死ぬなよ、絶対に死ぬなよ! ※コレは、フリではありません。 (リゼロ良し)
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暴れる本と白い鯨

 

 

―――それは、突然訪れた。

 

 

突然、ひとりでに動き出す1冊の本――――否、2冊(・・)の本。

 

 

 

「え? え? なにかしら!? なんなのかしら?? 本が勝手に、勝手に!? こんな事、今まで一度も……!! ぁ………!」

 

 

1つは場所は本に囲まれた場所、書庫。

そして、もう1つは人影が2つ見える書斎。

 

 

 

「ロズワール様……!?」

「馬鹿な……。これが突然動きだすなんて、これまでに一度も……。何故だ、何故動き出す? 私に、何を求めて……」

 

 

別の場所ではある、が共通している事もある。

 

この2つの本は、2人が管理し、そして たった2つしか存在しないと言う事。

そして 何より共通するのは まるで暴れているかの様に本が飛び跳ね、乱暴にページがバラバラバラバラ、とまるで翼を羽ばたかせるかの如く動きだしたという事。

 

 

これまでの長い長い年月において、一度も無かった現象が立て続けに起こる。

暴れる本を宥める事もせず、魅入っている間に 本がとある白紙のページでピタリと止まった。

止まったかと思えば、次は文字が浮かび上がる。本を知らない(・・・・・・)者が見れば、間違いなく気が動転しそうになる怪現象。

 

ページいっぱいに文字が広がっていく。じわじわと浸蝕する様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい

 

 

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知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい

 

 

 

しりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたいしりたい

 

 

 

シリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイシリタイ

 

 

 

カツテナイ、ゴウヨク、オサエキレナイ、オサエキレナイ、シリタイ、シリタイ、コレハ、ショウブ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軈て、浮かび上がる文字がピタリ、と止んだかと思えば、最後に1つだけ残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見つけて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

場所:リーファウス平原。

街道中央付近、フリューゲルの大樹。

 

 

突如、霧が出現。

 

 

「そんなそんなそんな!」

 

 

たった1台の竜車が全速力で街道を突っ走る。時に蛇行し、方角を変え、ただ只管手綱を握り、身体全体を震わせた。

 

当然だ。

 

この()の意味を知っているから。

突然、それもこの平原を覆いつくすかの様な勢いで広がる霧。その意味を知っているから。

 

それが何を齎すモノなのかを――知っているから。

 

 

「あ、あぁ、龍よ! 龍よ! 救いたまえ!!」

 

 

震える身体をどうにか動かし、手綱を引き、全力で竜車を引く地竜を全速力で走らせる。

走っている竜も、その脅威を知っている。知っているからこそ、人間と竜の意識が一致団結した瞬間でもある。

 

 

ただただ1秒でも早く、この場から離脱する。

 

 

 

全速力の傍ら、手が届く範囲、動かせる範囲ではあるが積み荷を放棄する。

乗せられた荷は自身の財産。大変な損害は免れないが命あっての物種だ。

少しでも身軽に、少しでも早く駆ける為に。

 

 

だが―――それを嘲笑うかの様に、霧を纏ったそれ(・・)は現れた。

 

 

 

 

 

 

 

―――ブオオオオオオオオ……!!

 

 

 

 

 

 

 

全てを呑みこむと言わんばかりに大口を開けて、迫る。

この視界の効かない霧の中を、竜車よりも何倍も巨体で、大空を泳ぐ。

 

 

(ハク)……(ゲイ)……!?」

 

 

彼は、最初は()を見ただけだった。

 

嫌な予感はしていたが、街道に霧がかかる事自体は珍しい事ではないから、と自分自身を勇気づけ、大丈夫だと言い続けた。霧の規模を考えたら、気にし過ぎだとも思っていた。

ほんの僅かなもの。霧がかかった先まではっきりと見えるから大丈夫だと。

 

だが、その希望は潰える。

 

僅かな量だった霧が、突如異常なまでに発生したからだ。霧が突然現れたから。

 

その霧見て……予感が極まった。

 

 

 

ここに、怪物()が現れたのだと。

 

 

 

霧を見ただけで、まだその姿を本当の意味で見たワケではない、最早選択の余地はない。

 

 

王国が編成した大討伐隊……、その頂点とも呼べる剣聖の称号を持つ英雄でさえ、その怪物、白鯨の前にはその命を散らせた。

 

 

そして、今はどうだ……?

 

 

この街道を走っているのは、自分ひとり(・・・・・)

1日、後1日予定を遅らせれば、後1日野営していれば………と、その白い悪魔を前にして、ぶつぶつと願望を呟き続ける。

 

 

 

―――死にたくない、死にたくない、死にたくない。

 

 

 

霧と共に空を泳ぐ白鯨。

それと出会う事、それは即ち死を意味する。

運よく助かる事もあるだろうが、それは幾重の生贄を捧げた上で、助かるだけなのだ。

 

つまり、他人の命を踏み台にして、助かる他無いのだ。

 

 

そして、今この場に 自身の命の代わりに差し出せる命は―――無い。

 

 

目の前が真っ暗になる。

涙が溢れてくる。

生にしがみつこうと、藻掻き続ける。

 

 

 

絶対的な死(この白鯨)を前にしても。

 

 

 

「ヒッ……!!」

 

 

後方迫っていた筈の白鯨が、いつの間にか側面に、直ぐ側面にまで来ていた。

竜車と同じ大きさの大きな目玉をギョロリっ、と動かしながら、獲物を確認しているのが解る。

 

悲鳴を上げるのが遅れているのが解る。

頭の理解に身体がついて来ないから。

 

白鯨の目を見て、驚き――悲鳴を上げるまで凡そ2秒かかり……。

 

 

 

「「うわあああああああ」」

 

 

 

悲鳴を上げながら、手綱を思いっきり引っ張って方向転換をした。

この時の彼は気付く事は出来なかっただろう。

 

死が直ぐ傍にまで迫ってきていたのだから、当然と言えば当然。

 

自身の悲鳴のほかに、もう1つ――――声があったと言う事に。

 

 

竜車の速度が下がり、更に方向を変えたこの2つの偶然? 幸運? が重なった結果。

 

 

 

「―――――ぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 

彼が操縦する竜車に何かが直撃した。

 

それは ドスンッ! と大きな音と共に現れる。

屋根の布が大きく破れ、支柱が破損し、バランスが乱れてしまう。どうにか立て直す事は出来たが、白鯨の一撃である事を考えたら、彼は振り返ったりはしない。振り返れない。

 

背後に居る存在を考えたら、もう思考を1つに絞り、他を寄せ付けない。

 

ただただ、逃げる事だけしか考えられない。

 

 

「痛ッッ………、なんて乱暴な放り出し方……」

 

 

後ろで声が聞こえる。

死が間近で迫っているからだろうか? 幻聴が聞こえてきた。

荷台には誰も居ない。誰も乗せていない。破損しかけて折角新調した荷台があっという間にボロに変わっているだけの筈だ。

 

 

「って、なんだなんだ!!?? あれなんだ!??」

 

 

もう1つ、声が聞こえてきた。

驚き声。幻聴とは思えない程リアルな声。放棄していた思考が蘇り、僅かな感覚で後方を探る。直ぐ後ろ、本当に直ぐ後ろにその声の主が居る様な気がしてきた。

 

 

「でっかぁぁぁぁぁぁ!! うわ、口とかやばいっ!? いや、なにアレ!? 形状的にくじら……? いやいやいや イキナリ降ろされて、なんでこんな場面!?? 今回は特別(・・・・・)とかで、ちょこっとの記憶とか、その他諸々保持状態は嬉しいけど、場所が最悪っっ!! 静かなトコとか選択してくれても良かった! ああああ、もう! 状況が無茶苦茶過ぎて、わけわかんない!」

「!!!」

 

 

3度目ともなれば、最早幻聴ではない。疑う余地はない。

意を決して、白鯨()の恐怖を押し殺し、決して振り返るまいと思っていた背後を見た。

 

大きく空いた荷台の屋根、戸板。そしているハズの無い誰か。

 

赤みが掛かった茶色の髪。肩口まである髪が凪いでいる。

この暴走していると言って良い竜車、風の加護が切れた状態の荷台だと言うのに、地にしっかりと足を立てて、あの白鯨を目の当たりにして驚いている。

 

 

驚くのは当然理解出来る。

白鯨とは死をまき散らす破壊と破滅の権化。出会うなら即死を意識する。

大昔……口にその名を出す事も憚れるあの魔女(・・)がこの世に解き放った厄災。

 

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あなた!? そこのあなた!? 一体なんなんですか!? なんで?? どうやって、ここに!? 忍び込んでいた、っていうんですかぁぁ!?」

 

 

最高速度の中、恐怖と混乱でどうにかなりそうな頭を動かし、口も動かし、言葉を発した。

気にかける余裕は一切ない。だが、突然の乱入者は 別の様だ。

 

白鯨を観ていた筈の視線を、自分が居る方に、前方に向けてきた。

 

そして、正面からはっきりと顔を見る。

 

男だ。―――歳は、恐らく同じか僅かに下だろうか、見た事無い珍妙な服装をしている。

 

何より、一番特筆すべき点は、その表情。

白鯨の出会ったというのにも関わらず、その顔色は 死の色(・・・)が見えない。

ただ、純粋に驚いている、困っている、それだけの様に見えた。

 

気のせいだったかもしれないが、次の返答でそれが気のせいでは無かった事に気付く。

 

 

「あ、ああ! ごめんなさい! これ、壊しちゃったみたいで………。あと、隠れてたってワケでも……その、説明が難しすぎて……。決して泥棒とかじゃないです」

 

 

ペコペコ、と頭を下げながら指をさす先には、夫々 床と屋根に空いた大きな穴を指していた。そして所々壊れている部分も指差していた。

正直、白鯨から逃げる時に破損した箇所、積み荷を放り出す時に破損した箇所もあるから、どれが彼が原因なのかは解らない。

 

解らないが、今はそれどころじゃない。

 

 

「こ、壊しちゃった、って。え、泥棒っっ?? そんなの諸々どうでもいい事ですよぉぉ!! あ、あなた! いまの状況解ってるんですかぁぁっ!??」

 

 

忘れたくても忘れられない。

突然の彼が乱入してきた以外は状況は変わっていない。あの白い悪魔の追撃は終わっていないのだから。

 

 

「ん? え? あ、ああ、あの白いおっきいのです、よね。……………うん。くじらッポイけど、アレはどう見てもモンスターの顔。それに口開けて迫ってるトコを見ても、…………つまり、食べられかけてる、って事でしょうか?」

「改めて聞く事じゃない! 何を悠長に白鯨を観察してんだよ、アンタ!! 白鯨(・・)白鯨(・・)白鯨(・・)!! 見た事無くても名前位聞いた事あるでしょうがっっっ!! あんな巨大で、霧の中、空を泳ぐヤツって言ったらぁッ!!」

「あ、いや……その………」

 

 

落ち着いてる男と落ち着かない男。

どちらがおかしいか、それは一目瞭然。

 

騒いでいる方が正しい。白鯨の脅威はこの世界では共通認識。名を知らない、何も知らない子供ならまだしも、ぱっと見10代後半から20代のいで立ち。知らない筈がない、と思っているから。

 

 

―――そう、普通なら……。

 

 

「落ち着いて話を……っていうのは、絶対無理。状況はまだはっきり解らないし、アレが何なのかも解ってない。でも、彼を観ていたら解る。……あの大きいのは この世界の(・・・・・)脅威って事」

 

 

落ち着いた男は、状況を漸く把握。

その詳細は解っていない。……解っていない事を解ってない騒がしい男が、懇切丁寧に説明してくれるとは思えない。

 

つまるところ、この窮地を離脱しない限り、迫るアレをどうにか出来ない限り、解らない事だらけ。

 

 

「――――どうだろう、できるか(・・・・)?」

 

 

右手を前に出し、目を見開き、手を思い切り開いた。

すると、数秒後……まるで旋風が掌で発生した? かと思う様な現象が起きる。

 

 

「でき……た? いや、まだ、まだわからない……。全部、継いだワケじゃない(・・・・・・・・・)から」

 

 

力を込めているのが解る。グググ、と眉間に皺が出来ているから。

その力が入るにつれて、掌の旋風が変化していく。ただ、渦巻いていただけに過ぎなかったソレ(・・)が、黒煙を帯びたかの様に黒く染まり、軈てバチッバチッッ、と火花の様な破裂音を纏いだした。

 

白鯨が暴れている、竜車が暴走、全速力で走っている。つまり、騒音を考えたら、そんな小さな音等かき消されてしまうだろう。

 

だが、その小さな旋風……、いや、黒き竜巻の存在感は、増していく。

 

混乱を極めていた彼が、その黒き竜巻を認識させられてしまう程に。

 

 

「な、何が、何が起きているんですか!?」

 

 

纏った破裂音、今度は突如光まで発しだした。火花の様に思えていたその破裂音は、まるで落雷。雷でも唸っているかの様な、耳を弾く。酷く耳鳴りがする。

 

 

 

「通じるか、まだ解らないです。でも あの大きいの、追い払ったら……、オレの話、聞いてくれますか?」

 

 

右手、手首を左手でギュっ、と握り締め、全神経を右掌に集中させているのが解る。

 

何が起きているのか? と振り返った彼が次に耳にした言葉。……正直耳を疑った。

 

 

 

 

 

 

【白鯨を追い払ったら】

 

 

 

 

 

 

 

彼はそう言ったのだ。

白鯨()を前にし、そう言ってのけたのだ。

 

子どもでも大人でも、白鯨を前に虚勢を張れる者など居る筈がない。

 

大討伐にて、国の英雄を……剣聖を殺したあの白鯨を前にして……。

 

 

 

でも、否定するのは簡単だ。喚くのも簡単。生存率0%なのは変わらない。遅いか、早いかのその2つである事は。

 

このどん底の状況から、ほんの僅かでも這い上がる事が出来るなら。

 

この()を抜けて、もう届かないと思っていた()にしがみ付く事が出来るなら。

 

 

 

「僕が出来る事ならなんだってやります!! なんでもします!! 助けて下さい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

助けを懇願する彼―――オットー・スーウェンは、後にこの時の事をこう振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

あり得ない、絶対に無理、絶対に死ぬ。

泣いて喚いて、必死に拒否して……、それでも 何処かでは諦めていた筈だった。

 

 

でも、1度目は気付かなかった。2度目も気付けなかった。3度目に漸く気付く事が出来た。そんな気がした。

 

 

龍に願った想いが、叶うのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言質取りました。オレとしても助かります。確実と言えないのが辛い所ですが、頑張りますので」

 

 

ギュっ、と今度は右手を握り、あの黒い竜巻を握りつぶしたと思えば、白鯨の方に向き直す。

 

 

 

 

「食事中申し訳ない。―――ソコ(・・)、災害警報発令中」

 

 

 

思いっきり振りかぶって、右手を前に突き出した。

 

 

テンペスト(・・・・・)

 

 

圧縮された黒い塊が、噴射され、霧を突き破り、白鯨に迫る。

霧が、黒い塊に集まっていく。……否、吸い込まれていく。

 

丁度、竜車に影響が出ないギリギリの範囲の街道を、木々を、空気を、大地をも、何もかも飲み込む。

 

軈て、まるで時間が止まったかの様に、黒い塊が吸い込むのを止めたと同時に。

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

と言う轟音と雷鳴、表現するのが難しい、五感では集めきれない程入り混じったあらゆる轟音が、一斉に上空に放たれる。

 

そして、巨体の白鯨が……、大空を支配していると言って良い白鯨が、更なる上空へ弾き飛ばされてしまった(・・・・・・・・・・)

 

 

それどころではない。

 

 

 

「!! ふんっっ、がッッ!!!」

 

 

 

その黒い塊は、白鯨の右翼。複数ある空を飛ぶ翼の一部を捥いでしまったのだ。今の一撃は巨大な刃にもなると言う事なのだろうか。

 

 

オットーは、そのあまりの光景に唖然とするだけで、また違う意味で思考放棄をしてしまった。

 

 

不幸にも、竜車の方へと弾き出されてあわや直撃! と思った時、彼は宙に飛び出して、その翼を受け止めてしまった。それもまた、オットーが驚く要因の1つでもある。

 

そして白鯨の一部を外に放り出そうとしたその時だ。

 

 

 

 

「っっ~~~~ぁ……、やば、い…… ()ちる(・・)……」

 

 

 

 

彼の身体がグラり、と揺らいだ。

 

そして、グシャッ、っと白鯨の右翼の欠片の下敷きになってしまったのである。

 



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白の世界で出会う魔女

 

 

 

 

 

 

―――ああ、そうだった。ゼロになった後に。ゼロから始まる時に。此処(・・)に来るんだ。

 

 

 

真っ白な世界。

 

地も空も無い。

上も下も右も左も無い。

文字通り真っ白。自分の存在は理解出来ても、その自分の姿さえ白くて見えない。ただただ真っ白。その世界がいつまでも続いている。

 

 

白い世界に来たら、全てを思い出す。忘れていた全てを。

 

 

 

「真っ白な世界で、またアイツ(・・・)と……って、アレ?」

 

 

いつもの真っ白な世界の筈だった。

白い世界で、いつも通り あの存在と再会し、()に向かわされる。

自身を真っ白な状態に戻して。……ゼロに戻して、再び世界が始まる。

 

 

それだけの儀式……だった筈なのだが、白い世界に一滴の雫が落ちたかと思えば、瞬く間に波紋となって世界に広がり……、そしてこの白い世界を彩った。

 

 

何処までの続く見渡す限りの緑―――草原の中の小高い丘。

あたたかな風が時折吹き込み、日の光が辺りを優しく照らす。

 

心安らぐ空間……とでも表現すれば良いだろうか。

 

 

数多の世界を、数多の未来を、数多の運命を。

時には心折られて挫折し、時には善戦空しく虫けらの様に踏み潰され、時には息つく暇のなく粉微塵に砕かれ。

 

時にはボロボロながらも辿り着き、時には手を取り合って共に辿り着き、時には全てを救って皆で大団円。

 

両の手だけでは数えきれない数の世界を巡ってきた身だ。相応の数の景色を見てきた。その中でも、ここから見える景色は 確実に上位にランクするだろうと思えた。

 

ただ悲しいかな。隣に愛しい人達が居ない事が減点ポイント。

 

 

 

「………そっか。そうだそうだ。そりゃそうだ。いつも殺風景な真っ白な世界だったんだし」

 

 

 

どうして、こうも心打たれるのか、少し疑問に思ったが、その疑問は全て解消する。

ゼロから始める時は、いつも白い世界に降り立つ。本当に何もない空間。ただ1つを除いて何もない空間から次へと向かう。

 

始まりの場所がこんなにも彩っている、原初の世界がこんなにも鮮やかな色を持ったのだ。当然と言えば当然。

 

 

そう納得していたその時だ。

 

 

「オイ、さっさとこっち来い」

 

 

 

折角景色を楽しんでいたというのに、背後から声が聞こえてくる。

もう何度も何度も聞いた事がある声だ。此処に来る前までは すっかり忘れる事が出来ていたというのに、この世界に戻ると強制的に思い出される。

何故忘れていたのか解らない程に、極々当たり前、傍に居て当たり前、一般常識。と言った具合に不自然極まりなく不快極まりない事だが、当たり前の事として認識させられるのだ。

 

 

「はいはい、わかりました――――よ?」

 

 

何度目か解らないが、くるり、と振り返ると……。

また驚いた。心底驚いた。これ以上ない程に驚いた。

 

 

「何だ? 間抜け面して。どうかしたのか?」

 

 

中心に、いつもの()がいる。恒例の()が。

そいつ(・・・)に驚く事は今更ない。何度も忘れては思い出し、を繰り返してきたから。この白い世界(現在は彩られてるが)に戻ると思い出してしまうから。

だから、早く先に行く……と思い振り返ってみたら驚いた。

 

 

いつもであれば、この世界には 自分とそいつの2人だけ。

 

 

何も無い真っ白な世界で、そいつだけが見えて、そいつだけしか居なくて、本当に何も無かった筈なのに、……直ぐ横に立っているヒトが居たんだ。

真っ白な世界であれば、或いは目立ったかもしれない ほぼ白と黒のヒト。

 

 

「あぁぁ……、良いよ。本当に良い……。キミタチは最高だ。ここまで、ボクを満たしてくれるものがこの世に存在しているなんて。でも、ボクは一応死者。便宜上はこの世ではなくあの世、と言った方が正しいかもしれないが。あぁぁ、この強欲の身が、まるで満たされていくような、そんな感覚だ。まだ何も知り得ないと言うのに。無の状態なのに。まだ何も解ってないのに、どうしてこの欲が満たされていくんだろう? こんな感覚は初めてだ。知りたいと言う果てしない欲求、飽くなき探求心、決してこれまででは満たされる事は無かった。本当だ。でも、でもでも、キミタチを見て、接して、言葉を交わして間違いなく変わったよ。そう間違いない。変わったんだ。だから、キミタチをよりよく知る事が出来るなら、ボクは、ボクのこの強欲は間違いなく満たされる、と確信している。まだ知ってもない入り口にすら立ってないと言うのに、満たされていく快感に身体が悶えそうなんだよ。多幸感と言うのはこういう時に使うんだろうね。本当の意味で、知れた気がする。これも君のおかげだ。ああ……、このボクの知らない知識が今後あったとしても、出来たとしても、恐らくボクは知りたいとは思う。知ろうとするだろう、でもキミタチの様な甘美は……この世のものとは思えない甘美たるもの、その境地には到底たどり着けない。いや、そもそもそれ以上は 存在しえないと断言しよう。いや、キミタチと呼ぶのは聊か失礼に値するかな? 申し訳ない。こう見えて知らない誰かと接するのは本当に久しぶりなんだ。話を少し変えるが、ボクは《世界の記憶》と言うモノを持っている。持っている筈なんだ。でも、あなた達の存在を認識してしまった今、本当に世界の記憶(ソレ)を持っているのか、自分で自分を疑いたくなる心境なのさ。信じられないよ。ここまで確信出来るなんて。うん、間違いない、ボクは今恋をした。きっと恋しているのだと思う。だって、他にもう目を向ける事が出来ないから。目を離す事が出来ないから。見れば見る程身体があり得ない程火照っていくんだから。今までだって、観察をし続ける対象はいたさ。目を離したくない様な相手もいたさ。でも、今は違うんだ。まるで色褪せて、形さえ残っていないようだ。さぁさぁ、ボクをどうにかしてほしい。何をしてもいい、このボクを破壊(こわ)してくれても愛でてくれても、そう、或いは放置してくれも良い。ああ、でも出来れば接触はして貰いたいよ。殺される願望は持ってないつもりだったんだけど、あなた達の手にかかるならそれも本望さ。本懐さ。なんだってする。どんな繋がり方だって良い。出来れば、出来れば接触したい、それだけは強く希望させてくれ。いや、希望するだけで、何をするか、何をしてくれるか、その権利は勿論あなた達にある。そうさ。だから例えこのまま帰ってくれても…………………………」

 

 

白と黒で構成された姿に、淡い桃が混ざる。

その煌々たる瞳の輝き、吸い込まれそうな瞳。驚きの方が勝っていて、しっかりと確認出来てなかったが、彼女は(・・・)良く観察してみれば、容姿も非常に美しいモノだ。

 

そして唐突に始まった演説。

誰なのか聞く暇さえ与えてくれず、永遠に続くのかと思えた。まさに息つく暇も無いとはこの事だと言って良いだろう。

 

だが、この手の人種? に会った事が無いワケではない。数多の世界を巡った身なのだから、当然だ。

 

 

それは兎も角、突然固まってしまった彼女に近づいてみよう。

 

 

ゆっくりと、確実に。近づいてみて………そして、後ほんの数歩の所で俯いていた顔をバッ! と上げて続けた。

 

 

「嫌だ。やっぱり嫌だ。帰って欲しくない。どうか、ボクと繋がりを持って欲しいんだ。どんな形でも良いと言ったけれど、やっぱり帰って欲しくない」

 

 

涙が目にあふれ、宝石の様に散らばる。

それを見届けた後、彼女に答える前に、まずは隣の輩に一言。

 

 

「これは いったいどういう事? ここに来たら、《ハイ次頑張ってね》って感じで放りだされると思ったんだけど……。と言うより、さっさと放り出されたい、って思ってたんだけど、

「カッカッカ。そんな気にしておるのか? 少々笑ってやっただけではないか」

「喧しい!! ここに来たら思い出したくない事も鮮明に思い出しちゃうんだよ!! 56番目の世界だ! そりゃ、バカみたいな展開で、早々に此処に戻ってきたさ! ああ、笑えよ、笑え! って思ってるさ! でも、なんかお前にメチャクチャに笑われるのは嫌なんだよ!!」

 

 

彼女を差し置いて、2人だけで話を続ける光景を見て、混ざりたい気持ちが全面に出てくる。中々間に入る隙、と言うモノが見えてこないのも初めての経験かもしれない。

 

或いは、一言《入れて、一緒に遊んで》と言えない、素直になれない幼子になったかの様な気分だった。

 

 

そんな彼女に気付いたのか、慌てて言い合っていたのを中断すると。

 

 

「ゴメンね。ちょっとどういう状況か解って無くて……。と言うか、どーせ、そいつが変な権限使ってオレの時みたいに、()から彷徨う魂を拾ってきたんだと思うケド、君もそんな感じかな? オレ、ボク、私…… えっと最近では、私だったか。私は死んでそいつに、連れてこられて振り回されてるだけの身だよ。君の好奇心? 探求心? を満たして上げれるかは解らないんだ」

 

 

じろり、と睨んでみるが、そいつはどこ吹く風だ。

逆に、話を返してもらえたのがとんでもなく嬉しかったのか、おろおろとしていた悲しそうな顔をしていた少女の様な素顔が、一気に花開く。

 

 

「話してくれてありがとう! まずはここから、コミュニケーションは大切だよ。嬉しいよ。さぁ、ここから始めよう! ここから、この場所……は、一応、ボクの城と言う事になってるんだけど、ちょっと違うみたいなんだ。あなた達……、あなた様を察する事が出来て、会ってみたい、と念じてみたら、本来なら墓所……聖域と呼ばれる場所に招かなければ、ボクのこの場所には来られない筈なのに、あなた様は来てくれた。だから」

「はいストップ」

 

 

話が始まらないし、彼女と話をしているのがつまらないワケではないが、そろそろ横で《困ってる顔でも見てやろ》みたいな顔してるそいつの顔が鬱陶しくなったので本筋に戻した。

 

 

「ゴメンね。ちょっとだけ整理させて。えっと……君の名前はなんていうのかな? 私は、ここでは一応……生まれる前? みたいなモノだから、名無しなんだけど」

 

 

突然話を遮るのは可哀想だと思ったが、彼女からすれば、無言で去ってしまう完全に拒絶、居なくなってしまう事以外なら、なんでも大好物との事だ。

コミュニケーションと言いながら、自己紹介出来てなかった事を思い出し、恥ずかしそうに頬を染めて告げた。

 

 

「そうだった。あなた様には伝えて無かったね。ボクの名はエキドナ。通り名としては《強欲の魔女》なんだけど、余り伝えても意味が無い情報かもしれないね。ただのエキドナで」

 

 

 

 

 

それは 強欲の魔女と名乗る女性 エキドナとの本来なら あり得ない邂逅。

ただの気まぐれか? 或いは意味があるのか?

 

それらを慎重に探ってみる必要があるだろう。

 

 

例え、始まって記憶が白になったとしても。

 



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王都の一日
ジャンケン


 

 

――――随分長く夢を見ていた気がする。

 

 

 

 

そう、白い世界(あの場所)の夢。

 

本来なら、そんな夢すら見る事は無い筈なのに、見ているという事は……、辛うじて覚えている事が、身体に、心に、魂にまで刻まれている事なのだろうと理解出来た。

 

 

 

もう少し長く夢を見ていたかった。

虚構と言う訳ではなく、実際にあった出来事。

ここに来る前の物だから、復習しておきたい気持ちだったのだけど、意識が不意に覚醒してしまう。

 

 

 

 

鼻腔を擽る良い香りが道しるべとなり瞼が開いた。

そして開くと同時にどこまでも高い青空が見える。そして、彼が身体を預けているのは……布だろうか? 寝心地は決して良くないが、即席で作り上げたにしては及第点だと言える。無論、彼が文句を言ったりする事は一切ないが。

 

 

これは、落ちていた自分を介抱してくれた証なのだから。

 

 

 

 

 

 

「本当なんですってば! 信じて下さいよ!!」

 

 

 

そして、妙に騒がしい声も耳に届く。

何やら騒がしい方向へと首を捻り、視線を向けると、焚火を囲って数名の男達が居た。その話題の中心に居るのが、見知った男。灰色の髪、に全体的に緑でコーディネイトされてる風貌。まだ表情ははっきり見ていないが、声色から察するに、歳は若い方だろうか。

少なくとも周りを囲っている、強面で、髭がよく似合ってる男達と比べたら。

 

 

「んでもなぁ? あそこに白鯨が現れた、って話は聞いてるし。ほんっと哀れで不幸体質で、弄られ男が1人、取り残されたかも、って話も聞いてちゃいたが……なぁ?」

「漸く積もりに積もった不幸の分、神懸かり的な奇跡を頂き、生還を果たした、としか……」

「「「うんうん」」」

 

 

「ちょーー! 間違ってない気もしますが、あまりにもヒドイですよ!! ほんとなんですって、彼が白鯨を、こうやって、どかーーーんっっ! って!!」

 

 

 

オットーが、手を翻して未だ眠っているであろう彼の方へと向けた。

 

 

「証拠に、白鯨の一部を見たでしょ!? アレ、素材として何かに……って思ってましたが、どうも 彼の攻撃をメチャクチャに喰らったせいか、ボロボロで……」

「う~~ん、メチャクチャでボロボロだからこそ、信じて貰えないんじゃねーか? それが白鯨の物だって。似た様な魔獣の一部ちぎって持ってきたかもしれねぇし。デカい事はデカいが、白鯨の一部! っていう割には、小せえぇよ」

「うぐぅっ、そ、それはそうかもしれませんが、ボクは商人として 信頼して頂ける様心掛けてきたつもりです! 仲間内でも勿論! これまでだって、そんな子供染みた嘘なんてついた事ないでしょう!?」

「あ、後 計算高くて、リアリスト。んでも 実の所性根は甘々で情に流されやすい、ってのも付け加えとけよ?」

 

 

オットーが身振り手振りで説明すればするほど、場には笑顔が溢れている。

オットー自身がそれなりに信頼されているからなのか、或いは……これもあの白鯨と呼ばれる巨大な生物が絡んでいるのかは解らないが、とりあえず ゆっくりと身体を起こした。

 

 

「あ!」

 

 

気配を感じたのか、オットーは目を覚ました彼の方へと駆け寄る。

 

 

「良かった! 目を覚ましたんですね! 大丈夫ですか!? その節は本当にありがとうございます!!」

 

 

ずいっ、と顔をめいっぱい近づけてお礼を言う。

寝ぼけた頭に良い気付け……と割とどうでも良い事を考えながら、周囲を見渡した。

 

霧に囲まれたあの時は確かに日の光は一切ない、つまり夜だった筈だ。

でも、今は青空。雲一つない晴天の空。

 

 

「すみません。一体、どれくらい眠ってましたか?」

 

 

軽く頭を振って、霞みがかる頭をはっきりと起こす。

オットーはそれを聞いて 少し考えると。

 

 

「正確には解りませんが、一晩、と言った所でしょうか。ボクも疲れ切っちゃって、寝てしまいましたから……」

「そう、ですか。……ぁぁ、なんにも把握できてない中でちょっとムチャし過ぎたかな……」

 

 

手をぎゅっ、と握っては開き、力の具合を確認する。

降り立った瞬間に即戦闘。当然の消耗と言えばそうだ。普通なら、真っ白(・・・)な筈なので、あの時点で命を落としていた事だろう。

いや、普通と言うなら、今までなら(・・・・・) 誰かの息子、若しくは娘として この世に生を受ける所から始まる筈だから、そもそもアレは普通じゃないのだ。

 

 

「すみません。昨日は 大丈夫でしたか? ちょっと加減とか解んなくて、色々暴走したと思うんです……、周囲に気に掛ける余裕も無くて。ほら、他に被害が出たり、とか……。見ての通り、オレは賠償能力なんて一切無い無一文でして……」

 

 

身体を色々と弄り、ポケットの部分を引っ張り出して、何にも無い事をアピール、そして項垂れた。

 

その返答を聞いて、仕草を見てぽかん、とするのはオットー。

それどころか、周囲の男達も同じだ。

 

 

オットーのトンデモ話は置いといて。兎も角真相は、オットーがたまたま自分の竜車に乗せただけ、行きがけの駄賃か何かを払い、乗せて貰っただけの間柄だ、と思っていたのだが、突拍子もない事を言い始めたのだ。

 

確かに、白鯨が暴れた地点は、見るも無残な光景が広がっていた。

 

大地は抉れ、街道の一部は完全に崩壊。

暫くは迂回しなければならないだろう。………そもそも、白鯨が現れたとなれば、暫くは警戒を強め、近辺に近づく事さえしない。遠回りになろうとも自分の安全安心、そして商品の無事が大切だから。

 

 

あの霧には注意を払っている、霧と共に白鯨は現れるから。

商人たちの間では注意事項の1つとしてしっかりと刻まれている。

 

オットーが生きた心地がしなかったと同じ様に、彼ら商人は 様々な所を行き来する商人たちは、白鯨の存在が何よりも恐ろしいから。

 

 

 

……それは兎も角、この目の前の寝ぼけた男は、まだ寝言を? と言う意見が大半だったのだが、驚く事にその顔は嘘をついてる様には見えないのだ。

 

 

「いやいやいや、あの白鯨を撃退してくれたんですよ!? あの何かスゴイので、霧を晴らしてくれたんです! 全てを吹き飛ばしてくれたんです! おかげで逃げる事が出来ました! 白鯨が出現した時点で 大きな被害は起こるものなんです。感謝こそしたとしても、迷惑だなんて一切ありません!」

「そう、ですか。良かった」

 

 

