【デレマス×ガンダムブレイカー3】CINDERELLA of Gund@m breakerS 外伝 エクストラバトル編 (擬態人形P)
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序章:エクストラバトル(泉・さくら・亜子)

雪原をモチーフにした白い大地のステージを複数の白服のスノーボーダーが駆ける。

………否、それはスノーボーダーでは無い。

モノアイレールのカメラアイを持ったモビルスーツ…「ジュラッグ」と呼ばれる機体の寒冷地用仕様だ。

「ポーラ・ベアー(ホッキョクグマの英名)」とも呼ばれるその機体の群れは、スノーボードに見立てたシールドである「スレッジ」で滑走し、メイン武装の「ビームマシンガン」を小刻みに自分達の敵に向かって乱射してくる。

しかし………。

 

「ぶっ放しまぁす!!」

 

威勢のいい…しかし、何処か可愛げのある咆哮が聞こえた途端、巨大なピンク色のビームがそのジュラッグの群れを薙ぎ払う。

四門の「シグマシスキャノン」による固有EXアクションである「フォートレスフォアブラスター」が炸裂したのだ。

その圧倒的な威力と光は戦場をピンクに染め上げ、ジュラッグの群れを文字通りかき消していく。

 

「それそれそれそれぇ!」

 

反応が追いついた機体は「スレッジ」で防御態勢を取ろうとするが、圧倒的な威力の前にパーツをバラバラに撒き散らして消し炭になるだけである。

そして、砲撃が止んだ瞬間、その場にいた機体は全て消滅していた。

 

「やったよー!イズミン!アコちゃん!」

 

声の主は346プロのアイドルの村松さくら。

彼女は「ジェスタ」をモチーフにした「ジェスタ・ピーチブラスター」と命名したピンク色に塗装されたガンプラを駆っていた。

「ブラスター」の名の通り、砲戦に特化した機体で「ガンダムヴァーチェ」の「GNバズーカ」に、「ジェスタ・キャノン」の「4連マルチランチャー」や「ビーム・キャノン」といった豊富な武装を取り揃えているのが大きな特徴だ。

オプションも砲撃を強化する物を重視している他、「熱核ホバーエンジン」でホバー移動が出来るので機動力も確保できている。

 

「流石さくらね、偉い偉い。」

「敵増援のペースがさくらの砲撃に追い付いとらんな~………。後詰めのアタシの出番も無いし、それだけさくらが凄いってことやな!」

 

さくらのピーチブラスターの頭?をよしよしと撫でるのは青い「ジェガン」と黄金の「ジムⅢ」。

青いジェガンを扱うのは大石泉。

「ジェガン・ネイビーリコン」と命名されており、「EWACジェガン」をスリムにしたフォルムをしている。

ビルダーズパーツでレドーム等を作成した他、実際にオプションでセンサー系統などのサポート能力を強化しているのがポイントだ。

さくらが砲戦機なら泉は「リコン」の名が示す通りの偵察機。

敵陣に斬り込み、情報収集をして仲間の二人に敵の情報を伝達し、更には強化しているスピードや運動性でかき乱すのが役目だ。

そして、黄金のジムⅢを扱うのは土屋亜子。

「ジムⅢ・サルファーアーマー」と名付けられたガンプラは、射撃武装こそ、最低限しか無いものの、接近戦では「ガンダムエピオン」の「ビームソード」が猛威を振るう。

何より「アーマー」の名の通り、全身に施された「アレックス」の「チョバム・アーマー」や「デュエル」の「アサルトシュラウド」が目を引く。

オプションでとにかくガチガチに硬くし、敵から目立つ黄金で塗られた鎧で囮役を担うのが本機の仕事だ。

また、前に飛ぶだけのブーストの出力も上がっている為、敵の懐に飛び込むだけの瞬発力もある。

さくら・泉・亜子の3人のユニットである「ニューウェーブ」は個々の役割がハッキリしており、泉が敵陣に飛び込み情報を収集しながらかき乱し、その情報を受け取ったさくらが砲撃で薙ぎ払い、逃げ延びた敵を亜子が近接戦闘でトドメを刺すのが一番の特徴だった。

だが、今回の「テスト」はさくらのピーチブラスターの火力が強すぎて、亜子のサルファーアーマーの出番がなくなってしまった。

しかし………。

 

『流石に彼等だけでは力不足みたいですね………。』

『やっぱり、俺達が頑張らねぇとな!』

「!?」

 

通信と共にまた複数のジュラッグのホログラムが現れ実体に代わる。

それと共にアラートが響き、空から新たな敵が降ってきた。

 

「その声………、もしかして、カリス・ノーティラスさんにガロード・ランさんですかぁ!?」

「大将機のお出ましやな!」

『手合わせ願いますよ、ニューウェーブの皆さん。』

『炎のモビルスーツ乗りの力、見せてやるぜ!』

 

現れたのは白い流線型の「ペルティゴ」に似たガンダムと白を基調とし肩が青く塗られた「ガンダムX」に似た機体。

 

「「ガンダムヌーヴェル」に「ガンダムX3号機」ね………。敵の動きは………!」

 

初めて戦う敵ではあるが、予め知識として持っていた泉が「ギュネイ専用ヤクト・ドーガ」の「ビーム・アサルトライフル」をすかさずガロードのガンダムX3号機に向け、連射する。

 

『甘いぜ!』

 

だが、ガロードは難なくそのビームを躱すとお返しと言わんばかりに泉に向け、右手に持った「シールドバスターライフル」と左肩に担いだ「ハイパーバズーカ」を同時に撃ってくる。

 

「させへんで!」

 

流石に回避が難しかった攻撃を亜子機が射線上に入り、受け止める。

「耐ビームコーティング」や「アサルトシュラウド」等で強化した装甲には、さほどのダメージは無い。

しかし、ガロードはすかさず装備を入れ替えると「大型ビームソード」で亜子機に向け突進してくる。

亜子はエピオンのビームソードで対応。

高出力のビーム刃の鍔迫り合いになる。

 

『この距離なら砲撃支援はできないな!』

「成程!………でも、「サテライトキャノン」を使わず、アタシと接近戦とはええ度胸や!」

『アレを使うだけの隙も無いし、使いたくはないからな………それに、敵は俺だけじゃないぜ!』

「というと………!?」

 

ガロードの後方で只、たたずんでいるだけに見えたカリスのガンダムヌーヴェルが、両腕に搭載された「スラッシュシールド」から無数のコマのような物体を飛ばす。

 

「い、イズミン!アレ、何!?」

「「AIドローンビット」!72基のオート操作のビットによる攻撃よ!」

「な、ななじゅうにぃ!?」

 

泉から告げられたその恐るべき数を聞いたさくらは、無数に湧いてくるジュラッグを迎撃しながら仰天する。

カリスはそのビットに指示を出すと、亜子機に指を向ける。

 

『ビットよ!僕の敵を討て!』

「うわわわわ!?」

 

亜子機の周りに集まった無数のビットが、全方位から細かいビームを放つ。

ある程度制御がされているのか、ガロードのガンダムX3号機には傷がつかないのに、亜子のサルファーアーマーにはどんどんビームが集中する。

 

「り、「リペアキット」!………ってどんどん回数が減っていく!?」

 

塵も積もれば何とやら。

じわじわと耐久値が減っていく為、亜子は最大計20回使える、自機を回復させるリペアキットを連続で使っていくしかない。

後何回使えるか分からない回復の恐怖が重なると自然とビームソードの動きも鈍り、その隙を狙ったガロードの大型ビームソードを受けていき、更に状況は悪化する。

 

「い、いずみ!援護して!!」

「ゴメン!私もさくらも似たような状況!」

 

泉のネイビーリコンとさくらのピーチブラスターにも、AIドローンビットが集中している。

更に泉機にはカリスのガンダムヌーヴェルが詰め寄り、さくら機にはジュラッグ達が群れてきている。

 

「急に難易度高すぎやろ………。どう打開する、いずみ!」

「『フィールドリペア』で三機全てを一度に回復する!その隙に………!」

 

泉は隙を見てドローンビットを何とか撃ち落とそうと砲撃を空に放つさくらに敢えてオープン通信で叫ぶ。

 

「さくら!亜子ごとガロードを吹き飛ばして!」

「ええっ!?」

『何ぃッ!?』

 

とんでもない指示に驚くさくらとガロード。

しかし、亜子は泉に回復して貰った瞬間に、動揺したガロードに向けチャンスと言わんばかりに詰め寄り、また鍔迫り合いにもっていく。

 

「そう来るか!構わへん!さくら、撃て!」

「撃てませぇん!」

「可能性に殺されるぞ!………じゃなくて、いずみを信じろ!はよ撃て!」

「………ゴメンねぇ、アコちゃん!」

 

さくらはGNバズーカを構えると亜子のサルファーアーマーとガロードのガンダムX3号機に向けてピンクの圧縮粒子の球体を作り出す。

 

「GNバズーカ!ハイパーバーストモード!!」

『やっべっ!?』

 

さくらが本気で撃ってくるのが分かったガロードは亜子機を蹴り飛ばし後ろにステップをしてバランスを崩しながらも避ける。

結果、GNバズーカから放たれた高出力の球体は亜子機だけを巻き込み爆散するが………。

 

「いっくでーーーッ!!」

『いいッ!?』

 

爆炎の中から一直線に飛び出してくる亜子のサルファーアーマー。

シールド扱いのチョバム・アーマーのパーツが外れていたが、右手に持ったビームソードは無事だった。

予想外の亜子機の出現にガロードは横に避けようとするが、もつれた足はそう簡単に言う事を聞かない。

それを泉は見越していたのだろう。

亜子はこの機を逃すものかとガロード機に突撃するとEXアクションの「ブラストタックル」の体当たりから「スラッシュペネトレイト」の斬り払い、更には「ブレードストーム」の連続攻撃を喰らわせて、最後に打ち上げる。

 

「さくら!でっかい花火や!」

「「メガランチャー」!!」

 

胸から極太のビームを放つさくらのピーチブラスター。

高威力の連続攻撃からトドメの砲撃を受けたガロード機は空中で爆散する。

 

『ティファにもっといい所見せたかったなぁ………。でも、アンタ達凄いぜ!』

 

そう愚痴と称賛の言葉を言いながら。

 

『さくら機の威力と亜子機の耐久値、そして貴女自身の回復値をしっかり計算していたようですね。』

「それが私の役目。戦術プランは常に練っておかないと。」

 

ガンダムヌーヴェルに備え付けられたスラッシュシールド先端の「ビームサーベル」を躱しながら泉は答える。

勝利の為に必要な事は仲間を信じる事。

幸い、彼女にはプライベートにおいても、アイドル活動においても、そしてガンプラバトルにおいても、その仲間が存在した。

それが、一見無茶苦茶に見えるプランも可能にしてくれるのだ。

実際、足止めをされる形になった泉のネイビーリコンも、逆にカリス機を足止めしていると判断すれば、状況は変わってくる。

そこに、ガロード機を撃破した亜子のサルファーアーマーとさくらのピーチブラスターも飛んできた。

 

『僕らの完敗です。貴女達の未来が明るい物であることを願います。』

「ありがとう、優しいAIね、貴方達は。」

 

大きくパワーバランスが崩れた事で、間もなく勝負は決した。

 

 

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「お疲れ様、バトルはどうだった?」

「最後は随分激しい戦いだったが、やっぱり難易度がきつかったか?」

 

346プロに設置された「ガンプラバトル」のシミュレーターから出てきたニューウェーブの三人に向けてアイドル仲間である八神マキノと池袋晶葉が話しかけてくる。

彼女達二人と泉は電子機器に詳しいアイドルという事で、このシミュレーターの整備を担当している。

独特な設定を持ったガンプラ談義にも熱が入る事があり、最近はよく話す機会も増えていた。

 

「雑魚敵とボスのレベル差が気になるわ。もう少し調整が必要かも。」

「でも、楽しかったでぇす!」

「最後はやっぱりいずみの戦術勝ちだったけれどな~。」

 

泉と共に、さくらと亜子もそれぞれ感想を言っていく。

今回のバトルは実は「テストプレイ」であって、今回のバトルのステージが実際のシミュレーターに対応されているわけではない。

それもそのはず、実は今回登場したジュラッグ、ガンダムヌーヴェル、そしてガンダムX3号機は………。

 

「シミュレーション非対応機。原作のパイロットをモチーフにしたAIを含め、どんな動きをするか興味があったが、これは面白そうだ。」

「あれ?マキノさんもバトルしたくなったんですかぁ?」

「正直に言えば………ね。私も晶葉もうずうずしていたのは事実よ。」

「アレだけの柔軟性と動きを見せられて興味を持たない方がおかしいだろう。」

「まあなぁ………。しかし、カドマツさんもおもろい物持ってきますな!」

 

亜子がその場にいたもう一人の人物………唯一アイドルでなく男性である人物に話題を振る。

カドマツと呼ばれた男は色々と考えこみながら発言をする。

 

「ニューウェーブの嬢ちゃん達を実験台にする形になって申し訳ないが、正直俺も驚いてるよ。現在ガンプラバトルシミュレーターを管理しているVer.3の運営の中にこういう部門がある事は知っていたが、まさかここまでの事をやっていたとはな………。」

「ところで………そろそろこんな素敵なバトルのデータを披露してくれた、詳しい経緯を明かしてくれないかしら?」

 

マキノの言葉にカドマツは説明する。

シミュレーターには、まだまだ非対応のガンプラが存在している。

そうしたガンプラの種類を少しでも増やす為に、実験的にデータを盛り込んでいる部門がある。

そうした部門では、更に実験的にそのガンプラのモチーフになった機体の搭乗者のAIを搭載するという実験も行われているらしい。

 

「その1つが今回のガンダムX世界………いや、「機動新世紀ガンダムX NEXT PROLOGUE「あなたと、一緒なら」」をモチーフにしたバトルというわけさ。」

 

この世界はガンダムXの続編で、成長したガロード・ラン達が登場する漫画作品である。

今回のバトルに登場したAIや機体はその物語に登場するモビルスーツをモチーフにしたものが含まれていた。

まだ未対応のモビルスーツやAIと試験的に戦える。

そんな、ある意味素敵な企画の部門の秘蔵データを何故外部のカドマツが持っているのかというと………。

 

「やっぱり………先日の件ですか?」

「ああ。ミスターガンプラから「お詫び」という形で実験的なデータを幾つか貰ってな。」

 

ジャパンカップのエキシビジョンマッチ。

「彩渡商店街チーム」とミスターガンプラのバトルが終わった後、突如「タイムズユニバース」の若き経営者であるウィルが乱入してきた。

そして、ミスターガンプラを倒した村上巴達を圧倒した後、後日直々に彩渡商店街チームの前に現れ、宣戦布告してきたのだ。

 

「ミスターガンプラの話じゃアイツにも色々何か思う所があるらしいが、こっちも黙って負けてられないからな。俺も大人の一人として色々考えたのさ。」

「カドマツさぁん………。」

 

思わずさくらは涙ぐみそうになる。

大人として、カドマツはリーダーのミサに発破をかけて修行の旅に出し、ロボ太の方を改修しながら、更には巴を始めとしたアイドル達にも何か提供できないか考えていたのだ。

 

「ええなぁ………。そういう人物の存在は有難いわ。」

「おいおい、褒めても何も出ないぞ?悪いが俺も暇じゃないんだからな。」

「謙遜しなくていい。もしかしたら父性とは、そういう物なのかもな。………で、その結論が、ミスターガンプラから密かに譲って貰ったそのシミュレーションのデータってわけか。………「エクストラバトル」とも呼べばいいか?」

 

何か含みのある亜子や晶葉の言葉を聞きながら、カドマツはデータの入ったメモリを複数取り出す。

このデータは修行の参考としてジャパンカップに出た村上巴、喜多見柚、関裕美、藤原肇、荒木比奈の5人のアイドル達を高める為に使えるだろう。

問題は………。

 

「誰からこのエクストラバトルのデータを渡していくかだな………。先にアジアツアーに行く裕美の嬢ちゃんのグループにはうってつけの物を内緒でモチヅキに渡してあるが………。ここに関して、マキノの嬢ちゃんは何かいい情報入手してるか?」

「勿論。………と言ってもあまりいい情報ではないな。一緒に修行をしているユニットの人達に密かに人間観察をして貰ってるんだけれど………その五人の中で、一人ちょっと焦りを抱いている娘がいるのよ。」

「焦り………?巴の嬢ちゃんか?」

「いいえ、巴よりは柚かしら。」

「柚の嬢ちゃん?確かに祝勝会じゃ、かなり荒れてたが………。」

 

マキノは説明する。

とても友達想いで、実は負けん気が強くて、今は少し空回りしてしまっている少女の事を。



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1章:柚ちゃんリラックス大作戦!!(柚・穂乃香・忍・あずき)・前編

喜多見柚は自分のガンプラと共に砂漠に立っていた。

その先に居るのは「ガンダムアストレイゴールドフレーム」を元にした機体。

 

(アイツだ………。)

 

ジャパンカップのエキシビジョンマッチに乱入してきた機体。

大切な友を侮辱した機体。

大切な友の想いを踏みにじった機体。

許せる相手ではない。

 

(ここでアタシが………!)

 

ビーーーッ!ビーーーッ!ビーーーッ!!

 

(ッ!?)

 

闘志をむき出しにして武器を構えようとした柚であったが、ここで異変が起こる。

意味不明なエラーが起こり、突如自分のガンプラが動かなくなったのだ。

 

(どうして!?何で!?こんな時に!?)

 

焦る柚に対し、敵はゆっくりと刀を抜きはなち、こちらに歩いてくる。

少しずつ、着実に………。

 

(動いてよ!お願い!動いて!!)

 

しかし、想いは通じず、柚の機体は………。

 

 

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「うわーーーッ!?」

 

思わずガバッとベッドから身を起こす柚。

焦って周りを見渡せばここは我が家の自室であった。

 

「ゆ………夢?」

 

悪夢………としか言いようが無かった。

友である村上巴のガンプラをバラバラにしたタイムユニバースの経営者であるウィルのガンプラを倒そうとして、逆に返り討ちにあったのだから。

彼女はため息をつき、冷や汗を袖で拭うと改めて夢だった事を再確認し、思わず苦笑する。

 

「もー変な夢見ちゃったヤダヤダ、ちょっと眠れないしガンプラいじろー。」

 

敢えて小さく鼻歌を歌いながら、柚は机に向かって自分のガンプラを改修していく。

大体、現実はこうではないはずだ。

バトル中に変なエラーが発生するはずも無いし、恐怖に震えるはずもない。

何より………。

 

「ガンプラ製作は~♪楽しまなくっちゃね~♪」

 

そうやって今まで自分達はやってきたのだ。

これからもその姿勢は変わるはずは無い。

だから………。

 

「だから………負けるはずないよね。」

 

少しだけ柚の鼻歌と手が止まり、無意識のうちに軽くぎゅっと握り締められた。

 

 

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「柚さんを元気づける方法?それなら山形リンゴを食べ………んごご!?」

「それ、あかりちゃんが宣伝したいだけだよね?真面目に考えて無いよね!?」

 

同時刻、柚と同じユニット………「フリルドスクエア」の一員として修業している工藤忍は、アパートの自室で、商魂逞しい辻野あかりの柔らかそうな頬をつねっていた。

部屋にはあかりと同じユニット「#ユニット名募集中」のメンバーである砂塚あきらと夢見りあむも招かれている。

忍は最近、少しガンプラ作成やバトルに集中しすぎて、いつもの元気さが薄れている傾向のある柚がリラックスできる方法を彼女達に聞いていたのだ。

 

「柚ちゃんがやむと………ぼくもやむ………。そのウィルって男………ネットで炎上すればいいのに………。」

「それは柚サンも巴サンも望まないんじゃないんデスか?多分、二人とも、自分の手で決着付けたいでしょうし。」

 

うつむき両人差し指をつんつんと突き合わせながらも怖い事を呟くりあむに対し、それに臆する事無く正論で返すあきら。

あかりを開放した忍は、りあむが持ち込んだ焼きギョーザを食べて嘆息する。

それを見てあきらは彼女にこう告げる。

 

「冷たいかもしれませんが………ソレは大会に参加している柚サン達5人の問題であって、忍サン達がとやかく言う事では無いと思いマス。」

「そうだね………確かにあきらちゃんの言う通りだと思う。実際、巴ちゃんが何とかするって言ってくれてるし、何よりアタシ達アイドルは、助言は貰っても答えは自分自身で出さないといけないんだから………。でも………。」

「何かマズイ兆候でもあったんですか、忍さん?」

 

あかりの言葉に頬杖をついた忍は説明をする。

今の柚を見ていると、どうしてもアイドルを目指していた頃の自分自身を思い出してしまうのだ。

夢を否定され、単身上京するという無謀な姿を見せてしまった工藤忍自身に。

 

「え?柚ちゃん………そんなにヤバイ精神状態なの?だったら猶更あのウィルって男………。」

「あ、ゴメンなさい!あの頃のアタシ程ヒドくは無いんです!………只、根詰めすぎるとどうしても視野が狭くなるし、一つの事にのめり込んじゃうんだよね。それこそ、知らない内に寝不足になるくらいに。」

「つまり………柚さんが大会に参加している内に倒れちゃうかもしれないって事ですか?」

「それは無いと思いたいけれど………重症化する前に何とかしたいのがアタシの考え。………というか、アタシの場合、このクセ直すのに相当時間掛かったから。」

 

経験者は語る………というわけだろうか。

自身の体験故に柚が気掛かりになる忍の気持ちも分からないわけではない。

しかし、あきらの言う通り、当人達の問題であるのも事実だ。

 

「このままだと今度のオフでもシミュレーターで訓練しそうだし、どうしたものか………ん?」

 

チャイムが鳴った事で忍は玄関に走り扉を開ける。

 

「邪魔するぞ。」

「カドマツさん………でしたっけ?」

「ゴメンなさい、私が住所教えたの。」

 

そこにはカドマツと八神マキノが立っていた。

 

 

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「成程なぁ………柚の嬢ちゃんは軽そうに見えるが、やっぱり譲れない物はあるってわけだ。」

 

こうして小さな丸いテーブルを囲み、焼きギョーザとあかり持参の山形りんごを食べる事になった六人は情報交換をしあった。

ニューウェーブの三人がテストをしたエクストラバトルの事。

柚の現在の精神状態の事。

忍達それぞれの意見や想い。

それぞれを確かめた上で、カドマツは忍にとあるメモリを渡した。

 

「これ………そのエクストラバトルのデータ?」

「とあるバトルのデータを入れてある。忍の嬢ちゃん達が、この中にあるデータをどう活かすかは自由だ。」

「特訓用としてミスターガンプラに貰ったのに………ですか?」

「今の話を聞く限りじゃ………嬢ちゃんは「特訓」の意味を正確に理解できてるだろ?………当事者でない以上直接的にできる事は少なくても、ユニットとして支える事はできる。違うか?」

「カドマツさん………。うん!」

 

忍は力強く頷くと、早速フリルドスクエアのメンバーである綾瀬穂乃香と桃井あずきにメールを送信し始めた。

 

 

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「アタシ!オフの日もガンプラバトルがしたい!」

 

そして後日、フリルドスクエアの久々のオフの日に柚は予想通りの言葉を発した。

それを聞いた忍・穂乃香・あずきの三人は目くばせをして柚にじゃーん!と例のメモリを見せる。

 

「柚ちゃんがそう言ってくると思って!」

「カドマツさんから良い物を預かってきました!」

「名付けて!エクストラバトル大作戦!!」

「え?え?え!?」

 

笑顔でエクストラバトルの説明を始めるフリルドスクエアの三人に、柚は目をパチクリさせた。

 

 

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「も~!そんな凄い物、貰ってたんならすぐに教えてよ~!」

 

346プロのシミュレーターの前で、柚は頬を膨らませる。

 

「ゴメン、ゴメン!」

「柚ちゃん驚かせ大作戦は大成功だね!」

「これでも悪気は無かったんです。」

 

それに対してやんわりと笑顔で答える忍、あずき、穂乃香の三人。

ここら辺、データ提供者のカドマツといい、フリルドスクエアの仲間達といい、いい性格をしているものだ。

 

「で、中身はどんなバトルなの?」

「実はそこまでは私達も知らされてないんですよ。」

「開けてみてのお楽しみだってさ。」

「カドマツさんのフリスクドッキリ大作戦だね。」

 

マキノとかならばデータの中身を調べることができるかもしれないが、フリルドスクエアの面々にはそこまでの解析能力は無い。

だから、忍の言う通り、起動してみなければどんなバトルになるか分からなかった。

 

「ま、楽しもうよ!今日は!」

「そうだね!どんなバトルでも柚達は負けないよ~!」

「………うん。」

 

勝気な笑顔を見せる柚の言葉に、少しだけ顔を曇らせて忍はデータをカドマツの言われた通りにシミュレーションにインストールする。

後は、これでガンプラをセットして起動させればOKであった。

 

「さてと………じゃあ、今日も宜しくね♪」

「柚ちゃん、今日も「ガンダムF91」で戦うんですか?」

「あ、うん………ベース機は決めてるんだけれど、中々最終的なイメージが固まらなくて。」

 

穂乃香の言葉に苦笑する柚。

彼女の機体は、言葉通り頭からつま先までガンダムF91だった。

只、実はバックパックだけがHGではなく一回り大きいMGで作られており、武装の「ヴェスバー」も含め巨大化されているのが大きな違いだ。

また、アイドルの中では少ない「覚醒」の使い手である柚は黄色に輝き主にスピードを強化する「ライトニング覚醒」を使いこなす。

ここから「MEPE」の加速力も上乗せし、「ビーム・サーベル」の連撃等から、巨大ヴェスバーから放出されるという設定の「V2ガンダム」の「光の翼」に繋げるのが得意技であった。

 

「ま、その内どうにかなるよ。………みんなはいつものガンプラ?」

「うん!あずきはやっぱりフリルドスクエアのみんなで協力して作ったこの子!」

 

あずきが駆るガンプラは「ライトニングガンダム」を大きく改造した紫色の「ジンライ・クレハトリ(迅雷呉服)」。

迅雷呉服の名の通り、ライトニングガンダムが呉服を着たような外観になっているのが大きなポイントで、「グシオン・リベイク」や「ノーベルガンダム」等のパーツを組み合わせている他、ビルダーズパーツでお団子髪や帯等を作っている。

肝心の戦闘に関しては、射撃にも格闘にも使える「ケルディムガンダム」の「GNビームピストルⅡ」を用いた近接遊撃が得意レンジ。

小型に調整して腕部に埋め込んで見えなくした「∀ガンダム」のシールドによる「Iフィールド」でビーム射撃にも強く仕上がっていた。

あずきとしてはこのIフィールドの設定も色々と試行錯誤して考察中であるらしい。

 

「忍ちゃんはオリジナル機体に慣れた?」

「ボチボチかなぁ。でも、その内完璧に使いこなせるようになる!」

 

忍の扱う赤いガンプラは「ガンダムAGE-2ノーマル」を元にした「ガンダムAGE-2イグザス」。

イグザスとは努力の意味を持つ「exertion(イグザーション)」の略語とパイロットのアセム・アスノと関連が深いウルフ・エニアクルが乗っていた「Gエグゼス」に近い響きを持つ事から忍が命名した物だ。

機体性能としてはAGE-2のスピードに加え、フレーム剛性を高めつつ各部に推進機を追加したことで「軽く俊敏な挙動」から「重い機体を高出力で制御しつつ飛ばす」形にした非常に扱いが難しい機体。

それに伴い、目立つ武装は「ハイパードッズライフル」と「ガンダムエクシア」の「GNビームサーベル二刀流」と「ガンダムアスタロト」の「サブナックル」のみである。

但し、サブナックルは「シグルナックル」と命名しており、忍なりのかなりの拘りがあり、「疑似GNドライブ」による「トランザム」も切り札として持っていた。

 

「穂乃香ちゃんのガンプラは惚れ惚れするよねぇ………。」

「そうですか?そう言って貰えると嬉しいです。」

 

穂乃香の組み立てた水色のガンプラは「バスターガンダム」から改装した「ヘリクスバスターガンダム」。

バスターガンダムを「ストライクフリーダム」や「インフィニットジャスティス」と同水準の技術で再設計したという設定の機体で、前者の「MA-M21KF 高エネルギービームライフル」や後者のボディが組み込まれている。

目立つ強化ポイントはセンサーと各種スラスターの増設で、バレエが趣味の穂乃香らしくどんな戦況でも機体の体幹を保ち、ピルエット(回転)を舞いながら周囲360度の敵機を四挺六種の砲撃とミサイルを使い華麗に撃破していくのを最大の特徴としていた。

機体名もそれ故に「ヘリクス(螺旋)」と付いているが、普通に支援機として戦っても勿論、優秀であった。

 

「楓サン達も言っていたけれど、みんな個性が出ていていいよね!」

「じゃあじゃあ、早速動かそうよ!」

 

あずきの言葉に全員が頷きシミュレーターに入る。

ガンプラをセットすると、それぞれの機体が電子的な青いカタパルトに出現し、順次発進していく。

ここで自由に叫べる口上も、密かなアイドル達の楽しみであった。

 

「やっぱりここはこうかな?ガンダムF91は、喜多見柚で行きます!」

「桃井あずきはジンライ・クレハトリで出撃!エクストラバトル大作戦開始だよ!」

「工藤忍専用ガンダムAGE-2イグザス………努力と根性を心に秘めて、発進!」

「私達も行きましょう。ヘリクスバスターガンダム、今日も新たなる表現を目指して!」

 

四機のガンプラはそれぞれエクストラバトルのステージへと発進していった。

 

 

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フリルドスクエアが降り立ったのは基地が並ぶ海岸線沿いのステージであった。

 

「ここは………。」

『貴女達がフリルドスクエアね!』

「ん?敵!?」

『違う!違う!』

『私達は味方よ!』

 

突如聞こえてきた通信にフリルドスクエアの四機はそれぞれの背を守るように四方向に武器を構える。

しかし、ホログラムとなって現れた三機の機体は慌てて手を振って味方であることを示す。

見れば、その機体は白と赤で構成されたガンダム顔の量産機。

通信画面には、金髪の少女と眼鏡の少女とショートヘアの少女がそれぞれ現れる。

 

「「オーブ連合首長国」の「M1アストレイ」だ………!その顔といい声といい、乗っているのは………!」

『そうそう!分かってくれた!?』

「小説版で活躍した「アストレイ三人娘」のリーダー格であるアサギ・コードウェルさんと!?」

「外伝漫画で活躍!ロウ・ギュールさんとラブロマンス?を描いたジュリ・ウー・ニェンちゃんと!?」

「何故かゲーム作品だと三人娘の中では一番能力が低く設定されがちなマユラ・ラバッツちゃん!」

『ちょっと、もう!人の苦労も知らないでーーーッ!!』

 

最後のあずきの容赦無い解説に激高するマユラ。

その様子に苦笑いを浮かべるジュリと頭を片手で抱えるアサギ。

確かに「機動戦士ガンダムSEED」に登場する通称オーブ三人娘であった。

 

「へー………このエクストラバトル、味方AIも登場するんだ。」

「柚ちゃん、よく見て下さい。このM1アストレイのガンプラ最新版ですよ。「対艦刀」を装備してます。」

 

穂乃香の言葉に柚は確認する。

確かに腰部サイドアーマーの専用マウントに実体剣が備え付けられていた。

元々は「ストライクガンダム」の「I.W.S.P.」に付く装備であったが、色々な理由があって、M1アストレイの最新のガンプラにはこの武装が付属しているのだ。

 

「最新版データだけあって細かいなぁ………それにしても………。」

 

柚は見る。

忍はジュリと熱心に何か話しているし、あずきは先程の件で機嫌を悪くしたマユラにペコペコ謝っている。

 

「何かほのぼのとしてるな~………。これからミッション開始なのに。」

 

苦笑する柚に、ひっそりと顔をしかめる穂乃香。

そんな彼女にアサギから声を掛けられた。

 

『そろそろミッションについて説明するわね!相手は地球連合軍!海岸から上陸してくる敵を追い払って!』

「地球連合軍というと………主な相手は「ストライクダガー」でしょうか?」

『他にも何か出てくるかもしれないわ!………とにかく貴女の指示に従うから対処して!』

「私が指揮官………ですか?」

『貴女が一番まともに判断できそうだからよ。』

「カドマツさん達………柚達に渡す際に、どんなデータ処理したんだろ?」

 

思わず半目になる柚に対し、指揮を任された穂乃香は色々考える。

とりあえず各自の性格の問題を除いたとしても、主に後方支援を得意とするヘリクスバスターを扱う穂乃香は適任だとも思えた。

そんな会話をしている内に………。

 

『来るわよ!』

 

アサギの言葉にフリルドスクエアの四人は、海岸線沿いからホログラムとなって現れた機体を見る。

グレーの素体に青と赤の配色が施されたゴーグルアイのモビルスーツは間違いなく地球連合軍のストライクダガーであった。

 

「さてさて、司令官どうしますかな~?」

「そうですね………シミュレーション非対応機体ですし、敵の動きを探る上でも今までのセオリー通り、柚ちゃんとあずきちゃんで前線を形成してください。忍ちゃんと私で砲撃支援をします。前線を抜け出した敵はアサギさん達が射撃で対処を。」

『了解!』

 

七体の機体は穂乃香の指示通りに動く。

柚のF91はMEPEを発動させるとヴェスバーによる射撃で怯ませ、ビーム・サーベルを両脚から抜き放つ。

 

「おりゃりゃりゃりゃ~~~!」

 

そのまま両手首ごとビーム・サーベルを回転させ敵の群れに突撃していくと、気持ちいい位にパーツが吹き飛び、爆発を起こしていく。

 

「もっとだ、もっと、もっと、こい!………うん!まだ、大した事は無いよ!あずきちゃんも突貫して大丈夫!」

「じゃあ、あずきも!」

 

あずきのクレハトリはGNビームピストルⅡで側転しながら射撃をストライクダガーに撃ち込み、更に怯んだところでEXアクションの「トマホークハリケーン」を発動。

自分自身がコマのように大回転しながら、敵を次々と吹き飛ばしていく。

 

「この回転クセになる~~~!名付けてハリケーン大作戦!………単純かな?」

「油断はいけないよ、あずきちゃん。………AGEシステム起動!さあ!動いて、ガンダム!」

 

忍のイグザスはシューティングモードを起動し、ハイパードッズライフルを次々と敵機に撃ち込んでいく。

勿論、ストライクダガーも手持ちの「M703 57mmビームライフル」やその下部に設置された「グレネードランチャー」で動きの鈍った忍機を狙うが、防御力を強化しているだけあって、大したダメージにはならない。

 

「青森より愛を込めて………ってコレは違うかな?」

「そういう忍ちゃんもちょっと浮かれていますよ?新鮮な気持ちになるのは分かりますけれど。」

 

穂乃香のヘリクスバスターは手持ちの二門の高エネルギービームライフルを連結して高威力の照射攻撃を放つ。

更に柚機とあずき機が形成した前線を抜け出してきた敵機には、アストレイ三人娘の「71式ビームライフル」の援護射撃と共に、左右のバックパック上部に追加された二種類の「6連装ミサイルポッド」を撃ち込んでいく。

 

「でも変ですね………。まだ難易度が低いというか………。」

『強敵………来るわよ!』

「!?」

 

アサギの言葉にストライクダガーに交じって、青と黒の重装備型の機体と緑と肌色の砲戦型の機体が複数現れた。

両方共、ストライクダガーを元にしているようだが、前者は「デュエルガンダムアサルトシュラウド」、後者は「バスターガンダム」に似ているようにも感じた。

 

「「デュエルダガー フォルテストラ」と「バスターダガー」ですね。遠距離砲戦用機体が来ましたか。」

『望むところよ!だったら接近戦で………わ!?』

 

ジュリが「70式ビームサーベル」を抜こうとしたが、その瞬間バスターダガーの「94mm高エネルギー収束火線ライフル」がかすり、右腕が吹き飛ぶ。

幸い、柚達のガンプラと同じく耐久値があるのか、吹き飛んだ腕は赤外線レーザーで元の位置に戻ってくる。

しかし、デュエルダガーの「115mmリニアキャノン」等も加わり、途端に相手の砲火が激しくなった。

 

「アサギさん達はシールドで防御しながら射撃支援を!無理に突撃しようとしないでください!忍ちゃん、前線に移動してバスターダガーとデュエルダガーを優先的に撃破して下さい!」

「合点承知!」

 

超高出力収束ビームで狙い撃つEXアクションである「カルネージシュート」で、ジュリを狙ったバスターダガーを撃ちぬいた忍のイグザスは、そのまま耐久力を活かし一直線に一機のデュエルダガーを狙い、体当たりを喰らわせる「ブラストタックル」で射線上にシールドを構えて乱入しようとしたストライクダガーを逆に蹴散らしながら突撃する。

デュエルダガーは慌てて「ES01 ビームサーベル」を抜こうとするが、それより早く忍機は左腕のメッキ塗装が施されたサブナックルを叩きこむ。

 

「これがアタシの………シグルナックルだ!!」

 

ドゴォッ!という凄まじい音と共にフォルテストラの強化装甲ごと粉砕されるデュエルダガー。

それもそのはず。

忍はこのサブナックルを重点的に強化しており、当たれば相当な威力を発揮する。

元々設定としては「スパロー」の「シグルブレイド」を更にナックルとして強化したものであるらしく、武装の少ない忍機のいわゆる「必殺技」として改造が施された。

こういう所は、左利きである忍の拘りが見られる他、高機動の「トランザム」と併用する事で高機動機に対しても高い命中率を誇る。

 

「やっぱり自分の拘りって大事だよね!………さぁ、どんどん殴っていくよ!」

「忍ちゃ~ん、言ってる事、アイドルとして相当物騒だよ~………。」

 

ひっそりと苦笑いを浮かべた柚がツッコミを入れるが、忍はお構いなしでバスターダガーやデュエルダガーを次々とぶん殴って重点的に破壊していく。

地球連合軍にしてみれば、前線に三機も厄介な敵機が紛れ込んだ事でこれらの強力な砲戦機達の力が中々発揮されにくくなっており、結果的に支援に入る穂乃香達も楽になる。

特にヘリクスバスターを操る穂乃香は、センサー系を強化した事もあって、確実に敵機を射抜いていった。

 

「このままなら大した被害も無く済みそうですが………。」

『邪魔するな、シャニ!』

『邪魔はテメェだよ。』

『うっせーよ、テメェら!』

「アレ?この声は………!?」

 

アラートと共に空から降ってくる三機の機体。

一機は巨大な二門の砲を背負った青緑の機体。

一機は黄緑色の大鎌を持った死神のような機体。

そして、一機はモーニングスターを持った黒い鳥のような機体。

 

「「カラミティガンダム」、「フォビドゥンガンダム」、「レイダーガンダム」だ………!」

『テメェらがフリルドスクエアか?ザコばっかだな!』

『こんなヤツラ、オレが全部狩ってやるよ。』

『だからジャマするんじゃないよ!僕が倒しちゃうもんねー!』

「うわぁ………オルガ・サブナック、シャニ・アンドラス、クロト・ブエル………三馬鹿だ。」

『三馬鹿言うな!!』

 

柚の正直な感想に、三馬鹿こと、「ブーステッドマン」三人は一斉にツッコミを入れた。



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1章:柚ちゃんリラックス大作戦!!(柚・穂乃香・忍・あずき)・後編

「ノーベルフラフープ!」

 

対ブーステッドマンへの先制は桃井あずきのジンライ・クレハトリ。

彼女はノーベルガンダムの脚の武装である「ビームフープ」と呼ばれるビームの輪っかを一番耐久値の低そうなレイダーガンダムに投げつける。

 

『当たらないよぉだ!』

 

 

しかし、その分機動力やブースト性能等が強化されているクロトのレイダーは横に跳びながら逆に「2連装52mm超高初速防盾砲」の機関砲を連続で放ってくる。

更にこのエクストラバトルの実践データの中には変形機構もある程度採用されているのか、モビルアーマー形態になると、あずき機に突進しながら「短距離プラズマ砲「アフラマズダ」」のビームも連射してくる。

 

『抹殺!』

「なんの!Iフィールドで!」

 

機関砲は側転で回避し、ビームは装甲で軽減したあずきのクレハトリは、EXアクションの「ラピッドショット」を選択し、後方に大きく宙返りしながらGNビームピストルⅡを連射していく。

 

『生意気!』

「相性はこっちの方が有利………って、パーツがぁッ!?」

 

横合いから飛んできた散弾の直撃を受け、頭部パーツと左腕パーツが吹き飛ばされる。

何事かと思って見渡せば増援として更にバスターダガーやデュエルダガー フォルテストラが多数出現しており、レイダーに加勢してきていた。

クレハトリはどうやら前者の「対装甲散弾砲」を受けたらしい。

 

「ゴメン、柚ちゃんパス!」

「分かった!」

 

一旦後退するあずき機に代わり、柚のF91がヴェスバーでレイダー達を迎撃していく。

下がるついでにあずきが味方全員の守備力を上げて自動回復を付ける「フィールドディフェンサー」を発動した為、柚機も硬くはなったが、やはりこれだけの砲撃の雨の中だと無傷ではいかない。

 

『チャーンス!テメェは撃滅!』

「ケンカしている人達には負けないよ!」

 

それでも高い機動力を持つF91は、レイダーの頭上で回転させながら振りかぶってきたモーニングスターである「破砕球「ミョルニル」」等の致命的な攻撃を回避しながら、工藤忍と綾瀬穂乃香に通信を送る。

 

「忍チャン!穂乃香チャン!そっちはどう!?」

「フォビドゥンガンダムと交戦中………!ハイパードッズライフルが曲がるーーー!」

「カラミティガンダムと砲戦を繰り広げています。………中々手強いです!」

 

見れば、忍のガンダムAGE-2イグザスはシャニのフォビドゥンにシューティングモードでビームを連射している。

しかし、「エネルギー偏向装甲「ゲシュマイディッヒ・パンツァー」」を持つこの機体はバックパックを被る高速強襲形態をとる事で、飛来するビームを曲げる事ができた。

 

『ハッ………何度やっても意味ねぇんだよ。』

「意味の無い事なんて………あるものかーーー!」

 

簡単に折れない忍は、収束ビームを放つカルネージシュートに加え、GNビームサーベル二刀流から繰り出される「スラッシュレイヴ」の衝撃波を連続で浴びせるが、面白い位にビームが曲がって逸れていく。

遠距離武装がビームにまつわる物ばかりである忍にとっては最悪の相手だった。

一方穂乃香は………。

 

『オラオラオラーーーッ!!』

「砲火が………激しい………!」

 

両肩の砲門から繰り出される「125mm2連装高エネルギー長射程ビーム砲「シュラーク」」、携行武器である「337mmプラズマサボット・バズーカ砲「トーデスブロック」」、胸部の「580mm複列位相エネルギー砲「スキュラ」」にシールド内蔵の「115mm 2連装衝角砲「ケーファー・ツヴァイ」」。

自機に搭載されている火器を惜しみなく使ってくるオルガのカラミティの猛攻に、穂乃香のヘリクスバスターガンダムは回避行動を強いられていた。

原作再現か、動きが鈍く設定されているアストレイ三人娘のM1アストレイは、三機とも防御に使っていたシールドが耐え切れずに吹き飛んでおり、もう後退させている。

穂乃香自身は足を止めて反撃するという手段もあったが、猛攻を受けて「リペアキット」による回復が追いつかなくなる危険性がある為、中々攻撃に転じる事ができていなかった。

 

「バスターダガーやデュエルダガーもまだいますし、少し作戦を考えて………。」

「だったら、アタシが突破口を開く!まずは一機だけでも落とすよ!」

「柚ちゃん!?」

 

穂乃香がまだ待ったをかけようとしたが、柚は覚醒を………スピードを大幅に上げるライトニング覚醒を発動し、黄色に輝く。

 

「おりゃりゃりゃりゃりゃーーーーーッ!!」

 

MEPEも同時発動した柚のF91はとてつもない機動力を発揮し、バスターダガーやデュエルダガーの砲火を避けながら、ヴェスバーやビーム・サーベルの連撃を嵐のように浴びせ、破壊していく。

更に邪魔な敵機を破壊した後は、後方に下がりながら機関砲を撃ってくるレイダーに迫り、「スラッシュペネトレイト」の斬り払いで両腕のパーツを吹き飛ばす。

 

『ウソォッ!?』

「最後は光の翼で………!ぁ………。」

 

しかし………ここで何故か柚の視界がグニャリと歪む。

操作………いや思考が鈍り、身体が言う事を効かなくなる。

 

「あ………れ………?」

 

光の翼を発動する事はできず、柚の精神状態が不安定になった事により、F91の覚醒が切れ、黄色の輝きが消える。

高速で動き回っていた機体が止まる。

 

