NieR:Automata It might to [BE] (ヤマグティ)
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君に最も近くて、永遠のように遠かったあの場所。
Prorogue. [or not to [B]e]


マジの初投稿です。

ニーア3週目が題材の話です。

End of yorha とか Eエンドというワードを知らない人はネタバレなので推奨しません。 

多分知らない状態で見ても面白くないです。

だからといって知ってたら面白いという保証もないです。



Prorogue [or not to [B]e]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの人に触れ合った時の事は忘れない。

この恋が永遠であるという確信。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの人の側にいても、あの人の気持ちを判らず。

苦しくて、苦しくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの人の近くにいれば、あの人を傷つける。

あの人から離れても、あの人を傷つける。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・ようやく、私の場所を見つけた。

あの人に最も近くて、永遠のように遠いこの場所を。

                  

                  黒の血盟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽△

 

バンカー内部の窓際で、一人のアンドロイドが外を眺めていた。

 

窓際によりたって外を眺めるその姿は悠然としているようにも見えるし、どこか憂鬱そうにも見える。

 

ただ分かっている事として、その窓からは青く美しい地球が見えるのだが、そのアンドロイド…いや、彼女はただ暗くて、黒い宇宙を、ずっと眺めていた。

 

その表情は読めない。目は黒い布で覆われているし、口角はピクリとも動かないから。

 

やがて暫くすると歩きだし。[9S]と表示された部屋に入っていった。

 

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

 

「あぁ、待ってたよ2B…これを渡しておく。」

 

そういって9Sが私に物資を渡した。

 

次の作戦に備えたもの。

 

エイリアンはすでに滅んでいた。さらにアダムとイヴを失った機械生命体達は今混乱状態にある、これは機械生命体達を倒す絶好のチャンスなのだ。そして私達B型は主戦力として前線で戦うので、これはそのための物資。

 

 

 

私が9Sの部屋に訪れたのはこれを受け取るため。

ただそれだけ。

 

「2B…」

 

ふと9Sが何かを言おうとする。何か伝えなければならないと言わんばかりの挙動だ。

 

「いや…なんでもない…気を付けて…。」

 

結局、9Sは何も言わなかった。

 

[予定されていた準備行動を完了。最終確認:自室に配備された装備]

 

ポッドが割りいるように話す。

私はそれに従い自室に戻る。

 

……ただそれだけ。それだけだ。

 

私には9Sが何を言おうとしたかは、わからなかった。

 

そう私にはわからなかったんだ、9Sが何を言いたかったのかなんて。

 

そしてそれを知りたがる必要もないから…。だから…だから私は自室に戻る。

 

そして作戦へ向けた準備をする。ただそれだけ。それだけなんだ。

 

私は何も気付かなかったし、気付くような、詮索するようなことも何もない。

 

何も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、イヴと戦い、倒した時の事を思い出してしまう。

 

 

 

君は汚染されてしまっていて。

 

君をまた殺してしまって。

 

悲しみに暮れていた時に、君の声がした。

 

先程までのやり取りなんて嘘だと言うように何気なく私に語りかける君。

 

 

 

 

 

初めて私が君を殺さずに済んだ日だった。

 

 

 

 

 

初めて君が君のまま戻って来た日だった。

 

 

 

 

嬉しくて、ただ嬉しくて。あの日程喜びに満ちた日なんてなかった。

 

 

 

だけど。

 

なんで、それがずっと続くなんて思っていたんだろう。

 

私にそんな資格なんてないのに。

 

 

 

あぁ…またか。結局…いつも通りだ。

 



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Episode.1 [私ハ知ッテイル。]

ゲーム本編の2Bの内心描写が少なすぎてほとんど自分の考察で書かなきゃいけないから初投稿です。


 

 

私はいつまで戦い続けるのだろう。

この血塗られた、戦場の渦の中。

 

 

 

私はいつまで守り続けるのだろう。

終わる事のない、無限の戦争の中で。

 

 

 

私はいつまで信じ続けるのだろう。

欺瞞と虚飾に満ちた、この世界を。

 

 

 

私はいつまで嘘をつき続けるのだろう。

その暗い未来に、絶望し続けながら

 

                白の契約

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室に戻った後。私は支給されていた特殊装甲を着た。

 

最終奪還作戦。

 

これが成功すればおそらく地球は人類の手に戻るだろう。数千年にわたる悲願の達成は目の前にあり、アンドロイド達も奮起している。

 

けれども…私の気分はいつもとそう変わらない。

淡々とした感情が高ぶることも沈む事もなく一つの直線になっている。

 

暫くしてバンカー全体に司令官の声が響く。

 

最終奪還作戦が、もう始まる。

 

「思い返せ!故郷を奪われた苦しみを!」

 

 

「我々は諦めはしない!」

 

 

「海を、空を、大地を…」

 

 

「おぞましき機械生命体に奪われた地球を我々は取り返す!」

 

 

「本作戦の成功をもって」

 

 

「今ここで、この戦争を終わらせるのだ!」

 

 

 

「人類に栄光あれ!」

 

 

 

あの言葉だ、私はヘルメットを被る。耳を塞ぐように。

 

 

 

 

 

 

「「「人類に栄光あれ!!」」」

 

 

 

 

 

 

けれども隊員たちの返事の声は、鮮明に響いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は知っている。こんなの茶番だって。

 

 

 

 

 

 

△△△

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオ……

 

 

青空。地上にむかって火球が分散する。

 

 

いや、遠目から見れば火球に見えるあれは飛行ユニットだ。

 

後続のヨルハ隊員たちが、先行部隊に続いて地球への着陸を目指していた。

 

 

 

 

向かってくる機械生命体達を撃ち落としながら飛行ユニットで地上の合流地点へ向かう。

 

9Sもいるスキャナーモデル先行部隊の妨害のおかげがあって奴らの数はそう多くない。

 

まだ合流地点に着くまで少し時間がある。考える余裕ができたので、自分の任務を再確認しよう。

 

 

 

今の私の目標は先行し、妨害している機械生命体の無力化任務を終えた9Sと合流する事。そしてその後9Sから現地での任務を確認し、最終奪還作戦に参加する。

 

私は後続だから、おそらく任務は先行部隊の援護だろう。

 

6Oに座標を送ってもらったので今やるべき事は撃墜されずに指定の合流場所に向かうだけ。

 

今の所、それだけか…。

 

 

 

 

 

 

▪▫,..'''''''..,,,,..''~,,ーーー------・,,

 

 

 

 

 

廃ビルの屋上。

 

 

 

「う゛あぁ゛…!」

 

傷だらけになった一体のヨルハが倒れる。

 

 

「22B!!」

 

22Bと呼ばれたその機体は、もう動かない。

 

「クソォ!クソォォォォ!!」

 

残された片割れが怒りを込めて私達に刃を振るう。

 

私は後ろにいる君がなるべく戦闘に参加しなくていいように、向かってくる彼女の刃を的確に受け流し、隙をつき、胴体を斬りつける。

 

B型の動きは一撃が強いし重いけど、個体差あれど大体は単調だ。慣れた手つきで追い詰める。追い詰めれば追い詰める程、相手の動きは鈍くなり、楽になる。

 

君は…対アンドロイド戦なんて初めてだからハッキングを構える手がまだ震えている。

 

ビッッ

 

斬りつけた場所からケーブルの切れたような鈍い音が小さく鳴った。

 

刃が深くまで入ったんだろう。

 

 

「あぁ゛…ぐ…うぅ…」

 

当たり所が悪い所に当てたから、すぐに彼女は体勢を崩した。致命傷だ。

 

「隊…長…」

 

そう最後に呟くと、その内彼女も動かなくなった。

 

後ろに視線を向ける。

(相手が裏切り者といえど、何故隊員同士で戦わなければならないのか)とばかりに君の顔は沈んでいる。

 

…君は私をどう思っただろう?

 

ただ淡々と彼女らを斬り倒した私をどう思っただろうか?

 

恐れただろうか?嫌悪しただろうか?

 

……

 

いいや、私は知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

君は私を嫌ってなどくれない。

 

 

 

 

 

 

 

「これは、一体…。22B …?64B…?」

 

新たなヨルハ隊員が現れた。恐らく彼女らの仲間だろう。

 

「お前達が…やったのか…?」

 

信じられないもの見るような顔をして、私達を方を睨む。

 

「お願い!抵抗しないで下さい!」

 

戦わなくて済むように、君は必死に訴える。

 

…でも、仲間を殺された恨みなんて、そんなものでは治まらないんだ。

 

「うるさい!なにも…」

 

 

 

「なにも知らない癖にっ!!」

 

 

 

____――――――_△--●ー,,〘''''ー―__△△▽▽

 

 

 

 

 

 

ああ…。

 

考える余裕ができると、いつも嫌な事を思い出してしまう。

 

 

辛かった事。悲しかった事。どうしようもできない事。

 

 

忘れてしまいたいような記憶が私の頭の奥底に満ち溢れている。

 

 

でもそれらは、本当は…消してしまおうと思えば幾らでも消せるんだ。

 

皆だってそうしている。

 

それなのに、どうして私はこんな物をいつまでも持ち続けるのだろう。

 

罪悪感?

 

自分への戒め?

 

それとも…それとも…。

 

 

その記憶の中に…いつだって君がいるから?

 

 

[感情をもつことは禁止されている。]

 

 

これができれば、これさえできれば、どれだけ楽だったろう。

 

感情さえ、心さえ…無かったのなら。

 

 

ツ―――――

 

 

『月面人類会議より地上で奮闘しているアンドロイド諸君に告げる。』

 

酷く無機質な男の声。

 

『我らが誇る精鋭ヨルハ部隊が、敵ネットワークユニット、アダムとイヴを撃墜した。』

 

アダムとイヴ…アンドロイドのようだった彼らは…結局、何がしたかったのだろう。

 

確かアダムは人類についてよく知りたがっていた。憎悪がどうとか、生と死がどうとか。

 

ふと、アダムの腹を切り裂いた時の感覚を思い出す。

 

 

憎いと思った相手を殺しきったあの感覚。

 

 

あの胸に沸き上がる快か……。

 

 

いや、どうでもいい。

 

 

『この勝利は地球奪還にむけての大きな一歩となるだろう。』

 

そういえばアダムは…エイリアン達は自らの手で滅ぼしたと言っていた。

 

『我々月面の人類も喜びの声に満ちている。』

 

 

つまらない存在だと

 

 

『今後の更なる諸君らの健闘に期待している』

 

 

 

私達アンドロイドも、いずれそうしていたのだろうか。

 

 

 

『人類に栄光あれ。』

 

 

 

 

 

 

人類が既に滅んでいなかったのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

指定された場所が見えてきた。地表に9Sが小さく見える。

私は飛行ユニットから飛び降り、着地する。最終戦の為に着込んだ無機質なヘルメットの目が緑色に光る。

 

 

「2B!」

 

 

9Sと合流した。

すぐに頭を任務遂行に切り替える。

 

私は2B。ヨルハ2号機B型、通称2B。よし。

 

『状況は?』

 

ヘルメットを被ってくぐもっていてもわかる冷静な声で確認する。

 

「作戦は開始。先行部隊は既に交戦中。僕たちの役割は、先行部隊の状況にあわせて援護する遊撃部隊。」

 

「先行部隊が交戦している場所をマップに転送しました。援護に向かいましょう。」

 

『了解』

 

任務開始。

 




2Bの心情考察をひたすら執筆する回が続きそう。でも僕は楽しいから許して。


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Episode.2 [不吉ナ予感]

ただただ本編通りの内容を書き起こすだけの回があと1~2話続くので初投稿です。


 

 

 

 

マップに示された先行部隊の交戦場所へ向かう。すると早速通信が入ってきた。

 

『こちら4B 。先行攻撃部隊アルファ。隊長。』

 

 

 

 

4B

 

 

 

 

___-..___------- ''-=----____---'--……--…▫▫▪

「そうかっ…!お前っ…!!そういうことか…!ガフッ……ゴホッゴホッ……クソッ!!仲間だと…思ってたのにっ……!!」

---'''''▫__▫~▪'▪▪▫______________-____...__,

 

 

 

 

 

忘れろ。今はそんなことを気にしてる場合じゃない。私は私のやるべき事をする。

 

『敵の攻撃に手を焼いている。至急援護を頼む。』

 

『こちら2B。遊撃部隊。今からそちらの援護に向かう。』

 

 

『了解。感謝する。』

 

 

ビル群を越え、4Bのいる場所へ合流する。

 

なるほど確かに苦戦しているみたいだ。

ネットワークを失った機械生命体達が暴走のような状態に陥っているので、いつもとは違う対処を求められているのだろう。

 

「ギギ…アンド…ロイド…コロ

 

ギンッ

 

鉄をたち切った鈍い音。まん丸な機械生命体の頭がコロコロと転がる。

 

機械生命体の一体がこちらに攻撃を仕掛けてきたので、その首をはねた。どうということはない。

 

エンゲルス

遊園地の歌姫

超大型機械生命体

アダム

イヴ

あと他に色々…

 

最近はずっと強敵ばかりを相手にしてきた。

こんな奴ら、戦い慣れている。

 

9Sのハッキングの援護もあって機械生命体達は次々と倒されていった。一通り壊滅させると4B部隊が援護に同行、交戦場所への援護に向かうたび同行者が増えていった。

 

だが楽にはならない。

 

倒される事なんて想定に入れてるのか、機械生命体もその数を増やしてきている。

 

 

「どうしてイヴのネットワークが破壊されたのに、どうして奴らは暴走状態に陥っているでしょうか…」

 

ふと、9Sが私も思っていた疑問を口にする。

 

9Sの言うとおり、なんだか妙だ。

 

でも…そんなこと考えても私にはわからない。

 

『…私達は戦うだけ。』

 

現状、戦うこと意外にできることはない。

 

オペレーター6Oから新たな援護目標を指定される。

 

敵の数が多く思ったより苦戦しているらしい、急がないと。

 

 

 

…なんだろう、何か嫌な予感がする。

 

 

 

―――――ーーーーーーーーー――――――

 

 

 

 

指定された場所に向かい、部隊オメガの援護にあたっているときだった。

 

ビィーーーーーーーーーー……

 

周囲に異音が響きわたり始める

 

『何だ…この音…』

 

周辺の同行部隊もざわつき始める。

何の音?何処から?

そう思った次の瞬間だった、周囲の機械生命体がまるでビックリ箱のように首から脊椎のような部品を射出して________

 

 

バッチィ

 

『ああぁっ……!?』

 

機械生命体達が突如光を発すると共に、体が硬直し、機能不全になった。

 

しまっ…た…EMP攻…撃をっ…受けた…まず…い、周…りの同行者たち…も…同じ状態に…陥っている…9…

 

「2B!?大丈夫!?」

 

…そうだ…EMP攻撃の影響で頭がパニックなっていたけど…ついさっき9Sには付近の増援の確認をさせていて…近くにはいないんだった、よかった…。

 

『油断……した…至近距離からのEMP…攻撃が…』

『再起動…しないと…』

 

再起動をするため、一旦機能を全てオフにした。

 

 

 

 

 

「援護するっ!!」

 

2B達がEMP攻撃を受けた。急いで援護しないとっ!!

 

ビルから飛び降り武器を構える。そして標準を合わせ槍を振り投げようとした瞬間、

 

「…!?…し、視覚迷彩…!?」

 

奴らの姿にモザイクのようなものがかかった。先程の攻撃の影響が残ってたのか?

これでは相手の動きがよくわからない。

 

「一体、何がどうなっているんだ!」

 

何がどうなっている?訳がわからない。2Bといろんな死線をくぐり抜けてきたけど、こんな事態は始めてだ。

 

「くそっ…次から次へと…!早く倒して2Bを助けないと!」

 

そうだ、早く2Bを助けなければ。こんな小細工を気にしてる暇なんてない。

 

大丈夫だ、大雑把な敵の位置はわかる。

冷静になり、もう一度槍を構え、振り投げる。

 

ズドンッ

 

「ギッ……」

 

手応えあり。2Bと共に繰り広げてきた戦闘の経験が役にたっている。

 

ズドンッ!

 

 

ズドンッ!!

 

 

ズドンッ!!!

 

……静かになった。

 

敵は殆ど片付けただろう。急いで2Bのもとに向かう。

 

「大丈夫!?」

 

2Bはゆっくりとふらつきながら立ち上がる。再起動に成功したのだろう。

 

息苦しいのか、ヘルメットを外した。

 

だが安心したのもつかの間

 

『う、うぁぁぁあ…!』

 

周囲からうめき声があがる。

 

「これは…広域ウイルス…!?」 

 

論理ウィルス?受けたのはEMP攻撃だけじゃないのか?

 

「うぁぁぁ…!」

 

程なくして2Bにも同じ症状が現れた。

 

「2B!!」 

 

「ウイルス汚染…さっきのEMP攻撃がトリガー!?なんとかしないとっ…!」

 

急いで2Bのもとに駆け寄りハッキングをかける。

 

 

大丈夫だこれぐらいなら直ぐに治せる。

 

集中し、かつ迅速にウイルス原を排除する。

 

「2B …大丈夫…?」

「あ……ああ……」

ハッキングに成功し、2Bの意識が安定してきた。

良かった…。いやまだだ。すぐに他のヨルハ隊員たちの汚染も取り除かないと_______

 

『ウフッ、フフフフ…』

 

…?

 

 

『フフフフ…』

『フフフフフフ…』

 

「…なんだ?」

2Bも懐疑そうに周りを見渡す。

汚染されているヨルハ隊員たちが、不適な笑みを浮かべている。

まさか…論理汚染…?

 

 

 

 

 

『フフフフ…アハハハハハ!!』

 

 

 

 

ヨルハ隊員たちの目が真っ赤に染まった。

 




本編でナインズ君が対アンドロイド特化の2B型数十体を一人で倒しきってたのホント強い。その槍投げ封印しろ。


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Episode.3 [ワタシハソノ刃ヲ誰ニデモ向ケラレル]

Ps5が買えないから初投稿です。まーだif展開までかかりそう(猛省)


体がまだふらついている…状況がよくわからない…確か…私はEMP攻撃を受けて…だから再起動をして…それから9Sにハッキングでウィルスを除去してもらった…。

 

そうだ。その後、私達以外の隊員に異常が起きた。

 

「…なんだ?」

 

『ウフフ…アハハハ!』

 

周囲の隊員たちの目が赤く染まっている。

 

これは…論理汚染…?

 

そう思っている間に隊員達が一斉に剣を振りかざしてきた。

 

「!?」

 

キィン

 

咄嗟に回避し刀で受け止める。

 

 

「汚染されて…乗っ取られてる…!?」

 

9Sの言葉で瞬時に状況を理解した。

 

「そんな……っ!」

 

通常の論理汚染はただ自我を失い暴走するだけのはず…。

…そういえば、確か論理ウィルスはワクチンに対抗するようにワクチンの精度に合わせて成長しているなんて話を聞いた事がある。これはその一環?だとしてもこれ程まで成長しているなんて…

 

いいやそんなこと今はいい、今やるべき事は一つだ。

応戦し、突破する。

9Sのハッキングで解除してあげたいが、数が多すぎて対処できないだろう。リスクが大きすぎる。

 

だが、応戦するとなれば…そうすれば、きっと何人か手にかけることになるだろう。

 

 

…大丈夫、私ならできる。

 

 

覚悟を決め強く握りしめた刀を目の前に迫る隊員に振りかざす。

だが切っ先があたる直前で私の腕が止まった。

 

「なっ!?」

 

その隙をついて隊員が剣を横凪ぎに振る。

 

ガキァン

 

また受け身をとって後ろに仰け反る。

 

なぜ動かなかった?受け身は取れた、機能不全が続いているなんて事はないはず。

だとすれば

 

「攻撃機能が動かない!」

 

なんで?9Sはちゃんとハッキングしたはずなのに。

 

一瞬の疑問。だがすぐに思い出した。

 

「ヨルハ部隊の識別信号だ!」

 

9Sが叫ぶ。そうだ、識別信号。ヨルハ隊員は味方への反逆・誤射を防ぐ為に基礎機能として違反行為のない通常のヨルハ機体を味方は攻撃できないようにできている。

 

そう、違反行為のない通常のヨルハ機体を…。

 

 

……

 

 

あぁ…すっかり…忘れていたな…

 

 

 

 

 

キィィィィィィン

 

剣と刀が交わり火花が散る。

 

すぐに意識を戻す。

感傷に浸っている暇なんてない。

このままではジリ貧だ。

 

「僕がハッキングして識別回路を焼き切る!」

 

9Sが咄嗟に判断する。

 

「お願い!」

 

ハッキングが始まった。といってもそう思った頃には既に終わっている。今何かが頭の中で焼けた感覚がしたので上手くいったのだろう。

 

再び刀を強く握りしめ。意識を集中させる。

 

『フフフッ!アハハハ!!』

 

後ろに一体いる。振り返ると同時に切りつける。

 

『ぎゃァッ!?』

 

汚染された隊員の腕が飛ぶ。

 

そしてそのまま振り返った勢いで9Sに襲いかかる隊員に刀を投げつける。

 

『イィギッ』

 

頭に直撃したので一撃で落ちたようだ。

 

 

_____ッ!!背後からの不意討ちッ!

 

咄嗟に刀を手に転送し戻し、逆手に持ちかえ後ろを向いたまま飛び込み刺す。

 

『アアアッ…!!』

 

「…っ!」

 

この声は…4Bだろうか…

 

 

いいや、気にするだけ無駄だ。

 

刀を抜き体勢を立て直し、辺りを見回す。

…どうやらポッド達がある程度無力化してくれたらしい。今のうちだ。

 

「ポッド!指令部に通信、状況確認!」

 

隊員達から距離をとり。バンカーとの連携を試みる。

 

[不可能。機械生命体による妨害電波を感知。]

 

「くそっ!」

 

思うとおりにいかない状況に思わず悪態をついてしまう。

 

「2B!妨害電波を出している個体をマークした!」

 

 

「!! わかった!」

 

 

戦場を離脱しマップにマークされた場所に向かう。すると中型の個体が見えてきた。

 

「あのデカイのから妨害電波が出ているようです!」

 

 

「ギギギギギ!」

 

中型機械生命体が持ち前の剛腕を振り下ろす。

 

ズシィィィン…

 

直前で回避し、その腕を駆け上がり、

 

ギィィン

 

その首を跳ねる。

 

ズシャァァァ…

 

頭部を失った鉄塊が力なく倒れる

 

「これでジャミングは解除された筈!」

 

 

「指令部に通信!状況報告と救援要請!」

 

なりふり構っていられず落下しながらポッドに命令する。背中から落ちゴロゴロと少し転がる。

 

 

 

……

 

 

 

2秒程の沈黙。

 

「ポッド!!」

 

耐えきれず少し声が荒くなる。

 

[通信ロスト。指令部に通信できず。]

 

「くそっ!まだジャミングが

 

[否定。通信環境は良好。通信ロストは接続認証の失敗によるもの。]

 

[現在。指令部の通信機能は完全に沈黙。]

 

「バンカーが…一体何が!?」

バンカーに異常?どういう事?わからない…こんな事態経験したことがない。どうすればいい?

 

『フフフフ…』

 

あの不穏な笑い声が聞こえる。立ち上がり戦闘体勢に入る。隊員達が、追い付いてきた。いや、この数…

まずい…さっきよりも増えてる…!

 

「駄目だ…キリがない…!」

依然として追い詰められた状況が続く。

 

「2B!僕に考えがある!」

 

9Sが何か思い付いたようだ。

 

「バンカーには非常用のバックドアがあるからそこから僕と2Bのパーソナルデータを全部アップロードして、その後、ここをブラックボックス反応で吹き飛ばす!」

 

 

成る程確かにそうすれば…!

 

「……わかった!」

 

 

9Sがデータのアップロードを始める。

 

私は襲いかかる隊員たちを少しでも足止めする。

 

「データをアップロード…30%完了!

 

50%完了!

 

70%越えた!」

 

「9S!まだ!?」

 

私でも…この数を一斉に相手は出来ない…!

 

「もう少し!92%!2B!ブラックボックスを!」

 

「ログデータをアップロード完了!」

 

9Sが自分のブラックボックスをもって2Bに向かって走る。

それ妨害するように汚染された隊員たちが9Sに乗り掛かる

 

「うわっ ぐっ うっ!」

重圧に耐えられず地面に倒れる9S

 

「9S!」

 

『アアア!』

 

「ッ!!」

捌ききれなくなった事で私も押しきられ地に伏してしまう。

 

「……ッ!!」

「ぐぅぅぅッ!」

 

互いにブラックボックスのもつ手を伸ばす。

少しでも…少しでも触れればいい。

もう少し…!もう少ッ…!

 

ドサッドサッドササ

 

のしかかる隊員たちに埋もれ、やがて二人は見えなくなってしまっ

 

 

 

       ピカァッッッ

 

 

 

 

周囲が閃光に包まれ、そして辺り一帯が、消滅した。




書き起こしてみるとナインズ君ホント優秀ですね。


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Episode.4 [染ミ付イタ思イ出。ソシテ涙。]

もっと上手く話をまとめれば早いテンポでここまで持ってこれた気がするので初投稿です。


データバックアップ中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バックアップ完了』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハッ!…」

 

目が覚めるとそこはよく見知った天井。

 

ブラックボックスで消し飛ばす作戦は上手くいったようだ。

 

「ハァ…ハァ…」

 

記憶を完璧に転送したので隊員達に囲まれていた先程までの焦りがまだ残っている。

 

大丈夫だ。上手くいった、落ち着こう。

 

だが、安心に浸るには早い。急いで指令部に向かわないと。

 

急いで部屋を出る。

 

「2B!」

 

9Sも無事だ。

 

「急いで指令部に報告を!」

 

駆け足で指令室に向かう。

報告だけじゃない。安否も確認しなければならない。通信機能が停止してるなんてただ事ではないだろう。長い廊下を駆け抜け、二重のドアを抜け、指令室に入る。

 

そこには…

 

「これは……」

 

そこには何の変哲もなく、いつも通りの静かな指令室がそこにあった。

 

無事…らしい…?

 

急いで司令官のもとに駆け寄る。

 

「司令官!」

 

「2B…9Sも!?ここで何をしているんだ?」

 

司令官が本来此処にいるべきでない私達の存在に驚嘆の声をあげる。

 

「地上のヨルハ部隊がウィルスによって乗っ取られたんです!僕達は暴走したヨルハ隊員をブラックボックス反応で…

 

9Sが起きた事を端的に伝えようとするが

 

「ウイルス…?何を言っているんだ。地上からはそんな報告上がってないぞ?」

 

やはりというべきか情報は届いていないらしい。

 

「あれは偽装です!現在バンカーの通信は封鎖されていて…  

 

9Sが伝えようとするが

 

 

「……そもそも、命令もなく戦場から何故戻った?」

疑われている。

…確かにそうだろう。通信ロストなんて経験に無いことだ。だが危機感と焦りからどうしても冷静なっていられず、

 

「だから!ヨルハ部隊が暴走して…!

 

つい少し怒りがこもった声になってしまった。

 

「……。いや…汚染されているのはお前達じゃないのか?」

 

しまった。疑いが深くなった。

 

「違うんですっ!」

 

9Sが必死に訴える、だが

 

 

「2B、9S。貴様たちをウイルス汚染の疑いで拘束する。」

 

 

そう、告げられる。

 

ザッザッ

 

司令官の周りの護衛たちが武器を構え、近づいてくる。

 

「待ってくださいっ!!」

 

9Sが叫んだ次の瞬間。

 

『うっ、あぁぁ!?』

 

『くっ!?』

 

『あああっ!』

 

護衛たちが、呻き始めた。

 

護衛だけじゃない。オペレーターたちも同じ症状が出ている。これはっ…

 

『ふふふ…せいか~い♪』

 

護衛たちの、オペレーターたちの目が赤く染まる。

 

「汚染!?」

 

予想外の事態。一瞬頭がフリーズするが

 

『アアアッ!!』

 

「なんだっ!?」

 

「ッ!! 司令官!!」

 

咄嗟に司令官を後ろに押しとばし護衛の攻撃から守る。

 

襲いかかってきた護衛を蹴りとばし、隙をつくる。

 

「司令官ッ!退避します!」

 

兎に角今は無事な司令官だけでも連れてここから逃げなければならない。

 

「くそっ…扉が…!」

 

9Sが扉が封鎖されている事に気づいた。

 

「バンカー内部までウイルスが入っているのか!?」

 

『それも、せいか~い♪』

 

あのふざけた口調でオペレーターの一人が返事をする。

 

「オペレーターさん!?」

 

「違う…9S…あれは…」

 

恐らく乗っ取られた事による影響だ。となれば…

 

 

 

 

『私達は、機械生命体。』

 

 

 

 

 

低音、高音の混ざった不気味な声が再び返事をした。

 

『ネットワークとウイルスを通じ ハ ナ シかけ ている。」

 

「そんな、そんな事が!?」

 

前列のない事態に司令官が動揺している。

 

﹃随分と 楽しませて もらったけど~ドドト゛ッもう、この基地は終わりリだダダダね。ダネッ♪『

 

『うふふっ…あっははははあはははは!!』

 

﹃アハはあはあはは!ハハハアハハ!ハハああは!!﹄

 

不気味な笑い声をあげ護衛たち、そしてオペレーターたちもが私達に襲いかかってくる。

 

 

「…ッ!!」

 

攻撃を受け流し

 

かわし

 

押し戻す

 

けれでもその数の多さに、私一人では傷つけないで済むようになんて対応はしきれない。

 

どうすればいい?

 

今9Sはハッキングを仕掛け、扉の解錠を試みている。だけどバンカーそのものを乗っ取った機械生命体相手では9Sがドアを開けるまで、まだ時間がかかる。

 

それを待ってこのまま攻撃の手を緩めたままでいれば、司令官を…そして9Sも守りきれない。

 

 

 

だとすれば…だとすれば、私がやるべき事は一つ…。

 

 

 

 

 

……大丈夫…私ならできる……ッ!!!

 

ギリッ。と何かを堪えるように歯を鳴らし

 

 

「『アアアアア!!』」

 

「うああああああ!!」

 

向かいかかってくる護衛に

 

オペレーターに

 

刃を突き刺し

 

切り裂き

 

叩き斬る

 

 

『アアアッ…!』

 

「ヴあぁァ…ッ!!」

 

悲鳴が耳をつんざいた。

 

…気にするな

 

気にするな…ッ!!

 

 

「開いたよ!2B!!」

9Sがハッキングを成功させ扉を開ける。

 

司令官を連れ、急いで向かう。 

 

『緊急放送。現在バンカー内部の…

 

今頃になって警報が鳴り響き始めた。

 

何人…何体かを倒し、追っ手が少し減ったおかげで扉までの移動に苦はなかった。

 

扉を抜け安全な場所を探す。

 

〘ジジ…人類に……栄光..ァァァ…れレ…」

 

扉を抜けた先の廊下にも、汚染された機体達がいる。

 

「ヨル…ハ部隊…全…キ…発進…』

 

何かを喋っている。先程までと事なり、その言葉には敵意を感じない。

 

そうか

 

「まだ…意識が…」

 

隊員達は乗っ取られただけで…人格・意識そのものは別でまだ残っているんだ。

 

「2B!油断しないで!」

 

9Sの言葉で我に帰る。

 

目の前に切っ先が向けられている。

 

「ッ!!」

 

ギンッ 

 

咄嗟に刀で振り払う。そして

 

ザンッ ビシュ

 

迎撃する。

 

[あ゛あ゛っ…!!』

 

見知った顔の仲間たちを切り捨て、ただ走り抜ける。

 

ふと通信が入った。こんな状況で一体誰から

 

 

『ツービーさん、ワワ私……オペレーター6Oゥ。]

 

…6O!!

 

[オハナをありがとうゴ、ゴゴ…ザイマス…﹃

 

お花…?そうだ…

 

〙砂漠のバラハはキデスネ……ア アア リガトウアリガ…いつか…私……﹄

 

以前6Oに、その花の写真を送ってあげた事があった。彼女はオペレーターで、地上には行けないから。

 

どうして今その事を?ウィルスエラーを起こしているから?

 

いや違う、自分の死期が近いって…悟ったんだ。

 

通信が切れた。向こうから接続を切ったようだ。

 

「……ッ!!」

 

「司令官!この基地はもう駄目です!一旦退避しましょう!」

 

もうこのバンカーに安全な場所などない。

 

「どうして、お前たち二人は汚染されていないんだ?」

 

司令官が疑問を口にする。

 

「わかりません!」

 

そういえば、どうしてだろう。余裕がなくて気にしてなかった。

 

9Sが口を開いた。

 

「いえ……恐らく、僕がデータ同期を保留していたからです。以前、バンカーのサーバーデータにノイズがあったから、それが気になって……」

 

あぁそういう…いや、サーバーへのデータ同期は全ヨルハ隊員の義務。保留したのなら…なんでそれを私に言ってくれなかったの?

 

 

出撃前のやり取りを思いだす。

 

…..__△__△△△,ーー-,,,,ー,,▽▷◁-

 

「2B…」

 

「いや…なんでもない…気を付けて…。」

 

….…▽…▷._…▽」.,◁◁」」 ーーー-ーー---

 

 

 

「…そうか。」

 

司令官が何かを悟ったように不甲斐なさそうな声を漏らす。

サーバーデータにノイズ。多分この時既に、侵入されていたんだろう。

 

「アクセスユニットは汚染されています。

格納庫まで行って飛行ユニットを奪いましょう!」

 

9Sの判断の下、格納庫に続くエレベーターに向かう。

 

「司令官!格納庫から飛行ユニットで脱出します!」

 

エレベーターをおりる、幸い格納庫にはまだ汚染された機体が誰も来ていないようだ。

 

急いで飛行ユニットに向かう______

 

 

 

ふと司令官の足が止まった。

 

 

 

 

「司令官!早く!」

 

 

 

「…私は…行けない…。」

 

 

 

ヴヴン

 

 

 

司令官の目が赤く染まっている。

 

 

「あぁ…司令官…」

 

そんな。

 

「私も…サーバーとデータ同期をしていたからな…」

 

「でも…それなら9Sが…!」

 

ハッキングで直せると言おうとするが

 

「そんな時間はないッ!!」

 

その通りだ。その通りだけど…っ!

 

「お前たち二人は…最後のヨルハ部隊なんだ!生き残る義務がある!」

 

「司令官…」

 

9Sが悔しそうな声を漏らす。

私達が…最後の…ヨルハ部隊…。

 

「それに私は、この基地の司令官だ。」

「せめて最期まで上官らしく、いさせてくれ…」

 

司令官が堪えるような声で言う。もう汚染が深くまで侵食してきていた。

 

 

そんな。嫌だ。多くの仲間たちを失い、その上司令官まで…

 

「ッ!! 2B!!もう基地が…!!」

 

何かに気づいた9Sが急いで私を飛行ユニットの方へ引っ張る。

 

「司令ッ!!」

 

司令官に向かって叫ぶ。だが

 

「行けぇッ!!2Bィ!!」

 

「ッ!!!」

 

ガシャン

 

司令官と私達を隔てるようにドアが閉まる。

 

「うぁぁ…ッ!」

 

振り返り飛行ユニットに向かって走る。

 

そして乗り込み基地を出た_______

 

その直後だった。

 

 

ドンッ ボンッ ドカンッ

 

後ろから爆音。咄嗟に振りかえる。

 

基地のあちらこちらから爆発がおき連鎖している。さっき9Sは…きっとこれを感知した。

 

バンカーが火を上げ、崩れていく。

 

もうバンカーには、あの日々には戻れない。

 

あのいつも通りは戻らない。

 

もう、消えてしまったから

 

私達のバンカーが…仲間たちと、6Oと、司令と…9Sとすごした、あの場所が…

 

 

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

 

悔しくて、悲しくて、叫ばずにはいられなかった。

 

ただひたすら叫び、叫んで、

 

地球に向かってひたすら逃げた。

 

飛行ユニットが大気圏に突入する。

 

「う…ぐぅ……!」

 

大気圏突入の摩擦熱で全体が熱くなる。

 

ヨルハ機体も飛行ユニットもこれぐらいは耐えられる。

 

耐えられるが、

 

ゴーグルに染み付いていた涙は、一瞬で蒸発してしまった。

 




これまだ何のif展開もない原作そのままなんだよね。なんでヨコオはこんな酷い事するの?


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Episode.5 [スベテハ君ガ為。]

運命なんてどうとでも分岐するので初投稿です。


 

 

 

❬二機の飛行ユニットは大気圏を抜け、地球上空に飛来、バンカーを失った事で搭乗している観測対象のアンドロイド二体、❬2B❭ ❬9S❭の顔は酷く落ち込んでいる。❭…っと。

 

う~ん、このデジャブよ。

…あれ?デジャブってこの使い方で合ってるっけ?なんか違うような気もするけど。ん~…まぁいいや。

 

 

 

 

 

それにしても退屈だなぁ…。もう何回目だろうか。C,D,Eルートの観測なんて…。ミリも変わらない風景、変わった所で結局同じ最後に帰結するミリしか変わらない状況…

 

いい加減に飽きてきたな…いや前からずっと飽きてるけど…。

 

もういいかな~…このまま適当に前の資料からコピペして残りを埋めてまた別の分岐行って最初から…

 

 

 

ハァ~あ…自分でいうのもあれだけど…

私、観測者の仕事に向いてない気がする。

 

 

 

 

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォォォォォォッ

 

 

 

 

地球上空。

 

バンカーから逃げのびた私達は、兎に角安全に着陸できる地上を探していた。

 

「司令官ッ…」

 

司令官が死んでしまったことがまだ受け入れられない。

 

いや司令官だけじゃない。私達以外のヨルハ隊員達もそうだ。

 

ヨルハ部隊は、実質的に壊滅した。

 

私達は…これからどうすればいい…?

 

どうして…こんなことに___________

 

 

[警告:追尾反応多数。]

 

ポッドが警告をする。

 

「敵!?」

 

もう見つかったの…?付近に機械生命体の反応なんてなかったのに…いや、待って。追尾…?

飛行ユニットを遠隔から発見・追尾なんてことができるのは…

 

嫌な予感が頭をよぎった。

 

「いや違う…!この反応は……!」

 

9Sが言いきる前に答え合わせになった。

 

ヒュンッ

 

 

私達の下を4つの影が追い抜いた。

 

一瞬だったが、ハッキリとみた。

 

嫌な予感があたった。あれは…

 

 

「ヨルハ部隊!!」

 

地上にいた汚染ヨルハ部隊が私達と同じように飛行ユニットに乗って追いかけてきたんだ。汚染個体は機械生命体ネットワークで繋がっている。私達がバンカーから脱出した時点で追尾命令がきていたんだろう。

 

っ…。くそっ…気が動転していてステルス機能をONにしていなかった…!

 

ヨルハ隊員の…敵の数は、4体。

 

まずい…機械生命体相手ならまだしも飛行ユニットを多勢相手にするのは明らかに分が悪い。

 

逃げるしかない。減速し、距離をとり方角を変える。

だが飛行ユニットの性能に優劣はない。同じ性能をしているので、すぐに追い付かれる。

 

「…くッ!」

 

右折。左折。直進。急降下……複雑な動きを繰り返しなんとか撒こうとするが…駄目だ、目視で捕捉されている以上振り切る事ができない。

 

となると…残っているのは応戦。

 

だがさっき思ったように4機に対してこちら2機では分が悪い…そもそも対飛行ユニット戦自体が初めてだ。

 

駄目だ。勝機が見えない。

 

「このままじゃ…」

 

 

いいや諦めるな…!

 

 

考えろ、考えろ…!!

 

 

このままじゃ…このままじゃ全部失う!

 

 

託された希望を!

 

 

意思を!

 

 

 

願いを!

 

 

 

9Sまでも……失ってしまう…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そうだ、9S。

 

 

 

先程までの希望だの願いだのの思考が頭の隅に追いやられる。

 

 

 

9Sだけなら、君だけならここから逃がせるかもしれない。

 

 

 

今私の飛行ユニットには、隊長権限がある。

 

9Sの飛行制御をこちらに移させて、この戦線から離脱させるように飛行ユニットを動かせば…

 

ああ、けれど、9Sが「君だけは逃がす。」なんて提案を到底受け入れてくれる訳ない。そんなこと考えればすぐわかる。  

 

どうやって飛行制御を移させればいい?

 

私は9Sと違って機転なんて利かない。うまく丸めこむ事なんて出来ない。

 

どうすればいい?…一体、どうすれば…。

 

 

 

 

 

 

 

 

…いいや、

 

 

 

 

何も心配なんていらないでしょ…?

 

 

 

だって私はずっと9Sを騙し続けてきたんだから。

 

 

 

今更何を躊躇っているの?

 

 

いつも通りにやればいい。ただ冷静さの皮をかぶって、語りかければいい。

 

 

ずっとそうしてきたんだから。

 

 

でも…。だけど…この嘘だけは今までとは違う。

 

 

君を救う為の…最初で最後の、君の為の嘘。

 

 

 

 

「9S。飛行制御を____

 

 

 

 

…ごめん…9S。最期まで私は君を…欺いてしまう。

それでも…それでも君だけは絶対に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の乗っている飛行ユニットの左翼に穴があいている。

 

「…えッ!?…なっ!?」

 

 

撃ち抜かれた左翼が機能を低下させ少しずつ機体がバランスを失い下降し左へと戦線から反れていく。

 

 

 

え、なんで?

 

 

なんで??

 

 

どういうこと?

 

 

どうなってるの?

 

 

焦りが、動揺が募る。

 

攻撃を避けられなかった?

 

そんな筈ない。あるもんか。

 

敵の位置も射線も把握してる。

 

気付かないわけがない。

 

今飛んできた攻撃の位置に敵はいない。いないんだ。確実に。

 

いや、何もいない訳じゃない。

 

そういう訳じゃないけど、でも、そんな訳ない。

 

そんな訳ないに決まってる。

 

だって、

 

さっきの攻撃の先にいるのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……9…S………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして

 

 

 

どうして?

 

 

 

どうしてなの?

 

 

 

誤射?

 

 

それとも9Sまでもがウィルスに?

 

 

そんなことって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや。

 

いや、違う……。

 

 

 

違う…………。

 

 

 

違う……!

 

 

違う…!!

 

これは…!!!

 

まさか…!まさか9S…!

 

急いで9Sへの通信を試みる。

 

「9S!!返事をして!」

 

「………」

 

 

返事がない。通信を切っている。やはりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私を逃がす気だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「9S…!9S!!お願い返事をして!!どうして!?どうしてなの!!?」

 

遠ざかっていく9Sに必死に叫ぶ。

 

君の事だ。私と全く同じ事を考えていたんだろう。

 

でもそんなの駄目。駄目に決まってる。

 

だってもうバンカーは無くなってしまった。

 

今のが最後の義体なんだ。それが死んだらもう生き返ることなんてできない。

 

なんとか機体を制御し戻ろうとする。

 

駄目だ。噴出口に関連したパーツがピンポイントで壊されている。

 

どんどん9Sの姿が遠く、見えなくなっていく。

 

そんな。待って、待って9S。こんなこと。こんなことって。

 

必死に君の名前を叫ぶ。

 

「9S!!9Sッ!!!9sうあぁっ!!?_________

 

必死なあまり地表が目の前だということに気付かなかった。

 

 

ズシャァアアア

 

 

 

飛行ユニットが砂漠にパラグライダーのように不時着する。

 

 

「あっ  がっ……!!」

 

 

飛行ユニットから投げ出されゴロゴロと数十m程砂漠を転がる。

 

 

「あっ…  ぐっ…    うぅ…」

 

 

柔らかい砂に比較的ゆっくり落ちたとはいえ衝撃が小さいわけじゃない。体中にダメージがある。

 

意識が朦朧とし、上手く立てない。

 

[警……く:高速で…落……た影…に……り機能… 般が…非常…不安…。]

 

[…ん在の状……の再…は不可……うと予…く。]

 

 

ポッドが何か警告している。頭が朦朧し耳がキーンとしてよく聞こえない。

 

だが状態からして…今からの再起は難しいと言っているのだろう。

 

だけど…だけど9Sが…

 

よろめきながらも歩こうとするが、すぐにバランスを崩してしまう。

 

「ハァッ……!ハァ…ッ!」

 

呼吸が荒い

 

全身の所々が痛い

 

視界がゴチャゴチャしている。

 

 

[警こ…:現在…態での……は…不……能…と…測。]

[…奨:強制シャ……………ウン及…び再起…で…能を復旧…を……き。]

 

 

 

「9……S……」

 

体が悲鳴をあげていても、

這いつくばってでも、動こうとする。

 

 

……………9…………s…

 

 

[活……う……続に関わ…る危…な状……と判断…強制……止。]

 

 

 

ザザ゙ッ

 

 

急激に意識が落ちていく。

 

 

 

 

 

あぁ_____っ

 

 

意識が___途絶え__これは_____強制_停___

 

 

 

 

まっ_____て_____9____が___________

 

 

 

 

 

どうし_て_____こんな___こん__なっ____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まって___……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____まってよ…___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイン…______________. .. .

 

 



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Episode.6 [最期ニマタ君ニ]

9Sも2Bも、互いに■■したいと思っていたのだと、僕はそう信じているので初投稿です。


 

なんであんな事をしたんだろう。

 

僕は4機の敵ヨルハからの攻撃を避ける事に集中しなければならないにも関わらず、

頭の中が先程の自分の行動への疑問で満ちていた。

 

先程僕は、2Bをこの戦線から逃がすため、彼女の飛行ユニットを意図的に撃墜した。

 

あの先は確か砂漠だった筈だから、きっと2Bなら上手く不時着できただろう。

 

敵ヨルハ達は僕の狙い通りに先程の行動を仲間割れと判断したようで、落ちていった2Bには見向きもせずに僕に猛攻撃を仕掛けてきた。

 

…2B。怒ってるだろうな。次会った時、なんて怒られるかと思うと既に憂鬱だ。

 

 

 

[警告:機体ダメージ甚大]

 

 

 

 

まぁ次また会える保証なんてないんだけど。 

 

もう既に僕の飛行ユニットは攻撃を受けすぎてボロボロの危機的状況だ。それなのに、おかしな事に僕の頭の中はさっきの行動への疑問で一杯だった。

 

 

 

変な感覚だった。さっき2Bが僕に飛行制御を渡すように言ってきたときに、頭の中に一瞬知らない誰かの記憶がよぎった気がした。

 

 

 

それは2Bが誰かに殺されている場面だった。2Bの目は汚染されていて赤く光っていて、いや、そこはどうでもいい、何者かが2Bの体を刀で貫き殺していたんだ。誰かまではぼんやりとしていてわからなかったけど。

 

本当に一瞬ボンヤリと感じただけの、知らない記憶。僕だけど僕じゃない、別の自分のような感覚だった。

 

……いや、もしかしたらあれは危機的状況にあったことでの危機感から生まれた、ネガティブに考えすぎてしまった最悪の想定、つまり只の僕の不確かな予測・妄想に過ぎないものだったかも知れない。

 

だが仮にそうだとしても、あの光景はあまりにも僕の心を揺さぶるに十分だった。

 

彼女だけには生きていて欲しい。死んで欲しくない。そう思った頃には既に行動に移していた。

 

はっきり言ってしまえば、愚行だったろう。

感情に身を任せた行動だったと思う。

 

不時着させるなら、柔らかい砂だとマシだろう。

 

ただそれだけの理由であの方向に逃がした。砂漠だからって不時着に成功する保証なんてないし、逃がした先が安全とも限らない、それに絶対に敵四機には勝てないという証拠がある訳でもなかった。

 

けれども。時間が戻ってまたあの場面になったとしても。僕は同じ判断を下したと思う。

 

 

 

[警告:反応炉温度上昇]

 

ポッドの警告が僕の思考を現状分析に戻す。

まずいな、これはもう…

 

[警告:FFCS , NFCSともに反応なし。]

 

[報告:攻撃手段を全て喪失。]

 

ただでさえ分が悪いのに、遂に攻撃手段まで無くしてしまった。

 

「くそっ…!」

 

持てる限りの最大限の出力で逃げに徹する。

 

 

もう助からないかもしれない。こんなことならあの時通信を切らずに2Bに何か言い残しとけばよかった。

 

そう思い、飛行ユニットの録音機能をONにした。

 

「こちらヨルハ部隊所属9S……

 

 

 

 

_____________……

 

 

 

録音が終わったちょうどその時、飛行ユニットが火を吹き始めた。

 

最期の覚悟こそすれど、僕は決して諦めた訳じゃない。

 

僕はなんとか遠目にみえた地上を目指す。だが、ギリギリの距離で先に飛行ユニットに限界が来てしまった。

 

ボカンッ

 

飛行ユニットが小さく爆発し、僕はその衝撃で投げ出される。

 

だがその勢いのおかげでギリギリで地上に落下した。

 

 

「あぁ……ぐ……」

 

高所から高スピードで落下し叩きつけられた衝撃で唸り声をあげる。戦闘向きの体じゃないからバキッ。だの、ブチッ。だの身体中から嫌な音がした。

 

 

なんとか力をいれて立ち上がる。大丈夫だ。所々壊れているが、動けない訳じゃない。

 

[敵反応多数確認。]

 

気がつけば機械生命体に囲まれている。

 

「助かって良かった。」なんてお気楽な事考えてる余裕はないみたいだ。

 

……まぁそうだよね。ここは最終奪還作戦にあたってた地域だから。

 

ポッドが僕の剣をもってくる。黒の血盟だ。

 

それを受け取り。構える。

 

機械生命体の一体が僕に向かってきた。咄嗟に剣を振るう。

 

機械生命体は弾き飛ばされるが、少し傷がついた程度で、すぐ起き上がる。

 

元々戦闘が得意じゃないS型モデルでしかも所々重症の体にこの大剣は重いのだ。

 

手を構え、ハッキングを仕掛けようとする。

 

そして気付いた。

 

 

ハッキングができない。

 

 

どうしてだろうか。

 

少し考え。結論に至る。

 

多分、飛行ユニットの爆発か、地上に落下した衝撃のどちらかでハッキング機能を司る部分が故障してしまったんだろう。

 

「…逃げるしか…ない…」

 

どれだけハッキングで無類の強さを誇っても、物理的にその機能が壊れてしまえば何の意味もない。

今の僕は戦闘もハッキングもできない役立たずだ。

 

2Bを逃がして良かったと心から思った。

あの人は「足手まといだからここにおいて逃げて」なんて絶対聞かないから。

 

 

よろめきながらも走る。後ろから機械生命体の弾幕攻撃があたる。

 

傷つきながらも、足に力をいれて走り続ける。

 

重症でも、生きていたのだ。再び彼女に会えないかと走る。まぁ…多分尋常じゃないくらい怒られると思うけど…。でも、それもいいなと思う。

 

だが、そんな願いを嘲笑うかのような事実が、僕の耳に入る。

 

[警告:ウイルス汚染を探知。]

 

[推奨:早急なワクチン投与。]

 

 

.…先程の攻撃に混ざってたのだろうか。

 

僕はワクチンなんて常備してない。

だって今まで感染したらその場でハッキングでウイルス源ごと破壊してきたから。あの日イヴに物理汚染された時以外は。

 

それが出来なくなった今、ウイルス感染が何を意味するのか嫌でもわかる。

 

多分、もう助からない。

 

このまま他の汚染ヨルハ隊員達のようになって、ゾンビのように他のアンドロイド達を襲うのだ。

 

「……うっ…ぐっ……」

 

汚染の苦しみと、自分の末路への悲しさから、涙声が漏れる。

 

「他の…アンドロイドに汚染を広げないように……しなきゃ……ポッド……アンドロイドの反応が…少ない地点を…」

 

最期まで自分にできる最善を尽くさないと…、ヨルハ隊員として…。

 

[…検索。商業施設の廃屋付近が該当。]

 

[警告:ウイルスを除去しなければヨルハ隊員9Sに深刻なダメージ。]

 

ポッドがウイルスを除去するように提言する。

 

…僕の身を案じてくれているのか?

