最強に成りたい、王子(偽) (獣耳もふり隊)
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アーサー王伝説
脳内日記1


この作品は結構好みが分かれると思います。
コンセプトは、
ぼくのかんがえたさいきょうのしゅじんこー



⚪︎月⚪︎日

 

転生した。

原因としては色々と考えられるが、取り敢えず転生した事だけは理解した。

 

脳内日記のようなナニカに書くような感じで綴っているが、一向に書いた文字を忘れることがない。これが転生特典(微)と言うものなのだろうか。

 

…冗談は置いておこう。

 

そういえば自己紹介を忘れていたが、俺の名前はアーサー・ペンドラゴンというらしい。それも偽物ではなく本物の。

 

な ん で さ

 

初めは完全に俺自身、理解不能だったが、生憎と身動きの取れない赤ん坊の身では考える時間だけは有り余っている。

何日もかけて考え抜いた結果、そんなに頭がいいわけでもない俺がいくら考えたとしても分からないということしか分からなかった。

 

俺はアーサー王物語について詳しく知っているわけではないが、ここ型月世界っぽいのだ。

 

根拠としてマーリンと呼ばれている世話係さん。なんかでっかい杖を持ち歩いている。

 

型月の世界もそんな感じだったはず。

ただこのマーリン、女だ。

 

お ん な だ。

 

型月の世界では男だったはずだが、ここがプロト時空である可能性も微レ存…?

 

今のところは分からないが俺の性別が男であればプロト時空で確定だろう。しかし女であれば、…? フッ、女だった場合はおギャるしかねぇな(思考停止)。

 

取り敢えず今出来ることは、この体が健やかに成長するよう祈ることのみだ。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

あれから数年が経過し、ある程度動けるようになった。そして俺の性別は男だった。どうやらプロト時空で確定っぽい。

 

それと、マーリンが俺に対して知識を与えようとしてきた。未だ幼児の俺に教えてくるのは基本的な地理、政治、そして──魔術だ。

 

魔術とは魔力を用いて発動させる術のことを指す。人によって魔術回路の数などが違い、そう言った面ではどうしても先天的才能が必要となるらしい。

 

そして、魔術には様々な属性というものが存在する。そのうち俺は風にあてはまるようだ。

 

それともうひとつ、型月世界においてアーサーとは仕組まれた王である。つまり、生まれた時から王になることを定められていた。誰に? みんなのマーリンさんに決まっているだろう!

 

話が逸れてしまったが、何が言いたいかというと型月という正史においてアーサーとなった少女には、多大な魔力を生み出すために生まれた時から竜の因子を埋められていた。

 

それは平行世界とは言え、ほぼ等しい状況の俺にも当てはまり、俺の心臓にも竜の因子とも呼べる概念が埋め込まれている。だから無限に等しく生み出される魔力を扱えるってわけだ。使いこなせるかは別として。

 

ちなみに俺は魔術回路を持たないが魔力を生成することができる。魔術回路とは魔力を生成するための器官なのだが、自力で生成することできるのなら存在しなくても問題ないのだ。きっと。

 

理論としてはそんな単純なものではないが、そのまま魔力を生み出せるのが竜の因子で、魔力を生成するために工夫を凝らしたのが魔術回路と言ったらわかりやすいのか? 竜の因子の方が圧倒的性能を誇るのだけれども。マァ、生物としての段位(レベル)がちがうからネ。

 

とにかく! 何が言いたいのかというと、魔術はいくら鍛えても困らないという事だ。

 

ちなみに、俺がこの世界で目標とすることは「最強として生き残ること」だ。

型月世界とは危険な死亡フラグが乱立し、神秘に深く関わるほどいろんなことに巻き込まれる。そこで自らの命を守ることができるほど強くなるという意味を込めた座右の銘のようなものだ。うんこたれ。

 

アーサー・ペンドラゴンとして生まれた時点で、厄介ごとに巻き込まれるのは目に見えている。それらに対処できるように俺自身、鍛える必要がある。

 

最強ってところに関しては、個人的なアレです。

所でみんな、最強は好きか? 俺は──好きだ。

 

めだかボックスでいう、安心院なじみ

 

ワンパンマンでいう、サイタマ。

 

呪術廻戦でいう、五条悟。

 

そんな、世界のパワーバランスを崩すような隔絶したスペックを持つ存在になりたい。そのためにできる限りの努力を尽くす。

才能はあり、生まれも悪くない、努力すればそんな存在になれるかもしれない。

 

なるしかないでしょ?(理性蒸発)

 

え、最強が本命で、生き残るのがついでじゃないかって? いやいや、そんなこと──あります。

 

(君のような勘のry)

 

まぁ、未来のことばかり考えて足元救われたら元も子もない。まずは今のことを考えて、取り敢えずマーリンに習ったことを会得しようか。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

魔術を使用して鍛錬を続ける日々、新しい魔術が使えるようになるたび、その使い道を考えることに没頭していた。

 

幸い脳内にお手本は沢山いる。例えばアクセラレータ、彼はベクトル操作により空気を圧縮することでプラズマを発生させたりした。この圧縮というのは発見で、圧縮した空気を壁にして防御に使ったり、また原作stay nightのように魔力をそのまま放出するのではなく、空気を背後に放出することで効率よくジェット機のような移動をすることもできるようになった。

 

そんなことを続けていたある日、マーリンに「そろそろ体もできたことだし、次は剣術を教えよう」と言われた。

 

渡されたのは木刀で、始めの数日は素振りだけをしていた。その間も魔術の鍛錬は続けていたら、いくつかの作業を同時にこなす並列思考を無意識に行なっていた。嘘です、死ぬ気で習得しました。

 

一週間ほど木刀を振り続け、手になじみ始めた頃にマーリンが「僕と試合をしてみようか」と提案をしてきた。

 

もっと基礎を固めた方が良いのではないのかと疑問に思い質問すると、実戦を数こなした方が上達は早いらしい。

 

始めの試合では木刀を振ろうとした瞬間にやられていた。あまりの容赦のなさにちょっと泣きそうになったが、そんな弱音を吐くぐらいではこの先が地獄だと我慢して何度も挑戦を続けた。

 

敗北を重ねる中、俺の技量と生まれつきの直感はだんだんと向上していき、5分ほどであればマーリン相手に打ち合えるようになった。(マーリンはまだまだ手加減している)

 

そんなある日、俺は木刀に風の魔術を纏わせて、間合いを広げることを考えた。その思惑はうまくいって、次の試合ではマーリンに一太刀入れることが出来た。と思ったのだが、間一髪で回避していたようだ。

 

「いいアイデアだけど、まだ足りないね」

 

カウンターを頭に一発喰らい、意識が暗転する間際に見えたマーリンの顔、じつに意地の悪いニヤケ顔をしていた。

こいつ、勝利という希望で目を眩ませておいて、実は敗北でした残念! を実行しやがった。これが俗に言う「上げて落とす」というやつか。

理解するとともに、この邪智暴虐なる女畜生を打ちのめしてやらねばという使命感に駆られる。

 

それからの鍛錬では積極的に魔術を組み込んだ戦術を編み出していった。しかし、そのどれもがことごとく失敗していく。例えば空気で作った防御壁を展開するとその上から木刀で叩き潰してくる…とか、お前はゴリラか。

 

彼女に勝つためにはどうすればいいのだろう?

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

ついに一勝した。戦闘方法は、俺の周りに空気を圧縮してできた不可視の刀剣やら盾やらを浮遊させ、打ち合っている最中に、サポートさせるというものだ。

武器の形にしたのはそっちの方がカッコイイから。

 

このシンプルながら圧倒的に手数の増す戦法に、さすがのマーリンも剣術だけでは対応できなかったのか杖の魔術を発動させて、全力で防御にまわっていた。

 

最後は、防御の魔術が切れる瞬間に木刀で切り込み、彼女の木刀を破壊するという決着になった。

 

そういうわけで遂に師匠であるマーリンに勝利することができた俺は、自分のやりたいことをある程度融通してもらえるようになった。そこで頼んだものとは、YAMAに向かう許可である。

 

察しのいい人なら分かるだろうが、俺はYAMAで鍛錬をすることにした。もちろん魔術、剣術共に鍛錬を続けるが、鍛錬に効率的なのはやはりYAMAだろう。

 

YAMAにはいろんな生物がいる。

特にここはブリテン、現代における神秘の残り香が多く集まる場所だ。音速で飛ぶTUBAMEや体当たりで岩を粉砕するINOSHISHIはもちろん、腕をひと被りして斬撃を出すKUMAや妖術などを扱うKITUNEなどの幻想種までいるだろう。

もしかすると最強と言われる幻想種の頂点────竜種までいるかもしれない。

流石にそれはないだろうが。

 

 

 

 

 

 

脳内日記は次に続く。

 




続かん。

追記

続きました。


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脳内日記2

頭ん中にね、ストーリーはあるんだよ。
壮大なストーリーはね。
続いた。



⚪︎月⚪︎日

 

YAMAに訪れるようになってから数ヶ月。

基本的に現れるのはINOSHISHIやSHIKAなどの野生動物(?)であり、竜種に出会うなどの珍事はなかった。フラグ回収ならず。

 

残念に思うかもしれないが、今の俺の実力でも勝てないのは事実。出会ったら即死で英霊の座にも行けずピチュンする。素直に出会わなくて良かったと思う。

 

とはいえ、出会ったINOSHISHIやSHIKAが弱いというわけではない。だってYAMA暮らしだもん、あいつら。

 

兎に角、突進がつおい。力が正義と改めて理解させられる。これが巷で噂のわからせってやつか(錯乱)

 

ただ、負けているわけではない。マーリン相手に使っていた、五条悟の様な自分を中心とした球状の空気の層を発生させるという防御壁を使う。

ただ無限とかわけわからないやつではなく、空気の密度を上げただけの壁なのでやろうと思えば無理矢理突破できる──というのを対策して、壁を二重にして間に真空の層を追加した。(完璧なマーリン対策)

 

第一層を突破したやつは気圧の差でェ

────死ぬゥ!(ガバガバ理論)

 

あとはなんか、固有結界…覚えたいなぁ、いつかは。

 

こう「領域展開ッ!」

みたいなやつ。

呪術廻戦は多くの(厨二病)患者を生んだよね。俺も受けたよ、影響。でも仕方ないよ、かっこいいもん。

 

まあ、そのおかげで安全圏からチクチク攻撃できるようになった。攻撃力に関してはカリバーンを引き抜くまではまだまだ時間がある。なので他の必殺技的なのをいくつか覚えたい。あ、今使える技の名前も考えておこう。

 

猪肉と鹿肉うめぇ。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

音速で飛行するTSUBAMEを仕留めたぜ。いぇあ。

奴は強かった。移動だけで周りに衝撃波を撒き散らし一般人では近づくこともできない。しかしそこは逸般人に踏み入れかけている俺。

 

木刀片手に、一振り。魔術の補助を受けた刀身は、瞬時に伸縮し居合を伸ばしてTSUBAMEの体を切り裂いた。

地に堕ちたそいつを喰らいながら、反省会を行う。

 

レンジ(範囲)か広がったのはいいが、斬撃も打てる様にするか。でも斬撃をいちいち打つのに魔術の補助がないと出来ないのはなんかカッコ悪いし、日々の素振りを魔術で重くして鍛える様にしよう。

あと農民のやっていた燕返しはオート発動出来る様になりたい。まだまだ実践して反復練習あるのみだ。

 

それと前も言ってた様に、技名を考えた。

技を使う時に、言葉に出すのは恥ずかしいから、心の中でだけ叫ぶと誓った。それがこれだ。

 

風限王壁…身体を守る球体状の空気による防壁。

纒空…風の魔力を纏わせ、攻撃範囲を広げる。

風王兵装…不可視の風でできた操作できる浮遊武具。

空歩…風を圧縮して放ち起動する歩法。

消音空装…空気を隔て音の発生を消失させる。

風王結界…屈折率を操り不可視にする。

風王鉄槌…圧縮した風を放つ。

 

下二つは、本家も搭載している技だ。勿論改良したが。風王結界は何にでも纏える様に、風王鉄槌は何回でも使い回しできる様に。

ていうか、本家もできたんじゃないか?

…サーヴァントの枠にはまっていない全盛期なら余裕でできそう。(無茶苦茶夜更かしして漸くできる様になったのに)

 

気を取り直して。

それにしてもなかなかいい感じじゃないか。適度に厨二なこの感じ、素晴らしい。

これからも技の開発を続けよう。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

野生のOKAMIが現れた!

アーサーはOKAMIを手懐けた!

 

というわけで、オオカミさんを捕まえました。騎乗スキルBだしネ。竜の因子から生み出した純度100%の魔力で威圧すれば大人しくお腹を見せてくれたよ。

 

はい! オオカミさんを捕まえた理由? かっこいいからに決まってんだろ(理不尽な激怒)!

 

ここで俺の価値基準をはっきりさせよう。俺の中でカッコいいか、良くないか、だ。前世日本人で多少の倫理観は持ち合わせているが、この世界はそんな物クソ喰らえと言わんばかりの無秩序。

 

周りと違うのはわかっているんだが、それでもある程度合わせると、俺の持つ倫理観は少し緩くなった様だ。そんな中でも目標にした最強はカッコ良く有らねばならぬという。

 

そっちを優先しても仕方ないよね。

 

というわけで、オオカミがカッコよかったので飼い慣らした。名前は勿論フェンリル。王道かつ、かっこいいので採用だ。本物を超えて欲しい。

 

そうして、YAMAではフェンリルと一緒に、村ではマーリンと共に過ごしている。

 

鍛錬の方の成果は燕返しと魔術を使わない斬撃を放てる様になった。燕返しは少しズルイ習得方法だ。

 

まず初めに魔術の補助有りで身体能力諸々を強化して、速さを無理矢理向上させた状態で成功させ、その感覚を掴んだまま生身でチャレンジという方法を使った。

 

まあ、使えるもんは使わないと勿体無いし生身で打てる様にもなったので問題なし。ヨシ!

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

数日前にマーリンに固有結界を使える様になりたい旨をつたえた。

そして今日、姿を見せなかったマーリンがやってきた。その姿を見た俺は、固有結界についての書物でも調べてくれたのかな? と思案したが、感情がないはずのマーリンが何やら嬉しそうにしてるのを見て、ん? と思った。

 

持ち前の直感をフル稼働して考えてもわからん。わからんことは聞こう、とマーリンの元へ向かう。

 

奴はこんなことを宣った。

 

「ふふふ、今日はキミの誕生日なんだよ。今まで祝ったこともないし、欲しいものをねだることも少なかったから、大振舞いしてあげるよ」

 

「おめでとう。キミに固有結界を授けよう!」

 

は!?

 

「んん!キミの驚いた顔は珍しい。ふふ、何、サプライズというやつさ。たまにはこんなのも悪くないね」

 

は!?

 

「おや、そんなに驚くかい? ぅん、確かにこれまでこんなことしたことも無かったけど、そこまで驚かれるとは心外だなぁ」

 

は!?

 

「キミが驚いて固まっているうちに授けておこう」

 

驚きすぎて反応がなくなった俺の顔をマーリンが両手で押さえて、顔を近づけてくる。──んむぅ。

 

…ハァッ!?!???!!!?

