猫シンクロ使いが行く遊戯王GX! (交響魔人)
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第1話!登場、S召喚使いの憑依者!

 古いしきたりにとらわれた名家がある。猫崎家という。

 昨今急速に勢いを増したデュエルモンスターズに、彼らも手を出し始めた。

 

 しかし兄弟と唯一外見が異なる次男の俊二は落ちこぼれであり、連戦連敗。折角カードを手に入れてもアンティルールで奪われるというありさま。

 そんな彼は学校にも居場所は無く、家にも居場所がなく、孤独な日々を送っていた。

 

 

「どうして、どうして僕は…。」

 

 

 少年の心は、とうの昔に折れていた。

 そんな彼からいつものようにレアカードを奪った同級生は容赦なく。

 

 川へ突き落した。

 

 

 本来ならば、この後は同級生のいじめにより死亡したというニュースが流れ、川遊びには気をつけましょう、という注意喚起がなされて終わりだろう。

 

 だが。物語はここから始まる。

 

 

 

 

 

「寒っ!」

 

 途方も無く寒く、俺はびっくりして飛び起きる。

 妙に視線が低い。

 川原のようだが…。何故ここに?

 

「なんだこれ?遊戯王のカード?」

 

 かつて中学生から高校生のころまで友人と遊んでいたカードゲームで使用するカードが落ちている。

 しかし、こんな材質だったか?

 

 近くの水面を見る。そこには金と銀のツートンカラーの少年が映っている。

 

「…は?」

 

 こんな変な髪形にした覚えはない。どうなっている?頭が痛い、ややあって俺の頭にある名前が浮かぶ。

 

「…猫崎、俊二?」

 

 

 

 そこから情報収集を始めた。

 どうやら猫崎家の次男で、いじめにあっているらしい。

 川辺でいじめっ子に俺は川へ落とされて流されたようだ。

 そこで意識を失っていたらしい。

 

「…その子供に俺が憑依したって事か。」

 

 いじめられていた理由は、この髪の色が原因だろうか?

 それ以外にも理由があるのだろうが…。

 

 

 いじめはいじめる方に問題がある。いじめはいじめられる方に問題がある、という奴に限って自分がいじめられると反発するんだよな。

 そもそも、先に手を出したほうが悪いと思うがね。

 

 

「とりあえず、さっさと独り立ちしてこの家とも縁を切るか。」

 

 

 数日後、俺を川に突き落とした加害者の糞親が、『子供がやったことですから~』と言っただけで済ませられた。

 それを言っていいのは被害者の方で加害者ではない。しかもそれで済ませるこの肉体の家族に対する愛も無くなった。

 最低限の接触にとどめ、極力関わらないように過ごす。

 

 

 この中学校でもデュエルモンスターズは流行っている。

 決闘者の発掘に来ていた海馬コーポレーションの社員に接触し、色々と話をした。

 同年代とは別格のカード知識とプレイングに、社員は驚いたようだ。

 

 そんな社員と二人きりになった時。俺は川に突き落とされた事などを話し、このままだと殺されるから助けてほしい!と訴えた。

 その人は俺と変わらない年齢の子供がいるらしく、上に掛け合ってくれた。尤も。

 

 

 

『中等部の全国大会で優勝したら、新しい召喚方法のテスターになってもらう。代わりに身元を保証する』という内容だったが。

 

 俺は海馬コーポレーションの保護下に入った。

 そのまま順当に中等部の大会を制し、俺はS召喚のテスターになった。

 

 

「貴様はS召喚という新しい召喚方法を提示したら、即座にレスキューキャット、召喚僧サモンプリースト、精神操作の有用性を指摘する子供ならではの柔軟な発想力がある。レベルや攻撃力が低くても戦える事を知らしめれば、アカデミアひいてはデュエルモンスターズの発展に繋がる。期待しているぞ、ワハハハハハハ!」

 

 悪役同然の笑い声をあげる芸に…ゲフンゲフン、変じn…ゲフンゲフン。上司に一礼する俺。

 これがいつまで続くのかと思うと、ややうんざりする。

 

 

 高校は卒業しておけ、というので前世で地元だった地域の公立高校を選択する。

 ドミノ高校だと事件に巻き込まれかねないから。

 GXの時間軸だが、デュエルアカデミアは事件が多すぎる。

 

 …残念なことに、前世の知り合いは一人も居なかった。

 そして前世では話をしなかったが、密かに気になっていたあの女の子と話をしてみたかったが…。

 

 これで原作と関わらずに済む…と考えていたがどうやら俺に逃げ場は無いらしい。

 二年生に進級する前にある命令を受ける。

 

 

「デュエルアカデミアに編入?校長は…才災?鮫島校長では無いのですか?」

「ふぅん、詳しいな。確かに俺はサイバー流の師範である鮫島を校長にしていたが、サイバー流で動きがあって鮫島が追われ、才災という男が後任になった。」

「才災校長…。」

 

 

 俺が憑依した事による変化か?

 そのやり取りをした数日後。

 

 

『猫崎 俊二さん。会場までお越しください。』

 

 俺の出番が来たようだ。ここは、デュエル・アカデミアの会場、海馬ドーム。

 俺は今日、デュエル・アカデミアの編入試験を受ける。

 

『クロノス教諭!試験用デッキをお持ちください!』

『本来のデッキでは、試験の公平性が失われます。』

「必要ありませんーノ。自分のデッキでデュエルシマース!」

 

 声がここまで聞こえてくる。本気って事は【暗黒の中世】デッキか。

 

「シニョールが、ペガサス会長と海馬オーナーから推薦を受けた編入生なノーネ?」

「はい。猫崎俊二。S召喚のテスターです。」

「ブラララララ、そんな肩書は、このデュエルアカデミアでは通用しないノーネ!それを思い知らせてやるノーネ!」

「よろしくお願いします。」

 

 

 俺は一礼して、デュエルを始める。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

クロノス ライフ4000

手5 場 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は貰うノーネ、ドローなノーネ!魔法カード、デビルズ・サンクチュアリを二枚発動!ワターシの場に二体のメタルデビルトークンを特殊召喚!

このトークン二体をリリース!現れるノーネ、エメス・ザ・インフィニティ!カードを2枚伏せてターンエンドなノーネ!」

 

 時系列的には遊戯王GXだが、すでに生贄はリリース、生贄召喚はアドバンス召喚という名称になっている。

 

 

クロノス ライフ4000

手1 場 エメス・ザ・インフィニティ 伏せ2

猫崎 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、大寒波を発動!メインフェイズ1でのみ発動可能!次の俺のターンまで、お互いに魔法・罠カードを発動及びセットできない!」

「ブララ、魔法・罠を使わずにワターシのエメス・ザ・インフィニティを倒すなど不可能なノーネ!」

 

「それはどうかな?召喚僧サモンプリーストを召喚!効果発動、守備表示になる。そして手札の魔法カード、精神操作を捨てて効果発動!デッキからレベル4のモンスターを特殊召喚!現れろ、二体目の召喚僧サモンプリースト!効果発動、手札の貪欲な壺を捨てて、デッキからレスキューキャットを特殊召喚!」

「一気にモンスターが三体。デスーガ、どれもワターシのエメス・ザ・インフィニティの敵ではないノーネ!」

 

「レスキューキャットの効果発動、デッキからレベル3以下の獣族二体を特殊召喚。現れろ、二体のチューナーモンスター、Xセイバーエアベルン!」

「それで呼び出したところ-で、エンドフェイズには破壊されるノーネ。無駄死になノーネ!」

「俺は、レベル4のサモンプリーストに、レベル3のエアベルンをチューニング!」

 

 光が輪になり、包み込む!

 

「何が起きているノーネ?ミネストローネ!」

「チューナーモンスターを含む素材となるモンスターのレベルの合計と、同じレベルのモンスターを特殊召喚する。S召喚!Lv7!現れろ、ダーク・ダイブ・ボンバー!」

 

 

 オレンジ色の爆撃機が降り立つ!

 

『やぁ、画面の前のみんな!安心してね!エラッタ前だよ!』

 

 カードの精霊と心を通わす能力は無いんだよなぁ。

 何か言ったかもしれないが俺には分からない。

 

 

 

「攻撃力2600?!」

「そして、レベル4の魔法使い族の召喚僧サモンプリーストに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!Lv7!アーカナイト・マジシャン!」

「なんなノーネ?!今度ーハ爆撃機ではなく-テ、魔法使い族が出てきたノーネ?!」

「効果発動、魔力カウンターが二つ乗る。魔力カウンター一つにつき、このカードの攻撃力は1000アップする。」

 

「ふ、フフーン!攻撃力2400デーハ、私のエメス・ザ・インフィニティの足元にも及ばないノーネ!その爆撃機にエメス・ザ・インフィニティが倒されて、ダイレクトアタックを受けテーモ、まだライフは残るノーネ!」

「アーカナイト・マジシャンの効果発動!魔力カウンターを一つ取り除いて、相手の場のカードを破壊する。砕け散れ、エメス・ザ・インフィニティ!」

「マンマミーア!」

 

 アーカナイト・マジシャンが放った魔力弾が、エメス・ザ・インフィニティの足を粉砕する!

 

 

「バトル、アーカナイト・マジシャンとダーク・ダイブ・ボンバーでダイレクトアタック!」

「マンマミーア!」ライフ0

 

 

 

「対戦、ありがとうございました。」

 

 俺は一礼して、試験会場を後にする。

 



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第2話!サイバー流の刺客とオベリスクブルーの罠!

アンチリスペクト物だと、初手にサイバー・ドラゴン3体とパワー・ボンド、サイバー・ジラフを握っている門下生が登場しますよね。割と良い引きをしていると思います。

無ければ奪う、という発想が出来るキャラは個人的に好きです。


 アカデミアの編入試験を突破したが、同封された合格証明書には、オシリスレッドに配属と明記されている。

 編入生はいくら優秀でも、オシリスレッドからのスタートだから仕方ない。

 

 そう思っていた俺はデュエル・アカデミアの集会に出席する。

 その場に知った顔がいる。丸藤亮…前田隼人。主人公たちは居ない。

 

 少し時期がずれているようだ。

 校長は、才災 勝作(さいえん しょうさく)。教頭は才津 健三(さいつ けんぞう)というらしい。

 どことなく嫌な奴の眼をしている。

 

 

「ではこれで解散とします。この後、猫崎君と我がサイバー流の門下生の決闘を行います。サイバー流の門下生とサイバー流に興味のある生徒は残っていてください。」

 

 

 早速仕掛けてくるか。

 才災校長は、女子生徒の一人を呼び出す。

 

「紹介します。我がサイバー流の伝承者の称号を授かったデュエル・エリート。才波 光里(さいば ひかり)さんです。」

 

 

 繊細な目鼻立ち、くっきりとした顔であり、勝気で我の強そうな印象を与えるつり目が印象的。

 腕と足も引き締まっており、普段から運動をしているようだ。

 黒髪をツインテールシニヨンにまとめている。

 

 前世から色々な異性を見てきたが、これほど健康的で魅力的な異性は居なかった。

 

「才災校長、私に相手をしろと?」

「何か不満ですか?」

「…いいえ。今のサイバー流の師範は才災校長です。了解しました。」

 

 鮫島師範は慕われていたが、才災師範には人望が無さそうだ。

 思えば、イベントを企画したり新しい教師を迎え入れた結果事件が起きていたが、少なくとも原作では十代を成長させるという意図があったなぁ…。

 

 

「…改めて自己紹介するわ。私は才波光里。サイバー流伝承者よ。」

「俺は猫崎俊二。行くぞ!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才波 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は猫崎君です。」

 

「俺の先攻。俺はレスキューキャットを召喚!効果発動、このカードを墓地に送り、デッキからレベル3以下の獣族を二体まで特殊召喚!俺はデッキからXセイバーエアベルンとコアラッコを特殊召喚!」

「ターン終了時には破壊されてしまうけれど、チューナーとそれ以外のモンスター。来るわね…!」

「レベル2のコアラッコに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!Lv5!A・O・Jカタストル!カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 サイバー流に機械族はキメラテック・フォートレス・ドラゴンに食われる可能性があるが、その時はこの伏せカードで対処する。

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 カタストル 伏せ1

才波 ライフ4000

手5 場 

 

 

「これがSモンスター…私のターン、ドロー!魔法カード、大嵐を発動!場の魔法・罠カードをすべて破壊する!」

「月の書がっ!」

「月の書?リバース効果モンスター主体のデッキなの?まぁいいわ、私はサイバー・ジラフを召喚。このカードをリリースして効果ダメージを0にする。

魔法カード、パワー・ボンドを発動!手札のサイバー・ドラゴン3体を融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

 ほう、サイバー・ジラフを使ってからパワー・ボンドか。中々慎重だ。

 

「攻撃力4000…。そして元々の攻撃力分アップするから8000か」

「バトル!」

 

 このまま攻撃させてもいいが、どうやらカタストルの効果を知らないらしい。

 

「待った。A・O・Jカタストルの効果は闇属性以外のモンスターと戦闘を行うとき、ダメージ計算を行わずに破壊する。」

「なっ?!なによその効果ッ!」

「サイバー・エンド・ドラゴンの効果破壊を免れる方法があれば、ダメージ計算が行われる為戦闘破壊できるが…。」

 

「わ、わたしはターンエンド」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 カタストル 

才波 ライフ4000

手0 場 サイバー・エンド・ドラゴン 

 

 

「俺のターン、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!このカードは召喚成功時、守備表示になる。手札の精神操作を捨て、デッキから霞の谷の戦士を特殊召喚!レベル4のサモン・プリーストにレベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!現れろ、メンタルスフィアデーモン!」

「攻撃力、2700!」

「バトル、カタストルでサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!そして効果発動!」

「くっ、サイバー・エンド・ドラゴンッ!」

 

 

 ずるい!とかインチキ効果もいい加減にしろ!という否定的な声が聞こえる。

 幻魔の扉を使われても罵倒しなかったカイザーって本当に人格者だなぁ。

 事あるごとに相手をインチキ呼ばわりする誰かさんは見習って、どうぞ。

 

 

「メンタルスフィアデーモンでダイレクトアタック!」

「でも、まだライフは残る!」

「速攻魔法、イージーチューニングを発動!墓地のチューナーを除外し、除外したチューナーの攻撃力分攻撃力をアップする。墓地の霞の谷の戦士を除外し、メンタルスフィアデーモンの攻撃力を1700ポイントアップさせる!」

 

「攻撃力4400!きゃあああああっ!」ライフ0

 

 

 隠し玉として入れておいた速攻魔法のおかげで勝利できた。

 

 

 

「俺の勝ちだ。」

「全く不甲斐ない。才波光里さん、君は破門です。」

「?!そんなっ!待ってください、もう一度、もう一度チャンスを!」

 

 一度の敗北、それも前世で猛威を振るった【猫シンクロ】に負けたから破門はどうなんだ?

 

「どういう事ですか、才災校長。」

「部外者は黙って居なさい。これはサイバー流の問題です。」

「…負けた責任を問うなら、相手の実力を見抜けず嗾けた指導者の責任も問われるべきだと思います。」

「いいでしょう。才波さん、いや才波。君の沙汰は追って連絡します。では解散とします。」

 

 

 本当に私物化しているようだ。

 他のサイバー流の門下生は見下した目で才波さんを見ているが、明日は我が身と思わないのか?

 どうにも、サイバー流の未来は暗そうだ。

 

 

 

 

 その夜。俺のPDAにメールが届く。

 

『オシリスレッドのドロップアウト、サイバー流の落ちこぼれに勝ったぐらいで調子に乗るな。俺達とアンティ・デュエルだ。度胸があるなら来るんだな』

 

 原作開始時点では無いが、オベリスク・ブルーがオシリスレッドを呼びつけてアンティ・デュエルは恒例行事なのか?

 そして俺のPDAのメールアドレスは何故ばれている?まぁ、行くとしよう。

 

 

「よく来たな。俺はオベリスクブルーの門士郎!俺が勝ったら、シンクロモンスターとかいうカードを寄越せ!」

「俺が勝ったら、何を渡す?」

「フン、オシリスレッドが、まぐれで勝ったからと言って図に乗るな!身の程を思い知らせてやる!」

「アンティなら互いに了承したうえで行わないとトラブルになるのだが。まぁいい、ガードマンが来る前に終わらせる」

「そうだな、さっさとシンクロとやらを回収しないといけないからな!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

門士郎 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻!ドロー!俺は代打バッターを召喚!カードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

門士郎 ライフ4000

手4 場 代打バッター 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!チューナーモンスター、霞の谷の戦士を召喚!」

「フン、攻撃力たった1700の雑魚か。」

「それはどうかな?魔法カード、精神操作を発動!お前の代打バッターのコントロールを得る!」

「?!だが、その効果で奪ったモンスターはリリース出来ず、攻撃も出来ない!」

「レベル4の代打バッターに、レベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!メンタルスフィア・デーモン!」

 

「お、俺のモンスターを奪ってS召喚だとぉ!味な真似を!だが、ここで代打バッターの効果発動!」

 

 んー?転生前の世界ではタイミングを逃してできなかったが…。

 ああ、そういえばアニメだと代打バッターをアリの増殖でリリースしてもインセクトプリンセスを特殊召喚していたな。

 この世界だと、代打バッターは墓地に送られた『場合』なのか?

 

 

「手札の昆虫族を特殊召喚!現れろ、鉄鋼装甲虫!」

「攻撃力2800か、なら速攻魔法、月の書を発動!そいつを裏側守備表示にする!」

「ぐっ!」

 

 攻撃力は2800あっても、守備力は1500しかない!

 

「バトルだ、メンタルスフィア・デーモンで攻撃!」

「馬鹿め!罠発動!炸裂装甲!これで攻撃モンスターは御終いだ!」

「ライフを1000払って効果発動!メンタルスフィア・デーモンはサイキック族が魔法・罠カードの対象になった時、1000のライフをコストにそのカードの発動と効果を無効にして破壊できる!」ライフ4000から3000

「なんだとぉ!」

「そして、メンタルスフィア・デーモンの効果発動!破壊したモンスターの攻撃力分のライフを回復する!」ライフ3000から5800

 

「なんだその効果!」

「強すぎるだろ!」

「インチキ効果もいい加減にしろ!」

 

 

 奴の取り巻きがわめく。

 

「カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ5800

手2 場 メンタルスフィア・デーモン 伏せ2

門士郎 ライフ4000

手3 場 

 

「俺のターン、ドロー!俺は共鳴虫を召喚!」

「共鳴虫を攻撃表示、なるほど狙いは」

「魔法カード、強制転移を発動!」

 

 コントロール奪取か。

 

「俺はSモンスターと、チューナーとやらも持っていない。だが無ければ奪う、それが俺のやり方だぁ!」

 

 その門士郎のプレイングに、周囲が反応する。

 

 

「流石門士郎さんだぜ!」

「そうだ、強力なモンスターを出したなら奪えばいい!」

「やっちまえ!」

 

「行くぞバトルだぁ!俺のメンタルスフィア・デーモンで、雑魚モンスターを攻撃しろぉ!」

「罠発動!聖なるバリア-ミラーフォース-!」

「馬鹿め!ライフを1500払って速攻魔法、我が身を盾に!を発動!これで俺のメンタルスフィア・デーモンは破壊されない!」ライフ4000から2500

「チェーンして魔宮の賄賂を発動!我が身を盾に!の発動を無効にして破壊!そして相手は1枚ドロー!」

 

 ミラーフォースが成立し、奪われたメンタルスフィア・デーモンは俺の墓地に戻る!

 

「なんだと!くそっ、ターンエンドだ!」

 

猫崎 ライフ5800

手2 場 共鳴虫 

門士郎 ライフ2500

手2 場 

 

 

 どうやら場に出せるカードが無いらしい。

 

「俺のターン、ドロー!X-セイバーエアベルンを召喚!」

「ま、またシンクロってやつをするのか?!」

「いや、このままバトルだ。エアベルンでダイレクトアタック!」

「ぐおおっ!」ライフ2500から900

 

「エアベルンの効果発動、ダイレクトアタックでダメージを与えた時、相手の手札をランダムに一枚捨てさせる!」

「お、俺の電動刃虫が!」

「そして、共鳴虫でダイレクトアタック!」

「うわああああっ!」ライフ0

 

 

 

「も、門士郎さんが、いや、門士郎が負けた?」

「オシリスレッドに負けるなんて、落ちぶれたぜ虫野郎!」

「お前、弱いだろ!」

 

 手のひら返しをする取り巻きに対し、怒り狂う門士郎。

 ギャーギャー騒いでいる間に、俺はその場を後にする。



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第3話!『【里ロック】はリスペクトに反しています』

アンチリスペクト物ではあまり見かけませんが、こういう戦術も批判の対象になりそうですよね。

追記:若干デュエル内容を修正しました。


 デュエルフィールドへ行くと、どうやらデュエルが行われるらしい。

 サイバー流の門下生と、相手はオベリスクブルーの女子生徒だ。

 黒髪黒目、背が低めでスレンダー。これといって特徴は無い。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

 

才藤 ライフ4000

手5 場 

寒川 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は私ね。私のターン、ドロー!私は魔導獣ケルベロスを召喚!フィールド魔法、魔法族の里を発動!これによりケルベロスに魔力カウンターが一つ乗り、攻撃力が500ポイントアップ!魔法族の里により、私の場に魔法使い族が存在し、相手の場に魔法使い族が存在しなければ、相手は魔法カードを発動出来ないわ!」

「なっ!」

 

 

『卑怯だぞ!』

『相手の魔法カードを封じるなんて!』

 

 周りの門下生が罵倒する。

 

 

「魔法族の里にはリスクもある。私の場に魔法使い族が居なければ、私は魔法カードを発動出来ない。そして相手の場に魔法使い族が居れば魔法カードを発動できる。」

「くそっ、俺のデッキには魔法使い族なんていう陰キャ御用達の根暗なカードは入っていないのに」

「ええ…。私は、カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

才藤 ライフ4000

手5 場 

寒川 ライフ4000

手2 場 ケルベロス(1) 魔法族の里 伏せ2

 

 

「ハン、俺のターン。ドロー!相手の場にモンスターが存在する事で、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!バトルだ!その犬を蹴散らせ!エヴォリューション・バーストォ!」

「リバースカードオープン!収縮!これでサイバー・ドラゴンの攻撃力を半分にする!」

「くそが!」ライフ4000から2650

「そして、ケルベロスに魔力カウンターが乗り、攻撃力は2400になる…最もバトルフェイズ終了時、魔力カウンターは全て取り除かれるわ。」

「ならばメインフェイズ2だ!俺はサイバー・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚!カードを伏せてターンエンド!」

「エンドフェイズに王宮のお触れを発動!」

「なんだとぉ!」

 

『今度は罠まで封じやがった!』

『なんて卑劣な奴なんだ!』

 

 

 

 

才藤 ライフ2650

手3 場 サイバー・ドラゴン 伏せ1

寒川 ライフ4000

手2 場 ケルベロス 魔法族の里 王宮のお触れ 

 

 

 

「私のターン、ドロー!魔導獣ケルベロスをリリース!ブリザード・プリンセスをアドバンス召喚!」

 

 ショートカットの水色の髪。青と白で構成されたドレスを纏い、大きな氷がついたモーニングスターを持つプリンセスが降り立つ!

 ソリッドビジョンでこれが見れる事に感動してしまう。

 

 

「レベル8をリリース一体で召喚だとぉ!」

「ブリザード・プリンセスは魔法使い族をリリースすれば、リリース一体で場に出す事が出来るわ!バトル!ブリザード・プリンセスでサイバー・ドラゴンを攻撃!」

「ぐぐっ!」ライフ3150から2450

「カードを伏せてターンエンド!」

 

 

 

 

才藤 ライフ2450

手3 場 伏せ1

寒川 ライフ4000

手1 場 ブリザード・プリンセス 魔法族の里 王宮のお触れ 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!卑怯なカードばかり使いやがって!ぶっ潰してやる!俺は三体目のサイバー・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚!」

「攻撃表示?リミッター解除は使えないはずだけど…。」

「ふん、融合呪印生物ー「光」を召喚!このカードとサイバー・ドラゴンをリリース!現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!バトルだぁ!ツイン・ドラゴンで攻撃ぃ!」

 

 顔を青ざめながらも、ブリザード・プリンセスは健気にモーニングスターを構える。

 だが!

 

「自爆覚悟で突破してくるつもり?!させないわ!リバースカードオープン!月の書!サイバー・ツイン・ドラゴンを裏側守備表示にする!」

「?!それは、卑怯者猫崎お得意の戦術!!」

「私はデュエリストよ。直接カードを交えなくても、眼前のデュエルから学ぶわ!」

 

 おおー。収縮で戦闘補助をしていただろうに、月の書まで採用するか。

 直接会話をした事は無いが、猫崎にとっては嬉しい変化だ。

 

 

 月の書を手に魔法を詠唱するブリザード・プリンセス。

 サイバー・ツイン・ドラゴンの動きが止まり、沈黙する。

 ブリザード・プリンセスを破壊して何とか魔法カードを発動しようとしていた門下生だが、目論見がはずれる。

 

「くそっ…ターンエンドだ」

 

才藤 ライフ2450

手2 場 セットモンスター 伏せ1

寒川 ライフ4000

手1 場 ブリザード・プリンセス 魔法族の里 王宮のお触れ 

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、シールドクラッシュ!守備モンスターを破壊する!」

「ぐっ…今度は除去カードだと!だが、まだライフは残る!」

「私は、マジシャンズ・ヴァルキリアを召喚!バトル!マジシャンズ・ヴァルキリアとブリザード・プリンセスでダイレクトアタック!」

 

 マジシャンズ・ヴァルキリアが魔導波を放ち…

 満面の笑みを浮かべながらブリザード・プリンセスはモーニングスターをぶんぶんと楽し気に振り回し…。

 その氷の塊が門下生をぶちのめす!

 

「ぎゃああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 デュエルは寒川という女子生徒が勝ったが。

 

 

「あんなの卑怯だ!」

「えっ?」

 

 周りから浴びせられる批判の声。

 

「魔法と罠を封じて、自分は魔法カードを使い放題!」

「そうだ!ずるいぞ!」

 

「な、何を言っているの?相手の魔法と罠を封じて、バトルフェイズでも勝てるように速攻魔法を駆使する戦略の何が悪いの?」

「俺の行動を一方的に制限しやがって!卑怯だと思わないのか!」

 

 

 罵声を浴びせる周りの門下生と対戦相手。

 リスペクト精神はそこにあるのか?

 

 

「そこまでです。」

 

 待ったをかける才津教頭。

 教員が動いたことで寒川はホッとしたようだが、俺は嫌な予感しかしなかった。

 

「寒川さん。君のデュエルはリスペクト精神に反しています。君のデッキから相手の魔法・罠を封じるカードをすべて外しなさい。」

「そんな!それでは何の特徴も無い魔法使い族デッキになります!」

「認めません。次も同じデッキを使っていたら処罰します。」

「っつ…わかり、ました。」

 

 

 その数日後。また寒川さんのデュエルが行われる事になった。

 相手はまた同じ門下生だ。

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

 

才藤 ライフ4000

手5 場 

寒川 ライフ4000

手5 場 

 

「先攻はお前だ!」

「…私の、ターン!ドロー!私は王立魔法図書館を召喚!そして魔法カード、テラ・フォーミング!デッキからフィールド魔法、闇を手札に加えて発動!さらに魔法カード、精神統一を発動!デッキから精神統一を手札に加える。これで魔法図書館に魔力カウンターが3つ乗る!」

「それでどうするつもりだ?」

「王立魔法図書館の効果発動、魔力カウンターを3つ取り除いて1枚ドロー!カードを三枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

才藤 ライフ4000

手5 場 

寒川 ライフ4000

手2 場 王立魔法図書館 闇 伏せ3

 

 

 魔法族の里の代わりに投入したのがフィールド魔法、闇のようだ。

 なんだかなー、という気分で俺はデュエルの行く末を見る。

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、融合を発動!手札のサイバー・ドラゴン二体を融合!現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!バトルだ、ツイン・ドラゴンで攻撃!」

「永続罠、血の代償!ライフを500払い、王立魔法図書館をリリース!ブリザード・プリンセスをアドバンス召喚!」ライフ4000から3500

 

 

 場に現れるのは氷のお姫様。

 フィールドに闇が漂い、魔力の増幅を感じているのかモーニングスターをぶん回している。

 以前見た時と違い、ちょっと怖い。

 

「ブリザード・プリンセスが召喚に成功したターン、相手は魔法・罠カードを発動出来ない!」

「くそが!ターンエンドだ」

 

 

才藤 ライフ4000

手3 場 サイバー・ツイン・ドラゴン 

寒川 ライフ3500

手1 場 ブリザード・プリンセス 闇 血の代償 伏せ2

 

 

「私のターン、ドロー!装備魔法、団結の力をブリザード・プリンセスに装備!これで攻撃力と守備力が800ポイントアップして3800になるわ!バトル、ブリザード・プリンセスでサイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃!」

「くそっ!」ライフ4000から3800

「罠発動!未来王の予言!魔法使い族の攻撃で相手モンスターを破壊した時、そのモンスターはもう一度攻撃できる!最もこのターン、召喚・特殊召喚・反転召喚を行っていたら発動できないけれどね。」

「なんだとぉ!」

 

 

 親の仇を見るような、蔑んだ目で才藤を見つめながらブリザード・プリンセスは思いっきり勢いをつけ、モーニングスターを振り下ろす!

 

「あぎゃーっ!」ライフ0

 

 またしても寒川が勝利する。

 

 相手の行動は妨害していない。さて、どういちゃもんをつけるつもりだ?

 そう思っていた俺だが。

 

 

「…今のデュエルは認めます。寒川さん、今後とも努力しなさい」

「はい、わかりました。」

 

 

 これはOKか。しかしこれでは…デュエリストのレベルは下がっていく一方だぞ?

 世界中がこういう流れならまだしも、日本のデュエルアカデミアだけがこんなデュエリストを育成していたら世界の舞台では通用しなくなる。

 



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第4話!『綾小路君、セイコさん。君達のデュエルはリスペクトに反しています』

アンチリスペクト物でバーンデッキを否定するなら、この二人も批判されると思います。

豆腐のドローパンは、豆腐が一丁入っているらしいです。もしそうなら、外から触れば豆腐のドローパンか否かわかりそうな物ですが。


 オベリスクブルーの生徒が、サイバー流の門下生とデュエルをするという。

 オシリスレッドしか狙わないと思っていた俺は興味本位で見物に行くことにした。

 

 

 対戦相手は…綾小路か。テニスデッキを使っていたが…。

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

綾小路 ライフ4000

手5 場 

才岡 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「僕の先攻、ドロー!魔法カード、サービスエースを発動!手札を一枚選択、選択したカードの種類を当てて貰おう。」

「モンスターカードだ!」

「残念、速攻魔法、サイクロンだ。このカードを除外して、君に1500のダメージ!」

「ぐっ!」ライフ4000から2500

 

 

「汚いぞ!」

「卑怯者!」

 

 効果ダメージを与えた綾小路先輩に対し、周囲のサイバー流門下生が罵声を浴びせる。

 

「う、ううっ…。ぼ、僕は!魔法カード、スマッシュ・エースを発動!デッキの一番上をめくる、それがモンスターなら1000ポイントのダメージだ。めくったのは、サウザンドボール!」

「ぐあああああっ!この卑怯者!」ライフ2500から1500

「ぼ、僕は。カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

 

綾小路 ライフ4000

手2 場 伏せ1

才岡 ライフ1500

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!プロト・サイバー・ドラゴンを召喚!魔法カード、融合を発動!場のサイバー・ドラゴンと手札のサイバー・ドラゴン二体を融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!バトルだぁ!卑怯なバーンカードを使うテニス部員にダイレクトアターック!」

「と、罠発動!レシーブ・エース!ダイレクトアタックを無効にして、相手に1500のダメージを与える!」

「なっ!こ、この卑怯者ぉおおおおお!」ライフ0

 

 

 

 

 デュエルはバーンカードを使ったとはいえ、テニス部員の綾小路が勝利した。だが。

 

「このデュエルは無効です。綾小路君は、相手に効果ダメージばかり与えるカードを使い、対戦相手を侮辱しました。」

「なっ!さ、才災校長先生!僕は、ただ…」

「そのデッキを封印し、二度と使わないと約束するか、それともラーイエローに降格するか選ばせてあげましょう。」

「ぐ、ぐぐぐ…。」

 

 綾小路先輩はデッキを封印する道を選んだらしい。

 何とまぁ、ターゲットは俺だけでは無く、バーンカードを使うならブルー男子だろうとお構いなしか。

 

 ある意味、筋は通っているか。

 

 

 

 

 購買部で買い物をしようと寄ったら、デュエルが始まっていた。

 サイバー流の門下生と、相手は…

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

セイコ ライフ4000

手5 場 

才福 ライフ4000

手5 場 

 

 

 げっ?!セイコさん!TFシリーズでさんざん苦しめられた記憶を、猫崎は思い出す。

 

「私の先攻ですね、ドロー!私はプロミネンス・ドラゴンを召喚します。永続魔法、平和の使者を発動しまーす!カードを一枚伏せて、ターンエンド。エンドフェイズに、プロミネンス・ドラゴンの効果で500ポイントのダメージを与えまーす!」

「うわああああっ!」ライフ4000から3500

 

 

 

セイコ ライフ4000

手3 場 プロミネンス・ドラゴン 平和の使者 伏せ1

才福 ライフ3500

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!相手の場にのみモンスターが存在することで、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「攻撃力2100ですかー、でも平和の使者で攻撃力1500以上のモンスターは攻撃は出来ませんよ?」

「…俺は、サイバー・フェニックスを召喚。カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

セイコ ライフ4000

手3 場 プロミネンス・ドラゴン 平和の使者 伏せ1

才福 ライフ3500

手3 場 サイバー・ドラゴン サイバー・フェニックス 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!平和の使者の維持コスト、ライフ100を払います。」ライフ4000から3900

 

 便利だよなぁ、この永続魔法。

 

「よし、私はサイバー・ドラゴンとサイバー・フェニックスをリリースして、溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを特殊召喚します!」

「お、俺のモンスターが!」

 

『卑怯だぞ!』

『正々堂々と戦え!』

 

 門下生の気持ちも分からなくはない猫崎。

 ただ、文句を垂れるより対策するべきだよなぁ、と思う。デス・ウォンバットは彼女とデュエルするときは必須カードだ。

 …三積みしていたのに手札に来てくれなくて、TFで負けた事が猫崎にはある。

 

「私はこれでターンエンドでーす。エンドフェイズに、プロミネンス・ドラゴンの効果で500ポイントのダメージを与えます。」

「ぐううっ!」ライフ3500から3000

 

 

セイコ ライフ3900

手3 場 プロミネンス・ドラゴン 平和の使者 伏せ1

才福 ライフ3000

手3 場 溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムの効果発動!1000ポイントのダメージを与えます!」

「がああああああっ!」ライフ3000から2000

 

 

『さ、才福!』

 

 

 あー、これは詰んだかな?そう思いながら、猫崎は眼前のデュエルを見つめる。

 ドローパンは豆腐パンだ。豆腐が一丁入っているからボリュームたっぷり。

 醤油を少しかけて頂く。

 

 

「俺は、速攻魔法発動!サイクロン!これで平和の使者を」

「カウンター罠、アヌビスの裁き発動でーす!手札の魔法カード、ツイスターを捨てて、サイクロンの発動と効果を無効にして破壊!」

「何ぃ!」

「さらに、相手モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージも与えまーす!」

「うわああああああっ!」ライフ0

 

 

 デュエルはセイコさんが制した。

 

 

「私の勝ちですね!恋する乙女のフィギュア、お買い上げありがとうございまーす!」

「くっそぉおおおっ!」

 

 そのフィギュアあるのか。ブラマジガール、ピケルとクラン、カードエクスクルーダー、サイバー・チュチュしかないと思っていたが。

 フィギュアに造詣は無いからわからんが…出来栄えは良さそうだ。

 

 

 

「待ってください、セイコさん。」

「才津教頭先生?」

「今のデュエルで、セイコさんからは対戦相手へのリスペクト精神が感じられませんでした。」

「すみません、私、デュエルを始めたばかりで」

 

 

 嘘つけ。

 

 

「そういう事なら、大目に見ます。ですが、そういう相手の行動を封じ、一方的に効果ダメージを与える戦術は嫌われますよ。」

 

 まぁ、否定はしない。

 二つ目は、卵パンか…。にしては、やけに白身が旨い。

 プリっとした食感…黄身も濃厚…。

 

 あれだ。大きいショッピングモールに併設されている、パン屋の卵サラダパンより旨い。

 もしやこれが、黄金の卵パンか?いや、たまたま美味しい卵パンに当たっただけなのかもしれない…。

 



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第5話!シンクロ禁止令と才波光里の決断!

GXの世界にS召喚を持ち込んでいますが、そもそもGXにおけるアドバンス召喚は『場にリリース要員』を用意し、『手札に上級モンスター』を引き込み召喚権を使って出す。
一方でS召喚は『場にチューナーと非チューナー』を用意すればエクストラデッキからSモンスターを『選べる』。

カードパワー云々以前にシステムとして強いのがS召喚以降の召喚方法です。

…最も拙作の才災校長はそこまで考えておらず「S召喚そのものを禁止にすれば門下生でも勝てる」と浅はかな考えで禁止にしますが。


「猫崎俊二君。君はこれから、S召喚を用いないデッキを組みなさい」

「それは何故でしょうか、才災校長。」

「現在、S召喚は君が独占している。これは不公平です。よって君にもS召喚を使用しないデッキを組んでもらいます。」

 

 困ったな、言いがかりに近い事を言っているのだろうが、個人的には同意してしまう。

 S召喚を原作に持ち込むならGX以降の作品だろう。

 

「わかりました。才災校長。」

 

 俺が素直に頷いたのが意外だったのか、才災校長は目を丸くしている。

 

 

 一応、こういう事情があった旨をペガサス会長と海馬オーナーには報告する。

 さて、何デッキを組もうかな。

 

 

 次の月一試験では、またしてもサイバー流の門下生が相手だ。

 才花というらしい。ツンと尖った鼻と八重歯が印象に残る。

 

「フン、あんたが相手?さえない顔ね。」

「さっさと始めよう。」

 

 

 才波さんが不安そうな顔で見ている。

 卑怯で姑息なS召喚が無いならあんな奴一ひねり、という声が聞こえてくる。

 

 前世でエクストラ禁止の大会に参加したときは、ほんと色んなデッキが出て来て驚いたな。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才花 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「先攻はあんたよ。さっさと引きなさい!」

「俺の先攻。ドロー!あー…。豊穣のアルテミスを召喚。カードを5枚セット。ターンエンド。」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手0 場 アルテミス 伏せ5

才花 ライフ4000

手5 場 

 

 

「何それ。一度にそんなに大量に伏せるなんて、S召喚が無いあんたって本当に馬鹿なのね。」

「そう思っているなら、思っていればいい。」

「あたしのターン、ドロー!」

「カウンター罠、強烈なはたき落とし!ドローカードは捨てて貰う。」

「っつ!死者蘇生が!」

 

 良いカードを落とせた。

 

「カウンター罠の発動に成功したことで1枚ドロー。」

「生意気ね!私は魔法カード、大嵐を発動!」

 

 禁止制限ってどうなっているんだろう?と思っていたらこの世界、エラッタ前の混沌帝龍、八汰烏、サンダー・ボルト、ハーピィの羽根帚だけ禁止なんだと。

 おかげで自由度が高くて困る。

 

 

「カウンター罠、魔宮の賄賂!大嵐を無効にして破壊、そして相手は1枚ドロー!俺もアルテミスの効果で一枚ドロー!」

「このっ…あたしは、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!さらに融合呪印生物ー光を召喚!」

「カウンター罠、キックバック!融合呪印生物を手札に戻す!そしてカードを1枚ドロー!」

 

「きいいいっ!バトル!サイバー・ドラゴンでそいつを攻撃!」

「カウンター罠、攻撃の無力化!カードを一枚ドロー!」

「鬱陶しい!!カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 アルテミス 伏せ1

才花 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!手札を一枚捨て、魔法カード発動!ライトニング・ボルテックス!相手の表側表示モンスターを全て破壊!」

「サイバー・ドラゴンがっ!」

「バトル、アルテミスでダイレクトアタック!」

「罠発動!ドレインシールド!!攻撃を無効にして、その攻撃力分ライフを回復するわ!」

「カウンター罠、神の宣告!ライフを半分払ってドレインシールドの発動と効果を無効にして破壊!」ライフ4000から2000

「くっ…」

「そして、手札の冥王竜ヴァンダルギオンの効果発動!手札から特殊召喚!効果発動、罠カードを無効にして破壊したが、対象となるカードが無いな。いけ、二体でダイレクトアタック!」

「あ、い、いやああああああっ!」ライフ0

 

 

 デュエルは俺が勝ったが…。

 

 

「猫崎君。今のデュエル、貴方は対戦相手とカードへのリスペクト精神が微塵も感じられませんでした。」

「才災校長。俺は才花さんからリスペクト精神を感じられませんでした。」

「それは君の主観ですね。」

 

 ああ言えばこう言う、こう言えばハウアーユー。言葉が通じても話が通じない。

 

 

「カウンター罠を多用するデッキはリスペクトに反します。次は相手への敬意を持ってデュエルをするように。」

「では、才災校長。リスペクトに反するカードリストをお願いします。サイバー流ではない俺には分からないので。」

「才波に聞きなさい。話は以上です。」

 

 

 

 ちなみに、俺に負けたはずなのに才花さんはサイバー流から破門されなかった。

 どうやら、才災校長を慕っているか否かが破門する基準になっているみたいだな。

 

 

 場所を変え、俺は才波さんと相談する。

 

「…今のサイバー流で批判、否定されないカードね…。」

「どういうカードか、相談に乗ってもらいたい。」

「今は、カウンター罠、そして相手に効果ダメージを与えるカード、攻撃を封じるカードが否定されている。除去カードは批判されつつあるわ。」

「除去カードがダメって、グラヴィティバインドを使われたらどうするんだ?」

「だから、攻撃を封じるカードを否定している。」

「…光の護封剣は?」

「3ターンで自壊するから別にいいらしいわ。」

 

 霞の谷のファルコンでバウンスして使いまわすデッキでも組んでやろうかな。

 

「そもそも除去カードがダメというが、サイバー・レーザー・ドラゴンはダメなのか?それとサイバー・バリア・ドラゴンと暗黒の扉を組み合わせたら攻撃をロックできるぞ」

 

 あっ、と声を漏らす才波。

 

「…やはり、自分だけ一方的に攻撃して、相手の攻撃を封じるカードがダメのようね。バリアドラゴンは攻撃力800、相手の場に攻撃力800より高いステータスのモンスターがいたら攻撃できないもの」

「切り込みロックはありなのか?」

「少なくとも否定はしていないわ…。いまの所」

 

 

 俺は才波光里に相談し、デッキの方向を固める。

 言ってみれば、これは「制限デュエル」のようなものだ。

 

 

 そして、サイバー流の刺客が来るかもしれないとなれば、打点を跳ね上げるコンボが必要だ。

 なら…。

 

 

「デッキの方向は固まった。だが、いいのか才波?」

「何よ。」

「次のデュエル、俺は勝っても負けても君の立場は悪くなる。」

「別にいいわ。今のサイバー流を私は信じられないから。」

 

 真っすぐな、良い眼をしている。

 こういう門下生を切り捨てるか。鮫島校長なら絶対にしなかっただろう。

 

 

「でも猫崎。私とデュエルして。あのカウンター罠を使ったデッキを。」

「ああ、わかった。」

 

 

 てっきり忌み嫌いそうと思っていただけに、その反応は予想外だったが…。

 良い経験になると思い、俺はデュエルディスクを構える。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才波 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は譲るわ。その上で勝って見せる!」

「なら俺の先攻。ドロー!俺は、豊穣のアルテミスを召喚!カードを5枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手0 場 アルテミス 伏せ5

才波 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私のターン、ドロー!」

「カウンター罠、強烈なはたき落とし!」

「サイバー・ジラフが墓地に送られるわ。」

「そしてアルテミスの効果で1枚ドロー。」

 

「相手の場にのみモンスターが存在することで、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!バトル、アルテミスを攻撃!」

「カウンター罠、攻撃の無力化!バトルフェイズを終了、1枚ドロー!」

「分かってはいたけれど、守りが硬いわね。カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手2 場 アルテミス 伏せ3

才波 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「サイバー・ドラゴンの攻撃力は2100、そのデッキでどうやって突破するのかしら?」

「カウンター罠を多用する以上、攻撃力を上げる手段は少ない。だが、俺は天空聖者メルティウスを召喚!そして手札の天空の使者ゼラディアスを捨て、デッキからフィールド魔法、天空の聖域を手札に加え、発動!」

「天使族との戦闘ダメージを0にするフィールド魔法!」

「いかにも。カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手0 場 アルテミス メルティウス 天空の聖域 伏せ4

才波 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン 伏せ1

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、強欲な壺を発動!」

「カウンター罠、魔宮の賄賂!発動を無効にして破壊!相手は1枚ドローする。」

「なら、ドロー!」

「アルテミスの効果で1枚ドロー!そしてメルティウスはカウンター罠が発動するたびにライフを1000回復!そして場に天空の聖域が発動して居れば相手の場のカードを一枚破壊できる!サイバー・ドラゴンを破壊!」ライフ4000から5000

「そうやって突破するのね…。私はモンスターをセット。ターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ5000

手1 場 アルテミス メルティウス 天空の聖域 伏せ3

才波 ライフ4000

手3 場 セットモンスター 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ、アルテミスで攻撃!」

「セットしていたのは、アーマード・サイバーン!守備力2000よ!」

「反射ダメージは天空の聖域により受けない。ターンエンドだ。」

 

 

 

猫崎 ライフ5000

手2 場 アルテミス メルティウス 天空の聖域 伏せ3

才波 ライフ4000

手3 場 アーマード・サイバーン 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!プロト・サイバー・ドラゴンを召喚!そして罠発動!アタック・リフレクター・ユニット!場のサイバー・ドラゴンをリリースして。」

「カウンター罠、盗賊の七つ道具!ライフを1000支払い、罠カードの発動と効果を無効にして破壊!そして手札の冥王竜ヴァンダルギオンの効果発動!相手のカード効果をカウンター罠で無効にした時、手札から特殊召喚出来る。」ライフ5000から4000

「?!攻撃力2800!」

「そして効果発動、罠カードを無効にした事でアーマード・サイバーンを破壊!アルテミスで1枚ドロー!場にカードが無いため、メルティウスの効果は不発となる。」

 

 伏せられていたカードは、アタック・リフレクター・ユニットだった。

 

「…私はこれで、ターンエンド。」

 

 

猫崎 ライフ4000

手2 場 アルテミス メルティウス 冥王竜 ゼラディアス 天空の聖域 伏せ2

才波 ライフ4000

手3 場 

 

「俺のターン、ドロー!アルテミス、メルティウス、冥王竜ヴァンダルギオンでダイレクトアタック!」

「…また、勝てなかったか」ライフ0

 

 

 

 

「これが、エンジェルパーミッションだ。あまり使われていい気分のデッキではないか。」

「相手の動きを封じこめて押さえつけるデッキね。」

「そういうデッキだからな。だが、アーマード・サイバーンといったカードで守りを固めるのはよい対処だ。カウンター罠は相手がカードを発動しないと発動出来ないから。」

「そう、ね。参考になったわ。」

 

 

 

 俊二と別れた後、才波の前に三人の少年が現れる。

 

「?!…見ていたのね、丸藤様、いえ。丸藤。」

 

 門下生であり、常に敬称をつけていた才波光里が敬称をつけなくなった。

 その点で、丸藤亮は察する。

 

「才波。君はサイバー流から離れるつもりか?」

「今のサイバー流に席を置きたくない。もしかしたら、私を叩き潰せと才災師範が貴方に指示するかもしれない。でもその時は、全力で抗わせて貰う。」

 

 

 覚悟を決め、歩き出す才波。その道は木漏れ日によって明るく照らされていた。

 



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第6話!『龍牙実習生、君のイカサマはリスペクトに反しています』

今回は才災師範の考え方の原点に触れます。何故自分が使わないカードを、相手は当たり前のように使うんだ?と悩んだ結果、自分の考えを押し付ける方向に向かってしまいました。

ここで『人には人の考えがあるのだから自分の考えを押し付けるのではなく、自分の考えを貫いた姿を見せ続けなさい』と諭す人が居れば違う道があったのかもしれません。


 俺がカウンター罠以外のデッキを組んだというと、デュエルが組まれた。

 相手は教育実習生だった。

 

「君が噂のS召喚というのを使う生徒だね?」

「はい。」

「実は私はカードコレクターでね、私にもSモンスターを分けて欲しい。」

「ペガサス会長と海馬社長に頼んでください。」

「…生意気な」

 

 

 本性漏れているぞ。漫画版だと、アカデミアの教育者になり教え子に影響力を及ぼしてカードゲーム界を操ろう的な事を考えていたが、一方で教え子からレアカードをカツアゲするという恨みを買うような真似もしていた。影響力を及ぼしたいなら、教え子は大切にしないといけないだろうに…。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

龍牙 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私の先攻!ドロー!私は手札から俊足のギラザウルスを特殊召喚!そして魔法カード、大進化薬を発動!俊足のギラザウルスをリリース。これで3ターン、私は恐竜族を召喚するときにリリースは不要となる。現れろ、究極恐獣!」

 

 龍牙が呼び出したのは、攻撃力3000の大型恐竜族。

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

龍牙 ライフ4000

手2 場 究極恐獣 大進化薬(3) 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!フィールド魔法、天空の聖域を発動。モンスターをセット、カードを一枚伏せ、永続魔法天空の泉を発動。ターンエンド。」

 

猫崎 ライフ4000

手2 場 セットモンスター 天空の聖域 天空の泉 伏せ1

龍牙 ライフ4000

手2 場 究極恐獣 大進化薬(3) 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!現れろ、暗黒ドリケラトプス!バトルだ!天空の聖域と言う事でセットモンスターはどうせ天使族だろうが、この攻撃力なら敵ではない!」

 

 襲い掛かる究極恐獣。だが

 

「コーリングノヴァの効果でコーリングノヴァを特殊召喚。天空の泉で戦闘破壊されたコーリングノヴァを除外し、ライフを1400回復。」ライフ4000から5400

「小癪な!叩き潰せ!」

 

 次々と破壊されるコーリングノヴァ。

 しかし、俺のライフは5400から6800、6800から8200と回復する。

 

「シャインエンジェルを特殊召喚。」

「そんなリクルーターを呼び出して何になる!」

 

 シャインエンジェルもまた破壊される。

 8200から9600、9600から11000、11000から12400。

 ここまで予定通りだと笑いがこみあげてくる。

 

「シャインエンジェルの効果で、デッキから力の代行者マーズを特殊召喚。このカードはライフが相手を上回る数値だけ攻撃力がアップする。」

「攻撃力8400だと!ああっ!ダメだ!」

「究極恐獣は、相手の場のモンスターに攻撃しなければならない。攻撃してもらうぞ。」

「うわぁああああああっ!」ライフ0

 

 

 ライフが尽き、茫然とする龍牙。

 ホーリージャベリンを使う必要は無かったな。ドレインシールドの下位互換とされている罠だが、このデッキなら疑似的なオネストとして使える。

 どんなカードにも、存在する以上必要とされる力がある。

 

 だが、龍牙は立ち直り俺を睨みつける。

 

 

「そのデッキ、S召喚をするデッキでは無いな!」

「才災校長の指示で、S召喚をしないデッキを用意せよとの事でしたので。」

「なら…才災校長!S召喚デッキとデュエルさせてください!」

 

 そんな龍牙を、才災校長は見つめる。

 

「別に構わないが、勝てるかね?」

「勝てます!というのも…」

 

 何やら耳打ちする。

 

「なるほど。猫崎君、S召喚出来るデッキを用意しなさい。」

 

 一度寮まで取りに戻る羽目になった。

 戻ってきたら…。

 

「そのデッキを使いなさい。ただしS召喚を行ってはいけません。」

 

 と才災校長に言われた。

 なるほど、エクストラから出てくるSモンスターが強いのであってメインデッキのモンスターだけなら勝てると思ったか。

 まぁ、否定はしない。真帝王の領域を張られたら機能停止するデッキをそれなりに見てきた。

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

龍牙 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!手加減無しだ!俺はベビケラサウルスを召喚!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

龍牙 ライフ4000

手4 場 ベビケラサウルス 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!逆切れパンダを召喚!」

「罠発動!激流葬!場のモンスターを全て破壊する!」

「ベビケラサウルスを巻き込んだ…!」

 

 ベビケラサウルスには厄介な効果がある。それは…。

 

「破壊されたベビケラサウルスの効果発動!デッキからハイパーハンマーヘッドを特殊召喚!」

「…カードを一枚伏せ、光の護封剣を発動してターンエンド!」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 光の護封剣(3) 伏せ1

龍牙 ライフ4000

手4 場 ハイパーハンマーヘッド 

 

 

「私のターン、ドロー!手札のキラーザウルスを捨てて、デッキからジュラシックワールドを手札に加え、発動!」

「恐竜族の攻守が300アップする…フィールド魔法か。」

 

 アニメだとほかにも色々効果があったが…。これ以外に効果は無さそうでほっとする。

 

「私はハイドロゲドンを召喚!バトルだ、ハイパーハンマーヘッドとハイドロゲドンでダイレクトアタック!」

「?!」ライフ4000から2200、2200から300

 

 光の護封剣をすり抜けて、襲い掛かる恐竜軍団。

 俺のライフが削られるが、周囲もその様子に反応する。

 

「な、何故光の護封剣があるのに攻撃できるの!」

「おい、一体どうなっているんだ?流石におかしくないか?」

 

 寒川さんと門士郎が、騒ぎ出す。

 

「フン、卑怯者だからこんな目に合うのよ!」

「いやいや、これはおかしすぎる。」

 

 一方でサイバー流の門下生だが…こちらは意見が割れている。

 

 

「どうやらデュエルディスクの故障のようですね。まさか攻撃が通ってしまうとは。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 分厚い面の皮だな。

 

 

猫崎 ライフ300

手4 場 光の護封剣(3) 伏せ1

龍牙 ライフ4000

手4 場 ハイパーハンマーヘッド ハイドロゲドン ジュラシックワールド 伏せ1 

 

 

「…俺のターン、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!手札の精神操作を捨てて、デッキからレスキューキャットを特殊召喚!このカードを墓地に送り、デッキからコアラッコとX-セイバーエアベルンを特殊召喚!コアラッコの効果発動!俺の場に他に獣族が居れば相手モンスターの攻撃力を0に出来る!俺はハイパーハンマーヘッドの攻撃力を0にする!」

「ちっ」

「バトル!エアベルンでハイパーハンマーヘッドを攻撃!」

「がああああっ!」ライフ4000から2400

「ハイパーハンマーヘッドの効果でエアベルンは手札に戻る。カードを1枚伏せてターンエンド。エンドフェイズにレスキューキャットで特殊召喚したコアラッコは破壊される。」

 

 

 

猫崎 ライフ300

手3 場 召喚僧サモンプリースト 光の護封剣(3) 伏せ2

龍牙 ライフ2400

手4 場 ハイドロゲドン ジュラシックワールド 伏せ1 

 

 

 

「私のターン、ドロー!バトル!ハイドロゲドンでサモンプリーストを攻撃!」

「罠発動!聖なるバリア-ミラーフォースー!」

「ちっ、なら永続罠発動!化石発掘!手札の超電導恐獣を捨てて、今捨てた超電導恐獣を特殊召喚!」

「罠発動!奈落の落とし穴!超電導恐獣を除外!」

「なんだとぉ!ぐっ、カードを一枚伏せてターン、エンド。」

 

 …光の護封剣のターンカウントが進まない。これ、ずっと意味のないカードとして場に残るのか?

 

 

猫崎 ライフ300

手3 場 召喚僧サモンプリースト 光の護封剣(3) 

龍牙 ライフ2400

手3 場 ジュラシックワールド 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!サモンプリーストの効果発動、手札の大寒波を捨てて、デッキから二体目のレスキューキャットを特殊召喚。このカードを墓地に送り、デッキからエアベルンを二体特殊召喚!」

「ば、馬鹿な!」

「エアベルンを通常召喚!バトル!エアベルンでダイレクトアタック!」

「罠発動!生存本能!墓地のベビケラサウルス、キラーザウルス、ハイパーハンマーヘッド、ハイドロゲドン、超電導恐獣を除外して2000ポイントライフを回復!」ライフ2400から4400

「それでも、エアベルン三体の攻撃はしのぎ切れない!」

「うわああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 

 やり辛いにも程があったが、何とか勝てた。

 さて、これで文句は無いはずだが、ここからどういちゃもんをつけてくる?

 俺は才災校長に目を向けると。

 

 何故か、龍牙を睨んでいる。どういう風の吹き回しだ?

 

 

「龍牙君。今のデュエルで猫崎の光の護封剣の処理が不明瞭でした。」

「それは、彼がメンテナンスを怠っていたからでしょう?」

「いいえ。あれは電磁波を受けた時に表示される現象です。光の護封剣や悪夢の鉄檻など、場にとどまる通常魔法は電磁波を受けるとターンカウントが行われません。」

「な、なんだと!」

「つまり、今の電磁波の出所を調べれば…。さて、龍牙君。君を調べさせて貰いますよ。ああ、猫崎君はもう寮へ戻りなさい。」

 

 なるほど。どうやら今回才災校長は俺を倒せればそれでよし、失敗したら龍牙を処罰するつもりだったわけか。

 しかし、デュエルディスクの不具合について詳しいとは…。

 鮫島校長を追い落としてサイバー流師範に上っていたが、少なくとも単なる無能な老害という訳では無さそうだ。

 

 才災校長を見ていると、電話が鳴ったようで通話を始める。

 

「もしもし…か、海馬オーナー…。はっ、いえそのようなつもりは…はい、はい…。かしこまりました。」

 

 電話を切った後、親の仇のような目を携帯電話に向ける才災校長。

 

「猫崎君…。君のS召喚ですが…今後は許可します。」

「わかりました。」

 

 

 海馬オーナーが動いたか。猫崎は久々にS召喚が出来ると考える。一方で連行されていく龍牙を見ながら、才災は昔を思い出す。

 

 プロデュエリスト昇格試験の際に行われた不正。

 電磁波により自分の魔法カードを発動させず、人造人間サイコ・ショッカーで罠を封じられて一方的に負けた。その為にプロデュエリストになるのが一年遅れた。

 

 その後不正を暴き、憎い相手のデッキを没収。公式大会から永久追放処分を下した時は本当に快感だった。

 私は正しい。あいつは対戦相手の魔法と罠を封じて圧倒するなんて卑怯なことをしたから、罰が当たった。

 

 

 …ああ、プロデュエリストになったものの、結果を出せずにスポンサーとの契約が打ち切られそうになった時は焦った。

 今まで練り上げた、真紅眼の黒竜やメテオ・ドラゴン等のドラゴン族の通常モンスターを凡骨の意地で大量に補充し、フュージョン・ゲートでF・G・Dやメテオ・ブラック・ドラゴン、カイザー・ドラゴンを呼び出すという戦略は通じなかったからだ。だから、サイバー流に入った。

 

 サイコ流との対立が深まり、ランクが低くてもプロデュエリストである私をサイバー流は即戦力として欲しかったようだった。

 初めてサイバー流を公式戦で使ってサイコ流継承者の弟である、サイコ流の伝承者に勝利。あの時は輝いていた…が。

 

 

 その後の公式戦で、融合召喚したサイバー・ツイン・ドラゴンを強奪で奪われて負けた。

 サイバー・バリア・ドラゴンを強制脱出装置でバウンスされ、サイバー・レーザー・ドラゴンを地砕きで破壊され、グリーン・ガジェットやレッド・ガジェットという下級モンスターによって敗北した。

 リミッター解除で強化したサイバー・ドラゴンの攻撃を、魔法の筒で跳ね返された。

 卑怯なカウンター罠に追い詰められ、これで逆転出来る!と思って発動したパワー・ボンドすら神の宣告で妨害された時は、意識が一瞬飛んだ。

 強引な番兵、押収、いたずら好きな双子悪魔という魔法カードを先攻1ターン目から連打され、手札を破壊されそのまま負けた…。

 終焉の王デミスとデビルドーザーで場を一掃され、ワンターンキルで負けた…。

 

 レベル制限B地区やグラヴィティ・バインド-超重力の網-で攻撃を妨害され、ダイレクトアタックが出来る逆巻く炎の精霊に一方的に負けたこともあった。

 …おジャマトリオと群雄割拠でモンスターの展開を妨害され、マジック・キャンセラーで強化されたロックはどうやっても崩せず…ボーガニアンによって成すすべなく負けた。

 

 

 思うようには、勝てなかった。やっとの思いでプロになったのに、プロの資格をいつ失うのかとビクビク怯えて眠れなかった日々。

 その時、気付いた。私は卑怯なコントロール奪取を、除去カードを、バーンカードを、カウンター罠を、ハンデスカードを、全体除去からのワンキルを、ロックカードを使わないのに、何故相手は当たり前のように使う?

 

 ああ、そうか。そういうカードを使う奴は、リスペクト精神が無いからだ。だったら…。

 リスペクト精神を、『正しいデュエル』を世界に広めなければならない。それが、私の使命だ。

 



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第7話!ノース校との交流戦と、サイバー流の秘密

サイバー流に支援する後援者達の思惑と、サイバー流のオリジナル設定が登場します。

政界・財界に次ぐ勢力としてカードゲーム界の名前が上がるほど勢いがあるなら、こういう動きが原作でもあったかもしれません。
勿論、そんな動きを海馬瀬人が座視するとは思えないので、色々と手を打っていたと思いますが。


 才災師範のS禁止令は解除された。ペガサス会長と海馬オーナーの圧力があったらしい。

 デュエルアカデミアには、姉妹校がある。その一つ、ノース校との交流試合が行われる。

 アカデミアから代表となる生徒が選ばれる事になったのだが…。

 

 

「学園代表を決めるために、猫崎君には才光君とデュエルして貰います。」

「わかりました。」

 

 出てくるのはまた、サイバー流の門下生なんだろうなぁ。隣室のオシリスレッド生が昨夜騒いだせいで寝不足の猫崎はぼんやり考える。

 出てきたのは、癖のある茶髪のサイバー流の門下生、才光だ。

 

「君が猫崎君か。こうしてデュエルするのは初めてだけど、よろしくお願いします。」

「…こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

 礼儀には礼儀で返す猫崎。

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才光 ライフ4000

手5 場 

 

 

「行きます、僕の先攻、ドロー!フィールド魔法・フュージョン・ゲートを発動し、効果発動!手札のサイバー・ドラゴン三体を除外して融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

 今回はこういうパターンか。と思いながら眺める猫崎。

 

「速攻魔法、異次元からの埋葬を発動!除外されたサイバー・ドラゴン三体を墓地に戻す。速攻魔法、サイバネティック・フュージョン・サポートを発動!ライフを半分払い、手札・場・墓地から機械族の融合モンスターカードに決められた融合素材モンスターを除外することで、融合素材に出来る!墓地のサイバー・ドラゴン三体を除外し、現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」ライフ4000から2000

 

 

『よし!行け才光!』

『いいわよ!サイバー・エンド・ドラゴンが二体!これなら行けるわ!』

『リスペクトデュエルで、猫崎の卑怯者を粉砕だぁ!』

 

「僕はこれでターンエンドです。」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才光 ライフ2000

手0 場 サイバー・エンド・ドラゴン サイバー・エンド・ドラゴン フュージョン・ゲート 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はレスキューキャットを召喚!効果発動!このカードを墓地に送り、デッキから異次元の狂獣とX-セイバーエアベルンを特殊召喚!行くぞ、レベル3の異次元の狂獣にレベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!現れろ、氷結界の龍ブリューナク!」

 

 前世で猫崎が初めて手に入れた、思い出深いSモンスターが現れる!

 

「レスキューキャット一枚から、S召喚までつながるなんて…。実家の押し入れにレスキューキャットが36枚あるけれど、S召喚が広まったら価値が上がるかなぁ?」

「…俺は氷結界の龍ブリューナクの効果発動!1ターンに1度、手札を任意の枚数捨てる事で、捨てた枚数分だけ相手の場のカードを手札に戻す!」

「ええっ?!」

「手札を2枚捨てて、サイバー・エンド・ドラゴン二体をバウンスする!」

 

 

 ブリューナクがブレスを放つと、才光の場のサイバー・エンド・ドラゴン達が氷漬けになり、消滅していく!

 

「僕のサイバー・エンド・ドラゴンが!」

 

『卑怯だぞ!』

『正々堂々と戦え!』

『モンスター効果でバウンスするんじゃ無いわよ!』

『卑怯者!攻撃力を上げて立ち向かえ!』

『才光やめろ!こんなデュエルは無効だ!』

 

 あーもう。猫崎はデュエルを終わらせる事にした。

 

「バトル、氷結界の龍ブリューナクで、ダイレクトアタック!」

「うわああああああっ!」ライフ0

 

 

 デュエルは猫崎が制した。だが、これで当然終わりではない。

 

「猫崎君。今の君のデュエルからは、相変わらず対戦相手へのリスペクト精神が感じられませんでした。楽しいですか?」

「楽しいですよ。相手に勝つ事で、自分が優位に立てるので。」

「ほう?一生懸命出したサイバー・エンド・ドラゴンをバウンスモンスターなどというカードで対処して、恥ずかしく無いのですか?」

「デュエルモンスターズにおいて、妨害されない等という事はあり得ません。幾多の妨害を掻い潜って、コンボを、切り札で勝利する。相手を妨害するカードが無いならともかく、あるのにあえて使わない事こそ相手へのリスペクトが足りないのでは無いでしょうか?」

「ブリューナクでしたか?そんな卑怯なカードを使えば、誰でも勝てます。」

 

 

 ブリューナクを使えばだれでも勝てる?

 …前世で【BF】デッキを使って【レプティレス】に猫崎は負けた事がある。

 悔しかったが…それ以上にカードパワーの差を覆した、相手のデュエリストレベルに感動した。

 …もしかして、俺って前世だと弱い?公式戦でも一回戦負けばかりで結果出した事無い…。

 

「このターンで決められるまで機会を伺ってから、サイバー・エンド・ドラゴンで攻撃するというプレイングをするとか、サイバー・エンド・ドラゴンを守る為の防御カードを入れればいいのでは無いですか?」

「何故そんな事をしないといけないのですか!そもそもバウンスを使うなんて、対戦相手への敬意が足りません!」

「…バウンスが卑怯というなら、強制脱出装置などの汎用罠でブリューナクをバウンスすればいいのではないでしょうか?」

「話になりません!一週間の停学を命じます!」

「わかりました。」

 

 言葉が通じても話が通じない。

 それにしても、一応年長者相手にこの態度は無いな…。反省。

 

 

 代表は、才光というサイバー流の門下生に決まった。その事にサイバー流門下生の才花が喜んでいた…

 というより、あの二人が付き合っていた事に少し驚く猫崎。

 

 

 

 

 

 その夕方。

 猫崎と才波は、デュエルアカデミアのオシリスレッド寮のテレビで、プロリーグの実況を見る。

 

『これにて決着ー!サイバー・ランカーズ佐賀代表、サンダー流伝承者を打ち破りましたー!』

『融合解除を伏せて居ましたが、流石はサイバー・ランカーズ。サイバー・レーザー・ドラゴンをバトルフェイズ中に呼び出して勝利を決めました!』

 

 項垂れる青い髪の青年に対し、拳を突き上げる黒髪サイドテールの女性がテレビに映し出される。

 

「…サイバー・ランカーズ?」

「あ、まだ話していなかったわね。サイバー流の門下生の中には、すでにプロとして活動している人が居るわ。その人達の総称よ。」

「佐賀代表と言っていたが、九州出身者で構成されているのか?」

「違うわ。サイバー・ランカーズは才災師範を頂点に置いたピラミッド型の組織。才災師範のすぐ下に、各ブロック代表が居るの。北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の8人…。尤も、サイバー流継承者の丸藤亮が、卒業後に関東ブロック代表になる事は決まっているわ。」

「各ブロック代表の下に、各都道府県の代表であるサイバー・ランカーズが居るという事か。」

「そうね。ちなみに、都道府県代表とブロック代表だとサイバー流から支給される交通費とか年間報酬が違う上に、サイバー・ディスクを支給されるわ。」

「サイバー・ディスク?」

「縁取りが銀色で凄く綺麗なデュエルディスクよ!見た目だけでは無くて、魔法カードを封じる電磁波のイカサマが効かなかったり、相手の偽造カードを検知する機能もあるわ!」

 

 随分とあこがれがあるらしく、才波はその見た目と性能について楽し気に語る。

 

「ブロック代表が一度決まったら、各都道府県代表はずっとその下って事か?」

「いいえ。バトルシティ決勝トーナメント進出経験者とのデュエルに勝利か、国内外の年に一度開催される公式大会で優勝、サイバー流に1000万円の上納金を払えば入れ替えデュエルを申請出来るの。それに勝てば入れ替えになるから各都道府県代表のサイバー・ランカーズは虎視眈々と入れ替えを目論んでいるわ。まぁ…大抵返り討ちなんだけど。」

 

 

 聞きながら、この三つの条件だと公式大会優勝が一番手っ取り早いのでは?と思う猫崎。

 

「都道府県代表になるには条件があるのか?」

「あるわよ?各都道府県代表との入れ替えデュエルは、武藤遊戯とデュエルした事がある伝説の決闘者か、才災師範が指定したリスペクト精神に反した決闘者とのデュエルに勝利。後は参加者100名以上の公式大会で優勝、サイバー流に300万円の上納金を払う事で申請出来る。都道府県代表は入れ替えが結構多くて、今の立場すら危うく保身に走っている人も居るわ。」

 

 

 やや考え込んだ後、才波は語る。

 

「後…地元をPRしたいから入れ替わりを狙っている都道府県代表もいるわ。あの佐賀代表はその一人よ。まぁ、今のサイバー流は政界と財界と深いつながりがあるから、地元のPR活動とかは不可能では無いけれど…。」

「そもそも入れ替わるのが大変、という訳か。」

 

 

 

 

 

 猫崎が停学を言い渡されてから8日後。猫崎はノース校との交流戦を見物しにデュエルリングに向かう。

 

 ノース校の代表は…江戸川だ。

 記憶が正しければデビルゾアを使っていたが…。真紅眼はあんなにバリエーションを貰っているのに、何故デビルゾアに新規は来ないのか。

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

江戸川 ライフ4000

手5 場 

才光 ライフ4000

手5 場 

 

 

「僕の先攻、ドロー!モンスターをセット、カードを二枚伏せてターンエンド」

 

 

 

江戸川 ライフ4000

手5 場 

才光 ライフ4000

手3 場 セットモンスター 伏せ2 

 

 

 

「サイバー流の門下生にしては、地味な一ターン目だなぁ?俺のターン、ドロー!魔法カード、古のルールを発動!現れろ、デビルゾア!」

「攻撃力2600か。」

 

 

『そんな雑魚を出してどうするんだ!』

『とっとと負けろぉ!』

 

 サイバー流の門下生がヤジを飛ばす。

 

「おいおい、リスペクト精神ってのはどこへ消え失せたんだぁ?まぁいい、俺は声援よりブーイングの方が好きだからな。バトルだ、やれ、デビルゾア!」

「破壊されたシャインエンジェルの効果発動!デッキからプロト・サイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「フン、出やがったな!サイバー流のモンスターめ!カードを二枚伏せ、ターンエンド。」

 

 

 

江戸川 ライフ4000

手2 場 デビルゾア 伏せ2

才光 ライフ4000

手3 場 プロト・サイバー・ドラゴン 伏せ2 

 

 

「僕のターン、ドロー!融合呪印生物-光を召喚!」

「そ、そいつは?!」

「効果発動!プロト・サイバー・ドラゴンをリリース。現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

「ちいっ、サイバー・エンド・ドラゴンでは無いが、面倒なモンスターが出てきやがった!」

 

「バトルだ!サイバー・ツイン・ドラゴンでデビルゾアを攻撃!」

「阿呆が!罠発動!メタル化・魔法反射装甲!これで攻撃力と守備力が300ポイントアップ!返り討ちだ!」

「ぐっ!」ライフ4000から3900

 

 デビルゾアがサイバー・ツイン・ドラゴンを返り討ちにする!

 

「…僕はこれでターンエンド」

 

 

 

 

江戸川 ライフ4000

手2 場 デビルゾア メタル化 伏せ1

才光 ライフ3900

手3 場 伏せ2 

 

 

「俺のターン、ドロー!メタル化を装備したデビルゾアをリリース。デッキから現れろ、メタル・デビルゾア!さらにダブルコストンを召喚!バトルだ!いけ、ダブルコストン!ダイレクトアタックだ!」

「永続罠、リビングデッドの呼び声!蘇れ、シャインエンジェル!」

「そのまま攻撃だ!」

「ぐっ、でもシャインエンジェルの効果で二体目のシャインエンジェルを特殊召喚!」ライフ3900から3600

「メタル・デビルゾアで攻撃!」

「二体目のシャインエンジェルの効果で、デッキからプロト・サイバー・ドラゴンを特殊召喚!」ライフ3600から2000

「逃がすかよ!永続罠発動!正当なる血統!蘇れ、デビルゾア!プロト・サイバー・ドラゴンを攻撃しろ!」

「うわあああああっ!」ライフ2000から500

 

「勝負あったな、ターンエンドだ」

 

 

 

江戸川 ライフ4000

手2 場 メタル・デビルゾア ダブルコストン デビルゾア 正当なる血統

才光 ライフ500

手3 場 伏せ1

 

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のシャインエンジェル二体、融合呪印生物-光、サイバー・ツイン・ドラゴン、プロト・サイバー・ドラゴンをデッキに戻して二枚ドロー!」

「フン…ここで手札増強カードを引いたか」

「よし、フィールド魔法、フュージョン・ゲートを発動!プロト・サイバー・ドラゴンを通常召喚!そしてフュージョン・ゲートの効果発動!手札のサイバー・ドラゴン二体と場のプロト・サイバー・ドラゴンを融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

「出やがったか、サイバー・エンド・ドラゴン!」

「さらにライフを半分払い、罠発動!異次元からの帰還!戻って来い、2体のサイバー・ドラゴンとプロト・サイバー・ドラゴン!」ライフ500から250

 

 先ほどサイバー・エンドの融合素材となったモンスターが場に並ぶ!

 

「これは、まさか!」

「そしてフュージョン・ゲートの効果発動!プロトとサイバー・ドラゴンを除外し、現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!バトルだ、サイバー・ツイン・ドラゴンでデビルゾアを攻撃!」

「ぐうううっ!」ライフ4000から3800

「ツイン・ドラゴンでダブルコストンに攻撃!」

「ぐおおおっ!」ライフ3800から2700

「サイバー・エンド・ドラゴンで、メタル・デビルゾアを攻撃!」

「うわあああああっ!」ライフ2700から1700

 

「終わりだ!サイバー・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「ぬおおおおおおっ?!」ライフ0

 

 江戸川を下し、サイバー流の門下生、才光が勝つ。

 

 

「今年も本校の勝利ですな。市ノ瀬校長。」

「フン。それにしてもサイバー流の師範が貴方とは。」

「ほう。その門下生に負けた生徒の校長が言いますかな?」

「…一つ、教育者の先達者として忠告しておきましょう。今のままでは、サイバー流は失墜しますよ。では。」

 

 負け犬の遠吠え。そう、才災は受け止める。

 

 

 

 

 

 

 ノース校との交流試合があった数日後の夜。東京湾の夜景を見渡せるホテルの20階。

 豪奢なプレジデントルームに、数人の男がいる。

 

 イタリア製や英国製のスーツに身を包み、高級なソファに座っている。この部屋で国産なのは、男たちの肉体だけだ。

 

「…カードゲーム界の調整は順調なようだな。」

「ああ、サイバー流か。前の師範を追い出し、才災が後を継いだ事で実にやりやすくなった。」

「カビの生えたサイバー流の教えに意味などない。大事なのは」

「我々の利益になるか否か、だ。鮫島はそれがまるで分っていなかった。」

 

 男達は、政界、財界、報道機関、宗教界の重鎮である。

 彼らは、近年目覚ましく力を伸ばしたカードゲーム界の統制を目論んだ。その時、眼をつけたのがサイバー流だった。

 

 リスペクト精神を掲げた高潔な流派。

 人気の高い彼ら一派に支援を提示したが、鮫島師範は言いなりになることを拒んだ。

 そのため引退に追い込み、言いなりになる駒である才災を師範まで登らせた。

 

 男たちにとって、才災の曲解したサイバー流の教えは実に都合が良い。

 「リスペクトに反する」という錦の御旗で、相手を批判し、否定して封じ込める。

 発展目覚ましいカードゲーム界を効率よく支配するツールとして、彼らは選んだ。

 

 

「鮫島から才災に変わってから、門下生は右肩上がりで上昇している。」

「結構。カードゲーム界を制するのは時間の問題だな。」

「だが、ペガサス会長と海馬瀬人が動き出したらしい。」

 

 その名前に、苦々しい顔になる男たち。

 

 

「あの野良犬か。フン、剛三郎が残した遺産を破壊しおって。」

「ペガサスとて大人しく引退していればいい物を。」

「なんでも、新たな召喚方法とやらを考案し、それのテスターを送り込んでいるとか。」

「才災の学園にか?」

 

 頷く男。

 

「何を考えている。才災をそのテスターとやらが倒せるとでも?」

「そのテスターとやらに秘密があるのでは?」

「奴の実家について調べさせたが…家柄は古いだけで大した名家ではない。」

「しかし、新たな召喚方とやらが気になる。」

「なんでも、レベルの足し算だそうだ。」

「足し算!はっ、次はなんだ、引き算と掛け算と割り算か?」

 

 笑う男たち。

 

「今まで通り、融合召喚を主軸にしておけばいい。新たな波など、カードゲーム界にも、この国にも不要だ。」

 

 

 

 

 

 

 男たちが歓談しているフロアから三階下の高級レストランにて。

 才災校長とデュエル・アカデミアの教員、そしてサイバー流の関係者は、ふぐ刺し、ふぐ鍋、ふぐの唐揚げなど高級な河豚料理を堪能していた。

 

 

「いやぁ、才災校長が各界の有力者とお近づきなおかげで、私どももごちそうにありつけます。」

「インダストリアルイリュージョン社のペガサス会長はケチですからね、社員だった私でもこんな豪華な晩餐会など一回もありませんでした。」

「こうして好物の河豚をいつでも食べれるようになったのは、才災校長のおかげです。」

 

 もみ手をしながら笑う教員。

 口元には燦然と輝く金歯、そして左手にはダイヤとプラチナの指輪が光り輝く。

 

 他の教員も愛想笑いを浮かべる。

 そんな彼らを見渡し、才災は自尊心を大いに満たす。

 

 

「才災師範、先日頂いたレアカードですが…。」

「おお!娘さんへのプレゼントにしたと聞いているが。」

「おかげさまで、アークティック校における成績もぐんと伸びました。先日開かれたという大会では、ペガサス会長の前でヨハンとかいう男子生徒とデュエルしたのですが…。」

「惜しくも敗れたか。まぁ、そういう事もある。」

 

 鷹揚に言いながら、日本酒を飲む才災校長。

 

「おやおや、真紅眼の黒竜、デーモンの召喚、メテオ・ドラゴンとその融合体を頂いておきながら…。」

「そう言うな。そのヨハンという生徒が一枚上手だっただけだろう。ゴルフ場の建設はどうだ?」

「はっ、そちらは抜かりなくオープンします。会員権はご用意させていただきますので…。」

 

 

 ふと気になったのか、男の一人が口を開く。

 

「才災師範は、ゴルフもたしなまれるのですか?」

「なんだ、知らないのか?才災師範は元々多趣味な方だ。アウトドアからインドアまで、幅は広い。別荘を訪れた時に拝見したジオラマは素晴らしい出来だったし、一緒に行った釣りではこんな大物を釣り上げておられた。」

「ほほぅ…そのようなお方だから、今の地位があるのですな。いやはや、感服しました。」

 

 

 揉み手をしながら、才災師範を持ち上げる男。

 それに追従するように、周りの男達も吉報を伝える。

 

 

「サイバー流の弁当屋も、好調ですぞ。」

「サイバー・サイダーの売れ行きは、既存の炭酸飲料市場を席捲しつつあります。」

「サイバー流が出資した温泉旅館とホテルが近々オープンしますぞ!これでさらに収益が増えますな!」

 

 多角経営している、他の事業も好調と聞いて才災校長は満足げに頷く。

 

 才災はプロリーグでデュエルをする前に、好物のカツオの漬けを使った『銀火丼』で気合を入れた。

 その時の想いから、サイバー流の新たな経営に外食産業を始め、これをメインメニューに据えた。

 これも今では大当たり。サイバー流の重要な財源になっている。

 

 こうやって得た資金で、サイバー流の門下生に年に一度の合宿旅行も行っている。

 すべては順調だ。それもこれも、サイバー流の、リスペクト精神に則った門下生を大事にしているからだ。

 

 

 ふぐの白子料理が運ばれてくる。

 

「この席も後援者の先生方が設けてくれたものだ。存分に楽しむぞ!」

 

 才災校長は、我が世の春が永遠に続くと確信していた。少なくとも、この時では。



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第8話!思わぬ刺客とハンデス三種の神器VSダーク・ダイブ・ボンバー!

アンチリスペクト物では、オリジナル主人公とその関係者ばかり狙われますが、拙作ではリスペクトに反している生徒全員に嫌がらせします。

ハンデス三種の神器と、エラッタ前ダーク・ダイブ・ボンバーってどっちが嫌われているのでしょうか?汎用性ならダーク・ダイブ・ボンバーの方に軍配が上がると思いますが。


 吹雪さんが行方不明になった。直前で特別授業を受けていたが、担当していたのは大徳寺先生だ。

 来年から始まる影丸の陰謀が動き始めたという事か。鮫島校長が居なくなっても変わらないらしい。

 

 だが、才災校長の動きが気になる。

 サイバー流の継承者からせっつかれれば動かざるを得ないだろう。

 

 

 と思ったら、一切動かない。

 門下生でも自分の考えに賛同しない才波を追い出すような男だ、門下生ですらないから冷たい事この上ない。

 

 

「戦闘ダメージを相手に押し付ける、アマゾネスの剣士とディメンション・ウォールはリスペクトに反します。」

「そんなぁ!」

「嫌なら君は降格です。さて、猫崎君!」

 

 猫崎は才災校長にデュエルフィールドまで呼ばれた。

 

「猫崎君には、今から二人の生徒とデュエルをして貰います。寒川さん!」

「はい。」

 

 誰かと思えば、里ロックを否定されてデッキをスタンダードな魔法使い族に変えた女子生徒だ。

 サイバー流の手先に成り下がるとは。

 

「…行くわよ、猫崎!恨みは無いけれど、このデュエル、勝たせてもらう!」

「来いよ。」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

寒川 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私の先攻、ドロー!私は魔導獣ケルベロスを召喚!そして魔法カード、テラ・フォーミングを発動!魔法カードが発動したことで、ケルベロスに魔力カウンターが一つ乗る!」

「攻撃力1900だな。」

「テラ・フォーミングの効果で、デッキからフィールド魔法、魔法族の里を手札に加えて、発動!これによりケルベロスに魔力カウンターが一つ乗り、攻撃力は2400!」

「何?!魔法族の里はリスペクト精神に反するから、デッキから抜いたはず…。」

 

 

「…才災校長が、里ロックで猫崎を倒したら、魔法族の里と王宮のお触れを在学中、公式戦以外で使う許可を出してくれるの。」

「お前…。」

「カードを二枚伏せる。ターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

寒川 ライフ4000

手2 場 ケルベロス(2) 魔法族の里 伏せ2 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は、レスキューキャットを召喚!レスキューキャットを墓地に送り、デッキからXセイバーエアベルンとライトロードハンターライコウを特殊召喚!」

「ここでリバースカードオープン!速攻魔法発動、月の書!」

「?!」

「この効果で、私はXセイバーエアベルンを裏側守備表示にするわ!」

 

 ああ、良い。実に良い。これだ、この攻防と駆け引きだ。

 魔法族の里とお触れで魔法と罠を封じたら、後はモンスター効果だけ。それを月の書や禁じられた聖杯で妨害すれば勝ちが見えてくる。

 前世で似たようなデッキで対戦して来た相手を、猫崎は知っている。

 

 …そいつは儀式魔人リリーサーを使ってサクリファイスを出したうえで、里ロックを仕掛けてきたが。

 

 

「…何が面白いの?お得意のS召喚を封じられたのよ?」

「まぁそうだな。正直キツイ。だが、それがいい!俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ。」

「エンドフェイズに永続罠、王宮のお触れを発動!」

 

 ある程度予想はしていたため、猫崎は動揺しない。

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 セットモンスター 伏せ1

寒川 ライフ4000

手2 場 ケルベロス(3) 魔法族の里 王宮のお触れ

 

 

「私のターン、ドロー!バトル、ケルベロスでセットモンスターを攻撃!」

「破壊される。守備力は200しか無いからな。だが、攻撃を行ったことでケルベロスの攻撃力は1400ポイントまで下がる!」

「ええそうよ。メインフェイズ2!私は場の魔法使い族をリリース!ブリザード・プリンセスをアドバンス召喚!」

 

 

 満面の笑みで現れる氷の王女。実に楽し気にモーニングスターを振り回している。

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 伏せ1

寒川 ライフ4000

手2 場 ブリザード・プリンセス 魔法族の里 王宮のお触れ 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!召喚成功時、守備表示になる!魔法使い族が場にいる事で、魔法族の里でも魔法カードを発動できる!死者蘇生を発動!蘇れ、Xセイバーエアベルン!」

「里ロックを突破してきた…!でも、レベル7のSモンスターなら、ブリザード・プリンセスの攻撃力で倒せるはず…。」

 

「俺はサモンプリーストの効果発動!手札の魔法カード、精神操作を捨てて効果発動!デッキから現れろ、チューナーモンスター、霞の谷の戦士!」

「レベルの合計は、8!」

「レベル4のサモンプリーストに、レベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!現れろ、ギガンテック・ファイター!」

「攻撃力、2800!ブリザード・プリンセスと並んだ…。」

「こいつの攻撃力は、お互いの墓地の戦士族一体につき、100ポイント攻撃力が上がる。」

「でも、私と猫崎の墓地に戦士族は居ないわ。」

「そうだ。しかしまだ効果はある!このカードが戦闘破壊されたとき、墓地の戦士族を選択して特殊召喚する。そしてこのカードは戦士族だ。」

「…と、いう事は…。」

 

 

「バトル!ギガンテック・ファイターで、ブリザード・プリンセスを攻撃!」

「…て。」

「ん?」

「せめて、一太刀!リバースカードオープン!収縮!ギガンテック・ファイターの攻撃力を半分にする!」

 

 ブリザード・プリンセスのモーニングスターが、突っ込んでいくギガンテック・ファイターを返り討ちにする。

 

「…だが、ギガンテック・ファイターは蘇る。」ライフ4000から2600

 

 

『何だよあいつ。卑怯な戦術使って負けるのかよ』

『だっさ。ここで収縮を発動した所で勝敗変わらないし』

 

 周りの門下生が好き放題言う中。

 

 ブリザード・プリンセスが、寒川を守るように前に出る。

 勝敗は変わらないが、それでも、それでも。行動せずにはいられなかった。

 

 この場にカードの精霊と心を通わす者が居れば、そんな印象を受けただろう。

 

 

 ギガンテック・ファイターに氷の塊を叩きつけるブリザード・プリンセス。だが、ギガンテック・ファイターの突進は止められず、その拳がブリザード・プリンセスに突き刺さる!

 力尽きるブリザード・プリンセスに対し、三度蘇るギガンテック・ファイター。

 それを睨みつけながら、ブリザード・プリンセスは光となって消滅する。

 

「ギガンテック・ファイターとXセイバーエアベルンで、ダイレクトアタック!」

「…負け、か。」ライフ4000から1200、1200から0

 

 

 うなだれる寒川だが、その場から静かに立ち去る。

 

 

 

「フン、所詮リスペクト精神を持たない戦術ではこれが限界ですか。次は昇格デュエルです!ラーイエローの毛利君、来なさい!」

 

 そう言われて、ラーイエローの男子が俺の前に立つ。

 

 

 

「お前に勝てば、才災校長が俺をオベリスクブルーに昇格させてくれる!俺はこの日の為に、猫崎!お前のデッキを研究し尽くした!」

「…始めよう」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

毛利 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻!ドロー!魔法カード、強引な番兵!お前の手札を確認して、一枚をデッキに戻す!」

「…これで見えるか?」

 

 猫崎は手札を公開する。

 

「奈落の落とし穴、洗脳-ブレインコントロール、イージーチューニング、貪欲な壺、異次元の狂獣か。奈落の落とし穴をデッキに戻せ!」

「……」

「ライフを1000払って魔法カード、押収を発動!お前の手札は先ほど確認した。洗脳-ブレインコントロールを捨てろ!」ライフ4000から3000

「わかった。」

「ライフを1000払って魔法カード、いたずら好きな双子悪魔を発動!貪欲な壺を捨てろ!さらにランダムにもう一枚、捨てて貰うぞ!」ライフ3000から2000

 

 ハンデス三種の神器を受け、流石に辟易とする猫崎。

 イージーチューニングが墓地へ送られる。

 

 その様子を、才災校長はじっと見ている。何だろう?あの視線は。

 

「これでお前の手札は異次元の狂獣だけだな!魔法カード、トレード・インを発動。手札のパーフェクト機械王を捨てて二枚ドロー!死者蘇生を発動!蘇れ、パーフェクト機械王!カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手1 場 

毛利 ライフ2000

手1 場 パーフェクト機械王 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!モンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手0 場 セットモンスター 伏せ1

毛利 ライフ2000

手1 場 パーフェクト機械王 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!チッ、バトルだ!パーフェクト機械王!セットされている異次元の狂獣を破壊しろ!」

「罠発動!和睦の使者!こいつは戦闘破壊されない!」

「モンスターを残したか…。だが、手札0枚のお前に何が出来る!ターンエンドだ!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手0 場 異次元の狂獣 

毛利 ライフ2000

手2 場 パーフェクト機械王 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!よしっ!チューナーモンスター、Xセイバーエアベルンを召喚!」

「チューナー!くそっ、ここで引き当ててくるとは!」

「俺は、レベル3の異次元の狂獣に、レベル3の地属性エアベルンをチューニング!S召喚!ゴヨウ・ガーディアン!」

「攻撃力、2800だとぉ!」

 

「バトル、ゴヨウ・ガーディアンでパーフェクト機械王を攻撃!」

「ぐっ!」ライフ2000から1900

「ゴヨウ・ガーディアンの効果発動、お前のパーフェクト機械王を守備表示で特殊召喚!」

「くそがっ!なんだそのモンスター!強すぎるだろ!」

 

 否定はしない。

 

「ターンエンドだ!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手0 場 ゴヨウ・ガーディアン パーフェクト機械王 

毛利 ライフ1900

手2 場 伏せ1

 

 

「ま、まだだ!お、俺のターン、ドロー!!よし!魔法カード、光の護封剣を発動!ターンエンドだ!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手0 場 ゴヨウ・ガーディアン パーフェクト機械王 

毛利 ライフ1900

手2 場 光の護封剣(3) 伏せ1

 

「俺のターン、ドロー!パーフェクト機械王を攻撃表示に変更。モンスターをセット、ターンエンドだ。」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手0 場 ゴヨウ・ガーディアン パーフェクト機械王 セットモンスター 

毛利 ライフ1900

手2 場 光の護封剣(2) 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、手札抹殺を発動!手札をすべて捨ててその枚数分ドローする!」

 

 墓地に行ったのは、自立行動ユニットと、強引な番兵か。

 

「二枚捨てて、二枚ドロー!よし、魔貨物車両ボコイチを召喚!ここで罠発動!同姓同名同盟!俺の場のレベル2以下の通常モンスターを選択して発動!デッキからボコイチを二体、特殊召喚!」

「ボコイチが三体…」

「モンスターをセット!ターンエンドだ!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手0 場 ゴヨウ・ガーディアン パーフェクト機械王 セットモンスター 

毛利 ライフ1900

手0 場 セットモンスター 魔貨物車両ボコイチ 魔貨物車両ボコイチ 魔貨物車両ボコイチ 光の護封剣(2) 

 

 

「俺のターン、ドロー!クリッターを反転召喚!そしてチューナーモンスター、霞の谷の戦士を召喚!」

「またS召喚か。だが無駄だ!どんなモンスターを出そうと、光の護封剣がある限り、お前に攻撃することは出来ない!」

「それはどうかな?レベル3のクリッターに、レベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!ダーク・ダイブ・ボンバー!」

「?!こいつが、ダーク・ダイブ・ボンバーか。正面から見るのは初めてだが…」

 

 こいつの恐ろしさに気づいたか。

 

「滅茶苦茶かっこいい!」

 

 マジか。お前それマジで言っているのか。

 まぁ、セットモンスターは十中八九魔装機関車デコイチだろうし、闇属性レベル4ならブラック・ボンバー入れたらこいつを出せるだろうが…。

 

 

「クリッターの効果でレスキューキャットを手札に加える。…ダーク・ダイブ・ボンバーの効果発動!場のモンスターをリリースして、そのレベル×200ポイントのダメージを与える。俺はパーフェクト機械王をリリース!」

「パーフェクト機械王のレベルは8、1600のダメージだと!わああああああっ!」ライフ1900から300

「そして、ダーク・ダイブ・ボンバーの効果発動、このカードをリリースして、1400ポイントのダメージだ」

「?!1ターンに何度も使えるのか…。くそっ、あと少しでオベリスクブルーに上がれたのに…!」ライフ0

 

 

 

 

 

 デュエルは俺が制したが。当然これで終わりではない。

 

「そこまで。今のデュエルはお互いリスペクトに反しています。毛利君。押収、強引な番兵、いたずら好きな双子悪魔で相手の手札を破壊するのは対戦相手へのリスペクト精神がありません」

「で、でもこのカードは別に禁止カードではありません!」

「私は認めません。」

 

 ハンデスもダメか…いやまぁ、この三種の神器は無理も無いか…。

 しかしこの嫌いよう。もしや才災校長もこれで手札をズタズタにされた経験があるか…?

 

「そして、猫崎君の効果ダメージを与えるダーク・ダイブ・ボンバーもリスペクト精神に反しています。」

 

 ぐうの音も出ない。

 

「今すぐ、あのダーク・ダイブ・ボンバーとかいうカードを禁止に」

 

 した方がいいよなぁ。

 

「…いえ。アカデミアでは1ターンに1度、メインフェイズ1でのみ使用可能にします。それが守れないなら君を退学にします。」

「わかりました。才災校長。」

 

 即答する俺に、思わず目を見開く校長。

 エラッタ後の効果をぴたりと言い当てるとは、サイバー流師範よりカードデザイナーの方が向いている気がする。

 

 

 半透明になったオレンジ色の爆撃機が憤怒のオーラを漂わせていたが、カードの精霊が見えない人物しかこの場にいなかったため、特に問題にはならなかった。

 

 

 

「猫崎君は下がりなさい。次は編入生のデュエルです。大庭さん、入りなさい。相手は…才花さんにお願いします。」

「わかりましたぁ、才災校長。さぁ、さっさとどきなさい!」

 

 

 邪険に扱われるが、別に気にせず猫崎はその場を離れる。

 

 

「サイバー流の門下生でしょ?」

「ええ、そうよ。」

「ねぇ、このデュエルが終わったら、仲良くしない?」

「…ちょっと、ちょっと待って。あんた、まさか…そっち?」

 

 満面の笑みで頷く大庭に才花の顔が引き攣り、周囲の門下生に目で助けを求め始める。

 ここで、猫崎は思い出す。確か…。

 

「思い出した、大庭ナオミ。確か女性好きだとか。」

「猫崎?知り合いなの?」

「悪い意味で、有名人だから知っている。」

 

 

 どうやら俺の声が聞こえたらしく、腰が引ける才花。

 

「ぜ、絶対に負けない!い、行くわよ!」

 

 サイバー流の門下生とはいえ、ガチレズにロックオンされた才花に猫崎は内心同情する。

 もしもあのデッキだった場合、サイバー流に勝ち目は…。

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才花 ライフ4000

手5 場 

大庭 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻はあげるわ。」

「わ、私の先攻、ドロー!魔法カード、パワー・ボンドを発動!手札のサイバー・ドラゴン3体を融合!現れろ!サイバー・エンド・ドラゴン!」

「攻撃力がパワー・ボンドで8000になるわね。でも、パワー・ボンドにはリスクがあるわ。」

「知っているわ。私はデス・ウォンバットを召喚!このカードが場にいる限り、私が受ける効果ダメージは0になる!カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 サイバー・ジラフを使っていたが、なるほどこちらも投入したか、と思う猫崎。

 種族も属性も違うが、バーンカード対策としては優秀なカードだ。レベル3なのでレベル制限B地区やグラヴィティバインドをすり抜けて攻撃できる。

 

 サイバー・エンド・ドラゴンから発せられた電撃を、デス・ウォンバットが受けとめて無力化する。

 

 

 

才花 ライフ4000

手0 場 サイバー・エンド・ドラゴン デス・ウォンバット 伏せ1

大庭 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、光の援軍を発動!デッキの上から三枚墓地に送り、デッキからライトロードと名のつく下級モンスターを手札に加える!私はライトロードサモナールミナスを手札に加えるわ!」

「ライトロード…。」

「墓地に行ったのは、ライトロードエンジェルケルビム、ライトロードマジシャンライラ、ライトロードプリーストジェニス…。ここで魔法カード、ソーラーエクスチェンジを発動!手札のルミナスを捨てて二枚ドロー!そしてデッキの上から二枚墓地に送る!」

「裁きの龍とおろかな埋葬…。」

 

「よし!魔法カード、死者転生を発動!手札の光の召集を捨てて、墓地の裁きの龍を手札に戻す!墓地にライトロードが4種類以上残っている時、裁きの龍を特殊召喚出来る!」

 

 

 あーあ、終わったなと思う猫崎。

 

「攻撃力3000!でもサイバー・エンド・ドラゴンの敵では無いわ!」

「それはどうかしら?裁きの龍の効果発動!ライフを1000払って、このカード以外の場のモンスターを全て破壊!」ライフ4000から3000

 

「?!永続罠、安全地帯!これをサイバー・エンド・ドラゴンに…」

 

 

 安全地帯を入れている事に少し驚く猫崎。

 ノース校との代表決定戦の後、才災校長と話した内容を才光から聞いたのだろう。だが…サイバー・エンド・ドラゴンに装備させても意味がない。

 

「いいえ!私は裁きの龍を対象に、永続罠、安全地帯を発動する!」

「私のモンスターに?!」

 

 

 裁きの龍が放つ光が、サイバー・エンド・ドラゴンとデス・ウォンバットを、安全地帯を破壊する。

 だが安全地帯が砕け散るとともに、裁きの龍も砕け散る!

 

「どうして裁きの龍まで?!」

「安全地帯が場を離れた時、装備モンスターも破壊される!」

「思ったよりやるじゃない。本当にサイバー流?でも…私は創世の予言者を召喚!効果発動、手札のライトロードモンクエイリンを捨てて、墓地の裁きの龍を手札に戻し、特殊召喚!」

「そんなっ!」

「バトル!創世の予言者と裁きの龍でダイレクトアタック!」

「いやああああああっ!」ライフ0

 

 

 以前デュエルした時に比べて、多少改善していたようだが、【ライトロード】相手では力不足だったようだ。

 

 

「そこまでです。大庭さん。場のカードを全て破壊する裁きの龍はリスペクトに反します。」

「はぁ?」

「それと自分のデッキを破壊するライトロードもリスペクトに反しています。」

「何よそれ!私にライトロードを使うなって事!」

「その通りです。」

 

 怒りで震える大庭だが、結論が出たようだ。

 

「…デュエルアカデミアへの編入を辞退します!」

「そうですか。」

 

 まぁ、サイバー流のリスペクト精神を曲解したアカデミアに通うぐらいなら、他の所に行った方がいいだろうなぁ、と猫崎は思った。

 ガチレズが入らないと知って、才花がホッと胸をなでおろしていた。まぁ、そういう趣味は否定しない。趣味の合う者同士でやればいい。

 

 

 なお、安全地帯はリスペクトに反するという烙印が押された。救いようがない。

 



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第9話!『ガトリング・オーガはリスペクトに反しています。今すぐあのカードを禁止』

拙作ですが、実はガトリング・オーガによるワンキルを入学試験で行い、それを鮫島校長が批判する…という構想もありました。
没にしたのは、そんなことをやらかした生徒はどう考えてもノース校に飛ばされるからです。江戸川さんはどうでもいいですが、橘一角というファンデッキの鏡を先攻ワンキルするのは心が痛みます。


「…無い。」

 

 猫崎は茫然とする。部屋が荒らされており、デッキが盗まれていた。

 余ったカードで即席デッキを組む。

 

「奪ったデッキで仕掛けてくるだろうな。だとしても…。」

 

 このデッキならば問題なく勝てる。一応校長には報告しておくか。

 

 

「怠慢ですね。君の自己管理が出来ていないからこうなるんです。」

 

 こいつは教師の資格は持っていても、資質は無いな。

 

「では、奪われた物は自分で取り返します。他人のデッキを奪う行為は『リスペクトに反して』いますよね?」

「…ええ、リスペクトに反した行為ですね。」

「それが聞けて良かったです。失礼します。」

 

 

 さて。来るなら来い。

 

 

 なるべく一人になるように…一人になりやすいがそれでもあえて仕掛けやすいように行動する。

 すると。

 

 

 

「おい、そこのオシリスレッド!俺とデュエルだ!」

「…来たか。」

 

 相手はニヤニヤ笑っている、天然パーマのラーイエロー生だ。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

ラーイエロー ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!効果発動、召喚成功時、守備表示になる!手札のハリケーンを捨ててデッキから二体目のサモンプリーストを特殊召喚!そして月の書を捨てて効果発動!デッキからレスキューキャットを特殊召喚!レスキューキャットを墓地に送り、デッキからX-セイバー エアベルンを二体特殊召喚!」

「来るか。」

「レベル4のサモンプリーストに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!ダーク・ダイブ・ボンバー!」

 

 

 オレンジ色の爆撃機が降り立つ!

 

『よくも俺の効果を改悪したな!今度という今度は絶対に許さないぞ!』

 

 心なしか、ダーク・ダイブ・ボンバーが俺を睨んでいるような気がする。恨まれる覚えは無いんだがな。

 

 

「さらに連続S召喚!現れろ、アーカナイト・マジシャン!魔力カウンターが二つ乗る!」

 

 

 杖を構えた魔法使いが現れる。

 

『お前は一体何時になったら改心するんだ…?』

 

 何故か、ダーク・ダイブ・ボンバーに顔を向けるアーカナイト・マジシャン。お前の相手は俺のはずだが…?

 

「魔法カード、光の護封剣を発動!カードを一枚伏せる。ターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

ラーイエロー ライフ4000

手1 場 ダーク・ダイブ・ボンバー アーカナイト・マジシャン(2) 光の護封剣 伏せ1

 

 

「お前、俺のデッキを盗んだな?」

「おいおい、言いがかりはよせよ。証拠はあるのか証拠はぁ?」

「ペガサス会長と海馬瀬人が作ったカードだから、出所を探せば即座にばれる…今から俺が使うデッキを批判する資格は無いぞ。」

「はっ!光の護封剣でお前は攻撃も出来ない!次のターン、アーカナイトでお前の場のカードを破壊し、ダーク・ダイブ・ボンバーの攻撃と効果でライフを削り落としてやる!」

「メインフェイズ1以外では使ってはいけないと才災校長に言われたが…そもそも次のターンなんて与えない。俺はカードを5枚伏せる。」

「何のつもりだ?」

 

 伏せカード5枚って結構な圧力だと思うんだがな。

 

「ガトリング・オーガを召喚。効果発動!伏せてある昼夜の大火事、ご隠居の猛毒薬、連鎖爆撃、自業自得、仕込みマシンガンを墓地に送り、一枚につき800のダメージを与える!」

「なんだと!うわああああああっ!」ライフ0

 

 ガトリング・オーガが銃撃を浴びせ、ダーク・ダイブ・ボンバーとアーカナイト・マジシャン達も巻き込まれる!

 

 

『なんで俺までえええええええっ?!』

『ぐわぁあああああ!だが、覚えておけ!これで終わりではない!いつか必ずエラッタ前の効果に戻ってやるからなー!その時を楽しみに待っていろ!!』

 

 

 

 フルバーンデッキを使い、俺はラーイエロー男子を打倒す。

 こんなのデュエリストじゃあない?デッキを盗む奴はデュエリストと認めない。

 

 デュエルモンスターズのカードデザイン募集。そこでガトリング・オーガのイラストと効果をインダストリアルイリュージョン社に送った猫崎だが…。

 まさかあのままカード化するとは夢にも思っておらず、実物が送られてきた時は『インダストリアルイリュージョン社、仕事しろ』とぼやいた。

 きっと、サイバー流がもたらした悪影響でペガサス会長たちは相当お疲れなのだろう。

 

 猫崎はデッキを取り戻し、海馬オーナーにメールを送り、寮へ戻る。

 

 

 

 数日後、俺は才災校長に呼ばれた。

 ラーイエローの男子は退学処分になったらしい。デッキを盗むのは言語道断との事だ。

 

 …デュエリストキングダムで、モクバが人食い植物とクロコダイラス辺りが入ったデッキとスターチップを盗んでいたような気がするが…。

 彼の手元に、デッキは戻ったのだろうか?

 

 

「デッキを奪われた怒りは理解できますが、君がデザインしたガトリング・オーガはリスペクトに反しているので禁止カードにします」

「はい、よろしくお願いします。」

 

 ガトリング・オーガを野放しにすると後々大変。猫崎は利用出来る物は何でも利用すると決めていた。

 GXからゴッズまでどれぐらい時間が空いているのかわからないが、これで不動遊星の苦難は一つ減るはずだ。

 

「待ってください、才災校長」

「才津君、どうしたのですか?」

 

 教頭の才津が話に割り込んできた。

 

「こんなデュエルをする生徒をこれ以上野放しには出来ません。私のリスペクト精神でたたき直します!」

「いいでしょう。才津君!君に任せます!」

 

 とうとう教頭のお出ましか。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才津 ライフ4000

手5 場 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は君に譲りましょう」

「…俺のターン、ドロー。レスキューキャットを召喚。このカードを墓地に送り、デッキから異次元の狂獣とX-セイバーエアベルンを特殊召喚!レベル3の異次元の狂獣にレベル3の地属性エアベルンをチューニング!S召喚!現れろ、ゴヨウ・ガーディアン!」

「攻撃力2800ですか。」

「俺はカードを3枚伏せてターンエンド」

 

 

才津 ライフ4000

手5 場 

猫崎 ライフ4000

手2 場 ゴヨウ・ガーディアン 伏せ3

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、強欲な壺を発動!カードを2枚ドロー!フフフ、魔法カード発動!融合!手札のサイバー・ドラゴン二体を融合!現れなさい、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

「罠発動、奈落の落とし穴。サイバー・ツイン・ドラゴンを破壊してゲームから除外する。」

 

 穴から出てきた男が、サイバー・ツイン・ドラゴンを引きずり込む!

 

「な、なんというカードを!モンスター同士の手に汗握る激突がデュエルモンスターズの醍醐味!それを汚すなど!」

「なら、サイコ・ショッカーでも使ったらどうですか?」

「あんな気色悪くてグロテスクな陰キャなサイコ流御用達のモンスターなんて誰が使いますか!」

 

 やはりというか、サイコ流は存在しておりサイバー流に弾圧されているらしい。

 

「ならば魔法カード、融合回収を発動!墓地の融合とサイバー・ドラゴンを手札に戻し、融合を発動!現れなさい、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

「罠発動、奈落の落とし穴!」

「に、二枚目…どこまでも卑怯な…!」

 

 先ほどと同じようにサイバー・ツイン・ドラゴンが引きずり込まれて破壊される!

 ここで才災校長が口を開く。

 

 

「猫崎君、まさかその伏せカードも奈落の落とし穴ですか?」

「…答える義理はありませんが、これは奈落の落とし穴ではありません。」

「グヌヌ、魔法カード、融合回収を発動!墓地の融合とサイバー・ドラゴンを手札に戻す!」

「ですが、サイバー・ドラゴン二体は既に墓地。これでは」

「フン、私はプロト・サイバー・ドラゴンを召喚!魔法カード、融合!現れなさい、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

 

 執念とばかりに現れるサイバー・ツイン・ドラゴン。

 

 

「見ましたか!何度破壊されようと、そして思惑を阻止されようと…信じあったデュエリストとデッキはその意思を貫く!これがリスペクトデュエルなのです!」

「…ですが、それだけでデュエルを制することは出来ません。ゴヨウ・ガーディアンと相打ちしますか?」

「いいえ。私はこれでターンエンドです。」

 

 

才津 ライフ4000

手0 場 サイバー・ツイン・ドラゴン

猫崎 ライフ4000

手2 場 ゴヨウ・ガーディアン 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!バトル、ゴヨウ・ガーディアンでサイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃!」

「なっ!モンスターを自滅させるとは!対戦相手どころか自分のモンスターすら平然と切り捨てるとは…。貴方のゴヨウ・ガーディアン、泣いていますよ!」

「切り捨ててはいません。罠発動!和睦の使者!このターン、俺のモンスターは戦闘では破壊されず、俺が受ける戦闘ダメージも0になる!」

「な、何?!それは防御カード、それを自分のターンで使い捨てるとは…カードへのリスペクト精神が足りないから、プレイングミスをするのです!」

 

 寝言を言う才津教頭だが。

 

「…い、いや!ま、まさかこれは?!」

 

 才災校長は気が付いたようだ。

 

「ゴヨウ・ガーディアンは戦闘破壊されない。よって破壊されるのはサイバー・ツイン・ドラゴン!」

「な、何ぃ!」

「そして、ゴヨウ・ガーディアンの効果発動!戦闘破壊したサイバー・ツイン・ドラゴンを墓地から特殊召喚!」

「ひ、卑怯者!」

 

 

 わめく才津教頭。

 

「も、モンスターを奪うとは!な、なんというリスペクトに反したカードを使うんだ…。」

「なら奪い返したらどうですか?俺はカードを1枚伏せてターンエンド。」

 

 

 

 

才津 ライフ4000

手0 場 

猫崎 ライフ4000

手2 場 ゴヨウ・ガーディアン サイバー・ツイン・ドラゴン 伏せ1

 

 

「ぐ、ぐうううっ…。私のターン、ドロー!モンスターをセットして、ターンエンドです!」

 

 

 

才津 ライフ4000

手0 場 セットモンスター

猫崎 ライフ4000

手2 場 ゴヨウ・ガーディアン サイバー・ツイン・ドラゴン 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー。サイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃表示に変更。バトル!ゴヨウ・ガーディアンでセットモンスターを攻撃!」

「破壊されたシャインエンジェルの効果発動!デッキからシャインエンジェルを特殊召喚します!さぁ、ゴヨウ・ガーディアンで奪いなさい!」

「ゴヨウ・ガーディアンの効果は発動しない。」

「なっ?!う、奪う価値も無いというのですか?!」

 

 リクルーターを特殊召喚しても、次のターンに戦闘破壊されたら後続を出されるだけ。ゴヨウの効果は強制ではない。

 

「ツイン・ドラゴンでシャインエンジェルを攻撃」

「ぐうううっ!ですが、3体目のシャインエンジェルを特殊召喚!」ライフ4000から2600

「なら、バトルフェイズは終了。ターンエンドです。」

「何ぃ?!な、何故攻撃しないのですか!」

「教頭先生のターンです」

 

 

才津 ライフ2600

手0 場 シャインエンジェル

猫崎 ライフ4000

手3 場 ゴヨウ・ガーディアン サイバー・ツイン・ドラゴン 伏せ1

 

 

「わ、私のターン、ドロー!魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のシャインエンジェル2体とサイバー・ドラゴン3体をデッキに戻して二枚ドロー!よし、シャインエンジェルを守備表示に変更。カードを二枚伏せてターンエンドです!」

 

 

才津 ライフ2600

手0 場 シャインエンジェル 伏せ2

猫崎 ライフ4000

手3 場 ゴヨウ・ガーディアン サイバー・ツイン・ドラゴン 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、大嵐を発動!俺の場の月の書が破壊されるが、そちらの伏せカード二枚も破壊する!」

「?!ドレインシールドとメタル化魔法反射装甲が!」

「バトル、ツイン・ドラゴンで攻撃!」

「ですが、シャインエンジェルは先ほど貪欲な壺でデッキに戻しています。現れなさい、シャインエンジェル!」

「ゴヨウ・ガーディアンでシャインエンジェルを攻撃!」

「ぐううううっ!三体目のシャインエンジェルを特殊召喚!」ライフ2600から1200

「ツイン・ドラゴンでシャインエンジェルを攻撃」

「ば、馬鹿なぁあああああああ!」ライフ0

 

 

 

 

 

 

 茫然とへたり込む才津教頭。

 

「な、何故手加減したのですか!」

「手加減はしていませんよ。前のターン、ツイン・ドラゴンで連続攻撃していたら、プロト・サイバー・ドラゴンか、融合呪印生物-光といったモンスターを特殊召喚されていたかもしれない。だからあえて攻撃しなかった。」

「ぐぬぬ…覚えておきなさい。サイバー流は負けません!」

 

 

 今さっき、お前の直属の部下が負けたんだけどな。と言いかけた猫崎はぐっとこらえる。

 

 

 

 

 その夜。

 デュエルアカデミアの校長室にて。

 

 

『…才災君。最近、君の学校で妙なカードを使う生徒がいるみたいだねぇ?』

「はっ、その通りです。」

『サイバー流は負けないだろうね?』

「ご心配ありません。サイバー流の優秀な門下生ならば問題なく打倒せます。今まで負けたのはサイバー流の落ちこぼれとサイバー流ではない教職員と生徒です。」

『ならば良い。』

 

 後援者があの少年を懸念している。

 早急に『排除』せねば。

 才災はそう決意を固める。

 

 

 後にガトリング・オーガが禁止カードになったことで、鉱山の利権がらみで某決闘者がガトリング・オーガを手に入れる為に一苦労する上に、使った時には対戦相手どころか味方に非難される羽目になるのだが、それはまた別の物語である。



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第10話!同級生の変化!前田隼人と大山平!

この度、拙作「猫シンクロ使いが行く遊戯王GX!」のコラボ作品が、カイナ先生の「サイバー流系メスガキinデュエルアカデミア」にて投稿されております。メスガキが、周りの心無い言葉にも怯まず自らのデュエルを貫くという素晴らしい作品です。是非ご覧ください。

アンチリスペクト物では、門下生達が順当にサイバー・ドラゴンと融合を当たり前のように手札に引き込んでいますが、割と凄い事ですよね。


 前田隼人がデュエルをするというので見に行った猫崎だが。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

門士郎 ライフ4000

手5 場 

前田 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!魔法カード、融合を発動!手札のサイバー・ドラゴン3体を融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

「こ、攻撃力4000!」

「そして、強化支援メカヘビーウェポンを召喚!このカードに装備!これで攻撃力と守備力は500アップ!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

門士郎 ライフ4000

手0 場 サイバー・エンド・ドラゴン 強化支援メカ 伏せ1

前田 ライフ4000

手5 場 

 

 

「お、おれのターン、ドロー。魔法カード、融合!手札のビッグコアラとデスカンガルーを融合!マスターオブOZを融合召喚!」

「攻撃力4200だと!オシリスレッドのくせに…」

「才災校長が、俺のビッグコアラを融合素材とした融合モンスターと、その融合素材をくれたんだな!魔法カード、野性解放!これでマスター・オブ・OZはその元々の守備力分攻撃力がアップ!よって攻撃力は7900になるんだな!」

「何だと!」

「行け、マスター・オブ・OZ!サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

「甘いぜ!リバースカードオープン!リミッター解除!」

「攻撃力9000!うわああああっ!」ライフ4000から2900

 

「ぐっ、俺はモンスターをセット。ターンエンド!」

「リミッター解除の効果でサイバー・エンド・ドラゴンは破壊されるが、強化支援メカを代償に破壊を免れる!

 

 

門士郎 ライフ4000

手0 場 サイバー・エンド・ドラゴン 

前田 ライフ2900

手2 場 セットモンスター 

 

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ、サイバー・エンド・ドラゴンでセットモンスターを攻撃!」

「だけど、キラー・トマトの効果で…あれ?」ライフ0

 

「サイバー・エンド・ドラゴンは攻撃力が守備力を超えていれば、その数値分のダメージを与えるんだよ!」

「ま、参りました…。」

 

 うなだれる前田隼人。

 強力なカードを与える辺り、才災校長はかなり気前が良いと思う猫崎。

 

 

「流石門士郎さん!」

「サイバー流に入って正解だな!」

 

 

 取り巻きが持ち上げている。

 最近、元々サイバー流では無かった生徒が次々とサイバー流に転向している。

 

 別に、サイバー流へ鞍替えするのは咎めない。だが…

 

 大山がサイバー流の決闘者とデュエルを始めている。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才藤 ライフ4000

手5 場 

大山 ライフ4000

手5 場 

 

「俺の先攻、ドロー!俺は魔法カード、磁力の召喚円 LV2を発動!魔装機関車ボコイチを特殊召喚!魔法カード、機械複製術を発動!ボコイチを複製する!」

「守りを固めたか、だが、そんな攻守では壁にもならないぞ!」

「俺はモンスターをセット。魔法カード、太陽の書を発動!魔装機関車デコイチをリバース!効果発動!カードを1枚ドローする!さらに場のボコイチの数だけドローする!よって4枚ドロー!」

 

 

「コンボは決まったな。」

「だが…。」

 

「魔法カード、馬の骨の対価を発動!ボコイチを墓地に送って二枚ドロー!装備魔法、折れ竹光をデコイチに装備して、魔法カード、黄金色の竹光を発動!二枚ドロー!魔法カード、二枚目の馬の骨の対価を発動!ボコイチを墓地に送り二枚ドロー!二枚目の黄金色の竹光を発動!二枚ドロー!最後の黄金色の竹光を発動!二枚ドロー!最後の馬の骨の対価を発動!ボコイチを墓地に送って二枚ドロー!」

 

 

「よし!これで手札10枚!」

「永続魔法、7を三枚発動!そして7が三枚そろったことでこのカードを破壊し、2100ポイントのライフを回復!そして三枚ドロー!」ライフ4000から6100

「魔法カード、成金ゴブリンを発動!カードを一枚ドローして、相手はライフを1000回復する!」

「…引けたか?」ライフ4000から5000

 

「魔法カード、手札抹殺を発動!俺は魔装機関車デコイチ2枚と八汰烏の躯3枚と強欲な瓶3枚と太陽の書、合わせて9枚を捨てて9枚ドロー!」

「俺も5枚捨てて5枚ドローだ。」

 

 

 大量の手札を入れ替えた事で、ギャラリーが反応する。

 

「これで墓地には26枚、場には2枚、手札は9枚」

「デッキは後3枚、これだけ引けば…」

 

 だが、大山は膝をついて叫ぶ!

 

「な、何故だぁ!何故俺の手札にサイバー・ドラゴンが来ない!俺に、何が足りないと言うんだ…!」

 

 大山が戦意喪失した事で、デュエルは終了となる。残りのカードはサイバー・ドラゴン3枚だった。

 ちなみに対戦相手の才藤は順当にサイバー・ドラゴンを3枚引き当てており、手札抹殺で入れ替えた手札にはサイバネティック・フュージョン・サポートとパワー・ボンドとリミッター解除を握っていた。

 

 

「座学は良くても、実技がダメだよなぁ、お前。」

「というか、普通引けるだろ?」

「引けないってよほど調子が悪い時だよなぁ。」

 

 

 才藤、才岡、才福…サイバー流の門下生が大山の相談に乗っているのを横目で見た後、猫崎は行動することにした。

 今まであまり気にしていなかったが、初手にサイバー・ドラゴンを複数枚と融合関連を引き当てるのは、割とすごいのかもしれない。

 

 猫崎が古井戸に訪れると、そこには大量のカードが捨てられていた。

 

 

 ニュードリュア、強制脱出装置、人喰い虫、トラップ・ジャマー、ペンギンソルジャー、レベル制限B地区、マジック・ジャマー、心変わり、ハンマーシュート、奈落の落とし穴、ブラック・コア、死者への手向け、ライトニング・ボルテックス、ファイバー・ポッド、追い剥ぎゴブリン、サクリファイス、白い泥棒、強制転移、破壊輪、エクトプラズマー、アメーバ、魔力の棘、スフィアボム球体時限爆弾、死霊の誘い、自業自得、ハネハネ、仕込みマシンガン、王宮の勅命、番兵ゴーレム、X・E・N・O、王宮の弾圧、深淵の暗殺者、死のデッキ破壊ウイルス、魔鏡導師リフレクト・バウンダー、サイバー・ポッド、酸の嵐、ならず者傭兵部隊、マジック・ランプ、最終戦争、サンダー・ブレイク、旅人の試練、カオスポッド…

 

 この辺りは、比較的上の方にあった。最近、捨てられたのだろう。『リスペクトに反する』カードとして。

 

 

 

「…こんな事をやっても自己満足だろう。だが、それでも…。」

 

 憑依者だから?違う。デュエルモンスターズそのものが好きだから。

 その中に、デッキケースがあった。その中身を見た猫崎はほかのカードには目もくれず、古井戸を後にする。

 

 数日後。猫崎は門士郎と対峙する。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

門士郎 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!魔法カード、融合を発動!手札のサイバー・ドラゴン3体を融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!さらにアーマード・サイバーンを召喚!効果発動、サイバー・エンド・ドラゴンに装備!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

門士郎 ライフ4000

手0 場 サイバー・エンド・ドラゴン アーマード・サイバーン 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!門士郎、このデッキはSデッキではない。」

「ああ?なら卑怯なカウンター罠デッキか?」

「いいや。俺は共鳴虫を召喚!」

「なっ?!それは、まさか…。お前!」

 

「古井戸に捨てられていたデッキケースを拾った。」

「はっ!ドロップアウトだな!捨てられていたカードをわざわざ拾って戦うのか!」

「普段はしない。だが、このカードたちがどうしてももう一度戦いたいと願っている。そんな気がしたんだ。魔法カード、強制転移を発動!」

「ぐっ!俺のサイバー・エンド・ドラゴンが…!」

 

 

 卑怯だぞ!

 相手のモンスターを奪うなんて!

 

 周りの取り巻きが俺に罵声を浴びせる。

 

 

「だ、そうだ。どんな気分だ?門士郎?」

「…っ!さっさと進めろ!」

 

 そうだ。卑怯などと言われていい気分はしない。リクル転移はかつてお前が使っていた戦術。

 

 

「無ければ奪う。その発想を実行できるデュエリストは嫌いではない、嫌いでは無かったんだが、な。」

「ぐっ…。」

 

「…バトルだ、サイバー・エンド・ドラゴンで共鳴虫を攻撃」

「ぐわあああああっ!」ライフ4000から1200

「共鳴虫の効果発動!デッキから共鳴虫を特殊召喚!ダイレクトアタックだ!」

「ガアアアアアッ!」ライフ0

 

 

 

「また負けやがった!」

「オシリスレッドに連敗とは、落ちぶれたな!」

 

 

 好き勝手なことをわめいて去っていく取り巻き達。

 

「…これは、置いていく。」

「猫崎…。」

 

 DNA改造手術に、虫除けバリア-。トゲトゲ神の殺虫剤、スカラベの大群、イナゴの軍勢、火器付機甲鎧…

 

 種族操作のギミックやサイクルリバースによる場を荒らすコンボ、団結の力やデーモンの斧を持っていない為代わりに入れているであろう装備魔法。

 猫崎にとっては、思い入れを感じるカードのチョイスだ。

 

「サイバー流から離れろとは言わない。だが、このデッキは一生懸命考えて作り上げたんだろう?なら大事に」

「出来ない。」

「門士郎?」

「…才災師範、いや、才災校長はサイバー流に転向するなら以前のデッキを処分するよう言ってきた…。後、モンスターのコントロールを奪う強制転移はリスペクトに反している、と言われた。」

 

 デュエリストにデッキを捨てろ、と言うか。前世ならまだしも、デュエルモンスターズが主流のこの世界で。

 コントロール奪取は…まぁ、あまり受けがいい戦術では無いが、まさか全否定するとは。

 

「俺は逆らえなかった。一度手放した俺が再度そのデッキを手に取ることは許されない。」

 

 意志は固いようだ。こういう時、憑依者に過ぎない俺には出来ない。

 

「…わかった。このデッキは預かっておく。」

 

 

 のちにデュエルアカデミアの卒業式の後、猫崎はこのデッキを門士郎に渡すのだが、それは別の物語である。



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第11話!翔と十代登場!

拙作では丸藤翔の扱いがかなり悪いです。指導者が鮫島師範から才災師範に変わった事でかなり歪んでいます。指導者がアレなら、その教え子も歪みますよね。

歓迎会は色々描写を追加しました。食の考え方については、拙作の丸藤翔と同意する方が結構いらっしゃると思います。



 猫崎は元々のデッキからサイバー流に鞍替えしたデュエリストを倒しながら、才波と一緒に過ごす。

 前世と違い、非常に充実した高校生活を送っている。

 

「アーマード・サイバーンで攻撃力を下げたプロト・サイバー・ドラゴンに機械複製術を使う、というのはどうだ?」

「結構厳しいわ。アーマード・サイバーンが伏せカードを除去出来たらいいのだけれど、モンスターしか除去出来ないから…。」

 

 時折デッキ調整を行い、たわいもない会話を楽しむ。

 

 そして猫崎は三年生になり、あのHERO使いが入学してくる。

 

 

 レッド寮の前で、猫崎は新入生を案内する。

 

「歓迎会までには戻ってくるように。」

 

 しばらく待っていると。

 

「猫崎?誰か待っているの?」

「才波か。新入生の案内だ。俺もここに編入したときは世話になったからな。」

「ふぅん…。」

 

 雑談した後、才波はその場を離れる。

 それから数分後。

 

「あのぅ、もしかして先輩っスか?」

 

 水色の髪の新入生が話しかけてくる。丸藤翔だと予想する猫崎。

 

「そうだ。オシリスレッドの三年、猫崎俊二。俺とデュエルしないか?」

「ええっ?!いきなりっスか!」

「嫌なら別にいいが。」

「い、いや。受けてたつッス!」

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

翔 ライフ4000

手5 場 

 

 

「よし、僕の先攻!ドローっス!パトロイドを攻撃表示で召喚!カードを二枚伏せてターンエンドっス!」

「何?」

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

翔 ライフ4000

手3 場 パトロイド 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は、レスキューキャットを召喚!」

「攻撃力300を攻撃表示っスか?一体何を考えているっスか!そんな雑魚を攻撃表示で召喚するなんて!」

「効果発動、このカードを墓地に送り、デッキから逆ギレパンダとX-セイバーエアベルンを特殊召喚!行くぞ、レベル3の逆ギレパンダにレベル3の地属性エアベルンをチューニング!S召喚!現れろ、ゴヨウ・ガーディアン!」

「攻撃力2800?!な、何なんスか!その、ナントカ召喚って!」

「これはチューナーモンスターを含む素材となるモンスターとレベルの合計と同じレベルを持つモンスターを特殊召喚する!バトルだ、ゴヨウ・ガーディアンでパトロイドを攻撃!」

「くっ、罠発動!スーパーチャージ!ロイドと名のつく機械族モンスターが攻撃対象になったことで、カードを二枚ドローするッス!」

「ならそのまま破壊だ!」

「わああああああっ!」ライフ4000から2400

「そしてゴヨウ・ガーディアンの効果発動、今戦闘破壊したパトロイドを守備表示で特殊召喚!」

「ああっ?!僕のパトロイドが!!」

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 ゴヨウ・ガーディアン パトロイド 伏せ1

翔 ライフ2400

手5 場 伏せ1

 

 

「!お、思い出したッス!お前は、才災師範が言っていた、サイバー流に逆らう決闘者…。」

「そうだ。海馬瀬人とペガサス会長が考案したS召喚のテスターだ。」

「くっ…そんな卑怯なモンスターを出された誰も勝てないッス!」

「そんな事は無いぞ。さぁ、お前のターンだ。」

「くううっ…。僕のターン、ドローっス!ふ、フハハハハッ!キタっス!相手の場にのみモンスターが存在することで、サイバー・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚!」

「サイバー・ドラゴン…」

 

 翔のデッキにサイバー・ドラゴンが入るのは、3年生になってからだったと記憶している猫崎だが、才災師範に変わった事で支給されているのだろうと推測する。

 

「魔法カード、パワー・ボンドを発動!手札のユーフォロイドと戦士族のロケット戦士を融合!現れろッス!ユーフォロイド・ファイター!」

「融合素材となったモンスターの攻撃力の合計で決定する融合モンスター、攻撃力の合計は2700だが」

「パワー・ボンドにより二倍になるッス!」

「…元々の攻撃力分アップする効果だがな。」

「うるさいッス!変わらないッスよ!そして雷電娘々を召喚するッス!」

「場に光属性以外のモンスターが居れば破壊されてしまうが、その二体はどちらも光属性だな…ん?」

 

 翔がデレっとした顔をしている。ああ、確か雷電娘々がアイドルカードだったと思い出す猫崎。

 

「フフフ、あの猫崎を倒したとなればサイバー流での僕の評判は鰻登りッス、そうなれば憧れの才波先輩も僕を見直してくれるはずッス。そして才花先輩も才光なんか振って僕を選んでくれるかも…ムフフ。」

「…おーい、長考か?」

 

 雷電娘々に対して思い入れがあるのは分かったが、さっさとデュエルを進めてほしい猫崎は声をかける。

 翔は小声で妄想をブツブツ言っていたので、その言葉は猫崎の耳には届いていない。

 

 

「おっと。このデュエルを僕の勝利で終わらせないと行けないッスね!よし、バトル!いけー!ユーフォロイド・ファイター!ゴヨウ・なんとかを攻撃!」

「罠発動!聖なるバリア-ミラーフォース-!」

「え、えええっ?!ぼ、僕のサイバー・ドラゴンがぁ!ユーフォロイド・ファイターがぁ!ああああああ~!ら、雷電娘々までぇ!」

 

 捕らぬ狸の皮算用をしていた翔だが、伏せカード一枚で場のモンスターを一掃されて翔は嘆く。

 

「ターンエンドなら、エンドフェイズにパワー・ボンドのリスクを受けて貰う。」

「ま、まだッス!罠発動!ピケルの魔法陣!このターン、僕が受ける効果ダメージは0になるッス!」

「…防御札はあったか。」

「メインフェイズ2でカードを一枚伏せてターンエンドッス!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 ゴヨウ・ガーディアン パトロイド 

翔 ライフ2400

手0 場 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!パトロイドの効果発動!お前の伏せカードを確認する!リビングデッドの呼び声か」

「ああ~!僕のカードを勝手にみるんじゃないッス!この卑怯者!」

「これ元々お前のカードだろう。…俺はパトロイドを攻撃表示に変更!そして異次元の狂獣を召喚!バトルだ、ゴヨウ・ガーディアンでダイレクトアタック!」

「え、永続罠発動!リビングデッドの呼び声!これで墓地のサイバー・ドラゴンを復活させるっス!」

「ならそのまま攻撃!」

「うわああああああああっ!」ライフ2400から1700

「そしてサイバー・ドラゴンを俺の場に守備表示で特殊召喚。行け異次元の狂獣、パトロイド!」

「うわああああああっ!」ライフ1700から300、300から0

 

 パトロイドが丸藤翔のライフを0にする。

 

「卑怯っス!」

「何が卑怯なんだ?ゴヨウ・ガーディアンの存在か?」

「その通りっス!攻撃力2800で、あんな効果があるなら、それを使えばだれでも勝てるッス!」

「そんな事は無いと思うがな。パトロイドを囮にスーパーチャージは良いと思うぞ。初手は、パトロイド、スーパーチャージ、ピケルの魔法陣が確定で他にはパワー・ボンド、ロケット戦士、ユーフォロイド、雷電娘々、サイバー・ドラゴンの内2枚だろうから、俺だってスーパーチャージでドローを狙っていく。そこまではいい。」

 

 一呼吸おいて、猫崎は続ける。

 

「ラストターン、リビングデッドの呼び声でサイバー・ドラゴンを蘇生していたが、ここでユーフォロイドを蘇生させていればゴヨウの攻撃で1600のダメージ、後続でジャイロイド辺りを出せばパトロイドの攻撃で200のダメージ、異次元の狂獣で400のダメージを受けたとしても…2200のダメージになるため、ライフは200のこ」

「うるさいうるさいっス!お説教はたくさんッス!サイバー流に逆らうリスペクト精神も持たない卑怯者め、覚えて居ろっス!!」

 

 だが猫崎の言葉が終わる前に、丸藤翔は逃げ出す。

 この時期ではまだこのレベルか。しかも師範が鮫島から才災に変わっている。

 ため息をつき、猫崎は少し待つ。その間にもオシリスレッドの新入生とデュエルをして過ごしていると。

 

 

「なぁ、あんた強いのか?」

「あ、兄貴!ダメっスよ!こいつは…。」

「なんだ?翔。知っているのか?」

「海馬瀬人とペガサス会長が開発した、なんとか召喚のテスターをしている卑怯者っス!」

「伝説の決闘者が認めているなら、そうとう強いって事だな!なぁ、俺とデュエルしてくれよ!」

 

 

 十代からこう言われるとは、猫崎にとっては感無量だ。

 

「ああ、始めよう。」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

十代 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は俺だ、ドロー!俺は魔法カード融合を発動!手札のフェザーマンとバーストレディを融合!現れろ、マイフェイバリットカード、フレイム・ウィングマン!」

 

 アニメで猫崎がさんざん見たHEROが現れる。

 主人公の攻撃力2500のエースモンスターも好きだが、こういうサブエースも良い物だ。

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

十代 ライフ4000

手2 場 フレイム・ウィングマン 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は、レスキューキャットを召喚!」

「へ?れ、レスキューキャット?」

「知らないのか?」

「いや、知っているけれど…。そいつの効果ってレベル3以下の獣族を二体特殊召喚出来るけど、ターン終了時に破壊されるよな?オサムさんがそれでデス・ウォンバットや素早いモモンガを特殊召喚して、エンドフェイズの自壊デメリットを死のマジック・ボックスで押し付けたり、エンドフェイズの自壊をトリガーに森の番人グリーンバブーンを呼び出すのに使っていたけれど…」

 

 小学生ぐらいであろう相手に何というコンボをやっているんですか、オサムさん。と内心突っ込む猫崎。

 

「その通りだ。レスキューキャットを墓地に送り、デッキから異次元の狂獣とX-セイバーエアベルンを特殊召喚!行くぞ、レベル3の異次元の狂獣にレベル3の地属性エアベルンをチューニング!S召喚!現れろ、ゴヨウ・ガーディアン!」

「これが、S召喚?」

「チューナーを含む素材となるモンスターのレベルの合計と同じレベルを持つモンスターを呼び出す召喚方法、それがS召喚だ!」

「すげぇ、すげぇよ!モンスターのレベルが重要になるなんて、流石はペガサス会長と海馬瀬人だ!!俺には思いもよらなかったぜ!」

 

 素直に目をキラキラさせて喜ぶ十代。一方で…

 

「出たっスね、醜い泥棒モンスター!」

 

 泥棒…。こいつは逮捕する側なのだが。

 

「バトルだ、ゴヨウ・ガーディアンでフレイム・ウィングマンを攻撃!」

「ぐっ!フレイム・ウィングマン!」ライフ4000から3300

「ゴヨウ・ガーディアンの効果発動!破壊したモンスターを俺の場に守備表示で特殊召喚出来る!」

「へへっ、残念だけどそれは出来ないぜ!俺のフレイム・ウィングマンは『このカードは融合召喚でのみ融合デッキから特殊召喚出来る』方では無くて、『このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。』方なのさ!」

「なん…だと…?」

「何故か二種類あるよな?最近、海馬コーポレーションの社員がやってきて、こういうのはどちらかに統一しないといけない!って言って交換させられたけど。」

 

 エラッタ後の統一まで、海馬コーポレーションがやっている事に戦慄する猫崎。

 

「デュエルを続けるぜ!罠発動!ヒーローシグナル!俺のモンスターが戦闘で破壊され墓地に送られたとき、手札かデッキからレベル4以下のE・HEROを特殊召喚!現れろ、バブルマン!そしてバブルマンの効果発動!俺の場にカードがないとき、二枚ドロー!」

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 ゴヨウ・ガーディアン 伏せ1

十代 ライフ3300

手4 場 バブルマン 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は魔法カード、融合を発動!場のバブルマンと手札のクレイマンを融合!現れろ!E・HEROマッドボールマン!」

「守備力3000か、それでしのげるとでも?」

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 ゴヨウ・ガーディアン 伏せ1

十代 ライフ3300

手3 場 マッドボールマン 

 

「俺のターン、ドロー!まいったな、カードを一枚伏せてターンエンドだ。」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 ゴヨウ・ガーディアン 伏せ2

十代 ライフ3300

手3 場 セットモンスター 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、強欲な壺を発動!カードを二枚ドロー!E・HEROスパークマンを召喚!そしてフィールド魔法、摩天楼スカイスクレイパーを発動!さぁ、舞台は整った!マッドボールマンを攻撃表示に変更!」

「正面突破してくるつもりか!」

「その通りだぜ!バトル、マッドボールマンでゴヨウ・ガーディアンを攻撃!ヒーローは、必ず勝つ!」

「それはどうかな?罠発動!和睦の使者!」

「わ、和睦の使者?!戦闘ダメージを0にして、モンスターの戦闘破壊を防ぐカード…。」

「さぁ、どうする?マッドボールマンの守備力は高いが、攻撃力は1900。次のターン、ゴヨウ・ガーディアンで戦闘破壊可能だ。」

「ならばメインフェイズ2に入って、装備魔法、スパークガンをスパークマンに装備!そしてスパークガンの効果発動、スパークマンとマッドボールマンを守備表示に。カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 ゴヨウ・ガーディアン 伏せ1

十代 ライフ3300

手1 場 スパークマン マッドボールマン スパークガン 摩天楼スカイスクレイパー 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、サイクロンを発動…伏せ、いや!俺は摩天楼スカイスクレイパーを破壊する!」

「スカイスクレイパーが!」

 

 伏せを割る事も考えた猫崎だが、直観でフィールド魔法を割りに行く。

 

「俺は召喚僧サモンプリーストを召喚!召喚成功時、守備表示になる。手札の魔法カード、精神操作を捨てて効果発動!デッキからチューナーモンスター、霞の谷の戦士を特殊召喚!」

「チューナー!ってことは」

「レベル4の闇属性、サモンプリーストにレベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!ダークエンド・ドラゴン!」

「攻撃力2600か!すげぇカッコいいモンスターだけど、守備力はマッドボールマンの方が上だ!」

「ダークエンドの効果発動!攻守を500下げて、相手モンスターを墓地に送る!マッドボールマンを墓地に送る!」

「ま、マッドボールマン!」

 

「ずるいぞ!モンスターを墓地に送るなんて!」

 

 丸藤翔が騒ぐが、そんな雑音など二人には届かない。

 

「バトル!ゴヨウ・ガーディアンでスパークマンを攻撃!そして破壊したスパークマンを守備表示で特殊召喚!」

「スパークマンッ!」

「ダークエンド・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「罠発動!ヒーロースピリッツ!E・HEROが戦闘で破壊されたターン、俺が受ける戦闘ダメージは0になる!

「ターンエンド」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手2 場 ゴヨウ・ガーディアン ダークエンド・ドラゴン スパークマン 伏せ1

十代 ライフ3300

手1 場 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、戦士の生還を発動!墓地からバブルマンを手札に戻し、召喚!カードを二枚ドロー!よし!速攻魔法、バブル・シャッフル!バブルマンとゴヨウ・ガーディアンを守備表示にするぜ」

「その後、場のバブルマンをリリースしてE・HEROを特殊召喚するが…」

「そうさ!現れろ、エッジマン!行くぜ、バトルだ!エッジマンでゴヨウ・ガーディアンを攻撃!」

「ぐううっ!」ライフ4000から3400

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ3400

手2 場 ダークエンド・ドラゴン スパークマン 伏せ1

十代 ライフ3300

手0 場 エッジマン 伏せ1

 

「俺のターン、ドロー!行くぞ、ダークエンド・ドラゴンの効果発動!エッジマンを墓地に送る!」

「チェーンして罠発動!エッジ・ハンマー!エッジマンをリリースして相手モンスターを破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを与える!ダークエンド・ドラゴンを破壊!」

「ぐうううっ!」ライフ3400から800

 

 猫崎のライフが大きく削られる!

 

「あ、兄貴…バーンと除去なんて卑怯な手を使っているけれど、いいぞー!いけいけー!」

 

 翔が囃し立てるが、二人とも聞いていない。

 

 

「…見事だ。だが、このデュエルは俺の勝ちだ。チューナーモンスター、霞の谷の戦士を召喚!」

「攻撃力1700!」

「スパークマンを攻撃表示に変更!バトル、スパークマンと霞の谷の戦士でダイレクトアタック!」

「俺の負け、か」ライフ0

 

 

「ひ、卑怯ッス!あんなカードを使って、兄貴のモンスターを奪ったり墓地に送ったりして!やっぱり卑怯者ッス!」

 

 翔が雑音を垂れ流すが、十代も猫崎も無視する。

 

 

「本当に強いな、猫崎先輩!」

「海馬オーナーとペガサス会長からS召喚のテスターを任されている以上、そうそう負けるわけにはいかない。頑張れよ、新入生。」

 

 

 バブルマンからバブルシャッフルとエッジハンマーを引き当て、Sモンスターを二体も処理するという事をやってのけた遊城十代のドローパワーに内心動揺しつつ、猫崎は歓迎会の準備をする。

 味噌汁とごはんとメザシという貧相な歓迎会になるはずだったが、猫崎の働きを評価した海馬瀬人が手を回してくれた。

 

「猫崎先輩!何か手伝いましょうか!」

「新入生だろう。待っていればいいから。」

「そういうわけにはいきません!」

「…なら、冷蔵庫から辛子明太子、タコわさび、冷奴を出してくれ。」

「わかりました!」

 

 きびきびと動くレッド生に触発されたのか、ほかの新入生も行動する。

 

「猫崎先輩、俺にもなにか…」

「なら、そのヤカンを机にもっていってくれ。中身は麦茶だ。それとコップも人数分置いておいてくれ。」

 

 十代に指示を出した猫崎に、声がかけられる。

 

 

「おい、酢豚は炒めればいいところまで来たぞ。」

「了解、ポテトサラダはどうだ?」

 

 猫崎が声をかけると。

 

「ばっちりだ!いやぁ、こんなにおかずが並ぶと華やかだな!」

 

 ネギ味噌を冷蔵庫から取り出しなら告げる同級生。

 その言葉を聞きながら猫崎は生春巻きを人数分作り終え、後は歓迎会が始まる前ぐらいに並べれば完了、という所である事に気づく。

 

「どうした?おでんなら問題ないぞ。一人六種ずつだろ?」

 

 三つの大鍋にはおでんが煮込まれている。大根、ウィンナー、卵、ロールキャベツ、ジャガイモ、厚揚げ…。

 やはり、無い。

 

「おい、フルーツポンチ用のリンゴと蜜柑とパイナップルはどこに行った?」

「え?あのパイナップルってフルーツポンチ用だったのか?」

「…正直に答えろ。何に使った?」

「酢豚」

 

 

 愕然とする猫崎に、声がかけられる。

 

「リンゴと蜜柑ならちゃんとポテトサラダに入れておいたぞ!」

「おい…、冷蔵庫になんでサイダーとかき氷のブルーハワイが入っているのか、誰も疑問に思わなかったのか?」

「え?」

 

 ため息をつく猫崎。

 

「サイダーにブルーハワイのシロップを入れて、フルーツポンチにするつもりだったが…よし、デザートなんて無かった!イイネ?」

「「あっ、はい」」

 

 

 30分後。

 

 

「ええ~!こ、これだけッスかぁ?!ほかの寮はもっとごちそうだったッス!」

 

 今までのレッド寮での歓迎会では考えられないほど品数が増えた食事を前に、文句を垂れる新入生が一人だけ居た。

 

「酢豚にはパイナップルが入っているし、ポテトサラダにはリンゴと蜜柑?おでんにはウィンナーとジャガイモとロールキャベツが入っているなんて、ありえないッス!」

「…すまんな、生春巻きはどうだ?」

「うう~、パクチーが入っているッス…これでは風味が台無しッス。」

 

 新入生なのだから、手伝わなくてもと猫崎が声をかけたにも関わらず、率先して他の新入生が協力する中、何一つ手伝わず文句を垂れる翔。

 まぁ、これから成長してくれるだろう、と思う猫崎。

 

「うう~。」

「そう言うなよ、結構旨そうじゃん。いただきまーす!あれ、これなんのソースだ?」

「チリソースだ。」

「うん、旨い!醤油以外でも合うんだな!」

 

 旨そうに食べてくれる十代を見ながら、猫崎も食事をとる。

 ただ、生春巻きにパクチーを入れると海老の風味があまり感じられなかった為、この辺りは改善しなければと内心思った。



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第12話!月一試験と、万丈目と三沢登場!