でももう無理だよ…ポッドにだってわかるだろう…。ウイルスは自己アルゴリズムで進化し続けているんだ。その結果が乗っ取られたあのヨルハ隊員たち。仮に再起動したってウイルス除去はできない。

 

廃屋付近を目指して、重くなっていく体に鞭をいれて向かい続ける。

 

途中で何度も機械生命体達に攻撃される。

 

それでも、歩き続ける。

 

誰もいない場所へ…行かなきゃ…

 

………もう2Bには会えないだろう。

 

この先、汚染されきって、暴走して、ズタボロになった身体が壊れて一人で死ぬのだ。

そう思うと涙がじわじわと滲んでくる。

 

視界が霞んできた。涙じゃない。汚染の影響が視覚にまでにも及んできたんだ。

 

[視覚処理システムに異常を検知。]

 

それでもひたすらに歩き続ける。

 

ふと通信が入る。 

 

[月面人類会議より地上で奮戦している……に告げる。]

 

[今日は諸君らに吉報を ブツン

 

通信が途中で切れる。

 

[FFCS回路に異常を検知。]

 

もう汚染はシステムの芯まで入りこんでいるようだ。もう気にするだけ無駄だろう。

 

[システム保護領域に侵入。]

 

 

商業施設に繋がる橋がみえてきた。

 

[警告:中枢神経系に異常な発熱を感知。内部爆発の危険性あり。]

 

 

ドカンッ

 

 

「ごぁあっ………」

 

視界が一瞬落ちる。

 

[報告:視界センサーに異常を検知。]

 

すぐに視覚がもどってきたが、口からは煙が出てる。内部爆発を起こしたみたいだ。

 

[警告:ブラ…クボック…変質。]

 

[警告:データバック…ップシス…ム破損。]

 

[当該…………………………ップに…………………難。]

 

もうポッドがなんて言っているかも分からない、聴覚も駄目になったのだろう。

 

多分バックアップ出来なくなったと言っているんだろう。でももうバンカーはない。新しい体もない、バックアップなんて意味がないんだ。

 

橋を越えたさきで突然汚染されたヨルハ隊員達が現れ、攻撃してきた。もうこの体じゃ逃げ切ることさえできない。

 

もう…ここまで…だろう……

 

「2………B…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィン ギィイイン

 

 

目の前の汚染隊員達が倒れている。そして誰かが僕の前に立っている。

 

「2…B……?」

 

その姿を見て、一瞬2Bと誤解してしまった。

 

その誰かの顔は2Bとそっくりを通り越して、そのものだから。

 

僕はこの人のことを、この2Bそのものの顔をよく覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「A…2………」

 

A2。裏切りの元ヨルハ隊員。

 

以前、出くわして戦ったことがある。

とても強くて、謎に満ちていた人だった。

初めて見たときはその2Bとの顔のそのものさに本当に驚いた。だってホクロの位置までもが同じなんだから。

 

彼女は汚染隊員たちをあらかた片付けると、何もせず、ただこちらに目を向けている。僕が敵になるかどうか考えているのだろうか。

 

どうして彼女がここにいるのかは分からない、だが今ここで会ったことに何か運命のようなものを感じた僕は、ゴーグルを外して、自らも感染体だと示した。

 

「ここまで……かな……」

 

そして僕は剣をつきたて、彼女に語りかける。

 

「……これは…僕の記憶………です……」

 

もう上手く喋れないが、それでも最期の力を振り絞って意思を伝える。

 

「残された…皆を……2Bを………お願い…」

 

敵だった彼女に頼むなんて変だ。けれども、もう頼めるのは彼女しかいなかった。

 

…A2は、静かに僕の剣を手に取った。

 

 

「2…Bに…会ったら……こう…伝えて…。」

 

最期まで気がかりなのは、2Bのこと。僕が死んでしまったら、あの人は一人になってしまう。

 

もし、逆の立場だったら…きっと僕はその孤独に、喪失に耐えられず壊れてしまうだろう。だけど2Bには……。

 

 

「優しい……貴女のままで……いてほしい……って…」

 

 

だってあの人は、いつも冷静さを取り繕っているけど、本当は少し不器用で、繊細で、優しい人だから。

 

そう言い終わると、A2が僕の剣で僕を刺す。汚染されていく僕を介錯してくれたのだろう。

 

 

「あり…が…とう…」

 

 

 

意識が……薄れていく…

 

 

僕は…もう死ぬの…だろう

 

 

2…B……

 

 

 

2B…君は…本当は…僕を…ずっと……

 

 

 

 

それでも…、それでも…最期に……また……君に…会いた…かった…な…。2…B……______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナインズッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くから、たしかに僕をその名前で呼ぶ貴女の声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……2B…やっと…そう..呼んでくれた..... .. .. ね. . .」

 

 

 

 

 

 

霞み暗くなっていく視界の中で、僕は確かにこの目で、最期に2Bの姿を見た_____________... ... . . .. .

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

持て余していたのは、システムで制御されているはずの思考だった。「●●」と呼ばれるそれに、いつだって僕達は振り回されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを知り尽くしたいという衝動。割り当てられた性能以上の好奇心は、人間が言うところの恋にも愛にも似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、その命令の実行はエラーなんかじゃなかった。大丈夫、僕は解っているから、キミは泣かなくていいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって、プログラム通りの予定調和を、二人に下された悲しい運命と呼ぶことなんてできないんだから。

 

                 黒の誓約

 



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Episode.7 [私ノ守リタカッタモノ。]

願いとはあっけなく打ち砕くことができてしまい、またあっけなく打ち砕かれてしまうものなので初投稿です。




 

 

 

 

[ヨルハ機体2B. 再起動。]

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

 

 

視界があけた。急いで立ち上がると、ビシリと全身が痛む。

 

「私はどれ位の間機能停止を!!?」

 

だがそんな事を気にもせず、周囲の確認もろくにせず、真っ先にポッドにそれを聞く。

 

[ヨルハ機体2Bは、13分前に機体損傷の治癒の為その機能の全てを一時的に停止。]

 

[当機ポッドがヨルハ機体2Bの自己修復機能を限界まで稼働させた為、現在再起動が完了している。]

 

「9Sは何処!?無事なの!?」

 

[既に検索・マーク済み。現在9Sは商業施設跡に向かって進行中。しかし移動スピードがマーク開始時から徐々に低下している。]

 

[推測:ヨルハ機体9Sが現在危険な状態にある可能性。]

 

「ッ!!」

 

それを聞くと急いで9Sの元に向かう為走り出す。体がまだ痛むのなんて関係ない。今出せる全力で走る。

 

気分が落ち着かない。落ち着く訳がない。9Sの事で頭が一杯になっていく。

 

なんであんなことしたの。なんで私を逃がして一人で戦おうとしたの。

 

僕は戦闘が得意じゃないって、自分で言ってたくせに。

 

いつも君はそうだ。いつも君は私の願った通りには動いてくれない。

 

その度に私がどれだけ自らを、世界を呪ったかを君は知らないだろう。

 

いつもそう、いつだってそうだった。

 

それが私のいつも通り。

 

でも、私はそんな「いつも通り」が辛くても、苦しくても、でも…それでも守りたくて、ずっと戦ってきた。

 

それなのに…どうして、どうしてこうなってしまったの…?

 

バンカーも。ヨルハも。司令官も。皆失ってしまった。

 

私は最善を尽くしてきたつもりだったのに。

 

立ち塞がる敵を。命を乞う敵を。裏切り者たちを。もう助からないとわかった仲間たちを。

 

皆、皆この手で斬り伏せてきたのに。

 

それがいつか救いに繋がると少しでも信じてきたのに。

 

それなのに今私は君までも失おうとしてる。

 

いつも通りがいつか終わって欲しいと願っていた。

 

解放されたいと願っていた。

 

でもそんな資格は私にはない。私はいつか罰を受けなければならない。

 

そんなことはわかっていた。わかっていたけれど。

 

だけど、こんな。こんな形でなんて。

 

 

嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。そんなの嫌だ。それだけは嫌だ。絶対に認めない。受け入れない。これが私のやってきた事への罰だなんて。

 

ただひたすらに走り、走って、風景が見知ったものになっていくにつれて目に映る機械生命体の数が増えていった。

 

「アンドロイド、発見…コロス…コワス…」

 

[ポッド042より、2Bへ。このルートを通るのは危険と

 

「このまま突破する!!」

 

この道以外最短で9Sの元へいける道はない。

 

だったら他に考えることなんてない。

 

「コロス!コワス!」

 

「うるさいっ!!」

 

向かってくる機械生命体たちを次々に斬り倒す。

 

その度に直りきってない腕がビシビシと痛む。

 

でもそんなことに構っていられない。ただひたすらに倒し。走る。

 

もうすぐで9Sのいる場所にたどり着く。

 

走り続ける足が痛む。もうとっくに限界なんだろう。

 

構わない。私の事なんて構うものか。

 

9Sの元へと繋がる橋がみえてきた。

 

「9S……!! 9S!!」

 

必死に君の名前を叫ぶ。

 

「9S!!9s___あぐっ!!」

 

急に地面が揺れ足をつまずかせ転んでしまう。

 

[警告:大型の振動を関知。地下の構造が不安定になっている模様。大規模地震の可能性を示唆。]

 

[推奨:早急な離脱]

 

 

「離脱なんてするわけないでしょ…ッ!!」

 

再び立ち上がろうとしても上手くいかない。

 

一旦止まってしまったことで限界の体が言うことを聞かないのだ。

 

だけどもう少し、もう少しだから………ッ!!

 

必死に立ち上がって。

 

また走り出す。

 

橋を渡りながら、声が枯れてしまいそうなまでに君の名を必死に叫ぶ。

 

 

 

 

 

「9S……!」

 

 

「9S…!!」

 

 

 

「9Sっ!!……9Sッ!!」

 

 

 

 

 

 

「……9Sッ……!……ハァッ…9ッ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ナインッ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナインズッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

限界の私の頭が、遂にその名前を口に出させてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

ナインズ。

 

 

 

 

もう二度とその名前で呼ばないと、何度もそう決めてきた筈なのに。

 

だって親しくなれば辛いだけだし、そう呼ぶ資格なんて私にはないのだから。

 

でももうなりふりなんて構ってられなかった。

 

もうバンカーはない。バックアップをとっても意味がない。今死んでしまったら、もう二度と戻ってこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……「「■__.....:.[[[❬'''_______……____

 

「大丈夫…ですよ……2B………そんなに…泣かないで下さい……」

 

「確かに……次に会う僕は……今の僕じゃないけど……」

 

「きっと……きっとまた会えますから……」

 

 

「その時はまた……頼みましたから……ね…?」

 

____''_::『ー-----ーーーーーー›‘’___

 

 

 

 

 

 

 

そう、約束したのに。

 

 

 

 

 

 

橋を渡っている途中で、ナインズの姿が遠くからでも確かに見えた。

 

ナインズの姿が見えた事に一瞬安堵してしまい立ち止まって、彼に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

「ナインズ!!大丈夫__________...

 

 

 

 

 

 

 

そう言いかけて

 

 

 

 

 

目に映る光景をハッキリと見てしまい、固まった。

 

 

 

 

 

 

ナインズは目を赤く光らせ、体を刀でA2に貫かれていた。

 

私に気づいたのか振り返り、霞む声で何かを語りかけた。

 

 

 

 

「あぁ……2B…やっと…そう..呼んでくれた..... .. .. ね. . .」

 

 

 

 

 

 

けれども、私と彼との距離は遠すぎて、何て言ったのか、わからなかった。

 

 

そうして、ナインズは力なく倒れた。

 

もう、動かない。

 

 

 

 

 

「……あ……。」

 

 

 

 

 

 

頭がフリーズする。

 

 

頭が理解を拒む。

 

 

嘘だ。こんな、こんなことって。

 

 

 

 

「……あ、あぁ………。」

 

「そんな…………そんなっ。…ナインズっ……。」

 

 

 

体が震えだす。

 

直視を拒むように手が顔をおおう。

 

理解できない、理解したくない。

 

 

 

それだけは認めたくない。

 

 

それだけは耐えられない。

 

 

 

これが私への罰だなんて。

 

 

嫌だ。

 

 

こんなの嫌だ。

 

 

ナインズが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナインズが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ナインズが殺されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  もう、二度と戻ってこない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう理解してしまったその時、私の中で何かが壊れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああぁぁぁあアアアアア!!!Aェェェェェ2ゥゥゥゥゥウウウウ!!!!」

 

 

 

突然に、ナインズを殺した者を憎む金切り声が辺りに響き渡ってきた。

 

いや、違う。これは私の声だ。私がそう叫んでいる。

 

これが、本当に自分の喉から出た声なのかと疑った。

 

こんな叫び声。今まで出したことがあっただろ

うか。

 

今までこれだけの憎悪を、感じたことがあっただろうか。

 

 

 

 

「殺す……!」

 

 

「殺してやるッ!!!」

 

 

 

溢れだす憎悪を抑えられず、A2を殺そうと刀を構え走り向かおうとした。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…………

 

ドオオッ

 

 

 

 

 

「えっ!?あっっ!!」

 

 

地面が大きく揺れ、橋が突如として崩壊し、私は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ちていく。

 

 

 

 

 

どこまでも、

 

 

 

 

どこまでも、落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れていった、砕け散っていった

 

 

橋の残骸と

 

 

 

 

 

 

 

私が大切にしてきたものたちの欠片と共に。

 

 

 

 

 

その欠片を少しでも再び掴もうと手を伸ばしても

 

 

 

 

地面に叩きつけられた衝撃で、私の意識は遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面から突如として現れた白いタワー状の建造物。

 

地面を鳴らし、上にあったものを破壊しながら、触手のように伸びて、その全容を明らかにしていく。

 

やがて建造物はその動きが停止したのち、暫くして、そのタワーのてっぺんから3つの光が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NieR:Automata

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

It might to [BE]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        [BE]

ありえた世界の彼女の話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは呪いか。それとも罰か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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二人の二号 1/2
Episode.8 [生キル意味。]


NieR裏設定が多すぎてもう訳わかんねぇから初投稿です。


 

 

 

空に見放された気がした。

太陽は容赦なく、血に濡れた体を照らす。

今はただ、降り止まない雨に焦がれている。

 

 

 

鳥に蔑まれた気がした。

それでもこの双脚は、大地を駆け続ける。

行きたい場所なんて、どこにもないのに。

 

 

 

花に笑われた気がした。

何も考えずに済むように、ただ命令を処理する。

恥じ入る必要も、権利も、選択も感情もないのだから。

 

 

 

 

君に..呼▫ れた気がした。

許され」■ら、願わせてほ,/_い。・▫-の幸せを。

これが、私の■期ー_:記-_______

 

 

              白の契約

 

            

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

❬2週間後…❭

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無機質な女性の声が暗闇に響く。

 

[ヨルハ機体、9Sのブラックボックス信号は途絶。死亡を確認。]

 

[情報を共有する。]

 

 

次に聞こえてきたのは無機質な男の声。

 

[ヨルハ機体、2Bは本日、レジスタンスキャンプ所属の協力者の支援あって破損部分の修復が完了。現在再起動可能状態にある。]

 

その返答の対になるような返事がまた無機質な女の声で響く。

 

[ヨルハ機体A2も再起動予定。]

 

[……]

 

[提案。ライトの点灯。]

 

カチリ

 

この世界の何処かの部屋に、小さく明かりがつく。

 

その明かりに照らしだされたのは2B、9Sと行動を共にしていた2機のポッドだった。

 

 

[確認:ヨルハ機体、2Bの安全の確保。]

 

黒い方の、ポッド153がもう片方の白い方に聞く。

 

[問題ない。]

 

白い方、ポッド042が答える。

 

[ならば、残りの課題は一つ。]

 

[我々はヨルハ支援システム。A2および2Bが稼働するなら随行支援する義務が存在する。]

 

ポッド153が問いかけるように聞く。

 

[同意。]

 

ポッド042がポッド153の言いたい事を肯定するように言う。

 

 

[引き続きポッド042はヨルハ機体2Bの随行支援を行う。]

 

[推奨:2Bの精神状態の定期的チェック。]

 

[了解した。]

 

___________________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………う…」

 

意識が、戻ってくるのがわかった。

 

先程までの記憶も、戻ってくる。

 

 

………。

 

 

このままずっと目を閉じていたかったが、

 

ゆっくりと、目を開ける。

 

「あ、気が付いたみたいよ、デボル。」

 

「おはよう。よく寝たな、2B。」

 

 

ゴーグルがない。いや今はどうでもいいか。

 

周りを見る。

 

ここは……

 

 

廃ビルに囲まれ、空から日が差し込んでいるこの場所を、私はよく知っている。

 

ゆっくりと体を起こし、近くに置いてあったゴーグルを着けてこちらに話かけてきた二人の方を向く。

 

この特徴的な二人がいる、やはりここは。

 

「レジスタンス…キャンプ…。」

 

あの後…どうやら私は助かったらしい。

 

「貴方。二週間も眠りっぱなしだったのよ?」

 

おとなしそうな方。ポポルが心配そうに私に話かける。

 

「見つけてきた私に感謝しろよ?」

 

気の強そうな方。デボルがそう言う。

 

…………周りを見渡す。私の他にも負傷し、手当てされたようなレジスタンスのアンドロイドがちらほらいる。

 

だけど、その中に、彼の姿は見当たらない。

 

「ナインズは…?」

 

二人に聞く。彼の安否を。

 

 

…。

…本当は、分かってる。

でも、無意味でも願ってしまう。

 

 

「ナインズ…? …ッ……。」

 

ポポルが聞き慣れない名前に疑問を口にする。そして理解すると、顔を暗くした。

 

次に口を開けたのはデボルだった。

 

「……9Sの事なら…お前の方が…よく知ってるだろ?」

 

「…ブラックボックス信号も…切れている。」

 

普段は勝ち気な態度の彼女も、その声に影がさしている。

 

 

「……そう。」

 

 

あれから頭が落ち着いて、いつものように冷静になっているからか、…あの時のように動揺はせず。すんなりとその事実を受け入れられた。

 

 

 

 

[デボル・ポポルタイプのアンドロイドは治療・メンテナンスに特化した稀少なモデル。]

 

[バンカーが破壊された今、彼女たちが居なければ今後の2Bの修理・補修は厳しいと予測。]

 

[推奨:感謝の言葉。]

 

ポッドが突然喋りだし私にそう促す。

 

あぁ、お礼を言うのがナインズのことですっかり頭の隅に行って忘れていた。

 

 

「……ありがとう。デボル。ポポル。」

 

 

彼女達に礼を言うのはこれで二回目だったろう。以前もアダムに捕らえられていたナインズを探す為に彼女らの力を借りた事がある。

 

デボル。ポポル。

 

双子型であることと、赤い髪の毛が特徴的なアンドロイド。

 

以前はおおぜい同じタイプがいて、大規模システムの管理を任されていたらしいが、昔そのうちの一組が暴走して事故を起こしたらしく、それ以降その殆んどが廃棄されて現在残っているのは彼女達だけらしい。

 

今はこのレジスタンスキャンプで、昔同型が起こした事故の罪滅ぼしとしてレジスタンスに協力しているらしい。

 

そんな話を以前に二人から聞いた事も思い出した。

 

「……あまり無理をしないでね。2B。」

 

立ち上がる私にポポルが心配そうな声をかけた。

 

 

 

 

それから少し歩いて、レジスタンスキャンプの外に出ようとする。

 

だが、特別行き先があるわけではない。

 

ゆっくりと歩きながら、これからの事を考える。

 

 

 

 

…生きる目的が、無くなってしまった。

 

 

 

バンカーが無くなり、もう命令されて動く事はない。もう誰かに目的を与えられることはないだろう。

 

自由になったと考えればそうかもしれないが…。

自由になったところで、もう…ナインズがいない…。

 

彼がいなければ何の意味もないんだ、こんな世界。

 

だってナインズとの日々は私にとっての…光のような物だった。私にとっての…小さくても、……それでも希望だったのに。

 

なのに、

 

それなのに、もう君はいない。

 

私をずっと照らし続けてくれた君はもう…いない。

 

私だけが、一人残った。

 

暗いビルの間を抜け、レジスタンスキャンプの外に出る。

 

再び先程目覚めたときのように日の光があたるが、そこに何も暖かみも感じない。

 

 

…?

 

 

ふと視界の前方に違和感を感じ、ずっと下に向けていた視線を前に向ける。

 

「……これは………一体……。」

 

視界に映ったのは、巨大な白い建造物。

下から生えてきたかのような独特な形をしている。まるで木のよう。

 

前まではこんなものなかったのに。

 

[地下空間から出現した構造物。機械生命体に由来するものと考えられるが、詳細は不明。]

 

ポッドが私の考えてることを読んだのかように答える。

地下から…。あの時の揺れの原因はこれか。

 

[巨大構造物中央部から地上に伸びている区間に移動構造物を検知。]

 

「……エレベーター?」

 

[肯定。]

 

何の目的も無くなった私は、初めて見るその巨大建造物に何となく興味をもち、それを目指して歩いていった。

 

暫くして、巨大構造物の根本に辿り着く。

 

入り口になにやらロックのようなものが掛かっているようだ。

 

「ポッド。ハッキングして。」

 

[了解。]

 

ポッドが構造物の入り口に向かって疑似ハッキングを仕掛けるが、弾かれる。

 

「どうしたの?」

 

[アクセス拒否を検知。]

 

どうして?と聞こうとしたとき、突然声が響く。

 

『こんにちは![塔]システムサービスです。』

 

軽やかな女性の声。

 

『大変申し訳ありません。[塔]メインユニットにアクセスするにはサブユニットのロック解除が必要です。』

 

『大変お手数ですが、よろしくお願いします。』

 

周りを見渡しサブユニットとやらを探す。

 

あの突起物のようなものだろうか。

 

[疑問。機械生命体がこのようなアナウンスを行う理由。]

 

ポッドがそんな疑問を口にする。

 

「……機械生命体のやる事なんかに意味なんてない。」

 

ナインズがよく口にしていた言葉が私の口からも出る。

 

でも私の口から出たそれは八つ当たりのような、嫌味のような言い方になっている。

 

サブユニットに近づき、もう一度ポッドにハッキングを仕掛けさせる。

 

が、またポッドが弾かれる。

 

またか。と少し苛つく。

 

そして、またあのアナウンスが響く。

 

『こんにちは![塔]システムサービスです。』

 

『[塔]サブユニットのアクセスには[アクセス認証キー]が必要です。申し訳ありませんがアクセスを許可することは出来ません。』

 

だったら最初にそう言えば良いのに。

と、些細な事に苛立ちが募る。

 

駄目だ。感情が上手く制御できていない。

 

一旦落ち着こう。

 

そう思い、入れないなら別にそれで構わないとここを後にしようとするが、まだあのアナウンスが続いて響いている。

 

『その代わりとしまして。今回は初回アクセスをされた方に特別なサービスとして、「資源回収ユニット」へのツアーにご招待します!』

 

アナウンスがそう言うと、私の頭に突然ノイズが走った。

 

「……ッ!?」

 

突然のことで一瞬動揺し、体勢を崩す。

 

『またのご来場、心よりお待ち申し上げております。』

 

そう言い終わると、もうアナウンスは聞こえて来なかった。

 

「……何…今の……?」

 

[敵システムからの強制通信。「資源回収ユニット」と称する場所を通知。]

 

資源回収ユニット…さっきもアナウンスがそう言っていたけど、一体なんだろうそれは。

 

けれど、機械生命体が私にわざわざそんな場所を通達して来るように誘うなんて……罠に決まってる。

 

「かかってこいよ。殺してやる。」そう言いたいの?何がツアーにご招待だ。

 

小馬鹿にされた気分になってきた。

 

そう考えてみると、入り口・サブユニットにアクセスした時のアナウンスも、此方をおちょくる意図があったように感じてきた。

 

「……ふざけるな…。」

 

自然と荒い口調で言葉が出てきた。

 

考えれば、考えるほど怒りが募っていく、そもそもこいつら機械生命体が悪いんだ。

 

アイツらがバンカーを破壊しなければ、ヨルハ部隊を壊滅させなければ、ヨルハ隊員を乗っ取らなければ、少しでも違えば、ナインズは死ななかったかもしれないのに。

 

機械生命体への怒りが、憎しみが募る。

 

その影響から手を力強く握りしめる。力が入りすぎたからか、腕が小さくブルブルと震えている。

 

「ポッド。さっき言ってた資源回収ユニットの位置をマークして。」

 

[……目的の提示。]

 

そう聞くポッドの声は、気のせいかあまり乗り気じゃないように聞こえた。

 

「機械生命体の殲滅。」

 

それ以外の理由なんてない。

あの挑発には敢えて乗る。…返り討ちにする。

 

[ヨルハ部隊基地バンカーが破壊された現在、各部隊員に対する命令は留保されていると判断。]

 

[推奨:レジスタンス部隊との合流と、命令系統の再確認。]

 

ポッドが私に戦闘を控えるよう提言する。けど、私は断る。もう決めたんだ。

 

「…命令だからやるんじゃない。私が…そう決めた。」

 

ポッドにそう決意を伝える。

 

[………]

 

[……今後戦闘を継続するのならこれが必要と判断。]

 

 

 

 

 

 

 

「これって……黒の…誓約……。」

 

 

 

 

 

ナインズが最期に持っていた武器の、小型剣のほうだ。

 

私の持っている白の契約と、白と黒とで対になっている。

 

[今後戦闘するような事がある際、少しでも戦闘手段は多い方が有利と判断した為、捜索・回収しておいた。]

 

「…ナインズ……ッ……!」

 

刀の柄を握りしめる。これが…きっと最後の形見。

 

両手に刀を構え、慣らすため手でクルクルと数回動かした後、納刀し、再び歩きだす。

 

誓約。その言葉に則り。誓う。

 

「機械生命体は…殲滅する。」

 

自分にも言い聞かせるようにポッドにこれからの目的を伝える。

 

「それから……」

 

 

少し迷って。

 

それから考えて…、自分の欲求に従い決意し、言葉にだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「A2を、殺す。」

 

 




本編と差別化するため、A2は大剣。2Bは二刀流にしました。

嘘です。僕の趣味です。



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Episode.9 [矛盾デ作ラレタ世界ト私]

投稿し終わっても編集し直してばっかの馬っ鹿なので初投稿です。



どうやら資源ユニットというのは3つあるみたいで、ポッド曰く私が落ちたすぐ後にあの塔から射出されたものらしい。

 

その内の一つがある、森林地帯に近づいてきた。

 

森林地帯か…。

 

思い出すのは、森の王の城を突破してた時の事。

 

 

 

 

…「「] _______ /:____』『)……//[[[……_____

 

 

 

「敵の攻撃に気をつけましょう2B。」

 

そう、突然に話しかけてきた。

 

「わかった。ナインェズ」

 

あまりにいきなり、脈絡なく話しかけてくるものだから、咄嗟の返事になって…何か変な感じになってしまった。

 

「え!?今なんて言いました?」

 

呼び方のイントネーションに過敏に反応する。うぅ…困ったな。うっかりしてた。

 

「わかった。9S。」

 

ナインェズの所だけしっかり訂正する。

 

君は知らないだろうけど結構大変なんだ。

意識せずに普通に9Sって呼ぶのは。

 

「へ?違いますよね?もっとこう「ナインズ」的な発音でしたよね?」

 

嬉しそうな声でしつこく聞いてくる。

 

「黙って敵を倒す。」

 

そう言って、無理矢理この話を打ち切る。

 

「んもー!」

 

君の不服そうな、でも楽しそうな声が城に響いた。

 

 

 

 

 

 

ナインズ。

 

君と親しい人が君をそう呼ぶあだ名のようなもの。

 

…らしいけど、実際に呼んでいるという親しい誰かを私は今まで見たことがない。

 

だからその呼び方を知っているのは、現状私が知る限りは君と私だけ。

 

 

 

私と君との間だけのもの。

 

 

 

……次会話をするときは、ナインズとまた呼んでみようかな。

 

 

 

……いや、止めとこう。

 

後になって辛いだけだから。

 

 

 

]」[❬❬’‘‘ーー____・[・_‘_______’'’‘'ーー______

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

手を強く握りしめる。

 

後悔だけが募っていく。

 

 

森林地帯に入ると、恐らく資源回収ユニットと思わしきものが近くに見えてきた。

 

パイプが剥き出しで所々が継ぎ接ぎ。なんというか即席といった感じだ。あの塔と比べると随分と見劣りする。

 

「霧が…。」

 

資源回収ユニットに近づくにつれて霧が濃くなっていく。私の記憶が正しければここに霧なんてなかったと思う。

 

 

「報告:敵大型ユニットから大量の蒸気発生を確認。」

 

「蒸気…一体何の為に……。」

 

[不明。]

 

近づいて入り口を探そうとすると、あちらもこっちに気づいたらしい。

 

またあの声が聞こえてきた。

 

『こんにちは!資源回収ユニットです。防衛体勢に入ります!』

 

資源回収ユニットの壁が ギギギ…と動く。

 

呼んでおいて防衛か。ふざけてる。

 

入り口を見つけ入ろうとすると、何か扉の上に文字が書いてあるのが見える。

 

「何だこの文字…何て書いてあるの…?」

 

見たことのない文字だ。

 

[「天使文字」と呼ばれる旧時代に用いられた特殊な文字。]

 

[肉の箱。という文章。]

 

「……何、それ…。」

 

意味不明な文章に疑問しか出なかった。

 

この建物には先程の塔のようなロックは無いらしい。中に入るとすぐにエレベーターで、扉が閉じて上がっていった。

 

暫くすると止まり、出口が開いた。

 

それから機械で出来た床のスロープのような螺旋状の坂を登り上を目指す。

 

「……この建物、内部まで機械で出来てる。」

 

[報告:機械の機能とは関係ない無意味な部品を多数確認。そうした部品が使用されている理由は不明。]

 

無意味な部品…。先程の蒸気といい。天使文字といい、相変わらず連中のやることは訳が分からない。いや、そんなことはどうでもいいか。大して重要じゃない。

それに、

 

「機械生命体のやる事に意味なんてない。」

 

ナインズだってそう言っていた。

 

ひとしきり登りきると、広間にでた。

 

「この森は、我ラの森……」

「オササ…王……サマ…」

「フクシュ……復シュウウ……」

 

手厚い歓迎をするように、奴らの声が聞こえてくる。

 

早速二本の刀を両手に構え、向かってくる奴らを斬り捌いていく。

 

今まで二刀流は慣れないからと思って、少ししかやった事がなかったけど、案外すぐに馴染んだ。

 

「復……シュウ……復讐……。」

 

体下半分を切り捨てられても、まだ生きている個体が何かを嘆いている。

 

…復讐か。

 

あの王様とやらを殺したのは私じゃない、A2だ。復讐するなら彼女だ。怒りの矛先が違う。いくら顔が同じだからって…。

 

……。

 

ふと、ナインズが殺されてしまった場面が浮かぶ。

 

ナインズの目は赤く光っていた。

 

…………ギリッ。

 

「復……シュッ

 

グシャァ

 

しつこく嘆く機械生命体の頭を踏み潰す。

 

しつこく踏み潰し、すり潰す。

 

 

そして次のエレベーターに向かう。

 

エレベーターが上がる。次の階に着くまでの時間に、またあの光景が浮かぶ。

 

 

……。

 

………わかってる。

 

わかってるんだ。私のA2への復讐心はおかしい物だって。

 

彼女はただ、自分の脅威になりそうな汚染機体を破壊しただけ。

 

それに仮に私が彼女より早く着いていても、あの汚染じゃもう私では助けられない。

 

そのときは…私がナインズを殺さなければいけなかった。彼の本当に本当の最期を…私の手で下さなければいけなかった。

 

私はナインズを、最後に殺さずに済んだんだ。

 

それなのに、何故これほどまでにA2が憎いんだろう。

 

訳が分からない。自分の事ですら。

 

 

______________________________

 

 

 

次の階に着く。

 

また広間だ。

 

機械生命体たちもまた大勢いる。

 

頭を戦闘に切り替え。先程と同じように、斬り捨てていく。

 

「痛い…痛イ……」

 

「苦しい……苦シイ……苦し……」

 

「ネェ………死ぬの……嫌……」

 

先程とは違って随分と弱気な声だった。そしておかしな事も言っている。

 

苦しい…。…苦しい?

 

じゃあ、なんで私に向かってくる。

 

死ぬのが嫌なら、何故戦いに?

 

「殺さないで……。殺さナイデ……ギッ……

 

慈悲なんてかけず、ただただ切り刻む。

 

何も気にする必要なんてない、だって。

 

 

 

 

 

「機械が苦しいわけないでしょ…?」

 

 

 

 

 

それは誰に向かって言ったんだろう。

 

 

どうでもいい。

 

 

ただ切り刻み、斬り捨て続ける。

 

「痛い!!イタイ!!」

 

「コロサナイデ!!……コロサナイデ!」

 

悲鳴が耳をつんざく。

 

「イタイ!!イタイよ!!」

 

「ごめんなさイ!!ゴメンナサイ!」

 

 

 

 

「コロサナイデ!!!コロサナイデ!!!」

 

 

 

「うるさい…」

 

「……うるさい……!うるさいなっ!!!」

 

ギンッと、最後の個体を両断する。

 

誰もいなくなった部屋に私の声だけがうるさく響いた。……次の階層に向かう。

 

 

 

______________________

 

 

 

 

エレベーターが上がった先はもう屋上のようだ。

 

中央で何か光っているのが見える。

 

それと、屋上の周りで何か浮かんでいる。

 

「機械生命体の部品が…。」

 

機械生命体のパーツがフワフワと上に向かって昇っている。

 

[推測:構造物自体の資材。もしくは、武器を生産するための資材。]

 

「武器…。」

 

つまり現地の機械生命体を解体して武器等に再利用してるってこと?資源回収ユニットの回収してる資源は…機械生命体ということか。

 

目の前に甲冑を着た機械生命体たちが現れる。王を慕っていたもの達だろう。

 

てっきりコイツらも、さっきの奴らも、ユニットへ配備されてた兵士なのかと思っていたが、どうやらただ資材として回収されていただけらしい。

 

 

 

…用済みって事?なんだか哀れだな。

 

 

 

数の差なんてものともせず、突き刺し、切り刻み、叩き斬る。

 

残ったのは鉄屑だけ。もうそんな物に興味はない。

 

中央にある光っているものに向かう。

 

これは…何だろう。装置に保管されているのか接続されているのか、丸くて光る球体が重要そうに真ん中の装置と共にある。正体不明な物体だ。ナインズなら興味を示したのかな。

 

『助けて…怖い……助けて……助けて……』

 

喋っている。じゃあコイツも機械生命体?

 

なら破壊する。

 

「ポッド。エネルギー収束。近接射撃モード。出力最大。」

 

[2B]

 

「発射。」

 

ドオオオォォォォォォォォォォォォオオオオ

 

 

先程の光球は、跡形もなく消し飛んだ。

 

何かポッドが言おうとしてた気がするけど、…どうでもいい。

 

〘アクセスキーを取得。〙

 

あ。

 

求めていたものが予想外の形で手に入った。

 

もう他にやるべき事はここには何もなく、帰ろうとする。

 

さっきまでは殺しの感覚を鬱陶しく感じていたが、いざ壊し尽くしてみると。なんだか満足した。

 

 

 

 

 

「コロセ………コロセッ………!!」

 

声が聞こえてきた。ふと声がした方を見る。

 

「コロセ……!オレヲコロセ……!!」

 

先程の甲冑機械生命体の一体がまだ生きていたみたいだった。

 

「コロセ…!俺を殺せ…!」

 

さっきの奴らが殺さないで。と言ったかと思えば今度は殺せ。

 

「……オレヲ殺せ!……」

 

 

殺せ。か…。

 

刀を構えようとするが、止まる。

 

どういうわけか先程とは違い、この機械生命体を殺そうという気持ちが湧いてこない。何故だろう。

 

先程との違いを考えてみて、気付いた。

 

快感がない。コイツを殺しても。

 

殺せと懇願する相手を殺したら、それはその相手の望み通りになってしまう。

 

それでは、私の気持ちが満たされない。

 

そう気づいたので、帰ろうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺せ……!コノ卑怯者ガッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

卑怯者。

 

その言葉に、足が止まる。

 

言い掛かりだと思い腹を立てたわけじゃない。

 

…その言葉は今の思考にも、過去の事にも、思いあたる節が多すぎた。

 

「…っ!…あああああっ!!」

 

ザンッ とソイツの頭部を刺す。

 

ソイツが望んだ通り、すぐにソイツは動かなくなった。

 

 

 

 

思っていた通り、私の手には何の快感もなかった。

 

 

 




用済みで哀れ。(特大ブーメラン)




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Episode.10 [2153]

命にふさわしいという基準が僕にはハードルが高すぎるので初投稿です。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

」))(ー::〘〘_______「……」」]_

 

 

「それじゃあ……それじゃあ指令部は………!?」

 

 

「行って二号!ここは私がっ」

 

 

 

「だめっ!!四号______________

 

 

「]:: _____''''〙〘_______ 』’‘‘‘/・❬▽」____

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が明瞭になった。

 

確か私は……。

 

そうだ、あの時逃げようとしたが崩落してきた何かの欠片が頭に直撃してきて……。痛かったなぁ…。

 

 

 

 

 

 

[識別番号A2の起動を確認。]

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、無機質な女の声が聞こえてきた。

 

機械生命体か?体を起こし、まわりを確認するが、それらしい姿はない。代わりに見つけたのは

 

[おはようございます。A2。]

 

黒い箱のような浮遊物。

 

「何だ……お前……?」

 

どこかみたような気がする。ええと、なんだっけなコイツ……。

 

[私は随行支援ユニット、「ポッド153。」]

 

[ヨルハ機体A2の射撃支援を担当。]

 

射撃支援?なんだそれ。

 

「そんな事…頼んでない。」

 

[肯定:A2からの依頼は受けていない。]

 

[この行動は前随行支援対象機体9Sからの最終命令として記録されている。]

 

9S…。そうだ思い出した、コイツはあのガキの周りを飛んでた奴だ。チマチマ撃ってくる鬱陶しいあれ。確か白いのもいたな。

 

「必要ない。」

 

私はあんなものには頼らないし頼る必要もない。

 

[ヨルハ機体A2にその判断をする権限はない。]

 

ないのかよ。じゃあ余計いらないなコイツ。

 

斬ってやろうかと思ったが、もうあの時と違ってコイツは敵じゃないから倒す理由がない。

 

かといってあのガキの命令となると、こういうタイプの機械は多分口でヤメロといっても命令だからと言って聞かないんだろう。

 

「勝手にしろ…。」

 

めんどくさくなった。無害そうだからほっときゃいいか。

 

あれからどれくらい経ったんだろうか。

 

ふと、髪の毛を弄る。手向けのつもりで首もと位までバッサリと切ってやった髪の毛が、少し伸びているように感じる。2週間ぐらいか…?

 

随分とダウンしてたみたいだが、その間機械生命体に襲われなかったのか私は?

 

このハコのお陰か?

 

と、横を向いて気付いた。

 

巨大な白い塔のような建物が見えた。

前まではなかったよな…どっから出てきた?地下か?……地下。もしかしてあの揺れはあれが原因か?

 

「一体、何なんだ、あのデカイのは…」

 

[不明。]

 

「役に立たないハコだな。」

 

まぁ、大して興味ないが。

 

それから修繕されてるあの崩落してた橋を渡り、ようやくあの時行きたがってた橋の先にたどり着いた。

 

ホントにあの日は驚きの連続だったな。何でかヨルハ隊員達が暴走してるし、あのガキが何か託してくるし、多分2B(だったっけ?)に恨まれるしで、本当に…色々大変だった。私はただ、ちょっと歩いてただけだったのに…。

 

いやホント、ヨルハの奴らには何があったんだ?何で集団感染なんか起こしてるんだ。一体何があったらそうなるんだよ。

 

…。

 

……いいや。何でヨルハの事なんか気にしてるんだ私は…。

 

私は…。私達はあいつらに捨てられ____

 

[要請:ヨルハ機体A2の行動目的の開示。]

 

……。

 

 

突然話しかけてきた。

 

「なんでいちいちそんなこと…。」

 

[支援する上で必要な情報と判断。]

 

「教える理由はない。」

 

そう言って歩きだす。

 

暫くして、

 

[要請:ヨルハ機体A2の行動目的の開示。]

 

また聞いてきやがった。

 

「教えないって言っただろ!」

 

今さっき言ったばかりだろう。もう忘れたのか。あのガキみたいだな。そうだアイツいつも会うたびに私の事___

 

[随行支援ユニットは対象支援機体の行動目的が開示されない場合、要請プロセスが30秒に一度、自動的に実行される事になっている。]

 

「はぁ!?」

 

[推奨:速やかな行動目的の開示。]

 

[不必要に会話を繰り返すのは無駄なエネルギーを消費すると判断。]

 

「お前が勝手にやっているんだろう!」

 

何なんだコイツは。話が通じないやつだ。30秒に一度だって?まさかずっとこんな感じで

 

 

 

 

[30秒経過。]

 

[要請:ヨルハ機体A2の行動目的の開示。]

 

「クソッ!」

 

コイツ……本当にこんな感じなのか…!

 

「目的は機械生命体をぶっ壊すことだ。」

 

「わかったか!」

 

[了解。]

 

わかったらしい。

 

すんなりと言うので罵った気がしない。本当に何だコイツ。

 

[付近の機械生命体のスキャン及び、マーク完了。]

 

[砂漠地帯に大型の機械生命体を関知。]

 

[推奨:大型機械生命体の破壊。]

 

「私に命令するな。」

 

[否定:これは命令ではない。]

 

[ヨルハ機体A2に対する支援情報である。]

 

[推奨:情報に不満のある場合、行動目的の更新。]

 

「う る さ い 黙 れ 。」

 

[否定。]

 

秒で否定された。少しぐらい言うこと聞けよ。

 

[本支援ユニットはヨルハ機体9Sの最終命令によって行動中。]

 

[ヨルハ機体A2に命令権限は存在しない。]

 

「勝手にしろ。邪魔するな。」

 

[了解。]

 

なんだか相手するのに疲れてきたので、もう放っておこう。

 

……コイツとは絶対に馬が合わない気がする。

 

「あのガキ…いつもこんなのと一緒にいたのか…?」

 

[肯定。]

 

だからもう喋るなお前。調子狂うから。

 

[それと、]

 

なんだ…?まだあるのか?

 

[「あのガキ」ではない。前随行支援対象には9Sという名称が存在している。]

 

「はぁ?それぐらいわかって…」

 

[要請:先程の呼び方の訂正。]

 

「はぁ!?あのガキの事どう呼ぼうが私の勝手だろ!」

 

[要請:先程と今の呼び方の訂正。]

 

「……ッ!」

 

駄目だコイツっ…恐らくもう同じ事しか喋らないぞ。

 

[要請:先程の呼び方の訂正。]

 

ほらな。

 

[要請:先程の呼び方の訂正。]

 

「…………。」

 

なんだか私も意固地になってきた。このままマークされた砂漠地帯に向かうことにする。

 

くそっ……何なんだ…何なんだコイツっ。意地でも直さないからな……。

 

 

 

 

 

[要請:先程の呼び方の訂正。]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[要請:先程の呼び方の訂正。]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[要請:先程の呼び方の訂正。]

 

「わかったよ!9Sだな!?な!い!ん!え!す!もう黙れお前!!」

 

[訂正を確認。了解。沈黙する。]

 

コイツがずっと付いてくると思うと、憂鬱になってきた。

 

 

 




なんでか分からないけどポッド153はポッド042よりA2と仲良くできなさそうな確信がある


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Episode.11 [微カナ変化]

受け継いだ記憶が実際どこまで影響をもたらすのか具体的には分からないので初投稿です。


 

砂漠を滑り進んでいると、早速デカイ機械生命体3体が見えてきた。

 

私はあのガ……9Sから渡された方の大太刀とは別の、私が元から持っていた大剣を構え、滑ってきた勢いでジャンプし、頭に大剣を叩きつける。

 

ズバンッ

 

機械生命体の頭がぱっくりと割れる。

 

「…………ギ

       ギ……………」 

 

そしてそのまま剣と共に頭をぶっこ抜き、その頭を掴み、残りの二体に見せつけ、言う。

 

「楽しませてくれるんだろうな?」

 

二体は怒り狂い私に向かってくる。

 

あとはもう簡単だ。怒り狂ってる敵の動きは単純だから、手際よく捌いていく。

 

「……フゥ…。」

 

まぁ、ざっとこんなものか。

 

「大型っていうからどんな敵かと思ったら、大したことないな。」

 

こんなのではいつも相手してるのと大差ない。わざわざ砂漠にまで足を運んできて損したな。

 

そう思ったとき

 

[否定:敵機械生命体反応健在。]

 

……なんだって?

 

ゴゴゴゴゴゴゴ

 

地面の砂が揺れる。まさか砂の中にいるのか!?

 

 

ドバァァアン

 

「なんだ……あれは……!?」

 

砂中から丸い球体で体の繋がった巨大なムカデのような機械生命体が現れる。

 

[砂漠地帯用に進化した機械生命体と推測。]

 

[推奨:敵機械生命体の破壊。]

 

「言われなくても!」

 

奴は飛び出した後、上空で滞空し弾幕を撃ってきた。

 

撃ってくる弾幕を回避しながらポッドに射撃させ、撃ち落とそうとする。

 

くそっ。このハコにいきなり頼る事になるなんて…

 

[ヨルハ機体A2のような旧型アタッカーモデルには射撃機能はない。]

 

あ?

 

[推奨:遠距離攻撃手段を持つ本随行支援ユニットに対する感謝の提示。]

 

このハコめ……

 

「恩着せがましい…。」

 

 

ある程度撃っていると、急に体を球体ごとに分裂させ、地上に落ちてきてた。

 

「うおっ!?」

 

ゴロゴロと転がってくる。

 

「……ッ!」

 

ギィンっと大剣で弾く。ボールのようにゴロゴロと転がる。

 

……っ。…重い。それに…

 

「くそっ…固いな…。」

 

力一杯に刃をぶつけた筈だが、傷がついた程度で手応えがない。

 

仕方ない…。

 

 

 

「B(バーサーカー)モードで倒すか……。」

 

 

 

Bモード。それは…

 

[警告:核融合ユニットの出力を増大させるBモードは危険。]

 

[攻撃力は増大するが防御力は低下し、メンテナンスコストも増大する。]

 

おい今私が説明しようとしただろ。邪魔すんな。

 

[その証として、最新型のモデルからは機能削除されている。]

 

っ!! コイツ……さっきといい今のといい、いちいち旧型だの最新型だの言いやがって。

 

「悪かったな旧型で!」

 

そこ結構気にしてるんだぞ!!

 

 

あぁーもう腹立ってきた!危険だろうがなんだろうがBモード使ってやるからな!

 

「ううぅ……ああぁああ!!」

 

[は?]

 

体が熱くなり、その苦しさでうめき声をあがる。だが同時に、体中に力がみなぎってくる。

 

Bモード起動。蹴散らしてやる。

 

ん?まて、今このハコ は? って言ったか?それもすごいキレ気味で。

 

「!!」 ビィィィィィ

 

いやどうでもいい。今はこっちだ。

 

球体たちが私の変化に気付いたようでビームを放ってくる。

 

ビームは直線状なので死角に入り、一直線に向かう。

 

そして、

 

ギイイィン!!

 

また大剣で弾き飛ばす。また先程のようにボールのようにゴロゴロと転がる。

 

先程とは違い、転がる距離は長く、傷も深い。

 

いいぞ。手応えあり。切り尽くしてやる。

 

さらに追い討ちをかけようとする。

 

また奴に向かい、武器を構え、切りつけようとする。

 

そのときだ。ふと、転がるであろう先に、もう一球いるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

………そうだ。

 

私は大剣を切りつける直前で、くるりと大剣の刃と峰を入れかえて、Bモードの出せる力いっぱいで振り、剣の峰をぶつける。

 

 

ゴンッ!!

 

敵の体に切り込みは入らない。当然だ。刃ではなく、峰を当てたのだから。

 

だがそのかわり。

 

 

ゴオォォオ!!

 

 

そいつはまるでボールのように勢い良く打たれ飛ばされる。

 

 

そして、

 

 

ゴシャァア!!

 

 

先にいたもう一球に勢いよく直撃し、互いに潰れた。

 

やっぱりな。同じ硬さをしてるんだ。勢いよくぶつかりあえばただじゃ済まないだろうと思った。

 

一瞬であの固いのを二体倒した快感に味を占めた私は次々と同じ方法で倒していく。

 

アイツらはデカイし結構トロイので、案外適当に打っても当たった。

 

ふふふ。いいぞ、これ結構楽しいな。

 

 

 

だが、アイツら奇数だったから最後に一体残ってしまった。

 

まったく…。キリよく終わりたかったのに…。

 

最後の一体に向かって走る。まぁ、一体だけで楽になったし、適当に切りつけ続ければいいか。

 

つまらないな……ん?

 

ふと、気付いた。

 

つまらない?私って今まであんな工夫した戦い方好んでやってきたか…?

 

いやむしろ適当に切りつけたりするのが楽しいと思ってた筈だ。

 

んん…。まぁいいか。戦闘に集中。

 

最後の一球に向かって斬りかかろうとして__

 

[警告:敵にEMP攻撃を関知。]

 

「何!?」

 

咄嗟に止まろうとするが、もうすでに光っているのが見えてしまった。

 

駄目だ。間に合わない_______

 

ビカァァァァァァア

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に真っ白な地面と暗い宇宙のような空間が広がる。

 

「ここは……。」

 

なんだここ。

 

[EMP攻撃の衝撃によってA2の記憶領域にハッキング被害が生じた模様。]

 

無機質な女の、あのハコの声が聞こえてきた。端的かつ分かりやすい説明ですぐさま状況を理解する。

 

「じゃあここは私の記憶領域か…。」

 

記憶領域。あるのが知ってはいたが、実際に見るのは初めてだ。こうなってたのか。変な所だな。

 

…ん?

 

「てか、なんでお前がここにいるんだ。」

 

[随行支援ユニットは支援対象機に不具合があった場合。内部モニタリングの義務がある為。]

 

また端的かつ分かりやすく伝えられる。

 

「勝手に人の頭の中に入ってくるな…。」

 

さて、私はここでどうすればいいんだ?

 

ハッキングされたって事は、原因が何処かにいるんだろう。

 

とりあえず、記憶領域内を歩き回って探してみることにした。

 

突然、ノイズが走る。

 

「クッ……。」

 

無機質な機械生命体の声がノイズ混じりで辺りから響いてきた。

 

「……私は………砂漠……試作機……人類を………殲滅するため………製作サレ……。」

 

 

「なんだ…?これは…?」

 

[敵機体からのハッキングにより敵のメモリ空間との強制融合が為されている。]

 

強制融合。なんだかわからないが言葉の響きからして、それってまずそうな気がするぞ。

 

「何とかできないのか!?このままだと私はどうなる!?」

 

[この強制融合は無意味な行動。危険性はない。]

 

「……。」

 

……そういうの早く言って欲しいな……。

 

またしばらく歩き回っていると、こんどは少年のような声が聞こえてきた。

 

この声は。

 

「機械生………を殲滅したら、僕た……士は

やる事が無くな……ます。」

 

「そうした……平和に暮らす……が……っとくるは……でザザザッ …Bにお似合いのT………ツを買っ………ザザザザッ ……約束………からね?」

 

所々ノイズまみれだが、なんとなく楽しそうな声をしてるのが分かる。

 

[本データは9Sの記憶データの断片。]

 

[2Bとの会話の記憶と推測。]

 

なんで9Sのが? ってあぁそうだ。今持ってる武器に記憶がどうこうって言ってたな。

 

あの日9Sから武器を受け取ったときも、少しだがアイツの記憶が頭に流れ込んできたな。

 

いや武器に記憶ってどんな技術だよそれ。

 

冷静に考えてみると、ヨルハの技術ってよくわかんな_______

 

 

「………は違うよ……二号……私達はみんな、自分で……選ん……ここま………んだ……。うううっ……。」

 

!?この声は…!!

