オニとツチノコ (1D100面相)
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オニとツチノコ

けもフレ3本編一章終了後の話です。多分大したネタバレは無いです。
乖離や矛盾が無いように頑張りましたが、何かあったら指摘してもらえるとありがたいです。


 日の光が沢山の樹木の葉に遮られ、やや薄暗くなっているジャングル然とした場所を、1人のフードを被ったパーカー姿の少女が何かを探すかのように歩いている。

 

「うーんと......確かこの辺りだったはずなんだが......」

 

 ヘビのようなまだら模様が入った茶色いパーカー。そのパーカーのフード部分には目玉を模したかのような赤い模様も付いている。フードの中からは浅縹色の癖毛が顔を覗かせ、胸元には先に行くにつれて青く色が変わっていくピンクのリボン。腰からはこれまたヘビのような尻尾が伸びており、履き物には使い古された一本下駄。

 彼女の名前はツチノコ。サンドスターにより生を受けた、UMAのアニマルガールである。

 

「おっ、あったあった、この木だ」

 

 ツチノコはある1本の木に近づいていく。その木には穴が空いており、穴の中には様々なフルーツがぎっしり詰まっていた。

 

「......うーむ、やっぱりまだ出来てはいないか」

 

 残念そうに呟く。

 少し前の話。彼女は木のウロの中で果実が醸造されてできた酒を飲む事を密かな楽しみとしていた。しかし紆余曲折あって木は倒されてしまい、中にあった酒は全ておじゃん。だが、その場に居合わせたアフリカオオコノハズクのフレンズ......通称、コノハ博士の「木の穴の中にまたフルーツを入れれば再び酒が出来上がるのではないか」というアイデアにより、集めてきたフルーツを再度木の穴の中に入れ、酒が出来上がるその時をツチノコは待つことにしたのだ。同じくその場に居合わせた探検隊や他の面子のフレンズと、共に呑み交わす約束をしつつ。

 彼女はその酒のでき具合を確かめにこの場所にやってきたのだが、酒はまだ醸造途中のようだった。

 

「ま、気長に待つしか無いか、アイツも『迷路の様に迷うのが楽しい』とか何とか言ってたしな」

 

 そう言いつつ、その場から離れようとするツチノコ。しかし、またすぐ立ち止まる。

 

「......実はまだ他に酒が残ってたりしねぇかな」

 

 ツチノコの体躯は他ヘビ系フレンズと比較すれば小さい方ではあるけれども、こと酒飲みに関して言えば彼女は立派な()()()()であった。流石に四六時中酒に耽っている訳ではないが、一度の飲酒量はヒトのソレとは比べ物にならない。一方でその消費に見合うだけの供給がこのパーク内で十全に得られているかというと、その問に対する答えは否。

 つまるところ、彼女は酒に飢えていた。

 やがてツチノコは付近の木を調べ出す。しかしながら、やはりというべきかそう簡単には見つからない。

 それなりの時間、酒を探していたツチノコだったが、終ぞ酒は見つからないままであった。

 

「あ゛ぁ〜〜......やっぱり無ぇかぁ〜......」

 

 項垂れるツチノコ。

 

「なんか疲れてきたらより酒が飲みたくなってきたぞ......誰か酒持ってねぇか、酒、酒、酒ぇ〜」

「そんなに飲みたいなら飲ませてあげようか?」

「おぉ〜......飲ませてくれるのか? 酒」

「勿論、勿論。なんたって酒は無限にあるんでねぇ」

「無限にとは大きく出たなぁ〜〜......それではいっちょ......うん?」

 

 ふと何故か会話が成立する事に疑問を覚えるツチノコ。ばっ、と後ろを振り返ると、いつの間にやらそこには長い2本の角が生えた幼女が不敵な笑顔で佇んでいた。

 

チーーーーッ!?