この度、拙作「猫シンクロ使いが行く遊戯王GX!」のコラボ作品が、睦月江介先生の「【安価】安価で作ったデッキでデュエルアカデミア生活【安価】」にて投稿されております。資金難の苦学生がデッキを組み、サイバー流に立ち向かっていく素晴らしい作品です。是非ご覧ください。

アニメでは万丈目と三沢を直接対決させて、寮の入れ替えデュエルをしていましたが、今になって思うとデュエルアカデミアの実力主義を感じます。海馬瀬人がオーナーの学校らしさが良く出ていますが。


 十代達の入学から一か月ぐらいたった後。

 デュエルアカデミアでは月一試験が行われていた。

 

 

 今度の相手は才治という坊主頭で眼鏡をかけたオベリスクブルーの生徒だ。

 大方、サイバー流の門下生だろうと予想する猫崎。

 

 

「この日のために、僕はお前のデッキとプレイングを研究してきた!お前がどんなSモンスターを出そうと、僕が勝つ!」

「その意気込みは買う。行くぞ!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才治 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は俺か、俺のターン、ドロー!レスキューキャットを召喚!」

「レスキューキャット、お前のデッキのキーカードだな。」

「このカードを墓地に送り、デッキからX-セイバーエアベルンとライトロードハンター ライコウを特殊召喚!レベル2のライコウに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!A・O・Jカタストル!」

「来たか、闇属性以外のモンスターを問答無用で破壊するSモンスター!!」

「カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手3 場 カタストル 伏せ2

才治 ライフ4000

手5 場 

 

 

「僕のターン、ドロー!よし、相手の場にのみモンスターが存在することで、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 キメラテック・フォートレス・ドラゴンって、門下生には支給されていないのかな?とぼんやり考えていた猫崎だが。

 

「そしてサイバー・ドラゴンをリリース!偉大魔獣ガーゼットをアドバンス召喚!」

「?!ガーゼット!攻撃力はサイバー・ドラゴンの二倍になる!」

「こいつの属性は闇!よってカタストルを倒せる上に、イージーチューニングでエアベルンを除外して1600ポイント攻撃力をアップされても攻撃力は3800!だが今のガーゼットは攻撃力4200!」

 

 

 随分と考えられていた事に内心驚く猫崎。

 

「罠発動!奈落の落とし穴!ガーゼットを破壊してゲームから除外する!」

「ライフを1500払って速攻魔法、我が身を盾に!これで奈落の落とし穴の発動と効果を無効にして破壊!」ライフ4000から2500

「?!」

 

 漫然とプレイングしていた事を反省する猫崎。奈落の落とし穴があるのだから、ナチュル・ビーストを立てにいくべきだった。

 

「これで僕の勝ちだ!装備魔法、巨大化をガーゼットに装備!これで攻撃力は8400!バトルだ!行け、カタストルを破壊しろ!」

「罠発動!和睦の使者!戦闘ダメージを0にした上で、モンスターはこのターン戦闘破壊されない!」

「伏せが奈落の落とし穴と和睦の使者?!何故ナチュル・ビーストを出さずにカタストルを…。メインフェイズ2だ。カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手3 場 カタストル 

才治 ライフ2500

手1 場 ガーゼット 巨大化 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、サイクロン!その伏せカードを破壊する!」

「お、大騒動が!」

「はぁっ?!」

 

 想定外すぎる伏せカードに、思わず素っ頓狂な声を上げる猫崎。

 場のモンスターがバウンスされた時、互いの全モンスターを手札に戻す罠だ。

 

 …手札に戻す、というテキストであるためエクストラデッキから特殊召喚したモンスターは数にカウントしない。

 手札のレスキューキャットを見つめる猫崎。ここからブリューナクでバウンス、という手を取っていれば危なかった。

 

「…俺は、チューナーモンスター、Xセイバーエアベルンを召喚!」

「レベル8!ギガンテックでしのぐつもりだな!」

「いいや。レベル5の闇属性のカタストルに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!ダークエンド・ドラゴン!」

「Sモンスターを使って、S召喚だと!」

「効果発動、攻撃力と守備力を500下げて相手モンスターを墓地に送る!」

「な?!」

「バトルだ、ダークエンド・ドラゴンでダイレクトアタック!そして速攻魔法、イージーチューニング!墓地のエアベルンを除外!」

「攻撃力、3700!俺の負け、か。」ライフ0

 

 

 ライフが尽きた才治はうめく。

 

「くっ…S召喚デッキには、サイバー流の高打点の融合モンスターや、アドバンス召喚では勝てないのか?」

「良い戦略だった。カタストルやナチュビを戦闘で処理できるガーゼットというのは良いチョイスだ。なんでサイバー流なんかに入っている?」

「…サイバー流にはその、可愛い女子が多いじゃないか。」

「あー…。」

 

 前世では高校生の頃そういう縁が無かった猫崎には、彼の気持ちがよくわかる。

 

「デッキに除去カードやカウンター罠を入れなければ、女子と御近づきになれるなら、やるしかないじゃないか。」

 

 お前、それでいいのか?と思う猫崎だが、それが彼の望んだ人生ならとやかく言う権利は無い。

 がんばれよ、とだけ言い残し、猫崎はその場を後にする。

 

 

 

 

 月一試験から数日後。猫崎は校長室に呼ばれる。

 もはや勝手知ったる校長室に、猫崎は入る。

 

「…失礼します。」

「来ましたか、猫崎君。君には下級生の降格と昇格のデュエルをして貰います。」

 

 

 どういうことだ?

 

 

「降格デュエルの相手は万丈目準。オベリスクブルーの生徒でありながら、オシリスレッドに負けた落ちこぼれ。昇格デュエルは三沢大地。ラーイエローの首席で君に勝てばオベリスクブルーに入れます。」

「わかりました。失礼します。」

 

 

 万丈目か。色々デッキを使ってくるから楽しみではある。

 三沢もどんなデッキを使ってくるのか。

 

 制裁デュエル当日。

 

 

「俺の降格デュエル相手が、オシリスレッド?!」

「オシリスレッド3年、猫崎俊二。S召喚のテスターだ。」

「S召喚だと?フン、そんなこけおどしに怯む俺ではない!行くぞ!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

万丈目 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺はヘル・ドラゴンを召喚!カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

万丈目 ライフ4000

手3 場 ヘル・ドラゴン 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、大寒波を発動!」

「だ、大寒波?!馬鹿な、このターンもう魔法・罠カードを発動できず、セットも出来ないんだぞ!」

「そうだな。レスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキから異次元の狂獣とX-セイバー エアベルンを特殊召喚!レベル3の異次元の狂獣にレベル3の地属性エアベルンをチューニング!S召喚!ゴヨウ・ガーディアン!」

「星が光になって見たことないモンスターが出て来た…しかも攻撃力2800!これが、S召喚か!」

「バトル!ヘル・ドラゴンを攻撃!」

「ぐっ!」ライフ4000から3200

「ゴヨウ・ガーディアンの効果発動、破壊したヘル・ドラゴンを守備表示で特殊召喚。ターンエンドだ!」

「攻撃力2800で、戦闘破壊したらモンスターを奪うだと!なんだその掟破りモンスターは!」

 

 実際GXのカードプールだと掟破りだよなぁ…。

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 ゴヨウ ヘル・ドラゴン 

万丈目 ライフ3200

手3 場 伏せ2

 

 

「お、おれのターン、ドロー!よし、俺は地獄大百足を召喚!こいつはレベル7だが、相手の場にのみモンスターが存在するとき、リリース無しで召喚出来る!攻撃力は1300まで下がるが…バトル!ヘル・ドラゴンは返してもらうぞ!」

「……」

「ターンエンドだ!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 ゴヨウ 

万丈目 ライフ3200

手3 場 地獄大百足 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、大嵐を発動!」

「させるかっ!ライフを1000支払い、スキルドレインを発動!さらにチェーンしてサンダー・ブレイクを発動!手札のニュードリュアを捨てて、ゴヨウ・ガーディアンを破壊!」ライフ3200から2200

 

 魔法・罠カードを除去されるも、スキルドレインは地獄大百足の攻撃力をもとに戻しつつ、サンダー・ブレイクでゴヨウの除去を行う万丈目。

 

「効果が無効になったことで、地獄大百足の攻撃力が2600に戻ったか。俺は召喚僧サモンプリーストを召喚!手札の魔法カード、洗脳を捨ててデッキから霞の谷の戦士を特殊召喚!レベル4の闇属性サモンプリーストに、レベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!ダークエンド・ドラゴン!」

「…ふつくしい。」

 

 洗脳-ブレイン・コントロールで地獄大百足のコントロールを奪ってダイレクトアタック、という勝利も出来たが、猫崎は万丈目にダークエンド・ドラゴンを披露したらどういう反応をするのか気になり試してみることにした。結果は上々だ。

 

「効果発動!攻撃力と守備力を500下げ、相手モンスターを墓地に送る!」

「地獄大百足!だが、俺のライフは100残る!」

「速攻魔法、イージーチューニング!墓地のチューナーを除外し、その攻撃力分場のモンスターの攻撃力を上げる!霞の谷の戦士を除外し、攻撃力は3800!バトル!ダークエンド・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「うわぁああああああっ!」ライフ0

 

 

 やはり【地獄】デッキだったようだ。これで中等部トップな辺り、万丈目は実力者なのだろう。

 しかし、月一試験で使った【VWXYZ】はどこに行ったのか。クロノス教諭が回収していったのか?

 

 

「モンスターを除去するカードを使っておきながらこのざまですか。しかし万丈目君、君がこのリスペクト精神にのっとった、サイバー流デッキを使うというなら、降格は取り消してあげましょう。」

「…そんな、モンスターの除去カードが一枚も入っていないデッキなど要らん!」

 

 サイバー・レーザー・ドラゴンとアーマード・サイバーンは一応入っているはずだが、万丈目の好みでは無いらしい。

 

「ふぅ、全く今年の新入生もリスペクト精神を持たない生徒が多くて困りますね。猫崎君。君には続けて三沢大地君の昇格デュエルの相手をして貰います。」

「わかりました。」

 

 数分後、三沢がやってくる。

 

 

「伝説の決闘者に認められた、猫崎先輩が相手か…」

「始めよう。」

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

三沢 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「俺の先攻!ドロー!俺はハイドロゲドンを召喚!カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

三沢 ライフ4000

手3 場 ハイドロゲドン 伏せ2

 

 

「ハイドロゲドン、伏せカードは戦闘補助の速攻魔法か何かか。レスキューキャットを召喚、効果発動!」

「永続罠発動!王宮の弾圧!ライフを800払ってレスキューキャットの効果を無効にして破壊する!」ライフ4000から3200

 

 弾圧…。かなり厄介なカードを使ってきたと内心思う猫崎。

 

 

「…死者蘇生を発動!」

「ライフを800払って、無効にして破壊する!」ライフ3200から2400

「魔法カード、光の護封剣を発動。ターンエンド。」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手3 場 光の護封剣(3)

三沢 ライフ2400

手3 場 ハイドロゲドン 王宮の弾圧 伏せ1

 

 

「護封剣か。俺のターン、ドロー!俺はオキシゲドンを召喚!ターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手3 場 光の護封剣(2)

三沢 ライフ2400

手3 場 ハイドロゲドン オキシゲドン 王宮の弾圧 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はモンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手2 場 セットモンスター 伏せ1 光の護封剣(2)

三沢 ライフ2400

手3 場 ハイドロゲドン オキシゲドン 王宮の弾圧 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!モンスターをセット。ターンエンドだ!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手2 場 セットモンスター 伏せ1 光の護封剣(1)

三沢 ライフ2400

手3 場 ハイドロゲドン オキシゲドン セットモンスター 王宮の弾圧 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!ライトロード・ハンター・ライコウを反転召喚!効果発動、王宮の弾圧を破壊する!」

「ぐっ!リバースモンスターも入れていたか!」

「その後、デッキの上から三枚墓地に送る…。魔法カード、精神操作を発動!セットモンスターのコントロールを得る!」

「なっ!」

「ペンギン・ナイトメアか。反転召喚!その伏せカードを手札に戻してもらう!」

「くっ、だがその二体では俺のモンスターは倒せない!」

「チューナーモンスター、Xセイバーエアベルンを召喚!レベル2のライコウとレベル4のペンギン・ナイトメアにレベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!レベル9!ミスト・ウォーム!」

「攻撃力、2500だと!」

「効果発動、お前のハイドロゲドンとオキシゲドンは手札に戻ってもらう。」

「ぐっ!特殊召喚対策の王宮の弾圧に、バウンスモンスター。これだけ対策したにも関わらず…!」

 

「一歩及ばなかったな。行け、ダイレクトアタック!」

「うああああああっ!」ライフ0

 

 

 

「全く、ペンギンナイトメアという卑怯なバウンスモンスターに飽き足らず、モンスターを除去する永続罠を使うとは。三沢君。君には対戦相手へのリスペクト精神があるのですか?」

「はい、あります。」

「私にはそうは見えません。」

 

「俺は相手がS召喚という未知の召喚方法を使う猫崎先輩のデュエルデータを調べ、その対策を行いました。その結果として特殊召喚であるSモンスターへの対策になり、さらにハイドロゲドンの効果を阻害しない王宮の弾圧を選びました。これは、猫崎への『リスペクト』になりませんか?」

「なりません。」

「俺は猫崎先輩を決闘者として認め、勝ちたいと思って戦略を練りました。それでもリスペクト精神が無いと?」

「ええ。君からは感じられません。そういう戦略をよしとするなら、君の昇格は大きく遅れるでしょう。」

「…なら俺は、ラーイエローに残ります。」

 

 

 自分の戦術に誇りを持っているのはいいぞ。でも王宮の弾圧は勘弁してくれ…。

 

 

 万丈目は降格される事になり、三沢の昇格は見送りになるはずだったが、万丈目はその後交渉してノース校へ留学する事になった。

 アームド・ドラゴンを手に入れて帰ってくるだろう、と猫崎は予想する。

 



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第13話!セブンスターズ、襲来!

この度、拙作「猫シンクロ使いが行く遊戯王GX!」のコラボ作品が、アマゾンズ先生の「手にした竜騎士と破滅が気難しい」にて投稿されております。ドラグニティと破滅の女神ルインの精霊と心を通わす、一度は引退した決闘者がサイバー流に立ち向かっていく素晴らしい作品です。是非ご覧ください。

アンチリスペクト物だと、サイバー流の門下生とセブンスターズがデュエルをするという展開はあまりありませんが、実際戦ったらどうなのでしょうか?
初手でパワー・ボンドでサイバー・エンド・ドラゴンを出し、8000貫通か…。
サイバー・ドラゴンを出してからパワー・ボンドでサイバー・ツイン・ドラゴンの5600の二回攻撃を後攻1ターン目で仕掛ければ可能性はありそうですが。


 …火山の火口。薄い光の板みたいなところの上に、一組の男女が対峙している。

 片方は、黒い仮面をつけた長身の青年。もう片方は髪型を両側で二房結い、額を出したロングヘアの少女だ。

 胸は控えめでお腹周りと太ももが太めな為、スタイルはさほど良くないが顔立ちが整っている。

 道を歩けば、10人中3人は振り返るであろう。

 

 

「…我が名は、ダークネス。セブンスターズの一人。七精門の鍵を守る者よ、お前が私の最初の相手だ。」

「あら、そうですの?わたくしは才金(さいがね)、才災師範の命で鍵を守る使命を帯びた者ですわ。才藤、才岡、才福はともかく、あの才治が敗れるとは思いませんでしたわ。」

「才治…ああ、カミューラに幻魔の扉を使わせたという決闘者か。」

 

 カミューラと門下生のデュエルをこっそり物陰で見ていたダークネス吹雪は、そのデュエルを思い出す。

 サイバー・エンド・ドラゴンを幻魔の扉で破壊しようとすれば、永続罠ディメンション・ガーディアンで破壊耐性を付与された為、システムダウンで除外。

 決めきれるかと思ったら、救援光で墓地から除外されたサイバー・ドラゴンを回収して特殊召喚、それをリリースしてガーゼットと切り返され…。

 魔法石の採掘を引き当てられなければ、負けていたのはカミューラだっただろう。

 

 

「誇ると良い、セブンスターズでも特に危険な彼女に本気を出させた事を。」

「まぁ、貴方達の快進撃もここまでですわ。わたくしが一気にひっくり返してしまいますから。」

「その意気込みは買う。では、始めよう。」

 

 互いにデュエルディスクを構え、宣言する!

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才金 ライフ4000

手5 場 

ダークネス吹雪 ライフ4000

手5 場 

 

「わたくしの先攻、ドロー!永続魔法、未来融合-フューチャー・フュージョンを発動!デッキからサイバー・ドラゴン三体を墓地に送り、2ターン後にサイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚します!」

「ほぅ、やはりサイバー・エンド・ドラゴンを使うか。」

「これこそ、サイバー流の切り札!装備魔法、継承の印を発動!同名カードが三枚あれば、その中から一体を特殊召喚します。墓地からサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 金色に輝くサイバー・ドラゴンが咆哮を上げる!

 

「これは…まさか、ゴールドレアか?!」

「驚いたようですわね!これこそ、わたくしに相応しい輝き、ゴールドレア仕様のサイバー・ドラゴンですわ!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

才金 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン 継承の印 未来融合(0) 伏せ1

ダークネス吹雪 ライフ4000

手5 場 

 

「私のターン、ドロー!私はマンジュゴッドを召喚!効果発動、デッキから儀式魔法か儀式モンスターを手札に加える。私は…」

「待ちなさい!」

「何?発動するカードがあるのか?」

 

 伏せカードは無いはずだが、と訝しむダークネス吹雪。

 

「貴方、儀式召喚なんて使えない召喚方法をデッキに入れているの?」

「その通りだ。だが、何故儀式召喚が使えないと?」

「そうでしょう?儀式モンスターと儀式魔法、それにリリース要員となるモンスター。これだけのカードを必要とする展開力の遅い、イロモノ召喚法でしょう?」

「フッ、そう考えるのか。デュエルを続ける。私はデッキから黒竜降臨を手札に加え、発動!マンジュゴッドをリリース!現れろ、黒竜の騎士!」

 

 出て来た儀式モンスターに対し、露骨にため息をつく才金。

 

「はぁ…。大げさに出てきたところで、攻撃力はたった1900、それでどうしようと?」

「それはどうかな?黒竜の騎士の効果発動。このカードをリリースして、デッキから真紅眼の黒竜を特殊召喚!」

「?!攻撃力は上級レベル、幻の超レアカード!」

「いかにも。さぁ、バトル!いけ、真紅眼の黒竜!サイバー・ドラゴンを焼きはらえ!」

「きゃあああああっ!な、何この衝撃!」ライフ4000から3700

 

 想定以上のダメージを受け、才金は悲鳴を上げる!

 

「これがセブンスターズとのデュエルだ。私はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

才金 ライフ3700

手3 場 未来融合(0) 伏せ1

ダークネス吹雪 ライフ4000

手3 場 真紅眼 伏せ1

 

 

「話が違うじゃない、才災校長!わ、わたくしのターン、ドロー!」

 

 この場にいない人物に文句を垂れつつ、才金はカードを引く。

 

 

「よし、リバースカードオープン!永続罠、リビングデッドの呼び声!墓地からサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「だが、攻撃力は及ばない。それでどうしようと?」

「それはどうかしら?わたくしはサイバー・ドラゴンをリリース!偉大魔獣ガーゼットをアドバンス召喚!このカードの攻撃力は、リリースしたモンスターの攻撃力の二倍になる!」

「攻撃力4200!」

「バトル!行きなさい、偉大魔獣!真紅眼の黒竜を攻撃!」

「ぐううううっ!」ライフ4000から2200

「アハッ、才治と猫崎のデュエルを見て投入してみたけれど、思ったより良い働きするじゃない。わたくしはこれでターンエンド!」

 

 

才金 ライフ3700

手4 場 偉大魔獣 未来融合(1) リビングデッドの呼び声 

ダークネス吹雪 ライフ2200

手3 場 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!私は墓地の儀式魔法、黒竜降臨の効果発動!このカードを除外し、デッキから「レッドアイズ」と名のつく魔法・罠カードを手札に加える。儀式魔法、レッドアイズ・トランスマイグレーションを手札に加え、発動!」

「ぎ、儀式魔法を墓地から除外して、儀式魔法をサーチ…?儀式魔法って使い捨てのカードでは無いの?!」

 

 

 どうやら相手は儀式召喚に関する造詣が無いと考え、丁寧に説明するダークネス吹雪。

 

 彼は知らないが、才金が今まで対戦してきた儀式使いは、ガルマソード、チャクラ、デビルズ・ミラーといった効果を持たない儀式モンスターばかりである。

 その使い手も手札事故を頻発し、ようやく儀式召喚したとしても手札を全て使いきり、儀式モンスターを棒立ちさせドヤ顔ターンエンドする、というお粗末な物でしか無かった。

 

「自分の手札・フィールドからレベルの合計が8以上になるようにモンスターをリリース、またはリリースの代わりに自分の墓地の「レッドアイズ」モンスターを除外し、手札から「ロード・オブ・ザ・レッド」を儀式召喚する!私は墓地から真紅眼の黒竜を除外し、手札の黒竜の雛をリリース!現れろ、ロード・オブ・ザ・レッド!」

「な、何よ。墓地から真紅眼の黒竜を除外?これでもう再利用も出来ないわね。やはり儀式召喚は役に立たない欠陥召喚方法ね!」

 

 どこまでも儀式召喚を見下す才金。

 反応する気も失せたダークネス吹雪はデュエルを続ける。

 

「永続魔法、未来融合フューチャーフュージョンを発動!私はF・G・Dを選択してデッキからブリザード・ドラゴン、スピア・ドラゴン、メテオ・ドラゴン、仮面竜、真紅眼の黒竜を墓地へ送る!」

「攻守5000のドラゴン族の融合モンスター…。でもそれが出てくる前に!」

「ここで、ロード・オブ・ザ・レッドの効果発動!このカード以外のカード効果が発動したとき、相手の場のモンスターか、魔法・罠カードを破壊できる!この効果は1ターンにそれぞれ1度ずつ発動できる!」

「な、何よその効果!」

「私は偉大魔獣を破壊する!」

 

 ロード・オブ・ザ・レッドが炎の玉をガーゼットに投げつけると、ガーゼットは燃え上がって爆散する!

 

「が、ガーゼット!除去カードなんて卑怯よ!モンスターで正々堂々と戦いなさい!」

「バトルだ、行け、ロード・オブ・ザ・レッド!ダイレクトアタック!」

「いやああああああっ!」ライフ3700から1300

 

 ライフを大きく削られ、才金は悲鳴を上げる!

 ロード・オブ・ザ・レッドのダイレクトアタックを受けた腹には青い痣が出来ている。

 

「ぎ、儀式モンスター如きに…ダイレクトアタックを受けるなんて…!」

「私はこれでターンエンド。お前が儀式召喚にどう思っているのかは知らない。だが、このロード・オブ・ザ・レッドは強いぞ?」

 

 

 

才金 ライフ1300

手4 場 未来融合(1) リビングデッドの呼び声 

ダークネス吹雪 ライフ2200

手1 場 ロード・オブ・ザ・レッド 未来融合(0) 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!このターンで、サイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚!」

「ほぅ…。これはシークレット・レアだな?」

 

 思わずため息をつくダークネス吹雪。

 現れたサイバー・エンド・ドラゴンはどこか気品を漂わせている。

 

「どう!これがわたくしに与えられた力!さらにコーリングノヴァを召喚!バトル!サイバー・エンド・ドラゴンで」

「永続罠、リビングデッドの呼び声!蘇れ、真紅眼の黒竜!そしてロード・オブ・ザ・レッドの効果発動!サイバー・エンド・ドラゴンを破壊!」

「さ、サイバー・エンド・ドラゴンがっ!わ、わたくしはメインフェイズ2に入り、ライフを半分払って速攻魔法、サイバネティック・フュージョン・サポートを発動!」ライフ1300から650

「ほぅ。墓地のモンスターを代用することができる速攻魔法か。」

 

 攻撃前に発動すれば、ロード・オブ・ザ・レッドに未来融合を破壊される為、メインフェイズ2に発動する才金。

 

「魔法カード、融合を発動!墓地のサイバー・ドラゴン三体を除外!来なさい、二体目のサイバー・エンド・ドラゴン!」

「こちらはシークレット・レア仕様では無いのか。」

「うるさいっ!装備魔法、レアゴールド・アーマーをサイバー・エンド・ドラゴンに装備!これでコーリングノヴァに攻撃はできませんわ!」

「ロード・オブ・ザ・レッドの効果発動!レアゴールド・アーマーを破壊!」

「ひっかかりましたわね!魔法カード、光の護封剣を発動!わたくしはこれでターンエンド!」

 

 三ターン攻撃を封じる魔法カードが、ロード・オブ・ザ・レッドと真紅眼の黒竜を封じ込める。

 鬱陶しいように首を動かす真紅眼の黒竜と、泰然と構えるロード・オブ・ザ・レッド。

 

 

才金 ライフ650

手0 場 コーリングノヴァ サイバー・エンド・ドラゴン 光の護封剣(3)

ダークネス吹雪 ライフ2200

手1 場 ロード・オブ・ザ・レッド 真紅眼の黒竜 未来融合(0) リビングデッドの呼び声 

 

 

「私のターン、ドロー!これで終わりだ。」

「な、何を言っているの?わたくしの場には光の護封剣が」

「魔法カード、黒炎弾を発動。相手に真紅眼の黒竜の攻撃力分のダメージを与える。」

「こ、効果ダメージで勝利を狙うなんて、なんてリスペクト精神は無いの?!」

「これを卑怯と言うなら、効果ダメージ対策のカードをデッキに入れるのだな!」

「き、きゃああああああああっ!」ライフ0

 

 

 闇のデュエルでダメージは実体化している。

 才金の身体は打撲による内出血と火傷、デュエルアカデミアの制服はボロボロで、レース付きの白い下着が丸見えというありさまだった。

 

 敵とはいえ女性相手にやりすぎた。と思ったダークネス吹雪は鍵を回収した後、自身のコートを掛けた後、その場を去る。

 

 

 それから十分後、才金は才災師範の手配した医療チームに救助され、ヘリで本土に運ばれて病院へ搬送される。

 

 

 

 …明かりの無い、水の滴る洞窟。そこに、4名の男女が集まっていた。

 

「情けない、この程度の実力とはな」

「そ、そうよね。全く大した男では無かったわ。ほ、本当にがっかりよ」

「全くだ。この島には碌な男が居ないようだな。」

「まぁ、おかげで楽な仕事だった。」

 

 4つの鍵を、彼らは所持していた。約一名、声が上ずっているが誰も気にしない。

 

「それにしても…。リスペクトって何?」

「それは私も思った。アマゾネスの剣士の効果について批判してきたが。」

「俺はハンデスを卑怯と言われたぞ。」

「私は堕落を否定された。」

 

 そんな彼らの所に、黒い仮面をつけた軽装の青年が現れる。

 

「戻ったぞ。私はロード・オブ・ザ・レッドと黒炎弾を卑怯だと言われた。あの言動に、対戦相手への敬意があると感じた者は居るか?」

 

 鍵を持っていることで、勝敗を察する一同。

 彼らの間に沈黙が流れるも、次の瞬間モニターが青く輝く。

 

『…よくやった。セブンスターズよ。だが…才災の愚か者は残る鍵の守護者を変えるそうだ。今までお前達が倒してきたサイバー流の門下生とはレベルが違う』

「ふっ、それでこそ戦いがいがあるという物。」

「少しは、マシになるかしら?」

「ようやく、まともな決闘者に巡り合えそうだな!」

 

『その意気やよし。頼んだぞ、残る鍵はあと二つ…だ。』

 

 

 

 時は、少し遡る。

 そのような会話が行われる前日。猫崎は才災校長から呼び出しがかかる。

 

 最近、サイバー流の門下生による襲撃が無く安穏と、才波と一緒に海で遊んだりと青春を満喫している猫崎だが、ある事件の時期だと推測する。

 クロノス教諭、猫崎、才波、十代、三沢、万丈目、明日香の7人が校長室に集まる。

 

「…良く集まってくれました。貴方達は三幻魔のカードというものを聞いた事がありますか?」

 

 

「聞いたことあるような、ないようななノーネ。」

「おっ、なんか凄そうじゃん!」

「この島には封印された、古より伝わる3枚のカードがあります。」

「それが…三幻魔のカード?!」

「島の伝説では、このカードが地上に放たれると、世界は魔に包まれ、混沌が全てを覆い、人々の闇が増大し、やがて世界は破滅、無へ帰する。」

「破滅?!」

 

 ため息をつき、才災校長は話を続ける。

 

「それ程の力を持っているカードだと伝えられています。何故そんな島に学園を作ったのか、海馬オーナーの考えが理解出来ませんが…。そのカードを狙う者たちが現れました。」

「それは…一体誰なんです?」

「七星王…。セブンスターズと呼ばれる、七人のデュエリストだと名乗っています。」

「でも、そのカードは封印されているのでは…?」

 

 

「三幻魔のカードは島にある遺跡の、地中深くに安置された石室に封印されているとか。その部屋には、七つの門。七精門の扉があり、七つの鍵で固く閉じられているのです。」

「3枚のカードに7つの門、7つの鍵か~。なるほどな~!」

「ホントにわかったノーネ?」

「その鍵が…これでした。」

 

 由緒ありそうな鍵が二つしか無かった。おい、どういうことだ?という声が出かかる猫崎。

 

「ええっ?!こ、校長先生!どういう事なんだよ!」

「私はセブンスターズを倒すために、選りすぐりの門下生を選びました。しかし、セブンスターズは卑怯にも、黒炎弾というバーンカードを、幻魔の扉という除去カードを、アマゾネスの剣士という卑怯なカードを、ザルーグというハンデスモンスターを、堕落という卑劣な装備魔法を使って門下生を倒してしまったのです!」

 

 

 連戦連敗で、どうにもならなくなって猫崎達を使う所まで追い詰められたようだ。

 というより、カミューラ相手に幻魔の扉を使うところまで追い詰めた門下生が居た事に内心驚く猫崎。敢闘賞をやりたいとまで考える。

 

 少し考え、どうやらセブンスターズ相手に門下生を送り込んだことで手駒が不足したから、襲撃が無かったと察する。

 

 

「…残った門下生は自分達の手には負えないと言って鍵を返却しました。残る鍵を貴方達にデュエルで守ってもらいます。七精門の鍵を奪うには、デュエルによって勝たねばならない。これもいにしえより、この島に伝わる約束事だとか。この鍵を壊せば三幻魔が不完全な状態で暴走してしまうとも聞いています…。引き受けてくれますね?」

 

 やや沈黙が漂う中、十代が口を開く。

 

「…才災校長。俺、バブルマンネオとフレイム・ウィングマンとサンダー・ジャイアントとハネクリボーLv10、バースト・インパクトと異次元トンネルミラーゲートとクレイ・チャージとエッジハンマーをリスペクトに反するカードって言われたけれど、セブンスターズとのデュエルでも使ってはいけないのか?」

「いいえ。引き受けてくれるなら、在学中使用許可を出しましょう。」

 

 その反応に、後輩組が立て続けに口を開く。

 

「才災校長。私のサイバー・ジムナティクスドゥーブルパッセは?」

「俺のアームド・ドラゴンLv5とLv7とLv10、VWXYZとXYZとおジャマトリオとライトニング・ボルテックスとサンダー・ブレイクは?」

「俺の地割れと地砕きと破壊輪と魔法の筒と王宮の弾圧と」

 

 怒涛の勢いで話を持ち掛ける一年生組。

 

「もう結構です!引き受けてくれるならば、リスペクトに反するカードも在学中使用許可を出します!」

 

 

 セブンスターズに敗れた門下生の中には、政界や財界の重鎮の血縁者が混じっている。

 猫崎は知らないが、ダークネス吹雪に打ち負かされた才金は、大銀行の副頭取の次女である。

 

 今回、大事な娘さんを闇のゲームに参加させた結果ボロボロにされた以上、何としてでも完治させメンタルケアまでをしなければならない才災はそれどころでは無い。

 

 

 そんな事情を察することは出来ないが、猫崎と才波もうなづく。

 

 

「俺と才波、クロノス教諭と十代、三沢、万丈目、天上院さんで守るという事でよろしいですか?才災校長。」

「いいえ。クロノス教諭に何かあればカリキュラムに影響が出ます。頼もしい援軍を出しましょう!」

 

「…才光か、才花辺りかしら?最近、門下生の中でもかなり成果を上げているという噂だし…」

 

 あの二人か。サイバー・エンド・ドラゴンやツインを出して棒立ちエンドが多い門下生の中では、多少マシだ。

 少なくとも、デュエル中に相手のカードを批判・否定する事を才光はしてこない。

 才花は憎たらしい目で睨みつけてくるが。

 

 …シャインエンジェルと伏せ1枚でターンエンドして来たから、返しのターンA・O・Jディサイシブアームズで手札破壊したところ…

 サイバー・ドラゴンが二枚あって4200バーンで仕留めたのは、ちょっと猫崎が悪いかもしれない。

 

 

 

「紹介しましょう!ギャンブル界のカリスマ!ボーイ君です!」

「久しぶりだな、天上院明日香!」

 

 チェンジで。

 思わず出かかった声を、猫崎は何とか飲み込む。

 

「光雄君?」

「なっ!貴様、天上院君とどういう関係だ!」

 

 ひと悶着あったが、何とかなだめてセブンスターズとの戦いが始まった。

 

 ダークネス吹雪を十代が倒し、カミューラが幻魔の扉を使わずにボーイを破るも、光里が倒した。

 …ボーイが勝てそうなセブンスターズって誰だろう?アビドス3世か?

 

 タニアを三沢が制し、黒蠍を万丈目が倒した。タイタンを明日香さんが倒し…。猫崎の番が来た。

 

 

 

 

 俺の相手は…。

 

「お前がS使いか。お前の相手はこの俺、百野真澄だ!」

「始めよう」

 

 

 対戦相手のあらゆるデッキを想定した、アンチデッキを100以上持っているというが…。

 作中での『城之内デッキ』と極端に相性の悪いデッキが不明だ。城之内デッキって何にメタを張ったのか?と前世で猫崎は悩んだことがある。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

百野 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺は王虎ワンフーを召喚!」

「そいつは…」

「そうだ!お前のデッキは攻撃力が低いモンスターを大量に並べるデッキだろう?ならこうしてしまえばろくにS召喚とやらは出来ない!さらにカードを4枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

百野 ライフ4000

手1 場 王虎ワンフー 伏せ4

 

 

「俺のターン、ドロー!だが、セットは別だ。俺は」

「おおっと!ならここで永続罠発動!聖なる輝き!お互いにモンスターをセット出来ない!さらに永続罠、魔封じの芳香!」

「モンスターのセットと、魔法カードの発動に制約を課したか。俺はカードを3枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手3 場 伏せ3

百野 ライフ4000

手1 場 王虎ワンフー 聖なる輝き 魔封じの芳香 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!ライオウを召喚!バトルだ!王虎ワンフーとライオウでダイレクトアタック!」

「罠発動!聖なるバリア-ミラーフォース-!」

「ハハッ、その手のカードはお見通しだ!リバースカードオープン!我が身を盾に!ライフを1500払ってミラーフォースの発動と効果を無効にして破壊!」ライフ4000から2500

「……」ライフ4000から2300、2300から400

 

 後輩が心配する中、才波はじっと猫崎を見る。

 

 

「どうだ!王虎ワンフーと聖なる輝きで、チューナーはともかく非チューナーの雑魚は場に出しずらい。仮にそれを潜り抜けても、ライオウを墓地に送ればS召喚を無効にして破壊!さらにライオウの効果でデッキからドロー以外でカードを手札に加えられず、魔封じの芳香で魔法カードは発動しずらい。このロックを破れるものなら破って見ろ!ターンエンドだ!」

 

 その説明を受けて一年生組が口を開く。

 

「あのライオウって、サーチを封じて特殊召喚を無効にして破壊するのか!いいな、俺もデッキに…」

「そうなると、増援とエマージェンシー・コールを使いづらくなるが、いいのか?」

「うぐっ…。」

 

「だが、この状況は正直キツイな。今まで見た限り、猫崎先輩のデッキで攻撃力1400より高い攻撃力を持つモンスターは、チューナーモンスターである霞の谷の戦士とエアベルン。」

「墓地にチューナーがあれば、イージーチューニングで突破できるかもしれないけれど、今猫崎先輩の墓地にチューナーは居ないわ。」

 

 後輩たちは、百野真澄が使用したカードと状況についてあれやこれや議論している中。

 

 

「…S召喚?チューナー?一体何を言っているんだ?」

 

 一人だけついてこれないギャンブラーが居た。

 

 

 

猫崎 ライフ400

手3 場 伏せ2

百野 ライフ2500

手1 場 王虎ワンフー ライオウ 聖なる輝き 魔封じの芳香 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は伏せた魔法カード、精神操作を発動。お前のライオウのコントロールを得る!」

「何?!だが、攻撃もリリースも出来ない!」

「チューナーモンスター、X-セイバー・エアベルンを召喚。レベル4のライオウにレベル3のエアベルンをチューニング。S召喚!ダーク・ダイブ・ボンバー!!」

 

『てめぇの場に足りないのは、強者の苦痛だ。まぁ、持っていないなら仕方ないだろうが…』

 

 ダーク・ダイブ・ボンバーのセリフに、十代が反応する。

 

「へ?強者の苦痛?」

「気づいたか、十代。王虎ワンフーと聖なる輝き、それに強者の苦痛が合わされば猫崎先輩も突破出来なかっただろう。」

「…フン。強者の苦痛はデュエルアカデミアイースト校で開催された、ジュムナエルグランプリの予選通過者に配布されたカード。そうそうお目にかかれん。」

 

「ジュムナエルグランプリというと、確か…全科目で90点以上、保健体育でも上位30名以内に入って入学してから一度も校則違反をせず、無遅刻無欠席だった生徒だけ出場できる大会よね?」

「そ、そんな大会があるのかよ…。うーん、俺だと出場すら出来そうにないぜ。」

 

 

 ほぼほぼ勝利を確信していた状況を覆され、百野はうめく。

 

 

「ぐっ、こ、この布陣を前に、S召喚を決めるだと!」

「十代の言う通り、強者の苦痛が足りなかったな。行け、ダーク・ダイブ・ボンバー!王虎ワンフーを攻撃!」

「うわああああああっ!」ライフ2500から1600

 

「ターンエンドだ」

 

 

猫崎 ライフ400

手3 場 ダーク・ダイブ・ボンバー 伏せ1

百野 ライフ1600

手1 場 聖なる輝き 魔封じの芳香 伏せ1

 

 

「こ、こんなはずでは…俺のターン、ドロー!よし、俺はモンスターをセッ…。ええい、マシュマロンを守備表示!ダーク・ダイブ・ボンバーは1ターンに1度、場のモンスターをリリースしてそのレベルの200倍のダメージを与えるが、それを使われてもまだ俺のライフは残る!ターンエンド!」

 

 百野のセリフに、光雄が反応する。

 

「…えっ?ちょっと待てよ、あのモンスターの攻撃力は2600でレベルが7って事は、あのモンスターのダイレクトアタックとモンスター効果で4000ポイント削れるってことか?!」

「光雄君、今ではあのカードは才災校長により、メインフェイズ1でしか効果が使えないようにエラッタされたわ。以前はそれが出来ていたみたいだけれど。」

 

「フン、除去がダメだのバーンは卑怯だのいうが、このエラッタは英断だな。」

「その通りだ。あの校長は尊敬する気にはなれないが、こういうところは認めざるを得ない。」

 

 

 

 

猫崎 ライフ400

手3 場 ダーク・ダイブ・ボンバー 伏せ1

百野 ライフ1600

手1 場 マシュマロン 聖なる輝き 魔封じの芳香 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!霞の谷の戦士を召喚。バトルだ、霞の谷の戦士でマシュマロンを攻撃!」

「馬鹿が!こいつは戦闘では破壊され」

「霞の谷の戦士の効果発動、このカードとの戦闘で破壊されなかったモンスターは、手札に戻る!」

「?!なん…だと…」

「トドメだ、行け、ダーク・ダイブ・ボンバー!」

「ば、馬鹿なぁ!シュミレーションでは、勝率83%だったのに…うわああああっ!」ライフ0

 

 

 

「着想は良かったが、俺の方が上だったな。さて…。」

 

 百野の伏せカードは、偽物の罠だった。これで二枚の永続罠を守るつもりだったのだろう。

 

 

 数日後、最後のセブンスターズ、アムナエルが現れる。激戦の末、十代が制するが…。

 

「十代君…あの方は、デュエルモンスターズそのものに、絶望してしまった。」

「大徳寺先生?」

「君も見てきたはずだ、この学園の『リスペクト』に。それがプロリーグにも蔓延しつつある現状に、とうとう愛想をつかしてしまった。頼む、十代君。君のデュエルで…」

 

 そこまで言って、大徳寺先生の身体は崩壊してしまった。




ゴッズでルチアーノ君が登場したときに言及されていたジュムナエルグランプリですが、出場すら難しいというのでそれっぽい条件を付けてみました。まぁ、アモン君なら余裕でクリアできるでしょう。


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第14話!学園買収騒動と、影丸VS才災!

やっと才災師範がデュエルをします。アンチリスペクト物だと入学試験後に改変された鮫島校長と主人公がデュエルをしますが、個人的にサイバー流の師範は序盤で戦わず、門下生では手に負えないとなってからお出ましの方がいいと思います。

デュエル内容にミスがあったため修正しました。


 デュエルアカデミアを、万丈目グループが買収しようと動いているらしい。

 この時期に?と訝しむ猫崎。

 

 だが、この買収話を才災校長はかなり好意的に受け入れているという。

 

「…オーナーが海馬瀬人から万丈目長作議員に変わる。つまり、買収が成立すれば海馬瀬人の顔色をうかがう必要が無くなる。」

「一方で万丈目グループは、サイバー流とのコネを得られるという事ね?」

「そうだろうな。」

 

 買収の条件として、攻撃力500以下のモンスターでデッキを組めという条件を万丈目は課された。

 それを聞いた直後、猫崎は動き出す。縄梯子を肩にかけ、エントランスに向かう。

 

 アムナエルはもういない。彼の代わりを猫崎は務める事にした。

 

「でも、攻撃力500以下のモンスターなんて、どうやって手に入れたら…。」

「この学園では、悲しい事に余った弱小カードを古井戸に捨てる不心得者が居る。」

「猫崎先輩?!何故縄梯子を?」

 

 万丈目が顔を上げて、猫崎に目を向けてつぶやく。

 

 

「そこなら、攻撃力500以下のモンスターカードを手に入れられるかもしれない。どうする?」

「構わん!俺はカードを手に入れねばならんからな!」

 

 猫崎は縄梯子を手渡す。

 

「…勝てよ、万丈目。ところで、一つだけ聞いていいか?」

「なんだ?」

「万丈目の兄は国会議員で、お前は高校一年生。となれば大体10歳ぐらい離れているわけだが…。ここまで離れていると、父親ぐらいの差を感じる物なのか?」

「親父は生きているからそんな事は無いぞ。ただ、逆らえないとか意見を強く言えない感じだ。」

 

 伯父とかそういう立場に近いようだ。そう猫崎は考える。

 一方、縄梯子を受け取り万丈目は井戸に向かう。

 十代は面白そうと言って付いていった。

 

 

 

 

 

 買収デュエル当日。

 

 

「ハンデに怯えずよく来たな。準。」

「兄さん。デュエルの前に言っておく。俺のデッキのモンスターの攻撃力は、全て攻撃力0だ!」

「…ほう?まぁ、500も0もさほど変わらん…。行くぞ!」

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

サンダー ライフ4000

手5 場 

長作 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺はモンスターをセット!永続魔法、暗黒の扉を発動して、ターンエンドだ!」

 

 

 

サンダー ライフ4000

手4 場 セットモンスター 暗黒の扉

長作 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私のターン、ドロー!永続魔法、凡骨の意地を発動!」

「凡骨の意地?」

「なんだ準、お前はデュエルモンスターズの学校に通っているのに知らないのか?これはドローフェイズにドローしたカードが通常モンスターならば、それを公開する事で」

「追加ドロー出来る事は知っている!意外だっただけだ。」

「フン、私はカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 

 

サンダー ライフ4000

手4 場 セットモンスター 暗黒の扉

長作 ライフ4000

手4 場 凡骨の意地 伏せ1

 

「俺のターン、ドロー!俺はセットしていたモンスターをリリースして、モンスターをアドバンスセット!」

「モンスターのアドバンス召喚をしたのに、何故表側表示にならない?」

「モンスターをセットしたように、アドバンス召喚でもモンスターをセットする事自体は可能だ。あまり例は無いがな。」

「攻撃力0しか入っていないなら、そうなるか。」

「俺はこれでターンエンド!」

 

 

 

サンダー ライフ4000

手4 場 セットモンスター 暗黒の扉

長作 ライフ4000

手4 場 凡骨の意地 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!私が引いたのは、デビル・ドラゴン!さらにドロー!サファイア・ドラゴン!真紅眼の黒竜!暗黒の竜王!砦を守る翼竜!デーモンの召喚!メテオ・ドラゴン!むっ」

「通常モンスターを大量ドローしたか…。」

「ドローフェイズはここまでだ。行くぞ、フィールド魔法、フュージョン・ゲートを発動!これで私は融合のカード無しで融合召喚を行える!」

「最も、素材となるモンスターは除外されるがな。」

「行くぞ!私は真紅眼の黒竜とデーモンの召喚を融合!現れろ、ブラック・デーモンズ・ドラゴン!」

 

 

 出て来たモンスターに、観客席がざわめく。

 

「攻撃力3200!流石万丈目グループ、金があるなぁ」

「でも、真紅眼の黒竜とメテオ・ドラゴンがあるのに、なぜメテオ・ブラック・ドラゴンでは無くてブラック・デーモンズ・ドラゴンを融合召喚したのかしら?」

 

 門士郎と寒川だ。最も、寒川の意見に内心同意する猫崎。

 攻撃力はメテオ・ブラック・ドラゴンの方がわずかに高い。持っていないと言う事は無いだろうと推測する。

 

 

「…ところで準。」

「なんだ?兄さん。」

「除外されたカードは、デュエルディスクの何処に置けばいい?」

「ここのボタンを押してくれ。ケースが出てくるだろう?」

「ここか…。」

 

 なんとも締まらないやり取りだが、この空気がGXだなぁと思う猫崎。

 

 

「さてと。準、少し話をしないか?何故、私が攻撃力500以下、という制限をお前に課したと思う?」

 

 その問いかけは、万丈目だけでなくギャラリーにも伝播する。

 

「そりゃあ、勝ち目なんて無いからだろ。素人が万丈目に勝つにはそれぐらい無茶苦茶なハンデが無いと…。」

「いわれてみれば、最初から攻撃力0という制限にする事だって出来たはず。何故500以下なんだ?」

 

 十代の言葉に反応した三沢に対し。

 

「あれ?三沢君居たんだ?」

「最初からいた!」

 

 相変わらず失礼な事を言う翔。

 

 

「…俺には分からない。」

「さて、先ほどそこのお嬢さんが言っていたが…」

 

 万丈目長作が、チラリと寒川を見る。まさか聞こえていたとは思っていなかったらしく、驚く寒川。

 国会議員という事だから、他党議員から野次を飛ばされる事が多い職業柄、地獄耳なのだろうと思う猫崎。

 

「私にはメテオ・ブラック・ドラゴンを融合召喚する事も出来た。しかし、ブラック・デーモンズ・ドラゴンを呼び出した。何故だと思う?」

「攻撃力3500ではなくて3200のモンスターを融合召喚した理由?」

「まだ気づかないようだな、準。このカードの属性はなんだ?」

「闇属性だろう?ついでにメテオ・ブラック・ドラゴンの属性は炎…まさか?!」

 

 

 万丈目の視線が、長作議員の伏せカードに向けられる。

 

「こういう事だ!罠発動!魔のデッキ破壊ウイルス!場の攻撃力2000以上の闇属性モンスターをリリースして、お前の場と手札の攻撃力1500以下のモンスターを、全て破壊する!」

「ちいっ!攻撃力に制限を課したのは、これが狙いか!」

「ハハハハハ!どうだ準!」

 

 セットされていたキャッスル・ゲートが表側表示になり、破壊される。手札のおジャマイエロー、サクリファイス、超電磁タートル、イリュージョンの儀式の内、モンスターカードが全て破壊される。

 

「私はデビル・ドラゴン、サファイア・ドラゴン、暗黒の竜王、砦を守る翼竜とメテオ・ドラゴン!この5体を融合する!現れろ、F・G・D!」

「攻撃力、5000!」

「お前の場にあるのは、暗黒の扉だけ!これで終わりだ!やれ、F・G・D!準にダイレクトアタック!」

「墓地の超電磁タートルの効果発動!このカードを除外し、バトルフェイズを終了する!」

「何ぃ?!そんなモンスターがあるとは…。こんな効果なら、きっと三枚投入しているだろう。面倒な!」

「…超電磁タートルの効果は、デュエル中一度しか使えない。」

 

 

 そのカードを見て、才波は首をかしげる。

 

「あれはデュエルキング、武藤遊戯さんも使っていたカードよね?先日の相場だと60000円だったけれど…井戸に捨てられていたのかしら?」

「俺が貸した。」

 

 ちゃんと有効活用してくれているようで何より、と笑みを浮かべる猫崎。

 後に猫崎はこのデュエルの後返してもらう事をすっかり忘れてそのままになってしまうが、その後万丈目の窮地をこのカードは何度も救う事になるが、それは別の物語である。

 

 

「ええい、私はこのままターンエンドだ!」

 

 

 

サンダー ライフ4000

手1 場 暗黒の扉

長作 ライフ4000

手4 場 F・G・D 凡骨の意地 フュージョン・ゲート 

魔デッキ(3)

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「魔のデッキ破壊ウイルスの効果だ、ドローしたカードを公開して貰うぞ、準!」

「俺が引いたのは、罠カード、ディメンション・ウォール!こいつは俺が受ける戦闘ダメージを相手に与える罠カードだ!」

「なんだと!」

「俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ。」

 

 

 

サンダー ライフ4000

手1 場 暗黒の扉 伏せ1

長作 ライフ4000

手4 場 F・G・D 凡骨の意地 フュージョン・ゲート 

魔デッキ(2)

 

 

「私のターン、ドロー!くっ…仕方ない。ターンエンドだ」

 

 

 

サンダー ライフ4000

手1 場 暗黒の扉 伏せ1

長作 ライフ4000

手5 場 F・G・D 凡骨の意地 フュージョン・ゲート 

魔デッキ(2)

 

 

「俺のターン、ドロー!引いたのはおジャマグリーンだ。破壊されるため、ターンエンドだ」

 

 

 

 

 

サンダー ライフ4000

手1 場 暗黒の扉 伏せ1

長作 ライフ4000

手5 場 F・G・D 凡骨の意地 フュージョン・ゲート 

魔デッキ(1)

 

 

「私のターン、ドロー!引いたのはダイヤモンドドラゴン!よってさらにドロー!」

 

 引いたカードを見た長作議員は、メインフェイズに入る。

 

「速攻魔法発動、リロード!手札を6枚デッキに戻して、6枚ドローだ!」

「なんだと!」

「驚いたか、準。これでキーカードを引き当てれば…」

 

 驚いたのはリロードをデッキにいれていた事では無く、ドローフェイズに使っていない事なのだが…。

 

「…ターンエンドだ!」

 

 

 

 

サンダー ライフ4000

手1 場 暗黒の扉 伏せ1

長作 ライフ4000

手6 場 F・G・D 凡骨の意地 フュージョン・ゲート 

魔デッキ(1)

 

 

「俺のターン、ドロー!おジャマブラックをドローした。こいつが破壊されてターンエンド。だが、このエンドフェイズに魔のデッキ破壊ウイルスの効果は終了する!」

 

 

 

 

サンダー ライフ4000

手1 場 暗黒の扉 伏せ1

長作 ライフ4000

手6 場 F・G・D 凡骨の意地 フュージョン・ゲート 

 

 

「私のターン、ドロー!真紅眼の黒竜!ドロー!メテオ・ドラゴン!ドロー!フフッ、これで揃ったか。」

「何?」

「フュージョン・ゲートの効果発動!真紅眼の黒竜とメテオ・ドラゴンを融合!現れろ、メテオ・ブラック・ドラゴン!」

「攻撃力3500…ディメンション・ウォールで跳ね返してもライフが削り切れん…!」

「ハハハ!バトル!メテオ・ブラック・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「うわあああっ!」ライフ4000から500

 

「準よ、よくぞここまで手古摺らせた。褒めてやってもいいが…次のターンで終わらせる!カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

 

サンダー ライフ500

手1 場 暗黒の扉 伏せ1

長作 ライフ4000

手6 場 F・G・D メテオ・ブラック・ドラゴン 凡骨の意地 フュージョン・ゲート 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「この瞬間、罠発動!砂塵の大竜巻!これでお前が伏せたディメンション・ウォールを破壊する!どうだ、準!これで万に一つの可能性も…。」

 

 だが砂塵の大竜巻が巻き上げたカードは、ディメンション・ウォールでは無く、イリュージョンの儀式。

 

「ど、どうなっている?!何故ディメンション・ウォールでは無い…まさか!」

「俺はディメンション・ウォールをドローしたが、それを伏せたとは言っていない。」

「ぐうっ…。ライフを犠牲にしてでも、踏みぬかねばならんか…?」

「魔法カード、強欲な壺を発動!俺はカードを二枚ドローする!よし、魔法カード、トライワイトゾーンを発動!墓地のおジャマイエロー、グリーン、ブラックを復活させる!」

「壁モンスターが三体か…。」

「俺の場に三匹のおジャマが揃ったことで、発動できるカードがある!魔法カード、おジャマ・デルタハリケーン!相手の場のカードを全て破壊する!」

「なんだと!」

 

 

 F・G・Dと凡骨の意地、フュージョン・ゲートが破壊されていく。

 

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 

 

 

サンダー ライフ500

手1 場 おジャマイエロー グリーン ブラック 暗黒の扉 

長作 ライフ4000

手6 場 

 

 

「私のターン、ドロー!まだだ!フィールド魔法、フュージョン・ゲートを発動!そして永続魔法、凡骨の意地を再度発動する!」

「またその組み合わせか。」

「何とでも言え!ターンエンド!」

 

 

 

サンダー ライフ500

手1 場 おジャマイエロー グリーン ブラック 暗黒の扉 

長作 ライフ4000

手5 場 凡骨の意地 フュージョン・ゲート 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はフュージョン・ゲートの効果発動!おジャマイエロー、グリーン、ブラックを融合する!」

「おい、準!フュージョン・ゲートは私のカードだぞ!何故お前が融合召喚を行う事が出来る!」

「フィールド魔法は、互いのプレイヤーに影響を及ぼす!現れろ、おジャマ・キング!」

「攻撃力0…わざわざモンスターを減らしてそいつを融合召喚した理由はなんだ?」

「おジャマキングの効果発動!兄さんのモンスターゾーンを三か所、使用不可能にする!」

「三か所…だが、あと2か所残るなら問題ない!」

「魔法カード、右手に盾を左手に剣を!おジャマ・キングの攻撃力と守備力を入れ替える!」

「攻撃力、3000!」

「バトル!おジャマ・キングでダイレクトアタック!」

「ぐううううっ!」ライフ4000から1000

 

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド。おジャマキングの攻守は元に戻る!」

 

 

 

サンダー ライフ500

手0 場 おジャマ・キング 暗黒の扉 伏せ1

長作 ライフ1000

手5 場 凡骨の意地 フュージョン・ゲート 

 

 

「私のターン、ドロー!ええい、メインフェイズに入って速攻魔法、二枚目のリロードを発動!手札をデッキに戻し、戻した枚数分ドローする!」

「兄者、準の場にはあの罠が伏せられているはず…。」

「そうだな。だが!私はフュージョン・ゲートの効果発動!手札のロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-と神竜ラグナロクを融合!竜魔人キングドラグーン!」

 

 出て来たモンスターに、ギャラリーの一部が反応する。

 

「凄い!あれパラレルレアだわ!」

「わかったから、いい加減落ち着け寒川!」

 

 デュエルに集中したいのに、隣が騒ぐせいで集中できない門士郎が文句を言う。

 

 

「キング・ドラグーンが場にいる限り、私のドラゴン族はカード効果の対象にならない!これで終わりだ、準!」

「何?!ま、まった長作兄さん!」

「バトルだ、キング・ドラグーンでおジャマ・キングを攻撃!トワイライト・バーン!」

「ああもう!罠発動!ディメンション・ウォール!戦闘ダメージは相手が受ける!」

「それでどうしようと…うわああああっ!」ライフ0

 

 

 ライフが0になったのは、長作議員の方だった。

 

「な、何故だ!何故キング・ドラグーンが居るのに、私にダメージが…。」

「対象に取れないだけであって、戦闘ダメージを反射するディメンション・ウォールを防ぐことは出来ない。これが魔法の筒なら話は別だが。」

 

 

 やや考え込む長作議員。

 

「…そう、なのか?」

「だから待ったと言ったのに…。」

 

 やや微妙な終わり方ではあったが、直後に地震が発生する!

 猫崎は気づく。これは…三幻魔が覚醒した!

 

 

「じ、地震?!」

「やばいっス!」

 

 

「落ち着けっ!近くの物を掴んで余震が収まるまで待てッ!」

 

 先ほどまでの消沈ぶりから一転、長作議員が声を張り上げると、混乱が収まる。

 

 

「…何だったんだ?震度は5といった所だが。」

「外に出るぞ!」

 

 落ち着いて対処に動く万丈目の兄達にこの場を任せて事情を察している猫崎は、一足先に駆け出す。

 

 

「猫崎、何処に向かっているの?」

「あの柱の根元だ!何かがあったに違いない!」

 

 

 走っていると、他の鍵の守護者に選ばれた後輩組が合流する。

 結構リードしていたなずなのに、普通に追いつかれて内心身体能力の差に焦る猫崎。

 前世でも体育会系の部活に参加し、この肉体になってもそれなりに運動はしていたのだが…。

 

 

 ふと空を見上げると、万の文字がかかれたヘリコプターが飛んでいく。

 どうやら万丈目の兄たちは島を離れるらしい。

 

 

 

 

 柱の中央には、大きな水槽を乗せた機械が、地面から現れたカードを回収していた。

 遅かったか、と内心舌打ちする猫崎。

 

 騒ぎを聞きつけたのか、才災校長と才津教頭も現れる。

 

 

『不甲斐ないサイバー流の門下生では三幻魔覚醒には到底エネルギーが足りず、お前達とセブンスターズをぶつけても足りなかったが…。万丈目グループのおかげで必要なエネルギーが貯まった。』

「なんだと!まさか、長作兄さんに何かしたのか!」

『根回しに多少協力しただけだ。デッキは才災の奴が色々助言…。』

「馬鹿な、才災校長が助言したなら、長作兄さんはサイバー流を使ってきたはず…。」

『ふぅん。知らないようだな。元々、才災の奴は凡骨の意地でドラゴン族の通常モンスターを大量にドローして、F・G・Dを呼び出すのを得意としていた。』

「という事は、魔のデッキ破壊ウイルスも才災校長の差し金…?」

『いいや。魔のデッキ破壊ウイルスは私の助言だ。まぁ、もはやそんな些細な事はもはやどうでもいい!』

 

 影丸理事長が、鋭い目を才災校長に向ける。

 

『これで、三幻魔復活のエネルギーは貯まり、覚醒した三幻魔は私の手にある!ようやく、ようやくお前に鉄槌を振り下ろす事が出来る、才災!私とデュエルしろ!』

 

 その言葉に、才災師範が反応する。

 

 

 

「な、何を考えているのですか!影丸理事長!」

『黙れ、才災!鮫島と違い、貴様は政界と財界の言いなりになった挙句…リスペクト精神を都合の良いように解釈し、リスペクトに反するとカードにレッテル貼りを行った!』

「私は、サイバー流の、日本のカードゲーム界の為に!」

『リスペクトとは尊敬するという意味だ。相手のカードを、対戦相手を侮辱する行為のどこにリスペクトがある?』

「相手の行動を妨害する事ばかり考えた除去カードやカウンター罠だらけのデッキや、効果ダメージで勝利する事だけを考えたデッキは否定されて当然です!」

『フン、そういうデッキを使われたら勝てないからだろう?自らのデッキを研鑽せず、相手を貶める流派に成り下がったサイバー流の支配するデュエルモンスターズなど、もはや不要だ!』

 

 これは…サイバー流の暴走でデュエルモンスターズそのものに絶望したのか。

 暗澹たる気持ちになる猫崎だが、影丸理事長は才災を糾弾する!

 

 

 

『それだけでは無いぞ!才災!貴様は自分の考えに合わない生徒をあえて入学させ、それを集中して批判対象にする事でサイバー流の教えを定着させようとした!』

「そ、そんな事はありません!」

『嘘をつくな!バーンがダメなら入学試験で破壊輪を使った三沢大地が何故入学している!フレイム・ウィングマンを使った遊城十代は?』

「三沢君は筆記一位で、遊城十代については鮫島前校長の頼みで…。」

 

 言いよどむ才災。

 

『フン、遊城十代についてはそうだな。私も鮫島から話は聞いている…。だが、お前は筆記試験において【対戦相手をリスペクトするとはどういう事か、自由に述べよ】という問題について否定的な記述をした生徒を軒並み不合格にしている!』

「言いがかりですね。あれは国語の問題ですよ。オーナーにはそう伝えています。」

『言い逃れをしても無駄だ。そこが基準になっている事は確認済みだ!』

 

 そういう問題が編入試験の時にもあったな、と思い出す猫崎。

 

「あれがボーダーラインだったとは。」

『その通りだ、猫崎。あの問題に…対戦相手を認め、全力で勝つ為に攻撃を通すためのカウンター罠や戦闘では勝てないモンスターに対抗するために除去カードを入れる…、という記述をした孫娘は不合格になった。』

「つまり、筆記試験でリスペクトデュエルを真っ向から否定する受験生を弾き、実技で見極めていた…?」

『その通りだ。才災はそうやってふるいをかけていた。そうだろう、才災!』

 

 理事長という立場、そして今までの才災校長の言動。

 それを考えればあってもおかしくない話に、鍵の守護者として選ばれた面々は驚く。

 

「フン、その子の出来が悪かっただけです!」

『ふぅん。筆記試験4位の出来が悪いというか。まぁいい。孫娘は地元の高校に通わせることにした。貴様に任せて置いたら、【超古深海王シーラカンス】軸の魚族デッキが除去カードの一つも入っていないサイバー流にされかねないからな!』

 

 フィッシャーチャージや、水霊術-葵とか駆使していそうだ、想像する猫崎。

 

 

『構えろ、才災!まず三幻魔デッキの肩慣らしとしてお前を倒す!』

「間違った道に進んだ貴方を、リスペクトデュエルで正します!」

『何がリスペクトだ、お前が掲げているのは似非ペクトだ!』

 

 リスペクトと似非を掛け合わせた造語、似非ペクト(えせぺくと)。言い得て妙だと思う猫崎。

 

「…影丸理事長の方が年上だよな…?」

 

 思わず十代が突っ込みを入れるが、どちらも無視する。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

影丸 ライフ4000

手5 場 

才災 ライフ4000

手5 場 

 

 

『私の先攻!ドロー!私は永続魔法、七精の解門を発動!このカードは発動時、デッキから三幻魔か三幻魔のカード名を記されたカードを一枚、デッキから手札に加える。わしは三幻魔の一角、降雷皇ハモンを手札に加える』

「攻撃力と守備力が4000…!」

『いくぞ、混沌の召喚神を攻撃表示で召喚!』

 

 

混沌の召喚神

効果モンスター

星1/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードをリリースして発動できる。「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」のいずれか1体を手札から召喚条件を無視して特殊召喚する。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「失楽園」1枚を手札に加える。

 

 

 

「レベル1、攻撃力守備力0のモンスターを攻撃表示で召喚?影丸理事長、モンスターを守備表示で出すときは縦では無く、横向きで」

『愚か者め、わしは混沌の召喚神の効果発動!このカードをリリースする事で、手札の三幻魔を召喚条件を無視して特殊召喚出来る。現れろ、降雷皇ハモン!』

「こ、これが…三幻魔!」

『さらにフィールド魔法、失楽園を発動!私の場にハモンが居る事で、カードを二枚ドロー!永続魔法、失楽の霹靂を発動!カードを二枚伏せ、ターンエンドだ!』

 

 

 

影丸 ライフ4000

手2 場 ハモン 失楽園 七精の解門 失楽の霹靂 伏せ2

才災 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、大嵐を発動!」

『愚か者め、永続魔法、失楽の霹靂の効果発動!1ターンに1度、相手の魔法・罠カードの発動を無効に出来る。その後、場のハモンを守備表示に変更する!』

「なっ?!相手の行動を妨害するとは、リスペクトに反する行為です!」

『だからどうした?』

「ひ、開き直りですか!なんとみっともない…」

『さっさと進めろ。おっと、ここで永続罠を発動。覚醒の三幻魔。私の場の三幻魔の種類によって効果が決定する。場にはハモンが居る。お前がモンスターを特殊召喚すれば、私はそのモンスターの攻撃力分のライフを回復する』

「ぐっ…。私はモンスターをセット、カードを4枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

影丸 ライフ4000

手2 場 ハモン 失楽園 七精の解門 失楽の霹靂 覚醒の三幻魔 伏せ1

才災 ライフ4000

手0 場 セットモンスター 伏せ4

 

『私のターン、ドロー!』

「このスタンバイフェイズで罠カードを3枚発動!ゴブリンのやりくり上手!さらに速攻魔法、非常食!」

『小癪な!』

 

 

 

 

「やりくり上手って、カードを1枚ドローして、1枚デッキに戻すカードだよな。あれに意味はあるのか?」

「意味ならある。墓地のやりくり上手の数だけドロー出来る。非常食で墓地にやりくり上手を三枚送った。つまり。」

 

 猫崎の言葉を引き継ぎながら、才災校長は自慢げに言う。

 

「そう!私は4枚ドローして、1枚カードをデッキに戻す。これを三回行う!つまり私の手札は9枚になるのです!さらにライフも3000ポイント回復!」ライフ4000から7000

「すげぇっ!こんなコンボがあるのか!非常食はもう持っているから、後はゴブリンのやりくり上手を三枚集めれば…。」

 

 十代がやりくりターボというギミックを学習してしまう中、デュエルは進む。

 

 

 

『フン!私は失楽園の効果でさらに二枚ドロー!私は暗黒の招来神を召喚!効果発動、デッキから神炎皇ウリアを手札に加える。』

 

暗黒の招来神

効果モンスター

星2/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」のいずれか1体、またはそのいずれかのカード名が記された、「暗黒の招来神」以外のカード1枚をデッキから手札に加える。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに攻撃力と守備力が0の悪魔族モンスター1体を召喚できる。

 

 

 

『さらに暗黒の招来神の効果発動!このターン、通常召喚に加えて、もう一体攻守0の悪魔族を召喚出来る。暗黒の招来神をリリース。現れよ、暗黒の召喚神!』

 

 

暗黒の召喚神

効果モンスター

星5/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードをリリースして発動できる。「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」のいずれか1体を手札・デッキから召喚条件を無視して特殊召喚する。

このターン、自分のモンスターは攻撃できない。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから「神炎皇ウリア」「降雷皇ハモン」「幻魔皇ラビエル」のいずれか1体を手札に加える。

 

 

 

「ま、また攻撃力0のモンスターを…。」

『暗黒の召喚神の効果発動!このカードをリリースする事で、手札かデッキから三幻魔を特殊召喚出来る。デッキから現れよ!幻魔皇ラビエル!』

 

「に、二体目の幻魔…?!」

『覚醒の三幻魔の効果、私の場に幻魔が二体居れば、相手モンスターの効果は無効となる…。だが、このターン暗黒の召喚神の効果を用いたターン、バトルフェイズは行えない。』

「どれほど強力なモンスターが出ても、攻撃出来ないなら恐れるに足りません!」

『墓地の混沌の召喚神を除外し、効果発動。デッキから二枚目の失楽園を手札に加えておく。カードを一枚伏せターンエンドだ!』

 

 

 

影丸 ライフ4000

手4 場 ハモン ラビエル 失楽園 七精の解門 失楽の霹靂 覚醒の三幻魔 伏せ2

才災 ライフ7000

手9 場 セットモンスター

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、エマージェンシー・サイバーを発動!」

『ならば失楽の霹靂の効果発動。ハモンを守備表示に変更し、エマージェンシー・サイバーの発動と効果を無効にして破壊する。』

「ふっ、相手によって無効にされ墓地に送られたエマージェンシー・サイバーの効果発動。手札を1枚捨てる事で、墓地のこのカードを手札に戻す。プロト・サイバー・ドラゴンを捨てて手札に戻し、発動!デッキからサイバー・ドラゴンか通常召喚できない機械族・光属性モンスター1体を手札に加える。サイバー・ドラゴンを手札に!」

『小癪な…』

 

 

「あんなカード、門下生は使ってこなかったが。」

 

 つぶやく猫崎に、才波が答える。

 

「…あれはサイバー流所属のプロデュエリスト、サイバー・ランカーズでも最高位のブロック代表に支給されるカードよ。そのほかの派生カードもブロック代表には支給されるけれど。」

 

 一般の門下生には支給していないという事か。

 才災校長は敵ではあるが、三幻魔の暴走を阻止するためにも勝ってもらいたい。

 猫崎としては相打ちが最善なのだが、そうそううまく事は運ばないだろう。

 

 

「よし、魔法カード、パワー・ボンドを発動!手札のサイバー・ドラゴン3体を融合!現れなさい、サイバー・エンド・ドラゴン!」

『パワー・ボンドで攻撃力は倍か。だが、覚醒の三幻魔でライフ回復』ライフ4000から12000

 

 サイバー・ドラゴンが融合され、サイバー・エンド・ドラゴンが現れる!

 

「ここで私はセットしていたサイバー・ジラフを反転召喚!そしてジラフをリリースして、このターン、私が受ける効果ダメージを0にします!」

『…パワー・ボンドのリスクも回避したか。』

 

 才災校長の反撃は続く。

 

 

「永続魔法、魔力倹約術を発動!これで私は、ライフコストを払わず魔法カードを発動出来ます!速攻魔法発動!サイバネティック・フュージョン・サポートを発動!このターン、機械族の融合召喚を行う場合、手札・場・墓地から融合素材を除外することで融合召喚が出来ます!」

『ぬぅ、来るか!』

「魔法カード、二枚目のパワー・ボンドを発動!墓地のサイバー・ドラゴン3体を除外し、現れなさい、サイバー・エンド・ドラゴン!」

『ちっ、だが覚醒の三幻魔でライフ回復!』ライフ12000から20000

 

 サイバー・エンド・ドラゴンを2体も呼び出した才災だが、まだ終わらない!

 

 

「魔法カード、次元融合を発動!戻って来なさい、三体のサイバー・ドラゴン!」

『サイバー・ドラゴンが三体…覚醒の三幻魔でライフ回復!』ライフ20000から26300

 

 ゴールドレア仕様のサイバー・ドラゴンが三体現れる!

 

「魔法カード、最後のパワー・ボンドを発動!並び立ちなさい!サイバー・エンド・ドラゴンッ!」

『覚醒の三幻魔でライフ回復!』ライフ26300から34300

 

 

 パワー・ボンドで強化されたシークレット・レア仕様のサイバー・エンド・ドラゴンが三体、才災校長の後ろに並び立つ!

 

 

「どうですか!これがサイバー流師範、才災勝作の実力です!」

『フン、それで勝ったつもりか?』

「ならばバトル!サイバー・エンド・ドラゴンで、オベリスクの巨神兵のまがい物を…?」

 

 

 だが、サイバー・エンド・ドラゴンはハモンに向かう!

 

『場に守備表示のハモンがいる限り、お前はハモン以外を攻撃できない!』

「ならばハモンから倒すまでです!エターナル・エヴォリューション・バーストォ!」

『ぐっ…生意気なっ!だが、覚醒の三幻魔の効果で、ご自慢の貫通効果は失われている!』

「だとしても、戦闘破壊はさせてもらいます!」

 

 ハモンがレーザー光線に貫かれ、爆発する!

 

『おのれ!だが永続魔法、失楽の霹靂により、三幻魔が場を離れたことで効果発動!このターン、私が受けるダメージは0になる!』

「ダメージを0にするとは。ですが、サイバー・エンド・ドラゴンでラビエルを攻撃!」

『才災如きに、幻魔が二体も倒されるとは…!』

「思い知りましたか!これがサイバー流の、リスペクト・デュエルの精神がもたらす強さです!ターンエンド!次の私のターンで一気にトドメを刺してやります!」

 

『ほざけぇ!この無知蒙昧な老害めが!永続罠発動!ハイパー・ブレイズ!手札を一枚捨て、墓地の三幻魔を手札に戻す!我が手に戻れ、ラビエル!』

「三幻魔を回収しましたか。ですが無駄です。サイバー・エンド・ドラゴンの前には三幻魔でさえ敵ではありません!」

 

 

 

影丸 ライフ34300

手4 場 失楽園 七精の解門 失楽の霹靂 覚醒の三幻魔 ハイパー・ブレイズ 伏せ1

才災 ライフ7000

手0 場 サイバー・エンド・ドラゴン サイバー・エンド・ドラゴン サイバー・エンド・ドラゴン 魔力倹約術 

 

 

『私のターン、ドロー!二枚目の混沌の召喚神を召喚!効果発動、このカードをリリースして現れろ、神炎皇ウリア!』

「こ、これはオシリスの天空竜のまがい物…?しかし、攻撃力が0とは…」

『失楽園でさらに二枚ドロー!これでそろった!』

 

 宣言する影丸。

 

『幻銃士を召喚。効果発動!私の場のモンスターの数だけ、銃士トークン(悪魔族・闇・星4・攻/守500)を特殊召喚する!その三体をリリースして、幻魔皇ラビエルを特殊召喚!』

「また出てきましたか…。だが攻撃力4000でどうしようというのですか!」

 

『…貴様の場にいるパワー・ボンドで強化された三体のサイバー・エンド・ドラゴンがある限り、負けは無いと思っているようだが…私は手札の幻魔皇ラビエル-天界蹂躙拳の効果発動!このカードを手札から捨てる事で、ラビエルの攻撃力は倍になり、相手モンスター全てに攻撃できる!』

「攻撃力8000!ですが一体と相打ちになるのが限界!」

『この愚か者めが。罠発動!和睦の使者!このターン、私のモンスターは戦闘で破壊されず、私が受ける戦闘ダメージも0になる!』

「な、何!」

 

『そしてカードを一枚伏せ、永続魔法、失楽の霹靂の効果発動!これで私は降雷皇ハモンの特殊召喚を行う際に、伏せられた魔法カードもコストに出来る。七精の解門、失楽の霹靂、強制転移を墓地に送り、再び現れろ!降雷皇ハモン!』

「また性懲りもなく現れましたか、ラーの翼神竜のまがい物。」

 

 手札を全て使いきるが、再び三幻魔を揃える影丸。

 三体の幻魔が場に揃い、影丸の肉体に変化が起きる。

 

「若返る、若返るぞ…うぉおおおおおっ!」

「ば、馬鹿な!こんな、こんな事が…!」

「驚いたか、才災。これが三幻魔の効果。所有者に永遠の命と若さを与える!私は永遠の若さと命で、この世からサイバー流を駆逐して正しいデュエルモンスターズを広める!」

「それはいい事を聞きました。影丸理事長!貴方を倒して三幻魔を手に入れ、私がカードゲーム界全てに正しいリスペクト・デュエルを広めます!」

 

 おぞましい事を言う才災校長。こいつが不老不死になって自分の思想を押し付け続けたら、世界は終わるだろう。

 

「無理だな、今から貴様は負ける…。いよいよだ、才災!ようやく、ようやくお前に鉄槌を振り下ろす時が来た!バトル!幻魔皇ラビエル!哀れな機光龍をスクラップに変えてしまえ!天界蹂躙拳、三連打ぁ!」

「あああああああっ~!!わ、私が、私が手札を9枚使って呼び出した、三体のサイバー・エンド・ドラゴンがぁあああああ!」

 

 ラビエルが剛腕を振るい、三体のサイバー・エンド・ドラゴンを木端微塵にする!

 

「続いて、降雷皇ハモンでダイレクトアタック!」

「うわあああああああっ!」ライフ7000から3000

 

 

 ハモンの雷が、才災に天罰を与える!

 

「かはっ…で、ですが私のライフはまだ残る!」

「これで終わりだ、神炎皇ウリアでダイレクトアタック!」

「こ…攻撃力0で攻撃?耄碌したようですね!」

「どこまでも愚かな奴め。ハイパー・ブレイズの効果発動!ウリアが戦闘を行うとき、デッキから罠カードを墓地に送る事で、ウリアの攻撃力は互いの墓地の罠カード一枚につき、1000ポイントアップする。」

 

 これで終わりと思ったが、墓地に送られたカードを見て才災校長が騒ぎ出す。

 

「か、カウンター罠!な、何故そんなカードをデッキに入れているのですか!それだけ強い三幻魔デッキなら、カウンター罠など使わず、デッキを回すカードだけで組みなさい!」

「最後の最後まで救いようがない愚か者め。これで墓地の罠カードはお前の墓地にやりくり上手が三枚、私の墓地に和睦の使者と神の宣告。よって攻撃力は5000!焼き払え、ウリア!」

「う、うわあああああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 

 デモンストレーションとして才災校長を倒した影丸理事長は、そのまま遊城十代とデュエルをする。

 だが…。

 

 

「これで終わりだ!行け、シャイニング・フレア・ウィングマン!」

「まて、遊城十代!貴様は、サイバー流が支配している現状をどう思っている!このままでいいと思っているのか?!」

「…このままにしておけない。でも、三幻魔が覚醒したら精霊が滅んでしまう。俺はお前を倒し、サイバー流も倒す!」

「出来る物か!今すぐ行動せねばならぬというのに、貴様はまだ高校一年生!卒業まで二年もある。その間にサイバー流の支配がますます強まるというのに!」

 

 シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃が降雷皇ハモンを打ち砕く!

 影丸理事長は敗れ、三幻魔の力も失われ無力な老人に戻り…。

 

 

「…ご臨終です。」

 

 思えば齢100歳を超え、生命維持装置で生きながらえていた。もう寿命だったようだ。

 

 事件は収束した。

 才災師範は三幻魔のカードを手に入れようとしていたが、その前に猫崎が三幻魔のカードを改めて封印。

 不老不死をもたらす三幻魔が再度封印されたと知った才災校長は、ショックを受けるも不老不死のはずの影丸理事長が亡くなった事でデマだと思い込んだらしく、数日すれば元気になってしまった。

 

 

 

 

 その後は卒業デュエルが行われた。丸藤亮は遊城十代を対戦相手に選び、影丸理事長の死でショックを受けていた十代の心を開いたうえで卒業していった。

 ただ、卒業デュエル後攻1ターン目の丸藤亮のターン。

 

「悪夢の蜃気楼で4枚ドローだ!」

「メインフェイズに入り、魔法カード、大嵐を発動!」

「チェーンしてゴブリンのやりくり上手を3枚発動!そしてこの三枚と悪夢の蜃気楼を墓地に送ってライフを4000ポイント回復!そして4枚ドローして1枚デッキに戻す流れを三回行う!どうだカイザー!これで俺の手札は13枚だ!」

 

 満面の笑みで告げる十代に対し、丸藤亮の口元はやや引き攣っていたが、デュエルは丸藤亮が勝利した。

 

 のちに十代はこのやりくりターボを、斎王、ユベル、ダークネス相手にも決めるのだが『馬鹿な!こんな未来は予知されていなかった!』『おのれぇ!オサムめ、ボクの十代に何を仕込んだ!』『ほう、それが汝のデュエルか。』と言わせることになるのだが、それは別の物語である。

 

 卒業式が終わり、卒業証書を受け取る卒業生たち。

 門士郎や寒川。そしてサイバー流の門下生である才藤、才岡、才福、才治、才光、才花、才金も卒業していく。

 

 

 

 

 猫崎も卒業すると同時に、才波を呼び出し告白する。

 答えはYESだった。

 

 才光と才花が手をつないで会場を去り、才治と才金が頬を染めて見つめ合っている。

 

 

 

 卒業式後、門士郎にあずかっていた昆虫族デッキを返す猫崎。

 それを手にした門士郎に、寒川が声をかける。

 デュエルアカデミアのラストデュエルをしたいと言われた門士郎は、再び昆虫族デッキを手に寒川と共に会場を抜け出す。

 10分後、オベリスクブルー女子寮の湖畔でデュエルをした二人を、在校生が数人見かけたという。

 

 

 一方で猫崎は磯野さんから海馬社長の指示を受ける。今なお、海馬コーポレーションの保護下にあるからだ。

 

「一度、実家に里帰りしてもらい、その後サイバー・ランカーズを討伐してもらう。」

「サイバー流のプロであるデュエル・エリート…。」

「オシリスレッド所属だった新人が、サイバー流のエリートをなぎ倒していけば、サイバー流の権威はガタ落ちだ。それと…先ほどの告白は聞いてしまった。」

「そ、そうですか…。」

「サイバー流の元門下生のようだが。この二枚のカードを渡しておこう。」

「これは?!」

「ペガサス会長が新たにデザインしたサイバー・ドラゴンのカードだ。今の才災師範率いるサイバー流に思うところはあるが、デッキに罪は無いとの事だ。彼女を信じて託すもよし、君の好きなようにして良い。」

 

 猫崎の答えは決まっていた。



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第15話!猫崎俊二の帰郷と、『家族』との決着!

遊戯王作品は父親の屑率が高いから拙作ではまともな父親を出そうと思っていたのに、結局猫崎俊二の父親もアレなキャラになってしまいました。解せぬ。


 猫崎と光里はある日、海馬コーポレーションに呼ばれる。

 出張して、才能のある子供を見出せという物だ。

 

 思えば、この制度のおかげで猫崎はいじめられていた環境から脱出出来た。

 次は俺が誰かを助ける番だろう。

 

 

 

 行き先は…犬上村(いぬがみむら)。猫崎俊二の故郷だ。

 

 

「気が乗らないみたいね、俊二。」

「光里。今から行くのは、俺の地元、犬上村だ」

「?!御父さんと御母さんにご挨拶しないといけないわね。」

「俺としては、あんな二人から俺が産まれたと光里に知られたくないが。」

「どんな過去でも、ご両親が居なければ貴方は居なかった。」

「とりあえず、俺から離れないでくれ。」

「勿論。」

 

 

 かつて猫崎が参加した、子供たちとの交流会を今度は猫崎が開く側に回る。

 やるべきことが多い。前世の事もあって段取りが悪いと思ったが、子供たちの相手をしながらこれをこなすのは大変だ。

 そんな時、聞きたくない声が聞こえる。

 

 

「俊二兄さん?俊二兄さんだろう!」

「…亮三(りょうぞう)か。」

 

 

 兄と呼んだ相手に、冷たい目を向ける俊二。

 才波はそれに反応する。

 

「弟さん?それにしてはあまり似て居ないわね。」

「そうだな。似て居なくて良かった。」

 

 ぼうっと、才波光里に見とれる亮三。

 

「その女の子は誰?」

「俺の恋人だ。手を出すな。」

「なんで?」

 

 不思議そうに、とても不思議そうに言う亮三。

 

「俊二兄さんの物なら、僕の物だろう?そんな綺麗な人なら僕にこそふさわしい」

「貴方の妻になんて、なる気はないわ!」

 

 怒りのまなざしを向ける俊二。

 

「昔からそうだったな。俺の物をなんでも欲しがった。だがそれももう終わり、これで決着をつけよう。」

「何だ、デュエルか。俊二兄さんが僕に勝てるとでも?いいよ、叩き潰してやる!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

亮三 ライフ4000

手5 場 

 

 

「僕の先攻、ドロー!僕はマハー・ヴァイロを召喚!そして装備魔法を発動!デーモンの斧と悪魔の口づけ!」

「マハー・ヴァイロは装備魔法一枚につき攻撃力が500上がる。二枚装備した事で攻撃力は1000アップ。デーモンの斧と悪魔の口づけで1700ポイント攻撃力が上がるから、攻撃力は4250だな。」

「次のターンで終わらせてあげるよ。カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

亮三 ライフ4000

手1 場 マハー・ヴァイロ デーモンの斧 悪魔の口づけ 伏せ2

 

 

 猫崎が前世でデュエルモンスターズを始めた時、エースにしていたカードだ。

 だが、これを主軸にして何度かデュエルに勝利すると弟の亮三が欲しがり、デッキごと奪い取られた。

 

 逆らったら、『兄の癖に弟に譲らないとは何事だ!』と殴られた。恭一が欲しがった時には『弟なら兄に譲りなさい!!』と来た。

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、ハリケーンを発動!」

「カウンター罠!八式対魔法多重結界!手札の魔法カード、黒いペンダントを墓地に送り、魔法カードの発動と効果を無効にして破壊!」

「魔法カード、精神操作を発動!マハー・ヴァイロのコントロールを」

「カウンター罠!フォース・フィールド!マハー・ヴァイロを対象とした魔法カードの発動と効果を無効にして破壊する!」

 

 伏せカードがどちらも対象を取る魔法カードへの対策という事に驚く才波。

 

「思った以上に練り上げられたデッキね。」

「マハー・ヴァイロは装備魔法で強化するため、コントロール対策は必要と思って俺はデッキに入れていた。」

「なるほど、それで…。」

「まぁ、そのデッキを丸ごと奪われたけれど。」

 

 容赦なく攻める俊二。

 

 

「俺はレスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキからライトロード・ハンターライコウとチューナーモンスター、Xセイバーエアベルンを特殊召喚!レベル2のライコウに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!A・O・Jカタストル!」

「な、なんだ。攻撃力2200じゃあないか。」

「バトル。カタストルでマハー・ヴァイロを攻撃!」

「やけになって…?!リミッター解除か!」

「いや、違う。カタストルが闇属性以外のモンスターと戦闘を行うとき、ダメージ計算を行わずに破壊する!」

「?!ま、マハー・ヴァイロが!」

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手2 場 カタストル 伏せ1

亮三 ライフ4000

手0 場 

 

 

「ぼ、僕のターン、ドロー!魔法カード、強欲な壺を」

「ライフを半分払い、神の宣告を発動!」ライフ4000から2000

「そ、そんな…ターンエンド。」

 

 

俊二 ライフ2000

手2 場 カタストル 

亮三 ライフ4000

手0 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!チューナーモンスター、霞の谷の戦士を召喚。バトルだ、カタストルと霞の谷の戦士でダイレクトアタック!」

「だけどライフは残る」

「速攻魔法、イージーチューニングを発動!墓地のチューナーモンスター、エアベルンを除外し、カタストルの攻撃力を1600ポイントアップ!」

「そ、そんなぁあああああっ!う、うわああああああっ!!」ライフ0

 

 情けない悲鳴を上げて倒れる亮三。

 

「ま、負けた?僕が?出来損ないの俊二兄さんに?」

「俺の勝ちだ、亮三。」

「く、くそっ!み、皆に!みんなに言いつけてやる!」

「またそれか。別にいいぞ、集まってくれた方が手間が省けるからな。行けよ。」

 

 這う這うの体で逃げていく亮三。

 

 

「…あれが、義弟になるの?」

「後、兄が一人いる。」

 

 思わず空を仰ぎ見る光里。ふと、古風な洋館が目に入る。

 

「あの洋館は?」

「あれは、ヴィンフリートの館だ。かつてこの村に訪れたドイツ人が建設し、世界大戦後に引き上げた結果建物だけ残った。」

「今も使われているの?」

「定期的に掃除や修繕はしている。作りがしっかりしていて、いざというときの避難所にも指定されているからな。」

 

 

 森の奥に建てられた洋館を、あらためて見つめる才波。

 そんな時、二人組が近づいてくる。

 

 

「おうおうおう!まさか本当に帰ってきたとは驚いたぜ、俊二!」

「なんだなんだ?今更になって戻ってきたのか?」

 

 ニヤニヤしながら話しかけてくるのは、かつて俊二を虐めていた連中だ。

 

「鳥貝(とりがい)と間似谷(まにや)か」

「…知り合い?」

「友人では無い。」

 

 でかい図体にお似合いの高圧的な態度で、鳥貝が脅す。

 

「おい俊二。レアカードを寄越せ!毎月レアカード1枚だから…36枚のレアカードを渡してもらう!」

「しばらく姿をくらましていたからな!その分、取り立てさせてもらう!」

 

 鳥貝の腰巾着で悪知恵担当の間似谷が、ニヤニヤしながら告げる。

 

 そんな二人に絶句する才波。サイバー流の門下生でもここまでアレな奴は居ない。

 才波の中で、田舎での生活に対する憧れというものが、音を立てて崩壊する。

 

 

「なら、デュエルだ。かかってこいよ。」

「俊二の癖に生意気だぞ!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

鳥貝 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺は切り込み隊長を召喚!効果発動、手札のレベル4以下のモンスターを特殊召喚出来る。現れろ、ネフティスの導き手!」

「来るか。」

「俺はネフティスの導き手の効果発動!こいつと切り込み隊長を2体リリースし、デッキからネフティスの鳳凰神を特殊召喚できる!現れろ、ネフティスの鳳凰神!」

 

 

 優美な姿で舞い降りるネフティスの鳳凰神!

 

「そして俺はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

鳥貝 ライフ4000

手3 場 ネフティスの鳳凰神 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はレスキューキャットを召喚!そしてレスキューキャットの効果発動、このカードを墓地に送り、デッキからチューナーモンスター、Xセイバーエアベルンと逆ギレパンダを特殊召喚!レベル3の地属性逆ギレパンダに、レベル3の地属性Xセイバーエアベルンをチューニング!」

 

「な、何が起きているんだ?!」

「ほ、ほほ星が光に?!輪っかになって…。」

 

 鳥貝と間似谷が驚く中、S召喚を決める。

 

「S召喚!Lv6!ナチュル・パルキオン!」

「こ、攻撃力2500だとぉ!お、お前一体何をした!その気色悪いモンスターは一体どこから湧いて出た!」

 

 その鳥貝を、ナチュル・パルキオンがギロリと睨む。

 

「発動するカードはあるんだろう?」

「そうだな。そんな薄気味悪いモンスターにはこいつをお見舞いしてやる!罠発動!激流葬!場のモンスターを全て破壊する!」

「ナチュル・パルキオンの効果発動!墓地のレスキューキャットと逆切れパンダを除外し、罠の発動を無効にして破壊!」

「何だと!」

「バトルだ、パルキオンでネフティスの鳳凰神を攻撃!」

「うわあああああああっ!」ライフ4000から3900

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

俊二 ライフ4000

手4 場 ナチュル・パルキオン 伏せ1

鳥貝 ライフ3900

手3 場 

 

 

「お、俺のターン、ドロー!天下人 紫炎を召喚!カードを三枚伏せてターンエンド!」

「あれは…罠カードの効果を受けないモンスターね。」

 

 

俊二 ライフ4000

手4 場 ナチュル・パルキオン 伏せ1

鳥貝 ライフ3900

手0 場 天下人 紫炎 伏せ3

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、精神操作を発動!紫炎のコントロールを得る!」

「ま、まさかそれでまたS召喚とかいうのをする気か!」

「チューナーモンスター、霞の谷の戦士を召喚。レベル4の紫炎に、レベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!メンタルスフィアデーモン!バトルだ!」

 

「速攻魔法、スケープゴートを発動!」

「カウンター罠、魔宮の賄賂!スケープゴートの発動と効果を無効にして破壊!」

「何だと!」

「どうせその伏せカードは、吊り天井だろう。いけ、パルキオン、メンタルスフィアデーモン!」

「うわあああああああっ!」ライフ0

 

 

 倒れる鳥貝。

 伏せられていたカードが飛び散る。猫崎が言う通り、一枚は吊り天井だがもう一枚は力の集約だった。

 力の集約にひっかかる才波。装備魔法を選択したモンスターに移し替えるが…メタカードか何かだろうか?

 

 

「と、鳥貝が負けた?」

「さぁ、どうする。間似谷」

「い、いい気になるなよ!次は俺が相手だ!」

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

間似谷 ライフ4000

手5 場 

 

 

「…俺の先攻、ドロー!俺は永続魔法、波動キャノンを発動!」

「自分のスタンバイフェイズを経過したターン×1000のダメージを与える永続魔法。」

「ヒヒヒ。俺はモンスターをセット。カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

間似谷 ライフ4000

手2 場 セットモンスター 波動キャノン 伏せ2

 

「俺のターン、ドロー!メインフェイズ1の開始時に魔法カード、大寒波を発動!」

「なっ?!俺の伏せカードが!」

「これで次の俺のターンまで互いに魔法・罠カードを発動できず、セットも出来ない。召喚僧サモンプリーストを召喚!効果発動、守備表示になる。」

「ヒヒ、守りを固めるつもりかい?だが、波動キャノンがお前に照準を合わせていることを忘れるな!」

「そして手札の魔法カード、大嵐を捨てて効果発動!デッキからレベル4のモンスターを特殊召喚!現れろ、二体目の召喚僧サモンプリースト!効果発動、手札のサイクロンを捨てて、デッキからレスキューキャットを特殊召喚!」

 

 大嵐とサイクロンがありながら、捨てていくプレイングを訝し気に見る才波。

 

「そ、そいつは!またS召喚とかいうやつをするつもりだな!」

「レスキューキャットの効果発動、デッキからレベル3以下の獣族二体を特殊召喚。現れろ、二体のチューナーモンスター、Xセイバーエアベルン!」

「どうやらレベルの合計が重要みたいだな…。チューナーとそれ以外のモンスターのレベルの合計なら、出せるのはさしずめ、レベル7とレベル11か。」

 

 割と分析能力が高い事に驚く才波。

 

「ちょっと意外だわ。S召喚を見るのは初めてでしょう?」

「鳥貝とのデュエルを見ていたからね。眼前の出来事から物事を学ぶ、それがデュエリストって物だろう?」

 

 褒められた性格では無いが、決闘者としてはまっとうな言動というギャップに目を白黒させる才波。

 

「俺は、レベル4のサモンプリーストに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!Lv7!現れろ、ダーク・ダイブ・ボンバー!」

「今度は攻撃力2600でレベル7か。そしてその組み合わせがまだ残っているから」

「レベル4の魔法使い族の召喚僧サモンプリーストに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!Lv7!アーカナイト・マジシャン!」

 

 俊二のシンクロ時におけるセリフが若干違う事を耳ざとく聞きつける間似谷。

 

「…なるほど。S召喚とかいう奴は色々条件があるみたいだな。先ほどのダーク・ダイブ・ボンバーと違って、アーカナイトとかいう奴はチューナー以外の奴が魔法使い族でないといけないようだな。」

「相変わらず、耳聡いな。S召喚成功時、魔力カウンターが二つ乗る。そして魔力カウンター一つにつき、攻撃力が1000アップする!そして魔力カウンターを一つ取り除き、お前のセットモンスターを破壊!」

 

「あ、アステカの石像が!」

「終わりだ。ダーク・ダイブ・ボンバーとアーカナイト・マジシャンでダイレクトアタック!」

「うわあああああああっ!」ライフ4000から1400、1400から0

 

 

 気絶する間似谷。

 

 

「大嵐とサイクロンがあるなら…。」

「こいつの伏せカードを見てくれ。」

「?!モンスターBOXとアヌビスの裁き…。」

「これがこいつのデュエル。波動キャノンを使って相手を焦らせ、突っ込んできたらアステカとモンスターBOXで返り討ちを狙い、除去魔法ならアヌビスの裁きで仕留める。」

 

 

 色々と練られている事に驚く才波。

 かなりバリエーションが豊かだ。才災師範率いるサイバー流以上かもしれない。

 

「まぁ、海馬コーポレーションがレクチャーして、カードをプレゼントしているからな。」

「俊二も受け取ったの?」

「俺が受け取ったレアカードは、恭一と亮三が奪っていった。」

 

 

 

 

 その後、鳥貝と間似谷を起こし、先に行かせた後で猫崎と才波は歩く。

 歩いていると猫崎に声がかけられる。切りそろえられた前髪、後ろの髪は腰まで伸ばした古風な感じの女性だ。

 

 

「俊二じゃない!亮三が言っていた事は本当だったのね!」

「我謝(ガジャ)さん。」

「もう違うわ。名前に義姉さん、をつけて呼んで。」

 

 そう言われたため、俊二は彼女と恭一の仲が進展したことを悟り改めて名前を呼ぶ。

 

 

「…透子(とうこ)義姉さん。」

「ああ~、良い響き!ずっと末っ子だったから、そう呼ばれたかったの!亮三は一向に呼んでくれないし。」

 

 亮三は我謝 透子さんに恋心を抱いていたが、自分と違って恭一の物を奪う事は許されなかったため反抗しているんだろうなと思う俊二。

 一方、俊二の言葉でようやく理解する才波。

 

「?!という事は、俊二の兄と…。」

「えっ?!俊二って、な、名前で呼んだ…?もしかして貴女は俊二の…。」

 

 その言葉に頷く才波。それを見た我謝は手を伸ばして告げる。

 

「ちょっと来て。」

 

 こんな故郷に一人にしておきたくない俊二だが、透子さんなら無体な事はしないと考え直す。

 それに、身体能力なら光里の方が上だろう。

 

 

 

 やや離れた場所で、我謝は足を止める。

 

「ここならいいでしょう。改めて自己紹介を。私は猫崎俊二の兄、猫崎恭一と婚約した我謝 透子。」

「私は才波 光里。」

「色々、聞きたいことがあるんじゃないかしら?」

「…俊二は虐められていたの?」

「そうよ。」

「なんで!」

 

 即答した我謝に怒鳴る才波。

 

「髪の色が違うから。」

「そんな、そんな理由で?」

「…この村だと、髪の毛を染めるのは悪い事とされているの。父母から貰った髪を染めるのはけしからん、と。だから…整形なんてした子は村八分にされたわ」

「でも、俊二のは地毛でしょ!」

「その通りよ。俊二も一度は染めた事があるけれど、そうしたら髪の毛を染めたといって余計いじめがひどくなった。」

 

 絶句する才波。

 

「ここは、そういう村なの。もしも私が子供を産んで、その子の髪の毛が黒以外の色だったら、俊二みたいに虐められるんじゃないかって思うと…。」

「貴方は、俊二とどういう関係なんですか?」

「義理の弟よ。血はつながっていないけれど、恭一さんの弟。私は身内だけは何があっても大事にする。」

 

 そっと、胸に手を置いてつぶやく我謝。

 

「私が、大事にされたから。今度は私が誰かを大事にしないと。」

「…我謝さん。私と、デュエルしてくれませんか?」

「デュエル?最初は俊二とデュエルするつもりだったけれど…いいわ、始めましょう。」

 

 

 やや距離を取り、デュエルディスクを構える。

 

「「デュエルッ!!」」

 

才波 ライフ4000

手5 場 

我謝 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「私の先攻、ドロー!私はモンスターをセット。カードを2枚伏せてターンエンド。」

 

 

才波 ライフ4000

手3 場 セットモンスター 伏せ2

我謝 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私のターン、ドロー!手札からグリーン・ガジェットを召喚!」

「ガジェットデッキ?!」

「効果発動。デッキからレッド・ガジェットを手札に加える。この効果にチェーンして速攻魔法、サイクロンを発動!右の伏せカードを選択!」

「どうして先にサイクロンを発動しないの?」

「答えはこれよ!サイクロンの発動にチェーンして速攻魔法、サモン・チェーンを発動!」

「?!その、カードは!」

 

 

 まさか、それを使う決闘者がいるとは思わなかった才波。

 

「チェーンを処理、まずこのターン、私は三回の通常召喚が可能になる。そしてサイクロンの効果で右の伏せカードを破壊。」

「サンダー・ブレイクが!」

 

 才災師範のサイバー流から追放され、そしてデュエルアカデミアを卒業した今、才波はデッキに除去カードやカウンター罠などを投入していた。

 

「そしてレッド・ガジェットを手札に加える。二回目の召喚権でレッド・ガジェットを召喚し、イエロー・ガジェットを手札に加える。三回目の召喚権で…。」

 

 イエロー・ガジェットを召喚すると思っていた才波だが。

 

「場のグリーンとレッドをリリースして、古代の機械巨竜をアドバンス召喚!」

「えっ?」

 

 現れた古代の機械巨竜に、グリーンガジェットとレッドガジェットが組み込まれていく!

 

「バトル!古代の機械巨竜でセットモンスターを攻撃!グリーンガジェットをリリースした事で、古代の機械巨竜は貫通効果を持っている!」

「戦闘で破壊された、シャインエンジェルの効果発動!」ライフ4000から1800

「まだ効果は続く!戦闘ダメージを与えた事で、レッドガジェットをリリースした古代の機械巨竜の効果発動、400ポイントのダメージを与える!」

「シャインエンジェルの効果でプロト・サイバー・ドラゴンを特殊召喚!きゃっ!」ライフ1800から1400

 

「組み込むガジェットによって、効果が変わるのがこの古代の機械巨竜の真骨頂!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 なおこれを聞いた猫崎俊二は、前世で古代の機械巨竜を歯車街をぶっ壊して特殊召喚しかしてこなかったため、心がズキズキと痛んだ。

 

 

 

才波 ライフ1400

手3 場 プロト・サイバー・ドラゴン 伏せ1

我謝 ライフ4000

手2 場 古代の機械巨竜(貫通&戦闘ダメージで400バーン) 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!我謝さん、今私が出せる全力で行きます!魔法カード、パワー・ボンドを発動!場のプロト・サイバー・ドラゴンと手札のサイバー・ドラゴンを融合!現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

「攻撃力2800…。」

「パワー・ボンドで融合召喚したモンスターの攻撃力は、元々の攻撃力分アップ!よって攻撃力は5600!そして一度のバトルフェイズで二回攻撃が可能!」

「その攻撃力で二回攻撃?!」

 

 驚く我謝に対し、光里は宣言する。

 

「バトル!サイバー・ツイン・ドラゴンで、古代の機械巨竜を攻撃!!」

「…勝負を焦ったわね。罠発動!万能地雷グレイモア!!」

「カウンター罠、トラップ・ジャマー!」

「?!サイクロンで破壊するカードを間違え…。いや、逆でもサンダー・ブレイクで割られていたか…お見事。」ライフ4000から1400、1400から0

 

 サイバー・ツイン・ドラゴンが古代の機械巨竜を打倒し、続くダイレクトアタックでライフを削り落とす!

 ライフが尽きるも、毅然とした態度を取る我謝。

 

「ありがとうございました。」

「…光里さん、俊二をお願いね。」

「はい、透子さん。」

 

 

 デュエルに勝利した才波と我謝は軽く抱き合う。

 

「そろそろ戻りましょうか。」

 

 歩き出す我謝についていく才波。この辺りはまだ不慣れだ。

 ゆっくり歩きながら、ガールズトークを始める二人。遠からず、お互いの馴れ初めについての話になる。

 

 

「才波さんは、芋煮会って知っている?」

「芋を煮る会ですよね?里芋と色々な具材を煮て…」

「そうよ。それぞれの家で味噌を使わない味付けをするの。我謝家はキノコ尽くしだけど、猫崎家はカツオと昆布出汁で…」

「ちょっと待って、味噌はダメなの?」

「味噌を入れたら豚汁になるでしょ。それぞれの家庭で芋を煮て居る間に、自家製の味噌を他家の鍋にぶち込みに行くの!首尾よくぶち込めたら、『やぁ、これはおいしそうな豚汁ですな』と笑顔で言うの!」

 

 おかしい、サイバー流で行われた芋煮会と何か違う。

 

「無論、入れられる方はたまったものじゃないから、吊り網や落とし穴を仕掛けて守りを固めるし、味噌を入れようとした所を見つかれば獣道を走って逃げないといけないわ。」

 

 味噌をぶち込みにいって恭一さんに見つかり、獣道を…一時間弱くらい走り…自分が仕掛けた吊り網に誘い込み、まんまと恭一さんが吊り上げられた瞬間を見た時に惚れた、とほんのりと頬を染めながら笑顔で言う我謝さんを、未確認生命体を発見した探検隊員のような目で見つめる才波。

 

 無論、それはきっかけなだけであり、それ以前の交流で互いを意識していたのが表面化したのがこの出来事というだけである。

 なお、普段虐められていた俊二だが、味噌をぶち込めた時は褒めてもらっていた。恭一や俊三が褒められる時と違い、二言三言でしかなかったが。

 

 

「最後まで豚汁にされることなく完成した芋煮を、村人全員でつつく、というのが芋煮会なんだけど…貴女は違うの?」

「も、もう少し穏やかなイベントです。」

「私と恭一さんのなれそめを話したから、今度は貴女と俊二の出会いを聞きたいわ。」

 

「えっと。私はサイバー流に所属していて、そこの師範から俊二とデュエルをするように言われて…完敗してサイバー流から追放された。」

「サイバー流は初耳だけど…。追い出されたのにサイバー・ドラゴンは持たせてくれるなんて寛大なのね。」

「そう、そうなのかもしれない。その後色々交流していくうちに惹かれていったわ。」

「変わっているわね、貴女。俊二は貴女をサイバー流から追放させるきっかけになった相手でしょう?」

 

 少なくとも三国志演義に出てくる諸葛孔明の南蛮行に出てくる南蛮勢がやりそうな芋煮会で惚れたなどと、楽しげに言う我謝さんだけには『変わっている』などと言われたくない、と内心憤然としながら才波は答える。

 

「サイバー流には前の師範が居て、私はその人の考えに近かったから今の師範は気に入らなかった。だから、離れられてホッとしているわ。」

「今の師範さんは追い出したくて、貴女は離れたかったからちょうどよかったのね。」

 

 

 才波と我謝が村に到着した時、猫崎俊二の前に最後の『敵』が現れる。

 

 

「俊二!やっと帰ってきたのね!」

「どちら様ですか?」

 

 猫崎俊二は冷たく『母』に告げる。

 硬直する『母』

 

「お前!勝手に家を出て行って!俺の許可を得ずに何を考えているんだ!」

 

 そんな『父』を猫崎俊二は冷たく見つめる。

 

 この肉体の子供にとって『父親』なのだろうが、憑依者にとっての親父は厳しく、仕事が終わって帰ってきたら酒を飲んで酔っ払う男だが、休日には家族サービスをする立派な男だった。

 たまに約束をすっぽかしてゴルフに行ったりしていたが。

 母親は毎日弁当を作ってくれた。前世で一人ぐらしを始め、それがどれほど大変なのかを身をもって知った。

 

 

 

「その女の子は誰?」

「…光里は俺の彼女です。」

「?!」

 

 ぐいっと引き寄せて、腰に手を回すと『母』は驚いたようだ。

 だが、光里の様子が妙だ。

 

「どうした?光里?」

「ねぇ、親子なんでしょう?」

「俺を川に突き落とした相手に怒りもしない、他人だ。ああ、その点でいえば感謝はしている。」

 

 俊二は一礼して告げる。

 

「ありがとう、俺が死にかけても犯人に対して怒らないでいてくれて。おかげで俺は吹っ切れる事が出来ました。」

 

 

 ショックを受けているようだ、いい気味だ。

 …心なしか、光里もショックを受けているような気がする俊二。

 

 そう話していると、『兄』がようやくやってくる。

 

 

「お前!お父さんとお母さんに対して、なんだその態度は!」

「…恭一か。」

 

 兄と名乗る『他人』が話しかけてくる。

 

「俺とデュエルしろ!俺が勝ったら謝れ!」

「…俺が勝ったら今後は俺と光里とその家族に手も出さず口もはさむな。」

「フン、だがお前が困ってもウチはお前を助けないからな!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

恭一 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻!ドロー!俺は手札の沼地の魔神王を捨てて効果発動!デッキから融合を手札に加える。そして融合を発動!手札の神竜ラグナロクとロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者を融合!現れろ、竜魔人キングドラグーン!」

「出たか。」

「キングドラグーンの効果発動!手札からホルスの黒炎竜Lv6を特殊召喚!そして魔法カード、レベルアップ!を発動!ホルスの黒炎竜Lv6をLv8に進化させる!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

恭一 ライフ4000

手0 場 竜魔人キングドラグーン ホルスの黒炎竜Lv8 伏せ1

 

 手札は使い切ったが、場の状況は割と強いと思う才波。キングドラグーンでドラゴン族をカード効果の対象にとれず、ホルスの黒炎竜で魔法を封じている。

 おそらく伏せは王宮のお触れだろう。

 

 凡骨の意地で大量ドローする万丈目長作議員と違って爆発力は無いが、制圧力の高い布陣だ。

 少なくとも、先攻1ターン目でこの布陣を敷かれたらデッキの相性もあるが、長作議員は手も足も出ないだろう。

 

 

「俺のターン、ドロー!召喚僧サモン・プリーストを召喚。このカードは召喚成功時、守備表示になる。さらに手札の魔法カード、サイクロンを捨てて効果発動!デッキからチューナーモンスター、霞の谷の戦士を特殊召喚!」

「そんな雑魚を並べてどうするつもりだ?」

「レベル4のサモン・プリーストにレベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!ギガンテック・ファイター!」

「?!こ、攻撃力2800だと!」

 

 

「バトル!行け、ギガンテック・ファイター!キングドラグーンを攻撃!」

「ぐううううっ!」ライフ4000から3600

「俺はこれでターンエンドだ。」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手4 場 ギガンテック

恭一 ライフ3600

手0 場 ホルスの黒炎竜Lv8 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!それがSモンスターとやらか。だが、そんな物が俺のホルスデッキに通用するか!」

「そうだよ、勝って!恭一兄さん!」

 

 亮三が応援する中、恭一はデュエルを進める!

 

「バトル!行け、ホルスの黒炎竜Lv8!ブラック・メガフレアッ!」

「ギガンテック・ファイターが戦闘で破壊されたとき、墓地の戦士族を選択。そのモンスターを特殊召喚する。」ライフ4000から3800

「何!という事は…。」

「ギガンテック・ファイターを特殊召喚!」

「なるほど、厄介だな。だが俺のホルスデッキには戦闘で破壊されない壁モンスターを処理するためのモンスターも入っている。ターンエンドだ!」

 

 

「忍者マスターSASUKEだろ。三回も頭を殴って、力づくで奪いとっておきながら偉そうに」

 かつて奪われたレアカード名をつぶやく俊二。

 

 

俊二 ライフ3800

手4 場 ギガンテック

恭一 ライフ3600

手1 場 ホルスの黒炎竜Lv8 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はレスキューキャットを召喚!効果発動、このカードを墓地に送り、デッキからコアラッコとチューナーモンスター、Xセイバー・エアベルンを特殊召喚!」

「チューナー!またS召喚とやらをする気か!」

「コアラッコの効果発動、場に獣族がいるとき、相手モンスターの攻撃力を0にする!」

「何だと!ぐっ、ホルスの黒炎竜Lv8の攻撃力が!」

「レベル2のコアラッコに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!ナチュル・ビースト!バトルだ、ギガンテック・ファイターでホルスの黒炎竜Lv8を攻撃!」

「うわああああああっ!」ライフ3600から800

 

「終わりだ、ナチュル・ビーストで。」

 

 

 攻撃宣言しようとした瞬時に対し、『父』が騒ぎ出す。

 

「俊二!お前、弟の癖に兄に刃向かうのか!手加減をしろ!」

「…俺が。おれが亮三とデュエルすれば、『弟相手に何だ。負けてやれ。』と言う癖に!」

「お前と亮三は違う!」

「ああ違うとも!俺はお前たちと違って二枚舌では無いからな!いいだろう、恭一!こいつが手加減しろというから、あ・え・て・手加減してやる。ターンエンドだ。」

 

 

 

俊二 ライフ3800

手4 場 ギガンテック ナチュル・ビースト 

恭一 ライフ800

手1 場 伏せ1

 

 

 

「お、俺のターン、ドロー!俺はモンスターをセット。ターンエンド!」

 

 

 

俊二 ライフ3800

手4 場 ギガンテック ナチュル・ビースト 

恭一 ライフ800

手1 場 セットモンスター 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!Xセイバーエアベルンを召喚。バトルだ!ナチュル・ビーストでセットモンスターを攻撃!」

「仮面竜の効果発動、デッキから二体目の仮面竜を守備表示で特殊召喚!」

「エアベルンで仮面竜を攻撃!」

「俺は三体目の仮面竜を守備表示で特殊召喚!」

「ギガンテック・ファイターで仮面竜を攻撃!」

「デッキからデコイドラゴンを守備表示で特殊召喚!」

 

 

「よし!デコイドラゴンだ!これで恭一の負けは無くなった!」

 

 何か言い出す『父』を無視する俊二。

 

「メインフェイズ2で魔法カード、精神操作を発動。デコイドラゴンのコントロールを得る。そしてデコイドラゴンにエアベルンをチューニング!S召喚!A・O・Jカタストル!ターンエンドだ」

 

 

 

俊二 ライフ3800

手3 場 ギガンテック ナチュル・ビースト カタストル

恭一 ライフ800

手1 場 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、龍の鏡を発動!墓地の仮面竜3体と神竜ラグナロクとデコイドラゴンを除外して、F・G・Dを」

「ナチュル・ビーストの効果発動!デッキの上からカードを二枚墓地に送り、魔法カードの発動と効果を無効にして破壊!」

「何だと!」

 

 奈落の落とし穴、貪欲な壺が墓地へ行く。

 

 

「俊二、お前!兄に手向かいするとは何事だ!兄の魔法カードを封じるなんて」

「先に魔法カードを封じたのは、恭一だ。」

 

 

 場を見渡す猫崎恭一。弟の場には、不死身のギガンテック・ファイター、魔法を封じるナチュル・ビーストに未知の機械族モンスターまで並んでいる。

 対して恭一の手札はタイラント・ドラゴンのみ、伏せカードは王宮のお触れ。

 

「…ターンエンド。」

 

 

 

俊二 ライフ3800

手3 場 ギガンテック ナチュル・ビースト カタストル

恭一 ライフ800

手1 場 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー。このままダイレクトアタックすれば俺が勝つけれど、そこの男が手加減しろと言うからな。」

「……。」

「さて、どうしたものか…」

「なぁ、俊二。もしかして。」

 

 

 恭一は、決定的な事を言ってしまう。

 

「俺たちの事を、恨んでいるのか?」

 

 憎悪と殺意に満ち溢れた顔を一瞬浮かべる猫崎俊二だが、スッと表情が変わる。

 無表情と、無関心に。

 

 

「聞いたよ。透子義姉さんと婚約したらしいな、おめでとう。」

「え?あ、ああ。」

「いつか子供が産まれるんだろうなー。」

「…授かりものだからわからないが。」

 

 一切の感情が込められていない声で話す俊二。

 

 

「そいつが俺みたいな髪の毛の色をしていなければ、イイネ。」

「?!」

 

 愕然とする恭一。

 そんな恭一の姿をじっと見守る我謝。

 

「…そろそろデュエルに戻っていいか?なぁ。」

「…ああ。俺に発動するカードは無い。攻撃してくれ。」

 

 

「な、何を言っている!恭一!」

 

 『父』が何か喚くも

 

「…バトル。カタストルでダイレクトアタック。」

「…す…ま…な…っ…た」ライフ0

 

 カタストルのレーザーが、恭一のライフを0にする!

 恭一が負けた事で、周りのいじめっ子だった連中から完全に戦意が喪失する。

 

 

「俺の勝ちだな。今後、猫崎家は俺と光里に手出しも口出しもしない。俺からも金の無心をすることも無い。」

 

 ショックを受け、放心していて返事をしない恭一。

 そしてそんな恭一に駆け寄り、寄り添う婚約者。

 

 

「…行こう、光里。」

「待ちなさい!俊二!」

「その名前で俺を呼ぶな!」

「何を言っているのよ!私は母親なのよ!私が産んだのよ!」

「産んでくれって誰が頼んだ!」

 

 そう返すと言葉につまる『母』。

 足りない、こんな言葉では。

 暗い衝動に突き動かされる猫崎俊二の肩に手をかけられる。

 

「光里?」

「もういいの。行きましょう、俊二。」

 

 

 そう言いながら、光里は俊二の頬に触れる。

 

「…辛かったのね。」

 

 光里の手が離れた時、乾いていたはずの手は何故か。

 

 濡れていた。



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第16話!登場!サイバー・ランカーズ!

ようやく、サイバー・ランカーズ戦が始まります。

改めて解説しますが拙作のサイバー流は大きな組織であり、日本をブロックごとに区分し、各ブロックにブロック代表という幹部クラスのデュエリストが配置され、その下に都道府県代表、その下に門下生がいるというピラミッド型の組織です。

海馬瀬人はこれに目をつけ、プロとしてはルーキーである主人公に各ブロック代表相手に連勝させるつもりでいます。海馬瀬人が直々に叩き潰しても「伝説の決闘者相手なら仕方ない」と言い訳させてしまうので、新人を育てる必要があったわけです。


 海馬コーポレーションは新たな召喚方法、S召喚のテスターである猫崎俊二という決闘者と専属契約を結んだことを発表。

 デュエル・アカデミアでは落ちこぼれと言われたオシリス・レッドでありながら名声を勝ち取った猫崎俊二は、世間の注目を浴びる。

 

 一方で快く思わない者達が居る。

 高い学費を払ってオベリスクブルーやラーイエローに子供が居る親、そして才災師範と深いつながりのある有力者達。

 

 

「…これはどういうことだ?」

「どういう事でしょうが?」

 

 豪奢な部屋で、外国製のスーツに身を包んだ男たちが、才災師範を詰問する。

 

「オシリスレッドというと、落ちこぼれだろうが!なんでそんな落ちこぼれを海馬がわざわざ拾い上げる!」

「オーナーには、オーナーの考えがあるのかと。」

「聞けば、在学中には丸藤亮に続いて無敗記録を達成したそうだな。サイバー流の門下生では奴の使うS召喚とやらは倒せないという事か?」

「戦ったのは、サイバー流の落ちこぼれや新たにサイバー流に入った者だけです。既にプロとして名を馳せている、サイバー流が誇る『サイバー・ランカーズ』ならば敵ではありません。」

 

 きっぱりと言い切る才災師範に、男の一人が胡乱気な目を向ける。

 

「そう、か。それを聞いて安心したぞ。この挑戦はサイバー流が勝つと判断していいのだな?」

「はい?」

 

 そんな才災師範に、挑戦状と記された封筒が手渡される。

 

「拝見します…」

 

 読み終えた才災師範は顔を歪める。

 

 何とプロになった猫崎は九州から北海道まで旅をするが、その最中にサイバー・ランカーズの中でもエリートである、ブロック代表のプロ決闘者に挑戦するというのだ。

 

「ふ、ふん。問題ではありませんね。大方、すでにプロとして活躍しているサイバー・ランカーズ、その中でも精鋭であるブロック代表を倒すことなど出来るはずがありません。サイバー・ドラゴンやプロト・サイバー・ドラゴンしか与えられていない門下生とは違い、各種派生カードに加えてサポートカードも万全です!」

「それは頼もしい。だが、ペガサス会長が新たに開発したサイバー・ドラゴンの関連カードのデータは手に入ったのか?」

「はい?なんのことでしょう?」

「そういう噂だが…。まぁ、お前が知らないならデマだったのだろう。」

 

 

 鷹揚に権力者から退出するよう言われた才災師範。彼に電話が入る。

 

「私だ…何ぃ?!」

 

 

 

 時は、少し遡る。

 九州、宮崎県にて。二人の決闘者が対峙する。

 

「お前が猫崎か。俺は才郷 五郎(さいごう ごろう)。九州ブロックを担当しているサイバー・ランカーズだ。我らサイバー流に刃向かうとは愚かな奴め。」

 

 白を基調とし、銀色で縁取りされたデュエルディスクを装着した筋肉質の大男が、眼前の金と銀のツートンカラーの青年に話しかける。

 

 

「まずは九州ブロックから攻略させて貰う。」

「ほざけ!サイバー流は勝ち続ける!行くぞ!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才郷 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「俺の先攻、ドロー!レスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキからXセイバーエアベルンとコアラッコを特殊召喚!俺はLv2のコアラッコに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!A・O・Jカタストル!」

「?!それがS召喚という奴か。だがたかが攻撃力2200程度なら敵ではない!」

「このカードは闇属性以外のモンスターと戦闘を行うとき、ダメージ計算を行わずに相手モンスターを破壊する。」

「な、なんだと!何というモンスターを開発したんだ、インダストリアルイリュージョン社と海馬コーポレーションは!」

「俺はカードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手3 場 カタストル 伏せ2

才郷 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はサイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚!」

「ツヴァイ…」

 

 ついに、サイバー・ドラゴンとプロト・サイバー・ドラゴン以外のサイバー・ドラゴン関連のモンスターが出て来た事で、猫崎は今までの門下生や門下生に転向した連中とは格が違うと悟る。

 

「手札の魔法カードを公開する事で、カード名をサイバー・ドラゴンとして扱う。俺は永続魔法、前線基地を公開する。」

 

 

 だが、続いて発動した魔法カードに、猫崎は驚く!

 

「魔法カード、エヴォリューション・バーストを発動!場にサイバー・ドラゴンがいるとき、相手の場のカードを一枚破壊する!その伏せカードを破壊!」

「何!サイバー流ではその手の除去カードはご法度のはず!」

 

 奈落の落とし穴が破壊される。その後、才郷が口を開く。

 

「地割れや地砕き、炸裂装甲や奈落の落とし穴など、デッキを選ばず投入出来る除去カードがリスペクトに反するのであって、専用デッキで無ければ輝けないなら話は別だ。」

「なら、剣闘獣ガイザレスはいいのか。【剣闘獣】デッキで無ければ輝けないカードだぞ。」

「ガイザレスはリスペクトに反するカードだ。特殊召喚されれば場のカードをなんでも二枚破壊してしかも攻撃出来ないデメリットも無いからな。サイバー・ドラゴンの攻撃を封じるエヴォリューション・バーストとは違う。」

「…だったらゴッドバードアタックは良いな?鳥獣族デッキで無ければ入らないし、鳥獣族とゴッドバードアタックの二枚を使って、場のカードを二枚破壊だからな。」

「ゴッドバードアタックもダメだ。汎用性が高すぎる。あんなカードを使えばだれでも勝てる。」

 

 ああ言えばこう言う。こう言えばああ言う。本当に頭が痛くなってくる猫崎。

 

「永続魔法、前線基地を発動。これにより、ユニオンモンスターを手札から特殊召喚出来る。現れろ、アーマード・サイバーン!アーマード・サイバーンをツヴァイに装備!そして効果発動、ツヴァイの攻撃力を1000下げて、カタストルを破壊!」

「カタストルまで…」

「魔法カード、融合を発動!手札のサイバー・ドラゴンと場のサイバー・ドラゴンを融合!現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!これで終わりにしてやる!バトルだ、サイバー・ツイン・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「罠発動!聖なるバリア-ミラーフォース-!」

「このっ!ちっ、ターンエンドだ」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手3 場 

才郷 ライフ4000

手0 場 前線基地 

 

 

「俺のターン、ドロー!モンスターをセット。ターンエンド。」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手3 場 セットモンスター

才郷 ライフ4000

手0 場 前線基地 

 

「俺のターン、ドロー!死者蘇生を発動!蘇れ、サイバー・ツイン・ドラゴン!バトルだ、サイバー・ツイン・ドラゴンでセットモンスターを攻撃!」

「クリッターが破壊されたことで、効果発動。デッキから召喚僧サモンプリーストを手札に加える。」

「ツインドラゴンは二回攻撃出来る。ダイレクトアタック!」

「ぐっ!」ライフ4000から1200

 

「ターンエンドだ!」

 

 

猫崎 ライフ1200

手4 場 

才郷 ライフ4000

手0 場 サイバー・ツイン・ドラゴン 前線基地 

 

 

「俺のターン、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!効果発動、表側守備表示になり、サモンプリーストの効果発動!手札の魔法カード、大寒波を捨ててデッキからレスキューキャットを特殊召喚!そしてレスキューキャットを墓地に送り、デッキからコアラッコとXセイバーエアベルンを特殊召喚!俺はレベル4のサモンプリーストとレベル2のコアラッコに、レベル3のエアベルンをチューニング!!S召喚!現れろ、ミスト・ウォーム!」

「攻撃力2500?」

「効果発動、相手の場のカードを三枚まで手札に戻す!」

「バウンスとは卑劣な…だが、まだ俺のライフは残る。」

 

「バトル!ミスト・ウォームでダイレクトアタック!そして速攻魔法、イージーチューニングを発動!墓地のエアベルンを除外して、その攻撃力分ミスト・ウォームの攻撃力をアップさせる!」

「攻撃力4100!うわあああああっ!」ライフ0

 

 

「俺の勝ちだな。」

「ば、馬鹿な…。この俺が。くそっ、だがサイバー・ランカーズはまだまだ居る。俺の仇をきっと誰かが討ってくれるはずだ!」

 

 

「行きましょう、猫崎。」

「そうだな。」

 

 立ち去ろうとした猫崎と才波に、声がかけられる!

 

「ちょっと待つとよ!」

 

 気の強そうな、博多弁の女性がにらみつけている。

 

「誰だ?」

「?!福岡代表のサイバー・ランカーズ…。」

 

「猫崎に用は無いけれど、そっちのサイバー流を裏切った門下生は許せないけん!アタシとデュエルばい!」

 

 猫崎は、才波に目を向ける。

 門下生よりずっと強いのが都道府県代表。だが、今の才波なら問題なく勝てると予想する猫崎。

 

 

「猫崎とのデュエルに負けて、切り捨てたのは才災師範。裏切り者呼ばわりは受け入れがたいけれど、デュエルなら受けてたつ!」

「いい心がけけんね!さぁ…」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才波 ライフ4000

手5 場 

才野 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は譲るわ。」

「…私の先攻、ドロー!私はモンスターをセット!カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

才波 ライフ4000

手3 場 セットモンスター 伏せ2

才野 ライフ4000

手5 場 

 

 

「アタシのターン、ドロー!アタシもモンスターをセット!カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

才波 ライフ4000

手3 場 セットモンスター 伏せ2

才野 ライフ4000

手3 場 セットモンスター 伏せ2

 

 

「私のターン、ドロー!セットしていたプロト・サイバー・ドラゴンを反転召喚!そして、E・HEROプリズマーを召喚!」

「え、エレメンタルヒーロー?」

「効果発動!EXデッキのサイバー・エンド・ドラゴンを公開し、デッキからサイバー・ドラゴンを墓地へ送る。これによりプリズマーはカード名をサイバー・ドラゴンとして扱う!」

 

 遊城十代が使っていたE・HEROシリーズのカードの中に、デッキをより回しやすくなりそうなカードがあったため、才波はその中からプリズマーを選択して投入していた。

 

「手札の沼地の魔神王を捨てて効果発動!デッキから融合を手札に加え、発動!場のサイバー・ドラゴン2体を融合!サイバー・ツイン・ドラゴンを特殊召喚!」

「ツインで来たか…。元とは言え門下生だけのことはあるばい。」

 

「バトル!サイバー・ツイン・ドラゴンでセットモンスターを攻撃!」

「罠発動!ドレイン・シールド!攻撃を無効にして、その攻撃力分のライフを回復するけん!」

「カウンター罠発動!トラップ・ジャマー!」

「か、かかカウンター罠ぁ?!」

 

 想定外だったのか、動揺する福岡代表のサイバー・ランカーズ。

 

『カウンター罠を使うなんて恥知らずめ!』

『だからサイバー流から追放されるんだ!』

 

 そんな周囲の野次程度で、才波は怯まない。

 

「これで攻撃は通る!セットモンスターを攻撃!」

「プロト・サイバー・ドラゴンが…」

「そして、サイバー・ツイン・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「きゃあああああっ!」ライフ4000から1200

 

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

才波 ライフ4000

手1 場 サイバー・ツイン・ドラゴン 伏せ2

才野 ライフ1200

手3 場 伏せ1

 

 

「アンタ…サイバー流のリスペクト精神を捨てたかね?」

「私は、鮫島元師範の教えを継ぐ。才災師範のリスペクトデュエルは間違っている!」

「…アタシのターン、ドロー!魔法カード、強欲な壺を発動!カードを二枚ドロー!」

「ここで手札補強を…」

 

 

「永続罠、リビングデッドの呼び声!墓地からプロト・サイバー・ドラゴンを特殊召喚!そしてチェーンして速攻魔法、地獄の暴走召喚ッ!さぁ、デッキから現れるけんね!三体のサイバー・ドラゴン!」

「待ちなさい!地獄の暴走召喚にチェーンして永続罠、リビングデッドの呼び声!墓地からサイバー・ドラゴンを再起動!そして私もデッキからサイバー・ドラゴンを2体、特殊召喚!」

 

 互いの場にサイバー・ドラゴンが三体ずつならび、にらみ合う!

 

「ならアタシは手札から速攻魔法、フォトン・ジェネレーター・ユニットを発動!場のプロトとサイバー・ドラゴンをリリースして、デッキからサイバー・レーザー・ドラゴンを特殊召喚!サイバー・レーザー・ドラゴンの効果発動!サイバー・ツイン・ドラゴンを破壊!」

「ツインドラゴンッ!」

「アタシは永続魔法、騎士道精神を発動!これでサイバー・ドラゴン同士が戦闘を行えば、破壊されるのはそっちのサイバー・ドラゴンだけばい!バトル!」

「待ちなさい!罠発動!威嚇する咆哮!これでこのターン、貴女は攻撃宣言を行えない!」

 

『今度は攻撃封じか』

『姑息な時間稼ぎを…あんなカードで1ターンしのいで何になる?』

 

「その1ターンが貴重なんだがな。」

 

 ぼそり、と猫崎がつぶやく。

 

「…アタシは永続魔法、禁止令を二枚発動!一枚目の禁止令でサイバー・ツイン・ドラゴンを、二枚目の禁止令でサイバー・エンド・ドラゴンを宣言!」

 

 

 発動されたカードを見て猫崎は思わず目を丸くする。

 

「待て待て、リスペクトを掲げておきながら、そのカードを使うのか?というか禁止令ってありなのか?!」

『うるせぇよ!サイバー・ツイン・ドラゴンやサイバー・エンド・ドラゴンを場に出した後であのカードを使うのは問題だけど、そうでないなら別にいいんだよ!』

 

 自分だけツインやエンドを出している状況で、あのカードを使うのがダメ、という事らしい。プレイングの領域か。

 

「そうなのか。俺は別にサイバー流では無いから、俺の場にツインやエンドがいない時に、相手のツインやエンドを封じてもいいんだな。」

『良いわけないだろうが!サイバー流同士のデュエルで、自分の場にツインとエンドが居ない状況で禁止令を使って互いにツインとエンドを封じるならいいが、それ以外はリスペクト違反だ!」

 

 

 もう頭が痛くなってくる猫崎。

 やはり才災師範のサイバー流は害悪。

 

「ターンエンド!」

 

 

 

才波 ライフ4000

手1 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン リビングデッドの呼び声 

才野 ライフ1200

手0 場 サイバー・レーザー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン リビングデッドの呼び声 騎士道精神 禁止令(ツイン) 禁止令(エンド)

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、融合を発動!」

「ゆ、融合!そんな、融合先のモンスターは、禁止令で封じているばい!一体何を…」

「場のサイバー・ドラゴン三体を融合!来なさい、サイバー・エタニティ・ドラゴン!」

 

 才波が融合召喚したモンスターに驚く才野。

 

「サイバー・エンド・ドラゴンでは無いばい?!」

「ペガサス会長が新たに作った、サイバー流のカード。今の才災師範が率いるサイバー流に思うところはあっても、【サイバー・ドラゴン】に罪は無いというのが、ペガサス会長の考え!このカードは墓地に機械族の融合モンスターが居れば、相手のカード効果の対象にならず、カード効果では破壊されない!」

 

 割と強力な耐性をもつサイバー流の新たな融合モンスターだが、才野の戦意は衰えない。

 

「そんな耐性が…でも、攻撃力は2800!アタシのライフは削り切れんとよッ!」

「魔法カード、アームズ・ホール!デッキの一番上のカードを墓地に送り、デッキか墓地から装備魔法を手札に加える!パワー・ボンドが墓地に行ったか…。デッキから装備魔法、エターナル・エヴォリューション・バーストを手札にくわえ、エタニティに装備!」

「攻撃力も守備力も変わってないばい。」

「このターンで終わらせる!バトル、エタニティでサイバー・ドラゴンを攻撃!」

「っつ、まだライフは残るけんね!」ライフ1200から500

「装備魔法、エターナル・エヴォリューション・バーストの効果発動!墓地のサイバー・ドラゴンを除外して、装備モンスターは相手モンスターに続けて攻撃できる!」

「?!」

 

 サイバー・エタニティ・ドラゴンが咆哮を上げ、サイバー・ドラゴンに照準を合わせる!

 

「もう一度、サイバー・ドラゴンを攻撃!」

「アタシが…追放された門下生に負けた?」ライフ0

 

 

 茫然とへたり込むサイバー・ランカーズを放置し、猫崎と才波はその場を足早に去る。

 

 というのも、周囲の門下生達が『こんなデュエルは無効だ!』『もう一度やれば才野様が勝つ!』『ペガサス会長が開発したというそのカードを寄越せ!』『リスペクトに反するカードをデッキから抜け!』とわめきながら迫ってきたからだ。

 

 

 宮崎まで来たのにチキン南蛮も地鶏の炭火焼きも食べられなかったことで、猫崎はサイバー流が経営してる弁当屋で350円のシャケ弁や海苔弁では無く、

 一つ2100円のサイバー・グルメ弁当とサイバー・サイダー150円を二つずつ買い、新幹線に乗り込む。

 

 

 

 …才災師範は、負けるはずがないと確信していたサイバー・ランカーズのブロック代表が早速倒され、しかもかつて自分が切り捨てた才波光里が、都道府県代表のサイバー・ランカーズに勝利したと知り、茫然とする。

 

『いかがしましょうか?次は中国ブロックか四国ブロックに来るかと。』

「…あのカードたちの使用許可を出すと伝えなさい。禁断の機光龍を。」

 

 

 才災師範の言葉を聞いた相手が数秒沈黙する。

 

 

『よ、よろしいのですか?!あのカードはリスペクトに反する暴虐のカードとして、才災師範が自ら禁じたカードでは…』

「構いません。確実に伝えなさい。」

 

 才災師範は電話を切り、大きくため息をつく。

 

「本意ではありませんが…仕方ありません。すべては正しい、リスペクトデュエルを世に広めるためです。」

 

 

 同時刻、新幹線に乗って次のサイバー・ランカーズを倒しに向かう猫崎と才波は会話を楽しんでいた。

 サイバー・グルメ弁当は値段が張るだけあって、ステーキとハンバーグ、ホタテの貝柱を使った海鮮焼売、香ばしいチキングリル、アボカドが入った卵焼きに加え、トマトをくりぬき、レタスとキュウリを詰めてフレンチドレッシングがかかったサラダ。米にもこだわっていたのか、実に満足できる物だった。

 

 おまけでカードのパックがついていたが、マハー・ヴァイロだった。今のデッキには当然ながら組み込めない。

 

「…光里?」

「な、何でもないわ!」

 

 光里はパックの中身を見て驚愕していたが、ややあってそれをしまい込む。

 思わぬカードだったようだが…。まぁ、追及することもあるまい。

 

 しかも、このグルメ弁当は地方によって内容も違うらしい。一度全種類食べ比べしてみるのもありかもしれない。そう、猫崎俊二は思った。



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第17話!中国・四国ブロック!登場、禁断の機光龍達!!

アンチリスペクト物だと、サイバー流の『リスペクト精神』自体がダメという感じになる傾向にありますが、個人的に否定するべき物は『リスペクト精神』そのものでは無く、拙作のような『似非ペクト』であると思います。

無論、鮫島師範の考え自体がリスペクトの名のもとに他人を批判・否定する流派になっているのであれば、リスペクト精神そのものを否定する方向に行かないといけませんが。


 サイバー・ランカーズとして中国ブロックを担当している才川は、山口県で猫崎を待ち構えていた。

 

 

「…来たか。」

「サイバー・ランカーズの才川 雄介(さいがわ ゆうすけ)だな。」

 

 デュエルディスクを構えようとする猫崎に、待ったをかける角刈りの青年、才川。

 

「まぁ慌てるな。デュエルの前に聞きたい。何故サイバー流に逆らう?」

「サイバー流はリスペクトに反するという理由で、相手の戦術やカードを否定するからだ。」

「それが答えか」

「こっちからも聞かせて貰う。何故、サイバー流に入っている?」

「決まっているだろ?女の子にモテるからだ。」

「…は?」

 

「サイバー流の門下生は飛躍的に増大している。その中には、女性デュエリストも多い。ならば必然的に出会いも多くなる。」

「そんな理由で参加しているのか」

 

 ナンパ目的という事を公言する相手に失望する猫崎だが。

 

「…お袋がそろそろ歳でな。なるべく早く孫の顔を見せて安心させてやりたいんだ。」

 

 そう思ったら、途方も無く重い事情というギャップにツッコミする気がなくなる猫崎。

 

「…事情は分かった。そろそろ始めよう」

「そうだな。行くぞ!」

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才川 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!レスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキからXセイバー・エアベルンとライトロードハンター ライコウを特殊召喚!レベル2のライコウに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!A・O・Jカタストル!」

「光属性を抹殺するSモンスター…」

「正確には、闇属性モンスター以外のモンスターと戦闘を行うとき、ダメージ計算を行わずに破壊する効果だ。」

「…もしかしてこいつ、あのラーの翼神竜だって倒せるのか?!」

 

 その質問には答えず、猫崎はデュエルを進める。

 原作の神にカタストルの効果が通じるかどうかは未知数だ。

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 カタストル 伏せ1

才川 ライフ4000

手5 場 

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード発動!エマージェンシー・サイバー!デッキからサイバー・ドラゴンを手札に加える。そして手札からサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「サイバー・ドラゴン…ユニオンモンスターで破壊耐性をつけるか、それとも」

「そしてお前のカタストルとサイバー・ドラゴンを墓地に送り、融合召喚!」

「?!」

 

 融合のエフェクトが現れ、サイバー・ドラゴンとカタストルがその渦に飲み込まれる。

 猫崎の前世においてよく見かけた光景が再現される!

 

「現れろ、キメラテック・フォートレス・ドラゴン!」

「?!」

「流石に驚いたようだな、こいつは場の機械族とサイバー・ドラゴンを墓地に送ることでのみ特殊召喚出来る特殊なモンスター。機械族使いが相手では余りにもデュエルモンスターズのバランスを崩す為に、才災師範がリスペクトに反するとして禁じたカードだが…。お前相手なら使っていいとの許可が出ている!」

「なりふり構わないか。」

 

『さ、才川様!』

『黙って見てろ!リスペクト精神という正義で倒せないS召喚という巨悪は、リスペクトに反する悪で討伐するんだ!』

 

 門下生もそれなりに動揺しているようだ。

 

 

 

「バトル、キメラテック・フォートレス・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「させるか!速攻魔法、月の書!キメラテック・フォートレス・ドラゴンを裏側守備表示に!」

「っつ!」

 

 

 月の書の発動を見た才川が、手札の一枚に目を向ける。

 おそらく、リミッター解除だろうと想像する猫崎。

 

「メインフェイズ2で魔法カード、突然変異を発動!場のキメラテック・フォートレス・ドラゴンをリリースして、サイバー・ツイン・ドラゴンを特殊召喚!さらに永続魔法、未来融合フューチャー・フュージョンを発動!ターンエンドだ!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 

才川 ライフ4000

手3 場 サイバー・ツイン・ドラゴン 未来融合 

 

 

「俺のターン、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!このカードは召喚成功時、守備表示になる。手札の魔法カード、精神操作を捨てて、サモンプリーストの効果発動!デッキからチューナーモンスター、霞の谷の戦士を特殊召喚!レベル4の闇属性サモンプリーストに、レベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!ダークエンド・ドラゴン!」

「攻撃力2600?」

「効果発動、攻撃力と守備力を500ポイント下げて、サイバー・ツイン・ドラゴンを墓地へ送る!」

「?!」

「バトルだ、ダークエンド・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「うわあああああっ!」ライフ4000から1900

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手1 場 ダークエンド・ドラゴン 伏せ2

才川 ライフ1900

手3 場 未来融合 

 

 

「僕のターン、ドロー!未来融合の効果発動、デッキから融合素材を墓地に送り、次のターンで選択した融合モンスターを特殊召喚する。サイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴン・コア3体、サイバー・フェニックス、サイバー・ドラゴン・ドライ3体、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ2体を墓地に送る。魔法カード、オーバーロード・フュージョンを発動!」

「そのカードは!」

「墓地のサイバー・ドラゴン二体、サイバー・ツイン・ドラゴン、そして未来融合で墓地に送った10体の機械族を除外し、現れろ、キメラテック・オーバー・ドラゴン!」

「素材は13体、攻撃力は10400!」

「キメラテック・オーバー・ドラゴンの効果で、場の未来融合が墓地に送られる…。」

「まさか、サイバー流がそのモンスターを使うとは意外だ。門下生は使ってこないのに。」

 

 門下生達はサイバー・エンド・ドラゴンやサイバー・ツイン・ドラゴンに固執していたが、キメラテック・オーバー・ドラゴンならばガジェット等の機械族テーマと組み合わせればかなり柔軟なデッキを組める。にも拘わらず使ってこない点は不思議だった。

 

 

「それはな、キメラテック・オーバー・ドラゴンはその特性から大量に未来融合などでモンスターを墓地に落とす、というモンスターとの絆を断ち切りかねない戦術になりがちな事になるからだ。」

「未来融合で墓地に落として、オーバーロード・フュージョンみたいな流れはダメってことか。」

「それだけでは無い。高打点かつ連続攻撃効果を持つ為、相手に反撃の機会すら与えず倒してしまうという点。そして自分の場のカードを犠牲にするこの効果の三点から、サイバー流のカードでありながらその存在を否定されたカードだが…。これでお前は終わりだ!バトル!」

「罠発動!和睦の使者!」

「?!和睦…。戦闘を行っても無意味か…。俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手1 場 ダークエンド・ドラゴン 伏せ1

才川 ライフ1900

手2 場 キメラテック・オーバー・ドラゴン 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!ダークエンド・ドラゴンの効果発動、キメラテック・オーバー・ドラゴンを墓地に送る!」

「だが、これで攻撃力は1600!ライフは削り切れないな!」

「それはどうかな?魔法カード、死者蘇生を発動!蘇れ、A・O・Jカタストル!」

「罠発動!激流葬!これでお前のSモンスターは全滅だ!」

「カウンター罠、魔宮の賄賂!激流葬の発動と効果を無効にして破壊、相手はカードを一枚ドローする!」

「なっ…?!」

 

「バトル、ダークエンド・ドラゴンとカタストルでダイレクトアタック!」

「ぬああああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 中国ブロックを制した猫崎と光里は即急にその場を去る。

 サイバー・ランカーズと猫崎のデュエルは、サイバー流の門下生とサイバー流と手を組んでいる勢力の関係者ばかりで、味方や中立な観客はほぼいないからだ。

 

 最も、海馬コーポレーションの社員とインダストリアルイリュージョン社の社員が報道機関に紛れ込み、その内容を逐一録画、放送している。

 そのため、才災師範は報道機関に裏切り者がいると考え、一方で報道機関は才災師範に疑われていることで溝が出来つつある。

 

 

 だが、サイバー・ランカーズがリスペクトに反した禁じ手を使ったことに対する動揺が大きいのか、あまり追いかけてくる門下生はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。才川が敗れたと知った才宮 幹夫(さいみや みきお)だが、動揺は無い。

 本拠地である香川県でデッキを再調整していると、猫崎が到着したという報告が来る。

 

 

 髪の毛を七三分けで整えた後、サイバー流が作ったテーマパーク『サイバー・ランド』で待ち構える。

 やや待っていると、ざるうどんの中で軽めの昼飯を済ませた猫崎と、温かいぶっかけうどんの小を平らげた才波が到着する。

 

 

「…来たか、S使い。」

「ああ。サイバー流を終わらせるために。」

「お前も、サイバー流に入らないか?」

「何?」

「サイバー流は、政界・財界と太いつながりがある。多角経営にも手を出していて、資金源は潤沢。年に一度は合宿として旅行に行ける。組みたいデッキがあり、必要なカードがあるなら申請すれば用意してくれる。」

「……。」

「真紅眼の黒竜、メテオ・ドラゴン、デーモンの召喚、メテオ・ブラック・ドラゴンとブラック・デーモンズ・ドラゴンを3枚ずつ申請し、通った事もある…。財界の大物の令嬢にゴールドレア仕様のサイバー・ドラゴンを支給したという話もある。才災師範は少なくともケチではない。ああ見えて、デュエルモンスターズの大会だけでなく、各種スポーツや文化的な催し物についても協力的だ。元来、多趣味な方でな。アウトドアにもインドアにも造詣が深い。」

「…ああ。その辺りも調べた。」

「お前は学生から社会人になったのだろう?その辺りの事を割り切ってサイバー流に付かないか?」

 

 

 その言葉を受け、才波は猫崎を見る。

 才災師範の言動には、問題はある。しかし…資金的、物質的に多大な恩恵をサイバー流にもたらした。

 政界・財界・宗教界と報道機関に根回しを行い、門下生の数を一気に増やしサイバー流の名前を轟かせた手腕は、凡庸では無い。

 

 ケチではないという主張も同意だ。元々、そういう催し物が好きで企画側に回るのも、参加して自ら童心に帰って楽しむような人なのだ、才災師範は。

 才波は知っている。金魚すくいで手に入れた金魚を、大事に育て上げた事を。

 

 最も、その金魚は盗難にあったらしいが…。

 

 

「…俺は、今のサイバー流を肯定することは出来ない。受け入れるには、余りにも道を誤った。」

「残念だ。」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才宮 ライフ4000

手5 場 

 

「先攻は譲ろう。」

「俺の先攻、ドロー!俺はレスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキからXセイバー・エアベルンとコアラッコを特殊召喚!」

「チューナーとそれ以外のモンスター、くるか!」

「レベル2の地属性のコアラッコに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!ナチュル・ビースト!」

「攻撃力2200…。」

「このカードが場にいる限り、魔法カードが発動した時にデッキの上から二枚カードを墓地に送る事で魔法カードの発動と効果を無効にして破壊する!」

「?!魔法を封じに来たか…!」

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 ナチュル・ビースト 伏せ1

才宮 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法を封じるとは厄介な戦術だ…あの電磁波女を思い出す。馬鹿な、何故魔法カードが使えるの?!などと騒いでいたが。」

「ああ、あのイカサマか」

 

 猫崎には覚えがある。龍牙実習生の時だ。才災師範もこのイカサマのせいで、プロになるのが1年遅れたという。

 というより、才宮にもそういう経験があるのかと想像する猫崎。

 

「最も俺達サイバー・ランカーズでもブロック代表に支給されている特注品には、あの電磁波による不正も効かない。」

「…随分高性能だな。」

「サイバー流に入り、結果を出してブロック代表になれば手に入るぞ?どうだ?サイバー流に入らないか?お前ならすぐにここまで登れるだろう。」

「答えは変わらない。デュエルを続けて貰う。」

 

 

 ここで猫崎はふと思う。才災師範に不正を働いた決闘者、そして龍牙実習生、そして才宮にイカサマをしたという女決闘者。共通点があるとは思えない。

 もしや、あのイカサマを行う装置と電磁波のプロテクトをかけたデュエルディスクを流通させている人物なり組織が、あるのでは?

