有馬記念、敗者たちの独白 (日向ヒノデ)
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2着ビワハヤヒデ

 はいどーも。
 はじめましての方ははじめまして、そうでない方は”こんなとこほっつき回ってないでさっさと続き書け”と吐き捨ててください。
 ウマ娘、最終話。耐えられませんでした。ですので、書きました。
 全員分書ける技量も知識もないので、一部分だけですが、暫くの間よろしくお願いします。


──1/2バ身、それが私とトウカイテイオーとの着差。

 ターフの上で、ウイニングチケットらの下敷きになるトウカイテイオー(勝者)の姿を見て、私は敗北を認めた。

 ”ああ、これは勝てないな”と。

 それは己が今まで積み上げてきた理論を否定するようなモノだ。

 自分が今まで必死に解き明かしてきた勝利の理論、だけどそれ以上に目の前の勝者はどこまでも絶対的で──

 

「お疲れ様、姉貴。レースは、惜しかったな」

「そうだな、ブライアン。まさかラスト100メートルで差し切られてしまうとはな」

 ウイニングライブを控えたビワハヤヒデは控室にて妹のナリタブライアンと会話をしていた。

 内容は先のレース、有馬記念。トウカイテイオーが奇跡の復活を果たし、己は二着に破れた惜敗のレース。

 

「あの瞬間、私の理論が木っ端微塵に砕ける音が聞こえたよ。まさか、一年ものプランクがあってあれほどの気迫を放つウマ娘が居るとは思いもしなかった」

「そうだな。あの瞬間のテイオーはまさに”絶対”だった。レースにおいて、絶対というモノは存在しないというのにな」

「ああ、まったくだ。──だが、しかし……勝ちたかったな」

 どこか清々しささえ感じる敗北の言葉。

 それを聞いたブライアンは、少し驚いたような顔をして。

 

「ハ・ヤ・ヒ・デ~~!! お疲れ様!」

「なんだなんだ?! って、チケットか。脅かすんじゃない、まったく……」

「ごめんごめん。落ち着かなくってさ」

 控室に乱入した黒髪ショートのウマ娘はウイニングチケット。ビワハヤヒデと同じく三強──BMWと呼ばれる括りの中、日本ダービーを見事勝利したウマ娘。

 

「私は11着でハヤヒデに負けちゃったけど、次は絶対に勝つから」

「今回、私は2着だったが次も先頭は譲らない。今度は1着で負かせてみせるさ」

 ビワハヤヒデとウイニングチケットはライバルであると同時に大の友人だ。

 戦友とでも称せるその関係に、両者は不敵に笑う。──次こそ絶対の勝利を、と。

 

「それだけに、残念だったな。……タイシン」

「そうだね。今回もタイシンと一緒に走りたかったな」

 ナリタタイシン。BNWの内、皐月賞を見事その驚異的な末脚で差し切った小柄なウマ娘。彼女もまた彼女たちの大切な友人である。

……だが、今回の有馬記念で彼女の姿はなかった。

 理由は体調不良。体調を崩しやすい彼女は、有馬記念を回避せざるを得なかった。

 そも、前走の菊花賞において体調を大きく崩していたナリタタイシンはブービー、それも先頭のビワハヤヒデから9秒以上もの大差で敗北。現在も中々調子が戻らずにいる。

 

「彼女の為にも、私の勝利の方程式を証明してみせたかったのだがなぁ」

「うん。本当に、勝ちたかった」

 ぽつりと未練をこぼす2人のウマ娘。照明の影のせいか、彼女たちの表情は誰にも見えなかった。

 

「──ビワハヤヒデさん、ステージお願いしまーす」

「了解した。……それじゃ、ブライアン、チケット、行ってくる」

「いってらっしゃい。しっかり見ているから」

「ああ、楽しみにしているぞ。姉貴」

 係員の案内に従ってビワハヤヒデは控室を出ていく。

 マイクを受け取り、ステージに上る。

 ステージにはナイスネイチャがスタンバっていて、少し遅れてトウカイテイオーがやってきた。

 ステージまで、あと少し。最後の打ち合わせも終わった。

 

 共に歌うウマ娘──己が破れたトウカイテイオーと、己が下したナイスネイチャの顔を見る。

 

