようとしていた時だった…

 

「よし。じゃあみんな、それぞれの配役に…」

 

とりあえず配役が決まり、いったん会議を閉めようとしたロビン。

 

しかし、それと同時にある人物の手が上がった。

 

「おい、ちょっと待てよ」

 

ブロッケンJrだ。

 

「ん、どうしたブロッケン」

 

不意を突かれたのか不思議そうに彼を見るロビンマスク。

 

周りも同様に同じような表情をしていた。

 

「……」

 

いや、ラーメンマンは違った。彼は無表情のまま腕を組み、胡坐をかいている。

 

しいて言うなら若干眉をひそめた表情のまま座っていた。

 

まずいぞ、と言いたげな表情にも見える。

 

「どうしたもこうしたもねえよ」

 

「何でラーメンマンが見回りの係にいねえんだ」

 

「!!」

 

そこにいた全員は目を見開いた。

 

「実力から言ったら、どう見たってラーメンマンのほうが上じゃねえか」

 

ブロッケンはロビンに詰め寄った。

 

どうやら彼は、ラーメンマンが比較的実力のある超人が行くブロッケンマン捜索隊の中に入れていないことが少し気に食わなかったらしい。

 

自分の師匠に当たる人物が過小評価されている。ブロッケンは恐らくそう感じたのだろう。

 

※役割分担の詳細については第3話「明と暗」を参照。

 

「そ…そうじゃのう。そういえば…」

 

人差し指で頬をかきながらそういうキン肉マン。

 

「おいロビン、これはいったいどういうことなんだ?」

 

「……」

 

ロビンは黙っている。

 

「ど…どうしたんじゃロビン、はよ答えんかい」

 

キン肉マンはロビンに早く理由を言うように催促した。

 

しかし、今の雰囲気から恐らく、彼に対して何を言っても納得してもらえないように感じたのか、ロビンは少し困惑したような表情で押し黙っていた。

 

「まさか、いまさら嫉妬してるわけじゃねえだろうな」

 

困惑するロビンに詰め寄るブロッケン。

 

彼の言動から、かなり感情的になっているのがよくわかる。

 

「お…おいブロッケン、口に気をつけろ!」

 

「言って良いことと悪いことがあるぞ!」

 

そういってブロッケンを静止するテリーマン。

 

田園調布にあるキン肉マンの家の中は明らかに不穏な空気が漂い始めていた。

 

「悪いこと?俺が言ったことのどこが悪りぃってんだ!」

 

「どう見たってラーメンマンを親父と会わせたくねぇって感じじゃねえか!」

 

「どうせ手柄を横取りしようって腹なんだろ!バラクーダんときの…」

 

「いい加減にしないかーっ!!」

 

テリーはブロッケンの頬をグーで殴った。

 

その衝撃でブロッケンはその場に倒れこんでしまった。頬は赤く腫れあがっている。

 

「ブロッケン、確かにお前のラーメンマンに対する言い分もわかる」

 

「だが!だからと言って、ロビンを侮辱していいわけじゃない!」

 

「ブロッケン、ロビンに謝るんだ!」

 

ブロッケンに対して強く叱責したテリーマン。

 

もともと2人とも熱血漢な性格のため、ブロッケンも殴られたことに対し激昂して、両者の間で殴り合いのけんかになるかと思われた。

 

しかし、テリーの行動に対する彼の行動はいたって冷静なものであった。

 

「…へっ、なんだよ。最終的には暴力で解決させんのかよ」

 

睨みつけるようにしてテリーを見つめるブロッケン。

 

その目には軽蔑と諦観の色が見えていた。

 

「!!そ…そんなつもりじゃ」

 

突然のブロッケンから出た言葉に対し、狼狽するテリー。

 

まさか彼の口からそんな言葉が出るとは思わなかったのだろう。先ほどの怒りの熱気が明らかに冷めていた。

 

「ああ、わかったよ。そんなに俺たちを除け者にしたいってんなら、こっちから

出てってやる!」

 

バンッ!

 

そういうと、ブロッケンはドアを勢いよく開け、キン肉マンの家を出て行ってしまった。

 

「ブロッケン!!」

 

ブロッケンを呼び戻そうとするテリーマン。

 

しかし彼の姿は闇に消え、どこに行ったのかもわからなくなってしまった。

 

「ブロッケン…」

 

困惑するキン肉マン達。明らかに不穏な空気である。

 

そして、ブロッケンがいなくなってすぐ、この男も口を開いた。

 

「…私も、失礼する」

 

「ラーメンマン!」

 

これ以上仲間が離脱することに耐えきれなくなったのか、キン肉マンが彼を引き留めた。

 

しかし引き留めも空しく、ラーメンマンは彼の手を払いのけ、

 

「…心配するな。少し外の空気を吸ってくるだけだ…」

 

ごまかしにも気分転換とも取れる言葉を吐き捨てると、ラーメンマンはキン肉マンの部屋から出ていった。

 

「ラーメンマン!」

 

そう言って、彼の後を追いかけようとするテリーマン。

 

しかし、それをロビンが制止した。

 

「いや待て、テリーマン。…私が行こう」

 

「ロビン…」

 

「…こうなったのは、私の責任だからな」

 

「…すまんがしばらくの間、仕事を任せても構わないか」

 

そう言って、事務的な対応をしようとするロビン。

 

しかし、自分のせいで誤解を招き、ブロッケンやラーメンマンの離脱を招いてしまった責任に対する焦りはそう簡単にぬぐいきれるものではなかったのだろう。

 

その焦燥や不安が混じったロビンの雰囲気は他の超人達にも何となく感じられた。

 

「ああ。任せとけ」

 

「正義超人たちにも、何人か掛け合ってみるよ」

 

そう言って薄く笑うテリー。その表情は彼に何と言葉をかけていいかわからないのか、引きつったような表情となっていた。

 

場の雰囲気は明らかに不穏そのものであった。

 

「…すまん」

 

テリーに対し、軽く頭を下げるロビン。

 

本当は彼自身もブロッケン達を追いかけて、ひとこと言いたい。

 

ただ、自分の私情を挟み、計画が共倒れになっては元も子もない。恐らく彼自身そう感じたのであろう。

 

テリーはブロッケンを追わず、裏方に回ることにしたのである。

 

「テリーマン…」

 

テリーとロビンの会話を横で聞いていたキン肉マン。

 

すると、なにかを察したのか突然キン肉マンはテリーマンと肩を組んだ。

 

「まあまあ!あとは私たちに任せておけぃ!私たちの力で鉄壁の守りを持つ猛者たちを連れてくるわい!」

 

そして明るく、屈託のない笑顔でそう言った。

 

「はは…まぁそう言う事だぜ。ロビン」

 

「俺達のことは気にせず、ブロッケン達を探してきてくれ」

 

呆れたような、ほっとしたようなそんな笑みを浮かべながらそう言ったテリー。

 

その表情には先ほどまでの不安に満ちた表情はなかった。

 

さっきまで暗かった周囲の空気も一瞬にして和やかにする、この性格こそ彼が仲間内で愛される所以なのかもしれない。

 

「わかった、ありがとう…キン肉マン、テリーマン」

 

ロビンは薄く笑い、キン肉マンの家から出ると、暗闇が深い夜道を颯爽と走り出した。

 

 

ここまでが、アシュラマンとブロッケンマンが戦っていた間に起きた出来事である。

 

この後、ロビンはブロッケンJrとラーメンマンを探すために街へ繰り出し、彼らを見つけ出すことに奔走した。

 

しかし、一向に2人は見つからず、ただ時間だけがむなしく過ぎていった…

 

 

-街中-

 

「はあ…はあ…」

 

肩で息をするロビン。どうやら相当走り回っていたようだ。

 

息を整えるためいったん彼は立ち止まり、その場に立ち尽くしてしまった。

 

「くそ…どこにいるんだ」

 

疲れているのも無理はない。彼が2人を探し始めてもうかれこれ5時間以上経過しているのだ。

 

いくら彼が人並み以上の超人とはいえ、長時間ぶっ続けで走り回るのは体に堪えるものがある。

 

「…ん?」

 

ロビンは膝をついてふと、上を見上げた。彼の目にライトアップされた夜の街並みが映る。

 

「…きれいだな」

 

しばらく空を見上げていると、彼はある光景に首をかしげた。

 

「ん?…あれは」

 

ビルの屋上に何かがたなびいている。

 

辮髪(べんぱつ)…?」

 

ビルの屋上にある看板を遮るシルエット。

 

見覚えのある人物だ。

 

「ラーメンマンッ!!」

 

そう叫ぶや否やロビンはそのビルに向けて走り出した。

 

全力で走る彼の前には冷たい夜風が強く吹きあたっていた…

 

 

                -続く-

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話 後編「荒削りの決意」

最後の残虐第5話後編です。正義超人同士の諍いの後、ブロッケンとラーメンマンを探すために街中を奔走していたロビンマスク。長時間の探索が功を奏し、ついにラーメンマンを見つけることが出来たが、どうやら彼はとある「葛藤」を抱えていたようで…
 ラーメンマンを蝕む葛藤の正体とは?そしてブロッケンマンとの対決はいつ実現するのだろうか?


―ビル 屋上―

 

ビルは明るい街中を見下ろすようにして建っていた。割と高い作りになっているのか、比較的屋上の風が強い。

 

そんな状況の中、暗闇にポツン、と人影があった。

 

その影はピクリとも動かず、ただ彼の辮髪がたなびいているだけ。

 

その正体は間違いなく、あの男である。

 

「……」 

 

「なんだ、ここにいたのか」

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

「…ロビン」

 

ラーメンマンは厳しい表情で彼を見た。

 

「どうしたんだ。随分と息が上がっているようだが…」

 

ラーメンマンはロビンに手を差し伸べながら心配そうに言った。

 

「…大丈夫だ、問題ない」

 

そう言うと彼は息を整えて

 

「それよりも…少し、話さないか」

 

落ち着いた口調でそう言うと、ロビンはどこからともなく缶コーヒーを2本取り出し、ラーメンマンに見せた。

 

「これでも、飲みながら」

 

するとラーメンマンは顔を緩め

 

「…そうだな。とりあえず、コーヒーをもらおうか」

 

そんな会話が交わされた後、ロビンはラーメンマンの横に座り、一本の缶コーヒーをラーメンマンに渡し、それから自分の分を足元に置いた。

 

「……」

 

「……」

 

しばらくの間、沈黙の時が流れた。

 

それからしばらくして、ラーメンマンの方から口を開いた。

 

「そういえば、ブロッケンは見つかったのか?」

 

ラーメンマンはコーヒーを一口飲んだ後、ロビンにブロッケンの行方について尋ねた。

 

「…いや、ブロッケンは見つからなかった」

 

「すまない。出来るだけ早く見つけて説得したかったんだが…」

 

ロビンは首を横に振り、うなだれながら答えた。

 

「…いや、アイツは一人にしておくのがいい」

 

「えっ?」

 

「アイツは、一人でじっとしていたほうが落ち着くんだ」

 

「一人で考えたい性分なんだろうな…つくづく親父にそっくりだ」

 

「そうか…」

 

ロビンは腕を組み、でしばらく考え込んだ。

 

もちろん、ブロッケンの性格についてである。

 

あの義侠心があり、多少頑固なところは父親であるブロッケンマンによるもの。

 

そう考えると、今まで彼が仲間のために戦ったり、師匠のことを深く尊敬するあまりつい感情的になってしまうのも何となくうなづけた。

 

あの性格のほとんどが、親父譲りのものだったのだ。

 

(…ふむ)

 

ここでロビンは何となく、彼が知っているブロッケンの父親について知りたくなったらしい。

 

しばらくの沈黙の後、彼はラーメンマンにそれとなく尋ねてみた。

 

「…なあ、ラーメンマン」

 

「なんだ」

 

「…私は」

 

「私は、ブロッケンマンを大会でしか見たことがない」

 

「ブロッケンマンは、一体どんな奴だったんだ?…教えてくれないか」

 

「…今日はよくしゃべるな、ロビン」

 

しかし、そんなロビンに対し、ラーメンマンはニヤリ、と柄にもない笑い方をした。

 

まるで普段いたずらばかりしている子供が急に礼儀正しくなったことに対して揶揄するかのように。

 

「す…済まない」

 

と、頭をかきながら謝るロビンマスク。

 

普段は超人博士や先輩超人として活動しているためか、2人のこういった馴れ合いは珍しい。

 

「いや、いいんだ。"敵を知るにはまずその道を極めよ"…残虐超人のことをくまなく知っている私に、ブロッケンマンのことを聞くのは当然のことだからな」

 

「はは…敵わないな」

 

それから下を向いて少し考えこみ、しばしの沈黙の後、彼は頭を上げてブロッケンマンについて説明し始めた。

 

「…ヤバいやつだったよ」

 

「…えっ?」

 

「アイツは"ヤバい"奴だった。いい意味でも、悪い意味でもな」

 

「どういうことだ?」

 

「良い意味っていうのは、プロレスの技量についてだ」

 

「以前、アイツが残虐超人を相手に試合をしていたのを何回か見たことがあってな」

 

「思わず私も見惚れてしまったよ」

 

「基本的なプロレス技はもちろん、ロープワーク、そして試合展開のうまさなど、何をとっても残虐超人界では一流だった」

 

「現に、残虐超人界においての公式大会で異例の4連覇を達成していて、周りからは「残虐者(マダー)」と恐れられていた」

 

「…すごいな。そんなにすごい人物だったとは」

 

「ぜひ一度、手合わせ願いたかったものだ」

 

ラーメンマンはさらに説明を続ける。

 

「一流というからにはもちろん、使うことのできる技も多かった」

 

「そんな数あるアイツの技の中でも、最も異彩を放っていたのが」

 

「"ベルリンの赤い雨"だ」

 

「ベルリンの赤い雨って…あのブロッケンが使っている技のことか?」

 

「いや、違う。アイツの"ベルリンの赤い雨"はまるで剣のように上から下に振り下ろしたり、横に薙ぎ払ったりするが」

 

「親父の場合は両手の手刀を前に交差し、一気に切りつけるものだった」

 

「そうだな…あえて息子の技と区別をつける意味で名付けるなら」

 

「"-元祖-ベルリンの赤い雨"とでも言うだろうか…」

 

「"-元祖-ベルリンの赤い雨"…」

 

「技が違ってくると当然、技の魅せ方も違ってくる」

 

「ブロッケンのベル赤はスマートなイメージがある一方、親父の方は泥臭くて、派手な技だった」

 

「泥臭くて、派手?…矛盾しているような気もするが」

 

「あくまで息子と比較しての話なんだが、まぁ、アイツの技を一言で言うとそんな感じなんだ」

 

「実際はやられた側の胸板に大きな「×(ぺケ)」の形が出来たのち、盛大に血が噴き出るものだったから、技としての華麗さは十分にあった」

 

「アイツのベル赤は決め技の意味合いも兼ねていたからな…発生は遅いが、その分威力は折り紙付きだった」

 

「とにかく、アイツのプロレスに関した技、試合展開、そして自身の決め技…どれをとっても残虐超人界では群を抜いていた」

 

「私もアイツに期待し、将来は次期総帥になるように勧めたりもしたんだ」

 

「そうか…それは知らなかった」

 

「じゃあ、ブロッケンが親父を尊敬するのも納得…」

 

その時、ラーメンマンは、暗い口調でロビンの話を遮った。

 

むしろここからが本題であると、言いたいかのように。

 

「…だが、アイツは少し調子に乗りすぎた」

 

「えっ?」

 

ロビンは不意を打たれたように素っ頓狂な声を上げた。

 

「アイツは有名になったのをいいことに、悪事を働きだしたんだ」

 

「自分がファイトする際に金品を要求したり、支払わないものに片っ端から制裁(ぼうりょく)を加えていったりしたんだ」

 

「その暴力が原因で二度とリングに上がれないやつも少なくなかった」

 

「気づけば、アイツはいつの間にか残虐超人界の"英雄"から暴力沙汰を頻繁に引き起こす"厄介者"へと変貌していた」

 

「…なんと」

 

「とにかく、アイツはヤバいやつだった。プロレスの技術は一流で、他の追随を許さなかった。しかし、アイツは誰よりも残虐で、自分が勝つためならどんなにひどく、身勝手なことでも平気でやれるような男だった」

 

「だが、アイツは表向きには"英雄"という事になっているから、我々も持ち上げないわけにはいかない」

 

「アイツの精神は"残虐超人"の模範とされ、誰もがブロッケンマンのような性格になるよう求められた」

 

「だが…調子に乗ってしまったばかりに、大切な仲間を傷つけてしまったのはよくないな」

 

「そうだ。我々、残虐超人は勝つために手段を選ばない。だが、それは勝つためだけに向けられるものであって、大切な仲間を傷つけるためのものではない」

 

「…最もだ」ロビンは静かにうなずいた。

 

「だから、総帥の地位であった私が、直接手を下した」

 

「敗北、もとい"死"という形で…」

 

「ああ…だからあの時「キャメルクラッチ」でとどめを刺したんだな」

 

「ああ、前途有望で妻子がいる身だと、知っておきながらな」

 

「…そうか、それで残虐になることに対して罪悪感を」

 

「…気づいていたのか」

 

「そうだ。私がアイツを倒し、キン肉マンのおかげで改心することが出来たあの日から」

 

「私は"残虐"になることに対して罪悪感を持っていたんだ…」

 

「最初は、ブロッケンマンという"厄介者"を排除することが出来た、一種の優越感のようなものに浸っていた」

 

「しかし、それからすぐ自分の犯した家族という存在を奪ってしまった"罪"、そして、それを潰した自身の残虐性に嫌気がさし始め、徐々にその感情が自分の体内を蝕んでいった…」

 

「だから私は、骨の髄まで染み込んでいた純粋な"残虐性"を打ち砕こうと、様々な修行や戦いに挑んだ」

 

「だが、生まれながらに持った性はそう簡単に拭い去れるものではなかった…」

 

「ラーメンマン…」

 

「そしてその性は、つい最近あった戦いにまで影響した」

 

「バイクマンの時も、プリズマンの時も、結局は残虐に徹することが出来ず、苦戦を強いられる羽目になった」

 

「何とか勝ちはしたが、結局"残虐"に対する罪悪感を払拭することが出来ずに争奪戦が終わってしまった」

 

「私は悔しかった。残虐界の総帥とまで言われた男が"残虐"そのものに怯え、いつまでも抜け出せずにいたんだからな…」

 

「ラーメンマン…」

 

二人の間にしばしの沈黙が流れた。

 

しばらく時間がたち、ロビンマスクが口を開いた。

 

「…それで、今のお前の気持ちはどうなんだ?」

 

「恐らくだと思うが…今回は必ずどこかでお前はブロッケンマンと戦うことになるだろう」

 

「それだけは避けられないと思うんだ。…言い方は多少荒っぽいが"覚悟"は決まっているのか?」

 

「…わからない。正直、かなり迷っている」

 

そういうとラーメンマンは頭を抱えた。

 

「やはり、私の中にある"残虐性(トラウマ)"がどうしても引っかかってしまう」

 

「くそ…一体どうすれば…!」

 

「…そういえば、謎の男と会ったと言っていたな」

 

「アイツに何か吹き込まれたのか?」

 

「…ああ、ブロッケンマンと戦うには"残虐性"」

 

「それも純粋な"残虐性"が必要だ、とな…」

 

「純粋な…残虐性」

 

「ああ、そうだ」

 

ラーメンマンは言葉を続ける。

 

「…私は、アイツともう一度戦いたいという気持ちはもちろんある。…だが私はもう一度、あの度を超した残虐性を持ちたくはない」

 

「必要以上に人を痛めつける、あの残虐性に目覚めたくはないんだ…」

 

そう言った後、苦い表情のまま押し黙ってしまったラーメンマン。

 

それから2人の間にもう一度、わずかながら沈黙が流れた。

 

冷たいビルの夜風が2人の間を通り抜けていく。

 

「…ラーメンマン」

 

ロビンはラーメンマンの肩に自分の右手を置いた。

 

その置いた手と彼の真剣な表情からは熱い何かが伝わってくる。

 

「だったら尚更、お前はブロッケンマンと戦わなければならない」

 

「…何だと?」

 

ラーメンマンは苦い表情を保ちつつ、ロビンの方を向いた。

 

残虐性のトラウマを乗り越えるために、敢えて宿敵との戦いに身を投じるという彼の理論に対して深い疑問を持ちながら。

 

ロビンは熱気のこもった目で説明を続ける。

 

「ラーメンマン、思い出すんだ。私たちが一体どのようにして自分たちを成長させてきたのかを」

 

「…はっ!!」

 

ラーメンマンは何かに気づいたのか、目をカッと見開いた。

 

「戦う…」

 

「そうだ。私たちは今まで"戦う"ことによって自分たちを成長させてきた」

 

「戦うことでお互いが助け合い、ともに高みを目指していく精神を知ることが出来たんだ」

 

「ラーメンマン、今回も同じだ」

 

「戦うことによって、自分のブロッケンマンに対する過去を、そして自身の残虐性に対する"弱さ"を乗り越えていかなければならない」

 

「そうか…!」ラーメンマンは納得したように頷く。

 

彼の心の中ではすでに覚悟が決まりかけているようにも思えた。

 

かつての仲間であり、そして永遠の難敵であるブロッケンマンと戦う覚悟である。

 

「ああ。…だがラーメンマン、お前の今の気持ちは、自分の心の中にしまっておくんだ」

 

「そいつは決して誰にも知られてはならない。ましてや弟子であるブロッケンJrには

なおさらだ」

 

「迷っているうちは一度そのことを忘れて、心の中に閉まっておくのが一番いい…」

 

「今はどうしていいのかわからない。…だがきっと、戦いの神様がお前にとって必要なことを教えてくれるだろうさ」

 

「私がかつて、そうだったようにな…」

 

そういってラーメンマンに微笑むロビンマスク。

 

自分のやってきた行為の過ちをキン肉マンとの戦いを通して克服した彼だからこそ、戦いを通して弱点を克服するというこの言葉はかなりの説得力があった。

 

「ロビン…」

 

ロビンはラーメンマンの肩に置いていた手を離し、彼のほうに向きなおって頭を下げた。

 

「…さっきの件、済まなかった。誤解を招くようなことをして」

 

「ただ、ブロッケンとラーメンマンが一緒だったほうが実力を発揮しやすいのではないか、と思っただけだったんだが…」

 

「いや、構わないさ。私はそこまで気にしていない」

 

「問題はブロッケンだ。アイツを説得する必要がある」

 

ラーメンマンは顎に手を付き、眉をひそめながら言った。

 

ラーメンマンの問題があらかた落ち着いたと考えると、当然次に解決しなければいけないのはブロッケンに関すること。

 

しかし、親父譲りの頑固者で、かつ熱血漢であるブロッケンを説得で解決しようとすることは難しく、長年付き合ってきたラーメンマン、ましてやラーメンマンよりも付き合いがないロビンには説得の方法など皆目見当もつかない。

 

まさに打つ手なし、考え始めた当初からこの問題は難航の色を見せていた。

 

「…そうだな、どうするか…」

 

ロビンたちがどうしようかと首をひねっていた、その時である。

 

「ヒャーッハッハッハッ!!」

 

突如、聞き覚えのある笑い声が街中を突き抜けた。

 

「な…なんだ!?」

 

ロビンとラーメンマンはあたりを見渡し、声の出所を探す。

 

「あっ!あそこだ!」ロビンはビルの向こう側にある広告版を指さした。

 

「へへへ…正義超人どもよ。いかがお過ごしかな?」

 

「俺様に倒されるのが怖くて夜も眠れないんじゃねえか?」

 

「ブ…ブロッケンマンだ!」ロビンが叫ぶ。

 

「ど…どうしてテレビなんかに」

 

「…おそらく、一時的に占拠し、近くにいた人間に映させているんだろう」

 

「なんだと…」ロビンは戦慄のあまり、一瞬たじろいだ。

 

―テレビ局―

 

「ひえええ…」

 

近くにいたアナウンサーやカメラマンは避難のため、舞台の後ろに隠れていた。

 

「へへへ…心配するな。手出しはしねえよ」

 

「俺の目的はあくまで正義超人。…人間なんざに興味はねえ」

 

「俺の目的はただ一つだ…」

 

「で…では一体何のために」

 

ラーメンマンは恐らくは聞こえないであろう問いをブロッケンマンに投げかけた。

 

「今、俺の声を聴いている正義超人どもに告ぐ!」

 

「俺は、お前たち正義超人に対して"挑戦状"を叩きつけるーッ!!」

 

「な…何だと!?」二人は目を見開いた。

 

「明後日の朝9時!俺とラーメンマンが戦ったスタジアムにて正義超人どもを迎え撃つ!」

 

「試合方法は問わねえ!」

 

「お前ら正義超人が勝手に決めやがれ!俺はどんな試合方法でも受けて立つ!」

 

「頑張って俺様を楽しませてくれ!待っているぜッ!!」

 

「ヒャーッハッハッハッ…」

 

高らかな笑い声の後、モニターはプツンと消え、再び広告が映し出された。

 

街中はちょっとした騒ぎになっていた。試合日程をSNSで拡散する者や、撮った動画を

サイトに投稿するものが目立つ。

 

「…まさか自分で居場所を知らせてくるとは」ラーメンマンは呆然としていた。

 

「しかも、試合場所まで指定してくるとはな」

 

「どうする、行くか?」ロビンがある答えを期待しながらそう聞くと

 

「ああ…!もちろんだ」

 

「積年の思いを…今ここで晴らしてくれるッ…!」

 

ロビンは彼の答えを聞き、納得したように頷き

 

「スパーリング、付き合ってもいいか?」にっこり笑ってそう言うと

 

「ああ、頼む!」

 

その時のラーメンマンの顔はもう先ほどまでの悲壮感はなく、やる気に満ちていた。

 

こうして、彼らは(きた)る試合に向けて着々と準備を進めていった。

 

完全な形ではなかったが、荒削りの彼らの決意は、はたして最終決戦の起爆剤となるのであろうか。

 

次回、彼らの最終決戦が始まる…

 

                -続く-

 

 




今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
 投稿頻度についてですが、とりあえず金曜日の夜か土曜日の朝くらいに投稿することになりました。日程の関係上変動することはありますが、基本的にこの日程で行くことにします。
 
                
                              -作者-


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話「沈黙のバウト」

最後の残虐第6話です。2日間のスパーリング期間を終え、ついにブロッケンマンとの決闘の日を迎えた正義超人たち。果たして彼らはブロッケンマンに勝利することが出来るのか?そして、長い間謎に包まれている”謎の男”の正体とは?


―スタジアム 入り口付近―

 

「来たな…」ロビンが静かに言う。

 

「ああ」ラーメンマンは静かにうなずいた。

 

ひっそりと佇み、そして不気味な妖気を纏うスタジアムにキン肉マンをはじめとした正義超人たちは悠然と立っていた。

 

「調子はどうじゃ?ラーメンマン」

 

「ああ、大丈夫だキン肉マン。特に異常はない」

 

緊張しているのか、ラーメンマンの表情は堅い。

 

ラーメンマンはこの2日間、キン肉マン達の協力の下、自分の技に磨きをかけてきた。

 

スパーリングが主な内容だったらしいが、自分たちなりにいい修業が出来たということらしい。

 

「だが…」

 

「…仕方ないさ。ブロッケンは」

 

「ここはとりあえず、我々だけでなんとかしよう」

 

テリーは半ばあきらめたような口調で、ラーメンマンにそう言った。

 

「そうだな…」

 

 スタジアムの前に立つキン肉マンをはじめとした5人の正義超人たちの中に彼の姿、ブロッケンJrの姿はなかった。

 

なぜいないのか、その理由は至極単純で

 

正義超人たちは彼を説得することが出来なかったのだ。 

 

キン肉マン達が修行をしていた2日間、彼らは何度もブロッケンに掛け合ってみたが、彼がキン肉マン達と和解することはなかった。

 

ラーメンマン自体は気にしていなかったのだが、彼自身、何か腑に落ちないところがあったのだろう。結局、そのままブロッケンマンとの決闘当日となってしまったのである。

 

「じゃがロビン、ブロッケンマンは大会のルールを好きにしてよいと言っておったが」

 

「試合方法はあれでいいんじゃな?」

 

「もちろんだ」

 

ロビンは腕を組み、うなづく。

 

「それがおそらく、最善の策だ」

 

ロビンは表情を変えずに、キン肉マンの質問に答えた。

 

彼のこの答え方は、自分の判断にかなりの自信を持っている証拠だ。おそらく、彼なりに何か確信が持てるものがあるのだろう。

 

「あと、もしもの時のためにウォーズマンにもキン肉マンの自宅で待機させている。ここにきていない正義超人たちもとりあえず、襲われることはないだろう」

 

「よし、これで準備は整ったな!」

 

「ブロッケンマンと“謎の男”よ!必ず俺たちが倒してやるぜッ!!」

 

「とはいうが…二人の姿が見えないぞ」

 

テリーが周りを見渡す。

 

たしかに、彼らはおろか、人の姿も見当たらない。

 

「なんじゃなんじゃ!アイツらのほうから呼び出しておいて!」

 

「逃げたしたんじゃないだろうな!あんだけ大掛かりなことをやっておいて!」

 

そう言って怒りをあらわにするキン肉マン。

 

しかし、その怒りもたった一人の簡単なあいさつによって抑えられた。

 

「よう」 

 

ステージの入り口からカツカツと足音を立てて出てきたのは「謎の男」

 

フードをかぶっているのか表情は口元しかわからない。

 

ただ、少なくとも…口元だけ見ただけでも笑っていることだけは確かだ。

 

「フフフ…どうやら逃げ出さずに来たようだな」

 

「その度胸だけは認めてやるぜ…」

 

「お…お前は」

 

「謎の…男」ラーメンマンは腕を組みながら呟いた。

 

ブロッケンマンの懐刀、黒い服装が何とも怪しい、あの男である。

 

今日も依然変わらず、彼の正体はわかりにくい。

 

「!!貴様があの“謎の男”かっ!」

 

「どけい!私たちはブロッケンマンと決着をつけに来たんじゃ!」

 

「ブロッケンマンの"おまけ"がしゃしゃり出てくるんじゃないわい!」

 

「……」

 

「…オマケ、か」

 

「随分となめられたもんだ。俺も“正義超人”の…アイドル超人の一人だってのにな」

 

「なんだと?」

 

「見せてやるぜ…俺の正体を!」

 

謎の男は着ていたジャケット、帽子を脱ぎ、自分の正体をキン肉マン達に明かした。

 

「ど…どういうことなんじゃこれは!!」

 

キン肉マンが悲痛にも似たような声で叫んだ。

 

肩に着けられた丸い装飾、黒光りのヘルメット、そしてなんといっても特徴的な「コーホー」という息遣い。

 

謎の男の正体はあの男だった。

 

「…説明してもらおうか」

 

 

「ウォーズマンッ!!」

 

 

テリーマンが感情をぶつけるようにそう言い放った。

 

「フフ…まったくマヌケな奴らだぜ」

 

「誰も気づかないんだもんなぁ?正体が俺だったってことによ」

 

「正直、少しばかり冷めてたんだぜ…」

 

「そんな…」キン肉マンは青ざめていた。

 

「血迷ったかウォーズマン!俺たちはキン肉マンを中心に正義超人界を守っていく約束を交わしたはずじゃあなかったのか!!」

 

ニヤリと笑うウォーズマンに対し、半ば感情的な声で問い返すテリー。

 

突然の仲間の裏切りに動揺しているのか、その叫び声もどことなくうわずっていた。

 

「クク…」(コーホー…)

 

「俺は別のものに惚れ込んだ…お前らの"友情"よりも守るべきものが出来た、という理由で納得してくれるか?」

 

「なんだと…!」

 

ウォーズマンはかつて一緒に戦った戦友に対して冷たく言い放った。

 

別のもの、とはもちろん「残虐」のことだ。彼は自分が強くなるために「氷の精神」を蘇らせた、といった感じなのだろうか。

 

「くそ…そういうことだったのか」

 

その時、どこからともなく声が聞こえた。

 

「ブ…ブロッケン!!」

 

「ウォーズマン…見損なったぜ」

 

ブロッケンの手刀とウォーズマンのベアクローが交差する。

 

「おう、隅っこでイジケてたんじゃあなかったのか?」

 

「…さっきアシュラマンがやられたという情報が入った」

 

「お前らのせいだと踏んだんでな、いじけてなんかいられねえよ」

 

「ブロッケン…」

 

彼の友情に対する情熱にキン肉マン達は笑みをこぼす。

 

しかし、その笑みも一瞬で強張ったものになった。

 

「てやっ!!」

 

ウォーズマンは邪魔だと言わんばかりに、勢いよくブロッケンの手刀をはじいた。

 

「うおっ…」

 

手刀をはじかれ、驚いたブロッケンは一歩後ずさる。

 

「ほお…"超人血盟軍"のよしみで倒しに来たってわけか」

 

「まあまあ、そう焦るなよ」

 

「ここで俺がぶっ倒されちゃあ、ここでなぜ、俺がお前らを通せんぼしているのかの説明が付かないじゃないか」

 

「…どういうことだ?」

 

「フフフ…とびっきりのエンターテイメントというやつさ」

 

「まあ、せいぜい楽しみに待っておくんだな」

 

「…とか言ってる間に、来たみたいだぜ」ウォーズマンはスタジアムの入り口を指さした。

 

彼が指をさした先には、一人の男が軍服をはためかせながら不敵な笑みを浮かべ、カツカツと音を立ててキン肉マン達の方に向かってくる。

 

ポケットに手を入れたままステージの入り口から「ゆらり」と、歩み寄ってくる影。

 

その姿、まごうことなきブロッケンマンである。

 

不気味な妖気を纏った彼の姿は、何人もの超人を葬ってきた面影のようなものが見える。

 

いったいその()はどれくらいの超人の血を吸ってきたのだろう。

 

「おう、結構たくさんいるじゃねえか」

 

「見た感じじゃあ、主力級が全員揃ってるな。ヘへへ…命知らずな奴らだぜ」

 

「…ブロッケンマン」ラーメンマンは静かに彼に呼びかける。

 

「久しぶりだなぁ、"秒の殺し屋"さんよ」

 

「…知っていたのか」

 

「ああ、ここに来る前にちょっとな」

 

「…それよりもよぉ」

 

「おい、あん時は随分とやってくれたじゃねえか。ええ?そんなに俺をぶっ殺したかったか?」

 

「……」

 

「へっ、相変わらずクールだな。お堅いこった」

 

「…地獄から戻ってきたのか」

 

「ああ。お前の温かい"血"が憎くてなぁ…!」

 

「くっ…」ラーメンマンは彼の鋭い殺気に戦慄していた。

 

その表情は相変わらず「殺人者(マダー)」と呼ぶにふさわしい。

 

「ちょっと待った」

 

彼らの会話を遮るように、ロビンが2人に話しかけた。

 

「なんだ、俺たちの"感動の再会"を邪魔すんなよ」

 

「どこが感動なんじゃ!どう見たって殺す気満々じゃろうが!!」

 

「落ち着けキン肉マン」

 

感情的になっているキン肉マンを諫めるかのように彼らとの話に割って入るロビン。

 

彼自身、早く本題に入りたいという気持ちもあるのだろう。

 

「ブロッケンマン、試合方法のことだが」

 

「ん?ああ、あれか」

 

「私たちは"タッグバトル"で決着をつけたい」

 

「相手はもちろん…」

 

「俺だ!」「私がやる」

 

ブロッケンとラーメンマンは同時に宣言した。

 

「ほほう、なるほど。"因縁の対決"ってわけだな」

 

「いいぜその勝負、受けてやるぜ…」

 

「ありがたい。それから…」

 

「んじゃ、俺たちは"特別な試合方法"で決着をつけたい」

 

「なにっ!?」

 

ブロッケンの言葉に不意を打たれたのか、ロビンが素っ頓狂な声を上げる。

 

「どういうことだ!試合方法は私たちが決めるんじゃなかったのか!!」

 

「"試合方法"はな。だが、他はお前らが決めていいとは言ってねぇよ」

 

「形式は、俺たちが決めさせてもらうぜ…」

 

「卑怯だぞ親父!!」ブロッケンが反論する。

 

「何とでも言え。俺たち"残虐超人"は手段を選ばねえ…」

 

「たとえ相手が息子だろうが関係あるか…」

 

そう言った彼の表情は明るさの中にも少し冷たさがあった。

 

「残虐超人」はこう言った表情を作るのが得意なのだろうか。

 

「ちぃ…っ!!」

 

ロビンたちは悔しそうにブロッケンマンを見つめた。

 

彼の意見を踏み倒し、自分たちの試合方法を強行する方法もあった。

 

だが、正義超人側にその選択肢は実質、あってないようなものだった。

 

彼らは戦うことに加えて別の「緊張感」を抱えていたからである。

 

自分たち自身、つまり「正義超人」の存在だ。

 

今までの話を思い返してみれば、これまでに正義超人が3人、それも主力級の超人達が倒されている。

 

もし、彼の機嫌を損ねたら、また別の誰かが襲われてしまうということもロビンたちは考えなくてはならなかった。

 

これ以上の犠牲は避けたいし、何よりもまた誰かが傷を負えば、正義超人全体の士気に関わる。

 

とりあえずここは自分たちの意見を譲り、バトルに集中することを優先しようと、彼らは考えたのだ。

 

「んじゃ、タッグバトルで試合が決まったところで」

 

「いっちょ"セッティング"と行きますかねぇ」

 

「了解した」そう言うとウォーズマンは指をパチン、と鳴らした。

 

すると突然、スタジアムが大きく揺れだした。

 

「うおっ!?」

 

「ど…どうしたんだ!!」

 

地響きが起きてしばらくすると、徐々に彼らの用意した「ステージ」とやらが見えてきた。

しばらくして地響きが収まると、彼らは、お互いの安否を確認した。

 

「お…おい!あれを見ろ!!」

 

ブロッケンが驚いた様子でスタジアムの奥にある「ステージ」を指さした。

 

金網だ。四方を有刺鉄線で囲んでおり、金網を上からかぶせたような設計になっている。

 

何というか…「蚊帳」のような感じだった。

 

「か…金網…」ラーメンマンは金網を見上げた。

 

「今日はお前ら…もとい息子とラーメンマンの2人のために、特別なステージを用意したぜ!!」

 

「どうせお前らは俺の弱点を知っている2人を戦わせてくると踏んだんでな。それ相応の対応をさせてもらった!!」

 

「へん!特別な方法っていうから何かと思えば」

 

「何の変哲もないただの金網じゃないか!驚かしやがって!」

 

「おまけに、ラーメンマンはもうとっくに金網に対する恐怖は克服しておるんじゃ!」

 

「今更金網を見せられたからって怯えたりはしないわい!」

 

「フフフ…果たしてそうかな?」ウォーズマンは不敵に笑った。

 

「なに…」

 

「ラーメンマン、いや、お前たち正義超人どもは」

 

「この"金網デスマッチ"を受けたことを後悔することになるだろうぜ…」

 

「くっ…!」

 

「行ってこぉい!ラーメンマン!ブロッケーン!!」

 

カァンッ!!

 

試合開始を告げるゴングがキン肉マンによって鳴らされた。

 

解説者も実況者もいない「沈黙のバウト」が今、始まった。

 

 

               -続く-

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話「友情を上回りし残虐」

「最後の残虐」第7話です。ついに始まった正義超人と残虐超人の残党による因縁の対決。果たして正義超人たちはブロッケンマンに勝利することが出来るのか?

※今回の試合において適用されているリングについて少しばかり説明を入れておきました。もしよろしかったら本編を見る前に見ていただくと幸いです。


-スタジアムー 場内-

 

「行ってこーい!ラーメンマン!ブロッケーンッ!!」

 

カアンッ!

 

観客や実況者がいない静かな静かなスタジアムの中で、試合開始のゴングがキン肉マンによって鳴らされた。

 

お互いの様々な思惑が渦巻く中、待ちに待った因縁の死闘が今、始まった。

 

ゴングが鳴ると同時に金網リングの中に入っていた4人が一斉に臨戦態勢となり、ウォーズマン、ブロッケンJrが後方、ブロッケンマンとラーメンマンが前方に陣取り、見た目的にはブロッケンマンとラーメンマンのシングルマッチのような形となっており、序盤から何が起こるかわからない試合展開を見せていた。

 

金網もリングの一部に空間が出来ており、逃げられるスペースがあるものの、それもかえって不気味だった。

 

「へへへ…お前たちはこの"金網デスマッチ"で戦う事を後悔することになるだろうぜ」

 

ニヤリ、と笑うブロッケンマン。

 

しかし、その言葉を受けたラーメンマンは毅然とした表情で彼の言葉に含まれた邪念を振り払った。

 

「…何が仕掛けてあるのか知らんが」

 

「この私、ラーメンマンはもう金網など恐れてはいない!」

 

「いくぞッ!!」

 

ラーメンマンはブロッケンマンのいる方向へと駆け出し、自身の体を大きく飛躍させた。

 

「レッグ・ラリアートーッ!!」

 

ラーメンマンが放ったこの技は彼を代表する必殺技の一つ「レッグ・ラリアート」

 

「7人の悪魔超人編」から使われ続けている彼の必殺技である。

 

まるで白鳥のごとく優美で、かつカモシカのように緊密な筋肉を持つ彼の足がブロッケンマンの後ろにいるウォーズマンの首元に襲い掛かった。

 

どうやらブロッケンマンは瞬時に体を動かし、レッグラリア―トを躱したようだ。

 

しかし、このままでは後ろにいるウォーズマンが技を受けることになってしまう。

 

しかし、技を受ける当の本人はいつものように読み取れぬ表情でその場に佇んでいる。

 

超人博士と呼ばれるラーメンマンがいきなり必殺技を出したことを笑っているのか、それとも何か別の機会をうかがっているのか…

 

「……」(コーホー…)

 

ピカッ!

 

その時、ウォーズマンの目が光った。

 

ガシィッ!!

 

ラーメンマンのレッグラリアートがブロッケンマンの腹に突き刺さるか刺さらないかの瞬間、ウォーズマンは「なぜか」ラーメンマンの体を抱えていた。

 

「なに…」

 

「甘いぜラーメンマン…そんな伸び切った足技じゃあ俺をとらえられない…」

 

「ジェット・ライナーッ!!」

 

ウォーズマンは飛び込んできたラーメンマンをキャッチし、飛び込んできた威力を利用して、自分の反対側にある壁(金網)に彼を投げた。

 

「させるかっ!!」

 

しかしラーメンマンは持ち前の身軽さで投げられた反動を見事に切り返し、金網がある方へと自身の足を向け、再び大きく跳躍した。

 

「金網を利用してジャンプした!!」

 

「フライング・レッグラリアートかッ!!」

 

金網の反発を利用した、矢のごとく放たれた蹴りが再びウォーズマンに襲い掛かる。

 

ラーメンマン、今度は掴まれないように後ろから蹴りを入れる作戦に出た。

 

「おお!なんという完成された蹴りじゃ!これならアイツも避けられんわい!」

 

「しかも蹴った方向は奴の死角!これは入ったぞ!」

 

テリーは確信をもってそう叫んだ。

 

しかし、そんな彼らの評価をよそに、リングの外で見ていたブロッケンマンは不敵に笑っていた。|

まるでその技が来るのが分かっていたかのように…

 

「フッ…甘いな」

 

すると突然、ブロッケンマンは走り出し、ラーメンマンの懐へもぐりこんだ。

 

「なに…」

 

「今だッ!!」

 

「"元祖 ―ベルリンの赤い雨―"!!」

 

ズブッ!!

 

彼がアシュラマンを倒した必殺技を、ラーメンマンに向けて放った。

 

「!!」

 

ラーメンマンはいきなり現れたブロッケンに驚き、

 

それと同時に、彼の右肩に強い激痛が走った。

 

「ぐわあああああっ!!」

 

ラーメンマンは痛みに耐えきれず、悲鳴を上げた。

 

彼の肩には「×(ペケ)」の文字が刻まれ、切った先から血があふれ出ている。

 

リングの上に滴り落ち、紅い絨毯を作っていく彼の糸。その糸は徐々に編み込まれ、リング上に敷かれていく。

 

「ラーメンマーンッ!!」

 

友の凄惨な姿に耐えきれず、テリーマンは悲痛の叫び声をあげた。

 

「ヒャーッハハハ!!こいつはいいや!まるであの時と一緒だぜ!!」

 

「おめえはその技を放つとき、一瞬だが跳躍した際にタイムラグがあるのさ!」

 

「相変わらず弱点を克服できてねえなあ…ラーメンマン」

 

ブロッケンマンが彼の必殺技を知っているということは、恐らくレッグ・ラリアートを総帥時代から使っているという事だろう。

 

ブロッケンマンは倒れている仇人に対し見下ろすような形でニヤリと笑いながら説明を続ける。

 

「なぜ俺が"金網デスマッチ"にしたのか!それはラーメンマンのジャンプ力を利用するためだぜ!」

 

「この金網は普通のと比べて少し柔らかくしてあるのさ。だから弾力性と金網を引っ張ることのできる長さが長くなる!」

 

「当然、弾む力が大きければ滞空時間が長くなる!お前に攻撃できる時間も長くなるってわけよ!!」

 

「だが、入りは甘かったか…完全な"×(ペケ)"の形じゃあねえな」

 

「うぐぐ…」

 

ラーメンマンは傷口を覆いながら苦悶の表情を浮かべていた。

 

ブロッケンマンが「金網デスマッチ」を考案した理由。それはラーメンマンの跳躍力を逆手に取るためだった。

 

ということは、金網とリングとの間に多少の空間があるのも単に自分たちが逃げるためではなく、ラーメンマンの跳躍力の関係からちょうど残虐超人陣営が掴むことのできる距離を調節するための空間であったという事なのか。

 

もしそれが理由として当てはまるなら最初、ラーメンマンの必殺技に対してウォーズマンが迷いなく対処できた理由もうなづける。

 

これからは彼の足技が炸裂するたびにどちらか二人がうまいように切り返す、といったことが可能になった。

 

これで彼の足技…少なくともレッグ・ラリア―トは使えなくなった。

 

正義超人チーム、早くもピンチである。

 

「くそーっ!ラーメンマンの身軽さを逆手に取られるとは!」

 

キン肉マン達が悔しそうにしている中で、ブロッケンマンは余裕の笑みを浮かべていた。

 

(へっ、これが総帥と呼ばれた超人の力だってのか…)

 

(俺も少し、買いかぶりすぎたかな…)

 

「ブロッケンマン!!」突然、ウォーズマンが叫んだ。

 

「ッ!?」驚いたブロッケンマン。

 

彼が後ろを向いたと同時に息子であるジュニアが彼の首筋に手刀を当てて立っていた。

 

「忘れちゃいけねえ…ラーメンマンにはこの俺が付いているんだ」

 

「もう指一本触れさせねえ!この俺、ブロッケンJrがお前らの相手をするッ!!」

 

雄々しく、そして気高くそう言ったブロッケンJr。

 

だが息子がそう言い放ったにもかかわらず、父の返答は冷たいものだった。

 

「くく…威勢がいいな、バカ息子」

 

「俺の虚を突いたからってもうご満悦か?」

 

その時、ブロッケンの頬に何かがかすった。

 

ウォーズマンの「ベアクロー」だ。

 

どうやらブロッケンが攻撃を仕掛けていたとき、すでに彼の背後に回り込んでいたようだ。

 

「!!」

 

ブロッケンは目を見開いた。頬から滴り落ちる血が小さな滝を作っている。

 

「忘れちゃいけねえな、この試合は「タッグバトル」なんだぜ…」

 

「正義超人でも雑魚にすぎねえお前が、俺たち2人の相手をしようなんざ100年早えんだよ」

 

ヘへへ、とブロッケンマンは不敵に笑う。

 

それと同時に、ウォーズマン独特の呼吸音が聞こえた。

 

(コーホー…)

 

「くそ…なんて速さだ」ブロッケンはたじろいだ。

 

「おいおい…なんて速さだ。今までのウォーズマンとは違うぞ」

 

「見る限りではマッハが出ているな、…なんて奴だ」

 

「あんな速さ、師匠である私も見たことがない…!」

 

「そういえば前に、アイツがバッファローマンと戦った時、光の矢となって突っ込んでいったことがあったな」

 

テリーは顎に手を当てながら今の状況を分析していた。

 

テリーマンの言う「光の矢となって突っ込んでいった」というのは「7人の悪魔超人編」においてバッファローマンとウォーズマンが田園コロシアムで戦っていた際、ウォーズマンがベアクローとスクリュードライバーを駆使して放った最後の大技である。

 

その際に彼が言い放った「100万×100万…」のくだりは多くのファンの間で語り草となっている。

 

「つまりアイツは、常にアレくらいの速度、そしてパワーを繰り出すことが出来るくらいに成長したということになるのか…!」

 

「狙いをつけられるくらいの、技に対する精度も上がってなぁ…」

 

キン肉マンとロビンの2人の会話にブロッケンマンが補足をするように言う。

 

いつの間にか、彼はすでにウォーズマンの後ろへと避難していた。

 

一体彼らはいつ立ち位置を変えているのだろうか。

 

「少なくとも、今のウォーズマンは王位争奪戦の時の2倍、いや10倍くらいの実力に跳ね上がっているだろうぜ」

 

「野郎、俺がスカウトした後も修行を積んでやがったな…」

 

「なんだと…」そこにいた正義超人たちは彼の言葉に戦慄した。

 

いままで一緒に戦ってきた仲間が敵となって今、自分たちに襲い掛かってきていることもそうだが、なによりも…

 

なによりも、絶望的に強くなって襲い掛かってきていることが、彼らにとっては恐ろしかった。

 

そんな彼らをよそにウォーズマンはブロッケンに向かって走り出し、ベアクローの猛攻を加える。

 

ブロッケンは何とか手刀ではじき返すが、またすぐに別の方向からベアクローが飛んで来る、の繰り返し。

 

キィン!キィン!

 

「ぐぐ…」

 

あまりの猛攻の激しさにブロッケン、逃げ出せない。

 

最初は弾き返せていた攻撃も、彼の疲弊により徐々にガード一辺倒になっていく。

 

「ブロッケン!奴は30分しか戦えん!なんとしてでも奴の攻撃に耐えて時間を稼ぐんじゃーっ!!」

 

防戦一方のブロッケンに対し、アドバイスするように叫ぶキン肉マン。

 

「た…耐えろったって」

 

「攻撃が早すぎて防ぎきれない…!」

 

あまりの攻撃の速さにたじろぐブロッケン。

 

このままではウォーズマンの体力が切れる前に、ブロッケンの体力の方が限界を迎えそうな状況であった。

 

その一方で、ウォーズマンの表情は全く変わっていない。

 

ロボ超人だから疲弊しない…わけではない。彼は間違いなく成長しているのだ。

 

「フン…俺を見くびるんじゃない」

 

「あの時の…マンモスマンにやられた時の俺とは違うんだ」

 

「俺はお前たちがのうのうと観光旅行をしている間、あらゆる修行をしてきた…」

 

彼の脳裏に今までの修行風景が思い描かれる。

 

「あの時の俺と同じだと思ったら」

 

「大間違いだぜっ!!」

 

唯一自分の素顔を隠すことができ、同時に自分の象徴でもあった「マスク」。それを王位争奪戦の最中、不意打ちとはいえマンモスマンに壊された彼はこれまでにない屈辱を味わった。

 

彼は必死で修業を積んだ。今までの数倍、いや数十倍の修行を積んだ。

 

マスクを壊された時と同じ時期に行っていた竹をよける修行の非ではない、もっと凄惨で、筆舌には尽くしがたい壮絶な修行を行っていた。

 

その時の彼の眼は少なくとも「正気の沙汰ではな」かった。「敗北」という屈辱を受け、何かに(すが)りつくように修行をしていた。

 

屈辱を味わった後のハングリー精神は、時として大きな「依存性」をもたらす。

 

そう「二度とあんな屈辱を味わいたくない」という思いに固執するようになるのだ。

 

そんな修行を積んだ彼は、とある一つの結論に至った。

 

「"友情"は強い…だったら」

 

「だったらそれを上回るくらいの"残虐"があればいいんだッ!!」

 

友情を上回る「残虐」。「オモイヤリ+ヤサシサ=ユウジョウ」を上回る残虐。

 

それがブロッケンマンと出会い、かつ彼と共に行動をする過程の中で出た結論というのだろうか。

 

「てやっ!」

 

ウォーズマンはついに防ぎ続けるブロッケンの腕をはじき、彼をマットに倒れさせた。

 

「うわ…」

 

力が抜けたのかブロッケンはすぐに立つことが出来ず、まごついている。

 

それを見届けると、ウォーズマンはすぐにブロッケンから離れた。

 

そして腰をかがめ、ファイティングポーズをとる。

 

「来るぞ…!」一同は息をのんだ。

 

「もうあんな屈辱は味わいたくない…!」

 

「狙った相手(てき)は、必ず仕留める!」

 

 

「スクリュードライバーッ!!!」

 

 

ウォーズマンは最大火力の「スクリュードライバー」を放ってきた。

 

ものすごい横回転、まるで竜巻が襲ってくるかのごとく。

 

「ブロッケーンッ!!!」

 

しかし、技を受ける当の本人はそれを見るや否や、ニヤリと笑った。

 

「くっ、確かにすげえ…」

 

「だが、俺にだって秘策はあるんだぜ!!」

 

向かってくる竜巻と相対したブロッケン。そして彼も手刀を前に向け、彼なりのファイティングポーズをとる。

 

するとどうしたことか。

 

ブワアアアア…

 

ブロッケンが手刀をウォーズマンに向けた瞬間、彼に向けている右腕が突如、赤色に光り始めた。

 

「な…何だあれはっ!?」

 

ロビンマスクがブロッケンの方を指さし、叫んだ。

 

「目には目を…歯には歯を」

 

「回転には…回転だーっ!!!」

 

残虐回転刃(マダーチェンソー)ーーッ!!」

 

 

               -続く- 

 




リングの構成について
「金網デスマッチ」
 リングの周りを文字通り金網で囲った特設リング。今回の試合においてブロッケンマン率いる残虐超人陣営が独自に用意した。このリングは「夢の超人タッグ編」の時のように有刺鉄線が付いているわけでもなく、ビッグファイト戦のときみたいな通常仕様の金網とは違い、蚊帳みたいな形で囲ってあるリングである。
 どうやらブロッケンマンは金網の素材自体にもこだわっていたようで、通常の金網よりも網の部分を少し柔らかくしてあるようだ。
 また、囲われた部分と中にあるリングとの間に約1メートルほどの空間があるのだが、この空間は何を目的として作られたかという事までは今のところわかっていない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話「神速の手刀「残虐回転刃」(マダーチェンソー)

最後の残虐第8話です。今回は完全に技の解説回です。追い込まれたブロッケンJrに対しウォーズマンが最大火力の得意技「スクリュードライバー」を放ってきた。果たしてブロッケンはどのようにしてこの絶体絶命の危機を乗り越えるのだろうか?そして、彼がこの窮地を脱するために放った秘策「残虐回転刃(マダーチェンソー)」とは?

※今回も後書きに捕捉があります。物語にはあまり関係ない内容ですので、見ても見なくても大丈夫です。


―スタジアム 場内―

 

残虐回転刃(マダーチェンソー)ーーッ!!」

 

ブシュ―ッ!!!

 

ブロッケンがそう叫ぶや否や、リング上は強い衝撃と煙の渦に包まれた。

 

「な…なんじゃ!?」

 

「くそ…前が見えないぞ!」

 

「2人はどうなったんだッ!?」

 

「お…おい見ろ!」テリーは語気を強めてリングを指さした。

 

キン肉マン達が見た先、そこには

 

右手に煙を(まと)いながら悠然と立っているブロッケンの姿、そして

 

リングロープにもたれかかり、息を切らしているウォーズマンの姿があった。

 

「スクリュードライバー」は破られたのである。

 

「ぜえ…ぜえ…」

 

「おおっ!!ブロッケンのやつ」

 

「ウォーズマンの"スクリュードライバー"を破りおった!!」

 

キン肉マンがそう言うとすぐに、スタジアム内に歓声が沸き起こった。

 

「いいぞブロッケン!よくやったーッ!!」

 

「…へっ」

 

「少しは、やるようだな」

 

ブロッケンマンは腕組みをしながらリングの外で薄く笑っていた。

 

「うっ!?」

 

「な…なにがあったんだ…」

 

リングロープにもたれかかり、状況を確認しようとするウォーズマン。

 

「どうして俺がリングロープに…」

 

「おいおい"残虐"はこの世で一番強ええんじゃあなかったのか?」

 

ただ、その試みは前方に現れた「彼」によって遮断されてしまったようだ。

 

「ブ…ブロッケン!!」

 

「残念だったなウォーズマン、どうやら俺の「残虐回転刃(マダーチェンソ―)」はお前の回転を斬っちまったようだぜ」

 

「…どういうことだ」

 

狼狽するウォーズマンに対し、ブロッケンはニヤリと笑うと、先ほどはなった技について説明を始めた。

 

「ウォーズマン、なぜチェーンソーが物を切る力があるのか、わかるか?」

 

「なに」

 

「元来、チェーンソーってのは小さい刃が多数ついていて、そいつを高速で動かすことで切れ味が増すんだ」

 

「最初、止まっているときは豆腐も切れねえが、少しずつ早くなることで大木すら切れるようになるのさ…」

 

「なるほど…そういうことか」

 

「どういうことじゃ?ロビン」首をかしげるキン肉マン。

 

「ブロッケンは"スクリュードライバー"を"斬った"のさ」

 

「斬った…?」キン肉マン同様、首をかしげるテリーマン。

 

「いや、正確には"削った"というのが正しいか」

 

「どっちなんじゃロビン!"斬った"とか"削った"とか紛らわしいわい!」

 

割と複雑さが混じった説明のせいか訳が分からなくなり、ロビンに対して感情的に叫ぶキン肉マン。

 

「まぁ待て、何せ一瞬のことだったからどう説明していいかわからないんだ」

 

「うーん…そうだな」

 

ロビンは少しばかり考えた後、先ほどブロッケンが出した技について説明し始めた。

 

「テリーマン、キン肉マン"スクリュードライバー"は一体どうやって出していると思う?」

 

「えっ…?」

 

突然のロビンマスクが出した問いに対して困惑する二人。

 

「ど、どうやってって…」

 

「回転しながらこう"バ―ッ!"と突っ込んでいくんではないのか?」

 

「そうだな。確かにスクリュードライバーはそんな感じの技だ」

 

「ただ、私が言いたいのは技の出る"しくみ"だ」

 

「要はどういった方法で技が出るのか、ということだな」

 

「技の出るしくみ?」

 

顎を手に当てて首をかしげるテリー。

 

「ああもう焦すない!いったい何が言いたいんじゃ?」

 

ロビンの言いたいことが全く分からず、感情的になるキン肉マン。

 

テリーの方は何となくロビンの言いたいことがわかってきたというような感じだったが、キン肉マンの方は何が言いたいのかよくわからず、ロビンに感情をぶつけているというような感じだった。

 

そんなキン肉マン達に対してロビンは自分の腕を組み、説明を始めた。

 

「簡単なことだぜ、キン肉マン。スクリュードライバーがなぜあんなに威力が大きいのか、という事について考えればいいんだ」

 

「本来、スクリュードライバーというのは回転している間、中は非常に大きな圧力となっている」

 

「それを守るための"何か"が必要となってくるわけだが…」

 

「…そうか!回転そのものだッ!」

 

「そうだテリー。回転そのものだ」

 

「回転させることによって、彼の周りを纏っている空気中に中の強力な圧力を守るための"膜"を作り出し、大きな威力を維持できるようにする」

 

「こうすれば回転中に空気圧が抜けて威力が半減することはなくなり、そのままの威力で相手に必殺技をぶつけることが出来る」

 

「突っ込むときの見た目に対するインパクトが大きいから、どうしてもベアクローや回転そのものに目が行きがちだが、この技の本質はそこじゃない」

 

「"圧力"がスクリュードライバーの重要なキーワードになっているんだ」

 

「なるほど…圧力か。それなら大きな威力が出せるのもうなずけるな」

 

「じゃがロビン、スクリュードライバーの原理とブロッケンが技を破ったことと何の関係があるんじゃ?」

 

「ブロッケンは削ったんだよ。その"膜"を」

 

「削った?」

 

「つまりブロッケンは一瞬で自分の中に内在している超人パワーを出し、手刀の速さを弾丸並みに引き上げ、スクリュードライバーの外部に生じていた膜の圧力より大きくしたところで」

 

「先ほどの技を放ち、スクリュードライバーの外側に纏っている膜の側面に風穴を開けた」

 

「当然、中にあった高圧力の空気は外に吹き出してしまう」

 

「よって、スクリュードライバーの威力も弱まってしまうってことさ」

 

「当然、そうなってしまえば中にいる超人はひとたまりもない」

 

「空気圧に押されて勢いよく地面に叩きつけられてしまうだろう」

 

「そうか…つまりブロッケンはスクリュードライバーの持つ空気の膜を」

 

「自分の得意分野である手刀によって削った、ということじゃな」

 

「そういうことだ」

 

「さすがじゃのうブロッケン!アイツもより強くなるために争奪戦後も修行を積んでおったということか!」

 

「それにしてもブロッケンの奴、一体いつの間にあんな技を…」

 

リングに立つブロッケンを見つめるキン肉マン達。

 

彼も彼なりに、必死で強くなろうと努力していたのだ。

 

ブロッケンをここまで動かしているのは王位争奪戦の最後まで筋肉アタルの元にいられなかったことに対する悔恨の念か、それとも父を超えるべく、より強くありたいとする彼自身の向上心なのかはわからない。

 

しかし、彼がウォーズマンの最大火力のスクリュードライバーを破ったことは紛れもない事実であり、彼自身も正義超人として間違いなく成長していることは言うまでもなかった。

 

「いいぞブロッケン!スクリュードライバーを破ることが出来たな!!」

 

「大手柄だぞッ!!」

 

ブロッケンの成長に賞賛の言葉をかけるラーメンマン。

 

その言葉に対してブロッケンも小さくうなずき、彼の称賛に応えた。

 

「…くそっ!」

 

「い…いったいそんな技いつ…」

 

ウォーズマンはリングロープにもたれかかりながら彼の方を見上げ、にらみつけた。

 

「強くなるために修行してたのはお前だけじゃねえ…ってことだ」

 

「俺だって…負けるわけにはいかねぇんだよ!」

 

「…くっ!」

 

「いくぞ!今度はこっちの番だぜッ!!」

 

ブロッケンは雄々しくそう言い放つと、まだ状況を把握しきれていない彼に対して走り出し、猛攻を仕掛けた。

 

「くっ…!」

 

この戦いが始まってからウォーズマンは初めて額に汗をにじませた。

 

「なめるなよ…!」

 

彼は絡まっていたリングロープをほどき、もう一度彼にベアクローをお見舞いしようと彼の元へ駆け出した。

 

この状況を早く打開しようと焦ったウォーズマン。ブロッケンの向かってくる手刀とは逆の方向へベアクローを差し向け、彼の攻撃に対するリズムを崩そうとしている。

 

キィンッ!カアンッ!