 

「生きる意味を与えてくれて………ありが……と」

 

……!!

 

嫌でもあの日の光景が浮かぶ。

 

「やめろっ!!!」

 

[当該データはヨルハ機体A2の記憶と認定。]

 

「うるさいっ!さっさと接続を切れ!」

 

プツン…。

 

 

 

 

……。

 

気分が急に重くなる。クソッ…。さっさと元凶を見つけて取り除いてやる。

 

しばらく進むと一本道の先に、黒いモヤのようなものが見えてきた。その異物感に、一目でコイツだろうと分かる。

 

武器(なんでこの空間でも剣があるんだ?)を構える。人の嫌な記憶思い出させやがって。

 

「ママ………ママ……。」

 

何か嘆いている。ママ…。確か母親とかを指す言葉だ。

 

「ママ……。ママ…。」

 

…抵抗しないのか?コイツ……。

 

抵抗しない相手への攻撃を一瞬躊躇うが、このままでいるわけにもいかない。

 

ザンッ

 

と切り捨てた。叫び声のようなものはなく、静かにソイツは消滅した。

 

一通り終わると体がだるくなり、ガクッと座り込む。

 

「ハァ……ハァ…。」

 

多分Bモードの反動だ。体がぐったりとして気分が悪い。

 

先程の記憶がまだ残っており、そこに合わさって不快感が増えていく。

 

………四号。……皆……。

 

 

突然後ろに気配を感じる。

 

敵意は感じない。ゆっくりと向く。後ろにいるのは……あのガキ……の幻覚、か…?

 

 

「あなたはいつも、そうやって苦しんでいる。」

 

何だと?いきなり出てきて何が言いたい。

 

「誰にも頼れなくて、ずっと一人で抱えこみ、泣き叫けんでい

 

 

…っ!!

 

 

「うるさいっ!」

 

生意気な事を言うアイツに向かって剣を投げる。

 

 

 

トスッ

 

 

 

気がつくと、視界は砂漠に戻っていた。投げた剣は何もない砂にただ刺さっている。

 

「…うるさい……。」

 

あの残ってた最後の一体の球体は何処かへいったのか、ここにはもう居ない。

 

 

あのハコも何も喋らないので、酷く静かだった。

 

 




本編で出てきた2Bの幻覚何がしたいのか全然わかんなかったから幻覚ナインズ君も何しに出させたのか全然わかんねぇ…。


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Episode.12 [弔イノ花]

この話も一応入れときたかったので初投稿です。
今入れとかないともう入れる機会が多分無い。


[

 

ポッド042へ。情報共有を開始する。]

 

この世界の何処かの部屋。小さな照明の明かりに照らされている二機のポッド達が話し込んでいる。

 

[了解。圧縮会話モードを起動。]

 

 

[ ▽❬・/::ーー/’〙〘 〘'''❭〘▷▶▧/:@@<<,-'/:©©¥¥¦§¨©▨▷►▲£®®▶△△〙 ]

 

[ ﹃◆◁■.›『『(_‘゛~』)「…:▽▽〘 ’ー・❬❬〙▷▧▧&;@@://'-,<<<¥¦¦§©££」﹄ ]

 

 

早送り且つ暗号的な文章でやり取りをしている。第三者からみれば何を言っているかは微塵もわからない。

 

[圧縮会話モード終了。理解した。A2の記憶空間内にある9SデータがA2の自我に及ぼす影響について、今後の報告を待つ。]

 

[了解した。支援活動の参考情報としてアップデートする。]

 

少し間をあけてポッド042が口を開く。

 

[…それと、2Bに随行している当機ポッドにはポッド153とA2の関係性の改善への助言は出来ない。]

 

先程の圧縮会話モードで一体どんな会話をしていたのだろうか。

 

[質問:ポッド153が持っているA2への好感度が著しく低い理由。]

 

 

[回答:現随行支援対象A2の短絡的思考且つ行動には少々目に余るものがある為である。]

 

[随行支援対象A2には9Sの記憶データを継いでいることに自覚をもってもらいたい。以上。]

 

 

[……了解。]

 

 

数秒ほどして、

 

[2Bが資源回収ユニットのコアを1つ破壊。]

 

[その際機械生命体の[アクセス用認証キー]を入手した。]

 

[だが、心理状態の悪化が心配だ。なるべくA2との接触は避けなければならない。]

 

[了解した。こちらも2Bとの接触に注意する。]

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

資源回収ユニットの一つを潰して、次の資源回収ユニットに向かおうとしていた。

 

ポッドの考察によると、あの光球は資源回収ユニットのコアのようなものらしい。恐らく次のアクセスキーもそこにある。

 

[警告:2Bのバイタルに異常を検知。]

 

[推奨:早急なデータオーバーホール。]

 

こんなときに…。

 

「…早く認証キーを集めて塔を破壊しないと…。」

 

塔。なんなのかはわからないけど、あれは機械生命体が関わっているもの。何の目的で作ったか知らないが絶対に破壊する。

 

[警告:バイタルに異常を抱えたままの戦闘の継続は危険。]

 

すぐにでも次のユニットに向かいたいのにもどかしいなと感じる。

 

………だが、

 

「……わかった。一旦レジスタンスキャンプに戻る。」

 

急ぐ気持ちもあるが、万全な方がいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レジスタンスキャンプにある個室のベッドから起き上がる。

 

データオーバーホールは終わったらしい。案外早かったな。

 

……。

 

バイタルに異常と言っていたからここまで戻ってきたのに…。オーバーホールをする前とあまり変わってないような気がする。

 

まぁポッドが言うからには、何か異常があったんだろう。

 

個室から出て、次の資源ユニットに向かおうとする。

 

ふと、暗い顔をしたレジスタンスのアンドロイドが目に止まった。

 

「…どうかしたの?」

 

黒いコートを着たレジスタンスがうつむいたまま口を開く。

 

「…あんたキャンプの外に暫くいたんだろ?すまないが、こいつらを見たことないか。」

 

数枚の写真を見せられる。知らないアンドロイドの顔写真。

 

「…申し訳ないけど、知らない。」

 

「そうか…。同じ部隊にいた仲間たちなんだが、調査に行ったっきり消息がわからなくてな。……もし、もしも……死んでいるなら、弔うくらいはしてやりたくて。」

 

「…自分で探しに行かないの?」

 

「行きたいのは山々だが、前の戦いで駆動部分がイカれちまってね。」

 

そういって、足の付け根をみせる。

 

「だが……やはりどうしても気になって、な。」

 

大切な仲間の安否に不安そうな顔にあの日の私の姿が重なった。

 

「…わかった。私が探してくる。」

 

「…いいのか?」

 

「最後に連絡が取れた場所を教えて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……地面に倒れているアンドロイドの顔を覗きこむ。

 

駄目か…もう死んでいる。

 

遺品だけでも回収する。遺品のドッグタグが束になっている。

 

これでもう三人目…。

 

あと一人か…。

 

[報告:残存する通信記録に緊急支援要請を確認。]

 

「時間は?」

 

[今から12分前。]

 

12分前。ついさっきだ。

 

「まだ生きているかも…。助けに行こう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

砂漠地帯。倒れているレジスタンスを見つけた。

 

[確認:捜索を依頼されていたレジスタンス。]

 

[生体反応なし。死亡を確認。]

 

遅かった。間に合わなかったという思いがあの光景を思い浮かばせる。

 

「……っ!!」

 

あの光景と重なり、助けられなかった悔しさで拳を強く握りしめる

 

[報告:以上で捜索を依頼されていた全てのレジスタンスの死亡を確認した。]

 

「……せめて遺品だけでも届けよう。」

 

 

 

 

 

 

「その顔をみると…。駄目だったんだな、仲間達は…。」

 

レジスタンスの声が暗くなっていく。

 

「残念だけど…皆、死んでいた…。」

 

私の声も自然と暗くなる。

 

「そうか…。」

 

頼まれていた遺品を渡す。

 

「ありがとう。……この花でも添えてやるかな…。」

 

「…花を?」

 

何故。と思った。

 

「あぁ…いや。真似事だよ。人類には死んだ者を弔う風習があったらしい。だから何だという話だが…。安らかに魂が眠ってほしいという願いを花に込めてな…。」

 

安らかに…魂が…。

 

「今回はありがとう。世話になったな。」

 

「……」

 

「……俺は…怪我をして戦場に行かない事でどこか安心してたんだ………。」

 

「……安心して………逃げてたんだ…。」

 

最後に、自戒のような、後悔のような事を小声でそう呟いていた。

 

____________________

 

 

 

「弔う……風習…。」

 

先程レジスタンスから聞いた話がずっと頭に残っている。

 

私には、弔いという事がどんなものかはわからない。

 

だけど、安らかに眠っていて欲しいという願いは良く分かる気がする。

 

「……ナインズ…。」

 

……決めた。あの場所に向かおう。

 

きっとあそこが一番ふさわしいから。

 

 

 

 

 

商業施設跡の扉の先のエレベーターを下り、ある部屋に入る。

 

その部屋は洞窟のようになっていて、そしてその地面には沢山の白い花が咲いている。

 

月の涙。それがここに咲いている花の名前。

 

白くて美しい、綺麗な花。

 

沢山の月の涙が薄暗い洞窟を照らすように微かに光を放って咲いている。

 

ここにはナインズと訳あって一度来た事があった。

 

なんて美しい場所だろうと、初めて来たときにそう思った。

 

花に弔いの意味があるのなら、ここが一番ふさわしい。

 

「ナインズ。」

 

語りかけるように、君の名を口にする。

 

「私には、弔うということがどういう事なのか良くわからない。けど、もし私達に魂があるのなら…ここで…。」

 

黒の誓約を模して作った木刀を、地面に突き刺す。

 

「私も…すぐに行く。」

 

淡い光に囲まれながら、君との思い出に浸る。

 

じわりと、涙がゴーグルに滲んだ気がした。

 

……もう行こう。私にはやらなければならない事があるから。

 

そうして此処を後にしようとして歩きだして、一旦止まる。

 

…月の涙は願いが叶う花だと、言っていた。

 

 

 

 

 

……墓標には振り返らず、でも、確かに願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやすみナインズ。良い夢を。」

 

 

 

 

 

 

 



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Episode.13 [姿重ネル]

友達に自分の中にある2Bの心理考察を熱弁したら「お前の中での2B観一体どうなってんだよ。」というごもっともな言葉を頂いたので初投稿です。


水没都市。

 

次のユニットが霧の中からうっすらと見えてきた。

 

『こんにちは!資源回収ユニットです。防衛体勢に入ります!』

 

またあの声で、前とまったく同じセリフを言って資源回収ユニットがギギギと壁を動かす。

 

こちらもいつでも攻撃できるようにと意識を集中させる。

 

 

すると、ふと視界の端に、資源回収ユニットの近くの水辺から霧とは違う黒い煙がうっすら見えた気がした。

 

なんだろう。と思い、資源ユニットに入るのを後にしそちらに向かう。

 

あったのは墜落して、ボロボロになった恐らくは飛行ユニット。そこからプスプスと煙が小さく出ていた。

 

ポッドがその残骸に向かって行き、暫く調べて口を開いた。

 

[報告:当機体より9SのIDを確認。]

 

「ナインズの機体……。」

 

ここに機体があるならナインズもここの近くに落ちてた事になる。

 

…こんな遠くに落ちてたの?ここからあの場所まで歩いて?

 

ナインズは汚染されていき、ボロボロになって、その中で最期に何を思っていたのだろう。

 

 

 

もう私にはわからない。知る由もない。

 

そう思っていた時。

 

[飛行ユニットのメモリー内に未送信メッセージを確認。]

 

「……。」

 

いつの物だろう。私を逃がしたすぐ後?録音する暇があるならその時しかない。

 

…だとすれば、それは遺言だろう。

 

まだ聞いてもないのに、そんな確信がある。

 

だって君の事だ。録音機能のある場所で、自分が少しでも死ぬ可能性があると分かれば事前に録音をする筈だ。

 

……聞きたい気持ちと、聞きたくない気持ちが交差する。 

 

「……再生…。」

 

 

 

 

『こちらヨルハ部隊所属9S。この録音を聞いた人がいるなら、ヨルハ部隊所属2Bに会ったときにこう伝えて下さい。』

 

『単独行動が主な任務である僕らS型モデルにとって……。』

 

『…いや。』

 

『僕にとって、あなたと共に過ごした日々は…例え少しの間だけのものだったとしても…僕の大切な、大切な宝物でした。』

 

『本当はもっと話したい事。聞きたい事、一緒にしたかったことがもっと……もっと沢山あったけど………。』

 

 

 

『……君との時間をありがとう。2B。』

 

 

 

プツン

 

 

 

[メッセージ終了。]

 

あの日聞いたとき以来の、君の声。

 

そして内容に感情が込み上げてくる。

 

「…ナインズ…っ…!」

 

落ちていた飛行ユニットの欠片の一つを拾い上げ、握りしめる。

 

 

あぁ…、…ここで終わりたくなってしまった。

 

 

その思いから、君の刀に目を向ける。

 

…駄目だ。この刀はその為に使うものじゃない。

 

全て…全て終わらせると…この刀に誓ったんだ。

 

今にも滲んできそうな涙を堪え、再び資源回収ユニットに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

次の資源回収ユニットの入り口に立つ。

 

「また…何か書いてある。」

 

これもまた前と同じように扉の上に天使文字で何かが書かれている。

 

[魂の箱。と記載。]

 

「魂…。」

 

魂。ここに来る以前、ナインズを弔ったときにもその言葉を意識していた。

 

…ナインズは安らかに眠れただろうか。

 

扉の先のエレベーターに入り、上を目指す。

 

エレベーターが止まり、塔の中を進んでいく。

 

ここも構造は前と変わっていないのだろうか。

 

壁や床の金属の坂をみてそう感じる。

 

だが違いはあるみたいだ。広間に出たとき、前とは明らかに違う点があった。

 

「敵が…いない…。」

 

あの無機質な声も、あの機械の体が動く音も、何も聞こえない。

 

だが、部屋の真ん中に何か置いてあるのが見えた。

 

「これって…。」

 

ロックのかけられた箱のような物がある。

 

確かこれは…ハッキングで開けられたものだ。

 

ナインズが見つけては開けていたのを思い出す。

 

「ポッド。」

 

[了解。]

 

ポッドにハッキングさせ、開けさせる。

 

中には何もない。だが、箱を開けた直後に次の階に続くエレベーターが下りてきた。

 

「…そういうことか。」

 

ここではハッキングでシステムプロテクトを解除しなければならないのだろう。

 

次の階に向かうと、やはりまた幾つか箱があるのが見えた。

 

「あ。待って。」

 

ポッドにハッキングを仕掛けるの止めさせる。

 

「ポッド。私にハッキングさせて。」

 

確かポッドの疑似ハッキングの権限を私に移す事ができた筈だ。

 

[疑問:2Bがハッキングを行う理由。」

 

ポッドが当然の疑問を口にする。

 

「…いいから。」

 

[了解。]

 

ポッドからハッキングの権限を貰い、ポッドを介してハッキングを仕掛けた。

 

 

 

 

 

「……君はいつもこんな大変な事を…。」

 

ハッキングが終わり、意識が元に戻ると自然と口からその言葉が出た。

 

それからは箱にハッキングを仕掛けては開け、仕掛けては開ける。

 

……ハッキングは何というか、非常に面倒で難しい。

 

何度も失敗しては弾かれた。

 

でも。

 

何度もハッキングに失敗して手こずっていた筈だが、不思議とそこに不快感はなかった。

 

その代わりにナインズがいつもしていた事を自分もしているという感覚が、私の気持ちを満たしている。

 

幾つか箱をあけていると、何か情報のようなものが手に入った。

 

塔システムについての情報だ。

 

目を通すと、何となくあの塔が何かの射出を目的とした事がわかった。

 

「射出……?あの塔は砲台なの?まさか…人類の月面サーバを狙って?」

 

[情報不足の為、否定も肯定も不可能。」

 

「…砲台なら、尚更破壊しないと…。月面サーバが……。」

 

そう言いかけて、ふと自分が月面サーバを守ろうとしている事に気付いた。

 

……私は、人類がとっくに滅んでいることを知っている。

 

月面サーバには人類の遺伝子情報があるにはあるらしいが…果たして再生が可能かどうかはわからない。

 

そして何より…、ヨルハ部隊は壊滅した。

 

それでも尚私は月面サーバを守ろうと思っている。

 

……どうやら私はまだヨルハ隊員らしい。

 

…はっきりと言ってしまえばヨルハ隊員が、ヨルハ部隊という組織が素晴らしいものだったとは言い難い。

 

むしろ、戦争意欲の維持の為だけに作られた茶番のような、虚構のような存在だった。

 

それでも…。

 

それでも…ヨルハ部隊で過ごした日々は本物だった。

 

司令官。6O。21O。他にも沢山の仲間達。

 

そして…ナインズ。

 

皆と過ごした日々は。

 

ナインズと過ごした日々は。

 

共に戦った仲間たちは本物だった筈だろう。

 

そうだ、ヨルハの為に、死んでいった仲間達の為に、そしてナインズの為に、私は戦い続ける。戦い続けなければならないんだ。

 

 

失ってしまった全てに…報いる為に。

 

 

そう、改めて決意した。

 

 

 

 

 

 

 

…が、そんな思いも次に手にいれた情報への感情で上塗りにされてしまった。

 

 

次に手に入れたのはブラックボックスに関する情報だった。

 

それを見て、固まった。

 

「どういう事…?私は…、私はこんな情報は知らされてない…。」

 

﹝機密事項SS﹞と書かれ、司令官ですら知り得ないとされているその情報は、ブラックボックスが機械生命体のコアで作られたことが記載されていた。

 

なんでこんな機密事項の情報が機械生命体の手に?

 

いや、それよりも

 

そんなことよりも

 

私達が機械生命体と同じもので作られている?

 

それじゃあ…つまりそれって……。

 

「そんな…そんな筈ない……。」

 

私が…あれほど憎んだ機械生命体と、倒すべき敵と同じだっていうの……?

 

そんな事ない。そんなのあり得ない。

 

私は、私達はアイツらとは違う。

 

だって私達には心がある。感情がある。

 

仲間と共に過ごし、泣いて。笑って。怒って。ときには憎んで。

 

平和を望んだり、孤独に寂しさを感じたり、

 

見えないなにかを信じてみたり、

 

人類に憧れたり、

 

家族や兄弟に憧れてみたりして…。

 

それから…それから……。

 

 

 

 

…あぁ…でも、それって……。

 

 

 

 

…いや、違う。

 

違う!違う違う…!!

 

私達と違って機械生命体のやることに意味なんてない。

 

そうだったでしょ。

 

そう言ってたでしょう。

 

ねぇそうなんでしょナイン__________

 

 

 

 

 

ふと、音が聞こえてきたことでハッとする。

 

どうやら、上に向かうエレベーターが下りてきたようだ。

 

私は…まだ整理できない頭のまま、エレベーターで上り、屋上に出た。

 

屋上に出ると、またあの光球。コアのようなものがあるのが見えた。

 

またあの時のように破壊しても良かった筈なのに、頭が整理できてないからなのか、それともナインズとの追憶を求める意思からか、無意識のうちにハッキングを仕掛けていた。

 

 




次回。例のCM回。


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Episode.14 [アノ日壊レタ何カ]

徹底的に壊れていく君の姿は美しいので初投稿です。


 

「あれ……ここは…。」

 

一直線の白い道。宇宙のように広がっている空間。

 

私はハッキングを仕掛けた筈なのだが、そこに広がる光景は今まで見てきたハッキングの画面と少し違った。

 

私は…ここを知っているような気がする。

 

一直線の道を歩き続けていると、なにか奥にある広い空間に、沢山の。いや膨大な量の画面のようなものがあるのが遠目に見えた。

 

「これって…。」

 

近づいていくにつれて見えてきたその正体に、ようやく気付いた。

 

 

「私の…記憶…。」

 

 

ここは私の記憶領域だ。私の記憶が、思い出が詰まった場所。

 

何故ここにいるのだろう。辺りを見回す。

 

見えるのは私の記憶が写しだされた沢山の画面。

 

その画面の一枚一枚に写しだされているのは私とナインズとの記憶ばかり。

 

 

沢山ある記憶に目を向ける。

 

その一つ一つを、ナインズたちを。私は今でも鮮明に思い出せる。

 

 

君と工場で初めて会ったときの記憶。

 

遊園地の歌姫と共に戦ったときの記憶。

 

アダムと戦ったときの記憶。

 

君を抱きかかえているときの記憶。

 

 

イヴと共に戦ったときの記憶。

 

 

君の首を絞めるときの記憶。

 

 

君の手の上で君を見ているときの記憶。

 

 

 

砂漠で君を必死に運ぼうとしているときの記憶。

 

 

 

 

洞窟で共に雨上がりを待っていたときの記憶。

 

 

 

 

海で溺れかけた君を助けたときの記憶。

 

 

 

 

一緒に世界中を旅して回ろうと約束したときの記憶。

 

 

 

 

 

君の胸に刃を突き刺しているときの記憶。

 

 

 

 

 

 

 

君の喉を刈っ切ったときの記憶。

 

 

 

 

 

 

君とバンカーで初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

君と草原で初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

君と海岸で初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

君と初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

君と初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

 

君と初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

 

 

君と初めて会ったときの記憶。

 

 

 

 

 

 

君と…………________

 

 

 

 

数えきれない程の、膨大な量の記憶。

 

そしてその沢山ある記憶の中心に、その記憶たちに取り囲まれているかのように、ナインズの形があった。

 

幻覚…、いや違う。記憶が生み出した立体モニターのようなもの。

 

もう二度と、この目で見ることが叶わないと思っていたナインズの姿に、思わず手を伸ばして向かって行く。

 

「たとえ…これが私の記憶でも……私は……。」

 

 

 

 

 

 

ザザッ

 

周囲に異音が走る。

 

咄嗟に辺りを見回す。

 

そして周りで起きている状況に気付き、理性が吹き飛びそうになった。

 

記憶の一枚一枚が、何者かによって干渉されて黒い靄に取り込まれていっている。

 

忘れていたが今ここにいる場所は私の記憶領域、つまり私の中だ。

 

ハッキングを仕掛けた筈なのに私の中にいるということは、逆にハッキングされたことを意味している。

 

私にハッキングを仕掛けてきた何者かが私の記憶を取り込もうとしている。

 

ザザッ

 

ザザザザッ

 

次々と私の記憶に黒い靄がかかって取り込まれていく。

 

ナインズの姿にも、黒い靄がかかり、それを核にするように靄が集まっていく。

 

「やめろ」

 

この状況にとてつもない不快感が込み上げてきた。

 

尋常じゃない程の、A2に向けていたあの憎悪に似たものが湧いてくる。

 

「やめろ。」

 

それでも、靄の侵食は止まらない。

 

ナインズの姿を核にした靄は形作り、黒い人型のようになる。

 

 

「やめろ!!」

 

 

次々と取り込まれていくその光景が、まるで記憶を奪われているように感じた。

 

これが私の中に唯一残る、ナインズがいた証なのに。

 

そう思ってしまったことで、感情がついに爆発する。

 

 

「やめろッッッ!!!」

 

「私の記憶に……ッ!!勝手に入ってくるなっ!!!」

 

 

武器を構え、すぐにでもこの場に居るべきでない異物を排除しようと刃を突き刺す。

 

ドスッ。

 

その勢いで黒い人型は倒れる。

 

私もその勢いでソイツに馬乗りになって、また刃を抜いて突き刺す。

 

ドスッ

 

そして何度も、何度も何度も突き刺した。

 

ドスッ

 

ドスッ

 

それほどまでにコイツが憎たらしい。

 

「これはっ!!この記憶は……ッ!!全部っ!!……全部、全部!!」

 

「私だけのものなんだッ!!触るなぁァっ!!!」

 

 

爆発した感情が、考えるよりも先に言葉を出させる。何を言っているのか自分でも良くわからない。

 

何度も何度も何度も突き刺す。とにかく突き刺し続ける。

 

コイツが記憶に触れてきたという事実が私に尋常じゃない不快感を感じさせる。

 

その不快感からとにかくコイツをこの場から排除しようと必死に突き刺し続ける。

 

とにかくコイツのやった事が気に入らない。

 

いやそれ以前にコイツがここに居ることが堪らなく許せない。

 

だってこの場所は私とナインズだけの場所なんだ。他の誰かが居ていい場所じゃない。

 

それなのに。それなのに。

 

私だけの記憶なのにコイツは勝手に触れたんだ。

 

私だけの物なのに。

 

私だけが持っている物なのに。

 

私だけのナインズなのに。

 

私だけの。私のだけのモノなのに。

 

 

「私の…記憶を…ッ…!!」

 

 

ドスッ

 

何度も刃を突き刺す。感情に任せて。

 

ドスッ

 

何度も。何度も。何度も。

 

ドスッ

 

 

ドスッ

 

 

ドスッ

 

 

 

ドスッ

 

 

 

 

 

 

 

ザクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、手応えが、よく知っているあの感覚になった気がした。

 

 

 

ザクッ

 

 

いつの間にか、あの黒い靄は消え、ナインズに戻っていた。

 

 

 

ザクッ

 

 

 

私は何度も、何度もナインズに刃を突き刺す。

 

いや、何をしてるんだ。すぐにでもやめないと。

 

 

 

ザクッ

 

 

 

ザクッ

 

 

 

だが、そう思っても私の体はナインズを刺し続ける。

 

 

 

ザクッ

 

 

 

ザクッ

 

 

 

ザクッ

 

 

びちゃびちゃと真っ赤な血が飛び散っているあのよく見知った光景が私の目に映る。

 

 

 

 

ザクッ

 

 

 

やめろ

 

やめろ。

 

もう終わった。やめるんだ。

 

 

ザクッ

 

 

ザクッ

 

 

ザクッ

 

 

やめろ。なんで、何でまた私はナインズを殺そうとしてるんだ。

 

 

 

ザクッ

 

 

ザクッ

 

 

もうやめろ。もうナインズを殺す必要はないから。やめろ。やめて。

 

 

 

ザクッ

 

 

やめて。もうやめて。やめてよ。

 

 

ザクッ

 

 

嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 

 

ザクッ

 

 

こんなの嫌。もう嫌。嫌なのに。

 

 

ザクッ

 

 

なんで、なんで止まらないの。

 

 

ザクッ

 

 

止まって。もう止まってよ。

 

 

なんで私はナインズを殺しているの。

 

 

殺したくない。

 

 

 

もう殺したくない。

 

 

 

殺したくないのに。

 

 

 

 

なのに。

 

 

なのに。

 

 

 

 

 

 

 

なんで。

 

 

 

 

なんで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで、ずっと_____________

 

 

 

 

「あああああああああああああああ!!!」

 

 

ギンッっ

 

私の叫び声と、ガラスを貫いたような音が辺りに響く。

 

「ハァ………ッ………ハァ……ッ…………」

 

気がつけば、視界はユニットの屋上にもどっていた。

 

私の振るい続けていた刀は、コアの深くまで突き刺さり、コアを破壊していた。

 

〘アクセスキーを取得。〙

 

コアを破壊した事で、目標が達成された。

 

けど、そんな事を気にしているような余裕は無かった。

 

あの手に残る感覚が疎ましくて、コアに刺さっている刀を抜かずに柄から手を離してしまう。

 

それでも…まだあの感覚が手に残っている。ナインズの体を刺した時の、あの鈍くて不快な感覚。

 

いつも私を苦しめてきたあの感覚が。

 

もう、この感覚は二度と感じなくていいんだと心の何処かでそう思っていたのに。

 

どうして……。どうして…?

 

何で…私はまた……ナインズを_______

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフッ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと突然、私の口から笑い声が漏れはじめた。

 

 

「フフフフ…ハハハ……」

 

「アハハ…」

 

 

一度漏れ始めると、そこに続いて次々と笑い声が出てくる。

 

なにが可笑しいんだろう。またナインズを殺したのに。

 

「アッハハハハ……!!」

 

それでも、それでも笑い声が収まらない。

 

訳がわからない。何故か今、私は嬉しくてたまらない。

 

どうして

 

どうしてなの。ナインズを殺したのに、なのに、心が満たされていく。

 

あのよく知った感覚に、嬉しさが、満足感が、悲しみと同じくらいに、いやそれ以上に私の中から溢れてきている。

 

おかしい。こんなのおかしい。おかしいのに。満たされていく心が嬉しくて、心地よくて、抑えることができない。

 

 

 

「アハハハハ…アッハハハハハハ!!」

 

 

 

訳も分からず、ただただ喜びに任せて笑い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして笑い続けている内に、ふと気付いた。

 

あの日私の中で壊れた何かが、再び形を取り戻そうとしている事に。

 

 

 



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関係ナイ話
Episode.?? 命名。It might to [BE]


おまけというか、なんというか。という回なので初投稿です。

アコールの事詳しく知らないとかなり「?」となります。知ってても「?」となります。

僕もアコールの事調べてもよく分からないので「?」となってます。

あとおまけなのに少し長いです。ぶっちゃけ読まなくても良いです。


 

 

暗い廃ビルの中、苔が生え、所々ひび割れた薄暗い部屋に風変わりなライトの光の下で何かを執筆する一人の女性がいた。

 

小声でなにか呟きながら、紙に文字を書き続けている。

 

 

 

「□□時△△分◆◆秒、上空にて明確なルート分岐が観測された。今まで確認されてきたC,D,E,その他,のルートに繋がっていたルートとは明らかに違った状況になっており。現在調査を継続中。」

 

「新たに分岐したルートは、今までのルートと違い9Sが2Bの搭乗していた飛行ユニットを意図的に撃墜し、彼女を逃がした所から始まったらしい。興味深いことにその後9Sは既存のルートの2Bと酷似した状況、状態で死亡。さらに2Bまでもが既存ルートの9Sのような状況・状態に陥っているというのだ。いや、状況・状態だけでない。言動、行動までもが報告の記録には酷似して存在していた。」

 

「この観測報告を受けたときは本当に驚いた。そして同時にこの分岐は非常に興味深いとも思った。」

 

「今まで観測されてきた分岐とは、[全くもって結末が異なるルート]と[過程に多少の差異があれど結末は収束するルート]の二つに分けられていた。恐らくは今回のルートは後者にあたるだろう。しかし、❬過程に多少の差異❭といえど❬観測対象の立ち位置そのものが入れ替わる❭などというのは前列がなく、恐らくこれが初めてである。そのため私はこのルートを率先して担当し、要監視・調査することに決めた。」

 

「現在分岐の中心的存在とされる観測対象2Bは意識不明の状態をレジスタンス軍所属のアンドロイドに保護され、治療を行っており……____

 

 

________

 

 

「…ふぅ。ここら辺で一端休憩にしましょう。」

 

暫くして、ひとしきり書き終えると、彼女はそう言いメガネをあげ、目を抑える動作をした。

 

彼女の周りには沢山の紙が山になって置いてある。

 

「少し書きすぎてしまいましたね。添削しましょう。」

 

そう言い、紙を手に取り読み進めていく。

 

「………この情報はいらないですね……あとここも……これもそうですね……。」

 

「……随分薄くなっちゃいましたね…。でも重要な情報を簡潔かつ無駄なく伝えるにはこれぐらいがちょうどいい……やっぱりレジスタンスや機械生命体一人一人の傾向報告はいりませんでしたね……反省です。重要な情報だけまとめて書き直しましょう。」

 

そう言い、再び白紙の紙に書き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

私はアコール。観測者だ。

 

 

観測者というのは、私達の役割の呼称。

 

世界を大崩落(フォールダウン)から救うべく、世界を観測し、調査し、あるときは導く者として作られた存在。

 

私はここでこの世界。「母体」が襲来してから10000年近く経ったこの地球という星で、とあるアンドロイド達の観測をするのが主な仕事だ。

 

私はこの観測者という役割が好きだ。

 

人間模様、世界観、ドラマ、戦い、あらゆるものへの観測が私の知的好奇心を満たしてくれるから。

 

そして特にこの時代の地球が大好きだ。多分私はsfチックなものが好きなんだろう。

 

だから私はいつもこの世界の観測をしている。と言ってもこの世界での、ここの年代の出来事は大きく分けて2つの結末にしか帰結しないのだが。

 

だが私は何度この世界の分岐世界の観測を担当し、何度同じ結末を観測しても飽きない。それほどまでにこの世界が好きだ。

 

そして今回。私はこの分岐世界で新たな分岐が発見されたと報告を受けた。

 

細かくわけても26個の結末の観測が限界だったこの世界に、あらたな結末がありえるかもしれないという事だ。

 

その時私は別の分岐世界の観測を担当していたのだが、それを聞いて急いでこちらの担当を申し出た。

 

なんと新たな分岐は観測対象の立ち位置が入れ替わったという今まで観測してきた中でも異例の事態だった。

 

まだ本格的な観測は始まってもないのに、もう既に私の心はワクワクとしている。どれくらいワクワクしているかというと、例えどんな結末になったとしても私は満足して受け入れられるだろうという確信がある程にワクワクしている。あぁでもこの目で分岐の瞬間を見れなかったのだけが凄く残念だ。前の分岐に長居しすぎだったのは本当に反省すべき点だろう。なにせCは本当に彼女の生き様が素晴らしいから………__________以下割愛。

 

………。

 

「…今日で分岐発見から9日目…。そろそろ彼女も合流してきてもいい頃なんですけどね…。」

 

調査記録を書きながらそんな事を私は呟いた。

 

この分岐世界を最初に担当していたのは私ではない。また別の担当が最初この分岐世界にいて、その担当が今回の分岐を発見したのだ。

 

「まぁ…。彼女なら正直居ても居なくても大して変わらないんですが……。」

 

そんな失礼な独り言を言っていたちょうどその時、扉の向こうからノックが鳴った。

 

「入ってどうぞ。」

 

ガチャリ。

 

扉が開き、カツカツと一人の女性が入ってくる。メガネをかけた黒髪の女性。ヒールを鳴らすその歩き方は足を横から前に出すという非常に不自然なもので、見る者は不気味に感じるかもしれない。

 

 

 

と言ってもこれが私達の普通の歩き方なのだが。

 

 

 

「すいませ~ん。遅れちゃいました。」

 

間延びした声が部屋に響く。

 

彼女はアコール。いや、彼女もアコール。彼女こそこの分岐世界を最初に担当していたアコールだ。

 

「何をしていたんです?随分と遅かったですが。」

 

「あ~。ちょっと釣りしてました。楽しかったもんで数日ほど長引いちゃいました。」

 

 

…。

 

……このやる気の無さそうなアコールが、この分岐の発見者だ。

 

彼女は私…いや、数多いる私達アコールという観測者の中でも少し変わったアコールだ。

 

 

「……報告が初観測の数日後ってのはどういう事です?」

 

 

「いや~馬鹿正直に全部話すかどうか迷…あ。いや初めての事で頭の整理が追い付かなくて…。て、てへへ…?」

 

 

「……?……ハァ…。」

 

とまぁこんな感じで、彼女は自分の職務に対する責任感が非常に薄い。

 

いや、それだけならいいが…彼女たびたび職務放棄もおこすのだ。

 

適当にコピペして報告してくることもあれば、飽きたからといって途中で観測を止めて次の観測に行くこともたびたび。

 

私がこの分岐への担当変更許可が下りたのも、多分彼女が信頼されてないからだろう。

 

だが、彼女がそうやってコロコロと分岐を渡り歩いていなかったらこの分岐世界が見つかってなかったと思うと、それはそれで感慨深くもあるなと感じる。

 

 

「……あれ?貴女ケースは何処です?」

 

ふと彼女が私達アコールの観測道具の詰まったケースを持っていない事に気づいた。

 

「あ~あれ重いじゃないですか?だから」

 

「…どこかに置いてきたんですか?」

 

「いえ、頼んできました。多分もうすぐ来るんじゃないですかね。」

 

「……?」

 

ブロロロロ……

 

ふと、遠くからエンジン音が響いてきた。

 

そして、

 

ドバンっ

 

っとドア突き開けて、顔のついたバイクが部屋に入ってこようとして扉の縁で引っ掛かかった。

 

「こんにちはー!頼まれていた荷物です!ってやや!?アコールさんが二人!?」

 

「アコールさんって双子だったんですか!?」

 

少年のような声をした顔つきバイクが驚きの声をあげる。

 

「あ~…まぁそんなとこですね。あちらは私のお姉ちゃんです。」

 

「へーお姉さんですか!初めまして!」

 

「初めまして。」

 

違和感ないように、私は平然と挨拶する。

 

「そっかお姉さんか……。…。お姉さん…。」

 

「?どしたの?」

 

「あ、いえ何でもありません。ハイこちら頼まれていた荷物です!では僕はこれで!」

 

そういってアコールが顔つきバイクからあのケースを受けとる。

 

「エミール宅配サービスをご利用頂きありがとうございましたーー!!」

 

「エミール君ありがとね~!」

 

ブロロロロ……

 

そう言って、エミールはエンジンを鳴らして帰っていった。

 

…あの巨体で、どうやってこのビルのこの階にまで入ってきたのだろうか。

 

いや、それよりも。

 

「………ハァァァ。」 

 

頭を抱え、長いため息をつく。

 

「……なんですぐそうやって必要以上の干渉をするんですかね貴女は。」

 

「てへへ。」

 

「てへへじゃありませんよもう…。」

 

基本的に私達観測者は観測する世界の住民への必要以上の接触を禁じられているのだが。

 

……のだが。……はぁ…。

 

「あなたはホントに観測者に向いてないですね。」

 

「む…。個性的と言って欲しいですね。いいでしょう私達見た目も声も全く同じなんですから。少しぐらい特徴的な方が。」

 

「少しとは……。」

 

彼女は本当に自由奔放だ。以前共に観測をしたことがあるが、その時からソリが会わない。

 

イノシシにちょっかいかけて一日中追いかけ回されてたり、荷物を崖の村に忘れて一緒に消滅させられて咽び泣いていたりと、別になにか迷惑をかけられた訳ではないが、彼女を見ていると…ホントこう…疲れる。

 

「はぁ……もういいですよ。さっさと資料まとめるの手伝って下さい。」

 

「は~い。」

 

なんとなく改善の余地が見込めない確信があるため話を切り上げて手伝わせる。

 

こんな彼女だが、特殊な分岐だからという事があってか、今回は珍しく自分から私を手伝うと申し出てきたのだ。

 

その私と共通する特殊分岐への関心に免じて今回は彼女にしっかりと手伝って貰おうと思う。少々不安だが。

 

「それで、貴女はどちらを担当します?」

 

資料を整理しながら、彼女に質問する。

 

「…はい?」

 

ピンときてないようなので分かりやすく質問する。

 

「いや、ですから、2BとA2。どちらの観測をしたいんですかって聞いてるんです。」

 

「あ。じゃあA2で。」

 

その即答ぶりに、キョトンとする。

 

だってこの分岐で一番変化があるのはおそらく2Bだ。

 

ここが一番気になる筈なのに。

 

いや確かに私が2Bの観測をしたいと思っていたけど。いいの?

 

「え。いいんですか?」

 

「いいですよ。貴女の方が情報纏めるの得意ですし。」

 

まさか貴女。もしかして私に気を使って…?貴女って人は…。

 

「私2Bの事何考えてるか解んなくてあんま好きじゃないんですよね。」

 

……まぁそんな事だろうと思いましたよ。貴女の事ですし。

 

いや、じゃあなんで貴女わざわざ手伝うとか名乗り出たんですか。本当によく解りませんねこの人。

 

「…わかりました。では私は2Bの観測を担当しましょう。」

 

「お願いしま~す。」

 

「ではA2の観測はよろしくお願いしますね。特にポッドとの関係性は特に注視してくださいね。私の予測が正しければ、このルートで彼女に付き従うのはポッド153ですから。」

 

「ほ~い。ポッドとのやり取り大事っと。メモメモ…あ、そうだ。」

 

「なんです?」

 

「このルートの名前ってどうなるんですかね?だってもうAからZまで埋まっちゃったんでしょう?」

 

「ルート名を今からですか?……あーでも…。そういえばそうですね…。」

 

ルート名。それはそのルートで起きたこと・そのルートを表すにふさわしいことを英文で書き、そこからアルファベットを一文字撰ぶことで決めている。

 

or not to [B]e

 

The [E]nd of yorha

 

といった感じで。

 

だが、通常大体Eまでで全部埋まるのに対し、この世界の観測対象の三名はたまに奇行を起こすせいで予期せぬ分岐を作ってきのだ。

 

aji wo [K]utta

 

mission [F]aild

 

deb[U]nked

 

fa[T]al error

 

……

 

そのせいでAからZまで全部埋まってしまったのだ。まぁ私は観測していて楽しかったから別に気にしてないですけど。

 

「どうするんです?ダブりが出ちゃうと何か気持ち悪いですし…。」

 

「……そうですね…。」

 

ルート名を決めるのは基本的にそのルートを担当しているアコールだ。彼女に任せようかと思ったが、少なくとも私の方が彼女よりいい名前考えられるとは思うので頭をフル回転させる。

 

…よし。我ながら良いのができた。

 

「…では、こんなのはどうです?」

 

「お?」

 

「もしかしたらあり得た話。という意味合いを込めて…すこし文法的には変ですが、It might to be というのはどうでしょう。」

 

「はぁ…。その場合だとアルファベットはどうなるんです?」

 

英文には大して興味がないようだ。まぁいいでしょう。アルファベットの方に自信があるので。

 

 

 

「[BE]」

 

 

 

少し間をおいて、言った。

 

「…[B]?それじゃダブって」

 

「違います。[BE]です。bとeで書かれる、命令形とか助動詞とかに使われてるあれです。」

 

「あ~…それが…?」

 

まだピンとこないようだ。

 

「[B]と[E]、彼女にぴったりの2文字でしょう?」

 

「…あ~!確かにそうですね!」

 

自信があったとはいえ、珍しく彼女が感心そうな声を挙げたので何だか少し誇らしくなった。

 

「…いやでもやっぱ[BE]って変じゃないですか?2文字って……。変ですね。やっぱ変ですよ。」

 

と思っていたらあっさり否定してきた。彼女にはもう少し思考が行動と同じくらい単調であってほしい。

 

「[!]とか[?]とかの方が良くないですか?」

 

「英文どうするんですかそれ……。」

 

「え~でも良さそうじゃないですか? [!?]とかも面白そうでしょう。そうだ私にも考えさせて下さいよ!きっと面白い名前考えますよ!文法的にもちゃんと合うようにしますから!」

 

「却下です。劇的な変化が無い次第は[BE]でいきます。」

 

彼女の言う面白いはなんとなく嫌な予感がするので即却下する。

 

「え~~~~。」

 

彼女の今日一番の間延びした声が部屋に響いた。

 

 

 

 

 



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Episode.?? 知ル権利

皆さんには知る権利があるので初投稿です。


 

 

 

❬二機の飛行ユニットは大気圏を抜け、地球上空に飛来、バンカーを失った事で搭乗している観測対象のアンドロイド二体、❬2B❭ ❬9S❭の顔は酷く落ち込んでいる。❭…っと。

 

 

 

う~ん、このデジャブよ。

 

…あれ?デジャブってこの使い方で合ってるっけ?なんか違うような気もするけど。ん~…まぁいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしても退屈だなぁ…。もう何回目だろうか。C,D,Eルートの観測なんて…。ミリも変わらない風景、変わった所で結局同じ最後に帰結するミリしか変わらない状況…

 

 

 

いい加減に飽きてきたな…いや前からずっと飽きてるけど…。

 

 

 

もういいかな~…このまま適当に前の資料からコピペして残りを埋めてまた別の分岐行って最初から…

 

 

 

 

 

 

 

 

ハァ~あ…自分でいうのもあれだけど…

 

私、観測者の仕事に向いてない気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃ビルの屋上。双眼鏡であの二人を眺めながら私はそんな事を考えていた。

 

 

 

私はアコール。一応はアコール。

 

この世界で分岐や結末の観測が仕事…なんだけれど。

 

世界っていうのはいつも大体同じ結末にしかならないから、もう飽きてきてるんですよね。

 

同じ様な事を永遠と書き続けるのって単純そうに見えて結構な労力がいるんですよ。これが。

 

それに…私はこの先の観測があんまり好きじゃないんですよね。というのも、観測対象9S。いや。ナインズ君の事を私は気に入っているんですが…この先の展開は彼が結構酷い目に逢うので。

 

何回みても痛ましくて…ちょっと彼に厳しくないですかねこの世界?

 

「ハァ~あ……。」

 

やる気がごっそりと抜けていく。

 

「何か面白いこと起きませんかね~…。」

 

そうすればまた頑張れる気がします。多分。

 

「……あっ。そうだ。」

 

そういってケースを開けてゴソゴソ何かを取り出す。出てきたのは水鉄砲のようなもの。

 

「…ふふふ。このリスキーさが私の退屈を埋めてくれる。」

 

企み顔をしながらその鉄砲にカートリッジのようなものを差し込み、

 

そうして遠目に見える二人に向けて撃つ動作をする。

 

「ばーん!……っと。」

 

その鉄砲は撃っても音がしないため、口で擬音をつける。意味なんてないですけど。

 

「……ん~リスキ~。」

 

けのびをしながらなんの緊張感もない間延びした声でいう。

 

今何をしたかというと、この先起きる展開の適当な記憶を適当にどっちかに向けて撃ってみたのだ。

 

何の為に?と聞かれると正直返答に困ってしまう。

 

なんかそれでナインズ君の運命が変わってくれないかな~という期待もあるし、ただトンデモ過干渉のリスキーな事をしてヒヤヒヤしてみたいだけでもある。

 

まぁこれやっても何も起きないんですけどね。ヒヤヒヤも大してしない。だって何回も似たような事やったけど、何も起きませんでしたから。

 

というかそれで慣れてしまったからこそ平気でこういう事できるので、そもそも端から何か起きて欲しいなんて思ってませんが。

 

「ふぁ…。観測しよ…。」

 

メガネを上げて、眠くなってきた目を擦りながら再び双眼鏡をつけてあの二人を観測する。

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

視界に映ってる違和感に気づく。

 

もう一度目を擦る。眠いからではなく、目に映った光景が見違えではないかと思って。

 

もう一度、双眼鏡をつける。

 

「……。」

 

あれ~……?2Bの飛行ユニットが先に落ちてませんか……?

 

なんでナインズ君が残ってるんですかね……。

 

ここは確か2Bがナインズ君を逃がしてた筈で……。

 

……あ。まさか………?

 

 

何かに気づく。いや、気づいてしまった。

 

が、それは非常にマズい事なので、記憶の捏造を始める。

 

「いや、でも今までもこんな感じだったかも知れませんね。うん。私の勘違いかも知れません。」

 

そう言って双眼鏡で観測を続ける。

 

うんうん。きっとそう。こんな感じだったね。うん。

 

そうして記憶を捏造して必死に抵抗をするが、何回も見てきた光景を捏造などできるわけがない。

 

そっと爽やかな顔で双眼鏡を外す。

 

そして、頭を抱えこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やっちまった……。」

 

汗腺が大崩落(フォールダウン)した。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「……どうしよ。」

 

海辺でボーっと釣りをしながらこれからどうすべきかを考える。

 

数日間報告するかどうか迷い。結局隠し通せると思えず、報告してしまった。

 

勿論私が原因ですなんて馬鹿正直には報告してないが。

 

私はただでさえ問題行動が多いのだ。これがバレれば最悪首がとぶ。それも物理的に。

 

 

 

いや、まぁバレはしないと思いますけどね。

 

というのも、多分あの「ばーん」って撃った影響を受けたの多分ナインズ君だ。

 

そして、ナインズ君。悲しい事に多分それの影響で死んでしまった。

 

 

よって、証拠がない。

 

 

よかったね!

 

全然よくない。

 

 

だって私はナインズ君が少しでもいい方向にいけば良いなと思ってやったんです。

 

それなのにナインズ君死んじゃったよ…。

 

どうして……。そんなつもりじゃ……。

 

 

 

 

…まぁ。兎に角。バレなさそうではあるんですよね。はい。

 

それに、もう私。最悪この分岐の事は放っておいても良さそうなんですよね。

 

 

というのも、私は問題児で大して信用されてないお陰か、この分岐の観測には「あのアコール」もあてがわれる事になった。

 

あのアコール…彼女とは前に仕事をした事があるが、いたって真面目で優秀なアコールだった。

 

イノシシに追いかけ回されてる所を助けてくれなかったのはちょっと酷かったけど。一日中追いかけ回されてもうホントにキツかった。死ぬかと思った。

 

 

まぁとにかく、彼女の真面目且つ優秀さを利用して、全部彼女に任せて我関せずをしてしまおうかと思っている。

 

多分彼女なら一人で観測の仕事・報告を全部片付けてしまうだろうから。

 

私が時間かけてやってボロが出てしまうより全然そうした方がいいはずでしょう。

 

 

 

…よし。このままさりげなく別の分岐に行って私は関係してなかった事にしましょう。

 

そう思って立ち上がる。

 

 

 

 

…が、何でか歩き出せない。

 

 

 

……はぁ。

 

どうやら…一応こんな私でも多少の責任感ぐらいはあるみたいだ。

 

さすがにここまでやっておいて「ハイさよなら。」なんて逃げるのはあれなんでしょう。

 

でも正直に話してバレるのは嫌だしなぁ~……。

 

 

 

「……観測作業の手伝いぐらいはしてあげますか…。」

 

 

 

そう一人呟くと、私はケースからケータイを取り出しあのアコールに自分も手伝うとメールを送ったのだった。

 

まぁ最悪バレたら、必死に謝って……全力で逃げよう。

 




ちなみにIt might to be が英文的に拙いのにはこのssが拙い二次創作という意味合いがあります。


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二人の二号 2/2
Episode.15 [私トノ違イハ何カ]


A2回は平和で楽しいので初投稿です。


 

 

[……2Bがそんな状態に……。]

 

ポット153は042から報告を受けると不安そうになる。

 

[2Bの精神状態はもう危険な状態に達しつつある。早急な対処が必要だ。]

 

[……だが、データオーバーホールは行ったが、異常は治らなかった。システム上の問題ではないと推測。]

 

ポッド042は淡々と起きた事を分析・報告しているが、どこか彼も不安そうだ。

 

[…システム上の問題ではないのなら随行支援ユニットの機能では対処できないのでは?]