「レースでは負けたが、ここでも負けるつもりはない」

「なーに言ってるんですか。アタシだって負けるつもりはないんだから」

「ふふん、僕ってば最強のウマ娘だから。──ここでも勝つから、絶対に」

 少し、三人で顔を合わし、ちょっぴり笑う。

……これなら、いつかのスピカのような失敗は有り得ない。

 

 さあ、ここからはウイニングライブの時間だ。ライブの方程式はもう導いた。

 2着に破れたものの、ファンの皆、同じチームの仲間たちに、そしてなにより戦友2人の為にも──

 

「──完璧なライブにしてみせるさ、絶対に」




 ビワハヤヒデ。私はまだ彼女のうまぴょいを見ていない。
 だから、頑張るよ。君と勝利の方程式を見つけてみせる。


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3着ナイスネイチャ

 ナイスネイチャ、良いですよね。私のイチオシのウマ娘の一人です。
 今回はネイチャ主観にしてみました。
 独白だからね、主役がメインじゃないと……。


 掲示板を見る。

 1着は3番、トウカイテイオー。2着は8番、ビワハヤヒデ。

 そこから3と1/2バ身離れて7番……アタシの、番号。

 

「凄かったよっネイチャ! おめでと~」

「あーうん。ありがとう、タンホイザ。……やっぱり、また3着か」

 二度あることはなんとやら。まさかこんな形で実感してしまうとは。

 悔しさでいっぱいになる。全力で、本気で、必死で1番を目指したのに、勝てなかった。

 精一杯を出し切って、ギリギリでタンホイザに抜かれるのを防ぐのが限界だった。

……優勝は、遠かった。

 

 ライスシャワー、ウイニングチケット、メジロパーマー……他にもG1を優勝した名ウマ娘たち。

 そうそうたるメンツでこれだけの成果を出せただけでも立派なんだろう。

 だけど、やっぱり、悔しくて。

 

「勝ちたかったね、ネイチャ」

「そうだね。アタシも勝ちたかったな」

 タンホイザと一緒に、悔しさをこぼす。

 

──さて。敗者としての未練はここでおしまい。

 勝者の同期ウマ娘として、奇跡の復活を遂げたウマ娘にすることは唯一つ。

 

「行こ、タンホイザ!」

「っ、うん! テイオーにおめでとうを言わなくちゃね!」

「ウェイウェイ! その話、うちらも一枚噛ませてよ!」

「……へ?」

……どっから聞いていたのやら。

 いつの間にか後ろにいたパーマーとチケットも一緒になって、テイオーに抱きつきに走った。

 

 

 

 ウイニングライブ、控室。

「それにしても、見事なレースでした」

「凄かったぞ! ネイチャもタンホイザもよく頑張ったな!」

「あはは、3着だったけどね……」

「それでも、ネイチャさんとタンホイザさんの奮戦は讃えられるべきですよ」

 カノープスの皆が健闘を讃えてくれた。

 悔しさがなくなるわけじゃないけど、誰かに認められたって事実が心を癒やす。

 

「ターボも走りたかったなー! ねぇねぇ、来年はターボも出られる?」

「そうですね……その時にならないと分かりませんが、みんなに愛されているターボさんならきっと出られますよ」

「ホント?! よーし、がんばるぞー!」

「勝負服も着ているし、ほんと、元気だね。ターボは」

 勝負服を着込んだぐるぐるお目々のウマ娘、大逃げで有名なツインターボ。

 彼女の元気さには元気づけられるし、同時に少し疲れもする。

 いつだったか、彼女のせいでチームルームが悲惨なこともあったっけ。

 

「トウカイテイオー、一年ものプランクがあるとは思えない勝利でしたね」

「……そうだね。あれこそ”絶対”って走りなんだと思うな」

「”絶対”ですか?」

「そうそう。なんというか、”何が何でも絶対に勝ってやる!!”って意気込んでいると言うべきかな。精神が肉体を凌駕している状態。ほら、オールカマーのターボとか、春天のライスとか。あのテイオーはまさにそうだった」

 ”レースに絶対はない”

 ウマ娘界隈でよく聞く言葉だ。

 一番人気のマックイーンが事実上の最低人気のダイサンゲンに破れたあのレース。アタシが初めて走った有馬記念での大番狂わせなんか良い例だ。

 どんなに強いウマ娘でも突然の故障でレース中止になることもある、どんなに人気薄のウマ娘でも色んな条件が組み合わさればどんな強者相手でも勝ちの目はある。

 だから、レースに絶対はない。

 トレセン学園に入ってすぐに痛感することの一つだ。

 