 

 思わず叫んで後ろに退くツチノコ。そして近くにあった木に半身を隠す。

 

「いやっ、誰だお前! というか、いつの間にいたんだお前っ!」

「いつ、ってずっと私はいたさ」

「は!? ずっとって何処にいたんだよ!」

「そこら中に満遍なく」

「意味分からんわ! からかってるのか!」

「そうだねぇ、からかってるけど、本当の事だよ」

「???」

 

 もれなく頭の中が疑問符で溢れ返るツチノコ。一方の幼女、そんなツチノコを面白そうな、ニタニタとした顔で見ている。

 すると幼女は適当な木の陰にあぐらで座り込む。

 

「まぁとにかく落ち着いてどっかその辺に座んなよ。疲れてんでしょ?」

「あ、あぁ、まぁそうだな......」

 

 冷静さを取り戻し始めるツチノコ。改めて幼女を観察する。中々奇抜な外見だ。まず目につく2本の立派な角。橙色の長い髪の毛に、後頭部には大きな赤いリボンを付けている。胸元にも赤い長めのリボンがあり、手首や腰には鎖。鎖の先には黄色い球とか赤い三角形とかが付いている。白い半袖姿に紫っぽい長めのスカート。そして手には大きめの瓢箪が握られている。

 ツチノコは考える。見ない顔だ。角が付いているんだから、ヒトではない事は確かだろう。となるとフレンズ。だが、それにしてはなんだか異質な気もする。言葉では言い表せないが、どこか自分とは似ているようで違う雰囲気。セルリアンかその類かと言っても、そうでもない感じがする。じゃぁ、目の前にいるコイツは一体?

 幼女をじろじろと見つつ、自分も木の陰に座り込むツチノコ。相変わらずニタニタ顔でこちらを見ている。なんかちょっと薄気味悪い。

 

「それで......」

 

 あぐらの上で頬杖をつく幼女。

 

「私が誰なのかって?」

「あぁそうだ、あんまりここじゃ見ない顔だな?」

「私はね〜......」

 

 すると幼女はバッといきなり立ち上がるや否や、何かに襲いかかる怪獣のようなポーズを取り、

 

この地を侵略しにきた古豪なる鬼、伊吹萃香様だ!がぉーっ!

 

 と、いかにも悪役めいた笑みをこちらに浮かべてよく分からん口上を述べだした。

 

「......」

 

 対するツチノコ、どんな態度で接すればよいか分からず微妙な表情。コレは俗に言う威嚇のポーズとやらだろうか。確かに背の高い威圧感があるようなフレンズがやれば気圧される事もあるだろうが、相手は自分よりも背の低い威圧感とは無縁そうな幼女である。どこか演技っぽいのもあって全く怖くない。

 それと侵略とか言っているが、ジャパリ団のような悪を自称する系フレンズなのだろうか。

 

「あー......イブキスイカ? それって名前か? それと何......オニ?」

「あ、うん、伊吹萃香ってのが名前で、鬼が種族名ね」

 

 渾身のギャグをスルーされた萃香は少しショックを受けながら座り直す。ツチノコ、また思案げな表情となる。

 

「オニ......オニ......ってアレか? ヒトの作った昔話とかでよく出てくる」

「そうそうそれそれ、いやー鬼のねーむばりゅーとやらも捨てたもんじゃないねー」

 

 気分良さげに笑う萃香。

 

「となると、お前はそのオニのフレンズって訳か? フレンズでイブキスイカなんて名前持ちのヤツは珍しいが......」

「あー、まぁ、そんな感じでいいよ」

「ふむ......」

 

 ツチノコも何度か本で、もしくはパークのスタッフの読み聞かせで、オニが出てくる話を聞いたことはあった。基本的に悪役で、退治されたり住んでる場所を追いやられたりしていた気がする。そして「むかしむかし」という前口上が話に良く付いていた事から、随分と昔の動物だったようだ。フレンズ化する前からヒトっぽく、言葉を解するという点などから見ても、普通の動物とは違う、つまり「私たち」のような存在がフレンズ化したんだろう。異質な雰囲気というのもソレで納得がいく。先ほどの威嚇も多分悪役としてのフォーマットに沿った行動。

 

「なるほどオニのフレンズか......」

「んでさ、お前さんは一体誰なのよ」

「ん? あぁ、私はツチノコ。永遠の()()()()()だ」

「槌ノ子? つまり、野槌か」

「そう呼ばれる事もあるな」

「ふーん......」

 

