PBWキャラで異美肉したら黒歴史がダース単位で襲ってきたけど、私は元気です (セレンディ)
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 突然だが、PBWというものをご存知だろうか?

 Play By Web というものの略称で、文字通りwebで遊ぶものだ。語弊を承知で大雑把にするならば、Web上でやるTRPGとでも言えばいいだろう。

 TRPGを知らない? ははは、このような場でTRPGを知らないなどモグリか何か……え、マジ? とはいえ、ここでここで説明するよりもっと詳しく、判りやすく説明してくれるものがWebには転がっているので、知らない諸兄は参考情報程度にそれを探してほしい。

 さて、PBWはWebで行う都合上、少なければ数人から数十人、企業経営型PBW等の多ければ数万人単位でキャラクターが作成され、そのうちの何割かが同じ世界で稼働し続けることとなる。プレイヤーは作成したキャラクターを動かし、抽選を勝ち抜いた数名、もしくは大人数で事件、シナリオに参加し、規定文字数以下の行動指針を提出。後に、行動結果は小説となって納品される。基本プレイパターンはこんなものである。

 一方、基本と言ったとおり、別種の楽しみ方も存在する。プレイヤー主催のコミュニティに所属して雑談やなりきり会話、つまるところロールプレイ(RP)を楽しんだり、登録されたイラストレーターに依頼してキャラクターにイラストを付けてもらうこともできる。余談だが、このイラストレーター、大抵はアマチュアでそれなりなのだが、時折プロが趣味と実益を兼ねた片手間で登録し依頼を受け付けていることがあり、その場合の抽選倍率は目も当てられない事になる事が多い。本当に余談だが。

 そして、ここに一つ、問題が発生する。RPを繰り返し行っていると、「設定がいつの間にか生えている」のだ。PBWをご存知の諸兄には同意いただけると思う。そして、その肝心の生えた設定とやらは、プレイヤーのノリと勢いにより制御を完全に離れており、場合によってはPBW運営側から「その設定ゲーム内では使えませんよ(の、迂遠な言い回し)」とされてしまうような設定すら生えることがある。簡単なやつでは戦闘狂になってしまったり、ひどいと現代学園モノ世界で御伽の国からやってきたマスコット人形が意思を持って動いている、などなど。大抵のプレイヤーは、慣れていない初期ならばともかく、段々とゲームの設定と折り合いをつけたキャラ設定に落とし込んでゆく技術をつけるものだが、そういったプレイヤーであっても初期にはいろいろと「やらかして」しまった事もそれなりに多いのではないだろうか。あるいは、シナリオがエンディングを迎え、終了した、もしくは後日談期間の時にはもはや自重する必要がないため(そして運営も抑える必要がないため)、どこかの王になったとか鍛錬によりレベルがぶっ飛んだとか不老不死になったとか後付の設定がガチャガチャを回すレベルで生産されるのだ。

 ここで、問題が発生する。

 

「……えぇと……は、ハスミさん、その、ちょ、ちょっと個性的なステータスですね……」

 

 登録窓口の受付嬢が、横に表示されているステータスボード?の表示が、もう、目を覆わんばかりに荒ぶっているのだ。

 

名前:ハスミ・アレグチ

レベル:129

年齢:27(342)

性別:女性(不定)

種族:まつろわぬモノ

職業:まつろわぬモノ、黒蟲の宿主

HP:7040+20640

AP:342/6040+5160

剛毅:256+256

技巧:128+256

叡智:192+256

称号:ジャイアントキリング、オロチイーター、教師、狂気よりの生還者、闇よりの生還者、吸血鬼の友、青森まつろわぬモノ部族の長、人類の守護者

犯罪歴:なし

 

 とりあえずの抜粋だが、いろいろと酷い。最初2つと最後以外の称号が、年齢が、性別が、目も当てられない。

 一方、通常はこうらしい。受付嬢がステータス例を見せてくれた。

 

名前:

レベル:1

年齢:15

性別:男

種族:人間

クラス:戦士

HP:20

MP:20

力:10

体力:10

器用:10

知性:10

精神:10

幸運:10

称号:なし

犯罪歴:なし

 

となる。思わず額に手をやると、受付嬢がビクッと震えて椅子ごと後ずさった。

 

