今日の世界は、何色? (Cross Alcanna)
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1章 巡り合う者達
1.盲目の女神


どうも、Cross Alcannaです。

はい、バンドリ小説の新作、遂に第4作目が解禁となりました。前作は私が選んだバンドリキャラを軸に執筆しましたが、今回は読者の方のアンケート結果を参考に、今井家を軸に話を展開するお話です。果たして、どんな物語が待っているのか、さほど期待せずにお楽しみ下さい。

では、物語へご案内しましょう。



[???家 ???の部屋]

 

 

「……ちゃ…、お……ん!」

 

 

「…っん……ふわぁ~…もう朝なのね」

 

 

「おはよう、お姉ちゃん!朝ご飯、もう出来てるよ!」

 

 

「そうなの。分かったわ」

 

 

とある家族の朝。どこの家庭にもありそうな、日常の1ページ。妹が姉を起こす。あるいは逆の事なぞ、現実においても有り得る話だ。そんな日常のワンシーンは、見る者の心をどこか和ませてくれる。

 

 

「じゃあ、いつものをお願いするわね?リサ」

 

 

──あまりありふれていない、とある事情さえ無ければ、の話ではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[???家 食卓]

 

 

「うん!やっぱりお母さんの筑前煮は美味しいね!ね!お姉ちゃん!」

 

 

「ふふ、そうね。リサは昔から筑前煮が好きだものね」

 

 

「うん!」

 

 

朝食。アタシの家の今日の朝ご飯は和食づくし。その中でも特に目を見張るのが、お母さんの筑前煮。アタシの好物でもあり、アタシが料理をする上での目標でもあるソレは、アタシが食事を楽しみにする理由のある程度を占める。口に運んで咀嚼すると、旨味が広がる。

 

そんな朝の何気ない日常。最近は幼馴染の(みなと) 友希那(ゆきな)がリーダーのバンド、Roseliaのベース担当として、バンドマンでもある分忙しいけど、アタシの生活はとても楽しいものになっている。

 

それもこれも……

 

 

「…月代、体の調子はどう?」

 

 

「今日は大丈夫みたい。今日は散歩でもしたい気分よ」

 

 

──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からあるモノだけれど。

 

 

 

 

 

1つ、アタシ達の昔話をさせて欲しい。さっきの言葉について、かなり深い関わりを持つ話になる。アタシがまだ、かなり小さかった頃(具体的に何時かは覚えてないけど)だった。アタシとお姉ちゃんの2人で買い物に行く事があった。お母さんに言われたものを買って、さぁ帰ろうとしていた時の事だ。

 

 

──ねぇお姉ちゃん!あの公園に行きたい!ダメ?

 

 

 

──良いわよ。それにしてもリサ、あの公園が好きなのね。

 

 

 

──うん!友希那ちゃんとよく遊んでるから!

 

 

ふと、帰り道にあった公園で遊んでみたくなったから、お姉ちゃんにそうお願いした。お姉ちゃんはそれを快諾してくれた。…今思えば、アタシがこんな事を頼まなければ、今みたいな事にはならなかったのかな。

 

それで、アタシは気分が舞い上がったように嬉しそうにしていたのを、昨日のように覚えている。そして、さぁもうすぐ公園に着くぞって時に……

 

 

──…!?リサ!!

 

 

 

──…え?

 

 

アタシは最初、何が起きたのかが、点で理解が出来なかった。お姉ちゃんに突き飛ばされた事は分かったけど、どうしてそうしたのかまでは分からなかった。ただ、アタシがさっきまでいたであろう場所に目を向けると、否が応でもその疑問の答えは返ってきた。

 

 

──……お姉…ちゃん?

 

 

そこには、お腹と目の辺りから大量に血を出しているお姉ちゃんが、倒れ伏していた。…そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その時のアタシは色んな感情が入り混じって、何も出来なかった。ただ、たまたま近くを通りかかった人が救急車や警察を呼んでくれたのが、不幸中の幸いだった。

 

そして、どうやってアタシ達の情報を聞きつけたのか、お父さんとお母さんがアタシ達の所に来て…

 

 

──リサ!月代!

 

 

 

──リサ、怪我はないか!?

 

 

それ以降の事を、アタシは殆ど覚えてない。脳が記憶するのを拒絶したのか、はたまたアタシが気絶したのか、どうかは分からないけど。それから覚えているのは、起きてから家でお姉ちゃんについて話された事だった。分かった事を簡潔に言うと、こんな感じになる。

 

1つ、お姉ちゃんの命に別状は無く、お腹の方は手術でどうにかなったらしい。

 

1つ、アタシ達の方にぶつかってきた車は、よそ見運転をしていたらしい。

 

 

 

 

 

──1つ、お姉ちゃんの目は、修復が聞かない程に潰れてしまった事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リサは今日どうするの?バンドの練習?」

 

 

「…うん、今日は新曲を練習するんだ!」

 

 

「あら、それは良い事を聞いたわね。じゃあ近いうちにライブをやるんじゃないの?」

 

 

昔の事を思い返していると、不意にお姉ちゃんが今日の予定について声をかけてきた。咄嗟にバンド練習があるって答えたけど…もしかしたらお姉ちゃん、アタシと一緒に散歩しようとか思ってたのかな。……そうだとしたら、正直に言わないでお姉ちゃんと散歩したかったなぁ、なんて思ったり。…友希那達に迷惑がかかるから、しようと思っても出来ないんだけど。

 

 

「時間は大丈夫なの?」

 

 

「へ…?……あぁっ!?もうこんな時間!?急がないと!!」

 

 

どうやら思っていた以上に時間が経っていたらしく、ギリギリ集合場所に着くかどうかの時間帯に。お姉ちゃんが確認してくれなかったらと考えると……あぁ怖い。そう思うのと同時に、アタシは昔の事を思い返したせいか、少し悲しい心情になった。…バンド練習、大丈夫かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[CiRCLE 1番スタジオ]

 

 

「…ふぅ、良い時間ね。少し休憩にするわ」

 

 

所変わって、バンド練習をする主な場所である、ライブハウスCiRCLE。あの後は一応ギリギリではあるけど間に合って、特に演奏に縺れもなく今の今まで練習していた。その練習も一区切りし、友希那の一声で各々の休憩時間の謳歌が始まった。

 

友希那と紗夜(氷川(ひかわ) 紗夜(さよ))は自身が間違えたところや改善すべきと思った場所の確認と共有をしている。音楽に一途な友希那と、根っからの真面目な性格の紗夜らしい休憩時間の過ごし方。良くも悪くも、それと決めたら一直線に進む2人が、時々心配になる事もあるけれど。

 

一方であこ(宇田川(うだがわ) あこ)と燐子(白金(しろかね) 燐子(りんこ))は、何やらスマホを2人で見ながら話をしている。…NFO(最近流行ってるMMORPG)のイベントが近いとか何とか聞いたから、恐らくソレの話だろうか。…アタシも後で確認しておこっと。

 

NFOの話が少し出たから、ここで1つ。どうでもいいかもしれない情報だけど、何気にRoselia全員NFOをやっていたり。キッカケは「皆でNFOやりたいんです!」っていうあこの何気ない一言だった気がする。最初は友希那と紗夜が渋ってたけど、いざ始めると紗夜が本格的に楽しみだして、今では空いた時間があったらやってるみたい。…まぁ、友希那は相変わらずなんだけど。

 

 

「…そうだ。お姉ちゃん、今何してるのかな~」

 

 

今朝、お姉ちゃんについて考えていたからか、不意にお姉ちゃんの事が脳裏に浮かぶ。そう思いながら、アタシはメッセンジャーアプリを開き、お母さんにお姉ちゃんについて尋ねてみる。本来ならお姉ちゃんに直接聞けばいいんだろうけど、お姉ちゃんはメッセンジャーアプリなんてやっていない為に、電話でもしない限りは連絡手段がない。朝、散歩がしたいって言ってたから、お母さんと散歩に行ってるんじゃないかと踏んでの、お母さんへの確認でもあったり。

 

 

「あれ?リサ姉、何してるの~?」

 

 

と、スマホと睨めっこしてるアタシを見て、あこがそう尋ねてきた。それに皆が追うように、他の皆もこっちに来る。…何か、そんな大事みたいにされても……こっちが恥ずかしくなるんだけど。アハハ。そんな事を心の中で思っていると、友希那が皆に向けてこう言った。

 

 

「…リサ、また月代さんの事を聞いてるんじゃないの?」

 

 

「アハハ…正解」

 

 

やっぱりね、といった具合の顔をする友希那。それを聞いた皆も、またか、みたいな顔を浮かべる。…実を言うと、これは1回2回といった回数このやり取りをした訳ではなく、結構頻繁にやってるやり取りだったりする。友希那曰く、例の件からリサは月代さんに過保護な傾向になりがち、との事。…そんな事ないんだけどなぁとは言いたいものの、何となく自覚している上、音楽以外に存外疎い友希那にまで言われるんだから、否定できない。

 

 

「お姉さんは……元気なんですか?」

 

 

「うん、ほら。今はお母さんと散歩に行ってるんだって!」

 

 

お姉ちゃんについて尋ねてきた燐子に答えるように、今し方返ってきた返答と写真を見せる。お母さんの「一緒に散歩してるわよ~」という返事と、口角を少し上げてにこやかに笑うお姉ちゃんの写真を見て、思わずその場の全員が和む。

 

 

「…相変わらず、物凄く美人な方ですね。同性として、羨ましい限りです」

 

 

とは、紗夜の言葉。お姉ちゃんと会った事があるのは、この中だと燐子と友希那だけだったはず。友希那はお隣だから、結構顔合わせをしている。燐子は確か…買い物をしてる時にバッタリ会ったんだっけ?一応、アタシに姉がいる事も、目が見えない事も、軽くではあるけど皆には伝えている。もし練習中にお姉ちゃんに何かあっても、すぐに駆け付けられるようにっていう意図で。…でも、良いお姉ちゃんだっていう自慢がしたかったのも、あるんだけどね。

 

 

「…月代さん、調子は大丈夫なのかしら?」

 

 

「うん、今日も調子が良いって言ってたから」

 

 

そういえば、あの件があってから、友希那がアタシの事をより気にかけてくれるようになった。…自惚れじゃないと良いけど、身内に何かあったから、アタシも何か心に傷を負ってると思ってくれてるのかな?…ホント、自惚れが過ぎるね~アハハ。

 

 

「そう…なら良いのだけど。…さて、そろそろ休憩も終わりね。また練習に入るわよ」

 

 

友希那のその一言を機に、アタシらのスタジオは、再び音楽に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[今井家 リビング]

 

 

「ただいま~」

 

 

「あらリサ、おかえりなさい」

 

 

練習でヘトヘトになってるアタシを笑顔で出迎えてくれたのは、アタシのお姉ちゃんこと今井(いまい) 月代(つきよ)。盲目の美女と、アタシは勝手に二つ名を心の中でつけていたり。そう言うのにもしっかりと訳があるわけで、お姉ちゃんは身内贔屓を差し抜いても、屈指の美人なのだ。それはもう、アタシは勿論の事、すれ違う様々な人が足を止めたり、羨ましそうに見たりする程には。服装が変わると、雰囲気までもがガラリと変化するからね~お姉ちゃんは。

 

 

「お姉ちゃん、散歩はどうだったの?」

 

 

「とても気持ち良かったわよ。やっぱり外の空気を吸うのって、良いわね」

 

 

…そうそう、お姉ちゃんの事について1つ、補足しないといけない事があるんだけど。

 

…正直、「どうしてお姉ちゃんの散歩にお母さんがついていくのか?」なんて思った人もいるんじゃないかな。…まぁ、お姉ちゃんがそういう気分だったんじゃ?なんて言われたら、返す言葉も無いんだけど。それについて、答え合わせをしておくと……

 

 

「リサ、ちょっと台所に行きたいから、手伝ってもらえるかしら?」

 

 

「は~い」

 

 

…そう、お姉ちゃんは、()()()()()()()()()。足自体はちゃんとあるんだけど、盲目になったせいでしっかりと足を使う機会がめっぽう減って、足の筋力が衰えていった。お医者さんは、盲導犬を付ける事を勧めたけど、何故かキッパリソレを断った。そしてお姉ちゃんは、足の筋力が回復困難になるまでになってしまった、と言う訳。

 

 

「…ねぇ、リサ」

 

 

「ん~?」

 

 

そんな事を思っていると、ふとお姉ちゃんが尋ねてきた。ソレは、至極単純な内容だった。

 

 

「……貴女、今楽しい?」

 

 

「…うん!」

 

 

アタシはそう答えた。…伝わってないよね?アタシのちょっとした罪悪感。……ただ、アタシの答えを聞いたお姉ちゃんが浮かべた少し悲し気な表情が、少し胸に残った。

 




という事で、1話が終わりました。

今回のメインキャラである今井 月代さんが登場しましたね。盲目に足も使えないとの事でした。…リサも含め、何かあると感じた方もいるかもしれませんね。その辺りは、追々言及されるかも…?

話は少し変わりますが、アンケートを近々貼るかもしれないので、その際はご回答の程、宜しくお願いします。そして、投稿頻度について、もしかしたら変更があるかもしれませんので、その時は活動報告にてご報告します。

次回『2.見えぬ貴女の今』


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2.見えぬ貴女の今

どうも、Cross Alcannaです。

さて、今回は月代視点の回となります。盲目の女神は何を思うのか、盲目である彼女にとって、日々の生活はどう感じるのか、是非読んで、楽しんでいって下さい。

そして、お気に入り登録:@atさん、碧藤さん、酔生夢死陽炎さん、ミラアルマさん、マクレーンさん、ハルナ@霧の提督さん、ENDLICHERIさん、daisuke0903さん、皐月ニシさん、ペルナさん、雪の進軍さん、まっちゃんのポテトMサイズさん、アテナ難民さん、ありがとうございます。前作から引き続き登録して下さっている方もいて、感謝です。

では、物語へご案内しましょう。



[今井家 月代の部屋]

 

 

「ぅん……はぁ」

 

 

先程家を出て散歩をしてきた。今日は体調が良い方だったので出来た事なのだけれど、そこそこ久しぶりだった気がする。…私こと月代は、訳あって盲目かつ足もほとんど動かない。それだけならまだしも、体が変になったのか、体全体の(さっきの箇所とは関係ない)ドコカの体調が悪くなったりする。これが中々曲者で、こうして散歩したいと思ったり母や妹のリサの手伝いをしたりしたい時も、体調のせいで却下される事もしばしば。

 

 

「…どうしましょう、これと言ってする事もないのよね……」

 

 

学校は?等という疑問が投げられそうな気がするから先に言っておくと、私は盲目になってから元々通っていた学校を退学して(しざるを得なかった、の方が正しいかしら?)、オンライン制の学校を探して、そこに通っている。一応対面での授業も可能ではあるけれど、希望とそれ相応の理由を申請すれば、晴れてオンライン制度に縋れる、というカラクリ。その学校は今の日本には珍しい小中高大一貫の学校である為、卒業後に新しい学校を探すという手間が省ける。

 

そして今日は日曜日であるので、講義はないのだ。…あ、因みに私は大学2年生。レポートの提出が結構鬼畜だったりする。どうにかならないものかな?