──だけど、偶に”絶対”というモノが生まれる。

 さっき上げたレースなんかが好例だろう。ライスシャワーや桜花賞を優勝したウマ娘が参加する中、ターボはトレーナーから教わった”秘策”を見事に成功し、”諦めない”ということをステージ上のテイオーに見せつけた。

 ライスシャワーの天皇賞(春)も良い例だ。私よりも一緒に走ってたイクノやタンホイザの方が分かると思うが、あれほど強烈な気力を放つウマ娘を私は見たことがない。もはやあれはウマ娘ではなく鬼とでも形容すべき存在だったと思う。

 

──だから、テイオーが勝つのはある意味必然だったのだ。

 絶対の意思で、絶対の走りをして、絶対の願いを持つ相手に、善戦しか出来ないアタシが勝つのは到底無理だったのだ。

 

「だけど、さ」

 制服に着替え終えたタンホイザが口を開く。

 

「悔しいよ、私だって勝ちたかったもん」

「そう、だね。アタシも一着取りたかったなぁ……」

 ちらりと見える真っ赤な泣き跡。それを見てしまったら、必死に蓋をしたあの感情が噴き上がる。

 悔しい、悔しい、悔しい!

 アタシだって1番を、G1という大舞台での1番が欲しいっ!

 その為に必死に頑張ったのに!

 

 アタシはまだ、悔しいと思えた。

 あんな走りを見せつけられてもまだ悔しい思えたんだ。

 

……なら、アタシはまだ勝てる。

 あんなキラキラを捕まえられるチャンスはまだある。

 必死に努力して、諦めずに前を向き続けて、あの輝きに手を伸ばし続ければきっと。

 あんな風に輝けられるはず。

 

「──ナイスネイチャさん、ライブの準備お願いします」

「はーい、今行きまーす。……それじゃ、行ってくる!」

 席を立ち、チームのみんなを見渡す。

 

「うん、観客席で見てるよ~」

「ウイニングライブ、楽しんできてください」

「ターボも見てるぞ! ネイチャ!」

「それでは、行ってきてください。貴方のライブはそれこそ誰にも負けませんから」

……なんだそれ、3着ばかり取ってるからライブは完璧だとでも言いたいのか。

 

 だけど、そうだね。

 ウイニングライブに参加した回数だけなら今回の有馬記念に参加した中でも1番。それも、去年と一昨年と同じ舞台でさらに三回目の3着。私にとってもはやおなじみだ。

 なら、テイオーにもハヤヒデにも負けない最高のパフォーマンスが出来るはず。

 そうすればきっと、あの輝きにも触れられる。そう、思うから。

 

 まだ誰も居ないステージ、こんな1着は大して嬉しくない。

 だけど、ライブでの1番は譲らない。そんな決意を胸に、ハヤヒデとテイオーの到着を待つ。

 

 

 

 数分も経たずにメンバーが揃った。テイオーが1番最後だったのは少し意外だったけど。

 打ち合わせも早々に終わり、あとは幕が上がるだけ。そこから先は最高のステージの始まり。

 

「──レースでは負けたが、ここでも負けるつもりはない」

「なーに言ってるんですか。アタシだって負けるつもりはないんだから」

「ふふん、ボクってば最強のウマ娘だから。──ここでも勝つから、絶対に」

 そうだ。アタシだって負けたくない。負けたくなかったからここに居るんだ。

 

──だから、今までで1番のパフォーマンスを。

 みんなに、今まで応援してくれたファンの為にも、チームの仲間たちにも。

 そして、自分自身の為にも。

 

……そうだ、投げキッスなんてどうだろうか。きっと、盛り上がるに違いない。

 そんなことを思いながら少し笑う。

 テイオーも、ハヤヒデも笑っていた。

 

 幕が上がる。

 さあ、ここからは最高のライブのお時間。

「──きっと、その先に行けるから。絶対に……!」

 

 

 

──後日、カノープスの部室にて。

 ライブ映像を見せられて顔を真っ赤にするナイスネイチャの姿があったのは言うまでもない。




 ネイチャで三冠取りたいのに中々勝てない。
 差しネイチャの楽しさは尋常じゃないのでおすすめです。


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8着ライスシャワー

 たぶんこの話で最後。
 ボクはね、お兄さまになりたかったんだ。


──この頃負け続きだよね、ライスシャワー

──そうだねーブルボンとマックイーンの偉業を阻んだのに全然ダメダメだよねー

 