『滅殺!』

「………あ!?」

 

気が付いた時には、レイダーの口から放たれた「100mmエネルギー砲「ツォーン」」のビームによって頭部パーツが吹き飛んでいた。

それに伴い、大きく機体が吹き飛びバランスが崩れる。

 

「ゔ、ヴェスバー………!」

「柚ちゃん、避けて!」

「アレ!?」

 

あずきの悲鳴に今度は、柚機が背後を通過したビームでヴェスバーごとバックパックが吹き飛んだことを知る。

忍と交戦中だったシャニのフォビドゥンが、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを利用した「誘導プラズマ砲「フレスベルグ」」で、ビームを曲げて柚機をフェイントで狙ったのだ。

更に………。

 

『地獄に送ってやるよ!』

 

この機を逃さないと言わないばかりに、穂乃香機を狙っていたオルガのカラミティがシュラークの二門の砲門で隙だらけの柚機を狙う。

砲門が輝いた所で、柚は悟った。

 

(アタシ………負けるんだ。)

 

あずきが復帰するまで覚醒は待つべきだったか。

穂乃香の作戦が閃くまで耐えるべきだったか。

色々と考える事はある。

でも、こうなった以上、もう全てが遅い。

 

(そう言えば………最近、あんまり寝てなかったなぁ………。)

 

静かに目を閉じる柚。

しかし………。

 

「トランザァムッ!!」

 

忍の叫びに目を開けばそこには赤く輝き猛スピードで迫るイグザス。

 

『吹っ飛べ!!』

「柚ちゃんゴメン!!」

「うッ………うわわああああああッ!?」

 

緑の極太のビームが飛来するのに合わせ、忍のイグザスは柚のF91に思いっきり体当たり。

そのまま自機ごと、カラミティの射線から柚機を無理やり吹き飛ばす。

 

「ししし、忍チャン………?」

 

剛性を高めたイグザスの痛烈な体当たりを受けたF91は、更に勢いで両腕のパーツを撒き散らすが、何とか破壊される事だけは防がれる。

衝撃でフラフラとした柚は、通信で忍の顔を見るが、忍機は柚機を抱えてトランザムで更なる敵の追撃から高速で逃げ回る。

 

「え………えと………。」

「柚ちゃん………ちょっと落ち着いて。」

 

周りを見渡すと忍達を狙っているのはフォビドゥンで、フレスベルグを曲げてきている。

レイダーには戦線に復帰したあずきのクレハトリが再び肉薄しており、カラミティには穂乃香のヘリクスバスターが先程の隙を突いて砲撃を始めている。

全ての状況を理解した柚は………。

 

「アタシ………負けかけた。みんなに………。」

「柚ちゃん。」

 

迷惑を掛けている………と言おうとしたところで、忍が言葉を遮り、一言。

 

「うん、今日は思いっきり羽目を外そう!」

「………え?」

 

予想外の言葉に先程とは別の意味で思考が固まる柚。

それに対し、忍は笑顔で告げる。

 

「調子に乗ってもいいって事!負けてもいいから面白い事やろう!」

「ま、負けてもいいって………。」

「だって今日はオフだもん!こんな素敵なエクストラバトルをカドマツさんがくれたんだから、色々試してみようよ!」

「でも、これ特訓用………。」

「だったら猶更!今だからできる事、いっぱいあるじゃん!」

「……………。」

 

傲慢ともとれる忍の発言に、唖然としてしまう柚。

てっきり怒られると思ったが、全く正反対の事を言われたのだ。

その柚の心境を悟ったのか、穂乃香も話しかけてくる。

 

「柚ちゃん。特訓とは何も真剣に戦う事ばかりじゃないんですよ?時には肩の力を抜いて、リラックスをしながら自分の表現を模索する………それも特訓です。」

「表現の………模索?」

「比奈さん達から聞いたミスターガンプラの言葉で例えれば、ガンプラバトルの中でも自分を高めていくって事です。そして、その表現の模索には、失敗を経験する事も必要なんです。」

「………穂乃香チャン、柚の今の失敗も許してくれるの?」

「それが柚ちゃんを高める事に繋がるのなら。」

 

優しい笑顔の穂乃香に、あずきも笑いながら話しかけてくる。

 

「柚ちゃん、どうしても勝ちたい人がいるんでしょ?だったら、ここで変に運を使う必要ないよ!負けていい時は負けて、勝ちたい時にガツンと勝てば!」

「……………。」

「だから柚ちゃんは、今はいつものように、てへぺろって笑ってればいいんだよ!今日はフリスク・リラックス大作戦なんだから!」

「みんな………。」

 

感情がグチャグチャになっていて、どうするべきか急には分からない。

でも、一粒だけ………一粒だけ涙を流した柚は言われた通り、てへぺろと笑みを浮かべる。

そして丁度その時、柚機の外れたF91のパーツがフリルドスクエアの仲間の言葉に応えるように戻ってきてくっつき、忍のイグザスのトランザムの効果時間が切れた。

 

「トランザム切れちゃったね………。苦手なフォビドゥン、どうしようか?」

「簡単!ビームが効かないなら、真っ直ぐ行って、ぶん殴るだけ!」

「し、忍チャン、フォビドゥンは「トランスフェイズシフト装甲」が………。」

「だからこそやってみたいんだよ!それに、もう一つ試したい事あるし♪だから………援護して!」

 

何か含みのある笑みを浮かべた忍は、何と真正面からフォビドゥンに突撃する。

柚は言われた通り、ヴェスバーで周りのバスターダガーやデュエルダガーを撃ちぬいて邪魔が入らないようにする。

 

「問題です。フレスベルグが一番避けやすいのは何処でしょうか?」

『はぁーーー!』

「答えは………正面!」

『………ゲ。』

 

放たれたフレスベルグのビームの軌道は真っ直ぐ。

成程、下手に左右に移動すると曲げられたビームを避けにくくなるので、敢えて正面から近づく事で、ビームの偏向を防ごうとしたのだ。

これにはシャニも舌打ちをして、武装を切り替えバックパックの「88mmレールガン「エクツァーン」」で迎撃しようとする。

 

「まっすぐしか撃てないって分かれば、少し横に動くだけで避けられるし!」

『ウザイ………!』

 

フォビドゥンは下がりながら更にフレスベルグやエクツァーンを撃って迎撃しようとする。

しかし、忍のイグザスは、かすり傷程度では破壊されない位には強化されている。

決定打は喰らいはしない。

 

『近づくんじゃねぇよ!』

「そう言われて近づかない人はいないよ!………それ!」

 

そのまま両手にエクシアのGNビームサーベルを持つと、何と両方ともフォビドゥンに向けて投げつける。

 

『うわ!?』

 

一本は回避をするが、もう一本が接近戦用の武装である「重刎首鎌(じゅうふんしゅれん) 「ニーズヘグ」」の大鎌を弾く。

更にその隙を狙って「ブラストタックル」の体当たりを移動技として使用し、イグザスはフォビドゥンの懐に高速接近。

そして………。

 

「セリフはこうだっけ………?こういう使い方もあるんだよ!」

「え?忍チャン、その球体は………。」

 

忍のイグザスの、「デュエルガンダム」のパーツで構成された右腕が震え、掌から光の球体が出現する。

まさかと思うが………。

 

「それって………。」

「「光雷球」!!」

「えぇッ!?」

 

光雷球とは、掌から放出されたビームサーベル用の荷電粒子を球状に固定する「ガンダムアストレイレッドフレーム」の必殺技だ。

無論、正規の使い方ではない為、フルパワーで使うと右腕が破壊されてしまうという設定がある。

 

「ミッション前にジュリちゃんにその時の事、詳しく聞いたん………だァッ!!」

『うおッ!?』

 

狙いは厄介なゲシュマディッヒ・パンツァーを持つバックパック。

思いっきり至近距離から叩きつけた光雷球により、高速強襲形態だったフォビドゥンのバックパックとついでにイグザスの右腕が吹き飛ぶ。

 

「忍チャン、無茶苦茶ーーーッ!?」

「無茶苦茶で結構!さーらーにー!そこからのーーーッ!!」

『お前!お前ぇーーー!?』

「努力と根性と楽しさのーーー!!シグル・ナッコゥゥゥーーーッ!!」

 

叩きつけられるイグザスの相当強化された左腕のサブナックル。

ベキッ!という嫌な音と共に、フォビドゥンはパーツを撒き散らしながら吹き飛ぶ。

だが、トランスフェイズシフト装甲故に、破壊までには至らない。

 

『た、助か………。』

「えーっと………残念♪」

『!?』

 

そこに柚のF91が、今度こそ両サイドのヴェスバーから光の翼を放出して、突進してくる。

もうフォビドゥンには躱す術も防御する術もない。

 

『う、うわああああああ!?』

 

シャニ機は今度こそビームの翼によって破壊された。

 

『シャニ!?………バカ過ぎるヤツらめ!』

 

オルガのカラミティは柚機や忍機を狙おうとするが、そこに間髪入れず穂乃香のヘリクスバスターの射撃武装が飛んでくる。

 

『テメェはよっぽどオレに破壊されたいらしいな!』

 

また穂乃香機に向けて一清掃射をするカラミティの前に、穂乃香機は側転で動きながら笑顔でAIに向けて通信を送ってみせる。

 

「いいんですか?そんなに撃ちまくって?」

『へ………?』

 

その言葉に一瞬呆気に取られたオルガは自機が、急にプスプスと煙を発し、弾が出なくなることに気づく。

 

『クッソ!この馬鹿モビルスーツ、もうパワーがヤバイ………!』

 

原作でもよく起こしていた武装のエネルギー切れの再現。

武器を乱射しすぎて再チャージが間に合わなくなったのだ。

 

「接近戦は………不得手ですよね?」

『チィッ!?』

 

穂乃香は「グフカスタム」の「ヒート・サーベル」を握るとカラミティに突撃する。

万事休すのオルガ………だが………。

 

『ヤベェ!?………とでも思ったか!?喰らえ!!』

「!?」

 

再チャージが完了したのか、それとも切り札として取っておいたのか。

胸からスキュラを撃ち、穂乃香機を狙う。

 

「舞いましょう………ヘリクスバスターガンダム!」

 

しかし、穂乃香機はヒート・サーベルを地面に突き刺し、何とその柄の細い部分を足場にして飛び上がる。

そのまま「前方二回宙返り一回ひねり」………「ムーンサルト」を華麗に決めながら、右腰の「350mmガンランチャー」の前に左腰の「94mm高エネルギー収束火線ライフル」を接続して腰から取り外す。

そしてカラミティの二門の砲門に着地すると、上から「超高インパルス長射程狙撃ライフル」をコックピットに突き付けた。

 

『え?ちょ、ま………。』

「ビンゴ。」

『おわあああああああああッ!?』

 

射抜かれたカラミティの上からバク宙で飛び上がり、狙撃ライフルを元に分裂させて何事も無かったように着地する穂乃香のヘリクスバスター。

爆発するオルガ機を後目に、そのままついでにピルエットのように横に回転し、弧を描いて見せる。

 

「ぐ………グゥレイト。美しいよ………穂乃香チャン。」

「ありがとうございます、柚ちゃん。」

 

思わず感嘆の表情で拍手を送る柚に対し、穂乃香は満面の笑顔で応えた。

 

『どいつもこいつも………!やらなきゃやられる!そんだけだろうが!』

「こういう時くらい、肩の力を抜いたほうがいいよ~。可愛いアイドルが沢山いるんだから♪」

『ホント、生意気!』

 

残ったクロトのレイダーは苛立ちながら、あずきのクレハトリに口からツォーンを放つ。

しかし、回避に徹する上に近接戦闘用に防御面を強化してあるあずき機には、どうしても決定打を与える事ができなかった。

 

『撃滅!』

 

業を煮やしたクロトはミョルニルを頭上で回転させあずき機を狙う。

しかし、これを待ってたと言わんばかりにあずきはミョルニルをすれすれで避けるとそのワイヤーを掴み、クロト機を引き寄せ、その手をしっかり握る。

 

『お?』

「必殺!ラブラブハリケーン大作戦!………てなわけで、トマホークハリケーン!GO!」

『ッ!?うごおおおおおおおおおお!?』

 

何とその状態でコマのように高速回転。

当然、レイダーも巻き込まれグルグルと回されていく。

その竜巻のような渦(とレイダーのボディ)は残っていたストライクダガーを吹き飛ばしていく。

 

「あ、アハハハハ………。」

 

何とも珍妙な光景に、笑っちゃいけないと感じつつも、思わず笑ってしまうフリルドスクエアの残りの三人。

AIとはいえ、コックピットの設定があるクロトは今、シェイクされてしまっているだろう。

 

「最後に………ぽーい!」

 

散々回転した後であずきのクレハトリはようやくレイダーを解放。

放り投げられたクロト機はパーツを撒き散らしながら転がる。

 

『アハハ!僕は………僕はねぇ!!』

「アハハハハハ!………うん、ゴメンね!」

 

原作よりも情けない声を上げるクロトに、柚が苦笑をしながらF91の「ビーム・ライフル」とヴェスバーを同時に放ち、トドメを刺す。

これでミッションがクリアになったのか、画面にコンプリートの表示が出た。

 

『貴女達………本当に凄いのね………。』

「えへへ………ピース!」

 

途中から完全に蚊帳の外になっていたアストレイ三人娘のリーダーのアサギの驚きの言葉に、柚達フリルドスクエアは揃って笑顔でピースサインをした。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

その後もシミュレーターでブーステッドマン達と遊び………もとい特訓をしたフリルドスクエアの忍・穂乃香・あずきは帰りのバスに乗って柚を送っていた。

というのも、寝不足だった柚は疲れもあって久々に心地よい眠りについてしまったからだ。

 

「柚ちゃん、気持ちよさそうに眠ってるね………。」

「これで、根詰めすぎる傾向が少しでも減ってくれるといいんですけれどね。」

「そこら辺は………後は巴ちゃんの大作戦に任せようよ。」

 

あずきの言葉に頷く忍と穂乃香。

その眠っている柚は、また夢を見ていた。

彼女はまた自分のガンプラと共に砂漠に立っていた。

目の前にいるのはウィルのガンプラ。

しかし、今度は戦況が違っていた。

 

(アタシ………互角に戦ってる。)

 

高速で動きながら互いの獲物を撃ち、また別の獲物を振るう両機。

そして驚いたのは………。

 

(楽しんでる………このバトルを………巴ちゃんの仇なのに………。)

 

何故、こんな気持ちになってこんな夢を見るのか分からない。

しかし柚は、しばらくはこの気分に浸っていたくなった。

 

(ま………いいよね、ガンプラバトルなんだから。)

 

残念ながら目的地………柚の自宅近くのバス停への到着が近づいている事によってもうすぐ意識は覚醒してしまう。

でも………その目覚める瞬間に………記憶には残らないだろうけれど、柚は思う。

 

(勝つことも大事だけれど………ガンプラバトルは対戦も………楽しまなくちゃ。)



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2章:紅と鋼の太刀と(巴・梨沙・晴・舞・小春)・前編

村上巴は静かに目を閉じる。

脳裏に思い浮かぶのはジャパンカップエキシビジョンマッチでの出来事。

ミスターガンプラとの勝負を制した後に乱入してきたウィルのガンプラと斬り結び………一方的に負けた。

 

「止まって見えたよ。」

 

正にその言葉通りにパーツをバラバラにされる自機。

負けは負けだ。

その事実は覆しようがない。

だが………そう思っていても敗戦の苦い記憶は消える事は無い。

とはいえ………。

 

(悪いが今は後回しじゃ………。)

 

ウィルにリベンジをしたくないわけではない。

むしろ、してやりたい想いは強い。

しかし………今はそれ以上に優先順位が存在する。

リベンジの為ではなく、その優先順位の為に今はもっと強くならないといけない。

だからこそ自分は………。

 

(ん?)

 

その頬にひんやりとした感触が生じた事で、彼女は目を開く。

見れば、そこにはほわわんとした笑顔でジュースを差し出す古賀小春の姿があった。

 

「なんじゃ………小春か。どうした?」

「巴ちゃんにジュースの差し入れです~。冷たくて美味しいですよ~。」

「そうか………すまんな。」

 

そのイチゴジュースを受け取った巴は一気に飲むと軽く息を吐く。

そこは東京へと向かう飛行機の中だった。

エキシビジョンマッチの後、各々のチームで修行の旅に出る事になった5人の内、巴は「桜舞隊」の5人ユニットで日本各地のガンプラバトルの大会に出場していた。

そして、あらかた自身の新しいガンプラの操作に慣れた彼女達は、一旦346プロへと戻る途中であったのだ。

 

(大会に出場したお陰で新しいガンプラには慣れてきた。じゃが、世界は広い………。うちももっと力をつけんと………。)

 

巴は再び息を吐くと、再び手に持っていた書物を開き見始める。

と言っても、それは小説とかではなく漫画で、過去に執筆されたガンダム作品であった。

 

「巴ちゃん真剣ですね~。面白いですか~?」

「うむ………うちの読んでいるこの「機動戦士ガンダム カタナ」はのう、「刀」の名の通り、太刀を持った「フルアーマー・ストライカー・カスタム」っちゅう主役機体が出てきてな。その戦法をガンプラの戦法の参考にも出来ないかと思っているんじゃが………。」

「そうですか~。小春の読んでいる「機動戦士ガンダム U.C.0096 ラスト・サン」って漫画にはあの「フェネクス」さんが登場していて、成長したエル・ビアンノさんやビーチャ・オーレグさんが出てきてるんです~。」

「何じゃと………?エルはともかくあの腰抜けビーチャがか?」

「カッコいい事言ってますよ~?ほらここ~。」

 

小春に示されたページを見てみると、成程、確かに成長した彼の姿が描かれていた。

 

「「強がらずに自分の足下をしっかり見てりゃ相手の色んな物が見えてくる。そこに確かな勝ち筋があるのさ」………か。ジュドー・アーシタに劣等感を抱いていただけの事はある。………しかし、こいつがいけめんってのになっているとはのう。ガンダムとは分からんものじゃ。」

 

だからこそ物語というのは面白いのかもしれない、と腕組みをした巴は自分とは反対の窓側に座って静かに本を読んでいる少女………福山舞を見る。

 

「………で、舞の読んでいるそれが、ガンプラの元になった機体が登場している「機動戦士ガンダム シルエットフォーミュラ91」か?」

「はい。………古い漫画ですが、比奈さんが持っていたので貸してくれました。私が参考にした「シルエットガンダム」が活躍しているんです。」

 

笑顔で本を見せる舞に、巴は改めて感心する。

舞はシミュレーション非対応のガンプラであるシルエットガンダムを、自身のアレンジも加えながら、別の機体のパーツで作り上げてしまった。

その機体を知ったのは販売していたプラモからだったが、後に漫画等でも登場していると知って、空き時間にこうして読んでいるのだ。

 

「小春のような唯一無二のオリジナル機も凄いが………舞のようなシミュレーション非対応機を作る技術も参考にせんとのう………。そういう意味では同じ非対応機である「ガンダムレオパルド」をモチーフに作り上げた梨沙も感心するが………。」

「パパ!パパーーー!」

「………今はそれどころじゃないみたいじゃの。」

 

小春より更に向こう。

通路を挟んだ先に座っていた的場梨沙が号泣する。

彼女が読んでいるのはガンダムレオパルドが登場した「機動新世紀ガンダムX」の未来を描いた漫画である「機動新世紀ガンダムX外伝 UNDER THE MOONLIGHT」。

どうやら、重度のパパ好きである彼女の涙腺に触れる出来事があったらしい。

 

「あんまりじゃない!ガンダム世界のパパってどうしてヒドイ目にあう人が多いの!?」

「梨沙ー………。飛行機内では静かにな。後、半分はそのパパ達、「マトモじゃないパパ」だと思うぜ。」

 

涙ぐむ梨沙の隣で漫画を片手に頭をかくのは結城晴。

彼女は白狼の名で知られるシン・マツナガの活躍を描いた「機動戦士ガンダム MSV-R 宇宙世紀英雄伝説 虹霓のシン・マツナガ」を読んでいた。

 

「ラスト・サンを選んだ小春のチョイスも不思議じゃが………晴は何でそれを選んだんじゃ?」

「オレはどうせ読むならアニメになってない漫画の方がいいと思って比奈さんの所に借りに行ったんだけど………その時に一緒にいた光からヒーローっぽい漫画を進められて「英雄」って名前の付いたコレになったんだよ。」

「小春はヒョウ君が選んでくれました~。ラスト・サンの前の「機動戦士ガンダム U.C.0094 アクロス・ザ・スカイ」も読んでますよ~。」

「成程のう………。」

 

あまり書物に関心を持ってないであろう晴と、今は別室で大人しくしていると思われるペットのイグアナのヒョウ君を飼っている小春。

適当そうな理由かもしれないが、この二人はこれが自然体であった。

 

「………まあ、一番ツッコミたいのは早苗の姐御じゃが。」

「ん?お姉さんがどうかした?」

 

晴の更に向こうで巴・小春・舞・梨沙・晴の「桜舞隊」の5人にならって漫画を読んでいるのは元婦警であるアイドル片桐早苗。

152センチしかないが、28歳という立派な大人であり、今回13歳~10歳という年齢である巴達5人の引率役を引き受けていた。

そんな警官という職業を持っていた彼女が愛読していたのは………。

 

「ああ!この「機動戦士クロスボーン・ガンダム」?面白いわよね、コレ。瑞樹ちゃんと海賊を演じてた巴ちゃんなら分かるでしょ?」

「いや………分かるっちゃ分かるが早苗の姐御。「宇宙海賊」が主役として出る漫画を、元とはいえ婦警だった姐御が愛読してええんか?」

「いいのいいの。お腹に溜まるお酒と違って別に読んでも後悔には繋がらないし♪」

「……………。」

 

これも自然体と言えば自然体だが、ちょっと問題がある気がした巴であった。

そうこうしている内に梨沙が泣き止みいつものような勝気な顔に戻る。

 

「それにしても………、漫画によって戦闘描写とか物語とか色々スタイルが違うのは凄いわよね。やっぱりパパの言った通りだわ。舞もそう思うでしょ?」

「梨沙ちゃんのお父さんの事は置いておいて………確かに色々と違うよね。色々なアニメの描写も凄かったけれど、こうして漫画を読んでみると更に奥深くてビックリしちゃう。」

「でしょでしょ。………どう、巴?何か参考になるシーンはあった?」

「そうじゃのう………。」

 

最後は梨沙なりの気遣いなのだろう。

少しだけトーンを落として問いかけてくる彼女に巴は考え込む。

どうすれば、もっと強くなれるか。

どうすれば、もっと自分の武器を活かせるか。

こればかりは………考え出すとキリが無いだろう。

それに、地方大会を勝ち抜く内にもう1つ問題が出てきて………。

 

「参考にしてみたい戦い方を見つけても、正直、そのシチュエーションがのう………。梨沙達とは十分にバトルをしたし、また瑞樹の姐御や楓の姐御のような猛者に鍛えて貰う機会もスケジュールの関係上持てないし、今のうちが世界でどれだけ通用するか分からないのじゃ。」

「そう………確かにねぇ………。」

 

巴の正直な呟きに梨沙を始め、皆の表情が少しだけ変わる。

そうこうしている内に飛行機は東京へと辿り着いた。

 

 

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東京空港に辿り着いた巴は、小春がペットのヒョウ君を連れてくる間に、ロビーでスマホのメールを確認していた。

そこに、フリルドスクエアの桃井あずきから「電話してね♪」というメッセージを見かけたので空港から借りた早苗の運転するレンタカーの助手席で電話をかけてみる。

 

「どうした、あずき?まさかと思うが柚が………。」

『そっちはまだ大丈夫!実はカドマツさんからね………!』

 

あずきはカドマツから借りたエクストラバトルの事を説明する。

そして、柚の気晴らしとしてそのデータの1つを使用してみた事。

更に巴を始めとした他の四人の分もあるらしいという事。

 

「ほう………。それは興味深いのう。」

『巴ちゃんもやりたくなった?』

「当然じゃ。丁度、更なる強敵を求めていた所じゃからの!うちに見合った物があるのならば、試してみたい物じゃ。」

『じゃあ、346プロに戻ったら都ちゃんに聞いてね!あずき達はこれからまた地方大会で特訓だから!』

「おう、ありがとうの!」

 

電話を切った巴は後部席に座っている四人を見てみる。

 

「聞こえたかもしれんが、346に戻ったら新しい特訓ができるみたいじゃ。みんな、付き合ってくれるか?」

「当然だろ?こんな面白そうなバトル、楽しまない手は無いって!………な!」

 

晴の言葉に梨沙・舞・小春も笑顔で頷いた。

 

 

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346プロのシミュレーターの前では巴と同じ燃えるような赤髪を持つ、探偵志望の安斎都が足を組んで本を持ちそれらしく座っていた。

只、持っているのは小説とかではなく、ガンダムの漫画。

謎解き要素が多めである「機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還」である。

 

「………都もガンダム漫画にハマっておるのか。」

「はい。私が調べた所、ガンダム漫画の歴史もかなり多彩ですからね。それこそ未完に終わっている物もあれば、アニメ等と世界線の違う出来事まで多種多彩です!」

「その心や好奇心で小説が読めればのう………。」

「さ、最近は見るだけじゃなくて読む練習もしてますよ!………で、エクストラバトルですね。」

 

巴の冷静なツッコミに咳払いをした都は一つのメモリを見せながら、シミュレーターを見つめる。

 

「勝手ではありますが、私の直感で巴ちゃんに相応しいバトルをインストールしておきました。」

「都の直感………大丈夫なのか?」

「大丈夫です!とにかく一度試してみて下さい。あ、只………。」

「???」

 

桜舞隊の全員を見渡した都は説明する。

今回のエクストラバトルは4人対応の物であり、前半戦と後半戦に分かれるらしい。

その為、出撃メンバーはその途中で1人交代する形を取って欲しいとのことだった。

 

「つまり………交代も考えて戦術を立てろってわけね。………桜舞隊は5人いるから仕方ないとはいえ、難しい要求するわね。」

「5人で楽しめる物じゃないと誰かが損をするじゃないですか。だから、ティンと来たものを私が選んでおいたんです!」

 

苦笑を浮かべる引率の早苗の言葉に、胸を張る都。

一方、巴達は自分達のガンプラを見比べながらその戦術を立てていた。

そして………。

 

「決まったぞ。交代メンバーは晴と舞。前半戦に晴が出て、後半戦に舞が出る。」

「分かりました、ではそのようにデータを入力して………各自ガンプラをセットしてください。」

 

八神マキノ辺りに教えて貰ったのだろう。

説明書を読みながら交代に関した操作をした都に案内される形で、巴達5人はシミュレーターへと向かう。

 

「そう言えば巴ちゃん~。その子に名前付けてあげましたか~?」

「まだじゃ。………とはいえ今でこそ素の「アルケーガンダム」じゃが、ちゃんと考えておる。」

 

小春にそう言うと、巴はHGパーツで構成されたアルケーガンダムをセットする。

但し、武装はアレンジが既に加えてあって、格闘武装が「ガンダムバルバトス」の「太刀」、射撃武装が「ガンダムデュナメス」の「GNビームピストル」、シールドが「シャイニングエッジビームブーメラン」と「グラップルスティンガー」を備えた「インフィニットジャスティスガンダム」の「ビームキャリーシールド」であった。

彼女が使いこなす覚醒は「アサルト覚醒」。

主に攻撃力等を引き上げる効果のある赤く輝く覚醒である。

「擬似太陽炉」による「トランザム」も備えている為、爆発力はこの時点で既に高く、特に巴はここから太刀をメインに使った格闘戦を得意としていた。

 

「改めて見ると晴のガンプラは、趣味のサッカー要素が全面に出ているのう。」

「まあな!オレとコイツでフィールドを駆け巡るぜ!」

 

晴が改修した青い機体は「ストライクノワール」を元に改修した「ウィンディストライカーガンダム」。

彼女なりにサッカー要素を色々と取り入れており、名前もストライカー=ストライク系列という事で動きやすそうなノワールを採用している。

例えば、蹴りと言えば「グリフォンビームブレイド」という事で「インフィニットジャスティスガンダム」の脚部を使っている他、「百式」のバックパックを採用する事で、「ウイングバインダー」を活かし、空中でバランスを保ちやすくしているのが大きなアクセントになっている。

また、ステップ能力や移動速度などを重点的に強化しているのでかなり俊敏で、両手両足を活かしたアクロバット且つ豊富な手数によるラッシュなどもこのガンプラの魅力となっていた。

 

「サッカーは足が命!………梨沙はよくシミュレーター未対応機作る気になったよな。」

「だってその方がパパに色々と質問できるじゃない!」

 

自信を持って言ってのける梨沙が掲げた豹柄とピンクの派手な機体は「ガンダムレオパルド」を元にした「ガンダムビビッドレパード」。

レオパルドに似せるために、「ストライクガンダム」の頭に「ウイングガンダムゼロEW」の胴体、「ガンダム試作一号機」の腕、「フルアーマー・ガンダム(サンダーボルト)」の脚、そして「ガンダム・バルバトス(第4形態)」のバックパックをミキシングしているのがポイントである。

更にビルダーズパーツで右肩に「ビームキャノン」、左肩に「6連装ミサイルポッド」、背中に「マーキュリーレヴA ガトリング」と「対艦ビームランチャー」を採用し、よりレオパルドに似せると共に遠距離での火力面も強化。

そして梨沙自身のオリジナル要素として、「カバカーリー」の「ビーム・ショットガン」等によって近接戦闘も強くし、反応速度もバランスよく強化しているのが特徴である。

彼女のアイドルとしての経験もたっぷりと盛り込んだ隙の無いガンプラに仕上がってあるのだ。

 

「それにシミュレーター未対応機ならば、舞もそうでしょ?」

「はい!こういう機体を作るの、楽しいですよね!」

 

舞がにこにこ顔で取り出した桃色のガンダムは「シルエットガンダム」をアレンジした「ステップシルエットガンダム」。

こちらはシルエットガンダムに似せるために「インパルスガンダム」の頭に「ビルドストライクガンダム」の胴体、「アストレイブルーフレームセカンドリバイ」の腕、「ガンダムF91」の脚、そして「ガンダムTR-1[アドバンスド・ヘイズル]」のバックパックという構成だ。

特徴的なシールドはインパルスガンダムの「機動防盾」で再現しており、更には「ヴェスバー」の代用として「大型ビームランチャー」もビルダーズパーツで補っている。

舞独自の拘りとしては、原型機の反応速度の不安定さをスラスター増設による姿勢制御や大出力ブースターによる直線加速力でカバーする形を取っている事であり、また、それを活かす為に格闘武装をランス系統の「ドッズランサー」に置き換えていた。

正に舞自身の様々な試みが投入された「試験機」と言えるガンプラであろう。

 

「いいバトルにしましょうね、小春ちゃん!」

「そうですね~。小春も頑張ります~。」

 

相変わらずのマイペースで緑のドラゴン?を磨く小春。

「ガフラン」を改造した「ガドランくん」が彼女の愛機であった。

モチーフになっているのはペットのヒョウ君で、彼?がロボットのドラゴンになったらどんなにカッコよくなるだろうと思いながら作ったらしい。

MGのガフラン頭にビルダーズパーツで大きな目玉を付け、爬虫類のような胴体は「カバカーリー」を、爪の付いた腕は「モビルカプル」を、身体を支える脚は「ジンクスⅢ」を、そして立派な翼は「フリーダムガンダム」を元に作り上げている。

バランスよく性能を強化しており、近距離は爪や投げ技による攻撃を、遠距離は豊富なビーム兵器による射撃を駆使してどのレンジでも器用に戦えるガンプラに仕上がっている他、カメレオンのような保護色をイメージした「ミラージュコロイド」によって不意打ちを仕掛ける事も得意としていた。

 

「さて………参るとするか、戦場に!」

 

巴の掛け声で一斉に5人はシミュレーターを起動。

カタパルトからの発進シーンへと移る。

 

「村上巴とアルケーガンダム………この任務はこの刀の下に、うちら桜舞隊が預かった!」

「お、いいな!ウィンディストライカーガンダム………結城晴!相棒と共にシュートだ!」

「的場梨沙とパパとの愛情がたっぷり込められたガンダムビビッドレパード、GO!」

「ステップシルエットガンダムに乗るのは福山舞!………怖がらずに前に出ます!」

「ヒョウ君もガドランくんもいいですね~?では、小春もみんなと一緒に発進です~!」

 

それぞれ口上を決めた5人は出撃していった。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

後半戦に登場する舞のステップシルエット以外の4機は宇宙の隕石のような所に降り立った。

只、周りには人工的な物体が所々立っており、人がいる気配を感じた。

戦闘中の再現なのか、宇宙空間には桃色の光源が幾つか光っている。

 

「確かあずきの話だと、オレ達に味方してくれるAIがまず出てくるんだよな。」

「うむ………戦力になるかは分からんがな。」

『おいおい、この俺様が舐められた物だな!』

「………あれれ~?この声は~?」

 

一番後ろにいた小春がのんびりとした口調で(しかししっかりとフリーダムの「バラエーナプラズマ収束ビーム砲」を展開し砲口を向けながら)振り向くとそこにはライトブルーの「ジンクスⅢ」が1機。

 

「その口調………パトリック・コーラサワーか?」

『おう!不死身のコーラサワー参上だぜ!アンタ達が桜舞隊か?』

「そうだけど………じゃあ何?アタシ達が立っているのは「ソレスタルビーイング号」?」

『おお!大佐がそう言ってたな!………って、今、重要なのはそこじゃねぇんだよ!来たからには大佐の為に働いてもらうぜ!』

「働くってまさか………。」

 

眉をひそめる梨沙に対し、パトリックは笑顔で一言。

 

『大佐の為に「アロウズ」をぶっ潰す!』

「アロウズ!?」

『お、早速お出ましだ!』

 

パトリックの言葉に合わせ、赤いアロウズ専用のジンクスⅢが複数ホログラムとなって現れる。

そして、アラートが鳴り響いて………。

 

『アレがカタロンに協力する部隊か!各機、油断するな!』

『了解!………ガンダム、ガンダムーーー!』

『落ち着け、准尉!………ソレスタルビーイングに加勢する者は!』

「この声は………バラック・ジニン、ルイス・ハレヴィ、アンドレイ・スミルノフか?」

 

太刀を構える巴の前で3機のモビルスーツが降り立つ。

見れば、それはバラックの乗る赤い「アヘッド」を筆頭に、ルイスの乗る赤い「アヘッド脳量子波対応型」、そしてアンドレイの乗る赤い大型アンテナの付いたジンクス………「アドヴァンスドジンクス」であった。

 

「乗機が多少違ってるな。とはいえ、前半戦から油断できない相手………。行くぜ、梨沙!」

「……………。」

「梨沙?」

「見つけた。」

「………は?」

「見つけた、見つけた、見つけたぁッ!」

「り、梨沙!?」

「今アタシがぶっ飛ばしたいのはアイツだけよ!よくもおめおめとあんなところに!!」

 

いきなり激高しだした梨沙は対艦ビームランチャーを構え………アンドレイのアドヴァンスドジンクスに向かってぶっ放す。

残念ながら回避され、反撃とばかりに「GNメガランチャー」の高出力ビームを撃たれるが、梨沙のビビッドレパードはステップで動くと今度は右肩のビームキャノンを喰らわせようとする。

 

『くっ………集中砲火か!?』

「パパの仇ぃぃッ!!」

『何!?』

 

いきなり妙な事を言って火力を集中させる梨沙に、晴達が怪訝な顔。

そう言えばアンドレイは本編で父セルゲイ・スミルノフを勘違いと憎悪から討っていたが………。

 

「待て待て、梨沙!お前のパパじゃないだろ!?それに映画も見ただろ!?」

「この時点のコイツはパパを討った大馬鹿野郎よ!!」

 

晴が諫めようとするが、梨沙は聞く耳を持たず、今度はマーキュリーレヴA ガトリングガンを乱射し、アンドレイ機を執拗に攻め立てる。

 

「答えろ!アンドレイ!何故パパを討ったぁッ!?」

『父は母を………仲間を見捨てた!その上反政府勢力に加担し、私に言い訳も謝罪もしなかった!』

「あんな人格者持ってて、何をやってるのよ!」

『人格者!?あの男がか!?笑わせる!』

「アンタって人はーーーッ!!」

 

EVIL LIVE宜しくキレッキレの顔芸を披露する梨沙にタジタジになる晴。

梨沙の砲撃を皮切りに戦闘は始まっており、巴はバラックのアヘッドを、晴はルイスのアヘッド脳量子波対応型をマークしており、小春は味方AIのパトリックと共に激高している梨沙に代わって後方支援に回っていた。

 

「落ち着け梨沙!アンドレイもアンドレイだが、20年近く放っておいて勝手に養子迎えていたオヤジさんもオヤジさんだろ!?」

「アタシなら自力でパパを取り戻す!!」

「ぶれねぇな!?お前!?」

「梨沙!晴!コントをしている場合じゃ無いじゃろ!?」

 

バラック機の「GNビームライフル」を回避しながら動き回る巴によるツッコミが入る。

その時、ジグザグに動きながら梨沙機の激しい弾幕を回避していたアンドレイ機が飛び上がる。

 

『喰らえ!』

「ッ!?」

 

それが何か分かった梨沙は、慌てて後方に跳び回避。

EXアクションによる「ライトニングスラスト」の急降下突き刺し攻撃が梨沙のいた位置に炸裂する。

 

「敵AIもEXアクションが使える………!?悔しいけどパワーで押せる相手じゃないわね………。」

 

このアクションを得意とする巴と何回かバトルをしていたおかげで即座に反応できたが、怒りに任せて撃ち続けていたら危なかった。

これが梨沙の頭を冷やす事になり、周りを見渡し作戦を思い出す良い機会になる。

 

(晴がかき乱している間に何とかしないとね………。)

 

前半戦と後半戦に分かれるため、「リペアキット」の消費には気を付けないといけなかった。

そこで、交代の関係で前半だけに登場する晴のウィンディストライカーが優先的に敵陣をかき乱す事になっていたが………。

 

『ガンダム!ガンダムーーーッ!?』

「こっちはガンダムアレルギーかよ!?」

『お前のせいでママとパパはーーーッ!?』

「それはネーナ・トリニティに言ってくれ!」

 

典型的なガンダムをモチーフにしたウィンディストライカーに「GNサブマシンガン」を撃ちながら迫るルイス機に頭を抱える晴。

彼女の高機動機にマーク………というか粘着されており、中々フィールドを自由に動き回らせて貰えなかった。

 

『カタロンめ………!貴様らは倒す!』

「梨沙!指示だしは任す!後方支援役として色々考えてくれ!」

 

バラック機と対峙している巴に言われ、梨沙は考える。

とりあえずは1機ネームドを落としたい。

最適なのはやはり梨沙と撃ち合って多少はダメージが蓄積しているアンドレイ機だろう。

 

「………よし、小春!雑魚はコーラサワーに任せて、こっち手伝って!」

「分かりました~。」

 

モビルカプルの腕の「ハンドガン」で散弾を撒き散らし、雑魚のジンクスⅢを攻めていた小春はそう言うと、梨沙機の前に出てガドランくんのバラエーナプラズマ収束ビーム砲を撃つ。

 

「え~い!」

『甘い!』

「そこよ!」

『!?』

 

それは簡単に回避されるが、その隙に梨沙が小春の影からEXアクションの「ショットバラージ」を選択し、アンドレイ機の周りにエネルギーの雨を降り注ぐ。

これで動きを止められた所で小春機がバーニアを最大にして接近し、アンドレイのアドヴァンスドジンクスを掴んだ。

 

『な!?離せ!?』

「嫌です~。それ~!ガドランくんトルネード!」

 

そのままEXアクションの「サイクロンパイルドライバー」が発動。

回転しながら飛び上がり、頭からアドヴァンスドジンクスを叩きつけ、パーツを全部吹き飛ばす。

 

『しまった!?パーツが!?』

「ナイス、小春!………アンドレイ!パパの愛をその身に刻みながら吹っ飛べーーーッ!!」

 

トドメの対艦ビームランチャーで撒き散らしたアンドレイ機のパーツを全て掻き消す。

 

『言ってくれなきゃ、何も分からないじゃないか!?言ってくれなきゃ…うぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』

 

梨沙の怒りの砲火を受けたアンドレイ機は爆発を起こした。

 

「アンドレイ………映画版はカッコいいんだけどなぁ………。」

 

重度のパパ好きに粘着された彼に同情しながら、晴は自分に粘着してくるルイス機を見据える。

ガンダムに粘着する彼女もこの頃は精神的に追い詰められており、かなり不安定な状態だったはずだ。

故に………。

 

『ママとパパの仇!ガンダム!お前だけはーーーッ!』

「だから、オレは関係ねぇよ!ガンダムアレルギーも大概にしろ!」

 

執拗に狙ってくるルイス機にツッコみながら、晴はストライクノワールの「ビームライフルショーティー」の射撃で応援する。

しかし、防御を考えないルイス機の猛攻にリペアキットを何度か使う事になる。

 

「交代前提だから、一番無茶できるとはいえ………あまり滅茶苦茶に動いてばかりじゃダメだよな。」

 

作戦としては、後半戦で暴れて貰う為に、巴は攻撃よりも回避重視。

被弾しやすい接近戦では、主にリペアキットを豊富に使える晴が担当する算段になっていた。

その事もあってこのまま受け身に回るわけにはいかない。

 

「守ったら負ける………ってヤツだな。攻めの姿勢はサッカーでもガンプラバトルでも大事だ!」

 

彼女はGNビームライフルを撃つルイスに対し、「ブラストタックル」の体当たりで強引に接近を仕掛ける。

ルイスは実体を伴った盾である「GNシールド」で防御するが、そのまま晴は華麗に「ラピッドショット」の宙返りからの射撃を集中させ左腕ごとシールドを吹き飛ばし、空中で器用にバランスを取り「アースシェイカー」の落下蹴りと衝撃波で吹き飛ばす。

 

『何!?』

「まだまだ!」

 

そのまま今度は腕の「アンカーランチャー」でバランスを崩したルイス機を引き寄せると、「ビギニング30ガンダム」のシールドから「ビームサーベル」3本をまとめて抜き払い、頭部と右腕を同時に斬り捨てる。

 

『が、ガンダム………!』

「悪いな!これでラストだ!………シュート!!」

 

最後にグリフォンビームブレイドで思いっきり蹴り飛ばした事で、ルイス機も爆発を起こす。

 

『ママ、パパ…!褒めてよぉ………!』

「………後味悪ぃな。巴、そっちは………?」

「おう、もうすぐじゃ!」

 

見れば巴機は回避しながらも高速で動き回り、太刀による一撃を何度も叩き込んでいた。

バラックのアヘッドも「GNビームサーベル」で応戦しようとするが、巴はその動きを見切り、何度も「居合」を叩きこんでいた。

 

『反政府勢力め!それ程までにアロウズが憎いか!』

「………まあ、おどれの過去を考えれば憎むのは分からん事も無いが、勝負の世界じゃ。悪く思わんといてくれ。」

 

巴はそれだけを言うと、太刀を構え迫る。

バラックはGNビームライフルを撃ってくるが、巴から見て右手側………アヘッドのシールド側にインフィニットジャスティスのグラップルスティンガーのアンカーを飛ばして地面に突き付け高速移動。

そのままシールドの影からライトニングスラストの飛び上がり急降下斬撃を喰らわせて破壊する。

 

『アロウズは………!我等はーーーッ!』

 

バラックのアヘッドも破壊され、残りは雑魚のジンクスⅢだけ。

パトリックがそれなりに戦力になっている事もあり、敵の数は少なくなっていた。

晴を中心に巴達はダメージを受けないように片付けていく。

 

「これで前半戦終わりかぁ………。何か思ったより呆気無かったな。」

 

最後のジンクスⅢをインフィニットジャスティスの「シュペールラケルタビームサーベル」で斬り裂いた晴が物足りない顔で運動後の屈伸をする。

そうしている内に、舞のステップシルエットがホログラムとなって出てきたのでハイタッチで交代。

代わりにウィンディストライカーがホログラムになって消えていく。

 

「さて………後半戦の敵は………。」

『感謝するんだね。この僕自らが、審判を下してあげるんだから。』

「ん!?」

 

如何にも傲慢そうな声に巴達は身構える。

新たなアラートと共に降り立ってきたのは………。

 

『さあ、始めようか。世界の変革を。』

 

リボンズ・アルマークの「リボーンズガンダム」と。

 

『ガンダム!私は君を超える!』

 

ミスター・ブシドーの「スサノオ」と。

 

『へへっ………!戦争はこうでないとなぁ!!』

「アルケー………ガンダム!?」

 

