ガールズバンドとのやかましい日常 (プリン好き紅葉064)
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入学初日

『レアキャラ男子オペレーター』とは別作書きました。
差し支えなければこちらもよろしくお願いします。


花咲川学園高校。 旧称花咲川女子学園。 数年前に女子校から共学の高校となった。 俺は今日からこの高校に通うこととなる。 しかし…

 

「共学になったとはいえやっぱ女子の方が多いな。浮きそう。 胃も痛い…」

 

比喩とかそういう類じゃない。 マジで痛い。

 

「ほら、シャキッとしなさい」

 

「無茶言わないでよ母さん。 この男女比で」

 

「まったくこの子は…とりあえず自分の教室に行きなさい」

 

「はーい」

 

仕方ない。 とりあえず俺の教室は…あったあった。

 

「えーっと ? 1 - C か」

 

とりあえず教室へ向かう。中に入ると、

 

(うわー女子ばっか。 男子なんて両手で足りるような数しかいない)

 

本格的に胃が痛くなってきた。とりあえず自分の席を探して座ると、躊躇なく突っ伏した。すると後ろから声をかけられた。

 

「あのー…大丈夫ですか ? 胃薬とかいります ? 」

 

「大丈夫です。 こういうこと見越してそういうのは準備してありますから。でもありがとうございます。えーと…」

 

心配してくれたのは嬉しいが彼女の名前を知らないから言葉が続かない。すると彼女は

 

「あ、私は奥沢美咲って言います。美咲って呼んでもらって構いませんよ」

 

「いや、初対面で呼び捨てはちょっと抵抗あるんでとりあえず奥沢さんで」

 

「まぁそれでもいいです」

 

「ああ、俺も名乗らなきゃ行けませんね。俺は「新入生、そろそろ入学式始まるから適当に 1 列で並んで」

 

「……あの…俺の名前この後自己紹介でもいいですかね ? 」

 

「あ、はい。 大丈夫です」

 

すっごく変なタイミングで呼びにきたせいでちょっと気まずくなってしまった。 ただ先生も悪気があったわけじゃないだろうから何も言えないんだよなー。

 

『新入生入場』

 

正直俺は入学式とか好きじゃない。なぜかと言うと単純に暇、眠い。 中学の入学式とか寝かけたし。そう思わなかったのは小学校の入学式くらいだ。校長の話も来賓の話も新入生代表挨拶もすべて聞き流した。ただただ眠気と戦っていた。

 

入学式も終わり教室へ戻ってくると先生が

 

「自分の席に名前入った教材とか置いてあるからそこに座って」

そう言われたので探したら案の定最初に座った席だった。

 

「私より五十音早いんですね」

 

そう言われた振り返ると奥沢さんがいた。

 

「俺ら最初から自分の席座ってたんですね」

 

「そうですね」

 

すると先生が

 

「それじゃあそっちから自己紹介してもらうね」

 

そう言った。

 

順調に終わっていき俺の番。 と言っても 5 番目だから「順調に」とか言う必要絶対なかった。

 

「あー井戸原蓮(いどはられん)です。 水汲んだりするあの井戸に原、蓮は植物のはすって字を書きます。趣味はパソコンとあとは楽器…ですね。よろしくお願いします」

 

パチパチパチ

 

俺と奥沢さんの自己紹介が終わって他の人がやっているなか、彼女が話かけてきた。

 

「井戸原ってあんまり聞かない苗字ですね。なんか珍しい名前の人って他の人と話す時なんか楽しそう」

 

「俺も親戚とか以外会ったことないので珍しいのは否定しませんが楽しそうってのはあんま分かりませんよ」

 

自己紹介を聞きながらヒソヒソと会話をする。

 

「それはそれとして、一応席が近いのでこれからよろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

「全員終わったね。それじゃあ軽くこの高校のことを説明したら校内を回るよ」

 

~~

「ほんとに軽かった」

 

「そうですね」

 

「要点だけまとめて話してくれたのはいいけどあそこまで簡単に終わるとは」

 

「でもその分多く校内回れるからいいじゃないですか」

 

「俺もう構造覚えたから別にいいんだけど」

 

「えっ ? 早っ」

 

すると先生が突然振り返って

 

「井戸原君と奥沢さんは知り合いなの ? 」

 

「え ? なんでそう思うんですか ? 」

 

「だって入学初日からそうやって会話してるとそうかなーって思うじゃん」

 

うんまぁ確かに。 俺でもそう思う。 でも

 

「「いえ。 今日が初対面です」」

 

「そうなの !? 」

 

「いやなんというか波長が合ったって感じですかね?」

 

「ふーんそうなんだ」

 

「先生が多分考えてるようなことはないですよ」

 

あとクラスメイト男子諸君そんな睨むな。別に俺が話しかけたわけじゃないから。 付き合ってるとかそういうのないから。

 

お昼の時間。 弁当を食べようとするとクラスメイトの男子の 1 人が話しかけてきた。

 

「なぁ井戸原、一緒に食わねえ ? 」

 

「いいよ」

 

「よっしゃ ! 俺高島鋼輝。 よろしく」

 

「知ってるよ。 聞いてたから」

 

お昼を食べ始める俺たち。 すると高島が

 

「なぁ蓮、お前なんでこの高校来たんだ ? 」

 

「早速かよ。お前他人との距離感が近いって言われねえか ? 」

 

「よく言われる」

 

「だろうと思ったよ。 お前それ女子にはやるなよ ? 近寄られなくなるぞ」

 

「身をもって知ってる」

 

「手遅れだったか。 逆に聞くが高島はなんでここに?」

 

「鋼輝でいいぜ」

 

「じゃあそうさせてもらおう。 改めて鋼輝はなんでここに来たんだ ? 」

 

「男女比で彼女できるんじゃないかと思って」

 

「それも女子の前で言うなよ」

 

「それくらい考える頭がなかったら自己紹介で言ってる」

 

「それもそうだな」

 

「それで蓮は ? 」

 

「確かに俺も少しくらい花がある方がいい。 でも 1 番の理由は通うのが楽な共学高校ここだったから。男子校は俺の性にあわん」

 

「なるほどね。 ところでさっきまで蓮と喋ってた奥沢さんがこっち見てるよ」

 

「え ? 」

 

そう言われた後ろを向くと確かにこっちを見ていた…ように見えたのだが気づけば別の方を向いていた。

 

 

~~奥沢side

お昼休みになりお昼を食べようと思ったら

 

「「おーくざーわさん。 一緒に食べない ? 」」

 

誘われたので

 

「はい、いいですよ」

 

了承した。

 

「敬語なんかじゃなくていいよー」

 

「うーん…分かった」

 

「奥沢さんってさー、ほんとにに井戸原君と初対面なの ? そんなようには見えなかったけど」

 

「本当だよ。 実際にあんまり話しにくくなかったし」

 

そう言って彼の方を見る。 なんか 2 人コソコソしてない ? ところで井戸原君は何話しているんだろう? そう思って聞き耳を立てていると、

 

「鋼輝でいいぜ」

 

「じゃあそうさせてもらおう」

 

と聞こえた。なんで !? 私の時は提案した通りに呼んでくれなかったのに…

 

「おやおやぁ ? 」

 

「これはぁ ? 」

 

何か不穏な影が動き出そうとしていた。

 

 

~~

「でもよー、入学初日から女子と喋ってるの蓮だけだぜ。その証拠に他の奴らちょっと睨んでるし」

 

「知ってて無視してんだから言うんじゃねぇよ」

 

「見た目の割に結構手が早いよな」

 

「人聞きの悪い言い方すんな」

 

「それに奥沢さんも」

 

「いやいやまさかまさか」

 

鋼輝とそんな会話をしながら俺はハンバーグを口に放り込む。

 

「いいなー。 どうやったらそんなすぐに女子と話せるんだよ」

 

「それまだ続いてんのかよ。だったらこの後クラス誘ってカラオケでも行けば ? 」

 

「それだ ! 」

 

何名案だみたいな顔してるんだよ。俺はそれくらいの結論にたどり着かないことにびっくりしてるわ。

 

「なぁ今日終わったらみんなでカラオケ行かねえ ? 」

 

『賛成 !! 』

 

「なんかもうクラスのリーダー見たくなってんな」

 

「蓮も行こうぜ」

 

「うーん、そうだなぁ…………………………………」

 

「………………………」

 

「……せっかくの機会だし、行くか」

 

「長いな ! 」

 

「盛り上がっているところ悪いけどこのあとは部活見学に行くよー」

 

昼休みの終わり頃になって先生が教室に来てそういった。

 

「先生それ昼休み突入する前に言ってくれません ? 」

 

 

~~

部活を見て回る。運動部は共学になったので増えたらしい。

野球部、サッカー部、バレー部、バスケ部、バドミントン部、卓球部、テニス部、剣道部、柔道部、弓道部。

文化部は

茶道部、吹奏楽部、科学部、将棋部

 

などがあった。 隣を歩く鋼輝が

 

「蓮は部活入るのか ? 」

 

「やるとしたらバスケ部だな。 中学の時も入ってたし。ほぼ幽霊部員だったのに何故か大会とかだとスターティングメンバーに入れられたし」

 

「お前中学どこだよ」

 

「ん ? 〇〇中」

 

「全国常連の超強豪じゃんか…」

 

「そういう鋼輝は ? 」

 

「俺はサッカーだよ」

 

「予想通りすぎて全然面白味がないな。 もうちょっと斜め上行けよ」

 

「おい ! 面白味がないって」

 

「 2 人とも静かに。 一応部活は来週から開始ね。 今日はやること全部終わったからこれで解散ね。帰るなりこのまま見学を続けるなり好きにしていいよ」

 

「よーしじゃあカラオケ行くか !! 」

 

「そうだな。あ」

 

「どうした ? 」

 

「あー、すぐ追いつくから先行っててくれ」

 

「分かった」

 

俺は準備をして職員室へ向かう。

 

「先生、アルバイト許可申請もらってもいいですか?」

 

「はいこれ」

 

「ありがとうございます」

 

職員室をでて玄関へ向かい靴を履き替えていると、

 

「アルバイトするんですか ? 」

 

「うわっ !! 」

 

声をかけられた。びっくりした~。 あれ ?

 

「奥沢さんカラオケは行かないんだっけ ? 」

 

「行きますよ」

 

「じゃあなんで」

 

「待ってたんですよ。道中 1 人は暇だと思うので」

 

「ありがとうございます」

 

2 人並んで皆がいるカラオケ店を目指して歩く。 なんか微妙に距離が近いのではとも思うが、他愛のない会話を繰り広げる。

 

「奥沢さんは何か部活やるんですか ? 」

 

「私はテニスをやろうと思ってます。井戸原君はバスケ部ですよね ? じゃあ時間があったら応援行きますね」

 

「ははは。 じゃあ俺も奥沢さんの応援行きますよ」

 

そんなことを話していると到着したので待ち合わせしている旨を定員に話部屋へ向かう。

 

「お待たせー」

 

「おーすってなんで 2 人で来てんの ? え ? 何 ? 先行ってろってそういうこと!?出会ったて初日なのに告ってきたの !? 」

 

俺はわざとらしく顔を背ける。

 

「え ? マジで ? 図星 ? 」

 

「先生にアルバイト許可申請もらってただけ」

 

「お前結構いい性格してるな」

 

「よく言われる」

 

ニヤニヤしながらそう返す。

 

「お前が 1 曲目歌え」

 

「あれ ? まだ誰も歌ってないの ? 」

 

「全員いなきゃ意味ないだろ」

 

なるほど。 そりゃそうか。 そう思いながら歌うものをを決める。まず最初はこれだろ。前奏が流れ俺は歌い出す。

 

 

~~奥沢side

井戸原君と高島君が話しているとお昼の 2 人が話しかけてきた。

 

「ねぇねぇなんで井戸原君待ってたの ? 」

 

「うーんなんでだろう。なんとなくって感じしかしないけど」

 

「ふーん。 でもなんか井戸原君てかっこいよね。なんか友達が井戸原君の中学の同級生から聞いたんだけどすごくモテたんだって。 校舎裏とか屋上とか呼び出せれて。

全部断ったらしいけど」

 

「奥沢さんもうかうかしてたら取られちゃうかもよ?」

 

「そんなんじゃないよ」

 

そんなことを言いながらも美咲の胸にはモヤモヤしたものがあった。

 

「あ、井戸原君歌うって」

 

彼が歌い出す。

 

(うわ上手 ! )

 

1 発目からものすごくハードルが上がってしまった。 クラス全員が聴き入っている。それほどの声だったのだ。 歌っている姿はすごくカッコイイとおもった。

 

 

~~

歌い終えてマイクを置く。

 

「なんでそんな上手いんだよ!」

 

「ハードルあげんなよ!」

 

「知るか !! 初手歌わせたのお前らだろ」

 

「絶対モテたろ!」

 

「確かに告白された回数とか覚えてねえや。 全員振ったのはたしかだけど」

 

主に男子からブーイングが飛んでいた。

 

その後はあの声を聞いた後だったので誰もパッとしなかった。

 

 

~~

「そろそろお開きだな」

 

「もうそんな時間か」

 

店を出て駅に向かう。その間とくに何もなかった。

 

「じゃあねー」「また明日」

 

電車通ではない人は駅前で別れる。

 

「あっち方面の奴いる ? 」

 

そう聞かれて俺は手を上げた。俺以外にもパラパラと見るみたいだ。

 

「そうか俺らこっちだからまたな」

 

「ああ」

 

同じ方面の奴らで電車に乗り話をするが、進むにつれ人が減っていった。 結局残ったのは俺と奥沢さんだけだった。

 

「奥沢さんどこで降りるんですか? 」

 

と聞くと「 2 つ先です」と帰ってきた。

 

「俺も同じです」

 

そう言うが俺は内心めちゃめちゃ焦っていた。なぜかと言うと彼女が少し不機嫌なようには思えたからだ。

 

駅に着いたので降りて、

 

「近くまで送って行きますよ」

 

と言うと

 

「大丈夫です」

 

と帰ってきた。 さすがに夜道で女性 1 人は危ないしそれで万が一何かあったら後悔しそうだからと言う理由で納得させた。その間、やはり機嫌は良くないままだった。

 

並んで歩いていると突然詰め寄られた。

 

「あの、どうして名前で呼んでくれないんですか ? 」

 

「え ? いや、だって初対面…」

 

「高島君は呼んでたじゃないですか」

 

「あー、そういうことですか ? そう言われるとなんででしょう」

 

「私のことも美咲って呼んでくださいよ」

 

「うーんそう言われましても」

 

「敬語もなしで。 私も止めるから」

 

「せめて奥沢。 これでいい ? 」

 

「はあ、仕方ないなー。 いいよ」

 

「ありがとう」

 

なんだろう。 さっきモヤモヤしていたのが少し晴れた気がする。 彼女自身はまだ気づいていない。

彼女の家が近づいたのでそこで別れる。

 

「じゃあね。 おやすみ」

 

「ああ、また明日」

 

そう交して俺は帰路を辿った。




呼んで頂いた皆さんからの評価が良ければ続きを書こうと思います。無ければただの読み切りになりますが。
ちなみに自分はバンドリやっていたのですがスマホのストレージ低すぎて一旦消す他無くなりました。ちゃんとバックアップはしてあります。機種変したら入れる予定です。
あとなぜこの話を美咲でやったかというと彼女自信がすごく安定してるからです。


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生徒会と部活とアルバイト

ごめんなさい。 結局書いてしまいました。
ちなみに4月にスマホをiPhoneに変えるのでそしたらまたバンドリやります。


「お茶どうぞ」

 

「あ、お構いなく」

 

入学式から土日を挟んだ月曜日の放課後。 何故か俺は…生徒会室に呼ばれた。ほんとになんで ?

 

「あの、なんで俺呼ばれたんですか ? 」

 

「心当たりはないですか ? 」

 

そんなことを聞いて俺の対応をしてくれているのは生徒会長の白金燐子である。ちなみにお茶を出してくれたのはわざわざ書記に志願したと言うクラスは違うが同じ

1 年。 1 - B の市ヶ谷有咲だった。 猫かぶってるのなんか、ちょっと、やめて欲しい。

 

「いえ、まったく…俺なんかやりました ? 」

 

「呼び出されるようなことやったんですか ? 」

 

「やってないから分からないんですよ。 あと、市ヶ谷 ? 猫かぶるのやめてくれない ? 」

 

「わかったよ。 それに呼び出されるならここじゃなくて職員室だろ」

 

そりゃそうだ。 それなら

 

「余計になんでですか ? 」

 

「ほんとに分からないのか ? 生徒総会であれだけのことやっといて」

 

「生徒総会………あーーーっ、なるほど」

 

思い出した。先週の金曜に開かれた最初の生徒総会。 そこで俺は 1 年生なのに…やらかした。おそらくわざとだろうが不備だらけの会計案を 1 度見ただけでその不備の箇所と内容をすべて洗い出したのだ。 なんでやっちゃうかなー。 潔癖症とまではいかないがその辺はどうも気になってしまう。

 

「で、俺にどうしろって言うんですか ? 」

 

「その、会計を…やってくれない ? 」

 

「それってつまり」

 

「生徒会に入ってくれない ? 」

 

なるほど。 だから呼ばれたわけか。

 

「別に断る理由ないですし、わかりました」

 

「これで会計ゲットですね」

 

「それじゃあ俺はこれで」

 

「え ? もう行くのか ? 」

 

「いや、入部届けの提出くらい行かせてよ」

 

 

~~

生徒会室をでて体育館に向かう。

 

(まさか呼び出されるとは…一応顧問の先生には話してあるから大丈夫かなぁ)

 

体育館まで来るとボールの跳ねる音がする。既に練習を始めているみたいだ。俺は扉を開ける。 が、誰も気づかない。

 

「失礼しまーす」

 

これでもだめだった。いいや。 先生のところ行こう。

 

「せんせー」

 

「遅かったな。 もう練習始めちまったぞ」

 

「思ったより長引いちゃいまして。 ああこれお願いします」

 

「はいよ。 集合ー」

 

その一言で音が止む。

 

「集合ーー !! 」

 

男子が少ないといえどなかなかいるな。

 

「彼は誰ですか ? 」

 

「遅刻した入部希望者です」

 

おそらくこの人が部長だろう。 なんでこんなに怒っているのかは知らんが。

 

「俺たちが全国に行く高校だとわかっているのか ? 」

 

「もちろんわかってますよ」

 

「じゃあなぜ遅刻したんだ ? 」

 

「え ? 」

 

俺は真顔を先生に向けて

 

「先生話してないんですか ? 」

 

真顔のままそう言う。

 

「とりあえず君を入部させる訳にはいかない」

 

「ぶふっ !! 」

 

真剣にそんなことを言うものだからつい吹き出してしまった。

 

「笑わせないで下さいよ。先輩にその決定権はないでしょう」

 

笑うの止められない。

 

「はーっはーっ。 じゃあ 1 on 1 でもやりますか ? 」

 

「いいだろう」

 

何様だこの人。 なんでこんなニヤニヤしてるんだ ? まぁ勝てるとでも思ってるんだろう。

 

「ルールはどうします ? 」

 

「10分間で多い方が勝ちだ」

 

「わかりました」

 

勝負は10- 0 で勝った。おそらくこの後練習するだろうしこんなので疲れるのは嫌だったから 1 分 1 点のペースで点をとった。

 

「みんなどうした ? 」

 

扉の方から声が聞こえた。その人物は、

 

「部長…」

 

俺が中 1 の時の部長だった。

 

「井戸原じゃないか。 そうかうちに来たのか」

 

「部長がいると知ってれば来ませんでしたよ」

 

「今、井戸原って言ったか ? 」とそこらじゅうから聞こえてくる。

 

「知っているのか ? 」

 

「中学の後輩だよ」

 

「お前〇〇中って言ったよな ? 」

 

「言った」

 

「そりゃ強いわけだ」

 

「うちじゃほぼ幽霊部員だったけどな」

 

「部長、次なんですか ? 」

 

「ん ? 次は…」

 

~~

「部長また部長やってんですね。 あれ ? じゃああの人は…」

 

「あいつは副部長」

 

「決定権どころかでかい顔する理由もないじゃん」

 

「もうすぐ新人戦あるから井戸原も練習行け」

 

「わかりましたよ」

 

 

~~

(あー疲れた。 初日からハードすぎるだろ。このままバイトなのに)

 

俺は心の中でため息を着きながらバイト先へ向かう。

 

「こんちわーす」

 

「あー。 井戸原君やっと来た。受付入って」

 

「わかりました」

 

~~

(んー暇 ! 誰も来ない。会計の資料でも作ってよ)

 

そう思ってパソコンを開きやろうとすると、

 

「すみません」

 

と声をかけられた。パソコンを閉じて顔をあげると赤いメッシュの入ったショートヘアで制服を来た女性がいた。

 

「予約していたってあれ ? 見ない顔」

 

「最近入ったアルバイトなんで」

 

「おーなかなかのイケメン。 メンクイとしては見逃せませんな~ひーちゃん」

 

「ちょ、ちょっとモカ///」

 

俺は苦笑いを浮かべる。

 

「やめろモカ。 困ってるだろ」

 

「巴~ !! 」

 

いや、あの

 

「ちょ、ちょっと静かにしようよ。 他のお客さんもいるし」

 

俺の言おうとしたこと言ってもらってありがとうございます。

 

「お名前お伺い致します」

 

「Afterglowです」

 

「After…glow…」

 

「はい。 では 4 番スタジオをご利用下さい。何かございましたら備え付けの内線電話でお申し付け下さい」

 

~ 4 時間後~

「まりなさん、スタジオの清掃終わりました」

 

「ありがとー。 今日はもう上がっていいよ」

 

「あ、じゃあ失礼します。お疲れ様でした」

 

夜の桜を見ながら家へ向かう。

 

「井戸原君」

 

「あれ ? 奥沢この時間まで部活か ? 」

 

「ううん。私はバイト。 井戸原君は ? 」

 

「俺もバイト」

 

「…あのさ、 1 つ聞いてくれない ? 」

 

「どうした ? 」

 

「私なんかバンドやることになった」

 

ん ? 聞き間違いか ? 今バンドやるって言った ?

 

「ミッシェルって言う着ぐるみに入って商店街でバイトしてたらさ、こころっているでしょ ? うちのクラスの弦巻こころ。」

 

「あの危なっかしい元気なやつだろ ? あいつに奥沢が誘われた ? 」

 

「正確には私じゃなくてミッシェルだけど」

 

「それって奥沢じゃないの ? 」

 

「確かに私だけどそうじゃなくて」

 

え ? 奥沢じゃなくてミッシェル ? でもミッシェル = 奥沢だろ ? どういう…

 

「奥沢から見て弦巻って精神年齢どのくらいだ ? 」

 

「高校に入れるからそれなりの学力はあると思うけど…園児位かな」

 

「なるほど。 中の人じゃなくてミッシェルをミッシェルとして認識してるわけだ」

 

「中の人っていうのやめて欲しいけどそういうこと」

 

「すまん。 それは…多分俺にはどうにも出来んな」

 

まぁ、できることがあったらどうにかしてあげよう。

 

それから色々話して別れて家に帰った俺はベッドに身を投げ出す。視線の先には俺を含め楽器を持った 4 人の写真があった。

 

「バンド…か」




井戸原蓮
結構面倒見がよく知らないうちに何かに首を突っ込んでいることが多々ある。 そうなったら基本本人たちでどうにかできるまで付き合う。がそのせいで自分の時間が全部消えることがある。 やりたくない事は絶対にやらない(学級委員長など)。 見た目の割に腹黒くいざと言う時は手段を選ばない。面白いこと大好き。 正論かますの大好き。 悪ノリ大好き。


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厄介の種とお人好し

もう 1 話の後書きガン無視


「やっぱり空とか飛んだら楽しいと思うの!!」

 

「こころん ! はぐみもそれ楽しいと思う!!」

 

「ああ…それはなんとも儚いね…」

 

「ふぇぇ~」

 

俺は今弦巻の家、通称弦巻邸にいる。 何故かって ? それは今日の朝に遡る。

 

「ねえ井戸原君。 」

 

「どしたー奥沢」

 

「今日こころの家でバンドの会議やるんだけど来てくれない ? 」

 

「なぜ ? 」

 

「いやー、なんか客観的な意見も欲しいなーと思って」

 

「ふーん。 まぁいいけど」

 

そして放課後に集まり、

 

「あら ? 蓮はどうしたの ? 」

 

「いや奥沢に頼まれて」

 

「そうなのね!!」

 

「この子あれだよね ? 生徒総会の」

 

「すみません松原先輩。 その話はホントに勘弁してください。 お願いします。このとーり」

 

「そんなに嫌なんだね…」

 

で、会議が始まり今に至る。俺は奥沢に顔を向ける。

 

「おい奥沢…顔背けんなこっち向け」

 

「なぁ、なんで巻き込んだ ? なんで ? 」(ムニィ)

 

「いひゃい」

 

「知らんわ。何だこのカオスな空間は。 しかもその原因の 3 人はもはや脱線してなおかつ破壊しながら止まることを知らない暴走列車じゃねえか…ホントになんで巻き込んだ ? 怒らないから言ってみ ? 」

 

「絶対怒るやつじゃん」

 

「いいから」

 

「だって… 1 人だと制御しきれないんだもん」

 

「黒服の人達見る限り何人いてもできてない気がするけど。 俺 1 人増えても変わらなく無いか ? 」

 

「こころに何させるか分からないんだもん」

 

かわいい顔して上目遣いしてくるんじゃないよ。 ちょっと揺らいじゃうだろうが。

 

「それじゃあ ! 」

 

「何か決まったの ? こころ」

 

奥沢がちょっと青い顔をしていたので無意識に手を伸ばして頭を撫でる。それにちょっと赤くなっていることには気づかない。

 

「蓮も一緒に飛びましょう!!」

 

「「!?」」

 

ちょっと待て。 何がどうしてそうなった。

黒服の人達に視線を向けるか…首を横に振る。どうにか切り抜ける方法を探すと時計が目に入った。

 

「あ」

 

「 ? どうかした ? 」

 

「そろそろバイトも時間だ」

 

「え!?」

 

「そろそろお暇するわ。 お邪魔しました」

 

「いえこちらこそお越しいただきありがとうございました」

 

「そうだ弦巻。 俺多分ライブやるにしてもバイト入るから一緒に飛ぶのは多分無理」

 

「それならしかたないわね ! 」

 

「じゃ」

 

そう言って弦巻邸を出ると

 

「薄情者~!!」

 

と言う奥沢の叫びが聞こえた気がした。

 

 

 

~翌日~

「おはよー奥沢」

 

「………」ぷいっ

 

「蓮おはよう。 どうした ? 喧嘩でもしたか ? 」

 

「おはよう鋼輝。 いや、俺も分からん」

 

「早く仲直りした方がいいぞ」

 

「わかってる…奥沢。 俺なんかやった ? 」

 

「………たの ? 」

 

「ん ? 」

 

「どうして昨日帰ったの ? 」

 

奥沢怖い。 マジで怖い。

 

「いや、まぁバイトがいい口実になったのは確かだけどホントにシフト入ってたんだよ~」

 

「手伝ってくれるって言ったのに途中で面倒になって私に全部押し付けて他の女の人との約束優先させて」

 

「蓮、さすがの俺でもそれはどうかと思うぞ…」

 

「待って ! 俺が悪かったから誤解招くような言い方やめてください ! 」

 

「じゃあ…まだ言いたいことあるから今日一緒にお昼ね」

 

「イエス,マム」

 

断れるわけが無い。俺はまだ死にたくない。

 

 

 

~~

そんなこんながあって昼休み。 俺は奥沢に愚痴と説教を受けながら中庭で昼飯を食っている。

 

「ホントにあの後大変だったんだからね」

 

「でも何も言わずにあれに巻き込まれた俺の気持ち考えてくれよ。なんかこう無差別抽出でデスゲームに巻き込まれたような気分だったよ」

 

「わからなくはないけど」

 

「あれ ? 美咲ちゃんに井戸原君 ? 珍しい組み合わせだね」

 

「あ、花音先輩こんにちは」

 

「ども」

 

「こんにちは。 何話してたの ? 」

 

「「お説教受けてます(してます)」」

 

「そ、そうなんだ」

 

松原先輩は少し困った顔をする。 すると

 

「あら花音 ? どうしたの ? 」

 

「あ、千聖ちゃん」

 

「千聖先輩こんにちは」

 

「こんにちは美咲ちゃん。 ところで彼は ? 」

 

「あ、はじめまして。 1 - C の井戸原蓮です」

 

「白鷺千聖です。 よろしくね。 」

 

本当ははじめましてじゃないけど。バレなくて良かったー。

 

「せっかくだからご一緒してもいいかしら」

 

「はい。 いいですよ」

 

結局 4 人で昼食になった。

 

「あの松原先輩。 あの後どうなりました ? 」

 

「うん、結局普通にやることになったよ」

 

「ホントだよ。 大変だったんだからね。 あ、それちょうだい」

 

「ごめんて。 」スッ

 

俺は無言で弁当を差し出す。

しばらくは言う通りにしておこう。

 

「すみません途中で出てっちゃって」

 

「ううん。 元々はうちのことだから」

 

「ありがとうございます。ねえ奥沢 ? そろそろ機嫌直してよ。放課後何か奢るから。時間あれば参加するから。役に立たないと思うけど」

 

「ホントに ? 」

 

「ホントに」

 

「じゃあ約束して」

 

「どっち ? 」

 

「どっちも」

 

「はい」

 

これで逃げられなくなった。

 

 

 

~放課後~

「で、どこ行きたい ? 」

 

「んーとね、あ、ここ」

 

そう言って着いたのは、『羽沢珈琲店』だった。

 

カランカラン♪

うん、俺の好きな雰囲気だ。やっぱこうやって落ち着いている方がいい。

 

店員が駆け寄ってくる。

 

「いらっしゃいませ。 2 名様で…あ ! 」

 

「ん ? ああ…」

 

「え ? え ? 」

 

その店員はついこの間CIRCLEに来た羽沢つぐみだった。 奥沢は俺たちが知り合いなのが意外なようで視線が行ったり来たりしていた。

「はっ ! カウンター席とテーブル席どちらに致しますか ? 」

 

「カウンターで」

 

「かしこまりました。 ご案内致します」

 

「ご注文お決まりしだいお声掛け下さい」

 

「知り合いなの ? 」

 

「バイト先で何回か」

 

「井戸原君どこでバイトしてんの ? 」

 

「ライブハウス」

 

「あの子もバンドやってるんだ」

 

「どんなか聞いたことはないけど。 そんなことより決まった ? 」

 

「うん」

 

「すいませーん」

 

「はーい ! ただいまお伺い致します」

 

「ご注文お決まりですか ? 」

 

「エスプレッソとシフォンケーキで」

 

「私はカフェラテとチョコレートケーキお願いします」

 

「かしこまりました。 少々お待ち下さい」

 

「カカオばっかだな」

 

「いいじゃん別に」

 

 

~~

「お待たせいたしました」

 

「ありがとうございます」

 

「すみませんいつも騒がしくしちゃって」

 

「いや、いつもご利用ありがとうございます」

 

 

 

「ああいう子がいいの ? 」

 

「俺彼女作る気ないし」

 

「タイプの話」

 

「俺が一緒にいて安心する奴。 お前とか」

 

「ふーんそっか」

 

「そろそろ帰るか」

 

「そうだね」

 

俺の奢りなので会計をして店を出る。

 

「ありがとうございました ! 」

 

「こちらこそ今後ともご贔屓に」

 

帰る時には奥沢の機嫌が直っていた。

なんか知らんけどよかった~。




iPhone早く欲しい。
ちなみに自分明日から新社会人です。


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危ない放課後

次から夏です。季節はしばらく無視


ある日の放課後、生徒会室。 俺は生徒会費の明細を作っでいた。

 

カタカタカタ

 

「へぇー。 市ヶ谷お前バンド組んだんだ」

 

「そうなんだよ。 香澄がしつこくてさー」

 

「その割には嫌そうに見えねえけど」

 

「うるせー///」

 

「はいはい。 それはそうともしもライブハウスで練習するなら連絡寄越しな。俺予約状況一括管理しててやろうと思えばねじ込めるから」

 

「じゃあその時は頼むな」

 

コンコン

 

「失礼します」

 

この声は…

 

「あ、紗夜先輩」

 

「会長ならいませんよ」

 

「用があるのは白金さんではなく井戸原君、あなたです。」

 

「 ? 俺ですか ? 」

 

「これを。 風紀委員会の委員会費明細です」

 

「あ、なるほど。 確かにいただきました」

 

「では失礼します」

 

~30分後~

「今日はこの辺にしとくか。 じゃ、俺バイト行くからあとよろしく」

 

「わかったー」

 

学校を出て歩いていると

 

「腹減った…時間あるし商店街寄ってくか」

 

先日奥沢に奢る際に商店街行きパン屋を見つけたのでそこへ行く。

 

カランカラン

 

「あ、美味そう」

 

「いらっしゃいませー」

 

「おおーこれはこれは」

 

「ん ? 青葉か」

 

パン屋で声をかけてきたのは青葉モカだった。

 

「どうしたの~」

 

「これからバイト行こうかと思ったんだが腹が減ったから向かいながら食うために寄った」

 

「なるほどー」

 

「お願いします」

 

「はーい…って君井戸原君 ? 」

 

「なんで知ってんだ ? 名乗ってないのに」

 

「あはは君学校の有名人だからね」

 

俺はその言葉で理解し落胆した。

 

「お前花咲か」

 

「うん。 私山吹沙綾。 よろしくね」

 

「ああ」

 

「ありがとうございましたー ! 」

 

 

~~

「それにしてもモカは井戸原君のこと知ってるんだね」

 

「ライブハウスでバイトしてるからねー。 何度か会ってるんだー。 それより沙綾ぁ、有名人てどういうことなのー ? 」

 

「実はね…」ゴニョゴニョ

 

「なるほどー。 それは凄いですなー」

 

 

~~

「ックシ。 ホコリかなあ。にしてもこのパン上手いな…また行こう」

 

ガー

 

「こんちわー」

 

「井戸原君」

 

「ちわっすまりなさん」

 

「うん。 じゃあいつもとこお願い」

 

「はい」

 

更衣室で着替えて受付に入ったら客が来た。

 

「いらっしゃいませー」

 

「あら ? こんなところでアルバイトしていたのね」

 

「氷川先輩と…あれ ? 会長 ? 」

 

「あ…井戸原…」

 

「お 2 人ともバンドやっていたんですね」

 

「紗夜、燐子。 知っているの ? 」

 

「はい。 私たちの後輩で生徒会の会計もやってくれています」

 

「そうなのね。それにしてもあなた。 どこかで見たような気がするのだけれど」

 

ギクッ

 

「もー友希那そんなわけないでしょ ? だって今日が初対面なんだよ ? あ、ごめんねー。 私羽女の今井リサ。 よろしくねー ! 」

 

「あ、はい」

 

そんなやり取りを交わして彼女たちは練習を始めた。

 

「あっぶなー」

 

小声でそう呟いた。

間違いなくあの人はバレたらめんどくさい部類の人間だ。 絶対隠し通そう。そう決めた。

 

 

~~

彼女たちは練習を終えロビーで休んでいる。そこで図らずとも会話が聞こえてきた。

 

「湊さん、何を聴いているのですか ? 」

 

「私たちの参考に出来ればと思って最近色々なバンドの曲を聴いているの。 今はエンドロールと言うバンドの曲を聴いているわ」

 

「それなら私も知っています。確か中学生で構成されたバンドにも関わらずFUTURE WORLD FESにも出場したことがあると言う」

 

「あこと同じ歳で!?」

 

「ええ。 でも昨年度に突然一時解散してしまった。 でも一時ということはまた再結成するということだと思うのだけれど」

 

「その当時中学生 3 年生でしたから今は高校 1 年生ですね」

 

 

~~

「井戸原君休憩入っていいよ」

 

「わかりました」

 

休憩と言っても正直今暇なので…ギターを弾いてた。そしたらまりなさんが入ってきた。

 

「井戸原君…それって…」

 

「まりなさん。 このことは黙っておいて下さい。 今度ちゃんと話すんで」

 

最悪だ…。

 

 

テレレン♪

 

市ヶ谷からメールが届いた。

 

『なぁ明日入れられるとこないか ? いつも家の蔵で練習してるんだけど急に明日使えなくなって』

 

『ちょっと待て』

 

『 4 時から 2 時間取れる』

 

『じゃあそこでお願い』

 

『はいよー。 入れとくわ』

 

 

 

~翌朝~

「何やってんの ? 」

 

奥沢が隣に椅子を持ってきて座る。

 

「ん~ ? ライブハウスの予約整理してる。 うち何故かDJの機材もあるから練習できるよ」

 

「なんでそんなのあるのさ…」

 

「知らん。 俺に聞くな。良ければ練習のために予約入れてやろうか」

 

「え ! そんなことできるの!?」

 

「予約管理してるの俺だから権利は俺にある」

 

「うーん落ち着いてできるところないしお願いしよっかな」

 

「なんかお前ら距離近くね ? 」

 

「いたのか鋼輝。 おはよう。 何が近いって ? 」

 

「おはよう。 嫌だから距離が」

 

「 2 人でパソコン見てんだから当然だろ」

 

「いやそうじゃなくて」

 

何言ってんだ ? じゃあなんなんだよ。

 

「お前ら付き合ってんの ? 」

 

「「いやまったく」」

 

「っていう感じだったぞ」

 

「あっそ」

 

「おい…」

 

 

 

~~

放課後、俺はバイトをしており、市ヶ谷たちがやってきた。

 

「井戸原~」

 

「ああなんだそこだっのか」

 

俺は市ヶ谷と山吹を見そういった。

 

「なんだってなんだよ」

 

「特に意味は無いよ」

 

俺は使用出来るスタジオを伝えて作業に戻る。

 

「ごゆっくりー」

 

~ 2 時間後~

「うーのどガラガラだよー有咲ぁ」

 

「ほらよ戸山。 これ飲め。それにしも歌いすぎだバカヤロー。 ボーカルならそれなりにしておけよ」

 

「アリガトー」

 

「井戸原君そろそろ上がっていいよ」

 

「わかりました」

 

俺は帰り支度をしてCIRCLEを出る。

 

「俺も最初の頃は声死ぬまで歌ったな」

 

感慨に浸りながら空を見上げると、星がひとつ流れた。




4月1日から初出勤なんですが2日目。 疲労による眠気とあえて闘いながら書きました。明日仕事休みなので。


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いざ海へ

前にも言った通りとりあえず季節無視です。とりあえず2年生まで持っていきたい。


ワイワイガヤガヤ

 

「ZZZ」

 

「有咲ー楽しみだね」

 

「ちょ、香澄暴れんな!!」

 

「まさかみんなで行くとはー。 ひーちゃん今年は大丈夫かな~ ? 」

 

「モカー。 もー」

 

「ジブンはどうも苦手っス」

 

「麻弥ちゃんしっかりして」

 

「でもるんっ♪て来るよね。 ねっ、お姉ちゃん ! 」

 

「まったく日菜は…でも私も楽しみにしているのは認めざるを得ません」

 

「あこもいっぱい遊ぶ ! 」

 

「ねぇ美咲 ! ミッシェルはどうしていないの ? 」

 

「ミッシェルは泳げないんだって。 だから写真持って行ってあげようこころ」

 

「美咲ちゃん…」

 

「でもミッシェル着てると泳げないのは確かなので」

 

俺たちは今バスの中にいる。ある場所へ向かうため彼女たち 5 バンドと一緒に

 

「皆様そろそろ到着いたします」

 

パチッ

 

「ん~~、あー。 すみません楽器のみならず俺たちまで」

 

「いえ、構いません」

 

弦巻家が用意したものによって。

季節は夏。 そして今は夏休みと言う 8 月真っ只中。

 

「みんな ! そろそろ出口だよ!!」

 

「だから暴れんなー ! 」

 

そんな時にトンネルの先で目にするものなんて 1 つしかない。そう、それは…

 

「海だー!!↑↑↑」

 

俺はと言うと

 

「海だぁ…↓↓↓」

 

もうちょい走ること数分。

 

「着いたー ! 」

 

全員がゾロゾロと降りていく。蒼い空、青い海。 そして鼻を抜ける潮の…か…おり…

 

グラッ

 

バンッ !

 

「い、井戸原君 ? 大丈夫 ? 」

 

松原先輩が心配して声をかけてくれる。 しかし…

 

「う…おぇぇぇぇぇ」

 

これだから海は嫌なんだ。 大丈夫。 吐き気はあっても吐いちゃいない。 だがなぜこんな所に来たのかと言うと話は夏休み前にも遡る。

 

 

 

~~

「サマーライブ ? 」

 

『おう』

 

CIRCLEのバイトの休憩中、叔父から電話がかかってきた。叔父は海の開いている間海の家をやってる。 ガールズバンドブームもあって今年はガールズバンドを呼んで夕方から夜にかけてライブをやる予定だったのだが…突如そのバンドが当日に予定が入り出られなくなったという。 俺はその時そんな二次元みたいなこと本当にあるんだと思った。

 

『どうにかできないか ? 』

 

「出来ないとは言わないけど…」

 

『お ! そうか。じゃあ頼む』

 

「あ ! まだやるとは…」

 

ツーツー

 

「仕方ない。聞くだけ聞いてみるか」

 

でも日をまたいで言うのめんどくさい。そう思って予約の確認をすると

 

「ん ? 」

 

彼女たちの今日の予約時間がブッキングしていた。

 

「んな都合いいことあんのかよ…」

 

彼女たちの練習が終わったあと聞いてみたのだが、全員が快く受けてくれた。やる日は 8 月14日だが、騙して14、15日の 2 日間と伝えた。多分遊びたいだろうから。

 

 

 

~~

こうして今に至る。

 

「さぁ ! 行きましょ!!」

 

「待て…先におぇ、荷物……確保」

 

すぐに捕まって戻ってきた。ちなみにさっきから奥沢が背中をさすってくれている。

最初にホテルに荷物を預け各々楽器を運び出す。

 

「れーん!!」

 

「おじさん…」さすさす

 

「悪かったな」

 

「ホントだよ。 こんなことじゃなけりゃ絶対に来てない」

 

「それにしてもべっぴんさんばっかだな。 誰かそうなのか ? 」

 

「…全員違う」

 

「ははっそうか」

 

「ところでステージは ? 」

 

「こっちだ」

 

叔父からに連れられてステージに向かう前に、

 

「ココ 5 つ取ってあるから練習と調整に使って。 完全防音だから周りも気にしなくて大丈夫」

 

「ありがとう」

 

「いえいえ。 むしろ叔父のわがままに突き合わせちゃってすみません」

 

こうして夕方からライブが始まった。

 

 

 

~~

サマーライブ。 まとめて言えば大成功だった。

 

「楽しかったー」

 

「ええ。 明日も頑張りましょう」

 

「 ? 何を言っているんだい ? ライブは今日だけだよ」

 

「え ? 」(×25)

 

全員が俺を見る。

 

「あ、うんライブは今日だけ。 でもせっかく海来たんだから遊びたいでしょ ? だから嘘つきましたー。つまり明日 1 日自由でーす」

 

「え ? 海を見るだけだと思ってたのに」

 

「水着持ってきてって言っただろ」

 

「騙されてるのかと思って…」

 

「上原お前持ってこなかったのか ? 」

 

「ある」

 

「あるんかーい」

 

「井戸原君」

 

「どうした ? 奥沢」

 

「その、ありがとう」

 

「あ、お前も遊びたかったのか」

 

ホテルに戻ってからまさかの風呂が 1 人。 貸切なので当然なのだが…

 

「弦巻家、恐るべし」

 

俺はそう呟いた。

すると

 

「井戸原くーん」

 

俺を呼ぶ声が聞こえた。女湯からだ。

 

「なんだー ? 奥沢ー」

 

「そっちどうー?」

 

「 1 人だからすげーおちつくー。 そっちはにぎやかそうだなー」

 

「うん。 特にこころとかすみがね。あーもーこころお風呂で泳がないの」

 

なんだろ。 弦巻が風呂で泳ぐの容易に想像出来る。

 

俺が風呂から上がると奥沢も出てきた。

 

「あ、上がったんだ」

 

「んー。 いい湯加減だった」

 

俺は風呂上がりのコーヒー牛乳を飲みながら答える。

 

「ほらよ」

 

小銭を放り投げる。

 

「好きなの買え。 奢ってやる」

 

「…ありがとう。 うーんどれにしようかなあ ? うーんフルーツ牛乳にしよう」

 

「するとゾロゾロ上がってきた」

 

すると戸山が

 

「あー ! ずるい ! いいなー」

 

と言ってきた。

 

「自分で買え」

 

 

~~

「じゃあまた後でね」

 

各々へ戻っていく。俺は部屋へ入ると電話がかかってきた。その相手は、

 

「もしもし、樹か ? 」

 

「そう、連絡出来なくてごめんね」

 

「いや別に。どうした ? 」

 

「どうしたって…落ち着いたら連絡しろって言ったの蓮じゃん」

 

「そういやそうだった」

 

「高校卒業したらこっち戻って来るんだろ ? 」

 

「うん」

 

「じゃあ頑張れよー」

 

「バイバイ」

 

ピッ

 

その後飯だったのだがめちゃめちゃ美味かった。さすが弦巻家…上原はおかわりしていたが、太るぞ…。 もちろん口には出さなかった。




次は2日目の海です。


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サマーマジック(そんな言葉があるのか知らない)

iPhoneに変えてバンドリを引き継いだけど全然感覚戻らない!このままじゃMISSとBADとGOOD連発してフルコンとれない!


俺がライブ日程を騙してまで作った2日目。彼女達は海へ繰り出していた。

 

「わーい海だ〜」

 

「おいこらまて。せめてストレッチくらいしなさい。足つっても知らんぞ」

 

「ねえ海にいて大丈夫なの?」

 

「ん?奥沢お前結構可愛いの着てんな」

 

「そ、そうかな?///」

 

「ああ。ちなみにもう慣れた」

 

「蓮!遊ばせてくれたお礼に私が一緒に遊びましょう!」

 

「悪気はないんだろうがなんか目線が上からだな」

 

「あ、こころそれいいね。行こうよ」

 

2人が俺の腕を掴んで連れていこうとするが、

 

ガッ!!

 

足に力を込めて絶対に動かんとする。俺はフルフルと首を横に降っている。

 

「井戸原君どうしたの?もしかして海入りたくない?」

 

「どうしたのー」

 

今井先輩が声をかけてくる。

 

「井戸原君が海に入りたくないそうなんですよ」

 

「えー?なんでー?」

 

「ベタつくんでいやっす」

 

「「女子か!!」」

 

2人同時にそうつっこんできた。

 

「なのでどうぞ俺のことはほっておいて遊んできて下さい。」

 

 

~~

各々が遊んでいる中俺はぶらぶらと歩いていた。

 

「なんかいい場所ないかな···そういえば」

 

そう思って探いていると奥沢とあった。

 

「お前遊んでたんじゃねえの?」

 

「ちょっと逃げてきた」

 

「ああなるほど」

 

「そういう井戸原君は?」

 

「俺はちょっと秘密基地的な場所に。一緒に行くか?」

 

「じゃあお言葉に甘えて」

 

そうして岩場を歩いていたのだが、

 

「痛っ!あっ!」

 

(やばい!このままだと落ちる!)

 

ガッ

 

グイッ

 

落ちるかと思ったが引っ張られた。なんだろうと思って目を開けるとそのまま見開いた。

 

「何やってんだ。気をつけろ」

 

彼に抱き抱えられていた。

 

カァー

 

私は恥ずかしくなって離れようとする。

 

「ご、ごめん大丈///痛っ!」

 

「どうした?」

 

「あ、足が」

 

「見せてみろ···あーさっき捻ったな。だとしたらこれ以上行くのは無理だ。戻るぞ。乗れ」

 

「え!?いや、でも···」

 

「どうせ歩けないだろ。嫌ならお姫様抱っこになるが」

 

「乗る」

 

 

~~

戻ってから応急処置などをしたがとくに問題はなかった。その後午後には帰る予定だったのでホテルをチェックアウトしてバスに乗り込む。帰りは遊び疲れたのかみんな寝ていた。俺は遊んでいないので起きてるが。

 

「隣いい?」

 

奥沢がきたがとくに問題もないし怪我もしているのでさっさと座らせる。

 

「今日はありがとう」

 

「それはどっちに対してだ?」

 

「どっちも」

 

「そうか。でもしばらくミッシェルやるのは無理そうだな」

 

「そこなんだよね。井戸原君やる?」

 

「冗談じゃない。それにたぶんすぐにバレる」

 

「確かに。こころだしね」

 

そこから沈黙が続き俺は声をかけた。

 

「奥沢?」

 

しかし返事は帰って来ない。すると、

 

コテン

 

肩に何かが乗ったかった。奥沢の頭だった。寝てしまったのだろう。とくにどかす理由もないので起きるまでそのままにしておいた。

 

「蓮君···ありがとう」

 

俺は少し驚いたがそのあと笑みを浮かべ寝顔を見ていた。

 

「で、いつまで寝たふりしてんの?」

 

静かな車内で俺はそういう。

 

「あれ、バレた?」

 

「バレた?じゃないですよ。むしろなんであんなのでバレないと思うんすか?今井先輩」

 

「いやー結構いい雰囲気だったから邪魔しちゃ悪いかなーって」

 

「別にそんな気遣いいりませんよ。おら市ヶ谷隠し通せると思うな」

 

「あちゃー」

 

「うるせーぞ」

 

 

 

 

~~

「そろそろ着くから起きろ」

 

「んっ」

 

「起きたか奥沢」

 

「あれ?井戸原君なんで隣に···あっ!」

 

「俺の肩枕にして寝てたんだよ」

 

「ごめん///」

 

「謝る必要ないけど」

 

「そっか···あ、着いたね」

 

バスを降りて一緒に帰る。

 

「乗れ。押してくから」

 

「うん」

 

「素直だな。さっきは断ろうとしたのに」

 

「じゃなきゃ井戸原くん帰らないじゃん。親呼ぶって言っても来るまで一緒に待ってくれるだろうし」

 

「さすがに夜に1人にするのは気が引けるから」

 

「昨日今日は楽しかったね」

 

「平和だった」

 

平和と言っても暴走組の制御が大変だったが。

 

「井戸原君結局1度も海に入らなかったね」

 

「そうだな」

 

「あ、ここだ」

 

「大丈か?」

 

「ここまで来たらね」

 

「そうか。それじゃあまたな」

 

「うん。また」

 

奥沢と別れて俺は自転車を漕ぎ生暖かい風を受けながら家路を辿った。




次で夏は終わりです。
なんか引き継ぎして見たらスターの数が1万2千くらいあってびっくりしました。感覚戻すために頑張ります。


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お約束

1年生の夏も終わりです。早いですね。(まだ4月だけど)


8月29日。今日はCiRCLEでアルバイトをしており、ポピパと珍しくハロハピの面々がいる。今は休憩中なのだが、パソコンで生徒会の仕事をしているのだ。俺はとくに何も考えずこんなことを聞いた。

 

「課題終わってるか?」

 

「終わってるよ」

 

「当然だろ」

 

同校1年から奥沢、市ヶ谷、花園、山吹、牛込は答えてくれたが戸山、弦巻、北沢の最も不安のあるやつからは返答が無い。

 

「弦巻?」

 

「終わってるわよ!何事も楽しまなくちゃ」

 

「うんらしくていいと思う」

 

「戸山と北沢は···やってないな?」

 

目を向けると2人とも目を背ける。

 

「夏休み中遊ぶか楽器引いてただけだろ。どうせ持ってるだろ。出しなさい教えてやるから」

 

「答えを?」

 

「やり方に決まってるだろ」

 

こうして俺の休憩時間は課題の手伝いに全て消えた。

 

 

 

~~

バイトが終わってから閉店まであと数時間あるので2人の課題の続きを手伝う。

 

「ひぇぇぇん」

 

「多いよ~」

 

「口

よりも手を動かしてろ···しっかしまぁよくここまでやらずにいられるもんだ。そんなことしたら後々泣く羽目になるの分かるのに」

 

「あたしらもそうなるだろうと思って終わらせといたんだよ」

 

「みんな迷惑じゃないの?宿題に付き合わせて」

 

「喋るなら手を動かしながらにしろ。終わらんぞ」

 

「そんなことないよはぐみ」

 

「え?大迷惑だけど」

 

「ちょ、井戸原君」

 

「最後まで聞け。でも結局のところ自分で首突っ込んだし。それに、最終日にほぼ終わってない状態で泣きつかれるよりは間違いなくマシだ」

 

「井戸原く~ん」

 

「だから手動かないと終わらないって言ってんだろ」

 

「でも多いよれーくん」

 

「なんだよれーくんて。はぁ、仕方ない。2人ともよく聞け。31日、夏休み最終日の12時までに終わらせることが出来たら···」

 

「「出来たら?」」

 

「帰りにケーキ奢ってやる。俺の自腹で好きなやつ。」

 

「「やる!」」

 

上手くいった。自論だが結局人のやる気を出させるのはもので釣るのが1番だと思う。言っちゃあ悪いがこの2人結構単純だから余分に効果があったわ。

 

「おい」

 

「なんだよ市ヶ谷」

 

「ほんとにいいのか?ケーキなんて」

 

「いいよ別に。なんなら高いとこだって大丈夫。金の使い道がないから溜まってく一方なんだよ」

 

「なんだよそれ。うらやましいような腹立たしいような」

 

「褒めても何もないぞ」

 

「褒めてねぇよ!」

 

その後も課題をやり続け最終日午前11時48分。

 

「終わったー!」

 

「お疲れ様。香澄ちゃん、はぐみちゃん」

 

「りみりんありがとー!」

 

「まさかあれだけの量を3日で終わらせるなんて···ケーキパワー恐るべし」

 

「井戸原くん!ほら終わったよ!!」

 

「よくできました」

 

「えー?それだけー?約束忘れてないー?」

 

「はいはいケーキはちょっと待ってろ。2時で仕事終わるからそれまでにどこ行きたいか考えとけ」

 

「わぁーい!」

 

「元気だねぇ。それに比べて手伝った側は酷いことになってるけど。そうだな···やっぱりそうするか」

 

 

 

~~

「決まったか?」

 

「色々考えたけど頑張ったからゆっくりしたいなーって思って羽沢珈琲店にした!」

 

「お前らも来るの?」

 

「さすがに甘いもの欲しい」

 

奥沢の言葉にみんな頷いている。

 

「じゃあ商店街行くか」

 

歩いていればみんな何を食べるか話し合っている。まぁ俺も食べるのだが···

 

「あ!」

 

「井戸原君どうしたの?」

 

「しまった。金下ろさないと奢れないわ」

 

「そう言って逃げる気じゃないよね?」

 

「疑うなら着いてくりゃいいだろ」

 

「じゃあ私が行く」

 

「だったら先行ってな」

 

 

 

~~

「ねぇほんとになかったの?」

 

「使わないからそんなに入ってないんだよ。この間本買って今財布の中千円ぽっちしかない。さすがにこれじゃ2人分でも無理だろ」

 

「そうだね」

 

奥沢が隣で笑っている。

 

「ああ着いた着いた」

 

カランカラン♪

 

「いらっしゃいませー、あ!来たね。みんないるよ」

 

「なんだまだ頼んでないのか」

 

「どうせ複数で来るならみんなで食べた方が美味しいよ~」

 

「わかったから落ち着いて座ってろ戸山」

 

「じゃあ」

 

「注文は···」

 

 

 

~~

「そろそろ帰ろうか。結局私達も食べちゃったし」

 

「そうだな。羽沢、会計頼む」

 

「ありがとうございます」

 

俺は席を立つと流れるように全ての領収書を取りレジへ歩く。

 

「あ、ちょ、自分の分は払うよ!」

 

「はっは。いいよいいよ。友達のために頑張ったみんなへ俺からのご褒美」ニヤリ

 

「えー」

 

「文句言わずに受け取っとけよ」

 

「···わかったよ。ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「太っ腹だね」

 

「うるさいぞ羽沢。在庫どころか材料無くなるまで食ってやろうか」

 

「それはちょっと見てみたい気もするけどさすがに困るな。はい150円のお返しです。ありがとうございました!」

 

「美味しかったー」

 

「食いすぎだろ戸山」

 

「だってケーキだよ!いくらでも食べられるよ~」

 

「いくらでもは無理だろ」

 

「えへへー」

 

そうこうしているうちに駅に着く。

 

「じゃあ徒歩組はここまでだな」

 

「ごちそうさま」

 

「どういたしまして。またな」

 

 

 

~~

駅に着き奥沢と帰っていると

 

「井戸原君、2人分のお金ないから下ろしたのって嘘だよね」

 

「なんのことだ?」

 

「さっきちらっと見えたんだよね。あれはどう考えても2人だけじゃなくて自分の分も払えるくらいあるって。でも本当は最初から私たちの分も払うつもりでそれにきずかれないように途中で下ろしたんじゃないの?」

 

「さぁどうかね」

 

俺はそう言って歩く速度を少しあげる。しかし奥沢はニヤニヤしながら

 

「顔赤いよ」

 

「うるさい」ムニー

 

「いひゃいっへ」

 

だって好きなやつの前なんて少しはカッコつけたいと思うでしょ。そんなことをいえば間違いなく質問攻めに会うから思っておくだけにした。




次から秋になります。やるなら文化祭とかかなぁ。他に思いつかない。
そういえばポピパのバンドストーリー3章のイベントが始まったのでとりあえずポイント報酬全部回収できるよう頑張ります。今までもそうだったので


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ちょっとした騒動

文化祭やります。(突然)
この話からですよ。


秋に入り風が涼しくなり始めた頃、ある日のお昼休みにお昼を食べていたのだが、

 

「なんか騒がしくね?」

 

鋼輝がそんなことを言った。

 

「言われてみれば確かに。どっからだ?」

 

「いや、わからん」

 

「まぁいいや」

 

とりあえずそれは無視してお昼を食べ続けた。

その放課後、珍しく勧誘の時以来に生徒会室に呼び出されたので向かった。扉を開けるとそこにいたのは···

 

「日菜先輩なんでいるんですか?」

 

「やっほー」

 

「来てくれてありがとうございます」

 

「日菜がなにか思いついたようで昼休みにアポイントメントなしで来たんですよ」

 

「ああ、それで騒がしかったのか」

 

納得がいった。ちなみに俺が”日菜”先輩と呼んだのは氷川姉妹が同じ場所にいたからだ。こうしないとややこしくなるから仕方ない。

 

「それでどうしたんですか?」

 

「あれ?市ヶ谷いつからいた?」

 

「最初からいた!」

 

「実はね」

 

よくこの流れから続けられるな。

 

「文化祭を合同でやりたいの!突然思いついてるんっ♪てきて」

 

「ようはやったら楽しそうだからと」

 

「その通り!」

 

「会長、どうしますか?」

 

「まずは先生方に相談しましょう。他校が関わると私たちの一存では決められません」

 

まぁそうだろうな。

 

「そうですね。では日菜、あなたも先生方にちゃんと話しなさい」

 

「わかってるよ、おねーちゃん!じゃあまたね」

 

バタン

 

「···相変わらず台風みたいな人だな」

 

「ごめんなさい」

 

「いや別に氷川先輩が謝ることじゃないっすよ。ねぇ会長」

 

「そうですね。それに実現すれば楽しいものになります」

 

うーんこれはどうなる事やら。

 

 

 

~~

「···ていうことがあってさ」

 

「それは大変だったね」

 

「そのために放課後も羽丘行かないかんし。何故か俺が」

 

「女子校なのにねあそこ」

 

朝から奥沢に昨日のことを愚痴っていた。夏休みが終わって席替えをしたのだが奥沢とは隣になった。

 

「とりあえず確定するまでは弦巻たちだけには知られちゃいけない。どうなるかわかったもんじゃない···」

 

「あはは、そうだ「蓮!」

 

ビクッ!