「た、食べても美味しくないです!?」

「食べないわよっていうか人類の守護者だから、味方側だから! 落ち着いて!」

 

 悲鳴と、反射的に叫び返した声に、なんだなんだと周囲が目を向けてくる。ビビりまくった受付嬢と、両手を彼我の間にあるテーブルに付いて少し腰を上げている自分。どっちが悪く見えるかなんて考えなくてもわかるので、声のトーンを落とし、宥めるように、というか事実宥めている声で受付嬢に話しかける。

 

「というか、身分証がないと困るのよ。衛兵に聞いたら、三日以内に仮身分証から本身分証に移行しないとお金帰ってこないし、お金を稼ぐことすら厳しいし……その、なんとかならない? 騒ぎのようなことは起こさないことを約束するわ」

「でででででっ、でも、このステータスだと、さ、最低でも体力が10無いとすぐ死んじゃうから登録が……」

「あ、そういう足切り条件あるのね? た、多分……剛毅が力と体力を兼ねてると思うわ……」

「そんなステータス聞いたこともありませんよぅ!?」

「デスヨネー……」

 

 前途多難である。

 さすがに山賊生活などは、曲がりなりにも秩序側に属していた人間……もとい、モノとして許容しかねる。かといって、身分証がなければとりあえず糊口を凌ぐための就職すらままならない、ということも事実である。

 進退窮まってきたなあ、とハスミが遠い目を仕掛けたところ……

 

「エヴィー、どうかしたの?」

 

 救いの神が来た。

 

「あ、せせせせせ、せんぱぁ〜い、こ、このひと、すてーたすが、ステータスが……」

「うぅん……? エヴィー、ちょっとどいて、見せて?」

 

 受付嬢……エヴィーというらしい……が、救いの神、もとい先輩受付嬢に泣きついて。名も知れぬ先輩受付嬢は、エヴィーの代わりに席についてステータスボードを怪訝そうに覗き込んだ。

 

「……ナニコレ……?」

「デスヨネー」

 

 知ってた。

 

「ねえ、別に特別扱いとかをしてほしいわけじゃないの。単純にお金稼ぐにしても何にしても身分証が必要だから、それがほしいだけなのよ。なんとかならない?」

「その……私では判断しかねます……」

「デスヨネー」

 

 知ってた。

 

 ■

 

 最初に感じたのは眩しさ。次に困惑。

 

 ――自宅で寝に入ったはずなのに、なぜか見覚えのない鬱蒼とした森で横になっていたのだから、そりゃあ困惑もする。

 

 次に、恐怖。

 

 ――クマっぽいが何かが決定的に違うクリーチャーが、自分を捕食者の瞳で見つめていれば恐怖は当たり前に感じるだろう。

 

 さらにその次が、また困惑。

 

 ――太めの三つ編みを翻し、必死に逃げるも追いつかれ、クマもどきによる横薙ぎの一撃がヒットするその瞬間、何かテクスチャが崩れたかのようなホログラムのようなものが現れてクマもどきの一撃を防いだばかりか、思わずガードするように出していた手には大きめの両手剣のようなものまで握られていれば、困惑もするだろう。

 

 そして、既視感。

 

 ――その両手剣には見覚えがあった。PBW「銀のエイドリヒ」にて、8年ほどの期間を共にしたマイキャラクター、荒口玻澄のメインウェポンである。武器デザインが人気で受理率の低いイラストレーターに依頼を繰り返し、やっとこさ依頼が受諾されて念願のイラストが納品されたときには天にも昇る心地であった。

 

 体が覚えていると言わんばかりに動いて、クマもどきを一撃で上下二分割。半ば予想しつつ、逃走中に近くを通った泉に自分の姿を移してみれば、自分の姿はその荒口玻澄の姿そのままであった。

 

 教師風の黒のタイトスカートスーツに黒ストッキングとパンプス。

 覚えているとも。

 荒口玻澄は、自分が初めて作ったキャラクターで、いろいろと思い返せば「やめてくれ、その黒歴史は俺に効く」状態となることも相当やらかしてきた。その一方で、思い入れというものが深いキャラクターでもある。