そして、アリー・アル・サーシェスのアルケーガンダム………巴と同じベースの機体とオリジナルのパイロットのAIだった。



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2章:紅と鋼の太刀と(巴・梨沙・晴・舞・小春)・後編

「ちょっとちょっと!?………これ、結構ヤバくない!?」

 

戦場に降り立ったアルケーガンダム、スサノオ、リボーンズガンダムの3機のエース級のモビルスーツを見て、的場梨沙は思わず冷や汗をかく。

こう言ったら何だが前半戦とは比べ物にならない位の強敵ばかりだ。

何より実力があるのに、性格面に問題がある人物ばかりなのもいやらしい。

しかし、そこで梨沙は村上巴の呟きに気づく。

 

「都には感謝せにゃならんのう………。」

「巴?」

「アリー・アル・サーシェス………。このアルケーガンダムでどこまで通じるか試すのには一番もってこいの相手じゃ………。」

「……………。」

 

少し何かを考えた梨沙は通信で福山舞と古賀小春を見る。

舞は緊張感に包まれながらもしっかりと頷き、小春はいつもの笑顔ではあるが梨沙の言いたい事は理解した様子だった。

 

「巴………サシでやっていいわよ。」

「何?」

「アルケー同士サシで勝負していいって言ってるのよ。アタシ達は手を出さないし、相手にも援護させないわ。」

「じゃが………。」

「舞!ガンダムストーカーは任せたわ!パトリックは舞の援護を!………アタシと小春は、あの傲慢な救世主気取りをぶっ潰す!」

 

言うや否や巴の返答を待たず、パトリックを含めた4機は戦闘態勢にそれぞれ入る。

 

「………ありがとうの。」

 

巴はそう言うと、太刀を構え、「GNバスターソード」を握るサーシェスのアルケーと対峙する。

アルケーとアルケーの戦いが始まった。

 

「喰らいなさい!」

「メガガドランくんビームです~!」

 

まずは、対リボンズ・アルマーク戦。

梨沙のガンダムビビッドレパードの対艦ビームランチャーと、小春のガドランくんの「メガランチャー」が同時に火を吹く。

しかし、煙に包まれたリボンズ機は無傷。

 

「「GNフィールド」………!」

『神である僕に傷を付けられるとも思ったのかい?』

 

GN粒子によるバリアで梨沙と小春の砲撃を無効化したのだ。

この場合、GNフィールドを破るには実体剣等が有効になるが、爪や投げ技を持っている小春機はともかく、梨沙機には決定打が存在しない。

 

「相性最悪ね………!小春、接近できる!?」

「やってみます~………わぁッ!?」

 

その時、小春のガドランくんの頭部パーツが吹き飛ぶ。

見れば、リボンズ機が腰部とGNシールドに4基ずつ備えた小型の「GNフィンファング」を放出していた。

 

『おやおや………厄介なものだ。トカゲの癖に神に近づこうなどと。』

「ガドランくんを馬鹿にしないで下さい~!」

 

小春にしてはむっとした顔をするが、そこに今度は「GNバスターライフル」の砲撃が飛来する。

 

「舐めるんじゃないわよ!」

 

梨沙が援護の為にフルアーマー・ガンダム(サンダーボルト)の「膝部6連ミサイル」と追加パーツの「ミサイルポッド」を雨あられのように放つが、これまたGNフィールドで防がれてしまう。

その隙を狙われて、今度はビビッドレパードの左腕のパーツが吹き飛ぶ。

 

『敵うはずがないんだよ、この「ツインドライブシステム」を搭載した人類を導くガンダムにはね!』

「この………!」

 

GNフィンファングで梨沙と小春をもてあそびながら、両腕を広げ、両肘の「擬似太陽炉」を見せつけるリボンズ。

完全に遊ばれている………と思った梨沙は内心どうするべきか思考を巡らせていた。

 

『ガンダム、現れてくれたか。自分が乙女座であった事を、これほど嬉しく思った事はない。』

「えっと………多分、求めているガンダムとは違うとは思うんですけれど………。」

『しかし、この感情は………最早愛を超え、憎しみをも超越し………宿命となった!』

「聞いてませんね。私の言葉………。」

 

ステップシルエットガンダムを駆りスサノオと対峙する舞は、ミスター・ブシドーの狂言にペースを狂わされていた。

一応、原作からこの人はこんな感じではあるが、それでも実際に対峙すると正直、面倒極まりないのは確かであった。

しかし、何より迷惑なのは………。

 

「とりあえず、ごめんなさぁい!」

『砲戦は………興が乗らん!!』

 

ヴェスバー代わりにセットした大型ビームランチャーを放つ舞の攻撃を朱色の球体で完全に防御するブシドー。

スサノオもGNフィールドを備えているのだ。

これにより、リボンズと同じく、遠距離武装はほぼ封じられてしまっている。

ブシドーとリボンズの違う所は、彼は「ビームチャクラム」等の遠距離武装に滅多に頼らない所であろうか。

 

「接近戦ならば、このステップシルエットガンダムも負けていない………。でも………。」

『だらしねぇな!俺様が何とかしてやるよ!』

「あ、待って………!?」

 

舞の忠告を無視し、パトリックのジンクスⅢが突撃。「GNランス」を構え、高速の連続突きを放つ「ミリオンスパイク」のEXアクションを発動する。

 

『大佐の勝利の為にーーーッ!!』

『私はガンダムとの果し合いを所望する!』

 

何とブシドーは左手の「強化サーベル「シラヌイ」」と右手の「強化サーベル「ウンリュウ」」を振るい、その突きを全部受け止め、更にX字にパトリック機を斬り裂く。

 

『なんじゃそりゃぁぁぁぁっ!!』

 

お約束のセリフと共に大した活躍もできずに爆発するパトリック機。

御親切に脱出ポッドが出ている描写があるので無事だとは思うが、これが舞に1つの懸念を抱かせた。

 

(今の………私が行ってたらやられてた………。)

 

躊躇せずドッズランサーでミリオンスパイクの突きを放っていたら、今のパトリックのようになっていたのは目に見えて分かった。

接近戦の技量は明らかに向こうが上。

しかし、遠距離戦で打ち破る策は無い。

 

『ガンダム………どうした?』

「そ、それでも………!」

 

舞はEXアクションの「ファントムエッジ」を選択し、自分の周りに剣のホログラムを出現させる。

 

『来ないならこちらから………!』

「私が踏ん張らなきゃ………巴ちゃんが………!」

 

ガンダムTR-1[アドバンスド・ヘイズル]の「シールド・ブースター+強化型シールド・ブースター」で一気に加速。

 

『行くぞ!ガンダムゥーーーッ!!』

「失敗を………恐れないで………行きます!」

 

そして舞は「ガンダムF91」の「ビーム・サーベル」を2本抜き放つと、回転させながらスサノオに一直線に突撃していった。

 

「そこじゃあッ!!」

『おっと!』

 

アルケー同士でぶつかり合う巴とサーシェスは妙な展開になっていた。

ライトニングスラストの急降下攻撃を巴が喰らわそうとするが、それをサーシェスはひらりと回避。

更に立て続けに「スラッシュテンペスト」の高速の衝撃波を巴が放つが、サーシェスはこれも飛び上がり回避する。

 

『どうしたどうした!?村上巴さんよぉ!?こんなもんじゃないだろ!?俺をもっと楽しませてくれよぉ!?』

「くっ………おどれ!逃げ回ってばかりじゃバトルにならんじゃろ!?そのGNバスタードソードは飾りか!?」

『へへっ………じゃあ、お望み通り攻撃に移ってやるよ!ファング!』

「!?」

 

巴の言葉に対し、サーシェスは腰部に搭載された10基の「GNファング」を放出。

全方位から巴機に対し、ファングを1基ずつ時間差で炸裂させていく。

 

「くっ………!?なぶる気か、おどれは!?」

『勝負の世界っていうのはそういう物なんだよ!嬢ちゃん!!』

 

太刀を振るおうとしたが、右腕がGNファングによって外れてしまう。

リペアキットを使いながら避けて体勢を立て直そうとするが、今度は左腕が………次はバックパックが………自機のパーツが、外れたりくっついたりしながらの連続で、全然攻撃に移れない。

 

(どうする………!?どうする!?)

 

リペアキットが使える回数は最大20回。

前半戦でほとんど消費しなかったから余裕があると思ったが、このままだと全然足りない。

 

(あの男は最初から格闘戦を挑む気が無い!?むしろ、自分の優位さを存分に見せつける為にこんな真似を………!)

 

もはや屈辱だと思っている余裕すらない。

このまま終わってしまうのだろうか、自分は?と一瞬、巴の脳裏に浮かんでしまう。

 

「うちは………。」

「何やってるのよ!巴!アンタ、瑞樹や楓から何を学んだのよ!?」

「!?」

 

そこに梨沙の激が飛んできた。

彼女はリボーンズガンダムのフィンファングや砲撃を必死に耐えながら何とか隙を狙おうと伺っている。

そこに、前半戦で交代した結城晴の通信も聞こえてきた。

 

「巴!周りを見てみろ!お前がタイマンで戦えるようにみんな頑張ってるんだ!特に、舞!その気になれば「フィールドリペア」で全員回復できるのに、お前がそれを望んでないだろうから、ガマンしてるんだぞ!?」

「そう言えば………舞!?」

 

舞のステップシルエットは両腕を吹き飛ばされていたが、ファントムエッジの剣や豊富なブースターによる機動力によって何とか致命傷を避けていた。

 

「私は大丈夫です!巴ちゃんは巴ちゃんらしく戦って下さい!」

「舞………。」

 

そして、最後にガドランくんを動かしながら、梨沙と応戦している小春ののんびりとした声も聞こえてくる。

 

「きっと勝てますよ~、巴ちゃんなら~。」

「しかし、突破口が………。」

「ほら、ビーチャさんも言ってたじゃないですか~。「強がらずに自分の足下をしっかり見てりゃ相手の色んな物が見えてくる。そこに確かな勝ち筋があるのさ」って~。」

「強がらずに自分の足下を見る………か。」

 

成程………と、巴は改めて納得した。

今の巴自身とサーシェスの力量差は、さしずめビーチャとジュドーの力量差と同等だ。

だとしたら………自分を理解し、相手を理解する。

それが、本当に勝ち筋に繋がるのだと。

 

「あの腰抜けに諭されるとは………じゃが、今は感謝する!ファング!」

 

サーシェスのファングによって太刀を持った右腕が外れているのを確認した巴は10基のGNファングを全て放出する。

 

『お?オート操作のファングで俺に挑む気か?』

「流石におどれにファング勝負で敵うとは思っとらん。じゃが………!」

『な!?』

 

ここで初めてサーシェスが動揺した。

巴がファングで狙わせたのはサーシェス自身じゃない。

サーシェスの操るファングだ。

ビームサーベルを形成できるGNファングは次々と相手のファングと相殺して爆発していく。

 

『こんちくしょう!』

 

すかさずサーシェスが自機のGNファングで巴のファングを撃ち落としにかかるが、それでも10基から4基まで減らされる。

 

「上出来じゃ!」

 

この間に右腕が戻ってきた巴は太刀をしまい、シャイニングエッジビームブーメランを投げ飛ばす。

行きで1基、帰りに更に1基、奇襲の形でファングがまた破壊される。

 

『この………!』

「これで、最後!」

 

そして、デュナメスガンダムのGNビームピストルを両手に構え、サーシェスが突撃させてきた残りの2基のファングを撃ち落とす。

これで、邪魔なファングは全て消えた。

 

「瑞樹の姐御との特訓が役に立ったのう。さて………これで本当にサシじゃ。」

 

ニヤリと笑みを浮かべる巴は再び太刀を握る。

サーシェスは歯ぎしりをしながらも………。

 

『ところがぎっちょん!』

 

彼のアルケーガンダムが赤く輝いたと思ったら急激に高速で動き始める。

「擬似太陽炉」による「トランザム」を発動したのだ。

 

『切り札ってのは最後まで取っておくものなんだよ!』

「……………。」

 

巴は動かない。

太刀を構えたまま微動すらしない。

 

『さっきまでの威勢はどうしたぁ!?村上巴さんよぉ!?トランザムは使わねぇのか!?』

「……………。」

 

巴は喋らない。

只じっと、その姿勢を保ったままだ。

サーシェス機は巴の周りを縦横無尽に動き回って………。

 

『バラバラになりな!!』

 

巴のアルケーに向かってGNバスタードソードを振りかぶり………。

 

ブスリ。

 

『………へ?』

 

その胴体の擬似太陽炉に、巴が「背後に向けて突き出した」太刀が深々と刺さった。

 

『な、何でだ………?この俺が………?』

「すまんの。高速戦闘は楓の姐御との特訓で目が慣れとるんじゃ。何より………。」

 

巴はサーシェスのアルケーを後ろに蹴り飛ばし、太刀の露払いをする。

 

「おどれは、相手を散々なぶった上で、「一番屈辱的な敗北」を与えようとするじゃろ。」

『バカがぁぁぁぁぁあああああッ!!』

 

急所を貫かれたサーシェスのアルケーは、爆発を起こし散る。

だが、巴は勝利の余韻に浸る事無く、スサノオと激戦を繰り広げている舞の方へと向かった。

 

「ああもう!GNフィールドウザイ!後、何がフィンファングよ!このパクリ野郎!」

『五月蠅い、小娘だ。神である僕に歯向かう命知らずな猫のようだね。』

 

リボーンズガンダムに対し、決定打を与える事ができない梨沙のビビッドレパードはリペアキットを消耗しながら、それでも何とかダメージを与えようとマーキュリーレヴA ガトリングガンを連射する。

小春のガドランくんは右腕のパーツが外れたため一旦後退しており、その分梨沙にフィンファングが襲い掛かる。

 

(「リボーンズキャノン」に変形しない所を見ると、相当舐められてるわね………。このAI作ったロリコン達、どういう性格してるのよ。)

 

口では激高しながらも、内心冷静に分析をしようとした梨沙は、戦法を変えようとカバカーリーのビーム・ショットガンを構え前に飛び出す。

 

『武装を変えた所で無駄だよ。』

「くっ………!」

 

しかし、GNフィールドを突破するだけの破壊力は持っていない為、逆にフィンファングによって右腕を吹き飛ばされてしまう。

近距離での攻め手を封じられた所で後退する梨沙にフィンファングが猛攻を仕掛ける。

 

『ハハハ………!猫というよりネズミかな?』

「いつまでも強気でいられると思うんじゃないわよ!」

『それは、この事かな?』

「!?」

 

リボーンズガンダムの背後………リボーンズキャノンの左腕のマニュピレーターがロケットアンカーとして移出される。

「エグナーウィップ」と呼ばれるその武装は背後から………「ミラージュコロイド」で姿を消して飛びかかろうとしていた小春のガドランくんを拘束し、高圧電流を流す。

 

「あわわわわわ!?」

『甘いんだよ、僕の死角を突こうだなんてね。』

 

そのままGNフィンファングのビームが小春機を狙う。

小春はリペアキットで回復をするが、みるみるうちに消費されていく。

 

「……………。」

「小春!?」

『ネズミといいトカゲといい、僕の邪魔をするのはもうやめないかい?』

「………違います。」

『ん?』

 

声のトーンが落ちた小春に少しだけリボンズは眉をひそめる。

 

「梨沙ちゃんのガンダムは凄くカッコよくて………豹柄の模様がとてもいいんです。それにガドランくんは、ドラゴンなんです。強いんです………どっちも強いんです………強いんです!」

 

だんだん語気が強くなってくる小春にリボンズは怪訝な顔を見せる。

そうこうしている内に小春機のリペアキットが無くなる。

 

「………だから!小春もドラゴンらしく!強くッ!」

 

ここで小春は吠えた。

拘束され高圧電流が流されている中で、背中のバーニアを全開にし、ガドランくんは強引に突撃をする。

機体は上手くコントロールできなかったがそれでもリボーンズキャノンに正面からぶつかり、長いモビルカプルの腕で思いっきり機体に組みつく。

 

『な!?気でも狂ったか!?そんな事をした所で………!』

「爆発させますか!?この「至近距離」で!?」

『!?』

 

ここに来て初めてリボンズの顔に動揺が見られた。

高圧電流を長時間受けた事で、もはや得意のビーム兵器等を撃つ力も残っていないガドランくんを爆発させるだけならフィンファングに頼ればいい。

しかし、密着状態で爆発させればリボーンズガンダムとはいえ無事では済まないだろう。

更にこの状態では………。

 

『じ、GNフィールドが張れない!?』

 

小春機が干渉しているからか、得意の防御フィールドに頼れない。

更に機体バランスも崩れ、動きが明らかに鈍ってしまっていた。

 

「よくやったわ!小春ッ!!アンタ色んな意味で最高!!」

 

今まで封じられていた射撃武装が存分に発揮できる。

その最高のシチュエーションになった事で梨沙も吠える。

対艦ビームランチャーを構えるとこれを皮切りに次々と武装を撃ち込み始めた。

 

『チィッ!』

「豹は獲物を逃さないわよ!」

 

これに対し、リボンズは「トランザム」を発動。

機動力を上げようとする。

………が、ガドランくんが邪魔で思ったように動けない。

結局フィンファングの牽制に頼りながら、ビビッドレパードの砲撃を躱す事だけで精一杯になる。

 

『どけ!トカゲが!』

「ドラゴンです!それに絶対に離しません!」

 

意地でもしがみつく小春の頑固さにリボンズは冷静さを失っていく。

着実にではあるが、形成が逆転し始めていた。

 

「舞!無事か!?」

「あ………巴ちゃん、良かった。勝てたんですね、サーシェスのアルケーガンダムに。」

 

巴が駆け付けた時には、スサノオを抑えていた舞のステップシルエットは相当消耗している状態だった。

パーツは全てくっついていたが、リペアキットは使い切っており、後数回被弾したら撃墜の所まで追い込まれていた。

 

「………フィールドリペアを使えばこうはならんかったのに。」

「あ、巴ちゃんが気にする事じゃないですよ。私が勝手に使ってないだけですから。」

 

舞は気にしないように言ったが、巴は自分がアルケーガンダムとサシで勝負したいと思ったからこうなったんだと痛感する。

 

「……………。」

「それに、メインは巴ちゃんなんです。私達は楽しんでますし、まず巴ちゃんがみんなの為に強くなればそれでいいんです。」

「分かった………。」

 

こみ上げる感情を抑え、巴は舞のステップシルエットの肩をポンと叩く。

 

「梨沙と小春の援護をしに行ってくれ。スサノオは………うちが何とかする!」

「はい!」

 

入れ替わりでブースターを最大にして飛んでいく舞を見送りながら、巴は太刀を握りスサノオを見つめる。

 

『現れてくれたか、村上巴。自分が乙女座であった事を、これほど嬉しく思った事はない。』

「だったら礼は乙女座じゃなく、舞を始めとしたうちの大事な仲間達に言ってくれい。………みんなが居なければ、うちはサーシェスにバラバラにされとった。」

『そうか………ならば、私を切り裂き、その仲間の為に、勝利を掴んでみせろ!!』

 

ブシドーは強化サーベル「シラヌイ」と強化サーベル「ウンリュウ」を合体させ、「強化サーベル「ソウテン」」にして左手で構える。

巴は残りのリペアキットを使い耐久値を最大まで回復すると、太刀を構え一旦目を閉じ………静かに見開く。

 

「取っておいた全力でおどれを倒す!」

『とくと見るがいい…盟友が造りし、我がスサノオの奥義を!』

 

巴はアサルト覚醒を発動し、トランザムを起動。

ブシドーも一度きりのトランザムを発動させる。

紅に染まった両機がそれぞれの想いのこもった刀を強く握りしめる。

 

「勝負じゃ!ブシドー!!」

『勝負だ!巴!!』

 

爆発的な加速力と共に、両機の刃が交錯した。

 

『まだ離れないのか!?この爬虫類が!』

「ドラゴンって何度も言ってますよ!」

 

一方、トランザムで逃げ回るリボーンズガンダムは背面に意地でもしがみつく小春のガドランくんを振り落とそうと必死になるが、彼女も相当な根性を発揮していた。

そうこうしている内に梨沙の砲撃が何回か当たり、耐久値が減らされていく。

 

「神に傷はつけられないんじゃなかったっけ?どうやらネズミはそっちみたいね!」

『調子に乗るな小娘!真のイノベイターであるこの僕を追い詰めたと思うな!』

 

口では強気の姿勢を崩さないリボンズであったが明らかに劣勢になっているのは目に見えて取れた。

とはいえ、梨沙機も度重なるフィンファングの攻撃でリペアキットの残りはかなり少ない。

各部位のパーツも何回も吹き飛ばされるが、全身を武器庫にしたガンプラであるお陰で攻撃手段には困らなかった。

そこに、舞のステップシルエットが高速で近寄って来るや否や、大型ビームランチャーで援護射撃に入る。

 

『こ、こんな運命があってたまるか!』

「残念ながら現実です!トランザム、切らなくていいんですか!?」

『!?』

 

小春の言葉と共に、リボンズ機はトランザムの限界時間を迎えてしまう。

これで性能はしばらく悪化。

もう梨沙と舞の射撃を自由に避ける事もできなくなる。

 

『フィンファング!』

 

背に腹は代えられないと判断したのだろうか。

リボンズは梨沙のビビッドレパードに8基の小型GNフィンファングを全部突撃させ、何とか致命傷を負わせ爆発させる。

更に背中の大型ファングになる4基の「GNキャノン」を放出すると小春のガドランくんに集中砲火を与えて爆破。

しかし、至近距離にいたリボーンズガンダムもその爆発に巻き込まれ、姿が消える。

 

「……………。」

 

ステップシルエットを駆る舞の目の前で、リボーンズガンダムは再び姿を現した。

小春機の自爆に近いダメージを受けても耐久値は残っていたらしい。

 

『フ………フフフ………やはり、僕は神なんだよ!運命は………ッ!?』

 

しかし、掲げようとした両腕が無い。

よりにもよって………動力源の擬似太陽炉を肘に搭載した両腕が爆発で胴体から外れてしまっていた。

 

『こ、これでは動く事も………!?』

「みんなが作ってくれたチャンス………逃さない!」

『なッ!?』

 

棒立ち状態のリボーンズガンダムに向かって舞のステップシルエットがドッズランサーを突き付け、シールド・ブースター+強化型シールド・ブースターで爆発的な加速力を発揮して突撃する。

 

『落とせ!ファング!!』

 

GNキャノンとして機能していた4基のGNファングが一斉にビームを吹き舞機に襲い掛かる。

 

「失敗は成功の元………!今までの失敗は………ここで成功させる!」

 

まず、盾として構えていた機動防盾が左腕ごと吹き飛ぶ。

 

「確かに私達は強くないかもしれない………!」

 

次に、インパルスガンダムの頭部が吹き飛ぶ。

 

「でも、それでも………!」

 

更に、背中のシールド・ブースター+強化型シールド・ブースターも吹き飛ぶ。

それでもドッズランサーを突き出したステップシルエットガンダムは止まらない。

まるで弾丸のようにリボンズ機に突っ込んでいく。

 

「私達は………もっと大胆に!成長できるから!」

『人間風情が………!』

「たぁぁぁああああーーーッ!!」

『あのトカゲ風情がァァァッ!!』

 

深々とドッズランサーが突き刺さり、その勢いでのめり込んだ舞は、最後にリボーンズガンダムを蹴り飛ばす。

吹き飛んだ傲慢な救世主は、彼女の見据える先で爆発を起こした。

 

「はぁ………はぁ………巴ちゃんは?」

 

荒く息を吐く舞が振り返ると、それぞれ巴のアルケーとブシドーのスサノオが互いに居合を放って交錯した所だった。

傍目にはどちらが勝ったのか分からない。

 

「……………。」

『……………。』

「………やっぱり、おどれは強いのう………グラハム。」

『不本意ながら今はブシドーだ。………しかし、見事。』

「うちは………もっと強くならんといかん。それこそ、おどれに勝てるように。」

『ならば、また来るがいい。私は君を歓迎する。』

「ありがとうの。」

 

そう巴が感謝の言葉を述べると………アルケーもスサノオも爆発を起こした。

 

「相打ち………?」

 

舞が茫然とする中、ミッションコンプリートの文字が画面に浮かぶ。

桜舞隊は辛くも勝利を掴んだ。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

「お疲れ様です、巴ちゃん!いやー、流石ですね!相打ちだったとはいえ、あのアルケーガンダムとスサノオの両方を倒すんですから!」

 

シミュレーターが終了し、笑顔で覗き込んでくる安斎都の姿に、しかし巴は呆けた顔をしながら背もたれに身体を預けていた。

 

「巴ちゃん………?」

 

心配する都の言葉が耳に入っていないのか、巴はのろのろとシミュレーターから出ると、笑顔で会話をしている桜舞隊の4人の仲間を見る。

 

「お、巴!お疲れさん!凄いバトルだったぜ!オレも後半戦に参加すりゃ良かったなぁ………。」

 

満面の笑みで話しかけてくる晴を見た巴は、黙って梨沙、舞、小春といった桜舞隊の仲間達を見渡す。

明らかに妙な巴の姿に梨沙達は一転心配そうな顔を浮かべるが、彼女は深々と頭を下げ、一言………。

 

「すまん。」

「え?」

 

何と投げかけられたのは謝罪の言葉。

何事かと前に出ようとした都を………しかし引率役の片桐早苗が無言で制する。

巴は少しだけ顔を上げると、一気に言う。

 

「みんなに………迷惑を掛けてしまった………本当にすまん!」

「ま、待ちなさいよ!アンタらしくない!アタシがアンタとサーシェスとタイマンさせた事や、舞のフィールドリペアを禁じてた事を気にしてるの!?」

「だったら、大丈夫ですよ!バトル中も言いましたけれど、私達が勝手にやった事ですから!巴ちゃんが気にする事じゃありません!」

「そうじゃない………そうじゃないんじゃ………!」

 

巴はそう言うと、己の両手を握りしめ目をつぶる。

 

「うちが弱かったばかりに………うちが助けられなかったばかりに………みんなボロボロじゃ………。」

「ボロボロって………アンタね、一人で全員をカバーできるわけないでしょ!?」

「それに私達、バトルを楽しんでましたから!巴ちゃんが気にする事じゃありません!」

「そうそう!何よりコレ、巴が強くなる為の特訓なんだろ?だったら巴が今回のバトルで少しでも強くなれた事を祝えばいいじゃんか!」

「うちは強くない!!」

 

梨沙、舞、晴の言葉に巴は思わず叫んでしまう。

思わず怯んでしまう3人を見て、巴はまた俯いてしまう。

 

「………何を言っておるんじゃろうな、うちは。じゃが………。」

「巴ちゃん~。」

「………ん?」

 

混乱する巴に対し、小春がいつもののほほんとした表情で近づき、彼女の顔を見ると笑顔で………彼女を抱きしめ自分の左肩に顔を埋めさせた。

 

「小春………。」

「今の巴ちゃんには、こうする事が必要だと思って~。小春の肩は小さいですけれど、ヒョウ君を乗せるだけの大きさはありますよ~?」

 

顔に温かさを感じた巴は少し冷静さを取り戻し、少しだけ苦笑いを浮かべる。

 

「なんじゃ………。これじゃ、うちはみんなの前で泣きたいみたいじゃないか。」

「………泣いていいのよ、巴。」

 

巴の言葉に、梨沙が静かに言う。

彼女は片腕を脇に抱えながらも………何とか言葉を紡ぐ。

 

「アタシはパパに甘えられるけれど………アンタの性格じゃ、自分に厳しくて甘えようとしないでしょ?」

「梨沙………。」

 

隣にいた晴も片手で頭をかきながら言葉を発する。

 

「ジャパンカップの映像………オレ達も見てるぜ。あんな所で恥をかかされて、悔しくないヤツなんているわけがない。だから、その………。」

「晴………。」

 

悩む晴の言葉を、前で手を組んだ舞が引き継ぐ。

 

「私達も巴ちゃんの悔しさを一緒に背負いたいんです。仲間だから………。だから………今ここで、吐き出してください!」

「舞………。」

 

そして、最後に小春が………。

 

「ほら、ビーチャさんも言ってたじゃないですか~。「強がらずに自分の足下をしっかり見てりゃ相手の色んな物が見えてくる。そこに確かな勝ち筋があるのさ」って~。」

「それは今回とは関係ない気がするがのう………。」

 

天然気味の小春の言葉に少しだけ苦笑する巴。

桜舞隊の4人の気持ちを受けとった巴は、小春の肩に顔を付けたまま静かに呟く。

 

「柚達には内緒にしてくれ。勿論、悔しくないわけがない。………でも、それ以上にみんなに申し訳ないんじゃ。うちが無様に負けてしまったから、みんなに恥をかかせてしまった。」

 

巴は静かに小春を抱きしめる。

 

「それでも冷静に居られるのは、柚がうちの代わりに激高してくれてるからじゃ。柚には本当に感謝しておる。じゃが………。」

 

巴の指が小春に食い込む。

痛いだろうが、小春は顔色を変えず巴を抱きとめる。

 

「それでもうちがまだ弱いのには変わりはない。強くなりたい。強くならなければならん。みんなを安心させるためにも、今度こそ強い自分を見せたいんじゃ。傲慢でも、今度こそ仲間を守れる………村上巴の道を!」

 

巴は肩を震わせる。

小春に体重を預けてしまったが、それでも彼女は受け止めてくれた。

その優しさに今まで心の奥底に溜まっていた物が遂にあふれ出す。

 

「じゃから………!今度こそ柚や裕美、肇や比奈と同じ道を歩んでいく為にも………!今だけは………肩を貸してくれ、小春………ッ!」

 

それ以上は何も言えなかった。

只々静かに涙を流す巴を、桜舞隊の面々は誰も笑いはしない。

状況を理解できた都は帽子のつばを深く被り、引率として巴達と一緒にいた早苗はほんの少しだけ安堵の優しい笑みを浮かべる。

小春は巴の背をポンポンと叩きながら言う。

 

「巴ちゃん。また始めましょう、ここから。小春達も、みんなで巴ちゃんを……強くて優しい巴ちゃんの背中を押していきますから。」

 

巴はそのみんなの温かさを受け入れながら静かに頷いた。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

「うひゃー………巴、やっぱり強くなってるじゃねぇか!?」

 

数時間後、エクストラバトルを一通りやった後で、桜舞隊の各面々とタイマンをしていた巴は、たった今、彼女に敗北した晴のお手上げのような仕草に強気の笑顔で応える。

 

「少しじゃが吹っ切れたからかのう………?戦いの中で成長するというミスターガンプラの言葉があるが、何も成長は戦いの中に限った話じゃなさそうじゃ。」

 

次は誰が相手になる?と呼びかける彼女の姿に晴含め4人は苦笑。

 

「これじゃあ、アタシ達が巴の背中を押す前に巴に追い付かなきゃね………。」

「私達も、もっともっと努力しませんと!」

「小春とヒョウ君も頑張ります~!」

「ヒョウ君は……まあ、いっか。楽しく成長できりゃ。」

 

幼いながらも頼もしい仲間達。

そして、別のチームでそれぞれ己を鍛えている仲間達。

 

(見とれよ………!ウィル!)

 

巴は力強く握り拳を作りながら宿敵の姿を思い浮かべて心の中で言う。

 

(世界大会で出会う頃のうちや仲間達は、おどれの想像以上に強いぞ?時に笑って時に泣いて………そして成長したみんなの力で………全力でぶつかるからな!)



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3章:宇宙(そら)に輝く月(裕美・千鶴・泰葉・ほたる・若葉)・1話

時は柚や巴達が己の新しいガンプラに悩んでいる頃。

特訓の一環という事で関裕美は、松尾千鶴、岡崎泰葉、白菊ほたるのアイドルユニットである「ガールズビーネクストステップ(GBNS)」の仲間達と共に、ガンプラバトルのアジアツアーに参加していた。

そして、その途中………台湾の日本式旅館に泊まる事になった一同は、料理や温泉を楽しみ、浴衣を着てリラックスしながら卓球場へと足を運んでいた。

その一台で、千鶴と泰葉は対峙しており………。

 

「答えて泰葉ちゃん!流派斉藤洋子は!」

「王者の風よ!」

「全新!!」

「系裂!!」

「天破!!」

「侠乱!!」

「見よ!東方は!」

「花に満ちている!!」

 

「………何であの二人はGガンダムのノリでラリーを続けてるんだ?しかも流派斉藤洋子ってなんだ?」

 

怪訝な顔をする眼鏡の小柄な女性はアイドルではなくカドマツと知り合いの研究者であるモチヅキ。

これでもGBNSの面々の倍は生きており、幼女とみられるのを非常に気にしていた。

アジアツアーでは、彼女達の引率役の一人である。

 

「それは「蒸機公演クロックワークメモリー」って演劇で泰葉ちゃんが主役だったから………。」

「見ますか………モチヅキさん?私、その演劇を小説に編集した本を持ってきてるので………。」

「ん?じゃあ、見させてもらおうか?」

 

本を差し出したほたるの笑みに半信半疑で読み始めるモチヅキ。

その後、裕美達が一通り卓球を楽しんで、休憩を取っていると………。

 

「ヤスハァァァッ!!ヨーコォォォッ!!ナオォォォッ!!ユカァァァッ!!」

 

ボロボロに泣きだすモチヅキの姿が。

感動巨編となっていたその物語に感涙してしまったらしい。

 

「あとがきも読んだぞ、泰葉!お前のそれまでの人生だったかもしれないこの「ヤスハ」の生き様………!私は感動したァ!」

「あ、ありがとうございます………。実は私達4人共、一通り演劇には参加してるんです。」

「そうなのか………。自分をこういう形で表現できるのはいい物だなぁ………。」

「ふふっ、それはアイドルも、演劇も、ガンプラも全部同じですよ。」

 

元々は自分への自信の無さという共通点から結成されたGBNSという4人のアイドルであったが、様々な活動をしている内に、絆と自信が強まり今に至る。

ユニットとしてのパワーならば、フリルドスクエアや桜舞隊に負けていない自信は既にあった。

 

「いいユニットだなぁ、お前ら!………うぅ、年を取ると涙もろくなる………!」

「まあ、だから私が柚ちゃんや巴ちゃん達と一緒にガンプラを始めた時は、みんな焼きもちを焼いちゃったんですけれどね。」

 

苦笑する裕美にモチヅキは一転真面目な顔をして問いかける。

 

「………心配してないんだな、お前。」

「え?」

「巴や柚やミサ達の事だ。………色々想う部分はあるとは思うが、それにしては、随分平常心を保っているなって。」

 

ジャパンカップのエキシビジョンマッチでウィルにガンプラをバラバラにされた巴。

その様子を見て祝勝会で激高しまくった柚。

そして、自分の商店街を本当に救う力を身に着ける為、飛び出していってしまったミサ。

今、その仲間達はどうしているのか………。

アジアツアーに出かけている裕美には特にその情報が伝わっていない。

 

「………心配していないわけじゃないですよ?」

「じゃあ、割り切れているのはなんでだ?」

「心の底では割り切れて無いです。巴ちゃんはショックでしょうし、あんなに怒った柚ちゃんも初めて見ましたし、ミサちゃんだって何処で何をしているか分からない。でも、いつまでも気にしていても何も始まらないって私達、教えて貰いましたから。」

 

GBNSに入るきっかけになった自分への自信の無さ………裕美は目つきが怖いという事でアイドルなんて無理だと思っていた。

でも、実際に挑戦してみたら世界が変わった。

その時から、最初から無理だとかダメだとか、マイナスに見ていたら変われないって事を気づかせて貰った。

だから………。

 

「私は信じるんです。巴ちゃんも柚ちゃんもミサちゃんも立ち直れるって。そして、比奈さんや肇さん達が努力をしているように、私もこのアジアツアーでもっと強くなって帰ってくるって。それが一番みんなの為に私ができる最善の道だって今は分かってるから。」

「裕美………。」

 

笑顔で見つめる裕美の姿にモチヅキは感慨深い物を覚える。

過去は人を強くするという言葉があるが、裕美は自分を見つけられたのかもしれない。

そんな彼女は、バッグからガンプラを取り出す。

様々なガンプラをミキシングしてはいるが、まだ塗装やビルダーズパーツの付加までにはいっておらず、傍目から見てもチグハグの改装中のガンプラ。

 

「それは………。」

「今はまだ「プロトライトガンダム」………って言えばいいかな。「ムーンヘイロー」から引き継いだパーツも使っている私の新しいガンプラ。見ての通りまだ未完成だけれど、日本に戻るまでにはこれを完成させる!きっと、その頃にはみんな新しい強さを身に着けているはずだから!」

「……………。」

 

自信を持って言ってのけた裕美の姿を見て、モチヅキは少し考え………ニヤリと笑う。

 

「お前のその言葉を聞けて安心した。そこまで仲間を信じて強い信念を持っているのならば、そろそろエクストラバトルにも挑戦するべき時だろうな!」

「エクストラ………バトル?」

 

新しい単語に一斉に首を傾げる裕美を始めとしたGBNSの面々。

そこに丁度、もう一人の引率役である、モチヅキと同じく小柄で成人である日下部若葉が戻ってきた。

 

「モチヅキさ~ん!許可貰えましたよ!親切に事情を知った旅館の方がガンプラバトルの媒体をいじってもいいって言ってくれました!」

「流石、若葉ちゃん!ナイスタイミング!お前らァ!服着替えて来い!ガンプラバトル時間外講習の時間だ!」

「????」

 

よく分からなかったが、言われた通り若葉に連れられて自室で服を着替え、ガンプラを持ってゲームコーナーに集合するGBNS。

そこでは、旅館の人と話をしながら何かのデータをインストールするモチヅキの姿があった。

 

「若葉さん、エクストラバトルってなんですか?」

「そうですね~、千鶴ちゃん。実はカドマツさんから………。」

 

若葉が一通りエクストラバトルの説明をすると納得する一同。

ミスターガンプラから貰ったシミュレーター非対応機のデータがあるのならば、確かにやってみたい気もした。

 

「あの………ちなみにモチヅキさん。カドマツさんから貰ってきたデータはどんなバトルなのですか………?」

「宇宙世紀の「逆襲のシャア」の世界でのバトルだ。シャア・アズナブルと一緒にロンド・ベルのエース達10人をお前ら4人で撃退していくバトルになる。」

「え?」

 

ほたるの質問に返ってきたモチヅキの簡素な説明に一転怪訝な顔をする4人。

シャア側って事はつまりアクシズを地球に落とす任務という事だ。

正直に言わせて貰えば………。

 

「アムロ側が良かった………。」

「こればかりは、千鶴ちゃんに同感かな………。」

「私も………泰葉ちゃんと同じく………。」

「アハハ………みんな同じ意見だね………。」

 

何でアムロ側のデータじゃないのだろうか?と首を傾げる裕美達であったが、そういうバトルなのだから仕方ない。

まあ、ゲームはゲームという事で、演劇のように楽しもうと思った。

 

「よーし、準備できたぞ、お前ら!早速シミュレーターに入れ!」

 

モチヅキの言葉にガンプラを取り出し準備に入るGBNS4人。

その4人を見送りながら若葉が笑顔で手を振る。

 

「みんな頑張って下さいね~。………でも、エクストラバトルって楽しそうですよね。」

 

その言葉にモチヅキの背中がぴくっと一瞬固まる。

 

「………若葉ちゃん、ガンプラ作ったんだっけ?」

「え?はい………みんなに比べれば、まだ簡素な物ですけれど~。」

 

裕美達がアジアツアーに挑むにあたって、若葉も裕美達と一緒にガンプラについて学習していた。

その過程で、彼女も改造のベースとなるガンプラを組み上げていたのだ。

 

「………決めた。」

「はい………?」

「データ改造して若葉ちゃんも参戦できるように5人用にするぞ!」

「えぇッ!?そんな事できるんですか!?」

「私を誰だと思っている!?お前らもシャアなんかと組むより若葉ちゃんと組んだ方が百倍楽しめるだろう!?」

「いやまあ………確かにぶっちゃければそうだけれど………。」

「よーし!少し時間をくれ!設定をいじる!待っていてくれ、若葉ちゃん!」

 

そういうや否やインストールしたデータに色々何かを加える作業を始めるモチヅキ。

自分の体形にコンプレックスを抱いている為か、同じ悩みを持つ若葉の事を一人のファンとして憧れを抱いている彼女の熱意は、こうなったら止まらない。

思わずぽかーんとしている若葉(とほたると裕美と千鶴)に対し、泰葉が苦笑しながら一言。

 

「若葉さん、折角ですし一緒にバトルを楽しみませんか?」

「………で、でも私、ガンプラ初心者ですよ~?みんなの足を引っ張りそうですし~………。」

「誰だって最初はそうですよ。私達もガンプラの作成に苦労して、バトルにも苦労して、そうやって徐々に慣れていったんですから。」

「そうです………か。………はい、そうですね!」

 

泰葉の言葉にうんうんと頷いた若葉は早速自室にガンプラを取りに行く。

そして、戻ってくる頃にはシミュレーションのエクストラバトルのデータの変更が終わっていた。

 

「どのように設定を変更したんですか?」

「とりあえず、シャアは通信で話しかけてくるが戦闘には参加しない。その代わりに若葉ちゃんが一緒に戦える形になったって感じだ。」

「じゃあ、私達がネオ・ジオンとして戦うって事は変わり無いんだなぁ………。」

「まあまあ、千鶴ちゃん。折角だし、演劇の通りに連邦軍を倒す役目を演じてみたら?」

「あ………それ面白いかも。やってみよう。」

 

泰葉のアドバイスに何かを考えこむ千鶴。

一方で裕美とほたるは、若葉にシミュレーターでの操作とかについて色々と教えていた。

 

「成程~、体力が減ったら「リペアキット」や「フィールドリペア」で回復………。でも、リペアキットは最大20回しか使えないし、フィールドリペアは連続して使えないから我慢比べですね~。」

「10人もエース機が出てくるから………長期戦になるかもしれませんね………。」

「如何にダメージを喰らわないかが大事だけれど、若葉さんはまずは楽しむ事を第一に考えて下さい。私達が援護しますから。」

「ありがとうございます~。頼りにしますね!」

 

そして、モチヅキの許可が出た所で5人は互いのガンプラを見せ合って、うんと頷き改めてシミュレーターへと向かっていく。

 

「裕美ちゃんのそのプロトライトガンダム………早く完成するといいですね~。」

「はい………。でも、今の時点でも十分強いですよ!みんなには負けません!」

 

改めて裕美が取り出したプロトライトガンダムは先述の通り、色が塗装されておらずチグハグである。

それでもムーンヘイローガンダムから正当進化をしており、頭が「スターゲイザー」、胴が「ガンダムダブルエックス」、腕が「ジェスタ」、脚が「ガンダムエックス」、バックパックが「Hi-νガンダム」であった。

これに加え、「ビーム・ナギナタ(シャア専用ゲルググ)」と「ビーム・マグナム(バンシィ)」、「ミサイル」と「ビーム・キャノン」を備えた「シールド(νガンダム)」を装備しており、「フィン・ファンネル」と「ビーム・サーベル」と合わせ、ビルダーズパーツ未搭載でも十分に戦える武装はあった。

裕美の使う「覚醒」は巴と同じく攻撃力が上がる「アサルト覚醒」。

一番の彼女の特徴として、フィン・ファンネルをオート操作でなく、マニュアル操作で操れるという強みがあった。

 

「今の私達の中では千鶴ちゃんが一番そのガンプラとの付き合いが長いのかな?」

「うん!………今日の私はネオ・ジオンに洗脳された強化人間で行くから!」

「演劇通りとはいえもうノリノリだね!?」

 

既に役を演じ始めている千鶴が持つのは「シェンロンガンダム」をベースとした紫色の「モーランシェンロンガンダム(墨嵐神龍ガンダム)」。

千鶴が以前仕事でやっていた巨大習字をイメージして、袴姿をシェンロンガンダムや「ザクⅡ」、「ドライセン」に「マスターガンダム」、そして「ドラゴンガンダム」等のパーツで再現。

GBNS内のガンプラでは基本パーツによる堅牢さとホバー移動等による機動性の両方を確保しているのが特徴で、「ジャイアント・バズ」や「ミサイルポッド」等の爆発系射撃を駆使して接近し、「ビームグレイブ」や「フェイロンフラッグ」を突きや回転など多彩に振り回す嵐のような戦法を得意としている。

更にアクセントとしてマスターガンダムによるアンカー代わりの「ディスタントクラッシャー」と必殺技と言える「ダークネスフィンガー」を切り札として持っており、盾役をこなしながらも変則的な戦い方も可能としていた。

 