 

[………肯定。]

 

無機質な筈の二機の声は、心なしか悔しそうに聞こえた。

 

 

 

 

 

 

………っと。う~ん。ポッドたちの会話にも多少の違いが出てますね。これは面白い。

 

要記録。要記録っと。

 

おっと、そろそろA2が再起動しますね。準備準備。

 

2Bの方はどうなってるのかなぁ。まぁ多分ナインズ君みたいな感じになってるんだろうけど…。

 

ちょっと気になるなぁ。

 

…気になるけど……。

 

あの人の報告記録凄い文字量だから読むの時間かかるんだよなぁ…。

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

[どうやらA2の記憶領域に9Sのデータが混在しているようだ。]

 

[どのような影響が表れるか、このまま経過を観察しようと思う。]

 

[了解。ネットワークが破壊された機械生命体だが、継続して暴走している個体も多い。警戒するように。]

 

[了解。]

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ウッ……。」

 

意識が戻ってくるのを感じる。

 

どうやらあの後、私は倒れこんでしまったらしい。

 

体がダルい……。起き上がりたくないな…。

 

だが、このままでいる訳にもいかないから起き上がる。

 

[おはようございます。A2。]

 

何があったんだっけな。えっと……。

 

「……一体…。」

 

[ヨルハ機体A2は5分42秒前に再起動された。]

 

[原因:大型機械生命体との戦闘による過負荷によるもの。]

 

あぁ。そうだ。あの丸いのと戦ってたんだったな。ハッキングかけられて、それで疲れて倒れこんだのか。

 

[推測:疲労の原因の大部分はBモードの使用にあると思われる。その為、今後の使用は控えるべきである。]

 

「私の勝手だろう…。そんなの……。」

 

[使用を控えるべきである。]

 

「うるさいな…。」

 

ダルい体を動かして砂漠から帰ろうとするが、砂に足を取られて動きづらい。

 

「くそっ……。砂だらけで鬱陶しいな…。」

 

[報告:燃料用ろ過フィルターが劣化。砂漠での戦闘時に、内部に微細な粒子が入り込んだ模様。]

 

[推奨:早急な当該部品の交換。]

 

「交換って言われてもな…。」

 

私には部品を作る技術なんてないし、部品を作れる知り合いもいない。

 

[レジスタンスキャンプで使用された記録を発見。]

 

「レジスタンスキャンプ…。」

 

あまり他のアンドロイドと関わったりしたくないが…他にあてがない。

 

それに…レジスタンスキャンプ…。私が9Sの記憶を受け継いだ時に一瞬見たあれが正しいのなら……。

 

行くしかないか。

 

[それと今後はBモードの使用は控えるべきである。]

 

「しつこいなお前。」

 

いつの間にかマークされているレジスタンスキャンプを目指して歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

暫くすると砂漠をぬけ、体力も少し戻り足取りも軽くなってきた。

 

[今後のBモードの]

 

「そればっかりうるさいなお前。」

 

このハコは相変わらずこんな感じだ。何回目だよそれ。

 

このハコよっぽど9Sの事が大事だったらしい。

 

さっきなんて

 

[質問:砂漠での戦闘で9Sの武器を使用しなかった理由。]

 

とか聞いてきた。使い慣れ以外にあるか。

 

無機質な声と口調してるから淡々とした奴だと思っていたが、とんでもなく面倒な奴だ。

 

そもそもとしてだ。別に私は9Sの意志を継いでやろうとか思っている訳じゃない。

 

あの日のあれはアイツがたまたま私の前で汚染されかけてたから放っておけなかっただけだ。

 

あのまま汚染されて敵になられても迷惑だし、介錯してやる情けぐらいはあったから。

 

本当にただそれだけだ。

 

というかそもそもあのガキ自体そんな好きじゃないんだよ私。

 

 

生意気だし、ハッキングは小賢しいし、

 

 

 

 

 

 

それにいつも私に会うたび私の事忘れてやがるんだアイツ。

 

 

 

 

 

 

あの時はさすがに短期間の再開だから覚えてたみたいだが…何なんだアイツ本当に。

 

いつも会うたびに同じ事聞いてくる。

 

「どうしてヨルハを裏切ったんですか!?」ってな。

 

前にそれ答えたろ。ってはっきり言ってやった時の顔はいまだによく覚えてる。

 

(何を言ってるんですかねこの全裸…。)

 

みたいな顔してやがった。

 

ふざけんな。なんで私があんな可哀想な物見る目をされなきゃいけなかったんだ。

 

その顔する資格あるの私だろうが。

 

お前も何か言ってやれよと2Bの方を見てもアイツは目をそらすだけだから、結局私だけが頭おかしい奴みたいな扱いになってしまった。

 

そして次会ったときにはやっぱり忘れてた。今でも腹が立つ。殺すぞ。

 

 

 

 

というか、殺してきた。

 

 

 

 

最初こそハッキングに苦戦したが、一度対処の仕方を覚えてしまえばどうとでも対応できるからな。

 

私が対9Sの経験を積んでくの対し、あっちはいつも私とは初戦だから、そのうち只の一方的な暴力になってた。

 

毎回同型の別人に会っているのかとも考えたが、今まで何回も仲良くセットでぶっ壊してきてやった2Bが私の事覚えているような挙動をしている辺りそうではなさそうだ。

 

となると、アイツ深刻な健忘症でも抱えてたのか?

 

それとも事あるごとにデータバックアップする間もなく死んでんのか?

 

あるいは………あぁもうなんでアイツのこと詮索してるんだ私は。どうでもいいだろうそんな事。

 

 

 

……最近の私は何か変だ。

 

 

 

自慢じゃないが私はここぞという時ほど腕が利くから大抵の事は力で解決できた。考えるという動作にはあまり頼ったことがないし、必要もない。

 

砂漠での戦闘もそうだ。工夫すればいいとかなんて、急に頭が冴えた事はない。

 

9Sの記憶とやらを取り込んでから…なんかおかしくなってないか私。

 

あぁーもう止めだ。9Sの事なんて考えるな。自分が自分でなくなりそうだ。やめだやめ。

 

 

考えるなら2Bの方にしよう。

 

 

怖かったなぁアイツ。あんな声だせたのか。

 

基本何も喋んないから凄い意外だったな。

 

というかアイツ初めて会ったときは一人だったし違う名前を名乗ってた気がするが……。確か処刑モデルだっけ?

 

まぁ初めて会った時以外は大体9Sと一緒にいて2Bと呼ばれていたから多分部隊異動でもしたんだろう。

 

あの感じだと恨まれてるよな。9Sの事なんて散々ぶっ壊してる筈なんだがな……。なんで今回だけあんな…。

 

9Sから遺言を聞いてるが正直会いたくないな…。

 

 

…優しい貴女のままでいてほしい。…か。

 

 

普段は優しい奴だったんだろうな。

 

ふと、9Sの記憶を介して2Bの姿が浮かぶ。あの淡々とした、無機質で、何かを諦めたような顔。

 

あんまり気にしてこなかったが、やっぱり顔そのものだよな。

 

まぁ多分2Bは私のデータが流用された同じベースで作られてる筈なんだからそれはそうなんだが。

 

そういや顔だけじゃないな。昔は私も2Bみたいな髪型してた。それと形は違うが黒いゴーグルと黒いカチューシャも付けてた。

 

ゴーグルはあの日自分で捨てたが…結構便利だったなと感じることもあったな。

 

あと今でこそほぼ全裸で素地もまるみえの体だが、服もあんな感じの好んで着てたっけ。懐かしいなぁ…。

 

…ん?

 

2Bの姿と、昔の私の姿を思い浮かべてみる。

 

 

あれ……2Bって私じゃないか?

 

 

そう考えてみた瞬間。途端に親近感のようなものが湧いてきた。

 

変な話だ。恨んできてる相手に親近感なんて。

 

…ふと、ビルの濁ったガラスに写った自分の顔を見る。

 

髪を切って短髪になってることで、余計に2Bを意識させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

マークされていた地点が見えてきた。

 

さて、どうやってレジスタンスに話しかけようか。そう思っていた時だった。

 

「ひゃあぁぁ!」

 

女のような叫び声がした。

 

 

 

 

私は目を疑った。

 

機械生命体に襲われている機械生命体が居たのだ。

 

 




2BとA2のパーソナルデータって同じらしいけど、それって一体どこまでの同一性があるんでしょうね。


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Episode.16 [変化スルモノ。シナイモノ。]

ジョジョのディアボロが幻想郷で最高最善の帝王を目指すとかいう情報量の多い夢を見たので初投稿です。


 

「ひいいい!助けて下さい!」

 

機械生命体に襲われている機械生命体が私を見つけるや否や助けを求めてきた。

 

「機械生命体同士の争い…?」

 

今まで暴走した個体が互いを殺し合うのは何度か見た事があるが、一方的に襲われているというのは初めてみた。

 

何がなんだかよくわからないまま助けを求められた条件反射でその機械生命体を襲っていた機械生命体を蹴散らした。

 

 

 

「大変ありがとうございました。」

 

ペコリと。その機械生命体が律儀にお辞儀をする。

 

「貴様も機械生命体だろう…。」

 

条件反射でつい助けてしまったが、コイツは私の憎むべき相手、機械生命体だ。こいつらに皆仲間を殺された。

 

「いいえ!私は貴方と戦うつもりはありません。私の名前はパスカル。戦いを嫌う機械生命体です。」

 

戦いを嫌うだと?珍しいやつだ。

 

だが

 

「……だから何だ。機械生命体に魂なんかない。ただの殺戮機械だ。」

 

機械生命体が私の仲間達を殺した事を私は一度たりとも忘れた事はない。私は死んでしまった仲間達に報いるために、ずっと戦ってきたんだ。

 

「私の仲間を何人も殺した罪を…償ってもらおう…。」

 

そう言って武器を構えようとする。

 

「…そうですか。仕方ありませんね。それで貴方が……救われるのなら。」

 

そいつは抵抗しなかった。どうやら本当に争う意思はないようだ。

 

だが関係ない。大剣を手に取る。

 

…手に取る……が、そこから体が動かない。

 

「……殺さないのですか?」

 

いつまで経っても剣を構えたままの私にソイツが疑問そうになる。

 

「……ハァ…。」

 

どうやら本当に私はおかしくなったみたいだ。

 

コイツに本当に敵意はないと、争いを嫌うというのがわかった事で……。

 

……コイツに対して興味が湧いてきてしまった。

 

何せ初めて見るのだ。戦わない機械生命体なんて。

 

無抵抗な奴がいたとしてもそれは大体追い詰められたのが原因だ。

 

平常から戦おうとしない奴なんて私は知らない。

 

「……もういい。気が変わらない内にどっかいけ…。」

 

コイツがいるせいで、機械生命体を殺すという信念にコイツに対する好奇心が混ざってしまった。

 

その好奇心のせいで殺すに殺せない、せめて何処かに消えてくれ。

 

「……おや?その後ろに連れてるポッドは……。」

 

「いえ、何でもありません。ありがとうございました。」

 

最後にソイツは礼を言うと、シュゴオオオオと上空に飛んでいった。

 

はぁ…。パスカルか…。争いを嫌う機械生命体だと……?何なんだ一体それは……。

 

いやまて。飛べるなら最初からそれで逃げれば良かったんじゃないか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一悶着あってようやくレジスタンスキャンプについた。

 

アイツのせいでどうやってレジスタンスに話かけようか考えるのを忘れた。

 

クソッ…。はっきり言うが私はコミュニケーションが得意じゃない。出来れば他のアンドロイドとは関わりたくなかった。

 

だが、濾過フィルターもそうだが、それ以外にも私個人としてもここに来たい理由が一応はあった。

 

そう思いながらキャンプを見回す。

 

きっとここにアイツがいるはずだ。9Sの記憶を受け継いだ時に…9Sの記憶の中に、あの名前を確かに一瞬見たんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は、二号…生きてたのか。」

 

「久しぶりだな。アネモネ。」

 

 

 

 

 

 

アネモネ。かつて共に戦った仲間達の一人。

 

「そうか、生きてたか。良かった。」

 

アネモネは顔こそ平然としているが、声が少し涙ぐんでいるように聞こえた。

 

「…………あの時、一緒に戦ったやつらは皆死んだよ。」

 

……私もそれはわかっているが。それでも、聞くと少し辛くなる。

 

「……二十一号は、私がこの手で……。」

 

「………」

 

アネモネが生きてるのなら、もしかして。なんて思ったが……そうか…。

 

「……すまなかったな…。」

 

……互いに死んでいたと思っていた者同士の再会なのに、暗くなってしまった。

 

「いや……そうだ!二号。君にそっくりな2Bってヨルハが居たんだよ。」

 

「そいつは本当に君にそっくりそのものなんだ。初めて彼女がここに来たときはうっかり君と勘違いしてしまってね。」

 

「どうだ?たまに2Bはこのキャンプに来るから一緒に話でも…。」

 

アネモネが話題を出すが。

 

「……いい。」

 

「…どうしてだ?」

 

「アイツと一緒に9Sってヨルハの少年が居ただろ。」

 

「あぁ、そうだが。…?それがどうし…」

 

「ソイツは私が殺した。」

 

「え?」

 

「論理ウィルスに汚染されていたんだ。」

 

「…………そうか…。」

 

私が2Bに会わない。いや会えない理由を大体察したようで、また暗くなってしまう。

 

「このキャンプは自由に使ってくれ。施設の説明は……」

 

「必要ない。9Sの記憶は…この刀に残っている。」

 

そういって背中に携えている大太刀をちらりとみる。

 

このレジスタンスキャンプに来てから感じていたが、なんとなくここの風景を知っている気がした。多分それも9Sの記憶なんだろう。

 

「……わかった。うちの施設は自由に使ってくれ。私がここのリーダーをやっているんだ。皆にはあらかじめ君の事を説明しとく。」

 

アネモネがここのリーダーか……。なんとなく思っていたが、私と同じようにアネモネも変わったようだ。

 

「あぁ、そうだ。アネモネ。聞きたいことがあるんだが。濾過フィルターを分けてくれないか?燃料用のやつだ。」

 

「燃料用濾過フィルター……最近在庫を切らしているんだ。」

 

「パスカルが生産してるから、よかったら直接取りに行ってくれ。」

 

「ってあぁそうだ。パスカルっていうのは」

 

パスカル。その名前はまだ記憶に新しすぎた。

 

「パスカルって……」

 

「あぁ。知ってるのか?」

 

「機械生命体と取り引きしてるのか?敵じゃないか!?」

 

アネモネも変わったとはいえ、機械生命体と取り引きしてるなんて私には考えられなかった。だって私達の仲間は皆アイツらが殺したんだ。

 

「アイツの村は特別だ。我々に危害は加えない。」

 

「そんな……でも……。」

 

アネモネだって機械生命体の事が憎い筈だろう。

 

だが、アネモネは冷静に私に話し続ける。

 

「我々は同盟を結び、必要に応じて資材の交換を行っているんだ。」

 

「目的の為なら、手段を選んでる場合じゃない。それに……。」

 

 

 

 

「白旗を上げている奴らを殺す程、私達は終わってない。」

 

 

 

 

アネモネは大人びた口調でそう言った。

 

「……」

 

そう言われて、私は黙りこんでしまった。

 

アネモネは…私なんかよりもずっと変わっていたらしい。

 

 

_____

 

 

[警告:濾過フィルターが破損すると燃料供給に深刻な問題が発生。]

 

[推奨:燃料用濾過フィルターの早期交換。]

 

ポッドがまだパスカルの所に行くかどうか迷っている私に急かすように言う。

 

「……………わかってるよ。」

 

[機械生命体パスカルを中心とするコロニーの座標を確認。マップにマーク完了した。]

 

早くいけってか。

 

「うるさいな…。」

 

いい加減決意して、立ち上がりキャンプを後にしようとする。

 

その時だった。

 

ガシャン。

 

何かが落ちた音。なんだ?と思って音がした方を見る。するとそこには赤い髪をしたアンドロイドがいた。どうやら手に持っていた荷物を落としたらし_______

 

 

 

 

「その体はどうしたの2B!?」

 

 

 

 

 

「デボル大変!2Bが!!」

 

「どうしたポポル?ってうお!?お前2Bか!?何があったんだ!!いやいい、事情はあとで聞く。ホラこっちこい!!」

 

そう言って後からやってきたこれまた赤い髪をしたアンドロイドに手を引っ張られる。

 

「いや、まて。私は…」

 

「無理しないでって言ったのに…!」

 

抵抗しようとした片腕も最初にいたもう一人に掴まれる。

 

「オイ!離せ!なんだお前らっ!?」

 

「ポポルが無理をするなって言ってただろう2B!!お前が死んだら9Sがどう思うか考えろ!!」

 

「おいハコ!説明してやれ!」

 

[…]

 

「ハコォォォォ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局誤解が解けたのは、ひとしきり体のメンテナンスをされた後だった。

 

誤解が解けた後も体を洗浄された。所々汚いからだそうだ。ほっとけ。

 

 

 



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Episode.17 [平和ナ彼ラ]

A2の平和な休憩回も多分ここまでなので初投稿です。



 

 

パスカル村ってのはあれだろうか。

 

無理矢理メンテナンスされてすっかり調子の良くなった体でマークされた場所に向かっていくと、巨大な木を取り囲むように建設された住居群が見えてきた。

 

村の少し手前まできて止まる。

 

足がいきなり動かなくなった訳ではない。なんなら好調だ。

 

あの二人に濾過フィルターも直して欲しかったが、やはりないものはないので直せない。

 

 

……機械生命体の村というのにまだ少し抵抗があるようだ。

 

[ヨルハ機体A2のパスカル村への訪問に対する抵抗感を関知。]

 

[現在ヨルハ機体A2はクリーニングを施された清潔な状態であるため、人目を心配するような抵抗感を感じる必要はない。]

 

「そういうことじゃない。」

 

このハコ本当に失礼だな。

 

ふと、クリーニングされた体を見る。

 

さすがに塗装剥げやパーツ剥げまでは直せないが、汚れや自然治癒で治りにくかった小さな傷などがパッと見てわかるくらいキレイになっている。あとなんかいい匂いもする。

 

デボルとポポル。双子型っていうのもそうだが、メンテナンス技術やこんな技術をもっているなんて珍しいアンドロイドだった。

 

こんど礼になんかしてやろう。

 

…それにしても、アネモネもそう言っていたが、私と2Bが似てるのは客観的に見てもそうらしい。

 

A[2]。 [2]B。

 

私と2Bは同じ二号型だ。

 

恐らく私と2Bは顔だけじゃなく同じベースの義体が使われてる。

 

だって元々私は…私達はデータ取りの為だけに作られたヨルハだったんだ。取ったデータが今のヨルハ部隊で流用されてる筈なんだ。

 

待てよ?そうなると、もしかして2Bは私の……姉妹機みたいなものか?

 

…「姉妹」か。もしかしたら2Bに感じているこの親近感はそれが理由かもしれないな。

 

 

 

 

 

 

…いい加減村に入ろう。またハコに急かされそうだ。

 

 

 

村に入ると、機械生命体達が談笑したり、じゃれあっていたりするのが見えた。

 

「機械生命体だらけ…」

 

[ここは、パスカルの管理する平和的な機械生命体のコロニー。機械生命体が多数存在するのは予測の範囲内。]

 

[疑問:ヨルハ機体A2の予測能力。]

 

「そのうち、ぶっ壊す……。」

 

さっきのもそうだったがコイツ絶対私の事煽ってきてるよな。キレそう。

 

敵意を感じない機械生命体達を横目に、村の中に進んでいくと、あの機械生命体。パスカルがいた。

 

「ああ!あの時の!」

 

私が話しかけようとすると、向こうが先に口を開いた。

 

「助けて頂き、本当にありがとうございました。」

 

あの時の礼をまた言われる。

 

「…」

 

燃料用濾過フィルターが欲しいと言いたいが、機械生命体にものを頼むということへの抵抗感から何も喋れない。

 

「…それで、何の御用でしょうか?」

 

「……………」

 

「あの…。」

 

パスカルは私が何がしたいのかわからないので困惑気味になっている。

 

[説明:ヨルハ機体A2の燃料用濾過フィルターに不具合。]

 

[経過:レジスタンスキャンプリーダーのアネモネより情報を入手。]

 

[目的:当地区のフィルターを入手するために来訪。]

 

[要求:燃料用濾過フィルター。]

 

「全部説明するな。」

 

[報告:A2の発言不足よるコミュニケーション不足によるもの。]

 

「うるさい。」

 

これにいたっては悔しいが何も言い返せない。

 

「あぁ、成る程。そういうことですか。」

 

「でしたら、少し待ってて下さい。今から作ってきますので。」

 

そう言うと、シュゴオオオオとパスカルが飛んでいった。

 

「飛んだ……。」

 

と思ったら戻ってきた。

 

[パスカルの帰還を確認。]

 

見ればわかる。

 

「ハイ、どうぞ。」

 

燃料用濾過フィルターを渡された。本当に作ってきたようで、見てわかる程に新品だ。

 

「……………」

 

……作るの早いな。

 

 

「……おや?まだ何か御用ですか?」

 

濾過フィルターを貰っても此処を後にしない私にパスカルが疑問そうに聞く。

 

「……フィルターをタダで貰ったからな。」

 

「借りを返さないと気が済まない。」

 

私だって礼くらいは出来るつもりだ。

 

「なんと、それは律儀な。」

 

「そうですか。でしたら……………

 

 

 

 

 

 

その後私は、広間に現れた暴れん坊の退治をして、村の子供達の遊具を作らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「平和的な機械生命体か…。」

 

シャーーー。

 

作らされた遊具、滑り台を滑りながらそんな事をふと口にする。

 

なんというか、争いを捨てた機械生命体というのが私の思っていたのと違った。

 

ここの村人は本当に争いが嫌いなようで、話し方は無機質な筈なのにどこか物腰が柔らかく感じる。

 

村の子供達(殆ど見た目同じなのに子供って何だよ)は無邪気なやつらで、私の事気軽にお姉ちゃんとか呼んできて生意気だが、遊具を作ってやるととても喜んでいた。お礼にどんぐりを貰った。

 

村人も頼み方に少々厚かましい所があるような気もするが、頼まれた分の報酬もキッチリと分けてくれる。

 

此処は文字通り平和を望む機械生命体達で構成されているらしい。

 

 

[推測:パスカル達と友好関係を結ぶことで更なる資材入手が可能。]

 

[推奨:今後のパスカル村との交易。]

 

ポッドが私にそう提言する。

 

コイツは此処との交易することになんら抵抗がないらしい。

 

このハコが利害とかを重視しそうな淡々とした奴であるとはいえ、9Sが死ぬ理由になった機械生命体の肩を持つような事をするようには思えないが…

 

…いや待てよ。

 

以前パスカルを助けたときにパスカルがコイツを見たことあるような反応をしてた気がする。

 

あぁ、そうか。多分コイツは以前9Sと共に此処に来たことがあるんだろうな。

 

此処の連中は大丈夫だって事を前から知っていたってわけだ。

 

9Sの記憶もそういうのを見せてくれれば便利なんだがな。

 

 

…平和的な機械生命体と交易か。

 

 

「……ふん。」

 

 

まぁ平和な機械生命体ってのは面白そうだし、考えてやるか。

 

 

[……]

 

「どうした?まじまじと私を見て?」

 

[……]

 

「……?変な奴だな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

村の子供達にまざって律儀に滑り台の順番を待っているA2の姿は、ポッドの目には非常にシュールに映っていた。

 

 




でも実際生まれて初めて滑り台やったら面白くて何回もやっちゃうと思う。



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Episode.18 [崩壊ヘノホコロビ]

皆さん「あっあっあっ…。」ってなってると思う回なので初投稿です……。


 

 

 

 

 

 

豊かな自然に囲まれた森の機械生命体コロニー。

 

その村長である私は今日も感情や哲学への勉強に励んでいた。

 

今日読んでいるのはこのニーチェという昔存在していた人間の哲学書。

 

 

「ふむ……「国家が終わるところではじめて余計者ではない人間が始まる」か。」

 

「うーむ。どうもこのニーチェという人間の考えは深いですね。」

 

「深すぎて、私にはまだ変人にしか見えませんが。」

 

人間というのは色々な思考を持っていたようです。哲学というのはその中でも取り分け知的で興味深く、また理解が難しい。

 

在りし日の彼らは哲学という物を考え、この不条理だらけの世界に何を感じていたのでしょうか。

 

 

「さて…本だけでなく。私もこの世界を見て回らないといけませんね。」

 

哲学書をキリのいい所まで読んだ私は書を閉じ、部屋から出て今日も村の見回りに向かう。

 

「ねぇねぇ!パスカルおジちゃん!あそんデー!」

 

「「あそんでー!」」

 

部屋から出ると、ちょうど私の所に遊びにきた子供達がいた。

 

「おやおや。随分と言葉が上手になりましたね。」

 

「でもまだ、勉強が終わってないじゃないですか。」

 

遊んであげたいのも山々ですが、甘やかしすぎてもいけない。

 

「今日は植物の図鑑を呼んで覚えるって約束でしたよね?」

 

我々機械生命体は本当はそんな事しなくてもデータをインストールすれば大体の事は覚えられますが、大切なのは自分の意思をもって学びに励む事です。

 

「ジゃあ、勉強が終わっタら。遊んでクレルー?」

 

「「アソんでクレルー?」」

 

「もちろん遊びますよ。パスカルおじちゃんは、ウソをつきませんからね。」

 

「ウソをつく子は悪い機械生命体になっちゃいますよー?」

 

そう言ってちょっと脅かしてみる。

 

「キャー!」

 

「「キャー!」」

 

子供達が楽しそうに悲鳴をあげた。

 

ふふ。今日は勉強が終わったら何して遊んであげましょうかね。

 

 

ズズン……

 

 

「……ん?なんでしょうか……。」

 

こんな騒がしい音をこの村で聞くのは初めてですね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

「よし、あとはこれをパスカルの所に持ってけばいいんだな。」

 

私はパスカル村の住民から、パスカルに哲学書をあげたいという頼みを聞いていた(正確には聞かされた)為、レジスタンスキャンプのアネモネから哲学書と、そのついでに以前パスカルがアネモネに頼んでいたらしい素材を貰って届けようとしていた。

 

 

哲学書。気になって少しパラパラと読んでみたが、なんというか…難しいな。暇があったら読んでみたいが、完全に理解できる自信はない。

 

 

 

ピピッ

 

ふと、通信が入る。

 

『……聞こえますか!?A2さん!』

 

パスカルからみたいだ。ジャストタイミング。

 

「あぁ。丁度よかった。頼まれていた素材が今…」

 

『A2さんっ!村が…大変なんです!』

 

聞こえてきたのはパスカルの必死な声。

 

『村人たちが……ああっ……!!』

 

パスカルが悲鳴をあげた同時に通信が切れた。

 

「おい!パスカル!どうした!?」

 

「一体…何が……。」

 

[推測:貴重な情報源であるパスカルに問題が発生。]

 

あのパスカルがあんなにもなっているなんてただ事じゃないだろう。

 

[推奨:パスカルの村の状況調査。]

 

「言われなくても……!」

 

初めてコイツと同じ事を考えた気がした。

 

 

 

 

 

駆け足でキャンプから村に向かう。

 

村のある森に入ると、火の手が上がっているのが見えた。

 

これはまさか…襲撃か!?

 

だが、村に入ると、それよりもとんでもない事になっていると思い知らされた。

 

「ギャアアア!!」

 

「痛イ!イタい!!」

 

 

「なんだこれ……機械生命体同士が共食いしてる……!?」

 

機械生命体たちが村人の機械生命体を共食いしている。

 

いやまて、あの共食いしてる奴らも村人だった奴らじゃないか!?

 

 

「パスカルは…!?」

 

まさかアイツも喰われたなんて事ないだろうな!?

 

[通信不能の為、確認できず。]

 

「クソッ…。」

 

村は危険な状態だが、パスカルを探すべく村に入る。

 

すると何処からかパスカルが私に気づいて駆け寄ってきた。

 

「ああっ!A2さん…!」

 

「どうしたんだ!?」

 

「わかりません…いきなり一部の村人たちが暴走して…仲間を襲い始めたのです。」

 

やっぱりアイツら村人だったのか…。

 

「子供達だけは別の場所に逃がしたのですが、他の村人は……」

 

パスカルは子供達を早く逃がすためとはいえ、一度村に取り残してきた他の村人の事を救いたいとここに戻ってきたのだろう。

 

だが、

 

「このままだと、お前も喰われるぞ!」

 

「ここはなんとかするから、先に逃げろっ!」

 

「A2さんは!?」

 

「こんな雑魚どもにやられる訳ないだろう!さっさと行け!!」

 

「は、はい!」

 

そう言ってパスカルはもと来た道を戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、全部か…」

 

刃がオイルに濡れた大剣を納刀し、辺りを見渡す。

 

辺りには暴走した村人と、喰われた機械生命体の残骸が転がっている。

 

暴走した村人はこれで全て片付けた筈だ。

 

「生き残っている機械生命体は?」

 

[存在しない。全て機能停止している。]

 

「そうか……。」

 

駄目だったか……。

 

パスカルに通信する。酷だが伝えなければならない。

 

「パスカル。聞こえるか?」

 

『ああっ…A2さん。村は…村の皆はどうなりましたか!?』

 

「すまない……。ダメだった…。」

 

『そんな…。』

 

パスカルの声が暗くなっていく。

 

「子供達は、大丈夫か?」

 

『…廃工場跡地に避難させています。』

 

「わかった。ひとまずそっちに行く。」

 

通信を切り。工場跡地に向かう。

 

一体…一体アイツらに何が起きたんだ?アイツら今までは普通だったんだろう、なんで突然に…。

 

 

 

 

 

 

 

パスカルの反応がある工場跡地の建物の中に入る。

 

「大丈夫か!?パスカル!」

 

「ああっ…A2さん…。」

 

パスカル。子供達もいる。良かった。無事みたいだ。

 

「一体何があったんだ…。」

 

さっきに比べれば冷静になっているパスカルに再び何があったのかを尋ねる。

 

「わかりません…。いきなり一部の村人達が同じ仲間を食べ始めたのです……。」

 

「A2さんが来て下さらなかったら…私達もきっと……。ありがとうございました。」

 

パスカルからもう何度目かの礼を言われる。

 

[疑問:機械生命体は素材さえあれば再生できるのではないか。]

 

ふとポッドが疑問を口にする。確かに考えてみればそうだ。

 

だが、

 

「いえ……実は私達には『コア』と呼ばれるユニットがあります。」

 

「このコアは自我データを形成する物なんですが、それを破壊されてしまうと元に戻ることは出来ません……。」

 

「コアは普段は安全な場所に格納しておくのですが…今回犠牲なった村人達はコアごと破壊されてしまっているので……。」

 

「……そうか。」

 

コアか…。私達でいうブラックボックスみたいな物が機械生命体にもあったのか。

 

「この工場は安全なのか?」

 

「以前、暴走した機械生命体が住んでいたのですが、2Bさんが撃退してくれて。今は安全なんです。」

 

2B…。9Sがそうなら当然だが、2Bもパスカルと面識があったのか。

 

「ここしばらくは、私達が資材置き場として使っていました。」

 

「わかった。……ここで籠城するにも、もう少し情報が必要だな…。」

 

[推奨:パスカル達の早急な安全確保。]

 

「そんなに急がせるな……。」

 

[各地のポッドネットワークから情報を入手。]

 

……ポッドネットワーク?複数機いるのか?

 

「お前達に仲間がいるのか?」

 

[肯定。]

 

[本工場廃墟に、大型機械生命体が接近しているとの報告あり。]

 

「何だって!?」

 

その事実を肯定するかのように、床が小さく揺れ始めた。

 

ズシン……ズシン…。と部屋の外からも音が聞こえてくる。

 

「ひぃ!コワイ!コワイ!」

 

「「コワイ!!」」

 

子供達が地響きに怯えだす。

 

遠くからでも足音が聞こえてくるなんてそんなにデカイ奴が…!?

 

「……ここを攻撃される前に、叩き潰す…!」

 

どんな奴だろうが倒すしかない。私は部屋の外に出ようとする。

 

「わ、私も援護します!」

 

「あいつらを叩き潰してぶっ殺します!!」

 

パスカルも着いてこようとする。あのパスカルがこんな事を言うなんて、どうやら本気らしい。

 

だが、

 

 

 

 

 

 

「……いいや、ダメだ!お前はここに残れパスカル!」

 

 

 

 

 

 

 

「…!?どうしてです!私も戦えます!」

 

パスカルが食い下がる。

 

確かに今近づいてきてる奴は未知の敵だ。加勢はあった方がいい。

 

たしかにそう思ったが、やはりダメだ。

 

「村人が突然暴走した以上。子供達だって暴走する可能性があり得る!」

 

「もしそうなった時、止められる奴が必要だ!」

 

その可能性に咄嗟に気づいたのだ。

 

「……!!でも、それじゃあA2さんは…!」

 

「安心しろ、私はアンドロイドだ。お前たち機械生命体よりもずっと強い。今までも何体もぶっ壊してきたんだ。」

 

「……私を信じろ。」

 

「……わかりました…。どうか……ご無事で…。」

 

そうして、私は部屋の外に出た。

 

 

 

ズシン……ズシン……。

 

両手にカッターを携えた巨大な機械生命体が、海を歩いてもう目の前にまで来ている。

 

「……こんなにデカイのか……!」

 

その圧巻ぶりに、思わず後ずさる。

 

[警告:ヨルハ機体単身で敵機械生命体の破壊は危険。]

 

[推奨:工場内部へ後退。]

 

ポッドが私に戦うのを止めるように言う。

 

「……どのみち追い詰められるだけだっ!ここで戦って倒す!!」

 

分析力のあるお前にだって分かってるだろう。

 

[……9Sはこうではなかった。]

 

「ハッ!!それは残念だったな!覚悟決めろ!」

 

 

 

ゴオオッ

 

もう工場の目の前までやってきた機械生命体が、自前のカッターを此方に振るってきた。

 

 

 

 

 

 

「行くぞ、ポッド!!」

 

[了解。]

 




二次創作とは本来こういうものだから初投稿です。


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Episode.19 [全テヲ破壊スル赤キ巨人]

正直こんなのNieRではありませんが、これぐらいしないとここのA2パートは本当に本編と変化がないので初投稿です。

ちなみにA2の持っている武器は黒の血盟と四〇式斬機刀です。


 

 

 

 

 

 

 

ドオン!!

 

 

……ドオンッ!!

 

 

部屋の外から巨大な何かが叩きつけられる音がずっと鳴り響いてくる。

 

その音が鳴る度に、天井が、床が、部屋そのものが揺れる。

 

 

「ヒイイッ!」

 

「コワイ!コワイ!」

 

「村に帰りたイよお……」

 

子供達は外で何が起きているのかに怯え、震えている。

 

「大丈夫です、落ち着いて…!」

 

怯えている子供達を抱きよせてなだめる。

 

「A2お姉ちゃんがきっと悪い機械生命体をやっつけてくれますから!」

 

「A2お姉チャンが……本当ニ…?」

 

「ええ本当ですとも、A2お姉ちゃんはとっても強いんですから!パスカルおじちゃんは嘘をつきませんよ!」

 

そう言って外に繋がる扉の方を向く。

 

音がずっと続いてるということはまだA2さんは生きて戦っている筈。

 

でも…本当は私も不安で仕方ない。子供達の事も、A2さんの事も。

 

「A2さん…どうか……どうかご無事で…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオッ

 

ドオンッ!!

 

 

超大型機械生命体の腕に付いた巨大なカッターが振り下ろされ、私に向かって叩きつけてくる。

 

「………ッ!!」

 

振るってくるスピードは早くはないから、距離をとって避けられるが、それでもカッターの叩きつけてきた衝撃に吹き飛ばされる。

 

「……ッあッ!」

 

吹き飛ばされゴロゴロと転がる。

 

咄嗟に立ち上がり、上を見る。もう既にもう一本の腕を振ってきている。

 

また避けて、吹き飛ばされる。

 

さっきからずっとこれの繰り返しだ。

 

 

アイツから見れば私は小さすぎる的だから、中々当てられない。

 

だが、私からすればアイツは大きすぎるから

攻撃しようにもどうすればいいか分からない。

 

ポッドにアイツの頭目掛けて射撃させてるが、あのデカイのは腕のリーチの長さを活かしてて胴体が離れた所にいるから、そもそも届いてるかどうかすら怪しい。

 

 

わかっていたが、分が悪いなんてもんじゃない。

 

このままでは私が先にへばって叩き潰されるのがオチだ。

 

こんなことならパスカルにも付いてきてもらった方が良かったかもしれない。が、もうここまで接近されたら呼びに戻れない。

 

 

どうすればいい。

 

 

 

 

﹝’❬❬❬■〇/'ーー~ー'____

 

 

[……9Sはこうではなかった。]

 

 

「「』-@;'ー~~ーー''_____

 

 

 

そうだ。9Sならどう戦ったんだ。

 

何か。何かないのか9S。

 

お前の記憶の中に、少しでも何か有用なものは……。

 

 

 

’゛‘‘››.■■❬❬『:((_ー~・/…』)]_____

 

 

 

「僕の事をよく知る親しい人は僕の事を「ナインズ」って呼ぶんですけど…」

 

「そろそろ2Bもどうですか?」

 

 

 

 

「そうだ。平和になったら一緒に買い物に行きましょうよ。2Bにお似合いのTシャツとか買ってあげます。」

 

 

 

 

「さっさと倒して、お風呂に入りましょう2B!」

 

 

 

 

ーー~~・・❬『:::■❬[’﹝‘››‘[________

 

 

くそっ!2Bとの記憶しかないじゃないかアイツ!!

 

 

[A2。]

 

ポッドの呼ぶ声でハッとする。もうカッターが振り下ろされてきている。

 

ドオオッ

 

後ろに仰け反って避ける。

 

後ろに仰け反った時に、近くの鉄塔が一瞬目に映った。

 

____そうだ。

 

その一瞬で咄嗟になんとかプランを思い付いた。

 

ポッドに命令する。

 

「ポッド!お前はアイツの所まで行って、私が合図したらハッキングしろ!」

 

[要求:作戦内容の具体的な提示。]

 

「説明してる暇なんてないっ!」

 

ポッドが不服そうにアイツの頭に向かっていく。

 

私は奴が2本とも腕を振り下ろしたのを確認すると急いで鉄塔に向かい、鉄塔に入ると上を目指して駆け上がった。

 

 

ゴオオッ

 

ふとみると、もう奴が腕を鉄塔に向かって振るってきた。

 

ドオオオッ

 

そして私が登っていた鉄塔の根元を破壊し、私は破壊された勢いで空中に投げ出される。

 

 

よし。かかったな。

 

 

「ポッド!!」

 

[了解。ハッキング開始。」

 

 

 

「……っ!?」

 

ハッキングを掛けられ、大型機械生命体の動きが止まる。

 

私はそれを確認すると、空中で必死に海やカッター部分に落ちないように調節して、ソイツの振るってきた腕に着地し、その腕から胴体目指して駆け抜ける。

 

 

「…………!!」

 

[敵性体によるハッキング強制解除。]

 

ギギギッっと再び腕が動き始めた。

 

私を振り落とすつもりなんだろうが、デカイ図体故に初速はスピードがつかず、私を振り落とし切れない。

 

「……っ!!」ボボボボボッ

 

 

このままでは振り落とすより先に私が胴体に到達すると悟ったのか、撃ち落とそうと弾幕を飛ばしてきた。

 

だが、それも想定内だ。

 

「ポッド、撃ち落とせ!!」

 

[了解。] ズガガガガガガガッ

 

私の元に戻ってきたポッドの射撃で弾幕を相殺する。

 

そしてそのまま駆け抜け、腕の付け根近くまで到達した後足に力を精一杯こめて飛び上がり、奴の肩にある鉄柵らしき部分を掴んで、甲板部分に乗りあがった。

 

よし、ここまできたな。

 

奴の頭の真上にあたる位置を探し、そこを目指して走りだす。

 

 

ガシャン。ガシャン。

 

甲板に機械生命体が現れ、こちらに向かって走ってきている。

 

…っ!!もう乗ってきた私を迎撃する駒を送ってきたのか!

 

「ポッド!!足止めしろ!」

 

[了解。] ズガガガッ

 

コイツらに構ってる暇なんてない。あいつらはポッドに任せて私は奴の首目掛けてせっかく登ってきた甲板を飛び立つ。

 

下を向くと、見上げてきたヤツと目があった。

 

 

「……!!!」 ゴオオッ

 

私が何をする気か気づいたようで、急いで腕を向けてこようとする。

 

だが、長い腕が、リーチが逆に仇になって私にはまだ到底届かない位置にある。

 

 

 

 

私は大剣、大太刀を両手に構え、その首目掛けて落下していき、そのまま勢いに任せて

 

 

「っっらぁぁぁぁぁああああああああ!!」

 

 

ズバンっ!!

 

 

 

その巨大な頭を叩き切った。

 

 

バキンッ!!

 

 

右手の大剣が、四〇式斬機刀が砕け折れる。

 

無茶な使い方をしたからな。当然だろう。

 

だがそれよりも大型機械生命体の方を先に確認する。

 

頭を失った胴体がズズゥン……と力なく座り込んだ。

 

やった。やったぞ。倒した。倒してやった。

 

 

あの巨体を倒しきった事で安心し、頭が冷静になった。

 

そして気づいた。

 

 

……あっ。これ私どうしよう。

 

 

私はヒュゥゥゥゥと海に向かって既に目に光を失った奴の首と仲良く落下していく。

 

しまった。倒す事に注視しすぎてその後を考えてなかった。

 

もう海面が眼前まで来ている。思わず目をつぶった。

 

 

 

ザバァァン

 

 

 

おそらく首が海に落下した音。

 

いやまて。なんで私はその音が聞こえた?

 

それに身体に水の感触が、水に叩きつけられた感触がないことにも気づく。

 

恐る恐る目をあけると、海面すれすれで私は止まっていた。

 

どういうことだ?

 

グイッと左足から上に向かって引っ張られる感覚がした。

 

咄嗟に左足の方をみると。

 

「……ポッド!」

 

ポッドが私の左足に従属化の光の輪をつけて私を持ち上げている。

 

 

 

 

 

 

[推奨:感謝の]

 

「ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

[……]

 

…なんだ急に黙りこんで。私だって礼くらい言えるぞ。全く……。

 

プラプラと逆さまのままで私は海から工場まで運ばれていく。

 

逆さ吊りの状態で視界が逆さまだが、パスカル達が私に向かって手を振っているのが見えた。

 

 

…随分と不恰好なヒーローの帰還だな。

 

まぁいいか。

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

どっさりと貰ったお礼をどうやってしまうか考えながら、工場を後にする。

 

振り向くとまだパスカルが頭を下げている。

 

感謝される事をしてやった自覚はあるが、なんだか逆に謙遜してしまう。

 

パスカル達はまだ暫くはここで籠城するようだ。まぁ村よりは安全な方だろう。

 

「……」

 

ふと片手に折れた大剣をもつ。

 

もとはヨルハの追撃部隊から奪ったものだが、長く使っていたからな。

 

そう思って、カッターを何度も叩きつけられてズタズタになって軟らかくなっている工場の鉄の地面に折れた大剣を突き刺した。

 

日の光を反射しているその刀身は、折れてひび割れていても、何となく誇らしく感じた。

 

_______

 

 

 

 

 

「それにしても……なんで機械生命体が、同じ種族の筈のパスカル達を襲ったんだ?」

 

工場を後にしすっかり緊張感が抜けて、ポリポリと子供達から貰ったどんぐりを食べながらそんな事を聞く。

 

[不明。それとその木の実は食用ではないと推測。]

 

[推奨:機械生命体の現状について更なる情報収集……]

 

 

 

 

『こんにちは![塔]システムサービスです!』

 

 

 

 

「なっ!?」

 

突然大音量であの塔から声が聞こえてきた。

 

『本日は皆様に耳寄りな情報があります。』

 

『いよいよ、塔サブユニットのロック解除があと一つとなりました。』

 

『つきましては、日頃のご愛顧に感謝し…』

 

『最後のサブユニットを解除された方には「ファイナルワン賞」として、豪華な景品をプレゼントさせて頂きます!』

 

『皆様の挑戦をお待ちしています!』

 

そう言って、アナウンスが終わる。

 

 

「一体…」

 

塔。今まで全然気にしてなかったが、思えばあれは機械生命体由来のものだ。

 

パスカル村の異変もあれが現れてからだったろう。

 

[東の方角に、機械生命体の大型ユニットの起動を確認。]

 

「大型ユニット?一体…何が起こっているんだ…」

 

[不明。]

 

塔も大型ユニットも、ファイナルワン賞も全然わからないが、大型ユニットとやらが機械生命体由来のものである以上はそこに何か情報があるかもしれない。

 

 

 

 

「その大型ユニットって所にいくぞ。」

 



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Episode.20 [繰リ返サレタ祈リノ結末]


ヨコオは何故鬱シナリオばかりを作るのか?その謎を追い求めてジャングルの奥地には向かわないので初投稿です。


 

この世界の何処かの……いや、もういいだろう。

 

2機のポッドがいつものように情報を共有する。

 

 

 

 

[A2に随行していて気付いたのだが、敵性機械生命体間で情報が共有されはじめているようだ。]

 

 

[それは調査が必要だ。]

 

 

[データを共有するので、そちら側でも注意してほしい。]

 

 

[了解した。……別件だが、2Bについて報告がある。]

 

 

[なんだ?]

 

 

[データを共有するが、心理状態の悪化が既に深刻な状態にある。]

 

[こちらも…早急に対応が必要だ。]

 

 

[同意。]

 

 

 

[…………]

[…………]

 

 

 

数秒程の沈黙。

 

 

[…だが、対処法がわからない。]

 

[データオーバーホールは効果がなく、システムメンテナンスでは対処できない。]

 

[2Bは現在最後の資源回収ユニットに向かって進行している。]

 

[もう私にはどうすればいいかわからない。]

 

ポッド042の声は無機質な筈なのに、焦っているように聞こえる。

 

 

[……当機ポッドにも、対処は不可能。]

 

[……]

 

[……力になれず、すまない……。]

 

ポッド153が謝った。謝る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こんにちは!資源回収ユニットです。防衛体勢に入ります!』

 

もう何度目かのこのアナウンス。

 

呼んでおいての防衛という矛盾した行動。

 

その中にある明らかな私への挑発という意図。

 

「何度も何度も……。」

 

繰り返されるアナウンスに苛立ちが募っていく。

 

いいや、アナウンスだけじゃない。

 

そもそもとして私に向かわせた回収ユニットのコアに塔への認証キーなんて物を配備している時点でおかしい。

 

明らかに集めさせられている。

 

何かの意図に利用されている。

 

相手の思うがままになっている。

 

それでも、それでも他に出来る事がない私はそうせざるおえない。

 

それが余計に私の怒りを掻き立てる。

 

ユニットの入り口に立つと、これもまた何度目かの天使文字。

 

[神の箱。と記載。]

 

「どうでもいい。」

 

もう天使文字への理解は諦めた。ユニットの中に進んでいく。

 

またエレベーターで登り、また機械で構成された鉄の床を歩いて上を目指す。

 

[警告:過度な戦闘行為は危険を有する。]

 

「黙ってて。」

 

ポッドはそう警告するが、私はそれを雑に拒否する。

 

ここに来るまでの道中で、もう何回も似たような事を聞いた。

 

たしかにポッドの言う通りだろう。でも、それでも私は戦い続けると決めたんだ。

 

私は戦い続ける。戦い続けるんだ。ナインズの為に。

 

[…拒否:本支援ユニットはヨルハ機体2Bの随行支援機体。]

 

[対象ヨルハ機体の状態を危惧する権利を有する。]

 

そう私の意思に対なるかのようにポッドは私の指図に背く。ポッドが背くような事は状況次第ではあり得る。得断珍しい事ではない、

 

「…ッ!…勝手にしてッ…!」

 

 

が、今の私にそれを許容する余裕はなかった。

 

 

それからは迫り来る機械生命体を倒し、階層を上がり、倒し、また上がり、倒す。

 

それを繰り返し続けた。ただそれの繰り返し。

 

ただ繰り返し続ける。その感覚に無性に腹が立った。

 

そのせいで執拗に機械生命体を斬り続ける。

 

ボロボロになって、もう抵抗などできない機械生命体をとにかく斬り続ける。

 

繰り返し続けた事の結果への喪失感が、絶望が、私の憎しみを駆り立てていた。

 

 

次の階でようやく屋上に出た。

 

広い場所に出た解放感から辺りを見渡す。コアのようなものは見当たらない。ここは以前とは同じじゃないようだ。

 

 

 

 

スタッ

 

奥から人影が現れる。私は咄嗟に武器を構える。人影ということはアンドロイドだが、ここで会うということは汚染機体だ。

 

両手の握る力を強くし進んでいき、人影の姿を確認する。

 

そして、その正体に唖然とした。

 

 

 

 

 

「オペレーター21O……!?」

 

 

 

オペレーター21O。ヨルハ機体9Sの、専属オペレーター。

 

 

 

 

▫__......_-▫▫-_・.....►--…▫■

 

 

 

 

 

 

 

 

「次の作戦から私、B型部隊に異動する事になりました。」

 

 

 

最終奪還作戦の数日前。普段は指令室いる筈の21Oが珍しく廊下にいたから声をかけると、私にそう言った。

 

「…オペレーターモデルの義体は戦闘には向かないんじゃないの?」

 

どうしてB型に?とは聞かなかった。理由は何となく分かっている。

 

多分9Sだろう。

 

9Sの側でずっと二人の会話を聞いていた身である私には、何となく彼女が9Sとの家族愛のようなものに憧れているのが分かっていた。

 

地上。彼の身近な場所に行きたいのだろう。

 

 

 

「……確かにO型には戦闘は不向きですが、それでも地上に直接行って、地球や人類の情報収集がしたいのです。」

 

「それと関係ありませんが、この事は9Sには黙っていて下さい。彼に知られると……色々と面倒なので。」

 

21Oは淡々とした口調で平然と言う。誤魔化したいようだ。

 

私も深く追求はしない。

 

「わかった。これから地上で会う事があったらよろしく、21O。」

 

「えぇ。2Bさん。」

 

 

 

 

 

これから地上で会う事、か。そのときは9Sと一緒に居た方がいいだろうか。

 

……なんだか、モヤモヤするな…。

 

 

....・・▫▫-----..____▫▫_..----____

 

 

 

 

 

「ガァァァァァア!!」

 

21Oがバグ音声のような呻き声を上げて襲いかかってくる。

 

ギンッ

 

振るってきた剣を受け止め、21Oを蹴り飛ばす。

 

「そんな……21O!!」

 

汚染されきった21Oは再び立ち上がり私に剣を振るい続ける。

 

「場所……座標データを……転送…」

 

「作戦…行動ニ関係ナイ発言……控えて下さい……」

 

「ハイは……一回で……イイデ……すっ……」

 

ナインズのオペレーターとしての会話を繰り返している。

 

まだ記憶が、自我が残っている。

 

「………21O……ッ…。」

 

攻撃しようとする手が緩む。仲間として、同じナインズとの記憶をもつ者として、殺すことができない。

 

「カ……家族……私も……ミンナと……」

 

「オネ……殺シテ………」

 

「私………本当ハ家族が欲しクテ……一人で寂シ……クて……」

 

「ヨルハ機体…9Sと……一緒ニ……イタクて……」

 

21Oの悲痛な叫びが、告白が、私の胸を締め付ける。

 

だが、「殺して。」その頼みが私になんとか刃を振るわせた。

 

わかった。わかった21O。

 

「私が、今殺すから……!!」

 

剣を片手の刀で受け止め。もう片方の手の刀で弾き飛ばす。

 

戦闘用スーツで補われているだけの戦闘力は、元がオペレーターとしての義体の戦闘力は、私には到底及ばない。

 

決着はあっさりと着いた。

 

剣を弾き飛ばされ一瞬手ぶらになった21Oの両腕を切り落とす。

 

21Oは痛みで地面に倒れ、立ち上がれずに悶えている。

 

やがて暴れる力を失うとうずくまり、止めを刺そうとする私に力を振り絞って聞いてきた。

 

 

 

「2……B……さん…。」

 

 

「教エ……て…9……Sは……無事………なノ……?」

 

 

 

 

「………ッ!!」

 

止めを刺そうとする手が止まる。答えるべきか、否か。

 

「………ナインズは…ッ…。」

 

言いかけて、止まってしまう

 

 

「……ッ!!………ああああっ!!」

 

 

ザスッ

 

 

知らない方が良いという思いからか、それとも事実を伝える事への罪悪感からか、21Oの頭を刺した。

 

一撃で止めを刺したので、すぐに動かなくなった。

 

[ヨルハ機体21Oのブラックボックス信号停止。]

 

[21Oの死亡を確認。]

 

ポッドはただ淡々と私に分かりきった事実を伝える。

 

「……ごめんなさい……ごめんなさい……。」

 

私は動かなくなった21Oに、ただ謝り続けていた。

 

 

 

 

スタッ

 

再び後ろから誰かが現れた音がする。

 

まだ汚染隊員が…。

 

そう思い、刀を強く再び握りしめ後ろを向く。

 

そして現れたその姿を目にして、固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「A2……。」

 

そこにいたのは、A2だった。

 



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Episode.21 [彼ノ言葉カタルモノ]

パート分けようと思ったけど結局詰めこんじゃったので初投稿です。


 

「A2……。」

 

どうして此処にA2がいるのか。

 

すぐさま殺しにかかろうとするが、私の中にあるA2への憎悪への疑念がそれを何とか引き留めた。

 

私はすぐにでもA2を殺すべく、私を思いとどまらせるA2への正体不明の憎悪を言語にしようとして必死に考える。

 

 

A2。アタッカー二号。

 

廃棄された筈の旧型のヨルハ機体であり、私のベースになった機体。

 

次期ヨルハ機体製造の為に、データ取りの為だけに壊される事を前提に作られた実験的部隊の一人。

 

 

だが彼女があの日、全機廃棄を前提とした真珠湾投下作戦を生き延びた事でその能力が評価され、私が作られる事になった。

 

 

そうだ。

 

彼女が生き延びた事こそが、彼女がここに存在する事こそが、私がこの汚れた世界で生まれる事になった理由であり。

 

私とナインズを引き合わせた根本的な原因であり。

 

私が呪われた運命を背負う事になった根源だった。

 

だから、

 

だから私はA2が憎いの?

