日常アニメに毒される八幡 (shushusf)
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ごちうさ難民八幡

〈視点、比企谷小町〉

 

 

 

「ハァ……」

 

 

 

 ため息が聞こえます。お兄ちゃんが、最近ずっとこうです。

 こうなったのは年が明けてから。

 去年の9月あたりから12月までは異様にテンションの高かったお兄ちゃんでしたが、今年になってからはずっと抜け殻になったようです。

 

 

 

 雪乃さんと喧嘩した線を疑いましたが、違いました。

 雪乃さんも結衣さんも、ついでにいろは先輩も特にお兄ちゃんと衝突していたわけではありません。

 みなさんと考えを巡らせて、戸塚先輩と何かあった線も疑いましたが、それも違いました。

 

 

 

 みなさん頭を悩ませました。

 一生懸命に原因を考えました。

 

 

 

 

 だけど、小町は今日、気づいてしまったのです。

 

 

 

 

 

 お兄ちゃんが今は抜け殻のようになっている理由。

 ちょっと前までは異様にテンションが高かった理由。

 

 

 

 

 

 それは

 

 

 

 

 

 

 お兄ちゃんがごちうさ難民だったからでした。

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「ご……ごち? えっと、なんなのかしらそれは」

 

 

「えっと……小町ちゃん。私もちょっと説明してほしいかも」

 

 

「……ごち……なんだっけ。それってひょっとしたらアニメですか?」

 

 

 

 

 

 奉仕部。

 小町は昨日気づいた事実を御三方に発表します。

 ちなみにお兄ちゃんには1時間ほど席を外してもらいました。

 

 そんな中で話した衝撃の事実。

 

 雪乃さんは何が何だかよく分からないといったようで

 結衣さんは何が何だか分からないようで

 いろは先輩はうっわあって顔をして

 

 

 

 

「というわけで、最近のお兄ちゃんが元気がないのは、年末にそのアニメが終わったことによる喪失感だったというわけです」

 

 

 

 

 三人の顔から一気に力が抜けました。

 

 

 

 

 

「……でも、それなら私たちはどうすればいいの?」

 

「アニメが終わったからって……私たちじゃどうしようもないよね?」

 

「……お米ちゃん。何か考えがあるって顔してるね」

 

 

 

 

 

 

 

 いろは先輩が小町を訝しげに見ながら言いました。

 ええ。

 その通り、小町はちゃんと策を考えてきたのです。

 

 

 

 

 

「では、みなさんにはこれからそのアニメを見てもらいます」

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 奉仕部にて、いろは先輩がもってきたプロジェクターで小町たちはそのアニメを視聴しました。

 

 

 

「みなさん、、特に雪乃さんといろは先輩。何か気づいたことはありますか?」

 

 

 

 その小町の質問に、二人は頷きます。

 雪乃さんは困惑しながら

 いろは先輩はこれから何を要求されるのかがわかってしまったからか、嫌な顔を隠さずに

 

 

 

 

「……私と一色さんの声に、似たキャラクターがいたわね」

 

「まさか……お米ちゃん」

 

 

 

 

 ニヤッと笑って、

 小町は二人の顔を見た後、元気一杯に言いました。

 

 

 

 

「そうです。お二人の声には異様に似ているキャラクターがいるんですよ! 小町はそれに活路を見出しました!今、お兄ちゃんは完全に所謂ごちうさ難民となっています。そんなお兄ちゃんの心の隙を埋めるために、今日これから雪乃さんには青山ブルーマウンテン、いろは先輩には保登心愛になりきってもらいます!」

 

 

 

 

 

 

 

「え、ええ……」

 

「小町さん……」

 

 

 

 

「お兄ちゃんのためです」

 

 

 

 

「」

 

「」

 

 

 

 

「お兄ちゃんのためです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、えっと……小町ちゃん。私はどうすればいいのかなあ……」

 

 

 

「あー、結衣さんは……うさぎ役にでもなっててください」

 

 

「うさぎ役!?」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 〈視点、比企谷八幡〉

 

 

 

 

 

 ハァ……

 

 俺の心は、もうピョンピョンできない。

 

 活力を、失ってしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 小町に言われた時間に間にあうように、ノソノソと俺は奉仕部へと歩く。

 こんな状態だから、あいつらにもさぞかし心配させてしまっているのだろう。

 

 

 

 嗚呼……

 そんな心境のまま、俺はドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ……お姉ちゃんに任せなさ〜い!! 」

 

 

 

「ま、マスター!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あ、ありのまま今起こっていることを話すぜっ!