「私がダークネスフィンガーならば、泰葉ちゃんはゴッドフィンガーだよね。」

「このヨーコ流スチーム=テに砕けぬ物無しだよ!」

「お前ら………あのラリーはそういう理由か………。」

 

呆れるモチヅキの前で笑みを浮かべてガンプラをセットする泰葉の青色の機体は「デスティニーガンダム」を改造した「デスティニーガンダム・ディサイダー」。

「decide」とは決める、選ぶという意味を表す言葉であり、アイドルになって自分で選ぶ力を身に着けていった泰葉自身の成長を示している。

デスティニーガンダムをベースに「ブリッツガンダム」の胴や「V2ガンダム」の脚で軽量化・高出力・瞬発力の強化を図り、GBNS内での強襲担当と言える機動力を確保。

「パルマフィオキーナ」の使用を想定した格闘戦が主な得意レンジではあるが、デスティニーの武装を活かして、中距離戦や遠距離戦にもしっかり対応。

スピードを最大限に活用し、遠近両方で相手をかく乱できるのが美点である。

先述の蒸機公演の要素も取り入れており、時計を意識した左腰の「Iフィールド発生機」等もアクセントに加えているのが特徴。

こちらは「ゴッドフィンガー」等を切り札として持っていた。

 

「誰かに言われるままでなく、自分の意志を貫き通す。その強さを見せよう!」

「そうですね………。不運でも不幸でない所をこのガンプラと共に示したいです。」

 

ほたるが力強く言いながら己の「ガンダムデスサイズヘル(EW版)」を元にした「ガンダムリコリス・アプライザ」を見つめる。

赤白の彼岸花を背負った黒い翼の死神の機体は、デスサイズ(EW版)を軸にし、「レジェンドガンダム」のバックパックを背負っている所から成り立つ形状だ。

機体名は彼岸花の学名リコリス・ラジアータと立ち上がる・昇るといった意味を持つ「uprise」から組み合わされているのがポイント。

そして、武装に関しては、レジェンドガンダムの「ドラグーンシステム」を始め、射撃・斬撃共に使える「ダブルオーセブンソード/G」の「GNソードⅡブラスター」に加え、「マーキュリーレヴA ソードユニットⅢ」、「イージスガンダム」の「ビームサーベル発振刃」、更に、シールドとして装備している「ローゼン・ズール」の「3連装メガ粒子砲」と豊富だ。

デスサイズならではの「ハイパージャマー」による強襲やシールドに備わった「Iフィールド」といった防御機能を合わせる事で、GBNS内では直線機動からの攻めが可能となっている。

 

「私達4人の機体は、全機ある程度の自衛が可能なんです………。」

「後、精霊の仕事をしていた関係で、裕美ちゃんが「降り注ぐ火」、私が「不動の地」、泰葉ちゃんが「駆け抜ける風」、ほたるちゃんが「流し去る水」を意識してるのも特徴かな。」

「みんな、設定を練ってますね~。お姉さんも頑張らないと!」

「意気込む気持ちも分かりますけれど………若葉さん、今回は後方支援を主にお願いしますね。」

「はい~♪頑張ります!」

 

若葉が最初にベースとして選択したガンプラは深いブルーの配色である「グフ」。

彼女が勉強で初代の「機動戦士ガンダム」を見た所、ランバ・ラルの渋いオトナの魅力に感銘を受けた為にこの機体を選んだのが発端。

只、まだ初心者の若葉にはグフの生命線と言える近距離戦は苦手なので、それを補う為に射撃武装を「ザクⅡ」の「ザク・バズーカ」に換装している。

EXアクションも遠近両方を備えている他、支援重視の構成になっているのも1つの個性になっている。

GBNSやモチヅキ等の助けはあったが、ジグソーパズルを得意としている若葉は器用である為、ガンプラの作成も思いのほか上手くいっていた。

 

「じゃあ、みんなと同じようにシミュレーターにガンプラをセットして下さい。」

「えっと~………裕美ちゃん、こうですか?」

「そうそう。これで、シミュレーターを起動しますね。」

 

初めての操作に手間取る若葉に裕美が色々と教えて準備完了。

起動と共に、彼女達の意識は光が明滅するカタパルトへと向けられる。

 

「凄いです!?作ったガンプラがひとりでに動いています!?」

「これで出撃です。じゃあ、私から行きますね!関裕美、プロトライトガンダム………宇宙(そら)を照らす光に!」

「私の全力で、連邦軍を………叩き潰します。松尾千鶴機………モーランシェンロンガンダム、出る!」

「千鶴ちゃん、本当にノリノリだなぁ………。岡崎泰葉、デスティニーガンダム・ディサイダー!荒れた戦場でも、大輪の花を咲かせます!」

「私達も行こう………ガンダムリコリス・アプライザ。白菊ほたる………みんなを守る為に、力を発揮します!」

「み、みんな、カッコいいですね~………。じゃ、じゃあ私も………!日下部若葉、グフ………初めてのバトルに出発です!」

 

5機のガンプラはそれぞれの口上と共にカタパルトを滑り出し、戦いの舞台へと飛び立っていった。



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3章:宇宙(そら)に輝く月(裕美・千鶴・泰葉・ほたる・若葉)・2話

降り立った舞台は宇宙の隕石のような場所。

彼女達は知らなかったが、村上巴達がエクストラバトルを繰り広げた「ソレスタルビーイング号」のような場所と類似していた。

宇宙では戦闘の光が明滅しており、遠くには白い戦艦………「ラー・カイラム」が見えた。

 

「裕美ちゃん………ここは何処だろう………?」

「逆襲のシャアのシナリオ通りならば、私達は「アクシズ」に立っているんじゃないかな。」

 

白菊ほたるの疑問に関裕美は嘗てチームメイトの荒木比奈から叩きこまれた知識を元に回答する。

 

「アクシズ……ってガンダムの世界に登場する小惑星の1つですか~?」

「シャアはこのアクシズを地球に落とそうとしているんです。」

「ええっ!?」

 

岡崎泰葉の言葉にまだ知識が無かった日下部若葉は驚愕する。

ここに来てようやく彼女はGBNSの4人がシャア側を嫌がった理由を理解した。

とはいえ………。

 

「流石、シャア・アズナブル様………やる事のスケールが桁違いです………!」

「ち、千鶴ちゃん………。本当に「ネオ・ジオンに洗脳された強化人間」になり過ぎだよ?」

 

すっかり役にハマりきっている娘もいるわけで………。

完全に演劇の役になりきっている松尾千鶴の演技に苦笑してしまうほたる。

ここで、ようやくそのシャア・アズナブルの通信が入った。

 

『君たちがGBNSか。噂は聞いている。』

「あ、出た。」

『………上官に対しての口の利き方では無いな。だが、まあいい。まもなくロンド・ベルのエース達がここにやってくる。君たちはその侵攻を止めて欲しい。』

「気が進まないけれど、そういうミッションなら仕方ないかな………。」

 

裕美がため息を付きながらシャアと受け答えをする。

何だかんだ言っても、このエクストラバトルは裕美を鍛える為の物だ。

彼女が中心にならなければ意味が無かった。

 

「それでシャア。ロンド・ベルのエースが10人いるって話だけれど、具体的には誰がどんな機体に乗ってくるの?」

『実際に見た方が速いだろう。………そう言っている間に第一陣が来たみたいだ。』

 

その言葉に見ればソロモンに降下してくるモビルスーツが3機。

着地した機体を見て若葉はともかくGBNSの4人は………思わず息をのんだ。

 

『大尉の部隊か!考え直せ!………でなければ、修正してやる!』

『あたしだって役に立つんだから!』

『冷静に戦えば、私達でも抑えられるはずよ!』

 

そこに登場したのは、本来ならば有り得ないはずの組み合わせ。

カミーユ・ビダンが駆る可変機である「Zガンダム」と、ファ・ユイリィが駆る深緑の「メタス」………「メタス改」と、エマ・シーンが駆る水色の巨大なバックパックを背負った「スーパーガンダム」の3機が立ちはだかったのだ。

 

「か、カミーユが逆シャアの時代のロンド・ベル側の主戦力!?」

「メタス改はアニメにすら登場していないのに!?ファが乗るなんて!?」

「スーパーガンダムも………シミュレーション非対応機………!これがエクストラバトル………!」

「みんな何を言ってるんですか~!?」

 

あまりに凄い組み合わせに戦慄するGBNS。

それに対し、話の流れをまだ学習していない若葉は付いていけない。

 

『グフが宇宙に出てるんじゃないよ!』

 

その動揺を見越してか、カミーユが大出力の「ハイパー・メガ・ランチャー」を構え、若葉のグフに向けて撃ってきた。

 

「わわっ!?」

「若葉さん、「フィールドディフェンサー」を!」

 

いきなりの挨拶に転がり込むように回避する若葉。

起き上がると裕美の指示を受け、味方全体の防御力や回復力を上げるEXアクションを使う。

それで、戦闘が本格的に始まった。

 

「例え相手がカミーユのZガンダムだからって………!」

 

裕美がプロトライトガンダムのシールドのビーム・キャノンをカミーユ機に向ける。

しかし、そこで恐るべき事が起こった。

 

『そんな腕前で!』

「え………?」

 

ビーム・キャノンの砲口を向けた「瞬間に」、カミーユのZガンダムが動いたのだ。

慌てて狙いを定め直そうとするが、その度にZガンダムはステップで動き回る。

そして、その僅かな隙を狙い「ビーム・ライフル」を連射してくる。

 

「な、何!?撃つ前に動く機体なんて有りなの!?」

 

慌てて「耐ビームコーティング」が施されたシールドを構える事でダメージを減らすが、防御している間はビーム・キャノンやミサイルは使えない。

ビーム・マグナムは隙が大きいし、フィン・ファンネルは「ビーム・コンフューズ」で撃ち落とされる危険があった。

これでは下手に攻勢に出られない。

 

「だったら接近戦しか………って、うわ!?」

『やらせないわよ!』

 

近づこうとした所でエマのスーパーガンダムの「ロング・ライフル」の長距離射撃が飛んできた。

直撃は避けたが、カミーユ機の攻撃と合わせてじわじわと体力が削られていく為、リペアキットに頼らざるを得ない。

長期戦で合計20回の使用回数はかなり制限があった。

 

「千鶴ちゃん、ほたるちゃん!スーパーガンダムを止めて!」

「ゴメン!やってるけど………!」

「中々近づけない………!」

 

千鶴のモーランシェンロンガンダムがミサイルポッドやジャイアント・バズを駆使し、弾幕を作成。

その隙を狙いほたるのガンダムリコリス・アプライザがハイパージャマーを駆使して不意打ちを狙いに行くが、エマ機は「14連装ミサイル・ポッド」の広範囲爆撃でそれを阻止。

反撃とばかりに千鶴&ほたる側にもロング・ライフルを撃ってくる。

 

「泰葉ちゃんと若葉さんは!?」

「こちら泰葉。ファの「メタス改」は「ビーム・バルカン」と「ビーム・サーベル」でこちらの接近を許さないつもりみたい。」

「わ、私は何が何だか~~~!?」

 

泰葉のデスティニーガンダム・ディサイダーはパルマフィオキーナを駆使した格闘戦を狙いに行こうとするが、ファはあくまで少しずつ後退して距離を取ろうとしており、中々懐に潜らせて貰えない。

若葉のグフはまだ武装の適正距離と方角が分からず、EXアクションの「スラッシュテンペスト」の衝撃波を伴った斬撃を明後日の方向に放ってしまっている。

それでも時折泰葉の指示で「フィールドリペア」でチーム全体を回復してくれているので、十分戦いには貢献しているが………。

 

(撃破よりもこちらの消耗を狙っている………。早く打開したいけれど………。)

 

比奈から叩きこまれた知識を頭に浮かべながら裕美は考える。

そして………。

 

「若葉さん………。」

「な、何ですか~?」

「お願い!一人でメタス改を撃破して!」

「えええっ!?」

 

突拍子な裕美の指示に驚く若葉。

それに対して、裕美は言う。

 

「大丈夫。私も初めての戦いで乱入してきたプレイヤーを撃破できたから!」

「で、でも………それは裕美ちゃんが特別で~………。」

「特別じゃないよ!若葉さん器用だし、落ち着けば勝てる!」

「………じゃ、じゃあ、どうやって逃げる相手に武装を当てるんですか~?」

「あのね、メタス改はね………!」

 

裕美は若葉に指示を出すと改めてカミーユのZガンダムに向き直る。

そして、裕美はダメージ覚悟でカミーユにプロトライトガンダムの左腕のシールドのビーム・キャノンを向ける。

 

『そんな動きで………何!?』

 

だが、それはフェイント。

ステップを踏んだ瞬間に今度は右手に握ったビーム・マグナムを着地地点に照射する。

 

「ビーム・マグナムは加減が効かない!………泰葉ちゃん!」

「任せて!」

 

ビーム・マグナムの照射はカミーユが慌ててシールドで防御態勢を取った為にそこまでダメージを与える事ができなかったが、そこに泰葉のデスティニーディサイダーが一直線に接近しパルマフィオキーナを叩きこんで左腕ごとシールドを弾き飛ばす。

そのまま殴る蹴る等、怒涛のコンボを叩きこんでいく。

 

「敢えて言うよ!一方的に殴られる痛さと怖さを教えて上げる!」

『クッ………!人のセリフを取って!』

 

敵リーダーであるカミーユ機が少しずつだが、押され始めた。

 

「えっと………ステップを踏みながら、ザク・バズーカを撃っていって………。」

『ちょっと!?幾らあたしが民間人出身だからって、舐め過ぎよ!』

 

一方、一人でファのメタス改と対峙する事になった若葉のグフは落ち着いて基本通りの戦法を取っていた。

まだザク・バズーカはそんなに命中しないが、相手に決定的な武装が無い事で、被弾ダメージも多くない。

ファの役目は逃げ回る事でカミーユやエマへの注意を逸らす事であったが、初心者である若葉一人しか釣れないとなれば、あまり意味が無い。

AIにそれが動揺として伝わっているのかは分からなかったが、明らかに気にしていた。

 

「た、確かに中距離武装がビーム・バルカンしか無いのならば、私でも勝てるかも!」

『言ったわね!こうなったら………!』

「!?」

 

ファのメタス改の背部スラスターユニットの先端部が動く。

そのまま砲塔に変わり、若葉のグフに桃色の光が向いて………!

 

『喰らいなさい!「ハイ・メガ・キャノン」!』

「来ましたぁっ!」

『な!?』

 

メタス改の切り札とも言えるEXアクションであるハイ・メガ・キャノン。

しかし、予め裕美から何処かのタイミングで使われる事を聞いていた若葉は、その巨大な光をステップでギリギリ回避。

隙が出来た所を、ブーストを全開にしてぶつかる勢いでグフをメタス改に突撃させる。

 

「一気に行きま~す!」

『嘘!?』

 

ゼロ距離ならば外さないとザク・バズーカ二門を両手に構えて爆発弾を連射する「マルチパニッシャー」を乱射。

更に怯んだ所に今度こそスラッシュテンペストの高速斬撃を全部叩きこむ。

 

『あたしじゃ………ダメなの?』

「はぁはぁ………えっと………アレ?」

 

粗削りのグフの攻撃とはいえ、これだけコンボを喰らってしまえば関節部分や装甲の薄いメタス改ならば耐えられない。

荒く息を吐く若葉の前でファ機は爆発を起こした。

 

「若葉さんが一機撃墜………!」

「初戦闘で凄いね!とりあえずこっちは………!」

 

千鶴のモーランシェンロンとほたるのリコリスはエマのスーパーガンダムに近づく方法を考えていた。

ロング・ライフルや14連装ミサイル・ポッドを駆使するという事は、逆に言えば接近戦にはそんなに強くないという事だ。

 

「ドラグーンシステムはカミーユさんに落とされる心配があるから………頼れる武装は………!」

「それ、狙ってみるのも手かもね。とりあえず………!」

 

千鶴とほたるは敢えて同時にブーストを最大にして加速。

 

『無駄よ!』

 

エマは再び14連装ミサイル・ポッドで面制圧を仕掛ける。

それに対して、しめたと言わんばかりに千鶴が脚のミサイルポッドで自分達に振ってくるミサイルだけを迎撃。

派手な爆発が起こり黒煙の中から………。

 

『これは!?』

 

エマ機に飛来したのは、一本の槍。

ほたるのリコリスのマーキュリーレヴA ソードユニットⅢに内蔵されていた『ショットランサー』を射出したのだ。

直撃したスーパーガンダムは痺れてしまう。

 

「隙有りィッ!!」

 

ここで千鶴がEXアクションの「スラッシュペネトレイト」を選択し高速接近をしながら薙ぎ払う。

更に、「ミリオンスパイク」の連続突きを叩き込み「Gディフェンサー」のバックパックを吹き飛ばす。

 

「私の前から、消えろぉぉぉっ!」

 

最後は強化人間の役になりきった上でのダークネスフィンガー。

頭部を掴まれ黒炎による爆発を受けたスーパーガンダムはバラバラに吹き飛ぶ。

 

『ゴメンなさい………力不足だったわ。』

 

エマの謝罪の言葉と共にもう一機撃破に成功した。

 

『何故隕石を落とそうとするんだ!?遊びでやってんじゃないんだよー!』

「いや、遊びだし!こればかりは私もゴメンなさいとしか言えないけど!」

 

泰葉のデスティニーディサイダーが高威力コンボを叩きこんだ後に入れ替わりでビーム・ナギナタを叩きこんでいく裕美のプロトライトガンダム。

ここで、僚機が全員倒れた事で一機でも道連れにしようと考えたのだろうか。

隙を見せる事を覚悟でカミーユのZガンダムが裕美に………本来はバーストアクションであるはずの「ハイパービームサーベル」の巨大なビーム刃を叩きこもうとする。

 

「見た事無いEXアクション!?でも、残念だけど、知識は比奈さんにイヤと言う程教えて貰ってるから!」

 

しかし、これも予測をしていたのか、回避した裕美がお返しにEXアクションの「スペクトラルショット」を発動させ、ビーム・マグナムの銃口を3つに分裂させる。

そして、強烈な一斉射撃をZガンダムに叩き込んでいく。

これがトドメになったのか、カミーユ機も爆発をした。

 

『これがGBNSの力………だけど、次のエースは色んな意味で俺達以上に強いぞ!』

 

最後のカミーユの言葉を聞いた裕美は集まってきて息を荒げている仲間達を見る。

特に若葉は初めてのタイマンでの撃破に成功していた為か、気分が高揚していたようだった。

 

「これで後7人エースを倒すんだね………。」

「大丈夫………。シャア・アズナブル様の………命令………。ロンド・ベルのエース達を………闇に………堕とします………。と言いたい所だけれど、厳しい………。」

「が、頑張ります~!」

 

とりあえず、若葉機のフィールドリペアで全機が回復をした所でまたアラート。

見上げれば、今度は4機のモビルスーツが降ってきた。

 

「今度のエースは多分………!?」

『子供はみんなニュータイプ!大人になっても勿論ニュータイプってね!』

『ジュドー!うかうかしてられないわよ!相手はカミーユさん達を倒したんだから!』

『ま………オレ達はオレ達のやり方でやるとしますかねぇ!』

『簡単には負けないわよ!この後に戦う人達の為にも!』

「やっぱり………!」

 

身構える裕美達の前で、大型のトリコロール色の「ZZガンダム」に乗るジュドー・アーシタと、紫の大型のバックパックを背負った水色の可変機………「リ・ガズィ・カスタム」に乗るルー・ルカと、黄金の重装備の機体………「フルアーマー百式改」に乗るビーチャ・オーレグと、灰色の増加装甲を身にまとった機体………「フルアーマーガンダムMk-II」に乗るエル・ビアンノが立ちはだかった。

更に、通信に映った4人は、全員アニメに比べると少し成長した姿を見せている。

 

「ジュドー以外、アニメで未登場の機体………!漫画やゲームの機体を使うなんて!しかも、ジュドーとルーは「ムーンクライシス」の姿、ビーチャとエルは「ラスト・サン」の姿だ!?」

「これが全部分かる裕美ちゃんって………実は相当なガンダムマニア………?」

 

ほたるのツッコミはスルーしながら裕美はまた考える。

各機体のフォーメーションが今回はいびつに思えたからだ。

エースであるはずのジュドー機がルー機と共に後方に鎮座しており、代わりにビーチャ機とエル機が前に出ている。

確かにフルアーマー機は硬いが、その機動力故に近距離戦に向いているかと言えば、疑問が生じる。

特に「Iフィールド」を備えているビーチャのフルアーマー百式改はともかくとして、エルのフルアーマーガンダムMk-IIはビームには脆かったはずだ。

 

「てっきりZZガンダムが前に出てくると思ったけれど………気を付けて!何か狙ってるかもしれない!」

 

そう言うと裕美は敢えて後方のジュドーのZZガンダムをビーム・キャノンで狙う。

バーストアクションの「ハイパービームサーベル」やEXアクションの「ハイ・メガ・キャノン」を自由に使われるのは恐怖であったからだ。

しかし、「ビーム・サーベル」を握ったビーチャのフルアーマー百式改が射線に入り、Iフィールドで妨害する。

 

「邪魔しないで!」

『悪いな!いつもジュドーの世話になってる分、今回はオレ達がサポートするって決めたんだ!』

 

ビーチャの言っている真意までは分からなかったが、まずは邪魔な前線のビーチャ機とエル機を片付けないといけない。

そう感じたのかスピードに優れる泰葉のデスティニーディサイダーがビーチャ機に格闘戦を仕掛けに行く。

更に、左腕にIフィールド発生装置を備えるほたるのリコリスが、千鶴のモーランシェンロンの援護を受けながら「ビーム・サーベル」を握るエル機に接近戦を仕掛けようとする。

目まぐるしい展開にまだついていけない若葉のグフはとりあえず、フィールドディフェンサーで防御面を強化していく。

 

「破壊させて貰います………!」

『そう簡単にできると思わないでよ!………それ!』

「え………!?」

 

GNソードⅡブラスターの大剣で格闘戦を仕掛けに行ったほたるは、突如エルのフルアーマーガンダムMk-IIの右腕から移出された紐のような物に左腕を絡みつかれ驚愕する。

それはスパークすると、ほたる機を麻痺させてしまう。

 

「う、「海ヘビ」………!?これって「ジョニー・ライデンの帰還」の………!?」

『ヤザンさんお勧めの武装だよ!………ビーチャ!』

『あいよっと!』

 

エルが怯ませたのに合わせて泰葉の格闘戦に苦戦していたはずのビーチャは、ビーム・サーベルを投げ捨てると、何とパルマフィオキーナの掌底に合わせて拳をぶつける。

しかし、フルアーマー百式改の腕が破壊されるかと思いきや、その腕部がスパークし、泰葉機まで麻痺する。

 

「しまった!?「炸裂ボルト」!?」

『いいぜ!ジュドー!ルー!』

『いっけー!ハイ・メガ・キャノン!!』

『OK!「メガ・ビーム・キャノン」、撃つわよ!』

 

動きと共にIフィールド発生装置まで麻痺してしまった泰葉機にジュドーのZZガンダムが………同様にIフィールドが使えないほたる機にルーのリ・ガズィ・カスタムが変形して最大級の射撃を直撃させようとする。

 

「!?………泰葉ちゃん!」

「ゴメン!ほたるちゃん!」

 

リペアキットも使えない状況で直撃は破壊されると判断した裕美は即座にビーム・マグナムの照射で泰葉機の頭部ごと機体を吹き飛ばし無理やりハイ・メガ・キャノンの射線から外す。

同様に千鶴もバズーカでほたる機の絡み憑かれた腕を吹き飛ばしてメガ・ビーム・キャノンの射線から何とかリコリスを吹き飛ばす。

2機のリペアキットはこのダメージで消耗してしまうが、戦力が減るよりは余程マシだ。

しかし………。

 

『さぁて………オレ達だって少しはデキる所を見せないとな、エル!』

『ま………ルー達には腕で負けていても気合では負けてられないからね!』

「………自分の役割を理解した上での立ち振る舞い………強敵だね。」

 

通信で不敵な笑みを浮かべるビーチャとエルを見て、泰葉を始め5人は戦慄する。

まだ中盤戦ではあったが、この調子だと相当厳しい戦闘を覚悟しなければならなかった。



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3章:宇宙(そら)に輝く月(裕美・千鶴・泰葉・ほたる・若葉)・3話

その後もジュドーのガンダムチームのフォーメーションは変わらない。

ビーチャのフルアーマー百式改の後ろにジュドーのZZガンダムが。

エルのフルアーマーガンダムMk-IIの後ろにルーのリ・ガズィ・カスタムが。

それぞれ前衛と後衛を担当しながら戦おうとしていた。

 

「ね、ねえ!ジュドー!ルー!味方の後ろに隠れていて恥ずかしくないの!?」

 

何とか後方のジュドー機をプロトライトガンダムのビーム・マグナムで狙おうとした関裕美が慣れない挑発行為を行う。

しかし、それをカミーユと同じく銃口を向けた瞬間に回避をしてみせお返しとして「21連装ミサイル・ランチャー」をバックパックから撃ちだしてきたジュドーは、ルーと共に一言。

 

『ZZはパワーがダンチなの!これを活かさない手はないでしょ?』

『リ・ガズィ・カスタムの適性距離だもの。イーノお勧めの「Zザク」じゃなくてよかった!』

「た、確かにそうだけど………うぅ………。」

 

下手に比奈にガンダムの知識を植え付けられた裕美だからこそ反論できず。

改めて確認すると、岡崎泰葉のデスティニーガンダム・ディサイダーはビーチャ機の炸裂ボルトを伴ったパンチのラッシュを回避に徹している。

裕美はジュドーの動きを止めておかないと泰葉に被害が及ぶ危険性があった為、下手に援護に向かえない。

一方、白菊ほたるのガンダムリコリス・アプライザはエル機とインファイトを繰り広げる形になっていた。

松尾千鶴のモーランシェンロンガンダムがジャイアント・バズを、日下部若葉のグフはザク・バズーカを使って援護をしようとするが、ルー機の妨害もあって中々かみ合っていない。

 

「味方の数はほたるちゃん達の方が多いけど………武装の射程がルー機まで届いてない………!」

 

無理もなかった。

裕美機もビーム・マグナムくらいしかジュドー機には届いてない状況だ。

切り札のフィン・ファンネルを使う方法も考えたが、中盤戦で失うリスクもあったし、そもそもビーム・マグナムを撃ちながらフィン・ファンネルを別の機体に向けて操る技術はまだ自信がなかった。

 

「どうしよう………!」

「裕美ちゃん、そのままジュドーのZZガンダムを狙って。」

「泰葉ちゃん?」

「私が先にビーチャ機を落とせば戦力バランスは崩れる!」

 

そう裕美に言うと一度バックステップをした泰葉のデスティニーディサイダーが拳法の構えを見せる。

 

『お、空手でやるか!?乱戦で炸裂ボルトを受けたら、ジュドーやルーに吹っ飛ばされるぜ?』

「覚悟の上です。それに、これは空手じゃなくて、ヨーコ流スチーム=テですよ。」

『スチーム=テ?』

「………いつか大地に満開の花を咲かせる為に。大切な人達の為に使う型です。」

『ははっ!そりゃスゲーや!………でもま、そっち側で言う事じゃないだろ?』

「ふふっ、本当はそうしたかったんですけれどね。」

 

苦笑した泰葉は一転真剣な顔になり、同じようにファイティングポーズで構えるビーチャ機に対して踏み込んでいった。

 

『ヤザンさんの海ヘビ………想像以上に効いてるわね。嫌らしいけど、クセになるかも。』

「こちらとしては大迷惑ですけれど………!」

 

リコリスを駆るほたるは、豊富な射撃武装に頼らず、敢えて自機にゼロ距離で張り付くエル機に手を焼いていた。

マーキュリーレヴA ソードユニットⅢのビーム刃による斬撃を喰らわせて怯ませようとするが、ビーム耐性が無くても素の耐久力が高いから中々耐久値を減らせない。

かといって、下手に離れるとルー機の強力な射撃を受ける危険性が出てくる。

ならば、GNソードⅡブラスターの大剣を使うという手段もあったが、こちらは隙が出来た時の海ヘビが怖かった。

 

『結局ビーム・サーベルとかでの斬りあいになるよね!アタシとアンタ。どっちが持つかしら?それとも切り札の背負ってるドラグーン使う?撃ち落とされたら意味ないけど?』

「……………決めた。」

 

ゼロ距離でほたるの取った選択肢は1つ。

GNソードⅡブラスターの大剣を握り、無理やり斬り払おうとしたのか、振り回そうとする。

 

『考えるのをやめたの!?それなら………!』

 

リコリスの左腕にエル機の右腕から放たれた海ヘビが絡みつく。

そして、エルが電気を流そうとした瞬間に………何とほたるは自機の右脚を振り上げた。

膝の突起から伸びたビームサーベルが海ヘビのケーブルを斬り捨てる。

埋め込まれていたイージスガンダムのビームサーベル発振刃だ。

 

『な!?』

 

思わずエルが左腕からも海ヘビを発射。

今度は横に僅かに動いて回避しながら左足のビームサーベル発振刃で斬り払う。

これで、厄介な電撃武装は無くなる。

 

『やられた!?ルー!作戦変更!並列で………!』

「逃がさない………!」

 

再びGNソードⅡブラスターの大剣を振りかぶったほたるはEXアクション「ストライクストリーム」を発動。

横に大きくエル機を薙ぎ払い、そのまま飛び上がって回転しながら上空から斬り下ろす。

 

『や、ヤバ………!?威力が!?』

「トドメ………!」

 

そして、「GNソードⅡブラスターライフルモード」と変形させ、シューティングモードへ。

ゼロ距離から怯んだ相手に「カルネージシュート」の高出力射撃を叩き込む。

 

『ゴメ~ン!ジュドー、ルー、ビーチャ!アタシここまでだわ………。』

 

エルの謝罪と共にフルアーマーガンダムMk-IIが爆発。

そして、それを確認したほたるは笑顔で散々自分達をエルの後ろから狙ってきたルーにGNソードⅡブラスターライフルモードの砲口を向ける。

 

『あ、アハハ………。もしかして、相当怒ってる………?』

 

ほたるの怒気を感じ取ったのか、ルーは乾いた笑みを浮かべた。

 

『ちょ、ま!?そんなのアリか!?』

 

そして、泰葉機とビーチャ機の格闘戦はまた泰葉機が押し始めていた。

ビーチャ機が炸裂ボルトの伴った拳で攻めてくるのに対し、泰葉のデスティニーディサイダーはパルマフィオキーナに頼らず蹴りを中心に使い始めたのだ。

巧みな連続蹴りで相手を寄せ付けず、炸裂ボルトの拳は蹴り上げて弾く。

 

『た、確かにリーチ考えれば有利だけどよ!?オレ、こんなケンカ弱かったっけ!?』

 

一発一発辺りのダメージは少ないが、着実に削られるビーチャ機の耐久値。

相手に焦りを与えればそれだけ有利になると見越した泰葉の巧みな攻めだった。

 

「ギブアップしますか?」

『誰がするか!………グフッ!?』

 

ほんの一瞬の隙を突き、ビーチャ機の腹に蹴りをえぐり込ませる泰葉機。

それが効いたのか、フルアーマー百式改はうつ伏せにダウンする。

 

(ゴッドフィンガーなら………!)

 

その隙を逃す泰葉ではない。

一気に決めようと右手を突き出そうとする。

 

『モンド!技を借りるぜーーーッ!!』

「!?」

 

しかし、ここでビーチャは何とフルアーマー百式改の増加装甲を強制分離する。

 

「目くらまし!?………そんな悪あがき………う!?」

 

それでもゴッドフィンガーを狙いに行った泰葉機の腹部に強烈な衝撃が襲い掛かる。

飛んできたのは「百式改」のバックパックである「ウイングバインダー」。

かつてアニメでモンド・アガケが使っていたからめ手をビーチャが使ったのだ。

しかも、当たり所が悪かったのか、ウイングバインダーは爆発し、左腰の「Iフィールド発生装置」が破壊される。

 

『ピンチは一転チャンスってな!』

「くっ………!」

 

完全にバランスを崩された泰葉機の急所を狙い、強烈な威力を持つ「ロングメガバスター」を構えるビーチャの百式改。

負けた、と思い撃墜を覚悟した泰葉であったが………。

 

「だ、ダメ~~~!!」

「若葉さん!?」

 

突如射線上に若葉のグフが両手を掲げ立ちはだかる。

ほたる達の援護に行っていた彼女だが、早すぎる展開に追い付けず、援護を千鶴に任せて泰葉の所に近づいてきていたのだ。

当然、ビーチャのロングメガバスターの射撃は隙だらけで立ちはだかった若葉のグフに直撃する形になる。

泰葉の目の前で爆発する若葉のグフ。

 

「若葉さんッ!!この………!」

 

ウイングバインダーを失った事と射撃の反動で隙だらけになっていたビーチャ機を今度こそパルマフィオキーナからのゴッドフィンガーで破壊する泰葉のデスティニーディサイダー。

しかし………。

 

「この闘いは………完全に私の負けでした。」

『世界にはオレより強いヤツが沢山いるぜ………次に出てくる人達のようにな。気を付けろよ………。』

 

ビーチャの百式改が爆発を起こすが、仲間に庇われた形の泰葉は唇を噛みしめていた。

 

「若葉さんがやられるなんて………!」

 

守り切れなかったという思いを持ちながら裕美はジュドーのZZガンダムに「ビーム・ナギナタ」を構え肉薄していた。

こうなってはジュドーも後衛に徹するわけに行かず、「ビーム・サーベル」を構え鍔迫り合いにもっていく。

 

『ルー!そっちは………!』

『残念だけど、リタイア………!ゴメン、ジュドー後一人で頑張って!』

 

ルーのリ・ガズィ・カスタムは千鶴機にフェイロンフラッグを投げつけられて動きを封じられた所をほたる機の猛攻を受け爆発していた。

こうなった以上はジュドーのZZガンダムが落ちるのも時間の問題だ。

だが、相当リペアキットを消耗させた上に、GBNS側の機体を1機削ったとなれば戦果は大きい。

 

『んじゃ………後は、あの人達に任せるとしますか。アンタ達にも忠告はしとくよ!』

 

最後は泰葉機の「高エネルギー長射程ビーム砲」を受け、ZZガンダムは爆発を起こした。

 

「ゴメン、みんな。私が油断したばかりに………。」

「泰葉ちゃんは悪くないですよ………。私達にも責任はありますから………。」

「ほたるちゃんの言う通りだよ。若葉さんの為にもみんなで最後の戦いにも勝とう!」

 

僅かな戦いの合間に、若葉に代わって「フィールドリペア」を使う裕美の言葉に頷く一同。

ここで最後のアラートが鳴る。

裕美達が見ると3機の残るエース機が降ってきた。

恐らくはアムロの………。

 

「え?」

 

しかし、今度もまた裕美達は一瞬固まる事になる。

降ってきたのは、裕美のプロトライトガンダムと同じく「フィン・ファンネル」を持つ青と白のツートンカラーの「Hi-νガンダム」と、この時代には存在しないはずの超大型のトリコロールカラーの「Ξガンダム」と、裕美が最初に作った懐かしのガンプラであり青色に塗装されていた「スタークジェガン」であった。

 

「あ、あの………搭乗者の方の名前を聞いてもいいですか?」

『こちらアムロ・レイ。Hi-νガンダムは伊達じゃない!投降しろ!』

『ハサウェイ・ノアだ!シャア!クェスを返してもらうぞ!このΞガンダムで!』

『ユウ・カジマ。階級は大佐だ。皆の想いの詰まったスタークジェガンでこの凶行を止める。』

「……………。」

 

最後に本当にスペシャルな方々が来た物だと4人は思ってしまった。

「νガンダム」の完成系と言われたモビルスーツを操るアムロ。

闇落ちをする前の綺麗な状態で最強クラスのガンダムを扱うハサウェイ。

そして、まさかの青い専用カラーのスタークジェガンに乗るユウ。

エクストラバトルの締めに相応しい3機が登場していた。

 

「………比奈さんとかにこの光景を見せたら感涙しそう。」

「さっきのほたるちゃんじゃないけれど、裕美ちゃん確実にガンダムマニアになってるよ。」

「と、とにかく分担を決めないと!………アムロさんは私が戦ってみていい?」

「カジマ大佐のスタークジェガンは私にやらせて!若葉さんの為にも!」

「落ち着いて………泰葉ちゃん。私も援護を………!」

「ううん。ほたるちゃんは千鶴ちゃんの援護をしてあげて。大丈夫、もう油断しないから。」

「気を付けてね。私達はハサウェイのΞガンダムか。腕前がマフティーじゃない事を祈ろ。」

 

こうして裕美にアムロ、泰葉にユウ、千鶴とほたるにハサウェイという対立構図になる。

 

『私に強襲型の君が付くという事は、一番早く撃破できると判断したという事か?』

「………というより、撃破しなければならないと思いました。この中では貴方が一番熟練者でしょうし。それに………。」

 

ユウのスタークジェガンに相対した泰葉はスチーム=テの構えを取ると静かに言う。

 

「「皆の想いの詰まったスタークジェガン」………ならば持っているんでしょう、「アレ」を。」

『フ………君も相当なマニアと言えるのでは無いか?だが、確かにそうだ。』

 

ユウは「ビーム・サーベル」を抜き放つと、こちらも静かに叫ぶ。

 

『今は………応えてくれ!マリオン!』

 

スタークジェガンのバイザーが赤く光り、機体の限界以上の機動力が発揮される。

「EXAMシステム」をユウが使ったのだ。

 

『行くぞ!』

 

高速戦闘を使うユウに対し、泰葉の根競べが始まった。

 

『あの2機に向かって突撃しろ!「ファンネル・ミサイル」!』

「うわッ!?」

 

Ξガンダムと言えばコレと言えるサイコミュ誘導のミサイルの変則的な軌道に対し、千鶴のモーランシェンロンは慌ててディスタントクラッシャーのアンカーを使用し離れた地点へと飛ぶ。

 

「危なかった!?あのミサイルの軌道読めないよ!?ほたるちゃんどう!?」

「ハイパージャマーを使ったけれど………庇った左腕を吹き飛ばされた………。エクストラバトルのサイコミュ兵器にジャマーは働いてくれないみたい………。一旦下がるね………!」

『させるか!』

 

後退するほたるのリコリスを追うように「ミノフスキー・クラフト」で飛びながら動くハサウェイ機を危険だと感じた千鶴は、妨害するようにフェイロンフラッグを投げつける。

しかし、それを「サンド・バレル」の散弾で吹き飛ばしながら「メガ粒子砲」や「ミサイル」でリコリスを集中的にハサウェイは狙っていく。

 

「ちょっと!しつこい男だから振られるんだって!」

『そんな安い挑発に乗るか!相手戦力は確実に減らす!』

「だったら………!」

 

ホバー移動でも援護が間に合わないと思った千鶴機はディスタントクラッシャーを今度はハサウェイ機に投射。

自分の所に無理やり引き寄せようとする………が。

 

「わーーーッ!?」

『な!?』

 

Ξガンダムの巨体故に逆に自機が引っ張られる形になり張り付いてしまう。

 

「失敗!?………いや、これはこれで!」

 

ならば、とその巨体に斜め後ろからしがみつきハサウェイ機のバランスを崩そうとする。

しかし、ハサウェイは横に一回転し、千鶴機をアクシズに叩きつけた。

 

「い、痛い………。ほたるちゃん大丈夫?」

「か、回復しましたし左腕も戻ってきました………!千鶴ちゃんも無理しないで………!」

「う、うん………でも………。」

『ファンネル・ミサイル!』

 

再びハサウェイ機から放たれるサイコミュ兵器。

少なくともこのハサウェイのAIはマフティーに近い実力で設定されているだろう。

回避困難な武装に千鶴とほたるは再び被弾し、パーツを撒き散らしてしまう。

 

「リペアキットももう残り少ないし………参ったな。」

 

決定打が無い状況に2機のガンダムは苦戦を強いられていた。

 

『関裕美!何故シャアに従う!?エゴだよ、それは!』

「それはそういうミッションだからで………!」

『じゃあ、君は只の言いなりのデコだよ、それは!』

「あーーー!結構気にしてるのに!」

 

以前、張五飛のネタで、GBNSで弄られた事を思い出した裕美は思わず激高しそうになるが、中々攻勢に出られない。

アムロもカミーユ達と同じく銃口を向けただけで回避モーションを取る。

それだけでなく、EXアクションの「スラッシュテンペスト」による高速の衝撃波や「ニューハイパーバズーカ」の実弾兵器等を「ビーム・ライフル」と織り交ぜてきて裕美のペースを崩すのだ。

 

(私はニュータイプじゃないからあんな芸当はできないし………。)

 

恐らく今の裕美の攻撃手段であるビーム・キャノンとミサイルとビーム・マグナムだけではもう対処はできないだろう。

ならば、手は1つしかない。

 

「使うしかないね………。」

『まだ倒れないか!なら俺も切り札を使わせて貰う!』

「アムロさん相手に後悔はしたくないから………!」

『いけっ、フィン・ファンネル!』

「お願い!フィン・ファンネル!」

 

互いの機体の背部左右のファンネルラックの各3基ずつの攻撃端末が射出される。

裕美はマニュアル操作で操れるだけに、その軌道はオート操作の追随を許さなかった。

只、その分扱う時はマルチタスクになり神経を使う故に、裕美の1つの切り札的存在であったのだ。

 

『当たれーーー!』

「当たれーーー!」

 

フィン・ファンネル同士が入り混じる高次元のバトルが始まった。



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3章:宇宙(そら)に輝く月(裕美・千鶴・泰葉・ほたる・若葉)・4話

「やはり、カジマ大佐は動きが卓越していますね………!」

 

岡崎泰葉のデスティニーガンダム・ディサイダーは防戦一方だった。

ユウの駆るEXAMシステムを使ったスタークジェガンは「ビーム・ライフル」や「ハイパー・バズーカ」、そしてビーム・サーベルを織り交ぜ、全方位から攻めてくる。

機動力は現時点では明らかにあちらが上。

デスティニーガンダムの「ビーム・シールド」を駆使し防御をしているが、リペアキットはもう底をつきかけている。

だが………。

 

「根競べは私の勝利ですね………!EXAMシステムの制限時間はもう………!」

『みたい………だな!』

 

赤く光っていたスタークジェガンのバイザーが元に戻る。

途端に動きが緩慢になり、泰葉側にチャンスが生まれる。

何とか攻撃を耐えきった泰葉はパルマフィオキーナを狙い、突撃する。

 

「これで………!」

『ありがとうマリオン。………ここからは俺自身の力を見せる時だ!』

「!?」

 

しかし、ここで驚くべきことが起こった。

EXAMシステムの切れたスタークジェガンのバイザーが再び赤く光り出したのだ。

 

「まさか………!?」

『「HADESシステム」。』

 

HADESシステムはEXAMを元に作られたシステム。

ユウはEXAMが切れた時の保険として、このシステムも積み込んでいたのだ。

 

『出し惜しみはしない!』

 

そう言った途端にユウ機が再び加速。

泰葉のパルマフィオキーナを躱し、背後へと高速で回り込む。

 

『終わりだ、泰葉!』

 

右腕にビーム・サーベルを取り出し、EXアクションの「スラッシュテンペスト」を選択………高速の連続斬撃を使用し、一気に泰葉機を………。

 

「この瞬間を待っていました!」

『何!?』

 

………が、そのユウの目の前から泰葉機が消える。

彼女はデスティニーガンダムに搭載されていた「光の翼」を発動させ、高速移動をしたのだ。

次の瞬間、スタークジェガンの背後のバックパックがデスティニーディサイダーの右腕のパルマフィオキーナの一撃を受け吹き飛ぶ。

 

『EXAMの時に使用しなかったって事は、ここまで読まれていたのか!?』

「二度も油断はしません!貴方は何としてもここで落とします!」

 

反転したユウはそれでも右手のビーム・サーベルで泰葉機の右腕を斬り飛ばす。

それと同時に左腕で持ったハイパー・バズーカを上に撃つ。

対象にエネルギーの雨を降らせるEXアクションの「ショットバラージ」を選択したのだ。

 

『さあ、どうする!?』

「機体を覆うような「盾」があれば防げます!」

『まさか!?』

「敢えて言います!私はサウスポーです!!」

 

左腕でスタークジェガンの顔面を握った泰葉はそのまま天高く持ち上げショットバラージの雨を相手の機体で防御。

そして………。

 

「ヒート・エンドッ!」

 

最後に爆破をしてスタークジェガンを完全に破壊する。

 

『見事だ………。』

「貴方との戦い………忘れません。」

 

泰葉はそう言うと、赤外線レーザーで戻ってきた右腕の感触を確かめながら、一礼をした。

 

『いい加減にクェスを返せ!ファンネル・ミサイル!』

「だからしつこいって!」

 

ハサウェイのΞガンダムの猛攻を受け続ける松尾千鶴のモーランシェンロンガンダムと白菊ほたるのガンダムリコリス・アプライザは被弾し続けていた。

元々メガ粒子砲やミサイル等があって火力面に優れる上に、サイコミュ兵器の変則的な動きも織り交ぜてきている為に、暴れ出すと手が付けられない。

一応、千鶴はミサイルポッド、ほたるはドラグーンシステムを接続した状態での一斉射撃で反撃してはいるが、シールドも備えている為に中々耐久値を削れなかった。

 

「何か起死回生の手段があればいいけど………。ほたるちゃん、ドラグーン射出したらどうなる?」

「オート操作じゃ、ファンネル・ミサイルとかで簡単に撃ち落とされると思う………。」

「だよね………。何か一発凄まじいダメージを与えられれば………。」

「「アレ」………。」

「え?」

「アレ………使えば………もしかしたら………!」

「で、でも………。」

「でもじゃないよ。裕美ちゃん達も必死だから………。」

「………分かった。」

 

千鶴機とほたる機は残りのリペアキットを全部使う。

そして、千鶴はミサイルポッドをばら撒いて煙幕を作り、ほたるはオート操作のドラグーンを遂に射出する。

 

『オート操作で撃破できるとは舐められた物だな!』

 

当然、ハサウェイはファンネル・ミサイルでドラグーンを撃ち落としていく。

しかし、逆に言えばその間は千鶴機やほたる機には攻撃は向かない。

 

「行くよ!」

 

その僅かな隙を狙って千鶴はディスタントクラッシャーを飛行するΞガンダムの真下に仕掛け、ほたるのリコリスを背中に担ぎ、一気に距離を詰める。

 

『その位置ならファンネル・ミサイルが当たらないと思ったか!?』

「そうは思ってません………!」

 

ほたるはそう言うと、千鶴のモーランシェンロンを足場にして飛び上がり、ハサウェイ機の腹部にしがみつく。

 

『またそうやって動きを封じるつもりか!?振り落と………。』

「えっと、大変申し訳ないんですが………。」

 

通信画面に映るほたるは困ったように笑みを浮かべる。

その顔を見たハサウェイは直感で何かを悟ってしまう。

 

『ま、まさか………!?』

「このリコリスは見ての通りガンダムデスサイズヘルEWの胴体を使っているので………。」

『や、やめろ!早まるな!』

「早まった人に言われたくありません!………未来への水先案内人は、この白菊ほたるが引き受けました!」

 

そう言った途端にリコリスのドラグーン基盤内部に搭載されていた擬似太陽炉が赤く輝き、大爆発を起こす。

ほたる機が文字通り「自爆」したのだ。

コックピット付近に直撃し、大量のファンネルを含めたミサイルが誘爆したΞガンダムは文字通り爆散してしまう。

 

『そんなの、有りかよ………。』

「ありがとう、ほたるちゃん。リペアキットは無くなったけれど、私はまだ戦えるから………!」

 

千鶴はそう感謝の言葉を言うと、関裕美の方へと向かっていった。

 

『どうした、裕美!お前の力はこんな物か!?』

「くっ………!?全部の動きが正確過ぎる………!?」

 

フィン・ファンネルを撃ちあう形になった裕美のプロトライトガンダムとアムロのHi-νガンダムの戦いは、アムロ側が圧倒的に有利だった。

裕美がマルチタスクでファンネルを操っている際の通常射撃の命中率は大体普段の7~8割くらいだ。

それでもいつもはファンネルで相手の動きを封じられるからデメリットは少なかったが、アムロはそうはいかない。

巧みに自分のファンネルで裕美のファンネルをけん制しながら、ビーム・ライフル等の武装を100%的確に撃ちこんでくる。

 

(ファンネルに集中したら動きが緩慢になるし、その逆も………!)

