好かれた男 (主義)
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僕を語る上に一番大切なのは『ドライ』という言葉だろう。その言葉をなくして僕を語るのはとても難しい事になる。

 

 

 

僕は何事に対しても思い入れをしたりする事はほとんどない。それはそれに夢中になってしまったらそれ以外が見れなくなってしまい理性的な判断が出来なくなってしまう。理性的な反応だけが考えた上で判断するのだから。感情的な判断などはその時の気持ちで決めてしまい後々、後悔をしてしまうというのはよくあることだからね。だから友人関係においても僕は一線を引いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

845年にシガンシナ区が陥落して人類は巨人に対する警戒心が強まった。今までは自分たちは安全で巨人が壁の中に入って来るなんて微塵も考えていなかった人類が巨人について考えるようになった。自分たちはどうにか生き延びているだけに過ぎないのだと……壁があるから今まで生きてこられたのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

多くの者が大切な人間を失ったりしただろう。失ったものは巨人への恨みを胸に抱きながら生きていくことになったのであろう。

 

巨人に対する恨みを抱き、巨人を殺すためだけに生きてきた者もいたりするようだが僕はそういう人物とは無縁だ。

 

 

 

 

 

そしてそれから二年という月日が経ち104期訓練兵団に僕は入団した。巨人に対する恨みなどないが一度で良いから巨人を殺してみたい。そんな適当な理由で僕は入団を決意した。

 

 

同期の奴とは決して仲が良くもなければ悪くもないという中間をうまく保っている。誰かと親しくなることを僕は望んでいない。なのに同期の奴らの中には僕に近づこうとするものが少なからずいる。

その中でも特にひどいのが…クリスタだ。最初は気の使える普通の女子だと思っていたがある時を境に話しかけてくる事が他の同期と比べて多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は中間を求めているのであってそれ以上は求めていない。友達とも呼べず、知り合いよりは親しい。これが僕の望む理想形。なのにクリスタは頻繁に話しかけてくる……これは僕の理念に背く。

 

だから最近は無視をする事が多くなってしまった。端から見たら感じ悪いと思われるかもしれないけど仕方のない事。僕は親しい友など必要ないのだから。

 

 

 

そんな事を考えなながら僕は食堂で食事を口に運んでいた。訓練兵の食事などお世辞にも美味しいとは決して言えないが食べておかないと訓練の途中で倒れる可能性だってある。だから食事だけはいくら不味かったとしても食べ物を口に運ぶしかない。

 

 

 

 

「ねぇ…」

 

 

僕の目の前に腰を下ろしている金髪の少女は相手にされていない事を未だに分かっていないのか何度も何度も声を掛けてくる。他の同期は僕と一定の距離を取ってくれるから僕としては嬉しい。

 

 

 

「ねぇ、ヘルマン」

 

 

クリスタに好かれるようなことをした覚えは僕の覚えている限り何一つとしてないと考えている。

 

 

 

 

「ねぇってば!」

 

 

 

 

「何だ?クリスタ、そんなに呼ばなくても聞こえているよ。僕に何か用かな?」

 

 

 

 

「一緒に食事を食べていいか何度も聞いてるのにヘルマンは黙ったまま黙々と食べてるんだもん」

 

 

 

 

「あ、別に良いよ。それで一つ聞きたいことあるんだけど良いかな?」

 

 

 

 

「良いよ」

 

 

 

 

「いつも君と一緒にいる……ユミルは一緒にじゃないの?」

 

 

クリスタを毎日見ているわけではないけどクリスタの近くにはいつもユミルという女子が一緒にいるイメージが物凄くある。

 

 

 

 

「うん。今日は少し用があるから先に食事食べておいてと言われたんだ」

 

 

 

「そうなのか…………」

 

 

 

気になってたことは聞けたので僕は食事を片付けて今日の訓練をするところに向かう事にした。クリスタとこれ以上話しているのは僕が今までやってきた全ての事を否定することになってしまうために止める事にした。後ろからクリスタが何か言っているような気がするが気の性だろう。

 

 

 

 



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僕が今日の訓練の集合場所に着くと早すぎたのか訓練兵の姿はほとんどなかった。今日は対人訓練ということで集合はグラウンドという事になっている。

確かに集合時間までまだ三十分近くあるからな。僕もクリスタが話しかけてくるような事がなければ時間潰しをするために食堂に入り浸っていただろうからね。

 

 

 

でも、どうしようかな………さすがに暇だけど…今から宿舎の方に戻るのは面倒だしな。

 

 

 

 

クリスタを別に僕は嫌いと言う事じゃない。友達程度の付き合いなら望むところなんだけど……友達は時々話したりする程度だと思っていたらクリスタは毎日のように話しかけてくる。僕としては時々話すぐらいで良い。

 

 

 

 

 

「あんたも早く来すぎたの?」

 

 

 

後ろを振り返るとそこにはクリスタと同じで金髪であるアニが立っていた。アニとは今まで話したことが無かった。

 

僕も自ら話すようなタイプじゃないけどアニも自ら話すようなタイプじゃないために話す事はなかった。訓練兵の同期の中で僕と同じように寡黙な人間が居てくれて嬉しかったのを覚えている。でも、そのアニが僕に話しかけて来るなんて信じられなくてすぐには返事が出来なかった。