 

 

「そう、か。俺は相手の場にのみモンスターが存在する事で、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!行くぞ!場と墓地の光属性・機械族を全て除外して、サイバー・エルタニンを特殊召喚!」

「?!エルタニンだと!」

 

 思いもよらないモンスターが出てきた事に驚く猫崎。

 

「効果発動!このカード以外のモンスターを全て墓地に送る!自分の墓地のモンスターを無差別に除外する事と、自分の場のモンスターも巻き込まれるため、かつて才災師範がリスペクトに反するとして禁じたカードだが、こいつの能力ならSモンスターだろうと関係ない!」

「ぐっ…」

 

『さ、才宮様…』

『あ、相手はサイバー流を潰そうとしているんだ、これぐらいは許容しろ!』

『…リスペクトとは、なんなんだ?』

 

 やはり禁じたカードを使うサイバー・ランカーズに対して思う所はあるようで、サイバー流の門下生の信念が揺らいでいるようだ。

 

「攻撃力は除外したモンスターの数×500、今ではたったの攻撃力500のモンスターだが…魔法カード、突然変異を発動!場のレベル10のエルタニンをリリース!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

「罠発動!奈落の落とし穴!」

「何ぃ?!」

 

 

 自信満々で呼び出したモンスターが除去され、才宮は動揺する。

 割とえげつないコンボだな、とちょっと感心する猫崎。

 

「…エルタニンと突然変異のワンターンキルコンボを躱すとは…。素晴らしい!才災師範は除去カードを使えば誰でも勝てるというが、俺はそう思わない。何故なら除去カードをデッキに入れても引き当てられなければ意味が無いからだ!」

「その通りだ。除去カードを入れれば勝てるほど、デュエルモンスターズは甘くない。」

「いいぞ、いいぞ!才災師範はお前とのデュエルなら、こういった除去カードを使う許可を出し続けてくれるだろう!猫崎俊二、サイバー流に入れ!俺と共に!除去カードを含めたあらゆる戦術を用いたデュエルを行い、高みを目指そう!」

「断る!俺は才災師範が率いるサイバー流には入らない!」

「…そうか。だが俺のターンはまだ終わっていない!俺は異次元からの帰還を捨てて、装備魔法D・D・Rを発動!ゲームから除外されているサイバー・ドラゴンを特殊召喚!そしてジェイドナイトを通常召喚!」

 

 現れるのは、戦闘破壊されればデッキから光属性・機械族・Lv4のモンスターをサーチ出来る機械族。

 

バトルだ、サイバー・ドラゴンとジェイドナイトでダイレクトアタック!」

「…」ライフ4000から1900、1900から900

「ターンエンドだ!」

 

 

 

 

猫崎 ライフ900

手4 場 

才宮 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン ジェイドナイト

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、精神操作を発動!サイバー・ドラゴンのコントロールを得る!」

「俺のサイバー・ドラゴンを奪うか!だがその効果でモンスターを奪っても攻撃もリリースも出来ない。」

 

 才宮のセリフだが、精神操作で奪っても制約が大きい。これはS召喚が登場してから、評価が変わった一枚だ。

 

『卑怯だぞ!サイバー・ドラゴンを奪うなど』

『相手へのリスペクト精神は無いのか!』

 

 周りの門下生も一斉に非難するが、猫崎は顔色一つ変えない。

 

 

「チューナーモンスター、エアベルンを召喚!レベル5のサイバー・ドラゴンに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!メンタルスフィアデーモン!」

 

『くっ、サイバー流のエースであるサイバー・ドラゴンを使ってS召喚されるとは…。』

『なんと醜い怪物だ。』

 

 割と落ち込むメンタルスフィアデーモン。

 

 

「精神操作で奪ったモンスターを使ってS召喚?!受け継がれる力か、生贄の祭壇と組み合わせるしかできなかったカードにこんな可能性が産まれるか…」

「死者蘇生を発動!蘇れ、ナチュル・ビースト!バトル!メンタルスフィアデーモンで、ジェイドナイトを攻撃!」

「ぐっ!だが、ジェイドナイトの効果発動!デッキからサイバー・ドラゴン・ツヴァイを手札に加える!」ライフ4000から2300

「メンタルスフィアデーモンの効果で、戦闘破壊したモンスターの攻撃力分ライフを回復。」ライフ900から1900

 

「いけ、ナチュル・ビースト!ダイレクトアタック!」

「だが、まだライフは残る!」

「速攻魔法、イージーチューニング!墓地のチューナーモンスター、エアベルンを除外し攻撃力を1600ポイントアップ!」

「うわああああっ!」ライフ0

 

 

 デュエルに勝った猫崎だが、『今のデュエルではっきり分かった!お前にはサイバー流でもやっていける才能がある!サイバー流に入ろう!!』

 と執拗に勧誘されたので、何というかもう怖くなった猫崎は才波の手を引いて逃げ出す。

 

「ちょっと待って!まだコースターにも観覧車にも乗ってない!売店にも…2100円払って入場したのに、こんなのあんまりよ!」

 

 と手を引かれながら走る羽目になった才波は嘆いていたが、猫崎の足は止まらない。

 

 

 

 

 

 

 九州、中国、四国にいるサイバー流のエースを立て続けに撃破。こうして猫崎は京都へ向かう。

 

「そうですか。やはりリスペクトに反した禁断の機光龍どもでは、猫崎を倒すのは無理なようですね。しかし、まだまだサイバー・ランカーズは残っている。勝負はこれからです」

 

 才災師範には、まだまだ余裕がある。

 

『才災師範!近畿ブロックの才園様がデザインした物を、カード化させることに成功しました!』

「ほう…ううむ。このカードは私の正しいリスペクト・デュエルの精神に反しますが…相手はリスペクト精神を微塵も持たない異端の猫崎俊二。彼女だけ使用許可を出します!」

『かしこまりました。そのようにお伝えします。』

 




アンチリスペクト物だとなぜか、キメラテック・オーバー・ドラゴンがリスペクトに反するカード扱いされているキメラテック・オーバー・ドラゴンですが、そもそも地下デュエルの時にカイザーがデッキに入れています。

元々持っていたカードをマッドドッグ犬飼に使っただけで、別にヘルカイザーになってから入れたカードではありません。

アニメだとサイバー・エンド・ドラゴンが一子相伝のカードなので、むしろこちらがアンチリスペクト物の門下生にばらまかれていてもいい気がしますが…。キメラテック・オーバー・ドラゴンだらけの門下生軍団はちょっとヤバいか?

サイバー・エルタニンとキメラテック・フォートレス・ドラゴンは拙作のサイバー流だと否定しそうなのでそれも理由付けしています。


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第18話!近畿・中部ブロック!思わぬ罠カードと、暗躍する才災!

才災勝作はただただ哀れです。イカサマされた事、その後除去やカウンター罠を使われ、自身の正しいデュエルではプロの世界で勝てないという現実を突きつけられた事、甘言に乗って器でもないのにサイバー流の師範にまで上り詰めてしまったこと。

変われる可能性はありましたが…変われなかったのが彼です。

最も綺麗な才災だと鮫島校長の活動を支えるポジションになるので、サイバー流を大きくしつつ、各種催し物を行って交流を深めるなどの活動を精力的に行い。
GX二期におけるクロノス臨時校長とナポレオン教頭の暴走を鮫島校長が抑られるので、光の結社についても早期に対応して大事にならず…。

あれ?綺麗な才災っていい奴では?


 

「京都か。」

 

 前世において、修学旅行できたことがあるが、再度訪れる事になるとは思っていなかった猫崎。

 

 

「まさか、本当にサイバー流に挑む新人が出てくるとは思わなんだわ。」

 

 黒い振袖に身を包み、黒髪をサイドテールに纏めた女性が現れる。

 

「そして、その彼女さんが、まさか元門下生とはなぁ…。」

「私を憶えているのですか?!」

「そうやで。ウチは手掛けた浴衣を買うてくれた門下生の事は全員覚えてる。」

「…今でも、大事にしています。」

「それは良かった。そして…」

 

 

 ジッと猫崎を見つめていたサイバー・ランカーズだが、ややあって口を開く。

 

「…なぁ、本当に新人なん?」

「どういう事でしょうか?」

「新人にしては、妙に落ち着いているやん。正直、才波はんより15歳ぐらい年上でも違和感無いわ。」

 

 

 言葉に詰まる猫崎。

 憑依者、と言う事はこの世界の誰にも話していない。墓まで、持っていくつもりだ。

 

「俊二は両親から愛されなかった。だから少しでも早くひとり立ちする必要があったわ!」

「へぇ…。まぁ、これで聞きたいことはもう無いわ。だから…」

 

 

 スッとデュエルディスクを構える女性。

 

「手短に済ませたるわ。ウチはサイバー・ランカーズの才園 麗華(さいぞの れいか)。サイバー流所属の決闘者として、あんたを倒す!」

「…行くぞ!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才園 ライフ4000

手5 場 

 

 

「ウチの先攻、ドロー!サイバー・ドラゴン・コアを召喚!」

「コア…!」

 

 ツヴァイ、ドライを投入してきたサイバー・ランカーズが居た事で予測はしていたが、これは中々厄介な事になったと猫崎は考える。

 だが、対戦相手の才園は気にせずデュエルを続ける!

 

「効果発動!デッキからサイバー・リペア・プラントを手札に加えるで。さらに魔法カード、機械複製術を発動!コアは場と墓地に存在する限りカード名をサイバー・ドラゴンとして扱うんや!」

「という事は…」

「二体のサイバー・ドラゴンを特殊召喚!カードを2枚伏せてターンエンドや!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才園 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・コア 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!メインフェイズ開始時に魔法カード、大寒波を発動!」

「大寒波?これでこのターン、あんさんは他に魔法カードを発動できず、魔法・罠カードのセットも出来ないんやで?」

 

 想定外のプレイングだったのか、驚く才園。

 

「レスキューキャットを召喚!レスキューキャットを墓地に送り、デッキからライトロードハンターライコウとX-セイバーエアベルンを特殊召喚!行くぞ、レベル2のライコウにレベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!現れろ、A・O・Jカタストル!」

「攻撃力2200で、闇属性モンスター以外を破壊するSモンスター…!」」

「バトルだ!カタストルでサイバー・ドラゴンを攻撃!そしてカタストルの効果発動!サイバー・ドラゴンを破壊!」

「…厄介やな。」

「ターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 カタストル 

才園 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・コア 伏せ2

 

「…ウチのターン、ドロー!ウチはプロト・サイバー・ドラゴンを召喚。このままターンエンド。このエンドフェイズに、大寒波の効果が切れる…。」

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 カタストル 

才園 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・コア プロト・サイバー・ドラゴン 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は二体目のレスキューキャットを召喚!効果発動!このカードを墓地に送り、デッキから異次元の狂獣とエアベルンを特殊召喚!」

「罠発動!スリーカード!」

「?!」

 

 まさか、あのサイバー流が…この除去カードを使うとは思わなかった猫崎。

 一方、そのイラストに目を見開く才波。

 

 相手の場に、X-セイバー・エアベルン二体と召喚僧サモンプリースト。こちらの場にサイバー・ドラゴン、プロト・サイバー・ドラゴン、サイバー・ドラゴン・ツヴァイにパワー・ボンド…。

 

 

 【猫シンクロ】と【サイバー・ドラゴン】の対決を象徴したようなカードだ。

 

 

「流石に驚いたみたいやな?これはウチがデザインしたのを、カード化してくれた物や。才災師範の教えには反するけれど…デザインしたのがウチで、相手があんさんという事で今回だけ特別に許可をもろたわ。このカードはウチの場に同名カードが3体ある時、相手の場のカードを3枚まで破壊する!よってカタストルと異次元の狂獣とエアベルンを破壊!」

「やってくれる…。俺は魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のレスキューキャット二体とエアベルン2体とカタストルをデッキに戻して、二枚ドロー!カードを二枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手3 場 伏せ2

才園 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・コア プロト・サイバー・ドラゴン 伏せ1

 

 

「ウチのターン、ドロー!魔法カード、サイバー・リペア・プラントを発動!デッキからサイバー・ドラゴンを手札に加えて、魔法カード、融合を発動!場のサイバー・ドラゴン・コア、プロト・サイバー・ドラゴンと手札のサイバー・ドラゴンを融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

「出てきたか…。」

「バトル!サイバー・エンド・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「リバースカードオープン!聖なるバリア-ミラーフォース-!」

「それにチェーンして手札から速攻魔法、融合解除を発動!サイバー・エンド・ドラゴンの融合を解除して、融合素材のモンスターを守備表示で特殊召喚!」

「躱された!だが、サイバー・ドラゴンは破壊!」

 

 

 これで攻撃を凌いだ、と思った猫崎の前に、融合のエフェクトが現れる。

 目を見張る猫崎。

 

「速攻魔法、瞬間融合!場のサイバー・ドラゴン・コア、プロト・サイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴンを融合!もう一度現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!ダイレクトアタック!」

「っつ!罠発動!和睦の使者!このターン、俺が受ける戦闘ダメージを0にする!」

「?!ミラフォと和睦で二重の守りをしかけとったんか…。ウチはメインフェイズ2でリバースカードオープン!亜空間物質転送装置!サイバー・エンド・ドラゴンを除外!ウチはこれでターンエンド。このエンドフェイズにサイバー・エンド・ドラゴンは戻ってくるでぇ。」

 

 

『これはもう才園様の勝ちだわ!』

『自分だけS召喚を独り占めにするような奴に、逆転なんて無理よ!』

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手3 場 

才園 ライフ4000

手0 場 サイバー・エンド・ドラゴン

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は、レスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキから逆ギレパンダとX-セイバーエアベルンを特殊召喚!レベル3の逆切れパンダにレベル3の地属性、エアベルンをチューニング!S召喚!ゴヨウ・ガーディアン!」

「あらま。中々良いセンスのカードやな。」

 

 ゴヨウ・ガーディアンの見た目を褒める決闘者など、前世を通して一人も知らない猫崎は驚く。

 

「バトルだ、俺はゴヨウ・ガーディアンでサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

「攻撃力はこちらが上、さぁ何を仕掛けてくるんや?」

「速攻魔法、イージーチューニング!墓地のチューナーを除外し、その攻撃力分攻撃力をアップ!これでゴヨウ・ガーディアンの攻撃力は4400!」

「わずかに超えられたか…!」ライフ4000から3600

「そしてゴヨウ・ガーディアンの効果発動!戦闘で破壊した相手モンスターを、俺の場に表側守備表示で特殊召喚!」

「な、なんやて?!」

 

『サイバー・エンド・ドラゴンを奪うなんて!』

『なんて卑怯なの!』

 

 

 まぁ、この効果はやはり批判されるよなぁ、と思う猫崎。

 

「ターンエンドだ」

 

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手2 場 ゴヨウ・ガーディアン サイバー・エンド・ドラゴン 

才園 ライフ3600

手0 場 

 

「ウチのターン、ドロー!っつ…死者蘇生を発動。墓地から…サイバー・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚。」

 

 墓地にカタストルを残していたら厄介な事になった、と安堵する猫崎。

 

「ターンエンド。」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手2 場 ゴヨウ・ガーディアン サイバー・エンド・ドラゴン 

才園 ライフ3600

手0 場 サイバー・ドラゴン

 

 

「俺のターン、ドロー!サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃表示に変更。バトル!ゴヨウ・ガーディアンでサイバー・ドラゴンを攻撃!」

「きゃっ!」ライフ3600から2900

「ゴヨウ・ガーディアンの効果で俺の場にサイバー・ドラゴンを守備表示で特殊召喚!サイバー・エンド・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「きゃあああああああっ!」ライフ0

 

 

 放心してへたり込む才園。

 ここに来てツヴァイ、ドライを使用してきた。学園時代、一度も対峙できなかった丸藤亮もきっとこれらのカードを投入して待ち構えているだろう。

 さらに気を引き締めて、次なるサイバー・ランカーズを打倒すべく長野へ猫崎は向かう前に、一泊する。

 

 

 

 

 

 京都のホテルで就寝した猫崎と才波。

 

 

 同時刻。才災は長野に居た。

 才災の前で一組の男女がデュエルを行ったが、決着がついた。片方の男性が膝をつく。

 

 

「…決着ですね。才獏 良(さいばく りょう)。君をブロック代表から降格します。」

「ま、待ってください!何故…。俺は、ずっと才災師範の教えを重んじてきていたのに!」

「ブロック代表の入れ替えデュエルで負けたからです。」

「だ、だとしても!猫崎が来る直前で!」

「これは決定事項です。」

 

 

「そういう事よ。」

「ぐううううっ!さ、才田!お、覚えておけよ!すぐにブロック代表の座を取り戻してやる!」

 

 

 捨て台詞を吐きながら、出ていく才獏。

 

「では才田さん。サイバー流に刃向かう愚かな猫崎の事、よろしくお願いいたしますよ。」

「任せてください。」

「これが、ブロック代表に支給している、サイバー・ドラゴンの派生カードとサポートカードです。回し方は。」

「大丈夫。先ほど見て学びました。」

「それでこそ、サイバー・ランカーズです。では頼みましたよ。」

 

 

 ニッと、才田は笑う。

 その不敵な笑みを見て、才災は長野を発つ。

 

 

 

 

 翌日。新幹線に乗って長野へ向かっている猫崎と才波。

 だが、才波が思わず声を上げる。

 

「嘘でしょ!」

「どうした…?」

 

 目線を追うと、電光掲示板ニュース速報が流れている。

 

「中部ブロック代表のサイバー・ランカーズが入れ替わり?」

「ブロック代表は早々入れ替わらないのでは?」

「そうよ。そして猫崎と戦うのだから、入れ替えなんて才災が認めるとは思っていなかったけれど…。」

 

 

 

 しばらくして、猫崎は長野に到着する。

 到着早々、猫崎の前に数名の男女が現れる。

 

 中央の若い女性が歩く度に、その豊かなふくらみが揺れる。

 前世を通してここまで発育の良い人物を見たことが無い猫崎だが、隣から冷たい視線を感じたため視線を相手の顔に向ける。

 

 メイド服に身を包み、長い黒髪をツインテールに流した女性が口を開く。

 

 

「私が新たにサイバー・ランカーズの中部ブロック代表になった才田 智子(さいだ ともこ)よ。へぇ、あんたがサイバー流に逆らうS召喚使い?」

「そうだ。」

「…貴方を倒せば、私はサイバー流継承者の丸藤亮との入れ替えデュエルを挑める。」

 

 その言葉に、才波が反応する。

 

「都道府県代表からブロック代表になっただけでも凄いのに、継承者になろうというの?」

「当然でしょ。決闘者なら、どこまでも高みを目指すもの。継承者になった次は、海馬瀬人なんていいかもしれないわね…。さぁ、構えなさい!」

 

 飽くなき野心と向上心。才災師範がこの決闘者を急遽ブロック代表に押し上げたのはそこにあるのだろうと予想する猫崎。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才田 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺はレスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキからXセイバー・エアベルンとライトロードハンターライコウを特殊召喚!」

「レベルの合計は5か。」

「レベル2のライコウに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!来い、A・O・Jカタストル!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 カタストル 伏せ1

才田 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード発動!エマージェンシー・サイバー!デッキからサイバー・ドラゴンを手札に加える。相手の場にのみモンスターが存在する事で、サイバー・ドラゴンを守備表示で特殊召喚!カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 カタストル 伏せ1

才田 ライフ4000

手4 場 サイバー・ドラゴン 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ、カタストルでサイバー・ドラゴンを攻撃!」

「永続罠発動!サイバー・ネットワーク!場にサイバー・ドラゴンが存在している時、デッキから光属性・機械族モンスターを除外できる!私は、サイバー・ドラゴン・ドライを除外!そして除外されたドライの効果発動!場のサイバー・ドラゴンを選択、選択したモンスターは戦闘でも効果でも破壊されない!」

「…俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 カタストル 伏せ2

才田 ライフ4000

手4 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ネットワーク(0)

 

 

「私のターン、ドロー!サイバー・ドラゴンを攻撃表示に変更!そしてサイバー・ネットワークの効果発動!デッキから二枚目のドライを除外して、破壊耐性を与えるわ。バトル!サイバー・ドラゴンでカタストルを攻撃!」

「破壊耐性を与えられていても、攻撃力はこちらが上!」

「それはどうかしら?速攻魔法、リミッター解除を発動!攻撃力は倍になる!」

「っつ!」ライフ4000から2000

 

 舐めていた訳では無いが、カタストルを正面突破された事で猫崎は目を細める。

 

「へぇ、そんな顔も出来るんだ…私はこれでターンエンド。エンドフェイズにリミッター解除の効果が発動するけれど、サイバー・ドラゴンは破壊されない。最も、攻撃力は戻るけれど。」

 

 

猫崎 ライフ2000

手4 場 伏せ2

才田 ライフ4000

手4 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ネットワーク(1)

 

 

「俺のターン、ドロー!モンスターをセットしてターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ2000

手4 場 セットモンスター 伏せ2

才田 ライフ4000

手4 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ネットワーク(1)

 

 

「私のターン、ドロー!…来たものは仕方ない。私はサイバー・ドラゴン・ドライを召喚!効果発動、場のサイバー・ドラゴンのレベルを5にする!」

「レベルを合わせた?何を狙っている?」

 

 内心、X召喚をするのではと警戒しながら、猫崎は聞くが。

 

「この効果がなんであるのか知らない。バトル!サイバー・ドラゴン・ドライでセットモンスターを攻撃!」

「破壊されたクリッターの効果発動!デッキからレスキューキャットを手札に加える!」

「意外と脆かったわね、S使い!私はサイバー・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「罠発動!和睦の使者!このターン、俺は戦闘ダメージを受けない!」

「クリッターを犠牲にして次につなげたか。私はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ2000

手4 場 伏せ1

才田 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・ドライ サイバー・ネットワーク(2) 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!死者蘇生を発動!蘇れ、A・O・Jカタストル!」

「またそいつかっ!」

「そしてレスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキからXセイバー・エアベルンと逆切れパンダを特殊召喚!レベル3の逆切れパンダに、レベル3の地属性Xセイバー・エアベルンをチューニング!S召喚!ゴヨウ・ガーディアン!」

「攻撃力2800!レベル6にしては破格の攻撃力ね…」

 

「バトルだ、ゴヨウ・ガーディアンでサイバー・ドラゴンを攻撃!」

「私はサイバー・ネットワークの効果発動、デッキから二枚目のサイバー・ドラゴンを除外する!」

「だが、サイバー・ドラゴンは破壊する!そしてゴヨウ・ガーディアンの効果発動!俺の場に表側守備表示で特殊召喚する!」

「…その攻撃力でその効果。話には聞いていたけれどおかしくない?」

「だからチューナーには地属性モンスターという制限が課せられている。A・O・Jカタストルでサイバー・ドラゴン・ドライを攻撃!そして効果発動!サイバー・ドラゴン・ドライを破壊する!」

 

 二体のSモンスターが、才田の場をがら空きにする。

 

「俺はこれでターンエンド!」

「エンドフェイズに速攻魔法、サイクロンを発動!破壊するのは、私のサイバー・ネットワーク!そしてサイバー・ネットワークの効果発動!除外されているサイバー・ドラゴンと二体のドライを私の場に特殊召喚!」

 

 

 

猫崎 ライフ2000

手3 場 カタストル ゴヨウ・ガーディアン サイバー・ドラゴン 伏せ1

才田 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・ドライ サイバー・ドラゴン・ドライ 

 

 

 

「私のターン、ドロー!…私は速攻魔法、フォトン・ジェネレーター・ユニットを発動!場のサイバー・ドラゴン・ドライ二体をリリースして、デッキからサイバー・レーザー・ドラゴンを特殊召喚!サイバー・レーザー・ドラゴンの効果発動!ゴヨウ・ガーディアンを破壊する!」

 

 破壊光線が、ゴヨウ・ガーディアンを爆殺する!

 

「だが、サイバー・レーザー・ドラゴンでカタストルは破壊できない!」

「猫崎。サイバー流のリスペクト・デュエルを才災師範は除去カードを使わない事と定義していたけれど…鮫島元師範のころは違う。」

 

 耳を傾ける猫崎。

 

 

「鮫島元師範がいうリスペクト・デュエルとは。相手の事を考え、あらゆる可能性に対応したデュエルの事を指す。」

「カタストルにも対応できると?だが既にサイバー・ドラゴン・ドライは全て墓地だ。」

「カタストルの効果は、闇属性モンスター以外と戦闘を行うときに発動する。ならば、属性を変えればいい。装備魔法、幻惑の巻物をサイバー・レーザー・ドラゴンに装備!」

「?!装備モンスターの属性を変更できるカード…。」

「当然私が宣言するのは、闇属性!」

 

 レーザードラゴンがメタリックなブラックに変わっていく。さしずめ、サイバー・ドラゴンのシャドウバージョンと言った所か。

 これはこれでアリだな、と内心ソリッドビジョンの秀逸さに感動する猫崎。前世で猫崎はシャドウバージョンのサイバー・ドラゴンを持っていなかった為、使っている決闘者を羨ましく思っていた。

 

 なおこの機能は市販のデュエルディスクには無く、サイバー・ランカーズのブロック代表に支給されているデュエルディスクの機能と言う事が発覚し、猫崎は盛大に落ち込む事になる。

 

 

「バトル!サイバー・レーザー・ドラゴンでカタストルを攻撃!」

「カタストルが二回も破壊されるとは!」ライフ2000から1800

 

「私のカードは返してもらうわ。行け、サイバー・ドラゴン!奪われたサイバー・ドラゴンを攻撃!」

 

 まさかの展開に、才波は驚く。

 

「ゴヨウとカタストルを一ターンで処理…。」

 

 無論、ブラック・ホールやミラフォなどの汎用性の高い除去カードを使えば可能である。だが、才田が使ったのはそういうカードでは無い。

 これが、ブロック代表と門下生の違いか、と力の差を思い知らされる才波。

 

「ターンエンド。さぁ、どうするかしら?」

 

 

猫崎 ライフ1800

手3 場 伏せ1

才田 ライフ4000

手2 場 サイバー・ドラゴン サイバー・レーザー・ドラゴン 幻惑の巻物(闇)

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード発動!貪欲な壺!墓地のレスキューキャット二体とチューナーモンスター、エアベルン二体とカタストルをデッキに戻して、二枚ドロー!」

「ここで手札増強魔法を引き当てるか。それでいい、それでこそ倒しがいがあると言う物よ!」

「召喚僧サモンプリーストを召喚!効果発動、守備表示になる。手札の魔法カード、精神操作を捨てて効果発動!デッキから二体目のサモンプリーストを特殊召喚!二体目のサモンプリーストの効果発動、手札の大寒波を捨てて、デッキからレスキューキャットを特殊召喚!そしてこのカードを墓地に送り、デッキからチューナーモンスター、エアベルンを二体特殊召喚!」

「レベル7のS召喚を二体行うつもり?!」

 

「レベル4のサモンプリーストに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!ダーク・ダイブ・ボンバー!さらにレベル4の魔法使い族のサモンプリーストに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!アーカナイト・マジシャン!アーカナイト・マジシャンの効果発動!魔力カウンターが二つ乗る!」

「攻撃力400から2400に…、魔導戦士ブレイカーのように、魔力カウンター一つにつき、攻撃力が1000ポイントアップする効果が?」

「そうだ。そして魔力カウンターを取り除き、相手の場のカードを破壊する!サイバー・ドラゴンとサイバー・レーザー・ドラゴンを破壊!」

「サイバー・レーザー・ドラゴン!」

 

 一気に場をがら空きにする猫崎。

 

「バトルだ、ダーク・ダイブ・ボンバーでダイレクトアタック!」

「まだよ!まだライフは残る!」

「いいや!速攻魔法、イージーチューニングを発動!墓地のチューナーモンスターを除外し、その攻撃力分、攻撃力をアップする!エアベルンを除外して、ダーク・ダイブ・ボンバーの攻撃力は4200になる!」

「くっ…ブロック代表になって、あと少しでサイバー流継承者の座が狙えるという所で…いやああああああっ!」ライフ0

 

 

 派手な悲鳴を上げて、才田は倒れる。

 残るサイバー・ランカーズのブロック代表は東北・北海道…そして、関東のみ。

 

 

 東北ブロックへ出発するべく、ホテルに泊まる猫崎と才波。

 軽く雑談を行い、ゆっくりと就寝する。

 

 

 

 同時刻。

 

「ど…どいつもこいつも役立たずめぇ!」

 

 才災は怒声を上げながら、椅子を蹴り倒す!

 職人が精魂込めて作り上げたオーダーメイドの椅子は大破して、残骸に成り下がる。

 椅子の破片が直撃した、精緻なつくりのチェス盤は砕けて燃えないゴミとなる。

 

「はぁ、はぁ…。」

 

 連戦連敗を聞いた政界や財界の重鎮から叱責を浴び、才災は多大なストレスを感じていた。

 

 一勝。一勝すればいい。それがなぜできない?

 

 門下生なら仕方ない。未熟であり、自分の『リスペクト・デュエル』を完璧に受け継いでいない。

 だがプロは別だ。その中でも最上級のデュエル・エリートが次々と倒されているのはどういう事だ?

 

 大きな鏡の前で、才災は呼吸を整える。残っているのは、才澤…。期待は出来ない。そもそも、バーンやコントロール奪取に対して寛大なところがあって前から気に入らなかった。

 ああ、そういえばあの永続罠の許可申請を出していたな。まぁ、それで勝てるなら許可してやるとしよう…。

 

 

 そうだ、北海道には鮫島元師範が居る。鮫島なら…勝つだろう。あの男が手柄を立てるのは気に食わないが、やむを得ない。

 

 この際だ、ブロック代表に支給しているサイバー・ドラゴンの派生カードを…いや、ダメだ!また私のサイバー流師範の座を狙って来た時、阻止できなくなるかもしれない!

 

 それに。今まで温存してきた、丸藤亮もいる。最強戦力は未だ残っている!

 おっと、そういえば関東ブロックの才魔を降格させないといけない。



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第19話!東北ブロック!嫌われる戦術と、鮫島元師範!

 秋田に到着した猫崎は、サイバー・ランカーズが居る道場へ向かう。

 

 

「残るは東北、北海道と関東のみ。ようやく終わりが見えてきた。」

 

 

 だが、まだ気は抜けない。最大の敵であろう丸藤亮が残っている。

 

 

「まさかここまで突破されるなんて。」

 

 白い肌が印象的な、左目に眼帯をつけた黒髪ポニーテールの女性が現れる。

 才田ほどではないが、見事な豊乳の持ち主だ。

 

「東北ブロックのサイバー・ランカーズ、才澤 頼子(さいざわ よりこ)だな。」

「ええ…。デュエルの前に、一つ聞くわ。サイバー流を潰してどうしたいの?」

「サイバー流は相手の戦略と戦術を否定する。そんな流派を野放しにしたらカードゲーム界は衰退する。」

「貴方は、一方的にワンターンキルしたりされたりするが、発展すると思っているの?」

「…貴女がサイバー流に入ったのは、そういうワンサイドゲームをする連中を取り締まってくれるからか?」

「そうよ。対策カードを引けない方が悪い、という風潮がまかり通っていい訳無いもの。禁止・制限のリストはもっと増やさなければならないわ。それかエラッタが必要。」

「そこは同意だ。ダーク・ダイブ・ボンバーの効果に才災師範が制約を課したが…これは個人的に英断だと思っている。だが、サイバー流の利点はそれだけだ。」

 

 

 軽くかぶりを振って、才澤は告げる。

 

「貴方は。何故才災師範のサイバー流がここまで大きくなったと思っているの?」

「政界・財界・宗教界と報道機関と手を組んだからだろう?」

「それだけでは無いわ。イカサマをする連中に、相手のカードを破り捨てる屑。そういった連中を才災師範は決して許さない。」

 

 

 そういえば。デッキを盗んだラーイエロー生を容赦なく退学にしていた事を思い出す猫崎。

 いじめを助長する癖に、そういう所は憎むのか。詐欺師が強盗殺人犯を憎むような印象を感じる猫崎。

 

 

「それだけでは無いわ。私にはかつて、効果ダメージを与える魔法・罠カードを中心にしたデッキを使っていた友人がいたわ。」

「昼夜の大火事とか、火炎地獄とか、ご隠居の猛毒薬とかか?」

「そうよ。その結果、どうなったと思う?誰もその子とデュエルをしてくれなくなったわ。『謹んで遠慮させてもらう』『お前のプライドを満足させる為だけの相手なんてまっぴら』…と。」

「それは…。」

 

 軽く眼帯に触れる才澤。

 

「他にもカウンター罠を多用する友人がいたけれど、同じように誰もデュエルをしてくれなくなったわ。才災師範がその手のカードを禁じる方針に切り替えた時、それなりの数の門下生が賛同したのは、そういう戦術を嫌う門下生、または使った結果、周りから嫌われた門下生が居たからよ。」

 

 どんな戦術を使おうと自由ではある。だが、受けが良い戦術と受けが悪い戦術はある。

 

 思えば、前世で見た遊城十代VS綾小路のデュエルにて、バーンカードを使われた十代が「何だよ、そんなカードばっかりじゃん」と言っている。

 あの十代でさえバーンデッキに対してはやや不満を持つのだから、彼より心の狭い決闘者がどういう行動をとるのかは想像できる。

 

 その土壌がサイバー流をここまで大きくさせる要因であった事をしる猫崎と才波。だが、才災師範は既に越えてはいけない一線を越えている。

 

 

「…貴女は、才災校長がデュエルアカデミアの入学試験の筆記に、リスペクト精神を問う問題を出し、それに対して否定的な生徒を不合格にしたうえで、実技試験においてサイバー流を定着させるためのヘイトタンクを入学させていた事を知っているか?」

「リスペクトを問う問題は、国語の問題って聞いているわ。そもそもデュエルアカデミアは私立、教育方針に合わないなら分校に行けばいいでしょう?…実技については初耳だけど…その件については貴方を倒した後で調べるまでよ。」

 

 

 才澤はサイバー流謹製のデュエルディスクを構える。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才澤 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は貰うわ。私のターン、ドロー!サイバー・ヴァリーを召喚。魔法カード、機械複製術を発動!デッキから二体のサイバー・ヴァリーを特殊召喚!」

「攻守0だが、その効果は…。」

「攻撃対象になった時、このカードを除外してバトルフェイズを終了させる。カードを一枚伏せて、ターンエンド。」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

才澤 ライフ4000

手3 場 サイバー・ヴァリー サイバー・ヴァリー サイバー・ヴァリー 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はチューナーモンスター、霞の谷の戦士を召喚!魔法カード、精神操作を発動!サイバー・ヴァリーのコントロールを得る!」

「…!なるほど、サイバー・ヴァリーの効果で二枚ドロー狙い…いえ、チューナーとそれ以外でレベルの合計が5で、どちらも地属性では無い!永続罠、サイバー・サモン・ブラスターを発動!」

 

 発動したのは、サイバーの名を冠する永続罠だが、その効果を知っている猫崎は問いかける。

 

「才災師範の教えでは、バーンはダメという事だが。」

「許可は頂いているわ。さぁ、どうするのかしら?」

 

 

『才澤様…』

『黙って見て居ろ、S召喚とかいうのを独占している奴にはこれぐらいしないとわからないんだ!』

 

 

「レベル1のサイバー・ヴァリーに、レベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!A・O・Jカタストル!」

「サイバー・サモン・ブラスターの効果発動!300ポイントのダメージを与える!」

「…バトルだ、サイバー・ヴァリーを攻撃!」ライフ4000から3700

「サイバー・ヴァリーの効果発動!除外してバトルフェイズを終了する!」

 

 

 猫崎にとっては想定内の動き。

 

 

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ3700

手3 場 カタストル 伏せ1

才澤 ライフ4000

手4 場 サイバー・ヴァリー サイバー・サモン・ブラスター

 

 

「私のターン、ドロー!サイバー・ラーヴァを召喚!ターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ3700

手3 場 カタストル 伏せ1

才澤 ライフ4000

手4 場 サイバー・ヴァリー ラーヴァ サイバー・サモン・ブラスター

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は、レスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキからコアラッコとX-セイバーエアベルンを特殊召喚!レベル2の地属性のコアラッコに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!ナチュル・ビースト!」

「魔法を封じるSモンスター…」

 

「バトル!ナチュル・ビーストでラーヴァを攻撃!」

「サイバー・ラーヴァの効果で戦闘ダメージは0、そしてサイバー・ラーヴァが破壊された事で、デッキから二体目のサイバー・ラーヴァを特殊召喚!そしてサイバー・サモン・ブラスター!」

「っつ!カタストルで二体目のラーヴァを攻撃!」ライフ3700から3400

「先ほどと同じことが起きるわ。三体目のサイバー・ラーヴァを特殊召喚して、300ポイントのダメージ!」

「……バトル終了。ターンエンド」ライフ3400から3100

 

 

 

猫崎 ライフ3100

手3 場 カタストル ナチュル・ビースト 伏せ1

才澤 ライフ4000

手4 場 サイバー・ヴァリー ラーヴァ サイバー・サモン・ブラスター

 

 

「私のターン、ドロー!そろった。カードを3枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ3100

手3 場 カタストル ナチュル・ビースト 伏せ1

才澤 ライフ4000

手2 場 サイバー・ヴァリー ラーヴァ サイバー・サモン・ブラスター 伏せ3

 

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ、カタストルで」

「バトルフェイズに入る前に、永続罠発動!サイバー・シャドー・ガードナー!このカードは発動後、機械族として私の場に特殊召喚される。つまり。」

「サイバー・サモン・ブラスター、か」ライフ3100から2800

 

「さぁ、どうするのかしら?」

「バトルだ!カタストルでラーヴァを攻撃!そしてカタストルの効果発動!ラーヴァを破壊!そしてナチュル・ビーストでサイバー・ヴァリーを攻撃!」

「サイバー・ヴァリーを除外してバトルフェイズを終了させる!そしてサイバー・シャドー・ガードナーはセット状態に戻る」

 

「ターン、エンド」

 

 

『あれ?なんでサイバー・シャドー・ガードナーを攻撃しないんだ?』

『お前そんなことも知らないのかよ!サイバー・シャドー・ガードナーが攻撃された時、攻撃モンスターと同じ攻撃力・守備力になる!』

『でも、地属性だろ?なんでカタストルで攻撃しない…?闇属性では無いから効果破壊できるのに』

 

 

 そこに同意する才波。

 だが、猫崎は才澤の伏せカードが何か気づいているらしい。

 

 

 

猫崎 ライフ3100

手3 場 カタストル ナチュル・ビースト 伏せ1

才澤 ライフ4000

手2 場 サイバー・サモン・ブラスター (サイバー・シャドー・ガードナー) 伏せ2

 

 

「私のターン、ドロー!さて、そこの元門下生に聞く。私のデュエルをどう思う?」

「えっ?」

 

 突然話題を振られ、才波は言葉に詰まる。

 

 

「周りの門下生が言っているけれど…卑怯だ、つまらない。そう思ったでしょう?」

「そんな事は!サイバー流にまだこんな可能性があったのかと…。」

「…このコンボを披露した時のマスター鮫島と同じことを言うのね。そう考えるのは、本当に少数派。多くの観客はつまらない、と思う。」

 

 言葉に詰まる才波。そういう事を言う人間に心当たりがあり過ぎる。

 

 

「才災師範のバーンダメ、除去ダメ、というのはプロの世界では観客を魅了出来ないという事情もある。」

「確かにそういう一面はあるだろう。だが、それをアマチュアにまで押し付けるのは間違っている。」

「…デュエルを続けるわ。私はカードを一枚伏せてターンエンド。」

 

 

 

 

猫崎 ライフ3100

手3 場 カタストル ナチュル・ビースト 伏せ1

才澤 ライフ4000

手2 場 サイバー・サモン・ブラスター (サイバー・シャドー・ガードナー) 伏せ3

 

 

「俺のターン、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!このカードは召喚成功時、守備表示になる。手札の魔法カード、大寒波を捨てて効果発動!デッキからレスキューキャットを特殊召喚!レスキューキャットを墓地に送り、ライトロードハンターライコウとX-セイバーエアベルンを特殊召喚!レベル2のライコウに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!マジカル・アンドロイド!」

「攻撃力2400…」

 

「俺はターンを終了するが。」

「永続罠、サイバー・シャドー・ガードナーを発動するわ。攻撃しなくても、300ポイントのダメージを受けて貰う」

「……エンドフェイズに、マジカル・アンドロイドの効果発動!」ライフ3100から2800

 

「エンドフェイズに?」

「俺の場のサイキック族の数×600ポイントライフを回復する!」ライフ2800から3400

「?!」

 

 

『ライフ回復まであるのかよ!汎用性が高すぎるぞ!』

『くそっ、ダメージより回復量の方が多い!』

 

 

 

猫崎 ライフ3400

手2 場 カタストル ナチュル・ビースト アンドロイド サモンプリースト 伏せ1

才澤 ライフ4000

手2 場 サイバー・サモン・ブラスター (サイバー・シャドー・ガードナー) 伏せ3

 

 

 

 

「私のターン、ドロー!ライフを能動的に回復するSモンスターまで居るなんて、本当に汎用性が高いわね。ならば!私はサイバー・ドラゴンを特殊召喚!サイバー・サモン・ブラスターの効果発動!」

「……」ライフ3400から3100

「ここで罠発動!サイバネティック・レボリューション!場のサイバー・ドラゴン1体をリリースして、融合デッキからサイバー・ツイン・ドラゴンを特殊召喚!」

「機械族が特殊召喚された事で、サイバー・サモン・ブラスターの効果も発動か…。」ライフ3100から2800

 

「バトル!サイバー・ツイン・ドラゴンでナチュル・ビーストを攻撃!」

「リバースカードオープン!イージーチューニング!墓地の霞の谷の戦士を除外し、攻撃力を1700ポイントアップ!」

「っつ!魔法さえ封じられていなければ…ターン、エンド」ライフ4000から2900

 

 

 

 

 

猫崎 ライフ2800

手2 場 カタストル ナチュル・ビースト アンドロイド サモンプリースト 

才澤 ライフ2900

手2 場 サイバー・サモン・ブラスター (サイバー・シャドー・ガードナー) 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!守りを重視するトリッキーな戦術は見事だったが、このデュエルは俺が貰う!」

「サイバー・シャドー・ガードナーが私の場にあるわ。そして、この伏せカードの正体にうすうす気づいているのでしょう?」

「そうだな。一枚は永続罠、宮廷のしきたり。」

 

 

 才澤の隻眼が一瞬だけ大きくなる。それが答えだった。

 

「カウンター罠、アヌビスの裁き辺りだろう?だが、このカードの存在を忘れているようだな!魔法カード、ハリケーン!」

「…あっ」

 

 思わず声を漏らす才澤。

 

「バトルだ!カタストルとマジカル・アンドロイドでダイレクトアタック!」

「きゃああああああああっ!」ライフ2900から700、700から0

 

 

 

 

 残るは北海道ブロックのみ。そう思った猫崎に才澤が話しかける。

 

「…一つだけ教えておくわ。北海道ブロックを担当しているのは鮫島元師範よ。貴方に勝てるかしらね。」

「鮫島…。」

 

 

 猫崎は身を引き締める。彼には個人的に聞いてみたい事があった。

 

 

 

 

 

 北海道、釧路。

 そこに北海道ブロックを担当する鮫島元師範がいる。

 

 

「…初めまして。鮫島さん。」

「君が、猫崎君か。」

 

 サイバー流の元師範に一礼する猫崎。

 門下生はほとんどいない、寂れた道場。報道機関の者が数名来ているだけだ。

 

 

「デュエルの前に、聞かせてください。リスペクト・デュエルとは何ですか?」

「ふむ…。」

 

 聞くたびに頭痛を感じるような返事をされ続けても、猫崎俊二がサイバー流に聞き続けた理由がこれだ。

 リスペクト・デュエルを、猫崎俊二は前世から通じて体得していない。

 

 リスペクトデュエルとは礼儀正しくデュエルをすればいい、そういう物ではないはずだ。

 

 

「才災師範は、効果ダメージを与えるカードや、相手の行動を妨害するカウンター罠を批判・否定しています。相手に全力を出させるために、妨害札を入れないのはリスペクトですか?」

「それは違います。」

「何故でしょうか?」

「妨害しなければ、相手は全力を出すまでも無く勝ってしまいます。幾多の攻防を潜り抜けた先に見える相手の勝利へ向かう道。それを全力で超えようとするのがリスペクト・デュエルです。」

 

 やはり、そうか。

 【パーミッション】が相手なら、その多様な妨害をかいくぐって、勝利を得ようとするのがリスペクト・デュエル。

 その感覚はわかる猫崎。そういうデュエルは前世でもなくは無かった。

 

 …まぁ、圧倒されたり、先攻で制圧されて返せず負けたりというデュエルの方が多かったが。

 

 

「ありがとうございます。相手に全力を出させてそのうえで叩き潰して悦に入るわけでは無い、のですね。」

「…そんな風に思っている方が居るとは、私はサイバー流の教えをまるで伝えれていなかったのですね…。」

 

 

 嘆息した鮫島元師範に対し、猫崎はデュエルディスクを構える。

 

「…そろそろ始めましょうか。」

「そうですね。サイバー流元師範、鮫島。全力で行きます!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

鮫島 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私の先攻、ドロー!私はサイバー・エスパーを攻撃表示で召喚。カードを二枚伏せ、ターンエンド」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

鮫島 ライフ4000

手3 場 エスパー 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「サイバー・エスパーの効果発動!ドローしたカードを見せて貰います。」

「霞の谷の戦士だ。このまま召喚!魔法カード、精神操作を発動!サイバー・エスパーのコントロールを得る!」

 

 モンスターを奪った猫崎だが、サイバー・エスパーの様子がおかしい。

 

「何が…?!」

 

 鮫島師範の伏せカードが一枚、表になっていた。あれは…

 

「罠発動、トロイボム。私の場のモンスターのコントロールが奪われたとき、そのモンスターを破壊して、攻撃力分のダメージを与えます。」

「っつ!やはり、サイバー流はバーンカードを否定していませんね」ライフ4000から2800

 

 気を取り直し、猫崎はデュエルを進める。

 

「バトル!霞の谷の戦士でダイレクトアタック!」

「罠発動!ドレインシールド!攻撃を無効にして、その攻撃モンスターの攻撃力分のライフを回復する!」ライフ4000から5700

「…カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ2800

手3 場 霞の谷の戦士 伏せ1

鮫島 ライフ5700

手3 場 

 

 

「私のターン、ドロー!私はデビル・フランケンを召喚!」

「?!その、モンスターは!」

「ライフを5000払って発動!現れろ、サイバー・オーガ・2!」ライフ5700から700

 

 こんな方法で呼び出してくるとは思っていなかった猫崎。

 

 

「バトル!サイバー・オーガ・2で霞の谷の戦士を攻撃!」

「罠発動!聖なるバリアミラーフォース!」

「むうっ?!」

 

 モンスターは一掃。残るライフは風前の灯。

 だが、鮫島元師範の戦意は衰えない。

 

「私はカードを一枚伏せ、ターンエンドです。」

 

 

 

猫崎 ライフ2800

手3 場 霞の谷の戦士 

鮫島 ライフ700

手2 場 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!くっ、バトル!」

「待ちなさい。このメインフェイズ終了時に永続罠、サイバー・シャドー・ガードナーを発動します。さぁ、どうしますか?」

「…バトル!霞の谷の戦士でサイバー・シャドー・ガードナーを攻撃!」

 

 鳥人の戦士と影法師が交差する。直後、どちらも倒れ伏す!

 

「俺はカードを一枚伏せてターンエンド」

 

 

 

猫崎 ライフ2800

手3 場 伏せ1

鮫島 ライフ700

手2 場 

 

 

「私のターン、ドロー!私は可変機獣ガンナー・ドラゴンを召喚。このカードはレベル7ですが、リリース無しで召喚出来ます。最も攻守は半分になりますが。」

「攻撃力1400…。」

「魔法カード、突然変異を発動。場のガンナー・ドラゴンをリリース。現れろ、サイバー・オーガ・2!」

「罠発動!奈落の落とし穴!オーガ・2を破壊して除外!」

「私はカードを一枚伏せてターンエンド」

 

 

猫崎 ライフ2800

手3 場 

鮫島 ライフ700

手0 場 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は、モンスターをセット。カードを一枚伏せてターンエンド」

 

 

猫崎 ライフ2800

手2 場 セットモンスター 伏せ1

鮫島 ライフ700

手0 場 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、天使の施しを発動!三枚ドローして、手札のサイバー・デーモンと融合呪印生物ー地を捨てます。」

 

 呪印生物はともかく、サイバー・デーモンに驚く猫崎。さほどシナジーは無いはずだが…。

 

「何故、サイバー・デーモンを?ブロック代表なら」

「私はサイバー・ドラゴン・ツヴァイなどの、サイバー流の新規モンスターを受け取っていませんからね。」

 

 再びその地位を狙われたら困るから与えていないのだろうと察する猫崎。

 

「魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のサイバー・デーモン、融合呪印生物ー地、可変機獣ガンナー・ドラゴン、サイバー・オーガ2、デビル・フランケンをデッキに戻して、二枚ドロー!」

「ここで手札を補充…。」

「魔法カード、強欲な壺を発動、カードを二枚ドロー!魔法カード、融合を発動!手札のサイバー・オーガ二体を融合!現れろ、サイバー・オーガ・2!」

「罠発動!激流葬!場のモンスターを全て破壊!」

 

 ここで猫崎は伏せカードを使う。

 

「むっ?!」

「そしてセットしていたクリッターも破壊されるが、効果発動!デッキからレスキューキャットを手札に加える!」

「なるほど…永続罠発動!リビングデッドの呼び声!蘇れ、サイバー・オーガ・2!」

「?!」

 

 想定を超えられた事で、猫崎は目を見開く!

 

「バトル!サイバー・オーガ・2でダイレクトアタック!」

「うわああああああ!」ライフ2800から200

 

「私はこれでターンエンドです。」

 

 

 

猫崎 ライフ200

手3 場 

鮫島 ライフ700

手0 場 サイバー・オーガ・2 リビングデッドの呼び声 

 

 

「俺のターン、ドロー!レスキューキャットを召喚、このカードを墓地に送り、デッキからXセイバー・エアベルンと異次元の狂獣を特殊召喚!レベル3の異次元の狂獣に、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!Lv6!氷結界の龍ブリューナク!」

「攻撃力2300、どんな効果が…」

「効果発動、手札のコアラッコを墓地に送り、サイバー・オーガ・2を手札に戻す!」

「バウンス効果?!」

 

「バトル!ブリューナクでダイレクトアタック!」

「ぬおおおおおおおおっ?!」ライフ0

 

 

 

 

 今までで一番強敵だった。そう痛感する猫崎。

 

「…お見事。」

「ありがとうございました。鮫島師範。」

「君は、この後は東京へいき、亮とデュエルするのか?」

「ええ。それが海馬オーナーの意向なので。」

「そう、か。これがサイバー流の終焉か。私の代で潰す事になるとは…。」

「潰すのは才災師範であって、鮫島師範ではありません。それでは、失礼します。」

 

 

 

 そのやり取りから一時間後。

 東京にて。

 豪奢な部屋に、数人の男たちがソファに腰かけ、眼前の男を睨みつける。

 

 

「…さて、弁明はあるかな?」

「…も、申し訳ございません。」

 

 外国製のスーツに身を包んだ男たちが、才災師範に詰問する。

 

「サイバー流が誇るサイバー・ランカーズが新人にことごとく打倒された。おかげでサイバー流に出資していた我々の株価は暴落だ!」

「お待ちください、まだサイバー流継承者、丸藤亮がおります!」

「…そいつは今ここに来ているのか?」

「は、はい!」

「なら連れて来い!」

 

 数分後、別室で待機していた丸藤亮は、男たちの前に連行される。

 

「お前が丸藤亮か。既にプロとして活躍していたサイバー・ランカーズどころか、鮫島元師範まで倒された。」

「鮫島師範が…。」

 

 その事実がショックだったのか、思わず声を漏らす丸藤亮。

 

「鮫島元師範だ!今の師範はこの私だ!」

 

 そんな亮に大声を上げる才災師範。

 

「お前は同じ学園に通っていたのだろう?なのに一度もデュエルをしなかったのか?」

「…所属している寮が違うので。」

 

 こういう風なことを聞かれたら、こう答えるよう事前に才災師範に言い含められていた丸藤亮としては、こう答えるしかない。

 

「ふん。とりあえずお前にこれを渡しておく。」

「このスーツケースの中身を使ってデッキを強化しろ!いいな!」

 

 金に物を言わせてレアカードを集めたのか、と思いながら中身を確認する丸藤亮は絶句する。

 

 そこにあったのは現金だった。

 

「それだけあれば足りるだろう?」

「だが、その代わりに必ず勝て!いいな!」

 

 

 男たちは丸藤亮に無駄にプレッシャーをかけた後、足音を立てながら部屋を後にする。

 残ったのは、追い詰められて正気を失いつつある才災師範と、丸藤亮だけだった。



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第20話!決着の時!猫崎俊二VS丸藤亮!

貴方にとって、リスペクト・デュエルとは何ですか?


 海馬ドーム。かつて編入試験を受けた会場。

 ここで、サイバー流との決着をつける。

 

 

 控室で、深呼吸をして息を整える猫崎。そんな猫崎の背中に背中を合わせる光里。

 言葉は交わさない。ただ、そこに居るだけで互いに落ち着く。そういう関係になっていた。

 

 

 

 一方、丸藤亮の控室はひっきりなしに誰かが訪れるため、全然落ち着けなかった。

 政界・財界の関係者が激励と称してやってくるが、要約すると『勝て』と言っているだけである。

 当然、才災師範の所に対しては、それ以上の圧力がかけられている。

 

 

「…かなり参っているようやな?」

「才園か。」

 

 京都ブロックを担当している才園が激励に来る。

 

 

「なぁ、正直。今のサイバー流の現状をどう思う?」

「…豊かになった。」

「そうやなぁ。サイバー流のプロ所属の決闘者は、ブロックに分かれてそれぞれの地域のサイバー流を統括する組織にまで発展した。年に一度は合宿として旅行も出来る。多角経営も始めていて、どれも好調や」

「何よりこのデュエルディスクを支給された。」

「かなり頑丈やしな、これ。」

 

 サイバー・ドラゴンを連想させる、白を基調とし、銀色で縁取りされたデュエルディスクを見つめる才園。

 

「それに、偽造カードにも反応する。これらの経済的、技術的なバックアップを得られたのは小さくない。何といっても、門下生自体の数が増えた。」

「…だが、一子相伝のサイバー・エンド・ドラゴンが乱発された。」

「そうやな。門下生の質の低下は目を覆うわ。鮫島師範までのころはこんな酷くなかったんやけどな。サイバー・ツイン・ドラゴンやサイバー・レーザー・ドラゴンが主軸やったけど。」

 

 

 互いに、わずかに沈黙する。

 

「…まぁ、頼むで、サイバー流継承者。鮫島師範すら倒すとなると、新人の皮を被ったベテランや。」

「君は、猫崎をどう思う?」

「んー、実年齢は30ぐらいあるんちゃう?」

「…そんなはずはないが。」

「まぁ、そうなんやけどな。うーん、勘が鈍ったんかいな?年齢当てゲームなら誤差±1以内で当ててきたんやけど。ああ、そうや。これを受け取ってくれへんか?」

 

 

 渡されたカードケースを開け、中身を確認して目を見開く丸藤亮。

 

「これは…!」

「ウチと才川と才宮からの差し入れや…。使うかどうかは、任せる。鮫島師範の教えと、才災師範の教え、どちらを選んでも、ウチ等はあんさんの判断を『リスペクト』するで」

「…ありがとう。大切に使わせてもらう」

 

 扉から出ていく直前で、才園は振り返る。

 

「そうそう、ちょこっと足止めしといたるわ。全然落ち着けてへんやろ?」

「…すまない。」

「気にせんでええわ。」

 

 ひらひらと手を振り、才園は退出する。

 

 それから30分間、誰も丸藤亮の控室には現れなかった。

 政界と財界の関係者が代わりに矛先をどちらに向けたのかは…言うまでもない。

 

 

 

「…時間だな。」

 

 丸藤亮は立ち上がり、会場へ向かう。

 道中の廊下に、眼帯をつけた女性が腕を組んで壁に背中を預けている。

 

 

「才澤か。」

 

 東北ブロックを担当している才澤だ。

 

 

「…サイバー・ランカーズとして謝罪する。」

「何故だ?」

「私達が猫崎を倒していれば、お前がこんな苦労をする事は無かった。不甲斐ない。」

 

 深々と頭を下げる才澤。

 

「結果を出せなかった。不甲斐ない。」

「才郷、才川、才宮、才獏…いや、才田か。そして才澤はよくやってくれた。」

「だとしても、だ。…勝てよ、丸藤亮。」

 

 頷き、丸藤亮は歩き出す。その後ろ姿を隻眼が見守る。

 

 

 

 そのやり取りから10分後。

 

 

 

 

 

『さぁ、始まります!サイバー・ランカーズをことごとく打ち破った期待の新人、猫崎俊二と、サイバー流継承者、丸藤亮!』

『どちらもあのデュエル・アカデミアで無敗記録を打ち立てていますね。』

『在学中は対戦しなかったのですか?』

『寮が違ったのが原因だそうです。』

『さて、この勝負はどうなると思われますか?』

『新しい風、S召喚を取り入れた猫崎選手が有利と言われていますが、相手は完璧と呼ばれたデュエリスト。サイバー流継承者である丸藤選手が優勢という見方が強いですね。』

『なるほど。それでは選手の入場です!』

 

 

 猫崎と丸藤亮は、初めて直接対峙する。

 

 

「…猫崎。こうしてデュエルをするのも話をするのも初めてだな。」

「そうですね。デュエルの前に、言っておきます。俺は、鮫島さんと話をしました。」

「?!師範と…」

「俺は、サイバー流が本来掲げていたリスペクト精神は、スポーツマンシップに近い物であると感じました。貴方にとって、リスペクト・デュエルとは何ですか?」

「リスペクト・デュエルとは自分の腕に驕らず、相手の事を考え、あらゆる可能性に対応したデュエルの事を指す…。スポーツマンシップに近い、という意見は斬新だ。」

 

 互いに沈黙が流れる。

 

「…俺は貴方に勝ちたい。貴方を一人の決闘者として認めているから、そんな貴方に勝ちたい。」

「それはこちらも同じだ。行くぞ!」

 

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

猫崎 ライフ4000

手5 場 

丸藤 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は俺だ、俺のターン、ドロー!俺はレスキューキャットを召喚!」

 

『出ましたー!猫崎俊二のエースモンスターです!』

『確か、デッキからレベル3以下の獣族を二体特殊召喚出来ますが、エンドフェイズに破壊されるデメリットがあったはずですが…』

『いかにも。今までは使えないカードの烙印を押されていたカードでしたが…。』

 

「レスキューキャットを墓地に送り、デッキからチューナーモンスター、Xセイバー・エアベルンとライトロードハンターライコウを特殊召喚!レベル2のライコウに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!A・O・Jカタストル!」

 

 

『な、なんですかアレは?!レベル5の上級モンスターが出てきましたよ?!』

『あれがSモンスター、チューナーモンスターを含む素材となるモンスターの合計と同じレベルのモンスターを特殊召喚する方法!エアベルンのレベルは3、ライコウのレベルは2、よってレベル5のモンスターが特殊召喚されました!』

『な、なるほど…。攻撃力は2200ですか。Sモンスターと言っても、ゴブリン突撃部隊の敵ではありませんね。』

『それはどうでしょう?あのSモンスターは、なんと闇属性モンスター以外と戦闘を行うとき、なんとダメージ計算を行わずに破壊する効果があるそうです!』

『何?!サイバー流は光属性のモンスターが主軸、ここからは、あのモンスターがサイバー・ドラゴン系列のモンスターを一方的に破壊するワンサイドゲームになってしまうのか?!』

 

「…カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 カタストル 伏せ1

丸藤 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード発動!エマージェンシー・サイバー!デッキからサイバー・ドラゴンを手札に加える!そして相手の場にのみモンスターが存在する事で、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!そして、サイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚!」

「サイバー・ドラゴンの派生カード…」

 

 予想はしていた。勝負はこれからだ。

 

「効果発動!手札の魔法カード、サイバー・リペア・プラントを相手に見せることで、このターン、カード名をサイバー・ドラゴンとして扱う。俺は…サイバー・ドラゴンとなったツヴァイと、機械族のA・O・Jカタストルを墓地に送る!」

「?!」

 

 融合のエフェクトが現れ、ツヴァイとカタストルが巻き込まれる!

 

「現れろ!キメラテック・フォートレス・ドラゴン!」

 

 

『なんと丸藤選手!才災師範が禁じたサイバー流のカード、キメラテック・フォートレス・ドラゴンを特殊召喚しました!これは…』

『別にデュエルワールドリーグでは禁止カードでは無いですよ?ただ、この局面はまずいです!そうそうに決着がついてしまうのかー!』

 

 

 一方、特等席から見物していた才災師範は目を見開く。

 

「ま、丸藤!か、勝手なことを!くそっ!」

 

「だが、こちらが有利に立ったではないか。」

「このまま押し切れば、我々の勝ちだ。」

「おいおい、そもそもあのガキが勝ったところで…」

「おっと、そうだったな…ハハハ…」

 

 一方、男たちは笑みを浮かべている。才災の教えは都合がいいが、大事なのは利益をもたらすか否かだ。

 利益をもたらすなら、才災の教えを破ったところで丸藤亮をかばうつもりでいる。

 

 

 そのような会話が行われているとは露知らず、丸藤亮はデュエルを続ける!

 

 

「バトルだ!行け、キメラテック・フォートレス・ドラゴン!ダイレクトアタック!」

「罠発動!聖なるバリア-ミラーフォース-!相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」

「くっ…」

 

 

 ミラーフォースがキメラテック・フォートレス・ドラゴンとサイバー・ドラゴンを粉砕する!

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手4 場 

丸藤 ライフ4000

手3 場 伏せ1

 

 この大舞台なら才災師範の教えに反するカードを使ってこないと思っていたが、使って来た。想定外ではあるが、勝たねばならない。

 勝たなければ、才災師範に裁きを下せない。何より。

 

 サイバー流が生き残ってしまったら、影丸理事長が浮かばれない。

 彼とその親友であるアムナエルは十代に遺志を託した。この場にいるのは自分だが、その想いは同じだ。

 

 

「俺のターン、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!効果発動、手札の大寒波を捨てて、デッキからチューナーモンスター、霞の谷の戦士を特殊召喚!レベル4のサモンプリーストにレベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!ギガンテック・ファイター!」

 

『今度はレベル8のモンスターですか。攻撃力2800!』

 

 

「バトル、ギガンテック・ファイターでダイレクトアタック!」

「ぐうううううっ!」ライフ4000から1200

「…俺は、カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手2 場 ギガンテック・ファイター 伏せ1

丸藤 ライフ1200

手3 場 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、サイバー・リペア・プラントを発動!デッキからサイバー・ドラゴン・コアを手札に加え、召喚!効果発動、デッキからサイバー・ネットワークを手札に加える。」

「サイバー・ネットワークを?」

「魔法カード、2枚目のエマージェンシー・サイバーを発動!デッキからサイバー・エルタニンを手札に加える!行くぞ、俺は場のサイバー・ドラゴン・コア、墓地のサイバー・ドラゴンとツヴァイを除外し、サイバー・エルタニンを特殊召喚!」

「そのモンスターは!」

「効果発動!このカード以外のモンスターを全て墓地に送る!そしてこのカードの攻撃力は、除外した光属性・機械族の数×500ポイントアップする!」

 

『またしても、才災師範が禁じたサイバー流のカードです!ですが攻撃力1500!あまり高い数値ではありませんね』

『墓地に送る、という対処のしづらいカードですからね。ですが、これでダイレクトアタックが通るでしょう。』

 

 

 特等席で、才災師範は歯ぎしりする。

 

「今度は、え、エルタニンまでぇ!一体どこで手に入れた!そんな機会は与えていないぞ!」

「このデュエルに勝てればそれでいい。」

 

 

 邪悪な男たちの思惑が交差する中、丸藤亮は攻撃宣言を下す!

 

 

「バトル!エルタニンでダイレクトアタック!」

「っつ!」ライフ4000から2500

「俺はカードを一枚伏せてターンエンド」

 

 

猫崎 ライフ2500

手2 場 伏せ1

丸藤 ライフ1200

手2 場 エルタニン 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、光の護封剣を発動!ターンエンドだ!」

 

『おっと、ここで守りに入りました!』

『S召喚がメインですが、それ以外にも優秀な汎用カードを多数用いているのが猫崎選手のデッキです!』

 

 

猫崎 ライフ2500

手2 場 伏せ1 光の護封剣(3) 

丸藤 ライフ1200

手2 場 エルタニン 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!ターンエンドだ。光の護封剣のターンカウントが進むな。」

 

 

 

猫崎 ライフ2500

手2 場 伏せ1 光の護封剣(2) 

丸藤 ライフ1200

手3 場 エルタニン 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!ターンエンドだ。」

 

『またしても動かず!』

『何かを狙っているのでしょう。我々は静かに見守るとしましょう』

 

 

 

猫崎 ライフ2500

手3 場 伏せ1 光の護封剣(2) 

丸藤 ライフ1200

手3 場 エルタニン 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!永続魔法、未来融合-フューチャー・フュージョン!次の俺のスタンバイフェイズに、融合モンスター1体をお互いに確認し、そのモンスターによって決められた融合素材モンスターを自分のデッキから墓地へ送る。俺はこれでターンエンド。」

 

 

猫崎 ライフ2500

手3 場 伏せ1 光の護封剣(1) 

丸藤 ライフ1200

手3 場 エルタニン 伏せ2 未来融合(0)

 

 

 

「俺のターン、ドロー!カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ2500

手3 場 伏せ2 光の護封剣(1) 

丸藤 ライフ1200

手3 場 エルタニン 伏せ2 未来融合(0)

 

 

 

「俺のターン、ドロー!未来融合の効果発動!デッキからサイバー・ドラゴン2体、サイバー・ドラゴン・ドライ3体、サイバー・ドラゴン・コア2体、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ2体、サイバー・エルタニンの計10体を墓地に送り、次の俺のスタンバイフェイズに、キメラテック・オーバー・ドラゴンを特殊召喚する!」

 

 

『うーむ、キメラテック・オーバー・ドラゴンも才災師範が禁じたサイバー流のカードですが…』

『別に運営委員である我々に口出しする権利はありません。個人的に、このデュエルにかける丸藤選手の想いが伝わってきます!』

 

 

「魔法カード、オーバーロード・フュージョンを発動!場と墓地のサイバー・エルタニンを合わせて2枚、サイバー・ドラゴン2体、サイバー・ドラゴン・ドライ3体、サイバー・ドラゴン・コア2体、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ2体の計11体を除外!現れろ、キメラテック・オーバー・ドラゴン!」

 

 

『攻撃力8800!』

『しかし、キメラテック・オーバー・ドラゴンにはリスクがあります。それこそ、才災師範が禁じるだけのリスクが。』

 

 

「キメラテック・オーバー・ドラゴンを特殊召喚した事で、未来融合と伏せていたサイバネティック・レボリューションとサイバー・ネットワークは墓地に送られる!」

 

 

『なるほど。自身以外のカードを墓地に送ってしまうのですね!』

『折角サーチしたサイバー・ネットワークもむなしく墓地へ埋葬されてしまいましたね…』

 

 

「ここで墓地に送られたサイバー・ネットワークの効果発動!除外されていた、サイバー・ドラゴン3体とサイバー・ドラゴン・ドライを特殊召喚!」

 

 

 場に並ぶ、機光龍達!

 

「カードを1枚伏せる。ターンエンドだ!サイバー・ネットワークの効果を使用したターン、攻撃はできない。だが、このエンドフェイズに光の護封剣も消滅する!」

 

『こ、これは…何というタクティクス!流石サイバー流継承者!パーフェクトです!』

『キメラテック・オーバー・ドラゴンの墓地送りのリスク、サイバー・ネットワークの攻撃出来ない代償を全て帳消し、光の護封剣も消滅!次のターンの総攻撃の準備完了といった所ですね!』

 

 

 

猫崎 ライフ2500

手3 場 伏せ2 

丸藤 ライフ1200

手2 場 キメラテック・オーバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・ドライ 伏せ1

 

 

 

 場にはキメラテック・オーバー・ドラゴンに、三体のサイバー・ドラゴンとドライ、強力なモンスターが立ち並ぶ。

 

 それを見ている特等席では、外国製のスーツに身を包んだ男達が、歓声を上げる!

 

「これはもうかったな!」

「ああ、ここから巻き返すのは不可能に違いない!」

「よくやったぞ、才災!」

 

「ぐ、ぐぐぐぐ…、キメラテック・オーバー・ドラゴンまで…何故だ、何故私の正しい教えを無視する…!」

 

 

 

 一方、観客席にて、一人の少女がじっと猫崎を見つめる。

「…ここから、巻き返せるの?猫崎」

 そんな少女の傍らには、半透明のブリザード・プリンセスが興味深そうに眼前のデュエルを見つめる。

 

 

 少女とはかなり離れた別の観客席にて。門士郎はカイザーのデュエルを見ていた。

 全てを出し切った全力の布陣。もしも、あの場にいるのが猫崎では無くて自分ならどう突破するか。それについて考えをめぐらす。

 

 

 

 アカデミアの卒業生達とは別の観客席にて、黒髪の兄弟が俊二を見つめる。

 

「恭一兄さん、これはもう俊二兄さんの負けだよね?この分だと、僕たちの仕事はキャンセルかな?」

「…最後の最後まで、何が起きるかわからない。これはデュエルだけではなく、臨時の仕事でもそうだぞ、亮三。」

「でも、ここからどうやって勝つのさ?カタストルとかいう機械族は通用しないし…。」

「だが、俊二は諦めていない。なら、俺はただ見届けるだけだ…。絶縁されたが、それぐらいの権利はある。もしもここから俊二が勝ったら、仕事だ。」

「はーい」

 

 

 多くの観客が、最後になるであろう猫崎俊二という決闘者のラストターンを見届けようとしていた。

 ここで有効打を打てないなら、そのまま敗北するだろう。

 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のレスキューキャット、エアベルン、ライコウ、召喚僧サモンプリースト、霞の谷の戦士をデッキに戻して二枚ドロー!」

 

『ここで手札補充を引き当てましたか!』

 

 

「召喚僧サモンプリーストを召喚!このカードを守備表示に変更する。手札の大寒波を捨てて、デッキからレスキューキャットを特殊召喚。レスキューキャットを墓地に送り、デッキからX-セイバーエアベルンとライトロードハンター ライコウを特殊召喚!」

「罠発動!スリーカード!これでお前のXセイバー・エアベルンと伏せカード二枚を破壊する!」

 

 

『な、何ですかあのイラストは!』

『まさにサイバー流と猫シンクロの決戦であるこの場に相応しいカードですねぇ!資料ではサイバー・ランカーズのブロック代表がデザインした物ですが、この大勝負にふさわしいカードです!』

 

 

「スリーカードにチェーンしてカウンター罠、魔宮の賄賂を発動!」

「ぐっ!だが、カードを一枚ドローする!」

 

 猫崎はチェックメイトをかけるべく、S召喚を行う!

 

 

「レベル4のサモンプリーストとレベル2のライコウに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!現れろ、ミスト・ウォーム!効果発動、サイバー・ドラゴン3体を手札に戻す!」

「?!何故、キメラテック・オーバー・ドラゴンを戻さない…?」

 

 訝しむ丸藤亮。

 

「死者蘇生を発動!墓地のサモンプリーストを特殊召喚!手札の魔法カード、精神操作を捨てて、デッキからレスキューキャットを特殊召喚!レスキューキャットを墓地に送り、デッキからXセイバー・エアベルンと異次元の狂獣を特殊召喚!レベル4のサモンプリーストとレベル3の異次元の狂獣に、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!現れろ!A・O・Jディサイシブ・アームズ!」

「これは…!」

「相手の場に光属性のサイバー・ドラゴン・ドライが居る事で、手札を全て墓地に送り効果発動!相手の手札を確認し、その中の光属性モンスターを全て墓地に送り、墓地に送ったモンスターの攻撃力の合計分のダメージを与える!」

「?!ミスト・ウォームでサイバー・ドラゴンを3体バウンスしたのはこのためか…!」

 

 

 丸藤亮の手札は、サイバー・ドラゴン3体とパワー・ボンドとサイバー・ジラフと大嵐だった。

 

 

 

「サイバー・ドラゴン3体とサイバー・ジラフを墓地に送る!」

「うわああああああっ!」ライフ0

 

 

 

『な、なんという事でしょう!あのサイバー流継承者、丸藤亮までもが敗れました!』

『これが、S召喚デッキの強さですか。しかし、これで日本のカードゲーム界は荒れますね…。』

 

 

 

 デュエルが終わり、猫崎は控室に戻る。

 

 

 

 

「ふぅん。まぁまぁだったな。」

「ありがとうございます。」

「これで、サイバー流の評判はがた落ち、サイバー流に支援をしていた連中もサイバー流を見限る。ようやくカードゲーム界は健全に…」

 

 そこまで言ったところで、招かれざる客がドカドカと押し寄せる。

 

「き、貴様っ!なんと、なんという事をしでかした!」

 

 今までカードゲーム界を制御するために、サイバー流を道具として使っていた政界、財界、報道機関、宗教界の大物たちだ。

 

「俺は、プロデュエリストとしてデュエルをしただけです。」

 

 外国製のスーツに身を包んだ男が、杖を床にたたきつけながらわめく。

 

「サイバー流はな、日本のカードゲーム界を効率よく管理する最良の選択肢だった!それをよくも壊したな!」

「政界、財界、宗教界と報道機関を全て敵に回してカードゲーム界が発展出来ると思っているのか!」

「後、あと二年で完璧な物になったのにぃ!この償いはさせてやるぞ!眠れぬ夜を過ごすがいい!」

 

 

 

「くだらんな。」

 

 

 そんな戯言に対し、海馬瀬人は短くつぶやく。

 

「なんだと!」

「貴様らはサイバー流に金銭的な支援をしたが、一方でサイバー流の腐敗を招いた。投資が無駄になったのは貴様らの見る目が無かっただけ。それを俺達に責任転嫁した所で、俺達が聞き入れる必要はない。」

「ぐうっ…」

「それよりも、自分たちの身の振り方を考えるんだな。」

「何を言って…電話?」

 

 

 男たちの携帯が一斉に鳴り響く。

 

「私だ。何の用…弾劾?!」

「な、なんだと!私を追放するだと!」

「…当たり前だ、確実に実行しろ!いいな!」

「そ、それは本当か?ま、待て、時間を稼げ!今すぐ戻る!」

 

 

 顔を青ざめる者、脂汗を流しながら走り出す者、こっそりと指示を出す男。見るに堪えない醜態を繰り広げる。

 

 

「海馬様、これは…」

「ふぅん。奴らの派閥も一枚岩ではないという事だ。カードゲーム界への足掛かりを目論んでいた連中と対立していた一派とすでに話をつけておいた。最も、貴様が負ければ連中も動かなかっただろうがな。」

 

 

 すでに手を回していたことに、猫崎は戦慄する。

 猫崎俊二と才波光里は、後始末を海馬瀬人に任せて、一足先に宿泊施設へ戻るべく海馬ドームを後にする。

 解放感に包まれた二人は予約してあるホテルまで、雑談しながら散策する。

 

 

 

 

 そんな二人に、熱心な目を向けている4人の男達が居る。

 黒い車に乗り込み…戦闘服を纏い、野戦ブーツを履き、スタンガンやブラックジャック、アーミーナイフなどの凶器を所持している。

 しかも車には、毛布や手錠、ガムテープが用意されている。

 

 職務質問を受ければ完全にアウトな状況だ。

 

「雇い主の先生方から、連絡があった。仕掛けるぞ」

 

 万が一、丸藤亮が負けた時に備えて配備されていた、拉致を目的とした一団。

 そっと車からでた男達の前に、一人の人影が現れる!

 

「…俊二のファンにしては、随分と物騒だな。」

「そこをどけ。」

「断る、と言ったら?」

 

 男はアーミーナイフを携えて、素早く突進する!だが、

 

 

「ガッ!」

 

 人影は、膝で男の手首を真下から打つと、戦闘服を着こんだ男は自らのアーミーナイフで頬を切り裂いてしまう!

 悲鳴を上げかける寸前、手刀を浴びせられて気絶する!

 

 

「くそっ、やってやる!」

 

 二人が同時に襲い掛かろうとした時、後方の指揮官らしき男がドサリ、と倒れ伏す。

 

「なっ?!」

「も、もう一人いたのか!」

 

 

 軽く手を払う人影。やや緊迫感が無い様子だが、次の瞬間。

 

「あがっ!」

 

 その人影は一気に距離を詰め、左側の男の鳩尾をえぐる!

 

「な、なな…!」

 

 最後に残った男は、想定外の事態に動揺。

 そんな男の足に衝撃が走る。

 

 人影は足を踏みつけた状態で拳を突き出す!その拳は男の顎を正確に撃ち抜く!

 

 

 

「…他には居ないか?」

「いないはずだよ、恭一兄さん。」

「よし。引き上げるぞ。」

「ええ~、もう?俊二兄さんから礼の一つでも」

「年長者のいう事が聞けないか?」

「うっ、わ、わかったよ…。でも、いい物を持っているね。」

「こんなのが欲しいなら、後で買ってやる。それとホテルの冷蔵庫にあった飲み物、好きなだけ飲んでいいぞ」

「やった!」

 

 人影の片割れがその場を去り、残った人影はある地点に向かって手を振る。

 

「…いやぁ、敵に回したくないねぇ」

 

 飄々とした態度で、ひげを生やしたフリーのジャーナリストらしき男が現れる。

 

「国崎。情報提供、感謝する。」

「何、いいって事よ。それじゃあ俺は第一目撃者って事で海馬コーポレーションに報告するが…いいのか?この件を伝えれば、弟さんと和解出来るんじゃ?」

「俺はもう、俊二の兄ではない。これはただのけじめだ。」

 

 

 今回、政界と財界の関係者が、誘拐事件を起こそうとしていることを突き止めた国崎だが、ターゲットの姓が知人と同じである事に気づく。

 試しに話をしてみたところ、血縁者と言う事が判明。

 

 肩をすくめ、海馬コーポレーションに電話を入れる国崎。そんな彼をしり目に、猫崎恭一は一点を見る。

 もう、俊二の姿は見えない。

 

 

「…達者で暮らせよ、俊二。」

 

 

 そのような出来事が起きていたとは露知らず。俊二と光里はホテルで休む。

 

 

 

 清涼飲料水を飲んで一息ついた俊二はベッドに横になり、光里がマッサージを行ってゆっくりと休んでいるころと同時刻。

 才災師範は、丸藤亮に与えられた現金と、今まで政界、財界、報道機関、宗教界から与えられた宝石類、小切手、土地の権利書の一部を毛布で包み、ロープで縛って逃げだしていた。

 

「ひぃ、ひぃ、ひぃ…」

 

 流石に全ての資産は持ち出せなかったが、それでもかなりの額だ。これだけあれば、再起は図れないが隠れて生き延びるには十分な額になるはずだ。

 

 

 才災師範には、わからなかった。何故自分が、脂汗にまみれ、息を切らしながら逃げなければならないのか。

 全ては順調だったはずだ。

 

 政界・財界・報道機関・宗教界から支援を受けられるという話を鮫島師範が断った時、彼らに協力するから鮫島師範を追い出す手伝いを求め、サイバー流師範に上り詰め、デュエルアカデミア校長に就任。それからは我が世の春だった。

 

 今までは到底できなかった贅沢が出来るようになった、誰もがちやほやしてくれた、欲しいものは何でも手に入った。

 だから気前よく、他の門下生にも贅沢をさせてやった。

 

 にも関わらず、自分を認めなかった愚か者が居たので追い出した。そうやって一生懸命、頑張って正しい『リスペクト精神』を伝えて築き上げたサイバー流は。

 

 猫崎俊二というガキに全部叩き潰された。鮫島元師範も、先ほどデュエルした丸藤亮も、手を抜いていたに違いない。

 

 そうだ、丸藤亮!こともあろうことに、このデュエルで自分が禁じたサイバー流のカードを勝手に使用した!

 自分の教えを捨てるとは!このデュエルで除去カードさえ使わなければ、『猫崎が勝てたのは卑怯な除去カードを使ったから』と主張でき、サイバー流は多少の傷で済んだのに!

 どいつもこいつも役立たず…。

 

 

 

 怒りと贅沢三昧な生活を続けた事で、現役時代と違い体がなまっていた事、荷物が想定以上に重かった事で足元がふらつき、才災師範は倒れる。

 きちんと縛られていなかったロープが解け、土地の権利書が散乱する。

 

「?!わ、私の、私の財産が!」

 

 今の才災勝作には、もはや自分の物と信じる財産しか頼れる物が残っていなかった。

 それらは全てサイバー流の為に託された物であるというのに。

 

 

「さ、才災師範…?」

 

 茫然とつぶやくのは、才田。師範が行方不明という事で、足取りを追ってきた彼女だが、その様子にたじろいでしまう。

 

「これって…」

 

 散乱した書類の一つが土地の権利書である事に、才川が気付く。

 

 

「なんだと!さ、才災師範…が持ち逃げしようとしていたのか?」

 

 才宮が疑惑の眼差しを才災師範に向ける。

 

 

「っつ!来るなぁ、寄るなぁ!」

 

 

 才災は、毛布の上に身を投げ出す。

 

「私の金だぞ!誰にも渡さんぞぉ!」

 

 錯乱する才災師範を、何とか才田はなだめようとする。

 

「お、落ち着いてください。その荷物を運ばないといけないのですか?なら私達が」

「その必要はないっ!いいから離れろっ!」

 

 

 そんな醜態にサイバー・ランカーズであり、プロとして活動している面々は思わず黙り込む。

 

 

「ようやく追いついた!才災師範!いや、才災!これはどういうことだ!」

「さ、才郷!私はサイバー流師範だぞ!それを呼び捨てにするな!」

「何故サイバー流の資産を貴方が持っている!それは貴方の財産では無いぞ!」

「黙れだまれダマレェ!!だ、誰のおかげで、サイバー流がここまで大きくなったと思っている!私のおかげだぞ!」

「そうだ、その通りだ。だが、サイバー流の財産は鮫島元師範から貴方に引き継がれたように、その財産もゆくゆくは次のサイバー流師範が引き継ぐ物だ。」

「い、嫌だいやだイヤダァ!これは私の金だ!私の物なんだぁあああっ!」

 

 

 負けるはずがないと信じていたサイバー・ランカーズの連敗。

 自らが卑怯と断じた、禁断の機光龍…サイバー・エルタニン、キメラテック・フォートレス・ドラゴンとキメラテック・オーバー・ドラゴンを許可しても倒せない猫崎。

 自分の正しい教えに忠実だったがもはや力不足と断じてブロック代表を入れ替えさせて、挑ませるも敗北。

 その敗北する光景が、何故か中継され、報道機関に文句を言うも心当たりがないと返される。

 そのたびに、政界・財界・宗教界で今まで自分をちやほやしてくれた者達が、手のひらを返して責め立て続けるストレス。

 

 

 最後のチャンスでも、丸藤亮が自分の『正しい教え』を破って、どこからか手に入れた、卑怯な禁断の機光龍を使用したにも関わらず敗北したことで、完全に才災師範の理性は飛んでしまった。

 

 元々、彼はサイバー流の長を務める器では無かった。師範を裏方でサポートする、根回しをするという縁の下の力持ちとして活動していれば、こうはならなかっただろう。

 カードゲーム界を制しようとした一派はそこを間違えた。言う事を聞くという理由で鮫島を追い出したことで、全ては狂ってしまった。

 

 才郷はこの時点で、完全に才災師範を見限る。

 

「才田。才澤と才園に連絡を入れろ。才災…師範が見つかったと。」

「わ、私が?」

「仕方ないだろう?俺は携帯番号を知らないんだから。」

 

「「え?」」

 

 思わずハモる才川と才宮。

 

「なんだ?お前たちは知っているのか?」

「あ、うん。」

「ちょっと前に連絡先を交換したけれど…。」

「何で俺には教えてくれないんだ…。ってそんな事より。お前たちは財産をまとめてしっかり運べ。」

 

「ああ、わ、わかった。才郷はどうするんだ?」

「…才災…師範を説得してから連れて帰る。この事件は口外するなよ。今回の一件でサイバー流の権威失墜は免れないが…、師範が金を持ち逃げしようとしたことが明らかになれば、破滅だ。」

 

 

 才郷はサイバー流に見切りをつけながらも、その門下生までもが後ろ指を指される事が無いよう、穏便に済ませるべく動き出す。

 

 だが、全ては時遅し。

 

 その事実はペガサス会長と海馬社長によってネットを通じて拡散され、サイバー流の権威は崩壊。

 サイバー流の道場は次々と閉鎖に追い込まれ、サイバー流が副業として行っていた飲食店などは倒産か買収されたが…いくつかの店舗はそのまま存続した。

 サイバー流に協力していた政界、財界、報道機関、宗教界の大物は次々と失脚、追放されていき。

 

 サイバー流は壊滅することとなる。

 

 

 その後、猫崎俊二はS召喚の初代テスターとして歴史に名を残す事となる。



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第21話!サイバー流とサイコ流と城之内克也

アニメでサイコ流は外道流派と言われていたらしいですが、鮫島師範がそんな事を言うイメージがありません。

サイバー・ダークを封じた初代師範が絡んでいるのかもしれません。
…まぁ、体調不良なのにデュエル続行させよう、としていましたが。



 サイバー流の継承者である、丸藤亮の敗北。それに伴い、才災師範がサイバー流の金を持ち逃げしようとする醜態。

 これにより、サイバー流は完全に失墜してしまった。

 

 サイバー流に所属していたプロデュエリストの末路は、契約の打ち切りに伴うプロの引退か、サイバー流からの離反ぐらいだった。

 今では除去カードやバーンカード、カウンター罠をリスペクトに反すると糾弾しても、対戦相手や周りから嘲笑われるようになった。

 

 

 だが、それでも才災師範のサイバー流の教えを守ろうと頑強に抵抗する一派が居る。

 丸藤亮をブロック代表に就任させるために、デュエルすることなくその地位を追われた才魔 奈緒美(さいま なおみ)。

 

 オレンジ色のスポーツウェアを纏った彼女は残った門下生を集め、決起集会を開く。

 

「諸君!我らサイバー流に試練の時が訪れてしまった!鮫島元師範も丸藤亮も、海馬コーポレーションが開発したS召喚のテスターである猫崎に敗れ、才災師範は心を病んでしまわれた!我らはこのまま終わるのか?否!断じて否だ!」

 

 こぶしを突き上げ、彼女は叫ぶ。ポニーテールでまとめられた、金髪が揺れる!

 

「才災師範の正しいリスペクト精神を、次の世代まで教え繋げるのだ!」

 

 歓声が沸き上がる中、道場の扉が乱暴に開かれる!

 

「誰だっ!」

「まだ性懲りも無くそんな寝とぼけた事を言っているのかよ、サイバー流!」

「何者だ、名を名乗れ!」

「俺はサイコ流継承者、猪爪誠。元とはいえサイバー流の関東ブロックを任されていた才魔 奈緒美。お前にデュエルを申し込む!」

「なんだと!」

「三日後、ドミノ埠頭で待っているぜ。最も、臆したなら逃げてもいいぜ!ワハハハ!」

 

 

 挑戦状を道場の床に投げながら高笑いを上げる猪爪誠を、才魔はにらむ。

 

「いいだろう、その挑戦受けてたつ!」

「コントロール奪取を主軸に置いた事で外道流派と罵られた、我らサイコ流の恨み。現師範である才災師範、鮫島元師範も丸藤亮も行方不明。正直、サイコ流復興の相手としては役不足だが仕方ない。」

「フッ、役不足というのは才能がある役者に、相応しい役を用意出来ないという意味で誉め言葉だぞ。」

 

 鼻白む猪爪。

 

「サイコ流復興などという前に、辞書を引いたらどうだ?」

「…大した大口だな。すぐに後悔させてやるからな!」

 

 

 

 三日後、ドミノ埠頭で一組の男女が対峙する。

 片方は、サイバー流の元ブロック代表、才魔だが相手は猪爪では無い。

 

 金髪をガシガシを掻きながら、城之内はぼやく。

 

 

「最近増えたよなぁ、俺を倒して名を上げようって連中。まぁ、俺はどんな相手だろうとデュエルの申し込みなら、受けてたつ!」

「サイバー流の名誉にかけて、城之内克也!貴方を倒す!」

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才魔 ライフ4000

手5 場 

城之内 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻はどうぞ。」

「なら遠慮なく。俺の先攻、ドロー!俺は切り込み隊長を召喚!効果発動、手札のレベル4以下のモンスターを特殊召喚!現れろ、切り込み隊長!」

「この組み合わせは!」

「そうだ。どちらかを倒さない限り、俺に攻撃は通らないぜ!」

 

 

「なんて卑怯な!」

「攻撃を妨害するなんて!」

 

 ギャラリーのブーイングなど、8年という歳月の間に慣れた城之内は軽く受け流す。

 

「おいおい、これぐらいで文句を言っていたらこの先やっていけないぜ?俺はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

才魔 ライフ4000

手5 場 

城之内 ライフ4000

手3 場 切り込み隊長 切り込み隊長 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、エマージェンシー・サイバーを発動!デッキからサイバー・ドラゴン・コアを手札に加える。そして相手の場にのみモンスターが存在することで、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「レベル5で攻撃力2100をいきなり特殊召喚か!」

 

「サイバー・ドラゴン・コアを召喚!効果発動、デッキからサイバー・リペア・プラントを手札に加える!魔法カード、機械複製術を発動!」

「デッキから攻撃力500以下のモンスターを特殊召喚するカードだな。とりあえず守りを固めて来た…か…?」

 

 相手の場にサイバー・ドラゴンが二体現れた事に軽く眉を顰める城之内。

 

「ああ、そのサイバー・ドラゴン・コアというのは、カード名をサイバー・ドラゴンとして扱うのか。」

「?!な、何故それを知って…。」

「説明する手間が省けただろ?続けてくれ。」

「魔法カード、融合を発動!場のサイバー・ドラゴン・コアとサイバー・ドラゴンを融合!現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

「攻撃力2800か!」

「魔法カード、サイバー・リペア・プラントを発動!墓地にサイバー・ドラゴンが存在するとき、デッキから機械族・光属性モンスターを手札に加える。サイバー・ドラゴン・ツヴァイを手札に!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

 

才魔 ライフ4000

手1 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ツイン・ドラゴン 伏せ1

城之内 ライフ4000

手3 場 切り込み隊長 切り込み隊長 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「この瞬間、罠発動!バトルマニア!このターン、相手モンスターは全て攻撃しなければならない!」

「攻撃強制カード!」

 

 発動されたカードに、ちょっと驚く城之内。

 

「流石才魔様!」

「これであの切り込みロックは御終いだ!」

 

 

「…俺は鉄の騎士ギア・フリードを召喚!魔法カード、拘束解除を発動!ギア・フリードをリリースして、デッキから剣聖-ネイキッド・ギア・フリードを特殊召喚!」

「攻撃力2600、でもサイバー・ツイン・ドラゴンの敵ではない!」

「それはどうかな?リバースカードオープン!罠発動!鎖付き爆弾!これをネイキッドに装備して、攻撃力を500ポイントアップ!」

「攻撃力3100!」

「まだだ!ネイキッドの効果発動!装備カードを装備した時、相手モンスターを破壊する!俺はサイバー・ツイン・ドラゴンを破壊!」

「さ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

 

 

「卑怯だぞ!効果でモンスターを破壊するなんて!」

「モンスターで殴り合え!」

 

 

 ギャラリーというか、取り巻きの言動に苛立つ城之内だが、一々指摘していてはキリが無いと判断し、デュエルを続行する。

 

「バトルだ!俺は剣聖-ネイキッド・ギア・フリードでサイバー・ドラゴンを攻撃!」

「っつ!でも、残りの切り込み隊長は、サイバー・ドラゴンで返り討ち!」ライフ4000から3000

「そいつはどうかな?速攻魔法発動!瞬間融合!場の光属性のネイキッド・ギア・フリードと、地属性の切り込み隊長を融合!現れろ、鋼鉄の魔導騎士-ギルティギア・フリード!」

「攻撃力2700!」

「こいつが場のモンスターを融合素材にした事で、一度のバトルフェイズで二回攻撃が出来る!行け、ギルティギア・フリード!サイバー・ドラゴンを攻撃!ここでギルティギア・フリードの効果発動!相手モンスターと戦闘を行うとき、1ターンに1度墓地の魔法カードを除外することでこのカードの守備力の半分、攻撃力がアップする!墓地の拘束解除を除外し、攻撃力を800ポイントアップさせる!」

「攻撃力、3500!」ライフ3000から1600

 

「ギルティギア・フリードの攻撃力は元に戻るが、二回目の攻撃が残っている!」

「こ、これが伝説の決闘者の実力…!」

「行け、ギルティギア・フリード!ダイレクトアタック!」

「きゃあああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 予定時刻通り到着した猪爪は、やや当惑する。

 

「何故城之内さんと、サイバー流がデュエルをしたんだ?」

「んー、俺を倒して名を上げようって挑戦されたから受けてたったんだ。あの子の対戦相手はお前か?」

「あ、はい。俺は猪爪誠。サイコ流継承者として、サイバー流と決着をつけるために…。」

「事情は知らねぇが、折角だから見物させて貰うぜ。」

 

 数歩引いて、城之内は場を離れる。

 改めて対峙する猪爪と才魔。

 

 

「逃げずに来たことだけは、褒めてやるぞ。サイバー流!」

「…外道流派、サイコ流!お前たちの復興はこの才魔が必ず阻止する!」

 

 少し離れたところで、猪爪の仲間らしき人物がカメラで撮影を開始する。

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才魔 ライフ4000

手5 場 

猪爪 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺はモンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

才魔 ライフ4000

手5 場 

猪爪 ライフ4000

手4 場 セットモンスター 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!相手の場にのみモンスターが存在することで、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「来たな、サイバー流のエースモンスター!」

「私はさらにサイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚!バトル!ツヴァイでセットモンスターを攻撃!ここでツヴァイの効果発動!攻撃力を300ポイントアップする!」

「ハッ、こいつはスフィア・ボム球体時限爆弾!こいつをツヴァイに装備させるぜ!」

 

 襲い掛かったツヴァイの胴体に装着する時限爆弾!

 

「サイバー・ドラゴン・ツヴァイッ!」

 

「な、何だあのモンスター!」

「初めて見たぞ…」

 

 そんな才魔とギャラリーに、城之内が解説する。

 

「あれは、次の相手ターンのスタンバイフェイズになれば装備モンスターを破壊してその攻撃力分のダメージを与えるモンスターだ。」

 

 

「くっ、相手モンスターを破壊した上に効果ダメージを与えるモンスターを使うとは、やはりサイコ流は外道流派!」

「はぁ?」

 

 その才魔のセリフに対し、思わず声を漏らす城之内。

 

「私はサイバー・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「罠発動!ガード・ブロック!戦闘ダメージを0にして、一枚ドロー!」

「凌がれたか!メインフェイズ2で私はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

 

才魔 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・ツヴァイ 伏せ1

猪爪 ライフ4000

手5 場 スフィア・ボム球体時限爆弾

 

 

 

「俺のターン、ドロー!ライフを800払い、魔法カード洗脳-ブレインコントロールを発動!サイバー・ドラゴンのコントロールを得る!」

「相手モンスターのコントロールを奪うだと!対戦相手へのリスペクト精神は無いの!」

 

 目を開けたまま寝言をいう才魔に、城之内が待ったをかける。

 

「ちょっといいか?」

「な、何?」

「デュエルモンスターズで、除去とかコントロール奪取を使うのって当たり前だろ?」

「何を言っている!モンスターを奪うのは卑怯!」

「いやいやいや。そういう除去カードやコントロール奪取を元々持っていないなら仕方ないけれど、持っているなら使ってもいいだろう?」

「そういう行為を野放しにすれば、相手への敬意を失ったデュエリストが増えてしまう!私はそういうデュエリストにリスペクト・デュエルの正しさと素晴らしさを広める!」

「…お前、何を言っているんだ?」

 

 

 カードを除去されるなど当たり前の環境で戦ってきた城之内からすれば、子供が駄々をこねているようにしか見えない。

 そんな才魔の妄言に対し、猪爪は大笑いする。

 

 

「ハハハハ!城之内さん、サイバー流はこういう連中なんですよ!鮫島元師範の頃はまともだったが、才災という男に変わってから、こいつらは対戦相手へのリスペクト精神が無いと言って、批判・否定するようになった!我がサイコ流も批判された流派!コントロール奪取とサイコ・ショッカーを主軸に置いていたことで、批判対象になった!」

「リスペクト、ねぇ。俺から見ればサイバー流の方がよっぽど対戦相手をリスペクトしていないと思うぜ?」

「なっ?!わ、我らサイバー流は相手のカードを除去したり、コントロール奪取したり、バーンカードやカウンター罠のような卑怯なカードを使ったりしない!」

 

 そんな才魔に冷たい目を向ける城之内。

 

「だから?」

「え?」

「だから使わないでくださいってか?甘ったれんじゃねぇ!いいか、デュエリストは皆勝ちたいと思ってデュエルしているんだ!お前が使わないと決めていたからと言って、相手がなんでそれに合わせる必要があるんだ!」

「対戦相手へのリスペクト精神があれば、そんなカードはデッキに入らない!」

「ああそうか!なら使わないっていう信念を貫けばいい、だけどな!それを相手に押し付けんじゃねぇよ!例えお前が使わないカードを使われて負けたとしても、文句を言うんじゃねぇよ!」

 

 一呼吸おいて、城之内は怒鳴る!

 

「お前が言っているのは相手に自分のルールに合わせた上で勝たせてくださいって事だろ!」

「ち、違っ…。」

「何が違うんだよ!ええ?言ってみろよ!」

 

 

 サイバー・ランカーズとしてサイバー流の重要な戦力となっていた才魔だが、数々の死闘を繰り広げて来た城之内克也と比べればぬるま湯でしかない。

 故に、まっすぐ正論をぶつけられると答える術を持ち合わせない。

 

 

「お前さぁ、相手を卑怯だなんだと言っているが、逆に対戦相手が『俺はサイバー・ツイン・ドラゴンのような攻撃力の高いモンスターを持っていないから、使わないでください』と言ってきたら、お前は合わせるのか?」

「それ…は。」

「…なんだ、合わせないのか。訳が分かんねぇ。」

 

 冷めきった目で、才魔を睨む城之内だが、そんな城之内に猪爪が声を上げる。

 

 

「…そろそろ、デュエルに戻らせてもらう。俺はサイバー・ドラゴンをリリース!人造人間サイコ・ショッカーをアドバンス召喚!」

「くっ、罠封じのモンスター…。」

「まだだ!俺はサイコ・ショッカーをリリースして、人造人間サイコ・ロードを特殊召喚!」

 

 

 新たな人造人間モンスターを、感慨深げに見つめる城之内。

 

「サイコショッカーの進化系モンスターか!俺がミズガルズ王国に巣食っていたデュエル・ギャングや過激な環境保護団体、そしてその裏で糸を引いていたラング伯爵一族を成敗している間に、随分変わったんだな…。」

「このカードこそ、俺のデッキの真の切り札!俺はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

才魔 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン・ツヴァイ 伏せ1

猪爪 ライフ3200

手2 場 人造人間サイコ・ロード スフィア・ボム球体時限爆弾 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!」

「ここでスフィア・ボムの効果発動!ツヴァイを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!」

「きゃあああああああっ!」ライフ4000から2500

 

 スフィア・ボムが大爆発を起こし、ツヴァイも爆発。その余波が才魔を襲う!

 

「さ、才魔様!」

「あいつ…除去カードなんて使いやがって。除去カードを使えば誰だって勝て」

 

 その門下生は、そのセリフを言い終わる事が出来なかった。

 

「なんだとぉ!」

 

 サイバー流の門下生のセリフに、城之内が激昂したからだ。

 

「ひぃっ?!」

「お前、今なんて言った!ええ?除去カードを使えば誰でも勝てるだぁ?なら使えよ!使って勝ちまくってその上で言えよ!こんな風に除去カードを使えば誰でも勝てるから、使うなって!」

「そ、そんなの」

「出来ねぇんだろ。当たり前だ、それで勝てるならなぁ…誰も苦労なんかしないんだよ!」

 

 その城之内の魂の叫びは、サイバー流の門下生だけでなく、サイコ流の継承者まで怯ませる。

 

 

「…わ、私は。魔法カード、エマージェンシー・サイバーを発動!デッキからサイバー・ドラゴン・コアを手札に加えて、召喚!コアの効果発動!デッキからサイバー・リペア・プラントを手札に加え、発動!墓地にサイバー・ドラゴンが存在することで、デッキからサイバー・ドラゴンを手札に加える!魔法カード、パワー・ボンドを発動!場のサイバー・ドラゴン・コアと手札のサイバー・ドラゴン二体を融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

「攻撃力4000!攻撃力だけなら神のカードに匹敵するじゃねぇか」

「まだよ!パワー・ボンドにより、その攻撃力は元々の攻撃力分アップする!」

「って事は…攻撃力8000!なんてパワーだ!」

 

 

「ハハハハ!ようやくお出ましか、サイバー流の切り札、サイバー・エンド・ドラゴン!」

「バトル!サイバー・エンド・ドラゴンでサイコ・ロードを攻撃!」

「フッ、リバースカードオープン!エネミーコントローラー!サイバー・エンド・ドラゴンの表示形式を変更する!」

「っつ…。」

 

 

 サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃が止まったことで、意気消沈する才魔と周りの門下生。

 

「ん?なんであんなに落ち込んでいるんだ?」

「ハハハ!パワー・ボンドにはリスクがある!」

「何?どういう事だ?」

 

 

「…ターン、エンド。エンドフェイズにパワー・ボンドにより、特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける」ライフ0

 

 

 決着はついた。

 

 

「ハハハ!やった、やったぞ!ついにサイコ流がサイバー流を打ち負かした!これで我がサイコ流がデュエルの表舞台に立てる!」

 

 高笑いをする猪爪に対し、サイバー流の門下生は完全に戦意が喪失する。

 

「も、もうサイバー流はお終いだ。」

「あ、ああ…どうしてこんな事に。少し前まではあんなに栄えていたのに…。」

「リスペクト精神を持ち合わせない屑だらけの、カードゲーム界にもう未来は無いな…。」

 

 

 負け惜しみを言いながら去っていくサイバー流の連中を眺めていた城之内だが、立ち去ろうとする猪爪に声をかける。

 

「ちょっと待てよ。」

「えっ?お、俺に何か用ですか?」

 

 相手が伝説の決闘者と言う事もあって動揺する猪爪だが、城之内はブラックデュエルディスクを構える。

 

「連戦で悪いが、俺とデュエルしようぜ。」

「?!城之内さんと…。では、よろしくお願いします!おい、撮影は続けろよ!」

 

「当たり前だ。これを撮影しないなんてありえない!」

 

 青年がカメラを回す中、城之内と猪爪は対峙する。

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

城之内 ライフ4000

手5 場 

猪爪 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は貰います。」

「ああ、いいぜ!」

「俺の先攻、ドロー!俺は終末の騎士を召喚!効果発動、デッキから闇属性モンスターを選択して墓地に送る。俺は、人造人間サイコ・ショッカーを墓地へ送る!出し惜しみはしない!魔法カード、死者蘇生!蘇れ!人造人間サイコ・ショッカー!」

「サイコ・ショッカー…。これで互いに罠は使えなくなったか。」

「この安定感が我がサイコ流の神髄!俺はカードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

城之内 ライフ4000

手5 場 

猪爪 ライフ4000

手2 場 終末の騎士 サイコ・ショッカー 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!相手の場にモンスターが2体以上多い事で、魔導ギガサイバーを特殊召喚!」

「攻撃力2200!」

「そしてものマネ幻想師を召喚!効果発動、こいつでお前のサイコ・ショッカーの攻撃力をコピーするぜ!」

「ぐっ、攻撃力で並ばれた!」

 

「バトルだ!魔導ギガサイバーで、終末の騎士を攻撃!」

「ぐうううううっ!」ライフ4000から3200

「さらにものマネ幻想師で、サイコ・ショッカーを攻撃!」

「相打ち…!」

 

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

「エンドフェイズに永続罠、リビングデッドの呼び声を発動!人造人間サイコ・ショッカーを特殊召喚!」

 

 

 

城之内 ライフ4000

手3 場 魔導ギガサイバー 伏せ1

猪爪 ライフ3200

手2 場 サイコ・ショッカー リビングデッドの呼び声 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はサイコ・ショッカーをリリース!現れろ、人造人間サイコ・ロード!」

「出たな、お前のエースモンスター!」

「サイコ・ロードの効果発動!1ターンに1度、場の表側表示の罠カードを全て破壊し、破壊したカード一枚につき300ポイントのダメージを与える!」

「リビングデッドの呼び声が破壊されて、俺に300のダメージか」ライフ4000から3700

 

 

「バトル!人造人間サイコ・ロードで魔導ギガサイバーを攻撃!」

「リバースカードオープン!天使のサイコロ!」

「?!サイコロを振って出た目の数×100ポイント攻撃力を上げる速攻魔法!4以上でればサイコ・ロードは破壊される…。」

「ダイスロール!出た目は…5だ!よってギガサイバーの攻撃力は2700!」

「ぐっ!サイコ・ロード!」ライフ3200から3100

 

 天使のサイコロで、サイコロードを返り討ちにする魔導ギガサイバー!

 

「メインフェイズ2!俺は魔法カード、精神操作を発動!相手モンスターのコントロールを得る!」

「洗脳戦術ってやつか。だが、精神操作で奪ったモンスターは攻撃もリリースも出来ねぇ。」

「罠発動!生贄の祭壇!俺の場のモンスターを墓地に送り、その元々の攻撃力分、ライフを回復する!」ライフ3100から5300

「おお。やるじゃねぇか!」

「俺はモンスターをセットして、ターンエンド!」

 

 

 

城之内 ライフ3700

手3 場 

猪爪 ライフ5300

手0 場 セットモンスター

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は魔法カード、死者蘇生を発動!お前の墓地から、人造人間サイコ・ショッカーを特殊召喚!」

「…は?えっ?」

「そしてぇ!ジェネティック・ワーウルフを召喚!」

「レベル4で攻撃力2000の、通常モンスター?!」

 

「バトルだ!ジェネティック・ワーウルフでセットモンスターを攻撃!」

「じ、人造人間サイコ・リターナーの効果発動。墓地に送られたとき、墓地のサイコ・ショッカーを特殊召喚出来る…。」

「だが、お前の墓地にサイコ・ショッカーは居ない。行け、サイコ・ショッカー!ダイレクトアタック!」

「ぐうううっ!」ライフ5300から2900

 

「ターンエンドだ」

 

 

 

城之内 ライフ3700

手2 場 サイコ・ショッカー ジェネティック・ワーウルフ 

猪爪 ライフ2900

手0 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!ライフを800ポイント支払い、魔法カード、洗脳-ブレインコントロールを発動!サイコ・ショッカーは返してもらう!」ライフ2900から2100

「…ああ、いいぜ」

「バトル!サイコ・ショッカーでジェネティック・ワーウルフを攻撃!」

「……」ライフ3700から3300

「ターン、エンド。エンドフェイズに、サイコ・ショッカーのコントロールは元に戻る。」

 

 

城之内 ライフ3300

手2 場 サイコ・ショッカー 

猪爪 ライフ2100

手0 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ、サイコ・ショッカーでダイレクトアタック!」

「ぐわあああああっ!」ライフ0

 

 

 ライフが尽きた猪爪は膝をつき、直後に拳を地面に叩きつける!

 

「…次は、次は勝つ!」

「いいぜ。俺はどんな時でも受けてたつ。」

 

 

 そんな猪爪に、仲間らしき青年が近づく。

 

「強かったな、あれが伝説の決闘者、か。」

「強くなったと思っていたが、まだまだだ。いくら積み重ねても、上には上が居る事を思い知らされる。」

 

 青年は自らのデッキを取り出す。

 

「破滅の女神ルインだろ?」

「…儀式モンスターは使いづらいと言われるけれど、こいつは俺のフェイバリットカードだ。今までも、そしてこれからも。」

 

 信念を持つ青年に対し頷く猪爪。彼もまた、サイコ・ショッカーがフェイバリットカードである。

 

 

 

 そんな二人にちらりと目を向けた城之内は荷物を持つと、亀のゲーム屋に向かって歩き出す。

 ミズガルズ王国で手に入れたお土産と土産話を双六爺さんとするために。



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第22話!闇獏良VS元サイバー・ランカーズ!

才田さんに負けて降格させられた元サイバー・ランカーズのブロック代表、才獏が登場します。一応、これでサイバー・ランカーズは全員登場しましたね。

今回はアニメオリカが登場します。


「ここは…どこだ?」

 

 中部ブロック代表だったが、才田智子にその座を追われた元サイバー・ランカーズの才獏 良(さいばく りょう)は見知らぬ場所に居た。

 

「俺は、闇のゲームとかいう胡散臭い話が出鱈目と言う事を証明するために、通信機器と小型カメラとマイク、それにGPSを持っていたはず…。」

 

 周りを見渡すと、何もない。闇の中、というより虚無。

 そう表現できる場所に、才獏はいる。

 

「…なんだぁ?」

「だ、誰だ!」

「何だってこんな所にいやがる?」

 

 銀髪で禍々しい鋭い目を持つ、青と白の横縞のシャツの上に黒いコートを羽織った青年が、才獏の前に現れる。

 

「お前は…。」

「俺様を知らねぇのか。俺様は獏良だ。」

「ば、獏良?!あのバトルシティ決勝トーナメント進出者!お前を倒せば、あの才田にもう一度入れ替えデュエルを挑める!」

「ああ?何言ってやがる。」

 

 訝し気に相手を睨む闇獏良。

 

「俺はサイバー・ランカーズの中部ブロック代表だった。だが、都道府県代表の才田と入れ替えのデュエルに敗れ、その座を追われた…。俺達サイバー・ランカーズは特定の条件を満たせば、入れ替えのデュエルを挑める!国内外の年に一度開催される公式大会で優勝、サイバー流に1000万円の上納金を払うか…それとも。」

 

 デュエルディスクを構えながら、才獏は告げる。

 

「バトルシティ決勝トーナメント進出経験者とのデュエルに勝利するか、だ!」

「ヒャハハハハハ!この俺様が昇格試験の試験官扱いかよぉ!」

 

 ひとしきり笑った後、冷酷な目を向ける闇獏良。

 

「久々に笑えたぜ。さぁ、闇のゲームの始まりだぁ!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才獏 ライフ4000

手5 場 

闇獏良 ライフ4000

手5 場 

 

「先攻は譲ろう。」

「ほぅ?俺様の先攻、ドロー!俺様はモンスターをセット、そしてカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

才獏 ライフ4000

手5 場 

闇獏良 ライフ4000

手4 場 セットモンスター 伏せ1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、エマージェンシー・サイバーを発動!デッキから「サイバー・ドラゴン」モンスター、または通常召喚できない機械族・光属性モンスター1体を手札に加える。俺はデッキからサイバー・ドラゴンを手札に加える。相手の場にのみモンスターが存在することで、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「攻撃力2100を攻撃表示で特殊召喚だと!」

 

 知識がバトルシティで止まっている闇獏良は驚愕する。

 

「そしてサイバー・ドラゴン・コアを召喚して効果発動!デッキから「サイバー」魔法・罠カードまたは「サイバネティック」魔法・罠カード1枚を手札に加える。俺は二枚目のエマージェンシー・サイバーを手札に加える。魔法カード、パワー・ボンドを発動!場のサイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴン・コアを融合!現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

「攻撃力2800の融合モンスター…?!馬鹿な、攻撃力5600まで上昇しただと?!」

「驚いたようだな。パワー・ボンドにより特殊召喚された機械族の融合モンスターの攻撃力は、元々の攻撃力分アップする!しかも、サイバー・ツイン・ドラゴンは一度のバトルフェイズで二回攻撃出来る!バトル、サイバー・ツイン・ドラゴンでセットモンスターを攻撃!!」

 

 迫りくるブレス!セットモンスターが表側表示になる!

 

 

「こいつはクルーエルだ!こいつが破壊された事で、効果発動!コイントスを行い、当たれば相手モンスターを破壊!俺様は裏を宣言して、コイントス…!よし、裏だ!」

「?!さ、サイバー・ツイン・ドラゴンが!」

「ヒャハハハハ!これでそいつは破壊され」

 

 闇獏良は最後まで言い切る事が出来なかった。

 

「お前には対戦相手に対するリスペクト精神が無いのか!」

「…あ?」

「除去カードなど卑怯だ!こんなデュエルは無効!仕切り直し…あれ?」

 

 だが、デュエルディスクは反応しない。

 

「そいつは出来ねぇぜ。これは闇のゲーム、負けた方が消える。生き残りたいなら、俺様を倒すんだな!ヒャハハハハハ!」

「お、おのれぇ!」

「さぁ、どうする?それとも気が済むまで駄々をこねるかぁ?」

「…メインフェイズ2!魔法カード、一時休戦を発動!互いにカードを一枚ドローする!そして次のターン終了時まで、互いに受けるダメージは0になる!」

「ケッ、ワンターンキルを仕掛けようとしておきながら、一時休戦かよ。大した『リスペクト』だなぁ?」

「黙れっ!俺はこれでターンエンドだ!このエンドフェイズ、パワー・ボンドのリスクとして融合召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受けるが、一時休戦でダメージは0だ!」

 

 

才獏 ライフ4000

手4 場 

闇獏良 ライフ4000

手5 場 伏せ1

 

「俺様のターン、ドロー!」

 

 手札を眺めながら、闇獏良は対戦相手の性格とデッキを冷静に分析する。

 サイバー・ドラゴンという攻撃力2100の機械族モンスターを主軸に置いた、ハイビートダウンのデッキ。

 

 クルーエルというギャンブルが絡む除去モンスターをあれだけ罵倒するなら、除去カードの類は少なめで、デッキを回すカードばかりなのか?

 だが、俺は使うのはいいがお前はダメ、という自己中な性格である可能性も否定できない。

 

(奴は前のターン、エマージェンシー・サイバーという魔法カードを手札に加えていやがった。俺様が壁モンスターを出せば、サイバー・ドラゴンがまた出てくる。だが、場をがら空きにした状態でツイン・ドラゴンをまた呼び出されたらジ・エンドだ。伏せカードは、ここに来てから手に入れた役に立たねぇカードだしな。)

 

 自身の伏せカードに目を向ける闇獏良。ブラフ程度になれば御の字と思って伏せた罠だ。

 

 

「…俺様はモンスターをセット、永続魔法、暗黒の扉を発動!これでお互いに一体のモンスターでしか攻撃できない!ターンエンドだ」

 

 

 

才獏 ライフ4000

手4 場 

闇獏良 ライフ4000

手4 場 セットモンスター 暗黒の扉 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、エマージェンシー・サイバーを発動!デッキからサイバー・ドラゴンを手札に加える。そして墓地のサイバー・ドラゴン・コアを除外して効果発動!相手の場にのみモンスターが存在することで、デッキからサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「そんな効果もあるのか。随分優秀な『コア』だな」

「バトル!サイバー・ドラゴンでセットモンスターを攻撃!!」

「クリッターの効果発動!戦闘で破壊された事で、俺様はデッキから攻撃力1500以下のモンスターを手札に加える。俺様は偉大魔獣ガーゼットを手札に加えるぜ!」

「俺はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

才獏 ライフ4000

手4 場 サイバー・ドラゴン 伏せ1

闇獏良 ライフ4000

手5 場 暗黒の扉 伏せ1

 

 

「俺様のターン、ドロー!俺様はゴブリンエリート部隊を召喚!」

「攻撃力2200!」

「バトルだ!ゴブリンエリート部隊で、サイバー・ドラゴンを攻撃!」

「永続罠、サイバー・ネットワークを発動!1ターンに1度、俺の場にサイバー・ドラゴンが存在する場合、デッキから機械族・光属性モンスターを1体除外できる!俺はデッキからサイバー・ドラゴン・ドライを除外!」

「あ?それでどうしようと。」

「除外されたサイバー・ドラゴン・ドライの効果発動!場のサイバー・ドラゴンを選択!このターン、サイバー・ドラゴンは破壊されない!」

「チッ、ならダメージを受けろ!」

「?!ぎゃあああああああっ!お、俺の手があああああああっ!」ライフ4000から3900

「おいおい、何悲鳴を上げてんだよ?たかが100だぜ?」

「お、お前!お前何をしたぁ!」

 

 激痛が走った手を押さえながら、才獏は喚く。

 

 

「これは闇のゲームと言ったはずだ。ダメージは実体化する…ライフが0になったら、どうなるかなぁ?」

「ふ、ふざけるなっ!こんなデュエルは無効だ!」

「それは出来ない。闇のゲームからは誰も逃げられねぇ…生き残りたいなら、俺様を倒すしか方法は無いぜぇ?ククク…。俺様は昇格試験の試験官なんだろ?頑張って倒せよ、受験生。」

「ぐううううううっ…。」

 

「さて、バトル終了。エリート部隊は守備表示になってしまう。ターンエンドだ」

 

 

 

才獏 ライフ3900

手4 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ネットワーク 

闇獏良 ライフ4000

手5 場 ゴブリンエリート部隊 暗黒の扉 伏せ1

 

 

「お、俺のターン、ドロー!バトルだ、サイバー・ドラゴンでゴブリンエリート部隊を攻撃!」

「ケッ、エリートと言っても、所詮はゴブリンならこの程度か。」

「俺はモンスターをセット!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

才獏 ライフ3900

手3 場 サイバー・ドラゴン セットモンスター サイバー・ネットワーク(1) 伏せ1

闇獏良 ライフ4000

手5 場 暗黒の扉 伏せ1

 

 

「俺様のターン、ドロー!墓地に眠るクルーエル、クリッター、ゴブリンエリート部隊の三体の悪魔族を除外し!さぁ、蘇れ、死の世界の支配者!ダーク・ネクロフィア!」

「攻撃力、2200!ま、またあの衝撃が…」

 

 後ずさる才獏を見ながら、闇獏良は笑う。

 

「ヒャハハハハ!俺様がクリッターで何をサーチしたのか忘れちまったかぁ?俺様はダーク・ネクロフィアをリリース!現れろ、偉大魔獣ガーゼット!こいつの攻撃力はリリースしたモンスターの攻撃力の倍!よって攻撃力は4400!」

「う、うわああああああああっ!」

 

「さぁバトルだ!偉大魔獣ガーゼットで、サイバー・ドラゴンを攻撃!」

「さ、サイバー・ネットワークの効果発動!サイバー・ドラゴン・ドライを除外し、サイバー・ドラゴンはこのターン破壊されない!」

「ヒャハハハハハ!サイバー・ドラゴンは守れても、てめぇの精神が先にぶっ壊れちまうかもしれねぇなぁ!」

「ああああああああああああああああああああああああ!」ライフ3900から1600

 

 

 絶叫を上げてのたうち回る才獏は、やがて動きを止める。

 

「…くたばったか。いや…。」

「は、はぁ、はぁ…。」

「ほぅ?少しはやるみたいだなぁ?神官は無理だが、神官候補か神官代理ぐらいは勤められる器か。」

「お、お前のターンは終わりか?」

「いや、カードを一枚伏せてターンエンドだ。」

 

 

 

才獏 ライフ1600

手3 場 サイバー・ドラゴン セットモンスター サイバー・ネットワーク(1) 伏せ1

闇獏良 ライフ4000

手2 場 偉大魔獣ガーゼット 暗黒の扉 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!よし…!」

「あ?」

 

 どうやらキーカードがそろったらしい。闇獏良は警戒を強める。

 

「俺はセットモンスターを反転召喚!サイバー・ドラゴン・ツヴァイ!手札の魔法カード、パワー・ボンドを公開する事で、カード名をサイバー・ドラゴンとして扱う!」

「チィッ、攻撃力5600のサイバー・ツイン・ドラゴンが確定か!」

「そうだ!これでお前のライフを削り切って」

「させるかよぉ!罠発動!成功確率0%!てめぇの融合デッキからカードを二枚、ランダムに墓地に送る!」

「?!俺のエクストラデッキを破壊するだと!本当に、対戦相手へのリスペクト精神が無いんだな!」

「これでサイバー・ツイン・ドラゴン二匹を撃ち抜けば、二回攻撃は出来ねぇだろ!」

「そうそう当たるわけ…が…。」

 

 闇獏良にとっても、分の悪い賭け。だが…

 墓地に送られたのは、無情にもサイバー・ツイン・ドラゴン二体。

 

「ふ、フフフフ!ヒャハハハハハァ!さぁ、これで俺様を倒す術は無くなったなぁ!」

 

 これでもうあの二回攻撃してくるモンスターが出てこない事で、闇獏良は高笑いをあげる。

 

 

「まぁ、俺様がクルーエルのコイントスと成功確率0%でツイン・ドラゴンを二枚撃ち抜く、という運任せの勝負をしなければならない所まで追い詰めたんだ。てめぇの肉体は悪い様にしないで置いてやる。だから、大人しく負けろ!」

「プロト・サイバー・ドラゴンを召喚。魔法カード、パワー・ボンドを発動!」

「はぁ?もうサイバー・ツイン・ドラゴンは居ないはずだ。何を呼び出そうと」

「場のプロトとツヴァイ、手札のサイバー・ドラゴンを融合!現れろ!我がサイバー流の象徴!サイバー・エンド・ドラゴン!」

「攻撃力、4000だとぉ!いや、パワー・ボンドとやらで出されたって事は…」

「そう、攻撃力は元々の攻撃力分アップする!よって攻撃力は8000!バトルだ!いけ、サイバー・エンド・ドラゴン!偉大魔獣ガーゼットを粉砕しろ!」

 

 

 サイバー・エンド・ドラゴンが凄まじいレーザー光線を偉大魔獣ガーゼットに浴びせ、その余波が闇獏良を襲う!

 

「はぁ、はぁ、はぁ…これであの卑怯者はデュエル続行不可能で俺の勝ちだ。リスペクト精神を持たないからこういう目に」

「気は済んだか?」ライフ4000から200

「な、何故生きている!」

「このぐらいで俺様を殺せると思ったか?」

 

 才獏が受けた衝撃以上の衝撃を受けた直後だが、元々闇そのものである闇獏良はどこ吹く風と言わんばかりだ。

 

「パワー・ボンドのリスクを受けて貰うぜぇ?」

「罠発動!ピケルの魔法陣!このターン、俺が受ける効果ダメージを0にする!」

「チッ、流石に自滅はしないか。」

 

 

才獏 ライフ1600

手1 場 サイバー・エンド・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ネットワーク(2) 

闇獏良 ライフ200

手2 場 暗黒の扉 伏せ1

 

 

「俺様のターン、ドロー!俺様はモンスターをセットしてターンエンド!」

「エンドフェイズにサイバー・ネットワークの効果発動!デッキからサイバー・ドラゴン・ドライを除外する!」

「…何を狙っていやがる?」

 

 

 

 

才獏 ライフ1600

手1 場 サイバー・エンド・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ネットワーク(2) 

闇獏良 ライフ200

手2 場 セットモンスター 暗黒の扉 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!このスタンバイフェイズ、サイバー・ネットワークは3ターン目を迎える。」

「なんだ?何が起こる?」

「このカードを破壊する。そしてこのカードが場から墓地へ送られた事で効果発動!除外されている機械族・光属性モンスターを可能な限り特殊召喚!戻って来い、三体のサイバー・ドラゴン・ドライ!」

「面倒なカードを使いやがって!」

「だが、この効果を発動したターン、バトルフェイズは行えない。ターンエンドだ。」

 

 

 この状況で一番聞きたかったセリフを聞けた闇獏良は、薄く笑う。保険はかけていたが…。

 

 

才獏 ライフ1600

手2 場 サイバー・エンド・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・ドライ サイバー・ドラゴン・ドライ サイバー・ドラゴン・ドライ 

闇獏良 ライフ200

手2 場 セットモンスター 暗黒の扉 伏せ1

 

 

「ヒャハハハハハァ!俺様のターン、ドロー!これで俺様の勝利は確実だ!X・E・N・Oを反転召喚!」

「な、何だ!そのモンスターは!攻撃力200だと!」

「こいつは相手モンスターの装備カードとなり、エンドフェイズまでそのコントロールを得る!サイバー・エンド・ドラゴンは頂くぜぇ!」

 

 闇獏良の場に移動する、サイバー・エンド・ドラゴン。

 サイバー流の切り札が自らに照準を合わせた事で、戦意を喪失する才獏。

 

 

「お、お前にリスペクト精神は」

「てめぇに褒められるほど、俺様は落ちぶれていねぇぜ!!この効果でコントロールを得たモンスターは、相手に直接攻撃が出来る!」

「何ぃ!」

「これで終わりだ!サイバー・エンド・ドラゴンでてめぇにダイレクトアタック!」

「うぎゃあああああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 ライフが尽き、身体が消えていく才獏。

 

「な、何だこれは!」

「闇のゲームの敗者。その末路だ。お前の肉体は、俺様が有効活用してやるよぉ!ヒャハハハハハァ!」

「い、嫌だ、イヤダァ!た、助けてくれぇ!あんな、リスペクト精神が無いデッキに負けて消えるなんて、そんなの嫌だ…ぁ…。」

 

 

 闇獏良は目を閉じ…ややあって顔に風を感じたため、目を見開く。現世に戻っている。

 

「…まぁ、悪くはない身体だ。しばらく、この肉体で楽しむとするか」

 

 

 そう独り言をつぶやいた直後、闇獏良はある事に気づく。先ほど使ったデッキがない。代わりに相手が使っていたデッキがデッキホルダーに収められていた。

 

(折角現世に戻れたが…。大邪神ゾークがホルアクティに消滅させられた今、俺様は何をするべきだ?)

 

 すべては、大邪神ゾークを復活させ、この世を破壊と混沌の楽園に塗りつぶす…それが三千年という歳月の中、闇獏良が果たそうとしていた目的。

 だが、それはもはや叶う事は無い。ならば、これからどうすればいい?

 

 

 

「…まぁ、なるようになるだろう。」

 

 

 携帯電話に登録されていた、才獏の自宅に戻り、闇獏良は押し入れにあった段ボールを開ける。

 カウンター罠や除去カードなどが収められていた。その中には闇獏良にとってなじみ深いカードや、知らないカードもある。

 

 ワクワクしながら、闇獏良はデッキ構築に取り掛かる。

 

 

 

 

 のどの渇きを覚え、闇獏良が時計を見ると帰宅してから6時間が経過していたため、デッキ構築を後回しにして、夕食を取ることにした。

 

 

 

 そんな事があった数日後。

 中部ブロックでサイバー狩りと名乗って、サイバー流の門下生を狩っている一団は逆に狩られるようになった。

 

 

「僕は見城零郎(けんじょう ぜろろう)!サンダー流免許皆伝のデュエルエリートにして、サイバー狩り!元とはいえブロック代表!お前を倒せば大金星だ!」

「いいぜ、どっちが獲物か思い知らせてやるぜぇ!!」

 

 

 そんな才獏を、物陰から黒いネコミミパーカーを着用している少女がこっそりのぞく。

 しばらく会わないうちに、随分と変わったなぁ…と思いながら、見守る。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才獏 ライフ4000

手5 場 

見城 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は」

「俺様が貰う。」

「な?!さ、サイバー流が先攻を…。いいだろう、先攻は譲ってやる。」

「俺様の先攻、ドロー!俺様はサイバー・ドラゴン・コアを召喚!デッキからサイバー・ネットワークを手札に加える。魔法カード、機械複製術を発動!場のサイバー・ドラゴン・コアを選択。デッキからサイバー・ドラゴンを二体特殊召喚!」

「フン、これでサイバー・ドラゴンが3体か。それで、サイバー・エンド・ドラゴンでも出すのか?」

「俺様はカードを3枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

才獏 ライフ4000

手2 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・コア 伏せ3

見城 ライフ4000

手5 場 

 

 

「あ、あいつ!サイバー流なのにサイバー・エンド・ドラゴンを出さない!」

「きっと持っていないンスよ!」

「いや、攻撃も出来ない先攻1ターン目に、サイバー・エンド・ドラゴンを棒立ちさせても意味は無い。元とはいえブロック代表、侮れない」

 

 

 ギャラリーが一通り言い終わった後、見城が動く。

 

 

「…僕のターン、ドロー!俺はライフを1000支払い、魔法カードシステムダウンを発動!これでお前の場と墓地の機械族は全て除外される!」ライフ4000から3000

「カウンター罠、マジック・ジャマーを発動!手札の超電磁タートルを捨てて、システムダウンの発動と効果を無効にして破壊!」

「何ぃ!か、かかかかかかカウンター罠だとぉ!」

 

 サイバー流がカウンター罠を使ったことで、動揺するギャラリー。

 

「あいつ、サイバー流の癖にカウンター罠を使うだと!」

「見下げ果てた奴め!」

「才獏が変わったと聞いていたが、まさか才災師範の狂った教えを捨てるとは…。」

 

 

 

 

「どうした?サンダー流。それで終わりかぁ?」

「ぐっ…。才災師範の教えすら捨てたか!!僕は手札のサンダー・ドラゴンを捨てて効果発動!デッキからサンダー・ドラゴンを二枚手札に加える!魔法カード、融合を発動!手札のサンダー・ドラゴン二体を融合!現れろ、サンダー流のエース!双頭の雷龍!」

 

 紫電を迸らせる雷族の融合モンスター!

 

 

「よし、攻撃力2800!」

「いけー!サイバー流をぶっ潰せぇ!」

「いや、あいつの墓地には…」

 

 

「まだだ!装備魔法、巨大化を装備!これで攻撃力は二倍になる!これでサイバー・ドラゴン・コアを攻撃すればお前のライフは0!サイバー・ネットワークを使ったところで無意味!行け、双頭の雷龍!その雑魚を攻撃しろ!」

「墓地の超電磁タートルを除外して、バトルフェイズを終了させる!」

「?!イカサマだ!そんなモンスター、何時墓地に送った!」

「もう忘れたのかぁ?カウンター罠、マジック・ジャマーの手札コストだ。」

「ぐぬぬ…僕はモンスターをセット。カードを二枚伏せてターンエンド!」

「俺様はサイバー・ネットワークの効果を発動する。デッキからサイバー・ドラゴン・ドライを除外して、サイバー・ドラゴンに破壊耐性を与える。」

 

 

 

才獏 ライフ4000

手1 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン・コア サイバー・ネットワーク 伏せ1

見城 ライフ3000

手0 場 双頭の雷龍 セットモンスター 巨大化 伏せ2

 

 

「俺様のターン、ドロー!」

 

 サイバー・ネットワークが1回目のスタンバイフェイズを迎える。

 

(三ターンきたらぶっ壊れて、そのターン攻撃が出来なくなる。あの伏せカードが罠ならこいつでどうにでも出来るが…)

 

「この瞬間、罠発動!酸のラストマシンウイルス!セットしていた水属性モンスター、黄泉ガエルをリリース!才獏!お前の場と手札の機械族を全て破壊し、一体につき500ポイントのダメージを与える!」

「俺様に罠は通じない。ライフを1000払ってカウンター罠、盗賊の七つ道具を発動!」ライフ4000から3000

「ま、またしても…!」

「俺様は魔法カード、パワー・ボンドを発動!場のコアとサイバー・ドラゴンを融合!サイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚!」

「攻撃力2800、パワー・ボンドで5600か!だが、お前に僕の双頭の雷龍を攻撃出来るのかな?」

 

 目を開けたまま寝言を言う見城に対し、訝し気な目を向ける才獏。

 

「ああ?何言ってやがる…いや、気付いていないのか。バトルだ!サイバー・ツイン・ドラゴンでご自慢のモンスターを攻撃!」

「だから攻撃力は互角…?!ど、どうして攻撃力が2800に下がっている!おい、お前!イカサマしたな!」

「巨大化はてめぇのライフが俺様より低いときに適用される。今、俺様たちのライフは互角。よって攻撃力は2800に戻る。」

「ぐわあああああっ!」ライフ3000から200

 

「け、見城さん!」

「う、嘘だろ…?」

「これが、元とはいえブロック代表の底力か…!」

 

 

「これで終わりだな。俺様はサイバー・ツイン・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「り、リバースカードオープン!速攻魔法、スクラップ・フュージョン!相手の墓地から融合素材モンスターを除外し、その融合モンスターを自分か相手の融合デッキから特殊召喚する!お前の墓地からサイバー・ドラゴンとコアを除外し、俺の場にサイバー・ツイン・ドラゴンを守備表示で特殊召喚!」

「対融合メタって所か。ツイン・ドラゴンでそのまま攻撃!」

「ぐううううっ!」

「トドメだ、サイバー・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「うぎゃああああああっ!」ライフ0

 

 

 ライフが尽き、倒れる見城。

 

「俺様の勝ちだな。」

「ぐ、くっそぉおおおお…クサイバーの分際でぇ…。」

「さて、てめぇらサイバー狩りがやっているように、デッキとディスクは没収だ。」

「あ、ああああああ~!ど、どうして、どうしてこんな事に!サイバー流の連中なんて朝飯前の獲物だったのにぃ!」

 

 泣きわめく見城だが、彼の認識は甘くない。

 闇獏良が、『辛すぎた』

 

 

 古巣が気になって戻ってきた少女だが、才獏が別人のように変貌していたことで距離を置くことに決め、その場から立ち去る。

 降格させられた事、才災師範の行動、というだけでは説明がつかない。

 

 

 

 闇獏良が帰宅すると、大きなリュックサックを背負った背の高い青年がいた。

 

「あ、すみませーん!元サイバー・ランカーズの才獏さんですか?」

「ああ、そうだ。てめぇは?」

「俺は才竹って言います!サイバー流の門下生で、ちょっとお願いがあってきました。デュエルディスク、売ってくれませんか?」

「なんで俺様から?」

「最近、サイバー狩りを返り討ちにして、デュエルディスクを手に入れていると聞きました!余っていますよね!」

 

 

 この時、闇獏良はふと思った。そういえば、デュエルディスクっていくらだ?

 宿主に奪わせ、その後ゾーク・ネクロファデス復活の為に行動しており、カードショップになど行っていない。あれから、相場も変わっているだろう。

 

 

「…ああ。三万円で売ってやる。」

「ええっ?!さ、三万円?!」

「ああ?文句あるのか?」

 

 内心、高すぎたか?と危惧したため、脅すように言う闇獏良。

 才竹の心情は違う。

 

「新品なら20万円!中古でも10万円で取引されているのに!そんな安く売ってくれるなんて、才獏さんっていい人だな!」

「お、おう。」

 

 内心舌打ちしながら、デュエルディスクを手渡し三万円を受け取る闇獏良。

 

「てめぇ、これから都内に行くんだろ?」

「な、なんでそれを!」

「その荷物を見れば想像はつく。何かと金は入り用だろう?節約できるところは節約しておかねぇとな。」

「あ、ありがとうございます!」

「まぁ、俺様の機嫌が良かったのもある。運が良かったな?ヒャハハハハハァ!」

 

 悪い人っぽい言動しているけど、きっと照れ隠しか何かだな!と思い込む才竹。

 別れを告げ、才竹はバス停に向かう。

 

 

 

「都内に行って、才魔様の所で働きながら、才災師範の教えを継承する。よし、頑張るぞ!」

 

 

 才竹が乗ったバスが出発した直後、別のバスが向かいからやってくる。

 団体客、20名が降りる。

 

 

「よし!サイバー狩りの時間だ!デュエルディスクを奪って売れば10万円!そしてデッキを手に入れれば交通費の足しぐらいにはなる!」

「つまり、実質タダで10万円手に入れながら旅行が出来るって寸法ね!最高ッ!」

 

「よっしゃー!待ってろよ、サイバー流!」

「ヒヒヒ、レアカード、レアカード!」

「金、かね、カネェ!」

「グフフフ、やばい、笑いが止まらん」

 

 

「しかし、もしも負けたら…」

「心配するな。サイバー流の天敵カードを入れたメタデッキだ。これに勝てるデュエリストなんてサイバー流にはいない!とりあえず、居場所が判明しているサイバー流の門下生はどこだ?」

「はっ、元サイバー・ランカーズの才獏という奴の自宅が…」

 

 指さした方向に向かって、一斉に走り出す団体。

 

 

「くふーっ!早い者勝ちぃ!」

「あっ、待ちやがれ!そいつは俺の獲物だ!」

「元サイバー・ランカーズならレアカードもたんまりとあるはず!全部頂く!」

「金もあるよな!」

 

 欲望に彩られた、20名の男女の末路は敢えて語らない。

 

 

 なお数日後、才獏が20個のデュエルディスクをえっちらおっちら、炎天下の中リアカーを使って4km離れたカードショップに運んでいる姿を近隣住民が見かけたらしい。

 出張買取サービスがある事を知って茫然とする才獏の姿を、カードショップの常連が目撃したものの、才災師範の暴走でよほど疲れているのだろう、と推測された。

 

 




闇獏良が登場するアンチリスペクト物が無いなぁと思っていましたが、そもそも記憶編で消滅している上に、登場してもサイバー流には入らないでしょうし、主人公側の味方にもなりえない。

良いキャラしていますが、アンチリスペクト物という作品だと扱い辛いとしか言いようがありません。今後アンチリスペクト物が出たとしても、闇獏良の出番は無いでしょうね。


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第23話!さらば、デュエルアカデミア!丸藤翔、退学!

 今回は以前コラボして頂いた、カイナ先生の作品、サイバー流系メスガキinデュエルアカデミアの主人公の並行世界におけるキャラクターが登場します。
 デュエルパートに関してはカイナ先生に監修していただいております。この場を借りてお礼申し上げます。

 翔がラーイエローに昇格出来たのは、クロノス臨時校長とナポレオン教頭による『スター発掘計画』において、丸藤亮の弟なら話題性があると思われたからです。ブルー女子の胡蝶蘭を倒せるぐらいには成長していましたが。

 今回は結構長いです。


 デュエルアカデミアは、新たな校長としてクロノス教諭が就任。その他の人事も一新となり、厳しい評価が下されるようになった。

その中で、丸藤翔の処遇が決まる。臆病でありながら、デュエルで有利になると調子に乗るという傲慢さ。しかも相手のカードを批判する言動。

 2年生への進級を前に、ノース校などの分校への留学か、自主退学という選択肢を突き付けられる。

 

「どうしますか?」

「…も、もういいッス!!才災師範の理念が分からないデュエルアカデミアにこれ以上居たって意味は無いッス!僕は、僕を受け入れてくれるサイバー流を、リスペクト・デュエルを続けるッス!」

「ではこちらに署名を。はい、ありがとうございました。」

 

 

 もはや見限っていた教員は、冷たく事務作業を完遂する。

 そのやり取りから一時間後。

 

「…翔、本当に行っちまうのかよ。」

「もう決めた事ッス。」

「お前、ここでデュエルキング目指して頑張るんじゃ無かったのかよ!」

「こんなアカデミアに居ても意味がないッス!」

 

 翔は荷物をまとめ、デュエルアカデミアから去る。

 

「ああ、アニキ。このカードあげるッス。もう僕には必要のないカードッス」

「?!これ、シールドクラッシュじゃないか!お前の大事なカードだろ!」

「うるさいッス!もう決めた事ッス!」

「…わかった。このカードは大切に使わせてもらう。」

 

 

 翔は定期便に乗り込む。

 

「さらば、デュエルアカデミア。まぁ、これで良かったッス。」

 

 勉強せず、オシリスの天空竜の祭壇を作って拝むという神頼みをしていた事で成績はもちろん伸びない。

 『スター発掘計画』としてラーイエローへ昇格させるという学園上層部の思惑も無い為、この世界線においてアカデミアに留まっても昇格は難しいだろう。

 

 

 デュエルアカデミアで踏ん張る事をせず、逃げ出した翔を待っていた現実は厳しかった。実家は更地になっており、両親及び兄とは連絡がつかない。

 両親はそれぞれの実家へ行き、丸藤亮はサイバー・ランカーズの一人、才園の助けを借りて京都へ逃げていたのだが翔は知る由もない。

 

 丸藤亮は、翔が卒業した頃に迎えに来る予定だったが…。自主退学しておきながら実家に連絡すら入れていない為、両親も兄も気づかなかった。

 

 

「そ、そんな~!で、でも!サイバー流の門下生なら、住み込みで働ける職場の一つや二つ、すぐに見つかるッス!」

 

 楽観的に考えていた翔だったが…。

 

 

「出ていけぇ!」

「そ、そんなぁ~!」

 

 行く先々で、サイバー流がかかわっていた店舗から追い出される。手持ちのなけなしの小遣いは、ネットカフェで職場を探したり、漫画を読んだりアニメ鑑賞をしているとあっという間に尽きてしまった。デュエルアカデミアで購入した大事な大事な期間限定のレアフィギュアをショップやマニアに売りさばき、それを元手に職場を探す日々。

 

 

 

 

 

 

 そんなある日。翔は賞金目的に小さな大会に参加する。

 一回戦の相手は、黒髪黒目で平凡そうな少年だ。

 

「僕はサイバー流継承者、丸藤亮の弟、丸藤翔ッス!」

「僕は有坂 信(ありさか しん)!行くよ!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

翔 ライフ4000

手5 場 

有坂 ライフ4000

手5 場 

 

 

「僕の先攻、ドロー!僕は手札からエンジェルO1の効果発動!手札のレベル7以上のモンスター、エンジェルO7を見せる事で、手札から特殊召喚できる!」

「攻撃力200なら怖く無いッス!」

「うっ…僕は、創世の預言者を召喚!さらに永続魔法、冥界の宝札を発動!」

「モンスター二体をリリースしてアドバンス召喚に成功した時、2枚ドローする永続魔法っスね。」

 

「ここでエンジェル01の効果、特殊召喚したモンスターが場にある限り、通常召喚に加えて、レベル7以上のモンスターを攻撃表示でアドバンス召喚出来る!二体のモンスターをリリース!現れろ、僕のエースモンスター、エンジェル07!」

「エースモンスターが攻撃力、2500ッスかぁ…。」

 

 小馬鹿にしたようにつぶやく丸藤翔。リスペクトとは何なのか。

 

「ぼ、僕のエースを馬鹿にするな!冥界の宝札で二枚ドロー!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

翔 ライフ4000

手5 場 

有坂 ライフ4000

手3 場 エンジェル07 冥界の宝札 伏せ1

 

 

「僕のターン、ドローっス!速攻魔法、サイクロンを発動!その伏せカードを破壊するッス!」

「メタル化魔法反射装甲が!」

 

「よし!相手の場にのみモンスターが存在することで、サイバー・ドラゴンを特殊召喚するッス!」

「ええっ?!ぼ、僕の場にはエンジェル07が居るのに、どうしてモンスター効果が…。」

 

 エンジェル07の効果は万能ではない。召喚ルールまでは止められない。

 

「魔法カード、パワー・ボンドを発動!手札のサブマリンロイド、ドリルロイド、スチームロイドを融合!スーパービークロイド-ジャンボドリル!」

「攻撃力3000なら、まだライフは。」

「フッフッフ、パワー・ボンドで融合召喚した機械族は、その攻撃力が元々の攻撃力分アップするッス~!」

「?!攻撃力、6000!」

「バトル!ジャンボドリルで、エンジェル07を攻撃!」

「う、うわああああっ!」ライフ4000から500

「トドメッス!サイバー・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「うわああああああああっ!」ライフ0

 

 

「やったー!僕の勝ちっス!そんな実力で、僕に挑むなんて100年早いッス~!」

「う、うう…」

「もっとまともなデッキを組んでやり直せッス~!」

「うわーん!」

 

 両手を腰に当て、馬鹿笑いをする翔。

 泣き出してしまう有坂を、他の参加者が慰める。

 

 

 

 

 

 

 準決勝。翔の対戦相手は黒髪ボブカット、八重歯が印象的な女の子だ。

 敵意を剥き出しにして、丸藤翔を睨みつける。

 

 

「アタシは山脇 麻代(やまわき まよ)!幼馴染の仇を取らせて貰うわ!」

「フン、この僕に勝てると思っているっスかぁ~?返り討ちにしてやるッス!」

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

翔 ライフ4000

手5 場 

山脇 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「先攻はアンタよ!さっさと始めなさい!」

「なら僕の先攻、ドローっス!僕は魔法カード、パワー・ボンドを発動!手札のサブマリンロイド、ドリルロイド、スチームロイドを融合!スーパービークロイド-ジャンボドリル!」

「出たわね、攻撃力6000!」

「だけど、パワー・ボンドにはリスクがあるッス…ターン終了時に、融合召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受けるッス。」

「そんな効果があったのね。なら、3000のダメージを受けなさい!」

「だから、サイバー・ジラフを召喚するッス~。このカードをリリースして、このターン僕が受ける効果ダメージを0にするッス!」

「?!」

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

翔 ライフ4000

手0 場 スーパービークロイド-ジャンボドリル 伏せ1

山脇 ライフ4000

手5 場 

 

 

「アタシのターン、ドロー!永続魔法、次元の裂け目を発動!墓地に送られるモンスターは、ゲームから除外される!」

「くっ、除外するカードっスか…」

「魔法カード、苦渋の選択を発動!デッキから暗黒ステゴ、暗黒プテラ、暗黒ヴェロキ、暗黒ブラキ、暗黒恐獣を選択!さぁ、一枚を選びなさい!」

「なら、攻撃力1000のプテラッス~!」

「もう一枚、苦渋の選択を発動!選択するのは、ベビケラサウルス、奇跡のジュラシックエッグ、セイバーザウルス、フロストザウルス、暗黒ドリケラトプスよ!」

「ベビケラサウルスッス~!」

 

 苦渋の選択と次元の裂け目で恐竜族を除外しながら、山脇は素早く次の一手を打つ。

 

「魔法カード、天使の施しを発動!三枚ドローして、二枚を捨てる!アタシは暗黒プテラとベビケラサウルスを捨てる!」

「ま、また恐竜族を除外したっス…。」

「これで、ゲームから除外された恐竜族は10枚!ディノインフィニティを召喚!」

「攻撃力が決まっていないッス!」

「このカードの攻撃力は、ゲームから除外された恐竜族の枚数×1000!よって攻撃力は10000!」

「ええええっ?!」

 

 大げさに驚く翔。

 

「この一撃で終わらせてやるわ!行け、ディノインフィニティ!」

「フフン!それはどうっスかぁ?」

「?!」

「罠発動!進入禁止!No Entry!!場のモンスターを全て守備表示にするッス~!」

「ディノインフィニティの守備力は0…バトルは終了。」

 

 

 山脇は手札を見つめる。D・D・R、生存本能、俊足のギラザウルス、二枚目のディノインフィニティ。

 例え倒されても、次のターンにはD・D・Rと通常召喚で、攻撃力11000のディノインフィニティが並ぶ。

 

「アタシはこれでターンエンド!」

 

 山脇はデュエルを始めて日が浅い。ゆえに彼女はカードの知識については不十分だ。

 スーパービークロイド-ジャンボドリルの効果を、彼女は知らない。

 

 

 

翔 ライフ4000

手0 場 スーパービークロイド-ジャンボドリル 

山脇 ライフ4000

手4 場 ディノインフィニティ 次元の裂け目 

 

 

「僕のターン、ドローっス!僕はスーパービークロイド-ジャンボドリルを攻撃表示に戻すッス!」

「でも、アタシのディノインフィニティは守備表示。ダメージは無いわ!」

「それはどうかなッス!バトル!スーパービークロイド-ジャンボドリルで、ディノインフィニティを攻撃っス!」

 

 地面を潜り、ディノインフィニティに向かって突き進むジャンボドリル!

 

「ジャンボドリルの効果!それは攻撃力が守備力を超えていれば、その数値分のダメージを与えるッス!」

「か、貫通効果!い、いやああああああっ!」ライフ0

 

 

 目を閉じ、Vサインをする丸藤翔!