 ただ、PBWは永遠に運営されるものではなく、いつかストーリーが終点に至れば終わるものでもある。荒口玻澄には別れを告げて、新作のゲームに移ったはずなのだが……。

 

 なぜ、ここにいるのか。

 なぜ、自分は荒口玻澄となってしまっているのか。

 そして、過去の自分が色々と「やらかした」ことはどこまで反映されているのか。

 割とどころではなく、かなり気になってしょうがなかった。

 

 そして、後ほど明らかになる答えは「全部」だった。

 

 ◆

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」

 

 翌朝。

 ハスミは打ちひしがれていた。

 安宿の多人数部屋の安っぽいベッドの上で。

 全身に色々と言うに憚られるあれやこれやそれやなどの体液をこびりつかせて。

 枯れ果てた(精力的な意味で。命に別条はない……はず)男たちがベッドの周りに死屍累々と転がる中。

 

「やらかしたぁ……」

 

 話は昨日へと戻る。

 受付に、「手に余る、上司などに相談してくるので明日また来て欲しい」と言われてしまい、そもそも冒険者互助協会にたどり着いたのがそれなりの時間だったのですでに夕刻。仮に冒険者資格を手に入れることができたとしても、夕刻から仕事を探して宿代を稼ぐなどは難しかっただろう。

 互助協会併設の食堂兼酒場で、状況を見ていたオヤジの好意で一杯分のお茶をサービスとして貰ったものの、ここも終夜営業などではないのでそのうちでなければならぬ。どうしたものか、このナーロッパと形容できる一種進んでいてかつ遅れている西洋もどきの街中で野宿するのははっきり言って衛兵かなにかのお世話になるに決まっている。あるいはきけんがあぶない、といった事態に巻き込まれるかもしれない。かといって、縁もゆかりもないハスミに金を貸してくれる存在など、焦げ付かせて風俗落ち狙いの高利貸しぐらいしかいないだろう。

 万事休す。適当な樹上で過ごすかどうしようか、とハスミが真面目に検討し始めた時に、ソレは起きた。

 

「きゃ、や、やめてくださいっ!」

 

 アルバイトと思しき酒場のウェイトレスが、ガラの悪いタイプの冒険者に絡まれて、尻を触られている。こういうところに勤めていれば、そのうちこの手の輩に対する対処法などを学びそうなもの、あるいは先輩ウェイトレスからの横やりでも入りそうなものだが、あいにくと他のウェイトレスは全員別のテーブルで注文をとっていた。いや、それら全員が一種ガラの悪い連中なので、もしやグルだろうか?

 他の客は見て見ぬ振りというよりは、ソレぐらいは自分もしくは酒場側で対処しろというものなのか、ちらりと視線を向けることはあっても介入しようとしてくるものはいない。

 

(しょうがないなあ……)

 

 日本人一般市民特有の善性、あるいは「玻澄」としての戦闘能力を無意識にせよ意識的にせよ宛にしたのか、ハスミは席を立つ。すたすたとその現場に近づくハスミに奇異なものを見る視線がいくらか向けられるものの、ハスミと同じような行動に出るものはいない。

 

「はいはい、そこまでにしておいてあげなさい」

 

 声をかけ、介入する。ウェイトレスの尻を撫でていた男の手を引き剥がし、ついでに強引にウェイトレスの体を引いて自分の後ろに引き剥がし、かばう。

 そのような助けが来ると両者とも思っていなかったのか、ウェイトレスは何が起きたかわかっていないようなキョトンとした顔、一方でガラの悪い男たちも呆気にとられた後怒りに顔を染め、ついで助けに来たのがハスミ(ゲームのキャラクターは大抵が美男美女であり、ハスミもソレに漏れない)であるので顔をいやらしく歪めた。

 

「なんだよ、それじゃあ姉ちゃんが俺らのお相手してくれるってのか?」

 

 卑猥な腰つきと共にそう言った男たちは、ハスミがソレを断るとか、あるいは怒り出すところを想像していたのだろう。が、ハスミは数秒、それには答えなかった。

 

「……まあ、それも悪くないか、いいわよ、全員まとめて相手してあげる」

 

 途端、酒場全体がざわめいた。後ろに庇ったウェイトレスやガラの悪い男たち含め、全員から何言ってるんだコイツ的な視線が向けられる。

 この返答までの数秒間のハスミの思考はこうだ。

 

(相手、ねぇ……。品性が下劣なのはともかく、ファンタジー世界特有の荒事のせいかな、体つきは悪くないし、鍛え具合も上々、顔も悪くない……。……んん? あれ? ん? あ、こいつら、とりあえず一晩だけ相手して遊ぶのにいいのでは?)