盛り上がってるオットーに、心底安心して胸を撫でおろしてる男。

何度も聞いては笑い飛ばしていたオットーの主張を、この場の誰もがもう一度、本人にもう一度聞いてみたい、と思ったのは共通認識。

 

 

 

 

 

「……なぁ、兄ちゃん。アンタ、マジで言ってんのか? あの白鯨(・・・・)を追い払ったって」

 

 

 

 

 

 

そして、最前列に居た男が、意を決して子供の妄言、夢物語を再度聞くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

商人たちの伝達網広さ、そして広がる速度を侮る事無かれ。

 

様々な情報を色々な所から仕入れ続けている。

 

勝ち馬に乗る為に、時にはライバルを出し抜く為に。

その情報戦を制する事こそが、商人として成り上がれるか否かにかかっているとも言って良い。

 

だが、今回の情報は………半信半疑ながらも、他の商品の流通状況、今回の様な白鯨と言う厄災の情報等と同じ速度で一気に知れ渡った。

 

 

 

 

そう―――ルグニカ王国……王都の方でも。

 

 

 

 

白鯨関連の情報。

それもこれまでにない情報。はっきり言ってしまえば妄言と獲られて切って捨てられる様な情報内容だと言うのに、興味本位の噂話の様なモノが、尋常じゃない速度で広がる。

 

 

 

 

「………面白い事になってきたねーぇ。ひょっとして コレ(・・)の出所なのか……? この事を(・・・・)、なのか………?」

 

 

 

そして、所詮は戯言、とんだ妄想、と切って捨てる者が殆どな中で、決して無視をせず、注目する者たちも出てくる。

 

 

「―――白鯨を」

「こんなのムシムシ! って言っちゃっても良い気はするんだけどにゃ~……」

「その噂の出所……、特定するのは難しいか?」

「う~ん……、ちょ~っと時間を有するかな? クルシュちゃんの前に連れてこれたなら、簡単に真偽は確かめられそうだけど……、商人たちの間で広まった、ってだけだから」

「……ならば、アナスタシア・ホーシンの耳に入る方が早い、か」

 

 

笑い飛ばされる話が各所で僅かにだが確実に広がる。

まだ小さい種火、それは徐々に―――確実に、業火へと変わるかのよう。

 

 

 

「愉快な妄言。普段ならば、そのような妄言、わらわの耳に届く前に消え去るのが常。―――しかし、届いた。つまりはそう言う事」

「どーいう事なんスかねぇ? つか、なんでオレをここに?」

「暇じゃろう? アル。ふふふ……。少々付き合え」

「………ヘイヘイ。付き合った後 無理難題吹っ掛けられる様な気がしてならないわ……嫌な予感ってヤツ?」

 

 

 

 

 

 

「お嬢、お嬢! スゴイでしょーー! おもしろいでしょーー!? ミミ、久しぶりにお話で楽しんだーーー! すごーたのしんだーー!」

「そら おもろいよなぁ。フフフ。………血が騒ぐっていうのはこういう時に使うんやな。なんや、欲しいなぁ……。気になってまうわ。その真偽。……白鯨を退けたっていうソレ(・・)が……」

「白鯨の問題は見過ごせませんからね。火の無い所に煙は立ちません。事は商人の間で起こった出来事。ボクも注意しておきます。単なる噂話だけの可能性もありますが」

 

 

 

 

 

ただの夢物語、妄言、虚構、空言……普段なら そう笑い飛ばして明日には忘れる。

そんな類のモノである筈なのに、心に引っかかりを覚える者も居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その根源の者が今、王都へと近付こうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――白鯨騒動より5日後。

 

 

 

 

「あァ! また負けた!」

「はい、これでオレの51戦51勝目です」

 

 

商人オットーが頭を抱えながら悶えていた。

 

丁度今、彼と勝負をしていたのだ。

何てことない単純な子供の遊びの様な勝負。その名も《ジャンケン》。

 

 

「うぅ……、どーしてですか!? 確率で言えば、えっと3割で勝ちを拾える筈なのに、どーして!!? その、《あいこ》を含めたら7割は負けない筈なのに!」

「えっと、それは オットーさんがジャンケン(コレ)での勝負(・・)、と言いましたので。やっぱり勝負には常に本気をです。子供相手ならまだしも、大人が相手なら全力を出してますよ」

「うぐぐぐ……、何かの加護? いや、まさかこれは イカサマ!?」

 

 

因みに以前の野営地にて。

 

色々と質問攻めだった。でも、あまりにも質問する人数が多過ぎて、順番にと言う話になった時、彼がジャンケンで決めればどうか? と提案をした。

 

だが、どうやら ジャンケンを知る者は1人もいなかった様なので、ほんの余興のつもりで、ジャンケンの簡単なルールと勝敗についてを説明した。

そうしたら 思いのほか大好評だった。

 

回数を重ねていくにつれて、質問の順番と言うより互いに相手の手の内を読み合う心理戦が白熱していき……彼への質問の順番を決めるのが目的だった筈なのに、すっかり逸れてしまったのである。

 

そして、暫く盛り上がった後、彼は手を上に掲げて一言。

 

 

『ジャンケンでは負け知らずの最強なんです。もし、オレに勝つ事が出来たなら、質問以外に何でも言う事聞く権利をさしあげますよ』

 

 

その一言は 更に盛り上がる結果にも繋がった。

聞きたい事や何でも言う事を聞くと言う事は、今後とも良い繋がりになるかもしれない、何なら護衛でもして貰えたりもする。

 

 

様々な思惑が渦巻いていたが……結果、彼にジャンケンで勝利出来た者は誰一人としていなかったのである。まさに最強の二の字に相応しい程の100人斬り状態だった。

 

 

 

そして今。彼はオットー・スーウェンと共に行動をしている。

まずは、オットーの仕事を済ませてもらい、その後 一番人が集まる場所……即ち、ルグニカ王国の王都へと向かってもらう手筈になっていた。

 

時折休憩を挟みながら、こうやってジャンケン勝負をオットーが挑んでくるのである。

 

 

「イカサマ……。まぁ 言い得て妙、ですね」

 

 

一瞬きょとん、としていたが 直ぐに笑顔になる。

その笑顔を見てオットーは

 

 

「うぅ、やっぱり! そりゃそーですよ! そうでもしないと、あの人数全員を撃退するなんて、確率的にあり得ないです!」

「ふっふっふ……。でも、それくらい見破るだけの目が無いと、目利きが無いといけないのでは? 商人としては」

「ふぐっ……、い、痛い所を突いてきますね……。でも、俄然やる気出ました! 勝つ、と言うより見破って見せます! このオットー・スーウェン、スーウェン家の名に賭けて!!

 

 

その後、商人として鍛えに鍛えてきた眼力(自称)で、オットーはどうにか見破ろうとしたが……それが叶う事は無かった。

 

 



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城下町の出会い

 

 

「実に……面白い」

 

 

 

 

 

白の世界に現れた草原。

何もない筈の世界に生まれた新たな土地。

 

 

ここは白の世界。

 

 

否。

 

今は始まりにして終わりの世界(・・・・・・・・・・・・)

(ゼロ)から(ハジまり)への世界。

 

 

 

 

その世界の始まりは、一体いつからだっただろうか?

 

 

 

時間と言う概念は存在せず、ただただ真っ白が続くだけの世界でただ1つの存在だったのが変わった。

 

 

そんな世界に異分子が現れた。

予兆もなく、本当に唐突に、偶発的に、ゆらりゆらりとただ揺らめきながら、その異分子は弱々しく光を瞬かせていた。

 

それを見たときから、自我が生まれた。

心が生まれた。

感情が生まれた。

 

興味を持てた。

 

時間と言う概念が存在しない筈なのに、時が動き始めた感覚がした。

拾い上げた光と共に、時が動き始めたのだ。

 

そして、これらの言の葉も、表現法も、1つ1つの言の葉の意味も、学んだ。

その中でも特に快楽。喜怒哀楽無の感情の中でも喜の感情が一番の好きになった。孤独よりも、誰かと共にあれる方が良かった………。

 

 

そして、動き出した世界では新しい事がおき続けている。

今も、起こる。

 

 

白の世界を飛び出し、下に広がる(・・・・・)数多の世界に触れ続け、凡そ77回目の世界にて、また新しい事が起きた。

 

 

 

見てるだけだったと言うのに、逆に見られる(・・・・)感覚。

 

 

 

 

「ああああああああぁぁぁ…………」

 

 

 

 

恐らくは余興、と言う言葉が相応しいのだろう。

或いは戯れか。

 

そしてほんの一握りの好奇心も出てくる。

好奇心を覚えて、良かったと思った瞬間でもあった。

 

感涙の涙を流す少女を一目見て、また興味を持つ。

 

 

 

 

 

「さあ、出てくるが良い。居る(・・)のだろう? ここに」

 

 

 

 

 

興味。

涙を流す少女に興味(愉悦)を覚えるが、たった少女1人に向けるには、些か贅沢過ぎるだろう。

 

そして、1人、2人……6人の少女達を1人ずつとなると、待たせてしまう子が5人。

それは……可哀想(・・・)だ。

 

 

「なんでわかったの? わかったと言うの??」

「おおーー!! あれなんだ?? あれなんだーー?? すごいなーー! はじめてだーー!!」

 

 

敢えて位置を説明するなら、黒と白で彩られた少女の両脇に、ずっとそこに居た、隠れていたつもりだった(・・・・・・・・・・・)少女達が顔を上げた。

 

 

 

「とてもとても、美味しそうな香りがしますよぉぉ!? とうとう、私も~、暴食が満たされる時が来たのですか~~???」

「ふぅ……。はぁ………。久しぶりに地に足をつけるのも悪くないさね。……ふぅ」

「えと、その……あのっ………」

 

 

 

まだまだ、この世界には面白い事が起きるのだろう。

いや、これまでの世界が楽しくなかった訳ではないが、新たな発見。

 

触れる事が出きる世界。

 

なるべく優しさを思い返し、なるべく怖がらせずに、なるべく偉そうにしないように、なるべく下手に出てるように。

 

生憎判定出きる相棒(・・)は居ないが。それはそれで良い。

新しい。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、我とナニをする? この世界の異端。……幼き少女達よ」

 

 

 

 

 

 

 

さあ、楽しむとしよう。

 

相棒が帰ってくるまで存分に。

これは初めての………独り占め。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都に向かい走る間。

 

 

この短い期間にも見事に不幸に見舞われたオットーだったが、今の彼は不幸体質とは言い難い。

 

「ほんとに、ツカサさんとはいつまでもご一緒したいです!! 盗賊達を追い払ってくれて本当にありがとうございました!」

「いえいえ。これくらいで良ければ」

 

今し方、街道で賊と一戦やりあった。それ自体は不幸だと、不運だと言えるが、オットーは何も盗られていない。商人にとって、積み荷は抱えてる商品は財産であり、生命線。盗られてしまえば、まさに死活問題。

 

白鯨のように、一気に死へと直行するわけではないが、破産し破滅し、食べていけなくなれば、仕事に着けなくなってしまえば、生き地獄が長らく続くことだってあるから、ある意味死より辛い先かもしれないのだ。

 

 

 

そんな悲惨な運命を蹴散らす様に、彼が—ツカサが盗賊を一蹴し、オットーを守る結果となった。

 

「是非、今後も護衛として雇いたいですよ!」

「う~ん……オットーさんの経営状態を事前に聞いてなかったら検討したと思うんですが………オレが増えたら、よりキツくなりません? 生活に直結しません? そもそもオレ、食べていけます?」

「はぅっ!? そ、そうでした………。うう、皆余計なことを……」

 

そう、オットー自身は十分優秀。勤勉であり交渉ごとも培ってきたノウハウがあり、更に現実もしっかりみていて、人柄も良い。

 

だが、そのプラス面を打ち消してしまうだけのマイナスを持っている。

その不幸体質(マイナス)が尾を引いてる様で、なかなか一定ラインを突破できないでいる。

 

売れると思い、調査を重ねて慎重に検討をして、仕入れた筈なのに運悪く風向きが変わってしまうことも屡々。

 

ツカサも、この世界で初めてであった人物であり、信頼も信用もしてくれているのも解っている。

簡単に他人を信用すると言うわけではない。

文字通り、命の恩人ともなれば 早々に裏切ったり出来ないだろう、と思うのが心情だ。

 

「でも、ボクはあなたと繋がりが出来た今は寧ろ幸運の波が来ている、と思ってますよ! きっとあなたはとてつもない人になる。そうなった暁には、ボク自身をあなたに雇って貰いたいですね!」

「え? あははは……それは光栄です。将来は商会を開く……と言うのも面白いかもしれません。ただ、オレにそちら方面に才能があるのかは、疑問ですけどね」

「そこをフォローするのがこのボク! オットー・スーウェンですよ! 是非ともご贔屓に! ……ふぐっ、ゴホッゴホッ!」

 

 

オットーは、胸を誇らしく叩いた……が、どうやら思った以上に叩く力が強かったようで、大きく咳き込んでいた。

そんなオットーをみて、小さく笑うツカサ。

 

涙目になりながらも、ツカサを見たオットーは続ける。

 

「ツカサさんのスゴい所は、強さもそうですが、直感、危機管理能力の方もだと強く思いました。なにかスゴい加護を持ってるのでしょう? ボクの言霊の加護でも、察知どころか、片鱗すら掴めなかったのに、かれこれ2度も回避をしてくれたのですから」

「力は勿論ですが秘密です。そしてお褒めに預かり大変光栄です、とも言いたいですが………、4~5日でそう何回も厄介なのと出会ってしまうほど、この当たりは治安が悪いんですか?」

「………そう言うときもあるでしょう」

 

 

何処か遠い目をしてるオットー。

改めて聞くのは野暮と言うものだ。

 

 

「はい、なんとなく解ってます。オットーさん……気を付けてくださいね? ほんとに」

「ううぅ、その優しさがとてもとても、ありがたいのと同時に、なんだかとてつもなく悲しくなってしまいますよ………」

 

オットーは涙を流しながら、ヨヨヨ~と沈んだ。

 

事実襲われたのだから、ツカサと一緒じゃなかったら、と思うとゾッとしてしまう。物凄く強い用心棒が居るから、散漫になっている部分がある程度あるとは言え、王都に着いたあと、彼と別れたあとの事はしっかりとしなければ、と改めて考える。

 

彼を雇いきるだけの財力がないのは事実だし、何より 素性不明ながらも、強大な力を持っている人物。今後の有益を考えたら、狭い世界にどうにか留めておくよりは、大きくなった所でご贔屓にして貰える方が上に上っていけそうだ、というのがオットーの考え。

 

まあ、オットー自身の事を、皆にバラされなかったら、ひょっとしたら無理言ってでも引き込んでいたかもだが……それはそれ、だ。

 

「いや、真面目な話、ほんとに気を付けてくださいね? ……物凄くヤバイ(・・・・・・)のも居ましたから」

「え?」

 

ツカサの声色がやや強張るのを感じたオットー。

 

盗賊、山賊と交えた時は 特に苦もなくと言った様子だった。

実際に、威嚇しただけですぐ逃げていったから、規模も練度も低かった。

気絶したとは言え、白鯨を吹き飛ばす事が出来る大魔法を使えるツカサ。

 

そんなツカサが明らかに雰囲気が代わった言い方をした。

 

ひょっとしたら、そんなのと遭遇していたかも? と想像しただけでも、背筋が凍る。他の驚異を考えてみれば、いくつか候補が上がるが……。

 

と、色々考えていると、ツカサがオットーの肩を二度叩き、そして笑っていた。その笑顔がオットーの視界に入る。

 

「ちょっと気が緩んでる様にも感じたので、脅かしてみました」

「! ちょ、ちょっと、脅かさないでくださいよ……。もう少しで王都なのに、変な汗かいちゃいました……」

 

 

王都は、もう目と鼻の先。

オットーは 改めて気を引き締め直し、手綱を強く握りしめた。

 

 

 

彼—--ツカサは、そんなオットーの姿を見て一息付くと後方、南西方角の空を見上げる。

 

先程のオットーへの忠告。それは何も根拠なく言ったわけじゃない。

 

 

実際に(・・・)起こったから(・・・・・・)

 

 

「色々と、勉強しないと……文字も継続。世界の情勢。あの鯨といい、知らないことが多すぎて……。それに、(こっち)の方も」

 

ツカサは、頭を軽く揺らした。

 

継いできた事柄、まとめようとしたのだが、なかなか上手くいかない。能力関係は何とかなる、が……やはり、記憶方面。

まさに夢だったかの様に、留めようとしても泡となって消えていく。

こんな、途中からのスタート状態なのに。でも、それにも何かの理由があった筈なのに、もう思い出せない。

 

 

「あの、性悪………」

 

 

ただし、嫌な笑顔だけは何故か思い出せるので、とりあえず悪態を付くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ルグニカ王国

 

 

 

門を潜り、直ぐ側の門兵の詰所で身分を提示、積み荷も提示。

 

因みに白鯨の一部、複数ある翼のほんの一部でも、自身の身体よりも大きいから、見せたとき、ぎょっとされたが、《大きな白い鯨の一部》と説明したら、今度は笑い飛ばされた。

 

どうやら商人関係から広まった、商人と白鯨の一戦(笑)は、この城下町にも伝わってるらしい。オットー自身も商人だから、当事者なのに そのありきたりな噂話にあやかってるんだろう、と笑われた。

オットー自身はあの時のように、頑張って説得しようとしたが時間の無駄である。

 

白鯨に付いての詳細は、ツカサ自身も聞いてるので 笑われるのも無理ないと思ってた。

 

 

「とりあえず、予定どおり衛兵の詰所までいって、コレ見て貰おうかな……。信じる信じないは難しいけど、その……400年も世界を蹂躙してる化け物(白鯨)の一部なら、何か有効な対策とか、弱点? みたいなの探れるかもしれないし。ダメなら、オットーの出番かな? 上手く処理してくれたら」

「はい! 任せてくださいよ! と言いたいんだけど……、白鯨の翼(ソレ)をカードにどうにか利益になるような商談って、物凄くハードル高いことだと思うんですが!?」

 

 

と、城下町の入り口で騒いでいたその時だ。

 

 

 

 

「すまない。ちょっと良いかな? 君たち」

 

 

 

 

不意に声を掛けられたのは。

まだ、城下町の入り口だけど人通りは激しい。往来し続ける人や亜人、竜車、荷車……。木を隠すなら森、ではないが、特別目立つと言うわけではない筈だが、声を掛けられた。

 

オットー関係か、と思ったが 一目見て違うことに気づく。

 

身に付けているモノは、衛兵の正装。全体的に白い

そんな服装だからか、一番先に目に付いたのは、この世界で初めて見る赤い髪。燃えるような赤い髪。透き通る青い目。

見た瞬間に、何故声をかけられたのか、と言う疑問よりも早く直感した。

 

 

 

 

 

 

 

彼が()である、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




鯨や兎、蛇、大司教さんたちも、速攻でさらっと倒して世界平和に直ぐできそうなのに。

強いけど、効果範囲?みたいなのがあるのかな?
エルザのエミリア・スバルへの攻撃防げなかったし

そう言うのも願えば解決する力を得れそうだけど(笑)時間移動とかも。

尚、さらっと名前判明。

ツカサさんです。


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ラインハルトとお食事会

 

「我と言の葉を交わしたい………か」

 

 

少女たちの願いは単純明快。

未知との交流を持ちたいとのこと。

 

少女達にとっては確かに未知そのもの。完全なる外の世界の存在、それも少々異なる次元に存在するものだからか、かつてない程の刺激があるそうだ。それは、話しをせずにただそこに存在するだけで、満たしてくれるとのことだ。

 

どの様な些細な事でも構わないとのことだった。代償が必要なのであれば、如何なるモノでも捧げる、どれだけ時間がかかろうとも構わないと。

 

言葉を交わす……それに関しては幾度も体験してきたこと。その点に関しては何ら新しいことではない。住む世界が違うことを除けば同じ事。もう時期に戻ってくる相棒と交わしてきたから。

 

 

 

 

「ふむ………彼奴と交わした、か……。交わしてきた事柄……。フムフム。面白い、面白い。1つ決めたぞ少女よ」

 

 

 

 

幾度も世界を巡り、観察して積み重ねてきた知識。

これまでは見ているだけに過ぎなかったが、今は違う。

 

 

自らが本当の意味で体験を、知見を、見聞を、智見を。

 

 

心沸き立つと言うモノだ。

器の芯まで熱くなる感覚。

これまで世界を重ねるにつれて、徐々に芯に温もりを持つようになった。

長らく共に在った相棒には《人間臭くなった》と誉められた(本当に誉めたかどうかは不明)。

 

 

そう、77回目の最高潮。

 

 

常に更新し続ける。過去最高の伸び代。

それは枯渇することはない。永遠に尽きる事はない。

 

眼前の強欲を主張する少女ではないが、より満たされると確信できる。

 

 

「1つ………―――てあわせ(・・・・)、といこうではないか少女達よ。より、我が熱く滾る事が出来よう」

 

 

両手を広げ、これまでにない表情を見せられる。

それ(・・)を見た瞬間に激震が走った。

 

 

()せられる。

畏怖()せられる。

恐怖()せられる。

絶望()せられる。

快感()せられる。

極楽()せられる。

爽快()せられる。

 

 

人では届かない。

否 魔獣であっても魔女であっても、竜であっても、魔人であっても。

 

これまでの叡智の結晶。

この世界の全てを総動員させ、総力させたとしても、1にも満たない程に届かない領域を感じた。

 

その果てしなく隔たる差は一体なんなのだろう?

 

 

強さだろうか?

体内に有するオド、そして マナに関することだろうか?

世界から祝福されたと言う証である加護だろうか?

魔女達に深く関わる世界への理不尽の象徴、権能に似た力に差があるからだろうか?

 

 

 

―――恐ろしい。

 

 

 

全く理解できない事が恐ろしい。

そして それ以上に好奇心を刺激させられる。

本来ならば 知り得る事のない未知への豊潤な甘美。それが手が届かなくとも、確実のそこに居るのだから

 

 

 

ただ、それは 強欲の少女の感想・感性であり、どうやら他の少女たちは また違った(・・・・・)

 

 

 

眼前の存在より、手合わせ(・・・・)の言葉を聞き、全身が凍り付く様な感覚を覚え、そして何より眼前の存在が、見た事のない化け物(・・・)に似た雰囲気へと変わると同時に飛びかかる者もいたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルグニカ王国 城下町、とある料理店。

 

 

まだ日も浅く 殆どの店が営業開始したばかりだからか、通りも疎らだが、この料理店だけは別。

普段ならば賑やかになるのはもう少し後の話だと言うのに、忙しなく店が動いているからだ。

 

 

 

そして それらは、1つの個室に向けて集中させられていた。

 

 

 

 

その場所はまるで別空間。

次々と運び込まれ、並べられる料理が部屋を彩っていく。

 

 

2~3点程運ばれてきた所で、ウェイターの人に《一体どれくらいあるの?》と質問したところ、これらは、序の口。まだまだ前菜との事。

 

 

だから、これからもまだまだ続くらしい。コース料理?

 

 

これまで、野営で干し肉や野菜などの相伴に預かることが出来た。

この世界で初めての食べ物だったが、間違いなく美味しかった。

楽しく食することが出来たから、雰囲気の要素が強いかもしれないが、それを差し引いても美味しかったと言える。。

 

ただ、世界は当然の如く広い。まだまだ、自身の経験は浅い。それこそ赤ん坊、と称されても、それは決して比喩ではなく的を射ている。

 

 

ただ、経験の浅さは認めるけれど、この目の前に広がる光景が、この世界の代表的な朝食?通常(デフォルト)だとは到底思えない。

 

 

 

「ねぇオットー……。直視しづらいんだけど……。その、料理って この()か……この国の料理って、こんな輝いて見えるものなのかな? と言うか、使われてる材料が光源だったりする?? 料理しても暫く光を失わない……とか?」

「どんな料理ですか、それ。……そんなわけ無いですよ! それよりも、どうしてボクもここにいるのかが、理解が追い付いてないです。それも………」

 

 

オットーはツカサの問いと言う名のボケにツッコミをいれた後、光る料理? の先にいる人物に釘付けになった。

 

何でも、この物凄い料理を作ったのは

 

 

 

ディアス・レプンツォ・エレマンソ・オプレーン・ファッツバルム六世。

 

 

 

なんでも究極の料理人と名高い人物らしく、そんな人の料理に肖れるだけで、現実感が薄れるが、それ以上オットーにとってインパクトがあったのは、そのディアス(略)と話をしている青年。

 

輝きを放つ料理、その輝きに負けないほどの輝きを、オーラを纏っている男の事だ。

知っている人物だから。……知っているどころではない。

 

 

 

 

 

当代の剣聖、ラインハルト・ヴァン・アストレア、その人なのだから。

 

 

 

 

「え? どうしてここにって。彼が俺達と少し話したいから、良いかって聞かれたときに、オットーが盛大に腹の虫を鳴らせたからでしょ? だから、えと……それを聞いてラインハルトさんが、ご馳走してくれるって気を利かせてくれたんじゃん。……あぁぁ、なんかオレも恥ずかしかったよ」

「…………そうでした」

 

 

現実感の無いオットーと違ってツカサはある程度 通常運転。確かに料理には目を奪われてはいるが、オットー程ではない。

 

だから、ツカサのツッコミにオットーは顔を赤くさせた。

 

 

オットーは思う。

確かにツカサは間違えてない。けど、断言できる。ある程度は解っていたつもりだったが、より確信出来る。

 

 

 

ツカサは、いろんな意味でズレてる(・・・・)と。

 

 

 

それにいろんな意味で間違えてるし、常識と言うモノを少々欠如してるとさえ思う。

 

でも、間違えてないのは正しいので、オットーは 両頬を叩きながら、羞恥心に苛まれつつも、なんとか立て直した。深呼吸を数度繰り返しながら。

 

 

そして、オットーやツカサを呼び止めた男、ラインハルトはディアス(略)との話が終わり、オットーやツカサの様子に気付いたのか、笑顔になりながら。

 

 

「そう固くならないで。君たちを呼び止めたのは僕だ。貴重な時間を費やして、君たちは僕に付き合ってくれた。感謝を、畏まるのは寧ろこちら方だろう」

「いえ、オットーはともかく、自分は特に時間に追われたりはしてないから大丈夫ですよ」

「って、ともかくって何ですか!? なんかツカサさん、ボクの扱いが段々ひどくなってないですか!?」

「いや、別にそんなつもりは無いですよ。ほらほら、オットーは商人としての仕事の時間……みたいなのがあるじゃないですか その点オレはコレ(・・)をどうにか出来た後、ルグニカ王国(ココ)でどうにか生活を考えて~ っていうのが今後の予定だし。殆ど時間には縛られてないから」

「あ、そうでした……。もう少しでお別れでしたね……。思い返したら 少し寂しくも有ります……」

 

いろんな意味で圧倒、眩しかったが、これまたラインハルトの笑顔までもが眩しい。オットーと騒がしくしてても笑顔で見守ってくれてる。

年齢は変わらないくらいだと思うのだが、その落ち着きぶりは、まるで保護者が子供を見守るようだ。

 

 

 

ただ―――時折 見せる違う種の視線が気になる所。

 

 

警戒はある程度しているのだろう、当たり前の事だ、とツカサは納得させていた。

 

 

 

 

 

「改めて、ありがとう2人とも。付き合ってもらって。そのお礼と言ってはなんだけど、ここは僕がご馳走するよ。存分に楽しんでくれ」

 

 

ラインハルトに促され、始まるお食事会。

その食事の合間合間に、要件を聞こうと思っていたのだが、それは叶わなかった。

 

何故なら……。

 

 

 

 

 

「うっっっっっっま!!??」

「んまいーーーー!???」

 

 

 

 

 

 

口の中に料理をいれた瞬間、五感の1つである味覚が総動員させられた。最大級に働いてくれた。最大級の成果を発揮してくれた。

 

迅速に脳内に電気信号を送り、最早料理の事、その味の事しか考えられなくなってしまったから。

 

特に腹の虫が鳴る程腹ペコだったオットーは、涙目になりながら、掻き込む。頬張り続ける。噛み締め続ける。ツカサも中々手が止まらない状態が続いた。大食漢ではないつもりだけれど、延々と料理を口に運び続けた。

 

2人とも 相応のテーブルマナーは心得ているつもりだった様だけど、全くと言って良いほど機能してなかった。

 

 

 

 

食で心も身体も満たされて、多幸感を味わうのは初めて。(……とは、いってもツカサは来たばかりだから全てが初めてである)

 

振る舞ってくれたディアス(略)料理人に多大なる感謝を、そして振る舞ってくれたラインハルトを、この様な素晴らしい料理をご馳走してくれたラインハルトにも最大級の謝礼を、とテーブルに両手を付いて頭を下げたのだった。

 

 

 

 

 

「さてと、そろそろ話をしても良いかな?」

「「はーい!」」

「ふふ。そこまで喜んでくれたら、僕も方も嬉しくなってくるよ。……じゃあ、ここからが本題だ」

 

 

 

 

 

食の楽園を見たのだ、満たされたのだ。

オットーとツカサの2人は頬が緩みっぱなしで、2人して子供の様に手を上げて返事を返し、ラインハルトも同じく、喜ぶ2人を見て笑っていた。

 

 

暫く笑っていたが、ラインハルトの《本題》と言う言葉を聞いて、少しだけ場に緊張が走る。

少なくとも緩み切った頬は治った。……オットー以外。

 

 

 

 

 

 

「先ほど、門の所で2人が話していた内容。……少々聞き逃すワケにはいかない内容だったのでね。君たちに話を聞いてみたいと思ったんだ。後、ちょっとした仕事って所かな。事情聴取を受けて貰いたい」

 

 

両手を組み、その空色の瞳を真っ直ぐにツカサに向けた。

動向を確認する……と言うよりは、嘘偽りないかどうかを確認する、と言った所だろうか。

 

 

 

「オットーの方は 商人。王都でも登録されていて身分は直ぐに解る。……けど、ツカサ。君は珍しい髪に服装、それに名前だ。一体どこから王都ルグニカに来たんだい?」

「あ、えっと、ツカサさんは!」

「良いです良いです。オレが説明しますから。……信じて貰えるかは別にして、嘘偽りなく話す事を約束しますよ。それにラインハルトさんは衛兵。気になって当然です」

「ラインハルトで良いよ。僕もツカサと君を呼ぼう」

「解りました。じゃあ、ラインハルトで。………と言うか、よくこんなご馳走を振舞ってくれたよね? 君の言い方じゃ、余り見ない不審者が王国内に商人に紛れて入国した、って事にならない?」

「いやいや。不審者とまでは思ってないよ。そう感じてしまったのであれば申し訳ない。衛兵として、顔に出てしまっていたんだろう。これでも人を見る目はある方だと思ってるんだ」

 

 

事情聴取をする前に、特上のご馳走をしてくれたのが、正直驚く。

話を逸らせるつもりもないし、しっかり話すつもりでもいたが、思わずそう言ってしまい、ラインハルトも苦笑いをしながら対応をした。

誤魔化そうとするつもりは毛頭ない、と言うツカサの心情を読んでくれていたんだろう。特に言葉を強くする事なく、終始穏やかだ。

 

 

 

「一言でいったら……、飛ばされて(・・・・・)来た、って言えば良いのかな……。オットー。あの場所の名前はなんていうんだっけ……? ほら、オレ達が初めて会った場所。覚えてる?」

「一生忘れられない自信がありますね! 自分の名前の次くらいは! リーファウス平原、フリューゲルの大樹」

 

 

 

2人の話を聴いて、ラインハルトは目を細めた。

門の所での2人の会話に加えて、今 巷で流行している噂話。一致(・・)したから。

 

 

「飛ばされた……。陰の魔法を受けてしまった、と言う事かな?」

「あ、いや……。ゴメン、ラインハルト。飛んでくる前の記憶が……ちょっとオレには無いんだ。オットーと出会ったばかりの頃は、少しはあったんだけど、今は殆ど霞んでて思い出せない。記憶にございません、って何だか偉い人の不祥事が発覚した時、真っ先にしそうな言い訳の1つ、っぽいけど、本当の事、なんだ」

 

 

陰の魔法、と言われても この世界の魔法(・・・・・・・)は知らない。

魔法(ちから)発動する事が出来た(・・・・・・・・・)時点で、魔法、魔術、呪術、神聖術等の力が存在する事は解ったが、生憎とこの世界の魔法の種類までは解らない。

 

 

「……ふふ。信じるよ。ツカサ、君は嘘を言ってないって。それに不祥事だなんて、君は何もしてないじゃないか。不法入国とも表現していたけれど、入国手続き等の不備は無いと聞いているか。ただ、衛兵としての性分が前に出てしまっていてね。そこは申し訳なくは思う」

「ありがとう、ラインハルト。そう言ってくれると嬉しい。信じてくれたことはもっと嬉しい。あ、でも 衛兵としての性分を否定なんてする気は一切無いよ。そう言う姿勢こそが、この王都の治安維持に、暮らしてる市民が護られる事に繋がるって思ってるから。不真面目だったら、困るしね?」

「ふふふ。そうかな」

「(何? この爽やかなやり取り……)」

 

 

いまいちツカサのキャラを掴み切れてないのか、オットーはラインハルトとツカサの談笑を聞いて、完全に置いてけぼりを喰らってしまっていた。疎外感がある気もするが……、その分は料理を振舞って貰ったので、十分お釣りがくる、と再び残った料理を手を付けだす。

 

 

 

「ツカサの記憶に関しては、僕の方にも頼ってくれて構わない。力になれるかどうかは解らないが、最大限に手は貸すと約束するよ。……次は先ほど話していた事。門の所での事を聞いても良いかな?」

「はい、もちろ……ッ」

「?? どうかしたかい?」

 

 

淀みなかったツカサの言葉だったが、この時初めて詰まった。

そこにラインハルトは注目するが、そのツカサの表情を瞳の奥を見て、不思議と警戒する気にはなれなかった。

 

感じるのは、ラインハルト(こちら側)に気を使う、そんな感覚だったから。

 

 

「いや、その……。ラインハルトは剣聖って呼ばれてるのを思い出して……」

「それは、家柄が少々特殊なだけだよ。かけられた期待の重さに潰されそうな日々を過ごしているだけの、ね。まだ剣聖の名は僕には重すぎる」

「そんな謙遜を……」

 