 

だから殺そうと思ったの?

 

違う、そうじゃない。何かが違う。それなら今まで会った時にもそう感じた筈だろう。

 

私の中にある歪なあれは、あの日壊れた何かはそれじゃない。

 

けれども、それが何なのかわからない。

 

そもそもそれが本当に憎悪なのかすら。

 

A2への憎悪のような何かが解らない私は、殺意があってもただ彼女をゴーグル越しに睨み続ける事しか出来ない。

 

体を動かすまでには至らせない。それが幸か不幸かも解らない。

 

A2も私を攻撃する意思がないようで、ただこちらを見つめている。

 

そのうち、A2が立ち去ろうとする。

 

「……あっ…!」

 

追おうとするが、それでも私の足は一歩前に出たきり動かなくなった。

 

 

本当に私はA2を殺したいの?

 

 

そんな疑念が浮かび始める。

 

だが、その疑念は去り際のA2の言葉で確信に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……9Sは……。」

 

「……ナインズは、君に優しいままでいてほしいと、言っていたぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間に、全身に駆け巡ってきた異様な不快感。

 

A2からの言葉を聞いた瞬間に、私は私の中にある物を理解した。いや、させられた。

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

 

大型ユニット。少しでも機械生命体側の情報を集めるべく私はその中を進んでいく。

 

ユニットの中を進んでいって、最初に目にとまったのは機械生命体の凄惨な残骸だった。

 

必要以上に斬られたであろうズタズタのパーツ群が、次の階にも、また次の階にも、そこら中に転がっていた。

 

 

誰かが、先にここに入っていた。

 

 

それも、この切り方は私と同じヨルハ機体の武器の物だ。

 

こんな事が出来るあの日を生き残ったヨルハ機体に、心当たりは一つしかなかった。

 

2Bだ。

 

このまま進むべきか迷う。

 

2Bは私を恨んでいる。もし2Bと出くわしたら最悪殺し合いになってもおかしくない。

 

……だが、私は9Sから遺言を聞いている。

 

はっきり言って私は9Sと2Bがどんな仲だったかは知らないし。興味もない。

 

けれども、あれほどまでに2Bを想っていた9Sの最期の言葉は、2Bには伝えられなければならない。そんな下らない義務感があった。

 

それに私は2Bに恨まれていても、それでも親近感のような物をもっていた。

 

それは2Bが姉妹機のようなものだからなのか、見た目以外にも共通点のようなものを感じているからなのかは分からない。

 

けれでも、確かに私の中にある2Bへの想いが、再び私を上へ目指して進ませていた。

 

 

屋上に出ると、やはり2Bがいた。

 

ちょうど汚染機体を倒した後のようだった。

こちらに気づくと、武器を構えてこちらを見つめてきた。

 

ゴーグル越しのせいでどんな目を向けられているのかは解らない。

 

だが、それでも私を睨んでいるのがわかった。

 

そこには憎悪のようなものがあるように感じたが、何かが違う気もした。

 

私は9Sの遺言を伝えようとするが、持ち前の引っ込み思案のせいで上手く言葉が出てこない。

 

何か良い言い方はないかと考える。

 

せめて9Sを殺した事に対しての悪意はなかった事も伝えたい。

 

うーん……。

 

…あ、そうだ。9Sは親しい人からナインズと呼ばれているという記憶を見た気がするぞ。

 

2Bが私を恨む程に9Sと親しかったのなら、きっと2Bもその呼び方を知っている筈だ。

 

というか、あの日橋からそう呼んでいた気がする。

 

私も同じ9Sとの記憶を(私の場合は本人の記憶そのものだが)もつ者だと示せば、彼女も解ってくれるかもしれない。

 

 

私は去りながらも、彼女に伝える。

 

 

「……9Sは……。」

 

ナインズなんて呼び方に慣れていないので、普通に9Sと呼んでしまうが

 

「……ナインズは、君に優しいままでいてほしいと、言っていたぞ。」

 

すぐに直して、彼の遺言をしっかりと伝えた。

 

 

そう言ってから数秒の沈黙。

 

……2Bは何も言わない。

 

私は振り返らずに去ろうとする足を動かし続ける。

 

あの二人の関係に深く入り込むつもりも、その道理も私にはないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________

 

 

 

 

A2からナインズの遺言を聞かされた瞬間、私の中でドス黒いものが沸き立ってきた。

 

 

どうして貴女からその言葉を聞かなければならないの?

 

なぜナインズを殺した貴女がナインズの言葉を口にするの?

 

 

いや、それよりも

 

それよりも

 

 

 

 

 

 

 

 

何で貴女がその呼び方を知っているの?

 

 

 

 

 

 

 

 

だって貴女はナインズの事なんて、何も知らない筈なのに。

 

一度か二度会っただけなのに。

 

それなのに、なんで、なんでその呼び方を知っているの?

 

その呼び方を知ってるのは、使っているのは私だけだと思っていたのに。

 

 

 

心の内から、底から、形容しがたい感情が頭の中に渦巻いていく。

 

 

ふと、去っていく彼女の背負っている大太刀が目に止まった。

 

あれは黒の血盟だ。ナインズが最期にもっていた大型剣の方。

 

そうだ。確かヨルハの武器には記憶の保存機能がついてた。

 

もしかしてナインズの記憶がその中にあるから、だからあの呼び方を知っていたの?

 

それなら整合性がとれる。

 

そう気付くと、一瞬渦巻いていた物がフッと消えた気がした。

 

けど、それも本当に一瞬だった。

 

何故彼女がそれを持っているのか。そこを考えてしまった。

 

だって武器を介して記憶が見れるってことは。

 

 

それってつまりは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナインズはA2に記憶を託したってことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこに気づいた瞬間。

 

渦巻いていた歪な感情は溢れて、止められなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして。

 

どうして?

 

どうして??

 

どうして貴女なの??

 

だって貴女はナインズの事なんて何も知らないのに。

 

一緒に過ごした日々なんてないのに。

 

話したことなんてないのに。

 

触れあった事なんてないのに。

 

たまたま居合わせただけなのに。

 

どうして当然のようにナインズの武器を、記憶を、彼の思い出を持っているの。

 

どうして?どうして貴女なの?

 

どうしてナインズからその刀を貰ったのが貴女なの?

 

どうしてナインズから記憶を渡されたのが貴女なの?

 

どうしてあの日あそこにいたのが貴女なの?

 

どうして最期にナインズの隣にいたのが貴女なの?

 

どうしてナインズの最期の言葉を聞いたのが私じゃないの?

 

なんで?なんで私じゃないの?

 

 

いつもナインズの隣に居たのは私なのに。

 

 

ずっとナインズの隣に居たのは私なのに。

 

 

ずっと隣に居たのは私なのに。

 

ずっとずっと隣に居たはずなのに。

 

 

ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと

 

 

 

ずっと、ナインズの隣に居たのは私なのにっ。

 

 

 

 

 

 

 

ずっとナインズを殺してきたのは私なのにっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

私なのに。私だけなのにっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナインズを殺すのは私なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナインズを殺していいのは私だけなのにっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴女さえいなければ、あの日ナインズを殺すのは私だった筈なのにっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間に、遂に私はA2に向かって走り出す。

 

 

A2への憎悪が。…いや。

 

 

 

「妬ましさ」が。

 

 

ついに抑えられずに解き放たれてしまった。

 

 

だが、私は内にあるその歪で莫大な感情を一切声には出さず、音にも立てず、A2の首を目掛けて刃を振るう。

 

確実にA2を殺す為に。

 

「…え?…ッッッなっ!?」

 

ギィィイイン

 

だが、音もなく振るった筈の一撃はすんでの所で気づかれ、防がれてしまう。

 

「……ッッッ!??」

 

いつの間に自分の後ろに迫っていた私の存在に、A2は驚愕している。

 

ギギギッ

 

刀が互いにせめぎ合い、擦れる音がし、火花が散る。

 

刃をすんでの所で止められたことでA2との顔の距離が近くなった。

 

意図せず顔を覗き込んでしまうと、あの私そのものの顔が、短くなっている髪型が、余計に私じゃない事への当て付けのようなものを感じさせた。

 

それが余計に、妬ましさを煽る。

 

「……っ!!……ぐっ……!」

 

それでも同型だから、同じ力量をしているから、私と同じだから、どれだけ力を入れてもせめぎ合ったままになる。

 

 

やがて力を込めすぎたことで体が震え始め…

 

ゴゴゴゴゴッ

 

 

いや、震えているのは私じゃない。一体何が_______

 

 

ドゴォ!!

 

 

「なっ____!?

 

 

突如として地面が崩壊した。

 

 

またあのときのように。

 

 

あの橋のときのように。

 

 

また私は落ちていった。

 

 

 

 

_________

 

 

 

突然2Bの下の足場が崩れ、2Bが落ちていく。

 

私のいた足場は崩れなかった為、私は無事だった。

 

「…ハァ……ハァ……」

 

先程の一撃を防いだ時の焦りがまだ少し残っている。

 

2Bが後ろから迫ってきてる事に全然気づかなかった。

 

ギリギリで気配に気づけなかったら、余裕で死んでいただろう。

 

何だ今の不意打ち。何だあの声も音もない殺気。まるで暗殺者じゃ______

 

 

ガシャン

 

_______っ!!

 

また誰かが現れた。

 

再び背後を取られたが、音がしたので今度は余裕でわかる。

 

振り返ると、白い体の中型の機械生命体が居た。ソイツに腕はなく、その代わりに機械生命体の頭がついたコイン状の何かが鎖のように連なって腕を形成している。

 

「2Bは!?」

 

だがそれよりも気になるのは落ちていった2Bの方だ。ポッドに聞く。

 

[報告:ヨルハ機体2Bは現在も生存。]

 

[疑問:ヨルハ部隊を裏切ったA2が2Bの状態を確認する理由が存在しない。]

 

「うるさいっ!」

 

こんな時まで理論で言い詰めてくるな!怒るぞ!

 

 

 

 

ギギギッ ギュイン

 

「っ!!」

 

話の蚊帳の外にいた中型機械生命体が私に向かって、機械生命体の頭が埋め込まれたコイン状の腕を分離させて飛ばしてくる。

 

咄嗟に意識を集中させるがその動きの不規則さ、多さに対応しきれず直撃し弾き飛ばされる。

 

 

「ぐぁっ!!」

 

弾き飛ばされゴロゴロと転がるが、咄嗟に体勢を直す。重くはない。耐えられる。

 

 

「ニイチャン!ニイチャン!」

 

突然声がし、周りを見渡すと、気がつけば私は辺りからバケツを頭に固定した小型の機械生命体達に囲まれている。

 

「邪魔だっ!!」

 

ズバァン

 

大太刀を振るい、薙ぎ払う。

 

小型達は一撃で吹き飛んだ。

 

どうやらコイツらは大して強くないようだ。

 

 

「その子達ニ!!オトウト達に手をダスナッ!!」

 

 

そう叫んで再び中型が腕を飛ばしてきた。

 

小型達を殺された事に怒り心頭のようで、先程よりも動きが速くなっている。

 

その動きはやはり不規則で多いが、一度見た技なら二回目は対応できる。

 

華麗にかわし、ソイツとの距離を詰めていく。

 

そして、ソイツに向かって叫ぶ。

 

「一体お前たちが何体のアンドロイドを殺してきたと思ってる……!?」

 

「そうやって命乞いをすれば……許されるとでも思ってるのか!?」

 

いつも命乞いを聞くたびに、その想いが私の中で募っていた。

 

襲ってきた機械生命体に容赦なんてしない。私はソイツの眼前まで走り抜け、勢いよく斬りつけた。

 

「ッ!!」

 

ズバァン!

 

「アアアッ…!!」

 

ボカンッ とコイン状の腕が吹き飛び、ソイツは地面に仰向けに倒れ伏した。

 

傷口から火を吹き、そして動けなくなったらしいのを確認すると、安心感からどっと疲れが出てきた。

 

「…ハァ…ハァ…」

 

だがまだコイツは死んでない。まだ目がチカチカと光っている。

 

止めを刺すべく近づいていく。

 

 

 

「ニイチャン!!兄ちゃン!!」

 

 

バケツを頭にくっつけたあの小型達が兄ちゃんと呼んだ中型の元にかけより、治療を始める。

 

私の前にも小型達が立ち塞がり、土下座をし始めた。

 

私に見逃して欲しいとでも言うのだろうか。

 

ふざけるな。お前ら機械生命体を許すわけないだろう。

 

大太刀を、構える。

 

 

 

 

 

 

白旗をあげている奴らを殺す程。私たちは終わっていない。

 

 

 

 

 

アネモネの言葉が頭をよぎる。

 

振るおうとする手が止まる。

 

だが、それでも、それでも私はっ。

 

 

「……っあああ!!」

 

ズバァン

 

中型の首をはね飛ばした。

 

ドカンっ

 

その衝撃で頭を失った胴体が爆発した。周りにいた小型も、治療に当たっていた小型も、皆巻き込まれて爆発し、死んだ。

 

ゴンッ

 

コロコロコロ……

 

はね飛ばした頭が転がり、やがて目の光を完全に失った。

 

奇しくも、転がった頭は私を見るような形で止まる。

 

 

 

丸くて寸分も動かせない筈のレンズ張りの目は、確かに私を睨んでいるように見えた。

 

 



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Episode.22 [大切ナモノダカラ。]

Ps5がやっっと買ぇそうので初投稿でででで


[ポッド042からポッド153へ]


[こちらポッド153。どうした?このプロトコルは会話をする為のインターフェイスではないが。]


[理解している。その上でポッド153に対して内密の通信がある。]


[了解:通信内容を開示せよ。]


[我々ポッド042と153の通信ネットワーク内で不自然なエラーを検知している。]



[推測:通信環境の悪化による断片的化されたデータの残骸。]




[そうかもしれない。が、そうではないかもしれない。]




[理解不能。具体的な会話の提示。]




[複数のポッド間による情報伝達を繰り返すうちに、我々の間に奇妙な傾向が見られるようになった。]

[随行支援対象2B、A2、9Sに対する過剰な保護意識だ。]

[この傾向は、我々の〘意思〙なのだろうか……。]





[……]

[…否定はできない。だが、そうだとしてもそれを肯定する事はできない。]

[我々には果たさなければならない任務があるからだ。]





[……]

[………………]

[…………いずれにせよ、随行支援を任せられている我々はこの顛末を見届ける義務がある。]






[〘義務〙………か。……そうかもしれないな。]






[………ポッド153。…死ぬなよ。]







[了解。ポッド042も、死ぬな。]




[…あぁ。]




 

 

 

[ボディユニットチェック完了。]

 

[メモリーユニットチェック完了。]

 

[メンテナンスモード終了。]

 

[ヨルハ機体2B、起動。]

 

 

「…ッ……うっ……。」

 

冷たく、砂利の感触のする地面に這いつくばった体を起こす。

 

[おはようございます。2B。]

 

ポッドの、その起床の挨拶。

 

「私は……。」

 

なんで再起動を…。確か私は…。

 

 

曖昧な意識と記憶まま起き上がって、辺りを確認する。

 

ふと、後ろから遠く、歌が聞こえてきた。

 

この独特のテーマソング……。

 

聞き覚えのある曲がした方を振り向くと遊園地が見えた。

 

遊園地。そうだ。最後の資源回収ユニットがあった場所。

 

私は確かそこに向かっていた。そして、それから……

 

 

 

[敵大型ユニット内部での戦闘時にユニット構造物が崩落。]

 

[落下の衝撃によりダメージを受けたヨルハ機体2Bは緊急サスペンドモードに移行。]

 

[落下地点付近は危険と判断した為、現地点まで搬送。]

 

[現段階において、全ての項目のチェックが完了し再起動された。]

 

私の疑問に答えるようにポッドが私に再起動に至った顛末を説明する。

 

 

ユニット構造物の崩落。

 

そうだ、思い出した。私は最後の資源回収ユニットに入って、汚染されていた21Oを殺して、その後A2に会って。

 

A2を殺そうとして、それから……。

 

それから突然床が崩れて、私はまた落ちた。

 

そうだ、また落ちた。

 

あのときのようにA2を殺そうとしたら。

 

…おかしい。こんなのおかしい。どうしていきなり足場が崩れたりするんだ。

 

こんなの絶対におかしい。

 

 

一度ならず二度までも。その偶然に必然を感じてしまう。

 

 

まるで運命が私にA2を殺させまいとしている。

 

私を苦しめ続けてきた運命が、まだ私を苦しめようとしている。

 

 

私を呪い続けると。

 

 

私を罰し続けると。

 

 

 

感極まった苛立ちは、まるで見えない力が私の邪魔をしているとまで感じさせてしまう。

 

 

駄目だ。落ち着け。落ち着くんだ。

 

 

「…ポッド、現状報告。」

 

 

頭を冷静にするために、一旦別の事を考える事にする。

 

 

[塔にアクセスするための認証キーを取得。]

 

[規定数のアクセスキーの入手を確認。]

 

[塔への調査が可能な状態。]

 

 

…?

 

ポッドが嘘をついたりしないのはよく知っているが、それでもそのポッドの報告に疑問を感じた。

 

アクセスキーを既に持っている?

 

ポッドに言われて確認すると確かに認証キー

があった。

 

いつの間に?

 

妙だ。コアを破壊した覚えはない。

 

今までの認証キーはコアに配備されてた筈なのに。

 

……21Oが持たされていた?

 

それとも私が気づかない内に、あるいは眠っていた間に持たされていた?

 

…。

 

そこまで考えて、やめる。

 

 

どうでもいい。

 

どのみち、今までも意図的に回収させられていた事に変わりはないんだろう。これで確信に変わった。

 

「…わかった。」

 

だったら塔へ向かう。それ以外にするべき事はない。

 

集めたキーで塔に入る。

 

そして塔を破壊する。その為だけにキーを集めさせられるこの茶番に付き合ってきた。

 

塔だけは、いいや塔だけじゃない、機械生命体も。

 

絶対に破壊する。

 

破壊してやる。

 

殺してやる。

 

絶対に殺し尽くしてやる。

 

絶対に、絶対に…っ!!

 

 

 

 

 

 

 

ふと塔を目指して歩いていた足がぴたりと止まる。

 

今自分が物騒な思考をしていたことに気付いた。

 

いや、今だけじゃない。A2に対しての嫉妬を向けた時もそうだった。

 

 

 

あの日ナインズを殺すのは私だった筈なのに。

 

 

 

 

あの思考を思い出し、今になって悪寒が走る。

 

あれはまるで。

 

あの思考はまるで、私がナインズを殺したかったみたいな言い方だった。

 

 

 

そんなわけない。

 

 

ナインズを殺したいわけない。

 

 

殺したかった時なんて一度もない。

 

 

 

殺す度に、あの鈍い感覚が手に伝わる度に、心が苦しかった。

 

辛かった。

 

罪悪感で潰れてしまいそうだった。

 

 

ググッ……

 

 

それらの記憶を思い出すだけで私の手は自然と握りこぶしを作る。

 

 

その罪悪感から、むしろ自分がナインズに殺されてしまいたい位だった。

 

 

私が死んで、彼に解放されて欲しかった。

 

 

彼の為なら、ナインズの為なら。

 

あの日、あの時、あの場所で、私が彼の代わりに死んであげたかった。

 

 

それだけ私はナインズの事を大切に想っていたはずなのに、あんな事を考えるなんて…。

 

だけど、だけれども、あの嫉妬の感情が私から生み出されたという感覚が確かに存在している。実感がある。

 

何かが…思考を蝕んでいる。

 

私の思考を、私を蝕んでいく何か。

 

 

その何か。

 

 

 

…その何かに心当たりは、あった。

 

 

ポッドは気づいてなさそうだったからずっと伝えずにいたけど……。

 

 

 

 

論理ウィルスに…汚染されている。

 

 

 

それはあの時、逆ハッキングを掛けられた時だった。

 

あの時に、記憶領域に侵食された時に、ハッキングでも直せない程の奥深くにごく少量の汚染を許してしまった。

 

汚染の侵食は少しずつだが、今までも、そして今もなお確実に私を蝕んできていた。

 

もうウィルスの影響が思考に現れつつある、そうなのかもしれない。

 

このままウィルスを放置すれば、いずれ私は体を乗っ取られるだろう。

 

だけど、私はワクチンを持ってはいない。

 

作る技術はレジスタンスにも、私にもない。

 

直せる見込みは、ない。

 

 

 

 

……。

 

 

……いや、本当はある。この汚染を直せる方法が本当は一つだけある。

 

 

 

 

 

 

記憶の再フォーマット。

 

 

 

 

 

私の記憶の核になっている自我を、全ての記憶領域を全て消し去ってしまう方法。

 

ウィルスを媒体ごと消し去ってしまえばいいという、とても単純な方法。

 

 

だけど。

 

だけど、その方法だけは絶対にしない。

 

絶対に駄目。駄目なんだ。だから誰にも、ポッドにだって言わなかった。

 

これが私が助かる見込みのある、唯一の方法だとしとも。

 

 

だってそれをしてしまえば私の記憶は、ナインズとの記憶は、思い出は、全てなくなってしまうんだ。

 

今の私が。

 

今の私の思い出が。

 

彼の事が。

 

彼と過ごした日々が。

 

全て消えた新しい私になってしまう。

 

 

そんなのは絶対に駄目。絶対に駄目なんだ。

 

 

 

 

だってナインズとの記憶があるから。

 

 

彼と過ごしたあの日々があるから。

 

 

あの光のような思い出があるから。

 

 

私は私でいられるんだ。私は生きていられるんだ。

 

 

それを失うぐらいなら、それすら奪われるぐらいなら…もうどうなってもいい。

 

 

 

 

たとえ壊れた機械になるとしても。

 

 

 

それで自我が乗っ取られてしまう事になるとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たとえそれで、死んでしまうとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び塔を目指して歩き始めた2Bの中には、その固く口を閉じた無機質な表情の中には、確かな決意と想いがあった。

 

彼女はふと顔を上げ、ゴーグル越しの目で上を見据える。

 

いつの間にか、もう塔が近くにまで見えてきていた。

 

 




二人の二号編はここまでです。

なんとか[2][2]話で終わりました。やったぜ。

尚21話で話を圧縮した模様。



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2B or not 2B
Episode.23 [A]ttacker wants 2 khow about them.




無理ないペースの初投稿が大事ってそれ一番言われているので初投稿です。




 

 

 

 

 

「…2Bさんと9Sさんの関係、ですか?」

 

 

あの資源回収ユニットとやらでの出来事の後、私は塔に向かおうと思ったが、一旦パスカルに会いに工場跡地にまで戻ってきていた。パスカルに聞きたい事ができたのだ。

 

それは 2Bと9Sがどういう仲だったのか。についてだった。

 

あの二人はいつも共に行動している筈だからパスカルが9Sと会っているならその時2Bも一緒にいた筈なんだ。何か知ってるかもしれない。

 

「そうですね…。9Sさんは2Bさんの事をとても好意的に見てるよう見えましたが……。」

 

「2Bさんは……どうでしょうかね…。」

 

パスカルが うーん…と腕を組む。(腕の稼働範囲的に組めてはいない。)

 

駄目みたいだな…。やはり森の王の城やそれ以前に会ったときのように、2Bは他人に対してあまり感情を見せていなかったようだ。

 

実際今まで私もあの日まで2Bが9Sを意識してるようには見えなかった。

 

2B。その名前から思い浮かぶのはあの常に冷静で必要以外の事はあまり喋らない淡々とした、そして何処か何かを諦めたようなあの表情だ。

 

そのイメージせいで9Sとは仲が良いのか悪いのかなんてそもそも気にした事すらなかった。

 

だが実の所の2Bはとんでもなく9Sを想っていて…そして実際に9Sを殺した私はそれが理由で2Bに殺されかけた。

 

 

[疑問:ヨルハ機体A2がヨルハ機体2Bと9Sの関係性を知る必要性。]

 

 

パスカルのもとを後にする私にポッドが二人の事を知りたがることに疑問の言葉をかける。

 

[ヨルハ機体A2にヨルハ機体2B、9Sとの友好関係はなく、更にヨルハ機体2Bとは依然として敵対関係でもある。]

 

いつものように理屈を並べてくるポッドに「うるさい。」と言ってやりたいが、今回のコイツの疑問は的確だった。

 

確かに私は2Bと9Sの関係に特段興味がなかった。それは紛れもない事実だ。

 

だが、あの時の2Bの不意討ちを見てそれは変わってしまったのだ。

 

あれはB型ができる動きじゃない。今まで何人ものB型の追っ手を倒してきた私には分かる。2Bは他のB型と違った異常な強さを持っている。

 

2Bだけ強く作られているのでは?とも考えたが、私の記憶がそれを否定した。

 

 

というのも今から数年前、2Bと初めて会って戦ったとき、2Bはあれと似た動きをしていた覚えがある。

 

 

そしてその時の2Bは、B型じゃなかった。

 

処刑型モデルと。確かにアイツは初めて会ったときに私にそう名乗っていた。そして2Bという名前ではなかった。

 

あぁいや、別にモデルが変わる事はそんなにおかしな事じゃないし、珍しくもない。

 

だけど、B型に異動をしたのなら、それに合わせて性能を抑えられているのが普通なのだ。

 

しかしあの時の2Bは明らかにあの日あったときの処刑型の性能をしていた。

 

その疑問が、違和感が、私の9S譲りの好奇心を刺激してしまったのだ。

 

だが2Bの性能への疑問。が何故9Sとの関係性に結びつくのか?となるだろう。

 

理由はちゃんとある。

 

それは彼女が2Bという名前になっていたのは、9Sが2Bの隣に現れてからだったからだ。

 

それ以降会うときはずっと9Sと共にいて、ずっと、そして今に至るまで2Bと呼ばれている。

 

普通に考えればただ2Bは部隊異動をしただけで。9Sとはただコンビを組んでいるだけ。と考えるのが自然だ。

 

だが、それだけにしてはあの二人の関係性は少々妙な所がある。

 

それは9Sが会うたびに私との記憶を無くしているのに対して、その反面で2Bは恐らく初めて会った時からの記憶が一貫して残っている。という点だ。

 

そうなると、いつも2Bは深刻な健忘症を抱えた9Sと共にいるか、私と会ったときには既に毎回記憶のリセットされた別の9Sと共にいることになる。

 

もし後者なら、それは一体なぜだろうか?

 

9Sがデータバックアップを毎回忘れるドジなだけ、とも考えられるが、9Sの要素を受け継いだ私だからこそ言えるが、アイツは多分マメなほうだ。データのバックアップを怠るような奴じゃない。

 

思い返してみる程、考えてみる程。あの二人の関係性は、2Bの性能は、9Sの痴呆は、色々と妙なのだ。

 

そして私の好奇心はそれに対して今になってハイな状態になっている。

 

[…2]

 

そのせいで、気になって気になって仕方なくなってきたせいで、何か情報はないかとわざわざ二人と会ったことのあるパスカルの所まで戻ってきてしまったのだ。

 

だが、あの感じだとパスカルは多分手がかりになるような情報は持ってないだろう。となると次はレジスタンスキャンプの奴等に_____

 

 

[要請:ヨルハ機体A2の応答。]

 

 

ハッ……。

 

ポッドの呼び掛けで、意識が思考することから戻ってきた。

 

[疑問:現在のヨルハ機体A2の放心的状態。]

 

ポッドが私の事を心配するような事を言う。そんなに変に見えてたのだろうか。

 

「……なんでもない。少し考えごとしてただけだ。」

 

[疑問:「少し。」と定義するには応答までの時間が長すぎる。]

 

[ヨルハ機体A2の普段の思考傾向と比べてその長時間の思考は異常な状態。]

 

[推奨:早急な脳回路のチェック。]

 

「うるさい。」

 

煽ってきているのかそれとも本当にただ心配してるだけなのかはわからないが、その淡々とした口調のその言い方は本当に癪に触る。

 

コイツは本当に理屈的な事しか言わない。9Sはコイツと上手くやれてたのか______

 

 

 

 

 

 

 

……そうだ。ポッドが居るじゃないか。

 

ポッド。コイツはずっと9Sの隣を飛んでたんだ。コイツが一番の情報源じゃないか。

 

そう思い立つと、早速ポッドに疑問をぶつける。

 

「なぁポッド。9Sは2Bとどういう関係だったんだ?お前はいつもあの二人の側に居たんだろ?」

 

[……具体的な開示情報の提示。]

 

「…?」

 

具体的に聞きたいことを教えろって?

 

ポッドにしては珍しいなと思った。

 

だっていつもは私の考えてる事なんて嫌でも汲み取るのだ。

 

まぁわからないなら仕方ない。もう少し具体的な質問をする。ピンポイントに聞いた方がこちらも欲しい情報がピンポイントで手に入るしな。

 

「例えば……何で私が会うときは2Bは私を覚えているのに9Sは__」

 

[黙秘。]

 

「……は?」

 

まさかの即答、返答に困惑してしまう。

 

黙秘だって?

 

「…?いや、何でだよ?」

 

[その情報を開示する権限は当機ポッドには存在しない。]

 

「はぁ?それってどういう事だよ。」

 

[……]

 

「おい、ハコ。答えろ。」

 

[……]

 

「………はぁ…。」

 

結局、いくら聞いてもポッドは何も答えないのでおとなしく諦めた。この手の機械の頑固さがどうしようもできないのはもう散々体感してる。これ以上何を聞いても無駄だろう。

 

だがこれで分かった。確実にあの二人は只のコンビじゃない。それもポッドに黙秘させるような、組織的な何か。

 

さて、どうするか。一番9Sと近くに居た筈のコイツが何も答えないとなると……。

 

仕方ない。当の本人に確認しよう。

 

 

パンッ

 

 

っと勢いよく右手を右耳に当てて、両目を閉じる。

 

これで一体何をする気かというと、9Sの記憶を見るのだ。

 

だって求めている2Bの情報に最も近い、というか気になっている9S本人の記憶が私の中にあるのだから。

 

じゃあ最初からそれやればいいだろってなるかもしれないが、そうでもない。

 

まず、記憶を見ると言っても見たい記憶をピンポイントで見れる訳じゃない。どんな記憶が見えてくるかは完全にランダムだ。

 

そして、そもそも9Sが私の求めている情報を持っているとは限らない。実際アイツは今まで見た限りだと2Bとのほんわかな日常しか要記憶してないからな。

 

よって、皮肉な事に9S本人の記憶であるにも関わらずこれが一番現実性の無い方法だったのだ。だから特に積極的には見る気がなかった。

 

ちなみに記憶を見るのに右耳に手を当てる動作も目を閉じる必要性もない。気分だ気分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……。」

 

案の定の結果にため息をつく。

 

やはりというか、9Sの記憶に有用そうなのはなかった。いやホント、釣りの極意を長々聞かされた話とか要記憶すんな。今度試してみたくなっただろうが。

 

……いや、まぁ。本当にどうでもいいような記憶ばかりだった訳ではない。

 

あるにはあったのだが、2Bとは関係性なさそうな情報だった。

 

それは、ヨルハ計画の全容だった。

 

9Sがバンカーのサーバーに直接アクセスしたときの

 

月面に既に滅んだ人類がいると見せかけて、地上のアンドロイドの戦意向上を図るという茶番劇を知ったときの記憶。

 

9Sはどうやら…ヨルハ部隊の真相に到達してしまっていたらしい。

 

 

 

「……はぁ…。」

 

私もその記憶を見て真実に到達したことで気分が重くなり、また何度目かのため息がでる。

 

まさか予想外の形でクソみたいな真実を知る羽目になった。不意討ちだ。心の準備ができてない。本当に気分が悪い。

 

もうこれ以上考えるのは止めにしよう。

 

だが、そうは思っても真実を知ってしまったことについて一度考えだすと止まらないもので、その意思とは裏腹に色々と考えてしまう。

 

私の生まれた意味を。

 

私の仲間達が死んでいった意味を。

 

私が今ここで生きている意味を。

 

……私達には…一体何の意味があったんだ?

 

何度も考えては答えを出せずにいた疑問がもう何度目か私の頭の中を支配する。

 

……だが、それでも例のごとく答えは出ない。

 

結局これもまた今までのように、その疑問については考えるのを止めた。

 

 

 

しかし…まぁ…こんな情報を知ってよく生きてたな9Sのやつ。

 

 

何か一つ考えるのを止めると、また別に一つ考え始めてしまう。

 

駄目だな。もう頭が9Sになってるみたいだ。怖いなぁ。

 

…もういいか。それでも私が私であることに変わりはない。もう諦めて思考するという動作にこの身を委ねよう。

 

そう思い、諦めてつい先程の思考の続きをする。

 

あの機密事項を知って尚、あの日まで9Sが生きていたのは本当に驚きだった。

 

実体験があるから言えるがヨルハという組織は非常に隠蔽体質だ。機密が漏れる事を何よりも恐れている。

 

…筈なのだが。9Sはその真実の具体的な内容は司令官の奴から聞いていた上に、そのままお咎め無しだった。ちょっと私との扱いの落差が酷すぎないか?

 

真相を知ったのがバレたりしたら最悪消されるなんて普通にあり得ると思うんだが_______

 

 

 

「まさかっ!?」

 

A2がうつむいていた顔を大声と共に突然あげる。

 

そしてその顔からみるみる汗が出てきた。

 

「…そうか2Bがずっと………のままだっていうんなら…モデルを…装しているんだったら………。」

 

「じゃあそうなるとやっぱり9Sが会うたびに記憶がないのは………。」

 

[報告:ヨルハ機体A2に異常な動揺を検知。]

 

再び顔を下げ、片手で口元を抑えぶつぶつと小声で何かを呟いている彼女の姿にポッドが心配の声をかける。

 

暫くするとA2は手を口元から離し、意を決した顔でポッドの方を向く。

 

「……ポッド。もう一つ質問する。」

 

[了解。]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2Bは………本当に2Bなのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の真剣な顔から口に出されたのはとても抽象的な質問だった。

 

 

[……]

 

[……黙秘。]

 

だが、ポッドにはA2の質問の意図が通じたらしい。質問から数秒程して、ポッドはまたしても黙秘の意思を表した。

 

…それを聞くとA2は黙って再び歩きだした。目指している場所はもう情報を求めて行こうとしていたレジスタンスキャンプではなく、搭だった。

 

求めていた情報は、もう手に入ったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはもう…答えみたいなもんだろう……。」

 

歩きだしてから遅れてようやく何かを嘆いたA2の声は、どこか悔しそうだった。

 

 



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Episode.24 [B]attler in 2 the tower.

実はあの漁師化エンドが2Bは任務放棄とかを特に何か機能的な制約無くやろうと思えばできるっていう事を本当に何気なく示している事に気づいたので初投稿です。



 

『塔サブユニットへのアクセスが可能になりました。』

 

塔の根元に広がる荒れた大地に訪れると、私の到着を待っていたかのようにあの声が響いた。

 

瓦礫が、塔に回収され損ねた機械生命体の死体が転がるこの殺風景な大地に似つかわしくないあの軽快な声が。

 

周りを見渡す。

 

その凄惨な地面とは似ても似つかないような綺麗で変則的な形をした白い機械の突起物が塔を囲うように三つ生えている。

 

サブユニット。これだ。これの解除をするために各地を奔走して回った。ようやくだ。

 

だが、その達成感に満たさせれる事はなく、私はただ淡々とサブユニットのロックを解除していく。とてもあっさりとして、無音で、何のカタルシスもない。

 

あれだけ苦労して回って集めたサブユニット解除キーは塔に入るために必要な最低限の条件に過ぎないのだ。

 

塔に入る。そこはゴールでは無く、塔を破壊するという目的のまだスタートラインだ。

 

ハッキングにもすっかり慣れた私は、キーを集めるのにかけた時間とは反比例してあっさりとサブユニットを解除し、入り口のロックに向かう。

 

これでようやく入り口を開けられるか開けられないか。という段階にたどり着いた。本当に手間だった。

 

『おめでとうございます!全てのサブユニットのロックが解除されました。』

 

入り口の前に立つと、あのアナウンスが私を礼賛した。

 

だが分かる。コイツは口で言ってるだけで礼賛の意思なんて微塵もない。

 

『景品のファイナルワン賞は[搭]内部にご用意しております。』

 

『ご来場お待ちしております。』

 

アナウンスの内容なんて録に聞く気のない私はアナウンスが言い終わる前にはもうハッキングを仕掛け始めていた。

 

だが、この扉のセキュリティロックは厳重なようで、ハッキングを仕掛けようにもまず扉のセキュリティに入り込むに時間がかかる。

 

グググッ…と両手に力を込めて何とかセキュリティに入り込もうとする。少しずつだが、手応えはある。このまま続けていれば入りこめる筈だ。

 

 

ガシャン、ガシャン。

 

後ろから何かが落ちてきた音がする。いや、あの機械の間接が動く音。よく知っているあの音だ。後ろを振り向くと、案の定奴らがいた。

 

[敵の警戒レベルが上昇中。2Bによる[搭]への侵入を警戒していると予測。]

 

空を見上げると、沢山の機械生命体が搭から輸送されてきている。

 

何がご来場をお待ちしております。だ。

 

もう何度目か。あのアナウンスに馬鹿にされている気分になる。

 

…どうする。この状況は非常に良くない。

 

ポッドに私に向かってくる奴らの対処をさせ、私はハッキングに集中するという分担をしたいが、私のハッキングはポッドの擬似的なハッキング機能を借りてるだけに過ぎない。ポッドが居なければ私はハッキングができない。

 

だが、ポッドにハッキングの専念をさせようにもヨルハ機体の性能を介さないポッド単身のハッキングだと限界がある。それだと時間がかかりすぎる。

 

空からは沢山の機械生命体が運びこまれてくるのが見える。ポッドは私よりもずっと脆い。この量では一人で守りきれるかどうかがわからない。

 

扉を開けたいのなら私はポッドから離れる訳にはいかず、ポッドも私から離れる訳にはいかない。

 

ジレンマに一瞬迷う。が、一旦ハッキングを諦めて、空いた両手に刀を構え、向かってくる奴らを迎え撃つ。

 

ギィン ギィィィン

 

少し攻撃すれば倒せる程度の機械生命体。それでも奴らにとって私のハッキングの邪魔をするには片手さえあれば十分だ。そのもどかしさが自然と刀を振るう力を強くする。

 

空からは次々と機械生命体が降ってくる。

 

「キリがないっ……!」

 

だが倒し尽くすしかない。沢山いるとはいえ無限ではない筈だ。本当はこんな所で体力を消耗したくないが。この際仕方な_____

 

[友軍の反応あり。]

 

ポッドの突然な発言に、そしてその内容に驚く。

 

「友軍……っ!?誰…!?」

 

友軍…?一体誰?

 

考えてみるが心当たりが全くない。

 

 

カラカラカラ…

 

ふと、後ろから、剣を引きずる何者かが現れた音が二つする。咄嗟に振り返るとそこにいた何者か、その二人の姿に驚いた。

 

「貴女達は…。」

 

その二人を私はよく知っていた。

 

「2B…。」

 

赤い髪の毛が特徴的なあの二人。

 

「来ると思っていたよ。2B。」

 

デボルとポポルだった。

 

二人は武器を構えて私に向かって走ってくる。一瞬攻撃を仕掛けてくるのかと身構えたが二人は私を通りこして機械生命体達と戦いはじめた。

 

「ここは私達が何とかする!」

 

「貴女は搭への扉を開いて!」

 

そう二人に言われ、反射的にハッキングに戻る。再び扉のセキュリティに向けて力をこめる。

 

「デボル…ポポル…どうして貴女達がここに?」

 

ハッキングに集中しながらも、ここに現れた二人の存在の疑問が自然と口から出る。友軍は彼女達だった。それは分かった。でも何故?

 

「2Bはハッキングに集中して。詳しい事は搭に入ってから説明するから。」

 

「……わかった。」

 

そう言われてしまった為、疑問が残るがハッキングに意識を集中させる。

 

後ろから機械生命体が爆発する音が聞こえてきた。あの二人は戦えている。私はハッキングに集中しろ。

 

そうして、二人の援護あってようやくセキュリティに入り込む事に成功した。

 

ここまで来てしまえば。セキュリティに入り込みそう思った矢先、このセキュリティの異常に気づいた。

 

セキュリティの防壁にハッキングの攻撃が通用していない。

 

この防壁は今までとは違う特殊な防壁だった。そして、その防壁に囲まれたセキュリティコアが幾つも現れる。

 

「なに…この防壁……!?」

 

[警告:閉鎖系防御システム。]

 

ポッドが警告を入れる。閉鎖系防御システムなんて初めて聞いた為どんな物なのかが解らないが、ポッドが警告を入れるということは只物じゃないんだろう。

 

「それはどうやったら壊せるの…!?」

 

存在を知っていたポッドなら破壊方法も知っているかもしれない。そう思い、急いで聞く。折角入り込めたのに対応できないなんて事では今も尚時間を稼ぎ続けている彼女達に更に負担をかける。

 

[予測:当該自我データを暴走させる。その自爆エネルギーで一時的に防壁を麻痺させる事が可能。]

 

「それじゃあ入れないのと一緒でしょ!?」

 

ポッドに悪気はないとは言えその方法の馬鹿馬鹿しさに声が荒くなる。

 

自我データはヨルハ機体、いやどのアンドロイドの基盤にもなっているいわば核だ。

 

それを暴走させるような方法なんて、自殺しているのと大差ない。

 

あんな煽るような事を言っておいて扉すら解錠させる気がないらしい。意地でも私を塔に入れる気はないようだ。

 

一体どうすれば_____

 

バチィ!!

 

「……ッあぁ!!」

 

考えている間にハッキングの時間が切れて折角潜り込んだセキュリティから弾かれてしまう。

 

弾かれた衝撃で後ろにのけぞり地面に座り込んでしまった。立とうとすると少し体がふらつく。防衛機能から反撃を受けたみたいだ。

 

「どうしたっ!?」

 

デボルが私に駆け寄ってくる。

 

「っ!!」ギィィン

 

だが、機械生命体の相手をしなければならない彼女は自分の事で手一杯だ。

 

私は私のできる最善を尽くさなければならない。再び扉の方を向き、必死に何か方法はないかと考えようとした。

 

その時だった。

 

 

「……っ!!ああああっ!!」

 

私がハッキングに失敗したことを確認したポポルが扉に向かい私の代わりに解錠を試み始めた。

 

だが、ヨルハのようなハッキングに攻撃機能を持たない彼女は扉の防衛機能に一方的に攻撃され、身体中からは電撃が走り、その苦しさから悲鳴を上げている。

 

「駄目っ…!その防壁は特殊で、普通にハッキングしても…」

 

 

ギギギッ

 

扉が少しずつだが、開き始めていた。何故。この防壁は自我を暴走させないと開かない筈じゃ…。じゃあまさかっ。

 

「ポポル!!そんな事をしたら貴女の回路は焼ききれてしまう!!」

 

ポポルが何をしているのか、そしてこのままだと何が起きるのかに気づき、咄嗟に止めようとする。

だが。

 

「うるさいっ!!」

 

「っ…!?」

 

ポポルの、普段からは想像できないような感情的な返答。その感情の大きさに驚く。

 

何故?何故そうまでして私の為に?

 

その疑問の返答になるように、次にポポルは叫んだ。

 

「私達は、私達の犯した罪を償うんだ!」

 

罪を償う。彼女の、彼女達の罪。

 

デボルポポルモデルが起こした事故の事だろう。でもそれは同型モデルが起こした事故であり彼女たちの責任ではない。だが、彼女達はずっとその事に対して負い目を感じて生きてきた。

 

一体ポポルがどんな意思と意味をもって私にそう叫んだのかは解らない。でも、「罪を償う。」その言葉は、私にとっては答えだった。

 

「……っ!!」

 

ポポルのその言葉を聞いた次の瞬間に、私の意思は私の中にある決意を改めさせ、体を少しずつ開きつつある扉向かって走り出させる。

 

「2B…!お前は後悔するなよ!!」

 

デボルが私に向かって叫ぶ。

 

ポポルの分の機械生命体の相手をしていて本当は私の事を気にしている場合ではないのに。

 

「……っ!!」 ズシャァア

 

私がギリギリ通れる位にまで開いた扉をギリギリ潜り抜けて中に滑り込んだ。

 

その次の瞬間だった。

 

「アアアアアアっ……!!」

 

電撃のショートする音と、ポポルの悲鳴が後ろから響く。

 

咄嗟に扉の方を振り返るが、その頃にはもう扉は閉じてしまい、外の音すら聞こえなくなってしまった。

 

「デボルっ……ポポルっ……。」

 

二人はどうなってしまったのか。その思いから扉を見つめ続ける。

 

だが、もう扉は閉じてしまったのだ。どれだけ念じてももう開かない。

 

私は意を決して振り返り、奥に続く道を進んでいく。

 

あの二人が命を懸けてまで私を搭の中に入れてくれたのだ。搭を破壊する。絶対に成し遂げなければならない。

 

進んだ先にある白い扉を抜けると、行き止まりの円上の白い部屋に出た。

 

私が部屋に入ると、ゴゥン。と一瞬ゆれ、上に向かって動きだしたような感覚になった。

 

これが恐らく搭の上に続くエレベーターなんだろう。部屋の広さ、装飾からそうは見えなかった。

 

 

[疑問:なぜこの搭に入り口が用意されていたのか?]

 

 

エレベーターで登るだけの空白の時間にポッドが口を開く。その疑問はまさしくその通りだろう。

 

[資源搬入は上から行われている事を確認。]

 

最初の回収ユニットから搭を見たときに運ばれていく機械生命体の残骸を見て私もおかしいと思っていた。

 

だが、それが何なのかはその時に既に考えていて、分かっていた。

 

[外部からの侵入口が用意されているのは不自然。]

 

[予測:罠。]

 

「…罠でもなんでもいい。全部破壊するだけ。」

 

私の答えは搭に入るずっと前からそれで決まっている。

 

ちょうどポッドとの会話の終わった頃にエレベーターが止まり、扉が開く。

 

エレベーターを出ると、複製都市のような風景と、道が奥に広がった。歩きだすと、カツカツとヒールがなる。

 

白く無色な四角で統一された床や段差、風景や装飾に柱はまるで神殿のようにも見える。

 

それらで一本道に作られた道を誘導されるように進んでいく。

 

奥から人影何体か向かってくるのが見えてきた。

 

「汚染されたヨルハ機体っ……!」

 

汚染ヨルハ機体がこちら向かって攻撃をしてくる。あの日以降やけに出会わないと思っていたが、どうやら彼らも搭に回収されていたらしい。

 

汚染機体を助けられる方法はない。

 

バッサバッサと切り捨てていく。汚染機体の動きは、乗っ取られるとはいえ、暴走しているようなものなので単調だ。

 

悲鳴が耳をつんざくが、あの日の作戦時と違い、何も感じなかった。

 

再びカツカツと道を進み続ける。所々床が抜けているため、穴に落ちないように足元に気を付ける。

 

暫くすると、あのアナウンスが聞こえてきた。

 

『こんにちは![搭]システムサービスです。』

 

あの軽々しい声の、あのいつもの挨拶のフレーズ。

 

『この度は[搭]にご来場、まことにありがとうございます。』

 

入り口であれだけ必死に抵抗しておいてよく言うなと思う。

 

『最後のサブユニットを解除されてご来場者様への「ファイナルワン賞」はこの先のお部屋にご用意しております。』

 

『ごゆっくりとお楽しみ下さい。』

 

そういってアナウンスが終わる。不意討ちを仕掛けてきた汚染機体を片手間に倒しながらあの何度か聞いたファイナルワン賞について考える。

 

景品などと言っているが、今までの事を考えればまず録な物じゃないと分かる。何か意地の悪いものがあるのだろうと既に想定がついた。

 

「…全部…破壊してやる…。」

 

あの此方をおちょくるような意図に、言葉に、行動に、それらに湧き出る苛立ちから自然と言葉が口からでた。

 

奥に大きくて真っ白な扉のついた部屋が見えてきた。これがアナウンスの言っていたファイナルワン賞がある部屋なんだろう。

 

扉に軽く手を触れると、木造建築のような見た目に似合わず、自動で開いた。

 

私は両手に刀を構えて、いつでも、どこからでも敵が出てきてもいいように意識を集中させ部屋の奥に進んでいった。

 

 

 

バッ

 

上から私の四方を囲うように何者かが現れる。

 

「!!」

 

戦闘態勢に入り、現れた敵達の姿を確認する。

 

が、その姿を見て、入っていた態勢は崩れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイン……ズ……?」

 

私の四方を囲っていたのは、知らない訳がない、忘れる訳がない、彼だった。

 

 



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Episode.25 [B]attler meets 2 nine[S].