 

焦りと不安が裕美の集中力を削いでいく。

こうなってしまうと裕美の精神の均衡も崩れてしまい、切り札の「アサルト覚醒」まで使えなくなる。

 

「ど、どうし………。」

『貰った!』

「あ!?」

 

その焦りによって生じた僅かな隙を狙い、アムロは6基ある裕美のフィン・ファンネルの内の1基をビーム・ライフルで撃ち落とす。

数が減ってしまったら残りが減るのも早い。

裕美が何とか立て直そうとしている間にもう1基、更に1基とどんどん撃ち落とされてしまう。

 

(な、何とかしないと!?)

 

慌てた裕美はビーム・キャノンとミサイルとビーム・マグナムでアムロ側のフィン・ファンネルも狙いに行くが、読まれているのかあっさり躱されてしまう。

その隙を狙って裕美のプロトライトガンダムの方にアムロ機のニューハイパーバズーカが直撃し、リペアキットを使う羽目になる。

 

(残りのリペアキットの数も………!?あ!)

 

動き回っていた足がもつれ、膝をついてしまう。その隙を狙ってアムロのフィン・ファンネルが一斉に攻撃。

シールドと手持ちの武器全てと両腕と両ひざから下が一気に吹き飛ばされ、完全に動けなくなる。

気づけば残りのフィン・ファンネルは1基まで減らされていた。

 

「リペアキット………!な、無くなってる………。」

 

代わりにフィールドリペアを使って何とか耐久値を回復した裕美だったが、アムロは一気にトドメを刺そうとしたのか、巨大なケーブルが繋がった主砲をラー・カイラムから取り寄せ抱えていた。

 

「「ハイパー・メガ・バズーカ・ランチャー」………。」

『これで………終わらせる!』

 

完敗………という二文字が裕美の頭に浮かんだ。

結局自分の実力では今のアムロには到底敵わない。

頭の中に喜多見柚、村上巴、荒木比奈、藤原肇、ミサ、ロボ太等、様々な仲間達の姿が浮かぶ。

申し訳ない想いでいっぱいだった。

 

(みんなを信じてもっと強くなろうと思ったのに、これじゃあ、私何も………。)

 

思わず泣きたくなる裕美だったが、アムロはそれすら待ってくれない。

ハイパー・メガ・バズーカ・ランチャーの砲口が輝き、極太のビームが撃ちだされ………その射線に2機の機体が立ちはだかった。

 

「泰葉ちゃん!?千鶴ちゃん!?」

 

それは泰葉のデスティニーディサイダーと千鶴のモーランシェンロン。

2機は裕美のピンチに背負っていた武器を捨て最大加速で駆け付け、自機を盾にして裕美への戦艦クラスの攻撃を防ごうとしたのだ。

 

「だ、ダメだよ!二人共!これじゃ、みんな………!」

「デスティニーは伊達じゃない!ビーム・シールドで防ぎきってみせる!」

「裕美ちゃんは………守ってみせるよ!」

 

言葉とは裏腹に光に包まれる2機の機体。

だが、それでも逃げようとせず、必死に立ちはだかる。

 

「大丈夫!私も千鶴ちゃんもほたるちゃんも若葉さんも、裕美ちゃんが強いって事知ってるから!」

「裕美ちゃん!もっと自信を持って!GBNSの一員として!アイドルとして………!」

 

最後の千鶴の言葉と共に2機の機体は爆散。

だが、戦艦すら撃ちぬくビームは裕美までには届かなかった。

 

「……………。」

 

只々、仲間が散るのを無言で涙を流して見つめていた裕美。

しかし、彼女は両手で強く頬を叩くとアムロ機を睨みつける。

 

「ここで………私が倒れたら………!」

 

吹き飛んだ武器は戻ってこなかったが、それでも両手両脚は戻ってくる。

 

「何のためにみんなが守ってくれたか………!何のためにみんなが強くなってくれているのか………!」

 

力強く立ち上がった裕美は咆哮する。

 

「全ての意味が………無いからぁぁぁッ!!」

 

仲間の激が裕美の闘志を取り戻す。

もう細かい事は考えるのをやめた。

それに伴いニュートラルに戻った思考が、裕美にアサルト覚醒を促す。

機体が赤く輝き自機の出力が底上げされる。

 

『使えたか、その切り札を!だが、フィン・ファンネルは………!』

「まだ、1基残ってる!」

 

数を減らされたという事は逆に言えばその分操作に集中できるという事だ。

裕美は上がった出力に任せ、最後のフィン・ファンネルを動かし、アムロのフィン・ファンネル6基を狙いに行く。

全ての射撃を躱しつつ1基、また1基と逆に破壊してみせる。

 

『チィッ!?開き直ったか!?ならば………!』

「来て!「バレットオービット」!」

 

裕美は自機の上に自動で支援射撃を行うビットを2基生成。

これはオート操作だが、狙いをアムロ機ではなくフィン・ファンネルに変更。

プロトライトガンダム自身を狙いに来たファンネル2基を不意打ちで撃ち落とす。

 

『急に腕が上がった!?だが、それは所詮、防御用のビット!フィン・ファンネルを落とせばもう武器は!』

「武器ならある!」

 

自分のフィン・ファンネルを突撃させる形で残りの裕美のフィン・ファンネルを落としたアムロだが、不意の射撃で最後のフィン・ファンネルを撃ち落とされてしまう。

裕美が使ったのはジャイアント・バズ。千鶴が裕美を庇う時に落としていってくれた装備だ。

 

『仲間の武装を!?』

「これは千鶴ちゃんとほたるちゃんの想い!」

 

アムロはビーム・ライフルで裕美が右手に持っていたジャイアント・バズを撃ち落とす。

しかし、裕美は怯む事無く左手で千鶴のビーム・グレイブを持って遠投し、そのアムロのビーム・ライフルを弾き飛ばす。

すかさずブーストで横に移動した裕美は、今度は泰葉が落としていってくれた「フラッシュエッジ2」のビームブーメランを投げつけアムロが慌てて構えたニューハイパーバズーカを破壊する。

 

『動きが違う!?これが覚醒の力!?いや………!?』

「これは泰葉ちゃんと若葉さんの想い!」

 

怒涛の攻めを見せる裕美は「アロンダイト」の大剣を掴み、突撃。

アムロが何とか構えたシールドを斬り捨て、これも破壊する。

 

『想いの力………なのか!?だが、大剣でビーム・サーベルより素早くは………!』

「忘れたの!?この機体は貴方のνガンダムの力も入ってるんだよ!!」

 

裕美はアロンダイトを落とすと何と思いっきりマニュピレーターで殴りつける。

プロトライトガンダムの腕はジェスタであったが、アサルト覚醒で出力が上がっている分叩きつけるように殴りかかった時の破壊力は凄まじい。

不利を悟ったアムロもビーム・サーベルを捨て殴りかかってくるが、出力の違い故か裕美側が押していた。

 

『くっ………たかがメインカメラをやったくらいで!』

「胴ががら空き!!」

 

渾身の想いを込めてガンダムXの脚でHi-νガンダムを蹴り飛ばす。

空中でバランスを取ろうとしたアムロだったが、そこに隙が生じてしまった。

裕美は再びアロンダイトを拾うと突きの体勢に入り、コックピットを狙う。

 

『裕美………君は!?君達は!?』

「覚えておいて!流派GBNSは、不屈の風だから!!」

 

最後に思いっきり貫いた裕美は大剣から手を離し、ゆっくりと距離を取る。

アムロ機はスパークしながら、敗北を悟った。

 

『君達がロンド・ベル側でシャア達と戦う姿も見てみたかったな………。』

「そういうエクストラバトルがあったらやってみるよ。約束する………。」

『そうか………ありがとう。』

 

そして、爆発するHi-νガンダム。

裕美はミッションクリアの文字を見て静かに目を閉じた。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

「だ、大丈夫ですか~。裕美ちゃん~!」

「若葉………さん?」

 

気が付けば、裕美はシミュレーターから出されており日下部若葉に介抱されていた。

勿論、そこにはGBNSの仲間やモチヅキもいて、心配そうに眺めている。

 

「私………最後どうなったんだっけ?アムロさんと約束したのは覚えているけれど………。」

「か、勝ったんだよ、裕美ちゃん!あのアムロさんに!」

「はい………!凄かったです………私達の想いをみんなぶつけてくれました!」

「そう………なの?」

 

興奮冷めやらぬ千鶴やほたるの言葉を受けながら、しかし裕美はあまり覚えていない。

確か泰葉や千鶴が庇ってくれて、覚醒を使った所までは覚えているが………。

 

「覚えてないのか?あんな恐ろしい形相でアムロを睨みつけて戦っていたお前の姿………普段からは想像できない程の凄まじさだったけどな。」

「え?私、そんな怖い顔してた!?」

「……………。」

 

モチヅキの言葉に思わずビックリしてしまう裕美。

それを聞いたモチヅキは何か考え込むように黙る。

 

「と、とにかく裕美ちゃんが勝ってくれて良かったですよ~。何か汗かいちゃいましたし、もう一度温泉入りませんか~?」

「賛成!今度こそ気持ちよくスッキリしよう!アイドルだし!」

「千鶴ちゃんの言う通りです………行きましょう、ね、泰葉ちゃん。」

「うん。………裕美ちゃん、立てる?」

「あ、大丈夫………。じゃあ、行こっか。」

 

裕美は立ち上がり笑みを浮かべると若葉と千鶴とほたると共に温泉へと向かう。

その姿を見ながらモチヅキはまだ考え込んでいた。

 

「さっきからずっと悩んでますね、モチヅキさん。」

「泰葉………確か、あの5人の中で最初に覚醒を使ったのは裕美なんだよな。」

「え?はい………。」

「カドマツから聞いた話じゃ、ミサを庇うようにしてPGを吹き飛ばしたとか………。あの時も形こそ違っているが、仲間の心を無駄にしないという思考が働いていた。」

「……………。」

「別に裕美だけが特別だって言っているわけじゃない。だが………アイツの想いの力は、お前達のような素晴らしい「仲間」が深く関係しているのかもな。」

「仲間………。」

 

モチヅキの呟いた言葉に泰葉も考え込む。

勿論、覚醒に必要な条件を考えるならば、それだけが全てでは無いだろう。

仲間を大事にする心ならば、泰葉も含め沢山の人達が持っているのだから。

只、1つ言えるのは………。

 

「確かな事実があるとすれば、お前や千鶴の武装を借りたとはいえ、裕美はビルダーズパーツ無しの状態でアムロに勝ってみせた。あのプロトライトガンダムが本来の姿を手に入れ、ファンネルをマニュアル操作できる裕美が本当の意味でもっと成長出来たら………どうなるのだろうな。」

 

少しだけニヤリと笑みを浮かべたモチヅキに対し、泰葉はそれでも穏やかに笑みを返す。

 

「根本は変わりませんよ。裕美ちゃん自身も私達アイドル達の関係も。だって………それこそ私達は仲間なのですから。」

 

泰葉は笑顔で仲間達と会話する裕美の後姿を見ながら言ってみせた。



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4章:結晶となるアイディア(比奈・菜々・奈緒・春菜・由里子)・1話

荒木比奈はアイドルであり、オタクである。

………というよりは、オタクだった所をアイドルにスカウトされたという経歴がある。

その為か、彼女はアニメ等の二次創作漫画を描くのが趣味だ。

只、お世辞にも「締切」を守れる程の計画性と時間には恵まれてない為………。

 

「ああ!沙紀ちゃん、由愛ちゃん!本当にありがとうっス!二人がいなかったら今頃どうなってたか………!」

「いや、いいんすけれどね。前にもボロボロになった比奈さんの手伝いにみんなで行った事あったし。」

「でも………比奈さん、目の下にクマ出来てますよ?もしかして、また徹夜したんじゃ………。」

 

ある日の朝、オフであった比奈の家に漫画作成のアシスタントとして急遽招かれているのは、アイドル仲間である吉岡沙紀と成宮由愛。

二人共、アートに長けているアイドルで、特に由愛は13歳でありながら、人力飛行機の作成の中心人物となって仕事をした経歴もある。

そんな二人にトーン貼り等の作業を手伝って貰っているお陰で、一気に効率が加速していた。

………実は、本来はガンプラの世界大会に向けて鍛えている同志である、関裕美が手伝って(というより比奈の私生活を管理して)いるのだが、海外に修行に行っている為に加勢して貰えて無かった。

 

「フ、フフフ………なんのなんの。栄養ドリンクがあるからまだまだ大丈夫っスよ………。でも、裕美ちゃんの有難さ、身に染みるっス………。」

「は、早く入稿しましょう………。それで、ゆっくり眠らないと………。」

「そうっスね………。裕美ちゃんが帰って来た時に怒りのハイメガキャノンフルパワーを喰らわないようにする為にも………。」

「………ダメっすね。テンションがハイになって意識が朦朧としてるっす。只でさえアイドル活動が忙しいのに、最近はガンプラ修行も極めている最中だから余計時間が取れて無い影響がモロに出てるっす。」

「あの………今回は諦めたほうが………。」

「アタシはアイドルっス!実は負けず嫌いなんスよ!アイドル活動も世界大会も、そして漫画の入稿も止める気は無いっスよ!」

 

ガっと立ち上がり両手で握り拳を作った比奈は力強く語る。

とはいえ、焦点のあってない目で言われても説得力は無い。

案の定、そのままフラッと後ろに倒れ掛かって、急いで立ち上がった沙紀に支えられる形で気を失う。

 

「限界みたいっすね。ネタは仕上がってるみたいだし、入稿はアタシ達で進めておくからしばらく寝ておくっす。」

 

そんな、沙紀の言葉を最後に聞きながら………。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

「ん………?」

 

比奈が目を覚ますといつの間にやら夕方になっていた。

見れば、布団が掛けられており、テーブルの向こう側では沙紀と由愛が黙々と漫画の入稿に向けて作業を行っていた。

 

「えっとアタシは………。」

「あ………おはようございます、比奈さん。夕方ですけれど………。」

「作業は順調に進めているから安心するっす。みんなにも来て貰ったっすよ。」

「みんな………?」

「比奈センセ!春菜ちゃんと一緒に洗濯しといたじぇ!」

「こちらは奈緒ちゃんに手伝って貰って、晩御飯を作っておきました!」

 

部屋の奥から出てきたのは比奈のユニット仲間である大西由里子、上条春菜、そして安部菜々と神谷奈緒である。

それぞれ「壁サーの花」、「サイバーグラス」、そして「虹色ドリーマー」というユニット名で活動しているのが特徴だ。

彼女達は4人共、自分達のオリジナルガンプラを持っているのも特徴である。

 

「来てくれたんスか………何か申し訳ないっス。」

「今更ですよ。比奈ちゃんが入稿で周りを巻き込むのはもう、御馴染みですから。」

「それはそれで、何か………。」

「ま、とにかくだ。折角沙紀がアタシ達を呼んでくれたんだし、ガンプラについて談笑しながら飯を食べようぜ!」

 

こうして奈緒の提案で、7人はテーブルを囲んでご飯を食べる事になった。

 

「あー、アタシも柚ちゃんみたいにライトニング覚醒を得意としていたら入稿もビュンビュンできるのになー。」

「柚ちゃんと言えば比奈センセ。巴ちゃんと合わせて二人共大丈夫なのかな?」

「うーん、大丈夫なんじゃないでスかねぇ?」

 

由里子の言葉に比奈は意外と余裕そうな顔を見せる。

ウィルの乱入を受けて、特に巴や柚は傷を負ってしまった感じだ。

しかし比奈は、自分のやるべき事は彼女達の心配では無いとハッキリ決めている。

 

「少なくともここにいるみんなは、誰かを憎んでバトルをしてるわけじゃないっス。それならば、道を踏み外す事は無いっスよ。」

「何だかんだ言って比奈さん、20歳の大人だよなぁ………。感心するよ。」

「何だかんだは余計っス。………まあ、そういう事もあって、本当はパパっと愛機も組み上げたいんスけれど………。」

 

そう言うと、比奈は自分のガンプラを棚から取り出す。

もう、アイディアは結晶のように固まっている。

只、入稿の都合等もあって時間が少し確保できていなかった。

本当はさっさと組み上げてテストしたくてうずうずしている面もあるのだが………。

 

「本当に締切破ろうかな………。」

「止めようかなと言わない所は流石っすね。………まあ、気晴らしと組み立て前の最終テストも兼ねてカドマツさんから貰ったエクストラバトル、試してみるっすか?」

「そうっスね。エクストラバトル………ん?」

 

沙紀の言葉に比奈は怪訝な顔をする。

何気なく彼女の取り出したメモリに事情を知っていたらしい由愛以外の5人の目が集中する。

そこで、沙紀がその中身について説明すると、途端に比奈や由里子、奈緒や菜々の目が輝いた。

 

「なんスか!?その夢のような、バトルは!」

「比奈センセ、喰いつき凄い!でもアタシもその気持ち分かるじぇ!」

「ガンダムアニメのキャラと会話できるのか!?」

「凄い楽しそうじゃないですか!」

「え、ええまあ………。で、そのバトルは346プロのシミュレーターにセットすれば可能になりますが………。」

「無論、今すぐ行くっスよ!」

「あの、漫画の入稿は………。」

「終わった後で完徹すればいいっス!」

「比奈ちゃん、やっぱり諦めるって言わないんですね………。」

 

春菜の苦笑と共に、一同はご飯を食べ、比奈の家を飛び出し346プロへと向かう。

時間は夜になっていたが、一戦くらいはできる余裕はあった。

シミュレーター室の中で沙紀と由愛が準備をする中、比奈達は自分達のガンプラの手入れを行う。

 

「そう言えば沙紀ちゃん、アタシ達の戦う舞台は何処っスか?」

「「ジャブロー」っすよ。地球連邦軍の一員となってジオン軍の襲撃から基地を守るっす。」

「おお!ジャブロー!地下でアムロ・レイ達が「ホワイトベース」を守る為に、「ズゴック」に乗ってきたシャア・アズナブル達と戦うステージっスね!」

「あ………ゴメンなさい、比奈さん。今回のステージは「地上」らしいんです………。」

「地上………?由愛ちゃん、組むのはアムロ達じゃないんスか?」

「そこは始めてからのお楽しみで頼むっすよ。」

 

どうやら初代ガンダムのステージでは無いらしい。

色々と比奈は考えながらも、言われた通り楽しもうと気持ちを切り替える。

 

「ところで比奈さん………。その子のカラーは決めてるんですか………?」

「勿論、前と同じくアタシ色の緑で決めるっス。今はまだ蒼黒いままっスけれどね。」

 

比奈が由愛に見せたガンプラは「ガンダムTR-1[アドバンスド・ヘイズル]」のパーツを用いて作った「スタビライズド・ヘイズル」と仮名している機体だ。

本来は背中のシールドブースターによる加速力が武器となっている機体であるが、ガンプラを始めた頃に比奈がテストした際、その機動力故に扱いきれなかった為、「スタークジェガン」のパーツに置き換えている。

比較的マイルドな操作性にまとめたためスタビライズド(安定化)と呼んでいるのだ。

武装に関しては、「グフカスタム」の「ガトリング・シールド」が主軸となっており、近距離戦では「レジェンドガンダム」の「デファイアント改ビームジャベリン」で対処するのが特徴。

また、脚の「サブ・アーム・ユニット」にはビームライフル2門が備えられており、自動でオート射撃をしてくれる。

そして、比奈が得意とする覚醒は緑に輝く「ガーディアン覚醒」で、耐久力を全回復し、防御力と自動回復能力を高める事ができた。

 

「奈緒ちゃんの「シナンジュ」は何処か「ゲルググ」に近いフォルムっスねぇ。」

「お、分かる?実は「シナンジュ・スタイン」がシーマ艦隊のような海賊部隊に流れ着いたらどうなるか考えて作ったんだ!」

 

そう言いながら奈緒が掲げる紫色の「シナンジュ・カービングペイン」は、確かに頭部のモノアイがゲルググに近い形状になっていた。

これはシナンジュの頭部にビルダーズパーツを埋め込み、敢えてそうさせたからである。

設定としては重装甲型として強度を増しているのがポイント。

しかし、リミッターを外せば袖付きシナンジュ並みの高機動を発揮する事が可能。

だが、フレーム負荷が高く、数分もしない内に自壊するというという諸刃の剣であり、それを「ヅダ」の「土星エンジン」で再現している。

武装は「ガンダムXディバイダー」の「ビームマシンガン」や「ガーベラ・テトラ」の「110mm機関砲」等シンプルで、ガンプラ使用者の腕の見せ所となっていた。

奈緒がシナンジュを元にこうした改造を試みたのは、ガーベラ・テトラと出自が似ているという事に気づいたからで、アニメ等の設定に深い物を持っている彼女らしさが発揮されていると言えた。

 

「アタシの機体はEXアクションとかで加速力を得るタイプだけれど、菜々さんの機体は元々素早いよな。」

「「マジカル☆ウサミンガンダム」はウサギのようなステップと機動力に長けてますから!その気になれば柚ちゃんにも負けません!」

 

菜々の取り出したピンク色の機体のベース機は「ガンダムアストレイレッドドラゴン」。

何でもシミュレーターVer.2の頃から愛用しているガンプラであるらしく、「ガンダム試作1号機フルバーニアン」の胴や「高機動型ザク後期型 ジョニー・ライデン専用」の脚を使い、シンプルに軽い機体をモットーに改造を施していた。

特に、菜々の本領が発揮されているのは、アストレイレッドドラゴンの固有EXアクションの「ドライグヘッド」。

頭の竜の角をウサミミに見立て、菜々なりの本気モードを見せつける事で、更なる機動力を確保する事ができた。

本人の言う通り、反応性とステップ距離と運動性は最大限強化されており、最大パワーを発揮する時は、ライトニング覚醒時の柚のガンプラに匹敵する程の物を持っているのだ。

その代わり、ビルダーズパーツは一切採用しておらず、奈緒とは違った意味でシンプルさも見せていた。

 

「由里子さんの機体は劇薬ですが………機体コンセプトはしっかり練られてますよね。」

「合体は正義!………とまあ、アタシの「ユナイトジャスティスガンダム」も考えに考えたからね。」

 

青い「ストライクフリーダムガンダム」と赤い「インフィニットジャスティスガンダム」が合わさったような形状が由里子のガンプラ。

キラとアスランが協力して操作するという彼女の欲望の詰まった機体だが、そのコンセプトは意外と考えられている。

ラクス・クライン政権下のザフトで再びユニウス条約のような戦力保有制限が制定された時の為に、最強のパイロット二人を一つの機体で運用する事で、高い戦果を上げられるようにできないかと考察したガンプラとして由里子なりに組み上げたのだ。

近接武装である「インパルスガンダム」の「エクスカリバー」や遠距離武装である「デュエルガンダム」の「5連装ミサイルポッド」等、他の機体の要素もちゃんと織り交ぜている。

更に「スーパードラグーン」の固有EXアクションを発揮する事で、光パルス高推力スラスターによる高速オールレンジ戦闘も可能であるのだ。

これはこれでガンプラの担い手に高い操縦性を求められる機体と言える。

 

「ま………徐々になれていくよ。大事なのは愛だじぇ!春菜ちゃんも分かるでしょ?」

「はい!私の「ガンダム・グラシャラボラス」ならぬ「ガンダム・グラシアクリアネス」もその為に生まれた機体ですからね!」

 

春菜が特殊な形状の眼鏡?を磨いていたガンプラは青い「ツインドライブシステム」を装備した猫耳の付いたガンプラだ。

グラシャラボラスというのは、鉄血世界のオリジナルガンダムフレームのナンバー25に値する機体であり、つまりはソロモン72柱の悪魔の名前の1つである。

その名前を文字って春菜の眼鏡要素を付けたのがグラシアクリアネスと呼ばれる本機であり、索敵や遠距離攻撃を主軸にした機体として改造されていた。

武装はデュエルガンダムの「ゲイボルグ」を主体に、「パワードジムカーディガン」の二門の「大型ビームキャノン」等の射撃兵器を装備しており、出来る限りの強化を施されている。

また、大型ビームキャノンの出力アップの設定として装備したツインドライブシステムにより、EXアクションの「トランザム」が使用可能で、高濃度圧縮粒子を解放して一時的に機動力を上げる事も可能だった。

これで、比奈機以外、4機全機が異なる機動力を上げるEXスキルを扱える。

 

「凄いっスねぇ………。アタシは、高速戦闘はダメなんで、その足回りで守って下さい。ついでに漫画も………。」

「完徹には付き合えないんでそこは自分でやって下さい。………さて、セットお願いするっす。」

 

沙紀の言葉に比奈達は次々にシミュレーターに入りガンプラを起動させる。

そして、ガンダム世界でお馴染みの出撃シーンに移る。

 

「折角なんで………由愛ちゃん。オペレーターみたいに発進シークエンスの掛け声を頼むっス。」

「ええ!?………わ、分かりました。スタビライズド・ヘイズル………発進、どうぞ!」

「おお!このパターンもいいっスね!じゃあ………システムオールグリーン!荒木比奈、出撃っス!」

「続いて、シナンジュ・カービングペイン………発進、どうぞ!」

「あー………比奈さんの気持ち分かるかも!よーし、神谷奈緒………暴れてくるぜっ!」

「えっと、マジカル☆ウサミンガンダム………発進、どうぞ!」

「由愛ちゃん、才能ありますよ!安部菜々!ステーキとパインサラダを褒美に出撃します!キャハッ!」

「それはマズイフラグじゃ………ユナイトジャスティスガンダム………発進、どうぞ!」

「フラグは折る物だじぇ!というわけで、大西由里子!キラとアスランのハートを胸に行くじぇ!」

「最後にガンダム・グラシアクリアネス………発進、どうぞ!」

「私達の帰る場所を確保して下さいね!上条春菜………皆と共に、レンズの向こう側に旅立ちます!」

 

そんな感じでかなり楽しそうにしながら5人のパイロット達は出撃していった。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

比奈達が降り立ったのは、海岸に面した森林地帯である。

その木々の少し開けた場所に降り立った彼女達は、中央に立つ1機のガンダムを見た。

デュアルアイは赤く、二門のキャノン砲を背負っており、隙を作らないように身構えている。

 

「「ガンダム6号機」………「マドロック」………「ザクⅠ」に負けたガンダム………!」

『最後は余計だ。………まあ、そこまで言うなら知ってるとは思うが、俺はパイロットの「エイガー」だ。アンタが荒木比奈か?』

「そうっスよ。………設定上6号機はジャブローでは未完成状態のはずでスが、ここでは完成系なんスね。」

『有り得ない展開を有り得る状態にした戦いが今回のジャブロー戦だからな。勿論、それは敵さんにも言えるから、気を抜くと痛い目を見る。………気を付けな。』

 

どうやら今回のエクストラバトルの味方AIは「ジオニックフロント 機動戦士ガンダム0079」の地球連邦軍のエイガーとガンダム6号機の完成系であるマドロックであるらしい。

 

「結構コアな所で来たっスね………。これはこれで燃える物がありまスけれど!」

「あの、比奈ちゃん………私、ガンダムが6機あるなんて知らないんですけれど………。」

「確か、設定上は8号機まであるんじゃなかったっけ?」

「はい!7号機まではプラモもありますよ!」

「え?え?え?」

「あー………こうなると春菜ちゃんは付いていけないかもしれないじぇ………。」

 

エイガーの登場に、知識量が他の4人より少し劣る春菜は頭に疑問符を浮かべる。

流石にアニメを網羅していても、ゲーム等の外伝作品となるとすぐに知識を得るのは難しかった。

 

「春菜ちゃんは何かあったらアタシ達に聞いて欲しいっス。まあ、とりあえずバトルを楽しめばいいっスよ。………で、エイガーさん。敵は何処っスか?」

『大抵は「ガウ」に乗って空から降ってくるぜ。ほら、連中のお出ましだ。』

 

マドロックが刺した方向を見ると、成程確かに陸地側に紫の空母ガウが見え、そこから「ザクⅡ」や「グフ」………それに「ドム」までもが姿を現している。

 

『あいつ等が降りてきたら、攻撃開始だ。』

「………質問なんスけれど、降りてる時はどうしてるんスか?」

『へ?………そりゃ、スラスター吹かしてバランスとるので精一杯で………。』

「そうっスか。」

 

比奈はそう言うとヘイズルのバックパックに装備した二門の「マイクロミサイルランチャー」を何と空中から降りるのに精一杯の敵に向ける。

 

「ひ、ヒナサン………!?」

「ま、まさか………。」

「こんな隙を逃す手は無いっスよねぇ………?」

 

引きつった笑みを浮かべる奈緒や菜々の前で、ヒナはニヤリを悪役の笑みを浮かべてミサイルを見える範囲の降下する敵全てにロックオン。

そのまま一斉発射をし、何もできない敵を次々と爆破していく。

 

『う、うわあああああああ!?』

『ぐわああああああああ!?』

『ぱ、パワーが違うゥゥゥ!?』

 

圧倒的な物量のミサイルを前に、ザクⅡもグフもドムも関係なしにパーツを撒き散らし霧散していく。

その姿を前に呆然とする味方達(とエイガー)。

 

『………鬼か!お前は!?』

「戦略と言って欲しいっス。………ホラ、エイガーさんも敵が地に足を着く前に「300mmキャノン砲」で撃ち落とすっス。ユリユリや春菜ちゃんも!」

『わ、分かった………。』

 

比奈の指示にエイガーは渋い顔でバックパックの二門のキャノン砲を発射する。

設定上は「ビームキャノン」である説もあるのだが、このバトルでは実弾採用を取っているらしい。

 

「先制攻撃は大事とはいえ、比奈センセ、容赦ないじぇ………。」

「ご、ごめんなさぁい!」

 

由里子のユナイトジャスティスはストライクフリーダムの「MA-M21KF 高エネルギービームライフル」を連結させて空中に照射。

更に春菜のグラシアクリアネスもゲイボルグの拡散弾を発射し、複数の敵を纏めて落としていく。

これに対し、空中のガウは「ザクⅠ・スナイパータイプ」も降下させて「ビーム・スナイパー・ライフル」を空中から撃たせるが、比奈のヘイズルには大したダメージを与えられず、由里子機と春菜機、エイガー機には簡単に避けられてしまう。

そして、反撃でミサイルやキャノン等が飛来し、次々と餌食になるだけであった。

 

「さあ………アタシ達をもっと楽しませて欲しいっスよ!」

『お前、このバトルをしゃぶりつくす気満々だな………。』

「当然っス!こんな機会、一生に何度あるか!………って、アレ?」

 

急にガウから敵が降下してこなくなる。

最初の段階はクリアという事だろうか?

辺りは再び静寂に包まれてしまう。

 

「これでクリア………なワケ無いっスよね?」

「あ!?比奈ちゃん!ガウより更に上空から巨大な「筒」を掴んだ変な機体が!?」

「はい………?筒?」

 

索敵に長けた眼鏡型センサーの「グラスセンサー」を持つ春菜機が上空を見上げ指を刺す。

空中で動き回っているのか、その指が色んな方角をなぞっていく。

しかし、比奈達には全くその姿が見えなかった。

 

「春菜!敵の特徴は!?」

「よ、よく分からないんですけれど………大きな筒があって………。」

「頭部はどうなっているじぇ!?」

「えっと………水色の………ズゴックの上半身でしょうか?」

「それ!モビルダイバーの「ゼーゴック」っスよ!?抱えてるのは対艦拡散ビーム砲の「クーベルメ」っス!」

『エントリィィィッ!!』

「ッ!?」

 

比奈達がようやくその姿を視認出来た時、搭乗者である「ヴェルナー・ホルバイン」のお馴染みの掛け声と共に、宇宙からダイブしてきたゼーゴックのクーベルメの致命的な威力のビーム砲が地上に向けて放たれる。

地面を抉り、木々を薙ぎ払う、一般的なガンプラにとっては決して当たってはならない驚異的な砲撃が縦横無尽に展開される。

 

『回避しろ!掠ったら文字通り吹っ飛ぶぞ!?』

「あ、アタシ耐久型っスが!?」

「奈緒ちゃん!」

「分かった!」

 

機動力で劣る比奈のヘイズルを菜々のウサミンガンダムと奈緒のカービングペインが両脇から抱えて砲撃範囲から何とか逃げる。

エイガーのマドロックはホバーで動き、由里子のユナイトジャスティスと春菜のグラシアクリアネスも必死に避ける。

 

「春菜ちゃん!撃ち落としを頼むじぇ!」

「分かりました!「ブレイカーシュート」で!」

 

クーベルメの次発を撃たれる前に春菜がシューティングモードに素早く入り、パーツアウトを誘発する精密射撃のEXアクションでゼーゴックのその筒を撃ちぬき爆発させる。

 

「やった………!ッ!?」

『まだ終わっちゃいねぇ!!』

 

しかし、残ったゼーゴックの上半身が左腕の「アイアン・ネイル」を突き出し、春菜機に向けて突貫してくる。

 

「自爆覚悟は同じ「機動戦士ガンダム MS IGLOO」の作品のヅダだけにするじぇ!」

 

それだけはさせまいと、由里子機が春菜機の前に出て腹部の「カリドゥス複相ビーム砲」で撃ちぬく。

 

『やるな!だがまだ………。』

「まだ?何かあるのかな?………っと、春菜ちゃん大丈夫?」

「はい………ありがとうございます、由里子さん。あんな機体もあるんですね。………あ!今度は陸地の方に巨大な機体が二機!?」

 

ヴェルナーの最後の言葉を聞いた由里子達だが、春菜が更なる敵影に気づく。

メキメキと木をなぎ倒す音も聞こえる。

 

「今度は何ですか!?」

「えっと………サンドカラーの………ザクの頭が埋め込まれた巨大な戦車?」

「ま、まさか「機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で」に登場する「ライノサラス」!?頭の上にデカい砲身ついて無いか!?」

「は、はい………!付いて………光って………!?狙いは比奈ちゃんとエイガーさんです!」

『躱せ!比奈!』

「そんな無茶な要求言われても!?」

 

比奈が悲鳴を上げた途端に極太のビームの光が木々を消し飛ばしてくる。

遅れて豪快な発射音。

エイガー機はホバーで横にスライド移動し、比奈機はまた菜々機と奈緒機に抱えられ横に跳ぶ。

彼女達の居た所に巨大なビーム砲………「バストライナー砲」が通過していく。

 

『モビルタンクが時代遅れってのは古い発想だ。俺達の意地、見せてやるぜ!』

 

通信から聞こえたのは機動戦士ガンダム MS IGLOOに登場する「デメジエール・ソンネン」。

見れば、消し飛んだ森の向こうに二機の巨大なライノサラスが見えて、片方の前にソンネンの緑色のタンクである「ヒルドルブ」が、もう片方の前に複数の赤色のキャノン砲を背負った車輪の機体である本来はまだ生産されてないはずの「ギガン」が立ちはだかっていた。

 

「一方的にやられる痛さと怖さを教えてくれるとは………なんて敵っスか………。」

『それ、お前が言うか………?』

 

ヘイズルで身構える比奈に対し、横に立つマドロックのエイガーがツッコミを入れた。



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4章:結晶となるアイディア(比奈・菜々・奈緒・春菜・由里子)・2話

『さぁて、まずは実弾の雨あられを見せてやるぜ!』

 

デメジエール・ソンネンの言葉と共に、二機のライノサラスがそれぞれ両肩に装備されている二門の大量の『ミサイルポッド』を放つ。

更にヒルドルブが『30cm砲』を、ギガンが『180mmキャノン砲』をそれぞれ発射してくる。

 

「春菜!「フィールドディフェンサー」を!」

「はい!」

 

上条春菜のガンダム・グラシアクリアネスが耐久力と回復力を上げるEXアクションを使用しミサイルの雨等に備えるが、それでも根本的な物量が多く、耐久力が削られていく。

安部菜々のマジカル☆ウサミンガンダムが続けて「フィールドリペア」で全員を回復していくが、それでも追い付かず、各機「リペアキット」を消耗してしまう。

 

「よ、容赦ないっス!?………アタッ!?」

『だからお前が………痛てッ!?』

 

スタビライズド・ヘイズルを駆る荒木比奈やマドロックを駆るエイガーが愚痴を呟くが、身動きの取れない所に30cm砲や180mmキャノン砲の直撃を貰ってしまい、ダメージが加速してしまう。

ここら辺、ソンネンを含めたパイロット達の射撃能力は優秀に見えた。

 

「と、とにかくライノサラスを早く何とか………!バストライナー砲をまた撃たれたら………!」

「でもどうするじぇ!?近づくにしても………?」

 

装甲に長けた神谷奈緒のシナンジュ・カービングペインと実弾に強い「ヴァルアブルフェイスシフト装甲」を持つ大西由里子のユナイトジャスティスガンダムが盾になってチームへの被弾を防ぐが、状況は良くならない。

 

「仕方ありません………!えっと………ギガン側の一機は私が受け持ちます!」

「やれるのか!?グラシアクリアネス!?」

「だからヒルドルブ側の一機を誰か………!」

「ならば、ナナが受け持ちましょう!」

 

ライノサラス二機のバストライナー砲がまた光り出した所で、菜々のウサミンガンダムは機敏に敢えてヒルドルブ側の機体に接近をしていく。

一方でギガン側の機体は比奈のヘイズルをまた狙おうとするが………。

 

ドゴオオオオオオオン!!