 

「ど、どうした?弦巻」

 

「文化祭を合同でやるって本当?そうだとしたら絶対楽しいわよね!?」

 

なんで知ってるんだ!?

 

「弦巻?」

 

「なあに?」

 

「それ、誰から聞いた?」

 

「?どうしてそんなことを聞くの?」

 

「いいから」

 

「香澄よ」

 

俺はその言葉を聞きスマホを取り出して、電話をかける。

プルルルルガチャ

 

「おい市ヶ谷!」

 

「ごめん!」

 

「口滑らせたな!?」

 

「う···つい···」

 

「こいつらにバレたらこうなることくらいわかるだろ。まぁもうすぎたことはいい。これ以上広まらないようにしときなさいよ」

プツッ

 

「弦巻それ誰かに言ったか?」

 

「いえ、まだよ」

 

「だったら誰にも言うなよ。まだ確定事項じゃないんだ。無くなる可能性もまだある。万が一楽しみにしてたのに無くなったなんてことになったらみんなから笑顔が消えるぞ」

 

「それは大変ね。じゃあ内緒にするわ!」

 

「そうしてくれ」

 

「井戸原君なんかこころの扱いが上手くなったね」

 

「まぁこんなもんだろ」

 

「でも羽丘に行くの井戸原君で大丈夫?」

 

「うーんまぁ向こうには湊先輩、美竹、宇田川がいるしこっちには氷川先輩と奥沢がいるからなにかやったら両方でお説教が待ってるからな。いなくても事案になるようなことはしないけど」

 

 

 

~~

放課後、俺は羽丘女子学園に赴いた。ほんとに俺でいいのか?

来てしまったものは仕方が無いので腹をくくって警備員に話しかける。

 

「すみません」

 

「はい、どうしました?」

 

「花咲川の井戸原です。話は通ってると思いますが···」

 

「井戸原さん···あっはい確かに。ではこの入校証を首にかけてお帰りの際にこちらでご返却下さい」

 

校舎内に入ると中を見回す。やはり花咲川とは違うので珍しく思ってしまう。学校から持ってきた上履きに履き替えると声をかけられた。

 

「あ、あの」

 

「ん?はい」

 

「どうして花咲川の方がうちへ?」

 

「私たちと少しお話しませんか?」

 

「あ、私も聞きたい!」

 

わらわらと人が集まって来て収集がつかなくなってしまった。するとそこへちょうどいい人が歩いてきた。

 

「せ!瀬田先輩助けて下さい!」

 

「ふふ、困った子猫ちゃんを救うのも運命と言うものか···」

 

なにかいろいろ言いたいことはあるが助かるならよしとしよう···

 

「あ!瀬田先輩よ!」

 

「本当だ!」

 

···とか思ってた時期が俺にもありました。瀬田先輩の登場で余計に人が増えた。

あの人に頼った俺が馬鹿だった。

すると突然手を捕まれ引っ張られた。誰だ?と思っていたが人混みを抜けるとわかった。

 

「ごめんね遅くなって」

 

「羽沢か。いや、助かった。俺マジであそこで死ぬのかと思ったわ」

 

「どういたしまして」

 

「しかしよくあの人混みの中入ってこれたな···あ、小さいからか」

 

「むー」

 

「あ!あの人いつの間にか!」

 

やべ!見つかった。

 

「羽沢!生徒会室どこだ!?」

 

「ここからだと少し遠いよ」

 

「お前案内しながら走れるか?」

 

「無理だよ!」

 

くっ!出来れば避けたかったが構造を知らない以上はこうするしか無い!

 

「ちょっと失礼」

 

「え?」

 

俺は羽沢の背中と膝裏に手をまわして持ち上げる。つまりはお姫様抱っこなわけだ。

 

「ちょ、ちょっとこれはさすがに恥ずかしいよー///」

 

「それは俺も同じだよ」

 

「そうは見えない!」

 

「悪いがそこまでかまってられない。お前を連れてあの集団から生徒会室に逃げるにはこうするしかない。だからこの状態で案内よろしく」

 

「もーー!」

 

 

 

~~

「みんなーなんか面白いものが見れるよー」

 

羽丘の廊下の一角、青葉モカは一緒にいた美竹蘭、上原ひまり、宇田川巴を呼んだ。

 

「どうしたのモカ」

 

「あれあれー」

 

その視線の先には

 

「あ、あれ井戸原···っていうか」

 

「つ、つぐがお姫様抱っこされてるー!///」

 

逃げる井戸原と羽沢がいた。

 

「み、みんな!井戸原君さすがに降ろして!」

 

「お前がいないと困るからやだ」

 

「······///」

 

明らかに告白とも取れる断り方をする。

 

「おー」

 

「きゃーー!ひゃーー!」

 

「ひまりうるさい」

 

「見ないでー!」

 

羽沢にはそれが自分がいないと生徒会室にたどり着けないからやだという意味なのはわかっているのだが、女の子としてはやはり多少そう思ってしまうのだ。

ちなみにこの光景は他の羽丘生である湊友希那、今井リサ、大和麻弥にも見られていて花咲川のメンバーに拡散された。

 

 

 

~~

「そこの部屋!」

 

羽沢がそうい言うので

 

バンッ!

 

扉を蹴り開けて、

 

バタン!ガチャ

 

鍵をかけて一安心し、扉へもたれかかる。

 

「わあー意外と大胆」

 

「氷川先輩、何がですか?」

 

扉を蹴り開けたことだろうか。

 

「そういうの良くするの?」

 

指差す方を見ると羽沢が

 

「そろそろ···降ろして///」

 

顔を真っ赤にしながら小さく呟いた。俺はゆっくりと彼女を降ろしたがまだ顔が赤い。

 

「いや、ほんとにごめん」

 

そう謝るが彼女は

 

「う~~~」

 

と赤い顔のまま唸りながらポカポカと殴ってくる。

 

「それで蓮君はよくやるの?お姫様抱っこ」

 

この人ほんとに度胸あるな。

 

「いえ、羽沢が初めてです」

 

俺がそう答えると羽沢は殴るのをやめてお茶の準備に取り掛かった。

 

 

 

~~

「で、これが資料です。うちの教師は結構乗り気なんですよね。」

 

「うちもそうだったよ」

 

「だとすると決定事項になるので早いうちに詳細詰めて言った方がいいですね。俺も会計として学園長を脅···と交渉して多めに予算を確保したので」

 

「今脅したって言おうとした?」

 

「聞き間違いでしょ」

 

嘘だ。実はこの間偶然ちょっとしたスキャンダルを手に入れたのでそれを材料に予算の増加をさせた。

 

「まぁこんなところですかね」

 

「そーだね。じゃあ私もお姫様抱っこして」

 

「なぜ?」

 

「私もやってもらいたいと思うんだよね。大体の女の子はそうじゃない?」

 

「そういうもんですか?まぁいいですけど」

 

そうして一通り満足してくれたあと

 

「じゃあ帰ろー!」

 

3人で玄関へ向かっていると

 

「あ、つぐだ」

 

「みんな!」

 

「おつかれ」

 

「うんマジで疲れた」

 

「あの後どうだったの?」

 

「井戸原くんの初めて取っちゃった」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「ちょっと井戸原どういうこと?」

 

「いや、特に何も」

 

「私2番目だよ」

 

「氷川先輩これ以上ややこしくしないでください!」

 

「ちょっとお話しようか」

 

「美竹、怖い」

 

この後、散々ありもしないことでお説教を受け誤解を解いた。そのあと羽沢の店で俺が売上に貢献することとなった。まぁ話し合いを始めた辺りから羽沢の機嫌が良くなっていたのはなぜだか分からない。

 

「ほらほらつぐー」

 

「ちょっとモカちゃん!どうして撮ってるの!?」

 

「でもつぐちょっと嬉しそうだよー?」

 

「~~~///」

 

ちなみに、今回の羽丘での騒動は後に羽丘お姫様誘拐事件と呼ばれるようになり、からかいと演劇のネタにされることとなった。




珍しく長くなった気がします。
映画楽しみですね。


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騒動の後

秋は文化祭で全部埋まりそう。


翌日朝、学校へ行くと羽沢を抱えて逃げる画像を見せられ氷川先輩に騒ぎを起こすなとめちゃくちゃ怒られた。青葉かと思ったがそうではなく今井先輩だった。なんで写真撮ってるんだよ···

 

「れーん」

 

教室へ入ると鋼輝が声をかけてきた。

 

「なんだよ」

 

「お前二股かけるのは何も言わないけど刺されないようにしろよ」

 

「は?どういうこと?」

 

何を言ってるのか全く分からない。

 

「とぼけるなよ。これ結構両校で出回ってるぜ」

 

それはまあ例の画像だ。

 

「それはとりあえず後で話すとして二股ってどういうことだよ」

 

「え?お前と奥沢さんうちの公認カップルだぜ」

 

「んなわけあるかー!!」

 

俺は鋼輝を揺さぶりながら怒鳴る。

 

「井戸原君私以外にもいたんだね···」

 

「うおっ!奥沢···」

 

「嫁が来た」

 

「そろそろ黙れ」

 

「そうだよね。私なんかよりも別の女の方がいいよね」

 

「乗らんでいい!大体それ誰にもらった···」

 

「え?薫さん」

 

クッソ!もうやだ。

 

「あれはもうほぼ事故だから」

 

 

 

~~

「それじゃぁそろそろ決めたいんだけどうちのクラスはお化け屋敷でいい?」

 

うちだけ進みすぎた教科の時間を潰して文化祭の出し物を決めた。なぜこれになったかは今にも血を見そうな感じだったので言わないことにする。

 

「じゃあ役割を決めていこう。演出を考えてくれる人いる?」

 

すっ

 

俺は手を挙げる。

 

「井戸原君やってもらっちゃっていいの?忙しいんじゃない?」

 

「いい息抜きになるから大丈夫。やる側もやられる側もトラウマになるようなものにしてやるよ」

 

「僕らにトラウマ植え付けるのは困るんだけどなんで?」

 

俺は真顔から少し笑みを浮かべて

 

「え?ムカついてるから」

 

と言った。もう全員後悔しても遅かった。

 

 

 

~~

放課後、バイトのためCiRCLEへ行くとまりなさんに呼び止められた。

 

「あ、井戸原君ちょうど良かったよ。実はパスパレのみんなが使ってる部屋の機材調子悪くって。ちょっと見てくれない?」

 

「わかりました」

 

一応作業着に着替える。

 

「失礼しまーす」

 

「あ!来たよ」

 

「どうしたんすか?」

 

「実は音が出ないのよ」

 

「なるほど···あースピーカーですね。これならすぐ直ります。大和先輩ちょっと手伝ってもらっていいですか?」

 

「はい!わかりました!」

 

2人で修理を始める。

 

「痛っ!あちゃー腕切っちゃいました」

 

「あーちょっと待ってください。えーとあったあった。とりあえずガーゼに消毒液染み込ませて拭いて、薬塗って、はい絆創膏」

 

「井戸原君、それは何?」

 

「自前の救急箱ですけど」

 

「大きすぎない?」

 

「まぁいろいろ入ってるんで」

 

「具体的には何が?」

 

「えーと包帯、当て木、三角巾、AEDとか」

 

「AEDは自分で持つものじゃないと思うけど···」

 

「心配性なんですよ俺は。そのせいで中学の頃歩く保健室とか言われました。おかけで俺がいる間保健室の存在意義を問われたほどですけど結局ずっといるわけじゃないから必要ということで落ち着きました」

 

協力してもらいすぐに終わったので動作確認のため1曲引いてもらいそのまま休憩となった。

 

「それにしても井戸原君はよくやるわね」

 

「千聖先輩何がですか」

 

「麻弥ちゃんから送られてきたの」

 

じとー

 

「面白いもの見たって」

 

「大和先輩···」

 

「でもお姫様抱っこって少し憧れますよね」

 

「大和先輩て見た目の割に乙女ですよね」

 

「私やってもらったよー」

 

「ど、どうでしたか?」

 

「楽しかった」

 

「麻弥ちゃんもやってもらったらいいじゃない」

 

「えええ!い、いや、ジブンは別に。迷惑でしょうし」

 

「いやそんなことないですよ」

 

「じゃあ少しだけ」

 

「失礼します」

 

「···見られてると恥ずかしいっす。///重くないですか?」

 

「いえ全く」

 

じーー

 

「な、なんですか?///」

 

「大和先輩って···機材とか触る割に肌綺麗ですよね」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「ち、千聖さんが薦めて来るので」

 

「ああ、どうりで」

 

「だって麻弥ちゃん、こうでもしないと。オシャレにすごく無頓着なんだもの」

 

「いやまぁかわいいと思いますよ」

 

「···///」

 

「それよりも井戸原君、ずっとそうだけど君は恥ずかしくないの?」

 

「人前は俺も恥ずかしいです。大和先輩結構美人ですし」

 

「よくもまぁそんな言葉がぽんぽん出てくるわね」

 

その言葉を聞いて反撃とばかりに大和は笑みを浮かべる。

 

「結構可愛いところあるっすね」

 

「降ろさなくていいですか?」

 

「それは困るっす!」

 

一撃で返り討ちにあった。

 

とりあえず彼女を降ろして話を変える。

 

「氷川先輩、文化祭の件どうなってますか?」

 

「バッチリだよー!」

 

「文化祭の件ってナンデスカ?」

 

「花咲川と羽丘の合同文化祭が正式決定したので。この間の騒ぎもその件です」

 

「なるほどね」

 

「井戸原君は何やるの?」

 

「俺は当時別の仕事があるので準備までですけどお化け屋敷です。演出担当」

 

「面白そうね」

 

「あの件でからかわれたのでムカついて脅かし役を押し付け合うような内容にしてやりました」

 

みんな苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

~~

夜、大和麻弥は自室でふけっていた。思い返すのは井戸原の言葉。

 

「ふへへ、かわいいか···」

 

めったにそんなことを言われない大和にとってそれは無防備で不意打ちに心臓を撃たれたようなものであった。




次回から合同文化祭スタート


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前夜祭から1日目

自分の高校の文化祭は本当に働き続けてた


「よし、接続完了。会長、氷川先輩いつでも始めて大丈夫です」

 

数週間後、合同文化祭の前夜祭が始まろうとしていた。

 

「これより、花咲川、羽丘の合同前夜祭を開催します。」

 

『みんなーお疲れ様ー!』

 

「それでは井戸原君改めて詳しい説明をお願いします」

 

「はーい。今年の文化祭、合同と言ってもそれは1部だけのものです。具体的には2校の中間地点にある総合体育館での演奏やライブ。また両校での謎解きスタンプラリー。ちなみに謎解きの問題は両校行かないと揃わず2日とも違う問題です。スタンプを押す場所はは両日ともにランダムで決まっています。また問題の答えは両校の受付しか知りません。後は花咲川、羽丘の両生徒は後夜祭があるから参加禁止。買い出しについてはレシートを受付に置いてある箱に入れといてください。当日中に返金します。予算はまだ残ってるので。万が一オーバーしてもまぁ大丈夫でしょ。これで説明はおわりです」

 

「どうぞ」

 

「それでは皆さん楽しんで下さい」

 

 

 

~~

「でもあの短期間で間に合うとはな」

 

「井戸原がそう立ち回ったんでしょ」

 

「過労死するかと思った」

 

「井戸原君」

 

「どうした?奥沢」

 

「カラオケ大会出なくて良かったの?」

 

「絶対やだ」

 

「あら、歌うまいの?」

 

「千聖先輩と···松原先輩」

 

「お疲れ様」

 

「花音先輩。そうなんです。井戸原君すごいんですよ」

 

「聞いてみたいわね」

 

「機会があれば」

 

「そろそろ終わりだな」

 

「そうだな···あ!」

 

「なんだ?」

 

「大事なこと言うの忘れてた」

 

「はい、マイク」

 

「ひとつ言い忘れてました。レシートの裏に学年クラス名前書いといてください。じゃないとお金返せないので」

 

それを忘れるなよ!と全員が思った。

 

 

 

~~

夜は明け文化祭1日目、俺は朝早くから両校の簡易警備システムのチェックをしていた。

 

「異常なし。動作チェックOK」

 

「おはようございます」

 

「あ、おはようございます。早いっすね氷川先輩」

 

「井戸原君の方が早いでしょう。なにかのチェックですか?」

 

「はい、さっき羽丘にもよってきたので」

 

いろいろやってるせいで大変なんだこれが。

 

「でもそろそろホームルームですよ?」

 

「え?うわ本当だ。じゃあ失礼します」

 

生徒会室を出て教室へ歩く。

 

「あー間に合った」

 

「どこにいたんだ?蓮」

 

「生徒会室」

 

「あー井戸原君警備総主任だもんね」

 

「なんでこうもめんどくさいことばっか俺に回って来んのかなー」

 

先生が入ってきて手短にホームルームを終わらせ各自最終準備に入る。俺は生徒会室に戻り警備システムを起動させた。

 

『皆さん準備はいいですか?』

 

『それでは、花咲川・羽丘合同文化祭の開催を』

 

それぞれの生徒会長の声が聞こえてくる。俺が一時的にマイクとスピーカーを繋げたからだ。始まる。俺の過労死寸前の努力の結晶が。

 

『『宣言します!』』

 

すると大勢の人が一気に流れ込んでくる。これは正直遊ぶ暇ないな。一応弦巻のところの黒服の方々にも協力して貰っているけど。

 

 

 

~~

体育館では彼女たちによるライブが行われようとしていた。

 

「楽しみだねー」

 

「まさかあたしたちが連続とはね」

 

「少し緊張するなー」

 

「どんなライブでも自分の音を奏でるだけよ」

 

「とーっても楽しい気がするわ」

 

「じゃあいってきまーす!」

 

文化祭1日目。ライブとともに大成功を納めたのだった。




巴誕生日おめでとう 


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2日目から後夜祭 

書くことない


合同文化祭2日目。少し早く羽丘に俺はいた。カメラの点検をしていると声をかけられた。

 

「おはよう」

 

「ん?羽沢か。おはよう。早いな」

 

「それは井戸原君もでしょ」

 

「そうでもしないと間に合わないからな。羽沢はどうした?」

 

「私は仕事」

 

「働きすぎると倒れるから無理すんなよ」

 

「それを君に言われるとは」

 

「どういうことだおい」

 

「みんな言ってたよ。働きすぎだって」

 

「今回のが終わったら寝るよ」

 

「もう···」

 

「よし、終わった。じゃあな今日もライブ頑張れよ」

 

羽沢と別れて花咲川へ戻る昨日同様点検をして教室へ行く。

 

「おはよう」

 

「おはよう···って酷い顔だぞ奥沢。昨日は散々弦巻に振り回されたみたいだな」

 

「なんで知ってるのさ···」

 

「見てたから」

 

「なんとかしてよ」

 

「無茶言うな」

 

すると放送が入る

 

『まもなく始めます。生徒の皆さんは準備をしてください』

 

「じゃ、おれも戻るか」

 

こうして始まった文化祭2日目。1日目は何事もなく終わったが、まさか2日目も無事に終わるはずもなく···

 

「おい!どういことだ!聞いてた話と全然違ぇぞ!?」

 

「そ、そう言われましても···」

 

「はいはいどうしました」

 

「どうしたもこうしたも···」

 

「なるほど。では場所を変えて詳しく話を聞きましょう」

 

空き教室に場所を移し話を聞くが、まぁ言ってことがめちゃくちゃだ多分自分の言ったことを理解していないのか質問すると矛盾した答えが帰ってくる。言いくるめても喚き続けるので俺は殺気をとばしながら言い放つ。

 

「これ以上迷惑行為を続けるなら、次に会うのは法廷になりますよ。俺、その辺は一切手を抜かないので」

 

「クソッ!帰るぞ」

 

「まぁなんの手も打ってないわけじゃ無いけど」

 

「あ?何言ってグエッ」

 

突然吹き飛んだ。

 

「てめぇら!何カタギに迷惑かけてんだ!?」

 

「あ、兄貴!」

 

「おそーい。連絡する前に来てよ」

 

「それは無理だろ」

 

「だよねー」

 

「おら!帰るぞ!」

 

一緒に連れてきた巻き込まれた生徒にこっそり頼んで呼んでもらったのだ。こんな人が来るとは思ってなかったのだろう。驚いている。

 

 

 

~~

「いいじゃん仕事なんか他の奴に押し付けて俺らと遊ぼうぜ」

 

一難去ってまた一難ってのはこれだな。

 

「困ります」

 

「えー?いいじゃん」

 

面倒だがこれも仕事なので介入するしかない。

 

「そこまでにしてくださーい」

 

「なんだ?お前」

 

「いや、普通にここの生徒です」

 

「関係ないやつは引っ込んでろよ。この子は俺らと遊ぶんだから」

 

「きゃっ」

 

「いででででで!」

 

「そこまでにしろって言っただろ」

 

気づけば組み伏せられていた。

 

「次に同じ場面見たら折るからね」と脅しをかけて解放し、また生徒会室に戻った。

 

 

 

~~

コンコン

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

「なんだ奥沢か」

 

「なんだじゃないよ。どうせお昼まだ食べてないんでしょ。たこ焼き買ってきたよ」

 

「そこ置いといて。後で食べる」

 

「それ絶対食べないやつじゃん」

 

「手が空かないんだよ」

 

「しょうがないな。そのままでいいから。はい」

 

「·········」

 

「はい」

 

「わかったわかった」

 

圧がすごいので仕方なく食べる。しかも今のは完全にあーんである。不完全でもあーんである。

 

午後は特に何もなく、文化祭は無事に終了した。この後は片付けてお楽しみの後夜祭である。

 

~~

「それでは後夜祭ビンゴ大会を始めまーす。まずはルール説明を。景品はSからCまで。ビンゴした人はこの5つの箱の中から1つ引いてもらいそこに書いてあるアルファベットの景品をあげます。回す回数は30回。ちなみにSと書かれた紙は2/5だけ。まぁ各箱に2枚ずつ星の描かれたものがあるのでそれを引いた場合、まず欲しい賞を宣言してもらいクイズに答えて貰います。不正解だった場合はそれよりもしたのものから選んでもらいます。それではスタート」

 

そんなこんなで始まったビンゴ大会。だが確率が低いSを誰も引けず、クイズに不正解して景品は貰えず。あっという間に30投が終わった。

 

「残念!誰もSは取れず。というわけでこのパソコンは貰ってくね」

 

とまぁそんなことを言うとくるわくるわブーイング。だが俺は黙らせた。

 

「だってこれだけ俺の自腹だし。持ってっても問題ないでしょ」

 

もちろん誰か引けば渡すつもりはあった。しかし引かなかったのだから仕方ない。

 

「それじゃああとは楽しんでよ」

 

ここからは体育館でパーティーである。

だが俺は1人で座って眺めていた。するとそこへ奥沢が近ずいてきた。

 

「はい」

 

「ん、ありがと」

 

食事を渡してきて俺の隣に腰掛ける。

 

「それにしてもここまで大盛況になるとはね」

 

「全くな(もぐもぐ)。ミッシェルで何やった?」

 

「もう思い出したくもない」

 

「はっはっはっ、災難だな」

 

「笑い事じゃないよ···」

 

しばらく沈黙が続き奥沢が口を開く。

 

「ねぇ井戸原君?」

 

しかし返事はない。

 

「井戸原君」

 

ぽすっ

 

膝の上に何か落ちてきたと思ったら彼の頭だった。すやすやと眠っている。

 

全くもう。と思いつつも小さく

 

「お疲れ様」

 

と言った。近くにいたヤツらは、イチャつきやがって!とか思っていた。

 

「あら?寝てしまったのですか?」

 

「あ、はい。なんか突然」

 

膝枕をしながら井戸原の頭を撫でる奥沢が氷川に答える。

 

「こいつの寝顔とか初めて見たわ」

 

「結構かわいいね」

 

市ヶ谷と戸山もいた。

 

「写真撮っちゃおー」

 

パシャッ

 

バレたら怒られるだろうなと思いながらも

 

「香澄、それ後で送っといて」

 

ついそう言ってしまった。

 

「しかしそれは仕方ありませんね」

 

「どういうことですか?」

 

「彼、これを提案した日菜以上に働いていたんですから」

 

「そういえば···」

 

「私の知っている限りでは、先生方の説得、予算の確保、わざわざ出向いて打ち合わせ。挙句には当日にトラブル対処等の警備です。最後の最後でこうなってしまうのも無理ありません。しかしこれは少し言うことがありますね」

 

「全く、頑張りすぎだよ」

 

来年は連れ回そうと思った奥沢だった。

 

 

 

~~

「井戸原君、そろそろ終わるよ」

 

「うーん」

 

「おはよう」

 

「これどういう状況?」

 

「寝落ちして倒れた」

 

「なるほど。であとどれくらい?」

 

「15分くらい」

 

「じゃああと10分くらい気持ちいいからこのままで」

 

「どうぞ」

 

後夜祭は終わりを迎え、同時に文化祭も終わる。5分前に準備を始め、2人の生徒会長によって幕は閉じた。

帰り道、

 

「あまり無理したらダメだよ?」

 

「したつもりないけど」

 

「後夜祭中ずっと寝てたのに?」

 

「う···」

 

そんな怒ったような困ったような顔をした奥沢を少しかわいいと思ってしまった。俺は笑いながら言った。

 

「できるだけ善処する」




次回は吹っ飛ばしてクリスマス周辺から


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関係(前編)

ポピパイベント終了して結果50000位くらいでした。


12月のある日の放課後、今日はとくに何も無いのでどうしようか考えていると

 

ガシッ

 

二箇所から襟を捕まれ引きずられていく。

 

「えっ?ちょ、何!?」

 

そう言っても奥沢はこちらを見ずに歩き弦巻はニコニコしながら歩く。

何を吹き込んだ!?いや、それ以前になぜこんなことになってんの?

引きずられ続けるのもあれなので離してもらい何か嫌な予感がしたので逃げ出す。が、微妙に服を奥沢につままれていた。無言で

 

「逃げるな」

 

と言わんばかりの笑顔を向けてくるの。後が怖いのでついて行くと弦巻邸についた。中に入るとほかのメンバーが全員いたが、奥沢は

 

「ちょっと井戸原君と話があるから先に始めてて」

 

そう言って俺を別室へ連れていった。

 

「座りなさい」

 

何故怒っているのかわからないが言う通りにする。だって恐いんだもん!

 

「最初に来てくれるて言ったきり1度も来てくれたことないよね?」

 

確かに言った。言ったけど行くつもりがなかった訳では無い。暇な時に会議がないだけだ。

 

「今月は何があるかわかる?」

 

そう聞かれて何があるかを考える。するとある日で止まった。それは24日、25日である。それで何を言わんとするかわかった。

 

「あぁー···クリスマス」

 

「そう。間違いなく暴走するから···参加してくれるよね?」

 

「ウィッス」

 

断れるわけがないのだ。

 

 

 

~~

そのあと会議を始めたのだがやはりクリスマス辺りに何をするかを決めることだった。しかしあーでもないこーでもないそれはできないと何ひとつ決まることはなくその日はお開きになった。

 

翌日の放課後、今日は夜まで用事がないことをどこから仕入れてきたのか俺は再び弦巻邸にきていた。···のだが

 

「それじゃあハロハピっぽくないでしょ!」

 

「だとしても危険だ!お前がそこまでやる必要はないだろ」

 

「ふ、2人とも落ち着いて」

 

あれだけ最初はバンドを拒んだ奥沢がハロハピのために頑張っている。それにはに驚いた。演出について話していたが彼女が出した案はハロハピっぽく、弦巻が好きそう。かつ奥沢への負担が大きいのだ。それを見かねた俺が反対するうちに互いが熱くなってしまい口論に発展してしまったのだ。簡単に言えば喧嘩である。

 

「もういい、俺はバイトに行く。じゃあな」

 

心配しているにも関わらずそれが喧嘩になり居心地が悪くなった俺は逃げるようにバイトへ向かった。

 

バイトの休憩中、まりなさんに声をかけられた。

 

「井戸原君、何かあった?」

 

「何もありませんよ」

 

「嘘でしょ。だって喋り方とかは変わらないけど雰囲気とかいつもより恐いよ」

 

「まりなさんには関係ないでしょ」

 

頭は少し冷えたのだが少し後悔しているのだ。傷つけたのではないかと。だから明日から顔を合わせづらい。だが間違ったことを言ったとは思っていなかった。

 

 

 

~~

モヤモヤしながらも学校に着くと鋼輝が挨拶をしてきた。「おはよう」と返し席に着く。しばらくすると奥沢がやってきて「奥沢さんおはよう」と挨拶するが、俺たちは目を合わせると互いにそっぽを向いてしまった。

なんとなく察した鋼輝は俺に

 

「お前、もしかして喧嘩したのか?」

 

俺は何も言わない。だが無言は肯定と受け取られ広まってしまった。無自覚にイチャついている2人でも喧嘩するのだと。でも本人たちは知らない。

そんな日が何日も続きクリスマスイヴ。ライブの日を迎えた。




冬は書くことがたくさんだ


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関係(後編)

仕事疲れるけど頑張ってます


12月24日クリスマスイヴ。今日はCiRCLEでクリスマスライブが行われる。喧嘩して以降弦巻邸へ行ってないのでどんなことをするか分からないのだ。だが何も言うことは出来ないのでただ見るしかない。奥沢が何をするか分からない。その証拠にほかのバンドの演奏が一切耳に入ってこないのだ。

しばらくするとハロハピの演奏が始まる。見ているとその演奏も演出もすごくいいものだった。そう思ったが一瞬、ミッシェルがぐらついた。誰も気づかなかったようだが確かに崩れそうになったのだ。多分脚をやったんだと思う。

 

演奏が終わって裏へ戻った直後、俺は迷うことなく奥沢のもとへ向かう。

 

 

 

 

~~

「美咲ちゃん凄かったね」

 

「たまたまできただけですよ」

 

私たちのライブが終わって戻ったあと、すごく足が痛い。花音先輩にも気づかれないようにしているけどすぐに何とかしたい。そう考えているとノックもなく扉が開いて誰か入ってきた。井戸原君だと気づいたが「何?」威圧的な言い方をしてしまった。だが彼はそんなことに構わず

 

「足見せてみろ」

 

と言ってきた。花音先輩は大丈夫だったが彼はごまかせなかったようだ。

 

「結構腫れてるな。ライブの後でまだ良かった」

 

と呟いた。花音先輩はすごくオロオロと心配していた。

 

「ここでやってもいいんだが弦巻たちがくるかもしれないな」

 

そう言って私を持ち上げた。この間みたいなおんぶではなく正真正銘のお姫様抱っこである。喧嘩しているはずなのに恥ずかしさとちょっとした嬉しさが込み上げてしまった。

 

スタッフルームへ行くと言うので向かっている途中、彼が口を開いた

 

「だから言ったんだ。無茶だって」

 

「だからって」

 

私はまた怒りが込み上げてきた。しかし彼が「でも」と遮る。

 

「俺はお前がやったあの演出がすごくいいと思ったんだ。べつにやるななんて言うわけじゃない。ただ危ないことをやって欲しくないだけなんだ。俺にはお前の考えが、お前には俺の考えが足りなかった。これで悪さは半々だな。でも俺も言いすぎたよ悪かったな」

 

その言葉を聞いて私は泣いてしまった。彼はただ私のことを思っていてくれたのだ。それがすごく嬉しいと思った。彼がオロオロしてまた謝ってくる。

 

「違うよ。私こそごめんね」

 

そう言って笑った。松原先輩は微笑んでいた。

 

 

 

~~

奥沢に応急処置をして一段落して椅子に座り込む。そういえばミッシェルに入る時の恰好は見たことがないので少しじっと見てしまう。その視線に気づき

 

「何?」

 

と聞いてくる。

 

「美咲ちゃんその恰好···」

 

そう指摘されて自分の姿を見て気がついた。体を隠し顔を赤らめて

 

「変態···///」

 

と言われた。

 

「いや、うん。ほんとごめん。珍しいからつい」

 

「変···じゃないよね?太ってないよね?」

 

「テニスやってるだけあって結構引き締まったいい身体してんなとは思った。それ以上もそれ以下もない」

 

そうして3人で他愛のない会話をする。そこで俺はあることを思いつき聞いてみた。

 

「奥沢、明日時間あるか?」

 

「あるけど···」

 

「じゃあ遊びに行こう」

 

いつも苦労している奥沢への労いだ。たまには羽を伸ばしてもいいだろう。

 

「じゃあ9時に駅前な」

 

そう約束を取り付ける。

 

そのあとロビーで出演したみんなと少し早いクリスマスパーティーをした。

 

 

 

~~

翌日のクリスマス。俺は駅前で奥沢を待っていた。あの後結構悶えたのだ。デートに誘ったと気づいてしまったからだ。だがその時にはもう遅かった。

 

「井戸原君」

 

後ろから声をかけられ振り向くと思考が止まった。奥沢だったのだが、その姿に衝撃を受けた。

 

「似合ってるかな?」

 

「うん」

 

いつも地味目な服を着る奥沢だが、今日は違った。落ち着いた色合いの服を着ていた。派手なものよりこういうものの方が良く似合う。

 

「でも結構珍しいな」

 

「井戸原君と遊びに行くって言ったらお母さん張り切っちゃって。夜に服を買いに行くほど」

 

「張り切ってその服をチョイスするあたりよくわかっているな」

 

「お父さんは何かすごい落ち込んでいたけど」

 

うん。これはあれだ。よく見るやつだ。

 

「行こうよ」

 

「そうだな」

 

そのあとは楽しい時間を過ごした。仲直りができたので余計に。買い物に行きたいと言うので、少し身構えたが彼女は思ったより長くなかった。

日が暮れて夜になった。

 

「お腹空いたね」

 

「うーん、夜のことまで考えてなかったからな。どうする?」

 

「どこでもいいよ」

 

「じゃあ近くのファミレスにするか。クリスマス感一切ないけど」

 

「あはは、そうだね」

 

カランカラン

 

「いらっしゃいませー、何名様ですか?」

 

「2名です」

 

「空いてるお席へどうぞ」

 

「何食べる?」

 

「私これ」

 

「じゃあ俺はこれとこれ」

 

それぞれ注文して来るのを待つ。

 

「井戸原君はどうしてライブハウスでバイト始めたの?」

 

「それをいまさら聞くか?特に理由はないけど」

 

「楽器でもやってるのかと思った」

 

「べつに弾けないわけじゃないけど」

 

そのあとは出てきた料理を食べて店を出た。少し歩くと

 

「綺麗···」

 

「ここってイルミネーションあったんだな」

 

「そこは君の方が綺麗って言わないんだ」

 

「彼氏じゃないやつに言われてもなんかあれだろ」

 

「そうでもないけど···」

 

何か言ったようだが上手く聞き取れなかった。

 

「そろそろ帰ろう」

 

「そうだな」

 

電車に乗り駅を降りて奥沢を送っていく。

 

「今日はありがとう」

 

「こちらこそ」

 

奥沢の家に着き家に入ろうとするが

 

「奥沢」

 

呼び止める。彼女は振り向き「何?」と聞く。俺は持っていた紙袋を差し出す。

 

「はい。メリークリスマス」

 

「ありがとう。実は私も用意してあるんだ。はい」

 

「開けても?」

 

「いいよ」

 

入っていたのは手袋。当たり障りのない実に奥沢らしいものだった。

 

「ありがとう。じゃ、また明日」

 

俺は家へ帰る。その帰り道、空を見上げると澄んだ空にたくさんの星が輝いていた。

 

雨降って地固まる。2人の関係の距離は1度大きく離れ、それ以上に縮まったようだった。

 




映画始まったから見に行かねば。冬はまだまだ続きます。なんせイベントが多い


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ほぼ脅し

お気に入りが増えていって嬉しい


クリスマスの翌日26日。

 

「おはよう」

 

「おはよう」

 

教室内が驚きに包まれる。仲直りしたからだ。

 

「仲直りしたんだな」

 

「あのままってのもなんだから」

 

少し落ち込んだような人たちがいるが、それには気づかない。その集団は井戸原と奥沢の隠れファンなのだ。だがそれでは終わらない。その日のお昼

 

「奥沢、口開けてみ」

 

「ん」

 

ぽいっ

 

「!! すっぱい!」

 

「あはは、そりゃ熟してないやつだからな」

 

「もー」

 

なんか喧嘩する前よりもイチャついていた。

 

「お前らこの土日で何があった?」

 

そう聞かれれば昨日遊びに誘ったくらいである。それを正直に話すことが野暮なことくらいわかってるので何も言わないが。

放課後、バイトでその休憩中、声をかけてくる人がいた。

 

「ここいい?」

 

「どうぞ。白鷺先輩」

 

「さっそく聞くけど君、美咲ちゃんと喧嘩したそうね」

 

突然そう言われて

 

「ごほっ!ゲホゲホ」

 

むせた。

 

「なんでそれ知って···松原先輩···」

 

「そう。花音から聞いたわ。でも仲直りしたしたみたいね」

 

「ええお陰様で」

 

「それはそうとひとつお願いがあるのだけど」

 

「嫌な予感がしますけど一応聞きます。なんですか」

 

「私たちに楽器を教えて欲しいの」

 

「···?弾けますよね?」

 

「ええ、人並みには。でもまたあの時のような醜態を晒さないためにももっと上達したいの。君引けるのでしょ?」

 

「いや無理ですよ。俺さわる程度なんで教えるなんてとてもとても」

 

「それは残念。でもいいのかしら。実は···」

 

そのあとの言葉を聞き俺は青ざめた。背に腹は変えられず白鷺先輩限定でやることになった。

 

「私の方が上手だったわね」

 

「くっそ!」

 

「それで明日はどうかしら」

 

「いいですけど仕事があるんで遅くなりますよ」

 

「構わないわ」

 

 

 

~~

翌日、生徒会室

 

「ぜんっぜん終わらねぇ!」

 

年末の仕事量舐めてたわ。まずい。シャレにならんくらい忙しい。でも約束を破るわけにもいかない。俺のためにも!

 

「終わっ···たぁ」

 

必死で終わらせた。これなら走れば間に合いそうだ。

 

「それじゃあ俺この後急ぎの用事あるんでこれで失礼します」

 

白金先輩と市ヶ谷に挨拶をして学校を出て走る。

 

「間に合った」

 

「遅かったわね」

 

「ギリギリですいません」

 

「時間前だから問題ないわよ。それじゃあ始めましょう」

 

こうして時間の限り教え続けた。

 

さらに翌日、二学期終業式。何故か奥沢に迫られた。話を聞くとCiRCLEから出てきたところを見ていたらしい。しかしそれはそんな時間に何してたんだと問いただすことで有耶無耶にできた。

 

白鷺先輩に知られた秘密。いつか、まさかあんなことで彼女たち秘密を知られることを、彼はまだ知らない。




冬休み突入(もう4月終わる)


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謹賀新年

ドリフェス来ねえかなぁ···そろそろ来るかなぁと思ってた


元日の神社。俺はあまり人混みが好きでは無いのだが

 

「ハッピースマイルイヤー!」

 

「ちょっとこころ落ち着いて」

 

「お姉ちゃん!あっち行こー」

 

「日菜待ちなさい」

 

「あっちおもしろそー!」

 

「ちょ、香澄引っぱるな!」

 

「帰りてぇ」

 

「井戸原君、調子悪いなら帰ればいいのに」

 

「奥沢、お前それわかってて言ってるだろ」

 

遡り午前0時5分

 

 

 

~~

ピリリリリリガチャ

 

「もしもし」

 

「もしもし蓮。あけおめ」

 

「はいはいあけおめ。で、どうした?」

 

「初詣行かね?」

 

ブチッ

 

切った。

 

ピリリリ

 

「なんだよ」

 

「なんで有無を言わさず切るんだよ!」

 

「行きたくないから」

 

「行こーぜー」

 

結局折れた。

 

 

 

~~

ったく。なんで正月に出かけなきゃ行けないんだよ。

 

「れーん」

 

「遅せぇ。あと30秒で帰ってたとこだぞ」

 

「ひでぇ」

 

知るか。

 

「あれ、井戸原じゃん」

 

「おーほんとだー」

 

名前を呼ばれて振り返るとそこに居たのはAfterglowの面々だった。

 

「あけましておめでとう」

 

「ハッピーニューイヤー」

 

「ああ、あけましておめでとう」

 

「お、お前···」

 

なんか鋼輝がプルプルしている。どうした?

 

「こんなかわいい娘たちと知り合いなのかよ!」

 

一瞬でも心配した俺が馬鹿だった。

 

「誰?」

 

「始めましモガっ」

 

めんどくさいので口をふさぐ。

 

「喋るオブジェみたいなもんだから気にすんな」

 

「それはそれで気になるけど···」

 

「そんなことよりお前ら2人足りなくね?」

 

「え?1人だよ」

 

「俺の目には3人しか映ってないが」

 

「あ、つぐみがモカの後ろに隠れてる。巴は太鼓があるから」

 

「あ、ほんとだわ。どうした羽沢。顔少し赤いぞ。熱あんのか?」

 

「井戸原君があんなことするからでしょ!」

 

全く心当たりがない。

 

「あれだようちの学校来た時の」

 

「···あーあれかってもう2ヶ月経ってるけど」

 

「まだ2ヶ月だよ···」

 

「蓮あんなことって「はいはい行くぞー」

 

「じゃあな」

 

まぁこれだけで終わるはずもなく。

 

参拝を終えておみくじ引いて帰ろうと思ったが、

 

「あー井戸原さんだ!」

 

「あら、奇遇ね」

 

「やっほー」

 

湊先輩たちがいたのだが、おそらく俺の顔はすごく歪んでいると思う。

 

「会ってそうそう失礼な顔ですね」

 

「何かあったんですか?」

 

「氷川先輩、白金先輩。べつに皆さんに会ったことではなくこの後に起こることに関してです」

 

「この後?」

 

「氷川先輩、白金会長、あけましておめでとうございます。で、蓮。この美人たちだぐふっ」

 

みぞおちに肘を叩き込んで鋼輝を沈める。

 

「正月にまで仕事を増やすんじゃねえよ」

 

よしこれでしばらくは大丈夫だろ。

 

「井戸原君」

 

「うわ!···って花園かよ。背後から声かけるのやめてくれ」

 

「ごめんごめん」

 

ん?花園がいるってことは···

 

「おたえちゃん待ってー」

 

「お前らが待て」

 

やっぱりいたわ。なんでこうもわらわら集まってくんだ。

 

「市ヶ谷お前体力無さすぎだろ」

 

「うるせー」

 

「あ、友希那先輩!あけましておめでとうございます!」

 

「ええ、あけましておめでとう」

 

「こっちよ!」

 

なんだなんだ。今度は何が来た。

 

「こころ待って」

 

なるほどもう説明いいや。

 

「あら?蓮じゃない!」

 

「あ、本当だ」

 

「蓮!あけましておめでとう!」

 

「おめでとう」

 

おい、せめて返事を聞け。言うことだけ言って興味をべつに向けるな。

 

「はぁはぁ、あけましておめでとう」

 

「おめでとう。大丈夫···ではないな。ほらこれ飲め」

 

「ありがとう」

 

「にしてもハロハピは正月からにぎやかだな」

 

「あ、おねーちゃんだ!」

 

「日菜!」

 

「もう日菜ちゃんたら」

 

「紗夜さんを見つけた途端に走り出しちゃいましたからね」

 

「白鷺先輩、丸山先輩、大和先輩どうも」

 

「あら、いつからいたの?」

 

「最初からこの集団にいましたよ」

 

それよりも少し気になっていた。

 

「奥沢、北沢たちどこいった?」

 

「え?そこにいるよ」

 

目を向けるとそこには、戸山と弦巻と北沢がいた。

 

「あれ不味くないか?」

 

「うんあたしもそんな気がする」

 

「香澄!はぐみ!おみくじ引きに行きましょ」

 

「うん!」

 

「そうしよう!」

 

「ちょっと待て暴走組どもー!」

 

市ヶ谷、奥沢と共に3人を抑えながら今年も退屈しなさそうだなと思った。

 

ちなみに鋼輝は完全に忘れてて置いて帰ったので今度飯を奢ることになった。




明日からドリフェスが来るぜー!スター5万まで貯めたかったけど仕方ない。


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また?

6月に映画の続編やるらしいから楽しみ


1月15日、冬休み終了2日前。バイトは休みだが用事があったのでCiRCLEに来ていた。そこには珍しく。ポピパ、ハロハピがいた。その光景に少し不安を覚えた。デジャヴだ。俺は声をかけてすわる。そして切り出した。

 

「お前ら今回は課題終わってるよな?」

 

「あ!」

 

「またか!またなのか!」

 

「手伝ってー」

 

「はぁ。今回も休み明けたらまたテストがあって言うのに······ああーテスト」

 

「あら、奇遇ね」

 

「あ!友希那先輩!こんにちは」

 

「こんにちは。ところで彼はどうして項垂れているの?」

 

「休み明けのテスト···です」

 

「そういえばありましたね」

 

「でも、勉強苦手じゃないですよね?」

 

「はい」

 

「あーそういえば」

 

ここで奥沢が口を開く。

 

「休みの前に ”次のテスト全教科赤点とりそう” って言ってました」

 

「どういうことですか?」

 

「気になったので聞いてみたら井戸原君曰く ”全教科テスト範囲が奇跡的に苦手分野になってる” って言ってました」

 

「ならばなぜアルバイトを入れているのですか?」

 

「いろいろあって失念してました」

 

「うちのこころがごめん」

 

「いやいいよべつに」

 

「しかたありませんね。あなたの勉強、私が見てあげます」

 

「い、井戸原君には助けられているので私も協力します」

 

「いや、悪いっすよ」

 

「でもこのままだと大変でしょう?」

 

そうなんだよなぁ···

 

「それじゃあ、よろしくお願いします」

 

俺は頑張った。ちなみに戸山と北沢は間違いなく俺の倍以上は頑張っていた。課題やってないから当然だ。泣きながらやっていたが自業自得だろ。

 

 

 

~~

休みは明けテスト当日。

 

「あーいやだー」

 

「いや勉強したんでしょ?」

 

「したよ。でも自信があるわけじゃない。とりあえず赤点取らないようにはするけど」

 

こうして始まったテスト。基本五教科を一日ぶっとうしでやった。マジでキツかった。

 

キーンコーンカーンコーン

 

「お、終わった···」

 

「おつかれ」

 

「死ぬかと思った」

 

「できた?」

 

「やれるだけやったけど結論いえば知らん」

 

「おーい蓮」

 

「どうした」

 

「テストどうだったー?」

 

「自信ない」

 

「俺もー」

 

 

 

~~

テスト返却日

 

井戸原 蓮

国語 : 87

現社 : 91

数学 : 90

化学 : 96

英語 : 88

 

「普通に高得点!」

 

「うわぁこれは予想外」

 

「裏切り者!」

 

「何がだよ鋼輝」

 

「自信ないとか言っときながらいい点取ってるじゃねーか。何した!?」

 

「···頑張った」

 

「なんだコイツ」

 

放課後はそのままバイトへ向かった。

 

「こんにちはー」

 

「来たわね」

 

「どうだったのですか?」

 

「赤点はとりませんでした」

 

「回避どころか全教科平均点超えてますけどね」

 

「すごい···!」

 

今日は半日だったので3時で上がり、みんなで帰る。

 

「それにしてもまさかあんなことになるとわね」

 

「それもこれもすべて井戸原君の努力の賜物ですよ」

 

「井戸原?」

 

すれ違った女性がそう呟いた。それには気づかない。しかし彼女は振り返って

 

「もしかして···蓮くん?」

 

俺の名を呼んだ。




突然現れた女性は一体何者なのか。明かされる蓮の過去。再び因縁の相手に立ち向かい、蓮はピンチに陥る。彼女たちに迫る不穏な影。果たして彼女の運命は、蓮は一体どうなるのか!?

※この予告は最初の二文以外関係ありません。


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過去と正体

前回の続き


「もしかして蓮君?」

 

そう言われて俺は身体が震えた。俺を「蓮君」と呼ぶ人はそう多くないししかも女性の声。この声はよく知っている。今絶対会いたくない人のうちの1人だ。振り向いては行けないと思いそのまま逃げようとするが

 

ガシッ

 

「逃がさないよー」

 

ダメだった。

 

「君は都合が悪くなるといつも逃げ出すからね。捕まえるのが大変なんだよ。それはそうとして蓮くん。少し、お話しようか」

 

そう言われて俺は顔を青くしながら頷くしかなかった。

 

しかも「あなた達もどう?私に聞きたいこととかあるでしょ?」というもんだから余計に逃げられなくなった。途中から人が増えたせいでもう完全に諦めた。

 

 

 

~~

その後予定はなかったが羽沢の店へ行くことになった。ちなみに代金は全額俺持ちになった。仕方ないけど。店に入ると見知らぬ女性と一緒にいたせいか羽沢が目を丸くしていた。

 

「で、なんの用ですか中津さん」

 

「みんな急にごめんね。初めまして、私は中津 梨恵。これでも声優やってまーす」

 

「いや無視しないでくださいよ」

 

「それと井戸原君にどんな関係があるんですか?」

 

うーん聞くだろうとは思ったけど聞いて欲しくなかったなー奥沢ぁ。

 

「うーん。彼もね、うちの事務所にいたのよ」

 

「えーー!?」×20

 

「それが突然いなくなっちゃって。律儀にその時収録していたものは最後までやってあったし、事務所にある私物は全部置いてあったからそのうち戻って来るのはわかってたんだけど···」

 

「だったらほっといて下さいよ」

 

「ち、千聖ちゃんは知ってた!?」

 

「落ち着いて彩ちゃん。最初に見た時はどうしてこんなところにいるのかと思ったけど」

 

「前に映画で共演しましたもんね。見た目変えてたからバレてないと思ったんだけどなー」

 

「うふふ、私の目は誤魔化せないわよ」

 

そう言って笑顔を浮かべた。

怖ぇ···

 

「あ、あの」

 

「なあに?」

 

「中津さんは確かNFOのキャラクターボイスもやってましたよね?」

 

「え?そうなのりんりん」

 

「そうだよー。あ、やってる?MFO」

 

「は、はい。実は」

 

「あ!あこもやってます!」

 

「そっかそっかー。じゃあちょうどいいかもね」

 

その言葉に俺を含め全員が頭にハテナを浮かべる。

 

「蓮くんさっき何の用かって聞いたね」

 

「ええ」

 

「実はね、この間社長のところに電話がきたの。どこだと思う?」

 

「どこってそんなの分かるわけ···」

 

うんちょっと待て。さっきこの人ちょうどいいとか言ったな。ってことは

 

「もしかして···」

 

「その通り。MFOの制作会社でーす」

 

「うわ」

 

「2人はさあMFOのなかで良くも悪くも一番反響の大きかったイベントって覚えてる?」

 

「え、えっと確か『災厄をもたらす王の降臨』だったと思います」

 

「正解。あれはねーストーリーはいいんだけどその後のクエストがすごいんだよね」

 

「イベントボスの龍帝ディストグレイヴは1パーティー限定クエストなのにレイドボス並の強さだったもん。あことりんりんは頑張って2人で倒しました!」

 

「すごいっすね」

 

「ソロで倒した君が何言ってるの」

 

その言葉に俺は目を逸らした。

 

「ど、どうやって」

 

「や、ドラゴンキラースキル持ちの装備で固めたら行けるのではという安易な考えで······そんな目で見んでください」

 

なんかすごい呆れたような目で見られた。

 

「でね、ネタバレすると今度その後第2弾のイベントをやるらしいんだけどディストグレイヴのCVをやってるのが蓮くんなんだよ」

 

「それで帰ってこいと」

 

「だって社長が誰でもいいから見つけたら連れて来てって私たち全員に言うんだもん」

 

「出来れば嫌です」

 

「なんでー」

 

「自分が何やったか自覚あるんで合わせる顔がないです」

 

「井戸原君」

 

「何奥沢」

 

「悪いことした自覚があるならむしろちゃんと会って謝った方がいいんじゃない?」

 

ドスッ

 

「うぐっ」

 

「それにもう高校生なんだからそんな子供みたいなこと言わないの」

 

グスッ

 

「ごはっ」

 

耳とこころが痛い···

 

「みんな俺に厳しくない?」

 

「全面的に井戸原君が悪いと思う」

 

「それ言われたら何も言えない」

 

「でも······」

 

「言い訳しかしない井戸原君はあたしは嫌いかな」

 

チーン lll_ _ )

今日一効いた

 

「わかりましたよ。行けばいいんでしょ」

 

「わーいみんなありがとー。今日は奢りだよ。蓮くんの」

 

「最初からそうじゃないすか」

 

「じゃあ蓮くん。明日の放課後事務所来てね」

 

 

 

~~

数日後、生徒会室。

 

lll_ _ )

 

「おーい大丈夫か?」

 

「大丈夫なわけあるかー」

 

「この土日に何があったんだよ」

 

「島原さんに」

 

「それも事務所の?」

 

「そう。買い物1日付き合わされて夜はオシャレなレストランで食事をしながら·········延々とお説教」

 

「うわぁ」

 

「まだ残ってるからな。こんなのまだ序の口だわ」

 

俺は遠い目をして、高校卒業したら絶対に復帰しようと思った。




次はバレンタインかなー多分


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バレンタインの憂鬱

バレンタインに何か貰ったのなんて高校でクラスの女子と元カノだけだわ
(ノロケではない。むしろなぜ元カノのことでノロケなくてはならない)


2月13日、事務所。

 

「井戸原くーん」

 

「なんですか白木さん」

 

「はいこれ。1日早いバレンタインチョコ」

 

「······あざっす」

 

バレンタインチョコ。その言葉に俺は一瞬顔を歪めた。明日はバレンタインなのだがあまり気は乗らない。まぁうちの連中は気が気ではないだろうが。俺はバレンタインにいい思い出はない。色々あったのだ。しかし彼女はニヤニヤしながら頑張ってと背中を叩いてきた。人の気も知らないでまったく···

 

 

 

~~

翌日

「おはー·········ってお前下駄箱で何してんの?」

 

学校へ来ると鋼輝が何やら自分の下駄箱を覗き込んでいた。

 

「い、いやべつに何も」

 

「誤魔化せると思うなよ大方チョコの1個くらい入ってないかなとか思ってたんだろ」

 

「ギクッ」

 

「口で言うな口で」

 

「そういう蓮はどうなんだよ」

 

「知るかよ。今来たばっかだろうが」

 

「開けたらバサバサーみたいなのないんかね」

 

「あるわけないだろそんなこと」

 

ガチャ

 

バサバサー

 

「······」

 

「······」

 

「あったな」

 

バサッ

 

ポイポイ

 

俺はその言葉を無視して袋に放り込んでいく。

 

「いや何ちゃっかり袋用意してんだよ!」

 

「高校ではないと信じたかった」

 

教室へ入ると案の定鋼輝は机の中を漁り始めた。

 

俺はやっぱり入ってた。

 

「おはようってすごいね量」

 

「ああおはよう奥沢。これから貰うものといらないものの選別するところだ」

 

「なんでまた」

 

「中学の時からそうだけどたまに食えないものが入ってる時あるからな。手作りはマジで信用出来るやつのしか受け取らない。ちなみに食えるけど舌を殺しに来るやつとかあった」

 

「それ以前によく怒られなかったね」

 

「うちの中学は何故かその辺甘かったからな」

 

「ふーん。じゃああたしたちの手作りはいらない?」

 

「ちゃんと信用してるのでいただきます」

 

その後、生徒会室で市ヶ谷からポピパの分、白金先輩からRoseliaの分を貰った。またCiRCLEではAfterglowとパスパレの分も貰った。なんか今年は一段と多い気がする。ちなみに事務所の先輩からも貰った。

 

 

 

~~

さらに翌日

「なー蓮お前結局昨日何個貰ったー?」

 

「そういう鋼輝は」

 

「0」

 

「俺たしかだいたい70くらい?全部食ってないけど」

 

「爆ぜろ」

 

「やだ」

 

 

~~

放課後

「やっほー蓮くん。昨日はどうだったかね。気になる子からは貰えたのかい?」

 

「ほんとになんなんですか勘弁してくださいよ」

 

「それじゃあお返し楽しみにしてるよー」

 

「それが目的なんじゃ···」

 

ちなみにホワイトデーには事務所にはケーキバイキング奢って。みんなには無難にクッキー作って渡した。何故か今井先輩に拗ねられた。




1年のまとめになります。次


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やかましかった1年

なんか終わりそうなタイトルだけど終わりません


3月中旬の終業式。俺たちは1年生を終える。終業式の校長の話は寝て聞き流した。

 

教室に戻ると俺は奥沢と1年間を思い返していた。

 

「色々あったねえ」

 

「ぶん回された記憶しかねえ」

 

「あはは、確かに」

 

「夏は海行って」

 

「井戸原君浜辺で寝るか走るしかしてなかったね」

 

「意地でも入りたくない」

 

「ハロウィンも仮装して」

 

「何故か瀬田先輩の怪盗ハロハッピーに対して俺は何故か探偵コスチュームだったし」

 

「うんでも結構似合ってたよ」

 

「やめてくれマジでホントに」

 

「クリスマスも喧嘩しちゃったけどいい思い出だよ」

 

「自分で言っときながら顔赤くしてるの気づいてるか?俺だって恥ずかしいんだよ」

 

「でもプレゼントしてくれた羊毛フェルトのキットは大事に使ってるよ。ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

俺は恥ずかしくなって話題を変える。

 

「そういや体育祭も結構やばかったな」

 

「主に井戸原君がね」

 

そう言って体育祭の出来事を思い出す。

 

 

 

~~

「だるい」

 

「まったくそんなこと言って」

 

「そうだよ!楽しまなくちゃ」

 

「戸山お前いつからいた」

 

今日は体育祭が行われる。これでもかという快晴の下で俺は日陰で座り込んで話していた。

 

「でもそろそろ始まるよ」

 

「隙を見て帰ろうか」

 

「いやダメでしょ」

 

 

~~

開会式では今市ヶ谷が選手宣誓を終え最初の競技までの休憩時間。

 

「ねえ、そういえば井戸原君も選手宣誓の候補じゃなかった?」

 

花園がそんなことを聞いてきた。

 

「授業中に寝てる俺より他には良い奴いますよと先生に進言しといた」

 

「サラッと押し付けてるし!」

 

俺は「何当然のことを」と言わんばかりの顔をする。みんな呆れていた。

 

その後徒競走が始まり北沢が圧倒的な速さを見せてきた。

 

「リレーやばいかもしれん」

 

「白組アンカーだもんね」

 

徒競走が終わり玉入れに入る。うちからは俺、奥沢、花園、牛込がいた。

 

「あたしと牛込さんが集めてそれを花園さんにパスして」

 

「それを私が·····並べるの?」

 

「台無し!」

 

何やってんだあいつら。

 

始まってうちの玉がドンドン入ってく。なんなんだ花園あいつ。メカか何かか。勝った後にそんなことを言ったら奥沢に。

 

「バスケのダンクみたいにやって一度に何個も入れてた井戸原君がそれを言っちゃいけない」

 

と言われた。疲れた。

 

 

~~

お昼

 

「うわ何それ」

 

俺の弁当の蓋を開けるといたのはミッシェルの頭のおにぎりだった。

 

「わーミッシェルだ!」

 

「かわいー」

 

「どゆこと?」

 

奥沢にそう聞かれ何故この弁当にいたったかを話し出す。

 

「いやなんか昨日の夜に弦巻から電話かかってきてミッシェルがミッシェルのミッシェルとミッシェルミッシェル言うからさ。その後次は北沢からもかかってきて同じようなこと言うもんでさ、今日起きて弁当作ってたらミッシェルが頭から離れなくて気づけばミッシェル弁当になってた」

 

「えーー?」

 

「すごい」

 

「お前のところのオっちゃんみたいなウインナーもあるぞ」

 

「ほんとに!?」

 

そんなこんなで談笑しながらお昼を食べ午後の部が始まる。

 

 

~~

「納得いかねぇ」

 

午後一のプログラムは一年のダンスなのだが知らないうちに俺1人によるブレイクが埋め込まれていた。どういうこっちゃ。

 

「まあまあ。ところで井戸原君次借りもの競争じゃないの?」

 

「そうだった。行ってくる」

 

『それでは借りもの競争を始めます。位置について、よーい』

 

パァン

 

始まった。箱から紙を出してお題を確認する。

 

『お世話になっている人』

 

ものって人の方かよ。どっちにしよう···

 

『おぉーと!白組の1人の動きが止まった!』

 

うーんでもこっちかなあ。俺は結論を出し再び走り出した。

 

『と思ったら自身の陣地へ走り出した!』

 

俺は目的の人を見つけて声をかける。

 

「白金先輩、一緒に来てもらっていいですか?」

 

「わ、私ですか?わかり···ました」

 

『連れてきたのは生徒会長!一体お題はなんなのか!』

 

「白金先輩大丈夫···じゃなさそうですね」

 

あまり運動は得意ではないのだと思う。仕方ない。やりたくないけど。そう思いつつも彼女の腕を握り浮かせて横抱きにする。この時点で4人目のお姫様抱っこである。よく聞けば周りの、主に女子から黄色い悲鳴が上がっている。

 

白金先輩もその白い肌では目立つほど顔を赤くしていた。

 

「すみません。ゴールするまで我慢していただけるとありがたいです。」

 

俺も恥ずかしがりながらそう言った。

 

『なんと会長をお姫様抱っこ!?なんと大胆な!イケメンかよ!!』

 

実況してる奴ノリノリだな。まあ俺はそのまま1着でゴールした。

 

 

「イケメンかよー」

 

帰って来るなり花園にそうからかわれた。

 

「やめい」

 

「イケメンカヨー」

 

怖い怖い。奥沢、お前はなんで棒読みなんだ。

 

 

~~

色々終わって残るはリレーのみ。俺は北沢と共にアンカーをやる。始まりは白組優勢。そのままアンカーへ渡る。

 

「行けー井戸原ー!」

 

応援は嬉しいけど今はやばい。玉入れで調子乗ったのが今更来てる。しかし北沢も迫ってる。数秒後にとうとう並ばれラストスパートに入る。

 

『さぁ赤組が白組に並んだがなかなか抜かせない!しかし白組も離せない!』

 

足が結構やばい状態で走り抜き結果は···

 

『えー只今の結果、ビデオ判定により···赤組の勝ち!!』

 

「だあああああ!!負けたー!」

 

「おつかれ」

 

「ほんとだよ」

 

こうして体育祭は幕を閉じた。

 

 

~~

「普通に悔しい」

 

「まあ来年がんばろうよ」

 

「うあー」と言って奥沢の膝に頭を乗せる。

 

「おいそこの夫婦」

 

「「誰が夫婦だ。それ以前に付き合ってすらいねえ(ない)よ」」

 

「息ピッタリじゃねえか」

 

ちなみに、体育祭で彼が白金さんをお姫様抱っこした時に私がちょっとモヤッとしたのは内緒だ。

 

 

 

~~

「あったねえそんなこと」

 

「2年生はどうなるのかねえ」

 

「知らねえ···けどまあ多分退屈はしないと思う」

 

「そうだね」

 

「今年と同じ行事に+で修学旅行あるしな」

 

「そういえば。どこ行くんだろう」

 

「んーまあ極論楽しけりゃいいけど」

 

俺は2年生もなんだかんだで楽しみにしている。




へーい次から2年生になるよー


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再びやかましい日常の始まり

2年生はちょっと書きたいことがあります。


新学期。俺は今日から2年生で後輩も入ってくる。いつも通り家を出て学校へ向かう。ちなみにクラス替えもあるので少し楽しみだ。

え?春休み?いつもの長期休暇と同じだったから特に言うことは無い。

 

学校に着くとクラス替えの紙が貼られていた。

 

「えーと?俺は···Aか」

 

見てみると知った名前も多々あった。前と同じやつ。鋼輝とかあとは···葵かぁ。え?そんなやつ知らない?中学が一緒の奴だよ。

 

俺は新しい教室に入る。すると

 

「あーりさー。一緒のクラスだよ」

 

なんか知った声がした。

 

「わかってるから抱きつくな香澄!」

 

まだいた。

 

「落ち着きなって戸山さん」

 

もう1人いた。言わずもがな戸山と市ヶ谷と奥沢である。探してないから知らんかったわ。

 

「おーす蓮。また同じクラスだぜー」

 

「見たから知ってる」

 

「はっすー」

 

「よっす葵。同じクラスになんの中学以来だな」

 

「そうだねー」

 

こいつが葵。本名 荻野葵。女っぽい名前だがれっきとした男である。

 

「誰だ?」

 

「中学から一緒の葵」

 

「なるほど」

 

「で、こっちが去年も同じクラスの鋼輝」

 

「ほうほう。よろしくこっきー」

 

「こっきーって」

 

「こいつは基本こうだぞ」

 

「はーいみんな始業式行くぞー」

 

先生が来たので始業式へ向かう。ちなみに案の定俺は秒で寝た。戻ってきて自己紹介したが面白みはないので省く。ちなみに席は五十音順の関係で市ヶ谷と奥沢に挟まれる形になった。

 

 

 

~~

昼の時間になったら俺、奥沢、市ヶ谷、戸山に加え鋼輝と葵の6人で食べていた。

 

「それにしても結構な顔ぶれだね」

 

「まあ俺は市ヶ谷と一緒になったの嬉しいけどな」

 

「ななななんだよ突然!///」

 

「いや生徒会関係の相談が楽になるから。なんで顔赤くしてんだよ」

 

「なんでもねーよ!そういうことかよ」

「まぁそれはいいとして今年は弦巻がいないから楽かと思ったんだかなあ」

 

「あー香澄いるもんな」

 

「?」

 

当の本人は気づいていないようだ。

 

「葵くんは今年も同じだね」

 

「そうだねー」

 

「ところで市ヶ谷」

 

「なんだ?」

 

「放課後生徒会室行くか?」

 

「そのつもり」

 

「そうか」

 

その後は教科書を購入して終わりとなった。

 

「んじゃ行くか」

 

「そうだな」

 

 

 

~~

うう、緊張する。また生徒会入ってくれるかな?