 

立ち振る舞いから、ラインハルトと言う男の底知れなさは既に感じている、いや、一目見た瞬間から、頂である事は確信に似た何かを感じ取れた。……が、話の肝はそこではない。

 

 

さっき(・・・)のオットーとの話は、その……剣聖(・・)に対して、良い話とは思えないから、ちょっと詰まってしまって……」

「!」

 

 

オットーとの話は、当然 白鯨の事。

そして、白鯨の強さについては、ツカサ自身も聞いている。

 

かの魔獣は400年世界を苦しめ、そして―――今から10数年前に、剣聖を打ち滅ぼしているから。

 

 

そんなツカサの心境を察した様で、ラインハルトは 軽く息を吐いた。

ツカサに聞こうとしている内容と剣聖の名、照らし合わせてみれば解る事だ。

 

 

 

「ありがとう、ツカサ。そこまで気を使わせてしまうなんて、ね。剣聖の名に相応しい男になろう、と改めて決意が出来た。……それに、僕は大丈夫だよ、と言うより……」

 

 

ラインハルトはそこまで言った所で、肩を竦めながら 苦笑い。そして 確認するまでも無いと言わんばかりにツカサに聞いた。

 

 

「巷では噂になっている白鯨をたった1人で撃退した英雄、とは君の事だと、言って良いかな?」

「っっ、え、英雄って!? そんな大層なモノじゃないよ! それに速攻で倒れて、オットーに世話になりっぱなしだったんで……」

「謙遜する事は無いじゃないか。……オットーもそう思うだろう?」

「んぐっっ!?」

 

 

ハグハグ、と心行くまで、話の内容気にせずに 頬張っていたオットーだったが、ラインハルトに突然話を振られて驚き、咽てしまう。

 

水を勢いよく流し込み、どうにか息を整えると、仲間外れ感が否めないとは言え、醜態を晒してしまった自身に少々恥を覚えながら、肯定する。

 

 

「はい。その通りです。彼が居なければ ボクは白鯨に呑みこまれていたでしょう。速攻で倒れた、と言いましたが、彼の一撃は 白鯨の巨体を見えなくなる距離まで高くに弾き飛ばしてしまいました。あの光景はもう生涯忘れる事は出来ません」

「……だそうだ。少なくともオットーを救った。彼にとって、ツカサ、君はまさしく英雄だ。謙遜する必要はないよ」

「ぅぅ……」

 

 

ラインハルトの様な男に、笑顔で正面から称賛されるとは気恥ずかしさを覚えてしまうが、感謝は受け取っているので、とりあえず また以前の様に延々と聞き続ける様な グダグダにするつもりは無い。

 

 

「それで、衛兵の詰所に向かうと言っていた理由は、それにあるのかな?」

 

 

ラインハルトは、大きな布でくるんだ物を指さした。

 

正直、飲食店に持ち込むようなモノじゃない、と思っていたのだが、ラインハルトの計らいで、離れにある個室をまるまる借りているので その辺りは大丈夫だった。

 

 

「はい。一応、白鯨の一部、複数ある翼の内の1つです。信じて貰えるなら、これを何かの役に立ててもらおうかな、と思って」

 

 

腐食を防止する為に、しっかりと冷凍保存はしている。凍らせてしまえば異臭防止にもなるし、何より 色々と確認する上(・・・・・・・・)では、ちょっとした力を使うのはツカサにとっては好都合だった、と言うのはまた別の話。

 

 

「ラインハルトが信じてくれるなら、説得力が増すかな?」

「ああ。白鯨は 400年、世界を脅かしてきた魔獣だけど、これまでに手傷を負わせた事は記録で残っている。だから別に僕が断言しなくても、調べれば間違いなく解ってくれるさ」

「う~~ん、オットーも皆からメチャ笑われましたし、そんなの信じない方が普通だって事はここ数日でオレも解ったから………、正直調べる調べない以前に門前払いをカクゴしてたよ。だからこそ、ある意味では ラインハルトに助けられた。こちらこそありがとう、だね」

 

 

ラインハルトはオットーの様子も見る。

何処か儚く、遠くを見ている様な視線。それらを総合すると……どういう結果になってきたかは容易に想像がつきそうだ。

 

 

確かに、幼稚な夢物語、子供の夢想ととられても不思議じゃない話だったから。

 

 

だが、何故か無視できない話だった。

ラインハルトもそう。

それに ここ王都で重要人物と呼ばれる者たちの間では、何処となく意識している者が多かった。

全てを知るワケではないが、ラインハルトが見て接した相手は間違いなく意識していた。一笑に付す事が無かった。

 

 

 

それに何よりも――――――。

 

 

 

「さて、オットーも食べ終わった様だし。後はコレを持っていくだけだね。美味しいのは(十分すぎる程)解るケド、随分と食べちゃって。見た目に反して大食漢なんだ」

「むぐむぐ……。何だか仲間外れ感がスゴクて、不貞腐れで食べてたんですよ」

「あはは。それは失礼」

 

 

 

 

―――ラインハルトが何よりも驚き、ツカサの人柄を知るまで、相応の警戒をしていた理由。

 

 

「…………」

 

 

 

 

腰に携える剣聖の剣———龍剣レイドが反応を示した事。

 

 

 



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風と共に盗む(未達成)

そろそろ題名詐欺になりそうなので、次くらいに主人公を出せたら、と思います。


「……で? ここに来て 何が決まったかと思えば、オレをダシにした勝負? ナニソレ」

「フハハハハ! その方がより面白いではないか! やはり、我と貴様は一心同体だ。精々頑張るが良い!」

「そんな一方的な一心同体があってたまるか」

 

 

エキドナは、まるで餌を前にした子犬の様に今か今かと待っている。

まるで尻尾が見える様な気までする。

 

置いてけぼりを喰らっている少女たちを気に掛けようとしたその時だ。

 

 

「お前、お前すごいなーー! ピカピカだーー! からだは無いのか?? どっかいったのか??」

「っとと」

 

 

 

近付いてきたのはエキドナと同種。

この世界で魔女と呼ばれる存在。その名を《テュフォン》。

 

 

触ろうとしても触れない相手に、その存在に目を丸くさせ、無邪気に笑っていた。

 

 

そんなテュフォンの様子を見ていて……漸く思い返す。今 自分自身が実体化をしていない事を。

 

とりあえず、器用に光を動かしてテュフォンの頭を撫でた。

 

テュフォンも撫でられる事が解ったのだろう、目を細く、頬を緩ませて笑っている。

 

 

「ここでの私。いや、僕? 我、余、んんん。いかんいかん。一貫性がない……。えっと、こほんっ! オレ、……オレだ」

 

 

一人称をしっかりと思い返しながら、続けた。

 

 

「正確に言えば自我はあるけど、生まれても無いゼロの状態だから。姿が見えないのは仕方が無い事なんだ」

「ふーーん、でも、あっちは見えてるぞ! 凄いんだぞーー!! あっちは触れるのに、こっちは全然触れないから、ルヴァなんか、それでおぎゃー、で、ちゅどーん、だったんだぞー! 面白いんだぞーー! たのしかったんだぞーーー!」

「ほうほう………成る程。………うん。大体解った」

 

 

 

「なんで、今の会話で解る?」

「さ、さぁ……。で、でも テュフォンと、は、話する時 あ、愛を感じる、よ? 感じた、よ? そ、それだけは、わかった」

「あぁぁ、テュフォン……。私も触ってみたいのに………。それに、カーミラ…… 理解出来た事があるなんて、羨ましい……」

「ふぅ……。はぁ……。立ってるの疲れた。……ふぅ。……次に会う時は……はぁ。もう少し立っていられる様にするさね」

「空腹を忘れられる程の高揚って良いですよねーー! できればーー、そのままの姿でーー、ここでーー、一緒にいたいですよーー?? あぁ、でも勝負ですからーー」

 

 

 

沢山の魔女たちに囲まれている。

いつの間にこんなに増えたかは解らないが……そう言う趣向だと言う事は理解した。

 

 

「まぁ、今までとは違う展開だけど、……お前の戯れだっていうのにはもう慣れた。好奇心旺盛で娯楽に飢えてるのは、ある意味この子達と大差ない気もするし」

 

 

ちらり、と視線を向ける。(テュフォンの言う通り、光で構成されている為、傍目からは何してるか解らない)

 

 

くっくっく、と笑っている。

高い所から見下ろすスタイルで、足を組み、手を組み、笑ってる姿。

 

 

「それで? その勝負(・・・・)の事だけど、オレ ここから出たら真っ新な命から始まるんだし、精々頑張るも何も無いよ。ゼロからスタート。全部忘れる。……てか、解って言ってるでしょ? それにエキドナを退屈させてしまいそうだ。帰るのは嫌、って言ってたし」

「その辺りは抜かりない。ある程度は、覚えておいてもらう(・・・・・・・・・)だけだからな。無垢のままだと流石に我が待ちきれん。待つ事は得意としていた筈だったが、こうも心を躍らせればな! ……だが 我の趣向を理解したと言った割には、全てを理解した様ではないではないか? まだまだ一心同体とは言えないぞ」

「言わんで良いって。別に」

 

 

 

 

穏やかな草原だった筈の場所が、徐々に白に染まっていく。

 

 

 

 

「今回はゼロからの始まりではない。貴様がこれまでに得たもの。数多の世界で得たもの………。うむうむ、全てとなると面倒だ。てきとーにくっつけて(・・・・・・・・・・)から放り出してやろう。どうなるか楽しみにしているが良い」

「………………」

 

 

 

 

娯楽に飢えた存在が、楽しみで仕方ないと言った表情で 身体を光らせた。

 

 

それは、全ての存在()を白く塗りつぶす、命の前の(ゼロ)に戻す光。

色々と文句の1つや2つ、言ってやりたかったがその光には 最早抗う事は出来ない。

 

 

――始まるのだから。

 

 

 

 

 

「さぁ、てあわせ……、しょうぶだ。————最初の(・・・)しょうぶは……」

 

 

 

最初の(・・・)と言う部分が 少々気になる所ではあるが、逆らう気もつもりもない。

また、新たな世界が始まる。ただ、それだけを考えて、光の奔流に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――我ら(・・)を、見つけてみよ。なに、そう時間はかかるまい。……楽しもう。楽しませてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某料理店。

 

 

そこでは、トンデモナイ? 事が起きていた。起き始めた、とオットーは確信する。

 

 

何故なら まるで、大地が、大気が、全てが震えている様な感覚に見舞われだしたから。

先ほどまでの談笑や料理を楽しむ光景は最早見る影も無い。

 

その中心地、最も傍に居るオットーは完全に足腰が立たなくなり、完全に腰を抜かしている。

彼が見つめる先、その視線の先に居るのは2人の男。

 

 

片方は、燃える様な赤い髪を持つ青年ラインハルト。

そしてもう片方は深淵、漆黒の闇。黒い髪を持つ青年ツカサ。

 

 

果たし合うかの様に互いに見合っている。

まるで決闘のワンシーン。

 

 

ルグニカ王国最強、当代の剣聖ラインハルト。

全てが謎に包まれ、突如としてこの世界に(文字通り)舞い降りた異端の者 ツカサ。

 

 

2人は互いに見合い、そして互いの拳を握り締め――――振りかぶって……。

 

 

 

 

 

「「じゃんけん、ぽん!」」

 

 

 

 

 

互いに手を突き出した。

 

 

「わぁぁぁぁっ!!」

 

 

2人が手を出し合った瞬間、発生した風圧に吹き飛ばされるオットー。

 

それでもオットーは耐える。

 

耐えなければならない。見届けなければならない。

 

 

 

 

 

今まさに―――世界の命運が決まろうとしているのだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、何 1人で騒いでんのオットー。それに何を変な語りまで入れて……」

 

 

と、ツカサは 自分で倒れ込んだオットーをジト目で見た。

ツカサが言う通り、ここまでの語りは全てオットーの自作自演である。

 

 

「い、いえ! それだけ緊迫感のあるじゃんけんだった、って事ですね! と言うか、気合入り過ぎちゃってたので、僕の方も気合が入っちゃったんです」

「一応ジャンケンで最強! を自称してる身だったしね。なら本気じゃないと。……ってね?」

 

 

呆れていた様子だったツカサだが、最後には笑った。2人で笑っていた。

 

 

 

突如として始まったのは ツカサvsラインハルト のジャンケン1本勝負。

 

 

 

因みに、この対決が勃発した理由については、今し方 横で1人語り部で盛り上がっていたオットーにある。

 

 

最高の食事が終わったから さぁ 衛兵の詰所へ。ラインハルトの案内の元、スムーズに……と言った場面だったというのに、ジャンケンのリベンジを申し立てられた。

 

 

《今度こそ イカサマを暴く!》

 

 

と憤慨しながら。

 

 

それに、意外にも反応を見せたのはラインハルトだった。

 

騎士たる身分だからか、若しくは性分なのか……、恐らく両方だろう。

イカサマと行為に反応したのは。

 

 

 

 

「ふぅ、それにしても中々奥が深い遊びだね。グーとチョキとパーの三竦みからの心理戦。相手の表情や仕草、それらを総動員させ、裏の裏まで読み合う。―――うん、とても楽しかったよ」

「オレも楽しかった。オットーとはやっぱり段違いだね、ラインハルト」

「………剣聖と比べられるなんて 普通な無い事だし、人によっては光栄極まるって話にもなるのに、何だか釈然としない……」

 

 

ただ、ラインハルトは1つだけ解らない事があった。

 

 

「今の勝負……、じゃんけんと言う遊びだけど。何処に不正やイカサマが生じる隙間があるのかな? 相手に手を出させてから自分が出す、後だしの様な事をすればイカサマだと言えるけど」

「ですよねですよね! ラインハルトさんも、どうにか見破ってくださいよ! 僕、ツカサさんに計53回も負けてるんです。全敗ですよ、全敗! こんなの有り得ないじゃないですか!」

「ふむ………。(先読みの加護、みたいなもの……か?)」

 

 

 

何かが違う感覚はするが、その深淵が見えない。

ラインハルトは、間違いなく悪い人物ではないのは解るけれど、この剣聖の剣、龍剣レイドが反応を見せた事もあり、何かツカサには大きな秘密がある様に思えてならなかった。

 

その好奇心がラインハルトを動かす。

 

 

ゆっくりと身体を向き直した。

 

「…………」

 

何だか、その身体にはオーラ? の様なモノが見えたりしてるのは気のせいだろうか?

光輝く何かが、ラインハルトの周囲に集まっている気がする。もう、オットーの大袈裟な語りではなく……、何となくではあるが、見える気がする。

 

 

「もう一度、勝負しないかい? ツカサ」

 

 

まるで臨戦態勢、その中で笑顔。

ここは男としてもう一度勝負を……。

 

 

「……イイエ。勝ち逃げさせてください。今日は1回だけで。それに何だか、今やったら ラインハルト、見破ってきそうで怖い」

「えええ!! そんなのズルイですよ、ツカサさん!」

 

 

勝負を受けない。

まさかのツカサ勝ち逃げ宣言に、オットーからブーイングが飛ぶが、ツカサはただただ苦笑いをするだけだった。

 

 

「見破られる……と言う事は、本当に何かしてるのかい? 加護を使っているとか? それもなければ、普通に余地はないと思うんだけど」

「あ、あはははは。まぁ その辺りは秘密……と言う事で。それに 安心はして貰いたいかな。当然 詐欺まがいの事はしてませんし、これからもしません。あくまで遊び(オットー)の範囲内。ルグニカの騎士ラインハルトに誓うよ」

 

 

邪な考えは持たないし、持つつもりは毛頭ない。

その想いはラインハルトには最初から伝わっていたのだろう。ただただ笑っていた。

しかし、オットーだけは別。

 

「ちょっと! つまり 僕はツカサさんに ずっと負け続けないといけないんですか? 僕が見抜けないから、って」

「いや、遊びだし、そこまでムキにならなくても……」

「遊びとはいえ ここまで負けちゃったら、そうはいかないんです!」

 

 

どうやら、まだまだオットーとのジャンケン勝負は続く様だ。

 

それはそれで、ある意味 縁の繋がりが途切れる事が無い、と言う事で良い事かもしれない。

 

当初、ツカサは オットーに情けを掛けてあげよう負けてあげよう、と思ったりもした……気がするが、今は一切なし。

オットーの場合 彼自身が勝ってしまえば、そこで終わってしまいそうなので。

 

 

「ふふふ。ツカサがそう言う事をする人だなんて、僕は思ってないから心配はしてないよ。……ただ、僕は見破って見たかった、と言う気持ちが少々強い……、かな? 遊びとはいえ負けちゃったのは悔しいし」

 

 

ラインハルトは2人のやり取りを見て笑っていた。

因みに先ほどの勝負は……。

 

ラインハルトが出した手は、《チョキ》

ツカサが出した手は《グー》

 

一度もあいこになる事なく1発で決まって終了である。

 

 

「じゃあ、日を改めて再戦と行こうか。宿敵(とも)よ」

「あははは……」

 

 

友、と言う言葉が重く感じたのは言うまでもない。

ラインハルトは遊びであったとしても真剣そのもの。物凄く生真面目なのだと言う事を改めて悟って……この店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ラインハルトとは詰所で話を通してくれた後、別れる事になった。

 

「いや、こんなに貰えるなんて………。ねぇ? これってやっぱり凄い金額?」

「そりゃそうですよ。聖金貨で200枚。就任したての王国騎士たちの初任給のざっと10倍程ですから」

「えぇぇ……。そんなにもらって良いのかな? あんなスゴイ料理まで振舞って貰ったのに、そんな大金まで……」

 

 

キラキラと輝く聖金貨と呼ばれる貨幣を、それも凡そ100枚もある貨幣を前にして畏縮してしまうのは仕方が無いかもしれない。

 

 

「いえいえ。僕は妥当だと思ってます。……それは、僕自身がツカサさんに助けられたから、と言う主観も有りますが、僕やラインハルトさんの証言と白鯨の一部を今後の為に渡した事、普通に当然の額かと。いや、安いかもですね? まぁ、僕の竜車に乗りきらない分全部持って帰ってたら、もう1つ2つは0が増えそうです」

 

 

オットーは逆に胸を張って断言していた。

白鯨を相手にした快挙を考えれば、金銭の問題ではない筈だから。

 

 

「やる事がとんでもなくスゴイのに、何だか庶民感覚なんですね、ツカサさんって」

「……みたいだね。もう薄っすらあった記憶の殆どが消し飛んじゃったみたいだけど、どうやら、そう言う感じだったみたいだ。オレは」

 

 

1枚の聖金貨を暫く見た後……懐へと仕舞った。大通りとはいえ いつまでも見える範囲で持っているのは不用心極まりないだろうから。

 

 

「でも、オットーにはここまで乗せて貰ったし。ほんと代金無しで良いの? もうオレ、無一文じゃなくなったよ?」

 

 

聖金貨を入れた袋をじゃらじゃらと鳴らす。

オットーはそれを見て、生唾をゴクリ、と飲み込んだ。欲しくない訳ない……が。

 

 

「借りがとてつもなく大きい。ツカサさんは僕の命の恩人ですよ? 何だか雑な扱いもちらほらされちゃってますが、それでもツカサさんが命の恩人である事に変わりはありません。乗せるくらいなら幾らでも! それと借りたモノはしっかり返すのが商人ですから。……ツカサさんの場合、それが大きすぎて、いつ返せるか解りませんが」

 

 

 

そう言って笑っていた。

ツカサは、それを聞くと笑顔でコクリ……と頷いたその時だ。

 

 

「っへへ! 貰ったっ!!」

 

 

まるで宙を飛んでいるかの様に、建物と建物の間から、何者かが出てきた。

伸ばした手、狙いは当然これ見よがしに見せている袋。

 

 

「(とんだボーナスだぜ! 今日はラッキーだな。……もう1つ(・・・・)の仕事に加えて、これだけあれば、一気にたどりつける!)」

 

 

迷いなく、ただただ奪う事にだけ全神経を集中させる。

油断しきってる2人の男だ。掠め取る事なんて余裕だろう。逃げ切るのも間違いなく余裕。

 

 

容姿を見れば解る。片方は見覚えがあるが、もう片方は見慣れない服装、何処かの田舎からやって来たと容易に推察できる。いつもなら、そんな相手見向きもしない所だが、先ほどの一連のやり取り、聖金貨を見せて袋に戻しているやり取りを見て、金持ちだとふんだのだ。

 

 

そして決めたら行動は早い。

 

 

間違いなくあの大金の入った袋に目を付け……奪った、と思ったその時だ。

 

 

「ぇ………っ?」

 

 

目の前にいた、盗った、と思った筈なのに、その男がいなくなった(・・・・・・)

いや……。

 

 

 

 

「ダメだよ? 他人のモノを盗んじゃ」

 

 

 

 

 

横から声が聞こえた。

声と同時に、頭を軽く叩かれ、そして……。

 

 

「っっ~~~!!」

 

 

あまりにも想定外の出来事だったからか、反応が遅れたが、完全下に見ていた相手がまさかの行動。叩かれたまでは良いが、今は頭を撫でられている(・・・・・・・)。それはプライドに触った。

 

 

 

「ば、バカにすんな! それに盗めてねーじゃねぇか!! ……くっそ、ぼーっとしてる兄ちゃんかと思ったら、メッチャガードが固かった……!」

 

 

風の様に現れた者……少女は、人通りが多い事と、これ以上のやり取りはあまりにも目立ちすぎる、と言う事で 現れた時の印象のまま、風の様に駆けだし、建物から建物へと、飛び移り……消えていった。

 

 




じゃんけんくらいは・・・・ラインハルトに勝てるよね? 勝っても良いよね?


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迷子探しと崩壊

原因は余裕で解るw


 

 

「全く……王都だから治安対策は万全だ、何せ今日も《剣聖ラインハルト》が頑張ってるから! くらいに思ってたケド…… やっぱり貧富の格差ってのはあるんだ。んん? そう言えば、ラインハルトは実は今日非番だったらしいから……、だからスリが活発化したり……?」

「そりゃ、案内してない……と言うより、案内する気も元々無かったですが、貧民街(・・・)って所もありますから。……それと、いくらラインハルトさんの影響力でも、それは無いでしょ」

 

 

 

スリの少女の襲撃から、聖金貨を守る事が出来た事は良かったが、胸中は穏やかではいられない。自分自身の事ではなく、あの少女に向けて。

 

 

「……あんな小さな子も、スリ(それ)をしないと生きられない、か………。全員救うとか、全員平等なんて 実現できる、って思える程子供じゃないつもりだけど」

 

 

胸中穏やかではない。出会ったのは本当に一瞬だったが、何処か活発な女の子だった。

環境さえ違えば、悪党(そっち)の道に進む事は無かっただろう、と思う程。

 

 

「はぁ…… ツカサさんってば、やっぱり甘い所がありますよね。盗られそうになった被害者だって言うのに、加害者(向こう)の心配とか……。まぁ 確かに僕も、逃げたあんな幼気な女の子を 追いかけてひっ捕まえて、罰しよう! とまでは 心情的には思いませんが、それでも 商人としては、窃盗、強盗は天敵ですからね。素直に頷けません」

「追いかけて捕まえる、って言うのがオットーに出来るなら、その選択肢も考えても良いと思うけど、結構高望みしてない? 隙はあまり作らない方が良いよ。今のコ凄い速さだったし」

「そ、そりゃ、僕はちょっとした護身術を嗜んでるだけのただの商人ですから。……今、隙が多いと思われちゃってるのは、ツカサさんと一緒に居る事に対する安心感が勝っちゃってるからだと思います。……だから 大丈夫です」

 

 

これからもずっと一緒‼ と言う訳にはいかないだろう。

オットーにはオットーの生活があるだろうし、ツカサはツカサでどうにか生活の基盤の構築から徐々に作り続けなければならない。

 

幸いな事に、纏まった聖金貨を頂けたので、当面は余裕が出来たが、安心しきるのは安定してからだ。

 

 

「……確かにどこか心配になるけど、あんまり心配し過ぎるのは、商人としてこの世界を生きていくオットーに失礼かな。まだ知り合って数日程度だし」

「いえいえ。嬉しいですよ。もう、僕たちは トモダチですしね」

 

 

ニッ、と笑うオットー。

ツカサも何処か擽ったい気はするが、まだまだ右も左も解らない世界で繋がりが広がっていくのは歓迎すべき事だ。それに、オットーは商人。商人であれば それなりに顔の広さは持ち合わせている筈だから、そこからも広がる事を期待しよう。

 

 

 

ツカサは、頷き返すと そのまま城下町を巡る。

 

 

 

王都まで運んでもらう他、王都を案内してもらう、と言う最後の頼みを聴いてもらう為。それは依頼としてではなく、もう既にトモダチに案内する、と言う感覚になっていた。

 

 

 

 

 

一通り、城下町を案内してもらった所で、オットーがツカサの肩を叩いて早口、小声で忙しなく言う。

 

 

「見て下さい、ツカサさん。メイド、メイドさんが居ますよ。凄く珍しいです。ここは、商業施設からは大分離れてるのに。それに、ここは、長居するには好ましくない場所でもありますし……」

「ん?」

 

 

オットーの声に誘われ、視線を右へと移す。

 

確かにこの場所は人通りが多いとは言えない。

 

浮浪者が1人や2人出てきてもおかしくない程静まり返った場所だ。日の当たらない箇所も有る為、大通りや商業区と比べたら圧倒的に暗い。

 

城下町を一通り全て案内してもらう、と言うのがツカサとの約束。

 

本来ならオットーも比較的人通りが多く、安全な道を選ぶのだが、トモダチであるツカサの頼みである事とツカサ自身が居れば大丈夫だろうと言う事もあり一通り案内する為に通っている。

 

そんな場所にメイドとは……。

 

後ほんの少し先に行くと、路上生活者たちの寝床が幾つかある、とオットーに聞かされていた事も有り、確かにオットーが言う様に少々不自然かもしれない。

 

 

「後ろ姿だけど、確かにメイドだね。桃色の髪にあのメイド服。……うん、目立つ」

「でしょ? それにココ、結構古い家屋だから、倒壊の恐れがあるとか無いとかで………。と言うより、何だかメチャクチャ傷ついたりしてる建物が多いから、崩れちゃってもおかしくないですよ、ココ」

 

 

オットーの指摘通り。

デカい棍棒か何かで抉り取った様な後が点々としている。鋭利な刃物でスパっ! と斬った様な傷じゃないから、相応の力だと言う事が解る。高い所にもその傷はついているから、災害か何かが直撃した様な印象だ。

 

 

治安的な意味で悪い場所、安全的な意味でも悪い場所、そんな悪条件下の中でも、やはり10数m先に居るメイドは一切構う事なく突き進んでいた。

 

 

 

 

そして、偶然なのか、或いは必然なのか、痛んだ家屋、その屋根の一部に入った亀裂が大きくなり、その一部が桃色髪のメイドの上に落ちてきた。

 

 

「危ない!」

「ッ……!」

 

 

オットーが叫ぶのと同時に、ツカサは両手を前に出した。

その両手から放たれるソレ(・・)は、白鯨の時のモノに似ているが、当然 力は大分抑えている。白鯨に打ち放った一撃をこんな街中でしたら当たり前だけど大変な事になるから。

助けようとして放ったのに、その周囲一帯、建物やメイド事 空に吹き飛ばしてしまうから。

 

白鯨の時、一発でダウンした時から、ツカサは 力の効率的な運用、更に省エネ運転を出来る様に練習を続けてきている。

最適の力で、最高の威力を出せる様に。無理無意味に放出し過ぎたから、直ぐにガス欠となって失神(ブラックアウト)してしまったのだ。

 

知識は兎も角 力に関しては、ある程度覚えている(・・・・・)からこそ出来る芸当とも取れるだろう。

 

 

ツカサが放った極小の竜巻は メイドの丁度真上で留まり、倒壊する建物の破片を宙に巻き上げ 丁度バリアの役割を果たす。

 

これで、あの場所から逃げれば大丈夫……と思っていたのだが。

 

 

「エル・フーラ」

 

 

ここでまた、想像とは違った光景が広がった。

 

カズキの魔法で支えている間に、メイドがその場から逃げる……と言う算段だったのだが、あのメイドはカズキの竜巻ごと、己が放った魔法で吹っ飛ばしてしまったのだ。

 

 

「余計な真似、したかな」

 

 

弾かれてしまった竜巻を解除。

驚きはしたが、それ以上に安堵もしたので、身体から力を抜いた。少々―――射程範囲外(・・・・・)だから。

 

 

「そうね。余計な真似だわ。ラムを甘く見ないで」

 

 

 

この時初めて正面から、桃色の髪を持つメイド少女の姿を見た。

凛とした佇まいは、何処か隙の無さを強調する様にも見える。

 

 

「―――……倒壊しちゃった建物に驚けば良いのか、メイドさんの力に驚けば良いのか、耳が良すぎる事に驚けば良いのか……」

「ただ安心すれば良いと思うよ。誰も怪我無くて良かった、って」

 

 

そう言っている間に、ラムと言う名の(名乗っては無いが、一人称がラムだったので)メイドが近づいてきた。

 

 

「ラムを侮った事に対しての謝罪は求めないわ。まがりなりにも救おうとしてくれたのだから」

「いや、謝罪求めるつもりだったの!? 何だか強烈なメイドさんだったよ! この子!? とっても可愛い顔してるのに、言ってる事がなんか色々と!」

「聞こえてなかったのかしら? 謝罪は求めないと言ったわ。それにラムが可愛いのは当然でしょ。この世界の真実と言うヤツよ」

「いや、流石にそれは自意識過剰過ぎでは!?」

 

 

ツカサは、2人のやり取りを見ていて、何だか混ぜると面白い組み合わせだと思う。

中々に新鮮なやり取り。見ていて面白いとも思うがとりあえず。

 

 

「それで、世界一可愛いラムさんは、ここで何を? 余計なお世話って思われるかもだけど、何か手がいるなら手伝うよ」

「余計なお世話よ」

「うわっ! 躊躇なくほんとに言った!! ちょっとは謙遜するかと思ったけど!! でも意味予想通りだ!」

 

 

オットーのツッコミも収まりそうもなく、ラムと言う少女もブレない所も確認したツカサは ニコッと笑う。

不思議と不快な気持ちにならないのは、きっとラムが言う通り、可愛いからだろう。可愛い子の可愛い悪戯? の様な感覚だろうか。

 

 

 

「そっか。じゃあ、気を付けて。ラムさんは きっと大丈夫だと思うけど、万が一、って事もあり得る事だし。……ラムさんの事を、無事帰ってくるのを待ってる人だっている筈だから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――桃色の髪のメイド……ラムは思う。

 

自身の主ロズワール・L・メイザースの言葉を思い返しながら。

 

 

それは あの日―――不可解な現象が起きたあの日から言われている事。

 

 

 

見つける(・・・・)事》

 

 

 

主の命令は何においても優先される。

主の願いは命を賭してでも成就させる。

 

その気概を持っているのは違いないが、あまりにも情報が少なすぎる。幾ら完璧である自分を持ってしても、やはり出来ない事はある。

 

 

解っているのは、あの本(・・・)をして、知り得ない事を見つけろと言う事。

魔女が作ったあの本……あらゆる叡智を求め続けた知識欲の権化をして、知り得ない事。

 

 

 

 

正直、それがこの世に存在する事自体が疑わしいとさえ思ったが、それでもラム自身もあの本が暴れだし、文字が走り書きされていく様を目撃しているから……認めざるを得ない。

 

それは主の命であり、悲願でもあるから。

ラムは雲をつかむような話であったとしても、突き進むだけだ。

 

だから、可能性がほんの少しでもあるなら、0%で無いのなら、普段は一笑に伏す所であったとしても、———行動に移す。

 

 

 

「そう。万が一を心配するのなら、手伝ってもらおうかしら」

 

 

 

―――行動する、と決めた時のラムは早い。

 

 

 

そして、当然これまでのラムの言動から、まさか 手を貸す様に言うとは思わなかったオットーは目を丸くさせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……迷子の捜索ね」

「ええ。ラムは探すのは得意なんだけど、ちょっと今日は雲行きが怪しいみたいなの」

「随分素直になっちゃったみたいですね? 何があったんですか?」

「別にそっちは要らないわ」

「何で僕だけそんな辛辣なんですか!?」

 

 

粗方ラムから説明を聞いた。

 

何でも人を探している、との事。その風貌の特徴を粗方頭に入れて、この城下町を捜索、と言う事になった。

 

待ち合わせ場所・時間指定等を決めて。

ラム・ツカサ・オットーの3人で街中を迷子探し開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風貌は確かに聞いたが、その人物に関しての細かな情報はラムは説明しなかった。

その仕草で何となく解る。……探しているのは 相応の重要な人物である、と。

 

 

「予想じゃ、お忍びで来た王族とか、そう言う感じかな? 市政に混ざって色々と体験してみたい、浮かれに浮かれた結果…… 従者であるラムと離れ離れになった、って感じ」

 

 

ある程度の予想を立てつつ、聞き込みをしていく。

一番の特徴は長い銀の髪を持つ少女。

 

 

 

幸いにも、商業区の面々は実に協力的になってくれた。

買い物をする事、それなりに金銭を持っているという事、この2点あれば。

 

 

……無一文だったなら、冷やかしと思われる可能性も高いので、きっといい顔はしないだろうから。

 

そして、地道な調査の結果―――運よく実を結ぶ結果になる。

 

 

「ああ、銀色の長い髪のコなら、ちょい前に見たぜ。兄ちゃんが言う子かどうかまでは確証無いけどな!」

「いや、それでもありがたいよ。結構頑張って情報収集したのに、あんまり成果なくて……」

「かっかっか! その両手の袋みりゃ解る。色んなとこで買いモンして、聞きまくったんだ、ってな! そんでもって、ウチも沢山買ってくれるとなりゃ、知ってる事なら何でも話すぜ! ただし、行先は解っても、肝心のそこ(・・)の正確な場所までは解らねぇ。それでも良いか?」

「全然問題なし! ほぼ情報無しだったから、十分!」

 

 

果物屋の主人が、しっかり覚えていると太鼓判をしてくれたのである。

 