 

しかし、ウォーズマンが右にベアクローを向けたかと思えば左に回り込み、彼の懐へもぐりこんで手刀を一発お見舞いする。逆になればその逆をブロッケンは突いていった。

 

そこには、先ほどのようなただベアクローの猛攻を受けるだけの彼の姿はない。

 

形勢逆転の瞬間(とき)である。

 

「おお、すごいぞ!ブロッケンがウォーズマンを翻弄している!!」

 

「ええぞブロッケン!このまま裏切り者たちを倒してしまえーいッ!!」

 

キン肉マンがそう彼を鼓舞した瞬間、彼は攻撃の手を止めた。

 

「…?」

 

突然とった彼の行動を不思議そうに見るロビンたち。

 

「ど、どうしたんじゃブロッケン」

 

「うっせぇぞキン肉マン!俺に指図するんじゃあねえ!」

 

「な…何じゃと?」

 

突如として、キン肉マンに反論するように叫ぶブロッケン。

 

何やら不穏な空気が場内に流れ込もうとしていた…

 

 

                -続く-

 




~補足~
 「スクリュードライバーの中」

 スクリュードライバーの中が高い気圧で囲まれており、外部で回転する際に生じる膜によって威力が維持されているというのは本編で述べたとおりだが、なぜ中にいるウォーズマンは全く平気でいられるのかと言うと、それはスクリュードライバーの中心部が「台風の目」になっているからである。
 台風というのは低気圧が発達して反時計回りに回転して渦を作り起こるものだが、その際に台風の目が発生し、中心部分だけが晴れるといったことが起こる。
 スクリュードライバーもそれと同じで、ウォーズマンが回転した際に「スクリュードライバーの目」が発生し、中心部のみ何も起こらない。
 詳細はわからないが恐らくスクリュードライバーを放つ際に「台風の目」のようなものが起きているようだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話「目を覆う悪夢」

最後の残虐第9話です。今回は少し長めのお話となっています。ウォーズマンが放った全身全霊の「スクリュードライバー」を見事打ち破ったブロッケン。これで正義超人側に勝利の「流れ」が来たかと思えば、なかなかそううまく事は進んでくれないようで…
 果たして正義超人は残虐超人の残党を打ち破ることが出来るのか?


-スタジアム 場内-

 

「うっせぇぞキン肉マン!俺に指図するんじゃあねえ!」

 

キン肉マンのかけた言葉に対してブロッケンは反抗するようにそう言い放った。

 

「な…なんじゃと!?」

 

ブロッケンの唐突な叫びに対して意表を突かれたキン肉マン達。

 

さっきまでの形勢逆転に対する歓喜の雰囲気は明らかになくなっていた。

 

「お…おいブロッケン!突然何を」

 

「黙れッ!」

 

テリーマンの問いに対して遮るように叫ぶブロッケン。

 

その声は怒りと憎悪が混じったような声だった。

 

「俺はお前ら正義超人が信頼できねぇ…あの時の一件でな」

 

あの時の一件、とはもちろんブロッケンマンを捜索する際に分担された役割に関するトラブルのことだ。

 

そういえばあの時、最終的には暴力うんぬん、のような趣旨のことをブロッケンは言っていた。

 

その時の正義超人に対する「恨み」のようなものをブロッケンは抱え込んでいたということなのだろうか。

 

「俺は学んだんだ。結局"友情"と言っていても、誰かが自分たちの考えと違うことをすれば」

 

「何としてでも自分たちと同じ考えにしようとして、最終的には"暴力"で解決しようとするってことにな!」

 

「そんなことになるくらいなら、俺は孤独(ひとり)でいたほうがましだぜ!!」

 

「わざわざ他人の意見が重荷にならなくて済むんだからな!!」

 

「な、なにぃ…!」

 

ブロッケンの唐突な言葉に対し、驚きを隠せないキン肉マン達。

 

(そういえば、試合が始まるまでの2日間、アイツは話しかけても私たちと口をきこうともしなかった)

 

(…何か思い詰めているような感じがしたと思っていたら、まさかそんなことを考えていたとは)

 

額に汗を垂らしながら今までの3日間を振り返るロビン。

 

「ッ!!」

 

それからすぐに、妙な悪寒のようなものが彼の脳内を駆け巡った。

 

「いかん…!このままではブロッケンが」

 

「ブロッケンが「残虐(あいつら)」に寝返ってしまうかもしれない!!」

 

「なんだと…」

 

ブロッケンがこの試合で純粋な「残虐超人」に寝返ってしまうという最悪のシナリオ。

 

この事実を勘繰った正義超人たちは、全員顔面蒼白となった。

 

「ヒャーッハッハッハ!!仲間割れか!」

 

「こりゃいいや!俺たちが策を練る必要もなくなったってわけだ!」

 

「いいぜ我が息子よ!俺たちはお前が"残虐超人"になることを心から歓迎するぜ!」

 

「……」

 

「ブロッケン…!」

 

焦りと困惑の色を隠せないキン肉マン達に対して、その原因を起こした張本人は腕を組んで佇んでいた。

 

「ぐおっ…」

 

しかし突然、ブロッケンは体勢を崩し、リング上にへたれ込んでしまった。

 

「大丈夫かブロッケン!!」ラーメンマンが彼に駆け寄る。

 

「へっ、問題ねえよ、気にしないでくれ」

 

「ただちょっと猛攻を仕掛けられた時の疲れが残っているだけさ…」

 

ブロッケンは少し微笑むようにラーメンマンに対してそう返した。

 

(ぜえ…ぜえ…)

 

しかし、実際の彼はそのことと、新しい必殺技にまだ慣れていないのが原因なのか、肩で息をしている状態だった。

 

「よしわかった。ブロッケン、お前は少し休んでいろ」

 

見かねたようにラーメンマンはブロッケンマンに休息するよう促した。

 

「ダメだ…俺はまだ休むわけには」

 

「何を言ってるんだ、肩で息をしてるじゃないか。休むなと言うほうが無理だ」

 

「肩…そうだ」

 

「ラーメンマン…肩の傷は」

 

突如思い出したようにブロッケンが問いかける。

 

ブロッケンはラーメンマンの肩を心配そうに見た。依然として彼の傷口からは少量の血が流れていた。

 

「大丈夫だ。多少痛むが、戦いに支障をきたすほどじゃない」

 

「だ、だが…」

 

「まずは自分の体力を回復することに専念するんだ。それが勝つための糸口になる」

 

「…わかったよ」

 

ブロッケンは静かにうなずくと、ロープをまたぎ、リングの外へと出た。

 

しかし、ラーメンマンがブロッケンと交代しようと手を差し伸べた瞬間、ブロッケンは何かを訴えるような目つきをしながら口を開いた。

 

(ぜぇ…ぜぇ…)

 

「…ラーメンマン」

 

「アンタ、悔しくないのか?自分の実力を下に見られて」

 

「おかしいじゃねぇか…アンタだって、正義超人として今までずっと戦ってきたってのによ」

 

「…ブロッケン。お前は誤解をしている」

 

「あの分担は決して私たちを陥れるためのものじゃ…」

 

「あんたまでそんなことを言うのか!ラーメンマン!自分の実力を否定されておいて!」

 

「じゃあ、あの時テリーマンが俺を殴ったのはどう説明をつけるつもりなんだ!」

 

「暴力でアイツらと同じ考えにしようって魂胆が見えてたじゃねえか!」

 

「落ち着くんだブロッケン!今のお前は感情的になりすぎている!」

 

「よく冷静になって考えるんだ!お前は…」

 

「おいおい、喋ってるとこ悪いが、早くしてくんねぇかな」

 

彼らが言い争っている最中、突然リングの反対側からブロッケンマンの声が聞こえてきた。

 

「試合が止まってるんだが」

 

「…ちっ」

 

話の腰を折られて不機嫌そうにするブロッケン。

 

「……」

 

ラーメンマンの方もどこか不機嫌そうな感じだった。

 

正直、あまり戦うというような雰囲気ではなかったが、やむを得ずラーメンマンはこの会話を打ち切り、リングの中央へと移動した。

 

ラーメンマンと対峙するや否や、ブロッケンマンは呆れ果てたような表情をした。

 

「くく…戦ってる相手のことを忘れて仲間割れたぁ、無様なもんだぜ」

 

「こりゃあ息子を仲間に引き入れるのはちょっと見送ったほうがいいかもな」

 

腕を組みながら不敵に笑うブロッケンマン。

 

「かっ…勘違いすんじゃねえや!」

 

「俺はお前らの軍門に下るとは言ってねぇ」

 

「あくまで一人の"超人"としてお前らと決着をつけたいだけだ!」

 

ブロッケンマンの声が聞こえていたのか、彼の揶揄に対してリング外から半ば感情的に返すブロッケン。

 

しかし、その怒りを軽くいなすようにブロッケンマンは彼を挑発する。

 

「ほう?言うねぇ」

 

「んじゃ、ぜひとも今ここで決着をつけてもらおうじゃねぇか」

 

「相棒とくっちゃべってる体力があるなら、それが出来るはずだと思うんだがな…」

 

「なんだと…!」

 

「待て」

 

ブロッケンの怒りを静止するように彼の前へと立ちふさがったラーメンマン。

 

その時の彼の表情は静かな怒りと、どこか曇っているような様子だった。

 

「ブロッケンマン。それは違うぞ」

 

「ブロッケンは私の判断で休ませたのだ。お前がどうこうできる立場ではないはず」

 

「余計なことは、しないでもらおう」

 

「……」

 

「ほう…休ませた、ねぇ?」

 

「くく…疲れてるとはいえ、いま絶好調のアイツを下げるのは如何なものかと思うぜ…」

 

「えらく弟子に甘ぇじゃねえか。なあ?ラーメンマン」

 

ニヤリ、と笑うブロッケンマン。

 

焦りと不安が入り混じった正義超人側に対し、これがとどめと言わんばかりの再挑発。

 

本来ならこんな挑発に対してラーメンマンは歯牙にもかけず、本調子でこの戦いに臨んだのだろうが《

 

「…なんだと?」

 

「総帥時代にはありえなかったことだぜ…」

 

「うっ…」

 

今は状況が全く違う。ブロッケンの一件とラーメンマン自身の葛藤も相まって(これはロビンとラーメンマン以外知らない)、嫌でも挑発に乗らざるを得ない。

 

言うまでもなく、最悪の状況である。

 

「へへへ…ま、そんなことどうでもいいけどよ」

 

「ようしウォーズマン、お前はいったん下がってろ」

 

「ここからはラーメンマンと1対1(タイマン)でやらせてくれ」

 

「わかった」

 

そう言うとウォーズマンはリングの外へ出た。

 

「さ、試合再開だ…」

 

ギラリ、と目を光らせるブロッケンマン。

 

前にも見た「残虐者(マダー)」の目だ。

 

「…くっ」

 

それからのラーメンマンの戦いはひどいものだった。

 

本来なら避けられるはずのブロッケンマンが放ったエルボードロップをもろに受けたり、

 

「へへ…」

 

(手刀か…?)

 

スッ…

 

「な…なに…?」

 

「へへへ…残念だったな」

 

「今のは、フェイントだ」

 

ドガッ!!

 

「ぐうっ…!」

 

ブロッケンマンが出した腕を手刀と勘違いし、体をのけ反らせたところで腹に蹴りを入れられるという醜態をさらしていた。

 

「くそーっ!ラーメンマンは何をやっとるんじゃ!」

 

「ラーメンマン…」

 

ラーメンマンがやられている姿を見たロビンは呆然としていた。

 

これでは、戦いの中から自分が出すべき答えを見出せない。

 

現時点ではラーメンマンが彼に攻撃を仕掛ければ仕掛けるほどブロッケンマンの術中にはまっているような気がして、とても活路を見出せるような状況ではなかった。

 

「ぐううう…」

 

蹴られた痛みに悶絶し、その場にうずくまるラーメンマン。

 

「なんだ、もう終わりか」

 

「総帥時代のお前はどこへ行ったのやら」

 

「牙を抜かれたな…」

 

呆れたような、小馬鹿にしたような表情でラーメンマンを見るブロッケンマン。

 

その目にはもう、先ほどのような真剣さは感じられなかった。

 

「ぐっ…」

 

その時、ブロッケンマンの言葉を受けるや否や、ラーメンマンの目がカッと開いた。

 

「も…もう私は昔の…」

 

「総帥だったころのラーメンマンではないッ!!」

 

ラーメンマンはそう叫ぶとブロッケンマンに向かって走りだした。

 

「ラーメンマン!」

 

「見せてやるッ!正義に目覚めた私の、本当の実力(ちから)をッ!!」

 

ラーメンマン、ブロッケンマンの足首をつかむと彼を抱えたまま天高く上昇した。

 

「なにッ!?」

 

突然自分の体が上昇したことでうまく状況を把握しきれないブロッケンマン。

 

驚く彼に対し、技をかけている張本人は畳みかけるように彼に対して叫んだ。

 

「ブロッケンマン…この技を見るのは初めてだろう!」

 

「牙を抜かれたかどうか…今にわかるッ!!」

 

「おおっ!ガウロンセンドロップじゃッ!!」

 

「とうとう伝家の宝刀を抜いたか…」

 

「くらえっ!!」

 

 

「「九龍城落地(ガウロンセンドロップ)」ーッ!!」

 

 

次の瞬間、宙を舞っていた二人の体が勢いよく急降下し

 

ブロッケンマンは勢いよくリングにたたきつけられた。

 

足を封じられて動けなかったブロッケンマンは直接地面へ激突。見た感じでは大ダメージを負った。

 

「やったーっ!クリーンヒットじゃっ!!」

 

この技は、かけられた側の足を封じてさかさまに地面に落下するため、かけられたほうが逃げることはまず難しい。

 

おまけにこの技は手刀で切り抜けられる範囲が狭く、仮に切り抜けられたとしても衝撃を腕か体全体で受け止めなければならないので、かけられた側の上半身への大ダメージはまず必至なのである。

 

彼の必殺技である「―元祖―ベルリンの赤い雨」も一時的に防ぐことが出来る。

 

「ぐおおおお…」

 

技をかけられて苦しいのか、ブロッケンマンは地面にうずくまっている。

 

叫び声から察するに、結構なダメージが入っているようだ。

 

「痛いかブロッケンマン!だが倒された仲間たちの痛みは」

 

「こんなものではないぞッ!!」

 

倒れているブロッケンマンを無理やり起こし、軍服の胸ぐらをつかんだ次の瞬間

ラーメンマンはブロッケンマンのアゴをつかみ、彼の首を絞めるような体勢をとった。

 

プロレス技の中にある絞め技の一つ「ネック・ハンギング・ツリー」である。

 

「ネッグハンギングだッ!!これで勝負は決まったぞ!!」テリーは自信を持って叫ぶ。

 

「…今までの私なら、ここで相手に命乞いをすることを強要したのだろうが…」

 

「あいにく、今の私は非情の鬼、ラーメンマン!攻撃の手は緩めん!」

 

「ぐぐ…」

 

自らの首を絞められ、額から汗を流しながら苦しそうな表情を浮かべるブロッケンマン。

 

しかし…

 

「ヘへへ…」

 

彼はその表情から一転、先ほどのようなニヤついた表情へと変化した。

 

それからすぐに絞められていた首から絞り出すような声で彼はラーメンマンを再び揶揄した。

 

「非情の鬼?…何言ってんだ。ラーメンマン」

 

「おめえは…残虐超人だろうが…!」

 

「!!」ラーメンマンは目を見開いた。

 

「くっ…」

 

その時、ラーメンマンがブロッケンマンの首をつかむ力が少し弱くなった。

 

「ざ…残虐…!」

 

「ラーメンマン!お前は正義超人だ!残虐でも悪魔でもない!私たちの仲間だーっ!」

 

見るに耐えられず、ロビンはリングに向かって悲痛な声で叫んだ。

 

しかし、その声空しくラーメンマンはついにブロッケンマンを絞めていた手を緩めてしまった。

 

「せやっ!!」

 

次の瞬間、これがチャンスだと言わんばかりに、ブロッケンマンはすぐさまラーメンマンの横腹にケリを入れた。

 

「うっ…!」

 

横腹を打たれた痛みに耐えきれず掴んでいた手を放し、リングの上に倒れこむラーメンマン。

 

その時の彼の表情は痛みと技を破られた絶望感に満ちていた。

 

「へっ、せっかくの十八番(オハコ)もこれか」

 

「なにが"伝家の宝刀"だ。とんだ"諸刃の剣"じゃねえか」

 

そう言うブロッケンマンの顔は何一つ色を変えていなかった。

 

あれほどの技を受けていたのだ。少しくらい疲弊の色があってもおかしくない。そのはずなのに。

 

「な…なんだと?」

 

「が…"九龍城落地"も"ネッグハンギング"も全く効いてなかったというのか…」

 

倒れこむラーメンマンを見て絶望するキン肉マン達。

 

「へっ、俺があれしきの技でくたばるかよ」

 

「お前らの仲間だった…えっと」

 

「アシュラマンだ」ウォーズマンが補足するようにブロッケンマンに伝える。

 

「そう、アシュラマンの技のほうがまだ強力だったぜ」

 

「第一、俺の武器は手刀だろ?お前の技で多少のダメージが入ってるとはいえ、俺の手を封じないでどうすんだ」

 

「くっ…」

 

倒れこんだまま顔をゆがませたラーメンマン。

 

その表情は文字通り「絶望に満ちた表情」であった。

 

今、この状況において正義超人側には「流れ」が来ていない。

 

技が効いていなかったことがわかると、ますます正義超人側が発している「流れ」が悪くなっていくのがわかった。

 

残虐超人側に「流れ」が来ている今、ブロッケンマンはこの状況に応じてラーメンマンを完全に叩きのめすだろうと思われた。

 

「くく…」

 

しかし、次の瞬間ブロッケンマンの口から耳を疑うような一言が発せられた。

 

「ラーメンマン、お前さ」

 

 

「戻れよ」

 

 

「…なに?」

 

「戻って来いよ、ラーメンマン」

 

「残虐超人界によぉ」

 

「な、なんだと…?」

 

残虐超人にとって圧倒的有利な状況の中、突如としてブロッケンマンの言葉から発せられた意味深な「オファー」。

 

果たしてこれが意味することとは…?

 

                 -続く-

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話「分裂の危機」

最後の残虐第10話です。ラーメンマン達がかつて超人オリンピックが行われたスタジアムで戦っていた頃、スタジアムの外ではキン肉マンとテリーマンに頼まれて来た正義超人たちがスタジアムを囲むようにして周辺を陣取っていた。しかし、ブロッケンマンが決闘前に行った「あること」が原因でとんでもないことになっていて…?
 果たして正義超人たちはその危機を脱することが出来るのか?そして、ラーメンマンは自身の葛藤を乗り越えることが出来るのか?


スタジアム内でラーメンマン達が戦っていたころ…

 

スタジアム 外

 

時を同じくして、スタジアムの外には多くの正義超人たちが集まっていた。

 

ロビンがラーメンマンを探していた時に、キン肉マンとテリーがスタジアム防衛の仲間を探すべく、様々な正義超人に呼びかけていたのだ。

 

その規模はおおよそ80人くらい。とりあえず日本にいた超人たちを片っ端から呼び寄せてここに集まってもらったという事らしい。

 

これでとりあえず、スタジアムを囲うことが出来るくらいの人数が集まったので、ひとまずこれで一安心…

 

…かと思ったが、どうやら一つ、大きな問題が発生したようだ。

 

ざわ ざわ ざわ…

 

スタジアムの周りを守っている正義超人からさらに外側を囲んでいる大勢の観客。

 

対ブロッケンマンと正義超人の試合を見に駆け付けた観客たちだ。

 

スタジアムの周りを囲むようにできた数えきれないほどの黒山の人だかり。そして、なにやら殺気だったような雰囲気。

 

お世辞にも彼らの態度は友好的とは言い難かった。

 

それもそのはず。現在スタジアムへと観戦に来ていた人たちは中に入れないのだ。

 

スタジアムの外には中の様子を一切見せないようにするため、スタジアムの内周を多くの正義超人と、その外周に騒ぎを聞きつけた警察が配備されていて、簡単には中に入れないようになっていた。

 

例えるなら、某漫画の外敵から身を守るための「壁」と認識してもらえたらいいと思う。

 

せっかく試合を見に来たのに、スタジアムには多くの警察と超人たちが壁を作って中に入れさせまいとしている。

 

観客たちのほとんどは試合を楽しみにして来ていたわけだから、とうぜん何人かは納得がいかず、怒り始める人も出てくるだろう。

 

これがまだ少人数だったら、まだ事情を言って帰ってもらうことが出来たのかもしれないが、現状では数えきれないほど人で埋め尽くされており、とても説得が出来そうな規模ではなかった。

 

おまけにこの状態だと、いつ観客の怒りが伝染して最終的には暴徒と化すかわからない状況でもあったため、まさに一触即発の状態だった。

 

そんないつ何かしら起こってもおかしくない状況の最中、その作られた壁の一部、スタジアムの入り口付近を守っているとある2人の超人。

 

超人オリンピックカナダ代表「カナディアンマン」と、テリーマンと同じアメリカ代表「スペシャルマン」がお互いに向かい合って話し込んでいた。

 

「いや、まいったなぁ…スペシャルマン」

 

「そうだね…カナディアンマン」

 

「テリーマンとキン肉マンにスタジアム外の警備を任されたのはいいんだが」

 

「どうして…」

 

 

「中に入れさせろ-ッ!スタジアムの中はどうなってるんだーっ!!」 

 

「俺たちは試合を見に来たんだぞーっ!何でスタジアムの中に入れないんだーっ!」

 

 

「こんなに騒がしいんだ?この試合は非公式試合ってことになってたんじゃないのか?」

 

頬杖を付き、憂鬱そうな表情をしながら人が押し寄せている方を見る2人。

 

今更だが、どうやら今スタジアム内で行われていた試合は非公式試合だったようだ。

 

どうりで実況者や解説、観客がいなかったわけである。

 

「カナディアンマン、2日前のテレビ見てなかったの?」

 

「ああ。俺はずっと山の中で薪の素材になる木を切ってたから、テレビは一切見てなかったんだよな…」

 

「いったい何があったんだ?」

 

「ブロッケンマンがテレビで正義超人を殲滅するって"挑戦状"の声明を出したんだよ」

 

「"俺はお前たちに挑戦状を叩きつけるーっ!"って感じにさ」

 

「へぇ。そいつは知らなかったな。俺はテリーマン達が来てようやくブロッケン達が戦うってことを知ったからさ」

 

「2日前にそんなことが起きてたとは知らなかったぜ」

 

「思い切ったことをしたよね…そのブロッケンマンって超人もさ」

 

「これなら多くの超人が集まるし、主力級の超人もここに集まってくるもんね」

 

「ただ、それにしたっておかしいぞ。そいつがテレビで正義超人に声明を出したとはいえ、いったいどうしてスタジアムの外に多くの観客が集まってるんだ?」

 

「うん…実はその映像、全国ネットで放映されてて結構多くの人が見てたみたいなんだ」

 

「それをSNSとか動画サイトに映像を投稿して、それを見た多くの人がここに集まってきたって感じみたいだね」

 

「くそ…ブロッケンマンのやつ、はた迷惑な話だぜ」

 

「挑戦状を送るんなら矢文とか郵便で出せばいいのに」

 

「そ、そうだね…」

 

若干引き気味に受け答えをしたスペシャルマン。

 

確かにカナディアンマンの言ったその方法は便利、かつ合理的なので送る方法としては一理あるかもしれない。

 

ただ、その場合だと矢文で挑戦状を送るならまだしも、郵便で出した場合は結構シュールな絵面になりそうである。

 

「あれ?そういえばブロッケンマンって…第20回の超人オリンピックでラーメンマンに真っ二つにされたやつだよな?」

 

「もう死んでるはずなのに、どうして正義超人と戦ってるんだ?」

 

「真っ二つにされたけど、実は生きてたとか?」

 

「まさか。後で聞いた話だと、完全に真っ二つにされたって話だったんだぜ?」

 

「仮に生きてたとしても、再起することはできないだろ」

 

「そこらへんはボクもよくわかんないよ。詳しいことはよくわからないし」

 

「そうだよな…」

 

「っていうか、俺たち配備されたのはいいけど詳細な事情は何も知らされてないんだよな」

 

「警察だってこの騒ぎを聞きつけて配備されたようなもんだし、もうよくわかんないよね…」

 

スペシャルマンがやれやれと呆れたような、困ったような表情を浮かべていた

 

その時。

 

ワー!ワー!

 

「ん?」

 

スタジアムの外周から聞こえてくる、明かに異質な喧噪。

 

 

「入・れ・ろ!入・れ・ろ!」

 

 

スタジアムの周りから一斉に聞こえてくる「入れろ」コール。最初は一部でしか聞こえていなかった怒号は瞬く間に観客内に伝染し、ものの数秒でほぼすべての観客が怒号をまき散らすようになった。

 

「お、おいおい…まずいんじゃねぇか?あれ」

 

「下手したら外の壁が壊されちまうんじゃ…」

 

「う、うん…準備しといたほうがいいかも」

 

観客の流れを何とか食い止めようと2人が臨戦態勢を整えようとしていた…

 

次の瞬間。

 

ガシャーンッ!

 

暴徒と化した観客たちが一斉にバリケードを破り、2人がいた場所とは少し離れた場所において、警察で構成された「外壁」を突破した。

 

多くの観客が超人たちの守る「内壁」へと入ってくる事態となってしまった。

 

「や、やべえ!バリケードが壊された!」

 

「いかん!このままでは観客たちがスタジアムの中に入ってしまうぞ!」

 

「みんな!守備陣形を崩さず壁になるんだっ!」

 

「人っ子一人スタジアムの中に入れさせるなーっ!」

 

多くの超人たちが焦る中、守備に当たっている超人たちをまとめるために裂けんばかりの大声を上げたカナディアンマン。

 

その後、その声を聴いたスタジアムの周りを囲っていた正義超人たちはお互いの腕を組み、まるでラグビーの守備陣形の一つである「スクラム」のような形となって観客の方へと突っ込んでいった。

 

果たして彼らは暴徒と化した観客たちを止めることはできるのだろうか?

 

それに関してはまたのちほど話すことにしよう。

 

スタジアム 場内

 

さて、場面は変わって、スタジアム場内。

 

ラーメンマンは前回、ブロッケンマンに残虐超人の総帥へと戻ることを勧められ、それに対して彼が面食らうといったところで話が終わっていた。

 

「戻って来いよ、ラーメンマン」

 

「残虐超人界によぉ」

 

「!!」

 

突然の言葉に対し、すぐに反応できなかったラーマンマン。

 

しかし、彼はすぐに気を取り直し、冷静に言い返す。

 

「ふふ…」

 

「驚いたな。残虐超人も冗談が言えるのか」

 

「私は何も変わってはいない。むしろ追い詰められているのはそっちのほうじゃないのか?」

 

「"正義超人"である私に"残虐超人"に戻れなどと…的外れにもほどがあるぞ」

 

「へっ、バカ言うんじゃねぇぜ。そんなハッタリが俺に通用するかよ」

 

「特に"正義(ちゅうとはんぱ)"に目覚めちまったおバカさんにはよ…」

 

リングの上で倒れこんでいるラーメンマンに対し見下ろすようにして返したブロッケンマン。

 

「…何だと?どういう意味だ」

 

語気を強めてブロッケンマンに問うラーメンマン。

 

彼が正義超人を侮辱したことに対する静かな怒りをブロッケンマンにぶつけていることは、誰から見ても明らかだった。

 

「特に意味はねえ。ただ俺の言いたいことを短く言ったまでだ」

 

「気に食わんな、私たちの何が不満だというんだ?」

 

「不満?へっ、愚問だな」

 

「あるからこうして戦ってんじゃねえか」

 

「ラーメンマン、奴の挑発に乗るんじゃない!」

 

「冷静になるんだッ!!」

 

「ムキになればなるだけ奴らの思うツボだぞッ!!」

 

ロビンは彼に向かって叫んだがラーメンマンには聞こえていなかった。

 

よほどさっきの言葉が気に入らなかったのだろう。彼の言葉にところどころではあるが、感情的な一面が見える。

 

「へへ…いつもは冷静な超人博士さまも、こうなりゃぁ形無しだな」

 

「まぁ…ムキになるのも仕方ねぇわな。なぜならお前は」

 

 

「迷っているからなぁ…」

 

 

「なに…?」

 

「そういえばよ」

 

「聞いた話じゃお前、俺が死んだ後、とある試合で"情け"をかけたそうじゃねえか?」

 

「!!」

 

「仮にも残虐超人の総帥だった奴が"情け"をかけるたあな…文字通り、情けねえぜ」

 

「だ…黙れっ…!」

 

「情け」をかけた試合とは、おそらく「超人オリンピックザ・ビッグファイト」でのウォーズマンとの戦いのことを言っているのだ。

 

彼はこの試合で、先ほどブロッケンマンに対してかけた技「ネッグハンギング」をかけた際に、ブロッケンマンの言う「情け」をかけてしまい、その隙を付かれたウォーズマンにスクリュードライバーで頭を貫かれてしまった。

 

結果的にラーメンマンはこの戦いに敗北。それだけではなく、彼は一時的に「生身の体」ではリングに上がることが不可能な体となってしまった。

 

「ラーメンマン!いいことを一つ、教えてやるぜ」

 

「今のお前には"キレ"がねぇ…」

 

「それも一番最悪な、自分を見失ってる状態での"キレ"のなさだ」

 

「それは何かをやめたとき、自分が長い間やっていたことを突然やめちまった奴に起こりやすいのさ」

 

「てめえは"残虐超人"になることをやめた…いや?未練がある形でキン肉マン達と協力することになった」

 

「実力が中途半端になるのは当然だぜ」

 

「…何が言いたい?」

 

「さっき言っただろ。戻って来いって」

 

「結局はよ、お前は"残虐"になることをやめちまったから自分を見失ったんじゃあねえのか?」

 

「息子の言うとおりだぜ。お前の居る所は"正義"と謳っちゃあいるがしょせん、単なる烏合の衆…」

 

「ちょっとでも(ほころ)びがあれば容易に崩れる…仲間なんてのはそんなもんよ」

 

「さっき言った、中途半端になる原因でもあるのさ」

 

「……」

 

「戻って来いよ、ラーメンマン」

 

「おまえは総帥として君臨してたほうが、よっぽど性に合ってる」

 

「もう一度"残虐"になって"完璧"なラーメンマンに戻ろうじゃねぇか」

 

「……」

 

彼の一通りの演説を受けたラーメンマンの表情は訝しげだった。

 

正義超人自体を否定するつもりは毛頭ないのだろうが、彼自身、残虐超人界に対して何かしら思うところがあるのだろうか。

 

そんな感じの表情だった。

 

「ラーメンマン!まさかお前…」

 

この状況にいたたまれなくなり、ついに二人の間に割って入ろうとリングに向かって走り出そうとしたキン肉マン。

 

「待て、キン肉マン」

 

しかし、そんな様子のキン肉マンをロビンが立ちふさがる形で制止した。

 

「ロビン、なぜ止める!お前はこのままラーメンマンがあの頃に戻ってもいいというのか!?」

 

「違う!…私も、ラーメンマンには残虐超人に戻ってほしくはない」

 

「だが、あれはラーメンマン自身の問題なんだ。私たちが介入できることじゃない》

 

「アイツの判断に、任せるんだ」

 

「くっ…!」

 

「…わかった」そう答えるキン肉マンの表情はいつになく不満げだった。

 

「……」

 

ロビンも、自分の中にある何かを抑え込むようにキン肉マンを諭したといったような感じだった。

 

今、ラーメンマンに与えられた選択肢は2つ。

 

一つは、このまま正義超人として生き、キン肉マン達とともに超人界を守っていくこと。

 

もう一つは彼の言う「残虐超人界」に戻り、再び総帥として君臨し「残虐超人」の派閥を復活させること。

 

「ラ…ラーメンマン…」

 

(私は…私は)

 

(どうすればいいのだ…!)

 

突如、残虐(マダー)にささやかれた甘いささやきにたじろぎ、どうしたらいいのかわからなくなってしまった非情の鬼、ラーメンマン。

 

いや、あの時(スタジアムでウォーズマンに言われた時)にうやむやにしていた決断を

いま迫られているといったところなのか。

 

窮地に立たされた非情の鬼は果たして、未来の超人界を左右するであろうこの勧誘(オファー)にどのような答えを出すのか。

 

  果たして、次回までに明らかになるのか…?

 

                ―続く―

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話「葛藤を乗り越えろ」

最後の残虐第12話です。先週は急用で作品を投稿できなかったので、今週は少し多めに文章を載せています。
 ブロッケンマンに正義超人から残虐超人への転身を迫られたラーメンマン。果たして彼はブロッケンマンのオファーに、そして自身の葛藤にどのような結論を出すのだろうか?


―スタジアム 場内―

 

「……」

 

「戻って来いよ、ラーメンマン」

 

「もう一度"残虐"になって"完璧"なラーメンマンに戻ろうじゃねぇか」

 

「……」

 

「ラ…ラーメンマン」

 

困惑しながらラーメンマンを見つめる正義超人たち。

 

その見つめられている本人は両の手を強く握り、額に汗をかいていた。

 

事の発端は第20回超人オリンピックが行われたスタジアムにて「ラーメンマン&ブロッケンJr」対「ブロッケンマン&ウォーズマン」のタッグバトルが行われていた中でのことだった。

 

 突如としてラーメンマンはブロッケンマンから残虐超人の総帥に戻ってくるようにとの勧誘(オファー)を受けたのだ。

 

ブロッケンマンからの突然のオファーに驚くラーメンマン。最初は冷静さを欠いてはいなかったのだが、ブロッケンマンの演説を受け、徐々に冷静さを失っていった。

 

その結果、以前ウォーズマン(その時は「謎の男」)に言われていた一言もあって彼はさらに大きな葛藤を抱えてしまうのであった。

 

迫りくる決断の時。果たして彼はどんな決断をするのか?

 

「さあ、どうした?ラーメンマン」

 

「試合が止まってるぜ。早く決めてくれよ」

 

考え込んでいるラーメンマンに対し、早く回答をするように急かすブロッケンマン。

 

急かすことによって、彼の判断を鈍らせようとしているのだ。

 

「……」

 

依然としてリング上で 沈黙を守っているラーメンマン。

 

それから少しの間、ラーメンマンは眉をひそめながらうつむいたままその場に佇んでいた。

 

事が動いたのは、ブロッケンマンの言葉からしばらくたってからのこと。

 

ラーメンマンはついに下げていた顔を上げ、重い口を開いた。

 

「…完璧、か」

 

「…ブロッケンマン」

 

「お前は「完璧超人」を知っているか」

 

暗い表情のままブロッケンマンに向けて問いかけるラーメンマン。

 

長い沈黙の後、彼が絞り出した言葉はそれだった。

 

その問いかけが意味することとは一体何なのだろうか。

 

「…何?」

 

「知らねぇな。何だそいつらは」

 

「"完璧超人"というのは」

 

「"心・技・体"すべてにおいて完璧であり、超人界においてもっとも気高い超人とされている一族…」

 

「ブロッケンマン、お前が死んだ後に現れた超人だ」

 

「ほう…」

 

それを聞くや否や、ブロッケンマンは闇を纏った目を光らせた。

 

彼の説明に捕捉を加えるとするなら、代表的な超人は「ネプチューンマン」であるということだけだ。

 

ラーメンマンは「夢の超人タッグ編」にて、彼とペアであった「ビッグザ武道」こと「ネプチューンキング」達の放つ磁力攻撃の前に敗れ去っている。

 

もし彼がアシュラマン達に「友情」をコントロールされず、元の状態のままで彼らと戦っていたら、もしかしたら勝利を収めることが出来たのかもしれない。

 

「私は、彼らの研ぎ澄まされた完璧な攻撃の前に敗れ去ってしまった」

 

「ただ、向こうにいるキン肉マンをはじめとした"正義超人"は"完璧超人"に勝つことが出来た」

 

「ブロッケンマン、これがどういうことかわかるか?」

 

「…何が言いたい?」

 

怪訝な表情でラーメンマンの方を見るブロッケンマン。

 

その表情を一瞥すると、一拍おいたのちラーメンマンは口を開いた。

 

「総帥の頃の自分、純粋な"残虐"では"完璧"を倒すことはできない」

 

「ましてや、それに打ち勝った"正義"を倒すことなど、尚更できない」

 

「…ということだ」

 

ラーメンマンは冷たく、重い声でブロッケンマンに言い放った。

 

どうやら、ラーメンマンは自分が未熟であったために仲間を捨て、そして敗北の味を知らされることになったと考えていようだ。

 

勝利のためにかつての仲間さえも犠牲にする純粋な「残虐超人」の考え方があの時まだ残っていたことを、ラーメンマンは今までずっと悔やんでいた。

 

そのことをロビン以外の全員に今、自分の考えていたことを伝えたのである。

 

「別にキン肉マン達を倒そうというわけじゃない。私が強くなるためには」

 

「強くなり続けるためには…どうしても"正義"が必要だ」

 

「そして同時に、互いを高めあい共に強くなっていくための"仲間"が必要なんだ」

 

「仲間がいたから…正義超人は完璧超人を倒すことが出来たんだ」

 

「私は、強くなることが出来たんだ」

 

「ラーメンマン…」

 

神妙な面持ちで腕を組みながらラーメンマンの演説を聞くロビンマスク。

 

彼の今まで不安そうな表情だったのが徐々に薄れていく。

 

「私はもう、純粋な「残虐」には戻らない。なぜなら…」

 

「仲間と高みを目指したこの実力を…お前にぶつけるからだッ!!」

 

「そしてお前を倒す!いや」

 

「倒さなければならないッ!!」

 

「かつての小さかった、私を超えるためにッ!!」

 

ラーメンマンは指を差し、ブロッケンマンに対して強く、そして勇ましくそう言い放った。

 

もう、彼の表情に未練と迷いはなかった。

 

「ラーメンマン…」

 

「…私たちが心配するまでもなかったようだな」

 

「ふふ…相変わらず一途(クール)な奴だぜ」

 

キン肉マン、ロビン、テリーの3人は口々にそう言った。

 

自分は残虐超人としてではなく、正義超人として仲間と共に高みを目指していきたい。

 

この言葉が、今まで様々な経験を通してきた彼の答えであった。

 

一度惚れたら自分の最期まで惚れぬく…それがラーメンマンという男なのかもしれない。

 

「…へっ、御大層だな」

 

「要は自分の成長を止めたくねぇから、総帥になることを断る…」

 

「残虐超人になることを断ると…そう言いてぇんだな?」

 

「そういうことだ」

 

「ちっ、情けねぇやつだ」

 

彼の決意表明に対し、不満そうな表情を浮かべたブロッケンマン。

 

露骨な舌打ちが彼の機嫌の悪さを物語っている。

 

「そんなに"正義"が強いってんなら証明してみろよ」

 

「「残虐(おれ)」より強いってことをよぉ!!」

 

ブロッケンマンは彼に向かってダッシュしたかと思うと、リングの上を大きく飛び、空中で手刀を自分の胸の前に交差させた。

 

「自分が強くなるために"正義"が"仲間"が必要だぁ?…甘ぇこというんじゃねぇ!」

 

「その腐った根性を持っちまったことを…後悔させてやるぜッ!!」

 

「あっ、あれは!!」

 

「-元祖-ベルリンの赤い雨の態勢だ!!」

 

ブロッケンマンはそのまま手刀を前に交差した状態で彼の元へと向かってくる。

 

「させるかっ!」

 

ラーメンマンはブロッケンマンが飛んだと同時に、リングのロープを利用してジャンプした。

 

金網によって運ばれた彼の体はそのままブロッケンマンの元へと向かっていく。

 

「空中殺法"ベルリンの赤い雨"ッ!!」

 

「"残虐"にひれ伏せーッ!!」

 

次の瞬間、あの独特な切り裂き音とともに、ラーメンマンの胸に大きな「×(ペケ)」の文字が刻まれた。

 

ズブッ!!

 

「ぐっ…」

 

「ラーメンマン!!」

 

悲痛に叫ぶロビンマスク。

 

だが、この時のラーメンマンの表情は一瞬だけ苦悶の表情はあったものの、どこか余裕のある様子だった。

 

「へへ、口ほどにもねえな!」

 

「これでとどめを刺してやる!!」

 

「くらえっ!チキンレッグウィッ…」

 

空中でブロッケンマンがラーメンマンの足をとらえ、足技の一つである「チキンレッグウィッグ」が決まったかのように思えた。

 

しかしその時、ラーメンマンの細い目がカッと開いた。

 

「っ!?」

 

驚きを隠せないブロッケンマン。意表を突かれた、というような表情だ。

 

「甘いぞ!ブロッケンマン!」

 

(ガシィッ!!)

 

次の瞬間、ラーメンマンは彼を掴もうとしているブロッケンマンの足をつかんだ。

 

そしてブロッケンマンを抱えたまま金網の方へと落下していった。

 

「!!」

 

「な…なにぃ…」

 

「ブロッケンマン…」

 

「お前が用意した金網、少し借りるぞッ!!」

 

それからほどなくして、金網を踏んだ彼は反動で勢いよく上昇。

 

恐らく今まで彼が飛躍した高さの中では間違いなく高度が高い部類に入る、それくらいにインパクトのある飛翔だった。

 

その姿、まるで雲海を泳ぐ龍のごとく。

 

「ラーメンマン!いったい何をするつもりだ!!」

 

2人が浮いている方を向いて叫ぶブロッケン。

 

龍はそのまま宿敵の足を掴んだまま彼を下にして勢いよく下に落下していった。

 

彼はもう一度あの「技」を放つつもりだ。

 

「いいかブロッケン!!よく見ていろッ!!」

 

「私のような正義超人は…」

 

「このように戦うんだッ!!」

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 

九龍城落地(ガウロンセンドロップ)ーッ!!」

 

 

ラーメンマンの大技が、彼の大きな叫びとともにリングを駆け抜けた。

 

ズドォンッ!!

 

ベキィッ!!

 

「ぎゃああああああっ!!!」

 

ブロッケンマンの両腕が、いや上半身が轟音と共に地面に激突し、「ベキッ」という鈍い音が聞こえた。

 

先ほどとは違い、確実にブロッケンマンにダメージが入った音である。

 

「やっ…やったーっ!ラーメンマンがブロッケンマンにダメージを与えたぞーっ!!」

 

キン肉マンが叫んだ瞬間、正義超人側からは大きな歓声が沸き上がった。

 

「そうかっ!2段ジャンプだっ!」

 

「もともと浮き上がっている状態で金網を利用してさらに高度を高くすれば、必然的にあの技の威力は上がる!」

 

「ラーメンマンのジャンプ精度の高さも相まって、技の威力が大幅に飛躍したってわけか!」

 

感嘆が混じった声でテリーマンは今しがたラーメンマンが放った技を半ば興奮気味に分析した。

 

「うぐぐ…」

 

リング外で歓声が聞こえる中、ブロッケンマンは静かに立ち上がった。

 

「!!ブロッケンマンが立ち上がった!」

 

「あれを受けておきながら、まだ戦えるというのか…」

 

驚きの声を上げるキン肉マンとテリー。

 

すぐに場内の歓声は静まり、すべての視線がブロッケンマンに向けられた。

 

「へへ…やるじゃねぇか」

 

ブロッケンマンの口元からは、口を切ったのか少し血が出ている。

 

オマケに少しばかりだが腕も負傷しているようだ。

 

「少し油断しちまったが…次はもう食らわん」

 

「必ずお前らを仕留めてやるぜ…」

 

ブロッケンマンは口から流れている血をぬぐいながらそう吐き捨て、去って行った。

 

強がってはいるようだが、彼の声は明らかに今までの声とは違っていた。

 

震えるような、かすれたような、そんな声だ。

 

するとブロッケンマンは去り際、ふいに後ろを振り返った。

 

そして鬼気迫る表情で正義超人たちに向けて指をさし、叫んだ。

 

「ラーメンマン、そして息子よ」

 

「よく…覚えておくんだな!技ってのは」

 

「やり方や掛け方によっては、十にも百にもなるってことをッ!!」

 

そう言うと、ブロッケンマンは肩を回しながらウォーズマンの元へと歩いて行った。

 

「……」

 

去っていくブロッケンマンを黙って見る正義超人たち。

 

それからしばらくして、半ば感情的にキン肉マンが口を開いた。

 

「なにをーっ!負け惜しみを言いおって!」

 

「今に減らず口を叩いたことを後悔させてやるわいッ!!」

 

「まあ、落ち着けキン肉マン。とりあえずブロッケンマンに一矢報いることができたんだ」

 

「今は俺たちがラーメンマンとブロッケンに対して何ができるのかを考えるのが先だぜ」

 

そう言うと、テリーはキン肉マンの肩にポン、と手を置いた。

 

「うぐぐ…手助け出来んのがもどかしいのう」

 

「テリーの言うとおりじゃ。どうにかして2人にしてやれることはないかのう・・・」

 

テリーの慰撫(いぶ)により、キン肉マンはいったん落ち着いた。

 

しかし、それからすぐに彼ははたと、我に返った。

 

「…んん?しかしどういうことじゃ?十にも百にも…とは」

 

「う~む、わからんのう」

 

「まあとにかく、これでなんとかブロッケンマンにダメージを与えることが出来たな」

 

「一時は攻略不可能とも思われた"―元祖―ベルリンの赤い雨"だったが…攻略する方法はありそうだ」

 

技を攻略することのできた安心からか、テリーとキン肉マンはこわばった表情を少し緩めて会話をしていた。

 

しかし、皆が安心する中この男だけは額に汗をにじませていた。

 

この戦いに対して、みんなとはまた違った心持ちで観戦している男、ロビンマスクである。

 

「……」

 

(確かに…)

 

(確かに、あの技"自体"は攻略できたかもしれない)

 

(だが…おかしい)

 

ロビンは、ブロッケンマンの必殺技についてさらに深く考えていく。

 

どうにも拭えない違和感。ロビンはそれが気がかりで仕方がない。

 

(どうして、技を破られた側が全く動揺していないんだ…?)

 

(そして、あの時のブロッケンマンの言葉…)

 

 

「覚えておくんだな!技ってのは」

 

「やり方や掛け方によっては、十にも百にもなるってことをッ!!」

 

 

「…ラーメンマン」

 

「お前は今、奴の術中にはまっているのかもしれないぞ…」

 

ロビンの顔には「不安」という暗雲が立ち込めて始めていた…。

 

そしてこの男もまた、ブロッケンマンに対して違和感のようなものを覚えていた。

 

「…ブロッケンマン」

 

彼の脳裏にブロッケンマンが放った言葉がよみがえってくる。

 

 

「そんなに"正義"が強いってんなら証明してみろよ」

 

「"残虐(おれ)"より強いってことをよぉ!!」

 

「自分が強くなるために"正義"が"仲間"が必要だぁ?…甘ぇこというんじゃねぇ!」

 

「その腐った根性を持っちまったことを…後悔させてやるぜッ!!」

 

 

(・・・妙だ。なぜそこまでして"正義"を消そうとする?)

 

(ブロッケンマン・・・おまえは一体何を考えているんだ?)

 

ロビンとはまた別の問題でブロッケンマンに対して違和感を覚えていたラーメンマン。

 

互いに腑に落ちない何かを抱えながら、試合は一時休憩となった…。

 

リング外 ―残虐チーム側―

 

一方そのころ「残虐超人」側では…

 

「お…おい、大丈夫かブロッケンマン」

 

ウォーズマンはそう言うと、ブロッケンマンにタオルを渡した。

 

「へへ、問題ねぇ。このくらいかすり傷よ」

 

ブロッケンマンはタオルを受け取った後、汗をタオルで拭いつつ両方の肩をかわりばんこに回しながらそう言った。

 

グキィッ!

 

その時、彼の肩から鈍い音がした。

 

骨折、というほどではないにしろ、体に何かしらの異常をきたしている音であった。

 

「うぐっ!」

 

「あたた…」両腕を抱くようにして痛みを抑えようとするブロッケンマン。

 

やはりラーメンマンの必殺技は効いていたのである。

 

「おいおい、大丈夫か!」

 

「無理をするなッ!」

 

「へへ…大丈夫だ」

 

「心配ねぇ…こんな状況は慣れっこよ」

 

心配する相棒に対してブロッケンマンは額に汗をにじませながら薄く笑い、返答した。

 

「そ、そうか…」

 

「なら…よかった」

 

ウォーズマンがとりあえず安心したことを確認すると、彼は表情を強張らせながら本題に移る。

 

「だが…やはり一筋縄ではいかねぇか」

 

ブロッケンマンがため息交じりにそう言うと、二人はリングの反対側で話し合っているラーメンマンたちを見た。

 

余裕そうなそぶりはないものの、ブロッケンマンに対して一矢報いることが出来た安心感からか、少しほっとしたような雰囲気が見られる。

 

「まさかこんなにもはやく俺の技の弱点を見切ってくるとは思わなかったぜ」

 

顎に手を付きながらリングの反対側を見るブロッケンマン。

 

自分の技に対して割と早い段階で反撃してきたことが意外だったようである。

 

「くそ…やはり難しいのか」

 

「ラーメンマンとブロッケンJrが相手では…」

 

両腕の拳を握りしめて悔しそうに下を向いているウォーズマンに、ブロッケンマンは彼の肩にそっと痣の残る手を置きニヤリと笑った。

 

「へへ、まぁそんな暗い顔すんなよ」

 

「俺の技は破られた訳じゃねぇんだからさ…」

 

「まだまだ俺の刃は健在だ。今にきっと、俺を仕留め損ねたことを後悔するだろうぜ」

 

「あの様子じゃあ、まだ完全に弱点を見破られたって訳でもなさそうだしな・・・」

 

「えっ、ベル赤は破られたんじゃないのか?」

 

目を丸くしながらウォーズマンは素っ頓狂な声を上げた。

 

「へへ…俺を誰だと思ってるんだ」

 

「あんなチンケな技で破られるほど、俺のベル赤はやわじゃねぇよ」

 

「それに、息子を含めアイツらはベル赤の真髄を知らねぇ…「ベルリンの赤い雨」の本当の恐ろしさをな…」

 

「そ、それは一体…?」

 

「クク…見てろよ偽善超人ども」

 

「証明してやる。"残虐"は"正義"より強いってことをよ!」

 

そう言い、不敵に笑うブロッケンマン。

 

その目は相変わらず、狂気にも似たどす黒い雰囲気を(まと)った目だった。

 

果たして、正義超人はブロッケンマン達を倒すことが出来るのか?

 

スタジアムにかかる雲は、いまだに晴れず…。

 

                -続く-

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話「超えた30分、鬼の戦略」

最後の残虐第13話です。第20回超人オリンピックが行われたスタジアムにて、紆余曲折あったこの非公式試合も、そろそろ30分が経過しようとしていた。正義超人たちはウォーズマンの弱点である「30分しか戦えない」という弱点を気にし始めていたが、残虐超人側は特に変わった様子はない。これが意味することとは一体何なのだろうか。


第20回超人オリンピックが行われたスタジアムにて…

 

ブロッケンマンがラーメンマンに対し「果たし状」を突き付けた形で始まったこの非公式のベストマッチはお互いの技と技がぶつかり合う激しい戦いだった。

 

まず、ラーメンマンの攻撃に対するブロッケンマンの切り返しから始まり、互いに戦う順番を交代しながら戦局を進めていた。

 

 試合が動いたのは戦闘が始まってそれからしばらくたった頃、ラーメンマンがブロッケンマンに対し、意表を突いた攻撃でブロッケンマンに大ダメージを与えた。これによりラーメンマンの葛藤はとりあえず解消し(雰囲気的には)、正義超人の中にあった不穏な空気が一転、勝利への糸口が出来たことへの安心感へと変わりつつあった。

 

ただ、この戦いはお互いの勝利に対する「流れ」が拮抗しており、正義超人、残虐超人共々どちらかがその流れになるのかもわからない状態だった。勝敗がどっちに転ぶかが完全にはわからない、という事である。

 

しかも、正義超人側はまだブロッケンJrとの仲違いを解消しきれておらず、その問題の解決もしなければいつパートナーとの仲に亀裂が生じてしまうかわからないといった状況でもあった。

 

字面だけ見れば今のところ正義超人側が若干不利、と言ったところなのだろうか。

 

そんな「流れ」が不均衡な状況の中、かつて第20回目の超人オリンピックが開催されたスタジアムで行われている試合。

 

その試合時間がそろそろ30分を過ぎようとしていた…。

 

スタジアム 場内

 

「試合時間が30分を過ぎた…」

 

リング上で戦っているのを静かに見据えながらそうつぶやいたテリーマン。

 

「そろそろ、ウォーズマンが戦えなくなるころじゃな」

 

それに答えるようにキン肉マンが腕を組みながら言うと、周りは静かにうなずいた。

 

「だが…おかしいな」

 

「アイツに"疲れ"なんて微塵も感じないが…」

 

キン肉マンの発言を受け、睨むようにしてリングの反対側を見つめるテリー。

 

正義超人たちはいっせいにウォーズマンのほうを見た。

 

確かに、ウォーズマンの戦える時間である30分を過ぎようとしているのだが、一向に疲弊の色が見られない。

 

強敵であるウォーズマンの唯一の弱点であり、今までにおける戦いでも大きな足かせとなった「30分しか戦えない」という彼の欠点。

 

王位争奪戦ではそれが役に立ったこともあった。しかし、やはり欠点であることに変わりはなく、彼は戦いのたびに難儀な思いをしなくてはならなかった。

 

その彼が、タイムリミットである30分を過ぎようとしているのに動揺の色すら見せない。

 

「煙みたいなものも肩から出ていないしな…」テリーの声に答えるようにして言ったロビン。

 

こちらも睨むようにしてリングを見据えている。

 

「何かあるな…」腕を組んで静かにそう言うテリー。

 

何とも訝しげな表情である。

 

正義超人たちはウォーズマンの様子に少しばかりの疑念と焦燥感が漂い始めていた。

 

一方で「残虐超人」陣営では、彼らとはまた別のことで頭を悩ませていた。

 

「…あー、さっきの攻撃で金網が破けちまった」

 

「どうすっかなぁ…」

 

先ほどのラーメンマンのジャンプによって金網の一部がズタズタになってしまっていたのである。

 

予想以上に威力が強かったのかラーメンマンが蹴ったであろう金網の部分に大きな亀裂が入っており、見た感じでは使い物になりそうもなかった。

 

「…ちっ、しゃあねぇ」

 

「ウォーズマン!作戦変更だ!」

 

「この金網を下げるぜ!」

 

「えっ…?」

 

目を丸くしながら素っ頓狂な声を上げるウォーズマン。

 

金網を片付けるという行為が意外だったようだ。

 

「いいのか?だってもともとこれは俺たちが…」

 

「いいんだ。どうせ補助目的で出したって感じだし」

 

「それにこうも派手にぶっ壊れちゃあジャマなだけだろ」

 

「わ…わかった」

 

もたつくようにそう答えるとウォーズマンは近くにあった金網を上げ下げするためのボタンを押し、金網を片付けた。

 

「あ、金網が下がっていくぞ…」

 

「どうやら金網が壊れたんで通常のリングに戻すようだな」

 

腕を組みながら下がっていく金網を見るテリー。

 

「なんじゃい!アイツらが用意したというのに自分から戻すのか!」

 

「金網の用途もようわからんかったし、結局何がしたかったんじゃ?」

 

金網を出した理由としてラーメンマンのジャンプ力を利用するためにこの金網を出したというのを前にブロッケンマンが言っていたのだが…

 

そんなことはとっくに忘れ、ブロッケンマン達に茶々を入れるキン肉マンであった。

 

「まっ、とりあえず元のリングに戻ったわけだが…」

 

「やることは変わらねぇ。どちらかがやられるまで続けるだけよ…」

 

「自分から金網を用意したのに、自分から戻すのか?」

 

「妙な感じだぜ」

 

腕組みをしながらテリーはキン肉マンが言ったことと同じことをブロッケンマンに毒づいた。

 

「へへ…まぁそういうなよ。興が覚めるってやつだぜ」

 

「これからちょっとびっくりすることが起こるんだからよぉ、少しでも余力は残しておいた方がいいんじゃねぇか?」

 

「どういうことだ?」

 

「へへへ…行ってみるか、ウォーズマン!」

 

「…待ってたぜ、その言葉(あいず)!」

 

ブロッケンマンの合図とともにウォーズマンは意気揚々とリングに上がった。

 

彼のその姿は依然として試合前と何ら変わりがない。肩から煙も出ておらず、疲弊も見られない、そんな状態である。

 

「な…何!?ウォーズマンの奴…」

 

「リングから出てきおった!もうすぐ体に異変が出てくるころじゃというのに!」

 

「もうダメだと踏んで出てきたのかっ!?」

 

「…いや、違うぞキン肉マン、テリーマン」

 

ロビンは動揺するキン肉マンに対し、彼の言動を遮るようにしてそう言った。

 

「アイツは恐らく…もうひと試合は戦える」

 

「も、もうひと試合って…」

 

キン肉マンと同じくテリーも動揺しているのか、少し声が上ずっている。

 

「通常時に行われるプロレスの試合時間はおよそ30分。タイトルマッチなんかだと試合時間は無制限であることが多いが…」

 

「アイツは通常の試合×2試合分戦えるようになったってことだ」

 

「…ということは、あいつは常に1時間くらい戦えるようになったということなのか」

 

一連のロビンの説明を受けて納得したようにテリーはうなずいた。

 

「…そういうことだな」

 

「なにーっ!?1時間戦えるようになったじゃと!?」

 

「何とか頑張っても30分が限界じゃったウォーズマンの体に、一体何があったというんじゃ!?」

 

「わからん。ウォーズマンの体に何かしらの変化があったことは確かだが…」

 

(…くっ!)