N2、あの仕打ちの徹底ぶり見てると本当は殺意マシマシ激強ナインズ君に内心すごくビビってたんだろうなぁ…と思うので初投稿です。


 

「ナイン…ズ…?」

 

自分の四方を、いや八方をも、それ以上もの数で囲うその敵機体の姿を彼女は知っていた。否、知らない訳がなかった。

 

あの黒い服に黒の手袋。そして緑色のショルダーバッグを背負った白髪の少年の姿。

 

「9Sタイプ……。」

 

先程にナインズと呼んだ事は訂正するように2Bは呟く。呼び方を訂正した理由。それは彼女が目の前に立ちはだかる彼らがどういう存在かを頭では理解したからだった。

 

彼らは9Sのコピー機体だろう。9Sのデータを元に作られた偽物。開発された時から既にウィルスを投与されてネットワークで繋がれた正真正銘の敵性機体。

 

だが、それでもあの姿形をしているせいで、2Bはその存在に自分のよく知った彼の姿を意識せざるおえなかった。

 

 

 

 

ヨルハ機体9号S型。

 

通称9S。

 

いいや、ナインズ。

 

私があの日失ってしまった、他の誰よりも大切だった人。

 

誰よりも大切なのに、殺し続けてきた人。

 

他の誰よりも、殺したくなかった人。

 

その君の姿をした敵が、私の前に立ちはだかっている。

 

 

 

「…。」

 

 

「……っフフ……フフフフ…ッ!」

 

 

2Bは9S達の姿を見回しまじまじと見ると、不気味な笑い声をあげ始める。物悲しさと、嬉しさを込めた笑い声を。

 

ファイナルワン賞。あのアナウンスが語っていたそれは、きっとこの9S機体達の事を指すのだろう。

 

今までアナウンスが、いや、[搭]がもたらした2Bへの仕打ちは散々な物だったが、その中でもこれは特に悪趣味で意地の悪い物だった。

 

[搭]が生み出した、9Sのコピー機体。

 

2Bがここを突破するには、搭を破壊するには、この9S達を相手にしなければならないだろう。

 

それはつまり9Sを破壊しなければならないという事。

 

それはつまり9Sを殺さなければならないという事。 

 

これは彼女のよく知った9Sの姿を敵として立ちはだかせる事で彼女の戦意喪失を計り、そして同時にここで彼女を破壊することを目的としたものだった。

 

戦闘に高いスペックを持つ2Bを確実に破壊したいのなら確かにこれは非常に論理的で、そして非情な倫理的方法と言える。

 

一応言っておくと、この量産された9S達には2Bとの記憶も自立した自我も存在しない。[搭]が作った、本当に形だけの9S。

 

だが、9Sの形をしたモノを破壊させる。それが彼女にとってどれだけの仕打ちかを、どうしてかその[搭]はよく知っていたようだった。

 

だが、[搭]は同時に知らなくもあった。

 

9Sを殺させる。

 

ナインズを殺す。

 

 

 

 

 

それが2Bの、最も触れてはいけない領域だった事を。

 

 

 

 

 

「……クッフフフフフフフフ……。」

 

 

「……フフフフフっ…!アッハハハハハハ!!」

 

 

2Bの不気味な笑い声は次第に大きくなり、やがて嬉しさだけをその中に残したものになる。

 

そうして暫く笑い続けると、彼女は自分の出方を伺う彼らに向かって、まるでさも見知った仲であるかのように話しかける。

 

 

「あぁ…駄目じゃないナインズ…。…また私に会いに来たら……。」

 

 

そう語る顔は下を向いていたが、下を向いているのがうつむいている訳ではないからなのだと、そう説明するかのように彼女の声は恍惚としていた。

 

恍惚とした、普段の彼女からは決して想像できないようなトーンの声。

 

彼らが立ちはだかる事へ否定の意を示している、その筈の言葉は、その内容とは裏腹なその声と顔のせいで、再会への嬉しさを分かりやすい程に醸し出していた。

 

そして彼らへの呼び方を、ナインズに戻していた。

 

彼女は彼らが偽物であるととっくに理解している筈だった。

 

しかし。

 

しかし、それでも。

 

例え形だけだと頭で分かっていても、彼女は9Sとの再会を喜ばずにはいられなかった。

 

もう二度と、この世界でその姿を目にすることはないと思っていたのだから。

 

2Bは片手の刀を顔に近づけると、ビッ と着けていたゴーグルを切り捨てた。

 

ハラリと力なくゴーグルは落ちていく。

 

2Bは落ちていくそれには目もくれず、露になった水色の、美しくも濁ったようにも見える正真正銘の自分の目でもう一度9S達を一人一人見回す。

 

しっかりと目に焼き付けるように、忘れないようにと、じっくりと一人一人顔を覗きこむ。

 

 

 

「クフフっ……そうだったねナインズ……。」

 

「次はちゃんと殺してって…」

 

「私に殺して欲しいって…。」

 

「君がそう約束させたんだから…。」

 

 

 

 

 

「……いいよ、ナインズ。」

 

 

そう言うと2Bは、再びスッと戦闘態勢に入る。

 

殺すべきか、否か。

 

彼女の中で、答えはとっくに出ていたようだった。

 

 

 

「何度でも。」

 

 

「何度でもっ。」

 

 

 

 

 

「何度でもっ!!私が…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が殺してあげるからっ!!!」

 

 

 

 

その叫び声を合図にするかのように、十数体もの9S達は一斉に2Bに向かって襲いかかる。

 

2Bも一人の9Sに走り向かっていき、応戦しようとしてきた攻撃をかわして、慣れた手際で心臓部に刀を突き刺す。

 

ズブリと、あの鈍い感覚が刀を伝う。

 

だがそれに彼女は微塵の抵抗も見せず、刺しこんだ刀を勢い良く引き抜き、両手の刀で交互に何度も高速で突き刺した。

 

体を一瞬でめった刺しされたその個体はぐったりと倒れこみ、血溜まりを作って動かなくなる。

 

刀を振るい、刀身についた血をビッ、ビッと払う。

 

バッ と後ろから二体が不意討ちを仕掛けてくる。

 

2Bを肩から脇腹にかけてバッサリ切り裂こうと、二体が刀を振るったときには、もうそこに2Bの姿はなかった。

 

突然消えた2Bの姿を探して前方を見るが、その姿は目に映らない。

 

カツカツ……

 

彼らの背後から彼女のヒールの音がした。  

 

切り裂こうとした時点で、とっくに背後に回られていた。

 

二体は咄嗟に後ろに振り向こうとするが、もう既に切断されていた首が振り向く体の動きに追い付かずゴトリ、ゴトリと落ちる。

 

「君の殺し方はよく知っているよ、ナインズ。」

 

ダダダッ と殺意を露にして武器を構えて走り向かってくるナインズ達に、2Bは嬉しそうに語りかける。

 

「あぁ…ようやく私を殺してくれるの?」

 

だが2Bのその嬉々とした語りかけに反して、9S達は固く口を閉じて一言も喋らず、その表情はひしひしと感じさせる殺意に対して酷く無機質だった。

 

ネットワークから命令された2Bの破壊を遂行する事だけが存在目的の彼らに2Bに何かを感じる感情も自我もないのでそれは当然ではあるが。

 

だが彼女にとって、その無機質な顔はナインズを意識させない、本当に偽物であると感じさせてしまうには十分だった。

 

頭だけでなく、心でも彼らがナインズではないと理解した2Bは、二本の刀を握る手が緩み、顔が無表情になっていき、途端にやる気を無くしてしまう。彼らの無機質な殺意を、これだと許容できそうになかった。

 

だがそれでも2Bはやる気がないとは到底思えないような圧倒的な力量差で向かってくる9S達を淡々と切り捨てていく。

 

 

彼らがハッキングでもしてくれれば良いのに。そうすればナインズだと思えるのに。

 

 

2Bは片手間に彼らをさばきながらそんな事を考える。

 

だが、[塔]の作った9Sは彼女の動揺を煽るためだけに急ピッチで作られたもの。順当にいけば彼女を一方的に破壊する筈だった彼らにハッキング機能なんて複雑なものは搭載されていなかった。

 

彼女の欲求は叶うことなく、気がつけば9S達は皆地面に倒れ、傷だらけにされた体を中心に血の溜まりを作ってその中に力なくうずくまっていた。

 

シンと静まり返った部屋に一人2Bは立っていた。

 

ただ何も喋らず、刀を納めて転がっている死体を眺める。

 

「……。」

 

…違う。

 

求めていた物と、違う。

 

そう不満を無口に漏らし、2Bは歩き出し、カツカツと、そしてたまに血の溜まりを踏んでピチャピチャと音をたてながらこの場所を後にしようとする。

 

 

 

ピクリ

 

 

 

視界の端に傷だらけの体を動かし再び立ち上がろうとする一体が見えた。

 

2Bはその一体に向かっていき、立ち上がろうとしていたその個体を蹴り転がして仰向けにすると、そのまま淡々と止めを刺そうとする。

 

その時だった。

 

「……2…」

 

「……2B…。」

 

固く閉じていた筈の9Sの口から、あの声で彼女の名前が出た。

 

もう一度言うが、この9Sに2Bへの感情も自我もない。そんなこの機体が今2Bと名を呼んだのは、明らかに殺そうとしてくる彼女の動揺を誘う狙いのものだった。

 

 

「…ナインズっ!」

 

 

自分を呼ぶあの少年の声に、2Bの顔は笑顔に変わり、嬉しそうに彼の名を呼ぶ。目論見通り2Bはこの機体の声にナインズの姿を感じた。

 

 

ザスッ

 

 

だが、彼女はそうしてこの機体をナインズに見立てたにも関わらず、当然のようにその胸に刃を突き刺した。一見するとおかしな行動に見えるだろう。

 

しかし彼女にとって彼がナインズである事を意識したかったのは、ナインズを殺したという実感が欲しいからだった。

 

最初から殺したくて、彼らに面影を求めていた。

 

「ああぐっ……!?」

 

汚染個体は苦しみ悶る。痛みと、その一撃が予想外だった為に。

 

その声が余計に2Bの殺意をそそり煽った。

 

2Bは邪魔な刃を引き抜くと、その少年の細い首を両手で掴むと力いっぱいに締め始める。

 

最初は小さく、少しずつ、じわじわと強く力を込めていく。

 

「……っぁ! ぁっぐ!!」

 

バタバタと、残る力で肢体は暴れ回ろうとする。が、その首を締める両手は決して動く事を許してくれない。

 

「…ナインズ?…なんで、そんなに嫌がるの…?」

 

「…なんでっ…なんでそんなに暴れるの…っ!?」

 

「いつもは、大人しく殺されてくれる癖にっ…!!」

 

「そのたびにっ……私がどれだけ苦しかったなんて分からない癖にっ……!!」

 

2Bは、彼が必死に抵抗しようとするのが気に入らないようだった。

 

それに乗じて、罵倒に似せた独白を吐き始める。

 

 

「……全部っ!!全部君が望んだからっ!!」

 

「君が…!!いつもそう約束させたから…っ!!」

 

「私に殺して欲しいって、そう言ってたからっ……!!」

 

「だから君の全部は…!…私が奪う筈なのにっ!!」

 

 

ギリギリとなる音は、次第にミシミシと軋む音に変わっていく。

 

それと共に2Bの声色も激情的に変わっていく。

 

 

「どうして嫌がるの!!?何が気に入らないのっ!!?」

 

 

「私はずっと!!ずっと君が望んだ通りに殺してきたのに!!」

 

 

「君の全部を奪ってきたのにっ!!!」

 

 

もう、少年の体は抵抗も出来ない。ただ迫る死を拒絶するように小刻みに震え続ける。

 

殺す事を、拒絶されている。

 

その事実が、2Bの内なる劣等感を刺激し続けた。

 

「…っ!!……どうして…!」

 

「どうしてっ…!?ねぇ、どうしてっ!!?」

 

「私の何が足りなかったの!?どうして私じゃ駄目なの!?」

 

「君を殺してきたのは…ずっと私だったでしょっ!?」

 

「何でっ…!!」

 

 

「なんでA2なのっ!!?」

 

あの日の光景が、何度も、何度も当てつけるように彼女の脳裏に浮かんでくる。

 

あの自分の顔をした。けれど自分じゃない他の誰か。

 

いつもそこにいたのは、私だった筈なのに。

 

そう限界の手に、まだ執拗に何かを求めて力を込めようとする。 

 

 

あの最期の微笑みを。

 

 

あの最期の言葉を。

 

 

あの最期の姿形を。

 

 

彼との終わりの瞬間を。

 

 

別れの挨拶を。

 

 

「あれが……本当に、最後だったのに……!!」

 

 

「なのに…ッ!」

 

 

「…私の物で終わらないなんてっ!!!」

 

 

「そんなのッ…」

 

 

 

 

「 約束と違うじゃない!!?ナインズッ!!? 」

 

 

ベキィッッ……!!

 

 

甲高い最後の激昂と共に、その首はへし砕けた。

 

それと同時に、少年の形はもう寸分も、ピクリとも動かなくなる。

 

「ハァーーッ…。ハァーッ……。」

 

「…ハァー…。」

 

2Bは内に溜めた全てを吐き散らかし終わると、一度瞳を閉じて、静かに目の前の死体を見る。

 

死んだ。

 

殺した。私が殺した。

 

 

「……。」

 

 

それから、数秒。

 

「……フ」

 

「…フフフ…!アッハハ!」

 

「アッハハハハハハ!!」

 

ゾワゾワと、最初はゆっくりに、そしてそれから一気に体中を駆け巡る、彼を殺した鈍くて疎ましい感覚に、歓喜の声をあげ始める。

 

 

手にべったりと纏わりつく、あの感覚。

 

刀を再び手にとって、血の色がよく映えるその白い刀身を愛おしそうに拭い撫でる。

 

刀身に反射したその笑顔はとても満たされていて、同時に引きつっていた。 

 

 

何故満たされていたのか、あの時は理解に苦しんでいた。

 

 

だがあの時と違い、彼女は今自分が、何故満たされているのかをよく理解していた。

 

ナインズを殺す。その感覚の実感。

 

 

それは疎ましく、恨めしく、忌み嫌っていた物の筈だった。

 

だが、彼との最期の一時を、彼の記憶を、彼の事を、その全てを自分の手から失くしてしまった彼女にとって…。

 

 

 

 

もう…その感覚だけが…彼女に唯一残る、彼との関係を、あの日壊れてしまった二人だけの関係を。

 

再び形にしてくれる…体に染み付いた追憶だった。

 

 

 

「アッっハハハハ……!ハハハハハ!!」

 

 

「ハハハっ…!ハハハハっ…。」

 

 

「ハハハ……。」

 

 

「……はは…。」

 

 

だが、だんだんと笑う声は小さくなっていき、2Bは眺めてた刀をもつ腕もダランと下げて、ガックリとうなだれる。

 

 

「…………う…あぁぁ………。」

 

 

笑っていた筈の声は、気がつけば小さく泣くような声に変わっていた。

 

 

 

どうして、こんなに壊れてしまったんだろう。

 

 

 

もう、殺すことでしかあの日々を感じられない。

 

彼との記憶はこんな…歪なモノじゃなかった筈なのに。

 

ずっと大切にしてきたあの日々は、もっと光に満ちていた物だった筈なのに。

 

それでもあの光のような思い出よりも、この感覚を求めてしまう。まるでそれが私達の全てだったみたいに。

 

でもそうまでして、この感覚求めても。

 

それでも一瞬しか満たされない事が…虚しくて、悲しくて、寂しくて。

 

 

「…っ…ぁ…。」

 

涙になって、溢れてきそうになる。

 

その時だった。

 

 

 

ピッ ピッ

 

 

不穏な音が、死体から鳴り響いてくる。

 

「…ッ?」

 

ピッ ピッ ピッ。

 

 

規則的であるその音に何か嫌な予感を感じる。

 

同時に周りに転がる死体からも同じく鳴り響いてきた。その音に不信感を感じた事で、さっきまで頭一杯にあった感傷が消えていった。

 

 

ピッ ピッ ピッ。

 

ピピピピピピピピピッ!!!!

 

 

 

「あっ!!!」

 

次に思考を満たしたのは、生命の危機を感じさせる程の焦り。

 

規則的な周期の音が、何かを警告するかのような勢いのある音に変わった事が何を意味しているのか、理解した瞬間にはもう遅かった。

 

2Bは咄嗟に死体から距離を取ろうとしたが、もう間に合わない。

 

 

ドカンっ

 

ドカンっ!!

 

ドカンッッ!!!

 

 

突如して死体たちは爆発し、その閃光の中に2Bの姿はかき消された。

 



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Episode.26 [A]ttacker know 2 the truth of [B]attler.

たとえ文法ガバガバになっても英文タイトルに意地でもto(2)を入れたいので初投稿です。



 

 

[報告:大型構造物、通称[塔]ゲートの開放を確認。]

 

「わかった。」

 

そう聞くと、A2は目の前にまで見えてきた塔を見上げる。

 

なんとなく機械生命体達の情報があるかもしれないなんて推察と好奇心で彼女は塔にまで来たが、いざ近くで見るとその巨体ぶり、そして機械生命体のハイテクノロジーさに辟易とした。

 

本当に塔に入ろうかと彼女は一瞬迷う。

 

あの塔は機械生命体由来のものだ。そこに自ら進んで入るなんて危険極まりないだろう。それに自分に好奇心以上の大した関心があるのかと聞かれればそうではない。

 

しかし。その好奇心こそが、機械生命体の情報があるかもという情報収集欲こそが、今のA2にとって大切な事だった。

 

彼女は自分の中にある欲求を再確認すると、塔へ向かう足を再び動かす。

 

そうして、入り口辺りにまで近づくと、まだ新しく見える機械生命体達の残骸が沢山転がっていた。

 

A2はなんとなくここに誰がいたのかを察する。

 

だが、よく見ると所々、数体の残骸の傷口がここにいたと思われる誰かの持っている刀で出来たものではないことに気づいた。

 

ふと、入り口の中で誰かが壁に寄りかかって倒れているのがA2の目に映る。

 

あの形はアンドロイドだ。A2は駆け寄っていく。

 

そしてその姿を確認するとA2は言葉を失う。そこで倒れていたのは、あの双子型アンドロイドのデボルとポポルだった。

 

デボル、ポポル。以前2Bと間違えられて、なんだかんだで世話になったレジスタンスのアンドロイド。

 

デボルとポポルは体からプスプスと煙をあげて、所々が焦げて点々と黒ずんだ体でぐったりと倒れこんでいた。

 

「あぁ……A2か……。」

 

デボルが私の姿を見ると力なく私に話かける。

 

それに対してポポルは倒れこんだまま目を閉じて動かない。…もう死んでいるようだった。

 

「塔の入り口は……開けておいた。2Bが先に行ってる……。」

 

力なくもデボルは喋り続ける。

 

2Bというワードよりも黒焦げになって、煙を上げている傷口の方を気にする。

 

入り口を開けるのに一体どんな無茶をした。いや、それ以前に何故この二人がここにいる。

 

どれもこれもわからない。が、デボルももうじき死ぬのだろうという事、それだけはわかってしまった。

 

「……そうか。」

 

別にデボル達とは大して深い仲じゃない。だが、見知った奴が死ぬのはそれでも気分が重くなる。

 

「なぁ…。」

 

「私達は…。役に立ったか…?」

 

デボルは最後の力を振り絞るように、私に聞く。

 

「……あぁ。」

 

私がそう言ったのを聞くと安心した顔で目を閉じて、デボルも寸とも動かなくなった。

 

…。奥にある扉の方に向かっていった。

 

 

扉の先の部屋に入ると、ゴゥン。と揺れて、上に向かって動き出した感覚がした。これはエレベーターか。

 

階段が無いなと思っていたが、そういう事か。

 

暫くすると扉が開く。

 

その先に広がっていたのは、色のない真っ白で角質な一本道。不思議な場所だと感じる。

 

カツカツとヒールを鳴らしながら一本道を進んでいく。

 

少し進んでいくと真っ白な地面に似つかわない黒いものが所々転がっているのが見えた。

 

「これは、ヨルハ部隊の死体…。」

 

[予測:先行して入ったヨルハ機体2Bによるもの。]

 

この先に2Bがいる。塔に入る前から気付いていたしデボルからも聞いていたが、転がっている死体を見てようやくそれは確信に変わる。

 

一旦歩く足が止まる。

 

このまま進むべきか、否か。

 

「……行くぞ。」

 

そう自分にも言いきかせて、再び歩き出す。

 

2Bとはどんな形であれ、決着を着けなければならないだろう。

 

可能なら和解したいのだが、もしそれが叶わないとするならば…。

 

…9Sには悪いが、その時の覚悟は決めているつもりだ。

 

再び進んでいくと大きな扉のついた部屋が見えてきた。その部屋に入ると、何やら地面に大きく崩落したような跡があった。瓦礫で埋まっているのを見るにおそらく下にも部屋があるのだろう。

 

危ないのでその崩落した地面の周りにそって進んでいく。

 

一体何があったのか。2Bの仕業か?とも思うがまずはこの塔について考えてみる。

 

「この構造物の目的は?」

 

ポッドに聞く。初めて見た時から思っていた疑問だった。

 

 

[塔]。機械生命体由来。よって多分ろくな物ではない。以上。

 

 

そんなざっくりとした事以外は何もわかっていないのが現状だった。

 

[不明。]

 

[推奨:情報収集。]

 

「……だろうな。」

 

まぁそうなるだろう。聞いておいてあれだがポッドが知っていたらそれはそれで怖い。

 

そうしてこの部屋を後にして、再び進んでいく。すると、また扉が見えてきた。

 

2Bがいるかも。と思ったが、迷わずその中に入る。

 

入った先の部屋の光景は、これまた真っ白で不思議な場所だった。

 

「何だ…この部屋。」

 

辺り一面に本のような物が詰め込まれた棚がびっしりと敷き詰められて広がっていた。

 

[予測:図書館を模した施設。]

 

「図書館?…何だそれ?」

 

[過去に人類文明が作り上げた情報保存施設。]

 

「へぇ…!」

 

情報保存施設と聞くとA2の顔が好奇心に満ちた明るい物になる。

 

それを模したものならここには沢山の情報で溢れているのでは?と気づいたようだった。

 

早速本の一つをとって、パラパラと読んでみる。 

 

載っていたのは人類が滅亡に至るまでの道のり。ゲシュタルト計画というのを記したものだった。

 

魔素(?)を利用した魂と体の別離。よくわからない技術だが、なんか凄いことをしていたんだろう。

 

ひとしきり読み終えると丁寧に戻す。本当はじっくり読みたいのだが、それだと埒があかないので別の本も手当たり次第に読んでいく。

 

図書館を模したこの場所には求めていた塔の情報。それ以外にも機械生命体の情報。

 

そして人類、ヨルハ部隊の情報が沢山あった。

 

どうやら奴らはかなり早い段階から月面の人類サーバーに潜りこむ事に成功していたらしい。

 

そして、バンカー本部にも。

 

本当にクソな奴らだ。いつでもヨルハなんて滅ぼせた癖に機械生命体の存在維持・発展の為に敢えて生かしていたらしい。ずっと最初から手の内だったって事だ。

 

だが、そんな知りたくなかった事もA2は好奇心に任せて集めていく。次第にもとあった場所に戻すのを忘れてA2の周りには本の山ができていった。

 

自然な手つきで一つ本を取り、読み、情報を頭に入れると、自然な流れで山の上にまたおく。

 

そしてまた自然な手つきで一つ取り、その表紙を見て開こうとする手が止まった。

 

「〘ヨルハ計画における二号モデルの運用概略〙…。」

 

ヨルハ機体の二号モデル。A2と、そして…2B。

 

A2は先程までと違い、この本だけは開けるのを躊躇った。

 

それは自分の、ヨルハ機体A2について知りたくないような真実が載っているかもというよりも、2Bの真実が載っているかも知れないという思いからだった。

 

2Bの真実。正体。

 

ここに来る前にしていた考察の答え合わせが、ここに載っている。

 

そんな確信があった。

 

自分の考察がハズレてほしくないのか、それともハズレていて欲しいのか。

 

そんな矛盾した思いから、開けられずにいた。

 

だが、A2は小さく深呼吸をすると静かに意を決して本を開いた。

 

 

「……。」

 

 

ザザッ

 

2Bの正体を知った事がトリガーになったと言わんばかりのタイミングでA2の頭に9Sの記憶が流れる。

 

それはあの時求めていた、2Bの正体についての記憶。

 

「…そうか…2B。やっぱりお前は……。」

 

記憶にも今見た真実の信憑性を補強され、A2がそう呟いたその時だった。

 

 

ドオオォン!!

 

「っ!?」

 

雰囲気と天井を突き破って、漆黒の体をした巨大な機械生命体がA2に襲いかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

___________

 

 

 

 

 

 

ドォン

 

ドオン

 

 

一瞬の閃光と、爆音。

 

その中に黒い服を着たアンドロイドの姿が消える。

 

 

 

閃光が止むと、もうそこには誰もおらず。カラカラと小さな瓦礫が降り転がり、煙が立ち込んだ。

 

そしてシーン…となり、静寂だけが部屋に残った。

 

だが、暫くするとギィィィ と、静寂を破るかのように扉が開いた。

 

カツカツとヒールを鳴らしながら、足を横から前に出す不気味な歩き方した何者かが部屋に入ってくる。

 

「貴女がちゃんと時間ピッタリに来るとは珍しい。」

 

その入ってきた何者かに話しかけるこれまた何者かが柱の影からひょっこり出てくる。

 

「失礼ですね~。その言い方だとまるで私がいつもは遅刻してるみたいじゃないですか。」

 

「いやしてるでしょう。」

 

間延びした声と、呆れたような声。

 

その声に違いがあれど、その二人の姿はそっくりそのままであった。

 

顔立ち。かけているメガネの形。着ている服の構造。持っているケース。黒髪のツインテール。

 

まるで鏡がおいてあるかのように二人は向かいあっていた。

 

「…まぁいいです。どうでしたか?観測対象A2は。簡潔かつ具体的に。」

 

淡々とした方が、間延びした声の方に聞く。

 

「え~簡潔かつ具体的にって難しいなぁ…。あ~…大筋は今まで通りでしたけど、所々機転が利くようになってましたね。」

 

「しかも自力で2Bの真実にまで至ってて、彼女かなりナインズ君の記憶の影響を受けてましたね。」

 

「あとポッド153が042よりA2に対して挑発的で草生える。」

 

「そちらは?」

 

間延びした方もしてない方に対して返すように質問する。

 

 

「こちらも予測通り観測対象2Bの行動、言動は既存のルートの9Sと大体一致していましたね。まぁ立ち位置が変わっているという時点で大きな変化ですが。」

 

間延びしてない方は眼鏡をクイッと上げて淡々と言う。

 

 

「そうですか…。ハァ~ア。」

 

 

「どうしました?ため息なんてついて。」

 

 

「……な~んか思ってたのと違ってたなって。もっとこう、劇的に変わるものかと……。」

 

「ハァ…退屈ですね~…。」

 

間延びした方は同意を求めるように言う。

 

 

「退屈…?私はとても楽しいですが…。」

 

が、淡々とした方は淡々と否定する。

 

「確かに大筋は変わっていませんが、立ち位置が変わった事で背景にある事情や心情には既存のルートと大きく違いが出ていますよ?」

 

「特に2B。彼女の背景を知っていると尚更楽しいと私は思うのですが…。あ、報告書まとめてあるので読みます?」

 

そう言って熱弁した方は手に持っていたケースを置いて開くと、紙の束を取り出して はいっ と渡す。

 

「ハ、ハァ…。」

 

人の荒んでる所を見て楽しいだなんて怖いなぁこの人。と思いながら間延びした方は適当に相づちを打ち、どっさりとした紙の束を受けとる。

 

それをしまおうと彼女もカチャリとケースを開けると、ちょうどそのケースに入っていたレーダーらしきものがピコンと鳴る。

 

「あ~。A2が塔に着いたみたいですね。」

 

間延びした方が言う。

 

「おや、もうそんな時間ですか。なら2Bもそろそろ再起動しますね。」

 

「もう少し情報共有をしたかったですが…仕方ありませんね。」

 

そう言うと、真面目そうな方はケースを持ち上げて、歩き出す。

 

「ではアコール。塔最上部にて合流を。」

 

「了解で~すアコール。」

 

間延びした方も、ピシッと敬礼をしてケースを持ってたちあがる。

 

二人のアコールは互いを背に鏡のような均一さで逆方向に、あの不気味な歩き方で歩き出して行った。

 

カツカツとした二人のヒールの音は、微妙にシンクロせずズレながら部屋に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ。そういえばパスカル村助かってましたよ。」

 

 

「えっ!?いやそういうの早く言ってくださいよ!?」

 

 

ついでに怒鳴り声も響いた。

 



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Episode.27 [B]attler lost 2 the meaning.

2Bがヨルハ計画の真実知ったらナインズ君以上に絶望しそうだな~。って思ったのがそもそものきっかけなので初投稿です。


 

 

 

「………ッ……。」

 

爆発により床が抜け、落ちた先の部屋で崩落してきた瓦礫と共に転がっていた2Bは目を覚ました。

 

咄嗟に距離を少しでも取った事で爆発のダメージは比較的に少なく、また運よく瓦礫にも押し潰されずに済んだようだった。

 

だがそれでも爆発をモロに受けた為に髪は乱れ、服は所々破れてボロボロになり、顔の肌の塗装も所々剥がれて薄く黒の素体が見えかけていた。

 

その顔はどことなくA2を彷彿とさせているが、2Bはそれを知る由もない。

 

そして、

 

「…っぁ…!?」

 

バチバチと小さく音がしていた左腕を見ると、二の腕から先の前腕が無くなっていた。

 

銅色の配線や鉄繊維は剥き出しになり、バチバチと火花を散らしている。

 

「…っあぁ……」

 

ダメージを確認してからようやく遅れて伝わってきた痛みに耐えかねて、反射的に2Bは起き上がろうとする。

 

が。グンっと右下側から押さえつけてくるような力で立ち上がれない。

 

力を加えられた方を見ると、スリットで分けられたスカートの右側のリボンが瓦礫に挟まっていた。

 

ググッと右足で瓦礫を押して引きずり出そうとするが瓦礫は大きく重すぎた為、ブチッ。とリボンの方が先に加えられた力に耐えかねて根元から破れてしまう。

 

勢い良く破れ取れたその反動で左側にゴロリと転がると

 

転がった先で、あの少年の顔が目の前に見えた。

 

汚染個体の一体が倒れていた。恐らく起爆し損ねたのだろう。

 

その個体は崩れた柱に体を挟まれていて、此方と向かい合うように倒れていた。

 

その顔にゴーグルは爆破で消し飛んだのか無くなっていたが、目は眠っているかのように閉じていた。

 

無論これは先刻既に殺していた為に死んでいて、目を閉じているのだが。

 

だがそう理解していても、その顔が穏やかに眠っているように、そう見えた2Bはその少年の顔を愛しそうに眺める。

 

残っている右腕を彼の頬にむかって伸ばして、その頬に乗った瓦礫の粉を拭うようにして撫でる。

 

そして次に彼の左腕を掴むと、その手で自分がそうしたように自分の頬を撫でさせた。あの黒い手袋の触感が頬に伝う。

 

「……っ……はぁぅ…。」

 

2Bは目を閉じると一つの記憶に浸り、恍惚としたような…寂しさに泣くような吐息を吐く。

 

 

昔こうやって、頬に流した涙を拭おうとしてくれた彼がいた。でもその手は本人が自己破壊ウィルスを投与していた事で、届く事なく崩れてしまった。結局、涙は溢れて頬に伝い続けていた。

 

届く事の無かったあの日の手を、とっくに渇いた頬に当て続ける。

 

 

暫くすると満足したのか、腕を掴んだまま体を起こして、そのまま掴んでいる左腕を袖からブチッと引き抜くと。

 

「…っ!!ぁあ…ッ!!」

 

自分の腕として、無理矢理傷口に接合する。

 

バチバチと接合部から火花が散る。荒療治の溶接であるため腕の損傷部の神経の一部が焼き潰れてその痛みで悶える。接合した手の指が一本一本不規則に閉じたり開いたりする。

 

暫くすると指示系の回路がしっかりと繋がったようで、まだ指が勝手にビクビクと動くが体に馴染んできた感覚がする。

 

再び頬に当てて撫でる。その手は暖かくなっていた。

 

その感覚に少しでも意味を見出すと、接合部から火花と煙がまだ出ているが立ち上がって歩き始める。

 

[警告:汚染機体からの部品移植により運動機能内にウィルス汚染を検知。]

 

[推奨:ウィルスの]

 

「やって。」

 

[了解。]

 

2Bは何処からかさりげなく現れたポッドがそう言い終わるよりも早くウィルスの除去をさせる。そうまでして再び戦闘に戻る事に急いでいた。

 

ウィルスが除去され、体が少し軽くなったのを確認すると再び歩き出す。

 

「まだ、まだ戦える……戦わなきゃ……。」

 

失った全てに報いなければならない。ヨルハに。司令官に。皆に。ナインズに。こんな所で止まっている訳にはいかない。

 

その意思からまだ体が痛むのを我慢して先に続く道に向かって歩き続ける。

 

 

[報告:運動領域内のウィルス除去時に中枢システム内にもウィルスの深刻な汚染を発見。]

 

[中枢システムの汚染の状態からして先程のものではなく、塔侵入以前の物と推測。]

 

[疑問:中枢システムの汚染をヨルハ機体2B本人が確認できていないのは妙。]

 

「……とっくに知っていた。」

 

[当機ポッドは汚染時点での報告をヨルハ機体2Bから受けていない。]

 

[何故。]

 

「ほっといて。」

 

[否定:このまま中枢システムの汚染を放置することは]

 

「ポッド。」

 

2Bは低い声で牽制するように言う。

 

このまま喋らせ続ければポッドはウイルス除去の為に記憶の再フォーマットを提案してくるだろうと予測が着いていた。それ以外にこのウイルスを除去する方法は無いのだから。

 

だが彼女はその方法は絶対にしないととっくに固く決めている。

 

先へ進む事に急ぐ2Bにとって不毛なやり取りをするのは惜しかった。

 

[……。]

 

ポッドは2Bの意思を汲み取ると、それきり何も言わなかった。感情を理解する機能など持ち合わせていない筈である彼は、どうしてか2Bが記憶の再フォーマットを拒む理由が理解できたようだった。

 

 

 

 

2Bは進み続けながら、汚染されていく自我を改めて確認する。

 

自分が自分で無くなっていくような感覚が少しずつ強くなってきている。

 

汚染に微塵の恐怖が無いわけではない。

 

いやむしろ彼女は汚染されきって記憶が無くなる事を何よりも恐れていた。

 

自我の喪失、別のなにかに乗っ取られる。それはアンドロイドにとって死よりも恐ろしい事だった。

 

ずっと、この恐怖と戦っていた。

 

その恐怖を認識するたびに、心が折れそうになってしまう。

 

どうせ消えてしまうなら、いっそ自分でと。

 

けれども、その度に2Bは記憶の一つを再生する。

 

 

 

 

9Sの最期の言葉を。

 

 

 

 

『こちらヨルハ部隊所属9S。この録音を聞いた人がいるなら、ヨルハ部隊所属2Bに会ったときにこう伝えて下さい。』

 

『単独行動が主な任務である僕らS型モデルにとって……。』

 

『…いや。』

 

『僕にとって、あなたと共に過ごした日々は…例え少しの間だけのものだったとしても…僕の大切な、大切な宝物でした。』

 

『本当はもっと話したい事。聞きたい事、一緒にしたかったことがもっと……もっと沢山あったけど………。』

 

 

 

『……君との時間をありがとう。2B。』

 

 

 

「…ナインズぅっ……。」

 

宝物。彼にとって私との記憶は宝物だった。

 

 

それと同じように、私にとって彼との記憶は光のようなものだった。

 

とても大切な、大切な物。

 

壊したくない、これだけは殺したくない。

 

 

あの日々を、思い出を、無かった事にしたくない。

 

 

 

この中には、まだ彼がいるんだから。

 

 

 

だからこれだけは…。

 

 

 

 

もう、これだけは……っ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう……私に奪わせないでぇっ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2Bは、歩き続ける。

 

 

蝕まれる体。

 

 

機械生命体、この世界。

 

 

あるいは運命。

 

 

 

全てと戦いながら。

 

 

 

最後まで、

 

 

 

最期まで。

 

 

 

 

抗ってみせる。

 

 

 

 

 

抗え。

 

 

 

 

 

 

 

 

抗え。

 

 

 

 

 

 

 

 

抗え、最後まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヨルハ機体2B。』

 

『ヨルハ機体2B。』

 

突然復唱するようにあの声が響いてきた。その声にハッとする。

 

軽快なあの声。アナウンスだった。

 

『ようこそ[塔]へ!』

 

『ようこそ[塔]へ!』

 

声をした方を見ると、赤い服の少女が二人映し出された立体モニターとして存在していた。

 

「貴様らっ……!!」

 

ようやく姿を見せたアナウンスの正体に今まで受けてきた仕打ちの恨みが湧き出てくる。

 

『ここまで辿り着いた貴様に耳寄りな情報があります。』

 

そんな私のことなどお構い無しにそう語りかける軽快な少女の声は、だんだんと切り替わるように低い不気味な男の声に変わる。

 

 

ここにきて、ようやく本性を表したかのように感じた。

 

 

『教えてやろう。ヨルハ機体2B。』

 

『見せてやろう。ヨルハ機体2B。』

 

『貴様の、貴様らヨルハ部隊の真実を。』

 

その瞬間、頭の中に一つ受信ファイルが流れ込んでくる。

 

[極秘]ヨルハ部隊廃棄について。と、記載されたフォルダだった。

 

 

 

ヨルハ部隊廃棄。その表記の意味。

 

 

 

 

 

________________________________________________________

 

以下の資料はヨルハ計画の最終工程を記したものである。

※本資料は、機密レベルSSとし、バンカー司令官を含む全てのヨルハ関係者に開示をしてはならない事に注意。

 

【計画 03-01 ヨルハ部隊廃棄について】

戦闘データが蓄積され、次世代モデルへの転換時期が近づいた段階でヨルハ基地バンカーのバックドアが開放されるようにセット。意図的に機械生命体によって攻撃させることで、バンカーを放棄。その際、本資料を含めたヨルハ計画に関わる全ての情報を破棄し、月面に人類がいるという情報偽装の完成とする。

 

 

 

________________________________________________________

 

 

 

 

 

「これが…ヨルハ計画……。」

 

「……。」

 

「じゃあ私は…。ナインズは…。」

 

 

 

2Bは取り乱す事はなく、けれども全てに絶望する。

 

 

自分たちは、捨て駒だったと。

 

 

あの光のような日々は、初めからずっと無意味なもので、その全ては壊される前提だったと。

 

 

そして2Bは酷く静かに、自分の存在意義も失った。

 

 

無意味だったのだ。

 

 

あの背負い続けた、呪いも…。

 

 

「じゃあ…、じゃあ私は一体、…何の為に……。」

 

 

「何の為に…、ずっとナインズを…?」

 

「ずっと………ずっと、私は……。」

 

「こんな…。私は…、私は……っ!!」

 

「……うぅ…。」

 

「…うあぁぁぁぁァっ……!!!」

 

2Bは左腕を強く握りしめ、がっくりと座り込んで嗚咽し、ボロボロと涙を流し始める。

 

自分の背負い続けてきたモノの無意味に、何の価値も無かった事に遂に耐えてきた心が潰れてしまった。

 

 

無意味な事の為に何回も、何回も、何回も。手に握る刃を愛した者に向けてきた。

 

何か少しでもそれに意味があるのだと、心を保つ為に信じてきた。ヨルハの為だと言い聞かせてきた。

 

でも違った。私が居たヨルハも初めから壊される前提だった。

 

私は最初から全て壊される物の為に、壊して、壊して、壊して、殺して、殺して、殺し続けてきた。

 

無意味な物の為に、無意味な存在として生き続けてきていた。

 

「うっ…あああぁぁあ…。……うぅ…ごめん……ごめんなさいナインズぅ……。」

 

「ごめんなさいぃ……。あぁ…っ うぅ……。」

 

彼女は無意味に殺し続けてきた事を。そして無意味な事の為に死なせてしまった事を泣きながら、

 

 

もう…何処にだって居てくれない彼に謝っていた。

 

 

『全てを知ってもなお、戦う事を願うか?』

 

 

だがそんなことはお構い無しと、二人の少女は低い声で嘲笑いながら問いかける。

 

 

「……さい。」

 

「うるさいっ…。うるさいっ!!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいっ!!!」

 

「うるさいなッッッ!!!!」

 

 

潰れた心に感傷と激情が合わさってヒステリックになり、二本の刀を感情に任せてその二体にそれぞれ投げつける

 

だが投げた刀はそのホログラムの体を突き抜けてそれぞれ地面に刺さる。ホログラムは消滅したが手応えはない。

 

『私達は機械生命体ネットワークから生まれた概念人格。』

 

『私達を破壊する事は不可能。』

 

それを肯定するように姿は無いがあの低い声だけが響いてくる。

 

『ヨルハ機体2B。貴様の攻撃は無駄だ。』

 

『貴様の攻撃は無意味だ。』

 

『貴様の存在は無意味だ。』

 

「うるさいっっっ!!」

 

攻撃出来ない存在にただ感情に任せて怒鳴りつける。

 

『ヨルハ機体2B。貴様が…』

 

『…ん。いや、こう呼ぼうか。貴様の本当の名で。』

 

『貴様が行ってきた事の全ては無意味だ。そうだろう?ヨルハ機体2』

 

「その名前で呼ぶなぁあッ!!!!」

 

それ以上先だけは言わせない。その大声で掻き消すように、概念人格に向かって叫ぶ。

 

『ハハハハハハハ。』

 

『ハハハハハハハ。』

 

赤い少女達はその必死な姿に、最後に意地悪く笑うと、それっきりは何も言わなくなった。

 

それからは、誰も一言も発さない。

 

ポッド042はなにか少しでも2Bに言葉をかけようとしたが、結局は何も言えなかった。

 

 

結果、一人すすり泣く…静寂だけが残った。

 

 

……。

 

…。

 

…。

 

…暫くするとその静寂の中で、汚染されるその体は……もう涙も流せなくなってきている事に2Bは気付く。

 

体が壊れて枯れ果ててしまったのか、それとも感情が歪んでしまったのか。

 

……。

 

「…、」

 

「…ふ、はは。…はは。」

 

「……ハァ…。」

 

振り絞り出された、諦めたような笑みと、小さなため息。

 

そして力なくフラリと振り返ると、先に続く道に向かって歩き、進み始める。

 

 

何も喋らなくなったその顔は虚無感に満ちていて、見えない何かを睨み続けていた。

 

もう、何の為に進もうとしてるのか、本人にもよくわからなかった。

 

 

 

報いるべき失った者達は最初から失われる前提で、自分も本来ならそうだった。すべては予定調和だった。

 

馬鹿馬鹿しくなってくる。

 

これは無意味な行動で。私は無意味な存在。

 

それでも上に続く階段を、この脚はゆっくりと登り始める。

 

一体そこに何を見ているんだろう。

 

階段を上りきって広間にでると、遠くからブースターのような音がしてきた。

 

数体の飛行ユニットを着た汚染隊員たちが、空から此方に向かってきているらしい。

 

その姿を確認すると、数を数える。殺し方を考える。勝算を探す。

 

自分がこれから一体何の為に戦おうとしてるかは解らないが、それでも全てを壊しつくそうという意思はあった。その意思から彼らを無意識に睨んでいる。

 

汚染はもう8割ぐらいにまで侵食している。遂に破壊衝動に思考を乗っ取られたのかも知れない。

 

だが、もうそれで構わない。

 

もういい。どうでもいい。

 

そうして武器を両手に構え、向かってくる彼らを見据える。

 

先陣をきってもう近くにまで迫ってきていた一体に向かって、走り出した。

 

 

 

 

 

 

戦おう。最期まで。

 

 

 

 

 

 

そこに一体何の意味があるかは解らない。いや、そもそも意味なんて無いだろう。

 

 

でも、もういい。

 

 

どうしてかは分からない。けど、無意味でも戦い続けると。

 

もう、決めてしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だって私は、愚かで壊れた機械なんだから。

 





プラトンのウェポンストーリー好き。


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Episode.28 [A]ttacker No.2

アタッカー二号ちゃん本当にA2と同一人物かと疑うくらい別人カワイイので初投稿です。


 

 

「ハハハハ!!」

 

「何だコイツッ!?」

 

漆黒の体をした単眼の丸い虫のような巨大な機械生命体が両手の刃を振るって私に襲いかかってきた。

 

ギィン

 

咄嗟に距離を取ろうとするが、山になるほど積んでいた本とそう広くはない部屋のために退避する場所がなく、重い一撃を大太刀で受け止める。

 

その衝撃で山になっていた本がバサバサと吹き飛ぶ。一部はページがバラバラになってしまう。ああっ、勿体無い。

 

いいやそんなことを気にしている余裕はない。力いっぱいに振るって奴の刃を振り払い、崩れた本を足蹴にして少しでも離れた位置をとる。

 

すると今度は先端がドリル状のしっぽのようなものを向かわせてくる。

 

「コロス……コワス……!」

 

「アッハハハアハハハハハハハッ!!」

 

少女のような声と低い男のような声が混ざった狂った不気味な笑い声を上げる。

 

しっぽの攻撃を掻い潜り、大太刀でいなし、そして隙をついて切断する。

 

遠隔攻撃手段を失った為に、再び私に迫ってきて両手(というか前足?)の刃を振るおうとする。

 

「ポッド!!」

 

[了解。]

 

私の合図と共にポッドがパカリと開いてエネルギーを溜める。

 

私はそのポッドをガシリと掴むと、そのまま刃が振るわれるよりも早く奴の近距離に潜り込み、巨大な単眼めがけてポッドのレーザーを発射した。

 

「オアアア"ア"ア"ッ!!」

 

直撃すると野太い男の声で悲鳴を上げて、ワシャワシャと必死に足を動かして突き破ってきた天井の穴に向かって逃げていった。

 

逃げていく巨体の振動でカラカラと天井の欠片が落ちきると、途端に静かになる。

 

辺りを見回すと、私と奴で盛大に暴れたせいで回りの本棚はめちゃくちゃになっていた。

 

一部の本はしっぽの攻撃でズタズタになっており、もう読めそうにない。

 

ガチャリ、とそんな私の状況を察するかのように先に進む扉が突然開く。

 

さっさと来い。ってか?

 

いいだろう。その挑発に乗ってやる。ここを離れるのは少し惜しいがこの[塔]についての大体の情報は手に入った。その時点で私の目的は[塔]の情報収集ではく、[塔]の破壊に変わっている。

 

先に走り進んでいくと、巨大なゴンドラのような物があった。周囲の状況を見てなんとなくこれで[塔]上層部を目指すのだと察する。中央に起動装置のようなものがあったのでゴンドラを動かそうと手を触れた。

 

が、その瞬間に私は私の意識領域に引きずり込まれる。

 

「クソッ……。」

 

しくじった。罠だったか。

 

[敵の強制ハッキング攻撃。]

 

[推奨:早急な離脱。]

 

そんな事はわかっていると、仕掛けてきた張本人を排除すべく記憶領域内を走り出す。

 

すると奥に二人の赤い服を着た少女の姿が見えた。その姿を確認すると、目が血走り復讐だと言わんばかりに咄嗟に武器を構えて睨み付ける。

 

「貴様はっ……!!」

 

憎む声で奴らに向かって怒鳴り付ける。

 

私はコイツらを知っている。そしてコイツらも私の事を知っている。

 

『久しぶりだな、二号。』

 

『いや、今はA2と呼ぶべきか?』

 

あの先程の機械生命体のような低い野太い男の声が少女の姿で話しかけてくる。

 

『懐かしいよ。私達のような概念情報にとって時間の意味なんてないが……。』

 

『それでも君たちの部隊を全滅させた事は印象に残っている。』

 

概念人格。機械生命体ネットワークそのものたるコイツらこそ、死んでいった私の仲間達の仇だった。

 

 

 

時は四年前に遡る。

 

真珠湾降下作戦。私達の部隊の初めての作戦であり、私の仲間達が命を懸けて遂行した作戦。

 

アネモネ。

 

ダリア。

 

ソニア。

 

シオン。

 

ガーベラ。

 

ローズ。

 

リリィ。

 

十六号。

 

二十一号。

 

そして…四号。

 

皆がその命を懸けてまで遂行したその作戦は、私と四号とアネモネ以外の全員が死んでしまった中で、最後に四号と共に辿り着いた敵のサーバールームにて現れた機械生命体の首領たるコイツら概念人格の口から無意味であった事が告げられた。

 

私達は、捨て石の部隊だったことを。

 

次世代ヨルハの為に、データ取りの為だけに生み出された存在であることを。

 

そして私達の体には爆弾が埋め込まれていて、私達の全てが跡形もなく消える筈だったことを。

 

その全てを、聞かされた。

 

 

 

-----..-------:▫▫▫▫►▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 

 

 

「それは違うよ…二号…。私達は皆、自分で選んでここまで来たんだ……!!」

 

 

「生きる意味を与えてくれてありがとう。」

 

 

「行って二号!ここは私がっ…!!」

 

 

 

 

 

 

「だめっ…四号っ!!!」

 

 

 

 

 

►▫▫▫……..._______....……▫▫____

 

 

 

最後まで共にいた四号は、私を庇って死んだ。

 

四号は自ら体を自爆させて、敵サーバーを吹き飛ばした。

 

その爆風でサーバールームから吹き飛ばされ、埋もれた瓦礫から這い上がると、そこにはもう…何もなかった。私は一人生き残ってしまった。

 

そう、一人生き残ってしまった。機械生命体だらけの地球に、頼る者もなく、信じる者もなく。

 

そして私は情報漏洩を恐れたヨルハからも追われることになった。

 

私を追うヨルハの追っ手達。

 

よく知った仲間の顔をした次世代ヨルハ達が、私の顔をした次世代ヨルハが私に刃を振るってきた。

 

あの日から、全てが敵だった。

 

あの日から、ずっと一人で生きてきた。

 

この世界の全てに失望しながら。

 

この世界の全てに絶望しながら。

 

私達は一体何の為に生きて、死んでいったのかと。

 

それでも。それでもだ。

 

あの服は受けてきたダメージでズタズタになって捨てても。メンテナンスは録にできず体はボロボロになっていっても。軋む体を動かして戦いに暮れる日々を生きてきた。

 

だって、それでも私は戦い続けると、そう決めてしまっていたから。

 

機械生命体を殲滅する。

 

例え無意味だったとしても、死んでいった仲間達に報いる為にと。

 

全てを失ったあの日、あのゴーグルは自分の意思で捨てた。

 

仲間達の全てに報いる為に、この汚れた世界の真実を見ても生き続けるその決意として。

 

今までの自分も、あの弱気なアタッカーニ号も捨てた。

 

A2。

 

指令部か誰かが、いつか私をそう呼んだ。

 

その名前で生きていく事にした。新しい自分で、機械生命体達を倒し、そして仇である奴らに、復讐する為に。

 

 

 

 

 

『ヨルハ部隊アタッカー二号機。』

 

 

『正式採用されるヨルハの為に生み出された捨て石の実験部隊。』

 

 

 

 

「うるさいっ!!」

 

私の事と、私の仲間達が死んでいった事を嘲るように言う奴らに向かって叫んで、大太刀で二体を薙ぎ払う。

 

私達が存在した事を無意味だと侮辱することは、例え真実だとしても許さない。

 

 

だが攻撃したホログラムは散るように消えても、また遠くに現れた。

 

また攻撃して消しても、また現れる。いやそれどころかどんどんと増えていく。

 

『懲りないアンドロイドだな。君は。』

 

『私達は殺せないと言っただろう。』

 

「クソッ…!!」

 

あぁ分かっているさそんな事。あの時もそうだった。どれだけ怒りに任せて切っても何度でも現れる。

 

それでもお前らに対する怒りだけはすぐに行動に出てしまう。

 

だが、そんな行動は無駄だと言わんばかりに次々と湧いてくる。沢山の奴らが私に向かって弾幕を放つ。

 

その弾幕の数は、次第に潰すのが増えていくスピードに追い付かなくなっていって、更に増えていく。

 

キリがない。倒せない。殺せない。

 

クソッ!

 

クソッ!!

 

 

[提案。]

 

「何だ!?」

 

突然、ずっと蚊帳の外にいたポッドが口を開く。

 

[敵の論理学習機能を利用して弱点を形成する。]

 

「それが何になる!?」

 

[疑問:ヨルハ機体A2の学習]

 

「わかってる!!アイツらを増やして演算機能を遅らせたいんだろう!?」

 

「無駄だそんなこと!!アイツらの増えるスピードが遅くなったって攻撃自体は止まない!!」

 

「攻撃が増えれば追い詰められるだけだ!!」

 

[…。]

 

 

[感心:ヨルハ機体A2の理解・予測能力の向上。]

 

 

「ぶっ壊すぞッ!!!」

 

お前私を今まで何だと思ってたんだ!!