 何か意味ありげな視線を向ける萃香。だがツチノコはそれには気づかない。

 

「それで......イブキスイカはここで何してたんだ」

「え? 何か面白い事ないかなーって適当に漂ってただけだよ。そしたら酒酒言ってるアンタを見かけたからさ、声かけたってわけ。あと私の事は単に萃香ってだけ呼べばいいよ」

「そうか......そういや無限に酒持っているとか言ってたよな」

 

 段々と目が期待で輝いてくるツチノコ。

 

「あるのか? 酒」

「そりゃ鬼に二言も嘘も無いよ。ほら、ここに」

 

 と、手に持っている瓢箪をフリフリと振る萃香。それに合わせてたぷたぷと音がする。確かに中に何か液状の物が入っているようだ。

 思わず目が星形になるツチノコ。

 

「おほーーっ!! マジかぁーっ! あんまり手に入んない物なのによく持ってるなぁお前ぇ!」

「えー、コッチじゃ中々手に入らないモノなの? 難儀な場所だなぁ」

「そうなんだよぉ! 前にパークのスタッフに定期的に調達できないか頼んでみたりしたんだがなぁ、なんか色々難しいみたいで、手に入る手段が限られているんだよぉ!」

「だから木の中に果実を詰め込んだりしてた訳か、ありゃぁ時間かかると思うけど」

「やっぱり時間かかるんだなぁ? しょうがねぇけど、アッチはまぁその内他のヤツらと一緒に飲む分だとして......」

「あーはいはい、コレは私と一緒に飲もうか。でもコレ普通のヤツなら相当キツいブツだから気をつけてよ?」

 

 そう言いながらどこからともなく出したお猪口をツチノコに手渡し、瓢箪で酌をする萃香。瞬間、芳醇な香りが辺りに立ち込める。

 

「おーーっ......!」

 

 匂いから既にソレが中々の一品である事を察したツチノコ、期待に顔が緩む。

 

「さて、それじゃあこの出会いを祝して乾杯の音頭といこうか」

 

 瓢箪をずい、とツチノコの前に突き出す萃香。それに合わせてツチノコもお猪口を突き出し、互いの酒器を突き合わせる。

 

「「かんぱーい!」」

 

 そしてぐいっと酒を飲む2人。その時。

 

「ぶふっ!?」

 

 思わず吹き出し、咳き込むツチノコ。

 

「ごほっげほっぐふっ」

「〜っぷはぁ〜っ、あぁーほらー、だから気をつけろって言ったのに」

「ごほっ......確かにキツイなコレ、だが何となく分かったから次は大丈夫だ」

 

 空になったお猪口を萃香に差し出すツチノコ。また酒を注ぐと、今度はちょびちょびと飲み始める。

 

「......うむ、度数はキツイが、中々イケるぞこれ」

「おっ、もしかして割と強い口かい? じゃぁどんどん行ってみようか」

 

 と、ツチノコがお猪口を飲み干す度に酒を注ぎなおす。ツチノコもだんだんと顔が紅潮してくる。それを横目に瓢箪をラッパ飲みしていく萃香。

 

「いやー、肴も持ってくればよかったね、んむっ」

「あぁ......スルメかなんかも食べたくなってくる......というか、お前そんなに一気に飲んで大丈夫なのか?」

「んぐっ、んあ? 大丈夫だよ、飲み慣れてるし。これぐらい余裕の余裕」

「ほーっ、強いんだな」

「そりゃあね、鬼だし」

「オニだしってオニはそんなもんなのか、まぁ確かに飲んでるイメージはあるが」

「鬼は生まれながらの大酒飲みさ、私たちより飲むのなんてまずいるものじゃない」

「ほーぅ......」

 

 ふとどこぞの蛇神とどちらが飲むのだろうかか、などと思ったりする。

 

「いやー、しかし存外に広いね、このぱーくっていうの? 軽く一回りしようかなって思ったけど結構時間かかりそうだ」

「あ? もしかしてお前、生まれたてのフレンズか? にしてはやけに知恵があるっぽいが......」

「生まれたてかどうかはともかく、新参者ではあるね」

 