 

 

 

 

「…………あ、ああ、そうなんだ」

 

 

 

「やっぱりね」

 

 

 

「それにしてもアニの方から僕に話しかけてくるなんて予想しなかったよ」

 

 

 

「確かにあんたと話すのは初めてかも」

 

 

 

「初めてだよ。改めてよろしくね、僕はヘルマン」

 

 

自己紹介の者をまだアニにはしてなかったと思い、一応しておく事にした。

 

 

 

「ああ、よろしく」

 

 

その後も適当に話しながら時間潰しをしていると他の訓練兵も少しずつグラウンドに集まり始めて集合時間には全員が集まっていた。

 

 

 

 

 

「今日の訓練は事前に伝えておいた通り、対人訓練を行う。二人組になり闘って『降参』と言わせたら勝ちだ。二人組に関しては途中で変えても構わん。それでは各自、訓練に移れ!」

 

キース教官が言い終わるとそれぞれが行動を始めた。

 

 

 

 

「さて…僕はどうしようかな」

 

 

僕は体術に関しては一般的な技術しかない……と言っても女子と組んで怪我をさせてしまったらそれはそれで問題だしな。まあ、ミカサやアニには勝てないだろうけどね。

 

 

 

 

「なあ、組む相手が居ないなら私と組まない?」

 

 

この声はさっき聞き覚えがある。まさかと思い、さっきと同じように後ろを振り返るとそこには予想していた人物と同一人物がそこには居た。

 

 

 

「…アニか…」

 

 

 

「嫌なら別に断ってくれて良い」

 

 

ここで断るような事をするのはアニに対して失礼に当たるかもしれない。少し怖いけどここで断るほどの勇気は僕にはない。大怪我をするかもしれないけど仕方ないか。

 

 

 

「良いよ、組もうか」

 

 

 

 

 

僕はアニと向かい合い、戦闘態勢に移る。戦闘態勢に入ったアニは今までのアニと違い少しでも気を緩めたら飲み込まれてしまうかもしれない。こんな感じの人と対峙するのは初めてだ。

 

 

 

「それでは始めようか」

 

 

僕が言い終わるのとほぼ同時にアニは僕との距離を詰めてきた。

 

おい、今までのアニの闘い方と全く違うじゃないか。アニから攻めて来るのなんて聞いた事ないよ。そんな事を脳内で考えている間にもアニは僕に右ストレートのパンチを見舞ってきた。

 

 

 

 

 

ギリギリのところでよけたけど後、もう少し遅れていたら確実にくらっていた。頬をかすめる音が聞こえるぐらいにギリギリだった。本当にアニは手加減は絶対にしてくれないな。まあ、今までアニと組んできた人を見たことはあるけど全員、負けてた。

 

 

 

「はぁ……これはさすがにやる気にならないとダメかも…」

 

 

 

 

 

そして最終的に僕は立っていて、アニは仰向けに倒れている。この光景に周りで訓練を行っている者は驚きを隠せないようだ。まあ、僕もアニに勝てるとは思っていなかった。

 

 

 

「ごめん…少し強く投げすぎたかもしれない…怪我をしちゃった?」

 

 

女性に怪我をさせたとなればマズイ。

 

 

 

「大丈夫、私の心配なんかしなくていい。私はお前と闘って負けただけなんだから」

 

 

仰向けになりながらアニはそう口にした。アニならもう少し悔しがると思っていたけど全然そんな素振りを見せなかった。

 

 

 

「でも、これは訓練だからね。アニに怪我があったら僕のせいだから」

 

 

 

「本当に大丈夫だから心配しなくていい」

 

 

 

「それじゃあ、はい」

 

 

僕は仰向けに倒れているアニに対して右手を差し出した。このままこの体勢のままじゃ背中が汚れちゃうしね。

 

アニは少し戸惑いながらも僕の手を取り立ち上がった。

 

 

 

 

「……ありがと」

 

 

僕が思っていたよりもアニが優しくて繊細な人間なのかもしれないと密かに僕は思ったりした。

 

 

 

 

 

 

 



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憲兵団に行くには成績上位十人には入る必要がある。それは訓練兵であれば誰もが知っている事であり、ほとんどの者が憲兵団に入るために上位十人を目指している。そのため競争が激しい。

僕はそんな争いに興味がないし、参加しようとも思わない。僕にとって憲兵団だろうと駐屯兵団だろうと調査兵団であろうと変わりはない。どこにいようと巨人の危険が零になる事はない。確かに調査兵団ほどの危険は二つの兵団にはないかもしれないけど危険はある。

 

 

 

 

 

今日は珍しく訓練が休みの日で暇を持て余していた。こういう時は一日ずっと寝ていられる良い機会だからいつもなら寝ているんだけど今日はそうもいかなかった。何故なら眠くならなかった。

外で遊ぶ気にはならないし、暇を潰せるような道具も何も持っていないからな。どうしようかなと考えながら適当に宿舎をぐるぐると回っているとアルミンと会った。

 

 

 

 

「ヘルマンも今日、何も予定ないの?」

 

 

 