 

そんな不安を胸に抱えつつ生徒会長の白金燐子は昨年度までいた2年の教室前の廊下を歩いていた。

 

「あ!燐子先輩!どうしたんですか?」

 

「あ、戸山さん。あの、市ヶ谷さんと井戸原君はいますか?」

 

それに答えたのは戸山でなく奥沢だった。

 

「あの2人なら10分くらい前に生徒会室に行きましたよ」

 

私は目を開いた。まるでここに来ることを見越したようなこうだった。

2人にお礼を言って生徒会室に向かう。扉を開けるとそこでは2人が仕事をしていた。

 

「あ、こんにちは」

 

「白金先輩お疲れ様です」

 

不安だった。2人にはとても助けられた。だからこそまた一緒にやりたかった。だからこそ怖かった。断られるのではないかと。でも違った。2人は元々誘わなくてもまた私と一緒にいてくれるつもりだったのだ。私は嬉しくて泣いてしまった。

 

2人はぎょっとして慌てた。

 

「ちょ、燐子先輩!?」

 

「ど、どうしたんですか?俺ら何かやりました?」

 

ギィ

 

その時扉が開いた。

 

「白金さん、少し聞きたいことが·········ってあら?」

 

最悪のタイミングで最悪の人が入ってきた。氷川先輩だ。今の光景を見るなり表情が変貌していく。

 

「井戸原さん白金さんに何をしたのですか?」ゴゴゴゴゴ

 

俺限定!?

 

「いや俺は何もしてないですよ!」

 

「では何故白金さんが泣いているのですか?」

 

結局誤解は解けず白金先輩が復活するまで無実なのにお説教された。

 

 

「ひ、氷川さん井戸原君は何も悪くないんです」

 

「そうなのですか?」

 

「さっきからそう言ってるじゃないですかー!!」

 

マジで散々だった。

 

 

 

~~

数日後、CiRCLEでのバイト中にある5人組がやってきた。どうやら戸山たちの知り合いのようだ。

 

「すみません」

 

カウンターでパソコンをいじっていると(いじっていると言っても遊んでいた訳では無い)声をかけられた。見ると黒髪でツインテの少女がいた。小さかった。他にはギャルっぽい娘とのんびりした子。背が高めで真面目そうな人がいた。

 

「どうしました?」

 

「スタジオで練習したいのですけど」

 

「わかりました。少々お待ち下さい」

 

と言ってパソコンに目を落とすとまた声が聞こえた。

 

「あの、井戸原···先輩?」

 

顔をあげると銀髪ショートの女の子がいた。

 

「ああ倉田か」

 

そう言って再びパソコンに目を落とすこと数秒。

 

「倉田!?」

 

俺は勢いよく顔をあげた。まさかこんなところにこいつが来るとは思わなかった。

 

「でもなぜ?」

 

「あ、それはですね」

 

 

 

~~

「へぇー倉田がバンドねえ」

 

「はい」

 

「この人シロの中学の先輩なんだ」

 

「うん」

 

「お前高校どこ行ったの?」

 

「月ノ森学園です」

 

「月ノ森ってあの月ノ森?」

 

「はい」

 

「あのお嬢様学校の」

 

「はい」

 

「ってことは彼女たちも月ノ森の高等部一···年?」

 

彼女たちを見渡してそう言う。

 

「どうして私を見て疑問形になるんですか!?」

 

「1人中等部一年の間違いじゃないか?」

 

「ひどい!」

 

「で、予約は?」

 

「予約···いるんですか?」

 

俺は何も言わずただ見ている。

 

「また来ます」

 

「とまあ冗談はさておきこれ記入してくれたら大丈夫だよ」

 

「先輩ってそういうところありますよね」

 

「はっはっは」

 

いじりがいのあるやつだった。

 

ついでに俺は倉田に向けて人差し指を立てて唇に当てておいた




さぁ花見だ(もう5月後半)

ちなみに中学時代蓮がモテて振ったのを話したのは葵です。(入学初日を参照)

今思えば連のプロフィールとかなかったので載せときます。

花咲川学園高校2年A組

誕生日 10月10日

身長178

体重62.4

好きな物
肉、楽器、パソコン、悪ノリ


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花より団子より

このキャラたちの花見がハチャメチャにならないわけがない


「花見?」

 

「そう」

 

ある日、学校で奥沢と市ヶ谷がそう言ってきた。なんでも例のごとく暴走組の提案だそうだ。ちなみに戸山が偶然会った倉田たちを誘ったらしい。

 

「まぁいいよ」

 

「じゃあ決まり」

 

そうして花見が決定した。

 

 

 

~~

日曜日

俺は桜の木の下で空を見上げていた。

 

「おーい!」

 

声がしたので顔を向けると戸山が走ってきた。その後から4人も来た。

 

「おまたせ」

 

「場所取りありがとうね」

 

「べつにこのくらい大丈夫」

 

「あれ?それ何?」

 

そう言って指さすのは

 

「ああこれ?作ってきた」

 

「お前、料理できるんだな」

 

「ひとり暮らしなめんな」

 

そんなことを言い合いながら準備を進める。

 

数十分後、モニカも面々がやってきた。

 

その直後にほかのバンドもやってきた。あいつら知らなかったのかめちゃくちゃ驚いてたな。誰か教えてやれよ。萎縮しちゃうでしょ。特に倉田が。

 

 

 

~~

花見は始まったが俺は誰と話すわけでもなくただ1人でジュースを飲みながら桜を眺めていた。

 

「せんぱーい」

 

どこからか疲れたような声が聞こえてくる。倉田だった。

 

「どうしたどうした」

 

「うう、緊張しました」

 

「お前は相変わらずだねぇ」

 

「先輩もそうじゃないですか」

 

「否定はしない」

 

「それにしてもまだあのこと言ってないんですね」

 

「俺から言うことでとないからな。それに言ったら言ったでめんどくさい事になるのは目に見えてる」

 

「それはまぁ何となく分かりますけど」

 

「シロー!」

 

「あ、透子ちゃん呼んでる。じゃあ失礼します」

 

「ああ」

 

すると入れ替わるように奥沢がやってきた。

 

「なんでこんなところにいるの」

 

そう言って俺の隣に腰を降ろす。

 

「倉田さんと何話してたの?」

 

「んー?昔のこと」

 

「井戸原君昔のことあんまり話さないよね」

 

「何?知りたい?」

 

「うん」

 

「まぁ知りたいと言われても話すつもりないけど」

 

「なんなのさ」

 

「今はだけど。そのうちな」

 

「あら!蓮こんなところで何をしているの?みんなと一緒の方が楽しいわよ!」

 

「え?ちょ、弦巻!?」

 

そうして井戸原君はこころに連れていかれていく。さっき、昔の話をした時心なしか彼の顔が悲しそうに見えた。

 

 

 

~~

「だから引きずるな!」

 

「あれ?なんで井戸原君連れてるの?」

 

「1人で寂しそうに見えたから連れてきたわ!」

 

「いや別に」

 

「へぇー以外ですね」

 

「人の話を聞けー!」

 

やっぱりぐるんぐるんにぶん回された。

 

「いいんだよ別に。一人でいたって寂しかねぇから」

 

「えー?でもみんなでお花見た方が楽しいよ」

 

「いや戸山お前絶対花より団子だったろ」

 

「·········」

 

「図星かよ」

 

「だって美味しいんだもん」

 

「開き直んな」

 

でもやはり俺は、春は、花よりも、団子よりも、あの子のことを考えてしまう。あの子は、彼女は今どこで何をしているだろう。願わくばもう二度と会うことがありませんようにと星の見えない青空に願った。




サラッと何かを残していく

次は何書こうか迷ってます。


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ファンタジー

NFOイベントから抜粋。蓮のキャラはいい感じにえぐくしたい


2年生になって間もない頃、ある日の夕方、白金先輩から電話かかってきた。

 

「今日から始まるイベントを一緒にやってくれませんか?」

 

という内容だった。問題ないのだがふと思ったことがあったので

 

「構いませんがあと2人はどうするんですか?」

 

と聞き返す。確かこのイベントは5人以上のパーティーだったはずだ。その答えはすぐに帰ってきた。

 

「Roselia全員で参加します」

 

俺はその文書に耳を疑った。Roselia全員。つまり湊先輩たちもということだ。

 

だが冗談を送るとも思えないので事実だろうと無理やり納得した。

 

「いつにするんです?」

 

「日曜日のお昼からです」

 

「友希那さんと今井さんがパソコンを持っていないのでネットカフェでやろうと思っています」

 

「じゃあ俺は家で待機してます」

 

「井戸原君も来てください」

 

「へ?」

 

人生で1番マヌケな声が出たと思う。

 

「来てください」

 

「わかりましたよ······くっ、家の大画面でやりたかった」

 

 

 

~~

NFO内

 

リサ「やっときた」

 

Ren「すみません」

 

リサ「ホントだよーって蓮もレベル高っ!燐子よりも」

 

Rin Rin「ジョブは双剣士なんですね。それに装備も強くて構成もしっか りと考えられています。その武器はもしかしてウェザークロスですか?」

 

聖堕天使あこ「えー!?それって超レアなやつ!」

 

サヨ「火傷と麻痺とういう2つの状態異常を同時に与えられるものですね」

 

リサ「よくわかんないけど強いってことは分かった」

 

Ren「とりあえずクエスト受注しに行きません?どこでしたっけ?」

 

Rin Rin「確かお城だったはずです」

 

聖堕天使あこ 「よーし、じゃあ行こー!」

 

 

 

~城内~

 

Rin Rin「これは···新規で作ったのかな?」

 

Ren「この運営ってよくも悪くもやることえぐいですからね」

 

聖堕天使あこ「クエストの受注は王様に話しかければ」

 

数分後

 

Ren「要は内容をまとめると王の娘の結婚に関して何かありそうだから調べてくれと」

 

サヨ「そういうことですね」

 

Rin Rin「それでは聞き込みに行きましょう」

 

 

 

~~

Ren「情報らしい情報はないですね」

 

リサ「そうだねー」

 

聖堕天使あこ「あ!あのおばあさんバーの2階に入ってったよ」

 

Rin Rin「さっき開かなかった部屋だね。行ってみましょう」

 

 

聖堕天使あこ「開いてるー!」

 

おばあさん「よく来たね。聞きたいことはわかっている。クレア姫のことだろう?姫の結婚式にドラゴンが乗り込んできて姫を連れ去ってしまうのさ」

 

Ren「なるほど」

 

RinRin「ひとまずお城に戻りましょう」

 

 

 

~再び城内~

 

このことを王に話したあとそのドラゴンは北に住む奴だと判断された。そして俺たち(俺だけ除く)の誰か祝福のティアラを装備して待ち伏せするということになった。しかし

 

「た、大変です!祝福のティアラを盗賊に盗まれました!」

 

兵士がそう告げた。

 

リサ「色々と急展開だなー」

 

Ren「それがゲームです」

 

こうしてまあ盗賊から祝福のティアラを取り返すことになった。

 

 

 

~洞窟~

 

リサ「上手くいかないー」

 

盗賊のいる洞窟で6人は、主に湊先輩と今井先輩のレベリングをしていた。

 

聖堕天使あこ「ほらリサ姉もう1回」

 

リサ「スパルタだなー」

 

友希那「これで···あら?違うわね」

 

聖堕天使あこ「友希那さんそれはアイテムウィンドウです!」

 

まあ慣れてないとそんなもんだ。慣れている4人は2人のサポートをしていた。ある時点で敵を倒したら湊先輩がレアドロップアイテムを手に入れたようだ。その後盗賊を倒し祝福のティアラを手に入れた俺たちは教会へと向かうのだった。

 

 




次回へー続く!


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イベクエ終盤

NFOがどんなゲームか細かい部分が分からないので完全に妄想。


Ren「で、誰がそれ使うんすか」

 

聖堕天使あこ「りんりんでいいと思う!」

 

Rin Rin「え?私?」

 

サヨ「それでいいと思います。おそらくそれを見につけた人が身代わりになると思うので。白金さんが一番強いですし」

 

聖堕天使あこ「れんれんはどう思う?」

 

Ren「最初から俺が選択肢に入ってないのが素晴らしいと思う」

 

聖堕天使あこ「そうじゃなくって!」

 

Ren「冗談だよ。それでいいと思います」

 

Rin Rin「それでは使いますね」

 

そう言って使用すると···ドレス姿になった。

 

サヨ「衣装がドレスに変わりましたね」

 

聖堕天使あこ「りんりん超絶似合ってるー!!」

 

ユキナ「何故衣装が変わったの?」

 

サヨ「おそらくクレア姫に変装したということでしょうね」

 

リサ「ほらほられんー。何か言うことないのー?」

 

Ren「ノーコメントっていうのは···」

 

リサ「ダメに決まってんじゃーん」

 

Ren「ぐっ。その···いいと思います。白金先輩あんま見た目変わんないんで白いドレスはよく似合い···ます···多分···リアルでも」

 

Rin Rin「あ···ありがとう···ございます///」

 

サヨ「皆さんそろそろ···」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

氷川先輩がそう言いかけたところで地響きがなる。

 

リサ「な、何?これ?」

 

サヨ「どうやら来たようです」

 

Rin Rin「あれは···!エンシェントドラゴン!!」

 

エンシェントドラゴン「ヒメヲ、ツレテイカセハセヌゾ!」

 

リサ「ひゃーすっごい迫力!」

 

Ren「βのときと微妙に違う···迫力とリアルさに磨きがかかっている。デザインした人本気だな」

 

サヨ「2人とも関心している場合ですか!!」

 

Rin Rin「少し待ってください。すぐにステータスの確認を···え?」

 

Ren「どうかしました?」

 

Rin Rin「ステータスが予想よりも高いです。初心者用だと思っていたのですが、初期よりも強くなっています!」

 

うわぁーまじか。

 

Ren「それ、湊先輩と今井先輩やばくないですか?」

 

Rin Rin「はい。すぐにやられてしまうかもしれません」

 

リサ「ええ!?どうするの?」

 

聖堕天使あこ「話しかけなければバトルにならないからもう1回レベリングに行く?」

 

リサ「えー?また?」

 

サヨ「いえ。このまま戦いましょう」

 

聖堕天使あこ「でもそれじゃあ絶対に勝てませんよ!」

 

サヨ「ええ。このままでは。ですがこれなら」

 

あ、見た目変わった。

 

聖堕天使あこ「これ、ジョブチェンジ!?」

 

Rin Rin「これは、ロイヤルナイトですね」

 

サヨ「前々から進めてはいましたが、なんとか間に合いました」

 

聖堕天使あこ「これで紗夜さんも私たちと同じ上級ジョブですね!」

 

サヨ「これならマシな戦いができるはずです」

 

Ren「それじゃ、俺も装備変えますか」

 

聖堕天使あこ「え?」

 

俺は装備の変更をする。

 

Rin Rin「それは···!!井戸原君」

 

Ren「なんですか?」

 

Rin Rin「さっき双剣士って言いましたよね?」

 

Ren「言いましたねえ」

 

Rin Rin「ですがそれは間違いなく上級ジョブの双剣聖ですよね?」

 

フイ

 

聖堕天使あこ「ねーれんれん。その武器は?」

 

Ren「アメノムラクモ」

 

聖堕天使あこ「それってさっきのウェザークロスよりもレアなヤツ!」

 

Rin Rin「でもその装備はあまりに防御が低くありませんか?」

 

Ren「俺は基本超攻撃特化型なのでステータスはほとんど攻撃と素早さに降ってあります」

 

サヨ「それでは行きましょう」

 

 

 

~~

Ren「うわなにコイツ固!防御力高すぎだろ」

 

聖堕天使あこ「HP高いしれんれんの武器はあんまり通らないし攻撃バフも切れそうだよー」

 

サヨ「これはまずいかもしれませんね」

 

リサ「とりあえずれん。体力回復しておくね」

 

Ren「いらないです」

 

リサ「ええ!?」

 

Rin Rin「井戸原君、もしかして今」

 

Ren「ええ。今絶賛逆境発動中なんですよ」

 

サヨ「体力が30%以下の時全ステータスが50%上がるスキルですね」

 

Ren「他にも元から攻撃力20%アップとクリティカル率アップのスキルに対ドラゴン専用武器なんで今一番高火力の状態なんです」

 

Rin Rin「皆さん攻撃が激しくなってきましたこれが最後のチャンスかもしれません。なので私が使える中で最強の魔法を使います」

 

聖堕天使あこ「そしたらさっきより時間稼がなきゃ」

 

リサ「でもどうすれば···」

 

聖堕天使あこ「友希那さんの歌なら気を引けるかもしれないのに」

 

サヨ「湊さんの歌?それです!」

 

それに俺は気付いた。

 

Ren「吟遊詩人の『無敵の歌』!!」

 

サヨ「湊さん!」

 

ユキナ「任せてちょうだい」

 

サヨ「これならなんとか」

 

数十秒後

 

ユキナ「燐子、まだなの?」

 

Rin Rin「あと少しで········よし、いけます!」

 

聖堕天使あこ「いっけー!りんりん!!」

 

Rin Rin「エレメントバースト!!!」

 

エンシェントドラゴン「グオオオオオオオオ!!!」

 

聖堕天使あこ「やったー!!」

 

サヨ「!まだです宇田川さん!まだ体力が残っています!」

 

リサ「そんな!」

 

このままじゃ負ける。燐子はそう思った。しかし、その直後にまだ大技を打っていない人がいることを思い出した。それと同時に、まるで勝利の女神はまだ見放してはいないと思えるほどの一文が全員の目に映った。

 

ーコンボ発動ー

 

Ren「すみません皆さん。美味しいところだけ貰っていきます」

 

Rin Rin「やってください!」

 

リサ・聖堕天使あこ「いっけぇぇー!!!」

 

Ren「攻撃力計90%アップ······」

 

ー必殺技発動ー

 

Ren「龍殺剣アマノハバキリ···」

 

エンシェントドラゴン「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」ズドォォォン

 

リサ「やった勝ったー!」

 

聖堕天使あこ「紗夜さんのジョブチェンジと友希那さんの無敵の歌とりんりんとれんれんのコンボのおかげだよー」

 

サヨ「誰かのというより全員のおかげですね」

 

Rin Rin「Roseliaみんなの力です!」

 

Ren「俺は+αですからね」

 

リサ「いやいやーちゃんと蓮も入ってるよ」

 

Ren「はいはいありがと···は!?」

 

聖堕天使あこ「どうしたの?」

 

Ren「後ろ···ドラゴンが起き上がった!」

 

エンシェントドラゴン「ミゴトダタビビトヨ。コノワタシヲタオストハ···シカシ、コノママデハヒメノミガキケンニ···」

 

Ren「どういうことだ?」

 

エンシェントドラゴン「ワタシハヒメヲタスケニキタノダ」

 

ドラゴンから話を聞くと真実が分かった。

 

Ren「なるほど。隣国はこの国を攻めるために結婚というかたちで姫を人質にとろうとしたわけか」

 

エンシェントドラゴン「ワタシハカツテアノムスメニタスケラレタ。ダカラスクイタカッタ」

 

サヨ「つまり本当の敵は」

 

Rin Rin「隣国の王!」

 

聖堕天使あこ「あ!次のミッションだ」

 

全員「隣国の王を討て!」

 

Rin Rin「それじゃあ皆さん。向かいましょう!」

 

リサ「え?今から?」

 

Rin Rin「もちろん無理にとは。セーブして次の機会でも」

 

ユキナ「いいえ。行くわよ」

 

リサ「友希那!?」

 

ユキナ「やるべき事がわかっているならやるだけよ。それに、私もこの結末をしたいから」

 

Rin Rin「それでは皆さん、行きましょう!」

 

エンシェントドラゴン「ソノタタカイ、ワタシモトモニユコウ」

 

聖堕天使あこ「やったー!ドラゴンが仲間なら百人力だよ!」

 

エンシェントドラゴン「ソレニ、ワガオウヲタオシタモノモオルカラナ」

 

Ren「微妙に龍帝イベントの名残がある。いいねえこういうの」

 

こうして俺たちは隣国へと向かった。

 

 

 

~~

「いやー凄かったね。特に兵士相手にしてる時の蓮」

 

「やめてください」

 

 

 

~~

隣国に着くと大量の兵士を相手にするバトルがあったのだが俺はというと···

 

Ren「ハッハッハ散れ散れ雑魚兵士どもー!!」

 

高笑いしながら攻撃をぶつけていた。

 

聖堕天使あこ「れんれん楽しそう···」

 

サヨ「ドラゴンを相手にした時よりイキイキしていますね」

 

リサ「意外と弱いものいじめとか好きなタイプかな?」

 

Rin Rin「というより集団の敵(まと)に大技当てるのが好きなんだと思います」

 

 

 

~~

「なにはともあれクリア出来て良かったじゃない」

 

「はい!」

 

「死にてえ」

 

俺は醜態を思い出し呪詛のように呟き続けた。




さぁ次はとうとうRASを出そう!


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祭りは始まっている

今回からしばらく3rdシーズンに該当する内容になります。


カポーン

 

「ふいー」

 

まるで風呂に入っているかのような始まり方。その通り。俺は今旭湯に来ている。たまには銭湯来るのもいいものである。

 

「はーいい湯だった」

 

「あ、井戸原さん」

 

「ああ、朝日か。コーヒー牛乳貰っていい?」

 

「ありがとうございます!」

 

「で、どう?RASは」

 

朝日がRASに入って数週、現在行われているガールズバンドチャレンジの予選もそろそろ中盤。あんなことを突然言われたことまだ覚えている。

 

 

 

~~

「ガールズバンドチャレンジ?」

 

ある日まりなさんにそう言われて俺は聞き返した。

 

「そう。ガールズバンドの頂点を決める大会を開こうと考えているの」

 

「でもそれ絶対大変じゃないですか」

 

「でもね、Galaxyのオーナーが『その企画、やりきったかい?』って」

 

「あの人らしい。なら俺も頑張りますよ」

 

 

 

~~

「でもまさか決勝の舞台が武道館になるとは思いませんでした」

 

「まぁそれはな」

 

「チュチュさん達も良くしてくれます」

 

「俺アイツ嫌いなんだよね。本当のアイツがどんなやつであろうと」

 

「どうしてですか?」

 

「傲慢で自分勝手で気に入らなければ、思い通りに行かなければ駄々をこねる」

 

それほどまでに俺はアイツが嫌なのだ。

 

 

 

~~

翌日の放課後、何故か温泉に行くことになった。

 

商店会に店を持つところに電話が言ったらしいが、4バンド+RAS3人でひと枠余るらしく山吹と北沢に捕まった。

 

「ふむふむなるほど。そこか···え、マジで?めっちゃいいじゃん。俺1回行こうと思ってたんだよそこ」

 

行先聞いたら秒で了承したわ。安心しろ。変なことは決してない。

 

とか思って着いみるとパスパレもいたわ。俺は1人部屋に通された。当たり前だ。入ってみるとすごいいい感じの部屋だった。

 

「ここほんとに1人で使っていいのか?」

 

「じゃあ私たちのどこかと同じ部屋にする?」

 

「俺の世間体が死ぬから絶対にヤダ」

 

 

 

~~

俺は温泉から出たあと俺は着替えて部屋で食事を待ちながら茶を飲んでいた。まぁ飯になってもその前にやることがあるのだが。

飯の時間が近づいたので部屋を出ると白鷺先輩にあった。

 

「あら蓮くん似合ってるわね。髪が少し湿っているせいで色気がすごいわよ」

 

「いや知りませんが」

 

「集まったらわかるわよ」

 

とりあえず着いたので、

 

「市ヶ谷、美竹、青葉、湊先輩、朝日そこ座りなさい」

 

「え、なんで」

 

「いいから座れ」

 

ここにいる5人はさっき温泉でのぼせた部類である。市ヶ谷とかに関しては沈んだのでさすがにやばかったのだ。

 

30分後

 

「返事は?」

 

「「「「「はい」」」」」

 

そのあとは特に何も無く一晩泊まって帰った。

 

数日後、気まぐれにRASのライブに行ったが違和感があった。パレオがいない。俺は変わるはずのない音が聞くに耐えず、出ていった。

 

 




次回はどうなる


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亀裂の果てに

時系列ミスったからチュチュの誕生日は抜きで読んでください。


RASのライブの翌日、学校にきた市ヶ谷も戸山も浮かない顔をしていた。

 

俺もいたのだがあえて問う。

 

「どうだった?」

 

どうやら俺の聞きたいことは察したようで

 

「なんか変な感じだった」

 

「だろうな」

 

「井戸原いたのか?」

 

「ああ、途中で帰ったけどな」

 

こんな話をすると少し空気が重苦しくなっていった。

 

そして放課後、俺はある場所へ向かった。

 

 

 

~~

俺が自分のバイクを走らせている頃、レイヤとチュチュは話を、マスキと朝日はパレオ捜しをしていた。戸山たちがチュチュのマンションの前まで来ると、レイヤとチュチュは飛び出していき、花園はそれを見て微笑んだ。

 

 

 

 

~~

景色を眺めながらコーヒーを飲んでいると足音が聞こえてくる。

 

「···レオさん!」

 

今パレオって言ったか?

 

声と足音がする方を向くと朝日とマスキがメガネをかけた黒髪ツインテールの少女を追いかけていた。あれがパレオ?全然違うように見えるが何となく面影があるように思える。

 

「パレオさん!」

 

「···違います」

 

「違うって、お前鳰原令王那って言うのか?」

 

「!? どうしてそれを」

 

こいつら俺に気づいてないのか?

 

「学校の奴らに聞いたんだ。写真見せたらそうだって」

 

「勝手に、すみません」

 

「いえ······何か言っていました?」

 

「はい。その、かわいいって」

 

「良かったです。パレオはかわいいですから」

 

パレオはってそれじゃあまるで自分は···

 

「何訳わかんないこと言ってんだ。帰るぞパレオ」

 

「帰りません」

 

「お前、RAS辞める気か?」

 

「そんな!」

 

「パレオはもういません。いないんです」

 

「いないって。お前がいないと困るんだよ」

 

「パレオがいなくてもライブはできます」

 

「お前がいないとかわいさが足んねぇだろ。チュチュの曲とレイヤの歌とお前らののかわいさが浮いててそれが可愛いんだ。それにチュチュも待ってる」

 

「嘘は嫌いです。ちゆが待ってるはずありません」

 

「それはないです!だから戻ってください!」

 

「それは無理です。だって······」

 

「パレオは存在意義を失いました」

 

「ちょっとまちゃあ!!」

 

「「!!!」」

 

「RASは5人でRASやんか!」

 

「ロック···」

 

「パレオさんは、うちらとやるの楽しくないんか?」

 

「それは···」

 

「うちはこの5人が最強やと思う。みんなでやって、音が響いて、こんなに楽しんやって思う自分がおる。もっともっとどこまでも走っていける。RASはそんなバンドやと思う」

 

「そうだねえ」

 

「「「!!」」」

 

「やっほー」

 

「蓮、お前いつから」

 

「言っておくが俺の方が先だからな。お前らが俺に気づかず始めただけだからな」

 

「わりぃ」

 

「いいよ別に。ところで話を戻そう。俺はお前のいないライブを見たが正直聞くに耐えなかった。1人いないだけでここまで落ちるのかと。いつも通りやっているように見えても全く違う。音はあっていてもどこか穴が空いたような感覚だった」

 

俺はパレオの頬を両手で潰して続ける。

 

「いいか?よく聞け。俺はアイツは嫌いだがRASが嫌いなわけじゃない。だからこそお前がいないと困る。何かを言われただけで消えるほどお前にとってチュチュは安い存在なのか?それだけで存在意義を失うのか?言っておこう。お前自信が存在意義を失ったと思ってもお前を必要とするやつはいる。そこにもな。そして、たとえお前が自分自身を卑下にしようとそれを認めないやつがいる。俺もだ」

 

パレオの目に涙が浮かぶ。

 

「ひとつアドバイスをやろう。それは『常に原点を意識しろ』。お前の原点はなんだ?なぜ音楽を始めた?」

 

「私は···パスパレよりも前に好きなバンドがありました。エンドロールっていう。私はそれで、思い切ってピアノで弾いた曲を送ってみたんです。そしたらそれを良いって言ってくれて、それが嬉しくて···」

 

「それを聞いた上でひとつ問おう。お前はどうしたい?どうすべきかという流れではなく、どうしたいと思っている?」

 

そんなの決まっている。

 

「私は!」

 

「それを言う相手は俺じゃない」

 

そう言ってパレオの後ろを指さした。そこには、あとから追いかけてきたレイヤと、体力ないのに必死で走るチュチュがいた。

 

「パレオー!あっ···」

 

チュチュはつまづき倒れる

 

「「あっ!」」

 

すると2人の横を通る影。

 

「チュチュ様!」

 

「パレオ、ごめんなさい。私···酷いことを」

 

「うう~チュチュ様、勝手に休んですみません!電話に出なくてすみません!ご迷惑かけてすみませーん!」

 

「ちょ、パレオ苦しい離れて!」

 

「嫌です!離れません!離しません!」

 

「これで一件落着かな」

 

「だな」

 

「ところで井戸原君はどうしてここに?」

 

「え?」

 

「お前だけだよ。最初から俺の存在に気づいてくれたのは」

 

俺はちょっと嬉しかった。

 

「帰ろう」

 

「だな」

 

「はい!あ、ちょっと待ってください」

 

「え?はい」

 

パレオは俺に駆け寄ってくる。

 

「井戸原さん、ありがとうございました。それでその、お耳をかして頂いても?」

 

「ん?ああなんだどうした?」

 

ちゅっ

 

「「「「!!!」」」」

 

その瞬間、俺の時間は本当に止まったように思えた。それほど衝撃的で一瞬だった。いつの間にか感覚が離れていた。当の本人は顔を変えずに

 

「それでは失礼します」

 

「パレオ」

 

俺は動揺を出さないようにしながら呼んだ。パレオは振り返り「なんですか?」と言わんばかりに首をかしげる。俺はこれだけは言わなければと思った。

 

「ありがとう」

 

だがその言葉に反応したのはパレオではなくチュチュだった。

 

「あんた···」

 

しかしそれをパレオが遮る。そして聞いてくる。

 

「それは今のことにですか?」

 

「いや、違う。この礼の意味はいずれわかる」

 

そうして俺たちは別れた。




Cパート的な感じ

あの後、俺は帰ることが出来なかった。気づかれないように必死で隠した。俺は頭を抱えて呟いた

「あの女子中学生···」

そのせいで翌日の学校に遅刻した。


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過去と正体Ⅱ

遅刻した日の放課後はバイトしてた。受付をしているのだが誰も来ないのでカウンターで話し込んでいた。

 

「それにしても井戸原、今日何回怒られた」

 

「うっせぇ市ヶ谷。覚えてねぇよ」

 

「何をしたんですかいったい···」

 

「寝れなかったんだから遅刻したって仕方ないだろ。おかげで一限から寝ちまったし」

 

「へえ遅刻に授業中の居眠りですか」

 

その声に俺は凍りついた。

 

やっべ知らないうちに風紀委員いた!

 

「いったいどういうことか説明して頂けますか?」

 

ヤバイヤバイヤバイ!絶対怒られる!

 

「清掃終わったよー」

 

!助かった!

 

「また後で聞きますからね」

 

助かってなかった。なんでこんな時だけバイト夜まで入れちまうんだろ。

この後練習を終えた氷川先輩にこってり絞られた。寝坊した理由は絶対に言わなかった。言えるわけないじゃんあんなこと···。

 

 

 

~~

土曜日、RASの面々はお礼のために市ヶ谷の家の蔵を訪れていた。

 

「こちら手土産です」

 

「ありがとう」

 

「でも本当に良かったよー」

 

「ご迷惑お掛けしました」

 

「良かったねレイ」

 

「うん。でも半分は井戸原君のおかげでもあるんだ」

 

「どういうことだ?」

 

「実はパレオ捜しに行った先に蓮がいたんだ。口開くまで気づかなかったけどな」

 

「へぇーそうなんだ」

 

「すげーのはこっからだぜ。パレオのやつ帰り際によ、キスしたんだぜ。蓮の頬に」

 

「ええ!?」

 

「やるね」

 

「その時に麻弥さんが言ったのってこういうことかって思った。すげぇなパレオ」

 

「············」

 

「パレオ?」

 

「パレオちゃん?」

 

よく見ると彼女は顔を真っ赤にして手で覆っていた。

 

「私はなんてことをしてしまったのでしょう」

 

「恥ずかしいならやらなければ良かったじゃない」

 

「後悔はしていませんが私嫌われてませんよね!?チュチュ様!!」

 

「知らないわよ」

 

「まぁそれはないと思うけど」

 

その時市ヶ谷はひとつの可能性を思いついた。

 

「それってどれくらい前だ?」

 

「確か4日前です」

 

市ヶ谷の予想は当たった。

 

「だから遅刻したのか」

 

 

 

~~

そしてとうとう予選が終了した。この後は順位発表。上位2位が決勝へ進める。

 

「どう?井戸原」

 

「面白いことになったっすよ。でもどうします?これ」

 

「そうだなぁ」

 

発表翌日

 

「それで、どうするの?」

 

普通ならばチュチュのこの発言は出てこない。しかしこの言葉を口にした理由は、

 

「決勝に進む方をどうやって決めるの?」

 

順位が1位 Roselia そしてなんと同率でRASとポピパが2位となったのだ。しかしこの結果を受けてまりなさん達が下した結論は

 

「決勝には···両バンドとも出てもらいます!」

 

そう決勝は3バンドでの三つ巴としたのだ。

 

 

 

~~

その後、何故か揃った。全バンドが。祝福するために。俺は奥沢と話していた。

 

「さすがに35人も集まるとけっこうやかましいな」

 

「そうだねでもいいんじゃない?こういう時くらい」

 

「そうだな。あ、俺ちょっとお手洗い行ってくる」

 

「分かった」

 

この時、俺は最悪の状況に陥ることになる。

 

「あれ?これなんだろう?」

 

戸山が何かを見つけた。

 

「おたえ、これギターケースだよ」

 

「本当だ。誰のだろう」

 

「開けてみよう!」

 

「いやダメだろ!」

 

「見るだけ見るだけ」

 

躊躇なく開けた。

 

そこに入っていたのは

 

「これなんのギターだろう?ねえおたえ」

 

「なんだろうね。レイ、これわかる?」

 

「どうしたの?はなちゃん······!」

 

「レイ?」

 

「これって······チュチュこれみて」

 

「これは、HORIZONⅢ!?しかもこのカラーは!」

 

「やっぱりそうだよね。これを使ってるのはたった1人···LOTUS。エンドロールのギター&ボーカル」

 

「あれ?まだ何か入ってる。これって歌詞?」

 

「これは···エンドロールの代表的な曲のですね」

 

うわぁーやったー。片すの忘れてた。最悪しかもなんか近づいてる気がする。

 

「LOTUSは確か日本語ではすを意味します」

 

あ、これダメなやつだ。

 

「蓮ってどこかで···」

 

奥沢!やめて!思い出さないで!

 

「あ、そういえば井戸原君のれんって確かはすって書くはずです」

 

その時、チュチュと目があってしまった。

 

「あ」

 

その瞬間俺は走り出した。

 

「蓮くん、焼肉奢るわよ」

 

さすがと言うべきか白鷺先輩が瞬時に俺を止めに来た。俺は一瞬止まったがその誘惑を振り切って外へ飛び出した。

 

「残念」

 

「パレオ!行きなさい!」

 

「はいチュチュ様!!」

 

「香澄!行ってこい!」

 

「おー!」

 

「私もー」

 

「日菜も行って!」

 

「はーい!」

 

「こころ!はぐみ!捕まえてきて」

 

「捕まえればいいのね!分かったわ!」

 

「行ってくるねみーくん!」

 

「シロ行くよ!」

 

「ええ!?透子ちゃん!」

 

この時、俺が一番最初に思ったこと、それは

 

「今日バイトじゃなくて良かった」

 

だった。

 

 

 

~~

5時間後

 

lll_ _ ) ずるずる

 

俺は捕まって引きずられながら戻ってきた。まぁどの道荷物とギター取りに来なきゃ行けなかったけど。

 

「遅かったね」

 

「あの人数と人選はおかしいだろ。途中で黒服まで加わってたぞ。それでもなおこの時間逃げ回ったことを褒めて欲しいよ」

 

「その話は置いておいて、井戸原君。あなたがエンドロールのLOTUSなのよね?」

 

「··············」

 

「黙秘ですか」

 

「おい、言わねえとパレオにキスされたことばらすぞ」

 

「マッスーさん!?」

 

「もうばらしてんじゃねえか!」

 

「「「どういうこと(ですか)?」」」

 

恐いよ御三方。

 

「その話は後で聞くとしてどうして解散したのかしら」

 

「え?」

 

俺はその意味がわからなかった。

 

「誰がですか?」

 

「あなた達よ」

 

「してないですよ。公開せずに活動休止しただけで解散なんてしてないですよ」

 

「あっさり認めたね」

 

「だってはかなきゃ解放してくれねぇじゃん」

 

「でもなぜ?」

 

「1人、いなくなったんです。3人でもって意見もあったんですけど、俺たちは4人でエンドロールだからって」

 

俺は暗くなりながら話していく。

 

「ごめんなさい。そんなつもりじゃ」

 

その瞬間俺は表情を明るくして続けた。

 

「だから海外進学して卒業して戻って来るまで準備期間にしようってことでまとまりまして」

 

「え?」

 

せめてもの仕返しである。

 

「騙したのですか!?」

 

「勝手に勘違いしただけじゃないですかー」

 

へらへら笑ってそうかえす。

 

ゲシッ

 

蹴られた。え?ちょっと待って激しくない!?しかも多い!

 

「待って待って!暴力反対!イテッ、ちょま、ごめん!ごめんて!俺が悪かったから!」

 

ようやく止まった。

 

「じゃあ許すかわりにひとつお願いするわ」

 

「わかりましたよ」

 

「それならあなたの声を聞かせて。FUTURE WORLD FESで通用するあなたの歌を」

 

「え?」

 

「何をしているの?早くして」

 

「あの、それだけでいいんですか?」

 

「ええ」

 

それなら仕方ない。

 

「じゃあチューニングするんで待ってて下さい」

 

そう言って始めるが

 

「なんでチューニングでそんな切ない音出すの。どれだけやりたくないの」

 

その言葉を無視して問う。

 

「何がいいですか」

 

「じゃあ···」

 

 

~~

「美咲ちゃん」

 

「花音先輩」

 

「井戸原君があんなにすごい人だったなんて知らなかったね」

 

「そうですね。でもあたしは彼の歌を聞いたことあるので今更そんなに驚かないと思いますけど」

 

その後歌い始めたが見事に裏切られた。1年前のカラオケの時とは全く違う。ギターひとつで彼はこんなにも変わるのかと驚いた。

 

すごい。その一言に尽きた。それしか出てこなかった。

 

 

 

~~

「ふぅ。満足しましたか」

 

「ええありがとう」

 

「じゃあ俺はこれで」

 

「だめだよ。キスについて教えて貰わなきゃ」

 

忘れてて欲しかった。俺はその後2時間ほど質問攻めにされた。足が痛え。




次ででガールズバンドチャレンジが終わる予定。


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決着

俺への質問攻めが終わらない。特にフェスに行きたい湊先輩と俺達を好きと言ってくれたパレオ。チュチュに関しては表舞台には立たなくてもいいからと勧誘してくる。だからバレるの嫌だったんだ···

 

「はい蓮くん!」

 

「何戸山」

 

「エンドロールって何?」

 

「「そこからか!」」

 

俺と市ヶ谷のツッコミが同時に入る。

 

「エンドロールっていうのは映画とかの最後にその作品に携わった人を紹介する時のことを言うんだ」

 

「ああ!あれかー。でもなんでそんな名前にしたの?」

 

「それについては昔に動画があったはずよ。これね」

 

湊先輩がその動画を再生する。

 

「あれ?蓮くんは?」

 

「顔出ししなかったから声だけだよ」

 

『もうこの話やめねえ?』

 

『そうだね。じゃあ次の質問』

 

「この声どこかで聴いたような···葵くん?」

 

「ああ。葵もうちのメンバーだ」

 

「マジかよ」

 

『皆さんのエンドロールというバンド名にはどんな意味があるのですか?ほうほうこれはリーダーに答えてもらいましょうかね』

 

『はいよ。まぁとりあえずはあのエンドロールを思い浮かべてくれればいいよ。あれってさキャストとか監督とかは覚えてるでしょ?』

 

『あー確かに』

 

『でも作画とか音響とかのスタッフ皆って覚えてられないでしょ?』

 

『そうだね』

 

『だけどその作品に携わったことでそこに自分がいたって言う証明になる。たとえ忘れられたとしてもね。つまりそういうことだよ』

 

『いやわからん』

 

『はっはっは、もっと具体的な方がいい?』

 

『むしろ今ので理解できる人の方が少ないと思うが』

 

『そっかーなら仕方ない』

 

『作品というのはそれを作った人がいたという証明になる。これは?』

 

『わかる』

 

『だから最悪は作画や音響のスタッフでありたい。たとえ俺たちが忘れられたとしても俺たち自身がいたという証明までは忘れて欲しくない。だからそれだけの音楽をつくれるように、奏でられるように、こんな名前にしたんだよ』

 

『意外とちゃんと考えてたんだな』

 

『ノリで決めたとでも思ってたんか。はっ倒すぞ』

 

『まあまあ。いい話も聞けたことだし次行こうよ。皆さんがお付き合いするならどんな人がいいですか?だって。僕は元気な人かなー。コードっちは?』

 

なんか数人食いついたけどどうした?