 ライフが尽き、崩れ落ちる山脇。

 

「どうだ、参ったか!」

「あ、アタシが負けた…。」

「ディノインフィニティの攻撃力を上げる為だけに、恐竜族を大量に除外するような『リスペクト』に反する戦術を取るから負けるんス!」

「っつ!」

「なんなんスか?文句があるッスか?その戦術で、君は僕に負けたッスよ!」

 

 歯を食いしばり、悔し涙を流す山脇。

 

 

「…行こう、麻代」

「ごめん、信。アタシ、勝てなかった…。」

「よくやってくれた。」

 

 

 一回戦で翔に負けた少年が幼馴染を連れてその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 決勝戦。

 

 猫耳パーカーを羽織った、小柄な少女が翔の対戦相手として立ちはだかる。

 

 

「や、柳里(やなり)彩葉(あやは)…ちゃん…」

「久しぶり、翔おにーさん。」

 

 

 一応は幼馴染であり、元サイバー流の門下生である彼女はかつての同門でもあるが、丸藤翔は彼女が苦手だった。

 自分より小柄で年下だが、逆らえない感じがしたからだ。

 

 

「デュエル、見てたよ。相変わらず才災おじさんの教えを守ってるんだね。」

「あ、当たり前ッス!才災師範の教えは、正しいッス!」

「正しい、かぁ…。」

 

 とても、とても悲しい眼を向ける彩葉。

 

「相手のエースモンスターや、練り上げた戦術を批判・否定するのがリスペクトデュエルなの?」

「当たり前ッス!攻撃力2500のモンスターがエースとかレベルが低すぎるッス!そして恐竜族をドンドン除外するような戦術なんて批判されて当然っス!僕は、正しい事をしているッス!」

 

 

 それを聞いた彩葉は、決心する。

 デッキから才災師範の言う「リスペクト」に反したカード、神の宣告、サンダー・ブレイク、炸裂装甲、奈落の落とし穴などを抜き、「リスペクト」に則ったカードを投入。

 デッキをシャッフルした後、セットする。

 

「だったら…その正しい・リスペクト・デュエルで引導を渡す!」

「ふ、フン!卑怯なカードさえ使われなければ、僕が負けるはずが無いッス!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

翔 ライフ4000

手5 場 

彩葉 ライフ4000

手5 場 

 

「先攻は譲るッス!」

「なら遠慮なく。私のターン、ドロー!モンスターをセット!カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

翔 ライフ4000

手5 場 

彩葉 ライフ4000

手4 場 セットモンスター 伏せ1

 

 

「僕のターン、ドロー!よし、僕はパトロイドを召喚!」

「パトロイド…。」

「バトル!パトロイドでセットモンスターを攻撃っス!」

「セットしていたのは、幻獣サンダーペガス!守備力は2000!」

「えっ?!う、うわああああああああっ!」ライフ4000から3200

 

 

 思わぬ反射ダメージを受ける丸藤翔。

 

「く、ひ、卑怯ッス!」

「そう?そもそもパトロイドは、相手の場にセットされているカードを確認する効果があるよね。なんで使わないの?」

「うっ、そ、それは…。」

「使っていれば反射ダメージは防げたはずだよね?」

 

 

 鋭い指摘に言い淀み、やや考えこむ丸藤翔。

 

「相手のカードを確認するのは、リスペクト違反だからッス!」

「なら、なんでそのリスペクト違反のカードを入れてるの?」

「うぐっ!」

 

 とってつけたような言い訳のようだがその通り、話の矛盾をついてやればすぐボロが出る。

 デュエルアカデミアに行ったから成長したのかと思っていたが、逆に劣化していた。一体何を学んでいたというのか。

 

 

「ぼ、僕はカードを一枚伏せてターンエンドっス!」

 

 

 

翔 ライフ3200

手4 場 パトロイド 伏せ1

彩葉 ライフ4000

手4 場 幻獣サンダーペガス 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!私は、幻獣サンダーペガスをリリースして、バフォメットをアドバンス召喚!バフォメットの効果発動!デッキから幻獣王ガゼルを手札に加える!」

「アドバンス召喚しても攻撃力1400なら平気っス!」

「…魔法カード、融合を発動!場のバフォメットと手札の幻獣王ガゼルを融合!有翼幻獣キマイラを融合召喚!」

「ふ、フン!デュエルキングが使っていた融合モンスターだけど、その攻撃力は2100!大して怖く無いッス!」

 

 虚勢を張る丸藤翔。

 

 

「バトル!有翼幻獣キマイラで、パトロイドを攻撃!」

「くっ、罠発動!スーパーチャージ!僕の場のモンスターがロイドと名のつく機械族モンスターのみが存在する場合、相手の攻撃宣言時に発動できるッス!カードを二枚ドロー!」

「でも、戦闘破壊させてもらう。」

「わあああああっ!」ライフ3200から2300

「カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

 

翔 ライフ2300

手6 場 

彩葉 ライフ4000

手1 場 有翼幻獣キマイラ 伏せ3

 

「ぼ、僕のターン、ドロー!よし!魔法カード、パワー・ボンドを発動!僕は手札のドリルロイド、トラックロイド、エクスプレスロイド、ステルスロイドを融合!現れるッス!スーパービークロイド-ステルス・ユニオン!」

「攻撃力、7200!場の機械族以外のモンスターを装備する効果があるけれど…。」

 

 ステルス・ユニオンが攻撃する時効果によりその攻撃力は元々の攻撃力の半分、1800になるがパワー・ボンドにより元々の攻撃力分、3600ポイントアップし5400になる。

 

「そんなリスペクトに反する効果を使わなくても、この攻撃で僕の勝ちっス!バトル!」

「罠発動!亜空間物質転送装置!有翼幻獣キマイラを除外!」

「フハハハッ!自分から場をがら空きにしてどうするんスかぁ?そのままダイレクトアタックッス~!」

 

 勝ち誇る丸藤翔!

 

 

「罠発動!ホーリー・ジャベリン!相手モンスターの攻撃宣言時、その攻撃力分ライフを回復!」ライフ4000から11200

「?!そ、そんなカードに何の意味があるッス?!」

「その後、戦闘ダメージ7200を受ける!」ライフ11200から4000

「い、一体何を考えているッス…。バトル終了!め、メインフェイズ2に入るッス!サイバー・ジラフを召喚!このカードをリリースして、僕が受ける効果ダメージを0にするッス!カードを一枚伏せてターンエンドっス!」

「このエンドフェイズ、亜空間物質転送装置の効果発動、有翼幻獣キマイラを場に戻す!」

 

 

翔 ライフ2300

手0 場 スーパービークロイド-ステルス・ユニオン 伏せ1

彩葉 ライフ4000

手1 場 有翼幻獣キマイラ 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!モンスターをセット。そして魔法カード、太陽の書を発動!セットしたメタモルポットを反転召喚!」

「僕の手札も0だから、5枚ドローするッス!ウヒャヒャ!!」

 

 

 引いたカードを見て馬鹿笑いする丸藤翔。

 単純に手札が増えたのが嬉しいのか、それとも切り札を引き当てたのか。でも恐らく関係ないだろう。

 

「速攻魔法、サイクロンを発動!その伏せカードを破壊!」

「引っかかったっスね!これは罠カード、ワンダーガレージ!破壊された事で、手札からレベル4以下のロイドと名のつく機械族モンスター、ジャイロイドを守備表示で特殊召喚するッスよ!」

 

 妨害札かと思えばブラフだったが、これで懸念事項は消えた。

 

「装備魔法、フュージョン・ウェポンを有翼幻獣キマイラに装備!これで攻撃力と守備力が1500ポイントアップ!」

「ふふん!それっぽっちの強化で何ができるッス!」

「魔法カード、野性解放を2枚発動!有翼幻獣キマイラの攻撃力は、ターン終了時までその守備力分アップする!今の守備力は3300!よって攻撃力は6600ポイントアップ!さらにフュージョン・ウェポンで攻撃力が1500ポイントアップしているから、攻撃力は10200!」

「あ、あわわわわ…」

 

 

 丸藤翔は相手を批判しようとしたが…。

 このデュエル中、彩葉が使用したカードに『正しい・リスペクト・デュエル』に反するカードは無い。

 

「ま、負ける…?正しい・リスペクト・デュエルをしている相手に?」

「才災おじさんの正しい・リスペクト・デュエルに乗っ取ったデッキだよ? さぁ、私を『リスペクト』して。」

「う、うぐぐぐぐ…!」

 

 

 才災に変わった事で、彩葉はサイバー流から離れ、色々な場所に出かけて色々なデュエリストに出会った。

 多彩な戦術に、戦略に出会った。

 

 その間丸藤翔がしていた事と言えば、テスト前には祭壇を作って神頼みを行い、相手をリスペクトに反すると批判・否定するだけであった。

 

 

「…バトル!有翼幻獣キマイラで、スーパービークロイド-ステルス・ユニオンを攻撃!」

「うぎゃあああああああああっ!」ライフ0

 

 

 ライフが尽きた丸藤翔はその場にへたり込む。

 

「お、おめでとう!君の勝利だ!さぁ、優勝賞品だ!」

「2万円…分の、金券?」

「その通り!当店でのみ使用できる金券だ!有効期間は本日のみだ!」

 

 やや釈然としない顔で、柳里は入店する。

 

「丸藤翔君には、参加賞だ。」

 

 一方で店長から翔に手渡されたのはカードショップが用意した、オリジナルのカードパック一つ。

 

「う、うう~!く、悔しいッス~!!!」

 

 

 翔は、またしても逃げ出す。

 

 後ろから、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、振り切ってしばらく、走り続けた。

 止まったら、もう立ち上がれそうにないから、走り続ける。だが、途中で小さな、小さな小石に躓く。

 

 

「うわああああっ!」

 

 転んでしまい擦り傷を作るが、体より心が痛かった。

 

「うう~!うう~!!」

 

 翔は、うめいていたが、ややあって何とか立ち上がり、歩き出す。

 

 

 正しい・リスペクト・デュエルでも負けた事、そして荒んだ生活を送ったことで、遊城十代との出会いによって僅かながら成長した精神を摩耗させ、劣化させていく。

 だが、ようやく住み込みで働ける職場にありつく。

 

 

 

 

 

 

 

「…丸藤、か。」

「こ、ここで雇ってほしいッス!」

「デュエルアカデミアを中退したのね…。いいわ、サイバー流の門下生なのだから。住所はサイバー流門下生とシェアハウスになるけれど。」

「ええ~!!しぇ、シェアハウスッスかぁ?」

「嫌なら、別を当たって。」

「うっ、し、仕方がないッス。いまの所はそれで我慢するッス。」

「…そう。なら早く行って。」

 

 

 丸藤翔を追い出した後、元関東ブロック代表だった才魔は大きくため息をつく。

 

 サイコ流とのデュエルにも負け、彼女は『才災師範のリスペクト・デュエルを継承するが、それを相手に強要しない』という方針に切り替えた。

 城之内克也の言葉を受け入れた結果だ。除去やカウンター罠などは使わないが、使われても文句を言わないという事である。

 

 

「才魔様、よろしいのですか?」

「…何が?」

「丸藤亮の弟に、仕事と住居を斡旋するなんて!才魔様は…」

「そうよ。関東ブロック代表の入れ替えデュエルをするために、サイバー流に1000万円の上納金を払ったわ。郵便局の定額預金を解約して、必死になって貯めた貯金をつぎ込んで…私は、関東ブロック代表になった。しかし…」

「あの丸藤亮は、才魔様と入れ替えデュエルすら行われずその座を得た…なのに、何故!」

「才下(さいした)、彼は弟よ。丸藤亮本人では無い。今でも丸藤亮は憎いけれど、弟まで憎んだりしないわ。最も、態度がひどければ追い出すけれど。しっかり見張って。」

「はっ。」

 

 

 尊敬しており、個人的に好意も抱いている女性からの頼みである。

 才下はなるべく色眼鏡では無く、正当に評価しようと努力した。だが。

 

 

 丸藤翔は共同スペースを平気で汚し、掃除もしない。決められたことを守らないのに、同居人がルールを破ればそれを居丈高に責める。

 入居してからたった一週間で、今までうまくやっていたサイバー流門下生によるシェアハウスの空気はあっという間に悪くなる。

 

 決定的なのは、丸藤翔の後に新たな同居人となったサイバー流門下生…才竹(さいたけ)に対する言動である。

 相手が自分より高身長だが、門下生になった時期が自分より後だと知ると先輩風を吹かせ、自分からデュエルを挑んで置きながら。

 

「見たか!僕にデュエルを挑むなんて100年早いんだ!」

 と言い出したことである。

 

 その後、嘘のルールを教えて女性のサイバー流門下生、才元と風呂場で鉢合わせさせた。

 丸藤翔はうまくやったと思い込んでいたが、才竹の話と丸藤翔の話が食い違った事と、今までの言動からどちらが信じられるかは明らかだった。

 

 

「もういい加減にしてほしいわ!」

「才元(さいもと)…。本当に申し訳ない。」

 

 

 

 顔立ちは地味だが、スタイル抜群のサイバー流の女性門下生である才元と、被害者の才竹はシェアハウスのまとめ役である才下に直談判する。

 

「サイバー流はどんどん門下生が減って、残った門下生でも才災師範の教えを捨ててしまう者が多発しているわ…。だから、丸藤翔を保護する考えはわかるけれど。」

「本当、勘弁してくれよ…。あいつ『あれ?才竹くん居たんだ』って空気みたいに扱うんだ。そりゃあ、俺はあんまりパッとしないと思っているけどさ…。」

「あんた、背は高いじゃない。何センチあるの?」

「192cmだ。」

「ええっ?!」

 

 割と高身長な事に驚く才元。一方、直談判を受けていた才下は、丸藤翔の勤務態度について聞く。

 

「才竹、あいつの仕事は清掃と雑用だが、そこは真面目にやっているのか?」

「新人の俺がへまをしないかどうか、見張るのが僕の仕事って言って仕事は全然しないけれど。」

 

 その言葉を聞いてため息をつく才下。

 

「…よし、あいつが普段さぼっていること、嘘をついている事などを集めて、証拠として突き付けるぞ。」

「そ、それまで我慢しないといけないの?」

「耐えてくれ。」

 

 

 

 サイバー流が経営にかかわっていた、大型ショッピングモール。慢性的な人手不足を、協力しあう事で支えていた。

 丸藤翔が入居してから三か月たったある日。

 

「ぼ、僕に話ってなんなんスか?」

「来てくれたわね、丸藤翔。どう?ここでの生活は慣れた?」

「ま、まぁボチボチッス…」

「そう。ならもう…十分よね?」

「へ?」

 

 間抜けな面をさらす翔に、才魔は冷たく告げる。

 

「出ていきなさい。」

「ええ~!!な、なんなんスか!突然!」

「仕事はさぼって人に押し付ける、共用スペースを汚す、ルールを守らない…、まぁ、この辺りは教育すれば改善したでしょうけれど。自分より後からサイバー流に入った新人に嘘のルールを教え、しかも普段から『あれ?居たんだ』と馬鹿にする。貴方の言動にリスペクト精神は感じられないわ」

「ぐっ、あ、あいつめ~!僕にデュエルで負けたくせに!」

「ねぇ。教えてくれない?なんで才竹をあれだけ馬鹿にして、こき使っていじめる事が出来るの?」

「ち、違うっス!いじめでは無いっス!ルールは、その、間違えてしまったんス!」

「そう。それで?」

「あ、後は本当に存在感が無くて…だからそれを冗談でいじっていただけで」

「弄っているといったけれど、相手が不快に思った時点でそれは失言よ。もしかして、アカデミアでもそういう事をしていたの?」

「うぐっ…」

 

 図星だったようで、才魔は完全に見限る。

 

「貴方を追放するわ。」

「い、いいんスか!僕はあの丸藤亮の弟っスよ!」

 

 

 丸藤翔は、意図せずに地雷を踏みぬく。

 

 

「私は元々関東ブロック代表。それなのに…貴方のお兄さんと、デュエルをする機会すら与えられずにその座を追われた。」

「そ、それは。それを決めたのはお兄さんでは無くて、才災師範ッス。お兄さんも僕も関係ないッス。」

「私はブロック代表になるために、かなりのお金を使った。それなのに…。私は、それでも兄と弟は違うから、貴方個人を見極める事にしたの。でも、貴方が彼の弟であることを盾にするなら…。」

 

 断固とした態度を取る才魔。

 

「もう庇わない。改めて言うわ。出ていきなさい。」

「く、くっそぉおおおおっ!さ、才竹め!僕に負けたくせに、僕を嵌めるなんて!」

「先に嵌めたのは貴方でしょ。才元と才竹が風呂場で鉢合わせになるように仕向けて…。ねぇ、あれで一番誰が傷ついたと思うの?」

「へ?それは、平手打ちをされた才竹の覗き魔でしょ?」

「覗かれた才元よ!貴方は、貴方は…。女性にとって見せると見られるは全然違う!さぁ、入ってきなさい!」

 

 どかどかと入ってくる門下生。

 

「あ~!さ、才竹!」

「丸藤先輩、いや、あえてこう呼ぶ!このチビメガネ!」

「ち、チビメガネ!お前、僕に負けたくせに!」

「ああ、そうさ。俺はお前に負けた。だから、今この場でデュエルを申し込む!俺が勝ったらシェアハウスから出ていけ!俺が負けたら俺が出ていく!」

 

 そんな才竹の発言に対し、才下が口を開く。

 

「待て、そんな条件を付ける必要はない。」

「才下先輩、先ほど才魔様の言葉で俺はようやく理解したんだ。あの事件で傷ついたのが、才元さんだと言う事を。俺はこのチビメガネが許せない!」

「う、うぐぐぐ…!いいっス!そのデュエル、受けてたつッス!」

 

 

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

翔 ライフ4000

手5 場 

才竹 ライフ4000

手5 場 

 

「先攻は譲ってやるッス!」

「なら遠慮なく!俺の先攻、ドロー!俺はモンスターをセット!ターンエンドだ!」

 

 

翔 ライフ4000

手5 場 

才竹 ライフ4000

手5 場 セットモンスター

 

「僕のターン、ドローッス!フッハッハッハッハ!!相手の場にのみモンスターが存在することで、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「し、しまった!」

「さらに、スチームロイドを召喚!バトル!サイバー・ドラゴンでセットモンスターを攻撃するッス!」

 

「ええっ?!サイバー・ドラゴンで攻撃?」

「何故、スチームロイドから仕掛けない…?」

 

 

「ぐっ、カードガンナーが破壊される。だが、効果発動!カードを一枚ドローする!」

「スチームロイドでダイレクトアタック!」

「ぐうううっ!」ライフ4000から2200

 

「ヌアハッハッハ!どうだ、参ったか!僕は丸藤亮の弟、丸藤翔ッス!この僕に勝てると思っていたッスかぁ?僕はこれでターンエンドっス!」

 

 

翔 ライフ4000

手4 場 サイバー・ドラゴン スチームロイド 

才竹 ライフ2200

手6 場 

 

「くっ、俺のターン。ドロー!俺は、モンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンド」

 

 

 

翔 ライフ4000

手4 場 サイバー・ドラゴン スチームロイド 

才竹 ライフ2200

手5 場 セットモンスター 伏せ1

 

「僕のターン、ドロー!このままバトル!サイバー・ドラゴンでセットモンスターを攻撃!」

「だが、こいつは起動砦のギア・ゴーレム!反射ダメージを受けて貰うぜ!」

「なっ?!ぼ、僕に負けたくせに生意気だぞぉ!」ライフ4000から3900

「よし、これで…」

 

「これでしのいだと思ったッスか?行け、スチームロイド!」

「ええっ?!守備力はこっちの方が高いぞ?」

「スチームロイドが相手モンスターに攻撃するとき、攻撃力を500ポイントアップさせるッス!」

「ぐううっ…」

「僕はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

翔 ライフ3900

手4 場 サイバー・ドラゴン スチームロイド 伏せ1

才竹 ライフ2200

手5 場 伏せ1

 

「くそっ、流石丸藤亮の弟なだけはあるぜ。本気を出されていたらさっきのターンで負けていた。」

「へ?」

「スチームロイドが相手モンスターに攻撃するとき攻撃力が2300になるなら、それで2ターン目と4ターン目の時、俺の壁モンスターを破壊し、サイバー・ドラゴンでダイレクトアタックを二回決められて前のターンで俺は負けていた…」

 

 4秒ほど丸藤翔は硬直した後、笑い出す。

 

「ふ、ふふん!その通りッス!お前は本来負けているんスよ!」

「…だけど、負けたくない!こんな、相手を見下したようなデュエルをする、『リスペクト精神』を持たない奴に!」

「なっ?!ぼ、僕がリスペクト精神を持たない?!と、取り消せッス!」

 

 激高する丸藤翔。

 

「俺のターン、ドロー!俺はパトロイドを召喚!」

「あ~!それは僕のカード!お前っ!」

「何を言っているんだ?これはお前が捨てたカードじゃねぇか。」

「うぐっ…でも!そいつに何ができるッスか?そいつはロイドデッキでは融合素材にもならないカードッスよ!」

 

 才竹が入ったころ、丸藤翔はパトロイドのカードを捨てた。効果を使い忘れたら、それについて指摘された時のことを思い出すからだ。

 

 

「俺はパトロイドの効果発動!相手の場にセットされているカードを確認する!そのセットカードを確認!えっと、融合解除か…。ならば俺は装備魔法、巨大化を装備!これでパトロイドは攻撃力2400になる!バトルだ!パトロイドでスチームロイドを攻撃!」

「うわああああああああっ!」ライフ3900から2800

「あ、あれ?なんかダメージが500ポイント多いぞ?」

 

 

「スチームロイドは相手モンスターに攻撃するとき、攻撃力を500ポイントアップさせるが、攻撃されれば攻撃力が500下がるんだ。」

「そんなデメリット効果があるの?」

 

 

「何か知らんがダメージをより多く与えられたからヨシ!俺はこれでターンエンドだ!」

 

 

翔 ライフ2800

手4 場 サイバー・ドラゴン 伏せ1

才竹 ライフ2200

手4 場 パトロイド 巨大化 伏せ1

 

 

「うう~、僕のカードを勝手に拾って使った上にダメージまで与えてくるなんて、生意気だぞ!僕のターン、ドロー!魔法カード、融合!手札のレスキューロイドと、キューキューロイドを融合!レスキューキューロイドを融合召喚!」

「くっ、流石は丸藤亮の弟!融合召喚はお手の物か!だが、攻撃力はパトロイドの方が上だ!」

「僕は魔法カード、磁力の召喚円 LV2を発動!現れろ、デコイロイド!守備表示ッス!」

「守備力500か。」

「僕はこれでターンエンドッス!フッフッフ、才竹くん!君は次のターン、この丸藤翔の恐るべきコンボを思い知る事になるッスよ!」

 

 

 

翔 ライフ2800

手0 場 サイバー・ドラゴン レスキューキューロイド デコイロイド 伏せ1

才竹 ライフ2200

手4 場 パトロイド 巨大化 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「速攻魔法、融合解除!レスキューキューロイドの融合を解除して、レスキューロイドとキューキューロイドを墓地から守備表示で特殊召喚!」

「モンスターを一気に増やした!」

「フッフッフ…才竹クン?」

 

 丸藤翔は眼鏡をクイッと持ち上げながら言う。

 

「デコイロイドが場にいる限り、相手はデコイロイド以外を攻撃出来ない。」

「なら、デコイを倒すまでだ!」

「レスキューロイドが場にいる限り、戦闘破壊されたロイドは手札に戻る。そしてキューキューロイドは墓地からロイドが手札に戻った時、手札から特殊召喚出来る!」

「つ、つまり!俺はデコイロイドと永遠と戦わないといけないってことかぁ?!」

 

 

「お、落ち着いて才竹!必ず攻略法はあるはずよ!」

 

 そう励ます才元とは対照的に。

 

「あれ?でもキューキューロイドの効果は…」

「だが、助言は出来ない。これは才竹のデュエル。」

 

 才下と才魔は、丸藤翔が自信満々で敷いたコンボに疑念を抱く。

 

「だけど、モンスターが多いなら!俺は機械王-プロトタイプを召喚!こいつの攻撃力は、このカード以外の場の機械族一体につき、100ポイント攻撃力が上がる!場には5体の機械族がいる!よって攻撃力は2100だ!」

「くっそぉ…」

「俺はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

翔 ライフ2800

手0 場 サイバー・ドラゴン レスキューロイド キューキューロイド デコイロイド 

才竹 ライフ2200

手3 場 パトロイド 機械王-プロトタイプ 巨大化 伏せ2

 

 

「フン、僕のターン、ドロー!魔法カード、強欲な壺を発動!カードを二枚ドロー!フッフッフ…僕はカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

 

翔 ライフ2800

手1 場 サイバー・ドラゴン レスキューロイド キューキューロイド デコイロイド 伏せ1

才竹 ライフ2200

手3 場 パトロイド 機械王-プロトタイプ 巨大化 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!パトロイドの効果発動、その伏せカードを確認するぜ!」

「コソコソ相手のカードを覗き見して…ああ、覗き魔同士気が合うんスねぇ?」

「元々お前のカードだろ!チェーン・マテリアル?何だこれ、融合しても攻撃出来ない上にエンドフェイズに破壊される?これでどうやって戦うつもりなんだ…。まぁいい、俺はモンスターをセットして、ターンエンドだ」

 

 

 

翔 ライフ2800

手1 場 サイバー・ドラゴン レスキューロイド キューキューロイド デコイロイド 伏せ1

才竹 ライフ2200

手3 場 パトロイド 機械王-プロトタイプ セットモンスター 巨大化 伏せ2

 

「僕のターン、ドロー!罠発動!チェーン・マテリアル!このターン、攻撃出来なくなる代わりに、融合素材モンスターを手札・デッキ・場、墓地から除外して融合素材に出来るッス!魔法カード、ビークロイド・コネクション・ゾーンを発動!デッキから二枚目のスチームロイド、ドリルロイド、サブマリンロイドを除外して、スーパービークロイド-ジャンボドリルを融合召喚!」

「こ、攻撃力3000?!」

「ターンエンドッス」

「だけど、その効果で融合召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊されるはずだ!」

「フッフッフ、ビークロイド・コネクション・ゾーンで融合召喚したスーパービークロイドは効果で破壊されないッス!」

「な、なんだって!」

 

 

翔 ライフ2800

手1 場 サイバー・ドラゴン レスキューロイド キューキューロイド デコイロイド スーパービークロイド-ジャンボドリル

才竹 ライフ2200

手3 場 パトロイド 機械王-プロトタイプ セットモンスター 巨大化 伏せ2

 

「くっそぉ、無敵の盾に加えて攻撃力3000かよ!俺のターン、ドロー!俺はセットしていた魔装機関車デコイチを反転召喚して効果発動!カードを一枚ドローする!俺は、機械王-プロトタイプとデコイチをリリースして、エメス・ザ・インフィニティをアドバンス召喚!」

「攻撃力2500でどうするつもりッス?」

「その無敵の盾は突破できないが、エメス・ザ・インフィニティは相手モンスターを破壊し墓地に送れば攻撃力が700ポイントアップする!こいつでデコイロイドを倒せば、攻撃力はこっちが上になる!行け、エメス・ザ・インフィニティ!デコイロイドを攻撃!」

「フン、レスキューロイドの効果で手札に戻すッス!そしてキューキューロイドの効果で…あれ?」

 

 だが、デコイロイドは出てこない。

 その光景に思わず声を漏らす才元。

 

「…え?どうして出てこないの?」

「キューキューロイドはダメージステップに効果が発動しない。」

「エクスプレスロイドか、死者転生といったカードならともかく、あれではコンボは成立しない。」

 

 才下と才魔がそれぞれ丸藤翔のコンボの穴を解説する。

 

「そ、そんなぁ!」

「ダメージステップとかよく知らない単語がでてきたけれど、何か突破できたからヨシ!」

 

 

「「「良くないッ!!!」」」

 

 才竹の馬鹿な発言に対し、観戦していた三人の声がハモる。

 

 

 

「これで攻撃力は3200!行け、パトロイド!レスキューロイドを攻撃!」

「ぐうううっ!ぼ、僕の無敵の盾が!」

「ひび割れていたようだな!俺はこれでターンエンド!」

 

 

 

 

翔 ライフ2800

手2 場 サイバー・ドラゴン キューキューロイド スーパービークロイド-ジャンボドリル

才竹 ライフ2200

手4 場 パトロイド エメス・ザ・インフィニティ 巨大化 伏せ2

 

 

「ぼ、僕のターン、ドロー!よし、スーパービークロイド-ジャンボドリルで、裏切り者のパトロイドを攻撃ぃ!」

「ぐっ、ぱ、パトロイド!」ライフ2200から1600

「思い知ったか!この覗き魔モンスターめ!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

翔 ライフ2800

手2 場 サイバー・ドラゴン キューキューロイド スーパービークロイド-ジャンボドリル 伏せ1

才竹 ライフ1600

手4 場 エメス・ザ・インフィニティ 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ、エメス・ザ・インフィニティでスーパービークロイド-ジャンボドリルを攻撃!」

「罠発動!侵入禁止!No Entry!!場のモンスターを全て守備表示に変更するッス!ハッハッハ!これで次のターン、確実にお前のモンスターは破壊されて、サイバー・ドラゴンでトドメを差してお前をシェアハウスから追い出してやるッスよ!」

「…俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

翔 ライフ2800

手2 場 サイバー・ドラゴン キューキューロイド スーパービークロイド-ジャンボドリル 

才竹 ライフ1600

手4 場 エメス・ザ・インフィニティ 伏せ3

 

 

「僕のターン、ドローっス!フッハッハッハ!僕は場のサイバー・ドラゴンとキューキューロイドをリリース!アーマロイドガイテンゴーをアドバンス召喚!」

 

 

 思い出したくない、柳里彩葉とのデュエルに負け、参加賞として渡されたオリジナルのカードパックに入っていたレアカード。

 それがこの、アーマロイドガイテンゴーだった。

 

 翔は知らない。大会の進行を担当していたカードショップの店長が、丸藤亮に助けられた過去がある事を。

 そしてその弟である丸藤翔のために、デッキコンセプトに合うレアカードをこっそり入れていたことを。

 その上で、丸藤翔を住み込みのバイトとして雇おうと彼が考え、去り際にその名前を呼んでいたことも。

 

 

「ロイドをリリースした事で効果発動ッス!場の魔法・罠カードを全て除外してやるッス~!」

「ならば罠発動!重力解除!場のモンスターの表示形式を変更する!これでエメス・ザ・インフィニティは攻撃表示になる!」

「んがっ?!で、でも!その伏せカード二枚は除外してやるッス!」

 

 

 除外されたのは、時の機械タイム・マシーンと2ターン目に伏せられた体力増強剤スーパーZだった。

 

「ま、不味いっス…こ、攻撃表示にされたジャンボドリルを守備表示に変更して、た、ターンエンド!」

 

 

 

 

翔 ライフ2800

手2 場 アーマロイドガイテンゴー スーパービークロイド-ジャンボドリル 

才竹 ライフ1600

手4 場 エメス・ザ・インフィニティ 

 

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ!エメス・ザ・インフィニティでアーマロイドガイテンゴーを攻撃!」

「ぐうううっ!」

「これで攻撃力は3900!俺はメインフェイズ2でカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

 

翔 ライフ2800

手2 場 スーパービークロイド-ジャンボドリル 

才竹 ライフ1600

手4 場 エメス・ザ・インフィニティ 伏せ1

 

 

「う、うう…ガイテンゴーが…。僕のターン、ドローッス!き、キタ~!ふ、フッフッフ。才竹クン!思ったよりデュエリストとしてのレベルが上がっていたけれど…どうやら僕を倒すには修行不足だったみたいッスね!」

「何!俺の場には攻撃力3900のエメス・ザ・インフィニティが居るんだぞ!」

「見るがいい、おののくがいい!そして僕にひれ伏すがいい!魔法カード、融合!手札のデコイロイド二体を融合!現れろ!ペアサイクロイド!」

「な、なんだ?攻撃力1600?」

「このカードは、相手に直接攻撃ができるッス!」

「?!」

「これで決まりッス!ペアサイクロイドで、ダイレクトアタック~!」

 

 目を閉じてVサインを決める丸藤翔。

 

「どうだ、思い知ったか!後輩の癖に、一度僕に負けた上に嵌めようとした癖に、再挑戦しようなんて、生意気ッス!」

「まだだ!まだ俺のライフは尽きてない!」ライフ1600から2500、2500から900

「…へ?ほ、ホーリーエルフの祝福?」

「ああ、そうさ!これでライフを900回復した!」

「ぐ、ぐぐぐぐぐ…た、ターンエンドっス!」

 

 

 

 

 

翔 ライフ2800

手0 場 スーパービークロイド-ジャンボドリル ペアサイクロイド 

才竹 ライフ900

手4 場 エメス・ザ・インフィニティ 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は機械軍曹を召喚!バトルだ、機械軍曹で、ペアサイクロイドを攻撃!」

「ぐっ!あ、相打ち…」

「そしてエメス・ザ・インフィニティで、ジャンボドリルを攻撃!」

「あ、あああああ~!!」

 

 場に残っていた主力モンスターも撃破され、翔の場は一掃される!

 

「これで攻撃力は4600!これでターンエンド!もうお前の場にも手札にもカードは無い!」

 

 

 

 

翔 ライフ2800

手0 場 

才竹 ライフ900

手4 場 エメス・ザ・インフィニティ 

 

 

 

「ぼ、僕のターン、ドロー。僕はサブマリンロイドを召喚!このカードは、ダイレクトアタックが出来るッス!」

「ま、またダイレクトアタック?!」

「いけ、サブマリンロイド!ダイレクトアタック!」

「ぐううううっ!」ライフ900から100

 

 

「才竹!」

「…デュエルアカデミアを退学になったとはいえ、狭き門を突破しただけの事はあるか。」

「…おかしい。才竹は何故サイバー・ドラゴン関連のカードを使わない?」

 

 

「サブマリンロイドは守備表示になるッス。ターンエンド!」

 

 

 

翔 ライフ2800

手0 場 サブマリンロイド

才竹 ライフ100

手4 場 エメス・ザ・インフィニティ 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード発動!守備封じ!これでサブマリンロイドを攻撃表示に変更する!」

「ずるいぞ!攻撃力800のサブマリンロイドを攻撃表示なんかにされたら…」

「いけ、エメス・ザ・インフィニティ!サブマリンロイドを攻撃!」

「う、うわああああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 

 

 

 ライフが尽き、放心する丸藤翔。

 

「よ、よっしゃー!か、勝ったぁ!勝ったぜぇ!お前に勝ったから、以前お前に負けた時に『君にサイバー・ドラゴンと派生カードはまだ早いッス、その時が来るまで預かっておくッス』と言って俺から封印したカード達は返してもらうぜ!」

「そんな事をしていたのか、コイツ。」

「…何故だ?何故後輩のサイバー・ドラゴン関連のカードを封印した?過去に何があった?」

 

 才竹の言葉を聞いてあきれる才下と、丸藤翔の動機が気になる才魔。

 

「……けてないッス」

「さぁ、荷物をまとめて出ていってもらうぞ!」

「ぼ、僕は負けていないッス!」

「は、はぁ?」

 

「お前!これで僕に勝ったと思っているのか!お前は僕が本気になればすぐに負けていたんだ!サイバー・ドラゴンのダイレクトアタックでね!フッハッハッハッハ!」

「それは違うわ。」

「な、なに?!」

「才竹の場には、既に体力増強剤スーパーZが伏せてあった。これは2000ポイント以上の戦闘ダメージを受ける前に、ライフを4000回復する罠。ライフは残っていたのよ。」

「あ、アガガガガガ…」

 

 才魔はそのまま畳みかける。

 

「答えなさい、何故才竹にあんなひどい仕打ちをしたの?」

「へ?」

「先輩風を吹かせて、仕事を押し付け、しかも嘘のルールまで教えた上に存在感が薄いように扱ったのは何故?」

「そ、それは…。才元さんに近づいたからッス!」

 

 自分の名前が出た事で、素っ頓狂な声を上げる才元。

 

「え?私に?」

「そうッス!僕がこのシェアハウスに入った時、優しくしてくれた才元さんに、才竹が近づいて…」

「ま、待ってよ!私は新規入居者だから色々ルールを説明したりしただけで…」

「へ?僕に一目ぼれしたからじゃあないんスか?」

「どれだけ自意識過剰なのよ…私とほぼ接点無いでしょ。」

 

 

「つまり、才元が好きでその才元と仲良くしている才竹が気に入らなかったと?それだけの理由で?」

「ま、まだあるッス!ぼ、僕の事をチビだと馬鹿にしていたッス!」

 

「え?そりゃあ俺の方が背が高いけれど…。」

「というか、それが本音か。本当にリスペクト精神が無いんだな。」

「う、ウガガガガガ…」

 

 丸藤翔はうめいていたが、突然激高する!

 

「うるさいッス!もういい、僕の方から出ていくッス!後で土下座して戻ってきてほしいと言ってきてももう遅いッス!」

 

 吠えまくった後、翔はまたしても逃げ出す。途中で、才竹から回収していたサイバー・ドラゴンとその派生カードを入れたケースを落とす。

 

「…才竹。受け取りなさい。」

「このデッキを?」

「今の機械族の寄せ集めデッキでは戦えないわ。カードを厳選して、才災師範が残したサイバー流のリスペクト・デュエルを引き継いで。」

「わかりました、才魔様!」

 

 

 こうして、才竹は丸藤翔からサイバー・ドラゴンとプロト・サイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴンの融合体を取り戻す。

 だが才災師範の除去カードやカウンター罠はダメ、という間違った思想を継続してしまった為、二人とも公式試合では強制脱出装置や次元幽閉などの汎用妨害札を使われて一回戦負けを何度も喫するのであった。

 

「どうして勝てないんだぁ~!」

「ま、また強制脱出装置で手札を全部使って出したサイバー・エンド・ドラゴンがバウンスされたぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、才魔の保護下から離れた丸藤翔を待っていた現実は厳しかった。

 

 元サイバー流だったことで世間の目は冷たい。しかも才魔から悪行が広まった事でサイバー流からもつまはじきにされ、途方に暮れる。

 金も尽き、売れそうなフィギュアも一つもない為に野宿生活。

 

「うう~、うう~!どうして、どうしてこんな事に!僕は一体、どこで間違えたッスかぁ?」

 

 嘆き、幸せそうな人を物陰から眺めて妬む。

 

 

「僕は、サイバー流継承者丸藤亮の弟、丸藤翔ッスよ~」

「それは本当か?」

「だ、誰っス?!」

 

 白髪白髭だが眉毛だけは黒い西洋人らしい老人と、その息子であろう50代の太った西洋人が、翔を見ていた。

 

「私はラング伯爵。この後時間があるなら、私達と一緒に来ないか?」

「父上、こんな奴を連れて行ったところで…。」

「そう言うな、ペッパー。城之内克也と戦うならば、戦力は必要だ。とりあえず、食事でもどうだ?」

 

「も、もちろんッス!」

 

 

 この西洋人達はミズガルズ王国にて悪事を働き、その結果城之内克也の活躍により失脚。投獄されたが脱獄して日本まで逃げのびていた。

 デュエルギャングなどの手先を見繕うべく行動していたラング伯爵は、この日、新たな手駒を手に入れる。

 

 

 一方で、息子のペッパー子爵は顔をしかめる。彼は元々日本人が嫌いなのだ。かつて…

 

 

 プロデュエリストになるための昇格デュエルにおいて、対戦相手である日本人の魔法カードを電磁波で封じて勝ったところ…。

 一年後にその時の不正を暴かれ、デュエルモンスターズの公式大会から永久追放されたからだ。

 

 

 とはいえ、家長であるラング伯爵には逆らえない。しぶしぶ、この小さな日本人を仲間に加える事に同意する。

 




元凶登場

次回は、影丸理事長の孫娘が登場します。


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第24話!才災VS影丸の孫娘!そして、実力者達の会議

ふと思ったのですが、影丸理事長の孫娘が登場する遊戯王GXの二次創作って、拙作が初めてですか?

何というか理事長に孫娘がいたら、おじいちゃん大好きっ子というイメージしか湧きません。アムナエルとてただの駒、と作中で述べていたのに何故でしょう?


 かつて財界の大物からサイバー流に寄贈された高級マンションの最上階で、才災勝作は豪奢な食事をむさぼっていた。

 このマンションは、シーズン中ならば大勢の人が訪れる場所だが、シーズンオフの今は閑散としている。

 

 

 分厚いが柔らかいステーキを挟んだサンドイッチ、卵4つと生クリームをふんだんにつかったフワフワのオムレツ。

 大皿に盛られたグリーンサラダ。ジョッキには、砂糖とミルクをたっぷり入れたアイスコーヒーが注がれており、氷もコーヒーを凍らせた物だ。

 

 

 才災の計画はこうだ。偽造パスポートを用意しアメリカへ逃げる。ろくに電波も届かない田舎まで逃げ、釣りや農業をしながら安穏に暮らす。

 そのための逃亡資金をここで稼ぐ。自家発電機や生活するうえで必要になる物は多い。

 

 

 地下デュエル場にて、昨夜才災は大勝を収めた事で、若干機嫌を良くしていた。

 ゆえに、今日は少し快楽にふけるつもりだ。

 

 才災は、逃亡生活を送り始めてから何かしら享楽にふけらずにいられなかった。

 そうしなければ、不安とむなしさに心が押しつぶされそうになるからだ。無論、自業自得なのであるが。

 

 

 

 アイスコーヒーを飲み干し、才災が片づけをしようと立ち上がった時。

 フードを被った、小柄な人影が現れる。

 

 

「何者です!ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ!」

「…アポイントメントを取っていないのは、当方の落ち度。申し訳ない。」

「女?」

 

 

 一体誰だ?サイバー流の協力者だった者の刺客か?だが自分はサイバー流師範、才災勝作。

 並の刺客なら返り討ちにして、その身柄は地下デュエル場に引き渡して金を貰う。

 

 偶然、このマンションに居るのでは?と思って入りこんだ5人の男女は、既に悲惨な末路を迎えている。

 だが、既に真っ当な精神状態では無くなった才災勝作にとっては些事でしかない。精々、350万円の臨時収入になったな、という感想しか持っていない。

 

 

 フードを取る女。

 はらり、と流れる長い黒髪。全体的に痩せているが、引き締まっている体つき。

 切り揃えられた前髪から、強い意思を秘めた黒い吊り目が印象的。可愛らしいというより、綺麗という印象を受ける顔立ち。

 その額には、ウジャト眼が中央にあしらわれた奇妙なサークレットが輝く。

 

 

「名乗りなさい!」

「当方は光海(ミツミ)。貴公の最後のデュエルの相手となる者。そして…」

 

 一呼吸おいて、少女は告げる。

 

「当方の姓は、影丸。」

「?!まさか、影丸理事長の…!」

 

 

 影丸理事長。三幻魔を覚醒させ、サイバー流を滅ぼすべくセブンスターズを送り込み、門下生に多大な危害を加え、自身のサイバー・エンド・ドラゴンすら粉砕した老害。

 遊城十代に負けて死亡したはずだが。

 

「貴方の祖父を死に追いやったのは、遊城十代というリスペクト精神を持たないオシリスレッドの生徒ですよ!」

「おじい様の世話役から、詳細は聞けなかったが…。おじい様が三幻魔を復活させたのは貴公を倒し、サイバー流を壊滅させる為だとか。おじい様が倒れたなら、その無念と意思は当方が継ぐ。」

「…いいでしょう。三幻魔により私は手痛い敗北を喫しました。孫娘である貴女では物足りませんが、晴らさせてもらいましょう!」

「では、始めさせてもらう。」

 

 そう光海がつぶやくと、ウジャト眼が輝き、才災と光海の周囲を、闇が包み込む!

 

「これは…。」

 

 深海を連想する才災。

 

「この光届かぬ深海こそ、貴公の最期にふさわしい。おじい様がセブンスターズに与えるために、アムナエルに作らせた最後の闇のアイテム。それがこのサークレット。」

 

 本来の世界線ならアビドス3世に与えられていたアイテムは、この世界では光海の手にある。

 

「という事は、ダメージが実体化…!」

「そういう事は無い。ただ、負ければ助からない。」

 

 才災と影丸の右足に、鎖が嵌められる。

 

「こ、これは!」

「敗者の鎖には、錨が取り付けられる。生きて脱出できるのは勝者のみ。敗者はこの光届かぬ深海に引きずり込まれる。引き分けになった場合は、双方引きずり込まれる…」

「…いいでしょう、ならば貴女を返り討ちにして、この深海に叩き込んでやります!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

光海 ライフ4000

手5 場 

才災 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は、当方が貰う。当方のターン、ドロー。手札のサンダー・ドラゴンの効果発動。このカードを捨てて、デッキからサンダー・ドラゴンを二枚まで手札に加える。そして手札からヒゲアンコウを通常召喚。」

「まだデッキが読めませんね…」

「魔法カード、大波小波を発動。当方の場の水属性モンスターを全て破壊。その後、破壊したカードと同じ枚数の水属性モンスターを手札から特殊召喚できる。現れろ、超古深海王シーラカンス。」

「な、何ですかこの魚は!」

「効果発動、1ターンに1度、手札を一枚捨てる事でデッキから下級魚族を可能な限り特殊召喚する。手札のサンダー・ドラゴンを捨て、デッキからオーシャンズ・オーパー三体とレインボーフィッシュを特殊召喚。全て守備表示。」

「い、一気に四体も!」

「ただし、この効果で特殊召喚した魚族は攻撃も出来ず、効果も無効になる。」

「何ですかそれは。ただの壁ではありませんか!」

「…カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

 

 

光海 ライフ4000

手2 場 超古深海王シーラカンス オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー レインボーフィッシュ 伏せ1

才災 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私のターン、ドロー!下級モンスターで壁を用意したようですが、サイバー流には通用しません!魔法カード、大嵐を発動!」

「…罠発動。水霊術-葵。レインボーフィッシュをリリースして、貴公の手札を確認し、一枚を捨てさせる。」

「なっ!?あ、貴女には対戦相手へのリスペクト精神は」

「当方は、貴公に褒められるほど酷い性格はしていない。」

 

 

 才災の手札は、サイバー・ドラゴン・コア、サイバネティック・レボリューション、機械複製術、パワー・ボンド、サイバー・ドラゴン・コア。

 

「…パワー・ボンドを墓地へ。これで融合は出来ない。」

「このサイバー流師範、才災を侮ってもらっては困ります!サイバー・ドラゴン・コアを召喚!効果発動、デッキからサイバーロード・フュージョンを手札に加えます!」

 

 

 伝手を使って秘密裏に製造した、サイバー流の派生カードをサーチする才災。

 逃亡生活を送りながら、海馬コーポレーションやインダストリアルイリュージョン社の監視をかいくぐって、新規カードを開発する辺りサイバー流を大きくした手腕は伊達では無い。

 

 

「魔法カード、機械複製術を発動!デッキからサイバー・ドラゴンを二体特殊召喚!」

 

 場に並ぶ、サイバー・ドラゴンたち。

 

「バトル!サイバー・ドラゴンでオーシャンズ・オーパーを攻撃!」

「…戦闘破壊されたオーシャンズ・オーパーの効果発動。サウザンド・アイズ・フィッシュを手札に加える。」

「二体目のサイバー・ドラゴンでオーシャンズ・オーパーを攻撃!」

「戦闘破壊されたオーシャンズ・オーパーの効果発動。マザー・フィッシュを手札に加える。」

「速攻魔法、サイバーロード・フュージョン!融合素材モンスターを持ち主のデッキに戻し、「サイバー・ドラゴン」モンスターを融合素材とするその融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚!三枚のサイバー・ドラゴンをデッキに戻し、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!追撃です!ご自慢のシーラカンスを攻撃!」

 

「シーラカンス…。」ライフ4000から2800

 

 

「私はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

光海 ライフ1200

手4 場 オーシャンズ・オーパー 

才災 ライフ4000

手1 場 サイバー・エンド・ドラゴン 伏せ1

 

 

「当方のターン、ドロー。魔法カード、貪欲な壺。墓地のサンダー・ドラゴン2体とオーシャンズ・オーパー2体とレインボーフィッシュをデッキに戻し、二枚ドロー。」

「フン、それでどうしようと。」

「手札のサンダー・ドラゴンを捨てて、デッキからサンダー・ドラゴンを2体手札に加える。魔法カード、鳳凰神の羽根を発動。手札のサンダー・ドラゴンを捨てて、墓地の超古深海王シーラカンスをデッキの一番上に戻す。」

「ふぅ、やれやれ。自らドローロックをかけてどうするのですか?」

「こうする。魔法カード、モンスターゲート。場のオーシャンズ・オーパーをリリース。デッキの上から通常召喚可能なモンスターが出るまで、カードをめくる。1枚目。超古深海王シーラカンス。」

「な、なんですと!」

 

 再び現れるシーラカンス。

 

「手札のサンダー・ドラゴンを捨てて、効果発動。オーシャンズ・オーパー2体、オイスターマイスターを2体特殊召喚。そしてオーシャンズ・オーパーをリリースしてサウザンド・アイズ・フィッシュを特殊召喚。これにより、相手は手札を公開する。意味は薄いけれど。」

「くっ…」

「そしてオーシャンズ・オーパーをリリースしてマザー・フィッシュを特殊召喚。これで終わり。装備魔法、団結の力を超古深海王シーラカンスに装備。攻撃力と守備力が4000ポイントアップ。」

「攻撃力6800!」

 

「超古深海王シーラカンスで、サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃。」

「うわあああああああっ!」ライフ4000から1200

「マザー・フィッシュでダイレクトアタック。」

「こ、このサイバー流師範、才災勝作がああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 ライフが尽きた才災師範の左足に、新たな鎖が取り付けられ引っ張られる!

 

「う、うわああああああああっ!」

「…まだ、終わりでは無い。」

「な、何を…」

 

 

「この闇のゲームは三回勝負。先に二回勝利した方が、勝者となる。」

「…いいでしょう。この才災勝作の底力を見せてやります!次は、私が先攻を貰いますよ!」

「構わない。」

 

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

光海 ライフ4000

手5 場 

才災 ライフ4000

手5 場 

 

「先攻は貰いますよ!私の先攻、ドロー!私は、サイバー・ドラゴン・コアを召喚!効果発動、デッキからサイバー・リペア・プラントを手札に加えます!魔法カード、機械複製術を発動!デッキから、サイバー・ドラゴンを二体特殊召喚!」

「…サイバー・ドラゴンが3体。」

「カードを4枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

 

光海 ライフ4000

手5 場 

才災 ライフ4000

手0 場 サイバー・ドラゴン・コア サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン 伏せ4

 

 

「当方のターン、ドロー。当方は場のサイバー・ドラゴンを含む機械族3体を墓地に送り、キメラテック・フォートレス・ドラゴンを特殊召喚。」

「なっ、なななっ?!」

 

 自分が展開したサイバー・ドラゴンをまとめてキメラテック・フォートレス・ドラゴンにされた事で、才災は怒り狂う!

 

「なんて卑怯な!貴女には対戦相手に対するリスペクト精神は…!」

「…初めてやってみたが、機械族のパワーバランスを崩壊させてしまう。貴公が禁じるのも納得だ…。しかし、このデュエルは勝たせてもらう。光鱗のトビウオを召喚。」

 

 攻撃力の合計は、4000を超えた。

 

「トビウオでダイレクトアタック。」

「ぐうううううっ!」ライフ4000から2300

「…勝った。キメラテック・フォートレス・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「罠発動!ゴブリンのやりくり上手を3枚発動!そしてチェーンして非常食!やりくり上手を3枚墓地に送り、ライフを3000回復!私はカードを4枚ドローして、1枚戻す。これを3回繰り返す!」ライフ2300から5300

「っつ!でも、ダメージは受けて貰う!」

「ぐあああああああああっ!」ライフ5300から2300

 

「…当方は、カードを一枚伏せてターンエンド。」

 

 

 

光海 ライフ4000

手4 場 キメラテック・フォートレス・ドラゴン トビウオ 伏せ1

才災 ライフ2300

手9 場 

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、サイバー・リペア・プラントを発動、デッキからサイバー・ドラゴン・コアを手札に加え、召喚!効果発動、デッキからサイバネティック・フュージョン・サポートを手札に加えます!」

「サイバネティック・フュージョン・サポート…。」

「そのまま発動!ライフを半分払います!」ライフ2300から1150

 

 ライフの差は開くが、光海は慎重に才災のプレイングを見つめる。

 

「魔法カード、パワー・ボンドを発動!」

「チェーンして、スクラップ・フュージョンを発動。墓地のサイバー・ドラゴン2体とコアを除外して、当方の場にサイバー・エンド・ドラゴンを貴公の融合デッキから特殊召喚。」

「な、なななっ!」

「融合出来なければ、パワー・ボンドは不発になる。」

「…手札のサイバー・ドラゴンと場のサイバー・ドラゴン・コアを融合!来なさい、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

「攻撃力、5600!」

 

「バトル!サイバー・ツイン・ドラゴンでキメラテック・フォートレス・ドラゴンを攻撃!」

「っつ!」ライフ4000から1400

「サイバー・ツイン・ドラゴンは一度のバトルで二回攻撃が可能!サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

「…見事。」ライフ0

 

 

 次は、光海の左足に枷が嵌められ、引っ張られる!

 

 

 

 

「っつ!」

「さぁ、後が無くなりましたね。祖父の所に旅立たせてあげましょう。さぞや寂しがっているでしょうからね!」

「…こんな早く旅立ったら、まだ早いと言われて現世に叩き返される。」

 

 

 一呼吸おいて、光海は才災を見つめる。

 

 リスペクトの名のもとに相手を批判・否定し、おじい様が倒そうとした憎い敵。

 だがキメラテック・フォートレス・ドラゴンでの除去を、スクラップ・フュージョンの妨害を掻い潜った。

 

 サイバー流の長というのは、伊達では無いようだ。

 

 

「最後のデュエル。勝った方が、脱出できる。」

「なら、勝つのは私です!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

光海 ライフ4000

手5 場 

才災 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私の先攻、ドロー!私は、サイバー・ドラゴン・ドライを召喚!レベルを5にします!私はカードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

光海 ライフ4000

手5 場 

才災 ライフ4000

手3 場 ドライ 伏せ2

 

 

「当方のターン、ドロー。魔法カード、スターブラストを発動。ライフを1500払い、超古深海魚シーラカンスのレベルを4にする。」ライフ4000から2500

「くっ、そのモンスターは」

「レベル4となった、シーラカンスを召喚。効果発動、手札を一枚捨て、デッキからレインボー・フィッシュ3体と深海王デビルシャークを特殊召喚。」

「しかし、攻撃宣言はできませんよ!」

「心得ている。バトル、シーラカンスでサイバー・ドラゴン・ドライを攻撃。」

 

「永続罠、サイバー・ネットワークを発動!サイバー・ドラゴン・ドライを除外!ここでドライの効果発動、場のドライに破壊耐性を与えます!」

「でもダメージは受けて貰う」

「くっ!」ライフ4000から3000

 

「カードを3枚伏せて、ターンエンド」

 

 

光海 ライフ2500

手0 場 シーラカンス レインボー・フィッシュ レインボー・フィッシュ レインボー・フィッシュ デビルシャーク 伏せ3

才災 ライフ3000

手3 場 ドライ サイバー・ネットワーク(0) 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!」

「罠発動、酸のラストマシンウィルス。場のレインボー・フィッシュをリリース。貴公の場と手札の機械族を全て破壊。手札は…。」

「サイバー・ネットワークでドライを除外し、場のドライに破壊耐性を付与!」

「だが、その前にサイバー・ドラゴン・ドライは破壊される!」

「さらにチェーンして、速攻魔法、禁じられた聖衣!

「サイバー・ドラゴン、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ、パワー・ボンド…。」

「では、2体を破壊。そして1000のダメージを与える。」

「ぐううううううっ!」ライフ3000から2000

 

「…ドライを守備表示に。ターン、エンド。」

 

 

 

光海 ライフ2500

手0 場 シーラカンス レインボー・フィッシュ レインボー・フィッシュ デビルシャーク 伏せ2

才災 ライフ2000

手1 場 ドライ サイバー・ネットワーク(1) 伏せ1

 

 

「当方のターン、ドロー。場のレインボー・フィッシュとデビルシャークをリリース。轟雷帝ザボルグをアドバンス召喚。」

「ご、轟雷帝…?ザボルグの亜種?」

「亜種ではない、上位種。効果発動、サイバー・ドラゴン・ドライを破壊。そして、光属性モンスターを破壊した事で、効果発動。互いの融合デッキからカードを選んで墓地に送る。」

「っつ…サイバー・エンド・ドラゴン3体と、サイバー・ツイン・ドラゴン2体を選びます。」

 

「バトル、ザボルグでダイレクトアタック。」

「リバースカードオープン!非常食!場のサイバー・ネットワークを墓地に送り、ライフを1000回復!」ライフ1500から2500

「ネットワークが墓地に…」

 

「サイバー・ネットワークの効果発動!除外されたサイバー・ドラゴン・ドライ二体を守備表示で特殊召喚!」

「ならば、ザボルグとシーラカンスで、それぞれ攻撃。」

 

 場のカードは一掃した。

 

「ターンエンド。」

 

 

光海 ライフ2500

手0 場 シーラカンス レインボー・フィッシュ 轟雷帝ザボルグ 伏せ2

才災 ライフ2000

手1 場 

 

 

「私のターン、ドロー!」

「酸のラストマシンウィルスの効果。」

「私が引いたのは、サイバネティック・フュージョン・サポート!」

「ここで、キーカードを…。」

 

「ライフを半分払い、サイバネティック・フュージョン・サポートを発動!」ライフ2500から1250

「……」

 

「魔法カード、パワー・ボンドを発動!墓地のサイバー・ドラゴンとサイバー・ドラゴン・ツヴァイを除外して、サイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚!」

「攻撃力、5600…」

 

「これで私の勝ちです!バトル!」

「罠発動、フィッシャーチャージ。場のレインボー・フィッシュをリリース。サイバー・ツイン・ドラゴンを破壊して、1枚ドロー。」

「ひ、卑怯なっ!な、なんなのですか、貴女のデッキは!シーラカンスを主軸に置きながら、サイバー流に対するメタカードばかりでは無いですか!」

「いかにもその通り。」

 

「恥ずかしく無いのですか!」

「当方は学生、貴公はプロとして活躍していた時期もある、サイバー流の師範。勝つにはここまで対策せねば土俵にすら上がれない。」

 

 事実、対策していたにも関わらず、才災は一勝をもぎ取った。

 

 

「力あるカードには、リスクが伴う。」

「…パワー・ボンドの効果で、2800のダメージを、受ける」ライフ0

 

 絞り出すように、つぶやく才災。

 

 

 

 

 才災のライフが尽きると同時に、才災の鎖が引っ張られる!

 

「ひ、ひぃいいっ!」

「光届かぬ深海で、反省しつづけて貰う」

 

 鎖の先につけられた、錨が下がっていく。才災師範は抵抗するが、敵うはずもなく引きずり込まれていく!

 

「い、嫌だいやだイヤダァ!な、何故私がこんな目にぃいいいい!」

 

 引きずり込まれていく才災師範を、冷たい目で見続ける影丸光海。

 

 

 やがて空間が晴れる。

 

 

 

「…おじい様。仇は討ちました。」

『見事、祖父の仇を討ったようじゃな。影丸。』

 

 鏡が虚空に浮かび上がり、そこに巫女装束に身を包んだ、アホ毛で巨乳な巫女が映し出される。

 

「はい、美寿知様のおかげで才災の居場所を突き止め、こうして闇のゲームで罰ゲームを与える事が出来ました。感謝しております。約束通り、光の結社に喜んで入ります」

 

 美寿知は新戦力が手に入った事で策を練る。

 兄、斎王琢磨を救うための作戦を。

 

『ならば、一度来るが良い。合わせたい人物もいる。』

 

 そう言い残し、美寿知を映していた鏡が消える。

 才災が居た場所を見る影丸光海。

 

 

(…普通に強かった)

 

 ポーカーフェイスで無表情で割と知られていないが、光海は割と感性が豊かである。

 

 

(水霊術-葵でパワー・ボンドを落としてどうしようも出来ないだろうと思っていたら、コアからサイバーロード・フュージョンを持ってこられてメッチャ焦った…もしかして当方って弱い?それともなんだかんだ言って才災が強かっただけ?元とは言えプロでサイバー流の師範、というだけのことはあるか。)

 

 

 デッキから、システム・ダウン、酸のラストマシンウィルス、キメラテック・フォートレス・ドラゴンなどの対機械族メタを抜きながらかつてアカデミアを受験したときのことを思い出す光海。

 

(キメラテック・フォートレス・ドラゴンとスクラップ・フュージョンまで使っても負けるとか、当方って本当に才能が無いのかも…。)

 

 ここまで対策したのだ、これで一敗を喫するとは。未熟さを痛感する光海。

 カード知識についても考えをめぐらす。

 

 

(会心の出来だったけれど、筆記で当方不合格だし…。というか筆記4位だけど何がいけなかったのかな?名前を記入し忘れた?リスペクト精神に関する記述問題の解答を述べてからしばらくして、すごく機嫌が悪かったけれど…。理由は話してくれなかったし。)

 

 思考をめぐらす。同じく不合格だった雷丸は14位、氷丸は17位、岩丸は18位、炎丸は19位だ。

 基準が分からない。何かの記述でよほど問題があったとされたのかもしれないが、心当たりがない。

 

(光の結社…、氷丸が加わったと聞いて良い印象は無いけれど、雷丸が参加しているなら行かないと。泥棒猫が近づいたら一大事…というか。)

 

 

 先ほど、美寿知の姿が映っていた虚空を睨みながら光海は考える。

 

 

(アホ毛で巨乳で妹で巫女とか、属性盛り過ぎだぞ美寿知さん。精霊術師ドリアードか?むむむ。当方はいつ成長期を迎えるのか…?)

 

 自らの体を改めてみる光海。女性らしい起伏は到底及ばない。

 努力はしているが、結果が出てこない。

 

 

 

 

 

 …

 ……

 ………

 

 同時刻。深海に引きずり込まれた才災は、深海にも関わらず呼吸を行う事は出来た。

 しかし、暗い。寒い。重い。

 

 一体自分の何がいけなかったのか、才災はわからなかった。

 『リスペクトデュエル』を、『正しい思想』を広めようとしていた。正しい行いをしていた。にも拘らず、邪魔をされた。

 

 邪魔者は多かった。リスペクトに反する『過激思想』は筆記の順位に関係なく不合格にした。リスペクト精神を持たないなら、ノース校にでも行け。

 一方、実技試験であえてそういう生徒を少数入学させた。その後『改心』すればよし。しなければサイバー流の正しさを定着させるための『敵役』になってもらう。

 そのやり方に対し、反対した教員が居たので追い出した。

 

 月一試験でリスペクトに反する生徒は、ブラックリストに入れて昇格させなかった。

 

 だがそれは正しかった!その結果、私はちゃんと『成果』を出した!

 鮫島前師範の考えに染まっており、改心の兆しがない門下生は追い出し、改心した者を門下生として受け入れ、数を増やした。

 サイバー流の教えは、『敵役』のおかげで効率よく定着させることができた!

 

 

 このままいけば、カードゲーム界は政界・財界・報道界・宗教界と一つになり、世界に羽ばたけるはずだった!あと、あと二年あれば!

 

 それを全て壊したのが猫崎だ!あの忌々しい金と銀のツートンカラーめ!レスキューキャットめぇ!

 門下生を投入したがことごとく倒された。何故あんな『リスペクト精神』を持たない生徒一人倒せない?

 今までの『敵役』は倒せたのに!

 

 

 『ブロック代表』は何の役にも立たなかった。私が禁じたサイバー流のカードを解禁したのに、それでも負けた!

 あんな新人一人倒せず次々と倒されるとは、不甲斐ない!しかも丸藤亮は、許可なく私が禁じたカードを使っておきながら、負けた!

 

 あれだけ!あれだけ目をかけてやったのに!ブロック代表どもは、私の『財産』を横取りした!

 

 

 ああ、ああ!何故だ!私は『正しい事』をしているはずだ!なのに何故!

 何故こうも邪魔が入る!その邪魔者を追い出してもまた邪魔者が現れる!

 

 

 そもそも、どうして卑怯なコントロール奪取を、除去カードを、バーンカードを、カウンター罠を、ハンデスカードを、全体除去からのワンキルを、ロックカードを、何故当たり前のように使える?

 頭がおかしいんじゃないか?使われたら嫌だろう?自分が嫌な事を他人にして、何故平気でいられる!

 

 ああ、ああ!これで、これでカードゲーム界はおしまいだ!もうダメだ!

 

 卑怯者が卑怯な戦術の応酬を行い、それを卑怯者達が見て悦にいる…。

 

 

 

 

 い…い…いいわけが無い!何を諦めている、才災勝作!

 お前の『リスペクト』が、あんな影丸理事長の孫娘に倒されて終わりでいいのか?いや、いいはずがない!許されるはずがない!

 

 

 立ち上がれ!戦え!『正しいリスペクトデュエル』を定着させるために!

 待てよ?これだけ、これだけこの私が、このサイバー流の師範!才災勝作が、正しい教えをしても聞き入れないなら…教え方を変えねばならない!

 

 そうと決まったら、まずはこの罰ゲームの空間から脱出する!どんな、どんな手を使っても!!

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 才災が闇のゲームに負け、罰ゲームを受けているころ。

 海馬コーポレーションの会議室。

 そこに、海馬瀬人、城之内克也、万丈目長作、庄司、そして天馬月光が集まる。

 

 

「ふぅん…万丈目グループの方でも、才災勝作の行方は分からんか」

「そうだ。海馬コーポレーション、インダストリアルイリュージョン社と我々が動いて見つからないとなると…」

 

 万丈目長作議員に、弟が口を開く。

 

 

「兄者、捜査の手を国外に広めては?」

「正規の手段なら、出国履歴で分かるが。逃がし屋、『凶鳥』が絡んでいるならお手上げだ。各国の入国管理局が躍起になって、この様だからな…。」

 

 庄司の声に反応するのが、城之内克也。

 つい先日までミズガルズ王国にて奮戦していたため、海外渡航の手順どころか、その裏まで把握している。

 

「そうなりますと…お手上げですね。」

 

 

 海馬コーポレーション、インダストリアルイリュージョン社、万丈目グループ。彼らは現代日本の常識に縛られているため

『最近巷で有名な、斎王美寿知という巫女に才災勝作の行き先を占ってもらおう!』という発想は当然出てこない。

 

 一方で影丸光海は、祖父の友人であるアムナエルが錬金術師であることもあって、元々占いという手段を取ることに躊躇いはない。

 アムナエルからは、その真贋を見極めるだけの教育を受けているのも大きい。

 

 

「では、才災勝作とその協力者達が進めていた計画について話しませんか?」

「…あと二年、あと二年遅ければ、手遅れだったな。」

「兄者、あの計画書をシミュレーションしてみたが…日本の富の80%を20%の人間が、富の20%を80%の人間が分け合う超格差社会になるという結果が出たぞ。」

「馬鹿な!それでは国が成り立たん!」

 

 超格差社会が広がるというシミュレーション結果に、長作議員は驚く。

 

 

「危ないところだったな、動ける人員は他の任務で釘付けにされていたわけだからな…。城之内もそうだ。」

「まぁな、ミズガルズ王国の不穏分子を操っていたラング伯爵とやりあっていたからな。そうそう、俺はミズガルズ王国から準男爵という爵位を貰ったぜ!」

「準男爵、フン、貴様にはお似合いだな」

「てめぇっ!」

 

 そんな伝説の決闘者達を見ながら、万丈目兄弟は顔を見合わせる。

 

 

「…庄司、ミズガルズ王政府から準男爵、というか爵位を貰った日本人は居たか?」

「いや、記録にはないはず…。となると、日本史上初という事になるな。」

「準男爵で国民栄誉賞の申請は難しいか…。」

 

 

 いや、逆にここで高く評価して、宇宙開発の先進国であるミズガルズ王国との外交を若干やりやすくするのもありか?と政治関連に思考をめぐらす長作。

 党内派閥のパワーバランス、そして他党をどこまで説得できるか、ミズガルズ王国との外交を有利に進める事で反発が予想される諸外国の反応とその対応に、脳内をフル回転させる。

 

 

「ん?なんでそんな話になるんだ?」

 

 別に日本で功績を上げたわけでは無いのに、何故そんな話になるのか気になった城之内は話しかける。

 

「ミズガルズ王国は宇宙開発の先進国。日本としては手を結べれば…」

「でも、ノルウェーとは領土問題を抱えているぜ?」

 

「領土問題?」

 

 日本の財界で辣腕をふるっているが、海外事情の全てを庄司は網羅していない。

 

「それは初耳ですね。」

 

 天馬月光も参加する。

 

「あの辺りには、雪と氷に覆われたマーナーク島という小さな島があるんだが、そこの領有権というか管轄権をめぐってミズガルズ王国とノルウェーは対立している。」

「そこに何がある?石油か?」

「パラディウス社が建造した北欧支部。」

 

 

 さらりと告げる城之内に、天馬月光と万丈目庄司は思わず体勢を崩す。

 

 

「ぱ、ぱ…パラディウス社?!」

「その、北欧支部…?」

「パラディウス社壊滅後、その管轄権をノルウェーが管理。遅れてミズガルズ王国が自分達にも絡ませろと言ったがノルウェーが拒否、それ以来対立している。」

 

 そこまで話した後、コーヒーに手を伸ばし一息に飲み干す城之内。

 思わぬ情報が飛び込んだことで、万丈目兄弟は顔を見合わせる。

 

 ダーツは居なくなったが、パラディウス社が残した施設や技術を巡る国家間の対立が生じてしまった。

 この事情を聴いたとき、ドーマをただ倒すのではなく時間をかけて解体すべきだった、と城之内は深く反省した。

 

 天馬月光は話題を変える。

 

 

「城之内さんは、今回ミズガルズ王国の不穏分子を壊滅させたわけですね?」

「まぁ幹部クラスが多少逃げたが、黒幕のラング伯爵は牢屋にぶち込んだし…これで平和になるんじゃねぇかな?オージーン殿下の手腕にかかっているけれど。」

 

 なおすでに替え玉を用意して脱獄し、『凶鳥』の伝手を使って日本に潜伏していることを、城之内は知らない。

 

「ただ、サイバー流は…肝心の才災勝作の身柄が拘束できていませんからね…。どこかで再起を図っているかもしれません。」

「ふぅん、今度出てきたらその時はこの俺が直々に叩き潰してくれるわ!」

「それで、しばらくはサイバー流の残党狩り、という事でいいですね?」

「そういう事になるな。」

「であれば、サイバー流が経営していた事業のいくつかは…」

「ふぅん。そこは早い者勝ちだ。日本を征服した後も重要な資金源かつ拠点にする予定だったらしく、設備投資は惜しんでいなかったからな。俺としても気になる物件がいくつかある。」

 

 

 サイバー流が経営しているステーキハウスがあったが、そこで提供されたステーキが思った以上に美味だった。

 あの店舗は抑えておくつもりだった。

 

 

 庄司の方も目をつけている物件がいくつかある。そこは譲らないつもりだった。

 

 

「…何というか、もう金勘定のことしか考えて居なさそうだ。」

「そうでもなければ、やっていけませんからね。企業の経営というのは。」

 

 

 結局、才災勝作の身柄はどこも抑えられていない事が判明したため、天馬月光は思考をめぐらす。

 先に抑えておけば、その後がやりやすくなる…というのは建前だ。

 

 ペガサス様が作り上げたデュエルモンスターズのカードを、一方的に『リスペクトに反している!』と言って批判・否定した男。

 この手で直接制裁しなければ気が済まない。

 

 

「…なんか、俺場違いだなぁ…。爵位を貰ったのに。」

 

 準男爵の称号を授かったが、根っこが庶民の城之内君にとってこの空気はかなり居心地が悪い。

 成長しているが、周りも成長しているからその差が縮まった気がしない城之内君なのであった。

 




メタカード積めば勝てるなら、三沢君と万丈目君はアニメで十代相手に何回か勝っていると思います。このカードゲーム、そこまで甘く無い。

ミズガルズ王国の場所が不明なので、ノルウェーの西辺りにある事にしました。アニメでは衛星打ち上げた北欧の小国、というぐらいしか情報が無いので。

ダーツが成仏した事でパラディウス社が残した施設や技術を巡って各国が争うようになり、その争いに巻き込まれていく主人公、という設定で誰か書いてくれませんかね?それか、ダーツが残した遺産を赤の他人に渡さない!というドーマの構成員視点というのも面白そうです。


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第25話!未来組の介入とサイバー・ディスクの秘密

アンチリスペクト物で、未来組が関わってくる展開は見かけません。

最も、サイバー流の側に立つのは考えられませんし、サイバー流を潰す側に回る動機も思いつきません。闇獏良同様、アンチリスペクト物の作風と合わない気がします。


 黄色のシャツの上に、白いジャケットを羽織った、青い髪の女性。

 片手を動かし、誰かと通信を行う。

 

『…ゾーク・ネクロファデスの欠片…いえ、盗賊王の残滓を確認。闇のゲームで肉体を乗っ取られた状態と推測…介入…しますか?』

『危険だ。この分岐した並・行・世・界・の・時・間・軸はおかしい。S召喚の登場時期がズレている上に、鮫島ではなく、才災という男が校長になり…廃れたはずのサイバー流の門下生が未だに多い。』

『…提案。才災の計画を転用』

『どういう事だ、ミサキ?』

 

 ミサキは思いついた作戦を提案する。

 

 

『リスペクトの名のもとに相手のカードを批判・否定。裏ではアンティルールを行わせ、デュエルモンスターズそのものの評判を失墜させることで、モーメントの暴走を阻止し、未来を変える』

 

 

 その案を聞かされた通信相手は、即座に否定する。

 

 

『回りくどい。それをするくらいなら、デュエルモンスターズの創造主を抹殺した方が早い…。通信を切る。』

 

 

 名案だと思ったが、却下されたミサキ。

 破滅の未来を変える為とはいえ、『貴方のデュエルはリスペクトに反しています』と批判・否定するのは気分が悪い。

 

 

 

 ミサキはその場を離れようとした時。あるデュエルディスクが目に入る。

 銀で縁取りされた白いデュエルディスク。この世界線のサイバー流が開発し、幹部に支給したという代物。

 

 それを所持している女性に対し、デュエルディスク狩りという決闘者が襲い掛かっていたが、次々と返り討ちにあっている。

 

 ひと段落ついた所で、ミサキは行動する。

 

「?!まだ、残党が残っていたのね。」

「…デュエル。互いの、デュエルディスクを賭けて。私はミサキ。」

「いいわよ。やってやるわ!知っているでしょうけど、私はサイバー・ランカーズの才田よ!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

ミサキ ライフ4000

手5 場 

才田 ライフ4000

手5 場 

 

 

「…先攻、ドロー。モンスターをセット。フィールド魔法、エレキャッスルを発動。」

「な、なに?この派手なフィールド魔法は!」

「エレキと名のつくモンスターを攻撃したモンスターの攻撃力をダメージ計算後に1000下げる…。カードを一枚伏せてターンエンド。」

 

 

ミサキ ライフ4000

手3 場 セットモンスター エレキャッスル 伏せ1

才田 ライフ4000

手5 場 

 

「私のターン、ドロー!攻撃したモンスターの攻撃力を1000下げる…か。私はサイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚!バトル、セットモンスターを攻撃!」

「…エレキトンボが破壊され、効果発動。デッキからエレキリンを特殊召喚。」

「ツヴァイの攻撃力は1000ポイント下がって、攻撃力500になるわね。メインフェイズ2!ツヴァイの効果発動、魔法カード、機械複製術を公開して、カード名をサイバー・ドラゴンとして扱う。そして機械複製術を発動!!」

「?!」

 

 自分のカード効果を逆手に取られた事に驚くミサキ。

 

「デッキからサイバー・ドラゴンを二体、攻撃表示で特殊召喚する!カードを二枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

ミサキ ライフ4000

手3 場 エレキリン エレキャッスル 伏せ1

才田 ライフ4000

手2 場 ツヴァイ サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン 伏せ2

 

 

「私のターン、ドロー。チューナーモンスター、エレキツネを召喚。」

「ちゅ、チューナー?!まさかっ!」

「レベル4の雷族のエレキリンに、レベル2のエレキツネをチューニング。S召喚!Lv6、エレキマイラ。」

「攻撃力1400…。あの猫崎とは別みたいね…!」

「バトル、エレキマイラは直接攻撃ができる。ダイレクトアタック。」

「っつ!やってくれたわね!」ライフ4000から2600

「そして、相手の手札をランダムに一枚、デッキの一番上に戻す。」

 

「…は?」

「メインフェイズ2で光の護封剣を発動。ターンエンド」

 

 

ミサキ ライフ4000

手2 場 エレキマイラ エレキャッスル 光の護封剣(3) 伏せ1

才田 ライフ2600

手1 場 ツヴァイ サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン 伏せ2

 

 

「なんて厄介な効果なの…!私のターン、ドロー!手札の魔法カード、機械複製術を見せる事で、ツヴァイはこのターン、カード名をサイバー・ドラゴンとして扱う。罠発動!アタック・リフレクター・ユニット!場のサイバー・ドラゴン・ツヴァイをリリースして、デッキからサイバー・バリア・ドラゴンを攻撃表示で特殊召喚!」

「バリアドラゴン…厄介。」

「私はモンスターとカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

 

ミサキ ライフ4000

手2 場 エレキマイラ エレキャッスル 光の護封剣(2) 伏せ1

才田 ライフ2600

手0 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・バリア・ドラゴン セットモンスター 伏せ2 

 

 

「私のターン、ドロー。速攻魔法、サイクロンを発動。左側の伏せカードを破壊。」

「かかったわね!永続罠、サイバー・ネットワークを発動!私はデッキからサイバー・ドラゴンを除外!」

「…藪蛇」

「場から墓地に送られた事で、除外されているサイバー・ドラゴンを特殊召喚!その後私の場の魔法・罠カードを破壊するわ。」

 

 機械複製術が墓地へ送られる。

 

「…エレキングコブラを召喚。バトル、エレキマイラでダイレクトアタック。」

「バリアドラゴンの効果発動!その攻撃を無効にする!」

「…エレキングコブラで、バリアドラゴンを攻撃。」

「バリアドラゴンっ!」ライフ2600から2400

「ターンエンド。」

 

 

ミサキ ライフ4000

手2 場 エレキマイラ エレキングコブラ エレキャッスル 光の護封剣(2) 伏せ1

才田 ライフ2400

手0 場 サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン サイバー・ドラゴン セットモンスター 

 

 

 

「私のターン、ドロー!セットモンスターを反転召喚!融合呪印生物-光!効果発動、場のサイバー・ドラゴン2体とこのカードをリリースして、サイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚!」

「…サイバー・エンド・ドラゴン。それは本来、一子相伝のカードのはず。貴女がサイバー流の継承者?」

「違うわよ。才災師範に代わってからサイバー・エンド・ドラゴンとサイバー・ツイン・ドラゴン、サイバー・ドラゴンとプロト・サイバー・ドラゴンは、門下生に支給するようになった…。知らないの?」

 

 本当に、ここは随分とずれた時間軸である、とミサキは改めて思う。

 

「続けるわよ。私はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

 

 

 

ミサキ ライフ4000

手2 場 エレキマイラ エレキングコブラ エレキャッスル 光の護封剣(1) 伏せ1

才田 ライフ2400

手0 場 サイバー・ドラゴン サイバー・エンド・ドラゴン 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー。エレキングコブラもエレキマイラもダイレクトアタックが出来るモンスター。これで終わり。バトル、エレキマイラでダイレクトアタック。」

「罠発動!立ちはだかる強敵!このターン、相手はサイバー・エンド・ドラゴンしか攻撃出来ない!」

「攻撃強制カード…なら罠発動、トラップ・スタン。場の罠カードの効果を、無効にする。」

「っつ?!私の、負け…」ライフ2400から1000、1000から0

 

 

 ライフが尽きた才田は茫然としていたが、デュエルディスクを差し出す。

 

「約束よ。まさか、S召喚のテスターがサイバー狩りに加わるなんて」

「…大切に使わせてもらう。」

 

 この時代の技術では到底作れないはずの機構がいくつか存在する。実に興味深い。

 

 

 

 去っていく才田を見送った後、ミサキはパラドックスに通信を入れようとするが…。

 

「…つながらない?一体、何が?」

 

 

 こういうときは、即座に離脱するようミサキは創造主から厳命されていた。

 ミサキが時空移動で離脱した同時刻、パラドックスは一人のデュエリストに絡まれていた。

 

 

「てめぇ、何者だ?」

「…何故、この時代で活動している?」

「ほぅ?こいつは驚いた。俺様の正体に気づいているのか。」

「介入する気はなかったが、お前の存在は破滅の未来につながる可能性がある。消し去っておくとしよう。」

 

 この時代、という言い回し、そして破滅の未来云々というワード。

 

「…未来人、か。」

 

 まさか、そんなはずはないかと呟いた才獏がちらりとパラドックスを見ると。

 

 驚愕に目を見開いていた。

 

「まじか。」

 

 

 古代エジプト人の盗賊という意識が強い才獏にとって、未来人云々というのは想像の埒外。

 

「貴様を消去しておく。大いなる未来のために!」

「笑わせんなっ!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

パラドックス ライフ4000

手5 場 

才獏 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は譲ろう。」

「けっ、俺様の先攻、ドロー!サイバー・ドラゴン・ドライを召喚!レベルを5にするぜ。カードを2枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 

 

 

パラドックス ライフ4000

手5 場 

才獏 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン・ドライ 伏せ2 

 

 

「私のターン、ドロー!永続魔法、Sin Territoryを発動!」

「新?未来人らしいなぁ、おい。」

「発動時、デッキからフィールド魔法、Sin Worldを発動できる。さらにこの効果で発動したカードがフィールドゾーンに存在する限り、お互いにフィールドゾーンのカードを効果の対象にできない。」

「フィールド魔法がキーカードのデッキって事か。」

 

「私はデッキの青眼の白龍をゲームから除外し、現れろ、Sin 青眼の白龍!」

「?!海馬以外が、青眼の白龍を使うだと!」

 

 ありえない光景だが、未来人ならばありえなくない、と思いなおす才獏。

 青眼の白龍を他人が使う事を許さない海馬だろうと、成仏してしまえば青眼の白龍を誰が使おうと止める事など出来はしない。

 

 

「Sinモンスターは本来、フィールドに1体しか表側表示で存在できない」

「ってことは打ち止めか」

「いいや。永続魔法、Sin Territoryの効果により「Sin」モンスターは1種類につきフィールドに1体しか表側表示で存在できない」として適用される!」

「やりたい放題じゃねぇか。Sinモンスターは社長の青眼だけじゃあねぇんだろう?」

「流石に敏いな。デッキから究極宝玉神レインボー・ドラゴンを除外し、現れろ、Sin レインボー・ドラゴン!」

「攻撃力4000だと!」

 

「防ぐ手立てが無ければ、これで終わりだ!」

「させるかよぉ!罠発動!威嚇する咆哮!これでバトルフェイズには入れねぇだろ!」

「フン、カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

 

パラドックス ライフ4000

手2 場 Sin 青眼の白龍 Sin レインボー・ドラゴン Sin World Sin Territory 伏せ1

才獏 ライフ4000

手3 場 サイバー・ドラゴン・ドライ 伏せ1 

 

 

「俺様のターン、ドロー!サイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚!」

「ふっ、お前は本来、特殊勝利などの搦め手を得意とする。サイバー流は性に合わないだろう。何処まで戦えるか見せて貰おう。」

「そうかい。永続罠、DNA改造手術発動!俺様は機械族を宣言!さぁて。場のサイバー・ドラゴン・ドライとツヴァイと、機械族となったてめぇのモンスターを墓地に送る!」

「?!」

 

「来やがれ、キメラテック・フォートレス・ドラゴン!」

「貴様っ!」

「ヒャハハハハハァ!こんな便利なカードがあるのに、リスペクトだのほざいて使わないとか訳が分からねぇぜ。素材にしたモンスターは4体、よって攻撃力は4000!バトルだ!キメラテック・フォートレス・ドラゴンで、ダイレクトアタック!」

「リバースカードオープン!速攻魔法、Sin Cross!墓地の「Sin」モンスター1体を対象として発動、そのモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する!蘇れ、Sin レインボー・ドラゴン!」

 

 

 才獏はじっとパラドックスを見つめる。このまま相打ちか、それとも…。

 

「…攻撃は中断し、メインフェイズ2だ」

 

 盗賊としての勘が、攻撃を止めろと告げていた。

 

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ。」

「…エンドフェイズ、Sin Crossで蘇生したSin レインボー・ドラゴンは除外される。」

 

パラドックス ライフ4000

手2 場 Sin World Sin Territory 

才獏 ライフ4000

手2 場 キメラテック・フォートレス・ドラゴン DNA改造手術(機械族) 伏せ1 

 

 

 

「私のターン、Sin Worldの効果発動!ドローフェイズに通常のドローを行う代わりに発動できる。デッキから「Sin」カード3枚を相手に見せ、お前はその中からランダムに1枚を選ぶ。そのカード1枚を手札に加え、残りのカードはデッキに戻す。私が選ぶのは、Sin Selector3枚だ!」

「ケッ、選択の余地もねぇ。真ん中だ。」

「ならば、このカードを手札に加え、残りはデッキに戻す。Sin Selectorを発動!私の墓地から「Sin」カード2枚を除外して発動できる。除外したカードとカード名が異なる「Sin Selector」以外の「Sin」カード2枚をデッキから手札に加える。私は墓地のSin 青眼の白龍とSin Crossを除外する。」

「何を手札に加えるつもりだ…?」

「私はデッキからSin トゥルース・ドラゴンとSinパラドクスギアを手札に加える。Sinパラドクスギアを召喚!」

「パラドクスギア…何だこいつ。」

 

 

 四角形の歯車。こんな形状の歯車が機能するのか?と奇異な物を、才獏は見つめる。

 

「フン、効果発動!フィールド魔法カードが表側表示で存在する場合、このカードをリリースして発動!デッキから「Sin パラレルギア」1体を特殊召喚する!」

「チューナー、だと?」

「その後、デッキから「Sin パラドクスギア」以外の「Sin」モンスター1体を手札に加える。二枚目のSin 青眼の白龍を手札に!」

「けっ、社長同様、青眼の白龍は三積みしていやがるのかぁ?」

 

 軽く嘲笑する才獏だが、一瞬パラドックスは硬直する。

 

「…図星かよ。」

「その減らず口もここまでだ。私は手札のレベル8のSin 青眼の白龍に、レベル2のSin パラレルギアをチューニング!S召喚!現れろ、Sin パラドクス・ドラゴン!」

「また攻撃力4000か。随分と安くなったなぁ、攻撃力4000のモンスターが。」

 

 神のカード、オベリスクの巨神兵以外4000打点を誇るモンスターが居なかった、バトルシティ時代の知識がメインの才獏は呆れたようにつぶやく。

 

「バトルだ!Sin パラドクス・ドラゴンで、キメラテック・フォートレス・ドラゴンを攻撃!」

「チイッ、相打ちかよ!」

「そして、ライフを半分払い、手札のSin トゥルース・ドラゴンの効果発動!場のSinモンスターが破壊された時、手札・墓地から特殊召喚出来る!」ライフ4000から2000

「攻撃力、5000だとぉ!」

 

「これで終わりだ!Sin トゥルース・ドラゴンで、ダイレクトアタック!」

「甘いぜ。罠発動!ディメンション・ウォール!この戦闘ダメージはてめぇが受けろ!」

「っつ、がああああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 

 愕然とするパラドックス。

 

「私が、負けただと…?」

 

 敗因はあった。闇獏良の戦績はお世辞にも良いとは言えない、そして本来の搦め手を駆使したオカルトデッキでは無く、奪ったサイバー流。

 そのサイバー流も才災の『正しい・リスペクト・デュエル』の思想により、除去カードなどが入っておらず、大幅に弱体化している。

 

 負けるはずが無い、時間軸の並行世界の帰り道に軽く倒しておこうという侮り。

 

 

「俺様の勝ちだな、未来から来たっていうなら、色々と…」

「この場は引かせてもらう!」

「待ちやがれっ!」

 

 

 追撃を仕掛けようとした才獏だが、パラドックスはその攻撃を躱し時空を超えて離脱する!

 

「…逃げやがったか。」

 

 忌々し気に虚空を見上げた才獏だが、踵を返し歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 時間移動を行い、廃墟となった街並みにミサキは居た。

 パラドックスは一足先に、この世界の最後の人類の所へ報告に向かい、ミサキは研究施設へ向かう。

 そこには、大柄な老人と青年と子供がそろっていた。

 

「…これが、分岐した世界線でサイバー流が開発したデュエルディスクか。」

「電磁装甲に加えて、偽造カード探知機能も追加か…どれ、耐久力は」

 

 大柄な老人が、拳を振り下ろす!

 

「ちょっと、ホセ?!」

「何をやっている!」

 

 小柄な子供と、青年が咎めるも…

 

「馬鹿な、ヒビ一つ入らない…だと?」

「…想定外。」

 

 

 次の瞬間、ホセと呼ばれた老人は青年の腰から剣を引き抜く!

 

「?!何をするつもりだ、ホセ!!」

「ええ?!そ、そこまで!」

 

 青年と小柄な子供は流石に驚く。

 

 

「そこまで」

「むぅ…」

 

 壊されてはたまらないミサキは、その暴挙を止めて情報を収集する。

 

 

「耐久力に問題無し…。一部ソリッドビジョンの機能に差別化あり。」

 

 ミサキの言葉に、青年が反応する。

 

「ほぅ?」

「主に、サイバー・ドラゴンとその関連カード。属性を闇属性に変えた場合、全体的にシャドウバージョンとも言うべき物になるような設定を確認。」

 

 

 子供が口をはさむ。

 

「へぇ。でもそれって意味あるの?」

「デュエルの勝敗に意味は無い…。気分の問題と思われる」

 

「中々興味深い物だが、我々にはさほど重要な物では無いな…む?」

 

 通信が入る。

 

『…ZONEからは、そのデュエルディスクの扱いについてはミサキに一任するとの事だ。』

「アンチノミー…。私は私物としての保管を希望します。」

『わかった。君の好きなようにするといい。』

 

 ミサキは改めて、その世界線のサイバー流が開発したデュエルディスクを見つめる。

 このデュエルディスクを前にイカサマは難しいだろう。これの開発を指示した人物はよほどイカサマ行為が嫌いらしい。

 




ホセが殴っても壊れないデュエルディスクという宣伝文句になりそうなパワーワード。

次回は、ハーメルンでコラボしてくださった方の主人公が拙作でデュエルします。
並行世界ですので、拙作での設定と異なることがあります。


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第26話!デュエルディスク狩りと、城之内の弟子!

今回は、ハーメルンでコラボしてくださった方の並行世界における決闘者達がデュエルをします。
デュエル内容に関してアマゾンズ先生と睦月江介先生に監修していただいておりますが、並行世界なのでコラボ先の作品に反映されるとは限りません。

アンチリスペクト物で、サイバー流が壊滅した後はこういう輩が跳梁跋扈しそうです。だからといって、リスペクトの名のもと批判・否定する連中が蔓延るのは問題ですが。
悪者は退治されました、めでたしめでたしとはならない気がします。



「…才獏が、そんなに変わっていたのか?」

 

 訝し気に問いただす才宮。

 それに対し、黒いネコミミパーカーを着用している少女、柳里彩葉は頷く。

 

「才獏の皮をかぶった…獏良了に宿っていた闇人格という印象を受けた。」

「あの闇人格は消滅したって聞いている。そりゃあ、信じていた才災に降格させられ、その才災があれだけの醜態をさらせば心境だって変わるだろう。」

 

 そう、その通りである。だが、どうにもおかしい。

 

 よく利用していたはずの出張買取サービスを使わず、自らデュエルディスクをリアカーで運ぶ?

 闇人格の獏良が入りこんだのであれば説明がつく。彼はそういうサービスの存在を知らないからだ。

 デュエルもそうだ、搦め手を駆使している。

 

「…それより、お前はどうする?」

「私は前に進みます。」

「何かあれば力になるぞ。デッキ調整のデュエル相手とか。」

 

 苦笑いする、柳里彩葉。丸藤翔には勝ったが、今のデッキでは相手にならないだろう。

 

 

 

 

 少女がそんな会話をしているのと同時刻。

 サイコ流の継承者、猪爪誠の親友である龍谷遊来が買い物をしていると。

 

 

「か、返してよ!」

「アンティルールだ!だからこのデュエルディスクとデッキは俺の物だ!」

「そんな事、一言も言っていなかったじゃないか!」

「今言っているだろう!」

 

 どうやら、揉め事が起きているらしい。

 男が少年からデュエルディスクとデッキを奪おうとしている!

 

 

「どうした?何をしているんだ?」

「何だお前!関係ない奴は引っ込んでいろ!」

 

「た、助けてください!デュエルを挑まれて、受けてたって負けたらアンティルールだと言い出して…。」

「そうか。ならお前、俺とデュエルだ。」

 

 子供相手に恐喝する恥知らずな男を睨みつけながら、龍谷はきつい口調で言う。

 

 

「この俺に挑むか!いいだろう、アンティルールでお前のカードも勝ち取ってやる!」

「俺は龍谷遊来だ。」

「俺は前園 保憲(まえぞの やすのり)!さぁ、構えろ!」

 

 

 被害を受けていた子供が、龍谷遊来の後ろで応援を始める。

 

「が、頑張ってください!」

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

龍谷 ライフ4000

手5 場 

前園 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「先攻はやるよ!」

「俺の先攻、ドロー!俺は、マンジュ・ゴッドを召喚!効果発動、デッキから儀式魔法、高等儀式術を手札に加える!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

龍谷 ライフ4000

手5 場 マンジュ・ゴッド 伏せ1

前園 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はスナイプ・ストーカーを召喚!」

「ギャンブル効果を持つ悪魔族…!」

「効果発動!手札のおジャマジックを捨て、マンジュ・ゴッドを対象にサイコロを振る!ダイスロール!よし、出目は3だ!」

「三分の一で外れるが、当てて来たか!」

「さらに、おジャマジックの効果発動!デッキからイエロー、グリーン、ブラックを手札に加える!」

 

 

 龍谷は相手を見る。おジャマジックを使って手札を補充した。となればこの伏せカードの除去も狙うはず。

 だが。

 

「そのままバトルだ!行け、スナイプ・ストーカー!」

「効果を使わない?」ライフ4000から2500

 

 伏せカードを使う事も考えたが、まだライフは残るため温存する道をとる。

 

「俺は永続魔法、デンジャラスマシン-TYPE6を二枚発動!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

龍谷 ライフ2500

手5 場 伏せ1

前園 ライフ4000

手4 場 スナイプ・ストーカー デンジャラスマシン-TYPE6 デンジャラスマシン-TYPE6 伏せ1

 

 

「俺のターン。」

 

カードを引こうとした龍谷は視線を感じる。被害者の子供が後ろにいるが、嫌な視線だ。

 

「(何か妙だな?スナイプ・ストーカーの効果を使えば、伏せカードが有るとはいえ、俺の場をガラ空きに出来たはず…それに俺の左後ろに立っている子供から突き刺さるような視線…なるほど、そういう事か)」

 

後ろから見えないよう、デュエルディスクの位置を動かす。

 

「な、なんのつもりだ?」

 

「ドロー。」

 

 

 後ろで気配を感じる。覗こうとしている視線。それを察知し、疑惑は確信に変わる。

 

「ようやく繋がった、お前達グルだったんだな?」

「何のことだ?」

「とぼけても無駄だ。俺の左後ろに立って手札を覗こうとしているんだろ?」

 

 後ろに目を向けると、被害者の少年は舌打ちをする。

 

 

「チッ…。」

「早くどいてくれ。」

「わかったよ。やっちまってください、前園さん!」

「おう、任せておけ!儀式デッキなんて使えないカスデッキだが、売れば少しは金になるからな!」

 

 

 儀式デッキを馬鹿にする相手を睨みつける龍谷。

 

 

「速攻魔法、サイクロンを発動。その伏せカードを破壊する。…お前、俺の相棒を馬鹿にして笑ったな?」

 

「はぁ?カスデッキをカスと言って何が悪い!!それに、まんまとかかったなぁ!こいつは『やぶ蛇』!破壊された事で、効果発動!俺のデッキ・融合デッキからモンスターを特殊召喚!」

 

 なるほど。サイクロンが手札にある事を知ったうえで仕掛けていたか、と分析する龍谷。

 

「来い!マスターオブOZ!」

 

 攻守4200の大型融合モンスターが立ちはだかる!

 

「やった!作戦大成功!」

 

「おうとも!後は勝つだけだ!」

 

 勝ち誇る前園を睨みつけながら、龍谷はデュエルを続ける。

 

「…永続魔法、神の居城-ヴァルハラを発動。その効果により、手札からアテナを特殊召喚!」

 

「攻撃力2600だと!」

 

「儀式魔法、高等儀式術を発動!デッキからレベル2の神聖なる球体3体とレベル2の屋根裏の物の怪を墓地に送り、破滅の女神ルインを儀式召喚!」

 

「攻撃力2300の年増かよ。」

 

 ピシッ、と石化する破滅の女神ルイン。

 

『(久々に怒りで頭が冷えました…徹底的にやります)』

 

「天使族の特殊召喚に成功した事で、アテナの効果発動!相手に600のダメージを与える!」

「うぎゃあああああっ!」ライフ4000から3400

 

「600程度のライフダメージで騒ぐな。この程度で終わると思うなよ…?女神の怒りを思い知れ…!!墓地の光属性・天使族の神聖なる球体3体と、闇属性・悪魔族の屋根裏の物の怪を除外し、天魔神エンライズを特殊召喚!これも天使族だ!」

 

「ま、またアテナの効果が…!」ライフ3400から2800

 

「エンライズの効果発動!このターンの攻撃宣言を放棄し、マスターオブOZをゲームから除外する!」

 

「く、くそっ!マスターオブOZが!」

 

「たかが攻撃力4200程度で大はしゃぎしやがって…攻撃力を語るなら最低でも1万を叩き出して来い!!バトル。破滅の女神ルインで、スナイプ・ストーカーを攻撃!エンドレス・カタストロフィ!!」

 

 ルインは手にした槍を両手で回転させ、灰色のように見える光を纏いスナイプ・ストーカーへと投擲された。破滅を司る女神の槍はスナイプ・ストーカーの胸元へと突き刺さり無慈悲に破壊する。だが、その槍からは輝きが失われていない。

 

「ち、畜生!」ライフ2800から2000

 

 

「そして相手モンスターを戦闘破壊した事で、破滅の女神ルインの効果発動!もう一度攻撃出来る!エンドレス・カタストロフィ!ツヴァイ!!」

 

今度は投擲で無く直接、槍で唐竹割りのように前園を斬った。ほんの一瞬だけ黒い影が動いていたのは気のせいだろうか。

 

 

「うぎゃあああああっ!」ライフ0

 

 ライフが尽きた前園は尻もちをつく。龍谷の冷たい視線に前園は一瞬だけ戦慄する。

 

「お、俺が負けただと!?使えない儀式デッキに!?」

 

「チッ、役立たず!」

「な、なんだとぉ!待ちやがれ、このクソガキ!」

 

 逃げ出す少年とそれを追う前園。

 もはやこれ以上関わりたくない龍谷は、足早にその場を後にする。

 

「これが…サイバー流衰退後のデュエル世界か、嘆かわしいな。あんな小さな子供までカード犯罪に手を出しているとはな」

 

 親友の猪爪も待っているだろう。マイフェイバリットカードである『破滅の女神ルイン』のカードを見る。

 

「散々な事を言っているが儀式を甘く見るなよ…」

 

 そんな呟きを空へと溶かし、帰路を歩いていくのだった。

 

(しかし、ソリッドビジョンが随分と気合を入れていたな…。気のせい、か?)

 

 

 

 龍谷と前園のデュエルが終わった同時刻。

 

「ん?」

 

 サイコ流継承者、猪爪が所用を済ませて帰宅する途中。デュエルが始まりそうな気配を察知する。

 

 

「お前サイバー流だな!」

「違います……安価で引いたのは変態デッキだわ、変なのに絡まれるわ、今日は厄日か?」

「黙れ!俺がサイバー流と言ったらサイバー流なんだ!さぁ、俺とデュエルだ!俺はサイバー狩りにして、城之内の弟子、綿井 佑司(わたい ゆうじ)!」

「?!」

 

 自身を打倒した、伝説の決闘者城之内克也。その弟子がデュエルをするという事で、猪爪はその男を見つめる。

 あの人から教えを受けたとは、羨ましい。一体どれほどの実力を持っているのか。

 

「…城之内さんの弟子、ね…面白そうじゃないか、受けてたつ! っと、名乗るのが遅れたな。俺は城戸遊一郎だ」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

城戸 ライフ4000

手5 場 

綿井 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺は一刀両断侍を召喚!さらに魔法カード、生け贄人形!場のモンスターをリリースして、手札からレベル7のモンスターを特殊召喚!」

「城之内さんの弟子で、レベル7のモンスター…!」

「現れろ!ソードハンター!」

 

 出て来たのは城之内さんが使用した事のある戦士族モンスター。

 

「…そっちか。マジで初手から真紅眼出てきたらどうしようかとヒヤヒヤしたわ」

「何だとぉ!俺はカードを二枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

城戸 ライフ4000

手5 場 

綿井 ライフ4000

手2 場 ソードハンター 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はモンスターをセット、ターンエンド!」

 

 

 

城戸 ライフ4000

手5 場 セットモンスター

綿井 ライフ4000

手2 場 ソードハンター 伏せ2

 

 

「臆病者め!俺のターン、ドロー!ロケット戦士を召喚!バトルだ、ソードハンターで攻撃!」

「こいつはマシュマロンだ!攻撃された事で効果発動!1000ポイントのダメージを与える!」

「ちっ!」ライフ4000から3000

 

「生意気なっ!ロケット戦士でマシュマロンを攻撃!」

「何?戦闘では破壊されないのに。」

「だが、攻撃力は500ポイント下がる。」

「…下がるけれどさぁ」

 

 

「ターンエンドだ!」

「ロケット戦士の効果で下がった攻撃力が元に戻る」

 

 

 

 

城戸 ライフ4000

手5 場 マシュマロン

綿井 ライフ3000

手2 場 ソードハンター ロケット戦士 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は次元合成師を召喚!効果発動、デッキの一番上のカードを除外し、攻撃力を500ポイントアップ!」

「1800か…」

「バトル!次元合成師で、ロケット戦士を攻撃!」

「馬鹿が!永続罠、モンスターBOXを発動!コイントスを行い、当たればお前のモンスターの攻撃力を0にする!」

 

 そういうと、綿井はコインを提示した後、投げる。

 そのコインを手の甲で受け止め、宣言する。

 

「裏だ」

「ちょっと待て、コイントスする前に宣言しないと。」

 

 綿井のコインは、表には模様があるが、裏にはない。手の感触で分かってしまう。

 

 

「うるせぇ!これが城之内様が教えてくれたテクニックだ!反撃しろ、ロケット戦士!」

「っつ、だが、次元合成師が破壊され墓地に送られた事で効果発動!除外されているモンスターを手札に戻す。」ライフ4000から2500

「はん、そういえば除外していたな。だがそれがモンスターとは限らな」

「モンスターなんだな、これが。星見獣ガリスを手札に戻す!」

「チイイッ、あの時除外されていたのがモンスターカードだったとは、運のよい奴だ!」

 

「ターンエンド。」

「エンドフェイズに永続罠、神の恵み!モンスターBOXは維持コストがかかるからな、ライフ回復は必須だぜ!」

 

 

 

城戸 ライフ2500

手6 場 マシュマロン

綿井 ライフ3000

手2 場 ソードハンター ロケット戦士 モンスターBOX 神の恵み 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!神の恵みでライフを回復し、モンスターBOXの維持コストを払う!」ライフ3000から3500、3500から3000

「……」

「魔法カード、ライトニング・ボルテックス!手札のスケープ・ゴートを捨てて発動!これでその雑魚を破壊するぜ!」

「お前、城之内さんの弟子なんだろ!なんでカードに雑魚なんて言えるんだ!」

「はっ、雑魚を雑魚と言って何が悪い!」

「俺は、城之内さんを尊敬している!金銭的に余裕が無く、特別なオカルトグッズを持っている訳でもないのに、神のカードが激突するバトルシティ決勝トーナメントまで勝ち進んだ決闘者を。あの人は、そんな事を言わない!」

「お前如きが、城之内様の何を知っている!俺は城之内の弟子だぞ!行け、ソードハンター!ダイレクトアタックだ!」

「っつ!」ライフ2500から50

 

「これで終わりだ…ん?」

「はぁ、はぁ…手札から、冥府の使者ゴーズの効果を発動した!手札からこのカードを特殊召喚し、カイエントークンを特殊召喚!どちらも守備表示! 削り切れる状況じゃなきゃ、こいつは警戒しておかないとな」

「何だと!ロケット戦士で冥府の使者ゴーズを攻撃!」

「だが、例え攻撃力を500下げられても、それはこのターンのエンドフェイズまでだ!」

「…ターンエンド。お前のライフは残り50!場のモンスターがどうなろうと関係ねぇ!お前のライフを削り切るバーンカードが俺のデッキにはまだ眠っているんだぁ!」

 

 

 

城戸 ライフ50

手5 場 ゴーズ カイエントークン

綿井 ライフ3000

手1 場 ソードハンター ロケット戦士 モンスターBOX 神の恵み 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!手札から、星見獣ガリスの効果発動!デッキの一番上のカードを墓地に送り、それがモンスターなら、そのレベルの200倍のダメージを与え、それ以外のカードならこのカードを破壊する。」

「はっ、そうそう当たるか!」

「デッキトップは、黄泉ガエル!レベルは1、200のダメージをくらえ!」

「くそっ!」ライフ3000から2800

 

「俺はガリスをリリース、人造人間-サイコ・ショッカーを召喚!」

「で、電脳ハゲだと!」

 

 

 

 見物していた猪爪はイラっとするが、直後に思い直す。

 サイコ・ショッカーは城之内さんの真紅眼の黒竜と並ぶ、エース級モンスター。それに対し蔑称で呼ぶとは、本当に弟子なのか?

 

 

 

「カイエントークン、ゴーズを攻撃表示に。バトルだ!ゴーズでソードハンターを攻撃!」

「ぐうううっ!」ライフ2800から2550

「カイエントークンで、ロケット戦士を攻撃!」

「ば、馬鹿な…」ライフ2550から1600

 

「トドメだ、人造人間サイコ・ショッカーで、ダイレクトアタック!」

「うわあああああっ!」ライフ0

 

 

 

 

「俺の勝ちだな。」

「こ、このままでは済まさないぞ!覚えていろ!」

 

 

 デュエルには勝ったが、尊敬していた決闘者があんな弟子という事に内心がっかりする城戸。

 ネットの掲示板で意見を貰い、今回デッキに魔法・罠カードを入れない【フルモンスター】というのを組んでみたが…。

 確かに、次元合成師と星見獣ガリスの効果は100%当たるが…もう少し勝ち筋が欲しい。

 

 

「少しいいか?」

「貴方は…。」

「俺は猪爪、サイコ流の継承者だ。城之内さんのファンだそうだが…。」

「はい。でも…。」

「気にするな、俺は城之内さんとデュエルをしたことがある。」

「ええっ!ちょっと待ってください!城之内さんってミズガルズ王国に居るんじゃあ…。」

「最近帰国したぞ。ドミノ埠頭でデュエルをしたが…。あいつ、城之内さんの弟子を名乗っていたが…それにしては態度が悪すぎる。本当に教えを受けたのか疑わしい。」

 

 

 ふと気になった為、猪爪は質問する。

 

「しかし、次元合成師とガリスの効果を当てていたが…よく当たったな?確率は三分の一だろう?」

「ちょっと、デッキをモンスターカードだけで組んでみたんです。」

「…正気か?」

 

 マジマジと見つめる猪爪に対し、城戸は笑って告げる。

 

「安価は、絶対なので。」

 

 掲示板という物を見たことが無い猪爪は、安価を知らない。そんな猪爪を置いて、城戸は帰宅する。

 

 




拙作とコラボしてくださった、アマゾンズ先生と睦月江介先生、そしてカイナ先生も誠にありがとうございます!

恐喝の現場に割って入ったら実はグルだった、というのは割と人間不信になりかねない出来事ですが、拙作の龍谷遊来さんは今後もこういう場面を見かけたら助けに入るでしょう。
拙作ではS召喚の黎明期で、ドラグニティは流通していない為【天使族軸のルイン】に、天魔神エンライズ搭載したデッキです。カオス・ソーサラーや開闢と比べると使いづらさが目立つエンライズですが、レベル8の天使族なのでルインの儀式召喚のリリース要員を満たせたりします。最もアテナで蘇生出来ませんが。


城戸遊一郎さんは城之内さんを尊敬しているので、城之内の弟子を騙る不届きものを成敗して頂きました。DM勢が城之内の弟子、というセリフを聞いたら困惑しそうです。「ええ…」みたいな。

A・ジェネクス・バードマンが無いため、ガリスデビルバードマンが無い【フルモンスター】を使っていただきました。一応、次元合成師やガリスでアドを稼げますが、決め手に欠けます。
アークファイブでも正気の沙汰では無いと言われているのに、GXの時代に【フルモンスター】を使えば絶句されるでしょうね。


次回は、クロノス新校長体制のアカデミア編です。俊二の義姉、透子さんがアカデミアに赴任します。


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第27話!デュエル・アカデミアを改革せよ!前編!我謝透子、アカデミアへ!

アンチリスペクト物で、サイバー流を倒した後の顛末は大変な気がします。アカデミアの改革をしようと思ったら、サイバー流の教えに染まった生徒を改心させて、新しい教師を入れて引継ぎ作業をして…。

廃校にして別の所で作り直した方が早い気がします。

一部セリフを修正しました。マイナーな効果ですが、クロノス校長ならば古代の機械巨竜の効果を把握していないのは残念すぎるので。


 才災をクビにしたものの、デュエル・アカデミアの新体制はろくに確立できていなかった。

 才災校長の『似非ペクト』に染まった生徒でも過激な者は退学したが、それでも結構な数が残った。

 

 教師陣も完全に入れ替え、という訳にはいかない。クビにするにしても、引継ぎ作業だけはして貰わねばならない。

 入学試験で『過激な思想』とされた受験生を不合格に、そして実技でいじめの対象を選抜する動きに加担していた教員は問答無用でクビになった。

 最後まで才災校長の指示で従っただけ、と自己正当化をしていたが、海馬オーナーの怒りを増大させるだけだった。

 

 海馬瀬人を怒らせるという才能においては、彼らは城之内克也よりも上であろう。

 

 

「…兄さま。クロノス新校長では荷が重いんじゃないか?」

「モクバ、そんなことは分かっている。秘書を雇わせれば。」

「でも。才災校長のやり方にドン引きして、教育実習生は誰も来てくれない状況で、秘書になってくれる人はいるかな?」

「おのれ、才災め…。ここまで災いをもたらすとは。鮫島追放を傍観したのは、俺の判断ミスだな…。」

 

 こればかりは認めないといけない。そして、繰り返してはならない。

 

「瀬人様!秘書候補のリストが完成しました!この中の誰かなら役に立つかと。」

「ふぅん…。」

 

 

 渡されたリストを見る海馬オーナーだが、どれもこれも凡庸でしかない。

 新人かつ戦力、という厳しい条件ではあるが、クリアして貰わねば話にならない。

 

「ん?犬上村出身。猫崎と同じだな。」

「猫崎というと、俊二か!」

 

「瀬人様。その者は猫崎俊二の兄、恭一と婚約した我謝 透子という女です。すでに役所に届け出は出していますが、かの村では結婚式を挙げるまで新しい姓を名乗らない事になっているとか」

「我謝…か。」

「その者と知り合いかどうか、俊二に連絡したところ…故郷では恋人の弟という事で大事にしてくれた人とか。髪の毛が黒でなければ迫害するという狂人の村で、何故こんなまともな感性を持っているのか…。」

 

 髪の毛の色で差別をする風習を狂人と称する海馬コーポレーションの社員だが、犬上村とて、この現代日本において社員教育に拳銃の撃ち方がある会社には言われたくないだろう。

 

「とりあえず、こいつを呼べ。あの人工AIのテストにはちょうどいい。」

「はっ!」

 

「人工AI?また作ったの?」

「そうだ。最も…開発者はかなり精神的に参ったようだがな」

「ええ?!」

「見ればわかるぞ、俺としては二度と見たくないが…。採用・不採用はモクバに任せる。」

「わかったぜい!」

 

 

 

 海馬コーポレーションの一室。

 そこにスーツをビシッと着こなした、古風な女性が入室する。

 

「我謝 透子と申します。」

「よく来てくれた。デュエルアカデミアの校長の秘書を募集しているのだが…。志望動機は?」

「はい。」

 

 義理の弟が通っていた事で興味があった事。結婚式と嫁入り資金の為、まとまった金を稼ぐ必要があり、秘書検定を持っていた自分がこの度志望した事を話す。

 

「…わかった。続いて今から我が海馬コーポレーションが開発した、人工AIを搭載したデュエルロボと対戦してもらう。」

「機械とデュエル、ですか?」

「不満か?」

「い、いいえ!驚いただけです。申し訳ございません。」

「…こちらだ。」

 

 

 

 

 

 入室した我謝の前に、デュエルロボが現れる。

 

 

「では、今からデュエルを始めて貰う。先攻は我謝さんからだ。」

 

 我謝はデュエルディスクを構える。

 

 その様子を、窓ガラスからモクバと海馬コーポレーションの社員、それに女性のアメリカ人とダイスのイヤリングをつけた青年が見守る。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

??? ライフ4000

手5 場 

我謝 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私の先攻、ドロー!私はグリーン・ガジェットを召喚!効果発動!そしてこの効果にチェーンして速攻魔法、ご隠居の猛毒薬を発動!相手に800ポイントのダメージを与える!さらにチェーンして、速攻魔法サモン・チェーンを発動!」

「……」

「サモン・チェーンで通常召喚を三回可能になる!ご隠居の猛毒薬で800のダメージ、そしてレッドガジェットを手札に加える。」

 

 効果ダメージを与えると、相手のロボが反応する。

 

「……貴女には、リスペクト・精神は無いのですか!」ライフ4000から3200

「えっ?」

「バーンなど卑怯です!モンスターとの戦闘ダメージで戦いなさい!」

 

 

 え?これが海馬コーポレーションの考え方なの?と茫然とする我謝。

 というか、社長さんって破壊輪使っていなかったっけ?あと、混沌帝龍も。自分が使うのは良くて、使われるのはダメ?

 これは…収入が良さそうと思った為応募したが。

 

「…レッド・ガジェットを召喚、イエロー・ガジェットを手札に加えて召喚、グリーンガジェットを手札に加える。カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

「お、おい!もしかしてあれって!」

「はい。才災前校長の考え方を再現したデュエルロボ。正式名称は、サイバー・才災。」

「なんであれを再現…ああ、この思想に賛同するなら排除か。」

「まだテスト段階ではありますが。ややプレイング面で才災を再現できていません。」

 

 その社員のセリフに、アメリカ人の女性と、耳飾りにダイスを使っている青年が怒る!

 

「ガッデム!何を言うのよ!あの思想を再現するのがどれだけ大変だと思っているのよ!」

「レベッカの言う通りだよ!そもそも、リスペクトと言いながら相手の戦術を罵倒するAIが何で必要なんだ!」

 

 

 開発にあたり、レベッカと御伽は才災師範の考え方を再現したAIを開発するために、講演会における才災の発言を編集した2時間のDVDを3枚、一気に視聴させられた。

 新手の拷問である。

 

 

「それが今回の海馬コーポレーションの依頼です。そもそも、高打点の機械族で相手を圧倒するという戦術を使う決闘者なら、貴女も詳しいのではないですか?ミセス・ムトウ。」

「キースと、あんな狂った似非ペクトを一緒にしないで!」

「あれと一緒にしたら、キースから名誉棄損で訴えられるよ?」

 

 

 

サイバー・才災 ライフ3200

手5 場 

我謝 ライフ4000

手2 場 グリーン レッド イエロー 伏せ2

 

 

「私のターン、ドロー!サイバー・ドラゴン・コアを召喚!デッキから魔法カード、エマージェンシー・サイバーを手札に加え、発動!デッキからサイバー・ドラゴンを手札に!魔法カード、機械複製術を発動!デッキから現れろ、二体のサイバー・ドラゴン!」

「このデッキは…光里さんの。」

 

「光里っていうと…。」

「猫崎俊二の妻。どうやら面識があるようですね。」

 

 

「魔法カード、パワー・ボンドを発動!場のコアとサイバー・ドラゴンを融合!現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!さらに融合を発動!場と手札のサイバー・ドラゴンを融合!現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

「攻撃力5600と2800、そして二回攻撃出来る…」

 

 

 

 それを見ていた社員が反応する。

 

「…サイバー・エンド・ドラゴンを複数体並べる、というのは出来ないのですか?」

「何を言っているんだ。あの盤面なら、サイバー・ツイン・ドラゴンを優先するだろう。」

「ああもう~!この後、伏せカードをろくに警戒せずに攻撃するんでしょ…。嫌になるわ。こんな出来のプログラムを組んだなんて、絶対ダーリンに知られたくない…」

 

 

 

 

「バトルフェイズ!これがリスペクト・デュエルの力です!まずはイエローガジェットを攻撃!」

「罠発動!万能地雷グレイモア!攻撃してきた相手モンスターの中で、一番攻撃力が高いモンスターを破壊!」

 

 攻撃力5600のサイバー・ツイン・ドラゴンが大爆発をする!

 

「除去カードを使うなんて、卑怯です!サイバー・ツイン・ドラゴンで攻撃!」

「…」ライフ4000から2400

 

 イエローガジェットを破壊される。

 

「続いてレッドガジェットを攻撃!」

「……手札のグリーン・ガジェットを捨てて、罠発動!ライジング・エナジー!場のレッドガジェットの攻撃力を1500ポイントアップ!これで相打ちにする!」

「私のサイバー・ツイン・ドラゴンが!ガガガ、カードを一枚伏せ、ターンエンド。エンドフェイズにパワー・ボンドの効果で特殊召喚したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを受ける。」ライフ3200から400

 

 

サイバー・才災 ライフ400

手2 場 伏せ1

我謝 ライフ2400

手1 場 グリーン 

 

 

「私のターン、ドロー!速攻魔法、サイクロンを発動!その伏せカードを破壊!」

「さ、サイバネティック・レボリューションが!」

「…バトル!グリーン・ガジェットでダイレクトアタック!」

「が、ガガガガガ」ライフ0

 

 

 

 ライフが尽きるサイバー・才災。

 

「貴女は、バーンカードを使った上に、モンスターを除去するカードを使いました。このデュエルは無効、いや、反則負けです。」

 

 雑音を垂れ流した後、サイバー・才災は機能停止する。

 もはや怒りより、困惑する我謝透子。

 

 

「デュエル終了。おめでとう、貴女の勝利だ。」

「ありがとうございます。」

「モクバ様、判定は」

「ああ、採用だ!」

 

 だがそれに対し、我謝は首を振る。

 

「申し訳ございませんが、この内定は辞退します。」

「な、なぜなんだぜい!」

「…海馬コーポレーションには海馬コーポレーションの考え方があるのでしょうが、リスペクトを掲げながらバーンや除去を否定、しかもその上で高打点で殴り倒そうとする。そのような教育をする学園で働く気はありません。」

 

「モクバ様。これは…」

「ああ。我謝さん、事情を話すぜい!実はな…」

 

 事情を聴いて、ようやく納得する我謝。

 

「そういう事だったのですね。俊二は苦労したでしょう。」

「そうなんだぜい。才災を追い出した後の新体制構築だけど、やはり人手が足りない。海馬コーポレーションはサイバー流の残党潰しと、サイバー狩りを名乗ってイカサマする連中を討伐したりと忙しいんだ。」

「わかりました。浅学非才の身ですが、お役に立って見せましょう。」

 

 

 一礼する我謝。一方後ろの方で、御伽とレベッカに対し、海馬コーポレーションの社員が報酬を支払うが、二人はひったくるように受け取ると、その場から肩を怒らせて去っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルアカデミア。新体制の構築と前任者が一切引継ぎ作業をせず放り出したツケを、クロノス新校長は全力で支払わねばならなかった。

 

「ま、まだ終わらないノーネ…。」

「クロノス新校長、秘書が到着しました。」

「秘書?なんの話なノーネ?」

「海馬オーナーが、人員を手配してくれたとか。」

「そ、それは大助かりなノーネ!」

 

 

 

 我謝 透子は激怒した。必ず、かの邪知暴虐な海馬オーナーを成敗せねばならぬと決意した。

 彼女には海馬コーポレーションの現状もわからぬ。故郷で蝶よ花よと大事に育てられ…普通に野良仕事や家事も手伝っているし、獣道を普通に走ったりと割とアグレッシブだったりするが。

 一応故郷では素封家の末娘である。

 

 突然押し付けられた仕事の山。指導してくれる人も居ない。

 それでも必死に内容を振り分け、引継ぎ作業に取り掛かる。

 

 引継ぎ作業なのに、前任者が居ないという。何故クロノス校長の前任者が居なくなったのかを知った我謝は、この日初めて義弟である俊二を呪った。

 

 ここさえ、ここさえ乗り切ればという想いは天に通じた。

 

 ただ、寿命を数年前借りした。そんな疲労感と達成感に包まれながら、パイプ椅子に思いきりもたれかかる。

 

 

「よくやってくれたノーネ。」

「…終わりですよね?少し、休んでもよろしいですね?」

「その通り、ゆっくり休むノーネ、シニョーラ我謝。」

 

 

 もはや自室に行く元気も気力もなく、机に突っ伏して、死んだように眠る我謝。

 

 

 

 だが、その安らかな眠りは、突如妨げられた。

 

「起きるのでアール!」

「?!ま、また追加の仕事ですか!」

 

 起こされて、慌てて周りを見渡す我謝。

 

 

「全く、吾輩を呼び出しておきながら、校長は居ない上に職員は寝ているし…どうなっているのでアール?」

「…大変、大変失礼しました。私はクロノス校長の秘書、我謝透子です。」

「ふむ、マドモアゼル我謝。」

「恐れながら、私は結婚しております。」

「なんと!では新しい姓は、何というのでアール?」

「猫崎です。」

「では、マダム猫崎。クロノス校長を呼ぶのでアール。吾輩は、ナポレオン。このアカデミアの教頭に着任したのでアール!」

 

 そんなナポレオン教頭に、親し気な目を向ける我謝。

 

「かしこまりました。」

 

 猫崎俊二の故郷では、嫁いだ女性は結婚式を挙げなければ、相手方の『姓』を名乗るは許されず、相手方の『姓』でその女性を呼ぶ村人は、すくたれ者のそしりを受ける。

 ゆえに、愛する人の姓を呼んでくれたナポレオン教頭に対しての第一印象は良い。

 

 最も、ナポレオン側にそんな意図はない。マダム猫崎の故郷の事情など知らないし興味もない。結婚したのならば相手方の姓で呼ぶ、という常識に従っただけである。

 

 

 

 

 着任の挨拶、現状のデュエルアカデミアに関する情報を共有した後。

 

「しかし、新人が来たナラーバ。」

「そうですね、直接対決あるのみかと。」

 

 

 けげんな顔をする我謝。

 

「それは、この私とマダム猫崎にデュエルをしろと!」

「そういう事なノーネ。」

 

「それが、ここの流儀ならば従いますが。」

「フン、ならばちょうどいいのでアール!吾輩の実力を、アカデミアに見せつけられるのでアール!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

我謝 ライフ4000

手5 場 

ナポレオン ライフ4000

手5 場 

 

 

「ムフフ、世界の広さを吾輩が教えてやるのでアール!吾輩の先攻、ドロー!吾輩はまず、マシンナーズ・ソルジャーを召喚!」

「自分の場にモンスターがいない時に召喚に成功した時、手札のマシンナーズを特殊召喚出来るモンスター…となると狙いは。」

「そう!現れるのでアール!マシンナーズ・フォートレス!」

「攻撃力2500!」

「このカードが戦闘で破壊されたとき、相手の場のカードを一枚破壊!また、このカードが相手のモンスター効果の対象になった時、相手の手札を確認し、その中から1枚を捨てる!まるで吾輩のように優秀なモンスターなのでアール!さらに永続魔法、機甲部隊の最前線を発動!カードを一枚伏せ、ターンエンドなのでアール!」

 

 

我謝 ライフ4000

手5 場 

ナポレオン ライフ4000

手2 場 フォートレス ソルジャー 機甲部隊の最前線 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!手札からレッド・ガジェットを召喚!効果発動!デッキからイエロー・ガジェットを手札に加える。この効果にチェーンして連鎖爆撃を発動!さらにチェーンして速攻魔法、サモン・チェーンを発動!」

「な、ナパー!」

 

 

「こ、これは…ガジェットデッキに、サモン・チェーン?!」

「逆順処理に入れば、我謝さんは三回の通常召喚に加えて、ナポレオン教頭に800のダメージを与えられますね。」

 

 クロノス新校長も響緑先生も、古風な感じがする彼女が思いもよらぬ戦術をとったことに驚く。

 

「チェーンが無ければ、効果処理に入ります。三回の召喚権を得ます!連鎖爆撃で800のダメージ!」

「ぐううっ!」ライフ4000から3200

 

「イエロー・ガジェットを召喚し、デッキからグリーン・ガジェットを手札に加えます。」

「ふ、フン!確かにガジェットはあの決闘王、武藤遊戯も使う優秀なモンスターでアール!でも、そのモンスターには欠点があるのでアール!」

「ええ、その通りです。」

 

 

 馬鹿にされたにも関わらず、真摯な対応をする我謝。ガジェットの欠点は多い。

 ライオウ相手ならサーチが出来ない。王虎ワンフーが相手の場にいれば展開しても破壊される。上げればキリがない。

 

「時にマダム猫崎。戦に必要な3つの力は何か知っているでアールか?」

「私は1に補給、2に情報、3つ目に技術力と考えていますが。」

 

 ふと、この質問を夫にしたらどういう返事が来るのかと思った我謝はこの日の夜に電話を掛けたところ、

『1に優秀で冷静沈着な参謀将校、2に火力、3に機動力』という答えが返ってきた。

 

 

「ならばご教授するのでアール!戦に必要なのは1に戦略、2に機動力、そして最も必要なのは『決断力』なのでアール!しかし、ガジェット達には機動力があれど、攻撃力が足りないのでアール!それでは、攻撃という決断が出来ないのでアール!」

 

「…ご教授、ありがとうございます。では、私のデッキの『決断力』をご覧に入れましょう。」

「ナヌ?」

「場のレッドとイエローをリリース!古代の機械巨竜をアドバンス召喚!」

 

 現れた古代の機械巨竜に、レッドガジェットとイエローガジェットが組み込まれていく!

 

 

「確か、古代の機械巨人と違い、特殊召喚が可能な古代の機械モンスターの一体…。グリーンが貫通効果を与えて、レッドとイエローの効果は…」

「お勉強が足らないノーネ!レッドガジェットをリリースした場合、相手に戦闘ダメージを与えたトーキ、400ポイントのダメージを与えるノーネ。そして、イエローガジェットをリリースした場合、モンスターを戦闘破壊した場合、600ポイントのダメージを与えるノーネ!覚えておくノーネ!」

「は、はい。」

 

 

 全くと言っていいほどガジェットをリリースして古代の機械巨竜をアドバンス召喚する決闘者がいない為、響先生はその効果を咄嗟に答えられなかったが、古代の機械使いであるクロノス新校長は即答する。

 

 

「バトル!古代の機械巨竜で、マシンナーズ・ソルジャーを攻撃!」

「ぐうううううっ!」ライフ4000から2600

「レッドガジェットをリリースした事で、古代の機械巨竜の効果発動!戦闘ダメージを与えた時、400ポイントのダメージを与える!さらに、イエロー・ガジェットをリリースした事で、古代の機械巨竜が相手モンスターを戦闘破壊した時、600ポイントのダメージを与える!」

「な、ナヌー!」ライフ2600から2200、2200から1600

 

 だが、ナポレオン教頭の場に新たな機械族が出現する!

 

「?!」

「こ、ここで機甲部隊の最前線の効果発動!吾輩の場の機械族モンスターが戦闘で破壊されたとき、デッキから破壊されたモンスターと同じ属性で攻撃力の低いモンスターを特殊召喚。現れるのでアール、ピースキーパー!」

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

我謝 ライフ4000

手2 場 古代の機械巨竜 伏せ1

ナポレオン ライフ1600

手2 場 フォートレス ピースキーパー 機甲部隊の最前線 伏せ1

 

 

 

「吾輩のターン、ドロー!速攻魔法、手札断殺を発動するでアール!互いに手札を二枚捨てて、二枚ドローするのでアール!ヌフフ、これでグリーン・ガジェットも墓地送りなのでアール!」

「手札入れ替えで対処されたのは、初めてです。流石ですね、ナポレオン教頭。」

 

 ナポレオン教頭はコンビネーション・アタックとフォーメーション・ユニオンを、我謝はグリーン・ガジェットと貪欲な壺を捨てて二枚ドローする。

 

「ヌフフ、永続魔法発動!禁止令!吾輩は、リミッター解除を宣言!」

「えっ?!機械族デッキなのに…」

「バトル!吾輩は、マシンナーズ・フォートレスで攻撃!」

 

「モンスターを特攻させるつもりなノーネ!」

「禁止令でリミッター解除を封じたのは…あっ!」

 

「なるほど、その伏せカードはマシンナーズ・フォートレスを蘇生させるカード、リビングデッドの呼び声でしょう?」

「ナヌっ!ヌフフ、ご名答、確かにこれはフォートレスを復活させるカードでアール。この攻撃で吾輩は500のダメージを受けるが、古代の機械巨竜を破壊したうえで、機甲部隊の最前線からマシンナーズ・スナイパーを特殊召喚し、この伏せカードでフォートレスを蘇生させて追撃。吾輩の勝利でフィニッシュという訳でアール!」

「リビングデッドでは無いとすると…いいえ、この伏せカードをリミッター解除と思われたようですが…。こちらです!手札の収縮を捨てて罠発動!ライジング・エナジー!」

「ナヌー?!攻撃力を1500ポイント上げる罠カード!ま、ままま不味いのでアール!」

「これで攻撃力は4500!私の勝ちです!」

「わ、吾輩の辞書に、敗北などという言葉は~!!」ライフ0

 

 

「…伏せカードは、時の機械タイム・マシーンでしたか。危なかったです。」

「スプレンディード!素晴らしいノーネ!実技の授業を担当する気はありますーか?」

「フフ、ご冗談を。私を過労死させたいのですか?」

 

 二コリ、とほほ笑む我謝。

 

 だが、その瞳は一切笑っていないことに、響先生は気が付いていた。




拙作の世界では遊戯とレベッカが結ばれています。割とお似合いだと思ったので。

AIは進化していますが、不確定要素の多い遊戯王だと素晴らしいプレイングが出来るAIが出来上がるのは難しそうです。


ナポレオン教頭の、「戦に必要な3つの力は何でアール?」という質問は個人的に好きです。というのも、コード〇アスや、幼女〇記など架空戦記物の主人公に投げかけた場合、それぞれの個性を感じさせる返答をしそうだからです。

…ヤ〇・ウェンリーなら「敵の6倍の兵力、完全な補給と整備、司令官の意志を誤またずに伝達する指揮系統」と返すと思いますが。


次回は、主人公とヒロインがデュエルをします。


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第28話!デュエル・アカデミアを改革せよ!中編!俊二VS光里!

アンチリスペクト物のヒロインは、サイバー流門下生がいいと思っています。というのも、サイバー流門下生視点を入れられる上に、サイバー流からの決別という展開も入れられるからです。

もちろん、遊戯王以外の他作品から持ち込むのもありだと思います。

この度、拙作「猫シンクロ使いが行く遊戯王GX!」の23話のIFデュエルを、カイナ先生の「サイバー流系メスガキinデュエルアカデミア」に書いてもらいました。



「ふぅん、ご苦労だったな。」

「はい、海馬社長。」

「これで、九州に巣食っていたサイバー流は壊滅した。少なくとも、リスペクトの名のもとに相手を批判・否定する愚か者が多少残るだろうが、もはや再起不能だろう…そこで、お前たちにはデュエル・アカデミアで実技担当を行って貰う。」

「?!しかし、俺は教員免許を持っていません。」

「何を言っている。デュエルアカデミアは私立だ。特別非常勤講師として、実技を教えろ。といっても、この短期間で指導できるとは期待していない。クロノスのカリキュラムに沿って、多少手入れをしたうえで行え。」

「…そういえば、佐藤先生は?」

 

 ふと思いついたことを口走る猫崎。

 それに対し海馬瀬人は数秒沈黙したのち、口を開く。

 

 

「ふぅん…どうやら俺は貴様を酷使しすぎたようだ。佐藤という教員はデュエル・アカデミアに在籍していたが、才災の過激なリスペクト違反の生徒を入学させない、一方で気弱なリスペクト違反の生徒をいじめの対象にするべくあえて入れる、という方針に真っ向から反対した結果、クビになっている…貴様の編入より随分前にな。」

「…すみません、記憶が混濁しているようです。」

 

 まともな感性を持つ教育者なら、誰でも反対する。そして反対した結果、佐藤先生はアカデミアを去った。

 

 海馬は『何故、()()()()()()()()()の、それもあまり目立たない佐藤の事を言及する?』と疑問に思ったが、たまたま知っていただけだろうと推測する。

 

 

「クロノスを校長にした今、教えられる手駒はお前だろう。それに、何かと金が入り用のはず。」

「…それは。」

「残りのブロックについては心配いらん。後は俺が片を付ける…。そうそう、我謝と言ったか。お前の義姉がクロノスの秘書に就職している。」

「透子義姉さんが!」

「それと、お前の猫シンクロデッキは使うなとは言わんが…別のSモンスターを開発したら適時テスターとしてデータ収集をして貰う。」

「かしこまりました。」

 

 

 できれば、光の結社だの異世界編だのには関わりたくなかったが、透子義姉が就職しているなら行かないわけにはいかない。

 身体能力は低くないが、相手が破滅の光だのユベルと凶悪過ぎる面々だ。

 

「…だが、政界や財界の関係者が異議を申し立てて来た…今後、レスキューキャットの効果は1ターンに1度、そして特殊召喚したモンスターの効果は無効という事になった。」

「わかりました。」

「才波光里、いや、今は猫崎光里か。そいつも補佐として連れていけ。」

 

 

 こうして、猫崎俊二は再びアカデミアに戻る事になった。

 卒業して一年とたたずに戻ったので、あまり懐かしい気分はしない。何というか、高校4年生のような気分だ。

 留年したわけでもないのに。

 

 

 

 

 デュエルアカデミアの校長室。

 クロノス新校長は、着任するという新人について思いをはせる。

 

「失礼します。」

 

 その声を聴いた我謝は思わず書類を取り落としそうになるも、咄嗟に体勢を整える。

 

「まさか!」

「お久しぶりです、クロノス新校長。そして就職おめでとう、透子義姉さん。」

「ああ~!やっぱりいい響き!」

 

「よく来てくれたノーネ、シニョール猫崎とシニョーラ才波…いや、今はどっちも猫崎なノーネ、ややこしいノーネ…。」

 

 

 新たに引き継いだ作業が割と大変だったことなどを話すクロノス新校長。

 雑談を終え、実技に関する採点基準、評価や教育方針に関する資料を渡す猫崎。

 

「…こうなっていたんですね。」

「少し前までは受けていた事を、教えるとなると大変だと思うノーネ。」

「良い選手が良いコーチになるとは限らない、と聞きます。クロノス新校長、今後もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします!」

「うむ。任せるノーネ。」

 

 

 資料を受け取り、ざっと目を通す猫崎夫妻。

 色々と知らなかったことだらけだ。

 

「こうしてみると、小テストをするのって大変なのね。」

「隣同士で交換させて採点…とすると、トラブルになりそうだ。」

 

 

 そう言いつつ、『自分が前世で知っている知識との差異』を密かにチェックする猫崎。

 天上院吹雪は十代達と同じ2年生としてスタートだったが、ここでは三年生となっている。一応、1年留年という扱い。

 丸藤翔は退学を選択しており、ここも相違点になっている。

 

 

 教師陣の差異は、佐藤先生はすでに去っており、新たに入っていた才災師範の息がかかった教師がかなりの数居たが、それもクビ。

 尤も、完全に入れ替わったわけではない。残念ながら数名残っている。

 

 またアムナエルが去った事で代わりに響先生が、レッド寮長を兼任という形で着任している。教頭は才津からナポレオン教頭に変わっている。

 

 

「才災師範の教えを盲信する過激派は居なくなったが、それでもその思想よりの教員と生徒が残ったか。」

「影丸理事長の告発を聞いたときはびっくりしたわ…あんなことをしていたのね。」

 

 教育者がいじめの温床を助長。目を覆う事態である。

 

「とりあえず、今から月一試験の準備を始めようか」

「そうね。」

 

 過去の月一試験の問題文と模範解答をアカデミアのデータベースから引っ張った猫崎夫妻は、その画面に違和感を持つ。

 何の気なしにサイバー・ドラゴンのイラストをクリックしたところ、パスワードを入力する画面があり、光里が「01546123」と入力したところチェックリストが表示。

 

 目を丸くする俊二に対し、光里曰く、才災師範はパスワードを大抵『01546123』にしているとの事。そんなセキュリティで大丈夫か?

 

 

 

 タイトルは、『月一試験において、リスペクト違反の決闘を行った生徒に対する対応』

 

①デュエル中に相手モンスターのコントロールを得た

②デュエル中に相手の魔法・罠・効果・攻撃・召喚に対しカウンター罠を発動した

③カード効果によって相手モンスターを破壊した

④カード効果によって相手モンスターを除外した

⑤カード効果によって相手モンスターを場から手札かデッキに戻した

⑥カード効果によって相手の手札を捨てさせた

⑦場のカードを全て破壊するカードを使用した上で、そのターン中に相手のライフを0にした

⑧カード効果のみで相手のライフを0にした

⑨反射ダメージのみで相手のライフを0にした

⑩カード効果を無効にするカードを使用した

⑪相手のデッキを切れさせてデュエルに勝利した

⑫特殊勝利条件を達成してデュエルに勝利した

 

 このいずれかを満たした不適切な生徒をブラックリストに載せる。

 またブラックリスト入りした生徒が校則違反を行った場合速やかに制裁デュエルを行う。

 ブラックリスト入りの生徒については、その後月一試験にて『改善』が見られない場合、成績に関わらず昇格はさせない。

 

 全ては、『正しい・リスペクト・デュエル』を広げるために。

 

 

 

 というのが出て来たのだ。

 

「…なるほど、あのパスワードを入力しないとこのチェックリストにはたどり着けなかったのか。」

「そして、隠されていたからクロノス新校長は気づけなかったのね…」

「そういえば、才花相手にパーミッションデッキを使ったことがあったな。」

「あったわね、あの後校則違反をしていたら制裁デュエルだったって事?」

 

 過去を振り返り、それで自分は昇格されなかったのか、と納得。

 また少しでも校則違反をしていたら危うかったなと思っていると、後ろから声がかけられる。

 

「へぇ?こんなリストがあったの」

「?!響先生!」

「引継ぎ作業では、ここについて触れられていなかったけれど…。この分だとほかにもありそうね。ちょっとクロノス校長先生にこの事を伝えてくるわ。」

 

 

 数分後、校長室の方角から振動を猫崎夫妻は感知したが、気づかないふりをした。

 少し揺れたな、というのが二人の感想である。

 

 

「さて、とりあえず一息入れるか。」

「そうね。折角だし…デュエルしない?」

「いいな。何せレスキューキャットの効果が変わった。新学期が始まるまでの間に慣らしておかないと。」

 

 

 

 場所を変え、二人はデュエルディスクを構える。

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

光里 ライフ4000

手5 場 

 

「先攻は、俺が貰ってもいいか?」

「いいわよ。」

「なら俺の先攻、ドロー!俺はレスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキからXセイバーエアベルンとコアラッコを特殊召喚!」

「ナチュル・ビーストね!」

 

 この並びで気づかれることに苦笑しながら、俊二はデュエルを進める。

 レベル2の地属性コアラッコに、レベル3の地属性エアベルンがチューニングされ、ナチュル・ビーストが現れる!

 

「カードを二枚伏せてターンエンド」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手3 場 ナチュル・ビースト 伏せ2

光里 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私のターン、ドロー!相手の場にのみモンスターが存在することで、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「来たか!だが攻撃力は及ばないし、魔法カードはナチュル・ビーストが妨害する!」

「それに加えて、伏せカードもある…それに対する対策がこれよ!場のサイバー・ドラゴンをリリース!人造人間-サイコ・ショッカーを召喚!」

「?!さ、サイコ・ショッカー!何故持っている!」

 

 にっこりとほほ笑む光里。

 

「驚いたみたいね!サイバー・グルメ弁当についていたパックを開封した時に、出たカードがこれよ!」

 

 あの時か。

 光里の場にいるサイコ・ショッカーはキラキラ輝いており、アルティメットレア仕様だ。

 かなり挙動不審だったが、その理由に納得する俊二。

 弁当のおまけで、これが出てきたら前世で猫崎が知っているどのデュエリストもびっくりするだろう。

 

 

「バトル!サイコ・ショッカーでナチュル・ビーストを攻撃!」

「ナチュル・ビーストがっ!」ライフ4000から3800

「カードを一枚伏せて、ターンエンドよ!」

 

 

俊二 ライフ3800

手3 場 伏せ2

光里 ライフ4000

手3 場 サイコ・ショッカー 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「俊二!たとえ精神操作を使ってサイコ・ショッカーを奪っても、S召喚は難しいでしょう?チューナーのレベルは3と4!Lv9とLv10のSモンスターは三体のモンスターが必要だから!」

「その通り。だが!魔法カード、死者蘇生を発動!蘇れ、レスキューキャット!効果発動、このカードを墓地に送り、デッキから現れろ、Xセイバーエアベルン!異次元の狂獣!」

「ブリューナク、いや!」

「レベル3の異次元の狂獣に、レベル3の地属性エアベルンをチューニング!!S召喚!現れろ、ゴヨウ・ガーディアン!バトル!ゴヨウ・ガーディアンでサイコ・ショッカーを攻撃!」

「キャッ!」ライフ4000から3600

「そして、ゴヨウ・ガーディアンの効果発動!サイコ・ショッカーを守備表示で特殊召喚!ターンエンドだ!」

 

 

 

 

俊二 ライフ3800

手3 場 ゴヨウ・ガーディアン サイコ・ショッカー 伏せ2

光里 ライフ3600

手3 場 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!サイバー・ドラゴン・コアを召喚!効果発動、デッキからサイバー・リペア・プラントを手札に加える。」

 

 九州ブロックを制圧した時サイバー流の道場に保管されていた、サイバー・ランカーズのブロック代表に支給するために用意されていたサイバー・ドラゴンの派生カードを海馬コーポレーションが押収。

 その派生カードは光里に与えられていた。

 

「魔法カード、機械複製術を発動!デッキからサイバー・ドラゴンを二体特殊召喚するわ!」

「?!キメラテック・フォートレス・ドラゴン…」

「それはどうかしら?俊二!この場所、覚えている?」

「ここって、デュエルリングだろ?」

「そう。初めて私達が出会った場所…。」

「そういえば…」

 

 

 初めて、この場所でであった事を思い出す俊二。

 

「あの時は通用しなかったけれど、今は違うわ!魔法カード発動!パワー・ボンド!場のサイバー・ドラゴン2体とコアを融合!来なさい、サイバー・エンド・ドラゴン!」

「攻撃力8000!なら…?!」

 

 伏せカードを発動させようとして、ふと自分の場にいるサイコ・ショッカーを見て愕然とする猫崎俊二。

 

 

「ふふっ、気が付いたみたいね。俊二!伏せカードがミラフォと和睦の二重の守りか、奈落の落とし穴と魔宮の賄賂といった組み合わせなら、サイコ・ショッカーは奪うべきでは無かったわね!」

「それが…狙いか?」

 

 

 この、GXの並行世界の時間軸にはモンスターの攻撃力至上主義、というのがある。雑魚を並べるより、高打点のモンスターを貴ぶ。

 ゆえに、手札を全て使い切ってサイバー・エンド・ドラゴンを出すサイバー流のデュエルがもてはやされた。

 

 だが、OCG世界ではカードアドバンテージ、特にボードアドバンテージという概念がある。

 俊二はボードアドバンテージを重視しているが、そのボードアドバンテージという概念について、光里に話した事は無い。

 しかし、今まで猫崎俊二のデュエルを見て来た才波光里は、俊二が場のカードの枚数を重視する傾向がある事をおぼろげながらつかんだ。

 

 才波光里が積み重ねて来た勝利のためのロジックは、OCG世界でしのぎを削っていた猫崎俊二にチェックメイトをかける!

 

 

「バトル!行きなさい、サイバー・エンド・ドラゴン!ゴヨウ・ガーディアンを攻撃!」

「…っつ!」ライフ0

 

 

 初めて、サイバー流相手に負けた事に俊二は愕然とする。

 

「…俺の負けだ。」

「今まで、俊二と戦ってきたサイバー流の門下生や、サイバー・ランカーズとのデュエルで俊二の性格が分かってきたわ。場にモンスターを、カードを多く残す事を重視する決闘者。だからこそ、サイコ・ショッカーを出せば伏せカードを沈黙させることができる。」

「そして、サイコ・ショッカーは闇属性で攻撃力2400、ナチュル・ビーストやカタストルを処理できる…。才治の偉大魔獣ガーゼットからヒントを得たのか?」

「そうよ。ねぇ俊二、これからはもっと頼ってもいいのよ。」

「ああ、そうさせてもらう。」

 

 

 スッと近づき、光里の顎に手を掛ける俊二。

 光里は目を閉じて…

 

「そこまでなノーネ!」

「「うひゃああああっ?!」」

 

 

 誰も見ていない、と思い込んでいた猫崎夫妻は素っ頓狂な声を上げる!

 

 

「全く!この神聖なるデュエルリングでおっぱじめるんじゃないノーネ!しかし、シニョーラ猫崎。まさかあのSデッキに勝つとは思わなかったノーネ。もしも、才災がシニョーラをブロック代表にしていたーラ」

「それは無いと思います。私はサイバー流の門下生で、一番俊二のデュエルを見て来た。その積み重ねがあってこその勝利です。」

「うむ。そしてシニョール猫崎、確かにシニョールは強いノーネ。でも、油断大敵なノーネ。それが今回わかったと思うノーネ」

 

 少なくとも、海馬コーポレーション所属になって初めての敗北である。

 前世では数えるのも億劫なほど黒星を重ねてきたが。

 

「はい、今回それをわからせてくれて本当に感謝しています。」

「今、デュエルアカデミアは試練の時なノーネ。さて、とりあえず才災が残した新たな火種が見つかった以上、オーナーに報告なノーネ。」

「あんな内容を見たら、そろそろ怒りで倒れそうですが。」

「全くなノーネ。」

 

 

 この日、別件の仕事がうまくいって久々に瀬人様に良い報告が出来ると意気揚々と戻った磯野は、恐ろしいほど海馬社長の機嫌が悪かったことで、お褒めの言葉も頂けず胃を痛めるのだが、それはまた別の物語である。




序盤で主人公に負けたサイバー流門下生が、主人公に勝つ程に成長する…。
遊戯王GXは『成長』がテーマだと思います。

現地人の成長は描きやすいのですが、OCG民の成長の描写が難しいです…。


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【最終回】第29話!デュエル・アカデミアを改革せよ!後編!俊二VS才災勝作!

アンチリスペクト物で、入学式直後に鮫島校長と主人公がデュエルをするという展開が多いですが、個人的に「サイバー流師範と主人公の直接対決は引っ張るべきでは?」と思ってこういう流れにしました。


 猫崎俊二と光里は、夜のアカデミアを散策する。

 夜の海を見てみたくなったのだ。学生の頃はできなかった夜間外出だが、今なら出来る。

 

 

「…いい潮風ね」

「そうだな。」

 

 

 夜風が心地よく、潮の香りも良い。定期的に来てもいいかもしれない。そう思った二人は異様な気配を感じる。

 海の中に渦が現れ…。

 

 ザバンッ!という音とともにナニカが飛び出してくる!