 

ロビンの怒りがあらわになっているのがわかる。彼は鋭い目つきで拳を握りながらブロッケンマン達の居る方向を睨んでいた。

 

前回も言ったが、ロビンは現在戦っているブロッケンマンをはじめとした超人たちの事情をあらかた知っている状態でこの試合を見ているのである。

 

ブロッケンマンの企みやラーメンマンの葛藤(これはもうほとんど解決したが)、そしてあまり触れられてはいないが、自分と師弟関係にあるウォーズマンの裏切りなんかもあって、終始気を抜けない。

 

ブロッケンマン達が勝つために何かしらの行動を起こす。これだけでも彼にとっては冷や汗ものなのだ。

 

「くそ…ブロッケンマンのやつ」

 

「ウォーズマンに一体何をしたんだ…?」

 

ウォーズマンの急な戦闘継続に動揺を隠せない正義チームをよそに、当の本人たちはほくそ笑んでいた。

 

「へへへ…作戦は成功だな」にやり、と笑うブロッケンマン。

 

「みろよ、アイツらの顔…鳩が豆鉄砲を食らったみたいだぜ」

 

「まさかあの方法が本当に成功するとは…」

 

「感謝するぜ。ブロッケンマン」

 

「くくっ…ま、俺もちと心配だったんだがな」

 

動揺する彼らを見ながら不敵に笑う二人。

 

まさにしてやったり、という感じであった。

 

ただ、なぜウォーズマンは30分しか戦えないという彼の最大の弱点を克服することが出来たのだろうか。

 

それは、彼らが試合に臨む前にさかのぼる…

 

この試合が始まる約30分前…

 

ブロッケンマンとウォーズマンの2人はリングの設置などの試合に関する作業が

あらかた終わり、観客席で正義超人たちの到着を待っていた。

 

「……」

 

スタジアム内に鎮座する長い沈黙。その重苦しいプレッシャーは二人の表情を険しいものにしていた。

 

長い沈黙からしばらくして、ウォーズマンは重い口を開いた。

 

「…そろそろだな」

 

「ああ。そろそろだ」

 

短い会話があったのち、彼らはまたステージの入り口に目をやった。

 

お互いに何か思うところがあるのだろうか、見ている先は同じなのになぜか別々の方向を見ているように思える。

 

「約束の朝9時まであと30分。…ステージの用意もできた」

 

「へへへ…あとは正義超人の奴らが来るのを待つだけってわけだ」

 

ニヤリ、と笑うブロッケンマン。

 

あらかた試合のセッティングが終わったことに安どしているのか、どことなく彼の表情は柔らかかった。

 

しかしそれもつかの間、ブロッケンマンは再び表情を強張らせると、ベアクローを磨いているウォーズマンの方へと向き直り、彼に問いかけた。

 

「それよりウォーズマン…いや、“謎の男”さんよ」

 

「この試合の目的は…わかってんだろうな」

 

「ああ、もちろんだとも。ブロッケンマン」

 

「この試合の目的はラーメンマンを倒すこと、そして息子と戦う事だったな」

 

「そのとおりだぜ。この試合は俺にとって重要な試合であり、かつお前が提案した

“超人狩り”の集大成…」

 

「この試合は何としてでも勝たなきゃなんねぇ。そのためにはお前の協力が必要不可欠だ」

 

2人はお互いに今回の戦いに対する目的を再確認し、戦いに臨もうとしていた。

 

その様子は言動の荒々しさがある反面、あまり殺伐とした雰囲気はなく、少し和やかな空気が場内に流れていた。

 

ブロッケンマン自身にもあの殺人者(マダー)の風格はなく、一人の超人としてウォーズマンと接しているようにも見える。

 

残虐超人版「アイスブレイク」といった感じなのだろうか。

 

「まっ、タッグバトルってこともあるし、お互いにフォローできるところはやろうや」

 

「…ああ、そうだな」

 

しかし、ブロッケンマンの気さくな態度とは相反するように不安げな表情をするウォーズマン。

 

怯えているというより、むしろ不安そうな感じであった。

 

「…ん?どうしたウォーズマン」

 

「なんか問題でもあるのか?」

 

次の瞬間、ウォーズマンは衝撃的な言葉を彼に向けて放った。

 

「…もしかしたら、俺達は勝てないかもしれない」

 

まさかの敗北宣言、とはいかなくても負けることを示唆するようなウォーズマンの発言。

 

陽気に話していたブロッケンマンの表情が一変、まるで凍ってしまったかのように表情が堅くなった。

 

「なに?そ、そいつはどういうことだ」

 

その言葉を受けて、彼は少し口を紡いだ後ウォーズマンに問いかける。

 

表面では冷静さを装っているようだが、語気だけは焦燥を隠し通せなかったようだ。

 

「まさか土壇場になって怖じ気づいちまったんじゃねぇだろうな」

 

「違う!俺は確かにアイツらに勝ちたい」

 

「気持ちはそれでいっぱいなんだ!だが…」

 

「だが、体がそうはいかない…」

 

「体?」

 

そういうとウォーズマンはブロッケンマンに自分の体の構造について説明し始めた。

 

「俺の戦える時間はこのコンピュータが原因で短くなっているんだ」

 

「コンピュータ?…ああ、体に内蔵されてんのか」

 

「そういえばお前、ロボ超人だとか何とかって言ってたな…その中に入ってる機材(やつ)になんか問題でもあるのか?」

 

「ああ、俺は30分しか戦えない。時間になると回路が熱でショートしてしまう」

 

「これのせいで、今まで何度も苦渋を飲まされる結果になったんだ」

 

彼が言う、苦渋を飲まされる結果というのは「超人オリンピック・ザ・ビッグファイト」でのキン肉マンとの戦い。彼は自分の必殺技である「パロ・スペシャル」を彼に掛けたのだが、あとちょっとで倒せるというところで自分のコンピュータに異常が出て、そこから技を外され、最終的に負けてしまったことがあった。

 

彼はそのことに今でもトラウマを抱えており、30分立つと生じてしまうコンピュータに対する異常に今でも対処しきれないでいたのである。

 

「くそ、これでは長く戦えない…!」

 

「短時間で勝負を決めるしかないのか…!」

 

時間が経つと異常が出て戦えなくなる。…われわれ人間にはとんとわからない感覚だが

 

彼特有の「アレルギー」のようなもの、と考えるとしっくりくるのかもしれない。

 

「へへへ…なんだ、そんなことか」

 

悲嘆するウォーズマンに対してニヤリと笑いながらそういうブロッケンマン。

 

彼の悲嘆に対するブロッケンマンの反応は「焦り」ではなかったようだ。

 

もうそのことにすでに気づいていたような言い草にも感じる。

 

「あきらめるこたぁねぇ。俺にいい方法があるぜ」

 

「えっ?」

 

「お前が30分以上戦う策が俺の頭ン中にあるってことだ」

 

「ほっ、本当かっ!?」

 

ブロッケンマンにすがるようにしてそう言うウォーズマン。よっぽどこの弱点が致命的なのか、克服方法があると聞いたとたんに彼の眼は輝いていた。

 

「そ、それは一体…」

 

「へへ、簡単なことだぜウォーズマン」

 

「要するにお前は30分しか戦うことが出来ねぇんだろ?だったら休み休みに戦えばいいだけ…」

 

「お前は戦ってる時、おそらく過度の興奮状態に陥ってるんだろう」

 

「その状態が長く続くことで中の機材の温度が上がり、30分たつとちょうど限界が来て、機材がショートする仕組みになっているんだな」

 

「まっ、簡単に言えば家電のブレーカーが高圧の電流に耐えきれずショートしちまった、みたいなもんか」

 

つまり、彼が言うことを説明すると

 

彼、ウォーズマンの弱点は30分たつと戦えなくなることであり、その原因が中にある機材が戦闘によって生じた「熱(熱気のようなもの)」によって体内に熱がこもり、その熱によって最終的には中の機材がショートしてしまう。

 

さらに、その熱のようなものが起こる原因としてブロッケンマンは彼が臨戦態勢に入ったことによって彼の頭脳をつかさどるコンピュータの部分が興奮状態を起こしていることが弱点の原因ではないかと考えたのだ。

 

「と、言うことはその興奮状態を抑えるようなことをすればいいってことだ」

 

「で…でもどうやって」

 

「なあに、簡単なことよ。文字通りお前の頭を"休ませれ"ばいいのさ」

 

「ウォーズマン。おまえ、臨戦態勢を解除することが出来るか?」

 

「あ、ああ…戦いをあまり見なければ何とか…」

 

「そうか、なら楽勝だぜ」

 

ブロッケンマンは対策についてさらに説明を続ける。

 

「仮に今日行われる試合が60分だったとすると、10分ごとに休みと戦いを繰り返していけば」

 

「戦うのに30分、加えて休むのに30分…」

 

「…そうかっ!1時間近く戦うことが出来るッ!」

 

「そういうことだ」

 

彼はそう言うと再びニヤリと笑った。

 

「…まぁ任せな、ウォーズマン」

 

「その30分の埋め合わせは…俺がきっちりやってやるからよぉ」

 

彼は自分に任せろと言わんばかりに親指を立て、それを自分の方へと向けた。

 

この戦略はウォーズマンの根本的な弱点こそ解決されていないが、試合において効率的に戦えることは確かであり、長丁場(デスマッチ)が予想される戦いとしてはかなり有効だった。

 

 おまけに、この「ウォーズマンが長く戦える」戦法ということ自体が彼の弱点を知っている正義超人サイドの動揺も誘うことが出来るため、まさに一石二鳥の戦略ともいえる。

 

なぜ今まで彼らがちょくちょくリングチェンジをしていたのかという理由が、ここで明らかになった。

 

ウォーズマンの戦力を温存し、長時間戦えるようにするためだったのである。

 

(現に俺は…30分すぎているのにも関わらず、まだ戦えている)

 

彼はリングの下で腕を組み、戦闘を静かに見守っているブロッケンマンを見た。

ブロッケンマンも彼の眼を見て静かにうなずく。

 

(この試合…何としてでも勝つんだッ!)

 

相棒のブロッケンマンの姿を見て、勝つことの決意をさらに固め、対峙しているラーメンマンの方へ走り出したウォーズマン。

 

その時の彼の眼は、その決意から勝利に対する情熱があふれんばかりだった。

 

果たして、この残虐超人側が仕掛けた戦略が、今後の戦いでどのような影響を及ぼすのだろうか?

 

                -続く-

 




今回出されたウォーズマンの弱点は簡単に説明すると

「リング上で戦いを見る」→「興奮する」→「ウォーズマンの頭脳を司るコンピュータに熱がこもる」→「それが長い間続く」→「中の機材がショートする」→「戦えなくなる」
                                 と言った感じである。

つまり、ウォーズマンの弱点は興奮状態が長く続いた(この場合はおよそ30分)ことで発生する熱により中の機材がショートし、最終的には戦闘を行うことが不可能となってしまう、ということである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話「悪夢、再び」

「最後の残虐」第14話です。今回はちょっと長めです。ウォーズマンが1時間戦えると判明し、正義超人側に衝撃が走った今回の試合。それに呼応するかのように試合の流れが一気に残虐超人側へと動き出し、現段階では正義超人の勝ち目が全くない状況となってしまった。
 果たしてラーメンマン達はこの状況を打開することが出来るのか?


スタジアム 場内

 

「くっ…」

 

「なんということだ…」

 

目の前の状況に呆然としている正義超人たち。

 

目の前の状況が今でも信じられないのか、キン肉マンとテリーは口々に今の状況に対して呟いた。

 

無理もない。本来ならここで離脱していてもおかしくない敵が、息を切らすことなく、煙を上げることなくリングという名の戦場に立っているのだから。

 

ウォーズマンが1時間戦えるようになったと判明してからというもの、試合は残虐チームサイドにかなり有利に働いていた。

 

こうなってしまった条件として、やはりウォーズマンの戦闘継続が大きな支柱と言えるだろう。

 

もともとウォーズマンが短時間しか戦えないので、タッグバトルには不向きではないかと考えていた正義超人サイドは大きく動揺し、それが現在の戦況に出ているというような感じである。

 

一時は牙城を崩せたような雰囲気が一転、スタジアムの中はいつのまにか別方向から奇襲をかけられたような雰囲気へと様変わりしていた。

 

「行くぞっ!」

 

歪んだ空気を嚙みしめることも許すまいと、動揺する正義超人たちの元へ勢いよく向かっていくウォーズマン。

 

呆然と立っているラーメンマンに対し、拳を繰り出す。

 

一瞬ではあるが気を取られたラーメンマンは急いでガードの態勢に入り、すんでのところでベアクローを躱した。

 

それを受けてラーメンマンも反撃の手刀を繰り出す。

 

しかし、ラーメンマンはウォーズマンに攻撃を仕掛けるもうまく技が入らず、彼にダメージを与えることが出来ない。

 

ウォーズマンは出された手刀を難なく躱し、ラーメンマンの腹に重い一発(パンチ)を食らわせた。

 

「ぐっ…!」

 

重い一撃に腹を抱えて狼狽するラーメンマン。

 

彼は鈍い痛みを何とか解消しようと、一歩後ずさる。

 

するとウォーズマンはこれがチャンスとばかりに、ロープの反動を利用したラリアットや自分の体を利用し、スクリュードライバーをクロスの軌道で放ち、ダメージを与えるなど多彩な技を展開し、ラーメンマンを追い詰める。

 

目に見えぬ素早い動作とすさまじい猛攻。守りの態勢に入っているラーメンマンに追い打ちをかけていく。

 

気が付けばラーメンマンの胸や足にはベアクローで抉ったであろう痛々しい傷が無数にできていた。

 

最初は真っ白だったリングも、ラーメンマンの傷から出た血で染まっていく。

 

今の状況でどちらが優勢なのかは一目瞭然だった。

 

それからしばらくして、ブロッケンマンがウォーズマンに交代するように呼び掛けた。

 

「よし、交代だウォーズマン!」

 

「ああ」

 

ブロッケンマンの号令に対し、静かに頷くウォーズマン。

 

「…何だ?いま好調なアイツをわざわざおろすのか?」

 

「へっ、こっちにもちと考えがあるんでな」

 

「…そうか、温存策だな」

 

「どうりでおかしいと思った。30分しか戦えないはずのウォーズマンがどうしていきなり長時間戦えるようになったのかと」

 

「へへへ、やっぱりすぐにわかっちまうか」

 

「さすがは超人博士だな。察しがいいというか、頭の回転が速いというか…」

 

「ただ、わかったところでどうにもならんぜ。俺たちの牙城は崩せねぇよ」

 

ブロッケンマンは腕を組みながらラーメンマンに向かって余裕綽々に言った。

 

その態度に反応したのか、ラーメンマンも悠然と切り返す。

 

「ふん、簡単な話だ。お前を倒し」

 

「次にウォーズマンを叩けばいいだけだッ!!」

 

「弱点を見破られたお前に用はないッ!!」

 

そう言ってブロッケンマンの方へと向かって走り出したラーメンマン。

 

しかし、ブロッケンマンはその様子を一瞥するとニヤリと笑い、

 

「へへ…」

 

「甘ぇなぁ。ラーメンマン」

 

「ちょっと急ぎすぎじゃねぇのか?」

 

(ガシィッ!)

 

「なに…」

 

「ぐあっ…!」

 

猛然と向かってくるラーメンマンに対し、ブロッケンマンはラーメンマンをつかみ、ロープがある方向へ彼の体を投げた。

 

「おらよっ!」

 

そしてその反動を利用し、ラリアットを仕掛けた。

 

「くらえっ!」

 

(ダンッ!)

 

「ぐっ…!」

 

やはり腕を攻撃の主軸にしているだけあってラリアットの威力が大きい。さすがのラーメンマンも攻撃を受けてすぐに倒れこんでしまった。

 

「おいおい、どうしたんだ?ラーメンマン」

 

「高みを目指した結果がこれか?」

 

「はあっ…はあっ…」

 

「確かに俺の必殺技は手刀だ。だがよ…」

 

「何も手刀だけしか使えないってわけじゃねぇ。ラリアットだってお手のモンさ」

 

「く…くそ…」

 

「ラ…ラーメンマン」かたずをのんで見守る正義超人たち。

 

先ほどからも言っている通り、ウォーズマンの戦闘継続の場面があってからというもの、どうにも正義超人側に「流れ」が来ていない。

 

反撃の糸口も見つからず、ただただ一方的に残虐超人側にやられているだけ…

 

今の現状で、彼らの中には誰一人として冷や汗をかかない者はいなかった。

 

「…お前の技は」

 

「どうやら手刀だけで、あとの技は補助目的で使う技だと思っていたが」

 

「どうやら違ったようだ…」

 

「ヒャーッハッハッハッ!甘いぜラーメンマン!」

 

「俺の技は多種多様だ!隙なんてこれっぽっちもありゃしねぇ!」

 

「探すだけ無駄だぜ」

 

「とっととこの世からおさらばするんだな!!」

 

「くくく…」

 

そう言って不敵に笑うブロッケンマン。

 

無理もない。今のところ試合の「流れ」は彼ら残虐超人側に来ているのだから。

 

少しばかり余裕の表情があっても何らおかしいことではないのである。

 

「くっ…」

 

ブロッケンマンの言葉を受け、狼狽するラーメンマン。

 

(くそ…今、勝負の流れは私たちにはない)

 

(何かこの状況を打開する方法を考えなければ…)

 

「…それとよ。勘違いしてるみてぇだから教えてやるぜ」

 

この殺伐とした状況を遮るようにブロッケンマンは片膝をついているラーメンマンに対し口火を切った。

 

「”ベルリンの赤い雨“はな、そんじょそこらの手刀とはわけが違う」

 

「“しなやかさ”があるからこそなせる技…それがベルリンの赤い雨なのさ」

 

「ど…どういうことだ?」

 

訝しげにラーメンマンが問う。

 

「へっ、それは自分で考えるこったな…いや」

 

「もう、考えることすら無理かもしれねぇがよ」

 

そう言うや否や、ブロッケンマンはニヤリと笑いラーメンマンの所へと駆け出した。

 

「はっ!」

 

ラーメンマンはブロッケンマンの「不意打ち」にすぐに気づいたがもう遅い。彼は両方の足をつかまれてしまい、身動きが取れない状況となってしまった。

 

「へへへ…足元がお留守だぜ、ラーメンマン」

 

「ぐぐ…」

 

何とか抜け出そうと足を動かすラーメンマン。しかし肩に傷を負っているせいか、痛みで足を動かせず、彼を振り払うことが出来ない。

 

「ラ…ラーメンマンが捕まった!!」

 

「い、いかん!アイツは肩をやられている!簡単には抜け出せないぞッ!」

 

その状況を好機と見たのかブロッケンマンはウォーズマンに対して応戦するよう呼び掛けた。

 

「よっしゃ、ウォーズマン「あれ」をやってこの戦いに終止符を打ってやろうぜ!」

 

ブロッケンマンがそう言うと、ウォーズマンは静かにうなずいた。

 

「あ…あいつら」

 

「一体何を…?」

 

次の瞬間…ウォーズマンの姿が消え、リングに一時的な沈黙が起こった。

 

「えっ…?」

 

一時的な沈黙の後、彼らはリングでの光景に目を疑った。

 

「な…何だと…!」

 

正義超人たちがラーメンマンを見た先、そこにあった光景は…

 

ラーメンマンがウォーズマンに「パロ・スペシャル」をかけられている姿だった。

 

しかも、いつの間にかブロッケンマンがいなくなっており、ラーメンマンに技をかけている立場が交代していた。

 

はたから見ただけでは一体何が起こったのか全く分からないといった状況。

 

「い、いかん…!あれを破ることが出来たのはパワー型の超人のみ!!」

 

「技巧型のラーメンマンでは破れない…!!」

 

確かに、今まで“パロ・スペシャル”が破られたときの相手は“7人の悪魔超人”の中で最も高い1000万パワーを持つバッファローマン、そして完璧超人であるネプチューンマンなどの体が大きく、力も強い。いわば“パワー型”の超人だった。

 

 細身の体系の超人が破ることが出来たところをこの時点では見たことがない。実際にキン肉マンも“火事場のクソ力”を使い、かつ彼の疲弊によるコンピュータのショートなくしてこの技は破ることはできていないのである。

 

「と…というかいつの間に!?」

 

「いつの間にブロッケンマンとウォーズマンが入れ替わったんじゃ!?」

 

「本当だ…!し、しかも見ろ!ラーメンマンの足を!」

 

「ゲ―ッ!アキレス腱が切られているーっ!」

 

いきなり起こったこの状況に驚きを隠せない正義超人たち。キン肉マン、ロビン、テリーマンは口々に今起こっている状況に対する感想を述べた。

 

確かに、彼らの言う通りよく見てみるとラーメンマンのアキレス腱がある部分に何かしらで斬ったような傷がある。

 

一体何が凶器なのかは明らかだ。

 

「へへへ…これでウォーズマンの必殺技からは絶対に逃げ出せまい」

 

「言っただろ?ベル赤にあるのは“しなやかさ”」

 

「ただ技を繰り出すだけじゃなく、パートナーが技を繰り出す際の援護射撃としても応用できるってことなんだぜ…」

 

どうやらブロッケンマンはあの状況でウォーズマンが“パロ・スペシャル”を繰り出す時、彼がラーメンマンの股下へと潜り抜ける一瞬の間を利用し、彼はラーメンマンに対してベルリンの赤い雨を放った。

 

その際、ラーメンマンの足には傷が残り、一時的にでも身動きが取れなくなる。

そうするとウォーズマンの必殺技が通りやすくなり、かつ技から逃げられる可能性を狭めることが出来るという事である。

 

どうやってブロッケンマンが自陣に逃げ込んだのかまではわからないが、とりあえず先ほど一瞬で起きた出来事というのはこのような過程である。

 

それらの過程をブロッケンマンは一瞬で思いついた。

 

何という頭の回転、および、それを行動に移すことのできる行動力の速さであろうか。

 

いや、それよりもブロッケンマンのこの「ラーメンマンの足をつかむ」行動に対し、瞬時に必殺技を出すことのできたウォーズマンを褒めるべきなのだろうか。

 

いずれにせよ、よくできたコンビネーションである。

 

「ま…負けて…」

 

「ま…負けて…なるものか」

 

何とか全身を怪我している状況でも技を外そうと体を動かしてみるラーメンマン。

 

しかしこの技は抵抗すればするほど徐々に技の入りが強くなり、痛みが増すだけでなくますます抜け出せなくなるという特性を持っていた。

 

 技から抜け出そうとするとさらに悪い状況となる、いわゆる「負の連鎖」が起こる技なのである。

 

「いかん…!あの技は抜け出そうとすればするほどさらに体が締め付けられてしまうのに…!」

 

「ラーメンマン、いったん動きを止めろッ!」

 

「痛みが増すばかりだぞ!!」

 

焦るラーメンマンをいったん落ち着かせるようと彼に対して叫んだロビン。

 

しかし、そのアドバイスも今のラーメンマンには聞こえていなかった。

 

抜け出せない焦りと、締め付けられる痛みでラーメンマンは正気を失っていたのである。

 

「無駄だぜラーメンマン。さっきアイツらが言った通り、この技は抵抗するほど抜け出せない」

 

「おとなしくしておいた方が身のためだぜ…」

 

表情を出さず、静かに彼に対してそう言い放つウォーズマン。

 

(すまないな、ラーメンマン)

 

(悪く思わないでくれ。これもアイツの復讐のため…)

 

(迷いなく、アンタを倒させてもらう)

 

技をかけている側であるウォーズマンは冷静だった。ブロッケンマンのラーメンマンに対する復讐を成功させるために彼は全力を注ぐことを決めていたのだ。

 

ただ、彼のその表情はただ冷酷に見えるだけでなく、何か別の目的があるようにも思えた。

 

「ウ…ウォーズ…マン」ラーメンマンはかすれた声でウォーズマンに問いかけた。

 

「何だ?」

 

「お前らの…目的は、なんだ…?」

 

「なぜそこまでして“正義”を消そうとする…?」

 

「……」

 

ラーメンマンの質問に対してウォーズマンは「沈黙」という返答を返した。

 

「ウォーズマン…!」

 

詰めるようにして彼に返答を促すラーメンマン。その時の彼の表情はまさに「鬼気迫る」ような感じであった。

 

それから一瞬、間が開いた後に、ウォーズマンは無機質な表情で重い口を開いた。

 

「…済まないが、その質問には答えられない」

 

「俺達に勝って、無理やりにでも吐かせるんだな」

 

「……」

 

「まあ今の状況では、どだい無理な話だが」

 

「くっ…」

 

ウォーズマンは技をかけている相手に対し、冷酷にそう言い放った。

 

彼がファイティングコンピューターという異名を持つ理由。それはこの状況で如実に表れている。

 

事務的かつ速やかに相手を処理する。リングの上での彼はもう超人ではなく機械そのもののように見えた。

 

「ぐぐ…」

 

「も、もう我慢ならん!」

 

キン肉マンは今の状況に耐えかねたのか、ラーメンマン達が戦っているリングへと駆け出した。

 

向かったのは今のこの状況をただ見ていたブロッケンの元。彼はリングを叩きながらブロッケンに向かって訴えかけるように叫んだ。

 

「どうしたんじゃブロッケン!早くラーメンマンを助けんかい!」

 

「一体何のための相棒なんじゃーっ!!」

 

キン肉マンにそう言われ、一瞬ハッと我に返ったブロッケン。

 

どうやら彼は今の状況に理解が追い付かず呆然としていたようだ。

 

しかし、キン肉マンに気づくと彼はその声に反抗するように若干イラついた様子で返す。

 

「う…うるせえぞキン肉マン!」

 

「言ったはずだぜ!俺はお前たちの指図は受けない!」

 

「暴力で解決するようなやつらの言うことなんか聞けるかーっ!」

 

キン肉マンに対して半ば感情的に返したブロッケン。

 

彼のその叫びと表情からかなり焦っているのがわかる。

 

「いつまで強情を張っとるつもりじゃーっ!このままじゃ…」

 

「このままじゃラーメンマンが死んでしまうんじゃぞーっ!!」

 

キン肉マンはもはや自分たちが争っていたことなど忘れてブロッケンに対して忠告している。

 

「くっ…」

 

だが、その声もブロッケンには響かない。…いや

 

わかってはいるのだが、キン肉マンの指示に従いたくないという気持ちが先になってうまく行動が出来ないでいるのだ。

 

事は一刻を争う。強情を張っているよりまずは目の前のことを解決することが先なのだ。

 

しかし、今の彼はプライドという壁が悪い意味でうまく作用し、意図せずして敵側に有利な状況を作ってしまっていた。

 

言うまでもなく、最悪の状況である。

 

「おいおい、今のアイツにいくら言ったって無駄だぜ」

 

「それよりもよぉ…苦しんでるラーメンマンを助けなくていいのか?」

 

「偽善超人さんよ…」

 

「ぐぐぐ…」

 

「…くそっ、タッグバトルに俺たちが入れないことを知っててあんなことを言ってきやがる!!」

 

「へへへ…これで終わりだ、ラーメンマン」

 

「これで俺の復讐劇も最終段階に入ったってわけだ」

 

復讐に燃える悪鬼はニヤリと笑う。

 

「さ…最後…?」

 

「やいブロッケンマン!お前ラーメンマンに何をするつもりじゃ!!」

 

自分についた動揺を振り払うかのようにキン肉マンは大声でブロッケンマンに疑問をぶつけた。

 

「へへ…この状況でやることって言ったら」

 

「一つしかねぇだろ!」

 

ブロッケンマンはそう叫ぶとリングロープを利用して上昇し、ラーメンマンの首めがけて手刀を放った。

 

ウォーズマンの「パロ・スペシャル」でラーメンマンを固定した上、彼の首を「ベルリンの赤い雨」で斬り落とす…

 

わかりやすく言うなら、それは「断頭台」であった。

 

ブロッケンマンの手刀は降下と共に徐々にスピードが増していき、ラーメンマンのうなじをめがけて牙をむいていく。

 

「へへーっ!!ラーメンマン、じっとしてろよっ!!」

 

「動くと仕留め損ねるからよぉ!!」

 

「まずい…!早くしないとラーメンマンの首が…!」

 

焦燥を隠しきれず、頭を抱えて悲痛に叫んだロビン。

 

「卑怯だぞブロッケンマン!それが旧友に対してすることかーっ!!」

 

キン肉マンの悲痛な叫び声も聞こえる。しかし、友を守ろうとするその声も悪鬼にとってはただの戯言にしか聞こえなかったようだ。

 

「旧友?…へっ、関係ねぇな」

 

「残虐超人に“仲間”とか“正義”だなんて言葉はねぇ」

 

「俺達にあるのは“姑息” “非道”そして“残虐”の3つだけよ!!」

 

「勝つために手段は選ばねぇ!それが“残虐超人”だーっ!!」

 

「いくぜウォーズマン!!」

 

「これが俺たちの必殺技!!」

 

 

「ベルリンの壇場(ミヌート)-ッ!!」

 

 

残虐と、復讐の念を込めた彼の手刀が今まさに、ラーメンマンのうなじへと入り込もうとしたその時だった。

 

「そうはいくかーーーーっ!!!」

 

「!?」

 

突如として謎の黒い影が、首を斬ろうとするブロッケンマンの体へとぶち当たった。

 

「ぐおっ…」

 

ぶつかったと同時に彼の体がロープの方へと吹き飛び、もたれかかる感じで倒れた。

 

いきなりのことで状況がわからないブロッケンマン。リングから落ちはしなかったものの、ぶつかった衝撃で少しばかりのめまいが起きていた。

 

「な…なんだ一体…」

 

「……」

 

「…超人界の一大事だと聞いて病院を抜け出してきたが」

 

「何だこのザマは?」

 

衝撃波による煙とともに現れた一つの巨体。凛々しい腕と、頭に生えた二本の大きな角…

 

「お…おまえは…」

 

巨体の正体は、あの男だった。

 

「バッ…」

 

「バッファローマン!?」

 

                 ―続く―

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話「猛進の来訪者」

最後の残虐第14話です。すみません、昨日用事があったために投稿が遅れてしまいました。という事で今回は急遽、日曜日に投稿することになりました。
 彼らが繰り出したタッグ技によりラーメンマンが倒されかけていたその時、突如スタジアムのどこからか現れた謎の超人により正義超人側は事なきを得る。果たしてこの超人は試合の流れを変えるきっかけとなるのか…?


スタジアム 場内

 

「バ…バッファローマン…?」

 

太く鍛え抜かれた腕、そしてデカい図体に加えて頭に生えた大きな2本の(ロングホーン)

 

「…超人界の一大事と聞いてこのスタジアムに来たが」

 

「何だこのザマは?」

 

沸き立つ白煙とともに現れたのは、1000万パワーを持つ「正義超人」の代表格…

 

猛進の来訪者、バッファローマンだ。

 

ブロッケンマンに倒され、病院で治療を受けているはずの彼がなぜか、ここにいる。

 

「バ…バッファローマン!お前、一体なぜここにッ!?」

 

「ブロッケンマンにやられて病院で昏睡状態になっていたはずではなかったのか!?」

 

突然の来訪者に驚きを隠せないキン肉マン達。

 

テリーとキン肉マンが交互に叫んだ。

 

「ああ、これか」

 

そう言うとバッファローマンは自分の胸に目をやる。

 

傷口こそ見えていないものの、恐らくその包帯の下には以前病院で見たあの傷が

まだあるのだろう。

 

「問題ねぇよ。こんなん大したことじゃねぇ」

 

バッファローマンは傷を見ながら薄く笑った。

 

「た、大したことねぇって…!」

 

バッファローマンの言葉に驚きを隠せないテリー。

 

しかし、心配するキン肉マン達をよそに彼は試合をしているリングへと目を向ける。

 

「それよりも…」

 

「……」

 

「ブ…ブロッケンマン」不安そうに彼を見るウォーズマン。

 

しかし、ウォーズマンが返答する暇もなく、バッファローマンはリングロープをまたぎ、ブロッケンマン達がいる方へと向かった。

 

リング上で相対する2人、小柄な体と巨大な体躯が何とも対象的だ。

 

「ブロッケンマン…久しぶりだな」

 

「誰だてめぇは?」

 

腕を組み、バッファローマンに対して問うブロッケンマン。

 

試合を邪魔されたことに苛立ちを覚えているのか、彼の視線は冷たい。

 

しかし、その言葉を受けたバッファローマンの反応は至極冷静で

 

「へっ…つれねぇな」

 

「負け犬はとっとと記憶の彼方におさらばってわけか」

 

呆れたように減らず口を言うバッファローマン。

 

「いいぜ。もう一度教えてやる」

 

「俺はバッファローマン。正義超人だ」

 

「お前とは、一度戦っているはずなんだがな」

 

「…覚えてねぇな。人違いじゃねぇのか?」

 

腕を組みながらリングロープにもたれかかり、バッファローマンに反応するブロッケンマン。

 

その態度はそっけないもので、彼がバッファローマンに対して興味がないのは目に見えて明らかだった。

 

負けた相手には興味がないという事なのか、それとも単純にラーメンマンや息子に関すること以外の過去に対して無関心なだけなのか…

 

「お前とはぜひ戦ってみてぇんだがよ、あいにく今は別の勝負をやってるんだ」

 

「用があるんならさっさと済ませてくれねぇか?」

 

やはり、バッファローマンに対するブロッケンマンの態度はそっけない。

 

取り付く島もないとはこういうことを言うのだろうか。

 

「フン、言われるまでもねぇ。すぐに済ませるぜ」

 

「そもそも俺は、戦う気なんざさらさらねぇんだ」

 

「ただ、この試合を元に戻しに来ただけなんだからな」

 

「…何だと?」

 

バッファローマンの言葉に反応するウォーズマン。

 

「おいバッファローマン。お前、この試合にケチをつけるつもりなのか?」

 

「ついさっきここに来たやつが随分と厚かましいな」

 

曇ったような声。聞き捨てならないと言わんばかりにウォーズマンは彼に詰め寄る。

 

「おいおい、勘違いしてもらっちゃ困るぜ」

 

「試合自体は間違っちゃいねぇさ。文句をつける理由もねぇ」

 

「だが、タッグバトルなのに2対1で無抵抗の奴を嬲り殺しにするのは感心しない…」

 

「だからこうして戦いの仲裁に入ったというわけだ」

 

「…ん?」

 

その時、今までまったく彼の話に関心がなかったブロッケンマンが突如、バッファローマンの方を向いた。

 

「おいおい、ちょっと待て」

 

「なんだ」

 

「バッファローマンとか言ったな、ちょっと大切なことを忘れちゃいねぇか?」

 

「ん、何の話だ」

 

「ルールを破ってるぜ。タッグバトルに第3者の介入はあっちゃいけないってルールが」

 

ブロッケンマンは詰め寄るようにしてバッファローマンに言った。

 

心なしか彼の言動には苛立ちの色が見える。

 

「だってそうじゃねぇか?俺達は今までラーメンマンと息子の2人と戦っていたんだ」

 

「そこにお前が現れた」

 

「もとい、邪魔をしに来たわけだぜ」

 

「これが第3者の介入じゃなくてなんと言うんだ?」

 

ブロッケンマンの言い分を要約すると、彼は正当なルールに基づいて試合を行っていたところにいきなりバッファローマンが現れ、試合を妨害した。

 

 

その彼が自分たちの行っている試合にケチを付け、試合自体の否定をするのは如何なものか、と言っているのである。

 

「へへへ…バッファローマンとか言ったな」

 

「仲間を守るために戦いの仲裁に来た、というのはご立派だがよ…」

 

「ルールを破る奴が仲裁に入るってのはちょっとないんじゃねぇのか?」

 

「友情ごっこなら、試合のルールを守ってからにするんだな…」

 

「……」

 

ブロッケンマンの言葉を受けて沈黙するバッファローマン。

 

「バ…バッファローマン…」

 

ブロッケンマンの言葉に不安そうな表情を浮かべるキン肉マン。

 

しかし、キン肉マン達の不安もよそにバッファローマンはニヤリ、と笑う。

 

「フフ…熟練の超人でも気がつかねぇのか」

 

「ドイツの鬼も堕ちたもんだな」

 

「何だと?」

 

苛立ちを隠せない様子でバッファローマンの言葉に反応するブロッケンマン。

 

バッファローマンは説明を続ける。

 

「わからねぇのか?なら、答えてやるぜ」

 

「俺は、正義超人側はルールをやぶっちゃいねぇ」

 

「なぜなら…」

 

「今の戦いには一人、明らかにこの戦いに参加していない奴がいたからだ!」

 

「…何だと?」

 

腕を組みながら片眉を上げ、ブロッケンマンは若干口角を釣り上げた。

 

「い、いったい誰だと言うんだ…」

 

バッファローマンの言葉を受けて訝しげな表情をするキン肉マン。

 

それから一拍おいたのち、バッファローマンは

 

「それはお前の息子、ブロッケンジュニアだっ!」

 

残虐超人側に指を指し、リング場内に大きく響く声で叫んだ。

 

「な…なんだと?」

 

彼の言葉を聞き、素っ頓狂な声を上げるブロッケンマン。

 

しかし、それからすぐに思い直し、バッファローマンの方を向くと

 

「…へっ、とんだ暴論だな。そんな理屈が俺に通じるかよ」

 

呆れた様子でバッファローマンの言葉に反応するブロッケンマン。

 

「どんな形であれ、リングの中に入っていれば戦闘に参加したことにはなるはずだ」

 

「リング外から入って来ればそれはどんな奴でも”部外者“だぜ。それがたとえ超人界の神であっても許されることじゃねぇ」

 

「その主張は通らんぜ」

 

しかし、バッファローマンは彼の反論に対して我関せず、動じない。

 

まるでその反論が来ることがわかっていたかのように。

 

「フフフ…そんなこたぁねぇ」

 

「ブロッケンをよぉーく見てみな…」

 

「何だと…?」

 

ブロッケンマンをはじめとしたバッファローマン以外の人たちが彼の指さした方向に目を向ける。

 

そこには、観客席にもたれかかり気を失っているブロッケンの姿があった。

 

「…あっ!」

 

「ゲェ―ッ!?な…何だアイツ、リング外に出てやがるぞ!?」

 

客席で気絶している友人の姿を見て愕然とするキン肉マン達。

 

「どうやらさっきの衝撃で吹っ飛んじまったようだな…」

 

ニヤリ、と再び不敵な笑みを浮かべるバッファローマン。

 

「!!」

 

ブロッケンマンは目を見開いた。

 

「お前のさっきの"リングの中に入っていれば”って言葉が正しけりゃあ、アイツは一時的にでも”部外者”ってことになる…」

 

「審判もいねぇようだし、今の主張が通るかもしれねぇな」

 

「くっ…!」

 

バッファローマンの反論にグウの根もでないブロッケンマン。

 

彼の言っていたことに気づき、一杯食わされた…そんな表情にも見える。

 

バッファローマンの反論を要約すると、彼はプロレスにおけるリングアウトのルールがこの試合に適用されていないことを指摘したのである。

 

そもそもこの試合は非公式試合で、基本的にルールの裁定を務めるはずの審判もいない。つまり、カウントを取ることもないので一応リングアウトしたものに関しては”部外者“という事になるのではないか、ということを主張したのである。

 

本来なら先ほどのような金網で囲まれたリングではリングアウトは起こりえない…そのため、リングアウトがあるということを普通なら考える必要があまりなかったのだが、途中で残虐超人側が金網を取り外したためにこのルールについて彼らか正義超人側のどちらかが言及する必要があったのだ。

 

ということは、それに関するルールを設定しなかった残虐超人側、そしてそれを指摘しなかった正義超人側の両方に落ち度があるのではないか、という事になる。

 

つまり、この試合が両者水入りの仕切り直しとなる可能性が出てきたということだ。

 

「クク…これでとりあえずルールは破ってねぇてことになったな」

 

リングロープにもたれかかりながらニヤつくバッファローマン。

 

まさにしてやったりという表情だった。

 

「まぁ、それによ…」

 

「試合が始まる前、正義超人サイドでルールを決めていいとお前らが公で言っておきながら、当日になっていきなり自分達にとって都合がいいような試合内容を勝手に決めたんだ」

 

「てめぇらにルールを守れだの、どうこう言われる筋合いはねぇんだよ」

 

「くっ…!」

 

バッファローマンにそう言われ、たじろぐブロッケンマン。

 

ここにきて、残虐超人サイドが行った試合前の勝手が、そしてミスが仇となったのである。

 

屁理屈を言いやがって…と言おうとしたブロッケンマンだったが、彼はすぐに口を紡いだ。

 

何となくではあるが、これ以上彼に何を言っても牙城を崩すことが出来ないと判断したのだろう。

 

彼の表情はまるで苦虫を食いつぶしたかのような苦悶の表情を浮かべていた。

 

「…ちっ、わかったよ」

 

「さっきのやつは無効だ。このまま試合を続行するぜ」

 

「ブ、ブロッケンマン!」

 

ブロッケンマンの言葉を受け、焦燥するウォーズマン。

 

「い、いいのかブロ!あんな屁理屈を…」

 

「…仕方ねぇだろ。俺達のやった戦略が裏目に出ちまったんだ」

 

「まさかこんなところで一杯食わされるとは思わなかったぜ…」

 

そう言うとブロッケンマンは帽子を前に深くかぶり、自身の表情を隠すような素振りを見せた。

 

「そんな…」

 

少なくとも彼がこの試合でそのような仕草は見せたことがない。

 

それだけバッファローマンの来訪が、そして試合形式の変更が予想外だったという事なのだ。

 

「……」

 

少し間があったのち彼は再び帽子を上げ、ウォーズマンの肩に手を置いた。

 

「…まぁ、心配するなよ。まだ勝敗が決まったわけじゃねぇ」

 

「今はアイツらの意見が通ったってだけだ。依然として流れは俺達にある」

 

「まだ”あの技”が破られちゃいねぇんだからな」

 

「また機会をうかがえばいいだけだぜ」

 

ブロッケンマンが言う「あの技」とはベル赤なのか、ミヌートのことなのか…

 

いずれにせよ、現時点ではわからない。

 

ただわかるのは、この一連の流れで何かしらの「変化」があったという事だけだった。

 

「な、なんじゃ?ブロッケンマンのやつ、あれだけルールがどうこうと言っておったのに…」

 

不機嫌そうにするブロッケンマンを横目に怪訝な顔をするキン肉マン。

 

「ブロッケンマンにとってさっきの妨害がよっぽど頭に来たんだろう」

 

「表情にはあまり出ていなかったが、彼の言動に苛立ちが見えていたからな…」

 

腕を組み今の状況を冷静に分析するロビンマスク。

 

「無理もない。彼にとってはそれほど”復讐”が重要な意味を成しているということなんだろう…」

 

「恐ろしい執念だな…」

 

「だが、いずれにせよこれで流れが変わったのは事実じゃ」

 

「バッファローマン!感謝するぞ!」

 

「これで…」

 

(スッ…)

 

「あ、ありゃ?」

 

キン肉マンの言葉を無視するかのように彼らの前を素通りしていくバッファローマン。

 

「バ…バッファローマン?」

 

向かった先はブロッケンの吹き飛ばされた場所であった。

 

バッファローマンがブロッケンの前に立ちふさがる。

 

その時の彼の表情は背後に光るライトがちょうどバッファローマンの頭の後ろを照らしていたためかよく見えなかった。

 

少なくとも笑っていないのだけは事実だ。

 

「い、いててて…」

 

「…ん?」

 

「バ、バッファローマン!」

 

「お前、病院のベッドで寝ていたはずじゃあ…」

 

突然の戦友の来訪に驚きを隠せないブロッケン。

 

無理もない。突然知らない誰かに吹っ飛ばされ、気絶した矢先に病院で昏睡しているはずの戦友が目の前にいるのだから。

 

「へっ、じゃあここにいる俺は誰なんだよ」

 

「幽霊とでもいうのか?」

 

「そっ、そうだな…」

 

納得したようなそうでもないような曖昧な様子で返答するブロッケン。

 

「そ、そうだっ!ラーメンマンは…?」

 

それからすぐ、思い直したようにバッファローマンにラーメンマンの安否に関して問う。

 

「安心しろ。ラーメンマンはやられてない」

 

「お前の師匠は無事だぜ」

 

「そ、そうか…」

 

「す…すまねぇバッファローマン」

 

「助かっ…」

 

静かに、そして少しばかりの安堵した表情を浮かべながらブロッケンの前に佇むバッファローマンにブロッケンが立ち上がろうとして言いかけた、その時…

 

「ばかやろーっ!!」

 

突然、バッファローマンはブロッケンの頬を思いっきり殴った。

 

「ぐあっ…!」

 

殴られた衝撃でその場に倒れこんだブロッケン。

 

果たして、バッファローマンが起こしたこの行動の意味とは…?

 

                -続く-

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話「相対する瞳」

最後の残虐第15話です。試合前から続いていた正義超人同士の争い。その諍いに業を煮やし、来訪したバッファローマンは、ついにこの問題に対してメスを入れた。さて、泥試合が続くこの試合、ようやく正義超人側に勝利の兆しが見えてきたか?


スタジアム 場内

 

「ばかやろーっ!!」

 

突然、バッファローマンはブロッケンを思いっきり殴った。

 

「ぐあっ!」

 

殴られた衝撃で吹っ飛んだブロッケン。バッファローマンの「制裁」に対して体が耐え切れなかったのか、スタジアムの壁に思いっきり体がぶち当たった。

 

(ダンッ!)

 

「いてて…」

 

背中をさするブロッケン。それから彼はバッファローマンをにらみつけ

 

「な、なにをするんだバッファローマン!お前も…」

 

しかし、それを遮るようにバッファローマンは反論する。

 

「うるせぇ!さっきから聞いてりゃあネチネチと…」

 

バッファローマンは彼の胸ぐらをつかんだ。

 

感情的になっているのか、彼の軍服を掴むバッファローマンの手には強い力のあまり、軍服が完全に歪んでしまっていた。

 

「ブロッケンマンを捜索するために役割分担した時にその分担が気に入らなかったから、その場飛び出して…」

 

「そんで、仲間とケンカしたからそれに強情張って大事な“師匠”を見捨ようとしただと?」

 

「ブロッケン!お前一体何のためにソルジャーの右腕になったんだっ!!」

 

「強情張って、仲間を見捨てて超人血盟軍が務まるかよッ!!」

 

「バ…バッファローマン…」

 

彼の鬼気迫る姿を見て身震いするブロッケン。

 

その震えはいったい何を意味するのだろうか。

 

「お前も見てきただろう!数ある戦いの中で培った友情をッ!」

 

「そしてそれが数多くの勝利をもたらしたことをッ!!」

 

(グッ…)

 

バッファローマンの胸ぐらをつかむ手にさらに力が入る。

 

下手をすればブロッケンの首を絞めてしまいそうな力の入れ方だった。

 

それほどまでに、彼が「友情」の2文字に情熱を傾けているという事なのかもしれない。

 

「そりゃあたまに(いさか)いもあるかもしれねぇ!だが、仲間ってのは」

 

「どんなことも共に乗り越えて行けるような…どんなことにも互いに力を合わせ、勇気をもって立ち向かう」

 

「そんな奴らのことを言うんじゃねぇのかーっ!!!!」

 

バッファローマンが出したその叫びはスタジアム全体に響いた。

 

それと同時に、彼は掴んでいた胸ぐらを離し、片膝をついている彼を見た。

 

その時の彼の表情、それは怒りと哀しみの両方が混じったような…

 

何というか、複雑な表情だった。

 

ラーメンマンに対する侮辱が許せず、それに固執したばかりに「仲間」という大切なものを失いかけたブロッケンのことを彼は許せなかったのであろう。

 

バッファローマンの性格が寡黙かつ熱血漢であるのも相まって彼の言った「仲間」という言葉には異常なまでの重みがあった。

 

それはブロッケン、そして周りでそれを聞いていた正義超人たちにも響いていた。

 

言葉には表せない、鬼気迫るなにか…

 

一瞬、ほんの少し時計の秒針が0から1に動くくらいの一瞬の間ではあったが、彼の放った言葉に対してしばし沈黙の時が流れた。

 

そんな彼の言葉から一瞬の沈黙があったのち、今まで頑なに仲間に対して素直な口を利かなかったブロッケンの口がゆっくりと開いた。

 

「…すまねぇ、バッファローマン」

 

肩を震わせながらかすれ声になりながら言葉を発するブロッケン。

 

「俺が…間違っていた…」

 

彼の脳内に今までの戦いがフラッシュバックする。

 

7人の悪魔超人編で正義超人の初白星を上げた時、ザ・ニンジャに激闘の末、勝利を収めた時、そして、ソルジャーとの出会い…

 

自分が勝利した時も、敗北を喫した時も常に彼のそばには「仲間」がいた。

 

困難を乗り越えるための、仲間がいた…

 

 

「仲間ってのは…」

 

「どんなことも共に乗り越えて行けるような…どんなことにも互いに力を合わせ、勇気をもって立ち向かう」

 

「そんな奴らのことを言うんじゃねぇのかーっ!!!!」

 

 

先ほどのバッファローマンの言葉が脳裏によみがえる。

 

(ドクン…)

 

バッファローマンの言葉が彼の心の中にある情熱を揺さぶった。

 

「孤独が持つ、強さは本当の…強さじゃない…」

 

自分の心の中にあるなにかに気づいたのか、ゆっくりと立つブロッケン。

 

その表情は先ほどまでの卑屈に歪んだ悪鬼のような顔ではなく、静かに、でも透き通った空のように晴れやかな表情だった。

 

そんな彼に寄り添うようにして肩に手を置き、薄い笑みを浮かべたラーメンマン。

 

「力を合わせて、困難を共に乗り越えることこそ友情…」

 

「ソルジャーはかつて、そう言っていた…」

 

「…見せてやろうじゃないか。私たちの友情を、お前の父に」

 

「そして…」

 

「かつてお前のリーダーだった、キンニクアタルに…」

 

そう言い、ラーメンマンは片膝をついているブロッケンに手を差し伸べた。

 

彼の体は傷だらけであったが…それを感じさせないほどにその手はまっすぐで

透き通っていた。

 

ラーメンマンの傷だらけの手を見るブロッケン。そして彼は力強く差し伸べられた手を握ると少し照れた様子で

 

「…へへっ、何言ってんだよ。ラーメンマン」

 

「俺の中ではソルジャーは…今でも」

 

「王位争奪戦が終わっても…俺達の立派なリーダーだぜ」

 

「そうだ…そうなんだ。…友情ってのは」

 

「馴れ合いじゃねぇ。共に戦って、お互いを高めあって強くなっていくのが本当の“友情”なんだ」

 

「たまに意見がぶつかるときもあるけど、それを共に乗り越えた存在こそが本当の“仲間”なんだ」

 

「こんな大事なことを、一時的にとはいえ忘れていたなんて…」

 

「俺もまだまだだよな。こんなんじゃあ…」

 

「こんなんじゃあ、勝てる試合も勝てねぇ」

 

そう言うとブロッケンは立ち上がり、キン肉マン達の居る方へと体を向け、頭を下げた。

 

「みんな…ごめん。俺、つい意固地になっちまった」

 

「…行ってくるよ」

 

「だ、大丈夫か…?ブロッケン」

 

勇みながらリングへ向かっていくブロッケンに不安そうな表情で歩み寄るテリー。

 

しかし、その辛気臭い言葉とは裏腹に、彼は明るい言葉で応えた。

 

「ああ、もう大丈夫だぜ!」

 

「俺はもう迷わねぇ!正義超人の一因としてこの試合、必ず勝って見せる!」

 

「ラーメンマンと共に“勝利”の二文字をつかみ取ってやるぜっ!!」

 

腕を高々に揚げ、見守る彼らに対して叫んだブロッケン。

 

それに応えるようにキン肉マンも彼を鼓舞した。

 

「いいぞブロッケン!勝ってお前の強さをアイツらに見せてやるんじゃーっ!」

 

そう言うとブロッケンはリングに向かっていった。

 

その姿に先ほどまでの彼の姿はなかった。

 

悠然とリングへ向かっていく彼のうしろ姿を見ながら、ほっとしたような表情を浮かべたテリー。

 

正義超人の諍いを解決することが出来た、自身が起こした行動に対する罪悪感からある程度解放されたことに安堵しているようにも見える。

 

「ありがとう、バッファローマン」

 

「へっ、水くせぇ。仲間じゃねえか」

 

「このくらい…」

 

その時、バッファローマンは少しだけ体を前に傾けた。

 

自身が負っている傷を手で抑えながら。

 

「ぐっ…」

 

「バッファローマン!大丈夫かっ!?」

 

驚いた様子でバッファローマンに駆け寄るテリー。

 

額に汗を垂らす彼の様子は明らかにおかしかった。

 

「へへ…ちょっと無理しすぎたかな」

 

「柄にもなく大声出しちまったから、ちょっと疲れちまった…」

 

「疲れた…?」

 

バッファローマンの言葉に違和感を感じたテリー。

 

「…はっ!」

 

なにかに感づいたのかテリーはバッファローマンの傷がある胸へと目を向けた。

 

(きっ…!傷口が…)

 

バッファローマンが抑えている包帯からは血がにじみ出ていた。

 

満身創痍の体のなか残虐超人側に突進していったこと、そして、その状態で叫んだことも相まって彼の体が悲鳴を上げ始めたのだ。

 

血のにじみはその悲鳴に対する合図だと言えるだろう。

 

(バッファローマン…お前ってやつは…っ!)

 

下を向き、拳を強く握って震えるテリー。

 

それからまるで鬼のような形相をすると、ブロッケンがいるリングに向かい、涙ながらに叫んだ。

 

「ブロッケン!絶対に勝て―ッ!!」

 

「勝ってバッファローマンの雪辱を晴らすんだーっ!!」

 

涙を浮かべ、ブロッケンに叫ぶテリーに対し、彼は「沈黙」という形で返し、ブロッケンマンが待つリングへと向かった。

 

「……」

 

「……」

 

リング上で相対する二人。

 

先ほどまでの混沌とした雰囲気とはまた違う、別の意味での緊張感があった。

 

例えるなら、対等感のある緊張感…さっきまでの一方的にやられている様子とは一線を画す雰囲気だ。

 

「よう。さっきまでの卑屈な態度はどうした?」

 

「…置いてきたよ。自分の枕元に」

 

「よく、見つかって怒られてただろ」

 

「…さぁ、覚えてねぇなあ」

 

息子のジョークともとれる会話をとぼけたように返すブロッケンマン。

 

息子と父親だからこそできる会話、という事なのだろうか。

 

「へへ…まぁともかく、ようやくお目覚めってわけかい」

 

「ああ、覚醒(めざ)めてやったぜ」

 

「アンタを、倒すためにな…!」

 

親父とはまた別の意味で、彼の瞳には光が宿っていた。

 

親父が闇なら息子は光、と言った具合にその雰囲気は対象的だった。

 

「けっ、調子のいい野郎だ」

 

「ちょっとばかし発破をかけられたくらいで調子に乗るんじゃねぇ…」

 

やれやれ、といった感じで呆れたように息子を煽るブロッケンマン。

 

「安心しな。その友情、今すぐに俺がぶち壊してやるぜ」

 

(ギラリ)

 

そう言うとブロッケンマンはまたあの「残虐な眼」をした。

 

まるで獲物を狩る虎のような、あの眼である。

 

「こっちこそ…俺たちの友情が本物だってことを見せてやるッ!!」

 

「行くぞっ!」

 

そう叫び、勢いよく父親に向かっていったブロッケン。

 

試合時間が30分以上という長時間にわたって行われているこの試合。

 

これで本当の意味で対等な戦いになった、という感じなのだろうか。

 

果たしてこの勝負、ブロッケンの「復帰」で正義超人側に勝機が訪れるのだろうか。

 

「残虐超人 対 正義超人」の試合はまだまだ続く…

 

                 -続く-

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話「放て!因縁の技!」

『最後の残虐』第16話です。用事があったので少し投稿時間が遅れてしまいました… 正義超人と和解したブロッケンは父親であるブロッケンマンに対して宣戦布告をし、ここに対等な形での親子対決が実現した。…のだが、両者とも似たような戦い方をするためか試合がなかなか進まず、両陣営は手をこまねいていた。さて、正義超人たちはこの状況をどう打開するのだろうか?


スタジアム 場内

 

リング外から突如乱入してきたバッファローマンにより正義超人側に勝機が訪れてからしばらく後のこと…

 

リング内では現在ブロッケンマンとその息子のジュニアが戦っており、お互いの刃と刃がぶつかり合う白熱した戦いとなっていた。

 

(キィン!ガッ!)

 

リング上に響く刃物がこすれるような音と、人間の体同士がぶつかる際に鳴る鈍い音。

 

ブロッケンマンが斬りかかればブロッケンがそれを手刀で防ぎ、ブロッケンが斬りかかれば父親がそれをいなす、と言った感じ。

 

刃物と同等の切れ味を持つ手刀を防いだ際に血が流れないのは、さすがブロッケン一族と言ったところか。

 

やはり腕の鍛え方が普通の人と違うのだろうか…

 

「ぜえ…ぜえ…」

 

「へへへ…うっとおしい野郎だぜ」

 

「それはこっちのセリフだ…親父」

 

息を切らしながらお互いを揶揄し合う2人。

 

しかし、お互いに実力が拮抗しているのかなかなか勝負がつかない。

 

否、彼らは決定打が打てないのだ。

 

なぜなら、彼らはお互いの懐に入り込むことができないでいたからである。

 

真剣での決闘で行われる鍔迫り合いを見ると何となくわかるかもしれないが、基本的に刃を持った両者が懐に入り込もうとするとお互いが自分を防ぐような体勢となってしまう。

 

まともに向かっていけば問答無用で斬られてしまい、最悪そのまま負けてしまう事も十分に考えられる。

 

そうなってくると、ある程度懐近くまで言ったとしても、斬られる可能性を少しでも低くするために距離を取りつつ戦うといった泥試合のような試合展開となってしまうのだ。

 

そのため、ブロッケンマンとブロッケンとの親子対決が始まってからは特に目立った試合展開はなく、お互いがお互いをけん制し合うという状況が続いていた。

 

と、いうのが前回ブロッケンが父親に対して高らかに宣言したのちにあった展開である。

 

さて、親子同士が戦っていた一方で正義超人側にも新たな動きがあったようだ。

 

今まで「セコンド」と呼ばれる、簡潔に言えばリング内で戦っている味方にリング外からいろいろアドバイスする人を決めていなかったので、一体誰がセコンドをやる?という話になっていたのだ。

 

「確かに…あっち側は自分で判断して戦っとったから私たちもそれに乗じてセコンドなしで戦っとったな」

 

「俺達は基本的に見てるだけで、アドバイスなんかはほとんどやってなかったぜ…」

 

口々にキン肉マンとテリーマンが頬を人差し指で搔きながらお互いに顔を見合わせた。

 

「さて、誰が今回のセコンドをやる?」

 

「うーん、そう言われると適任者がおらんのう」

 

「ブロッケンやラーメンマンのようにブロッケンマンとウォーズマンの戦い方の両方を知っとると言うやつは私たちの中におらんからな」

 

「やはりここはセコンドなしで…」

 

キン肉マンが話を打ち切ろうとした次の瞬間、

 

「ま、まて…」

 

突如背後から聞こえてくるかすれ声。

 

その声は紛れもなくバッファローマンのものだ。

 

テリーマンに抱えられながらバッファローマンは少し息を切らせながらキン肉マン達に話しかける。

 

「俺が…俺がセコンドをやる」

 

「バッファローマン!お、お前…ブロッケンマンと戦った際に受けた傷がまだ完治しておらんのじゃろう? 」

 

「病院に戻ったほうが…」

 

キン肉マンの心配する声を断ち切る形で言葉を遮ったバッファローマン。

 

額には汗が流れており、とても大丈夫そうには見えないのだが…

 

「いいや、俺は何としてでもここに残る…」

 

「ブロッケンマンと戦ったことがあるのはこの中で俺だけなんだ…少しくらいならアドバイスができるかもしれねぇ」

 

「……」

 

バッファローマンは眼をつむった。

 

彼の脳裏にブロッケンマンとの死闘が思い起こされる。

 

 

「死ね牛野郎!」

 

異常なオーラを身にまとい、彼の胸に向かって放たれる刃。

 

「ぐわああああああっ!!」

 

それをもろに食らい、胸から赤い鮮血が噴出した。

 

そこで彼の回想は終わった。

 

 

バッファローマンは閉じていた瞼をゆっくりと開く。

 

(……)

 

バッファローマンは下に向けた顔を上げ、まっすぐな目でキン肉マン達の方を向いた。

 

「それに、友人2人がここで必死になって戦ってるんだ」

 

「いま病院に戻るのは酷ってもんだぜ…」

 

バッファローマンの鋭い眼光、必死の形相。ここを離れたくないという鋼の意志。

 

もう、誰も彼を止めることはできなかった。

 

「…わかった。全く…いつもお前さんの気迫には敵わんわい」

 

「好きなだけ、ここにいるといい」

 

意地でもここに残るといって聞かない彼に呆れつつもにっこりと笑ってバッファローマンに対してこの場所に留まることを許したキン肉マン。

 

テリーやロビンも同じ意見のようだった。キン肉マンがうなずくと同時に彼らもうなずいた。

 

「へへ…ありがとよ、キン肉マン」

 

そしてテリーマンの方へ向き直ると

 

「テリーマン、すまねぇがリングの傍まで行くのを手伝ってくんねぇか?」

 

「体が…思うように動かねぇんだ」

 

「OK、了解した」

 

テリーマンがそう言うとバッファローマンと肩を組み、一緒にリングの傍まで近寄っていった。

 

「くそ…全く展開が開けねぇ」

 

「どうすればいいんだ…」

 

息を切らしながら父親の方をにらみつけるブロッケン。

 

かなり焦っているのか言葉の方にも刺々しいものがある。

 

「……」

 

また、その様子を近くで見ていたラーメンマンのほうも手をこまねいているようで腕を組みながら静かに二人の様子を見守っているといった状況。

 

そんな状況の中、突然後ろから大きな影が現れた。

 

「バ…バッファローマン…?」

 

突然の相棒の出現に驚いたラーメンマン。

 

しかし、その様子に目もくれずバッファローマンはリングに向かって小声で

 

「ちっ…見てられねぇぜ」

 

そう吐き捨てた次の瞬間、テリーマンに支えられながらバッファローマンはリングに向かって声を荒げた。

 

「ブロッケン!いったん交代だッ!」

 

「ラーメンマンと代わるんだッ!」

 

「バ、バッファローマン…?」

 

突然のセコンド宣言に驚きを隠せないブロッケン。

 

「これからの試合は俺がセコンドをやる!お前たち2人のセコンドをな!」

 

「キン肉マン達からのお許しも出た!だから安心してこの俺を頼ってくれーっ!!」

 

「バッファローマン…」

 

バッファローマンの言葉に驚くブロッケン。

 

しかしすぐにその表情も安どの表情へと変わり、帽子を深くかぶった。

 

「…へっ、わかったよ」

 

「頼むぜ、バッファローマン」

 

ブロッケンマンはそう言うとリングを降り、バッファローマンに向けて手を向けた。

 

「まかせとけ」

 

それに反応するかのようにバッファローマンは自身の手を合わせる。

 

簡単に言うとそれは「ハイタッチ」であった。

 

しかもそれは、特に仲が良い友人に対してしか行わない「友情のハイタッチ」…

 

ブロッケンが彼をいかに信頼しているかがよくわかる行動だ。

 

その様子を遠くから見ていたキン肉マンとロビンは静かに一回、首を縦に振り、2人の解れることのない友情を噛みしめていた。

 

しかし、その一方でキン肉マンは何か腑に落ちないものを感じていたらしい。

 

キン肉マンが訝し気な表情で首を傾げた。

 

「しかし…おかしいのう」

 

「ラーメンマンが手負いとなっている今、なぜわざわざラーメンマンを出すんじゃ?」

 

「あまり傷を受けていないブロッケンの方がより長く戦えるはずなんじゃがなぁ…」

 

そんなキン肉マンの心配をよそに、ラーメンマンとブロッケンマンは再び対峙した。

 

「へへ…そんな体じゃお前の得意な空中技もろくに使えやしないだろ」

 

傷だらけのラーメンマンをみてニヤリと笑うブロッケンマン。

 

次の瞬間、ブロッケンマンはラーメンマンに向けて蹴りを一発、彼の腹にお見舞いした。

 

「ぐっ…」

 

蹴られた衝撃に耐えるラーメンマン。単純な蹴りだが、傷だらけの体であることも相まってダメージは大きい。

 

「へへ…やっぱりこの状態で戦うのは無謀じゃねぇのか」

 

「どうやらあっちにはセコンドがいるみてぇだが…とんだ見当違いだった見てぇだな」

 

片膝をついて受けた傷を押さえる彼に対して冷徹に言い放つブロッケンマン。

 

しかし、ラーメンマンの表情はいたって冷静だった。

 

「…それはどうかな?」

 

「なに?」

 

「ブロッケンマン…お前がこの試合の最初に言った言葉をそのまま返してやる」

 

「お前はバッファローマンをなめたことを、後悔することになるだろうぜ…」

 

「…フン」

 

「なめるなよ…」

 

次の瞬間、ブロッケンマンは近くにあったリングロープに乗り、反動を利用してジャンプした。

 

彼の体が地面から離れるかどうかといったその瞬間、突如リング外から荒々しい声が聞こえてきた。

 

「ラーマンマン!奴を空中に浮かせてはダメだ!」

 

「何としてでも地上戦に持ち込ませるんだーっ!」

 

突然バッファローマンがラーメンマンに向かって叫んだ。

 

(バッファローマン…!)