 

 

「今頃、リサはバンド練習かしらね?…私もリサの練習してる所に行ってみたいけれど……」

 

 

行けるものなら行きたい。ただ、不安しかないのも事実。基本的に体調が悪くなる事の典型例は吐き気や頭痛が多い。バンド練習となると大音量での演奏になる為、それによる体調悪化も考えられる。ただ、音関連での体調悪化は一度もなかった。それでも、周りを心配させる訳にもいかないので、その気持ちをグッとこらえて今の今まで一度も行った事はない。

 

リサ曰く、本気で頂点を目指しているバンドとの事なので、私がその場で体調不良を起こしてバンド練習の妨げになりたくない。…ホントはバンドの皆と話をしてみたいんだけれどね。確か、お隣さんの友希那ちゃんと、いつかの買い物の時に偶然会った燐子ちゃんは知ってるはず。その他は……分からない。

 

 

「話だけでもしたいわね……はぁ」

 

 

ふと、無意識に溜め息が漏れる。一応この体になっても、今の生活に物凄い不満がある訳ではない。ただ、勝手が悪いのが、こうした時に玉に瑕となるのには、その都度考えさせられる。やりたいのに出来ない、出来ても体調に気遣わないといけない。正直、その点はかなり不便ではある。

 

 

「…流石に電話するのも、迷惑よね?」

 

 

ただ、この体(もとい目)について、こんなものが無ければと考えた事は、今の今まで一度も無い(足は自分でそう選択したから、元よりどうこう言えたものでもないけれど)。

 

理由は至って単純、リサを守った証だから。元々あの時、私が受けた衝撃はたまたま目におよそ集中したから全身大怪我という事態にまで発展しなかった(結果論ではあるけれど)。それを、あの時の私より小さかったリサが受けていたら、果たして五体満足…とまではいかないにしろ、およそ無事であったかを想像すると、これで良かったと、毎日実感する。…少し言い方は気持ち悪いかもしれないけれど、私の目を代償に、リサの未来を救えた事を、私は今でも誇りに思っている。

 

たまに「大変だね」等といった言葉をかけられるけれど、そう思えているからこそ、大変だという気持ちは薄れるから、問題はないと、声を大にしていつも言っている。(確かに大変ではあるけれどね?)

 

 

「…やっぱり、電話しちゃおうかしら」

 

 

そうして、私はリサの声聞きたさに負け、リサの携帯の電話番号を打ち込む。目は見えないけれど、盲目になったその日から色々特訓して、指の動きでどうにか決まった数字なり文字列ならば(たまにミスするけれど)つつがなく打てるようにまでなった。ガラケーみたいなボタン式なら、もう幾分か楽なんだろうけれど。

 

そんな私の小言は何処へ、私は携帯を手に、いつもの番号を打ち込んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[CiRCLE]

 

 

「…そろそろ二回目の休憩時間じゃない?友希那」

 

 

「あら、そうそんな時間かしら?」

 

 

気持ち驚いた顔で、友希那は部屋にかかっている時計へと目をやる。そして時間を確認した友希那は、再び驚きながらアタシ達に休憩を言い渡した。…皆さっきとほとんど変わらない休憩の過ごし方をするあたり、他にやる事はないのかとも聞いてみたくなるのは、ここだけの話。聞いてみたいのはあるけど、アタシが首を突っ込む事でもないしね。

 

等と考え事をしていると、復習をしていたはずの紗夜が、アタシに声をかけていた。…あれ?アタシ、ボーっとしてたのかな?

 

 

「今井さん!聞こえてますか!?」

 

 

「あぁゴメン!少し考え事してた!で、何々?」

 

 

「全く……今井さんの携帯が振動してましたよ。結構長い時間振動してたので、電話とかではないかと思ったので」

 

 

…電話?こんな時間に?……一瞬、嫌な予感が過る。違ってくれと願いながら、アタシは手早く履歴を確認する。電話をかけてきた相手は……お姉ちゃん?お母さんとかではない辺り、病院に搬送されたとかの類いの可能性は低いかな?そう思っただけで、アタシは安堵の息を漏らした。

 

…っとと、そんな事言ってる場合じゃなかった。アタシはすぐにお姉ちゃんの携帯の番号を打ち、電話をかける。繋がるまでに少し時間がかかるのは、お姉ちゃんだから仕方ない。そして、5コール目辺りで、ようやく繋がった。

 

 

〔あ、リサ?忙しかったかしら?ごめんなさいね〕

 

 

「お姉ちゃん!どうしたの?何かあった?」

 

 

〔いえ、緊急の連絡とかではないわよ〕

 

 

一番に聞きたかった事を聞いて、予想が外れた事に安堵する。その証拠に、アタシは大きく息を漏らした。そんなアタシを心配したお姉ちゃんが「大丈夫?」と言ってくれたけど、特に問題もないから、アタシは何もないよ、とだけ返す。

 

そしてアタシは、もう1つ聞きたかった事について、訊ねてみる事にした。

 

 

「そういえば、どうして電話?何か用があったり?」

 

 

〔いえ。……ただ、リサの声を聞きたかったの〕

 

 

……我が姉ながら、可愛い。声が聞きたいが為に電話をしてくるなんて、恋愛漫画だけの事だと思っていたけど、実際にあるんだね、そんな事。それに、少し間を開けて言った辺り、画面の奥で照れた表情をしているのが、何となく想像できる。

 

 

「お姉ちゃんったら可愛いなぁ~、このこのぉ~」

 

 

〔…からかうのは止めて頂戴。……もぅ、だから言いたくなかったのに

 

 

あぁもう、うちの姉は可愛いなぁ。アタシに聞こえないように小さい声で言ってるんだろうけど、しっかり聞こえてるのに、お姉ちゃんは気付かないのかな?…正直、このやり取りが出来ただけでも、残りの練習は乗り切れるかな。

 

そんなやり取りをしていると、皆がアタシの所まで近づいてくる。…もしかして、そんなに声大きかったかな。反省反省っと。

 

 

「ねぇねぇリサ姉!もしかして、リサ姉のお姉さんと電話してるの!?」

 

 

「宇田川さん!電話中ですよ!?もし重要な事を話していたら、どうするんですか!」

 

 

「…そう言う紗夜も、声が大きくなっているわよ?」

 

 

アタシが心の中にしまっておこうと考えていた事を、バッサリと言い切ってしまう友希那。その一言に、口を両手で覆う紗夜。……もう遅くない?

 

…そんなテレビの漫才のとうなやり取りに、思わず吹き出しそうになったのは、ここだけの話。

 

 

〔あら?バンドの皆、近くにいるの?私達のやり取り、聞かれてる?〕

 

 

「……多分ね。お姉ちゃんの声は分からないけど」

 

 

〔…恥ずかしいわ〕

 

 

あ、また赤面した(気がした)。お姉ちゃん、少しだけ恥ずかしがり屋だからね~、もっと自信もって良いのに。

 

そんな事を考えていると、後ろからあこがさっきとは違い、少し声を小さくして話しかけてきた。

 

 

「ねぇリサ姉!あこも月代さんとお話したい!」

 

 

「…わ、私も……お話、したいです」

 

 

だろうなぁ、とは思った。…ただ、燐子がそう言ってくるのは結構驚いた。普段からあまり人と話したがらない上に、人一倍人見知りである燐子からさほど関わった事がない人と話がしたいという提案なんて、そりゃ驚くと思わない?…誰に向かって言ってるんだろ、我ながら。

 

 

「ちょっと待ってね~。…らしいけど、お姉ちゃん的にはどう?」

 

 

〔そうね、せっかくそっちからお願いされてるんだし、というより、私も前から話してみたいと思ってたから、寧ろこちらからお願いしたいくらいよ〕

 

 

お姉ちゃんがこう言うのに、何となくではあるが心当たりがあった。アタシがバンドについて話す時、ついメンバーの話をしてしまう事が結構ある。その時のお姉ちゃんの顔が、若干羨ましそうな表情になる事がしばしば。あくまで推測ではあるけど、アタシの話を聞いてるうちに、話をしたかったのかな。確かに、身内が楽しそうな声色で話すのを聞かせれていたら、段々興味も湧くよね、分かる分かる。

 

 

「皆~、お姉ちゃんから許可が下りたよ~」

 

 

「じゃあじゃああこから話したい!」

 

 

こうして、お姉ちゃんとバンドの皆のお話が、結構な時間続いた。意外だったのが、紗夜まで話してみたいと言ってきたのと、全員と話が弾んでいた事だ。ゲームについても話せる事は、アタシも驚いた事ではあった。…目が見えないのに、ゲームも出来たりするのかな……流石にそんなに超人じゃない…よね?

 

あ、因みに、その後は普通にバンド練習を再開して、つつがなく終わった。…だから、誰に話してるのって、私ってば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[今井家 月代の部屋]

 

 

「ふぅ…結構長く喋ったわね。電話越しではあるけれど、こうして弾んだ話をするなんて、ご近所さんを除いたら何時ぶりかしら」

 

 

そんなに長く電話をする予定ではなかったけれど、(嬉しい誤算で)長電話になった事に、無意識下で声が少し喜びを帯びている事からして、嬉しんでいる自分がいる事を思い知らされる。やはり、話が弾むって、素敵な事だと、その都度思わされる。

 

 

「バンドの子達、思っていたよりずっと物腰柔らかな感じだったわね。…もっと堅い人ばっかりかとも思っていたけれど」

 

 

目標が目標だから、想像するイメージ像も、お堅い性格のガチガチのバンドマンという想像だったけれど、どうやらそうでもないような印象だった。ただ、1人は真面目そうな子がいた気がする。その子とは、バンド練習中のリサについて聞いたり、その子(紗夜ちゃんだったかな?)からの質問に答えたりした。

 

 

「…あら、そろそろリサが帰ってくる時間かしら?それじゃあ、下に向かいましょうか」

 

 

そうして、私はリサを迎える為に、母を呼び、下へと降りて行った。…あぁ、こんな楽しい生活が()()()()()()()()()()()()()()()()()

 




という事で、2話が終わりました。

今回は盲目の女神こと、今井 月代の視点からお送りしました。どうやら、我々が思っているよりも前向きそうですね。盲目になる経緯は人それぞれではあると思いますが、少なくとも彼女は盲目である事を悔んだり、酷く嘆いている訳ではないみたいですね。

ただ、他の周りの人(現実世界の人)はそうとも限りませんので、接し方には十分配慮しましょう。こうした方にも過ごしやすい世界になる事を、願うばかりです。

そして、活動報告を新規作成しましたので、一度目を通していただけると幸いです。

次回『3.盲目の女神に星は見えぬ』


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3.盲目の女神に星は見えぬ

どうも、Cross Alcannaです。

今回も月代視点でお送りします。今回登場する原作キャラは、大方予想がついてるのではないでしょうか。そんな彼女らと月代、果たしてどんな出会いをし、何を生むのでしょうか。

少し余談ですが、もしかしたら近いうちにアンケートを行うやもしれません。その時は、是非回答していただけると幸いです。

そして、☆8評価:暁 蒼空さん、お気に入り登録:カゼさん、ロボ戦極凌馬さん、とある東方禁書ニコ動好きさん、暁 蒼空さん、リィ・リンさん、八神 悠人さん、評価及びお気に入り登録ありがとうございます。

では、物語へご案内しましょう。



[今井家 リビング]

 

 

「ライブチケット?」

 

 

「うん、アタシらのライブじゃないんだけどね。ライブするバンドの子から貰ったんだ~」

 

 

とある日、リサに突然そう話しかけられた。何でも、近いうちに近くのライブハウスでライブがあるそうな。…楽しそうではある。ただ……

 

 

「…行けるかどうか、分からないわよ?何分、音が激しい環境はどんな影響があるのか分からないから、今の今まで避けてきたわけだから…」

 

 

「そう言うと思って、もうお母さん達にも相談してきたよ☆」

 

 

あら、話の早い事。相変わらず、私の事となると事を早く進ませたがるのよね、リサったら。それだけ想われてると考えると、少し嬉しいのだけれど。

 

…ただ、リサは()()()()()()()()()()。果たして許可が下りたのか、さっきの一言では分からない。

 

 

「…許可は下りたの?」

 

 

果たして……?

 

 

「うん!アタシが同行するなら良いって!」

 

 

あら、意外とあっさり許可が下りたのね。…いえ、もしかしたらリサの必死な説得あっての許可かもしれない以上、あっさりかどうかは分からないわね。

 

…それはともかくとして、ライブか。素直に言うと、かなり興味はあった。リサがやっているからという理由もさることながら、最近はガールズバンドが台頭してきていると聞くし、それに伴ってそちら方面も活気が増してきている印象がある。そんな中でのライブときた。興味が増すばかり。

 

 

「じゃあ、当日はリサと私でって事かしら?」

 

 

「うん!あぁ~、ライブの日が楽しみだなぁ~!」

 

 

「落ち着きなさい?まだ数日はあるでしょう」

 

 

まるで小学生のようにワクワクするリサにそう言うも、微笑ましいとも思った。どんな顔をしているのかなんて、見えてなかろうが分かる程に声に活気があるもの。…まぁ、ワクワクしているのは、私もなのだけれど。さて、初めてのライブ、楽しみね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[CiRCLE 受付]

 

 

「まりなさ~ん!」

 

 

「あれ、リサちゃん?ポピパのライブ見に来たんだ!…そっちの人は?」

 

 

「アタシのお姉ちゃんだよ!今日は許可が取れたから一緒に見に来たんです!」

 

 

「そうなの!?…すっごい美人だね、羨ましいなぁ……」

 

 

受付に来たのは良いのだけれど、リサが受付の人と話し始めてしまったわ。私は別に構わないけれど、これからお客さんが来たら大変よね?