 

「んふふ、じゃあねっ」

 

マーリンが去っていった後、本日何度目かも分からない驚きに思考がショートして数十分ほどその場で固まっていた。ディープなやつだった。

 

 

 

 

驚きに染まった意識が戻ってくる。固有結界について考えようとすると説明がスッと浮かび、無意識に理解した。

 

名は 「ガーデン・オブ・アヴァロン」

花畑と星見の塔、限り無い星と差し込む陽光が黄金比の理想郷だ。

 

効果は内在する者のうち、敵対意思が無い者に対して回復と魔力増強のバフがかかり続ける。

 

この固有結界はマーリンが生み出したものであり、俺の心象世界では無い。そのため、俺の体・心に変化が起こるたび、固有結界もその形と力が変わっていく。

 

ただ、元の形はコレであり、そこから派生するというのであって、全く別のものから作り直されるということでは無い。

 

あと、他にも色々知識が付いてきた。存在力として上位者達と呼ばれる存在は、固有結界を自身で作り上げる方法を編み出したり。その受け継ぎを出来るようにしたり。固有結界を持っているのが常識であったり。

 

そして何より驚いたのが、俺の受け継いだ固有結界は抑止力の修正を受けにくいということだ。

元来、固有結界(リアリティ・マーブル)とは空想具現化(マーブルファンタズム)の亜種であり、自然の延長線上である精霊ではない者が異界で自然を塗りつぶすため、世界が異界を潰そうとして維持するのに莫大な負荷が掛かる。

 

その点俺は半分が竜の因子であり、固有結界自体もマーリンからの貰い物で、根本が精霊から成り立っている。

 

これらのことから、抑止力の修正が4分の1程度まで収まるらしい。

 

 

固有結界内は生き物が暮らすこともできるのでフェンリルを主として特に仲の良いYAMA暮らしの方々に入ってもらおう。

 

一瞬、俺が固有結界を消したらどうなるのか不安になったが、杞憂に終わった。俺の心象世界が世界と繋がるかどうかというだけで、消えるというわけでは無い。そういえばエミヤも剣取り出してたしな。

 

 

ついでに翌日マーリンに聞いたところ

 

「キスはしなくても受け継げた」

 

らしい。

……夢魔(サキュバス)め。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

遂に選定の剣を引き抜く日が訪れた。

マーリンに連れられて、町外れに歩を進める。そこには、岩に突き刺さった剣の持ち手が存在している。

 

俺はゆっくりとソレに手を掛ける。

 

ふと、マーリンが声を掛けてくる。

 

 

「それを抜いたが最後、キミは王となり破滅の道を進み始めることとなるだろう」

 

……

………

 

────ああ、知ってる。

少なくとも、まともな最後は送れないだろう。

だけどな、俺は後悔しない。

最後までしぶとく生き残ってやる。

 

「──わかっている」

 

基本的になんの言葉も発さないこの無口フェイスが働いたことにマーリンがほんの少し驚き、俺の意思が変わらないことが伝わっただろう。

 

 

 

手に力を込めて、石から剣を抜刀する。

 

 

 

 

 

 

その日、ブリテンに王が誕生した。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

 

 

 

 

 

 

カリバーンが折れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで本作アーサーくんは無口ジト目が基本のプリティーボーイです。

ん、書き溜め?するわけないじゃないか。できたそばからリリースするよ。その代わり、誤字脱字あったら教えてね♡。(軽率に♡を散らす男)


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脳内日記3

評価バーに色付きました(初)。ありがとうございます。
あと、僕今投稿した側から次話書いてるんですよね。
なのでもう少ししたらペース落ちると思います。
(元々不定期ですから)
これからも頑張るかもしれません。



⚪︎月⚪︎日

 

 

先日カリバーンが折れた。きっちり、ポッキリ、逝っていた。

 

なんだよ、俺が王になるのを阻止しようと送られてきた刺客の背後とって斬り殺しただけじゃないか。なに、それがダメだって? 背中から攻撃するのは騎士道に反しているから? 

──邪道使ってくる相手に堂々戦えとか馬鹿みたいじゃん。

俺は何でもかんでもまともに対応し続けるのがかっこいいとは思わない。別にカッコ悪いとも思わないが、どっちでもいいなら楽な方を取るでしょ。

 

俺は俺の考える道理に沿ってやり方を選んだ。それがダメだって言うなら、──カリバーンは要らない。

 

…あーあ、折角メイン武器手に入れれたと思ったのに。

 

 

 

「ふふふ、はははははっ! ふぅー、ふぅー。面白かったよアーサー。もう笑わないから落ち込まないでくれ。くふっ、…仕方ないねぇ、新しい武器を貰ってきてあげよう」

 

「オイオイ、何やってんだよ。てか選定の剣ってそんな脆いのか」

 

純粋に心配してくれるケイ卿と笑いながらも憎めないことを言ってくるマーリン。マーリンの煽りには少しイラっとしたが、新しい武器を貰ってきてくれるとのことなので今回は不問とする。

 

物で釣られたわけではない。断じてない。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

マーリンが約束の聖剣を持ってきた。エクスカリバーだ。

 

それをみた俺ははしゃいだ。珍しく脇目も向かずはしゃいだ。外から見れば、目をキラキラさせていたくらいだろうけど、無茶苦茶喜んでいた。

 

だって、あの聖剣だぞ! 斬撃という名のビームが出るんだぞ!

 

──エクスッ、カリバァァアァァアア!!

ができるんだぞ。興奮しないわけないだろう。

知ってるか? あれ超かっこいいんだぜ。

 

 

そして俺は興奮の冷めないうちに徹夜しながら考えた新しい技をいくつか生み出した。それがこれだ。

 

風王領域…空気の圧を上げ、動きにくくする。

雷霆空縮…圧縮させた空気でプラズマを発生させる。

疾風迅雷…発生させた風と雷を纏い加速する。

暴風雷雨…悪天候を生み出す。

乱気流…相手の攻撃命中率、威力が落ちる。

追風…相手に遅延デバフ、自陣に加速バフを付与。

 

今回は多人数による戦いとエクスカリバーの効果を底上げする様な技を中心に開発した。

ちなみにアヴァロンも貰ったが、今の俺じゃあ改良のしようがねぇ。

 

…戦闘指揮か。

王になったんだもんな。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

遂にブリテンの統一が完遂された。一件落着だ。

時折蛮族と呼ばれる奴らが邪魔しできたので全てエクスカリバーでブッパした。最高だぜ。

 

とはいえ、俺も戦闘ばかりしていたわけでは無い。政治的な書類のあれこれもマーリンやケイ卿に手伝って貰いつつこなしていった。

 

一人でずっと椅子に座り続けるのは苦痛だった為、固有結界からフェンリルを呼び出したり、モフって癒してもらっていた。

 

幻獣とコミュニケーションを交わしながらどこがいいか聞いてモフり続けた俺のブラッシングスキルはA++だ。

 

おっと、フッ、…奴が来た様だ。

 

ぽてぽてぽて…

 

その小さく白い体躯はリスや猫を想像する。

背後から「消音空装」で音と匂いを消し近づき、ある程度近づくと勢いよく抱き抱える。

 

「フォウッ!」

 

びっくりして暴れる小動物。その名はキャスパリーグ。マーリンが飼っているらしく、時折いろんな場所で見つける。キャメロット城を不規則に徘徊している様だ。生態は知らん。

 

「フォーウ」

 

抱き抱えたのが俺だと理解したのか、力を抜いて楽にしている。能天気な奴め。

 

リラックスしているキャスパリーグを連れて執務室に籠る。椅子に巻きつくフェンリルのモフモフを感じつつ、キャスパリーグを膝に抱え、左手で首元を撫でながら右手で書類を処理していく。

 

俺のモフりテクニックに陥落したのか、キャスパリーグは徐々に目を細め、いつの間にやら眠っていた。

時間も深夜そこそこと言ったところ、他の騎士達も家へ帰るであろう時間も超え、自分も、とゴソゴソと寝る準備をする。

 

並行思考のうち一つを使って魔術を発動させる。ベットを風で整え、それと同時にキャスパリーグを抱えて浴場へと向かう。

 

「……入るか」

 

相変わらず無口な自分をなんとも思わなくなったことに対して感慨深く思いながら、途中で起きたキャスパリーグはうとうとしながらも風呂に入るつもりらしく、一緒に入ることとした。

 

腰に布を巻き、魔術で発生させた水を汲む。桶いっぱいに溜まった水を熱風で暖めながらキャスパリーグを浸してあげる。別の桶に貯めた温水を被りながら布で全身を拭く。

 

あ"あ"ぁあ"、疲れが取れるぅ。

 

「フォォウ」

 

キャスパリーグの方も気持ちいいらしく、低い声で鳴いている。ついでとばかりに毛先を整えてやり、温水から抱え上げる。

 

「ファウォゥ…」

 

あったかい水が名残惜しいのか、それとも水に浮いたゴミや埃に引いているのか、どちらかだろう。俺の予想は後者だ。

 

キャスパリーグも水分を拭いてやり、俺と一緒に発動した温風の魔術を浴びる。

 

「心地いい…」

 

「フォウ、キューウ…」

 

「ヴォウ…」

 

おいフェンリル、どうしてここにいる。お前は何故か知らんが常に清潔な摩訶不思議生態だろう。ずるい。幻想種だからか? 特別なのか?

横目で恨めしそうに見ているとフェンリルも気づいたようでそそくさと固有結界内に戻っていった。

 

十分に水分が乾き、着替えてからベットに向かう。ゆっくりと進んでいる中もキャスパリーグは腕の中で撫でられている。

 

寝室に着くと魔術で整えたベットが俺たちを待ち構えていた。それを見た俺たちは倒れ込む様に眠りに落ちた。

 

こんな日も幸せだなぁ。おやすみ。

 

 

 

 

「おやおやぁ? これはこれは、アーサーとキャスパリーグの添い寝か、珍しいね。視覚投影! うん、よく撮れてるね。それから杖の記録媒体に保存、っと。じゃあ早速お邪魔しまーす。あはは、これは朝怒られそうだなぁ」

 

 

 

──────早朝

 

朝起きたら隣にマーリンがいた。何故お前がいる。

 

「もぅ〜。そんな目で見ないでよ、何もしてないから」

 

シスベシフォーウ(マーリン死すべしフォーウ)!」

 

信用ならん。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

なんか日記を見直したら昨日の日記だけ異様に長かった件。なんだろう、最近何もなさすぎて日常について語っていた。

 

でも、なんていうんだろ? こう、当たり前だけど尊い幸せな感じがする。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

うっがぁぁああッ!

もう我慢できん。流石に元日本人としてこの国の食い物は不味すぎる。何より潰した芋は料理とは言わない。言ってはいけない。

 

一人でYAMAに篭ってたりしてた時は、まだまだ肉や野菜を色々自分で取って料理して食ってたんだが、王として生活しているとあの料理とも呼べない物を口にしないといけない時が出てくる。

 

そこで俺はマーリンに頼んだ。

なんでも言うことを一回聞くし、料理も振る舞うから、定期的に調味料をくれ! 特に塩を!

 

実際に俺の口はそんなに回らないので報告書にその旨を書き、渡した。

 

マーリンは珍しく目を丸めて、その後どんなことを命令しようかと考えているのがわかる顔でニヤニヤしながら了承した。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

突然だが、俺の体って小さいのよ。

正史じゃあ、カリバーン折るのもっと先だったのかもしれないけど、俺一瞬で折っちゃったから。

 

その状態でエクスカリバーとアヴァロン貰って不老になったからさ、青年の数歩手前で成長が止まっちゃってんだよね。身長でいうと170くらい。嘘です、5センチくらい盛りました。

 

やになっちゃう。

 

何が言いたいかというと。

──マーリンに子供扱いされる。奴め、他の奴らとの身体差で煽りやがって! くそぅ。お前の方が小さいだろうが。

 

それに少なくともなぁ!今の俺の息子は前世の息子よりも逞しいんだぞ、竜の如く。

 

 

…なんだろう、とても悲しくなった。

 

まあそれだけじゃ無いが、見た目が子供で舐められたり、厨房に立つのも一苦労なのは少し面倒だ。

後者は「空歩」でなんとかなるからいいが、見た目だけはなんとかならねぇかな。

 

 

お、「風王結界」で出来た。

声も──あ、変えれた。

 

なんとかなったわ。よし、明日マーリンを脅かしてやろう(最優先事項)。

 

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

あれから数日経った。翌日はマーリンがおらず、そこから数日はキャスパリーグを探した。

キャスパリーグと一緒に寝た時は高確率で潜り込んできているので、タイミングを図ってやったのだ。

 

そして訪れた朝。

 

ベットの上に二人と一匹。そして1番に起きたアーサーは心のうちに暗黒微笑を浮かべる。そのまま慎重にマーリンにバレない様に、魔術で自分を大人verに変貌させる。

 

眠りから覚めない様に腕をマーリンの頭に敷いてやり、見つめる。変貌させた自分の表情は意外と自由が効くので、スマイルを浮かべながら、その時を待つ。

 

(どんな顔をするんだろう)

 

チク、チク、チク、チク…

 

時計の音がよく響き、時間が進むとともにその期待感は膨らむ。

 

(そういえば夢魔って寝るんだな)

 

混血とか言っていたし、そういうものなんだろう。

 

 

 

 

 

 

何十分が経過したのだろう。

 

遂に刻限がやってきた。

 

「ぅん、ん」

 

頭元に違和感を感じたマーリンがゆっくりと目を開ける。

 

「、ん?」

 

こちらに気づき、目をぱっちりと開け、数回瞬きをする。

 

 

「おはよう。愛しのマーリン」

 

よくもこんな甘い台詞を吐けるものだ、と自分でも思いながら観察する。だがこの口はこういう時、しっかり働いてくれるので嫌いになれない。

 

「…んぇ!?」

 

マーリンの驚愕に満ちたその顔に満足しつつも観察を続ける。すると首元から顔に向かって徐々に赤くなっているでは無いか。

 

「──ひゃぁぁあ!??!!」

 

頭頂までその赤さが達した途端、目を回して倒れる様に再度眠りについた。

 

 

 

 

「え、」

 

俺としては、その反応の方がビビるんだが。

 

 

 

 

一旦元の姿に戻りマーリンが起きてから話を聞く。今までの経験から多少感情について理解してるし、夢魔だからと言って無闇矢鱈に手を出すわけではなく、気に入った人間の夢をおやつ程度に食べていただけなので、この様な経験は一切なかったと聞いた。

 

 

そして俺はその情報と引き換えに、今朝の出来事とこの話を誰にも伝えない様に、セルフギアススクロールで縛られることとなった。

 

 

 

 

 

 

 




本作のマーリンちゃんは女の子してて普通に可愛いです。
感想ぷりーず!待ってます。


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脳内日記4

僕はアーサー王伝説を知りません。(致命的すぎる欠陥)
なので調べながら書いている付け焼き刃です。
その点含めてあんまり設定つつかないでもらえると助かります。
(本作はあまりにも絶妙なバランス(妄想)の上に成り立っているので崩壊しやすいです)



⚪︎月⚪︎日

 

 

前回の事件はなかったもの(タブー)として過ごしたここ数日、マーリンがこんなことを言い出した。

 

「円卓を作ろうか!」

 

…机を作ってどうするんだ。

大人verが禁止されて戻った無表情からでも困惑の表情が読み取れたのか、マーリンが補足説明をする。

 

「ああいや、ごめんごめん。話が飛んだね、円卓の騎士と呼ばれる者たちを募ろうと思ったんだよ」

 

どうやらこう言う話らしい。

 

王になった俺が全ての権限を持つと、判断が偏ってもそれを修正することができないので、俺と同じレベルの発言ができる者を厳選した上で選考する、と。

 

厳選基準として、強さ、賢さ、性格を基準として、その他特別な技能などを含めて選別するらしい。

 

また、外交などもそいつらに任せることで見た目で舐められることは無くなるだろう、とのこと。

 

悪くない。というか円卓の騎士ってアレか、FGOでもいたランスロットとかか。まあ、全くその通りなので許可した。

 

そしたらマーリンのやつ、既に終わっている、とか。

 

報連相!

 

報告連絡相談!

 

 

 

しっかりしろよなぁ。

私は悲しい、ポロロン。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

マーリンが調味料を持ってきた。

 

────よっしゃぁぁぁああっ!!!

 

勝ったな。(風呂に入ってくる

というのは冗談で!

…マーリンのやつ、なんでも言うことを一回だけ聞くって約束を使ってないことに気づいた。

──背筋がゾッとしたのでこの話はやめよう。

 

ところで俺はそれなりに料理ができる方だ。前世でも男の一人暮らしでそこそこ作っていた。少なくとも俺が手伝うまでのキャメロットで出されたマッシュポテトよりはマシなやつだ。

 

てか、塩振って焼くか煮るすればマッシュポテトよりはマシになるだろう。そんな適当なことはしないが。

 

YAMAで頂いた野菜や野生の幻想種の肉を用意して下拵えをする。折角だから、有り余っているジャガイモを使った料理をすることにした。

 

まず初めに肉とジャガイモ含めた野菜を一口台の大きさに切っていく。因みに、包丁を使わせてもらえないのでエクスカリバーを使っている。勿論刃に触れたら衛生的に汚いので「纒空」で覆っている。

どうせエクスカリバー使うんだし包丁くらいいいじゃん。

 

次に魔術で軽く熱した鍋に油を敷き、肉を炒める。そして野菜も加える。

…1番簡単な魔術ならどの属性も使えるからチョー使いやすい。主婦が戦争を始めるレベル。

 

全体に油も回ったので魔術で生成した水と新しくGETした砂糖を加える。さらに酒、味醂、醤油をそれぞれ直感Aに任せて足していく。

 

ここから30分ほど煮込む。その時間を無駄にしない様に次の品へと移る。

 

といってもこちらは至ってシンプル、まず秘蔵の幻想種INOSHISHIの死体を固有結界から取り出す。

さっきも色々取り出したが、固有結界内は常に回復のバフがかかり続ける為、常に最高品質を保たれるのだ!