 

「な、何だァ!?」

 

その砲塔が急に爆発し、周辺にいたギガンを巻き込みながら次々とボディが誘爆していく。

奈緒達が振り返って見れば、春菜のグラシアクリアネスがシューティングモードの姿勢を取っていた。

 

「は、春菜ちゃん………まさかと思うっスが………。」

「アレだけ大きな砲口なのです。グラスセンサーに長けたグラシアクリアネスのゲイボルグの砲弾をツッコむのは苦労はしません。」

「お見事っス………。」

 

春菜の一芸に長けた技に感心する比奈。

しかし、もう片方のバストライナー砲は止める手段が無く、近づくウサミンガンダムに向けて発射されてしまう。

 

『一発あれば十分だ!30サンチ砲もサービスしてやるぜ!』

 

極太のビームに合わせ、ソンネンのヒルドルブも主砲を発射。

だが、菜々は怯む姿勢を全く見せずに軽く横にステップを踏むだけでその二つの強力な射撃を躱す。

 

『躱した!?あの機動力は何だ!?』

「当たらなければどうという事は無いんです!………貰いますよ!」

 

そのまま「スサノオ」の「強化サーベル「シラヌイ」」と右手の「強化サーベル「ウンリュウ」」を取り出すと「強化サーベル「ソウテン」」に連結させ、ライノサラスの前に居座るヒルドルブに迫る。

 

『モビルタンクを甘く見るなよ!』

 

格闘武装である「ショベルアーム」で迎撃をしようとするソンネン機だが、菜々機はジャンプで躱すとそのモノアイの頭に強化サーベル「ソウテン」を突き付け、そのまま更に高く跳躍する。

 

『お、俺を踏み台に………!?』

 

爆発するヒルドルブを後目にライノサラスの砲塔に飛び乗ったウサミンガンダムは、「ガーベラ・テトラ」の「ビーム・マシンガン」を連射し、更に強化サーベル「ソウテン」を振り回して何度も斬りつける。

そして、砲塔の冷却機構が破壊され、赤く染まった所で素早く脱兎の如く離脱。

その背後で大爆発が起こった。

 

『「本気狩★ラビット」………「千葉のヴォーパルバニー」………!ライノサラスを接近戦で破壊するとは………!』

「何でそれを………じゃなくて、エイガーさん!ナナはピチピチの17歳ですから!………でも、この間に随分降下されましたね………。」

 

菜々の言葉に辺りを見渡せば、ザクⅡ、グフ、ドムの他、「ザクキャノン」も「180mmキャノン砲」を撃ってきていた。

 

「ライノサラスが居る時に比べれば難易度は劇的に落ちてるっス。各個撃破を心がければ………。」

「比奈ちゃん!今度は海から潜水艦です!」

「海って………「ユーコン」っスか!?」

『敵は上からだけでは無いって事だ。サイクロプス隊、出るぞ!』

『俺達に付いて来いよ、バーニィ!』

『はい!………俺も隊長たちみたいにできる所見せないと!』

『戦い方を教えてやるぜ!滅びゆく者達の為にな!』

 

その低い機動力故に丁度最後尾………海から見れば最前線に付けていた比奈が振り返ると、「シュタイナー・ハーディー」の「ズゴックE」、「ガブリエル・ラミレス・ガルシア」の「ハイゴッグ」、「バーナード・ワイズマン」の「ザクⅡ改」、そして「ミハイル・カミンスキー」の「ケンプファー」の4機が陸に乗り上げたユーコンから降り立っていた。

 

「まさかの「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」の「サイクロプス隊」!?」

『喰らいなぁッ!』

 

驚く比奈が体勢を立て直す前にミーシャのケンプファーが「チェーンマイン」を上空で振り回しながら巨大なブラックホールを発生させ敵を引き寄せるEXアクション「グラビティスフィア」を比奈のヘイズルに向けて放つ。

 

「しまっ………!?」

 

これだけでは致命傷にはならないが、動きを止められてしまっては回避行動がとれない。

その隙だらけの比奈機に、サイクロプス隊が一斉に攻撃を開始する。

 

『動きが止まっていれば俺だって………!』

『バラバラになりな!』

『悪く思うなよ!』

『頂いたぜ!』

 

バーニィのザクⅡ改が「ハンド・グレネード」を三つ全部ブラックホールの中に投げ込み、ガルシアのハイゴッグは両腕の「ハンド・ミサイル・ユニット」を全て放出。シュタイナーのズゴックEは「ビーム・カノン」を連射し、ミーシャのケンプファーは「シュツルム・ファウスト」を二つ発射する。

あまりの強力な連携攻撃に流石の重装甲の比奈のヘイズルも陥落する程のダメージ量に………。

だが………。

 

「舐めるんじゃ無いっスよ!!」

『!?』

 

しかし、そこでブラックホールが吹き飛び比奈のヘイズルが緑に輝く。

ガーディアン覚醒を使い、耐久値を全回復させ防御力を高めて耐え抜いたのだ。

驚いたサイクロプス隊にすぐさまガトリング・シールドを構え防御力を下げショックを与える「フリージングバレット」のEXアクションを連射。

オート射撃をしてくれる脚のサブ・アーム・ユニットの二門のビーム・ライフルと合わせ、最前線にいたケンプファーを粉々に撃ち砕く。

 

『またガトリングに………!?下がれバーニィ!』

「次っス!」

 

続いて攻撃力を下げショックを与えるEXアクションの「ガトリングバスター」を放ち、バーニィのザクⅡ改も粉砕。

 

『す………すみません、隊長!』

「もう一つ!」

 

そして背中の「パワードジムカーディガン」の「大型ガトリング」も武装に加えると、継続射撃を行うEXアクションである「ダブルガトリングストーム」をガルシアのハイゴッグとシュタイナーのズゴックEに炸裂させていく。

 

『あっという間に………!?やってくれるぜ………!』

『恐ろしい物だ。ガンダムと覚醒を合わせた力というものは………。』

 

これでもかというほどガトリングとビームの乱射を受けた二機も耐久値の限界を迎え爆発。

何とかこの窮地を脱した所で、比奈の覚醒が切れる。

 

『おい、大丈夫か!?』

「な、何とか………。流石に段々難易度が上がってきたっスね………。」

「比奈ちゃん!またユーコン!陸に何か来ます!」

「休憩無いんスか!?」

 

今度乗り上げたユーコンを見ると、「ジュアッグ」や「ゾゴック」が上陸してきている。

更に、4機のモビルスーツが遅れて陸地に降り立つ。

 

『ゲ………遂に来やがった!?』

 

その姿を見た途端、思わずエイガーが苦渋を舐めたような顔をする。

上陸をしてきたのは濃い緑色の「陸戦型ゲルググ」とサンドカラーの同機。水色の「グフカスタム」に、そして灰色に近い「ザクⅠ」であった。

 

『さて………「荒野の迅雷」がお相手願おうか!』

『そうだ!俺達の希望はまだ潰えてはいない!』

『怯えろ!竦め!ガンプラの性能を活かせないままバラされていけ!』

『部隊はやらせはしない!倒させて貰うぞ、ガンダム達!』

 

それぞれパイロットは、機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で…の「ヴィッシュ・ドナヒュー」、「機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles」の「ケン・ビーダーシュタット」、「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」の「ノリス・パッカード」、そしてエイガーにとっては自機を破壊されたジオニックフロント 機動戦士ガンダム0079の「ゲラート・シュマイザー」であった。

 

「グフカスタム以外知らない………。」

「春菜にとってはそうだろうなぁ………っと!」

 

覚醒を使い終わったばかりの比奈を守るように出た奈緒のカービングペインが「スラッシュテンペスト」の衝撃波を伴った斬撃のEXアクションをゲラート専用ザクⅠに当てようとするが、軽く回避をされてしまう。

更に、そこからゲラート機は比奈達に向かってグレネードを投げる。

それは、爆発こそしなかったが、煙を発して彼女達の視界を奪う。

 

「これは「スモークグレネード」ですか………!?」

「くっ………グラシアクリアネスの力を持ってしても周りが見えない………!?」

『気を付けろ!奴の機体は「音響センサー」を持ってるからこの中でも自由に動ける!』

 

エイガーの忠告に盾を構え身構える一同。

しかし、今度は何かガガガと変な通信を阻害するような音が響き渡り………。

 

バババババババッ!

 

「なッ!?」

「ちょ!?比奈センセ!?何でアタシを狙うの!?」

 

何と比奈機のサブ・アーム・ユニットのビームライフルが由里子のユナイトジャスティスを狙う。

幸い、「ヤタノカガミ」を表面に採用していた為にダメージは少ないが、その後も煙の中で、味方の機体を次々と狙っていく。

 

「比奈さん!?いきなりどうしたんだよ!?」

「さ、サブ・アーム・ユニットが言う事を聞かないっス!?」

『故障か!?』

「分かんないっス!?さっきまでちゃんと動いてたのに!?」

 

煙の外で何かが起こったのだろうか?

しかし、比奈達には確認のしようが無い。

更に、今度は次々と砲弾等が撃ち込まれてきて、途端にダメージが加算されていく。

 

「フィールドリペア!………ってコレ何処かで何かの直撃受けたらマズイですよね!?」

「体力は多めに保っておかないと………!」

「比奈センセの暴走も厄介だじぇ!?」

『おい、覚醒ってのはもう使えないのか!?』

「そんな連続で使えないっスよ!お願いだから止まってくれっス!」

 

悲鳴を上げる比奈ではあるがどういうわけかサブ・アーム・ユニットが暴走を繰り返していく。

これではリペアキットがどんどん消耗されていって、状況が悪化するばかりだ。

比奈は何とか自機を制御内において言う事を聞かせようとするが、ダメであった。

 

「………仕方ないっス!背に腹は代えられないでス!」

 

遂に比奈はデファイアント改ビームジャベリンを取り出し、サブ・アーム・ユニットに取り付けてあったビームライフルを斬り落とし破壊する。

これで味方を誤射する心配は無くなったが、以前外からの砲撃は続いてる状態だ。

 

「煙を払うっスよ!」

 

そう言うと比奈はデファイアント改ビームジャベリンを連結させ、頭上で振り回す。

 

『待て!そんなので煙が払えるわけが………!』

「これはライト代わりの目印でス!………奈緒ちゃん!菜々さん!ユリユリ!春菜ちゃん!この目印を中心にEXアクションを使ってバーニアを噴射しながら反時計回りに回転するっス!」

「そういう事か!神谷奈緒、了解!」

「ピピっと来ました!安部菜々、了解!」

「意味分かったじぇ!大西由里子、了解!」

「全力を出します!上条春菜、了解!」

 

比奈の言葉の意味を理解した4人はそれぞれ「土星エンジン」、「ドライグヘッド」、「スーパードラグーン」、「トランザム」のEXアクションを発動。

爆発的な加速力を得たそれぞれの機体が高速で比奈機の周りを回転していき、バーニアで竜巻のような渦を作り出して煙を振り払っていく。

 

『すげえ………。』

 

エイガーが思わず感心する中、スモークグレネードによる煙は取り払われた。

そして………。

 

「比奈ちゃん!陸側に4機敵機が増えています!」

「………みたいっスねぇ。これはまた、貴重な組み合わせで来たっスよ。」

 

比奈が思わず感嘆の声を上げるがそれも無理はない。

並んで立っていたのはグフとドムの間の形状である「イフリート」。

青色のイフリートに、同色ながら肩が真っ赤に染まった「イフリート改」、黒い忍者のような「イフリート・ナハト」に紫の「イフリート・シュナイド」の4機が並んでいたのだ。

パイロットは「機動戦士ガンダム CROSS DIMENSION 0079」の「ヘンリー・ブーン」、「機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY」の「ニムバス・シュターゼン」、「機動戦士ガンダム戦記」の「エリク・ブランケ」、そして「機動戦士ガンダム外伝 ミッシングリンク」の「フレッド・リーバー」であった。

 

『俺は幸せ者だな。こんな強者に出会えるとは………。』

『貴様らはこの「ジオンの騎士」が裁いてやろう!』

『全ては「水天の涙」作戦の成就の為に!』

『ま、これが俺の最後の戦いかもな………!』

 

「イフリートシリーズが並ぶなんて壮観だなぁ………。」

「奈緒ちゃん、感心している場合じゃ無いですよ。ナナ達、8機のエース機に囲まれています。」

『どうする、指揮官さんよ………?』

 

リペアキットは先程の混乱で結構消費してしまった。

更にザクキャノンを始め、ジュアッグ、ゾゴックといった遠距離攻撃ができる機体もまだいる。

その中でこの状況を乗り切るとしたら………。

 

「菜々さん………。」

「はい。」

「一番辛い仕事っスが………海の方の敵、しばらく頼めるっスか?」

「分かりました、キャハ!」

 

フィールドリペアを使った菜々は笑顔で………しかしとんでもない指示を平然とこなしに陸戦型ゲルググやグフカスタム、ゲラート専用ザクⅠの中に突っ込んでいく。

 

「だ、大丈夫なのか、菜々さん!?ドライグヘッドも使ったばかりなのに………!」

「だから、さっさとイフリート達を倒すっス!サブ・アーム・ユニットが暴走した原因………多分、ナハトのジャミング機能が干渉したんだと思いまス。」

『ナハト!?そういう事か!?』

「アタシ達の中で一番素早い菜々ちゃんが反対側をかく乱している間にナハト含め陸地側を何とかするっス!後、エイガーさん!邪魔が入らないようにザクキャノンを始め、陸地側の雑魚を出来る限り倒してください!」

『分かった。やられるなよ!』

 

言うや否やエイガーは「ビーム・ライフル」を構えホバー移動をしながら、ザクキャノンやザクⅡ、グフ、ドム等を次々と得意の射撃と砲撃で狙っていく。

そして比奈達残り4人も武器を構えた。

しかし………。

 

「グラスセンサーの調子が悪いです………。ナハトのジャミングの影響、グラシアクリアネスも受けているみたいですね………。」

「比奈センセも火力下がってるし、頼りになるのはアタシ達だけみたいだじぇ。」

「アタシのカービングペインも手数で勝負するタイプだけれど………足止めるEXスキルは危険だしなぁ………。」

『フン………何をこそこそしている。私から仕掛けさせて貰うぞ!マリオン!』

 

比奈機と春菜機が本調子でない為、焦りを抱く一同。

そんな中、ニムバスのイフリート改が「EXAMシステム」のEXアクションを発動させ、突撃してくる。

続いてイフリートとイフリート・シュナイド。しんがりに要となっているイフリート・ナハトだ。

 

「エイガーさんが雑魚を受け持ってる以上、個人戦に持ち込むのが良さそうだじぇ。あの一番性格悪そうなのはアタシが何とかするから、誰かナハトを相手して欲しいじぇ!」

「分かった!1対1の格闘戦だな!」

 

インパルスガンダムのエクスカリバーを二刀流で持った由里子のユナイトジャスティスが、イフリート改の突進からの二刀流の「ヒート・サーベル」を受け止めながら叫ぶ。

これによりイフリート・シュナイドに対して奈緒のカービングペインが、イフリートに対して春菜のグラシアクリアネスが、そしてイフリート・ナハトに比奈のヘイズルが対峙する構図が出来上がる。

 

「やってみせます、ここには眼鏡とグラシアクリアネスと、そして私がいますから!」

「みんな生き生きしてますね………さて、どうやって攻めるか………。」

 

各々が意気込む中、若干反応速度に劣る比奈はどうやって格闘戦を制するか考えこんでいた。

 

『例えガンプラバトルだろうと、俺は生きる!………生きる為に戦う!勝負だ!千葉のヴォーパルバニー!』

「だから何で、そんなデータが入力されてるんですか!」

 

「ガンダム試作3号機」の二振りの「ビーム・サーベル」を両手に構えながら、ウサミンガンダムを駆る菜々は悲鳴を上げる。

ドライグヘッドはすぐには使えなかったが、それでも高速の機動力は健在で、ケンの陸戦型ゲルググの「グレネード・ランチャー」や「ビーム・ナギナタ」をステップで避けたり、ビーム・サーベルで弾いたりしながら兎のように跳ね回る。

あくまで彼女の役割はかく乱と足止めなので、デッドウェイトになる強化サーベル「ソウテン」と「ジム・コマンド」の「曲面型シールド」はもう捨ててしまっている。

その思い切りの良さが動きを更に良くしており、ジュアッグの「3連装320mmロケット砲」やゾゴックの「ブーメラン・カッター」を回避し、逆に薙ぎ払って撃破数を重ねている。

 

『かなりのベテランだな。………しかし、昔の通り名が嫌なら今は何がいい?』

「だーかーらー!ナナは!!………ってそうですねぇ、敢えて言うなら………「光と踊るガンプラアイドル・ウサミン」?」

『ハハッ、そりゃいい!』

 

ヴィッシュ機の右腕に内蔵された「アームガトリング」をビーム・サーベルを回転させて弾きながら菜々は新しい通り名を提案する。

実際、彼女にとってはアイドルという称号は何物にも代えがたい物なのだ。

故に………。

 

「同じ夢を持つアイドル仲間の為にも、ここで簡単に散れません!」

『いい心掛けだが………1対4は流石に無謀だ!』

「!?」

 

菜々はいつの間にか背後に回り込んでいたゲラート機の「ヒート・サーベル」を受けて、右腕のパーツを吹き飛ばしてしまう。これで右に死角を作ってしまった。

 

『悪いな!貰ったぞ!』

『勝利は頂いた!』

 

そこにノリスのグフカスタムが「ヒート・サーベル」を構え飛びかかる。

更に、念には念を押して、反対側からはケンの陸戦型ゲルググが再びビーム・ナギナタを振り回し突進してくる。

 

「まだまだぁッ!言いましたよ、ナナは「光と踊るガンプラアイドル」だと!」

『!?』

 

しかし、ここで菜々は下手に動かず、「まだ使わないでいた」EXアクションの「バレットオービット」と「ファントムエッジ」を発動。

頭上にオート射撃を行う二つの光球を作り出し空から迫るノリス機を迎撃し、更に周囲に自分を守るホログラムの剣を作り出しケン機を斬り飛ばす。

エース4機に囲まれている状態であったが、彼女はゆっくりと赤外線レーザーで戻って来た右腕の感触を確かめながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

「どうしました?1対4は無謀では無かったのですか?」

『………先程の言葉は訂正しよう。』

『貴殿はエースだ。トップクラスのな………。』

 

ゲラートに謝罪され、ノリスにエースと言われた菜々には、凄まじい貫禄があった。



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4章:結晶となるアイディア(比奈・菜々・奈緒・春菜・由里子)・3話

『フハハハハハ!逃がさん!』

「ちょ!?ジオンの騎士なのに何で飛び道具多用すんの!?」

 

ニムバス・シュターゼンのイフリート改の相手を買って出た大西由里子のユナイトジャスティスガンダムはその戦い方に驚愕していた。

というのも、基本的な攻撃の主軸となるのは二本のヒート・サーベルなのだが、攻撃の緩急をつける為に両腕の「腕部グレネード・ランチャー」や両脚の「脚部六連装ミサイルポッド」を駆使し、遠距離攻撃も積極的に使ってくるのだ。

確かに有効な攻撃手段と言えばその通りだが、とても「騎士」という通り名には相応しいとは由里子は思えなかった。

 

「傲慢だじぇ!ニムバス!」

『愚弄するか!由里子よ!』

 

両肩の5連装ミサイルポッドで何とか相手の飛び道具を相殺する由里子だが、ニムバスは更に彼女が距離を取るや否やイフリート改は二刀流の武器から衝撃波を放つEXアクションである「スラッシュレイヴ」を使ってくる。

 

「あわわわわ!?」

 

エクスカリバー二刀流を使い、同じEXアクションでまた由里子は相殺を図るが、元々二人乗り用で設定をつぎ込んだのがユナイトジャスティスなのだ。

操作に迷いが生じてしまい、若干遅れが出てしまう。

 

『マシンの性能に付いていけて無いな!やはりマリオンは私に味方してる!』

「マリオンちゃんは関係ないでしょ!」

 

そう言って、慌てて両脚の「クスフィアス3レール砲」を発射しショック状態を与えようとするが、それが愚策だった。

ニムバスは動きを読んでいたかのように跳躍して避けると脚部六連装ミサイルポッドを一斉発射。

ユナイトジャスティスはヴァリアブルフェイスシフト装甲を持つ為、実弾のダメージはそれほどでもないが、動きを止められてしまう。

そこにEXAMシステムの加速力を活かし、イフリート改が猛スピードで突進してくる。

 

「近づいてくるなら………!」

『甘い!甘過ぎる!!』

 

エクスカリバー二刀流で斬り払おうとしたが、得物が大き過ぎた。

逆にその前にヒート・サーベルでその振りかぶった両腕を斬り裂かれ、腕ごと武器が吹き飛ぶ。

 

「ひ、ひぇ………!?」

『トドメだ!』

 

無防備になった所で左腕の腕部グレネード・ランチャーを胸のコックピットに突き付けられ………。

 

「………なぁんてね!この瞬間を待ってたんだじぇ!!」

『!?』

 

しかし、そこで由里子は吠えると膝蹴りをニムバスの無防備な腹のコックピットに向かって放ち………そこから「イージスガンダム」の「ビームサーベル発振刃」を発生させ機体を貫く。

 

『な………に!?』

「遊びが過ぎたじぇ、ニムバス!」

 

敢えて油断させるために両腕を捨てる選択肢を選んでいた由里子は、後ろに飛びのくと逆に動きの止まったニムバス機に腹からカリドゥス複相ビーム砲を放ち、トドメを刺す。

 

『マリオーーーン!!』

 

ニムバスの叫びと共に、イフリート改は爆発を起こした。

 

「ふう………いざやってみるとギリギリの戦いだったじぇ………ってアタシが撃墜一番乗り?」

 

ユナイトジャスティスの両腕が回収されてくるのを待っていた由里子はまだ激しい戦いが繰り広げられている三組の戦いを見つめた。

 

「やるな………由里子さん!スーパードラグーン無しでEXAMに勝つとは!アタシも土星エンジン使えればまだ楽なんだけれど………。」

 

フレッド・リーバーのイフリート・シュナイドと対峙しながら、シナンジュ・カービングペインを駆る神谷奈緒は呟く。

各機が得意としているトランスEXアクションは、スモークグレネードの煙を振り払うのに使ってしまった。

再使用の為には各機再チャージの時間が必要で、その間は全員、素の性能で戦わなければならない。

土星エンジンの加速力に戦法として頼る部分もあった奈緒にしてみれば、この制限は実は結構痛かった。

 

「得物ならビームを纏ったこちらが有利なはずだけれど………フレッドさん思いっきりいいしなぁ………。」

『それは誉め言葉と受け取っておくぜ。サーベルを受けなきゃ勝機はあるからな!』

 

フレッドのイフリート・シュナイドは小型のヒート系の実体剣である「ヒート・ダート」を二刀流で構えながら機動力を活かし迫ってくる。

本当は「ジャイアント・バズ」等の遠距離武器も使えるのだが、1対1だと隙が大きい為に最初から使用する気が無いらしい。

一方で奈緒が扱うのは「ユニコーンガンダム」の「ビーム・サーベル」。

これを振り回しながら右腕の110mm機関砲等を的確に撃ち込んでいくが、こちらは元々の威力が小さい為か、フレッドはダメージを無視してしまっている。

 

「ヒート・ダートは計14本装備しているし………、リーチが短いとはいえ、投擲もできる。何よりこちらが大振りした所に、アニメで「ジムⅡ・セミストライカー」に見せたようにカウンターで背後に回り込まれて一撃で決められるのが怖いんだよな………。」

 

アニメ通の奈緒だから分かる知識が脳裏に浮かび、攻撃に大胆さが失われてしまう。

とはいえ、このまま土星エンジンの再チャージが完了するまで耐える自信も無い。

 

「えーい!悩んでるなんてアタシらしくもない!仕掛ける行動が分かってるなら一気に突撃して………!」

『踏み込ませるかよ!』

「!?」

 

マイナスの思考を振り払い割り切った奈緒だったが、そこでフレッドはヒート・ダートを投げつけてくる。

狙ったのは何と踏み出そうとしたカービングペインの右足。

地面に縫い付ける形で動きを止めてしまったのだ。

 

「マジかよ!?」

『もう一丁!』

 

更に動揺した所でもう一本のヒート・ダートをカービングペインの右手に投げつけられ、メイン武器のビーム・サーベルを弾き飛ばされてしまう。

 

『行くぜ!』

「う………うあああああああ!!」

 

咄嗟の判断で奈緒は左腕のシールドを右手で取り外し、思いっきりフレッド機にぶん投げた。

それは「ガンダムMk-Ⅱエゥーゴ仕様」のシールド。

当然、突進してくるフレッドは新たに取り出したヒート・ダート二本を構えつつ、蹴り飛ばそうとする。

だが、そのシールドには「ミサイル・ランチャー」が内蔵されている為………。

 

「頼む!!」

『何!?』

 

奈緒は自分のシールドに両腕の110mm機関砲をこれでもかという程撃ち込み、ミサイルを起爆させ、フレッド機の前で爆発させる。

この行動には流石のフレッドも面食らう形になり、動きが止まる。

その僅かな隙で、奈緒はガンダムXディバイダーのビームマシンガンを右手で取り出し連射………というより乱射。

更に左手で右足に縫い付けてあったヒート・ダートを掴むと引き抜き、一気に突進。

爆発の煙で相手の姿はシルエットでしか見えなかったが、それはフレッドも一緒。

引き抜いたヒート・ダートを思いっきり腹のコックピット付近に突き刺す。

 

「ど、どうだ………?当たった………のか?」

『………安心しろ、急所に直撃だ。負けたぜ、奈緒。』

 

最後にフレッド機に手で押される形になった奈緒のカービングペインは後方にフラフラと尻餅を付き………目の前で爆発するイフリート・シュナイドを見た。

 

『………イフリートが二機も敗れるか。しかし、お前は何故ゲイボルグをひたすら使う?』

 

「専用ヒート・サーベル」を二刀流で振るうイフリートを駆るヘンリー・ブーンは、上条春菜が操るガンダム・グラシアクリアネスの行動に不可解な物を覚えていた。

春菜は格闘戦が有利な1対1の戦いなのに、射撃武器のゲイボルグを逃げながらひたすら撃ってきているのだ。

更に言えば、射撃武装はイフリート・ナハトのジャミングで照準が合いにくい状態なので、狙った場所には当たりにくく、仮に直撃コースに飛んだとしても、ヘンリーは落ち着いて専用ヒート・サーベルでガードをしていた。

 

「確かにジャミングの中ではグラスセンサーは効果的に働きません!しかし、それでも元々の射撃性能を鑑みれば有利なのですよ!」

『相当自信があるみたいだな………。』

 

眼鏡をキリっと上げながら言う春菜はゲイボルグの射撃を撃ち込むのを止めない。

勿論、接近戦では「ザクⅡ」の「ヒート・ホーク」や「ガンダムグシオンリベイク」の「ハルバード」と言った近接武装も備えているのだ。

それでも彼女が射撃という手段に拘っている理由は………。

 

『なんにせよ、その得物………破壊させて貰う!』

「え!?」

 

それまで様子見を含めて踏み込みを抑えていたのか、二刀流を構え一気に跳んだヘンリー機は、春菜の近くまで飛び込むとゲイボルグを5連続で斬りつけて破壊。

得意の射撃武器が壊されて動揺した所で、更に蹴りを喰らわせて吹き飛ばす。

 

『ヒート・ホークではこの二振りの剣は捌ききれまい。』

「………何故、ビームを強化するツインドライブを、ビームを防ぐ「ナノラミネートアーマー」の装甲で戦いあう「ガンダムフレーム」に実装したか分かりますか?」

『?』

 

ヘンリーは専用ヒート・サーベル二本を振りかぶる。

春菜はここでヒート・ホークを握り………その二本の剣を薙ぎ払った。

すると………。

 

ベキッ!!

 

『な………!?』

 

ヘンリーは驚愕する。

何とその二振りの剣が両方ともヒート・ホークとぶつかった途端、へし折れたのだ。

まるで元々錆びついていたかのように。

 

「教えて上げます!ゲイボルグ………レールバズーカはナノラミネートアーマー等の装甲を剥離させ損耗させるように強化してあるんですよ!」

『ぬう………!?執拗にヒート・サーベルで防御するように当ててたのはその為か!?』

 

ヘンリーは飛びのき「専用ショットガン」を慌てて握ろうとする。

だが、春菜はパワードジムカーディガンの二門の大型ビームキャノンを向けた。

 

「そして、ビームが通じるようになった所で、ビームキャノン………特大の「グラッシーキャノン」がどんな装甲でも貫通していくんです!!」

 

そのまま、致命的なビームの光弾を発射。

イフリートを光球が貫通し爆発させる。

 

「これこそグラシアクリアネスの持つ複合パワー………。実弾とビームのコラボレーションです。」

『見事だ………。』

「ありがとうございます、ヘンリーさん。」

 

春菜は好敵手であったヘンリーに対して頭を下げた。

 

(なんでスか………みんな、凄いじゃないっスか………!)

 

エリク・ブランケの乗るイフリート・ナハトと戦っていたスタビライズド・ヘイズルを駆る荒木比奈は、それぞれの戦い方で見せ場を作っていた仲間達の姿に惚れ惚れしていた。

しかし、彼女自身はデファイアント改ビームジャベリンを振り回しても機動力に優れるエリク機に当てる事ができずにいて、逆に日本刀型の実体剣である「コールドブレード」による攻撃を何度も受けている。

元々反応が良いタイプでない上に、機体が重装甲・重装備である為に機動力が追いつかない為、積極的に仕掛けていく格闘戦は不得手なのだ。

だが………。

 

(そんな事も言ってられない状況っスね………。)

 

耐久力が高いから一撃一撃は大したダメージでは無いが、連続で喰らってしまえば、当然リペアキットは消耗していく。

何より、こうしている間にエース4人を相手取っている安部菜々のマジカル☆ウサミンガンダムが危険な状態になるのは目に見えていた。

 

(ガーディアン覚醒を使うか………。)

 

比奈は耐久力と回復力を高める自身の切り札を使おうとするが、踏みとどまる。

確かに覚醒に頼ればゴリ押しでイフリート・ナハトを倒せるし、菜々の窮地も救えるだろう。

しかし………それで世界大会に通用する自分になれるのか?

喜多見柚、村上巴、関裕美、藤原肇………長くに渡って関係を築いてきた4人の仲間と共に歩めるのだろうか?

 

(アタシは………置いていかれたくない………!)

 

仲間の盾になる為に生き残る。

その為の重武装・重装甲こそ、比奈がガンプラに込めてきたコンセプトなのだ。

その想いは、比奈の目指しているガンプラの完成系にも変わりはない。

だからこそ………この窮地を比奈は覚醒ではなく、本当の自分の力で乗り切って仲間を助けたいという想いに駆られたのだ。

 

「何考えてるんスかね………アタシは………。」

「比奈ちゃん。」

「ん………菜々さん?」

 

比奈は通信を見る。

送られてきた菜々の顔は………笑っていた。

 

「ナナは信じていますよ。覚醒ではなく、比奈ちゃん自身が私を助けてくれる事を。」

「……………。」

 

全てを見透かされたような言葉に比奈はしばし無言になる。

そして………。

 

「敵わないっスね、菜々さんには。………ありがとうっス!荒木比奈!皆を救ってみせまス!」

 

そう叫ぶと比奈は両肩のマイクロミサイルランチャーを全弾発射する。

しかし、イフリート・ナハトのジャミングはホーミング兵器にも作用しているのか、ミサイルは空しく真上に空しく飛んでいくだけだ。

 

『気でも狂ったか………?所詮、イフリートの敵ではない!』

「う!?」

 

怪訝な顔をしたエリクのイフリート・ナハトはショック状態を与える超低温の「コールドクナイ」を二本投擲。

それをまともに受けたヘイズルは動きを止められてしまう。

 

『覚えておけ!エリク・ブランケの名を!』

 

そしてそのチャンスを逃すまいとコールドブレードを握りしめたエリク機が迫るが………。

 

「………じゃあ、アタシの名も覚えておくっス。」

『!?』

 

そこでエリク機は慌てて止まる。

何と撃ち上げたマイクロミサイルランチャーの雨がヘイズルを中心に降り注いで爆発を起こしていったのだ。

それはヘイズルの肩の「グレネードランチャー」にも誘爆し、派手に燃え上がる。

 

『自爆同然の攻撃でナハトを巻き込もうとしたのか………?』

「別にエリクさんに当てようとは思っちゃいないっスよ。」

 

その言葉と共に煙の中からボロボロのヘイズルが出てくる。

スタークジェガンのバックパックが武装ごと吹き飛び、至る所の重装甲が剥がれて落ちている。

 

「この機体じゃ「軽くする」っていってもこれが限界っスかね………!」

 

そう言うと、比奈はボロボロになったメイン武器のガトリング・シールドを投げ捨て、照準補正のある「高性能光学センサー・ユニット」も剥ぎ取り同じように捨てる。

その上で、右手でデファイアント改ビームジャベリンを両剣モードにすると、凄みのある笑みを浮かべて言い放つ。

 

「機体ダメージによる強制軽量化!こういう展開もある意味重量機体の王道っスよ!」

『しょ、正気か貴様!?』

 

とても普通では考えられない比奈の取った戦法と威圧感に恐怖を感じたエリクは下がりながら再びコールドクナイを投げつける。

 

「甘い!」

 

だが、今度は機体が軽くなっていた事と行動を先読み出来た事で、比奈の反応が追いついた。

ビームジャベリンを前面で回転させ、簡易シールドを作るとクナイを弾き飛ばし、ホバーの性能に任せ一気に突撃する。

慌ててイフリート・ナハトはコールドブレードを構えるが比奈には遅く見えた。

 

『くっ!?』

「覚えておいて下さい!アタシは………アタシは荒木比奈だァァァッ!!」

『荒木………比奈!?』

 

今までに無い加速力に任せてビームジャベリンを一気に突き出しコックピットを貫く比奈のヘイズル。

そのままジャベリンを引き抜き下がった所で、イフリート・ナハトは爆発を起こした。

 

「………菜々さん、無事でスか?」

「何とか………。リペアキットは無いですが、ギリギリですね。ありがとうございます、比奈ちゃん!」

「そうっスか。………間に合ったんスね。………間に合ってよかったっス。」

 

荒く息を吐く比奈のヘイズルを守るように菜々のウサミンガンダムが下がってきて背中を預ける。

そこに陸地側の敵をあらかた片付けてきたエイガーのマドロックが戻って来た。

 

『とんでもない無茶するな、お前………。』

「まあ、今回はアタシ自身も否定しないっスよ………。」

『ほら、プレゼントだ。サブ・アーム直っただろ?』

「ん?」

 

比奈が見てみればエイガーが渡してきたのはザクⅡの「ザク・マシンガン」が四丁。

ヘイズルのサブ・アーム・ユニットの分も合わせれば全ての手が埋まった。

 

「これは有り難いっス!エイガーさん、いい男になれるっスよ!じゃ………。」

 

ザク・マシンガンを四丁構えた比奈の後ろに菜々機が下がり、その周りに由里子機、奈緒機、春菜機が集まる。

目の前には菜々が惹きつけていた最後のエース達が身構えていた。

 

「もうひと踏ん張り行くっスよ!」

 

比奈の言葉で、菜々機以外の5機が前に飛び出した。

 

『狙撃手の愛用の武器はもう無い!遠距離戦は………!何!?』

 

一番槍を担ってケン・ビーダーシュタットの陸戦型ゲルググが左腕で「ショート・シールド」を構えながら「大型ビーム・ライフル」をヘイズルに向かって撃ってくるが、突然そのシールドが吹き飛ぶ。

見れば、春菜のグラシアクリアネスが腰のハルバードを思いっきり遠投してきたのだ。

 

「ナハトが倒れた事でグラスセンサーは復活してます!どんな手段でもシールドさえ奪ってしまえば………!」

『マズイ!?』

「遅いですよ!トランザムからのグラッシーキャノン!!」

 

そのまま春菜は「トランザム」を起動し下がろうとしたケン機をビームキャノンの特大の光弾で貫いていく。

 

『しまった………すまん、後は………!』

「このまま継続射撃を行います!」

 

爆発した陸戦型ゲルググを後目に、そのままジュアッグやゾゴックも狙っていく春菜機。

それらの雑魚敵は、遠距離戦は不利だと感じ突貫しようとするが、エイガーのマドロックがホバー移動をしつつ「ビーム・サーベル」で確実に斬り捨てていく。

 

『やるな!さて………「荒野の迅雷」の相手をしてくれるのは………!?』

「アタシだ!」

 

そう言ってヴィッシュ・ドナヒューの陸戦型ゲルググに突撃してきたのは奈緒のカービングペイン。

勿論、ヴィッシュ側は油断せずゲラート・シュマイザーの専用ザクⅠと連携を取り、囲みに行くが………。

 

「リペアキットの残りはっと………うん、これならイケる!」

『まさか………!?』

 

ゲラートが危惧した通り、奈緒機は土星エンジンをフルパワーで稼働させる。

このトランスEXの他との違う所は、ブーストゲージが無くなった時に耐久値を消費する事で無理やり加速を持続させられる所だ。

勿論、そのまま耐久値が切れると自爆するという原作再現の部分もあるが、リペアキットを駆使する事で強引に加速力を継続させる事ができた。

 

「当たらなければ………!菜々さんは4機相手にしたんだ!2機くらい!!」

 

シールドが無い事もあり、ヴィッシュ機の「ビーム・ライフル」とゲラート機の「ラケーテン・バズ」を軽く回避しながら、まずジグザグに移動して陸戦型ゲルググに迫り、蹴りを喰らわして右手に持ったビーム・サーベルをコックピットに突き刺す。

 

『やってくれるな………!』

「よーし、もう1機!」

『………だが、せめて武器は!』

「!?」

 

しかし、ヴィッシュ機は最後の力で刺さった奈緒機のビーム・サーベルを奪い取り、逆に蹴り飛ばしてそのまま爆発。

自前の接近用武器を失った所でゲラート機がヒート・サーベルを振りかぶり高速で接近してくる。

 

『さあ、どうする!?』

「まだあるさ………!「自爆」という手段が!」

『何!?部隊の為に私を巻き添えにする気か!?』

「………と思ったけれど、今回はそれはやめ!ここまで来たら全員で勝ち残る!!コイツで!!」

『それは!?』

 

そう言うと奈緒は左手のヒート・ダートを………前の戦いでイフリート・シュナイドが投擲してきていたヒート・ダートを、ゲラート機の右足に向け投げつけて地面に縫い付ける。

 

「有効戦術は敵の物でも活用しないとな!」

『ぬう………!』

「コイツでトドメだ!!」

 

慌ててヒート・ダートを抜こうとするゲラート機であったが、奈緒はビームマシンガンを取り出しEXアクションの「スペクトラルショット」を発動。

銃口が三つに分裂し、高威力のビームが発射されゲラート専用ザクⅠが爆発した。

 

『皆で生き残るか………。ならば、最後の相手は………。』

「そうなんだよな………。エースはエース同士で勝たないと………。だから、由里子さん!」

「分かってるじぇ!………比奈センセ、決めちゃって!」

「任せるっスよ………!」

 

スーパードラグーンでノリス・パッカードのグフカスタムを牽制していた由里子のユナイトジャスティスが後ろに下がる。

ザク・マシンガンをサブ・アーム含め四丁構えた比奈はドラグーンの雨の中を走ってくるノリス機に向かって一斉射撃を行う。

だが、高性能光学センサー・ユニットをもぎ取った影響か、命中精度が落ちており、大したダメージを与えられない。

 

『無謀だったのでは無いか?その状態での1対1は?』

「それは………やってみないと分からないっス!」

 

比奈はメイン二丁でEXアクションのガトリングバスターを放ち、ノリス機のショック状態を狙う。

しかし、それを予測していたノリスはEXアクションのタイミングに合わせてジャンプをする。

 

『勝負というものは、紙一重の差で決まる。』

 

逆に「ヒート・ロッド」での麻痺が狙える距離に入った事で空中からワイヤーを射出しようと右腕を比奈機に向ける。

 

「そうっス………ね!」

『何!?』

 

だが、比奈はメイン二丁のザク・マシンガンを捨てて射角を確保し、サブ・アームを斜め上に向けると、そのままEXアクションのフリージングバレットを更に立て続けに放つ。

同時に放たれるノリス機のヒート・ロッド。

お互いの機体がショック状態に陥り麻痺し、動きが止まる。

 

『ぬうう!?今のは相打ち覚悟か!?とすれば次の行動は………!?』

「アタシにも………守りたい物はあるんスよッ!!」

 

ノリス機はデッドウェイトとなる「ガトリング・シールド」を捨てヒート・サーベルを握り跳ぶ。

同時に比奈機はサブ・アームのザク・マシンガンを捨て、デファイアント改ビームジャベリンをメイン・アームで二刀流にして構えホバーを全開にして跳ぶ。

 

『ぬおおおおおおおおおおおおッ!!』

「せいりゃあああああああああっ!!」

 

二人の得物が………ジャブローの地でぶつかった。

 

『……………。』

「……………。」

『………実体剣一本でビームの刃二振りは無謀であったか。』

「………いやあ、片腕斬り飛ばしているだけでも大した腕でスよ。やっぱりノリスさんはエースでス。」

『そうか………貴殿のガンプラの道、これからも真っ直ぐである事を願う。』

「約束するっス。アタシは………アタシもみんなと同じようにガンプラを愛するって。」

 

左腕を落としたヘイズルがゆっくり下がる。

ノリスのグフカスタムのコックピットには右手のビームジャベリンが深々と刺さっていた。

そのままノリス機は満足そうな表情と共に爆発する。

周辺の敵機はこれでいなくなった。

 

「………勝ちましたよ!ナナ達、これで勝利です!」

「いやー、一時はホントどうなる事かと思ったよ………。」

「グラスセンサーの効力の有効性が確認できましたね!これで更なる改造を………!」

「春菜ちゃんぶれないじぇ………。ユリユリは疲れたよ………。」

 

増援が現れない事で勝利を確信し喜ぶアイドル達。

そんな中、エイガーが上を見上げていた比奈のヘイズルに近寄る。

 

『………満足いったのか?機体はボロボロだけれどよ。』

「満足っスよ。エイガーさんを始め、こんな凄い人達と戦えたんスから。………らしくない面も見せちゃったっスけれどね。それに………。」

 

その言葉を聞きながら比奈のヘイズルはゆっくりと歩を進め、右手で武器を拾う。

それは、イフリート・ナハトが投げつけてきた絶対零度のスタン効果のあるコールドクナイ。

 

「ノリスさんに言った通り、ガンプラの道は………新しいガンプラの仕上がりに関しては大丈夫っスよ、アタシらしさ………ちゃんと見つけられてまスから。」

 

比奈の言葉と共に、ミッションクリアの文字が出た。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

「か、完徹成功!入稿完了したっス!やったーーーッ!!ありがとうユリユリ!!」

「ひ、比奈センセ………少し黙って頂戴………。アタシ、耳が痛いじぇ………。」

 

エクストラバトルの後、宣言通り自宅で完徹を行い漫画の入稿を終えた比奈は、嘗てないテンションで両手を突き上げて、ガッツポーズをしていた。

その後ろには今にも幽体離脱しそうな顔でぐったりしている由里子。

比奈の完徹の作業に付き合わされてしまったのだ。

ちなみに吉岡沙紀や成宮由愛も含めた他のメンバーはというと、未成年だから完徹はダメだとそれぞれのプロデューサーから念を押されてしまったらしい(菜々は何故か汗をかいていたが)。

その為、唯一成人だった由里子だけがこの地獄を体験する事になっていた。

 

「比奈センセ………昨日から楽しそうだじぇ………。そんなにあのエクストラバトル、気に入った?」

「勿論!ガンプラやガンダム世界に対するみんなの愛が感じられるバトルだし、時間が出来たら他の物にも挑戦したいっスよ!」

「その前にまず世界大会に向けてガンプラ完成させてねー………。後、睡眠も………。」

 

完全にハッスルしてしまっている比奈にもう付いていけなくなっている由里子はふと何か考えた顔をして比奈に問う。

 

「………世界大会と言えば比奈センセ。」

「ん?なんスか?」

「大会に向けて、柚ちゃんや巴ちゃんは心配していないって言ってたじゃん。」

「はい………二人なら自力で立ち上がれるでしょ?」

「じゃあ、あのウィル君はどう思ってるんだじぇ?」

 

その由里子の質問に、比奈は少しテンションを落とし、天井を見上げ静かに答える。

 

「そうっスねぇ………次「あんな事」をするならアタシも考えるかもしれないっスねぇ………。」

 

そして、最後に再び満面の笑みを見せながら言い放った。

 

「だってアタシ、ガンプラ好きのオタクっスから!」



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5章:その器の名は… (肇・芳乃・文香・凛・夕美・琴歌)・1話

シミュレーターに入った依田芳乃は自分のガンプラを出撃させ、荒野へと立っていた。

「山紫水明」のユニットコンビであり、世界大会に向けて自身とそのガンプラを高めている最中の藤原肇から、実戦の相手になってくれと頼まれたのだ。

 

「肇さんの得意分野は狙撃………そんな名手と戦えるのは、正直わたくしも楽しみなのでー。」

 

何処か間延びした口調でありながらも内にある闘争心を高める芳乃。

そんな中アラートが鳴り響き、遅れて肇の通信が聞こえてくる。

 

「遅くなりました、芳乃さん。今日は宜しくお願いします。」

「どうぞ、お気になさらずー………ん?」

 

しかし、そこで芳乃は奇妙な事に気づく。

上空から降ってきた肇の機体は両腕両脚が筋骨逞しい太いモビルスーツである。

 

「肇さんー?それはー………。」

「不肖、藤原肇………美羽ちゃん直伝のギャグを披露します!」

「はいー………?」

 

着地した肇は、自らが操るガンプラ………「ガンダムAGE-1 タイタス」で何とサイドチェストのポーズを取り、叫ぶ。

 

「ガンダムAGE-1 タイタス………!芳乃さんと真剣勝負を………ハジメマッスル!」

「……………。」

 

渾身の氷点下のダジャレとポーズに、芳乃は固まった。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

「肇さんー………?」

「は、はい………。」

 

一通りシミュレーションを終えた藤原肇は、依田芳乃の前で赤面をしながら正座をさせられていた。

それもそのはず。

普段の姿からは有り得ない位、変な方向に振り切った彼女は戦闘中もハジメニーキックだの、ハジメラリアットだの、珍妙な技名を叫びながら芳乃に襲い掛かったからだ。

これでは、笑いを取りに来ているような物である。

………いや、彼女は至極真面目にやっていたのだろうが。

 

「美羽さんに何を吹き込まれたのでー………。事によっては彼女に至近距離から法螺貝の音色を響かせねばなりませぬー。」

「み、美羽ちゃんは悪くないんです!………只、格闘戦が苦手な私に、ガンダムシリーズの中で近接武装に長けた機体を紹介して貰ったんですよ。」

「それで、ぎゃぐやだじゃれまで真に受けてどうするのですかー………。」

 

彼女達の話題に挙がっている美羽………矢口美羽はダジャレ等のギャグが好きなアイドルだ。

一応、可愛い顔に14歳にしてはスタイルのいいボディを持っているのだが、敢えて正統派ではなく面白人間を目指しているのが特徴。

そんな彼女にわざわざ肇が興味を持ったのは、ボディビルダーのようなポーズを始めとしたモノマネを得意としているからである。

何というか、肇も陶芸という表現が得意な者である為、惹かれる物があるのだ。

 

「彼女との「特訓」は、中々に良い勉強になりました。他にも正統派の狙撃手のモノマネも教えて貰いましたし。」

「ならば何故、そちらをばとるで披露しようとしないのでー………。わざわざその為だけに、たいたすのがんぷらまで作り上げるなんてー………。」

「先程言った通り、狙撃戦だけでなく、格闘戦も極めたいからです!」

「肇さん………こちら側に帰って来てくださいー。格闘戦の前にぎゃぐを極めようとしては根本的におかしいですよー………。」

「す、すみません………。」

 

どうも今の肇は、少し………いや結構空回りしている傾向がある。

何かに焦ってしまっているような、そんな………。

 