 

 

「リサ、これからお客さんが来るかもしれないから、取り敢えず移動しましょう?」

 

 

「はぁ~い」

 

 

我が妹ながら、手がかからなくて助かるわ。「話しかけないで!」だなんて言ってもおかしくない歳だもの、そうならなくて嬉しいわ。反抗期は来そうにないわね。

 

 

「話はリサちゃんから聞いてますので、障がい者のスペースに案内します!リサちゃん、ついて来て!」

 

 

「は~い☆」

 

 

妹の気遣いが身に染みるわね。私としては普通の席は迷惑をかけかねないと考えていたところだから、その配慮は本当にありがたい。というか、このライブハウスにそんなスペースあったのね。リサからそこまで大きくはないかもと聞いていたから、無いものだとばかり……

 

 

「…月代さん」

 

 

「…?はい、何でしょう?」

 

 

そんな独り言を心の中で呟いていると、まりなさん(名前は前にリサが話していたから分かった)がヒソヒソと私に話しかけてきた。何だろうか、何かした訳でもないだろうし……

 

 

「良い妹さんを持ちましたね。リサちゃん、よく私に貴女の話をしてくれるんですよ」

 

 

そうだったのか。きっとリサの事だ、耳に胼胝ができる程に話しているのでしょうね。…私としては、恥ずかしい事を話してさえいないのならそれで良いのだけれど。

 

 

「自慢の妹ですから」

 

 

あの子について語るのに、この一言以外は必要ないと思っている。色々とひっくるめてこの言葉に尽きる。良くも悪くも出来が良過ぎるのが、あの子。漫画とかに出てくる完璧な人間ではないけれど、()()()()()()()()()()()()()。人に好かれる人間でありながら、根が歪。人間より人間らしいのが、良くも悪くもに値する。

 

 

「……それにしても、本当にお綺麗ですね。女性として負けた気持ちです…」

 

 

アハハ、と苦笑しながらそう言う彼女。…初めて会う人殆ど(女性)にそんな事を言われるのだけれど、一度自分の顔を見てみたいものだわ。そんなに言われたら気になってくるじゃないの。ソレを言われる度に私はどう言うべきなのか困るのよね。何せ、相手の顔も、あまつさえ自分の顔すら分からないのだから。相手を褒めようも、謙遜する事もままにならない。

 

 

「さて、着きました。リサちゃん、後は宜しくね」

 

 

「は~い☆」

 

 

…余談ではあるが、先程は彼女と私は前、その後ろをリサが着いてくるという構図だった。だから、リサは話に入ってこなかったのだ。それに、リサは障がい者席への道を把握しようと集中していたらしい(まりなさん談)。…これからライブに沢山行くのかしらね、まだ大丈夫かも分からないのに。…気が早いのも、リサのちょっと抜けた所ではあるわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[CiRCLE ライブ会場]

 

 

──じゃあ最後の曲、行きます!!

 

 

「ラストだから、大盛り上がりだね!流石ポピパ~」

 

 

そんな事を言うリサを横に、私はポピパと呼ばれているバンドの曲を聴いていた。体調に問題もなく、寧ろ久々のこうしたイベントに、心が躍っている私がいた。他のバンドのライブも気になるし、ポピパのバンドにもまた行ってみたい。…何だか、自分が生き生きしているような感覚だ。楽しい。

 

 

「…リサ、今度貴女達のバンドの練習を聴きに行きたいわ。…ダメかしら?」

 

 

「~っ!!ダメなわけないじゃん!寧ろこっちからお願いしたかったんだから!」

 

 

ヤッタ!なんて言いながらその場でジャンプしていると思われるリサ。場所が場所なら止めるのだけれど、まぁ変な風には思われないわよね。…というより、そこまで喜ばれると、少しむず痒いわね。嬉しい事には変わりないのだけれど。高校生なのに、どこか小学生感が拭えない。

 

 

──ありがとうございました!

 

 

──ワァァァァァ!!!

 

 

そんな事をしているうちに、どうやらライブは終了しようとしていた。…初めてのライブだったけれど、こんなに面白いものなのね。大丈夫だと分かってしまえば、母に連れて行ってもらえそうね。時間さえあればリサにも連れて行ってもらいたいわ。…ふふっ、楽しみが増えたわ。

 

 

「じゃあお姉ちゃん!行こう!」

 

 

「えぇ、そうね」

 

 

こうして、私の初ライブ観賞は良いものとなった。さて、家に帰ったら何をしようかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[???]

 

 

「ライブお疲れ~☆皆相変わらず凄かったよ~!」

 

 

「リサさん!ありがとうございます!」

 

 

……あら?てっきり外に出るのかとばかり思っていたのだけれど、ここは間違いなく中よね?それに、ライブお疲れ?それとリサと話している子の声……もしかして、バンドの子達の控室…とか?

 

 

「…リサ、ここ控室かしら?だとしたらその子達に迷惑かかるんじゃないかしら」

 

 

「まりなさんと香澄達には許可取ってるよ☆」

 

 

「はぁ……ごめんなさいね?この子、先だって行動する事があって…」

 

 

「だ、大丈夫ですよ!気にしないで下さい!」

 

 

恐らく、バンド活動の中で知り合った子なのだろうけれど…リサってば、親しき中にも礼儀ありって言葉を知らないのかしら。この子達が許してくれたから良いものの……

 

 

「リサさん、その人は?」

 

 

「ん?アタシのお姉ちゃんだよ~」

 

 

「ぅえぇ!?リサさん、お姉さんいたんですか!?」

 

 

かなり驚かれているみたいね。まぁ、外でのリサは母性と言うか、世話焼きだものね。どちらかと言うと、リサが姉と言われた方が納得がいきそう。…私としては、家だったりの時を知ってるから、何とも言い難いのだけれど。…一応、名前を言っておいた方が良いかしら。

 

 

「初めまして、リサの姉の今井 月代です」

 

 

「初めまして月代さん!私はポピパの戸山(とやま) 香澄(かすみ)です!宜しくお願いします!」

 

 

そう言って、私は手を差し伸べようとした…のだけれど、よくよく考えたらどこに香澄ちゃんがいるのか分からないわね。声で一応分かるっちゃあ分かるけれど……

 

 

「あぁ~、ゴメンね香澄!お姉ちゃん盲目だから、握手してあげて?」

 

 

…ナイスフォロー、リサ。助かったわ。ただ、その一言を聞いてポピパの皆が少し暗い雰囲気になったから、気にしないでちょうだい、と言っておく。

 

その後、一通り自己紹介も終えて、少しばかり雑談して、私達はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ皆!」

 

 

『?』

 

 

リサさんと月代さんがこの部屋を後にしてすぐ、香澄が(多分)私達全員に向けて声をかけた。…嫌な予感しかしねぇ。

 

 

「月代さんに向けてライブがしたい!!」

 

 

『…へ?』

 

 

おたえ以外、こう声を上げるしかなかった。…初対面の人に向けて?ライブ?無茶が過ぎるだろ!そして皆少し考え込むな!!

 

 

「それ、良いかも」

 

 

「でしょ!?」

 

 

「でしょ!?じゃねー!第一あの人とは初対面だろーが!そんな仲でライブなんてされたところで、あっちが困惑するだけだろうが!」

 

 

「つまり、もっと仲良くなってから…?」

 

 

「そういう意味じゃねー!!」

 

 

あーもう!こいつらのこういうトコ、どうにかなんねーのかよー!!

 




という事で、3話が終わりました。

…はい、言わずもがな、ポピパ登場回でした。一応、一通りのバンドとは顔を合わせる予定です。続けて総当たりさせていく予定ですが、途中で変更する可能性はありますので、悪しからず。

そして、アンケートを開始しますので、是非ご回答下さい。

次回『4.ぶらり煌めくパステルカラーの旅』


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4.ぶらり煌めくパステルカラーの旅

どうも、Cross Alcannaです。

今回も予定通り、バンド総当たり編(みたいなもの)となっています。それが終了し次第アンケート回を書いていく予定となっています。因みにアンケート結果でのキャラ決定についてですが、上位2,3キャラを採用する形となります。

そして、☆9評価:奈鬼羅さん、お気に入り登録:水仙卵華さん、nesutoさん、バンドリーマー[ハクア]さん、神威結月さん、評価及びお気に入り登録ありがとうございます。

では、物語へご案内しましょう。



[商店街]

 

 

「ふぅ~、沢山買ったなぁ~」

 

 

「後は……山吹さんの所で終わりかしら?」

 

 

某日、母に頼まれて(半ば無理やり行きたいと懇願して)2人で買い出しに。外に行ける機会が少ないのだから、外に出れる時には出たい。元々、アウトドア寄りな人間だったのもあって、長い間外に出られないとうずうずしてしまうのだ。…女らしくないって思った人、前へ。

 

 

「…ん?あんなに人が……人気にしろ、あそこまでは少し変だなぁ…」

 

 

「…リサ?何かあったのかしら?」

 

 

「うん、ちょっとね。でも、そこまで気にする事でもないかも」

 

 

「そう。じゃあパパっと行っちゃいましょう」

 

 

そんな私の一言に、うんと言ってリサは車椅子を動かしながら、山吹ベーカリーへと向かった。……今更、山吹ベーカリーの説明は要らないわよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[山吹ベーカリー]

 

 

──いらっしゃいませ~!

 

 

そんな元気な挨拶が聞こえてくるので、私はその声がした方に軽く会釈をしておく。普段なら変な方向に会釈した際に奇怪な目で見られる事もあるからしないのだけれど、ここ周辺の人達は私の事情について理解してくれているので、気兼ねなく会釈も出来る。…ホント、この町から出たくないわね。何かと便利なのよ、この町は。

 

それよりも、意外だったのが1つ。ここの看板娘である山吹(やまぶき) 沙綾(さあや)ちゃん、まさかまさかのポピパのメンバーだったらしく。いつかのライブの帰りにリサが教えてくれた。2人程聞いた事のあるような声だったのは、どことなく引っかかっていたのだけれど、正体は沙綾ちゃんと、ここの常連客の牛込(うしごめ) りみちゃん。世界は狭いって、こういう事なのね。身を以て知れたわ。

 

 

「…あれ?カメラ?……まさか」

 

 

ここで、リサの様子が変わる。とは言っても、言う程悪い方の意味ではなさそうだけれども。…確かに、いつもより人が多いのは、体感で何となく分かったけれど、まさかのテレビ撮影?それは人も増えるわね。

 

 

「あ~!リサちーだ!!」

 

 

…と、聞き覚えの無い声が1つ。その声の主を止めようとする声がもう1つ。…ん?この声、散々テレビで聞いたような……

 

 

「…もしかして、白鷺(しらさぎ) 千聖(ちさと)が来てる……?」

 

 

っとと、小さいながらも心の中にしまおうと思っていた一言が漏れてしまった。「相変わらず、お姉ちゃんのソレは凄いね~…」と言われる始末。…仕方ないでしょう?相手の顔が分からないのよ?声で覚えるしかないでしょう?そのおかげで、一度聞いた事は何となく覚えているのよね。月日が経つにつれて忘れるけれども。

 

 

「……るんってきた!」

 

 

突如放たれたそんな一言が、誰に向けて言っているのか分からない言い訳をする私を、現実に戻す。…るんて。私は何となく分かるけれど、他の子は分からないでしょうに。…何で分かるかって?私もそっち側の人間なのよね。…こういうタイプって、結構疎まれたり理解してもらいづらかったりするから、少し心配ね。……誰かも知らないのだけれど。

 

 

「あのあの!名前教えて下さい!」

 

 

「日菜ちゃん!?すみません、ウチの日菜ちゃんが…」

 

 

「いえ、お構いなく。グイグイ来られたので、少し焦ってしまっただけですので」

 

 

別に、嫌という訳ではない。私らしくもなく、少し戸惑ってしまっただけで。…この様子とさっきの会話から察するに、恐らくるんっときた子はリサの知り合い?…いえ、友達かしらね。愛称めいた呼び方されていたものね。

 

 

「リサの姉の今井 月代です。宜しくお願いするわね」

 

 

「えぇ~!?リサちーにおねーちゃんいたの~!?言ってよ~!」

 

 

「言ったら無理言って来そうじゃん!」

 

 

ぶーぶーと言いながらリサにあーだこーだ言う日菜ちゃんに、それに対して色々言い返すリサ。うんうん、良い距離感ね。友達として色々言い合えるのは友情関係が著しい証拠ね。リサは人付き合いが上手いから、その辺りはそこまで心配していないけれどね。

 

 

「…日菜ちゃん?テレビの撮影中よ?」

 

 

…私は今まで生きてきた中で、ここまで明確に鋭い殺意紛いのオーラを出せる人を知らない。ただ、殺意程敵意らしきものは感じない。…殺意は盛り過ぎたか。

 

それはともかくとして、声の主である千聖…ちゃん……で良いのかしら?が、スタッフ(と思われる人)に休憩する事を提案しに行き、休憩となった。どうやら日菜ちゃんはリサの方に行ってるようで。…大方、どうして私の事を話さなかったのかについての続きだろうか。

 

 

「…少し、宜しいでしょうか?」

 

 

「…千聖ちゃん?どうしたのかしら」

 

 

少し千聖ちゃんがビクついた…気がする。いきなりちゃん付けは良くなかったかしら。

 

 

「あら、ごめんなさい。年下の子をちゃん付けで呼ぶ癖が出たみたいで。気に障ったのならさんにしますけれど…」

 

 

「…いいえ、そのままの方が私も良いので。それより、貴女の事を聞きたいのですが、良いですか?」

 

 

「良いわよ。ただ、そこまで畏まらなくても良いわよ?何だったら日菜ちゃん…だったかしら、あの子ぐらいでも良いのよ?」

 

 

流石にそこまでは…と、苦笑いしているような感じでそう言う彼女。…少しは緊張もほぐしてもらえたかしら?と、そんな事はお構いなしに、彼女は意外にもグイグイと私について聞いてくる。…結構来るのね。

 

 

「…それじゃあ、私が訳アリなのも…」

 

 

「……リサちゃんから聞いてます。あの時の顔は、思い出したくない位重い表情でした」

 

 

リサがそんな表情を…?表情云々に詳しい彼女がそう言う以上、嘘ではないだろうし、本当なのだとしたら意外も意外だ。正直、リサがそのような顔をする事が想像つかない。…いや、よくよく考えるとリサは身近な人の苦しい所を見るような立ち位置にいるわ。…私が思う以上に、そういう事には縁が深いのかしらね。……この年になっても、学ぶ事は多いわ。

 

 

「…思っていたよりも、リサの根本は嫌な方向に根付いてるのね」

 

 

「……あの」

 

 

私がリサの心をどう変えていこうかを考え始めようとしたところで、千聖ちゃんが申し訳なさそうに私に尋ねる。

 

 

「あんまり知られたくない事でしたか…?その……体について」

 

 

「…あら?別にそんな事ないわよ。とやかく悪態をついてくる人ならともかく、こうして私に気を遣ってくれるなら、別に気にしないわ」

 

 

もう知られた事についてどうとも思わなくなったけれどね、と付け足しておく。これは口から出まかせとかではなく、本心そのもの。これからもそんな機会は沢山あるのに、それを気にしていたらキリがない上に気が滅入るわ。慣れるに越したことはないのよ、こういうのはね。

 

 

「あまり気を使われ過ぎるのはあまり良い気がしないから、いつも通りで良いわ。第一、そっちも疲れるでしょうし」

 