 

「よし、わかった!」

 

バッファローマンの言葉を受けてブロッケンマンの方へと向かうラーメンマン。そして…

 

(ガシッ!!)

 

ラーメンマンは反射的に飛翔しようとするブロッケンマンの体をキャッチ、そのまま勢いよく地面へと叩きつけた。

 

「たぁーっ!!」

 

(ドンッ!)

 

「くっ…」

 

勢いよく地面に叩きつけられるブロッケンマン。

 

叩きつけられた衝撃で痛みが全身に走ったのか、彼は叩きつけられた瞬間に苦悶の表情を浮かべている。

 

「やった、ジャンプしようとするブロッケンマンを何とか防いだぞ!」

 

「そうか…!今のラーメンマンは足を怪我していて、ブロッケンマンの得意分野である空中戦に持ち込ませることが難しい」

 

「そこを逆に利用したのか…盲点だった」

 

一見すると泥試合を解消させようとブロッケンをいったん交代させたように見える先ほどのバッファローマンの行動。

 

しかし本当は、バッファローマンがラーメンマンをリングに出したのはブロッケンマンがよくこの試合でも頻繁に持ち込ませていた「空中戦」に入ることを阻止するためだったのだ。

 

ラーメンマンは現在、先ほどブロッケンマンによって放たれた手刀によって足を怪我しており、空中戦に持ち込ませることはほぼ不可能。

 

しかし、それは逆に地上戦に持ち込ませることが出来るという事で、バッファローマンはそこに気づき、先ほどのような指示を出したということだ。

 

また地上戦であればラーメンマンの決定打であり、かつブロッケンマンとって最悪のトラウマ技を出すことが出来る…

 

バッファローマンは先ほどまでの試合展開でそこまで考えていたという事なのだろうか。

 

「そうか…長い間この男が戦っている姿を見ていなかったから気づかなかったが」

 

「この男、よく前の試合でも空中戦に持ち込ませていたんだったな」

 

ブロッケンマンが以前、戦っていた時のことを思い出すラーメンマン。

 

少しずつだが、彼自身もブロッケンマンと戦っていた時の記憶が戻ってきているのが分かった。

 

すると、ラーメンマンは地面に倒れる仇敵を見て、とあることに気づく。

 

「…ん?そう言えば」

 

「そうか…このパターンはっ!」

 

次の瞬間、ラーメンマンは倒れているブロッケンマンを無理やり立たせ、

 

「-残虐殺法-“死の舞”―ッ!!」

 

ラーメンマン秘伝のチョップの乱れ撃ち。その一発一発がブロッケンマンの体にぶち当たる。

 

(ぐあっ…がっ…)

 

乱れ撃ちを一方的に体で受けるブロッケンマン。

 

その時、チョップの猛攻に耐えられずブロッケンマンの体が大きくぐらついた。

 

「そこだっ!」

 

ブロッケンマンが倒れるか倒れないかのその瞬間、ラーメンマンはこれがチャンスと見たのか、彼に向って走り始めた。

 

(ガシィッ!)

 

倒れかかる彼の体をキャッチしたラーメンマン。

 

「…はっ!」

 

「…ブロッケンマン、久しぶりだな」

 

「ついに、お前に対してこの技を掛ける時が来た」

 

そう言うとラーメンマンはブロッケンマンをうつ伏せにし、彼の上半身を勢いよく仰け反らせた。

 

(ダアアアンッ!!)

 

ラーメンマンの代名詞「キャメルクラッチ」の態勢だ。

 

「き…決まったーっ!」

 

「キャメルクラッチだッ!!ブロッケンマンを葬ったラーメンマンの必殺技ッ!」

 

伝説の必殺技の登場に嬉々として腕を上げて反応するキン肉マンとテリー。

 

(ギリギリギリ…)

 

ラーメンマンによって締め上げられる彼の上半身。

 

締め付けられる音で、彼の体が悲鳴を上げているのがよくわかる。

 

「ぐ、ぐおおおお…」

 

「ブロッケンマンッ!!」

 

今のこの状況に耐えられず、悲痛な叫び声を上げたウォーズマン。

 

しかし、その声もラーメンマンの言葉によってかき消された。

 

「ブロッケンマン…この技の由来は知っているな?」

 

この技の由来、それは“キャメルクラッチ”の由来についてだ。

 

キャメルクラッチとは本来アラブの国で使われていた技であり、逃げ出したラクダを懲らしめるために使われていた荒業である。

 

相手をうつ伏せの状態にさせ、上半身を無理やり仰け反らせるというその分かりやすいビジュアルから、主に相手の背骨を折る技として知られている。

 

以前も言ったが、原作ではラーメンマンがブロッケンマンを倒した必殺技として、そしてラーメンマンの名を世界に轟かせた彼を代表する必殺技なのだ。

 

「文句なく、背骨を折らせてもらおう」

 

しかし、その下にいた悪鬼の目は死んでいなかった。

 

「…ふ」

 

「ふざけんじゃねぇ…!」

 

悔恨と怒りが混じったかすれ声でラーメンマンの言葉を返すブロッケンマン。

 

しかし、彼の言葉の中に諦めているような雰囲気はなかった。

なにか別の策がある、そのような返し方だった。

 

「お、俺は…」

 

 

「俺はっ…この技をぜってぇに破るって決めたんだーっ!!」

 

 

(ブウン…)

 

「はっ…!」

 

「い、いない…?」

 

次の瞬間、謎の音と共にブロッケンマンが消えた。

 

つい先ほどまで感じていたブロッケンマンの感触、それがなぜか急に消え去り、自身は虚空を掴んでいる。

 

「ど、どういうこと…」

 

しかし、ラーメンマンが思慮に至る暇もなく、外からロビンの悲痛な声が彼の耳を貫いた。

 

「ラーメンマン!上だーッ!!」

 

ロビンが言った通りの方向を向くと…

 

「はっ!!」

 

そこには手刀を前に交差させてギラついた表情をしながら飛翔しているブロッケンマンの姿があった。

 

「あばよ…」

 

 

「ベルリンの…」

 

「赤い雨-ッ!!」

 

 

(ドゴオーッ!!)

 

ブロッケンマンが両手を振り上げ、勢いよく下降した次の瞬間、轟音と共に勢いよく煙を上げたリング。

 

包み込まれる2人、果たして一体何が起こったのか…?

 

                -続く-

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話「体は口ほどに恐怖を語る」

最後の残虐第17話です。先週投稿できなかったので今回は少し長めに話を作りました。突如として現れたバファローマンの力によって形勢逆転の兆しが見えてきた正義超人たち。それに乗じてブロッケンマンを追い詰めたラーメンマンはついに因縁の技である”キャメルクラッチ”を繰り出した。しかし、復讐の悪鬼はそう簡単に技を決めさせてはくれなかった。
 果たして、傷だらけのラーメンマンは無事なのか?そして、ブロッケンマンが突然消えた理由とは?


スタジアム 場内

 

「ベルリンの…赤い雨―っ!!」

 

(ドゴオオオッ!)

 

「うわっ…」

 

「ぐわっ…またかっ!」

 

突如、リング上に巻き上がる白煙。

 

それと同時に目を覆うキン肉マン達。

 

一回目と違いそこまで規模が大きくなかった白煙だが、それでも彼の放ったベル赤の威力を示す上では十分だった。

 

白煙が舞い上がってからしばらくたって、ようやく視界が開けてきたのを皮切りにキン肉マン達は2人の様子を確認し始めた。

 

「お、おい!2人はいったいどうなったんじゃ!?」

 

キン肉マン達は一斉にリングの方を見た。

 

鉄柱とリングロープは何とか無事だったが、マットの部分は大きなひびが入っていた。

 

そのリングに、佇んでいる一つの影の塊。一体それが何であるのかは明らかだった。

 

「…ああっ!」

 

「あれを見ろっ!」

 

驚いた様子でリングの方向を指さしたテリー。

 

その指が示した方向の先には…

 

(ギリギリギリ…)

 

「ラ…ラーメンマンッ!!」

 

リング上でお互いの手刀を防ぎ合いながら静止している2人の姿があった。

 

上でブロッケンマンが手刀を武器にラーメンマンに襲い掛かり、下でラーメンマンがそれを抑えている…言い換えれば上下の形による鍔迫り合いの形となっていた。

 

どうやらラーメンマンはすんでのところで何とか彼の手刀を止め、ダメージを受けずに済んでいたようだ。

 

手を前に交差して空中で静止しているブロッケンマンと、それを支えるように下で技を受けきっているラーメンマン。

 

よく見たら右腕一本でブロッケンマンの体重を支えている。

 

「ぐ…ぐうううう…」

 

しかし、傷だらけの体でそんな態勢が長く続くはずもなく、ラーメンマンは彼を支えきれずに右腕を下ろしてしまった。

 

「かっ…かはっ…!」

 

「くっ…!」

 

それと同時にブロッケンマンも崩れ落ち、ラーメンマンの隣へうつ伏せの状態で倒れこんだ。

 

「よ、よかった…すんでのところで何とか技を受け止めたみたいだ」

 

ほっ、と胸をなでおろすバッファローマン。

 

「ブ、ブロッケンマン!」

 

困惑と安堵の色が混じった声でブロッケンマンに向かって叫ぶウォーズマン。

 

しかし、その声もどうやら本人には聞こえていなかったようだ。

 

(ぜえ…ぜえ…)

 

倒れこんだ自分の体を口元を抑えながらゆっくりと起き上がらせるブロッケンマン。

 

腕で口元を抑えたのは、白煙がまだ残っていたのだろうか。

 

そして、ある程度周りを確認すると、彼は倒れているラーメンマンを一瞥した。

 

「ぐぐ…」

 

痛みをこらえながら立つラーメンマン。

 

「……」

 

「ブ…ブロッケンマン」

 

片膝をつき、見下ろしているブロッケンマンをにらみつけるラーメンマン。

 

しかし、ラーメンマンは彼の表情を見た瞬間、何やら様子がおかしいことに気づいた。

 

「…?」

 

「へへ…!」

 

「俺が…俺が殺された技を…」

 

「そうやすやすと受けて…たまるかよ…!」

 

(ぜぇ…ぜぇ…)

 

ブロッケンマンは疲弊が残っているのか、息を切らせながらニヤついていた。

 

しかし、彼自身ニヤついてはいるものの、彼の額からは汗が流れ出ていた。

 

表情も幾分か青ざめており、さっきまでのギラついたような感覚がない…一体何があったのだろう?

 

「な、なんじゃ…?ブロッケンマンのやつ」

 

「さっきまでのギラついた雰囲気とはまるで違うぞ?」

 

不思議そうにブロッケンマンの様子を見るキン肉マン。

 

その様子を見て割って入るようにロビンが彼の質問に答えた。

 

「それだけ、ブロッケンマンにとってあの技がトラウマになっている証拠だろう」

 

「ましてや自分が“死”という概念を、“身をもって”体験した技なんだからな…」

 

ロビンは腕を組みながら下を向き、静かにそう言った。

 

ブロッケンマンが恐らく抱えているだろうと思われる“ラーメンマン”と“キャメルクラッチ”に関するトラウマ。

 

しかしながら、ラーメンマンに関するトラウマに対しては今までの戦いから見てわかる通り、あまり影響を受けていないように見える。

 

なぜ今になってトラウマが体に出る形で発出してしまったのだろうか?

 

これは恐らくだが、もしかしたら今回表出したトラウマの質が違うのではないかという事が考えられるのではないだろうか。

 

つまり、ラーメンマンに関するトラウマは“精神的なトラウマ”、キャメルクラッチに関するトラウマは“身体的なトラウマ”に区別できるのではないかということである。

 

先ほどのキャメルクラッチが身体的なトラウマという形で体が覚えていることを考えると、彼の体から冷や汗や顔が青ざめている理由もなんとなくうなずけた。

 

精神的なトラウマに関しては、ブロッケンマンが抑え込めていたという事を考えると、もしかしたら彼の場合、ある程度表面上は見繕うことが出来るのかもしれない。

 

だが、身体的なトラウマに関してはそうはいかない…体は噓をつくことが出来ない機能を持っているのだ。

 

暑いと感じれば汗をかくし、寒いと感じれば温度調節のために震える。

 

例えそれがトラウマといえども、例外ではない。

 

「ああ、そうじゃのう…私にもういちど悪魔将軍と戦え、と言われたら間違いなく青ざめるだろうな…」

 

「あの時、私は死ぬことはなかったにせよ、何となくブロッケンマンの気持ちがわかる気がするわい…」

 

キン肉マンは腕を組みながら静かにうなずくと、ブロッケンマンの方を見て静かにため息をついた。

 

ブロッケンマンはラーメンマン、キン肉マンは悪魔将軍…

 

同じ“トラウマ”を持つ者同士、どこか共感できる部分というものがあるのかもしれない。

 

「……」

 

「へっ…手負いってことで少々油断しちまったが…」

 

「もう油断はしねぇ。次は、必ず仕留める…!」

 

そう言うとブロッケンマンは一息つき、キャメルクラッチを受ける前のギラついた表情に再び戻すと軍服を脱ぎ、ファイティングポーズを取った。

 

軍服を脱いだ彼の姿に映ったのは鍛え上げられた腕、そして上半身の屈強な筋肉

 

そして…

 

その肩と背中に彼の存在を示す上で重要な「ハーケンクロイツ」の紋章が、体の生傷に紛れ込む形で象られていた。

 

その刺青が示す意味はきっと、とても軽々しく口には出来ない何かがあるのだろう。

 

「うっ…」

 

「な、なんてひどい傷じゃ…」 

 

そう言えば、生傷が絶えないがここに来るまでに修行(スパーリング)でもしてきたのだろうか。

 

ちなみに、言い忘れていたが、彼は今の今まで軍服を着たまま戦っていたのである。

 

軍服を脱いだことで彼が本当の意味での“本気モード”になったという事なのだろうか。

 

「ちょっと待て!」

 

しかしその熱気の最中、突如ブロッケンがそれを遮るように彼らの間に入った。

 

「キン肉マン、ロビン!大事なことを忘れてるぜ」

 

「大事なこと?」

 

ブロッケンマンの言葉に疑問を呈するロビン。

 

しかし、それもお構いなしに彼は言葉を続ける。

 

「キャメルクラッチだ!さっきラーメンマンが出したやつ!」

 

「あの時、ラーメンマンのキャメルクラッチは完全に決まっていたはずなんだ!」

 

「一体なぜあの状況から抜け出せた?」

 

ブロッケンマンの方を指さし、高らかに叫んだブロッケン。

 

そんな彼の言葉を受けて、正義超人たちもブロッケンマンの行った行動に対して徐々に疑問を持ち始めた。

 

「そ、そう言えばそうじゃ!ブロッケンマンの迫力に気おされてすっかり忘れておったわい」

 

手をポンと叩き、何かに気づいたような表情でブロッケンマンの方を向くキン肉マン。

 

「一体どうしてブロッケンマンはキャメルクラッチから抜け出せたんじゃ?」

 

正義超人たちに向かって疑問をぶつけたキン肉マン。

 

しかし、彼らは互いに顔を見合わせるだけで、明確な回答はすぐに出てこなかった。

 

「バッファローマン、わかるか?」

 

そんな状況の中、テリーマンはふと、肩を組んでいるバッファローマンに疑問を投げかけた。

 

「……」

 

肩を組んでいる彼に聞かれ、黙り込むバッファローマン。

 

数ある自分の記憶の中から思い当たる節を探し続ける。

 

「…はっ!」

 

「そう言えば…!」

 

額に冷や汗を流しながら叫ぶバッファローマン。

 

それは、この試合の数日前に遡る…

 

-病院- とある一室

 

ここは当時、バッファローマンが運び込まれていた病院である。

 

(ガタンッ!)

 

突然、急病患者が入るドアが勢いよく開いた。

 

「何事だね!?」

 

「先生…“また”超人の患者です」

 

「またか…」

 

呆れた様子で頭を掻く医者と、困惑した表情を浮かべる看護師。

 

単に呆れているだけではなく、何度も押し寄せてくる急患に疲れているようにも見えた。

 

「今日だけでも病院送りの超人が5人…全く、一体何があったと言うんじゃ?」

 

「先生!考え込んでないで早く患者を!」

 

「ああ、いま行く!」

 

それからしばらくして、すぐに患者が病室に運び込まれた。

 

病室に運び込まれた患者を見るや否や、医者は驚きの声を上げた。

 

「なっ、こ…この超人はバッファローマンじゃないか!」

 

その時のバッファローマンの様子はひどいもので、とても立ち上がるどころか意識を取り戻すかどうかといったことさえ怪しかった。

 

全身裂傷に出血多量、おまけに発見されたのが少し遅かったこともあってか、かなり体から血が出ている状態となっていた。

 

簡単に言えば、いつ死んでもおかしくないような状況だったらしい。

 

「くっ…」

 

全身血まみれのバッファローマンを見て苦悶の表情を浮かべる医者。

 

「…とりあえず、出来る限りのことはしよう」

 

そう言うと彼はバッファローマンを集中治療室へと連れて行き、そこで必死の治療を行った。

 

どんな治療を施したのかは医療の施術に詳しくないのでここに記すことはできないが、とりあえず何とかバッファローマンの命をつなぐことに成功したようだ。

 

全身裂傷に出血多量による昏睡状態と、バッファローマンの体にとって最悪な状態であったが、医師の尽力によりバッファローマンは何とか一命を取りとめた。

 

その後、ブロッケンやラーメンマン、キン肉マン達が病室に来て犯人探しに繰り出したのは一話であった通りである。

 

その後、バッファローマンは何とか傷も治癒していき、その2日後には朧気ではあったが何とか意識を取り戻すことが出来た。

 

「う…」

 

重い瞼をゆっくりと上げたバッファローマン。

 

「そうだ、俺は…」

 

「ブロッケンマンとかいうヤローに…」

 

状況がいまいち把握できていないのか、彼の言動はおぼつかない。

 

無理もない、何日間ものあいだ生死の境を彷徨っていたのだから。

 

「こ、ここは…病院?」

 

朦朧とする意識の中しばらく天井を見上げていると、どこからか見覚えのある声が聞こえてきた。

 

「気が付いたか?」

 

「ほかにもこの病院に運ばれた奴が大勢いるとは聞いていたが…まさかお前がこの病院にいるとはな」

 

アシュラマンだ。超人狩りの目論見を阻止すべくブロッケンマンに善戦したが、敗北を喫してしまった男。

 

どうやら先ほどの医師の言葉通り、ブロッケンマンにやられてしまった超人たちは同じ病院に搬送されたようだ。

 

後ほど私が医師に聞いた話では、幸いアシュラマンの方は傷の入り方が少し浅かったようで出血が少なく、昏睡状態に至るまでにはなっていなかったらしい。

 

バッファローマンが昏睡状態となってから翌日にアシュラマンが病院に運び込まれて、彼は友人という事もあって同じ病室に入院していたということだそうだ。

 

「アシュラマン!お前…」

 

「どうしてここに…」

 

「負けた」

 

彼が質問を投げかける暇もなく、アシュラマンはバッファローマンに自分がここにいる理由を簡潔に告げた。

 

「えっ…?」

 

バッファローマンに質問に対する答えに一瞬反応できなかったバッファローマン。

 

しかし彼はすぐに思い直し、頭が理解したくないと拒否している感覚を押しのけて、ベッドから身を乗り出した状態でおそるおそるアシュラマンに質問をぶつけた。

 

「まさか、ブロッケンマンに…?」

 

彼は静かに首を縦に振った。

 

「そ、そんなことはねぇ!悪魔騎士の中でも特に秀でた実力を持ったお前が…」

 

「超人血盟軍として一緒に戦ったお前が、負けるだなんて…!」

 

「おいおい、勝ってたら今ここに俺はいないだろ」

 

「少なくとも、ここの病院で手当てを受けてるってことはないはずだ」

 

アシュラマンの言葉に動揺を隠せないバッファローマンを彼は諫めるようにして言葉を返した。

 

「で、でもどうして…」

 

アシュラマンはバッファローマンの言葉を受けて下を向き、少しの間口を紡いで黙り込んだ。

 

それからしばらく時が経って、バッファローマンの方を向き直ると、彼はようやく重い口を開いた。

 

「…破られたんだよ、俺の技が」

 

「えっ…」

 

「俺の技…“改良・阿修羅バスター”が破られたのさ」

 

そう言い終わると彼は正面に向きなおり、目をつぶった。

 

「な、なぜだ!?確かお前の技“改良・阿修羅バスター”は今までに誰も破られたことがなかったはず!」

 

「一体どうして…」

 

「俺にもわからない。なんせ、一瞬のことだったからな」

 

彼の脳裏に“あの時”の状況が浮かび上がる。

 

 

「死ぬことになるのは…」

 

「てめぇの方だっ!!」

 

「“-元祖-ベルリンの赤い雨”―ッ!!」

 

ズブッ!!

 

確かに、あの時のアシュラマンの技は完全に決まっていた。

 

別に誰かが細工をしていたわけでも、どこからか横やりが入っていたわけでもない。

 

1対1(タイマン)で行われていたはずであったのに…なぜかブロッケンマンはアシュラマンの技を外し、むしろそれを利用して自身の技をお見舞いしてきたのだ。

 

「……」

 

「足、腕、そして頭」

 

「技は完全に決まっていたはずなんだ。皆目わからない」

 

「一体なぜ、技が破られたのか…」

 

あの時のことをあまり思い出したくないのか、アシュラマンは頭を抱えた。

 

「くそ…これでは“魔界のプリンス”も形無しだ」

 

「すまない、バッファローマン。お前の敵を討てなくて…」

 

「アシュラマン…」

 

「……」

 

自分の中での記憶の整理があらかたついたのか、バッファローマンは再び顔を上げた。

 

いろいろ言いたいことはあるのだろうが、ここは気持ちをぐっと抑えるべきだと自分に言い聞かせた上で

 

それから虚空を見つめる形で静かに自分の考えていることを、そっとつぶやいた。

 

「“改良・阿修羅バスター”がブロッケンマンに破られたって、アイツが言っていたな…」

 

「なにっ!?ブロッケンマンのやつ、阿修羅バスターまで破っているのかっ!?」

 

バッファローマンの言葉に驚きを隠せなかったのか思わず叫んでしまったキン肉マン。

 

「確かアイツの技は以前よりも改良されて、今の今まで破られたことがなかったはずだ…!」

 

それに反応するように青ざめながら言うテリー。

 

どちらも阿修羅バスターが破られたことが信じられないといったような感じだった。

 

「一体なぜ…」

 

動揺するキン肉マン達を遮るかのようにリング上から彼らの話に割って入るブロッケンマン。

 

その顔にはもう先ほどまでの動揺したような表情はなく、余裕そうな顔つきでニヤリ、と笑っていた。

 

「へへ、簡単な話だぜ」

 

「アイツの技には俺が抜け出せるような隙があったってことだ」

 

「それ以外何が言える?」

 

「くっ…!」

 

ブロッケンマンの自信満々な回答にたじろぐキン肉マン達。

 

突如として現れたブロッケンマンの新しい必殺技に意表を突かれたというのもあってか、正義超人側の雰囲気は先ほどのような暗い雰囲気へと変わりつつあった。

 

「さっ、息子のくだらん茶番なんぞに付き合ってないで、そろそろ試合続行と行こう…」

 

「ぜ…」

 

しかし、ブロッケンマンが残虐超人の陣営に戻ろうとした次の瞬間、突然ブロッケンマンの歩みが止まった。

 

「ッ!!」

 

「がぁっ…!」

 

肩を抱くようにして悶絶の声を上げるブロッケンマン。

 

彼の体に異常が起こっているのは明らかだった。

 

「!?」

 

突然のことに驚きを隠せないキン肉マン達。

 

「あっ…ああが…っ!」

 

「な、なんじゃいきなり…ブロッケンマンのやつ」

 

「余裕そうな素振りを見せたかと思いきや、急に悲鳴を上げ始めて…」

 

訝しげな表情でブロッケンマンの方を見るキン肉マン。

 

「……」

 

「……」

 

不思議だと考えていたのはどうやらキン肉マンだけではなかったようで、テリーやロビンをはじめとした正義超人全員が先ほどのブロッケンマンの様子について違和感のようなものを感じていた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「…ち、ちくしょう。ま、まだやっぱり慣れねぇか…」

 

ブロッケンマンの額には冷や汗が流れ出ていた。

 

その汗はさっきのような冷や汗ではなく、体が何かしらの不調を起こした際に発する嫌な“脂汗”。

 

「慣れねぇ…?」

 

「…はっ!」

 

父親の言葉を受けてブロッケンは何かに気が付いたようだ。

 

「…親父」

 

「あ、アンタまさか…」

 

「“あの技”を使ったんじゃねぇのか…?」

 

「ブロッケン一族に伝わる“あの技”を…」

 

「“禁断の技”をッ!」

 

突如ブロッケンから発せられた“禁断の技”という言葉。

 

一体ブロッケンの言う“禁断の技”とは何なのであろうか?

 

                -続く-

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話「軍隊式解体術(アルミィゼレアブリ)

最後の残虐第18話です。突如ブロッケンから放たれた”禁断の技”という言葉。彼は一体なぜこの技を恐れているのだろうか?そして、その技に隠されたブロッケン一族が持つ「もう一つの歴史」とは?
 ※今回は後書きに技についての解説と現時点では不明となっていることについて書いておきました。少々長いですがもしよろしかったらそちらの方も見ていただけると幸いです。


スタジアム 場内

 

「禁断の技をッ…!」

 

こぶしを握り締め、歯を食いしばりながらブロッケンマンに向けて言い放ったブロッケン。

その表情は憎悪に似たような感じであった。

 

「き…禁断の技…?」

 

「ブ…ブロッケン…」

「一体どういうことだ?禁断の技とは…」

 

弟子の豹変ぶりに若干たじろぎながら、恐る恐る彼に“禁断の技”の意味について尋ねるラーメンマン。

 

「……」

 

それを受けて彼はラーメンマンの方を向く。

 

彼は口を紡ぎ、青ざめた表情でゆっくりと口を開いた。

 

「ラーメンマン…いや、俺もそうだが」

「これからの戦いは、覚悟しておいた方が良い…」

 

「…えっ?」

 

「あの男に、絞め技、固め技の類が一切通用しなくなった」

「親父の体をがっちり固めて、地面にたたきつける…なんてことが一切できなくなっちまった…ってことだ」

 

ブロッケンの言っていることを要約すると、これからの戦い、少なくともブロッケンマンに関しては固め技、絞め技などの類が一切効かなくなった、という事になる。

ラーメンマンに関しては先ほどのような“キャメルクラッチ”や“万里の長城”、ブロッケンの場合は“ブレーメンサンセット”、“フランケンシュタイナー”といった技が使えなくなる、といった感じなのだろうか。

 

「い、いったいどういう事なんじゃブロッケン!固め技や絞め技が一切効かんとは…」

 

「ああ…」

 

ブロッケンは技についてさらに説明を続ける。

 

「あの技は簡単に言うと全身の関節を外し、固め技や絞め技の類から脱出する技だ」

「はたから見れば縄抜けのようにも見えるんだが…関節を外す際にまるで“脱臼”したような状態になること」

「そしてその脱臼した状態を自力で、かつ一瞬で元の状態に戻さなければいけないことから、ブロッケン一族の中ではほぼ不可能とされてきた技なんだ」

 

「ま、まさかブロッケン一族にそんな技があったとは」

 

「まさに“寝耳に水”だな…」

 

驚きの表情を隠せないのか口を開いたまま額に汗を垂らしながら話すテリー。

 

その表情を見て、バッファローマンは冷静にブロッケンに質問を投げかけた。

 

「しかしブロッケン。おまえ、今までその技について触れてきたことなんかなかったじゃねぇか」

 

「第一、はたから聞いてりゃ割と応用も効いて便利な技だ。…うまくやりゃそれなりに使う機会も多かっただろう」

 

「一体なぜ今まで使わなかった?」

 

訝しげな表情でブロッケンに尋ねるバッファローマン。

 

それに対し彼は帽子で表情を隠しながら答える。

 

「さっきも言っただろ、あの技は“禁断の技”だと」

「仮にやろうと思ってもそう簡単に使えるような代物じゃねぇんだ」

「まあ…仮にこの技が使えたとしても、多分使うかどうかはわからねぇ」

「確実に一度は躊躇することになるかもな…」

 

「使えたとしても、確実に躊躇する…?」

「どういうことだ」

 

首をかしげるロビンにブロッケンは彼の方向を向いて答えた。

 

「あの技はな…下手をしたら二度とリングに上がることが出来なくなるんだ」

 

「な…なんじゃと!?」

 

彼の回答を聞いて驚く正義超人たち。

 

「そ、それは本当なのかっ!」

 

それを畳みかけるようにロビンが叫ぶ。

 

「ああ、あの技は確か先代のことが書かれてる文献に載ってたはずだ」

 

そう言うとブロッケンは文献の中の内容の一部を簡単に説明し始めた。

 

「“この技はいかなる締め技、関節技諸々を回避すれど、失すれば代償に足の節、腕の節を破壊し」

「下手をすれば、二度とリングに上がること叶うまじ“…とな」

「そりゃそうだ…全身の関節、おまけに首の骨まで外すことのできる技なんだからな」

「もし失敗でもしたら…ほぼ確実に死ぬ」

 

「首の関節まで外せるのかっ!?」

 

驚くキン肉マンに対し、ブロッケンは静かにうなずいた。

 

「ああ。文献の内容が正しけりゃ、恐らくそうだったはずだぜ」

「この技の名前、俺達ブロッケン一族の中では」

“軍隊式解体術”(アルミィゼレ=アブリ)と呼んでいる」

「長ったらしいから“A.A.戦法”って呼ぶときもあるな」

 

「あ…ある…?」

 

「ドイツ語で“軍隊式解体術”、(ぐんたいしきげたいじゅつ)ってことさ、キン肉マン」

 

「私たちの印象では“縄抜け”という感じらしいな…」

 

ロビンの中でも腑に落ちない部分があるのか、少し曇った表情で彼はキン肉マンの方を見る。

 

「解体術、縄抜け…もしかして」

「一時的にスプリングマンや悪魔将軍のような“軟体超人”になってしまうという事か!」

 

どうやらキン肉マンの方は独自の視点で解釈し、結論に至ったらしい。

彼はポン、と手を叩き、ブロッケンの方を向いた。

 

「厳密に言うと少し違うんだが…まぁ大体あってるぜ」

「そうだ。俺達ブロッケン一族は一時的という制約の下、体を自由自在にどの方向でも曲げることのできる特異体質を持っている」

「ただ、それでもあの技は危険すぎて使う事を避ける」

「実際にこの技を試そうとしたご先祖たちの何人かは修行の途中で関節があらぬ方向に向いて二度とリングに上がれなくなったり、全身の関節が元に戻らなくなって亡くなったり、昏睡状態になって二度と目を覚まさなくなったりしてたらしいしな」

 

 つまり、ブロッケンの言うところの“禁断の技”とは相手に固め技や絞め技の類をかけられた際に全身の関節を外し、抜け出す技のことであり、ブロッケン一族はこの技を世に広めることを嫌い、会得するための文献を秘密の場所に隠した…という事になる。

 また、ブロッケン一族がこの技を嫌ったもう一つの理由として、関節の外し方を少しでも間違えれば二度とリングに上がることが出来なくなり、下手をすれば死亡することにもつながりかねないといった理由があったようだ。

 そう考えると、確かにブロッケンがこの技を使用すること、そしてそれが世の中に広まってしまう事を嫌う理由が何となくうなずけた。

 

 もしこの技が広まってしまえば、その技の便利さゆえに多くの人たちが使用し、会得しようと試みるだろう。しかし、最終的には技の会得には至らず、この技の毒牙にかけられてしまう事は想像に難くない。そうなれば、その責任は必然的に技を考案したブロッケン一族に責任がのしかかってくることになる。

 そうなってしまう前にブロッケン一族の先祖はこの技を永久封印し、この技を誰にも使わせないようにした…というのが封印までの流れなのだろうか。

いずれにせよ、どちらの意味でも難しい技である。

 

「ん…まてよ」

 

なにかに気づいたのかキン肉マンはいつにもなく真剣な表情になる。

 

「じ、じゃああの時…」

「ザ・ニンジャの“蜘蛛糸縛り”を見よう見まねで外したというのは…」

 

まさか…というような表情でキン肉マンは。彼の方を向いた。

すると彼はそれを受けて青ざめたような表情をしながら質問に答えた。

 

「ああ、たった今気づいた。あれは偶然なんかじゃない」

「無意識のうちに“禁断の技”を使っちまってたってことだ…」

 

 キン肉マンの言っている試合とは「黄金のマスク編」にあったウォーズマンの体内の中で行われた「ザ・ニンジャ対ブロッケンジュニア」の試合のことを言っているのだ。

キン肉マンが言っていたように悪魔超人の中でも特に優れている超人の一角、悪魔騎士の一人であるザ・ニンジャがブロッケンに対しリングロープを巻き付け、身動きを取れなくさせていたことがあった。

 しかし、その際にブロッケンはニンジャの技の一つである“順逆自在の術”を模したと称し、彼の技を“見よう見まねで”やって見せた。

 しかし、実は彼の繰り出した技は決してニンジャのコピーではなく彼の、厳密にいえばブロッケン一族の“A.A.戦法”を無意識に繰り出し、彼の技を防いでいた。

 決して見よう見まねの技などではなく、彼の技としてあの危機を脱したという事なのである。

 

「まぁ、俺も教育の一環として教えられただけだったから、このことを詳細に知っているわけではないんだが…」

「とにかく、俺達ブロッケン一族は先代から永代に至るまでこの技を意図的に使う事を厳しく禁止して、文献を世界のどこかにある図書館に保管し、絶対に俺達の力では見つけられないようにしたんだ」

「実際、過去に何人かがその禁を破ろうとしたが、見つけることは叶わなかったと聞いている」

「仮にその文献を見つけ出したとしても、決して会得しようとは考えず、静かにその本を棚に戻せ…と伝えられたはずなんだ」

 

「へへ…よく知ってるじゃねぇか」

「やっぱりブロッケン一族にとって、この問題だけはどうしても外せねぇからなあ」

 

そう言うとブロッケンマンはリングロープに腰を掛け、腕を組んだまま正義超人の方を向いた。

 

「人間と超人のハーフである俺たちだ…普通の超人みてぇに数日で傷が治るわけでもねぇし、ましてや関節を外すんだから、失敗すりゃあ二度と元の体には戻らねぇからな」

「ただ…俺はそいつを克服する術を身に着け、慣れないまでもこの技を意図的に使うことが出来るまでになったのさ」

 

リング上で腕を組み、薄い笑みを浮かべながら話すブロッケンマン。

 

「まぁ、これからはいかなる絞め技、固め技、とにかく相手をがっちりつかんで叩きつける技なら何でも跳ね返せるってことが分かっただろ?」

「俺がこの技を今までの試合であんまり使わなかったのはな、技自体が慣れてない、おまけにそれ自体が禁止されているってのもそうだったが…」

「一番はこの技を自由に使えるってことを他人に勘繰られてしまう事を防ぐためだったのよ!」

「現にアシュラマン以外ではこの技を使ってないし、使われた当人も全くわからなったようだしな」

「だが、やはり同じ一族が相手じゃあすぐに感づかれちまう」

「だからこうしてキャメルクラッチを皮切りに、この技を常に使ってやろうと“お披露目会”をしてやったわけだぜ!」

 

「ふざけるな…!」

 

ブロッケンは自分の父親に小さく、しかし重い一言を浴びせた。

声こそ小さいものの、その声質は重く、怒りの感情を吐き出していることは一目瞭然であった。

 

「ブロッケン一族はこの技を俺の代に至るまでずっと隠し通してきた…」

「だが親父…!アンタはいま、その禁を破ったんだッ!」

 

ブロッケンはブロッケンマンの方に指を指し、自分が持つ怒りの感情をぶちまけた。

彼はさらにこの状況に応じて言動を畳みかける。

 

「先代が絶対にこの技を広めさせまいと必死になって守ってきたものを非公式試合とはいえ、いとも簡単に公表しやがって…!」

「親父がそこまで果たしたい復讐って、一体何なんだよッ!?」

 

「……」

 

息子の悲痛な叫びに沈黙という返答を返す父親。

 

「親父ッ!!」

 

そのふざけたような、煮え切らないような態度に業を煮やしたのか、ブロッケンはブロッケンマンに向かって叫んだ。

 

しかし、その叫びから帰ってきた返答はけだるそうな、若干イラついたような声色だった。

 

「…るせぇな。さっきからグダグダとよ」

 

「なに…?」

 

父親からの意外な反応に一瞬固まったブロッケン。

 

その合間を縫って何もせずに立ち止まっていたブロッケンに対しブロッケンマンは彼に向かって走り出した。

 

(ガシィッ!)

 

リング上で組み合う二人。“返答は許さず”ということなのか。

 

「ぐぅ…!」

 

「敵が目の前にいるんだぜ…さっきから何をボーっとしてやがる」

 

「ひ…卑怯だぞ…!親父…」

 

苦悶の表情で父親と相対するブロッケン。

しかし、それもお構いなしに彼は“攻めの姿勢”の態度を崩さない。

 

「さっきも言ったはずだぜ…覚えてねぇのか?」

「俺達は“残虐超人”…勝つためなら不意打ちだろうがどんなことでもする」

「卑怯は褒め言葉…違うか?」

 

「ぐっ…!」

 

「それに今は“試合中”のはずだ…一度ゴングがなりゃあ」

「例えそれが“禁断の技”だろうと、反則にはならねぇんだよ!!」

 

「ブ、ブロッケン!」

「くそーっ!あの状態では得意技の手刀も使えん!」

「固め技も絞め技も使えんし、一体どうしたらいいんじゃ!」

 

ブロッケンの状況に焦りを隠せないキン肉マン達。

この状況で冷や汗をかかない人は誰一人としていなかった。

 

「……」

 

しかし、この状況を見て一人腕を組みながら今の状況を静かに見ている人物がいた。

 

「…妙だな」

 

「ん?どうしたんじゃロビン」

 

何か言いたげな彼の表情。しかしロビンはしばらく考え込むと

 

「…いや、何でもない。多分気のせいだろう」

「忘れてくれ」

 

首を横に何回か振り、自分の言動を撤回した。

 

「??…変な奴じゃのう」

 

首をかしげるキン肉マン。しかし、まあいいかというような感じで彼はリングの方に向き直った。

 

キン肉マンとロビンとの間で少しばかり気になる会話をしていた一方で、ブロッケンマンとブロッケンの間でも少し進展があったようだ。

彼らはガッチリと組んだ体制を解き、お互いが対峙するような形となっていた。

 

「…おい、息子よ」

 

「何だ」

 

「へへ…そんなにこの技が嫌いか?」

 

腕を組み、ニヤリと笑うブロッケンマン。

 

「…ああ。大嫌いだ」

 

それとは対称的に無表情で返答するブロッケン。

 

「…そうか」

 

「…さっきから何が言いたい?」

 

片方の眉をピクリと上げ、彼に尋ねるブロッケン。

思わせぶりな態度が気に食わなかったのか、彼の語気には苛立ちが垣間見えていた。

 

「へへへ…至極簡単なことさ」

 

「そんなにこの技が嫌いなら、俺からこの技を奪ってみやがれ!!」

 

そういうと彼はブロッケンの方に向けて勢いよく走り出した。

 

「何い…一体どういうことだ!」

 

「技を破ってみろってことだよマヌケ!てめぇにその技量があればの話だがな!!」

 

そう叫ぶと彼は走りながら右腕を出した。

ラリアットを放つつもりだろうか。

 

猛然と向かってくるブロッケンマンに対し、ブロッケンは最大限の警戒をしながらファイティングポーズを取る。

その際、何かを考えこむように彼は眼を閉じた。

 

(くっ…手刀も防がれるし、掴んで叩きつける、なんてこともできねぇし…)

 

(けど…)

 

立ち向かっていく腹が決まったのか、ブロッケンは目をカッと開いた。

 

(この技の特徴を深く知ってるのは、正義超人の中で俺だけなんだ…!)

 

そして、向かってくる父親に対し悠然と、しかし静かなる決意を込めて叫んだ。

 

「来やがれ…!」

 

「何としてもてめぇの技…破って見せるッ!」

 

果たして彼は、父親の技を破ることが出来るのか?

 

続く

 




技について(解説と不明点)
「軍隊式解体術」:ドイツ語だと「アルミィゼレ=アブリ」、日本語だと「ぐんたいしきげたいじゅつ」と読む。全身の関節を外すことによって現存するほぼすべての固め技や絞め技などから抜け出すことが出来る技と言われている。発案したのはブロッケン一族のご先祖(誰が考案したのかという事は現時点ではわからない)名前が長いので一族の間ではしばしば頭文字をとって「A.A.戦法」と呼ばれていた。
 一見すると応用が利きそうで関節の外し方を間違えさえしなければ便利な技のように見えるのだが、見た目に反して技の難易度が非常に高く、発案者の一族の中でも何人かは死亡、または昏睡したまま二度と目を覚まさなかった事例まであったという。
 これを受けてブロッケン一族の先祖はこの技における意図的な使用を禁止し、永代に至るまでこの技の習得が出来ぬよう、世界のどこかにある秘密の図書館にこの文献を寄贈した、とのことである。
 ちなみに、ブロッケン一族はDNAに刻まれているのかこの技を無意識に出せる時がたまにあるそうで、黄金のマスク編の際に行われたザ・ニンジャとの戦いにおいてブロッケンが偶然この技を出したらしいのだが、どうやってニンジャと位置を入れ替えたのか、という事に関しては不明。
    


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話「不落の技、ほとばしる火柱」

最後の残虐第19話です。どんな技でも返してしまう伝説の技「軍隊式解体術」(アルミィゼレ=アブリ)を会得したことに驚きと憤りを隠せないブロッケン。そんな彼を煽るかのように父親であるブロッケンマンは彼にこの技を破って見せることを提言する。果たして彼は自身の父親に一矢報いることはできるのか?そして最近、妙にウォーズマンの出番が少ないように感じるのだが、果たして出番はあるのか?


スタジアム 場内

 

「うおおおおおっ!」

 

鍛え上げられた腕を上げ、、ブロッケンに猛然と向かってくるブロッケンマン。 

 

「させるかっ…!」

 

向かってくる父親に対し、ブロッケンは苦い顔をしながらファイティングポーズをとっている。

そして、彼の体にブロッケンマンの腕が突き刺さるか刺さらないかといった次の瞬間、彼はブロッケンマンの腹に蹴りを入れた。

 

ドガッ!!

 

「ぬっ?」

 

とつぜん腹を撃たれ、不意を打たれるブロッケンマン。そのまま彼の体はリング上で宙を舞う。

そしてその宙を舞った体を見るや否や、ブロッケンはブロッケンマンの腕をつかみ、彼の体と共に勢いよく垂直に落下していった。

 

「ブレーメンサンセットッ!!」

 

「おおっ!ブロッケンがブロッケンマンを掴んだぞッ!」

 

歓声を上げるキン肉マンとロビン。

 

「し、しかし…!」

 

それを傍目に苦い表情をするテリーとバッファローマン。

予感勝負は彼らの方に軍配が上がったようだ。

 

「へへへ…」

 

(ゴキゴキボキィッ!!)

 

ブロッケンが彼の体を掴むや否や、突然聞こえてくる謎の音。

ブロッケンマンが「A.A戦法」を使ったのだろうか。

 

「うあっ…!関節が外れる嫌な音だ…」

「ぐああっ…!」

 

渋い顔をしながら耳をふさぐキン肉マン達。バッファローマンとテリーは片方の耳をふさげないので、片耳をお互いの手で防ぎ合っていた。

 

「くうっ…!」

 

周囲ですらその音に耐えられないような状況なのだ。当然技をかけているブロッケンの方も関節の音が鼓膜に響いていた。

しかし、彼はその音に臆することもなくブロッケンマンの腕を両腕でつかんで離さない。

 

(くそ…離すものかっ…!)

 

しかし、必死になっているのもつかの間、ブロッケンマンの体はすでに彼の腕から離れていた。

 

「なっ…!」

 

空中を旋回して見事に着地を決めたブロッケンマン。

 

「く…くそ…」

 

それと同時にブロッケンも苦い表情のまま足からリングに着地した。

 

(トスッ)

 

「なるほど…それがお前の新しい技か」

 

ブロッケンマンは腕を組みながらリングロープにもたれかかり、ニヤリと笑った。

雰囲気から察するに、彼は全くダメージを受けていないのだろう…

 

「へへへ…お前、試したな」

「A.A.戦法が本当に使えるのかどうかってのをよ…」

 

「……」

 

やはり先ほどのように掴み技の類は彼に効かないのだろうか。腕をしっかりと固めて手刀を打たせないようにしていたのにも関わらず、ブロッケンの技がいとも簡単に破られてしまった。

 

「だから言っただろ?俺に掴んで叩きつける技は通用しねぇんだ」

「何度やろうと無駄だぜ」

 

「ぐっ…」

 

「どうした息子よ…攻めてこねぇのか」

「手が震えてるぜ…」

 

「…へっ、勘違いをするんじゃねぇ」

「こいつは…武者震いだッ!!」

 

彼はそう叫ぶと憤怒に満ちた表情のまま彼の懐へと向かっていった。

 

「だあっ!」

 

ブロッケン、ブロッケンマンに向かって上から下による袈裟懸の軌道で手刀を放つ。

それを受けて彼は片腕で手刀をガード、押し切る形で手刀を返した。

 

(キィンッ!!)

 

押し返されて少し後ろへ仰け反ったブロッケン。

しかし、何とか瞬時に体勢を整え再び彼に向っていく。

 

「やあっ!」

 

今度は水平の軌道を描きながら彼は手刀を繰り出した。

ブロッケンの手刀が徐々にブロッケンマンの横腹に近づいていく。

 

「……」

 

ブロッケンマン、その様子を見据えると今度は左の腕で自身の横腹をガード。ブロッケンの手刀を防いだ。

 

しかし一瞬、ガードしてない方のブロッケンマンの腕が外側へ行き、彼のスタンスが若干開いた。

スープレックス系の技が出せるチャンスである。

 

(今だッ…!)

 

ガシッ!

グウン…

 

「でりゃあああっ!!」

 

それをチャンスと見るや否や、ブロッケンはブロッケンマンの腹をガッチリと掴み、彼を頭から叩き落そうとした。

いわゆる“ジャーマンスープレックス”の体勢である。

 

「よし、ジャーマンスープレックスだッ!」

後方からテリーの言葉と共に「どよっ」と歓声が沸いた。

 

(ゴキンッ!)

 

しかし、ブロッケンの決死の掴み投げも空しく、関節が外れる音と一緒にブロッケンマンは掛けられていた腕から自身の体を外してしまった。

 

「ああくそっ!だめかあ…」

 

技の失敗に落胆するキン肉マン達。さっきまでの歓声が一瞬にしてやんだ。

 

(ぜえ…ぜえ…)

 

しかし、ブロッケンの方は外されたことに気づいていないようだ。スープレックスの体勢のままその状態を維持している。

それを空中で見たブロッケンマン。自身の膝を折りたたみ、膝を(やじり)にそのままブロッケンの腹へと垂直に落下していった。

 

「へへへ、お疲れかい」

 

(ドガッ!)

 

「ぐ、う…っ!」

 

ジャーマンスープレックスの体勢のまま体をのけぞらせていたのでブロッケンは彼のニードロップを彼の腹にそのまま受けてしまった。

 

(ドサッ!)

 

痛みでその場に倒れこむブロッケン。額からは滝のような汗が流れている。

 

「息子よ、矢継ぎ早に攻撃を出すもんじゃねえなぁ…」

「隙だらけだぜ」

 

倒れこむブロッケンを遠めに見ながらニヤリと笑うブロッケンマン。

正義超人の陣営、特にキン肉マンはその状況を見て歯噛みしていた。

 

「くそーっ!ブロッケンのやつ、気でも触れたのか!?」

「あんなやみくもに技を放っていては無駄に体力を消耗するだけじゃぞ!」

 

「いや…ブロッケンはあれでいい…」

 

リングロープにもたれかかりながらキン肉マンの言葉に入ったバッファローマン。

体中についた傷で体力をかなり消耗しているのか、彼の息は荒い。

 

「えっ、どういう事じゃ?」

 

「ブロッケンはいま、この状況でやみくもに技を放ちながらも突破口を見つけ出そうとしている」

「ついさっきの攻撃だって、掴み技を決めようとしたわけじゃない…手刀を放つ方向によってブロッケンマンのガードが甘くなる瞬間を見つけようとしていたんだ」

「あの時はブロッケンマンのスタンスが開いたから、スープレックスなどの掴み技を出すしかなかったが…状況によってはアイツの技を破るための大きな糸口となるかもしれない」

「どれだけブロッケンの体力が持つのかが心配だが…今の状況ではこの方法が一番得策だ」

 

「バッファローマン…」

 

「……」

 

(くそ…さっきはスタンスが開いたからつい反射的にスープレックスをかましちまった)

(ただ…親父は恐らく水平方向に技が来たとき、片腕でガードをすると反射的に片っぽの腕が外側にむいちまうんだ)

(前に稽古をつけてもらっていた時もそうだった…)

(ずいぶんと時間が空いちまってたから、親父の癖をまだ完全には把握しきれてないが)

(矢継ぎ早でもいい…俺は必ず親父の技を破る突破口を見つけてやる…!)

 

しばらく目をつむってから彼はもう一度ブロッケンマンの方へと向かっていった。

その後も、何度も彼はブロッケンマンにぶつかっていったが、なかなか突破口は見つけられそうになかった。どんな技を出してもガードされ、最終的には「A.A.戦法」によって返されてしまう。

しかしながらどこか、リングの上では一方的な試合展開となっているというわけでもなく、徐々にお互いの実力が拮抗していくというような感じであった。

しかし、あくまでブロッケンはブロッケンマンに技を返され、徐々に手数が少なくなっていっているというような状況にまで追い込まれており、体力の消耗も手伝って彼は徐々に追い込まれていった…

 

一方で残虐超人側はというと、今のところ有利なので、陣営側は余裕の表情かと思えば…そうでもなかったようだ。

 

「……」

 

ウォーズマンは訝しげな表情でブロッケンマンとブロッケンの戦いを見ている。

2人の戦い、特にブロッケンマンの戦う背う姿をみて違和感のようなものを覚えながら。

 

(おかしい…)

(おかしい…ぞ、今のこの状況だと俺達が断然有利のはず…)

(どんな技でも外せる技が出てきて、俺達の勝利はほぼ確定しているはずなんだ…)

(だが…なんだ?)

(この胸がざわつく、不穏な空気を予感させるような感覚は…?)

 

ウォーズマンがそう考えている一方でリングの上では2人がお互いに正面を向き合う形で対面している。ブロッケンマンの方はこの試合による外傷はほとんどないが、ブロッケンの方は父親の返し技によって全身傷だらけになっていた。

 

(ぜえ…ぜえ…)

 

体力の方も底をつきかけているのか、息を切らせるブロッケン。

よく見たら軍服の方もズタズタに切り裂かれている。

 

(バサッ…)

 

すると、何を考えたのか彼は軍服を脱ぎ、キン肉マン達の居る方へとそれを投げた。

父親と同じで、彼なりの本気モードを示した、という事だろうか?

 

「へへへ…おめぇにしちゃあなかなか攻めたんじゃねぇか?」

「だが、矢継ぎ早の攻撃はやがて底が尽きる。しかも早い段階でな」

 

「…確かに、俺の攻撃はもうあと一つしかねえ」

「…だが、俺はそれでいい」

 

「何だと?」

 

「一つしかねぇ、ってことは」

「そのことにすべてを賭けられるってことだからなッ!!」

「行くぞッ!!」

 

勢いよく向かってくるブロッケンに対しファイティングポーズをとるブロッケンマン。

そしてブロッケンは再び、恐らくはもう、何度もぶつけているであろう右片腕の手刀を最後の一振りと言わんばかりに全力で振り下ろした。

切っ先は縦方向。まるで剣道の面打ちを連想させるかのような軌道で彼は手刀を放った。

 

(キィン!)

 

しかしブロッケンマンはこの手刀をいわば「真剣白刃取り」の形で受け止め、すんでのところで回避。ダメージを受けることはなかった。

 

「うあっ、くそっ…」

「ああ…だめかぁ…」

 

落胆するキン肉マン達。最後の技が防がれた以上、もう正義超人側に打つ手はない、かと思われた。

 

しかし、そのときである。

 

(ギリギリ…)

 

「ぬああっ!」

 

ブロッケンマンの白刃取りよるガードがブロッケンの手刀による縦一閃によりこじ開けられた。

勢いでブロッケンマンの両腕が左右に開く。

 

「うあっ…!」

 

しまったとばかりに顔を引きつらせるブロッケンマン。威力の大きさに不意を打たれたのだろうか。

 

(そこだっ…!)

 

これがチャンスとばかりにブロッケン、まるで侍が刀を抜くような、居合術のようなポーズを取った。

 

「ブロッケンマン!」

 

リング外から叫ぶウォーズマン。

しかし、彼の声も一瞬でかき消されるぐらいにブロッケンの行動は迅速であった。

 

「今だッ!親父ィィィィーッ!!!」

 

(ズバァアアアッ!!)

 

その時、ブロッケンがブロッケンマンに向けて下から上へ袈裟斬りの軌道でベル赤を放った。

素早く出された刃にはわずかながら火柱がほとばしっていた…

果たして、彼の決死の攻撃は実を結んだのだろうか?

 

                 続く

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十話「様々な思惑」

最後の残虐第20話です。ついに父親であるブロッケンマンに一太刀浴びせることが出来たブロッケン。果たしてこの行動が正義超人勝利への起爆剤となるのか?


スタジアム 場内

 

「今だッ!親父ィィィィーッ!!!!!」

 

(ズバァァァァッ!!!)

 

「ぐあああああっ!」

 

刃物の音と同時にブロッケンマンはブロッケンの居る反対方向へと大きく吹っ飛び、リングの上へと倒れこんだ。

 

「やったーっ!ブロッケンマンに手刀でダメージを与えたぞッ!!」

 

歓声を上げるキン肉マン達。音からしても今の攻撃は確実に刃が通った音だろう。

 

ドロ…

 

「ぐぐ…」

 

彼の上半身にはバッサリとブロッケンは刀傷をつけていた。

受けた際に多少仰け反ったのか出血はそこまで無いようだが、見た感じがシンプルで中々に惨たらしい。

 

「ああっ!!」

「む…胸に大きな傷が…」

 

ブロッケンマンの方を指さし、どよめくキン肉マン達。

しかし、それとは対称的にブロッケンマンは冷静であった。

 

「…へっ、なんてことはねぇ」

「ただ単に胸を傷つけただけじゃねぇか」

 

しかし、その冷静さの中にも少しだけ曇ったような言葉遣い。

少々焦っているのが素人目からでもわかった。

 

「ちょっとばかし俺の体に傷をつけたくらいで調子に乗るんじゃねぇ!」

「行くぜっ!」

 

そう言ってもう一度ブロッケンに向かっていくブロッケンマン。

 

それを受けて、もう一度ブロッケンはブロッケンマンに薙ぎ払う形で手刀を放った。

 

(キィンッ!)

 

そしてブロッケンマンはもう一度左手で彼の手刀をガード、再びガードしていない方のスタンスが開いた。

 

(そうだ…このスタンスだ!)

 

「行くぞッ!!」

 

(グウン…)

 

ブロッケン、ブロッケンマンの上半身を掴み、彼を頭から叩き落そうとした。

 

「ジ、ジャーマンスープレックスじゃ!」

 

「ばかなっ!あれはさっき“A.A.戦法”で破られたはず…」

 

「へへ!バカの一つ覚えみたいに同じ技を繰り出しやがって!」

「いいだろう!もう一度…」

 

彼がもう一度「A.A.戦法」を繰り出そうとした、その時…

 

「…?」

 

「なっ…なんだと…?」

「ぐっ…ぐああああっ!!」

 

ガッチリと技が決められていたのか何故かブロッケンマンは技から抜け出すことが出来なくなった。

 

(ドスン!)

 

ブロッケンマンは彼の放ったジャーマンスープレックスを、先ほどはA.A.戦法で抜けられていたはずの技をもろに受けた。

 

「ど、どういう事じゃ!ブロッケンマンの奴、さっきの関節外しが使えていないぞ!」

 

「どうだ親父、お望み通りその技を破る…もとい封じて見せたぜ」

 

「アンタの技はな、その技自体を破ることはほぼ不可能なんだ」

「ただ、技の使い手を何とかすれば活路は開いてくるってわけだ」

 

ブロッケンの技をひとしきり見ていたラーメンマン。

弟子の成長を一目見て何か思うところがあるのだろうか。そんな表情をしていた。

 

 

「ふふ…もしブロッケンがやられそうなら、この身を投げ出して何とか打開策を見つけ出そうと考えていたが」

「私の出番は…必要なかったみたいだな」

 

「ラーメンマン、それはちがうぜ…」

「アンタの技は、そして戦いは決して無駄なんかじゃなかった」

「見ろっ!あれをっ!」

 

そう言ってブロッケンが指さした先、そこには

ブロッケンマンの腹回りにある痛々しい古傷があった。

 

「ゲェッ!あ、あの胴体周りにある傷は…」

「恐らく、ラーメンマンがキャメルクラッチを放った時についた古傷だ…」

 

「関節を外す際に傷が多ければ、大きければ傷口が開いて技を出しにくくなる」

「おまけに、関節が外れるってことはその分皮膚も伸びるってことだから、傷の痛みも尋常じゃねぇ…むろんあの技における多用は禁物だ」

「ラーメンマン!アンタの戦いは決して無駄なんかじゃなかった!」

「アンタのキャメルクラッチでできた傷と、俺が付けた傷で親父の技を封じ込めたんだッ!!」

 

「ブ…ブロッケン」

「親父、これであの技はほぼ出せなくなったな…」

「これで形勢逆転だっ!」

「見せてやるぜ!俺たち正義超人の友情の力をッ!!」

 

「ぐっ…」

 

ブロッケンの言葉を受けて正義超人側では大歓声が上がった。

 

「行けるぞブロッケン!アイツらに私たちの力を見せてやるんじゃーっ!」

 

その一方でバッファローマンとテリーは静かにリングの方を見据えていた。

 

「見ろよバッファローマン、お前の親友は大したもんだな」

「一人で、しかもあんな短時間で禁断の技を破って見せたんだぜ」

「すごいよ…本当に…」

 

そういったテリーの瞼には少しばかり水が溜まっていた。

しかしながら、肝心のバッファローマンからの返事はない。

 

「バッファローマン?」

 

テリーがバッファローマンの肩に手を置こうとしたその時、バッファローマンの体が大きくぐらついた。

 

「お、おいっ!バッファローマン!大丈夫かっ!!」

 

ぐらつく体を何とか抑え、元の体勢へと立て直すテリー。

しかしほっとしたのもつかの間、彼はバッファローマンが置かれている状況に愕然とすることになる。

 

「!!」

 

「う…うぐぐ…」

 

よく見ると胸にあった「×(ぺケ)」の傷口から赤い液体が染み出ていた。

まぎれもなく出血である。しかも少量ではない、傷口全体からの出血であった。

また、出血に相まって表情の方もかなり青ざめており、早急な処置が必要な状態である。

 

「どうしたんじゃテリー!バッファローマンがどうかしたのか!」

 

「いかん…!かなり出血がひどい状態だ」

「今すぐにでも替えの包帯が必要だぞ…!」

 

バッファローマンの状況を見て青ざめるテリー。

 

「何じゃと!?ええと…どこかに包帯かなんかは…!」

 

バッファローマンの緊急事態に慌てふためくキン肉マン。

 

「落ち着けキン肉マン!確かここはスタジアムだろう!」

「医務室かそれに代わる何かがあるはずだッ!!」

「そこに医薬品や包帯がないか?」

 

キン肉マンを落ち着かせつつ今の状況に冷静に対応するロビン。

ここで正義超人のリーダーとしての能力が発揮されている。

 

「いや…わからないぞ。なにせここはしばらくの間誰にも使われていないらしい」

「医務室もあるにはあるんだが、備品も相当古くなってるはずだから使えるかどうか…」

 

ロビンの質問を受けて渋い顔をするテリー。

確かに、もう何年も使われていなければスタジアムの備品も古くなっているか回収されているはずなのでどのみち使えなさそうである。

 

「いや…心配にはおよばない」

「仮に、誰にも使われてなかったとしてもここの建物を管理してる人がいるらしくて」

「その人に派遣されてちょくちょく点検に来る人がいるみたいだから、もしかしたら医務室にも新しい包帯があるかもしれん!」

 

ラーメンマンは息を切らしながらリングの上でロープにもたれかかり、ロビンたちに向けて言った。

 

「よし!それなら私が行ってこよう!」

 

「ああ!頼むキン肉マン!」

 

そう言ってキン肉マンはスタジアムの出口へと走っていった。

そこからすぐに廊下へと出て、早急に医務室へと向かう。

 

(くそ…待ってろよバッファローマン!)