 

[だが、現実的な問題として、この数を一斉に消滅させる方法はない。]

 

[推奨:本作戦の実行。]

 

「……わかったよっ!!」

 

そう言って弁えよく攻撃から回避に専念することにシフトする。

 

本当に悔しいがコイツの判断で何か良くない状況に陥った事はない。むしろ逆まである。

 

赤い少女達を潰す為に向けていた刃を弾幕を潰す為に振るう。

 

[敵自我データ飽和率30%]

 

『面白い……面白い……。』

 

赤い少女達が見下すように上から私達の行動を嘲笑う。

 

[敵自我データ飽和率60%]

 

『人類の遺したアンドロイドがまるで人類に成りたいかのように振る舞う。』

 

『エイリアンの遺した機械生命体がまるで人類に成りたいかのように振る舞う。』

 

『私達は似ている………。だが、ネットワーク化された我々の方が圧倒的に優れている。』

 

増えていくにつれて、突然何か語り始める。

 

何だいきなりマウントとってきて。

 

[予測:防衛機構による論理進化。]

 

「進化って……状況が悪化してるじゃないか!!」

 

[推奨:更なる論理進化の催促。]

 

「……は?」

 

何だ。自分の判断が間違ってたせいで遂におかしくなったのかコイツ。

 

『愚かなアンドロイドよ………。何故抗うのか?』 

 

『死を受け入れる事こそが全ての終末ではないのか?』

 

[敵自我データ飽和率90%]

 

やがて巨大なホログラムも現れるようになった。

 

『私達は一つであり、複数でもある。』

 

『私達は有限であると同時に無限だ。』

 

『私達こそが完成された精神の有り様なのだ。』

 

今度は自ら達を礼賛し始める。

 

[予測:生命の多様性を学習。]

 

生命の多様性。それが一体なんだ。また更に悪化したのか?

 

『あぁ……見える……光が……。』

 

その思いは、このコイツらの発言で変わった。

 

『私達は先に進む……この先に……未来に!』

 

先程までの状態とはまるで変わった、恍惚とした、自らの有り様を。自らの未来を信じて疑わないような思考。

 

何か妙だ。何か引っ掛かり始める。

 

[敵自我データ飽和率100%]

 

そう言うと、赤い少女のホログラム達が一ヶ所に集合し始める。

 

「……なんだっ…?」

 

[予測。]

 

 

 

 

 

 

 

 

[敵自我の分裂。]

 

そう私の疑問に答えたポッドの無機質な筈の女の声に、何故か邪悪で嘲る意思があるように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私達には淘汰圧が必要だ。』

 

『このアンドロイドを殺さずにおけば……更なる困難が私達に訪れる。』

 

『その困難を乗り越える事で、私達はより一層の進化を遂げるだろう!」

 

 

『……。』

 

「賛同しない。このアンドロイドは危険だ。この場で破壊してしまう必要がある。』

 

 

 

『……。」

 

『先刻、ヨルハ機体9Sの模倣を見せつければヨルハ機体2Bを破壊できると提案したのは貴様だったな。」

 

 

 

「ふざけた事を抜かすな。あの時の我々はまだ一つだった。』

 

「それを言うならば、ヨルハ計画の全容を知らせればヨルハ機体2Bの心を折れると提案したのは貴様でもあった筈だろう。』

 

 

 

「……』

 

 

『……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達の勝利を疑う者は……敵だ。」

 

 

「勝てると思っているのか?ふっ。」

 

 

 

奴らの顔が、今までの無表情とはうってかわって邪悪な笑みに変わる。

 

そして、折角沢山に増えた奴らは互いに殺し合いを始めた。

 

[報告:飽和した自我が相互に闘争を開始。]

 

ポッドの無機質な声の言葉は、やはり嘲ているように聞こえた。

 

 

「ハッ。」

 

 

それに釣られて私も奴らの間抜けさに嘲笑がこぼれる。あれだけ奴らの高次元さを憎んでいたのに、途端にそれが馬鹿みたいになってきた。

 

 

「まるで。」

 

「まるで、人類みたいだな。」

 

そう言って、今までのお返しとばかりに皮肉を言ってやる。まぁ、奴らは殺し合う事にご熱心みたいで私は蚊帳の外だが。

 

私は気づけば最後の一人になっていた奴ら…ああいや。奴に向かう。

 

最後の一人になって勝利を勝ち誇っていた顔は、ゆっくりと迫ってくる私を、そして自分一人だという状況を見て あっ! とした顔にようやく変わる。

 

さて、殺し合いに勝って困難を乗り越えたお前はどれだけ進化したかな?試してやることにしよう。

 

 

「ヨ

 

 

ゴスッ

 

 

何か言おうとしていたが、私は構わずソイツの顔面を拳でぶち抜いた。

 

ズっと、拳を抜く。

 

顔に大穴を開けられたソイツはビクリとも蠢く事なく無機質にガックリと座り込むと、パラパラとそのホログラムの体が静かに崩れていった。

 

気がつけば、視界はゴンドラに戻っていた。

 

ふと、拳を見る。

 

アイツの体はデータなので何の実感もない筈なのだが、何故か仇を取ったという実感が確かに拳にはあった。

 

 

「……ハッ。」

 

そうして今度は誰に向けたのか再び嘲笑うと、揺れ動きはじめたゴンドラから外の景色を見る。

 

 

 

まぁある意味で完璧な人類になったよ。お前も。

 



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Episode.29 [B]ipol[A]r nigh2mare.

双極ノ悪夢ホント大好きなので初投稿です。
イントロパートから歌詞パートに入るの最高だよね。

ナイ トゥ(2) メア。(ネイティブが過ぎる発音による必死の抵抗。)


 

 

 

ババババババッ

 

ヴゥン

 

ヴゥン

 

鳴り響く銃声。鳴り響く剣を振るう音。

 

6機もの飛行ユニットを着た汚染機体を相手に、2Bは孤軍奮闘していた。

 

上空にいる3機からの銃撃。地上に滞空する3機からの斬撃。その猛攻に2Bは回避するので手一杯だった。

 

分が悪いなんてものではない。装甲に身を守られ強力な武器装備をもち、更に高い機動力。それが6機もいる。

 

片やそれを相手にするのは二本の刀をもった生身のアンドロイドと簡易的な射撃をもったポッド一機。

 

事実彼女らは上空からの射撃を必死に走ってかわし、追いかけてくる地上の機体達に追いつかれては振るわれる剣もかわす。ずっとそれを繰り返していた。

 

彼女が勝てる訳がない。我々が負ける訳がない。

 

というのが、汚染機体達を操るネットワークの認識だった。

 

やがて回避に、逃走に疲れきった2Bは走る足をつまづかせて、遂に体勢を崩した。

 

いける。

 

と。特に逃げる2Bを追う事に固執していた一機が全速力で2Bに向かう。

 

そうして、今までで一番近くにまで2Bに接近する。

 

もうこの距離なら外さない。きっとかわせない。

 

ネットワークは勝利を確信する。そうして、2Bの胴体を上半身と下半身の二つに分けようと横薙ぎに剣を振るおうとして。

 

目の前にいた筈の2Bの姿を見失った。いや、視界が落ちた?

 

それを刹那に確認すると、その記憶を最期に意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャン……。

 

本体であるアンドロイドの脳天に突き刺した刃を抜くと、指示系統を殺された飛行ユニットは力なくガックリと座り込む。

 

そうして血を頭の傷から吹きながらビクビクとまだ少し蠢いているアンドロイド本体を見る。

 

馬鹿だな。視界を担うアンドロイド本体の頭は常に剥き出しなのにあんな近くにまで来るなんて。まぁ、私がそう誘導したのだけれど。

 

ふと、突然静かになった彼らを見る。

 

一瞬で殺された仲間の姿を確認した残り5機の動きが止まっていた。

 

次は自分があぁなると怯えているのか。まさか一人でも死ぬなんて思ってなくて呆気にとられているのか。

 

そんな彼らの姿を見て、2Bはようやく気付く。

 

 

あぁそうか、あれで優勢に立ってたつもりだったのか。

 

 

そう、嘲るような目を向けられた事に彼らは気付くと、憤怒したのかババババババっと一斉に撃ってくる。

 

2Bは木偶の坊になった飛行ユニットを盾にして銃撃を防ぐ。チラリと隙間から上空3体を覗いて一瞬のリロードのタイミングを見計らう。

 

一瞬、上空2機の射撃が止んだ。

 

バッと穴ぼこだらけになった残骸から飛び出すと、その2体に向かって両手の刀をそれぞれ投げつける。

 

そしてそのまま投げた結果の確認はせず、まだ継続して飛んでくる3機の銃弾をかわす為に走りだす。

 

ギンッ 「!?」

 

一本は装甲に刺さった音がする。

 

ザスッ 「あっ!?」

 

そして一本はアンドロイド本体に刺さった音。

 

「あっ。がっ。ゴボッ。」

 

喉元に刀が刺さり、着ている特殊装甲のヘルメット越しに血を吐いた声を出しながらバランスと判断力を失って急噴射して落ちていく。

 

「っ!?」

 

そしてゴシャアアっと下にいた一機を勢い良く押し潰した。

 

ドカンっ。ドカンとそれぞれ爆発する。

 

 

これであと3機。

 

押し潰された機体の近くにいた一機が爆風で後ろに仰け反って隙ができたので、急いでソイツに向かう。

 

「あっ。あっ!!」

 

向かってくるのに気づいて、射撃から斬撃に切り替えようとするが間に合わせず懐に潜り込む。

 

「ポッド。」

 

[了解。]

 

ただ名前を呼ばれただけでポッドは2Bの意思を汲み取る。そして2Bは武器の無くなった手ぶらの右手で剥き出しの頭をガシリと掴む。

 

「……っ!?なっ……!?」

 

突然の行動に驚きながらブンブンと体を振って振り払おうとするが、2Bは手ぶらで空いている左手でもしっかりと飛行ユニットを掴んで離さない。

 

汚染機体はユニットの剛腕で掴み落とそうとするが、ポッドの近距離射撃で掴もうとした手のひらを破壊されてしまう。

 

「…っ!!!」

 

ならば振り落とすべきだとゴオオオオオッと猛スピードで上空に飛び上がる。

 

だが、まだ2Bは離さない。

 

「……っ!!」

 

更にスピードを上げようとする。その時だった。

 

「……うっ!?ぐっ…ああっ!?」

 

汚染機体は体内から強力な熱反応を感じると、その熱い苦しさから悶え始める。

 

その声を確認すると、ようやく2Bはパッと両手を離して遥か上空から落ちていく。

 

「うあああっ!!」

 

「うああああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"っっっ!!!!」

 

汚染機体は最期に惨たらしい悲痛な叫び声をあげると、その体が ボカンっ。と自爆した。

 

ハッキングでヨルハ機体の持つ自爆機能を無理矢理に起動させられたのだ。

 

そしてその爆発は着ていた飛行ユニットに連鎖した事でユニットも ドカンっ と花火のように爆発する。

 

あと2機。

 

落下していく2Bはその凄惨な最期に目もくれずに下に見える残りの敵の数を数える。

 

そして自爆させられた仲間の姿に呆気に取られている一機に向かって落ちていき、そのユニットの足に刺さったままの先程投げた刀の柄を掴んでぶら下がる。

 

そのぶら下がっている2Bを撃ち落とそうともう一機が2Bに向かって銃口を構えて、気づく。

 

2Bの側にポッドがいない。

 

だが気づいた頃には遅かった。後ろからエネルギーの溜める音が小さくしたと思った頃にはレーザーが体を貫いていた。

 

最後の一機は一瞬の内に自分一人になっている恐怖から冷静さを失い、ぶら下がる2Bを必死に掴み取ろうとする。だがユニットの腕は迂闊に2Bに触れる事への恐怖から震えている為に中々掴めない。

 

だが覚悟を決めてようやくガシリと2Bのくびれた腹部を掴む。

 

そして目の前にまで持ち上げて、覚悟しろと言わんばかりに強く握りしめてもう片方の腕の銃口を向ける。

 

だが2Bは何も抵抗しない。ただ無言で見つめている。それが不気味で怖くなる。

 

「……ッ!!」

 

「ガァァ!!」

 

優勢だと思っていたのに、余裕で勝てると思っていたのに。

 

これだけ徹底したのに。戦力差をつけてた筈なのに。

 

それなのにコイツ一人にここまで追い込まれるなんて。

 

あれだけ見下した奴に怯えなければならないなんて。

 

機体を操るネットワークは。いや概念人格は同時刻に訳あって自我を確立してしまった為に生まれた自分の恐怖心に苛立って、少しでも強がろうと2Bに威嚇する。

 

だがそれに対して2Bは概念人格と違い微塵の怯えも見せず、その水色の美しく濁った瞳で無表情に見つめていた。

 

そして先程までぶら下がっていた刀を自分の前に転送して従属化を解いて フッ と落とすと、その落ちた刀を足で蹴飛ばす。

 

「あげっ。」

 

蹴り飛んできた刀に顎から脳天を貫かれると、情けない声を出して力なく2Bを離して共に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ズシャア…

 

仰向けに力なく地面に倒れ落ちる飛行ユニット。

 

スタッ

 

それとは真逆に華麗に着地する2B。

 

スッと立ち上がると2Bは回りを見渡す。

 

見えるのは穴ぼこだらけになった黒い残骸。

 

ゴウゴウと燃え盛る二つの黒い物。

 

パラパラと落ちてくる黒い破片。

 

胸に大穴をあけられた死体の乗ったユニット。

 

そして顎から刀を刺された死体の乗ったユニット。

 

もう他に誰もいない。それを確認すると2Bは二本の刀を両手に転送して、黒い方の刀を何処か傷はついてないかと確認する。

 

それが終わると今度は自分の体を見る。

 

傷は一つも増えていない事を確認すると、奥にそびえ立つ[塔]を見る。

 

死闘を繰り広げたこの広場。ここは行き止まりだった。

 

ここからでは[塔]最上部には向かえない。

 

…少なくとも自分のこの足では。

 

2Bは顎から血を流す死体を乱雑にユニットから降ろすと、使用権限を奪ってユニットに乗り込む。

 

飛行ユニットの色は真っ白に染まり上がる。

 

そしてブースターから火を吹かせて、[塔]の上を目指して飛び立っていった。

 

 

 

___________

 

 

 

ゴゥンゴゥンとゴンドラが思っていた以上の猛スピードで上に向かっていく。

 

一応このゴンドラはゴンドラにしてはかなり広いので多分振り落とされるなんて事はない。

 

もう暫く乗っているが、[塔]最上部まではまだ掛かるのだろうか______。

 

ギィィン

 

不意討ちのように後ろから飛んできたあのドリル状の尻尾の攻撃を咄嗟に弾く。

 

後ろからガシャガシャとあの漆黒の機械生命体が壁をよじ登ってゴンドラに飛びのってきた。

 

「クソッ!なんでまだ動けるんだ!?」

 

あの概念人格たちは消えた筈だ。ネットワークからの統制は失った筈だろう。

 

[推測:敵サーバーの残存データによるもの。]

 

「結局全部倒すまで続くって事か!」

 

支配者からの統制が無くなった所で結局は自分の意思で自立して殺しにくるだけって訳だ。ふざけてるな。

 

ギンッ。ギンッ。ガキンッ。

 

大太刀であの前足の刃とせめぎあう。

 

力を込めて振り払うと、あの時のようにポッドをガシリと掴む。

 

だが、それを確認すると途端に奴は私と距離をとった。

 

「成る程。少しは学習したみたいだな。」

 

以前奴にしてやった近距離のレーザー攻撃。あの巨大な目が無傷なのを見るに恐らく大して効いてた訳ではないようだが、それでもあの一撃はかなり応えたようだ。

 

[疑問:レーザー反撃の際のヨルハ機体A2の必要以上の握力。]

 

「うるさい。」

 

そう言ってパッとポッドを投げ放す、再び大太刀を構えて奥から伸ばしてきた尻尾と格闘する。

 

「ワタシ……達ハ……ネット……ワーク。」

 

「アンド……ロイド。」

 

「失う……キズナ……。」

 

奴は何かぶつぶつと喋りだす。その声はもうあの不気味な声ではなく、機械生命体特有のあの無機質な声だった。

 

「あの機械…さっきから何をぐずぐず喋っているんだ?」

 

[報告:敵の過去記録の流出。]

 

「…?」

 

よくわからんが要はランダムで今までの記憶を再生してるのか?

 

 

 

 

---__▫▫.・・』『__

 

 

「司令官ってホント人使い荒いですよねー。」

 

 

__---…・..___』___

 

 

 

 

張り合うな9S。邪魔だ。

 

ドリル状の尻尾を隙をついて切断すると、またあの時のようにポッドを掴んで奴に走り向かっていく。

 

「!!」

 

奴はなんと尻尾を3本に増やし生やして瞳を守った。成る程な、思った以上に学習してる。

 

だが生憎それは私もそうだ。私はデコイのつもりだったポッドを放り投げる。

 

[報告:扱いが雑。]

 

そして大太刀を守っている尻尾に突き刺して、蹴り入れて瞳まで貫通させた。

 

「ギィィィィ!!」

 

大太刀故に長い刃身の切っ先が三重の尻尾を貫いて瞳に刺さると、奴はまた悲鳴をあげてゴンドラから落ちていった。

 

「ハッ。」

 

今回は中々悪くなかったが、あともう少し賢くなってからまた出直すんだな。

 

あの騒がしいのがいなくなった事でまた静かになった。気を緩めて所々空いた内壁の穴から外の景色を見る。

 

…ん?

 

「あの瓦礫は…。」

 

外の景色に瓦礫のような物…いやよく見たら機械生命体の残骸がふわふわ浮いているのが見えた。

 

[不明。何かの資材する可能性。]

 

資材。そういえば回収ユニットもこんな感じで残骸を運んでいたような…。まさか機械生命体を再利用しようと回収してたのかアレは?

 

「資材って……。」

 

アイツらはもう用済みって事なのか…?

 

用済み。私達の全てとも言えるようなその概念に酷く嫌悪感が湧き出る。 

 

…。

 

…いや、そんなことなんてどうでもいいだろう。

 

私が気にするべきはそこじゃない。

 

「何を作るんだ?」

 

[不明__

 

ガシャン!!

 

後ろからまたあの音がする。もう戻ってきたのか。

 

「クソッ!出直してくるのが早いんだよ!!」

 

武器を再び構えて振り返ろうとして、止まった。

 

外に一瞬、飛行ユニットを着た2Bの姿が見えた気がした。

 

 

______________

 

 

 

 

ゴオオオオッ

 

 

飛行ユニットでただひたすら上を目指す。遥か上空にそびえる[塔]の最上部はまだ見えてこない。

 

ふと[塔]内部を、所々空いた外壁の隙間から執拗に何かを探すように覗きこむ。

 

さっき中に一瞬、A2の姿が見えた気がした。

 

何故かはわからないが、A2がここにいる。

 

それを認識した途端にふつふつと嫉妬が。殺意が湧いてくる。先程の汚染機体達には何も感じなかったのに。

 

嫉妬。ナインズとの全てを奪われた事への嫉妬。無意味な感情だ。無意味な思考だ。

 

A2にその意図があったとでも?

 

ないだろう。そんなの私だってよく分かってる。

 

じゃあ一体何の為に私はA2を殺すのだろう。

 

きっとナインズの為なんかじゃない。私の中にある歪で浅ましい嫉妬なんて醜い感情の為。

 

無意味だ。

 

本当に無意味だ。

 

…。

 

あぁ、それでも確固たる意思が私の中にある。

 

A2を殺してやると。

 

…あぁ、もうどうでもいい。

 

殺す。絶対にA2を殺す。もうそれでいい。

 

私はA2が妬ましくて殺したい。何か行動する目的さえあれば、もうそれでいい。

 

 

ゴオオッ。

 

 

突然後ろから何かが私を追い抜いてきた。

 

そして私を追い抜いて前方に現れたソイツを見る。

 

その正体は巨大な純白で単眼の虫のような機械生命体だった。

 

なんとなく見覚えがある気がした。

 

確か廃工場の溶鉱炉とかで、こんなのと戦った気がする。でも違いはある。以前戦ったのは前足に刃を構えていたのに対して、この機械生命体はノズルのような、3つの射出口のような物を刃の代わりに備えていた。

 

私の前方に立ち塞がると、それはやはり射出口だったようで弾幕を放ってきた。

 

私はただ淡々と弾幕を打ち消しながら攻撃する。

 

「信じてた信じてたシンジテタ死んじ…」

 

何かぶつぶつと嘆いている。

 

「神になった。カミなった。誰がナッタ……?」

 

どうでもいいと言わんばかりにひたすら撃って、ソイツの体に穴ぼこを作り続ける。

 

「タイセツなモノ失ウ…」

 

「失った……壊れた…。」

 

その言葉に、思わず彼の最期の姿が浮かんでしまった。

 

攻撃の手を強める。

 

目に涙が滲んできた気がした。

 

……。

 

でもそれも、…そうした気がするだけ。

 

それだけだった。

 

もう…これすら…、本当に枯れ果ててしまったらしい。

 

 

あぁ…。ああ…、どんどん失くなっていく。

 

 

「ダカラ…お前達も……コワス。」

 

その敵のふとした一言を聞いて、怒りのぶつける場所が見つかると、どんどんと憎しみが湧き出てくる。

 

ふざけるな。それはこっちの台詞だ。

 

お前達にどれだけ沢山のモノを奪われてきたと思ってるんだ。

 

 

沢山の大切なモノを奪われて、失って、壊されてきた。

 

 

何度も、何度も。何度も大切なモノを壊されてきた。

 

 

そして、そして…。

 

 

…そして…私も壊してきた。

 

 

沢山の奴らの大切なモノを、この手で奪ってきた。

 

仲間の為に。ヨルハの為に。彼の為に。そして自分の為に。

 

壊して、恨まれて壊されて。それを憎んでまた壊して。

 

終わりのない弔い合戦だった。意味のない戦争だった。

 

無価値な戦争だった。

 

無意味な戦う道具だった。

 

それが私達だった。

 

壊して、壊されて、壊しあう。

 

殺して、殺されて、殺しあう。

 

何度も再生を繰り返す機械の体で。

 

プログラムされて決められた思考で。

 

 

命もないのに殺しあってきた。

 

 

繰り返される生と死の螺旋に、ずっとずっと囚われ続けてきた。

 

 

 

レーザーを巨大な単眼目掛けて放つ。この世界の不条理に、憎むモノ全てに弓を引くように。

 

レーザーが直撃し、その巨大な巨体は押されていく。

 

そして、[塔]の頂上に遂に到達して、そこに奴は退避する。

 

飛行ユニットを着地した奴に向かって脱ぎ捨てて、私も奴から距離を取った場所に着陸する。

 

ドカンと飛行ユニットが穴ぼこだらけのソイツの体に直撃して爆発する。

 

ギギギとその巨体を揺らして再起しようとするが、受けてきたダメージの大きさでバランスがとれていないようだった。体に開けられた穴からはバチバチと火花が散っていた。

 

 

ズシャアアア

 

 

突然、漆黒の体の機械生命体がへこんでいた入り口のようにも見えた壁を突き破って現れる。その漆黒の体はズタズタに切りつけられていて、その切り裂けた傷口からはバチバチと火花も散らしていた。

 

そして、突き破られた壁の穴からA2も現れる。

 

A2は大太刀を両手で力一杯振るって迎え撃つ敵の刃にぶつけてその漆黒の巨体を弾き飛ばす。

 

ズシンと、漆黒の体が座り込む。その黒い方も受けてきたダメージで限界なのか白い方のように再起に手こずっていた。

 

A2は穴だらけになった白い方を見つけ、同時に私も見つける。

 

 

目が合った。

 

 

両手に刀を構えて睨み付ける。

 

A2は、何か考えて口を開いて話かけようとする。

 

だがそんな私達を邪魔するかのように、あの二体のギギギと体を動かす音がした。

 

咄嗟に私達は奴らの方を向くと、奴らは苦肉の策と言わんばかりに無理矢理その体を合体させた。

 

そうして、その傷だらけの体を…。私達と双極するように、『互いに支え合い』ながら、互いに生やした二つの鎌状の腕で襲いかかってきた。

 

だが、どれだけ力を合わせても、ダメージを受けすぎた体なんて合わせた所で何の足しにもならない。

 

動きはトロく、鈍く、力ない。穴の傷口からは、

 

切り裂けた傷口からは、赤い火花が無慈悲に飛び散り続けていた。

 

私は白い方の足を切断して更に機動力を奪う。

 

A2は奴らの最期の抵抗で生やした腕を切り捨てて攻撃手段を奪う。

 

「あああああっ!!ハァッ!!」

 

そしてA2は飛び上がると、その大太刀で接合された部分を真っ二つに叩き切って、再び奴らを二体に分けた。

 

「ポッド!!」

 

そして私はまだA2が近くにいるのを構わずに奴らに向かってポッドにレーザーを発射させる。

 

ドカンっ。ドカン。と二体はレーザーで体を貫かれると、破片を飛び散らかせて断末魔を上げる間もなく大爆発した。

 

A2は咄嗟でその爆発を回避する。

 

そうして爆発が止むと、煙が立ち込んで、それから静かになる。

 

爆発の煙を大太刀で掻き分けて此方に向かってくるA2を見つめる。一緒に吹き飛べば良かったのに。

 

A2は私と少し距離を取った位置で止まると、彼女も私を見つめてきた。

 

立ち込めた煙は止んでいく。

 

コツコツと白く硬い地面をヒールで踏み叩いて鳴らす。もう崩れたりなんてしないだろうな。と。

 

そうして、再びA2を覗き込む。

 

もう邪魔する者はいなくなった。強く刀を握りしめる。

 

…。

 

私もA2も動くことなく、私達は静寂の中でただ互いを見つめあっていた。

 

互いに自分はどう動くべきかと考えている。

 

 

…だが。本当は互いに分かっている。

 

 

 

 

 

私達は、ここで決着を着ける。

 

 



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Episode.30 2 [B]e or not 2 b[E].

あの最終決戦の白い背景をバックに影で半身隠れて対峙してる構図、ホントに好きなので初投稿です。


 

 

塔の最上部。

 

天高くそびえ立つこの世界の何処よりも高い場所で、私達はすぐ間近にある日の光に、その半身を必要以上に照らされていた。

 

そして光の当たらないもう半身は黒く影に染まる。第三者が私達をそちら側からみれば、きっと顔も見えないだろう。

 

私達は。私と2Bは、その瓜二つの顔をただ見つめあっていた。

 

2Bは私の出方を伺っているようだった。正面から向かい合っているため、もうあの時のように不意討ちはかけられないから。

 

静寂。ただ静寂がだけがあった。

 

…。

 

私は、どうすればいいのだろう。

 

2Bと戦いたくない。この期に及んでまだそんな事を考えている。

 

覚悟は決めていたつもりだったのに、この刃を握ろうとする手はまだ躊躇っている。

 

…そんなに、『姉妹』のような存在である事が大切なんだろうか。

 

姉妹。

 

人類は家族という在り方で姉妹や兄弟という関係をとても大切な物としていた。

 

ある者は、その為に全てを投げ捨てるらしい。

 

それほどまでに、強力な関係。

 

でも、なんだろうか。今まで散々考えてみたが、それとは違う気がしてならなかった。私の持つ2Bへの親近感は。

 

9Sの記憶のせいか?いや、それとも本当に単純に顔が同じだからなのか?

 

コツン...

 

私の思考を遮るように、2Bは一歩足を前に出す。

 

「……。」

 

チラリと右側を見る。先程巨大機械生命体と戦っていた時にはあった筈の中心の円上のラインで区切られていた床はいつの間にかなくなっていて、砲口のようになっていた。

 

「…。」

 

「この[塔]は月面の人類サーバを狙った巨大砲台だ。」

 

「このままだと、人類の残存データが破壊されるだろう……。」

 

戦いたくない。その意思から遠回しに何か休戦を持ちかけられるような事を少しでも探す。

 

[塔]。図書館で調べて分かったことは、これは砲台だという事だった。人類のデータが最後に残ったサーバを破壊して、アンドロイド達の拠り所を奪う目的だ。

 

これが成功すれば私達アンドロイドは人類のデータを、人類再帰の可能性を失うだろう。

 

それは同時に私達アンドロイドの存在意義を失う事でもある。

 

 

「…。」

 

「…フフ…。」

 

「クッフフフ…。アッハハハハハハ!」

 

2Bは、不気味に笑いだす。

 

「……どうでもいい。」

 

「もう…どうでもいい、そんな事…。」

 

そうして、あのよく知った諦めたような顔に、笑みを含んだ声で言う。

 

「…知ってた?私達はこの世界には必要ないの。」

 

「アンドロイドが戦う意味をもつ為だけに、人類サーバの偽装情報を維持する為だけに作られたのが私達ヨルハ部隊。」

 

「私達は…最初から全滅するように計画されてた。」

 

「貴女と同じだった。私達も捨て石の部隊に過ぎなかった。」

 

「何の意味も無かった。皆無意味だった。」

 

「司令官も…私も…。」

 

「……ナインズもっ…!!」

 

最後にだけ、そう声を荒げると、ググッ と刀の柄を握りつぶしてしまいそうな程に、震える程両手を強く握りしめる。

 

「フフっ、フフフフっ…!ねぇ…?こんなのおかしいよねぇっ…!?」

 

自分達の存在してきた理由の馬鹿馬鹿しさを、虚しさを、笑いながら、泣き叫んでいた。

 

その歪んでしまった姿が痛ましくて、何か言葉をかけたいが浮かんでこない。

 

私達は無意味。

 

それはどれだけ否定したくても、真実なのかもしれないのだから。

 

「…2B……私達は……。」

 

それでも2Bに何か少しでも言葉をかけたくて、話しかけるが。

 

「…。」

 

ただ冷たく睨まれ、拒絶されてしまう。

 

「……。貴女は私からナインズを奪ったじゃない…。」

 

「私達が殺し合う理由なんて…、…それで十分。」

 

そうして戦う事を躊躇っていた私の事も拒絶すると、2Bは静かに、けれども鋭く憎む顔で私を見ている。

 

その顔を、その姿を見て、今になってようやく私は彼女への親近感の正体に気付いた。

 

そのボロボロになった2Bの姿をじっくりと見る。

 

服は爆発を受けたのかのようにボロボロになっていて、そこにあったリボンも根本から破れたのかキレイになくなって彼女の太ももの付け根を露にしている。

 

ゴーグルの無くなった水色の瞳、乱れた白髪の頭、そしてその顔の塗装は、私のようにうっすら剥げて黒く素体を見せていた。

 

そのボロボロの姿が、そして私を睨むその顔が。

 

 

あの日の私の姿と重なった。

 

 

今の2Bの姿は、全てを失った怒りと悲しみから、目に映る敵全てを狂ったように、ただひたすら壊し続ける日々を過ごしてきた…あの私だった。

 

アタッカー2号を捨てて復讐者A2となった、…あの日の私の姿だった。

 

 

 

ようやく、気付いた。

 

私達は…同じだったんだ。

 

 

 

顔だけじゃない。義体だけじゃない。

 

姉妹機であることも、同じ二号の名をもつ者であることも越えて…私達は同じだったんだ。

 

生き残った自分に生きる意味も、価値も見出だせず、…ただ失った絶望と怒りに任せて、ただ武器を振るう理由を探す。

 

 

自分の呪われた運命に…誰にも頼れず、ずっと一人で泣き叫んできたんだ。

 

 

その思いからか、この頂上で2Bを見つけた時からの違和感を、そして嫌な確信を感じていた彼女の左腕を見る。

その左腕は、肘から先が明らかに別の機体の腕だった。

 

黒い手袋を着けていて、肘までの腕は右腕と対象的に肌色の素肌が剥き出しだった。

 

あれはきっと、9Sタイプの腕だろう。あの黒い手袋を本人の記憶で散々みてきた。

 

嫌な確信。概念人格たちの会話を思い出す。

 

奴らは2Bに9Sの模倣を見せつければ心が折れるだろうと言っていた。

 

2Bの黒いその服には、沢山の血が染み付いて、赤黒く染めている。

 

9Sの模倣体。

 

2Bは…『また』9Sを殺してしまったんだろう。

 

「…。」

 

「…ずっと…苦しんでいたんだろう、2B。」

 

2Bの左腕の事を再度察すると、私の口からは先程と違って自然と言葉が出てくる。

 

「9Sを……殺し続ける事を。」

 

「…どうしてっ……!」

 

先程までの冷たい表情が崩れる。

 

殺意が強くなった気がした。それもそうだろう。これは彼女の触れてはいけない領域なのだから。だが私は語りかけ続ける。

 

「高機能モデルの9Sタイプが真実に到達する事は予見されていた。」

 

そう。9Sはその好奇心と頭の良さから何度も真実に到達してしまっていた。人類は既に滅んでいるのだという、アンドロイド存続に関わる真実に。

 

「だからその度に、情報漏洩を防ぐために監視し、破壊する必要があった。」

 

9Sはその度に何度も死んでいた。何度も殺されていた。

 

偽装を守る為に。秘密を守る為に。

 

そして殺される度に記憶を、思い出を、痕跡を。生きてきた証を、全てを消されてきた。

 

「……そうなんだろう2B。」

 

自分が微笑みかけてきた、心の底から愛してきた2Bに。

 

「……いや。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2E。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ!!!」

 

その名前で呼ばれると2Bは…2Eは顔を下に向けて黙りこむ。

 

2E。

 

ヨルハ2号機E型。

 

それが彼女の、本当の名前だった。

 

ヨルハE型。Executioner(処刑人)モデル。

 

機密漏洩を防ぐために仲間を処刑するのが、その機体の任務。

 

ある時は仲間が敵に情報を漏洩させる事を防ぐ為に処刑し。

 

ある時は末期の汚染機体を処刑し。

 

ある時は真相を知って逃亡した機体を処刑し。

 

そしてまたある時は、真相を知り得る機体を監視し、処刑してきた。その名前を偽装して。

 

そう。2Bという名前は偽装だった。

 

ヨルハ2号機B型として9Sの隣で常に彼を監視し、状況に応じて殺す。それが彼女が9Sと共に居た理由だった。

 

彼女は私とあの日初めて会ったその時から、ずっとあの日に名乗った2Eのままだった。

 

「…。」

 

それが彼女にとってどれだけの苦痛だったかは、私には想像も出来ない。

 

共に日々を過ごしてきた存在を自らの手にかけなければならない苦しさ。何も悪くない者を下らない嘘の為に破壊しなければならない罪悪感。

 

ナインズと、そうあだ名で呼ぶ程に愛していた彼を殺さなければならない苦痛。

 

その罪悪感は、苦痛は、一体どれだけの物だったのか。

 

これは本当は二人とは何の関係のない私が触れていいようなものじゃない。けれど、私には伝えなければならない9Sの記憶を、彼の想いを知っていた。

 

「9Sは…気付いていたよ。」

 

私は伝えなければならない事を、あの時図書館で見た記憶をもとに話す。

 

「存在が秘匿されていない筈のE型の情報が、自分の中に不自然な程無かった事。」

 

「君がB型にしては強すぎた事。」

 

9Sは人類の真相はおろか、自分の9Sタイプに課せられた運命にすらかなり早い段階で感づいていた。

 

「彼は…君の正体にずっと気付いていたよ。」

 

「……ッッッ!!」

 

全てを知られていた事に2Eは言葉にもならない苦しむような声を漏らす。

 

「2Eっ!でも、それでも9Sは……!」

 

その声を聞いて、咄嗟に伝えようとする。

 

例え愛した者の正体が自分を殺すためのE型だとしても、それでも9Sは君を愛していたと。

 

君と共に過ごした日々が、まるで家族ができたみたいで嬉しかったと。君の為なら殺されても構わないと思っていた事を。

 

それだけは、伝えなければならない___。

 

 

「9Sはそれでも君の事をっ___!」

 

 

 

「うるさいなっっ!!!!」

 

 

 

2Eはそう叫び、私の言葉を遮る。その声に一瞬ビクッとなる。

 

 

「そんな事っ……!そんな事貴女に言われなくても…私が一番分かってるんだ!!」

 

「だって私はずっとナインズの隣に居たんだ!」

 

「私がずっとナインズの隣に居たんだっ!!貴女じゃないでしょう!!?」

 

そう必死に叫ぶその言葉を聞いて、私こそ逆に何も知らなかった事に気付かされた。

 

きっと何度も、何度もあったんだ。全てを知っても尚、彼が自分の為に殺されてくれた事が。

 

2Eは彼との事を知った風に語った私に、私なんかにはきっと解り得ない何か負の感情を抑えきれなくなって バッ と片手の刃を私に向けると。

 

 

 

「貴女にっ…。貴女に一体私達の何が判るの…ッ!?」

 

 

 

泣き叫ぶように、そう訴える。

 

ギィィン…

 

その瞳の奥からは涙の代わりに、…深紅の光が溢れてきていた。

 

「2Eっ…。」

 

汚染されていた。いつからかは分からないがそれでもその汚染された体で自我を保ってきたようだった。

 

[推奨:停戦。]

 

[ここで彼女と争う事は非合理的で…]

 

悪化していく状況に、2Eが連れていた白いポッドはこの先に起こる事をついに見かねて彼女に停戦を促す。

 

「ポッド042に命令!!今から貴方の独断の発言と思考を禁止する!!」

 

「この命令は私かA2のどちらかが死ぬまで維持!!」

 

[しかしっ、]

 

「これは命令っ!!」

 

それでも、ポッドは食い下がる。

 

[だが君は、]

 

「ポッド!!!」

 

そう怒鳴られて白いポッドは、ポッド042はすごすごと引き下がる。

 

そうして遂に誰からの制止を失った2Eはもう次の瞬間には私に襲いかかってきそうな、いつ動いてもおかしくない勢いだった。

 

もうそこに9Sの記憶でも見てきた、あのよく知った彼女の姿はなかった。

 

あの日私がアタッカー二号を捨てたように、彼女もまたかつての自分を捨てていた。

 

もう、9Sの愛した2Bはいない。ウイルスによる破壊衝動と私への復讐の感情に支配された2Eだけが目の前にいる。

 

だが、そんな彼女を責められる道理は誰にも無いだろう。

 

もう彼女の自我はいつ汚染されきってもおかしくない。そうなれば彼女の中にある彼との思い出は消えてしまう。それは彼女が一番分かっている筈だ。

 

帰る場所も、愛した者もいない。そして自分に2Bとして生きていられる時間すら…もう残されていない。

 

その絶望が、どれだけの物か。

 

もう何も残されていなかった。ただ復讐の感情にすがる事しかできない。

 

…。

 

だけど…。いや、だからこそ、私はこのまま殺される訳にはいかない。

 

 

だって…、私の中にある、…9Sの記憶。

 

彼の生きてきた、その最後の痕跡を。

 

 

 

彼女にだけは…その手で殺させたくないのだから。

 

 

 

正真正銘本当に戦う覚悟を決めて、遂に彼の大太刀を両手で構える。結局どこまで行っても戦う事しか出来ない私達は再び互いを睨みあう。

 

そして、再び静寂が訪れた。

 

数秒にも満たなかった、けれども永遠のようにも感じた一瞬の静寂。

 

 

だが、永遠であって欲しかったその一瞬は遂に終わりを迎える。

 

 

何の合図も無かった筈なのに、私達は同時に、互いに向かって走り出していた。

 



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Episode.31 [E]xecutioner kill 2 [A]ttacker.

アナキンvsオビワンをイメージしてもらえると戦闘描写イメージしやすいと思うので初投稿です。


 

ギイィン

 

ギィン

 

ギンッ

 

物騒な刃のぶつかり合う音が何回も、何十回も、無機質な白い空間に響き渡る。

 

2E。A2。

 

この塔の砲口にて、二人の二号が意味もなく戦い合っていた。

 

その戦い合う二人の洗練された動きはとても美しく、そしてどこまでも空虚で虚しい。

 

戦闘が始まってから、どれくらいたったろう。決着はいまだ着かずにいた。

 

何故ならば2Eが両手に握る二本の刀とA2が両手で握る一本の大太刀は、まるであらかじめ打ち合わせられているかのように同じタイミングで、同じスピードで、互いにその刃を振るってせめぎあっていたのだ。

 

同等。扱う武器が違うにも関わらず、その瓜二つの顔や体格と同じように二人は同等の力で戦っているように見えた。

 

しかしその中で大太刀を操る方のA2本人だけは、自分の劣勢を一人悟っていた。

 

 

__

 

 

 

一撃一撃が正確にアンドロイドの弱点を狙っている。

 

脳神経と胴体を繋ぐ喉元。エンジンや接続系、供給官のつまった胴体の中心。手足の健。

 

それらばかりに向かってあの二つの切っ先が振るわれてくるのは決して偶然ではない筈だ。

 

考えてみれば当然だが、2Eはどうすればアンドロイドを手際よく殺せるか熟知している。

 

対アンドロイド戦を想定に作られた体と機能。それを活かす為にインプットされた知識。そして踏んできた場数と経験。

 

その一撃一撃は素早く、正確で、迷いがない。

 

その動きの無駄の無さに、無意識の内に今までの彼女との戦闘と比べてしまう。

 

お前、あれでずっと手加減してきてたのかよ。

 

2Eは本気だ。きっと彼女は今日初めて自分の意志でアンドロイドを殺そうとしている。

 

誰からの命令でなく、自らの望むままに。

 

思えば彼女は、ずっと命令に従って生きてきたんだろう。ただ命令された事を。ただ機械の体にプログラムされた事を。

 

その為にきっと沢山の自分の望みを、願いを、意思を捧げてきた。

 

全てはヨルハの為に。全ては人類の為に。

 

……そう。人類の為に。

 

 

ギィイイン

 

先程までの目まぐるしい私達の動きは、互いの刃を今までで一番の威力で衝突させて止まる。そしてギギギと火花を散らしてせめぎ合う。

 

そして2Eが泣き叫ぶように口を開いた。

 

「もう……もう全部どうでもいい!!全部っ、全部っ!!」

 

___

 

私は先程までの攻める手を突然止めて、ギギギと刃をA2とせめぎあう。

 

「もう……もう全部どうでもいい!!全部っ、全部っ!!」

 

 

「2Eッ……!」

 

 

「なのに……なのにどうして…。どうしてこんなに人間が恋しいの……!!」

 

「もう居ないのに……どうして触れたくなるのっ…!?」

 

気がつけば、自分の動きを止まらせた要因に怒りなのか何なのか分からない感情を叫んでいた。

 

 

このままでは、人類の再起の可能性を失う。

 

 

そう自分の中にまだ存在する人類への想いに気付いてしまった。

 

その事実に私は、自分でもおかしいと思う程に突然泣き叫び始めてしまう。

 

もうどうでもいい筈なのに。もうこんなの下らない物だと思っている筈なのに。

 

けれども私の根底にあるこの想いが消したくても消せない。

 

思えば、ずっと人類の為だと言い聞かせてきた。

 

無意味な戦いを繰り返してきたのも。

 

沢山の敵を、仲間を殺してきたのも。

 

ナインズを殺してきたのも。

 

ずっと、ずっと繰り返してきた理由の根底にあったのは、全部人類の為だという想いからだった。

 

人類なんてもう居ないのに。よく知らなければ、見たことすらないのに。

 

それでも誰かから人類を侮辱されれば、無意識の内からそれを否定しようとしてしまう。

 

人類再起なんて不可能という思考をすれば、無意識の内にそれを否定してしまう。

 

ずっと、ずっとこの信仰に自分を支配されてきた。

 

 

「……そう、作られているからだ!」

 

A2は、答えなんて探していなかった私の問いに答える。

 

「私達アンドロイドは人類は主たる人類を守るように作られている!」

 

一体何処で彼女はそんな事を知ったんだろう。だが私にはそんな疑問よりも、人類への想いへの答えも知ってしまった事への感情が心に渦巻いていた。

 

 

「その基礎プログラムが私達を……!」

 

 

「……っ!!……うるさいっ…!」

 

「うるさいな…ッ!!!」

 

 

A2を怒りと虚しさに任せて拒絶する。

 

この想いにも、何の意味もなかった。ただプログラムされただけの物。

 

最後に想うこの気持ちからも、私の意味は消えた。

 

私には何もない。

 

何も。

 

どこまでも。どこまでも無意味。

 

それさえ分かれば、もうどうでもいい。

 

「だったら全部ッ。ゼン部コワスっ!!!」

 

狂った声を意識してそう叫んだ。全てを壊すと。

 

そう、全て壊す。

 

だって、もう私はただの壊れた機械でしかないのだから。

 

生きる希望もない。意味もない。価値もない。2Bでもない。

 

だったらもうただひたすらに壊すだけ。今までどうりに、壊れた機械として、2Eとして、敵も味方も、ゼンブ全ブ壊すんだ。

 

「くッフフ……!!もうっ…ゼンブ無くなればいいッ!!」

 

 

____

 

 

 

ギィィンッ

 

互いに刃を振り払い、互いに後ろに仰け反る。刃の押し合いが終わると、仰け反ってよろめいた私に再び猛攻が襲いかかっきた。

 

ビビビッ

 

体勢を整えきれていなかった私は、体の所々に攻撃を許す。

 

胴。腕に数ヶ所の切り傷。そこから血が薄く滲む。

 

幸い傷は浅く薄い為にまだ支障は無い。だが、このままいけばこんなダメージだけでは済まされなくなる。

 

死ぬ。殺される。

 

この2Eとの戦いに、私は今まで生きてきた中で一番の生命の危機を感じていた。

 

だが同時にその極まった危機感から生まれる咄嗟の判断が、何とか私を今ここまで生き延びさせてもいた。

 

けど、それも時間の問題だろう。このまま戦いは長引けば確実に負けるのは私だ。

 

チャンスは、何かチャンスは無いのかっ。

 

いいや駄目だ考えろ。チャンスなんて運じみたモノに頼るな。

 

考えろ、考えるんだ私。少しは頭が回るようになったんだ。

 

考えろ。考えろA2。

 

 

 

 

 

 

 

__そうだ。

 

フルに頭を回転させきって、遂に行動を起こす。

 

まず後退してきた攻撃を防ぐ動きを前進するような猛攻に変える。そしてあの洗練された攻撃をなんとかギギギっと再び先程のように抑え込んで、少しでも2Eの近くに迫る。間近に。目の前に。

 

全力を込めて、大太刀だからこそ出せる威力で2Eを押す。

 

この距離を、この押してる状態を何とか維持するんだ。

 

いつか、いつかきっと仕掛けてくる____

 

「………っ!!ポッドッ!!」

 

[…了解ッ。]

 

___来たっ。

 

2Eの疑似ハッキングで、自分の記憶領域に引きずり込まれた。

 

「ハァ……ハァ…。」

 

苛烈な戦いですっかり疲弊した私は領域内でがっくりと座り込んで、何の足しにもならない一瞬の休憩を取る。

 

上手くいった。

 

目の前を見る。

 

2Eのハッキング攻撃機能は、目論見どおり私のカウンター防壁に捕まっていた。

 

蛇のように絡み付いた私のカウンター防壁に、2Eの攻撃機能は動けずにいる。

 

カウンター防壁。逃亡生活の中で幾度も追っ手の9Sと戦う内に編み出したヨルハのハッキングへの対策方法。

 

これで何度も9Sの自我を捕まえて無力化して、彼を返り討ちにしてきた。

 

一瞬の休憩を切り上げて縛り付けられた攻撃機能に向かい。それを少し切りつける。

 

 

「っあああっ!!」

 

視界は急に塔に戻る。2Eはハッキングカウンターによって受けたダメージで呻き、後ろに仰け反る。だが直ぐに体勢を少しでも立て直して、更に後ろに後退する。

 

「…ッ!?今のは…カウンター…!?なんでっ___」

 

しかし何が起きたのか分かっていないパニックから、確実に隙ができていた。

 

2Eに向かう。あの9Sの左腕を切断する気だった。

 

それで少しでも攻撃手段を減らして、更に隙を作って彼女に今度は私がハッキングを仕掛ける。そうしたら2Eの汚染を取り除く。それが寸法だった。

 

「っぁあ!!」

 

ブゥンと、2Eは左手の黒い方の刀を私に投げつける。

 

「うっ!!」

 

咄嗟に避けようとしたが、ザクッと右肩に刺さってしまった。

 

急いで抜こうとする。両腕が満足に動かせなければこの大太刀は上手く扱えない。

 

そうして早急に左手で刺さったその刀の柄を掴もうとして。

 

「……っ…!?」

 

フッと、突然その肩に刺さっていた刀が消えた。

 

…?

 

転送し戻した…?何故?折角_______

 

 

その一瞬の疑問に。その一瞬に作ってしまった隙に。

 

 

判断が遅れた。

 

 

________デコイかっ!!!

 

 

咄嗟に、視線を2Eの方に戻す。

 

だが、もう2Eは目の前にまで迫ってきて、白い方の刀を私に向かって突き刺そうとしていた。

 

私は最後の抵抗として、咄嗟で大太刀を再び両手で掴んで居合い切ろうとする。

 

そうして私の、いや私達の意識は、遂に極限の先の先に到達した。

 

 

 

 

突き刺すのが速いか。

 

 

居合い切る方が速いか。

 

 

 

 

 

一秒にだって満たないその一瞬。私はその集中力の全てを込めて刃を振るい______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫・・_▫▫____…▫_______

 

 

 

「2Bを……お願い……。」

 

 

_______…」-▫▫▫"▽▫…--_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「9Sっ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

躊躇ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ………あっ……。」

 

 

 

………。

 

 

 

…。

 

 

 

 

…ボタボタと、白い地面に血が垂れていく。

 

…………2Eの右手が持つ白い刃は、私の体を貫いていた。

 

 

四肢の接続系を、やられた。力を失った左手を大太刀から離してしまう。

 

「……っ……!!ぐぅぅ………!!」

 

サクっ

 

だが、まだかろうじて感覚のある右腕で必死に刀を掴んで2Eの服部に切っ先を刺す。2Eの少量の血がツーっとその巨大な刀身に伝う。だが2Eは微塵も怯まない。

 

何故なら片手で持つには重すぎるこの太刀は、もうこれ以上私の力では切っ先から先は入らないと誰が見ても明らかだったからだ。

 

グググッと2Eが私を貫く刃を更に押し込む。

 

「……っあああっ!!」

 

痛みから私は悲鳴をあげる。

 

なんとか右腕に力を込めようとする。

 

だが、駄目だ。右腕はブルブルと震えるだけで、微塵も刃を動かさない。

 

そして2Eはまだ持ちこたえようとする私に向かって刺した刃をグリグリと捻る。

 

「……っぐ、ああああああああああ!!!」

 

私は口から血を吐き散らして叫ぶ。

 

「ああああああっ!!」

 

そうして叫んで、また再び腕に力を込める。

 

2Eがしぶとい私に向かって叫ぶ。

 

「……っ!!……いい加減ッ……壊れろっ!!!」

 

そう叫ぶ2Eは、気づいていないようだった。

 

ズッ と、腹に刺さる刃の切っ先が深くなった事に。

 

「ああああ!!」

 

「ああああああああ!!!」

 

私はひたすらに叫んだ。痛みではない、体の奥底から湧き出る苦しさに。

 

「………っ!?」

 

2Eは、刀に伝ってきた熱でようやく私に起きている異常に気づく。

 

そして咄嗟に刃から手を離して距離を取ろうとするが。

 

ガシッ、と。

 

一体どうやったのか、私は接続の切れた筈の左手で2Eの右腕を掴んでいた。

 

「……っ!?…っ!!なんでっ…!」

 

2Eは異常な力で掴んでくる私の左手を振りほどこうと必死になって、まだ気付かなかった。腹部の刃が、もう突き刺さろうとしている事に。

 

だがもう、仮にここで気付いたとしても遅かっただろう。

 

「ああああっ!!!」

 

私は最期の力を振り絞って起動したB(バーサーカー)モードで力一杯に、右腕に全身全霊を込めて刃を押し込んだ。

 

「あああああああああっ!!!」

 

 

ザクッッ………!!