御都合主義めッ!(大変助かっております)

 

取り出したINOSHISHIを綺麗に捌いていく。エクスカリバーに「纒空」してるからめちゃくちゃ切れ味いいんだよね。

 

切り分けた部位のうち、背中のロース。これをいい感じの大きさにカットして風の魔力で浮遊させる。

同時に火の魔術を発動して満遍なく焼ける様に威力、向きなどを調節する。

焼いている最中も旨味が垂れないように風で調節する。

 

焼き上がると串を用意し数個ずつ刺していく。

 

幻想種の串焼き完成だ。塩、胡椒を適量振りかける。

 

この肉が美味いんだよ、マジで。YAMAでは丸焼きで食ったりしたがそれでもうまいんだ。調味料混ぜたらどんだけ美味いかわかんねぇ。だからあれだけ塩を推したんだ。

 

そうしている間に煮込んでいたのを確認する。味よし、形よし、硬さよし。

 

肉じゃがの完成だ。

 

 

大皿一つと小皿二つに、串焼きと肉じゃがを配膳する。

残りはシェフ達に譲り、どうすればより上手くなるか研究してもらう。最近勢いがすげぇんだあいつら。

 

料理を持った俺は待っているはずのマーリンの元へ向かう。使われてない客室に入るとキラキラさせた目を此方に向けながら犬のように我慢しているマーリンを見つける。

 

机の上に料理を置き、向かいに座る。

 

「ね、ねぇ、これ食べていいんだよね! もう食べていいかい?!」

 

無茶苦茶急かすのに心の中で少し笑ってしまう。

 

「…頂きます」

 

相変わらず日本にいた時から染み付いた合図をすると同時に勢いよく串を掴み、肉を口にするマーリン。

 

「んっ──、ッ!美味しいっ!」

 

この前の事件から二人の時は思いっきり素を見せるようになったのを横目に見ながら、串を掴み肉を食べる。

 

「…美味い」

 

超美味い。すげぇ! 何これ、ホントに美味すぎる。肉を噛むと抵抗なく噛み切れ、とろけるように消えていく。いくら無口でも美味いと漏れるほどの美味しさ。マジでヤベェ。

 

その後も食事を続け、二人で談笑しながらもご馳走様まで美味しいと言い合った。

 

 

今回のことから週一程度の頻度で俺の作った料理による二人だけの食事会が行われることとなった。

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

最近蛮族とかいう輩の動きが活発になってきている。それに連動して仕事の量が増えていく、オイ蛮族。

被害は広がる一方らしく、強さも並以上。

 

それ故に各町村で護衛をしている一般卒の兵士では歯が立たないらしく、円卓の騎士にまで手を煩わせている。

 

一方俺の方でもYAMAの連中から情報をもらって対策を立てている。ただ蛮族は再生力も高いらしく、首と体を切り離さないとすぐに回復するらしい。稀にそれでも再生する奴もいるとか。

 

──見た目以外進撃の巨人かよッ!

 

ということで、早急な措置が必要だ。ただ、具体的にどうするのか…どうしようか。

 

 

腰から外し、左手に持ったアヴァロンを見ながら、わざとらしく溜息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────数日後。

 

 

 

──突如として世界が塗り替えられる。

 

渇いた地面は花畑に、空には目に見えるほど大きな惑星が近くに浮かんでいる。

 

キャメロットが存在していたはずの場所には一つの塔が立っており、水平線には太陽の輝きが溢れている。

 

 

まさに幻想的としか呼べない景色。

人々がその景色に見惚れている内に、その国の王は塔の上で一人思考をする。

魔術を使った見た目大人の姿で。

 

(敵性反応は一つ、二つ、…全部で百六十二か。対象座標軸移動、固定。ヨシ!)

 

左手に持つ鞘をかがける。

 

ブリテンの民、全員が注目をしている。

 

星見の塔を中心に黄金の粒子が浮かび上がりながら、翡翠色の壁が生成されていく。その大きさは徐々に広がり、ある一定で停止する。

 

 

 

 

 

「真名…解放

  ────全て遠き理想郷(アヴァロン)

 

 

 

 

静かに響いたその声の直後、翡翠色の壁はより一層輝き、直後に薄く消えていく。

 

「「「うぉおおおおおおお!!」」」

 

終始それを見ていた国民は雄叫びを上げた。何が起こったのかは分からない。ただ、本能でソレが自分達を加護する者だと理解した。

 

 

 

 

その日より王の株は随分と上がった。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

今日は安定のモフ⭐︎モフDAYだ。

()()でフェンリルを撫でる。

昨日はすごい働いたので今日の分の仕事をケイ卿が請け負ってくれたのだ。たまには休めって、ケイ卿まじケイ卿。

 

あ"あー、物凄く疲れた。

数日前からずっと徹夜してアヴァロンの真名解放と改造を研究していた。そして当日、固有結界を発動。国を覆うくらいのは流石に修正力の負担が重かった。

その状態で蛮族の位置特定と現実に戻った時の座標をずらす。

そこで改造したアヴァロンを真名解放し、大規模発動を行う。本来なら範囲は一人なのを無理矢理広げたから魔力消費がやばかった。威厳保つために大人verになってたし。

 

で、固有結界を解除して終了。

 

キャメロットにアヴァロンという守りの要を置き、俺にとって(国全体)の外敵を弾き続けるってわけだ。

あくまで所有者は俺なので不老不死がなくなるわけではないが。

そして、これもずっとは保てない。およそ一年だ。その間に奴らを──駆逐してやる。(仕事増やしてくれやがって)

 

まあ時間はあるのでボチボチやっていこうと思う。

 

 

「ウォウ」

 

そうだ、今は何も考えずにモフればいいんだ。

 

 

もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ

 

 

ガチャッ、キィー。

 

 

俺の部屋の扉を開けたマーリンが此方を見ている。

…貴様にはプライバシーというものが無いのか、と言うかここは王室だぞ。

 

「そんな目で見ないでくれよ。開いてたんだから良いじゃないか!」

 

それでもノック位は必要だろう。

 

「あー、聞こえない聞こえない。って、私はキミが疲れてるだろうと思って癒しに来たんだ! と、考えてたんだけど…その様子じゃあ、必要なかったみたいだね」

 

待て。

 

「じゃあねぇ、ごゆっく──うわッ!」

 

扉から出ていこうとするマーリンの手を取り此方へ引っ張る。伊達に最強は目指してない。体格差から勝てないと理解したマーリンは魔術を発動して逃げようとしたので取った手から純粋な魔力を流してやり妨害する。

 

一緒にフェンリルに突っ込み、マーリンも逃げることができないと悟ったのか力を抜く。キャスパリーグと同じ流れだ。飼い猫(?)はご主人に似るというが、確かに似ている。

 

そのままフェンリルの背中でもふもふしながらキャスパリーグみたいにマーリンの髪を撫でる。顔を赤らめながらも目を細める姿は矢張りどこかキャスパリーグと重なる。

 

「き、キミは何をやっているんだい」

 

「撫でて癒されている」

 

少し震えた声で尋ねるマーリンに即答をする。

マーリンの髪は思った以上に柔らかく、手で梳くと絡まることなく毛先まで届く。

 

前から思っていたがマーリンは思った以上に人間的だ。本人はそんなこと思っていないだろうが、それは千里眼を持ちながら育った故の認識か。

人並みに情緒はあるし、表情もよく変わる。味覚もあるし、食べ物を美味しい、不味いと認識できている。睡眠も取るし、驚きもする。

 

正史のマーリンはそこら辺も怪しかったと思う。だから俺はマーリンを人として扱うし、ある程度尊敬もする。信用はしないが。

 

それをそのまま伝えると、マーリンは顔を真っ赤にしながら

 

「……バカ」

 

と言った。

 

 

「……マーリン可愛い」

 

その言葉を最後に二人の意識は消えた。一人は疲労で、もう一人は恥ずかしさによる気絶で。

 

フェンリルは一人(?)心の中でニヤニヤしていた。

 

 

 

────翌朝。

 

昨日なんかあったっけ? 疲れたから()()でフェンリルをもふもふしてて、そのあと、………あ。

 

 

 

 

 

前回と同じくセルフギアススクロールの契約が一つ増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 




後書き何書こうとしてたか忘れた。
そういえば、ランキング入ってました。ありがとうございます!
感想は執筆中の筆休めにニヤニヤしながら見させてもらってます。
(単刀直入に)もっと下さい。

あ、思い出した。
・クックパッドで肉じゃがレシピ確認しました。
・固有結界の一つ大きい惑星は「異なる場所から訪れた世界の異物」という意味。(そこまで深くは考えてない)
それだけです。


追記

感想欄にてこの時代に味醂はなかったと思うという指摘をいただきました。調べましたが少なくとも六世紀頃の日本には存在しなかったため、なんか引っかかるという方は、「マーリンへ渡した報告書に主人公の知る作り方が書いてあり、それをマーリンが作成した」という、風に納得して下さい(懇願)。
ご指摘ありがとうございました。



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脳内日記5

難産でした。
一旦、これで日記形式は終了です。
続きますよォ!きっと



 

⚪︎月⚪︎日

 

俺の息子を名乗るどう見ても女の子が円卓の騎士になった件。なお、俺に嫁はいない。

ラノベのタイトルみたいな出来事だが事実である。

息子を名乗る女の子の名をモードレッドという。

 

スゥ

 

はぁぁ〜〜〜〜ッ!(溜息)

 

 

ここに来てものすごい厄ネタがきた。て言うかなんでさ? 俺はまだピッチピチ(死語)の童貞の筈だが?

 

 

結局、何故か分からなかった俺はいつもの如く、頼りなるマーリンさんに話を聞くことにした。焦って慌ててきたので、言葉で伝える以外の手段を用意していなかった。紙持ってくればよかった…。

どう言う状況なのか物凄く少ない口数(もはや単語のみ)でなんとか伝え、どう言うことなのかを尋ねる。

 

マーリン曰く、

 

「遺伝子的には大体キミとおんなじだよ。ただ完全な人間ではなく、ホムンクルスというやつだね。キミの異父姉モルガンがキミの遺伝子を元に創造した、実質キミの息子(むすめ)だよ」

 

どっちだよ。

 

「性別かい? それとも──キミがチェリーかどうか、かい? 前者に関しては女、後者に関しては…ふふっ、安心してくれ、残念ながら卒業はしてないよ。遺伝子に関しては大方髪の毛か何かを使ったんだろう」

 

…そうか。

未だ俺は童貞である事が確定した。前世から引き継ぎ精神年齢は賢者などとうに過ぎている。よけいなことをきいたせいで心に深刻なダメージを負った。

 

いつまでもうじうじするのはかっこよくないので気を取り直し、モードレッドについてどう対応するか考える。…うん、無理に特別扱いしなくても良いか。

 

もし認知しろとか言われたら、事情を説明した上で対応しよう。

──そこ、後回しにしたとか言うんじゃねぇ!

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

 

…駆逐してやるっ!…この世から、一匹残らずッ!!

というわけで蛮族駆逐作戦開始だ。

 

アヴァロンの発動からおよそ数ヶ月。俺とケイ卿とマーリンを中心に作戦班が設立された。

 

まず初めに使える戦力は騎士長以上であることが最低条件となる。それ以下であれば足止めすらままならないからだ。最悪、足手まといになってしまうかもしれないので、騎士長以上の戦力のみで作戦を立てる。

 

使える戦力数は千人ほど、対して蛮族の数はおよそ十万。単純計算で1人百人を相手取る必要がある。

そんなことはさせないけれども。

 

 

 

 

そんな感じでああだこうだ言いながら決まった作戦は順調に作動した。

 

 

 

ブリテン全体を対象に固有結界を発動。

 

前回のように敵性反応の座標を一箇所に収束させ解除。

 

騎士長達がアヴァロンの内側からチクチクやりながらヘイトを集めて、俺と円卓の騎士で遠距離、ビームを放てるやつが一斉掃射。

 

 

 

映るのは蛮族の残骸のみ、のはずだが…

 

 

 

────ッ!、まだだ。

 

生まれ持った類稀なる直感が悪寒を知らせることで、反射的に手を翳し「風限王壁」「風王領域」を重ね掛けする。

それに加えて「風王兵装」で幾十にも盾を展開し、「風限王壁」に沿って不規則に旋回させ続ける。

 

その間、およそ0.1秒。

 

 

数キロ先の抉れた地面の向こう側に一つの影が浮かび上がる。陽炎のように揺れる影はその形を徐々に異形へと留めていく。

 

「…全軍撤退だ。殿は俺が請け負う」

 

ユラリ、ユラリと近寄ってくるそいつを見て俺は全軍に撤退命令を出す。最初は全員戸惑っていたが、それが王命だと理解し、少しずつ撤退を始める。

 

 

その間にも影はこちらにゆっくりと近づいてくる。

 

──不意に、姿が掻き消える。

 

これまた直感に従い、全武装を背後へと回す。直後、強烈な衝撃が背中に刺さる。

物凄い速さで吹き飛ばされながらも、なんとか視認することのできた背後では魔力で展開した全ての盾を拳で貫いた奴がいた。

その拳は何らかのダメージを負ったのか、再生されようとしている。

 

それと同時に俺の「風限王壁」の一部が破られていることに気づく。──成る程、気圧の差で奴の拳が破裂したのか。

 

状況を把握するために思考を巡らせながら「風限王壁」を高速修復する。

 

背後で何本もの木が薙ぎ倒されながらも漸く勢いが止まったので「空歩」により一直線で突進を行う。奴もそれに合わせて突進をする。丁度中点で衝突し、周りに衝撃波を与えるが、共に傷一つない。

 

と、いきなり奴は喋った。

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(俺が王だ、死ね)!」

 

ノイズしか聞こえないが、何を言ったのか理解できる。こいつ、直接脳内に…!──やってる場合じゃねぇ。理性はあっても常識はないようだ。

 

 

 

こいつが蛮族の王らしいし、何より俺たちが生きていくのにこいつは邪魔だ。

 

そうだな…

 

  ──()()()()

 

 

 

 

途端に思考が沈む。

魔術で補強して出来るようになった百程の並列思考のうち、半数の思考を殺戮方法のシミュレーションに充てる。

 

取り敢えず、固有結界を発動させ、俺とこいつを隔離する。これで余計な被害は出さずに済む。

 

タイムリミットは先程の作戦実行時の負荷が響いているので多く見積もっても十分ほど。

 

エクスカリバーを片手に握りしめて、肩に乗せる。エクスカリバーはやがて真名解放のように発光を始め、強引な斜め切りと同時に光の残光が迸った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()。圧倒的な才能の上に死ぬ程の努力を重ね、ひたすら実践経験を積み続けた結果に至った物の一部だ。

 

魔力が光に変換される。その工程を死ぬほど突き詰めた末に、ノータイムで魔力ロス無しの発動を可能とし、魔力の許す限り連続発動まで出来る。

 

 

その為、スイッチが入った時の己はコレを()()()()とする。

 

 

残光が薄く消え、再生しようとしている蛮族の王が目に入る。

そこへ、振り下ろしたエクスカリバーを勢いのまま斬りあげる。その軌跡にはやはり黄金の残光。それでもなお、しぶとく残っている肉塊に容赦なくエクスカリバーの乱撃を繰り出す。

 

焼却できたのか、跡形も見えずに煙だけが待っている。──そう思ったのが油断だった。

 

 

固有結界の半分が呑まれる。その主は、蛮族の王だ。

しぶとい奴め。

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ッ!(全てを終わりにしてやるッ!)