「皆さん………柚ちゃんも巴ちゃんも、裕美ちゃんも比奈さんも、順当に成長していっているじゃないですか。」

「そうですねー。遅れていると思っているのですかー?しかし、肇さんが格闘戦を極めるのは、一朝一夕ではなりませぬー。」

「分かっています。焦っても何も変わらないって。でも………。」

「ふむ………やはり、あのウィルさんに負けたく無いという想いがあるでしょうか?」

「はい………。あのようなやり方………本当は認めたく無いですから。」

 

肇は告白する。

乱入してきたウィルの手口は褒められた物では無い。

勿論、それは直接的に被害を受けた村上巴自身が吹っ切れなければいけない問題だ。

しかし、だからと言って肇自身は、傍観者でいられる程冷静でも無かった。

 

「あんな水を差す行為なんて………。」

「……………。」

 

16歳である肇は喜多見柚や巴程、子供ではない。

しかし、荒木比奈程、大人でもいられなかったのだ。

 

「………あの、いいでしょうか?」

「はい?」

 

悩む肇に呼び掛けたのは芳乃ではない。

見れば、シミュレーター室の扉の外から栗原ネネと乙倉悠貴が入ってきていた。

 

「あ、ごめんなさい!………そう言えば、今度御二人の番組にゲストで出演をするから、ミーティングをしないといけなかったんですよね!すっかり………。」

「いえ、いいんですっ!………それより、丁度肇さんに会わせたかった方がいるんです!」

「え………?」

 

悠貴の言葉に更に扉から入ってきた人物を見て、肇は息を呑む。

それは、白衣を着て罰の悪い顔をしたカドマツだった。

 

「カドマツさん………。」

「悪いな………肇の嬢ちゃんを探して、丁度ネネの嬢ちゃんと悠貴の嬢ちゃんとバッタリ会ってしまって、案内して貰ったんだが………。」

「すみません………。」

「いや、嬢ちゃんが謝る事じゃないさ。割り切れないのは誰だって同じだし、負けられないのも誰だって同じだ。んで、そんな嬢ちゃん達に配っている物がある。」

「配っている物………。」

 

肇は極秘訓練として使っているエクストラバトルについて聞く。

確かに、そんな強力なAIと戦う事ができれば、実力も付くだろう。

だからこそ………。

 

「カドマツさん!あの………!」

「但し、肇の嬢ちゃんにはまだ早い。」

「どうしてでしょうか………?」

 

気落ちした表情を見せる肇に、カドマツは諭すように言う。

 

「芳乃の嬢ちゃんが言う通り、課題が一朝一夕でマスターできるわけじゃないからな。今度、ネネの嬢ちゃんと悠貴の嬢ちゃんの番組に出るんだろ?その帰りにガンプラ仲間を連れて346のシミュレーターに寄って来い。それまでは………嬢ちゃんらしく、コツコツと自分を高めろ。」

「カドマツさん………はい、宜しくお願いします!」

 

叱咤激励を受けた肇は、力強く深々と頭を下げた。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

「よし、約束通りやってきたな………って、こりゃまた凄い恰好だな!?」

 

後日、カドマツはやってきたアイドル達の姿を見て仰天する。

実はネネと悠貴の番組というのは、ガンダムキャラのコスプレをしながらガンダムに関するトークを行うという物で、その日はジャパンカップファイナリストの一人である肇を始めとした仲間が出演者だったのだ。

何でも元々は松原早耶と喜多日菜子も含めた「TIP! TAP! FLAP!」のメンバーで回しているゴールデンタイムの番組らしい。

 

「ガンブラブームでどんどん人気になってるんですよ♪」

「カドマツさんも、1回見てみて下さいっ!元気出ますよ!」

「そ、そう言われると興味湧くな………考えとく。」

 

地球連邦軍のオペレーター服を着たネネと、ジオン公国軍のオペレーター服を着た悠貴の姿と勢いに若干押されながらもカドマツは考え込む。

 

「………んで、ゲストの6人の嬢ちゃん達も色んなパイロットの服を着てるんだな。」

「はい………。私は所持ガンプラの都合上、ライル・ディランディ………ロックオン・ストラトスの制服を着る事になりました………。」

 

そう答えるのは肇と「月下氷姫」のユニットを組む鷺沢文香。

彼女は緑を基調としたソレスタルビーイングの服を着ている。

 

「本当は、文香さんはアリアンロッドのジュリエッタ・ジュリスの軍服がいいって意見が多かったんですけれどね。」

「訳が分かりません………。」

 

ネネの言葉に首を傾げる文香。

そこに、今度は仮面を被ったかわいらしい少女が前に出てくる。

 

「………芳乃の嬢ちゃんは、ミスター・ブシドーか?」

「左様………今のわたくしは、みす・よしのー………なのでー。」

「み、ミス・ヨシノー………?」

 

芳乃の和装の姿にカドマツは疑問を抱き、周りを見渡すが一同は苦笑い。

何だかんだ言って、芳乃も役にハマるととことんなりきってしまうらしい。

 

「後は………そこの嬢ちゃんは、鉄華団の服を着た三日月・オーガスか?」

「渋谷凛だよ。本当は蒼い軍服が良かったけれど、ガンプラの都合上ね………。」

「凛の嬢ちゃんの感性も分からんな………。」

「り、凛さんは蒼色が大好きなんですっ!」

 

恍惚とした表情で自分の蒼い姿を浮かべる凛を慌ててフォローする悠貴。

カドマツはまだまだアイドルを理解できてないなと内心思う。

 

「そして………コウ・ウラキの軍服に、シロー・アマダの軍服か。渋いな。名前は?」

「相葉夕美!お花が好きだから、こうなっちゃったんだ。」

「西園寺琴歌ですわ!自然の中で逞しく生きるシローさんのようになりたいです!」

 

異なる地球連邦軍の服を着た「フィオレンティナ」のユニットである二人のアイドルを見て、カドマツは改めて数を確認する。

 

「………ちなみに肇の嬢ちゃん。今ガンプラ持ってる人数は何人だ?」

「ネネさんと悠貴さん以外のゲスト出演した6人になります。………あ、ちなみに私は老年時代のフリット・アスノさんの軍服になりました。今のガンプラの関係だと私もコウ・ウラキさんなんですが、夕美さんと被ってしまうので………。」

「あ、ああ………ゴーグルの再現も見事なもので………コスプレっていうのは改めて恐ろしいと思ったわ。………しかし、随分な人数が集まったな。」

「何人かに分かれた方がいいでしょうか?」

「いや………どうせならば、多人数で行う難易度の高いエクストラバトルを採用してみよう。」

 

そう言うと、カドマツはネネと悠貴を招き、二人に手伝って貰いながら準備を始める。

その間に、肇達は用意した自分達のガンプラを確認しながら、カドマツに問う。

 

「カドマツさん、難易度が高いと仰りましたが………舞台は何処ですか?」

「雪の降る街「ブリュッセル」だ。「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz」の世界で、6人で戦って貰う。但し、味方AIはいるし、強力な敵AIもいる。」

「分かりました!皆さん、協力して戦っていきましょう!」

 

肇の言葉に、芳乃・文香・凛・夕美・琴歌の5人は頷く。

そうこうしている内に、カドマツ達によってエクストラバトルの準備が整えられた。

 

「よーし、いいぞ!順次ガンプラをセットしてくれ!」

 

カドマツの声に肇達は、順番に最終確認としてネネに自分達のガンプラを見せていく。

 

「確か、今肇さんの使っているガンプラは「ガンダム試作3号機」………「GP-03ステイメン」が元になってるんですよね。」

「はい、一度基礎に立ち返って自分なりの戦い方を模索しようと思ったので………。」

 

そう言って取り出したのは3つの砲が特徴的な青と白のガンプラ。

一度これまでに詰め込んだ要素を削ぎ落し、狙撃や砲撃要素をバランス機体に詰め込んで、どう動くか試そうと思ったのだ。

砲は右手に「Ex-Sガンダム」の「ビーム・スマートガン」、右腰に「ランチャーストライク」の「アグニ」、左手に「陸戦型ガンダム」の「180mmキャノン」となっている。

これに、近接武装はムチとして「ケンプファー」の「チェーン・マイン」を採用している。

ちなみに他のサブとして働く武装はステイメンの「ビーム・サーベル」位であるので、本当に基礎的な狙撃機&砲撃機となっていた。

後はトランスEXとして、ブーストを強化する「EXAMシステム」を前の機体から引き継いでいるのも肇の個性である。

そして、そんな彼女の切り札となっている覚醒は、紫に輝く「アービター覚醒」。

他の覚醒より少し効果時間は短いが、敵全体の動きを鈍化させる事ができた。

 

「………格闘戦の特訓は上手くいきましたか?」

「そこは………今回の戦いで発揮できるか試してみたいですね。」

「頑張って下さい!次は芳乃さんですが………「スサノオ・マガバライ(須佐之男凶祓)」はガンプラに籠められた設定が凝ってますよね。」

「防御に特化しているのがわたくしの持ち味なのでー。故に皆を守るのが役目かとー。」

 

流石に重かったのか、ブシドーの仮面を外しながら芳乃が持ち上げたのは、スサノオを元にした水色のガンプラ。

GN粒子の制御を目的とした試作機というのがこの組み上げた機体のコンセプト。

同時に最大四重に渡って展開される水色のGNフィールドは、防御だけでなく、EXアクションの周囲に三つの竜巻を発生させる「ツイストハリケーン」や自機周辺に剣のホログラムを発生させる「ファントムエッジ」でも活用されているのがポイント。

武装も「真武者頑駄無」の槍である「雷光丸」や榴弾を移出できる「種子島」にGN粒子を付加しており、試作機としての側面をしっかりと発揮している。

また、頭部には使用する事で狙われやすくなる「ライト」を持っている為、正に味方の盾となって行動する事が可能なガンプラとなっていた。

トランスEXの「トランザム」は持ってはいないが、他のガンプラとは違う守りを要とした戦術は、芳乃の優しさを表していた。

 

「芳乃さんの心の広さは「わだつみの導き手」………海神に相応しいですね。」

「ありがとうございますー。攻めより守り。これもすさのおの一つの可能性かとー。」

「文香さんのガンプラは「マーキュリーレヴA」を本に見立てたんですよね。」

「はい………。書の持つ様々な側面………それを「ケルディムガンダムセファーアティーク」に込めてみました………。」

 

文香が大切そうに撫でた青い「ケルディムガンダム」を元にしたガンプラは様々な場所にマーキュリーレヴAの実弾武装が取り付けてあった。

「レールガン」「ショットガン」「ロケットランチャー」「ガトリングガン」………とにかくそういった様々な書をモチーフにした「アティークガン」と呼ばれる武装を強化してある。

また、ケルディムガンダム側には「ガンダムデュナメス」の「GNフルシールド」を装備させて防御面も強化。

そして、背中の「ガンダムAGE-3ノーマル」のパーツはコアファイターとして分離可能で、マーキュリーレヴAの武装を取り付けて支援戦闘機「アティークセファー」として、簡易ではあるが本体とは別に遠隔操作も可能であった。

これらの設定は本を扱うガンダムである「セファーラジエル(天使の書)」を文香なりの構想で再現した結果であり、そういう意味では的場梨沙や福山舞のようにシミュレーター未対応の機体を独自の発想で作り上げたという事になる。

 

「梨沙ちゃんや舞ちゃんのように自分らしさも入っていて個性が映えますよね。」

「そう言って貰えると嬉しいです………。後は、私の操縦技術が追いつくか………。」

「自信を持って下さい!………で、凛さんのガンプラは接近戦重視ですか?」

「そうだよ。私の蒼い狼は由愛に協力して貰って作り上げた傑作だからね。情けない姿は見せられない。」

 

そう凛が力強くネネに見せたガンプラは「ガンダム・バルバトスルプス」を改造した「ガンダム・バルバトスシリウス」。

砲撃武装は牽制に使う「ヅダ」の「対艦ライフル」位で、「エールストライクガンダム」の「グランドスラム」を中心に、様々な「ジンクス」の「GNクロー」や「イージスガンダム」の「ビームサーベル発振刃」と言ったような爪や刃をモチーフにした武装で敵を噛み切り引きちぎっていくという荒々しさを持った狼のようなガンプラ。

遠距離武装がほぼゼロである分、近接攻撃力と機動力に改造を極振り出来たという事もあり、かなり素早く威力も高いのが特徴。

実は以前、凛が狼について成宮由愛に語っていた事から、ルプスを組み上げる際に彼女にイメージを描いて貰って、そこからパーツ等の組み合わせを話し合って、シリウスへと改造していったという経歴がある。

その為、凛にとっては正に自信を持って自慢ができる蒼い狼であった。

 

「流石、由愛ちゃん。ガンプラの設計に関してもお手の物ですね。」

「共作とはいえ、人力飛行機「スカイペインター」を作ってるからね。凄い才能だよ。」

「そして、夕美さんのガンプラは「GPインヘリト【グラン・ブーケ】」。元にしてるのは………。」

「「ガンダム試作1号機ゼフィランサス」だよ。でも、実際はGP-00~04全ての要素を持つかな?」

 

夕美が両手で抱えたオレンジとピンクの機体で印象的なのは、「ギャプランTR-5[フライルー]」の腕に備わった「ムーバブル・シールド・バインダー」、そして「クロスボーン・ガンダムX1」バックパックから四方に伸びる可動式スラスターに、その中央に一基追加された「フルアーマーユニコーンガンダム」の大型ブースター……それ以外にも多数のスラスターやバーニアが備えられている点。

これらのスラスターはそれぞれ様々な色でカラフルに塗られており、夕美の個性である花をイメージしている。

設定に関しては、闇に葬られながらも秘密裏に進められていたガンダム開発計画が、その後発展していった技術と共に各機のコンセプトを束ねられ、再び組み上げられた姿として考察されている。

その為、「Iフィールド」といった機能も備えられており、様々な戦況に対処できる分、制御が難しいという特徴も抱えていた。

 

「正直、慣れないとこんがらがりそうですけれど、夕美さんならば………。」

「ふふっ♪そこは「愛」でどうにかするんだよ!」

「刹那さんが居たら仰天しそうです。最後に琴歌さんの機体ですね。」

「待っていましたわ!見て下さい!この「陸戦型ガンダム イーガーグレイス」を!」

 

目を輝かせて琴歌が大事そうに出したガンプラのメインカラーは桃色。

「陸戦型ガンダム」は、肇が最初にガンプラを始めた時に基礎とした物であったが、琴歌の改造には、より力強さと強固さが備えてあった。

一番のポイントは腰部分のドレスの裾をイメージしたようなホバー機構である。

「フルアーマーユニコーン」の「大型ブースター」を複数組み合わせ、「フライト装甲」や「ニーアーマー」等を組み合わせて作った物で、戦闘だけでなく自然の中でも逞しく戦っていけるように工夫を施している。

これとランドセルのスラスター等を併用する事で、連邦製ホバーユニットとして完成させているのだ。

他にも荒木比奈が使っていた「フルアーマー・ガンダム(サンダーボルト版)」の「サブ・アーム」二本による「オートシールド」も備えており防御面にも隙が無い。

戦闘の中での役割としては隊長機が良いポジションであった。

 

「琴歌さん、もしかして、「08小隊」好きですか?」

「はい!私、ビームサーベルで沸かしたお風呂に入ってみたいですわ!」

「今度番組に出た時は、そこの話を詳しく聞きたいですね♪では………!」

 

確認が終わった所で6人がシミュレーターに入る。

ガンプラをセットし、彼女達の意識は青く光るカタパルトへと移行する。

 

「発進シークエンスの掛け声は、私………乙倉悠貴が担当させてもらいますっ!」

「発進………掛け声はコスプレしたキャラがいいでしょうか?私なら、「ヴェイガンは殲滅だ!」………とか。」

「そ、それはちょっと………オリジナルでどうぞ!」

「分かりました………。では、悠貴さん………頼みます。」

「はい!」

 

肇の言葉で、悠貴がコホンと息を付き、各機に発進を呼びかける。

 

「いきますよ!GP-03ステイメン!発進お願いします!」

「皆さん、一番槍は貰いますね。藤原肇………迷いを振り払い、撃ち抜いてきます!」

「少しでも振り払えるといいですね。………スサノオ・マガバライ!発進お願いします!」

「さぽーとは任せるのでー………。では、依田芳乃………皆を助ける盾となりましょー。」

「芳乃さん………じゃあ、ケルディムガンダムセファーアティーク!発進お願いします!」

「これもまた探求の旅なのでしょうね。鷺沢文香………新たなる発見を目指して進みます。」

「続いて凛さんの番です………ガンダム・バルバトスシリウス!発進お願いします!」

「由愛と磨いた蒼の狼と共に駆け抜けるよ!渋谷凛………蒼穹の光と共に出る!」

「貴女はそこにいますか………?あ、GPインヘリト【グラン・ブーケ】!発進お願いします!」

「綺麗な花にはトゲがあるんだから!相葉夕美………再び花咲く技術を束ねて!」

「みんなカッコいいなぁ………最後ですね!陸戦型ガンダム イーガーグレイス!発進お願いします!」

「私も皆さんに負けない心で戦います!西園寺琴歌………おてんばスタートレインは伊達ではありませんわ!」

 

6機のガンプラ達は、それぞれの意気込みと共に発進をしていった。

 

 

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肇達が降り立ったのは雪の降る街だった。

その街の開けた場所を彼女達6人は歩いている。

 

「ブリュッセルの………シェルターのある大統領府みたいですね。」

「開けた場所ならば、戦闘をするのには困らないけれど、隠れる場所も無いね。」

「カドマツさんの話だと味方AIもいるとの事でしたが………見当たりませんね………。」

『それは、わたくしの事ですか?』

 

文香の言葉に通信が開き、長髪の女性の顔が映る。

彼女は「新機動戦記ガンダムW」の登場人物である「ドロシー・カタロニア」であった。

 

「貴女が………味方ですか?」

『ええ、これでも「モビルドール」を扱う事はできますもの。』

「モビルドールという事は、私達はガンダムパイロットと戦うのですか?それとも、マリーメイア軍のモビルドール同士?」

『何を言ってますの?』

 

ドロシーは真顔で言い放つ。

 

『両方が敵に決まっているでしょう?』

「………はい?」

 

両方共敵。

つまり、「ヒイロ・ユイ」達も、マリーメイア軍も敵という事だ。

しかし、それでは………。

 

「あの、何かおかしくは………。」

『おかしくは無いでしょう?思い出してごらんなさい。嘗て「ザフト」と「地球連合軍」がぶつかる中で「キラ・ヤマト」が介入した時、彼はどうなりましたか?』

「………どちらの軍からも攻撃されましたね。」

『そういう事です。』

 

つまり、今回の肇達はどちらかの軍の味方では無く、戦争に第三者として踏み込む介入者としての立場であるらしい。

 

「では、ドロシーさん………今回、私達が介入者になる理由は?」

『単純な話です。民衆が決起した以上、マリーメイア軍を殲滅してガンダムも破壊すれば思う存分戦争をした事になり、もうしばらくは新たに戦争をする必要は無いでしょう?』

「そ、そうなのですか………。」

 

どうやら時系列においては、民衆に決起を促した後であるらしく、そこにドロシー自身の独特な価値観が混じり、こんな展開になったらしい。

とはいえ、彼女も父親を亡くした事から、その戦争というもの自体を憎悪している身なのだ。

本心としては、肇達第三者のチームも含め、三つ巴で争って疲弊する事を望んでいるのかもしれない。

 

「ならば、今回はドロシーさんの思惑に乗る事にしまして………サポートは………。」

『わたくしはこの二機を扱いますわ。』

 

00の「人革連」が付けるようなゴーグルを被るとホログラムで赤い円盤を背負った機体と青い巨大な砲を背負った機体が出てくる。

 

「「メリクリウス」と「ヴァイエイト」………!」

『さて………まずはマリーメイア軍が来ますわよ!指示は任せますわね、肇さん。』

 

ドロシーの言葉にホログラムで砲を沢山背負った機体………ファイナリストの一人である荒木比奈が最初に選んだ「サーペント」が沢山出てくる。

 

「どうしますかー、肇さんー?」

「芳乃さんは「フィールドディフェンサー」を。夕美さんは「フィールドオフェンサー」を。まずは、私が牽制射撃を行います。」

 

それぞれ芳乃と夕美が味方全員の防御力と攻撃力を上げるEXアクションを使用する。

そして、その援護を受け、肇は手短なサーペント達にビーム・スマートガンの青白い照射ビームを喰らわせる。

だが………その射撃がサーペント達に当たる前に何かに当たり、はじけ飛んだ。

 

「アレは………!?」

 

サーペントの前にホログラムとして出てきたのは黒い機体。

複数の円盤を正面に電磁シールドのように並べていた。

 

「磁気フィールド………「プラネイトディフェンサー」………!?」

『「ビルゴ」ですわね。厄介なモビルドールが出てきましたわ。』

 

サーペント達を守るように出現した、本来はここにいないはずのビルゴの存在に、肇達は戦慄した。



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5章:その器の名は… (肇・芳乃・文香・凛・夕美・琴歌)・2話

「ビルゴの防御能力を確かめます………!芳乃さんと凛さん以外は砲撃を!」

 

藤原肇が言葉と共にGP-03ステイメンの左手に備え付けてあった180mmキャノンを発射する。

それに合わせて鷺沢文香のケルディムガンダムセファーアティークが右足にセットされたマーキュリーレヴA ロケットランチャーを。

西園寺琴歌の陸戦型ガンダム イーガーグレイスが右腕の「パーフェクトガンダム」の「ダブル・ビームガン」を。

相葉夕美のGPインヘリト【グラン・ブーケ】が上部に伸びたマルチ・アーム・ユニットの右腕に固定された「ロング・ブレード・ライフル」を。

そして、ドロシー・カタロニアのヴァイエイトが「ビームキャノン」の強力な一撃を撃ち込んでいく。

しかし、それらの砲撃は全てプラネイトディフェンサーの磁気フィールドの前に掻き消されていく。

 

「フィールドオフェンサーの攻撃力アップ付きでも無傷とは………。ここまで設定は強力でしたっけ………?」

『ゲーム媒体によっては。こうなると砲戦は普通に行うと不利ですわね。あのように。』

 

ドロシーの言葉と同時に後ろに隠れていたサーペント達が一斉にビルゴの頭越しに「ミサイルランチャー」を発射してくる。

フィールドディフェンサーで耐久力を強化してあるとはいえ、ここでじわじわと削られて「リペアキット」を消耗すると後の戦いに響いてくる。

 

「全員で懐に飛び込むか………、それとも………。」

「乱戦は同士討ちしやすいし、耐久力が削れやすいから私と芳乃に任せてよ。………行くよ!」

 

そう渋谷凛が言うと、ガンダム・バルバトスシリウスのバーニアを全開にして、敵陣の中に飛び込んでいく。

ビルゴは「ビルゴⅡ」の「ビームサーベル」を移植されていたのかそれを使い近接戦闘を行おうとするが、凛はそれよりも速く右腕のGNクローで回転しながら適当な一体に喰らいつき、一気に両手で引きちぎる。

更にそこからビーム発振刃を両手に持つとビルゴもサーペントも関係なしに、動き回りながら次々とモビルドールを斬り裂き破壊していった。

 

『清々しいほど荒々しいですわね………。』

「大きなお世話。でも、サーペントは勿論、ビルゴも接近戦は大した実力じゃないみたい。芳乃も行けるよ!」

「ならば、私は近接支援を行いましょー。」

 

そう言うと芳乃のスサノオ・マガバライは敵機の目を引くライトを使用し、敵機の群れの中にジャンプをして飛び込む。

当然、完全なAI設定のモビルドール達は一斉に芳乃を狙いに来るが、ここで彼女はEXアクションのツイストハリケーンとファントムエッジを使用。

水色の美しい3つの竜巻と剣のホログラムが芳乃機の周囲に出現し、敵を巻き上げ、斬り裂いていく。

 

「では、締めは任せますー。」

 

防御用の水色のGNフィールドを展開した芳乃は薙刀をモチーフにした雷光丸を振り回しながら肇達に合図を送る。

自分が動きを止めている周りの敵を遠慮なく撃ち抜けという事らしい。

 

「では、その言葉に甘えさせて貰います………!」

「一斉発射だよ!」

「私も遅れませんわ!」

 

その言葉に応じ、肇のステイメンは右腰のアグニを照射し、夕美のグラン・ブーケは下部のムーバブル・シールド・バインダーと一体化した両腕の「ビーム・キャノン」を発射。

そして、琴歌のイーガーグレイスは「フルアーマー・ガンダム(サンダーボルト版)」の「大型ビーム砲+6連装ミサイル・ポッド」を次々と雨のように撃ち出していく。

 

芳乃のEXアクションのサポートもあって、面白いように敵がパーツを弾き飛ばし、爆発していく。

陣形が完全に乱れた事で、前衛と後衛に分かれていたビルゴとサーペントの動きがチグハグになり、場所によっては思わぬ同士討ちを始める機体まで現れてきた。

 

「思った以上に脆いですね………。私は凛さんの手助けをしましょう………。シールドビット………!」

 

文香のセファーアティークはケルディムガンダムの脚から「GNシールドビット」を9基放出し、芳乃のマガバライを狙おうとしているサーペント等を優先的に狙っている凛のシリウスを守るように、周囲にオールレンジ攻撃をするビットを展開する。

 

「いいね、それ。蒼く塗られてるし、連携としても最高だよ!」

「蒼が関係あるかは分かりませんが………これも加えましょう。避けて下さい………。」

「了解!」

 

そう言うと、文香は脚から「GNミサイル」も発射し、シリウスの動きに右往左往するモビルドール達にミサイルの雨を降らせる。

 

『上手く戦ってますわね。手ごたえはいかがですか?』

「順調と言いたいですが………少し失敗しましたね。」

『失敗?』

 

パーツアウトを誘発させるEXアクションである「ブレイカーシュート」を、プラネイトディフェンサーを貼ったビルゴに決めながら、少しだけ顔をしかめる肇の様子にドロシーは興味深そうに聞いてくる。

 

「私のステイメンは、実はムチのチェーン・マインを装備していて、振り回して周辺の相手の動きを止めるEXアクション「ボルテックスチャージ」を使えるようにしているんですが………。」

『成程。プラネイトディフェンサーには効果的ですが、前線に飛び込んでそれを使用したら、確実に味方を巻き込みますわね。』

「別のEXアクションに変えるべきかもしれませんね………。」

「ムチならば、相手をブラックホールで吸引する「グラビティスフィア」もあるから、そちらの方が肇ちゃんの機体には合っているのかも………。」

「そうですね………狙撃で一網打尽に出来ますし、いっそ、そちらに切り替えるのも………。」

 

夕美の言葉に肇はまだまだ格闘戦の模索が足りてないと思ってしまう。

しかし、そこでそんな肇の心境を察したのか琴歌から言葉が投げかけられる。

 

「肇さん………真面目に考える事も大切ですけれど、まずは楽しみませんか?色々と悩んでいたら、このバトルを提供して下さったカドマツさんに申し訳がありません。」

「す、すみません………。」

「もう!そこで謝っては意味がありませんわよ!さあ、ハッスルハッスル!」

「は、ハッスルハッスル………!」

 

どうもまだ自分は何かを引きずっていると肇は感じてしまう。

いや、その「迷い」の正体は当の昔に分かっているのだ。

まだ自分が認められないエキシビジョンマッチでのウィルの乱入。

そのウィルとも対峙する舞台である、世界大会に向けた更なる修練。

そして、何よりも………。

 

(いいえ、確かに考えるのは後ですね………。)

 

心の内に抱え込む癖は自分の悪い所だと思いながら、肇は迷いを振り払うようにしてドロシーに聞く。

 

「ヴァイエイトのビームキャノンの充填はどうですか?」

『もうすぐ完了しますわ。ドカンと一発放ちますか?』

「少しだけ待って下さい。芳乃さんのEXアクションもそろそろ時間切れですし、これ以上の消耗を避ける為に、一気に状況を打開します。」

「打開するってどうやるの?」

 

夕美の質問に肇は精神を研ぎ澄ます。

 

「プラネイトディフェンサーを貼る前に強力な砲撃を決めればいいんです。」

 

そう言うと、肇のステイメンが紫に輝いた。

アービター覚醒を使ったのだ。

すると途端にビルゴもサーペントも動きが鈍くなる。

 

「いい手段ですわ!これなら、凛さんや芳乃さんの援護が無くても………!」

「効果時間は短いです!一気に決めて下さい!前線の二人は危ないから下がって!」

「OK!芳乃!」

「はいー。」

 

凛機と芳乃機が下がると共に、肇機はビーム・スマートガンを照射。

ビルゴはプラネイトディフェンサーを貼ろうとするが、動きが追いつかず、後ろのサーペントと共にパーツを撒き散らしながら爆散してしまう。

更にアグニを続けて照射し、180mmキャノンを連射する。

 

『では、遠慮なくいかせて貰いましょう。』

 

続いてドロシーがヴァイエイトのビームキャノンを照射。

夕美もグラン・ブーケのロング・ブレード・ライフルを発射し、琴歌のイーガーグレイスも「ブルーディスティニー3号機」の「胸部有線ミサイル」を炸裂させる。

文香のセファーアティークは右肩と左腰のマーキュリーレヴA レールガンを次々と撃って機体を殲滅していく。

肇のアービター覚醒が切れる頃にはほぼ大半のビルゴとサーペントが戦場から消えていた。

 

「いい感じだね、後は残った敵を………。」

『おっと!ここで死神様のお通りだ!!』

「!?」

 

再び前線に踏み込もうとした凛機の目の前で、ビルゴとサーペントが纏めて光る鎌………「ビームシザース」で斬り裂かれる。

よくよく見れば、その空間に黒い死神のモビルスーツが出現していた。

 

「「ハイパージャマー」………!?「ガンダムデスサイズヘル」!?」

『悪いけれど、僕達も引けないんだ!』

 

更に辺りを見れば白を基調としたガンダム………「ガンダムサンドロック改」が「ヒートショーテル」を振り回しており、その周りには茶色の親衛隊のようなモビルスーツ………「マグアナック」がサーペント達に応戦している。

 

「「デュオ・マクスウェル」さんに「カトル・ラバーバ・ウィナー」さん………。そして………。」

『「トロワ・バートン」だ………。自己紹介はこれで十分だろう。』

 

そして、暗青緑色の「ガンダムヘビーアームズ改」が仮面を取りながら登場し、空中に飛びあがりながら下にいるサーペント達に「ダブルガトリングガン」を喰らわせて華麗に爆散させる。

 

『待て、私を忘れるな!』

「「ルクレツィア・ノイン」さんまで………!」

 

最後に「サンクキングダム仕様」の白い「トーラス」が「ビームカノン」で残ったサーペントを撃ち抜き着地をする。

更なる敵の出現に、モビルドール達は混乱する暇も無く完全に消滅した。

 

「貴方達が………次の相手ですか。」

『アンタが藤原肇か?マリーメイア軍もガンダムも両方相手にするなんていい度胸してるねぇ!』

「不本意ですが………。でも、何で、ハイパージャマーでこちらに不意打ちをしなかったのですか?貴方達の実力ならば………。」

『確かに戦術的にはそちらの方がいいよ。でも、それじゃあサンドロックを始めとした僕たちのガンダムに顔向けできない。』

『但し、ここからは本気でお前達の相手をさせて貰う………。』

『逃げも隠れもしない!かかって来い!』

『………それ、俺に対する当てつけ?』

 

最後にデュオが恨めしそうにノインに言うが、肇達にしてみれば、そんな雑談をのんびりしている分、心に余裕があるという事で強敵だと思った。

 

「どうしましょうか………。」

『決めるのは貴女ですわよ?………本当はわたくしも相手が相手だけに指示を出してみたいですけれど。』

「ああ、カトルさんがいますもんね………。まず私が相手をするガンダムは………。」

「あの………肇さんはまだガンダムの相手は控えて貰えませんか………?」

「え?どうしてですか、文香さん!?」

 

文香の言葉に思わず肇は驚くが、他の皆は思った以上に冷静だった。

 

「ここで総大将の肇さんが消耗してはー、意味が無いのでー。」

「次の増援で、ヒイロと五飛………それにミリアルドは確実に出てくるだろうし、肇はそれまで力を取っておいて欲しいんだ。」

「私達が肇さんを守ります!だから後ろでどっしりと構えていて下さい!」

「それで………いいのでしょうか?」

 

仲間達の言葉に思わず肇は俯く。

これは他ならぬ肇を鍛える為のバトルであったので、自分だけ楽をするのは生真面目な彼女にとってはあまり避けたかったのだ。

それに、ガンダムパイロットという強者と戦いたいという欲も正直ある。

だが、皆の言う通り、この後の一番厳しい所で力を発揮するのも、砲撃という火力に特化した肇の仕事であるのも事実であった。

 

「鍛えたいのは私達も同じだから♪みんなで役割分担しながら戦っていこう♪」

「………ありがとうございます。では、再び芳乃さんはフィールドディフェンサーを。夕美さんはフィールドオフェンサーを貼って、琴歌さんは「フィールドリペア」で回復して下さい。」

 

肇の指示にそれぞれの強化と回復がなされる。

それと同時にトーラスのビームカノンが飛んできたので必然的に肇のステイメンが相対する事になる。

 

「デスサイズは凛さんとドロシーさん!ヘビーアームズは芳乃さんと文香さん!サンドロックとマグアナックは夕美さんと琴歌さんで!マグアナックに対しては私も後で援護に回ります!」

 

横に跳びながら回避をしつつ肇は即興で分担を決める。

これに応じて各機が応戦する事になった。

 

『藤原肇!貴様一人で私を倒せると思ったか!』

「倒します………!今は私の役目を果たす事が大事ですから!」

 

バーニアを最大限に吹かし機動力を高めたトーラスは、ステイメンに向けてビームカノンを撃ってくる。

肇も回避をしながらビーム・スマートガンで応戦。

反応速度は並ではあったが、射撃戦は慣れている為、砲撃の撃ちあいには強かった。

だが、それはノインの方も同じであるらしく、肇機の三門の砲を躱しながら的確に狙ってくる。

 

『長期戦ならばこちらが有利だ!伊達にサーペントの山を相手にしたわけではない!』

「ですね………!でも、こちらは長期戦に付き合う気はありません!」

 

アグニを撃ち終わった肇機の脚が止まる。

その隙を逃すまいとトーラスはビームカノンの砲門をしっかりと向け………そこに肇はすぐさま180mmキャノンの実弾を撃ち込む。

 

『何!?』

 

爆発するビームカノン。

咄嗟に手放した事でトーラスは無事だったが、ノインはスナイパーとしての肇の射撃能力の高さに驚愕させられた。

 

「これで強力な砲は使えません!」

『見事だ………だが、それは貴様にも言える!』

「その通りです………!」

 

ここで肇は砲をしまうとビーム・サーベルを二刀流で構え接近戦を挑む。

勿論、格闘戦は射撃戦に比べてやはりまだ得意では無かったが、それでもこのままだとトーラスが肇の真似をして「ビームライフル」で大事な砲を撃ち抜いてくる危険性があった。

 

『私のトーラスがサーベルを持たないと思ったか!』

 

ノイン機は肇機と同じように「ビームサーベル」を取り出すと、二刀流で受け止め、同じく近接戦闘を仕掛ける。

その結果、お互いの二振りの刃がぶつかりあい、鍔迫り合いになる。

 

『結局は根競べだな!』

「いえ………すぐに終わらせます!」

『!?』

「今は………こういう使い方も学びました!お願いします、マリオンさん!」

 

そう肇が叫んだ瞬間、ステイメンのツインアイが赤色に輝く。

危険を察知したトーラスは後ろに跳ぼうとするが、それよりも肇機が背後に回る方が速かった。

そのままコックピットを後ろから貫く。

 

『EXAMシステム………!?』

「どちらかと言えばこれまでは遠距離戦での機動力を確保する手段でしたが………近接戦闘も訓練は積んだので………。」

『やはりジャパンカップファイナリストを相手にするには私では実力不足か、だが………。』

「分かっています。油断はしません………この後の戦いも。」

 

肇はサーベルを引き抜き飛び退くとトーラスは爆発する。

EXAMシステムを切ると、彼女はすぐさまマグアナックをビーム・スマートガン等で狙い始めた。

 

『藤原肇………ジャパンカップから更に修練を積んでいるな………。』

「左様ー。妙なぎゃぐも副作用で習得しているみたいですがー………。」

『よく分からないが………こちらはこちらで仕事をさせて貰う。』

 

珍しく落胆………というかげんなりした表情を見せる芳乃に首を傾げるトロワであったが、その攻撃は激しく繰り広げられていた。

防御力ダウンとショック状態付与の「フリージングバレット」、攻撃力ダウンとショック状態付与の「ガトリングバスター」、そして両手のガトリングで継続射撃を行う「ダブルガトリングストーム」と、攻撃系のEXアクションをどんどん撃ち込んでくる。

だが、芳乃機は次々と時間差で自機の周囲に異なるGNフィールドを貼る事でその攻撃を全て阻止している。

特に弾丸がフィールドで弾けている事で、ショック状態付与等の追加効果を防げているのは大きなアドバンテージであった。

 

『相当強固な機体だな………。そして戦略も練られている。』

「ガンダムだけが主役では無いのでー。さて、文香さんー。」

「はい………。マグアナックを肇さんが引き付けてくれている間に貴方を………。」

 

芳乃に隠れるように立ち位置を調整している文香のセファーアティークがGNシールドビットでトロワのヘビーアームズを攻撃していく。

更にGNミサイルの波状攻撃も仕掛け、少しずつであるが耐久値を削っていた。

 

『不利だな………。機体もシールドビットのフットワークの軽さに付いていけていない。』

「そなたは素直なのでー。大人しく降伏いたしますかー?」

『少し軽くするか。』

「!?」

 

その言葉に芳乃と文香は驚愕する。

両肩部アーマー内に備わった計44発、サイドアーマー内の計8発の「マイクロミサイル」、脚部ミサイルポッドに計36発、フロントアーマー内に計8発の「ホーミングミサイル」。

それら全てのハッチを展開したのだ。

 

「芳乃さん………!GNフィールドを四重に………最大の力で張って下さい………!」

『全てを消滅させる。』

 

そのままトロワは計96発のミサイルを全て放出し、芳乃のマガバライに嵐のように炸裂させていく。

その曲線的な軌道はマガバライだけでなく、後ろに待機していたセファーアティークにも流れ弾のように飛んでいく形に。

 

「じ、「GNフィールド発生装置」がー………。」

「も、持って下さい………!私のセファーアティーク………!」

 

凄まじいミサイルによるヘビーアームズの砲火。

全てが終わった時、二人の機体は何とか立っていたが、芳乃の機体はミサイルの激しい衝撃でGNフィールド発生装置が全て破損。

文香機はシールドビットが全て撃ち落とされガンダムデュナメスのGNフルシールドも所々壊れてしまっていた。

 

「周りが………見えないのでー………。」

 

ミサイルの炎と煙によって芳乃と文香は周りが見えなくなっていた。

そんな中聞こえてくる機械音。

GNフィールドが無くなった芳乃にトロワのヘビーアームズがダブルガトリングガンを撃ちながら迫ってきていた。

 

『終わりだ………。』

「その行動………読んでいないとでもー?」

 

GNフィールドが張れなくなった芳乃は、しかし、EXアクションのツイストハリケーンとファントムエッジを発動させ、自分の周りに即席のバリアを作り出す。

ここまでは彼女の先の手を読む力が上手く発揮されていたが、予測外の事があるとすればミサイルを全て撃ち切ったヘビーアームズが想像以上に軽くなっていた事だ。

 

『狙いはお前じゃない。』

「何とー?」

 

ヘビーアームズは膝を抱え回転しながらジャンプをすると、何と水色の竜巻越しに芳乃機を軽々と跳び越え、文香機の眼前へと降り立つ。

 

「速い………!?」

『残念だが………。』

 

文香は慌てて「ダブルオーガンダム」の「GNソードⅡ」を構えるが、その前にダブルガトリングガンが火を吹いた。

GNフルシールドを失った機体が次々と撃ち抜かれていき、爆発を起こす。

 

「文香さんー!?」

『戦闘を継続する………。ん?』

 

芳乃機に振り返りガトリングガンを構えた所でトロワは気づく。

爆破したはずの文香機のマーカーが消えていない。

 

『これは………。』

『トロワ!彼女はまだ終わっていない!!』

『な………に!?』

 

カトルの言葉にトロワが何か行動を起こす前に、片脚をマーキュリーレヴA レールガンで撃ち抜かれる。

膝を突くトロワ機は背後を………実質的には斜め上を振り向き驚く。

そこには、マーキュリーレヴAの装備を全て機首両側に繋げるように吊り下げたAGE-3のコアファイターが。

 

「あれはー………アティークセファー!?」

『戦闘機………!?脱出システム搭載か………!?』

「この設定が役立つとは思いませんでした………!」

 

文香は撃ち抜かれる瞬間に咄嗟の判断で脱出したコアファイターの方に主動作を移したのだ。

そのまま不意打ちを喰らわせた文香は空中で宙返りをするとヘビーアームズに狙いを定め、マーキュリーレヴAの装備を使い切る勢いで撃ち出していく。

レールガン、ロケットランチャー、ガトリングガン、ショットガン………。

それこそ、相手のミサイルの雨あられにそっくりお返しする程の砲火だ。

 

「支援機アティークセファー………目標を消滅させます!」

『………限界か………思ったより早かったな。文香………次があったら共に戦ってみたい。』

「検討しておきます。」

 

脚をやられ、回避能力を奪われたヘビーアームズはその一斉射撃を受けて遂に爆発を起こした。

 

『トロワ達を倒すなんて………!でも、何としてもここで押しとどめる!』

 

文香機によるヘビーアームズの爆発と、肇機によるマグアナック数体の破壊を見たカトルは、「ビームライフル」で支援射撃を行ってくれていた残りのマグアナック達を肇達の方へ向かわせると、自分は一人、「ビームサブマシンガン」を連射する。

ここら辺、設定はEW版でありながら、装備はTV版の物もある程度使えるようにミキシングされているらしい。

だが………。

 

「野に咲く花は簡単には枯れないよ!」

 

琴歌のイーガーグレイスの前に立つ夕美のグラン・ブーケは「Ex-Sガンダム」の胴体に備わったIフィールドでビーム射撃を無効化していく。

この特殊能力があるから夕美機の方が前線に立って盾になっているのだ。

 

「さあ、ミサイルの雨をサービスしてあげる!」

「受け取って下さいませ!」

『………肇の即興の割り振り、その場しのぎの発言だと思ってたけれど、トロワの時といいちゃんと考えられてるね!』

 

グラン・ブーケの両脚の「ミサイルポッド」と、イーガーグレイスの6連装ミサイル・ポッドの雨を受けながらサンドロックを駆るカトルは舌を巻く。

肇も荒木比奈の元でガンダム沼に漬かって知識を得ているのだ。

ガンダムチームとの対戦が予測できた時点で彼らが嫌がる編成を参加メンバーからある程度練る事はできたのだろう。

実際トロワはやられてしまったし、カトルも非常に嫌らしいと思っている。

 

『でも………どんなに予測が出来ても、100%の勝利まで予想する事はできない。』

「諦めない姿勢は素晴らしいですわね。ですが、その意志は………。」

『モビルドールじゃない君達にも備わっているのは分かってるよ。だから、今度も敗ける戦いになる。ドロシーの思う通り、人々は戦争を望まなくなる。だけど………。』

「だけど………?え!?」

 

驚く夕美の前で、カトルのサンドロックの機体が……銀色に輝く。

 

『これは僕らの意地!簡単には敗けて上げないよ!』

 

サンドロックの機動力が急速に上がる。

一時的に機体に搭載していた「ゼロシステム」を解放したのだ。

夕美の視界からカトル機は一瞬で見えなくなる。

 

「何処!?」

「夕美さん!右です!」

「右………きゃあ!?」

 

気付いた時には爆発音。

何とマルチ・アーム・ユニットの右腕に固定されていたロング・ブレード・ライフルがビームサブマシンガンで射抜かれていた。

砲身が長すぎたので、Iフィールドで覆いきれてなかったのだ。

 

『これも貰うよ!』

「「大型ブースター」を切り離してください!」

「うわわわわわ!?」

 

更にIフィールドからはみ出していた、背中に搭載された加速用の「フルアーマーユニコーン」の大型ブースターがビームサブマシンガンで射抜かれ、爆発。

これにより耐久値が大幅に削れた事で慌ててリペアキットを使って回復をするが、今度は二振りのヒートショーテルの怒涛の攻撃が何と正面から来る。

 

『フライルーのサブ・アームは大き過ぎる!ゼロ距離まで近づけば可動域が限定される!』

「そ、そんな………!?」

 