(必ず私が…)

 

「ん?」

 

しかし、キン肉マンが医務室へ向かう途中、スタジアムの入り口付近に2人ほど倒れこんでいるのが見えた。

一人は巨体で、顔にメイプルリーフの紋章、もう一人はラグビー選手のような見た目…

正体が誰なのかは目に見えて明らかだった。

 

「あ…あああーっ!!」

「カ…カナディアンマン!スペシャルマン…みんな一体どうしたんだ!?」

 

「お…おう…キン肉マンか」

 

弱々しい声でキン肉マンの呼びかけに応えるカナディアンマン。

 

「ち…ちょっと観客が暴徒と化しちまっててな」

「何とか抑えて、いま全員帰ってもらったってとこだ」

 

傷だらけの体を起こしながらキン肉マンに報告をするカナディアンマン。

観客が帰り、それに伴って超人全員にも帰ってもらったというような感じなのだろうか。

 

「すまない…まさかそんなことになっていたとは」

「私たちがもっと早く気づいていれば…」

 

歯を食いしばり、下を向いて吐き出すように言ったキン肉マン。

彼は責任を感じているものの、外もそうだが中の方も決して試合進行が一方通行とはいかなかったので外の方に目が行かないのも致し方ないことではあるのだが…

正義感の強い彼ゆえにやはり責任を感じてしまうところがあるのだろう。

 

「そ、それよりどうしたんだ?えらく血相を抱えていたが…」

「もう試合は終わったのか…?」

 

片膝を付きながらカナディアンマンはキン肉マンに中のことについて問うた。

その質問にキン肉マンは目を見開き、慌てた様子で

 

「ああ、そうじゃ!早く医務室に行かないとバッファローマンが…」

 

「バッファローマン…?バッファローマンがどうかしたのか?」

 

「バッファローマンが試合中に倒れたんだ!出血がひどくて今から止血のために医務室へ包帯を取りに行こうとして…」

 

「な、なに!?それは大変だ!」

 

キン肉マンの会話を最後まで聞かず、食い気味に言葉を返すカナディ。

かなり焦っているのか表情の方も焦燥の色が見えた。

 

「早く医務室へ行くんだっ!」

 

早く医務室へと行くことを急かすカナディだったが、キン肉マンの方は2人のことも心配なのか

 

「し、しかしお前たちも…」

 

「俺達のことは気にするなっ!緊急事態なんだろ!」

「俺達は後でそっちに向かうから心配しないでくれっ!!」

 

「わ…わかった」

「んじゃ、お前たちも早く医務室に来てくれよっ!」

 

「ああ、わかってるって」

 

そう言ってカナディアンマン達はキン肉マンを見送った。

その後、2人の間には一瞬の間沈黙の時が流れた…

 

「……」

 

「…大丈夫か?スペシャルマン」

 

「うん。ボクの方は大丈夫だよ」

「むしろカナディアンマン、きみは大丈夫なの?」

 

「俺は…なんとかな…へへ」

 

「…それにしてもカナディ、君すごかったよ」

 

「あの時、カナディアンマンは先陣を切って観客に向かっていったんだ…」

「それに比べたらぼくなんて…」

 

「へへ、俺だってあの時アイツが…」

「バ…バッファローマンがいなかったら多分この壁を守ることはできていなかった」

「アイツには…感謝しねぇとな」

 

カナディアンマンの脳裏にはバッファローマンの勇姿が思い出される…

 

「いーれーろ!いーれーろ!」

 

「ぐう…っ!これはきついぞ!」

「カ…カナディ…!」

 

何とかスタジアムに入ろうと押しかける観客、そしてそれを押し返そうと必死になっている超人達。

スタジアムの外は言うまでもなく最悪の状況だった。

 

「ぐっ…だめだ…もう」

 

その時である。

 

「お、おい!あれ…バッファローマンじゃないか!?」

 

スタジアムの門にひっそりと佇む黒い影。

巨大な体躯に、二本の大きな角…

影の正体は明らかだった。

 

「本当だ!バッファローマンだ!」

「あ、アイツ一体何で包帯なんかしてやがるんだ?」

 

口々にバッファローマンの登場を騒ぎ立てる観客たち。

 

突然のヒーローの登場に正義超人たちは驚きを隠せなかった。

 

「えっ…?」

 

「カナディ…バッファローマンって」

 

「あ、ああ…確かバッファローマンはブロッケンマンの攻撃を受けて昏睡状態になってたはずじゃあ」

 

「……」

 

観客がスタジアムに強引に入り込もうとする姿を見て、沈黙するバッファローマン。

一体彼は何を考えているのだろうか?

 

「なあ聞いてくれよ!いったいどうなってるんだっ!?」

「なんかブロッケンマンとかいうやつが果たし状みてぇな放送をしてたからここに来たんだが…」

「だけど妙なのよ!何でか知らないけど超人たちがスタジアムの前を通せんぼしてて入れてくれないのよ!」

「どういうことか説明してくれよ!バッファローマン!」

 

口々に観客たちがバッファローマンに向けて騒ぎ立て、抗議の声を上げていた。

それを受けて、少し時間が空いたのち、彼は固く閉ざしていた口を開いた。

 

「み、みんな…ちょっと待つんだ」

「スタジアムに乗り込むのは…やめておいた方が良い」

「ブロッケン達がいま戦っている相手は、主力級の超人を何人も葬っている鬼人だ…」

「下手をしたら観客であるみんなにまで被害が及んでしまうかもしれない」

 

「それでもいいじゃねぇか!俺達はその覚悟で戦いを見にきたんだ!」

「そうよ!私たちはそんな戦いを見られるなら死んでも構わないわ!」

「そうだそうだ!」

「いーれーろ!いーれーろ!」

 

「ぐっ…この…」

 

カナディアンマンが顔をしかめ

 

「おい…お前ら…!」

 

叫ぼうとしたその時、

 

「いい加減にしろ-ッ!!」

 

彼よりも早く、この状況にしびれを切らした超人がいた。

紛れもなく、バッファローマンである。

 

(ぜえ…ぜえ…)

「し…死んでもいいなんて軽々しく口にするもんじゃねぇ…」

「まだわからねぇのか!これはもう観客であるアンタらが介入していい問題じゃねぇんだッ!!」

 

そして彼は何を考えたのか、上半身に巻いていた包帯をほどくと

 

「こいつを見ろッ!!」

 

「う…うぐっ…!」

「な、なんだあれは…!」

 

包帯の下にあったのは彼がブロッケンマンと戦った際に受けた傷。

あの「×(ぺケ)」の形をした傷だった。

 

「こいつは“そいつ”と戦った時にできた傷だ」

「もし今の試合に入ったら、下手をしたら観客であるアンタらまでこうなってしまうんだっ!」

「それを防ぐために戦っているのに、観客であるアンタらが入ってきたら元も子もねぇじゃねえかーっ!」

 

 

 

「戦況はあとでマスコミを介して伝えさせるッ!だから…だから今は」

「アイツらのことを、影ながら見守ってやってくれーっ!!」

 

「バ…バッファローマン」

 

「……」

 

バッファローマンの言葉を受けて沈黙する観客たち。

 

(スッ…)

 

すると、とある観客の一人が後ろを向き、静かに去っていった。

そしてそれに呼応するように一人、また一人と観客たちは続々と静かに去っていった。

不満そうな表情を浮かべる者、納得した表情を浮かべる者、様々な表情を浮かべながら彼らは去っていったのだった…

 

「あ、ありがとう。バッファローマン」

 

「で、でもバッファローマン。その傷は…」

 

「ああ、これくらいはなんともねぇよ」

「気にすんな」

 

「そ、そうか…」

 

「じゃあな。行ってくるぜ」

 

「バ…バッファローマン」

 

「ん?」

 

「た…頼んだぜ」

 

「…おう、任せとけ」

 

カナディアンマンとスペシャルマンの頼みを受けてスタジアムの中へと入っていったバッファローマン。

しかし、実はその時バッファローマンは包帯を外したことによりふさがっていた傷口が開き、再び出血していたことを本人も、その周りにいた人たちも気づくことはなかった。

恐らくだが、先ほどバッファローマンが倒れたのはその再び開いた傷口が原因ではないかと考えられる。

 

「バ…バッファローマンがいなかったら、たぶん壁を守ることはできていなかった」

 

「そうだね…イテテ」

 

「大丈夫か?スペシャルマン」

「サポーターにひびが入ってるぜ」

 

スペシャルマンの肩に付けているサポーターを指さし、心配そうに見るカナディアンマン。

 

「へへ…そう言うカナディだって、顔に付けてるメイプルリーフの先っちょが折れてるじゃないか」

 

「あ、やべぇ。俺のトレードマークが…」

「くっつくかなあ」

 

「医務室にボンドがあるといいね…」

 

お互いに傷がついた場所を触りながら顔を見合わせる2人。

様々な思惑が動く中、試合は進行していくのであった…

 

                  続く

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一話「静かなる微笑み」

最後の残虐第21話です。突如バッファローマンが倒れ、応急処置を行うために医務室へと向かったキン肉マン。その際、スタジアムの外で防衛をしていたカナディアンマンとスペシャルマンにバッファローマンが倒れた遠因について聞かされる。果たしてバッファローマンは助かるのだろうか?


スタジアム 場内

 

ブロッケンとラーメンマンを除いた正義超人たちは、突如大量出血したバッファローマンの看病をするため、彼らの周りへと集まってきていた。

 

「……」

 

全員が緊張した面持ちでバッファローマンの方を見る。

 

「……」

 

しばらくするとロビンがバッファローマンの体に新しい包帯を巻きつけ、一息つくと彼らの方に向けて立ち上がった。

 

「…どうだ?大丈夫そうか?」

 

顔を強張らせながらロビンに尋ねたテリー。

ロビンはしばらく黙ったのち、落ち着いた物腰で

 

「…大丈夫だ、応急措置に傷口を消毒して、包帯を巻いて止血したからとりあえずなんとかなりそうだぞ」

 

その言葉を聞いて正義超人たちは緊張していた顔が緩み、全員の中でほっとしたような雰囲気へと変わった。

 

「よかった…」

 

胸を撫で下ろすテリーマン。

これは筆者の主観なのだが、もしかしたら彼がずっとバッファローマンを支えていたこともあってか彼が一番バッファローマンのことを心配していたのではないかと考えられる。

いや、全員がバッファローマンのことを心配していたのだから本当は心配に優劣を付けてはいけないのだけれど…

ただ、何となくそう感じたのである。

 

「…だが、傷口を包帯で巻いているだけだから正直心もとなさはある」

「油断はできないぞ」

 

正義超人たちのほっとしたような雰囲気とは裏腹に表情を変えず、顎に手を当てて不安そうに話すロビンマスク。

確かに、水を差すようではあるが今の状況はあくまで彼のけがに対して応急処置を行っただけで、またいつ出血するかわからないという状況は変わらないのである。

 

「そうだな…」

 

テリーは先ほどのようなほっとした表情をまた少し強張らせ、予測される事態に対して警戒を強めた。

 

「バッファローマン…」

 

その一方で下を向き、神妙な面持ちでバッファローマンの方を見ていたキン肉マン。

 

「ん?どうしたキン肉マン」

「バッファローマンがどうかしたのか?」

 

その様子に気づいたのか、キン肉マンに話しかけるロビン。

するとキン肉マンは顔を上げ、周りにも聞こえるような声で自分がいま考えていることを話し始めた。

 

「いや、さっきカナディアンマンから聞いた話なんじゃが」

「どうやらスタジアムの外で観客が暴れていたそうなんじゃ」

 

「な、なんだって!?」

 

突然の報告にどよめく正義超人達。

無理もない、今まで彼らはスタジアムの中の状況に手いっぱいだったのだ。外で正義超人たちに待機してもらっていることは知ってはいたものの、具体的に外で何があったのかまで詳細に把握することは難しい。

 

「そ、それで今の状況は!」

 

焦燥を隠せず、上ずった声でキン肉マンを問いただすロビン。

その様子とは対称的に、キン肉マンは鼻をほじりながら彼なりの冷静沈着さでロビンの質問に答えた。

 

「いや、もう収まったんじゃがな…私が行ったときはもう暴れてた観客達もおらんかったし、超人もカナディアンマンとスペシャルマンしか残っとらんかった」

「他の超人は事態の収拾にケリがついたから、怪我をしている超人たちを病院へ連れていくために帰ったみたいなんじゃ」

 

「そうか…よかった」

 

事態の収拾に安心した正義超人たち。

しかし、キン肉マンはここからが本番という感じでさらに説明を続けていく。

 

「いや、本題はここからだぞ」

「どうやらその騒動…バッファローマンが止めたそうなんじゃ」

 

「な、なんだって!?」

 

「あとから医務室でカナディアンマン達に聞いた話じゃと、どうやらバッファローマンは包帯を外して今回の敵が危険だという事を知らせて観客に帰ってもらったそうなんじゃ」

「恐らく、その時にブロッケンマンと戦った時にできた傷が開いてしまったんじゃろう」

「だがその出血量がはじめは少量だったから、バッファローマンは気にも留めずに私たちのいるスタジアムの中へと進んでいった」

「それからラーメンマンを殺そうとしていたブロッケンマンに向かってバッファローマンは突撃、その時に開きかけていた傷口が開いて、出血が本格的に始まったということなんじゃろう」

「…で、ついさっきのような出血多量に陥ったということじゃ」

 

「そうか…どうりで包帯を外した際に傷口が開いたような跡があったわけだ」

「なぜいきなり出血が起こったのか疑問だったんだが…そんなことがあったとはな」

 

納得した表情で頷くロビン。

その言葉と時雄同じくして、テリーは倒れているバッファローマンの方へと向かい彼を抱き上げる。

 

「バッファローマンは観客も、私たちのことも身を挺して守ってくれたんだな…」

 

「じゃが、こうなってしまっては…」

 

「…よしテリーマン、バッファローマンを医務室に連れて行ってくれないか?」

「バッファローマンがもし気が付いたら、状況を説明してやってくれ」

 

キン肉マンの言葉を受けて、ロビンはテリーにバッファローマンを医務室へ連れていくように提案した。

 

「…わかった」

 

その意見にはテリーも賛成だったようで、仲間の超人もいるという事から彼はテリーの肩を借りて医務室へと向かった。

その時のバッファローマンは出血多量により気絶してはいたものの、どこか安心したような表情だった。

 

「……」

 

さて、場所は変わってリングの上。

バッファローマンがテリーマンによって医務室へと連れていかれるその後ろ姿を見ていたブロッケンマンたち。

どうやらバッファローマンの手当てを受けて試合のほうも再び休止していたようだ。

正義超人たちが行っていた一連の流れを、ただ黙々と眺めている2人。

 

「ブロッケンマン…」

 

その時、ブロッケンマンの向かい側からかすれたような声が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

「ブ…ブロッケンマン…おまえ」

「あの光景を見て…何か…気づかないのか?」

 

声の主はラーメンマンだった。

彼はリングロープにもたれかかり、ブロッケンマンの方をじっと見つめている。

どうやら傷だらけの体なので体も動かせないばかりか声もうまく発せていないようである。

先ほどキン肉マンが持ってきた医薬品によってある程度止血の措置はしているものの、包帯もまかず傷を晒しているので、いつまた出血が起きるかわからない。

彼もまた、予断を許さない状況だった。

 

「あぁ?」

 

ラーメンマンの言葉を受けて若干いらだったような応答をするブロッケンマン。

果たしてかすれたような声にいら立っているのか、または別の理由でピリピリしているのか…

 

「正義超人たちが倒れているあの男に対してやっていることに関して、何か気づくことはないのか…と聞いているんだ…」

「バッファローマンは俺たちの戦いにジャマが入らないよう身を挺して守ってくれたのだ」

「それに対して何か…思うところはないのか?」

 

しかし、ラーメンマンの必死の質疑に彼は鼻で笑い、彼の質問に答える。

 

「ふん…随分とまた的外れなことを聞いてくるな」

「そう言えば、お前らは“友情”がどうのこうのとか言ってたっけな」

「残虐超人に“馴れ合い”が必要だってのか?」

 

「……」

 

「それに、観客の流入があったってことは恐らく外で守っていたであろうてめぇらの仲間がスタジアムを守ることに失敗したってことだろう?」

「アイツはその失敗の尻ぬぐいのために必要もねえのにわざわざ火中の栗を拾いに行ったってことじゃねえのか?」

「へっ、無様なもんだな。手負いのくせして他人の失態に首を突っ込むからそんな目に合うんだ」

「情けねぇ、自業自得ってやつだぜ」

 

「何だと…!」

 

バッファローマンを運ぶ際中、ブロッケンマンの言葉に反応したのかテリーはピタリと足を止めた。

ブロッケンマンの言葉に怒りが湧いたのか、これまでにない鬼のような形相でブロッケンマンの方を向いたテリー。

友情に厚い男なだけにその表情は息をのむものだった。

 

「ヘイ、ブロッケンマン!さっきから聞いてれば言ってくれるじゃないか!」

「今までの戦いのことも知らずに…私たちの友情にケチをつけるつもりなのかっ!!」

 

「うるせぇ!さっきから友情、友情しつけぇんだよ!」

「こっちはこっちの意見を正直に言ったまでだぜ!俺達にとって友情なんざリングの上では足かせにしかならねぇ!」

「他人のことには基本的に首を突っ込まない“残虐超人”(おれたち)には到底理解出来ねえとさっきから言ってんだよ!」

 

ブロッケンマンは半ば感情的になり、さらに言葉を続ける。

 

「それに、一体何があったのかは知らねぇが、てめぇらはさっきまで仲間割れをしていたじゃねぇか!」

「それが友情の脆さってんじゃねぇのか!普段は慣れ合っていても、いざトラブルが起きれば簡単に結束が崩れ去る!」

「そんなんに命かけてるなんざ、バカバカしくって見ちゃいられねぇぜ!」

 

「なんじゃと…!」

 

ブロッケンマンの言葉に我慢ならなかったのか、今度はキン肉マンがブロッケンマンに怒りの矛を向け始めた。

 

「おいブロッケンマン!今すぐそっちに向かうから待ってろ!」

「手負いのラーメンマンに代わって私が…」

 

「おー構わねぇぜ!“運だけ”で超人オリンピックの決勝トーナメントに上がってきたラッキー超人の実力を見せてもらおうじゃねえか!」

 

「なんじゃとーっ!!」

 

ブロッケンマンの挑発にキレたキン肉マン。もう許さんとばかりに彼は顔を紅潮させながら怒りの形相でリングへと向かっていく。

しかし、その行動をロビンは羽交い絞めにして彼の怒りの行進を止めた。

 

「落ち着けキン肉マン!今はブロッケンとラーメンマンの試合だ!」

「ここでお前が出たら、一体何の試合かわからなくなるだろう!」

 

それと同時にウォーズマンも彼の方へと向き直り、かなり焦った様子でブロッケンマンを諫めていた。

 

「ブ、ブロッケンマン…まずはいったん落ち着こう!」

「これじゃ戦いに支障が…」

 

「ぐぬぬ…」

 

「ちっ…」

 

お互いに顔を見合わせながらとりあえずは戦いの矛を収めた2人。

リング外からの乱闘という最悪の事態は何とか回避できたのである。

 

「けっ…つまらんことを聞いてくるぜ」

 

腰に手を当て、うっとうしそうな表情で正義超人の方を後ろ目に見るブロッケンマン

 

「ブ…ブロッケンマン…」

 

その様子を心配そうに見るウォーズマン。

 

「……」

 

減らず口を叩いたのち、しばらくポケットに手を入れて考え込んでいたブロッケンマン。

彼の脳裏に今まで戦ってきた超人たちの言葉がよみがえってくる。

 

(仲間ってのは、ともに力を合わせて困難を乗り越えていく存在じゃねえのかーっ!!)

 

(バッファローマンの雪辱は…俺が果たすッ!!)

 

「……」

 

「ブ、ブロッケンマン?」

 

「…へっ、なんでもねえよ」

「もう十分休んだだろ、交代しようぜ」

 

「あ、ああ…」

 

(ちっ…)

余計(いや)な思い出だ。敗者の戯言なんぞ聞く価値はねえ)

(少なくとも今はそんなことを考えている暇がありゃ、ウォーズマンに少しでも戦ってもらって、自分の感情を抑えなきゃな…)

 

ブロッケンマンは少し疲れた様子でリングロープにまたがり、リングから出ようとした。

その時である。

 

「おい親父」

 

「ん?」

 

 

「逃げんのかよ」

 

 

「…!?」

 

ブロッケンマンの言葉を聞いて、少し驚いたような表情を見せたブロッケンマン。

しかしすぐに思い直り、彼に向けてやれやれといったような表情で返す。

 

「おいおい、勘弁してくれよ…この試合はタッグバトルなんだぜ」

「同じチームと交代することのどこが逃げてるって言うんだよ」

 

「へへ…俺はタッグバトルのルールのことを言ってるんじゃねえよ」

「親父、アンタの性根の問題さ」

 

「…んだと?」

 

「よく考えてみてくれよ、状況を考えればアンタが逃げてるって解釈されても、半ばおかしくない状況なんだぜ」

「アンタらが最初に用意してきた試合のセットやルールがラーメンマンやバッファローマンによって破られ、果ては禁断の技だった“A.A.戦法”も俺の手によって破られた…」

「はたから見りゃ、追い込まれてるのはアンタらの方じゃねえのか?親父、じゃなきゃさっきからアンタがそこまで感情的になっていることへの説明がつかねぇ」

 

畳みかけるようにブロッケンはさらに説明を続ける。

 

「挙句の果てには基本的に関係のない外野にまで喧嘩を吹っかけやがったんだ」

「傍から見りゃ、今の親父の状況は喧嘩に負けた悔し紛れに捨て台詞を吐いて去っていくようにしか見えないぜ…」

 

「……」

 

「ふん、だんまりかよ。なんてことはねえ」

「へっ、まったく…“純粋な残虐”ってのは、どうやら大したものでもなかったみてぇだな」

 

腕を組み、半ば見下した、舐めきったような言葉をブロッケンマンに浴びせたブロッケン。

当然、感情的になっているブロッケンマンは彼に対し激昂して向かってくるだろうと思われた。

しかし、怒らせたのはブロッケンマンではなくもう一人の方だったようだ。

 

「ちょっと待て」

 

ひとしきりブロッケンの会話を聞いたのち、2人の会話に割って入ったウォーズマン。

なにやら言動が曇っている。

 

「それは聞き捨てならないな…俺達が追い込まれてるだって?」

 

(カッ!!)

 

「あ…あれは!」

 

ウォーズマンの顔を見て驚愕する正義超人たち。

 

「ウ…ウォーズマン、それは…!」

 

「ウォーズマンスマイルッ!!」

 

いつもは冷静沈着で表情が見えにくいウォーズマンが自分と同等かそれ以上の相手に出会った時だけに見せる、あの表情である。

初出はキン肉マンとウォーズマンが超人オリンピックにて戦った時だが、それ以降出ているのは王位争奪戦の時くらいなので意外と珍しい行動なのである。

 

「おい…その表情はあれだけアイツらに見せるなと試合前に言ったはずだぜ」

 

冷静沈着にウォーズマンの行動を止めるブロッケンマン。

しかし、彼は冷静に対処しようとはしているものの、言動から焦っているのが見て取れた。

しかし、ブロッケンマンの言葉を聞いてもなお、彼の意志は曲がらなかった。

 

「いいやブロッケンマン、俺はもう我慢ならねぇ」

「アイツはお前を散々バカにした挙句、俺達の残虐精神(マダースピリッツ)をもコケにしやがったんだ」

「許せねえ…今すぐアイツの減らず口をふさいでやりたい。氷の精神を持つ純粋な“残虐”が底知れない力を持ってるってことを、アイツらに知らしめてやりたいんだ」

 

「…そうか」

 

ウォーズマンの気迫に押されたのか、ブロッケンマンも納得したような表情で頷き

 

「へへ、そこまで考えてるんならお前を止める理由はねぇ」

「いくらでも、暴れてこいよ…」

 

リングへ向かう彼を見送ったのであった。

 

「……」

リング上で相対する2人。

もう何度も見た光景。しかし、形が違えど残虐超人2人が相対するごとに、常になにがしかの形でブロッケンマンをはじめとした残虐超人たちの詳細が明らかとなった。

今回も、何となくではあるがそんな気がするのである。

 

「おいおい、30分以上戦えるようになったからって調子に乗ってんのか?」

「燃料の無駄だぜ…」

 

ニヤリと笑いながら揶揄するブロッケン。

何となくさっきと立場が逆転しているように見えるのは気のせいだろうか?

 

「フフ…ご忠告感謝するぜ」

 

しかし、それに対して全く動揺した様子もなく平然とした様子で返すウォーズマン。

もともと表情自体が読み取りにくい超人でもあるのでそれも相まっているのだろう。

 

「だが…申し訳ないがその心配は全くいらない」

「なぜなら…」

「お前はもう、そんな心配をする余裕すらなくなるからだ」

 

(なんだと…?)

 

ウォーズマンの言葉を受けて違和感を覚えた正義超人たち。

なにかがある、そんな予感という名の残り香を漂わせて…

 

「俺達にだって守るべきものがある!」 

「行くぞッ!!」

 

ブロッケンの言葉によって静かなる怒りを燃やすウォーズマン。

果たして“真の姿”を見せた彼の実力とは…?

 

    

 

                   -続く-

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二話「報復は、ない」

最後の残虐第22話です。ブロッケンに残虐超人の精神をバカにされたウォーズマンは残虐超人としての姿勢を証明するため、久々に彼の代名詞である”ウォーズマンスマイル”を出した。果たしてブロッケンはこの状態の彼に勝つ術はあるのか?



スタジアム 場内

 

かつて第20回超人オリンピックが行われていたスタジアムで行われている正義超人と残虐超人との試合。

現在行われているブロッケンとウォーズマンの戦いは、残虐超人側に軍配が上がっていた。

 

(キィンッ!!)

 

「ぐっ…」

 

リング上でブロッケンの手刀とウォーズマンのベアクローが交わる。

しかし、その光景は決して対等ではなく、優劣のある鍔迫り合いだった。

ブロッケンの方は最初のころと違い、明らかに手刀のキレがない。それは心の迷いなどではなく、長期戦の疲弊によるものであった。

 

「ブロッケン!」

 

彼が追い込まれるのを危惧したのか反射的に叫んだラーメンマン。

しかし、その叫びをあざ笑うかのように事態はさらに悪化していく。

 

(ズバッ!!)

 

ベアクローを受け、よろけるブロッケン。

額にはベアクローで受けたであろう傷がついていた。

 

「ぐっ…はあっ…はあっ…」

 

(ドサッ!!)

 

片膝を付き、その場に倒れるブロッケン。

その様子はもう、先ほどまでの勢いはない。

彼の体は明らかに疲弊の色を見せていた。まるで水を吸った花が再び枯れてしまうかのように。

 

「どうしたんじゃブロッケンのやつ!さっきまであれほど勢いを見せていたではないか!」

「なぜ今になって片膝を付いているんだ!立てッ!立つんじゃーっ!!」

 

「いや…キン肉マン。それは無理というものだ」

 

キン肉マンの叫びに対して静かな面持ちで彼を諫めるロビン。

このような状況になるのは仕方がない、といった諦観の色も、彼の言動には見えている。

 

「いままでの連戦の疲れが来ている。アイツは手負いであるラーメンマンの代わりになろうと必死で戦っていた」

「その疲れが今、この場面になってきたんだ」

 

「そんな…」

 

ロビンの答えに青ざめるキン肉マン。

しかし、外野がそんな状況の中でもリングの中では淡々と時は進んでいく。

片膝を付き、息を切らしているブロッケンに対し、まるであざ笑っているかのように彼を見下ろすウォーズマン。

前回、本気を出す証として出した“ウォーズマンスマイル”を出したまま…

 

「ふっ、どうした?」

「随分とお疲れのようだが」

 

「くっ…!」

 

(ぜえ…ぜえ…)

 

「無理もないな。前半はラーメンマンとの戦いを見ていることが多かったから体力もそれなりにあったんだろうが」

「ラーメンマンが俺達のタッグ技を受けかけた後に関しては、実質おまえ一人で戦っているような状態だったからな」

 

ウォーズマンは畳みかけるようにしてさらに言葉を重ねる。

 

「だが、俺たち残虐超人はそんな奴でも容赦はしない」

「どんなに攻撃を受けて弱っている獲物でも容赦なく狩る、それが俺たちの鉄の掟」

「そうじゃなかったか?ブロッケン」

 

そういって目を光らせるウォーズマン。スマイルの状態であることも彼の言動に狂気を持たせていることに一役買っていた。

 

「くっ…」

 

(こいつ…本当にどうしちまったんだ)

(ウォーズマンは元々“正義超人”(こっち)側の超人だったはずなんだ)

(紆余曲折あったけど、最終的にはキン肉マンを中心にこの世界を守っていこうと誓い合った)

(それが、どうしたってんだ…)

(“正義”より守るものが出来た、とか、親父の考え方に賛同するようなことを言ったりとか…)

(今までのアイツとは決定的に何かが違う…!)

 

片膝を付いたまま、彼はウォーズマンの方を見て背筋を凍らせた。

それは目の前にある光景に対する恐怖ではなく、バックにある何か大きなものに対する恐怖であった。

前回ウォーズマンが言っていた“底なしの残虐”が今、彼の目の前にいるのである。

しかし、彼はその恐怖と同時に別のなにかを感じていた。

 

(だが…何かが変だ)

(いや、強いことには変わりないんだが…この底なしの恐怖には何か別な原因があるように思える)

(力は、関係ないな…)

(そうだ…問題はアイツの“戦う姿勢”だ)

(自分のために戦っているというよりも、何かを“手助け”しているように思える…)

 

下を向き、今の状況を分析するブロッケン。

彼の顎には汗がしたたり落ちており、リングの上には小さな水たまりが出来ていた。

 

(一体何だって言うんだ…?)

 

しかし、彼の思索も長くは続かなかった。

それを遮るようにしてウォーズマンがベアクローを構えながら話しかけてきたからである。

 

「どうだ?これでも“純粋な残虐”は弱いとでも言うか?」

 

ウォーズマンは依然として表情を変えない。

彼の残虐性を象徴する仮面の表情“ウォーズマンスマイル”…

しかし、その表情にもブロッケンは毅然とした態度でいた。

 

「へっ…調子に乗るんじゃねえ」

「ちょっと疲れただけだぜ…俺はまだ、負けたわけじゃねえ」

 

「……」(コーホー…)

 

ウォーズマンは彼特有の息使いをした。

ブロッケンの返答に彼が何を考えているのかは、やはり素性が仮面の下にあるのでわからない。

ブロッケンはさらに言葉を続ける。

 

「それに…俺は“残虐の精神”を捨てちゃいねぇさ」

「ガキん頃から教えられてきたことをそう簡単に捨てられるかってんだ」

 

ブロッケンは彼の方を見て真剣な表情で言う。

顔は疲弊の色が隠せていないのか、少々血色が悪かった。

 

「……」

 

「だがよ…お前らみたいな、弱った相手でも“徹底的に痛めつける”って考え方が気に入らねぇ」

「徹底的に痛めつけたところで何が残る?…痛めつけられた報復にまた、争いを生むだけじゃねえのか」

「無意味だぜ…そんなの」

 

「……」

 

彼の言葉を受けて空けていた口を静かに閉じるウォーズマン。

解除したというより、考えるために閉口したといったような感じである。

 

(コーホー…)

 

結構長い時間考えていただろうか、数分ほど彼は沈黙を守っていた。

しかし、それにしびれを切らしたブロッケンは彼に話しかける。

 

「おい、何とか言ったらどうなんだ?」

 

「…報復は、ない」

 

「んだと?」

 

「よく考えてみろ、俺達がいったいなぜ戦いで傷つき、弱った超人をも倒すと思う?」

「答えは単純明確、戦いにおいて“勝者”は常に一人だからだ」

「それはタッグバトルでも同じこと。2人束になって掛かってきたとしても俺たち“残虐超人”が勝てば勝利したことになる」

「勝って殲滅…報復という概念なぞ、初めからないのだ」

 

長い沈黙の末、ウォーズマンの口から出てきた答え…それは彼らなりの“残虐精神”に対する姿勢だった。殺害対象に勝利すれば報復はない、残虐超人にとって勝利とはすなわち抹殺(エリミネート)を意味するから。

殺せば報復なし…何とも残酷な思考回路だった。

 

「ぐっ…!」

 

彼の答えを聞いてブロッケンは額に汗を垂らした。そして徐々に額から血の気が引いていく。

彼自身も幼いころから教えられてきたことだったから、ある程度この姿勢のことは知っていたのだろう。

だが、こんなにも残虐超人としての精神を順当に守っている超人をこの目で見たことは今の今まで一度も見たことはなかった。

そして今、この姿勢を遵守している超人が目の前に現れた。そしてそれが、かつて自分と共に戦っていた正義超人の仲間の中に、そして自分の父親という身近な存在が有していたのである。

彼は拳を握りしめ、歯を食いしばった。

 

(コーホー…)

 

「…どうやら、話し合っても無駄みてぇだな」

 

「ふん、そんなもの…初めからねえよ」

「俺達の目的は“超人狩り”。あくまでお前たちを倒すことなんだからな」

後ろからブロッケンマンが水を差すように彼の言葉に答えた。

残虐精神の底知れぬ恐怖という冷たい冷気が正義超人、もといブロッケンの体を包み込んだ。

 

「ぐぐ…」

 

「……」

 

その様子を傍から見ていたロビンとキン肉マン。

なお、テリーはあの後ロビンに説得され、バッファローマンを医務室へと連れていったため現段階ではこの場にいない。

 

「……」

 

キン肉マンは彼らの言葉を聞いて青ざめていた。いつもは饒舌な彼だが、恐らく残虐超人に関する本物の恐怖というものに直面し、言葉が出ないでいるのだと考えられる。

人は、いや超人は本当の恐怖を目にしたときには言葉が出ないもの。その恐怖が目前にあるのだから言葉が出ないのは当然のことなのだ。

しかし、それとは対称的にロビンの方は恐怖でただ黙っているというわけではなかった。

なにか腑に落ちない点がある…彼の表情はそんな感じだった。

 

「…妙だ」

 

しばらくの間沈黙を守っていたロビンが口を開く。

その言葉に驚いたのか、上ずった声でキン肉マンは彼の言葉に反応した。

 

「な、なんじゃと?」

 

「いや、さっきまでずっと感じていたんだが…うむ」

 

「そういえばロビン、お前さっきから様子が変じゃぞ?」

「何か言いかけたかと思えば何でもないと言ってみたり…一体どうしたんじゃ?」

 

彼は一息ついた後、自身が考えていることを手短にキン肉マンに伝えた。

 

「…ウォーズマンの様子がおかしい」

 

「な、なんじゃと?」

 

ロビンの言葉に驚いたキン肉マン。

彼は言葉の意味をロビンに尋ねる。

 

「ど、どういうことじゃ?機械の部分に故障があったとか、そういうことか?」

 

「いや、機械の故障とかじゃないんだ。なんだか…」

「何だか戦い方に違和感があるんだ」

「何というか…何かしらの"手助け"をしているような」

「それはたぶん、近場で戦っているブロッケンにも何となく感じ取れていることだと思う…」

 

「て、手助けじゃと?」

 

ロビンの返答に素っ頓狂な声を上げたキン肉マンだったがすぐに思い直し、ロビンの答えに反論する。

 

「…ロビン、それは当たり前ではないのか?」

「ウォーズマンとブロッケンマンはタッグパートナーじゃ。“個”を重視するとは言っても、タッグバトルではある程度協力しなきゃいかん部分もある」

「戦いのルールなんじゃからそう見えて当たり前ではないのか?」

 

しかし、キン肉マンの反論に彼は首を横に振り

 

「いや、ルールのことじゃないんだ」

「何かこう…別の理由があるように思える」

 

「なんじゃぁ?おかしなロビンじゃのう」

「私にはさっぱりわからんがな…」

 

胡坐をかき頭をポリポリ掻くキン肉マンを尻目に、ロビンは視線をリングの上にやった。

依然としてウォーズマンはブロッケンを見下ろしたようにして立っている。

 

(ウォーズマン…お前)

(一体何を考えている…?)

 

ロビンがさっきから感じている違和感…私たちからはパッと見わからないが

師弟関係にある、同じ残虐超人同士、何か感じる部分があるのだろうか。

 

(……)

 

ロビンたちの思惑も知るはずもなく、じっとブロッケンの方を見るウォーズマン。

彼の前に悠然と立つその姿には気高さというよりも、凍り付いた精神を持つ殺人マシーンとしての冷たさを感じるものだった。

しかしその様相とは裏腹に、表情は優越に浸ったものではなく、多少の焦りの色が見えた。

額に汗を垂らし、なにかに追い込まれているような…そんな表情なのである。

彼は自分の目の前に握りこぶしを作り、じっとそれを見た。

 

(すまない、ブロッケン…)

(俺は…)

(俺は…やらなきゃいけない)

(ブロッケンマン…!アンタを)

(アンタを、必ず“生かさなく”っちゃならないんだッ!!)

 

意味深な彼の言葉、果たしてこの言葉が意味することとは?

スタジアムの上ではランプがゆらりと揺らめいていた…

 

                続く

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三話「親友との出会い」

最後の残虐債24話です。今回から1~2話にかけて残虐超人側の回想シーンに入ります。少々長めになりますので、事前にお伝えしておきます。

あらすじ
ウォーズマンの本領発揮により正義超人側を窮地に陥れた残虐超人。彼がなぜここまで本気になるのか、それはちょっとした理由があるようで…?
果たしてウォーズマンが残虐超人側に立った理由とは?


スタジアム 場内

 

(俺は、ブロッケンマンを…)

(生かさなければならないんだッ…!)

 

自身の目の前で握りこぶしを固め、自分の意志に対して決意を固めるウォーズマン。

彼がどうしてそこまで必死になっているのか。それは王位争奪戦が始まった頃より少し前に遡る…

 

超人墓場

 

(ハァ…ハァ…)

 

(ギイ…ギイ…)

 

ここでは、多くの超人たちが石臼のような装置を回し、滝のような汗を流しながら作業を行っている。

ちなみに、その作業が一体何の意味を成すのか、ということも彼らは知らない。

 

(ダァン!)

 

「お前ら!さぼってないで働けーっ!」

 

そんな極限状態の超人たちを追い込むように管理人である鬼たちが死んだ超人たちに対して金棒を振りながら激を飛ばす。

飛ばされている超人たちは“いつものことだ”と言いたげなように虚無、諦観の表情で激を聞きながら作業を行っていた。

そんな状況の中、石臼を回す作業を行っている超人の中に一人だけ、目の色が違う超人がいた。

その超人には周りの超人のような虚無や諦観の色はなく、疲弊の中にもギラついた表情で作業を行っていた。

 

「ぜえ…ぜえ…」

 

黒光りのヘルメットに肩についた丸い装飾、そしてあの“コーホー”という独特な息使い。

正体は言うまでもなく、ウォーズマンである。

彼は“夢の超人タッグ編”にてネプチューンマン率いる完璧超人に敗れたのち、復活をかけてこの超人墓場へと落ちてきていた。

しかし、この超人墓場において生き返るには相当な時間を要するということを後で鬼たちによって知らされた彼は長く、そして辛い作業を行うことに業を煮やしていた。

そして、彼は密かにこの墓場から脱出することを計画していたのである。

周りの超人と比べて目がギラついているのはそれが原因だった。

 

(くそ、一体いつまでこんなこと)

(見てろ…今にきっと…!)

 

そう思いながら黙々と石臼を回すウォーズマン。

 

「へへ…」

 

すると、ふいに後ろから男の声がした。

 

「おうおう…回し方がなっちゃいねぇな」

「そんなんじゃいつまでたっても作業が終わんねぇぞ」

 

初老に近い、若干しゃがれたような男性の声。フードで顔を隠しているためかいったい誰なのかはわからない。

 

「なんだと…!」

 

仕事がつらいこともあったのか、彼の揶揄に対して比較的強く反応するウォーズマン。

彼はいったん作業を止め、ひとこと言ってやろうと彼のもとへと向かって行った。

その時の彼は性格にたがわずムキになっていた。脱出する際の焦りもあったのか、それだけ彼の言うことがあの時の状況において癪に障ったのだろう。

ウォーズマンが男の胸ぐらをつかもうとした次の瞬間、彼のその怒りは突如として驚きに変わった。

 

(ガラガラガラ…)

 

「…えっ?」

 

どこからか聞こえてくる明らかに異常な音。

するとその異音と同時に石臼の一部分に小さな亀裂が出来た。その亀裂は次第に大きくなり、いつの間にか大きな石の塊を作り出していた。

 

「く…崩れるぞーっ!!」

 

しかし、もう遅かった。石臼の一部分が本体から離反し、下にいる超人たちの方へと落ちていく。

 

(ドゴォォォッ!!)

 

落下と同時に舞い上がる砂ぼこり、それは一時的に彼らの視界を奪った。

あまりの砂埃の多さに周辺にいた超人たちはしゃがみつつ目を覆う。

それはウォーズマンも例外ではなく、彼もほかの超人と同じ姿勢をとり、危険を回避しようと必死になる。。

 

「うっ…」

 

しばらくして砂埃がやみ、あたりを見回し始める超人たち。

ウォーズマンも目をこすりながらあたりを見回し、自身に危険がないことを確認した。

その時、ウォーズマンは目の前の光景に目を見張った。

 

「ああっ!!」

 

瓦礫はウォーズマンのすぐ後ろに落ちていたのである。もしあと一歩後ろに下がっていたなら、彼は大けがをしていただろう。

ウォーズマンはすんでのところで危機を脱したのである。

 

(そうだ…!あの男は…)

 

一安心した彼は我に返ると、フードを被った男を探し始める。

しかし、目の前にいたはずの彼がいない。何とかあたりを必死で探すと、臼の近くで腰をさすっている男を見つけた。

 

「…!!」

「おい、アンタ大丈夫か!?」

 

彼の方に寄っていき、声をかけるウォーズマン。

その対応に男は笑いながら

 

「へへへ…問題ねぇよ」

「思ったより瓦礫の衝撃が大きかったから腰を抜かしちまっただけだぜ」

「まったく、年ってのは取りたくないもんだな」

 

おーいて、と言いながら腰をさする彼。その姿をウォーズマンは心配そうに見つつも、どこか彼に対して特別な感情を抱き始めていた。

 

「……」

 

「今日はここまでーっ!!」

 

鬼が銅鑼を鳴らしながら今日の就業時間の終わりを告げる。

それと同時にウォーズマンは彼の後姿を見つけ、声をかけた。

 

「おーい!」

 

「…ん?ああ、さっきのヘルメット野郎じゃねえか」

「どうしたんだ?」

 

不思議そうな表情で彼はウォーズマンに尋ねた。

するとウォーズマンは頭を下げて

 

「さっきはすまなかった…」

「世話に…なっちまったな」

 

「ああ、まあ気にすんなよ。第一、お前のミスじゃねぇし」

 

「崩れるのは時間の問題だった、あの部分は老朽化がひどかったからな」

「ちょうどお前がいたところさ。まっ、大事に至らなくてよかったな」

 

「あ、ああ…」

 

男の言葉を受けてほっとしたような表情をするウォーズマン。

すると、ウォーズマンはとあることに気づく。

 

「…ん?」

「まさか…」

「あ、アンタ…わざと俺を挑発して…?」

 

彼は不思議そうな目でブロッケンマンの方を見つめた。

しかし、男は後ろを向いたまま

 

「へっ…どうだかな」

「そんなことよりも、もう寝ようぜ。明日の朝も早いんだしよ…」

 

彼はそう言って腰をさすりながら静かに去っていった。

その姿を静かに見つめるウォーズマン。

 

(……)

(あの男…もしかしたら前々からこのことを予見していたのか?)

(だとしたら、なんて優れた観察眼なんだ…!)

(よし…)

(次会った時には、必ず声をかけてみよう!)

 

(それが、俺とブロッケンマンとの初めての出会いだった…)

(それから、カメの歩みではあったが俺とブロッケンマンは次第に話す機会が増えていき、それに伴いお互いが親しくなっていった)

(仕事終わりに居酒屋へ飲みに行ったり、ある程度プロレスもできるという事でちょくちょく技の精度に関するアドバイスをもらったりしていた)

 

(ゲロゲロゲロ…)

 

「おいおい、飲みすぎだぜ」

 

おそらく飲みすぎたのだろう。道端に嘔吐している男の背中をウォーズマンがさすっていた。

 

(そんなこんなで俺とブロッケンマンが親しくなってから1か月が経とうとしていた)

 

「今日はここまでっ!」

 

(仕事が終わると、俺とブロッケンマンは墓場のとある一角で焚火をしながらよく談笑していた)

(内容はまあ…職場の愚痴とかもろもろだったんだが、ある時俺がふと、興味本位でその男の正体をほのめかすことについて聞いてしまった)

 

「なあ」

 

「ん?」

「そろそろ教えちゃくれないか?アンタの名前をさ」

「それに、顔を隠されちゃどうにも話しづらくっていけない。親しくなって一か月くらい経つのに、名前も呼べないなんてもどかしいじゃないか」

 

(当時、俺はそいつの正体がブロッケンマンだと知らなかったのでなおさら正体が気になっていた。そして酒に酔った雰囲気に乗じ、ついズケズケと深入りしてしまった)

 

「……」

 

彼の言葉を受けて黙り込んでしまった男。その様子を見てウォーズマンは焦った。

 

「あっ…す、すまない。ついズケズケと…」

 

「…いや、大丈夫だ。そういう意味で黙ってたんじゃねぇ」

「ちょいと迷ってただけだ。お前に正体を見せようかどうかをな」

 

「……」

 

彼の言葉を受けて黙っているウォーズマン。

それを見かねたのかどうかということはわからないが、男は薄く笑いながら彼の方を見た。

 

「いいぜ、今までいろいろと付き合ってくれたお礼だ」

「見せてやるよ」

 

そういうと彼は今まで深くかぶっていたフードを上げ、ウォーズマンの方を見た。

焚火の揺らめきも相まっているのか、彼の顔はぼんやりと暗闇に浮かび上がっていた。

 

「おっ…お前はッ!!」

 

ワシの紋章をかたどった装飾を施した軍帽子、色白の肌、そして何よりも印象的な灰色のヘッドギア…

彼は似ていた、あの男に。

 

「ブロッケン!?」

 

想定外の事態に驚きを隠せないウォーズマン。

しかし彼はすぐに思いなおり、冷静に今の状況を分析した。

 

「…いや、ブロッケンがここにいるはずがない」

「まさか…」

 

ウォーズマンが“まさか”というような表情にかれは観念したような表情をしながら

 

「…やはり、わかっちまうよな」

「そうだ、俺はブロッケンマン。ブロッケンジュニアの父親だ」

「お前、そういえばさっきブロッケンと言ったな」

「俺の息子のことを知ってるのか?」

 

「し、知ってるも何も…」

「ブロッケンは俺達の友人だ!超人オリンピックが終わってからずっと、共に戦ってきた仲間なんだ!」

 

ウォーズマンは勢い良く立ち上がり、ブロッケンマンの方を向いて叫んだ。

それを受けてブロッケンマンは顎に手を置き、どこか納得したような様子で左右にさすった。

 

「そうだったのか…」

「まさか、こんなところで息子の名前を知ることになるとは思わなかった…お前の年齢が息子に近かったから、もしやとは思っていたんだがな…」

 

彼はそれを言ってしばらく黙り込んだ。

そののち、ウォーズマンに対して静かに、穏やかに彼に対して提言した。

 

「…ウォーズマン」

 

「ん?」

 

「ここらが潮時だ、これからは別々に行動しよう」

 

「えっ!?ど、どうして…」

 

突然のブロッケンマンの提言に驚くウォーズマン。そして、予期せぬ展開に焦る彼をいなすようにブロッケンマンは静かに首を横に振る。

 

「いや、別にお前が一体誰だろうがどんな超人だろうがそんなことは関係ねぇ」

「問題なのは俺のことさ」

 

ブロッケンマンは顔を上げ、さらに説明を続ける。

 

「おまえ…俺のことがわかっているなら俺がなんて呼ばれていたか知っているだろ」

 

「あ、ああ…」

 

「俺は現世において巷で“ドイツの鬼”と呼ばれていた。…残虐超人のことを表すにはちょうどいい通り名だ」

「俺が正体を隠していたのは残虐超人である俺が作業をしていたら、周りの超人たちの作業が滞るから超人閻魔によってフードを支給されて姿を隠せと言われていたんだ」

「俺もそれに従った…最初は嫌だったが、周りのことも考えると徐々にその決まりに慣れていった」

「それと同時に、自身が狂人であることに恐怖感を覚え始めていた」

「…これでわかったろ?俺の正体がわかっちまうと、周りの人間に迷惑をかけてしまう」

「年も離れてるし、狂人として名をはせている俺と一緒にいることは何の利益にもならねぇ」

「それに…俺と親しくしてくれていたのは恐らく俺がお前を助けたからだろう?」

「別に、それだけが理由なら親しくする理由も、ねえじゃねぇか」

「これからはお互いに、離れて作業しようぜ…」

 

彼がそう言ってその話を切ろうとした、次の瞬間…

彼の向かい側から怒号が飛んできた。

 

「ふざけんな…!」

 

ウォーズマンだ。彼は目を光らせて肩を震わせていた。

彼は震えながら声を絞り出すようにして口を開いた。

 

「勘違いすんじゃねえよ…!自分でウジウジ悪い方に考えてさ」

「関係ないないじゃねぇか…!アンタがどんな人間だろうが、俺の親友には変わりねぇ!」

 

「ウォーズマン…」

 

「アンタは俺を守ってくれた!もしアンタが狂人だというなら、迷いなく俺に大けがを負わせていたはずだ!」

「それに、俺は別に助けてくれたからアンタと親しくしていたわけじゃない!単純に一緒にいると楽しいから、親友だと思っていたからアンタと一緒にいたんだ!」

「狂人だろうが何だろうが関係ねぇよ!俺はアンタとずっと親友でいたいんだ!」

 

ウォーズマンはブロッケンマンに向かって真っすぐな目で叫んだ。

彼はいつも以上にムキになっていた。それは彼が、ブロッケンマンという個人的に親友だと呼べる存在と出会えたことに対する思いなのか、それとも今まで過ごしてきた中で彼が決して狂人だとは言えない部分があるという事を言いたかったという事なのか。

 

「ウォーズマン…」

 

彼の真剣な表情に気おされているブロッケンマン。

ブロッケンマンは彼の表情をじっと見た後、静かに笑って

 

「…へっ、変わったやつだぜ」

「ありがとよ、こんな俺でも友人だと言ってくれてよ…」

「お前に負けたぜ。これからも…よろしくな」

 

「!!」

「…ああっ!」

 

ブロッケンマンに返された言葉に嬉しそうな様子で返したウォーズマン。

これで彼らは本当の意味での親友になったという事なのだろうか。

自身のことをそれなりに認めてくれるウォーズマン。自分が狂人と知ってくれた上でも自分と仲良くしてくれようとすることがブロッケンマンにとっては嬉しかった。

彼らはそのことを通し、より信頼し合った関係を維持しつつ、お互いの仲を深めていった…

 

(そんな出来事があってから数日後)

(ついに、俺にも脱走のチャンスが訪れたんだ)

 

「それは本当ですか、ドクター!」

「ああ。この人工心臓を入れることによって超人は現世に蘇ることができる」

 

「そ、そうですか…」

(やった…!これで王位争奪戦に参加することが出来る!)

 

嬉しさをかみしめている中、彼はとあることが自身の心の中で浮かび上がった。

 

「…あっ」

 

「どうした?」

 

「…ドクターボンベ、その人工心臓は、何個も作ることはできますか?」

 

まっすぐな目で彼はドクターボンベに尋ねた。

ドクターボンベは少し考えたような様子でしばらく考え込んだのち、ウォーズマンに人工心臓のことを説明した。

 

「…いや、時間と容量の都合で生き返らせることが可能なのは一人だけじゃ」

「貴重な素材を使っているのと手作業で作っておるからな…脱走という制約が多い状況を鑑みると助けられるのは一人だけなんじゃ」

「2人以上だと大幅なロスになる…もしかしたら戦いに間に合わんかもしれんぞ」

 

「そんな…!」

 

「…どうした?ウォーズマン。誰か助けてほしい超人でもいるのか?」

 

「ッ!!」

「…いえ、何でもありません」

「少し、聞いてみたかっただけです」

 

(俺は超人墓場にブロッケンマンを残してもいいものかと思った)

(ただ、今は緊急を要すること、また存在が存在なだけに周りに対する動揺やブロッケンのことを考えると、表立ってブロッケンマンを生き返らせることは果たして得策なのだろうか…)

 

「どうした、ウォーズマン…もう時間がないぞ」

「早くしないと試合が始まってしまう」

 

(ことは緊急を要した。その時の俺に迷っている時間なんてなかった)

(俺は“時間”に後押しされ、一人で超人墓場を脱出することに決めた)

(どうやって脱出したのかは、本編に書いてあった通りだ)

 

(ごめん…ごめんよ…ブロッケンマン)

 

ウォーズマンは握りこぶしを固く握って震えた。せっかく親友になれたのに、お互いに信頼し合おうと決めていた矢先にこの仕打ち…

ウォーズマンの悔しさは筆舌に尽くしがたいものがあった。

 

(結局、俺はアイツを助けられなかった。それだけが超人墓場(ここ)を離れることへの心残りだった)

 

そんな思いを抱えたまま、彼は脱出することとなった。

 

「よし、準備完了じゃ…頑張るんじゃぞ、ウォーズマン」

 

「はい、ドクターボンベ!この恩は忘れません!」

 

「ああ、達者でな!」

 

そういって勢いよく上昇し、現世へと向かっていったウォーズマン。脱出する際の彼の目は意気込んでいるながらもどこか未練がましくも思えた。

 

(やった…!ついに俺も王位争奪戦に参加できるんだ!)

(きっとみんなの役に立って…)

 

しかし、その意気込みも不穏な出来事によってかき消された。

 

「…ん?誰だ?」

 

「…ズマン、ウォーズマン…!」

「ウォーズマン!」

 

不意に、どこからか聞こえる声。低くも重圧のある声。

ウォーズマンはさすがに不審に思ったのか、上昇を止めてあたりを見渡す。

 

「誰かが…呼んでる?」

 

「フフフ…見つけたぞ」

「やはりこの道を通っていたか…ここは脱走路の中でも主流の類に入る道だからな」

 

「あ、アンタは!」

 

脱走路の奥から突如現れた大きな影。

その正体は、すべての超人を超越した、超人墓場の長…

 

「フフ…数百年ぶりに脱走者が出たと知らせを聞いたから来てみたが、まさかこんな若手超人だったとはな」

「血気盛んでよろしいことよ…」

 

「超人閻魔ッ!…くそ、俺を連れ戻しに来たのか!!」

 

超人閻魔だった。脱走した彼を追ってわざわざここまで来ていたのだろうか。

しかし、その巨大な影にも動じず、ウォーズマンは彼に尋ねる。

 

「俺は帰らないぞ!王位争奪戦で戦っている仲間のために、何としてでも逃げ切ってやるッ!」

 

そういってウォーズマンは全速力で上昇し、超人閻魔から逃げようとした。

 

(ガッ!)

 

「ぐぅ…っ!」

 

しかし、その頑張りもむなしく、彼は超人閻魔につかまってしまった。

 

「愚かな、私はすべての超人を超越した存在」

「お前ごときのスピードで、私から逃げ切れるとでも思っているのか…」

 

「ぐぅっ…くそ…っ!」

「見て…ろ…必ず逃げ出して…みんなを…」

 

苦悶の表情を浮かべるウォーズマン。脱出に失敗したことも相まって彼の表情は悔しさに満ちていた。

彼を捕まえた瞬間、超人閻魔は不敵に笑っていた。

しかし、彼を捕まえた瞬間、超人閻魔は捕まえたこと対する優越感よりも何かを思いついたような悪い表情をしていた。

 

「…ふふ、死んでもなお脱走を試みようとする、友情に対する熱意…」

「…面白い」

 

「…ウォーズマンよ」

 

超人閻魔はウォーズマンを見下ろす形で話し始めた。

その時の彼の表情は、どこか意地の悪いものがあった。

 

「果たしてその思いが本物かどうか確かめてやろう」

 

「ど、どういうことだ…?」

 

(クク…)

 

ウォーズマンのその疑問が同意と見たのか、超人閻魔は説明を始めた。

 

「ウォーズマンよ、今からお前に2つのことを許す」

 

「えっ…?」

 

「一つ目は、お前が地獄から脱走すること」

 

「そしてもう一つは…」

 

「お前の友人である、ブロッケンマンの解放だ」

 

                ―続く―

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四話「出された条件、冷徹な決断」

最後の残虐24話です。先週小説が出せていなかったこともあり、今回は普段と比べてかなり長いです。これで一応、回想編は終わりなので来週からは通常通り物語が進みます。では、本編をどうぞ。

~あらすじ~
 超人墓場で辛く、苦しい作業を続けていたウォーズマンは、とある出来事から共に作業をしていたブロッケンマンと意気投合するようになる。2人はお互いに信頼関係を築いていったが、ついにウォーズマンは前々から計画していた脱走計画当日を迎えてしまう。彼を一人にすることを心残りに思いつつも、最終的にウォーズマンは彼を置いていく決断をした。しかし、脱走していたさなか、道中に突如現れた超人閻魔により、脱走の許可と、親友であるブロッケンマンの解放が提案されたが…?
果たして、この提案をした超人閻魔の意図とは?そして、ウォーズマンは自身と、親友の解放を実現することができるのだろうか?


超人墓場 脱走路

 

「そしてもう一つは…」

「お前の友人である、ブロッケンマンの解放だ」

 

「な…」

「なんだとっ!?」

「そ、それは…」

 

(ニヤ…)

 

驚くウォーズマンにほくそ笑む閻魔。しかし、ウォーズマンはすぐに思い直すと怪訝な表情で彼の方を見た。

 

「いや、ちょっと待て…おかしいな」

「なぜ俺とブロッケンマンが友人だということをアンタが知ってるんだ?」

「超人墓場には俺を含め、死んだ超人が何万といるはずだが」

 

閻魔は一瞬無表情になったのち、ニヤリと笑って彼の質問に答えた。

 

「フッ…簡単なことよ。超人墓場では“友情”という概念が表出することは少ない」

「つまり、ともに意識する形で力を合わせたり、友人と行動を共にする奴らが少ないということ…」

「そんな中でお互いが親しい友人として行動を共にする奴がいれば、それなりに目立つというものだろう」

「まるで多くの黒いアリの中に一匹だけ白い奴が紛れ込んでいる、といったようにな…」

 

「……」

 

閻魔の回答に表情を変えないウォーズマン。その表情は疑っている部分こそあるものの、どこか納得しているような表情だった。

 

「まあ、その話はあまり関係なかろう。問題なのは私が出した条件のはずだからな」

 

そういうと閻魔は指を鳴らし、ウォーズマンの目の前にモニターを取り出した。

 

「?」

 

「これを見るがよい」

 

ザ…ザザーッ!

 

モニターにはドクターボンベが映し出されている。おそらくウォーズマンが脱出した後の映像だろう。

 

(ああっ…!)

(し…しまった…!命の石で肉体を蘇らせることにこだわりすぎて記憶の方を蘇らせるのを忘れてしまっていた…!)