 

「…大人なんですね。少し達観し過ぎてる気もしますけど」

 

 

「最近自分でも自覚しているのよ。少し年老いた思考になっているんじゃないかって」

 

 

自嘲気味に私は笑う。自分に何か悩みはないかと聞かれたら、コレを挙げる程には悩みの種になっている。ただ、あまり取り乱さなくなったのは良い事ではあるけれど。

 

 

「…その、大変ではないので?」

 

 

「まぁ…否定はできないわ。したい事が、したい時に出来ないし、見たいモノは、もう二度と私の目には映らない。これ程大変な事は無いかもしれないわ」

 

 

でもね、と続ける私を見て、彼女は少し疑問を抱いているような顔をしているのが感じてとれる。

 

 

「私は別に、この体を恨んだ事はないわ。自分の境遇も。だってそうでしょう?私がこうならなかったら、もしかしたらリサがこうなっていたのかもしれない。……はたまた、この世にはいなかったのかもしれない。私が死なずに済んだのが結果論だとして、結果妹が救えたのだから、私は構わないの。この体は、言ってしまえば()()()()なの」

 

 

誇らしい体なのよ、と更に付け足すと、彼女は言葉を発さなかった。…それもそうだろう、普通このような体になってしまえば少なからず誰かに対する不満を露わにしてもおかしくはない。それを名誉の傷等と笑顔(私はそのつもりだった)言い切ってしまう人間は、殆どいないのではないのだろうか。良く言えば前向き、悪く言えば……狂った奴、だろうか。

 

 

「…それは、リサちゃんには言ってあるんですか?」

 

 

「勿論。しょげる度に、これでもかと言う程に言うわよ。…本人が良いって言ってるのだから、早いとこ吹っ切ってもらいたいのが本音なのよ」

 

 

「……近くにいた人程、辛いと思いますよ」

 

 

「知ってるわ。それを承知の上での話よ」

 

 

私のその一言を機に、私と彼女一帯の空間は、静寂に包まれる。

 

一方で、リサと日菜ちゃん…あれ?色々と人が増えてるような……まぁ、置いておきましょう。あの2人+αの空間は賑やかさを保っている。

 

…聞く事を聞き終えたからか、千聖ちゃんは少し気まずそうにしている。初対面だものね、私達。

 

 

「千聖ちゃん、あっちの方に行ってあげて?リサもあの人数は捌ききれないと思うから」

 

 

「…お気遣いありがとうございます」

 

 

そう言って、彼女も喧騒に紛れていく。因みに、何故私が人数を把握しているのかについては、音からの推測と勘。別に、特別な能力がある訳では無い。

 

 

「月代さんも、あっちに行ったらどうですか?初めての人もいるでしょうし、リサ先輩がいるので、1人よりは良いと思いますよ」

 

 

「相変わらず、若いのにしっかりしているわね。私も見習いたいわ」

 

 

月代さんには勝てませんよ、と沙綾ちゃんが言ったところで、私もリサ達の方へと向かっていった。…忘れないうちに、パン買っておこうかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[帰り道]

 

 

「全く……忘れてないかどうか心配だったから先にパンを買ったけれど、まさか本当に忘れてるとは思わなかったわよ?」

 

 

「アハハ……ゴメンなさ~い」

 

 

あれから私もリサ達の喧騒に混ざり、色々と話をした。何でもあの子達、アイドルバンドなる類いのグループとの事で、先程はアイドルの方の仕事だったようで、取材番組だったらしい。…何気に凄い場面に居合わせた気がする。

 

 

「…そう言えばリサ、あの子達とは初対面じゃないのね」

 

 

「うん、バンド繋がりだけどね~」

 

 

「…大ガールズバンド時代なだけあって、人脈が広いわね」

 

 

芸能人の家族の気持ちってこんな感じなのかしら、なんて思った瞬間だった。

 

 

「リサは、明日バンド練習よね?」

 

 

「うん!…でさ、1つお願いがあるんだけど……」

 

 

珍しく、リサがどもる。…大方、練習に来て欲しいとかかしら。一応、前回でバンドの演奏は体に悪影響が無さそうだった事が分かったからだろう。

 

 

「その…練習に来て欲しいなぁって……」

 

 

「そうね……私も前々から行きたいとは思っていたし、良いわよ」

 

 

「ホント!?やりぃ!!」

 

 

そう言って、ガッツポーズする妹。…一応道のど真ん中な事は自覚しているのかしら……?まぁ、辺りに人はいないから、こうして声をかけないでいるのだけれど。

 

 

「じゃあ明日は私も色々準備しないといけないわね」

 

 

…さて、あの子達に渡すお菓子でも作ろうかしら。

 




という事で、4話が終わりました。

今回はパスパレ回でした。この字数だと話をまとめるのが少々大変です。かといって字数を増やすと、恐らく投稿頻度が激減しそうですので、折り合いが厳しい次第です。

そして、少々投稿が遅れました事を、お詫びします。一週間以内は中々大変ですので、一週間から二週間の間に一話投稿する形を取ろうかと検討しております。決定し次第お伝えします。

次回『5.盲目の才能』


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5.盲目の才能(1)

どうも、Cross Alcannaです。

今回から、投稿頻度を前回言った通りの頻度に変更します。今までの頻度では、ほぼ毎日執筆していましたので、数日は休憩をはさみながら取り組みたいと思った次第です。お許し下さい。

さて、今回はもうお分かりの通り、あのバンドが登場します。…一番最初に出すべきだったかもしれませんね……アハハ。

そして、お気に入り登録:酔生夢死陽炎さん、ENDLICHERIさん、ユウキにゃんさん、腹黒白兎さん、青粉さん、✨zero✨さん、daisuku0903さん、土谷ァさん、妖魔 桜さん、雪の進軍さん、まっちゃんのポテトМサイズさん、るるるるんさん、ゴールデンウラガさん、tori@さん、ゆーとんさん、お気に入り登録ありがとうございます。

では、物語へご案内しましょう。



[CiRCLE 受付]

 

 

「あ、リサちゃん、いらっしゃい!Roseliaの皆、もう来てるよ!」

 

 

「は~い!さ、お姉ちゃん、行こ!!」

 

 

「分かったわ。ちょっと先に行ってらっしゃい。私も少しやる事あるから」

 

 

「…?分かった~」

 

 

そう私が言うと、少し不思議そうに私を見るリサ。ここまで来て今更私が何をやるのか、考えても思いつかなかったのだろう。…折角レベルの高いバンドの練習に行くのだから、私もそれ相応の態度で臨まないといけないと考え、こうした次第。そして、それにはまりなさんの協力が必要。…リサには秘密にしたかったのもあり、リサには先に行ってもらったのだけれど。

 

 

「…まりなさん、空き部屋ありますか?良かったら案内してもらいたいんですが…」

 

 

「リサちゃんには内緒の事ですか?」

 

 

「…えぇ。少しばかり、驚かせてみたいなと思いまして」

 

 

それを聞いた彼女は、「成る程、分かりました」とだけ言い、私の車椅子を押しながら、空いている且つリサ達のいる場所より幾分か遠い部屋へと案内してくれた。…こういう所で細かい気配りが出来るのは、かなり大人な証拠とも言える。…私の中で、密かにまりなさんへの好感度が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[CiRCLE 6番スタジオ]

 

 

「…一緒に来たは良いものの、何をするんですか?」

 

 

「そうですね……この部屋にあるギター、持って来てくれますか?」

 

 

分かりました、と一言だけ告げ、彼女は一時退室する。…ブランクとか大丈夫かしら。正直、これからやろうとしている事は、音楽をやっている人からしても常軌を逸した事だと思う。私も、やろうと思ってやり始めた頃、我ながら狂ってるのか、と問いただしたくなる程だ。

 

…と、そんな風に昔を懐かしんでいると、足音が1つ。恐らくまりなさんだろう。足音が早い事からするに、急いでくれた様子。サービス精神旺盛でありがたい。

 

 

「どれが良いのかを聞き忘れたので、取り敢えず使いやすそうなものを選んできました」

 

 

「ありがとうございます。それ、貸してもらえますか?」

 

 

「良いですけど……弾けますか?」

 

 

「…恐らくは」

 

 

そう言いながら、私はギターを触る。…ふむ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。演奏は出来そうね。そんな事を考えながら、私は昔練習の時に弾いていた曲を弾く。

 

 

「……嘘」

 

 

…私には、才能がある。昔からそうだったと両親から言われていて、やった事はある程度まで、あるいは平均より上手く出来る。ただ、私はソレをあまり喜ばしいモノとは感じられなかった。やるもの全てがプロ級にできる等であれば、まだ自信を持てたりしたのであろうけれど、(私はそうであったとしても)嬉しいとは思えない。

 

基礎の土台が人よりあると考えたら、少しは良く見えるかもしれない。でも、やはり器用貧乏という言葉が、ソレを許さない。世間では様々な事が出来る人は羨ましがられる事もある。ただ、当人からしたらそんな事はないなんてケースもしばしば。どの分野も特出していないせいで、自分が人よりも出来ていると感じる場面が少ない。ソレが、当人を傷つける。私もそう思う事があったり。

 

ただ、私がその才能を良く思わない理由は、他にある。単純明快、()()()()()()()()からだ。才能がある人への期待は、嫌でも大きくなる。それ自体は仕方ない事とは思うけれど、ソレを向けられる当人がそれを是とするかはまた別の話。

 

…まぁ、そんな事もあったので、私は才能を嫌い、今まで封印してきた。ただ、私としてもそろそろ前を向いて行こうと思い、才能と向き合う事にした。

 

 

「……ふぅ、まりなさん、どこかミスタッチとかありましたか?」

 

 

「…ううん、目立ったミスは無かったよ。それにしても、凄いですね」

 

 

…そう、この目を見るのが、私は好きじゃない。期待だけが独り歩きして、私と言う人間を置き去りにする、その目が。ただ、今回のまりなさんの目はソレ一色ではなさそうだけれど。

 

 

「まりなさん、ピアノって持ってこれますか?」

 

 

「…ピアノ?少し待ってて下さいね」

 

 

そう言ってすぐに探しに行ってくれるまりなさん。…何度も御免なさいと、心の中で感謝をした私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[CiRCLE 1番スタジオ]

 

 

「…もうこんな時間なのね。皆、休憩にするわよ」

 

 

相も変わらず、彼女らRoseliaの演奏は、友希那のその一言で一先ずの終わりを迎える。別のバンドの受け売りをするなら、これが彼女らの()()()()()

 

 

「……おっかしいなぁ…」

 

 

「……?今井さん、どうしたんですか?」

 

 

「いやぁ〜、ちょっとね……」

 

 

そんな中、リサの様子がいつもと違う。休憩に入ってからずっとどこかを気にしているように感ぜられる。当然、落ち着きもない。いつも通りでない彼女を、皆が心配している。

 

 

「…何か悩みでもあるのですか?良ければ相談に乗りますが……」

 

 

「ううん!そんな大層な事じゃないから!」

 

 

そんな紗夜の一言も、無情にも一刀両断。大体こう言う人間は何か悩んでいると暴露したも同然。それを紗夜は知っている。

 

 

「…嘘ですね?そうやって言うのは、悩みがあるからこそ言うものなんです」

 

 

「うっ……」

 

 

鋭い正論に、思わず声を出しながら狼狽えるリサ。それを逃さないとばかりに、紗夜以外もリサに詰め寄る。そんな状況を無情にも打ち破ったのは……

 

 

「…あら?タイミングが悪かったかしら?…出直した方が良いかしら?」

 

 

「お姉ちゃん!もぉ~、遅いよ!」

 

 

リサの姉こと、月代だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そういう事なら言ってください。かなり心配したんですから……」

 

 

「あはは…ゴメンゴメン!皆を驚かせたかったからさ~。にしてもお姉ちゃん、随分遅かったね?」

 

 

全く…と言いながら溜め息を漏らす紗夜ちゃんを見る辺り、本気で心配していたようね。リサってば……。

 

それにしても、いきなりソレを聞かれてしまうとは…まぁ、何気なく流しておけばいいかしら。それに、私も色々聞きたい事もあることだし。

 

 

「思ったよりも時間かかったのよ。…それで、今は休憩中?」

 

 

「うん、さっき休憩に入ったばっかりなんだ~」

 

 

…私的にタイミング悪かったわ。演奏してる所聞きたかったのだけれど。…撮ってあるものとかないかしら?

 

 

「演奏の様子を撮ったものとかあるかしら?聴いてみたいのだけれど…」

 

 

「それなら、こちらのを聴いてください」

 

 

「あら、助かるわ。ありがとう、紗夜ちゃん」

 

 

待ってましたとでも言わんばかりの早い応答と同時に、紗夜ちゃんから映像の再生手前まで操作が終えてあるスマホを渡される。見る予定だったのかしら。あるいは…見せる気でいたとか?……なんて、あまり知らない人相手にそんな事をする訳もないわよね。

 

そんな大した意味もない考えを遠くに投げ捨て、ソレを再生する。勿論、イヤホンを付けて。こういうのは出来る限り音量大きめに聴きたい派なので、迷惑が掛からないようにしなくてはならない。社会人として、いえ、人として当然の事。今時そうしていない人など、殆どいないのではないだろうか。

 

 

「……ふむふむ」

 

 

そう聴き入る予定ではなかった私にとって、この曲に聴き入っているのは、ちょっとした予想外の出来事だったりする。本格派のバンドとは聴いていたし、妥協が嫌いな人達ばかりだとも聞いていたけれど、正直ここまでの出来だとは思いもしなかった。メンバーが高校生である事も加味してこのクオリティを想像するのは、些か厳しい。そう思わざるを得ない程に、彼女らの音楽は形作られている……と思う。保険を掛けておくと、私は音楽に精通している訳でもないので、さっきまでのそれらしい意見は、全部素人の意見である。天才であろうとも、経験には勝てない。

 

 

「…どう?」

 

 

少し経ってソレを聞き終わり、私がイヤホンを外す。それを待っていたのか、リサがそう声をかけてくる。…どうって、素人の意見をもらったところで、マイナスになる可能性の方が高いでしょうに……。…まぁ、聞かれたのなら答えるけれども。

 

 

「貴女達なりの真剣さや、音楽の個性はあるわ。結構しっかりと基礎も押さえられているし、それを応用する事も出来ている。正直に言うなら、高校生のレベルはおろか、一般のバンドのレベルはもう超えてるかもしれないわね」

 

 

「ホント!?」

 

 

私の分析に、思わず大きな声を上げるリサ。声こそ上げていないものの、後ろの方で安堵している様子を見せている……燐子ちゃんとあこちゃん、だったかな?