 

 

「魚?!」

「いや、人だ!一体、だ…」

 

 

 誰だろう、と俊二は最後まで言い切れなかった。

 

 

「猫崎ぃ…俊二ぃいいいいいいっ!」

「さ、才災!」

 

 現れたのは、行方不明になっていた、才災勝作!

 

「才災…その姿は一体」

 

 光里は思わず動揺する。才災の頭にはターバンがまかれており、サイバー・ドラゴンを模した黒いコートを羽織り、首からはサイバー・ドラゴンを連想させるメダルを下げている。

 血走った目が、俊二を睨みつける!

 

「はぁ、はぁ、はぁ…。お前には失望した!失望したぞぉおおお!」

「何を言っている!それはこっちのセリフだ!」

「何故だ!何故ぇ!リスペクトに反するカードを使える?使われたら嫌だろう!」

「別にそんな事は無いが。」

「この大嘘つきめ!もういい、私と闇のゲームだ!このデュエルで、私の、リスペクト精神がいかに正しい物かを、身をもって思い知らせてやる!」

 

 

 才災が足を大きく踏みならすと、そこから空間が広がり、猫崎夫妻を包み込む!

 

 アムナエルが作り上げた、この闇のアイテムには欠点があった。非常に強靭な意思を持つ者は脱出してしまう事がある。

 尤も、闇のアイテムであることを察知されづらいという利点はあるが。仮にもサイバー流の長にまで上り詰めた男を封じ込めるにはやや力不足だった。

 

 

「俊二!」

「心配いらない。闇のゲームを仕掛けてくるという事は、闇のデュエリストにまで落ちぶれたか。才災!お前が汚したデュエルアカデミアは俺達が正す!お前は闇の底で眠っていろ!」

「?!わ、私が、私が作り上げた!正しい・リスペクト・デュエルを学べる最高の学校と教育プランまで、叩き潰そうというのかぁ!このリスペクト精神を微塵も持たない屑めぇ!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

才災 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は譲ってやる!」

「なら遠慮なく。俺の先攻、ドロー!俺はレスキューキャットを召喚!そしてこのカードを墓地に送り、デッキからXセイバーエアベルンとコアラッコを特殊召喚!レベル2の地属性コアラッコに、レベル3の地属性エアベルンがチューニング!S召喚!ナチュル・ビースト!カードを二枚伏せてターンエンド」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手3 場 ナチュル・ビースト 伏せ2

才災 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私のターン、ドロー!っつ、はぁ、はぁ、はぁっ…」

 

 相当消耗しているらしく、才災勝作は息を切らし、その肩が激しく上下する。

 やや質が落ちるとはいえ、アムナエルの晩年の作品。闇の罰ゲームから脱出するのは、非常に体力を消耗する。

 

 

「私はサイバー・ドラゴン・ツヴァイを召喚!」

「?!シャドウバージョンのツヴァイ…」

 

 前世では無かったイラスト違いが出た事に驚く俊二。

 前世でカードコレクターだった友人がこれを知れば、さぞや欲しがるだろう。

 

「そしてサイバー・ドラゴン・ツヴァイを除外!現れろ、サイバー・エルタニン!」

「?!さ、才災が…エルタニンを使うなんて!」

 

 これも、シャドウバージョンである。

 そのことに俊二は驚いて声も出ないが、光里は才災が自らの教えを捨てた事に驚愕する。

 

「はぁ、はぁっ!私が、一生懸命!正しい!リスペクト!デュエルを!教えているのに!邪魔ばかりはいる!なら、思い知らせてやります!ぜぇ、ぜぇ…除去カードを使われた時に嫌な気分になる事を!効果発動!消え失せろ、Sモンスターぁ!」

「…ナチュル・ビーストは墓地に送られる。」

 

 サイバー・エルタニンから放たれた闇の波動が、ナチュル・ビーストを飲み込み、消滅させる!

 

「さらに、手札のサイバー・ドラゴン・ドライを捨てて、魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動!デッキからサイバー・ヴァリーを特殊召喚!魔法カード、機械複製術を発動!デッキからサイバー・ヴァリーを二体、特殊召喚!」

「これは…」

「ヴァリーの効果発動!攻撃力500しかない用済みの、エルタニンを除外して、ぜぇ、はぁ…二枚、ドロー!そしてもう一体のヴァリーの効果発動!ヴァリーを除外して二枚ドロー!」

 

 しばし、肩を激しく上下させ、呼吸を整える才災。

 

「永続魔法、未来融合を発動!カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

 

俊二 ライフ4000

手3 場 伏せ2

才災 ライフ4000

手3 場 未来融合(0) 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!レスキューキャットを召喚!効果発動、このカードを墓地に送り、デッキから現れろ、Xセイバーエアベルン!異次元の狂獣!」

「ここだぁ!罠発動!激流葬!場のモンスターを全て破壊する!どうだ、どうだぁ、俊二ぃ!ぜぇ、はぁ…」

「…俺はこのままターンエンドだ」

 

 

俊二 ライフ4000

手3 場 伏せ2

才災 ライフ4000

手3 場 未来融合(0)

 

 

「私のターン、ドロー!未来融合の1ターン目、デッキからサイバー・エルタニン、サイバー・ドラゴン3体、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ2体、サイバー・ドラゴン・ドライ2体とサイバー・ドラゴン・コア3体と超電磁タートルの計12体を墓地に送る!」

「キメラテック・オーバー・ドラゴンを選択したか…となると。」

「フン!まずは露払いだ!魔法カード、オーバーロード・フュージョンを発動!墓地のサイバー・ドラゴンとサイバー・エルタニンを除外し、現れろぉ!キメラテック・ランページ・ドラゴン!」

「キメラテック・ランページ・ドラゴン…!」

 

 それが、それがついに現れたか。

 

「効果発動!融合素材にしたモンスターの数だけ、お前の伏せカードを破壊できる!私はお前の伏せカード二枚を破壊する!どうせリスペクトに反するカードだろう!」

「そうだな。罠発動!奈落の落とし穴!そして、和睦の使者!」

「フン、やはり除去カードか。だがそれぐらい想定済み!ターンエンド!」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手3 場 

才災 ライフ4000

手3 場 未来融合(1)

 

 

「俺のターン、ドロー!死者蘇生を発動!蘇れ、ナチュル・ビースト!」

「ええい、忌々しいSモンスターめが!」

 

 ナチュル・ビーストを睨みつける才災。それに対し、ナチュル・ビーストもまた敵意を向ける。

 

 

「俺は召喚僧サモンプリーストを召喚!効果発動、このカードは守備表示になる。手札の精神操作を捨てて、デッキから三体目のレスキューキャットを特殊召喚!」

 

 俊二の場に出た、猫シンクロのキーカードを見た才災はわめきだす!

 

 

「しつこい!本当にしつこいっ!忌々しいクソ猫め!S召喚とやらが無ければ、古井戸に捨てられるようなっ、役にも立たぬカードの分際でぇ!!」

「レスキューキャットを墓地に送り、デッキからXセイバーエアベルンと逆ギレパンダを特殊召喚!レベル3の地属性の逆ギレパンダに、レベル3の地属性のエアベルンをチューニング!S召喚!ナチュル・パルキオン!」

「またSモンスターか!」

「魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のレスキューキャット3体とX-セイバーエアベルン2体をデッキに戻して、二枚ドロー!バトル!二体でダイレクトアタック!」

「ぜぇ、ぜぇ…、墓地の超電磁タートルを除外してバトルフェイズを終了!」

 

 未来融合で墓地に送られた、超電磁タートルが俊二のバトルフェイズを終了させる!

 

 

「はぁ、はぁ…どうだ、どうだぁ!俊二ぃ!私のデュエルはぁ…ぜぇ、はぁ…卑怯だろうっ!お前に対するぅ、リスペクト精神を、微塵も感じられないだろうっ!」

 

 とても、とても悲し気な目を才災勝作に向ける猫崎俊二。

 彼にも、才災勝作にもあったはずだ。ただ、カードを純粋に楽しんでいた、そんな時期が。

 

 流れる歳月が、数奇な運命が。彼を歪めてしまった。

 

 

 

「…カードを二枚伏せる。ターンエンド!」

 

 

俊二 ライフ4000

手0 場 ナチュル・ビースト ナチュル・パルキオン サモンプリースト 伏せ2

才災 ライフ4000

手3 場 未来融合(1)

 

「私のターン、ドロー!ここで、未来融合の効果で、デッキからキメラテック・オーバー・ドラゴンが特殊召喚されるが、未来融合が墓地に送られるため、キメラテック・オーバー・ドラゴンも、墓地に送られる…」

「才災…」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…私は、墓地のサイバー・ドラゴン2体、サイバー・ドラゴン・ツヴァイ3体、サイバー・ドラゴン・ドライ2体とサイバー・ドラゴン・コア3体の計10体を除外!現れろ!サイバー・エルタニン!」

「また、墓地送りか」

 

 つぶやいた俊二のセリフに、才災は敏感に反応する!

 

「そうだ、その通りだ!また墓地送りだ!ははは!さぁ、俊二ぃ!」

 

 

 才災は血走った目で叫ぶ!

 

 

「私のデュエルを、否定しろぉおおおおおおおっ!」

「カウンター罠、神の宣告!」ライフ4000から2000

「…は?」

 

 エルタニンが消滅する。

 

「しゅ、俊二ぃ!」

「さぁ、どうする?っと」

 

 一瞬、ふらつく俊二。

 

「俊二ッ!」

「…大丈夫だ、光里!俺はまだ、戦える!」

「ぐ…一枚、一枚カードを伏せ、ターンエンド…」

 

 

 

 

俊二 ライフ2000

手0 場 ナチュル・ビースト ナチュル・パルキオン サモンプリースト 伏せ1

才災 ライフ4000

手1 場 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!チューナーモンスター、霞の谷の戦士を召喚!レベル4のサモンプリーストに、レベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!メンタルスフィアデーモン!」

「カウンター罠、昇天の黒角笛を発動!S召喚を無効にして破壊ぃ!ナチュル・パルキオンでは、カウンター罠は止められないだろうっ!」

 

 うっそだろお前?!と仰天するメンタルスフィア・デーモン。

 ナチュル・パルキオンも目を丸くし、ナチュル・ビーストは感心したように首を動かす。

 

 

「なんだ、才災。やればできるじゃないか。」

「だ…」

「ん?」

「黙れだまれダマレダマレェエエッ!なんだ、なんだお前の態度はぁ!否定しろっ!才災師範っ、今の貴方のデュエルはぁ、リスペクトに反しているとぉ!否定しろぉおおおおおおおっ!」

 

 才災は地団太を踏みながら、喚き散らす!

 

「…今の才災…師範のデュエルなら、普通にリスペクト出来る。」

「あ、ああああああああああああ!」

 

 茹で上がったタコのように顔を真っ赤にし、頭をかきむしりながら才災は叫ぶ!

 

 

「行け、ナチュル・ビースト!ナチュル・パルキオン!」

 

 二体のナチュルSモンスターは大きく跳躍し、才災に向かって飛びかかる!

 

 

「うぎゃあああああああああっ!」ライフ4000から1800、1800から0

 

 

 

 

 

 闇のゲームの空間が晴れる。

 

「才災!」

「ね、猫崎ぃ!これで、これで終わったと思うなよ!私は才災勝作!必ず、正しい・リスペクト・デュエルを世界に広めてやる!ぜぇ、ぜぇ…はぁ、はぁ…」

 

 

 才災の足につけられた鎖が、勢いよく引きずる!

 

「お、覚えていろよぉおおおお!」

 

 

 才災は再び、闇に飲まれていく!

 

「…才災、勝作…ん?」

 

 ふと、俊二は地面に落ちているカードに気が付く。

 

「キメラテック・ランページ・ドラゴンと…メダル?」

 

 

 サイバー・ドラゴンを模しているメダルだ。直径7cm、厚さは4mm、銀製でよい重みを感じる。

 鎖はついていない、才災の懐から落ちた物のようだ。

 

「光里、これはどうしようか?」

「…私がもらってもいい?」

「構わないが…。とりあえず、海馬オーナーとペガサス会長に報告だな。」

 

 

 その後、徹底的な検査が行われたが、その結果なんの変哲もないカードであり、メダルも銀製である事が判明。

 銀製のメダルのデザインは、才災の手記にあった『尋問官』に与える予定の物と言う事も分かった。

 

 

 『尋問官』というのは、サイバー流による完全支配が完成した後、リスペクトに反するカード。すなわちコントロール奪取を、除去カードを、バーンカードを、カウンター罠を、ハンデスカードを、全体除去からのワンキルを、ロックカードを使うアンチリスペクトを倒すため、サイバー流の走狗となって戦う組織。

 

 リスペクトに反するカードをデッキに入れている受験生を才災があえて、入学させていたのは…批判対象にする事で、正しいサイバー流の教えを定着させると同時に、リスペクトに反するカードを使いながらもサイバー流に縋るデュエリストを発掘するという狙いもあったからだ。

 

 

 『尋問官』には高級マンションの一室に加え、サイバー流から毎月多額の現金を振り込む代わりに、正しい・リスペクト・デュエルに反するデュエリストを倒すという役割を与える構想があったらしい。

 

 

 

 ちなみにメダルについて…地金としては1万2千円だが、デザインが秀逸であるため15万円で買い取るという打診があったが俊二は断った。

 

 

「…光里、これを受け取ってくれ。」

「ありがとう。ねぇ、俊二。才災は、また来るわよね?」

「…来るだろうな。」

「その時は、私も戦うわ。あの時は驚きすぎて足が動かなかったけれど…次こそは。」

 

 

 そんな光里の肩を、俊二は優しく抱く。

 

 

 二人の未来を祝福するかのように、光里の首から下げられた銀製のサイバーメダルが朝日を反射し、キラリと輝いた。




投稿開始した時点では、丸藤亮VS主人公か、今回を最終回という予定でした。
思った以上に好評を頂いたので、光の結社偏については書き溜めています。


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第30話!運命の始まり!レッド寮の歓迎会と、『光』の激昂!

拙作を執筆するにあたり、一応前の回が最終回のつもりでした。

筆が乗ったので、二期の第一話を投稿します。


「猫崎先輩と才波先輩…じゃなかった、えっと猫崎夫妻、でいいのか。卒業したと思ったら、実技の先生とその補佐かぁ」

 

 なんだか戻ってくるのが早すぎてイマイチ感傷に浸れない遊城十代。

 

「ってそんな事より、歓迎会の準備をしないと。でも、料理って何から手を付ければ…。」

 

 

 料理は不得手な十代は考え抜いた結果、温泉卵という手段を思いつき、えっちらおっちら温泉施設から温泉卵を持ってきていた。

 

「あ、あれ?レッド寮からいい匂いがするぞ?」

 

 

 入ると、長い黒髪の女性が、割烹着を着て芋とシメジ、マイタケ、エノキ、椎茸を煮込んでいる。

 

「だ、誰だ!」

「レッド寮の生徒さん?私は我謝、クロノス新校長の秘書をしています。」

「ええっ?!だって校長は…ああ、そういえば才災校長…は居なくなったのか。」

 

 それで繰り上がったのかと納得する十代。

 

「新しいレッド寮長は響先生になります。とりあえず芋煮は用意します。」

「…あれ?昆布とカツオじゃあ無い?」

 

 先輩である、猫崎俊二が作っていた芋煮と味付けが違う事に気づく十代。

 

 

「猫崎家はそういう味付けですが、我謝家は違いますから。ところでそれは?」

「あ、ああ。猫崎先輩みたいに色々料理が出来ないから…とりあえず温泉卵を」

「温泉卵!!ならホウレン草のおひたしを用意して上に乗せれば…。」

 

 

 キビキビ動いて、新たに料理を作り始める我謝さんを茫然と見る十代。

 手際の良さが半端ない。

 

「…なんというか、俺が手伝っても邪魔になりそうだ。あの、食器とか用意しましょうか?」

「助かります。」

 

 

 十代が率先して手伝っていると、ほかの在校生組も新入生を歓迎するべく手伝いに参加する。

 そんなレッド寮に、白いスーツを着た少年が訪れる。

 

「すみません、こちらに遊城十代さんは…」

「ああ、俺だ」

「貴方が遊城十代さんですか。僕はエドっていいます。十代先輩にあこがれてデュエルアカデミアに入学したんです!」

「そうか、新入生か!歓迎会はもう少し先だから、それまで校内を見てきたらどうだ?」

「え?いやその…。」

 

 エドはレッド寮の状況を見る。忙しそうであり、デュエルに誘える雰囲気ではない。

 

 そんなレッド寮に、猫崎俊二が訪れる。

 

「透子義姉さん。手伝いに来た。」

「俊二、助かるわ!」

「…遊城、お前を慕って来たという新入生だ。デュエルを望んでいるなら相手をするべきだろう。」

「すみません、ちょっと出かけてきます!こっちだ、新入生!」

 

「は、はい!」

 

 十代とエドはその場を離れ、崖下の空き地に向かい…デュエルディスクを構える。

 

「よし、ここでいいだろう。始めようぜ!」

「はい、よろしくお願いします。」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

十代 ライフ4000

手5 場 

エド ライフ4000

手5 場 

 

「先攻は貰います、僕のターン、ドロー!僕は、封印師メイセイを召喚!」

「攻撃力1100…。」

「僕はカードを二枚伏せ、ターンエンドです」

 

 

 

十代 ライフ4000

手5 場 

エド ライフ4000

手3 場 封印師メイセイ 伏せ2

 

「行くぜ、俺のターン、ドロー!魔法カード、E-エマージェンシーコールを発動!」

「それにチェーンして永続罠、魔法封印の呪符を発動。このカードがある限り、僕の場にメイセイがいる限り魔法カードの発動は無効になります。」

「何っ!なら正面突破だ!俺はE・HEROスパークマンを召喚!バトルだ、スパークマンでメイセイを攻撃!」

「ライフを3000ポイント払って、永続罠発動!光の護封壁!これで先輩は魔法カード無しで攻撃力3000以上のモンスターを出さなければ、メイセイを倒せません」ライフ4000から1000

「魔法と攻撃を封じられた…。俺はメインフェイズ2でカードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

十代 ライフ4000

手3 場 スパークマン 伏せ1

エド ライフ1000

手3 場 封印師メイセイ 魔法封印の呪符 光の護封壁

 

 

「僕のターン、ドロー!ロケットジャンパーを召喚!スパークマンが倒せませんね…ターンエンド」

 

 

 

 

十代 ライフ4000

手3 場 スパークマン 伏せ1

エド ライフ1000

手3 場 封印師メイセイ ロケットジャンパー 魔法封印の呪符 光の護封壁

 

 

「俺のターン、ドロー!モンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 

 

十代 ライフ4000

手2 場 スパークマン セットモンスター 伏せ2

エド ライフ1000

手3 場 封印師メイセイ ロケットジャンパー 魔法封印の呪符 光の護封壁

 

 

「僕のターン、ドロー!プロミネンス・ドラゴンを召喚。ターンエンド。エンドフェイズに500ポイントのダメージを与える」

「うわわっ!」ライフ4000から3500

 

 

 

十代 ライフ3500

手2 場 スパークマン セットモンスター 伏せ2

エド ライフ1000

手3 場 封印師メイセイ ロケットジャンパー プロミネンス・ドラゴン 魔法封印の呪符 光の護封壁

 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はスパークマンとセットしていたワイルドマンをリリース!E・HEROエッジマンを召喚!」

「攻撃力2600では、光の護封壁を超えられませんよ?」

「慌てるなよ。罠発動!エッジハンマー!エッジマンをリリースして、メイセイを破壊!その攻撃力分のダメージを受けて貰うぜ!」

「うわああああああっ!」ライフ0

 

 

 ライフが尽きたエドは、がくりとうなだれる。

 

「僕の負けです。コンボが決まったから勝てると思ったんですけどね…。」

「でも結構いいコンセプトだったぜ!魔法と攻撃を封じて、ダイレクトアタッカーや効果ダメージで勝利を狙う。」

「まだまだです。それでは僕はこれで」

「何言ってんだ?歓迎会が始まるぞ?」

「すみません、ちょっと他に用事がありますから…場所は大丈夫です。」

「わかった。」

 

 

 

 そう言って十代は去る。

 

 レッド寮の歓迎会だが…

 

「猫崎先輩がやってくれたようにはいかないな。」

「まぁ、これは慣れるしかない。透子義姉さん、芋煮のお代わりは?」

「あるわよ。食べ盛りと思ってちょっと多めに用意しておいたから。」

 

 

 なら俺も!僕も!という声が響く。

 

「…あれ、一人足りない?」

「エドはまだ戻ってきていないのか」

「エド?!ちょっとまって、十代君!」

 

 

 響寮長は、自室に戻ると雑誌「duel magazine PROFESSIONAL」を持ってくる。

 

「もしかして、この人?」

「プロデビュー?!新人とはいえ、プロが今更アカデミアで何を学ぶんだ?正しい・リスペクト・デュエル?」

「それはありえないと思うけれど…不気味ね。」

 

「でも、プロにしてはデッキ構築がいまいちだった。」

「…本気では無かったのかもしれないわ。プロの中にはパックを8つ買ってそれで倒してしまうような人も居るの。噂では、ミズガルズ王国で城之内さんが凡骨の意地でエクゾディアの完成を狙った相手に勝利したそうよ。」

 

 それを聞いた俊二が反応する。

 

「それが本当だとすると、ちょっとがっかりだ」

「猫崎さん?」

「城之内さんは相手を見下すような事はしないと思っていたのだが…」

「なんでも、デッキを盗まれて即席デッキを組めと要求されたとか。」

「…そうだったのか。」

 

 

「って事は、次に戦うときはもっと強いデッキと戦えるって事だな!ワクワクしてきたぜ!」

 

 

 これだ、この前向きな所が十代の良いところだ。そう改めて思う猫崎。

 

 

 

 同時刻。

 

 

 

 路地裏で、二人の少年が大笑いする。顔立ちが似ており、兄弟であろう。

 

 

「いやぁ、一度デュエルモンスターズのカードを思いきり破って見たかったが、実際にやると最高だぜ!」

「あいつ、マジで笑えたよな!『ボクの、大事なカードを破らないでぇ!』」

 

「「ギャハハハハ!」」

 

 少年たちは先ほど、ある少女とデュエルをしたが…。その際に『コントロール奪取なんてリスペクトに反している!』と叫んだ。

 サイバー流に罪を擦り付けるために。

 

 

「今は海馬コーポレーションがサイバー狩りをやっているし、サイバー流の仕業と海馬瀬人も断定するよな!」

「ああ!才宮 幹夫め…。姉ちゃんがイカサマしたと難癖つけやがって…。だが、これでもう終わりだ。伝説の決闘者、海馬瀬人なら叩き潰してくれる。」

「俺たちはそれを見物していればいい、流石あんちゃん!冴えてるぅ!」

 

 少年たちは覆面をしたうえで手袋もしている。証拠は無いと判断していた。

 対戦相手の少女の証言だけでは、自分達にまで調査の手は及ばない。

 

 少年は姉のイカサマを難癖としていたが、実際は違う。

 サイバー・ランカーズでもブロック代表に支給されている特注のデュエルディスクに、電磁波が通じずに負けただけだ。

 

 

「中々、興味深い話ですね。」

「?!だ、誰だ!」

「さ、サイバー流か!」

 

 

 怯える少年たちに、近づく一人の青年。

 

「いいえ。違いますよ。私は斎王。斎王琢磨という者。サイバー流とは…敵対関係にありますね。」

「な、なんだ。サイバー狩りか。」

「黙っておいてくれよ。サイバー流と敵対しているなら…。」

 

 

 デュエルディスクを構える斎王。

 

 

「では、私とデュエルしませんか?君が勝てば、私はこの件を口外しない。」

 

「ど、どうする?」

「いいぜ!サイバー狩りに入るチャンスだ!俺は厚釜 下太郎(あつかま げたろう)! 五利 (ごり) お前は下がってろ!」

「わ、分かった!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

下太郎 ライフ4000

手5 場 

斎王 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は譲るぜ!」

「では私の先攻、ドロー!アルカナフォースVI-THE LOVERSを召喚!さぁ、ルーレットを止めてください。」

「…ストップだ!」

「逆位置、このカードが場にある限り、私はアルカナフォースのアドバンス召喚が出来ません。」

「何だそれ!」

 

「逆位置ってことは正位置は何なんだぁ?」

「お答えしましょう、正位置はアルカナフォースを召喚する時、一体で二体分のリリースと出来ます。カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

 

 

 

下太郎 ライフ4000

手5 場 

斎王 ライフ4000

手4 場 アルカナフォースVI-THE LOVERS 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「永続罠、死神の巡遊!相手のスタンバイフェイズに効果発動!さぁ、ルーレットを回してください。」

「…ストップ!」

「フフ、正位置。これで貴方はこのターン、召喚と反転召喚が出来ません。」

 

「あんちゃん!」

「心配するな!これで妨害札は無い!俺は魔法カード、パワー・ボンドを発動!手札のリボルバー・ドラゴンとブローバック・ドラゴンを融合!現れろ!ガトリング・ドラゴンッ!」

「ほう?パワー・ボンドを使いますか。これで攻撃力は5200」

 

 下太郎はデュエルディスクの一部を素早く押す。

 

「効果発動!コイントスを行い、表の数だけ場のカードを破壊する!」

「フフフ…。」

「表!まず一体が確定!」

 

 だが、下太郎はデュエルディスクの一部を再度押す!

 

 

「裏、裏!よってアルカナントカを破壊だ!」

「私の場ががら空きに…」

 

 

 姉が使っている魔法封じの機能は無いが、コイントスの結果を意のままに操るイカサマを搭載したデュエルディスクを下太郎は使っている。

 

「いけぇ!ガトリング・ドラゴンッ!」

「食らわぬっ!手札から、アルカナフォースXIV-TEMPERANCEの効果発動!手札から捨てて、私が受ける戦闘ダメージを0にする!」

「っつ!凌がれただと…。メインフェイズ2だ!カードを一枚伏せ、ターンエンド!エンドフェイズに…パワー・ボンドの効果でダメージを受ける…!」ライフ4000から1400

 

 

 

 

下太郎 ライフ1400

手2 場 ガトリング・ドラゴン 伏せ1

斎王 ライフ4000

手3 場 死神の巡遊 

 

 

 

 

「私のターン、ドロー!永続魔法、神の居城-ヴァルハラを発動。私の場にモンスターがいない時、手札から天使族を特殊召喚出来ます。アルカナフォースXII-THE HANGED MANを特殊召喚!」

「攻撃力2200ぅ?」

「効果発動。さぁ、ルーレットを止めてください」

 

 ジィっと見つめる下太郎。

 

「どうしました?慎重なのも結構ですが、機会を逃しますよ?」

「…ストップ!」

 

「逆位置ですか」

「へっ、どうだ!俺に有利な目だろう!」

「さて、それはどうでしょう?私はこのままターンエンド。」

「よしっ!」

 

 

「エンドフェイズに、アルカナフォースXII-THE HANGED MANの逆位置の効果発動!相手の場のモンスターを選択し、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える。」

「うわぁぁぁぁぁ!」ライフ0

 

 

 

 イカサマをしても敗れた、無様な厚釜 下太郎は地面に転がる。

 

「な、何なんだ!何なんだよお前ぇ!」

「…もういい。お前達が囀るたびに、我の怒りが頂点に近づいてしまう。」

 

 斎王が手を向けると、下太郎と五利の髪の毛が白に染まる!

 

「う、うわああああああっ!た、助けて、助けてくれぇ!」

「や、やめてくれぇ!」

 

 先ほどの少女が何を言っても、気にも留めなかった少年は泣き叫ぶが、その態度が斎王の傍らにいる、白い靄の怒りを増幅させる!

 

 

『…他人と異なる能力を持つというだけで斎王琢磨を迫害する人間。リスペクトの名のもとに他者を批判するサイバー流…そのサイバー流の名前を騙り悪事を働き、その責任をサイバー流に押し付ける愚か者。やはり、この惑星はリセットし、新しい世界を作り出さなければならない。』

 

 

 斎王は歩き出す。この先に居るであろう少女を『救済』する為に。

 

 

 それから20分後。

 

「我が名は、斎王。少女よ、君の名前は?」

「…レイ。早乙女、レイ。」

「光の結社に入らないか?君に新たな力を、デッキを授けよう。」

 

 この世界に絶望しきった、虚ろな瞳で。

 早乙女レイは、頷く。

 

 




 少なくともカードを破る、捨てるという一線は超えていないのが拙作の似非ペクト。

 アンチリスペクト物だと見かけない、「サイバー流ではない奴がサイバー流の名を騙って悪事を働き、その責任をサイバー流に擦り付ける」という小悪党を出してみましたが…。

アンチリスペクト物だとサイバー流が敵というのが主題なので、こういうのを出すと主題がぶれますね。


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第31話!胡蝶と五階堂!

厚釜「この惑星を観測している、破滅の光という超常的存在が人類を滅ぼそうと決意して、早乙女レイが光の結社入りするきっかけを作ったけれど、俺そんなに悪い事していないよね?」
俊二「」


 実技担当と言う事で、クロノス新校長が残した資料と方針を元に新学期最初の授業を始めようとした猫崎夫妻。

 実技の授業は来週からになるが、念のために俊二はいくつかデッキを持ち出すことにした。

 

「…使う事になるの?」

「おそらく。サイバー・ランカーズのブロック代表をなぎ倒したが、オシリスレッドだったことは事実。寮の色で差別する意識が強い生徒は素直に従わないだろう。」

「それもそうね。」

 

 最も、前世の知識でこうなった場合に反抗しそうなキャラに心当たりがある俊二は事前に教員用のデッキに多少手を加えている。

 

 

 三年生の生徒に挨拶を済ませ、出席を取り、プリントを配布して今後の予定について俊二が話そうとすると。

 

 

「ちょっと待ちなさい!」

「…ブルー女子三年の、胡蝶か。」

「どうしてオシリスレッドだった猫崎先輩が、先生をしているのよ!」

「海馬オーナーの指示だ。それに資料と方針はクロノス新校長がチェック済みだ。それでも不満か。」

「当たり前でしょう!」

 

 丸藤亮の熱狂的なファンだったが、やはりそれは変わらないようだ。

 

「…それは俺が、丸藤亮とのデュエルに勝ったからか?」

「そうよ!」

「才災師範率いるサイバー流との直接対決を決めた以上、いずれぶつかる定めだった。そして全力でぶつかった結果、俺が勝った。」

「それがおかしいのよ!亮様がオシリスレッドの貴方に負けるなんて!」

 

 

「お互い死力を尽くしたデュエルだったでしょう?何が不満なの?」

「光里、こういう場合はもうこれで決着をつけるしかない。」

 

 

「私が勝ったら、亮様に謝って貰うわ!」

「…いや、丸藤亮はあのデュエル以降行方不明だから謝りようもないが…。」

 

 肝心のデュエルに負けた事で、政界や財界の大物が失脚する原因となり、その大物のNo2や腹心達から逆恨みされており、身を隠しているという。

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

胡蝶 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は譲るわ!」

「ならば遠慮なく。俺の先攻、ドロー!俺はプチモスを召喚」

「はぁっ?!ぷ、プチモス?」

 

「手札から、進化の繭の効果発動。このカードをプチモスの装備カードにする。これで守備力は2000ポイントアップする。」

「でも、攻撃表示なら意味がないわよ?」

「そうだな。俺はカードを3枚伏せてターンエンド」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手1 場 プチモス 進化の繭(1) 伏せ3

胡蝶 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「アタシのターン、ドロー!相手の場にのみモンスターが存在することで、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「?!」

 

 丸藤亮の熱狂的なファン、というのを前世で知っていたが…。まさかサイバー・ドラゴンを入れているとは思わなかった猫崎。

 

「魔法カード、孵化を発動!アタシはレベル5のサイバー・ドラゴンをリリース!それよりもレベルが1つ高い昆虫族を特殊召喚!現れなさい!インセクト・プリンセス!」

「攻撃力は1900だが、相手の昆虫族を破壊するたびに攻撃力が500ポイントずつアップするモンスターだな。」

「その通りよ。バトル!インセクト・プリンセスでプチモスを攻撃!」

「永続罠を二枚発動!アストラルバリアとスピリットバリア!アストラルバリアにより、インセクト・プリンセスの攻撃をダイレクトアタックに変更!だが、スピリットバリアにより俺の場にモンスターがいる限り、俺が受ける戦闘ダメージは0になる!」

「くっ…アタシはカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

 

俊二 ライフ4000

手1 場 プチモス 進化の繭(1) アストラルバリア スピリットバリア 伏せ1

胡蝶 ライフ4000

手3 場 インセクト・プリンセス 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、マジック・プランターを発動。場のアストラルバリアを墓地に送り、二枚ドロー!」

「はぁっ?!」

「さらに二枚目のマジック・プランターを発動。場のスピリットバリアを墓地に送り、二枚ドロー!」

 

 

『流石オシリスレッドだな!』

『自分から無敵の盾を捨ててやがる』

 

「なんで自分からロックを解除するの?アタシを馬鹿にしているの!」

「そんな事は無いが。永続魔法、虫除けバリア-を発動!カードを一枚伏せ、モンスターをセットしてターンエンドだ」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手1 場 プチモス セットモンスター 進化の繭(2) 虫除けバリア- 伏せ2

胡蝶 ライフ4000

手3 場 インセクト・プリンセス 伏せ1

 

 

「アタシのターン、ドロー!」

「永続罠、DNA改造手術を発動。俺は昆虫族を宣言。」

「フン、やっぱりね。ならその永続罠を利用させて貰うわ!棘の妖精を召喚!このカードも昆虫族に変わるけれど」

「利用されたか…」

 

 

 

『はぁ?何を言っているんだ?元オシリスレッド。』

『あれで一体何を利用したっていうんだ?』

 

 周囲の生徒は気が付いていないらしい。

 というかブルー生徒が分かっていないとは。デュエルエリートだろう?

 そこは、『なんだよお前、こんなのも知らないのか~?』と言って説明する場面だろうに。

 

 

「知らない生徒もいるようだから解説しておく。棘の妖精がフィールドに表側表示で存在する限り、相手は昆虫族を攻撃対象に出来ない。棘の妖精の種族は植物族だが、DNA改造手術により昆虫族にする事で相手の攻撃を妨害する事が出来る。良い戦略だ。」

「り、亮様と同じことを言っても絆されないわよ!アタシはこれでターンエンド!」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手1 場 プチモス セットモンスター 進化の繭(2) 虫除けバリア- DNA改造手術(昆虫族) 伏せ1

胡蝶 ライフ4000

手3 場 インセクト・プリンセス 棘の妖精 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!セットしていた、スカラベの大群を反転召喚!効果発動、相手モンスターを破壊する!棘の妖精を破壊!」

「?!」

「そしてスカラベの大群の効果発動、再び裏側守備表示に変更。プチモスを守備表示に」

「逃がさないわよ!インセクト・プリンセスの効果発動!相手の昆虫族モンスターは全て攻撃表示になる!」

 

 その永続効果を失念していた俊二は、再びプチモスの表示形式を変える。

 観客席から声が聞こえてくる。

 

『インセクト・プリンセスを前にして攻撃表示になるプチモス…繭付き…ひらめいたわ!』

 

 一体このブルー女子は何をひらめいているのか。そしてそれは一体どこに需要があるのか。

 

 

「モンスターをセット、カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

俊二 ライフ4000

手0 場 プチモス (スカラベの大群) セットモンスター 進化の繭(3) 虫除けバリア- DNA改造手術(昆虫族) 伏せ2

胡蝶 ライフ4000

手3 場 インセクト・プリンセス 伏せ1

 

 

「アタシのターン、ドロー!速攻魔法、サイクロンを発動!虫除けバリア-を破壊する!」

「チェーンしてカウンター罠、マジック・ドレインを発動!手札の魔法カードを捨てなければ、サイクロンは無効だ!」

「っつ…魔法カードは捨てないわ。モンスターをセットして、ターンエンド!」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手0 場 プチモス (スカラベの大群) セットモンスター 進化の繭(3) 虫除けバリア- DNA改造手術(昆虫族) 伏せ1

胡蝶 ライフ4000

手2 場 インセクト・プリンセス セットモンスター 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はセットしていたスカラベの大群を反転召喚!そのセットモンスターを破壊する!」

「だけど、破壊された代打バッターの効果発動!手札の昆虫族を特殊召喚!来なさい、鉄鋼装甲虫!」

「先ほどセットしたモンスターを反転召喚!イナゴの軍勢!効果発動、その伏せカードを破壊する!」

「DNA改造手術が…」

 

「スカラベの大群とイナゴの軍勢を裏側守備表示に変更。ターンエンドだ」

 

 

 

 

俊二 ライフ4000

手1 場 プチモス (スカラベの大群) (イナゴの軍勢) 進化の繭(4) 虫除けバリア- DNA改造手術(昆虫族) 伏せ1

胡蝶 ライフ4000

手1 場 インセクト・プリンセス 鉄鋼装甲虫 

 

 

「アタシのターン、ドロー!くっ、カードを場においても、イナゴの軍勢とスカラベの大群によって確実に破壊されていく。そしてアタシの攻撃が通らない……ターン、エンド」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手1 場 プチモス (スカラベの大群) (イナゴの軍勢) 進化の繭(4) 虫除けバリア- DNA改造手術(昆虫族) 伏せ1

胡蝶 ライフ4000

手2 場 インセクト・プリンセス 鉄鋼装甲虫 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!スカラベの大群を反転召喚。鉄鋼装甲虫を破壊する!再び裏側守備表示に変更。カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手1 場 プチモス (スカラベの大群) (イナゴの軍勢) 進化の繭(5) 虫除けバリア- DNA改造手術(昆虫族) 伏せ2

胡蝶 ライフ4000

手2 場 インセクト・プリンセス 

 

 

「アタシのターン、ドロー!アタシはドラゴンフライを召喚!魔法カード、孵化を発動!ドラゴンフライをリリースして、デッキからミレニアムスコーピオンを特殊召喚!カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

 

 

俊二 ライフ4000

手1 場 プチモス (スカラベの大群) (イナゴの軍勢) 進化の繭(5) 虫除けバリア- DNA改造手術(昆虫族) 伏せ2

胡蝶 ライフ4000

手0 場 インセクト・プリンセス ミレニアム・スコーピオン 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー」

「スタンバイフェイズに罠発動!バトルマニア!これでこのターン、アンタは必ず攻撃しないといけない!」

「スカラベの大群を反転召喚し、ミレニアムスコーピオンを破壊!」

「それでどうするの?」

「スカラベの大群を裏側守備表示に変更。そして罠発動、和睦の使者!このターン、俺のモンスターは戦闘で破壊されず、俺が受ける戦闘ダメージも0になる。」

「そ、そんなっ!」

 

「バトル、プチモスでインセクト・プリンセスを攻撃。最も、どちらのモンスターも破壊されないが。ターンエンド」

 

 

 

 

俊二 ライフ4000

手1 場 プチモス (スカラベの大群) (イナゴの軍勢) 進化の繭(6) 虫除けバリア- DNA改造手術(昆虫族) 伏せ1

胡蝶 ライフ4000

手0 場 インセクト・プリンセス 

 

 

「あ、アタシのターン、ドロー!くっ…インセクト・プリンセスを守備表示に変更。ターン、エンド」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手1 場 プチモス (スカラベの大群) (イナゴの軍勢) 進化の繭(6) 虫除けバリア- DNA改造手術(昆虫族) 伏せ1

胡蝶 ライフ4000

手1 場 インセクト・プリンセス 

 

 

「俺のターン、ドロー!自分のターンで数えて6ターンが経過した。プチモスをリリースして、究極完全態・グレート・モスを召喚!」

「これが、究極完全態・グレート・モス!昆虫族最強のモンスター…!」

 

 これをリアルで出すことは出来なかった猫崎としては、感慨深い物がある。

 

「スカラベの大群を反転召喚し、インセクト・プリンセスを破壊!バトルだ、スカラベの大群でダイレクトアタック!」

「きゃあああああっ!」ライフ4000から3500

「究極完全態・グレート・モスで、ダイレクトアタック!」

「く、悔しぃ~~~!!」ライフ0

 

 

 

「い、一度も攻撃できず…完敗するなんて…。アタシだって虫除けバリア-とかモンスターを除去するカードが使えたら…!」

 

 やはりショックは大きいようだ。

 

 

『究極完全態を正規召喚した…』

『しかも、昆虫族使い相手に』

『へっ、オシリスレッドの卒業生が片手間で組んだデッキに負けるのかよ』

 

『インセクト・プリンセスを前にして攻撃表示になっちゃうプチモスが、究極完全態になって襲い掛かる…次の本のネタはこれでヨシ!』

 

 

 色々な感想が出ている。寝言を言う女子生徒を猫崎は放っておくことにした。何がヨシなんですかね?

 

 

「昆虫族デッキの特長は、そのトリッキーさと展開力にある。色々な効果があり決して侮れない種族。昆虫族デッキを使っていなくても、昆虫族デッキと対戦した時にはどういうところに気をつければいいのかは学んでおくべきだろう。当面は、各種族の特徴について講義する予定になっている。それと、胡蝶。」

「な、何よ?」

「デュエルアカデミアはクロノス新校長に移行した事で、方針は変わっている。虫除けバリア-や除去カードを使っても評価を下げるような事はしない。むしろ上げる。」

「虫除けバリア-とDNA改造手術で攻撃を阻止して、返しのターン、トゲトゲ神の殺虫剤でアタシの場の代打バッターもろとも破壊、鉄鋼装甲虫と共鳴虫のダイレクトアタックで勝ったところ…今後そういうロックと全体除去を使うようなら、成績に関わるって脅されたけれど」

 

 

「そんな事は俺もクロノス新校長も言わないし、許さない。しかし、ロックコンボはデッキに入れていたんだな。」

「そうよ。DNA改造手術で昆虫族に変えているときに、棘の妖精を引いても場に出さなければ才災校長に目をつけられずに済むから」

 

 こいつはこいつで苦労していたんだな、と思う俊二。

 何とか三年生の講義は終わる。

 

 

 

 二年生だが、遊城十代がさっそくサボっていた。

 これは…一度本気で制裁する必要があると俊二は固く誓った。

 いや、これが中学二年生ならまだいい。高校二年生だぞ?そろそろ落ち着いてもらわないと社会でやっていけない。

 

 

 

 

 

 

 最後は一年生だ。新入生なら、実技を担当するのが最下層のオシリスレッドに所属していた卒業生となれば、かなり反発するだろう。

 

 

「究極完全態を正規召喚するなんて…」

「割と防御手段は多めに入れていたが…。さて、中等部トップの生徒はこの五階堂か」

「胡蝶の時のようにデュエルするの?」

「実力を示さないとな。良い選手は良いコーチになれるわけではないが、少なくとも悪い選手に教えを乞う気にはなれないだろうし。」

 

 

 新入生が入ってくる。ティラノ剣山はさっそく制服を着崩していた。

 かなり作中の人物から不評だったが、鬼柳さんの満足ジャケットと同じセンスだ。

 

 もしもチーム・サティスファクションに剣山が居たら…いや、セキュリティにカチコミするとか言い出したら剣山もドン引きするか。

 最も、裁縫とか料理が得意なので、サティスファクションを支える存在として活躍はありそうだ。

 

 

「今日は今後の予定について話していく。中等部から上がってきた生徒にとっては退屈かもしれないが、編入生の知識と合わせる必要がある為、我慢して貰う事になる。それにデュエルモンスターズの基礎知識は重要。おさらいを兼ねて学んでいって貰いたい。何か質問は?」

 

「先生!当初は基礎知識がメインならば、中等部からの進学組である俺達ブルー生徒は出席しなくてもいいですよね!」

「…オベリスクブルーは、出席率が割と重要だから、ここで欠席すると進級の時にラーイエローに格下げという事も出てくるが」

「先生が出席扱いにしてくれたらいいじゃないですか」

 

 こいつは何を言っているんだ。

 

「おい、虎之井(とらのい)、相手は元オシリスレッドの卒業生とはいえ、あの海馬瀬人やペガサス会長が認め、しかもサイバー・ランカーズを全員打倒した人だぞ?しかもカイザー亮にも勝った…」

「五階堂さん、だけど基礎をいまさら学ぶ必要があるんですか?」

「そ、それは…。」

 

 

「残念だが、そういう不正や代返は認めていないんだ、虎之井。」

「なら、これで決めましょう。」

「デュエルか。」

 

 五階堂が絡んでくると予想していた俊二だが、挑んでくるなら受けてたつだけだ。

 

「いいだろう。」

「よし。ではお願いします、五階堂さん。」

 

 ズッコケるブルー生徒組と俊二。

 

「虎之井ぃ!お前、おまえぇ!」

「でもここで勝てば、万丈目先輩の評価は鰻登りですよ!」

「…そ、それもそうだな!」

 

 

 …これは、万丈目に話しておかないと。

 取り巻きにいいように使われている。

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

五階堂 ライフ4000

手5 場 

 

「俺の先攻、ドロー!よし、俺は切り込み隊長を召喚!効果発動、手札のレベル4以下のモンスターを特殊召喚!現れろ、荒野の女戦士!」

「リクルーターか」

「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

五階堂 ライフ4000

手3 場 切り込み隊長 荒野の女戦士 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、増援を発動!デッキからレベル4以下の戦士族を手札に加える。マジック・ストライカーを手札に。そして墓地の魔法カードをゲームから除外して、マジック・ストライカーを特殊召喚!」

「攻撃力600か」

「速攻魔法、地獄の暴走召喚を発動!俺はデッキから二体のマジック・ストライカーを特殊召喚!」

「ならこちらは二体の切り込み隊長をデッキから特殊召喚する!」

 

「マジック・ストライカーは、相手に直接攻撃することが出来る。」

「?!つまり、1800のダメージか…」

「もう少し増えるぞ。永続魔法、連合軍!俺の場の戦士族モンスターの攻撃力は、俺の場の戦士族・魔法使い族の数×200ポイントアップ、よって攻撃力は600ポイントアップ。」

「なっ!」

 

「バトルだ、三体のマジック・ストライカーでダイレクトアタック!」

「ぐううううっ!」ライフ4000から2800、2800から1600、1600から400

 

 

「カードを一枚伏せてターンエンド。ちなみに、マジック・ストライカーとの戦闘で発生する俺へのダメージは0になる」

 

 

俊二 ライフ4000

手2 場 マジック・ストライカー マジック・ストライカー マジック・ストライカー 伏せ1

五階堂 ライフ400

手3 場 切り込み隊長 切り込み隊長 切り込み隊長 荒野の女戦士 伏せ1

 

 

「…やってくれたな。だが、俺のターン、ドロー!魔法カード、苦渋の選択を発動!俺はデッキから団結の力、魔導師の力、破邪の大剣-バオウ、閃光の双剣-トライス、融合武器ムラサメブレードを選択する!」

「破邪の大剣を手札に加えてもらう。」

「フッ、俺は場の荒野の女戦士と切り込み隊長をリリース!ギルフォード・ザ・レジェンドをアドバンス召喚!効果発動!墓地の装備魔法を装備出来る!俺は墓地の団結の力、魔導師の力、閃光の双剣-トライス、融合武器ムラサメブレードをギルフォード・ザ・レジェンドに装備!団結の力で攻撃力と守備力が2400ポイントアップ!魔導師の力で攻撃力と守備力が2500ポイントアップ!トライスで500下がるが、融合武器ムラサメブレードで800ポイントアップ!」

「攻撃力7200で二回攻撃可能なモンスターか」

「これで、切り込み隊長二体でマジック・ストライカーと相打ち、残りの一体をギルフォードで倒し、二回目の攻撃で俺の勝ちだ!バトル!」

 

 

 

 

「ここで永続罠、血の代償を発動。ライフを500払ってモンスターを通常召喚する」ライフ4000から3500

「ここで通常召喚?さっきのターンですればいいのに」

「このタイミングだからこそ、効果を発揮するカードがある。場の三体のモンスターをリリース!ギルフォード・ザ・ライトニングをアドバンス召喚!」

「?!その、モンスターは!」

 

 

「知っているようだな、効果発動!相手モンスターを全て破壊する!」

「ぐうっ!く、くそっ…ターン、エンドだ」

 

 

俊二 ライフ3500

手2 場 ギルフォード・ザ・ライトニング 血の代償

五階堂 ライフ400

手2 場 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ、ギルフォード・ザ・ライトニングでダイレクトアタック!」

「う、うわああああああっ!」ライフ0

 

 

 

「良い戦術だった。伏せカードは?」

「リビングデッドの呼び声です。これでギルフォード・ザ・レジェンドのリリースを確保するつもりでした。」

「装備魔法が好きなのか?」

「…ギルフォード・ザ・レジェンドは、俺がある大会で優勝した時に手に入れたカードなんです。だからこいつを生かしたデッキを模索してこういうデッキになりました。」

「なるほど。」

 

 

 ベンケイワンキルに特化させようと思ったが、ならば別の道を提示するまで。

 モンスターゲートで装備魔法を墓地に落としてトロイホースを召喚、戦士の生還などで墓地に送られてしまうであろうギルフォード・ザ・レジェンドを回収。

 

 

 いや、彼はまだ高等部に入ったばかり、いろんな道を示した上で選択させようと俊二は考える。

 

 

 

 

 そんな二人を見ながら、虎之井はつぶやく。

 

「何だよ、オシリスレッドの卒業生相手にライフを削れず負けるのか。これは取り入る相手を変えた方が良さそうだな…」

 



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第32話!丸藤亮、地下デュエル場へ!

アンチリスペクト物がはやった要因の一つに、「リスペクト精神を捨てたヘルカイザーがかっこよすぎる」というのがあると思います。


 猫崎俊二とのデュエルにおいて、才災師範が禁じたカードを使った上で敗れた丸藤亮は、追われていた。

 デュエルディスクを、アカデミアの成績優秀者に与えられるデュエル・コートに変え、変装して過ごしていたが…。

 

 誘拐され、地下デュエル場へ連れ込まれてしまった。

 

 そのことを知った才園は、知り合いに頼むことにした。

 

「…という事があったんや。助けてくれへん?」

「何で俺様なんだ」

 

 

 やや不機嫌そうな顔をする才獏。

 

 

「そんな事言わんといてや!貸しがあるやろ!手持ちが足りなくてあんたが困っていた時、帰りの新幹線代を立て替えたやろ!」

 

 そう言われても。闇獏良としては初対面という印象でしかない。

 軽く舌打ちして、財布から数万円取り出すと叩きつけるように置く。

 

「ほらよ。俺様は墨聖教(ぼくせいきょう)と揉めていてそれどころじゃあねぇ」

「あー、そっちか…」

 

 かつてサイバー流と組んでいた新興宗教団体。思うように人生がうまくいかない人の不安に付け込み、寄付を募っている。

 無人島を買い上げて、そこでスローライフを送ると言っているのだが…。

 

 才園は再三言っても返してくれなかった才獏が払ってくれたことに違和感を感じるも、とりあえず差額分を返金する。

 それを無造作に財布に突っ込む才獏。

 

「そっかー…地下デュエル場…、うーん、絶対に関わりたくないんやけど…」

「丸藤なら大丈夫だろう。」

「そう、やな。ありがと、話を聞いてくれて」

 

 

 丸藤亮とは接点がまるでないが、一応闇獏良は話を合わせておく。

 地下デュエル場には興味があるが、好き好んで危ない橋を渡る義理も義務も無い。

 

 

「ところで。サイバー流と名乗ってカードを破り捨てたクソガキがいるっていうのは本当か?」

「悲しいけれど事実や。まぁ、アカデミアを卒業した門下生の子達を向かわせたわ。サイバー流の看板に泥を塗られたなら、ウチらがけじめをつける。」

 

 不必要なカードであっても、破るという行為まではしない闇獏良は、その話に割と不快感を感じていた。

 積極的に倒すつもりは無いが、目の前に現れたら叩き潰すぐらいはする。

 

 

 一方、地下デュエル場の個室にて。

 

「…時間か」

 

 

 丸藤亮は、デッキの再チェックを行いながら、考える。

 

 あの日。自分を誘拐した連中の親玉がやってきた。政界の重鎮の腹心、政岡。財界の大物の幹部、財岡、報道機関の幹部、報岡。

 この三人から、ある条件を突き付けられた。

 

 

 彼らが雇った腕自慢のデュエリスト20人を全員倒す。しかし、メインデッキである【サイバー流】デッキは没収。

 衝撃増幅装置を取りつけ、デュエルは互いのデッキを賭けて行う。

 

 挑戦する側は勝てば丸藤亮のサイバー流デッキをエクストラデッキごと貰える上に、彼らの支援の下、プロデュエリストとしてデビューできる。

 

 

 デュエル期間の間は、他のサイバー流の門下生に危害は加えない。丸藤亮が20人全勝すれば解放する。

 それが彼らの出した条件だった。

 

 

 丸藤亮は、デュエルアカデミア時代にそれなりにカードを購入しており、カードプールはそれなりにあるが本来のサイバー流デッキと比べれば火力不足が目立つ。

 使い慣れていない、二軍のカードでどこまで出来る。そう彼らは高をくくっていた…。

 

 

 

「お前、丸藤の兄だったか。兄弟なのに似ていないんだな。」

「……」

 

 かつて翔は小学生時代虐められていた。だが、翔を虐めていたのはゴリ助だけは無く、この宮本(みやもと)もその一人だ。

 

「まぁいい、ひねりつぶしてやるよ!」

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

宮本 ライフ4000

手5 場 

亮 ライフ4000

手5 場 

 

 

「レスキューキャットなんかに負け、しかもサイバー流デッキでもないなら、楽勝だぜ!俺の先攻、ドロー!魔法カード、天使の施しを発動!カードを3枚ドローして、手札のグランド・ドラゴンとレッサー・デーモンを捨てる!」

「その二体は…」

「魔法カード、龍の鏡を発動!墓地のグランド・ドラゴンとレッサー・デーモンを除外!デス・デーモン・ドラゴンを融合召喚!」

「リバースモンスター効果を封じ、対象にした罠カードの効果を無効にするモンスター…」

「魔法カード、カップ・オブ・エースを発動!」

 

 宮本の後ろで、カードが回転を始める。

 

「何?!」

「このカードが正位置なら俺が二枚ドローする。逆位置ならお前だ。よし、ストップ!」

「…お前がストップをかけるのか」

「ああ?何言ってんだ。これは俺のカードだぞ、なんでお前に止めさせないといけないんだ。カードを二枚ドロー!魔法カード、融合を発動!憑依するブラッド・ソウルと辺境の大賢者を墓地に送り、魔人 ダーク・バルターを融合召喚!」

「戦闘破壊したモンスターの効果を無効にし、ライフを1000払えば、相手の通常魔法を無効にして破壊できるモンスター…」

「魔法カード、融合回収を発動!墓地のブラッド・ソウルと融合を手札に戻す!融合を発動!戦士ダイ・グレファーとスピリット・ドラゴンを墓地に送り、ドラゴン・ウォリアーを融合召喚!」

「対象を取る魔法カードの効果を無効にし、ライフを1000払う事で通常罠を無効にする…」

 

「ターンエンドだ!」

 

 

 

 

 

宮本 ライフ4000

手1 場 デス・デーモン・ドラゴン 魔人 ダーク・バルター ドラゴン・ウォリアー 

亮 ライフ4000

手5 場 

 

「融合モンスターが三体…俺のターン、ドロー!手札のサンダー・ドラゴンを捨てて効果発動!デッキからサンダー・ドラゴンを二枚手札に加える。」

「へぇ、それで双頭の雷龍を融合召喚するつもりか?だがお前には出来まい!何故なら俺の場には魔人ダーク・バルターが居るからなぁ!」

 

「俺はスナイプ・ストーカーを召喚!」

「攻撃力1500?」

「効果発動、手札のリボルバー・ドラゴンを捨てて、ダーク・バルターを選択!ダイスロール!1か6でなければ、お前のモンスターを破壊する!」

「…4だと!くそっ、ダーク・バルターが…」

「手札から沼地の魔神王の効果発動!手札から捨てて、デッキから融合を手札に加える!魔法カード、オーバーロード・フュージョン!墓地のリボルバー・ドラゴンと沼地の魔神王を除外!現れろ、ガトリング・ドラゴンッ!」

「攻撃力、2600?!」

 

「効果発動!コイントスを3回行い、表の数だけ場のモンスターを破壊する!」

「…?!表が3回だと!」

「俺はお前のデス・デーモン・ドラゴンとドラゴン・ウォリアーとスナイプ・ストーカーを破壊!」

「だ、だがまだライフは残…?!お前の手札には、サンダー・ドラゴンが2枚と融合がっ!」

「魔法カード、融合を発動!手札のサンダー・ドラゴン2体を融合!現れろ、双頭の雷龍!」

「あ、あああっ!」

 

 封殺できる布陣を敷いていたのだが、それを突破された宮本に打つ手はない。

 

「バトルだ、双頭の雷龍とガトリング・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「うぎゃあああああああああああああっ!」ライフ4000から1200、1200から0

 

 

 すさまじい電流が迸り、黒煙が上がる中、宮本は崩れ落ちる。

 弱そうな相手を狙って危害を加えていた卑怯者の、無様な最期だった。

 

 

 

「勝ちやがったか。」

「まぁいい。奴は使い捨てのティッシュ。丸藤亮の二軍デッキの傾向を掴むための、な。」

 

 

 

 一戦ごとに、インターバルが挟まれる。

 渡された宮本のデッキから、カードを選んでデッキを補強する。

 必須カードが足りないため、それを補充する。

 

 

 次のデュエルの時間となったため、再びデュエルリングへ上がる亮。

 

 

「…!折本か?」

「へえ、覚えていてくれたんだ」

 

 デュエルアカデミアの中等部に在籍していた、クラスメイトの女子。

 その後の消息は不明だったが、どうやら道を踏み外してしまったようだ。

 

 

「そういえば、鮫島師範はまだリスペクト云々言っているの?」

「…そうだ」

「そういう甘っちょろい事を言っているから、師範の座を追われるのよ!さぁ、行くわよ!」

 

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

折本 ライフ4000

手5 場 

亮 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺は戦士・ダイグレファーを召喚!カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

折本 ライフ4000

手5 場 

亮 ライフ4000

手4 場 戦士・ダイグレファー 伏せ1

 

 

「アハッ、先攻1ターン目がそれ?アタシのターン、ドロー!魔法カード、化石調査を発動!デッキからレベル6以下の恐竜族を手札に加える。俊足のギラザウルスを手札に!そしてぇ、手札から俊足のギラザウルスを特殊召喚!」

「攻撃力1400…」

 

「速攻魔法ッ!地獄の暴走召喚!デッキから俊足のギラザウルスを二体特殊召喚ッ!さぁ、そっちもモンスターを出しな!」

「俺は、二体目のダイ・グレファーを特殊召喚。」

「さぁて…。場の三体の俊足のギラザウルスをリリースッ!神獣王バルバロス、アドバンス召喚ッ!」

「?!」

 

 

 神獣王バルバロス。レベル8でありながら、リリース無しで召喚することができるモンスター。

 その後で効果を無効にすれば攻撃力3000という打点になるが…。

 

 三体のリリースを捧げて召喚された時に発動する効果がある。

 

「効果発動ッ!相手の場のカードを全て破壊!」

「罠発動!奈落の落とし穴!」

「甘いんだよッ!ライフを1500払い、我が身を盾にッ!ぎゃうううううっ!」ライフ4000から2500

 

 

 大幅にライフを失いながら、バルバロスを守る折本。

 

 

「っつ…」

「はぁ、はぁ…バトル!やれ、バルバロス!ダイレクトアタックだ!」

「っつがああああああああっ!」ライフ4000から1000

 

 

 

 一瞬、意識が飛ぶ丸藤亮。だが、今まで研鑽を続け鍛え上げられた精神力で持ち直す!

 

 

「っつ、はぁ、はぁ、はぁ…」

「いいねぇっ!ターンエンドォ!」

 

 

 

 

折本 ライフ2500

手2 場 バルバロス 

亮 ライフ1000

手4 場 

 

 

「…俺の、ターン。ドロー。」

「どうしたどうしたぁ?元気がないみたいだねぇ!」

「俺は、モンスターをセット。ターンを終了する…」

 

 

 

 

 

折本 ライフ2500

手2 場 バルバロス 

亮 ライフ1000

手3 場 セットモンスター 

 

 

「アタシのターン、ドロー!何をセットしているのか知らないけれど!装備魔法、メテオ・ストライクをバルバロスに装備!」

「?!」

「これでバルバロスは貫通効果を得る!!バトル!神獣王バルバロス!でセットモンスターを攻撃ぃ!」

「…だが、俺にダメージは無い」

「何を寝ぼけた事を!攻撃力が守備力を超えていればその分のダメージを…?!」

 

 バルバロスに、奇妙なモンスターが張り付く!

 

 

「セットしていたスフィア・ボム球体時限爆弾の効果発動。バルバロスの装備カードとなる」

「っつ…ターンエンド!」

 

 

折本 ライフ2500

手2 場 バルバロス メテオ・ストライク

亮 ライフ1000

手3 場 スフィア・ボム

 

 

「俺の、ターン。ドロー。俺は、魔鏡導士リフレクトバウンダーを召喚。」

「厄介な…」

「…折本、サレンダーしてくれ。次のターンのスタンバイフェイズに」

「……つく」

「?」

 

「ムカつくムカつくムカつくぅ!!アンタは昔からずっとそうだったねぇ!アタシが告白した時も、淡々と『今の俺にはデュエルが全て』って言って!迷惑だったんだろう!」

「ちがっ」

「何が違う!デュエルが全てって事は、アタシになんて興味ないって事だろうが!」

 

 

 そういう意味だったのではない。まだやりたい事が有るから、今は異性と付き合う事はできない。

 断るにしてもフォローを入れるべきだった。それを怠ったツケが、今になって回ってくる。

 

 

「…カードを一枚伏せてターンエンド。」

 

 

 

折本 ライフ2500

手2 場 バルバロス メテオ・ストライク

亮 ライフ1000

手2 場 スフィア・ボム リフレクトバウンダー 伏せ1

 

 

「アタシのターン、ドロー!速攻魔法、サイクロン!これでスフィア・ボムを破壊!」

「っつ!突破されたか…」

 

「リフレクトバウンダーが居るから大丈夫と思っているんでしょうけど。速攻魔法、月の書!これでリフレクトバウンダーを裏側守備表示にする!」

「何っ!」

「これで本当に終わり!行け、バルバロス!セットモンスターを攻撃ぃ!」

「罠発動!ディメンション・ウォール!戦闘ダメージはお前が受ける!」

「あ、あああああああ~!!」ライフ2500から500

 

 膝をつく折本だが、気力で持ち直す。

 

「…ターン、エンド」

 

 

 

折本 ライフ500

手1 場 バルバロス メテオ・ストライク

亮 ライフ1000

手2 場 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は、墓地の光属性のリフレクトバウンダーと、闇属性のスフィア・ボムを除外。現れろ、カオス・ソーサラー!」

「そのモンスターは!」

「効果発動、このターンの攻撃を封じる代わりに、相手モンスターを除外する!」

「くうううっ!」

 

「俺は、カオス・ソーサラーをリリース。虚無魔人をアドバンス召喚。バトルだ、虚無魔人でダイレクトアタック!」

「い、い、いやあああああああっ!」ライフ0

 

 

 すさまじい紫電が迸る!

 

「うっ…折本。」

 

 

 だが、体力の限界を迎えていた亮は気絶する。

 

 

 丸藤亮が気絶した事で、この地下デュエルの支配人である男は、上客達に向き直る。

 

 

「…残念だが、今日はここまでだ」

「ふざけるなっ!まだ足りん!」

「今日は丸藤亮を見極めるためのオードブル。メインディッシュは取っておいた方が」

「ここで追撃しないでどうする!北藤!」

「はい。」

 

 上客の一人が配下に声をかける。

 

「俺はデュエルの事などよくわからんが、あいつのデッキはどういうデッキだ?」

「戦闘ダメージと効果ダメージを組み合わせた、ビートバーンデッキ。除去カードも多数入っており厄介。」

「対策は?」

「このモンスターを場に出してしまえば、効果ダメージは回復に変わります。」

「ほぅ。ならば勝てるんだな!」

「サイバー流であれば高打点で押し切られるかもしれませんが、今は二軍のデッキ。任せていただけたら…」

「よし、いいだろう。やれ!」

「かしこまりました。」

 

 

 恭しく北藤は頭を下げる。

 

 

(サイバー流継承者、丸藤亮のデッキ。一子相伝、アルティメットレア仕様のサイバー・エンド・ドラゴンも確か入っているはず。そいつを売れば、遊んで暮らせるだけの金が手に入る!これが、最後のデュエルだ。このデュエルに勝って大金を手に入れたらデュエリストなんてやめてやる)

 

 

 

 その数十分後、丸藤亮は顔に水をかけられ、目を覚ます。

 

 

「起きろ。」

「…待て。まさか、一日で20人全員と戦えというのか?」

「そうではない。今日は三人だけだ。あと一人、戦ってもらう。20分後に呼びに来る。」

 

 

 

 男が控室から去った後、丸藤亮は相手のデッキを見る。

 神獣王バルバロスのアドバンス召喚に特化させたデッキ。ハイエナ、巨大ネズミなど地属性主体であり、地霊術-「鉄」などの属性サポートも入っていた。

 …バルバロスのアドバンス召喚のサポートにもなり、ライフを回復するモンスターが三枚入っていた事で、これを入れる。

 

 一枚だけ入っていた永続罠を見つめる丸藤亮。かなり危険だが…迷った上でそのカードも入れる。

 

 

 三度デュエルリングにあがる丸藤亮。

 相手は優男風の青年だ。

 

 

「連戦で悪いが、このデュエル勝たせてもらう」

「…いくぞ」

 

 もう立つのもやっとな丸藤亮は口数も少ない。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

北藤 ライフ4000

手5 場 

亮 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺は可変機獣ガンナードラゴンを召喚!」

「…だが、リリース無しで召喚した事で、攻撃力と守備力は半分になる…」

「それがどうした?魔法カード、突然変異!レベル7のガンナードラゴンをリリース!現れろ、竜魔人キングドラグーン!」

「?!」

 

「キングドラグーンの効果発動、手札のドラゴン族を特殊召喚!来い、マテリアルドラゴン!俺はこれでターンエンドだ」

 

 

 

 

北藤 ライフ4000

手3 場 キングドラグーン マテリアルドラゴン

亮 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「…俺のターン、ドロー。」

「キングドラグーンの効果で俺の場のドラゴン族はお前のカード効果の対象にならない。そして効果破壊しようとすれば、マテリアルドラゴンが無効にする。さらにお得意の効果ダメージを狙っても…。マテリアルドラゴンが場にいる限り、互いのプレイヤーが受ける効果ダメージはライフを回復する効果になる。」

「……俺は、モンスターをセット、カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

 

 

北藤 ライフ4000

手3 場 キングドラグーン マテリアルドラゴン

亮 ライフ4000

手4 場 セットモンスター 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!こいつはいいモンスターだ。キングドラグーンの効果発動!現れろ、ヘルカイザー・ドラゴン!」

「ヘル、カイザー…」

「俺はこいつをデュアル召喚!こいつは場と墓地にいるとき、通常モンスターとして扱うが、デュアル召喚する事で効果を発動する!その効果は、一度のバトルで二回攻撃出来る効果だ!」

「な…に…?」

「スフィア・ボムで凌げると思っていたんだろうが…。バトル!やれ、ヘルカイザー・ドラゴン!セットモンスターを攻撃!」

「…素早いモモンガの効果発動、ライフを1000回復する」ライフ4000から5000

「何ぃ!」

「そして、デッキから二体、素早いモモンガを特殊召喚」

 

「なんで獣族が…。ちっ、あの女のカードか!ならば二回目の攻撃だ!」

「俺はここでライフを1000払う…うぐううううっ!永続罠、スキルドレインっ!発動。」ライフ5000から4000

「ちっ、ヘルカイザー・ドラゴンの効果が無効になったか。だが、マテリアルドラゴンとキングドラグーンで、それぞれ素早いモモンガを攻撃!」

「ライフを、1000、回復、さらに、ライフを回復…」ライフ4000から5000、5000から6000

「ターンエンドだ」

 

 

 

 

北藤 ライフ4000

手3 場 キングドラグーン マテリアルドラゴン ヘルカイザー・ドラゴン

亮 ライフ6000

手4 場 スキルドレイン

 

 

「俺のターン、ドロー。神獣王バルバロスを召喚」

「?!くそっ、スキルドレインで攻撃力3000かよっ!」

「魔法カード、手札抹殺を発動。俺は俊足のギラザウルス、月の書、リボルバー・ドラゴンを捨てて3枚ドロー」

「ちいっ…。俺は龍の鏡2枚と突然変異を捨てて3枚ドローだ」

 

 北藤は引き当てたカードをみて薄く笑う。王宮のお触れ、未来融合、サイクロン。

 

「…俺は、手札のスナイプ・ストーカーを捨てて、魔法カード、ライトニング・ボルテックスを発動。お前の場のモンスターを全て破壊する」

「?!何だと!だ、だがまだライフは残る!」

「魔法カード、野性解放を発動。バルバロスはその守備力分、1200ポイント攻撃力がアップする」

「攻撃力、4200!ま、待ってくれ!い、一ターンだけでいいんだ!だから」

 

「…バトル。バルバロスで、ダイレクトアタック。」

「う、うわあああああああっ!」ライフ0

 

 

 紫電が迸る中、北藤はこの件に首を突っ込んだことを後悔し…意識を失った。



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第33話!十代VSティラノ剣山!そして虎之井の実力

アニメの十代VS剣山にて、ネクロ・ダークマンの効果に剣山がかなり驚いていました。
このことから剣山の地元には、E・HERO使いが居たのではないかと思っています。

作中で明言されていないので想像にすぎませんが。


 

「俊二先生も、何も初日をサボったくらいでここまで怒らなくてもいいのに…。まぁ、デュエルの約束をしたのにそれを勝手にすっぽかされたら嫌な気分になるよな…。」

 

 

 俊二は約束を破る事が相手にどんなイメージを、印象を与えるのかについて、デュエルの約束を一方的にすっぽかされたらどう思うか?と具体例を交えて説教していた。

 

 光里からは「サイバー流でこんな不真面目な事をしたら一週間デュエル禁止の上で反省文を書かされる」と言われたが、俊二は自分の考えを押し切った。

 今、十代の成長を妨げるわけにはいかない。

 

 

 

「あっ!オシリスレッドだ!」

「ん?」

 

 初めて見る顔に、十代は首をかしげる。狐を連想してしまうが誰だろう…。ああ、そうか。

 

「俺は遊城十代。オシリスレッドの二年生だ。新入生だな?」

「俺はオベリスクブルーの虎之井だ!」

「…しかし、ブルーなのに制服を随分と着崩すんだな。いや、万丈目も半年制服洗わなくても平気だから…もしかしたら取巻と慕谷も似たような物なのかなぁ?」

 

 万丈目が制服にたいして無頓着なために、とんでもない風評被害がブルー男子を襲う!

 

「行くぞ!デュエ」

「ちょっと待つドン!」

「だ、誰だ?」

 

 

 デュエルディスクを構えようとした虎之井に対し、新たな一団が現れる。

 

「遊城十代、間違いないドン?」

「あ、ああ。俺が遊城十代だ。」

「デュエルアカデミアのカリスマ、相手にとって不足は無いザウルス!俺はティラノ剣山!さぁ、俺とデュエルするザウルス!」

「それは構わないが…先に虎之井とデュエルしてもいいか?申し込んだ順はそっちが先だからさ。」

 

 だが虎之井はすぐに下がる。

 

「いや、剣山さんに譲ります!」

「いい心がけザウルス!さぁ、デュエルするドン!」

「…まぁ、いいか。行くぜ、ティラノ剣山!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

剣山 ライフ4000

手5 場 

十代 ライフ4000

手5 場 

 

「先攻は譲るドン!」

「俺の先攻、ドロー!俺はE・HEROワイルドマンを召喚!カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

剣山 ライフ4000

手5 場 

十代 ライフ4000

手3 場 ワイルドマン 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロードン!よし、手札から俊足のギラザウルスを特殊召喚!特殊召喚が成功した時、相手は自身の墓地からモンスターを1体特殊召喚できるドン!」

「でも、俺の墓地にモンスターは居ない。」

「その通りザウルス!そして速攻魔法、地獄の暴走召喚!お互いにモンスターを選択し、その同名カードをデッキ・手札・墓地から可能な限り特殊召喚するドン!」

「ワイルドマンは一体だけ、特殊召喚はしない。」

「ならば此方は俊足のギラザウルスを二体デッキから特殊召喚!そして俊足のギラザウルスを一体リリースして、暗黒ドリケラトプスをアドバンス召喚!」

「攻撃力2400!」

 

「バトル!暗黒ドリケラトプスでワイルドマンを攻撃!」

「くっ、破壊されるがここで罠発動!ヒーローシグナル!デッキからE・HEROプリズマーを特殊召喚!」

「攻撃力1700…バトル終了。俺はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

剣山 ライフ4000

手2 場 暗黒ドリケラトプス 俊足のギラザウルス 俊足のギラザウルス 伏せ1

十代 ライフ3100

手3 場 プリズマー 伏せ1

 

 

「どうですか、剣山さん!俺のカードは!」

「ああ、すごく役に立つドン!」

「ラーイエローなのに、ブルーの同級生が慕うのか…。」

 

 

 ふと十代は同級生に置き換える。三沢の取り巻きをする万丈目…絶対にありえない。

 雑念を振り払って、十代は眼前の相手に向き合う。

 

 

「行くぜ、俺のターン、ドロー!俺はプリズマーの効果発動!融合デッキからE・HEROネクロイドシャーマンを見せ、デッキからE・HEROネクロダークマンを墓地に送る!」

「げええっ?!ね、ネクロダークマン?!」

 

 突然嫌な顔をする剣山。

 

「な、なんだ?発動するカードがあるのか?」

「い、いや…別にないドン。」

「墓地のネクロダークマンの効果発動。1度だけ、E・HEROをリリース無しで召喚出来る。現れろ、E・HEROエッジマン!」

「うわあああっ!と、罠発動!落とし穴!これでエッジマンを破壊するザウルス!」

 

 ネクロダークマンに動揺しエッジマンに焦るとは、俺以外のHERO使いとデュエルしたことがあるのかな?と推測する十代。

 

「させないぜ!チェーンしてカウンター罠発動!神の宣告!落とし穴を無効にして破壊!」ライフ3100から1550

「くっ…」

 

「バトル!行け、エッジマン!暗黒ドリケラトプスを攻撃!」

「ううううっ!」ライフ4000から3800

「プリズマーで、俊足のギラザウルスを攻撃!」

「がああっ!」ライフ3800から3500

「俺はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

剣山 ライフ3500

手2 場 俊足のギラザウルス 

十代 ライフ1550

手2 場 プリズマー エッジマン 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロードン!俺は魔法カード、大進化薬を発動するザウルス!場の恐竜族の俊足のギラザウルスをリリース!これで3ターンの間、恐竜族の召喚にリリースは不要になるドン!現れろ、究極恐獣!」

「攻撃力3000!」

「しかも、相手モンスター全てに攻撃するドン!これで俺の勝ちザウルス!バトル!」

「甘いぜ!リバースカードオープン!速攻魔法、月の書!」

「つ、月の書?でもリバースモンスターなんてどこにもいないドン!」

「何言ってんだよ。俺は究極恐獣を、裏側守備表示にする!」

「なっ?!つ、月の書を…防御手段に?」

「へへっ、驚いたか?」

 

 

 かつて猫崎俊二がサイバー・ランカーズ相手に使ったプレイングを、まるでスポンジが水を吸収するがごとく十代は習得していた。

 

「…究極恐獣の守備力は2200、エッジマンの攻撃を受けたら400のダメージ、プリズマーの攻撃を受けたら1700で2100のダメージ。攻撃力1400のモンスターさえ出てこなければ、まだわからないドン!ターンエンドン!」

 

 

 

剣山 ライフ3500

手1 場 セットモンスター 大進化薬(3)

十代 ライフ1550

手2 場 プリズマー エッジマン 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、戦士の生還を発動!墓地のワイルドマンを手札に戻し、召喚!」

「…さぁ、来るザウルス!」

「ああ!バトルだ、行け、エッジマン!セットした究極恐獣に攻撃!」

「……」ライフ3500から3100

「そして、プリズマーとワイルドマンでダイレクトアタック!」

「うがああああああっ!」ライフ3100から1400、1400から0

 

 

 

 

「さ、流石に強いドン…」

「ガッチャ!良いデュエルだったぜ!」

「…よし、決めたドン!俺は十代を兄貴と慕うドン!」

「ええっ?!」

 

 やや驚いた十代だが、断る理由はない。

 固く握手をする二人をみて、虎之井はそっとその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

「全く、オシリスレッドの舎弟になるなんて…。こうなったらまた別の奴に取り入らないと」

「中等部ではそれでやっていけたのかもしれないが…。他人に取り入る事だけ考えていては、いずれ誰からも相手にされなくなる」

 

 独り言のつもりが聞かれていたことで、虎之井は振り返る。

 そこには見下しているオシリスレッド出身、猫崎俊二がいた。

 

 

「お、オシリスレッドが、オベリスクブルーの俺に」

「そこまで言うなら、これで語るべきだろう?」

「デュエル…」

「オベリスクブルーのデュエルエリートなら、オシリスレッドの卒業生如き一蹴して見せろ。」

 

 

 虎之井は俊二を睨みつける。

 虎之井家の家訓は、『長い物には巻かれろ』。

 

 強者にへつらい落ち目になればこれを見捨て、別の強者におもねる。

 そうする事で自分でする事を減らし、他人にさせることを増やす。

 

 

 サイバー流という強者を倒した、S召喚のテスターである俊二は虎之井家の家訓に照らし合わせれば、『強者』ではない。

 彼はオシリスレッドという『弱者』の卒業生、そんな底辺が。オベリスクブルーのエリートである『強者』たる自分を指導するなど、天地がひっくり返ってもあってはならない。

 

 

 だがそんなあってはならない愚行を犯そうとしているなら…面倒だが叩き潰すしかない。

 

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

虎之井 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺はゴブリン突撃部隊を召喚!カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

虎之井 ライフ4000

手3 場 ゴブリン突撃部隊 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「ここで永続罠発動!最終突撃命令!これで場のモンスターは全て攻撃表示になるぜ!」

 

 このタイミングで発動する必要はないだろうと思う俊二。

 

 

「俺はモンスターをセット、カードを二枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手3 場 セットモンスター 伏せ2

虎之井 ライフ4000

手3 場 ゴブリン突撃部隊 最終突撃命令 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、光の援軍を発動!デッキの上からカードを3枚墓地に送り、デッキからライトロードと名のつくレベル4以下のモンスターを手札に加える!」

 

 

 墓地に送られたのは、エネミーコントローラー、偉大魔獣ガーゼット、魔導師の力だった。

 

 

「俺はデッキからライトロードマジシャンライラを手札に加え、召喚!」

 

 

 現れたのは、黒い髪を伸ばしたライトロードの一体。

 場に降り立ったライラはちらりと後ろを確認し最終突撃命令を視認。その後前を向き、俊二の場に伏せカードが二枚ある事に気づくと杖を構える。

 

「さぁ!必殺コンボをお見舞いしてやるぞ!ライラの効果発動!このカードを守備表示に変更し、相手の場の伏せカードを破壊する!右側のカードだ!」

「炸裂装甲が破壊される」

「はっ!お見通しなんだよ!ライラは守備表示になるが、再び最終突撃命令により攻撃表示になる!効果発動!その伏せカードも破壊だ!」

「チェーンして砂塵の大竜巻を発動。俺は伏せカードを破壊する」

「くそっ、スキルドレインが…」

 

 

 併用しているようだが、それではライラや偉大魔獣ガーゼットとシナジーが合わないと思う俊二。

 カードプールが足りない為、併用しているのかもしれない。

 

 

「フン、やはりオシリスレッドだな!炸裂装甲が対象になった時に発動していれば、ライラを守備表示に出来たのに!」

「気が付いたか」

 

 

 このデュエルは勝つ事が目的だが、虎之井の現在の実力を把握する事も目的である。

 プレイングミスではあるが、これは次への布石だ。

 

 

「教師面するなっ!バトルだ!行け、ゴブリン突撃部隊!セットモンスターを叩き潰せ!」

「マジック・ランプのリバース効果発動。裏側守備表示モンスターのこのカードが攻撃された時、その攻撃を他の相手モンスター一体に代わりに受けさせる。」

 

 

 マジック・ランプが霧を噴出すると、ゴブリン突撃部隊は混乱。

 そんな彼らの視界に、人影が映った為そこに向かって突撃。こん棒を振り下ろす!

 

 

 霧が晴れるとゴブリン突撃部隊の目の前には、頭にたん瘤をこしらえたライラが、目を回しながら「きゅう」と声を漏らし、仰向けに倒れこむ。

 そんなライラを見ながら『俺何かやっちゃいました?』と困惑するゴブリン突撃部隊。

 

 

「あんな雑魚モンスターにっ!」ライフ4000から3400

「さて、どうする?」

「…ターンエンドだ」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手3 場 マジック・ランプ 

虎之井 ライフ3400

手3 場 ゴブリン突撃部隊 最終突撃命令 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!これは…カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

 

 

俊二 ライフ4000

手2 場 マジック・ランプ 伏せ2

虎之井 ライフ3400

手3 場 ゴブリン突撃部隊 最終突撃命令 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は不屈闘士レイレイを召喚!さらにフィールド魔法、ガイアパワーを発動!これで場の地属性モンスターは攻撃力が500ポイントアップ!これでお前のライフを削り切れるぜ!」

「……」

「バトルだ!行け、ゴブリン突撃部隊!今度こそ、そのランプを粉々にしろ!」

「罠発動!マジック・アーム・シールド!俺はレイレイのコントロールを得る!」

「げえっ!」

 

 ゴブリン突撃部隊の前にレイレイが立ちはだかる。

 急に止まれず襲うゴブリン突撃部隊に対し、迎撃するレイレイ。相打ちとなって消滅する。

 

「ぐっ…ターン、エンドだ」

 

 

 

 

俊二 ライフ4000

手2 場 マジック・ランプ 伏せ1

虎之井 ライフ3400

手2 場 ガイアパワー 最終突撃命令 

 

 

「俺のターン、ドロー!マジック・ランプの効果発動、手札からランプの魔精ラ・ジーンを特殊召喚!」

「ま、まだ、まだライフは…」

「ラ・ジーンをリリースして、偉大魔獣ガーゼットをアドバンス召喚。バトルだ、ガーゼットでダイレクトアタック!」

「うわああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 ライフが尽きた虎之井は膝をつく。

 ある雑誌に「マジック・ランプを使うと一風変わったソリッドビジョンが展開される。どうなるのかは君の眼で確かめよう!」という一文があったため試してみた。

 

 

「ま、負けた?オシリスレッドに?」

「中等部の事情はよく知らない。だが、何故スキルドレインと最終突撃命令を併用する?」

「そんなこともわからないのかよ!俺のデッキは攻撃したら守備表示になるモンスターが多い、だからそのデメリットを打ち消すこの二枚の永続罠を使っているんだ!」

「だが、ライトロードマジシャンライラや偉大魔獣ガーゼットは、場にスキルドレインがあると効果が無効になってしまう。」

「その辺りは、プレイングでカバーすればいいだろう!」

 

 まぁ、それはそうなのだが。今のデュエルを見る限りまだまだ不十分だ。

 

 

「俺なら、最終突撃命令に寄せる。」

「おい!打点不足はどうすればいいんだ!」

「偉大魔獣ガーゼットでゴブリン突撃部隊をリリースすれば4600打点になる。ガーゼットやライラといった優秀なモンスターを入れるならスキルドレインは別に要らないだろう?」

「なんで、人のカードに要らないとか言えるんだ!」

「もしも両方使いたいならば攻撃終了後守備表示になるデメリットモンスターを中心に、魔導師の力などの装備魔法で強化する方向がいいだろう。その場合は4枚目のスキルドレインという形で最終突撃命令を」

「う、うるさいうるさい!オシリスレッドが!これ以上俺のデッキにいちゃもんをつけるなら、お前よりもっと上の人に、ナポレオン教頭に報告して問題にするぞ!それでもいいのか?」

 

 どうだ、言ってやったぞと俊二をニヤニヤしながら見る虎之井。

 半透明で虎之井の傍に浮かんでいるライラは、俊二の表情を見て嘆息する。

 

 

「…そうか。それがお前の答えか。」

 

 

 冷え冷えとした眼。傍らで見ているライラはこの教師が虎之井を見限った事を悟る。

 この教師はまだ若いなりに、同年代の虎之井を気にかけてわざわざ来てくれたのだろう。だが教師と言っても人間。

 こちらからオシリスレッドの落ちこぼれの癖にと見限っているのに、関心を持てというのは身勝手過ぎる。

 

 俊二としては光の結社に専念しつつ、ユベルが絡んでくる三期、さらにはダークネスまで見据えなければならない。

 その上でOCG経験者として後進の育成に少しでも手助けしたいと考えていた。だが、こういう態度を取られては…。

 

 

「虎之井。出席したくないなら出席しなければいい。最もその場合は出席日数が足りなくて降格になるかもしれないとだけ伝えておく。」

「フン、それでいいんだ!」

 

 

 そんな虎之井を悲し気に見るライラ。

 

『このパックも屑カードばっかりじゃないか、そろそろまともなカード…攻撃力1700か。ん?守備表示にする事で魔法・罠カードを破壊する…よし、こいつは当たり!となると…このツイスターはもう用済みだな。』

『くっそー!また負けた!何か、何か手は無いか…?そういえば、こいつ1ターンに1度じゃあ無いのか。って事は…』

『ライラを守備表示にして、右端の伏せカードを破壊!炸裂装甲か!最終突撃命令で攻撃表示に!もう一度守備表示にして、右から二番目の伏せカードを破壊!アヌビスの裁きか!最終突撃命令で攻撃表示に!守備表示にして左端の伏せカードをはか…?!コザッキーの自爆装置だと!ちいっ…!最終突撃命令で攻撃表示に!守備表示にして通行税を破壊!最終突撃命令で攻撃表示に!守備表示にして魔力の枷を破壊!最終突撃命令で攻撃表示に!』

 

 

 …思う所はあるが、今の所持者は虎之井。最終突撃命令とのコンボで活用してくれている以上、もう少し様子を見よう。そうライラは決意した。



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第34話!プロリーグの戦い!才宮VSエド・フェニックス!

ヒーロー像、というのは人それぞれだと思います。ダークヒーローとして、辛い過去を背負いながら戦うヒーローに共感する人も居れば、かっこよさに惹かれる人も居るでしょう。

個人的に初期のエドは狭量だなという印象でしたが、元々ヒーローの登場にワクワクする純粋な少年だったのが、父親の死というつらい経験をした事で変わってしまった事を思えば、憧れだけでヒーロー使いとなった十代を快く思わないのも今なら納得できます。


 デュエルワールドリーグにて、エド・フェニックスがデュエルをするという事で生中継を見る事にした俊二。

 もしかしたら、丸藤亮が出てくるかもしれない。

 

 

「あれ、俊二先生?」

「十代と…ラーイエローの一年か?」

 

 あえてすっとぼけ、やや考えるそぶりをする俊二。

 

「いや、思い出した。ティラノ剣山か。珍しいな、ラーイエローが一緒に居るとは」

「俺は十代のアニキについていくことにしたドン!」

「丸藤翔といい、人を引き付ける才能があるようだな。」

「…翔。」

 

 やや落ち込む十代。

 

「一体誰ドン?」

「同級生だったが、自主退学したオシリスレッドの生徒だ。十代を兄貴と慕っていた。」

「へぇ~。でも、何故下の名前で呼ぶドン?」

「昨年まで、オシリスレッドの生徒だったからな…。」

 

 そうやって話していると、後ろから声がかけられる。

 水差しを持った光里だ。

 

 

「俊二、麦茶を持ってき…ああ、追加が必要みたいね。」

「光里、俺が取ってくる。チャンネルは合わせておいた。」

「わかったわ。」

 

 

 入れ替わりにコップを追加分取りに行く俊二。

 

「随分仲が良さそうドン」

「夫婦だからな。」

「ええっ?!ず、随分早いカップルだドン…。」

 

 

 デュエルワールドリーグの生中継の番組に合わせる光里。

 

「…才宮様とエド・フェニックス…」

「ええっ!?え、エドって…嘘だろ?あいつ、プロデュエリストだったのか?!なんで今更デュエルアカデミアに通う必要があるんだ?」

 

「兄貴、知り合いザウルス?」

「一度デュエルをしたことがあるけれど…、どういう事なんだ?」

 

 

 

 戻ってきた俊二は、対戦相手の組み合わせを知って素直に驚く。

 髪型は七三分けから、ツンツンヘアーに変わっているが、その顔に見覚えがあった。

 

「あの散々勧誘してきた力の求道者と、エド・フェニックスが…」

「俊二、賭けをしない?勝った方が貸し一つって事で」

「いいぞ。俺はエド・フェニックスに賭ける。」

「そう。なら私は才宮様に賭ける。」

 

「アニキはどっちが勝つと思うドン?」

「…正直、エドと対戦した時は、光の護封壁で攻撃を防ぎ、メイセイで魔法を封じてダイレクトアタッカーとプロミネンス・ドラゴンで戦うデッキだったが。あれは適当に組んだデッキ。」

「となると、エドが有利ザウルス?」

「エドが本気を出したらどこまで強いのかは知らない。でも、相手はサイバー流でも最高位のサイバー・ランカーズのブロック代表…才宮選手が勝つかもしれない。」

 

 

 

 

『さぁ、ついに始まります!才宮選手と期待の新人、エド・フェニックス選手の三本勝負!』

『どちらが勝つと思いますか?』

『才宮選手はこのデュエルで、サイバー流に入った時から今まで封印してきたデッキを改良して使うと公言しており、エド・フェニックス選手もデビュー戦で最も信頼しているデッキを披露するとの事です!』

 

 

 才宮選手が入ってくるが、ブーイングや罵声の嵐。

 クサイバー、という罵声があちこちから飛んでくる。

 

 エドの方からサイバー・ランカーズだった人物とのデュエルをサイバー流に申し込み、それに対し受けてたったのが才宮だった。

 こうして罵声を浴びるのは覚悟の上、ここで退けば真っ当に努力していたサイバー流の門下生の肩身が狭くなる。そうさせないために、才宮はこの場に来ていた。

 

 

 

「…エド、いや。フェニックス選手と呼んだ方がいいか?」

「フン。サイバー流の奴が気安く呼ぶな。」

「随分嫌われているようだな。俺達は初対面のはずだが。」

「何だと?お前たちサイバー流が、デュエルモンスターズにどれほどの悪影響をもたらしたと思っている!僕はお前たちを許さない!」

「才災師範がやってきた事は知っている。だが、俺達はプロとしてこの場に立っている。ならば交わすべきは言葉では無く」

 

 

 デュエルディスクを構える才宮。

 

「カードのはずだ。違うか?」

「知った風な口を利くな!すぐにその減らず口を利けないようにしてやる!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

エド ライフ4000

手5 場 

才宮 ライフ4000

手5 場 

 

 

「僕の先攻、ドロー!僕は魔法カード、E-エマージェンシー・コールを発動!デッキからE・HEROフェザーマンを手札に加える!さらに魔法カード、増援を発動!デッキからE・HEROバーストレディを手札に加える!さらに手札の沼地の魔神王のエフェクト発動!このカードを墓地に送り、デッキから融合を手札に加える!」

 

『怒涛のサーチカードを連打!フェニックス選手の新兵器は…!』

 

「魔法カード、融合!フェザーマンとバーストレディを融合!現れろ、E・HEROフェニックスガイ!」

 

『え、エレメンタルヒーロー!HEROデッキです!』

『これは面白くなりそうです!デュエルアカデミアで行われたノース校との親善試合でも、使い手が現れたと聞いています!』

 

 

「僕はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

エド ライフ4000

手2 場 E・HEROフェニックスガイ 伏せ1

才宮 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

『さぁ、才宮選手の新デッキは…』

 

「俺はE・HEROプリズマーを召喚!」

 

『何と!これはミラーマッ』

 

 だが、解説を遮るように、大声が響き渡る!!

 

 

「ふざけるなぁっ!」

 

 

「何?」

「サイバー流が!リスペクトの名のもとにカードを批判・否定したお前たちサイバー流が、HEROを使うだと!どこまで侮辱すれば気が済むんだ!」

「別に侮辱する意図はないが。このデッキを再度使う際にデッキ調整をしようと考えていたら、このカードの相性が良かっただけだ…。実は、あるサイバー流の元門下生が都道府県代表相手にこのカードを使ったと聞いてな。俺も試しに入れて回したら、思わぬコンボが成立した。今からそれを披露しよう。」

 

 

 才宮はその元門下生を誰とは言わなかった。俊二はちらりと目線を横に向ける。

 光里の頬は、熟れたリンゴのように真っ赤になっていた。

 

 

「プリズマーの効果発動!俺は融合デッキの剣闘獣ガイザレスを公開し、デッキから剣闘獣ベストロウリィを墓地に送る!」

 

『何と!【剣闘獣】です!』

『才災勝作が否定したテーマですが、才災勝作が失脚した今、使っても咎められる云われはないという事でしょうか』

 

「ぐ、剣闘獣?お前はサイバー流だろう!」

「元々、俺は剣闘獣使いだぞ?マスター鮫島に完敗し、サイバー流に入った際にデッキを封印。その封印を解いただけだ。」

「…だから、もうサイバー流の悪行とは無関係だというつもりか?どこまでもふざけた奴め!」

 

 

 肩をすくめる才宮。

 

「埒が明かないな。デュエルを進めさせてもらう。場に剣闘獣ベストロウリィとなったプリズマーが居る事で、スレイブタイガーを特殊召喚!」

 

 

『おや、見た事のないカードですね?』

『あれは場に剣闘獣がいるとき、手札から特殊召喚出来るモンスターです。そして、スレイブタイガーの効果は、自身をリリースし、自分フィールドの「剣闘獣」モンスター1体を対象として発動、その自分の「剣闘獣」モンスターをデッキに戻し、デッキから「剣闘獣」モンスター1体を特殊召喚。この効果で特殊召喚したモンスターは、「剣闘獣」モンスターの効果で特殊召喚した扱いとするモンスターです』

 

 

「そしてスレイブタイガーの効果発動!このカードとプリズマーをデッキに戻し、デッキから剣闘獣ダリウスを特殊召喚!ダリウスの効果発動、剣闘獣の効果で特殊召喚された時、墓地の剣闘獣の効果を無効にして特殊召喚!いやしのはどう!蘇れ、ベストロウリィ!」

「剣闘獣が二体…」

「俺はダリウスとベストロウリィをデッキに戻し、現れろ!剣闘獣ガイザレスッ!効果発動!フェニックスガイと伏せカードを破壊!ゴッドバード!」

「罠発動!和睦の使者!これで僕が受ける戦闘ダメージを0にする!」

 

 

『ああ~!惜しい!和睦の使者でこのターン、才宮選手は攻撃しても意味がない』

『それはどうでしょう?』

 

 

「バトル、ガイザレスでダイレクトアタック!ブレイブバード!」

「フン、だけど戦闘ダメージを受けない。無駄だったな。」

「バトル終了、ここでガイザレスの効果発動!このカードをデッキに戻し、デッキからベストロウリィ以外の剣闘獣を二体特殊召喚!とんぼがえり!現れろ、剣闘獣ラクエル、剣闘獣ディカエリィ!」

 

 ガイザレスは大きく頷くと、跳躍してエクストラデッキに戻り、代わりにデッキから二体の剣闘獣が駆け付ける!

 

「ラクエルは剣闘獣の効果で特殊召喚された時、攻撃力が300ポイントアップする!ビルドアップ!」

 

 ラクエルの攻撃力が1800から2100になり。

 

「そしてディカエリィは二回の攻撃が可能になる。きあいだめ!」

 

 ディカエリィははりきっている!

 

「ぐっ…こんな事が!」

「俺はカードを二枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

エド ライフ4000

手2 場 

才宮 ライフ4000

手2 場 ラクエル ディカエリィ 伏せ2

 

 

 

『これは厳しい!エド・フェニックス選手、ここから巻き返せるかー?!』

 

「…ムカつく。」

「ん?」

「ムカつくんだよ。お前のような屑が、HEROを使うなんて!」

「俺を屑呼ばわりするのは別に構わない。だが、何故そこまでHEROに拘る?」

「当たり前だ!HEROシリーズは、僕の父さんが作ったカードだ!」

 

 

 ふむ、と考え込む才宮。

 

「そもそもHEROは背負った十字架の重さ、苦しみと憎しみがあるんだ!それを知らないお前が、HEROを使うな!」

 

 そんなエドに対し、才宮は諭すように話す。

 

「HEROとは、自らの意思で世界を変えようとする心と行動に移す事だと俺は思っている。誰かの力になりたいという優しさ、例え我が身を危険にさらそうと行動できる一握りの勇気。」

 

 滔々と自論を述べる才宮。

 

「そこに、苦しみと憎しみを知れ、という考えは甘え。俺はそう考えるが…どうやらお前は違うようだ」

「あ、甘えだと!言うに事を欠いて!」

「お前がどういう想いでHEROを使っているのかは理解した。納得は出来ないが…俺には俺の考えと信念がある。互いの信念が相容れないならば、デュエリストらしくカードで語れ。お前のターンだぞ。」

 

 

『うーむ、どう思いますか?』

『…創作物のヒーローが、僕はこんなに苦悩しながら頑張っているんですぅ、と泣き言を周囲に漏らすのは割と幻滅しますね。』

『ええ。そういう苦しみを決して人に知らせない上で勝利をおさめ、人に希望をもたらすのが輝かしく、そういう存在をヒーローと言うのだと、私は思います。』

 

 

「…僕のターン、ドロー!カモン!ならず者傭兵部隊!効果発動!このカードをリリースして、ラクエルを」

「カウンター罠、剣闘獣の戦車を発動!場に剣闘獣がいるとき、モンスター効果の発動と効果を無効にして破壊!」

 

 エドの場に現れた傭兵部隊がラクエルを包囲してなぶり殺しにしようとするが、ラクエルは戦車にまたがると、逆にならず者を蹴散らす!

 それを見ていた十代が思わず声を漏らす。

 

「HEROデッキに、ならず者傭兵部隊?」

「戦士族だから、増援に対応している。召喚権を使うがモンスターを除去できるのはいいぞ」

 

 その会話を聞きながら、光里はハネクリボーを入れている遊城の方が、HEROデッキとしては違和感があると思っていた。

 

 

 

 

 

「っつ…魔法カード、ミラクルフュージョンを発動!墓地の沼地の魔神王とフェニックスガイを除外し、現れろ!E・HEROシャイニング・フェニックス・ガイ!」

「墓地のHEROはフェザーマンとバーストレディのみ。攻撃力は3100か」

「バトルだ!行け、シャイニング・フェニックス・ガイ!剣闘獣ラクエルを攻撃!」

「罠発動!ディフェンシブ・タクティクス!場に剣闘獣が存在しているとき発動!このターン、俺のモンスターは破壊されず、俺が受ける戦闘ダメージも0になる!迎撃しろ、ラクエル!ニトロチャージ!」

 

 ラクエルとシャイニング・フェニックス・ガイがぶつかり合うが、どちらも破壊されない。

 

 

「そしてディフェンシブ・タクティクスはデッキの一番下に戻る!」

「…バトル終了」

「ならばラクエルの効果発動!このカードをデッキに戻し、デッキから剣闘獣ムルミロを特殊召喚!バトンタッチ!」

 

 

 ラクエルが場を離れ、代わりに新たな剣闘獣が現れる!

 

 

「ムルミロが剣闘獣の効果で特殊召喚された事で、効果発動!相手モンスターを破壊する!ハイドロポンプ!」

 

 ムルミロが放つ水が、シャイニング・フェニックス・ガイを破壊する!

 

「…まだだ!僕は光の護封剣を発動!ターンエンドだ。」

 

 

 

エド ライフ4000

手0 場 光の護封剣(3)

才宮 ライフ4000

手2 場 ムルミロ ディカエリィ 

 

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、サイクロン!光の護封剣を破壊する!」

「?!」

 

『これは…!』

『うーむ、フェニックス選手はかなり善戦しましたが…』

 

「バトルだ!剣闘獣ムルミロでダイレクトアタック!アクアジェット!」

「うわっ!」ライフ4000から3200

「そして、剣闘獣ディカエリィは二回攻撃出来る!ダブルアタック!」

「うわああああああああ~!」ライフ3200から1600、1600から0

 

 

『き、決まりましたー!勝ったのは、才宮選手!』

『才宮選手がサイバー流を使ってくると予想していたようですが、実際は剣闘獣デッキだった事で計算が狂ったようですね。』

 

 

 ブーイングしていた観客の半数が不満げな顔をしているが、大半の観客が拍手していた。

 現金な物だ、と俊二は苦笑する。

 

 

 

『互いにインターバルを置いた後、再戦となります!』

『しかし、才宮選手は今回、サイバー流デッキは持ってきていないのでしょうか?』

『少々残念ですね』

 

 

 

 放送席に目を向けていた才宮は、口を開く。

 

 

「俺がサイバー流デッキを使う事をお望みなら、次の試合で用いよう」

『?!なんと!ぜひお願いします!』

 

 

 両選手が退場し、CMが入る。

 

 

「兄貴、エドが負けちまったドン…」

「そう、だな。俺、HEROデッキはカッコいいという憧れで使っていた。けれど、そうではない考え方の人も居るんだな…」

 

 

 そんな十代に、俊二は声をかける。

 

「俺は才宮さんの考え方に賛成だ。」

「俊二先生?」

「遊城。こういう意見の対立で大事なのは自分の考え方をしっかり持つ。その上で相手の意見を理解し、自分の考えを押し付けない事だ。」

「押し付けない事…」

「自分の考えを押し付ける行為がもたらす行為の危険性は知っているはずだぞ。才災がリスペクトの名のもとに何をした?」

「!?」

「あんな風になりたいなら、止めはしない。」

 

 

「…そろそろ始まるわ」

「そうだな。だが、この調子だと…」

 

 

 再び対峙する二人。親の敵とばかりに睨みつけるエドに対し、一切揺らがない才宮。

 

 

『三本勝負でいきなり敗北してしまったエド・フェニックス選手!ここで巻き返しを図りたい!』

 

 

 

 俊二はこの勝敗が見えてしまった。エドは怒りと復讐心にとりつかれている。

 これでは、勝てる勝負も勝てはしない。

 

 

 

「絶対に叩き潰す!行くぞ!」

「…来い!」

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

エド ライフ4000

手5 場 

才宮 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は貰うぞ!」

「構わない。」

「僕の先攻、ドロー!魔法カード、デステニー・ドローを発動!手札のD-HEROを捨てて、カードを二枚ドローする!僕はディアボリックガイを捨てる!」

「ディー、HERO?」

「そうだ!父さんが残したHERO、Dシリーズ!デステニー、デストロイ、デス…すべてにおいてE・HEROのさらに上を行く、新たなHERO、それがD-HEROだ!」

 

 

 

『何と!ではあれが本当の新兵器だったという訳ですか!』

『ダークヒーロー、という感じが漂いますね。先ほどのE・HEROとは別物な感じがします…。両者、デッキを変えての再戦になりました!』

 

 

「魔法カード、D-スピリッツを発動!僕の場にD-HEROが存在しない時、手札からD-HEROを特殊召喚!現れろ、D-HEROダイヤモンドガイ!」

「ダイヤモンドガイ…」

 

 西洋風のダークヒーローが現れ、マントをなびかせる。

 

「効果発動!デッキトップをめくり、通常魔法だった場合、次のターンでエフェクトを発動する!引いたカードは終わりの始まり、よって次のターン、カードを3枚ドロー出来る」

「終わりの始まりは、墓地に7体以上の闇属性モンスターが存在し、5体を除外してカードを3枚ドローする…だが、効果の発動だけなら発動条件もコストも無視できるという訳か。色々コンボが出来そうだな。」

「当たり前だ、これは父さんが僕のために残してくれたカード!魔法カード、トレード・インを発動!手札からレベル8のドレッドガイを捨てて、二枚ドロー!」

「レベル8のモンスターもいるのか。トレード・インが入っているなら、レベル8のモンスターは比較的多そうだな…」

「墓地のD-HEROディアボリックガイのエフェクト発動!墓地から除外して、デッキから二体目のディアボリックガイを特殊召喚!」

「レベル6をデッキから出せるのか?!」

「さらにD-HEROドゥームガイを通常召喚!僕は三体のD-HEROをリリース!現れろ、D-HEROドグマガイ!」

「攻撃力、3400!どんな効果が…」

「すぐにわかる。僕はカードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

エド ライフ4000

手0 場 ドグマガイ 伏せ2

才宮 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「このスタンバイフェイズに、ドグマガイの効果発動!相手のライフを半分にする!」

「強力な効果だな!」ライフ4000から2000

 

「さらに、このスタンバイフェイズで罠発動!マジカル・エクスプロージョン!さらにファイアー・ダーツ!この二枚はボクの手札が0枚の時、発動出来る!」

「墓地の魔法カードは4枚、800のダメージに加えてサイコロ3つの合計が12を超えていれば俺の負け…。」

「思い知れ!僕の怒りの炎を!」

 

 サイコロの出目は4、5、6。

 

『ファイアー・ダーツの効果はサイコロを3つ振り、出た目の合計×100のダメージを与えるカード!』

『安定性は低いですが、流石はプロ!ここで出目の合計は15!1500ポイントのダメージ!それに加えてマジカル・エクスプロージョンの効果で800のダメージとなれば!』

『ワンターンキル…。こ、これは防ぎようがありません!』

 

 

 2300ポイントのダメージが、才宮を襲う!

 

 

「…それがお前のデュエルか。」ライフ2000

 

 

 降り注ぐ炎を、小さな天使が一身に受け止める!

 

 

『決着ー?!な、なんという事でしょう!ライフが残っています!』

『サイバー流はパワー・ボンドのリスク回避のためにバーン対策カードを入れているパターンがありますが…。この状況を回避できるカードなど…』

 

 

 

「?!馬鹿な!な、何故ライフが残る!そのモンスターはなんだ!」

「チューナーモンスター、ハネワタだ。」

「なっ…」

「このカードを手札から捨てる事で、このターン俺が受ける効果ダメージを0にする。」

「馬鹿、な…。チューナーが、何故、サイバー流に?」

「チューナーだから入れたわけでは無い。このカードが俺のデッキと相性がいいから入れた。」

 

 

 

『何と何と!チューナーの効果でエド・フェニックス選手のワンターンキルを回避!』

『チューナーをデッキに入れるとは、思い切ったことをしますね。しかし、ワンターンキルを仕掛けて仕留めきれなかったのは思わぬ誤算!』

『しかし、このターンを凌げば、通常ドローと終わりの始まりの効果により、エド・フェニックス選手の手札は4枚まで増えます!そうなれば…』

 

 

 

「俺はサイバー・ドラゴン・コアを召喚し、効果発動。デッキからエマージェンシー・サイバーを手札に加えて、発動。デッキからサイバー・ドラゴンを手札に加える。魔法カード、パワー・ボンドを発動。場のサイバー・ドラゴン・コアと手札のサイバー・ドラゴンを融合。現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン」

「こ、攻撃力5600…」

 

「バトルだ、サイバー・ツイン・ドラゴンで、ドグマガイを攻撃!」

「うわあああああああっ!」ライフ4000から1800

「サイバー・ツイン・ドラゴンは、二回攻撃できる。もう一度、ダイレクトアタックだ。」

「ば、馬鹿な…!」ライフ0

 

 

 

『何という事でしょう!ワンターンキルを仕掛けたエド選手の奇襲を見事に回避!』

『返しにワンターンキルを仕掛けてフィニッシュ!三本勝負になりましたが、二回勝利で才宮選手のストレート勝利です!』

『それでは、インタビューに入ります!皆さん、チャンネルはそのままで!』

 

 

 

 

 デュエルアカデミアにて、その生放送を見ていた十代は興奮が抑えられなかった。

 

「すげぇ、すげぇよ、あの人!俊二先生はあの人に勝ったんだよな?」

「その時はサイバー流を使っていたが…。本来は剣闘獣デッキだったのか。」

 

 

「チューナーを取り込むなんて」

「サイバー・ジラフの代わりに入れたんだろう。」

「サイバー流なら、レベル6のSモンスターか。ナチュル・パルキオンは」

「地属性チューナーとそれ以外が地属性でなければならない。」

「…サイバー流は融合召喚主体で行くしか無いのかしら…?」

 

 

 場面が切り替わり、才宮選手のインタビューが行われている。

 

『この度はおめでとうございます!見事な勝利でしたね!』

『ありがとうございます。』

『しかし、マスター鮫島の頃ならともかく、破壊効果を多用する剣闘獣は才災師範だと肩身が狭かったのでは?』

『才災師範に変わる前から、剣闘獣デッキは封じていましたので、その辺りについて指摘されることは無かったですね。元剣闘獣使いというのは秘密にしていましたから。まぁ、知っている人は居ましたが』

『サイバー流の師範が才災師範に変わった時に辞めなかったのは何故ですか?』

『サイバー流に切り替えた時も除去やカウンター罠を多用していたので、それらを使わないという才災師範の教えの中でどうやって勝つかという事を研鑽する絶好の機会と考え、サイバー流にとどまりました。』

 

 

『しかし、同じサイバー・ランカーズの才郷さんは、剣闘獣ガイザレスを使えば誰でも勝てると以前述べておられましたが…仲はどうだったのですか?』

『今だから言いますけれど、普通に悪かったです。似たような考えを持つ才魔と才獏と同じ部屋で過ごす羽目になった時は、ものすごく気まずかったです。まぁ、才郷、才魔、才獏が行きつけの店はどれも享楽的に旨かったので、食の好みは合うのかもしれませんね。』

 

 

『今回、プリズマーを使ったという元門下生は、サイバー流と対立している猫崎俊二と交際があるとの事ですが、何故その元門下生の戦術を使ったのですか?』

『別に元門下生が誰と交際しようが、俺には関係ありません。参考にしたら新たな可能性が見えたから今回用いただけです。』

 

 

『今回、剣闘獣デッキを使った理由は?』

『サイバー流の一員であった過去も含めて、気持ちを切り替えて前に進むためです。もちろん、サイバー流のデッキは改良しています。』

 

 

『今後、猫崎俊二さんにリベンジする予定は?』

『今は、デュエルアカデミアで実技を担当しているとか。しばらく様子を見て、機会があれば再戦します。【猫シンクロ】と【剣闘獣】でぶつかり合って、どこまでも高みを目指していきたいです。』

 

 

『今回、サイバー流にチューナーを入れた理由は?S召喚を取り込むつもりでしょうか?』

『入れた理由は、効果ダメージ対策としての要素が強いです。バーンデッキへの対策になり、パワー・ボンドのリスクを回避する事も出来ます。S召喚をサイバー流に入れるかどうかは…今後Sモンスターを手に入れられるかどうかですね』

 

 

 

『フェニックス選手とヒーローの在り方について語っておられましたが、フェニックス選手の考えをどう思いましたか?』

『ヒーローの事情を知らずに、ヒーローについて語るな、という考えは理解はできてもやはり納得はできません。残念ながら、彼とヒーロー談義はできそうに無いですね。』

 

 

『参考までに、好きなヒーローについて話していただけませんか?』

『ゾンバイアです!元死神だった彼が、人間との愛に目覚めて人間のために悪と戦うのですが、その代償として素顔は醜くなり、命も削られていく…しかし、それでも彼は悪に立ち向かう!これこそがヒーローだと思います!とはいえ、原作がアメコミなのでこれについて語り合える相手が日本にはほぼいないのが残念です。』

 

 一呼吸おいて、才宮はつぶやく。

 

『才災師範とは一晩中語り明かしたことがあるのですが…。』

 

 

 インタビューにつつがなく答える才宮。

 しかし、これでエドが十代に挑む展開はどうなるのか?と俊二は考え込む。

 



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第35話!遊城十代VS影丸光海!

一応、影丸光海は無口系キャラというくくりに入れていいのでしょうか?外見からはそうとしか見えないので分類するならそちらでしょうが。

もしも影丸理事長に孫が居た場合、十代は祖父の暴走を止めてくれた相手となるのか、それとも祖父の悲願を阻止した敵になるのか。拙作の光海は祖父が思いを託した相手という事もあり、敬意は持っています。

その上で、今回自覚が無いまま、破滅の光の手駒となって立ちはだかります。


 光の結社の拠点。その一室で破滅の光は思わぬ展開に頭を悩ます。

 

 この時、斎王本来の人格も動揺していた。エドが成長すればあるいは自分の運命が変わるかもしれないと思っていたのだが…。

 

「サイバー・ランカーズのブロック代表がこれほどとは…。エドの成長の糧になってもらい、遊城十代を光の結社に誘う運命に歪みが生じてしまった。」

 

 誰に十代を洗脳させるか。そう考えた時、一人の少女の顔が頭に浮かぶ。

 

「そうだ、彼女ならば…。」

 

 

 

 斎王がそう考えた数日後。

 デュエルアカデミアの定期便。そこから、一人の少女が降りたつ。

 

 手に花束を持って。

 

 

 

 

 十代が、オシリスレッド寮の近くで釣りをしていると声をかけられる。

 

「…失礼」

「ん?あれ、誰だ、お前。」

「当方は光海。」

「俺は遊城十代だ。」

「?!遊城…十代…!」

 

 少女の目が大きく揺れる。

 

「…当方の姓は、影丸」

「?!まさか、理事長の…孫?」

 

 頷く少女。

 

 

「おーい、アニキ-!ってお客さんドン?」

「遊城十代、貴公と二人きりで話がしたい。」

「…わかった。剣山、すまないがちょっとこれを頼む。」

「ええっ?!わ、わかったザウルス…。綺麗な人ドン、うう~、俺も彼女が欲しいザウルス…」

 

 

 ティラノ団を結成していた時に、何かと突っかかってたE・HEROを使う少女が居たが、結局彼女とは疎遠になってしまった。

 彼女がエースとしていたのが、E・HEROエッジマンであり、基本戦術はネクロダークマンを墓地に送ってからのリリース無しでの召喚だった。

 

 高い攻撃力とエッジハンマーに恐竜さんが何度倒されたか、剣山は覚えて居ない。

 恋愛事にはさほど興味を示していなかったが、やはりこうして見せつけられると堪えるものがある。

 

 

 

 

 

 かつて、影丸理事長が三幻魔を覚醒させ、才災勝作を叩き潰した場所。

 そこに、十代と光海は来ていた。

 

「…ここで、おじい様が。」

「ああ。立派な、とても立派な人だった。もしもサイバー流を叩き潰すのに、三幻魔を使わなければ俺は止めなかった。」

「…そう。」

 

 

 花束を献花し、長く祈りをささげる光海。その隣で十代も深く頭を下げる。

 

「貴公、ここで当方とデュエルをしてほしい。」

「ここで…。」

「おじい様とラストデュエルをした相手、そして当方が入学できなかった狭き門を潜り抜けたデュエルエリートに、当方の戦略がどこまで通じるか…試したい。」

 

 入学できなかった、という光海の言葉を受け、影丸理事長が糾弾した事を思いだす十代。

 リスペクトに反する意見を述べたら、成績を問わずに不合格にしていた…。もしかしたら、彼女も不合格にされてしまった生徒なのかもしれない。

 

 

「…ああ、やろう!」

「一つだけ言っておく。当方は、貴公のデッキを研究し尽くしてきている。それでも、受けてたつか?」

「へぇ、別にいいぜ。対策されるのは慣れている!それでも俺は自分のデッキを信じて前に進むだけだ!」

「よい答え。では…」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

光海 ライフ4000

手5 場 

十代 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「当方の先攻、ドロー。魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動。場にフォトン・トークンを守備表示で二体、特殊召喚する。」

「守備力0…。」

「しかし、このカードを発動するターン、当方は光属性以外のモンスターを召喚、特殊召喚、反転召喚できない。二体のフォトン・トークンをリリース。アドバンス召喚、轟雷帝ザボルグ!」

「攻撃力、2800!これがお前のエースモンスターか?!」

 

「轟雷帝ザボルグが召喚されたとき、フィールド上のモンスター1体を破壊する。」

「…へ?」

「当方は、轟雷帝ザボルグを破壊する。」

「な、何をやっているんだ?!」

 

 

 滅茶苦茶としか思えないプレイング。これは…リスペクトに反する云々以前の問題ではないか。

 不合格なのは実力だったのかもしれないと思ってしまう十代だが、その認識は即座に改められる。

 

「狙いはある。轟雷帝ザボルグの効果発動。自身の効果で光属性モンスターを破壊したとき、そのレベルと同じ枚数だけ、融合デッキのカードを墓地に送る。レベルは8枚、よって8枚のカードを貴公は墓地に送らなければならないが…光属性モンスターをリリースしてザボルグを召喚した場合、墓地へ送る相手のカードは当方が選ぶ。」

「ま、まさか…融合先そのものを破壊してくるなんて!」

「…E・HERO フレイム・ウィングマン、E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン、E・HERO エリクシーラー、E・HERO サンダー・ジャイアント、E・HERO ダーク・ブライトマン、E・HERO プラズマ・ヴァイスマンE・HERO テンペスター、E・HERO ワイルドジャギーマン。この8枚を墓地に送ってもらう。」

「ぐっ…」

 

 

「当方は、XY-ドラゴン・キャノン、YZ-キャタピラー・ドラゴン、XZ-キャタピラー・キャノン、レア・フィッシュ、フュージョニスト、深海に潜むサメ、水陸両用バグロス、朱雀を墓地に送る。」

 

 墓地に送られた融合モンスターはまとまりがなく、バラバラだ。

 おそらく光海はこれらを主軸に置いておらず、今回の融合デッキを破壊する戦術のために適当に入れたのだろうと推測する十代。

 

 

 

「二枚目のフォトン・サンクチュアリを発動。フォトン・トークンを二体特殊召喚。そして二重召喚を発動。再び、二体のフォトン・トークンをリリースして、轟雷帝ザボルグを召喚。」

「ま、また融合デッキを…!」

「その通り。再び轟雷帝ザボルグを破壊する。当方は戦場の死装束、マブラス、カオス・ウィザード、キメラテック・フォートレス・ドラゴン、黒き人喰い鮫、バロックス、轟きの大海蛇の7枚を墓地に送る。」

「…E・HERO スチーム・ヒーラー、E・HERO セイラーマン、E・HERO ネクロイド・シャーマン、、E・HERO マッドボールマン、E・HERO ランパートガンナー、E・HERO ワイルド・ウィングマン、の6枚だ。だけど、光海!これでお前の手札は1枚!俺の融合戦術を崩したのは見事だけど、E・HEROは融合召喚だけじゃあ無い!」

 

 

「知っている。魔法カード、貪欲な壺を発動。XY-ドラゴン・キャノン、YZ-キャタピラー・ドラゴン、XZ-キャタピラー・キャノン、レア・フィッシュ、フュージョニストをデッキに戻して、二枚ドロー。二枚目の貪欲な壺を発動。深海に潜むサメ、水陸両用バグロス、朱雀、戦場の死装束、マブラスをデッキに戻して、二枚ドロー。三枚目の貪欲な壺を発動。墓地のカオス・ウィザード、キメラテック・フォートレス・ドラゴン、黒き人喰い鮫、バロックス、轟きの大海蛇をデッキに戻して二枚ドロー。」

「手札1枚が、4枚になった?!」

 

 

 驚く十代。だが、これをほかのアカデミア生徒が聞けば「お前が言うな」と返されるだろう。

 

 

「当方は、カードを一枚伏せてターンエンド。」

 

 

 淡々とプレイングする光海。その無表情から内面を読み取れない十代。

 だが、光海の内心は違う。

 

 

(…決まった!初手がフォトン・サンクチュアリ2枚と轟雷帝ザボルグが2枚、二重召喚という状況で、ドローが貪欲な壺!エクストラデッキ全破壊コンボ達成した上で、連続貪欲な壺を引き当てられるなんて…きっと雷丸のカードをデッキに入れていたから、デッキが応えてくれたという奴に違いない!融合モンスターや、Sモンスターを個々に対処するという戦術では無く、出てくる前に根こそぎ破壊するという戦略!雷丸と当方がじっくり議論して編み出した、共同作業!戦略は戦術では潰せない。…後は、この伏せカードで王手。決まらなかったとしても、この状況ならば最低でもブラフの役割を果たすはず!)

 

 

 

 

光海 ライフ4000

手3 場 伏せ1

十代 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!今のは驚いたぜ…。だけど、さっきのターン、貪欲な壺で手札を補充したよな。」

「このコンボを使えば、墓地に15体のモンスターがたまる。貪欲な壺で手札補強は選択肢に入る。」

「なら、俺も使わせてもらう!魔法カード、ホープ・オブ・フィフス!墓地のE・HEROを5体デッキに戻して」

「させない。罠発動、大火葬。」

「……え?」

 

 

 十代の墓地のE・HEROの融合モンスター14体と、二体の轟雷帝ザボルグが除外される。

 

 よろよろと、十代は除外されたE・HEROを除外ゾーンに置く。

 

「当方が、墓地利用を想定していないとでも?」

「お、俺は…E・HEROプリズマーを召喚。バトルだ、プリズマーでダイレクトアタック!」

「……」ライフ4000から2300

「カードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

 

光海 ライフ2300

手3 場 

十代 ライフ4000

手3 場 プリズマー 伏せ1

 

 

 

(……え?あそこでホープ・オブ・フィフスを引き込む?どんなドロー力をしているの?それにしても何故プリズマーでネクロダークマンを墓地に送らない?)

 

 訝しむ光海だが、直後に気づく。

 

 

(そうか!融合モンスターを見せる必要があるけれど、見せる融合モンスターが居ないからか!融合モンスターをヘル・ポリマーで奪う、融合禁止エリアで融合召喚自体を封じるというのも案に上がったが、やはりこれが正解だった!)

 

 

「当方のターン、ドロー!オーシャンズ・オーパーを召喚。そしてオーシャンズ・オーパーをリリースして、マザー・ブレインを特殊召喚。」

「攻撃力2400!」

「効果発動、手札の水属性モンスター、ヒゲアンコウを捨てて、その伏せカードを破壊。」

「ヒーローシグナルが!」

「バトル、マザー・ブレインでプリズマーを攻撃」

「うわあああっ!」ライフ4000から3300

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

 

 

光海 ライフ2300

手0 場 マザー・ブレイン 伏せ1

十代 ライフ3300

手3 場 

 

 

「くっ…俺のターン、ドロー!マザー・ブレインはセットカードを破壊できる…俺は、カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

光海 ライフ2300

手0 場 マザー・ブレイン 伏せ1

十代 ライフ3300

手2 場 伏せ2

 

 

 

(…HEROデッキの切り札、融合モンスターを根こそぎ破壊&除外と徹底的に叩かれてなお諦めない、か。何故これほどの信念と強さを兼ね備えていて、オシリスレッドなのか?ラーイエローやオベリスクブルーはこんなのばっかり…だとしたら、当方が不合格なのも当然…か。)

 

 

 デュエルアカデミアのレベルの高さを勘違いする光海。

 

 

「当方のターン、ドロー。」

 

 引いたカードを見つめる光海。マザー・ブレインだけではライフを削り切れない。

 

(さて、と。伏せを割れると分かっていて二枚の伏せ。順当に考えて一枚はブラフでもう一枚が本命…。本命の伏せカードとなると…激流葬か、ミラフォか…。はたまた、炸裂装甲や落とし穴かもしれない。)

 

 水属性のモンスターであるため、一枚を割って不確定要素を減らせる…。そう考えた直後に思い直す。

 

(いや、これほどの引きの強さがある相手に時間を与えるなど、敵に塩を送るようなもの。破壊効果であれば対処も可能。ここは臆せず攻める!)

 

 

「オイスター・マイスターを召喚。バトル、オイスター・マイスターでダイレクトアタック。」

「リバースカードオープン!クリボーを呼ぶ笛!デッキからハネクリボーを特殊召喚!」

「……ハネクリボー。」

 

 

 小さな羽の生えたクリボーを前に、光海は混乱する。

 

 

(えっ?なんでHEROデッキに天使族?シナジーあるの?異次元の女戦士、ならず者傭兵部隊といった戦士族や、クリッターというサーチモンスターならわかるけれど…フレンドッグみたいな、融合補助モンスター?)

 

「そして手札のミラクルフュージョンとE-エマージェンシー・コールを捨てて、速攻魔法、進化する翼を発動!デッキから現れろ、ハネクリボーLv10!」

「ハネクリボーLv10?」

「ハネクリボーLv10は自身をリリースする事で、相手モンスターを全て破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!このデュエルは俺の勝ちだ!」

 

 

(…なるほど、除去要員。手札消費が激しいHEROデッキだとしてもこれほどの引き運があるなら、順当に回る、と。融合回収や闇の量産工場なら手札コストの回収も容易。だが…。)

 

 

 

「その効果にチェーンしてリバースカードオープン。ライフを1500払い、速攻魔法発動、我が身を盾に。」ライフ2300から800

「?!」

「ハネクリボーLv10の効果を無効にして破壊。デュエル・エリートである貴公に、浅学非才の当方が追いつくには、ここまでやってようやく勝利が見えてくる。」

「は、はは…。すげえなぁ…。」ライフ3300から1700

 

 

 

 もしも、もしも大火葬が無ければ。ホープ・オブ・フィフスでE・HERO ワイルドジャギーマン、E・HERO サンダー・ジャイアント、E・HERO ダーク・ブライトマン、E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン、E・HERO プラズマ・ヴァイスマンをデッキに戻して2枚ドロー。プリズマーの効果でスパークマンを墓地に送り、ミラクルフュージョンでスパークマンとフレイム・ウィングマンを除外。シャイニング・フレア・ウィングマンを融合召喚。墓地の融合HEROが9枚居る事で攻撃力は5200となり、戦闘ダメージと効果による逆転するつもりだった。

 

 

 だが、光海が雷丸と共に積み重ねた勝利へのロジックは、遊城十代という天才を上回った。最も、遊城十代はまだ成長途上のデュエリストなのだが。

 

 

 

「マザー・ブレインでダイレクトアタック」

「……」ライフ0

 

 

 十代のライフが尽きた時、遠く離れた地で、斎王琢磨にとりついた『破滅の光』は笑みを浮かべる。

 

「これで!遊城十代!お前の運命は…我が手に落ちた!!」

 

 

 

 

 

 真っ白、ただどこまでも真っ白な空間。そこに、遊城十代は居た。

 

「…どこなんだ?ここは…。俺はさっきまでデュエルをしていて…。」

 

 意識が飲まれそうになる。懸命にこらえる十代だが、その気力は限界を迎えつつあった。

 足の先が、白く染まっていく…。

 

 

『…遊城十代っ!』

 

 力強い、とても力強い声が、十代の意識を覚醒させる!

 

「だ、誰だ…?」

 

 その声の主が、十代を掴んで動かすと、白い侵食が止まる。

 

 

『時間が無い、光海に伝えろ!ウジャド眼の、サークレットを常に持っていろとな!』

「なんで光海のことを知って…、まさか!」

 

 

 

 声の主の正体に気づいた十代が、口を開く前に。

 

 

『…おのれ、おのれおのれぇ!残留思念がっ!』

 

 白い、靄のようなナニカが、敵意をむき出しにして現れる!

 

『行け!ここは私が食い止める!』

「…すまない!」

 

『逃がすかっ!!』

 

 白い靄が伸ばした光の波動が、十代の頭を掠る!

 

 

「ぐうっ…」

『直撃しなかったみたいね!なら…?!』

『これ以上はさせぬ!』

 

 

「…ありがとう、影丸理事長!」

 

 

 十代は、白い空間から脱出を果たす!

 

 

 

 

 同時刻。

 

(うーん、目が覚めないぞ?)

 

 祖父の残留思念が、破滅の光が送り込んだ先兵と懸命に戦っているというのに、のんきに遊城十代を眺める影丸光海。

 

 

(…意外と、良い身体している。ボディービルダーでムキムキなのと違って、ナチュラルな感じが実に良い…。彼氏欲しがっていた友達に紹介してもいいな。マッチョは嫌だけど程よく筋肉がついていないとダメと言っていたし。…どれ、胸板は…ほほう、これはこれは…。)

 

 

 スッと十代の胸板に触れる光海。

 もしもこの場面を某レベル10の悪魔族が見れば、泡を吹いて卒倒するだろう。

 

 

(融合デッキ全破壊&除外、という対【猫シンクロ】デッキへのアンチデッキは実戦通用する事が判明した。やはり実戦しないとわからない。)

 

 

 鎖骨をなで、首筋をさすりながら光海は考える。

 

 

(後は、霞の谷の戦士を除外してイージーチューニングで1700の打点強化をどうにか処理できれば間違いなく勝てるはず…。とはいえ、今回のは運が良かったのもある。精進しないと。待て、ホープ・オブ・フィフス…墓地に落とす融合モンスターをE・HEROの融合モンスターばかりにしておけば、四枚目の貪欲な壺になるのでは?しかし、轟雷帝ザボルグにはまだまだ可能性がありそうだ。墓地に融合モンスターやSモンスターがたまるなら、それを素材に融合召喚…は無理か?うーむ。墓地の種族をドラゴン族にしてF・G・D?)

 

 

 十代の腕の肉付きを確かめ、続いて太ももに手を伸ばした所で。

 

 

「…っつ!こ、ここは…」

「…目が覚めた?」

 

 

 光海は、平然と空とぼける。

 

 

「か、影丸!アムナエルの、ウジャド眼のサークレットを持っているな!」

「…何故、それを知って?」

「今後は、それを肌身離さず持っていて…く…れ…」

 

 また気絶した十代を見て、考え込む光海。

 

(いやちょっと待って。何故、あれを知っているの?セブンスターズに選ばれた百野真澄には渡していないから、知っているはずが無い…。しかし)

 

 この必死さは、何かしら理由があるに違いない。今後は、あれを持ち歩こう。そう光海は決意する。

 改めて太ももに手を伸ばした所で、これは流石にアウトか、と思い直し手を引っ込める光海。

 

 

 代わりに十代の胸ポケットから、PDAを拝借して電話を掛ける。



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第36話!影丸VS光の先兵!

今回はオリジナル設定が多数登場する上に、特殊ルールが適用されています。遊戯王GXを視聴した方が思うであろう『何故、孤島にデュエルアカデミアを建設したのか』という疑問に対し、私なりに答えを出しました。アニメ版の理由は不明ですが、少なくとも拙作はこういう設定です。


オリジナルキャラクター、マリイアの外見を若干修正しました。


 影丸 康信(かげまる やすのぶ)という男が居る。

 

 慕っていた祖父の葬儀。あれほど元気でも、人はいずれ老いて死ぬ。死ねば、何も残らない。

 

 この時から彼は、不老不死を心の奥底で強く望むようになる。

 

 

 官僚となり辣腕を振るい、そのころ家同士の付き合いがあった素封家の娘とお見合い結婚。

 それなりに上手くやっていたが、嫁とは意見の対立も少なからずあった。

 

『康信。どれほどの財があろうと、権力があろうと…死からは、誰も逃れられない。だから。今を、この時を。懸命に生きるべきです』

 

 

 両親も気づかなかった、不老不死への憧憬を早々に見抜いた嫁は毅然とした態度でこう告げた。

 絵空事を、と当時の影丸康信は受け止めていた。

 

 

 

 その後官僚を引退。直後に会社を立ち上げ、巨万の富を得る。

 

 そのころ、軍事産業として大きな力を持っていた海馬剛三郎と接触、多大な資金援助を行う。

 これ以降、海馬コーポレーションの繁栄の裏には、影丸康信という『影』が付きまとう事になる。

 

 しかし、『影』は海馬コーポレーションを操る気など毛頭なかった。

 海馬コーポレーションに求めていたのは、軍事産業部門への影響力という営利目的の為の投資。

 

 

 

 この時期、影丸康信と海馬剛三郎にとって、生涯忘れられない存在との接触も起きた。

 

『初めまして、マリイアと申します。パラディウス社の総帥、ダーツ様の賓客としてお迎えに参りました。』

 

 パラディウス社から送られてきた、金髪で金色の眼を持つ、病的なまでに白い肌を持つ蠱惑的な美女。

 20歳ぐらいであろうその女性に、二人は圧倒された。

 

 

『…断る、と言ったら?』

 

 マリイアは笑った。笑ったように、影丸康信は感じた。

 懐から自然に拳銃を取り出し、自らの頭に突き付ける。

 

 その一連の行動の間、二人の護衛で反応できたのは、たった3人。

 残りの9名は反応すらできなかった。

 

『何、を』

『この場で自決いたします。総帥の命令を遂行できない社員として、当然の事。』

 

 

 その瞳は狂信者特有の物では無い。彼女の静かな狂気に、周囲の護衛も気圧される。

 これが。これがパラディウス社の社員、か。

 

 

 その後行われたダーツとの会談を経て、影丸康信と海馬剛三郎は一つの共通見解を得た。

 『ドーマには、手を出すな。』

 

 ダーツとしては、進めていた計画に不確定要素が関わりそうだった為念押ししただけだったのだが、二人はこの一件を最後通牒と曲解。

 その後、彼らの道が交わる事は無かったため、この勘違いは結局正されることは無かった。

 

 

 

 そんな蜜月の関係にヒビが入る。海馬剛三郎の息子、海馬乃亜が交通事故で意識不明の重体に陥る。

 息子を救うための手段を求めている海馬剛三郎に、影丸康信はある計画を告げる。

 

 科学的なアプローチによる不老不死への案。記憶のすべてをデータ化し、コンピューターにインストールする事で電脳世界で生き続ける。

 これを海馬乃亜に適用しないか?と。

 

 

 交通事故を起こした相手が裁判の結果、執行猶予付きという判決が出た事、最愛の息子が助からないという絶望が重なった剛三郎にとって、影丸康信の提案は抗えない誘いだった。

 この時、技術と情報を惜しみなく提供した背景には、海馬乃亜を通じてデータ収集するという下心もあったが、子を持つ親としての情と、今までの付き合いも少なからずあった。

 

 

 海馬乃亜を通じ、そのデータを収集した影丸康信は絶望する。

 人格面において、大きな変化が起きていたからだ。人格のデータ化による人格面の変質が起きている事は明らかだった。

 

 自分が自分で無くなってしまう『不老不死』に、なんの意味がある?

 

 

 

 海馬剛三郎から海馬瀬人が会社を奪う交代劇の後も、海馬コーポレーションとの関係は続いた。

 パトロンという関係であり、政界・財界へ働きかけが出来る影丸とのつながりを海馬瀬人は断ち切るわけにはいかなかった。

 

 軍事産業からカードゲーム界への転身、という発表。その突拍子のなさに一度は質の悪い冗談かと思っていたが、インダストリアルイリュージョン社との提携と発展のための青写真を見せられたことで、影丸は考えを改める。

 

 

 デュエリスト・キングダムをペガサスが開催している頃、再びドーマとの接触があった。

 さほど高身長では無いが、肉付きのよい脂ぎった男はこう告げた。

 

『オレイカルコスの欠片を用いれば、不老不死になれる。』

 

 その蠱惑的な誘いに、待ったをかけた男が居た。

 

『笑わせるな。オレイカルコスの欠片を持てば、心の闇が増幅され、最後はオレイカルコス・ソルジャーになり果てる』

 

 影丸康信の庇護下に入った、錬金術師アムナエル。

 真意を問いただそうとした影丸康信の前で、男がした事はドーマ製のデュエルディスクを構える事だった。

 

 ドーマのデュエリストに敗北するとどうなるのか知っているため、怯んでしまった影丸康信をかばうように、アムナエルは前に出る。

 

 

『良い機会だ、私の実力を示そう。』

 

 

『お前のスタンバイフェイズに、罠発動!バトルマニア!さぁ、これで攻撃するしかないぞ!』

『…スタンバイフェイズ、速攻魔法発動、グランドクロス。風魔神-ヒューガ、雷魔神-サンガ、水魔神-スーガを破壊。』

『ぐっ、三魔神がっ!だ、だが!お前の場のモンスターもいなくなった!』

『愚かな。リバースカードオープン、異次元からの帰還。ライフを半分払い、除外されているモンスターを特殊召喚。原始太陽ヘリオス、ヘリオス・デュオ・メギストス、異次元の女戦士、D.Dアサイラント、そして、ヘリオス・トリス・メギストス!』

『う、うわああああああっ!だ、ダーツ様っ!お、お助け下さ』

 

 救いの手は差し伸べられなかった。三つ子が不死鳥を作り出し、男のライフを削り落とす。

 

『…お前の主は、助けに来なかったな。』

 

 

 

 アムナエルの実力が改めて分かった影丸康信。しかしパラディウス社の使者を倒してしまった以上、報復が来ることは明白。

 パラディウス社の報復に備え、海馬剛三郎時代に入手した防衛兵器で守りを固めたシェルターに立てこもる。

 

 建設当時、このシェルターの建造につぎ込んだ金額を知った嫁は、『何もそこまでしなくても』と呆れながら、快適に過ごせるよう内装を整えてくれた。

 

 

 立てこもってから二週間ほどは生鮮食品だったが、やがて缶詰生活となる。美食に慣れた影丸康信にとって苦痛だった。

 しかし、嫁が用意していてくれたソールズベリーステーキという、玉ねぎぐらいであまり混ぜ物をしない米国直輸入のレトルトハンバーグは、アムナエルの舌に実によくなじんだらしい。

 

 付け合わせである、温野菜のニンジンとブロッコリーとホワイトアスパラガスは毎回残していたが。

 

 

 

 

 …この時、影丸康信にとって不可解な事にパラディウス社からの報復は無かった。

 実はこの時、ダーツは邪神ゲー復活の為の計画遂行を優先していた。影丸への接触は手駒にできればそれでよし、失敗したとしても魂を回収できるという打算から仕掛けたものだ。

 

 

 ドーマが壊滅し、その派生が世界各地に飛び火。世界的な混乱期、辣腕を振るって極東アジアにおける事態の収拾を行っていた影丸康信は、ついに三幻魔の伝説にたどり着く。

 しかし、ここで多くの問題が発生した。

 

 

 三幻魔の覚醒には、多くのデュエリストの闘志が必要。だが、その島はすでに無人島。

 デュエリスト・キングダムのような大会だけでは足りない。数と質が求められた。

 

 

 そんな折、海馬瀬人が学校を作ろうとしている話を聞き、その計画に飛びついた。

 

 

『…わざわざ孤島に学園を建設するだと?』

 

 その発想と行動力から、『変人』という至極真っ当な評価を猫崎俊二にされている男も、影丸康信から出された案に当惑を隠せなかった。

 

 

 だが、カードゲームを授業のカリキュラムに取り込む専門学校設立の許可を、『前例がない』と文部科学省が難色を示し、許可を下ろさなかった事。

 孤島に学園を建設するならば、文部科学省にも根回しを行い、かつ建造に必要な資材についても多大な提供をすると言われては断り切れず。何より。

 

『この俺を利用するというならすればいい。奴の計画が明らかになったところで丸ごと乗っ取ってくれる、ワハハハ!』

 

 という思惑もあり、この計画に乗る。

 

 

 目論見通り学園は建設できたが、さらなる問題が見つかった。三幻魔を操るには精霊の力が必要。

 しかし、これについても早晩片が付く。この島には学校がある。精霊と心を通わす決闘者を入学させ、その者から奪えばいい。

 

 

 後は、獲物がかかるまで延命すればいい。

 

 

 その計画を、影丸康信は一度思い直す。

 ある日、孫娘が宣言した。

 

 

『おじい様。当方は、デュエリストとしてプロの世界に行きたい』

 

 

 三幻魔を操るための最後の鍵、遊城十代の入学。三幻魔を覚醒させるための手駒、セブンスターズを送り込む手筈も整った。

 校長が鮫島から才災に変わったが、自身の思惑通り生徒を鍵の守護者に選抜する。

 

 しかし、この渦中に光海が飛び込む。そうなれば、セブンスターズと鍵の守護者との戦いに孫娘が関わる。

 真相を伝えて鍵の守護者になる事を拒否させたとしても。三幻魔を覚醒させ遊城十代を倒した場合、孫娘の交友関係は崩壊する。大事な思春期に。

 

 

 だが、この機を逃せば不老不死は潰える。

 

 

 そんな時、思わぬ知らせが舞い込む。孫娘が不合格になった。成績が悪かったのか?権力と伝手を使って調べ上げた結果。

 アカデミアは、才災の『似非ペクト』養成校になりさがっていた。そして、その卒業生も『似非ペクト』に染まっている。

 

 

 サイバー流への対処について、海馬瀬人とペガサス会長が『猫崎』とかいう少年を使って計画を立てているようだが、そんな物に任せておけない。

 影丸康信は、計画を修正。

 

 不老不死では無く、サイバー流の『似非ペクト』を葬り去る為に、三幻魔を覚醒させる。

 

 この計画と前後して、アムナエルを通じて孫娘に真意を伝えさせた。後は、計画を実行するだけ。

 

 

 

 三幻魔は覚醒した、才災に鉄槌を下したが…。当初の計画で倒すはずだった遊城十代に敗北。

 想いを次世代に託し、老人はこの世を去る…

 

 

 はずだった。

 

 

 不老不死への妄執、今まで何でも成し遂げて来た自分が最後の最後で何も成し遂げられなかった無念が、影丸康信の魂をこの世界につなぎとめていた。

 本人の資質もあるが、一度三幻魔を手にした事による加護。

 

 

 ある世界線において…破滅の光の盟主が見通した、遊城十代を白く染め、彼を先兵とする事でアカデミアを白く染める…

 という運命の輪を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 白い光の空間で、筋骨隆々の青年と、おかっぱ頭で、鋭い目つきをした女性が対峙する。

 

「…三幻魔に縋ってまで、死が恐ろしかったか?」

「確かにそうだ。だがあの時は…サイバー流を止める一心だった。」

「残留思念よ、滅びを与えよう。恐れるな、孫娘もすぐに同じ場所に送ってやる」

 

 

 デュエルディスクを構える女性。

 殺意をたぎらせながら、影丸もデュエルディスクを構える。

 

 

「…貴様の名前はなんだ?」

「消えゆく者に名乗る必要は無い、などと野暮なことは言わぬ。我はヴァルキリア。」

「始めるぞ」

 

 だが、ヴァルキリアは待ったをかける。

 

「デュエルの前に宣言しておく。お前が勝利するには、我が幻魔を召喚した後にライフを0にしなければならない。」

「な、何だと!」

「最も、闇のアイテムで闇のゲームになればそのルールも適用されなくなるが…。」

 

 

 理不尽すぎる特殊ルールに、歯噛みする影丸。

 まずは相手のデッキの情報を、少しでもつかまなければならない。

 

「しかし、何故それを話す?」

「この能力の代償として、一度敗れた時点で話さねばならない制約があるからだ。始めるぞ。」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

影丸 ライフ4000

手5 場 

ヴァルキリア ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は譲ろう。」

「…私の先攻、ドロー!モンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

影丸 ライフ4000

手4 場 セットモンスター 伏せ1

ヴァルキリア ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「我のターン、ドロー!手札から、爆走特急ロケット・アローを特殊召喚!」

「?!こ、攻撃力5000だとっ!」

 

 

 巨大な列車が現れ、影丸の眼前に立ちはだかる。

 

 

「最も、このカードを特殊召喚するターン、我はバトルフェイズを行えない。さらに我は、このカードが場にある限り、カードの効果を発動できずカードをセットすることもできない。しかも、スタンバイフェイズに手札を全て墓地に送らねばならぬ…。我はこれでターンエンド」

「このエンドフェイズに永続罠発動!神の恵み!」

「…ターンエンドだ」

 

 

 

影丸 ライフ4000

手4 場 セットモンスター 神の恵み

ヴァルキリア ライフ4000

手5 場 爆走特急ロケット・アロー

 

 

 

「私のターン、ドロー!神の恵みでライフを500回復!」ライフ4000から4500

「残留思念になり果ててもなお、死が怖いと見える」

「何とでもいえ!魔法カード、増援を発動!デッキからレベル4以下の戦士族を手札に加える。創世者の化身を手札に加え、召喚!」

「そのモンスターを召喚したという事は…」

「私は創世者の化身の効果発動!このカードをリリースして、現れろ!創世神!」

 

 

 三幻魔を手に入れる前、影丸を支え続けたエースモンスターが最後のお勤めとばかりに、紫電を迸らせながら現れる。

 

 

「守備表示、か。妥当な判断だな」

「カードを一枚伏せ、これでターンエンドだ」

 

 

 

影丸 ライフ4500

手2 場 セットモンスター 創世神 神の恵み 伏せ1

ヴァルキリア ライフ4000

手5 場 爆走特急ロケット・アロー

 

 

 

「我のターン、ドロー!このスタンバイフェイズ、手札を全て墓地に送る。バトルだ、行けロケット・アロー!創世神を破壊せよ」

 

 

 圧倒的な火力で、創世神は粉砕される!

 

「たわいもない…むっ?」

 

 影丸の場で発動している罠カードに目を向けるヴァルキリア。

 

「罠発動!ブロークン・ブロッカー!攻撃力よりも守備力の高い守備表示モンスターが戦闘で破壊された時、デッキから同名カードを二体まで特殊召喚!」

「壁に縋るか。ターンエンドだ」

 

 

 

影丸 ライフ4500

手2 場 セットモンスター 創世神 創世神 神の恵み 

ヴァルキリア ライフ4000

手0 場 爆走特急ロケット・アロー

 

 

「…私のターン、ドロー!神の恵みで、ライフ回復!」ライフ4500から5000

「時間稼ぎしたいならすればいい。しかし、三幻魔無しのデッキで、攻撃力5000にどう立ち向かう?」

「私は、ザ・カリキュレーターを召喚!」

 

 奇妙な電卓が現れ、計算を始める。

 

 

「このカードの攻撃力は、私の場のモンスターのレベルの合計×300となる!」

「レベルの合計は18、5400?!」

「二体の創世神を攻撃表示に変更!バトルだ、ザ・カリキュレーターでロケット・アローを攻撃!」

「っつ、ロケット・アローが!」ライフ4000から3600

「二体の創世神で、ダイレクトアタック!」

 

 

 悲鳴すら残さず、ヴァルキリアは消滅する。

 

 

「…呆気なさすぎる。」

 

 

 

 突然、頭に奇妙な映像がなだれ込んだ事で、影丸は額を押さえる。

 

 ひしゃげた、車体。流れる赤い血。

 凄惨な列車事故現場のようだ。小さな、とても小さな手が映る。

 

『…パパ、ママ、タスケ…』

 

 

 

 

 影丸は困惑する。もしや、ヴァルキリアの正体は…。

 ヴァルキリアと面識は無いが、心当たりならある。

 

 幻魔を手にした事があるという共通点。

 

 

 しかし幻魔が入っているという割に、機械族とはどういうことだ?