 

 

 雪ノ下が青山ブルーマウンテンみたいな雰囲気とセリフを……一色が、ココアみたいな雰囲気とセリフを喋った!

 

 

 何を言っているか分からないと思うが、俺もよく分からない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター? どうしましたか?」

 

 

 

「ご〜くろ〜さまクロワッサン! 頑張るあなたに、メロメロメロンパン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……声が、似ている……だと!?

 いや、似ているなんてものではないっ!!

 

 嗚呼、いる。

 

 青山ブルーマウンテンが、、翠ちゃんが

 ココアが……

 

 

 

 今、現実に俺の前に!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 涙が、溢れてきた。

 

 

 

 

 

 

 俺は世界一の幸せものだ。

 

 そう実感しながら、俺はその場に崩れ落ちる。

 

 

 

 俺は感動のあまり、魂の叫びをあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉ!!!!!! 心がピョンピョンするんじゃあぁああああああああああああああああぁあああああああああああああああぁあああああああああああああああぁあああああああああああああああぁあああああああああああああああぁあああああああああああああああぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゅ〜ん」

 

 

 

 

 

 うさぎの真似をした由比ヶ浜の声が、部室に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ごちうさ難民八幡vol.2

「せ〜んぱい♪ 何かしてほしいこととかあるかな? そういえばパン焼いてきたんだよっ!」

 

 

「あらあら比企谷君……そんな顔をして、どうしたのですか?」

 

 

 

 

 

 

 どうもみなさん

 比企谷小町です。

 

 

 お兄ちゃんがあまりに元気がなかったので、この二人を焚きつけました。その結果はちゃんと出て、お兄ちゃんも一応ドブの底みたいな腐り目は脱したのですが……

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ〜し! いろはお姉ちゃんにまっかせなさあ〜い!」

 

 

「よしよし、大丈夫ですよ比企谷君……あなたに害なすものは、私が何とかしてあげますから」

 

 

 

 

 

 

 

 この二人の方が、割と最初のほうからめっちゃノリノリになっちゃいました……

 

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「雪乃さん……いろは先輩……もう大丈夫ですからいつものお二人に戻ってくださいよ。ほら、部室の角で結衣さんがいじけながら指で床にずっとヒッキーって書いてるの見えません? しかもキュンキュンうさぎの鳴き声みたいなのを発してるんですよ。アレどうしてくれんですか……」

 

 

 

 小町はうんざりしたような声で

 

 半ば腐っている目でお二人に言います。

 

 

 

「……そうは言ってもね? 小町さん……青山ブルーマウンテンモードの私なら、比企谷君はダラっと笑ってくれるのよ。あの比企谷君が、無防備に私に笑ってくれるの……あと一回だけもう一回だけって思っていてもね? 気づけば、またやってしまうのよ……とまらないのよ」

 

 

「うん……お米ちゃんの言うことも分かるんだけど……あんなせんぱい、私にあんなに純粋な目を向けてくれるせんぱいなんて見たことがなくて……なんだか可愛くて可愛いくて庇護欲そそられて……きずいたら、ココアモードになっているというか、あの目には敵わないというか……」

 

 

 

 

 

 

 

 二人とも、完全に脳がやられていました。

 確かに、ごちうさモードに入った二人に対して、お兄ちゃんは目をキラキラと輝かせています。

 実際小町的にもそのお兄ちゃんは可愛いくてポイントたか……じゃなくて、それをどうにかしなきゃいけないんです。

 

 

 このままでは、お兄ちゃんもろとも雪乃さんといろは先輩までダメになってしまいます。もうすでにお二人はヤバ目になっちゃってますが……

 

 

 

 

 

 

 

「なんか……わたし、もうココアでいいかも……」

 

 

「わたしも、、みどりちゃんで、いいのかも」

 

 

 