 

「…そうか」

 

冷ややかな目でやつを見る。此方も固有結界の限界が近い。次で殺し切る。

 

────瞬間、奴の目が嗤った。

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(スーパー・ノヴァ)────ッ!!!!」

 

全方位無差別自死爆発。

名前負けなど全くしていない熱量が広がり始める。

 

脳内殺戮シミュレーションが終了したアーサーは極めて冷静に対処した。

 

「…思考No.1ー25、26ー50まで、それぞれ多重発動」

──「雷霆空縮」「疾風迅雷」

 

エクスカリバーを握る手に雷が走る。全身もバチバチと帯電している。

 

「…思考No.51ー80、体内魔力を極限まで魔力濃縮」

 

「加えて、思考No.81ー90は角度調節、91ー95は反動調節」

 

目の前に超新星の熱が迫り、固有結界の影響で火傷した側から治る。ただ半分は呑まれているのでいつもより回復が遅い。──関係無い。思考破棄。

 

余計な思考を切り捨て、発動する。

 

「…思考No.96より100、発動」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────エクスカリバー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

 

さて、今日は休暇なのでピクニックする予定だ。

なんでも、現在の全てを見渡せる千里眼を持つマーリンが最高の場所に連れて行ってくれるらしい。

 

え、前回のはどうなったんだって?

 

 ──如何だろうね(ドヤァ)

 

 

言わなくても分かった? 聞く必要なかった? おいおい、そんなこと言わないでくれよ。悲しいじゃないか。

 

とはいえ、今日は絶好のピクニック日和だ。マーリンのやつはブリテンの食材を扱ったオリジナルのサンドウィッチ、喜んでくれるかなぁ。

 

行ってきます!

 

 

 

────待ち合わせ場所にて。

 

今日はせっかくだから、大人verの許可をなんとか交渉してたんだ。そしたら思いの外、簡単に許可が取れちゃって。マーリンも、

 

「…うん、偶にならいいかな」

 

って顔を赤らめながら言うもんだから、ちょっと可愛すぎて。

──はい、なんとなく変わったと思ったあなた、正解です。

俺はマーリンがクソ可愛いと自覚しましたッ!!

いや、少し前から思ってたんだけど、意識してみたら無茶苦茶可愛いじゃねぇか。なんで昔の俺はロクデナシとか思ったの。

童貞だったからか?(現在進行形)

 

待ち合わせ場所の噴水で座っているところを発見。「風王結界」と「消音空装」の合わせ技で完全透明人間になって背後から脅かす。

クセになってんだ、音殺して歩くの。

 

「ひゃっ、うぇ」

 

驚きすぎて倒れかけたマーリンの腰を支える。

 

「…大丈夫?」

 

「うぅぅ、な、なぜキミはそう、毎度毎度私を驚かせてくるのかい?!」

 

顔を真っ赤にして問い詰めてくるマーリンに、申し訳ない、と口にしながら案内してもらう。こうして二人のピクニックは始まった。

 

────黄金花畑。

 

「どうだい、これが私の秘蔵の場所だよ!綺麗かい?」

「…ああ、綺麗だ」

 

「丁度いいし寝っ転がってみようか?」

「…了解」

 

そのまま一緒に眠った。やっぱりマーリンの髪の毛はもふもふだ。

 

────昼食。

 

「ふふ、やっぱりキミの作る物は美味しいね」

「それはどうも」

 

普通に嬉しい、もっと精進しなければ。もしエミヤ君とかに会えたら料理を教わろう。

 

────洞窟。

 

「さて、今日のメインはここだよ」

 

え? ここ洞窟だぞ、何するんだ。と思っていたら、マーリンに手を取られながら洞窟を進んでいく。中は真っ暗で灯りひとつない。マーリンに灯りをつけていいか尋ねると、ダメ! と返答が来る。

 

どうやらサプライズらしい。

 

ある程度進むとマーリンから止まるよう指示が出る。それに従って、その場に留まっていると、マーリンは手を離してどこかへ行ってしまう。

と、言ってもすぐ側でガサガサと物音がするので近くにいると思うが…。

 

数分待つとマーリンが手を繋ぎ直し、

 

「ふふ、待たせてごめんよ。取り敢えず、洞窟でよっか?」

 

といい、踵を返す。

 

「…マーリンの手があったかい」

「そうかい?」

 

珍しく声に出ていたらしい、大人verだとしてもほんとに珍しい。ただ、せっかく話の種ができたので会話を繋げる。

 

「…ああ、女の子の手だなって」

 

「──っ!」

 

え、なんで。おかしなこと言った? 折角頑張って話したのにぃ。

マーリンの方を見ても辺りが暗くてどんな表情をしているかよく分からない。というか、顔を俯けているようだ。

そんなことを思いながらも歩を進めていくと、出口についたらしい。急激な明度の変化に少しの間、目を閉じて慣らす。

 

次第に明るさに慣れて目の前を見てみると、顔を真っ赤にしていたマーリンがでっかい槍を持っている。

かわいい。

 

表情を確認して、取り敢えず嫌われたわけではないと理解する。次にその手に持っているものがなんなのかを考える。

槍、聖槍、最果て。

 

はい、どう見てもロンゴミニアドです。

アウトォー!

言い分を聞きましょう。

 

「なんでって? あはは。それはね、今日がキミの誕生日だからだよ。私がケイ卿に、無理言って数ヶ月前からこの日を休みにしてもらうよう頼んでたんだ」

 

一途かよッ!!

しかも恥じらってる。

 

「前もこんな事あったよね。覚えてるかい? あの日、キスして固有結界を受け継いだんだよ」

 

キスする必要性無かったのに? と、言おうとしたら、初めてだったんだから。と顔を背けながら言う。

──お前なんでそんな可愛いんだッ!!

 

思考が固まっている隙を突かれ、

 

 

チュッ

 

 

ふふ、と頬を染め、上目遣いで視線を向けてくるマーリン。完全にあの日の二の舞となった。

 

 

今回はソフトの方。こっちもこっちで…。

 

 

 

──この後、ロンゴミニアドを貰った。勿論キスの必要は無かった。

 

夢魔(てんし)め。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

さて、ロンゴミニアドを貰って数ヶ月。

蛮族戦で色々と足りないところもあったのを思い出して、新しい技を作った。

それがこれだ。

 

波風障壁…質量を持った風の波を衝突させる。

風王禍空…人為的に竜巻を創造し操作する。

風王纒化…魔力を覆い一時的に限界突破する。

破戒風陣…風陣の中を真空にして破裂させる。

万物風化…風の魔力を過剰に与えて対象を分解。

 

どれも必殺技レベルだ。その分コストも大きいが、有るに越したことはない。

何より直感が悲鳴を上げている。

近いうちに何かやばいことが起きるみたいだ。

 

 

 

 

 

 

⚪︎月⚪︎日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くそっ!

ヴォーティガーン(ブリテンの白き竜)に遭遇したッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




男のモードレッドは出てきません(女の方が記憶に残りすぎて違和感しかないから)。
マーリン可愛い。
次回はヴォーティガーン戦です。時間かかるかも。

話の展開とパワーインフレはここからが本番だぜ!


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幻想種最強

⚠︎今話は空白が多いです。また、日記形式ではありません。

後出しみたいでなんか悪いですけど、主人公の原作知識はこの世界で何年も生きてて結構、朧げです。


──それは突然だった。

 

 

 衛兵から持ち込まれた、サクソン人と言う大陸から流入した民族が、ブリテンを統一するために我が国の民を虐殺していると言う話だ。

 

 国全体を守っていたアヴァロンは限界を超えたため既に解除している。

 次第に、アヴァロンの加護が無くなったので奴らは好き放題している、と言う話を何件も聞くようになっていた。

 

 またサクソン人は力こそ蛮族に劣るが、それ以上に厄介な狡賢い知能を持っており、被害が絶えないとの事だ。

 

 

 王である己の耳にまで届くのだから、余程酷いようだ。

 

 そんな訳で、現在の最高戦力である俺とガウェイン卿を引き連れて遠征を行うこととなった。

 

 俺に次ぐ最強はランスロット卿だったのだが彼は育児に専念している。ちなみに彼の妻はギネヴィアだ。

 ガウェイン卿についても彼らを案じて本人が立候補したのだ。

 

 戦力といっても、今回に関しては視察がメインだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …筈なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ガハッ!」

 

 

──ガウェインが敵の攻撃で気絶する。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()、だ。

 

 それが一体どれだけ異常な出来事なのか理解できるだろうか。

 かの騎士は太陽が出ている間、全能力が三倍となる。なんの訓練もしてない成人男性に換算しても、りんご程度軽く握る潰せるレベルだ。さらに加えて、全能力が三倍である。

 

 身体っていうのは部位が個別に動いてる訳では無い、連動しているのだ。それぞれの部位が三倍となった中、連動した動きの効果は三倍どころでは無い。

 

 例えば一メートルもジャンプできる人間がいたとしよう。その人間に全能力三倍を与えるとジャンプの高さは十メートルを軽く超えられる。

 

 そんな能力を備え、身体能力を鍛え、ガラティーンと言う武器まで持った彼が、

 

 

──────、()()()()だ。

 

 

 

 

 

 その攻撃を喰らわせた敵は、目の前の()()

 

 生物として最上級の頂点。何度か見たことのある雑種竜(デミ・ドラゴン)とは比べ物にならないほどの威圧感。こちらを捉えるその目には確かな理性が垣間見える。

 

 

──白き竜。その血を飲み干し、ブリテンの意思となったヴォーティガーン。

 

 それが俺の知っている情報だ。どんな思想で、能力で、目的で、何を為そうとしているのかは分からない。完全なブラックボックス(未知)

 

 

 俺はそいつと相対していた。

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 そいつが姿を現し、此方に明確な敵意を向けた瞬間、ガウェイン卿はガラティーン(転輪する勝利の剣)を放っていた。

 しかし攻撃が当たったはずの奴は、傷一つ負わないどころか、先ほどよりも存在力のケタを増している。

 

 そして、眼前の竜は口内にエネルギーを凝縮する。と思えば、目の前が真っ白になった。

 

 続いて体にかかる衝撃に、ブレスを放たれたのだと理解する。発動していたアヴァロンと風限王壁により防がれるが、それでも多少ダメージを受ける。

 

 アヴァロンの範囲を広げ、咄嗟に近くにいた兵士も守るが、攻撃の為前方へ進んでいたガウェインには届かない。

 

 数秒して衝撃も消え、ガウェイン卿のいた場所を確認する。そこには気絶して、瀕死になっている姿が見える。

 

 生きていることを確認すると、守っていた兵士にガウェイン卿を連れて撤退することを伝える。

 

 

「…──ガーデン・オブ・アヴァロン

 

 固有結界を発動する。

 

 花畑の世界に俺とヴォーティガーンのみを対象に隔離して、撤退の邪魔をさせないようにする。

 

『GYAAAAッ!!』

 

 何が気に障ったのか。それとも、その咆哮が標準なのか。物凄い轟音が耳に響く。

 

 

 スイッチを入れ、敵意に殺意で返答する。

 小手調とばかりに、アヴァロンに収まったエクスカリバーの柄に手をあて、

 

────()()

 

 

 放出したエクスカリバーの光は、ヴォーティガーンに確かに当たった。が、ダメージを負った様子はない。むしろ強化されている。

 

 攻撃されたのが癪に障るのか、先程の十倍ほどのブレスを此方に放つ。勿論、ノータイムでだ。

 

────攻撃力が上がっただけの同じ手にかかるわけない。

 

アヴァロン(全て遠き理想郷)」「万物風化」

 

 アヴァロンによって勢い弱まったエネルギー塊を万物風化により消滅させる。固有結界内では魔力が使いたい放題だ。

 

「暴風雷雨」「乱気流」「──風王禍空」

 

 固有結界内を悪天候に変化させ、威力が上昇した竜巻を発生させる。さらに指向性を持たせ、左手の上で圧縮させ、槍の形にする。

 

「雷霆空縮」

 

 電気を纏う風の槍。これを量産し、それぞれ電磁砲として照射する。

 

 

『──────GHAAAAAA──…ッ!!』

 

 対するヴォーティガーン。先程とは桁違いの咆哮で迫り来る雷槍を掻き消す。そのうち、二、三本が消えぬまま突き刺さる。だがそれは擦り傷をつけるだけで硬質な鱗に弾かれる。

 

 成る程。どうやら、奴は体に触れた聖剣の光を喰らうようだ。

 

 

 

 

 

………オイオイ、俺の天敵じゃねぇか。

 

 

 何か、手は無いか!

 

 

 

──焦る。

 

 

 70近くの思考を回して、対策を考える。

 まず、喰らえる光の容量にほぼ限界は無いだろう。奴が強くなる養分にしかならない。

 次にどんな光を吸収するのか、これに関しては未知数。エクスカリバーとガラティーンは少なくとも対象だ。太陽光などは喰らっていない為、魔術的に関わっているもののみか、それともただ単に食らっていないのか。

 体表は竜鱗に覆われており、その竜鱗自体が強い耐魔性を持っている。物理的な攻撃手段が必要だ。

 一際大きい咆哮は衝撃波を伴っており、ある程度の魔術では掻き消される。

 ブレスはタメが必要になる。ただ、チャージ自体は一瞬のため、ノータイム発射と変わりない。回数制限も特に無さそうだ。

 その巨体からはあまり早いスピードで動くことはできな──…ッ!

 

 

 いつのまにか視界から消える。圧倒的悪寒にすぐさま背後を振り向こうとする。背後には大きな鉤爪を振りかぶっているヴォーティガーン。

 

──意識が飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴォーティガーンの鉤爪。それはアヴァロン(全て遠き理想郷)の光すら喰らい尽くして、その持ち主へと攻撃を当てる。

 生存本能からか、咄嗟に急所だけは庇ったアーサーが背中から抉れた肉と背骨が見えながら大量の出血をして倒れ伏す。

 

 

 

 その傷は、固有結界内であろうと、再生するのに相当時間がかかるレベルのものだ。

 

 

 

 

 

 ヴォーティガーンは容赦なく、ブレスを溜める動作を行う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…────風王纒化」

 

 もはやボロボロとなり、立つことすら難しい我が身を鞭打って、強制的に限界を突破をさせる。

 

 傷は回復なんざしちゃいない。

 

 

 

 くは、ははははッ! 

 まだ死ねねぇ。

 

「──ははッ」

 

 

 自分でも何が面白いのか分からない。ただ、身体はまだ動く。なら、

 

 

 

「──、殺す」

 

 絶対に殺してやる。

 

 お前を殺した後に死ぬのはいい、ただ、今死ぬのだけはいただけねぇ。

 

 お前を残して死んだら、俺の国に危害を与えるだろう? 俺の国に、手を出させるかよ。

 

 こちとら、子供ん時から王としての責務を果たしてたんだ。そりぁ、愛国心の一つや二つ生まれる。

 

 

 

…コレは()()()()を救う戦いだ。

 

 

 

 

 せめて相打ちに終わらしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、片手にエクスカリバー(約束された勝利の剣)を握る。

 

 

…やっぱり最後はこれなんだよな。

 

 

 

 

 

 勝利が約束されんだろ。任せたぞ、と心の中で語り、剣を構える。

 

 

 思考をフル稼働させて魔力を凝縮。一片もの魔力を漏らさず、剣の芯に込める。

 

 

──魔力伝導率100%

 

 最高効率で魔力を込められた剣は最早一欠片も輝ず、刀身本来の鈍い鋼色が反射する。

 

 

 久しぶりに省略せず、言葉にする一節。

 

 

 

 

 

「──是は、()()を救う戦いである」

 

 

 

 世界を救うことが本質の聖剣が本来の力で応える。()()()()を救うために、と。

 

 

 限界を突破して強化された肉体がブチブチと音を立てながら、亜光速でヴォーティガーンの背後へと飛び込む。

 

 

(何が騎士だ、カリバーンよりもエクスカリバーの方がよっぽど最高だ)

 

 心に秘めた想いを曝け出す。

 

(マーリン、…俺は好きだったのかもな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────エクスゥ、カリバーァァァア!!」

 

 

 

 

 

 

 自らを鼓舞する生まれて初めて出す絶唱と同時に真名解放。

 高すぎる魔力密度により白く輝く斬撃は、ヴォーティガーンに触れるとともに消えていく。

 

(わかってるさ、()()限界は無いんだろ)

 

 

 何処かのヒーローは言った。

 

  Plus(更に) Ultra(向こうへ)

 

 

 

 ブレーキを踏まず、アクセルを全開にしろ。限界を超えるまで照射し続ける。

 

 

 いつのまにか、固有結界は切れた。それでも放ち続ける。

 

 ヴォーティガーンも負けんとばかりにブレスを放つ。

──再展開したアヴァロンで撃ち返す。

 

 ブレスが駄目なら物理で、

──ロンゴミニアドで捩じ伏せる。

 

 

 そうしているうちにもヴォーティディガーンの許容量は圧迫されていく。放出できないエネルギーが乱反射する。

 

 

 

 

 

 

 

 

──80%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────85%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────90%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────93%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────、95%

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足りない。クソがァッ!