(まずい…このままではウォーズマンが今まで教えられていたプロレスの技術を忘れた状態で試合に…)

 

「えっ!じゃあ俺は…」

 

突然の出来事に焦燥を隠せないウォーズマン。

しかし、それを予想していたのか超人閻魔は至って冷静に彼の言葉を遮った。

 

「案ずるな」

「気にする必要はない…あいつの言ったことは正しけれど、間違っているのだ」

 

「ど、どういうことだ?」

 

動揺するウォーズマンに彼は頷き、落ち着いた様子で説明する。

 

「あやつはお前の記憶を戻さなかったことに焦っているようだが…記憶がはがれる心配はない」

「間違っているのだ。超人の記憶というのはそう簡単にはがれるものではない」

「確かに、超人墓場の中にある“命の石”は生き返らせるために体と頭脳で別のものを作る必要がある」

「だが、仮にどちらかの部分を忘れて生き返らせた場合でも体に起きる異常は軽微なもの…日常生活にまで支障をきたすものではない」

 

彼はさらに説明を続ける。

「それに、超人の深い記憶というものは医療ミスごときでそう簡単になくなるものではないのだ。現にお前は今、王位争奪戦でキン肉マン達に加担するため、城に向かっているのではないのか」

「そして、それを邪魔する私を阻止するために、自分が今まで覚えてきた技で向かってきたのではないのか?」

 

「そっ…そう言えば」

 

「だろう。それが何よりの証拠」

「命の石なしで友情の精神とプロレスに関する技能の記憶が残っている、ということのな…」

「私は、そのお前が持つ友情の記憶が本物かどうかというのを見定めたいと思っているのだ」

「もしお前が持つ友情の記憶が本物であるならば、私が出した条件を突破することができるだろう」

 

「そ、それで…その条件とは」

 

「うむ、では伝えよう」

「お前の記憶をなくした状態で、キン肉マン率いる正義超人側と対峙しているチームを見事破り、彼らを勝利に導いて見せよ」

「そうすればお前の罪を許し、友人であるブロッケンマンを解放してやろう」

 

「そ、それが俺とブロッケンマンが解放されることの条件…」

 

「ああ。お前の場合は“前借り”という形になるがな」

 

彼の言葉を受け、ウォーズマンは少しの間沈黙していた。

そして彼に向かって語気を強め、叫んだ。

 

「本当なんだろうな…っ!」

 

「……」

 

彼の言葉を受けて沈黙の反応を示す超人閻魔。

すると彼はウォーズマンの頭に手をかざした。

 

「えっ?」

 

(ビビビーッ!)

 

「ぐあーっ!!!」

 

(ガクッ…!)

 

「約束は守る…私は超人閻魔」

「嘘は許されておらぬ…すなわち、一度言葉にしたことは必ず実行せねばならぬという事」

「しかしウォーズマン…もし私の言うことが達成されなければ」

「その時は必ずお前を連れ戻し、ブロッケンマンの解放もなかったことにさせてもらうからな」

 

「……」

 

閻魔の電流に耐え切れなかったのか気絶しているウォーズマン。

それを見た超人閻魔は右手で顎をさすりながら

 

「…ふむ、少し電流が強すぎたかな?」

「ならば、私の力で送ってやろう!」

 

(グウンッ!!)

 

そういうと超人閻魔は姿を消し、それと同時にウォーズマンの体が勢いよく上昇した。

 

(その後、俺は記憶をなくした状態で技巧チームの“ザ・マンリキ”を倒し、正義超人チームの勝利に貢献した)

(ただ、知性チームとの戦いに備えて竹林で特訓をしている最中にマンモスマンに襲われ、俺は離脱を余儀なくされてしまった)

(そうこうしている間に王位争奪戦も終わり、病院から退院すると俺はすぐに復活しているであろうブロッケンマン探しを始めた)

(ただ、いくら探せどブロッケンマンは見つからず、正義超人たちが観光旅行をしている間も俺はブロッケンマンを探し続けた)

(正直、戦績を考えてもちゃんと貢献できているかどうか自分なりにかなり微妙だったので、もしかしたら生き返っていないかもしれない、と少し不安になった)

(ちなみに、俺の師匠であるロビンには修行だと偽り、旅行には参加していない)

(そんなこんなで王位争奪戦が終わってから早くも1週間が経とうとしていた…)

 

とあるプロレスジム

 

「はい…はい…そうですか」

「すみません、ありがとうございました」

 

(ガチャッ!)

 

お礼を言ってドアを閉めるウォーズマン。友人が見つからなかったのかその表情は暗い。

 

「くそ…ここにもいない」

「一体ブロッケンマンはどこへ行ったんだ?」

 

閑散としたジムの前でウォーズマンは頭を抱えた。

行方不明の友人を昼夜問わず探し続けているのだから無理もない。しかもただ単に超人閻魔から脱走路で条件を聞いただけだったので、彼自身が生き返っているかどうかすらわからないというおまけ付きなのだからなおさらだった。

 

「本国である西ドイツの方に電話をかけてもぜんぜん通じないし」

「あいつが墓場で行きたがってた場所にも手あたり次第行ってみたんだが…そこにもいなかったし」

「どうすりゃいいんだよ…まったく」

 

しかし、この後彼はブロッケンマンにあっさりと再会することができた。

彼は第20回超人オリンピックで自分が戦っていたスタジアムにいたのである。

その場所はウォーズマンが探索を行う際、いの一番に行った場所だったのだが、どうやら彼が訪ねた少し後にブロッケンマンがこの場所を訪れていたようだ。

すれ違い、ということである。

 

スタジアム 場内

 

「よう…久しぶりだな」

 

初老のしわがれた声に、色あせた軍服…

間違いなくブロッケンマンであった。

 

「ブ…ブロッケンマン!いったいどうしてここに!」

 

歓喜と驚きが混じった声でウォーズマンはブロッケンマンに尋ねた。

その質問にブロッケンマンは顔の前で手を組みながら彼の質問に答えた。

ちなみに、この時の彼は“まだ”若返っていない。

 

「…ああ、そういえば俺が参加したオリンピックのことは、あんまり詳しく言ってなかったんだったな」

「ここが、俺とラーメンマンが戦った場所だぜ」

「変わらねえな…相変わらず」

 

ブロッケンマンは懐かしそうな様子で上を見上げ、それからすぐに視点をウォーズマンの方へと移した。

 

「誰も来ないし、しばらくの間ここを活動拠点にしてたんだ」

「どうだい?決勝のスタジアムとかと比べると、なかなかにこぢんまりしてるだろ?」

 

「…何というか、異質な場所だな」

「ほかのスタジアムとは違う、独特な雰囲気があるぞ」

 

しばらくスタジアムの雰囲気に彼らが浸っていると、ウォーズマンが何かを思い出したのか、彼の方を向いた。

 

「…そうだ、ブロッケンマン」

「ここも大事だろうが、まずはブロッケンに会うのが先じゃないのか?」

「長いこと会ってないから、多分アンタに会いたがってるだろうし…」

 

彼に対し気遣うような表情で提案するウォーズマン。

しかし、そう提案したウォーズマンに彼は首を横に振り、下を向いて口を紡いだ。

次の瞬間、彼の口から予想外の一言が返ってきた。

 

「…会えねえんだ」

 

「えっ」

 

「会えねえ、息子に」

 

その言葉を発した彼の表情は暗かった。

 

「…なぜだっ!?超人墓場から出てきたら、一応普通の超人として暮らすことができると墓場の規定に書いてあったんじゃないのかっ!」

「墓場にいた鬼たちもそういっていたはずだぞッ!!」

 

「わからねぇ。息子に会おうとすると必ず“超人ハンター”が来やがってな」

「俺が息子に会うのを阻止しようとするんだ」

「そいつを何とかするために、ここを活動拠点にしてるんだ」

 

「えっ?超人ハンターって、超人墓場の使者なんじゃ…」

 

(グロロロロ…)

 

すると、どこからともなく聞き覚えのある笑い声が聞こえた。

 

「…ん?」

 

すると次の瞬間、どこからともなく超人閻魔が現れた。

 

「グロロ…ブロッケンマンに会えたようだな」

「お前が友人を必死で探す姿…しかとこの目で見せてもらったぞ」

 

相変わらずでかい図体とご尊大な態度が何とも印象的だ。

 

「ち…超人閻魔ッ!!」

「なぜアンタがここにいる!俺たちを追ってきたのか!?」

 

「グロロ…当たらずとも遠からず、だな」

「私はお前が脱出した際、何人かの超人ハンターを現世へと送り込み、お前を監視させていたのだ」

「私自身がお前たちの後を追うなどと、プロレス以外で体力の使うことはせんよ」

「あとは簡単なこと…私の放った超人ハンターがお前の居る場所を特定し、居場所を伝えてくれたのだ」

「…ああ、ちなみに解放についてはもうあやつに伝えてあるぞ」

 

そういいながら、閻魔はブロッケンマンの方を指さした。

彼の言葉を受けて、ブロッケンマンはウォーズマンの方へと向かい、彼の手を取った。

 

「…事情はあいつらから聞いた。まさか、俺のためにそこまでしてくれていたなんてな」

「ありがとうよ。おめぇには感謝してもしきれねぇ」

 

そう言う彼の目じりには少量の水が溜まっていた。

彼の言葉を受けてウォーズマンの目頭も熱くなっていた。

 

「ブロ…」

 

しかし、その2人の雰囲気に水を差すかのごとく、超人閻魔が言動を持って2人の中に割って入ってきた。

 

「おっと、感動の再会は後にしてもらおう」

「あいにくだが、私もこの後業務がある故、時間がない。簡潔に用事を述べさせてもらう」

 

そう言って淡々と事を進めようとする超人閻魔。

しかし、それに反論するかのようにウォーズマンが彼に対して疑問を投げかけた。

 

「ちょっと待ってくれよ。アンタが忙しいのはわかるんだが…」

「解放するって条件だったはずなのに、なんで俺たち監視なんかされてるんだ?」

「ブロッケンマンが解放されてるってことは、アンタの望み通りに事が進んだってことだろう?話が違うじゃないか」

 

「ふむ…そうだな」

 

ウォーズマンの言葉を受けて下を向いたのち納得したような表情を浮かべた超人閻魔。

事情を説明するべく彼は再び顔を上げた。

 

「では、結論から言おう」

「お前たちはまだ、我々の監視下に置かれている」

「解放されたければ、私たちの出す“条件”を飲んでもらおう」

 

「な、なんだって!?」

「ちょっと待て超人閻魔!俺が現世での条件を満たすことで、俺たち2人を解放してくれる約束じゃなかったのか!」

 

(グロロ…)

 

鬼のような形相で超人閻魔に怒りをぶつけるウォーズマン。

しかし、無情にも閻魔は彼に対して嘲け笑っていた。

 

「なにがおかしい!」

 

「何を勘違いしている?私はまだ、お前たちを自由にするとは言っておらんぞ」

 

「なんだとっ!?」

 

「言ったはずだ。あくまで私が譲渡したのはお前たちが超人墓場から出ていくこと」

「超人墓場から出ていくことに加えて自由な行動を許すとは一言も言っていないはず…」

「違うかな?ウォーズマンよ」

 

「くっ…!」

 

閻魔の言葉を受け、一歩引くウォーズマン。

早く脱出したいがために一杯食わされた、あの時よく考えなかったことを彼は後悔していた。

 

「解放はした。だがそれは、お前の任務を遂行させるため一時的に解放したにすぎん」

「だから、私はお前が戦っている間、友人を探している間は超人ハンターたちに緊急を要するとき以外は絶対に手を出してはならぬと伝えた」

「私は目的遂行のための邪魔はしない…だが、ブロッケンマンが息子を探しに行ったり、お前が自由に行動しようとすることは任務遂行の範囲外だ」

「文句なく阻止させてもらうぞ」

 

「じゃあ!なぜアンタは俺たちに監視をつけているんだ!?」

「条件が済んだなら超人ハンターを配備しておく必要なんかないじゃないか!」

 

そういって怒りをぶつけるウォーズマン。

よほど感情的になっているのか、言葉の端々に荒い一面が出ている。

それを受け、超人閻魔は再び右手で顎をさすると

 

「ふむ…確かにお前達にはその理由を説明する必要があるな」

「いいだろう。少し時間を取るが、説明してやろう」

 

「まず、私が脱走を許した理由としては、お前たちにある目的を遂行してもらうためだった」

「だが、それを何の過程も経ず直接遂行してもらうわけにもいかなかった」

「仮にもお前たちは脱走者…囚人を預かる身としては、秩序維持のためにも、ケジメというものを付けなければならんということも兼ねておったからな」

「そこでだ…私は、以前出した条件に加えてお前たちにもう一つ、チャンスを与えるとともに、我々の目的も遂行してもらうことにした」

 

「そ、その条件とは…」

 

(ニヤリ…)

 

閻魔はブロッケンマンに向けて指をパチッと鳴らした。

すると、彼の体の周りを光が包み込んでいった…

 

(ゴゴゴゴゴ…)

(ボンッ!)

 

けたたましい轟音ののち、巻き上がる白い煙。

その煙はブロッケンマンの周りを包み込んでいく。

 

「ブロッケンマン!」

 

煙が彼を包んでしばらく経ったころだろうか。

包んでいた煙が徐々に薄くなり、彼のシルエットが現れだした。

それからすぐ、彼を包んでいた煙もほとんどなくなり、彼の姿が露わとなった。

 

「…えっ?」

 

「なっ!?」

「なんだっ!?いきなり体が軽くなったぞッ!?」

 

目の前の光景を見てウォーズマンは目を疑った。

 

「ブ…ブロッケンマン…おまえ」

「若返ってる!?」

 

ウォーズマンの視線の先、そこには異様な光景が彼の瞳を奪った。

自分の同僚と全く同じ姿かたち…いや目の周りだけちょっと違う親友の姿があった。

初老の象徴だった目元や口周りのしわは消え、腕や足の筋肉が初めて会った時とは比べ物にならないほどに隆々としていた。

一体なぜ、この男がラーメンマンに敗北を喫したのかと疑問に思わせるほどに。

 

「いかがかな?文献をもとにあやつの全盛期といわれている20代前半まで若返らせてみたぞ」

「条件とはすなわち、お前たちが“正義超人”と戦い、見事勝利を勝ち取って見せること」

「さすれば、お前たちに“自由”を与えてやろう」

 

「……」

 

突然の親友の変化に驚くウォーズマン。

しかし、それを尻目に閻魔は腕を組みながら笑っていた。

 

「グロロ…戦うのは実力者ぞろいのアイドル超人たちだ」

「老体のままで戦うことは難しかろう?それに…」

「あやつは若いころ、かなりの実力者だったというではないか…どんな戦い方をするのか、とても楽しみだ」

 

「ふざけるなッ!正義超人同士で争いをさせようっていうのか!」

 

「勘違いしてもらっては困るな。私はただ、お前たちを自由にするために一石を投じているだけだ」

「第一、ウォーズマンよ。お前は超人墓場から脱走しているだろう…本来なら重罰を与えるところを、条件次第では自由の身にさせると言っているんだ」

「感謝こそすれ、私の行いを非難される覚えはないぞ」

 

「ぐっ…!」

 

「それに、よく考えてみろ…もともとお前は正義超人ではなく、“残虐超人”であったはずだ」

「お前だって、打倒キン肉マンを師匠であるロビンマスクに命じられていたのではなかったのか?」

 

「そ、それは…」

「それは過去の話だろ!俺とロビンはキン肉マンを中心に正義超人界を守っていくと決めたんだ!」

「いまさらそんなことを掘り返してきたって、俺はあいつらと戦うつもりなんてない!」

 

超人閻魔に、自分が戦う意思がないことを伝えるウォーズマン。

その彼に閻魔は無表情で首を縦に振ったのち、彼らに対して説明を始めた。

 

「そうだ。確かに過去の話だ」

「だが、これはお前たちの意思だけで片付く問題ではないのだ」

「この問題は、我々超人界の中では決して過去のこととして済ませるわけにはいかない」

「まだあと一つ派閥が残っている。そして、その勝者を決めぬことには、正義超人が正当な派閥としては認められぬ…とな」

 

閻魔は一息ついてさらに説明を続ける。

 

「我々が見たいのは“最終決着”なのだ。第21回の超人オリンピックが終わってから悪魔超人や完璧超人が出てきたおかげで、この派閥の決着に関してだけはうやむやになっておったからな」

「私は閻魔ゆえ、物事を白黒つけないと気が済まぬ性格でな…超人界の神々に進言し、その結果、“残虐超人”と“正義超人”との最終決着をつけさせることに決まったのだ」

「だからお前を泳がせた。お前がその“最終決着”を行うことができるに足る超人であるかどうかを試す目的でな」

「そしてそれは成功された。お前はみごと条件を達し、正義超人を勝利へと導いた」

「まあ、知性チームに関しては不意打ちということで協議の末、見なかったことにするという事に決まったのだがな…」

 

そういうと閻魔は右手で顎をさすった。

なるほど、彼らの目的は正義超人と残虐超人との決着だった。

現在、彼らが戦っている裏には超人界の神々の存在があったのだ。

 

「グロロ…まあ、脱走した超人が残虐超人と知った時には、私も心を躍らせたぞ」

「そして、その友にキン肉マンをはじめとした“正義超人”と名の付く者と一度も戦っていない友人がいる…なんと好都合なペアがいたものだろうと思ったよ」

 

確かに、よくよく考えてみればブロッケンマンは元残虐超人であったラーメンマンとしか戦っておらず、キン肉マンをはじめとした純正の“正義超人”とは戦っていない。

おまけにその“正義超人”のことをよく知っている友人がいて、そいつが脱走を企てている…

これだけ脱走の許可を元手に最終決着の条件を突きつける上で好都合な存在は、確かに貴重だった。

 

「ふざけるな…!俺たちはアンタらの遊び道具じゃない!」

「このやろう…!俺たちの解放とか言っといて、はじめからそのつもりだったんじゃないか!」

「俺たちとキン肉マン達を戦わせるための策略に…俺はまんまと乗っちまったってわけだ!!」

 

ウォーズマンは閻魔に対して怒りをぶつけた。

無理もない。友人のためにやったことが、まさか逆手を取られて同士討ちになる布石となっていたことを一体誰が想像できただろう。

利用されていたことに対して怒るのは至極真っ当な主張といえる。

しかし、そんな彼を見ても超人閻魔はおかまいなしだった。

 

「おっと…お怒りのところ申し訳ないが、お前は反抗できる立場ではないはずだ」

「さっきも言ったが、お前は“不”自由の身…お前たちの周りには多くの超人ハンターが付いている」

「反抗するなら…お前の身、友人の身は保証しないぞ」

 

「くそっ…!」

 

閻魔の半ば脅迫とも取れる言動。いや、事務的な対応ともいえるのだろうか。

一度決まったことなのだからいかなる手段を用いてでも遂行して当たり前…そんな冷徹さを感じた。

しかし、そんな彼と話し合う暇もなく、超人閻魔は自身の手元にあった腕時計で時間を確認すると、彼らに向かって

 

「むっ…そろそろ時間か」

「では、私はこれで失礼する」

 

そう言うと、彼は移動するために自分の姿を下から消していった。

 

「ちょっと待て!逃げるつもりなのかっ!」

 

説得を試みようと、閻魔のもとへと向かうウォーズマン。

しかし、ここで予想外のことが起こった。

 

(バァンッ!)

 

どこからか飛んできた銃弾がウォーズマンの頬をかすめた。

弾の軌道から察するに、威嚇射撃のためにやったのだろう。

 

「うわ…」

 

突然のことに腰を抜かすウォーズマン。

威嚇射撃とはいえ、銃弾が自分の顔に当たったのだ。やられた方としては至極真っ当な反応である。

 

「ウォーズマン!」

 

急いで彼のもとに駆け寄り、彼を気遣うブロッケンマン。

しかし、そんな2人の姿を見ていた閻魔は見下すような様子で、

 

「口に気をつけるんだな、ロボ超人…」

「さっきも言ったが、私に歯向かえば、お前たちの周りにいる超人ハンターが黙っておらん。危害を加えれば、すぐさまお前たちを処分するだろう」

 

ニヤリと笑う閻魔。大きい体躯も相まって、かなりの圧力だ。

 

「ぐっ…!」

 

「いいか、最後にもう一度だけ伝えておく」

「お前たちは正義超人と戦い、見事に勝利を収めて見せよ。そうすればお前たちの現世においた如何なる自由も許そう」

「しかし!もしお前たちが負けるようなことがあれば…もちろんあやつの若返りは消える。そして…」

「お前達も、また墓場に戻されることになるのだ」

「刑期がまだ残っている故な」

 

「では、さらばだ」

 

条件を一通り伝えたと同時に、閻魔の姿は消えてしまった。

それと同時に超人ハンターもどこかへと行ってしまった。…ウォーズマンたちを監視するため、どこかに身を隠してしまったというのが正しいのかもしれない。

 

超人閻魔が去り、しんと静まり返ったスタジアム。

何とも言えない空気がしばらく続いたのち、ブロッケンマンが沈黙を破った。

 

「…な、なんだかよくわからんが」

「俺たちは誰かと戦わなくちゃいけねぇ、ってことか?」

 

恐る恐るウォーズマンに聞くブロッケンマン。

しかしウォーズマンが静かにうなづくと、彼はすぐに表情を変え、ギラついた表情をした。

 

「そうか…」

「だとしたら、さっそく修行しねぇとな」

 

「……」

 

ふざけるな。ウォーズマンはそう言おうとしたが、すんでのところで言葉を止めた。

冷静になって考えてみれば、彼は “正義超人”発足の場に立ち会っていないのだ。

仮に墓場で正義超人の存在を知っていたとしても、どういったメンツが出そろっているのかというところまでは完全に把握しきれていないのかもしれない。

そう考えると、彼がなぜ自分の行っていることが、下手をしたら同士討ちにつながるのではないかということを考えていないのかが頷ける。

 

なぜなら、彼は生粋の“残虐超人”だからだ。

 

彼は、今の超人界がラーメンマンや息子であるブロッケンジュニアのように、正義超人の派閥の一つとして“残虐超人”が存在していることを認識していない。

依然として、まだ彼らがヒーロー同士で戦っていると思っているのだ。

ウォーズマンは彼の言葉を受けスタジアムの席に腰を下ろし、しばらくの間、今の状況を分析した。

 

(…多分、ブロッケンマンは正義超人の詳細なことについては知らない)

(本来ならここで事情を伝えるべきなんだろう。…だけど)

(いまこの状況を話しても、アイツはおそらくブロッケン達との戦いは望まない…)

(“神の遊びに付き合うなんざごめんだぜ”と一蹴し、超人ハンターや閻魔を倒すことを提案するだろう)

(それに、アイツはそんな形で息子と戦いたいとは思っていない。口では言いやしないが、本当は正当な形での勝負を望んでいるはずだ)

 

ウォーズマンはさらに思考を重ねる。

 

(だけど、この判断は正直クレバーとは言えない。仮に超人ハンターが何とかなったとしても、あの強大な力を持った超人閻魔には手も足もでないだろう)

(恐らく、以前キン肉マンが戦った“悪魔将軍”と同等か、それ以上の実力を持っていると見た…)

(そう考えると、下手にアイツに喧嘩を吹っ掛けるよりもキン肉マン達と戦った方が賢明。そっちの方が自由になれる可能性が高い…)

(だが、それをやってしまったら同士討ちだ。でもブロッケンマンが…)

 

再び頭を抱えるウォーズマン。

考えれば考えるほど、彼の頭には“葛藤”の2文字が引っ付いて離れない。

彼が友情に熱いが故の葛藤だった。

 

(くそっ!一体どうしたらいいんだ…!)

 

彼が考え始めてからしばらくたったころだろうか。

 

「おい、どうしたんだ?」

「ほれ、自販機でスポドリ買ってきたぜ」

「墓場の居酒屋でウォッカ飲めてたし、液体関係ならいけるだろ?」

 

ブロッケンマンが心配そうな表情でウォーズマンに話しかけてきた。

 

「……」

 

するとウォーズマンは、何かを思いついたのかそっと顔を上げ、彼に向かって静かな口調で話し始めた。

 

「…ブロッケンマン」

 

「ん?どうしたウォーズマン」

 

「…これからは」

 

ウォーズマンは一息おいて言葉を続ける。

 

「これからは、2人で行動しよう」

 

「大きい敵と戦わなきゃいけないみたいだし、それが妥当だと思う」

「俺は他の友人との付き合いもあるから、ちょくちょく抜ける時もあるけど」

「空いてるときはアンタの修行に付き合うぜ。…問題、ないかな?」

 

「ウォーズマン…」

「へへ、なんだか知らねぇが、要するに俺たちは同じ穴の貉になったってことだろ?」

「俺たちが協力しねえ理由なんざ、ねぇじゃねえか」

「よろしく頼むぜ、ウォーズマン」 

 

そう言って静かに笑うブロッケンマン。

2人の間には深い、強固な信頼関係が築かれていた。

超人墓場で共に過ごした日々が、彼らをここまでにしたのである。

 

彼の言動を受け、ウォーズマンは静かにうなづいた。

そして、彼に対し間接的に自身の決断を言い放つ。

 

「ところで…ブロッケンマン」

 

「ん、なんだ?」

 

「さっき閻魔から聞いたんだが…どうやら正義超人(そいつら)を倒したら息子に会えるみたいだぞ」

 

「…!それは本当か?」

 

「ああ。やつは閻魔だから嘘はつけないって、前言ってたし」

「とりあえず、信用する価値はあるんじゃないかな」

 

静かに、それでいてどこか焦燥を感じられるような雰囲気で、ウォーズマンはブロッケンマンにそう言いかけた。

考えた末、ウォーズマンは彼を偽り、友を守るべく正義超人との最終決着に身を投じる決断をしたのである。

 

「わかった。じゃあ、なおさら強くならねぇとな」

「早くアイツの強くなった姿を見てみたいぜ」

 

意気込むブロッケンマン。そんな彼を奮い立たせるべく、ウォーズマンはさらに発破をかける。

 

「よし、ブロ。じゃあまずはブロッケンに会うために…」

正義超人(そいつら)に近い奴らと力試しを…しようじゃないか」

 

その時の彼はもう、普段のシャイで温厚な表情ではなかった。

何かを守るため冷徹で、しかし決意に満ちた表情だった。

 

(見てろよ超人閻魔…)

(ブロッケンマンは…俺が守るッ!!)

 

最終的に彼は友人を守るため、正義超人に対し刃を向けることを選択したウォーズマン。

ちなみにこの後、彼はブロッケンマンの懐刀である“謎の男”として正体を隠し、バッファローマンやアシュラマンなどの正義超人寄りの超人を標的とした“超人狩り”を行ったことは、前述した通りだ。

ここまでが、彼がこの戦いに身を投じることになった経緯である。

果たして、彼の思惑が今後、この戦いにどのような影響を与えるのだろうか?

 

 

                   ―続く―

 

 




おまけ
~カネの出どころ~

「それにしてもブロッケンマン。お前、さっきスポドリを買ったって言ってたよな」
「金、持ってたのか?」

「ん?ああ、増やしてきた」

「へっ?」

「現世に来る前にな、超人閻魔がいくらか持たしてくれたんだ」
「けどよ…あの野郎、しけた額しか持たせてくんなかったらさ。一か八か競馬で賭けてみたんだぜ」
「そしたらそれがうまいことはまってよ!その日のレースの穴ァ当てたんだぜ!」
「いま財布ン中に100万入ってんだ♪今夜は飲み明かそうぜ!」

「え、で、でもそんな大金だったら貯金した方が…」

「何言ってんだ!"大金は使うもの"それがブロッケン一族の掟だぜ!」
「へへ…今日はお前のお礼会も兼ねてんだ。大好物のウォッカをいくらでも飲んでいいぜ」

「え!そ、それは…」

「…どうだ?悪い話じゃねぇだろ?」

「……」
「…そう、だな」

「よし!んじゃあ今日は飲み明かすぜ!」

(この日の夜、結局俺とブロッケンマンは東京の飲み屋街で朝まで飲み明かしたんだ)
(次の日、朝方に俺たちがスタジアムへ戻ってきたときには、2人とも2日酔いで一日中地面に這いつくばっていた…)

                     ~終わり~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五話「師匠の失態」

『最後の残虐』第25話です。自分が正義超人と戦う理由を再認識したウォーズマンは自身の決意をもとに、敵対しているブロッケンジュニアに対して猛攻をしかける。
両陣営ともに疲弊の色が隠せないこの状況の中、この泥沼のような状況を打開しようとロビンが残虐超人陣営の元へと向かうが…?
果たしてロビンの行動が一体リングにどのような事態を招くのだろうか?


ステージ 場内

 

「……」

 

「おい、なんだよ。さっきから黙りこくっちまってさ」

「まだ試合終了のゴングは鳴ってねぇぞ」

 

長い沈黙にしびれを切らしたのかブロッケンはウォーズマンに話しかける。

ちなみに、彼は再び立ち上がっており、ある程度息を整えた上で彼に話しかけていた。

 

「……」

 

彼の質問を受け、沈黙するウォーズマン。

それから一時の間を置き、彼は静かに口を開く。

 

「俺は、やらなきゃいけない」

 

「…えっ?」

 

その時、不意に彼の目が光った。

 

「俺は…!俺はッ!!」

「お前たちに、勝たなくちゃいけないんだッ!」

 

(ベシィ!)

 

ウォーズマンの攻撃に完全に面食らったブロッケン。

彼の手刀をもろに受けてしまう。

 

(うぐぅっ!!)

 

(ドガッ!ペシッ!ゴツッ!)

 

「うあああああっ!!」

 

(がっ…!ぐあっ…!)

 

体を打ち付ける鈍い音、そしてその発生源から聞こえてくる苦痛の声…

手刀の雨あられがブロッケンの体をつんざいていく。

 

「み…乱れ撃ちだ!手刀の乱れ撃ち」

 

「さっきのラーメンマンと同じ手を使うつもりかっ!?」

 

口々に叫ぶロビンとキン肉マン。

その叫びに割って入るかのようにラーメンマンが冷静に今の状況を分析する。

 

「いや…違う」

「技の発生具合から、次に何かを放つ布石を打っているようには見えない」

「…恐らく感情をぶつけるために技を出しているのだろう」

 

この戦いに至るまでの経緯を思い出し、決意という精神的支柱を元にブロッケンへ技を出しているウォーズマン。

感情的になっているということは、恐らく彼は自身が持つ友を守るという重責と、そのためにかつての仲間と戦わなくてはならなくなったという葛藤を抱えていることに対して焦燥を感じているのだろうか。

本人のみがその事実を知っているだけに、彼の心中は筆舌に尽くしがたいものとなっていた。

 

「じゃがウォーズマンのやつ、一体いつの間にあんな技を…?」

「あやつの技の中に手刀を取り入れたものはなかったはずなんじゃが…」

 

何かに気づいたのか、キン肉マンがあっけにとられた様子でリングを見つめている。

 

「ま、まてよ…あれ」

「ブロッケンがいつもやっている手刀の“型”と似てないか…?」

 

震えながらウォーズマンの方を指さすキン肉マン。

呆然とこの様子を見ていた彼らに衝撃の風が吹きすさぶ。

そう、まさに彼がやってるのはブロッケン一族に伝わる必殺技“ベルリンの赤い雨”であった。

 

「ほ…本当だ…!ウォーズマンがやっているのは、まさしく“ベルリンの赤い雨”だ…!」

 

信じられないというような表情でリングを見つめるラーメンマン。

振りかぶるような動作、まっすぐに伸びた手刀、そして弧を描くような軌道…

彼が放っている技は“ベルリンの赤い雨”そのものだった。

ただ、この技は本家ではないのでもちろん切り裂くような威力はない。

しかし、コンピュータがデータをはじき出しているのか、人体における急所すべてを手刀によってとらえることができていた。

打ち出される一手一手が徐々にブロッケンをグロッキーにさせていく。

 

(うぐ…うう…)

 

「いかん!ブロッケンが青ざめてきやがった!」

 

(切り裂くほどの威力はないものの、やはりあれはいつもブロッケンがやっている手刀の型だ)

(まさかブロッケンマンのやつ、ウォーズマンに自分の技を教え込んだというのか…?)

 

「くそっ…!」

 

そう考えながらブロッケンマンの方を見るラーメンマン。

しかし、彼の方は無表情でいまいち何を考えているのかよくわからない。

状況的には残虐超人側が有利な状況であるにも関わらず、である。

 

その状況を見るに耐えかねたのか、ラーメンマンは傷だらけの体を起こし、彼のフォローに入ろうとした。

 

(ダンッ!)

 

しかし、技を使っていた本人もどうやらリスクなし、というわけにはいかなかったようだ。

表情こそ変わらぬものの、息切れが少し目立ち始めていたのである。

 

(はあ…はあ…)

 

「ぐあっ…!」

 

(ドサッ!)

 

ブロッケンが乱れ撃ちに耐え切れず倒れたと同時に、ウォーズマンも片膝をついた。

彼の肩からは少し煙が出ている。

 

「ああっ!両方とも倒れたぞッ!」

 

「だ…大丈夫かブロッケン!」

 

フォローに入ろうとした勢いで彼のもとへと駆け寄ったラーメンマン。

しかし、ブロッケンは右手を左右に振り

 

「へへ…問題ねぇよ。心配ないぜ、ラーメンマン」

「ちょっと不意を打たれちまっただけさ。じきに痛みは治まる」

 

ラーメンマンに自身の体が問題ないことを伝えた。

一方で、片膝をついたウォーズマンの方は

 

「くそっ!少々コンピュータを使いすぎちまったか…」

「熱がこもってやがる…」

 

どうやら手刀を放つと同時にコンピュータを酷使していたようで、体の中で熱を発しているようだ。

今のところ体に異常はなさそうだが、先ほども言ったように、肩から少し煙が噴き出しているのが気になるところ。

しかし、そんな様子のウォーズマンをよそに、ブロッケンマンは不敵に笑っている。

 

「へへ…やっぱり難しいか」

「その技はブロッケン一族が何世代もかけて作り上げてきたものだ。一か月やそこらでマスターできるようなシロモンじゃねえ」

「ま…型が出来ただけでも儲けモンだぜ。やるな、ウォーズマン」

 

「へへ…ありがとうよ、ブロッケンマン」

 

やはりこの言動からすると彼はこの一か月の間、もとい数週間の間でウォーズマンに“ベルリンの赤い雨”を教えていたのだろうか。

それか、彼に教えていなかったとしても、障りの部分だけ教えているということは十分に考えることができる。

 

「まっ…その代償にちょっと、体力を使っちまったみてぇだがな」

 

「へっ、弱気なことを言うない、てめぇはロボ超人じゃねぇか」

「体力もちょいと頭を絞れば何とかなるみてぇだしよ。工夫次第ではうまい立ち回りができるんじゃねえか?」

 

「だが、煙が出てるのは少しいただけねえな…」

「疲れてるみてぇだし、交代するか?」

 

「あ、ああ…でも、まだ大丈夫だ」

「ちょっと煙が出てるくらいじゃ、まだまだ戦えるぜ」

 

「そうか?…ならいいんだが」

 

「おっ…ブロッケンマンとウォーズマンが何か話し込んでいるぞ?」

「一体何を話し込んでおるのかのう…なあロビン?」

 

不思議そうにリングの反対側を見つめるキン肉マン。

しかし、反対側にいた超人は沈黙を決め込んでいた。

 

「ロビン、ロビン?」

「なんじゃあ、聞いとるんじゃから答えるくらいせんかい!」

「一体どうし…」

 

彼の言葉を聞いても全く反応しないロビン。

何かを思い詰めているようにも見える。

 

「……」

 

(ダッ!!)

 

次の瞬間、彼はウォーズマンたちのいるリングの反対側に向かって走り始めた。

 

「ああ、おい!どうしたんじゃロビン!」

 

キン肉マンの言葉が聞こえたのか2人は一斉に声のする方へと体を向けた。

 

「ん?おいあれ、ロビンマスクじゃねぇのか?」

「なんで俺たちのいる方へ向かってきてんだ?」

 

「……」

 

ブロッケンマンの言葉に無反応のウォーズマン。

そうこうしているうちに、ロビンはリングの反対側へとたどり着いた。

 

(はあ…はあ…)

 

リングの上と下で相対する二人。

息切れしているロビンと肩から少しだけ煙が出ているウォーズマンの2人が現在の体力の指針を示しているようで何とも対象的だ。

 

「ウォーズマン…」

 

「…なんだ、ロビン」

 

ロビンは一息ついて彼に尋ねた。

 

「お前…」

 

「一体何を、隠している…?」

 

「…?」

 

彼の言葉に一瞬不思議そうな顔をしたウォーズマン。

しかし、彼はすぐにその言動の意味を察知したのか表情を立て直し、毅然とした態度でロビンに言い放つ。

 

「…何のことだ。俺はアンタらを倒すためにこの場所へ来た」

「それ以外に意味はない」

 

「……」

 

彼の言葉を受けてしばらく沈黙するロビン。

しばらく考えた後、彼は静かに口を開いた。

 

「…お前は、いつもそうだ」

「厳しくしていた頃の名残が残っているのか、私に悩みを話してくれない」

「もしかしたら…お前が離反したのも私とお前の信頼関係が、ラーメンマンとブロッケンほど強固ではなかったからなのかもしれない」

 

リング上にいるウォーズマンに向けてまっすぐな目で彼に訴えかけるロビン。

彼は今まで自身の野望のため弟子に厳しく当たっていたこと、そして今回、それが災いし彼の正義超人離反へとつながってしまったのではないかと考えていたのだ。

今までその心の傷を癒すことをしなかった自分が不甲斐ない…彼の言葉からはそのような感情が伝わってきた。

 

「自身の野望を達成するという身勝手な理由のために、お前の心を傷つけてしまっていた…!」

「もしそうだとしたら、私は今までそのことに気づくことなくお前に接していたことが一体どんなに愚かだったことか…」

「今更こんなことを言うのもぶしつけかもしれない!だが、私は正義超人の一人として、お前の師匠として聞きたいことがあるんだっ!!」

 

ロビンは一息ついて叫ぶ。

 

「お願いだッ!私に話してくれッ!!」

「一体なぜおまえは…」

 

「うるさいっ!今は試合中だ!」

「部外者が話しかけてくるんじゃねえよ!とっとと消えるか、そこでおとなしく観戦しててくれ!」

 

しかし、そんな彼の訴えもむなしく、ウォーズマンはロビンを突っぱねた。

ロビンは師弟関係のもつれ、ウォーズマンは友を守ることへの重責と裏切りへの葛藤…

傍から見ればこの光景、お互いの気持ちにすれ違いが生じており、あまりにも見るに忍びない光景だった。

 

「ウ…ウォーズマン…」

 

一歩下がり、絶望に打ちひしがれたロビン。

それに追い打ちをかけるように、ブロッケンマンが2人に間に割って入った。

 

「おい、アンタ…確かロビンマスクとかいったな」

「何を物申したいのか知らねえが…あんまし試合中にファイターの心中を乱すようなことをするべきじゃねぇな」

 

「うっ…」

 

ロビンは敵であるブロッケンマンに正論を言われたこともあってか、少し焦っていた。

無理もない話だが、今のロビンは弟子の裏切りに対してかなり動揺している状態なのだ。

普段の冷静な判断で多くの若手超人を先導していくあのロビンの姿はどこにも見当たらない。

 

「だが、私はあきらめるわけにはいかない…!」

「仮にお前が操られていたとしても…私はお前を正義超人の一人として必ず連れ戻して見せるっ!!」

 

しかし、この一言がいけなかった。

ロビンはウォーズマンを説得しようと焦るあまり、軽はずみな一言を口にしてしまったのである。

 

「そうだ…!ウォーズマンお前…」

「もしかして、親父に騙されてるんじゃねぇのか…?」

 

それに反応するように、ブロッケンが後ろからウォーズマンに疑問をぶつけた。

 

「えっ?」

 

「なっ…!」

 

場内は一瞬にして張り詰めたような空気になった。

こうなってしまうとどんなに優秀なストッパーがいたとしても、歯止めが利かない。

流れるように事態は深刻さを増していく。

 

「まずい…!事態が変な方向へ…」

 

リングの上で青ざめるラーメンマン。

早く収集を付けねばと3人の話に割って入るが…

 

「おいブロッケン!お前…」

 

「ち、ちょっと待ってくれ!俺は別にブロッケンマンに騙されてるわけじゃ」

 

しかし、事はそう簡単に収まるはずもなく、彼らの言い争いはさらに加速していく。

 

「へっ、わかんねえぜ。さっきロビンが言ってたように、ウォーズマンとはあんまり信頼関係ができてなかったんだろ?」

「その部分を突かれて、師匠の座を乗っ取られちまったなんてことは十分に考えられるじゃねえか!」

「“純粋な残虐超人”がやりそうなことだぜ」

 

「なんだと…!」

 

ブロッケンの言葉を受けて強くこぶしを握り、怒りをあらわにするウォーズマン。

恐らく、ブロッケンの方もかなり感情的になっているのだろう。言葉の端々に荒々しさを感じ取ることができた。

 

「やめろブロッケン!とりあえずいったん落ち着くんだっ!!」

 

(ガシィッ!)

 

彼の言動を何とか止めようとするラーメンマン。

彼の後ろから羽交い絞めにし、何とか彼の物理的な行動を制止させる。

 

「放せよラーメンマン!あいつらを庇うつもりなのか!?」

 

「違う!今のお前は感情的になりすぎている…!」

「そのことが原因で試合が止まってるんだ!それがわからないのかっ!!」

 

「放せっ!放せぇっ!!」

 

しかし、ラーメンマンの制止も空しく、彼の羽交い絞めを何とかはがそうとするブロッケン。

その最中、彼は悔し紛れに自身の父親に対して捨て台詞のようなことを言い放った。

 

「ちくしょう…!どうせ親父は生粋の残虐超人!」

「勝つためなら何でもする、不意打ちの凶器攻撃だろうが毒ガス攻撃だろうがお構いなしの残虐超人なんだぜ!!」

「俺たちの仲間を操ることになんか躊躇するわけねぇじゃねえかっ!!」

 

「やめろ、ブロッケン…!」

「それ以上…それ以上は言うんじゃない!」

 

しかし、もう彼を止めることができる者は誰もいなかった。

ブロッケンは父親の前でとんでもないことを言い出してしまう。

 

「リングの上で死ねるなら本望って言ってたくせに、ラーメンマンへの復讐のためわざわざ生き返ってきてきてよお!」

「未練タラタラじゃねえか!こんな姿の親父なんて見たくなかった!!」

 

「親父なんか…親父なんか!」

「ずーっと超人墓場にいりゃあ良かったんだーっ!!」

 

「……」

 

その言葉を聞いた瞬間、ウォーズマンの頭の中には超人墓場でブロッケンマンが息子のことを言っていたことが思い出されていた。

 

(なあウォーズマン。息子のやつ、現世で元気にやってるかな…)

(アイツにはまだ、教えてぇ技がいっぱいあったんだけどなあ)

(ちゃんと…飯ィ食ってるかな)

 

(息子に…会いてぇなあ)

 

(ピピピピ…)

(プツン)

 

その時、ウォーズマンの中でなにかが“切れ”た。

もう我慢できない、彼自身の中で怒りの感情がコントロールできない何かが作動する…!

 

「…い」

「いい加減にしないかーっ!!ブロッケンジュニアーッ!!」

 

                  ―続くー

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六話「野望の終着駅」

最後の残虐第26話です。2週間ほど投稿期間が開いてしまい、申し訳ありませんでした。投稿期間が開いたもろもろの事情は活動報告のところに記載しておりますので、もしよろしければ見ていってください。
では、あらすじをどうぞ。

ロビンの焦りを皮切りに異様な空気へと変貌してしまったスタジアムの場内。最悪なことにその場を利用し、ブロッケンは父親に対し心にもない罵声を浴びせてしまう。そして、彼の言葉を受け、あらかた事情を知っている”あの男”がついに怒りをあらわにする。
 一体、この試合はどうなってしまうのだろうか?


ステージ 場内

 

「いいかげんにしないかーっ!」

 

「ウ…ウォーズマン…?」

 

突如聞こえてくる機械音を混じらせた叫び声に驚くキン肉マン達。

間髪入れずウォーズマンは言葉を続ける。

 

「お前…!さっきから聞いていれば自分の親父のことを散々バカにしやがって!」

「もう許さねぇ!こうなったらルールなんざぶっ潰して…」

 

ここで正義超人側が状況を察したのかキン肉マンも半ば感情的になり

 

「だ、黙らんかい裏切者めっ!!さっきから何をごちゃごちゃとわけのわからんことを言うておるんじゃ!!」

 

彼に対して反論する。

 

「わけのわからんことだと!?いい加減なことを言うな!」

「ブロッケンマンはな…ブロッケンマンは…!」

 

しかし、ここで彼の前に手刀が現れることで、いったん言い争いは収まった。

 

「おい」

「いい加減にしろ…お前も感情的になってどうすんだ」

「パートナーを無視すんじゃねぇ」

 

「うっ…」

 

リングロープに前かがみの姿勢でもたれかかったままウォーズマンをにらみつけるブロッケンマン。

その怒りが凝縮されたような表情にウォーズマンはたじろいでしまう。

 

「す、すまない…」

 

「…ま、別にいいんだけどよ」

 

そういうと彼は正義超人側の方を向き、静かな面持ちで口を開く。

どこか先ほどのような毒気が消えていると感じるのは自分だけだろうか。

 

「それよりも…」

「息子よ、俺はお前の質問に答えなくちゃいけねぇな」

 

「えっ…?」

 

突然のブロッケンマンの言葉に言葉を失う正義超人たち。

しかし、それもお構いなしに彼は言葉を続ける。

 

「まず、前提としてだ」

「俺は、お前が何を言おうが気にしねぇ」

 

「俺が残虐超人の肩書を捨てるくれぇなら」

「生粋の残虐超人で結構。俺は残虐行為に躊躇しねぇ」

 

「それが、俺の答えだ」

 

ブロッケンマンが言っているのは先ほどのブロッケンが言っていた罵倒のことである。「未練がましい…」とか「超人墓場に…」といった内容。

彼はその罵倒を質問と捉え、それに答えているということなのか。

 

「そんなこと…」

 

(サッ)

 

反論するブロッケンの言葉を遮るようにして彼の前に手を置いたラーメンマン。

納得がいかないのかブロッケンが妨害しようとすると…

 

「!?」

 

「おいラーメ…」

 

「……」

 

彼は首を横に振り、話を聞くように促した。

 

「……」

「…ちっ」

 

彼もそれに(いやいや)納得したのか、不満げな表情のまま頷いた。

 

「それで、さっきのお前の言葉だが…」

「確かさっき未練がどーたら、とか言ってたな」

 

腕を組みながらリングの鉄柱にもたれかかるブロッケンマン。

そしてわずかな沈黙の後、彼は静かに口を開いた。

 

「未練は、ある」

「あの時の戦い…ラーメンマンは知らんがこの俺、ブロッケンマンにとっては満足のいかない試合だった」

「残虐超人の総帥と呼ばれていたラーメンマンとの“最終決着”があんな形で決まっちまったんだ。…どうしても後味の悪いものが残る」

 

「最終…決着…?」

 

ブロッケンが不思議そうな表情でブロッケンマンに尋ねる。

 

「そうだ。最終決着だ」

「俺はそれがうまくいかなかったがために、未練を残すハメになっちまった」

 

次の瞬間、それに割って入るようにキン肉マンがリング横から叫んだ。

 

「じゃ、じゃがブロッケンが言っておったぞ!お前は“リングの上で死ぬのが本望だと…」

 

「ああ。確かに息子の言う通り、俺はリングの上で死ねれば本望だ」

「だがそれは、あくまで普通の試合での話」

「“あの男”の場合は別だ…」

 

神妙な面持ちで説明を続けるブロッケンマン。

その時の彼の表情はどこか達観しているような感じで、今までのような迫力のある表情をしていなかった。

彼はその表情を保ったまま説明を続ける。

 

「それに…俺がリングの上で死ぬことが本望だと言ったのは、単に長い間ここで戦っていたからリングに対して愛着を持っていたからじゃねえ」

「リングに立つことこそが、俺の精神的な支柱だったからだ」

 

「ど、どういうことだ…?」

 

険しい表情で彼に聞くウォーズマン。

それに対しブロッケンマンは下を向きながらうなだれたような表情で言い放った。

 

「…俺はよ。昔はよくバカにされてたんだ」

「純粋な超人じゃあないということでな」

 

「…なんだって?」

 

彼の言葉を受けて首をかしげる正義超人一同。

どこか腑に落ちないといったような感じ。衝撃の告白の割にはインパクトが薄い。

そんな感じだった。

 

「おかしいじゃないか。だってお前は栄誉あるブロッケン一族の…」

 

不思議そうな表情でブロッケンマンに尋ねるキン肉マン。

すると彼は顔を上げ、彼らに向かって真っすぐな目で言い切った。

 

「ああ。確かに俺はブロッケン一族の子孫だ」

「だが…代表的なブロッケン一族はな、実質俺の代から始まったんだ」

 

「な…なんだって!?」

 

ブロッケンマンの言葉に初めて驚く正義超人たち。

しかし、ブロッケンマンははたと気づくと自分が放った言葉を訂正する。

 

「…いや、訂正する。ブロッケン一族の存在が明るみに出たのは、俺が最初なんだ」

「今までにもいたっちゃあいたんだがな、ちょっとそん時の情勢が悪かったのか、あんまり資料が残っていないのよ」

 

「だ…だがお前の一族はもともと人間で、成人すると紋章を授けられ、最終的には超人として活躍するのだと聞いているが…」

 

「ブロッケンマンの言葉に首をかしげながら反論するロビン。

しかしその反論にも彼は冷静な口調で返す。

 

「そうだ。確かにブロッケン一族は元々人間で、ある一定の年齢になると超人に変身できる紋章を授けられる…それ自体は間違っちゃいねぇ」

「だが、俺の親父が…ちょっと異質でな」

「とある人間と俺の爺さんが恋に落ちて、駆け落ちの形で純粋な変身型の超人であるブロッケン一族を離れたらしいんだ」

「そん時に生まれたのが俺の親父、息子の爺さんに当たる“ブロッケンマン”だ」

「紛らわしいからG(グロウズ)と呼ばせてもらうぜ」

 

ブロッケンマンは一息ついて説明を続ける。

 

「Gは、俺の爺さんと人間の女との間に生まれた息子だった」

「いわば人間と超人のハーフってことだな」

「リングの上に立ってた時の親父の背中はかっこよくてなあ…小柄ながらもガタイの大きい超人に立ち向かっていく姿は、俺の憧れだった」

「親父は、超人オリンピックをはじめとした公式の大会ではあまり大きな結果を残せてなかったんだが、小さな大会ではよく優勝してたんだ」

 

「だが…親父の勝利を称賛するものは誰もいなかった」

 

「い、いったいなぜ…」

 

動揺を押し殺しながらラーメンマンは彼に尋ねた。

そして、その問いにブロッケンマンは少し考えた後、静かに口を開いた。

 

「人間と超人の“ハーフ”だったからだ」

 

ブロッケンマンは俯きながらキン肉マン達に言い放った。

 

「えっ、人間と超人の…ハーフ…?」

 

突然の答えに驚くブロッケン。

あっけにとられる息子をよそに、彼は説明を続ける。

 

「そうだ息子よ。人間と超人のハーフだ」

「人間と超人のハーフはな…完全な超人じゃあねぇってんで、昔はよく避けられていたんだ」

「後ろ指を差されながら戦ってた親父が…今でも目に浮かぶ」

「今じゃあすっかりメジャーになってるらしいが…俺らの時じゃあ考えられねぇことだぜ」

「何事にも“純粋”が求められていた。そんな時代があったのさ」

 

ブロッケンマンは一息つくとさらに説明を続ける。

 

「そんな立ち位置にいたんだ。息子である俺だって例外じゃなかった」

「訓練所の外へ行けば石を投げられ、罵られ、笑われる日々…」

「訓練所の中でだって陰口を叩かれていた。“アイツはうすら汚ねぇ超人だ”ってな」

 

「……」

 

「そんな中で俺は厳しい訓練の末、親父から“ドクロの紋章”を継承し初めてリングの上に立った」

「そして…“あの行為”をやったんだ」

 

「あの行為」とはブロッケンマンがリング上で対戦相手の目をくり抜いたのち、猛攻を加えたという残虐行為のことである。

 

「今まで俺をバカにしてきた奴ら、汚れた超人だと罵ってきた奴ら」

「そんな奴らに恐怖を味わわせてやるため…俺は対戦相手の顔を掴み、眼窩に思いっきり指を突っ込んだ」

 

「ひっ…!」

 

恐怖のあまり目を覆うキン肉マン。

淡々と自分のした行為を語っていることも相まって、ブロッケンマンの語りは恐怖を増していた。

 

「これがきっかけで俺は残虐超人への仲間入りを果たし、そこから勝利を重ねていった」

「親父の無念と残虐超人である一族の誇りを携えてな…」

「その結果が残虐超人の大会で異例の4連覇…自分で言うのもなんだが、俺はまさに絶好調だった」

 

「そん時だ…俺が“あの男”と出会ったのは」

 

そういうと彼は険しい面持ちでとある男の方を指さした。

 

「ラーメンマン…お前だ」

 

「……」

 

指を差されたその瞬間、ラーメンマンは顔をしかめた。

しかしそれもお構いなしに彼は説明を続ける。

 

「アイツと初めて会ったのは、20回超人オリンピックから約10年前のこと」

「俺は残虐超人の内輪で行われている大会で5連覇を狙っていた」

「当時7歳だったこいつもいたし、俺は息子のためにも何とか勝利をかっぱらってやろうと思っていた」

「そして、迎えた決勝…」

「俺は、ラーメンマンと出会った」

 

彼の脳裏にラーメンマンと初めて会った時の記憶がよみがえる…

 

響き渡る歓声。しかし、その歓声に交じり聞こえてくる罵倒と怒号。

 

「殺せーっ!!ぶっとばしちまえーっ!!」

「死ねーっ!死んじまえーっ!!」

 

そして次の瞬間、卵やゴミ、鉄くずなどがリング内に放り込まれる。

とても通常の試合では見られない光景。

しかし、そんな状況下でもこの2人はまるで動じていなかった。

まるでそのことが起きるのが日常茶飯事であるかのように。

 

「…よう」

 

「……」

 

ブロッケンマンの問いかけに沈黙するラーメンマン。

今の様子とは裏腹に別の不気味さを醸し出していた。

 

「アンタも物好きだな。何もこんな殺気立ってる大会になんざ出場するこたぁねぇのによ」

「下手すりゃ殺されるぜ」

 

「……」

 

「私は、残虐超人だ」

「そのくらいは、心得ている」

 

「…そうかよ」

 

ひどく冷え切ったラーメンマンの表情。

いや、もしかしたらまだスイッチが入っていないのかもしれない。

何も残虐超人は誰でも常に狂ったような様子を見せているわけではないのだから。

 

(あの時のそいつはまだ残虐超人としては無名で、俺と試合をする準決勝で対戦相手をひどくボコしたからスタジアムの中で噂になっていたぐらいだったんだ)

 

(だが、それは叶わなかった)

(無名で決勝戦に上がってくるってことを俺は甘く見ていたんだ)

 

様々な思惑が渦巻く中、ついに試合開始のゴングが鳴った。

 

(カァンッ!!)

 

「そして、俺は負けちまった」

「試合内容は話すまでもねぇ…それだけ簡単に試合が終わっちまったってことだ」

「お前は純粋な超人であり、そして何よりも強かった」

「いくら超人になったとはいえ、俺は元々人間の血が入った超人だ。体力的にも自然治癒の速さでも並みの超人より劣っている」

「純粋な超人で、かつ鍛錬を積み重ねているであろう存在に勝つことは困難を極めた」

「案の定、俺はラーメンマンに敗北し、5連覇を果たすことはできなかった」

 

ブロッケンマンはさらに説明を続ける。

 

「その後は俺も何とかアイツの弱点を見出し、五分で渡り合えるようになっていた」

「そして、お互いに超人オリンピックのチャンピオンを目指すためのよきライバルとなっていったんだ」

「だが、時の流れというのは残酷でな…いつしか俺も年を取り、プロレスを続けていくことが困難になってきた」

「“引退”の2文字が俺の頭の中をちらつくようになっていったんだ」

 

「……」

 

彼の演説(?)に静かに聞き入る正義超人たち。

ラーメンマンも自身の名前が出されたのにも関わらず、静かな表情を保ち続けている。

 

「そして迎えた引退前…」

 

「俺は超人オリンピックのドイツ代表となり、ラーメンマンを倒すべく決勝トーナメントのステージへと歩みを進めた」

 

スタジアム -場内-

 

(……)

 

異様な空気。割れんばかりの観客の声援もない。

無理もなかった。このスタジアムはもともとほかのスタジアムとは違い、隔離されたような形で行われているのだ。

残虐超人たちの残虐極まりないプレーを見せないために、このような試合が組まれたのである。

 

「よう」

「へへ…こうやって残虐超人同士、超人オリンピックの舞台へと上がることができたんだ」

「…お互いに全力を出し切ろうや、なあ?」

 

しかし、気さくな態度とは裏腹に彼の考えていることは全くの真逆だった。

 

「……」

 

(…へっ、それにしても、大会の主催者も下衆なことを考えるもんだな)

(残虐超人同士で戦わせ、あわよくば怪我でもして、ほぼ全員敗退してくれることを願っているんだろう)

(…まあこの扱いにも、もう慣れちまったんだがな)

 

大会の主催者にやるせない思いをぶちまけるブロッケンマン。

しかし、今はそんなことも言ってられないと気持ちを切り替え、ラーメンマンがスタンバイしている反対側のリングを見た。

 

(さて…問題の相手だが)

(キン肉マン…とかいうやつは気にしなくてもいいか)

(同期のカレクックが普通に勝ち上がってくるはずだ)

(問題なのは…)

 

(ラーメンマン…だな)

 

その時、ブロッケンマンの目がギラリと光った。

 

(残虐超人の総帥であり、そして何よりも俺から勝利を奪った超人!!)

(中国拳法とプロレスを混合した技で、相手の息の根が止まるまで戦い続けるおっとろしい野郎だぜ)

(おまけに今のコイツは、俺を倒したことと、世界3大残虐超人の一人として名をはせていることもあって脂が乗っている…正直今の俺が正当に向かっていっても倒せやしないだろう)

(ならば、俺は…)

 

そう言うと彼は軍帽の中に仕込ませていたメリケンサックをちらつかせた。

しかし、ラーメンマンと審判は気づいていなかったようで、流れるように試合開始の準備が進められていく。

そして何分か時間が過ぎ、レフリーが試合開始の合図を告げようとした、その時…

 

残虐精神(これ)で行かせてもらうぜッ!!」

 

ブロッケンマンは彼らを押しのけ、そのままラーメンマンの方へと向かっていった。

 

「…!!」

 

(カァンッ!)

 

試合開始のゴングが鳴った。

 

それと同時に、ブロッケンマンはラーメンマンに軍服を被せ、そこから持っていたメリケンサックをおもむろに取り出し、彼に攻撃を加えた。

 

(ガッ!ドガッ!!)

 

「あーっと!?ブロッケンマン、ゴングが鳴る前にラーメンマンを不意打ちだッ!!」

「そしてすかさず凶器攻撃です!」

 

突然の出来事に不意を打たれる実況と審判。もちろんラーメンマンも例外ではなく、何が起こったのかわからないままその場に立ち尽くしていた。

 

「ぐへへへ…!」

 

その時のブロッケンマンは正気の沙汰ではなかった。

“勝利”の2文字。そのためだけに動く殺人マシーンへと変貌していたのである。

 

(勝ちてぇ…勝ちてぇ…!)

(俺は…勝ちてぇんだッ!!)

 

「……」

「無様だな…」

 

攻撃を受けながらニヤリと笑うラーメンマン。

言動から察するに、恐らく彼の攻撃はあまり効いていない。

 

「なんだと…!」

 

「勝利欲しさにここまでやるか。…まあ、それが残虐超人の模範なのだから当然のことではあるんだがな」

「…いいだろう」

 

そういうとラーメンマンは彼に足払いをかけ、体勢を崩させた。

 

「ぐあっ…!」

 

いきなりの事態にまごつくブロッケンマン。そしてそれを契機と見るや、ラーメンマンは彼の方へと向かっていった。

 

「今まで同じ残虐超人として戦ってきた仲だ…残虐超人の総帥として、お前を最高のやり方で葬ってやろう!!」

 

そういうと、彼はまず自身の足をブロッケンマンの口へと押し込み、彼のあごの骨を外した。

そして彼を無理やり立たせ、チョップの嵐。…なかなかに凄惨な光景だった。

 

そして極めつけは…

 

(ダアアアンッ!!)