 

 

 

 とうとう、二人が自分のアイデンティティを消しに入りました。

 雪乃さんは青ブルマに、いろは先輩はココアに精神を侵食されていき、それに歯止めがかからないような……頭をキャラクターにやられてきてしまっています。

 

 

 

 

 

 

 どうすんだこれ。

 

 

 

 

 



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ごちうさ難民八幡vol.3

「せ〜んぱい♡ 今日もいっぱいパンを焼いてきたよ!」

 

「比企谷君……私、小説の原稿を書いてきたのだけれど……見てくれますか?」

 

「ああぁ……あああ」

 

 

 

 

 ぶっちゃけます。

 あの二人も、完全にココアと青ブルマになってしまいました。

 雪乃さんあらため青ブルマさんは、お兄ちゃんを膝枕しながら、柔らかい笑みを浮かべて優しくお兄ちゃんを包み込んでいます。

 いろは先輩改めココア先輩も、パン作りを脅威的な早さで習得し、一切の裏をなくしたその朗らかすぎる性格でお兄ちゃんに接するようになりました。

 

 

 

 お兄ちゃんは、はい、なんか……

 

「ああぁ」とか「ブヒィ」とかしか言わない廃人になってしまいました。

 ニタニタしながら青ブルマさんとココア先輩を見ているお兄ちゃんは実際可愛いとかのゾーンをぶっちぎって気持ち悪いです。

 

 

 

 そうです。

 

 この三人は、もう完全に頭がおかしくなってしまいました。

 お兄ちゃんにはひとたびエサを与えてしまったばかりに、廃人になってしまい

 雪乃さんといろは先輩も、自我をキャラに奪われてしまうというまさにミイラ取りがミイラ。

 まあ、元凶は小町なんですけど……だってまさかこんなことになるだなんて思わないじゃないですか……

 

 

 

 

 

 

「うふふ……比企谷君……いえ、マスター。どうぞマックスコーヒーですよ」

 

 

 

「せんぱ〜い! お姉ちゃんにやってほしいことはない? うぇるかむかも〜んだよ!」

 

 

 

 

「ああぁ……ああ、ブヒィ……ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 奉仕部部室に、地獄のような光景が広がっています。

 小町には、もうどうしようもないのでしょうか。

 この人たちはもう……元には戻らないのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……小町ちゃん。私に任せて」

 

 

「あ、あなたはっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 途方に暮れていた私にかけられた声には、力強い決意が確かに感じられました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

「ゆ……あ、青山先生。ココアちゃん。お兄ちゃん。美味しいクッキーをもらってきたよ〜……どうぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

「わああ! 小町ちゃんありがとう! みんなでたべよっか!」

 

 

 

 

「あらあら小町さん。ありがとうございますぅ。さあ、マスター? 一緒に食べましょうね?」

 

 

 

 

 

「ぁああああああああああ」

 

 

 

 

 

 

 三人は、なんにも疑いもせず、

 クッキーを口に運びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ああなあかやなまきのやるなねやなめかめぬとあぇなとけたかまはまねやかやさやけやかめかまかやかまけたかま!!!!!??? あ、頭がぁ!? 頭がぁ……!? わ、わたしはココア私はココア……や、やああああああああうぁあああああ!!!!!!! ……ハァハァ……ち、ちがう、わたしは、、わたしは、一色いろは!! そ、そうだ! 私は一色いろは!!」

 

 

 

 

「う、うえぷぇおぇおぇ……ハァハァハァハァハァハァ……あ、あたまがいたい……わたし、は、雪ノ下、雪乃……あああ!! ……今まで、いったい何を……うぅおぅ……あたまが割れそうだわ……」

 

 

 

 

 

 

 

「ボゲェぇぇぇぅえええええええええええええええええぇぁおぁぇえ……ハァハァ……お、おれは、いったい今まで何を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 も、戻ってきた。

 

 

 三人が帰ってきた……!