 生まれてきたフレンズの中には、自身が動物だった頃の記憶を覚えている者もいる。自分も多くはないが、その記憶らしき物がある。この目の前のオニも同じように記憶を持っているという事だろう。フレンズ化する前からヒトに近い生物らしいし、色々含蓄があるのかもしれない。

 ツチノコはそう考えつつ、また酒を一口。

 

「だからまぁ、お察しの通りココの事はよく知らないんだ。出来れば色々教えてくれると助かるんだけどなぁ、()()?」

 

 ウィンクしながらそう尋ねてくる萃香。酒を飲んで気分を良くしたツチノコは、

 

「お゛ぉ〜勿論教えてやるさ! こんな美味い酒もご馳走になってる事だしな! 一から十まできっちりと!」

 

 と、快諾。

 それを聞いた萃香、ニヤリとまたもや悪役めいた笑みをその顔に浮かべるが、既に割と出来上がっているツチノコがそれに気づく事は無かった。

 

「何から話そうか! まずここはジャパリパークって言ってだな? ヒトが作ったいわゆる超巨大総合動物園ってヤツで———」

 

 

 


 

 

 

「ふーん、それでその探検隊ってのが、デカいヤツをぶちのめした訳だ」

「そうだなぁ〜! いやぁ〜あん時は結構大変だったが、終わり良ければ全て良しって訳だぁ〜!」

 

 それからしばらくして。

 色々ツチノコからパークについての話を聞く萃香。ツチノコはすっかり酔いのぼせてしまい、語尾も間伸びしたものとなっている。

 

「そのデカいせるりあんってヤツ、私も戦ってみたかったなぁ。出来ればサシで」

「あぁ〜!? 無理無理、あんなん1人で勝てる相手じゃなぇよぉ〜、デカいだけじゃなく、取り巻きも多かったしぁ〜、油断すると記憶まで奪われるぅ〜」

「ははっ、数の差なんてこの私の前には無意味なもんだよ。多勢で来るならこちらも多勢で行くまでさ」

「あぁ〜?」

 

 ドヤ顔でそう言う萃香だったが、ツチノコからしたら1人なのに多勢とはと疑問に思う発言でしかない。というかそれ以前にそういった事を考える頭が既にツチノコには残されていない。

 

「まぁともょかくとしてなぁ〜、アイツらがいる限り、パークも安泰ってもんだろぉ〜、グランドオープンもそう遠くにゃい未来のハズだぁ〜」

「ぐらんどおーぷん、ね。でもまだせるりあんはそこら辺から出てくる訳だろ? そんなんで開けて大丈夫なのかね」

「大丈夫、大丈夫らぁ〜、なんとかなるぅ〜」

 

 と、呑気な発言をしていたツチノコだったが、急に声量を落として、少し真面目な感じの顔つきになる。

 

「......それになぁ〜、パークがオープンしたら、私はそこで来ちゃヒトともっと触れ合ってみたいんだよなぁ〜」

「人と触れ合う? 話を聞くと、ぱーくのすたっふとか、それこそその探検隊の隊長とかが人間なんだから、そいつらともっと仲良くすればいいんじゃないか?」

「そうじゃない、そうじゃないんだよぉ〜、スイカぁ〜......」

 

 ふと、ツチノコはパーカーのポケットに手を入れ、そこから何かを取り出す。出てきたのは1枚の肉球のような意匠が施されている硬貨。

 

「何それ?」

「コレはなぁ〜、ジャパリゴールドっつってだなぁ〜、まぁ金みたいなもんだぁ〜」

 

 酔った顔でいながらも、しみじみとした顔でそれを眺める。

 

「コイツは隊長ぉから貰ったものだぁ〜、他のヤツらは大して気にしてないみたいだがぁ〜......こょんな硬い物が綺麗な丸い形に整えられているぅ〜、しかも細かい意匠まで施された上でぇ〜だぁ〜......どうやって作ったか気にならないかぁ〜?」

「うーん、気にならない訳では無いけども」

「それでぇ隊長にきぃてみたらぁ〜......恐らく機械か何かで加工しゃれてるんだろうが細かい事は分からないってぇ〜んだぁ〜......。

つまり作ったのはそのきくぁいってコトになるぅ〜、じゃぁこんなモノが作れる機械をどうやって作ったかぁ〜? ソレも聞いてみたけどやっぱり分からないってぇ〜んだぁ〜......」