 

「あーっと!キャメルクラッチです!!ラーメンマン、キャメルクラッチをブロッケンマンの処刑技に決めたようです!!」

 

「ぐあああああっ!」

 

傷だらけの体に上半身を無理やり起こされいるためか、尋常じゃないくらいの痛みが彼を襲う。

そして、そのあとに聞こえてきたミリ…という音。

 

「そして次の瞬間…俺はその音と共に、自分の目がスタジアムのライトをまっすぐ見つめているのがわかった」

「それからすぐ、俺は目の前が真っ暗になり、自身の敗北を悟ったんだ…」

 

「……」

 

彼の言葉に沈黙する正義超人たち。

何も言えない、というよりかは返す言葉が見つからない…そんな感じだった。

 

「俺は結局力を出し切れぬまま、胴体を真っ二つに折られちまった」

「こうして、俺のラーメンマンとの“最終決着”は幕を閉じたんだ」

「不意打ちの末、ラーメンマンの返り討ちにあった惨めな超人という汚点を抱えたまま…」

 

「ブロッケンマン…」

彼の言葉に対し、静かな反応を示すキン肉マン。

 

これまでの経緯をまとめると、彼の人生は人間として育つことなくハーフの超人として生まれ、残虐超人ということも相まって周りから蔑まれながら育った日々、そして、その悔しい日々をバネに努力を重ね、ついに残虐超人の頂点へと君臨した。しかし、いかに強いといえども年齢には勝つことができず、最終的には自分が引退試合と決めた超人オリンピックにおいてライバルであったラーメンマンとの戦いに敗れた…

そしてそれが未練となり、紆余曲折を経て彼はこの戦いに身を投じているのだった。

 

「確かに、俺も巷ではラーメンマンと同じく世界三大残虐超人として有名だった」

「だが、残虐超人内では“純粋”な超人ではないから超人として認められないのではないのか、という声もあった」

「俺が最初に超人オリンピックの出場が決まった時も国内ではひと悶着あったんだ。…参加を辞退しろなんて言う心ない言葉もあったんだぜ」

「20回の時はそうでもなかったんだよな。…時代は変わるもんだ」

 

「ブロッケンマン…」

 

「俺は悔しかった。今になって思えば、あんなことをやるんじゃなかったと後悔している」

「超人墓場で聞いた話じゃ、あの後訓練所が襲撃されて、一時は施設が崩壊寸前にまで追い込まれていたっていうじゃねぇか」

「普通、俺たちにとって超人オリンピックに出られることは名誉なことだ…だが」

「全力で戦えなかった上に、私情で一族の連中にまで迷惑をかけちまったんだ。…罪悪感がぬぐえねぇ」

 

「ブロ…」

 

うなだれる彼を前に、親友のウォーズマンも言葉を返すことができない。

過去の栄光を尻目に最悪の形で負けてしまった彼を励ます言葉をかけられるものは…少なくともこの中にはいなかった。

 

「…さて、これで話は終わりだ」

「俺はラーメンマンと最後の決着をつけるためにここへ来た」

「もとい…」

 

「……」

 

「…?」

 

彼が言葉を切らせたことに首をかしげる正義超人たち。

その様子を見て、彼は

 

「…いや、なんでもねぇ」

「忘れてくれ」

 

軍帽で表情を隠しながら下を向き、後ろを向いた。

それと同時にウォーズマンが彼の肩に手を置く。

 

「そうだぜブロ。この戦いの目的は未練の達成と正義超人を倒すこと」

「俺たちはそのために戦ってるんだ」

「純粋な残虐超人の力を、ここで見せてやろうじゃないか」

 

ようやく励ます言葉が見つかったのか、ウォーズマンは彼に対し穏やかな表情で親友に言葉を贈った。

しかし、この時の彼の反応は全く真逆のものだった。

彼の言葉にブロッケンマンは首を横に振ったのだ。

 

「…?」

 

友人の予想外の反応に呆然とするウォーズマン。

それもお構いなしに、ブロッケンマンは言葉を続ける。

 

「いや、その必要はねぇ。…ウォーズマン、もういいんだぜ」

 

「ブ…ブロッケンマン…?」

 

「どんなトーシロでも、ここまでくりゃあ誰だってわかる」

 

「!!」

 

この時、ウォーズマンは気づいた。

自身の行っていたことが、そして考えていたことのほとんどがもう、彼に見破られていたことを。

 

「…ここなんだな、ここが」

「俺の野望の、終着駅…」

 

達観したような表情で彼は言葉を続ける。

 

「ウォーズマン…」

「“超人狩り”は、ここでおしまいだ」

 

                   続く

 




グロウズはドイツ語で「お爺さん」という意味らしいです。ブロッケンマン、ブロッケンジュニアと区別する形で本作ではグロウズを使わせていただきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十七話「決死の突貫!電光石火(ライトニングアロー)

最後の残虐第27話です。活動報告でお知らせしました通り、2週間小説が出せていなかったので急遽、日曜日に先週分を上げることにしました。では、本編をどうぞ。

―あらすじ―

異様な雰囲気が流れていたスタジアムの場内に、罵倒の回答という異例の方法で解決にメスを入れたブロッケンマン。そこで彼は自身の過去と、自分が戦っている目的の詳細な部分を暴露する。これで戦いの意思が固まったとウォーズマンが手を伸ばすが、ブロッケンマンは突然、戦いを止めることを仄めかす発言をする。
果たして、彼の言葉が意味することとは?


スタジアム 場内

 

「超人狩りは…ここでおしまいだ」

 

落ち着いた雰囲気でウォーズマンの方を向き、そう宣言するブロッケンマン。

その表情にはもう、先ほどのようなギラついた様子はない。

 

「な、なに言ってんだよブロッ!お前、ラーメンマンへの復讐のためにここへ来たんじゃなかったのか!?」

 

彼の雰囲気とは裏腹に、突然放たれた親友の弱気な発言に動揺するウォーズマン。

 

「どうして、今になってそんな…」

 

「あの時、超人閻魔に言われた言葉…」

「正義超人の中枢ってのはこいつらのことで、これを倒せば俺たちは解放される」

「そんで、いきなりそれを伝えちまうと、俺は戦いを躊躇しちまうかもしれないから」

「お前はあえてそれを伏せ、俺を戦う方へと導いた…」

「だよな…ウォーズマン」

 

彼の言葉を受け、しばらく黙り込んだウォーズマン。

 

「……」

「…すまない。今までずっと黙っていて」

 

それからしばらくして、彼はブロッケンマンに対し、謝罪した。

 

「いや…俺はお前を責めてるんじゃねえ」

「むしろ感謝してるくらいなんだ。こんな俺に気を使ってくれてよ…」

 

「だが、それじゃねぇ。俺が超人狩りを止めようっていたのはそれが理由じゃねえんだ」

 

「え?じゃあ、いったいどうして…」

 

不思議そうに彼を見るウォーズマン。

それが契機と見たのか、ブロッケンマンはなぜ、戦いを止めようと言い出したのか説明しだした。

 

「俺は、この戦いの中ずっと考えていた」

「あいつらの中に宿る“大きな存在”…」

「俺は、それに気づいた…いや、気づいちまったから、戦いを止めようと言ったんだ…」

 

「大きな存在…?」

 

「そうだ、大きな存在だ」

 

ブロッケンマンの脳裏に戦ってきた彼らが言っていたことが思い出される…

 

「友情ってのは…どんな時でもともに助け合える存在なんじゃねぇのかーっ!」

 

「バッファローマンの雪辱は…俺が果たすッ!!」

「ブロッケンジュニア…かつて私と共に戦った戦友だ!」

 

「あいつら2人に共通していたこと、それは」

「仲間のために自分が犠牲になること、だ」

 

ブロッケンマンはさらに説明を続ける。

 

「最初、アイツらが言っていたことは戯言だと思っていた」

「自己犠牲なんざ単なるエゴでしかない。あいつらのやっていることはおかしい…とな」

「だが、アシュラマンと戦った時、俺は一つの違和感を覚えた」

 

路地裏

 

「だがよ…」

(妙だ…どうしてここまで他人のために戦うことができる?)

 

訝し気な表情で考え込むブロッケンマン。

しかし彼はすぐに思い直し、後ろを向く。

 

(…いや、考えても仕方ねぇか)

(今やこいつは名も言わぬ“骸”…吐かせようにも吐かせられねぇ)

(…もう、行くか)

 

「…あばよ、プリンツ」

 

そういうと彼は静かに歩きだし、先に行っていたウォーズマンの後を追った。

彼があの時路地裏で言いかけた言葉には、友情に対する疑問が浮かび上がり始めていたのである。

ひとしきり思慮を巡らせると、彼は回想を終え静かに語りだした。

 

「なぜ、こいつらはそこまでして他人のために戦える…?とな」

 

「お前も知っての通り、残虐超人はもともと“個”を重視する超人だ」

「戦法の残忍さ故から煙たがられることの多い俺たちは、基本的に修行をするときも一人でやっていることが多かった」

「それに、下手をしたら試合中に自分が同族に殺される世界だ…そんな中いったい誰がそいつらを友人として見ることができる?」

「だから、普通なら俺たちには友情なんてほとんど芽生えることがねぇ」

「ましてや、仲間のために自分を犠牲にするなんざ、到底考えられねぇことだ」

「だが…アイツらは違った」

 

「たとえ残虐超人だろうが悪魔超人だろうが、分け隔てなく接していた」

「そして…友人のためなら命を賭してでも守ろうとしていた…」

 

一息つき、ブロッケンマンはさらに説明を続ける。

 

「俺は考えた」

「アイツらの中には“何か”がある…俺の、俺たち残虐超人をはるかに凌駕するような」

「そんな強さがある…とな」

 

「ブロ…」

 

「俺はこの戦いに勝つため、ありとあらゆる策を練った」

「金網デスマッチやミヌート…果ては禁断の技にまで手を出したってのに」

「あいつらには全く通用しねぇ…いつも押し返される」

 

「そして、俺はこの戦いで確信した」

「これはただの“友情”で片づけられる問題じゃないんだ、と」

「あいつらの中に宿るもの…それがあいつらの強さを後押ししているんだ、と」

 

「そしてその強さに…俺は屈した」

「あいつらの持つ“友情パワー”とやらにな」

 

「……」

 

彼の言葉に思わず言葉を失ったウォーズマン。

無理もない。試合中はずっと強気な発言や冷静さがあったのだ。まさかずっと苦しんでいたなんて、いったい誰が想像がついただろう。

そして今、彼の中にある心の糸が切れた。…そういうことなのだろうか。

 

「もう、俺はアイツらと戦えねぇ」

「復讐の念を持ったって暖簾に腕押し…アイツらの底知れぬ“友情パワー”とやらに圧倒されるだけ」

「やるだけ無駄なんじゃないかと…戦いの最中、そう思い始めたんだ」

 

そう言った彼の語気にはもう、覇気のようなものは見当たらない。

うなだれながら親友に訴えかける…そんな構図だった。

 

「そして、極めつけは息子のあの言葉…」

 

「親父なんか…ずーっと超人墓場にいりゃあ良かったんだーっ!!」

 

「いくら若くたって、俺は前の世代の超人」

老兵(おれ)の居場所なんて、もうどこにもねぇ」

「俺、本当は現世(ここ)へ戻ってきちゃいけなかったんだな…」

 

その言葉の後、しばらくの間、彼らの間に沈黙が流れた。

今の彼の言葉を要約するとこんなかんじだろうか。

自分はラーメンマンへの復讐、そして息子に会うため、その思いを引っ提げて現世へと舞い降りた。

しかし、そのために身を粉にしていろいろ準備を進めてきたが、結果的にすべてが裏目に出てしまい、終始正義超人たちの友情パワー(その当時は見知らぬ力)に圧倒されるばかり。

そして、あろうことか自身の息子にも罵倒される始末…

彼の心はもう、ボロボロだったのである。

 

「ブロ…」

 

ウォーズマンが呆然としていた次の瞬間、

 

(シュウゥゥ…)

 

「!!」

 

突如として彼の肩から大量の煙が噴き出してきた。

 

「ウ…ウォーズマン、お前…」

「肩から煙が…!」

 

突然の親友の異変に驚くブロッケンマン。

それと同時に彼は片膝をついた。

彼は最初、驚きの色を隠せなかったものの、自分がもう戦闘できる時間をゆうに超えていたことを思い出し、冷静になった。

 

「…へへ、あんまり長丁場だったから、ついに限界が来ちまったらしいな」

「もう、持たねぇか。もうあと30分くらいは行けると思ったんだけどな…」

 

「な、なんじゃ!?ウォーズマンのやつ、肩から煙を吹き出しおったぞ!?」

 

「来たんだ…!タイムリミットが…!」

 

目に見えるウォーズマンの異変に騒然となる正義超人たち。

キン肉マンとロビンが口々に叫ぶ。

 

「ウォーズマン…無理をしねぇ方がいい」

「このままじゃ…」

 

もう戦う意思がないのか、ウォーズマンを気遣う発言をするブロッケンマン。

力なく言葉を掛ける様に、もう先ほどまでの面影はない。諦観の色。

しかし、ウォーズマンの方は違ったようだ。

 

「…何、言ってんだよ。お前」

 

「…!?」

 

そういって静かに立ち上がるウォーズマン。

そして、肩から煙を噴き出しながらブロッケンマンの方を向く。

 

「俺はまだ、諦めるつもりなんてないぜ」

 

そういった彼の目は、まだ死んではいなかった。

 

「やめろっ!これ以上動いてなんになる!」

「このままじゃお前の体が…」

 

「へへ…どのみち負けりゃあ俺の体はぶっ壊れちまうんだ」

「だったら…いま残ってる体力をありったけぶつけた方が、いいに決まってんだろ」

 

「ウォーズマン…!」

 

「まかせろ…!」

「ブロ…お前があいつらの友情パワーに屈したとしても」

「俺は決して屈したりはしない!必ずお前をこの世界にとどまらせてやる!」

 

そういうと彼は、キン肉マン達がいる方向を向いた。

そして大きく息を吸い込むと大きく口を開き、彼らに向かって声を上げた。

 

「お前たち!…この際だから教えてやるぜっ!」

 

「俺は脱走する途中、超人閻魔とある“賭け”をした!」

「俺たちが正義超人に勝ったら、正しくは中枢にいる超人に勝つことが出来たら」

「俺たちは解放される。だがもし、俺たちがお前らに負けるようなことがあれば」

「俺たちは超人墓場へ戻され、刑期を全うすることになる…ってな!」

 

「な…なんだとっ!?」

 

彼の言葉を受け、驚く正義超人たち。

 

「じ、じゃあお前が裏切ったのは…」

「親友と共に超人墓場から抜け出すためだったってことなのか!?」

 

加えてロビンが事実を確認するように叫ぶ。

 

「ああ、そういうことだ」

 

唐突なウォーズマンの告白に言葉を失う3人。

しかし、それからしばらくしてブロッケンが反論する。

 

「で…でもおかしいぜ!親父とウォーズマンはいったいどこで知り合ったってんだ!?」

「年が離れすぎてるし、そもそも出会う機会が…」

 

しかしその反論も、ラーメンマンの分析が割り込んだことにより、見事に解消されることになる。

 

「いや…接点はあった」

「おそらく、超人墓場で知り合ったんだろう」

「それから何らかの過程を経てお互いに友人となり」

「自身の存亡を懸けて私たちと戦っている…そういうことだったのか」

 

そう分析したラーメンマンの顔は青ざめていた。

一杯食わされていたことも相まって、彼はかなり動揺している。

 

「なんと…いうことだ…!」

 

だが、そんな彼らの推測をよそに、ウォーズマンは説明を続ける。

 

「…まあ、俺たちは脱走しているだろうから、恐らくその罰も加わるだろう」

「だとしたら…俺たちはもしかしたらもうずっと、ここには戻ってこられないかもしれない」

「また、あの厳しい労働を強いられることになるんだ…」

 

「……」

 

「だがよ、ブロ! 俺は絶対にそんな運命にはさせねぇ!」

「俺は、お前と傷をなめ合いながら地獄に落ちるなんざごめんだぜ!」

「俺は…俺たちは正義超人に勝って、現世(ここ)でお前と酒でも飲みながら、楽しく余生を暮らしてぇんだ!」

「もう、お前に苦しい思いをさせるわけにはいかないっ!!」

 

「ウォーズマン…」

 

「だから…だから俺は…っ!」

「負けるわけには…いかねぇ…っ!」

 

(バリッ!バリバリッ!)

 

その時、煙を纏った彼の体から突然、電気が発生した。

 

「な、なんじゃ!?ウォーズマンのやつ、肩から煙が噴き出したと思ったら」

「体中に電気を纏いだしたぞッ!!」

 

「ウォーズマン…」

 

リング下から彼を見つめるロビン。

師匠が見守っている(?)のが見えたのか。彼はロビンの方を向き、落ち着いた表情で彼に言葉を投げた。

 

「ロビン…すまないが、俺は…アンタらに…刃を向けさせ…てもらう」

「俺の…大切な、友人の…た…めに…!」

 

「……」

 

とぎれとぎれに宣言する彼の言葉に、ロビンは静かにうなずいた。

もう時間がないのだろう。どこか彼の言葉には弱々しい部分があった。

ロビンは震えていた。目の前で親友を守ろうとする弟子の姿を、彼は止められなかった。

彼の…ウォーズマンの覚悟を、不意にするわけにはいかなかったのだ。

 

(ヒュンッ!)

 

それを契機と見たのか、ウォーズマンは体を大きく飛躍させ、彼らの前から一瞬の間姿を消した。

そしてリングロープの上へと立ち、静かにたたずむ。

何か技を放つつもりである。

 

「見ろっ!」

 

次の瞬間、ウォーズマンの手から2つの爪が出てきた。

ベアクロー二刀流である。

 

「な、なんじゃ!?一体何を…」

 

「あの時、成功しなかった俺の必殺技!」

「今ここで、決めさせてもらうぜーッ!!」

 

(ゴゴゴゴ…)

 

彼が叫んだその瞬間、地面、もといリングが大きく揺れだした。

成功しなかった必殺技とは、もしかしたら“あの技”のことなのか。

 

―医務室-

 

「…うわっ!」

 

「な、なんだ!?地震かーっ!?」

 

突然の揺れに驚くテリーマンたち。

揺れの大きさはスタジアムの全体にまで及んでいた。

 

スタジアムが大きく揺れる中、ウォーズマンは雷と煙を体に纏いながら、先ほどまで開いていた口を閉じ、自分の心の中にある“覚悟”を感じ取っていた。

 

(…そうだ。これが正しい選択)

(アイツらを倒し、親友を守るための唯一の策)

 

覚悟が決まったのか、彼は顔を上げ、そっと親友の方を見た。

その表情、まるで今から突貫していくとは思えないほどに穏やかだった。

 

「…あばよ、ブロ」

「いままで、ありがとな」

 

その言葉を聞いた瞬間、ブロッケンマンの体に強烈な悪寒が走った。

彼は自分の体を犠牲に死ぬつもりなのである。

 

「!!」

「やめろウォーズマン!」

「死ぬんじゃねぇーっ!!」

 

しかし、親友の叫びも空しく、彼は勢いよく上昇していった。

ウォーズマンが放つ最大火力の必殺技が今、放たれる…!

 

(ビュンッ!!)

 

「100万…!いやっ!!」

「倍増だッ!!」

 

「200万パワー+200万パワーで、400万パワー」

 

(グウン!!)

 

「いつもの2倍のジャンプが加わって、400万×2で、800万パワー!!」

「そして…」

 

(ゴオッ!!)

(ギュルルルル…)

 

「いつもの10倍の回転を加えて…行くぞッ!!」

「8000万パワーだッ…!」

 

その時、強烈な回転と共にウォーズマンの体が光りだした。

まさに光の矢…電光石火の一矢である。

 

電光石火(ライトニングアロー)―――ッ!!!」

 

「やめろーっ!!!!」

 

けたたましい轟音と共に彼らの方へと向かっていく光の矢。

それを止めようと、親友は必死に叫んだ。

果たして、この結末はいったいどうなってしまうのだろうか?

 

                 ―続く―

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八話「残虐を上回りし友情」

最後の残虐第28話です。残虐超人と正義超人との熱戦が続く中、ついに残虐超人陣営のウォーズマンに機能のタイムリミットが訪れた。肩から煙が噴き出し、満身創痍のウォーズマン。しかし、彼は自身の体を顧みず、親友を守るために決死の突貫を試みる。果たして命がけの突貫劇の行く末は…?


スタジアム 場内

 

電光石火(ライトニングアロー)―っ!!!」

 

電気を纏いながら勢いよく回転するウォーズマンの体。

その光は正義超人の陣営の方へと次第に近づいていく。

 

「い…いかん!マッスルスパークの超人パワーを超えてきおった!!」

「は…早く逃げなければ…」

 

しかし、キン肉マンの言葉空しく、正義超人全員はいきなりの出来事に呆然としていた。

それは叫んでいたキン肉マンも例外ではなかった。叫びはしたものの、体が動かないのである。

そして…

 

(ドゴオオオオッ!!)

 

ついにウォーズマンの体が正義超人たちのいる方へと刺さっていった。

それと同時に轟音と白煙が巻き上がる。

 

煙が上がってしばらくたった頃だろうか。

舞い上がっていた煙は徐々に消えていき、視界が鮮明になっていく。

 

結論から言えばこうだ。

彼ら…もとい正義超人はやられてはいなかった。

なぜなら…

 

「…あれ?」

 

腕で口を覆いながらあたりを見渡すブロッケン。

次の瞬間、彼の目の前に人の影があった。

その時ブロッケンに見えた影、それは…

電気を纏ったウォーズマンを抱えているラーメンマンの姿だった。

 

「ラ…ラーメンマン!!」

 

「ぐっ…うっ…ううっ…!」

 

恐らくすんでのところで止めたのだろう。奇跡的に正義超人側への被害はなかった。

最悪の事態は何とか免れたのである。

 

(ボト…ボト…)

 

しかし、抑えたラーメンマンの方はそうはいかなかったようだ。

彼の体からは血が滝のように流れ出ていた。

 

「み…見事だウォーズマン…」

「お前の思い…しかと受け取ったぞッ!!」

 

「お、おい!ラーメンマン!いったい何を…」

 

傷だらけの体で次の行動に移ろうとするラーメンマン、それを無茶と見たのかブロッケンは彼を制止した。

しかし、彼は振り向かずに静かな面持ちで彼の質問に答える。

 

「…こいつはブロッケンマンのために決死の突貫をした」

「ならば…私たちもそれに答えなければ…ならない…だろう」

 

そういって抱えているウォーズマンの体を持ち上げるラーメンマン。

その際、彼の体からは大量の血が流れ出てきた。

閉じかけていた傷口が一斉に開いたのである。

 

(ブシャッ!!)

(ボドッ…ボドボドッ…!)

 

「ぐああ…っ!!」

 

「無茶だっ!!そんな体で技が出せるわけがないっ!!」

「今すぐウォーズマンを下ろすんだ!ラーメンマンッ!!」

 

「いや出せるっ!!出せるはずなんだッ!!」

「ウォーズマンもこの状態でやったのだっ!!ならば、私もやらねばなるまいっ!!」

「それが、あの男たちの友情に対する最高の礼儀なんだーっ!!」

 

キン肉マンの制止も聞かず、彼は傷だらけのまま勢いよく上昇した。

それと同時に彼の体から流れ出ている血が、一つの“道”を作り上げていた。

それはさながら、白いタイルに敷かれていく一つの赤いじゅうたんのようだった。

 

「行くぞウォーズマン!!これが…」

「これが“残虐を上回りし友情”だーっ!!!」

 

九龍城落地(ガウロンセンドロップ)ーッ!!」

 

(ズッドオオオオッ!!)

 

技の掛け声とともに再びリング内に大きな衝撃が走った。

衝撃と共にリングの中央には大きな亀裂が入り、技の威力の大きさを物語っていた。

当然ながら技を掛けられたウォーズマンはその場に倒れこみ、そのまま動かなくなてしまった。

 

「……」

 

しかし、次の瞬間ウォーズマンは静かに立ち上がった。

 

(ムクリ…)

 

「ゲェ…た、立ち上がった!?」

 

「ッ!?」

 

キン肉マンの言葉を受けて一斉にウォーズマンの方へと視界を向ける正義超人たち。

 

(ガガガ…ガ…)

(シューシュー…)

 

しかし、ウォーズマンは一向に攻勢に出る気配がない。

次の瞬間、雑音に交じって彼の声が聞こえてきた。

 

「ち…ち…くしょ…う」

「ど…うして…30分…しか…戦えね…え…んだ…よ」

「こ…れ…じゃ…しん…ゆうを…すく…えない…じゃ…な…い…か…」

 

「…ウォーズマン」

 

それは、自身の弱点が親友を守れなかったことに対する哀歌だった。

決死の突貫も通らず技は返され、おまけにとどめの一撃を食らってしまう始末…

恐らく、彼の心中は悲哀に満ちたものとなっているのだろう。

 

しかし、その悲哀も彼の言葉によって打ち消された。

 

「…しむな」

 

ラーメンマンは傷だらけの体を起こし、最後の叫びといわんばかりにスタジアム全体をつんざくような大声でこう言い放った。

 

「悲しむなっ!!お前はよく戦ったっ!!」

「お前は友情のために自分の命を賭したんだッ!!お前の雄姿を笑うやつはここにはいないッ!!」

「お前は立派な…“正義超人”なんだーーッ!!」

 

「……」

 

ウォーズマンは涙を流しながら叫ぶ彼の姿を一瞥するや否や、彼の目は輝きを失った。

頬に伝う熱い友情の涙を残し、彼の機能は静かに停止した。

 

「ウォーズマン…!」

 

人形のようにたたずむ彼の姿をリング近くで見ていたロビン。

しかし、彼は弟子の変わり果てた姿を見ることができないのか、下を向き、小刻みに震えながら握りこぶしを固めていた。

覚悟はしていたが、最悪の事態が起こってしまったことに対する自責の念が、彼の中で爆発した瞬間だった。

 

しかし、いつまでも時は(なかま)の離脱を悔やませてはくれなかった。

 

「ぐぅ…っ!」

 

ウォーズマンの技を受けた反動、そして自身の技の反動の両方が自分の体にかかってしまい、ラーメンマンはその場に倒れこんでしまった。

それに加えて、傷口からの大量出血…顔色もすっかり土気色になってしまっており、すぐにでも病院に連れていく必要があった。

 

「ラーメンマン、おいラーメンマン!しっかりしろっ!!」

 

「おいっ!いったいどうしたってんだ!!」

 

その時である。

彼らの後ろから聞き覚えのある声がした。

 

医務室で待機していたテリーマン達である。

彼らは突然の地響きに違和感を覚え、大急ぎでスタジアムへと向かっていたのである。

 

「テリー!ラ、ラーメンマンとウォーズマンが…!」

 

「…ガッデム!遅かったかッ!!」

 

今の状況に対し、テリーマンは壁を叩いて怒りをぶつけるという答えを出した。

悔しい。自身がこの場における状況を何一つ知らない。それが自分にとって悔しかったのだろう。

そんな怒りのぶつけ方だった。

 

「は、早くラーメンマンを医務室へッ!!」

 

しかし、2人がラーメンマンを運ぼうとするや否や、突然彼らの後ろから声が聞こえてきた。

 

「…テリー、キン肉マン」

「…ウォーズマンを、助けてくれないか」

 

ロビンは絞り出すような声で、彼らの方に向かって静かに言った。

その言葉を受けて、2人はその場に立ち尽くす。

 

「…ロビン」

 

「お願いだッ!!あいつも助けてやってくれッ!!」

「それが…それが今の私にできる唯一の罪滅ぼしなんだ!!」

 

そう叫んだ彼の頬には涙が流れていた。

彼が叫んだ意図、それは師匠としてなのか、一人の友人としてなのか…

少なくとも、彼の涙には先ほどまでの焦りの色はなかった。

 

その言葉を受けてキン肉マンは穏やかな表情で応える。

 

「…何を言っておる。ロビン」

「当然じゃないか…!あいつも私たちと同じ超人だ」

「敵も味方もない…助けない理由なんかどこにもないさ」

 

そう言うとすぐに、ラーメンマンとウォーズマンの2人は一緒に来ていたカナディアンマンとスペシャルマンに抱えられ、医務室の方へと消えていた。

恐らく、このまますぐにバッファローマンと共に超人病院へと運ばれていくのだろう。

彼らの安否を祈るばかりである。

 

さて、場面は変わり、リングの上。

静かにたたずむ息子と呆然と立ち尽くす父親。

ブロッケンマンの方はさっきまでの一連の流れに呆然としていた。

そんな彼を見かねたのか、息子が彼の肩を言葉で叩く。

 

「親父…」

 

「…親友がやられたんだぜ、涙くらい流してもいいんじゃねぇのか」

 

あきれた様子で話しかけるブロッケン。

しかし、彼は決してただ茫然としているわけではなかった。

ある一種の覚悟…次の瞬間、彼の目の色が大きく変わった。 

 

「……」

「…ちげぇな」

 

「…なに?」

 

「今の俺に必要なのは、親友を想う“涙”じゃねぇ」

「俺に…俺に必要なのは…!」

 

「親友のために戦って流す“汗”なんだーッ!!」

 

そういうとブロッケンマン、息子に向けて袈裟懸けの軌道で手刀を放った。

 

「ぐっ…!?」

 

大振りとはいえ、いきなりの攻撃に不意を打たれたブロッケン。

ギリギリのところで躱しはしたものの、浅いながら一太刀受けてしまった。

 

そんな息子の様子を一瞥すると、彼は正義超人たちに向かって低く、重い声でこう言い放った。

 

「来やがれ…正義超人ども!!」

「純粋な残虐超人が…今ここで相手をしてやる!!」

「ウォーズマンにもらったこの機会…俺は決して無駄にはしねぇ」

「俺は必ず…お前らを倒すッ!!」

 

彼がそう言い放った次の瞬間…

彼の体を紫色のなにかが包み込みはじめた。

 

「な…なんだあれはっ!?」

 

突然のことに驚くキン肉マンたち。

しかし、キン肉マンはあのオーラにどこか既視感があった。

それは自身が危機に瀕した時に発生する“あの現象”と似ていたからだった。

絶対的な力を持つ、あの力に…

 

「ま…まさかあれは」

「“火事場の…クソ力”…?」

 

                ―続く―

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九話「屍を超えたクソ力」

最後の残虐第30話です。そろそろ物語の方も終盤に差し掛かってきました。拙い文章ではありますが、どうか最後まで見ていってください。

あらすじ
 激闘の末、ついに残虐超人陣営の一人、ウォーズマンを下した正義超人たち。しかし、もう一人の刺客で彼の友人でもあるブロッケンマンが突如、紫色の光を纏いだすのだが、キン肉マンにはそのオーラに見覚えがあるようで…?果たしてブロッケンマンが纏いだしたオーラの正体とは?


スタジアム 場内

 

「俺は…負けねぇ」

「ウォーズマンが作ってくれた機会(チャンス)…絶対に逃すものかっ!!」

 

そう決意するとともに紫色のオーラに包まれるブロッケンマン。

その様子を正義超人たちは驚いた様子で見ていた。

 

「お、おい…ロビン」

「まさかあれって…」

 

「…まちがいない。“火事場のクソ力”だ」

「色こそ違うものの、キン肉マン。お前が前に王位争奪戦で発動した時と似ている」

 

「や…やっぱりそうなのか!?」

「じゃがどうしてアイツにあの力が…」

 

動揺するキン肉マンに答えるようにして、ロビンは今の状況を冷静に分析し始めた。

 

「火事場のクソ力というのは自分が危機に瀕した時、そして」

「誰かを想う気持ちが…友を想う気持ちが限界に達した時に起こるものだ」

 

「じ…じゃあブロッケンマンはウォーズマンを想う気持ちが強くなったから火事場のクソ力が発動したというのか!?」

 

「…というより、もともと築いていたお互いの信頼関係に加えてさらに自身が危機的な状況になったのが作用して発生したというのが正しい解釈だろう」

 

つまり、今のロビンの分析をまとめるとブロッケンマンはウォーズマンの戦線離脱、それに加えて自身の危機的状況という条件がうまく重なったことで友情パワーを源とした火事場のクソ力が発生したのだと考えられる。

自身の強大な力に加えてさらに大きな力を彼は獲得したのだ。

しかし、この中で最も友情を嫌っていた彼が、友情に自分の身を助けられるとは何とも皮肉な話である。

そのことに彼は、気づいているのだろうか。

 

「…だが、今回の場合は何かが違う」

 

ロビンは顎に手を当て、険しい表情をした。

 

「違う?いったい何が違うんじゃ?」

 

「力が発動している状態だ」

「本来ならあの力は目に見えない形で発動し、それが技となって見えてくるもののはずだ」

「まるでオーラのような形で表出することはない」

 

「…それだけ、アイツがウォーズマンを想う気持ちが強かったってことなのか?」

 

「…多分、そうだろうな」

「ウォーズマンも幸せ者だ。あれだけ自分のことを信じてくれる超人がいるんだ」

 

「ああ、俺たちの中でもあれだけ結束が固い奴はそうはいねぇ」

「うらやましい限りだぜ」

 

頷きながら口々に敵を称賛するロビンとテリー。

しかし、キン肉マンの方は動揺を隠せないようで、2人の間に割って入った。

 

「そんなことを言っておる場合ではないぞ!ブロッケンマンのやつ、火事場のクソ力が発動したんだ!」

「今までが今までだったし、一体どんな方法で向かってくるかわからんぞ!」

 

「…そうだな。いったいどうなるか」

 

そんな彼らの危惧をよそに、リングの上では異様な光景が広がっていた。

クソ力を身にまとい、強烈な威圧感を放っているブロッケンマンとそれを静かに見つめているブロッケン。

ブロッケンマンの方はどうやら、自分の置かれている状況に少しだけ酔いしれているようだった。

 

「うおおお…!なんだかわからねぇが、力がみなぎってくるぜ!!」

「まだ戦える!俺たちが生き残るために、まだ戦えるんだッ!!」

 

今の自身が置かれている状況を見てうれしい叫びをあげるブロッケンマン。

 

「…親父」

 

しかし、ある程度状況を確認するとすぐに息子の方へ向き直り、落ち着いた表情で

 

「…息子よ、どうやら俺はまだ、戦わなきゃいかんらしい」

「お前らを、倒すためにな…」

 

そういい放った。

それを受け、息子はあきれたような、まるでそのことがわかっていたかのような口ぶりで

 

「…そうかよ、そこまでして勝ちてぇかよ」

「実は俺も、そうなんだよな…!」

 

彼の方へと向かっていった。

 

(ガシィッ!!)

 

リング上で組み合う2人。その際に発生した熱気がリング全体を包み込む。

 

「俺だって勝ちてぇ。…アンタを超えるためにな!!」

 

「…フン」

 

「!!2人が組み合ったぞ!」

 

「なめた口をききやがるぜ。その減らず口、いったい誰に似やがった?」

 

「……」

 

そういうとブロッケンマンはわざと力を抜き、ブロッケンを前に押し出させた。

 

「!!」

 

突然のことに不意を打たれるブロッケン。しかし、気づいたころにはもうブロッケンマンは次の行動に出ていた。

彼は息子の胴体をつかみ、ジャーマンスープレックスを放っていたのである。

勢いよく地面にたたきつけられる彼の上半身。ブロッケンは一瞬だけ目の前が真っ暗になった。

 

「ああっ!ブロッケン!!」

 

叩きつけられた衝撃でまごつくブロッケン。

そして、その隙をつき、彼から少し離れたところでブロッケンマンは臨戦態勢を取った。

 

(…ウォーズマン、俺に力を貸してくれッ!!)

 

「うおおおおーっ!!!」

 

そう決意し、ブロッケンの方へと向かっていくブロッケンマン。

 

(ドドドドッ!!)

(ギュルルルルーッ!!)

 

その時、正義超人に衝撃が走った。

 

「あれは…!ウォーズマンの“スクリュードライバー”!?」

 

彼はなぜかウォーズマンの必殺技である「スクリュードライバー」を放っていた。

突然のことに訳が分からなくなる正義超人たち。キン肉マンがロビンたちに動揺しながら疑問をぶつける。

 

「ちょっと待て!なんでウォーズマンの技をブロッケンマンが使えるんじゃ!?」

 

「…わからない。いったいなぜ」

 

テリー達も今の状況が理解できず、動揺しているところにキン肉マンがブロッケンマンの背中を見て驚きの声を上げた。

 

「ああっ!」

「見ろっ、ブロッケンマンの背中!!」

 

(ブウン…)

 

「ウォーズマンだ…!ブロッケンマンの背中にウォーズマンが…!」

 

「…ブロッケンマンの背中に、ウォーズマンの顔が…浮かび上がった」

「…まさか」

「ブロッケンマンの体にウォーズマンの魂が乗り移ったとでも言うのか…?」

 

今の状況を驚きながらもロビンは冷静に分析しようとしていた。

しかし、それを覆すように息子の方も驚くべき行動を取った。

 

「…へっ、おもしれぇ」

「ウォーズマンの真似事か?なら俺も…!」

 

(ブウン…)

 

「!!ブロッケンも何かを纏いだしたぞっ!?」

 

「行くぜ親父ッ!!」

 

「レッグラリア―トーっ!!」

 

(ギィンッ!!)

 

「ブ…ブロッケンもじゃと!?」

 

技の発動と共に勢いよくぶつかる両者の技。

吹き出た火花が威力の大きさを物語っている。

 

「うわ…」

 

「うお…」

 

両者、お互いの攻撃に耐え切れなかったのか2人同時に倒れた。

 

「も、ものすごい攻防…!さっきまでの拮抗した状況が嘘みたいだ!!」

 

「じ、じゃが一体何が起こっておるんじゃ!?2人がいきなり相棒の技を使うなんて…」

 

「わからない…」

「だが、もしかしたらあの2人の火事場のクソ力はお前のと少し勝手が違うのかもしれん」

 

「えっ…?」

 

「種類が違うということだぜ、キン肉マン。お前の場合は追い込まれた際に超人パワーを急激に高め、押し切る形での発動だが」

「ブロッケン達の場合は味方の技をコピーすることで相手に攻撃を仕掛けるもの、ということだ」

「どういった経緯でそうなるのかは…わからんがな」

 

「なんじゃと…!それじゃあの2人は」

「思い浮かべた友人の技をコピーすることができるということなのか!?」

「じゃとしたら…ちょっとうらやましいのう」

 

そういって彼らをうらやましそうに眺めるキン肉マン。

彼らの火事場のクソ力…それはどうやらキン肉マンがいつも使っているものではなかったようである。

彼らの場合は強大な力による技の押し返しという形ではなく、仲間の技をコピーすることで強大な敵に立ち向かうといった、今までとは全く違うタイプのものらしい。

その力をブロッケン一族が有していたのである。

 

そんな彼をよそに、ブロッケン親子は熾烈な戦いを行っていた。

お互いに友人の能力を得た2人はその力を余すところなく発揮し、それを自身の技と絡め合わせ、相手に仕掛ける。

友の魂を背負い戦うその姿、まさに今の2人は屍を超えた鬼神そのものであった。

しかし、やはり2人の力が拮抗しているのか、なかなか勝負がつかない。

 

「くそ…!」

 

なかなかつかない勝負に息を切らす2人。

しびれを切らしたのかブロッケンの方が先に彼の方へ向かっていった。

 

「やっぱ…」

「これしかねえかっ!!」

 

「あっ!今度は2人の背中にハーケンクロイツの紋章が!!」

 

驚くテリーを尻目に、2人はお互いの得意技を相手に放つ。

息子は両腕を重ねて威力を倍加させた手刀を袈裟懸けの形で父親に、父親は振り下ろす際の遠心力を利用したクロスの手刀を息子に放った。

 

(ギィィィィ!!!)

 

「うわーっ!!ものすごい音じゃ!!」

 

2人の刃が交わったその瞬間、スタジアム内ではまるで2台のチェンソーが交わったかのような金属音とその際に発生した熱からか白煙が発生していた。

 

(ギィン!!)

 

しかし、大きな衝撃とは裏腹に勝負はあっさりと付いた。

ブロッケンマンの放った手刀が息子の手刀を押しつぶし、威力を殺したのである。

その際、ブロッケンの両の手刀は地面にめり込み、リング上に大きなひび割れを作っていた。

 

(ドゴオッ!!)

 

「うがあっ…!」

 

重い衝撃と同時に発生した鋭い痛みで悶絶するブロッケンジュニア。

しかし、一瞬でも隙を見せてはならないと急いで腕を引き上げたが…時すでに遅し。

 

(ボド…ボド…)

 

彼の両腕からは大量の血が流れ出ていた。

出血の仕方から察するに、恐らく骨が砕けているのだろう。…ブロッケンは苦悶の表情を浮かべていた。

 

(ニヤリ…)

 

それとは対称的にニヤついた表情を浮かべるブロッケンマン。

 

「へへ…刃は、死んだな」

「これで…終わりだ!!」

 

そう言って彼の背中に手刀を浴びせようとした。

その時…

 

(キィンッ!!)

 

父の手刀を何かが防いだ。

 

「な、なんだと…?」

 

突然のことに戸惑うブロッケンマン。彼が戸惑うのも無理はなかった。

なぜなら。

 

「…ああっ!!」

「ブロッケンのやつ、折れた腕で手刀を防ぎやがったーっ!!」

 

自身の折れた両腕で手刀を防ぐブロッケン。おそらく痛みもあるのか苦悶の表情を浮かべていた。

 

「うおおお…!」

 

そしてそのまま彼は起き上がり、間髪入れずに手刀を放つ。

 

「ッ!?」

 

不意を打たれ、思わずブロッケンマンは後ろにのけぞってしまった。

それを契機と見たのかブロッケン、光の速さで父の方へと向かっていく。

 

「まだだ…!」

 

「俺の…」

「俺の刃は…まだ死んじゃいねぇーっ!!」

 

そう言って勢いよく父親の懐へと飛び込んだブロッケン。

そして両足を彼の脇腹へひっかけ、両の腕を大きく振りかぶった。

その姿…くしくも父親が放った“あの技”と似ていた。

 

「これで…終わりだーっ!!!」

 

「ベルリンの…赤い雨―ッ!!!」

 

                ―続く―

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十話「鬼の目にも涙」

最後の残虐第30話です。長い激闘の最中、親友を想う気持ちが爆発したブロッケンマンは屍を超えた火事場のクソ力を発動させた。それに続いて息子の方も火事場のクソ力を発動し親父に立ち向かうが手刀の競り合いに負けてしまい、両腕を負傷してしまう。追い込まれたブロッケンだったが彼は最後の力を振り絞り、父親の手刀へと立ち向かっていくが…?

 


スタジアム 場内

 

「ベルリンの…赤い雨―っ!!」

 

(ズッバアアアッ!!)

 

刃物が肉を切り裂く音が、スタジアムに響いた。

そして…

 

(ドサッ!!)

 

胸に巨大な「×(ペケ)」の形をこしらえた鬼は、ゆっくりと後ろに倒れた。

 

「決まった…」

 

「…終わったな」

 

正義超人側の勝利を確信し、口々につぶやくロビンとテリー。

彼らはリングの外でその様子を見守っていた。

 

「親父…親父―っ!!」

 

倒れたと同時に父親の元へと駆け寄り、倒れた体を起こすブロッケン。

その目にはもう先ほどまでの敵意はなかった。

 

「…へへ、やられちまったか」

「見事だったぜ。俊敏で隙のない、完璧な手刀だった…」

 

口元から一筋の血を流しながらつぶやいたブロッケンマン。

もう戦う意思がないのか、死期が近いのか、その声は力ないものになっていた。

 

「もう、悔いはねぇ。安心してあの世へ行けるぜ…」

 

ニヤリと笑いながら静かに言ったブロッケンマン。

しかし、それとは対称的に息子の方は目に涙を溜めていた。

 

「なに言ってんだよ…親父、アンタ親友がいるじゃねぇか」

「親友を置いて逝こうなんて、ウォーズマンが聞いたら怒るぜ」

 

かすれた声を出しながら父親を慰撫するブロッケン。

それを受けて父親も穏やかな様子で返す。

 

「…まあ、な。それもそうか」

「それじゃあ…親友(ダチ)を置いてっちゃいけねぇなあ…」

 

「そうだよ親父、だから…」

「だから一緒に…」

 

「…だが、もう無理だ」

 

「…えっ?」

 

ブロッケンマンがそう言うや否や、彼の体がほんのりと光り始めた。

それと同時に白い煙が彼を包み込んでいく。

 

(シュウウウ…)

 

「…ああっ!ブロッケンマンの体が!!」

「元の姿に…戻っていく」

 

体に白煙を纏いながら徐々に元の姿に戻っていくブロッケンマン。

隆々とした筋肉は衰え、超人墓場にいたころの姿に変わっていく。

 

「もう、約束しちまったんだ。負けたら墓場行き…ってな」

「あの力にゃ、逆らうことができねえ…残念だが、もう無理なんだ…」

 

上を向き、まっすぐ天井を見つめながら静かに言うブロッケンマン。

それを見たブロッケンは溜めていた涙を一つ、落とした。

彼の腕は震えていた。腕の痛みも忘れ、力強く父親の体を握る息子の顔には、あふれんばかりの涙が流れていた。

 

「…んでだよ」

「…なんでだよ!なんでそんなこと言うんだよ…!」

「親父が超人墓場に戻りゃあ良かったなんて言ったこと、謝るからさ!!だから…だからそんなこと言うんじゃねぇ!!」

「一緒に…超人閻魔に立ち向かおうって、言ってくれよ…!」

 

もう我慢ならなかった。ブロッケンは胸の内に留めておいたことを一気に吐き出し、父親に向けて言い放った。

それと同時に滝のように流れる涙…今の彼は再会した父親を失いたくない一心で叫んでいた。

 

「ブロッケン…」

 

涙を流す彼を遠くから見つめるキン肉マンたち。

 

するとブロッケンマンは震える彼を慰めるかのように、やせ細った腕を伸ばし、彼の頬に触れ、彼の涙をそっと拭った。

その時の彼の姿はドイツの鬼ではなく、一人の父としての眼差しだった。

 

「…息子よ、よく聞け」

「俺が…俺たちがここへ来た理由はもう一つ、あった…」

 

「お前の…超人界で頭角を現した息子の成長を…この目でしかと見たかったんだ」

 

「…えっ?」

 

父親の言葉に意表を突かれるブロッケン。しかし、それも構わず父親は言葉を続ける。

 

「俺はな…お前の活躍は超人墓場でよく聞いていたんだ」

「一介の若者が、悪のはびこる超人界で手刀を武器に戦っている…とな」

 

「…ッ!!」

 

父の言葉を受けて、彼は今までのことを思い出していた。

 

「敵に許しを請うくらいなら、右肩をくれてやれってな!!」

 

「あーっと!ブロッケンジュニア、ミイラにされずに生きていたーっ!!」

「アイドル超人、初の白星です!!」

 

 

「…なぁロビン、俺も…一人前の正義超人になれたかな…」

 

「ああ…!お前は立派な、正義超人さ…!」

 

 

「さらば!!超人ボディーよ!!」

 

「己の使命…己の使命…」

「己の使命…!!」

 

「ブロッケーンッ!!」

 

「責任を果たさせてくれーっ!!」

「フランケンシュタイナーッ!!」

 

(ズッドォォォンッ!!)

 

「……」

 

沈黙しているブロッケンをよそに、ブロッケンマンは言葉を続ける。

 

「よくわかんねえけど“超人血盟軍”ってのにもなってたんだってな。…ブロッケン一族として誇らしいぜ」

「少なくとも超人界で名の知れた超人になった…俺は、その力が見たかったんだ」

「超人界で頭角を現してきた、お前の実力をな…」

 

「親父…」

 

父親の顔をまっすぐ見つめるブロッケン。

ブロッケンがここに来た本当の目的は、成長した実力をこの目で見たかった。プロレスラーとして、そして父親(ししょう)として有名になった息子と戦ってみたかった。…ということらしい。

ウォーズマンが先ほどまで言っていなかったところを見ると、恐らくブロッケンマンは彼にこの話をしていないのだろう。

父親が死に際に打ち明けた心の内は息子の涙を止め、眼差しを真剣なものにした。

父の言葉が息子を“一人前”にしたのである。

 

「そして、その悲願は達成された。紆余曲折あったが、お前は全盛期の私を見事倒し、俺はお前の腕の中…」

「これほどまでに幸せなこと…は…ない」

 

そういって薄く笑うブロッケンマン。

それを受けて息子は少し笑いながら言葉を返す。

 

「へへ…なんだよ。親父らしくねぇ」

「照れ…くせえじゃねえか」

 

「へへ…へ…へ」

 

「ゴボっ…!!」

 

しかし、時の流れというのは残酷だった。

戦いの傷が今になって出てきたのか、ブロッケンマンは突然吐血した。

額が真っ青になっているところを見ると、かなり危険な状態だ。

 

(ボタ…ボタ…)

 

「お…親父ッ!!」

 

「いかんっ!!大量出血だッ!!」

 

「元の姿に戻ったから傷の負担が大きくなっておるんじゃ!早く病院に行かないと…!」

 

吐血したのを見るや否や急いで処置をするロビン。

焦るキン肉マンを尻目に、ブロッケンも父の口から出た血を袖で拭ってやりながら涙ながらに叫ぶ。

 

「親父、もういい!!しゃべるんじゃねえ!!」

「話の続きは病院で聞く!!だから…だから今は…!!」

 

「へへ…そろそろ、お迎えが来たらしい」

「…すまねぇな、お前の活躍…この目で見れな…くてよ」

「あと…は…墓場で…見てて…や…るから…さ」

 

震えながら息子を激励するブロッケンマン。

自分の身がもう持たないとわかっているのか、彼の目にも涙が見え始めた。

 

「何言ってんだ!!最後まであきらめるんじゃねぇよ!!」

「病院でウォーズマンも待ってる!!だから、死ぬんじゃねぇ!!」

 

しかし、父親を何とか死にはさせまいと彼を鼓舞するブロッケン。

彼に加わり、正義超人たちも次々と彼を励ます言葉を贈る。

 

「そうだ、あきらめるな!!病院でウォーズマンが待っているぞ!!」

 

「そうだぜ!超人閻魔だってミーたちが何とかする!だから死ぬんじゃないっ!!」

 

「ブロッケンマン!お前は親友と墓場から脱出するためにこの世界へ来たんだろう!!」

「なにも悲願が達成されたからって死ぬことはない!超人閻魔じゃって…」

 

そう言った彼らの目にも涙が溜まっていた。

初めてできた親友と脱出するために戦い、生涯を通じて孤独に戦い抜いた彼を見て思うところがあるのだろう。…彼らの目は力強かった。

 

「…親友(ウォーズマン)、か」

 

キン肉マンたちの言葉を受けて再び天井を見るブロッケンマン。

親友の名前を聞いた瞬間、彼は先ほどまでのほどけた表情を変え、真剣なものとなった。

 

「…どうしたんだ?親父」

 

不思議そうに彼を見つめるブロッケン。

次の瞬間、正義超人たちに妙な悪寒が走った。

 

「うっ…!?」

 

(グロロロ…)

(私を倒すとは、いい度胸だな)

(だがそれはあまりに無策、無謀…)

(愚かしい考えだ)

 

「ん?」

 

「な、なんじゃ…この声は」

 

突如暗闇の中から聞こえてくる声。

その声は低く、重みがあった。

 

(ゴゴゴゴ…)

 

「うわっ…地響きじゃ!!」

 

「な、なんだーっ!?」

 

混乱の最中、再び起こる地響き。

しかし、今度はスタジアムの中で引き起こされたものではないようだ。

 

「グロロ…どうやら、勝負あったようだな」

 

暗闇の中、突如現れた影。

巨体の多い超人たちをはるかに上回るほどの巨体、そして同類とは思えないほどの荘厳な見た目…

影の正体は、あの男だった。

 

「ち…超人閻魔!?」

 

                    続く

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一話「あばよ、親父(ファーター)

最期の残虐第31話です。戦いが終わり、傷だらけの父親の元へと駆け寄るブロッケン。しかし、ブロッケンマンはすでに虫の息であり、自身の最期を悟っていた。何とか生きてもらおうと必死で説得する正義超人達だったが、突然轟音と共に超人閻魔が現れて…?



ステージ 場内

 

「ち…超人閻魔!?」

 

「あ、あれが…!」

 

「なんという威圧感だ…他の超人とは格が違うぞ」

 

全員があっけにとられながらも口々に印象を述べる正義超人たち。

そんな姿もお構いなしに、超人閻魔は言葉をつづける。

 

「グロロ…お前たちの勝負、どうやら正義超人側の勝ちのようだな」

「超人界の神々もさぞかし満足なされたことだろう…正義と残虐、どちらがより優秀なのかということがはっきりしたからな」

「では…」

 

彼が話を進めようとした次の瞬間…

 

「ち…ちょっと待てっ!!」

 

「ん?」

 

ブロッケンジュニアが彼の言動に割って入った。

 

「ブロッケン…」

 

言葉と共に超人閻魔の元へと詰め寄るブロッケン。

しかし、彼の進行を妨げるようにどこからともなく超人ハンターが現れ、彼の前に銃を突き立てる。

 

(カチャッ!!)

 

「うっ!?」

 

「待て…銃を収めよ」

 

しかし、ブロッケンの様子を鑑みたのか、超人閻魔は超人ハンターたちに銃を収めるよう命令した。

 

(スッ…)

 

それと同時に彼らも銃を収め、何とか事態は事なきを得た。

 

「ブロッケンジュニア…お前はこやつの息子であったな」

「いいだろう。言葉を許そう」

 

そう言って無表情のまま彼に進言することを許可した超人閻魔。

 

「頼みが…あるんだ」

「父を…親父をどうか、見逃してはくれないだろうか…」

 

言葉が途切れ途切れになりながらも、彼の発する威圧感に耐えながら懇願するブロッケン。

 

「…ほう」

 

「図々しいことは承知の上だッ…!でも親父を…どうか親父たちをこの世界にとどまらせてはくれねぇか!!」

「親父たちは全力で戦ったんだッ!純粋な残虐超人として、俺たち正義超人に立ち向かってきたんだッ!!」

「親父だって…!」

 

しかし、ブロッケンの必死の懇願は彼のあざ笑いによって一蹴されてしまう。

 

「ふふ…なかなかに面白いことを言う」

「お前の父親を生かすため、この閻魔に約束を破れと…そういいたいのだな」

「泣かせる話ではないか。実に模範的な親子愛だ」

 

しかし、そう言った彼の表情は無に等しかった。まるで、その類の懇願は聞き飽きたとでも言いたげなように。

 

「しかし、だ」

「すまぬが今回に関して、私はこの一件を譲ることはできぬ」

 

超人閻魔は表情を崩さぬまま言葉を続ける。

 

「確かに、いま私がこやつらと交わした約束を破棄し、この場から立ち去ることは容易い」

「だが、この戦いはあくまで正義超人と残虐超人のどちらが強者か、正義超人が王位を継ぐに相応しいかを決めるための戦いであったのだ。…けっきょく勝者も敗者も何の影響も受けなかったというのは」

「そうは問屋が卸さぬというもの…今までやってきたこの勝負に、一体何の意味があったのかということになる」

「裁判を執り行うにおいて最も重要なのは平等…機会を等しく与え、結果次第でそれ相応の報償や罰を与える」

「こと今回に限っても、それは例外ではない。お前に父親を思う心があろうとなかろうと、私はこの男を超人墓場へと連れていく」

「それだけは、どうしても外すことができぬのだ。…それが決まりであるが故にな」

 

そう言って全く譲る気配のない超人閻魔。

裁判を行い、白黒はっきりつけ、それを結果として受け止めなければならないというのは何とも閻魔らしいと言えばらしい考え方だといえる。

彼も彼なりに自身の仕事を全うしようとしているのだ。互いに意見がぶつかってしまうことも十分にあり得ることだった。

 

「ぐっ…」

 

彼の言動に表情をゆがめるブロッケン。

重々しい見た目も相まって、彼の言葉一つ一つに重みがあった。

こんな感じで交渉がやや停滞し、話し合いには時間がかかるかと思われた、次の瞬間。

議論は突如、終わりを迎える。

 

「へへへ…」

 

何があったか突然笑いだすブロッケンマン。いったい何があったのか?

 

「超人閻魔…来やがったな」

 

どうやら彼は朦朧とする意識の中、いま超人閻魔の存在に気づいたのである。

閻魔の姿を見るや否や、彼は突然表情を穏やかにし、しばらく口を閉ざした。

 

「……」

「…息子よ」

 

「えっ…」

 

「じゃ…あ…な」

 

そう言うと彼は、自分の手刀を首筋に向け…

 

(ズバッ!!!)

 

(ブシィッ!!)

 

「……」

 

「…えっ?」

 

斬った。自分の体を、自分の手刀で。

首筋から勢いよくあふれ出た血液。それと同時に彼の中にある意識がとぎれ、体が動かなくなってしまった。

ブロッケンマンは…死んでしまったのだ。

 

突然のことで呆気にとられる正義超人たち。しかしその瞬間(とき)も、すぐに解かれた。

 

「親父!親父――ッ!!!」

 

我に返った息子は開口一番、父親に向けて張り詰めたような大声で叫んだ。

 

「ッ!!」

 

ブロッケンの声と同時に素早くブロッケンマンの元へと走り出したロビン。

それからすぐに彼の体を抱き上げると脈を確認したが…

 

「……」

 

下を向き、静かに首を振った。

 

「…だめだ。もう…死んでいる」

 

「そ…そんな…!」

 

(バッ!!)

 

抱きかかえた体をロビンから奪うように父親を抱きかかえたブロッケン。

それからすぐに彼は耳を心臓の位置に押し当て、心臓が動いているかどうかを確認する。

 

「……」

「…!!」

 

しかし、彼の心臓はもう動いていなかった。ブロッケンのつけた傷と、それに加えて彼が首筋に付けた傷が致命傷となり、出血多量となってしまったのだ。

 

「くっ…!ううっ…うっ…」

 

彼は父の胸に顔を押し当てたまま泣いた。それが、自分の父が死んだことを自身が確信した証拠だった。

 

「……」

 

「ブロッケンマン!!お前…なんてことを…!!」

 

「……」

 

下を向いて沈黙する者、自殺した理由がわからず感情的な言葉をぶつける者…

様々な形で正義超人は彼の死を悲しんだ。

 

「……」

 

その姿を見つめる超人閻魔。

すると彼は静かに歩きだしブロッケンのそばに立つと、ブロッケンマンの死体に触れようとした。

 

「ッ!!」

 

触ろうとした彼の手を見るや否や、ブロッケンは勢いよく彼の腕をはじき返した。

 

「触るんじゃねぇ!!」

 

(バシィッ!!)