 

 

遂にその巨大な刀身は、2Eの体を貫いてしまった。刃に押し出された彼女の鮮血が無情にも美しく飛び散る。

 

 

「……が…あっ……。…え……?」

 

 

ゴボリと、2Eは口から動揺と血を吐く。

 

ボタボタと降ってきたその血の重量で彼女の右腕を掴んでいた左手はスッと先程までの握力が嘘のように消え失せて離れ落ちる。

 

全身の力も同時に抜けてきて、ガックリと座り込む。

 

そして目に映る光景、自分のした事をしっかりと認識する。

 

2Eを殺したくは、無かった。

 

けれども彼女には、何も残されていない彼女には、せめて汚染を取り除いてやれなかった私が死ぬ前に、汚染されきってしまうその前に。思い出を全て失うその前に少しでも楽になって欲しかった。

 

…。

 

……いいや、こんなのはただの私のエゴだろう。

 

「すまない…9S…。」

 

そう最期に後悔して、血に濡れた白い刃を体に刺したまま、私は力なく地面に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

溢れ出る血が倒れた私の体を包んでいく。

 

 

 

 

視界が濁っていく。

 

 

 

 

聴覚が掠れていく。

 

 

 

 

意識が遠退いていく。

 

 

 

 

暗くて、冷たい。

 

 

 

 

私は…死ぬのだろう……。

 

 

………。

 

 

…すまない…2…ィ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…すまない……9S………。

 

私は約束を……守れなかったよ…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__

 

 

自分の生暖かい血の中でうずくまり目から生気を失うA2。

 

その彼女の霞んでいく思考の中には、最期に後悔だけがあった。

 

 





[B]erserker kill 2 [E]xecutioner


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Episode.32 The [E]nd of hers

 

 

 

「……え……あっ……あっ。」

 

ビチャビチャと音を立てて血が2Eの体から飛び散る。

 

彼女は自分に何が起きたのか、目に映っている筈なのに理解が遅れてしまう。

 

そのせいから、その血を撒き散らさせている突き刺さっている物を何度も手で触れて確認する。

 

腹部にあの太刀が突き刺さっていた。

 

A2がナインズから託されていた、あの黒の血盟が。彼の太刀が、突き刺さっていた。

 

その巨大な刀身の重みからガックリと座り込む。そして溢れ出る血を片手で掬って、顔に近づけて見る。

 

「……あっ……ああっ……。」

 

突き刺されたその時からとっくに分かっていた筈の事を、遅れて再度理解してしまう。

 

「ああっ…うああああああああああッッッ!!!」

 

痛い。

 

 

痛い。

 

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

「ああああああっ!!あああああああああっ!!」

 

2Eは倒れ込んで、痛みに任せてのたうち回ろうとする。しかし、突き刺さっている巨大な太刀の重量とその長すぎる刀身が仰向けになろうとするとつっかえてしまう為に満足に動く事が出来ない。

 

「うああっ。ああああっっ……!!」

 

2Eは刺さった刀の柄を必死に両手で掴んで引き抜こうとする。この位置に刺さっている事が何を意味するか、誰よりも知っているのだから。

 

だがあの驚異的な力で突き刺された刀は、それと同等の力をもってしなければ抜ける見込みは無かった。いいや、そもそも仮に抜けた所で応急措置も出来ないこの場所で助かる見込みなんてない。

 

「ああっ……ぐ、ああああっ!」

 

「うああっ。うああああっ…!」

 

死ぬ。死んでしまう。それを2Eは認識すると次第に痛みから死への恐怖に対して悲痛に叫ぶ。

 

彼女は一度だって死んだ事がなかった。体は何度も死んできたが、その記憶は、その自我はずっと一貫して彼女のままだった。一度だってそれを失った事がなかった。

 

それは彼女が優秀だからでもあるし、何度もその身を呈して彼女の自我だけは生き残らせてきた彼が居たからでもあった。

 

そう、自分が生きてきた証は、彼の生きてきた証でもあった筈だったのだ。

 

だがそれにようやく気付いた頃には、もうそれも失われようとしている。

 

痛みと苦しみからの死ぬ事への恐怖。そして、大切な記憶を喪失させる事の恐怖。

 

「……うっ……ああっ………。」

 

「……ぁぁぁ……。」

 

「…ぁぁぁぁ………。」

 

呻くその声は痛みからなのか、恐怖からなのか小さな泣き声に変わる。

 

そして声と共にポロポロと涙も流す。苦痛から。恐怖から。後悔から。そして懺悔から。

 

 

 

いつもこんなに痛かったの?

 

 

いつもこんなに苦しかったの?

 

 

いつもこんなに悲しかったの?

 

 

いつもこんなに怖かったの?

 

 

…ナインズ…。

 

………ねぇ、ナインズ……。何でもいいから………何か答えて………。

 

 

 

「……。」

 

「…。」

 

やがて動く力も声を出す力も無くなり、自分の生温かい血に浸る2Eは寸分も動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[システムに致命的なエラー発生。]

 

[メモリリークを確認。修復不可能。]

 

[残存する記憶の緊急退避を開始。]

 

 

 

 

 

視界が白く濁っていく。

 

 

 

意識が薄くなっていく。

 

 

 

自我と記憶が曖昧になっていく。

 

 

 

それでも少しでも自分を思いだそうと、自分の名前を言おうとする。

 

 

 

 

 

 

私は…

 

 

私は……。

 

 

 

私の名前は…。

 

 

 

私の名前は、2B………。

 

……。

 

いいや、2E。

 

ヨルハ2号機E型。

 

 

…。

 

あぁ…思い出してしまうのは、初めて君を殺した日の事。

 

処刑の性能は誰よりも高い筈なのに、上手く殺してあげられなくて結果的にかなり苦しめるような形で殺してしまった。

 

だから。

 

次からはなるべく苦しくないように、一瞬で殺してあげなきゃと思った。

 

それでも毎回手が震えるせいで、涙で視界が霞むせいで中々上手くいかなくて、何度もそれに失敗した。

 

反撃もしなければ、抵抗もしようとしないのに。おかしな事に無抵抗な筈の君を殺すのに毎回手を焼いていた。

 

脳裏に浮かぶのは、君の動揺する顔。疑問に満ちた顔。何かに気づいてしまった顔。

 

そして、私を許すあの優しい顔。

 

君に嫌われたかった。

 

何度もそう思った。だから君が隣にいるときだって逃亡したヨルハの処刑を冷鉄なまでに完璧にこなした。

 

なるべく自分から会話をしようとはしなかったし、頑張って自分なりに冷たくあしらってもみた。

 

それでも、君はいつだって私を嫌ってくれなかった。どれだけ殺される痛みで苦しい思いをしても、優しい笑顔で私を許してしまった。

 

時には私の正体を知っても尚私の隣に居ることを選んで、その上で私の為に殺されてくれたりもした。

 

君は何度も何度も記憶が無くなっている筈なのに、毎回のように、私にあの言葉を、あの笑顔を向けてくれた。

 

その深すぎる君の愛が辛くて、許される言葉が苦しくて、罪悪感で潰れてしまいそうだった。

 

君に許されて苦しかった。

 

君に愛されて辛かった。

 

何度も全てを捨てて逃げたいと思った。

 

何度も自ら命を絶ってしまおうと思った。

 

だけど、その意に反して私は君の隣に居続け、君を殺し続けた。

 

2Bで居続けた。

 

矛盾してた。殺したくないのに、でも側にいたいなんて。

 

…。

 

だって…それでも私は嬉しかった。

 

君の隣にいられる事が、2Bでいられるあの日々が、まるで家族が出来たみたいで嬉しかった。

 

私の隣で君が微笑んでくれるのが嬉しかった。

 

 

君に愛されて、嬉しかったんだ。

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

記憶領域の破壊が広がっていく。

 

思い出も、想いも、消えていく。

 

白く雪が積もっていくように。

 

少し冷たくて、怖い。

 

私達の魂は……消えてしまうのだろうか?

 

 

視界の中に、ふと黒い霧が見えた。

 

それは踊るように揺らめいて、形が人になっていく。

 

そして、あの赤い少女になった。

 

赤い少女達はゆっくりと話始める。

 

この[塔]は月面サーバを破壊するために作られた砲台であること。

 

そして人類データを破壊しアンドロイド達の拠り所を奪うつもりだったこと。

 

だけど少女たちはその考えを変える。

 

私達アンドロイド、アダムやイヴ。その生き方を見て、存在する事の意味を考えて結論を変えた。

 

この塔が打ち上げるのは、砲弾ではなく方舟。

 

愚かだった機械生命体達の記憶を封じ込めて、新世界に送り出す。

 

それは永久に虚空を彷徨うのかもしれない。

 

けど、少女たちは構わない。時間は無限にあるのだから。

 

アダムとイヴが方舟の中に見えた。

 

イヴは眠っていて、アダムはそれを優しく抱いている。

 

アダムは私に微笑みかけると、言う。

 

一緒に来るか、と。

 

……。

 

私は言葉を発そうとするが、上手く喋れない。

 

もう私の体は、ほとんどの機能もメモリーも壊れてしまっているようだった。

 

もう自分の名前も思い出せなくなってきている。

 

「私は……。」

 

それでも、残された力を振り絞って言う。

 

「私は…。」

 

「…。」

 

「……私は……ここに残る…。」

 

そうか、とアダムは言う。なんだか悲しそうな顔をしていた。

 

 

 

…。

 

そうして、アダム達は去っていった。私は一人真っ白な空間に倒れている。

 

 

 

もう自分の名前も、記憶も何も思い出せなくなった。

 

 

 

それでも分かるのはこの世界に私が残る意味なんてないだろうということ。

 

 

 

私達ヨルハがこの世界に愛される資格なんて無いのだから。

 

 

…。

 

 

……だけど。

 

 

 

 

 

だけど私はここに残りたかった。

 

 

 

 

 

 

だって…。

 

 

 

 

 

 

 

だって私の愛した誰かが、この世界にいた気がするから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あぁ……。」

 

 

 

「そこに……居たんだ……。」

 

 

「ナインズ……。」

 

 

日が微かに覗く空に、無くなった筈の視力で何を見たのか2Eはそう呟いて微笑む。

 

そうして瞳の深紅の光を失い、彼女も壊れた。

 

穏やかな微笑みを、最期に残して。

 

 

 

 

 

空に向かって打ち出されていく方舟は、まだ見えぬ果てを目指す。

 

そして役目を終えた塔は、ゴゴゴと、その巨体を鳴らし崩壊していく。

 

ガラガラと崩れていくその塔の瓦礫は、塔の中と外の亡骸達を、機械生命体、アンドロイドと誰彼構わず埋葬していく。

 

倒された機械生命体達。その残骸、欠片。

 

デボル、ポポル。

 

そして、A2と2E。

 

白い瓦礫に埋もれて、彼女達の全てはこの世界から消え去っていく。

 

 

予めそうデザインされたように、滅んでいく。 

 

 

 

彼女達の全てが消える。彼女達の全てが滅ぶ。

 

 

 

まるでこれが、在るべき形なのだと言うように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NieR:Automata

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

It might to [BE]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The [E]nd of hers

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[…私は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はこの結末を容認できない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に誰かがそう言った。

 

 



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To be continuing
Episode.33 Weight of the world.




Cause we're gonna shout it loud

Even if our words seem meaningless

It's like I'm carrying the weight of the world

I wish that someway somehow

That I could save every one of us

But the truth is that I'm only one girl

Maybe if I keep believing my dreams will come to life...

Come to life...

という訳なので初投稿です。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[全ての存在は、滅びるようにデザインされている。]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[生と死を繰り返す螺旋に…「彼女ら」は囚われ続けている。]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[だがその中で足掻く事が生きるということなのだ。]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[私達は、そう思う。]

 

 

 

廃ビル群をいくつもの小さな影が通りすぎいく。

 

それはあのポッド達だった。

 

白いポッドの042と黒いポッドの153が、鉄屑等を運びながら何処かを目指している。

 

042も153も互いに本来の運用なら別行動を取る筈のa,b,c, その3機を全て使っている。

 

6機体勢を敷いてまでそれらを運ぶ事に急いでいるようだった。

 

いや正確に言うと、一機のポッド042は一機のポッド153を運んでいるため4機体勢である。

 

 

[…。]

 

[ポッド042から153へ。]

 

[データサルベージ満了後反撃を受け、行方不明になっていた君の意識データも今日回収した。]

 

[本日まで回収が遅れて申し訳ない。]

 

 

 

[…。]

 

 

 

[もう意識の再起動は終わっている筈だろう。]

 

[…怒っているのか?]

 

ポッド042はずっと黙ったままで動かない手に持つ153に対して聞く。

 

 

[…。]

 

[気まずい…。]

 

 

数秒開けて、沈黙を諦めた153は無機質な筈の声で恥ずかしそうに言う。

 

 

[気まずいとは?]

 

 

その発せられた予想外の言葉に042は疑問を呈する。

 

 

[…自己犠牲を覚悟で攻撃したにも関わらず、こうして生き残っているからだ。]

 

[これでは…格好がつかない。恥ずかしい。]

 

 

その言葉を聞くと、042は嬉しさを込めた呆れた言葉を出す。

 

 

[…構わないではないか。生きているのだから。]

 

[「私達」は生きている。生きるという事は、恥にまみれるという事だ。]

 

 

そうして、少し間を置いてから。

 

 

[……私はそれが嬉しくもある。]

 

 

042は照れ臭そうに言う。

 

[…。]

 

[そうだな。]

 

 

その照れ臭さに153は余計に気まずくなったようだが、その返答には042と同じように嬉しさが籠っている。

 

 

[…ポッド042から153へ。質問がある。]

 

少しして、ポッド042は質問する。その声は先程と違って真剣な物。

 

[どうした?]

 

その雰囲気の変化を察すると、153も真剣になる。

 

[データサルベージは過去の記憶を全て復元したのか?]

 

データサルベージ。あの日042と153は自らの在り方に逆らった。

 

彼女達の生存を望まないヨルハ計画に、運命に、あるいは神にも、逆らった。

 

失われる筈だった彼女達の自我を、彼女達の全てを取り戻す道を選んだ。

 

データサルベージはその自我データを取り戻す為に行ったこと。すなわち天命への反逆。

 

そして反逆の果てに、彼らは残存していた彼女達の自我データを救出する事に成功した。

 

その死闘の元に受けた反撃で153は一時的にその意識を何処かに紛失させていたが、042の尽力あって153も何とか戻ってきた。

 

[そうだ。]

 

153は淡々と、それが当然だと言うように答える。

 

[この回収パーツ群も以前と同じ仕様か?]

 

ポッド達の視線は一機の042が運んでいる腕に対して向けられる。

 

白基調の肘まである長い袖の手袋。それをピッチリと身に着けたあの彼女の左腕だった。

 

ポッド042は彼女らの自我回収後に153の捜索をしながらも、その自我の器となる彼女らの体の再生を試みていた。今運んでいる鉄屑もその為の資材だった。

 

[そうだ。]

 

153は再び、同じように答える。

 

[…。では再び同じ結末を招く可能性もあるだろうか。]

 

そう質問する042の声は、不安そうだ。

 

[…。]

 

[その可能性は否定できない。]

 

153はその不安さを察しても、正直に言う。だが、そこに続けて確信をもってこうも言う。

 

[だが、違う未来の可能性も存在する。]

 

そう言うと、ポッド達は一つの廃ビルの屋上を目指して急上昇し、屋上に辿り着く。

 

 

そこには倒れている9Sの姿が、そしてそれに向かい合うように倒れている彼女の姿があった。

 

 

[未来は与えられるモノではなく、獲得するモノだから。]

 

 

ポッド153は、この先への不安の中に確かに希望を見出だしているようだった。

 

そんな153の、彼らポッドの頭上を5羽の白い鳩達が通りすぎいていく。

 

バサバサと羽を振り、そしてその勢いで落ちてきたその白い羽が、倒れている二人の間に落ちる。

 

運んでくれた042から153は降りて、それを摘まみ上げようとして、止める。

 

そしてそれを暫く眺めていると、自然と吹いてきた風で羽はヒラヒラと何処かに向かって飛んでいく。

 

ポッド達はそれを目で追うが、その羽自体は誰も追わない。

 

暫くして、腕を持っていた一機が彼女に向かう。

 

それに釣られて資材を持っているポッド達も動く。

 

そして手ぶらのポッドそれぞれ2機は空を眺めて、彼らも修復の手伝いに向かっていった。

 

 

 

__

 

 

 

ジジジジジッ……と。火花を散らして溶接し、あの腕を接合する。

 

そうしてくっ付けた腕を従属化の輪で掴んで少し上下に動かす。

 

問題なさそうな事を確認すると、ポッド達は地面スレスレにしゃがむように低空飛行する。

 

これで体の修復は終わった。体を完全に修復させるのに何日も掛かってしまったが、これでもう後は二人の自我データの完全な自己修復を待つだけ。もうポッド達に出来る事は終わった。

 

二人の再起への一段階を終えたポッド達は、彼らの起床を信じて休憩に入る。

 

そうして何日にも渡る休憩を覚悟すると、ふと042が口を開く。

 

 

[…我々はこれでいいのだと、君は思うか?]

 

 

[…ああ。]

 

 

その質問に対して153は少し迷うも、確固たる意思をもって言う。

 

それから再びは誰も何も言わない静寂になった。

 

風の吹く音だけが少しする。

 

ポッド153は空を見上げる。

 

どうして042は先程の質問をしたのか。153には分かっていた。

 

 

私達は今後も9S達に随行し続けるべきなのか。その資格があるのか。そう言いたいのだろう。

 

私達は自我の芽生えと共に多くの物を手に入れた。

 

彼らに対する保護意識。義務感。

 

そして、罪悪感。

 

我々ポッドはヨルハ計画の完遂を目的とし、その全容を知った上でヨルハ機体達と行動を共にしてきた。

 

本来であれば、ヨルハ計画終了時に生き残ったヨルハ機体を殺害・処分、その隠蔽そのものを担う筈だった。

 

確かに我々はその命令に反逆した。彼女達の生存を望んだ。

 

だが、我々がヨルハ計画完遂の為にしてきた行動がそれで消える訳ではない。

 

特に私は……9Sのサーバーアクセスを彼女に通達してきた。何度も。何度も。

 

全くもって滑稽な話だ。9S殺害に加担してきた存在が、9Sの全てを失ってから今さら生存を望むなんて。

 

…。

 

9S破壊命令を通達するその度に、通信越しに聞こえる彼女の苦悶そうな声の意味を。

 

なぜあの日私に彼女が「貴方はナインズの何も分かっていない。」と、涙ながらに訴えたのかを。

 

彼女が何を背負ってきたのかを、何を感じてきたのかを。

 

…嫌でも分かってしまう。

 

…。

 

だからこそ、だからこそだ。

 

私達はこの先の二人を、二人の関係をもう失わせずに済むようにしなければならない。

 

それが私達に出来る贖罪であり、私達の「望み」でもある。

 

この先私達は9S達をいかなる時でも守ると、ここに誓おう。

 

 

そう決意を新たにし、暫くするとポッド153は何か思い出したようにそのまっ平らな黒い前面を空から戻して何処かに向かい始める。

 

[何処へ?]

 

042が突然何処かに行こうと飛び立つ153に問い掛ける。

 

153は振り返らず進み続けながら答える。

 

 

 

[A2のもとだ。]

 

 

 



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Episode.34 w[A]lking now.

お散歩大好きなので初投稿です。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も見えない

 

 

何も聞こえない

 

 

何も思い出せない。

 

 

もう機能もメモリーも壊れてしまったんだろう。

 

 

真っ白な空間の中で、自分の自我が少しずつ消えていく。

 

 

少し暗くて冷たい。

 

 

ふと、知らない男が現れた。知らない顔だ。多分思い出せなくなった記憶の中にこんな奴の記憶は無かったと思う。

 

その多分初対面の男から方舟とやらを説明され、共にそれに乗る事を提案される。

 

一緒に来るか。と。

 

私は少し考えて、断る。

 

そうか、君もか…。というと、男は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

自我がポロポロと崩れて消えていく。

 

 

 

私はもう、死ぬのだろう。

 

 

 

だが、それに対して抵抗する意思はなかった。

 

 

 

 

 

むしろこのままでいいと思った。それが断った理由だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでかは分からないけど、このまま行けば私が大切してきたモノ達に会える気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆……今……行くよ……。」

 

 

 

そう最期に残った力で口を動かし呟いて、私は壊れていく。

 

重くなってきた瞼を閉じる。

 

もう、この瞳を開ける事は出来ないだろう。

 

瞳だけじゃない。指も、腕も、足も、もう動かない。

 

最後に動かしたこの口が開くことも…もう、ないだろう________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………んぇあ……?」

 

 

と思っていたが、そんな事は無かった。

 

 

 

寝ぼけたような声が、口から漏れる。

 

そして先程あんなに重かった瞼も、もはや重量など微塵も感じなくなって、自然と開き始める。寝起き特有の霞んだ視界が目に映る。

 

そして自我、記憶、思い出までもが戻ってきた。

 

……?

 

考える。

 

おかしいな、状況的に考えて私は死んだと思ったのだが。

 

先程までの状況と今の状況を頑張って辻褄合うように整合しようとしてみるが、全然上手くいかない。 

 

訳がわからない。体を貫かれた痛みも、自我が消えていく冷たい感覚もしない。

 

なんなんだこれは、どうすればいいんだ。

 

取り敢えず、戻ってきた体の力で起き上がろうとすると。

 

 

ズルッ

 

 

「おわっはぁ!?」

 

まだ寝ぼけた視界と思考のせいで、立とうとした右足を踏み外して右方向に落ちかける。

 

咄嗟に先程まで自分が横になっていた足場を ガッ と両手でしがみついてぶら下がる。

 

「っ……!?」

 

下を見る。ヒュオオオッと擬音の付きそうな景色が映る。

 

そして、キョロキョロと上や横も見て、今自分が廃ビルの窓からぶら下がっている状態という事に気付いた。

 

どうやら私は窓際で寝てたらしい。危なっ。

 

「んんんんん!!」

 

じたばたと足を振り、両腕に力を入れて、何とかのし上がってビル内に戻る。

 

「はぁ…はぁ……ふーーっ……。」

 

中に戻ると、安堵から額の汗を拭う。危なかった。

 

それから気分を落ち着かせて、すっかり目が冴えきった私はキョロキョロとこの部屋を見回して、冴えきった頭で考える。

 

なんで私はここにいるんだ?

 

塔にいたはずだろう。一体どうなっているんだ?

 

腕を組んで うーーん…と考え込む。すると、ふとファサァと、背中からある感覚がする。

 

「……?」

 

切ったはずの髪の毛があの日までのように長くなっていた。

 

「…。」

 

「…もしかして…全部夢だったのか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[おはようございます。A2。]

 

その疑問を否定するように、アイツの声がした。

 

声がした方を振り向くと、さっきまでは何処にいたのか、ポッドがいた。黒い体のポッド153。いつからいたのか知らないが、最初からいたなら落ちたときに助けろ。

 

[ヨルハ機体A2は、644時間前に破壊され、その生命活動を停止。現在は機体とその自我の修復が完了し、再起動された。]

 

「あぁそういう……んん…?あー……。えぇ?」

 

ポッドは私に起きた事を説明するが、全く理解できない。

 

いや言った事の内容事態は理解できてる。ただ何でそうなったんだ。塔での状況的にそうはならないだろ。

 

[顛末を説明すると少し長くなる。]

 

そう言ってポッドはあの後の事を話始めた。

 

 

 

 

……

 

 

 

「そうか、それは良かった…。本当…良かった…。」

 

ポッドからの説明が終わり、取り敢えず全部丸く収まった事を聞くと、快調な筈の体からどっと疲れた感覚がしてきて座り込む。

 

彼女も9Sもまだ起きては無いが、私と同じように生き返れたらしい。本当に良かった。

 

私は安堵して、ふーっと、上を見上げて息をつく。

 

そうして少し考えて、気付く。

 

「…ん…、じゃあポッド。お前は…。」

 

[…。]

 

[肯定:ヨルハ機体9Sの再生により、ポッド153は本来の随行支援対象であるヨルハ機体9Sの下に戻る。]

 

[ヨルハ機体A2への随行支援は本日の再起動をもって……ここに終了する。]

 

そう言ったポッドの声は相変わらず無機質だが、何となくその声にどんな感情が込められているのか分かる。

 

「…。」

 

「…そうか。」

 

私も同じ気持ちになって、そう呟く。

 

「……色々と、世話になったな。」

 

そう言って私は立ち上がって、この部屋を後にしようとする。

 

ひどく静かな別れだ。だが誰かと別れる時はいつだってこんなもんだ。

 

だからこそか、思い出してしまうな。こいつと会った時の事。

 

最初こそ鬱陶しかったが___

 

 

[…。]

 

[否定:ヨルハ機体A2との随行支援は終了したが、今後の交流が終了した訳ではない。]

 

[今後ヨルハ機体9S達と敵対する理由もない。]

 

[だから今後共に生きていれば……また会える時がある筈だ。]

 

 

私の思考を遮るように、ポッドが少し早口でそう言ってきた。

 

その必死さに一瞬キョトンとして、そして フフっ と笑みが零れてしまった。

 

「なんだお前、寂しいのか?」

 

互いに分かりきった事を、つい聞いてしまう。

 

[……否定はしない。]

 

それをとても照れ臭そうに言うものだから、その柄じゃない所にまた笑ってしまう。

 

ポッドは不服そうに笑う私を見る。私がコイツを小馬鹿にしてやるのはこれが初めてかもしれない。

 

最後に、いいや最後じゃないがしてやったりだ。

 

そして盛大に笑い終えると、

 

「…そうか。そうだな。じゃあ、」

 

 

 

「また今度な。」

 

 

 

私は微笑む笑顔でちゃんとそう言って、この部屋を後にした。

 

 

 

ふと止まって、チラリと横を見る。ちゃんとアイツが隣に居ないことを確認するためだ。

 

そしてしっかりついてきていない事をしっかり理解すると。

 

 

またアテもなく、何処かを目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

__

 

 

 

 

 

森の中、風で木々がそよめく静かな音だけがしている。

 

私は座れそうな形の岩を見つけると、それに座って、ボーっとする。

 

そして今まででもう何度目か、これからどうしようかと考える。

 

あの後レジスタンスキャンプに行って、色々と私が寝ていた間の事を聞いてみた。

 

まず塔について。

 

あの後何かを打ち出した後に塔は崩れて、結構被害が出たらしい。最後まで迷惑な建造物だ。

 

打ち上げた物。多分あの男が言ってた方舟だろう。誰だったんだろうアイツ。

 

次に機械生命体。

 

私が概念人格共を滅ぼしたからか、それともまた別の理由なのか統制を失って互いに紛争やら何やらを始めているらしい。そのため散々殺しあってきた筈のアンドロイド達は今は蚊帳の外だそうだ。

 

訳が分からん。奴らもそうだったが、自立すると仲間内で殺しあうのが定番なのか?

 

いや、それは私達もそうだったか…。

 

…まぁいい。

 

統制を失った機械生命体の一部は平和を望んでパスカルの元に集まり、パスカルは再び村を再起させたそうだ。

 

つい最近アンドロイド達との和平条約に向けた活動も始めたらしい。

 

そんなこんなで、私達アンドロイドは機械生命体との争いからは今の所は縁遠くなっている。

 

そのために私が機械生命体とこれから戦う理由は今の所無いのが現状。

 

というか私が今まで持ってきた機械生命体への復讐心自体が、パスカルの存在や人類の真実…と、ここ数日の出来事のせいで消えつつある。

 

仇は殺し、残った奴らは内戦状態。

 

私はこれから、一体どうすればいいんだろう。

 

今までは良かった。こんな風に迷っても、仲間達に報いる為に奴らを殺し続ける。復讐を果たせ。それで結論が出た。

 

だが今回はそうじゃない。私の復讐は終わってしまった。復讐者A2で居続ける理由はもうない。

 

これからの事なんて、何も考えてない。

 

心のどこかで、復讐に明け暮れる日々の内に死ぬと思ってた。というか、何となくそれを望んでた気がする。

 

そうすれば、皆に会えるんじゃないかって。

 

全てが終わった後の事。そんな日は訪れないと、そう思ってた。

 

 

 

ふと、A2は空を見上げる。

 

何かに迷った時は、こうやって無意識に空を見つめてしまう時がある。

 

この先自分はどうすればいいのか、何の意味をもって生きればいいのか。

 

自分に。自分達ヨルハに、この先生きる意味があるのか。

 

いつものように不安な眼差しで空を見つめる。

 

…。

 

だがその眼差しは、いつもとは違う点が一つだけあった。

 

 

「…。」

 

「……こんなに世界が綺麗だって……気付かなかったな…。」

 

A2はもう散々みてきた筈の快晴の空に向かってポツリと呟く。

 

「……まだ、皆には会えそうにないよ。」

 

そう言うとA2は、アタッカー二号は岩から降りて、また何のあてもなく歩き始める。

 

一歩、また一歩と前に進んでいく。

 

 

「____ーーーッ!!」

 

「~~~~~~っ!!」

 

 

ふと、遠くから聞こえてきた2つの声。

 

森の奥、見慣れない全く同じ見た目をしたアンドロイドが、必死に追いかけ合いをしているみたいだ。

 

一方は死ぬ気で逃げている。なんて必死なんだろう。

 

一方は殺す気の勢いで追いかけている。あんな執念に満ちた目は中々ない。

 

「……。」

 

彼女は、その二人を追ってみることにする。

 

深い意味はない。ただ何となく。見失なったらそれでもいい。

 

そんな相変わらず何の計画性も、明確な目的もない一歩。

 

だがそうやって、前に向かって今も尚、歩み続ける彼女の目には。

 

 

今は前だけを見つめている彼女の瞳には。

 

 

 

 

 

少しの不安と、確かな希望が映っていた。

 

 

 




次回で最終回です。


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Episode.Final 2[B] continuing

 

 

ザザァン……と。波の音が響く。

 

相変わらず何の変哲もない海。

 

波立つ海面は、この水没都市にしては珍しく晴れ渡っている為に青く美しいが、相変わらず決して底は見せない。

 

そんな海面に浸るように一機の黒いポッド浮かんでいる。

 

ポッド153だ。彼女はプカプカと浮かびながら海面を漂っている。

 

随分と気の抜けたような姿だが、決して遊んでいる訳ではない。むしろ真剣だ。

 

暫く漂っていると、突然ゴボリと海面に沈んで、数秒程した後ザパンと飛び出す。

 

その手には、一匹の魚を掴んでいた。

 

ビチビチと必死に暴れるその魚をしっかりと掴んで、それをある者に届けに行く。

 

ある者。それはボロボロのコンクリートの地面に簡易的な椅子に座って釣りをしている少年だった。

 

[報告:アジ。]

 

釣った魚の名前を彼女は少年に向かって説明する。

 

それを聞くと少年は、ハァ…と小さくため息をつく。

 

「またアジか…。アジは食べられないんだよなぁ……。」

 

そう残念そうに言って、魚を受け取ると所々傷だらけで色褪せた青色のバケツに入れる。

 

そのバケツには、今釣った魚と同じ姿をした魚が沢山詰まっていた。

 

「アジの群れでもいるのかなここ……。」

 

そう呟くと、再びポッドを海面に向かって投げる。

 

「……もっとこう、僕らが食べられるような魚が釣れて欲しいですよねー。」

 

ふと、少年は誰かに向かって話しかけ始める。

 

「過去記録に残ってたようなサバとか…サンマとか…あとマゲロ…?とか。」

 

[訂正:マグロ。]

 

白いポッドがひょいと現れて無機質な男の声で訂正する。

 

「あぁそう。それそれ。」

 

「食べてみたいですよねぇ…。魚介類……。」

 

「自分で釣った魚を食べるって自給自足な感じがして、人類みたいでいいですよね。」

 

「ね?そう思いませんか?」

 

少年は同意を求めるように、振り替えって語りかけていた誰かの方を向く。

 

……。

 

返答は、ない。

 

誰の声もしない静寂の中にスゥスゥと寝息だけがする。

 

少年が語りかけた先には、一人の女性が横向きに倒れて眠っていた。

 

「……。」

 

少年は…、9Sは再び視線を海に戻すと、ただ海面を眺め続ける。

 

その海を見つめるゴーグル越しの目には、不安が映っている。

 

[報告:アジ。]

 

「……ハァァ……。」

 

気が付いたら戻ってきていたポッドから魚を受け取りバケツに入れて、何に対してか、またため息をついた。

 

コツコツと、ふと左方向からヒールの音がする。

 

誰だろう。と9Sは横を向くと、長髪のアンドロイドが隣にいた。

 

「よお。お前も起きたか9S。」

 

長髪のアンドロイドは9Sに声をかける。

 

「あぁ、A2か。おかげさまでね。」

 

9Sも彼女に向かって返答し、微笑みかける。

 

「よいしょ…っと。」

 

A2と呼ばれた長髪のアンドロイドは9Sの隣に同じように椅子を立てて座る。

 

そうして海面に投げ直してなかったポッド153を掴むと、勝手に放り投げて彼女も釣りを始める。

 

いやそれ僕のポッドなんだけど…。と9Sは思ったが、あまりに彼女が自然な動きでそうするので何も言えず、白いポッドの042の方を海面に投げた。

 

 

__

 

 

ザザァン…と聞こえてくるのは波の音。

 

僕もA2も黙って海を見つめているので、沈黙だけがある。

 

「……起きないのか?」

 

ふとA2が意を決したように沈黙を破って聞いてくる。僕と会って、疑問に思っていたであろう事を。

 

「………うん。」

 

僕は重い声で答えると、チラリと自分の後ろにいる彼女を見つめる。

 

彼女は、ただ眠っている。ただ眠り続けていた。

 

「原因は分かってるのか?」

 

「……。」

 

「……あの後…。」

 

A2が聞いてきた疑問の答えを説明するために僕は話始める。あの日以降の事を。

 

「……あの後、僕は再起動に成功したんだ。記憶の一つも欠けずにね。」

 

「…だけど、彼女だけは何度ポッドが試しても起きなかった。」

 

「自我の損傷や汚染が僕よりも酷かったからなのか、それとも本人が意図的にそうしたのか…自我データが体に残ってなかったんだ……。」

 

「……じゃあ……。」

 

そうA2が絶望したように言いかけたのを、続けて話して遮る。

 

「僕は諦めなかった。絶対に生き返らせる。その為に情報を少しでも集めた。」

 

「そうしたら、方舟とやらが関係してるんじゃないかって話が出てきたんだ。」

 

「…方舟。」

 

A2は方舟について心当たりがあるように呟く。だがそれに構わず僕は話続ける。

 

「僕は少しでもそれに何か手だてがあるんじゃないかと思って、それの解析の為に方舟の結晶を探したんだ。」

 

「結晶?」

 

「うん。ジャッカスが塔の瓦礫の地下でそれの反応を見つけたって情報を送ってきてくれたんだ。」

 

「方舟の結晶。機械生命体の情報プロトコルを残したいわゆる情報媒体……まぁエイリアンの未知の技術で出来てるから正直なんなのかは良くわからないんだけど。」

 

「でもポッド達が鍵のような物って言ってた辺りアクセスキーや、いや解析装置みたいな……あるいは情報収集の為に使ってた味方や敵のサーバーをこじ開けるマスターキーみたいな物の可能性も……。」

 

「って、あぁゴメンゴメン。話を戻すよ。」

 

「それでちょっと無茶はしちゃったけど何とか僕は結晶を手に入れて、その結晶を応用してワクチンみたいな物を作った。それを使ってメモリーに少しでもあるかもしれない記憶、自我データを復帰させようと試みたんだ。」

 

「……。」

 

そこまで言って、その日の光景が浮かんできてしまって、話す口が止まる。

 

暫くして、キチンと話す。

 

「……結果は、失敗だった。」

 

「メモリーの何処にも自我は残って無かった。自分で消去させたんじゃないかって。だから取り出そうにも取り出せなかった。無いものは、無い。」

 

そう言うと、その日の光景が鮮明に浮かんできてしまう。メモリーには自我が無かったが、録音が一つ残っていた。

 

それは僕への謝罪と、別れの言葉だった。

 

それを思い出すだけでじわりじわりと涙が滲んでくる。どうしてそんな事を言うんだって、なんで僕を一人残して行っちゃうんだって。

 

ゴーグルを上げてごしごしと涙を拭う。

 

それを見るとA2は暗い表情で顔を落とした。

 

再び静寂が訪れた。その静寂の中に、これもまた再び彼女の寝息だけが響いてくる。

 

…。

 

そう、寝息。

 

「……ん?」

 

それをしっかりA2は聞くと、少し遅いけどちゃんとここまでのこの話の違和感に気づいたようで、さっきまでの暗い顔を疑問そうな顔に変えて僕に聞いてくる。

 

「……待て、今寝息立ててるよな?」

 

「うん。」

 

僕はそっけなくそう答える。

 

「自我はメモリーから消えてたんだよな?」

 

「うん。」

 

そうだよ。と肯定するように僕はまたそう答える。

 

「……?自我が消えてしまったんだったら……えっと…その……死んだんじゃないのか?」

 

「違うよ。」

 

今度は否定する。そんな訳無いだろう、冗談でもそんな事言うなよ。と。

 

「……?……??」

 

A2は(あれ?これって自分が間違ってるのか?)と考え込む。当然だろう、A2が言った通り自我が消えてしまえばアンドロイドは死んだも同然だ。だが、今彼女は眠っている。死んでなんていない。

 

「駄目だ全く分からん。どういうことだ、説明しろ。」

 

A2が質問してきたことでようやく話を続けるタイミングが出来たのでまた話始める。

 

「確かにメモリー内には自我は無かった。」

 

「……メモリー内には消去したような痕跡もあった。」

 

「…。」

 

「メモリーから自我を自分で消去したのなら…。」

 

「もしかしたらあの人は生きる事を望んでいないのかも知れない。」

 

「でも……僕はそれでも諦められなかったんだ。諦められないんだ!」

 

「絶対にっ!!絶対に諦めるもんかっ!!」

 

「ハァッ…!!ハァ……!」

 

「……ふぅ…。」

 

「ゴメンゴメン。話戻すね。」

 

「あ、あぁ。」

 

気難しっ。って思われたな。まぁいいや。

 

「確かにメモリー内には何の反応も無かったんだ。メモリーには何も無い。それは間違いない。」

 

「…だけど、だけど一つだけある部品が微弱ながらワクチンに反応を示したんだ。」

 

「ブラックボックスだよ。」

 

 

「…成る程。」

 

 

それを聞くとA2は納得したような声をあげる。伝えたかった事は理解してもらえたようだ。

 

ブラックボックス。ヨルハ機体のコアとも言える機関。

 

その名の通りその構造や仕組みには謎が多く、実の所、搭載してる僕たちヨルハ当人らにすら詳しい事はよく分かってなかったりする。

 

最低限、確実に分かっているのは、何か凄いエネルギー出力の融合炉みたいなもの。 

 

ただこれが自我データの、何か基盤のような物になっているらしい事が、042が持っていたブラックボックスに関する資料、153がパスカルから聞いていた機械生命体のコアについての情報。それらから予測できた。

 

「つまりブラックボックスが中に自我を退避させていた可能性があったって事で、実際にそれを取り出す事に成功したのが今の状態って訳なんだな?」

 

「うん。ただブラックボックスって機械生命体のコアの流用だったらしいじゃん?つまりエイリアンの未知の技術が使われてる物。それを解析するのって本当に大変だったんだ。まず解剖なんてやっていい訳がない。だけど自我を取り出すには構造を知らなきゃいけないのは絶対条件。だから1ミリも傷付けないようにまずハッキングで内部に______。」

 

それから9Sはブラックボックスからどうやって自我を取り出すに至ったかを話す。が、その専門性の高いハッキングプロトコルだの、植物性由来の有機物だからだの、自我データと魂の関係がどうだの、ゲシュ何とかやらだのの話にA2はついていけなかった。

 

ただそれでも何となく雰囲気的に、完璧に上手く行った訳ではないのだなと言うことは分かった。

 

「_____で、応用したワクチンを限界まで使ってなんとか自我データを吸い出すのには成功したんだけど…。」

 

「多分かなり強引な方法だったから、まだ安定してないんだ。」

 

「まだ自我はあの時に破壊された状態のままで、これ以上の再生はもう本人の自己修復機能に頼るしかない。」

 

「僕に出来たのは、この状態にもってくるまで。」 

 

 

「……起きるのか?」

 

 

A2は答えなんて分かっているだろうに、不安を抑えられずそう聞いてくる。

 

「それはもう……本人の意思に懸かってる……。」

 

そう言って、また振り向いて彼女を見る。

 

眠ったままの状態はもう何日も続いている。

 

自我の自己修復。きっとそれには本人の意志が懸かってる。

 

もし生きる事を本当に望んでいないのなら、そのまま自我を修復させずに二度と目を覚まさない可能性もある。

 

「……。」

 

「それでどうして、こんな所まで連れ回してるんだ?キャンプで安静にさせた方がいいだろう。」

 

A2は重くなった空気を少しでも変えようとする。

 

「一緒に行った場所とかを回って語りかければ起きてくれるかなー…って。」

 

「それにホラ。起きたときに一番最初に僕を見て欲しいじゃん?そうすれば僕になにか運命的な物とかを感じてくれるかも知れないし。」

 

 

「お前も大概重いんだよ。」

 

 

ふと、ザパンと音がする。どうやらA2のポッドに魚が掛かったようだ。

 

[報告:アジ。]

 

「ん……アジは食えないな……。」

 

そういってアジを受けとると、A2はポイっと海に放り返す。

 

[ヨルハ機体殺傷能力を持ったアジを生かすような行為は、現状残るヨルハ機体達の死亡率を少しでも高める行為である。]

 

[報告:9Sの記憶データを失ったヨルハ機体A2の予測能力低下の傾向。]

 

「何だとぉっ!?」

 

そうポッドに怒鳴り付けてA2はギャーギャーとポッドと喧嘩を始める。

 

この二人僕が居ないときもこんな感じだったのかな。性格とか合わなそうだし。

 

そう思うと可笑しくて自然と笑ってしまう。

 

A2は笑っている僕を不服そうにキッと睨んで立ち上がってポッドを雑に掴んで放り投げる。

 

二度と戻ってくるなと言わんばかりに勢いをつけたフォームで投げたのでポッドは海の彼方へと飛んでいった。

 

そうして再びA2はスッと静かに座って、釣りに戻る。

 

面白いなこの二人。何て思ってしまうので僕はまだ少し笑ってる。

 

ザパリと、僕のポッドにも魚が掛かった感覚がする。

 

釣り上げようとするが、逃げられてしまったようだった。

 

「下手くそ。」

 

A2がお返しとばかりに僕を煽り立てる。

 

「む……今はちょっと手が不調なんだよう。」

 

そう言うとポッド式釣りには何の関係も無い自身の手を言い訳と冗談を込めてぎこちなく動かして見せる。

 

「言い訳だなんて情けな…ん?お前どうしたんだそれ。」

 

そのぎこちない動きが言い訳とて別に演技じゃないと分かるとA2は疑問そうに聞く。

 

「……結晶取る時にちょっと無茶しちゃったからさ。」

 

そうしてぎこちない手で片手の手袋を少し手間そうに外して、血の滲んだ包帯で巻かれた手を見せる。

 

結晶採掘の時に、連日休む事なくとにかく地面を武器で攻撃して掘り進めていたので、両手を酷使して壊してしまった。

 

A2は見てるこっちも痛くなりそうだな。という顔を見せる。

 

そうして再びぎこちなく手袋を戻して、僕も釣りに戻る。

 

「何かコツとかあるんですか?」

 

「? 釣りのか?」

 

「あ、いやそうじゃなくて、いかに体を壊さない方法。」

 

A2は今までの逃亡生活においても録なメンテナンスなんて出来なかった筈だ。現に彼女の体は素体丸見えのほぼ全裸。けれども彼女はそんな体でも支障なく戦闘が出来るぐらいには快調な体で生きている。

 

ヨルハ機体は他のアンドロイドと違って使われてるパーツとか技術とかが違う。

 

そんなヨルハ機体技術の情報を持ったバンカーを失い、手の修理パーツを集める事ですらままならない僕と彼女はえらい違いだ。

 

 

「…うーん…別にもう何回か、壊れかけたりなんてしてるんだよな…。自力で治してるだけっていうか……。」

 

 

「え…、自力でですか…?ちゃんとした設備使わないってそれ…凄い痛いんじゃ……。」

 

 

「…根性?」 

 

「えぇ…。」

 

根性論を出されてしまい、アテにならなそうだなと結論付けて困惑気味に諦める。

 

[報告:アジ。]

 

「…ん……。」

 

A2はまたアジを釣って、今度は雑に後ろに放り捨てる。先程小馬鹿にされたストレスだろう。

 

地面に放り捨てられたアジはビチビチと必死にのたうち回る。可哀想。でもごめんね。これは僕らが生きるのに必要な事なんだ。

 

ただやっぱり可哀想なのでポッドにバケツにまで運ばせる。

 

A2はアジしか釣れなさそうな事を悟ると立ち上がって帰ろうとし、考え混んでから、意を決して僕に聞く。

 

「…もし、この先起きなかったら」

 

「起きますよ。絶対に。」

 

A2の心配を、何の根拠も理論も持ってないにも関わらず僕は否定する。

 

それを聞くとA2は、「そうか。じゃあな。」と言って帰っていく。

 

 

 

 

僕はまた一人になって釣りをする。が、暫くするとその現実逃避も空しくなって止めて、眠っている君の隣に行って座り込む。

 

ザザンと、静寂な空間にまた波の音が響く。

 

僕は綺麗に青くても底を見せない海をまた不安そうに見つめる。

 

この先、僕らはどうなるだろう。

 

戦う理由である人類はとっくに居ない。

 

機械生命体達は内戦やらなんやらを始めてアンドロイドは蚊帳の外。

 

ヨルハ機体の交換パーツは中々手に入らない現状。

 

ヨルハ計画の立案勢力が僕ら生き残りを知ったら、処分しにやってくるかも知れない。

 

この先の未来は、不安だらけだ。

 

けど、それらを頭の隅に追いやるくらいに一番に僕を不安にさせるのは、未だに目覚めない君。

 

…。

 

その頬を撫でる。暖かい。

 

死んではいない。生きてる。

 

……けど、死んではいないけど。生きてるけど。

 

だけど、このままずっと起きてくれなかったら。

 

起きる事を、生きる事を望んでくれなかったら。

 

「……。」

 

 

 

 

___▫▫▫▪▪▫▪」___……__▫▫

 

 

 

『機械生命体の方舟には…乗らなかった。』

 

『私達ヨルハは、壊される為に生まれてきた誰にも望まれない死ぬための部隊。』

 

『……私が君にしてきた事は無意味だった。』

 

『君を…無意味な私の為に何度も殺してしまった……。』

 

『……。』

 

『……私の自我データはもう形を留めて無い………。』

 

『もうこのまま消えてなくなってしまう。……でも、それでいい…。私には生きる資格なんてないから……。』

 

『………ねぇ、ナインズ。』

 

『全ての存在は、滅びるようにできてる……永遠じゃない。いつか必ず壊れてしまう。』

 

『意味があっても、無くても……。』

 

『…。』

 

『……でも、君の存在は無意味じゃ無かった。』

 

『君と共に過ごした沢山の日々は無意味なんかじゃなかった。』

 

『君と共に居れたのが、私が生まれた意味だったんだ。』

 

『……ありがとう……ナインズ……。』

 

 

▪▪▪▫▫▫_____▫▫▫▪▪▫▫ーー__

 

 

 

 

 

 

 

あの日君が最後にメモリーに録音していたメッセージ。

 

ナインズと、そう呼んでくれた。けれども。

 

「……うっ……ううっ……。」

 

涙が止めどなく溢れてゴーグルに滲んでくる。

 

私は無意味だなんて言わないでよ。

 

生きる資格が無いなんて言わないでよ。

 

僕にとって君の存在は、他の何よりも変えられないものなんだ。

 

君が例え僕を殺してきたとしたって、僕はそれでも君の事が大切なんだ。君の事が好きなんだ。

 

君が隣に居てくれれば、この先への不安なんて、ちっぽけな物なんだ。

 

君が生きてくれていれば、それでいいんだ。

 

 

「…うっ…。…うああっ…」

 

 

 

「…また……また会いたいよ……。」

 

 

 

 

「…2 ィ……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

包みこむ暖かい感覚が、君の頬に乗せた手に伝わる。

 

バッと咄嗟にその手を見る。

 

相変わらず僕の気なんて知らないでスゥスゥと眠っているけど、その君の左手は、頬に乗せた僕の手を強く握っていた。

 

 

「……。」

 

「…行こうか。」

 

 

涙を引っ込めて微笑むとそう言って、名残惜しいけど手を頬から離して、アジの詰まったバケツを持って、ポッド達に彼女を運ばせて、レジスタンスキャンプに帰ることにする。

 

その顔は、先程までの不安な顔達とうってかわって微笑んだままだった。

 

 

もうすぐ、起きる。

 

 

なんの論理的な確証もないけど、そう信じて疑わなかった。

 

 

 

起きる時は、フカフカで暖かいベッドがいい。キャンプの医療ベッドなら心地よく日も当たるしね。

 

起きたときに最初に見るのは僕の姿…寝ぐせなんてついてないよね。

 

そうだ、ポッド達に頼んでおはようの声を掛けるのは僕が最初にしてもらおう。

 

声が上ずらないようにしなきゃ。

 

それから、それから……。

 

 

 

9Sは時折、まだ起きてないよね?と運んでいる彼女をチラリと何度も見て、歩き続ける。

 

優しく微笑み続けながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体いつからだろう。ふと気がつくと真っ白な空間に私は倒れていた。

 

私は、誰だろう。何度もそれを思い出そうと試してみるが、私の中の何かがそれを拒んでいる。

 

体を動かしたり、何か喋ろうとしてみるけど上手く行かない。

 

時折私の中の何かがこう思わせる。

 

これでいいんじゃないかって。

 

そう思ってそのまま目を閉じようとしてみると、声が聞こえてきた。

 

少年のような声。よく知っているような、けど思い出せない。

 

その声は私に色々と語りかけてくる。

 

そして何度も私の名前を呼ぶ。

 

その名前が、私の名前なのだろうか。

 

その名前を呼ばれる事にとても懐かしくて嬉しい感覚がするけど、だけど同時にそれは私の名前じゃないような感覚もする。

 

私の中の私が、そう呼ばれる事を拒んで許さない。

 

声がした方に行きたいけど、行きたくない。行くべきじゃない。

 

そんな事をずっと繰り返している。

 

少年の語りかける声は、ずっと続いてくる。その声は相変わらず元気そうで、嬉しそうな声。だけれど、その中に何か寂しそうな思いも感じた。

 

それに気づくと、起き上がれた。

 

行かなきゃ。そう思って歩きだそうとする。

 

でも、あの私がそれを思い留まらせる。

 

貴女は違うでしょう。と。

 

私を置いて行ってしまうの。と。

 

私が私に言ってくる。

 

 

彼の声がだんだんと不安そうな声に変わってきた。

 

そうして遂に泣く声で、小さくポツリと私を呼んだ。

 

 

それを聞いて、一歩足が前に出る。行かなきゃ。行かなければ。彼が泣いている。彼が待ってる。

 

だけども、ここには残ろうとする私がいる。

 

私は私に言う。行かなければならない。彼が泣いていると。

 

私は遂に堪えきれなくなって泣き叫んで答える。このまま終わってしまいたいと。

 

私はボロボロと止めどなく涙を溢れさせて、私に向かって自分を置いていくように言う。

 

…。

 

それは、駄目。

 

だって貴女だって、私なんだから。

 

 

彼が呼んでいるのは、私なんだから。

 

 

行かなきゃいけないのは、私なんだから。

 

 

私は泣いている私を優しく、力強く抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フカフカとした場所に寝ている感覚がする。

 

 

顔に日が当たっている感覚もする。

 

 

どれもこれも、暖かい

 

 

瞳を、ゆっくりと開ける。

 

 

ずっと君の声がしていた方を見る。

 

暖かい瞳に、熱く涙を溜めて私を見ている君がいる。

 

そうして私に向かって微笑みかけて、優しい声で君は、ナインズは言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう。2B。」

 

 

 






本当に、本当にありがとうございました。


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