 DNA改造手術などを使って、悪魔族に変えるのか?それとも…。

 

 

 思考をめぐらす影丸の眼前に、先ほど消滅したはずのヴァルキリアが平然と現れる。

 

 

 

「?!」

「さて、始めよう」

「…先ほどの話は本当だった、という事か」

「なるほど、信じていなかったからとどめを刺したのか…ほぅ?」

 

 

 

 ヴァルキリアが酷薄な笑みを浮かべる。

 

 

「お前の孫娘が、ようやく一仕事を果たしたようだなっ!」

「?!ま、まてっ!」

 

 

 獲物を見つけた猛禽類のごとく、白い空間に取り込まれた遊城十代に迫るヴァルキリア。

 スタートダッシュこそ遅れたが、影丸は機先を制す。

 

 

 光海への伝言を託しつつ、遊城十代を逃がすことに成功する影丸。

 ただ、脳という重要な所に敵の攻撃が掠った事が気がかりだ。

 

 

「…お前の目論見は失敗に終わったぞ」

「まぁ、良い。これも運命だろう。今日の所は不確定要素たるお前を消去するにとどめておくとしよう。」

 

 

 

 

 影丸は、戦い続けた。

 デュエルに勝つたび、映像がなだれ込んでくる。

 

 

『…これが、伝説の幻魔…!』

 

 

『け、決着ー!第37回アフリカ合衆国グランプリの優勝者が決定しました!』

 

『…優勝賞品と賞金を渡してもらう。君の不正が発覚した。証拠?それはこれから作る。そうそう、君の幻魔のカードも渡してもらおう』

 

 

 黄色の眼と、赤い口をもつ、白い靄のような塊。

 

『娘よ。我の洗礼を受け、光の使徒となってこの世界を終わらせるのだ。』

 

 

『…アフリカ合衆国デュエルリーグ運営長に、危害を加えたな…。お前はもう終わりだ。』

 

 

『ヒヒヒ!ここまで来れば、お前にも見えるだろう!運命の終幕がっ!』

『…吾輩は、運命などに屈しない。そんな…ものにっ!ドロー!甲虫装機 ダンセルを召喚!』

 

 

 断片的な映像だが、それらをつなぎ合わせ、影丸は相手の正体をほぼ把握する。

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

「…何故、諦めない?」

 

 

 どうしようもない愚か者を見るような、蔑んだ視線を向けられる影丸。

 

 

「我が、幻魔を召喚するとでも?召喚しなければ、デュエルに負けても何のペナルティも無いのに」

「……」

「それとも、我が諦めると考えているのか?愚かな、我はお前を滅ぼすという決意を固めている。」

 

 

 影丸康信は、気づいた。気づいてしまった。

 

 列車事故で家族を失い、そこからデュエルモンスターズの世界大会で優勝するも、その大会運営者に嵌められ、再び失意の底に落ちた。

 身勝手な『人類』という種族そのものに失望し、破滅の光の手を取り、不老不死となった女。

 

 おそらくこの世界の住人では無く、並行世界の住人なのだろう。アフリカ合衆国などという国家は、この世界に無い。

 

 

 

 この女は、自分だ。不老不死を手に入れてしまった、自分自身。

 仮に、自分が三幻魔で不老不死になれば、他の権力者達が嗅ぎつけて奪おうとする。

 一度手にした不老不死を、自分が手放せるわけが無い。幻魔を奪われ、失意の底に落ちれば、破滅の光が持ち掛ける提案を間違いなく飲むだろう。

 

 

 ようやく、ようやく影丸は気づいた。

 人格が変質しない不老不死などありえないという事を。

 

 思い返せば、自分自身幼少期、青年期、老年期で趣味や生き方、考え方などは変化している。

 

 

 あの日、祖父が死んだあの日から…自分はありえない物を追い求め続けていた。

 

 

 

 もう何度目かわからぬデュエルが、始まる。

 意識が朦朧とする中、限界を迎えつつある影丸はそれでも立ち向かう。

 この『自分自身』を止めるのが、自分の最期の義務だから。

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

影丸 ライフ4000

手5 場 

ヴァルキリア ライフ4000

手5 場 

 

 

 

 

「…私の先攻、ドロー。フィールド魔法、死皇帝の陵墓を発動。ライフを2000払い、守護天使ジャンヌを召喚。」ライフ4000から2000

「そいつか」

 

 団結の力と魔導師の力を装備し、伏せカードまで追加された事で攻撃力が5100になり、何度も列車モンスターを戦闘破壊された結果、到底削り落とせないライフになり…。

 先ほどのデュエルでそのまま押し切られたヴァルキリアは、ジャンヌを睨みつける。

 

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

 

影丸 ライフ2000

手3 場 守護天使ジャンヌ 死皇帝の陵墓 伏せ1

ヴァルキリア ライフ4000

手5 場 

 

 

「我のターン、ドロー!カードを2枚伏せる。ターンエンドだ」

 

 

 

 

影丸 ライフ2000

手3 場 守護天使ジャンヌ 死皇帝の陵墓 伏せ1

ヴァルキリア ライフ4000

手4 場 伏せ2

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、トレード・インを発動。手札のガーディアン・オブ・オーダーを捨てて二枚ドロー!創世者の化身を召喚!このカードをリリースして、手札より創世神を特殊召喚!」

「攻撃表示だと?」

「永続魔法、生還の宝札を発動!創世神の効果発動!墓地のガーディアン・オブ・オーダーを選択!手札の死皇帝の陵墓を捨て、墓地から特殊召喚!生還の宝札で一枚ドロー!」

 

 

 引いたカードを見つめる影丸は、躊躇ったのちにバトルフェイズに入る。

 

 

「バトルだ!行け、守護天使ジャンヌ!ダイレクトアタック!」

「手札から、除雪機関車ハッスル・ラッセルの効果発動!相手モンスターが直接攻撃を宣言した時に発動!このカードを手札から特殊召喚し、我の場の魔法・罠カードを全て破壊し、一枚につき200ポイントのダメージを与える!」

「400のダメージか」

「ここで、除雪機関車ハッスル・ラッセルの効果にチェーンして、永続罠、メタル・リフレクト・スライムを2枚発動。我の場に守備表示で特殊召喚」

「そんな事をしても…?!な、何故破壊されない!」

 

 ヴァルキリアを守るように立ち並ぶ壁モンスターたち。

 

「メタル・リフレクト・スライムはモンスターゾーンに出ているため、ハッスル・ラッセルの効果の外だ」

「…ターンエンドだ」

 

 

 

 

 

影丸 ライフ2000

手1 場 守護天使ジャンヌ 創世神 ガーディアン・オブ・オーダー 死皇帝の陵墓 生還の宝札 伏せ1

ヴァルキリア ライフ4000

手3 場 除雪機関車ハッスル・ラッセル メタル・リフレクト・スライム メタル・リフレクト・スライム 

 

 

「我のターン、ドロー!速攻魔法、サイクロンを発動!その伏せカードを破壊する。」

「ドレインシールドが…」

「これで、これで懸念事項は消え去った。我は融合を発動!レベル10の除雪機関車ハッスル・ラッセルと、メタル・リフレクト・スライム2体を融合する!」

「何だと!」

 

 思わぬカードに驚く影丸。

 

 

「現れよ、幻魔帝トリロジーグ!」

「幻魔の融合モンスターだとっ!」

「これこそ、我が持つ幻魔!効果発動!特殊召喚成功時、相手モンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを与える!我は、守護天使ジャンヌを選択!」

「があああああっ!」ライフ2000から600

 

 

 まさかの融合モンスターの幻魔に、影丸は一気に追い詰められる。

 

 

「お前のデッキは、死皇帝の陵墓と創世神を用いて大型モンスターを展開するデッキ。お前のデッキに手札誘発モンスターは皆無!行け、幻魔帝トリロジーグ!創世神を攻撃!」

 

 

 これを防ぐ術はない。影丸の戦意が薄れていく。

 一方、創世神はそんな影丸をかばうように前に出て、壁となる。

 

 

 勝利に導くことも、敗北から救う事も出来ない以上、死に場所ぐらいは選びたかったからだ。

 そんな主従の想いを、幻魔帝は容赦なく打ち砕く!

 

 

「ぐ、がああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 ライフが尽き、足元から消えていく影丸。

 影丸の消滅を見届けたヴァルキリアは、酷薄な笑みを浮かべる。

 

「これで不確定要素は消えた。遊城十代を洗脳して手駒にできれば最善だったが、我の一撃を受けた以上、デュエリストとしては再起不能。」

 

 ヴァルキリアは報告するため、その場を去る。

 




 遊戯王SSのストーリーにおける、影丸が幻魔を特殊召喚した後勝利しなければならない、という特殊ルールが相手の能力の元ネタです。
 ゲームでは割とさっさと出してくれますが、対人戦でこのルールだとこういうチキンプレイされたらどうしようもない気がします。


 影丸と海馬コーポレーションとの関係について、だいぶねつ造設定を入れました。
 剛三郎と影丸をダーツの下へ案内した使者とその後の会談、アムナエルVSドーマの使者などその最たるものです。


 影丸自身の目的についても、アニメと変えています。
 もう一度青春を取り戻したかったから~というのがアニメでの理由でしたが、拙作では若い時から不老不死を追い求めていたという設定にしています。




 影丸理事長と海馬瀬人の関係について。

 三幻魔の言い伝えが古くからある孤島に学園を海馬瀬人が建設した理由として、影丸の意向があった為と推測しています。
 学校建設時の根回しを影丸が助け、学園を建設するに際し色々と根回しする代わりに孤島に建てろ、と言う条件を海馬が受け入れた、というのがアカデミアを孤島に建設した経緯なのではないか?と思います。

 そうでなければ、わざわざ孤島に全寮制の学校を築かないかと。資材の運搬とか考えたらわりに合わない気がします。
 ドミノ街に作った方が安上がりでしょう。


 最も、あの海馬社長が誰かの思惑通りに動くか?といわれるとちょっと詰まってしまいます。ただそうなると…
 

 Q:何故三幻魔の言い伝えがある孤島にアカデミアを建設したのですか?
 A:海馬社長だからです。


 という結論になってしまいます。こちらの方がしっくりくる?ごもっとも…。






 創世神

 死からの逃避を追い求め続けた男が、デュエルモンスターズと出会った際に切り札としたモンスター。
 不老不死へのアプローチと共に、死者蘇生を求めていた男にとってこのカードは理想的な切り札だった。

 長らくその男がデュエルする時にはその高い守備力で時間を稼ぎ、逆転への道筋を作り続けた。

 その男が念願の三幻魔を手に入れ、そのための専用デッキを構築した時点でこのモンスターの居場所は無くなった。
 だが、それでも。

 最も自らを長く使ってくれた男の為、このモンスターは残留思念となった男の下へ、はせ参じた。
 自分の声を聴くことも出来ない男。だが、そんな事はこのモンスターにとって行動しない理由にはならなかった。


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第37話!虎之井の末路と、アイドル養成コース

オベリスクブルーの出席率は割とシビアなイメージがあります。
ただ、それでもサボタージュされたアニメの佐藤先生の授業がどれだけ『アレ』な内容なのかが少し気になります。

今更ですが、アイドル養成コースをアカデミアでやったとしてうまくいくかというとかなり疑問です。なにせ孤島で全寮制の学校に通っている生徒なのですから。



 エド・フェニックスが来ていないのに、十代がカードを見れなくなった。

 そして、アムナエルの研究施設に残っていた資料とエメラルド・タブレットを使って自己学習を始めた。

 

 実技が出来ない分、それ以外の事について出来る事をしっかり始めた。

 俊二としては訳が分からない展開だ。エドの動向を気にかけていたのだが…。

 

「…という訳で、十代君の様子がおかしいの。」

「カードが見えない、という事は色覚検査をしてみてはどうでしょう?」

「鮎川先生が試したわ。正常だって。」

「…しばらく、実技については行わせないという方針で行きます。」

 

 

 破滅の光が、エド以外の人間を使って十代を洗脳しようとしたのか?そう猫崎俊二は考える。

 それにしても、急に錬金術の勉強を始めるとはどういうことだ?心境の変化でもあったのだろうが…。

 

 

 職員会議の召集がかかり、俊二と響先生は会議室へ向かう。

 

 

 

「ウオッホン!本日はアイドル養成コースの設立について、議論したいのでアール!」

「あ、アイドル養成コースですか?」

 

 ついに来たか。と思う俊二。最も顔には出さない。

 

「デュエルも出来るアイドル、アイドルプロデュエリストの育成でアール!これならば、才災前校長により下がった評判を上げる事が出来るのでアール!」

 

 まぁ、現状維持ではじり貧でしかない。しかしこれは…。

 

 

「クロノス新校長、発言をしても?」

「構わないノーネ、シニョーラ我謝」

 

 猫崎の故郷、犬上村での風習に理解を示し旧姓で呼ぶクロノス新校長。

 

 

「ナポレオン教頭、アイドル養成という事ですが…。歌やダンス、演技力やトークを誰が指導するのでしょうか?」

「な、ナヌ?」

「音響施設も必要になりますが…。そこから議論するという事で宜しいでしょうか?」

「う、ウム。その通りなのでアール」

「では僭越ながら、このCDをお聞きください。」

「な、何なノーネ?」

 

 流れたのは、若い女性が歌っている曲だ。

 教員は一体誰?と目配せするも誰も知らないらしい。

 

「以上です。」

「い、一体誰なのでアール?マダム猫崎。」

「寒川理恵子。私の友人です。彼女はアイドルデュエリストを目指していました。これはデビュー時のCDです。どう思われましたか?ナポレオン教頭?」

「な、中々上手いと思うのでアール。」

 

「うむ、初めて聞きましたーガ、上手いと思うノーネ。」

「このCDは4枚しか売れませんでした。」

「マンマミーア!」

 

「アイドルになるために、才能のある女性が最高の教育を受けて努力を重ねたとしても、報われない事なんてざらの世界。それが、アイドルです。そこに生徒を送り込むというなら、教職員にも相応の覚悟が必要です。」

 

 

 敢えて厳しい事を言う我謝透子。犬上村では、女性の手が綺麗だと仕事をしていない怠け者、と思われる。

 最初に彼女を見た時は怠け者だと思った我謝だったが、理恵子が懸命に努力している姿を見てからその活動を応援するようになり、理恵子もまた友人として接してくれるようになった。

 

 そのため、夢破れて失意のどん底に落ちた姿を、我謝透子は忘れられない。

 

 

「今は、千里眼グループのアジア総局、極東支部にて受付嬢をしているとか…。僭越でしたね、この話を持ち出す時点で、既に覚悟は出来ているでしょうから。ではその上で、生徒はリストアップされていますか?」

「も、もちろんでアール!」

「…確認しました。では、この話を彼女らにしてもかまいませんね?ただ憧れで踏み入れていい世界では無いので。」

 

 

 

 その後は、いくつかの議題や提示報告、各授業の進捗状況を確認して会議は終わる。

 

 

「そうそう、ムッシュ猫崎。」

「何でしょう?」

「虎之井をラーイエローに格下げさせるでアール。」

「そうですか。」

「吾輩は忙しいので、ムッシュ猫崎から伝えておいてもらいたいのでアール。」

 

 嫌な役目を押し付けられたが、相手の方が立場が上な為、俊二は従う。

 

「わかりました。しかし、何故降格に?」

「ムッシュ虎之井はデュエルエリート。吾輩も降格させたくは無かったのでアールが…出席率がオベリスクブルーのラインを下回った以上仕方ないのでアール。まぁ、ラストチャンスとして…オシリスレッドの生徒とデュエルさせるでアール。」

「では、そのオシリスレッドの生徒が虎之井に勝ったらどうします?」

「ナヌ?」

「ラーイエローへの昇格を許してもいいと思っている生徒が居ます。」

「…まぁ、認めるでアール。」

 

 

 ティラノ剣山がレッド寮に居候した事でやや人数に偏りが出来てしまっている。

 オシリスレッドの一年、木下を連れて俊二は歩く。

 

「あの、猫崎先生。俺、何かやらかしましたか?」

「逆だ。昇格の話が出ている。このデュエルに勝てば、ラーイエローに昇格だ。」

「?!俺が、ラーイエローに!ううっ、筆記試験の時、残り時間後5分で解答欄がズレていたことに気づいて慌てて修正したけど間に合わなくて…」

「高い授業料だったな。」

「はいっ!」

 

 前世の試験で、マークシートが一つズレていた事で大慌てで修正した経験がある俊二は、木下の気持ちがよくわかる。

 こういう経験を経て、人は成長する。

 

 

 

 デュエルアカデミアの購買部。

 

「虎之井」

「?!な、なんだ。何の用だ!」

 

 虎之井の周りには誰もいなかった。

 

 

「…場所を変える。ついてこい」

「嫌だ!ここで話せよ!」

 

 相手が虎之井で無ければ、俊二は目上の人に対する礼儀について指摘したが…。さっさと話を進める事にした。

 

 

「ナポレオン教頭から伝言だ。お前をラーイエローに降格する」

「?!お、おお俺が降格!?ふ、ふざけんな!」

「出席率がオベリスクブルーの基準を下回った。」

「う、嘘だ!」

「オベリスクブルーはデュエルエリートの寮。授業への出席率は重要な指標になっている。そして月一試験でラーイエローに負けた。温情としてオシリスレッドの木下とデュエルして勝てば、降格は無しだ。」

「オベリスクブルーの俺に、オシリスレッドとデュエルしろというのか!」

「別に受けなくてもいいぞ。その場合問答無用でラーイエローに格下げになるだけだ。」

 

 

 虎之井は周りを見渡す。

 五階堂は目をそらし、ティラノ剣山は手元の雑誌に目を落とす。

 

 

「ぐっ…おい、オシリスレッド!お前俺に勝てると思っているのか!」

「確かに勝算は低いかもしれない。それでも、俺は俺の出来る事をするだけだ!いくぞ!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

虎之井 ライフ4000

手5 場 

木下 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺は魔法カード、おろかな埋葬を発動!デッキから人造人間-サイコ・ショッカーを墓地に送る!」

「フン…オシリスレッドの分際でいいカードを持っているな。だが折角のレアカードを墓地に送るような使い方をするなら、お前が持っていても意味ないだろう。」

「なんだと!」

「俺が勝ったら、そいつを俺に譲れ!」

 

 身勝手な事を言う虎之井。

 

「そもそもアンティルールを俺は認めていない。そしてアンティルールを宣言するならデュエル前だ。」

「アンティでは無い!譲ってもらうだけだ!それの何が悪い!」

 

 目を開けたまま妄言を垂れ流す虎之井に、木下が怒る。

 

 

「ふ、ふざけるなっ!俺はモンスターをセット!カードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」

 

 

 

 虎之井は、こういう所があった。強者にへつらい、弱者から奪う。

 中等部のころは知らなかった五階堂はこのことを今更ながら知り、剣山もこの手の輩は嫌いなため距離を置くようになった。

 

 

 

虎之井 ライフ4000

手5 場 

木下 ライフ4000

手3 場 セットモンスター 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、サイクロンを発動!その伏せカードを破壊するぜ!」

「サイクロンにチェーンして永続罠発動!リビングデッドの呼び声!これで墓地の人造人間-サイコ・ショッカーを特殊召喚!」

「馬鹿が!リビングデッドの呼び声が破壊されたら特殊召喚したモンスターも破壊されるんだよ!」

「それはどうかな?」

「何っ!ば、馬鹿な!どうしてサイコ・ショッカーが破壊されない…!」

 

 

 ある授業の終わり際。リビングデッドの呼び声とサイクロンの処理について質問を受けたことで、俊二は懇切丁寧に説明していた。

『リビングデッドの呼び声にチェーンしてサイクロンを発動した場合は、サイクロンの処理が行われてリビングデッドの呼び声を破壊する処理が行われる為、モンスターの特殊召喚は行われない。逆に、サイクロンにチェーンしてリビングデッドの呼び声を発動した場合、リビングデッドの呼び声の処理が行われてモンスターが特殊召喚される。』

 

『そして、リビングデッドの呼び声でサイコ・ショッカーを特殊召喚した場合、罠カードの効果が無効になるためリビングデッドの呼び声が破壊されてもサイコ・ショッカーは場に残る。最も、サイコ・ショッカーが破壊された場合、リビングデッドの呼び声も破壊されてしまう。この二枚のカードをデッキに入れてる生徒は覚えておくように。今回の月一試験では出さないが。』

 

 だが、サボっている虎之井は聞いていない。

 

 

「フン、俺は光神機-桜花をリリース無しで召喚!」

「攻撃力、2400!」

「バトルだ!行け、桜花!サイコ・ショッカーを叩き潰せ!」

「くっ?!サイコ・ショッカーが!」

 

「ざまぁみろ!俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

虎之井 ライフ4000

手2 場 伏せ2

木下 ライフ4000

手3 場 セットモンスター 

 

 

「や、やっぱりオベリスクブルーは強い…俺のターン、ドロー。」

「永続罠発動!スキルドレイン!ライフを1000払って発動!これで場のモンスター効果は無効になる!」ライフ4000から3000

「も、モンスター効果まで封じて来た…。なら、忍犬ワンダードッグを召喚!バトルだ、ワンダードッグでダイレクトアタック!」

「くそっ!」ライフ3000から1200

 

「メインフェイズ2だ。僕はカードを一枚伏せる。俺はこれでターンエンドだ!」

 

 

 

虎之井 ライフ1200

手2 場 スキルドレイン 伏せ1

木下 ライフ4000

手2 場 セットモンスター 忍犬ワンダードッグ 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、増援を発動!俺はデッキからゴブリン突撃部隊を手札に加え、召喚!」

「攻撃力2300!」

「バトルだ、ゴブリン突撃部隊で忍犬ワンダードッグを攻撃!」

「ならば、攻撃宣言時に罠発動!砂塵の大竜巻!俺はスキルドレインを破壊する!」

「ここで発動して何になるっていうんだ、オシリスレッド!」

「ぐっ!」ライフ4000から3500

 

 粉砕されるワンダードッグ。

 木下の狙いは、ゴブリン突撃部隊のデメリット効果を発動させることだろうが…。

 

「だが、これでゴブリン突撃部隊のデメリット効果が発動する!」

「くそっ、ゴブリン突撃部隊が守備表示に…。なると思ったかぁ、オシリスレッドぉ!!永続罠発動!最終突撃命令!」

「?!」

「とろいんだよ、オシリスレッド!どうだ猫崎!ごちゃごちゃ言っていたが、この二種類を同時に採用すればこういうアフターケアが出来るんだよ!ターンエンドだ!」

 

 そういう方向性について指導していたが、それを拒絶したのは虎之井の方だ。

 

 

虎之井 ライフ1200

手2 場 ゴブリン突撃部隊 最終突撃命令 

木下 ライフ3500

手2 場 セットモンスター 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はセットしていたメデューサ・ワームを反転召喚!効果発動、お前のゴブリン突撃部隊を破壊する!」

「な、なんだと!」

「そして、激昂のミノタウルスを召喚!」

「あ、ああ…嘘だ、こんなはずが無い…」

「バトル!激昂のミノタウルスで、ダイレクトアタック!」

「うわああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 ライフが尽きた虎之井は茫然とする。

 

「俺が負けた?オシリスレッドの落ちこぼれに…」

 

 

 虎之井は周りを見渡す。

 

 

『オシリスレッドに負けたぞ、オベリスクブルーの面汚し』

『あいつはもうダメだな』

『とっとと辞めちまえ!』

 

 

 同情的な視線は一つもない。虎之井は既に嫌われていた。

 視線に耐え切れず、虎之井は逃げ出す。

 

 

 

 

 

「おめでとう、これでラーイエローに昇格だ」

「や、やっとあの環境から抜け出せる!」

 

 

 俊二は歩き始める。とりあえず、クロノス新校長に報告して、その後は…。

 歩いている俊二は、騒動が起きていることに気づく。これは…

 

 

 

「た、助けてくれなのでアール!」

「待ちなさい、ナポレオン教頭っ!話が全然違う!天上院明日香さんも胡蝶蘭さんも、アイドル養成コースに入りたいと一言も言っていない、寝耳に水との事です!私を騙そうとしましたね、このすくたれ者!」

 

 ナポレオン教頭を、透子義姉さんと明日香が追いかけている。

 あーあ、こうなったか。という感想しか湧いてこない俊二。

 すくたれ者は、犬上村だとかなりひどい罵倒である。いじめられていた俊二でさえ、すくたれ者呼ばわりされた事は数えるぐらいしかない。

 

「自分の手柄にしたいから、アイドル養成コースに参加したいという女子生徒をリストアップし、実際に立ち上げて後は流れに任せてアイドルデビューすればそれでよし…と言った所ですか?」

「な、何故知っているのでアール!」

「やっぱりそうですか!戦に必要な生徒という戦力も、それを指導する環境という機動力もない状態で、アイドル養成コースを立ち上げるという決断をして何が出来るのですか!」

 

 

 はて?戦に必要な三つの力云々は、クロノス新校長とナポレオン教頭とのデュエルで語ったはずだが…。どうやら透子義姉さんに既に話したことがあるらしい。

 

 

 

 

「そこまでだ」

「む、ムッシュ猫崎!そこをどくのでアール!」

「木下が虎之井に勝ちました。虎之井をラーイエローに降格、木下をラーイエローに昇格という事でよろしいですね?」

「認めるのでアール!だからそこを」

 

 

「俊二!そのまま押さえておいて!」

「ぬぬ…こ、こうなったら!ムッシュ猫崎!吾輩とデュエルでアール!」

「俺と?」

 

 

「吾輩が勝てば、アイドル養成コースをスタートする事に協力してもらうのでアール!」

「つまり、透子義姉さんと天上院さんと胡蝶さんを説得しろと?」

「その通りでアール!」

 

 

 厄介ごとをまとめて押し付けられてはたまらない。そういう条件を持ち出すなら、こちらも相応の物を求めさせてもらう。

 

「俺が勝ったらアイドル養成コースは諦めてもらう。案は良いが、人員も資材も時間も何もかも足りない以上、今は優先すべき時では無い」

 

 

 

 

 互いに距離を取り、デュエルディスクを構える。

 追いついた女性陣二人はそれを見守る。

 

 

「我謝さん、どっちが勝つと思いますか?」

「俊二が勝つと思うけれど、ナポレオン教頭は優秀よ。」

 

 

 トイ・エンペラーは割と面倒な効果があるが、罠カードが中心。攻撃力でも上回り、罠カードを封殺できるナチュル・パルキオンを出せれば押し切れる。

 そう思っていた俊二だが…

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

ナポレオン ライフ4000

手5 場 

俊二 ライフ4000

手5 場 

 

 

「吾輩の先攻、ドロー!吾輩はマシンナーズ・ギアフレームを召喚!効果発動、デッキからマシンナーズモンスターを手札に加えるのでアール!」

「?!【マシンナーズ】デッキか!」

「知っているなら話は早いでアール!マシンナーズ・フォートレスを手札に加え、手札のマシンナーズ・スナイパーとフォートレスを捨てて、墓地からマシンナーズ・フォートレスを特殊召喚!」

 

 出て来たのは攻撃力2500の機械族!

 前世ではこれを主軸に置いたデッキを使っていた俊二はその優秀さを知っている。

 

 

「…戦闘破壊されれば相手モンスターを破壊し、モンスター効果の対象になれば相手の手札を確認して捨てさせ、さらに手札の機械族をレベル8以上になるよう捨てる事で、墓地から特殊召喚できる優秀なモンスター…。」

 

 マシンナーズを使うとは思っていなかった俊二は目を見開く。

 

「ヌフフ、S召喚のテスターと言うが、吾輩を象徴するような優秀なモンスターには驚いたようでアール。吾輩はギアフレームの効果発動!フォートレスに装備させるのでアール!!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

ナポレオン ライフ4000

手3 場 マシンナーズ・フォートレス ギアフレーム 伏せ1

俊二 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!モンスターをセット!カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

 

ナポレオン ライフ4000

手3 場 マシンナーズ・フォートレス ギアフレーム 伏せ1

俊二 ライフ4000

手4 場 セットモンスター 伏せ1

 

 

「ヌフフ、ムッシュ猫崎。そのセットモンスターは、ライトロードハンター ライコウでアール?」

「……」

「図星でアール?ヌフフ、吾輩のターン、ドロー!吾輩はマシンナーズ・ソルジャーを召喚!バトル!マシンナーズ・ソルジャーでセットモンスターを攻撃!」

「墓守の偵察者だ。守備力は2000、反射ダメージを受けてもらう」

「ヌヌ?!」ライフ4000から3600

 

 

 思わぬ反射ダメージを受けるナポレオン教頭。

 表側表示になったモンスターを見て、明日香が反応する。

 

「墓守…」

「どうしたの?」

「いえ、ちょっと。墓守にはいい思い出が無くて…」

「ああ。グールズの被害者だったかしら?」

「いえ、そういうのでは無いのですが。」

 

 墓守に思う所があるという感じから、グールズ絡みと思う透子だが、明日香の事情は違う。

 課外授業に参加したら生きたままミイラにされかけそうになれば、どれほど温厚な人でも、そのテーマに対し好意的な反応は示さないだろう。

 

 

 

 

「墓守の偵察者の効果発動!デッキから墓守の番兵を守備表示で特殊召喚!」

「ヌヘヘ、墓守の番兵はリバースしてこそ効果を発揮する。そんな使い方ではただの壁モンスターなのでアール!」

 

 そう言われる俊二だが、このデッキには墓守の偵察者は2枚、番兵はピンで採用している。

 前世にて、『出張パーツとして偵察者を3積みするより、偵察者を2枚にして一枚番兵にしておくと、偵察者の効果で偵察者を引っ張ってきた後でも、その後番兵を引いた場合単体で役に立つ』

 と教えられた時から、出張パーツとしてはこういう形で用いている。

 

 手札に偵察者がダブった場合でも、墓守の番兵という壁を出してくれるため、このように最低限の役割は果たせる。

 

 

「マシンナーズ・フォートレスよ!墓守の番兵を蹴散らすのでアール!」

 

 蹴散らされる番兵。

 

「吾輩はこれでターンエンドでアール」

 

 

 

 

ナポレオン ライフ3600

手3 場 マシンナーズ・フォートレス ソルジャー ギアフレーム 伏せ1

俊二 ライフ4000

手4 場 偵察者 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、サイクロンを発動!伏せカードを破壊する!」

「ヌヌ、ゲットライドが…」

「俺はレスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキからライトロードハンター ライコウとX-セイバーエアベルンを特殊召喚!レベル2のライコウに、レベル3のエアベルンをチューニング!S召喚!A・O・Jカタストル!」

「こ、これがS召喚…。」

 

 

 目を見張るナポレオン教頭。

 

 

「カタストルが闇属性以外のモンスターと戦闘を行うとき、ダメージ計算を行わずに相手モンスターを破壊する。最も、マシンナーズ・フォートレスにはユニオンモンスター、ギアフレームが装備されている。このまま攻撃したところで、ギアフレームが身代わりとなり、フォートレスの方が攻撃力が高いため、カタストルの方が破壊される」

「フン、それなら恐れるに足りないのでアール!」

「俺は墓地の光属性のライコウと、闇属性の墓守の番兵を除外!現れろ、カオスソルジャー開闢の使者!」

「な、ナヌー?!」

 

 

 思わぬカードが出て来たことで、ナポレオン教頭は動揺する!

 

 

「あれが、デュエルモンスターズの戦士族で最強とうたわれた、開闢の使者…」

「開闢?!俊二先生はいつの間に…。」

 

 素封家の娘である透子も、実物を見るのは初めてであり、そのデザインに目を見張る。

 明日香は武藤遊戯さんのデッキで実物を見ているため、所持していることに驚く。

 

 

「俺はカードを一枚伏せ、開闢の使者の効果発動!フォートレスを除外する!」

「だが、フォートレスがモンスター効果の対象になったことで効果発動!ムッシュ猫崎の手札を確認して、一枚捨てさせるのでアール!」

「墓守の偵察者だ。」

「ヌ?偵察者が二枚来ていたのでアール?何故偵察者を三積みしていないのでアール?」

 

 

 かつてはそう考えていた俊二としては、ナポレオンの疑問もわかる。

 出張パーツとして、墓守の偵察者を何も考えずに三積みしていた時期が、俊二にはあった。

 

 

「効果を使用したターン、開闢は攻撃出来ない。墓守の偵察者を攻撃表示に変更。バトル!カタストルでマシンナーズ・ソルジャーを攻撃!効果発動、マシンナーズ・ソルジャーを破壊!」

「グヌヌ…」

「墓守の偵察者でダイレクトアタック!」

「ヌウウウッ」ライフ3600から2400

「ターンエンド!」

 

 

 

ナポレオン ライフ2400

手3 場 

俊二 ライフ4000

手0 場 偵察者 開闢 カタストル 伏せ2

 

 

「ま、まだでアール!吾輩のターン、ドロー!吾輩はマシンナーズ・ギアフレームを召喚!効果発動、デッキから二枚目のマシンナーズ・フォートレスを手札に加える!そして、手札のマシンナーズ・ディフェンダーとフォートレスを捨て、墓地よりフォートレスを特殊召喚!」

「罠発動!奈落の落とし穴!フォートレスを破壊して除外する!」

「ナヌー?!」

 

 

「ぬ、ぬううううっ、バトル!ギアフレームよ、墓守の偵察者を攻撃!」

「…600のダメージを受ける」ライフ4000から3400

「ターンエンドでアール…」

 

 

 

ナポレオン ライフ2400

手2 場 ギアフレーム

俊二 ライフ3400

手0 場 開闢 カタストル 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ、開闢の使者で、ギアフレームを攻撃!」

「ヌウウウウウッ!」ライフ2400から1200

「モンスターを戦闘で破壊した事で、開闢の使者の効果発動!もう一度攻撃できる!開闢の使者で、ダイレクトアタック!」

「わ、吾輩の辞書に敗北などという言葉は~!」ライフ0

 

 

 ライフが尽きるナポレオン教頭。

 しばし茫然としていたが、ややあって再起動。性懲りもなく喚きだす。 

 

 

 

「な、納得できないのでアール!」

「何が?開闢の使者と奈落の落とし穴という、除去カードを使ったからリスペクト精神が無いとでも?」

「そんな戯言など、口が裂けても言わないのでアール!吾輩はS召喚が出来ないのに、そちらだけ使うのは卑怯なのでアール!」

「…そういう事なら生徒に指導するために構築した、このデッキを使います。」

 

 別のデッキを装着し、エクストラデッキのSモンスターを回収する俊二。

 

 

「今度こそ、吾輩が勝つのでアール!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

ナポレオン ライフ4000

手5 場 

俊二 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

 

「先攻は譲るのでアール!」

「俺の先攻、ドロー!俺は魔法カード、増援を発動!デッキからレベル4以下の戦士族を手札に加える。ゴブリン突撃部隊を手札に加え、召喚!」

「フン、やられ専門のモンスターでアル」

 

 レベル4で攻撃力2300、割と優秀な戦士族なのだが、すっかりやられ役としての立ち位置がついてしまったモンスターだ。

 

 

「俺はカードを二枚伏せ、ターンエンド」

 

 

ナポレオン ライフ4000

手5 場 

俊二 ライフ4000

手3 場 ゴブリン突撃部隊 伏せ2

 

 

「フン、見え透いた戦術でアール!吾輩のターン、ドロー!吾輩はマシンナーズ・ソルジャーを召喚!効果発動!」

「その効果にチェーンして、ライフを1000払い、永続罠、スキルドレインを発動。」ライフ4000から3000

「お見通しなのでアール!速攻魔法、サイクロン!スキルドレインを破壊するのでアール!」

「…チェーンは無い」

 

「ならば逆順処理!サイクロンの効果でスキルドレインが破壊され、吾輩のマシンナーズ・ソルジャーの効果が発動するのでアール!現れるのでアール、マシンナーズ・フォートレス!バトル!マシンナーズ・フォートレスでゴブリン突撃部隊を攻撃!」

「リバースカードオープン!収縮!これでフォートレスの攻撃力を2500から1250にする!」

「ぬうううっ!だが、戦闘で破壊されたフォートレスの効果発動!ゴブリン突撃部隊を破壊するのでアール!」ライフ4000から2950

 

「突破されたか」

「マシンナーズ・ソルジャーでダイレクトアタック!」

「っつ!」ライフ3000から1400

「吾輩はメインフェイズ2に入り、カードを一枚伏せてターンエンドでアール!」

 

 

 

ナポレオン ライフ2950

手2 場 ソルジャー 伏せ1

俊二 ライフ1400

手3 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!可変機獣ガンナードラゴンをリリース無しで召喚する。最も、攻撃力と守備力は半分になるが」

「フン、なら裏側守備表示で出せばいい物を」

「こうする必要がある。カードを二枚伏せてターンエンド」

 

 

 

 そのプレイングを見て、外野の女性陣が反応する。

 

「あれって…」

「あまりにも見え透いている。十中八九、スキルドレイン…でも。」

「我謝さん?」

「そう思わせるのが、俊二の狙いなのかもしれないわ。いずれにせよ、答えはすぐに明らかになる」

 

 

 

ナポレオン ライフ2950

手2 場 ソルジャー 伏せ1

俊二 ライフ1400

手1 場 ガンナードラゴン 伏せ2

 

 

「フン、二枚目のスキルドレインでアルか。吾輩のターン、ドロー!ヌフフ…吾輩はマシンナーズ・ソルジャーを守備表示に変更。カードを一枚伏せ、ターンエンドでアール。」

「ならエンドフェイズにリバースカードオープン。月の書!場のガンナードラゴンを裏側守備表示にする」

「ナヌ?!」

 

 

 

ナポレオン ライフ2950

手2 場 ソルジャー 伏せ2

俊二 ライフ1400

手1 場 セットモンスター 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!永続罠、最終突撃命令を発動!場のモンスターは全て攻撃表示になる!」

「スキルドレインでは無かったのでアール?!」

 

 

 素っ頓狂な声を上げるナポレオン教頭。

 スキルドレインと判断し、手札のマシンナーズ・ギアフレームを召喚せず、墓地のフォートレスを蘇生させるためのコストにしようと温存していたのだが…。

 

 

「妥協召喚して攻撃力が半減するモンスターを、わざわざ攻撃表示で召喚。そして伏せカード。誰だってスキルドレインなどの効果を無効にするカードだと判断する。いくぞ、魔法カード、大嵐を発動!場の魔法・罠カードを全て破壊!」

「ぐうっ!炸裂装甲と、リビングデッドの呼び声が!」

「そしてガンナードラゴンを反転召喚!さらに、ゴブリンエリート部隊を通常召喚!バトルだ、行け、ガンナードラゴン!マシンナーズ・ソルジャーを攻撃!」

「ぐううううっ!」ライフ2950から1750

「ゴブリンエリート部隊で、ダイレクトアタック!」

「わ、吾輩が二度も敗れるとは~!」ライフ0

 

 

 

 

 

 虎之井が【最終突撃命令】と【スキルドレイン】の混成デッキを使っていた事で、俊二はこの二つを採用したデッキならば、生徒の実力を測るデッキとしてちょうどいいのではないか?と思って構築した。

 

 モンスター効果を多用する生徒にとって、【スキルドレイン】は致命的。守りを固めて反射ダメージでの勝利を狙う生徒なら【最終突撃命令】は天敵。

 故に両方使うなら、生徒に合わせて教員側がプレイングを心がければ、調整用デッキとして最適になるという考えだ。

 

 

 手札事故を考えて、最終突撃命令は2枚、スキルドレインも2枚。その上で、バルバロスとガンナードラゴンと言った妥協召喚モンスターと、ゴブリン突撃部隊やエリート部隊と言ったデメリットアタッカーを投入。ただ、展開札が足りないのでサイバー・ドラゴンを2枚、不屈闘士レイレイなどの獣戦士族も入れているため、ピンで獣神機王バルバロスUrも採用。

 禁じられた聖杯はサイコショッカーなりお触れを使われた時でも戦えるように三積み。打点負けした時用に、収縮と巨大化もピン刺し。

 

 月の書もピンで入れておいた。ミラフォを躱せるし、今回のように妥協召喚モンスターに使って反転召喚して打点を戻すという手が使えるし、優秀な妨害札だからだ。

 

 ネックはコントロール奪取だ。スキルドレインを発動してバルバロスを出して3000打点。このままターンエンドして、バルバロスを奪われて攻撃されたら終わる。

 賄賂やら永続罠を守るカードを入れた結果、攻撃反応罠を入れる枠が足りなくなった。デッキ枚数を増やせば解決はするが、40枚に絞るように言われている。

 

 こういう時に相談出来る相手が前世にはいたが、今は居ない。

 

 

 光里に相談したら、いつの間にかスキルドレインが抜けて最終突撃命令が三積み、その上、融合呪印生物-光と融合を積んだ【サイバー流】になっていた。

 ライトロードマジシャン ライラと光の援軍まで採用してバック処理まで出来るようになっていた。手元にないが、もしもここにオネストを入れたら相当強いデッキに仕上がるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、一緒に来てもらいますよ、ナポレオン教頭」

 

 

 連敗した事でがっくりと意気消沈し、連行されていくナポレオン教頭。

 俊二も、クロノス校長に報告することがあるため、同行する。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 オシリスレッド寮付近の海岸で。

 

 

「…いつまでそうしているつもりだ?十代」

「ああ、万丈目か」

「実技しか取り柄が無いのに、その実技をしなければ退学だってありえるぞ。」

「そうかもな。」

「っつ!いい加減にしろ!そんな事思ってもいないだろう!」

 

 影丸光海とのデュエル以降、カードが見えなくなっている十代に発破をかける万丈目。

 俊二に叱られ、理事長に助けられた事で授業を真摯に受けるようになった十代だが、それで成績が上がれば苦労はしない。どこぞの通信教育の漫画では無いのだ。

 元々実技で筆記をカバーしている状態で、筆記が多少改善されたが実技が行えないとなると致命傷だ。

 

「実技をしようにも、俺にはカードが見えないんだ…。」

「…十代、俺は先に行く。だから、必ず立ち上がって来い!俺は諦めなかったぞ!才災にデッキを否定され、ノース校へ追い出された後でも!」




【最終突撃命令】と【スキルドレイン】の混成デッキを試してみましたが、どうにもしっくりきません。

十代のライバルは誰か、という議論がたまに持ち上がりますが、こういう発破をかける辺り、個人的に十代のライバルは万丈目だと思います。異論は認めます。


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第38話!斎王上陸!動き始めた『光の鼓動』!

アンチリスペクト物のサイバー流と光の結社が手を組んだら、サイバー・エンド・ドラゴンに白のヴェールをつけて殴り掛かってくる門下生、という展開になるのでしょうか?

拙作のような似非ペクトを掲げる一派とか、破滅の光も取り込みたくない気がしますが。




 白い、どこまでも白い空間。

 そこに白い靄のようなナニカが集まる。

 

 

『…集え、我が腹心達よ』

 

 

「…ヴァルキリア、御前に参上いたしました。」

「ハーヴェスト、推参。」

「アイリス、ただいま到着しました。」

「レイヤード参上!」

 

 

 その外にも白い姿をした物が多数集う。

 彼ら彼女らにたいし、尊大に接する白い靄。

 

 

『よく集まってくれた。』

「我らを集めたという事は、始めるのですね!ライトレイ様!」

『いかにも。この惑星を観測していたが…やはりこの惑星も我らの救済が必要ということが判明した!各員、救済作業に取り掛かれ。』

 

 

「…しかしライトレイ様、一つ気がかりなことが。S召喚なる物と、サイバー流についてですが…。」

『そう、我らが今まで救・済・し・て・き・た・惑・星には無かった特殊な召喚方法。そしてサイバー流…。S召喚は是非とも手にしておきたいが…。近々、我はデュエルアカデミアへ行く。その際に学園を白く染める人員が必要となる。』

 

「ライトレイ様!その役割は我に!」

「わたくしにこそ、その大役を!」

 

『フフ、その意気込みは素晴らしいが…。ジェラルよ!』

「?!わ、私ですか?」

『私はこの少年に光の洗礼を与える。その後、この少年を中心に光の教えを広めるのだ!』

「…かしこまり、ました。」

『我もしばしとどまる。臆するな』

 

 

 

 

 

 

 斎王琢磨が、新たにプロデュースしたい生徒が居ると言ってアカデミアに来航してくる。

 ここだ、ここで食い止めねばならない。万丈目だったが、ここで十代を完全に洗脳されたらどうしようもない。

 

 破滅の光に対抗できるのは、常人では無理だ。

 

 

 馬鹿みたいに歓迎している、ナポレオン教頭。一方ですさまじい警戒をしている俊二。

 そんな義弟の反応が気になって仕方がない我謝透子。

 

 俊二が警戒しているのだから、斎王は敵だと判断する光里。

 

「ではさっそくわが校の優秀な生徒のリストを渡すのでアール!」

「いえ、私自身の目で確かめてみたいのです。お構いなく。」

 

 

 歩き出す斎王だが、ある女性の前で足を止める。

 

「…私に何か?」

「…我謝透子、いいえ、猫崎透子さんですね?」

「お言葉ですーガ、彼女の地元では結婚式を挙げるまでは相手の姓を名乗らないとなっていますーノ。」

「そうですか。失礼、猫崎の姓で呼ばれる事を望んでいる、そんな気がしたので…。」

 

 先ほどから、義弟が斎王の背中を睨みつけている為、若干気になる透子。

 もしかしたら、恭一さんが居るのに口説いているように見えているのかもしれない。

 どれほど魅力的な異性だろうと、今更恭一さん以外の異性を選ぶつもりなど、毛頭ない透子。

 

 

 

 義弟が警戒している以上、この後どんな提案をされようと断るつもりだった。

 

 

 

「ありがとうございます。」

「私はマネージャーをする前は、占いをしていました。どうでしょう?占って差し上げましょうか?例えば…。」

 

 数秒考え、斎王にとりついた『破滅の光』は、口を開く。

 

「貴女と恭一さんの間に生まれる、子供の髪の毛の色とか。」

「?!」

 

 

 

 あからさまに顔色が変わる透子。最も恐れている事をずばり言い当てられ、動揺する。

 決して口車に乗る気は無かったが、その信念が揺らぐ。

 

 猫崎恭一の両親は黒髪だが、義弟は金と銀のツートンカラー。

 自分と恭一さんが黒髪だからといって、子供が黒髪である保証はどこにもない。

 

「…もしも気になるようでしたら、占って差し上げます。私とデュエルをした後で。」

「…申し訳ありません、まだデッキを調整中でして。」

「それは残念。では、失礼。」

 

 

 去っていく斎王。それに伴い、教職員も三々五々に別れていく。

 一方、俊二は全速力でオシリスレッド寮へ走る!

 

 

 そんな義弟の様子を放置するわけもなく、透子も後を追い、妻である光里もその後を追う。

 

 

「俊二先生。なんの用ですか?」

「はぁ、はぁ…。万丈目、お前は今からプロリーグに行きたいか?!」

「ええっ?!い、今から…?」

「エド・フェニックスのマネージャー、斎王が来ている。彼の目に留まればプロ入りも不可能では無いが…。」

「…確かにプロになるつもりだが、それはアカデミアを卒業した後、兄さんたちと綿密に打ち合わせをしてからになる。今すぐという気はない。」

「よしっ!後は…!」

 

 

 一体何だったんだ、と訝しむ万丈目。それを物陰で聞き、生徒が甘言に惑わされ、舞い上がってしまうのを恐れていただけか、と俊二の行動に納得する透子と光里。

 

 

 

 俊二が三沢の所に行き、改めて話をしているころ。

 斎王にとりついた『破滅の光』は、ターゲットを見つけていた。

 

 

「な、なんだ!」

「…初めまして。私は斎王。斎王琢磨。エド・フェニックスのマネージャーをしております。高田純二朗さん。」

「ど、どうして俺の名前を…。」

「どうです?私とデュエルしませんか?」

「…いいぜ、受けてたつ!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

斎王 ライフ4000

手5 場 

高田 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻だぁ!ドロー!俺はモンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

斎王 ライフ4000

手5 場 

高田 ライフ4000

手4 場 セットモンスター 伏せ1

 

 

 

「私のターン、ドロー!手札のヘカテリスを墓地に送り、デッキから神の居城-ヴァルハラを手札に加えて、発動!」

「天使族を特殊召喚出来る永続魔法…!大型天使族を展開するのが狙いか!」

「フフ、アルカナフォースXVIII-THE MOONを特殊召喚!効果発動、ルーレットを回し、正位置ならば次の私のスタンバイフェイズに、ムーントークンを特殊召喚。逆位置なら私のエンドフェイズに私の場のモンスターのコントロールを相手に移す」

「…ストップ!」

「残念、正位置です。バトル!アルカナフォースXVIII-THE MOONでセットモンスターを攻撃!」

「破壊されたコーリングノヴァの効果発動!デッキから2体目のコーリングノヴァを特殊召喚!」

「フフフ、ターンエンド」

 

 

 

斎王 ライフ4000

手4 場 アルカナフォースXVIII-THE MOON ヴァルハラ

高田 ライフ4000

手4 場 コーリングノヴァ 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!永続罠発動!スピリットバリア!さぁ行くぞ!俺はカオス・ネクロマンサーを召喚!」

「墓地のモンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする…フフフ、今は攻撃力300ですね?」

「俺は装備魔法、流星の弓シールを、カオス・ネクロマンサーに装備!バトルだぁ!コーリングノヴァで、アルカナフォースを攻撃!」

「スピリットバリアで君のダメージは無い。さて…?」

「デッキから3体目のコーリングノヴァを特殊召喚!そのまま攻撃!コーリングノヴァの効果でシャインエンジェルを特殊召喚!このまま攻撃を続行する!」

 

 シャインエンジェルを使いつぶす高田。

 

「続いてぇ!ユーフォロイドを特殊召喚!このまま攻撃だ!」

 

 ユーフォロイドもすべて自爆特攻させ…

 

「3体目のユーフォロイドの効果で、UFOタートルを特殊召喚!」

 

 UFOタートルも自爆特攻させる。

 

「3体目のUFOタートルの効果で、仮面竜を特殊召喚!」

 

 仮面竜を使い果たすと

 

「3体目の仮面竜の効果で、軍隊竜を特殊召喚!」

「これで最後のようですね?」

「その通りだ。行け!軍隊竜!さぁ、これで墓地のモンスターは18体!カオス・ネクロマンサーの攻撃力は5400!最も、流星の弓の効果で攻撃力は4400まで下がるが…これで俺の勝ちだ!」

 

 

 

 この島に来る前に予知した光景とは違う展開。

 予知において、高田は巨大ネズミ、ドラゴンフライ、キラートマト、グリズリーマザーなどの属性関連のリクルーターを使用してくるはずだったが…変わっている。

 

 

 このリクルーターの流れは、俊二がデッキ圧縮という事で教えた流れである。

 カオス・ネクロマンサーに光学迷彩アーマーというのを考えていた高田に、流星の弓シールを教えたのも俊二だ。

 

 カオス・ネクロマンサーに装備させてダイレクトアタッカーにするもよし、スピリットバリアなどが引けなかったとき、または王宮のお触れなどを使われた時。

 相手モンスターに装備してリクルーターの自爆特攻によるダメージを軽減させることも出来る。

 

 

「練り上げたんだよ!行け、カオス・ネクロマンサー!ダイレクトアタックだ!」

「…手札のアルカナフォースXIV-TEMPERANCEを捨てて、戦闘ダメージを0にします。」

「?!くっ…だが、その手のカードはそうそうないはず!ターンエンドだ!」

 

 

 

斎王 ライフ4000

手3 場 アルカナフォースXVIII-THE MOON ヴァルハラ

高田 ライフ4000

手3 場 カオス・ネクロマンサー スピリットバリア 流星の弓シール 

 

 

「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、ムーントークンを特殊召喚。」

「攻撃表示で特殊召喚するだと?」

「ムーントークンをリリース。アルカナフォースVIII-STRENGTHを、アドバンス召喚!さぁ、ルーレットです」

「またか!」

「正位置なら貴方のモンスター一体のコントロールを得る。逆位置ならこのカードを除く私の場のモンスターのコントロールを相手は得る。正位置なら君の負けです。」

「ぐ、ぐぐっ…す、ストップ!」

「…もしやと思いましたが、運命とは残酷なものですね。」

「せ、せせ正位置!ああっ!か、カオス・ネクロマンサーが!」

「バトル!アルカナフォースVIII-STRENGTHとアルカナフォースXVIII-THE MOONで、ダイレクトアタック!」

「うわああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 

 

 膝をつく高田。

 

「貴方は、今よりも強くなりたいでしょう?」

「そ、それは…。」

「そのデッキで満足ですか?私の手を取れば、もっと強くなれますよ?さぁ、どうしますか?」

「お…俺は。俺は強くなりたい!」

「フフフ…!君にこのデッキを与えましょう!」

 

 斎王から渡されたデッキを、虚ろな目で高田は受け取る。

 直後、白い光が迸り…、高田の眼はギラギラと狂熱を発する!

 

 

 

 翌日。オベリスクブルーの男子寮にて。

 

 

「何だ、高田。その制服は?」

 

 真っ白な制服を着た高田に、取巻太陽が声をかける。

 

 

「俺は斎王様の光の洗礼を浴びた!取巻!俺とデュエルをしろ!」

「斎王だと?まぁいい、デュエルの挑戦ならば受けてたつ!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

高田 ライフ4000

手5 場 

取巻 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は俺だ、俺は天使の施しを発動!デッキから三枚ドローして、手札のロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-と神竜ラグナロクを捨てる。魔法カード、龍の鏡を発動!墓地のロード・オブ・ドラゴンと神竜ラグナロクを除外!現れろ、竜魔人キングドラグーン!」

「出て来たか、お前のエースモンスター!」

「キングドラグーンの効果発動!一ターンに一度、手札のドラゴン族を特殊召喚!俺は仮面竜を守備表示で特殊召喚!カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

高田 ライフ4000

手5 場 

取巻 ライフ4000

手3 場 竜魔人キングドラグーン 仮面竜 伏せ1

 

 

 取巻が多くモンスターを出したのは、高田のデッキには強制転移などが入っているからだ。それでキングドラグーンのコントロールを奪われるわけにはいかない。

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、ライトニング・ボルテックスを発動!」

「?!」

「手札から、暗黒のマンティコアを捨て、お前のモンスターを全て破壊する!」

「ちっ!」

 

 

 全体除去、白い制服といい、どうやら何かあったのは確実なようだ。

 

 

「手札から幻獣ワイルドホーンを召喚!バトルだ、ワイルドホーンでダイレクトアタック!」

「くそっ!」ライフ4000から2300

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ!エンドフェイズ、墓地の暗黒のマンティコアの効果発動!このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動!手札か場から獣族・獣戦士族・鳥獣族を墓地に送って発動出来る!手札の幻獣サンダーペガスを墓地に送り、墓地から暗黒のマンティコアを特殊召喚!」

 

 

 

 

高田 ライフ4000

手1 場 ワイルドホーン マンティコア 伏せ1

取巻 ライフ2300

手3 場 伏せ1

 

 

 

「随分デッキを変えたな、高田!俺のターン、ドロー!魔法カード、復活の福音を発動!墓地のレベル7と8のドラゴン族を選択して発動!そのモンスターを特殊召喚!蘇れ、キングドラグーン!」

「またそいつか」

「俺はサファイアドラゴンを召喚!バトルだ、サファイアドラゴンで幻獣ワイルドホーンを攻撃!」

「相手モンスターの攻撃宣言時に、墓地のサンダーペガスを除外して、幻獣ワイルドホーンを選択して効果発動!このターン、幻獣の戦闘破壊を無効にする!」ライフ4000から3800

「ちっ!なら行け、キングドラグーン!暗黒のマンティコアを攻撃!」

「悪あがきを!」ライフ3700から3600

「俺はこれで、ターンエンドだ!」

「エンドフェイズだが、暗黒のマンティコアの効果は発動しない。」

 

 効果を使わない事を訝しむ取巻。

 確かにキングドラグーンを倒せないが、それでも攻撃力2300、ワイルドホーンを残すより良いと思うのだが…。

 

 

 

高田 ライフ3600

手1 場 ワイルドホーン 伏せ1

取巻 ライフ2300

手2 場 キングドラグーン サファイアドラゴン 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は幻獣ワイルドホーンをリリース!幻獣ロックリザードをアドバンス召喚!」

「レベル7をリリース1体で召喚しただと!リリース軽減効果モンスターか!」

「いかにも。このカードは幻獣1体をリリースすることでアドバンス召喚できる!俺は罠発動!幻獣の角!俺の場の獣族・獣戦士族の攻撃力が800ポイントアップする!」

「攻撃力3000だとっ!」

 

 これが狙いだったことに気づく取巻。

 

 

「バトルだ、ロックリザードでサファイアドラゴンを攻撃!」

「くそっ!」ライフ2300から1200

「幻獣の角を装備したモンスターが相手モンスターを破壊して墓地に送った時、カードを1枚ドロー!そして相手モンスターを戦闘で破壊して墓地に送ったことで効果発動!500ポイントのダメージを与える!」

「何だとっ!」ライフ1200から700

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

 

高田 ライフ3600

手1 場 ロックリザード 幻獣の角 伏せ1

取巻 ライフ700

手2 場 キングドラグーン 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードを見て、取巻は笑みを浮かべる。ライトニング・ボルテックス!こいつを発動すれば…。

 

 

「ちなみに!幻獣ロックリザードが相手のカード効果で破壊され墓地に送られた時、相手に2000ポイントのダメージを与える!」

「なっ…」

「さぁ、どうする?」

「俺はっ…!キングドラグーンを守備表示に変更して、ターンエンド!」

 

 

 

 

 

高田 ライフ3600

手1 場 ロックリザード 幻獣の角 伏せ1

取巻 ライフ700

手3 場 キングドラグーン 伏せ1

 

 

 墓地には、復活の福音がある。これを除外すれば、キングドラグーンの破壊を一度だけ免れる。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 高田は今ドローしたカードを見つめ、にやりと笑う。

 

「俺は激昂のミノタウロスを召喚!」

「場の獣族・獣戦士族・鳥獣族に、貫通効果を与えるモンスター…!」

 

 幻獣クロスウィングをこのターンで通常召喚。連鎖破壊でデッキから二枚墓地に送り、ロックリザードの攻撃力を上げるつもりだったが、ここで良いカードを引けた。

 

 

 

「バトルだ!行け、ロックリザード!キングドラグーンを攻撃!」

「ぬああああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 高田に負けた取巻は倒れ伏すが、ややあって起き上がる。

 

 

「…見えた、光が…」

「歓迎するぞ、取巻!ハッハッハ!」

 

 

 俊二の知らないところで、ホワイト寮計画が動き始める。

 



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第39話!十代、アナザー・ネオスと出会う!

今回はアニメオリジナルカードが登場します。ご了承ください。



 遊城十代が行方不明になった。ボートで外に出た形跡が無いため、俊二としては頭を抱えるしかない。

 

 十代が戻ってこなかったら詰みだ。そうなったら破滅の光により滅ぼされてしまう。

 しかも、白い制服の生徒が現れ始めた。万丈目が洗脳されたとしても、少しでも対抗できるようにとブルー男子には色々と指導していたのだが。

 

 

 

 

 一方、十代は気が付くと見知らぬ土地に居た。空を見上げ、絶句する十代。

 

「…あれって、も、木星!な、なんでこんなに大きく…。俺、とうとう頭がどうかしちまったのか…?」

「どうしてそう思うのかな?」

「だ、誰だ!」

 

 

 十代の前に、白い宇宙人のような人型が現れる。

 

「私は、アナザー・ネオス。いつかネオスになるべく修行している身だ。そしてここは、ネオスペース。」

「はは…俺、本当に頭がおかしくなっちまったんだな…。」

「まぁ、今はそういう事でいいよ。」

 

 

 アナザー・ネオスは色々話す。この世界を滅ぼそうとしている、破滅の光の事を。その破滅の光の影響を受けているのが斎王琢磨であること。

 そして破滅の光と戦う事を運命づけられた、覇王の魂を持つ決闘者の事を。

 

「その覇王が、君なんだよ。遊城十代」

「俺が、覇王?」

「まだ、自覚は無いようだけど…しまった!奴らが現れた!破滅の光の先兵!」

「何だって!」

 

 

 

 

 

 UFOが降り立つと、そこからロボットが現れる。

 物陰に隠れる十代とアナザー・ネオス。

 

 

「あれが…」

「頼む、遊城十代!戦ってくれ!」

「そんなことを言われても!俺は光る剣とか持っていないし!」

「大丈夫!奴らとの戦いは、デュエルモンスターズなんだ!」

 

 

 そう言われ、改めてロボットを見つめる十代。

 腕にはデュエルディスクが装着されている。

 

 

「でも、俺にはデッキが」

「デッキなら、あのカプセルに入っていたよ。」

「何っ?!」

 

 

 十代はそのカプセルに向かって走る。

 表面の文字を削ると、ローマ字が浮かび上がる。

 

 

「…海馬コーポレーション…!まさか、このカプセルは!」

 

 

 子供たちがデザインしたカードを、カプセルに詰めて宇宙に発射するという計画。

 その発想にワクワクして、十代は応募した。

 

 

「そうか、これはあの時俺が応募したカードが…。」

「その通り。君がデザインしたカードが、こうして正しい闇の波動を受けてカードになった。」

 

 

「ピピピ!ターゲット、発見!」

「?!しまった、見つかった!」

 

 

 十代は慌ててデッキをデュエルディスクにセットする。

 

 

「俺が相手だ!光の宇宙人!」

「ピピピ…」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

光の使者 ライフ4000

手5 場 

十代 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

 

「私の先攻、ドロー。私は、手札から異次元の偵察機と異次元の戦士を捨て、光源獣 カンデラートを特殊召喚!」

「攻撃力3000?!」

「このカードは手札を2枚墓地に送った場合のみ、手札から特殊召喚する事が出来る。そしてこのカードの攻撃力は、私の手札の枚数×1000ポイントアップ。ターンエンド」

 

 

 

光の使者 ライフ4000

手3 場 光源獣 カンデラート

十代 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

 引いたカードを十代は見つめる。

 相変わらず、白い。だが、直後にカードが見えるようになる。

 

 

「わかるぜ、アナザー・ネオス!このデッキのコンセプトが!俺は、C・ドルフィーナを召喚!」

「攻撃力400。ゴミカード」

 

 無表情に小馬鹿にされ、十代は怒る。

 

 

「俺のデッキに、ゴミなんて無い!フィールド魔法、ネオスペースを発動!ここで、C・ドルフィーナの効果発動!このカードをリリースして、デッキからN・アクア・ドルフィンを特殊召喚!」

「そんなモンスターに、何が出来る?」

「俺は魔法カード、フェイク・ヒーローを発動!現れろ、E・HEROネオス!ただし、攻撃宣言は出来ず、エンドフェイズに手札に戻る」

「それで、どうするつもりだ?」

「N・アクア・ドルフィンの効果発動!手札1枚を墓地に送る事で相手の手札を確認してモンスターカードを1枚選択!選択したモンスターの攻撃力以上のモンスターが自分フィールドにいるとき、選択したモンスターを破壊して、相手に500ポイントのダメージを与える!」

「何っ!手札破壊?!」

 

 光の使者の手札は、異次元の女戦士、D.D.アサイラント、光源獣カンデラートだった。

 

 

「異次元の女戦士か。そいつを破壊して500ポイントのダメージだ!」

「ピピッ?!」ライフ4000から3500

 

「手札が一枚減ったことで、カンデラートの攻撃力は2000に下がる!俺は場のネオスとアクア・ドルフィンをコンタクト融合!現れろ!E・HEROアクア・ネオス!」

「攻撃力、3000?!」

「よし、バトル!俺はアクア・ネオスで光源獣カンデラートを攻撃!」

「ピピッ!」ライフ3500から2500

 

 

 ライフを削られたが、光の宇宙人は手札を見つめる。

 アサイラントで攻撃を行えば1300のダメージを受けるが、相手の場の融合モンスターは除外出来る。

 そうなれば…

 

「速攻魔法、コンタクト・アウト!アクア・ネオスをデッキに戻し、融合素材モンスターがデッキにあれば、その融合素材モンスターを特殊召喚!現れろ!ネオス!アクア・ドルフィン!」

「ピピピ?!」

 

 想定外の展開に光の宇宙人は驚愕する。

 

「ネオスで、カンデラートを攻撃!」

「ひ、光を!もっとヒカリヲー!」

 

 

 そう叫ぶと、光の使者は爆発する。

 

 

 

「やったのか?これでネオスペースの平和は守られたのか?」

「いや。本当の戦いはこれから始まる。君は、テストデュエルに合格したんだ。」

 

 

 

 

「残念だが、お前はここで終わる!」

「?!」

 

 

 十代とアナザー・ネオスが振り返ると、オレンジ色の爬虫類が立っている。

 

 

「?!ワームプリンス!破滅の光に屈した部族…!」

「屈したのではない。同盟を結んだだけだ。まぁ、あんなロボットしか送ってこないがな。」

 

 

 

 ワームプリンスはデュエルディスクを構える。

 

 

「さぁ、デュエルだ!戦士よ、名を名乗れ!」

「俺は、遊城十代だ!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

プリンス ライフ4000

手5 場 

十代 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「さぁ行くぞ!俺の先攻、ドロー!俺はワーム・ゼクスを召喚!効果発動、デッキからワーム・ヤガンを墓地に送り、墓地に送ったヤガンの効果発動!」

「何だ?」

「場にゼクスのみ存在する時、このカードを裏側守備表示で特殊召喚出来る!カードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

プリンス ライフ4000

手3 場 ゼクス (ヤガン) 伏せ2

十代 ライフ4000

手5 場 

 

 

「一体、どんな効果が」

「ヤガンがリバースした時、相手モンスターを手札に戻す。そしてゼクスは、場にヤガンが表側表示で存在すれば戦闘で破壊されない。厄介な布陣だ。」

 

 そんなアナザー・ネオスに対し、ワーム・プリンスがくぎを刺す。

 

 

「おいっ!カードの効果を説明するのはいいが、アドバイスはするなよ!」

「言われずとも、私の助言が無くとも遊城十代はお前を倒す!」

 

 

 

 

 

「俺は、E・HEROアナザー・ネオスを召喚!」

「攻撃力1900か。」

「バトルだ!ワーム・ゼクスを攻撃!」

「単調な攻撃だな!罠発動!W星雲隕石!場のセットモンスターを表側守備表示に変更!これにより、ヤガンを表側守備表示に変更!」

「げっ!」

「ヤガンがリバースした事で、アナザー・ネオスを手札に戻す!」

「攻撃は通らないか…。メインフェイズ2に入るぜ。俺はカードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

「このエンドフェイズに、W星雲隕石の効果発動!場の爬虫類族・光属性モンスターを全て裏側守備表示に。そしてこの効果で裏側守備表示にした枚数だけ、カードをドローする!」

「二枚ドローだって!」

「さらに、デッキからレベル7以上の爬虫類族・光属性モンスターを特殊召喚!現れろ!ワーム・キング!」

 

 

 

 

プリンス ライフ4000

手5 場 (ゼクス) (ヤガン) キング 伏せ1

十代 ライフ4000

手4 場 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!ワーム・キングの効果発動!場のワームをリリースして、相手の場のカードを破壊する。ヤガンをリリースして右の伏せカードを破壊!」

「チェーンして速攻魔法、スケープゴートを発動!羊トークンを4体、特殊召喚!」

「空振りか。だが攻守0の羊など瞬殺してくれる!ワーム・グルスを召喚!」

「罠発動!激流葬!場のモンスターを全て破壊する!」

 

 怒涛の激流が、ワーム軍団を洗い流す!

 

 

「…ターンエンドだ!」

 

 

 

プリンス ライフ4000

手5 場 伏せ1

十代 ライフ4000

手4 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!よし、一気に攻めるぜ!E・HEROアナザー・ネオスを召喚!バトルだ、アナザー・ネオスでダイレクトアタック!」

「単調な攻撃だな!罠発動!」

 

 ワーム・プリンスの伏せカードが発動される!

 

「な、なんだ!」

 

 ボロボロのかかしが、アナザー・ネオスの攻撃を阻止する。

 

 

「くず鉄のかかし!相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にする!」

「攻撃を止めるだけなら」

「その後、このカードは墓地に送らず、このままセットする。つまりお前はこの後、必ず攻撃を無効にされるという訳だ!」

「何ぃ!って事は今後攻撃を1度防がれるのか…俺は、カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

プリンス ライフ4000

手5 場 (くず鉄のかかし)

十代 ライフ4000

手3 場 アナザー・ネオス 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!永続魔法、ワーム・コールを発動!相手の場にモンスターが存在し、俺の場にモンスターが存在しない時、手札のワームを裏側守備表示で特殊召喚出来る!ワーム・アグリィをセットする!」

「一体何を狙って…」

「アグリィをリリース、ワーム・ウォーロードをアドバンス召喚!リリースされたアグリィの効果!相手の場に攻撃表示で特殊召喚出来る!」

「なっ!攻撃力100!」

 

「バトルだ、ワーム・ウォーロードでアグリィを攻撃!」

「ぐううううっ!」ライフ4000から1750

 

「ウォーロードは戦闘で相手モンスターを破壊した時、もう一度攻撃できる!アナザーネオスを攻撃!」

「罠発動!ジャスティ・ブレイク!通常モンスターが攻撃対象になったことで、場の攻撃表示の通常モンスター以外を全て破壊!」

「…ターンエンド。」

 

 

 

 

プリンス ライフ4000

手3 場 ワーム・コール (くず鉄のかかし)

十代 ライフ1750

手3 場 アナザー・ネオス

 

 

「俺のターン、ドロー!このカードは…。よし、速攻魔法、デュアル・スパークを発動!アナザーネオスをリリースして、くず鉄のかかしを破壊する!」

「くそっ、だがこれでお前の場のモンスターは居なくなった。」

「そして、カードを一枚ドローする。魔法カード、O-オーバーソウルを発動!蘇れ、アナザー・ネオス!」

「ま、また蘇ってきたか…!」

 

「そして、アナザー・ネオスを召喚!」

「馬鹿な!そいつはすでに場に召喚されている!」

「アナザー・ネオスはデュアルモンスター、再度召喚することで効果モンスターとなり、モンスター効果を得る!」

「一体どんな効果が…」

 

「カード名をネオスとして扱う!」

「召喚権を使ってそんな効果しかないとは無様だな!私なら攻撃力1900のアタッカーとして運用するぞ?」

 

 

 露骨に落ち込むアナザー・ネオス。

 

「意味ならあるさ!俺は二重召喚を発動!現れろ、N・エア・ハミングバード!こいつは相手の手札の枚数×500のライフを回復する」

「ライフ1500の回復か。」

「だが、この効果は使わず!俺は場のネオスとエア・ハミングバードをデッキに戻し、コンタクト融合!現れろ、E・HEROエアー・ネオス!」

「攻撃力2500!融合無しで融合召喚を行うだと!」

「効果発動、俺のライフが相手より少ないとき、その数値分攻撃力がアップする!」

「ば、馬鹿な!攻撃力は4750だとっ!」

「行け、エアー・ネオス!ダイレクトアタックだ!」

「アーッ!」ライフ0

 

 

 

 

 ライフが尽きたワーム・プリンスは膝をつくが、即座に立ち上がる。

 

 

「おのれ、まだまだ諦めないぞ!必ずネオスペースを制圧し、忌々しいA・O・J連合軍を滅ぼしてあの惑星をわが物にしてくれる!おーい、皆逃げろ!」

 

 

 捨て台詞を吐きながら、プリンスは部下を逃がした後、自身も逃げ出す。

 

 

「これで、本当に危機は去ったのか?」

「まだ、戦いは始まったばかりだ。君には完成させなければならないカードがある。」

「カードを完成?」

 

 

 

 白紙のカードを提示するアナザー・ネオス。

 十代が手に取ると、ドクン、と音を立てて脈打つ。

 

 

 

「融合を超えた融合。超融合!そのためには、ネオスペーシアンと絆を深めないといけない。」

「絆を深める…ってどうすればいいんだ?」

「コンタクト融合を6種類成功させて勝利する事だ。」

「何だって!あのコンタクト融合を…。」

「遊城十代。これを突破出来ないようでは、破滅の光を止めるなど到底無理だぞ!」

 

 

 

 十代は改めてデッキの再構築に取り掛かる。



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第40話!登場、才災勝作の息子!

 遊城十代は行方不明のまま、ホワイト寮計画がスタート。高田が中心になっているようだ。

 幸い、万丈目が洗脳されていないのが救いだが…。

 

 クロノス新校長は念願の校長職を得たが…激務でかなりきついらしい。

 ラーイエローに降格した虎之井はラーイエローでも相変わらずらしく、トラブルばかり起こしその対応で樺山先生は日に日に痩せている。

 

 ナポレオン教頭はオベリスクブルー男子寮の寮長というのに、ろくに対抗策を打たない。

 

 斎王を慕う生徒が増えてしまい、なし崩し的にデュエルアカデミアにとどまっている。とっとと追い出して出禁にしたい俊二は行動していたのだが…。

 

 

 

 

「新たなS召喚のテスター?!」

「そういう事なのでアール。ムッシュ猫崎、オベリスクブルー男子寮の心配する前に、自分の立場を心配するのでアール」

 

 嫌味を言っている場合ではないのだが…。制服を白く染めた生徒に対し、即急に対処すべしと度々言う俊二をナポレオン教頭は疎ましく思っていた。

 斎王はプロのマネージャー、彼がプロデビューさせるために色々とアドバイスしているので、斎王がとどまっているこの状況をナポレオン教頭は好ましく思っている。

 

 

 

 

 ……時は、少しさかのぼる。

 その新たなS召喚のテスター、相川 士道(あいかわ しどう)は出社していた。

 始業の20分前には席に着き、始業までの間にパソコンを起動しメールをチェックする。

 

「おはようございます、相川副主任。」

「本日もよろしくお願いします。田代(たしろ)さん。」

 

 同僚から挨拶され、それに返事をしつつ相川はメールチェックを済ませる。

 

「本日は外食産業、とりわけ弁当部門についての会議がミーティング後にあるとか。」

「弁当部門…、そろそろ潮時では?」

「ですよねぇ。かつては日本各地にあった弁当業界も大多数がサイバー流により吸収、そのサイバー流が壊滅した後は独立して業績を回復しています。」

「今更、ここにつぎ込んだところで見返りがあるとは。」

「思えませんよねぇ…。まぁ、続けるなら少しでも利益を出すしかありませんね。」

 

 

 ミーティングが終わり、会議室へ移動する直前。

 

 

「おはようございまーす!あれ、皆さん何処に?」

「虎之井さん、また遅刻ですか?」

「遅刻では無いですよ~、田代さん。」

「…本日は、外食産業の弁当部門に関する会議があります。」

「弁当部門かぁ、ここらで攻勢に出るんだろうなぁ。」

 

 ちなみにこの虎之井は、アカデミアに在籍しているオベリスクブルーの兄である。

 

 何を言っているのやら、と冷たい目を向けた後、田代は踵を返して歩き出す。

 彼女の威風堂々と、毅然とした態度は同僚として実に頼もしい。

 

 

 

「良く集まったな!今日は弁当部門について会議を行うぞ!」

「毒岡(どくおか)課長、資料は?」

「何?!なんで無いんだ!田代、手際が悪いぞ!」

「…申し訳ございません。」

「謝罪はいい!なんで作っていない!今日会議を行う事は通達していただろう!」

「…資料作成をするよう指示を受けておりません」

「うるさいっ!臨機応変にやれっ!お前は資料作成を怠った!これは、芽出(めで)部長に報告しておくぞ…。」

 

 

 始業前にメールボックスを確認していた社員に圧力をかける毒岡。

 

 

「まぁいい、無いなら無いで続けるまでだ!弁当部門の売り上げだが、前年同月比から34%も落ちている…何故だ!」

「はい。」

「何だ、相川!言ってみろ!」

 

「弁当の米の質を落とし、容器を上げ底にして容量を減らし、サラダと煮物とコーンパスタを無くし、チキンの香草焼きと米だけの弁当にした事だと思われます。」

「違う!」

 

 コストカットと宣い、毒岡は自社の弁当をかなり改悪していた。

 

 

「…にも拘らず、値段据え置きで購買層が66%居るのですか。まぁ、あのチキンの香草焼きは美味しいですが。」

「そうか、34%下がったが…まだそれだけの購買層が居るという事か…。弁当のコストを半分にすれば黒字になるな、コストカットだ!」

 

 弁当部門そのものをコストカットしたほうがいいのでは?虎之井がしゃしゃり出る。

 

 

「毒岡課長!僕に名案があります!」

「おおっ!虎之井!いいぞ、言ってみろ!」

「おまけをつけるのはどうでしょう?」

「おまけ…?」

「デュエルモンスターズのカードですよ!サイバー流の弁当が売れているのは、カードが付いているからです!」

「確か、使えない役立たずのゴミカス雑魚カードが、倉庫にあったな。」

「これで処分できます!」

「よし決まりだ!やはりお前は俺が見込んだ男だ!ナーハッハッハ!」

 

 

 嘆息する相川。何故この現状をコステロ会長は放置するのか。

 

 

 

「よし、その方針で行く!さぁ、仕事に戻れ!俺と芽出部長は、買収したサイバー流が関わっていた店舗の視察に行く。」

「いつ頃戻られますか?」

「馬鹿野郎!直帰するに決まっているだろう!何か問題があったら、お前が解決しろ。」

「…申し訳ございません。俺もこの後、デュエルアカデミア本校に行かなくてはなりません。」

「なぁにぃ?だったら、お前の仕事は誰がするんだ?」

「朝のミーテイングが終わったら出張する、と予定表に記載していますが。」

「ええい、屁理屈をペラペラペラ…お前が居なくなったら問題が起きた時、誰が対処するんだ!」

 

「…田代さん、お願いできますか?」

「かしこまりました。」

 

 

 万丈目グループが関わった店舗により実家の電気屋を倒産に追い込まれた過去を持つ女性、それが田代である。

 この部署で、相川が最も信頼している人物でもある。

 

 

「まぁいい、俺は出発するぞ。才災の経営方針を守った結果、売り上げが前年同月比と比べて12%しか上がっていないからな。有能な俺がテコ入れしないと!」

 

 ドタドタと歩いていく毒岡課長。

 

「…才災が居なくなったのに、それだけ結果を出せるって…どんなシステムを残して行ったのよ。経営手腕を再現できるAIがあったら言い値で買いたいわ」

 

 

 相川は必要なものをまとめ、出発する。

 

 

「それでは寒川さん、行ってきます。」

「いってらっしゃいませ…え?相川副主任も?」

「田代さんが残ります。」

「なら、大丈夫ですね。いってらっしゃいませ。」

 

 美人で巨乳で長身で髪の綺麗な受付嬢にあいさつし、相川はデュエル・アカデミアに向かう。

 

 

 

 

 

 デュエルアカデミア本校。

 

「失礼します。俊二、お客さんが到着したわ。」

「ありがとう、透子義姉さん。」

 

 デュエルリングへ向かう俊二。そこにはすでに教職員が集まっている。

 

 

「初めまして、猫崎俊二さんですね。お会いできて光栄です。」

 

 爽やかな感じの好青年。中肉中背、黒髪黒目。

 

「S召喚の新たなテスターと言う事ですが、お名前は?」

「相川士道です。」

 

 

 突然、黙って見ていたナポレオン教頭が騒ぎ出す。

 

「いい事を思いついたのでアール!」

「ナパ!突然何なのーネ!」

「このデュエルで、勝った方を実技担当最高責任者に任命するのでアール!」

「それはオーナーの了承が必要なのーネ!」

「そもそも、オシリスレッドの卒業生に実技担当をさせること自体が間違っているのでアール!」

 

 

「申し訳ありませんが、お断りします。」

 

 きっぱりと断ったのは、俊二ではなく、相川だった。

 

「な、何故でアール?!」

「猫崎さんは、海馬瀬人とペガサス会長が認めた決闘者。サイバー・ランカーズ相手にも連戦連勝を収めた。それだけの肩書と実績があるにも関わらず、クビを仄めかすような方が教頭をしている学校で、働きたいと思いません。」

「な、ナナナナ」

「そもそも、私は既に千里眼グループのアジア総局、極東支部の副主任です。」

「千里眼グループ?」

「…万丈目グループに押され気味ですが。猫崎さん、貴方は私の父を知っていますね?」

 

 

「父親?」

「良く知っているはずですよ。母に似ている、と言われて育ちましたが…。」

 

 見覚えがない。光里も困惑している。

 

 

「…私の父は、才災勝作。」

「?!」

 

 思わぬ名前が出たことで、俊二は硬直する。

 

「ナヌっ!」

「マンマミーア!」

 

 

「で、でも!貴方の姓は…」

「ええ、そうです。離婚した時に、母に引き取られました。それ以来、相川の姓を名乗っています。」

 

 

「…父の夢を砕いたから、俺に復讐を?」

「そんなつもりはありません。もう十数年会っていません。父親の顔より、職場の受付嬢の顔をみた回数が多いです。ここに来たのは挨拶と、腕試しと…。」

「…と?」

「猫崎俊二とのデュエルに勝てば、コステロ会長が私を副主任から主任に格上げする、と言ってくださいました。正直2年後に配属された遅刻の常習犯の後輩に、先を越されたくないのです。」

「…貴方も大変だな。」

「そちらこそ。上が海馬瀬人ではさぞやつらいのでは?コステロ会長は温厚篤実にして、気前も良い方です。」

 

 遅刻の常習犯なのに出世競争で先を越されそうになっている辺り、その後輩がよほど有能なのか、それとも相川さんになにかしら問題があるのか不明だが。

 余計な思考を追い出し、俊二はデュエルディスクを構える。

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

相川 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「先攻は貰います。私の先攻、ドロー!魔法カード、予想GUYを発動!私の場にモンスターがいない時、デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚!現れろ、X-セイバー アナペレラ!」

「X-セイバー?!」

 

 サイバー流の師範だった才災の息子が、【X-セイバー】という事に驚く俊二だが、直後に思い直す。

 X-セイバーエアベルンを試験的に作り、それを主軸に置いた【猫シンクロ】でサイバー流を壊滅させた事でX-セイバーというテーマが着目されたのだろう。

 

 

「さらに魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動!手札のX-セイバー アクセルを捨て、デッキからチューナーモンスター、X-セイバー パロムロを特殊召喚!」

「レベルの合計は5…」

「レベル4のアナペレラに、レベル1のパロムロをチューニング!S召喚!X-セイバー ウェイン!効果発動!S召喚に成功した時、手札からレベル4以下の戦士族1体を特殊召喚出来る!X-セイバー ガラハド!」

「ガラハド…!」

「さらに、X-セイバー エアベルンを通常召喚!レベル4のX-セイバー ガラハドに、レベル3のエアベルンをチューニング!来い、このデッキのエースモンスター!X-セイバー ソウザ!」

 

 

 二刀流の大剣を持つ、大柄な戦士族が現れる!

 

 

「ソウザ、か」

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

相川 ライフ4000

手0 場 X-セイバー ウェイン X-セイバー ソウザ 伏せ1

 

 

「ふむ、中々優秀なのでアール!これは期待できるのでアール!」

 

 

「俺のターン、ドロー!行くぞ!俺はレスキューキャットを召喚!」

「来ましたね、S召喚の登場と貴方が愛用している事で評価が一変したカード!カウンター罠、セイバー・ホール!私の場にX-セイバーと名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を無効にし破壊!」

「っつ!」

 

 迂闊だった、と反省する俊二。

 

「貴方とサイバー・ランカーズのデュエルは見させていただきました。多彩なSモンスターを使いこなしていますが、その基本戦術はレスキューキャットからチューナーとチューナー以外のモンスターを並べてS召喚をする、という物。初動を潰せば行動出来ないでしょう!」

 

 

 その相川の言葉に内心同意する光里。一時期、『猫崎って、禁止令でレスキューキャットを宣言すれば勝てるのでは?それとマジック・ジャマー辺りで除去札対策をすれば…』と思ったことが彼女にはある。

 

 

 どちらも、才災の「リスペクト精神」に反するため出来ないが。禁止令で宣言するならば自分のデッキにもそのカードが入っていないといけない、という屁理屈のせいだ。

 

 

「確かにその通りだな。俺はカードを3枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手2 場 伏せ3

相川 ライフ4000

手0 場 X-セイバー ウェイン X-セイバー ソウザ 

 

 

 

 

 

「私のターン、ドロー!伏せは3枚か…だけど、ここは臆さず攻めます!バトル!ウェインでダイレクトアタック!」

「罠発動!和睦の使者!戦闘ダメージを0にする!」

「しのがれた…!メインフェイズ2に入ります。カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

俊二 ライフ4000

手2 場 伏せ2

相川 ライフ4000

手0 場 X-セイバー ウェイン X-セイバー ソウザ 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!ローンファイアブロッサムを召喚!」

「…植物族?」

 

 今まで使ってこなかった種族のモンスターに、当惑する相川。

 

 

「効果発動、このカードをリリースし、デッキから2体目のローンファイアブロッサムを特殊召喚!さらに効果発動!2体目のローンファイアブロッサムをリリースし、3体目のローンファイアブロッサムを特殊召喚!3体目の効果でデッキから椿姫ティタニアルを特殊召喚!」

「?!攻撃力、2800!」

「バトル!ティタニアルでソウザを攻撃!」

「ぐっ!X-セイバーが戦闘で破壊された事で、墓地のパロムロの効果発動!ライフを500払って、墓地から特殊召喚!」ライフ4000から3700、3700から3200

「ターンエンド」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手2 場 ティタニアル 伏せ2

相川 ライフ3200

手0 場 X-セイバー ウェイン パロムロ 伏せ1

 

「私のターン、ドロー!よし、フィールド魔法、セイバー・ヴォールト!場のX-セイバーと名のついたモンスターの攻撃力は、そのレベルの100倍攻撃力がアップする!」

「ウェインの攻撃力が2100から2600に。」

「レベル5のX-セイバー ウェインに、レベル1のパロムロをチューニング!」

 

 

「地属性チューナーとそれ以外のモンスター、となれば出てくるのは!」

 

 その組み合わせとレベルから、光里はゴヨウ・ガーディアンのS召喚を予測するが。

 

「現れろ!XX-セイバー ヒュンレイ!」

 

 赤いマントを纏ったヒュンレイを見た俊二は、ヒュンレイが女性だったことに内心驚く。

 

 

「攻撃力2300だが、セイバー・ヴォールトで攻撃力2900に!罠発動!激流葬!」

「くっ!このタイミングで…!ならばヒュンレイの効果発動!S召喚成功時、相手の魔法・罠カードを3枚まで破壊できる!」

 

 降り立った直後に激流が押し寄せた事にヒュンレイは、絶望の表情を浮かべるも相川の言葉を聞いて我にかえると、残った伏せカードに向かってダガーを投擲する!

 

 

「魔宮の賄賂が破壊される」

「ターンエンドです」

 

 

俊二 ライフ4000

手2 場 

相川 ライフ3200

手0 場 セイバー・ヴォールト 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地のローンファイアブロッサム3枚と椿姫ティタニアルとレスキューキャットをデッキに戻し、二枚ドロー!」

「…何を、引く?」

「召喚僧サモンプリーストを召喚、効果発動!守備表示になる。そして手札の魔法カード、精神操作を捨て、デッキからチューナーモンスター、霞の谷の戦士を特殊召喚!」

「レベルの合計は8!」

「レベル4のサモンプリーストに、レベル4の霞の谷の戦士をチューニング!S召喚!メンタルスフィアデーモン!」

「攻撃力2700!ならまだライフは!」

「バトル!メンタルスフィアデーモンで、ダイレクトアタック!そしてダメージステップに速攻魔法、イージーチューニング!墓地の霞の谷の戦士を除外して、攻撃力を1700ポイントアップ!」

「攻撃力4400…!ぐううううっ!」ライフ0

 

 

「良いデュエルだった。」

「こちらこそ。色々と気づかされました。ところで、最後のターン、レスキューキャットを呼び出さなかったのは何故ですか?そこから、エアベルンと異次元の狂獣を並べ、ナチュル・パルキオンという流れで来ると思っていたのですが」

 

「それも考えたが、俺の場にX-セイバー エアベルンが居る状況を作りたくなかった」

 

 

 俊二が自論を述べるが、光里も相川もついていけない。

 

 

「どういう事ですか?」

「ガトムズの緊急指令を発動されたら、墓地からソウザとヒュンレイが復活する。ソウザをイージーチューニングで強化したナチュル・パルキオンで戦闘破壊すればパロムロが特殊召喚出来る。そうなればヒュンレイを使って二体目のソウザにつなげられる。次のドローでX-セイバーを引かれたらソウザの効果で突破される」

「…確かに、この伏せカードはガトムズの緊急指令です。でも、私の場にX-セイバーが居ないので発動すら出来ませんよ?」

「そのテキスト、自分の場では無く、フィールド上となっていないか?」

「…あれ?もしかして、X-セイバーが相手の場にいれば発動出来る?」

 

 

 この旦那は、何故テスターに選ばれるほどの使い手も把握していないX-セイバーのサポートカードの裁定まで把握しているのか。

 頼もしいが、時折末恐ろしく感じる光里。

 

 

「インダストリアルイリュージョン社アジア総局から送られたメールにはそう書いてあったから、ミラーマッチだと割と愉快な事になると思っていた。」

「という事は、この罠をエクスチェンジなりで奪われたら、私のX-セイバーを奪われる…?」

「X-セイバーは傭兵という設定だから、蘇生させてくれた相手に従うというのは設定と合致している気はする。しかし、X-セイバーという割に、もうXX-セイバーまで開発しているのか。」

「ええ、X-セイバーのSモンスターが5と7だけで、6だけ無いので急遽制作されたと。」

「レベル7だと、ソウザとウルベルムが居るとか。」

「ええ。何故レベル7に二種類来たのか謎です。すみません、もしもよろしければこの後色々相談に乗ってくれませんか?」

「大丈夫、この日のために時間を空けておいたから。クロノス校長、授業用のデッキをお借りしても?」

 

 

 

 

「構わないノーネ!存分に議論するノーネ!」

「ありがとうございます。」

 

 

「…そういえば、千里眼グループのアジア総局、極東支部で勤務されているとか。」

「はい、そうですが。」

「となると、寒川さんが受付嬢をしているわけか。」

 

 俊二が透子義姉に目を向ける。

 

「そうなるわね。」

「?!も、もしかして寒川さんと知り合い…?」

 

「妹さんとは同級生だ。」

「その姉とは友人だけど…。入職前の学生時代の話、興味ある?」

「ぜ、是非とも!」

 

 

 途端に声が弾む相川。どうやらかなり熱を上げているらしい。

 

「…デッキ構築よりも、色恋優先か。」

 

 まぁ、元とはいえアイドル志望として研鑽を積んでいた女性だ。容姿に恵まれているのだろう。

 そう思いながら、俊二は指導用のデッキを取りに教員室へ向かう。

 生徒への指導用のデッキだから力不足感は否めないが、調整としては十分だろう。

 

 

 

 

 カードを持ってきた猫崎が扉を開くと、透子義姉さんの弾んだ声が聞こえてくる。

 

 

「理恵子はキノコ類全般が嫌い。」

「好きなものはガトーショコラですよね?」

「そんな事言っているの?理恵子の好物はローストビーフよ。自然食の食べ放題に行ったとき、ずーっとローストビーフしか食べていなかったもの。」

「バイキングで?!」

「そうよ。だから食事に誘うなら美味しいローストビーフを出してくれる店を選ぶべき…あ、俊二。」

 

 

 

「とりあえず、カードを持ってきた。色々調整…の前に、少しいいか?」

「何でしょう?」

「S召喚のテスターに選ばれた経緯を知りたい。」

「そういう事なら…」

 

 

 相川は話し始める。

 

 

 

 

「あれは、私と寒川さんが出張に行った帰り。地下駐車場に止めていた社用の車に乗ろうとした時…」

 

 

………

……

 

 

 

「ふぅん。貴様が才災勝作の息子か。」

「海馬、瀬人…」

 

 

「か、海馬瀬人?!どうして…」

「下がっていてくれ、寒川さん!」

 

 

 

「父親の居場所を答えろ。さもなくば」

「離婚して母に引き取られて以来、父とは会っていない。」

「それを信じるとでも。構えろ。」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

海馬 ライフ4000

手5 場 

相川 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻、後攻は選ばせてやる」

「なら、先攻は貰います。サイバー・ヴァリーを召喚!魔法カード、機械複製術を発動!デッキからサイバー・ヴァリーを2体、特殊召喚。」

「壁モンスターを並べて来たか。」

 

「カードを3枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

海馬 ライフ4000

手5 場 

相川 ライフ4000

手1 場 サイバー・ヴァリー サイバー・ヴァリー サイバー・ヴァリー 伏せ3

 

 

「俺のターン、ドロー!ふぅん、攻撃されれば自身を除外しバトルフェイズを終了させ、カードを1枚ドローするモンスター。壁としては優秀。だが!そんな物、この俺の前では時間稼ぎにもならん!憑依するブラッドソウルを召喚!」

「?!リバースカードオープン!捨て身の宝札を三枚発動!」

 

 海馬が召喚したモンスターに対し、即座に伏せカードを発動する相川。

 

 

「捨て身の、宝札?」

「これは私の場にモンスターが2体以上いる時発動できる!その2体以上のモンスターの攻撃力の合計が、相手モンスターの1番攻撃力の低いモンスターよりも攻撃力が低い場合、カードを2枚ドローできる。」

「でも、どうしてこのタイミングで…」

「わからんのか、小娘。俺は憑依するブラッドソウルの効果発動!自身をリリースして、相手の場のレベル3以下のモンスター全てのコントロールを得る!」

「?!」

「貴様のサイバー・ヴァリー共は根こそぎ貰う!俺はサイバー・ヴァリーの効果発動、場のサイバー・ヴァリーを除外して、カードを2枚ドロー。魔法カード、古のルールを発動。手札からレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚。現れろ!青眼の白龍!」

「ブルーアイズ…」

 

 

「バトルだ!行け、青眼の白龍!滅びのバーストストリーム!」

「ぐうううっ!」ライフ4000から1000

「俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

 

海馬 ライフ4000

手3 場 青眼の白龍 サイバー・ヴァリー 伏せ2

相川 ライフ1000

手7 場 

 

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、地割れを発動!」

「むっ」

 

 

 サイバー流の師範、才災がリスペクトの名のもと除去カードを批判・否定していた。

 その息子ならばその教えを受け継いでいるもの、と無意識に思い込んでいた事に海馬は気づく。

 

 

「サイバー・ヴァリーを破壊!サイバー・ジラフを召喚!このカードをリリースすることで、このターン、私が受ける効果ダメージは0になる!魔法カード、パワー・ボンドを発動!手札のサイバー・ドラゴン3体を融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

「ふぅん。攻撃力8000か」

「バトル!サイバー・エンド・ドラゴンで、青眼の白龍を攻撃!」

「リバースカードオープン!亜空間物質転送装置!青眼の白龍を除外!」

 

 

 

「どうして、青眼の白龍を?!」

「なら、そのままダイレクトアタック!」

「リバースカードオープン!カウンター・ゲート発動!相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動!その攻撃を無効にし、俺はデッキから1枚ドロー!」

「しのがれた…。カードを1枚伏せてターンエンド!エンドフェイズ、パワー・ボンドによりサイバー・エンド・ドラゴンの元々の攻撃力分のダメージ受けるが、サイバー・ジラフの効果により、ダメージは受けない!」

「エンドフェイズ、青眼の白龍は俺の場に戻ってくる。」

 

 

 

 

海馬 ライフ4000

手4 場 青眼の白龍

相川 ライフ1000

手1 場 サイバー・エンド・ドラゴン 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、強欲な壺を発動!カードを2枚ドロー!」

 

 手札を一瞬見つめる海馬。直後に戦略を立ててプレイングを進める。

 

 

「魔法カード、ドラゴン・目覚めの旋律を発動。手札のアサルトワイバーンを捨て、デッキから青眼の白龍二枚を手札に加える。」

「青眼の白龍が3枚そろった…!」

「魔法カード、融合!場と手札の青眼の白龍3体を融合!現れろ、青眼の究極竜!」

 

 三つ首の青眼の究極竜が、相川を見下ろす!

 

 

「これが、青眼の究極竜…」

「まだだ!俺はこの青眼の究極竜をリリース!」

「?!」

「青眼の光龍を特殊召喚!このカードの攻撃力は、墓地のドラゴン族の数×300ポイントアップする!よって、攻撃力は4500!」

「だが、サイバー・エンド・ドラゴンの方が攻撃力は上!」

「俺は装備魔法、巨大化を貴様のサイバー・エンド・ドラゴンに装備!巨大化の効果を受けたことで、パワー・ボンドによる攻撃力アップは適用されなくなり、攻撃力は2000になる。」

「?!」

 

 

 

 その光景を見て、寒川は首をかしげる。

 

「えっ?2000まで攻撃力が下がって、その後パワー・ボンドにより攻撃力が4000ポイントアップして6000になるんじゃあ…?」

「収縮だったら、寒川さんの言うとおりになるが、巨大化は違うんだ。」

 

 

 巨大化と収縮で何故裁定が違うのか、と寒川さんは混乱する。

 

 

「ふぅん。これで終わりだ!バトル!青眼の光龍で、サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

「リバースカードオープン!速攻魔法発動、コンセントレイト!私の場のモンスターの攻撃力は、その守備力分アップする!サイバー・エンド・ドラゴンの守備力は2800!よって攻撃力は4800までアップ!」

「何ぃ!」ライフ4000から3700

 

 

 サイバー・エンド・ドラゴンが死力を振り絞り、青眼の光龍を撃破する!

 

 

「…ふぅん。貴様、何と言う名だ?」

「相川、相川士道。」

「青眼の光龍を倒すとは。だが、ここで引導を渡してやる!ブルーアイズモンスターが戦闘で破壊された時、ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンの効果発動!このカードを手札から特殊召喚して、俺の墓地のドラゴン族の種類×600ポイントのダメージを与える!」

「アサルトワイバーン、青眼の白龍、青眼の究極竜、青眼の光龍の4種類っ!これが、伝説の決闘者か…!」ライフ0

 

 

 ライフが尽きたが、相川は膝をつかなかった。

 

 

「一応、聞いておく。相川、貴様はS召喚のテスターに興味は無いか?」

「S召喚、というとレベルの足し算する新しい召喚方法…。でも、何故私に?」

「答えろ、YESかNOか」

「い、YES」

「ならば良い。貴様の住所にデッキを送る。こちらが指定した時に報告書を送れ。以上だ。」

 

 

 

 

 

 

「…という感じで決まりました。」

「不思議ね。何故急にテスターにしようと思ったのかしら?」

 

 

 透子義姉さんはその点が解せないようだったが、猫崎には分った。

 父親の業を背負いながらも歩き続ける姿に、海馬瀬人は親近感を覚えたのだろう。



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第41話!決めろ、コンタクト融合!

光源獣カンデラートは使いづらい印象があります。手札2枚を墓地に送って特殊召喚、特殊召喚ターンは攻撃できず、場にいる限りドローフェイズをスキップ。攻撃力は手札の数×1000…。

相手に送りつける、というのが現実的な使い方でしょうか?


 遊城十代は奮戦していた。リベンジにやってきたワーム・プリンスと戦い、部族内での下克上を目論んでやってきたワーム・ノーブルを敗走させ、強者との戦いを望んでやってきたワーム・ウォーロードと戦い、中々ネオスペースを落とせない事で業を煮やしてやってきたワーム・イーロキンを倒し、ワームの仲間にならないか?と勧誘してきたワーム・イリダンの提案を拒否してデュエルをしたり。

 

 

「俺思ったんだけど、ワームとしか戦っていなくないか?」

「ワームはとにかく数が多いからね。」

 

 アナザー・ネオスから貰った宇宙食に手を付ける十代。

 チューブステーキ、今回はサーモン味だ。ぐにゃりとしており、あまり食事をしているという気分になれないが、贅沢は言えない。

 用意してもらえるだけ恵まれている。

 

 

「いい加減、対策されつつあるよな…。融合禁止エリア、王宮の弾圧…」

「君がドローソースを多めに入れて居る事で、永続罠、便乗まで使って来たよね。」

「あれには驚いたな。便乗ってあんなにドロー出来るんだ。」

「…イリダンがあれだけドローできたのは、君のドローソースの割合が高いからだろうね…新手だ!」

「またワームか!」

「いいや、これは…。」

 

 

 ワームに混じって時折現れる光の使者。

 手札二枚をコストに特殊召喚されるが、召喚ターン攻撃は出来ず、ドローフェイズをスキップする光源獣 カンデラート使い。

 

 

「またこいつか。」

 

 

 

光の使者 ライフ4000

手5 場 

十代 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

 

「私の先攻、ドロー。私は、手札からおジャマジックを2枚捨てて、光源獣 カンデラートを特殊召喚!」

「おジャマジック?!」

 

 

 驚く十代。

 

 

「どうした?あの魔法カードを知っているのか?」

「アナザー・ネオス。あれは墓地に送られたらデッキからおジャマ三兄弟を手札に加える事が出来るんだ。」

「という事は…」

 

「私は、デッキからおジャマイエロー、グリーン、ブラックを二枚ずつ手札に加える。カードを3枚伏せてターンエンド。」

 

 

 

 

 

光の使者 ライフ4000

手6 場 光源獣 カンデラート 伏せ3

十代 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「永続罠発動、虚無空間。このカードが場にある限り、お互いにモンスターを特殊召喚できない。ただし、デッキか場から私の墓地にカードが送られた場合、このカードは破壊される。」

「だったら」

「さらに、マクロコスモスを発動。お互いの墓地に送られるカードは除外される。」

 

 

 光源獣 カンデラートは、手札2枚を墓地に送って特殊召喚されるモンスター。

 あまりにもシナジーが合わない。

 

 ふと、ある事に気づく。目の前のロボットから戦意を感じない。どちらかというと、後方から戦意を感じる。

 これは、大原と小原の時と同じ感覚だ。

 

 

「俺はN・グランモールを召喚!」

「カウンター罠発動、神の宣告。ライフを半分支払う。」ライフ4000から2000

 

 

 召喚と同時に砕け散るグランモール。

 

 

「チェックメイト。」

「俺は、カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

光の使者 ライフ2000

手6 場 光源獣 カンデラート マクロコスモス 虚無空間

十代 ライフ4000

手4 場 伏せ1

 

 

「私のターン。カンデラートの効果でドローフェイズをスキップ。行け、カンデラート!ダイレクトアタック!」

「罠発動!ドレインシールド!カンデラートの攻撃力、6000ポイントのライフを回復!」

「…ターンエンド。」

 

 

 

光の使者 ライフ2000

手6 場 光源獣 カンデラート マクロコスモス 虚無空間

十代 ライフ10000

手4 場 

 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は、カードを一枚伏せてターンエンド」

 

 

 

光の使者 ライフ2000

手6 場 光源獣 カンデラート マクロコスモス 虚無空間

十代 ライフ10000

手4 場 伏せ1

 

 

「私のターン。バトル!カンデラートでダイレクトアタック!」

「うわああああああっ!」ライフ10000から4000

 

「遊城十代っ!」

 

 アナザー・ネオスが思わず叫ぶ。

 

 

「ターンエンド。」

 

 

 

光の使者 ライフ2000

手6 場 光源獣 カンデラート マクロコスモス 虚無空間

十代 ライフ4000

手4 場 伏せ1

 

 

「俺のターン」

「…何故、諦めない。この状況を逆転できるとでも?」

「まだ可能性があるからだ!ドロー!よしっ!魔法カード、E-エマージェンシーコールを発動!デッキからE・HEROアナザー・ネオスを手札に加え、召喚!」

「攻撃力1900でどうするつもりだ?」

「慌てるな。カードを3枚伏せてターンエンド。」

 

 

光の使者 ライフ2000

手6 場 光源獣 カンデラート マクロコスモス 虚無空間

十代 ライフ4000

手1 場 アナザー・ネオス 伏せ4

 

 

「私のターン。バトル。カンデラートでアナザー・ネオスを攻撃。」

「罠発動!異次元トンネル-ミラーゲート-!E・HEROが攻撃対象になった時、互いのモンスターのコントロールを入れ替える!」

「?!だが、お前の手札は1枚、カンデラートの攻撃力は1000に下がる」

「そうだ!アナザー・ネオスでカンデラートを破壊できる!ぐっ!」ライフ4000から3100

「…バトル終了。」

 

「アナザー・ネオスは俺の場に戻ってくる!」

「私は、モンスターをセット。ターンエンド。」

 

 

 

光の使者 ライフ2000

手5 場 セットモンスター マクロコスモス 虚無空間

十代 ライフ3100

手1 場 アナザー・ネオス 伏せ3

 

 

 

「俺のターン、ドロー!N・フレア・スカラベを召喚!このカードの攻撃力は相手の場の魔法・罠カードの枚数×400ポイント、攻撃力がアップする!バトルだ!フレア・スカラベでセットモンスターを攻撃!」

「おジャマブラックが」

「アナザー・ネオスでダイレクトアタック!」

「…っつ!」ライフ2000から100

「ターンエンドだ」

 

 

 

 

光の使者 ライフ100

手5 場 マクロコスモス 虚無空間

十代 ライフ3100

手1 場 アナザー・ネオス N・フレア・スカラベ 伏せ3

 

 

 

「こんなはずでは…私のターン、ドロー!モンスターをセット。ターンエンド!」

 

 

 

光の使者 ライフ100

手5 場 セットモンスター マクロコスモス 虚無空間

十代 ライフ3100

手1 場 アナザー・ネオス N・フレア・スカラベ 伏せ3

 

 

「俺のターン、ドロー!N・エア・ハミングバードを召喚!効果発動、相手の手札1枚につき、ライフを500回復!ライフを2500ポイント回復!バトルだ、フレア・スカラベでセットモンスターを攻撃!」

「メタモルポットのリバース効果発動!手札を全て捨てて、5枚ドロー!」

 

 

「なるほど、カンデラートは特殊召喚モンスター。あのカードをセットしておけば、次のターンに手札を一気に増やせる。」

「だが、このデュエルは貰った!行け、エア・ハミングバード!」

「ひ、光を!もっとヒカリヲー!」ライフ0

 

 

 

 

 デュエルに勝利したが、十代は大きく深呼吸をする。

 あのロボットがこんな厄介な戦術を駆使してくるなら、またデッキを見直さなければならない。

 

 

 

「ん?」

 

 

 耳をすませば、かすかな物音が聞こえてくる。

 離れつつあるようなので、そっと目を向ける。

 

 

 ツインテールの髪を持つ、小さな黒い翼をもつ少女が離れていく。

 

「ワームでは無い?」

「彼女は魔轟神という部族の中では最下層の、魔界に所属する斥候を担当しているトピーだ。情報を持ち帰られると厄介だ…はぁっ!」

 

 アナザー・ネオスが攻撃を加えると、トピーの近くで爆発が起きる!

 

「?!み、見つかった!」

 

 

 目元を派手な仮面で覆っているが、見つかった事でかなり動揺しているらしい。

 

 

「逃がさないぞ!」

「虚無空間とマクロコスモスを貼られて戦意喪失しない相手とデュエルなんて、冗談じゃないわ!」

 

 

 どうやら、先ほどのロボットは彼女が操作していたらしい。

 追撃しようとしたアナザー・ネオスを十代が引っ張る!

 

 

「何をす…る…」

 

 先ほどまでアナザー・ネオスが居た空間が、えぐり取られていた。

 

 

「?!破滅の光!くっ、直接乗り込んでくるとは!」

『…超融合を完成させるためには、コンタクト融合を6種類成功させねばならないのか。ならばちょうどいい。』

 

「い、いやっ!来ないでっ!」

 

 後ずさりする魔轟神トピーを、白い靄が覆いつくす!

 

「…脆弱な肉体だな。まぁ、すぐに乗り捨てる。このデュエルさえ持てばいい。」

「お前、コンタクト融合を6種類成功させるつもりらしいが、どうやって成功させるつもりだ!そもそも、お前のデッキにネオスもネオスペーシアンも…」

「それはどうかな?」

 

 白い靄がカードを見せる。

 

 

「?!」

「我はワーム共を使い、ネオスペースにいるコクーンを捕獲させた。こいつらは、我が波動を受けた光の戦士達。さぁ、始めよう。超融合は我が頂く!そうなれば、人間をベースにした連中より我は盟主様に重用されるはずだ!」

「人間を、ベース?」

 

 思わぬ情報を、十代は得た。だが、問答する前に相手はデュエルディスクを構える。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

十代 ライフ4000

手5 場 

トピー ライフ4000

手5 場 

 

「我の先攻、ドロー!人間よ、例え同じコンタクト融合を主軸に置いていようと、我とお前とではその戦略からして違う!我はクリッターを召喚!」

「クリッター?」

「さらに魔法カード、生け贄人形を発動!クリッターをリリース、現れよ!E・HEROネオス!」

 

 トピーの場にネオスが現れるが、赤いラインは青色のラインになり、胸の青い球はギラギラと銀色に輝いている。

 

「おのれ、破滅の光め!」

「クリッターの効果で、デッキからN・グラン・モールを手札に加える。カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

十代 ライフ4000

手5 場 

トピー ライフ4000

手3 場 ネオス 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!ネオスを残しておくと、次のターンにコンタクト融合される…。待てよ?ライフを800払って、魔法カード、洗脳-ブレイン・コントロールを発動!」ライフ4000から3200

「何?!」

「お前のネオスのコントロールを得る!N・アクア・ドルフィンを通常召喚!効果発動、手札のE・HEROネクロダークマンを捨てて、お前の手札を確認させてもらうぜ!」

「ぐっ…グランモール、悪夢の鉄檻、E-エマージェンシーコールだ。」

「よし、グランモールを破壊する!そして500ポイントのダメージを与える!」

「ぐううっ!」ライフ4000から3500

 

「行くぜ、俺は場のネオスとアクアドルフィンをデッキに戻し、コンタクト融合!現れろ、E・HERO アクア・ネオス!さらに手札のカードガンナーを捨てて、効果発動!お前の手札をランダムに一枚捨てさせる!」

「ぐっ…エマージェンシーコールが!」

「よし、フィールド魔法、ネオスペースを発動!バトルだ、アクア・ネオスでダイレクトアタック!」

「通すか!罠発動!万能地雷グレイモア!」

「アクア・ネオスッ!ターン、エンドだ」

 

 

 

十代 ライフ3200

手1 場 ネオスペース

トピー ライフ3500

手1 場 

 

 

「我のターン、ドロー!魔法カード、悪夢の鉄檻を発動!さらにモンスターをセット、ターンエンドだ!」

 

 

十代 ライフ3200

手1 場 ネオスペース

トピー ライフ3500

手0 場 セットモンスター 悪夢の鉄檻(2)

 

 

「俺のターン、ドロー!墓地のネクロダークマンの効果発動、E・HEROをリリース無しで召喚できる!現れろ、E・HEROネオス!」

「何だと!」

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

十代 ライフ3200

手0 場 ネオス ネオスペース 伏せ1

トピー ライフ3500

手0 場 セットモンスター 悪夢の鉄檻(1)

 

 

「我のターン、ドロー!カードを一枚伏せ、メタモルポットを反転召喚!」

「メタモルポット?!」

「効果発動、互いに手札を全て捨てて、捨てた枚数分ドローする!お互いに5枚ドローだ!」

 

 

 十代に5枚もドローさせるとか、こいつ馬鹿なんじゃないか?という目を向けるアナザー・ネオス。

 

 

「我は古のルールを発動!手札のレベル5以上の通常モンスターを特殊召喚!現れろ、E・HEROネオス!」

「ネオス…!」

「魔法カード、トランスターンを発動!場のモンスターを墓地に送って発動!そのモンスターと同じ種族・属性が同じでレベルが1つ高いモンスターを、デッキから特殊召喚する!」

「ネオスを墓地に送れば、レベル8の光属性・戦士族を呼び出せる…」

「フン!我はレベル2の岩石族・地属性のメタモルポットを墓地に送り、N・グラン・モールを特殊召喚!」

 

 ギラギラと輝く白い鎧を纏ったグランモールが現れる。

 

「我は場のネオスとグランモールをデッキに戻し、現れろ!E・HEROグラン・ネオス!効果発動、お前のモンスターを手札に戻す!ネオスを手札に戻せ!」

「くっ!」

「だが、攻撃は出来ないな…ターンエンド!」

 

 

十代 ライフ3200

手6 場 ネオスペース 伏せ1

トピー ライフ3500

手2 場 グラン・ネオス 悪夢の鉄檻(1) 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、フェイク・ヒーローを発動!現れろ、ネオス!」

「だが攻撃も出来ず、エンドフェイズに手札に戻るぞ!」

「俺はN・グロー・モスを召喚!行くぜ!ネオスとグローモスをデッキに戻し、E・HEROグロー・ネオスを特殊召喚!」

「ぐっ…」

「効果発動、グラン・ネオスを破壊しろ!シグナルバスター・ブルー・ライトニング!」

「おのれぇっ!」

「ターンエンドだ!悪夢の鉄檻も消滅するぜ!」

 

 

十代 ライフ3200

手4 場 グロー・ネオス ネオスペース 伏せ1

トピー ライフ3500

手2 場 伏せ1

 

 

「我のターン、ドロー!魔法カード、ブラック・ホールを発動!くたばれっ!グロー・ネオス!」

「っつ!グロー・ネオスッ!」

「魔法カード、死者転生を発動!手札の転生の預言を捨てて、墓地からメタモルポットを手札に戻す!モンスターをセットして、ターンエンド!」

 

 

 

 

十代 ライフ3200

手4 場 ネオスペース 伏せ1

トピー ライフ3500

手0 場 セットモンスター 伏せ2

 

 

「またメタモルポットか…。俺のターン、ドロー!E-エマージェンシーコールを発動!俺はネオスを手札に加える!魔法カード、フェイク・ヒーローを発動!現れろ、ネオス!」

「ネオスをまた出してきたか…」

「N・フレア・スカラベを召喚!行くぜ、ネオスとフレア・スカラベをデッキに戻し、E・HERO フレア・ネオス!カードを二枚伏せる!これでフレア・ネオスの攻撃力はネオスペースで500ポイントアップ!さらにお前の場に2枚の伏せカード、俺の場に3枚の伏せカードとネオスペースがある事で、攻撃力は2400ポイントアップ!バトル!セットモンスターを攻撃!」

「罠発動!炸裂装甲!」

「っつ…攻撃が通らない。俺はターンエンドだ。」

 

 

 

 

 

十代 ライフ3200

手0 場 ネオスペース 伏せ3

トピー ライフ3500

手0 場 セットモンスター 伏せ1

 

 

「我のターン、ドロー!カードを一枚伏せ、メタモルポットを反転召喚!互いに5枚のカードをドローする!」

「…俺も5枚引かせてもらうぜ!」

「バトルだ!いけ、メタモルポット!ダイレクトアタック」

「ぐううっ!」ライフ3200から2500

「魔法カード、おろかな埋葬を発動!デッキからネオスを墓地に送る。カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

十代 ライフ2500

手5 場 ネオスペース 伏せ3

トピー ライフ3500

手3 場 メタモルポット 伏せ3

 

 

「俺のターン、ドロー!死者蘇生を発動!お前の墓地から、ネオスを特殊召喚!」

「させるか!永続罠、正統なる血統!これで墓地のネオスを特殊召喚!」

「チェーンして速攻魔法、サイクロン!正統なる血統を破壊!」

「ぐっ…チェーン処理で正統なる血統が破壊され、ネオスがお前の場に…!」

 

「俺はN・エア・ハミングバードを召喚!効果発動、お前の手札の枚数×500ポイント、ライフを回復する!」ライフ2500から4000

「いいのか?効果を使わなければエアー・ネオスの攻撃力はネオスペースとライフの差1000ポイントだったことで攻撃力は4000まで上がっていたぞ?」

「それだと削り切れないからな。俺はネオスとエアハミングバードをデッキに戻し、コンタクト融合!現れろ、エアー・ネオス!」

「罠発動!奈落の落とし穴!エアー・ネオスを除外する!」

 

 

「むっ?奈落の落とし穴があるなら、ネオスを…」

「いや、ネオスはあいつのカード。除外したら再利用が困難だ。ターンエンド!」

 

 

 

 

 

十代 ライフ4000

手3 場 ネオスペース 伏せ3

トピー ライフ3500

手3 場 メタモルポット 伏せ1

 

 

「我のターン、ドロー!魔法カード、生け贄人形を発動!場のメタモルポットをリリースして、現れろ!E・HEROネオス!」

「だけど、生け贄人形で特殊召喚したネオスはこのターン、攻撃は出来ないぜ!」

「そうだな。我はこのままターンエンド」

 

 

 

 

 

十代 ライフ4000

手3 場 ネオスペース 伏せ3

トピー ライフ3500

手2 場 ネオス 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!E・HEROプリズマーを召喚!効果発動!E・HEROグラン・ネオスを相手に見せる事で、デッキからネオスを墓地に送る!」

「カード名をネオスにする事で、プリズマーの攻撃力がネオスペースにより2200になるが、まだ足りないな?」

「…俺はこのままターンエンド!」

 

 

 

 

 

十代 ライフ4000

手3 場 プリズマー ネオスペース 伏せ3

トピー ライフ3500

手2 場 ネオス 伏せ1

 

 

「我のターン、ドロー!バトルだ!いけ、ネオス!プリズマーを破壊しろ!」

「罠発動!ドレインシールド!攻撃を無効にして、その数値分ライフポイントを回復!」ライフ4000から7000

「ライフを回復したか。だがそんな物、すぐに削り落としてやる。ターンエンド!」

 

 

 

 

 

 

十代 ライフ7000

手3 場 プリズマー ネオスペース 伏せ2

トピー ライフ3500

手3 場 ネオス 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!よし、魔法カード、R-ライト・ジャスティスを発動!その伏せカードを破壊する!」

「?!融合体駆除装置が!」

 

 

「融合モンスターを破壊する罠カードだな。厄介な物を」

 

「だが、これで障害は無くなった!俺はプリズマーの効果発動!もう一度グラン・ネオスを見せる事で、デッキからN・グラン・モールを墓地に送る!」

「グランモール…。」

「魔法カード、O-オーバーソウルを発動!蘇れ、ネオス!そしてネオスとグランモールとなったプリズマーをデッキに戻し、現れろ!グラン・ネオス!効果発動!お前のネオスを手札に戻す!」

「お、おのれっ!」

 

「いけ、グラン・ネオス!ダイレクトアタックだ!」

「フンッ。」ライフ3500から500

 

 

 

 グラン・ネオスのダイレクトアタックを、片腕で防ぐトピー。

 

「…?!腕が、変な方向に…」

「なんだ、骨折したか。魔轟神とはいえ、最下級の斥候では肉体が脆弱すぎるな。」

「魔轟神は協力者じゃないのか?」

「手を組んでいるだけだ。そもそも、攻撃を仕掛けたのはお前だろう。我を批判するのは筋違いだ」

 

 肉体を乗っ取っているにも関わらずこの言いように、十代は嫌悪感を示す。

 

「ターン、エンドだ。」

 

 

 

十代 ライフ7000

手2 場 グラン・ネオス ネオスペース 伏せ2

トピー ライフ500

手4 場 

 

 

「我のターン、ドロー!我を追い詰めたが、それがお前の命取りとなるのだっ!」

「?!エアー・ネオスか!」

「魔法カード、古のルールを発動!現れろ、ネオス!」

「ネオス…!」

 

 

 トピーの全身から光の波動が迸る!

 

 

「感じる、感じるぞ…!我の力の増幅を!」

「何を始める気だ?」

「さぁ行くぞ!二重召喚を発動!これにより通常召喚を二回行う事が出来る…現れろ、N・ブラック・パンサー、N・グロー・モス!」

 

 トピーのデュエルディスクが強い光を放つ!

 

「我は、この三体でトリプル・コンタクト融合を行う!」

「ば、馬鹿な!現在、ネオスペースで確認されているコンタクト融合は、ネオスとそれ以外のネオスペーシアン一体のみのはず!」

「我はライフが1000以下になった時、融合モンスターを創造することができるのだ!現れろ!我が創造したモンスター、E・HEROカオス・ネオス!」

 

「攻撃力、3000!ネオスペースでさらにアップか…!」

「効果発動、コイントスを三回行い、表の数によって効果が決定!すべて表なら、お前のモンスターを全て破壊!二枚表なら、お前のモンスター効果を無効にする。1枚表なら、我の場のモンスターが全て手札に戻る。」

「…今までのコンタクト融合体と、随分効果が異なるな。」

 

 

「やめろ!表が一枚なら、お前の場と手札にはカードが一枚も残らないんだぞ!」

「我が外すとでも?コイントスだ!」

 

 

 ゆっくりとコインを投げるトピー。

 

 

「…表が二枚、これで自滅は無くなった…だけど次が外れれば…」

「三回目、表だ。よって、グラン・ネオスを破壊!」

「グラン・ネオスッ!」

 

「バトルだ!行け、カオス・ネオス!ダイレクトアタック!」

 

 

 迫りくる、カオス・ネオスの攻撃!

 

「っつ、がああああああっ!」ライフ7000から3500

「ターンエンドだ!」

 

 

 

十代 ライフ3500

手2 場 ネオスペース 伏せ2

トピー ライフ500

手0 場 カオス・ネオス

 

 

 

「お、俺のターン、ドロー!N・ブラック・パンサーを召喚!魔法カード、H-ヒートハートを発動!攻撃力を500ポイントアップさせ、攻撃力が守備力を超えていれば、その数値分ダメージを与える!」

「それでどうするつもりだ!」

「ブラック・パンサーの効果発動!カオス・ネオスと同じ効果を得る!俺はカオス・ネオスとなったブラック・パンサーの効果発動!」

 

「遊城十代!」

「…ここで、賭けに出ないと俺は負ける!頼む…一枚目…表!」

「フン…。」

 

「…に、二枚目……表!」

「よしっ!」

 

 

「…三回目。」

 

 

 永遠とも思える時間、虚空を舞うコインはややあって、落ちる。

 

 

「…表だっ!これでカオス・ネオスを破壊!」

「ぐううううっ!カオス・ネオスの最後の効果!場を離れた時、場のモンスターを全て裏側守備表示にする!」

 

 

「何だって!くっ、折角強化したのに」

「これで、このターン攻撃はできまい!」

「それはどうかな?」

 

 勝利を確信する十代。

 

「何だと!」

「墓地のH-ヒートハート、E-エマージェンシーコール、R-ライト・ジャスティス、O-オーバーソウルを除外して、HEROフラッシュを発動!現れろ、E・HEROネオス!」

「?!」

「俺は、ネオスとセットされたブラック・パンサーをコンタクト融合!現れろ、E・HEROブラック・ネオス!」

「ばか…な…っ!」

 

 

「よし!コンタクト融合を6種類成功させたぞ!」

「いけ、ブラック・ネオス!ダイレクトアタック!」

「ぐ、ぐわあああああああっ!」ライフ0

 

 

 白い靄は魔轟神トピーから抜け出し、逃亡を図るも、ブラック・ネオスの追い打ちを受ける!

 

『我が、我が滅びる…だと!光を、もっと、ヒカリ…ヲ…』

 

 それが、最期の言葉だった。

 

 

「…おめでとう、遊城十代。これで、超融合が、完成した。」

 

 そう言われ、十代が自分のデッキを確認すると、超融合と6枚の白紙のカードがある。

 

「これが、超融合…でも、また白紙のカードだ。」

「超融合は、それ単体では意味がない。あくまでも、E・HERO同士のミラーマッチで有利になるだけのカードでしかない。地球へ戻り、属性融合のE・HEROを完成させるんだ!」

「属性?」

「E・HEROの可能性は無限大!今の君ならば、特定の属性とE・HEROの融合モンスターを創造する事だって出来るだろう!」

「という事は、それぞれの属性の使い手とデュエルをすればいいのか?」

「そう言う事だ。」

「なら、うってつけの相手が居る。そいつと6回デュエルをすれば、一日で完成だ!」

 

 

 三沢大地の顔を思い浮かべる十代。

 

「心当たりがあるなら、ちょうどいい。遊城十代、破滅の光を倒すんだ!」

 

 アナザー・ネオスが手刀を振り下ろすと、ゲートが開く。

 

「急げ!」

「デュエル・アカデミア…。ありがとう、アナザー・ネオス!」

 

 

 ゲートをくぐる十代。

 それを見送り、アナザー・ネオスはようやくホッと一息つく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。魔轟神トピーは、這う這うの体でようやく帰還する。

 

「…そう。超融合が完成したのね。」

 

 コクリ、とうなずくトピー。

 背中に黒い羽根を持つ女性は、他の魔轟神に目を向ける。

 

「それはそんなヤバいカードなのか?」

 

 大柄で筋肉質の魔轟神が、傍らの小柄な老人に目を向ける。

 

「破滅の光と戦う使命を帯びたデュエリスト、という伝説があるの。」

 

 

「伝説、ねぇ。」

「面白いじゃねぇか。」

 

 

 双子の魔轟神が笑う。

 

 

「…トピーの扱いから、我々を使いつぶす事しか考えていないのは明白。そして宿敵が誕生した以上、こちらに戦力は送ってこない。」

 

 眼鏡をかけた魔轟神が周りを見渡す。

 筋肉質の魔轟神が頷く。

 

「ワームと破滅の光が、A・O・J同盟と勝手に戦ってくれる。俺達はその間に拠点を構築するべきだろう。」

「では、ターゲットは何処に?」

「ナチュルの森にもワームが侵攻している。鉢合わせはしたくない。となれば…ターゲットはジュラックだ。」

 

 

 ふと、グリムロはある可能性に気づく。

 

「…ディアネイラ様。氷結界がトリシューラを解放する可能性はありますか?」

「気にするな、グリムロ。氷結界とて馬鹿では無い。あれを解放したらどうなるかはわかっているはず。そもそも、自分達で制御できない奴を解放したりしないだろう。」

 

 他の魔轟神も同調する中、眼鏡をかけた魔轟神クシャノだけが考え込む。

 

「…ならば良いのですが」

 

 

 邪悪な神々も騒乱に乗じて、動き出す。その行動の先に何が待ち受けているとも知らず…。



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第42話!ネオスVSD-HERO!

本編でプロを騙してレッド寮を潰させようとしていたナポレオン教頭でしたが、エドが勝ってレッド寮廃止、報酬の話になったらかなり大事になる気がします。

そのリスクを背負ってまでレッド寮を潰す覚悟があったとは思えませんが…怒り狂ったエドがナポレオン教頭を追い掛け回すという展開は見てみたかった気がします。すぐに捕まりそうですが。


 クロノス新校長が出張にでたとたん、レッド寮の前に立て札が立つ。

 

 

「…レッド寮の代表と学園の代表がデュエル、レッド寮の代表が負けたら問答無用でレッド寮を廃止…そんなに嫌なの?」

 

 レッド寮長である響先生はかなりイライラする。

 

 

「私が片を付けます。いい加減、落ちこぼれを排除するというのを止めないと。オシリスレッドを廃止にしたら、次はラーイエローを廃止、ブルー生徒だけ残すのが狙いでしょうから。」

「フン、それは認められないのでアール!」

「ナポレオン教頭!何故です!」

「マドモアゼル響は寮長なのでアール。こちらの代表は生徒でアール!」

「生徒?オベリスクブルー?それとも、白い制服の…。」

 

 

「僕だ。」

「?!エド・フェニックス…ナポレオン教頭!プロに対し、学生にデュエルをしろというのですか!」

「その通りなのでアール!」

 

 どこまで卑劣な、憤る響先生だが。

 

 

「ちょっと待ったー!」

「?!遊城君!い、一体どこに行っていたの!」

「ちょっと色々あって…。でも、カードは見えるようになったし、新しいE・HEROを手に入れた!」

 

 

 それに反応するエド。

 

「新しいE・HEROだと!ふざけたことを!」

「あっ…、そうか、HEROシリーズをデザインしたのは…。」

「僕は認めないぞ、父さんが手がけていないのに、HEROを名乗るなど!」

「…エド、お前と才宮選手の中継は見ていた。」

「っつ…嫌なことを思い出させる。」

「俺は、ただHEROに憧れて、HEROデッキを使っていた。でも、HEROには宿命があるというお前の考えは理解できる。」

「…何が言いたい。」

 

「俺とデュエルしようぜ!HERO使い同士、ワクワク出来るデュエルをさ!」

「いいだろう、お前のいうまがい物のHEROを、父さんが残したD-HEROで叩き潰してやる!」

 

 

「ちょっと、遊城君!相手はプロなのよ!以前勝ったそうだけど、あの時とは違うのよ!」

「…お願いです、響寮長。俺に戦わせてください!」

「…はぁ、仕方ないわね。でも、負けたらレッド寮が取り潰しなのよ?」

「レッド寮を…。ならナポレオン教頭!」

 

「な、何なのでアール!」

「レッド寮が勝ったら何をしてくれるんだ?」

「な、何の事でアール?」

「もうレッド寮の取り潰しを言わないとか、色々あるだろう!現役のプロに勝てるなら取り潰す必要は無いだろ!」

「ヌヌ…では、(クロノス新校長が戻ってくるまで)レッド寮を取り潰さないと約束するのでアール」

 

 

 今小声で不穏な事を言ったような気がした響寮長は咎めようとするが。

 

「なら決まりだ!」

「…ナポレオン教頭。約束通り、このデュエルの後で、デュエルモンスターズの裏事情に詳しい人を紹介してもらう。忘れるなよ?」

「も、もちろんでアール!」

 

 

 デュエルの裏事情に詳しい人を本当に知っているのか、と訝しむ響寮長。

 そういう『裏』と通じているとなれば、理事長などの大物になってくるが…。

 

 

 

 

 

 早朝。デュエルリングで対峙する十代とエド。

 

 

「…知らせを聞いて駆け付けたが、ナポレオン教頭は相変わらずか。」

「…遊城君はカードが見えるようになったらしいけれど、新しいHEROって何かしら?異星の最終戦士?あれとダーク・シムルグと魔封じの芳香を並べられた時は何もできずに負けたけれど…」

 

 それは、前世で猫崎と渡り合ったOCG世界のデュエリストもサレンダーする布陣だ。

 

 

 

「行くぜ、エド!」

「来い、十代!」

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

十代 ライフ4000

手5 場 

エド ライフ4000

手5 場 

 

 

「D-HERO ダイヤモンドガイを召喚!エフェクト発動、デッキの一番上のカードを1枚めくり、それが通常魔法だった場合、そのカードをセメタリーに送ることで次の自分のターンのメインフェイズに、その効果を発動できる!ハードネス・アイ!デッキトップは…黒魔術のカーテン。このカードを墓地に送る!」

「黒魔術のカーテンって…!」

「僕はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

 

 

十代 ライフ4000

手5 場 

エド ライフ4000

手4 場 D-HERO ダイヤモンドガイ 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!よし、俺はE・HEROアナザー・ネオスを召喚!」

「攻撃力1900の、E・HERO!父さんのスケッチブックでも見たことがないカード…」

 

 

「この腐った蜜柑め!カードを勝手に偽造したのでアルか!」

「しかし、デュエルディスクは異常を検知していません。あれは正式なカードでは?」

「ヌヌヌ…。」

 

 

「バトルだ!頼む、アナザー・ネオス!ダイヤモンドガイを攻撃!」

「罠発動!D-シールド!D-HEROが攻撃対象になった時、攻撃対象のD-HEROを守備表示に変更、そして装備モンスターは戦闘では破壊されない!」

「通らないか…。なら俺はカードを二枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

 

十代 ライフ4000

手3 場 アナザー・ネオス 伏せ2

エド ライフ4000

手4 場 D-HERO ダイヤモンドガイ D-シールド

 

 

「僕のターン、ドロー!ダイヤモンドガイのエフェクトで墓地に送った、黒魔術のカーテンのエフェクト発動!デッキから現れろ、ブラック・マジシャン!」

「ブラマジキターッ!って?エドのライフが半分になっていない」

 

 

「ダイヤモンドガイの効果は、エフェクトのみ発動する。発動条件も、コストも不要だ。再びダイヤモンドガイのエフェクト発動!ハードネス・アイ!ボンディング-H2Oだ、次のターン、発動が確定した。」

「次はウォーター・ドラゴンか…。」

「行け、ブラック・マジシャン!ブラック・マジック!」

「っつ、アナザー・ネオス!」ライフ4000から3400

「ターンエンドだ。」

 

 

十代 ライフ3400

手3 場 伏せ2

エド ライフ4000

手5 場 D-HERO ダイヤモンドガイ ブラック・マジシャン D-シールド

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、フェイク・ヒーローを発動!手札のE・HEROを特殊召喚!現れろ、E・HEROネオス!」

「攻撃力2500の通常モンスター…。だが、フェイク・ヒーローで呼び出したモンスターは攻撃できず、エンドフェイズに手札に戻る!」

「慌てるなよ!俺はN・ブラック・パンサーを召喚!俺は場のネオスとブラック・パンサーをデッキに戻し、コンタクト融合!」

「デッキに戻して融合、だと!ええい、剣闘獣と同類か!」

「現れろ!E・HEROブラック・ネオス!ブラック・ネオスの効果発動!相手モンスターを選択して、その効果を無効にする!もっとも、ブラック・ネオスが場を離れれば効果は復活するけれどな。」

「ダイヤモンドガイのエフェクトを奪った上に封じて来たか…!だが、それならウォーター・ドラゴンで倒すまで!」

「フィールド魔法、ネオスペースを発動!場のネオス及びネオスを融合素材とする融合モンスターの攻撃力を500ポイントアップ!よって攻撃力は3000!」

「?!」

 

「いけ、ブラック・ネオス!ブラック・マジシャンを攻撃!」

「くうううううっ!」ライフ4000から3500

 

「ターンエンドだ!」

 

 

 

十代 ライフ3400

手0 場 ブラック・ネオス ネオスペース 伏せ2

エド ライフ3500

手5 場 D-HERO ダイヤモンドガイ D-シールド

 

 

「僕のターン、ドロー!ダイヤモンドガイのエフェクトで墓地に送った、ボンディング-H2Oのエフェクト発動!デッキから現れろ、ウォーター・ドラゴン!」

「攻撃表示で出してきた?!…だけどエド、ウォーター・ドラゴンの真骨頂は倒されても、墓地からハイドロゲドン二体とオキシゲドンを復活させる効果だ。」

「その通りだ。だから墓地に送るとしよう。魔法カード、手札抹殺。ハイドロゲドン2枚とオキシゲドンとブラック・マジシャンズ・ナイトとメガトン魔導キャノンを捨てて、5枚ドローだ。」

 

 

 手札事故を起こしていたようだが、それも解決されてしまった。

 

「何という体たらくでアール!それでもプロなのでアール?」

「コステロ会長の娘さんが、ブラック・マジシャンズ・ナイトとウォーター・ドラゴンを使えと言って来た以上、要望に応えないといけない。」

 

 カードを引きながら、つぶやくエド。

 

「…プロって大変なんだな。」

「コゼットさんの無茶ぶりは今に始まった事ではないからな。知り合いにブラック・マジシャンズ・ナイトと、ウォーター・ドラゴンなんて実際のデュエルでは使えない観賞用のカードだと貶されたらしい。」

 

 とりあえず、コゼットという人に『ウォーター・ドラゴンなんて実際のデュエルでは使えない観賞用のカード』呼ばわりした人は、三沢の前でも同じことを言ってほしいと思う十代。

 

 

「さて、バトルだ。ウォーター・ドラゴンでブラック・ネオスを攻撃!」

「迎え撃て、ブラック・ネオス!」

「破壊されるが、ここでウォーター・ドラゴンのエフェクト発動!蘇れ、2体のハイドロゲドン、オキシゲドン!全て守備表示だ!」ライフ3500から3300

「ここから、一体どうするつもりだ?」

「フン、メインフェイズ2だ。僕は場のD-HEROダイヤモンドガイと二体のハイドロゲドンをリリース。現れろ!D-HEROドグマガイ!」

「?!攻撃力3400!」

「ドグマガイの能力はここからだ。カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

 

十代 ライフ3400

手0 場 ブラック・ネオス ネオスペース 伏せ2

エド ライフ3300

手3 場 ドグマガイ オキシゲドン 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!」

「ここでドグマガイの効果発動!スタンバイフェイズに相手のライフを半分にする!」

「ぐうううっ、やはりきついなっ!!」ライフ3400から1700

 

「さぁ、どうする?遊城十代!」

「魔法カード、強欲な壺を発動、カードを2枚ドロー!よし、永続罠発動!リビングデッドの呼び声!蘇れ、E・HEROアナザー・ネオス!」

「またそいつか…」

「そして、アナザー・ネオスを再度召喚!」

「?!な、なんだと!」

「アナザー・ネオスはデュアルモンスター。再度召喚することで、通常モンスターから効果モンスターになる!その効果は、カード名をネオスとして扱う!」

 

 

「ヌヘヘヘヘ、通常召喚権を使って出来る事が、カード名をネオスにするだけとは、さすが腐った蜜柑が使うデッキなのでアール!」

「いえ、カード名がネオスになったという事は…」

 

「そう、アナザー・ネオスはネオスペースの効果で攻撃力2400になる!バトル!いけ、アナザー・ネオス!オキシゲドンを攻撃!」

「フン、だがその後どうするつもりだ?」

「俺は手札のE・HEROネクロ・ダークマンを捨てて速攻魔法発動!超融合!」

「超…融合?」

 

 

 そのカードを見て、愕然とする猫崎。

 

「ど、どうしたの?」

「…いや、見たことがないカードだったから。」

 

 

「これは場のカードで融合召喚を行う!」

「バトルフェイズ中に発動できるという利点はあるが、手札コストが重いな。それで一体どんな融合モンスター…を…?」

 

 エドが訝しむ。ドグマガイが、吸い込まれていく。

 

「ど、ドグマガイ!」

「融合するのは、俺の場のアナザー・ネオスとお前の場の、闇属性のドグマガイ!」

「?!僕のモンスターを使って融合召喚だと!」

「現れろ!E・HEROエスクリダオ!効果は…墓地のE・HEROの×100ポイント攻撃力がアップする。墓地にはネクロ・ダークマンとアナザーネオス!よって攻撃力は2700!」

「そんな…」

 

「いけ、ブラック・ネオス!ダイレクトアタック!」

「うわあああああっ!」ライフ3300から300

「エスクリダオで、ダイレクトアタック!」

「この、僕が…!HERO対決で負けるだと…!」ライフ0

 

 

「ガッチャ!すげぇワクワクするデュエルだったぜ!」

 

「な、なんという事でアール!プロが負けるなんて!」

 

「…遊城十代。僕の負けだ。だが、それは僕が未熟だったからこそ。D-HEROが負けていたわけではない。」

「そうだな。でも、次デュエルしたときも、俺が勝つぜ!」

「ふっ、次こそは全力で叩き潰してやる…。ナポレオン教頭!約束を守ってもらうぞ!」

 

「や、約束!負けたから無効でアール!」

「何を言っている!デュエルしたら教えるという契約だ!」

 

 

 そういえば。デュエルの後と言っていたなぁと思いだす猫崎。

 

「わ、吾輩の名前は出さないでほしいのでアール!あのお方、今度厄介ごとを持ち込んだら容赦しないと…」

 

 引きずられていく、ナポレオン教頭だが、誰も止めない。

 

 

 

 

 やや離れた場所で、エドは詰問する。

 

「…パトロン・ミネット?」

「あ、あの方が知らないなら、手立てはないのでアール!て、手続きの仕方はメモするのでアール…。」

 

 渡されたメモをじっと見つめるエド。

 

「これで連絡が取れなかったら、また来るぞ。」

「う、うむ…まだ、これは有効なはずなのでアール…。」

 

 エドはアカデミアを後にする。父の仇を追い詰めるべく、行動を開始する。

 



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第43話!光の結社、ドミノ街支部のある一日

個人的に野心や上昇志向を持つ敵キャラは好きです。力の求道者的な感じでも、出世の為や成り上がりたいという俗っぽい物でも。


 光の結社では、この日。アカデミアから久々に帰還した、斎王琢磨による講演会が開かれていた。

 多くの信者が集まり、その最前線では美寿知の配下たる面々も拝聴している。

 

「…皆さん聞いてください。光のある所に、闇がある。それは、何故でしょう…。静かに目を閉じて、心に思い浮かべるのです!空に輝く、純白の太陽を…そしてそれに照らされる、果てしなく純白で平らな大地を!もしここに、突き出た突起があるとしましょう。そこに出来るのが影です、闇です!それこそが光を遮る悪なのです!我々は闇を生み出すその者を、徹底的に排除しなければならない!光はいついかなる時でも、平等に当たらなければならない。光こそが、平和と安らぎをもたらす!」

 

 斎王の講演は続く。

 

 

 最前列で敬虔に聞いている影丸光海と雷丸、氷丸、岩丸、炎丸。その内心は別の事を考えている。

 

(…シーラカンスを安定して場に出す方法が足りない。トランスターンというのがミズガルズ王国を中心とした海外発のパックに入っているらしいけれど、当方の手には無い。あったとしてもレベル6の魚族がマザー・ブレイン。オーシャンズ・オーパーを召喚、マザー・ブレインを特殊召喚、そこからトランスターン…出来なくはない?オーシャンズ・オーパーが戦闘破壊されればマザー・ブレインをサーチ出来る。初動を安定させるには…グリズリーマザーか?)

 

 

 

 岩丸は

 

(…お腹が痛い。これ終わったらトイレに行かないと)

 

 

 炎丸は

 

(あー、眠い。昨日夜更かししすぎたな…。眠らないように、気をしっかり持たないと)

 

 

 氷丸に至っては

 

(まだ続くのかよ、腹減ったなぁ…。牛丼をかっ込みたい。卵はつけるのは当然として…サラダと豚汁、どっちをつけようかな?よし、この話が後5分伸びたら豚汁を追加しよう)

 

 

 もしもこの時、破滅の光が最前線の幹部たちの思考を読んでいたら、この4人を制裁していただろう。

 しかし、自分の教えに酔いしれている破滅の光はそんな些事には気づかなかった。

 

 

 

 ただ一人、雷丸だけが

 

(…確かに、平等になれば争いが起きない、平和で安らかな世界になるだろう。だが…そこに進化はあるのか?互いに争い合い、傷つけ合い、その果てに進化があるのではないか?そうやって、人類は発展してきたはず…。だが、弱者は生きる資格すらないという世界がまともとは思えない。弱肉強食としたうえで、弱者を救うセーフティーネットを充実させるべきでは無いのか?)