「うん。いつもならずっと寝てるんだけど今日は何か眠くならないから起きているんだけどやりたい事がないから宿舎を徘徊しているんだよ」

 

 

でも、アルミンはエレンやミカサとずっと一緒にいるイメージがあるんだけどな。クリスタもユミルと一緒というイメージがあるようにアルミンにもそういう印象があった。

 

 

 

「そうなのか……じゃあ、僕に少し付き合ってくれない?」

 

 

アルミンが僕に何だろう………あんまり関わりがないから話さないんだよね。でも、まあそれはほとんど全員に言えることか。

 

 

ここで断っても良いんだけど……何も用がないのに断るのはさすがに悪いと思い僕は肯定的な返事をする事にした。

 

 

 

 

「良いよ。暇していたところだしね」

 

 

 

「ありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても何に付き合えばいいんだ?」

 

 

「…只、ヘルマンとはあまり話したことがないと思って話してみたいと思って誘ったんだ。迷惑だった?」

 

自分が予想していたよりも……何か普通のことだった。

 

 

 

「いや、驚きはしたけど………アルミンが僕に興味を持っているとは思ってなかった」

 

 

僕はあまり人とコミュニケーションを取ろうとしないから未だに一度も話したことがないような同期もいたりする。だけどアルミンとは何度か一対一ではないけど話したことが会ったりする。アニとは違い、大人しいけど人と積極的ではないにせよ話している。それにエレンやミカサとは幼い頃から一緒に過ごしてきたようでとても仲が良いらしい。

 

 

 

「初めて会った時から興味深い人だとは思っていたけどヘルマンってあんまり人と関わりを持ちたがらないし、話しかけられるのが嫌なのかなぁと思って声を掛けられずにいたんだ。今日も誘ってみようと勇気を振り絞って言ったけど……断れるかもしれないと思ってかなり不安だったんだよ。だから、ヘルマンが「良いよ」と言ってくれた時はとても嬉しかったんだ!」

 

 

満面の笑みをしながらアルミンは僕の方を見ながら言った。あんな笑顔で言われては……断らなくて良かった。アルミンなりに色々と考えてくれていたんだね。

 

 

 

まあ、確かに僕は人と話すのがあまり好きじゃないし、友達という関係を望んでいない。だからこそ、仏頂面をしていることも自分で分かっていないだけで多くあったのだろう。それでも、アルミンは勇気を出して声を掛けてくれた。最初の印象はエレンの後に付いているだけで勇気とは無縁の人だと思ったりしたけど、どうやらそれは間違い。やる時にはやる人だったということか。

 

 

 

「…僕と話しても何もないと思うけど……こんな機会でも無ければアルミンと話す機会なんてなかったからね。それでどこで話すの?ここで立ち話をするわけにもいかないしね」

 

 

 

「確かにそうだね。どうしようかな……僕の部屋はエレンたちが使っているだろうからな」

 

 

エレンたちと何かをしている最中に抜け出してきたのだろうか。それに今、エレンたちと遊んでいるなら僕とのことはまた次の機会でも僕は良いんだけど。

 

 

 

 

「エレンたちと何かしているならそれが終わったらで良いよ。それに僕との話ならまた次の機会でも出来るしね」

 

 

 

「いや、ダメ!」

 

 

 

「え…?」

 

 

 

「……いや……今にしよう。ヘルマンが言う次の機会がいつ来るか分からないから」

 

 

 

「まあ………そうだな。それじゃあ、どこで話そうか?」

 

 

 

「言いずらいずらいんだけどヘルマンの部屋はダメかな?」

 

 

僕の部屋か……僕たちは共同の部屋だけど多分、全員が出払っていると思うから大丈夫と言えば大丈夫だと思う。

 

 

 

「…大丈夫じゃないかな……」

 

 

長い立ち話を終えて僕とアルミンは僕の部屋に来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがヘルマンの部屋なんだ…」

 

 

 

「うん。アルミンのところの部屋とあまり変わらないでしょ。全ての部屋が同じようなデザインになっているからどこの部屋に居ても変わらないんだよね」

 

 

本当に殺風景でベッドが数個とテーブルが一つあるだけ。無駄な物が一つもない。

 

 

 

「そう言われれば確かにそうだね。僕たちの部屋とほとんど変わりないかも」

 

 

 

「アルミンとこんな感じで二人きりで話すのは初めてになるね。他の同期ともあまり二人きりで話したことはないしね」

 

 

普段なら『話そうよ』とか言われても断ってしまうから話さないだけだけど。

 

 

 

「…そうなの!?意外だな」

 

 

 

「意外?」

 

 

 

「うん。ヘルマンは皆から愛されているから二人きりで話すとかの経験は多いと思っていたけど…違ったんだ」

 

 

僕が皆から愛されている……?アルミンは一体なんでそんな考えに至ったのだろうか。嫌われていると思っていないけど好かれていると思ったことは無い。それに僕に好かれるような一面はない。自分が言っているのだから確かだ。

 

 

 

「…一応、言っておくけど僕は皆から好かれていないよ」

 

 

 

まさか自覚なしなの。この感じだと何も分かって無さそうだ

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

近くにいる僕にも聞こえない声でアルミンは何か言っている。

 

 

 