 

『俺は···お淑やかな方がいいな』

 

『普通だな』

 

『普通だね』

 

『右に同じ』

 

『何故俺だけけなす!?そういうAOIはどうなんだ』

 

『年上』

 

『お前だって普通じゃないか』

 

『·········』

 

『·········』

 

『何故何も言わない!』

 

『LOTUSは?』

 

『落ち着けるやつ』

 

『お前だって普通じゃないか』

 

『俺の答え聞いてた?コードって頭いいのにこういう時バカだよな』

 

『んな!?』

 

『俺は落ち着けるとは言ったが落ち着いているとは言ってない』

 

『らしい答え』

 

「とい言うことよ」

 

ここで動画が終わる。

 

「湊先輩、恋愛観のとこまで流さなくても良かったんじゃ···」

 

「黙っていた罰よ」

 

やだこの人怖い。

 

「ってもう罰なら受けたじゃないですか」

 

「満足しなかったから」

 

「んな横暴な」

 

そんなことがありながらも日は進み決勝当日となった。

 

 

 

~~

「おお~武道館!」

 

「おっきぃ」

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

「ふあーねむ···」

 

「キングその言葉をあいつの前で言うなよ」

 

「カスミ・トヤマ、覚悟はいいわね?」

 

「うん!よろしくね!」

 

 

~~

「おっす来たな」

 

「すげー隈だな。なん徹目だ?」

 

「4」

 

「ほんとにそろそろ奥沢さんとかに怒られるぞ」

 

「知らん」

 

「そういう事か」

 

「それじゃあ皆揃ったからリハ、始めよっか」

 

~リハ中~

ステージに寝るマスキ、宇田川、白金先輩、朝日、パレオを見て苦笑していると

 

「あんたがここにいるなんてね」

 

ビクッ

 

その声に振り返ると立っていたのは

 

「オーナー···」

 

俺たちがよく世話になったSPACEのオーナーだった。

 

 

 

~~

「お客さん入り始めたからそろそろだね。皆よろしくね」

 

「よろしくお願いします!」×15

 

「それじゃあ井戸原、何かある?」

 

「じゃあ一つだけ。俺のツテとコネを諸々使って武道館抑えた上に予定してなかった1バンド分の演奏とさらにもう一曲分の時間を確保したんだ。」

 

そう言いながら全員を見渡す。

 

「これで下手なパフォーマンスしたら許さねぇからな」

 

「私たちがそんなことをするとでも?」

 

「思ってないから言ってるんですよ」

 

 

~~

ついに始まったその裏で、俺たちは3人でオーナーの前で正座をしていた。

 

「何か言うことはあるかい?」

 

「「「勝手にいなくなってすみませんでした」」」

 

1人は俺。もう1人は葵。最後の1人は俺たちのメンバーの1人、麻偽 匠。このふたりは俺が呼んだ。

 

『もしもし匠?』

 

『そうだが』

 

『今時間あるか?』

 

『ああ』

 

『そこに葵は···』

 

『いるぞ』

 

『よし2人とも今すぐ武道館に来い』

 

『何故だ?』

 

『オーナーがお呼びだ』

 

『っ!分かった···』

 

とまぁこんなところだ。

 

「ところでもう1人はどうしたんだい?」

 

「あいつはアメリカの高校に行きました」

 

「それでかい。なら仕方ないね」

 

俺たちの顔が明るくなったのもつかの間

 

「でも私に何も言わない理由にはならないよ」

 

この後もめちゃくちゃ怒られた。

 

 

 

~~

「楽しかったー!」

 

「あ、井戸原君見てた?」

 

「見てなかった」

 

「おい!」

 

「というより見てる暇がなかった」

 

「忙しいし、仕方ないよね」

 

そういう事じゃないんだよなぁ···。

 

RAS、Roseliaと続き投票時間。会場はほぼ満員。これをひとつずつ数えると思ったら···そもそも今の時代そんなことやらないわ。だがこう思ったのは確かだ。

 

「自動選別のプログラム入れといて良かった···」

 

「井戸原君どう?」

 

「少し待ってください···よし、終わりました」

 

「それじゃあ皆、ステージへ上がって」

 

 

~~

「会場の皆様、大変長らくお待たせしました。これより、結果発表を行います。発表は、この方にしてもらおうと思います」

 

そこに現れたのは、

 

「オーナー!?」

 

「あれは···」

 

「マジかよ···」

 

「皆······よくやりきったね。それでは結果を発表するよ。ガールズバンドチャレンジ、グランプリはーー」

 

俺は結果を知っている。その上で彼女たちに何をもたらすのかは分からない。

 

「Roselia!」

 

「!?」

 

「うそ!やったー!!」

 

「やったー!りんりん、紗夜さーん」

 

「あこちゃん。うん!」

 

「すごい声援···!」

 

「···っ」

 

「チュチュ···」

 

「まだ終わりじゃないよ」

 

え?そうなの?俺それ聞いてないよ。

 

「ベストパフォーマンス賞、RAISE A SUILEN!」

 

「そしてベストバンド賞、Poppin’Party!」

 

「あの人の考えることはいまだによく分からん」

 

「確かに」

 

「皆、いいライブだった!」

 

その瞬間紙吹雪が舞う。どうしてこうも時間を掛けて準備したものは一瞬で終わるのか。

 

「カスミ・トヤマ!準備したあれを今やらないでいつやるつもり?」

 

「あ、そうだ!会場の皆さん!最後に1曲だけ。この時のために全員で練習してきました」

 

「俺の仕事がまだ終わらない」

 

「聞いてください。『夢を撃ち抜く瞬間に』」

 

ほんと、眩しいねえ。

 

「あんたたちは行かないのかい?」

 

「無理ですよ。そもそも練習してないですし。あのステージは今彼女たちのものですし。俺たちは3人しかいませんし」

 

「最後のが本音だろう?」

 

「ええ。俺たちは4人でエンドロールなので」

 

俺はその後、ただ彼女たちの姿を見ていた。いつか、また戻るために。

 

 

 

~~

終わったあとは片付けなのだが

 

「ZZZzzz···」

 

「寝てるね」

 

「寝ているわね」

 

「寝顔は可愛いですね。チュチュ様」

 

「知らないわ」

 

「そういや4徹目って···」

 

「また無理をしたのですか。起きたらお説教と行きたいところですが私たちのためにここまでやってくれたのですからそれはやめて、ゆっくり寝かせて起きましょう」

 

「ふふふ、そうですね」

 

「ではお礼も兼ねてパレオが膝枕をしてあげます」

 

そう言って蓮の頭を自身の腿に乗せる。

 

「机にうつ伏せで寝てるやつをって、器用だな」

 

「奥沢さんが知ったらむくれそうだな」

 

俺はそれに気付かぬまま眠り続けた。

 




目を覚ますと1度あった状況に置かれていた。

「起きましたか?」

「なあこれどういう状況?」

パレオに膝枕をされているという訳の分からないことになっていた。

「起きたのか」

「誰も帰ってないのかよ」

「それよりこの間パレオに言った礼ってなんなんだ?」

「ああそれ?うーんまぁいいか」

体を起こし、、

「あ······」

パレオが何か言った気がするが気にせずに口を開く。

「あの動画の通りだよ」

「全くわからねえ」

「つまり············覚えててくれて、ありがとう」

そう言って微笑んだ。

~~
次は何を書こう。


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さぁ2度目の体育祭

ゾンビランドサガRコラボ開催決定。頑張ろ


「合同体育祭?ってあの3年に1回やってる···」

 

「ええ今年はその年なんです」

 

「それで、各高校の生徒会や風紀委員を主に実行委員とするんですが今年は今注目されているガールズバンドからも実行委員を出したいとのことで」

 

「そうですか」

 

「反応が薄くありませんか?」

 

そんなこと言ったって

 

「前半はともかく後半俺関係ないじゃないですか」

 

「で、それをあたしらでやることになったんだ」

 

「もう決まってたんかい」

 

まぁなんでそうなったかは何となく想像つくけど。

 

「ではこれから各校集まって会議があるので···井戸原さん行ってきてください」

 

「やっぱり俺が行くんかい!わかってたよ!」

 

俺は会議資料を受け取って生徒会室から出た。

 

 

 

~~

会場に向かっていると、

 

「あれは···羽沢?」

 

「あ······井戸原君」

 

「よっす」

 

「ここ、こんにちは///」

 

「お前も氷川先輩に頼まれた?」

 

「実は」

 

「そういやこの体育祭って他にどこがいたっけ?」

 

「あとは月ノ森とか」

 

「倉田たちのところか」

 

そしてあることに気付いて羽沢に顔を近づける。

 

「へぇ!?」

 

「お前、顔赤くね?」

 

ぴと

 

「熱は···ないな。んーじゃあなんでだ?」

 

「あ··う···///」

 

「お前もしかして、まだ去年の文化祭引きずってる?」

 

「当然でしょ!」

 

当たったらしい。まじか。

 

「あの時ほんとに恥ずかしかったんだからね!」

 

「悪かったって」

 

「でもあとから考えたら嬉しかったのも本当だから···」ボソッ

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「なんでもないよ!ほら着いたよ」

 

 

 

~~

「以上になります。では皆さん、よろしくお願いします」

 

会議が終わり、本屋に行こうと思っていたので羽沢と一緒に帰る。

 

「いやーにしても、進行役が有能で早く終わったから良かったー」

 

「そうだね。井戸原君この後は?」

 

「本屋行く」

 

「だからこっち来たんだ」

 

「そう」

 

そう言いながらさりげなく位置を変える。

 

ブオオオ

 

「あ···」

 

「ん?」

 

「井戸原君あんまりそういうことしちゃ駄目だよ。そういうの沢山されると女の子は堕ちちゃうから」

 

何を言われているのか全くわからなかった。

 

 

 

~~

「とまぁこんなところです」

 

「ありがとうございます」

 

「お疲れ様でした」

 

翌日の放課後に昨日の会議が内容を報告していた。

 

「種目は二人三脚、借り物競争、学校対抗のリレーまだまだありますね」

 

「大規模なものなので仕方ないとは思いますがこれが一日で終わるとは思えないんですよね」

 

「その辺は数回の会議で削られていくでしょう」

 

「ですね」

 

「とりあえず今日はこれで解散です」

 

 

 

~~

「井戸原先輩」

 

「なに~?」

 

「合同の体育祭ってどうなってるんですか?」

 

「どうとは」

 

「やる種目とかですよ!」

 

「出た案が多すぎてこれから削る」

 

「そうですね。これからが大変です」

 

「いやー会議に出たやつが他にいると楽でいいわー。な?八潮」

 

「サボる気ですか?」

 

「まっさかー。精神的に疲労が少し減りそうって意味だよ」

 

「それは······そうかも知れません」

 

「だろー?あと今更言うけどさ、お前らがここにいるって珍しいな」

 

「ホントに今更!」

 

その後も競技の絞込みと詳細のまとめを繰り返して当日を迎える。

 

 

 

~~

「今日の合同体育祭は地域すべての学校が集まります。大変でしょうが頑張りましょう。よろしくお願いします」

 

「ここに各校のスケジュールと実行委員のリストバンドがあるので貰ってない人は取り来てください」

 

「ん~~!やっとこの日が来たね!」

 

「よくそのテンションでいられるな」

 

「それはそうでしょ~」

 

「私もー。この体操服もかっこいいし」

 

「この日のために作ったらしいからね。3年に1度だからすごい気合入ってるね」

 

「しかもうちだけ男女でデザイン違うし」

 

「蓮くん似合う~」

 

「似合いすぎて逆にこえーな」

 

「井戸原君の体操服見た時にすごい騒ぎだったもんね」

 

「薫先輩並にな。意外と隠れファン多いし」

 

「しかも会場が陸上競技場て」

 

「有咲ちゃんからその話を聞いた時はびっくりしたよ」

 

「『井戸原君武道館抑えたんでしょ?だったら頼むよ』ってどっから嗅ぎつけやがったあの教師ども!! なんでそんなこと俺がやらなきゃ行けねぇんだよ。その程度てめえらでやれや!!」

 

「落ち着きなさい。それに関してはもう終わったことでしょう」

 

「それは···そうですけど。でも納得は絶対にしません」

 

「ですが、大変なところをやってもらえて助かったのも事実です。その事に人を回すと他のことが出来なくなっていたでしょうから」

 

「今日に近づくと連日有咲とか遅かったし」

 

「これは私たちの出番!で思ったもんね」

 

「なんでそうなんるだよ」

 

「お、有咲その表情いいね。こっち向いて」

 

「なんで撮ろうとするんだよ!」

 

「随分本格的だね」

 

「これ?学校から借りたやつなんだ。私記録係もやるから」

 

「皆さん。楽しむのはいいですが体育祭の成功は実行委員にかかっています。このリストバンドの意味、忘れないようにしてください。それと」

 

「できるなら日陰でうずくまってたい」

 

「井戸原君、こんな日に陰気なことを言わないでください」

 

怒られた。

 

「おねーちゃん!」

 

「日菜!」

 

「日菜先輩···」

 

「何話してたの?」

 

「今日のことよ。それよりもあなたは選手宣誓でしょ?大丈夫なの?」

 

「それはもう燐子ちゃんと打ち合わせ終わってるもんね。だからおねーちゃん。終わったら一緒に回ろー!」

 

「仕方ないわね」

 

「やったー!」

 

「その打ち合わせ、絶対に意味ない気がするなぁ」

 

俺はボソッと呟いた。

 

 

 

~~

「宣誓。私たちはこの合同体育祭を通じ各校と交流を深め、仲間としての意識をより深めていくとともに、お互いに感謝の気持ちを忘れず」

 

「スポーツマンシップにのっとって···えー···消えることの無い絆をピピッと発揮して」

 

「ひ、日菜さん。内容とちが···」

 

「日頃の成果っぽいものを見せられるようにみんなで力を合わせてるんっ♪とする大会にしちゃおー!」

 

「ぶふっ」

 

やった。やっぱりやった。あの人が額面通りに宣誓なんてしないとは思ったけどやっぱりか。

 

「後半全部アドリブじゃん」

 

「あの子は···」

 

 

 

~~

「わあ!盛り上がってるね。まだ始まったばかりなのに」

 

「この中でやるのか。移動だけでも大変だぞ」

 

「えーとやることは選手の誘導と道具の準備だっけ?得点は?」

 

「井戸原が独自で得点のプログラム作ったからそれ使うって」

 

「さすが、楽するための努力は惜しまない男」

 

「それ褒めてるのか?」

 

「何はともあれお仕事開始ー!」

 

 

 

~~

実行委員の仕事はほんとに忙しい。

 

「はーい、ここで競技が始まるまでお待ちくださーい!」

 

「幅跳び終わりっと。次は高飛びだな」

 

「あ、あの実行委員の方ですよね?お聞きしたいことがって···え?」

 

「香澄さん?」

 

「ましろちゃん、つくしちゃん。どうしたの?」

 

「私たち障害物競走に出るんですけどはぐれてしまって」

 

「それは大変!確か障害物競走は···」

 

「げ!ここから真反対じゃんか」

 

「どうする有咲」

 

「場所を教えていただければ私たちだけでも」

 

「でもちょっと分かりずらいんだよな。誰か···」

 

そこで目に止まった人物は

 

「おーい井戸原」

 

呼ばれた蓮は走って寄ってくる。

 

「何」

 

「ちょっとこの2人ともはぐれたみたいでさ、障害物の所まで連れて行ってやってくれないか?」

 

「え?ポンコツ具合を発揮した結果?」

 

「それは知らん。でもお前も障害物出るはずだったんだよな。出なくなったけど」

 

「え?そうなんですか?良かった」

 

「ましろちゃんどういうこと?」

 

「井戸原先輩にとって障害物競走の障害物なんてあってないようなものなので勝負にならないんです」

 

「へぇー」

 

「お前らバカなこと行ってないで行くぞ」

 

「あ、待ってください!」

 

 

 

~~

「あ、ハードルあったよ」

 

「ナイスおたえ」

 

「並べる時間もあるから少し急いだ方がいいね」

 

「そうだねって何あれ?すごい人あの中にいるのって···」

 

「薫先輩だね」

 

「どうしよう」

 

ガガーーピーー

 

突然電子的なノイズが響いた。

 

『えー瀬田先輩そこ競技準備の邪魔なのでその群衆引き連れて続きは別の場所でやってください』

 

「ああ、それはすまない」

 

「さすが井戸原君」

 

「薫先輩相手でも容赦なし」

 

 

 

~~

続いては去年にもやった借り物競争今年も俺は出ることになった。

 

「それでは位置について、よーい···」パァン

 

『さーてはじまりました借り物競争。この競技の魅力としてはその人の本音が見れると言うところにあります。私の注目は去年の花咲川の体育祭でも借り物競争をやった我らが生徒会会計井戸原君。去年は会長をお姫様抱っこで1着ゴールという伝説があります』

 

この実況どこかでっつーか去年も聞いたな。

 

だがそんなこと露知らずその実況に息を呑んだものが数人いた。

 

『今年はどんなお題を引くのでしょうか』

 

くじを引いて中を見る。そこには、

 

『おーっと去年とは打って変わって見た瞬間客席へ駆け出した!誰の元へ向かうのか』

 

つーか今年も人かよ。おっと1人見っけ。

 

「白鷺先輩」

 

「私?」

 

「はい。お願いします」

 

「いいわよ」

 

『条件にあったのは何と千聖ちゃん!?しかしまだ帰ってこない』

 

もう1人いるんだから仕方ない。

 

『あ、帰ってきた。連れているのは他に紗夜ちゃん!まさに両手に花!刺されても知らないぞ』

 

「うるせえ!お前去年もやってたじゃねえか。先輩だろうが知るか!何部だ。今からでも3割ほど部費削り取ってやる!」

 

『横暴!とかやっている間にゴール!』

 

「えー最低2人。お題は···」

 

そろーり

 

「怖い人」

 

ダッシュ

 

「井戸原君···であら?いないわね」

 

「逃げましたね。待ちなさい!」

 

『逆鱗に触れ逃げる会計!』

 

「日菜!捕まえなさい!」

 

『絶体絶命!』

 

普通に捕まった。

 

「蓮くん、少しお話しましょうか」

 

そうして2人に引きずられていった。

 

 




「あーひでえめにあった」

「いやあれは井戸原君が悪いでしょ」

「納得いかねえ。怖いの事実じゃん」

「まだ足りなかったようね」

「ひっ!」

振り返るとそこには···


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やはりハプニングはあるようで

前回の続き


「まったく、ギターを引いているときのあなたはどこへ行ったのですか」

 

「混同させないでください。あれはあれです」

 

俺は現在2度目のお説教を受けている。

 

「あなたもう少し発言に気をつけた方がいいわよ」

 

ええ全くもってその通りだとは思います。ですが撤回する気はありません。だって今まさにすごい怖いんだもんこの2人。·········というか何故氷川先輩はいるんだ。白鷺先輩はいつ呼んだ?俺この人が一瞬でもスマホ出したところ見てないぞ。

 

このまま2人からくどくどと説教を受けていると、

 

ゴロゴロゴロ

 

なんか聞こえ始めた。これあれでは?テンプレなやつでは?

 

ドカァーーーン!!!

 

「きゃっ」

 

あ、落ちた。そして今可愛い悲鳴あげたのどっちだ。と思って2人を見ると氷川先輩が羞恥に悶えて顔を赤くしていた。

 

「井戸原さん······」

 

そう言って睨んでくる。え?俺悪くなくない?そして彼女が1歩踏み出したその時、

 

バチン!

 

「え?」

 

やっぱりこうなったか。俺は立ち上がり

 

「氷川先輩、とりあえず本部に行きましょう」

 

「ですが日が雲に隠れて暗いので危険です···ってえ?」

 

ピカー

 

「何故懐中電灯を持っているのですか?」

 

「え?懐中電灯くらい普通は持ってるもんじゃないんですか?」

 

「普通は持っていません」

 

「って今はそんなのどうでもいいです。とりあえず行きましょう」

 

本部に戻ると俺はあるものを探し始める。

 

「えーとどこにあったっけ?」

 

「何をしているのですか?」

 

「盤探してます」

 

「盤?一体なんのこと」

 

「氷川さん!井戸原君!いたんですね」

 

「白金さん」

 

「あーブレーカー落ちてんな。あげてもすぐ落ちる。どっかショートしたな。まあ元のブレーカー落ちてないだけマシか」

 

「井戸原君どうしました?」

 

「今は予備電源起動してるんでいいですけど復旧させるなら業者に頼むしかないですね。それでも少なくとも1時間はかかると思いますが」

 

「お待たせおねーちゃん」

 

「揃ったわね。それじゃあスケジュールの組み直しをしましょう」

 

 

 

~~

バン!

 

扉が開き入ってきたのは戸山たちだった。

 

「紗夜先輩!燐子先輩!」

 

「戸山さん」

 

「あの!体育祭はどうなるんですか?」

 

「今業者の方が復旧作業をしてくれています。それまで一時中断としてスケジュールを組み直しています」

 

「中断···どうにかできませんか?」

 

「今は予備電源を使用しているのであまりできることは···」

 

「せっかく盛り上がってたのに···そうだ!」

 

「?」

 

「私たちでライブをやればいいんだよ!」

 

「ナイスアイデア!」

 

「いやいやアンプどうやって繋ぐんだよ」

 

「予備電源を貸してもらえれば···」

 

「気持ちは分かりますが実行委員も手一杯でライブの準備にさく人員はありません」

 

「だったらみんなの力を借りればいいんじゃない?」

 

「日菜」

 

「日菜先輩!」

 

「彩ちゃんとか蘭ちゃんに手伝って貰えばライブの他にいろんなことできるでしょ?」

 

「そうですね。私蘭ちゃんに連絡してみます!」

 

「おーつぐちゃんツグってる!」

 

「これが巷で噂の『ツグってる』か」

 

「巷で噂って何!?」

 

「まあ冗談はさておき」

 

「もー!」

 

「私も彩ちゃん達に連絡しよ!」

 

「私はこころんたちに連絡してみます!」

 

なんだかんだで全員お人好しだからOKするんだろうな。なんて失礼なことを考えながら俺は分電盤を調べていた。

 

数分後

「話は聞いたわ!体育祭が再開するまで私たちで盛り上げるわよ」

 

「準備はジブンに任せてください!」

 

「香澄ちゃん、それで私たちは何をすればいいの?」

 

「皆さんありがとうございます!それはですね······」

 

 

 

~~

「暇だねー」

 

体育祭が一時中断となったせいで観客席では生徒たちがざわめいていた。その時、

 

「やあ子猫ちゃんたち。突然訪れた空白の時間、どうお過ごしかな?」

 

「この声って」

 

「きゃああああああああああああああああ!!薫さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

うわやば。俺はあの観客席にいなくて良かったとすごく思った。言っちゃ悪いけどあんな黄色い悲鳴まじかで聞いたら絶対鼓膜破れるわ。

 

「ふふ、それではショーの始まりだ。最後まで楽しんでくれたまえ」

 

「みんな~!再開するまで、私たちがたーくさん笑顔にしてあげるわ!いくわよ美咲!」

 

「はぁ、まさかこんなところで一輪車に乗ることになるとは···すごい注目されてるし」

 

「さぁ美咲ジャグリングよ!まずはレベル1」

 

「へ?うわぁ!よっ、ほっ」

 

すごい。感心するレベルですごい。これもミッシェルとしての努力の賜物か。

 

「どんどん行くわよ!2!3!4!」

 

「ちょ、ちょっとこころ!」

 

「さぁいよいよレベル5よ!」

 

「え?それってまだ全然出来てないやつ!」

 

 

~~

「こころんたち盛り上がってるみたいだね!私達も頑張らないと!」

 

そう意気込んでギターを鳴らす戸山だが、

 

「うーん。やっぱり音が弱いなー」

 

「まあ予備じゃ仕方ないとは思うが、やっぱりやめるか?」

 

「ううん。やる」

 

「そう言うと思った」

 

なんだかんだでちゃんと芯はあるんだよな戸山のやつ。

 

「何かあれば私が責任とります。だからお願いします!」

 

「有咲ー。私たちがでしょ」

 

「お前ら」

 

「市ヶ谷お前なんだかんだ言って自分のバンド大好きじゃん」

 

「なんか言ったか?」

 

「なんだかんだ言って自分のバンド大好きじゃん」

 

「そこは普通誤魔化すとこだろ!」

 

「はっはっは」

 

 

 

~~

「さて、次はこのショーを提案してくれた子猫ちゃんたちだ。盛大な拍手で迎えてあげてくれ」

 

「こんにちはー!私たち「「「「Poppin’Partyです!」」」」」

 

「私たちライブをします!音は小さいけどまずは1曲目ーー」

 

「おっと子猫ちゃんたち、私からの提案だ。カウントダウンとともに演奏を始めてくれないか?」

 

「なんでだ?」

 

「いいじゃん。何かあるんだよ!」

 

「ふふ、それじゃあ行くよ。5、4、3、2、1」

 

「!!なったー!」

 

「電気もついたぞ」

 

「修理終わったんだ」

 

「そうみたいだね」

 

「よかった~」

 

「それでは聞いてください!」

 

 

 

~~

「みんなジュース持った?それじゃあカンパーイ!」

 

「それにしても早めに直って良かったですね」

 

「そうですね。おかけで最後まで行うことが出来ました。これも皆さんの協力があってこそです」

 

「それじゃあこの後は···」

 

「ええ、お説教の続きですね」

 

「ライブの準備は!?」

 

「冗談です」

 

「どこがですか」

 

「この後ではなくライブの後、ですね」

 

俺は絶望した。そうして始まるライブ。

 

ピロン♪

 

突然着信がした。内容を見て俺は笑みを浮かべた。

 

「お、そっか」




なんか最近すごい「次何書こう」って言ってる気がする。次は何を書こう。


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夏休み再び

あんなサブタイしときながら書き始めは終業式。


「あーちぃ」

 

ある夏の朝、マジで暑い。ぐだぐだしながらも時計に目を向けると俺は飛び起きた。

 

「やっべやらかした」

 

寝坊である。夏休みではない。それは明日からなのでつまり今日は終業式だ。出来れば嫌だが今日遅刻したら間違いなく氷川先輩から嫌味がとぶ。そう確信してエネルギーゼリー飲料を10秒で流し込んだ俺はバイクを引っ張り出した。いざ行こうと思うと1人、焦りながら駅に向かう1人の少女を見つけた。俺は声を掛ける。

 

「へーいそこのお嬢さんお急ぎかい?お望みの場所まで乗せてくぜ。乗りな」

 

「何さその言い方。ありがたいからお言葉に甘えるけど」

 

「いやだって終業式と始業式に遅刻はまずいだろ。浮かれすぎだの気分が抜けてないだの言われるぞ」

 

中3でそれを実際に言われた。

 

「というわけでメットとこれ着ろ」

 

「なんで」

 

「職質受けてもいいなら着なくていいぞ」

 

「着る。でもこれで学校まで行くつもり?」

 

「怒られるわ。途中で止めて歩いてく。ほら行くぞ」

 

「あ、うん」

 

「捕まってろ。法定速度で飛ばすから」

 

そう言うと後ろから手を回してぎゅっと抱きしめてくる。うん、もうちょっと緩くても大丈夫だと思うけど今は一刻を争うからいいやもう。

そして途中のカフェでバイクを止めた。もちろん「マスター。バイク停めさせてもらうね」とことわっておいた。

 

「これなら間に合うな」

 

「いやーホントにありがとう」

 

「いいよ気にすんな」

 

「それにしてもバイクで学校行けるっていいね」

 

「ゴホン」

 

突然の咳払い。

 

「おはようございます」

 

「あ、氷川先輩おはようございます」

 

「ところで今聞き捨てのならない言葉が聞こえたような気がするのですが。バイクで登校したと。校則で禁じられているはずですが」

 

「何言ってるんですか。車はさすがに無理だからせめてバイクでも登校出来たらどれほど楽かって話ですよ」

 

「そういう事ですか」

 

「そうですよ」

 

あっぶね~。これバレたらさすがに怒られるどころの話じゃない。

 

 

 

~~

終業式後

「やったー!夏休みー!有咲ー今年はどこ行く?」

 

「戸山」

 

「なぁに?」

 

「課題もやれよ」

 

「うっ」

 

「市ヶ谷と同意して今年は手伝わんからな」

 

「そんな~~」

 

「おい······」

 

「そういうことだ香澄」

 

「奥沢はどこか行くのか?」

 

「ハロハピであたしのおばあちゃんの家に行くことになった」

 

「それはもう頑張れとしか言えんな」

 

こうして始まる夏休み。

 

 

 

~~

『もしもし?』

 

「もしもし、今時間ある?」

 

『あるけど』

 

「じゃあカレーの作り方教えて」

 

『うん要件はわかった。だがなぜそうなった?』

 

「実は······」

 

ようはこうらしい。収穫の手伝いをしたことでそれを使ってカレーを作ることになった。そして弦巻たちの暴走を事前に止められるようにと。

 

『メモの用意は?』

 

「できてる」

 

『それじゃあまずターメリック、カルダモン、クローブ、クミン······』

 

「ちょっと待って!」

 

『どうした?』

 

「どうしたじゃないよ。当然のように聞いたことないものが出てきてるんだけど」

 

『え?全部カレーに使うスパイス』

 

「なんでそんな本格的なものを作らせようとするのさ」

 

『だって弦巻いるからこの位と思って』

 

「いやカレー作ってるのあたしのおばあちゃんの家だから」

 

『ああ、カレールーの方か』

 

「普通はそっちが出てくると思うけど」

 

『俺たまに作るけど』

 

「うっそ」

 

『マジで』

 

「すごーって!こころ!ちょっと待って!」

 

楽しそうだねぇ。

 

 

 

~~

「カレー美味しかったね」

 

「はぐみ、またおばあちゃんたちにお礼言いたくなっちゃった」

 

「こんな心温まる体験をさせてくれたマダムたちに感謝したいね」

 

「感謝かぁ······ねえ、思ったんだけどみんなでライブをしない?」

 

「ライブ?」

 

「うん。お礼のライブを地域の人達にしたいなって」

 

「それはいいわね!」

 

「仕方ないなぁ。おばあちゃんに相談してみるね」

 

 

 

~~

「みんなーお待たせー」

 

「あーミッシェルだ!電車で来るの大変だったでしょ?」

 

「大丈夫だよ」

 

~昨日~

「奥沢様、お待たせしました」

 

「あれ?どうして···ってミッシェル?」

 

「実は昨日の夜に井戸原様よりこころ様たちが奥沢様のおばあ様のご自宅でライブをされるので届けてあげて欲しいと連絡を受けましたので」

 

「え?なんで井戸原君がそれを知っているんですか?」

 

「それにつきましては通話履歴を確認いただければわかるとおっしゃっていました」

 

「通話履歴?」

 

不思議に思いながらも確認すると驚いた。

 

「こころのことで切るの忘れてた···というか切れば良かったのに」

 

「何か面白いことがあるかもしれないからそのまま切らずに聞いていたともおっしゃっていました」

 

「まぁ助かったから良しとしよう」

 

 

 

~~

ピンポーン♪

 

「はーいって奥沢か」

 

「何か文句でも?」

 

「ないない。どうした?」

 

「はいこれ」

 

「これは···おお」

 

「うちのおばあちゃんのところの畑で取れた野菜のおすそ分け」

 

「サンキュー。いいもんばっかだな」

 

「喜んでもらえて良かったよ。あとありがとう。すごく助かった」

 

「どういたしまして」

 

「じゃあまたね」

 

夏休みはまだ続く。




さっきログインできなくてめちゃくちゃ焦りました。未完のまま終わるんじゃないかと思ったけど良かったぁε-(´∀`*)ホッ


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ホラーな日

今回は前々から考えてました。大雑把に。例えるならラフみたいな感じ


ダダダダダダダ

俺は今走っている。真っ青な顔をしながら必死で。今日ほど外出したことを後悔する日は後にも先にもないだろう。

 

 

 

~~

今日はショッピングモールに買い物に来た。買うものはまぁ本とかシャー芯とかいろいろだ。ふらふらと歩いていると見知った顔に会った。

 

「あら?蓮じゃない」

 

「おお弦巻···と牛込と戸山と奥沢もいたのか」

 

「あたし達は映画見に来たの」

 

「へー何の?」

 

「バイオパニック3!ウチめっちゃ楽しみなんだ~」

 

「そうだ!蓮くんも一緒に見ない?」

 

その誘いに俺は全力で首を横に振る。

 

「絶対にヤダ」

 

と顔を青くしながら言った。

 

「もしかしてそういうのダメな感じ?」

 

「グロいだけならまだいいけどそこに人外のホラーとか混ざったらもうダメ。ホラー単体でも無理」

 

意外な弱点を知ってしまった。

 

「その何か言いたげな顔はなんだよ。笑いたきゃ笑えよ」

 

「いやいやそうじゃなくて。大体なんでも出来る井戸原君の人間らしいところを見られてちょっと安心した」

 

「どう意味だそれ」

 

奥沢に詰め寄ろうとした時、

 

「そういえば千聖先輩が言ってたことってどういう意味なんだろうね?」

 

「ん?何それ」

 

「さっき千聖先輩にあったんだけど、『バイオパニック3を見たら早すぐに帰った方がいいわよ』って」

 

「なんだそれ」

 

「ああ!香澄ちゃん、早く行かないと始まっちゃう!」

 

「ほんとだ!こころ行くよ」

 

 

 

~~

上映後

「怖かったー」

 

「あ、あたしトイレ行ってくるから待ってて」

 

「美咲ちゃん私も」

 

5分後

 

「お待たせーってあれ?いない」

 

「どうしたんだろ?あれ?彩先輩?」

 

「ほんとだ」

 

「あの、香澄ちゃんとこころちゃん見ませんでしたか?」

 

「············」

 

「彩先輩?」

 

「うぅ」

 

「「え?」」

 

「うがあぁぁぁ!」

 

「「うわぁぁぁぁ!!」」

 

何か悲鳴が聞こえたような···

 

 

 

~~

俺が映画館のトイレから出ると正気じゃない顔をした人が大勢いた。その中に丸山先輩がいたが俺を見つけるやいなや全力で向かってきてそれに続く大勢。俺は血の気が引くと同時に本能的におそらくゾンビの群れに向かって突撃、と思いきやへりをつかみ遠心力を利用して群れを飛び越えた。

 

(止まったら負け止まったら負け止まったら負け)

 

だが何故か止まらなくても負けるような気がしたがそんなことまで考える余裕など蓮にはなかった。

壁を蹴って乗り越え商品棚の間を抜けてただひたすらに逃げた。

ゲームセンターに転がり込むとそこには奥沢と牛込がいた。

 

「井戸原君!」

 

「しっ」

 

耳をすませばかすかに声が聞こえてくる。

 

「まだこっちに気づいてない。ゆっくり抜けて出たら走るぞ」

 

「うん。あっ!服が引っかかって」

 

「うぁぁぁ!」

 

「バレた!」

 

「りみこっち!」

 

見つかったものの捕まることはなかった。そのあとはフードコートに逃げ込み身を潜める。

 

「ううう」

 

「近づいてくる···」

 

「大丈夫、大丈夫」

 

そして声が聞こえなくなる。

 

「静かになった?」

 

「行ったかな?」

 

「奥沢おまっそれフラグ···」

 

「うがあぁぁぁ!!」

 

「やっぱりー!」

 

それでも捕まることはなく着いた場所は雑貨店。しかし行き止まりだ。

 

「い、行き止まり!?」

 

「もう···だめだってりみ何してるの!?」

 

「何か、何かないかな?」

 

「何かってこんな時に」

 

「でも無事でいないと。香澄ちゃんにゾンビにならないって言ったし」

 

「りみ···」

 

「何か···あっ!」

 

牛込は見つけたおもちゃのマシンガンを向けようとする。それを違和感なく流れるように奪い取り2人をかばいながら俺は銃口を丸山先輩へと向け睨む。だが止まらない。当然だ。

 

「うがぁぁぁぁ!!!」

 

「行け!」

 

テッテレー♪

 

そんな音が聞こえたような気がした。

 

「「ドッキリ大成功~!」」

 

「「へ···············?」」

 

「は?」

 

 

 

~~

「りみりん!美咲ちゃん!大丈夫だった?あれ?井戸原君もいる」

 

ガンガンガン

 

「大丈夫。でもドッキリって?」

 

ガンガンガン

 

「3人とも収録に巻き込んでごめんなさい。宣伝で映画を見終わったお客さんにゾンビが襲いかかるというドッキリを敷かれるつもりだっのだけれど、まさか3人がターゲットになるなんて···ごめんなさい」

 

ガンガンガン

 

「これを知ってたから早く帰れって行ったんですね」

 

ガンガンガン

 

「そうなの。それに」

 

ガンガンガン

 

「3人とも驚かせてごめんね」

 

ガンガンガン

 

「彩先輩本格的すぎますって」

 

ガンガンガン

 

「ほんと!良かったー。でも井戸原君には驚いたなー。すごい動きで逃げたから」

 

ガンガンガン

 

「そんなにですか?」

 

「海外のアクション俳優並だったよ。それにさっき睨まれた時も迫力あって私思わず声上げそうになったよ」

 

ガンガンガン

 

「最後の井戸原くんはかっこよかったわね。2人をかばって。美咲ちゃんちょっとドキッとしちゃったんじゃない?」

 

ガンガンガン

 

「否定できません。本人は今あんなですけど」

 

ガンガンガン

 

「そうね。さっきから気にはなっていたけどどうしたのかしら?」

 

そう言って目を向けた先では蓮が無言で柱に頭を打ち付けていた。

 

「彼ホラー系嫌いなので恐怖と安堵で狂ったんだと思います。」

 

「井戸原君帰っておいで」

 

「はっ」

 

「おかえり」

 

帰ってきた蓮は全てを思い出したのかしゃがみこんでどす黒いオーラを放っていた。

 

「ぐすっ。もう···先輩嫌い」

 

いじけ具合が半端なかった。

 

「彩先輩が井戸原君泣かせた」

 

「ごごごめんね!そういうの苦手だって知らなくて、だから泣かないでー!」

 

この後しばらく口をきかなかったとか。

 

 

 

~~

「ねぇ井戸原君」

 

「どうしたー?」

 

「ドッキリの動画すごいことになってるよ」

 

「あの完全に巻き込まれ損のやつ?」

 

「そう。なんか出てる男の子の運動神経凄すぎとか最後の方すごいかっこいいとか」

 

「ふーん」

 

「嬉しくないの?」

 

「その賞賛されてる内容の裏側を知ってて素直に喜べるわけないだろ」

 

後日パスパレの事務所から映画に出てみないかと電話が来たが速攻ぶっち切ってやった。ふざけんな。




のちに彼は「思い返してみればあの時ほどパルクールやってて良かったと思ったことは1度もない」と語った。


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全員集合

今日からゾンビランドサガコラボが始まるね


「お、来た」

 

「こっちだよー」

 

「久しぶり」

 

俺は今空港に来ている。何故かと言うと合同体育祭の後夜祭中に夏休みに帰ってくると連絡を受けたからだ。つまりこれでエンドロール全員集合ということになる。

 

「それにしてもいつにも増して眠そうだな樹」

 

「でもこれから練習するんでしょ?大丈夫だよ」

 

「その前に飯食いに行くぞ」

 

烏羽 樹。俺たちのドラム担当で海外進学をしてしまったやつだ。地味に気ままなので結構厄介だ。

 

「日本のファミレスも久しぶりだね」

 

「そりゃそうだ」

 

「ところでどこで練習するんだい?」

 

「そこなんだよな。SPACEは今は使えんし」

 

「蓮のバイトしてるライブハウスでいいだろ」

 

「嫌に決まってんだろ」

 

「じゃあ他にどっかある?」

 

「······ねぇ」

 

「それなら仕方ないね」

 

「ちっ、ちょっと待ってろ」

 

「相変わらずだね」

 

「口は基本いいとは言えないけどまあ優しいっちゃ優しい」

 

「全部聞こえてるぞ」

 

「で、どうだった?」

 

「······ハア、いいってさ。食ったら行くぞ」

 

 

 

~~

CiRCLE練習スペース

 

「それでは練習の前に吊し上げ会を始めよー」

 

「「「おー」」」

 

「じゃあまず、はっすーがいつも大勢の女の子に囲まれています」

 

「「ギルティ」」

 

「おいこら」

 

「決定だな」

 

「すぐに決まったね」

 

「さぁ練習始めよー」

 

「聞けや」

 

 

 

~~

音が聞こえる。1度聞いたことのある音。

 

「これは···」

 

「どうしたの?麻弥ちゃん」

 

「何か聞こえるんです。ここからですね」

 

「~~~~~~~♪」

 

歌っているのは井戸原と他3人。

 

「こ、これは!」

 

「なになにー?」

 

「リサちゃん」

 

やってきたのはRoselia。

 

「激レアです!エンドロールが全員揃って練習してるっすよ!」

 

「ほんとだわ」

 

「キングにおしえあげよう!」

 

 

 

~~

ピロン♪

 

「ちょっとマスキ、練習中は切っておきなさい」

 

「わりーわりー···なんだって?」

 

「どうしたの?」

 

「まっすーさん?」

 

「やべーぞチュチュ!CiRCLEでエンドロールが全員で練習してるって!」

 

「それはほ」

 

「それほんとうですか!!??」

 

「お、おう」

 

パレオのテンションがいつもより高い。

 

「チュチュ様行きましょう!これは逃しては行けないやつです」

 

「わかってるわよ。仕方ないけど練習はこれで終わり。さぁ!行くわよ!」

 

 

 

~~

「来た!」

 

「ここか?」

 

「すごい光景ね」

 

「何話してるんでしょう?」

 

耳を扉に当てて聞いてみると、

 

「いつも通りいい感じだな」

 

「そうだね」

 

「まさかいっつー待ってるだけで何もしないのもあれだもんね」

 

「それでも俺たちにも足りないものはあるからな。ほかの演奏を聞いて見たいもんだ。そんな機会今までなかったからな」

 

「じゃあ聞いてみるか?」

 

「「「え?」」」

 

俺は扉に近づきそれを開けた。

 

「あ」

 

「ごごごごめんなさい!盗み聞きするつもりは」

 

「入りゃいいじゃないですか」

 

「え?いいの」

 

「いいよ。まあ見ての通りこんなだけど。本人目の前にしてどう?パレオ」

 

「す、すごいです」

 

「自己紹介しろよ」

 

葵はパレオが蓮に熱っぽい視線を送るのが気になったがとりあえず気にしないことにした。

 

「はーいキーボード担当の花咲川2年A組の萩野葵です」

 

「俺はベースの麻偽匠です」

 

「高校は?」

 

「海梨高校です」

 

「わあ超難関進学校」

 

「昔から勉強とベースだ・け・はできるもんね」

 

「なんだと?」

 

「いつものキレがないぞー?女の子ばっかで緊張してんのか?」

 

「そんなこと···!」

 

ギャーギャー

 

「お騒がせしてすみません」

 

「いえ」

 

「僕はドラムの烏羽樹と言います。高校はアメリカです」

 

「よろしくお願いします。ところで、ごめんなさい。練習の邪魔をしちゃって」

 

「休憩中だったので大丈夫ですよ。ところであおくん。この人たちが蓮々の囲っている人達?」

 

「そう」

 

「なんだと!?」

 

「囲ってねぇよ!あと肯定すんな。人聞きの悪い言い方すんな!」

 

「じゃあ1人に絞るの?」

 

「それは···」

 

「あ、顔赤くなった」

 

「いるんだ」

 

「そして微妙なところでヘタレ」

 

その瞬間、俺は笑顔で腕を鳴らし

 

「お前ら···遺言があるなら聞くぞ?」

 

追いかけ回した。

 

「逃げんな!」

 

 

 

~~

ギャーギャー

 

「···············」じー

 

「麻弥ちゃん。どうしたの?」

 

「千聖さん。実はジブン、考えてしまって」

 

「何を?」

 

「井戸原さんたちが今もバンド活動をしてたら、あんなことは起きなかったんじゃないかって」

 

「···!そうね。確かにそうかもしれないわね」

 

「ジブンたちの事務所とエンドロールの事務所は交友関係にあったので」

 

俺はいつの間にか止まってその話を聞いていた。

 

「大和先輩···」

 

「あ、井戸原さん」

 

「意外とばかですね」

 

「え!?」

 

「丸山先輩じゃないんですから」

 

「井戸原君それどーゆーこと!?」

 

「今更そんなもしもの話をしてどうするんですか」

 

「無視しないでよ!」

 

「先輩たちは他人の見る目を帰るために練習して来たじゃないですか。今があるのはその過程があったからでその努力がをすることができたのは今ある姿になるためじゃないんですか?」

 

「ええ。そうね」

 

「なので忘れるなとは言いませんが気負わないで下さい。陰気な顔しないでください。こっちの調子が狂います。」

 

「ふふ、ごめんなさい」

 

「だから今のままでいいと思います。丸山先輩はポンコツで、氷川先輩は自分勝手で白鷺先輩は怖い笑顔しながら氷川先輩叱って、大和先輩はニヤニヤしながら機材眺めて狭いとこ入って、若宮はブシドー目指してればいいんですよ」

 

「どうしてちょくちょく悪口挟むの!?」

 

「えー?私自分勝手じゃないよ」

 

「去年なんで羽沢が倒れたと思ってんすか」

 

「なんか···褒められてる気がしません」

 

「ハイ!ワタシコレカラモ頑張リます!」

 

うん。まぁこれでいいだろ。

 

「蓮くん」

 

「なんです···か···ひっ!」

 

「怖い笑顔ってどういうことかしら?」

 

しまった。

 

「はっすーってさー、なんでいいこと言うとそのまま地雷踏み抜きに行くんだろうね」

 

「なんか人の怒らせ方を熟知してる感じだな」

 

「しかも無自覚なもんだからタチが悪いよね」

 

「これからバイオパニックとバイオパニック2を鑑賞しましょうか」

 

「ごめんなさい!それだけは勘弁してください!!」

 

「ふふふ」

 

そのあと、CiRCLEで何度も叫び声が上がったとか。

 

「ぎゃー!!!」




4時間後、蓮が青い顔しながら帰ってきた。

「酷い目にあった···」

「そういうところは反省しなさい」

「叫び声が絶え間なく響いてましたね」

「あ、やば。余韻が」

ぐら

「おっと。大丈夫ですか?」

カシャン

「あれ?メガネが落ちちゃいました。えーとあった」

じーーー

「どうしました?」

じーーー

「あの、さすがに恥ずかしいっす」

「やっぱり」

「ジブンの顔、何か変ですか?」

「大和先輩、メガネない方が可愛いっすよ」

「んな!?」

「絶対コンタクトの方がいいですよ」

「私もそう思うのよね。でも麻弥ちゃん全然そういうのやらなくて」

「そんなこと···ないです///」

「ありますよ。そっちの方が絶対可愛いです」

「~~~///し、失礼するっす!」

「えー?」

褒めたのになんで逃げるの?

「あーあ。無自覚であーゆーこと言っちゃうのも困ったもんだよね」

「だな」

「うん」


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先輩として

練習を終えて帰る支度をしていると呼ばれた。

 

「井戸原君!」

 

「なんですか丸山先輩」

 

見るとなんか頬を膨らませて怒ってるぞーと言いたげなポーズをとっているのだが······すみません。全く怖くないです。先輩がやるとむしろかわいいの部類です。

 

「君は私への敬いが足りないのでお話することがあります。なので今日は一緒に帰ること。いい?」

 

「そんなことないですよ」と「嫌です」を言いたいが食い下がるだろうと確信しているから仕方なく受け入れる。

 

「わかりました。じゃあお腹すいたのでラーメン食べに行きましょう。話はそこで聞きます」

 

「いいよ。でもなんで?」

 

「今日マスキがいるんですよ。あいついるとサービスしてくれるんで」

 

 

 

~~

「彩さん、どうする気なんでしょう」

 

「うーんでもなんか駄目な気がするよね」

 

「駄目よ日菜ちゃんそんなこと言ったら。彩ちゃんにだって先輩のプライドがあるんだから」

 

「でも千聖ちゃんだってそう思うでしょー?」

 

「彩サンハヤレバ出来ル人デス!」

 

 

 

~~

「ここです」

 

着いた先は『銀河ラーメン』。

 

「すごい名前だね」

 

「味は保証しますよ」

 

ガラガラ

 

「ラッシャイマセーって来たな」

 

「うぃーっす」

 

「わぁ、いい匂い」

 

「彩さん?」

 

「あ、マスキちゃんこんにちは」

 

「ちわっす。どうしたんですか?2人で」

 

「いやなんか話があるって言うもんで。それ以上もそれ以下もないぞ。あ、俺いつもの」

 

「あ、わわ私は」

 

「先輩ゆっくり決めてもらって大丈夫ですよ」

 

「うん。んーーー?じゃあ私塩にしようかな」

 

「で、改めて話というのは」

 

「そう!なんでいつもの私のことをポンコツって言うの!」

 

「え?ポンコツだからに決まってるじゃないですか」

 

「う~~」

 

「よくかみますし、ちょくちょくミスするし」

 

「う···私先輩だよ?」

 

「ええ。学年だけ」

 

「だったらなんだと思ってるの!?」

 

「愛玩動物?」

 

ガーン

 

「なんか若干放っておけない感じが」

 

「もっと敬ってよー」

 

「だったらもっと威厳を持ってくださいよ」

 

それを聞いた丸山先輩は頑張るぞーというようなポーズをした。しかし俺はそれを見て

 

(あ、だめそう)

 

と思いながら出てきたラーメンをすすった。

 

 

 

~~

ラーメン屋を出て家まで送っていく。日が沈むまでが長くなったといえどさすがに女の子+アイドルを1人で帰らせるのは気が引けた。気がつけば何故か車道側を歩いていたのでそっと交代する。すると次の瞬間車が横を通過して行った。

 

「あ、ありがとう」

 

一瞬の出来事に戸惑いながらもお礼を言う。しかし住宅街に入った次の瞬間、何故かまた位置の交代をした。何故だろうと彩は疑問を浮かべるがまったく分からない。

 

ワン!

 

鳴き声がしたので顔を向けるとちょうど散歩中の犬が駆け寄ってきた。

 

「わぁー。かわいいわんちゃん!」

 

ワン!ワン!

 

「だっこしてみてもいいですか?」

 

「ええどうぞ」

 

「ありがとうございます。うわぁー!もふもふー!かわいいね井戸原君···あれ?井戸原君どこ?」

 

気づくと蓮がいなくなっていた。辺りを見回すと遠くの電柱から遠巻きにこちらを見ていた。その距離10m。

 

「どうしたのー?」

 

と蓮に近づこうとするが全力で来ないでというジェスチャーが帰ってくる。何かに気がついた彩はそれを無視して近づき、駆け寄った。それに気づいた蓮はさらに距離をとる。だが追いかけることをやめない。すると、

 

「あ!」

 

犬が先輩の腕から飛び出した。俺は青ざめた顔で全力で逃げた。火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか。陸上選手のびっくりの速度だった。

 

「なんか、ドッキリの時よりも速いような···」

 

 

 

~~

犬を飼い主に返した俺たちは再び先輩の家へと向かっていた。

 

「井戸原君犬ダメなんだねー」

 

「あのまま帰ってやろうかと思いましたよ」

 

「ごめんね。弱点見つけたからつい···」

 

「威厳も何もあったものじゃないですね」

 

「う···それは···でもさっきだって見せようと思ったのに」

 

「なんのことです?」

 

「気づけばレシート持ってってお会計済ませてるんだもん。奢ろうと思ったのに」

 

「いやだってまぁ誘ったの俺ですし」

 

「普通先輩が払うでしょ」

 

「中学で稼いだはいいんですけど使い道があんまないんで使える時に使いたいんですよね」

 

「何その贅沢な悩み」

 

「はは」

 

「あ、私の家ここ」

 

話しているうちについたようだ。

 

「じゃあね井戸原君。送ってくれてありがとう」

 

「どういたしまして。じゃあお疲れ様でした」

 

 

 

~~

翌日、白鷺先輩と会った。というか待ち伏せされてた。

 

「なんですか······」

 

「昨日のことは彩ちゃんから聞いたわ。はっきり威厳がないと言われたと」

 

「言いましたね。でも白鷺先輩も少しは思ってるんじゃないですか?」

 

「それは······」

 

「でも、人としてはちゃんと尊敬してますよ。先輩としてはと聞かれるとなんかあれですけど」

 

「どういうこと?」

 

「誰かを裏切って失った信頼を取り戻すのは難しいです。それでも丸山先輩は諦めずにいつも、どんなときであっても声を張り上げ続けました。それってやろうと思ったからといってそう簡単にできるもんじゃありません。でもあの人はそれをやることが出来た。やがてその言葉は誰か1人のこころに響いて、それがどんどん周りの人に伝播してって、多くの信頼を取り戻して今活動を続けることができている。それはとてもすごいことだと思います。そんな人を、尊敬できないわけがありませんよ」

 

「蓮くん···」

 

「あ、でもこのことは···」

 

「よかったわね。彩ちゃん」

 

「え?」

 

丸山先輩が物陰から出てきた。

 

「い、いつから」

 

「そ、その···最初···から」

 

「何やってくれるんですか白鷺先輩」

 

「うふふ」

 

「えへへー。私ってすごいんだー。つんつん。つんつん」

 

丸山先輩が営業じゃないスマイルで俺の頬をつついてくる。

 

「ちょ、やめてください。タコ口にねじ込みますよ」

 

「えへへー。照れ隠しってわかってるから怖くないよー。つんつん」

 

まさかこの人に遊ばれる日が来るとは思わなかった。しかも白鷺先輩もすごくニヤニヤしてくる。しかも場所がCiRCLEなもんだから

 

「ねぇねぇ市ヶ谷さん。あれって浮気?」

 

「いや、どっちかっつーと一夫多妻って感じがする」

 

とかいうめちゃめちゃ不穏な言葉が聞こえた。そもそも誰とも付き合ってねーから。それと

 

「丸山先輩いい加減にしてください」

 

しばらくやめてくれなかった。



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夏休み後半

夏休みも半分を終えた。ちなみに課題はすべて終わっている。そんなこと今はどうでもいい。俺は今CiRCLEの端っこの方でうずくまっていた。丸山先輩にめっちゃほっぺつんつんされたせいだ。恥ずか死ぬ。

 

「えへへー、そっかそっかー」

 

しかもうずくまったせいで今めっちゃ頭撫でられてるし。

 

「蓮々、浮気はだめだよ」

 

「一夫多妻制もないからな」

 

「うるせぇ!まだ結婚できねぇよ!それどころか誰とも付き合っとらんわ!」

 

その間もずっと頭を撫でられる。

 

「はあ、もうイヤ。白鷺先輩なんなんですかこれ」

 

「おそらくだけれど、いつも毒吐く蓮くんとはうってかわった素直さと褒められた嬉しさで若干混乱してポンコツになったんだと思うわ」

 

「やっぱポンコツだって思ってんじゃん······」

 

だめだ。この人止まる気配がない。

 

「これどうすれば戻るんですか~」

 

「彩ちゃんも恥ずかしいめに合わせればいいと思うわ」

 

「なるほど···ってなるかー!それほぼ10割俺がやばいやつじゃないですか!」

 

「大丈夫よ。何があっても私が違うと証言してあげるわ」

 

「言いましたね?言質とりましたからね」

 

俺は振り向き丸山先輩の腕をとる。そして壁まで追いやり、

 

ダァン!

 

まさかの壁ドン。正気に戻った先輩は少しぽかんとしていたが状況を理解すると顔を赤くしてあわあわしだした。俺は目をただじっと見つめる。

 

「ね、ねぇ井戸原君?」

 

俺は何も言わず見つめ続ける。やがて少しずつ顔を近づける。

 

「い、井戸原君···私、アイドルなんだよ?」

 

反抗しながらも弱々しい声。だが彼女は目を閉じ···

 

ビシッ!

 

「あいた!」

 

た直後に痛みが走った。若干涙が浮かび目を開け蓮を見ると、ニヤッと笑い外のカフェテラスへと逃げた。

 

「彩ちゃん大丈夫?」

 

「大丈夫じゃないよー。あんなに威力の高いデコピンされたの初めてだよ~」

 

すると顔を覆って崩れ落ちた。

 

「う~~~」

 

唸る。

 

「彩ちゃん?」

 

「ちょっと期待しちゃったじゃん。井戸原君のばか」

 

そう小さくボヤいた。それを聞いた千聖は

 

「あらあら」

 

と言って笑みを浮かべた。

 

「ほんとなんではっすーてあんなこと平然とできるんだろ」

 

その頃

 

「やりすぎたかもしれん。俺殺されないかな~」

 

全く平然じゃなかった。

 

 

 

~~

このことをほかの人が知るのには1週間かかった。その話を聞いた3人はうろたえた。

本人に直接解いただそうと電話をかけたが、

 

『お掛けになった電話番号は、現在電源が入っていないか、電波の届かないところにあるためお繋できません』

 

電話に出ない。その後も一定時間ごとに電話をかけたが、蓮が出ることはなかった




コラボ終わるまであと4日しかない。


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約束

井戸原君と音信不通になって1週間がたった。

 

「さすがに心配だよね」

 

「CiRCLEに居れば会えると思ってたけど全然来ないし」

 

「まりなさんも分からないって言うし」

 

「美咲ちゃん」

 

「花音先輩」

 

「もう1回かけてみたらどうかな?」

 

「そうね。出なかったらまた考えましょう。さっきから気が気じゃない人が3人ほどいるもの。彩ちゃん、少し落ち着きなさい」

 

「だって~」

 

プルルル

 

「繋がった」

 

その言葉で注目が奥沢に向いた。

 

プルルルルガチャ

 

『もしもし?』

 

「出た」

 

近ずいてきた。

 

 

 

~~

プルルルル

 

電話がかかってきた。かけてきたのは奥沢だった。とりあえず出ておこう。

 

「もしもし?」

 

『もしもし?あたしだけど』

 

「どうした?」

 

『それこっちのセリフ。なんか騒がしいけど今どこで何してるの?』

 

「え?長野で蕎麦食ってる」

 

『え······その、昨日は?』

 

「山梨」

 

『もしかしてずっとそんな感じ?』

 

「そう。あれ?俺誰かに言わなかったっけ?」

 

『誰も聞いてないって』

 

「わーマジか」

 

『う~~』

 

「どうした?」

 

『この1週間全然連絡取れないから心配してのに···あたしの心配返して!』

 

「うお!」

 

声でかい!

 

ブチッ

 

切れた。

 

「え~~?」

 

 

 

~~

「ふーっふーっ」

 

「はい。これ飲んで落ち着こう?美咲ちゃん」

 

「はい。すみません花音さん。ありがとうございます」

 

「でも良かったね。行方不明とかじゃなくて」

 

「でもふざけすぎです」

 

「出たよ。はっすーの放浪癖」

 

「あれ?葵くんたちいつから」

 

「最初から」

 

「前触れもなく突然旅行に行き出すからなあいつ」

 

「しかも言ったと思ってるから困ったもんだよね」

 

「全くだ。あの時のマネージャーの心労といったら」

 

「初めてじゃないんだ」

 

「必ず年に1回はあるよ。半年に1回の年もあった」

 

「なんて迷惑な」

 

「そしてお土産の量がすごいことになる。はっすーのことだから少なくともここにいる人数分は買ってくるよ。持ち帰る方が大変」

 

「金持ってるやつは違うな」

 

「奥沢さん、もっかい電話してみなよ。多分なんでも言うこと聞いてくれそうだよ」

 

「なんでも···してみよう」

 

『も、もしもし?』

 

「井戸原君」

 

『はい』

 

「いつ帰ってくる?」

 

『来週···には···』

 

「夏祭り」

 

『え?』

 

「夏祭りに何か奢って。それで許してあげる」

 

『仰せのままに』

 

「ずるいよ美咲ちゃん!私も!」

 

「パレオもですー」

 

「わ、私も!私だって心配してたんだからね!」

 

『え~?まぁ···いいか』

 

~~

1週間後

 

ガーーー

 

「ただいまー」

 

ダダダダダッピョーン

 

「のわぁ!」

 

バターン!

 

「おかえりなさいませ。井戸原さん」

 

「いきなり飛びついてくんなパレオ。危ないだろ」

 

「ちょっとパレオちゃん!何やってるの!?早く離れて!いくら私たちのファンでもそれは見過ごせないよ!」

 

まぁいいやあっちはほっとこう。

 

「奥沢さん?」

 

ぷい

 

「機嫌直してよ奥沢ー。お土産買ってきたから」

 

「夏祭り」

 

「ええもちろん忘れておりませんとも。はい」

 

「ならよし」

 

「じゃあ気を取り直して。お土産欲しい人ー」

 

シュバ

 

全員手あげるんかい。




遅くなりました。次回は1年次では書かなかった夏祭り。


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浴衣と花火と

毎年近くの神社で祭りやってるんだけど今年もないかなぁ。


「それじゃあまた後でな」

 

「うん」

 

なんか夏祭りに行くことになったしかも俺1人に女子が4人。いやこれダメだろ。俺死ぬぞ。ほかの男どもに刺されるわ。まぁ俺が悪いのだから何も文句は言えんのだが。

 

「じゃあ先輩行こー」

 

「ん?ちょっとまて桐ヶ谷。どういうことだ?」

 

「だって夏祭り行くんでしょ?じゃあうち来なよ」

 

「答えになってないぞ」

 

「いいからいいからー」

 

「ちょっと待て!」

 

なんでどいつもこいつも人の話を聞かないんだ!

 

 

 

~~

桐ヶ谷に連れてこられた場所は呉服屋だった。

 

「ここ?」

 

「そう!あたしの家でーす。ただいまー!」

 

「おかえりー···」

 

なんか止まった。

 

「と、透子が男の子連れてきた!!」

 

爆弾を落としてきた。やめてくれません?

するとものすごい形相の男が歩いてくる。すると俺の胸ぐらをつかみ、

 

「貴様ァ!うちの娘をどうやってたぶらかしたぁ!!」

 

なんかものすごく酷い誤解をされている。

 

「あ、パパ。先輩今日彼女とデートだから浴衣どうにかしてあげて」

 

おい、なぜどっかへ行こうとする。そう呆れながらも視線を戻すと、

 

「そうか、色はどんなものがいいかな?」

 

俺が桐ヶ谷の恋人ではないと知って手のひらが返っていた。工場の機械もびっくりの回転速度だった。

 

 

 

~~

午後6時、俺は人を待っていた。もちろん1人ではない。ポピパから始まりRASまで。うちのメンバーに加えて鋼輝もいる。だがなぜ待っているのかと言うと、ちょくちょくいないのだ。

 

「おまたせいたしました。どうでしょうか?」

 

パレオがやってきた。

 

「お前、普段からいろんな髪色にしてるだけあって何色着ても似合うな」

 

「ありがとうございます!やりました~井戸原さんに褒められました~♪」

 

「あ、いた」

 

そんな声と共にやってきたのは美竹たちであった。

 

「ほらつぐ!何隠れてるのー?」

 

「や、やめてよひまりちゃん。あ、」

 

青葉らに押し出されて浴衣の羽沢が姿を表す。

 

「ど、どう····かな?」

 

「そういうのほんと良く似合うな。可愛いと思うよ」

 

「ほんと?よかったぁ」パァ

 

笑顔がやばい。多分これだけで男何人かは引っ掛けられる。天使かよ。

 

「見つけた!」

 

その声は、と思って振り返ると丸山先輩が手を振りながらかけてきた。しかし、

 

コケっ

 

「あ」

 

「彩ちゃ···」

 

ガシッ

 

「あれ?痛くない」

 

「丸山先輩」

 

そう呼ばれて顔を上げると彼の顔がすぐ近くにあった。顔が赤くなるのが自分でもわかる。

 

「浴衣で走ったらそりゃ転ぶに決まってるじゃないですか」

 

「ありがとう///」

 

「どういたしまして。気をつけてください」

 

「それよりもこれ!どうかな!」

 

「そうですね(ドジな)先輩ぽくていいと思います」

 

「なんだろう。褒められてるはずなのになんか釈然としない」

 

「気のせいですね」

 

で、あとは···

 

「おまたせ」

 

「ああ、来たか」

 

「どうかな?」

 

「奥沢···意外とそういうの似合うのな」

 

「意外とって何」

 

「素直にいつもと違って綺麗っていえばいいのに」

 

うるせーぞ外野。

 

 

 

~~

「おいひ〜。人のお金で食べるのってすごく美味しい」

 

「それがアイドルのする発言ですか」

 

ていうかこいつら俺の財布枯らす気か?金の減りが思ったよりやばいんだが。まあなんやかんや言って俺もたこ焼きやらクレープ食ってるしな。

 

「すごい減り方だね」

 

「ああ、思ったよりもやばい。今日ほど金を持ってて良かったと思ったのは初めてかもしれない」

 

「嫌味?」

 

「なわけあるか」

 

「私は買って貰うより貢献してもらった方が嬉しいけど」

 

「羽沢の家のメニューは全部上手いから言われずともこれからも貢献させていただきますよ」

 

「いつもありがとうございます」

 

「ははは」

 

 

 

~~

そんな2人を監視する4つの影があった。

 

「いい雰囲気ですなー」

 

「いいぞー!つぐ!」

 

「声大きいよ」

 

「なんであたしまで」

 

それはAfterglowの美竹、青葉、上原、宇田川だった。

 

「うう~じれったいっ···」

 

「確かにさっさとくっつけばとは思うけどさ、多分つぐみからの好意に気づいてないと思うよ。蓮」

 

「鈍感そうなのは否定できないな」

 

 

~~

「で、あれどうするよ」

 

「気付かないふりでいいんじゃない?」

 

「そっか」

 

視線には敏感な蓮だった。

 

 

 

~~

「あれ食べたいから買ってきて」

 

「はいはい」

 

そうして買って戻って来ると···

 

「いいじゃん俺と遊ぼうよ♪」

 

ナンパされてた。何だこのテンプレ展開は。

 

「待ってるひとがいるので」

 

「そんなのほっとこうよ。可愛い子ばっかりだし」

 

なんか見たことあるっつーか···あ、思い出した。

 

「お兄さん」

 

「あ?」

 

「困ってるんだからやめときなよ」

 

「関係ねぇ奴は引っ込んでろ!」

 

「去年みたく投げ飛ばしてあげよっか」

 

そうこいつは去年の文化祭でトラブルを起こしていたやつだ。

 

「去年···あ!お前、まさか」

 

ニッコリー

 

「後ろ後ろ」

 

そう言われて振り向くと、

 

「あ、アニキ」

 

「てめぇ、カタギに迷惑かけるなって何度言ったら分かんだ!」

 

「すみませーん!」

 

「ったく。お、お前去年も」

 

「お互い苦労が多くて大変ですね」

 

「なんだ?後ろの嬢ちゃんたちのことで困ってんのか?」

 

「まぁ色々な意味で」

 

「はっはっはっ!頑張れよ」

 

「え?私たちなんか迷惑かけてた?」

 

「9割暴走組だけどな」

 

「ごめん」

 

「いや奥沢のせいではないけど」

 

「私もこころたち制御できてないし」

 

「いやー、あれはほぼ不可能だろ。だから気にするな」

 

「そう言って貰えると助かる」

 

「あ、はいこれ」

 

「ありがとう」

 

ヒュルルルルル

 

「お」

 

ドパーン!