 

 真面目に考えていた。

 

 

 

 講演会が終わり、それぞれ解散となり三々五々に別れていく。

 

 

「…光の結社の講演会、初めて聞いてどう思った。一華(いちか)」

 

 

 光海はこの講演会に初めて参加した友人に話しかける。

 

 

 

 

「信仰協力費2000円、講演料3000円。そして収容された人数は4000人…光の結社は差し引き2000万円の利益か。」

 

 高身長で綺麗な顔立ち、黒髪をポニーテールにまとめ、白い上着に赤い袴を履いた娘…。遠坂 一華(とおさか いちか)は腕を組む。

 その腕に支えられ、豊乳が形を変える。

 

「…宗教団体は何かと金がかかる。」

「そこは理解している。ただ、内容には賛同できない。」

「どのあたり?」

「光を遮る物を徹底的に排除し、平等な世界を作り出す…。」

 

 

 一呼吸おいて、遠坂は親友を見つめる。

 

 

「才災勝作が掲げていた正しい・リスペクト・デュエルを連想した」

「…あれと一緒にしないでもらいたい」

「除去カードを使う物は悪、それらを使わないデュエルをしろ、と言っていた才災と、光の結社の講演は似ていると思う。」

 

 

 黙ってしまう光海を、一華は見つめる。

 【未来オーバー】を使っていた事で、才災師範に破門され荒れていた時期に、光海は励ましてくれた。

 芯の強い彼女は宗教に縋るタイプでは無いと思っていたが、事情があるのだろう。

 

 聞き出すつもりは無い。話す気になった時、黙って聞く。

 

 

 

「…とりあえず、近江財団(おうみ ざいだん)の一員としての意見だが、光の結社に支援は出来ない。カードゲーム界への足掛かりは、別方面からアプローチさせてもらう。」

「あてはあるの?」

「今の所は無い。だが、光の結社とは組まない。」

 

 

 こういう目をした時の彼女は決して考えを変えない。それなりの付き合いがある光海は、その事に気づく。

 影丸理事長は医薬品・製薬業界で大きな影響力を持つ近江財団のスポンサーではあったが、既に故人。孫娘である自分の一存で手を貸してくれるほど甘い存在では無い。

 

 近江財団もカードゲーム界への足掛かりとして、トップの姪である一華をサイバー流に所属させていた時期がある。

 だが、一華の破門によりサイバー流とのかかわりは断ち切った。

 

 

 彼氏募集中の一華に、遊城十代について話そうと光海が口を開いた瞬間。

 

 

「影丸!俺とデュエルするズラ!」

「…銀か」

 

 

 銀 流星。シューティングゲームのチャンプで、最近光の結社に参加した少年が、デュエルディスクを構える。

 

 

「お前を倒して、俺は光の結社のさらなる高みに上るズラ!」

「…その野心は買うが、勝利は譲らない」

 

 

 光の結社の一員がデュエルをするというので、光の結社のデュエリストレベルを図るべく、一華は離れて見守る。

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

光海 ライフ4000

手5 場 

銀 流星 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は俺だ、ドロー!見るがいい、これが斎王様から与えられたカードズラ!!フィールド魔法、巨大要塞ゼロスを発動!発動時、デッキからボスラッシュを手札に加える!」

 

 

 斎王、というより破滅の光が作り出したカードの性能に縋る銀 流星。

 

 

「さらに、巨大要塞ゼロスの効果発動!1ターンに1度、手札の巨大戦艦を特殊召喚!いでよ、巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ!」

 

 現れたのは攻撃力2400の巨大戦艦。だがその攻撃力は500ポイントアップする。

 

「攻撃力が2900に。」

「それだけでは無いズラ!守備力もアップするし、相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない!しかも、こいつは今までの巨大戦艦と違って、召喚・特殊召喚成功時にカウンターが三つ乗る。さらに巨大要塞ゼロスの効果発動!俺の場に巨大戦艦が特殊召喚された時、その巨大戦艦が使用するカウンターが一つ乗る!」

「カウンターが4つ…。」

「永続魔法、ボスラッシュを発動!ターンエンドズラ!」

 

 

光海 ライフ4000

手5 場 

銀 流星 ライフ4000

手4 場 巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱ(4) ボスラッシュ 巨大要塞ゼロス 

 

 

 

 巨大戦艦デッキのキーカードであるボスラッシュをサーチする効果、巨大戦艦の展開を補助し、耐性を付与。優秀なフィールド魔法。

 友人の実力は知っているが、これは中々厄介な布陣だ。

 

 

 

「当方のターン、ドロー。永続魔法、ウォーターハザードを発動。当方の場にモンスターがいない時、手札の水属性モンスターを特殊召喚。オイスターマイスターを特殊召喚」

「そんなモンスターを出した所で!」

「さらに、光鱗のトビウオを召喚。効果発動、このカード以外の場の魚族をリリースする事で、相手の場のカードを一枚破壊する。巨大要塞ゼロスを破壊」

「さ、斎王様から与えられた力が!」

 

「オイスターマイスターの効果発動。戦闘で破壊される以外で場から墓地に送られた時、オイスタートークンを特殊召喚。トビウオの効果発動、トークンをリリースし、巨大戦艦 ビッグ・コアMk-Ⅱを破壊」

「ぐっ、だ、だが俺の場にはボスラッシュがあるズラ!これがある限り、このターンのエンドフェイズに、新たな巨大戦艦を特殊召喚出来るズラ!」

「…バトル。光鱗のトビウオでダイレクトアタック」

「ぐうううっ!」ライフ4000から2300

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「このエンドフェイズにボスラッシュの効果発動ズラ!巨大戦艦 ビッグ・コアMk-III!このカードは召喚・特殊召喚に成功した時、カウンターを3つ置くヅラ!」

 

 

 

光海 ライフ4000

手2 場 光鱗のトビウオ ウォーターハザード 伏せ1 

銀 流星 ライフ2300

手4 場 巨大戦艦 ビッグ・コアMk-III(3) ボスラッシュ 

 

 

「俺のターン、ドロー!くっ、魔法カード、手札抹殺を発動するズラ!」

「当方は超古深海魚シーラカンスと貪欲な壺を捨てて二枚ドロー。」

「俺は巨大戦艦 クリスタル・コア、巨大戦艦 テトラン、巨大戦艦 ビッグ・コア、巨大戦艦カーバード・コアを捨てて4枚ドローするヅラ!」

 

 

 引いたカードを見て、銀 流星は笑う。

 フィールドバリア、巨大要塞ゼロス、魔宮の賄賂にサイバー・サモン・ブラスター。

 

「俺は2枚目のフィールド魔法、巨大要塞ゼロスを発動するヅラ!デッキから二枚目のボスラッシュを手札に加えるヅラ!さらに永続魔法、フィールドバリアを発動するヅラ!」

「……」

「バトル!ビッグ・コアMk-IIIで、トビウオを攻撃!」

「…破壊される」ライフ4000から3000

 

「カウンターが一つ減る。俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

光海 ライフ3000

手2 場 ウォーターハザード 伏せ1 

銀 流星 ライフ2300

手1 場 巨大戦艦 ビッグ・コアMk-III(2) ボスラッシュ フィールドバリア 伏せ2

 

 

 

 

 

「当方のターン、ドロー。死者蘇生を発動、墓地の超古深海魚シーラカンスを」

「させないヅラ!カウンター罠、魔宮の賄賂!死者蘇生の発動と効果を無効にして、相手は1枚ドローするヅラ!」

 

 新たなカードを引く光海。

 

「ウォーターハザードの効果発動、手札からヒゲアンコウを守備表示で特殊召喚。そしてヒゲアンコウをリリース、超古深海魚シーラカンスをアドバンス召喚」

「くっ…」

「永続罠、リビングデッドの呼び声を発動。墓地から光鱗のトビウオを特殊召喚。」

「ま、またそいつヅラ?!」

「ここで、シーラカンスの効果発動。手札を一枚捨て、デッキからオイスターマイスター2体とオーシャンズ・オーパーを特殊召喚。」

 

 一気に並ぶ魚族。銀 流星の頭が真っ白になる。

 

 

「あ、あああ…」

「光鱗のトビウオの効果発動。場のオイスターマイスターをリリース、フィールドバリアを破壊。オイスターマイスターの効果で、オイスタートークンを特殊召喚。トークンをリリースして、トビウオの効果発動、巨大要塞ゼロスを破壊」

 

 再び崩れ落ちる巨大要塞ゼロス。

 

「光鱗のトビウオの効果発動。場のオイスターマイスターをリリース、伏せカードを破壊。オイスターマイスターの効果で、オイスタートークンを特殊召喚。トークンをリリースして、トビウオの効果発動、巨大戦艦 ビッグ・コアMk-IIIを破壊」

 

 

 戦意喪失する銀 流星。

 

「超古深海魚シーラカンスで、ダイレクトアタック。」

「うわああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 

 ライフが尽きた銀 流星は茫然とする。

 

「そ、そんな…。影丸を倒せば、斎王様の目に止まって、プロデビュー出来ると思ったのに…。」

 

 それが目的だったらしい。まぁ、向上心があるのは良い事だ。

 

「良いデュエルだった。」

 

 

 

 そんな光海のデュエルを見て、一華は安心する。

 光の結社に入って、友人が変わってしまったのではないかと心配していたが、どうやら腕は落ちていないようだ。

 

 

 

 

 

「それにしても、宗教団体と聞いていたが、参加する理由は人それぞれか」

「…思想に賛同している者もいる。鎧塚(よろいづか)、少しいい?」

 

 近くを通りかかった、黄色い帽子を被り、黄色のジャケットを羽織った軽装の少女に声をかける光海。

 

 

「はい!何でしょう?」

「何故、光の結社に入った?」

「強い決闘者とデュエルしたいから。」

 

 

 真っ直ぐな瞳で、言い切る鎧塚。

 一切の迷いが無い姿勢に、一華は思わず目を見張る。

 

 

「その、光の結社の理念に賛同したとかでは無いのか?」

「そういう事を聞かれますが、デュエルにおいて主義主張が異なるから戦う、という発想自体がデュエルに対する冒涜では?」

「えっ?」

 

 

 思いもかけぬ言葉に、一華も光海も考えが止まる。

 

「例えば。貴方のデュエルはリスペクトに反するから、デュエルでその考えを正すと因縁をつけられたと仮定します。そんな事は無い、私のデュエルはリスペクト精神に則っているという雑念をデュエル中に少しでも寄せること自体が間違っている。目の前に相手が居て、デュエルをするならばデュエルそのものにのみ集中。それ以外の考えなどデュエルには不要のはず。」

「…光の結社の理念が間違っていると言われても、反論すらしないのか?」

「デュエル中なら、デュエルを進めるべきだと思います。そういう事はデュエルが終わった後に勝者が声高に言えばいい事。まぁ私が参加したのは、中学のクラスメイトの恐竜族使いが、デュエルアカデミア本校に進学して、骨のある相手が減ったから参加しているだけ。」

「…貴女もデュエルアカデミアに進学すれば良かったのでは?」

「父が、『似非ペクトを掲げる才災を校長にするような、海馬瀬人がオーナーの学校になど通わせられるか!』と猛反対したので。」

「そ、そう。」

 

 やや鎧塚は考えた後口を開く。

 

「もしかして、光の結社の理念に賛同して入った、という信者をお探しで?」

「そういう所だ」

「そうなると、杉多(すぎた)ぐらいですよ。ドミノ支部だと、光の結社に入ったのはプロリーグに行きたいという決闘者、私のように腕試しで参加、異性との出会いを求めて参加。中には光の結社に入って後に新興宗教団体を立ち上げるために参加した、という人も居るのですから」

 

 

 一枚岩と思っていたら、ひび割れていた事に軽く眩暈を起こす一華。

 

 

「…随分詳しいな」

「三日前、バーガーワールドでピクルス増量キャンペーンの時に、皆で行きましたよ?」

「私は誘われていないぞ」

「美寿知様の側近の方々以外でしたので。雑談の途中、何故光の結社に入った?という話題になって…」

「そこで知った、という事か。」

「あ、噂をすればなんとやら、杉多!ちょっといい?」

 

 

 

「何だ?鎧塚」

 

 

 角刈りで肩幅の広い少年がやってくる。

 

「なんで、光の結社に入ったの?」

「勿論、斎王様の掲げる理想に共鳴したからだ!才災をはじめとしたサイバー流も、斎王様の教えに導かれていれば、あんな狂った教えに染まる事は無かった!斎王様こそ、この世界に光と平和と繁栄と安らぎをもたらす、平穏の使徒!」

 

 

 目をまるで星々のように、輝かせながら言う杉多少年。

 一華はドン引きである。

 

 

 

「そういえば、斎王様の事を普通に良い人、と言っている女子が居たな。」

「忠告するわ。女子の言う『普通に良い人』というのは、『良い人なんだけど、所詮普通止まりなので恋愛対象では無い』という意味よ。」

「何ぃ?!そ、それは本当なのか!よ、鎧塚。俺は君にとってどういう存在だ?」

「…普通に良い人。」

「畜生~!!」

 

 

 寸劇を見ながら、一華は決心する。

 やはり、宗教とは関わるべきでは無い。祖母の教えが正しかったことを痛感しつつ、一華は足早にその場を後にする。



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第44話!暗躍!ミズガルズ王国の没落貴族!

GX開始時点の城之内君は、かつて遊戯さんとタッグを組んで撃破したモンスターも単独で突破出来るようになっていると思います。



 ミズガルズ王国にて、過激な環境保護団体やデュエルギャングを使って悪事を働いていたラング伯爵。

 彼は伝手を使って脱獄に成功し、日本にて再び活動を再開していた。

 

 

「ようこそ、才津健三さん。私の館に。」

「こ、これはどうも…。」

 

 すっかりやつれた男と少女に、椅子を進めるラング伯爵。

 

「災難でしたな。」

「ええ、ええ!それは本当に…。」

「貴方同様、行き場がなくなったサイバー流の門下生が多数おります。彼らをまとめてください。」

「おお、そういう事ならお任せください!」

 

 そう言うと、才津は退出する。

 

 

「…父上、あのような者まで仲間に引き込んでどうするのですか?」

「使い捨ての駒だ。とりあえず、組織を再編するまでの時間稼ぎになればいい。」

 

 

 

 才津健三は黒髪をツインテールにまとめた、美脚の北欧系の少女に案内されていた。

 

 

「イサベルです。今後ともよろしく」

「私は才津だ。君はラング伯爵の娘さんか?」

「親戚です。お部屋はこちらになります。それでは…。」

 

 才津健三を個室に案内した後、イサベルはため息をつく。

 

 

「…また増えた。サイバー流ってことは、また除去やバーンを否定する決闘者か…。」

 

 

 イサベルとしてはいっそのことラング伯爵と絶縁したいのだが、ラング伯爵は利用価値があると判断しており、手放してくれる気配がない。

 再び、この日本で組織を再建するつもりなのだろうが…こんな面子を集めたところで、あの城之内克也に勝てるとは思えない。

 

 

 デュエルの腕だけは確かだったデュエル・ギャングの幹部とその配下を、人造人間サイコ・ショッカーや真紅眼の黒竜、剣聖-ネイキッド・ギア・フリードといった上級モンスターや、時の魔術師やものマネ幻想師などの下級モンスターとギャンブルカードを駆使して蹴散らしてきた伝説の決闘者。

 

 

 ミイラの呼び声で龍骨鬼を特殊召喚し、サイファー・スカウターを通常召喚。ドヤ顔ターンエンドした過激な環境保護団体の先兵は、相手のスタンバイフェイズにDNA改造手術で戦士族を指定したが…。ライトニング・ボルテックスで龍骨鬼とサイファー・スカウターを除去され、死者蘇生で真紅眼の黒竜を蘇生、ゴブリン突撃部隊の通常召喚からの総攻撃で敗北した。

 

 

 生け贄人形、モンスターゲートや死皇帝の陵墓を駆使して三魔神を並べたデュエルギャングは、剣聖-ネイキッド・ギア・フリードと鎖付きブーメランのコンボでサンガを破壊され、攻めあぐねている間に、城之内はスケープ・ゴートで羊トークンを呼び出し、それをリリースしてダブルマジックアームバインドで、ヒューガとスーガのコントロールを奪い、ヒューガをリリースしてサイコショッカーを召喚。総攻撃で負けた。

 

 F・G・Dとマテリアル・ドラゴンを並べたデュエルギャングの幹部は、返しのターン、ものマネ幻想師でF・G・Dの攻撃力をコピーされ、天使のサイコロでF・G・Dを撃破された後有効打を打てずに負けた。

 

 

 過激な環境保護団体のある幹部は、城之内克也のデッキを盗ませ、8パック開封してその場で組ませたデッキに対し、【凡骨エクゾディア】で挑んだが、それでも負けた。

 しかも盗んだデッキは奪い返され、その時開封した時に手に入れたカードで、本来のデッキまで強化してしまった。

 

 

 城之内克也のメタデッキを考えたこともあるが、一体あのデッキは何にメタを張ればいいのか彼女にはわからなかった。

 この館に城之内が乗り込んできたら、何もかも見捨てて一目散に逃亡するつもりである。

 

 行き先は無いが。

 

 

 

「さ、才津教頭先生…?」

「ま、丸藤翔君か!アカデミアに在学しているのでは…」

「う、うう…アカデミアは変わってしまったッス…僕は、ぼくはぁ!才災師範の正しい・リスペクト・デュエルを継承するッス!だから、アカデミアを去ったッス!」

「そのために、アカデミアを去ったのか…、丸藤君、いや、翔君!君こそが、カイザーだ!才災師範の教えを破って、卑怯なカードを使った丸藤亮とは全然違う!」

「あ、ありがとうございますッス~!」

「立ち上げるぞ!正しい・リスペクト・デュエルを教える流派!サイバー流を超えたサイバー流!メガ・サイバー流を!私は今からメガ・サイバー流の師範!君はメガ・サイバー流の実技担当最高責任者だ!」

「ぼ、僕が実技担当最高責任者…!か、感激ッス~!!」

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

「どうした、河原崎さん。」

 

 

 才津の傍にいた、おかっぱ頭できつめの目をした少女が異議を上げる。

 

 

「納得いかない!私の方が実技担当最高責任者にふさわしいわ!!」

「なっ?!だったらデュエルで決着をつけるッス!」

「望む所よ!」

 

 

 退出しようとしたイサベルを、才津が呼び止める。

 

「どこに行くのかね?」

「案内はしたので、退出しようかと」

「サイバー流の正しい・リスペクト・デュエルを見れるチャンスだぞ!」

 

 

 相手の戦術を批判・否定して自分の考えだけを押し付けようという連中のデュエルに、魅力を感じないが一応は協力者である。

 表面上は取り繕う義理はあると判断し、イサベルはその場にとどまる。

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

翔 ライフ4000

手5 場 

河原崎 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は河原崎さんからだ。」

「私の先攻、ドロー!魔法カード、迷える子羊を発動!子羊トークン2体特殊召喚!発動したターン、モンスターの召喚、反転召喚、特殊召喚は行えないけれど、セットは出来る!私はモンスターをセット!カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

翔 ライフ4000

手5 場 

河原崎 ライフ4000

手2 場 セットモンスター 子羊トークン 子羊トークン 伏せ2

 

 

「僕のターン、ドローっス!スチームロイドを召喚!バトル!スチームロイドで、セットモンスターを攻撃するッス!ここで効果発動!攻撃力を500ポイントアップするッス!」

「この瞬間、幻想召喚師のリバース効果発動!場の子羊トークンをリリースして、融合モンスターを特殊召喚!現れろ!サイバー・エンド・ドラゴン!」

「こ、こんな方法でサイバー・エンド・ドラゴンを…」

「最も、エンドフェイズに破壊されてしまうわ。」

「なら、大したこと無いッスね!」

「それはどうかしら?リバースカードオープン!マジカルシルクハット!場のサイバー・エンド・ドラゴンを裏側守備表示に変更!そしてデッキから魔法・罠カードを2枚までセット!私はデッキから黄金の邪神像とワームホールをセット!」

「バトルは終了ッス!」

「マジカルシルクハットでセットしたカードは破壊される。破壊された黄金の邪神像の効果で、邪神トークンを特殊召喚!」

 

 

 

「くっ…メインフェイズ2に入るッス!カードを3枚伏せてターンエンドっス!」

 

 

 

翔 ライフ4000

手2 場 スチームロイド 伏せ3

河原崎 ライフ4000

手2 場 セットモンスター 子羊トークン 邪神トークン 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!セットしていたサイバー・エンド・ドラゴンを反転召喚!邪神トークンを攻撃表示に変更!バトル!サイバー・エンド・ドラゴンでスチームロイドを攻撃!」

「うっ、スチームロイドは攻撃されると、攻撃力が500ポイントダウンするッス。でも、リバースカードオープン!スーパーチャージを2枚発動!この効果でカードを4枚ドローするッス!」

「なら2700のダメージを受けなさい!」

「うわああああああっ!」ライフ4000から1300

「さらに、邪神トークンでダイレクトアタック!」

「うひゃああああああっ!」ライフ1300から300

 

「メインフェイズ2に入る!魔法カード、浅すぎた墓穴を発動!墓地の幻想召喚師をセット!」

「ぼ、僕はスチームロイドを復活させるッス!」

「魔法カード、太陽の書!今セットした幻想召喚師を表側表示に変更!効果発動!場の子羊トークンをリリースして、サイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚!」

「2、2体目ぇ?!」

「罠発動!亜空間物質転送装置!先ほど特殊召喚した、サイバー・エンド・ドラゴンを除外!」

 

 

 ドヤ顔で河原崎は宣言する。

 

「これで私の勝ちは決まりね!メガ・サイバー流の実技担当最高責任者は私が就任するわ!そして、あんたは私の子分になりなさい!」

「そ、そんなぁ!」

「一枚カードを伏せて、ターンエンド!このエンドフェイズにサイバー・エンド・ドラゴンは戻ってくる!」

 

 

 

 

翔 ライフ1300

手6 場 セットモンスター 伏せ1

河原崎 ライフ4000

手0 場 サイバー・エンド・ドラゴン サイバー・エンド・ドラゴン 幻想召喚師 邪神トークン 伏せ1

 

 

 

「うーむ、これは河原崎さんの勝ちかな?」

 

 

 才津に目を向けるイサベル。

 

「…サイバー流の門下生にしては、随分と変わったデッキですね。」

「河原崎さんは元々サイバー流では無い。デビルフランケンや幻想召喚師を使う流派出身で、才災勝作様が掲げた正しい・リスペクト・デュエルという教えに惹かれて入門した。」

 

 

 

 正しい・リスペクト・デュエルに惹かれたという割に、負けたら子分とは随分な『リスペクト』である。

 デュエルの途中で言い出すというのもおかしな話だ。

 

 

 

 

「ぼ、僕のターン、ドローっス!速攻魔法、サイクロン!その伏せカードを破壊するッス!」

「チェーンして速攻魔法、月の書を発動!場の幻想召喚師を裏側守備表示に変更!」

「よし!魔法カード、パワー・ボンドを発動!」

「ぱ、パワー・ボンド?!まさか…」

「場のスチームロイドと手札のジャイロイドを融合!スチームジャイロイドを融合召喚!」

「攻撃力4400!」

「バトル!スチームジャイロイドで、サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!そしてダメージステップにリバースカードオープン!速攻魔法発動!リミッター解除!」

「攻撃力8800?!きゃああああああああっ!」ライフ0

 

 

 勝負はついた。

 

 

「決まりだな。メガ・サイバー流実技担当最高責任者は丸藤翔君だ!」

「やったッス~!しかも子分もゲットッス~!」

 

 

 

 デュエルを見届け、イサベルはその場を後にする。

 勝手に子分扱いされている事に同性として同情はするが、言い出したのは彼女自身。

 

 部屋の外に出たイサベルは、近くにいたペッパー子爵の息子にして、従兄であるノイエに声をかける。

 

 

 

「外出してきます。」

「夕飯までには、戻れよ。」

 

 

 

 

 

 イサベルが外出してから数分後。

 

 

「ジャパンの食文化は本当に多彩ね。最も、私の胃と財布に限界があるから味わい尽くすのは無理だけど。」

 

 どれを食べようか、と悩むイサベル。折角来たならば、現地の食文化を楽しみたい。

 

 

「待て、そこの女!」

「デュエルディスクをかけて、俺達とデュエルだ!」

 

 

 しかし、妙な輩に絡まれてしまった。

 

「…デュエルディスク狩り?」

「中々珍しいな、俺のコレクションに加えてやる!」

「二対一…」

 

 そんな所に、さらなる乱入者が現れる!

 

 

「へぇ、面白そうな事をやっているね。僕も混ぜてよ」

「何だお前!」

「ひっこめ!」

 

 

 

 

 

「…貴方は?」

「僕?僕は猫崎亮三。君は?」

「私はイサベル。負けたらデュエルディスクを奪われる。それでも関わる?」

「うーん、つまり勝てばディスクを貰えるのか。なら決まりだ。」

 

 

「何言ってやがる!身の程を教えてやる!行くぞ、下釜(しもがま)!」

「構わん、まとめてやっちまおう!川出(かわで)!」

 

「川出と下釜か…」

 

 

「「「「デュエルッ!!」」」」

 

川出 ライフ4000

手5 場 

下釜 ライフ4000

手5 場 

 

イサベル ライフ4000

手5 場 

亮三 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は俺だ!俺のターン、ドロー!よし、手札のワイバーンの戦士を捨てて、魔法カード、コストダウンを発動!これにより、手札のモンスターのレベルを2つ下げる!」

「これで上級モンスターを召喚出来るって事ね…」

「さらに二重召喚を発動!これで、俺は手札の上級モンスターをリリース無しで二体召喚できる!現れろ!人造人間-サイコ・ショッカー!マテリアル・ドラゴン!」

「攻撃力は2400…。」

 

 出て来たドラゴン族に対し、首をかしげる亮三。

 

「サイコ・ショッカーはともかく、マテリアル・ドラゴン?」

「あれは効果ダメージが発生したとき、それを回復に変えるモンスター。そして手札を一枚捨てる事で、場のモンスターを破壊するカードの発動を無効にして破壊するわ。」

「優秀なモンスターだね。」

 

 

「俺はこれでターンエンド!」

 

 

 

「私から行く。私のターン、ドロー!手札からフィールド魔法、オレイカルコスの結界を発動!」

「な、なんだこの紋章は?!」

 

 四人の下に、オレイカルコスの紋章が浮かび上がる!

 

「初めて見るフィールド魔法だ…。」

「このカードが場にある限り、私達の場のモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。私の場に表側攻撃表示モンスターが2体以上存在する場合、私の場の攻撃力が一番低いモンスターを相手は攻撃対象に選択できない。」

 

「な、なんだとっ!」

「魔法カード、デビルズ・サンクチュアリを発動。場にメタルデビルトークンを特殊召喚。そしてこのトークンをリリース、サモン・リアクター・AIを召喚!」

「攻撃力は2000だけど、オレイカルコスの結界で2500までアップする…。」

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

「攻撃力2500になるのは厄介だ。」

「心配するな、俺のターン、ドロー!魔法カード、融合を発動!手札のメテオ・ドラゴンと破壊神ヴァサーゴを融合!現れろ!メテオ・ブラック・ドラゴン!」

 

「攻撃力3500!」

「…ここで、サモン・リアクターの効果発動。相手が召喚・特殊召喚を行ったとき、1ターンに1度、相手に800のダメージを与える…。」

「へぇ、だけどマテリアル・ドラゴンのおかげでライフ回復だ!」ライフ4000から4800

 

 ライフが回復する下釜。

 

「サモン・リアクターの効果が裏目に出てしまったね…。」

「俺は永続魔法、デンジャラスマシン TYPE6を発動!カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 相手の場に出ているカードを見て、イサベルはつぶやく。

 

 

「何というか、城之内克也を連想するカードが多いわね。」

「当たり前だ!」

「何せ俺達は、あの伝説の決闘者、城之内克也の弟子だからな!」

「?!」

 

 まさか、自分達の存在を嗅ぎつけて、様子見を兼ねて弟子を送り込んできた?!まずいまずいまずい!

 慌てるイサベル。

 

 

「へぇ、城之内さんの弟子なんだ。僕のターン、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!このカードは、召喚成功時に守備表示になるよ。」

「…へ?」

「お、おい。こいつ猫崎って言ったよな?そして、サモン・プリースト…」

「まさか、サイバー流を壊滅させた奴か?!」

 

 

 慌て始める二人。

 

 

「俊二は僕の兄さんだよ。サモンプリーストの効果発動!手札の魔法カード、アームズ・ホールを捨てて、デッキからマハー・ヴァイロを特殊召喚!」

「マハー・ヴァイロ?」

 

 ミズガルズ王国では使い手がいない為、興味深げに見つめるイサベル。

 

「装備カード一枚につき、攻撃力が500ポイントアップするんだ。僕は装備魔法、デーモンの斧を2枚装備。これで自身の効果を含めて、攻撃力は4550に…ああ、オレイカルコスの結界で5050か。カードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

 

川出 ライフ4000

手1 場 サイコ・ショッカー マテリアル・ドラゴン 

下釜 ライフ4800

手1 場 メテオ・ブラック・ドラゴン デンジャラスマシン TYPE6 伏せ1

 

イサベル ライフ4000

手2 場 サモン・リアクター・AI オレイカルコスの結界 伏せ1

亮三 ライフ4000

手1 場 マハー・ヴァイロ サモンプリースト デーモンの斧 デーモンの斧 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!大層なモンスターを並べたみたいだが、こいつをお見舞いしてやる!手札のベビードラゴンを捨てて、魔法カード、ライトニング・ボルテックスを発動だ!」

「?!こっちの場ががら空きにされる!」

「させないわ!リバースカードオープン!ライフを1500ポイント払って、我が身を盾にを発動!」ライフ4000から2500

「何だとっ!ちいっ、サイコ・ショッカーとマテリアル・ドラゴンを守備表示にしてターンエンド!」

 

 除去カードが通らなかった為、川出は守りを固める。

 

 

「私のターン、ドロー!可変機獣ガンナー・ドラゴンを召喚。魔法カード、トランスターンを発動!」

「トランスターン?」

 

 初めて見るカードに、亮三が反応する。

 

 

「場のモンスターを墓地に送り、デッキから同じ種族・属性でレベルが1高いモンスターをデッキから特殊召喚するカードよ。レベル7、闇属性機械族のガンナー・ドラゴンを墓地に送り、レベル8、闇属性機械族のデモニックモーターΩを特殊召喚!オレイカルコスの結界により、攻撃力は3300!」

「「何だとぉ!」」

 

「バトル!デモニックモーターΩでサイコ・ショッカーを、サモン・リアクターでマテリアル・ドラゴンを攻撃!」

「ぐううううっ!」

「ターンエンド。エンドフェイズにモータートークンを特殊召喚。」

 

「あっ、エンドフェイズって事なら…リバースカードオープン!砂塵の大竜巻!デンジャラスマシンを破壊!」

「なっ?!」

「そして、砂塵の大竜巻の効果でカードを一枚伏せる。」

 

 ギャンブルカードを破壊され驚く下釜を見ながら、イサベルは再度宣言する。

 

「改めて、これでターンエンド。」

 

 

 モンスターを一掃された川出は、下釜に声をかける。

 

「や、やばいぞ!なんとかできるか?」

「お、俺のターン、ドロー!よしっ!装備魔法、強奪を発動!お前のマハー・ヴァイロを貰う!」

「チェーンしてカウンター罠、八式対魔法多重結界!場のモンスターを対象にした魔法カードの発動と効果を無効にして破壊!」

「何ぃ?!」

 

 

「へぇ…思ったよりやるわね。」

 

 感心するイサベル。装備魔法を多用する決闘者は居たが、中々面白いカウンター罠を入れているこの日本人に興味を抱く。

 最もこれを入れたのは亮三ではなく、俊二なのだが彼女はそれを知る由もない。

 

 

「くそ、バトルだ!メテオ・ブラック・ドラゴンで、サモンプリーストを攻撃!」

「破壊されるね。」

「ターンエンドだ。」

 

 亮三のターンになる。

 

「僕のターン、ドロー!まずは一人。マハー・ヴァイロで川出にダイレクトアタック!」

「うわあああああああああっ!」ライフ0

 

「よし!あの城之内さんの弟子を倒したぞ!モンスターをセットしてターンエンド!」

 

 

 

下釜 ライフ4800

手1 場 メテオ・ブラック・ドラゴン 伏せ1

 

イサベル ライフ2500

手1 場 サモン・リアクター・AI デモニックモーターΩ モータートークン オレイカルコスの結界 

亮三 ライフ4000

手0 場 マハー・ヴァイロ セットモンスター デーモンの斧 デーモンの斧 

 

 

「川出が脱落したから、このまま私のターンになるわ。私のターン、ドロー!」

「だが、お前のモンスターでは俺のメテオ・ブラック・ドラゴンは倒せない!」

「それはどうかしら?装備魔法、魔界の足枷!装備モンスターの攻守を100にする。これをメテオ・ブラック・ドラゴンに装備!」

「げええええっ!」

 

「そ、そんなカードがあるのか…。だが、例え倒されても」

「そして、モーター・トークンをリリースして、人造人間サイコ・ショッカーを召喚!」

「あ、あわわわわ!」

「バトル!サモン・リアクター・AIでメテオ・ブラック・ドラゴンを攻撃!」

「うぎゃああああああっ!」ライフ4800から2400

 

「デモニックモーターΩで、下釜にダイレクトアタック!」

「うわあああああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 ライフが尽きて気絶する、デュエルディスク狩りの川出と下釜。

 

 

「これは戦利品として貰うわ。…伏せカードは、リビングデッドの呼び声か。」

「城之内さんは伝説の決闘者と聞いていたけれど、教えるのは不得手なのかなぁ?」

「…本当に、城之内の弟子?それにしては、弱すぎる。」

 

 

 その言い方が少し気になる亮三。

 

「城之内さんとデュエルしたことがあるの?」

「…ちょ、ちょっと遠くから見る機会があった。物凄く強かったから…。」

 

 城之内克也と不本意ながら敵対している身としては、彼の強さは恐怖の対象でしかない。

 

 

 

 

「ねぇ、一緒に喫茶店に行かない?」

「…奢られるのは嫌よ。自分の分は自分で出す。」

「分かった。行こうか。」

 

 屈託のない笑顔を浮かべる亮三。

 

 

 犯罪者や過激な環境保護団体と関わり、日本でも相手のデュエルに文句ばかりつけるサイバー流の門下生の相手でささくれ立っていたイサベルは、この単純で純朴そうな少年にやや心惹かれていた。




アンチリスペクト物で、幻想召喚師を使うサイバー流門下生というのを見かけなかったので登場させてみましたが、やはりデッキに異質感がありますね。何故登場しないのかがよくわかりました。


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第45話!蛭谷VS偽城之内!

蛭谷さんがデュエルをする二次創作は少ない印象があります。原作でデュエルしていないので当然ですが。


 デュエルに負け、デュエルディスクを奪われた川出と下釜は、『城之内』の所に向かっていた。

 

「それで、おめおめやってきたってのか!」

「す、すみませんっ!」

「…今月の授業料は払えるんだろうな?」

「は、払います!だ、だから!」

 

「…いいだろう。倉庫から持っていけ。」

「あ、ありがとうございます!城之内様!」

「次こそは必ず!」

 

「お前たちからデュエルディスクを奪った奴へのリベンジはするな。一度負けて次に勝てる保証は無い。」

「そ、そんな!」

「勝てる相手を選んでデュエルをしろ。いいな!」

「は、はい!」

 

 

 二人が退出した後、『城之内』は白ワインを手に取る。

 

「…悪くはない、か。」

 

 一息で飲み干し、ため息をつく。

 そんな時に、新たな弟子が駆け込んでくる!

 

「し、失礼します!ぼ、暴力団が!」

「何?!」

 

 

 弟子の一人、厚釜 朱鷺(あつかま とき)が駆け込んでくるが、その直後、後ろから現れた粗暴そうな男に蹴り飛ばされる!

 

「久しぶりだなぁ、城之内!」

 

 ぞろぞろと入ってきた粗暴な日本人を、険しい目で睨む『城之内』

 

「おいおい、もう忘れてしまったのか?」

「お前は…。」

「蛭谷だ。忘れたのか?」

「…まぁいい。大人しくさせるか。」

 

 手下を連れて現れた男を見つめ、手近にあった杖を手に取り構える『城之内』

 

 

「そんな物で何ができる!」

 

 襲い掛かる暴力団員だが、杖が一閃すると悲鳴を上げて倒れ伏す!

 

「やろっ!」

「一斉にかかれ!」

 

 だが、近づく事すらできず、暴力団員は蹴散らされていく!

 

 

「じょ、城之内ぃいいいいっ!」

 

 手下を次々と倒され、怒りに任せて突進する蛭谷だが。

 

「あがっ!」

 

 その拳より、『城之内』の杖が早かった。

 手下は倒され、自身も重傷。だが、蛭谷の戦意は衰えない。

 

 デュエルディスクを構える蛭谷に、『城之内』は薄く笑う。

 

 

「デュエルか。受けてたつ。」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

蛭谷 ライフ4000

手5 場 

城之内 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺は暗黒の狂犬を召喚!」

「攻撃力1900か」

「カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 

蛭谷 ライフ4000

手4 場 暗黒の狂犬 伏せ1

城之内 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はワイバーンの戦士を召喚!」

「はっ、攻撃力が足りないなぁ!こっちは攻撃力1900だ!」

「手札からフィールド魔法発動、オレイカルコスの結界。」

「何?」

 

 

 蛭谷と『城之内』を魔法陣が包み込む!

 

 

「これにより、俺の場のモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。バトルだ、行け!ワイバーンの戦士!」

「ぐっ!」ライフ4000から3900

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

蛭谷 ライフ3900

手4 場 伏せ1

城之内 ライフ4000

手3 場 ワイバーンの戦士 オレイカルコスの結界 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はモンスターをセット。ターンエンドだ」

 

 

 

 

蛭谷 ライフ3900

手4 場 セットモンスター 伏せ1

城之内 ライフ4000

手3 場 ワイバーンの戦士 オレイカルコスの結界 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はワイバーンの戦士をリリース。伝説のフィッシャーマンをアドバンス召喚!オレイカルコスの力により、攻撃力は2350だ!」

「何だと!そのフィールド魔法、属性も種族も関係なしに、攻撃力を上げるのか!」

「その通りだ。」

 

 頭を押さえ、苦しんだのち、伝説のフィッシャーマンの眼が赤く染まる。

 梶木漁太には見せられない光景である。

 

 

「バトル。やれ、フィッシャーマン。セットモンスターを攻撃」

「だが、こいつはハイエナ!戦闘で破壊され墓地送りになったことで、効果発動!デッキからハイエナを2体、特殊召喚!」

「雑魚が増えたか。俺はこれでターンエンド」

 

 

 

蛭谷 ライフ3900

手4 場 ハイエナ ハイエナ 伏せ1

城之内 ライフ4000

手3 場 伝説のフィッシャーマン オレイカルコスの結界 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!城之内ぃ!雑魚には雑魚の使い道があるんだよ!」

「ああ?」

「俺は永続魔法、冥界の宝札を発動!」

「2体以上のリリースでアドバンス召喚に成功すれば2枚ドロー出来る永続魔法か。となれば」

「場の二体のモンスターをリリース!来い、俺のエースモンスター!百獣王ベヒーモス!」

 

 大型の獣族モンスターが現れ、『城之内』を威嚇する。

 

 

「そいつか。」

「冥界の宝札の効果が発動!カードを2枚ドロー!さらに、百獣王ベヒーモスの効果で、墓地の暗黒の狂犬とハイエナを手札に戻す!」

 

 

 引いたカードの一枚を見て、蛭谷は笑う。

 

「永続魔法、ポイズンファングを発動!バトルだ!百獣王ベヒーモスで伝説のフィッシャーマンを攻撃!」

「フン」ライフ4000から3650

「さらに獣族モンスターが戦闘ダメージを与えたことで、ポイズンファングの効果発動!500ポイントのダメージを与える」

「それぐらいくれてやるぜ」3650から3150

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

蛭谷 ライフ3900

手5 場 百獣王 冥界の宝札 ポイズンファング 伏せ2

城之内 ライフ3150

手3 場 オレイカルコスの結界 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はものマネ幻想師を召喚!効果発動、お前のベヒーモスの攻撃力と守備力を得る!」

「相打ち狙い…いや!」

「そうだ。オレイカルコスの結界により、攻撃力は3200!バトルだ、ものマネ幻想師で攻撃!」

「罠発動!サンダー・ブレイク!手札のハイエナを捨てて、ものマネ野郎を破壊する!」

 

 

 汎用性の高い除去札により、ものマネ幻想師が破壊されるが『城之内』は何の感慨もなさそうな眼を向ける。

 

 

「カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

蛭谷 ライフ3900

手4 場 百獣王 冥界の宝札 ポイズンファング 伏せ1

城之内 ライフ3650

手2 場 オレイカルコスの結界 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は暗黒の狂犬を召喚!バトルだ!暗黒の狂犬でダイレクトアタック!」

「リバースカードオープン!スケープ・ゴートを発動!羊トークン4体を特殊召喚!」

 

 色とりどりの羊達が現れるが、その眼は赤く、丸い角が変形し、尖った物に変貌する。

 とはいえ、守備表示であるため暗黒の狂犬も百獣王ベヒーモスも意に介さない。

 

「ならその羊を攻撃する!さらに、百獣王ベヒーモスで羊トークンを攻撃!ターンエンドだ!」

 

 

 

蛭谷 ライフ3900

手4 場 百獣王 暗黒の狂犬 冥界の宝札 ポイズンファング 伏せ1

城之内 ライフ3650

手2 場 羊トークン 羊トークン オレイカルコスの結界 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー。罠発動、ダブルマジックアームバインド。俺のモンスターを2体リリースして発動、お前のモンスター2体のコントロールをエンドフェイズまで得る。」

「何っ!」

「これで終わりだな。」

「させるかよ!罠発動!威嚇する咆哮!これで攻撃はさせない!俺のモンスターは返してもらう!」

「だったら返してやる。俺は場のモンスター2体をリリース。インセクト女王をアドバンス召喚!場の昆虫族一体につき、攻撃力は200ポイントアップ。さらにオレイカルコスの結界により、攻撃力が500ポイントアップして、攻撃力は2900。ターンエンド。」

 

 

 

 

蛭谷 ライフ3900

手4 場 冥界の宝札 ポイズンファング 

城之内 ライフ3650

手2 場 インセクト女王 オレイカルコスの結界 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は素早いモモンガを攻撃表示で召喚!魔法カード、強制転移を発動!城之内ぃ!お前のモンスターを寄越せ!」

「こんなモンスター、欲しければくれてやる」

「よし、バトルだ!インセクト女王で素早いモモンガを…。」

 

 だが、インセクト女王は動かない。

 

 

「何だと!何故攻撃しない!」

「そいつは攻撃する時、リリースが一体必要になる。」

「ちっ、ターンエンドだ。」

 

 

 

蛭谷 ライフ3900

手3 場 インセクト女王 冥界の宝札 ポイズンファング 

城之内 ライフ3650

手2 場 素早いモモンガ オレイカルコスの結界 

 

 

「俺のターン、ドロー!七星の宝刀を発動。手札か場のレベル7のモンスターを除外して、2枚ドローする。剣聖-ネイキッド・ギア・フリードを除外。俺は素早いモモンガをリリースして人造人間-サイコ・ショッカーをアドバンス召喚!」

「攻撃力2400だが、結界で攻撃力2900か!」

 

 オレイカルコスの結界により、眼が赤くなるが元々赤いためかさほど変化は無い。

 

 

「バトル。サイコ・ショッカーでインセクト女王を攻撃!」

「く、くそっ!」ライフ3900から3400

「カードを1枚伏せてターンエンド。」

 

 

蛭谷 ライフ3500

手3 場 冥界の宝札 ポイズンファング 

城之内 ライフ3650

手1 場 サイコ・ショッカー オレイカルコスの結界 伏せ1

 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、ライトニング・ボルテックスを発動!手札の森の番人グリーンバブーンを捨てて、お前のモンスターを破壊する!」

「サンダー・ブレイクの次はそれか。冥界の宝札と百獣王ベヒーモスで手札コストの確保は容易いという訳か…。」

「俺はカードを一枚伏せて、ターンエンドだ!」

「エンドフェイズにリバースカードオープン!リビングデッドの呼び声!蘇れ、サイコ・ショッカー!」

「何だとっ!」

 

 

 

蛭谷 ライフ3500

手1 場 冥界の宝札 ポイズンファング 伏せ1

城之内 ライフ3650

手1 場 サイコ・ショッカー オレイカルコスの結界 リビングデッドの呼び声 

 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、闇の誘惑を発動、カードを2枚ドローして、真紅眼の黒竜を除外。」

「何!真紅眼の黒竜を除外するだと!」

「装備魔法、D・D・Rを発動。手札の炸裂装甲を捨てて、ゲームから除外されている真紅眼の黒竜を特殊召喚。オレイカルコスの結界により、攻撃力は2900だ。」

 

 

 真紅眼の黒竜にオレイカルコスの紋章が浮かび上がり、凶暴な咆哮をあげる!

 

「バトル、真紅眼の黒竜と、人造人間-サイコ・ショッカーでダイレクトアタック!」

「じょ、城之内ぃいいい!」ライフ3500から600、600から0

 

 

 

 ライフが尽きた蛭谷は気絶する。

 『城之内』は蛭谷を拘束し、別室へ連行する。

 

 

 

 二人きりになったところで、『城之内』は拘束した蛭谷に平手打ちをかます。

 

「っつ!じょ、城之内ぃいいい」

「何なんだ、お前は。これか?」

 

 両手の人差し指と中指を合わせ、クロスする『城之内』

 蛭谷は知らない。そのジェスチャーがミズガルズ王国では『同性愛者』を意味することを。

 

 

「何の話だ?」

「気にするな。お前は城之内の知り合いか?」

 

 自分の事を、まるで他人のように言う『城之内』

 

「…おまえ、誰だ?」

 

 蛭谷はその可能性にようやくたどり着く。

 それに対し、『城之内』はカラーコンタクトレンズとカツラを外す。

 

「正体を明かすとしよう。吾輩は、ガルパン子爵。城之内とは少々因縁があって、こういう事をしている。」

「つまり、城之内をおびき寄せようと?」

「…まぁ、そういう事にしておく。」

 

 ガルパンの目的は違う。日本で城之内の評判を落とし、日本に居られなくするのが狙いだ。

 

 

「俺は蛭谷。俺と手を組まないか?」

「ふむ、いいだろう。しかし、城之内を取り込みたいとはどういう事だ?」

「最近、デュエルモンスターズ産業にも手を伸ばしたんだが、思うように勝てない。そんな時に、城之内の事を思い出した…。」

「そう言う事なら、協力しよう。」

「だったら!あのオレイカルコスの結界とかいうカードを」

 

 いきなり貴重なフィールド魔法を寄越せと言ってくる蛭谷に対し、ガルパン子爵は内心軽蔑する。

 

 

「獣族主体ならこのフィールド魔法はどうだ?」

「なんだこれは。初めて見るぞ」

「南米を旅していた時、神を崇める部族の決闘者が使っていたカードだ。お前のデッキとの相性は良いだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 その出来事があった数日後。イサベルはある喫茶店へ行くよう、当主であるラング伯爵に命じられていた。

 

「場所はここだけど…。」

「来たか。入れ。」

 

 

 手土産を持って入るイサベル。

 

 

「よく来たな、イサベル。」

 

 部屋の中央には、『城之内』が居た。

 くるりと身をひるがえし、逃げ出そうとするイサベル。

 

「おっと。」

「っつ!」

 

 退路を断たれ、イサベルはおびえる。

 

「そう怯えるな。おい、お前たちは席を外せ」

「はい、城之内様!」

 

 『城之内』の弟子たちが退出する。

 

「…久しぶりだな、イサベル。」

「イサベル?誰の事ですか?」

「まだ気づかないのか。」

 

 眼に手をかける『城之内』

 コンタクトレンズを取ると、碧眼があらわれる。

 

 

「?!まさか、ガルパン子爵!」

「いかにも。」

 

 

 カツラを外した男に、イサベルは見覚えがあった。

 ミズガルズ王国で、怪盗子爵の異名を持ち、数々の事件を引き起こした男。

 変装の達人であり、デュエルの腕も高い。

 過激な環境保護団体の幹部の依頼を受け、城之内のデッキを盗み出した。

 

 

 

「来日していらっしゃったとは知りませんでした。」

「まぁ、吾輩もまさかこんな辺境の島国に行く羽目になるとは思わなかったがね。ジャパン・エリアはどれもこれもショーユ味で気に食わん。それに音を立てて麺類をすするとは、野蛮で醜い」

 

 そう言われても、醤油というのが旨いと感じるイサベルにとって、食事については特に不満は無い。

 麺類を啜るという行為を行う事に違和感はあるが、こちらは招かれざる客人。現地の風習が嫌なら出ていくのはこちら側である。

 

 

「こうやって城之内と名乗り、弟子を取って各地で暴れさせ、評判を落として彼が日本に居られないようにするのが吾輩の計画だ。」

 

 

 城之内を苦しめるためにこの作戦を実行しているという事だが、イサベルは気になることがあった。

 

 

「何故、城之内の弟子と?」

「うん?」

「城之内は自らの名誉や肉体、心が傷つけられる事なら耐えられるでしょう。ですが、家族や親友の名誉が汚されたり、傷つけられることには耐えられないはず。彼を苦しめるのであれば、彼より知名度が高いデュエルキングが」

「武藤遊戯の名前を騙って、本人が乗り込んできたら吾輩とて無事では済まん。彼に一目置いている決闘者達も一緒になって殴りこまれては…」

 

 

 一瞬、その光景を想像したイサベルの全身に悪寒が走る。

 

 

「…しも。もしも武藤遊戯が。城之内の名誉を傷つけた事に怒り狂って乗り込んできたら」

「それは無い」

「えっ?」

「城之内にとって武藤遊戯は親友だろう。だが、武藤遊戯にとってはどうだろうか?」

 

 

 ガルパン子爵は言葉を続ける。

 

 

「デュエルキングとなった武藤遊戯にとって、彼とはもはや住む世界が違う。そもそもデュエリストとして打ち立てた功績には、雲泥の差があるでは無いか。」

「…私はそうは思えません。例えどれほどの月日が流れようと、彼らは友人であり続けるかと。」

 

 

 城之内が単なる有名人の「腰巾着」でしかないなら、その認識をイサベルは共有しただろう。

 だが。ミズガルズ王国に来るや否やデュエルモンスターズの大会に飛び入り参加して優勝。

 その後もデュエルモンスターズを通じて、異郷であるミズガルズ王国人との間に人脈を作りあげた。

 

 彼自身が、熱い信念と強さを併せ持っているからこそ。ミズガルズ王国の民を勇気づけ、それにより巣食っていたデュエルギャング達は一掃された。

 

 

 カードケースから、ガルパン子爵は数枚のカードを取り出す。

 

「S召喚というのか、インダストリアルイリュージョン社のアジア総局にあったS召喚のテーマデッキを根こそぎ頂いたし、支給用のカード群も拝借しておいた。」

「…流石ですね。」

「ところで、最近よく会っているというジャパンの少年はボーイフレンドかね?」

「ち、違います!」

「賢明な事だ。男爵家とはいえ、誉れ高きミズガルズ王国の貴族の血を引く末裔が日本人と交わるなどあってはならない。」

「…心得て、心得ております。」

 

 チクリ、と胸を刺すような痛みを覚えながら、イサベルは答える。

 

「そうか、なら問題ないな。」

 

 ゾッとするような声色で、ガルパンはつぶやく。

 

「何でしょう?」

「何。私の弟子を倒したという猫崎とかいう少年に、同志を送り込んだのだ。」

「だ、誰を?」

「レフタだ。少々、やり過ぎてしまうかもな。」

 

 デュエルギャングの名前が上がった事で顔色が変わるイサベルを見ながら、ガルパンは告げる。

 

「イサベル、君の居場所は我々の所にしか無いのだ。」

「わかって、わかっております。」

 

 絞り出すように、イサベルは何とか表情と声色を取り繕った。

 

 

 

 

 

 

 その頃。猫崎亮三は互いのデッキを賭けたデュエルを挑まれていた。

 

「さぁ、始めようか」

 

 レフタと名乗る男が口を開く。線の細い美形の西洋人だが、どことなく声色が悪い。

 

「行くよ。」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

レフタ ライフ4000

手5 場 

亮三 ライフ4000

手5 場 

 

 

「僕の先攻、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!このカードを守備表示に変更する。手札の魔法カード、デーモンの斧を捨てて、デッキからマハー・ヴァイロを特殊召喚!」

「攻撃力1550、か。」

「装備魔法、団結の力をマハー・ヴァイロに装備!これで攻撃力は1600ポイントアップ、そしてマハー・ヴァイロの効果、装備カード1枚につき、攻撃力が500ポイントアップ!」

「攻撃力3650か」

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

レフタ ライフ4000

手5 場 

亮三 ライフ4000

手2 場 マハー・ヴァイロ サモンプリースト 団結の力 伏せ1

 

 

「僕のターン、ドロー!サモンプリーストか、君の兄が、これでレスキューキャットを展開する戦術を使っていたな。」

「そうだね。」

「なら、僕も使わせてもらう。装備魔法、強奪を発動!サモンプリーストのコントロールを」

「カウンター罠、八式対魔法多重結界!」

「ん?」

「フィールド上のモンスター1体を対象にした魔法の発動と効果を無効にし破壊する!」

「へぇ、それか。イサベルが言っていたカードは。」

「イサベルの知り合い、なのか。」

「名前を呼ぶな!ちょっと話したぐらいで脈があると思ったのかい?日本人風情が。」

 

 

 剣呑な声を発するレフタ。

 その発言に、ややショックを受ける亮三。

 

 

「思い知らせてやるよ!手札からチューナーモンスター、A・O・Jサイクロンクリエイターを召喚!」

「A・O・J…俊二兄さんのカタストルと同じテーマ?」

「さらに、手札の不幸を告げる黒猫を捨てて、魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動!デッキからサイバー・ヴァリーを特殊召喚!」

「サイバー流…のカード?」

 

「元々は門下生という奴が持っていたものだけどね。割と便利だから入れている。魔法カード、機械複製術を発動!サイバー・ヴァリーを二体、デッキから特殊召喚!」

「レベル1が3体、レベル3チューナー…いや、サイバー・ヴァリーの効果を使うか?」

 

「レベル1のヴァリー2体に、レベル3のサイクロンクリエイターをチューニング!S召喚!A・O・Jカタストル!」

「カタストル!」

「バトルだ、行け、カタストル!マハー・ヴァイロを攻撃!そしてカタストルの効果発動!闇属性モンスターでは無い、マハー・ヴァイロを破壊!」

「っつ!」

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

レフタ ライフ4000

手0 場 カタストル ヴァリー 伏せ1

亮三 ライフ4000

手2 場 サモンプリースト 

 

 

 

「…僕のターン、ドロー!だけど、カタストルの効果は闇属性には発動しない!サモンプリーストを攻撃表示に変更!装備魔法、魔導師の力とデーモンの斧を装備!これで攻撃力は2000ポイントアップ!」

「攻撃力2800か…」

「バトル!サモンプリーストで、カタストルを攻撃!」

「サイバー流を壊滅させた男の弟というから多少期待したが、この程度か。永続罠、DNA移植手術!場のモンスターを光属性に変更する!」

「?!」

「カタストルの効果発動!サモンプリーストを破壊!闇属性モンスターの攻撃力を上げるという単調な突破が通じるとでも?身の程を知れ、日本人。」

「…カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

 

レフタ ライフ4000

手0 場 カタストル ヴァリー DNA移植手術(光)

亮三 ライフ4000

手0 場 伏せ1

 

 

「僕のターン、ドロー!異次元の偵察機を召喚。サイバー・ヴァリーの効果発動、このカードと異次元の偵察機を除外して、二枚ドロー!」

「……」

「チッ、バトル!カタストルでダイレクトアタック!」

「だけど、まだライフは…」

「ハハッ!これだから日本人は…。速攻魔法!リミッター解除!機械族の攻撃力を二倍にする。」

「えっ?」

 

 引いたカードが、望んだカードでは無かったはず。

 

 

「タイム・イズ・マネー。君程度の相手に、これ以上時間をかけるのは無意味だ!」

「うわあああああっ!」ライフ0

 

 

 レフタは亮三のデッキを奪う。

 

「…思ったより練られているな。これが八式対魔法多重結界か…いいね、気に入った。優秀なカウンター罠だ。」

 

 

 袖口のリストバンドに、『リミッター解除』のカードを戻し、レフタはその場を後にする。

 ミズガルズ王国のデュエルギャングである、レフタは元々日本人を見下していた。だが、その日本人に無様に敗れた。

 

 城之内克也、という決闘者に。

 袖口のカードとのすり替えを、3ターン目と5ターン目にしたにも関わらず。しかも、そのイカサマを見抜かれていた。

 

『お前のようなイカサマをした奴を俺は知っている。ちなみに、そいつはお前より上手だった』

 

 屈辱だった。このイカサマのテクニックを見破られたことなど無かったのに。

 

 

「城之内、お前の家族や友達を酷い目に合わせた上で復讐してやる…。このA・O・Jデッキと、属性戦術で。」

 

 

 サイバー流の残党を狩るために、インダストリアルイリュージョン社がアジア総局に送ったA・O・Jデッキは、ガルパン子爵に盗み出されたうえでミズガルズ王国の犯罪勢力の手に渡っていた。

 しかしDNA移植手術に依存している以上、人造人間-サイコ・ショッカーを召喚されればカタストルを処理されてしまう。

 

 だからこそ、それを補うカードが必要だった。

 そんな時に装備魔法を多用する日本人の少年の話を聞いた。

 

 イサベルに妙な気を起こさせず、デッキ強化を合わせて襲来したのだった。




城之内君のデッキは全体的に打点が不足しているので、種族・属性を問わず永続的に打点を底上げするオレイカルコスの結界との相性は良いと思います。本人が使う光景がまるで想像できませんが。

蛭谷さんのデッキは、スタンガン繋がりからライトニング・ボルテックスとサンダー・ブレイクを考えた所、手札コストを稼げる獣族という事で百獣王ベヒーモス主軸の【獣族】にしました。


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第46話!闇獏良と呪い人形

この度、「パラディウス社復興計画」をトレーズ先生が執筆して下さりました。なんと、拙作の設定を用いていただきました!この場を借りてお礼申し上げます!



アンチリスペクト物で、「リスペクトに反する」と門下生が言うシーンがありますが…その言葉で傷ついているのはデュエリストだけでは無いと思います。


 …肝試しに行った生徒が戻ってこない。

 おりしも行方不明者の保護者がサイバー流の関係者という事、警察でも見つけられないという事で、オカルト方面に強い才獏に話が回ってきた。

 

 

 

「…それで、何者だ貴様ら」

 

 癖のある茶髪の少年、坊主頭で眼鏡をかけた少年、ツンと尖った鼻の少女、ロングヘアの少女。

 

 

「わたくしは才金。才獏様の依頼とは無関係ですわ」

「あ?」

「才治と散策していたら、偶然出くわしただけ。」

 

 そう言って坊主頭の少年に寄り添う少女。

 やや照れている事から二人の仲を察する闇獏良。

 

 

「…貴様らが、今回同行するメンバーだな。」

「私は才花です。」

「僕は才光、今回の依頼に協力するように指示を受けました。」

「ふん、俺様の邪魔をしないなら別にいい。」

 

 

 

 やや薄暗くなりつつある中、煌々と明りが灯っている人形屋。

 そこに、闇獏良は目を向ける。

 

 盗賊王としての嗅覚が、ここに何かあると告げていた。

 

 

「人形屋…。」

「こんな所にあったかしら?」

 

 

 首をかしげる才光と才花。

 

「ここに人形屋は無いはずだ。空き地で買い手がつかないって、不動産に就職した知り合いがぼやいていたから」

「そ、そうなの?さ、さぁ行きましょう才治!」

「あ、ああ。そうだな。」

 

 

 早々に立ち去ろうとする二人に目を向ける闇獏良。

 

 

「何があった?」

「セブンスターズ、というのはご存じですか?」

「ああ?」

 

 

「デュエルアカデミアに封印されていた三幻魔を解放しようとした、影丸理事長の配下です。あの二人はセブンスターズと闇のゲームを闘いました。」

「それまで、オカルトなど眉唾物と思っていたら実害を受けた事でかなり考え方が変わったとか。」

「ふん。」

 

 去っていく二人に対し興味を失う闇獏良は、人形屋の入り口に手をかける。

 才治という少年の言葉が正しければ、存在しないはずの人形屋、そして行方不明者。

 

 入ってみる価値は、ありそうだ。

 

 

 

 

 

 中に入ると、思った以上に奥行きがあり、広い。

 置かれている人形は、精緻な細工が施されており、素人目でみても高級そうな物ばかりだ。

 

 

 

「…綺麗」

「こういう店に入るのは初めてだ。少し不思議な感覚。」

 

「こんなモノが欲しいのか。」

「えっ?」

「まぁ、人の趣味に口出しする気はねぇ…。雑魚と後ろは任せた」

 

 そう告げて、闇獏良は奥の扉に向かい…ひとりでに開いた扉をくぐってその先へ無遠慮に踏み込む。

 

 

 

「才獏様!?」

 

 慌てて扉に向かおうとする才光は、異臭を嗅ぎつける。

 

「い、いやあああああああっ?!」

「才花、どうし」

 

 

 その言葉を言い終わる事が出来なかった。

 かなり綺麗だった人形屋の内装が変わり果てる。朽ち果て、埃が積もった廃墟。

 ボロボロになった人形が、恨めし気に起き上がると向かってくる。

 

 

「才獏様!こういう事なら、もっと説明してくださいよ!」

 

 元の人格である才獏ならある程度事情を話しただろうが、闇獏良にそういう気づかいは無い。

 二人に任せたが、彼らが失敗したならば自力で脱出する。

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才光 ライフ4000

手5 場 

壊れた人形 ライフ4000

手5 場 

 

 

「…先攻、ドロー。X-ヘッド・キャノンを、召喚。魔法カード、おろかな埋葬…。デッキから、Y-ドラゴン・ヘッドを墓地に。」

「この流れは」

「装備魔法、早すぎた埋葬。ライフを800払い、墓地からY-ドラゴン・ヘッドを特殊召喚」ライフ4000から3200

「一ターンで揃えてくるつもりか!」

「永続魔法、前線基地。1ターンに1度、手札のユニオンモンスターを、特殊召喚。Z-メタル・キャタピラーを特殊召喚。この三体を除外。XYZ-ドラゴン・キャノンを、特殊召喚。カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

 

才光 ライフ4000

手5 場 

壊れた人形 ライフ4000

手0 場 XYZ-ドラゴン・キャノン 前線基地 伏せ1

 

「僕のターン、ドロー!フィールド魔法、フュージョン・ゲートを発動!プロト・サイバー・ドラゴンを召喚!フュージョン・ゲートの効果発動!場のプロトと手札のサイバー・ドラゴン2体を除外!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

「攻撃力、4000…罠発動、威嚇する咆哮。攻撃は、させない」

「僕はカードを1枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

才光 ライフ4000

手1 場 サイバー・エンド・ドラゴン フュージョン・ゲート 伏せ1

壊れた人形 ライフ4000

手0 場 XYZ-ドラゴン・キャノン 前線基地 

 

 

「…ドロー。XYZの効果、発動。手札のシュレッダーを捨て、サイバー・エンド・ドラゴンを破壊」

「永続罠、ディメンション・ガーディアン!サイバー・エンド・ドラゴンを選択!選択したモンスターは戦闘・カード効果では破壊されない!」

 

 

 才災師範が安全地帯を『リスペクトに反する』と明言した事で、才光は似たような効果を持つこのカードを探し、デッキに入れていた。

 

 

「…ターンエンド」

 

 

才光 ライフ4000

手1 場 サイバー・エンド・ドラゴン フュージョン・ゲート ディメンション・ガーディアン

壊れた人形 ライフ4000

手0 場 XYZ-ドラゴン・キャノン 前線基地 

 

 

「僕のターン、ドロー!バトルだ、サイバー・エンド・ドラゴンでXYZ-ドラゴン・キャノンを攻撃!」

「……」ライフ4000から2800

「メインフェイズ2、サイバー・ヴァリーを召喚してターンエンド!」

 

 

 

才光 ライフ4000

手1 場 サイバー・エンド・ドラゴン サイバー・ヴァリー フュージョン・ゲート ディメンション・ガーディアン

壊れた人形 ライフ2800

手0 場 前線基地 

 

 

「…ドロー。魔鏡導士リフレクト・バウンダーを召喚。バトル、サイバー・ヴァリーを攻撃」

「サイバー・ヴァリーの効果発動!このカードを除外して1枚ドロー。そしてバトルを終了する」

「…ターンエンド。」

 

 

才光 ライフ4000

手1 場 サイバー・エンド・ドラゴン サイバー・ヴァリー フュージョン・ゲート ディメンション・ガーディアン

壊れた人形 ライフ2800

手0 場 魔鏡導士リフレクト・バウンダー 前線基地 

 

 

「僕のターン、ドロー!」

「リフレクトバウンダーは攻撃されれば、攻撃してきた相手モンスターの攻撃力分のダメージを、与える…。」

「速攻魔法、月の書!リフレクトバウンダーを裏側守備表示に変更!」

 

 

 壊れた人形の腕が下がる。

 戦意喪失したらしい。

 

 

「…何故」

「?」

「何故、リスペクトに反していると、言わない?サイバー流、だろう?」

「色々考えた、リスペクトとは何か、を。相手の戦術を批判・否定する行為にリスペクト精神は無い。」

「……」

 

「バトル!サイバー・エンド・ドラゴンで、リフレクトバウンダーを攻撃!」

「……」ライフ0

 

 

 

 ライフが尽きた人形は崩れ落ち、カードが散らばる。

 リスペクトに反するという烙印を押されたカードを才光は回収する。

 

 

「才花、これを!」

 

 才花は、受け取ったデッキに自身の持っていたカードを数枚、エクストラデッキに数枚の融合モンスターを追加してデュエルディスクにセットする。

 以前のデッキは、サイバー狩りにより奪われた。

 

 

 そんな彼女に、別の壊れた人形が向かう。

 

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才花 ライフ4000

手5 場 

壊れた人形 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻、ドロー…。魔法カード、手札断殺。互いに手札を二枚捨てて、二枚ドロー。抹殺の邪悪霊、怨念の邪悪霊を墓地に…」

「起動砦のギア・ゴーレムとおろかな埋葬を捨てて、二枚ドロー!」

 

 

 

「魔法カード、おろかな埋葬…デッキから冥界の魔王ハ・デスを墓地に送る…。墓地の悪魔族モンスターを3体除外して、ダーク・ネクロフィアを特殊召喚…守備表示。」

「ダーク・ネクロフィア、相手によって破壊されたらモンスターのコントロールを奪う悪魔族!」

「除外された悪魔族モンスターを3体デッキに戻し…カース・ネクロフィアを特殊召喚…」

「?!なに、このモンスター、初めて見るわ!」

「モンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンド。」

 

 

 

才花 ライフ4000

手5 場 

壊れた人形 ライフ4000

手0 場 ダーク・ネクロフィア カース・ネクロフィア セットモンスター 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!永続魔法、未来融合フューチャー・フュージョンを発動!カードを1枚伏せてターンエンド!」

「エンドフェイズ、永続罠発動…ウィジャ盤。デッキから死のメッセージ『E』を発動…」

「ウィジャ盤!?」

 

 

 才災がリスペクトに反するとした特殊勝利条件の一つ。

 サイバー流の門下生相手に、マジック・キャンセラーでサイクロンなどの除去札を封じ、威嚇する咆哮や和睦の使者でターンを稼いで完成させた決闘者を才花は思い出す。

 

 

 

才花 ライフ4000

手4 場 未来融合(0) 伏せ1

壊れた人形 ライフ4000

手0 場 ダーク・ネクロフィア カース・ネクロフィア セットモンスター ウィジャ盤 死のメッセージ『E』

 

 

 

「ドロー…バトルフェイズに」

「メインフェイズ終了時に罠発動!威嚇する咆哮!バトルフェイズは行わせない!」

「ターンエンド…」

 

 

才花 ライフ4000

手4 場 未来融合(0) 

壊れた人形 ライフ4000

手1 場 ダーク・ネクロフィア カース・ネクロフィア ウィジャ盤 死のメッセージ『E』

 

 

「私のターン、ドロー!永続魔法、未来融合の効果発動!デッキからサイバー・ドラゴン2枚、X-ヘッド・キャノン、Y-ドラゴン・ヘッド、Z-メタル・キャタピラー、シュレッダー、魔鏡導士リフレクト・バウンダー、魔装機関車デコイチ、カードガンナー、計9枚を墓地に送り、次のターンにキメラテック・オーバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「キメラテック・オーバー・ドラゴン…」

「魔法カード、オーバーロード・フュージョンを発動!先ほど墓地に送った機械族9枚と起動砦のギア・ゴーレムを除外して、キメラテック・オーバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「攻撃力が…?」

「このカードの攻撃力は融合素材モンスターの数800ポイントアップ!よって攻撃力は8000!バトル!キメラテック・オーバー・ドラゴンで、カース・ネクロフィアを攻撃!」

「……」ライフ0

 

 

 

 倒れる人形。だが、まだまだ終わりでは無い。

 新手が押し寄せる。

 

 

 

 才花が壊れた人形相手に勝利した同時刻。闇獏良は奥の部屋にたどり着く。

 先ほどの部屋程大きくはない。大きな鏡が立てかけられている。

 

 赤いゴスロリ衣装に身を包んだ、金髪で金色の眼を持つ人形が、笑顔を向けてくる。

 

 

「…ようこそ。私の館へ」

「ケッ、何が館だ」

「この近くで、行方不明者が出ている。何か知らねぇか?」

「フフっ、まだ夜は長いわ。ゆっくり話しましょう。紅茶はいかが?」

「いらねぇよ。」

 

 

 切り捨てられ、人形はやや鼻白む。

 

 

「そう…なら、こうさせて貰うわ」

 

 人形の足元から魔法陣が伸び、闇獏良ともども包み込む!

 

 

「これは…」

「ふふっ。闇のゲームの始まりよ。敗者の魂は人形に封じられる」

「ケッ、腐れ人形のてめぇにはノーリスクって事か。まぁいい。望み通りぶっ壊してやるよ!俺様は才獏!」

「名乗られたからには、こちらも名乗るわ。私は、フォウリー。」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才獏 ライフ4000

手5 場 

フォウリー ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「先攻はてめぇに決めさせてやるよ。」

「なら、私の先攻。ドロー!魔法カード、トレード・インを発動!手札のLv8のギミック・パペット‐ネクロ・ドールを捨てて二枚ドロー!」

「レベル8で攻守0だと?」

「フフッ、永続魔法、星邪の神喰を発動!私の墓地のモンスター一体のみがゲームから除外された場合、デッキからそのモンスターと異なる属性のモンスターを墓地に送るわ!」

「ほぅ?」

「さらに永続魔法、魂吸収!墓地のカードが除外されるたびに、私はライフを500回復する!」

 

 星邪の神喰と魂吸収。除外ギミックを入れたデッキと推測する闇獏良。

 

 

 

「フフっ、お友達を紹介するわ。私はギミック・パペット‐シザー・アームを召喚!効果発動、デッキからギミック・パペットを一体墓地へ送る!私はギミック・パペット‐ハンプティダンプティを墓地に送る。」

「何を狙っていやがる」

 

「墓地のネクロ・ドールの効果発動!墓地からギミック・パペットを除外して、このカードを特殊召喚!最も、1ターンに1度しか使えないけれどね。そして魂吸収でライフ回復!」ライフ4000から4500

「墓地のモンスターが除外されたって事は」

「星邪の神喰の効果発動!除外されたハンプティダンプティは闇属性!地属性を墓地に送るわ。」

「マシンナーズ・フォートレスだと?」

 

 ギミック・パペットモンスターではない事を訝しく思う闇獏良。

 

「魔法カード、アドバンス・ドローを発動!レベル8のネクロ・ドールをリリースして、二枚ドロー!ここで、墓地のマシンナーズ・フォートレスの効果発動!手札の機械族をレベル8以上になるように捨てて、墓地から特殊召喚!ネクロ・ドールを墓地に捨てて、再起動よ、フォートレス!!」

「ちっ、またコストが墓地に行ったか」

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

才獏 ライフ4000

手5 場 

フォウリー ライフ4500

手2 場 フォートレス シザー・アーム 星邪の神喰 魂吸収 伏せ1

 

 

「俺様のターン、ドロー!俺様は、サイバー・ヴァリーを召喚!魔法カード、機械複製術を発動!デッキからサイバー・ヴァリーを二体特殊召喚!」

「攻撃力0を攻撃表示?どんな効果があるの?」

「…攻撃されたらゲームから除外し、俺様はカードを1枚ドローする効果。もう一つはこのカードとそれ以外の俺様の場のモンスターを除外して2枚ドローする効果。三つめはこのカードと手札を1枚除外して、墓地のカードをデッキの一案上に戻す、だ」

「三つも効果があるなんて…」

 

「カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

才獏 ライフ4000

手3 場 サイバー・ヴァリー サイバー・ヴァリー サイバー・ヴァリー 伏せ1

フォウリー ライフ4500

手2 場 フォートレス シザー・アーム 星邪の神喰 魂吸収 伏せ1

 

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、強制転移を発動!私のお友達、シザー・アームを上げるわ」

「要らねぇよ。サイバー・ヴァリーだ。」

「あら、いい子ね。私は新しいお友達、ギミック・パペット‐死の木馬を召喚!効果発動!このカードが場にある限り1度だけ、場のギミック・パペットを破壊できる。お友達は返してもらうわっ!」

「送り付けて、てめぇの手でぶっ壊すのか。いい趣味してやがる」

「私は、サイバー・ヴァリーの効果発動!死の木馬とこのカードを除外して、二枚ドロー!魂吸収でライフを1000回復するわ!」ライフ4500から5500

 

 

「墓地の死の木馬を除外して、ネクロ・ドールを墓地から特殊召喚!魂吸収でライフを500回復!そして星邪の神喰で、デッキから地属性で2体目のマシンナーズ・フォートレスを墓地に送るわ!」

「またか」

「二枚目のアドバンス・ドローを発動!場のネクロ・ドールをリリースして、二枚ドロー!魔法カード、悪夢再びを発動!墓地のネクロ・ドールを二枚、手札に戻すわ!」

「墓地にフォートレス、手札に高レベルの機械族という事は…」

「手札のネクロ・ドールを捨てて、墓地のマシンナーズ・フォートレスを特殊召喚!バトル!マシンナーズ・フォートレスで、サイバー・ヴァリーを攻撃!」

「ヴァリーの効果発動!このカードを除外して、一枚ドロー!バトルは終了だ!」

「なら、魂吸収でライフ回復!」ライフ5500から6000

 

 

「ターンエンド」

 

 

才獏 ライフ4000

手3 場 サイバー・ヴァリー 伏せ1

フォウリー ライフ6000

手4 場 フォートレス フォートレス 星邪の神喰 魂吸収 伏せ1

 

 

「俺様のターン、ドロー!手札の超電磁タートルを捨てて、魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動!デッキからサイバー・ラーヴァを特殊召喚!サイバー・ヴァリーの効果発動!こいつとラーヴァを除外して、2枚ドロー!」

 

 手札を見つめ、考え込む闇獏良。

 仕掛けられるが、カードが足りず仕留めきれない。

 

「ターンエンドだ」

 

 

才獏 ライフ4000

手4 場 伏せ1

フォウリー ライフ6000

手4 場 フォートレス フォートレス 星邪の神喰 魂吸収 伏せ1

 

 

「…退屈」

「今はな。」

「もういいわ。そろそろ終わらせてあげる。私のターン、ドロー!二枚目のトレード・インを発動!ネクロ・ドールを捨てて二枚ドロー!私は新しいお友達、ギミック・パペット‐ボム・エッグを召喚!効果発動、手札のギミック・パペット‐マグネ・ドールを捨てて、貴方に800ポイントのダメージを与える!」

「チッ、人形風情が!」ライフ4000から3200

 

「フフッ、墓地のネクロ・ドールの効果発動!マグネ・ドールを除外して墓地から特殊召喚!魂吸収でライフを500回復!そして星邪の神喰で、デッキから地属性で3体目のマシンナーズ・フォートレスを墓地に送るわ!」ライフ6000から6500

「またそのコンボか」

「三枚目のアドバンス・ドローを発動!ネクロ・ドールをリリースして二枚ドロー!二枚目の悪夢再びを発動!墓地からネクロ・ドールを二枚、手札に戻す!そして手札のネクロ・ドールを捨てて、墓地のマシンナーズ・フォートレスを特殊召喚!」

「フォートレスが三体か…」

 

「バトル!フォートレスでダイレクトアタック!」

「墓地の超電磁タートルを除外して、バトルフェイズを終了する!」

「カードが除外された事でライフ回復!」ライフ7000から7500

「ターンエンド。これで壁は無くなったわ」

 

 

 

 

才獏 ライフ3200

手4 場 伏せ1

フォウリー ライフ7500

手4 場 フォートレス フォートレス フォートレス ボム・エッグ 星邪の神喰 魂吸収 伏せ1

 

 

「俺様のターン、ドロー!ヒャーッハッハッハ!このターンで、てめぇをぶっ潰してやるぜ!」

「っつ!だったら、これを見なさい!あの子がどうなっても」

 

 

 大きな鏡に、入口の光景が映し出される。

 同行者を人質に取ろうとしたが…

 

「?!ぜ、全滅っ!」

「ヒャハハハハハ!ざまぁねえな!」

 

 笑いつつも手間が省けた事で、闇獏良の中での彼らの評価が若干上がる。

 

 

「速攻魔法、サイクロン!その伏せカードを破壊だ!」

「スピリットバリアが!」

「フリーチェーンの妨害札じゃあ無かったか…。相手の場にのみモンスターが存在することで、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!そして場のサイバー・ドラゴンとてめぇの場の機械族を全て墓地に送る!」

「なっ!」

「現れろ、キメラテック・フォートレス・ドラゴン!」

「わ、私のモンスターを使って融合召喚?!」

「こいつの攻撃力は、この効果で墓地に送った機械族の数×1000ポイント!よって攻撃力は5000!バトルだっ!」

「だ、だとしても…ライフはまだ残る!そうなれば」

「魂吸収でライフを回復していやがったからなぁ…。キメラテック・フォートレス・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「この攻撃を受けても、まだライフ…は…」

 

 

 突如、キメラテック・フォートレス・ドラゴンの勢いが強まる!

 

 

「速攻魔法、リミッター解除!これで攻撃力は10000だ!」

「い、いやああああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 ライフが尽きたフォウリーはその場に崩れ落ちる。

 

「私が、私が…負けた?いやっ、私のお友達が…」

「友達だぁ?てめぇにそんなモン、いねぇだろうが」

「なっ!」

 

「ギミック・パペット共はネクロ・ドールが復活するためのコスト、そのネクロ・ドールはマシンナーズ・フォートレスを起動させるためのコスト。その上除外される連中の魂すら啜る。てめぇの本性が良く出ているデッキじゃねぇか」

 

 

 フォウリーは、言い返せなかった。彼女にとって、自分が一番可愛い。

 闇獏良はその本性を見抜いていた。この手のタイプは、追い詰めたら人質に取って攻撃を躊躇させようとしてくる。

 

 

 体が朽ち果てていくフォウリーを冷たい目で見下ろす闇獏良。

 

「大方、てめぇを捨てた人間に復讐しようとしていたんだろうが。」

「お、お願い…たす、け」

 

 

 闇獏良の返事は、振り下ろされる足だった。

 フォウリーの脳裏に今までの記憶が走馬灯のようによぎる。

 

 

『パパ-!この人形欲しい!』

 

『わぁ、新しいお人形!この人形?いいわ、飽きちゃった。もう、要らない』

 

 

 

 …死ぬ?この、私が?

 単なる人形でありながら、自我を持って自立出来るようになった優れた存在が?

 

 呪詛の言葉を紡ごうとする直前、衝撃が走り…そのまま、フォウリーの意識は暗転する。

 

「…さて」

 

 

 闇獏良は踵を返す。

 これで一件落着、とはいかない。先ほどの鏡に映っていた部屋を探しだし、行方不明の子供を救出して家族に届け、事件解決を報告して…。

 

 依頼金と謝礼を頂かないと割に合わない。

 

 

 ふと、落ちているカードに目を向ける。

 マシンナーズ・フォートレスに依存しきったデッキ。ギミック・パペットモンスターは展開力こそあれ、打点が足りなさすぎる。

 S召喚とやらと組み合わせれば、使えるようになるかもしれない。

 

 他にも色々カードが落ちている。

 

 

 闇獏良がカードを回収している頃。

 

 

 

「…?!新手か!」

 

 

 ようやく終わったと思い、呼吸を整えていた才光と才花の前に新たな人形が現れる。

 かなり大きい。金髪で翡翠の眼を持ち、緑色の服を纏っている。

 

 

「…貴方達は、サイバー流の関係者ですか?」

「そうだ。」

「…ここにあるのは、不必要と言われて捨てられた人形と、リスペクトに反するとされたカード達。」

「そうね、才災師範ならばリスペクトに反すると断ずるカードばかりだわ。」

「…でも、貴方達はリスペクト精神が無いのか、と私達に言わなかった。何故ですか?」

「色々考えたんだ、リスペクト精神とは何か、を。」

「その結果、相手がどんなカードを使おうと批判・否定する事はやめたわ。」

 

 人形は、しばし沈黙する。

 

 

「…リスペクトに反しているデュエルをするデュエリストは変われるでしょう。では、リスペクトに反しているとされるカードは、変われるのでしょうか?」

「それは…。」

 

 

 サイバー流は声高に、リスペクト精神を掲げる。

 だが、リスペクトに反したという烙印を押されたカードは、変われるはずが無い。

 

 人形はじっと二人を見つめる。

 

 

 

「…行方不明者が居る部屋はあちらです…。」

 

 そこまで言うと、人形は音もなく崩れ落ちる。

 

 

「……行きましょう、才光。」

「そうだな。」

 

 

 

 闇獏良が戻ると、才光と才花が子供を連れていた。

 

 

 

「才獏様!ご無事でしたか!」

「行方不明者は助けました!」

「…ふん。」

 

 

 手間が省けた。

 

「もうここに用は無い。」

 

 

 行方不明者の子供を家に帰し、報酬を頂いた闇獏良に対し才光と才花は相談する。

 

 

「才獏様。修行に付き合ってくれませんか?」

「お忙しいのであれば、無理にとは言いませんが。」

 

 言下に断ろうとした闇獏良の眼に、カース・ネクロフィアのカードが映る。

 

 

「おい、そのカードはなんだ?」

「?!失礼しました。先ほど回収したカードです。」

「見せろ。」

 

 

 かなり強い口調で言われたため、才花はデッキごと差し出す。

 

「…こいつを譲るというなら、使い物になるよう鍛えてやる。」

「えっ?それで良ければ。」

 

 リスペクトに反するカードのオンパレードだが、なぜか琴線に触れたらしい。

 ようやく、自身好みのデッキが組めた闇獏良は酷薄な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 数時間後。

 人選を間違えたかもしれない。

 

 才光と才花はぼんやりと思いながら、大の字になって横たわる。

 疲弊していたが、おかげで見えてくるもの、得る物は少なからずあった。

 

 

 

「…こんな物か。」

「ありがとう、ございます。才獏様から頂いたこの戦士族のカード、大事にします。」

「そいつは貴様の戦略と相性がいい。どうだ、キメラテック・オーバー・ドラゴンのリスクを回避できただろう?そのカードも貴様のデッキには合うはずだ」

 

「は…い…。この植物族モンスター、大事にします…才獏様。リスペクト精神とは何でしょう?」

 

 

 中々再構築できなかったオカルトデッキを再構築できるという喜びの赴くまま、徹夜でスパルタ教育したためか闇獏良自身、疲労している。

 

 それでも投げかけられた問いに対し、思考をめぐらす。

 

 

「デュエルに勝ちたいなら、あらゆる手段を使って勝つべきだ。貴様は俺様とデュエルしたが、勝ちたいと思ったはずだ。」

「それは…」

「そして勝つ為に除去カードが、カウンター罠が必要なら使うべきだ。それをせず、相手に使われたら文句を言うのは…ガキの我儘だ。」

 

 

 

 元サイバー・ランカーズのブロック代表を才光と才花は見つめる。あまり交流は無かったが、少なくとも才災勝作の『正しい・リスペクト・デュエル』を盲信していた彼が、ここまで変わるとは。

 よほど才災師範の行動がショックだったのだろう。

 

 

「リスペクト精神というのは、言葉に出来るようなモノじゃあねぇ事は今更言うまでも無いだろう。才災の思想が広まったのは明確な言葉にしたからだが…。こうなっちまった以上、サイバー流の門下生は今一度、それぞれ見直す時期が来たんじゃあねぇか。」

「才獏様…。」

 

 

「さて、俺様はそろそろ行くぞ。今日の続きについては、また追って開催日と場所を知らせる。連絡先を寄越しな」

 

 

 …どうやら本当に人選を誤ったかもしれない。

 内心後悔する二人。

 

 闇獏良自身、特訓と言いつつ早々に切り上げるつもりだったが…。この二人は中々教えがいという物があった。

 自身には及ばないが、相応の『引きの強さ』がある。

 

 しかもこの二人は無意識の内に…僅かではあるがヘカを込めている。

 とはいえ、3000年前と違い魔力の濃度が希薄な上に千年アイテムの類も持っていない為、デュエルで人間に危害を加えるには至らない。

 

 最も、鍛えれば相手がオカルト関連の存在であれば少なからず効果は出てくる。派手に動くつもりは無いが、保険をかけておいて損は無い。

 



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第47話!光の結社ドミノ街支部と、ペッパー子爵の実力!

拙作の元凶とも言うべき人物がデュエルをします。
今更ですが、拙作では十代の入学年度を2004年、DM開始時は1996年としています。DMからGXの間は8年ですね。

オリジナルキャラクター、マリイアさんの描写を若干変更しました。この時点では20歳です。ここから考えると、海馬社長が剛三郎の養子になるのは10歳の時なので1990年。1993年にマリイアさんが20歳ならば、GX時点では31歳となります。

ドーマ編の時のマリイアさんは別件で動いていたかと。記憶の石板が氷漬けにされた事で行動を起こしているであろう『盗賊』への対処とか。


…今更ですが、あの時遊戯達は「別れを告げずに去りたい」と考えており、何も聞かされていない獏良君は同行していなかったので…ダーツが介入していなければ闇バクラ無しの古代編がスタートしていた可能性が微レ存?


 修学旅行の行き先について、議論しているクロノス新校長とナポレオン教頭だったが。

 光の結社の面々を引き連れて斎王が現れた事で議論は取りやめとなった。

 

「私の占いでは、修学旅行の行き先は…」

「ちょっと待った!修学旅行の行き先なら、俺にも行きたいところがあるんだ!」

「ほぅ?では、修学旅行の行き先を賭けてデュエルと行きましょう。貴方が負けたら、光の結社に入って」

 

 

「御二方が行きたい所は、童美野町でしょう?デュエルをする必要があるのですか?」

 

 ボソリと呟く我謝透子だが、それを聞いた斎王も遊城十代も思わず凝視する。

 修学旅行の行き先について、光の結社と遊城十代がそれぞれ童美野町に行きたいらしい、と義弟から伝えられていた透子はそれが真実であることを知る。

 秘書の自身と違い、義弟は色々と動きやすい。その伝手を使っての情報なのだろう。

 

 

「…猫崎俊二が関わってくると予見していたが、まさか貴女が関わるとは。貴女は一体何者なのですか?」

「私は私です。今までも、そしてこれからも。」

 

 芯を曲げず、きっぱりと言い切る我謝透子。

 

 

「クロノス新校長、こういう意見が出ていますが。」

「し、仕方ないノーネ。」

「その通りでアール。トホホ、あのお方に一言直接お会いして謝罪しておきたかったでアール。」

 

 

 何やら事情があるナポレオンだが、圧力に勝てず屈服する。

 

 

 

「では、童美野町という事で話を進めるノーネ。」

 

 久々に経費で里帰りしたかったクロノス新校長も、同意する。

 

 

 

 

 

 同時刻。光の結社童美野街支部にて。

 斎王美寿知は、巫女服に身を包み、護符を書いていた。

 

『…勝てるか?』

「勝たねばならぬ。」

『おとぎ話と思われていた、覇王の証、超融合を持つ者が現れた。それを倒した後で破滅の光を倒すというのは。』

「困難だが、やり遂げねば。」

 

 美寿知は、自身のデッキを見つめる。

 兄を助けるために破滅の光に対抗する力を求めた際に、向こうからコンタクトを取ってきたデュエルモンスターズの精霊の一派。

 

 

『…遊城十代と言ったか、そいつと手を組んで破滅の光を四精結界に誘い込み倒すというのは?』

「警戒されている。だが、遊城十代を倒した功績ならばあの者とて油断し、誘い込めよう。」

 

 遊城十代達に事情を伝え、共同戦線を張るのが最善の一手だが、それに乗ってくれるような存在では無い。

 

 

『まぁ、破滅の光については俺達にとっても敵だ。この戦線については共同戦線を張っておく。』

「お前の部族は、四つの部族とヴァイロンという機械天使を相手取っているのだったな。」

『だとしても、勝つのは俺達だ。それに四つの部族の中には…。フフフ』

 

 

 

 

 美寿知が結界を張るための準備を整えている間。

 影丸達をはじめとしたドミノ支部の幹部達は集まって会議を行う。

 

 

「それで、俺達四帝に何をしろというんだぁ?影丸。」

「…東西南北、それぞれに行って貰う。この結界は全員倒されなければ解除されない。一人でも健在なら遊城十代達を閉じ込めて置ける。」

 

「しかし、遊城十代というと、オシリスレッドの2年生だろう?」

「ノース校との交流戦で代表をしていたから、腕が立つんだろう。」

「そこがおかしいんだ。なんでオシリスレッドなんだ?ラーイエローかオベリスクブルーになっていてもおかしくないだろう?」

 

 炎丸と岩丸が話し合う。

 

「…実技はともかく、筆記が苦手なのでは?」

 

 雷丸が大正解をたたき出す。

 

 

「というか、影丸。お前遊城十代を斎王様の命令で倒したんだろう?」

「…あれだけ対策した上で運が良かったから勝てたが、対策なしでは厳しい相手。そして同じ手が通用する相手では無い。」

 

 

 轟雷帝ザボルグでエクストラデッキを空にして、大火葬で根こそぎ除外。それが【猫シンクロ】でサイバー流を壊滅させた、猫崎俊二に対抗するべく練り上げた戦略である。

 今後、S召喚テーマは増えるだろう、だがS召喚先をピンポイントで再起不能にしてしまえば、打つ手はないはず。

 

 S召喚させない、素材となるモンスターを並べない。特殊召喚を封じる。それでは、戦術で突破されかねない。狙うべきは戦略的勝利。

 

 最も、ネクロフェイスを出されたら苦労が水の泡、紅蓮魔獣ダ・イーザなら攻撃力が6000になるが、この二枚はS召喚を使うデッキには入らないと光海は確信している。

 これらを使いこなせるのは、おじい様の親友だったアムナエルだけだ。

 

 

 

「まぁいいさ、遊城十代については俺達四帝が相手をすればいいだろう。」

「氷丸、俺達は倒されてはいけないんだ。支部のデュエリストでどうにか倒すしかない。」

「けっ。E・HEROって、戦士族が多いんだろう?サイファー・スカウターとリクルート出来る巨大ネズミを積んで、パペット・プラントや融合禁止エリアで蹂躙出来るだろう。」

 

 影丸光海もそう考えたことがあるが、それで勝てるとは思えなかった。

 

 

「童美野町で大規模な結界を張れば、現在童美野町に住んでいるベテランデュエリストが動き出す可能性もある…。各員、心掛けてほしい。」

「心がけてほしい、か。影丸、一つ気になったんだが。」

「岩丸?」

 

「もしも、海馬瀬人が俺達光の結社を目障りだと言って叩き潰しに来たらどうすればいいんだ?」

「観念する。」

 

 きっぱりと言い切る光海。

 

 

「もっとも、現在はサイバー流の残党狩りに忙しく当方たちを倒している暇はない。それにサイバー狩りの犯罪行為にも対応しなければならない。」

「そうなると、インダストリアルイリュージョン社のアジア総局が動く可能性もあるな。」

 

 炎丸がふと気づく。

 

「天馬月光、パーフェクトと言われたペガサス会長の秘蔵っ子…。直接対決は避けたいな」

「そちらについては問題ない」

「何故だ?」

 

「アジア総局では、新たなS召喚デッキが複数盗まれ、何より【A・O・J】というテーマカードが大量に盗まれた。」

「インダストリアルイリュージョン社からレアカードを盗んだのか?!一体何処の誰だ、そんな命知らずは!」

「管理能力を疑われて、近々、インダストリアルイリュージョン社本部に呼び出される。修学旅行のころに当方たちを叩く余裕はない。」

 

「光海、なんでそこまでわかる?」

「雷丸。産業スパイを送り込むのは、インダストリアルイリュージョン社の専売特許では無い。」

「なるほど。自分たちの懐に光の結社の信者が混じっているとは夢にも思わないか。」

 

 

「しかし、A・O・Jというと…カタストルとディサイシブアームズだったか。」

「猫崎俊二が丸藤亮相手に使ったSモンスターだな。その名前を冠しているとなると。」

 

「カタストルやディサイシブアームズが、平然と並ぶテーマって事か。それが俺たち以外の手にあるというのは厄介だな。」

 

 氷丸がその可能性を指摘する。

 猫崎俊二の前世のOCGプレイヤーでも、【A・O・J】デッキでカタストルやディサイシブを平然と並べられる決闘者はまず居ないだろう。

 限られた情報しか持っていない光の結社としてはそう判断せざるを得ない。

 

 

 

 話し合っているとき、一人の信者が入ってくる。

 

「失礼します、影丸様。美寿知様がお呼びです。」

「…わかった。」

 

 

 

 

 美寿知が護符を作っている洞窟に入り、膝をつく光海。

 

「影丸、お呼びにより参上しました。」

「ご苦労。」

「…いかなる用向きで?」

「私は、そなたに謝らねばならぬ。」

「……」

 

「私がお前を光の結社に誘ったのは、我が兄、斎王琢磨を助けるため。」

「それ以上は、おっしゃらないでいただきたい。」

「何?」

「何か事情がある事は重々承知。その上で、当方はおじい様の遺志を継ぐべく才災の居場所を占ってもらった。その恩に報いるために当方はここにいる。」

「…しかし。」

 

「話すことで気が楽になるなら、是非話していただきたい。」

「…すべての始まりは、我が兄が、あるカードを拾った事から始まる。そのカードは、D-HERO Blooo-D」

「HERO、Dシリーズ…」

「いかにも。そこに宿っていた破滅の光という邪悪な人格。その盟主が我が兄の肉体を乗っ取り、世界を白く染め上げようとしている。」

「まさか、兄を救うのが貴方の目的?」

 

 

 頷く美寿知。

 

「破滅の光は、遊城十代を警戒している。」

「ならば、当方たちは手を取り合えるはず。」

「破滅の光は私を警戒している。遊城十代達と手を組むのが最善手だが、それが通用する相手では無い。海馬瀬人か、天馬月光。どちらかが動ければあるいは違ったが…。」

 

 その二人は、光の結社に関わっている余裕が無い。サイバー流の後始末と、サイバー狩りを名乗る小悪党への対応に忙しい。片方は不始末の為に動けない。

 

「…美寿知様は妹です。ここは伝説の決闘者、城之内様に頼むのは?彼は妹想い。兄を救いたいという想いをむげにはしないかと。」

「それができれば、良かったのだが。私の動きも警戒されている。」

 

 

 現状の手勢でどうにかするしかない。

 先ほどまでの、邪魔をするものは居ないという見通しの良い話が、急速に追い込まれていく。

 

 

「遊城十代を倒し、その功績を持って破滅の光と面会。手勢を排除したうえで結界を張り逃亡を阻止。後は…童実野支部のデュエリストで」

 

 そこまで言いかけて、美寿知は言葉に詰まる。勝てるのか?自分自身でさえ勝てる未来が見えない相手に。

 

 

「…サイバー流を失墜させるきっかけとなった、S召喚のテスター猫崎であれば勝てるだろうか?」

「今、デュエルアカデミアで実技を担当しているとか。」

「アカデミアの教員となると、自由に動ける時間は」

「…孤島に立地している上に、オーナーが海馬。しかも才災がやらかしたツケを払っているとなると…」

 

 

 

 二人の間に重苦しい空気が立ち込める。

 

 

 

 

 同時刻。ミズガルズ王国の没落貴族達の館にて。

 

 

「私とデュエルをして貰う。丸藤翔。」

「な、なんなんスか?!」

「新しいデッキの試運転だ。」

「ふ、フン!試運転の相手など、このメガ・サイバー流の実技担当最高責任者、丸藤翔に挑むには早すぎるッス!河原崎さん!」

 

 

 

 

 名前を呼ばれ、翔の傍らに控えていたメガ・サイバー流の少女が前に出る。

 あの後、翔の手下になる事に激しく反発した彼女だったが、自分が言い出したこともあり押し切られてしまった。

 

 

「まあいい。デッキのカードのチェックぐらいにはなるだろう。」

 

 

 ペッパー子爵は小声で吐き捨てるように言うと、デュエルディスクを構える。

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

ペッパー ライフ4000

手5 場 

河原崎 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私の先攻、ドロー!魔法カード、トレード・インを発動!手札のレベル8の光と闇の竜を捨てて、二枚ドロー!」

「て、手札入れ替え?手札事故なの?」

「さらに魔法カード、調和の宝札を発動!手札のドラゴン族のチューナー、ドラグニティ-ファランクスを捨てて、二枚ドロー!」

「また手札入れ替えカード…」

 

「ドラグニティ-レギオンを召喚!効果発動、墓地のファランクスを装備する。」

「フン、攻撃力が上がらないなら全然怖くないわ!」

「そして、ドラグニティカードを装備した、レギオンを除外!現れろ、ドラグニティアームズ-レヴァテイン!効果発動、墓地のドラゴン族を装備する!」

「墓地にはファランクスが…」

 

「私は墓地の光と闇の竜を引きずり出して、装備する!」

「は、はぁああああ?!」

 

 

 

「早速使いこなしているな、ペッパー子爵。」

 

 ミズガルズ王国のデュエルギャング、レフタが感心したようにつぶやく。

 

 

「魔法カード、アドバンスドローを発動!私の場のレベル8のモンスターを生贄に、二枚ドローする!レヴァテインをリリース!」

 

 

 そのプレイングに、思わず声を上げる線の細い美形の少女。

 金髪のツインテール。黒いワンピースを着こなし、ピッチリとした長手袋とサイハイブーツをつけている。

 

 

「せっかく出した最上級モンスターを…。勿体ないわ!」

「いや、アリーナ。それは違うな。」

 

 過激な環境保護団体の幹部の娘である、アリーナはレフタを見つめる。

 

 

「装備モンスターが墓地に送られたことで、光と闇の竜も破壊される!効果発動、私の場のカードを全て破壊し、墓地からモンスターを特殊召喚!蘇れ、レヴァテイン!光と闇の竜を装備!」

「い、一体何がどうなっているの…?」

 

 河原崎はついていけず、翔もついていけない。

 

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

 

ペッパー ライフ4000

手4 場 ドラグニティアームズ-レヴァテイン 光と闇の竜 伏せ1

河原崎 ライフ4000

手5 場 

 

 

「…光と闇の竜を装備しているレヴァティンって、妨害されない限り、無限に蘇生するの?」

「その通りだ、イサベル。まさか、【ドラグニティ】デッキがこれほど強いとは。不死鳥を自称しているラーの翼神竜など、死者蘇生を使いまわさねばならぬまがい物。このレヴァティンと光と闇の竜のコンボこそ、不死!」

「不死の、コンボ…」

 

 

「例えモンスターが不死だろうと、ライフを削り落とせばいいわ!私のターン、ドロー!魔法カード、デビルズ・サンクチュアリを発動!メタルデビルトークンを特殊召喚!そして、モンスターをセット!」

「何?」

 

 アドバンス召喚するというペッパー子爵の予想を裏切り、モンスターのセット。

 

 

「魔法カード、太陽の書!セットしたモンスターを反転召喚!幻想召喚師!リバース効果発動!場のトークンをリリースして、サイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚!バトル!サイバー・エンド・ドラゴンで攻撃!」

「罠発動!和睦の使者!このターン、私のモンスターは戦闘では破壊されず、戦闘ダメージも0になる。」

 

 

「だったらメインフェイズ2に入る!速攻魔法、禁じられた聖衣を発動!サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力を600ポイント下げる事で、カード効果では破壊されない!ターンエンド!」

 

 

 

 

ペッパー ライフ4000

手4 場 ドラグニティアームズ-レヴァテイン 光と闇の竜 

河原崎 ライフ4000

手2 場 サイバー・エンド・ドラゴン 幻想召喚師 

 

 

 

「私のターン、ドロー!私はレヴァテインをリリース。タン・ツイスターを召喚!」

「こ、攻撃力2600をリリースして、攻撃力400の雑魚を召喚?!」

「プレイングミスッス!気にするなッス!」

 

 その反応に対し、ペッパー子爵は呆れた顔で告げる。

 

「お前たち知らないのか。こいつはアドバンス召喚した後、フィールド上から墓地へ送られた時デッキからカードを2枚ドローする効果がある。もっともこの効果を使用した場合、除外されるが」

 

 

「そういう事ね…」

「凄いわね、流石ペッパー子爵。」

 

 イサベルとアリーナはこの後の流れを見抜く。

 

 

「そして光と闇の竜の効果発動!タン・ツイスターを破壊し、墓地のレヴァテインを特殊召喚!ここでタン・ツイスターの効果発動!タン・ツイスターを除外して、二枚ドロー!」

「召喚権を使って二枚ドロー?!一体どれだけ手札が悪いの?」

 

「やれやれ。二重召喚を発動!これでもう一度召喚できる!ドラグニティ-ドゥクスを召喚!効果により墓地のファランクスを装備!そしてドゥクスの攻撃力は自分フィールド上のドラグニティの数×200ポイントアップする。」

「一体何を…」

「ここで、装備されているファランクスの効果発動!このカードをフィールドに特殊召喚!」

 

 

「ファランクスはチューナーだ、来るぞ!」

 

 

「レベル4の鳥獣族のドゥクスに、レベル2のドラゴン族のファランクスをチューニング!ドラグニティナイト-ガジャルグ!」

「攻撃力2400が出て来たところで、へっちゃらッス!」

「効果発動!デッキからレベル4以下のドラゴン族か鳥獣族を手札に加え、その後手札からドラゴン族か鳥獣族を捨てる!」

 

 

「ぶ、ぶひゃひゃひゃ!」

 

 突然、品位の欠片もない馬鹿笑いを始める丸藤翔。

 つられて河原崎も笑いだす。

 

 

 

「何がおかしい?」

「だって、デッキから手札に加えて、その後捨てるなんて、意味がないッス~」

「それはどうかな?私はデッキからBF-疾風のゲイルを手札に加え、BF-精鋭のゼピュロスを捨てる!」

「な、なんでサーチしたカードと捨てるカードが違うんすかぁ?」

 

 

 その馬鹿丸出しのセリフに、ミズガルズ王国出身者たちは呆れかえる。

 

 

 

「フィールド魔法、竜の渓谷を発動。そして場の竜の渓谷を手札に戻し、墓地のゼピュロスの効果発動。墓地から特殊召喚し、400のダメージを受ける」ライフ4000から3600

「わ、わざわざフィールド魔法を…?」

「そして場にBFが存在することで、BF-疾風のゲイルを特殊召喚!効果発動!相手モンスターを選択し、その攻撃力と守備力を半分にする!」

「サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力が2000に!その効果、強すぎじゃない!」

 

「モンスターを『破壊』する効果でも『除外』する効果でもないぞ。私はレベル4のゼピュロスに、レベル3のBF-疾風のゲイルをチューニング!S召喚!BF-アーマード・ウィング!」

 

 

 

「凄い、レヴァティン、ガジャルグ、アーマード・ウィング!強力モンスターが一気に勢ぞろい!」

「これが…S召喚の力。」

「いいや、ペッパー子爵の実力だ。これなら、あの城之内克也とて一ひねり!いや、海馬瀬人だって倒せる!」

 

 

「ひ、ひぃ…」

 

 ガクガク震える河原崎。

 

 

 

「バトルだ!ドラグニティナイト-ガジャルグで、サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

「わ、私の最強モンスターがっ!」ライフ4000から3600

「BF-アーマード・ウィングで、幻想召喚師を攻撃!」

「幻想召喚師まで!」ライフ3600から1900

「ドラグニティアームズ-レヴァテインで、ダイレクトアタック!」

「いやああああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 

 完勝したペッパー子爵は、やや満足げな表情を浮かべる。

 

「良いデッキだが、まだまだ調整が必要だな。」

「うわああああああんっ!」

 

 

 無様に負けた河原崎は逃げ出し、それを追って丸藤翔も逃げ出す。



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第48話!修学旅行、童美野町の罠!炎丸とエクストラデッキ破壊!

美寿知さんの結界は精霊、それもネオスペーシアンとネオスを閉じ込めておけるらしいのでかなり強力ですよね。他の精霊ならどこまで封印できるのか試してみたいです。

ディアバウンド・カーネルは音一つ立てずにすり抜けそうですが、ユベルは十代と引き離されるぐらいなら、気合と根性と愛でどうにか突破してきそうです。


 修学旅行に来た、デュエルアカデミア一行だが。

 

「申し訳ないが、我々は別行動させてもらう。」

 

 光の結社の盟主、斎王が早々に去り、白い制服もそれに追従してしまった。

 

 

「…ならば、本日は自由行動にするノーネ。」

「その通りでアール。」

 

 

 クロノス新校長とナポレオン教頭は一緒に歩き出す。

 

「私は待ち人が居るから、そちらに行くわ。またね。」

 

 透子義姉も行ってしまう。

 猫崎俊二とその妻、光里はかるくため息をつく。

 

「レッド寮は、キャンプ。イエロー寮は旅館、ブルーとホワイト達はホテル。」

「レッド寮長の響先生だけでは大変でしょう。手伝いに行きましょう。」

 

 

 レッド寮のキャンプ予定地にたどり着くが。

 

 

「あら、手伝いに来てくれたの?」

「…テントが、張り終わっている…。」

「キャンプは私の趣味だから。猫崎先生たちは、生徒をお願い。」

「わかりました。」

 

 

 

 とりあえず、十代達を探そうと決めて歩き出す俊二。だが、既に遅かった。

 

 

「っつ!」

「ど、どうなっているの?!」

 

 猫崎夫妻は、突然障壁に阻まれる。

 

「…結界?!」

「ええっ?!い、一体誰が!」

 

 

 その様子を双眼鏡で見ていた炎丸は、連絡を入れる。

 

「影丸。『猫』は予定通り追い出せた」

『…これで、不確定要素は消えた。『猫よけ』を投入する。』

 

 

 双眼鏡を下ろし、炎丸は深呼吸をする。この作戦で成果を上げれば、一度は諦めたプロデュエリストへの道が開かれる。

 斎王琢磨様のマネージメントで。

 

 

「俊二と義妹に何の用だ?」

「?!お前は…。」

 

 振り返った炎丸は、一瞬猫崎俊二が瞬間移動したのかと思った。

 髪の色は違うが、顔立ちがやや精悍だ。

 

 

「猫崎恭一。妻が修学旅行の付き添いで来ていると言うから、ここで待ち合わせていたが…。」

「お前には関係ない!」

「この妙な結界を張っている、という訳では無さそうだが。重要な場所を任されているらしいな。とりあえず、倒しておくとしよう。」

「とりあえず倒すだと!俺は斎王美寿知様が配下、四帝の一人、炎丸!返り討ちにしてやる!」

 

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

恭一 ライフ4000

手5 場 

炎丸 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!魔法カード、デビルズ・サンクチュアリを発動!現れろ、メタルデビルトークン!」

「狙いは、アドバンス召喚か…!」

「現れろ、炎帝テスタロス!効果発動、お前の手札をランダムに一枚捨てさせる!」

「…ホルスの黒炎竜Lv6だ。」

「ならば600のダメージを受けろ!」

「……」ライフ4000から3400

「ホルスデッキか…なら、出し惜しみはしない!魔法カード、カード・アドバンスを発動!これにより、通常召喚に加え、アドバンス召喚を行える!」

「またテスタロスか?」

 

 やや呆れが混じった声を上げる恭一。

 

「このカードは、アドバンス召喚したモンスターをリリースして、アドバンス召喚出来る!爆炎帝テスタロス!」

「テスタロスの上位種?!」

「効果発動!お前の手札を確認して、一枚を捨てさせる!」

 

「手札は、死者蘇生、早すぎた埋葬、レベルアップ!収縮だ。」

「ぐっ…」

 

 炎丸は思考をめぐらす。蘇生札がある以上、ホルスの黒炎竜Lv6が復活する。そしてレベルアップと収縮、どちらを撃ち抜いてもホルスの黒炎竜Lv8が出てくる。

 ふと、ある事に気づく。相手が単調なプレイングをしてきたら…。

 

 

「…ええい、死者蘇生を捨てろ!」

「わかった。」

「俺は、俺はぁっ…カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

 

 絞り出すようにエンド宣言をする炎丸。

 

恭一 ライフ3400

手3 場 

炎丸 ライフ4000

手0 場 爆炎帝 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!ホルスの黒炎竜Lv4を召喚!」

「よし、これならまだライフは残る…。」

 

 そういう炎丸をじっと睨むと、恭一は手札を見つめる。

 

「…読めたぞ、火霊術-「紅」か。」

「?!」

「早すぎた埋葬で800のライフを失えば、残り2800、紅でテスタロスを射出されたら俺のライフは0になる。」

「大した名推理だが、外していたらどうする?」

「それは今から明らかになる。レベルアップ!を発動!ホルスの黒炎竜をレベルアップ!現れろ、Lv6!バトル、テスタロスを攻撃!」

「攻撃力はこちらが上だが…。罠発動!火霊術-「紅」!」

「Lv8を出させてはくれないかっ!」ライフ3400から800

 

 大幅にライフを削られたが、場は空いた。

 

 

「いけ、ホルスの黒炎竜Lv6!」

「ぐううううっ!」ライフ4000から1700

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド。」

 

 

 

恭一 ライフ800

手1 場 ホルスの黒炎竜Lv6 伏せ1

炎丸 ライフ1700

手0 場 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はモンスターをセット!ターンエンド!」

 

 

 

 

恭一 ライフ800

手1 場 ホルスの黒炎竜Lv6 伏せ1

炎丸 ライフ1700

手0 場 セットモンスター 伏せ1

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、増援を発動!デッキからレベル4以下の戦士族を手札に加える。」

「ホルスデッキに、戦士族だと?」

「俺は、ならず者傭兵部隊を手札に加え、召喚!」

「?!」

 

「効果発動!セットモンスターを破壊する!」

「マシュマロンが?!」

「厄介なモンスターだったようだな。だがこれで終わりだ!行け、ホルスの黒炎竜Lv6!ダイレクトアタック!」

「うわああああああっ!」ライフ0

 

 

 帝王の溶撃を伏せていた炎丸だが、敗北してしまった。

 

 

「…ん?何かしらの気配が消えた…?」

 

 

 

 同時刻。祭壇の前で結界を維持していた斎王美寿知は、結界の一つが崩れたことを悟る。

 

「…炎丸が敗れたか。くっ…。」

 

 この結界の中に破滅の光を捕らえる事さえできれば、自身の力と協力してくれたデュエルモンスターズの部族で倒せると思っていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、中に入ろうとしていた猫崎夫妻だが。その前にデュエリストが現れる。

 

 

「…猫崎俊二だな。」

「お前は…?」

「俺は斎王美寿知様が配下、四帝直属の須郷。お前を倒す命を受けてやってきた!さぁ、構えろ!」

 

 

「俊二、ここは私が!」

「挑まれたからには、俺が受けてたつ!行くぞ!」

 

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

須郷 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は貰うぞ、俺のターン、ドロー!魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動!現れろ、2体のフォトン・トークン!」

「フォトン・トークン…」

「俺は二体のフォトン・トークンをリリース!轟雷帝ザボルグをアドバンス召喚!効果発動、場のモンスターを破壊!そして破壊したモンスターの数だけ、お互いのエクストラデッキのカードを墓地に送る!ザボルグを破壊!」

「この流れはっ!」

 

 

 初見のモンスター効果を把握している俊二を見ながら、海馬コーポレーションと関わりがあるから知っているのだろうと推測する光里。

 

 

「この時、破壊したのが光属性モンスターならば、墓地に送るカードは俺が選ぶ!」

「…これが、エクストラデッキだ」

 

「A・O・J カタストル、ナチュル・ビースト、ナチュル・パルキオン、ダーク・ダイブ・ボンバー、アーカナイト・マジシャン、ゴヨウ・ガーディアン2枚、A・O・Jディサイシブ・アームズを墓地に送れ!」

「…だが、お前もカードを墓地に送ってもらう。」

「フン、E・HERO スチーム・ヒーラー3枚、E・HERO セイラーマン3枚、E・HERO ネクロイド・シャーマン2枚を墓地に送る。魔法カード、ホープ・オブ・フィフス!墓地のE・HEROを5枚デッキに戻し、2枚ドロー出来る!スチーム・ヒーラー3枚とセイラーマン2枚をデッキに戻し、2枚ドロー!」

「……」

「死者蘇生を発動!蘇れ、轟雷帝ザボルグ!カードを2枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

 

俊二 ライフ4000

手5 場 

須郷 ライフ4000

手2 場 轟雷帝 伏せ2

 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、貪欲な壺を発動!墓地の」

「かかったな!罠発動!大火葬!」

「?!」

 

「これって、もしかして!」

「そう!互いの墓地のモンスターを全て除外する!さぁ、これで打つ手はあるまい!」

「……それはどうかな?」

「強がりを!」

「手札のライトロードハンターライコウを捨て、ライトニング・ボルテックスを発動!」

「カウンター罠、八式対魔法多重結界を発動!!手札の収縮を捨てて、ライトニング・ボルテックスの発動と効果を無効にして破壊!」

 

 

「…八式対魔法多重結界?」

「手札コストが魔法カード限定のマジック・ジャマーと、フォース・フィールドを合わせたようなカードだ。俺の精神操作へのメタにもなる。」

「なるほど。」

 

「俺はモンスターをセット。カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

 

俊二 ライフ4000

手1 場 セットモンスター 伏せ1

須郷 ライフ4000

手1 場 轟雷帝 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、強欲な壺を発動!カードを二枚ドローする。よし、永続魔法、アドバンス・フォースを発動!そして場の轟雷帝ザボルグをリリースし、轟雷帝ザボルグをアドバンス召喚!」

「またかっ!」

「これで懸念事項は消える!轟雷帝ザボルグを破壊!効果発動!俺はE・HERO ネクロイド・シャーマン、E・HERO マッドボールマン3枚、E・HERO ランパートガンナー、E・HERO フレイム・ウィングマン、E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマンを墓地に送る。さぁ、エクストラデッキのマジカル・アンドロイド、氷結界の龍 ブリューナク2枚、ギガンテック・ファイター、メンタルスフィア・デーモン、ダークエンド・ドラゴン、ミスト・ウォームの7枚を墓地に送れ!」

「だが、これで手札は1枚!」

 

「それはどうかな?貪欲な壺!墓地のネクロイド・シャーマン、マッドボールマン3枚、ランパートガンナーをデッキに戻して二枚ドロー!ライフを800払い、早すぎた埋葬を発動!蘇れ、轟雷帝ザボルグ!」ライフ4000から3200

「またザボルグが…」

 

「バトルだ!轟雷帝ザボルグで、セットモンスターを攻撃!」

「墓守の偵察者の効果発動!デッキから墓守の偵察者を特殊召喚!」

「墓守だとっ!情報には無かったはずだ!」

 

 レスキューキャットのエラッタと、光里に敗北した事で、今までの【猫シンクロ】では限界を感じた俊二は、前世で知っている猫シンクロの派生デッキを模索していた。

 ローンファイアブロッサムと椿姫ティタニアルを採用する【猫姫】以外も追加している。

 

 

「ターンエンドだ。」

 

 

俊二 ライフ4000

手1 場 墓守の偵察者 伏せ1

須郷 ライフ3200

手1 場 轟雷帝 アドバンス・フォース

 

 

「俺のターン」

「無駄だ!お前のシンクロモンスターは全滅した!レベル3か4のチューナーを引いた所で、打つ手はない!」

「それは、ドローしてから考える。」

 

 さらりと呟く俊二。

 

「…ザボルグを使った戦術は見事だったが。俺は墓地の光属性のライコウと闇属性の墓守の偵察者を除外!」

「何だと!?」

「答えはこれだ!現れろ、カオス・ソルジャー -開闢の使者-!」

「っつ!」

 

「バトル!開闢の使者で轟雷帝ザボルグを攻撃!」

「ぐっ!」ライフ3200から3000

「開闢の使者が攻撃した時、もう一度続けて攻撃できる!ダイレクトアタックだ!」

「…ぐ、があああああああっ!」ライフ0

 

 

 気絶する須郷。

 

 

 そんな相手を見ながら、俊二は考える。まさか、轟雷帝でエクストラデッキを全破壊したうえに、大火葬されるとは思わなかった。

 随分と豪快な戦術を編み出したものだ。

 

 

「手札消費を、E・HEROの融合モンスターを墓地に送り、貪欲な壺でのドロー強化に使っていたわね。あんな戦術が…」

「サイバー流だと、警戒しないといけない一手だな。」

 

 ふと、光里は想像する。もしも、サイバー・ランカーズや鮫島元師範、丸藤亮がこのコンボをくらったらどうするのかを。

 

 …リミッター解除で力押し、という光景が光里の脳裏をよぎる。

 

 

 

 その様子を、双眼鏡で見ていた人影がある。

 

「…影丸様、『猫よけ』が敗れました」

『ライトニング・ボルテックスを使われても、レスキューキャットから展開できるのはエアベルン2体で3200打点のはず。』

「開闢の使者です。」

『…開闢まで。轟雷帝ザボルグを回収後、雷丸と合流。追って指示を出す。』

「はっ。」

 

 

 司令塔である影丸光海の指示を受け、信者は動き出す。

 

 



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第49話!修学旅行、童美野町の罠!武藤双六VS氷丸、クロノスVSE・HERO!

 

 一方、この日の用事を済ませ、亀のゲーム屋へ戻ろうとしていた武藤双六は大勢の決闘者が行きかっていることに気づく。

 なにやら、あわただしい。

 

 

「一体、何事じゃ?」

「関係ない奴はすっこんでいろ!」

「ふむ…。」

 

 ニット帽をかぶった青年を見つめる双六。

 

「では、これで決めるかの?」

「ハハッ!斎王美寿知様が配下、四帝の一人、氷丸に挑むか!いいだろう、受けてたってやる!」

 

 

「ま、まずいですよ!」

「迂闊にデュエルして負けたら」

「下がっていろ!他の連中ならまだしも、俺が負けるわけないだろう!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

双六 ライフ4000

手5 場 

氷丸 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は譲ってやるよ!」

「ならばワシの先攻、ドロー!ふむ…。モンスターをセット、カードを5枚伏せてターンエンドじゃ」

 

 

 

双六 ライフ4000

手0 場 セットモンスター 伏せ5

氷丸 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!チッ…。まぁいい、爺さんの魔法・罠ゾーンにカードが二枚以上存在することで、氷帝家臣エッシャーを特殊召喚!」

「ほぅ。家臣と名前がついているが、氷帝というとあのカードを連想してしまうの。」

「さらに!氷騎士を通常召喚!俺の場の水族モンスターの数×400ポイント攻撃力がアップ!そして、通常召喚に加え、水属性モンスターを召喚出来る!」

「来るか!」

 

「俺は、二体のモンスターをリリース!凍氷帝メビウスをアドバンス召喚!効果発動!爺さんの伏せカードを俺から見て右から三枚、破壊させてもらう!」

「ならばそれにチェーンして」

「おっと!水属性モンスターをリリースした凍氷帝の効果の発動に対し、相手は選択されたカードを発動できない!」

「ほほ。左端の伏せカード、ご隠居の猛毒薬を発動!」

「ああ?それに何の意味が」

 

「そして、ご隠居の猛毒薬の効果に『チェーン』して、メビウスの対象となったカードを発動する!」

「おいおい、話を聞いて…へ?」

 

 あざ笑う氷丸だが、その表情がこわばる。

 

「なんで発動できるんだぁ?!おかしいだろう!凍氷帝メビウスの効果である、水属性モンスターのリリースという条件は満たしているはずだろ!」

「ほほ…、中々やりおるが、チェーン処理の理解について多少の難があるの…。」

 

 

 デュエルディスクがその辺りの処理を行ってくれる為、この辺りをきちんと理解している決闘者は少ない。

 この場に城之内が居れば。

 

『凍氷帝メビウスの効果にチェーンしたんじゃあ無くて、ご隠居の猛毒薬に対するチェーンだから発動できるんだ』

 

 と即答していただろう。サイクロンにチェーンして王宮の勅命、勅命にチェーンしてスケープ・ゴートを発動した場合の処理について、理解できなかった頃とは違う。

 

 

「針虫の巣窟を発動。さらにチェーンして月の書を発動、チェーン4以降になったので積み上げる幸福を発動じゃ。効果処理に入るぞ?」

「…好きにしろ」

 

 考える事を放棄した氷丸に対し、年長者として大人の対応をする双六。

 

 

「念のために説明しておくかの。ワシも最近物忘れが激しいからの…。メビウスの効果がチェーン1、ご隠居の猛毒薬がチェーン2、針虫の巣窟がチェーン3、月の書がチェーン4、積み上げる幸福がチェーン5じゃ。まず積み上げる幸福で2枚ドロー、月の書でメビウスを裏側守備表示に。そして針虫の巣窟でデッキの上から5枚を墓地に送る…」

「ロード・オブ・ドラゴン、カードトレーダー、死者蘇生、守護神の矛、旅人の試練か。」

「そして、ライフを1200回復」ライフ4000から5200

 

 

 氷丸は手札の帝王の凍志を見つめる。

 これさえ発動できれば、効果を受けない攻撃力2800のモンスターになるのだが…。

 

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

双六 ライフ5200

手2 場 セットモンスター 伏せ1

氷丸 ライフ4000

手2 場 セットモンスター 伏せ1

 

 

 

「ワシのターン、ドロー!ふむ。カードを二枚伏せ、セットモンスターを反転召喚!メタモルポット!ワシは神竜エクセリオンを捨てて5枚ドローじゃ」

「俺はサルベージとウォーターワールドを捨てて、二枚ドローだ!」

 

 

 新たに5枚ドローした双六は、先ほど伏せたカードを発動する。

 

「リバースカードオープン!死者転生!ワシは手札の神竜ラグナロクを捨てて、墓地の神竜エクセリオンを手札に戻す!」

「ああ?そいつを回収するのか?いや、神竜ラグナロクとロード・オブ・ドラゴンが墓地に…?!まさかっ!竜魔人キングドラグーンか!」

「ほほ、知識はあるようじゃの。しかし!ワシは場のメタモルポットをリリースして、神竜エクセリオンを召喚!そしてエクセリオンの効果にチェーンして罠発動!連鎖破壊!」

「はぁっ?!」

「連鎖破壊の効果で、ワシはデッキから二体のエクセリオンを墓地に送るぞ。ここでアドバンス召喚に成功したエクセリオンの効果発動!墓地のエクセリオンの数だけ、次の効果から選択して発動出来る。一つ目!このカードの攻撃力は1000ポイントアップ!それか、このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、もう一度だけ続けて攻撃を行う事ができる効果、3つ目に、このカードが戦闘によってモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える効果じゃ」

「となると攻撃力1000アップして2500打点。その後、効果ダメージを与える効果か、連続攻撃か…」

 

 

 考え込む氷丸に対し、双六は別の選択を取る。

 

「ほほ、ワシは二回攻撃と戦闘ダメージを与える効果を選択する。バトル!エクセリオンで、セットされているメビウスを攻撃!」

「メビウスがっ!」

 

「そして、エクセリオンの効果発動!2800のダメージを受けて貰うぞ」

「がああああっ!」ライフ4000から1200

「そして、エクセリオンが戦闘破壊した事で、二回目の攻撃が出来る!」

「こ、この俺が…爺さん、アンタは」

 

 愕然とする氷丸。

 

「そういえば、自己紹介がまだじゃったの。ワシは武藤双六。」

「武藤?!決闘王武藤遊戯の祖父、だったのか…」ライフ0

 

 

 

「氷丸様が負けた?」

「い、急いで報告を!」

 

 

「その前に少しいいかの?一体ここで何をやっておるのじゃ?」

 

 穏やかに聞く武藤双六だが、彼にたいして強気に出れる信者は居なかった。

 

 

 

 

 

「…氷丸が負けた?」

『はっ。武藤双六と対戦して』

「…双六さんのデッキ構築とプレイング、そして経験は当方たちが束になっても敵わないというのに…。」

 

 何故挑んだ、というのが光海の感想でしかない。

 バトルシティにおいては助言に徹していたが、そもそも武藤遊戯のデッキの基礎を作り上げたのがあの老人なのだ。

 侮れる相手では無い。

 

 

「…伝えておく。炎丸が敗れた」

『?!この短時間で、半分が…。』

「悔しいが、これがデュエルアカデミアに入学すらできなかった当方達の実力という事。だが、まだ終わっていない。各自、責務を果たすように」

『はっ!』

 

 

 即座に連絡を入れる光海。

 

『炎丸と氷丸が?!』

「岩丸、直接対決は避ける事を最優先してもらう。」

『…わかった』

 

 

 続けざまに、雷丸にも連絡を入れる光海。

 

『…そうか。』

「雷丸、当方が敵を叩く。」

『危険すぎる』

「猫除け、が負けた以上突入されたら」

『だが、既に四帝の内二人が倒された以上、締め出した猫崎より前線を救うべきだ。』

「それは…」

 

『慎重なのはお前の良いところだが、ここは出し惜しみしている場合では無い。』

「…感謝する。前線を救う。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 童美野町を歩いていたクロノス新校長だが、デュエルを挑まれ、蹴散らしているうちにナポレオン教頭と離れ離れになってしまった。

 

「何なノーネ!デュエリストの聖地といっても、これほど挑まれるトーハ、大会でも開催されているノーネ?!」

 

 もちろん返り討ちにしているが、数が多い。

 

 

 

「くっ、これがアカデミアの校長の実力か。」

「鮫島、才災と続いてクロノス。オーナーはドラゴン使いなのに、校長は機械族使いばかりかよ。」

 

 

 

「ちょっとちょっと、どうしたの?!」

 

 黄色い帽子を被り、黄色のジャケットを羽織った軽装の少女が、光の結社の信者に駆け寄る。

 

「ま、また新手なノーネ…。」

 

 

 

「鎧塚!あいつはデュエルアカデミアの校長、クロノス・デ・メディチだ!」

「【暗黒の中世デッキ】使いの?!倒せば大金星じゃない!」

 

 

 

 真っ直ぐな、どこまでも純粋な瞳で少女はクロノス校長の前に立つ。

 

 

「私とデュエルしてもらうわ!」

「受けてたつノーネ!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

クロノス ライフ4000

手5 場 

鎧塚 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は私か、私のターン、ドロー!魔法カード、E-エマージェンシーコールを発動!」

「ナヌー?!」

 

 よく知っているカードを使われ、クロノス校長は思わず声を上げる。

 

「私はデッキから、E・HEROプリズマーを手札に加え、通常召喚!効果発動、融合デッキのE・HEROネクロイド・シャーマンを公開し、デッキからE・HEROネクロ・ダークマンを墓地へ送る。」

 

 そのプレイングを見て、クロノスは察する。E・HEROの上級モンスターを召喚する際に、リリースを減らすモンスター。となれば彼女の狙いは、E・HEROエッジマンの召喚。

 

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

クロノス ライフ4000

手5 場 

鎧塚 ライフ4000

手4 場 プリズマー 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 

「鎧塚!あのクロノス相手にそんな1ターンじゃあ」

「大丈夫よ!【古代の機械】デッキの主力モンスター、古代の機械巨人は攻守3000だけど、特殊召喚が出来ない。そして古代の機械モンスターの下級は古代の機械兵士の1300。攻撃力1700のプリズマーは倒せない!」

 

 

 ギャラリーとの会話に聞き捨てならないセリフが含まれていたため、クロノス校長は怒る。

 

 

「のぼせ上っているんじゃないノーネ!手札から永続魔法、古代の機械城を二枚発動!」

「?!古代の機械城は、場の古代の機械モンスターの攻撃力を300アップする。それが二枚…」

「古代の機械兵士を召喚するノーネ!そして、古代の機械城に、カウンターが一つずつ乗るノーネ!」

「攻撃力1900!」

「バトルなノーネ!プリズマーをやっつけるノーネ!」

「っつ!」ライフ4000から3800

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンドなノーネ!」

 

 

 

 

クロノス ライフ4000

手2 場 古代の機械兵士 古代の機械城(1) 古代の機械城(1) 伏せ1

鎧塚 ライフ3800

手4 場 伏せ1

 

 

 まさかの古代の機械城を二枚張ってのごり押し。想定外ではあったが、それならそれで打つ手はある。

 

 

「私のターン、ドロー!墓地のE・HEROネクロダークマンの効果発動!墓地に存在する時、1度だけE・HEROの召喚にリリースが不要になる!出番よ!私のHERO!E・HEROエッジマン!」

 

 遊城十代はフレイム・ウィングマンにこだわりを持っているが、彼女が信頼しているのはこのエッジマン。

 

 

「この瞬間、古代の機械城にカウンターが乗るノーネ!」

「魔法カード、戦士の生還を発動!墓地のネクロダークマンを手札に戻す。魔法カード、融合を発動!手札のネクロダークマンとスパークマンを融合!来なさい、E・HEROダークブライトマン!」

「ぬっ」

 

 出て来た融合モンスターも厄介だが、一度手札に戻り、融合素材として墓地へ送られたことで、ネクロダークマンの効果をもう一度使える。

 

「バトル!ダークブライトマンで、古代の機械兵士を攻撃!」

「くっ」ライフ4000から3900

「ダークブライトマンはダメージステップ終了時に、守備表示になる。エッジマンでダイレクトアタック!」

「マンマミーア!」ライフ3900から1300

「ターンエンド!」

 

 

 

 

クロノス ライフ1300

手2 場 古代の機械城(2) 古代の機械城(2) 伏せ1

鎧塚 ライフ3800

手1 場 エッジマン ダークブライトマン 伏せ1

 

 

 

「私のターン、ドローなノーネ!カウンターが二つ乗った、古代の機械城を墓地に送-り、古代の機械巨人をリリース無しで召喚するノーネ!」

「出て来た…しかも、古代の機械城の効果で攻撃力が3300…」

「バトル!古代の機械巨人で、エッジマンを攻撃!」

 

 振り下ろされる拳に対し、エッジマンは果敢に挑む!

 

「っつ!エッジマンッ!」ライフ3800から3100

 

 

「ターンエンドなノーネ!」

 

 

 

クロノス ライフ1300

手2 場 古代の機械巨人 古代の機械城(2) 伏せ1

鎧塚 ライフ3100

手1 場 ダークブライトマン 伏せ1

 

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ライフでは負けていても、状況は有利。ドロップアウトボーイならば逆転のカードを引いてくるが…。

 

 

「魔法カード、戦士の生還を発動!墓地からE・HEROエッジマンを手札に戻す。そして墓地のネクロダークマンの効果発動!エッジマンをリリース無しで召喚!」

「ヌヌ、カウンターが一つ乗るノーネ…」

 

 またしても現れるエッジマン。

 

「そして、ダークブライトマンを攻撃表示に変更!バトル、ダークブライトマンで古代の機械巨人を攻撃!」

「返り討ちにするノーネ!」

「HEROは死してなお、責務を果たす!戦闘で破壊されたダークブライトマンの効果発動!相手モンスターを破壊する!」ライフ3100から2800

「通じないノーネ!カウンター罠、デストラクション・ジャマー!」

「ダークブライトマンの効果を止められたっ?!…私はカードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 

 

クロノス ライフ1300

手1 場 古代の機械巨人 古代の機械城(3) 

鎧塚 ライフ2800

手0 場 エッジマン 伏せ2

 

 

 

「私のターン、ドロー!古代の機械巨人で、エッジマンを攻撃なノーネ!」

 

 振り下ろされる拳に、真っ向から立ち向かうエッジマン。しかし、その結末は同じだった。

 

 

「っつ!」ライフ2800から2100

「メインフェイズ2で、カードを一枚伏せてターンエンドなのーね!」

 

 

 

クロノス ライフ1300

手1 場 古代の機械巨人 古代の機械城(3) 伏せ1

鎧塚 ライフ2100

手0 場 伏せ2

 

 

「私のターン、ドロー!…カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

「お、おい!それでターンエンド?!」

「打つ手はないって事か…」

 

 

 

クロノス ライフ1300

手1 場 古代の機械巨人 古代の機械城(3) 伏せ1

鎧塚 ライフ2100

手0 場 伏せ3

 

 

 モンスターは尽きた。攻撃すれば勝てる盤面。

 周りのギャラリーは意気消沈。

 

 

 だが、相手は勝利を確信した笑みを浮かべている。

 

 

 

「私のターン、ドロー!古代の機械城を墓地に送ーり、現れるノーネ、古代の機械巨人!」

「二体目を召喚?!そのまま攻撃しても勝てるはず…」

「ホホホのヒュー!これで終わりなノーネ!バトル!」

「勝つのは私よっ!バトルステップ開始時、永続罠発動!リビングデッドの呼び声!戻ってきて、エッジマン!」

「今更戻ってきたところで、勝敗は見えているノーネ!」

「それはどうかしら?罠発動!エッジハンマー!エッジマンをリリースして相手モンスターを破壊!破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

 

 

 突っ込んでいくエッジマン!巻き起こる爆発。

 

 

「これで決まり…?!」

 

 エッジマンの対象となった古代の機械巨人が突如消える。

 

「そんなっ!一体何処…に…」

 

 

 クロノス校長の場に、一枚のカードが発動していた。

 

 

「あ、亜空間物質転送装置…?!」

「対象となった、古代の機械巨人を除外したノーネ。対象が居なくなったこと-デ、エッジハンマーは空振りに終わるノーネ。」

「伏せカードが、見抜かれていた?古代の機械巨人は攻撃する時、相手の魔法・罠カードの発動を封じる。そのまま攻撃が通れば勝てるはず」

「シニョーラが、エッジマンに特別な思い入れがある事は伝わってきたノーネ、となれば、エッジマンのサポートカードも見えてくるノーネ。」

 

 

 古代の機械巨人が、拳を振り下ろす!

 

 

「きゃああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 

 

「仕方ない、予定地点まで下がるぞ!急げ!」

 

 逃げていく信者達。

 連戦続きで追いかける体力が残っていないクロノス校長は、息を切らす。

 

 

 

 

 同時刻。

 

 

 

『影丸様!新手が来ました!サイバー流です!メガ・サイバー流を名乗っています』

「…対処できるか?」

『ぜ、全力を尽くします!』

 

 

 サイバー流とはいえ、残党。前線指揮官である炎丸が倒されていては、指揮系統が乱れかねない。

 残った戦力でどうにかするしかない。

 

 しかし、この時乱入してきたのは、メガ・サイバー流だけでは無かった…。



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第50話!才光&才花VSメガ・サイバー流!

 アンチリスペクト物では、オリジナルのサイバー流門下生が登場することがあります。最も敗北した後、再登場することはあまり無いのですが。
 敗北後に修行したり、自分自身を見つめなおし、色々な人と出会った事で考えを改めたり…という『敵も成長する』という展開は好きなのですが。


 光の結社を名乗る連中の襲撃を、他のアカデミアの関係者とともに迎撃していた透子の前に別の一団が現れる。

 

「新手?!」

「何者だ、お前たちは!」

 

 中央の年長者が前に出てくる。

 

「我々はサイバー流を超える、メガ・サイバー流!そして私はメガ・サイバー流師範、才津健三!お前たち光の結社と、才災師範の正しい・リスペクト・デュエルを捨てたアカデミアに鉄槌を下すべく駆け付けた!覚悟しろ!」

 

 あれか、あの狂った思想を引き継いだ連中か。お前たちが引継ぎ作業をしっかり終わらせてから去らなかったせいで…!

 

 

「速攻魔法、エネミーコントローラーを発動!サイバー・ツイン・ドラゴンを守備表示に変更!バトル!天界王シナトで、サイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃!そして、天界王シナトの効果発動!守備モンスターを戦闘で破壊した事で、破壊したモンスターの守備力分のダメージを与える!」」

「モンスターの表示形式を変更するなんて、この、ひ、卑怯者~!」

 

 

「地割れを発動!サイバー・バリア・ドラゴンを破壊!行きなさい、グリーン・ガジェット、レッド・ガジェット!ダイレクトアタック!」

 

 

 光の結社、そしてアカデミア勢によりメガ・サイバー流を名乗る連中は瞬く間に蹴散らされていく。

 猫崎俊二にあっさり倒されていたサイバー流の関係者達だが、初手にサイバー・ドラゴンを複数枚、さらにパワー・ボンドやサイバー・ジラフ、融合関連カードを引き当てられる彼らは運命力が高い。

 このレベルの門下生であれば、ある程度は善戦できたかもしれないが、才津が集めたのは寄せ集め。粗暴で性格が悪ければデュエルの腕も悪い。

 

 

 

「お、おのれ!卑怯なカードばかり使いおって!バーンカードを使うな!除去カードなど使うな!お前たちには対戦相手に対するリスペクト精神は無いのか!」

 

 

 喚きちらす才津を、透子は睨む。

 この男はリスペクト精神が無いと批判するが、その言動こそ『リスペクト精神が無い』と透子は思っていた。

 

 

 

 しかし、光の結社もアカデミア側も、そしてメガ・サイバー流も想定していなかった乱入者が現れる!

 

 

 

「待て、メガ・サイバー流!」

「?!君達は、才光君と才花さんですね!私の義挙に駆け付けてくれるとは」

「違うわ!」

 

 

 癖のある茶髪の精悍な青年と、ツンと尖った鼻と八重歯が印象的な凛々しい娘が現れる。

 敵か味方か、透子は判断するべく黙って見守る。

 

 

「何が義挙だ!愚挙の間違いだろう!」

「サイバー流から追放された者を束ねて、サイバー流を名乗るなんて、恥ずかしいと思わないの!」

 

 

 だが、その言葉に才津は激昂する!

 

 

「私の崇高な行動を否定するばかりか、私の流派まで否定するとは!デュエルです!」

「才光、私から行くわ!」

「ああ、任せた!」

 

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才津 ライフ4000

手5 場 

才花 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

 

「先攻は譲りましょう」

「そう。私の先攻、ドロー!捕食植物オフリス・スコーピオを召喚!」

「?!な、何ですかそのモンスターは!」

「手札のモンスターカード、超電磁タートルを捨てて効果発動、デッキから同名カード以外の捕食植物モンスターを特殊召喚!来なさい、捕食植物ダーリング・コブラ!」

 

 新たな捕食植物が出て来たことで、才津が喚く。

 

「あ、貴女は!デッキすら捨てたのですか!」

「ダーリング・コブラが捕食植物の効果で特殊召喚に成功した時、デッキから融合、もしくはフュージョンと名のついた魔法カードを手札に加える。もっとも、この効果はデュエル中一度しか使えないけれど。未来融合-フューチャー・フュージョンを手札にくわえて、発動!」

「……ふ、フン!未来融合を手札に加えるために随分と頑張りますね!」

「カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

才津 ライフ4000

手5 場 

才花 ライフ4000

手3 場 捕食植物オフリス・スコーピオ 捕食植物ダーリング・コブラ 未来融合(0) 伏せ1

 

 

「私のターン、ドロー!サイバー・ドラゴン・コアを召喚!デッキからエマージェンシー・サイバーを手札に加えて、発動!デッキからサイバー・ドラゴンを手札に加えます。魔法カード、機械複製術を発動!デッキから二体のサイバー・ドラゴンを特殊召喚!」

「場にサイバー・ドラゴンが3体、手札にもサイバー・ドラゴンが…」

 

「私は融合を発動!場のサイバー・ドラゴン・コアとサイバー・ドラゴンを融合!来なさい、サイバー・ツイン・ドラゴン!さらに融合を発動!場のサイバー・ドラゴンと手札のサイバー・ドラゴンを融合!サイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚!」

「サイバー・ツイン・ドラゴンが二体…」

「魔法カード、死者蘇生を発動!墓地のサイバー・ドラゴンを特殊召喚!魔法カード、融合回収を発動!墓地のサイバー・ドラゴンと融合を手札に戻し、発動!場と手札のサイバー・ドラゴンを融合!来なさい、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

「サイバー・ツイン・ドラゴンが3体、流石は才津教頭。いえ、今は元教頭でしたか。」

 

 

 手札消費こそ激しいが、1ターンでサイバー・ツイン・ドラゴンを3体出す辺り、すくたれ者と思っていたが腕はやや立つらしい。

 とはいえ、相手の墓地に超電磁タートルがある上に伏せもある状態でするプレイングか?と透子は思う。

 

 

「バトル!サイバー・ツイン・ドラゴンで攻撃!」

「墓地の超電磁タートルを除外して、バトルフェイズを終了するわ!」

「小癪な!だが、攻撃力2800の6回攻撃!この火力と攻撃力の前に打つ手なんて無いでしょう!私はこれでターンエンド!」

 

 

才津 ライフ4000

手0 場 サイバー・ツイン・ドラゴン サイバー・ツイン・ドラゴン サイバー・ツイン・ドラゴン 

才花 ライフ4000

手3 場 捕食植物オフリス・スコーピオ 捕食植物ダーリング・コブラ 未来融合(0) 伏せ1

 

 

 

「私のターン、ドロー!未来融合の効果発動!キメラテック・オーバー・ドラゴンを選択するわ!」

「それは、リスペクトに反する暴虐のカード!そこまで堕ちるとは!」

「私はデッキからサイバー・ドラゴン3枚、X-ヘッド・キャノン、Y-ドラゴン・ヘッド、Z-メタル・キャタピラー、シュレッダー、起動砦のギア・ゴーレム、魔鏡導士リフレクト・バウンダー、魔装機関車デコイチ、カードガンナー、計11枚を墓地に送る!」

 

 

 墓地に送られるモンスターを、才津は訝し気に睨む。

 

 

 

「サイバー流の門下生でありながら、随分デッキが変わりましたね。プロト・サイバー・ドラゴンはどうしたのです?」

「…サイバー狩りに奪われて、目の前で道路に向かって投げ捨てられたわ」

「?!」

 

 

 それをきいた透子は憤慨する。

 アンティルールで奪うだけに飽き足らず、目の前で捨てるとは何事だと。

 

 光の結社側も、その話に嫌悪感を示す。

 

 

「そんな事が…。ですが、攻撃力8800のキメラテック・オーバー・ドラゴンが出せても…。それをすれば未来融合も墓地に送られる!」

「私はサイバー・ヴァリーを召喚!魔法カード、機械複製術を発動!デッキからサイバー・ヴァリーを二体特殊召喚!」

「むっ」

「サイバー・ヴァリーの効果発動!オフリス・スコーピオとこのカードを除外して二枚ドロー!さらにダーリング・コブラともう一体のヴァリーを除外して二枚ドロー!」

 

 

 異次元へ消えていく捕食植物たち。

 どうやら、カテゴリーとしてはまだ確立していないらしい。融合をサーチする以上、もしもこの捕食植物がカテゴリーとなればおそらくは融合召喚が主軸になるだろう。

 

 ここからどう動くのか、透子は才花という娘のプレイングを見守る。

 

 

「…カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

 

才津 ライフ4000

手0 場 サイバー・ツイン・ドラゴン サイバー・ツイン・ドラゴン サイバー・ツイン・ドラゴン 

才花 ライフ4000

手5 場 サイバー・ヴァリー 未来融合(1) 伏せ2

 

 

 

「私のターン、ドロー!バトル!サイバー・ツイン・ドラゴンで攻撃!」

「サイバー・ヴァリーをゲームから除外して、1枚ドロー!バトルフェイズは終了!」

「想定通りです!メインフェイズ2に入ります。魔法カード、光の護封剣を発動。次のターンにキメラテック・オーバー・ドラゴンが出てきますが、そのデメリット効果で貴女の場のカードは全て無くなります。オーバーロード・フュージョンがあるなら、先ほどのターン使っているでしょう。このドローで引き当てたところで攻撃はさせませんよ!」

 

 

 

才津 ライフ4000

手0 場 サイバー・ツイン・ドラゴン サイバー・ツイン・ドラゴン サイバー・ツイン・ドラゴン 光の護封剣(3)

才花 ライフ4000

手6 場 未来融合(1) 伏せ2

 

 

「私のターン、ドロー!スタンバイフェイズ、キメラテック・オーバー・ドラゴンを特殊召喚!そして効果発動にチェーンして永続罠発動!暗闇を封じるマジックミラー!このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上・墓地で発動する闇属性モンスターの効果は無効化される。」

「む、無効になるなら、攻撃力も…いや、たしかその永続罠はチェーンブロックを作る効果だけ、無効にする…」

「そう。よってデメリット効果だけ無くなり、攻撃力は8800のまま!」

「ぐっ。こ、こんなコンボがあるとは…だ、だが!私の場には光の護封剣があります!」

 

 

 虚勢を張る才津。

 

 

「ライフを500払って速攻魔法発動!ツイスター!これで光の護封剣を破壊!」ライフ4000から3500

「あ、あああああ~!」

 

 最後の障害を取り除かれ、才津の戦意が消失する。

 ツイスターはサイクロンより比較的安く手に入るカード…。デッキを捨てられたために投入しているのだろうと推測する透子。

 

「バトル!キメラテック・オーバー・ドラゴンで、サイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃!」

「う、うわあああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 

 ライフが尽きた才津は茫然とする。

 

 こんなはずでは無かった。サイバー流から追いだされる際に、サイバー・ランカーズに支給する為に保管されていたサイバー・ドラゴンの派生カードを、サイバー流の施設から盗み出した。

 だから、デッキパワーは格段に上がっている。なのに、何故。

 

 何故、元門下生に、サイバー流デッキでもない相手に負ける?

 

 才津には、わからなかった。

 

 

 

 

「…まだ続けますか?」

「あ、当たり前です!私は、メガ・サイバー流師範ですよ!」

「なら、次は僕が相手だ!」

「いいでしょう、ですが先攻は貰いますよ!」

 

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

才津 ライフ4000

手5 場 

才光 ライフ4000

手5 場 

 

 

「私のターン、ドロー!サイバー・ドラゴン・コアを召喚!デッキからサイバー・リペア・プラントを手札に加えます。魔法カード、機械複製術を発動!デッキから二体のサイバー・ドラゴンを特殊召喚!魔法カード、融合を発動!場のサイバー・ドラゴン・コアとサイバー・ドラゴンを融合!来なさい、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

「これで墓地にサイバー・ドラゴンが行った…」

「サイバー・リペア・プラントを発動!サイバー・ドラゴンを手札に加えます。さらに融合を発動!場のサイバー・ドラゴンと手札のサイバー・ドラゴンを融合!サイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚!」

「サイバー・ツイン・ドラゴンが二体…」

「魔法カード、サイバー・レヴシステムを発動!墓地のサイバー・ドラゴンを特殊召喚!魔法カード、融合回収を発動!墓地のサイバー・ドラゴンと融合を手札に戻し、発動!場と手札のサイバー・ドラゴンを融合!来なさい、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

 

 

 やや手順は違うが、またしてもサイバー・ツイン・ドラゴンを3体並べる才津。

 そんな彼を見ながら、様子見を兼ねて一体だけ出しておけばいいのにと思う透子。

 

 

「ターンエンドです!」

 

 

才津 ライフ4000

手0 場 サイバー・ツイン・ドラゴン サイバー・ツイン・ドラゴン サイバー・ツイン・ドラゴン 

才光 ライフ4000

手5 場 

 

 

「僕のターン、ドロー!竜魔導の守護者を召喚!」

「?!な、何ですかそのモンスターは!」

「効果発動、召喚・特殊召喚に成功した場合、手札を1枚捨てて発動できる!デッキから「融合」通常魔法カードまたは「フュージョン」通常魔法カード1枚を手札に加える!僕は手札のモンスターカード、ジェイドナイトを捨てて効果発動、デッキから次元融合を手札に加える!」

「むむっ」

 

 

 そうか、次元融合も融合のカードか。

 あれ、次元融合って一体何を『融合』しているのだろうか?考え込む透子。

 

 

「魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動!手札のシャインエンジェルを捨てて、デッキからサイバー・ヴァリーを特殊召喚!魔法カード、機械複製術を発動!デッキからサイバー・ヴァリーを二体特殊召喚!そしてサイバー・ヴァリーとサイバー・ヴァリーを除外して二枚ドロー!さらにサイバー・ヴァリーと竜魔導の守護者を除外して二枚ドロー!!」

「またしても手札補強を…」

「フィールド魔法、フュージョン・ゲートを発動!手札のサイバー・ドラゴン三体を除外融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!さらにライフを2000払って、次元融合を発動!除外されているサイバー・ドラゴン3体とサイバー・ヴァリーを特殊召喚!」ライフ4000から2000

「まさか、二体目のサイバー・エンド・ドラゴンを…」

「いいや。サイバー・ヴァリーの効果発動、サイバー・ドラゴンとサイバー・ヴァリーを除外して、二枚ドロー!よし!バトルだ!サイバー・エンド・ドラゴンで、サイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃!速攻魔法、リミッター解除を発動!これでサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は倍になる!」

「う、うわあああああああっ!」ライフ0

 

 

 またしても敗北する才津。

 

 一度目は偶然と思えた。だが、これは一体どういう事だ?

 サイバー・ランカーズのブロック代表クラスならばあり得る。だが、相手は有望株ではあった門下生でしか無い。

 

 

 

 才光と才花。彼らは猫崎俊二とのデュエルを経て、朧気ながら掴んだ物がある。

 手札消費を抑え、カードを温存する。OCGのカードアドバンテージという概念。

 

 光里はそれを、俊二の傍で見続ける事で習得した。

 才光と才花は、それを才獏に鍛えられた事で自身の物として昇華する事が出来た。同時に、『リスペクト』精神についても改めて考えた。

 

 

 自分達がサイバー・ドラゴンを大事にして、サイバー流というビートダウンデッキを愛するように、相手にも大事なカードがあり、好きな戦術がある。

 それを受け入れる事こそ、『リスペクト』精神であると。

 

 

「才津元教頭、そしてメガ・サイバー流の門下生達。聞いてくれ!」

 

 

 

「デュエルとは、勝敗を決する以上に!自分と練り上げたデッキ、そして相手と相手が練り上げたデッキ!」

 

 才光の言葉に、才花が続く。

 

 

「そこに込められた素晴らしい想いがある事を確かめ合うもの!それが、リスペクト精神なの!」

「だからもう、相手の戦術を否定するのはやめよう!その行為の何処に『リスペクト精神』があるというんだ!」

 

 

 感心する透子。リスペクト精神云々については、義弟の嫁からある程度聞いていたが…。

 この二人は彼らなりに『リスペクト精神』を見出したようだ。

 

 

 

「く、くううううっ!!」

「才津元教頭。リスペクト精神が無いと言っている姿こそ、リスペクト精神に欠けているのではないでしょうか?」

「今一度、顧みて下さい!」

 

 そんな才光と才花に対し、大声をあげる者が居た。

 

 

「ふざけるんじゃないッス!」

「…丸藤?」

 

「才光も、才花さんも、卑怯ッス!」

「どこが?除去カードもコントロール奪取もしていないわよ?」

「僕たちは才災師範の正しい・リスペクト・デュエルに乗っ取った範囲で、勝つ為の戦術を練り上げた。」

「うぐっ…そ、それは、あの、ええと」

 

 言葉に詰まる丸藤翔。

 うつむいていた才津は、ここで決断をする。

 

 

「翔君、こ、ここは撤退だ!」

「わ、分かったッス!皆-、引き上げッス~!アカデミアと光の結社を共倒れさせるッスよ~!」

 

 

 丸藤翔が偉そうに陣頭指揮を取り、メガ・サイバー流達は逃げていく。

 

 

 

 

「…なぁ、才津元教頭は分かってくれたかな?」

「わかってくれたと思いたいわ。」

 

 

 そういうと、二人はデッキから数枚のカードを取り出し、サイドデッキのカードと入れ替える。

 透子は彼らが新たに入れたカード名をちらりと視認する。激流葬、神の宣告、月の書といったカードだった。

 

 

「貴方たち、もしかしてアカデミアの卒業生?だったら」

「俺達はサイバー流を騙ってカードを破り捨てたという、厚釜(あつかま)という少年たちを探してここまで来た。」

「それに、今のアカデミアの実技を担当しているのが猫崎なんでしょう?光の結社とやらと揉めているみたいだけれど、手を貸す気にはなれないわ。知り合いだけど、友人じゃあ無いの」

 

 

 かなり不仲なようだ。

 透子は才光に目を向ける。

 

「才花が拒否している以上、僕も同意見だ。」

 

 

 説得は難しいようだ。才光と才花は去っていく。

 サイバー流ではあるが、先ほどのデュエルを見て迂闊に手を出すのは危険と判断したらしく…光の結社達は包囲せず、それを見過ごす。

 

 

 

 

「報告します。サイバー流の残党、メガ・サイバー流を処理しました。はい…わかりました。任務に戻ります」

 

 

 信者の一人が通信を入れ終わり、険しい目を向ける。

 三つ巴の戦いから、乱入者達は居なくなった。となれば頑張るしかない。

 



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第51話!修学旅行、童美野町の罠!岩丸VS三沢!