「いや、何でもないよ。僕が今回、ヘルマンを誘ったのは話したかったからだよ。さっきも言ったけどヘルマンには最初から興味があったんだけど話しかける機会がなくて」

 

 

 

「良いよ。それで何を話そうか」

 

 

 

「そうだね……それじゃ訓練兵を卒業したらヘルマンはどこへ所属したいと思ってるの?」

 

 

 

「……僕はどこでも良いと思っているよ。憲兵団だろうが駐屯兵団だろうが調査兵団であろうがね。どこに行っても自分のやれることをやるだけだから」

 

 

 

「ヘルマンは凄いよ。そう思えるのはヘルマンぐらいだよ」

 

 

 

「そうかな。僕としては普通の事なんだけどな。アルミンはどうなんだ?」

 

 

 

「僕は調査兵団になると思う…」

 

 

 

死亡率がもっとも高いのは調査兵団であり生き残るのはもっとも難しい。巨人と闘っているわけだから死亡率が高いのは仕方のない事。だけどその死亡率は目にしても調査兵団に行きたいと思えることは一言で言うならば『勇気』があるものだ。

 

 

 

 

「アルミンこそ凄いよ。調査兵団と言うのは訓練兵の中で一番志願率が少ない。そこに行こうと思っているアルミンを僕は心から尊敬するよ」

 

 

誰もがアルミンのように勇気を持てる人間ではないのだから。自分の命を捨てる覚悟がないものに何かを成し遂げる事は出来ない。

 

 

 

「………そんなんじゃないよ」

 

 

 

「アルミンが自分の事をどう思っているか分からないけど僕は君の事を心から尊敬する。それは君がどんな事を言ったとしても変わらないよ」

 

 

 

「……ありがとう。ヘルマンにそう言われるとなんか『勇気』が出てくるよ」

 

 

 

 

 

 

その後も僕はアルミンと話をして気が付いた時には日が暮れていた。

 

 

 

 



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僕には年の離れた姉がいる。家族の居なかった僕をここまで育ててくれた。本当に感謝しかない……今の自分があるのは姉が居たからだと断言できる。姉はお世辞にも常識人とは呼べなかったけど僕にとっては唯一、大切な人物と言っても良かった。

 

 

 

 

 

 

だけどここ最近あんまり連絡を取り合っていない。姉の方からは多く連絡が来るんだけど……最近は少し面倒になって僕の方は連絡をしていない。だって一週間に一度は手紙が来るんだ。もっと少なくして二か月に一度とかで良いと僕は思っているんだけどな。

 

 

 

 

そして今、僕はその姉からの手紙に目を通している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘルマンへ

 

私はこれから壁外調査に行ってきます!!今から楽しみで夜もまともに寝れないよ。今度こそ巨人が捕獲できるように頑張るよ!

ヘルマンの方はどうだい?あまり手紙をよこさないからそっちの現状が分からないから今度は絶対に返事ちょうだいね!

 

姉としてはヘルマンに恋人の一人でも出来ると嬉しいんだけど。この残酷な世界で大切な人間というのは悲しみをよぶこともあるけど幸せをよぶこともある。私はヘルマンに出会えて幸せになれた。君はもう少し人を受け入れてみると良いよ。

別に恋人にこだわる気はないけどヘルマンに一人でも多く信頼できる人が出来る事を姉として願ってるよ。

 

今度の休みには久しぶりに会おうね

 

                                  姉より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に姉さんは全くと言って良いほど変貌がないな。『恋人』『友達』、僕にはもっとも縁遠い言葉だ。姉さんも僕の性格は知っているはずだけどな。それでも僕に信頼できる人を増やせとは難しいことを言ってくれるね。信頼は得るのは難しいけど信頼を壊すのは簡単。

 

 

それに信頼するような仲は友達以上になってしまうのではないか。それは僕のもっとうに反するのではないか。いくら姉さんの頼みであったとしても僕は自分の信念を曲げる気は毛頭ない。姉さんには悪いけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今週は珍しく僕としては……色々な人と話したと思う。クリスタ、アニ、アルミンかな…いや、ミカサとも話したことがあったな。振り返ってみると四人の人物と一対一で話すなんて歴代稀に見るほど多い。

少しずつ僕も人と話そうとしているのだろうか。訓練兵になった当初は誰とも話さないのが僕だった。

 

 

僕が少しずつ変わり始めているのかもしれない。それが他人から見ると良い変化なのだろうか、悪い変化なのだろうか。自分ではあんまり気付いてないけど……他人から見るとすぐに分かるほどの変化なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから一体、僕はどのように変化していくのだろうか。全然、想像できないけど………少しだけこれからが楽しみだな。

 



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過去編 山登り

僕が()()()()()最初に話したのはある訓練の時にペアを組んだ時だった。あの時はまだ『只の金髪の少女』だと思っていた。まさかこれを機にクリスタのイメージが変わるとは考えもしなかった。

 

 

 

 

 

この訓練は二人で協力して山を登り、そして下山するという訓練。時間に期限はないが食料的に関しても一週間が限界だろう。

 

もし、山の中で死に絶えたとしてもそれは仕方ないと思われるだけで助けに来る可能性はほとんどない。

 

 

 

 

 

 