 

「始まった」

 

花火が始まる。この祭りもそろそろ終わる。

 

「綺麗だね」

 

「そうだな」

 

「そこは私の方が綺麗って言うところじゃないの?」

 

「彼氏じゃない奴に言われたって嬉しくないだろ、ってこのくだり前にもやらなかったか?」

 

「やったね」

 

 

 

~~

「むむむ。あれは!ひーちゃんピンチ」

 

「強力なライバル出現」

 

「まだやるの?」

 

「みんな変なこと言わないでー!」

 

 

 

~~

「ねぇ、青葉さんたち何やってるの?」

 

「あれは気にしたら負けだ」

 

のぞくならもう少し超声落とせよ。バレバレなんだよ。

 

「そろそろ夏も終わりだね」

 

「秋になったら文化祭と俺たちは修学旅行だな」

 

「どこ行くんだろう?」

 

「知らないけど毎年最終結論は生徒会が出すらしい」

 

「つまり?」

 

「例年通りなら決めるのは俺と市ヶ谷ってことだ」

 

「ええー?」

 

「いや別に変なところは選ばねえよ」

 

そう言って笑いあっていた。




長らくお待たせしました。もう仕事が忙しいのなんのって。次回は夏休み最終日の予定です。今年の課題はどうなるのやら。


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ご褒美

お盆明けてまた忙しくなるそうです。どのくらいのペースで投稿できるのやら···


zzzzzz

 

真っ暗なトンネルの中で俺は寝ている。

 

「井戸原君」

 

俺を呼ぶ声がする。目を開けると奥沢がそこにいた。

 

「んあ?」

 

「そろそろ見えるよ」

 

それを聞いて思いっきり顔を歪める。

 

「そんな顔しないの」

 

「だってよー」

 

その瞬間、視界が開けた。8月28日、夏休みが終わる数日前。俺たちは

 

「「海だー!!↑↑↑」」

 

「海だぁ···↓↓↓」

 

海に来ていた。そりゃ俺のテンションも下がるよ。海の何がいいのさ。

 

 

 

~~

バスを降りた途端やっぱり来た。潮の香り。あ、うん。ダメだ。

 

「おええぇぇぇ」

 

奥沢が背中さすってくれる。ありがとう。でもまじで気持ち悪い。吐きはしないけどこれなら吐いた方が絶対に楽だ。

 

「去年もこんなことあったような」

 

「あったようなじゃなくてそうだよ。うっぷ」

 

「あーもー行くよ。そろそろやばいみたいだから」

 

「すまん」

 

「私反対肩貸すよ」

 

「両手に花」

 

「浮気」

 

「一夫多妻」

 

誰が言ったか知らんがつっこむ気力はもうなかった。

 

 

 

~~

「落ち着いた?」

 

「もう大丈夫。ありがとう2人とも」

 

今年は去年のビーチではなく弦巻家所有のプライベートビーチ。まぁ去年のホテルは弦巻家運営だったけど。

 

「なんでほとんどの人間は海なんか行きたがるんだ」

 

「井戸原君は海に入る以前の問題だからね」

 

「しばらくいればなれるけど。絶対に入りたくはない」

 

「そもそもどうして嫌いなの?」

 

「うーん。あんまし覚えてないけど最初来た時に合わなかったんだろうな。多分」

 

「そんなもん?」

 

「そんなもん。っていうか2人ともそろそろ行ったら?待ってるだろうし」

 

「そうだね。後でちゃんと井戸原君も来なよ」

 

「へいへい」

 

 

 

~~

落ち着いたので外に出てきたのだがやっぱり慣れない。そんな中、倉田がすごい呆れた目で見てきた。

 

「先輩、やっぱりですか」

 

「うるせぇよ」

 

「やっぱりってー?」

 

「うん。先輩って海苦手だから中学生の時の部活の夏合宿は必ず2日目からの参加だったんだよね」

 

「そんなんだー。ところで広町の水着どうですかー?」

 

「さっきまでの話と一切関係ないな。あーうん。似合ってる似合ってる」

 

「すごい投げやり感」

 

「海に来て外でいつもの先輩が見れるわけないよ」

 

「余計なこと言うな。というか今更聞くが何しに来た」

 

「あ、そうだ。なんで突然海に来たんですか?」

 

「そういや言ってなかったな。一切お前らには関係ないけど。まぁ簡単に言えば戸山と北沢が課題終わらせたからだな」

 

「かすみさんが?」

 

「おい。全員揃って『何を言ってるんだこいつは』と言いたげな顔をするな。俺だって戸山に課題ちゃんと終わらせたからご褒美ちょうだいと言われた時は同じような反応をしたが」

 

「······」

 

「倉田、お前今すごい微妙な顔してるぞ」

 

「知ってます」

 

「まぁそのご褒美に反応したのは弦巻なんだがな」

 

 

 

~~

一通り遊んで(俺は遊んでない)ホテルへ戻る。今回は2泊3日なので結構時間がある。

 

「しっかしプライベートビーチでホテルってどういうことだ?プライベートなのに」

 

「確かにそうだね」

 

隣の奥沢が苦笑いをしている。

 

「それはまさに今回のようなことを想定してのことです」

 

「うお!」

 

びっくりしたー。気配殺して近づくのやめて欲しい。

 

「申し訳ございません」

 

なんで考えてることわかるのー?

 

「お夕食の準備までしばらくかかるのでゆっくりお待ちください」

 

「じゃあ風呂にでも入るかな」

 

部屋に戻り準備をして浴場へ向かう。が、

 

「············」

 

普通に言葉が出てこない。去年よりもこっちの方が規模がでかい。

 

「なんだろう。こんなものを独り占めしていいのだろうか」

 

とか思ったが、

 

「ま、いっか」

 

考えることをやめた。

 

「ふいー。いい湯加減」

 

そして俺しかいない風呂をこれでもかと満喫し、自覚するほど満面の笑みで出た。

 

「コーヒー牛乳は···飯前だからやめとくか」

 

しばらくして声が聞こえてきた。

 

「あ、出てたんだ」

 

「丸山先輩髪まだ濡れてますよ。ちゃんと乾かさなかったでしょう。風邪引く上に傷んでいいことないですよ」

 

そして流れるように丁寧に髪を拭いてあげる。他の数人が羨ましそうに見ており、何人かがニヤニヤしていることには気が付かなかった。

 

 

 

~~

そして飯の時間がやってくる。予想通り豪華なものだった。

 

「わー!美味しそー!」

 

「こんなに豪華なの私が食べてもいいのかな?」

 

「シロー。また悪いところ出てるよ」

 

「市ヶ谷」

 

「何?」

 

「お前こっちな」

 

「なんでさ」

 

「なんでも」

 

「お前これ食べたら仕事だからな」

 

「は?」

 

「夏休み中に修学旅行関係の書類手伝えって言ったよな?」

 

「言った」

 

「お前了承したよな?」

 

「した」

 

「1度でもやったか?」

 

「·········やってません」

 

「という訳だ。俺他にもやることあったから半分くらい残ってんだよ」

 

「まじか」

 

「ご馳走様。そんなわけで先始めてるから」

 

「早っ!」

 

後に市ヶ谷も食べ終わったので2人で進める。

 

「ところで井戸原って修学旅行楽しみなのか?」

 

「楽しみだけど正確には帰ってきたら後だな」

 

「あと?」

 

「後輩がどんな顔してるか」

 

「ああ···」

 

市ヶ谷は遠い目をして納得した。

 

「会長たちいない時地獄だったもんな。たった2人いないだけでこうなるんだって」

 

「いい性格してるのな」

 

「どーも」

 

~夜10時~

「終わったー」

 

「これで残りは何も考えずに遊べるな」

 

「お疲れ様です」

 

終わってくつろぎ始めると声がかかった。

 

「会長に氷川先輩。どうしたんですか?」

 

「これをどうぞ」

 

そう言って飲み物を手渡してきた。

 

「あ。ありがとうございます」

 

「2人とも今年は修学旅行なんですね」

 

「そうですね」

 

「また大変になります」

 

2人とも遠い目をした。これは先輩たちも経験したようだ。出来れば思い出したくないのか、話を切り上げようと

 

「そろそろ寝ましょうか」

 

「そうですね」

 

思い出したくないのは俺達も同じだ。来年またあるけど。

 

「ではおやすみなさい」

 

「はい」

 

部屋に戻った俺は、簡単なファイル整理だけ済ませて眠りについた。






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パレットにはない色

2日目でございます。


朝起きてロビーへ降りると既に何人かいた。

 

「おっはよー」

 

「朝から元気ですね日菜先輩」

 

「おはよう···」

 

「おはようございます。俺が悪かったのでむくれないでください」

 

「あ、井戸原君起きてきた」

 

「あら、すごい寝癖ね」

 

「丸山先輩、白鷺先輩おはようございます。そんなにですか?」

 

「ええ。それはもう」

 

「別に朝食べてからでもいいと思ったんですけど」

 

「そうね。そろそろみんな降りてくるでしょうし」

 

白鷺先輩の言ったように続々と起きてきた。朝食を食べたあと、色々準備しようと思って部屋に戻ると何故か丸山先輩まで着いてきて

 

「昨日髪拭いてくれたお礼に寝癖直してあげる」

 

と、ドヤ顔で言ってきた。めんどくさいのでもう任せた。

 

「終わったよ」

 

ボーッとされるがままになっていると呼ばれたので我に返って鏡を見ると以外にもちゃんと整っていた。なんかいつもと違う気もするがまぁいいか。

 

「ふふん。どう?私だってこのくらいのことはできるんだからね」

 

「そうみたいですね。正直あんまり期待してませんでした」

 

「どうして君はいつもそんなに辛口なの!?」

 

「いつもの自分を思い返してみればいいと思います」

 

「うう~~」

 

「でもありがとうございます」

 

パァァァ✧

 

「どういたしまして!」

 

なんだろう。ちょろすぎて不安になってきた。

 

「ところで」

 

「うん?」

 

「アイドルが男と部屋で2人きりってどうなんですか?」

 

今気づいた。これは本当。

その言葉に顔が赤くなっていく。

 

「あう~~」プシュー

 

なんか変な動きしだした。どんな想像してんだこの人は。

 

「うん!井戸原君なら大丈夫!」

 

「なんの根拠にもなっていませんが。あと、着替えたいんでそろそろ出てって貰っていいですか?」

 

 

 

~~

井戸原君の一言に顔を熱くしながら部屋を出ると千聖ちゃんがいた。

 

「彩ちゃん。プライベートビーチで良かったわね」

 

「うん」

 

「いくら井戸原君のことが好きだからってアイドルなんだから自重しなきゃいけないわよ?」

 

「好き?誰が······誰を?」

 

千聖ちゃんが何故か驚いた顔をしている。

 

「自覚なかったのね····。彩ちゃんが井戸原君をよ」

 

「私が、井戸原君を?」

 

よくよく考えてみれば学校では生徒会同士で有咲ちゃんとよく話しているのを見るけどなんだかその度モヤモヤしていた。この間私が珍しくからかって反撃されてキスされるかと思ってドキドキしてちょっと期待して私も普通の女の子になるのかなって考えたけどそんなこと思いもしなかった。

 

「私は···井戸原君が、好き···」

 

自覚した途端。うずくまってしばらく顔をあげることが出来なかった。

 

彼女はなかなかにキケンな思考を持っていたようだ。

 

 

 

~~

部屋の扉を開けるが誰もいない。

 

「なんか会話が聞こえたような気がしたけど」

 

まあ誰もいないのだから気がしただけだろう。そんなことを考えながら下へ降りるともう全員いた。

 

「あ、来た」

 

「遅いよ」

 

「ねえねえ。今日はどうするの?」

 

「うーんそうだなぁ···うちの事務所にお土産せがまれたし買い物でも行くか」

 

「わーい」

 

「い、井戸原君」

 

「その···一緒に······い、行かない?」

 

丸山先輩が誘ってきた。しかし

 

「それはアウトでは?」

 

アイドルが男と2人で買い物とかバレたら只事では無いだろう。

 

「大丈夫!ちゃんと変装するから!」

 

そういう問題か?

 

「心配しなくても大丈夫よ。彩ちゃんの変装服は私が選んだものだから」

 

「それなら安心ですがその言い方だといつもの変装がちゃんとしたものではないという風に聞こえるんですが」

 

「あはは~···」

 

「そうだね~」

 

今井先輩が話に入ってきた。

 

「いくらか前に私に『芸能人オーラバリバリ出るお忍びコーデ教えて』って言ってきたくらいだからね」

 

それはつまりバレたいと言うことなのだろうか。いや、そんなんめんどくさいじゃんと思いながら、

 

「ええ···」スっ

 

「ひ、引かれた!千聖ちゃん!井戸原君に1歩引かれた!」

 

するとそれを諭すように

 

「彩ちゃん。それが嫌なら井戸原君の前でなくてもちゃんとした変装しましょうね」

 

「うん···」

 

ん?俺の前じゃなくてもってどゆこと?それについて聞こうと思ったが

 

「おい井戸原。早くしないと時間なくなるぞ」

 

邪魔がはいった。まぁ仕方あるまい。行くとするか。

 

「じゃあ行きましょうか」

 

「うん!」

 

 

 

~~

「いやー楽しいね!」

 

「そうっすね。それにしても···」

 

俺は周囲を見渡す。

 

「意外とバレないもんですね」

 

そして丸山先輩の手元に目を落とす。

 

「ところでそれ、重くないんですか?」

 

その手にはさっきまでに買ったものが入った袋を持っている。見るからにキツそうだ。なんかちょっと息上がってるし。手がすっごいプルプルしてるし

 

「うん。ちょっと重いけど大丈夫」

 

いや、どう見てもちょっとじゃないし大丈夫そうでもない。

 

その強情さに呆れながら荷物を奪い取った。

 

「あ!」

 

一瞬にして取られたのに驚きながらこちらを見て···顔を膨らませ奪い返しに来た。

 

「返してよ!大丈夫だって言ってるのに!」

 

「いや無理でしょう」

 

尚も諦めずに向かってくる先輩を見てあることに気がついた。

 

「あの、そんなに激しく動くと······」

 

「隙あり!」

 

と言って奪い返したのだが次の瞬間、

 

「ねぇ、あれ彩ちゃんじゃない?」

 

「嘘!パスパレの!?」

 

凍りついた。うん。これは非常にまずい事態だ。だってそこらから

 

「じゃあ隣にいるのって彼氏?」

 

とか聞こえてくる。このままじゃ俺や先輩だけでなくパスパレ自体に大ダメージが行きかねない。仕方ない。即興でどうにかするしかない。

 

「彩姉だから言ったのに。姉ちゃんにしとけって」

 

「???」

 

先輩が疑問符を浮かべているが無視して続けよう。

 

「アイドルなんだからそのへんも気をつけなきゃ。知らない人からすればいくら従兄弟だからって彼氏にしか見えないんだから」

 

「!うん。ごめんね」

 

どうやら俺の意図を汲み取ってくれたらしい。

 

「起こったことは仕方ないから。ほら行こ。まだ買うものあるんでしょ?これだけ買っときながら何を買うのか知らないけど」

 

そうしてその場を後にした······のだが、誰かが着いてきている。

 

「ねぇい」

 

「しっ」

 

多分まだ疑ってるんだろう。めんどくさいから通報しておこう。別に関係がどうあろうと不審者摘発したってなんの問題もない。

そして数分後にやってきた警察に連れてかれた。ざまあみろ。

 

 

 

~~

「うう···ごめんね」

 

「いやもう終わったんでいいですよ」

 

「そんな訳には···あっ!じゃああそこのクレープ奢る!」

 

「そんな訳には」

 

「いいから」

 

譲る気はないのか···。この強情さはいいのか悪いのか。でも今はお言葉に甘えておこう。

 

「じゃあ俺はチョコカスタードの白桃トッピングで」

 

「いいよー。私はベリーミックスにしよ♪」

 

そして俺たちはクレープを食べながら次の場所へ向かう。

 

「ん~美味しぃ」

 

のだが、ときどきチラチラ俺のを見てくる。そんなに食べたいのか。

 

「食べます?」

 

「だ、大丈夫だよ!」

 

「でも食べたいんですよね?後悔しません?」

 

「···もらう。いじわる···」

 

最後の言葉は聞こえなかったみたい。

 

「私のもいいよ」

 

交換して食べようとするが、あることに気がついた。

 

(こ、これって間接キスじゃない!?)

 

「井戸原君!ちょっとま···」

 

時すでに遅し。蓮は一口食べた後だった。

 

「こういうのもいいな。ん?食べないんですか?」

 

「た、食べるよ!いただきまーす」パク

 

「どうですか?」

 

「お、美味しいよ」

 

「それは良かったです」

 

(うう~。恥ずかしすぎて味なんてわかんないよ///)

 

 

 

 

~~

「これで終わりですか?」

 

「うん。あとは井戸原君のだね」

 

「?俺なら終わってますけど」

 

「いつの間に!?」

 

「ああ、やっぱり気づいてなかったんですね」

 

まぁ予想はしてた。

 

「それにそろそろいい時間なので戻りましょ」

 

「うんそうだね」ドン

 

「あっ」

 

「あ!」

 

急いでいて気づかなかったのだろう。通行人の1人がぶつかってバランスを崩した。しかも運の悪いことに石階段の手前。ダメだと思ったその瞬間。腕を捕まれ引っ張られ体の行き着いた先は、

 

「丸山先輩、大丈夫ですか?怪我ないですか?」

 

「っ~~~~!///···うん」

 

彼の腕の中だった。嬉しいけど恥ずかしい。私の顔は自覚できるほど真っ赤だと思う。

 

「ほんとに大丈夫ですか?」ズイ

 

(ち、近い///)

 

その後、ぶつかった人は丁寧に謝ってくれた。幸い怪我はなかったので余計なトラブルはなく別れた。

 

彼は、私を色眼鏡で見ない。私を私として見てくれる。少し無愛想で、毒舌で、でもかわいくて。優しくて、誰かに寄り添える。そんな君が、私は好き。

 

「井戸原君」

 

「なんですか?」

 

でも、この気持ちは今はまだ閉まっておこう。

 

「ありがとう」

 

そして、いつか必ず伝えよう。

 

 

 

~~

「井戸原君」

 

そう呼びかけてくる。

 

「なんですか?」

 

そして彼女は

 

「ありがとう」

 

その言葉と共にアイドルじゃない。彼女自身の笑顔を見せた。鮮やかに、花のように。

 

「それは反則だと思う···」

 

聞こえないように呟いた。俺に見せた彼女の笑顔を、とても可愛いと思ってしまった。

 




合流後

「あら彩ちゃんご機嫌ね。何かいいことでもあったの?」

「あ、千聖ちゃん。うん、でもね秘密」

「ふふ。それなら仕方ないわね」


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帰還

前回のあらすじ
丸山先輩と買い物に出かけた俺。ホテルに戻ろうとした矢先、通行人がぶつかり先輩が石階段から落ちかけた。それを阻止した俺は先輩にとてもかわいらしい笑顔を向けられた。


「井戸原、誰に喋ってんだ?」

 

「···どこから聞いてた?」

 

「前回のあらすじから」

 

「全部じゃねえか」

 

「あれか?これを読んでいるに人か?」

 

「やめい。メタい発言をするんじゃない。」

 

 

 

~~

ピンポーン♪

 

旅行最終日。帰るだけなので朝から出る。なんせ遠いもんで。下に降りてエレベーターを出るとそこにはもうほとんどいた。

 

「あら井戸原君。おはよう」

 

「白鷺先輩おはようございます」

 

「あ!おはよう井戸原君」

 

「丸山先輩。お···はようございます」

 

「大丈夫?」

 

「?なんともないですけど」

 

「ならいいんだけど」

 

「ところで何人かまだ来てませんね。氷川姉妹もいないですし」

 

「日菜ちゃん起こしてるんじゃないかしら」

 

ありうる。

 

ピンポーン

 

こんなことを話してるうちに全員が降りてきた。日菜先輩はまだ眠そうだ。

 

 

 

~~

「うう···」...(lll-ω-)チーン

 

「井戸原君大丈夫ですかー?」

 

「大丈夫なわけない」

 

バスに乗ったらこのザマだ。完全に寝不足だ。理由はわかってる。昨日の丸山先輩の笑顔のせいだ。あんなの、アイドルとしてじゃなく俺個人に向けたものだってことはわかる。意識してしまうのは仕方ない。だから挨拶も微妙な感じになってしまった。結果、乗り物酔いになった。酔い止め用意しといて良かった

 

「井戸原君大丈夫···じゃないね」

 

見るからに顔色が悪い。重症だ。

 

「丸山先輩···」

 

彼は基本1人で座っているので空いてる隣に腰掛ける。

 

「無理しなくていいよ」

 

「じゃあ少し寝ます」

 

「うん。おやすみ」

 

そう言って彼は頭を私の太ももに置いた。いや、正確には落ちてきたというのが正解。

 

「!?い、井戸原君···」

 

とても気持ちよさそうに寝ている。私はその寝顔をしばらく独り占めしていた。

 

「丸山先輩···」

 

私の名前を呼ぶ。どんな夢を見てるんだろう。

 

「これ以上のトラブルは勘弁してください」

 

ほんとにどんな夢を見てるんだろう······。

 

だがその一方で光る目が6つ浮かんでいた。

 

 

 

~~

日の光で目を覚ますとすごいニコニコした丸山先輩がいた。そういや寝不足で寝落ちした記憶はあるのだがこれはどういう状況だ?

 

「あの···」

 

「井戸原君寝たら私の膝に頭落ちてきたんだよ♪」

 

なんで嬉しそうなんだろう···というか俺は何度同じ状況になったら気が済むんだろう。

 

「はぁ」

 

自分の情けなさにため息つきながら起き上がる。

 

「もう少し寝てても良かったのに」

 

「いえ。もう落ち着いたので」

 

あとなんか微妙に殺気を感じるし。

 

 

 

~~

数時間後

 

「あ~~やっと帰ってきた」

 

「楽しかったねー」

 

「また行きたーい」

 

他の人は楽しめたようで何よりだ。

 

「それではここで解散にしましょう。あまり遅くなりすぎないように」

 

「はーい」

 

「んじゃ帰るか奥沢」

 

「···うん」

 

何その反応···

 

道中

 

「奥沢お前何怒ってんのさ」

 

「別に怒ってないよ」

 

えー?

 

「ほらそこでなんか奢るから飲みながら帰ろうぜ。歩くと長いし」

 

「うん」

 

店内に入るとひんやりとした空気が心地よかった。

 

「どれにする?」

 

「じゃあ俺これ」

 

店を出るとまた生暖かい空気が肌にまとわりつく。

 

「8月も終わりだし夕方だけどあちぃな」

 

「そんな中飲むこれは最高だけどね」

 

「だな」

 

良かった。機嫌は直ったみたいだ。

 

「ところでなんで怒ってたの?」

 

「怒ってた訳じゃないけど···帰りのバスの彩先輩が羨ましいなって」

 

「お前もやったじゃん」

 

「そうだけど···それとは別っていうか」

 

その後は互いに別行動だった昨日の話をしたが、詳しいことを話したら奥沢にまたむくれられた。




夏休みは終わりですが次はちょっと番外編を挟みたいと思います。


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2人の憂鬱

約5ヶ月ぶりです。ごめんなさい。書く暇がありませんでした。夜勤多すぎんだよ。


夏休みもそろそろ終わる。そんな中、掛け声と熱気の中に俺は居る。

 

「先輩」

 

「なんだ?」

 

「私たちこんなところで何してるんでしょう?」

 

「ほんと...何してるんだろうな」

 

倉田とともに。ここは俺たちが卒業した中学の体育館...ではなくその近くにある公共の体育館だ。なぜこんなところにいるかと言うと数日前に遡る。まだ中学生だったとはいえ、当時スマホを持っているやつがかなり多く、日程などの連絡を取り合うためにグループを作ったのだ。ちなみに俺は抜けるのが面倒だったため引退してもそのままだったのだがそれが仇となった。中3当時1年だった後輩からさらにその後輩の練習見るのを手伝って欲しいと言われた。その時は他のことに気を取られてろくに話を聞かず返事をしてしまったのだ。1度YESと言ってしまったし特に何もない日だったので仕方なく、しかし1人は嫌なので当時マネージャーをやっていた倉田を巻き込んだのだ。

 

「先輩のせいですからね」

 

「はいはい。帰りになんか奢ったるから」

 

「あ、キャプテン!来ていただいてありがとうございます!」

 

「久しぶり。もうキャプテンじゃないがな。それよりもまぁ引退したのによく顔を出すもんだ」

 

「キャプテンはOB戦でも来ませんでしたからね」

 

「引退したんだからデカい顔するものじゃないだろ」

 

ちなみにOB戦は叩きのめしてしまった。ブランクはあるはずなんだがなぁ。

 

「だがなぜ俺だ?お前らの代はまだいただろう」

 

「ほとんどが途中で辞めました。結果5人になったんですけど今1人怪我してて」

 

「なるほどね」

 

「それを彼女に相談したら...」

 

「彼女?」

 

「私の他にもう1人マネージャーいたじゃないですか?」

 

「いたな」

 

「引退と同時に告白したんです」

 

「はい。それで誰か空いてるOBがいないか聞いてくれたみたいで、倉田先輩からキャプテンが空いてるって」

 

「やっぱお前のせいじゃないか。奢るのはなしだな」

 

「ええ!?」

 

「冗談だ」

 

「もう」

 

「キャプテンと倉田先輩は付き合ってるんですか?」

 

「「それはない」」

 

「そ、そうですか」

 

「先輩はもう彼女...と言うよりあれはもう奥さんですね」

 

「うるさいぞ倉田」

 

「否定はしないんですね」

 

「どんな方なんですか?」

 

「この人」

 

そう言っていつだか撮った写真を見せる。

 

「おい」

 

「綺麗な方ですね」

 

「お前らほんともうマジで黙れ」

 

この後後輩どもにはアイス奢ってやった。2人には余計なことを言わない事を条件にいっちゃん高いアイスを奢った。いつか、言える日が来るのだろうか。




書く気はちゃんとあるんだよ。


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番外編 いつもと変わらない日常

今回は番外編です。何回かに1回出すつもりでいます。


ここはとある大陸。そこには、とあるひとつの組織がいた。その名を『冒険ギルドGBP』。どんな依頼も請け負い、どんな場所でも行く依頼達成率90%以上を誇る最強と言っても過言ではない組織である。構成人数45人というなかなかに多い。そんな彼女たちはいつも通りな毎日を過ごしています。

 

 

 

~~

冒険ギルドGBP。とある町に10haという広大面積に7階建て+屋上付き+3~7階に20部屋づつ計100部屋というなかなかに人目を引くぶっ飛んだ拠点を構えている。なぜこんなに豪華な拠点があるかと言うと、数年前に建物にガタが来てしまい、立て直そうということになった。じゃあなんでこんなにすごいのかって?それは何故かうちのギルドに所属している公爵令嬢のココロの家の財力が火を吹いた結果である。部屋が多すぎて他の部屋は物置状態だが。

うちのギルドは基本内部でパーティーが構成されており、その数はPoppin Party・Afterglow・Pastel*Palette ・Roselia・ハローハッピーワールド・Morfonica・RAISEA SUILEN・エンドロールの8つ存在する。

 

 

 

~~

「ふああ」

 

朝目が覚めて下へおりても誰もいない。誰もいない?

 

「カスミのやつ今朝朝食当番なのに寝坊したな」

 

だがこのまま朝ご飯が食べられないのも困るので、ため息をつきながらアリサは朝食の準備を始めた。

 

しばらくしてると続々と起きてきて朝食を食べ始めた。

 

「やっぱりアリサちゃんのご飯美味しいね。でも当番じゃなかったような」

 

「本来ならカスミなんですけど起きてこなくて」

 

「おっはよー」

 

起きてきた。

 

「あれ?今朝の当番アリサだっけ?」

 

「お前だよカスミ」

 

その言葉に顔を青くした。

 

「やっちゃったー!!ごめんアリサ~」

 

「くっつくな!代わりに次のあたしの当番の時にやれよな」

 

「うん」

 

 

 

~~

朝食を食べれば、各々依頼へ出かける用意を始める。依頼はペットの捜索からドラゴン討伐まで様々なものがあった。昔は邪神の封印なんてものまであったそうだ。そこへ1人のおばあさんが降りてくる。

 

「あんたたち」

 

「あら?マスター。どうしたのですか?」

 

「今日あの子たちが帰ってくるからちゃんと出迎えてやりな」

 

「そんなんですか?」

 

「ああ。さっき連絡があった。夕方には着くそうだ」

 

「本当に!?こうしちゃいられないわ。ハグミ、カオル、ミサキ、カノン今日は飛びっきりのお肉を取りに行くわよ」

 

「ココロ。そんなに焦らなくたって逃げないよ」

 

「でもその通りに帰ってこなかった時が何回かあったもの。私すごく心配したのよ···」

 

「ごめんねココロ。ほら喜ばせるために頑張ろ」

 

「そうね。行きましょう!」

 

「「「おーーー!」」」「ミッシェル起動」

 

解説しよう。ミッシェルとは様々な武器と機能を搭載した熊型の全身鎧のことである。

 

「張り切ってるわね」

 

「まぁ仕方ないよね」

 

「あんたたちも今日は早めに帰って来て労ってやりな」

 

 

 

~~

バサッバサッ

 

「グルルル」

 

突如として聞こえたような唸り声。それに全員が顔をあげた。

 

「あ!帰ってきた!」

 

「今回はちゃんと宣言通りだね」

 

ガチャ

 

「「「「ただいまー」」」」

 

「おかえりー」

 

「おかえりなさい!」

 

「あー疲れたー」

 

「お疲れ様」

 

「なんかいい匂いするな」

 

「今日は4人が帰ってくるから豪華だよ。先お風呂入ったら?」

 

「そうするか」

 

入浴後

 

「いつにも増してすごいな」

 

その後、飲んで食べて夜更かしした。翌日、4人以外全員寝坊した。

 

「あんたたちなんでそんなに強いの?」




施設紹介
・ギルドハウス
1階
食堂、大浴場、その他共用スペース

2階
鍛冶場、修練場

3~7階(省略)

・竜舎
各パーティーに一体づつ移動用の竜がいる。


パーティー、人物紹介
・Poppin Party
何を始めるか分からない自由気ままなパーティー。ストッパーが2人もいるにも関わらず止められる方が少ない。訳の分からない作戦を実行しては何故か成功させる。

・Afterglow
超攻撃型のパーティー。回復薬が1人しかいないため怪我が多い。Pastel*Paletteに1番お世話になってる。

・Pastel*Palette
サポートなどが多いため、他のパーティーと依頼に行く事が多い。やむなく自分たちだけの時は才能の塊が大抵片付けてしまう。

・Roselia
担当などを含めとてもバランスのとれたパーティー。依頼達成率もちゃんと高い。

・ハローハッピーワールド
何を始めるか分からないパーティーその2。公爵令嬢の財力で様々な技術を導入したものを使用している。依頼達成率もそこそこな代わりに、たまに被害がえげつない。

・Morfonica
入ったばかりのメンバーで構成されたパーティー。みんな指導をかってでてくれる。ちなみにレンはマシロの冒険者育成学校の先輩なため断っている。

・RAISEA SUILEN
Morfonicaと同じくGBPに入ったばかりだが経験年数が違う。Roseliaに並ぶ実力を持つ。

・Glitter*GReen
リミの姉が所属するパーティーで所属期間が最も長い。メンバーは年下をからかっているがとても可愛がってる。ただレンたちに関しては容赦なく返り討ちにされている。

・マスター
冒険ギルドGBPのギルドマスターをしている老婆。めちゃめちゃ厳しい。

・マリナ
副ギルドマスター。依頼処理などは主に彼女が行っている。

・エンドロール
本来男子禁制のGBPにおいて特例中の特例として所属している。GBPの中で最強のパーティーと言われているが決めたわけではないので根拠はない。しかし他のパーティーと比べ4人という大きな差を持ちながらも冒険者を始めてから今までで依頼達成率97%というのが最強と言われる理由かもしれない


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まさかの事実?

8月も終わり9月に突入。しかし始業式の日、鋼輝の様子がおかしいことに気がついた。


9月1日。始業式も終わって特にやることは無い。あとずっと気になっていた。なんか鋼輝の様子がおかしい。今日はずっとぼーっとしていた気がする。

 

「おい鋼輝」

 

返事がない。

 

「鋼輝」

 

「はっ。あ、どうした?」

 

やっと反応した。

 

「それはこっちのセリフだ。さっきから何見てんだ?」

 

「わかんないのか?」

 

と言って視線を戻す。そして俺も同じほうを見る。

 

「分からないな。少なくとも俺には2人見えてるから」

 

その先には戸山と市ヶ谷がいた。

 

「···熟年夫婦の片割れの蓮に相談があるんだけど」

 

よし。帰ろう。

 

「待って待って冗談だから!お願いします。相談に乗ってください」

 

「はぁ。腹減ったから飯食いながらな」

 

「んー何食う?」

 

「ハンバーガー」

 

「よし。奢ってやろう」

 

「それ相談乗ってもらうやつの態度か?」

 

 

 

~~

「いらっしゃいませー。あ、井戸原君」

 

「松原先輩どうも。こんな日にまでバイトとはお疲れ様です」

 

「ありがとう。あ!ご注文お決まりですか?」

 

「ああ。トリプルチーズバーガーをセットで。サイドがポテトでドリンクはオレンジジュースでお願いします」

 

「店内でお召し上がりですか?」

 

「はい。隣のばかの相談乗らなきゃ行けないんで」

 

「おい!」

 

「相変わらずすごい切れ味···」

 

鋼輝の相手をしていたのは、

 

「あ、丸山先輩もバイトだったんですね」

 

「気づいてなかったの!?」

 

「お席までお運びしますか?」

 

「自分で持ってくんで大丈夫ですよ」

 

「それでは少々お待ちください」

 

 

 

~~

「で相談て言うのは?」

 

「実はさ俺···」

 

「······························」

 

「市ヶ谷さんのことが好きなんだ」

 

「知ってる」

 

「そうだよな。突然そんなこと言ったら驚く······今なんて言った?」

 

「知ってる」

 

「なんで!?」

 

「見すぎ。あと俺か市ヶ谷と話してる時に鉢会いすぎ」

 

「···鉢会うのは偶然だろ」

 

「偶然で58回も鉢会うのか?」

 

「なんで数えてんだよ」

 

「こういう時のために」

 

「こいつに話すのに悩んだ俺が馬鹿みたい」

 

鋼輝がブツブツ言ってるのをよそにカウンターを見ると丸山先輩がめっちゃ聞き耳立ててた。なんでこの距離で聞こえるんだおまけに手が動いてない。松原先輩も困っているので「ちゃんと仕事してください」とハンドサインを送ると慌てた様子で動き出した。

 

「で、どうすりゃいいと思う?」

 

鋼輝に視線を戻したところでこういうしか無かった。

 

「告りゃいいじゃん」

 

「簡単に言うなよ」

 

「でもどれだけ回り道しようが結局それに戻って来るだろ」

 

「いや、もっとなんかないのか?」

 

「お前には無理だから諦めろでも言って欲しかったか?」

 

「いや、それはいい」

 

「だろ。まぁ俺からはそうとしか言えん」

 

「そうか」

 

「で、いつにする?」

 

「早過ぎないか?」

 

「決めとかないとズルズル引きずって卒業式でも言えないのがオチだぞ」

 

「わかった······じゃあ、修学旅行だ」

 

「そこは文化祭じゃないのか」

 

「人が少ないから」

 

「ああ、そういう事か」

 

まぁ、お節介かもしれないがそれとなく市ヶ谷に聞いてみるか。

 

「あ、ご馳走様でした」

 

「どういたしまして」

 

「あ、丸山先輩」

 

「なあに?」

 

「明日白鷺先輩に怒られといてください」

 

「なんで!?」

 

「それは自分でわかってるでしょう」

 

 

 

~~

学校が始まったため、当然生徒会の仕事も始まる。珍しく少ないが。いい機会なので聞いてみることにした。2人しかいないし。

 

「市ヶ谷ー」

 

「んー?」

 

「お前さー」

 

「んー」

 

「好きなやつとかいないのー?」

 

ガタッ!

 

「はぁ!?なな、なんだよ突然!」

 

「いやー何となく気になった」

 

「いない」

 

「ほんとかー?」

 

「何なんだよ」

 

「じゃあタイプはー?」

 

「おもしろくて」

 

「うん」

 

「ずっと一緒にいてくれて」

 

「うん」

 

「甘やかしてくれる」

 

「うん」

 

「お前じゃないけどお前みたいなやつ」

 

「何だその矛盾は」

 

今更だがこうやって市ヶ谷と軽口叩きあえるようにもなったのか。ところで俺だけど俺じゃない···これは『類は友を呼ぶ』と言うやつか?

 

「なあ。やけに具体的だが誰のこと言ってる?」

 

「な、ななななんの事だ!?」

 

「葵」

 

「······」

 

「匠」

 

「······」

 

「樹」

 

「······」

 

「鋼輝」

 

ビクッ

 

え···マジ·········?

 

市ヶ谷が俺を睨んでくる。

 

「安心しろ。言わねえから言う理由もないから」

 

「絶対だぞ」

 

「わかってるって」

 

「お疲れ様です」

 

会長が入ってきた。

 

「あ、お疲れ様です」

 

「あの、市ヶ谷さん。顔が赤いですが大丈夫ですか?」

 

「あーまだ暑いですからね。エアコン入れましょうかってさっきまでなんで入れなかったんだろ」

 

予想外にして鋼輝と市ヶ谷の両片思いが判明してしまった。こいつらくっついたら上手くいくとは思うが。どうせなら周り巻き込んでくっつけてやろう。




今更ながら蓮の載せていない基本情報があることに気づきました。何やってんだろう。

誕生日 10/23

血液型 AB型


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企み

そろそろ文化祭に頭突っ込んでいこうと思います。


まさかの鋼輝と市ヶ谷の両片思いを知った翌日、蓮は奥沢と葵にあの2人をくっつけるのを手伝って欲しいと頼んだ。

 

「あの市ヶ谷さんが···」

 

「いや俺も驚いたけどさ。友達のそういうのはかなってほしいじゃん」

 

「はっすーセリフと顔が合ってない」

 

「すっごい邪悪な顔してる」

 

まぁ少しいじり倒そうという目的もある。2割ほど。

 

「本人的には修学旅行で勝負するつもりらしいから今度の文化祭はどうにかして距離を縮めるように仕向けようと思ってるけどどう思う?」

 

「あたしはその方がいいと思うけど」

 

「それでいいよ。あとだから顔」

 

こうして今のところ3人で『2人をくっつけていじり倒そう作戦』(後半は蓮だけ)を開始した。

 

 

 

~~

「ありがとうございましたー」

 

その日の放課後。俺はCiRCLEではなく羽沢珈琲店にいた。2年に上がると同時にここでもバイトを始めたのだ。

 

「ごめんね井戸原君。突然入って貰っちゃって」

 

「今日は特に何もなかったからいいよ。メールじゃなくて電話が来た時は何事かと思ったけど」

 

(井戸原君と話したかったからなんて言えない///)

 

「つぐみ、若宮さん、井戸原君、二葉さん。そろそろ片付け始めようか」

 

「そうですね」

 

片付けを終えてもう夜8時。

 

「みんな、もうこんな時間だからここで食べていくといいよ」

 

「えっ?いいんですか?」

 

「もちろん」

 

「そういえばつくしちゃんこの時間まで居たの初めてだね」

 

「あ、俺手伝います」

 

「助かるよ」

 

「井戸原先輩料理できるんですか?」

 

「井戸原君とランチタイムとかで一緒になったことないもんね。まかないすごく美味しいんだよ」

 

二葉は心無しかわくわくしていた。

 

2人で厨房に立ちながら会話をする。

 

「下処理終わりました」

 

「ありがとう。次はソースを頼むよ」

 

「わかりました」

 

「いやー井戸原君がいると料理のクオリティもバリエーションも良くなら助かるよ」

 

「でもそれをこの店に合うようにしているのは羽沢さんなんですから」

 

「君のような子が息子になってくれると嬉しいんだけどね」

 

「お父さん!?///」

 

「「わあ······!」」

 

「あはは」

 

「それはそうとしてつぐみ、できたから運んでくれ」

 

「うん···」

 

頬を膨らませながらも頷く。

 

「年頃の娘というのはどうも難しいね」

 

 

 

~~

「美味しい!」

 

「やはりサスガです井戸原サン!」

 

「一応一人暮らしだからな」

 

「たまに厨房で試作品作ってお父さんに食べてもらってるしね」

 

「彼の作る料理はとても面白いからね。参考になってるよ」

 

「だんだん厨房の方が多くなってるしね」

 

「言われてみれば」

 

「ホールは···」

 

「すぐに教えることなくなっちゃったしね。最初のランチタイムは顔色ひとつ変えずに捌き切ったし」

 

「私とは大違いですね···」

 

「つくしちゃんは普通だよ!井戸原君がおかしいだけだから」

 

「さらっとけなすんじゃないよ」

 

その後どうせなら2人も巻き込んでしまおうと鋼輝と市ヶ谷のことを話した。

 

「えっ!?」

 

「アリサさんにもとうとう春が···」

 

「暦上は秋だけどな」

 

「そういうこと言わないの。でもわかった協力するよ」

 

「ぶっ倒れないようにしないとな」

 

「そうだね」

 

なぜなら

 

「「多分今年も合同になるだろうから」」

 

つまりそれぞれの生徒会に所属する蓮と羽沢はこの2つを同時に進行させなければならないため心身共に酷いことになることが分かるから。

店を出て自転車を走らせる。若宮と二葉は羽沢のお母さんが送っていった。俺はこの後にやることを考え、自覚なしににやけながら帰った(主観)。すれ違った人にはめっちゃビビられた。そんなに邪悪かねぇ?




ひとつの恋が動き出す。


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全ては来たる日のために

前回から少し日を空けて書きました。


「はぁ」

 

「おーい。どうしたー?」

 

「まさか今年も追いかけられる羽目になるとは···」

 

そう昨日羽丘に行って打ち合わせをしてきた。着いたら今年も追い回された。幸いだったのは去年と違って生徒会室の場所を知っていたこと。もうひとつは羽沢を抱えるというハンデがなかったことだ。だから置き去りにして全力で逃げた。もう疲労がやばい。その時に氷川先輩も巻き込んだのだ。

 

「なんつーか···お疲れ」

 

「それで内容はどうなんですか?」

 

「根本的な部分は去年と変わらないのではぶきましたが主には今年新しくやろうとしてることですね。多すぎて絞らないと行けないのであと何回かはやらなきゃ行けないんですがもう行きたくないです」

 

「気持ちは分かりますがそれはダメでしょう」

 

「ええ。なので羽沢の家でやることにしました」

 

「···ちなみに誰と」

 

「3人です」

 

「行けません!」

 

氷川先輩が怒鳴った。

 

「男女でひとつの部屋に集まるなど···言語道断です!」

 

「あの···何を想像してるのか知りませんが一切なにか起こそうとか考えてないので。俺、1人しか選びませんし」

 

「そういうことでは···」

 

「日菜先輩が心配ならそういえばいいじゃないですか」

 

「違います!」

 

「ええ~···」

 

「それに、話し合いするのは羽沢の部屋じゃなくて店の中ですから。そもそも部屋なんて選択肢初めからありませんし♪一体何を想像したんですか~?」

 

ここぞとばかりに煽っていく蓮。

 

「井戸原さん。あなたって人は···」

 

「氷川先輩、まさか勝手に勘違いした上に間違いだと言われて逆上なんてことはないですよね?」

 

「くっ···」

 

「いい性格してんな」

 

「ありがとう」

 

「いや褒めてねーし!」

 

「まぁ茶番はさておき、なにかするつもりなんてありませんよ。世間体が死にますし」

 

「そうですか」

 

納得してくれたようだ。良かったー。

 

 

 

~~

GOZITU

 

「というわけでどうしようか」

 

2人をくっつけるために羽沢珈琲店に集まっていた。店が休みなのにわざわざ使わせてもらっている。ありがたや。

 

「その井戸原君のお友達が有咲ちゃんに告白するから今回の文化祭で建前というかきっかけみたいなのを作るつもりなんだよね」

 

「そう。ということでどうするかってことなんだよ。1番わかりやすいのは2人で回らせることなんだが···」

 

「何か不都合でもあるの?」

 

「いかせんそうさせる理由がない」

 

「そっかー」

 

「とりあえず休憩しない?ずっとこんな感じだし」

 

「そうだな」

 

「ところで羽沢のところは何をやるの?」

 

「私のところはまだ絞れてなくて···美咲ちゃんのクラスは?」

 

「うちは一部の男子がメイド喫茶って」

 

その言葉を聞いた途端に視線が俺と葵に向いた。

 

「俺はそんなこと言いません。どの道忙しいので関われませんし」

 

「そうだよね···」

 

「まぁ女子からも反対意見が出なかったからそれで出しちゃったけど」

 

「えっ!?」

 

「まぁ大方別のクラスのイケメンとか引っ掛けてやろうって魂胆だど思うが」

 

「なんてことしてくれるの!?」

 

奥沢が叫ぶ。

 

「反対すりゃ良かったじゃん」

 

「聞いてなかった」

 

「いやそれはお前が悪いだろ。多分ホールは全員着ることになるぞ。」

 

「私が似合うわけないじゃん」

 

「いや、普通にかわいいと思うぞ」

 

「ふぇっ!?///」

 

「まぁ、せめてロングスカートも用意させるから我慢してくれ」

 

「わかったけど···井戸原君も見たい?あたしのメイド姿」

 

「·········ノーコメントで」

 

正直に言えば見たい。でもそういうとなにか失いそうで怖い。だからといって見たくないと答える訳にはいかない。つまりこれが正解···と信じたい。

 

「ふーん。そっか」

 

なんか少し上機嫌になっていた。つーかメイド喫茶にしたはいいけどホールと裏方どうすんだよ。絶対半数以上ホールに回りたがるだろ。

 

今年の文化祭も忙しくなりそうだと思った。




仕事が忙しくてバンドリをやってる暇がない。


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文化祭前

そろそろ時期的にいいかなと思って書きました。


もうすぐ文化祭という日に俺は羽沢珈琲店でのバイトに出ていた。ちなみに今現在ものすごく忙しい。何故かというと今日が文化祭前に丸一日作業ができる最終日だから。さっきまで何ともなかったのに最終時間をすぎて2校の生徒が押し寄せてきている。幸いにもホールに羽沢、若宮、二葉の3人がいるので俺は厨房に入っている。だが間違いなくどっちも楽じゃない。忙殺する気か奴ら。

もはや考えることをやめてただただ仕事をし続けること3時間。ようやく終わった。

 

「死ぬかと思った」

 

「うちの生徒も花咲川の生徒も凄かったね」

 

「明日もやばい気がする···」

 

「お疲れ様ー。はいこれ晩御飯」

 

「なんか···すみません」

 

「いやいや、皆がいなかったらもっと大変だったからね。助かったよ」

 

羽沢のお父さんが作ってくれた晩御飯をみんなで食べる。

 

「それにしてもあっという間だったね」

 

「ソウデスネ」

 

「まぁ手探りの去年よりは楽だったのが幸だな」

 

「今年は無理してない?」

 

「···してない」

 

「ほんとは?」

 

「···············」

 

「ほ・ん・と・う・は?」

 

「3回ほど、めっちゃ怒られた······」

 

「何やったの···」

 

「あー。一回目はうちの生徒会室の資料棚の後ろにある隠し通路「何それ!?」自分から聞いたくせになんで止めるんだよ」

 

「なんでそんなものあるの!?」

 

「知らんわ。俺も今年の春に見つけたんだから」

 

「そうなんだ」

 

「続けるぞ。そこから出たら丁度入ってきた市ヶ谷と氷川先輩が入ってきた。その直後に通路の先の部屋をおさえられて小一時間ほど説教くらったね」

 

「あとの2回は?」

 

「2回目はその3日後に大和先輩を大激怒させた」

 

「何したの···」

 

「なんかした訳じゃねえよ。たしか···」

 

 

 

 

~~

ある放課後、丸山彩が生徒会室へ向かっていた。クラスの委員長が文化祭の企画書の提出をしたのだがボツを受けたらしい。ということでちょっと修正した類似内容のものを再提出しに行ったが受け取って3秒でバレてボツになった。そのまま教室まで着いてきて

 

「次やったら出店自体禁止するんで」

 

と言い放ったためさすがに真面目に考えてこれが3度目の提出となるわけだ。

 

容赦ないなとも思いながら扉を開けるとボツにした張本人は机に突っ伏していた。どうせまた寝てるんだろうと思いながら机に近づいたが寝息が聞こえない。全く聞こえない。というか呼吸さえしていないようにも感じる。私は慌てて千聖ちゃんに電話したが。

 

『もしもし?』

 

「千聖ちゃん!大変だよ!井戸原君が!」

 

『落ち着いてください彩さん。千聖さんではありません』

 

「え?あ!麻弥ちゃんだ!ごめん!」

 

『いえ、そんなことよりもどうしたんですか?』

 

「井戸原君が動かないの!」

 

『寝てるだけじゃないんですか?』

 

「違うの!」

 

『あの、ビデオ通話にしてもらっても···』

 

「ちょっと待ってね···はい!」

 

『どう見ても寝てるようにしか···ん?』

 

「どうしたの?」

 

『井戸原さんの手前にあるものなんですか?』

 

「えっと···これ?」

 

『これってはんだご···ああ!!』

 

「な、何!?」

 

『彩さん!窓!窓開けてください!』

 

「え?え?」

 

『いいからはやく!!自分も今からそっちに行くので!』

 

それを言って電話を切った直後、

 

「うう」

 

井戸原君が呻き声を出して目を覚ました。

 

「頭痛え」

 

「井戸原君大丈夫!?」

 

「なんのこと···うわ寒」

 

窓が開いていることに気づいた。

 

その直後に理解した。その数分後に大和先輩が駆け込んできた。

 

「反省してください!!」

 

すぐに怒られた。本気で怒っている。俺は正座している。

 

「すみません」

 

「換気せずにはんだ付けするなんて何考えてるんですか!!」

 

「楽しすぎて忘れてました」

 

まさか大和先輩に怒られる日が来るとは思わなかった。しかも結構ガチなやつ。

 

 

 

~~

「ていう感じかな」

 

「何してるんですか!?」

 

「そういえばマヤサンが不機嫌な日がアリマシタ」

 

「そういえばCiRCLEで美咲ちゃんに膝枕されてるの見たけどあれは?」

 

「ああ、それ3回目」

 

「どうそこに繋がるの···」

 

「受付してたらたまたまエナドリの空き缶10本見つかってさ、バックから残りのエナドリ全部没収されてその後の休憩時間に強制的に寝させられた」

 

「それでよく体調崩さないね」

 

「起きたら前科を知ってるその場にいた人全員に怒られた」

 

「さすがに帰るよね?」

 

「いや、帰るけどなんで?」

 

「今の話を聞くとこのままコンビニとか寄りそうだから」

 

「あーうん。自分でも納得したわ今」

 

「やっぱり」

 

「いや、帰るよ。さすがにこれ以上怒られるのはごめんだ」

 

「ならいいけど···」

 

まぁ準備期間中にやることほとんど終わったから大丈夫だと思うけど。




生徒会室の資料棚の後ろの隠し通路ってどっかで聞いたことある。


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文化祭始まる

今回は前夜祭は書きませんでしたと言うか書けませんでした。何も思い浮かばんかった···


「おいどういうこった」

 

せっかくの文化祭だと言うのに俺は不機嫌な顔でクラスメイトに詰め寄っている。何故かと言うと今回の出し物で俺は調理に回されていた。

 

「いやそれはいいんだよ別に。言えよ。怒るわけじゃないから」

 

「今怒ってるじゃん···」

 

「何も言わないからだろ。前もっていえば俺だって普通に承諾したわ」

 

まぁ朝からそんないざこざがありながらも文化祭は始まった。

 

「特に異常なし」

 

クラスのシフト時間が終わってから俺は隠し部屋にいた。しばらく入ることはないのでここで気ままに時間を潰す。すると画面のひとつに見知った顔を2つ見つけた。鋼輝と市ヶ谷だ。どうやら休憩時間らしい。まぁ2人一緒に休憩にしたのは偶然ではないのだが。おそらく葵が一緒にしたんだろう。あいつも一枚どころか十枚くらい噛んでるからな。まぁ今回は修学旅行の準備みたいなもんだがいい感じなので良かったと思う。

 

 

 

~~

「休憩入っていいよー」

 

「サンキュー」

 

「有咲~」

 

「キリキリ働けよ~香澄」

 

休憩時間を言い渡されたが高島君と同じなことに何かしらの企みを感じた。するとその彼が声をかけてきた。

 

「い、市ヶ谷さん」

 

「なんですか?」

 

表の顔でにこやかに返す。

 

「その、せっかくだから俺と回らない?」

 

「いいですよ。私も1人だと退屈だと思っていたので」

 

その直後、無性にイラッとした。この様子を見ている蓮がめっちゃ笑っていたから。そのことは知る由もない。

 

 

 

 

~~

「はー、はー。やっば。猫かぶり市ヶ谷久しぶりに見たわ」

 

何故映像だけでここまで笑っているのだろうか。その答えは音が聞こえるからだ。今回使用したカメラは超高性能のマイクが搭載されている。だから大抵の音は拾うことができる。会話程度の音なら普通に聞こえる。だからわらっているのだ

 

『市ヶ谷さんって蓮と同じ生徒会だけど生徒会の蓮ってどんな感じなの?』

 

『クラスで見る彼とほぼ変わりはありませんよ』

 

『なんだろう。すっごい想像つく』

 

『仕事もちゃんと期日までにやってくれますし』

 

『意外としっかりしてるもんなあいつ』

 

市ヶ谷は兎も角鋼輝には1週間ほど購買でパンでも奢らせてやろうか。

そんなことを考える。

 

『誰がミスした時のフォローもしてくれるので助かってます。細かいところにも気づきますし』

 

『それは身に染みてる』

 

「今まさにお前らをくっつけるためのフォローをしてるところだからな」

 

ボソッとつぶやき再び会話に耳を傾ける。

 

『市ヶ谷さんお腹空かない?さっきまで動きっぱなしだったしそろそろお昼だからさ』

 

『いえ、そんなことは』ぐぅ~

 

『·········』

 

『·········///』カァァァ

 

お腹の音を聞かれて顔を真っ赤にしていた。

 

ピロン

 

鋼輝からメッセージが届いた。

 

「なになに?」

 

ー照れてる市ヶ谷さんめっちゃかわいいー

 

「照れてるのは見てるから知ってるし。いちいちそんな報告いらんわ。自分の胸にしまっとけ」

 

『これは、その······』

 

『仕方ないよ。市ヶ谷さんの食べたいもの買いに行こう』

 

『······はい』

 

その後鋼輝は自分の昼飯と一緒に市ヶ谷の分も払った。

 

意外とスムーズに進んでいる。あれ?こいつこんなにイケメンだったか?

 

そんな鋼輝の様子に、好きな娘の前で格好つけたいという気持ちは中々に良い原動力になると感じた蓮だった。

 

 

 

~~

「そろそろ休憩終わりだな。んじゃ、戻るとしますか」

 

十分楽しんだし。






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HAPPY BIRTHDAY奥沢

続きを書いてる途中で10月1日来ちゃったのでこっちを先に挟みます。挟ませてください。


9月30日、俺は市ヶ谷に相談を持ちかけた。

 

「なぁ、奥沢への誕生日プレゼント何がいいと思う?」

 

「遅くね?」

 

「1人で散々悩み抜いた結果何も決まらないままここまで来た」

 

「誰でもいいから頼れよ」

 

「その頭がなかった」

 

「まぁいいけど···羊毛フェルトのセットとかは?」

 

「去年のクリスマスに渡した」

 

「アクセサリー」

 

「買えないことはないけど多分やんわりと受け取りを拒否される」

 

「じゃあどうすんだよ」

 

「どうしよう」

 

「井戸原の選んだものならなんでも喜んでくれそうだけどな」

 

「そうかぁ?」

 

「そうだ」

 

「ん~?どうしようか」

 

あれにしようかな。

放課後、デパートへ向かった。

 

 

 

~~

帰り道、不意に声をかけられた。

 

「井戸原様」

 

「うぉ!!って黒服さんですか」

 

「驚かせてしまい申し訳ありません」

 

「いえ、大丈夫です。ところでなにかようですか?」

 

「はい。明日、こころ様が奥沢様の誕生日パーティーを計画されており、もしよろしければと思い招待にまいりました」

 

「そうですか。うーんわかりました。行かせてもらいます」

 

「そうですか。では明日、お待ちしております」

 

 

 

~翌日~

 

「美咲ちゃんお誕生日おめでとー!!」

 

「奥沢さんお誕生日おめでとう」

 

「ありがとう」

 

あたし奥沢美咲は今日誕生日を迎え17歳になりました。みんなからお祝いしてもらってます。こころはなんか壮大な計画をしてるみたいだけど。わがままを言えば祝って欲しい人がいますが祝ってくれません。まだ学校に来てないから当たり前だけど。

 

でもあっという間に放課後。彼からはおめでとうのおの字もありませんでした。名残惜しいけどこころがあたしのために誕生日パーティーをしてくれるって言うから行かないとね。

 

「美咲、お誕生日おめでとう!!」

 

弦巻邸で奥沢が貰ったプレゼント。それはクマのルームウェアだった。

 

「それじゃあパーティーを始めるわよ!」

 

「お嬢様。申し訳ありませんが招待した方がおりますのでもう少々お待ちください。奥沢様はこちらへ」

 

「え?はい」

 

 

 

~~

ピンポーン

 

「お待ちしておりました」

 

「お邪魔します」

 

パーティー会場へと通されるが奥沢がいない。

 

「あら?蓮はなんでここにいるの?」

 

「わ、私が頼んだの」

 

「そうだったのね」

 

「お、おまたせ」

 

「美咲、来たのね」

 

「よっす奥沢···」

 

「なんでいるの!?」

 

そう叫んで出てきた奥沢は、2段仕様でフリルのスカートの着いた衣装を身にまとい、花の形をした飾りを身につけていた。普段地味めな服を着る奥沢を知っているからこそギャップによる破壊力が半端ない。やばい。めちゃめちゃかわいい。そんなことを考えていると奥沢がこっちへよってくる。そして、

 

「どう···かな?変じゃない?」

 

と上目遣いで聞いてくる。だからギャップよ。俺は何とか

 

「うん。すごい似合ってる」

 

と言った。

 

 

 

~~

パーティーも終わり例のごとく奥沢を家へ送り届ける。

 

「奥沢」

 

「何?」

 

「その、誕生日おめでとう」

 

「えー?今?」

 

「悪かったな」

 

ようやく聞けたその言葉が、今日の中で一番嬉しかった。

 

「で、これプレゼント」

 

「ありがとう。開けてもいい?」

 

「やめとけ。大惨事になるぞ」

 

「そこまで言うなら家で開けるけど」

 

「そうしてくれ」

 

「今日はありがとう」

 

「どういたしまして」

 

彼との別れが来てしまった。らしくないとは思う。でも···

 

「来年には、井戸原君が欲しいな」

 

「なんか言ったか?」

 

「え?な、何も」

 

「そうか。じゃあまた明日な」

 

「うん。おやすみ」

 

そう言ってドアを閉めた。部屋に戻ってプレゼントを開けると、

 

「わっ!!」

 

袋から何かが飛び出した。それは、

 

「ぬいぐるみ?」

 

そうして袋を覗き込むとまだまだ入ってるぬいぐるみ。蓮のプレゼントはぬいぐるの詰め合わせだった。

 

「大惨事ってそういうこと」

 

そう言いながらも奥沢は満面の笑みでそれらを抱きしめていた。

 

 

 

~~

奥沢が扉を閉めて1人外へ取り残される。俺は家に帰るために歩き出すが、その耳は真っ赤だった。

 

「俺が欲しいってなんだよ」

 

その言葉はちゃんと聞こえていた。




誕生日限定の奥沢を10連1回で出しました。衣装来てる奥沢とかレアだしあと可愛すぎ。出てよかった。

奥沢。HAPPY BIRTHDAY


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2日目の襲撃

結構空けた気がする


「丸山さん、本当にやるのですか?」

 

「こうでもしないとここから出てこないよ」

 

「いえ、そうではなく」

 

「よーし行くよー!!」

 

バァン!!