 勝てなかった。

 また、勝てなかった。

 

 オールカマー、天皇賞(秋)、ジャパンカップ。

 全てのレースで敗北している。

 オールカマーの三着を除けば掲示板にさえ載れていない。

 

……そして、その度にライスを非難する声が大きくなっている。

 

 だから、今度こそと。

 今度こそ歓喜と祝福をみんなに見せてあげたい。

 その為にこの有馬記念に出走した。

 

……なのに、勝てなかった。

 ハヤヒデさんの走りに圧倒された。

 ネイチャさんの粘りに敵わなかった。

 タンホイザさんの努力に勝らなかった。

 パーマーさんの大逃げを捉えられなかった。

──そして、テイオーさんの”絶対”に追いつけなかった。

 

 絶対に、絶対に勝ちたかったのに。

 ブルボンさんとあの日、約束したのに。

 

 自分のバ番を映さない掲示板を眺めて、ちっぽけな心が泣き出す。

 足が、重たい。伏せた耳を持ち上げたくない、俯いた顔を誰にも見せたくない。

 だけど、だけど泣かない。泣くときは、幸せな時がいいから。

 必死に堪える。視界がぼやけるのは悔しいからと、言い訳をする。

 

──っ、うん! テイオーにおめでとうを言わなくちゃね!

 

 伏せた両耳が立ち上がる。

 どこかへ立ち去ろうとする左足が空で止まる。

……そうだ。祝福を、勝者には祝福があるべきなんだ。

 ライスにはなくても、彼女には絶対にあるべきなんだ。

 

 振り返る。左足を、声のする方へ。

 ぼやけた視界に映るのは、チーム・スピカの人たちと会話しているテイオーさんの姿と、こっそりと近づくネイチャさんたちの姿。

 一歩、踏み出す。二歩目は驚くほど素直に出た。

 

……ライスの名前は。

 

 テイオーさんがネイチャさんたちに押し倒されて、次々に”おめでとう”と祝福される。

 今にも零れ落ちそうな雫を必死に押し留め、不器用な微笑みを浮かべる。

 

……ライスシャワーの意味は。

 

「──おめでとうございます」

「ありがとう、ライス」

 

 ”祝福”、なのだから。

 

 

 

「……また、負けてしまいました」

「そうですね、ライス」

 控室に戻る途中、ミホノブルボンさんが蛍光灯に照らされる通路に居た。

……今一番会いたくて、一番会いたくない人。

 

「……ごめん、なさい。ライスは勝たなくちゃ、勝たなくちゃいけないのに……。そうじゃなきゃ、ライスは……っ!」

 涙が、一筋。

 

「あ、れ……? 涙が、ライスは泣きたくないのに、どうして……」

 喘ぎ声、通路を濡らす雫、そして……体を包み込む暖かな両腕の温もり。

 

「ブルボン、さん……」

「泣きなさい、泣いても良いのです。だってその涙は悲しいからではなくて、悔しいからでしょう?」

「え……?」

 優しく胸に抱きしめられ、ブルボンさんの言葉が心に染み入る。

 

「なら、大丈夫です。いつか必ず貴方は祝福されます。諦めない限り、きっと」

「──っ、うん……ライスはヒーローだから。必ず、勝つからね……!」

 涙を拭う。

 もう、泣かない。勝って、祝福をみんなに届けるその時まで絶対に、泣いたりしない。

 だって、私はヒーローなんだから。

 

 

 

「やっとこの時が来ましたね、ライス」

「うん。ずっと、この時を待っていたよ。ブルボンさん」

──宝塚記念、例年とは異なり淀にて花開く栄光の舞台。

 

「ダービーと同じく、逃げ切ってみせますよ」

「菊花賞の時みたいに直線で差し切ってみせるから。ライスの後ろでウイニングライブしてくれる?」

「まさか、ライスの方こそ私の後ろで踊ってください」

 ターフへと続く通路、蛍光灯の照らす空間に2人のウマ娘の不敵な微笑みが小さく響く。

 

 ミホノブルボン、かつての故障を乗り越えたスパルタの風。

 ライスシャワー、長きに渡るスランプを脱した漆黒の刺客。

 