 あと少し、死ね死ね死ね死ね死ね死ねェッ。

 

 

 

 

「ォォォオオォォオォオオオオッ!」

 

 

届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け。

 

…────届か、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、ふと声が聞こえた。男とも女とも判別がつかない、声。そいつは言った、

 

 

 

《あと少し、足してやろう。その代わり私達の依頼を受けろ》

 

 

 

──()()()()()()。力を寄越せ。

 

 

 

《……── 》

 

 

 

 ナニカとの接続が切れた感覚がした瞬間、聖剣はこれまで以上に力を放出する。

 

 オイオイ、お前、まだそんな余力あったのかよ…。いや、俺が引き出し切れてなかったんだな、わりぃ。

 

 

 

 

 エクスカリバーの魔力はヴォーティガーンの許容量を超えて呑み込み、全方位へとその輝きを散らしていく。その輝きは、ブリテンの大地へ恵みとなって降りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──とある円卓騎士の家族。

 

「パパー! この光なに? すっごいきれー」

「あなた、コレは…」

 

「…この輝き、魔力。…王よ、どうかご無事で」

 

 

 

 

──退避した太陽の騎士一行。

 

「コレは、我らが王の光か…」

「騎士長ッ!ガウェイン様の意識が戻りました! また、あの光に触れた箇所の傷が次々と埋まっています!」

 

 

 

 

──とある過保護な異父姉。

 

「何してるのよ! それじゃあ、モードレットに王を受け継げないじゃない。何よりあの子の目標であるあなたがそんなんでどうするのよアーサー!」

 

 

 

 

──とあるYAMAの幻想種達。

 

『遂にはそこまで至ったか。同胞を喰ろうて貰われたには、その分しっかり強くなって貰わんと割りに合わん。呵呵ッ!』

 

『幻想種を喰らいすぎて人の要素が減っているがのぅ。ま、食らわれることは弱肉強食のこの世界。故に抵抗はないし、面白い奴であったな』

 

『そろそろ私たちも用済み、ですかね。世界の裏側へと向かいますか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、随分と派手にやったねぇ。キミ」

 

 マーリンの声が聞こえる。視界は半分しか見えない。左目が潰れたみたいだ。体も動かせないが、根性でエクスカリバーを支えにしながら立ち続ける。

 

 女の前でカッコ悪い真似は出来ねぇ。

 意地でも痛みを我慢しながらマーリンの方へと目を向ける。その顔にはいつもと違い、影が差している。

 

「…どぅ…た」

 

 言葉も掠れてまともに出やしない。だがマーリンは俺の言いたいことを理解してくれた様で、頭が痛いと言わんばかりのポーズをしながら、応える。

 

「どうしたって…キミ。世界と契約したんだよね」

 

 世界と契約って…?

 そう思ってると、エクスカリバーを放った際に声が聞こえてきたことを思い出す。あれか。

 

「そう、それだね。大怪我もよっぽどだけど、ソレに比べればまだマシだよ。はぁ…、どうして私はキミに惚れてしまったのだろう?」

 

 なんて言ったんだ? 耳も聞こえなくなってきた。ただ、マーリンが顔を少し恥ずかしがっているのは見て取れる。

 

「全く、…こういう時に鈍感を発動させなくたっていいだろう! ばーか。…まあ、これからキミは過去に送られるらしい、依頼の、"世界を守るため"に。だから、」

 

────必ず、帰ってきてよ。なんでもするって言ったよね?

 

 その声だけは確かに聞こえた。俺は、少しでもその言葉に返事をしたくて…

 

「────()()、だ

 

 

 

 何処まで言えたかなんて分からない。身体の感覚も死んでいき、何やら、温かいものに包まれている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ暗になった視界が少しだけ見えるようになる。

 

──────星が、輝いている。

 

 燦々と、満遍なく。

 

 

 足元には小さな、地球。

 

 触ってみようと、すり抜ける。

 

 

 意識がはっきりとしていき、

 

 

 目の前に、一際輝く何か。

 

 

 

 何処からか世界の声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

《──()()で肉体を補って、世界を救え》

 

 

 

 

 

 輝いているのは杯だ。

 

 

 

 

 

 

 

 黄金の杯を掴む。

 

 

 ナカを覗くと、黒い液体。

 

 

 

 

 

 更に意識がはっきりとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──穢れた聖杯じゃねぇかッ!!!

 

 チェンジでッ!

 

 

 

 

 

 

 

 要求は通らず、容赦なく泥を浴びせられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ツッコミどころは色々あると思います(作者もあり)。
ただ、本当に書き溜めなしの勢い任せなのでご容赦を。

日間ランキング七位も本当にありがとうございました。4/3時点。

感想、誤字報告も助かってます。

僕は眠いです(3:25)。
グンナイ。


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星外の巨神

あらすじ回収!!!!


一万字近く行ってしまった。楽しかった。でも難産でした。
これは何回かに分けて書くべきだったかもだけど、分けたく無いので繋げました。

取り敢えずこれで、生前(?)は終了です。もしかしたらマーリン視点があるかも。

更新についてはこれから本格的に不定期となると思います。学校が始まるので…。

さよならはまた会う為のおまじない。


 聖杯の泥を被る意識の落ちた男。

 

 

 

 

────汚染。

 

 

 

 まさにその一言でしか表現出来ない。聖杯の泥、ソレは男の全身を蝕み、精神を殺そうとする。抑止にとってはその男の力だけあれば充分なのだ。

 

 死の淵にまで陥った騎士王の意思を侵す。只ひたすらに悪性情報を垂れ流す。世界中の不幸、無念、悲しみ、怒り、恐怖、死。これが情報の濁流となり、精神を壊そうとする。

 

 それと同時に本来ヒトが知るべきではない、知恵を詰め込む。世界の成り立ち、真理、概念、構造、深淵、根源、裏側。抑止はその男に自身が知る限りの情報を圧縮もせずインストールする。

 

 

 穢れた泥が騎士王の身体を構成していく。蒸発した眼球、背骨の見える背中、聞こえなくなった聴覚、炭化した両腕、潰れた内臓、動きの遅い心臓。それらの元の形に成り代わり、強制的な生命維持を為す。

 

 

 

 世界は、ただ、この男が使えればいいのだ。故にココロが壊れても体は残っていれば問題ない。寧ろ、自我がなくなれば従順な道具が増えて万歳。だからこそムーンセル・オートマトンと言えるものまでぶち込み壊すつもりでやっていた。

 

 しかし、世界の思惑とは反対に泥により生命活動が活発になっていくと、やがて男の自我はハッキリとしていく。

 

「―――かハァッ!」

 

 死者蘇生。その光景を再現するかのように息を吹き返す男。自身に何か支障が無いか記憶を思い出す。

 

 オーケー、俺はアーサー。転生して王になり、竜を討った後、マーリンと約束した。

 

 特にヤバいところは無さそうだ、と検討をつける。そしてなぜこんな状態になっているのか考える。

 

 すると、脳内に異常を感じる。

 

────幾億千。否、それ以上の思考を並列展開している。

 前までの俺では無理だったであろう数、そして人としての限界を超えた思考回路。その感覚に酔っていると、数十万程の思考が、情報を提供してきた。

 

 メインの思考であるオレは他の思考より随分と容量があるが、文学小説数十巻の内容を文字一つ余さず一瞬で叩き込んだ様な情報量に処理が遅れる。

 

 知恵熱の様なものを起こしながらも、徐々に自身の処理能力が加速していることを感じる。そして、処理した情報から、今俺がどうなっている状況なのかを理解する。まとめるとこうだ。

 

 世界から悪性情報と共に、さまざまな知識が与えられた。その内、元の俺の思考回路が無意識に解決手段を与えられた知識から探し出す。天文学的確率で奇跡的に対応知識にヒット。その結果、悪性情報の一つ一つを思考に変換していった。徐々に思考と泥の侵し合いは思考が逆転していき、体を構成していた泥を従える事に成功した、と。

 

 俺はそれを理解した上でこう思った。

 

―――――それなんて増え鬼?

 

 

 

 ただまぁ、無意識の思考に感謝だ。見えていなかった左目も再生しているので、ハッキリとした視界で自分の格好を見る。

 

 

 

 鎧は所々黒い光沢を放っている。

 

 ロンゴミニアドを抜く。──形が変えられる。元のランスの状態は黄金。スピアーの状態では真っ黒。禍々しい雰囲気がしている。

 

 風の魔術で圧縮してプラズマを発生させる。──黒い風が吹き荒れ、黒雷が発生する。

 

 アヴァロンを視覚化する。──翠の光が浮き上がり、黒曜の守りが目に映る。

 

 エクスカリバーを抜く。──持ち手と鍔は黄金だが、刀身は黒に変化して、装飾が赤く発光している。

 

 反射した刀身を覗けば自身の顔が映る。それは子供の姿ではなく、青年の姿になっており、右目は碧色。左目は濁った金色。

 

 

 

 

 

──────カッコイイ。

 

 

 ソレは男の好みに突き刺さり、厨二病を再発、より加速させた。何より、実用性があるのがタチが悪い。泥の黒を纏った箇所は全て何かしらの性能が上がっている。それが男を助長させた。

 

 

 男は調子に乗る。

 

 見た目だけでも、黒閃ッ! できるじゃね?

 

とか、

 

 泥自体はいくらでもあるんだから、リアル多重影分身で経験チートキタ!

 

 と、思っていた。

 しかし、次に情報統合用の思考から伝えられた情報によりその気分は一気に落ち込む。

 

 “過去、一万年以上昔に遡り、星外から訪れた対象を撃破する必要アリ”

 

 その情報とともに伝えられた説明が脳内に広がる。対象の個体名はセファール。破壊した分だけ取り込み、強化して神々諸共文明を破壊しようとしている。強化限度は在らず、抑止力も星の外から来た外敵のため、手を出せない。どんな魔術も無条件で吸収される。また、知性の存在しない生物を巨大化させ、凶暴化させるなんて能力もあるらしい。

 本来なら、オリュンポスの神々が力を合わせればなんとか打倒できるレベルではあったものの、物の見事に敗北し、相手の強化率もえげつない事となっている。

 また、過去の文明破壊により連動した現代の消滅が行われない様、文明破壊されている過去の世界の時間を限りなく遅くし、留めているという。

 ならなぜ始まっていないはずの後の時代があるかというと、鶏が先か卵が先か、といったメビウスの輪の様な終わらない概念にたどり着くため、今は省略する。

 

 

 つまり、引き伸ばしている過去の滅亡を防ぐためにセファールとやらを倒す必要がある、と。

 

 

────ざけんなコラ。完全にヴォーティガーンの上位互換じゃねぇか。しかもすでに十分強化済み。

 因みにエクスカリバーは効くらしい。元々、そいつら対策に作られたものだという。

 ただ、本当に物理攻撃かエクスカリバーしか通らないのでゴリ押ししかないらしい。被害は考えず、全力でやれと抑止力も許可が降りている。

 対策を立てようとすると、転送が始まる。

 

―――――おい、待て待て待て、

 

 作戦がまだ考えられちゃいない、という声を残して、時間を跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

地表が燃えている。

 

 

 

 

 

 

世界が燃えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文明らしきものは全て踏みつぶされた。

 

 

 

 

 

 

 

知性あるものは隷属さえ許されなかった。

 

 

 

 

 

 

 

早すぎる、と予言者はおののいた。

 

戦うのだ、と支配者はふるいたった。

 

手遅れだ、と学者たちはあきらめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、少しぐらい残るだろう、とアナタたちは楽観した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――()()が、姿を現すまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い、赤い死んだ大地。

 そこに一人、知性体が存在する。──過去に跳んできたアーサー王だ。

 彼は世界から受け取った情報と大幅に違うことに気づく。

 

―――時間を遅くし、被害を留めている? これの何処がだ。すでに手遅れにしか見えない。

 

 

 そしてすぐに納得する。

 そりぁ世界も焦るわけだ。いくら時間遅くしてもちょっとずつ進んでいくんだからな。じわじわと終わりが近づき、タイムリミットがすぐそばである事に冷や冷やしてたんだろう。

 

 

 神秘の濃度に少し息が詰まるが、インストールされた知識をのぞいている思考により対処法が伝えられ、すぐ様適合する。

 

 

──────周りには、炎、血、剥き出しの大地。全て赤い。所々に前世よりも近未来的な機械の部品などが転がっている。

 

 

 

 いくつか拾って脳内で思考に検索をかける。すると何件かヒットする。その知識をより読み解く。

 

 

──伝承の書庫

 

──ギリシャ神話の真実。

 本来のギリシャ神話では史実とは違い、宇宙から飛来した鉱石やエネルギー資源を加工して、文明都市として発展し栄えていた。

 また、神々はソレらを自身の核と共に体を作ることで、機神として存在していた。

 

 大まかにはこう記されている。

 嘘だろ、ロボット大戦かよ。イメージ壊れたわ。

 

 物凄いカルチャーショックを、受けていると、大きな地響きが鳴る。

 

 

 

 大地が唸る。グラグラと言った地震などと言う生易しい物ではなく、ガガガガッという風な地割れとでも言うべき衝撃波。咄嗟に震源の方角を向く。

 

 

 

 オイオイ…

 

「───────嘘だろ…」

 

 

 

 

 

 向き直った方角にいたのは正しく巨神。

 遠目からでも千メートルはある巨体、そいつが神々を相手に破壊を行なっている。

 

──破壊対象がソレであることを理解する。

 

 

 

 根源に接続して、自身の座標をズラす。

 目の前に映るのは全貌の一部、足の指の先だ。顔を見ようと上を見上げる。一キロほど先にある顔の瞳はこちらを覗いている。

 

 背筋にゾッとしたものが走る。

 

 

 後ろの神々を庇うためにアヴァロンを展開する。

 

「────アヴァロン(全て遠き理想郷)

 

 

 

 相手の蹴りに対応する様に黒曜の守りが形成される。――パキ、と亀裂が入る。

 

 

 は、意味がわからない。

 

 泥によって侵されつつも強化されたアヴァロンの守りが易々と壊された。

 

 そもそもアヴァロンとは六次元までのあらゆる干渉を遮断するものである。ソレが元の状態での出力だ。この時点でも破る様な化け物はいたが、基本的に無敵状態だった筈だ。

 

 ただ、このアヴァロンは泥に侵されて強化されたものであり、その強化率は実に二乗。三十六次元の隔たりを持った守りだ。それを破った。

 

 何の能力も使用していない物理攻撃でだ。

 

 世界三十六個分の壁を、物理で破る? 頭おかしいんじゃないか?

 

 何らかの神秘が関わるのであれば、納得はしないが理解はできた。──関わってないのだ。理解もクソもあるか。

 

 驚愕しているメイン思考の合間に他の思考が神々へ退避する様に声を上げる。神々は自身の及ばないものと理解したのか、納得しきれない顔で転移した。

 

 

 守りが完全に砕ける、その直前に俺自身も後退する。

 

 勝ち筋を掴もうと思考から情報を供給する。直後、知らなければ良かった、と言う情報が出てきた。

 

 

──技能の書庫

 

 

スキル──『遊星の紋章』

 

 自らの手で破壊した生命、建造物、概念を霊子情報として吸収し、巨大化していく。現質量と同じだけの量吸収することで生命力が上昇し、さらに前の構造体一回り大きな構造体(16、32、64、128、256、512、1024…)に達した時、次の段階に移行したとして能力値の桁が一つ上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――第七段階(1024m)でAランクの2000000倍に相当する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶望かよ。見たところ丁度第七段階のところだわ。

 

 ただ、重力などの影響からこれ以上上昇し続けることは基本的にないらしい。

──クソかよ。つまりは最終形態ってことじゃねぇか。

 

 

 

 足元から、巨大化した昆虫類、植物、魚、動物が飛んで襲いかかってくる。千を優に超えるそれらに若干の気持ち悪さを感じて

 

 根源接続、直死の魔眼──限定解除。

 

 頭が痛くなるが、すぐに情報処理を思考で分けて行う。

 

 泥によって形成された左目の色が濁った黄金から、透き通った蒼にかわる。原型の右目は変えられない。そのため、左の視界に集中すると、幾つもの線が巨大した生物たちに映る。

 ただ一つ巨神、否──セファールには映らない。

 

――――何となく分かってた。

 

 それを横目に、左手で風の魔術を襲ってきた生物の数だけ発動する。風刃がピンポイントで左目の視界に映る巨大化した生物の線をなぞる。

 

 直死。魔眼の名の通り、万物の死の概念を視界に写す。線となって見えるそれは寿命とでも言い換えることができ、なぞれば対象を殺す。

 正しく敵が神であっても、生きているならその線をなぞることで殺すことが可能だ。

 

 目の前に意識を戻す。

 当然、線をなぞった巨大生物たちは次々に生き絶えていく。

 再び、セファールに目を移す。矢張り、死の線は視えない。それは、セファールが単純に死の概念を持たない者であることを示している。

 死の概念がないなら殺せない、それは道理だ。なら、どうすれば良いのか?