大変だったのは間違いないが、これは仕方が無い。

この人通りの多さを考えたら、いちいち一人一人を覚えているとは中々思えない。だけど、この果物屋の主人、オヤジだけは違った。

 

 

「でも、こんだけの人数で良く覚えてたよね? まぁ嘘だった~ って言うなら、お礼に買おうと思ってた、全種の果物たち、全部まとめて返品する予定にしてるケド」

「誓って嘘じゃねぇよ。銀髪の嬢ちゃんは 目つき悪い黒い髪の兄ちゃんと一緒にちょいと前に此処に来た。何せ娘の恩人だ。そう簡単に忘れたりしねぇ」

「……良かった。オレもオヤジさんの娘さんも。ハイ、代金」

「おう!」

 

 

支払いをしている間に詳細を聞いた。

 

何でも貧民街にある盗掘蔵……盗品を売り捌いている店にいったとの事だ。

何でも盗まれた物を獲り返したい。その為に向かう、と。そして危険も顧みない。それ程までに大切な物だと。

 

 

「兄ちゃんもいくってのかい? あの2人にも言ったんだが……、あまりすすめれる場所じゃねーぜ?」

「貧民街ならつい最近通った事あるし、スリの常習犯っぽい女の子にも注意してきた所だ。大丈夫大丈夫」

「いや、そこは注意するだけじゃなく、衛兵に突き出せよ。女だろうが、子供だろうが何でもして良いワケじゃないんだぜ? ……境遇には同情するがな」

 

 

店を切り盛りしている身からすれば、やはり強盗の類は死活問題だからか表情が険しくなっている。

ただ、女の子、とツカサが言っていたからか、その表情は硬くもなっていた。……娘が居る父親だから。

 

 

「兎に角、初めてじゃねーにしろ、行くんなら気を付けな」

「うん、ありがとう」

「こっちこそ、まいどー! また来てくれよな!」

 

 

 

両手に沢山のお土産を、そして頭の中には有力な情報を抱えて――――ツカサは待ち合わせの場所へと戻る。

 

 

少し、待ち合わせの時間までにはまだ時間はあるが、もう2人はついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ。啖呵きって出ていった割にはなんて無様なの」

「うぐぐっっ、た、確かにそうですが、ラムさんこそどーなんですか!」

「ラムは今日雲行きが怪しい、って言った筈だわ」

「ほら成果無し! だったら僕と同じでしょっ!」

 

 

 

また楽しそうに絡んでいる。

見ていたい気もするが、有力情報を持っているので直ぐに声を掛けた。

 

「お待たせー」

「遅いわよ、ツカサ。………店巡りして楽しんできたみたいね」

「ツカサさん、お疲れ様です! 早速ですが聞いてくださいよ! ラムさんが酷いんです! こんな短期間で有力な情報なんて、普通に難しいって分かる筈なのに…………………え?」

 

 

オットーが愚痴を始めたが……、ツカサの笑顔と握りこぶしを前に出す所作を見て、固まった。

 

 

「有力情報得てきた。これお土産」

「ラムはこれを予見していたのよ。先見の明があったからこそだわ」

「ツカサさんはやっぱ凄いし、ラムさんは そんなのズルい! メチャクチャ後付け感満載なのに!!」

「まぁまぁ。勿論 外れって可能性も十分あるけど、一先ず説明するよ」

 

 

両手に持った袋を下ろして、仕入れた情報を説明しようとしたその時だ。

 

 

 

「ッッ!??」

 

 

 

突如、世界が歪みだした(・・・・・・・・)

 

 

 

 

「な、に……!?」

 

 

 

人も建物も、目に映る全てが歪に歪みだした。

目の前のオットーも、ラムも。その表情は一切変わらない。その身体が、表情部分以外が不自然に歪み、捻じれ、軈て……全てが崩壊した。

 

 

「おっとー、ら、らむ……、ぐ、が、ぁ………」

 

 

2人が、建物が、世界がバラバラになった次には、自分自身。

 

大地が闇に消え、足先から徐々に身体が粉々に砕けてゆく。

 

一切動く事が出来ない。ただただ、信じられない程の苦痛だけが津波の様に襲ってくる。

どう表現していいか解らない程の痛み。対応しようにも何も出来ない。一切の手段を遮断されている。

 

 

 

 

「う、が、が……ギッッ!!?」

 

『ほほぅ……、この鳴動、時空振か』

 

 

 

 

身体が粉々になり、砂になり……闇に呑まれていく。

 

 

 

 

『時の流れをも変える力、か。…………やっぱり面白い!』

 

 

 

 

 

そして、永遠に続くとさえ思えていたありとあらゆる苦痛が、身体が完全に闇へ消えると同時に、消失した。

 

 

 




言葉に出来ない苦痛を味わえば……タイトル通りになりそうな気がする


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召喚

 

 

 

 

「ふむふむ……。時を巻き戻すか。その元、原因となるモノは………いや、やめておこうか………」

 

 

無の世界。

何も見えない真っ暗の世界にて、近いのか遠いのかさえ分からないが、妙な声が聞こえてきた。

その声は、懐かしい様な………、それでいて何故か腹だたしい様な……。

 

 

 

「――――……我もそろそろ出たかった気分でもある。……良いだろう、我はここから始めるとしよう」

 

 

 

額に何かが触れたかと思えば……何もない虚無の世界に光が灯った。

五感の殆どが無かったと言って良いのに、ゆっくりと瞼を開く事が出来た。

 

 

「さぁ、目を覚ませ」

「ッッ!!?」

 

 

眼前に迫る物体に思わず仰け反りたい気になるが、瞼を開ける、見る・聞く以外の行為が出来なかった。

 

眼前の物体を目を凝らしながら確認する。少しずつ朧気に輪郭が見えてきた。

エメラルドの輝きを持ち、その額にはルビーの紅玉が埋め込まれている。

 

 

「ここは、固定した次元の狭間。我と貴様だけの空間だ。……ふふ、確か、似た様なのが、そう言う世界(・・・・・・)が確かあったな? あれは……そう、無を求める男が暗躍する世界。55番目の世界か。くくくっ、」

「ッ、ッッ……」

「ふむ、口が利けないか。ならば……」

 

 

表情を読んだのだろう。

今度は顔を更に近づけてきた。厳密に言えば、その額に存在する紅玉を近づけてきた。

すると、赤く輝き出し、身体を包み込んだ。

 

 

「っっは!!?」

 

 

すると、ビックリ。

言葉を使う事が出来た。

言葉を口にする事が出来た。

 

 

 

「良かっただろ? 我が貴様の魂にほんのすこ~~~し、ほんのちょっ~~~ぴりついてきたお陰だ。でもなければ、貴様自身も崩壊しとったかもしれんぞ。崩壊した己の能力(・・・・)の一部の余波で。貴様が記録(セーブ)した次元は完全に壊れたがな。最早戻れん」

「お前は……、お前………、確か…………」

 

 

 

目の前の存在を思い出そうとするが、どうしても思い出せない。全く知らない相手じゃないのは間違いないが、どうしても思い出せない。

 

 

「記憶・技能共に テキトーにくっつけて送り出したからその影響がでておるのだろう。……まぁ、それはそれで良い」

 

 

愛くるしい程の姿で笑い、宙を泳ぐ獣。

何度も何度も思い出そうとするが、どうしても記憶の扉が開かない。ビクともしなかった。

それを察したのか、泳いでいた獣はピタリと止まってこちら側を見てくる。

 

 

「そもそも、我を無理に思い出す必要もあるまい? 本能で悟れば良い。それに ほれほれ、我は今は(・・)無害じゃ、無害の愛くるしく頼りにもなる獣じゃ。……ふふふ、やはり思った通りだった。降りる(・・・)のは楽しい。ただ見てる(・・・)より楽しい。何故、もっと早くせなんだ。そこだけが悔やまれる」

 

 

ひゅるひゅる、再び宙を泳ぐ様に、縦横無尽に回る獣。

確かに言われた通り……何処か解る気はしていた。どういう存在なのかを。

だが気がかりが1つ…………。

 

 

「何か、嫌な感じだけはする。……非常に、物凄く」

「おうおう、流石じゃの流石。その感情を持つ事の説明は、最早我には出来ん。……だが、今の我の事(・・・・・)を知らぬのは少々面倒か。もう少しだけ、手を加える(・・・・・)事にしよう」

 

 

今度は、額ではなく そのエメラルドの輝きを持つ身体の手をゆっくりと伸ばして、頭に着けてきた。

すると、頭に温もりを感じたその瞬間。

 

 

 

「ッ!!?」

 

 

 

ガツン!! と頭を思いっきりぶん殴られる感覚に見舞われた。

気絶したくても出来ない故に、収まるまで味わうしかない。……気を失えない現在の状況を恨みたくなる、と言うより目の前の……。

 

 

そう、目の前の………存在。

 

 

何故だろうか、何故解らなかったのだろうか、と思う程 その姿には覚えが有った。

本能で解る、と言ったあやふやなモノではない。はっきりとその姿形が解る。

 

 

 

「く、る、る…………? しょう、かん………、じゅう……」

「そうじゃ、そう。前の世界(・・・・)の存在。我は、召喚獣クルル、それを依り代に、この世界へと降りてきた。くくくっ。……ああ、この世界では精霊と呼んだ方が都合が良いかもしれんぞ。召喚獣、と似た様な存在だ」

 

 

 

召喚獣クルル。

名の通り、召喚士が召喚して世に顕現させる聖獣。

 

その召喚獣と言う存在そのものについては何故、自分が知っていたのかは別として、頭では理解出来ていた。

 

 

 

――ただし、クルルと言う召喚獣を知っているそれだけだ。

 

 

 

それ以上は 解らない。

明らかにクルルの身体を依り代に、中身が違う事だって察しがついてるけれど、解らない。

 

目の前の召喚獣クルルと言う存在の事しか思い出せない。

それに他にもクルルと同種、数多の存在、その世界の成り立ち等があったと思う。

《前の世界》と言うものが。……それらは一切思い出せなかった。

 

 

 

――――……実に都合が良い事だ。

 

 

 

「くくっ、さぁ 我も共に行くぞ。これより クルルとしての(・・・・・・・)力は貴様は使える。我と共にもっともっと楽しもう。さぁ、少女よ。勝負じゃ勝負! 楽しみじゃっ♪」

 

 

 

クルルが光を放ったかと思えば、目の前が再び黒く染まり……漆黒に包まれ 意識は遮断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……サ、……んッ!?」

 

 

黒く沈む世界の中で、何かが聞こえてくる。

 

 

 

「しっ……り……! ツ……、さん!?」

 

 

 

ただただ、激しい痛みを覚え、闇が全身を覆ってくる。圧倒的な嫌悪感。それを拭い去る事が出来ない。

 

この苦しみが……永遠に続くのか……? とも思えたその時だった。

闇の中に光が差したと同時に、妙な感覚に見舞われる。まるで、飛ばされる様なそんな感覚がした気がした。

 

 

 

 

「フーラ」

「!」

 

 

 

気がした、のではなく、実際に飛ばされた。

 

浮かされた身体は、ずっと宙に浮いている筈もなく、起こった風が消えると同時に身体は落下。しこたま身体を地面に打ち付けてしまった。

 

 

「ちょ、ちょっとラムさん! 幾ら何でもそれはやり過ぎでしょ!」

「突然固まったかと思えば、そのまま このラムの話も一切聞かず無視する。これでも優しく対応してあげた方よ。スッキリしたんじゃないかしら」

「ほんの少しでも優しくなって欲しいですよ、優しく慈しむメイドさんになってくださいよ!」

「ハッ、ラムが優しくするのは この世界に2人だけ。もう埋まっているわ」

「ヒドイ!」

 

 

2人の声がはっきり聞こえてきた所で、どうにか元に(・・)戻れた。

 

 

「悪い……ありがとな、ラム……」

 

 

傍から見れば、ラムが魔法をツカサにぶっ放した構図。

だが、ツカサはラムに礼を言っていた。

 

勿論、それを聞いて驚くのはラム……ではなくオットー。

 

 

「いやいやいや、ツカサさんもおかしいですって! 明らかにツカサさんの状態がおかしくなっちゃったのに、そこに フーラですよ!? 気付けどころか更に怪我しちゃいますよ」

「つまり、そう言った類の性癖の持ち主だったってワケね。軽蔑するわ」

「いや……、とりあえず性癖って言うのは否定しとくよ。軽蔑どころか、もっと痛めつけてやろう、って顔するのもやめておこうか」

 

 

ツカサはそう言い切ると同時に、プッと口から血反吐を吐いた。

 

それを見て、ぎょっとするオットー、そして流石のラムも想像以上の傷? を与えたのか、セリフとは裏腹に表情を曇らせた。

 

無視したとは言っても、明らかにおかしかったのはラム自身にも解っていたから。気付けと言う意味で軽い風を当てたに過ぎない。……身体が浮いて、地面にダイブしたのは間違いないけれど。

 

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「うん、大丈夫。だからオットーも気にしないで。コレ(・・)はちょっと違うから。……説明しにくいけど、これはちょっと違う。ラムのせいじゃない」

「…………当然よ。ラムは悪い事なんてしていないもの」

 

 

ぐいっ、と口元を拭うと、ツカサは周囲を見渡した。

先ほど(・・・)までの2人じゃない事は気付いていた。両手に持っていた筈の土産が一切無いし、何より時間(・・)が違う。集合予定時刻と違うのだ。

 

 

「ごめんごめん。それで……なんの、話だったっけ?」

「……………万が一にでも、ラムの身に危険があれば 自分達が生きている意味が無い、死にたくなるから、どうか手伝わせてくれ、とラムに言った後の話よ」

「脚色が酷い!?」

 

 

ラムの発言で、今の時間を理解出来た。

 

理解したのと同時に――――意識する。

 

 

「(———読込(ロード))」

 

 

頭の中で、意識し、魔法を発動させようとするが……、失敗した。

いや、出来なくなっている。

 

 

「(崩壊した、って言うのは、こういう事……か。記録(セーブ)が全て壊れてる。……戻る(・・)つもりは全然なかったから、困っては無いけど…………。……揶揄者(ザ・フール)……は、使えそうだ。…………相当キツイけど、何とかなる……かな)」

 

 

ズキンッ、と頭に鈍い痛みが走った。

身体が相当消耗しているのも解った。

 

原因が何故なのか、それだけが解らないが……。

 

 

「じゃ、話すから しっかり聞きなさい」

 

 

再び2人と分かれた後に考え直す事にしよう、とツカサは思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後は同じだ。

予定通り、迷子探しが始まった。

ラムの探し人は 長い銀の髪を持つ少女。その手掛かりを手分けして探す。

 

 

「……店先の皆には悪いけど、買い物は無しだ。………変な事が起きてるのは間違いないから、そっちを優先……しないと。アレ(・・)はキツイ……。出来れば、2度と味わいたくない……」

 

 

頭を抑え、ふらつく身体を抑えて足を前に運ぶ。

2人の前ではどうにか虚勢を張る事が出来たが、中々にキツイ。

 

 

「くっそ……、仕方ない。……正直、呼ぶのは嫌だったけど」

 

 

ツカサは呟くと右掌が上を向く様にして顕現させる。

 

 

 

「――――出てこい、クルル」

「きゅっっ♪」

 

 

 

それは、あの空間が、あの全てが白昼夢じゃなかった事の証明でもあった。

身体の中身は兎も角、外側は愛くるしい緑の獣の姿で。

 

 

「話を色々聞きたいが、どうせ喋ってくれないんだろ?」

「きゅっ?? きゅきゅ??」

 

 

首を45度捻ってくりくりの目を向けてくる。

この獣は、人の言葉は理解出来ているのはツカサも知っているから、言葉の意味が解らない訳じゃないのは理解していた。

 

 

「………惚けてるのか、本気で解らないのか、微妙だな。…………こほんっ! 楽しみたいんなら、少し協力してくれないか? 同じ様な時間を行ったり来たりするだけなんて、つまらないだろ?」

「……………きゅっ」

 

 

先ほどまで解らないような仕草をしていた癖に、今度は手を東の方向へと差し出した。

 

「あっちだな。……何があるかなんてわかるワケ無いし。どうすれば良いかまで教えてくれても良いだろ」

「きゅきゅっ??」

「あーー、もう! 解ったよ!! だったら、召喚獣クルルとしての力は使うからな! こき使ってやる!」

「きゅうっっ!」

 

 

クルルを顕現する為にも、その力を発揮させる為にも、自分自身の力を有しなければならない………と言う事を、知っている筈の知識を、この時のツカサはすっかり失念。

 

 

 

 

 

そして この後に更に大変な目に合うのだった。

 

 



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クソイカレキチガイ殺人女とやり直す奴

「………………」

「ツカサさん? 本当に大丈夫なんですか?」

「あ、ああ……、ダイジョウブ。ほんの、2~3回やり直してるだけで……」

「言ってる意味、解んないんですが……」

 

 

現在、オットーと共に貧民街を歩いている。

勿論、ラムと手分けして迷子の捜索……と言う名目は変わらない、同じだ。

 

 

――――違和感を、そして薄々感じてる人? もおられるだろうが、その通りだ。また繰り返した。最大級の歓迎(苦痛)を受けながら、世界をやり直した。

 

 

……ツカサはこれが4回目(・・・)である。

 

 

少ない情報を頼りに、色々捜索しているのだが、未だ時が戻る原因の片鱗さえ掴めない。

 

発生源? の様なモノは クルルが示してくれてるので、ただソコを目指すのみなのだが、苦痛が半端じゃない。

 

1度目よりは2度目、2度目よりは3度目……、と重ねられる。

この苦痛は本当にどうしようもないが、記憶は何故だか保持されるので、情報が集まりやすいのがせめてもの救いだ。

 

 

………だが、良い事ばかりではない。

 

 

戻る間隔も短くなっている。

3回目の世界に至っては、迷子の捜索開始と同時に戻された。

かなり腹が立っても仕方が無いが、オットーやラムに当たっても無意味である事、戻った先で待っている2人にすれば 突然怒り出した狂人としか認識出来ないと言う事も解るので、何とも救われない話だ。怒りの矛先でも見つかってくれればありがたいのだが……。

 

 

世界がバラバラになる感覚と苦痛、外的損傷も目立つ様になってきたので、そこは召喚獣クルルの力を持ってある程度の誤魔化しは効く様になっている。……が、如何せん体力や魔力(マナ)……にも限度と言うモノがある。

戻ったら体力や魔力(マナ)はリセットされているのだけれど、苦痛は上書きみたいなモノだから。

 

 

《きゅきゅ??》

 

 

外に出されるのを待ってる? 気がするクルル。生憎今は回復中なので出すつもりは無い。自身に魔力(マナ)消耗による疲労感として返ってくるが、回復出来るのはこのクルルだけだから。

今は少々忌々しい気もするが、クルル(コイツ)が居なければ、最悪廃人になっていた可能性だって否定できない。……背筋が凍る想いだ。

 

 

「大丈夫なら、良いんですけど……、気分が優れないのなら、他人よりも自分の事を優先すべきだ、って僕は思いますよ? ただ、ツカサさんを見て ラムさんが 普通に頼んでるのは少々意外でしたが。《ハッ! そんなザマで、ラムの何を手伝うって言うの? 目障りだから消えて》くらい言ってきそうだと思ったんですが……」

「……今の声マネ、本人が聞いてたら、過激な風が吹くと思うから気を付けなよ?」

 

 

オットーのラム真似を聴いて、ツカサは苦笑いをした。

確かに、オットーの言う事も最もだ。

 

一番最初に出会った時……ラムは倒壊する家屋の瓦礫が彼女の頭上に落下してきたのを、彼女自身の魔法で防いで見せた。助けるまでも無く相応の使い手だと言う事は見ていてわかるし、元々の性格? もあって オットーの言う通り 明らかに体調不良っぽい、それも2人から見れば、突然体調が悪くなったと言って良い男の手は借りないと思うのが普通だろう。

 

でも、ラムは何も言わないし、そのまま突き返そうともしてない。それどころか、《頼む》とまで言ってきた。最初の段階で《頼む》と言われるのは初だったので少々驚くが、過去一番の苦痛顔を更新し続けるツカサ。その顔を見て動転してしまったのだろう、と無理矢理感はあるが納得させる。

 

 

「さ………、たぶん、たぶん。これで最後。これで終わらせる……。やり直すのはもううんざりだ」

「へ? やり直す? 何の事です?」

「いや、こっちの話。……オットーとの約束ももうそろそろ終わりだし、これを終わらせたらお別れだ、って思ってただけ。時間的にも」

「あ、う~~、確かに…… 名残惜しい気はしますが仕方ないですよね。必ず大物になるであろう、ツカサさんの足を引っ張る枷にはなりたくないですから」

 

 

オットーは笑ってそう言うが、現状の財力では ツカサを雇う事は無理だと言う所から来てた発言だったりしている。それをツカサも解っているので、ただただ苦笑いをするだけだ。

 

 

「さて、……盗品蔵の位置は……」

 

 

情報はしっかりと仕入れている。

原因系の片鱗は掴めてないが、場所だけは極めて詳細に。

 

2の世界では情報収集。

 

貧民街の住人は最初は懐疑的で、協力的とは程遠かったが、ツカサは金にものを言わせる事が出来る。

 

《聖金貨1枚で盗品蔵の情報求ム》

 

と言う条件を出して 小分けにした聖金貨を渡していた。貧民街の住人は目の色を変えたのは言うまでも無い。それだけあれば温かい服、食事、寝床………夢のような金額だから。

 

因みに袋から取り出す所を見られない様にするため。見られたら、吹っ掛けられる可能性が高くなり、尚且つ時間ロスにも繋がるからだ。

日々命懸けで生きている面々だ。生きる為に、詐欺(そう言う)行為をするのは、褒められたモノじゃないが、あまり否定はしたくないし、騙された方が悪いとも思えなくない。

 

だが、それでもロスだけは避けたい、と言うのがトップに来る。

 

交渉事に関しては、ある程度 記録(セーブ)を使えれば、最適解に導く事は容易ではある、………が、今はダメだ。

 

 

何故なら、世界が巻き戻る際の苦痛。

 

 

アレは、記録(セーブ)の数に比例されていくから、無暗矢鱈に使えないのが悲しい所だ。

 

 

「(()ジャンケンしたら(・・・・・・・・)、不敗神話が途切れるな……)」

 

 

と、ツカサは自虐的に笑った。

 

 

重い体をどうにか誤魔化して、オットーになるべく悟られない様に盗品蔵を目指す。

また戻るかもしれない事に恐怖を覚えるが、それでも進まなければより悪い未来に繋がりそうがしてならない。

 

原因が、せめてほんの少しだけでも情報が欲しい。そう思いながら向かっていたその時だ。

 

 

 

 

「誰か! 誰かいねぇのかよっっ!! 誰かぁぁぁぁぁぁ!! 誰か助けてぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

助けを呼ぶ声が。悲鳴が この貧民街に響いてきたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――俺の名前はナツキ・スバル!  無知蒙昧にして天下不滅の無一文! 更に付け加えるとするならば、たった今! 夢を追い、チャンスを求め続ける、華憐で儚い……そして口が物凄く悪く、手癖も悪い少女フェルトを 狂人の強靭から守り、無事外へと逃がした男の中の男!

 

 

 

 

盗品蔵では、只今修羅場を迎えていた。

 

 

現在、場に立っている(・・・・・)のは3名。1名は倒れており命が助かっているかどうか定かではない。

 

 

ナツキ・スバルと言う少年は こんな修羅場とは程遠い、平和極まりなく永遠何にもしなくても生きていける様な世界で暮らしていた筈なのに、何を間違ったのか 自身が知る世界とは異なる世界……異世界へと召喚されてしまったのだ。

 

彼の知る異世界モノと言えば、自身には強靭な力が備わってたり、天を割るような魔法を放てたり……、即ち最強(チート)能力の1つや2つ、持っている様なモノ、の筈なのだが……生憎戦って勝つ! と言う力と呼べるようなモノはスバルには無かった。

 

 

ただ、唯一あるのは 地獄の苦しみを味わう……苦痛を伴い、世界をやり直す能力。

名付けて《死に戻り》。

 

 

自身が死ねば、最初に戻る。

何度も世界をやり直す事が出来る、と考えたら 大概反則に近い能力かもしれないが、死と言う苦痛を何度も味わうのは御免被るし、何よりも その能力の上限値の様なモノがあるかもしれない、と考えれば、怖くて安易に選べたりはしないだろう。

……これまでは理不尽にも選んだのではなく選ばされた、殺された結果だ。

 

因みに、自身の能力。それに気づく事が出来たのは、4回目のループからだった。

だが、ただ重ねただけではない。アドバンテージはしっかりと持ち帰る事は出来ている。

 

結果、世界を重ねた事でどうにか殺される事なく、最初の世界で助けてくれて、そして殺されてしまった少女。本当の名も知らない少女を救ったハッピーエンドに漕ぎ着けそうな感じ……だったのだが、現実とは中々上手くいかないモノである。

 

 

 

「そろそろお遊びも見飽きたのだけれど、まだ私を楽しませられそう?」

 

 

露出の多い黒装束に身を包んだ女。

何もしなければ、無害であるならば、目も眩む程の美少女。その妖艶さはエロスを感じさせ、天国へと誘ってくれそうな程の女なのだが、関わると本当に天国へ逝かされる。

 

事実、スバルがこの女に過去2度殺されているのだ。

そして、今隣で共に戦っている少女も1度、殺されている。

 

それを知るのは、スバルただ1人ではあるが、許せない思いがこの場の誰よりも何倍もあるのは間違いない。

 

だが、悲しいかな……、スバルは健康的な一般男子高校生レベル。

異世界ファンタジーの攻防に付き合っていけるだけの技量も力も備わってるとは言えない。

 

ただ、火事場の馬鹿力を発揮し、幸運が重なって この場から1人の少女を離脱させることに成功しただけに過ぎないのだ。

 

闘えば……、そう長くはもたない事も解る。でも、だからと言ってハッピーエンドを諦めてる訳ではない。

 

 

「秘められた真の力とかがあるなら、出しといた方が良いと思うけど?」

 

 

スバルは 息を切らせながら隣の少女に提案する。

少女の闘い方を見ているスバル。力の無い自分と違って、彼女は精霊使いと言うジョブらしい。 闘いの序盤こそ、ネコ型の精霊が出てきてくれて、優位に進める事が出来ていたのだが……維持できなくなってしまって、引っ込んでしまった状態。

 

それでも、少女は氷の魔法を使い、闘い続けてくれている……が、その額の汗や切り傷等を見れば、旗色が良くない事位解る。

 

 

「切り札は……、あるにはあるけど。使うと私以外は誰も残らないわよ?」

 

 

前言撤回。本当の意味で旗色が悪いワケではない様だ。

スバルも同様に思ったらしく、慌てた。

 

 

「自爆系かよ! ……お願いだから早まらないでね?」

「……使わないわよ。まだ、あなたも頑張ってるのに。だから、最後の最後まで、足掻いて足掻いて足掻き抜くの」

 

 

少女の決意に満ちた横顔を、……最後()をも覚悟した険しい表情を見て、スバルは思った。

 

最初の世界だ。

 

初めてこの世界に降りたった時、何度も何度も命を落としながらも、求めようとしたモノがある。

 

そう、彼女の笑顔だ。……笑顔に救われた。

 

そして、もう一度見てみたいと思った。―――微笑む姿を見せて貰いたい、と。

 

 

「じゃあ、ワリーな、さっきのは忘れてくれ。……何で俺がここにいるのかやっと思い出した」

 

 

スバルは、自身の身体程も有りそうな棍棒を握り締めて、指をさしながら言った。

 

 

「やる気がみなぎってきたぜ!! てめぇぶっ飛ばしてハッピーエンドだ!!」

 

 

 

言っている意味が解らないのは、横の少女も、目の前の殺人鬼女も共通して同じ事だっただろう。

 

「……元気が有り余ってるのね」

 

ただ、まだ瞳の中には元気有り余ってる事には、有難い。

もう飽きてきた、と言う女は 後は身体()を裂くだけの楽な仕事、程度にしか思ってなかったから。

 

 

突っ込む、強靭が迫る。どうにか少女の魔法で援護してもらう。

攻防と呼べる展開に持ち込む事は出来ている気がしたが……どうしても言葉とは裏腹に、この女と刃を交わしていると解る。勝てない。勝てる未来が見えない、と。

 

 

 

「さぁ、幕を引きましょう」

 

 

 

再びあの死が、間近に迫ってきた。

 

その時だ。

 

 

 

 

「きゅきゅきゅきゅーーーーーーー!!!」

 

 

 

ドゴンッっ! と言う轟音と空気を切り裂くような音と共に、何かが女とスバルの間を通過した。

 

 

女は、体勢的にはスバルを切りつけよう、としていたのだが、咄嗟にバックステップで 得体のしれない攻撃? を回避。故に丁度スバルと女を分けた形になり……店の壁に激突した。

 

 

「? 何かしら?」

「なん……だ? ありゃ」

 

 

通り抜けた先を見てみると……そこには何かが刺さっていた。

いや、うねうねと頭から刺さった壁から脱出しようとしているのを見ると、物ではなく生物か何かだろう、と言うのは解る。

 

 

ただ、エメラルドに輝きを持つ生物なんて、中々想像がつかない……が。

 

 

「精霊ね」

「精霊!」

 

 

少女たちは、混乱するスバルを他所に、その乱入者? が何者なのか結論。

 

 

「驚いたわ。まさか、まだ精霊を使えるだなんて。お腹、開いてみたかったという私の願いを聞いてくれたのかしら?」

「……そんな物騒な願い、聞くワケないでしょ。……でも、私もすごーく気になるケド、私の精霊じゃない」 

 

 

ほんの僅かではある、が息つく暇も無い戦闘が一時停止する。

そして、きゅぽんっ! と可愛らしい擬音? と共に、あの弾丸精霊が頭を引っこ抜き、こちら側を見た。

 

 

いや、違う……突入してきた方を見た。

 

 

「きゅきゅきゅきゅきゅーーー!!」

「ひと使い……召喚獣……、精霊使い荒いって? ……こっちは何度も何度もしんどい目見てんのに殆ど手を貸してくれてなくて、鬱憤イライラその他諸々が溜まりっぱなしなんだ。それに、トコトン コキ使うって言っただろ? 諦めろ」

「きゅんっっっ!!」

 

 

エメラルドの輝きを持つ宙を浮く獣は……。

 

 

「(お、おお? あれって、アレじゃね? カーバンクル、ってやつ!? 額に赤い宝石、輝く緑の毛並みといや、それしか思いつかねぇ……っと、それよりも)」

 

 

スバルは、目の前の精霊よりも、外から聞こえてくる声の方に意識を集中させた。

こんな場面で新たに乱入してくる者は、味方なのか、敵かのか、それを見極める為に。

 

 

 

大穴の空いた店の壁を蹴破りながら入ってきた男の乱入者。

 

その男は、一頻り場の状態を確認すると、3人の方を見て言った。厳密には2人。……女性の方。

 

 

 

「さて、幾つか質問をするよ。フェルトと言う女の子から聞いた、《クソイカレキチガイ殺人女》と言うのはどっちの事を言うかな? 急ぎだったから、細かな特徴は聞いてなくて

 後……、こっちは 解らなかったら無視してくれて構わないけど、何度も何度も何度もやり直してる奴(・・・・・・・)がここにいるかどうかも聞きたい」

 

 

 

それを聞いて、新たな援軍と言う喜びと同時に驚きに身を包まれるスバルだった。

 




色んな意味で激おこ。
八つ当たり気味。(笑


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天使に会わせてくれてありがとう

 

 

フェルトは、涙を流し恥も何もかも晒しだしながら、例え無様だと思われようが関係なく大声で叫び続けた。

 

 

助けを求めて走り続けた。

 

 

でも、この貧民街の住人は誰一人として耳を傾けようとはしない。

それはフェルト自身がよく知っている。

余計な被害を被りたくない、余計な問題を重ねたくない、日々自分の事だけで精一杯。他人に干渉出来るだけの余裕などない、と拒絶をされてしまう。

 

 

フェルトは知っていた。曲がりなりにも自分自身も同じだから。

 

 

ここの住人が助けてくれる事なんて無い。

自分自身の事しか考えてない連中だと言う事も知っている。

 

 

そう、それはフェルトとて同じ。

貧民街(ここ)では、それが常識であると認識している。

 

 

スリを生業として生計を立て、夢を追い求めているフェルト。

他人を蹴落とし続けてきたのだから。盗んだ相手がどうなろうと知らない、どれだけ大切なモノだろうと知らない、盗まれた事で相手に様々な不幸が降りかかろうと知った事ではない。

 

 

世の中は不公平で、クソったれだから、その理に従って懸命に生きる。それだけだ。決して変わることの無い認識だと思っていた。

 

 

だけど、そんな少女の価値観を変えたのがスバルと言う男だった。

見た目 誰よりも弱く、誰よりもビビりだった筈なのに、身体を張り、囮となって命懸けで自分を逃がそうとした。

 

 

 

 

――自分ではなく、赤の他人を優先しようとしたのだ。

 

 

 

 

家族なら別。

フェルトにとってのたった1人の家族であるロム爺なら解る。クソッタれな世界の中で、家族の絆だけはフェルトは信じていた。例え命を賭けてでも、と。

 

だけど、スバルは違う。

 

今日初めてあっただけだ。

突然割り込んできただけの赤の他人。他人の筈なのに……。

 

 

そして、更にもう1人。

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

そんな馬鹿みたいな男がいた。

 

 

《誰か助けて》

 

 

その声に、誰もが耳を塞いでいたその声に答えてくれた男が。

フェルトの中の小さな世界が今、変わろうとした瞬間であり、――世界の運命の歯車を動かした瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、修羅場である盗品蔵にて。

 

 

乱入したのは、勿論精霊クルルとツカサ。

 

決して狙ったわけではないが、絶体絶命、後ほんの少しでも遅ければ、腹を裂かれスバルは絶命していたであろう刹那の時、召喚獣……基 精霊を使った? 攻撃炸裂。

 

高質化した頭蓋で敵を打ち砕く強烈な頭突き、必殺の一撃! ……の様には見えないが、兎に角殺人鬼を牢籠がせるだけの一撃にはなった。

 