 

 

 

~~

「うわ!」

 

突如として扉が開いた。入って来たのは丸山先輩、氷川先輩、戸山、市ヶ谷、奥沢だった。

 

「労働警察だよ!」

 

「働きすぎな人は逮捕しちゃうよ~」

 

「·········」

 

「ほら有咲ちゃん」

 

「そ、」

 

「そ?」

 

「それが嫌なら今すぐここから出ろ!」

 

婦警のコスプレをして。

 

「よくわからんけどとりあえず脳神経外科行ってきたら?」

 

「普通に悪口で返された!」

 

 

 

~~

「で、何してるんですか」

 

「だって、井戸原君働きすぎだからどうにかしたいって美咲ちゃんが言うんだもん」

 

「それでもコスプレは出てこないと思います。氷川先輩にいたっては頭ぶつけたのかと」

 

「私だって嫌ですよ」

 

「でしょうね」

 

そう言いながら氷川先輩の姿を見続ける。

 

「なんですか?」

 

「氷川先輩最近メジャーデビューしたじゃないですか」

 

「ええ」

 

「だから今の格好を撮ってファンに売ったら高値で売れるんじゃないかと。ええもちろんやりませんよそんなこと」

 

「当たり前です」

 

「ところで結局なんの用事ですか?」

 

「遊びに行くよ」

 

「ん?」

 

「井戸原君ずっと働きっぱなしだから遊びに行くよ」

 

「帰ってくるまでここには私と市ヶ谷さんがいますから」

 

あ、これ多分頑として譲らないやつだ。仕方ない

 

「わかりましたよ」

 

「それじゃあ行こー!」

 

「引っ張らないでください」

 

 

 

~~

「奥沢、大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃない」

 

お化け屋敷に入って今出てきたところだ。

 

「お前そんなにダメだったっけ?」

 

「井戸原君のせいでしょ···」

 

「俺か?」

 

「去年の文化祭のせいでお化け屋敷ダメになっちゃったんだから」

 

「悪かったから。なんか奢ってやるから」

 

「クレープ」

 

「はいはい」

 

なんだろう。俺女子と遊ぶたびにクレープ食ってる気がするけど···まぁいいや。

そんなわけで3人でクレープを食べる。2人じゃないのかって?丸山先輩がいるんだよ。お化け屋敷の時から。奥沢よりも前にしがみつかれたわ。

 

「クリームついてる」

 

気づけば奥沢の頬に生クリームが着いていた。俺はそれをすくい口に運んだ。なんか顔赤くしてるし。すると

 

「蓮」

 

聞き覚えのある声に呼ばれた。

 

振り返るとそこにはとても綺麗な女性がいた。

 

「連絡は貰ってたが本当に来たのか。栞」

 

 

 

~~

「駄目だった?」

 

「いや別に」

 

栞と呼ばれた女性は相当井戸原君と仲がいいようだ。2人をじっと見ていると視線に気づいたのか歩み寄ってきた。

 

「初めまして。蓮の許嫁の野々宮栞です」

 

その言葉を聞いた瞬間あたしの中で何かが崩れたような気がした。

 

「いいなずけ···」

 

「どどどどーゆこと!?井戸原君!!」

 

彩先輩がめっちゃ井戸原君をゆさぶっている。

 

「栞、あんまし初対面をからかってやるな」

 

そのセリフにあたしは復帰して彩先輩は揺さぶるのをやめた。

 

「え?」

 

「ふふ、ごめんなさい。改めまして、蓮の幼なじみの野々宮栞です」

 

「全くお前ってやつは」

 

「謝ったでしょ?」

 

「俺は謝られてない」

 

「あら、よくわかったわね」

 

「何年一緒にいたと思ってる」

 

幼なじみだとわかっても楽しそうに話す2人になんとも言えないもやもやを抱えていた。

 

「蓮、ちょうどいいから案内してよ」

 

「なんで俺なんだよ」

 

「知っている人が蓮しかいないからよ」

 

「はいはいわかったわかった」

 

「はいは1回」

 

 

 

~~

奥沢と丸山先輩に許可を撮って、栞を案内するために4人で回ることになった。栞は人目を引くからあんまし宜しくないんだよな~。ほら、すっごい嫉妬の視線が飛んでくる。幼なじみでなければ並んで歩くなんてことはないだろう。

 

「井戸原のやつ、奥沢さんという存在がありながら···」

 

知らねえよ。俺だって自分の意思で栞と知り合ったわけじょないからな。あともうコイツ彼氏いるから諦めろ。

 

「ねぇ蓮」

 

「あのこと、あの人たちには話してないんだね」

 

「言う必要がないからな」

 

「本当なら許嫁がいてもおかしくないのにね」

 

「その話はするな。破棄して泣いた顔はもう見たくない」

 

「あんなことするつもりでいるもんね。やったら大ニュースになるよ。反感買いまくりだよ?」

 

「それに関しては考えてある。上手くいくかはまだ分からないがな」

 

「用意がいいのか無計画なのか」

 

「おい」

 

「ところで話は変えるけど」

 

「なんだよ」

 

「蓮あなた、誰を選ぶの?」

 

「質問の意図が全く分からないんだが」

 

「誰が好きなのかって話しよ」

 

「·········は?」

 

「だから、後ろの2人とショートで大人しそうな娘とカラフルな髪をしたツインテールの娘」

 

前者はともかく後者の2人は羽沢とパレオだろう。

 

「何故2人を知ってるんだ?」

 

「昨日羽丘に行ってきて」

 

「同じことをやったのか」

 

「ええ」

 

「ええじゃねえよ。んでパレオは」

 

「さっき会って」

 

「やる回数多すぎだ」

 

「で、誰が好きなの?」

 

「ちっ。まだ続いてたか」

 

「まぁ見れば何となくわかったけど」

 

「だったら聞くな。口を開くな」

 

結局その日は4人で回って終わった。

 

 

 

~~

後夜祭の最中。俺は今年は寝てない。だからといって疲れてないわけじゃない。

 

「ちょっといいですか?」

 

「氷川先輩、会長どうしました?」

 

「明日のお休み、時間を頂けませんか?」

 

「別にかまいませんが」

 

「ありがとうございます。では10時に羽沢さんのお店に来てください」

 

「わかりました」

 

バイト入ってないのにバイト先行くのかよ。別にいいけど。



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相談

前回の続き


文化祭が終わった翌日10時ちょい前。俺は羽沢珈琲店に来た。

 

カランカラン

 

「いらっしゃいま···あれ?井戸原君?今日アルバイト入ってたっけ?」

 

「いや、今日は別件。多分もう···」

 

「あ、蓮~!こっちこっち」

 

「というわけだ」

 

 

 

~~

「おまたせしました」

 

「いえ、時間ぴったりよ」

 

「なら良かったです。ところで···」

 

横に視線を向けるとパスパレが勢揃いしていた。

 

「なんでいるんですか?」

 

「私達も呼ばれたのよ」

 

「お疲れのところ来ていただきありがとうございます」

 

「いえいえ。ところで何故呼んだんですか?」

 

「いやーあたしたちメジャーデビューしたじゃん?だから色々と聞きたいなーと思って」

 

「なるほど。それで我々は召喚されたわけですか」

 

「その通り。汝らと言葉を交わすため「始めないならNFO手伝わんぞ」それはダメ!!」

 

「話を進めてもいいかしら?」

 

「ええどうぞすみません」

 

「それでねー芸能活動やる上でのアドバイスとか気をつけた方がいいことを教えて欲しいなーって」

 

「うーんまずは挨拶だね!」

 

「礼に始まり礼に終わると言いますからね」

 

「それに挨拶して貰えると嬉しいよね」

 

「前にスタッフさんが彩さんは元気に挨拶してくれるから元気が出るって言ってました」

 

「えへへ、嬉しいな」

 

「なるほど、挨拶はしっかりね」

 

「あとはそうね。ホウ・レン・ソウかしら」

 

「報告・連絡・相談ですね」

 

「そうね。前にもアイコンタクトだけでマネージャーが分からないまますませる人達がいるからそれだけはしっかりやってくれと言われたわ」

 

そう言って俺を見る湊先輩。俺はふと思った。

 

「あの、先輩たちの事務所って···?」

 

「あら、知らなかったの?あなたたちと同じよ」

 

自覚できるほどテンションが下がる俺。気になったことがあり恐る恐る聞いてみた。

 

「あの、近藤さんに俺たちとの関係は···」

 

「話したわ」

 

「何か言ってました?」

 

「ええ。確か···」

 

「「せめて連絡のひとつでもよこせ(しなさい)」」

 

「わかるんだ」

 

「それで、今度あったら連れてきてと言われたから行くわよ」

 

「え?嘘」

 

そうして引きずられて店を後にした。

 

~道中~

 

「もしもし?」

 

『もしもし』

 

『はっすーどうしたの?』

 

「お前ら今から事務所来い」

 

『なんで』

 

「近藤さんに頭を垂れて許しを乞いに行く」

 

『来なかったら?』

 

「売る」

 

『よしちょっと待ってろ』

 

 

 

~~

「あら?Roseliaのみんなどうしたの?今日何かあったっけ?」

 

「いえ、今日は何もありません。ですが、彼らを届けに」

 

「彼ら?」

 

そう言って受付の彼女が覗き込むと

 

「あら蓮くん」

 

「ご無沙汰してます。まだいたんですね」

 

「いるよー。それじゃあ近藤さんには君たちが来たら真っ先に連れてくるように言われてるから連絡入れとくね」

 

「はい」

 

 

 

~~

「············」

 

「「「············」」」

 

「とりあえず顔あげな」

 

「いや無理です」

 

「いいから」

 

今俺たちは言葉通りに頭を垂れている。しかしそう言われたので恐る恐る顔を上げる。

 

「いや別にね?事情はちゃんと知ってるから怒ってる訳じゃないよ?でもせめてたまにメッセージのひとつでも欲しかったなぁ」

 

「それは···すみません」

 

「3人ともこの後は?」

 

「特に何もないですけど」

 

「よしじゃあ飯いこ飯。Roseliaのみんなもどう?」

 

「ではお言葉に甘えて行かせていただきます」

 

この後、めちゃめちゃ普通に飯食った。すげー怒られるかと思ってビクビクしてたのに···。




次回は修学旅行の1歩手前の予定です。


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番外編2 いざ依頼へ

ごめんなさい。嘘つきました。文化祭が終わったらこっち書くつもりだったのに忘れてました。


「レンくん!」

 

「んー?どうしたー?」

 

「明日の依頼手伝って欲しんだけど!!」

 

「いいよー」

 

「やったー!」

 

 

 

~翌日~

 

出発して目的地についた俺たちは標的を探していた···が一向に見つかる気配がない。なぜだ?ここで俺は本当に今更なことを聞く。

 

「なあカスミ?」

 

「な、なあに?」

 

なんかすごい歯切れが悪い気がする。

 

「目的って何?」

 

「ド······」

 

「ど?」

 

「ドラゴン······」

 

「あほかぁ!!」

 

思わず怒鳴ってしまった。いやだってさあ。

 

「お前らドラゴンの討伐依頼受けるなって言われてるだろう!」

 

そして俺はリミを指さして続ける。

 

「ドラゴン殺しなんて持ってるやつがいたらそりゃいつまでたっても出てこねわ」

 

「人を指さすな」バシッ

 

アリサが頭をはたいてくるが気にしない。

 

「だってそれしかなかったんだもん」

 

「むしろなんで許可貰ったんだよ」

 

「マスターがレンくんたちが一緒ならいいって」

 

「マスター···はぁ」

 

まさかのマスターから許可が降りてた。嘘だろ。

 

「まぁ仕方ない。来た以上はどうにかするか」

 

「やったー!」

 

「で、どうすんだ?」

 

「えーっとね、私たちが集めてレンくんとリミりんが一気にドカーン!」

 

「おいアリサ、これどうにかなんないのか?」

 

「気持ちはわかるけどさ、こんなもんでも成功するから」

 

「そうなんだよなぁ」

 

 

 

~4時間後~

 

「嘘だろ···」

 

目の前にはドラゴンの山ができていた。

 

「えっへん。どーよレンくん」

 

「はいはい、すごいすごい」

 

「そーでしょ!」

 

「やっぱりか」

 

「ほんとになんでこんなん成功するのか」

 

「まぁとりあえず終わったし報告に行こうよ」

 

「そうだね」

 

 

 

~~

「おお、倒してくれたのですか」

 

報告に行くと依頼主は驚いた様子だった。

 

「ありがとうございます。これで安心して暮らせます」

 

「いえいえ~」

 

「ところで、残念だったな」

 

「?どういうことですかな?」

 

「お前ら、本当にあんなドラゴンごときでウチ(BGP)の戦力削げると思ったのか?」

 

俺がそう言った瞬間、その場にいた全員の顔つきが変わった。

 

「まさかバレていたとは」

 

「さっき小屋のひとつから知った顔がちらっと見えたもんでね」

 

「ちっ。てめぇら出てこい!!予定変更だ。今ここでやっちまうぞ!!向こうは9人だ!」

 

なんかわらわらと出てきたわ。

 

「え?何?どーゆーこと?」

 

「お前ら構えろ。こいつらブラッド・シーだ。全員はいないが村ひとつ分アジトにしてたみたいだ」

 

この辺りは村もあるが奴らアジトのひとつもあることは知っており警戒はしていたが引き当ててしまったらしい。めんどくさいと嘆くべきか奴らの戦力を削げると喜ぶべきか。

 

「全く舐められたもんだ。さっさと片付けて依頼報酬数倍にしていた帰るか」

 

「おー!」全員

 

 

~30分後~

 

「こいつら弱すぎだろ。賞金首もいたはずなんだが···」

 

「まあまあ。いいじゃん」

 

そりゃな。でもあいつは出てこなかったな。さっさと本拠地に帰ったか。俺も場所は知らないんだけど。

 

この後、奴らを騎士団に引渡し、押収品から依頼報酬と懸賞金をもらい帰った。

 

扉の前に1枚の紙が落ちていた。開いてみるとそこには

 

『今回のことに関しては彼らの独断だから報復とかはないから安心して』

 

これは後にマスターに見せたあと引き裂いた。




犯罪者連合 血の海(ブラッド・シー)
小悪党から名だたる犯罪者が属する組織。自分たちを壊滅しかねない力を持つBGPを目の敵にしており、時々色々と仕掛けてくる。対応がめんどくさい。


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苦悩の先は

苦悩の先には何があったのでしょう。


数日前に文化祭が終わってしまった。しかしクラスの熱はまだ収まっていなかった。

 

「文化祭は終わってしまった···しかし!!それが終わっても次がある!!そう。その次に待っているのは」

 

「中間テストだな」

 

そこに俺は現実を叩きつける。わあ。みるみる空気が淀んでいくー。

 

「台無しだ」

 

「なんでそんなこと思い出させるんだよ」

 

「修学旅行にテスト関係ないだろ」

 

まぁ色々と聞こえてくるわけだ。だが最後のやつ。ところがどっこい関係あるんだわこれが。

 

「じゃあ俺がテストを頑張りたくなるようにしてやろう」

 

「どんなふうにだよ」

 

「テストで1教科でも赤点とったら旅行中毎日補習がある」

 

「よーしみんなぁ!このテスト乗り越えて最高に楽しい修学旅行にしようぜぇ!!」

 

「おおー!!」(クラスの9.9割)

 

すごい助かる。

 

「おい井戸原」

 

「なんだよ市ヶ谷」

 

「それ言っちゃダメなやつだろ」

 

「ダメって言われた」

 

「じゃあなんで」

 

「俺ら生徒会組は無慈悲に補習の手伝いに回されるからだよ」

 

「うげ。マジで?」

 

「マジで。だから交渉した」

 

「交渉?」

 

「そ。うちのクラスから赤点が出なかったら補習参加は無しでって」

 

「だからかよ」

 

こうして、俺のクラスは珍しく放課後に残って勉強していた。どんだけ嫌なんだ。俺もそうだけど。ただうちのクラスはとりあえず戸山が不安だ。鋼輝は?と思うかもしれないがあいつは思ったより普通に勉強できるから大丈夫。なので俺と市ヶ谷の2人で教えることになった。そしてテストが始まる。

 

 

 

~~

そして終わって返ってきた。結果は···

 

「全員赤点回避だー!!」

 

「補習の手伝い回避だー!」

 

無事赤点は誰も取らなかった。

 

「「いえーい」」

 

市ヶ谷とハイタッチ。

 

「まず間違いなく赤点取らないであろうお前がなんでそんなに喜んでいる?」

 

「というわけで先生。約束通り俺と市ヶ谷は補習の手伝いしなくてもいいですね?」

 

「仕方がない。それよりもみんな座れ。これからは本格的に修学旅行の準備を始める。まずは6人までのグループを組んでくれ。男女混合なら比率はなんでもいい」

 

そう言われとりあえず俺は、ご存知の通り鋼輝、葵と組んだ。あとは女子だがそれについては

 

「蓮くーん。組もー」

 

向こうから来た。奥沢、市ヶ谷とともに。まぁこうなるわな。そのあとはみんなで自由行動の行き先を決める。それぞれ楽しそうに話している。なんだかんだで俺も結構楽しみにしているが。

 

「どこ行くか」

 

「こことかどう?」

 

「いいじゃん。どう思う?」

 

「あたしもいいと思う」

 

「じゃあここは決まりだな」

 

時間いっぱい話し合ったが、結局最後まで決まることはなかった。

 

「来週中には決めておけよー」

 

先生はそう言って教室を出ていった。

 

「まぁこの面子ならすぐに集まれるしな」

 

「どうせならこのままどっか寄って決める?」

 

「そうするか。今日は生徒会の仕事無いし。どこに行く?」

 

「どっかない?」

 

「ぱっと思いつくのは羽沢のところだけど···」

 

「喫茶店の?」

 

「そう。けどあそこは雰囲気的に雑談ならともかく話し合いには不向きなんだよな···とするとやっぱファミレスか」

 

「だね」

 

「んじゃ行くか」

 

 

 

~~

「いらっしゃいませー。あ〜、先輩方どうしたんですか?」

 

「よっす、広町。いやちょっと話し合いをな」

 

「何かやったんですか?」

 

「なんで俺なんだ。別に誰かを吊るしあげるためじゃないよ。それよりも仕事をしろ仕事を」

 

「すみません。何名様ですか?」

 

「6人で」

 

「お好きな席へどうぞ〜」

 

とりあえず空いてるテーブル席を探して座る。

 

「ご注文が決まりましたらお呼びください」

 

「とりあえずなんか頼むか」

 

「まぁまずはみんなドリンクバーだよね」

 

「あとはどうするか。何かつまめるものは」

 

ひとつのメニューに目が止まった。

 

「6人いるしこれでいいんじゃね?」

 

『山盛りポテト ソース人数分※ソース追加無料』

 

「あ、いいと思う」

 

「じゃあ頼むか。お、広町いいところに。注文頼む」

 

「はーい。お伺いします」

 

「ドリンクバー6つと山盛りポテト」

 

「ソースは6つでよろしいですか?」

 

「ああ」

 

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 

去っていく広町の背中が見えなくなったところで話し合いを始める。

 

「んじゃ続きやるか」

 

「わたしここ行きたい!」

 

「いや待て。それを組み込むと他を削らなきゃ行けない。一応自由行動は2日間あるからそれは2日目に回そう」

 

「そっかー」

 

「まぁ行かないってわけじゃないからな。とりあえず1日目をどう埋めるかな···あ」

 

ガイドブックをめくるといい場所を見つけた。

 

「どうした?蓮」

 

「奥沢、鋼輝。ここどうだ?」

 

「あ、いいね」

 

「賛成」

 

「葵、市ヶ谷、戸山。ここ行っていいか?」

 

「いいよ」

 

「サンキュー。だったら1日目が終わったところで次は2日目···」

 

「おまたせしました。山盛りポテトでございます」

 

「に行く前にちょっと休憩するか」

 

注文したポテトが来てしまった。区切りいいから別にいいけど。それにしても思ったよりも多かった。まぁ6人いるから大丈夫だと思うが。

 

「うまいな」

 

「ソースもいける」

 

無言で食べ続けること十数分。

 

「そろそろ始めるか」

 

「そうだね」

 

「とりあえずさっきのところは組み込むとして、他にはないかね」

 

「うーん」

 

「広町的にはここがいいと思います」

 

ビクッ!!

 

いつの間にか後ろに広町がいた。

 

「びっくりしたー。広町お前仕事は?」

 

「さっき終わりました〜。それよりも広町が提案したところはどうですか?」

 

「うん、いいと思う。どう思う?」

 

聞いてみると満場一致で賛成された。

 

「じゃあここにするか。サンキューな。礼と言っちゃなんだがお土産の希望を聞いておこう」

 

「いいんですか?と言ってもおまけ付きのものならなんでもいいです」

 

「好きだねぇ。おまけ」

 

「はい」

 

あとは当日を待つだけ。




自分の高校時代の修学旅行は海外でした。北海道行きたかったんだけどね。


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修学旅行1日目

修学旅行って移動中も何故か楽しい


朝4時

 

「おはよう。おまたせ。寒いね」

 

「おはよう奥沢。秋だからな。朝が寒いのは仕方ない。これ着とけ」

 

「ありがとう。でも大丈夫?」

 

「安心しろ。もう1着ある」

 

「用意がいいことで」

 

「どうでもいいけどさっさと行くぞ置いてかれるとか絶対勘弁」

 

「だね」

 

俺は奥沢と待ち合わせをしていた。行き先が遠いせいで出発が早い。秋なもんだからまだ暗いのだ。だから奥沢を1人にする訳にもいかず一緒に学校まで行くことにした。

 

電車を降りてしばらく歩く。学校に着くともう結構来ていた。

 

「蓮おはよー」

 

「おはよ鋼輝。眠そうだな。大丈夫か?」

 

「大丈夫。多分バス乗ったら目ぇ覚める」

 

「あー、なんとなくわかる気がするわ」

 

「よーし全員来たな。各クラス適当にバスに乗れ」

 

先生の指示で各々バスに乗っていく。席は特に決まってないのでみんなよくつるんでる人同士で隣に座っている。俺たちはあえて鋼輝の隣だけ開けておいたら希望通り残ったのは市ヶ谷だった。仕方なくそこに座る。俺の隣はと言うと気がつけば奥沢が座っていた。

 

 

 

~~

出発してから1時間くらい経ったがバスの中は騒がしいままだ。静かになるもんだと思ったが結構みんなハイテンションらしい。かく言う俺はテーブルを出しお菓子をつまみながら本読んでるが。奥沢はイヤホンをして何かを聴いている。

 

「あ」

 

いつの間にか持ってきたお菓子が終わっていた。休憩場所までまだ時間があるから仕方なく本を読み続ける。

 

30分くらいたっただろうか。やっと休憩場所についた。

 

「奥沢」

 

外に出るために奥沢の名前を呼ぶがイヤホンをつけているため聞こえてないようだ。今度は方を軽く叩く。気づいたのかこちらを見ようとすると

 

ぷに

 

俺の人差し指が奥沢の頬に刺さった。イヤホンを外して

 

「何すんのさ」

 

と言ってジト目を向けてくる。

 

「ごめんごめん。悪いけどさ、お菓子買い足しに行くから出してくれない?」

 

「あ、じゃああたしも飲み物買いに行く」

 

2人がバスを降りた後、その様子を見ていたクラスメイトは全員揃って

 

「なんであれで付き合わないんだろう···」

 

と思った。

 

 

 

~2人で買い物中~

「さっき何聞いてたんだ?」

 

「井戸原君の曲」

 

「···そう」

 

「いい曲ばっかりだよね」

 

「ありがとう」

 

「それで?井戸原君は何読んでたの?」

 

「ラノベ」

 

「どんなの読むの?」

 

「ミステリーとかアクションとか。さっきまで読んでたのはラブコメ」

 

「読むんだ。ラブコメ」

 

「俺結構読むよ」

 

「ちょっと後で読ませて」

 

「いいよ。暇つぶしに全巻持ってきたから。とまぁこんなもんか」

 

会計を済ませてバスに戻る。少しすると再び出発した。

 

 

 

~~

着いた先は駅。ここからは新幹線で行く。

出発して数分で2人のテーブルには既にお菓子が広げられていた。ラノベを読みながら自分のテーブルから、時には互いのテーブルからお菓子をつまみ食べている。俺が1冊読み終わるが奥沢はまだ読んでいる。なんとなくお菓子を差し出してみると目線はそのままで食べたそれを何回か繰り返す。

 

(なんか餌付けしてる見てえ)

 

でもちょっと楽しかった。

1時間後くらいに読み終わると

 

「さっきから何してんの?」

 

と聞いてくる。

 

「いやなんとなく。とか言いながらもお前何も言わなかったじゃん」

 

「いやまあそうだけど」

 

「で、どうだった?」

 

「すごい面白かった。続き貸して」

 

「はいよ」

 

(さっさと付き合え。そして爆ぜろ)

 

これがクラスから2人に対しての総意となった。

 

 

 

~~

「着いたー!」

 

「遠かったなー」

 

修学旅行の行き先。それは

 

「いざ行かん!日本の故郷」

 

「もう来たんだよ」

 

京都だった。

 

「腹減ったー」

 

「もうお昼だもんな」

 

「よしみんな。昼食代渡すから好きなの食べに行け」

 

「うちの学校って結構放任主義だよな」

 

「わかる」

 

それでいいのか高校教師。

 

 

 

~~

「とまぁ今後のことも考えて6人で食べるのはいいが…何食べる?」

 

「そこなんだよな。この後は一応団体行動だからあんましゆっくり食べらてられないし」

 

「ハンバーガーで良くね」

 

「いいと思う」

 

「よしじゃあ行こう」

 

京都に来て最初に食べるものがどこでも食べられるもの。

 

 

 

~~

ATTOIUMANIYORU

 

「旅館だあ···」

 

いい旅館だった。中に入って部屋の鍵をもらい部屋に行く。扉を開けると、

 

「広···」

 

「3人で1部屋20畳ってまじかよ」

 

「うちの学校ってなんかお金あるよね」

 

「それでもおかしいだろ」

 

「そんなこと言ったてどうしようもないけどな。それよりも風呂行こうぜ。貸切だからゆっくり入れるし」

 

「ご飯の後だと面倒だしね」

 

「そういうことだ」

 

風呂は時間内であり旅行中の予定に支障がなければいつ入ってもいいことになっている。

 

「おおーひろーい」

 

「すごいな」

 

「色々とあるけどとりあえずは、普通に入りますか」

 

とりあえず身体と頭を洗って1番近くにあった湯船に浸かった。

 

「ああ~気持ちいぃ~」

 

「ははっ。おっさんかよ蓮」

 

「うるせぇ~」

 

「たまにはこういうのっていいよねー」

 

「なー」

 

その後も色々と回って全制覇。で、やっぱりサウナにも入る。

 

「一番最初に出たやつは牛乳奢りな」

 

「よしきた。望むところだ」

 

40分後

 

「鋼輝の負け」

 

「くっそー。蓮はなんとなくなくわかってたけど葵も意外と強かった···好きなの飲め!!」

 

「いえーい。俺コーヒー牛乳」

 

「フルーツ牛乳~♪」

 

「蓮くんたちも入ってたんだ」

 

「おう戸山」

 

「お前ほんとそういうの似合うよな」

 

「そりゃどーも」

 

「2人は?」

 

「サウナの勝負で負けた鋼輝を葵が部屋まで運んでった」

 

「そっか」

 

「晩御飯なんだろうね?」

 

「俺は鍋とかがいい」

 

「うん。寒いもんね」

 

「そう」

 

 

 

~~

「俺復活」

 

「飯の前で良かったな」

 

「そろそろ時間じゃない?」

 

「そうだな。行くか」

 

3人で食堂に向かう途中、エレベーターで奥沢たちと鉢会った。

 

「ナイスタイミング」

 

「よーしじゃあみんなで行こー!」

 

ワイワイ喋りながら食堂へ向かう6人。先生にちょっと怒られた。

 

「いえーい鍋だー」

 

「良かったね」

 

「まぁ寒い時に鍋ってのは同感だわ」

 

「いただきまーす」

 

「香澄食べ始めるの早ーよ!」

 

鍋って結構取り合いになるよな。

 

「香澄それまだ早いから!」

 

「ぷッ。あはは」

 

「どうした鋼輝突然笑いだして。おかしいぞ」

 

「お前何気に酷いよな。いや、市ヶ谷さんって戸山さんといると面白いなーって」

 

「なな///」

 

「俺も他人行儀じゃなくて蓮とか戸山と同じようにしてくれたら嬉しいけど」

 

「だってよ市ヶ谷」

 

「が、頑張りま···がんばる」

 

「じゃ、話がまとまったところでお前ら、取らないと俺と奥沢と葵に全部持ってかれるぞ」

 

「ダメに決まってんだろ!」

 

やっぱり取り合いにはなるらしい。この後は3人で部屋で遊んで寝た。






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修学旅行2日目

今考えれば小学校の修学旅行って中々に窮屈だった。


朝になって目を覚ました俺はとりあえず顔を洗って朝風呂に行く。こういう時って俺は何故か朝風呂行くんだよな。普段はやらないのに。朝風呂ってなんか変な感じするけど嫌ではない。

軽く済ませて部屋に戻ると鋼輝と葵も起きていた。

 

「あれ?はっすーどこ行ってたの?」

 

「風呂」

 

「朝からかよ」

 

「いいだろ別に」

 

そのあとは朝ごはん食べて、

 

「それじゃあ、京都の街へ繰り出そーう!!」

 

自由行動開始。

 

「朝から大声出すんじゃない」

 

 

 

~~

「と言うわけでとりあえずなんか飲みながら歩くか」

 

「なんかすげー学生の旅行っぽい」

 

「学生の旅行だぞ」

 

「いやそうなんだけどさ」

 

最初の目的地に向かってひたすら歩く。

 

「なんか旅行って移動中も楽しいよな」

 

「わかる。なんでかは何となくわかるけど」

 

「そろそろ着きそうだよ」

 

「ん?ああ本当だ。見えてきた」

 

「やっぱり人多いねー」

 

「観光地だから仕方がないね」

 

~観光後~

 

「結構面白かったね」

 

「そうだなっと。結構長くいたな。そろそろ昼だな」

 

「早いねー」

 

「どっか入るか」

 

「そうだねー」

 

とりあえずいい感じの店を見つけたので入ってみる。

 

「いらっしゃいませー」

 

「ご注文お決まり次第···お前ら、井戸原と萩野?」

 

「え?お前···」

 

そこに居たのは中学の同級生だったやつ。

 

「なんで···あ、そうか。そういや京都に転校したのか」

 

「そう。で今ここでバイトしてる。ところで注文は決まった?」

 

「ああ。俺これ」

 

「かしこまりました」

 

 

 

~~

「美味かったよ。またな」

 

「ああ。また」

 

店を出て次の目的地へと向かう。

 

「まさかあそこで会うとはねー」

 

「全く予想してなかった」

 

その後もあっちへふらふらこっちへふらふらと時間の限り歩き回った。

 

「疲れたー!」

 

「ずっと歩きだったからな。明日もだけど」

 

「まあまあ」

 

「で、最後はここ。白峯神宮」

 

「行きたいって言ってたけどここってなんなんだ?」

 

「ここは球技に縁があるんだよ。俺と奥沢と鋼輝は来年で部活終わりだからな。最後の大会のために来ない理由はない。付き合わせちゃって悪いけど」

 

「大丈夫だよー」

 

 

 

~~

「あー戻ってきた」

 

「これで明日は?」

 

「9時から21時まで自由行動で俺らは食べ歩き」

 

「むしろこれがめちゃくちゃ楽しみだった」

 

「でも食いすぎるなよ。夜食えなくなるぞ」

 

「そこは気をつける」

 

そう。明日はあれがあるから夜食べられなくなるのは困る。明日、ひとつの物語に区切りが着く。

 

「···どはらくん」

 

「井戸原!」

 

「ん?ああ。何?奥沢」

 

「なんかぼーっとしてた感じだったから。大丈夫?」

 

「別に何もないよ」

 

「いよいよ明日だね」

 

「俺もそれを考えてた」

 

「だからぼーっとしてたのね···」



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修学旅行3日目

遅くなりましたごめんなさい。


「修学旅行も3日目···今日は食べ歩くぞー!」

 

「おーー!!」

 

朝からテンションが高いことで。まあかく言う俺も今日はちょっとわくわくしているのだが。

 

「飯は食べられるようにしとけよ」

 

「わかってるよ~」

 

「ほんとかなぁ」

 

正直戸山が1番心配だわ。

 

その後出発した俺たちはめぼしいものを片っ端から食べた。抹茶パフェとかめちゃめちゃ美味かった。約2名その量にちょっと青い顔してたのが面白かった。案の定食べられなかったので手伝ったが。

 

 

 

~~

午後3時を回り次はどこへ行こうかと考えていると、

 

「あ!星だー!」

 

「香澄!?どこ行く気だよ!」

 

そう言って走っていってしまった。

 

「はっすー」「蓮」「井戸原君」

 

「ん?」

 

「「「どうする?」」」

 

「どうって···追うしかないだろ。離れて何かあったとか言ったら怒られるぞ」

 

「だよねー」

 

そうして俺たちは2人を追いかけた。その30分後、

 

「完全に迷ったな」

 

「香澄お前な~」

 

「みんなごめぇん」

 

「市ヶ谷。気持ちはわからんでもないがそれは後にしろ。先に現状をどうにかするのが先だ」

 

「でも下手に動くと余計に迷うよね。マップ見ても訳わかんないし」

 

「そうなんだよな。近くにになんかないか?」

 

「ちょっと待って。···あー学校ある。京都天楼女学院」

 

「それって日本有数のお嬢様学校じゃねぇか」

 

「京都天楼···天女···」

 

「あれ?はっすーどうしたの?」

 

「いや、どっかで聞いたとあるような」

 

「そりゃ有名なんだからあるだろ」

 

「いや、そうじゃなくて···あ!」

 

「うお!びっくりした」

 

「思い出した。確かすみさんが行ったところだわ」

 

「え?すみさんここなの?」

 

「確か」

 

すみさんとは誰だと思った4人だったがもう知っている。蓮と葵の2人だけがわかるということは中学の同級生だということを。

 

「行くだけ行ってみるー?」

 

「時間が時間だから待ってれば会えるかもだしね」

 

「そうだな。じゃあ行くか」

 

 

 

~~

「来ないね」

 

「来ないな」

 

「もう帰ったのかな」

 

「かもな」

 

「ねぇ」

 

「ん?どした?」

 

「すみさんって誰?」

 

「ああ。紫音 すみれって言って中学の「すみません」はい」

 

突然声をかけられ振り向くと1人の女性が立っていた。

 

なんだろうと思ったが

 

「私、京都天楼女学院の教師なのですが」

 

と聞いて一瞬で理解した。

 

「先程から見知らぬ男女が入口でたむろをしていると相談を受けまして」

 

やっぱりかーと思った。

 

「すみません。ここの生徒の1人に用事があって先程電話をしたのですが繋がらなくて」

 

「それは、日中校内での使用を禁止しているからですね。よろしければ取り次ぎましょう。その生徒の名前を教えて頂けますか?」

 

「紫音 すみれと言います」

 

その名前を聞くと彼女は黙り込んでしまった。少しすると

 

「すみませんがそれはできません」

 

と言った。

 

「何故ですか?」

 

「今、紫音さんはストーカーの被害に遭われています。それが誰なのかも分かりません。彼女とのしっかりとした関係性を示すものを見せて頂かなくては···」

 

「すみさんにストーカってそりゃまた珍しい」

 

そう呟いき俺は振り返って聞いた。

 

「葵、今あれ持ってるか?」

 

「あれでしょ?あるよ」

 

「すみません。これを見たことありますか?」

 

俺たちはキーホルダーを取り出した。

 

「それは、確か紫音さんが持っているのを見たことがあります」

 

「これは中学の卒業の時にクラスで作ったものなんです」

 

「確かにそんなようなことを言っていましたね。わかりました。どうぞ着いてきてください」

 

「え?こういうのって普通男子禁制なのでは?」

 

「入学はできません。ですが許可があれば男性でも問題ありません」

 

なるほどと思っていると

 

「おいお前」

 

声が聞こえた。まあいいや気にしないどこ

 

「お前だお前!何無視してんだ!?」

 

「ああ、俺?」

 

「そうだ。お前、さっきからすみれちゃんの名前を何度も呼んでいたな。すみれちゃんは僕のものだ。お前はすみれちゃんのなんなんだ!どんな関係なんだ!?」

 

明らかにやばめのやつが出てきた。言葉を聞く限りこいつがすみさんのストーカーなのだろう。どうせなら煽ってやろうと思い

 

「お前が思っているよりも深い関係」

 

と答えた。すると男は黙り込んで静かに懐からナイフを取り出した。よく見ると目が血走っている。そして、

 

「すみれちゃんは誰にも渡さなあぁぁぁぁい!!!」

 

そう叫んで襲いかかってきた。いや沸点低。

 

「井戸原く···え?」

 

向かってくる男の頭に、俺は横から頭に蹴りを叩き込んだ。それをもろに受けてふらついた男の手からナイフを払って組み伏せた。当然暴れる。だが俺は力を強め、冷たい声でこういった。

 

「下手なことしたら全治半年はかかる折り方するよ」

 

さっきの教師が通報したのか、程なくして警察がやってきて男を連れていった。さすがのすみさんも被害届は出していたらしい。そんなひと悶着がありながらも、俺たちは応接室に通された。

 

「呼んで来ますのでしばらくお待ちください」

 

 

 

~~

放課後、私は教室で友達と話をしていた。最近誰かにつけられているのでお母さんが送迎をしてくれているけど今日は遅くなると言われた。少し話していると先生がやって来た。誰かに用かな?

 

「紫音さん。あなたにお客様です」

 

私だった。誰だろう。

 

「すみません失礼します」

 

友達にそう告げて先生のあとをついて行く。応接室に着き、扉を開くとそこには、

 

「やっほーすみさん」

 

「久しぶりすみさん」

 

見知った顔がいた。

 

「あー!はすさん、あおくん久しぶり!」

 

「「いえーい!」」

 

「「いえーい!」」

 

2人とハイタッチをすると

 

「ゴホン!」

 

あ、先生いたんだった。

 

「今だけですよ」

 

目をつむってくれた。

 

「でもどうしたの?こんなところまで」

 

「いやー実は今修学旅行中なんだけどさー」

 

「うん」

 

「迷った」

 

「うん。うん?迷った?はすさんが?珍しい」

 

「俺もそう思う。だから助けてもらおうと思って」

 

「うーん。そうしたいのは山々なんだけど私いまストーカーにあってるんだよね。巻き込んじゃうかもしれないし」

 

「それならさっきはっすーが蹴り飛ばしたよ。それで連れてかれた」

 

「あれ!?もう巻き込んでた!?ごめんね!」

 

「大丈夫大丈夫。そろそろ連絡来るんじゃない?」

 

「あ、ほんとだ来た」

 

どうやら正式に逮捕となったらしい。

 

「よし。じゃあ行こう」

 

「あざっす」

 

「で、どこまで行けばいいの?」

 

「ここまで行ければあとは大丈夫」

 

「はいはいりょうかーい」

 

そして京都を案内がてら連れてきてもらった。

 

「すみさんばいばーい」

 

「じゃあまた」

 

「うん」

 

そうして向かったのは夕食場所。外で食ってこいとかなんなんだようちの教師たちは。今回に限っては良しとするけど。

 

 

 

~~

で、着いたのは

 

「ここ?」

 

「ここ」

 

「超人気店じゃん。よく予約できたな」

 

そうその通り。いくら俺でもここの予約取るのは恐ろしく大変だったのだ。

 

店に入ると、いい感じの雰囲気だった。羽沢の家とは違ったよさ。まぁ比べるジャンルが違うけど。

 

席に通されると鋼輝と市ヶ谷だけ別席。市ヶ谷がすごい混乱している。まぁお膳立てはここまで。あとは頑張れ。

 

 

 

~~

「美味しい···!」

 

「うん。なんか蓮の教えてくれる店って外れないんだよね」

 

「何となくわかる気がする」

 

「蓮には感謝だな。好きな人とこうやってゆっくりご飯食べられるんだから」

 

「うん···え?今なんて···」

 

無意識に口にしてしまったらしい。こうなったらもう後戻りはできない。

 

「市ヶ谷さん」

 

「は、はい」

 

「好きです」

 

聞き間違いじゃなかった。だが、そんなことを考えているのもお構い無しに続ける。

 

「あなたと一緒にいたいです。俺と───」

彼は言おうとしている私が密かに待っていた言葉を。でも、そんなことはないと諦めていた言葉を。

 

「───付き合ってください」

 

「私···なんかでいいんですか?」

 

「市ヶ谷さんがいいんです」

 

「···よろしく···お願い···します」

 

パチパチパチ

 

ビクッ

 

突如沸き起こる拍手。そうだった。蓮が予約してくれただけで貸切なわけじゃないんだった。

 

 

 

~~

俺たちは2人の様子を固唾を飲んで見ていた。その後、一気に緊張が抜けた。俺はすぐに頼んでいたものを出してもらうことにした。っとその前に、あの二人をこっちに呼んでもらおう。数分後にやって来た。2人とも顔が真っ赤である。下を向いたまま席に座る。

 

「2人とも。何か言うことは?」

 

「つ、付き合うことになりました···」

 

「良かった良かった。お願いしまーす」

 

「「?」」

 

「お待たせ致しました」

 

「あの、これは?」

 

「詳しい事情は伺っていないのですが、成功したら出して欲しいと井戸原様に頼まれまして」

 

「2人ともおめでとう」

 

「蓮、ありが「ありさ~おめでと~!!」···とう」

 

「だーもう香澄!抱きつくな!」

 

締まらねぇな。

 

「えーいいじゃん」

 

「今だけだぞ」

 

「やったー!」

 

 

 

~~

そのあとはみんなでゆっくり食べた。

 

「それじゃあ鋼輝」

 

「どうした?」

 

「市ヶ谷とイチャつきたいと思ってるとこ悪いけど」

 

「はぁ!?」

 

「お土産の確認しよう。もう買う時間今しか残ってないから」

 

「そっかー。明日すぐ帰っちゃうもんね」

 

「というわけで葵、匠の」

 

「あるよー」

 

「市ヶ谷、生徒会のは?」

 

「一緒に選んだじゃねえか」

 

「確認だから。まあ大丈夫だな。じゃあ帰るか」




次回で修学旅行は終わりです。


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修学旅行4日目

最終日の朝。あとはだいたい帰るだけ。そんなことを目が覚めて最初に考えた。どう考えても優先順位が低いなとはそのあと思ったが。周りを見れば2人ともまだ寝ている。だがこれ以上寝かせとけば飯に間に合わない。

 

「葵、そろそろ起きろ」

 

「うーん。おふぁよう」

 

「おはよう」

 

で、鋼輝は···

 

「有咲ぁ」

 

「·········」

 

戸山かお前は。寝言を言いながら幸せそうに寝ている。どんな夢見てんだ。だが叩き起こす。

 

「おい。起きろ鋼輝。おい」

 

「うーん」

 

起きない。ならば声優の力を見せてやろう。

 

「鋼くん起きて。ご飯できてるよ♡」

 

市ヶ谷の声を真似て言ってみたがうん。自分でやっておきながら気持ち悪い。

 

「はい!」

 

あ、起きた。

 

「おはよう」

 

「おはよう蓮。有咲は?」

 

そう。昨日の夜から鋼輝は市ヶ谷を『有咲』と呼ぶようになった。呼ばれた本人はすげー嬉しそうだった。

 

「居るわけねぇだろ」

 

「え?じゃあ今のは···」

 

「俺の声真似」

 

「人を弄びやがって!」

 

「起きないお前が悪い」

 

「うっ」

 

「それよりもさっさと着替えろ。飯に遅れるぞ」

 

「わかったよ」

 

と言いながら俺の事を恨めしそうに見ている。そんなことしたって後で市ヶ谷に会えば一瞬で忘れる癖に。

 

食堂に行けば既に3人がいた。

 

「おはよー」

 

「あ!おはよう!」

 

「おはよう」

 

「おはよう有咲」

 

「お、おはよう」

 

それを聞いたクラスメイト達は耳を疑ったと同時にこう思った。何があったのかと。まぁこうして飯を食べ始めたわけなんだが···

 

「あ、あーん///」

 

「あーん。うん美味しい」

 

クラスメイト達は今度は目を疑っていた。市ヶ谷が恋人っぽい事をしてみたいと呟き、それを見事に鋼輝の耳が拾った結果がこれだ。朝っぱらから何を見せられてるんだ俺らは。あと市ヶ谷、そんなに恥ずかしいならやらなけりゃいいだろ。と、そこへ1人が話しかけてきた。

 

「井戸原。これって」

 

「見ればわかるだろ。分からないなら本人達に聞け」

 

 

 

~~

荷物をまとめてバスに乗り出発する。だいたい帰るだけとは、帰り道にある場所にちょくちょく寄っていくということである。色んなところに行ったがその間も鋼輝と市ヶ谷は一緒だった。学校まであと2時間ほどのところで何気なく2人を見ると、肩を寄せあって寝ていた。

 

「市ヶ谷さん嬉しそうだね」

 

2人を見ていたことに気付いたのか、隣にいた奥沢がそう言ってきた。

 

「まぁそうだろうな」

 

多分起きたら鋼輝にもたれかかって寝ていたことに顔を赤くするだろうなと思いながら写真を1枚撮っておいた。何かに使えると思って。

 

 

 

~~

「うあー着いたー疲れたー」

 

やっと帰ってきた。あとやっぱり市ヶ谷は顔真っ赤にした。

 

「市ヶ谷さん。井戸原さん」

 

呼ばれて振り向くとそこには白金先輩と氷川先輩がいた。

 

「先輩たちどうしたんですか?」

 

「帰ってきた後輩を出迎えてはいけないのですか?」

 

「いやだめじゃないですけど。疲れてるでしょうに。疲労が目に見えてますよ」

 

「やはりそうですか。さすがにかくせませんね」

 

「わかってるならさっさと帰ってください。旅行の話ならまた今度話しますから」

 

「そうですね。白金さん帰りましょうか」

 

「では今度聞かせてください」

 

「わかってますよ。お疲れ様です」

 

 

 

~~

解散して、電車に乗って降りてもう歩き慣れた道を2人で歩く。

 

「楽しかったね」

 

「色々あったけどまぁな」

 

「今回のことで思ったけど井戸原君って日本全国に知り合い居そう」

 

「···あながち間違ってないかもしれない」

 

「それにしても上手くいって良かったね」

 

「ああ、失敗するなんて思ってなかったけど。あれを見てれば別れるなんてこともないだろうし」

 

 

「そうだね。あ、」

 

「ここまでだな。じゃあまた」

 

「うん。学校で」

 

 

 

~~

あの二人を見ていいなとは思った。だけどそんな関係にはなれない。なってしまえば······巻き込んでしまうから。




次回は番外編3話目です。


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番外編3 ある日の休日

ある晴れた日。今日は特に依頼も受けないと決めていた。つまり休みである。朝はいつもの時間に起きて食堂に行けばいつもの日常があった。その中でいつもではないことといえば、俺がゆっくりしているというところだろう。

 

「珍しいね~。レンがその格好してるなんて」

 

「リサさんおはようございます。まぁたまには休まないと怒られますからね」

 

「1回マスターから外出禁止命令出たもんね」

 

「はい···」

 

「でもたまにはのんびりしなよー」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

~~

ほとんどが出ていったあと、俺も出かける準備をする。

 

「あら?レン、出かけるの?」

 

「ココロか。ちょっと買い物にな」

 

「ならわたしも行くわ」

 

「······なんでだよ」

 

「だって1人で行ったら買い物以外のこともしてなかなか帰ってこないじゃない」

 

「うっ」

 

確かにその自覚はある。でも、

 

「お前も休みだろ?だったら部屋でゴロゴロしてれば···」

 

「それを今出かけようとしているレンが言うの?」

 

 

 

~~

「やっぱり1人より2人の方が楽しいわよ」

 

負けました。完全に言いくるめられました。あの後もいろいろと抵抗はしたけどダメでした。

 

「それに···」

 

「?」

 

「レンが帰ってこないのは不安なんだもの」

 

それはずるいと思う。

 

「はぁ···わかったよ」

 

次の瞬間には笑顔になったと思ったら

 

「じゃあはい!」

 

と手を差し出してきた。

 

「ん」

 

手を軽く握ってその上に乗せる。

 

「違うわよ!」

 

違うのか。

 

「レンがどっか行かないように!」

 

手を繋げと。恥ずかしいと思って無視していたら「ん!ん!」と大きく手を降り出したので、

 

「もう好きにしてくれ···」

 

と根負けしてその手を握った。俺弱すぎると思った。それと同時にココロも女の子なんだと、その手の小ささから思った。

 

 

 

~~

「レンは何を買おうとしているの?」

 

「んーと。服と本と消耗品」

 

「普通にお買い物なのね」

 

「そう言ったろ」

 

「何から買いに行くの?」

 

「とりあえず本。かさばらないからな」

 

「レン」

 

「何?」

 

「それなら今通り過ぎたわよ」

 

「うっそ!マジかよ…」

 

少し戻ってちょっと落ち込みながら店内に入る。

 

「幸先悪ぃ」

 

「元気出してレン」

 

「そうだな。せっかくの休みだもんな」

 

「そうよ」

 

「んじゃあ探すか」

 

「わたしも手伝うわ」

 

「悪いな。多分そこの棚のどこかにあるだろうから」

 

「任せて!」

 

その後、俺は探していた本は見つけたのだが、ココロは…難航しているようでまだ探していたいる。

 

「レーンー。見つからないー」

 

「大丈夫大丈夫。ありがとう。あった」

 

「私そこもちゃんと見たのに!」

 

「なんでだろうな」

 

そのあとは服を買いに行く。

俺はそこであれよあれよとココロに着せ替え人形にされていた。ただ公爵令嬢なだけあってセンスはいいので特に言うことは無いのだが。

 

「次はこれよ!」

 

「あー、うん」

 

 

 

~~

結局何着も買ってしまった。その後の買い物がとにかく大変だった。疲れたので喫茶店に入る。ココロが頬を膨らませて可愛く睨んでくる。

 

「買い物だけって言ったはずよ」

 

「文句のひとつも言わずに付き合ってくれたお礼だよ。好きな物頼め」

 

「···なら仕方ないわね」

 

こうしてまったりとお茶をして帰る。

これで俺の休日も平和に終わ

 

「きゃ!」

 

らなかった。ココロがさらわれた。

 

「公爵令嬢なら人質にとれば金が大量に手に入る···」

 

やっぱり目的は金か。目の前で攫われた。追わない理由はない。なぜなら···

 

「俺の仲間をどこへ連れていくつもりだ?」

 

「なっ!」

 

「離してもらおうか」

 

「ふざけるな!」

 

男は剣を取り出し斬りかかってくる。だが当たるわけがない。遅い。予備動作がデカい。何よりこいつからはなんの恐怖もわかない。俺は膝を顔面に喰らわせ、放り出されたココロをお姫様抱っこで受け止める。

 

「最後の最後で最悪なことが起きたが助けられて良かった」

 

「もう///」

 

顔を赤くし呟いたその言葉は聞こえなかった。

 

 

 

~~

そのあとは男を騎士団に引き渡した。あとはお任せだ。

 

「しっかしまたお前かよ」

 

「仕方ないだろう?君に関することは私の担当だと定着してしまったのだから。だが相変わらずよく巻き込まれるものだな」

 

「昔よりは減っただろう」

 

「そうなのだがな」

 

彼女レイナ。騎士団に所属し、俺が事件に巻き込まれる度にやってくる。もはや見飽きた。ここ数年は親の顔よりも見ている。

 

「そうだ。今度一緒に飲みにでも行かないか?互いに吐き出したいこともあるだろうから」

 

「断る」

 

「えー?いいじゃないか」

 

そう言って彼女は俺の腕に抱きついてくる。さらにその体を押し付けてくる。羨ましいと思うか?確かに彼女は美人だ。その証拠にほかの騎士団の人や周りの男達が睨んでくる。知らねーよ。騎士団にいるのような女性は男勝りなイメージが強いが彼女もまた例外じゃない。男にはもちろん女性からもモテる。彼女に憧れる人も多く、部下からもしたわれている。そして俺は仕事以外で彼女を見たことがない。仕事しかしてないのではと思うほどに。だから結婚は愚か恋人の1人も

 

「いった!」

 

「なんか失礼なこと考えなかったか?」

 

「んなこたねーよ」

 

「そうか。ところでいつ飲みに行く?」

 

「その話まだ終わってないのかよ。行かないって言ったろ。絡み酒になるやつの相手をしてる暇は俺にはないんだよ」

 

「それ、酔ってる私とは痛くないって言ってないか?」

 

「そうだが」

 

「じゃあ酔ってない私とはいてもいいと」

 

「あーまぁそうだな」

 

パァァァ

 

「まぁどうせ騎士団としてのお前としか会わないし」

 

「·········」バシッ

 

「なんで!?」

 

なんかまた叩かれたし。

 

「自分で考えるんだな」プイッ

 

「わかんねーよっていうかさっさと離れろ!さっきからこいつの爪が腕にくい込んで痛いんだよ」

 

「こいつ?」

 

レイナが顔を動かすと頬を膨らませて腕にしがみつくココロがいた。

 

「攫った?」

 

「たたっ斬るぞ」

 

「冗談だ。見る限り彼女が被害者だろう?」

 

「ああ」

 

「少し話を聞かせて貰ってもいいかい?」

 

だがココロは「シャー!」とレイナを威嚇する。猫か。何をそんなに警戒しとるんだ。

 

「レン」

 

「何?」

 

「この人と話をするからどっか行ってて」

 

「イエスマム」

 

あまりの剣幕に、言うことを聞くしかなかった。

 

 

 

~~

「さて、レイナと言ったわね?どういうつもり?」

 

「そっちこそなんだ?随分と警戒しているようだが」

 

「当たり前でしょ?レンを他の女に取られる訳にはいかないわ」

 

「それはわたしも同じだ」

 

「でもあなたは恋愛対象として見られていないようだけど」

 

「そんなことでは終わらせない。必ず振り向かせてみせる」

 

「あらそう。頑張ってね。それじゃあ私はレンがどこかに行かないように手を繋いで帰るから」

 

またねーと煽るように去っていく。

 

「レーンー」

 

「終わったのか。何話してたんだ?」

 

「そういうことは聞かないのが普通よ」

 

「あ、はい」

 

本当はこっそり一部始終を聞いており、内心「女は怖い」と思っていた。

 

「それじゃあ帰りましょ。はい」

 

「はいはい」

 

ちょと呆れながらも楽しそうにココロの手を握るレンを、レイナはただ見ることしか出来なかった。

 

 

 

~~

翌朝、朝起きて下に降りると一斉に見られた。

 

「何?」

 

「これどういうこと?」

 

「は?」

 

見せられたのは今朝の新聞そこにはココロとの買い物の写真とともに、『GBPの公爵令嬢と最強パーティーリーダーの熱愛!?』という大きな見出しがあった。

 

「ちょっと急用ができたから行ってくるわ」

 

「レンー。程々にねー」

 

「·········善処します」

 

「それはダメなやつなんじゃない?」

 

そうして向かった先は新聞社。

 

「邪魔するぞ」

 

「おやレンさん。どうなさいました?」

 

「今朝の新聞の記事書いたのはどいつだ?」

 

「すぐ呼びますのでお待ちください」

 

数分後。

 

「おまたせしました」

 

「あ!噂のレンさんじゃないっスか」

 

「お前か」

 

「はい!よくかけてるでしょう?自分としては今までで1番の記事っスよ!」

 

「あの写真は?」

 

「はい!昨日たまたま見つけたもんで撮りました!こっちもなかなかなものでしょう?」

 

「そうか···盗撮した上に根も葉もない憶測を勝手に広めるたぁいい度胸してんなぁ?」

 

「え?おふたりって付き合って···」

 

「ねぇよ」

 

「!?」サァァァ

 

ようやく事の重大さに気づいたらしい。

 

俺は震えるそいつの肩をつかみ、

 

「少し、話をしようか」

 

笑った。その日は朝から悲鳴が聞こえたらしい。

 

 

 

~~

「ただいま」

 

「おかえりー。どうだった?」

 

「ココロと付き合ってることを全面的に否定してきました。ついでに記者もノしてきました」

 

と言ったらそこにいた約9割にフルボッコにされた。なんで?