何でそんな訓練を僕はクリスタと組むことになったのかという疑問があるだろう。クリスタだったらユミルと組むのがいつもの事じゃないかと………それは実に簡単でユミルが体調を崩してこの訓練に参加できなくなってしまったからだ。

 

 

 

それにしても何で僕とクリスタなんなのかと言うとそれは僕とクリスタが最後まで残ってしまったのだ。僕はともかくクリスタが残っていたのが僕としても意外だった。彼女ほどの有名人で人気者だとしたら引く手あまただと思っていた。

 

 

 

 

 

 

だが、彼女は残っていた。それは僕が予想するに憧れが大きすぎて声を掛けられなかったのではないだろうか。

 

 

 

そして訓練をする事になった僕とクリスタは順調に山を登っていき、予定通りにうまくいっているように思えた。

 

 

 

 

 

 

四日目の時点で僕とクリスタは山頂にたどり着いた。辛かった思いが全て報われたと思うぐらいに山頂からの光景は凄いものだった。

 

 

普段は何を見ても何をしても何も感じる事がない僕が初めてこの山に登って良かったと思えた。隣にいたクリスタもこの光景に涙を流しているようだった。彼女にとってもここからの光景は心を揺さぶるものがあったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

問題は下山の時に起こった。クリスタが下山をする時に足を滑らせてしまった為に足に怪我を負ってしまった。僕が思っていたよりもクリスタの足の怪我は酷かった。治るまでに少なくとも三日以上かかるかもしれない。ひとまずは安全な場所に移動した方が良いと思い、僕は近くの山小屋に向かった。

 

 

 

それから三日間の間、そこから動く事が出来なかった。食料に関しても一週間程度の量しかないために二人で食事をちゃんと取っていたらすぐに無くなってしまう。

 

 

だから、僕は食事を取らずにクリスタだけに食事をさせた。二人分の食料が一週間分あるわけだから一人で食べれば少なくともあと三日ぐらいは持つだろう。

 

 

 

 

「ごめんね。私のせいでこんなところにずっと泊る羽目になっちゃって本当ならもう下山できているはずだったのに……」

 

 

「別にいいよ。クリスタが悪いわけじゃないよ。これは運が悪かっただけだよ。それにどうしてもクリスタの足が治らない場合は僕がサポートしながら下山すればいいし。クリスタが気にすることじゃないよ」

 

 

 

こんな事を僕が言う日が来るなんて思いもしなかった。他人の心配を僕がするなんて今までの僕じゃ考えられない。

 

 

 

 

「………ありがとう!」

 

 

 

「…礼を言われるほどのことじゃないよ」

 

 

 

 

それから二~三時間ぐらい談笑して眠りに付くことにした。

 

僕の隣を見るとそこにはクリスタが少し寒そうにしながら寝ていた。確かに予想以上にここは寒いかもしれない。

 

温度差も激しい、いくら防寒対策をしていると言っても限界があるのは仕方がないこと。

 

 

僕は自分の上着を脱ぎ、静かにクリスタに掛けてあげることにした。僕はあんまり寒さを感じる方ではないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日になったとしてもクリスタの足が完全状態に治る事はなかった。だが、これ以上ここに留まるのは危険。

 

 

 

クリスタには悪いが僕のサポートを受けながら下山してもらうしかない。

 

 

「クリスタ。下山しようと思うが足の方はどの程度治ってる?」

 

 

 

「…………まあまあと言ったところかな。でも、ヘルマンが手伝ってくれるなら大丈夫だと思うよ」

 

 

 

 

 

 

そうして僕とクリスタは時間を掛けながら下山をした。普通の人が下山する時間の二倍以上を掛けて。



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訓練も終わり、今は夕食を口に運んでいる。美味しいとはお世辞にも言えないけど食べないと餓死してしまうかもしれないから仕方なく口に運ぶ。そんな作業のような食事をしていると右隣に腰を下ろしている人物が話し掛けてきた。

 

 

 

 

 

 

「ヘルマンは凄いよね!」

 

 

 

 

右隣に視線を向けるとそこには……ミーナ・カロライナが座っていた。彼女とはあんまり関わりがある方ではないのだけど。話した事があったとしても片手で数えきれてしまうほどだと思う。

 

 

 

 

 

 

「何が凄いの?」

 

 

 

 

 

「だって訓練でも何でも出来ちゃうんだもん」

 

 

 

 

「そうでもないよ。僕にも出来ないことはあるよ。僕だって人間なんだから」

 

 

 

ミーナから見たら何でも出来るように見えているんだろうけど、僕から言わせてもらえば不得意なことの方が多い。字が丁寧な方ではないだとか、早起きが出来ないとか色々とあったりする。

 

 

 

 

 

 

「そうなの?てっきり何でも出来る完璧超人なのかと思ったんだけど」

 

 

 

 

 

「全然だよ。それに僕なんかより僕の目の前に腰を下ろしている金髪の少女の方がよっぽど完璧超人だと個人的には思うよ」

 

 

 

 

僕がそう言うとミーナは僕の前に腰を下ろしている人に視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かにね。クリスタは欠点が全く見つからなそうだもんね」

 

 

 

 