「......」

「でもぉ〜フレンズにはそういうの作れるヤツあまりいねぇしぃ〜、隊長が分からなゃいにしても作ったのはヒトだぁ〜......」

 

 段々と眠たげな顔になるツチノコ。

 

「わゃたしはヒトが作ったモノが好きだぁ〜......ソレには色々な()()が詰まっているぅ〜......そんな色々なモノを作れるヒトにはもっと興味があるぅ〜.......でもモノを作るヒトはここのヒトだけじゃぁない、外の色々なヒトが力を合わせて作る事もあるぅ〜......」

「......つまり、ここのヤツらだけじゃない、色々な人に出会って、人間に関する見聞をより深めていきたいって訳か」

「まぁ〜......そんな所だなぁ〜......」

 

 そして感傷的に呟くツチノコ。

 

「今まで私はヒトに追いかけられてきたんだぁ〜......だから......今度は私が追いかける番なんだぁ〜......」

 

 それを最後に遂に眠ってしまったツチノコ。一方の萃香、その話を聞いて少し羨ましげにツチノコを見つめる。

 

「......いいねぇ、人と共に在りたいというその願い。私も出来ればそう在りたいものだ」

 

 ぐびっ、と瓢箪の酒を飲み下す萃香。

 

「今日はいい話を聞かせてもらった。お礼といっちゃなんだけど、ここは一つ奮発しちゃおうかな。おぉーい、紫ぃ〜......」

 

 

 


 

 

 

 ツチノコが目を覚ました時、あの鬼の姿は無かった。しかし目の前にはやや大きめのツボが一つ。中を見てみると、そこには大量の水となんかよく分からない山椒魚みたいなのが泳いでいる。

 

「スイカの忘れ物か何かか? でもアイツこんなツボ持ってなかったような......」

 

 取り敢えず持って帰るツチノコ。その翌日、妙な香りがするので、またツボの中を覗いてみると、何とツボの中に入っていた水が全て酒になっているではないか。

 興奮して、思わず探検隊拠点に駆け込むツチノコ。そして事の次第を隊長やドールといった探検隊の面子に説明する。ソレを聞いた側も勿論皆驚く。

 ツボに変わった点があるとしたら、中に入っている生物ぐらい。つまりこの生物が水を酒に変えたという話になるが、そんな生物は聞いたことがない。隊長や偶然その場に居合わせたミライはそう話す。そして話に出てきたオニのフレンズというのも自分たちは知らない、とも。

 確かにスイカはフレンズになって日が浅いようだった、一通りここの説明はしたけど、どこかで会ったら案内してやってくれ、と話したツチノコ。探検隊の面々は快く承諾してくれた。ミライなんかは「まだ私の知らぬ未知のフレンズさんが!?」なんて興奮したりしていた。

 しかし、萃香はそれから全く姿を見せなかった。誰か他のフレンズに会ったりもしていないようだった。広いパークとはいえ、影も形もないというのはおかしい話である。あの出会いは実は夢ではないのかと思ったりもしたが、ツボの存在がソレを否定する。

 しかしながらツチノコ的には別にそれで構いはしなかった。なんとなく、いつか会える日が来るだろうと思っていた。その時、ツボと中の生物は返せばいい。まぁ中の酒は放っといてダメにしたら勿体無いから、ちょくちょく飲んでおくが。

 

「ま、強すぎて他のヤツらには滅多に飲ませらんないけどな。ドールとか匂いだけで酔ってたし。アイツらと飲む酒は、あの木の中のモノでだ」

 

 気長に待っていれば良いだろう。

 酒が出来るその時を。鬼に会えるその時を。

 

「あぁ〜、楽しみだなあ〜......」

 

 

 


 

 

 

「あの酒虫、譲っちゃって良かったの?」

「いいのいいの、アイツの事そこそこ気に入っちゃったし、酒虫はまた捕まえてくればいい」

 

 一方の萃香側。とある屋敷にて。

 茶の間で煎餅を食べながら、萃香はある人物と対面していた。

 