ちなみに記者の彼はその翌日から半月ほど出社拒否になったらしい。

 

「やりすぎたかなぁ」

 

「だから言ったのに···」




珍しく長くなった。

番外編限定キャラ:レイナ 17歳

まだ10代にして実力、頭脳ともに優れた後の幹部、もしくは団長候補。レンがGBPに入る前に出会い、それ以降ずっと彼女がレンの巻き込まれた事件等の対応をしている。あまりに巻き込まれる頻度が多いためマッチポンプを疑ったが治安維持という名目で監視をしていたが、一緒にいるうちに監視がレンといるための名目になってしまった。周りからは手の届かない場所にいる人という認識をされているが、部屋などはかわいいもので溢れている。レンよりも1つ年上のどこにでもいる恋する乙女。ココロを敵視している。レンがGBPに特例で入ることになった時、それを知った人のうち、彼女だけが(女子ばかりだから)必死で止めた。


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最近、この花咲川学園高校ではあるひとつの噂が流れている。なんでも放課後になるとどこからか楽器の音色が聞こえてくるらしい。最初はみんな吹部の誰かが残って練習していると思ったのだろう。詳しい人に聞けばこれはヴァイオリンだと言った。どこかのクラスでは吹部の子にこう言ったという。

 

「放課後に聞こえるヴァイオリンの音って吹部の人でしょ?練習熱心だねー」

 

だが、帰ってきた言葉は予想とは違うものだったらしい。

 

「吹奏楽でヴァイオリンなんて使わないよ?」

 

「え?」

 

そこから噂は尾ひれをつけて一気に広まった。これは幽霊の仕業だの語られていない七不思議の7つめ以降だのと。これに便乗して正体を突き止めようとした奴らもいるそうだが、決して音の出処は見つからなかったらしい。

 

 

 

~~

「っていう話なんだけど行かない?」

 

「戸山、なぜ俺を誘う?市ヶ谷といけよ」

 

「有咲は来てくれるって」

 

「おい鋼輝。お前の彼女戸山にとられるぞ」

 

「俺も行くし」

 

「そうかよ。他には?」

 

「おたえとりみりんとさあやとこころんとみさきちゃんとイヴちゃん」

 

「花咲川2年ガールズバンド全員集合だな」

 

「ねえー蓮くんも行こうよー」

 

「わかったから揺さぶるな」

 

「やったー」

 

「はぁ。やれやれ」

 

こうして音の正体を突き止めよう!と意気込んでいたのだが(俺以外)、その日、音は聞こえて来なかった。

 

 

 

~~

その後も何日か同じ事をしたのだが、その噂が嘘のようにまったく聞かなくなった。

 

「おい香澄。そろそろやめるぞ。ここまで出てこないってなるとさすがにやばいと思って雲隠れしたんじゃないか?」

 

「うう、わかった」

 

だがその翌日の放課後、突如として、再び聞こえ始める。

 

「!?聞こえる···」

 

「言われて見れば···ちょ!香澄!?」

 

「戸山さん。わかったの?」

 

「うん。多分音楽室」

 

「なんで?」

 

「勘」

 

「ええ?」

 

その途中で3年組にかち合って事情を説明したら着いてきた。さらにその途中でたまたま生徒会室から出てきた氷川さんと白金さんは

 

「戸山。廊下を走っては···」ピュー

 

「すみません。香澄があの音が音楽室から聞こえるって言うもんで」

 

「なるほど。では私達も行きます」

 

「ええ!?」

 

「実は私も気にはなっていたので」

 

そうして全員で音楽室にたどり着いた。そこには、夕日を浴びながらヴァイオリンを奏でるレンの姿があった。誰が聞いてもわかるほど、とても力強く、繊細な音だった。入ってきたことにも気づかないでただ引き続けている。

 

「そりゃここしばらく聞かなかったわけだ」

 

そんな彼を見て誰かが

 

「イっ······くん?」

 

そう呟いた。




新展開。シリアス回突入


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さぁシリアスな空気になってまいりました。(シリアスに似合わないテンション)


俺は音楽室でヴァイオリンをかまえ、弾き始める。昔はやっていたのだが、あることをきっかけにやめてしまった。その後も偶に弾いている。最近は音楽室を使っていいよと言われているので弾いていたが、噂になってしまいあらゆる生徒が探し始めた。俺も巻き込まれたがそれが俺なので見つかるはずもなく。まぁもうしばらくは見つからないだろう。そう思っていた。

誰か入ってきたことにも気付かずに弾き続ける。

 

「イっ···くん?」

 

その言葉を聞いて、俺は演奏を止め、顔を上げた。聞こえるはずはないのに、聞こえた。そして俺は後悔する。止めてはいけなかったと。

 

「イっくん···なんだよね?」

 

”イっくん”。俺をそう呼ぶのは過去にたった1人。信じない。信じたくない。でも、これが現実だ。その人物は、白金先輩。彼女は、涙を浮かべ、俺を抱き締めた。

 

「良かった···無事でよかった」

 

 

 

~~

白金先輩が井戸原くんを”イっくん”と呼んだ。どういうことなのかと思ったけどそんな考えはすぐに吹き飛んだ。なぜなら白金先輩が井戸原くんに抱きついたから。でも彼はすぐにそれを振りほどいて飛び退いた。

 

「イっくん?」

 

初めて見た。その時の彼の目は、酷く怯えていた。

 

「······で」

 

「なんで···俺は、あなたを裏切ったのに!!」

 

「裏切った?」

 

「井戸原さん。どういうことですか?」

 

ハッと息を呑む声。無意識に言ったらしい。彼はすぐにヴァイオリンをしまい、あたし達を乱暴に押しのけて出ていこうとする。

 

「待ちなさい!さっきの質問に答えてください」

 

「···アンタには関係ないだろ」

 

これ以上踏み込んでくるなと言わんばかりの冷たい声だった。出ていった彼の背中をこころでさえも追いかけることは出来なかった。

 

 

 

~~

「白金さん。説明していただけますか?」

 

「はい。私は、小さい頃からピアノのコンクールに出ていました。ただ、ピアノだけではなくヴァイオリンとのデュオででいたのですが、それを弾いていたのが」

 

「井戸原さんという訳ですね」

 

「多分、そうだと思います。ですが、私が小学6年生のコンクールの日、彼は来ませんでした」

 

「え!?」

 

「裏切ったってそういうことかよ。最低じゃねぇか」

 

確かに行いは最低と言わざる負えないけど、さっきの無事でよかったという言葉と結びつかない。

 

「皆さんもう下校時間なので帰りましょう。白金さん私達も練習があるので行きましょう」

 

「はい···」

 

 

 

~~

「ストップ。燐子。どうしたの?あまり集中できていないようだけど」

 

「すみません」

 

「りんりん大丈夫?」

 

「やはり気になるのですね。井戸原さんのこと」

 

「どういうこと?」

 

「実は···」かくかくしかじか

 

さっきあったことを話す。

 

「そんなことが···」

 

「裏切ったって、確かにそこだけ聞けば嫌な感じはするけど何となく蓮ぽくない感じがするよね」

 

「責められるのは怖いものですからね」

 

「ううん。あたしは逆だと思うんだよね」

 

 

 

~~

俺は校門を出て早歩きで駅へ向かう。

なんで。なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!なんで今なんだよ!なんで今まで気が付かなかった!あの子には、彼女には会いたくないと思っていた。でも既に会っていた。互いが互いに気付かぬままここまで来た。俺はもう、どうすればいいか分からない。




21話のラストを回収。確か21話の『花より団子より』だったはず


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許されざる者




あの日からもう1週間がたった。あれからヴァイオリンの音は聞いていない。もう噂は聞かなくなった。井戸原くんは一応学校には来ているけど授業が終わるたびすぐに出ていってしまう。会わないようにしているのがわかりやすく見てとれる。今はお昼休みだけどどこでご飯を食べているのか見当もつかない。

 

「市ヶ谷さん」

 

「どうした?」

 

「生徒会ってどんな感じ?」

 

「全然見ないな。なんというか…すごく気まずい。井戸原は仕事はしてるみたいだけどな。偶に机にUSBが置いてある」

 

「あんなことがあってもそういうのはちゃんとやるんだね··」

 

「あと氷川先輩から聞いたけどRoseliaがCiRCLEで練習する時は井戸原のアルバイトが入ってないって」

 

「よっぽど会いたくないんだね」

 

「奥沢さん。帰りに話聞いてみてよ。ほんとに、居心地悪くて···」

 

「うん、わかった」

 

 

 

~~

「井戸原くん」

 

「ん?何?」

 

うわぁ〜やっぱピリピリしてるなー

 

「今日一緒に帰らない?」

 

「······ああ」

 

この流れを見たクラスメイトは奥沢が猛者に思えた。

 

その帰り道、

 

「ねぇ井戸原くん」

 

「何も話すつもりは無いぞ」

 

「うっ」

 

話を聞き出そうとしたが開口一番道を絶たれた。でも諦めない燐子先輩のこともそうだけど、あたし自身が知りたい。

 

「ねぇ。教えて。昔の井戸原くんに何があったのか」

 

「俺が氷川先輩に言ったこと覚えてないのか?関係ないだろ」

 

「うん、でもあたしは知りたい。昔の事だけじゃなくて井戸原くん自身の事」

 

「折れるつもりは···ないんだな」

 

「·········」

 

「·········」

 

「はぁ。わかった、話してやるよ。その前に、どこまで聞いた?」

 

「発表会に来なかったってことだけ」

 

「情報が少ないな」

 

「そりゃあねぇ」

 

「そうだな。あれは発表会の前日······」

 

 

 

~~

「············」

 

その話を聞いて、あたしは言葉が出なくなった。その時の気持ちは分からないけど、何となく理解はできた。

 

「でもそれは······謝れば許して貰えるんじゃ」

 

「それはそうかもしれない」

 

「じゃあ······」

 

「でも許してもらおうなんて思ってない。俺には謝る権利も、許してもらう資格も持ってない」

 

「井戸原くん···」

 

「悪いな。何か食って帰るか」

 

「······うん」

 

あたしはそれ以上何も言えなかった。

 

 

 

~~

「···っていうことでして」

 

「そんなことが···」

 

「なんて言うか、悪いことしたな。最低って言ったことを謝りたい」

 

「どうしますか?白金さん」

 

「その······ごめんなさい」

 

「なぜ謝るのですか?」

 

「私、実は知っていたんです。あの日、イっくんが来なかった理由を」




これ書きながら俺は蓮の過去をいくつ用意してるんだろうって思い始めた。


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いよいよラストスパート


お昼休み、俺は氷川先輩に呼び出された。

 

「井戸原さん。放課後、生徒会室に来てください。来なければ、私はあなたを許しません」

 

「蓮、お前なんかやったか?」

 

「心当たりがあるにはあるけどあの人には直接的な関係はない」

 

なんで、揃いも揃って首を突っ込んで来るんだ······

 

 

 

~~

放課後。本当ならさっさと帰りたいところなのだが仕方なく生徒会室に向かう。扉を開けると氷川先輩、白金先輩、市ヶ谷、戸山、奥沢がいた。

 

「来ましたね。あなたのことは奥沢さんから聞きました」

 

「奥沢お前···」

 

「気持ちは分かりますが、避け続けるのは違うと思います」

 

「は?」

 

次の瞬間、そのたった1文字で中の空気が凍った。

 

「わかる?何が」

 

なんというか、押してはいけないものを押してしまったようだった。

 

「えと、その、私も日菜と···」

 

「あんたは、自分と比べて煩わしさから妹を遠ざけて逃げただけじゃないか。その時のあんたの顔を見て、言葉を聞いて、日菜先輩が何を思ったのか考えもしなかったろう。あの日突然体が動かかなくなった。医者に行けば後遺症が残るかもしれないと言われた。もう二度と、音楽は愚か、何も出来なくなると思った絶望がわかる?この話を聞いたやつと同じだよ。何も知らないくせに安い同情で口ばかり。もううんざりだ!!」

 

パァン

 

軽快な音が響き、俺の視界がブレる。顔を戻すと腕を振り抜いた奥沢がいた。あとから頬にくる痛み。奥沢にはたかれた。

 

「ってぇな。突然」

 

「ふざけんな!!」

 

奥沢が怒鳴った。

 

「人のこと散々言っておきながら、あんただって燐子先輩から逃げてるじゃん!そんなの···そんなの井戸原くんじゃないよ···いつもの、ぶっきらぼうで、優しい井戸原くんでいてよ······」

 

怒鳴り声も最後の方は泣き声に変わっていた。我ながら、愚かだと思う。だからこそ、向き直った

 

「ひとつ、聞いてもいいですか?」

 

「うん」

 

「どうして、怒らないんですか?俺は、あなたを裏切ったのに。できるならば、俺はもう会いたくなかった。でも会ってしまったなら、俺は責め立てて欲しかった。その方が楽だから」

 

少し、沈黙が続く。

 

「無理だよ。確かにね、最初はどうして来てくれないの?って思ったよ。でもその夜に知ったから。君が来なかった理由を知ったから」

 

「!!知っていたんですか?」

 

「うん」

 

「ああ。ほんっとうにバカだ。俺は」

 

涙が頬を伝う。そっと抱きしめられて、俺は少し泣いた。

 

 

 

~~

「軽率なこと言ってすみません」

 

氷川先輩に頭を下げた。頭に血が昇ったとはいえ、言いすぎた。

 

そして奥沢に向き直る。

 

「奥沢」

 

「何?」

 

「ありがとう」

 

「うん」

 

「そうだ。イっくん」

 

「なんですか?白金先輩」

 

「·········」

 

「いやほんとになんですか」

 

「昔みたいに『リンちゃん』って呼んでくれないの?」

 

「嫌です」

 

「いいじゃん」

 

「断固拒否します」

 

「むー。じゃあそれは後で話すとして、明日一緒に行って欲しいところがあるんだけど」

 

「わかりました」

 

 

 

~~

翌日、2人であるところにやってきた。

 

「ここって」

 

そこは2人が通っていた音楽スクール。

 

「こんにちはー」

 

声をかけると奥から1人の女性が出てきた。

 

「先生、お久しぶりです」

 

「あら燐子ちゃん。綺麗になったわね」

 

「そ、そんな///」

 

「ご無沙汰してます」

 

「蓮くんもかっこよくなって。後、治ったのね。良かったわ」

 

「ありがとうございます」

 

「そうそう。準備してあるわよ。今の生徒たちにも聞かせていいかしら」

 

「もちろんです」

 

「え?どういうことです?」

 

「イっくん」

 

「はい」

 

「あの時出来なかった曲を今日、私と弾いてください」

 

「はい」

 

「雰囲気だけならプロポーズねぇ」

 

「先生、茶化さんでください」

 

 

 

~~

演奏は大成功。いい時間なのでそろそろ帰ろうということになった。

 

「ありがとうございました」

 

「いつ来てくれてもいいのよ」

 

「はい」

 

「そうだ燐子ちゃん。蓮くんを彼氏にしようと思わないの?かっこいいし、今彼女いないって言うし」

 

「はい。いいんです」

 

スクールを後に2人で歩く。

 

─私は彼に選ばれない事を知っている─

 

─もう、過去のことで俺はうじうじしてるつもりは無い─

 

─だから─

 

─前へ進もう─

 

 

ちなみにリンちゃん呼びに関して白金先輩が全く折れなかったため、

 

「2人きりの時だけにしてください·········」

 

ということになった。




次は番外編4話目


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番外編4 酒場にて

遅くなりました。すみません。


ある日の夜、俺はある人に呼ばれて酒場に来た。そのある人というのが

 

「ようやく来たな」

 

レイナである。

 

「まだ約束の時間じゃないぞ」

 

「この間なんだかんだ言いながらも呼べば来てくれるのだな」

 

「タダ酒だからな」

 

「女性に払わせる気か?」

 

「こんなところに呼び出せれた上に愚痴を聞かされる身にもなってみろ。帰りたくなるぞ」

 

「こっちもなんだかんだでストレスが溜まってるんだから聞いてくれないか?」

 

「俺はそれでストレス溜まるんだがな」

 

まあ結局聞いてはやるのだが。

 

 

 

~~

しばらく聞いているとあることに気がついた。

 

「お前、今日はやけに酒が進んでないな」

 

「あ、ああ。なんでだろうな」

 

「······何を企んでる?」

 

「ななななんのことだ?」

 

「お前がいつもと違う時は大抵何かを企んでいるときだ」

 

「隠しても無駄か。実はな、私はお前のことがす「はーいみんなー!楽しんでる?ハローハッピーワールドよ!」

 

「ゴホッ!」

 

は?なんかココロたちがステージにいるんだが。なぜだ?しかもなんかこっちみて煽るように。正確にはレイナを見ている。煽るような要素がどこにあるのか知らんが。2人が何をしているのかもわからんがこいつらは顔を見るだけで会話が成立しているようだ。···会話はしてないな。

 

その後まさかの全員いたらしく次々と出てきては演奏をして下がっていく。それを眺めているとアオイ、タクミ、イツキが出てきた。

 

「お前らもいるのかよ!」

 

思わず大声を上げてしまった。

 

「あ、ほんとにいた」

 

「さっさと上がってこい」

 

「はいはい。ったく」

 

席を立ちステージに向かおうとすると、

 

「あ·········」

 

「ん?」

 

レイナが俺の服の裾を掴んでいた。

 

「どうした?」

 

「あ、いや、何でもない」

 

「何?」

 

「すまない。引き止めて何だがまだ言うべきことではなかった」

 

ここまで言うなら追及はしない方がいいだろう。

 

「そうか」

 

俺はステージに上がり演奏を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意気地無し······」

 

 

 

~~

その帰り。俺は聞いた。

 

「お前たちなんでいたの?」

 

「レンがあの女と2人で会うって聞いたからよ」

 

「あの女って······」

 

「取られないようにするためにね」

 

「取られるって。確かによく剣の相手はさせられるけども」

 

「そういうことじゃないの」

 

「えぇ···」

 

「わかった?」

 

「あーうん。とりあえずココロとレイナが仲悪いってことが」

 

「······レン」

 

「何?」

 

「分からない子は明日の朝ごはん抜き」

 

「理不尽過ぎねえ?」

 

その言葉に、小さな笑い声が響いた。俺たちをつけてくる奴らがいるとも知らず。




今年もこちらもよろしくお願いします。


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終わる足音

静かな生徒会室で鳴るキーボードを叩く音。顔を上げ外を見てみれば薄暗い空から雪が降りている。ふとキーボードを叩くのを辞め、口を開いた。

 

「そういえば、もうこのメンバーでいるのもあと少しですね」

 

あと2週間程で今年も終わる。来年の2月には生徒会選挙がある。つまり今の生徒会は終わってしまうのだ。

 

「言われてみればそうだな」

 

「2年もやっていたのに、あっという間でしたね。私たちの生徒会は」

 

「そうですねぇ」

 

そう言って思い返すのは、日菜先輩の思いつきの合同文化祭で奔走してぶっ倒れ、体育祭では停電。なんというか

 

「いい思い出といい思い出の間にちょくちょく良くない思い出が挟まってる」

 

「私としては、次の生徒会長はお2人のどちらかがやっていただけるといいのですけど」

 

「無理ですね」

 

「やりゃいいじゃん」

 

「だから無理だって。活動再開に向けて色々やらないけなんだよ。3、4月は3日に1回のペースでMV撮影が決まってる」

 

「やば」

 

「芸能人としての苦労は私達も感じ初めていますからね。強要はできません。」

 

「イっくんここ間違ってるよ」

 

「ごめんリンちゃん」

 

「·········」

 

「·········」

 

「はぁー。つられたっ············!」

 

「へーぇ」

 

「やめろ。ニヤニヤすんな」

 

それでもやめてはくれない。

 

「先輩たちの大学の試験もあと1ヶ月くらいじゃないですか?」

 

「話逸らしたな」

 

「婦警のコスプレ」

 

「おい!それは反則だろ!」

 

「私にも流れ弾が来ているのですが」

 

「あ、すみません」

 

「それはともかく、話を戻しますがこのまま続ければ余裕を持って挑めると思います。日菜とも勉強していますし」

 

「仲良くやってるみたいですね」

 

「日菜が一緒に勉強しようと部屋に突撃してくるのが困りものですが···なんですかその顔は」

 

「いえ別に。ただ顔はそうは言ってないように見えたので」

 

「来年になれば学校に来る日も少なくなるので皆さんに会えなくなるのが少し寂しいですね」

 

「それは大丈夫だと思いますけどね」

 

「え?」

 

「戸山たちなんかはCiRCLE行けば会えると思いますし、俺に至っては事務所にも最近よく顔出しますからね」

 

「ふふ。そうですね」

 

「ええ」

 

また外を見るが、変わらず雪が静かに降っていたる。

 

「そろそろ帰りましょうか」

 

「はい」

 

パソコンを閉じて片付ける。それぞれ生徒会室を出ていく。俺は電気を消して振り返る。暗くなった生徒会室と遠ざかる先輩の足音が少しずつやってくる終わりを物語っているように思えた。



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再出発に向けて

「ぬぅ~~~~~~」

 

冬休みに入って数日。俺はバイト先のCiRCLEのカウンターで唸っていた。

 

「どうしたの?蓮くん」

 

「再始動後に出すアルバムの曲作り。3ヶ月に1曲のペースで作ってる」

 

「へぇー」

 

「それでお前はさっきから何をしてんだ」

 

かれこれ1時間は悩んでいる俺を眺めていた戸山に問いかける。

 

「え?蓮くんを見てる」

 

「答えとしちゃ間違ってはないけど俺が聞きたいのはなんで見てるのかってことだよ」

 

「真剣に悩んでいる蓮くんが珍しいから」

 

「あーそう」

 

「井戸原くん」

 

「ん?」

 

「てい」ビシッ

 

「あいてっ!」

 

顔をあげるとデコピンがとんできた。思ったよりも威力が強く、額を抑えてうずくまった俺に声をかけてくる。

 

「もう3時間もそんななんだから休憩しなよ」

 

「わかったから次からデコピンはやめてくれ。思ったよりも痛いぞ奥沢」

 

「はいはい」

 

「で、なんだよ」

 

まだ額を抑えながら聞く。

 

「ん。これ」

 

手渡してきたのはカフェオレだった。

 

「ああ。ありがとう」

 

「ちゃんと寝なよ。くまできてるよ」

 

そう言ってハロハピの面々と共に去っていった。

 

「隠したはずなんだけどなあ」

 

「いやぁ、愛だねえ」

 

その言葉と共に何かがのしかかってきた。

 

「今井先輩顎痛い。あとここカウンターだから出て」

 

「蓮って絶対に重いって言わないのすごいと思う」

 

「そんなことよりなんですか愛って」

 

「だってさっき美咲がくまできてるって言ったでしょ?隠してるのに」

 

「はい」

 

「そんなのずっと見てなきゃ分かんないよ」

 

「そう···ですか」

 

「愛されてるねーこのこの」

 

「今井先輩」

 

「なぁに?」

 

「重かったです」

 

「あ!言ったなこの~~!」

 

「ちょ!やめてください!」

 

今井先輩が頭を思いっきり掻き回してくる。でもそれは唐突に止まった。

 

「前にね、美咲が言ってたの。蓮の独り言を聞いたって」

 

独り言?なんだ?

 

「こう言ってたんだって。『そろそろ、バレるのも時間の問題か』って」

 

聞かれていたとは思わなかった。

 

「何がとは聞かないけど別の理由があるんじゃないかって。それを聞いたあとなんか蓮の顔がくらいような気がして構っちゃった」

 

「自分では普通にしてたと思うんですけどねぇ」

 

「うん。あたしは普通に見えてたよ。でも美咲がそう言うからだんだんそう見えてきちゃって。やっぱり愛だね」

 

「そこに帰ってくるのかよ」

 

「まあ無理しちゃだめだぞー」

 

「わかりましたよ。はい行った行った」

 

なぜだかこれで終わらないような気がした。

 

「あの、先輩」

 

次は倉田だった。

 

「次から次へと」

 

「あ、すみません」

 

「別に謝らなくていいよ。で?倉田は何?」

 

「それが、後輩のマネージャーから先輩に練習見て欲しいと頼まれて。連絡がつかないから私のところに···」

 

「あの顧問······。まあいいわ。で、いつ?」

 

「それがその·········3日後で」

 

「アホか!急すぎんだろ!!」

 

あまりに身勝手すぎて怒鳴ってしまった。

 

「はぁ。後輩は悪くないからな。でもあいつには焼肉奢らせよう。倉田は?」

 

「私も行く予定です」

 

「1人よかいいか」

 

「じゃあよろしくお願いしますね」

 

「おーう」

 

4連続の嵐が過ぎ去り俺は作詞を再開した。すると自分でいいと思う歌詞がするすると出てくる。さっきまでの会話でリラックスできたからだと思うが邪魔されたような気もするので感謝するには少し複雑だった。



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年末年始の井戸原

年末、俺は久々に父さんの実家に来ていた。最近会っていなかったためか爺ちゃんも婆ちゃんも快く迎え入れてくれた。だが、ここには父さんの兄弟の家族も来ていた。俺はあまりこの雰囲気が好きではない。全員が俺を睨んでくるのだ。理由はなんとなくわかるけど。そんな中でボーッと過ごしていると電話がかかってきた。奥沢だ。

 

「もしもし?」

 

『もしもし?今大丈夫?』

 

「ああ。どうした?」

 

『うん。初詣に行きたいなって』

 

「2人で?」

 

『2人で』

 

「それはいいけど俺今父さんの実家にいるから行くのは多分3日とかになるぞ」

 

『それは大丈夫だよ』

 

「じゃあそれで」

 

『うんまたね』

 

通話を終えて振り向くと母さんが俺を見てニヤニヤしている。

 

「なに」

 

「女の子?」

 

「大きなお世話だよ」

 

「彼女?」

 

「いないよ」

 

「あらそう。まだなのね」

 

「そうじゃなくて。わかってるだろ?彼女なんか作れるわけないじゃん」

 

「それは······」

 

「蓮」

 

「なあに爺ちゃん?」

 

「話があるから来なさい」

 

「はーい」

 

 

 

~~

日が過ぎまくって1月3日朝9時

 

「お待たせー」

 

「いや大丈夫」

 

「なら良かった。あ。あけましておめでとうございます」

 

「あけましておめでとう。今年もよろしく」

 

「うん。じゃあ行こ」

 

そう笑って促す彼女を見て、俺の顔に陰がかかった。

 

「そういや奥沢初詣なのに2回目じゃないのか?」

 

「うん。こころたちと行ったからね」

 

「やっぱりか」

 

「井戸原くんはお父さんの実家行ったんでしょ?」

 

「ああ。そもそも2年もろくに帰ってなかったからな。さすがに顔見せろって」

 

「あはは。言われてみれば確かに」

 

「まぁあんまし帰りたくはなかったからな」

 

「え?なんで?私たちといたいから?」

 

「それもそうなんだろうけど」

 

「認めたね」

 

「雰囲気が好きじゃないんだよな」

 

「ふーん」

 

 

 

~~

参拝を終えて境内を歩き回る。

 

くぅ~~~

 

「なに今の?お腹の音?」

 

「そういや今朝何も食ってない」

 

「そうだ。お昼からこころの家で新年会やるんだけど井戸原くんも来る?」

 

「ハロハピじゃない俺が行っていいのか?」

 

「いいよ。って言うかむしろ来て」

 

「止められる保証はないぞ」

 

「いてくれればいいよ」

 

「そうですか」

 

こうして俺は新年会に参加することとなった。

 

 

 

~~

うん。久しぶりに来たけどやっぱデカい方だよな。

 

「奥沢様、井戸原様。あけましておめでとうございます。本年もお嬢様をよろしくお願い致します」

 

「いえ、そんな。あたしたちも皆さんにはお世話になっていますし···」

 

「ありがとうございます。寒いのでお入りください。皆様お揃いです」

 

黒服さんに案内されたどり着いたのはかなり広い部屋。その中に4人いる。いくらなんでも会場とやることの規模が不相応だろ。

 

「あら?蓮も来たのね!!」

 

「悪いな突然」

 

「大丈夫よ!1人でも多い方が楽しいもの!」

 

「あ!蓮くんあけおめー!」

 

「あけおめ。フォーク持ってんだからあんまり暴れんな」

 

「あぁ、儚い」

 

「はいあけましておめでとうございます」

 

「ああ。今年もよろしく頼むよ」

 

「松原先輩あけましておめでとうございます」

 

「あけましておめでとうございます」

 

「今年もよろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

「それじゃあ楽しむわよ!」

 

弦巻の声を皮切りに俺たちは大いに盛り上がった。




家族がコロナにかかって仕事行けませんでした。逆に考えればすごい時間ができた


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修学旅行の思い出

かなり時間を開けました。ごめんなさい。


冬休みも明けて2年の終わりも見え始めた。そんな日の放課後。

 

「なぁ鋼輝。明日の放課後遊びに行かね?」

 

「わりぃ。明日は有咲と用事があって...」

 

「そっか。まあ仕方ないな。空いてる日分かったら教えてくれ」

 

「おう!ほんとにごめん」

 

「いや別に。じゃあ俺生徒会あるから。じゃあな」

 

~~

「なぁ市ヶ谷」

 

「なんだ?」

 

「お前のせいで最近鋼輝の付き合いが悪いんだけど」

 

「はぁ?」

 

「あの、鋼輝さんというのは」

 

「ああええと。俺たちのクラスのやつで、市ヶ谷の」

 

「か、かれ...彼氏.........です///」

 

「い、市ヶ谷さん」

 

「恋人できたんですか!?」

 

「その、修学旅行の時に」

 

「え?今更?」

 

「私たちそのこと知りませんので」

 

「.........そういえば言ってないですね」

 

「なにはともあれ、遅くなりましたがおめでとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

「修学旅行で思い出しましたけど先輩達はどんな感じだったんですか?」

 

「そうですね...お仕事もキリのいい所まで片付きましたし、休憩がてらお話しましょうか。まずは...」

 

バァン!!

 

「話は聞かせて貰ったよ!有咲ちゃん、彼氏できたの!?」

 

「彩先輩!?」

 

「お帰りの出口は真後ろです」

 

「辛辣!」

 

「ノックもせずに勢いよく扉開けるとか、何年高3やってるんですか」

 

「えっと、えぇと」

 

「彩ちゃん、私たち高校3年生はまだ1年もやってないわよ」

 

「お邪魔します」

 

「どうしたんですか?3人揃って」

 

「恋バナの気配を察知した彩ちゃんを追って来たのよ。邪魔してしまったかしら?」

 

「休憩しようとしてたところなので問題ないですけど、丸山先輩はなんですか?妖怪か何かですか?」

 

「それは言い過ぎだと思うけれど、今回は彩ちゃんが悪いからかばいようがないわね」

 

「ところで、何をしようとしていたの?」

 

「これから先輩達5人の修学旅行の話を聞こうかと」

 

「それなら私達もいていいかしら?」

 

「面白い話が聞けるなら願ったりですが」

 

「後悔はさせないわよ。そうね、まずは......」

 

 

 

 

~~

「着いたー!京都駅!」

 

「人が沢山いるね」

 

「駅と言うよりも空港みたいですね」

 

「わかる!なんかこう近未来的な感じ!新幹線の中でも全然落ち着かなかったよー」

 

「あら?クラスで1番早く寝たって聞いたけど?」

 

「い、一瞬だよ!!」

 

「今が京都駅ってことは次は寺院巡りだよね」

 

「はい。今日は定番の場所をいくつか回って、明日は街の散策です」

 

「うーん楽しみ!」

 

「丸山さん。気持ちは分かりますがあくまで『修学』ですからね」

 

「わかってるよ!」

 

「それではバスに乗りましょう」

 

 

~~

「ふぅ......」

 

「燐子ちゃん、大丈夫?」

 

「はい。なんか...緊張してしまって」

 

「緊張?」

 

「はい...と言うよりドキドキしていると言った方が正しいのかもしれません。京都は小説の舞台になることも多いので1度は来てみたいと思っていたんです」

 

「なるほど」

 

「わかる!なんかソワソワするよね!!」

 

「はい、そうなんで...え!?」

 

「彩ちゃん!?どうして」

 

「え?え?」

 

 

 

~~

「というわけで彩ちゃんたら気付かずに私たちと同じバスに乗っていたのよね」

 

「うう~また井戸原くんに笑われちゃう...あれ?笑ってない」

 

「いやー期待は裏切らないなとは思いましたけど」

 

「そんな芸人気質無いからね!?」

 

「予想通りすぎてあんまり笑えないですね」

 

「ひどいよ!」

 

「じゃあ笑い飛ばせば良かったです?」

 

「それはそれで嫌だ」

 

「続けてもいいかしら?」

 

「あ、すみません。どうぞ」

 

「それで清水寺に行ったのよね」

 

 

 

~~

「すごい高さ!迫力あるなぁ。そうだ!花音ちゃん、一緒に写真撮ろ!ほらポーズとって!」

 

「ぽ、ポーズ!?ふえぇ...」

 

「彩ちゃん本当に元気ね」

 

「ええ。ですが写真を撮りたくなる気持ちも分かります」

「広々とした舞台から広がる空...とても素敵な光景です。......あれ?し、白鷺さん...」

 

「こっちよ。ごめんなさい、人が増えて見失ってしまったわ」

 

「少し端に移動しましょうか」

 

「すみません...」

 

「大丈夫よ。それにしても...」

 

「制服の人がたくさん...同じ修学旅行生でしょうか?」

 

「ええ、それに海外からのお客さんもかなりいるわね」

 

「さすが観光地と言ったところでしょうか」

 

「世界中からかぁ...普段は全く違う場所で暮らしているのに今この瞬間は同じ景色を見てるって、なんかワクワクするね!」

 

「ふふ、うん。なんかライブみたいだね......あっ!ごめんね急に。ライブも色んな場所から集まってきた人たちがひとつになって作り上げる空間ってイメージがあるからつい...」

 

「ライブかぁ。じゃあここはステージだね!」

 

「ステージと言うとなんだかニュアンスが違う気がするけど」

 

「もともとこのお寺の舞台は雅楽や能を奉納するために作られたものなのでイメージは間違っていないと思いますよ」

 

「でもなんだかぐっと身近になった気がします」

 

 

 

~~

「それで写真を撮ってもらったのよね」

 

「なんだか一部分だけ授業聞いてるような感覚になったんですけど...」

 

「でも分かりやすかったでしょ?」

 

「はい。さすが氷川先生」

 

「誰が先生ですか」

 

「しかし世界遺産をライブステージとは...」

 

「うう、何か変?」

 

「いえ、もともとの使われ方を考えれば言い得て妙だと思います」

 

この後も、下校のチャイムがなるまで話を聞き続けた。ちょくちょく挟まれた氷川先生の授業はとてもためになりました。




年明けにもう1話あげる予定です。


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わすれもの -前編-

「うあーやだやだ。なんで寄りにもよって教室に置いてくるかな」

 

俺は放課後に1人で生徒会の仕事をしていたのだが、終わらせていざ帰ろうとした時、教室に忘れ物をしたことを思い出した。しかも今は1月半ばで日が落ちるのも早いため西はうっすらと明るい程度だ。それが余計に嫌だった。明日でもいいと思うかもしれないが放置していた明日提出の課題だからそうも行かない。なんでやってないんだとかそういう事は聞かないで欲しい。急ごうと階段を1つとばして降りていく。

 

「わーーーーーーーーー!!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

~~

「ほんとにごめんね!」

 

「もう···いいですよ。たいしたことないです」

 

階段を降りたところで脅かしてきたのは丸山先輩だった。どうやら彼女も忘れ物をしたらしい。さっきのごめんねは脅かしたことと忘れ物に付き合わせることへの二重の謝罪だった。

 

「たいしたことないなら良かったけど」

 

俺自身怖いので会話をしながら並んで階段を1つとばしで登っていく。こういうのってついやっちゃうよね。

 

「それにしても偉いね。こんな遅くまで仕事なんて」

 

「ええ。忘れ物して最悪だと思った矢先にあれですよ。ほんとに一瞬死のうかと思ったほどにビビりました」

 

「死んじゃダメだよ!?」

 

「冗談ですよ」

 

そんなことを言いながらこんな軽口をかわせるようになるほど仲良くなるなど最初は思ってもみなかっただろう。

 

「まったくさ、なんで井戸原くんはいつもいつもわたしをからかうのかな」

 

「なんとなくですかね」

 

「もー」

 

教室について机を漁れば課題はあった。

 

「あとは先輩のですね」

 

2人で3年の教室に向かうすると突然

 

「見て見て!星がすごっい綺麗だよ!」

 

脱線した。なんでだよ。まあたしかに冬は空気が澄んで星が綺麗に見えるのは確かだが。

 

ようやくたどり着いた。すると探し物をしながら話しかけてきた。

 

「それにしても井戸原くんがいて良かったよ。暗くてちょっと不安だったし」

 

「それは俺もですけど······ハッ!」

 

丸山先輩の方を見ると笑みを浮かべていた

 

「つまり寂しかったんだ」

 

「帰ります」

 

「照れ隠ししてもダメだよー」

 

「うるさいですよ!」

 

「けど寂しかったんでしょ?」

 

「ええそうですよ!俺は怖いの無理なんでね!」

 

「逆ギレされた···」

 

「もうなんでこうなるかな」

 

「てなわけで見つかったから帰ろ」

 

「どんなわけで!?」

 

教室を出ると蓮は異様な雰囲気を感じた。3年の教室に来ることはほとんどないのでかなり新鮮なのだしかも夜。せっかくなので全部の教室を通り過ぎて一番端まで行くと窓から見慣れないものを見た。

 

「なんだ?あれ」

 

「あれはね、ずっと昔からある今は使われてない倉庫なんだって。かなり前からあるらしいよ2、3階からじゃよく見えないもんね」

 

「へぇー。あれ?なんでそんなこと知って······」

 

不思議に思って振り向くが彼女はいなかった。

 

「え?丸山先輩?ほんとにやめてくださいよ」

 

さっきまでいた事が嘘のような静けさだった。

 

♪~~~

 

着信音がなる。見れば丸山先輩だった。

 

『もしもし?』

 

「丸山先輩どこにいるですか。ほんとにやめてくださいよ」

 

『?なんのこと?私授業終わってすぐ帰ってずっと家だよ』

 

「は?」

 

ガッ!

 

放心していると突然腕を掴まれスマホを落とした。

 

『え?何?どうしたの!?井戸原くーん!』

 

俺は振り向けないまま固まった。

 

すると後ろ存在が囁いてきた。

 

「どうして?なんで誰も...ワタシをミツケテくれないノ?」

 

俺の記憶はそこで途切れた。

 

 

 

~~

「はっ」

 

目を覚ますと日が登りはじめていた。

 

「夢だったのか?」

 

そこで腕を掴まれたのを思い出す。恐る恐る袖をめくるとそこには···

 

真っ赤な人の手型があった

 

俺は背筋が凍った。



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わすれもの -後編-

続けて上げました。内容についてはすべてフィクションです。途中で不快になった方はバックして下さい。


昨日のことが気になって授業に集中できず、教師に怒られ偶然通りかかった氷川先輩にも怒られた俺は捜査に乗り出した。関係ありそうなことはすぐに見つかったのだが、そこまでで分かったことはそれがいつのことか、被害者・加害者の氏名、そしてかなり省略された動機だけ。俺はもっと情報を得るため、放課後、図書室へ向かった。何故かと言うと理由は2つ。1つは司書の先生が当時この高校にいたから。そしてもう1つ、うちの高校には昔から新聞部があるがその活動場所が図書室からしか入れない資料室だからだ。だから当時の新聞部の記事が残っているかもしれないと思った。それが理由だ。ついでに言えば今日は新聞部の活動がないから尚更都合がいい。

 

「失礼します」

 

「あら、どうしたの?もう閉める時間だけれど」

 

「はい。だから来ました」

 

「?どういうことかしら」

 

「場地先生。昔、ここで起きた事件について教えてください」

 

「!なぜそのことをあなたが知っているの?」

 

いつも見るものとは違う鋭い目付きに変わる。それでも俺は表情ひとつ変えず

 

「昨日会いました。なので、調べました」

 

そういうと目つきは元に戻った。いや、心無しかいつもよりも悲しそうにも見える。

 

「そう......まだいるのね。わかったわ、話してあげる」

 

内容はこうだ。

事件があったのは15年前。被害者は当時2年生だった女子生徒、そして加害者は教師。当時、被害者とは別の女子生徒と秘密裏に交際していた教師は偶然にも被害者の女子生徒(以降Aと表記する)に見られてしまった。その事に気づかず次の日にその事について迫られた。別の女子生徒(以降Bと表記する)といるところを見られたと知った教師は焦った。他の生徒であれば気づいても面倒事は勘弁と言わんばかりに見て見ぬふりをしただろう。だがAは違った。その教師は生徒からの人気は高く恨みを買うような人間では無かったのだが何故かAは教師を嫌っていたという。変な目で見られだのと周りにも言っていたようだ。誰にも信じては貰えなかったようだが。後の話だとAはかなり思い込みが激しかったようだ。そんな中たまたま弱みを見つけ、教師に学校を辞めるよう言った。彼にとって教師は昔からの夢であり、居場所でもあった。だが告発されてしまえばBとの関係も絶たれ、居場所までも失ってしまう。Bと別れろと言われるならまだしも居場所を奪われることは彼にとって我慢ならなかった。ひとまず時間をくれと告げ、その場は治まった。

3日後、答えが出たと言い放課後に人気の少ない1階奥の教室へAを呼び出した。ようやく教師を消せると喜んだAはなんの警戒もなく教室へ入った。次の瞬間頭頂部へと勢いよく鈍器が振り下ろされた。無抵抗に殴られたAは、最初こそ意識はあったものの、凶器を何度も何度も振り下ろされ次第に反応すら無くなった。その後、Aを殴り殺した教師は死体を防腐処理したのち、今は使われていないあの倉庫の床下へと放り込んだ。その夜Aの両親により娘が帰ってこないと警察に捜索依頼を出したが、Aが見つかることはなかった。

 

時々苦しそうな顔をしながら口からこぼれる話を俺は黙って聞いていた。

 

「これでいいかしら」

 

「いえ、まだです。もう少し調べたらその5年後に遺体が見つかっています。5年もの間見つからなかったとも言えますが、その5年目に何かがあったとしか思えません」

 

「そこまでたどり着くのね。本当なら最後まで話したいけれどさすがに下校の時間ね。代わりにこれを持って帰って」

 

「これは?」

 

「事件の次の年からできた新聞部の記事。あとは自分で見つけなさい」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

~~

その後、帰宅してから朝になるまで記事を読み漁ったが時間が足りず寝不足のまま登校することになった。

 

「おはよう。井戸原くん大丈夫?顔すごいことになってるけど」

 

「奥沢おはよう。いや、大丈夫ではない。倒れそう」

 

「起こしてあげるから先生来るまで寝てたら?」

 

「悪い。そうさせてもらう」

 

「ぐぅたら彼氏」「呆れながら甘やかす彼女」

 

誰が言ったか知らないがあまりに眠過ぎて反論する気は起きなかった。あと一応起こされたのだが起きれず先生にめっちゃ怒られた。通知表どうなるか割と不安。でもまあ今日は金曜日だし記事を探すのに集中できる。そのために生徒会の仕事は全て終わらせてある。ということで帰ろうとしたら奥沢に呼び止められた。

 

「井戸原くん」

 

「どうした?」

 

「それはこっちのセリフ。いやその、らしくないなと思って」

 

「何が?」

 

「仕事以外で無理をするのが」

 

「そっかぁ」

 

「ねぇどうしたの?多分変なのみんな気づいてるよ。戸山さんも市ヶ谷さんも他のみんなだって」

 

「マジかよ」

 

「うん。だからかなり心配してるんだよ」

 

「なぁ奥沢」

 

「うん?」

 

「幽霊って信じるか?」

 

「唐突すぎない?」

 

「頭おかしくなったと思うか?」

 

「一瞬よぎったけどそれを聞く時点で大丈夫だってわかるよ。それで答えだけど、よく分からない」

 

「まあそうだよな」

 

「会ったの?」

 

「ああ」

 

「それが様子が変なのに関係していると」

 

「そうだな」

 

「......じゃあ私もそれ手伝う」

 

「え?」

 

「だっていつもと違う理由でやばそうなんだもん」

 

「かなり重労働だけど」

 

「それでも2人なら楽になるでしょ?」

 

「わかったよ。じゃあこのまま俺の家に行こう」

 

「変なことしないでよ」

 

「するように見えるのか」

 

「全然。少しは楽になった?」

 

「お前ってやつは」

 

 

 

~~

家に着いてから昨日聞いた事、そして今やっていることを全て話した。その上でもう一度聞いたのだが答えは変わらないようだ。そうして2人で記事を読み漁りいつの間にか日曜日。そしてついに

 

「見つけた......井戸原くん!見つけた!」

 

「ああ、俺も見つけた」

 

そこからは早かった。見つけた記事にはこうあった。

 

『昨日の夜、僕は学校で幽霊に会った。気づいていないのかずっと同じ方向を見続けている。声をかけるとそれは消えていきやがて何もなかったように静かな夜に戻った。僕は幽霊の見ていたであろう景色を見た。そこにはただ倉庫が映っていた。

何かを感じ倉庫に向かった。鍵はかかっておらず、慎重に扉を開いたがそこには何も無かったが僕は違和感を感じた。僅かに異臭がするのだ。だが録な明かりを持ってなかったために倉庫を後に帰宅した』

 

「これが最初だな次は...」

 

 

 

~~

『翌日、登校した僕は前日の夜のことを先生に話した。少し説教を受けたがそれは些細なことだ。ほとんどは笑い飛ばしたが1人だけ話を聞いてくれた。全て聞き終わると僕を連れて倉庫へ向かった。変わらず鍵は開いていて、やはり同じように異臭がした。しかしどこかが分からない。すると気になるところを見つけた。壁際の床に数箇所、抉ったような後があったのだ。そこの床をめくってみると...いや、この先は書く気になれない』

 

「井戸原くん、これって...」

 

「多分あったのは...」

 

 

 

~~

『ようやく書く決意が固まった。床をめくってみるとそこにあったのは腐りかけの死体だった。すぐに警察に通報されそれが5年前に行方不明になった女子生徒だとわかった。のちに、別の高校に赴任していた当時の教師が逮捕された。事情聴取として僕も警察に言ったが僕の証言は妄言だとされた。当然だ。幽霊を見たなど普通は信じやしないのだから。そして5年もの間誰からも見つけられなかった彼女のことを僕はこう呼ぶ『~~~~~』と』

 

「これで全部か......ん?」

 

俺はひとつの名前に目が止まった。

 

 

 

~~

「ありがとう奥沢。助かった」

 

「次からは1人で無茶したらダメだよ」

 

「わかってる」

 

そう言いつつも月曜日。俺は夜まで学校に残っていた。日が落ちて暗くなった校舎を歩き、あの幽霊とあった場所へ向かう。着くとやはり居たあの倉庫を見ながら

 

「ねぇ、ドウシテわタシヲみつケテクレないノ?」

 

明確に俺に問いかけてきた。

 

「君の体は既に見つかっている」

 

自分でも驚く程に落ち着いている。

 

「ワタシのからダはドコ?」

 

「君の体はもうない。火葬されてお墓の中だ」

 

「もうダレにもミてもらえナイ。わすれラレるのはイヤ」

 

「大丈夫。俺が死ぬまで、俺が君を覚えてる。だからもう眠っていいんだ」

 

「アリガトウ」

 

「おやすみ」

 

 

 

~~

一件落着と思って帰ろうと外へ出たが、そうは問屋が降ろさなかった。

 

「げっ」

 

「ほんとにいた」

 

「こんな夜遅くまで何をしていたのですか?」

 

「最近様子がおかしいとは思っていたけどここまで美咲ちゃんの予想が当たるなんて」

 

「何してんるんですかこんな人数で」

 

「それはこっちのセリフだ。奥沢さんがどれだけ心配してたと思ってるんだ」

 

「いや、それは」

 

「井戸原くん」

 

「奥沢...ごめん」

 

「終わったんだよね?」

 

「そのはずだ」

 

「よかった」

 

「良くは無いです」

 

「生徒会の人間としてあるまじき行為です。今回は見逃しますが次はありませんよ」

 

「はい」

 

「うー寒」

 

「井戸原くん!肉まん食べたい」

 

「はいはい。そのくらい奢ったるわ」

 

「ヤッター!」

 

そう喜ぶ戸山を横目に振り返り校舎を見る。窓に白いモヤが揺らめいのは気の所為であって欲しい。

 

 

 

~~

翌日の放課後、借りた記事を返しに図書室へ行った。

 

「ありがとうございました」

 

「どうだった?」

 

「事実は全部わかりました」

 

「そう、よかった」

 

そう言いながら片付けをする先生を見て口を開く。

 

「当時、教師と付き合っていた女子生徒ってのは場地先生のことですよね?」

 

「そこまでわかったの?」

 

「事実は全部わかったって言ったと思いますが?」

 

「言ったわね。それで?それを知って私をどうかするの?」

 

「どうもしませんよ。その時先生が何を思ってたかなんて知ろうとも思いません。他人の気持ちに土足で踏み込む趣味はないので。それだけ確認出来ればいいです。それじゃあ、次は本を借りに来ますね」

 

「ええ。待っているわ」

 

俺は扉を静かに閉めて荷物を取りに教室へ戻った。

 

「にしても『忘れ者』ねぇ」

 

そうつぶやきながら。




お読み頂きありがとうございます。自分でもかなり珍しい書き方をしたと思っています。前編では怖いかどうかは分かりませんがホラーを、後編ではミステリーとして書かせて頂きました。面白いと思っていただけたら幸いです。このあとがきに関しましてもここまでしっかり書くのは珍しいと思っています。今回のように1話投稿するのにどれだけ空くかは分かりませんがお付き合いいただければ嬉しいです。


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今年のバレンタイン

自分はもう何年も無縁の日です


今年もやってきましたこの日。俺のあまり好きじゃないバレンタイン。

 

「お。おはよう蓮」

 

「おはよう。今年は漁ってないんだな」

 

「そりゃ彼女いるからな」

 

「そうだったな」ガチャ。バサバサー

 

「···········」

 

「なんか······2度目になると流石に驚かないわ」

 

「今年もかぁー」

 

そう言って慣れた手つきで持ってきた袋へチョコを放り込んでいく。

 

「で?これもまた選別するんだろ?」

 

「当然」

 

「手伝うか?」

 

「分からないだろお前には」

 

「そうだけどなんか腹立つ」

 

「知るか」

 

そんな小突き合いをしながら教室へはいる。

 

「おはよーって今年もやべぇな」

 

「おはよう。そうなんだけど市ヶ谷。お前は俺じゃなくてあっちの相手してろ」

 

「いや、でも」

 

「はーい行った行った」

 

「あ!ちょ!」

 

そうして市ヶ谷を鋼輝へ押しやり俺は席へ向かった。

 

「おはよう。今年もすごい量だね」

 

「ああ。もうほんと嫌になる」

 

「でも他の男子からの視線がすごいよ。それだけ貰っときながら嫌になるってなんだってのが」

 

「そうは言うが毎年半分は食えたものじゃないぞ」

 

「え?何が起きてるのかすっごい気になる」

 

「やめとけ。前例聞くと今から昼飯食う気が失せるぞ」

 

「じゃあ、やめとく」

 

「そうしとけ」

 

「ま、それはともかくはい。あたしから」

 

「追い討ちかけてくるなー」

 

「いらない?」

 

「いる」

 

「素直でよろしい」

 

なんだろう?チョコ···では無い。放課後に開けるか。

ちなみにこの後戸山達からも貰った。

 

 

 

~~

放課後には生徒会があったのでそっちに向かう。

 

「今年もすごい量ですね」

 

今現在俺は机で選別作業をしている。本来の仕事そっちのけで。

 

「あの、こんな状況でとても心苦しいのですが···Roseliaと、羽沢さんから預かったものです。」

 

「Pastel*Palettesの皆さんの分も···預かってるよ?」

 

「あ、大丈夫。そっちは選別の必要ないから。ちゃんと信じてるから·········」

 

「なんだか歯切れが悪いですね」

 

「いやーそのー。日菜先輩が冒険してなければなおよしなんですけど」

 

「すみません。それは保証できないです」

 

作業を終えていざ貰ったのを開けてみると、ロールケーキ。珍しいなとは思った。次、ロールケーキ。まあそんなこともあるよねと思った。次、ロールケーキ。少し変な予感がした。次、ロールケーキ。予感が確信に変わった。次、ロールケーキ。次、はチョコでこのまま最後までチョコだった。結果、貰ったもののうち奥沢、戸山、若宮、羽沢、紗夜先輩からのものがロールケーキだった。

 

「あの、ひとついいですか?」

 

「はい」

 

「1人2人ならともかく5人もロールケーキってかなり珍しいですよ?何がありました?」

 

「その、実はこの間羽沢さんと小説の話で盛り上がりまして、それで、モデルになっている街に2人で行ったんです。そこで出てきたチョコロールケーキも食べようと思ったのですがお店が休業でして···」

 

「ならいっそ作ってしまえと」

 

「はい。何か迷惑だったでしょうか」

 

「いえ、そうじゃなくて、ここまでそろうとなにかのメッセージかと」

 

「そんなものはありませんよ?」

 

「ええわかりましたとも」

 

 

 

~~その夜のデザートにロールケーキは食べたのだが奥沢と羽沢からの包装の奥からメッセージカードが出てきた。

 

『好きだよ』『好きです』

 

あまりに唐突過ぎて思考が追いつかず、次の日俺は遅刻した。

 

「やることが思ったより大胆だな」

 

まあ俺は···どちらに対しても···首を縦に振ることはできないのだが。




本編から前倒しで書きました。次回からは戻ります。


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番外編5 ハプニング・デイ

雲ひとつない快晴の今日。俺たちエンドロールは休日だ。休むには最高の日だからこんな日は

 

「あえて部屋に籠るべきだよな」

 

「いやいやせめて朝ごはんは食べに来なよ」

 

どこから聞いていたのかリサさんが扉を開けてそう言ってきた。

 

「............それはそうですね」

 

そして食堂に行くため階段を降りようとしたその時

 

ドガァァァァン!!!