 

ただ、問題なのは助けを呼んだフェルトの声に従い、駆けつけたのだが、その殺人鬼の特徴を聞いてなかったと言うところだろう。

 

結構、いや かなり慌てて駆けつけたから。

 

 

フェルトの願いも勿論あるが、他に勿論自分のためでもある。

もう4度目はゴメンなのだ。

 

 

そして、一通りのメンバーを確認。

 

該当者である性別女性はこの場では2人。

見抜くのは困難か? と思った矢先だ。

 

 

「あらあら、ダンスに割り込む無粋な子がまだいたなんて。いけない子ね?」

 

 

 

特徴的な刀剣を器用に回しながら、頬に着いた血を舌舐りをし、向かってくる女性が1人。

まるで、《私がそうよ》と挙手してる様にも見える。

 

そして、もう1人の女性は何も言わない。

明らかに疑ってる、信用できない、疑心暗鬼。そんな眼をしていた。

 

 

「(大体判明。……どっちも(・・・)。だけど一応 )」

 

 

ツカサは視線を迫ってくる明らかに悪い顔してる女から外し、後ろにいる女性を、そして男を見た。

 

 

「殺人鬼はこっちで正しい? 多数決になるけど」

「ばっ!! 何を呑気な!! あぶねえ!!」

 

 

女の身の熟しは、数度の接近戦で何度も見てるし、何度も裂かれてる。

そんなスバルだからこそ、身体能力はこの場で最弱でも女の初動は見逃さず、叫んだ。

 

それを合図にすると言わんばかりに、刀剣を持った女が恐るべき速度で急接近。懐深くにまで入り込み一閃。

 

 

「正義の味方ごっこをしなければ、怖い女に狙われずに済んだのにね? あなたの腸を」

 

 

真一文字に切り裂いた。

後はいつも通り、慈しむ。愛を育む。……紅潮する。

 

外側には感じられない内側の愛しさ、血と贓物を。

 

 

ただ、それだけの筈……だったのに。

 

 

 

 

「腸って……想像の斜め上を行った単語だ、正直」

「ッ!!?」

 

 

 

 

ゾワリと寒気が走った。

確かに切り裂いた、腸を狩った。

その瞬間を見た筈だったのに、男の身体は眼前には無く、側面へと回り込まれていた。

 

そして、その掌を脇腹に押し当てられ……。

 

 

「テンペスト」

「!!!」

 

 

次の瞬間、何かが起こった。

 

 

何か、そう 何かだ。

 

 

 

どう表現すれば良いのか解らない。

 

女には解らない。

 

ただ、解るのは理解するよりも先に意識してしまうのは、脇腹への強烈な衝撃と……空高くと打ち明けられた事。

 

 

 

 

 

そして、その後の光景。

 

 

 

 

もう日が沈みかけており、空の全てが黄金色に染まる。

自身の身体もその太陽の光に包まれた。昼の太陽光よりは光度が低いが、その分長くみられた。

 

その光を、温かな光を全身に浴びながら、女は まるで幼い少女のように顔を紅潮させて、呟いた。

 

 

 

 

「……………綺麗」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残された盗品蔵は天井にでかい風穴を開けた、雨の日確実にずぶ濡れ、快晴の日は星空満天、劇的なんちゃらな空間へと早変わり。

 

側であの女の超速を見ていた筈の2人でさえ、一瞬何が起こったのか解らず、ただ、言葉を失い口をポカン、と開けていたが。

 

 

「スッゲエエエ、なんだ今の!? いきなり暴風竜巻波浪警報発令&直撃とか、一体どーすんだよ、備えとかできねーじゃん!? 一体ナニしたの??」

「それは、オレの方が聞きたい。……やり直してた(・・・・・)のは、君……っっ」

 

 

最後まで聞くことができず、そのまま足の力が抜けたせいか、座り込んでしまった。

 

 

「あ、ちょっと!」

 

 

比較的、一番側にいた少女が先に駆けつけて身体を支えた。

 

 

「もう少し、警戒するかと思ったけど……安心して良さそうだね」

「確かに、貴方の事は知らないし、精霊に乱暴した所を見ちゃって、正直悪党だとすごーく思っちゃったけど、貴方が私たちを助けてくれたのは間違いないから。助けてくれた人を警戒するなんて、ヘンテコな感じだし。それで、どこか怪我した? 見せて」

 

 

身体をぱっぱ、とまさぐる。

ペタペタと触られるのは正直くすぐったいのと恥ずかしい。

 

 

そして、恥ずかしい想いをするのと同時に、後の男、スバルがだんだん怒り顔になってきていた。

 

 

「そーーれーーでーー?? 君はどこのだーれ? フェルトが呼んでくれた助っ人って事は解ったけどーー!」

 

 

ぐいぐい、と2人に割り込む。

少女の方はぎょっとしていた。

 

 

「とりあえず、色々言いたいことと聞きたいこと盛りだくさんある。特に黒髪の君」

「ほーほー、これは奇遇。実はオレの方も……」

 

 

と賑やかになってきたその時だ。

 

 

「ッ!? 危ない!!」

 

 

最初に気付いたのは、2人の会話に眼を白黒させていた少女。

困ったちゃんね、とだんだん呆れて、視線を外した時、偶然、本当に偶然上を見た。

 

 

空気を裂くように、飛来する流星の様に……巨凶が落ちてくるのが見えた。

 

 

咄嗟に、頭上に魔法を放とうとしたそのとき。

 

 

 

 

「ありがと、助かった」

 

 

 

 

そう言われた気がした。

ほんの一瞬の刹那の時に確かに聞いたのと同時に、後方へと弾き出される。

ついでに、スバルの方も。……こっちは前蹴りで。

 

 

「きゃっ!」

「っいって!? コラ、オレの扱い雑か! ってのはこの際良い! 助けてくれてあんがと! それよりなんで、お空の彼方から降ってくんだよ! 腸好きサディスティック女が!! 普通お星様になって、最後は自分のお家に突き刺さるってのがお約束だろうが!?」

 

蹴られた腹の痛みは対したこと無い。

寧ろ何度も斬られた部位だから比較に出来る強烈な痛みを覚えてるから、尚更無視できた。

 

 

なにか言ってるのは解ったが、今の女は、スバルには目もくれず、空からの一撃をあの精霊を使って防御した男に釘付けだった。

 

 

「あなた素敵、素敵だわ。天使に会わせてあげるのは私の役目なのに、私の方が会わせて貰った気分ね。ありがとう、会わせてくれて」

「それは良かった。その対価は、投降して払って貰いたいもんだけどね。と言うか、会った気分(・・)じゃなかったのかよっ!?」

 

 

ギリギリ、と鍔迫り合い。

本来は、攻撃よりは守りの召喚獣である精霊クルル。堅牢な盾で確実に攻撃を防ぐことが出来たが、解せない点もある。

 

 

「あれだけ、吹っ飛ばしたら、身体にかかる負荷は相当な筈。結構衰えてる(・・・・)とは言ってもね。気絶して受け止めて縛り上げて、って所まで道筋見えたって言うのに。まったく」

「あら。優しいわね。そこまで優しく丁重に扱われるのは久しぶりなのだけど。残念、私は他人より頑丈な身体だから」

「そっか、ならこれから参考にさせて貰おうか」

 

 

クルルの一撃。

《きゅう!!》と額の紅玉を角にして頭突き。

 

女もそれを身体を捻りながら跳躍し、躱した。人体位は容易に突き破ってくるだけの威力を感じた。

 

 

「ちょっと、あの人の精霊の使い方、間違ってない?? 君のパックはあんな風に武闘派じゃなかったよね? ジャンジャン氷出してたし」

「うん。それは私もすごーく思う。パックにあれをやって、って言ったら絶体すごーく嫌がって怒るから。でも、一見雑、酷いって見えても、彼とあの精霊()はしっかり信じあってる様に見えた。だから、アイツの攻撃を防いでくれたんだと思う」

 

 

少女は、一連の攻防を見つつ、倒れてる巨人族のロム爺と呼ばれた男を見て気を伺った。

 

早く治療をしなければならない。でも、そんな隙を見せて良いものか? と。

 

そんな少女の心配をまるで見越していたかのように、ツカサの声が場に響いた。

 

 

「こっちは大丈夫だから、その人をお願い。多分、その人がロム爺なんだろ? その事も念を押されててね」

「あらあら、余所見とは連れないわ。最高のダンスなのに、最後の最後まで、貴方の腸を開くまで付き合ってちょうだい」

「ご生憎。今のオレは(・・・・・)時間稼ぎは大得意。このまま長引くとダンスどころじゃなくなるぞ」

 

 

剣を躱し、時には一撃を入れ、合間を見て会話を挟む。

まるで本当に息のあった妖艶なダンスのよう。

 

 

「あら? どうしてかしら?」

「助けを呼びに来て、戻ってきたのはオレだけ。フェルトは戻ってきてない。考えられる理由は?」

 

 

一度離れると、クルルの四方八方の障壁を展開。光の壁で対象を包み込んだ。

 

 

「そっか! なるほど! フェルトの奴が援軍を連れてきてくれる、ってことだな!?」

 

 

いよーし! 言わんばかりに、スバルは拳を付き出した。

ツカサはそれに大きく頷く。

 

 

「そう言うこと。頭の回転が鈍くなってるんじゃない? 空高く飛び過ぎたせいで」

「いいえ。うっとりとしてたの。貴方をみて。貴方の腸はとても良さそうだな、って。これまでで最高のモノだって。見るだけじゃなく、持って帰りたい。ずっと温かいままで手元に置いときたいって。あああ、素敵だわ。ゾクゾクしちゃう」

「なるほど、……うわぁ、ほんと物凄い告白もあるもんだ、一番驚いたかも。ビクビクしちゃうよ、こっちは

 

 

さすがに平静を保ってたツカサも表情が崩れる。

あまりにも着いていけないから……(当然だ)

 

 

そして、2人は交わる。

 

 

 

 

「一世一代の告白よ、受け取って頂けるかしら?」

「謹んで遠慮しておくよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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死の感触と死の感覚と飛来する剣

あの女には 何度も何度も殺された。

この目の前の少女でさえ殺した。

 

 

その顔を決して忘れず、決して許さず、そして誓った。

 

 

誰も欠けてない、五体満足の後日談を必ず見るのだと。

 

必ず、この心優しき少女と共にハッピーエンドを見るのだと。

 

 

そして、今 それに近づき掛けている。

 

 

難易度が鬼がかってる内容に、光明が確実に見えて来ている。

 

命を掛けて逃がしたフェルトが光を齎してくれた。

 

 

 

「それにしたって、たまたまの通りすがりの助っ人にしては、強すぎるだろアイツ……! 化け物サディストと互角って奴!?」

「うん。私も今のうちに、言う通りに……」

 

 

少女は倒れてる巨人族の老人、ロムに手を翳した。

彼の額には生々しい傷がつけられている。

 

そう、あの女にやられたのだ。

 

「っと、良いのか? 言われたからって治しても。……この爺さん徽章を盗んだ一味だぜ?」

「だからよ。私だって、言われただけで、はい解りました、って言う程単純でも、お人好しでも無いわ。これは私のためでもある」

 

 

そう言うと、ロムの傷口付近に手を翳した。

水の属性を纏った精霊術、回復の力を発動させる。

 

 

 

「さっきの盗んだあの子はここには居ないんだから。だから、治ってもらって、このお爺さんから情報を聞き出すの。命の恩人だったら、嘘なんかつかないでしょ。だから、これは私のための行為なんだから」

「……(まったく、そうやって色々と言い訳しないと、自分の行為を正当化出来ないのかよ。……でも)」

 

 

 

スバルは、彼女の横顔を見た。

 

 

――もう、彼女は知らないだろうけど……解らないだろうけれど、その優しさ(・・・)に自分も救われたんだ。

 

 

 

このルートで(・・・・・・)初めて出会った相手に、頼りきりってのはカッコ悪いが、頼んだぜ……、オレも聞きたいこと、言いたいこと、あるからよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素敵、本当に素敵だわ。名を、名を教えて貰える??」

「刃物をブンブン振り回して、(はらわた)(はらわた)言う相手に、悠長に自己紹介したりすると思う??」

 

 

攻防は過激さを増す。

 

縦横無尽に動き、あらゆる方向から刃を振るう。特に腹を、腸を狙って刃を振るう。

時にはクルルで、時には身体能力と盗品蔵に掛けてあった剣で弾き、いなし続ける。

 

体感時間的には相当長い。時の流れが変わったのでは? と思えるほど時間の流れが緩やかだ。

それは、外で見ている者たちも、警戒している者たちも同じだろう。

 

 

「そろそろ、違和感(・・・)とか感じて、混乱したり、手が止まったりして貰いたいもんなんだけど……、混乱(・・)するどころか、顔紅潮(・・)させながら来るよ、この人」

「ええ。感じているわ。とても感じてる。私の攻撃、何度当たったって思ったか、もう数えきれない。何度もお腹を開いた筈なのに、貴方はそこにはいない(・・・・・・・)。代わりに私の死角や背後に回ってる。……相手が貴方じゃなかったら、私は無駄な攻撃は止めてたかもしれないわね?」

「そーですか。ここまで一途なのも困ったもんだ」

 

 

ツカサは女の攻撃を回避しつつ、距離を取って一息。

女は紅潮したまま、眼を蕩けさせ舌舐りをしていた。

 

 

「そっちは、経験ありで、迷い無しかもだが、オレには覚えがない(・・・・・)

「? なんのことかしら?」

「そろそろ真面目に(・・・・)攻撃するぞ、ってこと」

 

 

パンっと両頬を叩き、そして眼を細めた。

 

 

そう――そろそろ真面目に攻撃しないと、自分が危ない。

 

 

 

 

「素敵。素敵な殺気だわ! とうとう、本気で楽しませてくれるのね!」

 

 

女は、嬉々としながら懐から2本目の刃を出し、初めて二刀流の構えをした。

本気の戦闘スタイル、と言う事だろう。

 

 

 

「腸狩り エルザ・グランフィルテ」

「名乗る程の者じゃない、ただの通りすがりの助っ人」

「ほんと、ツれないわ。名乗ったのだから、名乗り返すのがマナーじゃない? でも……そこが良い、そこが良いの!」

「盲目……」

 

 

 

二刀流、そして更にギアを上げた速度。

壁を、天井を、地を這い回り幾重のフェイントを重ねている。

 

目の前でこうも死角、死角へと動き回られては普通ならば目で追いきれないだろう。

だが、ツカサは追う必要は無い。

 

 

女……エルザは、ツカサに背後から刃を突き立てる。

 

 

これまで、執拗に腹を、腸を狙い続けたが、ここで初めて別の部位を。それこそが最大にして最悪のフェイント。

 

 

 

そして、背中を刺した。突き刺した。肉を抉り、骨を裂き、捻りあげた。致命傷の一撃を……幻視した(・・・・)

 

 

 

そして……結果。

刺されたのは自分だった。

 

 

 

「……素敵」

 

 

 

腹部を突き刺し、そして貫通した致命傷。

鮮血が舞い、不快な感触が手に残る。

 

殺らねば自分が、そして後ろの3人が危ない。何より相手は異常者。

不可解な力の差を見せても、常人なら昏倒しそうな一撃を受けても、まったく怯まない。それどころか、活き活きとする始末。

 

 

 

「ツカサだ。別に即忘れてくれて良い」

 

 

ツカサは、突き刺したのと同時に、クルルを差し向けた。

力を込めたクルルの強力な頭突きを受け、刺さった剣事エルザは吹き飛び、盗品蔵の壁に激突。そのまま瓦礫の山に埋もれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は横たわるロム爺の傷の具合を確認する。

一命こそ取り留めているが、治療はまだ完全には終わってない。まだ、少し時間が掛かりそうだと目算を立てていた時、雌雄を決した場面を見た。

 

 

深々と突き刺さる剣、舞う鮮血、吹き飛ぶ身体。無事に終えることが出来た事を見た。

 

 

 

そして、同時に……大の字で倒れる彼も見た。

 

 

 

ロム爺の治療もあるが、後回しにして問題ない事を再三確認して、倒れ込む彼に駆け寄った。それは、スバルも同じだ。

 

幾ら化け物女と言えど、身体に剣が突き刺さり、風穴が開いた上にぶっ飛ばされれば、終わりだ。終わりの筈だ。

 

 

 

 

「こんなの……何が良いのか、さっぱりだよ……」

 

 

 

 

倒れ込み、自身の手を見ていた。

何を意味する言葉なのかは、直ぐに解った。

 

助ける為とはいえ、危険人物だとはいえ、今 人を殺めた事の感触。人体を貫く感覚。命を奪う感覚は消えない。

 

 

その事を言っているのだろう、と少女は思った。

とても強いのに、人を手に掛けたのは初めてなのだと言うことも。

 

 

 

 

「すげえな、ほんとやべえ! 圧倒してる様に見えたんだけど、やっぱきつかったのか? でも、マジでありがとな、お前のお陰で、ハッピーエンドを迎えられそうだ、友よ!」

「ハハハ……それはどうも。3人目の友が出来た。随分と劇的な出会いがあったもんだ……、まあ、オットーの時も似たようなもの、だったか……」

 

 

 

 

スバルが駆け寄って、手を貸そう、若しくは握手を交わそうと伸ばした。

その手を握り、ゆっくりと力をいれて身体を起こした。そこに、少女とエルザを吹き飛ばしたクルルも合流。

 

 

「ほんと、終わったのね。ありがとう」

「お礼はあの子、フェルトにどうぞ。あの子の声がなかったら、ここに来れてないよ」

「………そう」

「まま、フェルトが彼を呼んでくれなかったら、俺達は全滅してたんだ。可愛い顔を歪ませず、スマイルで行こうぜ! 兄妹!」

「歪ませたりしてないし、解ってるわよ! すごーく失礼な気がする。それに、こんな弟要りません」

「うわっ! 辛辣なコメント!!」

 

 

頬を膨らませて、むくれる少女。笑う2人。

この倒壊し、殺伐とした修羅の場が和んだ瞬間だった。

 

 

「さあ、あのお爺さんには少し待って貰うから。貴方の方を優先するわよ」

「まあ、それくらいは我慢して貰っても良いと思うぜ! 徽章を盗んでなけりゃこんな事にならなかったんだし? ポコポコ何度も殺られて、ようやく助かった命だし? オレが納得させる!」

「何だか、貴方がそう言うのって、すごーく釈然としないのだけど。それに、何度も殺されるって言うのもすごーく変」

 

 

少女は手を翳して、ロム爺に施していた治癒の魔法を使う。

 

それを見たツカサは軽く手を振った。

 

 

「ああ、多分それは意味ないと思う。これは、治せる類いのじゃ無いよ」

「?? あっ、あれか! 力を、パワーポイントを使いきっちまったから、傷とかじゃなく時間じゃないと、消費は回復しない、ってやつ? エムピーとはまた違う感じ? って感じでどーよ!」

「?? ちょっと何言ってるのか解らない」

 

 

多分、恐らく、ほぼ間違いなく……眼前の男の方が、ツカサが探してる、調査していた原因系であることは、把握している。

 

最初の質問の時からだ。表情で察しただけだから、確実な言質は取れてないが、間違いないだろう。

 

街中で初めて出会うタイプ。着てる服もそうだし、口調もそう。怪しさで言えば、自分と大差ない。

 

自分自身は出会いが良かった。

直ぐに信頼された。

 

直ぐに終わったとは言え、世界を何百年も蹂躙し続けてきた魔獣:白鯨との遭遇。

 

そんな、決してツカサにとってここにも負けないくらい、とんでもない場面だった事が功を成したと言える。

 

 

今見たところ、この少女と男の関係性は薄そうだ。

 

 

 

 

それは兎も角として、また気を伺いながら、本題を聞いてみる事にしよう、とツカサは思った。

 

少なくとも、悪い人間ではないと言うことは解るから。強烈な悪い人間を見たばかりだったから、尚更思う。

 

 

今は、まだまだ手に残る嫌な感触。殺めてしまった事実と向き合う事に時間を掛ける方が良い。

 

 

どれだけ 時間がかかったとしても、拭いきれないものかもしれない………。

 

 

 

「ありがとう」

「?」

「私たちの為に、ありがとう」

 

 

 

そんな自分の心情を察したのか、いつまでも手を見る仕草から感付いたのか、効かないと言っているのに、癒しの光を当て続ける少女。

 

そして、男の方も 察したと言うより空気を読んだのか、この時ばかりは先程のような嫉妬心、対抗心をむき出しにすることはなく、頭を下げていた。

 

 

「腸を求められるより、こっちの方……だよね」

「はは、そりゃそーだ」

「そんなすごーく物騒な単語、もう暫くは聞きたくないわね」

 

 

 

ははは、と笑いあっていたその時だった。

 

 

背後から、殺気を感じたのは。

気を殺し、息を殺し、積み上がった瓦礫の山の音さえ殺し、出てきたのは 死んだ、殺したと思っていた殺人鬼エルザ。

 

ツカサには、奇襲による攻撃。意識の死角からの攻撃しか通用しないと結論着けた。エルザ自身の気持ちとしては、心行くまで堪能したい最高の相手ではある、が、彼女もプロの暗殺者。

 

気持ちよりも、結果を、成果を出す方を優先させると決めた。

 

 

そして、彼は後で改めて愛せば良い、と。

血と贓物を心行くまで……。

 

 

 

足音、全ての音を極限まで殺し、接近する。

 

 

気づけたのは、殺気を感じたツカサと、対角にいた男、スバル。

少女、効かないと言われても試したい、出来れば治したい、と治療に専念していて気付けない。

 

 

 

 

「危な――――」

 

 

 

 

背後から迫る凶刃。

 

それに、間に合わせるのは無理だった。身体を動かすのは無理だった。

ただ、叫び声だけは 出せた……、それだけだ……。目の前の恩人が鮮血に彩られる場面を想像してしまう。

 

最悪の光景。

助けてくれた人が殺されてしまう最悪の光景をスバルは幻視してしまう。

 

 

 

そして、スバルだけでなく、ツカサも同じくだ。

殺気を感じた、あの殺人鬼エルザが、あの致命傷から復活を果たした事を瞬時に理解したが、どうしようもない。

 

 

時間逆行の身体への負担に加えて、この戦いでの消耗。

 

 

「(揶揄者(ザ・フール)は、もう無理………。クルルは、間に合わない。終焉読込(エンド・ロード)……か。身体は持つか……? クルルに何とかして貰えるか?)」

 

 

 

色んな最悪の可能性を頭のなかで巡らせる。

どうなるか解らない、最悪これで本当に終わりかもしれない。

 

力を発動させるには燃料である魔力、マナが必要だ。

 

ここまで、色々とズタボロになってる現状。最悪の想定をしてしまうのは当然。

それでも、不思議だった。

 

ツカサは、最後の力、と言わんばかりに気付いたら 暴風の化身 テンペストを前に放っていた。

 

治療してくれていた少女も、友と呼んでくれた男も弾かれる。

凶刃の範囲外へと。

 

 

この死に直面するとき、恐怖はあったが、自分よりも他人を護ろうとするような行動を取った事。

 

覚えてないが、自分はそう言うことを咄嗟に出来る。することが出来る男なのだ。

 

 

自分の命の方が大切、と考えるのが一般的だと思っているのに。

 

 

 

 

 

――――誇らしいな。

 

 

 

 

 

手を伸ばす2人を見て、軽く笑う。

 

でも、誇らしいかもしれないが、格好は良いとは言えない。助けに入ったは良いが、返り討ちにされてしまう形なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、誰もが想像さえしなかった事も起こる。

 

死んだと思われたエルザが復活を果たした事と同等クラスに驚くべき事が。

 

 

 

ツカサが開けた盗品蔵の天井。空が見えるそこから、1本の剣が飛来してきた。

 

 

 

それは、正確にエルザとツカサの間に突き刺さり、ツカサに凶刃のが突き刺さるのを阻んだ。

 

 

 

 

未来()を読む君らしくもない油断だったね、ツカサ。でも、無事で良かった」

 

 

 

 

そして、燃えるような赤い髪の男、ラインハルトがこの場に降臨したのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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屋敷の一週間
真夜中の晩餐会


ラインハルトさんが圧倒するのは決まってる事なので、キンクリ……ではなく省略気味w


 

 

「まぁ、たまには こーいう深夜の食事会、そんな趣向も良いじゃなーぁいかい?」

「そうそう、君には聞きたい事山ほどあるしね? ロズワールもこう言ってるから、ちょっと付き合ってよ」

 

 

 

 

 

腸狩りとの死闘、それが終わりを告げ 今 次なるステージへ。

 

 

これまでの数日間、ルグニカ王国で過ごしてきた衣食住環境を考えたら、一足飛び足……どころか、何足も飛び越したかの様な位の高い場所へと誘われていた。

 

 

ツカサとしては、あの後―――色々(・・)とあって、彼……スバルに聞きたい事が聞けなかったので、ラインハルトの提案、アストレア家にて、客人として持て成すと言う歓迎も断りを入れ、スバルの方を優先させたのである。

 

 

 

―――確かに話は聞いてない。だが、ツカサの中ではある程度仮説が組み上がっていたりする。

 

 

ここで、少々時を遡ってみるとしよう。

 

あの死闘。

 

 

 

――結論から言うと、襲撃者である腸狩りのエルザは逃亡。スバルが重症である。

 

 

 

 

 

あの場面。

腸狩り、と名乗る殺人女エルザは 完璧に不意を突く攻撃が出来ていた。

実際、あのままツカサを突き刺していれば これまでの様な幻視ではなく、現実のものとして現れていただろう。

 

そんな窮地をまるで白馬に乗った王子サマを連想させるかの様に、颯爽と現れ救って見せたのがラインハルト。

 

 

そして ラインハルトは、剣聖の一撃を持ってエルザを消し飛ばした。

この世界の頂である、と称した直感が正しかったと認識した瞬間でもある。

 

 

剣聖の一撃は、あまりにも強大。剣聖を象徴するとも言って良い彼の本来の剣を抜く事なく、ツカサと同じように盗品蔵の中にあった一振りの剣で、エルザを消し飛ばしてしまったのだ。

 

 

ツカサに貫かれ、吹き飛ばされた後は、今度はラインハルトの天を割るような一撃で消し飛されてしまった。

 

何度も何度も驚かされてきた女ではあったが、流石にこれ以上は無い……と高を括っていたのが、また間違いだった。

 

厳密には違うが、自分(・・)は3度死に3度生き返っている。

エルザはまだ2度目だ。

 

あの致命傷から立ち上がってきた事もしっかりと頭の中に入れておくべきだった。

 

殺人鬼(エルザ)も2度立ち上がる。

 

 

狙いはツカサでも、ラインハルトでもない。

 

 

心底戦闘を楽しんでいた戦闘狂は、この時初めて本来の標的に牙をむいたのだ。

そう―――少女エミリアに。

 

 

ラインハルトからは距離があり過ぎる事、ツカサ自身はまだ動けないと言う事、何よりラインハルトが消し飛ばしたと思っていた心理の隙をついた事も有り、最悪の展開が起こりそうだった矢先、唯一動ける男、スバルが男を魅せた。

 

 

 

 

これまでにあった余裕の類は一切ない一瞬の邂逅をたった一発に賭けているエルザとエミリアの間に入り、ロム爺の棍棒を盾に彼女を守って見せたのだ。

 

 

 

 

 

 

ここだけを見れば、スバルが最後にエミリアを救って大団円となる筈だったのだが……。

 

 

一体何処の達人技だ? とスバル自身も言いたくなるような事が起きた。

 

全くスバル自身も気付けていなかった。

エルザの振るった渾身の一撃は、棍棒を盾にしていたのだが、その棍棒ごと腹を斬られていた事に気付けなかった。

 

 

数秒後……、スバルが助けた少女エミリア。まだエミリアと言う名を知らなかったから、助けたお礼に名を知りたいと願った。

願いに応える為に、心からお礼を言う為に 少女はエミリアである、と告げたのだ。

 

その直ぐ後に、和気藹々とした空気だった筈なのに……スバルの腹が開き、噴き出したのである。

 

 

 

 

 

 

 

そして、色々あって スバルもツカサも、エミリアと遅れてきたラムと共に、ロズワール邸へ。

 

因みにオットーとは別れた。

《大分雑な扱いを!》 と嘆いていたが、言ってる意味を理解出来た者は殆ど居なかったので、また今度……と爽やかに。

 

正直、オットーには悪いと思っているが ツカサ自身にも優先順位と言うモノがあるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今。

ラム・エミリアが先に状況を説明。

峠を越したとはいえ、未だ予断を許さないスバルの状態を更に良くする為に、行動し…… そして、スバルの治療が行われている間に、ツカサがこの超豪邸の主であるロズワールと面会した………のだが、いつの間にか、時間が少々遅れすぎている晩餐会が始まったのだ。

 

 

 

「本当は、スバルも挟んで、色々とお話をしたかったんだけど、パックやロズワールがどうしても、って聞かなくて……。ほんと困った人(?)達でごめんね? ツカサもすごーく疲れてると思うのに」

「いや、こっちは大丈夫ですよ。大分休憩も取れましたし。今は……、ちょっと圧倒されてるだけだから……。これまで 野営が基本だったし、城下町では格安宿を手配してもらうつもりだったのに、こんな大豪邸…………。それもこんな深夜にこんな豪勢な………」

 

 

 

振り返ってみてもまだまだ足りない。

本当に色々とあった。

 

それに、ここ数日間の事を考えたら、あまりにランクが上がり過ぎた超豪邸で招待されて、混乱も極まっているかもしれない。

 

 

「お客様お客様。お気遣いなさらずに、どうぞごゆっくりと」

「お客様お客様。過労で倒れてしまうと面倒だからゆっくりしときなさい」

 

 

「倒れる、って言うのは笑えないね。事実 ラムの前で倒れた事あるし。……それに取り合えず、ラムも色々と驚かされた要員の1つ、って感じかな……」

 

 

桃色髪のメイド、ラムもどうやら このロズワール邸で働くメイドだった様だ。

そして、これも初見では驚くだろう。ラムと瓜二つの顔があったから。

 

ラムの双子の妹、名をレムと言う。

 

ラムとの息の合った行動や言動は、中々に混乱させてくる要員の1つだったりしている。

確かに疲れはある程度は大丈夫となったとはいえ、頭の中が大変なのは変わらないから。

 

この双子を見分けるポイントは、違う色の髪。レムは青い髪。そして2つ目に言葉遣い。ラムは少々乱暴気味なのが目立つが、レムは懇切丁寧。

3つ目は………身体的特徴に、かなり接触する事柄なので、割愛。

 

 

そして、ツカサにとってこれまた色んな意味で助かるが、色んな意味で心労も味わされると言う極めて珍しい事柄が起きていたりもする。

 

 

「きゅきゅっっ!」

「クルルほら、これ食べてみるのよ」

「きゅ~~♪ きゅ~~♪」

「(きゃー、なのよ!)………ふ、ふんっ! 何食べても自由かしら? ベティが許すから、どんどん食べるのよ。そこのニンゲンも、悪い奴じゃない事は解ったかしら。だから、さっさと歓迎されるが良いのよ」

 

 

精霊クルルを膝に抱え、小動物を扱うかの様に並べられた豪勢な食事をスプーンを使ってせっせと甲斐甲斐しく、忙しなく、クルルの口に運ぶ少女…… いや、幼女が1名。

小動物にしっかりと世話をしてくれている幼女の絵面。

名をベアトリス。

 

勿論、只者ではないのは明らかで、色々と察している。

 

ぱっと見ただけでも、この見た目幼い姿なのに、この深夜まで起きている事……もそうだが、何より飲酒をしている方。一切顔色を変えずに飲んでる姿を見ても……。

 

 

 

このロズワール邸に来て怪訝そうな目で見てきていたが、いつの間にやらクルルと仲良くなってしまっていた。

 

 

 

この幼女+小動物の絵面。

微笑ましい光景ではあるが、クルルの事を知っている身からすると、そこまで笑っていられるワケも無い。

クルルのお陰で、歓迎ムードになってくれたこの幼女……ベアトリスだが、先の闘いでクルルの扱い(剛球ストレート)を聴いたら、怒り狂うかもしれない事もある意味悩みの種だったりしている。

 

 

 

「ベティがこんなにも仲良くなれる精霊と出会えたのは、僕にとってもスゴク好ましい事だよ。改めて、感謝の意を……だね、ツカサ」

「いや、ほんとに何もしてないんだけど……、気付いたらクルルの方が懐いた、みたいな感じ? 受け入れてくれたベアトリスさんにこそ感謝だよ。……扱いづらいし」

「クルルを扱いづらいとは、何たる暴言かしら? クルルは今に最高の存在になるのよ。にーちゃとベティの次くらいの」

 

 

本当の意味で沢山の種に囲まれて、ツカサは苦笑い。頬をポリポリと掻くと、上座に座っていたロズワールが パンっ! と両手を合わせて宣言。

 

 

「さぁさぁ、親睦を深めて行こうじゃなーぁいか。我がメイザース家は、君に多大なる恩義ができたわけだーぁからねぇ? も・ち・ろ・ん? まだ眠ったまーぁまのナツキ・スバル君も同様だ。もう大丈夫。必ず助かると約束しよう」

 

 

当然、ほんの数時間前に、スプラッタな光景を披露したスバルはここには居ない。

そして、少々略したが、ツカサがこのロズワール邸に来た理由は、スバルにある。

 

 

「かの剣聖の提案も首を横に振り、我がメイザース家にまで来た きーぃみの目的は、スバル君に用があるから、ここに留まったと聞―ぃているよ? まーぁさか、男色家とはわたぁしも思ってなかったけどね。まーぁ、君とはわぁーかりあいたい気が存分にするよ」

「………ものすっごく迷惑な冤罪発言をイキナリするのは止めてくれるかな? 心の底から否定しておくよ。俺にそっち(・・・)の趣味は無い。……後、ラムもレムさんも、そんな目で見ないで。地味に傷つくから」

 

 

何の脈絡もなく、男色家(ホモ)疑惑をぶっこんできたロズワールに、苦言を呈する。

妙に慌てたり、やや大袈裟な表現をしたりすると、突然生まれたヒドイ冤罪いえ、この豪邸であり、ここらの一帯の領主様でもあるロズワールの言葉の方の信憑性? が完全に勝って誤解が深まりそうな気がする、と言う事を心得ているからだ。