僕の目の前に腰を下ろしているのは…クリスタ。彼女は本当にいつも僕の目の前の席に座っている。逆にクリスタが僕の目の前に座っていない方が最近では違和感を覚えるようになってきた。それほどまでに彼女が僕の日常に入り込んでいる。

 

 

 

 

 

 

「それにしてもヘルマンはモテるよね。ヘルマンの凄いところは男子からも人気が高いところだよね。普通、ここまでモテてたら嫉妬の視線でヘルマンが睨まれても良いのに……全然ないもんね」

 

 

 

 

 

「まず、最初に訂正させてもらうけど、僕はモテてないよ。それに男子からの人気が高いなんてこともない。アルミンの時にも思ったけど……何でそんなデマの情報が流れているんだろう」

 

 

 

 

 

「…………本当にヘルマンの鈍感っぷりには驚きを隠せないよ。これほど自分のことが分かっていない人も珍しいんじゃないのかと思っちゃうよ」

 

 

 

 

 

「…僕は僕のことを一番分かっていると思うよ」

 

 

 

 

 

「そうかな……それじゃ、アニが一番男子の中で話しているのは誰だと思う?」

 

 

 

アニが一番話している男子……?ライナーやベルトルトと一緒にいるのもよく見るし、エレンともよく見たりするな。極稀だけどアルミンと一緒にいるのも見たことあるな…。案外、聞かれると誰が一番話しているんだろうか。これはあくまでもミーナが見ている感じだしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分ぐらい考えると…答えを出した。

 

 

「ライナーじゃないかな。彼はよくアニと一緒にいるのを見るしね」

 

 

 

 

 

僕の答えを聞くとミーナは何故か大きなため息を付いた。そんなため息を付かれるような答えだったかな。

 

 

 

 

 

 

 

「これじゃあ、アニも………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後もミーナと会話を交わしながら食事を終えた。

 

 




感想などもあれば宜しくお願いします!!


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僕はクリスタ・レンズという人間をあんまり知らない。出会ってから一年近くしか経っていないのだから全てを知っているわけがない。僕が知っているのはいつも笑顔を浮かべている事と、同姓、異性問わずに人気者であることぐらいだ。その程度のことしか、僕はクリスタ・レンズのことを知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はヒストリア・レイスという人間のことを知っている。僕が彼女と出会ったのは僕がまだ幼い頃。あの頃の僕は今の僕と違ってとても活発的な人間だったから…色々なところを回っていた。彼女と出会ったのは僕がそんな風に色々なところを回っている時に…ウォール・シーナ北部のある牧場で彼女に出会った。あの頃の僕は知らなかったけどあの牧場は貴族のレイス卿の土地だったらしい。最初に出会った時に思ったことはとても綺麗な金髪をした少女だと思った。

 

 

 

 

 

 

経った一か月ぐらいだったが…彼女とは同じ時間を刻んだ。最初の頃はあんまり笑顔を浮かべていなかった彼女が一週間後には少しずつ笑顔を浮かべてくれるようになってくれていた。そのことは今でも忘れる事が出来ない。

 

 

 

クリスタ・レンズという女性に会った瞬間に彼女がヒストリア・レイスであることは分かった。僕が知っている頃から比べると成長しているが見間違うはずがない。名前を変えているということは何かそうしなくてはならない理由があったのだろうと思い、聞く事をしなかった。人の家の事情に踏み込むのは感心出来ないからね。

昔の彼女に比べると随分と笑顔が安っぽくなったものだと思ったりもしたが口に出す事はしない。彼女の人生に口を出す権利は僕にはない。

 

 

 

 

 

 

 

クリスタ…基、ヒストリアが僕と幼い事に会っていることを憶えているかは分からないが……彼女がヒストリアである時のことを忘れたいという意味でクリスタという名前を名乗っているのだとしたら忘れているだろう。

最初はあんまり彼女と関わる気はなかったが…彼女の方から来るようになってしまい、嫌でも一緒にいる機会が増えてしまった。

 

 

 

ボクは自ら彼女に昔のことを言う気はない。彼女がどうあれ昔のことを持ち出すようなことはしたくない。本人から問われた時は答えるけどね。

 

 

 

 

 

 

 

いつか『ヒストリア・レイス』として彼女と話せる日が来ることを心の底から願っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

----五話の続き----

 

 

 

食事を食べ終えた僕は自分の部屋に戻ろうと歩いていると後ろから急に服を掴まれた。何だと思って後ろを振り返るとそこにはさっきまで僕の目の前で食事を取っていた金髪の少女こと…クリスタ・レンズがいた。

 

 

 

 

「どうした?クリスタ」

 

 

 

「一緒に話さない?」

 

 

いつもの僕なら絶対にクリスタからの誘いは断っているけど今日は…

 

 

 

「良いよ」

 

 

 

「ヘルマンは私に冷たく……って良いの!!???」

 

 

クリスタは断られるのを想像していたのか……僕の返答を聞いて驚いている。

 

 

 

「うん。良いよ」

 

 

 

「やった!!」

 

その後、僕たちは外に出て話す事にした。

 

 

 

 

 

 

「それで何か僕に話があるの?」

 

 

僕は草むらに腰を下ろして隣に腰を下ろしているクリスタに問いかけた。

 

 

 

 