 

爆発音とともに揺れた。

 

「キャア!」

 

「おっと。大丈夫ですか?」

 

「うん。ありがとう」

 

揺れで倒れそうになったリサさんを助けて下を覗き込んだ。ちょっと黒い煙が見える。

 

「なにごと?」

 

 

 

~~

下へ降りると排煙装置のおかげで煙は全て外へ排出されていて、何が起きたのかはすぐにわかった。けど一応聞いておく。

 

「マヤさん、何があったんですか?」

 

「ケホッ。分かりません。朝ごはんの準備をしていたら突然マシンが爆発して」

 

「とりあえず着替えてきたらどう?」

 

「すみませんリサさん。そうするっス」

 

その後爆発音を聞きつけ続々と集まってきた。

 

「どうしたのかしら?昨日までは普通に動いていたのに...」

 

「みんな~!」

 

この声はカスミか。今度はなんだと思って振り返りその反動で元に戻した。

 

「シャワー浴びてたらお湯が止まらなくなっちゃったよー!」

 

「ちょ、カスミ!レン達いるのにタオル1枚で来てんじゃねぇ!服を着ろ!」

 

まぁそういうことだ。

 

「突然どうしたのかしら?不思議ね!」

 

「はいはい。その不思議なことの解決はいる人に任せてあたし達は仕事行くよココロ」ポチッ

 

「あれ?」ポチポチッ

 

ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチ

 

「ミッシェルが...動かない...」

 

どうやらまだ終わらないらしい。あ、ミサキが膝から崩れ落ちた。

 

「じゃあミサキはこっち側だね」

 

「はい......」

 

 

 

~~

チカッ

 

「えーまぁ仕事組が出かけた以上今日休みの我々で何とかするしかないわけですが...」

 

そう言って天井を見上げる。

 

チカチカッ

 

とうとう灯りまで怪しく点滅し始めた。だがこんなのはまだいい方だ。現状のアジトの有様は、言うのも面倒なのだ。この建物よく分からんくらいの頻度で改装してるからどこもかしこも新しいはずなんだけどな。

 

「まずは原因の究明からね。私の指示に従いなさい」

 

「チユ、ステイ」

 

「チュチュと呼びなさい!」

 

そう怒るので適当にあしらっていると突如気配を感じ、辺りを見回す。

 

「レン?どうかしたの?」

 

「いや、何かいるような......あ」

 

止まった視線の先には全長30㎝程の蛇のような生き物がいた。だが次の瞬間、何もいなかったからのように視界から消えていた。俺は笑みを浮かべ、呟いた。

 

「ギャクテンだ」

 

次の瞬間、全員の目の色が変わった。

 

「捕獲開始だ」

 

 

 

~~

「そっちに行ったよ!」

 

「任せて!」

 

「しまった!すり抜けられた...」

 

現在、俺たちはギャクテンの捕獲で走り回っている。コイツがこれまたすばしっこいので捕まえるのがかなり難しい。だがその甲斐あってひとつの部屋に追い詰めた。だが興奮しすぎてアドレナリンが出まくり誰一人として気付いていなかった。

 

「追い詰めたぞ。ここは窓すらない角部屋。捕まえるには最高の条件だ」

 

ゆっくりと近づいていく。しかしあと数歩手前でギャクテンは素早く動いた。1匹が通れるほどあえて開けた扉へ。

 

バシュッ

 

当然そこには罠が待っている。かなり目の細かい網で待ち構え、とうとう捕まえた。

 

「あれ?」

 

「どうかしたの?」

 

人より早く冷静になったアリサが疑問を口にした。

 

「このギャクテン、なんかでかくないか?」

 

よく見ると捕まえたギャクテンは全長が1m程あった。

 

「レンが見たやつってこんなにでかかったか?」

 

「いや、俺が見たのは間違いなく普通のだった。ってことはまさかこれって、ダイギャクテンか?」

 

「じゃないか?」

 

からんからーん

 

その時、訪問者がきた。

 

「誰でしょう?ちょっと見て来るっス」

 

数十秒後

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

マヤさんの叫び声が聞こえてきた。と思ったら見たことの無いスピードで戻ってきた。

 

「大変です!!」

 

「マヤちゃん落ち着いて」

 

「す、すみません」

 

「それで?何があったの?」

 

「はい!なんと抽選販売で応募したマシンが当たりました!しかも今朝壊れたやつの完全上位機種でしゅ!!」

 

あ、噛んだ。でも気付いてないっぽい。

 

「いつの間にか色々直ってるね」

 

その声を聞いて周りを見渡すと、確かに色々治っていた。

 

「ただいまー!」

 

ん?誰か帰ってきたな。と思ったらココロ達だった。

 

「おかえり。なんかやけに嬉しそうだな」

 

「うふふ。じゃーん!」

 

「!!それ...」

 

俺の見たものは

 

「流星牛じゃねぇか!!」

 

俺の大好物だった。

 

「なんかいい事が次々と...もしかして!」ポチッ

 

ウィーン

 

「ミッシェルが動いたーー!!」

 

どうやらミッシェルも動いたらしい。

 

「流星牛を捕まえられるなんて本当に運が良かったねココロちゃん」

 

「ええ!あら?レン、それよく見せて?」

 

「ん?ああ」

 

俺は持っていたそれを見せる。

 

「それダイギャクテンね!それなら納得だわ!」

 

さすが公爵令嬢。よく1発でわかったな。

 

「「ただいまー!」」

 

すると続々と帰ってきた。みんな滅多に捕まらない獲物を持って。中には遺跡から見つけた宝石などもあった。

 

 

 

~~

「で、こいつどうするよ」

 

「気に入ったみたいだし、飼えばいいんじゃない?さっきマスターの許可も貰ってきたし」

 

「準備がいいな。そうだな。じゃあお前の名前はリターンだな」

 

「賛成」

 

「いいと思う」

 

こうしてひょんなことから仲間が1匹増えた。




唐突に出したモンスター紹介
・ギャクテン:近くにいるとあらゆるトラブルを引き起こす。だが、捕まえるとそれまでのトラブルが帳消しどころかお釣りが来るほどの幸運がやってくる。しかしまず見つかりすらしないため記録も少ない。

・ダイギャクテン:まず片手で足りる程しか記録のない実質伝説の生き物。ギャクテンと比べものにならないほどトラブルはやばいが、リターンはさらにやばい。

・流星牛:強者を目の当たりにすると流星のような速度で逃げていく牛。滅多に捕まらないため100gで20万はくだらない程。今回捕獲できたのはダイギャクテンを捕まえたレンが大好物を食べられるという幸運に直結したためである。


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別れ、近づく

生徒会選挙も終わり、先輩達の卒業式も近づいてきた。そんな時期の休日、突如として戸山に呼び出された。

 

『あ、もしもし蓮くん?』

 

「おはよう。どうした?」

 

『全然来ないからどうしたのかなー?って思って』

 

「今日なんて何かあったか?」

 

今日は何も約束はないし個人的な用事も何も無いはずだ。

 

『え~?みんなでお花買いに行くって言ったじゃん』

 

「なんの?」

 

『卒業式の!』

 

「俺、それ聞いてない...」

 

『蓮くん、聞いてないって』

 

『香澄が全員に連絡するって言ったんだろ!!』

 

『ごめーん』

 

『全く、代われ。もしもし?』

 

「市ヶ谷おはよう」

 

『おはよう。一応何かあるなら無理して来なくてもいいから』

 

「それを聞いてはいそうですかとはならないんだよ。待ってろ。今の俺にそれ以上に優先することは無いからすぐ行く」

 

『じゃあ待ってる』

 

「ああ。また後で」

 

『井戸原来る』ピッ

 

おそらくみんなに言っているであろうセリフの途中で電話を切って準備をし、家を出た。

 

 

 

~~

到着すると卒業生以外が全員いた。高校も違うはずなのに倉田達まで。

 

「早かったな」

 

「飛ばしたからな」

 

「自転車か?」

 

「いや、バイク」

 

「おい生徒会会計。いいのかそれ」

 

「校則にはバイクでの登下校は認めないとしかない」

 

「ならいい...のか?」

 

「そんなことより贈る花買うんだろ?」

 

「そうだな」

 

 

 

~~

誰かが誰かの花を選ぶのではなく、それぞれがそれぞれに似合う花を探していく。あの中にお世話になってない人はいない。ここにいる全員がそう思っているはずだ。かく言う俺もそれを考えながら、花を手に取った。そうしているうちに、かなり時間が経っていた。

 

「これだけあれば足りるだろ」

 

「だな」

 

「先輩達喜んでくれるかな?」

 

「大丈夫だよ!絶対に大丈夫!!」

 

「ええ!私たちみんな花音や薫達のことが大好きなんだから!!」

 

「はい!」

 

「それじゃ問題が一つだけ」

 

「なんだ?」

 

「この膨大な量の花を卒業式まで誰が管理する?」

 

「そうだな、かなりの空きスペースを持ってて、ちゃんと世話をしそうな....」

 

おーい。なぜ自然と視線がこっちを向き始める?

 

「蓮に「仕事を増やして申し訳ありませんが黒服の皆さんお願いしてもいいですか?」

 

「かしこまりました」

 

「サラッとスルーしたな」

 

「1人で管理し切れるわけがないだろ。それに弦巻の家ならスペースもあるし人もいるからな。ちょうどいいだろうも思っただけだ」

 

「まぁ確かに」

 

「それよりも市ヶ谷、これから忙しくなるが大丈夫か?」

 

「ああ。先輩たちの晴れ舞台だからな。そのためならなんでもドンとこいだ」

 

「そんだな。じゃあ頑張るか」



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卒業式 ~一つのエピローグ~ 前編

今日は花咲川、羽丘両校で卒業式が行われる。そんな日なので卒業生が来るまで生徒会役員として校舎内を走り回っている。

「あ~~結局最後までこの忙しさかよ!」

 

「卒業式なんだから仕方ないだろ!口じゃなくて体動かせ井戸原!」

 

「動かしてんでしょーが!」

 

それと同時に珍しく井戸原と市ヶ谷も口喧嘩をしている。そんな風にバタバタしているうちに卒業生が登校し始めた。

 

「ギリギリ間に合った...」

 

「危なかった...手伝ってくれてありがとう奥沢さん」

 

「いやいやあたしなんて役に立ってたかわかんないよ。それよりも2人ともこんな大変なことほぼ毎日やってたなんてホント頭が上がらないよ」

 

準備を終えて3人で歩いていると気づけば昇降口近くまで来ていた。そこでは1年生と他の2年生が登校してきた卒業生に花のコサージュを胸につけている光景がそこら中にあった。その中にはよく知ってる顔もいる。

 

「ありがとう。あ!」

 

俺たちに気づくとこっちに駆け寄ってきた。コケないか心配だ。

 

「美咲ちゃん、有咲ちゃん、井戸原くんおはよう!」

 

「おはようございます」

 

「「「丸山(彩)先輩、卒業おめでとうございます」」」

 

「ありがとう3人とも」

 

「市ヶ谷さん!奥沢さん!ちょっと手伝って」

 

「呼ばれたから行ってるね」

 

「ああ」

 

と返事をしつつ手伝おうと歩き出そうとしたら、裾を掴まれた。

 

「?どうかしました?」

 

「井戸原くん。大事な話があるの。卒業式が終わって、落ち着いてからでいいから私の教室に来てくれない?」

 

あまりに真剣な表情に俺は茶化すことが出来なかった。

 

「わかりました」

 

「待ってるからね」

 

そう言い残して去って行った。その後コサージュの準備をしていたら市ヶ谷に突っ込まれたが濁して置いた。

 

 

 

~~

在校生、教職員、保護者が体育に揃い、静かに待っている。俺は壇上に上がり、一礼する。

 

『本日の卒業証書授与式につきまして、進行は、2年A組井戸原が務めます。よろしくお願い致します』

 

そして、ついにその時がくる。

 

『卒業生、入場。会場の皆様は、盛大な拍手でお迎えください』

 

その瞬間に起こる拍手を受けながら、卒業生が入場してくる。全員が揃い、着席すると俺はマイクのスイッチを入れた。さぁ仕事だ。

 

『開式の辞』

 

『只今より、花咲川学園高等学校、卒業証書授与式を執り行います』

 

と言っても俺は壇上の脇で喋るだけ。主に上がるのは市ヶ谷だ。

 

『卒業証書授与。学校長より、卒業証書の授与を行います』

 

先輩たちの名前をフルネームで呼ぶのはかなり新鮮だと思う。

 

(というかなぜ俺だ。普通は担任のやることだろ。仕事しろ。)

 

と思ったが声に出す訳にもいかず呑み込んだ。

 

『3年A組、白鷺千聖』

 

「はい」

 

『白金燐子』

 

「はい」

 

『氷川紗夜』

 

「はい」

 

『松原花音』

 

「はい」

 

『3年B組、丸山彩』

 

「はい!」

 

時間と共に、卒業式は進んでいく。

 

『閉式の辞』

 

「只今を持ちまして、花咲川学園高等学校、卒業証書授与式を終了します」

 

終わった。これで彼女たち5人は、この学校から去っていく。扉が締め切られ、本当に卒業式が終わった。だがまだ仕事は残っているのだ。保護者も全員退場したことを確認して声を張り上げた。

 

「卒業生の分だけ残して椅子は全部片付けろ!他のものは今日の日程が全部終わってからでいい!時間がない、急いでくれ!」

 

一瞬にして慌ただしくなる体育館。寂しがっている時間は俺にはまだないのだ。

 

 

 

~~

全ての日程を終えて多くの生徒が外にごった返していた。かく言う俺も、氷川先輩、白金先輩と談笑していた。

 

「ようやく落ち着いて話せますね」

 

「朝はバタついておめでとうございますも言う暇ありませんでしたからね。というわけで氷川先輩、卒業、おめでとうございます」

 

「ありがとうございます。井戸原さん、市ヶ谷さん。これからの花咲川をよろしくお願いしますね」

 

「はい」

 

「まぁ、ぼちぼちやります」

 

「全くもう」

 

「3人になら安心しておまかせできます」

 

「燐子先輩...」

 

「ところで、白金さんには言わないんですか?」

 

「あー、しろ......ん~~~、はぁ」

 

「「「?」」」

 

「卒業おめでとう。リンちゃん」

 

「「!!!」」

 

「いっくん...」

 

「まぁ、今日くらいはね。あっ」

 

「どうした?」

 

「すみません。ちょっと失礼します」

 

「どうしたのでしょうか?」

 

「彩ちゃんに呼ばれてるのよ」

 

「白鷺さん。...そうでしたか」

 

「上手くいくといいですね」

 

「そうね......」

 

 

 

~~

3-Bの扉を開けると目に入ったのは、風になびくカーテン、そこから見えるどこまでも広がる透き通ったような青空と舞う桜の花びら。そして、どこか憂いたような顔で外を眺める丸山先輩だった。その光景に俺は少し見惚れていた。

 

「井戸原くん?」

 

その言葉で我に返った。

 

「お待たせしてすみません」

 

~これから始まるのは一つのエピローグ~



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卒業式 ~一つのエピローグ~ 中編

「お待たせしました」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

「「............」」

 

沈黙が永く感じる。でも時間に換算すれば数秒だっただろう。

 

「ねぇ井戸原くん。わたしたちが出会ってからの2年間、色々あったよね」

 

「最初の夏には海にも行きました」

 

「かなりグロッキーになってたね。秋には体育祭と文化祭もあって、よく倒れてたね」

 

「その度に怒られました。冬は初詣でばったり会いましたね」

 

「一緒に来てたお友達は大丈夫だった?」

 

「後日ラーメンで許させました」

 

思い出話はまだ続く。

 

「えぇ...。気を取り直して、学年が上がって春にはお花見したね」

 

「倉田がガチガチになってました」

 

「そういえば井戸原くんはましろちゃんに嫌われてるの?」

 

「俺だけ扱いがひどいだけで嫌われてはないですよ。好かれてもないですけど。夏は...本当に嫌いになりそうでした」

 

「あれはごめんね。あとは井戸原くん音信不通」

 

「その節はご迷惑おかけしました」

 

「大丈夫だよ。それで今年も海に行ったよね」

 

「俺は相変わらず沈んでましたけど」

 

「次の日にはそこのお祭りにも行ったね」

 

「楽しかったですね。あと、怪我がなくて本当に良かったです」

 

「うん。ありがとう。わたしの最後の、井戸原くんにとっては2回目の文化祭。無理しなくて偉かったよ」

 

「子供扱いしないでください。と言っても無理やり休まされた感じですけど。まぁ婦警のコスプレには驚きましたが...」

 

「逆襲された......。あ、子供扱いと言えば井戸原くんの私への本音が聞けて嬉しかったな」

 

「それは忘れてください」

 

「それは無理かなぁ」

 

「「..............................」」

 

再びの沈黙。

 

「思い返して見ると本当に色々あったよね」

 

「色々ありましたね。でも、まだ増えていきますよ。きっと」

 

「うん。......今までのどんなことも特別な思い出。でもね」

 

「?」

 

「井戸原くんとの思い出はどれも違う意味で愛おしくて、もっと特別なの」

 

「ねぇ......」

 

この時、わたしは手が震えてることに気づいた。

 

(言わなきゃ。言うって決めたんだ)

 

「井戸原くん」

 

「はい」

 

「わたしねキミのことが好き。大好きなの」

 

知っていた。知らないふりをしていた。でももう、退路は絶たれた。

 

「本当はこんなのじゃ収まらない。でも、わたしにこれ以上の言葉は見つけられないの」

 

俺は黙って、彼女の瞳を見つめたまま次の言葉を待つ。

 

「キミに出会って、わたしの生活はすごく色付いた。全部キミのおかげだよ。わたしが、初めて好きになった人。だからね、これはわたしのわがまま。井戸原くん......」

 

その時、風が吹き込んだ。カーテンが大きく捲れ上がり、桜が舞い込む。それは彼女の背中を押すように。それは、全て仕組まれていたかのように。

 

「私だけを見て!わたしとずっと、一緒にいてください!」

 

そう。全て、仕組まれていたかのように

 

「ごめんなさい。それは、できません」

 

風は、ぴたりと止んだ。




本日2本目。当初は前編・後編で終わるつもりでしたが、主観的になにか違う気がしたので急遽3本立てにしました。ごめんなさい。


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卒業式 ~一つのエピローグ~ 後編

「ごめんなさい。それは、できません」

 

どれだけの勇気を出しただろう。自身の思い全てを乗せた告白を俺は迷いなく断った。今の俺に、それ以外の答えを持つことは出来ないから。

下げた頭が上げられない。時が止まったような静寂が心を締め付ける。

 

「やっぱり振られちゃったかぁ。井戸原くん、いつまでそんな体制してるの?」

 

「丸山先輩?」

 

予想とは正反対の声色に戸惑いながらも彼女の言葉に素直に従う。

 

「言ったでしょ?これはわたしのわがまま。そんなのがまかり通る歳じゃないってことはちゃんとわかってるよ」

 

嘘だ。今の告白は本気だった。それに今の声は俺にも分かるくらい震えて聞こえた。

 

「あれだけ見てればわかるんだよ。井戸原くんが、誰のことを想っているのか。最初から勝てるなんて思ってなかったんだ」

 

わたしの中で黒い感情が渦巻くのが分かる。そんなのは全て真っ黒な嘘。あの子が羨ましい。できるなら、あの子から彼の全てを奪ってしまいたい。でもその一方でそんなのは無駄だってちゃんとわかってる。

 

「わたしのこの気持ちは本物」

 

「ええ。ちゃんと伝わってますよ」

 

「でも、わたしじゃだめなんだよね」

 

「......俺は本当に尊敬しています。何があっても折れず、向き合い続ける心の強さを」

 

「本当に、井戸原くんは優しいな。うん、ごめんね。忙しいのに呼んで。まだやる事あるんでしょ?」

 

俺は何も言うことが見つからずに彼女に背を向けた。扉の前まで来た時、俺はふいに振り返った。

 

「彩さん、ありがとうございました。彩さんとの2年は、絶対に忘れません。そして、これからの出来事も一生忘れることはありません」

 

一礼をして教室を出た。

 

「うっ、ぐず。あぁ」

 

彼が視界から消えた途端に、涙が溢れてきた。彼の前で泣かなかったのは、わたしにしては上出来だった。

 

 

 

 

~~

扉を閉めてすぐ隣の壁に座り込んだ。すぐに彼女の涙声と嗚咽が聞こえてくる。この世は理不尽だ。誰が悪い訳でもないのに誰もが悲しみと後悔と罪悪感を抱えることになる。

塞ぎ込むように座っていると2つの足音が聞こえてきた。それは、

 

「井戸原くん」

 

「井戸原サン......」

 

「白鷺先輩。若宮...」

 

「やっぱりこうなっちゃうのね」

 

「押し付けるようですみません。あとは任せてもいいですか?」

 

「ええ。そのために来たんだもの」

 

「よろしくお願いします」

 

俺はその場を去った。

 

 

 

 

~~

扉の開く音が聞こえた。涙でよく見えない。彼だったらいやだ。こんなところ、見られたくない。

 

「彩ちゃん」

 

「彩サン」

 

聞き覚えのある声だった。

 

「千聖ちゃん。イヴちゃん」

 

わたしは抱きしめられた。この時、わたしは決壊した。恥じらいもなく、ただ千聖の腕の中で声を上げて泣いた。

 

「よく頑張ったわね、彩ちゃん」

 

「わたし、わたし...」

 

「彩ちゃん、泣くのはいいけど顔がすごいことになってるわよ」

 

「だってぇぇぇぇ」

 

「この後みんなが準備してくれた卒業パーティーがあるのよ」

 

「わかってるけど~」

 

「このままだと井戸原くんに盛大に泣き腫らした顔を見られるわよ」

 

「いや」

 

「それなら泣き止むのね。それに、あんまり引きずると絶対に気を遣われるわよ」

 

「じゃあいつも通りにしましょう?」

 

「うん」

 

 

 

~~

その後、蓮はあまりに仕事がおぼつかずに寝かされた。

(この後どんな顔して会えばいいんだろ)




自分でも中編で力尽きてる感じがしました。


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Let’s卒業パーティー

タイトルの温度差よ


「それでは、先輩たちの卒業を祝して、カンパーイ!!」

 

「カンパーイ!!」×32

 

卒業生を終えてバンド組はCiRCLEに集まったのだが、

 

「みんなありがとうね!でもちょっと少なくない?」

 

「有咲と蓮くんはやることがまだあるから先に始めててって言われました」

 

「つぐみもそんな事言ってたね」

 

「そっかー。でも来るんでしょ?」

 

「そう言ってました」

 

「じゃあお料理もお菓子も枯らしちゃお~!!」

 

「いやそれはダメでしょ」

 

 

 

~~

「さて、終わったし行くか。井戸原?」

 

「ああ......」

 

「なんだ?まだ気にしてんの?」

 

「するだろ!普通!」

 

「でもかなりの数告白されてきたんじゃないの?」

 

「他はともかく振って平然としてられるほど浅い関係じゃないだろもう」

 

「そこまで気にするならなんで振るんだよ」

 

「いや、それは...まぁ」

 

「奥沢さんだろ。なんでお前はここまで引きずるんだよ」

 

「できない...理由があんだよ」

 

「有咲ちゃーん!蓮くーん!」

 

呼ばれて振り返ると羽沢がこっちに向かって駆けてきてた。

 

「羽沢さん」

 

「2人とも今から?」

 

「そ。やることだけ終わらせてきた」

 

「わたしも。じゃあ一緒にこのまま行こ」

 

「ああ」

 

 

 

~~

CiRCLEに入るとかなり賑やかだった。

 

「生徒会組とうちゃーく」

 

「お、やっと来たね~」

 

「遅くなりました」

 

「大丈夫だよー。まだ色々残ってるから」

 

「蓮くーん!何か取る?」

 

「丸山先輩...」

 

この明るさはなんだろうと思い花咲川卒業生組の方を見ると白鷺先輩と紗夜先輩がウインクしてきた。なるほど...今の写真撮っときゃ良かった。

 

「蓮くん?どうかした?」

 

「なんでもないです。あと自分の分は自分で取るので。むしろ先輩のを取るのが俺の仕事なんで。.........................................蓮くん?」

 

「今?」

 

「え、え?」

 

「気にしなくて良いよ。わたしが勝手に呼ぶだけだから。でも本音を言うとわたしのことも下で読んで欲しいなぁー」

 

「え、いや、あの」

 

「わたし、結構勇気出して告白したんだよ?」

 

会場が騒然とし始める。

 

「井戸原くん」

 

「白鷺先輩」

 

「ここまで言わせてやらないなんてことないわよね?」

 

「いや...「ね?」

 

「あ......」

 

「「あ?」」

 

「彩さん」

 

「よく出来ました」

 

恥ずい!あとこの人には一生勝てる気がしない。

 

「それで?受けたの?」

 

「断られちゃった」

 

「ふぅーん」

 

気まずっ!

 

「じゃあさー、蓮は好きな人いないの~?」

 

今井先輩がめっちゃニヤニヤしながら聞いてくる。知ってるくせに...

 

「まぁ知ってるんだけどさ。それよりも告白はしないの?」

 

「しませんよ」

 

「え!?なんで?蓮ならすごいしっかりしそうなのに」

 

まぁ何も無ければそうだろう。でも...

 

「ねぇーなんでさー」

 

「子供ですか」

 

「なんでよー」

 

ちょっとしつこい

 

「今井先輩」

 

「ん?」

 

これ以上は、踏み込まないことをおすすめします

 

俺の冷たく低い声に空気が凍った気がした。

 

「まぁ理由があるんですよ」

 

次の言葉はいつもに戻っていて少しほっとした様子だった。その後は気にしないように各々楽しんだ。

 

「びっくりしたー。急にトーン下がるんだもん」

 

「でも、不思議と怒ってる感じはしませんでした」

 

「井戸原さんには、まだなにかあるんでしょうね」



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3年生を前に

4月に入り新年度も目前に迫っていた。そんな中俺は、がっつりバイトをしていた。

 

「いっつも思ってるけどなんでここに集まってくんの?」

 

「だって蓮くんカウンター離れられないじゃん。でも今暇でしょ?」

 

「いやまぁそうだけど」

 

「じゃあ私飲み物買ってくる!蓮くん何がいい?」

 

「別にいいけど」

 

「大丈夫!わたしは次3年生だから!」

 

「それは俺もだけど」

 

「私の方がお姉さん♪」

 

「はいはい。じゃあコーヒーブラックで」

 

「わかったー!」

 

すると入れ替わりで花園が来た。だからなぜ......

 

「今香澄が蓮くんのコーヒーって言いながら外出てったけど、パシッたの?」

 

「してない。冤罪。というか滅多なことを言うんじゃない。じゃないと......」

 

「え~?蓮が香澄をパシリにした~?」

 

「井戸原さん。さすがにそれはちょっと......」

 

「はいややこしくなったーー!!」

 

知らないうちに来た今井先輩と紗夜先輩に誤解された。ちゃんと誤解は解いた。

 

 

 

~~

「井戸原さん」

 

「なんでしょう」

 

「あなたももう3年生になりますが...」

 

(小言が始まるのかな)

 

「割とだらしないところがあるので気をつけてください。今年も会計になったのでしょう?」

 

「ええ。まぁ」

 

「なら尚更です。あと小言を言われるとか思わないように」

 

「なんでわかったんです?」

 

「本当に思ったんですか」

 

「しまった~」

 

「まぁいいです。それと、そろそろ進路も考えた方がいいですよ。準備は早いに越したことはないですから」

 

「いやー行く大学は決めてるんですけどね。学部をどうしようか悩んでまして」

 

「どこどこ?」

 

「八津木大です」

 

「八津木!?」×20

 

「うお!」

 

いつの間にか増えとるし。

 

「八津木ってあの八津木?」

 

「それ以外ないでしょうに」

 

「やべぇな...あそこ引くほど偏差値高いのに」

 

「でも井戸原くん普通に行きそう」

 

「わかる」

 

「まぁそれはそれとして、先輩達は大学の準備進んでるんですか?」

 

「ばっちりだよ蓮くん!」

 

「丸山先輩は...なんですかその顔」

 

「むー」

 

いやなんとなくわかるけども。

 

「彩さんは」

 

「うん!」

 

「かなり心配だなぁ」

 

「なんで!?」

 

「大丈夫よ。私も一緒に見てるから」

 

「白鷺先輩が言うなら大丈夫ですね」

 

「ひどいよ2人とも~」

 

「私も日菜と準備は進めていますよ」

 

「ダウト」

 

「う......」

 

「たぶん進んでるには進んでるんでしょうけど日菜先輩がちょっかいかけてくるから思うようにいってないでしょう」

 

「はぁ...その通りです」

 

「よくわかったね蓮」

 

「まぁいつもの2人を見てれば割と想像出来ません?」

 

「できる」

 

すると追加でハロハピの面々がやってきた。

 

「みんな固まってどうしたの?」

 

「井戸原くんが八津木大に行くって話」

 

「その話むしかえすの!?」

 

と思った時、入口のドアが開いた。助かったと思いきや、自分の顔が険しくなったのがわかった。

 

 

 

~~

黒いスーツを着た人が入ってきた。あたしは黒服さんかと思ったがそれは違った。歩き方とか所作がほとんど同じなのに違うとわかった。その人は井戸原くんの前に立ち、驚くことを言った。

 

「お迎えにあがりました。蓮様」



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番外編 6 原点

久しぶりの番外編


「3人とも準備出来たか?」

 

「OK!」「ああ」「大丈夫だよ」

 

「皆さん出掛けるのですか?今日は休みだったはずでは......ああ、今日はあの日でしたか」

 

出掛けようとしていた俺たちに話しかけてきたのはサヨさんだった。疑問に思ったようだが持っていた荷物を見てすぐにわかったようだ。

 

「ええ。ちょっと行ってきます」

 

「はい。でもなるべく早く帰るんですよ」

 

「母親ですか。まぁいいや、行ってきます」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

 

 

~~

-上空-

 

「1年経つのは早いね~」

 

「イツキ、それ去年も言ってた」

 

「まぁイツキの言うこともわかるけどね」

 

「そうだな。もう......8年だからな」

 

「うん」

 

少ししんみりとした空気になる。

 

「だめだ。怒られちまう」

 

「黙ってんじゃねー。ってね」

 

「言う。絶対に言う」

 

そんな話をしていればあっという間目的地に着いた。

 

 

 

~~

瑠璃の迷宮。それは、ここの実力に合わせ、内部が変化する摩訶不思議な迷宮。俺たちは最深部を目指して迷宮を進んでいた。

 

「なんかさぁ...」

 

「ああ」

 

「去年より難易度上がってない?」

 

「俺たちの実力が上がってるってことだろ?」

 

「嫌な証明方法だなぁ」

 

「タクミ右から来てる」

 

「了解」

 

「アオイ、フォロー」

 

「OK」

 

そんな会話をしつつも俺たちは顔色ひとつ変えず淡々と敵を斬り伏せて行く。

 

「ちょっと減ってきたね」

 

「去年のことを考えるとそろそろだろうからな」

 

「うん。あ、拓けるよ」

 

その先にあったのはただっぴろい部屋と、あぐらをかき、斧を携え、ただじっとこちらを見つめる巨大な牛。まぁミノタウロスだ

 

「ボスだね」

 

「ボスだな」

 

「去年より強いやつだ」

 

「そらそうだろ」

 

歩みを進めれば、立ち上がり吠えた。

 

「じゃあやるか」

 

「ここで負けたらそれこそ笑われるね」

 

そうして、目的に行き着くための死闘は......

 

 

 

~~

3分で終わった。

 

「「「「...............」」」」

 

気がつけばミノタウロスは俺たちの前に横たわっていた。

 

「終わり?」

 

「みたい」

 

「嘘でしょ」

 

「......さっきまでのいい感じの雰囲気はどこいった!」

 

「「「それは言うな」」」

 

すると突然部屋が光りだし、壁に文字が羅列し始めた。

 

「なになに?『最強を倒し者よ』」

 

「えーと、『与える試練はもうない』」

 

「次は...『約束は果たされた』」

 

「これで最後だな。『阻む道は泡と消える』」

 

「どういうことだ?」

 

「知らん」

 

「多分、このダンジョンは回数制の試練になっていて全部倒せば入り口からそのまま最深部に行けるってことだろうな」

 

「楽になったな」

 

「まぁそんなことはともかく行くぞ。俺たちの目的はこの奥なんだから」

 

 

 

~~

「よお。今年も来たぜ」

 

最深部。俺たちの前にあるのは、

 

「先生」

 

ひとつの墓。

 

8年前、このダンジョンで事故で亡くなった俺たちの先生。ここは俺たちの原点。ここで先生に出会って、始まったのだ。

 

「何も変わらないね」

 

「荒れてたらやったヤツら潰しに行くだろ」

 

俺たちはその墓に花を供え、目を閉じて手を合わせる。

 

「俺たちは、まだ強くなってる。あんたのおかげだ」

 

そう言って目を開けると、

 

「あれ?」

 

さっきまでは無かったはずの手紙があった。

 

「やぁ4人とも。これを読んでいると言うことは君たちは全てクリアしたということだね。この手紙は僕がこの場に居ない、かつ君たちがいることによって出現するようになっているよ。つまりまあ僕が同行していないか死んだと言うことになるね』

 

「残念ながら後者だね」

 

『すごいねみんな。誰もクリアできないと思ったんだけどなぁ』

 

「「「「あんたが造った迷宮かい!!!」」」」

 

『最後に、レン、アオイ、タクミ、イツキ。僕がいなくても頑張るんだよ』

 

「当然っ!」

 

こうして最深部を出ると、そこにはすぐ夕焼けが広がっていた。

 

「レンの言った通りだったわ」

 

「フッ。さ、帰ろうぜ」

 

 

 

~~

-再び上空-

 

「まさか瑠璃の迷宮が先生が造ったものだったとはねー」

 

「でも自分で造った迷宮で死ぬか?」

 

これが手紙を読んで浮かんだ俺の疑問だ。

 

「まぁ先生ちょっと抜けてるところあったからな」

 

「確かに」

 

日が沈みだし、辺りが薄暗くなったところでイツキが何かに気づいた。

 

「ねぇ、なんかあそこだけやけに明るくない?」

 

「ほんとだ。あの辺はうちのギルドのある場所だからカスミたちが何かやってるんじゃないのか?」

 

「いや、かすかに戦闘音も聴こえる」

 

その言葉に一瞬で俺たち3人の顔つきも変わった。

 

「急ぐぞ」

 

すぐ様龍を全力で飛ばした。



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しがらみの決着 前編

遅くなりました。


「ん~~~~~」

 

「美咲ちゃん、お茶飲む?」

 

「ありがとうございます....」

 

「でもやっぱり心配だよね」

 

「物騒なことを笑いながら言いましたからね」

 

 

 

~~

「なんの用だ、西端」

 

「お迎えに上がりました。蓮様、玄弥様がお呼びです」

 

「じいちゃんが?」

 

「はい」

 

「悪いが俺まだ仕事の時間......」

 

そう言って時計を見ると午後3時。

 

「上がる時間じゃねぇか...何?わざわざ待ってたの?」

 

「はい」

 

「そうしてまで絶対連れてこいと?」

 

「はい」

 

「......ホントに行かなきゃダメ?」

 

「はい」

 

botかよ

 

「はぁ。準備するから待ってろ」

 

「はい。わかりました」

 

やっと「はい」以外のこと言ったな。そんなのはいいや。

とっとと準備を終わらせた。

 

「終わった」

 

「では参りましょう」

 

「井戸原くん......」

 

振り返ると不安そうな顔が並んでいた。

 

「大丈夫なの?」

 

もちろん大丈夫では無いと思う。だがその質問には答えず、まりなさんに

 

「もしかしたら二度と帰ってこないかもしれないからクビにしてもかまわないので。では」

 

と言って止められる前に車に乗り込んだ。

 

 

 

~~

「久しぶりだな」

 

「そうですね。昔はあんなに小さかったのに」

 

「何年前の話をしてるんだ全く。............旦那と子供は元気か?」

 

「唐突に話を変えましたね」

 

「なんか嫌な予感がしたからな」

 

「ふふ。夫も息子も元気ですよ。2人とも蓮様に会いたいと駄々をこねることがあります」

 

「それぞれ理由が違うのは気のせいか?俺はあの男に嫌われてるからな」

 

「別に嫌ってはいませんよ」

 

「嘘」

 

「嘘じゃありませんよ。この件が片付いたら会いますか?」

 

「......生きてたらな」

 

「そうですか。それを言うなら」

 

どうやら話を逸らそうとした意味はなかったらしい。

 

「奥沢様には何も言わなくてよろしかったのですか?」

 

「チッ。感の良い奴め」

 

「あれは誰でも気づきます」

 

「そうかよ。...言い逃げする気は無いからだよ。責任がとれないなら言わない」

 

「蓮様らしいですね」

 

やはり、本邸ではしっかりと蓮様を警護しなければ。ちゃんと、伝えられるように。

 

「西端」

 

「どうしましたか?」

 

「俺より先に死ぬのはあと50年は早いぞ」

 

お見通しでしたか。

 

 

 

~~

「蓮様、到着致しました」

 

やってきたのは、まあ田舎の方にある田舎にそぐわない日本家屋の豪邸。ここがうちの一族の本邸である。少し見渡して見るが他の車は1台もない。俺が一番乗りらしい。チャイムを鳴らすと俺の祖母が出迎えてくれた。案内された部屋で荷物の整理をしていると西端がやってきた。

 

「蓮様」

 

「どうした?」

 

「2日後には全員揃うそうです」

 

「わかった」

 

俺は整理を再開した。とたんに

 

「蓮~」

 

面倒なのが来た。



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しがらみの決着 ~中編~

「蓮~」

 

面倒なのが来た。

 

「何しに来た」

 

「ちょっと話しない?」

 

「ふざけんな。もう寝るわ」

 

「......嘘つけ~。この状況で呑気に寝るわけないくせに~」

 

妙にテンション高めなのがこれまたウザイ。

 

「入れてくれないならここに居座るよ」

 

それはさすがに困るので扉に手をかけて

 

「開けた瞬間にズドンとかやめろよ」

 

「あっはっは。やったって避けるくせに」

 

扉を開けてやったが特に何もなかった。

 

 

 

~~

「お邪魔しまーす」

 

「で?話ってなんだよ。真一郎」

 

相模 真一郎。俺の父親の弟の息子で、はやい話俺のいとこである。

 

「蓮はさ、おじいちゃんが僕らを呼んだ理由ってなんだと思う?」

 

「本人から何も聞かされてないから絶対とは言えないが、おそらくじいちゃんが引退の目処を立てたんだろう。死んでからの遺言書だと偽装される可能性があるから今のうちに全員の前で後継を決めちまおうってことだろうと思ってる。っていうかお前だってそれくらいわかってんだろ」

 

「うん、さすが蓮だね。一言一句違わず僕と同じ意見だ。そこでおじいちゃんが誰を指名するか。僕は間違いなく蓮だと思ってる」

 

「いやそこは父親って言えよ」

 

「いやー、お父さんはあれだから絶対に無理でしょ」

 

「いやうん。まぁな」

 

そう。真一郎はまともなのだが、その父親である俺の叔父はかなり性格に問題があるのだ。正確に言えば目的のために手段を選ばない。

 

「あんな人だからそろそろ縁を切ろうとも思っててね」

 

あー、笑ってるけどこれ本気の目だ。

 

「つーか叔父さんは来てるのか?」

 

「うん。一緒に来たよ」

 

居るのか、あの人。

 

「そんなわけで協力してよ蓮」

 

出来れば嫌だと言いたいが、かなりいいことを思いついたので仕方なく了承した。

 

「しょうがない。貸しいちな」

 

「交渉成立。じゃ、そういうことで。寝ないんだろうけどおやすみ」

 

 

 

~~

「はぁ」

 

面倒事を引き受けたとも思っているが、それ以上の面倒を回避できるので良しとするかと無理やり納得した。

 

「そのためには......」

 

俺はスマホを手に取りとある人へ電話をかける。

 

『もしもし』

 

「夜分遅くにすみません。周りに人は居ませんか?」

 

『......少々お待ちください。場所を移します』

 

待つこと数分

 

『お待たせ致しました。ご用件はなんですか?』

 

「少し、お願いしたいことが」

 

『それは......』

 

「~~~~~~~~」

 

『~~~~~~~~』

 

 

 

~~

「......そんなわけでお願いします」

 

電話を切って一息つく

 

「ふぅ」

 

これで準備は整った。



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しがらみの決着 ~後編~

翌日から全員集まるまでの間、暇だろって言って真一郎のやつ毎晩俺の使っている部屋に来ては無駄話をして戻っていった。確かに暇ではあるけど毎晩来ることはないだろうよ。

そんなことがありながらも全員が揃ったため、呼び出された。出来れば頼んだことが無意味になりますように。

 

「おはよー」

 

「これで全員揃ったな」

 

どうやら食堂に来たのは俺が最後だったらしい。俺の声にそこにいた全員がこっちを向く。あらゆる方向から敵意や嫉妬を分かりやすく感じる。

 

(少しは隠せよ)

 

とは思ったもののまあ無理だろうなとも思った。

 

「さて、今回呼び出した用件だが......」

 

じいちゃんの声に視線が俺から外れる。

 

「来年の3月を持ってわしの椅子を空けることにした」

 

誰も驚いた顔はしない。さすがに予想はついていたようだ。

 

「よってわしの後継を決めようと思っている」

 

その言葉にこの場の数人の目が輝いた気がした。

 

「それは......」

 

辺り一帯の空気が期待と不安で埋め尽くさせる。じいちゃんが指名したのは......

 

「蓮、お前だ」

 

正面に座っている俺だった。全ての視線が俺に向く。安堵、納得が多い中、怒りと嫉妬も多少あり、中でもふたつの視線が際立つ。俺は微動だにせずただ静かにじいちゃんの目を見ていた。

 

「俺は......「ちょっと待って!!」

 

俺の言葉は遮られた。遮ったのは叔母だった。

 

「蓮はまだ高校生よ?務まるわけがないじゃない。お父さん」

 

「だから卒業してからという話だ」

 

「だとしても若すぎるわ!もっと社会を知っている私たちの誰かがやるべきよ」

 

その言葉を擁護するように俺にだけは椅子を渡したくない親族たちが同意を示す。

 

「それに親父、蓮は相模から逃げた兄貴の子だぜ?どう考えたって同じことになるに決まってる」

 

真一郎の父親である叔父がそう続ける。

 

「蓮。わしはお前を指名したが、望むのであれば譲渡しても構わん」

 

じいちゃんの言葉で2人に笑みが浮かぶ。

 

「そうよ蓮。あなたはまだ若いんだからそんなに背負わなくたっていいの」

 

「そうだ。こういう事は大人に任せればいいんだ」

 

叔父と叔母が少し必死にそう言ってくる。だが、

 

「ふ、ふふ」

 

「な、何?」

 

叔母がたじろぐが気にしない。

 

「はっはっはっはっは!!」

 

笑いすぎて腹筋が痛い。呼吸を整え、嘲笑込めて言い放った。

 

「任せなければ、どうなっても知らないってか?」

 

2人の顔に驚愕、そして焦りが浮かぶ。

 

「な、なんの事だ?」

 

「それは2人が1番知ってるだろ?やってみろよ。やれるもんならな」

 

俺の言葉に顔を見合わせ、電話をかけ、すぐに切った。

 

「後悔しない事ね」

 

「それはこっちのセリフだよ。どうせかけ直ってこないんだから」

 

そう言った瞬間に俺に電話がかかってきた。相手を見て笑みを浮かべる。

 

「ナイスタイミング。もしもし?」

 

『襲撃者をすべて捉えました』

 

叔父と叔母は理解が出来ていないようだ。

 

「いったい何だって言うんだ?」

 

叔父の声に反応したのはかけてきた本人ではなかった。

 

『その声......貴様らどういうことだ!!話が違う!合図でガキども始末するだけのはずだろ!こんなヤツらの相手するなんざ聞いてないぞ!』

 

「な、何を言ってるの?あなたたちなら奪って蓮に目にものを見せれると思っていたのに」

 

『それが出来なかったからとっ捕まったんだろうが!ふざけんな!!』

 

『情報提供ありがとうございました』

 

「いや、俺はただ利用しただけなので例を言うのはこっちです。ありがとうございます。では」

 

「蓮!一体どういうこと!?」

 

叔母がヒステリックに叫ぶ。だが俺は反応せずに笑いながら呟いた。

 

「さすが弦巻家」

 

その言葉に全員が驚愕した。そうしながらも叔父は食ってかかる。

 

「弦巻だと?何が起こった!?」

 

心底呆れながらもばかにするように俺は言った。

 

「ほんと救いようがねえな。俺一人を見つけるのにこれだけの時間をかけて、俺を引きずり下ろすことばかりに気をとられて襲撃させた中に弦巻家の令嬢がいるとも知らずに。ほんと哀れ。」

 

「黙れ」

 

「まぁ、みんなの前で喋っちまったんだからもう椅子は手に入らない。残念だったな」

 

「黙れぇ!!」

 

煽りすぎたのか頭に血が昇った叔父はテーブルのナイフをつかみ襲いかかってきた。しかし俺はそれを払い、料理を散らかさないように投げ飛ばした。

 

「くそ.......そうだ。真一郎、真一郎!お前なら何とかしてくれるだろう?」

 

「悪いけどお父さん。僕は今日限りで縁を切らせてもらいます」

 

その言葉をとどめに叔父は何も喋らなくなった。叔母は少し前から既に喋らなくなっていた。それを見届け、警察官をやっている親族の方を向き、さすがに仕事してくれるよね?とプレッシャーをかけた。

 

 

 

~~

翌日。結局叔父叔母の件が夜までかかってしまい、話の続きは今日に持ち越された。

 

「では、蓮は真一郎へ譲渡するということでいいんだな?」

 

「いやいや待って待って。なんで?蓮がやりたくないだけでしょ?」

 

「その通り。でもお前の方が向いてると思ってるのも嘘じゃない。何より、貸しいちだろ?」

 

「やられた」

 

じゃ、そういうことで帰りますか。

 

「お帰りの準備はできています」

 

「さすが西端。これでやっと...」

 

「告白できる?」

 

その瞬間。俺の中で全てが固まり、錆び付いたおもちゃのように振り返る。誰か油さして。?嘘です。うおーい西端、油さし取りに行かなくていいから。

 

「ふぅ......なんの事だ?」

 

「隠さなくていいよ。全部知ってるから」

 

仕返しにしてはたちが悪い。

 

「蓮」

 

「何?じいちゃん」

 

「上手くいったら連れてこい」

 

「そんなこったろうと思った」

 

でも、いつかはやらなきゃいけなかった。こっちの始末もつける時か。

俺は確認だけとって、38本のメッセージを送り、1本の電話をかけた。

 

 

 

~~

「ところで、いつまで使用人の格好をしているつもりだ?仁」

 

「え!?」

 

「やっぱり気づかれてたのか」

 

「仁さん!」

 

相模 仁。じいちゃんの長男で俺の父親。ずっと姿をくらましていた。俺は知っていた。

 

「じいちゃん、いつから知ってたの?」

 

「うちに来た時からだ」

 

「最初からだね」

 

まあ何はともあれ色々と解決したわけだしあとはどうにかなるでしょ。

そう思いながら両親の方を見ると母さんの顔が父さんに近づくのを見て俺から起こることを瞬時に把握し、二人の間に割って入った。セーフ。

 

「駄目だとは言わないから部屋は変えろ」

 

疲れたからさすがに帰るか。そんなわけで

 

「じゃ、俺先帰るから」

 

こうしてまた西端の送りで帰路を辿った。



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2人の通過点

「もぉー!タイミングが悪すぎる!」

 

服を選びながら叫んでしまう。

 

「どうしたの?美咲。うるさいわよ」

 

「お母さん......実は......」

 

 

 

~~

あたしは部屋でうなだれていた。あの日、井戸原くんがいなくなった日から何度かメールや電話をしてるけど出やしないし返信もない。半ば諦めていたからこそ気づかなかった。待っていたはずの、井戸原くんからの電話に。それに気づいたのは午後3時で、代わりに音声メッセージが入っていた。その内容を聞いてあたしは部屋で1人で赤くなって焦った。だって言われた内容が

 

『蓮です。奥沢、心配かけてごめん。急で悪いけど、15時に送った写真の場所に来て欲しい。どうしても、お前に会いたい』

 

「今じゃん!やばい着替えなきゃ」

 

 

「.........っていうわけなの」

 

「あら~。そうねぇ...これなんてどう?」

 

「じゃあそれと、これにする」

 

「いいじゃない」

 

「じゃあ行ってきます」

 

「はい、行ってらっしゃい。あ、そうだ。美咲」

 

「?」

 

「お父さんには上手く言っておくから、最悪帰ってこなくても大丈夫よ」

 

「?.........!ちょっと!!」

 

お母さんの言いたいことを理解したあたしは顔を赤くしながら家を出た。井戸原くんはそんなことしない......それとも、あたしがそれを望んでいるのかもしれない。

 

着いたのは4時だった

 

 

 

~~

午後3時。俺はとある場所でベンチに座っていた。

 

(奥沢が来ない)

 

普段ならこんなことはまず無い。メッセージにはちゃんと15時だと言ったはずだから俺が間違えたということは無いはずだ。何かあったのか?もう少し待ってみよう。とか考えてたら既に4時になっていた。珍しく気づいてないんだろうなと思って帰ろうと立ち上がると突如突風が吹いた。

 

「っつ」

 

収まったところで顔を上げると、視線の先に、いた。まるで、たった今神隠しから開放されたかのように。気づけば俺は駆け寄って、抱きしめていた。

 

「奥沢......」

 

「ちょ、井戸原く....」ギュ♡

 

無意識に少し力を強めたことに気づいて抱き返して来た。それに気づいた俺は慌てて奥沢を離した。

 

「あ、ごめん」

 

「ううん。おかえり、井戸原くん」

 

「ああ。ただいま、奥沢」

 

 

 

~~

「ごめんね、遅刻して」

 

「いや、俺も本当急に呼んだからな。来てくれただけでも嬉しい」

 

「いつ戻って来たの?」

 

「お昼すぎくらい」

 

「そっか」

 

なんと言うか、聞きたいことは他にあるのに踏み込んでいいのか分からなくて躊躇してる感じだな。

 

「なあ奥沢」

 

「なぁに?」

 

「俺に山ほど聞きたいことがあるだろうし、俺も言わなきゃいけないことがある。でも、今は俺の話を聞いて欲しい」

 

「うん」

 

「奥沢、俺は、お前のことが好きだ」

 

「うん」

 

あ、ちょっと泣きそう。

 

「1年の後半には、そう自覚してた。でもお前を危険な目に合わせかねないから言えなかった。でも、全部終わらせた。だから言う」

 

あたしは彼の次の言葉を静かに待った。

 

「奥沢、これから先も俺と一緒いてほしい。この先の人生を俺の隣で一緒に歩いてくれ」

 

それはもう、告白ではなくプロポーズだった。でも、

 

「蓮くん。これだけは約束して。もう二度と、何も言わず居なくならないで」

 

当たり前だ。もう二度とそんなことするものか。

 

「ああ、約束する」

 

「うん。これからもよろしくね」

 

 

 

~~

「この後どうする?」

 

「どうしようか?」

 

俺の問に困った笑顔で返す。あーやばい。もう全部が愛おしい。若干理性の効かなくなった俺は

 

「奥沢」

 

「な...んん!?」

 

その愛おしい唇に自分の唇を重ねた。突然だったが抵抗はなかった。

 

「ぷは。どうしたの!?」

 

そりゃ驚くわな。だがそんなの理由はひとつしかない。

 

「いや、全部可愛いからつい」

 

「もう.........ばか///」

 

その顔が見れただけで満足である。

 

「ねぇ、ちょっと意地悪になってない?」

 

「よし、飯でも食いに行くか」

 

「ちょっと!!」

 

 

 

~~

「美味しかったー」

 

晩御飯を食べている間に機嫌は直ったようだ。

「そろそろ帰るか」

 

「......うん」

 

電車に乗って最寄りに着き、少し歩くと

 

「冷たっ。え?」

 

雨が降り始め、すぐに強くなった。すぐさま美咲の手を取って家に向かって走り出した。

 

「あーびっちゃびちゃ。タオル持ってくから待ってて」

 

「うん」

 

洗面所から持ってきたタオルを渡し、美咲を部屋にあげた。

 

「今風呂沸かしてるからこれでも飲んでな」

 

「ありがとう」

 

一応は平然を装ってはいるが、正直心中穏やかでは無い。なんというか、濡れてるせいで割と目のやり場に困るのだ。

 

「なぁ美咲...」

 

話しかけようとしたとたんに風呂が沸いた。ナイスタイミング。

 

「先入ってきな。着替え用意しとくから」

 

「わかった。ありがとう」

 

美咲を風呂へ促し、着替えとバスタオルを用意する。しばらくすると湯気を上げながら俺の服を来て出てきた。これはこれでちょっと困る。

 

「じゃあ俺も入ってくる」

 

そう言って逃げるように風呂へ向かった。

 

 

 

~~

風呂から出ると美咲が正座をしながら大人しくしていた。

 

「テレビでも見てれば良かったのに。まぁ一応乾燥機あるから服はすぐ乾くだろうし。そうしたら家まで送ってくよ」

 

そう言うと何故か抱きついてきた。

 

「それは大丈夫」

 

「え?」

 

「帰ってこなくてもいいって言われてるから」

 

おーい。嘘だろー。

 

「ねぇ蓮くん。寒いね」

 

「.........そうだな」

 

「あっためてよ♡」

 

そう言った瞬間、美咲が部屋の電気を消した。

 

聴こえるのは雨音だけ。目に映るのは、美咲だけ。俺は、こいつに本気で惚れていると感じる。同じはずなのに、さっきとは違う艶めかしいその唇に再び重ねた。

外では雨が優しく、時に激しく、振り続けていた。




一旦次は番外編はさみます。


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番外編7 突然の襲撃者

先延ばしにしてきたなと思い見返したら半年も経ってなかった


ギルドに近づくとはっきりと状況が見えた。ぶつかる金属音、雄叫び。紛れもなく襲撃されている。こんなところを襲ってくるのは奴ら、ブラッド・シー しかいない。総動員で応戦しているがそのうち数に喰われるのは分かりきっていた。

 

「タクミ!」

 

「よし!」

 

「アオイ、上から援護を頼む」

 

「任せて」

 

龍から飛び降り、静かに降り立ち、鉈を振り抜き、敵を吹き飛ばした。

 

「よくもまあ好き勝手やってくれたなぁ」

 

「くそっ!エンドロールだ!撤退、撤退ー!」

 

俺を見た瞬間、思わぬ速度で逃げていった。

 

「助かったわ、レン」

 

「ユキナさん無事でなによ......なんか少なくないですか?」

 

「ジブンが説明するッス」

 

「マヤさん」

 

「今回の襲撃は、割と計画的に行われたもので間違いありません。今日は留守番組しかいませんでしたから。......本当に間一髪でした。もう少し遅かったら手遅れだったッス」

 

「今日の留守番って確か...」

 

「ココロさん、サヨさん、マシロさんです。サヨさんとマシロさんは憔悴してるだけですけどココロさんが...」

 

そこまで聞いて俺は中へ飛び込んだ。そこには、荒れた室内と少し片付けられた隅でうずくまった

 

「ココロ...」

 

 

 

~~

中を片付け、ひと段落したところでみんなでお茶飲んでいた。

 

「ココロちゃん、部屋で休ませてるよ」

 

「わかった」

 

「先輩...大丈夫ですか?」

 

「それはこっちのセリフだマシロ」

 

「私は学校で先輩に散々いじめ抜かれたので大丈夫です」

 

「言い方」

 

その時、誰が立ち上がった。

 

「わたしは行く!」

 

「行くってどこにだよ」

 

「ブラッド・シーのアジト!」

 

「バカか!」

 

「落ち着けカスミ」

 

「レンくんは落ち着きすぎだよ!ココロがあんなことになって悔しくないの!?」

 

「そんなわけないだろ...あいつの笑顔は、悪意に、どす黒い欲望に奪われていいものじゃない。でもここまで来たらもうギルドとしての問題だ。個人の感情で進めていい話じゃなくなってるんだ」

 

「それは...」

 

「全員揃ってるね」

 

「マスター...」

 

「今までみたいなちょっかい程度なら見逃しただろう。でも今回はやりすぎた。なんせ本気で怒らせたんだからね、うちの最強を。あんたたち、準備を始めな。明後日の早朝に乗り込むよ」

 

「はい!」

 

 

 

~~

翌日俺たちは奴らのアジトに向けて出発する。

 

「じゃあ行ってくるよ。ココロ」

 

こうして1日かけて奴らのアジト付近までやってきた。最終確認を済ませ来る早朝、俺たちは足を踏み入れた。

 

 

 

~~

ブラッド・シーのアジトでは構成員が酒に溺れて眠りこけていた。目を覚ました男がトイレに行くために外に出たが3秒後に吹き飛んできた。テーブルやカウンターが吹き飛び、音で目を覚ました男たちが見た光景は、武器を担ぎ乗り込んできたGBPだった。

 

「うちで遊び倒したツケを払ってもらおうか」



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井戸原 蓮という男 前編

すごい期間空けた気がするけどそこまで経ってない気もする。
はい、ごめんなさい。


カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ますと、まず視界に入ったのは見慣れない天井。でも知らない場所ではない。しかし寝起きで頭も働かずとりあえず起き上がると、あたしは何も着ていなかった。それだけで目が冴えた私は何があったのかを瞬時に思い出し、再び布団を被った。

 

(そうだ、昨日帰ってきた蓮君に告白されて、家に泊まって、それから......っ~~~///)

 

思い返せばあまりの刺激にしばらく悶えていたがそんなことをしていても何も始まらないので、手を伸ばし手頃な場所にあった彼のシャツを着てベッドを降り......ることはなくどこかで見た彼シャツにちょっと感動し、しばらく堪能していた。そうしていると部屋の外からいい匂いがしてお腹が鳴ってしまった為部屋を出た。

 

 

 

~~

日が昇る頃に目が覚め、いつも通りの朝を始めようと体を起こすと手には温かさがあり、顔を向けると細く、小さな手が重なっていて付き合い始めた彼女が心地よさそうに寝息を立てていた。

相模家の血に生まれ、その優秀さで親族のやっかみを買い続けて関わりをもちはすれど一線を超えないようにしていたが先日そこに終止符を打った。それにより出会い、過ごし、思い続けた彼女と結ばれたことにより起きた昨晩のことを思い出し頭を抱えた。だが過ぎたことを気にしても仕方がないのでそっとベッドを降りて部屋を出た。

シャワーを浴びて浴室を出ると俺の部屋が騒がしかった。

 

(美咲起きたのか)

 

あまり気にすることなく2人分の朝食の準備を始めると美咲が部屋から出てきた。

 

「蓮くん、おはよう」

 

「おはよう美咲......なんでそれ着てんの?」

 

「あったから」

 

「えぇ...ん~まぁいいやシャワー浴びてきな。出る頃には準備できるから」

 

「うん、そうする」

 

シャワーを浴びて出てきた美咲の髪を乾かしてやり、2人で朝食を食べる。なんてことない会話をするだけでも幸せだった。

 

「今日はどうするの?」

 

「羽沢のところ行かなきゃ」

 

「彼女の前で他の娘の名前を出すのはどうなの?」

 

と言ってジト目を向けてくる。

 

「じゃあ言い方を変えます。羽沢珈琲店に行く」

 

「今日お休みじゃない?」

 

「貸してくれるって。もう隠してられないし」

 

「そうだ。あたしもそれ聞かなきゃ」

 

「うん。だからご飯食べたら着替えてきな」

 

「え~~?このままじゃだめ?♥️」

 

「駄目」

 

即刻否定する。危うく頷きかけたが。うん、確実に思考がダメになってきてるわ。気をつけないと。

 

「じゃあ一緒に行こうね?」

 

「それはもちろん」

 

 

 

~~

朝食を食べ終えてから着替えを済ませ、家を出て羽沢珈琲店へとやってきた。預かっている鍵で裏口を開けて入る。

 

「鍵もってるんだ」

 

「一応って言って渡された」

 

「やぁ、早いね」

 

「あ、おはようございます」

 

「おはようございます」

 

声をかけてきたのはこの店の店主でもある羽沢の父親だった。

 

「おはよう井戸原くん、奥沢さん」

 

「すみません休みなのに店お借りしてしまって」

 

「いやいやこのくらい」

 

「あの、羽沢は...」

 

「つぐみならご飯食べてるけど後で呼ぶかい?」

 

自分も羽沢だけどと言わないあたり優しい人だと俺は思っている。

 

「いえ、大丈夫です。そのうち降りてくると思ってますから」

 

「そうだね」

 

と言って戻って行った。

 

「まぁ美咲は座ってなよ。まだみんな来ないし」

 

「そうする。蓮くんは?」

 

「俺は飲み物の準備してる」

 

「じゃああたしカウンターで見てよ」

 

「なんで。いいけど」

 

 

 

~~

「おはよー!」

 

「おはようございます」

 

コーヒーを抽出していると氷川姉妹が最初にやってきた。

 

「おはようございます。早いですね」

 

「おはようございます」

 

「灯りがついていたので」

 

「それはそうですね。まだ時間があるので何か飲みます?」

 

「では今作っているコーヒーをいただきます」

 

「わたしカフェオレ!」

 

「かしこまりました」

 

蓮くんが奥へ引っ込むと紗夜先輩はソワソワしながらあたしの方をチラチラと見てくる。

 

「あの、どうかしました?」

 

「いえ」(この雰囲気はやはりそういう事なのかしら...)

 

即答したが何かボソボソと呟いている。すると横から日菜先輩が声を掛けてきた。

 

「......ねぇ」

 

「はい」

 

「2人は付き合ったの?」

 

「日菜!」

 

「えっと、あの...」

 

と追い詰められたところで

 

「おまたせしました」

 

蓮くんがコーヒーとカフェオレを持って戻ってきた。しかし

 

「どうなの!蓮くん!?」

 

矛先が変わった。しかし彼は躊躇なくあたしの手をとって

 

「昨日から」

 

と答えた。

 

「そうでしたか。おめでとうございます」

 

「ありがとうございます。ねぇ、良かったの?」

 

「端からこの2人に隠せるとは思ってない。まだ無駄だと思うのが何人かいるけど」

 

根拠がないのに説得力があるのはなんでだろう。

 

「あ、でも他の人は気づくまで言わないでくださいね」

 

「それはコーヒーの味次第ですね」

 

「じゃあ大丈夫か」

 

その後続々とやってきたが、途中で降りてきた羽沢に手伝ってもらい準備は終わった。

帰りたい。



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