 

 

何処で心得たかは解らない。言うなら魂にでも刻まれていた、と言う方が正しい。

 

 

 

そんな表情をあまり変えない様子だったからこそ、ホモ疑惑は何とか回避できた……と思っておこう。数歩後ろに引いて、まるで汚物を見るかの様なラムやレムの様子は和らいだ、と。 世の中には、同性愛者と言う者はきっと居るだろうから、話を聴いただけで、本人(ではない。仮定の話)の前でそんな視線を向けるのは如何なモノかと。

 

 

「姉様姉様。ああおっしゃられてますが、信用に足る方でしょうか」

「レムレム。ああおっしゃられても、信用するのは難しいと思うわ」

 

 

「レムさんは兎も角。ラムは オレに1つ2つ借りが出来た、とか言ってなかったっけ?」

 

 

 

はぁ、と大きくため息。

 

もう忘却の彼方にされてそうな気もするが、一応。

ラムと最初に出会った時、彼女は迷子(・・)を捜していた。

 

探す為に、オットーやツカサと手を組んだ。

 

結果―――見つけ、合流する事が出来た。ある意味 巨大な風? の様なモノを目印にしてくれたから、ツカサのお陰である、と言ったも良い。……それに、ツカサ自身も迷子の彼女(・・・・・)に、ラムの事を聞いて裏を取っている。

 

 

そう――――迷子とはエミリアの事。

 

 

 

成り行きとはいえ、エミリアを第一に発見したのはツカサ。

ココから、ラムにとっての借り発言に繋がるのである。

 

 

 

 

それを見ていた少女―――エミリアは堪えきれずに笑っていた。

 

 

「ふふ、ふふふっ」

「はぁ……、こんな色々大変なのは、今寝込んでる彼に責任を押し付ける事にしますか。……もっとも、スバルは、血涙でも流しそうな気がするけどね? 今日のこの晩餐会の場に居ない事に」

「け、血涙? 血の涙!? どうして??」

「ん? それは………」

 

 

エミリアの方を見て、そして考える。

あの場のスバルの様子を、出会ったばかりだと言うのに、ほんのちょっとだけ、エミリアが治癒魔法の為に、と接触しただけだと言うのに、ああも敵意……恋敵とでも言うべきだろうか、そんな嫉妬の念を向けられ続けていたのだ。

 

 

こうも、エミリアが笑う場面。

 

 

スバルが見れず、自分が見たともなれば、騒がしくなるのは目に見えている。

 

 

「彼に……スバルが起きた時にでも聞いてみると良いよ。大分騒がしくなると思うけど」

「う~ん……、すごーく解る気がするけど、何だか残念な気分」

 

 

そう言って笑い続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてもまぁ、ツカサには感謝だけど、僕はクルルにも感謝してるんだ。マナ不足だったから姿を出すのは無理だった筈なのに、見た事も無い術式で僕にマナを供給してくれたんだから。こんなの今まで無かった事で驚いちゃったよ。結構長く生きてきた精霊なのにね~ 僕」

「きゅ? きゅきゅ??」

「そっ、君だよ、君。クルルの事言ってるんだ。ありがとーって」

「きゅ~~っっ♪」

「にゃーーんっ♪」

「はわわわ! にーちゃにクルル、最高なのよ~~♪」

 

 

 

 

普通に会話していた筈の猫のような精霊、パックがクルルと話? をしていて猫鳴き声になった時は、思わず吹き出してしまう。

ベアトリスもパックとクルルに囲まれて、ご満悦な様子だった。

 

 

そんな時、ロズワールと目が合った。

その化粧姿と口調は、中々慣れそうにない、と言うのが最初の印象だったが、今は割と普通だ。

 

 

 

「……聞けば聞く程、きーみはずぅ~いぶん型破りなお人のよぉーだ。マナが枯渇した大精霊様にマナを与えた事もそぉーだが」

「いや、その辺はあのクルルってのが色々とありまして……。それもどう説明したら良いかが解らなくて、混乱の要素になってます」

「ふっふっふ、謙遜はよぉーしたまえよ。それにエミリア様から聞いている。剣聖の全力の前で、魔法を発言させた、と」

「??? それは言ってる意味がいまいち……」

 

 

ロズワールの言葉に首を傾げていると、横で勝手に話しちゃった事がばつが悪いのか、エミリアは少々困り顔になりながらも、理由を説明。

 

 

 

「ほら、ラインハルトが本気を出した時……、ツカサが私達を守ってくれたよね? 見た事ない魔法だったけど……、壁を張ってくれたでしょ?」

「?? ああ。そうだったね。……ラインハルトの一撃が、その余波が絶対にこっちに来る、って言うのは解ったから」

 

 

アストレア家の剣撃を魅せる、と言うラインハルト。

剣を構えると同時に、その剣が光り輝き――――そして、天を割るかの様な一撃を振るった。

 

 

そして予想通り、想像を遥かに超えた余波がこちらへとやって来たから、咄嗟に壁を張っていたおかげで、被害なく済んだのだ。

スバルは、《お前の方が怪物だー!》と称していたが、その通りだと思う。

 

 

「その、それがあり得ない事なの」

「?? それってどういう……?」

「その、ラインハルトが本気で戦うと、周辺のマナは全部ラインハルトに集中しちゃうから、精霊使い()もそっぽ向かれちゃうの。それはマナを使う魔法にも言える事で、彼の本気を前にしたら、魔法は一切使用不能になるから」

 

 

つまり、ラインハルト本気verは、魔法使用不能領域(アンチマジックフィールド)の役割も果たしているとの事。

もし、魔法のみが攻撃や回復手段だったとしたなら、ラインハルトと相対しただけで終わりと言う事だ。

 

 

「性能と言うか特殊効果って言うか……凄いね。反則気味だ」

「そぉーだね。王国最強の名を欲しいままにしているのが、剣聖の称号だーぁよ? ……だからこそ、驚いてるんじゃなーぁいかな? 彼を知る者ならば、皆が知っている現象、騎士の間の常識。それを覆してしまった君の正体ってヤツにも すごーーぉく、興味があるんだぁ」

「ロズワール。リアの口癖真似るのは止めてってば すごーく は、リアだけ」

「おっと失礼」

「そ、そんな事気にしなくて良いのに」

 

 

 

 

 

この後、ツカサは 色々と説明。ラインハルトは信じてくれたが、ココに居る面子が信じて貰えるかどうかはさておき、説明はした。

 

 

オットーと出会い、白鯨と言う魔獣と遭遇し、ルグニカの城下町に来た事までを全て。

 

 

パックが読心が使える事は知っていたが、例え事実とは違っていても、自分が信じて疑わない(・・・・・・・・・・)ような狂人染みな思想をしていたとしたら、読心は意味を成さないだろう。

 

そう取られないと言う保証も無かったから正直 100%の安心は出来なかったりする。

 

 

 

因みに、その説明した事の中で、一番驚かれたのは《ラインハルトに勝った》と言う事だったりする。

 

 

ただの遊び事なのに……。

 



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ナツキ・スバル、再スタート&ダウン

 

 

ナツキ・スバルは見知らぬ場所で目を覚ました。

 

見知らぬ場所、その天井をいつまでも眺めてられる程、じっとしていられない性格。故に早々に身体を起こし、この場所を探検。

 

時折愚痴を零し、苦言を呈し………そして辿り着いた。

 

 

 

 

「――――で、元居た部屋がループの脱出口とはな……、それにしても本手以外と場所取るし、重いから数持つのも困るよなー、ここって、まさしく書庫って呼ぶしかない場所だし? 場所取るってレベルじゃねーけど」

 

 

 

まず最初の関門は無限にループする廊下。

現代っ子なスバルは、早々にループ現象を把握。

この廊下は同じ所をぐるぐると周り続ける、このまま餓死するまで放置か? とも思ったが前向きにとらえる。

 

そして、ループ物のラノベを漫画を読み漁ってきた事と、元々自身が持ってるフラグクラッシャーを思い出して、突破した。

 

 

スバルは、以前から相手が丹精込めて構築した手順を……あら不思議? あっさり破って一足飛び足で、と言うのが日常だった。

 

 

俗に言う《空気読めないヤツ》なのである。

 

 

 

 

 

「いきなり他人の書架をずけずけ眺めた挙句にため息。……なんて腹立たしいヤツなのよ。屋敷にやってきた人間の男2人。こうも性質が違いすぎるとなると、狙ってやってきたとしか思えないかしら? クルルとの一時、余韻。気分が全部台無しになったのよ」

 

 

そして、その空気読めなさは、眼前で座っている幼女の事も半ば無視していた……が、流石に無視し続けるワケにはいかないので、今度は バッチリと目を合わす。

 

 

「おっと、第一村人発見! さぁさぁ、君の名前、教えてくれ!」

「イキナリやって来て、名乗れとは礼儀知らずにも程があるのよ。お前に名乗ってやる名なんて無いかしら」

 

 

明らかに気付いていた癖に、と言うツッコミは無しだ。

ただただ、広いオデコに皺が寄ってるだけで。

 

 

「そーんなツンツンしてるとかわいい顔が台無しになるぜ? ほれほれ、スマイルスマイル♪」

「フンッ、ベティーが可愛いなんて当たり前かしら。お前に見せる笑顔なんて嘲笑だけで十分なのよ」

「はっはっは! ってそれよりもさぁ、村人兼キティちゃん」

「ベティーかしら!! 礼儀知らずにも程があるかしら!」

 

 

押せば押しただけ反応が返ってくる。

あまりにも面白い、とスバルは益々調子を上げていく。

 

 

「ほうほう、成程! 村人兼ベティーちゃんね! まっ、不機嫌なのは粗方想像がつく。オレがこの部屋を簡単に見つけたからだろ?」

「お前が無礼極まりないからに決まってるかしら!! 何で此処まで極端なのよ!!」

「さっきから性質が違うだの極端だの、それって アレか? オレ以外にもここに来たヤツ………えっと、名前は………あ、聞いてない!」

 

 

命の恩人の名を聞けてないとは何たる醜態! とスバルは大袈裟に頭を抱えた。

 

だが、それもほんの一瞬。

スバル自身の最大最高の目標は、エミリアを助ける事であり、彼女の名を聞く事だったから。名は聞けてないが、この屋敷に居る事は解ったので、それだけで良しとする。

 

 

「えっと、ほれ! 緑色のモフモフ、キラキラした動物飼ってた―――名前は知んねーけど、カーバンクル連れてた男もここに来てる、って事で良いのか?」

「ふんっっ! 応えてやる義理なんてベティーには無いのよ」

 

 

ぷいっ、と顔を背ける仕草をしても愛らしい可愛らしい、からかい甲斐がある。

なので、スバルは調子を落とさずに尚も詰め寄った。

 

 

「おいおーい、簡単に見つけちゃったのは謝るからさー? 昔っからこういうの1発で正解引き当てちゃうんだよ、オレ」

「別に。珍しい事でもないかしら。お前に破られたのは腹立たしいけれど、扉渡り(・・・)を破ったのはお前だけじゃないのよ。ただ、お前の場合は全てが腹立たしいから、余計に胸糞悪くなるかしら」

「なぬっ!? オレ同等の空気読めないヤツだったのか! まぁ? エミリアたんが触れ合おうとしたとき、負けらんねー感が沸々とオレの中に闘志として湧き上がってた覚えはあるし? つまりアレだ! 宿命のライバル! と言うヤツなのだ!! ………ケンカしたら一瞬で負けるけど!」

 

 

ベアトリスは、座っていた椅子からゆっくりと立ち上がった。

 

 

「お前が情けなくて、1人でサラッとやられて、今の今までグースカ寝っぱなしだったって事はベティーはよく知ってるのよ。………モツを戻す時、テキトーに崩してやった方が良かったかしら」

「あん? なになに?? オレっちの傷治しちゃってくれたのは エミリアたんだぜー? 手柄横取りは堪忍できませんな! うんうん」

 

 

エミリアの治癒魔法に関してはスバルは間近で見ている。

斬られたロム爺のかなり大きい切傷が閉じていく摩訶不思議な光を見た。そんな神業を見た。それに、この目の前の幼女、それも明らかに嫌悪感満載の幼女が治療してくれるワケない、とも思ったから、エミリア以外ない、と結論付けたのである。。

 

 

「……ここまで疲れるヤツなのよ。ロズワールも、勝手を許すからこんなわけわかんないヤツと会う羽目に。……ほんと折角クルルと出会って気分良かったのに、全て台無しかしら」

「さっきから聞いたし、何となく聞いた覚えもあったけど、クルルって可愛い名だな!! っとと、それよりもまぁまぁ、お互い様って事で水に流そうぜ! ってな訳で、ここどこよ? 場所教えるくらい良くね? 良くね? 今後○○部屋には近づかない様にしよー! とか、検討する事出来るし?」

「……ベティーの書庫兼寝室兼私室かしら」

 

 

確かに、場所の名前を教えたら、もう来ない、来ない様にする、となれば良いと思い、ベアトリスは質問に答えた……のだが。

 

 

「………おお、釣れてくれるとは思わなかった。オレは きっと、ここには近づかないよ! って雰囲気を装った事で額面通りの答えをして貰った事にガッカリすべき? それとも寝泊まりとか自分の部屋が無いのを憐れむべき? それとも書庫を私室扱いしちゃう部分を微笑ましく思うべき?」

「なんたる言い草なのかしら!!」

 

 

さらっと嘘である事を告げられて、再び激怒。

そして、ベアトリスは 立ち上がって イラつき、少し抱えていた頭を元の位置にまで戻す。

僅かにその縦ロールのヘアースタイルがバネの様に動き、ますますスバルの悪戯心を刺激する……が、それも出来なかった。

 

 

「そろそろベティーも限界なのよ。ちょっと思い知らせてやった方がいいような気がするかしら」

「おいおい、ちょっと待てって。捕虜虐待とか前時代的だ。やめよー? オレ戦闘力0の村人だぜ?」

「―――動くんじゃないのよ」

 

 

スバルの軽口にも、もう付き合わない。

そして、スバルはその瞬間、背筋に冷たいモノを感じた。ゾッとするとはこの事を言うのだろうか。これまで感じていたからかう為の楽しい空間、弄れば弄る程楽しい反応が返ってくる憩いの場の様な空間が消し飛んだ。古い紙の匂いがしていた筈なのに、それも吹き飛んだ。

 

ただただ、極寒の冬空の下で、キンキンに冷えた冷水を頭からぶっかけられたかの様な、寒気。震えが止まらない。

 

 

「何か言いたい事でも?」

 

 

ベアトリスは既に手の届く位置まで居た。

見れば見る程ただの幼女。手の届く位置からしても、真っ直ぐ前に伸ばして スバルの腹部。

無邪気な幼女が突如、何かに代わった瞬間でもあった。

 

これ以上は触れてはならない、と最善の手を模索する、現状を打開する一言を選ぶに選んだ結果……。

 

 

「い、痛くしないでね」

「度胸だけは褒めてやるのよ。ベティーを前に、ここまで軽口も徹底してるとなると。……生憎、痛いかどうか、それはお前次第じゃないかしら? それに―――もう1人の男(・・・・・・)は、普通に立ってたのよ」

「い、いや、アイツの実力は半端ないって言うか……、オレは戦闘力0の一般人……っっ!?」

 

 

ベアトリスの手がスバルの腹部を優しく撫でたかと思ったその瞬間、まるで全身を炎であぶられたかの様な錯覚が起きた。

 

 

 

熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い、熱い、痛い。

 

 

 

身体の中を何かが暴れまわっている。

 

 

「ま、所詮は 多少頑丈な程度なのよ。比べたベティーが悪かったかしら?」

「ッ、ッッ……、な 何しやがった………、このドリルロリ……」

 

 

ベアトリスは、崩れ落ちたスバルの前で膝を追って視線を合わせた。初めて真っ直ぐ見た気がする。そして漸く気付けた。その瞳は……、その瞳は人のモノではない、と。

 

 

「ちょっと体の中のマナに聞いただけなのよ。凡庸なのに、変な魂の形をしてるかしら? ゲートも閉じっぱなしみたいだし。敵意がないのは確かめられた。これまでベティーに働いた散々の無礼も今のマナ徴収で許したげるかしら」

「おまえ……、人間じゃねぇな……? この場合、性格的な意味、じゃなく……、そのみょうちくりんな、目は……」

「まだ軽口を言える余裕があるのよ。もうちっとマナ徴収すべきかしら?」

「っっ……!!」

 

 

あの衝撃が再び来る、痛いのと熱いのが無限に襲ってくるような感覚。

恐怖を覚えた。嫌だと思った。憤怒する気概すら消し飛ぶ。みっともなく流れる涙の意味も変わってくる。―――懇願に。

 

 

そして、ベアトリスの手がスバルに伸びかかったその時だ。

 

 

 

「きゅきゅきゅ~~♪」

「こら! 明日って言っただろ!」

 

 

扉の先が騒がしくなってきたのは。

不意にベアトリスはスバルから手を離す。

 

 

すると、扉をバンッ! と開くや否や、閉ざしかけたスバルの視界の端に、あの緑の小動物の姿が映った。

 

 

「クルル!」

「きゅ~~♪」

「……ベアトリスさん。スミマセン……。こんな時間にコイツ、目を覚ましちゃったみたいで……。会いたい会いたいって聞かなくて。(クルルが気に入ったのか、中身のヤツ(・・・・・)の仕業なのか、もうほんと解らん……)」

 

 

クルルはベアトリスの胸の中に飛び込むと、ベアトリスもクルルを抱きとめた。

 

 

「って、アレ……!? なんでこんな所で寝てるのスバル。寝相がここまで悪い、とか?」

「そんなん……、じゃ、ねぇ………」

 

 

息も絶え絶えと言った様子のスバルを見て、ベアトリスも見て……、その表情も見て大体察した。

 

 

「ベアトリスさんとケンカでもした? 見知らぬ所で大きく出ようとするのは危ないよ、いや、ほんと……。ある程度は大人しくした方が絶対良いと思う」

 

 

来訪者であるツカサは、スバルの肩に手を回して担ぎ上げた。

 

 

「ケンカなんて幼稚な事してないのよ。散々無礼を働いた分、身体中のマナを弄って徴収しただけかしら?」

「………なるべく、なるべく穏便にお願いしますね」

 

 

身体を痙攣させてるスバル。

まだ意識は途切れてない様だ。

 

だが、その苦しみは表情を見ればよく解る。

 

 

「スバル、死んじゃ駄目だからな? 絶対に。……色々と確認(・・・・・)しないといけない事があるから」

「だれ、が……、しぬ……かよ。……あの、どりる、ろり、にもう一言………」

 

 

クルルと戯れているベアトリス。もうスバルの事は興味ないと言わんばかりだ。

 

 

「訂正……だ。あいつ、性格的にも……人間じゃ、ねぇや…………ガキ」

 

 

 

そこまで啖呵切った所で、ナツキ・スバルは意識を失った。

 

 

「……ここまでの力の差を見せつけられて、生殺与奪も握られた状況で、それでも悪態をつけるって言うのは真勇か蛮勇か……いや、多分間違いない…………」

 

 

完全に気を失ってるスバルの身体を抱きかかえると、ベアトリスの方を見た。

 

 

「すみません、ベアトリスさん。クルルの事、ちょっと頼めますか? そのお礼にマナ徴収ならしてくれて良いんで」

「良いのよ。クルルの面倒はベティーが見ててやるかしら? それと、マナの方は良いのよ。………お前にはもう既に、貰えるだけ貰ってる(・・・・・・・・・)かしら」

「ははは……」

 

 

苦笑いしつつ、部屋を後にしようと背を向けたその時。

 

 

 

 

「――――お前、何者かしら?」

 

 

 

 

背後から、ベアトリスの声が聞こえてきた。

ツカサは、ゆっくりと振り返って答えた。

 

 

「さっきの晩餐会の時に説明した以上の事は………。一応、パックにも嘘はついてない、悪意・害意はない、って太鼓判はしてくれましたが」

「………それはベティーも解ってるのよ。………お前、お前は…………その人(・・・)なのかしら?」

 

 

ベアトリスの真剣な顔がツカサの表情に刺さる。

ツカサは少しだけ考えて―――答えた。

 

 

 

「オレには失った記憶がありますから、完全に取り戻せてない記憶が。……だから、軽はずみな判断はできません」

「……解ったかしら」

 

 

 

 

 



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(モフモフ+フカフカ)×2

「十中八九……。多分間違いない。スバルが戻ってる(・・・・)。……その引き金(トリガー)は……」

 

 

完全に気を失ったスバルを担いで、彼の為に用意された寝室にまで連れて帰ったツカサ。

一応、部屋を聞いていてよかった……と思ったのは言うまでも無い。

 

このロズワール邸は異様なまでにデカいから、1つ1つ確かめるのは大変だし、何より 確かめようにも、そこがスバルの部屋だと確証出来る保証もない。

 

血だらけになった衣類は、レムやラムが洗濯する為に出してるので、目印になるだろうモノは、恐らく乱れた寝具くらいだろうから。

 

 

 

そして、考えるのは、やはり戻っている(・・・・・)現象、時空振の原因を見極める事。

ただ、戻るだけなら問題ないが、ツカサ自身とその戻り方は、頗る相性が悪いらしい。

とんでもない負担が、身体と精神にかかってしまうから。

クルル(の中のヤツ)に、《想定外》と言われたが、その声色は笑っていたので、全く真面目に考えてないのが解って尚更腹が立つと言うモノだ。

 

 

そして、スバルを改めてみる。

 

 

あのエルザとの死闘……修羅場。何度も何度も戻った現象。

間違いなくスバルが戻る為の条件は―――――。

 

 

()か。死から始まる力。……自分の死をなかった事にする為、時を巻き戻す。そう言う力……ッ!?」

 

 

結論付けたその時だ。

今の今までは、なんとも無かったこの空間が突如変わった。

極寒の地に突如丸裸で放り出されるかの様な寒気が身体を貫く。

 

 

貫いたかと思えば、今度はスバルの身体から、ナニカ(・・・)が出てきた。

 

 

どう表現すれば良いのか……、いや、表現するとすれば1つだけだ。

 

黒い手。

 

漆黒に染まった闇色の手、いや 闇そのものを具現化したナニカがスバルの胸元から飛び出てきて、こちらへと迫ってくる。

次元を固定されてしまっているのか、身動きが取れない――――が。

 

 

「ほいほーい、ちょっとストップストップ」

 

 

こちらも、いつの間にやってきたのか……、クルルが直ぐ横に来ていた。

ベアトリスと共にいる筈だった筈のクルルが。

 

 

「はぁっ、はぁっ……。ベアトリスさんの所で遊んでるんじゃなかったのか………っ」

「うん? 遊んでるよ! そこはほら? こっちでも楽しそうなのが有りそうだから、所謂分身ってヤツ?」

「………厄介なのが出てってくれたかと思えばこれか……。口調とか変わってるし、余計に神経逆なでされそうなのが嫌な所だ」

「あっはは~。パックと沢山話したからね? こっちの喋り方の方が精霊ッポイのかと思って、参考にしたんだ~~。やっぱり、その世界その世界で合わせてやるのが溶け込む秘訣だよね! っとと、それより」

 

 

闇の手は、迫る事を諦めてない様子。

だが、クルルの半身の射程ギリギリ外。それ以上は近づいて来ない。

 

 

 

「そっちの邪魔はしないから、こっちはこっちで楽しんでるだけだし? 安心してよ」

「そんなテキトーな言い方で、安心できる相手か」

「うん? してくれたみたいだよ?」

「………………」

 

 

闇の手は、クルルが言う様に 先ほどまでは近づいて来ないまでも、うねうねと手を動かしながら威嚇? していた様なのだが、今は違う。スバルの方へと戻っていき――――身体の中へと消えた。

 

 

「はぁ………、何なんだよ、アレ」

「さぁ~~?」

「……絶対解ってるような顔、せめて隠そうとくらいしてくれ」

「てへっ☆」

「……可愛くない」

 

 

確かに、パックが言う様にこの世界で顕現する為の源。精霊が活動する為に必須な源であるマナを供給してから、パックとはよく話をするようになった。

 

見た事も無い術式だと、最初は警戒されたが、彼はある程度の読心も行えるとの事。エミリアに敵対するつもりは毛頭ない事、そもそも 敵対するつもりなら あの修羅場で手を貸したり助けようとしたりしないと言う事。

 

でも、記憶損失の部分、その不安要素はあるから、警戒されても 文句は言わないと言う事も粗方説明したら、納得してくれて、晩餐会の時も含めクルルとはすっかり仲良くなった。

 

 

確かに一般的にはパック同様、クルルの姿も愛らしいのだろう。

ベアトリスを見ていてもそれがよく解る……が、魂の奥深くにまで刻まれ、クルル自身にも何でその感性が残ってるのか解らないとも言われる程のナニカが自分の中にあるのは事実。だから、皆程は 割り切れないし、そう言う類の隙も見せたくない。どうしようもない。

 

―――唯一 幸いな事は、クルルに対する感情に憎しみや殺意と言った負の感情は無いと言う事だろうか。

 

 

それに力を借りてる面もあって、感謝した方が良いと思う部分も当然あるが………、上辺の感謝ならまだしも、本能的に警戒心は常にMAXだから、これも仕方ない。

 

 

「一応……再確認しておこうか」

 

 

ツカサは、スバルの元へと再度いき、その直ぐ横に立った。

寝息を立てている。その表情も先ほどよりはマシだろう。

体内のマナを徴収された身体は、活動限界を超える、と聞いた。枯渇すると衰弱死するとも。

 

だがその心配はなさそうだ。

それに ベアトリスも流石に命までは捕るつもりは無かったのは解ってた。

 

 

「スバル。……君は死んで、世界を巻き戻してるんだな?」

 

 

問題は、あの闇の手。

この話は一応、スバル本人にも再確認をしておきたいのだ。……なのに、その度にあの手が迫ってくるのは勘弁願いたい。記録(セーブ)読込(ロード)で逃げる事は出来るが……、自分と違ってスバル自身が覚えて無ければ意味がないから。

 

 

そして、先ほどの様に あの手が出てきた切っ掛けであろう話題を口にした。

すると……さっきは、氷の様な殺意? 剥き出しに迫ってきていたというのに、その気配はない。

取り合えず安堵した。これで自分の為にもスバルに確認が取れる。

 

確認が出来るし、お願いも出来る。難しいかもしれないが、それでも 例え強力な力であったとしても、極限の苦痛、苦悶を得て、訪れる()。それを安易に選んで、使おう等とは普通思わない。思いたくない。

 

 

 

「………建前、か。オレ……結構嬉しいかも、しれない」

 

 

 

自身の能力は、他を置き去りにする。厳密に言えば、違う手段もあるが……その細かな詳細は後だ。

 

基本的には、戻す能力は 他を置き去りにする。未来ではなく過去に行くのだから、未来で何があったかなど、過去の人間が解るワケが無い。

知るのは、戻った当人だけ。

 

その都度その都度、最善を尽くす為の行為である事は重々承知しているし、限度と言うモノは当然ある。そもそも、戻る力を妄りに使うつもりもない。

 

 

だが、使う時は迷わないし、躊躇わない。……自分の心に従って使用する。

勿論、ジャンケンの時も迷わないし、躊躇わない! ………ラインハルトと対峙した時は、次元の流れ、乱れさえ感知してきそうな気がしたから、1度だけに留めたが。

 

 

 

 

 

 

「――――勿論、知られるのは誰でも、ってワケにはいかない。その点スバルなら大丈夫かな…………たぶん。また 時期を見て直接本人と話してみよう」

 

 

 

 

エルザとの事、死を重ねたのはイレギュラーだろう。

危険と隣り合わせな世界だと言う事は重々承知ではあるが、そう何度もポコポコ死んだりする事は無い筈だ。

ましてや、色々呆れる所はありつつも、それなりには好印象を持っているであろうエミリアが上であるこの領地。

 

周囲の森は魔獣の群生地だと言う話だから、危険は常に身近にあると言って良いが、その辺りはしっかり結界を施してあるそうなので大丈夫との事。

 

エミリアの事、ロズワールの事などなどは、昨日の晩餐会でしっかり聞いてるので、少しなら把握している。

 

少なくとも、外ならまだしも、この屋敷内で、本当に命を落とすような危険はないだろう、と思い ツカサは スバルの部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

――――数日後、それが間違いだった、と言う事は身をもって知る事になるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

ロズワール邸1日目。

 

庭園にて。

 

ツカサは、精霊クルルと共に庭園へと来ていた。

 

 

「それで? ベアトリスさんに迷惑かけたりしてない?」

「とんでもない! 実に有意義だったよ~~、って言ってるよ?」

「クルルはな。お前(・・)は変な真似してないか? って聞いたの」

「あっはっは。しないしない。言ったでしょ? 見て楽しむのが原則。関わるとしたら、クルルとして(・・・・・・)だから」

「はぁ……」

 

 

クルルの力については、理解出来ているが、どうしても中身までとなると話は別。

こうもあやふやで、ツギハギ。異常を感じない訳はない。中身が何か知っているという事も解る……が、聞いても答えないし、それこそ延々にループする未来しか見えないので、無理に突っ込んだりはしない。

 

ここまで訳が分からなくなっても、バラバラな感覚に見舞われても、世界崩壊しても、常人なら精神異常、発狂してしまうだろう事でも、とりあえずは大丈夫な程の精神力は持ち合わせている様だから。

 

それが幸運かどうかは正直解り兼ねるが。

 

 

そんな時だ。

 

 

「おっす! おはよう兄弟! 今日も良い朝だな! さぁさぁ、良い朝と言えばラジオ体操第2!」

「! おはようスバル。えっと、それにエミリアさんも。らじおたいそう、は解らないけど、数字は何となく解る……それでなんで第2? 第1を飛ばして?」

「おはよう。……と言うより、らじおたいそう、って何」

 

 

スバルとエミリアの2人と合流した。

スバルは朝からハイテンション。昨日の死にかけ状態が嘘の様だ。

 

 

「うおーーーっと、そうだそうだ! ラジオ体操する前に、する事があった!! オレ、兄弟の名聞いてない! エミリアたんの超優先し過ぎてて、恩人である兄弟の名聞いてない! すまんっっ!」

 

 

スバルは両手を ばんっ! と合わせつつ頭を下げた。

それを見たツカサは軽く笑う。

 

 

解っていた事ではあるが やはり、ここに来て―――数日。

スバルは 初めて見るタイプの人間の様だ、と。たまにある慌てた状態のオットーとはまた違う落ち着きの無さが光ってる。……光ってて良いモノかは不明だが。

 

 

「ツカサ。ツカサだよ。よろしくスバル」

「おおーーっと、ツカサかツカサ! 覚えたぜー♪ つか、ツカサ(・・・)、か。何だか似た様な名前だよな? 外国人風の名前ばっかで、初めて我が故郷に通じる名の兄弟に会えて、オレは今まさに感動を噛みしめている! どーよ、エミリアたんっ! オレのこの感動の大きさ、解ってくれたかい??」

「や、ちょっと何言ってるか解らないかな」

 

 

きらんっ、と顔を輝かせながら、エミリアに同意を求めるが、エミリアは 首を横に振っていた。

 

 

「それで、性は? 因みにオレはナツキ(・・・)・スバルな」

「ん……。スバルには話して無かったっけ? オレ、ちょっと記憶に障害があるみたいでさ。ツカサって事は解るケド、その他色々と無いんだ」

「っ、と……。マジか。やばいな。朝からヘビーな事聞いちまった。わりぃオレ、空気読めねぇトコあるから」

「大丈夫、その辺はもう十分過ぎる程承知してるから。見知らぬ所で見知らぬ人……ベアトリスさんといきなり喧嘩したトコとか見ても」

「そりゃそーだよね!! そーいや、兄弟には バリバリ見られてたの思い出した!」

 

 

ぐあっ、とスバルは頭を抱えた。

ぶっ倒れた所も見せているし、何より運んでくれた事もうっすらではあるが、覚えている。何より間一髪止めてくれなければ、今日と言う日を迎えれなかったかもしれない、とも思っていた。

 

 

「得体のしれない、って意味じゃ、スバルとオレは似てるって事で。とりあえず返事はしておくよ。兄弟」

「おおっ! とりあえず、ってのが寂しい所だが、あんがとな! 兄弟! ってな訳で」

 

 

スバルは、軽くジャンプした後、丁度エミリアやツカサの2人を見れる場所に移動。

 

 

「さぁさぁ、こっから始まりますよ! オレの故郷に伝わる由緒正しい準備運動! ラジオ体操第2! エミリアたん! 兄弟! ついてきなさーい!」

「え、えと……、じゃあ、少しだけ」

「ふんふん。了解」

 

 

 

 

宣言通り、鼻歌交じりにラジオ体操なるモノが、第1をすっ飛ばして、第2からスタート。

 

スバルの見様見真似で、身体をしっかり動かす体操を始め。

 

前に後ろに斜めに、色んな所に無理ない範囲で身体を伸ばし、時には捻じ曲げ、念入りに整えていく。

自然と心地良い汗を流す様になり――――。

 

 

 

「最後に両手を掲げて~~~、ヴィクトリー!!」

「ビクトリー!」

「び、びくとりー」

「きゅーー!」

「ビクトリー!」

 

 

終了となった。

中々心地良い余韻は、謎の充実感を齎す。

 

 

「よっしゃ、初めてにしては上出来だ2人とも! 2人には初段を授けよう! ラジオニスト初段!」

「はいっ! コーチ!!」

「中々どうして。程よく身体を動かせて……、んんん~~、何だか気持ち良い」

「きゅきゅきゅ♪」

 

 

ちゃっかり、一緒に体操していたクルルも、一緒に両手を掲げていた。

そして、それはクルルだけでなく……。

 

 

「良い朝だね、皆!」

「きゅっ!」

「にゃっ!」

 

 

クルルとパックのハイタッチ。

それを見てスバルも面白そうに笑った。

 

 