 

「……」

 

はじき返されたことに無表情の超人閻魔。まるでそれが来ることをあらかじめ予想していたような表情だった。

 

「てめぇ…一体何のつもりだ!アンタがこの戦いをけしかけておいて、いまさら弔おうだなんて虫が良すぎるぜ!!」

「親父は俺たちで弔う!アンタになんて絶対に渡すもんか!!」

 

「……」

 

彼が発した怒りの言葉に、無表情という名の返答を返す超人閻魔。

それからすぐ、彼は軽いため息をつくと、静かな口調で正義超人たちに言い放った。

 

「いや、私にはその亡骸を回収する義務がある。…ブロッケンマンに頼まれているからな」

 

「えっ…?」

 

超人閻魔の言葉を聞き、呆然とする正義超人たち。

無理もない。いきなりブロッケンマンの亡骸を敵であるはずの超人閻魔に回収させるということを聞けば、誰だって耳を疑う。

しかし、言葉を聞いてすぐに思い直るブロッケン。怒りに任せ、感情的な言葉を言い放つ。

 

「で…デタラメを言うんじゃねぇ!!いったいなんだって親父がお前に死体を回収させようってんだ!!」

 

「デタラメではない。私は確かに頼まれたのだ」

「かつてこの男が戦った、この場所でな」

 

「えっ…?」

 

超人閻魔は約一週間前、ウォーズマンとブロッケンマンが再開してからすぐのことを思い出していた。

彼の脳内にその時の情景が思い出される…

 

―スタジアム 場内―

 

スタジアムの中は相変わらず閑散としていた。誰一人客が来ないのだから至極当然のことではあるのだが。

そのスタジアムの中に3人。一人は寝ており、あと2人はスタジアムの真ん中で対面になって腕を組み、胡坐をかいて座っていた。

超人閻魔とブロッケンマンである。

どうやら彼は超人ハンターを利用し、閻魔をここに呼び寄せたらしい。

一体どうやって呼び出したのだろうか。

 

「……」

 

「…へへ、悪りぃな。わざわざ呼び出しちまって」

 

「……」

 

ブロッケンマンの言葉を受け沈黙という返答をする超人閻魔。

表情から察するにけっこう不機嫌な様子である。

夜ということもあってか、いきなり呼び出されたことに少しばかり怒っているのだろう。

そんな彼を尻目に、彼は言葉を続ける。

 

「なんてことはねぇよ。10分くらいで済む」

「俺だって長話はごめんだからな。早くしねぇとアイツが起きちまう」

 

「…なんだ、話とは」

 

「…折り入って頼みがある」

 

超人閻魔がそう言うと、ブロッケンマンは表情を変え、彼の方へ視線をまっすぐに向けた。

 

「俺が、ウォーズマンの罪を被る…」

「それでウォーズマンの刑期、チャラにはならねぇだろうか」

 

「ふむ…?」

 

彼がウォーズマンの刑期を引き受けるという頼みを受けて、顎に手を当てて聞く超人閻魔。

片眉を上げたところを見ると、彼のこの頼みは閻魔にとってかなり意外だったようだ。

ブロッケンマンは言葉を続ける。

 

「無理は承知だ。…だが、俺はどうしてもこの目的を果たさなくちゃならねぇ」

「なにか、超人墓場のルールの中にそういった類のものがありはしねぇだろうか」

 

「……」

 

彼の言葉を受け、下を向いて考え込む超人閻魔。

それからしばらくすると、何かを思いついたのか視線をブロッケンマンの方へ戻し、説明を始めた。

 

「…ああ、確かに超人墓場の規則で、亡者の罪を肩代わりすることもできなくはない」

「だが、仮に刑期を分けあったとしても私たちや受刑者自身に何の利益もない。名ばかりのルールだったから、ここ数百年間ただの一度も適用したことなどなかったが…」

 

そう言うと彼は何かに気づいたのか、顎をさすりながら訝し気な表情で彼に疑問をぶつける。

 

「なんだ、ブロッケンマン…いやに言動に違和感があるな」

「まさか、正義超人との戦いを前に怖気づいたのではあるまいな?」

 

しかし、彼は閻魔の是非に対し、首を振って否定した。

 

「違う。俺は別に怖気づいたわけじゃねぇ」

「ただ…」

 

何かを言いかけて下を向いてしまったブロッケンマン。

しびれを切らしたのか超人閻魔が身を乗り出して早く答えるよう急かした。

 

「ただ…なんだ?」

 

「あの男を、ウォーズマンを生かしてぇだけだ」

 

「…なぜだ?」

 

超人閻魔の疑問に彼は表情を変えず、上を向いた。

 

「…俺はもう、この世界に未練はねぇ」

 

「…なんだと?」

 

彼の意外な一言に訝し気な表情をする超人閻魔。

その表情を保ったまま言葉を続ける。

 

「おかしいではないか。確かお前はラーメンマンへの復讐のためにこの世界へと来たのではなかったのか」

 

「ああ。確かに超人墓場から現世へ戻れるということを聞いた時にはそう思った」

「けど、しばらくしてから俺は考えた。本当は別に復讐したいなんて思ってねぇんじゃねぇのかって」

 

「……」

 

超人閻魔は黙って聞いていた。

彼が何を言いたいのかということを理解したい…そんな様子だった。

 

「俺はもう、現世に帰って息子の成長が見られればそれでいいんじゃねぇのか…ってな」

「復讐なんざ一介の理由(たてまえ)にすぎねぇ。ほんとうはただ、息子の成長を見たかっただけだったんじゃねえか…って、考え始めたんだ」

「けど、言っちまった以上引っ込めることはできねぇ。…俺はどうしたらいいのかわからなかった」

「一体どうやって、このことを誰かに伝えりゃいいのか…ってな」

 

「そうか…」

 

一息ついて、ブロッケンマンはさらに説明を続ける。

 

「そんな時だった…俺がアイツの刑期を被ろうと思ったのは」

「思えば、俺は元々息子に会うことすら許されず、アイツに脱走ということを提案されるまではまるでそのことを考えるまでには至らなかった」

「けど、アイツはその活路を見出してくれた。…できれば何か、その恩に報いたい」

「そん時に、俺は超人墓場の刑期について考え始めてな。もしかしたら、超人墓場に刑期譲渡のルールがあるかもしれねぇと思い至った」

「だからアンタに、そういった類のルールがあるのかどうかってのを聞こうと思って、ここに来てもらったってわけだ」

 

「…なるほど、“親友”のために自分は罪をかぶりたい…」

「だから、あやつの刑期をブロッケンマン、お前が引き受けると…そう言いたいのだな?」

 

「ああ、そういうことだぜ」

 

「……」

 

超人閻魔はしばらく考えていた。

この男の決断を自分はどう受け止めるべきか?そもそも、このルールを適用すべきなのか?様々な疑問と腑に落ちない部分を頭の中で整理していた。

何分か経った頃だろうか。超人閻魔は閉じていた口を開き、彼に向けて自分が考えていることを口に出した。

 

「よかろう。ルールの適用を認める」

「この戦いが終わればお前の魂はこの世から消え、ウォーズマンの刑期を背負った状態で超人墓場へ送還しよう」

 

「…ああ、頼むぜ」

 

そう言ったブロッケンマンの表情は険しさの中にも、どこか安心したような様子だった。

しかし、超人閻魔の方は少し腑に落ちない部分があったようで、彼はブロッケンマンに対し訝し気な表情で話し始めた。

 

「だがブロッケンマンよ…一つ聞かせてはくれぬか」

 

「なんだ?」

 

「友人のために刑期を自分が引き受ける、ということはわかった」

「だが…親友のためにわざわざ刑期を背負うというのは訳が分からない」

「なぜそこまでしてあの男を庇う?その“親友”とやらはそこまで大事なものなのか?」

 

超人閻魔はまっすぐな目で彼に疑問をぶつけた。

これは彼が完璧超人であるが故の、友情に対する疑問ということなのか。

彼の質問を受けて、ブロッケンマンは表情を変えず、一瞬の間沈黙した。

そしてまっすぐ視線を超人閻魔の方を向けると、静かに語りだした。

 

「…アイツは、狂人と言われたこの俺を躊躇なく “親友”と言ってくれた」

「今までのやつは俺の姿を見るなり逃げたり後ろから石を投げつけて来たりしてたんだ。…けど、アイツは俺の正体を知ってもなお友達でいようとした」

「だから単純に、嬉しかったのさ。俺みてぇな超人でも、親しくしてくれる超人がいたってのがな」

「親友が大事なのかどうかは、正直俺にもわからねぇ。けど…」

「アイツは間違いなく俺の親友だ。俺の苦しみを理解し、分かち合おうとしてくれた仲間だ」

「だから、アイツの苦しみも…俺が背負う」

 

「……」

 

ブロッケンマンは一息つくと超人閻魔に視点を戻し、さらに説明を続ける。

 

「アイツはまだ若い。きっと、現世に置いてきた仲間たちがいるだろう」

「だからアイツには、俺よりもそいつらのために生きていてほしい」

「これが、俺にできる最初で最後の恩返しだぜ…」

 

「……」

 

彼の言葉を受けてしばらく黙っている超人閻魔。

一体何を考えているのだろう。しばらく顎に手を置き、険しい表情を崩すことなく考え込んでいた。

それからしばらく経ち、彼は顎から手を離すと、無表情のまま彼に向けて落ち着いた言動で語りかけた。

 

「…そうか。相分かった」

「お前の言葉、しかと心に刻ませてもらおう」

 

今までに彼が言ったことをまとめると、ブロッケンマンは超人閻魔に戦いを強いられる前から、彼は死ぬことを決めていたようだ。それと同時に、自分は親友であるウォーズマンの刑期を背負い、超人墓場へ行くこととしていた。

そう考えた理由として、自分がウォーズマンを想ってのことであるということと、現在も生きているであろうウォーズマンの仲間たちのためにも自分が罪を被ろうとしたからということである。

 一見するとこの行動はブロッケンマンが年配であるが故の行動にも見えなくもないが、彼は決してそんな理由でウォーズマンの刑期を背負おうとしたのではなく、彼自身がウォーズマンに対し、純粋に生き延びてほしい。そしてその命を、自分のためではなく生きている他の仲間たちのために使ってほしい。というブロッケンマンの意図があったのだ。

それが、不器用な彼なりにできる最初で最後の恩返しなのだということと信じて…

 

「…と、いうわけだ」

 

ひとしきり回想の説明を終え、一息つく超人閻魔。

しかし、すぐに彼はまた説明をし始めた。

 

「そう、伝えられていたのだ。だから私はここに来た」

「この男の最期と、心構えが如何ほどのものかを見届けにな」

 

「…親父」

 

「これで、信じてくれるか?私はこやつに言われ、死体を回収に来た」

「自分の最期と同時に、このスタジアムへと来てくれ…とな」

 

「………」

 

じっと父の死体を眺めるブロッケン。

父の体はまだ死んで間もないからなのか、まだ少しばかり体のぬくもりが残っていた。

 

(…親父は、ウォーズマンを自分の命に代えてでも守ろうとした)

(もしかしたら、親父にも正義超人としての思いが芽生え始めていたってことなのか?)

 

(……)

(…そうか)

(わかったよ、親父)

 

「…わかったよ。アンタに親父の体、渡すことにするよ」

 

そういうとブロッケンは顔を上げ、父親の死体を彼に渡し、彼に父の弔いを託した。

 

「…そうか。わかった」

「この超人閻魔。命に代えてでもこの男を超人墓場へと連れていくことを誓おう」

 

そう言ってしばらくの間ブロッケンマンの遺体を見ていた超人閻魔。

すると、何かに気が付いたのか視線をブロッケンの方へ戻し、一つ、疑問を投げかけた。

 

「…ブロッケンよ、一つ良いか?」

 

「…なんだ?」

 

「…私は、完璧超人だ。仲間意識という感情はあまり芽生えたことがない」

「それは残虐超人も例に漏れない。本来ならば友情とは程遠い一族であったはずなのだが…」

「一体何が、この男を変えたというのだ?」

 

「…んなもんわかるかよ、俺はあの2人じゃねぇし」

 

疑問をぶつける超人閻魔に対し、顔を横にそらして答えるブロッケン。

しかし、すぐに向きを戻すとまっすぐな目でこう返答した。

 

「…けど、親父とウォーズマンは間違いなく親友だった。信頼していたから、親父は自らを犠牲にして超人墓場へ帰ることにした」

「それだけは、事実だと思うぜ」

 

「…そうか」

 

そういいながら超人閻魔は表情を変えず頷き、後ろを向いた。

どうやら、用事が済んだので超人墓場へと帰るようである。

 

「行くぞ、ものども」

 

そう言うとスタジアムに隠れていたのか6人ほどの超人ハンターたちが彼を取り囲むような陣形を取った。

それを見ると、彼はどこからか異次元空間を取り出し、ブロッケンマンを優しく抱き上げた。

それを見て手伝おうとする超人ハンターたち。しかし、超人閻魔はそれを断り、

 

「…かまわん。こやつは私が運ぶ」

 

静かに、そう言った。

 

「では…」

 

そう言って去ろうとした次の瞬間、彼は突然立ち止まった。

何かを思い出したのだろうか?

 

「…ああ、そうだ」

 

そう呟くと、彼はブロッケンの方へと歩いて行き、彼の前に立ち止まった。

 

「ブロッケンとやら、これを渡してくれとお前の父に頼まれていた」

 

すると超人閻魔はブロッケンマンの被っていた軍帽を外し、彼に渡す。

 

「…親父の、帽子」

 

「実家の帽子掛けにでも掛けておいてくれとのことだ。くれぐれも穴の一つでも開けないように…とな」

 

「…へっ、相変わらずだな」

「わかったよ。帽子掛けにでも掛けておいて、大事に保管すると伝えておいてくれ」

 

「…わかった」

 

「では、さらばだ」

 

そう言い、超人閻魔は異次元空間の中に消えていった。

徐々に消えていく彼らの姿と、自分の父を静かに見つめるブロッケン。

その表情は父との別れを惜しむというよりも、どこか達観したような、何かに気づいたような表情だった。

 

「…………」

「…あばよ、親父(ファーター)

 

とにもかくにも、これで正義超人と残虐超人との勝負は終わった。

キン肉マンをはじめとした正義超人たちはいろいろ積もる思いがありながらも、落ち着いた様子でスタジアムを後にした。

父親が残した、唯一の形見を引っ提げて…

 

               ―次回、最終回―

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終話「天と地の決意」(エピローグ)

最期の残虐、最終話です。最後までご愛読いただきありがとうございました。初登校ではありましたが無事完走できたこと、心よりお礼申し上げます。
では、本編をどうぞ。

~あらすじ~
 正義超人と残虐超人との戦いは最後、父であるブロッケンマンの自殺により幕を閉じた。キン肉マンをはじめとした正義超人たちはブロッケンマンの形見である軍帽を引っ提げて、仲間たちが療養している病院へと直行する。
それから何日か経って、何とかウォーズマンとラーメンマンの二人はメディカル・サスペンションという医療器具によって回復の兆しを見せていたが、ブロッケンの方は体の方は比較的軽症であったものの、どこかやるせない思いがあるようで、それを心配したロビンはブロッケンと話をしに彼のいる病院の屋上へと向かうことにした。




病院 屋上

 

「…ブロッケン」

 

「……」

「…ああ、アンタか、ロビン」

 

一準の沈黙ののち、後ろを振り返るブロッケン。

何か考え事をしていたようだ。

 

「ウォーズマンの調子はどうだ?」

 

そう聞くブロッケンにロビンは下を向きながら首を横に振ってこたえる。

 

「…いや、まだ目を覚まさない」

「…ラーメンマンもな」

 

「…そうか」

 

「どうやらお互い、突貫をした時のダメージが予想外に大きかったらしくてな。…超人とはいえ、回復にかなり時間がかかるそうだ」

 

「……」

「…まあでも、2人は治療を受けてりゃ助かるんだ」

「気長に待てば、また一緒に戦えるさ」

 

「…ブロッケン」

 

それは…とロビンが言いかけたその時、

ブロッケンが静かに口を開いた。

 

「…俺さ、前に観光旅行であのスタジアムに行ったとき」

「ラーメンマンに聞いたんだよ。“親父の最期はどうだったのか”って」

「そしたらそん時はラーメンマン、黙っちまってさ。…多分、あん時はなんて返せばいいかわからなかったんだと思う」

 

「……」

 

「でも、実際に2人が戦っていた時」

「なんというか…生き生きしてたんだ。2人の表情が」

「まるで今までの付き物が落ちたようにさ…」

 

「…そういえば」

 

何かを思い出したのか、ロビンは遠くを見つめながら静かに語りだす。

 

「確かに、最初は葛藤していたラーメンマンも、途中からは迷いなく攻撃を仕掛けていた」

「自分が元残虐超人としての負い目がなくなった…ということなんだろうか」

 

「えっ、ラーメンマンのやつそんなことをロビンに言ってたのか?」

 

意外そうな表情でロビンに尋ねるブロッケン。

そんな彼にロビンは薄く笑いながら質問を返す。

 

「…師匠も弟子に言えない悩みがあるってものさ」

「まあ、このことはラーメンマンに内緒だぞ」

 

「ああ。わかった」

 

「…話を戻すぜ」

 

ブロッケンは話をいったん戻した後、言葉を続ける。

 

「多分だけど、親父たちはあの戦いにそれなりの未練があって戦ってたんじゃねぇのか…って思うんだ」

「そしてそれが…」

 

「それが…あの戦いで吹っ切れた」

「全力を出し、その上で勝負することができたから…」

 

そういうロビンに彼は静かに頷き、言葉を続ける。

 

「ああ。だから親父は、躊躇なく死を選んだ」

「親父が“最後の残虐”として未練なく超人墓場へと逝けた。…ってことなんじゃないかって思うんだ」

 

「…自分の子供の成長も見れたからってこともあって…てことか」

 

「…そういうこと、だと思う」

 

そう言って、少し迷いのある形で彼の言葉に同意するブロッケン。

彼らの結論があくまで予想の域を出ないのは、当人たちではないからということもあるのだろうが…とりあえず、そう結論付けた。

それが、残虐超人2人に直接関係のある、屋上の2人が出した結論であった。

 

「……」

 

「……」

 

2人の間に沈黙が流れる。

屋上に吹く真昼の風はほんのり暖かく、傷ついた2人の体を優しく包み込んでいた。

 

「…ブロッケン。それはそうと、少し提案があるんだが」

 

「ん、なんだ?随分と唐突だな」

 

疑問に思う彼を横目に、ロビンは説明を始めた。

 

「あいつらが入っているカプセル…どうやら“メディカル・サスペンション”というらしいんだが」

「私たちもそれに入らないか?…ということだ」

「正義超人の調印式も近い。…王位争奪戦からそこまで時間が経ってない上での連戦だったから、休憩をした方がいいと思ってな」

「今回の戦いではお互いが傷つきすぎた。…どうかな?」

 

彼の言葉を受けてしばらく黙り込むブロッケン。

少し考えると、彼は顔を上げて静かにうなづいた。

 

「…そうだな。確かにちょっと動きすぎたしな」

「しばらくの間、休ませてもらうよ」

 

「そうか。…いい判断だと思う」

「では、行こう」

 

そう言って彼らは病院の屋上を後にした。

この後、彼らが病院に設置されていたメディカル・サスペンションに他のアイドル超人ともども入り、近く行われる決戦に備えたのは、本編で示されている通りである。

 

一方そのころ、超人墓場では…

 

(タッタッタッ…)

 

超人ハンターの一人が超人閻魔の元へと急ぎの伝達をしに彼のいる場所へと走っていた。

様子から察するに何かしら急ぎの用事のようである。

 

(バァンッ!!)

 

勢いよく扉を開けるハンター。

それからのどが張り裂けんばかりの大声で叫ぶ。

 

「閻魔様ッ!!一大事です!!」

 

「ああ、おまえか」

「うるさいぞ…急ぎの用事とはいえ、ドアはしずかに…」

 

「そんなことを言っている場合ではありませんぞ!完璧超人界を揺るがしかねない一大事でありますのに!!」

 

「…ほう?」

 

超人ハンターの言葉を受けて、彼は片眉を上げた。

どうやら彼は、予想外のことが起こると片眉を上げる癖があるらしい。

 

「閻魔様ッ!!お聞きになられましたか!!」

「どうやら正義・悪魔・完璧の3種族で…」

 

「…ああ、聞いておる。近々不可侵の調印式が行われるのであろう?」

「まったく、完狩(ネプチューンマン)のやつも随分と偉くなったものだな」

「我々を差し置いて完璧超人の代表を名乗るとは…図々しいにもほどがあるぞ」

 

「全くです。閻魔様をはじめとした完璧超人がまだいらっしゃるというのに」

「ですから…」

 

そう言う彼に閻魔は手を前に出して静止した。

彼には彼なりの提案があるようだ。

 

「まあ待て、皆まで言うな。ちゃんと策は考えておる」

「だから、こうして身支度も整えてきた」

 

「おお…!そのお姿は…!」

 

驚く超人ハンターの視線の先には…

剣道で使う武具、完成された肉体、そして、憤りに満ちた血走った眼差しがあった。

ストロングザ武道、ここに降臨である。

 

「…ストロングザ武道、この名を使うのは、一体いつぶりやら」

 

「し、しかし…!」

「そのお姿になった、ということはまさか…閻魔様直々に向かわれるのですか?」

 

「無論だ。我々と戦わずして完璧超人を制したと思われたくはないからな」

「必ずや、調印式を中止させて見せよう」

 

「はっ!では、ご案内のためにご同行させていただきます!!」

「ああ。頼むぞ」

 

(……)

(…確かに)

(確かに、私はこの調印式を阻止するために現場へと向かっている)

(だが、私が戦いを行う理由はもう一つあるのだ)

 

超人閻魔は自分の手をじっと見つめた。

そして再び手を握ると、頭の中でブロッケンマンのことを思い出す。

 

(…私は、知りたくなった)

(ブロッケンマン…あの男を変えた“友情”とやらが、一体どのようなものなのかを)

 

閻魔は顔を上げ、天井をじっと見つめた後、そっと目を閉じる。

 

(そして、残虐超人を打ち破った正義超人とやらの実力を…この体で試したくなった)

(聞けば“あの男”も、正義超人たちの持つ友情の前に敗れ去っていると聞く。…それならば)

 

そして目をカッと開き、決意を新たにする。

 

(試す価値は、十分にある!!)

 

「閻魔様、お急ぎください!もうすぐ調印式が行われます!」

 

「ああ、わかった」

 

「いま行くぞ」

 

そう言ってドアを開き、超人ハンターの後に続いた超人閻魔。

この後、正義超人主催で行われた調印式にストロングザ武道として登場し、数多の敵と戦うことになるのは本編で語られている通りである。

 

こうして、ブロッケンマンの本当の死により、ブロッケン、超人閻魔共に新たな道を歩み始めた。

この決意が、後の完璧超人と正義超人の2種間での一大決戦になることも知らずに、今はお互いがやるべきことにまい進するのだった。

 

そして…超人閻魔、もといザ・マンは

3種族で調印された不可侵条約を破棄するべく、仲間たちと共に「完璧・ 無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)」を結成し、正義超人たちの前に牙をむくことになるのである。

 

                   -終わり-

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 その1「相棒のいない世界」

「最後の残虐」後日談です。久々の投稿になります。かつてブロッケンマンとラーメンマンの戦いが行われたスタジアムで行われたタッグマッチは正義超人側に軍配が上がった。その後、彼らは「メディカルサスペンション」を使ってしばしの休息を取り、次なる戦いに備えていた。そんな平穏な日々が続いたある日のこと、とある一つのメディカルサスペンションが機械音を発しながら小さく動き出し、一人の超人を吐き出そうとしていた。その超人とは…


(ゴポ…ゴポ…)

 

誰かが、いる。

水の中にいる。

 

「…う、うう」

 

目が覚める。水の中でふと、彼は目が覚めた。

いや、目が覚めたというよりは「光った」という方が正しいのか。

 

(ガガガガ…)

 

ウォーズマンだ。黒いヘルメットに、独特な息遣いが特徴の超人。

彼の目が覚めるや否や、機械は突然音を発し、中に入っている水を出し始める。

 

(ウィーン…)

 

そして、水をすべて出し終わると、彼の目の前にあった扉が開いた。

開いた扉に少し戸惑いながら、ウォーズマンは機械の外に出る。

 

「こ、ここは…」

「病院…?」

 

朦朧とする意識の中であたりを見渡すウォーズマン。

そしてすぐに、ここが病院であることを認識した。病室に広がる薬品の独特なにおいが彼の嗅覚器官を刺激する。

 

そう、ウォーズマンは先の正義超人との戦いで傷を負い、治療器具であるメディカルサスペンションの中に入れられていた。

かつて超人オリンピックの予選一回戦が行われていた場所で、超人墓場から脱出した残虐超人の2人組「ブロッケンマン・ウォーズマン」と正義超人側の「ラーメンマン・ブロッケンジュニア」のタッグマッチ。その一戦で彼は親友であるブロッケンマンのために捨て身の一撃を正義超人へと向けてはなった。

満身創痍の体の中、彼が放った「電光石火(ライトニングアロウ)」の負荷は思った以上に大きく、メディカルサスペンションをもってしても、すぐに彼の体を完治させる形で出すことはできなかったようで、治るには少し時間がかかるとのことだった。

そして、その怪我がある程度治癒し、つい先ほどメディカルサスペンションの扉が開いたというわけである。

 

「俺は…」

「俺は…どうして、ここに…?」

 

困惑しながらあたりを見渡すウォーズマン。

重い上半身を起こし、病院のドアを見つめる。

 

(ガラッ!)

 

その時、病室のドアが勢いよく開かれた。

 

「おおウォーズマン!気が付いたか!」

 

そこから入って来たのはキン肉マンとブロッケンジュニアの2人。入って来るなりキン肉マンは大声でウォーズマンを気遣う。その時の彼の顔は喜びに満ちていた。純粋に友人が目を覚ましたことに喜んでいるようだった。

 

「さっ、早くベッドに!!」

 

そう言うとキン肉マンはウォーズマンのに肩を貸して、近くにあったベッドまで運び、そこに座ってもらった。

 

「みんな心配しとったんじゃぞ!お前だけいつまでたっても目を覚まさんかったからのう」

 

笑顔でウォーズマンにそう話しかけたキン肉マン。

話から察するにほかの超人たちのほとんどはメディカルサスペンションから出ているらしい。

 

「いや~よかったよかった!!」

 

「……」

 

ウォーズマンが元気そうで安堵した表情のキン肉マンだったが、その表情とは対照的に、ウォーズマンの方の反応は芳しくなかった。

 

「……」

「…ブロ」

 

「ん?」

 

ウォーズマンの言葉に反応するキン肉マン。そして彼は下を向いたまま神妙な面持ちでキン肉マンに疑問をぶつけた。

 

「…ブロッケンマン」

「ブロッケンマンは…どこにいるんだ?」

 

ウォーズマンの言葉を聞くや否や、キン肉マンの顔は凍り付いた。

ブロッケンの方は最初から無表情のため、何を考えているかはわからない。

 

「……」

 

しばしのあいだ、病室に沈黙が流れる。さっきまでの和やかな雰囲気が一気に緊迫したものになった。

 

「ウ…ウォーズマン、ブロッケンマン…は…」

 

ウォーズマンの言葉にたどたどしく答えるキン肉マン。しかし、その代わりに

 

「親父は、死んだよ」

 

ブロッケンジュニアがピシャリと答えた。

その言葉に感情はなく、ただ事務的に答えているように見えた。

 

「ブ、ブロッケン!お前、何もそんなにはっきりと言わんでも…」

 

そんなブロッケンの対応に苛立ちの様子を見せるキン肉マン。

しかし、そんな彼をよそにブロッケンは意に介さず

 

「へっ、はっきり言おうが言うまいが変わらねぇよ」

「いずれ分かってたことだぜ。いまさら躊躇するまでもねぇ」

 

突き放すようにして、そう言った。

 

「じ、じゃが…」

 

「わかった…」

 

キン肉マン達の会話を遮るように、静かにそう言ったウォーズマン。

彼のベッドの下に敷かれていたシーツを握りしめ、震えた声で

 

「今はとりあえず…一人にしてくれ」

 

絞り出すように、キン肉マン達に対して言った。

 

「……」

 

彼の言葉はいつも以上に悲壮感が漂っていた。

重々しい。自分の悲しみに満ちた感情を吐き出したように彼は言った。

 

「…行こう」

 

ウォーズマンの言葉を聞いたキン肉マンは、彼のことを気にしつつ病室を後にした。

それに続いてブロッケンも部屋を後にする。

 

「……」

 

誰もいなくなった病室で一人、呆然とするウォーズマン。

 

(ダンッ!)

 

次の瞬間、彼は思いきり壁を叩いた。

衝撃が壁を伝って病室全体に響き渡る。その一連の行動すべてが、現在の彼の感情を如実に表していた。偶然にもほかに人がいなかったので、それに驚く人はいなかった。

 

「どうして…」

「どうして、俺が…」

「俺が…生きているんだ…?」

 

そう言って肩を震わせるウォーズマン。発せられた言葉も怒りと悲しみを絞り出したような言葉だった。

そういえば…彼は、親友の最期を知らない。ブロッケンマンがどうしてここにいないのかを知らない。

 

それもそうだった。ウォーズマンがブロッケンマンの最期を知っているはずがないのだ。

彼が自分の必殺技を放ったとき、まだ生きていたのだから。

ブロッケンマンの真意を知らないまま病院へと運ばれていったので、ウォーズマンがなぜ生きているのか、超人墓場へ行っていないのかがわからないのだ。

 

「まさか…」

「あいつだけ、逝ってしまったのか…?」

 

そう言って彼は握っていた拳をさらに強く握る。

 

「超人閻魔のやつ…まさか、ぜんぶ責任を押し付けたんじゃ…」

「俺が…いなかったせい…で…?」

 

その時、ウォーズマンの中でなにかが切れた。自分の抱えこんでいたものが一気に頭の中で漏れ出し、目尻に熱いものがこみあげてくる。

 

「ブロ…」

「くそっ…くそっ!!」

 

ベッドに突っ伏して涙を流すウォーズマン。

 

「約束したのに…!アイツを超人墓場から出してやるって…言ったのに!!」

「ちくしょう…ちくしょう…っ…!!」

 

彼の考えていることはとんだ勘違いなのだが、そんなことが今の当人にわかるはずもなく、ウォーズマンはひたすら自分の置かれている状況を悔やんだ。

親友が死に、自分だけが生きているという罪悪感に彼は蝕まれていた…

 

病院 廊下

 

「……」

 

(ガチャ)

 

「おお、キン肉マン。どうだった?ウォーズマンの様子は」

 

ドアの音に気付き、キン肉マン達に声をかけるのはラーメンマン。

どうやら病院の廊下で、ロビンとテリーの3人で待っていたようだ。

 

「だめじゃ…ウォーズマンのやつ、すっかりまいってしまっておる」

 

「そうか…」

 

キン肉マンの答えに静かに頷くラーメンマン。

やはりか…と答えたようにも思える。

 

「アイツにとっては初めての親友と呼べる存在だったんだ。…言葉が出ないのは無理もないことだ」

 

腕を組みながらため息をつくロビン。

 

「うむ…しばらくそっとしておくほうがいいかもしれない。時間が経てば、お互いに話し合う機会もくるだろう」

 

ロビンが首を縦に一回振ると、それに呼応するかのように首を縦に振るテリーとラーメンマン。

しかし、キン肉マンの方は少し不満げな顔をして

 

「それにしてもブロッケンじゃ!お前、病み上がりのウォーズマンにあれはないじゃろう!」

 

ブロッケンに対して先ほどのウォーズマンに対する態度について文句を言った。

 

「……フン」

 

(コツ…コツ…)

 

しかし、キン肉マンの抗議も空しく、ブロッケンは話を聞かずにその場を去って行ってしまう。彼の履いているブーツの足音が空しく病院の廊下に響く。

 

「お、おいブロッケン…!」

 

話を聞かないブロッケンを追いかけようとするキン肉マン。

しかし、そんな彼の肩をロビンがつかんだ。

 

「待つんだ、キン肉マン」

 

「じ、じゃが…」

 

「アイツも自分の父親を失ったんだ。…今はそっとしておいた方がいい」

 

そう言ってキン肉マンを諫めたロビン。

病院の屋上でブロッケンの事情を聞いていたことも相まって、ロビンの言葉はどこか説得力があった。

キン肉マンもその気持ちを幾ばくか汲み取れたようで

 

「……」

 

それ以上何も言及することはなかった。

 

その後、彼らはしばらくの間、2人を静かに見守ろうということで一時的に解散することになった。

その間もロビンやキン肉マンが2人に話しかけてみようとはしたものの、ウォーズマンは行方不明、ブロッケンは沈黙という取り付く島のないサンドイッチみたいな状況であり、正義超人たちは再び一部の超人との間でギスギスしている状況になってしまった。

やはり、大勢で活動していると数回くらいはこんなトラブルが起きてしまうのだろうか。何とも人間関係というのは難しいものである。

そんなこんなで、彼らが病室で解散してから早くも2週間が経とうとしていた…

 

河川敷

 

夕方、どこかにある河川敷。散歩をするには絶好の場所で、河川の傍で生い茂っている草が夏の便りを伝えていた。

その近くには大きな橋が架かっていて、その下で川の水が山から海へと走っていた。水面(みなも)に映る太陽が、まるで川が汗をかいているかのように光っている。

すると、遠くからトレーニングウェアを着た筋肉質の大柄な男が汗を流しながら走って来た。

 

「ほっ…ほっ…」

 

テリーマンだ。肩の星は袖で隠れてしまっているが、銀髪と甘いマスク、そして何より額にある「米」の文字が彼の存在であることを物語っていた。ランニングに集中しているのか、彼の視線は常に前を向いている。

しかし、その集中力も一瞬の「途切れ」によって妨げられることになる。

 

 

「ん?」

 

「あれは…」

 

テリーは川辺で誰かが座っているのが見えた。それは一般人というにはあまりにも異質で、なぜここにいるのかを少し考えてしまうような存在だった。その存在にテリーは足を止めた。しかし、ただ異質な存在というだけでは彼の足を止める理由になり得ない。

 

彼も本来ならスルーしてランニングを続けるつもりだったのが、そうはいかなかった。なぜなら…

 

その誰かというのは、彼の知っている人だったからだ。

 

「……」

 

全体的に黒いフォルム、彼の素顔を隠すマスク。そして独特な息遣い…

川辺に座っていたのはウォーズマンだった。

 

「ウォーズマン。探してた…」

 

しばらくのあいだ彼の姿を見かけなかったので、気になったテリーは声をかけてみることにした。しかし、テリーは途中で歩みを止め、少し考え込んだ。

 

(いや待て、ウォーズマンはブロッケンマンを失いショックを受けている)

(ここはなるべく話題を避けて、気さくにふるまってみるか…)

 

「……」

 

「へいウォーズマン、随分と久しぶりだな」

「ここのところ最近見かけなかったけど、具合はどうだい?」

 

「……」

 

ウォーズマンは彼にそっぽを向いたまま黙っている。

聞こえているのか、それとも呆然としていて聞こえていないのか…

 

「…あんまり良くないみたいだな」

 

テリーは片手で頭を搔きながらウォーズマンの方を見る。彼の表情はわからないが、少なくとも近寄りがたい雰囲気を醸し出しているのは確かだ。

 

(…困ったな。こりゃ相当まいってるみたいだ)

(さて、どうしたもんか)

 

「……」

 

しかし、テリーが心配していたのもつかの間、ウォーズマンはテリーの言葉を受けて口を開いた。

 

「…なぁ」

 

「…ん?」

 

「俺は…俺とブロは、負けたんだよな」

「ラーメンマンとブロッケンジュニアに」

 

「…ああ」

 

「……」

 

そう言って再び黙り込むウォーズマン。彼はどうやら試合の結果をもう一度確認したかったようだ。

 

ウォーズマンの言葉を聞いて何かを察したテリー。彼のことをフォローしようと口を開く。

 

「…気にするなよ。別にお前は俺たちを裏切ろうとして正義超人を離れたわけじゃない」

「ブロッケンマンを超人墓場から出そうとしてのことだったんだろ?」

「誰もお前を責めたりはしないさ」

 

「……」

 

テリーの言葉に無反応のウォーズマン。いや、考え込んでいるのだろうか。

沈黙するウォーズマンにテリーは言葉を続ける。

 

「それに…ブロッケンマンのことだってお前が悪いわけじゃない」

「俺にはわからないが…超人閻魔の心境に変化があったのかもしれないし、その…」

「仕方が…なかったんじゃないか?」

 

「仕方がなかった…だと?」

 

その時、ウォーズマンはテリーの言葉に反応した。

 

(ガッ!)

 

次の瞬間、力任せにウォーズマンはテリーの胸ぐらをつかんだ。

その勢いは、今まさにテリーの首を絞めんとするほどだった。

 

「ふざけるな…!お前に俺たちの何がわかるっていうんだ…!!」

 

この時、テリーはしまったと思った。

ウォーズマンを励ますつもりが、いつの間にか彼の神経を逆なでしてしまっていることにいま気づいたのだ。

 

「す、すまないウォーズマン…!そんなつもりじゃ…」

 

「……」

 

(ドサッ!)

 

「うっ!はぁっ…はぁっ…」

 

掴まれた胸ぐらを抑えながらえずくテリー、額からは冷や汗が出ていた。

それを横目に、ウォーズマンは静かに語りだす。

 

「…わかっている。みんなが俺を心配してることは」

「けど、俺はブロッケンマンを裏切ってしまったんだ」

「俺が…俺が倒れてしまったばっかりに…」

 

「うら…ぎった…?」そう言って首をかしげるテリー。ウォーズマンは言葉を続ける。

 

「そうだ…俺が超人墓場に連れていかれていないことが、何よりの証拠だ」

「もし負けたんだったら、俺たちを超人墓場へ連れていくために」

「超人閻魔か、その使いが来てたはずなんだ。じゃないと誰が超人墓場に俺たちを連れて行くんだって話になる」

 

ウォーズマンは思いつめた表情で言葉を続ける。

 

「けどその時、俺は病院に運ばれてその場にいなかった」

「さっきお前が言ったように、超人閻魔が心変わりを起こして、その場にいたブロッケンマンに全責任を押し付けたんだ」

 

そう言ったウォーズマンの頬に一筋の汗が流れた。

 

 

「なるほど。確かに2人を超人墓場へ連れていくために使いを送ったというのは納得がいく」

「だけど病院に運ばれて約束が不意になったって言うのはおかしいんじゃないか?約束を果たすことが目的ならそれこそ血眼になってお前を探すんじゃ…」

「何か別の理由があるとか…」

 

「確かに超人閻魔は自分が口にしたことを必ず遂行する超人だ。だけど…」

「閻魔は生真面目な性格らしいんだ。何事も重要なことは他人に任せず、自分で行うことで知られている」

 

「随分と詳しいな」

 

「しょっちゅう職場に来てたんだよ。それであらかた鬼たちに指示を出してから自分の持ち場へ戻って仕事をしていたんだ」

 

本題に戻ろう、と言うと、ウォーズマンは言葉を続ける。

 

「アイツは言っていた…あの戦いは超人界の神々が望んでいるんだと、最終決着をつけるために戦う必要があると、スタジアムで俺に言った」

「これが重要なことじゃなくて何だって言うんだ?…閻魔が直接来て裁定を下すことはなんらおかしい話じゃない」

「それに、時間が押していてその場にいたブロッケンマンにとりあえず責任を押し付けておいて、後で俺を連れ戻しに来るのかもしれない…!」

 

「……」

 

怒りをあらわにするウォーズマンの説明をしばらく聞いていたテリー。

顎に手を当てながら彼の言動について冷静に分析する。

 

確かに彼の言っていることも一理ある。実際にスタジアムに閻魔が来て裁定を下していったこともテリーは知っていたし、それに関してはウォーズマンも正しかった。

しかし、これはそんな単純な話ではないこと、ブロッケンマンがウォーズマンのために自分から全責任を負ったことを今の彼に説明することは難しい。

 

なぜなら…彼は今、閻魔が独断で全責任を親友に押し付けたことを完全に信じ切っているのだ。

仮にブロッケンマンのことをテリーが言ったとしても、リングの傍で見ていただけの彼が言ったとして信じてもらえるかどうか怪しかった。

 

(…今のウォーズマンはかなり気が立っている。俺が言ったところで果たして信じてもらえるかどうか…?)

(様子を見た方がいいかもしれないな)

 

そう考えたテリーはとりあえずウォーズマンに話を合わせることにした。

 

「だから…お前はブロッケンマン、親友を…裏切ったと」

 

「そうだ…俺は責任を果たすことが出来なかったばかりか、ブロッケンマンに責任を負わせてしまった…!」

 

そう言ったウォーズマンは再び拳を強く握り、肩を震わせる。

それから彼は語気を強めて言葉を続ける。

 

「俺は、ブロッケンマンを生かすことが出来なかった…!」

「約束したのに…!一緒に超人墓場から脱出しようって、約束したのに…!」

 

怒りを、哀しみを、やるせなさを…ウォーズマンは感情に任せて絞り出す。

 

「俺はアイツを裏切ったんだ!俺は大嘘つきなんだッ!!」

 

「違う!お前は嘘つきなんかじゃ…」

 

「もう放っておいてくれ!!」

 

そう言うと、ウォーズマンは逃げるようにして走り去っていった。

 

「ウォーズマン!!」

 

逃げる彼を制止しようとするテリー。しかし、胸ぐらをつかまれた影響で、うまく走り出すことが出来ない。

彼はそのまま右方向へと走り去って行っていく。テリーは汗をかきながら片膝をつき、ただそれを見ることしかできなかった。

 

「ウォーズマン…」

「…ん?」

 

突然、テリーは後ろの方から何かが近づいているような感じがした。

ゆっくりと近づく足音。しかしその音もすぐに消えた。

 

「……」

 

テリーが後ろを振り返ると、そこにはブロッケンが立っていた。

 

「…ブロッケン?」

 

呆然としているテリー。どうしてここにブロッケンがいるのだろうか。

それを聞こうとしたテリー。しかし、それを遮るかのようにして、ブロッケンが静かに口を開く。

 

「…なあ、今のウォーズマンだよな」

 

「えっ?あ、ああ…」

 

「どっちに行った?」

 

「み、右の方だが…」

 

「わかった」

 

そう言うとウォーズマンのいった方向に走り出したブロッケン。

その時の彼は表情こそ見えなかったものの、どこか鬼気迫るような雰囲気を纏っていた。

それこそ、今までずっと探していた相手を見つけたような、そんな感じだった。

 

「お、おいブロッケン!!」

 

そんな彼をおぼつかない足取りで制止しようとするテリー。

しかし、彼がブロッケンを引き留めようとした次の瞬間…

 

(ザァー…)

 

突然、雨が降り出してきた。

 

「…!雨が…」

「本降りにならければいいが…」

 

心配そうに空の様子を見つめるテリー。

さっきまで夕焼けに赤らんだ空が見えていたのが一変、灰色の雲に覆われ始めた。その雲はまるで、この先にある運命を暗示しているかのように、町全体を包み始めたのだった…

 

                    -続く-

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 その2「俺は、お前に”報復”する」

最後の残虐番外編その2です。
メディカル・サスペンションで怪我を治すことが出来たウォーズマンだったが、親友を守れなかったことに責任を感じてふさぎ込んでしまう。その状態を何とか解消しようとするキン肉マン達だったがなかなか改善しない。そんな中、テリーがウォーズマンを励ますことに失敗した矢先にブロッケンジュニアが現れ、逃げていった彼を追いかけていった。その時、空は厚い雲に覆われ始めていた…


公園

 

(ザァァァ…)

 

河川敷近くの公園も、例外なく雨が降っていた。大雨で湿った地面から漂うむせ返るような土と草のにおいと湿気からくる霧が公園全体を包み込み、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

そんな場所に一つ、霧に紛れて建物が一つ現れた。それはどこにでもある屋根付きのベンチだったが、幻想的な雰囲気も相まって特別な場所へと変貌していた。さながら、霧の海に揺蕩う一つの「宮殿」のようであった。

 

「あっ、雨が…」

「傘…持ってこなかったな」

 

そんな宮殿に一人、ポツンと座る王子様がいた。表情が見えないクールな王子様は、いま雨の存在に気づいたようだ。

どうやら考え事をして気づいていなかったらしい。

 

「…ブロ」

 

降りしきる雨の中、逝ってしまった親友のことを想うウォーズマン。目には涙が浮かび、自分が感じている責任を噛みしめていた。すれ違いが生じているのが何とも歯がゆい。

 

(コツ…コツ…)

 

その時、彼の正面から足音が聞こえてきた。これはブーツの足音だろうか?

 

「よう、随分と降って来たな」

 

そう言って誰かが建物の中に入って来た。ブロッケンジュニアだ。

どうやら雨の中、傘も持たずにここへ来たようだ。ずぶ濡れで、息が切れていないところを見ると気にせずに歩いてきたのだろうか。

 

「まさか夕立に合うとは思わなかった…傘ァ持ってくりゃよかったな」

 

薄く笑うブロッケン。そう言ってウォーズマンの対面のベンチに無造作に座った。

帽子や服からしたたり落ちる雫が、雨の強さを物語っている。

 

「…ブロッケン」

 

そう言って彼の方を睨むウォーズマン。

ベンチに座って相対する二人。しかし、先ほどのテリーマンのようにフランキーな雰囲気ではない。

敵対する勢力が睨み合っている…まさに対峙しているというのが相応しかった。

 

「お前も俺に、何か言いに来たのか?」

 

「ああ。ちょいと世間話をな…」

 

「だったら他を当たってくれないか。今はそんな気分じゃない」

 

そっぽを向いてつっけんどんな態度をとるウォーズマン。しかしそれもお構いなしといった様子でブロッケンは言葉を返す。

 

「なんだ、時間がないってのか?」

「落ち込む時間(ヒマ)はあるくせによぉ」

 

そう言ってニヤリと笑い、ブロッケンはウォーズマンを揶揄する。

その時、ウォーズマンの開いていた手がギュッと握りしめられた。

 

「…なんだと?」

 

少しイラついた様子でブロッケンの方を向くウォーズマン。そんな様子を見て楽しんでいるのか、彼は意地悪な笑みを浮かべて彼に言葉を畳みかける。

 

「勝負に負けたくらいでいちいち落ち込みやがってよぉ。こんなんじゃ勝てる試合も勝てねぇぜ」

「アイドル超人としても務まるのか…甚だ疑問だな」

 

(ガタッ!)

 

ブロッケンがそう言った瞬間、ウォーズマンは立ち上がった。もう我慢ならんと、ブロッケンに対して言い返す。

 

「うるさい!もう放って…」

 

「まあ待てよ。俺は別にお前を茶化しに来たわけじゃ…」

 

「うるさいって言ってるだろ!今はお前と…」

 

「おい!…いいから聞けよ」

 

「……」

 

ブロッケンの制止に口を閉ざすウォーズマン。不服そうな態度で自分が座っていたベンチに腰を下ろす。

 

「…それで?」

 

そう言ってブロッケンの方を見るウォーズマン。その様子を一瞥し、ブロッケンは顎に手を置いて足を組み、口を開く。

 

「…お前、前に言ってたよな」

 

「…何を?」

 

「“報復はねぇ”ってさ」

 

(ギラリ…)

 

「…えっ?」

 

「残虐超人は相手を絶ってぇにぶっ殺すから、報復はねぇんだって」

「言ってたよな…」

 

「…何が言いたい」

 

ウォーズマンが怪訝な表情をした次の瞬間

 

(ジャキィン!)

 

空気が切り裂かれる音がした。物を断たんとする音が公園中を駆け巡る。

それと同時にウォーズマンは建物の外へと放り出された。

 

「うわ…」

「な、なにをするんだいきなり!」

 

たまらずブロッケンに対して怒りをぶつけるウォーズマン。

自分の頬から流れる液体に気が付く。ブロッケンが彼に向かって手刀を放ったのだ。

傷は浅かったが、威力は強い。直に当たればひとたまりもないだろう。

 

「……」(ニヤリ)

 

そんな彼を一瞥すると、ブロッケンは無言のまま彼に向かって走ってくる。

 

(ブウン!)

 

そして手刀の射程距離に入ると、ウォーズマンの方へ手刀を連続で放っていく。

 

(ブン!ブウンッ!!)

 

「うわ…」

 

「どうした!さっきからへっぴり腰で避けやがってよぉ!」

「負けちまったからって報復がねぇわけじゃねぇんだぞ!!」

 

「ま、待ってくれ!お、俺はもう…」

「俺はもうお前たちに刃を向けるつもりはないんだ!どうして俺を襲うんだ!!」

 

困惑した表情でブロッケンに言葉を投げかけるウォーズマン。

しかし、ブロッケン自体はそれを意に介さぬようで

 

「うぬぼれんじゃねぇ!あいつらはもう許してるのかもしれねぇが」

「俺はまだ許したわけじゃねぇ!一時的にとはいえ、お前は正義超人を裏切っているわけだからな!」

 

恨み言をウォーズマンに向かってぶつける。

空が若干薄暗くなっているので、そう言ったブロッケンの表情は見えない。ただでさえ軍帽で隠されているのだから、暗くなれば表情が見えなくなるのは当然のことだった。

 

(ギィンッ!!ジャキィンッ!!)

 

降りしきる雨の中、ブロッケンの一方的な猛攻が続く。

 

(グウゥゥン…)

 

次の瞬間、ウォーズマンの頭上にブロッケンの手刀が現れた。

 

「ッ!!」

 

(ギィンッ!!)

 

「くっ…」

 

ウォーズマンは反射的に腕で彼の手刀をなんとか受け止める。

しばらく交差した後で、ブロッケンは反撃を回避するために素早く手刀を収めた。

 

「……」

「……」

 

雨の中、再び対峙する2人。

それからすぐに、ニヤリと笑いながらブロッケンが口を開く。

 

「…へへ、何とか受け止めやがったか」

「そりゃそうだな…アタマ破壊されちゃあ、おめぇはおしめぇだもんな」

 

へへへ…と笑いながらブロッケンが腕を振り上げようとした。

その時だった。

 

(プシィッ!!)

 

とつぜん腕から出血するブロッケン。出血の仕方からして、まるで何かに斬られたような血の出方だった。

 

「!!」

 

一瞬目を見開き、驚いた様子のブロッケンだったが、すぐに表情を元に戻し、ウォーズマンの方を向く。

 

「…へぇ、切れ味が良いじゃねぇか」

 

「ど、どうして出血を…」

 

どうやらウォーズマンの方はよくわかっていなかったようだ。呆気にとられた表情でブロッケンの様子を見ている。

 

「俺の真似事か?親父の指導の賜物ってやつだな」

「来いよ!そのお前が習ったっていう“ベルリンの赤い雨”を、俺が見てやろうじゃねぇか!」

 

「ちっ…!」

 

再びウォーズマンに向かってくるブロッケン。それを見たウォーズマンはまず彼の手刀を封じようと組み合いへと持ち込んだ。

 

(ガシィッ!!)

 

降りしきる雨の中手と手が組み合う2人。ウォーズマンは手刀を出させまいと自分の手に力を入れる。

 

(ギリ…ギリ…)

 

「…ふん」

 

しかし、握力に定評のあるブロッケン。これを鼻であしらうと彼の握っている力よりもさらに大きな力で握り返した。

 

(ギリギリギリッ!!)

 

「ぐあああああっ!!」

 

痛みのあまり絶叫するウォーズマン。ブロッケンの握力は頭蓋骨すら破壊してしまうのだ、彼が感じている痛みは想像以上のものだろう。

 

「…へへ、何考えてんだ。俺の握力は正義超人で一番強いってのはわかってたことだろうに」

 

そう言って組んでいた手を放すブロッケン。

そこから息つく暇もなく、ブロッケンはウォーズマンの脇腹に手刀を入れた。

 

(ブウン!!)

 

脇腹に近づく手刀に気づき、ウォーズマンは体を横に逸らせて手刀を素早く回避する。

 

「させるか…!!」

 

(ガシィッ!!)

 

「!!」

 

それから何とか手刀を受け止め、ブロッケンの手刀を逆に左手で掴み、彼の行動を一時的に封じた。

 

(ガシィッ!!)

 

「!?」

 

そして自身の上半身を右にねじり、空いている右手でブロッケンのみぞおちに拳を一気に打ち込んだ。

 

(ドゴォッ!!)

 

「ぐぁぁっ…!」

 

みぞおちへの打撃をもろに受け、狼狽するブロッケン。

しかしウォーズマンは攻撃の手を緩めない。

そのまま彼の背後に回り込み、自身の足をブロッケンの足に食い込ませた。

 

「!!」

 

敵の足に自分の足を食い込ませ、上半身を前のめりに固めて、その体勢で一気に上半身を地面へ叩きつける技…

ウォーズマンの十八番、パロ・スペシャルである。

 

「はあ…はあ…」

「…ブロッケン、俺はお前の技を使わない(・・・・)

「手刀を使わずに、お前を地面に叩きつけてやるぜッ!!」

 

ウォーズマンはそう叫んで、いつものように上半身を地面へ叩きつけようとした。

が…

 

(グッ…ググッ…)

 

「ッ!?」

 

動かない。腕・足を固定したままブロッケンの上半身を地面に叩きつけようとしているのに、彼の上半身は微動だにしない。

 

(ど、どういうことだ…?ブロッケンの上半身が全く動かない…)

 

ウォーズマンが焦っていると、下の方から小さな笑い声が聞こえてきた。

 

「へへへ…」

 

「何がおかしい!!」

 

その笑い声が癪に障ったのか、ウォーズマンはブロッケンに怒りをぶつける。

その怒りの声に対して静!!!いながら、彼は口を開く。

 

「…なんてことはねぇ」

「おめぇ、前にこの技を放ったとき、バッファローマンに外されたことがあったよなァ」

 

「…なにがいいたい?」

 

訳が分からないといった様子でブロッケンに聞き返すウォーズマン。

まだ依然としてパロ・スペシャルの体勢のままだ。

 

「へへ…!!」

「わかってねぇ…わかってねぇんだよ…!!」

「おめぇ…自分の技のことがなんにもわかってねぇ…!」

 

ブロッケンはニヤリと笑いながらウォーズマンの方へ頭を向けて言い放つ。

 

「なんだと!!」

 

ムキになりながら上半身を叩きつけるために力を入れるウォーズマン。

しかし、ブロッケンの上半身はビクともしない。まるで地面に対してこの技を掛けているかのようだった。

 

「教えてやるぜッ!!おめぇがなんでバッファローマンに“パロ・スペシャル”を外されたのか!!」

「それはな…!!」

 

「こういうことだぜーっ!!!」

 

(バキボキゴキィッ!!)

 

「な、なんだ…?この音は…」

 

突然下の方から聞こえてくる異音。しかし、どこかで聞いたような音だった。

果たして、この音の正体は一体何なのか?

 

                  -続く-

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 その3「本当の”死”」

最後の残虐、番外編第3話です。これで本当に終わりとなります。今後の執筆活動に関しては、不定期ではありますが、続けていきたいと思っています。最後まで見てくださり本当にありがとうございました。
では、あらすじをどうぞ。

あらすじ
ブロッケンマンの死を自分のせいだと思い込んでいたウォーズマンは、大雨が降る中、小さな公園の建物で雨宿りをすることになった。亡くなった親友のことを考えていると、大雨をかいくぐって公園にブロッケンJrが入ってきた。世間話をするブロッケンに対し、そっけない態度を取るウォーズマンであったが、ある一言を皮切りに状況は一変する。

”俺は、お前に報復する…”

その言葉と同時に、ブロッケンはウォーズマンに対して攻撃を仕掛けてきた。果たして勝敗の行方は?そして、ウォーズマンは親友の死の真意を知ることが出来るのか?



「こういう…ことだぜーっ!!!」

 

(グウン…)

 

「なっ…こ、こいつは…!!」

 

ウォーズマンのパロ・スペシャルを、ブロッケンがいとも簡単に抜け出した。

軍隊式解体術(アルミィ=ゼレ=アブリ)。体に内在するすべての関節を外し、高速技をはじめとした多くの技から抜け出す、ブロッケン一族に伝わる伝説の技だ。

 

いきなりだった。ブロッケンが父親の技である軍隊式解体術を使ったのだ。不意を打たれたウォーズマンは一瞬、たじろいでしまう。

 

(ザッ!)

 

それがいけなかった。ブロッケンはその隙を突いてウォーズマンの後ろに回り込む。

 

「し、しまっ…!」

 

「今だッ!!」

 

そして大きく腕を振りかぶり、ウォーズマンの背中めがけて手刀を振り下ろした。

切っ先は一文字、横腹を狙うつもりか?

 

(ジャキィン!!)

 

「うわ…」

 

しかし、彼は何とか間一髪で手刀を躱す。背中に傷を負ったが浅かったため、支障はないようだ。

そして、この一瞬をファイティングマシーンは見逃さなかった。

 

「くらえっ!!」

 

(シュッ!!)

 

今度はブロッケンが浴びせようとした手刀をウォーズマンが放つ。

そしてブロッケンの横っ腹に彼の手刀が突き刺さった。

 

「ぐあああああっ!!」

 

(ガシャァァン!!)

 

あまりの威力にブロッケンは吹き飛んでしまい、公園の建物に激突してしまう。

 

「……」

 

砂塵が舞う中、現れたブロッケンの姿。

彼の姿はボロボロで、すぐには起き上がってこれそうもない。

 

「……」

 

倒れるブロッケンの前で静かにたたずむウォーズマン。

それを見たブロッケンは口から流れた血を腕で拭き、顔を上げた。

 

「へへ…とどめ、刺さねぇのかよ」

「俺はお前に…報復、しに来たんだぜ…」

 

かすれ声でウォーズマンに問うブロッケン。

それを見た彼は顔を下に向け、重々しい声で話始める。

 

「…お前はさっき、俺の背中に手刀を浴びせた」

「けど、手刀の軌道に迷いがあった。もし報復しに来たんなら、俺をあの場面で始末していたはずだ」

「“残虐超人”なら、そうしていた…」

 

ウォーズマンの言葉を受けてブロッケンは一瞬黙っていたが、すぐにニヤリと笑い、帽子を前に倒した。

 

「……」

「…へへ、敵わねぇな」

「せっかくこの短期間で、親父の技…習得したってのによぉ」

 

「ブロッケン、一体どうして…」

 

疑問を投げかけるウォーズマンに対し、ブロッケンは一瞬沈黙したのち、帽子からできた暗闇の中でまっすぐな視線を彼に向けた。

虚空を睨みつけるような視線のまま、彼に対して口を開く。

 

「ウォーズマン…」

 

「…?」

 

「お前…まだ親父のことを親友だと思ってるか?」

 

素朴な質問だった。ブロッケンはウォーズマンに、簡単にそう問うた。

しかし…それはあまりにも、視線の厳しさから出た問いにしては簡単だった。なぜなら、その問いの答えは決まっていたからだ。

 

「あ、当たり前だ!俺とブロは一番の親友だっ!!」

「どうしてそんなこと…」

 

当然だと言わんばかりに彼の問いに答えるウォーズマン。

親友であるからこそ、彼はブロッケンマンの死に思い悩んでいたのだ。

 

「だったら…」

「だったら!!親父が死んだからって落ち込んでんじゃねぇっ!!」

 

彼の言葉を遮り、ウォーズマンに対して叫ぶブロッケン。

突然の遮蔽だった。

 

「ッ!?」

 

「親父はな…お前のために、自分の身を犠牲にして超人墓場へ行ったんだ!!」

「超人閻魔に頼んで、お前だけを生き返らせるよう頼んだんだッ!」

「お前が現世で活躍できるよう願ってな!!」

 

「…えっ?」

 

驚くウォーズマンをよそに、ブロッケンは半ば感情的になって言葉を続ける。

 

「なのに、生きてるお前が親父のことで悲しんでるなんて…こんなの」

 

ブロッケンは大きく息を吸い込む。

 

「こんなの…」

「親父の死が無駄だったって、言ってるようなもんじゃねぇかーっ!!」

 

降りしきる雨の中、ブロッケンは吐き出すようにして、ウォーズマンに向かって叫んだ。

 

「……」

「ブロッケン…」

 

叫んだ疲れか、息を切らしているブロッケンに向かって声を掛けようとするウォーズマン。

しばらくの間、沈黙が流れる。

 

(ぜえ…ぜえ…)

 

「…悪かった」

 

跪き、首を垂れたまま静かに口を開いたブロッケン。

帽子を深くかぶっていたためか、彼の表情はわからない。

 

「…えっ?」

 

驚くウォーズマンを傍目に、ブロッケンは言葉を続ける。

 

「襲って悪かった。…喧嘩ふっかけちまってよ」

 

「あ、ああ…」

 

「……」

 

ブロッケンは帽子を深くかぶったまま、言葉を続ける。

 

「親父は…親父は“本当に死ぬことができた”んだ」

 

「…えっ?」

 

「今までの親父は、ラーメンマンに卑劣な戦略を仕掛けて、負けちまった糞野郎として死んじまってた…けど」

「親父は、あの戦いを通して…お前の親友として、最後の純粋な残虐超人として死んでいくことが出来た」

 

その時、ブロッケンは立ち上がり、視線をまっすぐにウォーズマンの方へと向けた。

 

「あの戦いで、親父は変わることが出来た」

「みんなの親父に対する見方も、変わったんだ」

 

そう言うと彼は顔を下げたまま後ろを向き、ウォーズマンに背中を見せる形となった。

それは自分の行った行為に対する後ろめたさなのか、単なる照れ隠しなのか…

 

「…ありがとよ。親父を蘇らせてくれて」

「親友に…なってくれて」

 

(コッ…コッ…コッ…)

 

彼はまだ頭の整理がついていないウォーズマンを横目にゆっくりとその場を後にした。

 

「……」

 

何も言わず、静かに佇んでいるウォーズマン。

 

「ブロッケン…」

「…そう、だったのか」

 

彼の声から少しずつ哀しさが消えていく。

 

「ブロ…」

「ブロ、アンタは…俺のために…」

 

その時、彼の頬を一筋の涙が伝った。

ウォーズマンは少しの動揺と、心の中にあった陰りが払拭されるような気持ちになっていた。

長く振り続けた雨はもう、幾分か小雨になっていたようだ。

 

 

階段ピラミッドリング 第7ステップ

 

幾数日の時が流れ、正義超人と残虐超人との戦いが行われて久しい頃…

ウォーズマンはとある大きな戦いに身を投じていた。

 

相手は完璧超人が一人、「ポーラマン」。

超人強度7200万を誇る桁違いのパワーを持つ彼の前に、ウォーズマンは苦戦を強いられていた。

 

「……」

 

彼は倒れていた。目も虚ろで、生きているかどうかすらも怪しい状態だ。

 

「戦闘継続は不可能!もはや万事休すかーっ!?」

 

何度か立ち上がってきたが、ポーラマンの猛攻を受け、立つことすら難しい状況のウォーズマン。

実況の悲痛な叫びが彼の悲惨さを物語っていた。

もうだめなのか…と、誰もが考えていたその時…

 

「オモイヤリ+ヤサシサ+アイジョウ+シンジルココロ」

 

(ピピピピピ…)

 

ウォーズマンの戦闘プログラムに謎の数式が刻み込まれる。

そして、彼の体が大きく動き出した。

 

「ぐ…ぐぐっ…!!」

 

「ああーっと!ウォーズマン立ち上がったーっ!!」

 

実況の叫びと同時に歓声が上がる。

4度目になる彼の復活を観客たちは心から祝福していた。

 

(みんな…)

 

彼はボロボロになった自分のベアクローを見る。

彼の脳裏には多くの超人の姿が次々と浮かび上がっていた。

そして最後に…かつて共に戦った、ある親友の姿があった。

 

(ブロ…!!)

 

奮起と同時に、彼の体は動いていた。

ウォーズマンは体全体を使ってポーラマンの巨体を拘束していた。

パロ・スペシャルの体勢である。

 

「おおおおおおっ!!」

 

(バキボキベキィ!!)

(グワキィッ!!)

 

背骨の折れる音が全体に響き渡った。

しかし、これでは終わらない。

 

「パロスペシャル・ジ・エンドーッ!!」

 

(ダァァァン!!)

 

ウォーズマンは前のめりになったポーラマンの体をさらに地面へと叩きつける。

 

「パギャァァ~~~~~ッ!!」

 

決まった。彼の決め技であるパロ・スペシャルが華麗に決まった。

しかも、今までよりさらに進化した(カタチ)で…

 

(ドサァ!)

 

技の威力に耐え切れず、ポーラマンは倒れてしまった。

ウォーズマンの体を大きく上回る彼の巨体が、真っ白なリングの上に覆いかぶさる。

 

「あーっと!!最後の大一番はウォーズマンが決めたーっ!!」

 

(カン、カン、カン…)

「ワァァァァーっ!!!」

 

鳴り響くゴングと共に歓声を上げる観客たち。

 

(やった…やったよ、みんな)

(……やったよ、ブロッケンマン)

 

彼の眼には一筋の涙が溢れていた。

当初は最も友情から遠い存在であった彼が、衰えることのない友情パワーによって見事、完璧超人を打倒したのである。

 

天高くこぶしを突き上げ、勝利を噛みしめるウォーズマン。

その姿に、かつての弱気なオーラはもうなかった。

 

多くの友と、一人の親友の想いを引っ提げ、彼は戦い続ける。

ファイティング・コンピュータの戦いはまだまだ続くのであった…

 

 

 

                  -終わり-

 

 




後日譚

彼はこの戦いの後、ブロッケンマンの墓参りに行ったそうです。詳細なことはわかりませんが、彼とよく超人墓場の居酒屋で飲んでいたお酒をお供えしていたようです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。