 

 諦めろ、と言うものは残念ながら此処に居なかった。

 

────物理的に壊すしかないでしょ。

 

 正解です、と本人の脳内で難解な問題が解かれた様な衝撃が走る。間違っています、そう突っ込むものも居なかった。否、本人も分かっているのだ。諦めるしかないであろうことも。

 

 

 

 

 

 

 

────それでも、約束のためにはやるだけやるしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 その一心で、アーサーの精神は成り立っていた。そんな極めて不安定な精神状態の中、自身が感謝をしていることに気づく。

 

 

 幾多の試練を、倒すべき強敵を、守るべき約束を、こんなオレに与えてくれて、有難う。

 

 

 それは転生によって形成されていた精神の裏側で、元から存在している元来の英雄としての素質。本来のアーサーの気質であった。聖杯の泥により、二つの精神は溶けて、混ざり、合わさって固まっていた。

 

 やがていつかは気づいていたことではあるが、ここにきて正しく、本来の意味で俺がアーサーであると言う決定的な自己証明が完結する。

 

 己がアーサーである、と言う自覚をはっきりと持った俺はいつも通り、エクスカリバーを手に取る。

 

 

 此方に興味を失せていたセファールは、既に後ろを向いて文明の破壊を優先している。

 

「──ねぇ、こっち向いてよ」

 

 少しアーサーの口調に偏りながらも今までより言葉を発する口に、理解する。なんだ、体の持ち主を待ってたのか。

 

 セファールが意識を少しこちらに向けたことを感じる。

 

 

 多重泥分身──なんて、

 自身の体内で圧縮している泥に生命力を与えた上で、アーサーを型取り、分身を増やしていく。

 

 その姿はアルトリアオルタの男性化。俺の姿を黒の方に全振りした様な見た目。分身はそれぞれ同時に、セファールの体を転移しながら斬りつける。

 

 微々ながらダメージは与えている様だ。泥で模した黒い聖剣はその効果を発揮している。

 

 

 セファールは鬱陶しそうに、全身を払う。当たったそばから壊される前に泥に戻し再供給する。吸収なんてされたらたまったもんじゃない。

 

 そのうち全ての分身がなくなる。セファールの意識は再び俺に当てられる。その巨大な口が動き出す。

 

『貴殿らは愚かだ。他を退けて己をばかり優先する。故に星を出る前に我らがその文明を破壊しにきた』

 

 発生した風速何千kmもの空気の揺れを魔術で抑えながら、音の波を知識と照らし合わせ翻訳する。

 

「そうかもしれないね。ただ、それは君らも同じだろ? 俺は多少知識を持ってるからわかるけど、少なくとも君の星だって世界の管理者に関わるものじゃないだろ? なら、自らの考えで俺らと言う他を破壊して、自己を保とうとする君達も変わりないと思うけどね」

 

『…そうか、しかしそれでも尚我らは止まらない。それが星からの命令であり、悪しき文明を破壊することが我らの存在意義である』

 

「…そう」

 

「──じゃあ、戦おうか。

これは、自分の存在意義を守るための争いだ。この世界をタダで譲るわけにはいかない」

 

 

 そして戦いは始まる。

 

 魔力──装填。

 エネルギー転換。属性:闇、光

 

―――光と闇が両方そなわり最強に見える。

 最強を体現した聖剣は対星外存在を発揮して、開幕を合図する。

 

「────エクスカリバー」

 

 

 

 

 矢張り、開幕ブッパに限る(尊敬)。

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 削る、削る、削る。

 

 質量を、体力を、エネルギーを。

 

 

 

 殺す、殺す、殺す。

 

 死角を、油断を、痛みを。

 

 

 

 

 高める、高める、──昂める。

 

 集中を、威力を、────精神を。

 

 

 

 

 

 

 

 己の変化に応じた固有結界を何度も発動する。

 

 エクスカリバーを放ち、固有結界で自身の目の前とセファールの目の前をつなぐ。直撃、軽傷。

 固有結界からフェンリルを呼び出し、光と同じ速度で攻撃の影響がない範囲まで離脱。部位欠損。

 吹き飛んだ下半身を再生するために限定発動。再生時間2秒。再生完了。

 

 

 長時間の発動はしない。奴はこれを破ることができる。────アヴァロンを破りかけたのだから。

 

 

 一切の隙を見せず、小回りの攻撃を繰り返して確実に追い込む。三分の一ほど、削れただろうか。その時に、奴は重い腰を上げて、本気を出し始めた。

 

 

 セファールは右手に拳を構えて――、打撃。

 

 

 

 

 思考の数千個が一時的に使用不可になりながらでも、勘に任せて長距離を転移することにより何とか回避した。

 

 その挙動はギリギリ目で追う事ができた。ただ何秒経っても衝撃波や音は来ない。突き出した拳の先に目を移していく。

 

 

 

 

 

 

 

──空間が歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

…成る程。アレは何処かへ跳ばされる代物だ。

 

 まあ、

──────そうじゃなきゃ。

 

 驚きはするが、もはや諦める理由にはならない。純粋にその対策を考えつつ、これがAランクの二百万倍かと納得する。

 

 セファールは此方を振り向き、再び正拳突きをする。

 

 

 

──体感速度0.000000001倍。

 

 

 

 

 

 そこは時間停止と同じレベルの世界。水の中を歩く様に、セファールの拳の上を走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 擬似停止世界で十数年が経過する。

 未だに全神経を注ぎ続け、空間の歪みを避け続けながら漸くセファールの顔面に到着する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──体感速度1倍。

 

 いきなり加速した時間に全思考で追いつきながらも、俺はその体勢から勢いを加速させて巨大化させたエクスカリバーの黒い複製で大きな瞳を力任せに抉る。

 

 

 瞳の水晶体部分が突き刺さった時点で、セファールは目を瞑る。完全に手出しできなくなる前に、刺し切る。

 

 思考で適応させてノーリスクで使える様になった転移で距離を取り、手を握りながら体感速度を調整する。

 

「──何度か繰り返そうか」

 

 怯んだセファールに目を向ける。怒号を上げながらこちらに振り向き、右手で目を押さえて、再生させながら逆の左手で攻撃しようとする。

 

 再び時間を停止することで、拳の上に乗ろうとする。しかし、強烈な衝撃で、跳ね返される。空間の歪みに巻き込まれることだけは必ず避けるため、固有結界でセファールの背後に繋ぎ、そのまま吹き飛ばされる。

 

 急いで破裂した全身の修復に泥を回す。

 

 

「…どうやら奴さんも馬鹿じゃないみたいだね」

 

 全身の周りを高密度の純粋なエネルギーで纏い、触れたものの力を数百倍にして跳ね返している。

 

 残念。このままじゃあ、触れることはできない。エクスカリバーで無理やりこじ開けることもできるけど、セファール自身にはほぼダメージを与えられないし、すぐにエネルギーで固め直される。

 

──久しぶりに、剣術を使うか。

 

 

 

 

 

 

 

 技術次第で、魔法にも至ることのできる剣術。それならばあのエネルギー密度も斬るに至ることができるだろう。

 

 

 

──体感速度0.000000000000001倍。

 

 もっと思考速度を加速させ、エクスカリバーを握る。

 

 左の拳がまた、迫ってくる。

 

────避けはしない。

 

 真正面から受け止める。ただ、その手に剣を持ち、自身の最適解と思える動きを再現する。

 動く。修正。動く。修正。動く。修正。

 

 幾度となく繰り返していくトライアンドエラー。

 体感で数年が経ち、ある一瞬。軌跡に乗った気がした。その感覚を探し続ける。

 

 

 数千、数億と言う時の中、ひたすら追いかけ続ける。それだけの時間を用いてようやく、常用することができる様になった。

 その頃になると、自身の動きがどの様にすれば世界から抵抗を受けにくいか無意識に理解して、動きの最適解をも、適応させていた。

 

 自身の理想に辿り着き、体感速度を数段下げてていく。

 

 

 

 異様に動きやすい。それは最適解の影響であった。

 

 行動全てが最高効率を叩き出す。それにより、未だ時間を遅延させた中であっても普段通りの様に挙動できる。

 

 

 

 

 未だ目の前にあるエネルギーの壁を纏った巨大な拳。

 エクスカリバーを腰に構え、抜刀。

 

 

 秘剣────燕返し

 

 

 時間が止まった中で、エネルギーの壁を突き破りつつ、その巨大な拳を迎え撃つ切先の壁が出来上がる。

 

 

 

──体感時間1倍。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セファールの左腕が消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 反動で仰反るセファールを尻目に整った時間感覚を合わせる。それでも、異様に行動の効率が良い。

――まるで、反射神経に全てを任せている様に。

 

 その感覚に少し戸惑っていると、決定的なダメージを負ったセファールが、右腕で地面を穿つ。衝撃は地殻に伝わり、地面が破壊される。

 

 何をしているのか理解できない。

 

 そう考えていると、思考がこう訴える。自己強化ではないか、と。重力と言う制限下でも、一時的であれば無理ではないらしい。

 何を目的にしていたか分かり、それを止めようとセファールの元に転移で移動しようとする。

 

 しかしその頃にはすでに吸収を終えている様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第八形態──飛び、第十形態。

 

 

────8192m。負傷部分もすでに回復。能力値はエゲツナイ事になっているだろう。その姿で油断なく此方を睨みつける。

 

 どうやらこれで終わらせるみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 セファールが巨大な拳を引き絞る。その腕には魔術などではなく神秘そのものが纏っている。

 

 

 

 

 

 

 固有結界、完全展開。

 

──(地球)を塗り潰す。

 

「────ガーデン・オブ・アヴァロン」

 

 

 星見の塔、その頂点にある聖杯、流れ落ちる黒い水。満点の星空。白と黒の花。堕ちた赤い惑星。差し込む太陽光。

 

 その王である俺に、心象世界の効果がかかり続ける。超速修復。高魔力増強。斬撃威力強化。属性攻撃強化。聖剣の効果増強。

 

 

 醒めろ、聖剣(約束された勝利の剣)

 

 

 

 目の前の敵に全てをぶつけてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

「──闇黒と極光は混じり、一閃して異端を撃つ。

 

  是は世界を救う戦いである。

 

     ────エクスカリバー(約束された勝利の剣)

 

 

 

 

 

 

 生き残った神々は見た。

 

 巨大な拳と、光と闇の斬撃が互いに拮抗し、のちに斬撃が勝利する全景を。

 

 

 

 

 セファールと呼ばれる巨人が完全に消滅する有様を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは多くの伝承に残ることとなる。実在したか分からない。それでも世界を救うと言うシンプルな内容が多くの人に知られ、始祖の英雄として有名となった。

 

 魔術師の中には呼び出そうとしたものもいた。

 名前を知ろうとしたものもいた。

 痕跡を見つけようとしたものもいた。

 

 しかし伝承以外でそんなもの見つからない。見つかるわけない。

 

 なぜなら、アーサー王伝説の主人公が本人だから。

 

 

 

 当然、伝承とアーサー王伝説は別物であるというのが共通認識である。だって、知らない人から見てつながる点がないんだもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 泥を制御し、消滅した右腕を再生させる。固有結界を解除して、世界に呼びかける。すると、俺の目を閉じるのと同時に元の時間軸に戻るのを知覚する。

 

 

 

 

 

 

 寝転がっている様だ。

 目を開ける。目の前にはマーリンが映る。頭の後ろに感じる柔らかさから膝枕をしているらしい。

 

「なんだか久しぶり、だなぁ」

「ふふ、そうかい? 私からすると一瞬だったけどね」

 

 そりゃ実際に戦ってた時間はそんなに無いだろう。ただ、思考の加速で時間感覚が揺らいでるだけだ。

 

 そんなことを考えてると、頬に水滴が当たる。目を向けるとマーリンの涙が落ちてきた様だ。

 

「泣かないで、くれ」

「そんなこと言われても、止まらないよ。──これが悲しいって感情なんだね。…全く、本当に全く。約束通り帰ってきたのは嬉しいけど、すぐにバイバイなんて、ぐすっ――――寂しいじゃ無いか」

 

 足元から黄金の粒子となり消滅が行われている。

 セファールの件は緊急の依頼で、世界に受けた依頼自体はまだまだあるらしい。こっちこそ泣きたくなるぜ。まあ、そんなカッコ悪いところは見せられない。

 

 

「ごめん。最後に、色々伝えたい事があるんだ」

「ひぐ、うぅ。ゔん」

 

 

「キャメロットの後継はモードレッドに任せた。モルガンとも仲良くやってくれ。円卓の騎士には本当に助かったと、国民には今まで世話をかけたと、

──そして、マーリン。今までこんな俺を育ててくれてありがとう」

「ひぐ、ゔん!──うん!」

 

 

「あと、これ、伝えるのが少し恥ずかしいけど…

好きだったよ、マーリン。」

「ゔぅん! 私も大好き! もぅ、ばかぁ。もっと早く言ってくれればよかったのにぃ!」

 

 

「──そうか。ごめん、両思いだったんだな。良かった。これ、俺の魔力の結晶から作ったんだ。指輪、もらってくれるか?」

「…絶対、スンッ…外さないから」

 

 愛されてたんだなぁ、俺。

…そろそろ時間か。

 最後に、マーリンの顔に手を添える。

 

 

 

 

────嗚呼、本当に色々あったけど、楽しかった。

 

 

 

 

「──我が人生に、一片の悔いなし。…さよなら(またね)、マーリン」

「うん、──さよなら(またね)

 

 

 黄金の粒子が空へ飛んでいく。その下には、白い少女、マーリンが座っている。

 

 

 

 

 いずれマーリンは立ち上がり、キャメロットへと歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 伝言を伝えた後、自分は旅に出よう、そう考えるとなんだか爽快感が湧き出てくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとしきり泣き、涙はいつのまにか、消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大地を踏みしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一歩、一歩、確かにと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーサーの消えた場所には、花が咲き乱れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風が舞っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の旅立ちを後押しするように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この世界のブリテンは緩やかに衰退を辿りました。それでも、みんな幸せだったそうです。

おしまい。


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Episode."花"の魔術師

※挿絵アリ




コレは魔術師マーリンが「のこした」もの。

花の魔術師マーリンのお話。







 

 さて、

 

────王の話をしよう。

 

 

 かの王はブリテンに生まれ、数々の困難に呑まれつつもブリテン統一を成し遂げた上で、世界を救って居なくなった。泣いた。

 

 ンンッ、そこまで辿り着くことができたのは単に努力の人であったからだ、といえる。もちろん運や才能のお陰ででもあるが、彼の努力なしでは彼を語ることが出来ないだろう。

 

 

 

 また、努力とは別に常日頃、彼はナニカを見据えていた。

 それが「とある未来の可能性」というのは彼の脳内に与えた魔術、人生の軌跡とも言える記録型完全記憶式を写し取る最後まで気づけなかったけれどね。あれ私の杖の容量が圧迫されるから、なかなかやらないんだよねぇ。

 

 ま、もう絶対に消さないけど。

…コレは私だけの英雄譚だよ。誰にも知られない私だけの物語。

 

 

 

 

 

 話を戻そう。

 私が彼を努力の人というのには、それ相応の理由がある。その理由とは、…ひたすらえげつない量の努力を重ね続けるからだ。というか、生きている間はほぼ常に何かしらの努力をしてたんじゃないかな?