「肝心な時に寝ちゃったパック! オレのその後の活躍知らないでしょ~~? オレってばすっげー頑張ったんだよ~~?」

「うんうん、おあいにく。しっかりリアから聞いてるよ? でも、ツカサの方が圧倒的だと思うケドね~? 剣聖が来る前まで、あの女の子を相手にしてたのはツカサだし?」

「ぐっはぁっっ!! そりゃそーです! オレってば、必殺技は、火事場の馬鹿力。後はへたっくそなダンス。正直単調な動きしか出来ない、Lv1の村人だから! 兄弟と比較されちゃったら、困っちゃうっっ!」

 

 

またスバルは悶絶気味に頭を抱えた。

一頻り、パックはそれを見て笑うと。

 

 

「いやいや。危うくリアを失う所を守ってくれたのはスバルだよね? そこまで謙遜する必要無いよ。それに、リアだけじゃなくて、ツカサやクルルからも、スバルの活躍聞いたから」

「お、おぉ……、そんなにオレの事を評価を!?」

 

 

ツカサは、とりあえず笑って答えて、クルルも手を上に上げて答えた。

益々感動してしまって忙しないスバル。

 

 

「だからさ、スバルにもお礼しなきゃ、って思ってるんだ。たいていの願い事はかなえれると思うから、何でも言ってごらん? 例えば、ほら。無一文、とか言ってたからさ。直ぐにでも大金持ちにする事だって出来るよ」

 

 

パックの言葉。

当然嬉しい事極まれり、である。命張った甲斐が有ると言う事で、スバルは迷う事なく返事。

 

 

「んじゃ、好きな時にモフらせてくれ! あ、横のクルルも出来たら頼むっ! パックから頼んでくれ!! パックとクルルの両手に花を是非、この身に!!」

「「「!」」」

 

 

その願い(アンサー)に、皆が驚いたのは言うまでも無い。

驚かなかったモノは1人もいない。

 

 

 

「無欲。無欲が凄いってのも何か不思議」

「そ、そうよ! もうちょっと考えて決めても良いんじゃない? こう見えてもパックの力はほんとにすごいんだから!」

「そうそう。少しひっかかるけど、そうだよ。ボクは結構偉い精霊なんだ」

「きゅきゅきゅきゅ!」

「クルルは、《別にパックにお願いしなくても、ボクならいつでも良いよ》だって」

「えっっ!! マジっ!?」

 

 

夫々がスバルに対して思う印象は変わらない。

 

 

「ツカサの、《アーラム村を生活の拠点にさせて欲しい》って言う願いもすごーく無欲だと思ったけど、スバルのはそれどころじゃないよ!」

 

エミリアは驚きのあまり、興奮気味にそう言った。

 

「………んん。パック。オレのって無欲に入るかな? 記憶が一部欠落してるから、生まれも解んない、個人情報が全く解らないオレに、衣食住・労働まで確保してくれるのって、スゴク有難い事なんだけど……」

「うーん、僕はリアの言い分に賛成かな? だって、僕もそうだけど、ロズワールにだって《褒美は思いのまぁーま、だよ》って言ってた通り。普通の人間の人生、2~3回は余裕で遊んで暮らせるくらいのお金持ちに出来るだけの財はあるのに。ツカサは アーラム村で暮らしていける権利と村の村での働き口の紹介、でしょ? そりゃ 無欲の枠に入ると僕も思うよ」

 

 

ツカサとパックはエミリアの判定に疑問を持ったツカサの為の井戸端会議。

 

そんな3人を他所に、この状況の原因であるスバルは、いつの間にかクルルを抱えて頬ずりをしていた。

 

 

「おいおい、、聞きなさいよ、お三方! リッスン、トゥ、ミー! オレはこう見えて差別無し、どんな毛並みだろうと等しく愛でれる職人の鏡だぜ?」

 

 

右手にクルルを、左手を伸ばしてパックを、それぞれの両頬に当てて、挟みこんだ。

 

 

「こーーんな、さいっこうの愛玩対象、いつでも愛でられるってのは、巨万の富と引き換えにしても、惜しくない対価だぜ!いや、マジで!! うっはーー、クルルとパック、やっぱ若干ちがうっ! 甲乙つけがたいとはまさにこの事! うわぁぁぁ、もっふもふで、ふっかふか~~! どんなお天道さんの日を浴びた極上羽毛布団でも、この感触には勝てねぇぜ~~! ふっかふかのもっふもふ~~! うはーー天国~~!」

 

 

モフモフモフモフ………と心行くまで楽しむスバルだった。

因みに、読心が使えるパックのジャッジはと言うと。

 

 

 

 

「すごいね~~、うすぼんやり~の筈なんだけど、本気で言ってるのが解るよ、この子~~。この衝撃は、クルルにマナ譲渡してもらった時のに匹敵するかな~~?」

「えぇ……、凄く偉い精霊が知らない術を使った精霊に会った時の驚きよりスバルの方が驚くって言うの……? うん、納得。でも、ちょっと…………きもい?」

「って、納得するんかーーい! そんでもって、キモイはひどいぜ兄弟! これを味わえば、オレの気持ちなんて余裕で………うおおおおお、ここやばい! 耳やばーーーい。もふもふもふ~~!」

 

 

 



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アーラム村のなんでも屋

 

「わーーー、ツカサっ! 今の、今のオレにもしてくれ!!」

「あ、リュカ、ズルイ!! 次、オレオレ!!」

 

 

ツカサはアーラム村へと来ていた。

来たばかりの時は、正直よそ者だと言う事や、身分を証明するモノが全くない正体不明人物として、警戒される……と、少なからず思っていたのだが、開けてみれば拍子抜け。

 

 

村の皆からは、思いのほか歓迎ムードだった。

 

 

ロズワールの計らいだろうか、極めて優秀な他国の魔法使いである、と言う紹介をされていた。

 

 

現在、ここルグニカ王国は 穏当とは決して言えない状況であり、ほぼ鎖国状態が続いているのにも関わらず、他の国からとは少々問題があるのでは? と思っていたツカサだが、本当に拍子抜けするほど あっさりと認めて貰えた。

 

 

 

 

 

 

 

ただの居候ではなく、村の宿を借り、肉体労働でも何でも請け負う、働く、事を伝えている。なんでもやる、なんでも屋ツカサを始めるつもりだった。

 

 

特に気を使われる事なく、接してくれてるのは大変ありがたい事だ。ただ、《ツカサ様》と様付けされて、敬語である事だけはちょっぴり不満だが。

 

 

 

ただ、今ツカサと一緒に居る相手、子供達は一切遠慮してないのが解る。

 

 

 

現在、絶賛子供達との交流中―――と言う名の、遊び相手を務めているから。

 

 

「すご~~い、リュカが飛んでる!!」

「あんまり、高くは上げないぞー? この辺りで我慢しておいてくれよー!」

 

 

木と同じくらいの高さ、精々家より高いくらいの高さ。

あまり高く上げ過ぎて、万が一の事があったら大変だ。………子供達には、より高度を要求されているが、断固として拒否の構え、である。

 

「わーーーはっはっはっは!! オレ、鳥になってる~~!! ツカサっ、もっともっと!!」

「………聞いちゃいないよ、まったく」

 

 

手を翳し、しっかりとコントロールをしつつ、苦笑いをするツカサ。

因みに、ツカサの相棒? であるクルルは現在こちらの村には来ていなかったりする。

 

理由はスバルが大層気に入った事、ベアトリスも気に入っていて、スバルとの間で火花(笑)が飛び散っていた事も有り、本人(クルル)了承の元、ロズワール邸に置いてきたのである。

 

 

―――勿論、クルルの意思で戻ってくる事も可。

 

 

なので、ツカサの元に帰ってきたい時に帰ってくる手筈になっていた。

それを聞いて、エミリアとパックが驚いたのは無理もない事だった。

 

精霊術士と精霊が、精霊は表に出るだけでマナを消費する。消費が一定を超えてしまうと、依り代としている結晶石へと戻るのが通常……なのだが、クルルは一体いつマナ切れを起こしているのか? 何より、結晶石はどれ?? と、色んな意味で驚き、且つツカサの方を見てみたが、生憎 笑って誤魔化すだけに留めた。読心をパックは使えるが、基本 エミリアに害意、悪意の類が無い事は クルルを通してはっきりしているので、そこまで追求する事は無かったのである。

 

 

「クルルが居たら、大人気だっただろうなぁ……」

「え? クルル、ってなーに??」

 

 

アーラム村(ココ)に居ないクルルの事を考えていたら、村の子供の1人である、ペトラに話しかけられた。 直感でも働いたのか、飛ぶ事に注目していた筈なのに、クルルの事が気になってる様子。

 

 

「ん~~、(ペット? いや、そんな可愛げのあるヤツじゃない様な……)えーっと アレだよ、俺に引っ付いてきてた精霊。今は ロズワールさんの屋敷に転がり込んでるよ」

「凄いっ! せいれいとお話してみたい!」

「おおっと、解った解った。ペトラ落ち着いて。戻ってきたら皆に合わせてあげるから」

 

 

クルルの話に物凄く食いついた。

これで間違いない。……クルルと会えば尚更喜ぶであろう事が。

 

 

「(クルルのおかげでアイツ(・・・)に対する精神的ダメージ軽減に繋がりそうだな)」

 

 

クルルが戻ってきた所で、子供達の玩具になって貰えれば万事問題なし。

何なら、各ご家庭に交代交代で居候させて貰えれば良い。………食費に関しては お給金から差し引いて貰えれば問題ないだろう。

 

 

「ツカサーーー! リュカばっかりズルイっ!」

「そろそろ、わたしもっ!!」

「あ、ペトラと一緒に飛びたい!」

「ずるい! オレもオレも!!」

 

 

色々と考え込んでいた所を、村の子供、ミルドやペトラ、カイン、ダイン。

娯楽提供のツカサは本日も大忙しだ。

 

そして、背後から子供のものではない、大人の声が聞こえてくる。

もう直ぐ、昼食の時間だと言う声が。

 

リュカを下ろし、そして最後に飛ぶ事が出来なかったメンバー一様に、寂しそうな辛そうな顔をしていたので。

 

 

「よっしゃ。んじゃ 最後は皆で飛んでみるか!」

「「「「「わーい!!」」」」」

 

 

大人たちの了承を得て、最後の最後、と言う事で場の全員で皆で手を繋ぎ、輪の形で空を浮遊。

村人達皆、その光景を笑顔で見守り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日目。

 

アーラム村にラムがやって来た。

香辛料を買いに来たとの事だ。

 

 

「……似合わないわね。店番」

「そう? と言うより、店番に似合うも似合わないも無いと思うけど。これでも一通りは仕込まれたつもりだよ? こう言う接客業は笑顔が第一」

 

 

ニッ、と笑うツカサを見て、ラムはため息。

 

 

「呆れ果てる程、気が抜けた顔してるわ」

「そりゃそうだね。間違ってないよ。………ここに来るまでにほんと、色々大変だったから」

 

 

ラムの言葉を聞いて、否定する気はさらさらなく、そのまま肯定した。

皮肉のつもりだったのかもしれないが、それでも 今の状況には満足している。

 

ここまでくるのに大変だったのは間違いない。

 

 

「……目が覚めたら でっかい鯨に遭遇。その後 オットーと友達になれたのは良かったけど、行く先々で何度も野盗みたいなのに出くわすは、気持ち悪そうな連中を見かけるわ、王都に着いたらそれなりに大丈夫かと思ったのに、精神異常者と戦うわ。………漸く、安寧の時を得た、って感じだよ。ほんと、この村は良い所だ」

 

 

裏表のない表情、とはこの事なのだろう。

ラムは、ツカサの表情を見てそう感じた。

 

話を聞いて、まだまだ謎多き存在である事は重々承知している。

何処から来たのか、自分達とはまた違った魔法を使ってる事、大精霊のマナをも快復させる精霊を従えている事。

 

 

何より―――あの日……、ロズワールが持つ本の内容と、目の前の男の関係性。

 

 

確信はない。

ロズワールの持つ、本も あの日から沈黙したままだ。ロズワール自身も変わった所はない、とまで言っている。もし、新たな更新事項があるならば、それなりの指示を受ける筈だが、現時点では、ツカサと言う男を時折見に来る事くらいしか受けていない。

 

監視対象とまで言ってしまい、不快に思われて、もしも彼が何処か別の場所へ……となってしまったら、運命に導かれるがごとく、このアラーム村、ロズワール邸へとやって来た男を失ってしまう。

 

それだけはロズワールは回避しなければならないのだ。

 

 

 

 

「ハァ……。さっさと仕事してくれる? 買い出しメモよ」

「ラムから話しをしてきたのに、って野暮は言わないよ。大体解ってきたし」

「ハッ! こんな短期間でラムの事を知った様に言うなんて、身の程知らずにも程があるわ」

「口は、凄く悪いけど。……ラムは優しい人だ、って事くらいオレには解るよ」

「……………」

 

 

ツカサは買い出しメモを受け取ると、せっせとそのメモの通りに準備をする。

 

 

「こーんなに、傲慢な物言いされても、何だか不快には思えないし」

「………やっぱり罵声を浴びて興奮するど変態?」

「そこだけは否定しておくよ。オレは痛いのも苦しいのも嫌な思いをするのも好きじゃない。……はい」

 

 

一通り問題なく準備された事をラムは確認して、再度ため息。

 

 

「また来るわ。精々村の為、引いてはロズワール様、引いては、このラムの役に立てるように頑張りなさい」

「取り合えず まず第一に村の為に頑張る所から、始めるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日目。

 

薬草・香草を採取する為に森の中へ。

アーラム村の青年団の1人、ゲルトと共に。

 

そこで問題が発生した。

 

 

「………危なくない? こんな狂暴な犬がうろついてたら」

「いえ、本来なら、結界が張られているから、魔獣がここまで来れる筈が……」

「! 成程」

 

 

森の中で、犬……ではなく、魔獣数体に襲われたのである。

幸いにもゲルトは武装していた事と、何よりツカサと一緒だったから、怪我は無かった。……でも、問題なのは 本来なら入ってこられる筈の無い所にまで、魔獣が侵入してきた、と言う事だろうか。

 

 

「ゲルト。屋敷に連絡できるかな? 多分、結界が切れてるんだ。だから、ここまで入ってきた。………見た感じ、あの石とか機能してない様に見える」

 

 

ツカサは指をさして、ゲルトに聞く。

この村、ここの領主はロズワール。王国筆頭の魔法使いだ。結界が切れたのを修正する事位出来る筈だし、何よりしなければならない筈だ。

 

領土を守るのも、領主の仕事の筈だから。

 

 

「大丈夫です! 屋敷はそこまで遠くないし、ひとっ走り知らせにいけば直ぐにでも」

「了解。じゃあ、オレは魔獣(あいつら)が結界の内側に入ってこない様に、見張ってるから、宜しく!」

 

 

例え1匹でも通したら、被害が出るかもしれない。

死角に死角忍び寄り、あの俊敏さと鋭利な牙で襲ってきたら………、特に村の子供達を襲ったら? と思えば、ここから離れるワケにはいかない。

 

だが、ゲルトは 顔を顰めた。

 

 

「し、しかし、ツカサ様をおひとり残していくのは……っ」

 

 

そう、ツカサ1人残していくことに、だ。でも、ツカサは軽く首を振って笑顔で答える。

 

 

「大丈夫大丈夫! さっきの見てたでしょ? アレくらいの獣になら負けないよ」

「ッ……、す、すみません! すぐ、すぐに戻ってきます!」

 

 

笑顔で言った事で、少し背中を押す事が出来たのか、最善を尽くすには、ここで押し問答するよりも、1秒でも早く結界を修復する事だと言う事。それが解ったのか、ゲルトは駆け出した。

 

 

「了解! お礼は、様付けの呼び方を外してもらえたら嬉しいかな?」

「っっ、か、考えておきます!」

「了解しました、じゃないんだ……」

 

 

ゲルトが動いた事で、それに反応したのか、或いは 元々迫ってきていたのかは解らないが、獣臭がきつくなり、唸りと共に再び数体の魔獣が森の奥から 飛びだしてきた。

 

 

「きゅきゅ?」

「大丈夫だ。1人で余裕」

 

 

だが、何ら動じる事なく、ツカサは右手に暴風竜巻を、左手に炎を纏わせた。

クルルには何もさせず、ただ自身の魔法だけで対処。

 

 

「テンペストとエクスプロージョン。森林火災にならない程度に……っ!」

 

 

合わさった二つは、炎を纏う竜巻となり、魔獣たちを一気に巻き上げた上で消失させた。

魔獣には怖れ、と言うモノは存在しないのだろうか、炎を見ても一切怯む事が無い。仲間たちが焦げていくと言うのに、それでも怯まない。

 

 

 

 

結果 仕留めた魔獣は7体。

 

 

 

 

慌てた様子でやって来たエミリアが結界を結びなおすまで続いた。

少々焼けた所があったが、それはエミリアの氷の魔法で何とか消火。

 

 

「やー、解りやすくって、直ぐに見つけれたよ」

「ほんっと、すごーーくありがとう!」

 

 

ツカサの方が恐縮してしまう程、エミリアは頭を下げた。

 

 

「大丈夫ですよ、エミリアさん。オレとゲルトが早くに気付けて本当に良かった……」

「きゅきゅきゅっ!」

「クルルもありがとー。……ほんと、ツカサには リアの側近として仕えて貰いたい気持ちが沸々と湧いてきてるよー」

「あははは……。それは光栄。エミリアさんとは友達だから、困った事が有れば、何でも力を貸しますよ。約束します」

「あ………」

 

 

パックとクルルが、恒例になりつつあるハイタッチを交わしつつ……パックはツカサを見てそう言った。

エミリアには1人でも多くの仲間が居る。……ただ、人選をすれば良いという分けではない。ある程度任せて大丈夫かどうかを見極めなければならない。

 

パックにとって、誰よりも大切な存在であるのがエミリアだからだ。……彼女無しでは、もう何も考えられない。―――彼女が居ない世界など、在ってはならないから。

 

 

 

ツカサも知り合って日も浅い。読心を使い、ツカサがエミリアに対して害意や悪意が一切ない事は解ってはいても、まだ早計な段階だった。……だが、それを補ったのはクルルと言う精霊の存在だった。

 

 

 

 

そして、エミリアもツカサの事は注目している。

同じ精霊を扱う者同士である事と、スバル同様 ハーフエルフを邪険にしたりしない事、そして何より―――友達である、と言った事。

 

 

「あ、でも スバル辺りがまた喧しくなっちゃいそうですから。そこは エミリアさんが何とかしてください。下男になった様ですし? ロズワールさんより上のエミリアさんの言葉なら、絶対の筈でしょ?」

「ふ、ふふふ。そうね。スバルは時々……いや、違うかな? すごーく変だから、しっかり叱ってあげなくちゃ」

 

 

エミリアが笑えば、パックも同じく笑う。

仄々とした空間が流れたのだった。

 

 

 

――――その日の夜、今回の件を パックがスバルに話した所、盛大に対抗心を燃やしたのは また別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして4日目。

 

スバルが村へとやって来た。

 

 

 

 

「エミリアたんは、わたせーーーんっっ!! いっくら、兄弟が相手でも、まけられーーーんっっ!!」

 

「おおーー、やしきの人だーー!」

「あたらしいヤツだーーー!!」

「ツカサが言ってたあそんでも良いやつだーー!」

「目つきわるーーい!」

 

「ぐえええええっっ!!」

 

 

スバルは、ツカサを見るなり突進してきたが、見事に子供たちに返り討ちにされたのである。

 

 

「あははは。何やってんの」

 

 

転んで泥だらけになって……、ラムには白い目で見られて散々な結果となったスバル。

そのまま、ツカサとの事、エミリアとの良い雰囲気(パック談)の追及は一切できず、そのまま子供らと遊びまくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このまま―――特に何も問題ない。

 

緩やかに穏やかに時間が流れていく……と思っていたその日に、悲劇は起きた。

 

 

 

 

翌日を迎える事が出来(・・・・・・・・・・)なかったのである(・・・・・・・・)

 

 

 

 



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崩壊再び

 

 

 

本当に、突然だった。

 

村の子供達と村の皆と沢山の約束を交わした。

宴会もしよう、と誘われた。………比較的歳の近い村娘メナドに 子供達の様に空中散歩に連れて行って貰いたい、と顔を赤くさせながら告げられた時は、柄にもなく緊張した気がした。

村の皆も囃し立てられた気がする。特に子供達はませている、と言うのだろう。ペトラが頬を膨らませながら、裾を引っ張り、そのペトラを嫁にする競争に勤しんでいるカインとダインにも宣戦布告をされてしまい、益々村の皆から囃し立てられた。

 

ほんの1週間に満たないたった4日でここまで受け入れられた事に感謝をしつつ……、明日の約束、仕事を楽しみに就寝についていた時だ。

 

 

 

 

――――ッッッ!!??

 

 

 

世界が歪む。

空間が次元が、全てが歪む。

 

村も、皆との思い出も、何もかもが歪み、粉々に砕かれていく。

 

そして、自分自身をも。

 

 

 

それが、戻っている(・・・・・)と気付いた時には もう既に遅かった。

 

 

 

あの魔獣に襲われた際、最善を尽くす為に 誰一人怪我しない様にと記憶(セーブ)を施していたからだ。

この現象は、その世界をも飲み込み、砕く。

 

 

その世界の数だけ、その身体の数だけ、自分自身の身が砕かれてゆく。

 

 

言わば、()を追体験しているかの様な感覚。

 

 

 

死んだことは無いから、一概にはそう言えないかもしれない……が、少なくとも世界は死んだ(・・・・・・)のだ。

 

 

 

 

 

軈て、闇色に包まれた世界に一筋の光が現れ、その光に吸い込まれる。

そして、光の中にて 粉々に砕かれた五体を生成されていく。まるで新たな命が光りを母として胎動し始める様に、自分自身が築かれていく。

 

 

 

ただ―――――。

 

 

 

 

「うぐっ……、がはっっ!!」

 

 

 

新たなる命へと生まれると言うのであれば、前回の自身(・・・・・)のあの理不尽な痛みまで継がれていくのは本当に止めて欲しい、と切に願わずにはいられない。

 

そして、とうとう吐血すると言う目に見えてヤバくなってきた。

 

ロズワール邸の見事な庭園を血で汚してしまうと言う愚行も。

 

だが、今はそれどころではない。

 

 

「ぐ……、くっ、くる、る……」

 

 

何処に戻されたのかは解らない。

ひょっとしたらベアトリスの所で此処には居ないかもしれない……と思っていたが、その不安は問題なく解消される。

 

 

「はいよ。今回は一段ときつかったみたいだね? ちょっと僕でも心配になっちゃうよ。君がどう思っていたとしても、君は僕にとっての相棒だからさ」

「……………その辺、口調、ぜったい、パックのまね……だろうが」

「てへ☆ でもさ? ほんとの部分もあるんだよ~~?」

 

 

半身をベアトリスの方へ、本身をツカサの所にしているから。

 

起こった出来事を解っている存在。恐らくはこの世界で指折り程度にしかいないであろう、この現象を解っている存在であるクルルが、ツカサの傍へと駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻某場所。

 

戻りの原因であるナツキ・スバルも同様に苦しんでいた。

それは、肉体的な痛みではない。

 

 

「お客様お客様。お加減の悪いご様子ですが、大丈夫ですか?」

「お客様お客様。お腹痛そうだけど、まさか漏らしちゃった?」

 

 

たった4日間。短い時間と言えばそうだが、この双子メイドには 散々こき使われてきた。下男ポジションとして、ロズワール邸で働く道を選んだスバル。

 

自分と同じと言って良いツカサは、村への在住を褒美として受け取り、自分自身は気になる存在であり、助けになりたい、笑顔が見たい、……心を寄せた相手であるエミリアの傍に居る道を選んだ。

 

そして5日目の朝を迎える事が出来なかったのだ。

 

 

この、時には煩わしく、時には安心し、信頼を寄せた声が……全くの感情も無くなっている。

見上げてみても、その2人の瞳を見ても……、そこには声と同じく 何ら感情が籠っていない。

たった4日間と人は言うかもしれないが、何処かへ霞のように消え失せた。

この現象が何を意味するのか、スバルは知っている。……何度も経験をしてきたから、当然知っている。

 

 

《死に戻り》

 

 

 

 

「お客様?」

「!! あ、ああ……」

 

 

再度、メイドたちに呼ばれた。

彼女達は自分を知ってる訳がない。知る前に戻されたのだから当然だ。……当然、なのだが……。

 

 

「心配かけて、その……悪かった。少し、寝起きでボケたというかなんというか……」

 

 

ベッドから起きて、気丈に振舞う。

でも、どうしても 彼女達が近づいてくるにつれて心が蝕まれる。

 

 

「お客様。急に動かれてはいけません。まだ安静にしてないと」

「お客様。急に動かれると危ないわ。まだゆっくり休んでないと」

 

 

何ら感情が籠ってないとはいえ、自身を気遣う言葉。

だが、その言葉の1つ1つが、痛くて、苦しくて……。

 

 

「っ……、悪い………。今は、今は無理だ……」

 

 

 

逃げ出してしまった。

 

いったい自分は何から逃げているというのだろうか、と疑問が頭に過る……が、これだけは言える。

 

明確な言葉では表す事は出来ないが、それでも――――あの場にあのまま、残り続ける事だけは絶対に出来ない、と。

 

 

 

 

無我夢中で駆けこんだ先は………、少なくとも嫌悪と言う感情を向けてくれる相手の所。

 

 

 

「ノックもしないで入り込んで。随分と無礼なヤツなのよ」

 

 

 

言わば殺されそうになった相手、と言って良い存在、ベアトリスの禁書庫。

それでも、4日間絡み続けて、吹き飛ばされ続けて……、少しくらいは前に進んだと自分では思っていた。例えベアトリス相手であったとしても、全て無かった事にされるのは、どうしても苦しい。

 

 

「全く。どうやって《扉渡り》を破ったと言うのかしら? こんな平凡で凡愚なニンゲンの男が。今と良いさっきと良い。てんで不可解で不愉快なのよ」

 

 

どんな毒舌でも、暴言でも、今はここ以上にほんの少しでも休まる場所は存在しない、とスバルは確信していた。

 

だから、どれだけ恥を晒そうとも頼むだけだ。

 

 

 

「すまねぇ……、少しだけで良い。いさせてくれ……。頼む………」

 

 

 

現実と己に向き合う為に。

自分自身の名、ここがどこなのか、さっきの双子のメイドは誰なのか、そして眼前の少女の名前と存在、加えて この膨大な書庫……不思議な空間。

 

 

そして、大事な、大事な約束があった筈だ。

 

 

 

 

 

『いっくら兄弟でも 負けねぇからな! 明日、エミリアたんとデートに漕ぎ着ける!!』

『ははは……、何するのか解らないけど、まずは子供もらの相手を十分に熟した後の話だな』

 

 

 

 

 

そう―――啖呵切った。

そしてその結果……漕ぎつく事が出来た。

 

 

『私の勉強が一段落して、ちゃんとスバルのお仕事が終わってからなんだからね』

『よっしゃ!! ラジャった!! 超っぱやで終わらせてやんよ!! これでオレのリードだぜっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エミリア……! 約束、約束が……」

 

 

大切な約束を思い出す事が出来た。

幸か不幸か、恋敵として(勝手に)見ているツカサのお陰で。

 

思い出す事が出来た。大切な約束を……、ならば次は? 決まっている。

 

 

 

「お前……、オレに〈扉渡り〉をさっきと今、破られたって言ってたよな? ベアトリス」

「呼び捨てかしら」

 

 

明らかに怒気を含んだ返答だったが、ベアトリス自身も 今のスバルに対し思う所があるのだろう。特に実力行使をする事無く続けた。

 

 

「つい3~4時間前かしら。無神経で無礼なお前をからかってやったばかりなのよ。もちっと痛めつけて分相応を教えようとしたのだけど、その程度で済んだのは クルルともう1人の男に感謝するかしら?」

「クルル……」

「きゅっ♪」

 

 

ベアトリスの後ろに隠れていたであろうクルルが顔を出した。

突然、扉が開かれて反射的に後ろへと隠れていた様子。

でも、スバルの事は知っているので、安心して出てきた。……少なくとも、先ほどよりは様子が良くなっているのも解ったから。

 

 

「その辛気臭い顔もやめるが良いかしら? クルルに無用な心配をさせてしまうのよ」

「きゅきゅきゅっ」

「……ああ、もう、わかったかしら。ちょっとだけなのよ」

 

 

ベアトリスの頬にすりすり、と頬ずりするクルル。

すると、先ほどまでは嫌悪感MAXで、そろそろ叩き出そうかとも思っていたかもしれない心情が緩やかになる。

 

もう少しなら居ても良い、と言わんばかりに。

 

 

 

 

その間……スバルは状況を整理していた。

 

この場所に居るのは2度目に目覚めた場面……だから、つまり 5日後から4日前まで戻ってきたと言う事になる。

それが事実であると物語っている。これまでの状況を推察、そしてベアトリスの証言からも。……嘘を言っている可能性も疑わない訳ではないが、こんな意味の無い妙な嘘をつく理由も解らない。嘘を言うのなら、最初から話したりしないのがベアトリスだ。

 

 

 

そして、確信部へと考えを移行する。

 

 

 

突然の時間遡行。

 

 

これまでの条件通り、自身の死をトリガーに発動する《死に戻り》が眼インならば……、その理由は明白だ。

 

 

 

「――――オレは、死んだんだ」

 

 

 

そう、殺されたと言う事実。考えたくも無い事だが。

 

だが、次に疑問が生まれる。

 

 

「死んだとしたらどうして死んだ? 寝る前までは全部普通だったぞ。眠った後だって、少なくとも《死》を感じる要素は一切なかった。そんな事態には陥ってない。……だが、《死》を意識させない死。毒やガスで眠ったまま殺された、って線もある。……つまり暗殺だ。………でも、何故? 殺される理由、身に覚えがねぇし……」

 

 

ベアトリスが居る前で、堂々と自身の死についてを自問自答している。

それは、現象が解っている者からすれば当然の悩みではあるが、全く知らない者からしたら、狂言・妄言を言っている以外ない。

 

 

「死ぬだの生きるだの、ニンゲンの尺度でつまらないくだらないかしら。挙句に出るのが妄言虚言の類。お話にならないとは このことなのよ」

「きゅきゅ? きゅーー」

「ははっ……。ありがとな、クルル。もう大丈夫だ」

 

 

いつの間にか傍に来ていてくれたクルルを一撫ですると、立ち上がった。

 

 

「行くのかしら?」

「ああ。確かめたい事があるんでな。助かった」

「別にベティーは何もしてないのよ。クルルの情けだけに感謝するが良いかしら」

 

 

ベアトリスは、ぷいっ、とそっぽ向いた。

スバルが背を向けたそれが合図。クルルは、ベアトリスの傍にへと移動。その肩に乗る。

 

 

「さ、とっとと出て行くかしら。扉を移し直さなきゃならないのよ」

 

 

クルルが再び戻ってきた事で、頬が少し緩むベアトリス。

だが、言い方は相も変わらず優しさとは縁のない響き。優しさの対象に向けられる事は恐らくないだろうスバルは思う。

 

でも、それでも――――どんな言葉で会っても、嬉しいのは事実だ。自分を知っていてくれる。ただ、それだけが。

 

 

 

「……確かめなきゃならない事。エミリアと……、ツカサ。……そうだ、なんで オレは前に(・・)聞かなかった? 確かめなかった?」

 

 

 

初めて会った時の事を、思い返す。

ツカサは何と言っていたか、を。

 

印象深い言葉を思い返す。

 

《クソイカレキチガイ殺人女》

 

そして、もう1つ。……文句なしの一番の重要部分。

 

《やり直してる奴》

 

 

そのやり直してる、と言う意味が 自分が知る通りなのなら、死に戻りの事を指すのであれば、この4日間を覚えている世界でただ1人の存在かも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして――――スバルは庭園にて目撃した。

 

 

エミリアの姿。

 

 

 

「ッッ!!?」

 

 

 

そして、彼女の直ぐ傍で 血を吐いて、その自分の血溜まりの中で蹲るツカサの姿。

 



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死ぬなよ!絶対に死ぬなよ!