「…特別なにか話があるんじゃないよ。私はヘルマンの側で話がしたいだけだよ」

 

 

 

誰もがクリスタと二人きりでこんな風な状況に陥ることを望んでいるのだろう。こんなところを誰かに見られたら明日は問い詰められるのは避けられない。

 

 

 

 

「それを他の奴に言ってあげれば嬉しがるんじゃないのかな」

 

 

 

「女心が分かってないな。私はヘルマンと一緒が良いの!」

 

 

クリスタが僕を押し倒そうかという勢いで迫って来た。普通こういうことは男性の方がするものなんじゃないかと思ってしまう。

 

 

 

 

「…分かったから…離れてくれないかな」

 

 

 

「仕方ないな」

 

 

納得言っていなさそうな顔をしながらクリスタは隣に戻って行った。ひとまず、離れてくれないと普通に話も出来なそうだから離れてもらわないと。

 

 

 

「こんな機会でも無ければ聞けないだろうから一つ聞いても良いかい?」

 

 

 

「良いよ!!ヘルマンが私に質問をしてくれるなんて普段はないしね!」

 

 

 

「…クリスタは今の自分のことをどう思っているんだい?」

 

 

 

「それはどういう?」

 

 

 

「クリスタが自分のことをどう思っているのかを聞きたいんだ」

 

 

 

「…私は心のどこかで他人に必要されることを願っている。他人のためだったら死を選ぶことも出来ると思う。誰かに必要とされたいという気持ちが強すぎるために私はこうなってしまったのかな」

 

 

人間は誰かに依存しなければ生きていけない.。人は一人では生きていけないというのは誰もが知っていること。

 

 

 

 

「誰かに必要にされたいという気持ちは誰もが心の奥底にある。だからクリスタが思っている事も決して一般的な考えから逸脱しているわけではないと思うよ。まあ、簡単に言うと君は普通ということだよ。只の綺麗な金髪をした女性というだけだよ」

 

 

 

「……綺麗な金髪をした女性…綺麗な金髪をした女性……綺麗な金髪をした女性」

 

 

何故か、クリスタは一部分だけを繰り返し言っている。呪いの書を読んでいるるみたいだ。

 

 

 

 

 

「初めて…ヘルマンが私のことを褒めてくれた」

 

 

 

まあ、褒めたことは無かった…だけど、それはクリスタだけじゃない。同期の奴を褒める機会なんて普通はないだろう。クリスタにとって予想以上に嬉しかったのか……暫く声を掛けても返事が返ってこなかった。

 

 

 

 

 

その後…三十分近く二人で一緒に話したりしてから宿舎に戻った。




感想などもお待ちしています!

次の話に登場して欲しいのは?というアンケートは6月25日23時59分をもって締め切りとさせていただきます。


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最近はよくあいつのことが頭をよぎる。何故だか知らないけど……それのせいで訓練に身が入らない。元々、訓練に集中しているわけではないけど最近は前より身が入らない。こんな気持ちは初めてでこの気持ちの正体は分からない。

 

 

 

 

 

ヘルマンと一緒に居ると胸がドキドキしてあいつが違う奴と一緒にいるのを見ているとイラついてくる。今まで他人が誰と話そうと別にどうでも良かった。私は目的を達成してここを出て父に会う。それが私の望みのはずだった。だけど最近ではその事を考えるよりもヘルマンのことを考える頻度の事が多くなっている。

 

 

考えているのはとても他愛無いようなことで…態態、考える必要もないと思ってしまうほどのことばかり。だけど考えずにはいられない。

 

 

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

「あんたは私のことをどう思っている?」

 

 

 

 

急に問われたその質問に僕はすぐに返す事が出来なかった。自分が予想していた質問と違ったためにすぐに返さなかった。今、僕は訓練が始まる前にアニに呼び出されて人目の付きにくいところにいる。

 

 

 

 

 

「…それはどういうことかな?」

 

 

 

 

「いや、その言葉の意味通りに取ってもらって構わない」

 

 

 

 

「……いや、そんなことを急に聞かれても」

 

 

 

 

 

「そう…」

 

 

 

 

 

 

「何でアニはそんなことを僕に聞くんだい?」

 

 

 

 

こんな事を聞いてアニに何の得があるのだろうか。考えても思い当たるようなことは全くない。自分のことをどう思っているのかを聞いたとしても…自分の得になるようなことがあるはずがない。ここでボクがアニのことを嫌いだと言ったら彼女はそれを聞いたことを後悔するのではないだろうか。人に嫌いと言われて喜ぶ人間は極少数のはずだからね。

 

 

 

 

 

「ちょっとね…」

 

 

 

 

 

「…そうか……それじゃ逆にアニは僕のことをどう思っているんだい?」

 

 

 

アニは自分に質問が帰って来るとは思っていなかったのか…少したじろいだ。

 

 

 

 

 

「……ヘルマン…のこと…」

 

 

 

 

 

「うん、アニの口から聞いてみたいんだ。他人が僕にどんな印象を持っているのかを知りたいんだ」

 

 

 

 

ヘルマンは私の方を真っすぐ見つめながら聞いて来た。彼の真っすぐな目を見ると私はあの目から視線を逸らせない。何でか分からないけど…彼に聞かれたら何でも答えてしまう気がする。