知ってるかい? 彼は魔術の操作性、持続性、威力、魔力消費量を極める為に彼の言うYAMAとやらで昼夜関わらず、年中無休で遠隔操作の魔術発動し続けていた。

 魔術を知ったその日から。

 

 

 これがどれだけ異様なことか分かるかい? 発動し続けてるんだよ? 一度発動して遠隔操作で終わり、じゃなくて、発動、消滅、痕跡から再発動、消滅の繰り返し、莫大な負荷がかかるのは分かるだろう。王だって魔力と肉体以外は基本的にスペックは人より高いくらい。その脳で生涯、発動の連続を記録し続けた。

 

 

 本人は並列思考とか言っているが、

────そんなわけ無いだろう。

 そもそも並列思考ってのはそんな楽なもんじゃないんだ。完全に全く別の思考が出来るわけではないし、思考は全て一つの脳に収まっているため、全体での情報処理容量に絶対的な限りが存在する。

 

 

 本来なら出来ないはずのそれですら「努力」の一言で片付ける精神は正直異常だ。

 

 

 だが、それらの超えられないはずの壁を着実に超えていった王には世界からの見張り(抑止力)が付くようになった。それのせいで私は自由に動けなくなってしまったんだけどね。申し訳ない。

 

 

 

 こんな事、愚痴愚痴言ってても意味ないね。うん、じゃあ彼──アーサーと私の物語を教えてあげようか。とは言え何処から話したもんか、…時間はたくさんあるし順番に巡ってみようか。それじゃ、始めるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ことの発端はアーサーの前王、ウーサーだった。

 彼は自身の子を自身の理想の王として育てるために最適な妻を探して遺伝子の操作をしつつ、私へ竜の因子を埋め込むように命じた。

 

 

 この頃の私はまだ、まともな感情と呼べる物が形成されてなくてね。アーサーの知っている「可能性」と同様に、絵に描いたようなハッピーエンドというものを信じていたんだ。その為に、出来る限りの時間を費やしてアーサーの誕生に手を尽くしたよ。今となっては嫌な思い出だね。いや、そのおかげでアーサーと出逢えたんだけども。

 

 

 そうして生まれてきた赤子を私が世話した。ウーサーは多忙だったし、嫌々結婚した母親は世話するほどの愛情すら注げなかったらしいし。

 

 

 で、特に手を煩わせることもなく育っていくアーサーに読み聞かせなどで知識を与えながらも、本当にこれで良いのか、とやったことない子育てに右往左往していたよ。

 

 

 四歳頃からかな? 彼が魔術を発動させた。やり方を分かってからは魔術を鍛えるように発動し続けたりしてたんだ。ちょうどさっき言ったようにね。

 

 それに加えてアレンジもしようとしていたんだ。でも、危なっかしくてねぇ。直ぐ暴発しそうになるんだ、でも結局はなんとか収まるんだけど。これに関しては生まれ持った直感を使いこなせたことが要因かな? 読み聞かせに正しいアレンジの方法についても加えることにしたよ。

 いやぁ、今考えるとここで危険性についての説明を選ばない所は私の長所であり短所でもあると思うね。

 

 

 ちなみにこの頃の私は、この成長速度が普通なのかな? …とか思ってたけど、全然そんなことなかった。もうちょっとしっかりしててもいいんじゃないかなぁ。自分のことだけど。

 

 

 そこから更に背が伸びて木剣を振らせるようになる。ただ、この段階で肉体を鍛えると身長が伸びにくくなり、将来的に間合いが小さくなるので技術だけを伸ばすことにした。まあ、うん、その前に身長は止まったけどね。

 

 

 まあ、技術を伸ばすには実践が1番ということで、私と手合わせすることが日課となった。ルールは自由で、負けを認めるか気絶するまで終わらないやつ。

 

 

 その成果のお陰か、技術的な成長に関しては完全に右肩上がり。途中で魔術も組み込み始めて結構頑張ってきた時、一度負けたんだ。あの時のことは克明に覚えているよ。滅多に無表情なあの顔のまま、ドヤ顔のオーラが激しくて少し笑ってしまったんだ。物凄く印象に残っている。

 

 あれが初めて感情を覚えた時かな? いや、それより前に勝負の時、勝った、と見せかけて負かしてあげたのが初めてだね。初めての感情は愉悦を感じたよ。

 

 

 その後、YAMAという場所で訓練をする許可を取りに来たんだけど、訓練するなら別にいいかな、ぐらいに考えて普通に許可出した。いや、YAMAって凄いんだね。

 

 

 そして彼の誕生日の数日前に固有結界が欲しいとぼやいていたのが何となく聞こえた。たまには親らしいことをしてあげようと、固有結界の取得方法を漁った。ただ、それをそのまま渡すのは面白くない、と私が生み出したものを継承する事にした。アーサーの驚愕に満ちたあの顔は、彼が生まれてはじめての表情だったと思う。私も驚いた。

 

 

 因みにキスは初めてだったが、上手くできた、と安心していた。その時の私はなぜ安心したのか分かっていなかったよ。悪戯でしかないのに、ってね。

 

 

 そして遂に運命の刻がきた。

 アーサーを選定の剣が突き刺さった岩の前に連れて、剣を抜かせた。無意識に本当にそれで良いのかって感じのことを聞いたけど、自分で仕込んだその罪悪感をいつの間にか感じていたんだ。

 

 

 そして彼は即日カリバーンを折った。アレには流石の私も大笑いしてしまった。本人も折れた剣を見ながら、無表情で困惑しているのも相まって物凄く笑ってしまった。その後開き直っていたのも笑った。許して。

 

 

 エクスカリバーとアヴァロンを渡すことで許してもらった。

 とはいえこんな早く渡すことになるとは思わなかったのでまだ子供の背丈で身長が止まるのも完全に想定外だったよ。

 

 

 そんなこんなで王にしては質素な日常を謳歌していたんだ。時には書類を片付け、フェンリルというYAMAから連れてきた従魔にモフられたり、ベットでドッキリをされたり、料理を食べさせて貰ったり、蛮族を駆逐したり。

 

 いや、ベットのアレは本当に恥ずかしい限りだ。そこから芋づる式で色々弱みを握られることにもなった。

まあ、アレのおかげで「好き」という感情を自覚したんだけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

──────忘れようか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⦅指定記憶欠落魔術式⦆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────、

 

 

 んん、何かあったかい?

 そうだね、彼がヴォーディガーンに遭遇して瀕死になりながらブリテンを守ったんだったね。あの時、彼に目をつけていた世界が滅多に上がらない腰を上げたんだよ。彼は勢いのままソレを了承したらしくてね。

 たしかにあの時の彼はカッコ良かったが、そういうところは直して欲しいね。

 

 

 それでウォーディガーンを倒した彼は、世界との契約どおり、過去諸共世界を救う為、時間逆行を行うこととなった。その直前に僕は彼に願ったんだ、必ず帰ってきて欲しいってね。丁度、僕の願い事なんでも聞いてくれるって言う約束が一回あったからそれを添えて。

 

 

 今ならどう言うだろうね。帰ってきたらまた一緒に過ごそうとか?──解らないや、過ぎたことだしね。

 

 

 そうして過去に飛んだ彼が帰ってきた。半身を悪に染められても尚、それを従える意思を持ってね。体が飛んできた彼に膝枕をしてあげ、上から髪を梳きながら目が開いたのを認識して声をかける。

 

 

 これを読んでいる人がいるかも分からないけど、その後のことはあんまり言いたくないや、でもこれだけは言っておこう。

 

 

 私と彼は両思いだった!

 

 

 いやぁー、内心小躍りしそうなくらい有頂天だったね。想いを伝え合ったあと、彼から指輪をもらって、お別れをしたよ。

 

 

 

 

 

 

──またね(さよなら)、ってね。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ー風が靡く。

 

 

 

 

 

 

 

 手紙はそこで終わっている。

 

 

 

 

 

 簡素な封筒に包まれた手紙。

 

 

 

 

 それは長い年月の間、朽ちることなく、異界と化した風の吹く黄金の花畑にそっと置かれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開いた者はいない。

 

 見つかりもしない。

 

 

 

 

 

 

 花々に囲まれて大切そうにされた手紙。

 

 

 

 

 

 花々を守る異界を創り出しているのは手紙だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その関係は民を守る王と、王を支える民の姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手紙と花畑だけの王の墓は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隔離された小さな永久に遺された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




旅に出たマーリンは現代の何処かで今も尚、感情豊かに生き続けている。

花の魔術師、マーリン
・見たくないという方は回避してください。

【挿絵表示】


以下、参考ポーズ元様
https://www.pixiv.net/artworks/33634799


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幕間──ステータス

ちょー楽しかった。

ストーリー短めです。




 世界の外側。

 光の届かない筈のその場所に俺はいる。黒い黒い景色。何処まで広がっていて、何処まで見えているのか、何があるのか、何処にいるのか。体の感覚が徐々に喪失されそうになる中、思考だけは只管に回転して、演算を開始する。

 

 億を超えた思考が自身の存在を観測して、存在証明を持続させていく。なぜ俺がこんなところにいるのか、それは世界の依頼を受けたからに他ならない。世界は未来の地球にある1人の作家が寸分狂わず無意識に予言した外宇宙の存在が入って来たことを警戒していた。しかし、相手はこの世界から生まれたものではないので排斥できず。ただ時間軸に関わらずに影響を及ぼしてくるため、歴史が崩れて人類滅亡に関わる。

 だから、入ってくる前という概念の世界線に俺を飛ばし奴等を連鎖的に消すため、依頼という形で見た目は対等の契約者である俺になんとかする様頼んできた。

 

 サポートなしで。

 

 あいつ、自身の痕跡がが残ることをビビって、俺を放り出しやがった。俺が帰れるのは奴らを倒した時だけ。

 ええい、こうなったらヤケだ。やるしか無い。

 

 空間を進む。すると目の前に早速、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(旧支配者)が見える。いや、見えるというのは間違いで、認識できると言うのが正しい。異形の存在を聖剣が照らしているのだ。これがなければ認識することすら難しい。

 

 もともとそういう"モノ達"に特攻の効果を持つ聖剣のお陰で、俺自身もその姿を見たことによる発狂もしない。見える姿は冒涜的だとは思うけど。

 

 

 多くの触手に傷を負っているように見える三十メートルほどの⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(クトゥルフ)は何処かを向いていた。

 

 世界が歪む。

 

 次の瞬間、目の前の異形は消えている。

 

 

 

 時を飛んだのだ。

 

 

 そして世界が割れる。

 

 修復。破損。修復。破損。修復。

 

 

 この舞台は奴らにとって脆すぎるようで、それでも互いに直しながら壊していた。

 

 わからないわからないわからない。

 

 異常事態が起こっているところに飛ばされたのは理解した。その異常事態がなんなのかを理解するために、思考の知覚範囲を広げる。面積的な意味ではなく、時空的な意味で。

 すると、10年後で変化が起こったり、1000年前で終わったり、1000000年後に始まったり。

 

 

──これはダメだわ。

 というか旧支配者と外なる神の全面戦争かよ。

 

 

 騎士王は激怒した。必ず、かの邪知暴虐の邪神どもを除かなければならぬと決意した。騎士王にはこの世の理がわからぬ。騎士王は、世界の救世主である。聖剣を抜き、マーリンとイチャイチャ暮らしてきた。けれども外なる者に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 

 

 

 体感で数年、千年、万年、億年、兆年、京、垓、?、穣溝澗正載極恒河沙阿僧祇那由多不可思議、

────無量大数。

 

 然り。

――かの騎士に時間の概念など等になく、あらゆる障害すべてをその聖剣で斬り伏せる、剣技。

 

 然り。

――その身に宿す、体を修復するために無数のあらゆる世界線から供給され続ける、実質永久機関である悪性情報の泥。

 

 然り。

――蘇るモノ達を、幾星霜も延々と殺し続ける、朽ちず、折れず、曲がらずの鋼鉄の意思。

 

 もちろん、初めは相手にすらならなかった。邪魔くさそうに払われる蚊のように、ひと仰ぎで全損。

 

 矛盾という常識を理解し、

──トライアンドエラー。

 

 異常が当然なのを認識し、

──トライアンドエラー。

 

 始まらない終わりを前にして、

──トライアンドエラー。

 

 

 得る経験と吐き出す技術。

 

 殺すより潰す。潰すより壊す。

 

生きているんじゃなく、存在しているのだ。ただの生物ではない。だから壊す。剣で、槍で、拳で、魔力で、結界で。

 

 終わることのない無謀な挑戦、それはいつしかまともな戦闘に届き、最後には圧倒的な殲滅へと変わっていく。

 

  全知全能? 

  不老不死? 

  不変不滅? 

  創造主? 

  造物主? 

  宇宙的恐怖?

 

 くだらない、全部俺に負けているじゃないか。

 

 碧色と鈍い黄金の双眸で見下す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異形の王、旧支配者、外なる神。

 

 

 

 

 

 

 積み重なった()()らの山に"泥"を広げながら座りこむ。

 

 

 

 

 

 

  ──王、と。

 

 

 

    誰かが呼んだ。

 

 

誰かが称えた。

 

        誰かが仕えた。

 

 

  誰かが…

 

 

 

 

 

    終。

 

 

 

『アーサー王伝説・裏』

      著者不明.年代不明.真偽不明

 

 

 

 これは存在して、存在しない、物語である。

 

 

 

 

 

 

  (え、なんでこんなになってんの?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

【ステータス】

 

 

【CLASS】 セイヴァー

【真名】アーサー・ペンドラゴン〔疑似反転〕

【性別】男

【身長・体重】181cm・68kg

【属性】 秩序・善・混沌・悪

【パラメーター】

筋力 A

耐久 B+

敏捷 EX

魔力 EX

幸運 B

宝具 EX

 

【クラス別スキル】

神性EX

対魔力A

陣地作成A++

騎乗B

狂化B

領域外の生命EX

単独行動A++

狂気C+

 

 

【固有スキル】

[赤き竜の徴A]

 ウェールズの竜の証。その魔力には赤い竜が幻視できる。

[竜の炉心EX]

 竜の因子を取り込んだため、無尽蔵に生み出せる魔力を扱うことが可能となる。

[魔力放出A++]

 魔力を消費して、ジェット機のように加速することができる。消費を減らし、効率を上げて瞬歩紛いができる。

[光闇の旅路EX]

 転生したアーサーの旅路。光と闇が入り乱れ混沌とした中、自身を貫き続けて辿り着いた。泥の闇をエンチャントできる。

[直感A++]

 持ち前の直感を日頃から意識的に鍛え、戦闘時に置いて、何倍にも鋭く感知することができる。このレベルになると未来予知。

[異形狩りEX]

 異形を討つための聖剣を手に、幾度もの狩りを続けてきた証。異形を相手にする時、自身の能力を数十倍に増幅する。

[風魔術EX]

 自身の才能を限りない努力で絞り出し、到達した頂点。風や空気に関することであればほぼ干渉でき、雷の派生もしている。

[泥の半身EX]

 瀕死の状態からその身の傷を聖杯の泥で埋めた。無限と等しい世界の人間達から悪性情報を収束して無尽蔵の永久機関となる。欠損はすぐさま自動修復される。

[根源接続EX]

 世界から与えられたものの一つ。アクセスに関しては完全にフリーで、滅多にいない根源接続者の1人。世の魔術師は羨ましがる。

[多重思考EX]

 億を超える思考の数々。それぞれが完全に独立しており、役割が決められている。体感速度など、思考に関わることならばほぼ何でも操作可能である。

[月面書庫EX]

 月面のムーンセルへ記録された情報を閲覧する権利。始まりから終わりまでの記録が残っており、あらゆる叡智の結晶を見ることができる。

[剣術EX]

 永い永い時の中、得た究極の技術。時、空間、世界、星。対象が何であれ、切れぬものは大体ない。

[不朽の精神EX]

 永遠に近い時を経ても変わらぬ心と精神。その在り方は不変でアーサーの完全無欠な自己証明の楔となっている。

[心眼(真)A++]

 数多くの鍛錬、戦闘によって培った洞察力。その場で導き出されるのは、格上相手に戦い続けた騎士王の戦闘術理。

[導くものA]

 アーサー王が民や騎士達をまとめ、導いてきた証拠。カリスマに拍車がかかる。

[直死の魔眼A]

 根源に接続することができるようになった上での魔眼発動。本家のそれと遜色ないレベル。

[魔性の貌A+]

 アーサーの顔は大人と子供のいいとこ取りをして黄金率を保っている。一目見て惚れたという者も少なくない。

[精神汚染E]

 聖杯の泥を被った時に発生したもの。特に悪影響はない。たまに深夜テンションが発動する。

[料理A]

 キャメロットでマーリンに振る舞っていた料理は逸品の一言。今世では才能に恵まれ、知識を活用し、様々な料理を賄った。世界からの依頼でたまに会うニヒルな赤い奴と情報交換している。

[自己改造B+]

 目的のためには、ひたすら努力を重ね、自己を改造していく。その異常性がスキルとなって生えて来た。別段特別な能力ではない。努力だ。

[神殺しEX]

世界の外側にて屠った外なるもの達。その悍ましい神性を滅ぼすほどまでに殺し続けた故のランクの高さ。

[星の開拓者EX]

星の歴史における重要な選択肢を選んだ者。ブリテン島における竜種の殲滅もそうだが、世界を破壊する星外の巨神が何よりのターニングポイントであった。

[概念改良B]

 武器などの魔改造を単独で行うことができる。その概念に対する改良を行う為、元よりも優れた概念となって再誕する。アーサーはアヴァロンの範囲などを拡大したりした。ランクはBなので、無茶な改良はリスクを負う。

[王の帰還A]

アーサーがマーリンと約束した「必ず帰ってくる」というものがスキルとして成った。どんな死地からも生き延びて帰還する。ただ、帰ってくるだけ。

[自己進化EX]

どんな状態でもさらに上を目指し、常に進化していく者に与えられたスキルとランク。その加速度はえげつなく、一度目で出来ないことを二度目でマスターするほど。

[完全なる形EX]

 自身の半身でもある泥が吸収した外なる神々のスキル。その姿は常に最高のコンディションを整えて不変なるものとして君臨する。意外と自由に姿を変えられる。

[高速神言A+]

 戦闘中に詠唱すれば威力は上がるが詠唱中に隙を見せる。その隙を無くすスキル。たまに噛むのはマーリンの癖に引っ張られている証拠。

[使い魔(神狼)EX]

 YAMAにて捕まえた相棒。固有結界内に住んでおり時たまに、もふもふさせてくれる。神々を壊し、吸収した影響が固有結界内にも現れた結果、神の狼として格が上がった。名前負けしないフェンリルちゃん♀。

話題になっている擬人化を習得しようと奮闘中。

ヴォウッ!