 

…ただ、私から言わせてみれば、()()()()()()。…この意味、納得していない友希那ちゃんと紗夜ちゃんは察しているのかしら。

 

 

「……()()()()()()()?欠点などを言われると思っていたのだけれど?」

 

 

と、疑問に感じたのか、友希那ちゃんがそう訊ねてくる。まぁ、そうよね。欠点を何1つ言われないのは、評価をもらう側としては腑に落ちないでしょう。…なら、答えましょうか。

 

 

「そうね…私から1つ言うなら……()()()()()()()()()()()、かしらね」

 

 

「…?どういう意味ですか」

 

 

唐突にそんな狂言を聞いて情報整理が追い付いていないのか、紗夜ちゃんが猜疑心満載の表情でそう訴える。他の皆も同様の表情。まぁ、そうよね。こんな事を指摘する人なんて、まずいないでしょうし。…ただ、こういった世界でクオリティの巧拙に付随して止まないのが、()()()()()()()()だ。少なくとも、そことの苦戦は避けられないと思っている。

 

 

「貴女達の技術は、色々な人が聴いても高いクオリティを持っていると言うレベルまで来ているわ。それこそ、その道の人達と渡り合えるのではないかと、期待を持てる程に」

 

 

「…それが……どうして常識と…関係してるんです…か?」

 

 

未だに思考に暮れている皆を代弁するかの如く、燐子ちゃんが私に問いかけてくる。…やはり高校生、まだまだ成長途上にあるからこその甘さ、未熟具合がこういうところに見れる。仕方ない事ではあるけれど、彼女らがそれなりの道を歩んでいる以上、いずれ知らねばいけない事を黙っておく事もない。

 

 

「さっきも言った通り、それだけで終わってしまうの。技術は高いね、だけ。その状態とプロを比較して、貴女達には1つ、明らかに欠如しているものがあるわ」

 

 

「…それは?」

 

 

……本当ならここまで肩入れする予定もなかったのだけれど。この子達の本気のオーラにあてられたのかしら、私も本気で向き合いたいと思ったから。…貴女達に、私からの試練を。

 

 

 

 

 

──精神論、よ

 




という事で、5話が終わりました。

投稿されたこの話を見て、「何かタイトル変わってる?何だ(1)って」と思った方もいるかもしれません。これを執筆している時、思ったより文字数が多くなりそうでしたので、前後編に分ける事にしました。次回はこれの続きからとなります。重ね重ね、申し訳ないです。…流石に、(3)まではいかないと思います。

尚、アンケートは継続中ですので、是非ご回答下さい。

次回『6.盲目の才能(2)』


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6.盲目の才能(2)

どうも、Cross Alcannaです。

さて、前後編の後編でございます。「Roseliaだけ優遇してる?」とかいう声が飛んできそうな気もしますが、私自身Roseliaが一番詳しく知っているので、長く書きやすいという事もありまして、優遇しようといった意思はありません、欠片も。
寧ろ、短くなっている他のバンドのキャラに申し訳なく思っている次第です。勉学や生活との両立は本当に厳しいモノでして何とぞ目を瞑って下さると、助かります。

そして、お気に入り登録:鬼縞龍二さん、黒鳳蝶さん、魔星アルゴールさん、Back_ONさん、喰鮫さん、n-y-xさん、Raven1210さん、ポテトヘッダーさん、ワッタン2906さん、焚未さん、1タマさん、とろとろトマトさん、deportareさん、栗んとんさん、ありがとうございます。

では、物語へご案内しましょう。



『…精神論?』

 

 

「そう、精神論。多分貴女達とはかなり縁のない要素ではあるけれどね」

 

 

非難の声を実力で黙らせ、更には歓喜の声に変えてしまう彼女ら(主に友希那ちゃんや紗夜ちゃん)にとって、果てしなく繋がりが見えないモノ。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼女らにとって一番の難敵であり、最も挫折するであろうソレは、今の彼女らに一番必要なモノでもある。いきなり放たれた音楽と乖離したその言葉に、首を傾げる彼女らがいる現状に、私は特段驚きを覚えたりはしない。

 

 

「…音楽と、関係あるのかしら。それは」

 

 

「えぇ、大いに。裏を返せば、それさえおさえていれば、プロ顔負けになると思うわ」

 

 

自信に満ちた表情(をしているはず)の私を見て、友希那ちゃんは更に猜疑のオーラを増させる。…正直、想定の範囲内過ぎて、少し面白い。私は彼女の音楽に向ける情熱も、そうなった経緯も、把握済みだ。それを彼女も察しているだろうから、それを含めてのこの態度だろう。「私の事を知って尚、そう言うのかしら」とでも言いたげなのは、視界が閉ざされていても解る。

 

ただ、他の子達が私に未だ猜疑のオーラを出しているのは、友希那ちゃんの境遇を知っているからか、はたまた純粋に繋がりを見出せていないのか。私には、そこまで推測する事は叶わない。

 

 

「そうね……例え話で考えてみましょうか。貴女達は恐らく、まだ上に行ける、もっと上達しないとなんて考えていると思うわ。ソレに後押しされて、練習をする。そして上達する。ここまでは納得出来るわよね?」

 

 

私がそう全員に問いかけると、声を出してうんうんという声がチラホラ。恐らく、ここまでは問題ないはず。あくまで理屈に沿っていて、合理的な考えだから、彼女らも納得がいくのだろう。そんな事を無意識の中で思考しながら、私は次の言葉を紡ぐ。

 

 

「ただし、そこまでなら誰でも到達出来るし、その要素で()()()()()()()()は殆ど出し切れないわ。そうして、スピリチュアルな要素がここから重要になってくるのよ」

 

 

「う~ん、解るような解らないような……」

 

 

ここで、あこちゃんが混乱し出す。他の皆も、どうしてそこから急にそうなるの?等と言いたげな表情を浮かべる。…スピリチュアル要素に極力頼らなかった者は、ほとんど必ずここで躓く。理解する事にも、実践する事にも。寧ろ、始めから出来ていたりする事の方が稀だったりする。ただ、無意識下でしていた、というケースはたまにあったりする。

 

ここまでつらつらと事を述べてきたのは良いものの、ここで躓く人は、そんなにいなかったりする。最近ではネットなり実物なりで小説等を見る事が出来るからこそ、バンド活動においてそうした事にぶつかるという描写はよく見る上に、もとより目的を掲げる事も、ざっくりとして考えるとスピリチュアル要素の1つだったりする。別に、上手くなりたいならそれに目掛けて精進すれば良いだけの話。

 

何はともあれ、この点で躓くところを見ると、このバンドは中々にレアな状況だと思う。(一部の子だけとはいえ)ここまで上達にストイックで、精神論を度外視してきたこのバンドは、素人の私からしてもそうそうないという事が、今日で解った。取り敢えず、彼女らには精神論の重要性を知ってもらう事にしましょうか。

 

 

「…貴女達なら、言葉で聞くよりも音で聴いた方が早いかもしれないわね。……燐子ちゃん」

 

 

「は…はい……」

 

 

「キーボード、使っても良いかしら?後、良いならキーボードの所まで連れて行ってもらっても?」

 

 

わ…わかりました、とだけ言い、燐子ちゃんは私をキーボードの前まで連れていく。私はすぐ、鍵盤の位置を確かめる為に、少し音を出す。……こんなものかしら、凡その位置は把握した事だし、そろそろ始めようかしら。

 

 

「それじゃあ、最初は特に何も考えないで弾いてみるわ。恐らく、よくある普通の音楽に聴こえるはずよ。二回目と比較してもらいたいから、しっかり聴いてちょうだいね」

 

 

全員が頷いた事を確認して、私はピアノ伴奏を始める。本当はボーカルを交えて行った方が良いのだけれど、単体の音でも出来る、という事も知ってもらいたいからこそ、今回のようにキーボードだけにした。…別に、やろうと思えばキーボードとボーカルの両方を並行して出来るのだけれど、ミスした時が嫌なので、却下。

 

彼女達が何と反応を示しているのか、今の私にはそんな事を推測及び想像する余裕はない。流石に、そのレベルの並行は脳が追い付かない。視界さえあれば、表情から読み取る事は出来たのだろうけれど。

 

そんな他愛も無い思考を遥かな彼方へ捨て去って、私はもう終盤に差し掛かっている事に気付く。ミスは……してないと良いのだけれど。

 

 

 

 

 

「ふぅ……こんなところね。じゃあ、間髪入れないで、次行くわ。分かりやすくする為に、先程と同じ曲にするわ」

 

 

私は休憩する事も無く、続けて演奏する。さっき練習してみて思った事が、数曲程度なら続けても問題無い事と、ブランク云々はそこまで気にしなくても良い事。ブランクがさほど無い事について、自転車と同じ原理と思う事で、これ以上の思考を止める。

 

……にしても、結構体力使うわね、相変わらず。単純に弾くだけならそこまで消耗する事も無いのだけれど、私の場合、感情や想いを乗せながら弾くと、体が過剰に動いてしまう癖がある。どうやら、その癖は前から治っていないみたい。…どうせなら治っていて欲しかったわね。

 

ただ単純に抑揚を付けるだけなら、技術さえあれば誰でも()()()()()()し、()()()()()()()。そこでプロとの境界線が敷かれる事は、まずあってもゴマ粒程の可能性くらいだろう。上に、頂点に登り詰めるのなら、その何ステップも上の段階を見ないといけないし、()()()()()()()()()

 

 

「…何、これ」

 

 

「レベルが……違う」

 

 

ふと、私の思考の幕間に、そんな言葉が聞こえた。当然私の心の声とかではなく、その声はリサと友希那ちゃん。今の貴女達がそう感じるのも無理は無いし、咎めたりする気は毛頭ない。

 

けれど、心配ではあるわね。ある程度彼女達の本当のレベルを知れたからこそ思う事ではあるけれど、頂点に立つと意気込んでいた事もあって、私自身少し期待値が上の方にあった。しかし、敢えて厳しく言うと彼女らの反応は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

彼女らに自覚させておかなければ、一体どうなっていただろうかと考えると、こうしておいて正解だったのかもしれない。彼女らにとって、今日の事を成長の糧にしてくれると嬉しいのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…一先ず、これで終わり。貴女達の感想を聞く事はしないわ。それは貴女達の胸の中にしまっておいてちょうだい。…それで、私から言える事は1つ」

 

 

そこで私は、一旦一呼吸置く。目の前の彼女らも、いつもとは違うピリついた雰囲気にあてられ、私にまで唾を飲み込む音が聞こえる。

 

 

「自分達がどの位置にいるのか、しっかり理解する事から始めましょう」

 

 

「位置……ですか?」

 

 

「えぇ。分かっているとは思うけれど、物理的な意味ではないわよ。技術や方向性、クオリティ諸々を含めた意味でね」

 

 

彼女らは、確かに底知れない程研鑽を重ねたのだろう。ソレは、あの音源を聴いて分かる。並の努力では辿り着くに難い領域ではあるし、才能もあったのだろう。

 

ただ、彼女らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……精神論から少し逸脱している気もするけれど、まぁ良いわよね。最後に付け足せば良い……はず。

 

兎も角、バンドの自己分析は、上手くなる為に必須。注意すべきなのは、自分達()()()()()()()()、バンドの自己分析である事。どんなジャンルの曲をメインに据えているのか、どんな技術を多く用いているのか、そういう意味での分析。意外としていない人が多いコレは、結構重要な意味を持つ。

 

 

「貴女達がまずやるべき事はソレ。そして、それが及第点まで行ったら精神論よ」

 

 

「…1つ、聞きたいのですが」

 

 

ここから精神論について本格的に説明しようと思っていたところで、紗夜ちゃんがそれに待ったをかける。やはり、実力至上主義者にとって、精神という不確定且つ不安定な要素に何を見出すのか、些かの疑問符が残るのだろう。その証拠に、彼女と友希那ちゃんは未だ納得のいかない表情を浮かべる。

 

そんな彼女らの意思を汲み、私は小さく頷く。すると、それを是の意と判断したのか、彼女の口が動いた。

 

 

「音楽をやるにあたって、精神論は重要なのでしょうか?()()()()()()()()()()()()()()()()…論とまで行くと、少し繋がりを持てないのですが……」

 

 

そう、彼女は分かっているらしい。()()()()()()()()()が。一文字違いではあるけれど、その意味合いは違ってくる。精神とは所謂、上達しなくても折れないとか、アンチによって叩かれても諦めないとか、そのような時に自身の目標なりを保つ力。バンドだけに限らず、世間の目に晒される人には必要不可欠なモノ。恐らく、彼女らもその身で味わったのだろう。或いは、これから知る事になるのか。

 

 

「あら、貴女達も精神論に頼ってるわよ?」

 

 

「…そんな事はないわ。私は根拠のないものはあてにしないもの」

 

 

…やはり、知らないだけか。それにしても、この2人はかなり実直な芯の持ち主のようで、それ自体は構わないのでけれど…今回のようなケースに陥りやすいのが、玉に瑕。

 

等と、要らない考えをついしてしまうのは、相も変わらず私の悪い癖なのだろう。脳は疲れてないのだろうか。相変わらずのブラック企業具合だと考えながら、私は次の言葉を放った。

 

 

「頂点に登り詰めるという思い、Roseliaだからこその音律、誰にも負けたくないという意思…それら全部が、精神論そのものよ」

 

 

そのカミングアウトに、一同(主に例の2人)が驚きの表情に豹変。自身もそんな思いを抱いた事があるのだろうか、何やらブツブツと呟き始める。それを私は気に留めず、続ける。

 

 

「とは言っても、大雑把に見ての話。たまにいるでしょう?どうしても負けたくない、より上の実力を発揮したいと思っている人が、論理では説明がつかないような急激な変化を遂げる状況。漫画とかによくある話だけれど、バンドでもそういう事は見られるのよ」

 

 

最後に、人と競う事においては特にね、とだけ付け足す。…さて、私から言える事は凡そ伝えきった…つもりだ。これで、彼女らが何かを掴めると良いのだけれど。ただ、形に現れにくい面もある問題であるのも事実なので、中々結果が伴わないのも仕方ない事。…それでも、期待してみたい。あの時私があてられた頂点を目指すという飢えた精神。それを上手く扱う事が出来たら、彼女らは化ける。

 

私が言葉を言わなくなって少し無言が続くと、友希那ちゃんは練習を再開すると言った。…早速練習するのかしら。彼女らはきっと、王者にふさわしい風格を持ち合わせるだろう。……視界が閉ざされている事がここまで悔しいなんて思ったのは、一体いつぶりだったろうか。

 




という事で、6話が終わりました。

長くなりましたが、Roselia編が終わりました。次回と次々回(ハロハピとアフロ)で終わろうかとも考えていますが、RASとモニカを書くべきかを今検討しています。今の段階で書かないにしろ、後に書く事にしそうな気もしますが。次話辺りまでには決めておきます。