マスターデュエルが登場しましたね。帝王の設定にちょっとびっくりしました。そういう集団だったんですね…。


 光の結社を名乗る連中の襲撃。迎撃していると「すくたれ者」と見まごうような連中がメガ・サイバー流を名乗って襲撃。

 しかし、サイバー流に所属していたらしき才光と才花が、才津を撃破。撤退に追い込んだ。

 乱入者が去ったことで、改めて光の結社が襲撃するもそれを難なく透子たちは撃破した。

 

 

 

「…何だったのかしら?」

「透子っ!」

 

 後ろから呼びかけられた透子は、パアっと明るい表情になる!

 

「恭一さん!」

「無事で何より。」

「…デュエルを挑まれなかった?」

「いや、こちらから挑んだ。透子、妙な気配を感じないか?猫崎俊二とその妻が締め出されていたんだ。何かの結界を張っていると思う。」

 

 

 絶縁された為、恭一は弟の事を他人のように話す。

 

「締め出せる結界となると、四精結界呪法ね。素養ある巫女が修行を積み、デュエルモンスターズでも力を持つ4体の異なる属性を持つ精霊の協力を仰いで構成される結界…。外部からの侵入を阻み、孤立した敵を叩くために用いられる結界…」

「強力な精霊が関わっているのか?ホルスの黒炎竜でもできるか?」

「ある程度、精霊同士に関係が無いと成立しないわ。ホルスを使うなら、アームド・ドラゴン、サイレント・マジシャンかソードマン、魅惑の女王であれば構成出来る。」

「…透子は出来るのか?」

「一回やって怒られたわ。」

「…もしかして、憑依装着アウス、エリア、ヒータ、ウィンで結界を張ったのは…」

「私よ。村の古文書に書いてある通りにやったら本当に張れた。」

 

 最も、その結界はあっさり突破されてしまった。こっぴどく怒られた事もあり、それ以来張っていない。

 

「それに、町一つを囲む大規模な結界…これを張れるのは相当な素養があるみたいね。」

 

 透子が張ったのは畑一つ分。それでも相応の準備が必要だった。

 そうやって話していると、向こうから赤い服を着たオシリスレッド生が駆けてくる。

 

 

「我謝さん!詳しい話を聞かせてくれ!」

「君は誰だ?」

「えっ?俊二先生…じゃあない?」

 

「…猫崎俊二は俺の弟だった。」

「へ?」

 

 いや、俊二先生ってまだ生きているし…。どういうことだ?と話についていけない十代。

 

 

「絶縁された。俺は猫崎恭一。」

「そ、そうか…兄ちゃんが居たんだ。俺は遊城十代。デュエルアカデミア本校、オシリスレッドの二年生だ!」

 

 

「それで、何を聞きたいの?」

「あ、ああ!その四精結界呪法はどうやったら破れる?」

「術者を倒すか、それとも東西南北で結界を司る人物を倒せばいいわ。」

 

 

 

「そうそう透子、南の方で炎帝というのを使う奴を倒した」

「何か言っていた?」

「斎王美寿知の配下、四帝の炎丸と名乗っていたが。」

「となると、結界で用いた精霊は帝王って事?!メビウス、ザボルグ、グランマーグ辺りが敵という事ね…」

 

 それを聞いて、駆け出す準備に入る十代。

 

「なら、俺は北を」

「ちょっと待って…北も既に解除されているみたい。気配を感じるのは東と西。」

「よし、なら東を」

 

「待て、遊城と言ったか。結界を破るのも大事だが、既に幹部を二人倒された以上、残りの信者が幹部を守るだろう。」

「確かに…」

「だがこれほどの数がまともに動いている以上、司令塔があるはず。だが、東西南北に配備された幹部達は、結界を維持する関係上動きづらい。となれば指揮官は…中央。」

「?!バトルシティで、遊戯さんとエクゾディアデッキ使いのレア・ハンターが戦った童美野町塔広場?!」

 

 

 頷きつつ、猫崎恭一はふと思う。

 あれ?そういえばあのエクゾディアデッキ使いのグールズの名前は何だっけ、と。

 

 

「まず、そこを倒せば指揮系統が揺らぐ。そうなれば統率が取れなくなり、突破しやすくなるはずだ。中央を任せたい。」

「任せてくれ!」

 

 

 駆けていく遊城を見送る恭一。

 

「…恭一さん、お願いがあるの。一緒に戦って」

「勿論。」

 

 

 

 

 とりあえず、この場を切り抜けて東を目指す。そう決めた透子と恭一だったが。

 ターゲットである東では、既に事態は動きつつあった。

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

信者 ライフ4000

手5 場 

三沢 ライフ4000

手5 場 

 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺はモンスターをセット!カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

 

信者 ライフ4000

手4 場 セットモンスター 伏せ1

三沢 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は魔法カード、化石調査を発動!デッキからハイドロゲドンを手札に加え、召喚!バトルだ、ハイドロゲドンでセットモンスターを攻撃!」

「だがこいつはジャイアントウィルス!破壊されるが、500ポイントのダメージを与えて、デッキから同名カードを2体特殊召喚!」

「こちらもハイドロゲドンの効果発動!」ライフ4000から3500

「何だと!」

 

「デッキから二体目のハイドロゲドンを特殊召喚!追撃だ!」

「甘い!永続罠、スピリットバリア!これによりモンスターとの戦闘ダメージは0になる!そしてジャイアントウィルスの効果で500ポイントのダメージを与える!」

「二体目のハイドロゲドンの効果発動、三体目のハイドロゲドンを特殊召喚!攻撃だ!」ライフ3500から3000

「だが、ダメージは受けてもらう!」

「必要経費だ!」ライフ3000から2500

 

 

「俺はカードを二枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 

信者 ライフ4000

手4 場 スピリットバリア 

三沢 ライフ2500

手3 場 ハイドロゲドン ハイドロゲドン ハイドロゲドン 伏せ2

 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺はモンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンドだ」

「エンドフェイズに永続罠、神の恵みを発動!」

「何ぃ!」

 

 

 

 

信者 ライフ4000

手4 場 セットモンスター スピリットバリア 伏せ1

三沢 ライフ2500

手3 場 ハイドロゲドン ハイドロゲドン ハイドロゲドン 神の恵み 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!神の恵みでライフを回復する」ライフ2500から3000

「くそっ!」

「俺はオキシゲドンを召喚!バトルだ、オキシゲドンでセットモンスターを攻撃!」

「こいつはメカウサーだ。リバース効果発動、お前の神の恵みを選択して、500ポイントのダメージを与える!」

「ええい!」ライフ3000から2500

「さらにデッキから2体目のメカウサーをセットする!」

「ハイドロゲドンでメカウサーを攻撃!」

「神の恵みを選択、500ポイントのダメージを与えて、三体目のメカウサーをセット!」

「強行突破だ、ハイドロゲドンで最後のメカウサーを攻撃!」ライフ2500から2000

「だが、500ポイントのダメージを受けてもらう!」

「…だが、これで道は開けた!」ライフ2000から1500

 

「ハイドロゲドンでダイレクトアタック!」

「罠発動!ガードブロック!」

「…固いな。ターンエンド」

 

 

 

信者 ライフ4000

手4 場 スピリットバリア 

三沢 ライフ1500

手3 場 ハイドロゲドン ハイドロゲドン ハイドロゲドン オキシゲドン 神の恵み 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、リロードを発動!手札を全てデッキに戻し、新たに4枚ドロー!」

「むっ、手札を交換したか」

「俺は魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキからインターセプト・デーモンを墓地に送る。魔法カード、死者蘇生を発動!蘇れ、インターセプト・デーモン!」

「攻撃力1400を…」

「速攻魔法、地獄の暴走召喚を発動!デッキから二体のインターセプト・デーモンを特殊召喚!」

「地獄の暴走召喚は俺の場にも及ぶ。俺はオキシゲドンを選択。一体特殊召喚するが、もう一体は場が埋まっているから墓地に送る」

「カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

 

 

 

信者 ライフ4000

手0 場 インターセプト・デーモン インターセプト・デーモン インターセプト・デーモン スピリットバリア 伏せ1

三沢 ライフ1500

手3 場 ハイドロゲドン ハイドロゲドン ハイドロゲドン オキシゲドン オキシゲドン 神の恵み 伏せ1

 

 

 三沢は相手のプレイングをじっと見つめ、考える。

 おそらくあの伏せカードは…。攻撃を強制するカード!

 

「俺のターン、ドロー!神の恵みでライフを500回復!」ライフ1500から2000

「罠発動!バトルマニア!ンターセプト・デーモンは相手モンスターの攻撃宣言時に、500ポイントのダメージを与える。最初の攻撃宣言で1500のダメージを与え、次の攻撃宣言時に1000ポイントのダメージを与えることができる!これで俺の勝ちだ!」

「それはどうかな?」

「負け惜しみを!」

「俺は魔法カード、ボンディング−H2Oを発動!場のハイドロゲドン2体とオキシゲドン1体をリリースして、ウォーター・ドラゴンを特殊召喚する!」

「攻撃力2800か。だがそれでも」

 

「俺は儀式魔法、リトマスの死儀式を発動!場のハイドロゲドンとオキシゲドンをリリースして、リトマスの死の剣士を儀式召喚!このカードは表側表示の罠カードがあるとき、攻撃力が3000になる。そしてこのカードは罠カードの効果を受けない!」

「…しまった!バトルマニアの効果から逃げるために大型モンスターを召喚したのか。」

 

「いいや!このターンは仕掛けさせてもらう!俺はお前の場のインターセプト・デーモン二体をリリースして、溶岩魔神ラヴァゴーレムを特殊召喚!」

「なんじゃこりゃああああ!」

「このカードは相手の場のモンスターをリリースすることで特殊召喚できる、本来なら攻撃力3000のモンスターだ。だが、ウォーター・ドラゴンが場にいる限り、場の炎属性モンスターと炎族モンスターの攻撃力は0になるが。バトルだ、リトマスの死の剣士で、インターセプト・デーモンを攻撃!」

「だったら500ポイントのダメージを受けろ!」

「だが、これでインターセプト・デーモンは全滅だ!」ライフ2000から1500

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 

 

信者 ライフ4000

手0 場 溶岩魔神 スピリットバリア 

三沢 ライフ1500

手0 場 リトマスの死の剣士 ウォーター・ドラゴン 神の恵み 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!っつ!」ライフ4000から3000

「ちなみに、溶岩魔神はターンごとにプレイヤーに1000ポイントのダメージを与える。さぁどうする?」

「だったらお前の墓地に送り返してやる!バトルだ!溶岩魔神でウォーター・ドラゴンに攻撃!」

「永続罠、DNA移植手術を発動!場のモンスターは全て俺が選択した属性になる!俺は炎属性を選択!」

「攻撃力0同士では、戦闘破壊が成立しない…。永続魔法、通行税を発動してターンエンドだ」

 

 

 

 

信者 ライフ3000

手0 場 溶岩魔神 通行税 スピリットバリア 

三沢 ライフ1500

手0 場 リトマスの死の剣士 ウォーター・ドラゴン 神の恵み DNA移植手術(炎)

 

 

「俺のターン、ドロー!神の恵みでライフを回復。」ライフ1500から2000

 

「よし、速攻魔法、サイクロンを発動!スピリットバリアを破壊!」

「げええっ!」

「バトルだ!通行税のライフ500を支払う。リトマスの死の剣士で、溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを攻撃!」

「うわああああ!」ライフ0

 

 

 

 ここまでの光の結社の面々とのデュエルで、三沢はウォーター・ドラゴンとリトマスの死の剣士の混成デッキが回りつつある事を自覚する。

 ウォーター・ドラゴンとDNA移植手術で場のモンスターの攻撃力を0にして、罠カードの効果を受けないリトマスの死の剣士で叩く。

 

 

 

「い、岩丸様にこれ以上近づけさせるなっ!」

 

 三沢には悩みがあった。光の結社は有能なデュエリストを狙っている。だが、自分は勧誘されない。

 そんな時、俊二がカウンセリングをしてくれた。

 

『お前はしっかりやっている。クロノス新校長もデュエルワールドリーグへの推薦状を出す方針で進めている。』

 

 嬉しかった。自分が認められていることが。

 

 

「…もういい、お前たちは下がれ」

「しかし!」

 

 

「…お前がリーダーか?」

「そんな所だ。俺は斎王美寿知様が配下、四帝の一人、岩丸!」

「岩丸…なら、俺が使うデッキはこれだ!」

「何!お前、デッキを複数持っているのか!」

「その通りだが。」

「デッキは、デュエリストの魂だ。それを複数持つなど!」

「別に自由だろう。」

「…そうだったな。お前がどんなデッキを使おうと、俺は自分のデッキを信じて戦うまで!行くぞ!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

岩丸 ライフ4000

手5 場 

三沢 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は譲ろう」

「なら遠慮なく。俺のターン、ドロー!よし、ライフを800払い、魔法カード、サモン・ストームを発動!手札からレベル6以下の風属性モンスターを特殊召喚!現れろ、暴風小僧!」ライフ4000から3200

「むっ、これは風属性デッキか?」

「そして暴風小僧をリリース!神鳥シムルグをアドバンス召喚!」

「攻撃力2700…」

「俺はカードを2枚伏せ、ターンエンド!このエンドフェイズ、シムルグの効果発動!このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いのプレイヤーはお互いのエンドフェイズ毎に1000ポイントダメージを受ける。」

「ぐうううっ!」ライフ4000から3000

「だが、この時、それぞれのプレイヤーが受けるダメージは魔法・罠カードをコントロールしている数×500ポイント少なくなる!」

 

 

 

岩丸 ライフ3000

手5 場 

三沢 ライフ3200

手1 場 神鳥シムルグ 伏せ2

 

 

 

「厄介なモンスターだが、ならばそいつを倒すまで!俺のターン、ドロー!俺は手札の地帝家臣ランドロープの効果発動!このカードを手札から特殊召喚し、相手モンスターを裏側守備表示にする!シムルグをセット状態に!」

「これは…」

 

 三沢にとって初見のカード。だが、地帝という名前と、相手モンスターをセットする効果からある『帝』を連想する。

 

 

「そしてランドロープをリリース!地帝グランマーグをアドバンス召喚!効果発動、砕け散れ、シムルグ!」

「ぐっ!」

「さらに魔法カード、カード・アドバンスを発動!デッキの上から5枚確認し、好きな順番でデッキに戻す。そして通常召喚に加え、一度だけモンスターをアドバンス召喚できる!グランマーグをリリース!現れろ、剛地帝グランマーグ!」

「馬鹿な!レベル8のモンスターだぞ!何故リリース一体で」

「このカードはアドバンス召喚したモンスター一体をリリースしてアドバンス召喚できる!効果発動、お前の場にセットされたカードを2枚破壊!さらに、地属性モンスターをリリースした事で、俺はカードを一枚ドローだ!」

「罠発動!強欲な瓶!そして八汰烏の骸!俺はカードを2枚ドローする!」

「ならバトルだ!いけ、グランマーグ!ダイレクトアタックだ!」

「うわああああああっ!」ライフ3200から400

「勝負あったな!俺はメインフェイズ2にはいり、永続魔法、進撃の帝王を発動!俺の場のアドバンス召喚したモンスターは効果の対象にならず、効果で破壊されない!ターンエンド!」

 

 

岩丸 ライフ3000

手2 場 剛地帝グランマーグ 進撃の帝王

三沢 ライフ400

手3 場 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は墓地の神鳥シムルグを除外!現れろ、シルフィード!」

「むっ…」

「さらに、ドラゴンフライを召喚!行くぞ、魔法カード発動!強制転移!」

「何ぃっ!」

「俺はドラゴンフライを渡す、さぁ、グランマーグを渡してもらうぞ!」

「く、くそっ!」

 

「バトルだ!行け、グランマーグ!ドラゴンフライを攻撃!」

「うわああああああっ!」ライフ3000から1600

「ドラゴンフライの効果発動、俺はデッキからブレード・フライを特殊召喚!このカードが場にある限り、風属性モンスターは攻撃力が500アップし、地属性モンスターの攻撃力は400ダウンする。いけ、シルフィード!ダイレクトアタック!」

「こ、こんなはずでは…」ライフ0

 

 

 

 ライフが尽き、岩丸が担当していた結界が解除される。



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第52話!修学旅行、童美野町の罠!光海VS十代、雷丸VS万丈目

 

「…岩丸も負けた…。これで残るは雷丸だけ。」

「影丸様!」

 

 どうする、どうすればいい?いっその事総力を挙げて雷丸の護衛に回すか?そこで決戦を。

 

「影丸様!」

「…?どうし…」

 

 

 気が付くと、遊城十代が光海の目の前に居た。

 咄嗟に取り繕う光海。

 

 

「…久しぶり。デュエルアカデミア以来?」

「そうだな。なぁ、影丸。南に炎丸というのが結界を張っていた。そして他の所にも結界を張っている奴が居るんだろう。」

「初耳」

 

 

 すっとぼける光海。

 ただ残念なことに、光の結社の関係者らしき人物が名前を呼んでいるため状況的にも司令塔であることがもろバレである。

 

 

「俺はここで光の結社に指示を出している司令塔が居ると思って来た。」

「そう、頑張って」

「…お前なんだろう、影丸。斎王美寿知の配下。」

「大した推理、外れて居たらどうする?」

「その時はその時さ。デュエルアカデミアでの借りを返させてもらう!」

 

 

 大きくため息をつく光海。

 十代は破滅の光という存在を認識し、それを倒そうとしている。しかし光海が破滅の光という脅威を認識していることを知らない。

 

 光海は美寿知から真相を聞いているため、破滅の光という脅威を認識しているが、十代が破滅の光という脅威を認識している、とまで考えが及ばない。

 

 すれ違いが起きていることに、この時点で二人とも気づいていない。

 

「…遊城。当方はある脅威に立ち向かおうとしている。手を組まないか?」

「斎王に破滅の光がとりついている。そして、美寿知と同じ姓って事は血縁関係がある。だから、俺達を結界を使って倒そうとしているんだろう?」

「?!」

 

 光海は十代もまた真相を知っている事にここで気づく。

 だが、十代は光海が目を軽く開いた事で、光海が破滅の光側であると誤解する。

 

 目つきを鋭くしてデュエルディスクを十代が構えた事で、光海は交渉決裂を悟る。

 話し合うにしても、一戦交えねば話し合いのテーブルにすらつけない。

 

 

「…各員。西の雷丸の所に集合。何が何でも、彼を守り抜いて。」

「影丸様っ!」

 

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

十代 ライフ4000

手5 場 

光海 ライフ4000

手5 場 

 

 

「…遊城。当方には勝たねばならない事情がある。」

「そうまでして、この世界を滅ぼしたいのか!」

「違う、とだけ言っておく。当方の先攻、ドロー!ヒゲアンコウを召喚。魔法カード、カード・アドバンスを発動。デッキの上から5枚確認し、好きな順番でデッキに戻す。そして通常召喚をもう一回行える」

 

 だが、光海はろくに確認せず、デッキを戻す。

 

「何?」

「ヒゲアンコウをリリース。超古深海魚シーラカンスをアドバンス召喚。効果発動、手札のサルベージを捨て、デッキからオーシャンズ・オーパー三体とレインボーフィッシュを全て守備表示で特殊召喚。」

「一気にモンスターが埋まった!」

 

「フィールド魔法、真帝王の領域。当方のエクストラデッキにカードが一枚もなく、当方の場にアドバンス召喚されたモンスターがいるとき、相手はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚出来ない。」

「?!」

 

 デュエルディスクの一部を操作し、エクストラデッキにカードがない事を証明する光海。

 

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンド。」

 

 アカデミアでのデュエルではエクストラデッキを全破壊&除外してきたが、今回はエクストラデッキからの特殊召喚を封じに来た。

 同じ手が二度も通じる相手と思っていないし、練り上げたエクストラデッキ破壊戦術は雷丸に託しているという事情もある。

 

 

 

十代 ライフ4000

手5 場 

光海 ライフ4000

手0 場 超古深海魚シーラカンス オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー レインボーフィッシュ 真帝王の領域 伏せ1

 

 

「前は轟雷帝ザボルグで根こそぎ破壊、大火葬でまとめて除外したのに、今度は封じるだけなんて優しいな。」

「E・HEROの融合モンスターも、猫シンクロのSモンスターも、場に出せなければ恐れるに足りない。」

 

 

 平然と告げる光海を、十代はじっと見つめる。

 十代が同年代の異性をじっと見つめている。このシーンだけ見れば、某レベル10の悪魔族は口から泡を吹いて卒倒するだろう。

 

 

「…俺はE・HEROアナザー・ネオスを召喚!魔法カード、R-ライトジャスティスを発動!真帝王の領域を破壊!」

「…これで、融合召喚が可能になってしまう。」

 

 

 やや悔しさをにじませる光海を、十代は再度見つめる。

 

 

「行くぞ、俺は手札のE・HEROエッジマンを捨てて、速攻魔法発動!超融合!」

「超…融合?」

 

 速攻魔法の融合と聞き、訝し気に見つめる光海。

 

「相手モンスターを融合素材に出来る!俺はアナザーネオスとシーラカンスを融合!」

「…超融合の効果にチェーン、シーラカンスの効果発動。場のレインボーフィッシュをリリースし、超融合の効果を無効にして破壊。」

 

 

 指示を出す光海だが、シーラカンスは動かず超融合の渦に吸い込まれていく。

 

「…?」

「残念だったな。超融合にチェーンすることは出来ない!」

「なっ!」

「現れろっ!」

 

 白紙のカードが、変わっていく。

 

「E・HERO アブソルートZero!」

「…攻撃力2500…!」

 

 光海の場には4体の魚族が居る。

 まだ数ターンはしのげる。

 

 

「このカードの攻撃力は、場の水属性モンスター一体につき500ポイントアップする!」

「?!」

「バトル!アブソリュートでレインボーフィッシュを攻撃!」

「…罠発動。ポセイドン・ウェーブ。攻撃を無効にし、当方の場の魚族・海竜族・水族の数×800ポイントのダメージを与える。」

「なっ!うわああああああっ!」ライフ4000から800

 

 

 ライフを大幅に削られた十代はゾッとする。彼女は融合召喚を封じていたが、攻撃力を上げての強行突破を狙えばワンターンキルされていた。

 

 

「へへっ、凄いな。」

「驚いた。まさに、融合を超えた融合。超融合というのも頷ける。」

「…ターンエンドだが、その前に教えてくれ。世界を滅ぼしたいのか?」

「違う。その逆。」

 

 

 混乱する十代。

 

「…斎王琢磨に、破滅の光が憑依。その存在が、世界の破滅を目論んでいる。」

「そこまで知っていて」

「美寿知様にとっては兄に当たる。兄を救うために、当方達は結界を張った。」

「なんでだよ!」

「遊城十代を、破滅の光が警戒している。それを倒した功績をもって接触。後は結界を張り逃げられないようにして叩き潰すのが美寿様と当方の計画。」

「はぁ~…それを最初に言ってくれたら、協力したぞ?」

「美寿知様の動きは見張られていた。ゆえに接触が出来なかった…。」

 

 

十代 ライフ800

手2 場 E・HERO アブソルートZero

光海 ライフ4000

手0 場 オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー レインボーフィッシュ 

 

 

「…このデュエルはどうする?」

 

 十代の言葉に対し、不思議そうに首をかしげる光海。

 

「事情を知った今、俺達が戦うのは」

「遊城。まさかとは思うが、勝ったつもり?」

「えっ?」

「だとしたら…」

 

 

 スッと眼が鋭くなる光海。

 十代は影丸理事長の事を思い出す。同じだ。影丸理事長が、最後の言葉を残した時の眼と。

 茨の道を切り開くという覚悟を決めた者の瞳に宿る輝き。

 

 

 

 

「舐められたものだ。当方は最初から勝つつもりでいる。」

「…野暮なことを言ったな。ごめん。」

「世界の命運云々以前に、当方達はデュエリスト…。当方のターン、ドロー…。ターン、エンド」

 

 

 

十代 ライフ800

手2 場 E・HERO アブソルートZero

光海 ライフ4000

手1 場 オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー レインボーフィッシュ 

 

 

「俺のターン、ドロー!くっ。」

 

 ミラクル・フュージョン。だが場にはアブソルート、墓地にはアナザーネオスとエッジマン。

 まだ、光属性と地属性を使った属性融合モンスターは無い。

 

 アカデミアに帰還したら、休んでいた分のレポートと補修漬けでろくに時間が取れなかった弊害がここにきて響く。

 

「バトルだ、E・HERO アブソルートZeroで、レインボーフィッシュを攻撃!」

「……」

「ターンエンドだ」

 

 

 

十代 ライフ800

手3 場 E・HERO アブソルートZero

光海 ライフ4000

手1 場 オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー 

 

 

「当方のターン、ドロー。永続魔法、エクトプラズマーを発動。ターンエンド、エクトプラズマーの効果で、場のオーシャンズ・オーパーをリリース。750のダメージを与える」

 

 一体のオーシャンズ・オーパーが大きく頷き、その身を勝利のために捧げる!

 

「ぐううううっ!」ライフ800から50

 

 残りの二体は、油断なくアブソルートを睨む。

 どちらかが残ればエクトプラズマーにより、十代のライフは尽きる。

 

 

 

十代 ライフ50

手3 場 E・HERO アブソルートZero

光海 ライフ4000

手1 場 オーシャンズ・オーパー オーシャンズ・オーパー エクトプラズマー 

 

 

「俺のターン、ドロー!よしっ!E・HEROワイルドマンを召喚!魔法カード、ミラクル・フュージョンを発動!墓地のエッジマンとワイルドマンを融合!現れろ、E・HEROワイルド・ジャギーマン!」

「全体攻撃できる、E・HERO…」

「バトルだ、行け、ワイルド・ジャギーマン!オーシャンズ・オーパー2体を攻撃!」

「…破壊されたオーシャンズ・オーパーの効果で、マザーフィッシュとサウザンドアイズフィッシュを手札に。」

「アブソルートZeroで、ダイレクトアタック!」

「っつ!」ライフ4000から1500

「ターンエンド、すまない、ワイルド・ジャギーマン。エクトプラズマーの効果でワイルド・ジャギーマンをリリース!1300のダメージを与える!」

「……」ライフ1500から200

 

 

 

 

十代 ライフ50

手2 場 E・HERO アブソルートZero

光海 ライフ200

手3 場 エクトプラズマー 

 

 

「当方のターン、ドロー。魔法カード、貪欲な壺を発動。墓地のレインボーフィッシュ、三体のオーシャンズ・オーパー、ヒゲアンコウをデッキに戻し、二枚ドロー。」

 

 ここで、モンスターカードを引き当てられれば。あるいは死者蘇生を引ければ。だが…

 

 茫然とする光海。引いたのは2枚目のサルベージとカード・アドバンス。

 

「…カードを2枚伏せる。ターンエンド。」

 

 

 

 

 

十代 ライフ50

手2 場 E・HERO アブソルートZero

光海 ライフ200

手3 場 エクトプラズマー 伏せ2

 

 

「貪欲な壺で引いた二枚か…俺のターン、ドロー!バトルだ、アブソルートZeroでダイレクトアタック!」

「…負け、か」ライフ0

 

 

 

 ショックを受けていたが、ややあって立ち直る光海。

 

「大丈夫か?」

「…アムナエルから教えられた。敗北というのは、負けて自分を見失う事。自分を見失わなければ、活路はある。」

「…とりあえず、俺を倒したという事にして破滅の光を包囲しないか?」

「そんな小細工が通じる相手では無い。遊城、当方は当方で破滅の光を阻止する手立てを探す。」

「ああ、わかった!」

 

 

 

 

 

 司令塔である影丸がデュエルを始めてしまい、光の結社側は司令塔を失い、混乱の極致にあった。

 元々実力が低い彼らを、影丸光海と四帝がそれぞれ統率していたからこそ曲がりなりにも対抗出来ていた。

 しかし四帝の内三人が倒され、光海という司令塔を失った今、烏合の衆に成り下がってしまった。

 

 

 

 

「い、雷丸様!報告します、影丸様が敗れたと」

「!そう、か…。」

 

 プロデュエリストを目指し、アカデミアに入学しようとして不合格。

 この作戦が成功すればプロデュエリストであるエド・フェニックスのマネージャー、斎王様の下でプロになれるチャンスだったのだが…。

 

 

「フン、お前がこいつらのリーダーか?」

「…万丈目準」

「ほう、俺様を知っているのか。」

「お前は知らないだろうが、俺は知っている。俺が予選突破すらできなかった大会で、優勝していたのを観客席で見ていた…」

 

 どの大会か、咄嗟に思い出せない万丈目。

 

「だからこそ、ここで勝つ!行くぞ、万丈目!」

「こいっ!」

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

雷丸 ライフ4000

手5 場 

万丈目 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!俺はモンスターをセット!カードを二枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

雷丸 ライフ4000

手5 場 

万丈目 ライフ4000

手3 場 セットモンスター 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は手札から雷帝家臣ミスラを特殊召喚!」

「雷帝…家臣?」

「さらに相手の場に家臣トークン(雷族・光属性・Lv1・攻撃力800守備力1000)を守備表示で特殊召喚する。そして雷帝家臣をリリース!雷帝ザボルグをアドバンス召喚!」

「雷帝ザボルグっ!」

 

 実物は持っていないが、そのカードの強さを万丈目は知っている。

 

 

「効果発動、お前のセットモンスターを破壊!」

「ちっ、超電磁タートルが」

「厄介な…。ここで、雷帝家臣の効果、このカードがアドバンス召喚の為にリリースされた場合、通常召喚に加えて一度だけアドバンス召喚出来る。ザボルグをリリース。轟雷帝ザボルグをアドバンス召喚!」

「?!まさか、そいつはアドバンス召喚したモンスター一体のリリースで出せるのかっ!」

「その通りだ。轟雷帝の効果で、自身を破壊!そして効果発動、自身の効果で光属性モンスターを破壊したとき、そのレベルと同じ枚数だけ、エクストラデッキのカードを墓地に送る!」

「エクストラデッキ破壊…?!そうか、その手があったか!」

 

 

 猫崎俊二の【猫シンクロ】に対抗する手段を、万丈目は万丈目なりに模索していたがこの戦術は思いつかなかった。

 

 

「更に!光属性をリリースした事で追加効果発動!お前が墓地に送るモンスターは、俺が選ぶ!とりあえず俺はネクロイド・シャーマン2枚、E・HERO マッドボールマン3枚、E・HERO ランパートガンナー、E・HERO フレイム・ウィングマン、E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマンを墓地に送る。」

「…!」

 

 墓地に送られていく、大量のE・HEROの融合モンスター。その組み合わせは乱雑に詰め込んでいるように見えて、何かしら狙いがあると推測する万丈目。

 

 

「XYZ-ドラゴン・キャノン3枚、VW-タイガー・カタパルト3枚、VWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン2枚を墓地に送ってもらう」

「ちいっ…」

 

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

雷丸 ライフ4000

手1 場 伏せ1

万丈目 ライフ4000

手3 場 家臣トークン 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は家臣トークンをリリース、アームド・ドラゴンLv5を召喚!魔法カード、レベルアップ!を発動!デッキから現れろ、アームド・ドラゴンLv7!バトルだ、アームド・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「ぐううっ!」ライフ4000から1200

「ターンエンドだ」

 

 

 

 

雷丸 ライフ1200

手1 場 伏せ1

万丈目 ライフ4000

手3 場 アームド・ドラゴンLv7 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、天使の施しを発動!カードを3枚ドローして、手札の帝王の轟毅と沼地の魔神王を捨てる。」

「…」

 

 

 アドバンス召喚が主軸であろうデッキに、融合代用モンスターにして融合をサーチ出来る沼地の魔神王が入っている事に違和感を感じる万丈目。

 

 

「リバースカードオープン!フォトン・サンクチュアリ。俺の場にフォトン・トークンを二体特殊召喚!さらに墓地の帝王の轟毅を除外して効果発動、場のモンスターをこのターン終了時まで全て光属性にする!」

「?!」

「二体のフォトン・トークンをリリース、現れろ、轟雷帝ザボルグ!効果発動、アームド・ドラゴンLv7を破壊!轟雷帝ザボルグの効果発動!」

「またかっ!」

 

 雷丸はエクストラデッキのカードを取り出して提示する。

 

 

「E・HERO スチーム・ヒーラー3枚、E・HERO セイラーマン3枚、E・HERO ネクロイド・シャーマンを捨てる。お前のVWXYZ-ドラゴン・カタパルトキャノン、F・G・D、竜魔人キングドラグーン2枚、おジャマキング、おジャマナイト2枚を捨ててもらう。」

「俺のエクストラデッキが…0枚に」

 

 

「バトルだ、行け轟雷帝ザボルグ!ダイレクトアタック!」

「させるかっ!墓地の超電磁タートルを除外してバトルを終了する!」

「だが、これで盾は消えた。ターンエンドだ」

 

 

雷丸 ライフ1200

手1 場 轟雷帝ザボルグ 

万丈目 ライフ4000

手3 場 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!雷丸と言ったな、雷はお前の専売特許では無い!俺は手札のおジャマジックを捨て、魔法カード、ライトニング・ボルテックスを発動!」

「何を訳の分からない事をっ!ぐっ、ザボルグが…」

 

「おジャマジックの効果で、デッキからおジャマ三兄弟を手札に加えるが…。モンスターをセット、ターンエンドだ」

 

 

雷丸 ライフ1200

手1 場 

万丈目 ライフ4000

手4 場 セットモンスター 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!ザボルグを突破するとは流石だ。しかし、このデュエルの主導権は俺が握る!魔法カード、貪欲な壺!墓地のシャイニング・フレア・ウィングマン、雷帝家臣ミスラ、雷帝ザボルグ、轟雷帝ザボルグ2体をデッキに戻す。」

 

 

 貪欲な壺で回収されるE・HEROの融合モンスターを睨む万丈目。

 デッキに戻し、再度雷帝ザボルグの召喚を狙っている…。というのもあるだろう。だが、それ以外にも狙いがある事を、万丈目は見抜いていた。

 

 

「魔法カード、ミラクルフュージョンを発動!墓地の沼地の魔神王とフレイム・ウィングマンを除外!」

「っつ!」

「現れろ、シャイニング・フレア・ウィングマン!このカードの攻撃力は、俺の墓地のE・HERO一体につき300ポイントアップする。墓地には13体、よって攻撃力は6400!」

 

 

 燦然と輝く、シャイニング・フレア・ウィングマン。

 

「初めて、初めてお前を出せたぞ、シャイニング・フレア・ウィングマン!融合素材であるフレイム・ウィングマンを持っていなかったから今までずっと出す事が出来なかったが…。」

「そうか、それは良かったなぁ?」

「何がおかしい…?」

 

 万丈目の伏せカードが一枚、発動している。

 

「…ヘル・ポリマー?」

「場のおジャマイエローをリリースして、発動。そいつは頂く」

 

 

 数秒硬直する雷丸。

 初めて手に入れたレアカードがシャイニング・フレア・ウィングマンで、どうにかして呼び出そうとしたが、融合素材であるフレイム・ウィングマンが手に入らずお蔵入りにした。

 

 それを今回、轟雷帝ザボルグでまとめて落とし貪欲な壺でシャイニング・フレア・ウィングマンだけ回収。ミラクル・フュージョンで沼地の魔神王と融合召喚する、というコンボを成立させたのだが…。

 

 

 雷丸にとって不運だったのは、対戦相手がE・HEROに精通している決闘者とのデュエル経験が豊富だった事だ。

 

「…カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

 

雷丸 ライフ1200

手0 場 伏せ1

万丈目 ライフ4000

手4 場 シャイニング・フレア・ウィングマン 伏せ2

 

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ、行け、シャイニング・フレア・ウィングマン!ダイレクトアタック!」

「っつ、うわああああああっ!」ライフ0

 

 

 

「俺の勝ちだな。…ん?」

 

 雷丸の伏せカードは、メテオ・ストライクだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っつ!全員敗れたか。」

 

 

 自身の手で、兄を助けたいと思っていた美寿知だったが、運命は微笑んではくれなかった。

 

 

「…来るが良い、遊城十代。かくなる上は、全身全霊でもって打ち破るまでだ。」

 



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第53話!光の罠と、ビークロイドVSビークロイド?!

「それーで、全員集めてどういうつもりなのーね?」

「クロノス校長。ちょっと彼女たちの話を聞いてください」

 

 クロノス新校長、樺山先生、響先生、猫崎俊二と光里、そして十代、三沢…。

 

 部外者ではあるが、武藤双六さんにも来ていただいている。

 

 透子義姉は久々に出会えた恭一と一緒に過ごすと言って立ち去った。

 立ち去る前に、義姉から聞いた話に出て来た、メガ・サイバー流の門下生に心当たりのある人物がいる俊二。

 

 居たら話がややこしくなるか邪魔になるだけなので、ナポレオン教頭は外した。

 

 

「…当方は、光海。影丸光海。」

「?!影丸理事長の…」

「孫にあたる。当方は光の結社に所属している。ある人物の行方を占ってもらう対価として入ったが…。今回の結界を巡る騒動について、斎王美寿知様の事情を話す。」

 

「斎王というーと、今アカデミアに来て居るエド様のマネージャーなノーネ」

「美寿知様は彼の妹。しかし、ある時兄に『破滅の光』という存在が憑依し、世界の破滅を目論む邪悪な人格が宿ってしまった。」

 

 原作知識とすり合わせていく俊二。

 

 

「ふーむ。しかし、ドミノ街に結界を張ったのはどういう事じゃ?」

「…『破滅の光』は、遊城十代を警戒しており、彼を倒そうとしている」

「このドロップアウト…いや、最近は成績も少しずつ上がってきていますーガ…。」

 

 警戒するような大物か?と訝しく思ってしまうクロノス校長。

 

 

「美寿知様は、破滅の光を油断させるために遊城を倒し、その功績を持って破滅の光と対峙。結界を張って逃げられない状態して倒そうとしていました。」

「ううむ。よくわからん。破滅の光という闇の人格…いや、光の人格か?それを倒すのが狙いなら、敵の敵は味方、遊城君と手を組めるのでは?」

「破滅の光も警戒していて、容易に接触出来ない状況。そのため、当方が指揮を採り、雷丸達が結界を維持して罠を張った…。」

 

 

「しかし、何故その事情を今になって話してくれたんだ?」

「結界を張るためには入念な準備が必要。新たに張りなおしたところで罠にかけられるとは思えない…。こうして失敗した以上、当方に出来る事は情報の提供のみ」

 

「…影丸。斎王の兄ちゃんを助けるには、破滅の光を倒すしか無いんだな?」

「…当方はそれを行いたかったが、ここまで入念に準備してこの有様。当方達は戦いを託すしか出来ない。」

 

 

 やや沈黙が訪れる。急展開すぎてついていけない者、何とか事情を飲み込もうとする者、現状を把握し、次について考えをめぐらす者。

 

 

「…そろそろ失礼する。」

 

 光海は立ち上がると、歩き出す。

 それに続いて、雷丸も一礼して去る。

 

 ふと、ある事に三沢は気づく。

 

「…そういえば、万丈目は?」

 

 

 直後、俊二の顔色が変わる。

 この状況なら、仕掛ける事は出来るはずだ。

 

 

 

「私も行くわ!それと俊二、才津元教頭がメガ・サイバー流を率いて襲撃してきたそうよ。」

「…となると、あいつもいるかもしれないな。」

 

 

 俊二は荷物から、デッキの一つを取り出す。

 教材用として試験的に組んだ物だが…。

 

 

 

 

 

 

 光海が真実を話し始めた頃。

 別の場所で、万丈目は包囲されていた。

 

 

「フッ、随分と警戒されているようだな。」

「ええ、その通りです。万丈目さん。貴方にも光の結社に入っていただきたい。」

「断る!宗教がらみは、庄司兄さんがうるさいからな。」

「フフフ…。では、頼みますよ。早乙女さん」

 

 現れたのは、小柄な少女。

 

「何だ?」

 

 白を基調とした、中世ファンタジー風の衣装に身を包んでいる。縁取りは金色だ。

 

 スッと顔を上げる少女。

 この世のすべてに絶望したような、そんな印象を受ける瞳。

 

 

「僕とデュエルだよ。」

「…後悔させてやる!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

万丈目 ライフ4000

手5 場 

レイ ライフ4000

手5 場 

 

 

「僕の先攻、ドロー!僕は魔法カード、光の援軍を発動。デッキの上からカードを3枚墓地に送り、ライトロードハンターライコウを手札に加える。」

「フン」

 

 超電磁タートル、強欲な壺、聖なるバリア-ミラーフォース-が墓地に行く。

 

「モンスターをセット、ターンエンドだ」

 

 

万丈目 ライフ4000

手5 場 

レイ ライフ4000

手5 場 セットモンスター 

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は魔法カード、死者への手向けを発動!手札の闇よりいでし絶望を捨てて、セットモンスターを破壊!」

「ライコウが!」

「さらに、ライフを800払い、早すぎた埋葬を発動!蘇れ、闇よりいでし絶望!装備魔法、巨大化を装備!これで攻撃力は5600!」ライフ4000から3200

「……」

 

「バトルだ、いけ、闇よりいでし絶望!」

「墓地の超電磁タートルを除外して、バトルを終了!」

「ターンエンドだ」

 

 

 

万丈目 ライフ3200

手2 場 闇よりいでし絶望 早すぎた埋葬 巨大化 

レイ ライフ4000

手5 場 

 

 

「僕のターン、ドロー。ライトロードマジシャンライラを召喚。このカードを守備表示に変更して、効果発動。僕は早すぎた埋葬を破壊」

「ちっ!」

「ターンエンド。デッキの上からカードを3枚墓地に送る」

 

 ライトロードパラディンジェイン、ライトロードサモナールミナス、ライトロードプリーストジェニスが墓地に行く。

 

 

 

 

万丈目 ライフ3200

手2 場 

レイ ライフ4000

手5 場 ライラ 

 

 

「俺のターン、ドロー!魔法カード、天使の施しを発動!カードを三枚ドローして、手札のおジャマジックとヘル・ポリマーを捨てる。おジャマジックが墓地に行ったことで、デッキからおジャマイエロー、グリーン、ブラックを手札に加える。」

「手札は6枚だけど、半分が通常モンスター。」

「俺は、アームド・ドラゴンLv3を召喚!バトルだ、アームド・ドラゴンLv3で、ライラを攻撃!」

「破壊される。」

 

「メインフェイズ2だ!行くぞ、俺は魔法カード融合を発動!手札のおジャマ3兄弟を融合!現れろ、おジャマキング!」

「守備力3000」

「効果発動!お前のモンスターゾーンを3か所、使用不能にする!」

「…だとしても。」

「ふっ、さらに永続魔法、地盤沈下を発動!これでお前のモンスターゾーンを二か所、使用不能にする!どうだ!これが俺様が考えた、対S召喚戦略だ!」

 

 

 モンスターゾーンを全て使用不可能にすればいい。それが、万丈目の出した答えだった。

 実戦でも通用する。そう確信していたのだが…。

 

 

 

万丈目 ライフ3200

手0 場 アームド・ドラゴンLv3 おジャマキング 地盤沈下

レイ ライフ4000

手5 場 

 

 

「僕のターン、ドロー。速攻魔法、サイクロンを発動。地盤沈下を破壊。」

「なっ?!」

「そして、墓地にライトロードが4種類いるとき、裁きの龍を特殊召喚できる。効果発動、ライフを1000払って、このカード以外の場のカードを全て破壊する。」

「っつ!」

 

「僕はもう一体、裁きの龍を特殊召喚。これで終わり。二体でダイレクトアタック!」

「うわああああああっ!」ライフ3200から200、200から0

 

 

 ライフが尽きた万丈目に、白い靄がまとわりつく!

 

 

「フフフ…。これで良い。後は…」

 

 破滅の光は、さらなる策謀をめぐらす。

 美寿知が企んでいる事には気づいている。命令通り倒せればよし、自分に反旗を翻すなら兄ともども洗脳するまで。

 

 

 

 

 

 万丈目と早乙女レイがデュエルを始める数十分前。

 万丈目を探し、走り回っていた俊二はある一団と遭遇する。

 

 

 

「?!才津元教頭。」

「猫崎!お、お前さえ!お前さえいなければ!サイバー流は健在だったんだ!それをよくも!皆!囲め!」

 

 

 あっという間に包囲される俊二と光里。

 

 

「…丸藤翔は居るか?」

「翔君。相手をしてあげなさい」

 

 

 かなり嫌がっていたようだが、他の門下生に引っ張られるように前に押し出される。

 

 

「何なんスか!」

「…アカデミアを辞めて、どれぐらい成長した?」

「お前には関係無いッス!ちなみに僕は今では、このメガ・サイバー流の実技担当最高責任者ッス!」

「奇遇だな。俺はデュエルアカデミアの実技担当最高責任者だ。」

 

 

 丸藤翔の顔が怒りと嫉妬に染まる。

 同じ肩書といっても分かっているのだろう。落ちぶれたサイバー流の残党と、立て直りつつあるアカデミアでは差がある事を。

 

 

「…デュエルしないか。」

「断るッス!S召喚なんか、卑怯ッス!」

「S召喚はしないデッキ。お前と同じ、ビークロイドデッキだ」

 

 

 それを聞いた才津が顔を歪めて笑う。

 

 

「本当だな?だったら翔君!デュエルしなさい!」

「ええっ?!」

「S召喚がないなら、猫崎俊二など一ひねり!君はそう言ってくれた!今こそ、その実力を見せてくれ!」

 

 

 どうやら、自分がいない所で大言壮語していたらしい。負けるのは怖い。だが、手に入る栄光と名声に目がくらんだようで、前に出てくる翔。

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

翔 ライフ4000

手5 場 

俊二 ライフ4000

手5 場 

 

 

「先攻は譲るッス」

「そうか。俺の先攻、ドロー!永続魔法、王家の神殿を発動!これにより、1ターンに1度だけ、罠カードを伏せたターンに発動出来る。」

 

 

 とうとう、この世界でもエラッタされてしまった王家の神殿を俊二は発動する。

 リシドさんはどう思っているのかは不明だが、辛い人生を送ってきた彼は個人的に幸せになってほしいと俊二は思っている。

 

 

 

「カードを1枚伏せ、この罠カードを発動する。トラップトリック!」

「な、なんなんスか?!」

「この効果で、俺はデッキから通常罠、チェーン・マテリアルをゲームから除外し、同名カード、チェーン・マテリアルをセットする。ここでフィールド魔法、メガロイド都市!」

「め、メガロイドシティ?!」

「効果発動!このカード以外の自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる!そのカードを破壊し、デッキから「ロイド」カード1枚を手札に加える。俺は今セットしたチェーン・マテリアルのカードを選択!この効果にチェーンして、チェーン・マテリアルを発動!これにより、融合召喚に決められたモンスターを手札・墓地・デッキから除外することで融合召喚が出来る!そして、メガロイド都市の効果で、デッキから、ビークロイド・コネクション・ゾーンを手札に加える。そしてビークロイド専用魔法、ビークロイド・コネクション・ゾーンを発動!」

 

 俊二はデッキから決められたモンスターを除外する。

 

「トラックロイド、エクスプレスロイド、ドリルロイド、ステルスロイドを除外して、スーパービークロイド-ステルス・ユニオンを融合召喚!カードを二枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

翔 ライフ4000

手5 場 

俊二 ライフ4000

手1 場 スーパービークロイド-ステルス・ユニオン 王家の神殿 メガロイド都市 伏せ2

 

 

「そんな物が、ビークロイドデッキの可能性ッスか?」

「そうだが」

「トラップトリック、必要ッスか?王家の神殿でチェーン・マテリアルを発動すればいいじゃないッスか」

 

 翔の言葉に、メガ・サイバー流の門下生は同調する。

 

「言われてみればその通りね」「何だよ、大層な事を言っておいて」「いっけー!シンクロ召喚が無い猫崎なんて、敵じゃないってことを思い知らせてやれ!」

 

 

 

 

 あきれ果てて声が出ない光里。

 分かっていないのか?トラップトリックを入れる事で。

 【ビークロイド】デッキの戦術の一つ、チェーン・マテリアルを実質6枚投入できるため、安定性が上がる事に。

 

 

 

「僕のターン、ドロー!魔法カード、強欲な壺を発動するッス。カードを2枚ドロー!よし!魔法カード、パワー・ボンドを発動っス!手札のドリルロイド、スチームロイド、サブマリンロイドを墓地に送り、スーパービークロイド-ジャンボドリルを融合召喚するッス!」

「よし、いいぞ!翔君!猫崎の場にいるのは、攻撃力3600どまりのスーパービークロイド-ステルス・ユニオン!」

 

 

 才津の言葉に勢いづく翔。

 

 

「これで終わりっス!バトル!スーパービークロイド-ジャンボドリルで、スーパービークロイド-ステルス・ユニオンを攻撃っス!」

 

 これで終わり、か。ライフは残るはずだがあの表情とセリフから手札の一枚をリミッター解除と推測する俊二。

 

「罠発動!重力解除!!場のモンスターの表示形式を変更する!」

「なっ?!」

「進入禁止!No Entry!!も良いカードだと思うが、この辺りは好みの領域だろう。さて、どうする?」

「ぐっ、うううううっ…」

「パワー・ボンドを主軸に置くなら、攻撃を確実に通す必要がある。」

「うるさいッス!僕はカードを1枚伏せ、デス・ウォンバットを召喚してターンエンドっス!」

「ならエンドフェイズに、永続罠発動!スキルドレイン!ライフを1000払い、場のモンスター効果は無効になる。パワー・ボンドのリスクを受けてもらう」ライフ4000から3000

「うわああああああああっ!」ライフ4000から1000

 

 

 

 

 

翔 ライフ1000

手1 場 スーパービークロイド-ジャンボドリル デス・ウォンバット 伏せ1

俊二 ライフ3000

手1 場 スーパービークロイド-ステルス・ユニオン 王家の神殿 メガロイド都市 スキルドレイン

 

 

「くっ!猫崎!お前は相手のモンスター効果を無効にするような、リスペクトに反するカードを使ってなんとも思わないのか!」

「才津元教頭は、そうやって相手の戦術を否定する行為にリスペクト精神があるとお思いで?」

「私に否定されるような、戦術を使う方に問題がある!」

 

 

 論争に、門下生が口をはさむ。

 

「待ってください!才津師範!」

「何だね?」

「いやその…スキルドレインで無効になっていますよね?猫崎のステルス・ユニオンも」

 

 

「言われてみればそうね。何がビークロイドデッキの可能性よ!」

「自分で自分の利点を消していたら世話ないぜ!」

 

 

 罵倒を浴びる中、俊二はため息をつく暇も惜しんでカードを引く。

 こうして対峙していると思う。初手サイバー・エンド・ドラゴンをやってくる門下生は、なんだかんだ言って運命力を持ち、まともだったのだと。

 

 

「ビークロイド・コネクション・ゾーンで融合召喚したスーパービークロイドは、カード効果では破壊されず、カード効果も無効にならない。スーパービークロイド-ステルス・ユニオンを攻撃表示に変更。そしてスーパービークロイド-ステルス・ユニオンの効果発動、デス・ウォンバットを装備カードにする。」

「僕のモンスターが!」

 

 

 デス・ウォンバットを吸収するステルス・ユニオン!

 

 

「バトル!スーパービークロイド-ステルス・ユニオンで、スーパービークロイド-ジャンボドリルを攻撃!」

「はぁ?スーパービークロイド-ステルスユニオンが攻撃する時、その攻撃力は半分になるっスよ!そしてジャンボドリルの守備力は2000ッス!」

 

 

「所詮、片手間で使ったデッキに本家本元が勝てるわけ無いんだ!」

「プレイングミスかよ」

「リスペクト精神が無いからこんな事になるのよ!」

 

 周りの門下生の野次を無視する俊二。

 

 

「メガロイド都市の効果発動!自分の「ロイド」モンスターが戦闘を行うダメージ計算時に、デッキから「ロイド」モンスター1体を墓地へ送って発動できる!その戦闘を行う自分のモンスターはそのダメージ計算時のみ、元々の攻撃力と元々の守備力が入れ替わる。デッキからスチーム・ロイドを墓地に送り、ステルス・ユニオンの攻撃力と守備力を入れ替える。よって攻撃力は3000!」

「うわああああああああっ!」ライフ0

 

 

 

 ライフが尽き、無様に倒れる翔。

 だが、起き上がって喚き始める。

 

 

 

「ふ、ふざけるんじゃないッス!お前、片手間で僕の、ボクの!最も好きなデッキまで汚して!どこまでボクを馬鹿にすれば気が済むんスか!」

「他人が使う事で、見えなかったものが見えてくる時がある。相手を批判・否定して貶めるより、自分を研鑽したほうが身のためだ。パワー・ボンドは確かに強力だが、リスクも大きい。お前には、こういう戦い方が向いていると俺は思う」

「決めつけるんじゃないッス!」

 

 

 光里が口をはさむ。

 

「…ジャンボドリルはスキルドレインで場のモンスター効果が無効になっている中、3000の攻撃力で貫通効果を持つ上に、破壊耐性を持った状態で戦える。十分な性能じゃあ無いかしら?」

「そうだな。激流葬で相手モンスターだけ除去するという方法も使える。攻撃力が足りないなら、表示形式を変更すればいい。丸藤、これは最近発売されたパックに入っていたカードだ。お前ならきっと俺以上にビークロイドデッキの可能性を引き出せる。だから。」

 

 

 俊二はデッキからメガロイド都市のカードを取り出すと、翔に差し出す。

 

 

 だが、翔はその手に平手打ちを行い、それを見ていた才津が叫び出す。

 

 

「翔君は、君達のようなリスペクトに反する戦い方をするぐらいなら、負けを選ぶ誇り高い決闘者なんだ!」

 

 

 

 しかし、周りのメガ・サイバー流の門下生はひそひそと話している。

 どうにも、同じロイドデッキを使っておきながら負けた翔に対して思うところがあるらしい。

 

 

 かつてサイバー流から追い出された光里は、その空気を敏感に感じ取っていた。

 

 

「…なら、通してもらう。」

 

 

 俊二は改めて万丈目を探しに向かうが、PDAにメールが入る。

 内容を見た俊二は、大きくため息をつくと光里にも見せる。

 

 

「…こうなってしまったのね」

 

 

『…明日の朝9時。遊城十代一人で、海馬ドームに来てもらう。来なければ、万丈目の無事は保証できない。』

 

 

 この事は万丈目グループには絶対に知られてはいけない。

 万丈目グループが光の結社を壊滅させてくれたらよいが…万丈目グループが取り込まれたら手に負えなくなる。



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第54話!十代VS美寿知!

申し訳ございませんが、このシリーズはいったん更新停止とさせていただきます。
理由としてはプロットを考えているとアンチリスペクト物であるにも拘わらず、サイバー流とのやり取りがほぼ無くなってくる事に気づいたからです。
当初のプロットにおける『第29話!俊二VS才災勝作!』を最終回とさせていただきます。

また、拙作における丸藤翔君の名誉挽回、汚名返上のために新作を投稿していきます。


 

 意気消沈しながらも、レッド寮のキャンプ地へ戻る俊二。

 

 

 

「俊二先生?万丈目は?」

「…遊城、明日、海馬ドームに一人で来てほしいとの事だ。来なければ、万丈目の無事は保証できないとの事だ」

「なんだって!」

「…行ってくれるか?」

「当たり前だ!止めても行くぜ!」

 

 

 万丈目が洗脳されるというのは、絶対に避けたいことだったが、こうなってしまっては仕方ない。

 おそらく待ち構えているのは、斎王の妹、美寿知。

 

 

 

 

 

 翌日、海馬ドームに訪れる遊城十代。

 

 

 そこには、5人の男女が待っていた。

 

「…影丸と雷丸か。」

「…美寿知様がお待ちだ。」

 

 案内しようとする影丸。

 

 

「…あいつが遊城十代か。大した事の無さそうな奴だな。あれぐらいなら」

「やめろ氷丸。俺達は手を出すなというお達しだ」

「ああ?」

 

 だが、氷丸に対して冷たい視線が4人から注がれた事で、流石に怯む。

 

「じょ、冗談だ」

「…なら構わない。」

 

 

 

 一室に案内し、光海はその場を去る。

 この先に、斎王の妹がいる。意を決し、十代は中に入る。

 

 

 

 

 

「…よくぞ来た。」

「美寿知だな?」

「いかにも。」

 

 真相は光海から聞いている。その事を伝えようとして、十代は思いとどまる。

 美寿知は見張られていると言っていた。なら、自分にできる事は全力でデュエルをする事だけ。

 

 

 

「行くぜ!」

「来るがいい!」

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

十代 ライフ4000

手5 場 

美寿知 ライフ4000

手5 場 

 

 

「俺の先攻、ドロー!E・HEROバブルマンを召喚!効果発動!カードを二枚ドロー!よし、カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

十代 ライフ4000

手6 場 バブルマン 伏せ1

美寿知 ライフ4000

手5 場 

 

「私のターン、ドロー!様子見と言ったところか。」

「ああ。」

「…甘く見られたものだ。来い、インヴェルズを呼ぶ者!」

「インヴェルズ…?」

 

 悪魔族使いという事に違和感を感じる十代。てっきり部下に支給していた【帝王】を使うと思っていたのだが。

 

「そして魔法カード、二重召喚!これでもう一度通常召喚が出来る!インヴェルズを呼ぶ者を生贄に、インヴェルズ・モースを召喚!効果発動、ライフを1000払い、そなたの場のカードを二枚手札に戻す!」ライフ4000から3000

「バウンス効果?!攻撃力2400といい、帝みたいなカードだな…チェーンしてリバースカードオープン!和睦の使者!このターン俺は戦闘ダメージを受けないぜ!」

「?!フリーチェーンだったか…。生贄になったインヴェルズを呼ぶ者の効果発動!デッキから下級インヴェルズを特殊召喚!現れろ、インヴェルズの先鋭!」

「攻撃力2400と1850!しかも二枚バウンスって事は大抵の相手をワンターンキルできるのか!」

「しのがれてしまったがな。ちなみに、インヴェルズの先鋭は場から墓地に送られたとき、場の融合・儀式・シンクロモンスターを破壊する。」

「…なんで効果を俺に教えたんだ?」

 

 わざわざ相手にカード効果を説明する美寿知の行動。知らなければそのまま融合していただろう。

 

「これで対等だ。カードを伏せ、ターンエンド」

 

 

十代 ライフ4000

手7 場 

美寿知 ライフ3000

手2 場 モース 先鋭 伏せ1

 

 

 

「よし、俺のターン、ドロー!先鋭を残しておくと厄介…。いや待てよ?」

 

 それを相手が想定していないはずが無い。先鋭を融合モンスター以外のE・HEROによる戦闘破壊を狙ってくることは想定しているはず。

 

「俺はE・HEROバブルマンを召喚!カードを二枚ドローする!」

「…バウンスするべきでは無かったか。」

 

 

 敵に塩を送る事になったため、美寿知はやや悄然とする。

 

「ワンターンキルを狙うならありだと思うぜ。魔法カード、融合を発動!場の水属性のバブルマンと、手札のクレイマンを融合!」

「その組み合わせは、マッドボールマンか。」

「融合召喚!E・HERO アブソルートZero!」

「?!光海からの情報に有ったカードか!」

 

 

「行くぜ、バトルだ!アブソルートZeroで、インヴェルズ・モースを攻撃!」

「甘い!罠発動!侵略の手段!デッキからインヴェルズ一体を墓地へ送る。インヴェルズの斥候を墓地へ!」

「このタイミングで墓地にモンスターカードを送ってどうしようと?」

「その後、場のインヴェルズを選択!選択したモンスターの攻撃力を800アップする!これでモースの攻撃力は3200!」

「なるほど、エッジマンで先鋭を攻撃すれば攻撃力2650になって返り討ちだったか…。」ライフ4000から3300

 

 

「推理していた割に、随分と余裕…?」

 

 

 インヴェルズ達が氷漬けになっていく!

 

「これは!」

「HEROは死してなお、責務を果たす!このカードが場を離れた時、相手の場のモンスターを全て破壊する!」

「?!」

 

「メインフェイズ2だ、俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

 

十代 ライフ3300

手6 場 伏せ1

美寿知 ライフ3000

手2 場 

 

 

 

「…私のターン、ドロー!メインフェイズの開始時、墓地のインヴェルズの斥候の効果発動!私の場に魔法・罠カードがない時、墓地から特殊召喚出来る!」

「黄泉ガエルみたいな効果だな…」

「やや制約があるがな。このターン、私は特殊召喚を行えない。」

「でも、インヴェルズデッキはアドバンス召喚が主体。つまり問題ないって事か。」

 

「私はインヴェルズの斥候をリリース、インヴェルズ・ギラファをアドバンス召喚!このカードはレベル7だが、インヴェルズを生贄に捧げるとき、リリースを一体減らせる!」

「攻撃力2600か!」

「効果発動、相手の場のカードを一枚墓地に送り、ライフを1000回復する。その伏せカードを墓地へ送る!」ライフ3000から4000

 

「だったらチェーンして罠発動!奈落の落とし穴!インヴェルズ・ギラファを破壊する!」

「させぬ!チェーンして速攻魔法、侵略の一手!ギラファを手札に戻し、カードを一枚ドロー!」

「躱された?!」

「カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

十代 ライフ3300

手6 場 

美寿知 ライフ4000

手2 場 伏せ1

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 斥候の効果を考えたら、あれはフリーチェーンの速攻魔法か罠カードだろう。

 

 

「俺はE・HEROプリズマーを召喚!効果発動、デッキからE・HEROグラン・ネオスを公開することで、デッキからE・HEROネオスを墓地に送る。」

「E・HEROの通常モンスター…」

「魔法カード、オーバーソウルを発動!墓地のネオスを特殊召喚!」

「一気に展開してきたが、それで私のライフを削り切れるかな?」

「バトル!行け、プリズマー!ダイレクトアタック!」

「罠発動!侵略の波紋!墓地のインヴェルズの先鋭を特殊召喚!」ライフ4000から3500

「っつ、バトルは巻き戻しだ。行け、ネオス!先鋭を攻撃!」

「ダメージは受けるが、このターンは凌がせてもらう!」ライフ3500から2850

 

「メインフェイズ2だ、カードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 

 

十代 ライフ3300

手4 場 プリズマー ネオス 伏せ1

美寿知 ライフ2850

手2 場 

 

 

「私のターン、ドロー!メインフェイズの開始時、インヴェルズの斥候を攻撃表示で特殊召喚!」

「…攻撃表示?」

「魔法カード、強制転移を発動!さぁ、モンスターを一体選んでもらう」

「俺は、プリズマーを渡す。もしかして、インヴェルズにも融合モンスターが」

 

 プリズマーが、融合召喚主体のデッキだと使いやすい事が才宮とエド・フェニックス選手のデュエルで広まってしまい、プリズマーの価格は高騰している。

 E・HEROという事で集めていたため十代には問題無いが、今からE・HEROデッキを組みたいという人には敷居が高いカードになってしまった。

 

 

 

「残念ながらおらぬ。だが、速攻魔法発動!帝王の烈旋!私はこのターン、そなたのモンスターをリリース出来る。私はインヴェルズの斥候をリリースし、インヴェルズ・ギラファを召喚!効果発動、ネオスを墓地に送る!」

「リバースカードオープン!手札のE・HEROネクロダークマンを捨てて、超融合を発動!」

「超、融合?」

 

「俺はネオスと闇属性のギラファを融合!現れろ、E・HEROエスクリダオ!」

「…そのモンスターにもアブソルートのように厄介な効果があるのか?相手の墓地に送られるカードが全て除外されたり、相手がデッキからカードを手札に加えたらハンデス…」

「そんな効果は無い。このカードの攻撃力は、墓地のE・HERO一体につき100ポイントアップする!よって攻撃力は3000!」

「…ターンエンド。」

 

 

 

十代 ライフ3300

手3 場 エスクリダオ

美寿知 ライフ2850

手0 場 プリズマー 

 

 

「俺のターン、ドロー!墓地のネクロダークマンの効果発動!E・HEROをリリース無しで召喚出来る!現れろ、E・HEROエッジマン!」

「…負け、か」

「ああ。バトル!エッジマンでプリズマーを攻撃!」

「ああああっ!」ライフ2850から1950

 

「エスクリダオで、ダイレクトアタック!」

「…見事」ライフ0

 

 

 

 

 

『…敗れたか。まぁいい、これで遊城十代の底を知る事が出来た』

 

 白い靄のような物が、その場を離れていく。

 あいつが、どうやら見張りだったようだ…。

 

 

「ようやく、ようやく去ったか。」

「美寿知。影丸から事情は聴いている。」

「そう、か。光海が話したか。」

「兄ちゃんが別の人格に乗っ取られているってことだよな?」

「その通りだ。」

「…なぁ、あんたの兄ちゃんってどんな人だったんだ?」

「兄は、世界の破滅など望んでいない。遊城十代、お前に真相を伝えておく。」

 

 

 

「…D-HERO Blooo-D。そのカードを兄が拾った事で、全てが始まってしまった。」

「D-HEROって、エドが使っているテーマだな。」

「いかにも。エド・フェニックスの父親が最後に開発したカード。」

「なんで、それを斎王が拾うんだ?カードデザイナーが開発したカードってそうそう落ちていないと思うんだが…。」

「エド・フェニックスの父親の死は不可解であり、犯人は逮捕されるどころか特定すらされていない。」

「?!なんだって!」

「殺したのが、D-HERO Blooo-Dの精霊だからだ。」

「カードの精霊…でも、開発されたばかりのカードに精霊が宿るなんて」

「私が占った結果、D-HERO Blooo-Dのカードをフェニックス氏が封印しようとした時にD-HERO Blooo-Dのカードが強く反発。その意思を感じた破滅の光の盟主が降臨し、フェニックス氏を殺害した。」

「カードデザイナーが、自分の生み出したカードに…」

 

「そのカードは巡り巡って、我が兄に破滅の光の盟主を宿らせ、自ら行動するようになった…。遊城十代。我が兄を、救ってほしい。」

「ああ、任せろ!」

 

 

 

 

 

 託された想いを背負って十代は海馬ドームを後にする。

 同時刻。

 

「…美寿知は敗れたか。だが、もはや運命の輪を止めることは出来ぬ!光を、もっと光を!」

 

 光の結社の盟主は、狂気をにじませた笑みを浮かべ、虚空に拳を突き上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 メガ・サイバー流の実技担当最高責任者は、メガ・サイバー流から追放される事になった。

 理由は、同じロイドデッキを使いながら負けたからである。

 

 

「そ、そんなぁ!追い出されたら、僕はどこに行けばいいんスかぁ?!」

「心配するな。行き先は用意した。」

 

 

「ほぅ?丸藤亮の弟…。わかりました」

「ちょ、ちょっと待つッス!」

 

 明らかにやばそうな男達に拘束されるメガ・サイバー流の元実技担当最高責任者は、短い手足をバタバタ動かす。

 

 

「僕をどこへ連れて行くつもりッスか!」

「地下デュエルだ」

「ち、地下…?」

「報酬は高いぞ。」

「ほ、報酬が…え、エヘ、エヘヘヘヘ…」

 

 

 その醜態を見たメガ・サイバー流の門下生たちは、心の底からあきれ返る。

 

「では、連れて行きます。」

「よろしく頼む。」

 

 

 

 丸藤亮が先日地下から脱出してしまった事で、新たな獲物を探していた地下デュエル場の経営者達は、才津の話に飛びついた。

 勝てばよし、負けたとしても見世物にはなるからだ。

 



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前日譚
前日譚!如月同盟『前編』


SIDE形式の書き方、ダイジェストデュエルの書き方を試してみたくて投稿します。
時系列は、猫シンクロ使いが行く遊戯王GX!の本編開始前の物語になります。



???side

 

 海覇(かいは)市、2月の昼。天気予報では寒風吹きすさぶ日と言っていたが、私にとっては涼しい程度だ。

 何より、私の呼びかけに集まってくれた者達は、この程度の寒さを吹き飛ばすような熱気に包まれている。

 

 

 

 

「私は、速見 信乃(はやみ しの)!諸君はデュエルキング、武藤遊戯様がグールズのエクゾディア使い、ギドーに告げたセリフを知っているか!彼はこう述べた!『グールズよ!今、お前が持ちうる最高の戦術で挑んできな!だが、俺のデッキが粉砕する!』と!」

 

 

 一拍置いて、私は続ける。

 

 

「これこそが、デュエリストが目指すべき道である!サイバー流はリスペクトに反すると相手の戦略・戦術を批判、否定しているが…。相手が今持ちうる最高の戦術で挑んでくる以上、それに対して行うべきは批判や否定では無く、真っ向から己の信じたデッキで挑む事である!故に、私はここに宣言する!サイバー流に対抗する組織の設立を!」

 

 

 私は、高らかに右腕を伸ばして宣言する!

 

 

「今は2月!旧暦でいえば如月(きさらぎ)…故に!私は如月同盟(きさらぎどうめい)と名付ける!私と共に立ち上がる者は、今しばし、この場にとどまるがいい!」

 

 

 誰も去らなかった事で、私はその場に集まってくれた者全員と一人一人、眼を合わせる。

 

 

「決まりだ。今から、我々はサイバー流のリスペクトデュエルと対立する組織、如月同盟である!」

 

 

 湧き上がる歓声。だがそこに待ったをかける者があらわれる。

 

 

「待てぃ!サイバー流の正しい・リスペクト・デュエルに逆らうとは、お前達には対戦相手に対する敬意が無いのか!」

「早速嗅ぎつけて来たか、サイバー流!言いたいことがあるなら…私に勝ってから言うがいい!」

 

 私はデュエルディスクを構える。さぁこい、サイバー流!お前達のリスペクト・デュエル、真っ向から受けてたつ!

 

 

速見sideout

 

 

???side

 

 俺は滝川、サイバー流の門下生だ。

 サイバー流の才災師範が掲げる、正しい・リスペクト・デュエル。それに疑問を抱くという愚か者が決起集会を開くという情報を密かに入手した俺は、他の門下生と一緒に網を張っていた。

 本来なら、証拠を確保したうえで上に報告するべきなのだろうが…。ここで、サイバー流に逆らう愚か者の首領を倒せば、サイバー流での俺の地位は鰻登り!

 

 そうなれば、サイバー・ランカーズへの昇格デュエルだって夢ではない!

 

 相手は前髪をぱっつんと切りそろえ、綺麗な長い青い髪を後ろで結び、青いジャケットを羽織り、青い短パンとロングブーツを履き、デュエルディスクには青色の塗装が施されている。

 目鼻立ちは整っており、正直、好みのタイプだがデュエルである以上油断はしない!

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

速見 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

滝川 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

 俺は余裕をもって告げる。

 

「先攻は譲ってやろう。」

「では遠慮なく貰う。ドロー!私はモンスターをセット、これでターンエンドだ」

 

 

 何かするのかと思ったら、拍子抜けだ。見た目は良いが…可哀そうに食べた物は頭では無く胸と太ももに行っているようだ。

 

 俺は手札をチラりとみる。最強の手札、これはもう勝ったも同然だ。

 

 

 

速見 ライフ4000

手5 フィールド セットモンスター 

    魔法・罠 

滝川 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

「それで終わりか!俺のターン、ドロー!魔法カード、パワー・ボンドを発動!手札のサイバー・ドラゴン3体を融合!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

 俺は意気揚々と、かつてサイバー流で一子相伝だったが、才災師範の『英断』により、優秀な門下生にも支給されるようになったエースモンスターを呼び出す。

 パワー・ボンドにより、攻撃力は元々の攻撃力分アップするため攻撃力は8000!しかも貫通効果持ち!

 

 相手の場に伏せカードがあれば、奈落の落とし穴とかで妨害される心配があったが…。伏せカードが無いためその心配もない。

 すると、相手が何やら動きを見せる。

 

 

 

「この瞬間、手札のドラゴン・アイスの効果発動!相手がモンスターを特殊召喚した時、手札を1枚捨てる事で手札か墓地から特殊召喚できる!海皇の重装兵を捨てて手札から守備表示で特殊召喚!」

「守備力2200か!そんなモンスターなど、サイバー・エンド・ドラゴンの敵ではない!」

 

 

 俺のターンなのに、上級ドラゴン族を特殊召喚したのには驚いたが、それだけだ。

 というより、手札から捨てて手札か墓地から特殊召喚が出来るなら…ドラゴン・アイス自身を捨てて墓地から特殊召喚すればいいだろう。

 やっぱり馬鹿だ。

 

 

「ここで、水属性モンスターの効果を発動するために墓地に送られた重装兵の効果発動!相手の場の表側表示のカードを破壊する!」

 

 突如、気持ち悪い半魚人がサイバー・エンド・ドラゴンを破壊する!

 な、なんてことを!

 

 

「さ、サイバー・エンド・ドラゴンが!卑怯だぞ!」

「攻撃力8000の貫通効果を持つ融合モンスターで、後攻ワンターンキルを狙っておいてよく言う…。お前のターンはまだ続いているが、どうする?」

「くそっ!俺はサイバー・ジラフを召喚!このカードをリリースして、効果ダメージを0にする…魔法カード、悪夢の鉄檻を発動!これで、どんなモンスターも2ターンの間、攻撃は出来ない!ターンエンドだ」

 

 卑怯な方法を使われてしまった。こういう事があるから、才災師範の教えが正しいという事を再確認できる。

 正直、状況は不味いが…。俺の場には、あのマリク・イシュタールとゴースト骨塚も採用していた超優秀な防御カード、悪夢の鉄檻がある。

 

 だから2ターンは大丈夫だ!その間に、サイバネティック・フュージョン・サポートと融合かパワー・ボンドを引き当てれば…こんな状況、訳なく覆せる!

 

 

滝川sideout

 

速見side

 

 

速見 ライフ4000

手3 フィールド セットモンスター ドラゴン・アイス 

    魔法・罠 

滝川 ライフ4000

手0 フィールド 

    魔法・罠 悪夢の鉄檻(2)

 

 

 初手サイバー・エンド・ドラゴンを出せるサイバー流門下生は、サイバー流でもエリートに属する。大半はサイバー・ドラゴンを特殊召喚するか、サイバー・ツイン・ドラゴン止まり。

 優秀な部類に入るが。既に勝負は決している。

 

 

「私のターン、ドロー!アビス・ソルジャーを通常召喚!ドラゴン・アイスを攻撃表示に変更!さらにペンギン・ナイトメアを反転召喚!これにより、私の場の水属性モンスターの攻撃力は200ポイントアップ!リバースしたことで効果発動、悪夢の鉄檻を手札に戻す。」

「あ、あわわわ…」

 

 戦意喪失、といった所か。如月同盟の初陣としてはやや物足りないが、まぁ勝利は勝利だ。

 

「バトルだ!ペンギン・ナイトメア、アビス・ソルジャー、ドラゴン・アイスでダイレクトアタック!」

「うわああああああ!」ライフ4000から2900、2900から900、900から0

 

 

 襲撃したサイバー流門下生を倒し、私は拳を突き上げる。

 湧き上がる歓声!周りからこそこそ逃げ出そうとしている者が居る。どうやらサイバー流の門下生のようだ…だったらこのまま蹴散らすまで!

 

速見sideout

 

 

???side

 

 サイバー流の門下生を速見が一蹴し、強さを見せつけた事で如月同盟は勢いを増し、不穏な動きを察知して集まってきていたサイバー流門下生を撃破。

 

 

「あたしのターン、ドロー!罠発動!暗黒よりの軍勢!墓地から暗黒界の刺客カーキと暗黒界の策士グリンを手札に戻すわ!ここで罠発動!光の召集!手札を二枚捨てて、墓地から緑光の宣告者と紫光の宣告者を手札に戻すわ!」

「あ、暗黒界が捨てられたという事は…」

「そのとおーりっ!暗黒界の刺客カーキと暗黒界の策士グリンの効果発動っ!お前のサイバー・ドラゴンと伏せカードを破壊するわっ!」

「だ、だが!緑光の宣告者の攻撃力は低い…次のターンで」

「速攻魔法、暗黒界に続く結界通路を発動!墓地から暗黒界の魔神レインを特殊召喚!」

「げえええっ!」

「あーはっはっは!これで終わりねっ!バトル!暗黒界の魔神レインで、ダイレクトアタック!」

「うわああああ!」

 

 

 暗黒界と宣告者の混成デッキを使うハイテンションな黒髪ツインテールの少女、陸奥(むつ)がサイバー流の門下生を圧倒し。

 

 

「た、ターンエンド…」

「ここで、終焉のカウントダウンの効果発動!俺の勝ちだ!」

「くそおおおっ!」

 

 終焉のカウントダウンの大井がサイバー流の門下生に特殊勝利を決め。

 

 

 

「スタンバイフェイズ、永続魔法、黒蛇病の効果発動!そしてメインフェイズに永続魔法、ご隠居の大釜の効果発動だ!」

 

 

 上田が効果ダメージでサイバー流の門下生を沈め。

 

 

 

「罠発動!ヘル・ポリマー!これでサイバー・エンド・ドラゴンのコントールを得る!」

「ひ、卑怯者~~!!」

 

 

 

「罠発動、オーバースペック!パワー・ボンドで攻撃力が元々の攻撃力分アップしている、サイバー・エンド・ドラゴンは破壊だ!」

「そんなあああああ!」

 

 

 コントロール奪取や対策罠がサイバー・エンド・ドラゴンを翻弄。

 

 

 

「スライムトークンに、下克上の首飾りを装備!湿地草原で攻撃力が1200ポイントアップ!さらにスライムトークンはレベル1でサイバー・エンド・ドラゴンはレベル10!よって攻撃力は4500ポイントアップする!」

「攻撃力が6200のスライムトークンだとぉ!もう駄目だぁ!」

 

 

 

「俺は重装武者-ベン・ケイを召喚!魔法カード、フォースを発動!これでサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力を半分にして、ベン・ケイの攻撃力をアップする!これでサイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力は4000になり、ベン・ケイの攻撃力は4000ポイントアップ!さらにドーピングと凶暴化の仮面を装備する!これで攻撃力は1700ポイントアップして、3回攻撃が可能だぁ!」

「うわああああ!」

 

 

 ベン・ケイ使いの飯守(いいもり)がワンターンキルを達成する。

 

 

 

 こうして、サイバー流の門下生たちは次々と打ち破られて、敗走する…。

 

???sideout

 

 

???side

 

 私は、海覇市のサイバー流の門下生を束ねている七階堂 史郎(ななかいどう しろう)だ。

 如月同盟とかいう小娘が起こした騒動。この事態に対し、配下の門下生が役立たずなせいで後手に回っている。

 

 

「くっ、おのれ…!」

 

 

 この海覇市を制することで、サイバー流での地位を確固たるものにしよう、としていた私にとってこの事態は想定外だ…。

 私は当選して議員になったが…失言を繰り返して批判の対象になり、離党させられ、耐え切れなくなった事で父に泣きついて会社を貰った。

 

 だが…私が社長に就任し、効率化と成果主義を前面に押し出し、残業を行わせてもタイムカードを改竄して残業代を未払いにするというコストカットを行った結果、退職者が続出し従業員から訴訟を起こされ…。受け継ぐまでは順調だった会社は3年で倒産した。

 

 父親に再度泣きついて、今度はこうしてカードゲーム界のポストを貰ったのだが…ここでも追い詰められていた。

 何故私の人生はこうも障害が多いんだ!私はただ楽して金が欲しいだけなのに!

 

 

 

「お困りのようですね、七階堂様。」

「お前は…西条(さいじょう)か」

 

 私が悩んでいると、門下生の一人が入ってくる。

 整った顔立ちで高身長な少年、西条 多門(さいじょう たもん)。

 正直、若き日の私を見ているような好青年だ。一人娘が慕っているのが少々気に食わないが…。まぁいい。

 

 

七階堂sideout

 

???side

 

 俺は西条 多門。

 今回の反サイバー流を掲げる如月同盟は窮地ではあるが、同時に好機でもある。

 

 これを解決すれば、サイバー・ランカーズへの昇格デュエルを挑む上での足掛かりになるからだ。

 

 

 

「任せてください。指揮権を渡して下されば、解決してご覧にいれましょう。」

「し、指揮権を…だ、だがそれでは手柄は」

「事態を解決した後は、この地のサイバー流の指揮権はお返しします。誓約書をしたためましょうか?」

「い、いや…それならよい。だ、だが!如月同盟の女首領の身柄は私に引き渡してもらうぞ!」

「わかりました。こちらにサインを」

 

 

 

 書類を受け取った俺は一礼して退出。

 如月同盟に敗北したサイバー流門下生達を呼び集め、俺は事情聴取を開始する。

 

 

「如月同盟と戦ったそうだな…構成員の使用カード、性格。なんでもいい、感じた事があれば話せ。」

 

 俺はまず情報収集から始める。優れた戦略家というのは、戦う前から勝つための準備を怠らない。

 

 

(如月同盟…お前達の戦術は、俺の戦略で倒す。)

 

西条sideout

 

 

 

 

速見side

 

 

 この日、如月同盟のアジトではパーティが開かれていた。

 実家が町中華をしている如月同盟のメンバー、五反田(ごはんだ)が作った東坡肉(トンポーロウ)、ニラ玉、野菜たっぷり餃子、辣子鶏、空心菜炒め…。

 町中華が所狭しと並べられている。

 

 和・洋・中、どれも好きだが…バナナだけは苦手だ。ある時、クラスメイトの男子からバナナを加えてピースしてほしいと頼み込まれてやったことがあるのだが…。

 それ以降、クラスメイトの男子が妙な目で私を見るようになったからだ。

 

 

 

「サイバー流の門下生を蹴散らす事15回!全戦全勝!」

「サイバー流、おそるるに足らず!」

「ねぇねぇっ!このまま、サイバー流道場まで攻め落とし、才災勝作まで倒してしまうってのはどう!」

 

 

 勢いづく一部のメンバーに、私は待ったをかける。

 少し図に乗り過ぎだ。

 

 

「待て、才災はプロデュエリストだ。そうそう勝てる相手では無い。今は力を蓄えて」

「姫、一つよろしいでしょうか?」

 

 

 結成から連戦連勝を重ねた事で、私はメンバーから姫と呼ばれるようになった。

 なんというか、姫というほどお淑やかでは無いからやめて欲しいのだが、皆がそう呼びたいならそうしておく…。

 

 

 私がリクエストした中華風オムレツ…味覇で味付けした半熟卵で刻んだ長ネギとチャーシューを包んだ物、をテーブルに置きながら五反田が尋ねる。

 

 

「構わない」

「どうしたいのですか、サイバー流を。壊滅までもっていくのですか?それとも適当な所で手打ちにするつもりですか?」

「そ、それは…。」

 

 壊滅というのは、現実的ではない。動員数が違い過ぎる。

 手打ち、というのが現実的か。だが、サイバー流がどこまでこちらの条件を飲むか、皆目見当がつかない。

 

 思わず答えに詰まる。だが他のメンバーが声を荒げる。

 

 

「姫に聞くまでも無い!壊滅させるべきだ!」

「才災はプロだし、それにマスター鮫島が出てきたら」

「だったら、マスター鮫島も倒せばいいじゃない!何を怖がっているの!」

「無茶いうな!サイバー流と我ら如月同盟は、規模が違い過ぎるんだぞ!」

 

 

 白熱する議論、本来なら結論を私が決めねばならないのだが…。私にはそれが出来ない。

 最終的に『サイバー流をどうするか?』という『青写真』を持ち合わせていない事を私は突き付けられた。

 

 

 何とかその場は収めたが…この日以降、如月同盟は二分していく事になる。

 過激派と、慎重派に。

 

 私は、どうすれば…。

 

速見sideout



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前日譚!如月同盟『後編』

西条side

 

 

 如月同盟が分裂しつつある。行動パターンを分析した俺はそう結論を出す。

 どうやらサイバー流を最終的にどうするか…壊滅までもっていくのか、適当な所で手打ちか、でもめているらしい。

 

 愚かな。青写真が無い状態で、サイバー流に戦いを仕掛けるとは。戦術家として、一定の統率力は認める。

 勢力圏を手堅く堅守出来る、優秀ではある。

 

 ちょうどよく戦力が二分している以上…まずは突出している、過激派の壊滅から始める。

 

 

 

 俺は集められる限りのサイバー流の門下生を集め、指示を伝える。

 

 

「過激派は、重装武者ベン・ケイや永続魔法を用いて勝利するデッキが多い。だからこれを使え」

 

 

 ベン・ケイ使いの飯守に対しては装備魔法を奪い取れる罠カード、力の集約を。

 永続魔法系の効果ダメージを与える上田への対策として、デス・ウォンバットという効果ダメージ対策のモンスターや、砂塵の大竜巻やツイスターなどの魔法・除去カードを支給。

 

 

「それと、連中の所持が確認されていないが俺が作成した予想カードリストだ。参考にしろ」

 

 

 俺はベン・ケイ使いの予想カードリストに、キラー・トマト、竜殺しの剣、稲妻の剣、融合武器ムラサメブレード、幸運の鉄斧といったカードが記しておいた。

 それを見た門下生が声を上げる。

 

「おいおい、何だこのリストは!デーモンの斧とか、魔導師の力を警戒すべきだろう!というより、知らないのか?」

「飯守はドーピングや凶暴化の仮面と言った使い勝手の悪い装備魔法を使用していることから、カードプールが貧弱であると予想される。無論、その手のカードを所持している可能性もあるが…。可能性は低い。」

 

 デュエルに勝てば有利になる世界で、強力なカードを温存する決闘者などまず居ないからな…。

 俺が渡された紙を見ながら、門下生達は相談する。

 

「本当に、これで勝てるんだろうな?」

「今は、従うしかないって」

 

 

 

 そんな中、門下生の一人が抗議の声を上げる。

 

「おいっ!命令通り配置につくが…あんたはどこに待機するんだ?」

「…基本、ここに待機するつもりだが。」

「俺達に戦わせて、自分は高みの見物かよ!」

 

「基本、と言ったはずだ。過激派の中に一人だけ、暗黒界と宣告者を混ぜる意味不明なデッキを使うツインテールの小娘がいる。俺がそいつの相手をする。」

 

 

 

 それを聞いた女性陣…集まった門下生の二割ほどだが…がひそひそと話を始める。

 

「何?女狙い?」

「仕方ないわよ、だって童貞臭いじゃん」

「でもさぁ、指揮権を預かるってことは次期エリートってコトよね?ツバつけとこうかな?」

 

 

 割と聴力が良い俺は、顔色が変わるのを何とか堪えて指示を出す。

 確かに俺は童貞だが…それを本人のいるところで言うあたり、性格がねじ曲がっているにも程がある。

 

 そういう事を見抜けるとは相当経験豊富なんですね、という皮肉を言いたくなったがぐっとこらえる。

 一応、サイバー流の仲間だからな。これが敵なら容赦なく皮肉を浴びせるところだ。

 

 

 

「俺に従えば、勝たせてやる。このまま、如月同盟に敗北してはサイバー流での居場所が無くなるぞ。それでもいいのか!」

 

 

 不承不承、という形ではあれど、サイバー流の門下生は俺の指示に従う。

 ちぃっ、俺に統率力があればもっと楽なのに…。童貞臭い、か。ツインテールのクラスメイトにも言われた事だが、女性というのはそういうのがわかるのか?

 

 いっそのこと、スモーク眼鏡をかけ、チャラチャラした金属製のアクセサリーでもつければ童貞臭くなくなるかもしれない。

 その手の物は嫌いなのだが、一度試してみるべきか?

 

 

 

 

 想定通り、連日の勝利で慢心していた過激派は対応できず…俺の策で追い詰められていく。

 その連絡を聞きながら、俺は地図の上に置いた将棋の駒を動かして壊滅への仕上げをしていると、一人の門下生が駆け込んでくる。

 

 

 俺の作戦に疑問を抱いていたが、ベン・ケイ使いの飯守の使用カードが予想カードリスト通りだった事でこいつは俺を信頼するようになった。

 

 

「西条さん!七階堂さんが!」

「何?!」

 

 

 国会では失言製造マシーン、企業家としては強欲な守銭奴、決闘者としては未だにタイミングを逃すを理解できない無能!そいつが、自ら前線に出たというのか?!

 慌ててアジトから出撃し、現場に駆け付ける俺だが。

 

 

 

「何だ、美亜(みあ)さんか。」

 

 戦っていたのは七階堂議員の娘、今時古臭いおかっぱ頭で貧相な体つきの七階堂 美亜(ななかいどう みあ)だ。

 相手は…ツインテールの女か!訳の分からないデッキを使うという…。

 

 

 

「私のターン、ドロー!手札から、サイバー・ドラゴンを特殊召喚!ここで魔法カード、パワー・ボンドを発動!手札のサイバー・ドラゴン2体を融合!サイバー・ツイン・ドラゴンを融合召喚!」

「サイバー・ドラゴンが3枚揃っているなら、サイバー・エンド・ドラゴンを出せばいいじゃない。持っていないの?」

「関係ない!サイバー・ツイン・ドラゴンでセットモンスターを攻撃!」

「メタモルポットのリバース効果発動!互いに手札をすべて捨てて5枚ドロー!手札から捨てられた、暗黒界の刺客カーキの効果発動!サイバー・ツイン・ドラゴンを破壊!」

「モンスターを破壊するなんて、それでもデュエリストなの!効果破壊なんてせず、戦闘破壊だけで戦いなさいよ!」

「勝手に言っていなさい。」

「まぁいいわ…これで終わりよ、サイバー・ドラゴンでダイレクトアタック!そして速攻魔法、リミッター解除を発動!」

「罠発動!ガードブロック!」

 

 

 リミッター解除まで使った攻撃は凌がれた事で、美亜は再融合で再びサイバー・ツイン・ドラゴンを蘇生。ターンエンドと共にパワー・ボンドにより2800のダメージを受ける。

 返しのターンで陸奥はスナイプストーカーを召喚。効果は外れたが、暗黒界の策士グリンの効果で再融合は破壊。そのままダイレクトアタックで負けてしまった。

 

 

 

「そ、そんな…」

「七階堂、俺は予想される逃走経路の一つに待機するよう命じていたはずだが?」

「み、皆が戦っているのに、私だけ安全な所で待機なんて!私もサイバー流の一員よ!だから共に肩を並べて」

「サイバー流の一員を名乗るなら、全体の指揮を任されている俺の命令に従え!そもそも、ツインテールの相手は俺がするから手出し無用、とミーティングで話していたはずだが。」

 

 

 抗議の声をなおも上げようとする議員の娘を、目線だけで黙らせた俺はデュエルディスクを構える。

 まったく、ツインテールの女か…忌々しいッ!

 

 

「あんたが指揮官なら、ここで叩き潰すまでよ!」

 

 攻防が続くが…

 

 

「ターンエンド!サイバー流にしては、随分盾に縋るわね。」

「俺のデッキは他のサイバー流とは少々毛並みが違う…俺のターン、ドロー。来たか…速攻魔法、異次元からの埋葬を発動、除外されているサイバー・ヴァリーを全て墓地に戻す。そして罠発動!ボーン・フロム・ドラコニス!」

「なっ?!墓地の光属性・機械族が…除外されていく?!」

「召喚条件を無視して現れろ!サイバー・バリア・ドラゴンッ!」

 

「こ、攻撃力800のはずなのに、どうして攻撃力が4000に…!」

「バトルだ!暗黒界の魔神レインを打ち砕け!」

「罠発動!光の召集!手札を捨てて、墓地から緑光の宣告者を手札に戻す!手札から捨てられた、暗黒界の刺客カーキの効果発動!サイバー・バリア・ドラゴンを…破壊出来ない?!」

「残念だが、ボーン・フロム・ドラコニスで特殊召喚したモンスターは、このカード以外のカード効果を受けない。というわけで、終わりだ!」

 

 

 俺が操るサイバー・バリア・ドラゴンが、ツインテールの女のエースモンスターである暗黒界の魔神レインを打ち砕く!

 これで、過激派の壊滅は完了。仕上げとして、構成員のリストとアジトの位置を探る必要があるが…、過激派を尋問したところで素直に白状しないだろう。

 となれば、裏切りを誘発するまで。

 

 

西条sideout

 

 

 

速見side

 

 私達如月同盟のアジトは沈痛な空気に包まれている。過激派が暴走して壊滅、戦力が半減してしまったからだ。

 わずかに帰還した者も、脱退を表明してしまった…

 

 いまの所、如月同盟の意思はまとまったが、それ以上に失った物が大きい。過激派は比較的腕が立ち、サイバー流の門下生相手に渡り合える実力者が揃っていた。

 それを一気に喪失し、拘束された事は純粋に痛手であり…、勢力圏の維持も困難。

 

 

「姫。こうなった以上、別の所で再起を図りましょう!俺の故郷は、犬上村という閉鎖的な村ですが、村人の結束が固いです!ここならサイバー流も手出しは」

「馬鹿な!如月同盟結成の地であるここを捨てたら、御終いだ!ここは動かず、守りを固めて…」

「その守り切る事すら困難じゃないか!」

 

 

 

「そういえば、ミズガルズ王国には伝説の決闘者、城之内克也氏が居るはず…。彼に国際電話をかけて、サイバー流の現状を訴えて帰国して貰えば」

「彼がミズガルズ王国に行っている以上、事情があるに決まっている!協力してくれるわけが無いだろう!」

 

 

 拠点を守るべき、落ち延びて再起を図るべき、外部の助力を乞うべき…。

 意見が割れている中、どれが最善なのか私は決めかねていた。

 

 

 どうする、どうすればいい…?

 

 

速見sideout

 

 

 

???side

 

 

 俺は安藤。如月同盟の一員だ…。だが、俺はある人物と接触することにした。

 

「これが、如月同盟のアジトと残りの構成員のリストだ」

「よくやってくれた、安藤。」

 

 いけ好かないイケメンだが…どことなく童貞臭くて、親近感を感じる西条が笑みを浮かべる。

 

 

「これで、俺をサイバー流に入れてくれるんだな?」

「そうだ。サイバー流のデッキを受け取るがいい。」

「へ、へへへ…。今のサイバー流に勝てる勢力なんてどこにもない…」

「君は正しい選択をした。ようこそ、サイバー流へ。」

 

 過激派はやられちまったし、残った連中も方針を巡ってバラバラ。このまま壊滅するぐらいなら、情報を売ってサイバー流で栄達を求めるべきだ。

 

 

 

安藤sideout

 

 

 

 

 

速見side

 

 

 過激派が壊滅してから二日後。サイバー流は猛攻を仕掛けてきた。

 この攻撃で終わらせるとでも言いたげな物量戦。

 その前に、残った如月同盟は瞬く間に切り崩されていった…。

 

 

 

「姫、こちらに!」

「…すまない、五反田。私が至らないばかりに…」

 

 

 アジトや構成員のリストは、過激派を尋問なりして聞き出したのだろう。

 時ここに至って、私は見通しの甘さを思い知らされた。

 

 座してサイバー流に飲み込まれるか、抗うか。圧倒的な規模を誇るサイバー流に対して余りにも準備不足であることは分かっていた。

 それでも、私は行動を起こした。誰かが、サイバー流の『正しい・リスペクト・デュエル』に待ったをかけねばならないから。

 

 

(私は、どうすればよかったのだ?)

 

 首を振って、考えを振り切る。こうなった以上、構成員を一人でも多く連れて再起を。

 

 

「これはこれは我らが姫では無いですか」

「安藤?」

 

 

 構成員の安藤だ。

 そんな彼がカードを提示する。サイバー・ツイン・ドラゴンのカードを。

 

 思わず絶句する私をかばうように、五反田が前に出る。

 

 

「?!お前っ!」

「今のサイバー流に勝てる勢力など無い。それはお前も今回の一件でよくわかっただろう?長い物には巻かれろ!」

「断る!サイバー流のリスペクトデュエルは間違っている!」

「正しい事に価値なんて無い。力こそが正義だ!」

 

 そう、か…。安藤、それがお前の出した結論か…。

 

 

「姫、ここは俺が!後で合流します」

「任せたぞ。私は退路を確保する!」

 

 私は裏切り者の相手を五反田に任せ、退路を確保しに向かう。

 逃走経路はいくつか用意している。まず一つ確保してしまえば、そこから包囲網を打ち崩せるはず!

 

 

速見sideout

 

 

五反田side

 

 裏切った安藤は支給されたサイバー流デッキを改造、レベル4で攻撃力1900~2000の通常モンスターなどを採用したハイビートデッキを構築していたが…。

 こういうデッキに対して、俺のデッキは真価を発揮する!

 

 

「デス・ラクーダを反転召喚して1枚ドロー!さらにステルスバードを反転召喚して、効果発動!これで終わりだ!」

「この俺が五反田如きにぃいいいい!」

 

 

 サイクルリバースデッキで裏切者を何とか撃破した五反田は、先に向かった姫と合流しようとする。

 だが、向かった先で見た物は。

 

 

 

 ぐったりと倒れている4人のサイバー流門下生。

 姫は逃走経路を封鎖していた門下生を蹴散らしたようだが、直後に他の逃走経路を封鎖していた門下生が駆け付けていたようだ。

 だが、時間を稼がれた事で、新手がやってきていた…。

 

 

五反田sideout

 

 

 

速見side

 

 

 どうやら、リーダー格が出て来たらしい。こいつだ、こいつさえ倒せば活路は開く!

 魔法・罠カードを除去できるXYとXZを採用している光属性・機械族デッキだったが、それも撃破した。

 

 

「これで終わりだ!」

「罠発動!ボーン・フロム・ドラコニス!墓地の光属性・機械族モンスターを除外して、手札のレベル6以上の光属性・機械族を召喚条件を無視して特殊召喚!現れろ、サイバー・レーザー・ドラゴン!除外した光属性・機械族は全部で8体、よって攻撃力と守備力は4000!」

 

 

 こんな方法で、サイバー・レーザー・ドラゴンを出すだと!だが、それならばアビス・ソルジャーで手札に戻すまで!

 

 

「バトル終了、メインフェイズ2に入り」

「言っておくが、ボーン・フロム・ドラコニスで呼び出したモンスターは、ボーン・フロム・ドラコニス以外のカード効果を受けない」

 

 

 ?!光属性・機械族を次々と墓地に送っていたのは、この為か…!

 

「ターン、エンド…」

 

 

 まだだ!攻撃を受けてもライフは残る!守りを固め、その間に打開策を引き当てれば…。

 

 

「俺のターン、ドロー!バトルだ、サイバー・レーザー・ドラゴンでアビス・ソルジャーを攻撃!」

「くうううっ!」

「速攻魔法発動!サイバー・ロード・フュージョン!除外されている3体のサイバー・ドラゴンをデッキに戻し…現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

「?!」

 

 ここで、サイバー・エンド・ドラゴンが…!

 

 敗北が確定してしまったが、それでも私は凛とした態度を崩さず毅然とにらむ。

 志半ばで倒れるとしても、膝は付かないッ!

 

 

速見sideout

 

 

西条sideout

 

 事前に首領格について、ある程度情報を調べ上げていた俺だが、この状況で折れない心に好感を抱く。

 戦力が半壊、裏切者も出ている状況でなお、逃走経路を確保すべく門下生を蹴散らす実力。

 

 俺と彼女が手を組めば、サイバー流内部での地位を確固たる物に出来るだろう。

 そうすれば、俺の本来の計画…サイバー流を外側から倒すのではなく、中から変える、という計画を進める事が出来る。

 

 具体的には、サイバー・ランカーズとなり、ゆくゆくは才災勝作を蹴落とす事で『正しい・リスペクト・デュエル』を改めさせるという目標に実現性が出てくる。

 そのためには身柄を七階堂では無く、俺が確保しておく必要がある…。

 

 

「降伏しろ。そうすれば、才災様には如月同盟の首領はお前では無くて、ツインテールの女だと報告する。だから」

「断る!」

 

 即座に速見は拒否。意思は固く、そうそう前言撤回はしなさそうだ…。残念だ。俺は攻撃宣言を行う。

 

 

「…サイバー・エンド・ドラゴンでセットモンスターに攻撃!」

 

 

 攻撃が炸裂する直前。彼女は別の所を見ると、小さく口を動かした。『逃げろ』、か…

 おそらく、そこに他のメンバーがいて、指示を出したのだろう。

 

 

 小さな足音が遠ざかっていくが、俺は追わなかった。

 

 

 

 

 

 

「西条様!おお、片付けましたか!わはは、サイバー流に逆らうからこんな目に合」

 

 あとからやって来た恥知らずな門下生を、俺はにらみつける。それだけで、そいつは黙った。

 俺は通信機を取り出し、全員に指示をだす。

 

「俺だ。如月同盟の首領は倒した。この戦いは我々サイバー流の勝利だ!現在、デュエル中のサイバー流門下生に通達する!サレンダーを呼びかけ、従った者には危害を加えるな。また、デュエルを行っていないサイバー流門下生は、付近の気絶したサイバー流の門下生を連れ、即座に撤退を開始せよ。」

 

 

 その通達に、門下生の一人が反対意見を述べる。

 

 

「馬鹿な!ここで残党を叩き潰すべきだ!」

「駄目だ。如月同盟の壊滅という戦略的目標は達成した。これ以上の追撃は、我々サイバー流の誇りに傷をつける事になる。正しい・リスペクト・デュエルに乗っ取っていないデッキを使う連中といえど、リスペクトを守っていない相手に対して何をしても許されるというわけでは無い。」

 

 

 この指示に対して参加していたサイバー流門下生に不満はあるものの、俺の指示に従った。

 確かに、残党を追撃すれば大きな戦果を上げれるが…残党が残っていた方が再起を図った際に倒すことで再度功績を上げる事が出来る。

 場合によっては情報を横流ししてサイバー・ランカーズへの刺客に仕立て上げる事も出来る。

 

 

 と思っていたら、七階堂美亜が勝手に追撃を始めたという連絡が入った。待機しろと言ったのに勝手に行動、撤退しろと言ったのに追撃!

 しかも敗北したという連絡も入り、俺は内心頭を抱える…。無能な働き者は害悪というが、まさにその通りだ…。

 

西条sideout

 

 

 

 

 

 

五反田side

 

 

 同時刻。

 やや離れた地点で、途中で合流したメンバーと俺は息をつく。

 

 追撃してきたおかっぱ頭のサイバー流門下生を、俺は難なく倒す事が出来たが、むなしいだけだった。

 

 

「…くそっ!」

「五反田、俺は童美野街に向かう。お前も一緒に来ないか?」

「…そういう気にはなれない。」

「わかった。達者でな」

 

 この後、俺と分かれたメンバーはサイバー流に対抗できる力を求め、光の結社に入ったという噂を聞いたが、光の結社がうろんな組織に思えたので俺は参加しなかった…。

 

五反田sideout

 

 

 

七階堂side

 

 

「如月同盟のリーダー、速見信乃の身柄を確保しました。」

「おお、よくやってくれた!」

「恐れながら、彼女をどうするつもりですか?」

「決まっている。このデッキを使って、サイバー流の門下生とデュエルして貰うのだ。」

「拝見しても?」

「構わない。」

 

 

 西条君は、デッキを確認する。

 

 

 

「な、なんだこれは…融合、パワー・ボンド、融合呪印生物-光、未来融合フューチャーフュージョン、フュージョン・ゲートが入っていないぞ!これでは融合召喚も出来ない!というより、フォトン・ジェネレーター・ユニットやアタック・リフレクター・ユニット、ボーン・フロム・ドラコニスはどこに?」

「入れていない。」

「完全に死に札じゃあないか…リミッター解除も無い、サイバー・オーガが入っているが一枚だけでは意味がない!これはデッキではない!」

「デッキだ。40枚以上のカードで構築しているのだからな。話は以上か?」

「…ええ、失礼しました。」

 

 

 ふぅ、ようやく納得したか。

 さてと。サイバー流のリスペクト精神を持たない決闘者崩れには、カードが応えてくれないという実証を行ってもらうとするか。

 良い見せしめになる上に、ストレス発散になる。上に立つ私のようなエリート層はこうみえて、色々と気苦労が多いのだから。

 

 

 

七階堂sideout

 

 

???side

 

 

 その日の夕方。海馬コーポレーションにて。

 俺は上司に報告をしていた。

 

 

「というわけで、サイバー流に対して立ち上がった如月同盟は壊滅しました、磯野様。こちらが詳細な報告書になります。」

「そうか…報告ご苦労、海老原(えびはら)」

「はっ。」

 

 

 海馬コーポレーションの出世レースを勝ち上がり、この度直属となった俺の労を磯野様は労ってくれた。

 

 

「恐れながら、質問をしても?」

「構わない。」

「何故、如月同盟に支援をなさらなかったのですか?我々が動けば」

「社長が支援をするべきではないと判断された。理由は、首領である速見信乃に『青写真』がない事だ。」

 

 

 確かに、統率力はあったが長期的な目標が無かった事で壊滅に追い込まれている…。

 長期的な目標を立てる事が出来て、根回しが出来る戦略家が仲間にいれば話は違っただろうが。

 

 

「では、どうするのですか?サイバー流を」

「新人を見つけ出し、サイバー流への刺客とする。戻ってきて疲れているだろうが、仕事だ。これらのカードを使いこなせる子供を見つけ出せ。まずは海馬コーポレーションが保護している子供から始めるがいい」

「わかりました!早速取り掛かります!」

 

 

 磯野様が提示したカードの束には、新しく開発されたチューナーモンスター、X-セイバーエアベルンがあった。

 レベルの合計か…。どうすればいいのかさっぱり見当もつかない。子供なら柔軟な発想で何か思いつくかもしれないな…。

 

 

海老原sideout




というわけで、前日譚を送りました。カリスマ性がある戦術家でも、長期的な目標を定める「戦略」が無ければ組織を立ち上げても分裂してしまいますし、長期的な目標を立てて謀略を巡らせる事が得意な戦略家でも、カリスマ性が無ければ組織を立ち上げることが出来ません。

 アンチリスペクト物だとこういう組織を話に組み込むのが難しくて、本編には絡ませる事が出来ませんでした…。というのも、アカデミアが「孤島」なので、本土でこういう活動をしていても「遠い場所での戦い」になり、アカデミアに入学しているであろう主人公と関わらせるのが非常に難しいからです。

ゴッズのアカデミアのように本土にあれば、昼間は学生、夜は如月同盟で活動という二重生活とか出来ますし、主人公を見かけた海野幸子ちゃん辺りが後をつけて事情を知って関わっていく…といった展開も出来るのですが、孤島は無理です。

 そもそも、GXのデュエルアカデミアでこういった組織を立ち上げたら校則を増やすとかして潰しに来るかと。例えば「既存のクラブと集会は全て解散、再結成には教員に申請して許可を得る事、許可のない集会を行った生徒は退学」などで。

 西条は中からサイバー流を変える計画を立てていましたが、支持基盤を確立出来ずに頓挫しました。

 この後、速見さんは七階堂と紙束同然のサイバー流デッキでデュエルする事になりますが、七階堂がフィールド魔法、フュージョン・ゲートを発動するというポカをやらかしてくれたおかげでサイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚して勝利、逃げおおせる事に成功しますが、その後はサイバー流に立ち向かう組織を立ち上げることなく、ひっそりと過ごします。


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学園祭の裏側!猫崎俊二VSパラディウス社の幹部!

筆が乗ったので久々に更新します。


 学園祭。ブラマジガールがオシリスレッド寮のコスプレデュエル大会に参加する事を知っている猫崎だが…。

 彼女が居るのに別の女性を見に行く気はないので、光里と一緒に過ごす事を優先していると。

 

 

「…あれ?」

「どうしたの?」

 

 視線の先には、神楽坂とその隣に同年代の可愛らしい少女が隣におり、その近くにサングラスを掛けて紫色の髪の妙齢の女性が居た。

 

 

「誰なんだろう、あの人。おーい、神楽坂!」

「猫崎先輩?」

 

 

「知り合い?」

 

 従妹が聞き、叔母が反応した事で神楽坂は答える。

 

「海馬コーポレーションが開発したシンクロ召喚のテスターをしていて…七精門の鍵を守護している一人です。先日もセブンスターズの一人、百野真澄を破っています。」

 

 

「初めまして。猫崎俊二です。」

「私は才波光里。」

 

 

「私は桜咲フローラ。この子は娘の美夜。」

 

 

 一礼する少女。

 

 

「…きれいな肌ですね。」

 

 同性である才波が思わずつぶやいてしまう程、三児の母親であるフローラの肌は美しかった。

 

 

 

「俺の従妹と叔母なんだ。」

「…あまり似ていないように見えるが。」

 

「ええ。この子の母親の弟の妻だから、私は神楽坂家と血はつながっていないわ。」

 

 フローラの発言を聞き、猫崎は納得する。

 

 

「ふと思ったんだが、神楽坂。」

「何ですか?」

「古代の機械巨人をどこで手に入れたんだ?あれはすごいレアカードだろう?」

「それは…その。」

 

 それは、猫崎の前世において謎だった事。

 クロノス教諭しかほぼ使っていないレアカードを、一生徒が所持していた理由は作中で触れられていない。

 第一話の時から時間がたち値段が下がった、という説もあるが…。クロノス教諭と神楽坂以外に使用者がGXの作中に登場しなかった以上、仮説でしかない。

 

 

 美夜がちらりと母親を見たことで、猫崎は気づく。

 

「…もしかして、貴女が所持していたカードですか?」

「え、ええ。そうよ。前の職場で貰った大事なカードなの。」

 

 

「どこにお勤めだったのですか?」

 

 光里はその話に食いつく。

 

 

「すでに倒産したとはいえ、外資系の企業ですから内密に。」

「あれ?宗教関連って言っていませんでしたか?」

 

 

 甥っ子を軽く睨むフローラ。

 神楽坂の発言で、猫崎の中でピースが嵌る。

 

 

・社員が古代の機械巨人を手に入れられる程の資産をもつ大企業

・DMからGXの間に倒産している

・宗教関連

 

 画面越しの知識しか持っていない、転生者である猫崎が導き出せる答えは少ない。

 

 

「…パラディウス社?」

 

 

 どの企業だろうか?と考え込んでいた光里は、愛する人がボソリと呟いた言葉を『聞き逃してしまう』。

 神楽坂と美夜は、それぞれ失言してしまったと反省していたこともあり、『聞き逃す』。

 

 

 同時に、猫崎はフローラの口角が上がると同時に瞳がドロリと濁った事で、その答えが正しかったことを悟る。

 

 

 また、フローラも目の前の青年に対する警戒心を跳ね上げる。

 彼女からすれば…

 

・海馬がオーナーの学校において、七精門の鍵の守護者に選ばれている。

・新しい召喚法のテスターであり、海馬との繋がりが深い。

・わずかな発言からパラディウス社では?と真相にたどり着ける洞察力を持っている。

 

 もはや、何かしらの釘を刺す等、口止めをせねばならなくなった。

 

 

 

「ねぇ、少し話し合わないかしら?」

「ちょっと!」

「ご心配なく。私は生涯、夫以外の男を異性としてみる気は無いの。貴方だって3人の子持ちの人妻に手を出す気にはなれないでしょう?」

 

 

「大丈夫だ。少し行ってくる。」

 

 

 その場に残った三人は顔を見合わせていたが…ややあって、学園祭を見て回る事にした。

 

 

―――――

 

「この辺でいいか。」

「そうね…。本題に入るわ。私からの要求はただ一つ。海馬に私の事を話さない事。」

「何故だ?元パラディウス社の一員だったとしても海馬コーポレーションで出世できるはず」

「私はダーツ様に忠誠を捧げた。ダーツ様の掲げた星の救済という崇高な儀式を邪魔した海馬の下につくのも、今さら敵対するのもお断り。」

「貴女は、この世界を滅ぼしたいと思っているのか?」

「ダーツ様でさえ成し遂げられなかった事を、今更私如きに出来るわけがないし、するつもりもない。私は所詮、敗軍の将。敗者には敗者の身の振り方があるわ。」

 

 

 どうやら、そこまで危険人物ではないようだ。ダーツに心酔している忠臣だろうと、世界のリセットを目論まないなら問題はない。

 猫崎は海馬への報告をしないことを決めた。

 

 そうなると、猫崎の前世における「遊戯王デュエルモンスターズのファン」としての興味が沸く。

 画面では描写されなかった事を知れる機会。

 

 

「わかりました。ところで、貴女は計画実行の時…誰と交戦しましたか?」

「私が戦ったのはバクラよ。」

「…え?」

 

 

 猫崎はぽかんと口を開ける。

 それは、画面の向こう側にいた人間には知りえない情報。

 

 

「知らないのも無理は無いでしょうね。隠蔽工作を入念にしたから。」

「バクラと?闇人格の方は世界を滅ぼそうとしていたはず。共闘出来たのでは?」

「バクラと共闘?無理ね、こちらは究極の闇のゲームに不可欠な記憶の石板を凍結させ、神のカードを奪った。究極の闇のゲームを目論んでいたバクラとの敵対は明白だった。」

 

 

 いわれてみれば、その通りだ。あのバクラがオレイカルコスの結界と欠片を渡され、ドーマの走狗に成り下がるなどありえない。

 そもそもビートダウンよりも搦手を得意とするタイプだ。猫崎は納得する。

 

 

「どうやってバクラと戦ったのですか?」

「元グールズの一員で、ラーのコピーカードを持っていたレフタに旅券とオレイカルコスの欠片とオレイカルコスの結界を与えて襲撃。旅券を奪わせて祖国へ誘い込み、骨塚にレアカードを与えて送り込み。あとは私の同僚が直接戦ったり、私自身、バクラとやりあったわ。」

 

 

 なるほど。

 そういえば、ダーツが世界を滅ぼそうとしたのは3000年前に古代エジプトを破滅に追いやった名もなきファラオ、神官セト、バクラの魂が現代に蘇ったから。

 遊戯&海馬に加えてバクラまで参戦してはダーツの勝率はさらに下がるだろう。

 

 

 …特に、オレイカルコス・ミラーにより呼び出された「ミラーナイトトークン」。オレイカルコスに囚われた魂、表遊戯、城之内、舞、ペガサスの魂。

 それをバクラ相手に展開した所で、バクラは何の躊躇いもなく破壊しようとするはずだ。

 

 

 話をしつつ、フローラは自分が行った事について全く知らなかった様子を猫崎が示していることで。

 海馬の最側近ともいうべきこの青年が知らないなら、海馬自身も知らないだろうという確証を持つ。

 

 

 

「貴女は最初から捨て駒だったのでは?」

「心外ね。この計画は私自ら立案して、ダーツ様に進言したものよ。」

「そんなことをせずとも、バクラの魂を奪ってしまえば…」

「知らないの?千年リングにはパラサイト・マインドがあるわ。」

「あっ?!」

「本体を封じ込めれば、分身体が動き出す…。私たちドーマでさえ、バクラの分身体の所在を全て把握していなかった。神のカードを奪われ、究極の闇のゲームが行えない上に本体の魂が行動不能となれば…もはやなりふり構わず分身の一つが合流を図るはず。」

「……」

「私の計画はこうよ。バクラが足止めをされていた事に気づいた時点で手遅れ。ダーツ様による星の救済で、人類も、邪悪なバクラの魂も分身もオレイカルコスの力でリセットする。そうなれば…今よりも良い世界が創造される。偉大なるダーツ様の名のもとに。」

 

 

 

 改めて、パラディウス社の強大さを思い知る猫崎。

 バクラを足止め出来る作戦を立案し、実行出来る幹部を「使い捨て」に出来るとは。

 そりゃあ、こんな幹部がゴロゴロいるなら海馬剛三郎とて「ドーマには手を出すな」と忠告する。

 

 

 

 

 

「昔話はこれぐらいでいいかしら?」

「ありがとうございます。実に興味深い話でした。」

「だったら、今の話をしましょうか。シンクロ召喚のテスターであり、鍵の守護者に選ばれた貴方とデュエルしてみたいわ。」

「今の話を聞いて、俺もあのバクラと渡り合った元パラディウス社の幹部とデュエルしてみたくなりました。」

「あら。貴方もバクラを高く評価しているの?彼はバトルシティ決勝トーナメントの初戦敗退よ?」

「デュエルキングが、神のカードを持っていない相手に神のカードを使わなければ倒せなかった相手ですよ。」

「そうね…。彼の蹴りは陣痛よりも痛かったし。」

 

 

 マジ?となる猫崎。

 男として生を受けた以上、陣痛とは無縁の人生を送っているが、その痛みが凄まじい事を知識として知っている。

 

 

 

 場所を変え、室内に移動。

 

 机の上にデッキを置くフローラ。

 デュエルディスクでデュエルする気だった猫崎は意外そうな表情を浮かべる。

 

 

「悪いけど、オレイカルコスの結界を使う以上、デュエルディスクは使わない。海馬コーポレーションに情報が洩れるから。」

「そうですね。では、よろしくお願いします。」

 

 前世でのデュエルを思い出し、懐かしい気分になる猫崎。

 そんな猫崎を「幼少期はデュエルディスクが手に入らなくて、こうして遊んでいたんだろうな」とフローラは勘違いした。

 

 

 元パラディウス社のバリバリ武闘派女幹部であっても、目の前の青年が「OCGからやってきた転生者」である事は見抜けない。

 こればかりは、ダーツであっても見抜くのは不可能だろう。

 

 

 

―――――

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

フローラ ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

 

「先攻は、コイントスでいいかしら?」

「どうぞ。」

 

 コイントスの結果、フローラが先攻を取った。

 

 

「私の先攻、ドロー。発動せよ、フィールド魔法、オレイカルコスの結界!」

「引き当ててきた?!」

「永続魔法、冥界の宝札と進撃の帝王を発動。魔法カード、増援を発動。天帝従騎イデアを手札に加えて通常召喚!」

 

 

 前世の知識で知っているカードが出てきた事で猫崎は呆然とする。

 その反応を見てフローラは『海馬の手駒だからカード効果を知っている』と推測する。

 

 

「効果発動、デッキから同名カード以外の攻撃力800/守備力1000のモンスター1体を守備表示で特殊召喚。デッキから、冥帝従騎エイドスを守備表示で特殊召喚!冥帝従騎エイドスの召喚・特殊召喚に成功したターン、私は通常召喚に加えて1度だけメインフェイズにアドバンス召喚が可能。2体の従騎をリリース、古代の機械巨人をアドバンス召喚!オレイカルコスの結界により攻撃力は500ポイントアップ!」

 

 

 一ターンで最上級モンスターの召喚。

 

「…そして、冥界の宝札で2枚ドロー…ですね。」

「ええ。カードを2枚伏せてターンエンド。」

 

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

フローラ ライフ4000

手1 フィールド 古代の機械巨人 

    魔法・罠 冥界の宝札 進撃の帝王 伏せ2

 

 

 

「俺のターン、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!」

「召喚成功時に、守備表示になるわね。」

「ええ。手札の精神操作を捨てて、デッキからレスキューキャットを守備表示で特殊召喚。効果発動、このカードを墓地に送り、デッキからX-セイバー エアベルンと、異次元の狂獣を特殊召喚!」

「モンスターを3体並べたわね。」

「俺は、レベル4とレベル3の異次元の狂獣に、レベル3のチューナーモンスター、エアベルンを墓地に送る事で、レベル10のA・O・Jディサイシブ・アームズをシンクロ召喚します。」

 

 エクストラデッキからカードを取り出そうとする猫崎に、フローラは待ったをかける。

 

「待って。テキストを確認させてくれないかしら?」

「どうぞ。」

 

 テキストを熟読し、納得するフローラ。

 

「チューナーと、チューナー以外のモンスター2体。だから三体のモンスターが必要。シンクロ召喚は特殊召喚の一つということでいいわね?」

「その通りです。」

「チェーンブロックは?」

「作りません」

「では、モンスターが3体並んだところで発動したいカードがあるわ」

「わかりました。」

「レスキューキャットの効果処理後に罠発動、無力の証明。私の場にレベル7以上のモンスターが存在する場合、相手のレベル5以下のモンスターをすべて破壊する。」

「なっ?!」

 

 

 発動された罠を見て、猫崎は3体のモンスターを墓地に置く。

 

 

「低レベルモンスターのレベルを合わせて高レベルモンスターを呼び出す…。ならば、高レベルを出される前に対処する。」

 

 

 手札のイージーチューニングをちらりと見つめた後、猫崎はカードを伏せる。

 

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手2 フィールド 

    魔法・罠 伏せ2

フローラ ライフ4000

手1 フィールド 古代の機械巨人 

    魔法・罠 冥界の宝札 進撃の帝王 伏せ1

 

「私のターン、ドロー!墓地の冥帝従騎エイドスを除外して効果発動、デッキから二体目の天帝従騎イデアを特殊召喚。イデアの効果発動、デッキから二体目の冥帝従騎エイドスを特殊召喚。二体をリリースして、2体目の古代の機械巨人をアドバンス召喚。冥界の宝札で2枚ドロー。さて。」

 

 じっと猫崎を見つめるフローラ。

 効果を知っている猫崎はこのタイミングで動く。

 

「バトルフェイズ開始時に罠発動、和睦の使者!」

「逃がさないわ、カウンター罠、魔宮の賄賂。さぁ、1枚ドローしなさい。」

「……。」

 

 無表情でカードを引く猫崎。【猫シンクロ】にバトルフェーダーや速攻のかかしは入れていない。

 

 

「バトル、二体の古代の機械巨人でダイレクトアタック。」

「…俺の負けです。」ライフ4000から1000、1000から0

 

 

 

 デュエルに勝ったフローラは、自分の場のカードをデッキに戻してシャッフルする。

 猫崎もカードをデッキに戻し、シャッフルした後に提案する。

 

 

「…もう一度、デュエルしてくれませんか?」

「構わないわ。負けっぱなしは性に合わないでしょう?」

「無力の証明は予想外でした。」

「あら、そう?勉強になったわね。それでは…」

 

 

 

 

―――――

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

猫崎 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

フローラ ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

「俺の先攻、ドロー!レスキューキャットを召喚!このカードを墓地に送り、デッキからXセイバーエアベルンとコアラッコを特殊召喚!レベル2の地属性、コアラッコにレベル3の地属性、エアベルンをチューニング!シンクロ召喚!ナチュル・ビースト!」

「その言い方、召喚条件として地属性の制約があるのね。」

「はい。カードを2枚伏せてターンエンド。」

 

 

 

猫崎 ライフ4000

手3 フィールド ナチュル・ビースト

    魔法・罠 伏せ2

フローラ ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、汎神の帝王を発動!」

「ナチュル・ビーストの効果発動!デッキの上からカードを2枚墓地に送り、魔法カードの発動と効果を無効にして破壊!」

「なるほど、シンクロモンスターというのは何かしらのモンスター効果があるわけね。」

 

 まぁ、例外はなくはないが。前世だと大地の騎士ガイアナイト、ナチュル・ガオドレイク、スクラップ・デーモンは効果を持たないシンクロモンスターだ。

 あれから増えては…居ないだろう。

 

 

「墓地の汎神の帝王の効果発動、ゲームから除外してデッキから3枚の帝王魔法・罠を見せ1枚を相手が選び、そのカードを手札に加える。私が選択するのはこの3枚!」

「…帝王の烈旋を。」

 

 三枚とも同じカードだったため、さほど感情をこめずに猫崎は告げる。

 

 

「速攻魔法、帝王の烈旋を発動。」

「ナチュル・ビーストの効果発動、デッキの上からカードを2枚墓地におくり、魔法カードの発動と効果を無効にして破壊!」

「待って。1ターンに1度の制限が無いの?」

「ええ、ありません。俺のデッキ枚数が2枚以下になれば話は別ですが。」

「地属性が必要とはいえ、強力ね…。ならば、天帝従騎イデアを通常召喚!デッキから、冥帝従騎エイドスを守備表示で特殊召喚!」

「この流れは…。」

「二体の従騎をリリース、絶対服従魔人をアドバンス召喚!」

「ここで絶対服従魔人…?」

 

 意外なカードが出てきた。決して使いやすいカードではないが。

 

「チェーンはありません。」

「カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 

猫崎 ライフ4000

手3 フィールド ナチュル・ビースト

    魔法・罠 伏せ2

フローラ ライフ4000

手2 フィールド 絶対服従魔人

    魔法・罠 伏せ1

 

 

 伏せカードを睨む猫崎。禁じられた聖杯であれば使われてもナチュル・ビーストで止めれる。他にあるとすればスキルドレイン、か?

 火霊術の可能性もあるが、それでもライフは残る。

 

「俺のターン、ドロー!召喚僧サモンプリーストを召喚!手札の大寒波を捨てて、デッキからレスキューキャットを特殊召喚!」

 

 動きはない。となればスキルドレインでは無いはず。

 

 

「レスキューキャットを墓地に送り、X-セイバー エアベルンとライトロード・ハンター・ライコウを特殊召喚!」

「ここで罠発動!トラップ・トリップ!デッキから通常罠を除外し、同名カードを伏せる。伏せたカードはそのターンに発動できるわ!帝王の凍志を除外して、デッキから帝王の凍志をセット!」

 

 デッキをシャッフルするフローラを見ながら、猫崎は狙いを悟る。

 

「…レベル4のサモンプリーストとレベル2のライコウに、レベル3のエアベルンをチューニング!シンクロ召喚!ミスト・ウォーム!」

「レベル9もあるのね。」

「効果発動、絶対服従魔人とその伏せカードを手札に戻す!」

「チェーンして罠発動!帝王の凍志!私のエクストラデッキが0枚の場合、私のアドバンス召喚したモンスター1体を選択して発動。選択したモンスターの効果は無効となり、このカード以外のカード効果を受けない!」

 

 これを通せば、「あらゆるカード効果を受けない」3500打点という大型モンスターが成立する。

 そうなれば、イージーチューニングで打点を上げて突破するしか手がない。

 

「カウンター罠、魔宮の賄賂!帝王の凍志の発動と効果を無効にして破壊!そして相手は1枚ドローする!」

「…。」

 

 

 カードを引くフローラ。

 その表情は変わらないが、猫崎はこの攻撃は阻止されないと確信をもつ。

 

 

「バトル!ミスト・ウォームとナチュル・ビーストでダイレクトアタック!」

「私の負け、ね。」ライフ4000から1500、1500から0

 

 

 

―――――

 

 互いに一勝一敗。

 猫崎はフローラが容易な相手ではないと知り、フローラもまた、猫崎の強さを理解する。

 

 

「貴女の事は、海馬オーナーには話さないと改めて確約します。」

「そうして欲しいわ。仕事をしていた頃より、子育ての方が大変なの。」

 

 おまけに、上司が海馬なんて、ね。

 その呟きを猫崎は否定する気にはなれなかった。割と海馬の部下をやるのはキツイ。給料は良いのだが。

 

 

「ところで、貴女はサイバー流を知っていますか?」

「初代師範の『マスター』とは知り合いよ。」

「となると、鮫島師範ですか?」

「あら、彼は二代目よ?」

「えっ?初代はどんなデッキを…?」

「神獣王バルバロスやメタル・リフレクト・スライムに突然変異を使ってツインやエンドを出す【変異カオス】よ?」

 

 うわぁ、となる猫崎。

 

「対戦したことは?」

「17戦9勝8敗。神の宣告は三積みだし、スケープ・ゴートのトークンをサウザンド・アイズ・サクリファイスにしたり、トークンを攻撃表示にして強制転移。それから…」

 

 

 9期帝王サポート積んだ古代の機械巨人+原作オレイカルコスの結界相手に、【変異カオス】で鍔迫り合いが出来るサイバー流初代師範の実力に戦慄する猫崎。

 まぁ…そういう除去カードを使う人なら、似非ペクトを掲げる才災に手を貸すことはないだろう、と猫崎は判断する。

 

 

 

「それにしても、今のサイバー流はずいぶん変わってしまったわね。」

「才災校長はバーン、カウンター罠、コントロール奪取を否定するようになっています。妨害札は対戦相手へのリスペクトに反するから、と。」

「彼の経営手腕は評価するけれど、そういう話を聞くとダーツ様は正しかった、という気持ちになるわ。」

 

 

 ダーツによって心の闇を克服した新しい人類による世界が作り上げられれば、モーメントの逆回転も起きず、ダークネスの侵攻も起きないだろうが…。

 ふと、猫崎は思いついた。

 

 

「…今から約200年後に今の人類は滅びる」

「えっ?」

「どう思いますか?」

「あら、そうなの。」

「…動揺しないんですね。」

「ええ。滅びるなら滅びればいい。人類は多くの種族を絶滅に追いやった。人類の番が来るだけでしょう?」

「ご結婚なされて、お子さんもいらっしゃいます。それでも人類は滅びればいい、と?」

「おかしなことを言うのね。ドーマの幹部だった私に、幸せな過去があるとでも?」

「それは…。」

 

 ダーツは自作自演で部下を集めていたが…。

 考えてみれば、そうではない部下も当然いるはずだ。

 

 

「詳しく話すつもりはないけれど。穏健な保守派の父と母は改革派の過激派に殺された。彼らは私も殺そうとした『大儀のため』に。だから私もダーツ様の『星の救済』という『大儀のため』に世界をリセットしようと思った。」

「今は、違うんですよね?」

「そうね。私はパラディウス社を寿退社したけれど、夫や義理のご両親や親族と過ごして…。世界の問題がある部分だけならまだしも、世界全部を纏めてリセットしようというのは間違っていたのかもしれない。今では、そう思うようになった。」

「だったら、何故人類が滅びると聞いて、何も感じないのですか!」

「幸運の女神に後ろ髪は無い。ダーツ様の救済を拒んだ結果、滅びるなら滅べばいい。」

 

 

 

 ゾッとするような冷たい眼。

 前世を含めて悪意に満ちた目はそれなりに見てきたが、それでも慄然とする寒気とプレッシャーを帯びていた。

 これは、歴史を改変して人類の存続を目論むイリアステル側につくことはなさそうだ。

 

 

 

「…貴女は、密かにパラディウス社を復興させる計画を進めていたりしますか?」

「そんなつもりは無いわ。今の生活で満たされているもの。」

 




というわけで、久々の更新&神楽坂の背景を深堀した回でした。
OCGの知識持ち&海馬コーポレーションの後ろ盾を持っている転生者の猫シンクロと互角に渡り合える現地人フローラ。
ドーマの幹部は伊達ではありません。

…遊戯王GXの二次でドーマ所属だったオリジナルキャラクターが登場する作品は私が知る限り一つしか知りません。
ドーマの元幹部、となると扱いは難しいですが。


Q:原作準拠の二次創作で登場していた百黒 剛健(ひゃっこく ごうけん)が神楽坂に絡んでこないのはなぜ?
A;似非ペクトに染まったアカデミアに、【黒魔導の執行官】使いの居場所なんてあるわけないじゃないですか。
…二次創作でも黒魔導の執行官使いはほとんど見かけないんですよね。まぁ、ライフ4000の環境なら削り切れてしまうデッキなので、扱いが難しい…。


Q:この世界線において、海馬に身バレを恐れているフローラがアカデミアに来たのは何故?
A;似非ペクトを掲げているサイバー流が海馬コーポレーションと対立しており、身バレの可能性が少ない為、義理の息子になるであろう甥っ子の様子を見に来たのが真相です。



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番外編:呪いの双子人形はリスペクトに反しています。

思いついたので、投稿します。
時系列としては、猫崎が入学するより数年前です。


 デュエルアカデミアの校長にして、サイバー流の師範となった、才災勝作。

 そんな彼は、アカデミアに在籍している生徒の中から、リスペクトに反したデュエルをする生徒を排除するべく行動を開始した。

 

 

 

「皆さん、席についてください。授業の前に、大事なお知らせがあります。今からオベリスク・ブルーの影谷(かげたに)君と、ラー・イエローの西鷹(にしたか)君は、寮の入れ替えを掛けたデュエルをしてもらいます。」

 

 

 事前に話を持ち掛けられていた西鷹はともかく、寝耳に水な影谷は仰天する。

 

「俺が西鷹と入れ替えデュエル?!才災校長、どういうことです!」

「それは貴方が、リスペクトに反するデュエルをするからです。」

「リスペクト…?」

 

 

 サイバー流の門下生から時折言われるが、敗者の戯言として見なしていた事もあり、影谷は困惑する。

 思い当たるところはある。

 

 パワー・ボンドでサイバー・エンド・ドラゴンを呼び出した門下生のバトルフェイズを凌いだ後、メインフェイズ2で自信満々に召喚してきたサイバー・ジラフにキックバックを使ってバウンス、パワー・ボンドのリスクダメージで自滅させた。

 

 

 とはいえ、入れ替えデュエルに勝てばいいだけの話。

 

 

 

「これで、俺はオベリスク・ブルーに昇格出来る。」

「…そうか。お前は先に話を持ち掛けられていたんだな。まぁいい、勝つのは俺だ。」

 

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

影谷 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

西鷹 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

「先攻は影谷君からです。」

 

 才災校長がそう宣言した事で、影谷はカードを引く。

 

 

(…俺に先攻を譲ったのは、いきなり入れ替えデュエルをさせてしまう引け目だろうな。まぁいい。)

 

 

「俺はモンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンドだ!」

 

 

 

影谷 ライフ4000

手3 フィールド セットモンスター

    魔法・罠 伏せ2

西鷹 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

「俺のターン、ドロー!相手の場にのみモンスターが存在する事で、サイバー・ドラゴンを手札から特殊召喚!」

「さ、サイバー・ドラゴン?!馬鹿な、お前のデッキは太陽の戦士を主軸に置いた【戦士族】だったはず!」

 

 デッキが変わっている事に驚く影谷。

 

 

「魔法カード、パワー・ボンドを発動!手札のサイバー・ドラゴン2体を融合!現れろ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

「攻撃力2800だが、パワー・ボンドで攻撃力5600…。」

「サイバー・ツイン・ドラゴンに装備魔法、メテオストライクを装備!これでサイバー・ツイン・ドラゴンは貫通能力を得る!バトルだ!」

「攻撃力5600で二回攻撃出来る奴に貫通まで付与か。ならばメインフェイズ終了時に永続罠、スピリットバリアを発動!モンスターとの戦闘ダメージを俺は受けない!」

 

 光のバリアが発動し、影谷を守る。

 

 

「バトルだ、サイバー・ツイン・ドラゴンでセットモンスターを攻撃!」

「こいつは共鳴虫!戦闘で破壊された事で効果発動!デッキから共鳴虫を守備表示で特殊召喚!」

「リクルーターか、ならいけ、サイバー・ドラゴン!エヴォリューション・バースト!」

「っつ、二体目の共鳴虫の効果で、3体目の共鳴虫を特殊召喚!」

「追撃だ、サイバー・ツイン・ドラゴン!」

「3体目の共鳴虫の効果発動!魔導雑貨商人を特殊召喚!」

 

 

「メインフェイズ2で、サイバー・ジラフを召喚!効果発動、このカードを生贄に捧げ」

「カウンター罠、キックバック!通常召喚したモンスターを手札に戻す!」

 

 そのプレイングをみた才災の視線が険しくなる。

 

 

「ターンエンドだ。エンドフェイズ、パワー・ボンドにより2800ポイントのダメージを受ける…。」ライフ4000から1200

 

 

影谷 ライフ4000

手3 フィールド 魔導雑貨商人

    魔法・罠 スピリット・バリア 

西鷹 ライフ1200

手1 フィールド サイバー・ドラゴン サイバー・ツイン・ドラゴン 

    魔法・罠 メテオストライク

 

 

 

「俺のターン、ドロー!速攻魔法、月の書を発動!魔導雑貨商人を裏側守備表示に変更。そしてメインフェイズに入る。魔導雑貨商人を反転召喚!リバース効果発動!デッキの上からカードをめくる。魔法・罠が出るまでめくり、それ以外のモンスターは全て墓地に送る!」

 

 

 素早いモモンガ、ジャイアントウイルス、メカウサー、巨大ネズミといったリクルーターが15体。人造人間サイコ・ショッカー、サイバティック・ワイバーンといった上級モンスターが2体、墓地へ送られる。

 

 

 

「…よし!俺が捲ったのは、呪いの双子人形!そのまま魔法カード、呪いの双子人形を発動!」

 

 

 

 場に、赤と黒の箱を持った不気味な人形が出現する。

 

 

 

「赤の箱か黒の箱を選べ。赤の箱を選べば、墓地にカードが置かれる度に200ポイントライフを回復する。黒の箱は墓地が消滅する。まぁ、お前がどちらを選んでも結末は同じだがな!」

「戯言を!俺は赤の箱を選ぶ!」

「いいぞ、これで俺の墓地は消滅した。」

 

 

 影谷の場に、浮遊霊となった昆虫族モンスターが浮遊する!

 それだけではなく、月の書、キックバックといった魔法・罠も同様に浮遊する!

 

 

「俺はザ・カリキュレーターを召喚。こいつは俺のモンスターのレベルの合計×300だ。」

「お前の場には、魔導雑貨商人というレベル1の雑魚と、レベル2のその雑魚だけ。よって攻撃力は900だな。」

「いいや。浮遊霊となったモンスターもカウントする。よってレベル2の素早いモモンガが3体、レベル2のジャイアントウイルス3体、レベル2のメカウサーが3体、レベル3の共鳴虫が3体、レベル4の巨大ネズミが3体、レベル5のサイバティック・ワイバーンと、レベル6のサイコ・ショッカーもカウントされる。よってレベルの合計は53!攻撃力は15900!」

「何だと!?」

 

「どうだ、これがオベリスク・ブルーのデュエル・エリートのデュエルタクティクス!バトルだ!行け、ザ・カリキュレーター!サイバー・ツイン・ドラゴンを攻撃!」

「うぎゃああああああああ!」ライフ0

 

 

 

 

 

 

「このデュエルは、無効とします。」

「何故ですか、才災校長。」

「モンスターを浮遊霊として扱わせる行為は、プロデュエリストとしてふさわしくありません。モンスターへのリスペクトに反します。」

 

 

 まぁ、呪いの双子人形がリスペクトにのっとった素晴らしいカードとは使っていて思えない影谷。

 

 

「そもそも。それが通用するのは初見のみ。二度目はありません。それは相手が赤の箱を選んでくれることが前提のコンボですよね?」

「いいえ。相手が黒の箱を選んだ場合も想定しています。」

「何?」

 

 影谷は残った手札の1枚を見せる。

 

 

「相手が黒の箱を選んだ場合、墓地のモンスターは浮遊霊として相手の場に増える。つまり、黒の箱を選んでいれば、西鷹の場にはサイバー・ドラゴンが浮遊霊として2体存在する扱いになるので、自業自得によるダメージが2000ポイントになる訳です。」

「いいですか?呪いの双子人形はリスペクトに反します。今すぐ使用を禁じます。」

 

 

 そう言われた影谷は周りを見渡す。

 ニヤニヤと見る目が大半。どうやら、このデュエルアカデミアは変わってしまったらしい。

 

 

「嫌だと言ったら、どうなりますか?」

 

 教育長に対して、生徒が言うべきではないとわかっていたが、影谷はそれを口にした。

 

 

「分校への転校となります。」

「わかりました。転校の手続きを取ります。」

 

 

 

 この騒動から二週間後、影谷はノース校へ転校する事となる…。




Q:インセクト女王が場にある状態で、コカローチナイトが浮遊霊として存在しています。攻撃力はどうなりますか?
A:2600となります。


Q:切り込み隊長が場にある状態で、コマンド・ナイトが浮遊霊として存在してます。攻撃力はどうなりますか?
A:1200となります。浮遊霊は「場のモンスター」に効果を及ぼしません。


Q:浮遊霊として増援が存在しています。この状態で装備魔法、魔導師の力を発動しました。攻撃力と守備力はどうなりますか?
A:1000ポイントアップします。


Q:浮遊霊として存在しているモンスターをリリースする、または浮遊霊のモンスターでS召喚・X召喚・リンク召喚は行えますか?
A:できません。


Q:呪いの双子人形の黒の箱が適用されているプレイヤーの場で、ライトロード・アサシン・ライデンの効果は発動できますか?
A:できません。


Q:呪いの双子人形の黒の箱が適用されているプレイヤーの場で、王宮の鉄壁を発動した場合、どうなりますか?
A:デュエルは強制終了となります。デュエルの勝敗は強制終了時点でライフが多い方が勝者となります。



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似非ペクトに則った素晴らしいデュエル

拙作のサイバー流が賞賛するデュエルを描写していませんでした。お楽しみいただければ幸いです。


 サイバー流の新師範となった才災勝作は、周囲の門下生を見渡す。

 ついに、この時が来た。

 サイバー流師範の座を鮫島から奪い、自分がトップに立った。

 

 ここから、サイバー流は栄光を掴むのだ!

 

 

「オホン。これより模範デュエルを行います。才津さん、準備はいいですね?」

「はい、才災師範!」

 

 

 

 多くの門下生が見守る中、二人はデュエルディスクを起動する。

 才災が構えるのはサイバードラゴンを連想させる白を基調とし、銀色で縁取りされたサイバー・ディスク。

 

 

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

才災 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

才津 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

「先攻は君からです。才津君。」

「では行きます…ドロー!魔法カード、パワー・ボンドを発動!手札のサイバー・ドラゴン3体を墓地に送り、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!」

 

 

 融合の渦が出現し、三体のサイバー・ドラゴンが渦に吸い込まれていく。

 その渦から、三つ首の機光竜が出現し、咆哮を上げる!

 

 

「ほう、いきなりサイバー・エンド・ドラゴンを!」

「パワー・ボンドにより、攻撃力は二倍の8000になります!ここで、サイバー・ジラフを召喚!このカードを生贄に捧げ、私が受ける効果ダメージを0にします!ターンエンドです!」

 

 

才災 ライフ4000

手5 フィールド 

    魔法・罠 

才津 ライフ4000

手1 フィールド サイバー・エンド・ドラゴン 

    魔法・罠 

 

 

 

 筋肉質な男、才郷 五郎は才津の場にいるサイバー・エンド・ドラゴンを見つめる。

 

「これは、決まったか?」

 

 左目に眼帯を付けた才澤 頼子は才郷に目を向ける。

 

「これで終わるようなら、サイバー・ランカーズ制度についても再考が必要になるわ。」

 

 

 

 多くの視線が集まる中、才災はデッキに手を置く。

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、融合を発動!手札のサイバー・ドラゴン3体を墓地に送り、サイバー・エンド・ドラゴンを融合召喚!」

 

 

 先ほどと同じように光の渦が現れ、そこからサイバー・エンド・ドラゴンが出現する!

 

 

「流石は才災師範!ですが、パワー・ボンドで融合召喚していないため、攻撃力は4000のまま。」

「バトル、サイバー・エンド・ドラゴンで、サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

 

 

 

「まさか、自滅?!」

 

 黒い振袖に身を包んだ才園 麗華は目を見開く。

 

「機械族である以上、あの速攻魔法だろう。」

 

 それに対し、髪の毛を七三分けした才宮 幹夫が口を開く。

 

 

 

 

「手札から速攻魔法、リミッター解除を発動!これで攻撃力は8000になります!」

 

 

 パワー・ボンドで強化されたサイバー・エンド・ドラゴンに対し、リミッター解除により、サイバー・エンド・ドラゴンも限界を超える!

 

 凄まじい光の奔流が、サイバー流門下生の眼を焼く。

 

「あ、相打ち?!」

「メインフェイズ2です。カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

 

 

才災 ライフ4000

手0 フィールド 

    魔法・罠 伏せ1

才津 ライフ4000

手1 フィールド 

    魔法・罠 

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、死者蘇生を発動!蘇れ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

 

 再び現れるサイバー・エンド・ドラゴン。

 力強く咆哮を上げる!

 

 

「ここでサイバー・エンド・ドラゴンを復活させますか。」

「バトル、サイバー・エンド・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「リバースカードオープン!リビングデッドの呼び声!これにより、墓地からサイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚します!」

 

 

 ダイレクトアタックしようとするサイバー・エンド・ドラゴンの目の前に、サイバー・エンド・ドラゴンが立ちはだかる!

 

 

 

 

「これは…迷う所だな。」

 

 銀髪の青年、才獏 良は思わず口を開く。

 

「いや、ここは攻撃だろう。」

 

 角刈りの青年、才川 雄介はそう告げる。

 

 

 

 

 

「…そのまま攻撃です!行きなさい、サイバー・エンド・ドラゴン!」

「迎え撃ちなさい、サイバー・エンド・ドラゴン!!」

 

 またしても相打ちになる、サイバー・エンド・ドラゴン。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

 

 

才災 ライフ4000

手0 フィールド 

    魔法・罠 

才津 ライフ4000

手0 フィールド 

    魔法・罠 伏せ1

 

 

 

「私のターン、ドロー!魔法カード、強欲な壺を発動!デッキからカードを2枚ドロー!ライフを半分払い、速攻魔法、サイバネッティック・フュージョン・サポートを発動!このターン、私が機械族の融合モンスターを融合召喚する場合に1度だけ、その融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを私の手札・フィールド上・墓地から選んでゲームから除外することで、融合素材にできます!」ライフ4000から2000

「という事は…。」

「パワー・ボンドを発動!墓地のサイバー・ドラゴン3体を除外!現れろ、サイバー・エンド・ドラゴン!」

 

 

 攻撃力8000になったサイバー・エンド・ドラゴンが才災の場に現れる!

 

 

「バトル!サイバー・エンド・ドラゴンでダイレクトアタック!」

「り、リバースカードオープン!リビングデッドの呼び声!墓地からサイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚…!」

 

 

 負けは確定だが、それでも才津は抗う。

 

 

「バトル続行!サイバー・エンド・ドラゴンで、サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

「うわあああああああ!」ライフ0

 

 

 

 

 勝ったのは才災だった。

 

 

「す、す、す、凄すぎるッス~!!」

「素晴らしいデュエルです!」

 

 丸藤兄弟が賞賛の声を上げる。

 二人だけではない。

 

 

「すっげぇえええええ!」

「素晴らしいばい!!」

「これだ、これこそがリスペクト精神に則った最高のデュエル!」

 

 

 周りの門下生は才災を口々に褒めたたえる。

 負けた才津にも、声援が飛ぶ。

 

 

 歓声を浴びながら、才災は周りを見渡す。

 自分が望んだ、理想の世界が広がっている。

 

 

 だが、才災は見つけてしまった。冷たい眼をした門下生の少女を。

 

 

 彼女の名前を、才災は知っている。

 

 才波 光里。

 

 どうやらサイバー流の中にいる異分子もこの機会に『排除』しなければならないようだ。

 

 才災は行動方針を決めた。

 



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