 

 

 

 

 

「…側に居て…心地いい人」

 

 

 

 

 

「?」

 

 

 

 

 

「うまく言葉で説明するのは難しい。なんかヘルマンが居ると落ち着くんだ」

 

 

 

 

「そう言って貰えると嬉しい。話し掛けてもアニはあんまり表情が動かないから…話し掛けられるのが嫌なのかなと最近は考えていたりしていたからね」

 

 

 

僕もアニのことは言えないけどね。僕もあんまり嬉しくても悲しくても表情が動かないからね。

 

 

 

 

 

「…私は答えたんだから…ヘルマンも答えて。私のことをどう思っているの?」

 

 

 

 

「僕にとってアニか……良い友達だと思っているよ」

 

 

 

異性の中で一番親しいのは…アニだろう。僕の答えを聞いたアニは一瞬寂しそうな顔をしたが…すぐにいつもの顔に戻った。

 

 

 

 

 

「そっか…そうだよね」

 

 

 

 

アニはあんまり表情が動かないタイプの人間だと記憶していたけど、今のアニは明らかに落ち込んでいる。誰が見たとしても分かってしまうほど。

 

 

 

それからアニは僕と別れるまでずっと暗い顔をしながら過ごしていた。何かやってしまったのなら謝ろうとも考えたが何をしたのか分からない以上、謝りようがないんだよな。

 

 



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ミカサ・アッカーマンは人付き合いが良い方とは言えない。元々、彼女は自ら人と関わろうとはしない。エレンやアルミンと一緒にいるところは見るがそれ以外の人と居るところをあんまり見たこともない。だから彼女がヘルマンと話しているところを見たときは誰もが驚いた。今まで二人が仲の良さそうな雰囲気はなかった。それが故に驚きは大きかったのだろう。

 

 

 

「なぁ、アルミン」

 

 

「何だい?」

 

 

「ミカサってヘルマンと仲良かったか?」

 

 

「イメージはあんまりないね。二人が一緒に話しているところも記憶が正しければ数回ぐらいしかなかったと思うよ」

 

エレンがアルミンに聞いたのには理由があった。それは彼らの目の前で繰り広げられている光景が関係している。その光景とは……ヘルマンとミカサが並んで歩きながら話している。エレンとアルミン以外にもこの光景の異常さを多くの同期が感じていた。だけど、誰も本人たちに聞く勇気が持てずに二人の事を固唾をのんで見守っていた。ミカサに好意を寄せるジャンやヘルマンに好意を寄せているクリスタも皆に混ざって静かに二人の事を見ていた。

 

 

 

「そうだよな。オレもミカサがヘルマンと話しているところは見た事ねぇしな」

 

 

エレンは考える素振りを見せながら答えた。ミカサがエレン以外の男子と話しているのはとても珍しい。それに今回はそれだけじゃなくてそれにプラスしてミカサが時折優しい笑みを見せている。ミカサが優しい笑顔を向けるのはエレンだけだと誰もが思っていたから。

 

 

「それにしてもミカサは楽しそうだよね…」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

そんな皆の注目を浴びている二人はというと――――――――

 

 

 

「…好き……」

 

 

「うん、僕には『恋愛』というものがあんまり分からないが、その気持ちは『恋』と呼ぶと聞いた事があるよ」

 

 

「今まで恋しているなんて思ったこと無かったから…」

 

 

「まあ、それはキミにとってエレンが大切な存在だったからかも。大切過ぎて、一緒にいる時間が長すぎて気付く事が出来なかったんじゃないかな」

 

 

 

自分にとって大切な存在だからこそ、自分の気持ちに気付けなかった。まあ、端から見ていてもミカサのエレンへの態度やにじみ出る愛情は普通の友人に対する態度とは違っていた。幼い頃から一緒に居たからこそ信頼関係が気付きあげられているのだろうけど、それにしても信頼関係がすごい。

 

 

「………」

 

 

「ミカサの想いがエレンに届いて幸せになることを願ってるよ」

 

 

 

もう遅いかもしれないけど、この状況を説明しておこうかな。訓練が終わって帰る時に珍しくミカサから声を掛けられた。正直、アニよりも話す事が少ないミカサから声を掛けられたから驚いた。態態、声を掛けてくれたぐらいだから何かあるんじゃないかと思っていたけど、やっぱりそうだった。

 

 

 

どうやらここ最近、エレンと一緒に居ると胸がドキドキして会話にならないらしい。今までエレンと話しててこんな気持ちになったことはなかったらしい。

 

この気持ちは何なのか、変な病気じゃないかなどをミカサは聞いて来た。それは僕が前に医療系の本を読んでいるのを見たからだろうね。ただの興味本位で読んでいただけなんだけど、ミカサはそれを見て医療系に強い人だと思って話し掛けてきたんだろう。

 

 

 

「まあ、ミカサが正直な気持ちを伝えれば…ちょっと鈍感なエレンでも分かってくれると思うよ」

 

 

「うん、わかった。ありがとう!ヘルマン」

 

 

 

ミカサはいつもの無表情ではなく、優しい笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

その笑顔を見せれば…エレンも意識せざるを得ないだろうね。

 

 



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