次回『7.ココロからの笑い』


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7.ココロからの笑い

どうも、Cross Alcannaです。

最近、趣味を減らそうかと検討しているのですが、どれも辞め難いのが最近の悩みです。主にゲームだったりするのですが、最近のゲームは面白く、ハマりやすいのが、良くも悪くもあるなと思う日々です。趣味を減らせば執筆速度も上がるかなと思っているのですが、それは結局有耶無耶になって終わりそうです。…アハハ。

そして、☆8評価:神威結月さん、お気に入り登録:鬼龍院翔さん、レイラレイラさん、ありがとうございます。

では、物語へご案内しましょう。



[商店街]

 

 

「リサ、買い出しも終わったけれど、どこか行きたい所とかあるかしら?」

 

 

「ん〜、特に無いかなぁ。一昨日に殆ど済ませちゃったし」

 

 

「そう、なら帰りましょうか」

 

 

「はぁ〜い」

 

 

某日某所。……いえ、某所というには、もう既に分かりきってる場所よね。

 

という訳で(?)、今は商店街にて買い出し。私からもう少し外に行きたいと頼んだから良いものの、少し頻度多くないか、なんて考える今日この頃。そんなに食糧がすぐ尽きる家庭でもないはずなのに……考えるだけ無駄かしら。

 

等と思いつつ、後で母さんにでも聞いてみようかと思った私。その、丁度私がそんな思考からシャットダウンした時だった。

 

 

「……歓声?」

 

 

僅かながら、遠くの方から歓声らしき声が。誰か有名人でも来てるのか、はたまたテレビの撮影だろうか。

 

いつも人の声で賑わっているこの商店街。だが、今日聞こえたソレは、いつもの商店街のソレとは違うもの。流石にここまで大きくないはず。

 

 

「…行ってみる?お姉ちゃん、気になるんでしょ?」

 

 

「それ、貴女の方じゃないのかしら?」

 

 

ソ、ソンナコトナイヨー、等と棒読みで言ってくる辺り、図星をつかれた模様。…別に素直に言ったところで、とやかく言うつもりなんてないのに。と言うより、私も気になっていたから、人の事は言えない。

 

そんな気持ちもあって、私は行く旨を伝える。それからリサが声のする方角に向かうのに、殆ど時間を要さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、ここね。何があったらここまで歓声が湧くのかしら?」

 

 

「あっ!こころのバンドじゃん!通りで皆がこんなに湧く訳だ!」

 

 

例の大歓声の中、リサがこう言ったのを何とか聴き取れた。最近台頭しているガールズバンドは(ついこの前に頭角を現した2つのバンド含めて)主に7つ。リサが親し気に呼ぶ辺り、恐らく『ハロハピ』と呼ばれているバンドのリーダーこと、弦巻(つるまき) こころだろうか。あの弦巻家の令嬢との事で、何やらその肩書きに似つかわしくない破天荒振りとの事。バンド結成の理由も、『世界を笑顔に』という抽象的且ついつ達成されるのかと問いただしたいもの。あの子だからこその目標だろう。

 

あのバンドの子らは、バンド結成前の楽器経験が多くない等と言われている。全員が全員そういう訳ではないのだろうけれど、確かに最初の方は特段何かで取り上げられる事は少なかった印象がある。あの目標を掲げる辺り、そういう事よりも地域に寄り添ったり、日の目を浴びない所で演奏したりする事が多いのだろう。今まであったようであまり無かった類いのバンドに思える。

 

リサがハロハピの演奏に聴き入っている中、私は頭の中のハロハピの情報を取り出していた。先程言った7つのバンドの中でも、屈指の()()()()()()()()()()()バンドと言える。RASにも最初は驚いた記憶があるけれど、ハロハピ程ではなかった気がする。他のバンドは、何だかんだバンドのイメージに沿っていると思えるので、このバンドはそういった面で多少異色とも言える…と思う。

 

まずは瀬田(せた) (かおる)。女性とは思えない程美形で、どうやら演劇の舞台で活躍しているとの事。彼女のマイブームなのかは分からないけれど、事ある事に「あぁ…儚い」と言う場面が多々あるそうな。恐らくハロハピの中でも一二を争う程強い個性の持ち主だろう。私の中で、ここまで「個性的だね」という言葉が似合う人は、この先の生涯で出会いそうにない。一言でまとめると、ユニークな王子キャラかしら。

 

次に、北沢(きたざわ) はぐみ。ハロハピの中では、言う程個性が強いとまでではない気がする。噂によるとスポーツ万能で、体を動かす事に関しては一般人を少しばかり超えているらしい。ただ、これ以上は特に無さそう。ただ、世の中からしたら十分な個性ではあるので、どれだけハロハピが個性極振りバンドかが分かる。因みに、この商店街にある北沢精肉店の看板娘でもある。最初聞いた時、聞き覚えがあったのはそういう事だったのかと思ったのを、今でも鮮明に覚えている。一言でまとめると、アウトドアな看板娘かしら。

 

次は、松原(まつばら) 花音(かのん)。噂によれば、過去にドラムの経験がある模様。このバンドの中では比較的穏やかな(性格含めての)ステータス。ただ、かなり戸惑う事が多かったり、異様なまでの方向音痴だったり、いつも何らかの巻き添えを喰らったりと、十分な個性の持ち主且つ、不憫属性持ち。また、意外にも頑固な性格でもあったりするそうな。一言でまとめると、オドオドしたしっかり者…なのかしら?

 

そして、次もかなりの個性山盛り。それが彼女、奥沢(おくさわ) 美咲(みさき)こと、ミッシェル。何故こんな言い回しなのかについて、見てくれで分からない者はいないと思う。……そう、彼女は着ぐるみをまとって、このバンドに所属している。元々ミッシェルは、この商店街のマスコットキャラクター的立ち位置にいた。少し前から見かけるようになり、主に小さい子からの人気がある。そんなある日、それを見たこころちゃんがスカウトしたそうな。彼女についてもリサから少し話を聞いているので分かるのだけれど、かなりの苦労人らしい(主な原因は前者の2人とリーダー)。ただ、着ぐるみをまとってDJをする辺り、常人以上に才能があるのだろう。或いは、才能が開花してしまったのか。一言でまとめると、何でもござれな苦労人かしらね。

 

そして最後、弦巻こころ。過去に財閥解体があったのにも関わらず、今現在新興財閥として名を馳せている弦巻財閥の令嬢。好奇心旺盛な性格も相まって、常人はまずやろうとしない事ですら何食わぬ笑顔でこなしてしまう運動神経の持ち主でもある。それに加えてその性格を軸に動く事もあって、自覚しないうちに周りを巻き込むといった(本人には言えないけれど)厄介極まりない事もあるそうな。それに振り回されるのは、主に花音ちゃんと美咲ちゃん。もしかして、それに慣れた事もあって、美咲ちゃんのスペックが高くなったのだろうか。後、令嬢というだけあって、隠れてながら護衛の黒服さんがいるそうな。まぁ、令嬢を野放しには出来ないわよね。一言でまとめると、天真爛漫なお嬢様かしら。

 

 

「お姉ちゃん、終わったよ」

 

 

「あら、もう終わったの?考え事していたのだけれど…惜しい事をしたわね」

 

 

どうやらそんな長い考え事をしているうちに、路上ライブも終わっていた模様。先程まで聞こえていた歓声も、先程よりもかなり小さくなっている。さて帰ろうかとリサに声をかけようとしたその時だった。

 

 

「あら、リサじゃないの!どうだった?私達のライブは!」

 

 

「うん!楽しかったよ!流石ハロハピって感じだね☆」

 

 

「あっ!こころ!すみませんリサさん!!」

 

 

先程までライブで聞こえていた声と、その声の主を止めるような声。1人はこころちゃんで、もう1人は……美咲ちゃんの方かしら?性格と関係からしか判断できないので、間違う事も少なくない。間違っていたらゴメンなさいね、もう1人の声の主さん。

 

 

「…リサ、隣の人は誰かしら?」

 

 

「アタシのお姉ちゃんだよ、丁度買い出しの帰りだったからね~」

 

 

「あら!初めまして!私は弦巻 こころよ!」

 

 

相変わらず、最近の高校生はコミュニケーション能力が高いと言うか、警戒心が薄いと言うか……。そう思いながら、再びこころちゃんを制止する声に、私は気にしないよう言っておいた。

 

 

「初めまして、私は今井 月代。リサの姉よ。眼も見えないし、そのせいで体を動かす事も殆ど無くなったから全体の筋力ももう衰え切っているわ。だから、こうして会う機会も少ないとは思うけれど、リサとは仲良くしてあげてちょうだいね」

 

 

「えぇ!勿論よ!…そうだわ!どうせならリサに私達のライブに連れて来て貰ったら、月代も私達と会えるわ!」

 

 

「ちょっとこころ!あっちにも都合っていうものがあるんだから!」

 

 

三度目の制止。…ここまでくると、お母さんみたいな子ね、注意してる子。かなりの苦労人ね、同情するわ。

 

 

「……あ、すみません。私の自己紹介がまだでしたね。奥沢 美咲です。先程からうちのこころがすみません……」

 

 

「気にしないで良いわ。…かなり苦労してるみたいね」

 

 

「そうなんですよ……こころだけじゃないので。あの3バカがホントにもう……」

 

 

自己紹介のような丁寧な口調を崩す辺り、心の底から出る、無意識に思っている事なのだろう。その一言一言に、どこか黒いモノを感じる。様々なネガティブな感情が詰まったような、そんなモノを。

 

…とは言え、恐らく本気で嫌っていたりはしないのだろう。もしそうであるならば、そもそもここまで世話を焼いたりはしない。放る方が、遥かに楽だろう。それでもそうしないのは、彼女なりにそれ以上に一緒にいてプラスな感情があるからだろう。…親友、とか?まぁ、私には皆目見当もつかない所ではあるけれど。

 

 

「ほらこころ!あっちに皆いるんだから、行くよ!」

 

 

その言葉と同時に何度かこちらに頭を下げていた彼女に、私は再度同情しながら手を振った。リサも、「またね〜!」なんて言いながら大きく手を振る。

 

さて、そろそろ良い時間かしらと思い、リサに帰るよう促そうとしたその時だった。まだ私の隣にいたこころちゃんが、私以外にはとても聴き取れない程の声量で、私にこんな事を言った。

 

 

「……月代。貴方、()()()()()()()()()()()()?」

 

 

その一言に、少し驚きながら彼女がいるであろう方向へと身体ごと向ける。しかし、既に彼女らの姿は無く、私とリサだけがそこにはいた。リサが心配の声を浮かべているのだが、取り敢えず大丈夫だと言っておこう。

 

 

「……まさか、気付かれたのかしら。…気のせいだと良いけれど」

 

 

先程の彼女の声は、いつもとは違い鋭い声質だった。さながら、別人格の彼女とでも言わんばかりの。確かに、私を気遣ったり、心配したりする声はかなり多く聞いてきた。ただ、凡そが表面から見ての発言だった気がする。あれ程、私の内心深くまで抉るような言葉を投げかけられた事も無かった為に、冷や汗も出始める始末。

 

 

「勘にせよ第六感にせよ……彼女には気を付けないと」

 

 

これから関わりがないとも言えない以上、私に出来る事はそれくらいだった。

 




という事で、7話が終わりました。

今回はハロハピ回でした。最近は中々アイデアも浮かばないので、筆が進みにくかったり、内容が簡素だったりしてしまっています。自覚はしているものの、この頃、オリジナルの小説の設定考案の方が進んでいる現状があります。もしかしたら、こちらから撤退する事もあるかもしれません。ただ、書きかけを放置するつもりは一応ありませんので、今後については決まり次第お知らせします。

後、アンケートはこの話の投稿から3日後に締め切る予定です。

次回『8.眩しい夕焼け、見る事能わず』


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8.眩しい夕焼け、見る事能わず(1)

どうも、Cross Alcannaです。

今回で一旦バンド邂逅編は一区切りです。次回からは本編(?)とアンケートを中心に進める予定です。RASとモニカは一旦保留に。もし要望がありましたら、お教え下さい。一応、近いうちにそのアンケートを貼る予定です。

そして、☆9評価:レミレイさん、お気に入り登録:霧徒さん、ミラアルマさん、レミレイさん、黒の迷い猫 サクヤさん、Hira@コスさん、materaさん、ありがとうございます。

では、物語へご案内しましょう。



[CiRCLE 2番スタジオ]

 

 

「あこ、さっきの演奏でここを間違えていたわ。今日のうちにもう1回間違えたら、次までに復習しておきなさい」

 

 

「はぁーい」

 

 

あくる日。Roseliaの練習に、(何故か)私はいた。少し前に練習をまた見るとの約束をしてから、私は(身体の調子が優れている時に限るけれど)練習に同行している。私がアドバイスした事も考えているのか、少し練習の時の皆の雰囲気が違う気がする。

 

 

「リサ、少し喉が乾いたから、外の自動販売機に連れて行ってくれるかしら?」

 

 

「オッケ〜☆」

 

 

先程の練習の確認をしている皆程喉を酷使している訳では無いのだが、季節が季節、もう時期夏も近付いている為に、喉がまぁ乾く乾く。ソレに耐え切れず、私はリサに頼み、外の自動販売機に連れて行ってもらう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…にしても、暑いわね。風もない分、余計に暑く感じるわ……」

 

 

「ね〜、風があればまだマシなんだけどね〜。…あ、お姉ちゃんは何にする?」

 

 

その問いに対して、スポドリはあるかしらと返す。どうやらあったようで、ガコンと自動販売機が無機質な声を上げ、飲み物を出した。私はそれを受け取り、喉の奥に流し込む。…うん、夏にスポドリは良いわね、染み渡る感じがする。

 

因みに、汗をかく時期は、水でなく塩分を含んだスポドリがオススメ。汗は水分と塩分を外に出す為、塩分を摂取しないと、熱中症だったり、倒れたりする事もある。最近はよくテレビ等で特集を組まれていたりするから、知らない人も少ないだろうけれど。

 

 

「外暑っついなぁ……お姉ちゃん、戻ろう?」

 

 

「そうね、私もこの暑さは耐えられる自信がないのよね」

 

 

そんな小言を交わしつつ、さて皆の所へ戻ろうかと思った矢先、出入口の方から声が聞こえてきた。

 

 

「暑っつ〜い、モカちゃん、溶けちゃうよ〜」

 

 

「溶けないでしょ、アイスじゃ無いんだし……まぁ、暑いのは確かだけど」

 

 

声質から判断するに、高校生かしら。……何だかここだけ切り取るととんでもない変質者にも捉えられかねないわね。私としては、全くもってそんな事は思ってないのだけれど。あの子達、もしかしてバンドマン?だとしたら、リサも知っている可能性がありそうね。

 

 