「行きましょう、ライス」

「うん、絶対に祝福してみせるから」

 

──京都競バ場は一瞬で歓声に満たされた。

 

「やってきました、無敗の二冠ウマ娘! ミホノブルボン!! かつての故障もなんのその、大阪杯では以前変わらぬ、むしろ更に進化した逃げ切りを見せてくれました!!」

「そうですね、天皇賞では惜しくも二着に破れてしまいましたが今回は一番人気に押されています」

 

──ミホノブルボン

 無敗の二冠ウマ娘、大阪杯では正確なラップを刻むまさにサイボーグが如き逃げ切りを見せつけたウマ娘。

 

「この娘も負けてはいない!! 天皇賞で見事復活を遂げた漆黒のステイヤー、ライスシャワー!! 春シニア三冠のラストを飾るこの宝塚記念にて再び雌雄を決すのか?!」

「ファン投票では一番人気に押されていました。今回の距離は彼女には少し不安ですね」

 

──ライスシャワー

 菊花賞と天皇賞春で見事な勝利を収めた名ステイヤー。天皇賞では菊花賞の再来とでも呼べる見事な差し切り勝ちでゴールを越えたウマ娘。

 

「ブルボーン! 今回は勝てよー!! 応援してるからなー!!」

「ライスシャワー! 今日も絶対に勝ってくれよな!!」

 二人の()()の登場に、京都競バ場のボルテージは急激に上昇する。

 

「二人のヒーローに会場は大盛りあがり! どちらが勝つのか皆目健闘もつきません!」

「距離適性で言えばミホノブルボンの方が上ですが、これと決めたライスシャワーは恐ろしいですからね。大阪杯でも僅差の二着でした」

 

 枠順は8枠16番、15番のミホノブルボンさんと隣り合わせのゲート。

 最後にインターライナーさんが17番のゲートに入って準備はお終い。あとは、ゲートが開くのを待つだけ。

 

「さあ今年もあなたの、そして私の夢が走る宝塚記念! 勝つのはサイボーグ、ミホノブルボンか?! はたまた淀の英雄、ライスシャワーか?!」

 

 ライスは、負けない。今度も天皇賞の様に祝福をみんなに届けてみせる。

 万全かと聞かれればそうではない。だけど、負ける気持ちなんて微塵もない。気迫だけならあのマックイーンさんを破った天皇賞の時にも劣りはしない。

 狙うのはブルボンさん。菊花賞と同じ。だけど、それ以上のパフォーマンスで勝ってみせる。

 

──今、スタート!!

 ゲートが、開いた。

 青薔薇とスパルタの風がターフへと飛び出した。




 孤高のステイヤーか、常識を塗り替えたモンスターか。
 淀の祝福か、淀の栄光か。
 はたまた、淀の悲劇か。
 あなたの夢、私の夢が走り出す。
  ─宝塚記念─


 タンホイザとパーマーはもしかしたらするかも。
 タンホイザはともかくパーマーが難しいんだよなー大体ヘリオスのせい。
 何度か想像してみたけど”敗北マジつらたん、だけどテイオーの復活やばたにえん。これはパーティーするしかないっしょ!”ってなるのが目に見えているからね……ちょっと難しすぎる。

 ライスシャワー。
 ボクはね、ライスシャワー対マックイーンの天皇賞春からウマ娘に興味を持った人種だからね。ライスシャワーの二次創作を書きたかったんだ。
 宝塚後の車椅子ライシャワーと、責任を強く感じているトレーナーの遊園地デート。最初に書こうと思っていたのはこれなんだ。
……だけど、書けなかった。
 ボクは、お兄さまじゃなかったんだ。星3ウマ娘引換チケットをスズカに使ってしまった栄光の日曜日の住人だったんだ。
 もちろん後悔はしていない。スズカも大好きだ。最近はナイスネイチャに浮気気味だけど、それでも栄光の日曜日が大好きだ。
 だけどね、ボクはお兄さまじゃないんだ。ライスシャワーの育成なんて一度もしたことがないんだ。
 そんなボクが、へし折れた車椅子ライスを再びターフに送り出すなんて出来なかった。
 遊園地にすら、連れていけなかった。
 だから、ボクは回すよ。
 ガチャを、ライスが出てくるまで。ずっと。


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