[死の淵A+]

 格上との戦闘で瀕死になり、死の淵に立っても、自己を強化して戦闘続行を行う。戦闘において死ぬことはまず無くなるランク。

[カリスマA]

 一国の王として生きてきた故のカリスマ。其れは、どんな状況でも従ってくれるという呪いのようもの。導くもののスキルも重なり、一周回って絶対命令レベルの効果を持つ。本人は使わないように注意している。りーだーとかむいてないし。

[王の威信A+]

 王が王として存在したからこそ、その覇気は民の信頼につながり、最高峰の王であると言われた。足りないところは民から補い、そのほかは自身の力で解決する。別名、社畜精神ともいう。

[世界の救出EX]

 依頼された世界の危機を救い続ける者。救った歴史は数知れず。世界は一つではなく、無限に存在して、平行線となっている。その全てから集まる危機を原点に近い世界で潰していく。連鎖的に危機は消滅して数多の世界を救う、ということをしている。全体での解決率は0.01%ほど。依頼の解決数は現在で万を超えている。そうしてまで救うのはマーリンに危害が及ばないようにするため。ちなみに本作の世界は自慢しながら他の世界にアーサーを貸している。転生者が入ってきたのはこの世界だけだったようだ。並行世界を行き来するということで、宝石爺と仲が良い。

 

 

 

 

 

【宝具】

神喰の狼(フェンリル)

ランク:EX 

種別:契約宝具 

レンジ:ーー 

最大捕捉:ーー

 

【解説】

 固有結界内から呼び出す神狼。もしアーサー本人がサーヴァント枠に押し込められて弱体化してもフェンリルは変わらず強い。対神の特性を持っており、足の速さ、攻撃の威力、固有魔術、毛並み、どれをとっても一級品どころか特級品。

 大体何でもできる。

 

 

 

 

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)

ランク:EX

種別:対界宝具

レンジ:1〜100000000

最大捕捉:100000000

 

【解説】

 エクスカリバーと一緒に渡された鞘。次元を隔てて自身を守ることに特化している。黒化した場合、36次元の壁を生成する。範囲に関してはアーサーの改造で一国を収めるレベルにまでなった。但し守りとしての効果は下がる。

 

 

 

 

 

『ガーデン・オブ・アヴァロン』

ランク:A++

種別:対軍宝具

レンジ:ーー

最大捕捉:ーー

 

【解説】

 展開する時間、範囲にもよるが、少しの展開ならば代償はほぼゼロ。無理をすれば世界を覆うことも可能。結界内は混沌とした理想郷が広がっており、アーサーの味方はバフ、敵にはデバフがかかり続ける。また、多数の幻想種が在住しており、その主としてフェンリルが存在する。その他、食材や道具などが多数保管されている。聖杯もある。

 

 

 

 

最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)

ランク:EX 

種別:対界宝具

レンジ:ーー

最大捕捉:ーー

 

【解説】

世界の最果て。そこにある輝きの一端を解放することのできる槍。黒化を自由に換装でき、世界の裏表を繋ぐものでもある。エクスカリバーが一点集中であれば、こちらは面攻撃を得意とし、穿つと言うよりも抉り取る。光の輝きは希望を表しており自身の味方にバフが、闇の輝きは絶望を表しており自身の強化が、副次効果として発生する。

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)

ランク:EX 

種別:対理宝具

レンジ:ーー

最大捕捉:ーー

 

【解説】

 アーサーがアーサーたる所以の逸話。黒化した時の真名解放は闇と光が備わり最強に見える。連発も可能であり、持ち主は通常攻撃をエクスカリバーにしている。その対象は世界を脅かす存在に果てしない特攻効果を得られる。まさに世界を救う為の宝具。

 

──対するは悪でなく、世界の危機。

 

 

 

 

 




僕の考えた最強の主人公。

気が向いたら続きやります。


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蒼銀のフラグメンツ
蒼銀 ACT1


あーあ。書いちゃった。見切り発車。今度はだいぶお先真っ暗。
日記形式で書こうとしてたら聖杯戦争が七日間であることを忘れていたでござる。
テストみたいな感じで投稿するよ。兄貴姉貴たちは更新はしばらくないと思って。
気が向けば続くよー。


 時は1991年。⬛︎月⬛︎日。某所。

 

 

 

 

「ああ、どうして、そんな──」

 

 ひらりひらり、蒼と金の少女は嘆く。

 

「どうしてこの世界にいないの?」

 

 全能が故に見ることが出来てしまった並行世界の自分の可能性。そしてその結果、堕ちてしまった恋。この世界はそれが叶うことはないと言う。

 

 調べた、しらべた、シラベタ。

 

 この世界に王子様はいるのか、と。

 

「ねぇ、──アーサー」

 

 蒼い瞳を煌めかせて、探し続ける。他の自分は出会う王子様は本当にこの世界にいないのか、と根源に問い掛ける。返される答えは、

 

 存在しない

 

 その一言。

 何度問い掛けても変わらないその答えに、彼女──沙条愛歌は、生きる意味を感じなくなっていた。

 表情は薄くなり、見た目も相まって氷のような印象を受ける。笑顔や優しさを浮かべることなく、機械として最低限の生命維持で動く人形のように。

 

 

 彼女は諦めていた。白馬の王子様は現れない。聖杯戦争に参加したとしても、世界がいないと断定した者を呼び出すことは厳しいだろう。聖杯を使って、並行世界から召喚すればいい? 他ならぬ並行世界の私自身がそんなことを許すわけないだろう。独占欲の強さは自覚している。

 

 それでも諦めることはできず、最後の希望として聖杯戦争の英霊召喚に縋り付く。来ないのは分かっている。存在していないのだから。

 それに加えて、──なぜか知らないが、この世界のアーサー王伝説は他の世界とだいぶ違う。どれがオリジナル、というのが決まっているわけではないが、周りの並行世界からすると大分、変化していた。それとは別に始祖の英雄なんていう物語が流布している。この物語が、アーサー王伝説の知名度を相対的に下降させているのだろう。アーサー王の認知度は高くなかった。始祖の英雄の物語は愛歌自身幼い頃に聞いたことがあったため、並行世界を覗いた時、どこにもなかったのには驚いた。

懇願により過去を探ろうとするが、どうも靄がかかり隠蔽されているのか見ることができない。おおよそ他の世界にはないような出来事がこの世界の過去に起きていたのだろう。

 アーサーを呼び出せないことを知った愛歌は、絶望によりある程度仮説を立てると疑問を抱こうとも思わなかった。

 

──自分がどれだけ異常な世界に生まれたのかも知らずに。

 

 そして時は訪れる。

 英霊召喚の儀、意味はないだろうと思いつつ、最後の賭けとばかりに、全ての魔力とありったけの想い〈怨念〉を込めて詠唱する。

 

──アーサーを寄越せ。

 

 いない者はいない。そんなことは既にわかっているのだ。それでも、願わずにはいられない。其れが恋であり、愛なのだから。

 

 

 吹き荒れる魔力の爆風。それは愛歌の持つものから、召喚対象のものに移り変わっていく。魔力光は蒼銀から黄黒へと変わる。

 

 

 

(これは……魔力の色からして彼じゃなさそうね)

 

 

 最後の希望を失い、自殺しようかと思案する。

 

 目を瞑り、いくつかの方法を考える。

 

(首吊り、落下、窒息、ナイフ、英霊。うん、英霊さんが良さそうね。じゃ、殺してもらおうかしら。

 そういえばどんな名前の英霊か知らないわね。まあいいわ。今更関係ないし、殺してもらいましょう)

 

 目を開けると目の前の英霊が名乗る。

 

 

 

 

「セイヴァークラスで、参上した。真名をアーサー・ペンドラゴンと言う。よろしく頼む」

 

 

「いきなりで悪、い…けど……殺し、──ッえ?」

 

 

 その英霊は決して白馬の王子ではない。自分が望んだのは「白馬の」王子様だった。しかし、目の前の英霊は光と闇の混じった王子様だ。同じ王子様であることに違いはない。初恋を有り得ない形で拗らせていた愛歌は動揺して、いつもの余裕を崩す。それにより勢い余って出てしまった本音。

 

 

 

「え、好き。結婚して」

 

 

 

 

──端的に言えば、タイプだった。

 

 

 闇と光を備え持った王子様。まさに一粒で二度美味しい。

 これは、ものすごい拗らせ方をして恋に堕ちてしまった少女のお話。 

 

 

 

────────

 

 

 

 召喚されたら求婚された件。

 ははは…ワロエナイ。え、いやなんで? 確かにこのアーサーボディはイケメンな上に高スペックだが、だからといって英霊召喚するような魔術師はこんな一瞬のことで色恋沙汰に溺れるとは思えない。いや例外は有るけれども。

 跪いて伏せていた顔を上げ、マスターとなる人物を見上げる。

 

 あっ──なるほど、愛歌さんですかそうですか。これはこれは…うーん、どうやら一目惚れされてしまったみたいですね。

 …最終的に世界壊そうとするヤンデレ系メインヒロインの恋愛シミュレーションって無理ゲーじゃないですかやだー。

 

 速やかに事情を確認するため俺をここへと追いやった輩と交信を取る。なになに、アーサー寄越せってうるさいから召喚させちゃった、休暇とでも思って偶には自分の世界も救えって?は?

 

 意味わからん。ばーかばーか。結局救世させてんじゃねぇかよ!え、それに加えて能力値も制限されてるって?──今更ステータスが意味持ってないの分かって言ってんのかよっ。……絶対わざとだろうな。

 

 数多の世界救済、即ち救世という重労働で鍛えられ尽くした我が身は、ステータスで測れるようなスペックをしていない。例えば技術、いくら制限されても最適な体の使い方が分かってるなら音速程度は容易く超越できる。

で、問題は目の前の金髪美少女。どうするか。

 

 彼女の名前は沙条愛歌。結論言うと、恋を拗らせて聖杯戦争で人類悪呼び出し、愛のためなら東京すら壊滅させてしまうデストロイヤー。

 まあ、現段階で何かやらかしているのかと尋ねられれば「NO」と答えられるだろう。彼女が狂い始めたのはアーサーに出会った瞬間からだ。

 

──アーサーに出会った瞬間からなのだ!

 

 大事なことは二度言う。これ太古から言われてるから。

 というわけで、ワタシ、アーサー。マナカ、デアッタ。つまり、東京壊滅への道が今この瞬間スタートしたわけだ。あとは俺のこのベテランセイヴァーの手腕でどうにかしてこの世を守るというパターンの筈なのだが…。

 

 求婚されたよ。え、どうして。原作ではされなかったはず。記憶は薄れて無いに等しいがこんな展開あれば絶対覚えている。物語の序盤だぞ、こんなインパクトがあるストーリーだったならまず忘れないだろう。

 

 と言うことは、──原作乖離、おめでとう。加えて破滅に向かっているか、希望に向かっているかは不明である。いや、彼女が正直な気持ちを表現してくれたってことは、多少なりともいい方向へ向かっているのでは?向かっているといいなぁ。

 

 で、返答をどうするか。目と前で告白してきた全能の少女は自分の発した言葉に驚愕しているらしく、動揺と混乱で目を回して固まっている。

 

 YES or NO。YES、と答えたいところではある。不誠実ではあるがその方が世界の救済に近道だろう。が、俺は彼女のことを深く知っているわけではないし、心に決めた夢魔がいる。指輪も渡したしそんな不誠実なことはしたくない。や、彼女ならケラケラ笑いながらオッケー出しそうだけど、俺の矜持に関わるので無し。

 

 だからといって NO?いや、それこそ東京崩壊を加速させるだろ。それ以前に、自殺するかもしれない。この少女は自殺しようとしていたところが召喚時に確認できた。流石に何もしていない少女を見殺しにするのも騎士として如何なるものか。

 

 あぁ、わかってる。甘すぎるんだ、俺は。俺は天秤を用意されたらどちらかに偏ろうとしない。しかし、触れないわけではない。どちらかに偏らないよう、どちらにも重りをかけていくタイプだ。

 

 片方を捨てられず、両方とも救おうとするのが俺だ。だから、この全能の少女と世界を釣り合わせた天秤でどちらかに偏ることができない。

 

────それが、俺だ。

 

 では結局返答はどうするのか?YESもNOも選べない。沈黙はもってのほか。俺は言葉を選びながら回答を述べていく。

 

 

「お友達から、でよろしく」

 

 

 ぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁああああ。

 言ってしまった、このクズの如き回答を。何が「お友達からでよろしく」だよ。 NOともYESとも答えず期待を持たせながら曖昧に誤魔化す手法とかクソだな。

 

 そも、俺に恋愛関係の問題を振るな。俺の恋愛観は小四で止まっているんだぞ。マーリンとはなんだって?あれはノーカン。人間相手じゃねぇし、若干幼馴染属性入ってた気がするから(気の所為)。

 まあ恋愛関係の経験アレコレは置いておいて、ひたすら怪物と戦い続けた俺だぞ?人間関係すら殆どの間築けていなかった俺がいきなり求婚を受けて対処できるかと問われても答えは分かりきっている。

 

 無☆理

 

 そんなクズである俺は目の前を恐る恐る観察する。

 

 

 

 

 

 少女は有頂天になって喜んでいた。

 

 アッ、選択ミスった。

 

 どうやら、自分でも断られると思っていたみたいだ。完全に断られなかったところからまだ希望があると考えたらしい。断ったほうが正解であったか。

 ふむふむ、ゆ"る"ざん"ッ!

 

 

──────────

 

 

 幕は切られた。故に戦いが始まる。動き出す7つの陣営で絡まる思い。誰がこの戦の行く末を予想できるだろうか。無理矢理引き摺り出された救世の英雄による影響はいざ知らず。

 それでも変わらぬ理がただ一つ。

「──聖杯が叶える勝者の願い、のみだ」

 

 全ての陣営が知と勇を持って己の力を証明する。卑怯なんて存在しない。できること全てが実力である。

 

 さもありなん、この世の歴史上最も組み合わせてはならない二人の陣営は戦いに参加する。

 他ならぬ「愛」をもって。

 

 

 

聖杯戦争の運命は破滅系根源の姫と混沌系救世の王を中心に巡り始める。

 

 

 




この間数十秒。

前回までの内容が頭から飛んでて地獄を見た。


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