「リサ、出入口の子達って、知ってる子かしら?」

 

 

「うん、Afterglowの2人だね。……にしても、また頭の中で推理してたの?」

 

 

アタシには無理だなぁ〜、等とリサは続けて言う。大した難しい事など、しているつもりは無いのだけれど。

 

そんな事を思っていると、リサが「せっかくだし、声掛けてみよっかな〜」と言ったので、私も話がしてみたいと伝える。すると、リサは彼女達がいる所まで車椅子を押した。

 

 

「やっほ〜☆蘭達も今日練習だったんだね〜」

 

 

「あっ、リサさん。こんにちは」

 

 

「こんにちは〜」

 

 

リサの挨拶に返ってきた返事の声は2つ、キリッとした声と気だるそうにした声。

 

それにしても、Afterglowね……Roseliaや、先日のハロハピと同じく有名なガールズバンドの1つ。ロック系をメインに据えていて、心に訴えてくるボーカルの声が特徴の1つ。そして、最大の特徴と言われているのは、()()()()()らしく、私もこれ以上は分からずじまいである。

 

……Afterglowは、日本語に訳すと『夕焼け』という意味だけれど、どんな経緯で命名したのかしら……少しだけ気になるわね。

 

 

「…?リサさん、そっちの人は……?」

 

 

「…もしかして、バイトの時に話してたお姉さんですか~?」

 

 

「わわっ!当人がいる前でバラさないでよ~モカ~!」

 

 

図星をつかれたらしいリサは、赤面しながらモカという子の方に行く……事は無く、きちんと私の車椅子を持っている。恥ずかしいのに、それでも私の事を考えてくれるのは、少し嬉しいわね。

 

…それはそれとして、リサったら、私の事を話して回ってるのかしら。この口ぶりだと、同級生や後輩、バンドの知り合いとかには話しているのかしら。確かめる手段が現実的でない以上、確かめようがないのだけれど。……今度家で弄ってみようかしら、ふふ。

 

 

「…ホントにいたんですね、リサさんにお姉さんが」

 

 

「だよね~。リサさん、世話焼きな人だから、いても弟か妹かなと思ってたんだよね~」

 

 

確かに。家にいる時のリサを見ていないとして、外で関わっていたらと考えると……そうね、案外容易に想像できるわね。バンド練習の時も確か、皆の世話を焼いていた気がするし。ただ、私の前ではあまりそういった印象は見受けられない。ポンコツ…とまではいかないのだけれど、たまにポカしでかすくらいかしら?やはりまだ高校生、成熟しきっていない以上、それはどうしようもない事。姉としては、それくらいの方が可愛いものである。

 

 

「今井 月代よ。リサの姉で、まぁ……後は見ての通り。リサ共々、これから宜しくお願いするわ」

 

 

「…美竹(みたけ) (らん)です。リサさんには時々お世話になってます」

 

 

青葉(あおば) モカで~す」

 

 

蘭ちゃんにモカちゃん……っと。よし、これで覚えた…はず。…それにしても、モカって名前、中々のキラキラネームよね。皆、その辺りはどう思ってるのかしら。そっちに埋もれているかもしれないけれど、美竹家って、確か華道…だったかしら、の名門だったような。家族と一悶着あったりして。家柄云々は、大体時代を経ても代わり映えしない事が多いとか何とか聞く。それに和の道ときたら、バンドなんて将来が不安定としか思えない道に行かれるのは、家族としては止めたい気持ちにもなるだろう。

 

…憶測である以上、これ以上の推察も、さほど意味をなさない気もするので、これ以上は考えないでおこうかしら。家の事情は、大体タブーな事が多々ある。余計な詮索は、野暮ね。

 

 

「Afterglowでしょう?最近時々テレビの特集とかで曲が流れたり、紹介されているものね」

 

 

最近では、ガールズバンドを取り上げたり、ゲスト出演させたりする番組もある。視聴率稼ぎという線も拭いきれない以上、確証得たり、とまではいかないものの、それだけガールズバンドが世間に浸透している証拠ともとれる。その辺りで言えば、この前出くわしたパスパレが台頭しているだろう。アイドル活動にも着手している以上、他の番組よりその点で優位に立っているのは、納得出来る上、強みでもあったりする。

 

アフロ……略称はこれで良いのかしら。の強みとして挙げられそうなのは、未成年(特に少年や思春期の子ども達)に刺さる事だろうか。選曲や歌声、歌い方にバンドの在り方。それが感情豊かな子どもにはかなり心に響くものがありそうだ。道ですれ違う高校生らしき子達がアフロの動画を見聞きしている時が、結構あったりするのが、それを根拠づける。

 

 

「おぉ~、モカちゃん達有名人だ~」

 

 

「モカ、調子に乗らない」

 

 

そう言う2人に対し、どこか漫才師のソレを思い出す。…М-1でも取りに行く気でないのが、また少し面白く思える。男子がこんなやり取りをしている事はよく聞くけれど、今ではそんな事も無いのかと、柄にもなく年の功を痛感してしまう。……言う程、年は取ってないはずなのに。

 

 

「…リサ、彼女達の練習が見てみたいのだけれど、大丈夫かしら?」

 

 

「…って事なんだけど……良いかな?2人共」

 

 

興味が私を支配してしまい、ついそんな無茶を言い放ってしまう。言葉にしてから少々反省するも、もう事は戻る事は無いので、そのまま突き進む事にする。リサも、(声色から察するに)呆れながら2人に聞いてくれた。少し無言の時間が続いたものの、2人から了承を得る事に成功した。私らしくもなく、心の中で少しガッツポーズ。よし。

 

 

「じゃあアタシが連れて行くよ、お姉ちゃん。終わったらアタシが行くから、それまでだからね?」

 

 

「えぇ、分かったわ。2人共、無茶を言ってゴメンなさいね?」

 

 

「…いいえ、お構いなく。意見をもらえる良い機会ですし」

 

 

蘭ちゃんが、謝り倒そうかとしていた私にそう言う。出来た高校生だ事。最近のこの年の子は大抵このような感じなのかしら。ネットやニュースでは変な事をして話題になる高校生が多い印象が先行しているけれど、意外とそうでもないのかもしれないわね。さて、彼女達の演奏は如何程か、楽しみね。そんな事を思っているうちに、私の車椅子はリサによってアフロのスタジオまで押されていった。

 




という事で、8話が終わりました。

「少し文字数が少なくね?」「サボってるんかこやつ」等と思われるのもアレなので、一応言い分を言いますと、意外や意外、文字数が一話辺りに割り当てる予定の文字数が、私が想定していたよりも多くなりそうでしたので、前後編の形を取る事にした次第です。行き当たりばったりで、申し訳ない限りです。書きながら考えているものでして…。

話は変わりますが、アンケートを終了していなかった事を、後書きを書いている時点で思い出しましたので、投稿後に締め切ります。

次回『9.眩しい夕焼け、見る事能わず(2)』


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9.眩しい夕焼け、見る事能わず(2)

どうも、Cross Alcannaです。

さて、私も予期しなかった後編でございます。自身の計画性の無さを痛感する限りです。ただ、時間を取って考える程の余裕がないのも事実なので、出来る限りでどうにかしてみます。
話題は変わりますが、ハーメルンの最近のランキングが某ウマ娘に染まりつつあります。少しやる気が失せつつあるのが、事実です。……色々規定が厳しいのに、皆よく書くよなぁ。

そして、☆10評価:ななみのれいさん、☆4評価:村ちゃんさん、お気に入り登録:ななみのれいさん、aideyikiさん、刃こぼれした日本刀さん、ジノン01さん、流離いの旅人さん、エルコンドルフィンさん、辛口過ぎる唐辛子さん、オロナインさん、フルタカさん、グロウさん、鳴神風月さん、ペルセウスさん、白黒パノプティコンさん、ryouki@さん、菊山雄介さん、ありがとうございます。

では、物語へご案内しましょう。



[CiRCLE 5番スタジオ]

 

 

「へぇ~、リサさんってお姉さんがいたんですね!ちょっと意外ですね!」

 

 

「あはは…よく言われるよ」

 

 

所変わって、アフロの練習スタジオ。つい先程、ここに着いたばかり。ついでに言えば、リサが質問攻めにされている。…いえ、質問攻めとは言えないかしら。まぁ、細かい事は置いといて。「そろそろ戻らないと、友希那達に怒られそうだから…ゴメンね?」と言っている。確かに、何だかんだ言ってそこそこの時間が経っている気がする。時間も、時計が見えない以上、外の環境音なりで判断しなければならないのが、ネックなところ。これについては、流石に私も不便に感じている所ではある。

 

そんなこんなで、「迎えに来るからね~」とだけ言い残して、リサはスタジオを去った。すると、先程までリサに話しかけていた子の声の主が、今度は私に対して話しかけてきた。

 

 

「それにしても、リサ先輩にこんな綺麗なお姉さんがいたんですね~、ビックリしました!」

 

 

「モカちゃんは話だけはよくリサさんから聞いてたけどね~」

 

 

あら、やっぱりそうだったのね。あの子、身内の自慢をよくする子なのよね。最初は恥ずかしかった記憶があるわ。…今ではもう慣れ切ってしまったけれど。

 

……生憎、綺麗な顔と言われる事が多いのだけれど、自ら確認する方法がないから、果たして自分がどんな顔をしているかが分からないのよね。だから、自信を持てば良いのか困る事がしばしば。…この話、前にもしたかしら?

 

 

「知ってる子もいるかもしれないけれど、リサの姉の今井 月代よ。リサがお世話になっているようね」

 

 

「いえいえ!こっちこそ、リサさんにはよくお世話になっています!」

 

 

あら、ボーイッシュな声。声だけで判断するのもはばかられるけれど、中々な男前ね。同性から惚れられてそうな気がするわ。

 

それはさておき、まだ休憩中なのかしら?それとも、先程休憩を取り始めたばかりなのかしら?いずれにしろ、演奏を始める雰囲気は未だ感じ取れないわね。…質問攻め、長くなるかしら。そんな未来を予測していると、スタジオの扉が開く。すると、驚きの声が1つ上がった。

 

 

「えぇ!?月代さん!?どうしてここに!?」

 

 

「あら、つぐちゃん?つぐちゃんもアフロのメンバーだったのね。世界は狭いのね」

 

 

その声に聞き覚えがあるように感じた理由はすぐに分かった。彼女は羽沢(はざわ) つぐみ。例の商店街にある羽沢珈琲店の看板娘であり、店主の娘だとか。私もあの店の雰囲気や料理の味が好きなので、よく顔を出しては、つぐちゃんと話をしたりする事もよくある。

 

彼女がバンドをやっているとは、時々話題に上がった事もあり、そこまでの驚きを覚えることは無かった。…という事は、残りのこの子達が親友って事ね。親友バンド……楽しそうね。

 

 

「つぐみ、知り合いなの?」

 

 

「うん!よくウチに来て話をしてくれるんだ!」

 

 

「あの雰囲気が、私にとって凄く良いのよ。こんななりだから、人の目を気にしてしまうのよね、無意識に。でも、あの店はそこまで神経質にならなくても歓迎してくれるから、有難いのよ」

 

 

そう、それこそが、あの店を気に入っている最大の理由でもあった。店の雰囲気に合った客層になるのか、あの店の客は基本懐が広い人が多く、私に気兼ねなく話しかけてきてくれたり、歓迎してくれる。正しく理想と言って、相違は無い。

 

さて、そんな事を言っているうちに、どうやら時間は過ぎていたらしく、蘭ちゃんの練習再開の一声が、それを私に自覚させる。私も自分で車椅子を操作し、邪魔にならなさそうな場所まで行く。……変な所に向かってないと信じて。

 

 

「さっきはここでミスしてたから、この曲から通しでやってみるよ」

 

 

そんな一言に、メンバーが同意する。親友なだけあって、連携と言うか、一体感は並ならない程だ。

 

 

「……いくよ」

 

 

その一言によって、アフロの演奏が始まる。バンド演奏を直に聴くと毎度思う事ではあるけれど、迫力や乗せられた想いがこれでもかと言わんばかりに伝わり方が違う。何かを媒体に伝わるか否かでここまで変わる事に、現代社会のちょっとした勿体なさを感ぜられる。

 

因みに、今練習している曲は『ロキ』。皆お馴染みみきとPさんのボーカロイド曲であり、本家をはじめ、歌ってみた動画も再生回数を伸ばしている屈指の有名曲。近年の有名ボカロ曲に挙げられるものとして、この曲はほぼ真っ先に挙げられるだろう。

 

そんな詳細はさて置き、彼女達の演奏をしっかりと聴き、分析しないと。彼女達も、(素人や見知らぬ人に教授されるのを嫌わなければ)少なからずアドバイス等を欲したりするだろう。その為に私は、()()()()()1()()()()()()()()()()()()聴き入る。

 

……あっ、ベースが少し不安定。注意して聴かないと分からないであろうレベルではあるけれど、原曲を何度も聴いているはとからしたら、多少違和感を覚えうるだろうか。ベースは一見影響力が少ないように思えるが、思った以上に全体に影響をもたらす。それを自覚していれば、ここは見逃して良いかもしれない。

 

そう言えば、このバンドはダブルギターなのね。差程珍しくはないとは言え、私はあまり見かけなかった事もあり、少し新鮮な気持ちになった。

 

そんな主観はさて置いて、ギターについては目立ったミスは見受けられない。ただ、片方のギター担当はボーカルも担当しているらしく、音の入り等で不安を感じる音が聴こえる。同時に何かを行う事はプロでも難しいので、仕方ないと言えば仕方ない。ミスしていないだけ良し、なのかしら。

 

キーボードはと言うと、少しタジタジな様子。本人もさながら、音もである。1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだけれど、それに結果が伴っていない典型的な例。血眼になって探しさえすれば、この手のバンドマンはかなりいるだろうし、何もこの分野だけの話でも無い。何処の界隈にもいるだろう。練習スタイルと自身の能力との相性が良くない事が主な原因なので、教えれば治るとは思う。

 

ドラムについてなのだけれど……和太鼓の叩き方?それともこの子特有のクセ?いずれにしろ、変と言わざるを得ないソレが、唯一の気になる点かしら。タイミングやリズム形成はそつなく出来ているように思える。出来だけで言えば、ボーカルを担当していないギターの子と同等くらいかしら。

 

ボーカルについては、1つだけ。ギターとの両立が、第三者には不安定に聴き取れてしまう事、目立つ点はこれに限る。彼女の声質に対しては特出した指摘点は無いと思う。特段マイナスなクセも見受けられないので、治す必要は無いだろう。

 

……ここまでの分析を終えて、私は彼女達の名前を前もって聴かなかった事に、少し反省の念を覚える。名前と声が一致していれば、情報の整理がかなり楽になるのに、今回はそれをしなかった為に、少し情報整理にいつもよりも脳のキャパを割り振らなければいけない。…地味に面倒なのよ、これが。

 

 

「……どうでしたか?出来れば何か意見を聞かせて欲しいんですが…」

 

 

と、演奏が終わったのか、蘭ちゃんが私に話しかけてくる。恐らく、他の子も私の方を見ているのだろう。ただ、そうは言っても彼女らの中でも名前を知らない子がいるのも事実。今のうちに聞いておかないと、と思う私は、名前を訊ねた。

 

簡潔に纏めると、ボーカル兼ギターは蘭ちゃんで、ギターオンリーの子はモカちゃん、キーボードがつぐちゃんとの事。ここまでは知ってる子だから、問題無い。先程の演奏とその子を連結するのに、多少時間がかかる位だろう。

 

残りはドラムとベース。少し印象に残った2つが、私が知らない子(片方は聞いた事がある子)だ。ドラム担当は、宇田川(うだがわ) (ともえ)。今思えば、たまに商店街の店の人と話をしている声と似ている気もする。

 

祭りの時期が近い時、1度だけ和太鼓の話を巴ちゃんの声と商店街の人の声でしていたのを、今思い出した。成程、だから太鼓のクセが付いているわけね。納得納得。

 

それで、ベース担当が上原(うえはら) ひまり。難しい漢字を沢山習った身としては、【うわはら】と読みたい気持ちが強いのだけれど、正しい読みは【うえはら】。混同しないようにしないと。

 

…何処かで聞いた事あるような名前だと思ったら、リサのバイトの話にたまに出てきたような。確か、バイト仲間のモカちゃんが、客としてスイーツを沢山買うひまりちゃんを、値段ではなくカロリーを言いながらレジに通すとか言う女子に対する所業とはとても思えない事をよくしているそうな。……彼女達の間では、通例なのかしら?