「にしてもアンタが私に頼み事なんて珍しいんじゃない? 紫」

 

 八雲紫。妖怪の賢者。幻想郷の管理者。神隠しの主犯。あとスキマ妖怪。そんな数々の名で知られる幻想郷の中でも随一の大妖。

 白いフリルドレスにナイトキャップのような帽子を被りながら、口元を扇子で隠し、胡散臭い雰囲気を醸し出して、会話を続ける。

 

「別に大した事ではないわ。相も変わらず暇そうにしてるから、ちょっと頼もうかなって思っただけで」

「暇そうになんかしてないよ。ちょっと霊夢にちょっかい出してただけ」

「暇だったんじゃないの」

 

 この2人は旧来の親友である。普段、ほとんどの存在は自分より格下だと思っている萃香も、紫に関しては対等な人物だと認めている。逆もまた然り。

 紫もテーブルの上にある茶請けから煎餅を取り、それを食べる。小気味よい音が部屋に響き渡る。

 

「それでどうだったかしら? 向こうに出た感想は?」

「悪くないよ、外の世界ってのは人に塗れた奇々怪界な物質都市ってイメージを何となく持ってたけど、あんな場所もあるんだねぇ」

「あの場所が出来たのはつい最近の話よ。それでいて動物が人間に姿を変えるなんて()()()な場所だった訳だから、あちら側としてもそう簡単には手が出せなかったんでしょうね」

「それで手付かずの自然とも言うべき場所があんなに残ってる訳か。いや本当に()()()()かどうかは知らないけどさ」

 

 用意された茶を飲み干す萃香。

 

「それで用意された次善の策がジャパリパーク。実現に際して、色々混乱はあったみたいだけどね」

「その混乱には紫、お前も巻き込まれてる訳だろ? しかも現在進行形で」

「......」

 

 少し不機嫌な顔になりながら、煎餅を頬張る紫。悪趣味な笑顔をたたえながら、萃香はそれを見つめる。

 

「それで? アイツと私との会話の中で、何かいい情報は掴めましたか? 妖怪の賢者サマ」

「......大体は既に知ってる情報だったわ」

「となると、私が向こうに行ったのは無駄足だった訳か」

「いいわよ、どうせ期待してなかったし」

「酷い言われ様だ」

 

 はっはっはっ、と笑いながら瓢箪、伊吹瓢を手に取り、中の酒を飲む萃香。茶を飲みながらややジト目気味に紫はそれを見つめる。

 

「やけに上機嫌ね? そんなにあの娘と話したのが楽しかった?」

「楽しかったっちゃあ、楽しかったよ。コッチでは中々いないタイプだったしね。今度向こうに行った時には、向こうの輩を()めて、大宴会でも開きたいところだ」

「冗談。そんな力を向こうで使ったらどうなるかなんて、貴方も分かってるでしょう?」

「向こうは向こうでも、あの()()()の中でなら大丈夫なんじゃないのかい?」

「......」

 

 ますます不機嫌そうになる紫。それを見た萃香、やや真剣な顔となりつつ。

 

「......やっぱり、アソコは中々面倒そうな場所みたいだね」

「そうね、下手したら幻想郷もタダでは済まないわ」

「大家さんとしては、まさに目の下のタンコブってわけだ」

「困っちゃうわ、目の下にタンコブなんて出来たら、せっかくの美人が型なしになっちゃう」

「ははは......」

 

 ヨヨヨ、と泣き真似をする紫に、若干引き気味になりながら笑って返す萃香。

 そしてその場で立ち上がり、弄ぶ様に伊吹瓢を軽く振り回す。

 

「ま、助けが必要になったらいつでも呼んでよ。流石に幻想郷の危機となっては、こっちもことなかれって訳にはいかないからさ」

「なるべくなら、呼びたくないけどね」

「そりゃ、私が出張ってくる事態だなんて最悪に近いだろうからね」

「違うわ。鬼だから仕方ないけど、単に酒臭いのよ貴方」

「......ソイツは悪かったね」

 

 そう告げて、ようとしてその場から消える萃香。

 紫は一つため息を零しつつ、最後の煎餅を頬張った。



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