 

 PBWを深く遊んだことのある諸兄ならば、時に「キャラが勝手に動く」ことがあることは同意していただけると思う。今のハスミの状態はまさにそれで、「玻澄」の「設定」の通りに動いていた。一瞬だが彼らの相手をすることに意識を向けた瞬間、無意識ながら勝手に動く状態にシフトしたのである。

 

「え、あ、あの、そ、そんなっ……!?」

 

 庇っていたウェイトレスが血相を変えて止めに来るが、ハスミは止まらない。

 

「ああ、大丈夫大丈夫。あなたもこういう手合の対処の仕方、身につけなさいね。それじゃあ、行きましょうか」

 

 ニコニコ笑いながら、ニヤニヤしている男たちに腰に手を回されそのまま酒場を出る。さり際にウェイトレスにウィンクして、ハスミと男たちは夜の街へと消えていった。

 

 そして時間は今に戻る。

 勝手に動くのも永続するわけではなく、まあ大体やっていることに一区切り付けば制御は戻ってくるものだ。まあ、今更戻ってきても色々とアレだが。前世(仮定)では男性だったので、ハスミの体とはいえ男性を相手にすることに色々と抵抗が……とはならなかったが(その理由は察して欲しい。ただ、前世は決して両刀ではなかった)、とりあえず現状をどうにかしなければならない。

 破られたり汚されたりしたら嫌だから、と最初に脱いでいた昨晩の自分を褒めておこう。水差しの水で指先をきれいにしてからスーツの端に指で触れる。それから、スーツの、というよりは防具の付与スキル効果を起動させる。身だしなみは大事だから、と、ほぼフレーバー的な効果しか無かったがつけておいた付与スキルが功を奏したのである。

 指先でスーツに触れながら、自分の体を払う仕草を三回行う。それだけで、あれやこれやそれでドロドロの体が入浴直後……いや、その後の各種身だしなみその他まで完全に済ませた状態まで整えられたのである。その効果には服を整えることももちろん含められており、クリーニング&プレスを施されたかのようにパリッとした服を着直して、ハスミは部屋の入口にハスミを逃さないようにという意図で設置された、テーブルと椅子を積み上げたバリケードを元の位置に戻して部屋を後にした。

 ついでに、萎びている男どもの財布の半分を失敬するのも忘れない。

 宿の職員の化け物を見るかのような目を無視して、宿代は男どもから取ってねと伝えて、ハスミは安宿を後にした。

 

 ハスミは気づいていない。

 昨晩の乱交の最中、

 

「やめてやめてやめてやめてやめてぇーっ!?」

 

 とか、

 

「むりむりむりむりむりだからぁーっ!?」

 

 とか、

 

「おかおかおかおかおかおかーさーんっ!」

 

 といった、野太い悲鳴がひっきりなしに部屋の外まで聞こえてきていたのは既に噂になっているということを。

 ハスミを逃さないはずのバリケードは、男たちを逃さないためのバリケードとして機能してしまったことを。

 そして、その噂に「あの女、翌朝普通の時間にケロッとしたツヤツヤした顔で出てきた」という一文が加えられたことを。

 

 ■

 

 本日の黒歴史

 ・特徴:好色

 性的な衝動や誘惑に屈しやすくなり、性的なことに対するモラル、貞操観念などが大きく下がる特徴。

 衝動発生時や被誘惑時の理性判定にマイナス。

 モラル、貞操観念などの数値が大きくマイナス判定される。

 

 ・特徴:性豪

 枕事技能に長け、また耐久力、持続性にも優れていることを表す特徴。

 枕事における各種技能、耐久、持続判定にプラス補正。

 乱交や対多数を相手取ることによるペナルティを無効化する。ただし自身の性的指向に合致する対象からに限る。




どっとはらい


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