 

…そんなこんなで一通りの挨拶を済ませ、一段落ついたこの状況下で、私は次の言葉を切り出す。

 

 

「…と言うより、良いのかしら?意見とは言え、素人同然よ?素人の意見を聞いた所で、それが吉に働く事も少ないのに……」

 

 

「大丈夫です。リサさんから『お姉ちゃんの意見、かなり参考になるから!』って言われてるので」

 

 

「…あの子ったら……」

 

自然と、肩を下げながら出るやや深めの溜め息。繋がりがあったとは言え、ここまで私の事が行き渡ってる事に、若干頭を抱えたくなる。

 

…もしかして、リサの知り合いのバンドマン全員に行き届いているのかも。それこそポピパやパスパレ等、あまり無いとは思うけれど、RASとか。もう少し度が過ぎれば、プライバシー侵害もいい所よ。……まぁ、別に許せない事でも無いから、どうとは言わないけれど。……私ってば、身内に甘いのかしらね。

 

 

「じゃあそうね……各担当毎にアドバイスしましょうか」

 

 

先程までのナイーブな思考を東京湾に放り投げ、私は気持ちを切り替える。彼女達も、何だかんだ時間が惜しいと思うだろうし、パッパと始めましょうか。

 

 

「まずはベース。ミスタッチが多いわ。ベースは一見影に隠れがちに思われるけれど、思う程影に潜んではいないわ。寧ろ、間違うと顕著に表に現れる。まずやるべき事はそこね。他については、追々。」

 

 

「うっ……」

 

 

図星を突かれました、と言わんばかりにそれらしい反応を露わにするひまりちゃん。自覚はあったのかしら。だとしたら、指摘した所の解決も早く終わりそうね。

 

 

「次にドラムだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、私はリサが迎えに来るまで、アドバイスをしながら練習を見ていた。熱が入り過ぎたらしく、リサが来た事にも気付かなかった事を知ったリサに、少し怒られてしまったわ。取り敢えず私は、これから気を付けるとだけ言っておく事にした。

 

…にしても彼女達、とても青春って感じの関係だったわね。高校特有の友情と言うか何と言うか。ともかく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 




と言う事で、9話が終わりました。

今話をもちまして、バンド邂逅編完結です。次話からは、個別(アンケート)編に突入します。順番は、アンケート結果の上位から話を執筆する予定です。

それと、活動報告をあげましたので、そちらの確認もお願いします。この小説にも大きく関わりますので、是非。

次回『10.トゲのある綺麗な想い』


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10.トゲのある綺麗な想い

どうも、Cross Alcannaです。
  
さて、今話から個別(アンケート)編に移行します。ここらでは、日常の1ページをより多く覗く事が出来ます。本編程、堅くはないと思います。今回は前話にも登場した美竹 蘭の回ですね。どんな絡みをするのか、お楽しみに。

では、物語へご案内しましょう。



「サビ前、少し音程を外したでしょう?自分でも分かったかしら?」

 

 

「今のところ!また音の芯が弱いわよ。」

 

 

「…はい。」

 

 

「両立が難しいのは、私も分かるわ。でもね?貴女が決めた事だから、覚悟を持って臨む事。細かい事ばかり指摘している事は、私も申し訳なく思っているわ。だけど、いずれこうなる以上は、ここである程度克服しないと、私が教える意味が無いわよ?」

 

 

「…はい!」

 

 

某日、CiRCLEにて。私はこの前会ったばかりの蘭ちゃんに指導をしている。この日はアフロの練習は休みなので、所謂自主練である。

 

何故こうなったのかについて、何時ぞやの練習まで遡る必要がある。なので、Let's タイムスリップ〜。

 

 

 

──────────────

 

 

 

『蘭ちゃんについてだけれど…正直、直す所は他の子よりも多いわ。』

 

 

先日の、ある練習日。

他の子の指摘も終わり、最後に蘭ちゃんの指摘に入る。私が一言目にそう言うと、アフロの皆、特に蘭ちゃんがより一層緊張した表情になる。私の言い方が、今までよりも少し尖り始めたのも、そうなる要因の1つなのだろうか。

 

 

『まず、一番目立っているのは自分が出すギターの音と歌声の不調和。分かり易く言うと、その2つを同時に出す時の不安が、演奏に出ているって事よ。』

 

 

それを聞いた蘭ちゃんは、言い得て妙と言いたげな表情をしながら、私の言葉を待つ。…厳しい指摘をしっかり聞けるのは、バンドマンとして良い事ね。

 

…口に出して聞いたりはしないけれど、彼女はとても仲間想いな性格とみれる。不器用も重なっているので、それを外に出す事が苦手になったのだろう。

 

信頼はあるけれど、それが思うように外に出ない。うん、思春期の子(或いはツンデレ)の典型例ね。何となく、彼女の事が分かりつつあるかもしれない。

 

 

『確かに、並行して何かをやるのは難しい。でも、それを選んだのは貴女よ。選んだからには、やらなければいけないの。バンド結成の目的抜きに、バンドの担当だもの。』

 

 

事実、ボーカルの音程を違わず、且つギターも間違えないよう弾かねばならない。女性は並行して物事をするのが男性より得意だという話も出回っているけれど、それでも難しい事には変わりない。私だって、最初は苦労していたわけだし。

 

……と言うより、私ってば、今日も先日も同じような事を言っていたのね。…口説いって思われたかもしれないわ、反省反省。

 

それから練習をして、リサが迎えに来て、私は軽く言葉を交わして帰ろうとしたのよね。で、その時に蘭ちゃんが……

 

 

『あの……私を鍛えて下さい!』

 

 

 

──────────────

 

 

 

って、頭を下げてきたんだよね。あの時の気迫は凄かったなぁ。少し驚いちゃったもの、私。誰かに頼み事をされるのはしばしばあったけど、あそこまで真剣に頼まれたのは数回あったかなかったかだと思う。

 

いつまでもあのメンバーで集まりたい、この5人の集まれる場所が欲しい、って想いから作られたバンドとは聞いていたけど、想いの強さ故か責任感故か。並のバンドよりも努力しているし、絆がある。それに、互いを思いやれる。

 

 

「……羨ましいわね、本当に。」

 

 

ふと、そんな言葉がポツリ。無意識だった。

この身体になってから、誰かと青春を過ごすなんて事をしようという想いが薄まった。どんな事をするにしても、必ず誰かに迷惑がかかるんじゃあないかと思ってしまう。

 

「そんなの気にしなくて良いのに〜!」とリサに言われた事はあるけれど、そんな訳にはいかないの。本人側は、そういうのに敏感になっちゃうのよ。一度私の様な立場になった人なら、この気持ちを理解してくれる人がいるんじゃあないかしら。

 

……誰に語ってるのかしら、私は。

 

 

「蘭ちゃん、そろそろ休憩にしましょう。沢山練習するのは良い事だけれど、練習のし過ぎはかえって身体に悪いわよ?」

 

 

「…はい。」

 

 

少し不服そうな表情を浮かべつつも、蘭ちゃんは休憩に移った。余程練習したいのだろう。けれど、練習のし過ぎは身体に良くないし、健康にも悪い。蘭ちゃんは現役の学生だから、その影響をまともに受けるからね。私が監視してるうちは、無理なんてさせないわよ?

 

さて、蘭ちゃんの修正箇所について考えないといけないわね。ボーカルとギターの両立については双方の切り替え等のもたつきは大分良くなってきた。ボーカルとギターを別個にして考えると、大きな問題は無い。言うとするなら、細かいミスの訂正くらいだと思う。元々、沢山練習してきたのもあるのでしょう。

 

ただ、蘭ちゃんの個人練習に付き合ってる上でこんな事を言うのもどうかと思うけれど、個がどれだけ伸びても、それをアシストするだけの周りの力が伴っていないと、演奏として完成しない。

 

だから、もし蘭ちゃんが良い所まで行けたら、次は他の子の指導をする必要がある。あの子達が自分で蘭ちゃん程に練習したり、別のコーチを付けて練習しているなら、この問題は杞憂に終わるんだけれどね。今度の合同練習の時にでも、判断するとしましょうか。

 

 

「……月代さん。アタシ、もっと上手くなれますか?」

 

 

「どうしたの?蘭ちゃんらしくないわね。」

 

 

私の思考を他所に、蘭ちゃんからそんな言葉が飛んで来る。普段の蘭ちゃんは見栄っ張りなのか自信家なのか、皆の前で弱音を吐く事はしない。ひまりちゃんがリーダーとしてどこか抜けてる分、自分がしっかりしないととは思ってそうね。

 

だからこそ、こうして弱音を吐いてくれるのは嬉しい。私の性格上、人に無理やりそういう事を聞く事は好きじゃないけれど、そういう面があれば助けてあげたいのも、また事実。

 

 

「…月代さんの指導を受けてるうちに、私はまだまだなのかなって思うようになっちゃって……。」

 

 

()()()()()()()()()()()()。」

 

 

「……えっ?」

 

 

蘭ちゃん、それは当然よ。

音楽に携わる人達っていうのは、全員が完璧ではないのよ。音楽に正解は無い。その人が、何処をゴールにするかで、その人にとってのゴールは変わる。それに、概念的な目標は何を以てゴールとするのか、曖昧。

 

蘭ちゃんが何を目標にしているかは分からないけれど、きっとまだゴールには辿り着いてないのでしょう。だからこそ、ここでまだまだから脱してはいけないわ。()()()()()()()()()()()()から。

 

 

「まだまだって事は、まだ伸び代があるって事よ。それはそれとして、少なくとも今はまだ止まる時じゃないわ。今は耐えて。その後に反省会しても、まだ間に合うわよ。」

 

 

言いたい事は色々あるけれど、そうしてしまうとアレなので、どうしても言いたい事だけを蘭ちゃんに伝える。後の事は……未来の私に任せるとしましょう。頑張ってね、私。

 

 

「それに、そんなしょげちゃうなんて蘭ちゃんらしくないわ!もっと自信持って良いのよ。お世辞無しに、レベルはとても上がってるわよ。」

 

 

「……そうなんですね。ありがとうございます、また前向きに頑張れそうです。」

 

 

「良かったわ。程よく頑張りましょうね。」

 

 

何事も程よく、そしてひたむきに。蘭ちゃんは強い子だから、きっと結果が着いてくるわ。根拠は無いけれど、大丈夫。

 

 

 

──最後に報われるのは、心を貫いた人だから。

 

 

 

──────────────

 

 

 

「……ふぅ。」

 

 

「お疲れ様、蘭ちゃん。ここ最近で大分成長出来たと思うわよ。」

 

 

「月代さん……ありがとうございます!」

 

 

ふむ、元気で何より。蘭ちゃんくらいの年齢の子は、健康に過ごして色んな事を経験するのが1番よ。リサを近くでみてきてるから、そういう子は応援したくなるのよね。

 

 

「帰りは大丈夫?結構遅くなっちゃったけど。」

 

 

「はい、親には説明してあるので。」

 

 

こんな遅くに帰る事に慣れてる蘭ちゃんも、それを了承しちゃう親も、ちょっと心配ね。私が言えた義理はないし、子供を縛りたくないからそうしているのかもしれないから、深くは言えないけれどね。

 

逆に蘭ちゃんから心配されたけれど、終わる少し前にリサに連絡を取ったから大丈夫。……唯一あるとすれば、毎回誰かに迎えに来てもらうから、とても申し訳ないのだけれどね。

 

 

「じゃあ蘭ちゃん、気を付けて帰ってね。」

 

 

「はい、月代さんも気を付けて。」

 

 

今日もありがとうございました!と元気な声を最後に帰路に経つ蘭ちゃん。遠くなる足音を聞いて、私はリサを待つ事に。これくらいの時間になると、CiRCLEも人が減っていき、まりなさんも(暇になったからなのか)私に話しかけてくる事もしばしば。

 

たまに、まりなさんが外で待ってる私に温かい飲み物をくれる事がある。寒いのがあまり得意じゃない私にとっては、大変有難い。リサの事でも蘭ちゃんの事でもお世話になってるから、何かの形でお礼をしたいわね。今度、お土産でも持ってこようかしら。

 

 

「お姉ちゃ〜ん!」

 

 

「リサ、いつもありがとう。」

 

 

これぐらい良いよ☆と言ってくれる辺り、気遣いが出来る良い子に育ったわね、と母親目線になってしまう。母は健在だし、私がリサを育てた訳でもないけれど。

 

恐らくまりなさんがいるであろう方向に向かってお礼を言いつつ、私達は帰路に経つ。

 

蘭ちゃんこれからどれだけ成長するのか、今からとても楽しみね。頑張ってね、蘭ちゃん。

 




と言う事で、10話が終わりました。

現在、プロセカの小説を書いていますが、そちらに合わせてこちらの小説の書き方を今話から変更致します。少し文の堅さが顕著になりますが、出来るだけかつてと同じような雰囲気のまま書けるよう尽力します。

後、更新に長い時間をお掛けしまして、大変申し訳ございませんでした。

では、また次回。


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