 

 

死に戻りの後の光景……。

 

 

それは大体筋書き通りの筈だった。

4度目でクリアした王都では、何度も何度も店のオヤジに声を掛けられる所から始まる。

様々な人間が居るから、ほんの少しの選択の差で大きく変わる事だってあるかもしれない。

 

例えば、自身の経験として 路地裏で毎度チンピラ3人に絡まれる時、フェルトやエミリアと出会っていたというのに、4度目にはラインハルトだった、と言った様に。

筋書き通りにいかなければ、前回通りにはいかない。ほんの些細な事であっても、変わる事だってある。

 

――――だが、それでも、ここまで(・・・・)変わるとは誰が予想できようか。

 

 

「エミリア!? ツカサ!!」

 

 

先ほどまでの葛藤や苦悩を忘れて、スバルは駆け出した。

ツカサは、垣根無しに恩人だ。腸狩りから身を守ってくれた。ベアトリスの理不尽なマナ徴収と言う名の拷問からも救ってくれた。

得体のしれない、と言いつつも 友であると言ってくれて、ふざけ半分だった発言である兄弟にも乗ってくれた。

 

 

エミリアがスバルの心の中の大半を占めているのは間違いないが、事男性の部(・・・・)と言うスペースがあるとすれば、紛れも無い。この世界では1,2を争う男だから。

 

 

 

「パック! 起きて」

「うん、大丈夫だよ、リア」

 

 

 

そして、ツカサを発見したのは スバルとほぼ同時だった。

蹲ってる姿を見て、転んだのか? と何処か軽く考えていたのだが、ツカサから吐き出される血を見て サァッ…… と顔が青くなるのと同時に駆けだしたのだ。

 

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶ……」

「ちっとも大丈夫に見えないから。ほら 何とかするよ。見せてみて」

 

 

エミリアに呼び出され、パックが顕現した。

助けたお礼、と言う意味では もうロズワールに村に住めるように、と受け取っているとツカサは言わんばかりだったが、それとこれとは別だ。

 

苦しんでる人が、それも助けてくれた恩人であり、友達とまで言ってくれた人が、血を吐いて苦しんでいるのだから。例えエミリアは マナが切れても、オドを振り絞ったとしても、パックに無理いって来てもらっていただろう。

 

 

自分ひとりでは 難しいから、頼りになるパックを。

 

 

 

だが―――パックは眉を顰める。

 

 

 

「……どういう事だい? これは………」

「だから、だいじょうぶ、って言った……でしょ? これは治せない。多分、時間経過か オレ自身の力じゃないと」

 

 

パックは翳していた手を止めた。

それに驚きながら聞くのはエミリアだ。

 

 

「え、どうしたの? パック」

「……これは、ツカサの言う通り。僕たちじゃ どうしようもないよ。身体の中のマナが、グチャグチャだ。いや、グチャグチャ、と言うより 不自然。何だか無理矢理バラバラにして、作り直した様な感じ。バラバラだけならまだやりようはあるかもだけど、無理矢理くっつけてる(・・・・・・・・・・)感じだから、外部の僕たちじゃ 手を加えようがない」

「そんな……!」

 

 

エミリアの顔は悲痛で染まる。

 

ただ、見ているだけしかできない事に対して。

何の力にもなれない事に対して。

 

 

「ツカサっっ!」

 

 

そして、そこにスバルが飛び込んできた。

スライディングでもするかの様に、ツカサの顔を覗き込む。

 

 

「はぁ、はぁ…… だいじょうぶ、大丈夫……、大丈夫。うん、もう少し、もう少しで………」

 

 

ツカサは、ぐっ と身体に力を入れた。

そして、数度胸を叩く。血が血の味がまだ口の中に充満しているが、呑みこみ、これ以上庭園を血で汚す事を拒んだ。

 

 

「………これまた驚いた。バラバラなのに、メチャクチャにくっついてたのに、確かに治っていってるよ」

「ほんと? ほんとにほんとっ!?」

「うん。原因もどうやって治してるのかも、僕には解らないけど。快復に向かってるのは間違いないよ」

 

 

パックの言葉にエミリアは心底安堵した様で、ペタリと倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もーー! スバルは突然ベッドを飛び出したって言うし、ツカサは 倒れちゃうんだもんっ! すごーく、すごーーく心配したんだからね! だから、もう無理しないで、って約束して!」

「あー、いや…… エミリアたんの為なら、たとえ火の中水の中だから、無理も無茶もするつもりだから、約束は、ちょっと………」

「後、オレのは持病みたいなモノだって、思っててくれれば。自分の意思とは関係なく起こっちゃうから、無理も何もしてなくて」

「もうっ!」

 

 

頬をぷくっ、と膨らませて怒るエミリアは 幾分か歳下と思える程幼く、それでいて愛らしい。スバルは勿論の事、ツカサ自身同じ感想。

 

 

「ここは、この愛らしいエミリアたんを、山分けと言う事で 手を打とうじゃないか、兄弟!」

「何をどう手を打つのか解らないけど、まぁ それでも別に良いけど、パックに睨まれそうだ」

 

 

チラリとツカサが視線を向ける先に居るのはパック。

2人のやり取りは当然耳に入っており、勿論加わってきた。一体どこから取り出して取り付けたのか、ネコの癖に付け髭をくっつけて。

 

 

「娘はやらんよっ!」

 

 

と一芝居。

貰うとは誰も言ってない気がするが、その辺りは特に気にせず、爽やかな笑みとヒラヒラと手を振ってこたえるツカサ。

 

 

「それは兎も角……、オレはラムやレムさんに対して、ちょっと迷惑かけたのが申し訳ないよ……。庭園、結構汚しちゃったし……」

 

 

う~ん、と頭を抱えるのはツカサ。

エミリアの切羽詰まった声は、屋敷の方にもそれなりに届いていたらしい。加えて、スバルが部屋から飛び出して出てきてしまったので、それを探す為にレムとラムが捜索していたりしたので、尚更気付かれやすくなった、と言う理由もある。

 

 

結果、エミリアを助けた豪傑が、手傷を追う、それもそれなりに重症に見える傷、血を見た事で結構大事になったのだ。

 

 

「レムの早業であっという間に綺麗になっちゃったけどな? あの域まで言って漸くメイドプロ、と名乗れるのだろう! うむうむ、天晴!」

「いや、まぁ…… 確かに 直ぐに綺麗にしてくれたし、気にしないでくれ、とも言われたけど、そう言う問題じゃないって言うか……。はぁ、スバルはお気楽でほんと羨ましい」

「ポジティブシンキング・スバルと呼んでくれ!」

「知らない言葉(だと思う)だけど、意味は何となく通じるのが不思議だ」

 

 

取り合えず、にこやかに会話を重ねる事で、エミリアは漸くそれなりには安心出来たのか、深くため息を吐くのだった。

 

 

 

 

そして、その後――――予定通りロズワールの元で朝食&スバルの今後についての検討会が開かれる……前に。

 

 

 

「ほんの少しだけ、スバルと話してても良いかな? エミリアさん。遅れない様にするから、ちょっとだけ」

 

 

 

ロズワールが戻ってきた、と言う知らせをラムとレムから聞き、移動を……と言う所で、ツカサがエミリアに頼んだ。

 

 

「うん、良いけど…… また怪我する様な事は……」

「いや、そんな暴力的な展開は起こらないって。この持病も早々出てくるものじゃないから。結構久しぶりだし」

「そうそう! エミリアたん。ここはちょいと、兄弟と男同士の秘密のお話合い、があるんだ。ちょ~~っと エミリアたんに 聞かれちゃうと恥ずかしくなっちゃうから……お願いして良い? 盗み聞きもして欲しく無いな~~って」

「はぁ……。人聞き悪い事言わないで。すごーく心外! 盗み聞きなんてしないわよ。でも、ロズワールも待ってると思うから、早くしてよ?」

「もちっ! こう見えて腹ぺっこぺこだから、直ぐ行くぜぃッ!」

 

 

ぐっ、とサムズアップしたスバルの腹から景気よく、腹の虫が鳴り響いた。

それを聞いたエミリアは、余程ツボに入ったのか。

 

 

「ぷっ、あははははは! し、しんぱいしてたのに、すごーく損した気分、あはははははっ!」

 

 

お腹を抱えて笑い始めた。

ツカサとスバルは顔を見合わせて笑った。

 

……色々と本当に安心出来たからこその笑みなのだろう2人は思えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、エミリアとレム、ラムの2人が居なくなったのを確認して。

 

 

「クルル。認識阻害の壁かけて」

「ほいほーい!」

 

 

 

クルルの魔法を見て……と言うより、ベアトリスの元に居る筈のクルルの姿を見て、スバルは目を丸くした。

ほんのつい先ほど、あの書庫でベアトリスと戯れているモフモフのクルルの姿を見ているし、その毛触りも堪能してきたから間違いない筈だ。

 

 

それ以上に……。

 

 

「えええ!! クルルって喋れたのっ!? いっつも《きゅきゅ!》って可愛らしい鳴き声しかしてなかったのに?」

「ああ、こっちの(・・・・)クルルはね。多分、スバルがこれまでに(・・・・・)会ってきたクルルとはまたちょっと違うんだ。まぁ、色々と面倒だし、厄介だし、面倒くさいから説明は省くけど」

「面倒って 2回言ったな、オイ」

クルル(コイツ)の事になると少々雑になるの」

 

 

ツカサは頭をポリポリと掻いた後……スバルの方をじっと見て意を決した。

 

 

「名前は名乗ってなかった筈なのに、スバルは オレの事ツカサ(・・・)って知ってたよね?」

「っっ! あ、いや それはその……、えっとラムちーに聞いた? レムりんに聞いた? とか??」

「質問に質問で返すのはどうかと思うけど。……まぁ もう解ってるから良いよ。じゃあ、とりあえず腹割って話そうか?」

 

 

正面向いて、スバルの目をはっきり見据えて。……その目の更に奥に居るであろう存在にも届くかの様にツカサは続けた。

 

 

 

「スバル。君は戻ってる。―――死を引き金(トリガー)に、この世界を巻き戻してる」

 

 

 

どくんっ!

 

 

突然、世界が静止した様な感覚にスバルは見舞われる。

突然の異常事態、声も発せられない、身体の何もかもが動かない。視線は固定され、先ほどのツカサの言葉だけが頭の中でグルグルと回っていた。

 

 

腸狩りのエルザとの一戦の時に、ツカサが言っていた事を連想させれば、何故か理由は兎も角、自身の死に戻りについて、理解しているんだろう、と言う事はスバルにも理解出来ていた。その原理や因果は解らない。解らないからこそ、ツカサ自身に聞こうと思っていた事柄でもある。

 

 

だから、その時が来た―――――程度にしか考えてなかった筈なのに。

 

 

 

《なんだ、なんだこれ………!?》

 

 

 

暗黒、漆黒、深淵の闇、……どう表現すれば良いのだろうか解らない。

ただ、解るのは そのナニカが 自身の心臓目掛けてその闇を伸ばしてくる。

 

心臓を抉り取ろうとでも言うのか、握りつぶそうとでも言うのか、解らないが、まるで時が止まった世界なのにも関わらず、その闇だけは自由自在に動き回り、自分自身の心臓を刈り取ろうと動いていた。動いている様に感じた。

 

 

底知れぬ恐怖が身体中を貫いたその時だ。

 

 

 

「はいはいはーい、だから落ち着いてってば。君がそのコに惚れ込んでるのは見て解る。でも、もうちっとだけ僕たちを信用してよ。ヘンな事しない、君達を引き裂くつもりもない。大丈夫だからさ~~」

 

 

 

時が止まっていた筈なのに、響くのは陽気な声。

聞き覚えがある。……と言うより、聞いたばかりだ。

 

その声の主は、クルルのもの。

 

 

そう認識したと同時に、世界が動き出した。

 

 

「っっ~~~~はぁっはぁっはぁっ………」

「……成る程。アレ(・・)が影響を及ぼそうとするのは、他人だけでなく、スバル自身にも、って事なのか……。認識阻害の障壁だしてて正解だった」

 

 

 

息も絶え絶えなスバルを見て、冷静に分析するツカサ。

それを来たスバルは、とめどなく流れる涙を拭いながら、ツカサを睨む。

 

 

「て、てめぇ……。何、なにしやがった……」

 

 

先ほどの所業、それをツカサがやった事なのだろう、とスバルは思えていた……が、ツカサは横に首を振る。

 

 

「今のはオレじゃない。……スバル。君に世界を巻き戻す力を寄越したヤツが引き起こしてる。……性質が何となくだけど解った」

「うんうん、独占欲の強い子みたいだね~? 君と私秘密を知ろうとした人、許さないっ! って感じだったよ。ヤキモチ妬きやさん? ってヤツかな?」

「はぁ、はぁ………、っっ、どういう、事だ……?」

 

 

クルルの方を向くスバル。

ツカサ自身もそれは同じだった。

 

 

「今回はサービスだよ。ちょこっとだけ、話してあげる」

「全部話せっての……」

「それしちゃったら、また怒っちゃうかもしれないでしょ? 僕は良いけど、君達2人が大変だよ?」

「……それは、カンベンだ……!」

 

 

 

クルルは、ひゅんひゅん、と飛び上がるとスバルの頭の上に着地。

 

 

「君の能力は、死を無かった事にする。時間を巻き戻してね? それをする理由は、《君に死んでほしくない》から。それと、自分と君の場所に入ってきて欲しくないから、第3者にもその存在を知って欲しくない、って強く想ってる。だから、さっきみたいに実力行使で止めさせ様としたんだね」

「……大体そんな感じ。想像してた通り、かな」

「実力行使で、心臓潰されちゃたまったもんじゃねぇよ……」

 

 

ツカサは納得。スバルは青ざめていた。

死に戻りは何度か経験して、その辛さ、苦しみは解っていたつもりだったが、あの心臓に迫ってくる恐怖は、それに匹敵すると言っても過言じゃない。

 

アレが迫ってくると解っていたら、例えどんな事情があっても、口に出せない自信が自分にはある、とスバル自身も胸を張れそうだから。

 

 

 

「あ、……でもっ! ツカサと僕は無害って思われたみたいだよ! なんたって、他人の恋路を邪魔しないよ、って僕自身が伝えたからね? 解ってくれたから結構聞き分けの良い子だと思うんだ!」

「聞き分けの良い子が心臓握りつぶそうとすんのかよ! つか、誰だよ!? 誰の事だよ!? オレ、そんな超常的、呪いみたいな魔法駆使できる子と仲良くなった事なんて、これまで生きてきて一回もねぇよ! 他人の恋路て! オレはエミリアたん一筋だ!」

「うんうん。軽口言えるくらいまでは、元気出たみたいだね? 僕からはここまでだよ~~! 後はクルルに任せるから宜しくね♪」

 

 

 

そうとだけ言うと……、姿が掻き消えた。

恐らくベアトリスの方へと戻っているのだろう。

 

そして、クルルにはまだ話したい事、聞きたい事山ほどあったスバルだったが。

 

 

「アレが話さない、って言う以上、自分から話でもしない限り、ほぼ無理。諦めて」

「……ツカサがあんなモフモフ最高毛並みを持つクルルに辛辣になる理由が解ったよ。まるっきり楽しんでんじゃねーか! 別人格なんだよな? クルルってのはもう1匹いて、そっちは愛らしい小動物なんだよな??」

「いや、まぁ、そうだな。でも、クルル自身も力は凄く強い存在だから、その辺は解ってて。人懐っこい所はあるけれど、怒ったら怖い。姿に反して怖い。その辺はパックと同じだと思って良いよ」

「…………な~~る」

 

 

パックの闘う姿、あの破壊力を目の当たりにしてるスバルだからこそ、直ぐに連想出来た。

見た目愛らしくても、2秒で自分を粉微塵に出来る存在だと言う事だ。

 

と言うより、そんな存在を思いっきり雑な扱いしてた(エルザ戦で、直球ストレート投げたり)ツカサはそれ以上? と思って嫌な汗を掻いたりもしていた。

 

 

 

「さて、ここからが本題だよ、スバル君」

「お、おう? 何で突然君呼び?」

 

 

 

ニコッ、と笑うと同時に、ツカサはスバルの両肩をガシッ!! と握ってブンブン揺らした。

 

 

「つ・ま・り!! スバルお前はアレか!?? ぽんぽん ぽこぽこ、ころころ、何回も何回も死んだって事か!!? 短期間で一体何回死んでんだよっっ!! ええ!? 知ってるわ! ここ数日で4回死んだな!??」

「あばばばばばばばばっっ!!」

 

 

「さっき、オレが血ぃ吐いてんの見ただろっっ!! あれが後遺症だ! あれもまだ易しい方だ!! クルルに色々やらせなかったらもっとヤバかった! オレヤベーんだ、すげーーーやべーーーんだ!! 身体がバラバラになって、メッチャ痛苦しい上に死ねないんだぞ!?」

「ぶばばばばばばばばばばっっ!!」

 

 

 

「だから頼むから。本当に頼むから 死ぬなよ!! 絶対死ぬなよ!! こんな短期間じゃ、オレが肉体的に辛い!! 生きてるのが不思議! って思うくらい辛い! 何でも手伝うから、頼むから死なないでくれスバル!! もうちょっと自重と慎重を心掛けてくれ!!」

 

 

 

 

 

ツカサの魂からの叫び。

物理的な超振動を身体に喰らい、それだけでも病み上がりな身体にはきつく、ツカサ自身に殺される! と思ったのはスバル。

 

 

だが、それ以上に 自分自身が戻ってる事を知る人物が居る事に 言葉に出来ない程の安堵感が波の様に押し寄せてきていた。

 

 

そしてその後 ある程度ツカサは満足したのかスバルを解放&介抱。

 

 

 

 

 

その後。

よせば良いのにスバルは

 

 

 

 

《今のは逆に死んで、って事じゃないよね?》

 

 

 

 

と聞き返してしまった。

 

その返答は、笑顔と共に脳天唐竹チョップ。

それを受けて、再び昏倒するのだった。

 

 



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助っ人と2週目

 

 

 

 

取り合えず、色々難ありきな話し合い? となったが、結論から言って有意義なモノだった。

 

 

つまり、スバルの身に何があったのか? それを確認していたのである。

 

ツカサはスバルとは離れた場所にて、この4日間を過ごした為、スバルの身に何があったか知る由も無いから、本人の口から聴く必要がある。スバル自身は、どうやって死んだか魔では解らないが、いつ・どこで、と言う状況に関してははっきりと覚えていたのだ。

 

 

つまり、スバルは4日目の夜から5日目の朝を迎える間に殺されたと言う事。

 

 

「……取り合えず、スバルを殺した人が近くに居るかもしれないから、変に怪しまれる前に、ロズワールさんの所に行こうか。クルルの認識阻害が何処まで影響するのか不透明だし、ロズワールさんは、王国筆頭魔導士。………勘づいたりしない、って言う希望的観測な考えは止めとこう」

「おうっ! それで行こうぜ、兄弟!」

「あーー、もう! メッチャ良い笑顔してんじゃないよ、まったく。自分の命大切に! はい、復唱!!」

「じぶんのいのち、たいせつに」

「心籠ってない!」

 

 

傍から見れば、仲良く談笑している様に見えるだろう。

クルルの認識阻害とはそう言う効果がある。……が、別に阻害の効果が無かったとしても、恐らく会話の内容を把握さえしてなければ、単純に2人の様子だけを見ていれば、仲良くやっている様にしか見えない。

 

 

そう思える程、スバルは笑顔だから。顔を顰めているのはツカサだけであり、スバルのキャラを知っている者であれば、また変な事言って困らせてるなアイツ、みたいな感じに収まる筈だ。

 

 

「でもまぁ、ほんと、いや マジで。……マジで兄弟には助けられたよ。オレ。……こんな普通の事なのに、当たり前な事なのに、オレを知っててくれてる(・・・・・・・・)。それだけで こんなに嬉しい事ってあるんだな……」

「エミリアさんの次くらい?」

「おうよ! エミリアたんは、不動の1位だからその辺はどーぞ宜しく! 無駄な足掻きはせず、甘んじて心の2番目の位置にいなさいな!」

「…………クルルに、いや エミリアさんやパックに 氷漬けにして、殺さず保存する様な方法無いか聞いてみようかな………? 氷の魔法使ってるみたいだから、その辺精通してそう。お願い何でも叶えてくれる、らしいし?」

「ヤメテ!! 物騒な考えヤメテ!! このまま一蓮托生で行こうぜ、って!!」

 

 

スバルが死ねば、ツカサにほぼ致死性の大ダメージ必至。クルルと言う精霊がいなければ、肉体に加えて精神も崩壊の恐れ大。

 

回避不可能の連帯責任の押し付け。実に迷惑極まりない話……ではあるが、スバルの考えはツカサも似た様なモノなのだ。

 

記録(セーブ)&読込(ロード)と言う能力は、極めて強力且つ理不尽に近しい、因果律を覆すと言って良い能力だが、スバルが言う様に 未来から過去に戻った際、その過去から未来までに起こした事、知り合った人達、自分の思い出以外の全てを置き去りにする。

 

例外的に、別の手段もあるが、こちらも かなりリスクが伴う。その上に 自身の能力がバレてしまうので、極めて慎重に行わなければならないのは言うまでも無い。

 

誰にも知られてないからこそ、この能力は最大級の威力を発揮してくれるのだ。

 

先ほど、ツカサがスバルに言った通りの事が自分自身に起きたとしたら、と考えると笑えない。

ツカサ自身を凍結保存等されて、封印でも施されてしまえば、どうなるか解らないから。能力は多少融通は利くが、完全なる不意打ちともなれば…………、試したくない。

 

 

 

 

色んな事を頭の中で浮かべながら―――、取り合えず皆の元へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはぁ、目が覚めたんだぁーね。よかったよかったぁ。堂々とツカサ君に言った手前、コロッ、と逝っちゃったら、面目丸つぶれだったぁーぁよ!」

「近ッッ!! やっぱ、顔近ッッ!?」

「はぁ………」

 

 

 

 

ロズワールとの接触? 再開? は紛れもなくデジャヴュを感じているので、元居た世界線をなぞる行為はバッチリだ。

 

スバル自身も、そのつもりでいたらしいけれど……、どう見ても素が出ている様にしか見えない。

 

 

「ドン引きするのは仕方ねぇよなぁ? 例え予習復習しっかりしてたとしても?」

「ほっほーぅ。ドン引き! いーぃ言葉だーぁね! 初めて聞いた言葉だけど、波長があった、てぇーぇ言うのかな? 気に入ったよーぉお。人と違う感性を理解されない気持ち良さだ」

「若干共感できる! けど、やっぱ嫌だ!! んでも、仲良くしていかなければ……」

 

 

前回通りとはいかなさそうだ。

若干の差異が見られるが……、その辺りは本当に仕方が無い事だろう。

 

 

もしも、の話になるが、もしも――――ここにツカサがいなければ、恐らくスバルは神経過敏になる程までになっていただろう。前回を思い出し、少しもミスしない様にして、それでいて原因を追究していた筈………だが、今はツカサが居る。

全てを知っている彼が居るからこそ、心に本当の意味で余裕とゆとりが見え始めているというものだ。

 

 

だが、断っておくが スバルとて真剣と言えば真剣そのもの。スバルはツカサの事も見たから。……血を吐き、蹲るあの姿を目に焼き付けているから。

間接的とはいえ、元々はこの世界に召喚した顔も知らないよく解らない相手に重すぎる好意を持たれてしまった結果とはいえ、あの姿を目の当たりにしたら、注意も注視も慎重にもなると言うモノだ。……勿論、自身の身が危うくならない範囲内での事ではあるが。

 

 

 

 

因みに、その後起こる前回の光景―――ロズワールがスバルにデコキッス♥ な光景は全力で回避したのは言うまでも無い。

 

 

 

 

「それではご案内いたしますわ、お客様」

「それじゃご案内してあげるわ、お客様」

 

「って、何で今回もオレだけ拘束!? ツカサ(そっち)は!?」

「日頃の行いじゃない? って言うのはまぁ 半分冗談で。オレはもう案内受けてるから」

 

 

 

ロズワールに向ける視線やちょっとした会話が不快だったのか……、前回はロズワールがスバルに濃厚なデコキスをした反射的に、見事に腰の入ったアッパーカットをロズワールに喰らわせた、という前例がある。

 

 

主に害をなした、という事で、2人の双子メイドがそれはそれは怒りの表情となり、ロズワール自身が全く問題ない、悪いのは自分であり、スバルに落ち度はない、と許しても………変わらず。

 

 

そのまま、見た目に反して 中々の腕力で連れ去っていくのだった。

 

 

 

 

 

「――――それで、実際のところ、どぉでしたか? エミリア様」

「あなたと見立ては一緒……だったんだけど、ツカサがちょっと気になる。突然倒れちゃった事もそうなんだけど、それよりさっき。……スバルと内緒の話でもあったのかな? パックが気付いてくれたんだけど、ちょっと認識出来ない会話してた。私は盗み聞きなんて最初からするつもり無いのに、念の為、だったのかな」

「ほほぅ……、それはそれは。ちょぉ~っとばかり、こちらも注意が必要、だぁね」

「……でも、ツカサは恩人。スバルも恩人。パックも言ってたケド、2人とも悪意や害意は無いし、嘘もついてなかった。…………それでも、恩人の2人なのに、こんなに疑わなきゃいけないなんて……」

「仕方のない事です。………それだけのモノを,貴女様は背負ってらっしゃるんですから」

「………うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、スバルは関節技を掛けられたまま案内され、ツカサは意気揚々と3度目となる食堂に到着。

到着するや否や。

 

 

「きゅ~~♪」

「!」

 

 

クルルが頭の上にもどってきた。

中身(あれ)と一緒に。

 

 

「………名残惜しいのよ。でも、仕方のない事かしら」

 

 

ボソッ、と小さな声で呟く少女の姿もしっかりと視界に捕える。

 

 

「おはようございます、ベアトリスさん」

「ん。おまえ、大丈夫なのかしら? 随分と血を吐いたのよ」

「あはは……。見られちゃってましたか。大丈夫ですよ。クルル(コイツ)が護ってくれるので」

「きゅっ、きゅんっ!」

 

 

胸を張るクルルを見て、また愛らしい、と言わんばかりに目を輝かせるベアトリス。

身体の事情に関しては、自分には解らないが何か問題があるのだろう、そしてその問題を解決へと導けるのがクルルである、という事も理解している。

 

口では辛辣な言葉が飛び出すが、相応の信頼関係がこの2人にしっかりと構築されているのを改めて目にしたベアトリスは少なからず寂しそうな目をしていた。

 

 

「それで、お前の方はどうしようもない程、可哀想なくらい頭がおかしいかしら? こうも極端だとベティーも同情するのよ。半ベソかいてた癖に」

「くっそ……、このドリルロリ……。つっても、言い返せねぇよ!」

「何かしら、その単語。聞いたことないのに不快な感覚だけはするのよ」

「ま、それくらいは言い返そう! つまりアレだ! 攻略対象外に圧さないって意味。オレ年下属性あんま無いし」

「………あれだけの事があって、まだベティーに無礼な口を叩けるのも、可哀想なのよ」

 

 

無礼を働いた結果が、あのマナ徴収と言う名の拷問。

かなりのレベルの苦痛だったと思われるが、生憎スバルはそれ以上の苦しみを知っているのと、性格云々はそう簡単に変わらない、という理由もある。

 

 

取り合えず、ラム&レムの関節技から解放されたスバルの頭目掛けて、クルルを投擲。

 

 

「きゅきゅんっ!」

「どわぁっっ!! って、それほぼ凶器!! モッフモフのフッカフカで、キュートなクルルっちでも、それ凶器だからな!!」

「自重&慎重は心掛けてね? 仕方ない面はあるかもだけど。その辺宜しく」

「わ、わーってるよ! 兄弟!!」

 

「はぁ……、こんなのが兄弟、ベティーはお前にこそ同情するのよ」

「あははは……、いや、ほんとありがとうです」

 

「はいそこーー! そんな悲痛な顔して言わないで!」

 

 

一蓮托生な間柄とはいえ、寂しくなってしまうスバルは猛抗議。

 

そして……。

 

 

「相変わらず、お前は朝っぱらから飲んでんのな」

「なぁに? ひょっとして飲みたいのかしら?」

「前も言ったが、間接キスってなっちゃうし。まだちょっとイベント更新早いし………その……」

「何かしら!! さっきまで無礼極まりない、無神経男だったくせに、この初心な感じはなんなのかしら! こっちが恥ずかしいのよ!」

 

 

所々は差異があるものの、要所要所は抑えてる様な気もするので、温かい目で見守るツカサだった。

 

 

そして、その後はまさに予定通り。

 

ロズワールも遅れてやって来て、レムやラムも配膳し、皆で感謝を口にして朝食。

穏当ではない国の状況、王が不在、その血族根絶やし、そして エミリアが次期王候補1人である事等、モロモロを打ち明けられた。

スバルは暴走(笑)。

レムとラムに《OK》の意味を教え、飲酒可能年齢を代わりに教えてもらえる。

続いて《マジ》の意味を教え、直ぐに覚えて使いこなすと言う御業を魅せられてスバルは感嘆。

 

 

互いに《イエーイ》ハイタッチまで交わす程。

 

 

 

最初も、それなりに流して……というか、喜劇を見ているかの様に楽しんでいた事が功を成したツカサは、見てるだけで大体同じ。

前回をなぞってるスバルは頑張っていた様だが、悪いがどう見てもギコチない大根役者。

 

 

本当に幸か不幸か 戻った先がスバルが色んな事実を知る手前だったので、そこまで気に掛ける項目は無かった。

 

 

―――でも、結果 スバルが目に見えない暗殺者(疑)に狙われる事を考えたら 頂けないかもしれないが。

 

 

全く別の理由で命を盗られる可能性だって否定できない訳だ。

 

 

「(はぁ……、取り合えず オレ自身も結構注意して見とかないと、だな………。スバルだけ(・・・・・)が危険って単純な話じゃないかもしれないし)」

 

 

屋敷で命を落としたのは間違いない事。

単純に考えたら、《犯人はこの中にいる!》に収まると思うが、そう簡単な事ではないかもしれない、というのがツカサの感想であり、スバルも同じ意見。

 

王戦絡みで、候補者を狙った攻撃に巻き込まれたと言う可能性だって0ではない。寧ろ、あの腸狩りのエルザの一件を考えたら、そちら側の方が高いと思える程だ。

 

 

 

 

そして、最終的には勿論。

 

 

「君が望むものはなぁにかな? どんな金銀財宝を望んでも、或いはもっと別の酒池肉林的な展開を望んだとしても、褒美は意のまま」

「男に二言はねぇな!? ロズっち!」

「ほほぅ、スゴイ言葉だねーぇ。なるほど。男は言い訳しないべきだ。二言は無い」

 

 

望むモノは最初から決まっている。

 

 

 

「オレを屋敷で雇ってくれ!」

 

 

 

そして、前回同様、皆がぽかん、と気の抜けた様な顔をしていた。

唯一、ベアトリスだけが パックやクルルと戯れてご満悦だった筈のベアトリスだけが、明らかに表情が歪んでいたが、それも同じ事。

 

 

無欲である事を咎められる、という展開を再び踏破。

 

 

「はーぁ、スバル君といい、ツカサ君といい、その黒髪い黒い瞳、南方特有の容姿の男のコと言うのは、無欲の塊だったりするのかーぁな?」

「なーに言ってんの! 兄弟はどうかしんねーけど、オレは超欲張り! だって、こんな超かわいい超好みの超美少女とひとつ屋根の下だぜ!? 距離が縮まれば心の距離も同じ! チャンスは無限大!」

「……なーぁるほど。それは確かにそうだ。好みの女性の傍にいられる職場というのは得難いものだーぁね。つまり、その理論で行くと……」

 

 

ロズワールは何故か、ツカサの方を見た。

 

 

「ツカサ君の好みの子は、アーラム村に居た、って事かーぁな?」

「スバルを基準に、オレを推し量るのは止めてもらいたいですが………」

 

 

別に興味が無いと言う訳では無いし、同性愛と言う訳でもない。……が、いわばここは生活の基盤を整えなければならない場面だ。それに加えてスバルと言う天敵でありいつ爆発するか解らない存在もいるから、尚更考えなければならない事山積みだから、という理由もある。

 

 

「記憶障害を抱えてる、何処から来たか解らない身を受け入れてくれる、その要求ですから、無欲とは自分も思ってないですよ。しかも、その身請け先の上に立つのが、王候補のエミリアさんだったり、そのパトロン、筆頭魔導士のロズワールさんだったり。暮らしていく分には申し分ないと言うか、これ以上ない環境だと思うので」

「確かに、そーぉだーぁけどさ? それに加えて、その力をエミリア様の為に存分に発揮してくれーぇる、と約束までして貰えたんだ。やーーぁっぱり、どう考えても十分無欲だと思うよ?」

「ん……じゃあ、1つ、欲を出して良いですか?」

 

 

ここで、前回とは違った交渉に打って出る。

そのことに気付けたのは当然スバルのみ。

 

 

「勿論、良いか悪いかは、ロズワールさんが、引いては屋敷の皆さんが決めてくれて問題ありません。誰か1人でも難色を示したら、取り下げますから」

「いーぃよ。……何でも言ってくれ」

 

 

ツカサからの要求は願ったり叶ったりなロズワール。

目配せをして、ラムに指示。レムが余計な反応を示さない様に、フォローする事を目だけで伝える。

それ以外は問題ないとロズワールは思っていた。

 

 

 

「たまに、極たまに、こちらに訪問しても良いでしょうか? ご飯をご相伴に与れればな――――……なんて」

 

 

 

これは勿論スバルに対しての事なのだが、勿論全くのウソと言う訳ではない。

この場には、読心が出来るパックやベアトリスだっている。うすぼんやり、と言っているが、どの程度読めるのかはっきりしない以上、耳当たりの良い言葉を作るより、本心からの進言の方が良い。

 

 

この料理は、レムが作ってくれている様だが、本当に美味しかった。

 

 

村の料理にケチをつけるワケではないが、それでも絶品だったので、また与る事が出来たのなら、嬉しいと言うのは偽らざる真実。

 

 

―――クルルを用いた手段、心に鍵をする事は出来なくはない。でも、それは最終手段であり、妄りに使いたくなかったりもするから。

 

 

「さっすが兄弟!! 確かにメシは普通以上にうめぇ! つーーか、メチャクチャうめぇしな!」

「……でも、それじゃ、スバルと一緒で無欲だって、言われても全然おかしくないよ、ツカサ」

スバルと一緒(・・・・・・)って言う部分は撤回してもらいたい所だけどね……」

「うわっっ! 兄弟がメッチャ辛辣になった!!」

 

 

 

エミリアは、恩人に何も返す事が出来てない、命を救われた恩、それ以上の事も全く返せたりしてない、と負い目を抱いている。

でも、偽らざる気持ちを全面に前に出した事で、スバルもツカサも、本心を口に出来た事で、その負い目が少し和らいでいるのも事実だ。

悲痛な面持ちだった顔が、可愛らしいモノへと変わっているから。

 

 

「それだけ、レムさんの料理が美味しかったから………」

「おやーぁあ? レムががーーっちり、ツカサ君の胃袋掴んじゃったよぅだぁーね」

 

 

ロズワールはそれを聞いて笑う。

ラムとレムはきょとん、としていたが、レムは 優雅にお辞儀をした。

 

 

「お褒めに与り、恐縮ですお客様」

「褒めるのは当然ですよ、お客様」

 

 

「それに、このやり取りも中々面白くてね」

「いーぃねぇ、君達。2人ともがラムとレムの強い個性を受け入れるどころか、楽しんでる。なにかぁと、敬遠されがちなんだけど、そこまで気に言ってくれたのなーあら? 主として、私も鼻高々だーぁよ。その程度なら問題なし。流石に忍び込もーぉとするのは勘弁してもらいたいが、ラムとレム、エミリア様をとーぉして貰えるのなら、いつだって、大歓迎さ」

 

 

 

 

という分けで、ツカサは屋敷に気軽に来ても良い、つまりは スバル襲撃事件? の日にロズワールの屋敷に居られると言う約束を得たも同然。

 

ツカサは軽くスバルに目配せしつつ、あの苦しみを回避できるかも、と安堵するのだった。

 

 

 

 



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