 帰って……来てくれた!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ……ざっと、こんなものだよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の後ろには、ポロポロ涙を流しながら強がってカッコつけたままのクッキーの製作者、結衣さんがいました。

 結衣さん印の劇薬クッキーは、なんと三人を元に戻すことに成功したのです!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのあと、一週間くらい奉仕部メンバーは結衣さんから口聞いてもらえませんでした。

 

 

 



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にゃんぱす八幡なのん

「にゃんぱすー」

 

 

 

 休日の朝。

 小町さんに呼ばれ、比企谷君宅に向かった私を出迎えたのは、暗い顔で頭を抱えた一色さん、由比ヶ浜さん、小町さんと

 

 

 

「にゃんぱすー」

 

 

 

 目が虚になって、来訪した私に訳の分からない呪文を唱えている……私のパートナー、比企谷八幡であった。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

「……小町さん、これはまさか」

 

 

「……はい。またです。……今度はのんのんびよりっていうんですけど、前回のごちうさより悪いのは原作も終わってしまったことでして、、、より兄の絶望度が深いんです」

 

 

「……なんで今回も私は巻き込まれてるんですかね」

 

 

 

 

 

 予想通り、比企谷君は推しアニメ終了でメンタルがやられていたらしい。一色さんのやつれ具合から見るに、今回も彼女に似たような声のキャラクターがいたみたいで……

 

 

 

 

「あの、小町さんもしかして」

 

 

「あ、大丈夫です。今回は被害者はいろは先輩だけなので、雪乃さんに似た声のキャラクターはいません」

 

 

「そう……良かった」

 

 

 

 

 前回のごちうさクライシスでは、私も一色さんとキャラクターに精神を支配されかけた。あの教訓は私たちにまだ生きている。

 

 

 

 

「なっつん、にゃんぱすー」

 

 

「……やめて、こっちをそんな純真な目で見つめないで……何で私を見る目だけそんなに純真なの」

 

 

 

 

 

 比企谷君は一色さんに向けて謎の呪文を吐いていた。私たちに向けるものとは違って、一色さんにだけは濁りのない小学一年生くらいの澄んだ目だ。

 一色さんは努めてその目を見ないように顔を逸らしていた。

 

 

 

 

 

「……むぅう」

 

 

 

 

 平らな目をして、由比ヶ浜さんが腰を上げる。

 彼女は二回連続で声が似ているキャラクターがいないからなのか、なんだか顔がムスッとしていて面白くないみたいだ。

 そのまま由比ヶ浜さんはにゃんぱす君の目の前まで移動して、不機嫌な態度を隠そうともせずに、こう言い放った。

 

 

 

 

 

「ヒッキー、やっはろー!!!!!」

 

 

「……」

 

 

「やっっっはろー!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 彼女は何をやっているのだろう。

 多分、謎のにゃんぱすにやっはろーで対抗しているのだと思うのだけれど、、、

 

 

 私と小町さんの二人で、またも頭を抱える。一色さんはまたキャラクターに自我を支配されるのが怖いのか耳を塞いでいた。

 

 

 ……今の比企谷君にやっはろーは効果がない。

 

 

 

 そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

「ふぉぉぉ!!!!! にゃんぱすー!!!!!」

 

 

「ふぇ!?」

 

 

 

 

 

 比企谷君は、由比ヶ浜さんにも目を輝かせて、あろうことか正面から由比ヶ浜さんに抱きついた。

 ……どうやら、にゃんぱす君はやっはろーにシンパシーを感じたらしい。

 

 

 

 

 

「わ、わたしは、なっつん。わたしは、越谷夏海……そうだ、そうだ。私はれんちょんと遊ぶ……私はれんちょんと遊ぶ」

 

 

 

 一色さんがついに頭をやられたのか、目が明らかに他人のそれになった。

 

 

 

 

「ひ、ひひひひひひっきー!!!!!!? ……えへへ、わたしもう、このままでいいやぁあ」

 

 

 

 

 

 まさかの由比ヶ浜さんまでもが陥落する。

 由比ヶ浜さんが陥落という事は、あの人格リセットクッキーが使えないことを意味していた。

 アレは由比ヶ浜さんでないと作ることができないのに……

 

 

 

 

 

 

「……小町さん。どうしましょう」

 

 

 

「どうしましょう……」

 

 

 

 

 

 

 私と小町さんは、途方に暮れるしかない。

 

 これどうしましょう。

 

 

 

 



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