夕美はカトルの分析に困惑してしまう。

グラン・ブーケは四本のサブ・アームがある分、リーチの長い「ZZガンダム」の「ハイパー・ビーム・サーベル」と砲身の長い「νガンダム」の「ニュー・ハイパー・バズーカ」でメイン・アームの動きを阻害しないように工夫している。

逆に言えばそれよりも中に入られると対応に苦労するのだ。

相手が近接戦闘に特化した機体ならば猶更だ。

 

「ど、どうしよう………!?」

 

リペアキットを使いながら脚の「ライトニングガンダム」の二本の「ビーム・サーベル」を引き抜いて何とかしようとするが、やはりその可動域がネックになってしまい上手くいかない。

ご丁寧に、サンドロックはサブ・アームを破壊しないように気を付けながらヒートショーテルで攻撃してきている。

更に、サンドロックが上手くサブ・アームの中に入り込んだ事で、琴歌機の援護が貰えない状態だ。

射撃等をお願いしたら、当たるのはサンドロックではなくグラン・ブーケになる。

 

「ゴメン………!琴歌ちゃん、私………!」

「夕美さん、ごめんなさい!」

「………って、ええええええ!?」

 

だが、琴歌のイーガーグレイスの判断は思った以上に早かった。

彼女はフィールドリペアを使うとそのまま三本のスカート状に繋がった「大型ブースター」で加速し、EXアクションの「ブラストタックル」のショルダータックルで思いっきり夕美機を弾き飛ばす。

 

「こ、琴歌ちゃーん!?」

『最初から彼女狙い!?』

 

タックルが当たる瞬間に飛びのいたサンドロックを駆るカトルは一瞬だけ動揺するが、すぐに「バルカン砲」を発射。

一方でパーツがバラバラになって転がる夕美機の前に立ちはだかったイーガーグレイスはそのままサブ・アームを展開し、オートシールドでバルカンを防ぐ。

だが、その流れでサンドロックはヒートショーテルをオートシールドに叩きつける。

強固なシールドではあるが、高熱の刃が表面を溶解させていき、めり込んでいく。

 

『強引な手段で彼女を守ろうとした所で意味は無いよ!実体のシールドで………!』

「かかりましたわね!」

『………え?』

 

琴歌は背中から「フルアーマー・ガンダム(サンダーボルト版)」の「ビーム・サーベル」を抜くと迷う事無くサブ・アームの取っ手を自ら斬り捨てる。

突然の事態に前のめりになってぶつかって来たサンドロックを左腕の「シェンロンガンダムEW」の「シェンロンシールド」で裏拳を喰らわせるように突き飛ばすと、カトルは今度こそ本気で動揺してしまう。

 

『ひ、ヒートショーテルが!?』

 

下手に熱で溶解させてめり込ませてしまった為に、ヒートショーテルとオートシールドが一体化してしまったのだ。

これではゼロシステムで機動力を上げられても、相手を上手く斬る事ができない。

それどころか、オートシールドの重量の分、デッドウェイトだ。

 

「フィオレンティナのショータイムですわ!」

 

大型ビーム砲+6連装ミサイル・ポッドを立て続けに撃ち放ち、動揺するカトルを攻め立てる。

カトルはヒートショーテルで攻める事を諦め投げ捨てて、ビームサブマシンガンに持ち替えイーガーグレイスを狙うが、琴歌はシェンロンシールドで身を守りながらカトル機を正面に見据えて「陸戦型ガンダム」の「100mmマシンガン」の弾丸を連射する。

これまでのビームやミサイルに比べれば大した威力のない実弾のマシンガン故に、カトルは無視しようとしたが、突如機体が麻痺。

その瞬間、サンドロックの自慢の防御力も低下してしまう。

 

『これは………EXアクションの「フリージングバレット」!?』

「私の愛馬は凶暴ですわ。夕美さん!フィナーレはお任せします!」

「それ、「愛馬」と「相葉」を掛けたギャグ………?とにかく、行くよ!」

 

パーツがようやく戻って来た夕美のグラン・ブーケはクロスボーン・ガンダムX1のブースターを全開にしながら高速で突進し、左右にソニックブームを発生させる。

元々は「AGE-2ダブルバレット」の固有技である「大型ビームサーベル」を元に夕美なりに改良したEXアクションだ。

 

「これがGPシリーズの集大成であるグラン・ブーケの最大パワーだよ!」

『参ったなぁ………指揮してる立場なのに先に倒れちゃうなんて………みんなゴメン。』

 

真っ二つに斬り裂かれたサンドロックは爆発を起こした。

 

『おいおい、後、俺だけか!?』

「みたいだね。どうする?降参する?」

 

トロワとカトルが立て続けにやられた事でデスサイズを駆るデュオは頭を抱えていた。

彼は強力な威力を持つビームシザースを振るう事で凛のシリウスやドロシーのメリクリウスにダメージを与えようとする。

しかし、シリウスの二本のビームサーベル発振刃で上手く防御されてしまい、そこにメリクリウスの「クラッシュシールド」や「ビームライフル」が飛んできて大した効果が得られない。

 

『マグアナックもいつの間にかほぼ壊滅してるし、どうしてこうなるんだ………?』

「それだけデスサイズがタフだって事じゃないのかな?大切な相棒、褒めてあげたら?」

『だからってカッコ悪く負けたら意味ねぇだろ!?』

 

何というか貧乏くじを引く彼らしいと言えば彼らしい展開だが、談笑しながらも凛は気を抜かない。

一瞬でも気を抜いたら「ナノラミネートアーマー」を備えているとはいえ、ビームシザースの餌食になるのは目に見えているからだ。

 

『どうしますの?離れて戦うという手段もありますが………。』

『遠距離武装持たない俺にとってメリット一つも無いじゃねぇか!?それに離れた瞬間にヴァイエイトの射撃飛ばしてくるんだろ!?』

『それは勿論。』

 

ドロシーの方も隙は見せていないらしく、ヴァイエイトのビームキャノンのチャージを完了させており、後方に控えさせている。

少しでも距離を取れば、それはそれでデュオにとっては地獄であった。

 

「どのみち、マグアナックが全滅したらみんなこっちに来るんだ。本当に大人しく降参した方が相棒の為だよ!」

『だよなぁ………サーペントと違って「バルカン砲」でどうにかなる相手じゃないし………。ビームシザースを活用した堂々とした接近戦じゃハイパージャマーも大した効果は無いし………。』

 

デュオは溜息をつき、そして………不気味な笑みを浮かべた。

 

『乗り気じゃねえが………ヒイロ達の為に少しでも削っておきますか。』

「削る………?」

 

そう言うとデュオのデスサイズは凛のシリウスから飛びのく。

すぐさまヴァイエイトのビームキャノンが発射されるが、それを悪魔の翼で回転するように回避。

すると………腕の「バスターシールド」をシリウスではなく、後方でマグアナックと戦っていた芳乃のマガバライに向けて発射する。

 

「芳乃!回避!」

「はいー!」

 

その攻撃は芳乃に回避されるが、その隙を狙ってデスサイズはビームシザースを振りかざし芳乃機に突撃。

芳乃のマガバライもGN粒子を纏った雷光丸の薙刀で受け止めるが、そこでデュオが一言。

 

『俺は死神様なんでな………。一緒に行こうぜぇ!』

「!?」

 

鍔迫り合いになったデスサイズが取ろうとした行動に一同は驚く。

トロワのヘビーアームズにGNフィールド発生装置を破壊されたとはいえ、強固な防御力を持つ芳乃機を巻き添えに「自爆」しようというのだ。

 

「肇!デスサイズを撃ち落として!」

「射角が………!?狙えません!?」

 

最初からデュオは周りの動きをしっかり見た上で行動していたらしく、肇のステイメンは丁度芳乃のマガバライの後ろにいる形になっていた。

これではデスサイズだけを狙えない。

 

『残念だったな!最後くらい、死神らしく………!』

「やらせませんわよ!」

「琴歌!?」

 

そこで凛は驚く。

目の前を三つもの大型ブースターの出力を全開にした琴歌のイーガーグレイスが飛んで行ったのだ。

しかし、自爆しようとしたデスサイズは光り始め、芳乃が慌てて制止する。

 

「琴歌さんー!ダメでしてー!このまま突撃してはそなたも巻き添えにー!」

「スカートは剥ぎ取る物ですわ!」

『へ?』

 

意味の分からない琴歌の言葉に怪訝な顔をしたデュオのデスサイズに向けて………イーガーグレイスの腰の連結された三つのブースターが大型質量弾として射出される。

それは一直線に加速し、琴歌の意志を示すようにデュオのデスサイズをぶっ飛ばしていく。

 

『おわああああああ!?』

「成敗………!です!」

『や、やっぱ俺ってカッコ悪ぃ………。』

 

落胆するデュオの言葉と共にデスサイズは大爆発。

リーダー機四機を撃破した為か、残っていた数機のマグアナックもホログラムになって消えた。

 

「もう………御蔭で丸見えですわね。大丈夫ですか、芳乃さん。」

「は、はいー。ありがとうございますー。………ですが、その発言は少々ー。」

「?????」

「いえ………そなたはそのままでいて下さいー………。」

 

珍しくペースを乱された芳乃の周りに肇達が集まってくる。

芳乃、文香、夕美、琴歌は万全の状態では無くなっていたが、それでもまだ戦闘は継続する事ができた。

 

「ありがとうございます、皆さん。私の為に、力を尽くしてくれて………。」

「まだまだ力は残ってますわ!さあ、最後の増援に備えましょう!」

 

琴歌がフィールドリペアを使って回復するのに合わせ、芳乃がフィールドディフェンサーを、夕美がフィールドオフェンサーを使い、能力を上昇させる。

 

「さあ………残りはヒイロ………君達だけだよ!」

『成程………とうに覚悟は出来ているか。』

『貴様らは女にしておくには惜しい連中だな。』

『ならば、こちらも全力で戦うのが礼節というものだ。』

「この声は………あの三人でしょうか………?」

 

その文香の言葉と警告音と共に、ヒイロ・ユイの白い翼を纏ったEW版の「ウイングガンダムゼロ」と、「張五飛」の緑の「アルトロンガンダム」、そして、「ミリアルド・ピースクラフト」の白い「トールギスⅢ」が着地してくる。

 

「貴方達が最後の相手だね!よーし!」

『少し待って欲しい。………この勝負、私も興味が湧いている。』

「え?」

 

夕美が驚く中でもう一機モビルスーツが飛んでくる。

その機体は、青を基調としたガンダムであった。

 

「肇さん………あの機体は………?」

「「ガンダムアクエリアス」………!」

「え?何、あの蒼そうな機体は!?搭乗者は!?」

 

珍しく驚きを見せる凛に対し、その青い機体は、本来は搭載されていないはずの「ビームサーベル」を手に持ちながらゆっくりと三機の猛者の前に着地して名前を告げた。

 

『私は「トレーズ・クシュリナーダ」。このガンダムアクエリアスで手合わせ願おう。』

 

トレーズは因縁の深いヒイロ、五飛、ミリアルドと共に肇達の前に立ちふさがった。



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5章:その器の名は… (肇・芳乃・文香・凛・夕美・琴歌)・3話

「ガンダムアクエリアス………なんて蒼い機体なんだ!それにトレーズが乗っているなんて………!」

「凛ちゃん!そんな恍惚とした表情浮かべてる場合じゃ無いって!?………肇ちゃん、トレーズ様ってそのアクエリアスに乗った事あるの!?」

「無いです。あくまでゲーム媒体の機体ですから。本来は「アンチMDシステム」でモビルドールの動きを止める為に出力を回す分、ビーム兵器は使えません。でも、ビームサーベルを持つという事は、それを捨てているという事でしょうね………。」

 

感情が蒼に染まりそうになった渋谷凛にツッコみを入れながら訪ねてきた相葉夕美の質問に、プロ顔負けの分析を披露する藤原肇。

ガンダムアクエリアスは、元々は「ガンダムエピオン」と連携を組むという設定で生まれた機体である。

アクエリアスがモビルドールを止めてエピオンがトドメを刺す。

理想形としてはそんな図式だ。

 

「支援型だからって侮らないで下さい。機動力は「トールギスⅡ」に匹敵しますし武装も豊富です。」

『私は幸せ者だ。ヒイロ・ユイ、張五飛、そしてミリアルド・ピースクラフト。こうして未来を担う者達と共闘する機会を得られたのだから。』

『俺は乗り気じゃないがな。だが、共に挑むからには勝者を目指して貰うぞ、トレーズ!』

『ゼクス。準備はいいか?』

『いつでも構わないさ。………藤原肇とその仲間達よ!私達に打ち勝って見せろ!』

「来ますわ!」

 

西園寺琴歌の言葉と共に、四機のモビルスーツ達が動く。

 

『わたくしを忘れないで下さいませんか?』

 

その出鼻を挫こうと、ドロシー・カタロニアがヴァイエイトのビームキャノンをトールギスⅢにフルパワーで放つ。

トールギスⅢはそれに対して「メガキャノン」を放ち対抗。黄色の強力なビーム砲が放たれてぶつかり合いエネルギーが衝撃波となって周りに飛ぶ。

 

「凄まじい力なのでー!?文香さんー!わたくしの後ろにー!」

「はい………!」

 

戦闘機になっている鷺沢文香機を後ろに庇いながら依田芳乃を始めとしたガンプラ達は衝撃に耐える。

しかし、その中でヒイロのウイングガンダムゼロが、上空に白い翼をはためかせて飛び上がり、「バスターライフル」を二本接続させて、「ツインバスターライフル」を形成して、ヴァイエイトを狙う。

 

「ドロシーさん、回避を!」

『無理ですわ………動けません。』

「まずは一機………。」

 

冷静なヒイロの言葉と共に放たれる黄色の極太のビーム。

それはヴァイエイトのいる地点に着弾すると、大爆発を起こし、辺りに更なる衝撃波を巻き起こす。

光の中で微塵も無く消え去るヴァイエイト。

その威力の凄まじさを見て、肇達は戦慄する。

 

「ヴァイエイトが簡単に………!?」

『まだメリクリウスがありますわ。』

 

ドロシーはメリクリウスのビームライフルを連射しながらトレーズ・クシュリナーダのアクエリアスを狙う。

トレーズは実弾と撃ち分けができる「ドーバーガン」をビームにセットしてメリクリウスに黄色の極太のビームを放つ。

当然、メリクリウスは「プラネイトディフェンサー」の磁気フィールドを貼るが………。

 

『張五飛!』

『任せろ!』

「!?」

 

何と、そこに両端から五飛のアルトロンガンダムの延長ケーブルで伸縮可能な大型アーム「ドラゴンハング」が飛んできて、メリクリウスの両腕と胴をガッチリ掴んで動きを封じてしまう。

 

『トレーズ!』

『心得た、我が理解者よ。』

 

そこに、トレーズのアクエリアスがビームサーベルに持ち替えて飛んでくるとEXアクションの「ミリオンスパイク」の高速の連続突きを喰らわせる。

プラネイトディフェンサー等のパーツを撒き散らすメリクリウスだが抵抗すらできず、そのままアルトロンのドラゴンハングで投げ飛ばされてしまう。

 

『決めろ!』

『これで………フィナーレだ!』

 

最後にアクエリアスが実弾に切り替えたドーバーガンの弾を発射。

強固な防御手段を失ったメリクリウスをそのまま貫通して爆発させてしまう。

 

『あら………やられてしまいましたわ。』

「……………。」

 

多少拗ねたような言葉を出すドロシーに対し、肇達6人は開いた口が塞がらなかった。

その強力無比な連携もさる事ながら、組んだのがヒイロとミリアルド、五飛とトレーズという本編で散々火花を散らしたライバル同士なのだ。

彼等が協力する形を取るだけでこんなにも戦いが恐ろしくなるとは思わなかったのだ。

それに対抗するには………。

 

「どうしますかー、肇さんー………。」

「………連携を封じる事を第一に戦いましょう。私と芳乃さんと文香さんは、ヒイロさんとミリアルドさんを!凛さんと夕美さんと琴歌さんは、五飛さんとトレーズ様を!」

 

肇の指示によって、彼女のGP-03ステイメンと芳乃のスサノオ・マガバライと文香のアティークセファーの3機、そして、凛のガンダム・バルバトスシリウスと夕美のGPインヘリト【グラン・ブーケ】と琴歌の陸戦型ガンダム イーガーグレイスの3機の2チームに分かれる事になった。

前の戦いで万全でないガンプラが多数いるとはいえ、それぞれ3対2の数で押し込もうと肇は考えたのだ。

 

「相手は遠距離戦も強力ですが、近距離戦も達人の腕です!近づく際は細心の注意を!芳乃さん!文香さん!私は砲撃支援をしますので………!」

『お前の相手は俺だ。』

「ヒイロさん!?」

 

しかし、肇が指示を出し終える前にヒイロのウイングガンダムが、右手の「ビームサーベル」と「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 敗者たちの栄光」で装備していた左腕の打突用の「ウイングシールド」を構え、空から肇のステイメンを狙う。

慌てて芳乃や文香が撃ち落とそうとするが、ヒイロ機は「ゼロシステム」を起動しその射撃を掻い潜って高速で肇機に肉薄する。

 

『ぶつけてみろ………!お前の全てを!』

「私の………全て………!?」

 

肇のステイメンは同じくEXAMシステムを起動し、ビーム・サーベルを二刀流で構えてヒイロのウイングガンダムとサーベルやシールドで何度も鍔迫り合いをする形になる。

これでは得意の遠距離支援はできない。

 

「肇さん………!?」

「文香さん達はトールギスⅢを!今がチャンスです!………お願いしますね!」

「心得たのでー………!」

 

しかし、この状況を敢えてチャンスだと言ってのけた肇を信じ、芳乃と文香はミリアルドのトールギスⅢを見据える。

トールギスⅢは左腕の「シールド」から「ビームサーベル」を取り出すと芳乃機へと高速突進。

芳乃のマガバライはGN粒子を纏った薙刀の雷光丸で受け止めると頭の「レーザー機銃」で応戦。

それを見たトールギスⅢは再び距離を取る。

 

『GNフィールドを失ってもまだまだ強固だな。流石は守りの機体と言える。』

「相当へびーあーむずに削られはしましたがー………。しかし、そなたは余裕そうでー?」

「私のようなコアファイターは………相手にならないとでも………?」

 

あくまで芳乃をじっと見ているミリアルドに対し、シールドの反対側から文香がアティークセファーのマーキュリーレヴAの全武装を再び叩きこんでいく。

 

『そこまで甘くは考えてないさ。』

 

しかし、トールギスⅢはビームサーベルを回転させてその実弾兵器を最低限の動きで防いでいくと、今度は芳乃機に蹴りを放つ。

 

「そう来ますかー………!」

 

それが衝撃波を巻き起こすEXアクションである「アースシェイカー」だと分かった芳乃は後ろに跳びあがって回避をすると、種子島に込められたGN粒子入りの榴弾を撃ち出す。

トールギスⅢはその榴弾を強固なシールドで受け止めると、何事も無かったようにまた距離を取る。

 

「ならば………、何故………1対2の構図を敢えて選んだのですか………?」

『ヒイロが肇に興味を持った。それだけだ。』

「肇さんに興味をー?その理由はー?」

『芳乃、君は分かるのではないのか?』

「……………。」

 

そう言われ、芳乃は無言になる。

心当たりはあったのだ。

それは肇の中の………。

 

『どちらにしろ、私を倒さねば数が不利になるだけだがな。』

「ならば………倒します………!」

 

文香が今度はシールド側から一斉射撃を試みる。

だが、その大型のシールドはびくともせず、その中から「ヒートロッド」が伸びると文香のコアファイターを縦に両断する。

 

「よ、芳乃さん………!使って下さい………!」

「文香さんー………!」

 

爆発の間際、吊り下げていたマーキュリーレヴAの武装を落とした文香の最後の通信を聞いた芳乃は、その中から二振りのレールガンを抱えるとトールギスⅢを狙う。

しかし、高速で発射される実弾はやはりシールドに防がれ、大した効果が得られない。

それでも芳乃は狂ったように撃ち続ける。

 

『仲間を失って冷静さを欠いたか?』

「ここでわたくしが倒れてはー………肇さんの負担が増えるだけなのでー!」

『成程………だが天は、味方はしてくれないみたいだ。』

「むー!?」

 

ミリアルドの言葉に珍しく芳乃は動揺する。

マガバライの脚部がスパークしたと思ったら突如制御が効かなくなり、片膝をついてしまう。

 

「こ、これはー………!?」

『ヘビーアームズ戦でのダメージが今になって出たみたいだな。「フィールドリペア」を使ってもしばらく脚部は使い物にならないだろう。』

 

唖然として芳乃が見上げてみればトールギスⅢは空中でメガキャノンを撃つ体勢に入っていた。

強力な砲撃を使って一撃で仕留めるつもりらしい。

芳乃は慌てて肇のように砲口にレールガンを撃ち込もうと試みるが、間に合わない。

放たれたビームを見て、EXアクションのツイストハリケーンとファントムエッジを使って即席のバリアを形成する。

だが、メガキャノンの光はその水色の竜巻と剣のバリアを簡単に吹き飛ばし、マガバライに炸裂する。

 

『終わりか………倒れる時は一瞬………ッ!?』

 

そうミリアルドが思った瞬間であった。

突如メガキャノンの砲身が大爆発を起こし、トールギスⅢの右腕がパーツアウトしたのだ。

 

『何をした?レールガンでは射角が………?』

「め、めがきゃのんの光が良い目くらましになったみたいでー………。こちらの頭部にはびーむちゃくらむというぶーめらん状の武器があるのでー!」

 

ボロボロになったマガバライの上半身を何とか動かす芳乃の言葉にミリアルドは驚く。

彼女はブーメランとして機能する「ビームチャクラム」を、メガキャノンが当たる瞬間に、斜めからその砲身に当たるように飛ばしたのだ。

 

「そして………これも受けるのでー!」

 

更に芳乃は「トライパニッシャー」と呼ばれる両肩と腹部の3門のビーム粒子から形成される円形のビーム砲も放つ。

残念ながら腹部は「グラピカルアンテナ」等のGNフィールド展開装置を補助する部品を埋め込んでいる為に砲門は無くなっていたが、その分両肩2門だけで低威力・低消費・高速チャージで撃てるメリットがあった。

 

「そなたはわたくしがー!」

『ぐっ!?』

 

放たれた水色の球体を、しかし、それでも左腕のシールドで防ごうとするトールギスⅢ。

だが、ビームの球体は簡単には消えず、そこで動きが完全に封じられる。

芳乃のマガバライは最後に全力を込めて再びビームチャクラムの水色の円月輪を投げ飛ばす。

それは、トールギスⅢの後方から弧を描きコックピットに炸裂した。

 

『………最低限の役割は果たしたつもりだ。後は………まあ、ノインに叱られながら見守ろう。』

 

爆発を起こすトールギスⅢ。

その姿を見ながら、芳乃は荒く息を付いていた。

機体は、しばらくは動きそうになかった。

 

「文香さん………!芳乃さん………!」

『余所見をしている場合では無いだろう。………出してみろ、お前の心を。』

「さっきから何を言って………!?」

 

ゼロシステムとEXAMシステム。

互いにトランスEXの発動を繰り返しながらサーベルやシールドをぶつけ合う中で、肇はヒイロの言う言葉が分からなかった。

 

『何故、お前は焦る?何故、お前は迷う?何故、お前は苛立つ?』

「何故って………!」

『今一番苛立っているのはウィルを始めとした介入行為か?………違うだろう?』

「え?どういう事………?」

『本当は不条理な行為に心の闇を覚え、乗り越えきれてないお前自身の心ではないか?』

「な………!?」

 

ヒイロの言葉に、一瞬肇は動きを止めそうになる。

しかし、ヒイロはその隙を無理に突こうとはせず、肇に問いかける。

 

『答えろ、藤原肇。吐き出せ、自分の心の闇を。』

「私は………。」

 

肇は観念したように、静かに言葉を絞り出す。

 

「そうです………。確かに私はまだ感情の整理が出来ていなくて、割り切る事も出来ていなくて………弱いんです………。みんなと違ってまだ………弱いんです!」

 

肇の頭には、心を傷つけられても真っ直ぐに強くなろうとしている仲間達の姿が浮かんでいた。

 

「五飛!アンタの相手は私だ!ライバルとの連携、封じさせて貰うよ!」

『「哪吒」に挑むのはさしずめ「蒼狼」か。いいだろう、かかって来い!』

 

ドラゴンハングを振りかざして来た五飛のアルトロンに対し、凛のシリウスは右手に大剣のグランドスラム、左腕に「ガンダムエクシア」の「GNシールド」を構えて渾身の力で弾き飛ばすと接近戦を仕掛ける。

それに対して五飛は両端から三つ又のビーム刃を形成する矛である「ツインビームトライデント」を振り回して来たので、凛機はGN粒子を纏ったGNシールドで受け止める。

そこに更にドラゴンハングで捕まえにかかってきたので凛はシリウスをすかさず後退させて回避させる。

 

『いい反応だ。6人の中では一番格闘戦に優れていると見た!』

「足を止めたら負けそうだからね。動きながら色々な手を使わせて貰うよ!」

 

凛機はヅダの対艦ライフルを握るとそのまま連射。

しかし、射撃の方はあまり高くない為これは当たらず、代わりに五飛機の背中から二連装の「ビームキャノン」が飛んでくる。

 

「射撃はあまりダメかな………。それと蒼狼もいいけれど、アンタが哪吒なら、アタシは別の名前を望むね!」

『別の名前だと?』

「「由愛」。この機体をイメージしてくれた人だよ!」

『面白い………!ならば、その由愛と共に貴様の正義、見せて見ろ!』

 

凛はシリウスをきりもみ回転させ、GNクローを喰らわせようとする。

それに対し五飛のアルトロンはドラゴンハングを交差させ防御。

すかさず凛は距離を取り、今度はEXアクションの「スラッシュテンペスト」の衝撃波でアルトロンを攻め立てる。

すると五飛機は跳び上がり、「アースシェイカー」の衝撃波を巻き起こす蹴りを繰り出して来たので、凛機もそれに合わせて跳躍し「アースシェイカー」の蹴りを放つ。

 

「正義かぁ………。私はアイドルだから………そうだね、こんな言葉知ってる?」

『言葉………?』

「「みんなライバルだけどそれだけじゃない」。」

『………どういう意味だ、それは?』

 

凛のシリウスの起こした蹴りの衝撃波を敢えて受け止めた五飛のアルトロンは、EXアクションである「スラッシュペネトレイト」の高速の斬り払いで突撃してくる。

それに対し、敢えて防御用のGNシールドで同じ技を使って弾いてみせた凛は少しだけ笑みを見せながら言う。

 

「岡崎泰葉………同じアイドルの仲間が教えてくれた言葉。アイドルは仲間だけれど、同時にライバル関係じゃん。」

『それは当たり前だ。………普通は進んで敗者に………悪になろうとはしない。目指すのは勝者だ。』

「悪かどうかは置いておいて………でも、アイドルっていうのはね、ライバルだけれど時には協力し合える関係なんだ。五飛だってヒイロ達とは似たような関係でしょ?」

『回りくどい言い方はやめろ。お前はつまり、今はアイドル仲間である肇の為に戦ってると言いたいのだろう。』

 

散々武器や技をぶつけ合って消耗していった二機は一旦動きを止めて問答に入る。

最近の肇が何処か焦りを抱いているという事は、芳乃から聞いている。

勿論、その肇を手助けする義理は、本来は無いのかもしれない。

でも、少なくとも凛は、今は協力したいと思っている。

 

「心はとても不思議なんだ。時にライバルとバチバチにぶつかり合うけれど、同じ仲間と助け合ってより高みを目指す事だってできる。だから………正義と言えるかどうか分からないけれど、私はこの感情に従うよ。」

『そうか………。正義は人の数だけある。ならば、その貴様の正義、そして肇の正義………見せて貰うぞ!』

 

五飛はそう言うと、ツインビームトライデントを構えドラゴンハングを放ちながら突進。

隙の大きなEXアクションには頼ろうとはしなかった。

凛はグランドスラムとGNシールドで再び弾こうとするが、ここで何度もアルトロンの攻撃を防いでいたからか、シールドが割れてしまう。

 

「くっ………運が無いね………!それともこれを狙っていた………?」

『さあ!貴様の底力、発揮してみせろ!』

 

何とかシリウスのバーニアを全開にして懐に入り込んだため、両脇から胴が挟まれて動けなくなる事態だけは防ぐが、その隙にビーム刃のツインビームトライデントで実体剣のグランドスラムを斬り裂かれ破壊されてしまう。

咄嗟に左手でビームサーベル発振刃を肩から取り出し袈裟懸けに放たれたトドメのツインビームトライデントの一撃を受け止めるが、片手だけでは長くは持たない。

その中で、もう片手で凛が選んだ武装は………。

 

『これで………!』

「終わりにする!」

 

ツインビームトライデントの強力なビーム刃がビームサーベル発振刃を破壊しシリウスのコックピットを斬り裂く。

それと同時に………アルトロンは咄嗟に凛が右手で取り出していた対艦ライフルでコックピットを射抜かれていた。

 

「……………。」

『………最後に一番下手なはずの射撃を咄嗟に選んだか。本当に女にしておくには惜しい奴だな。』

「もう、その発言どうにかならないの?」

『無理だな。俺が「女」で「戦士」で「妻」と認めた奴は一人だけだ。』

「最後に惚気話を聞かされるとは思わなかったよ………。」

 

互いに苦笑する凛と五飛の機体は、共に爆発を起こした。

 

「私は弱いんです………!これは巴ちゃんや柚ちゃんの問題だって分かっていても、割り切る事が………迷いを振り切る事ができない!比奈さんや裕美ちゃんのように、只、素直に信じていられるだけの強さを持っていないんです………!」

 

ステイメンを駆っていた肇はビーム・サーベルを振りかざしながらヒイロに独白する。

ウィルは巴たちの勝負に水を差し、仲間の頑張りを侮辱し泥を塗るような行為をしたのだ。

そんな行いを肇は素直に認められるわけが無かった。

言い方を変えれば、心の奥底では肇は怒っていたのだ。

だが、皆が真っ直ぐ強さを目指す上でその感情は恥だと思った。

しかし、誤魔化せるはずも無かったのだ。

 

「私は………!」

『肇………人類全てが弱者だ。お前も柚も巴もそして、あのウィルもその例からは外れない。だから、義憤という感情のままに行動する事は、俺は間違っていないと思う。』

「私のこの黒い感情は………義憤なんて高潔な言葉で表現できるものでは無いです………!」

『自虐的になるな。自分を捨てて誰が自分を認められる?………お前は俺を見てきたはずだ。そして、俺もお前を見ている。』

 

何処か叱るような、しかし優しく諭すようなヒイロの言葉を聞いて、肇はもう一度考える。

ヒイロ達は確かにそうやって様々な物を受け入れて成長してきた。

時に耳を塞ぐこともあったし、時に投げ槍になる事もあったけれど、最後には道を見出そうとした。

ならば、今自分に求められているのは………。

 

「ヒイロさん………教えて下さい。これまでの私は正しかったのですか?貴方の言う義憤に駆られてしまった私は………。」

『これまでのお前自身の道のりが正しいかどうかは、これからのお前自身が決めていけばいい………その中で答えを出し、受け入れていくのが人間だ。』

「ならば、この感情を秘めたまま世界大会を楽しんでも………罰は当たらないのでしょうか?感情を昇華できないままでも………。」

『常に悩み続けるのも人間だ。それに………本当に間違えそうになった時は、道を正してくれる仲間がいる。アイツ等のようにな。』

「アイツ等………?」

 

少しだけ笑ったヒイロの言葉に、肇は周りを見渡した。

 

『貴殿らは万全の状態ではないみたいだが………どう戦う?』

「ド根性ですわ!」

「とんでもない言葉だなぁ………。でも、正しいかもね!」

 

トレーズのアクエリアスに対している琴歌のイーガーグレイスと夕美のグラン・ブーケは何とか数の差で押し切ろうと必死だった。

しかし、イーガーグレイスは大型ブースターを失った事で機動力が大幅に落ちていたし、グラン・ブーケもメイン火力であるロング・ブレード・ライフルなどを失っていた。

御蔭で素早く飛び回るアクエリアスに攻撃を中々当てられないでいた。

 

「飛んでいるのだったら撃ち落とせばいいだけです!ヒイロさんは肇さんが何とかしてくれますから全力で行きますわよ!」

 

琴歌は背中のランドセルに備え付けられた大型ビーム砲+6連装ミサイル・ポッドをどんどん撃ち出していく。

それに対してアクエリアスはドーバーガンを構えると更に飛び上がり、実弾で背中のランドセルを撃ち抜く。

 

「緊急パージ!」

 

ここでも迷うことなくランドセルを取り払い爆発の衝撃から回避した琴歌であったが、その隙を狙ってアクエリアスはビームサーベルを構えながら突撃。

しかし、これは逆にチャンスだと言わんばかりに琴歌機は「ガンダム」の「ビーム・サーベル」で突きを喰らわせようとし、夕美機はニュー・ハイパー・バズーカを連続で発射するが………。

 

『すまない、フェイントだ。』

「ええ!?」

 

サーベルとバズーカが当たる手前で宙返りをしたアクエリアスはサーベルを持っていない手のひらから「ヒートロッド」を伸ばすと琴歌機の両脚を薙ぎ払う。

 

「そ、そんな………!?」

『悪く思わないでくれ。』

 

トドメとして「105mmマシンガン」に持ち替え仰向けに転がったイーガーグレイスに連射しようとするアクエリアス。

 

「まだですわっ!!」

 

しかし、琴歌は諦めが悪かった。

最後の最後でシェンロンシールドを投げ飛ばしてマシンガンを弾き飛ばすと、「胸部バルカン」、胸部有線ミサイル、ダブル・ビームガンを同時に全部乱射し、アクエリアスのシールドを吹き飛ばし、翼にも穴を開ける。

着地したアクエリアスはすぐさまビームサーベルでイーガーグレイスを破壊するが、飛行は出来なくなっていた。

 

「夕美さん、後は任せます!」

「琴歌ちゃん!?………くっ!」

 

トレーズはアクエリアスの状態を確認すると、すぐさま両手の手のひらからヒートロッドを伸ばして夕美のグランブーケを狙ってくる。

 

『勇ましい者は、私は好きだ。しかし、故に私も君達の言う通りの全力で挑まねばならぬ。』

「それは残念だね………!私達、肇ちゃんの為にも貴方は倒さないといけないんだ!」

 

その曲線的な2本のヒートロッドの軌道に対し、夕美はニュー・ハイパー・バズーカを構え、EXアクションの「スプレッドブラスト」を放ち破壊する。

だが、その隙を待っていたのだろう。

トレーズはビームサーベルを再び持つと、夕美機の4本のサブアームの内側に素早く入り込みサーベルを引く。

EXアクションのミリオンスパイクで一気にトドメを刺すつもりなのだ。

 

『さて………フィニッシュブローになるか………。』

「ならないよ!」

 

夕美はここで下部のサブアームのムーバブル・シールド・バインダーを交差させて防御体勢を取ると、何とその状態でクロスボーン・ガンダムX1のバーニアを全開にし、大型ビームサーベルのEXアクションを発動する。

この技は両翼にソニックブームを巻き起こす物である為、懐に入り込んだトレーズのアクエリアスには効果は無い。

だが………その凄まじい勢いの質量を持った「体当たり」はしっかりと炸裂する。

 

『ほう………?』

「うわわ………!?」

 

その衝撃でアクエリアスの手からビームサーベルが吹き飛ぶが、グラン・ブーケは、フライルーの下部のムーバブル・シールド・バインダーを派手に撒き散らす事になる。

ダメージだと確実に仕掛けたグラン・ブーケの方が上だ。

しかし、可動域が自由になった分、すぐさまライトニングガンダムのビーム・サーベル二刀流を構える事ができた。

 

「マシンガンとシールドは………琴歌ちゃんが破壊してくれた!」

『成程………!』

 

トレーズのアクエリアスはすかさずドーバーガンの実弾を発射するが、前のめりの姿勢で加速したグラン・ブーケの左腕を吹き飛ばすだけだった。

 

「たあああああああああああッ!!」

 

残った右腕で「スラッシュペネトレイト」の高速突進からの斬り払いを放つグラン・ブーケ。

もはや防御手段を持たないアクエリアスは真っ二つに斬られ、爆散する。

 

『すまない、我が戦友達よ。今回も私は敗者のようだ………。』

 

トレーズの謝罪の言葉を聞いた夕美のグラン・ブーケは、何とか無事に立っていた。

 

「……………。」

『みんな、お前を信じてくれているんだ。芳乃、文香、凛、琴歌、夕美………。仲間達の期待に応えるのが、このバトルの中で出来るお前の最大の礼儀じゃないのか?』

「ヒイロさん………。」

『だからこそ………俺は俺に出来る最大の力でお前を仕留める。』

「!?」

 

ヒイロはそれだけを言うと翼をはためかせて飛び上がり、ツインバスターライフルの銃口を肇機に向ける。

 

「肇ちゃん!後ろに隠れて!下手に受けたら………!」

 

Iフィールドを持つ夕美が慌てて近寄り前に出ようとするが、肇はそれを手で制す。

 

「肇………ちゃん?」

「夕美さん。動けない芳乃さんを守って下さい。」

「は、肇さんー!?それでは肇さんはー!?」

 

驚く芳乃達に向かって肇は………少しだけ笑みを浮かべて言う。

 

「ありがとうございます………。私を信じてくれて………。」

「肇ちゃん………。」

「だからこそ………皆さんが信じてくれた私を………「私自身」も今一度信じてみようと思います。私なりの手段で………皆さんを守ってみせます!」

 

肇はそれだけ言うと、目を閉じ精神を研ぎ澄ましアービター覚醒を発動し、紫色にステイメンを輝かせる。

そして、EXAMシステムを発動させ、シューティングモードに入り、ビーム・スマートガンを構える。

 

『準備は出来たか………?』

「はい………これが………今の私に出来る最大の礼儀です!」

『そうか………。ならば、俺も応えよう!』

 

ゼロシステムを発動させたヒイロのウイングガンダムは、一呼吸置くと、斜め下に向けてツインバスターライフルの黄色の極太のビームを照射。

肇のステイメンも、ビーム・スマートガンを斜め上に向けて、最大パワーで青白いビーム照射する。

2つの光が空中でぶつかり合い、光球を作り出し、辺りに衝撃波を作り出していく。

 

「ど、どうする芳乃ちゃん………!?」

「………祈るしかないのでー。」

「祈る………か。肇ちゃんが勝ちますように!」

 

凄まじい衝撃波に耐えながら、夕美と芳乃は祈った。

やがて光球はヒイロのウイングガンダムと肇のステイメンも飲み込んでいく。

 

『これは………周りが見えないな。』

 

照射を終えたヒイロは、真っ白に包まれた空間の中を左右に動きながらツインバスターライフルをもう一発撃つか考える。

位置マーカーを頼りにすれば狙う事は出来るだろう。

だが、例えばホバリングしていた時の事を考えると、リスクが大きい。

何より、これは相手も同じ状況だ。

だからこそ、恐らく光が消えた瞬間を待って狙いを定めるだろう。

その時が本当の勝負だ。

 

『………射撃戦か。砲身の硬さならばこちらの方が………。』

「行きます………!———モード!!」

『!?』

 

しかし、ここでヒイロにとって………いや、夕美や芳乃にとっても驚くべき事態が起こる。

光球の中を肇のステイメンがオレンジの弾丸になって突貫し、ヒイロのウイングガンダムに正面からぶつかると、そのまま光球の外まで突き飛ばしたのだ。

 

『な………に?』

「この位置からならば………外しません!」

 

そして、オレンジ色に輝いた肇はそのまま空中で、バランスを崩したウイングガンダムに向けてアグニを向けると赤色の極太のビームを放ち、貫いた。

 

「わ………!ととっ………!?」

 

流石に着地までは上手くいかず尻餅を付くステイメン。

ヒイロのウイングガンダムも落下し、仰向けに倒れる。

 

『………何故、あの光の中で俺の位置が分かった?』

 

機体をスパークさせながらヒイロは肇に問う。

すると返ってきた答えは………。

 

「実は私、番組でコスプレをした都合で、今、老年期のフリットさんの保護ゴーグルをしているんです。だから、あの光の中でも霞んでいましたが、位置を特定できました。」

『……………。』

「………ヒイロさん?」

 

肇の真面目な返答に一瞬、無言になるヒイロ。

そして………。

 

『クッ………ハハハハハハッ!!』

「ちょ、ちょっと何を笑ってるんですか!?何かおかしな事を言いましたか!?」

『いや………まさかコスプレを活かすとは思ってなかったからな………!』

「い、いけないんですか?これ、結構気に入ってるんですが………。」

『いや、見事だ、肇。お前はお前の道をこれからも探していけ。そして………お前のやり方で大切な者を守れ。』

「ヒイロさん………ありがとうございます!」

 

頭を下げた肇の先でヒイロのウイングガンダムは爆発する。

その肇のステイメンに近づいてくる夕美のグラン・ブーケと、何とか動けるようになった芳乃のマガバライ。

 

「凄かったよ、肇ちゃん!やっぱりエースだね!」

「もしも私がエースならば、それは皆さんにも言えますよ。」

「もう!謙遜しちゃって!そういう時は胸を張っていいんだよ!ねえ、芳乃ちゃん!」

「はいー。しかし、気になったのですがー………。」

 

芳乃が首を傾げながら聞いてくる。

 

「あの橙色の輝きは何だったのでー?あーびたー覚醒とも、えぐざむとも違うあの輝きはー………?」

「あの光ですか………?そうですね………。」

 

肇はそう言うと、珍しくちょっと舌を出して言う。

 

「美羽ちゃんとの秘密の特訓の成果………でしょうか?」

「?????」

 

ちょっとはぐらかすような肇の笑みを見ながら、特に芳乃は思いっきり頭に疑問符を浮かべた。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

「出来ました………!遂に世界大会に挑む為のガンプラが!」

「おめでとうございます、肇さん!やっぱり綺麗なガンプラですね♪」

「肇さんらしさがよく出ていますっ!きっと世界大会でも活躍してくれますよ!」

 

後日、肇はエクストラバトルを挑んだ6人の仲間に加え、栗原ネネと乙倉悠貴を招いて世界大会用のガンプラを完成させていた。

紫色の美しいガンプラ………世界に1つだけの肇のガンプラだった。

 

「花言葉を私達に聞いてたけれど、肇はこのガンプラの名前、もう決めたの?」

「はい、雪割草(ヘパティカ)です。」

「わー、素敵!紫だけじゃなくていろんな色を咲かせて、春先に雪の隙間から覗かせるお花だね!」

「花言葉は確か………「自信」「信頼」「あなたを信じます」「期待」「はにかみ屋」「忍耐」などでしたわね。」

 

凛、夕美、琴歌の説明と合わせて肇は自分の名付けた「ヘパティカ」の機体を周りに説明していく。

それを聞いた芳乃と文香が訪ねてくる。

 

「肇さんー。そのー………迷いは取れたのですかー?」

「残念ながら………。でも、今はこれでいいのかもしれません。」

「これでいいと言うと………?」

「ヒイロさんも言ってました。常に悩み続けるのが人間なんだって。だから、この感情もいつかは昇華できる時が来るんです………きっと。」

 

そう7人に向けて笑うと、肇はヘパティカを見つめて心の声で言った。

 

(まだ私は弱い姿を完全に振り払えていないけれど………これまで重ねた経験、努力を形にしたこのガンプラで……多彩な色、より鮮やかな色を見せます!強くなってきた仲間達の為にも必ず!)

 

その肇の感情に一瞬ヘパティカも応えるように輝いたように見えた。



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6章:想いを込めた一角獣(加奈・拓海・晶葉・幸子・忍・泰葉)・1話

関裕美、村上巴、喜多見柚、荒木比奈、藤原肇、ミサ………「彩渡商店街チーム」の精鋭達が世界大会への決意を固め、その出発の準備を整えている頃………。

ある時346プロのシミュレーター室に二人の男と、とあるアイドル達が集められていた。

そのアイドルの中の一人である池袋晶葉が皆を代表して言う。

 

「本当に我々で使用していいのか?本来の目的は達成しただろうし………。」

「いいや。録画されていたバトル内容を見て分かった………!世界大会へ進む者達だけでない!それをサポートする君達みんなのスピリットが素晴らしいのだ!」

 

二人の男の内の一人である派手なアロハシャツにアフロを被ったサングラスの男が言う。

彼はミスターガンプラ………嘗て世界を騒がせたガンプラバトルのチャンプだ。

 

「カドマツさんはそれでいいのかしら?」

「所有権はミスターガンプラにある。彼がいいって言うんならば、存分に使えばいいんじゃないのか?俺だって他のアイドルの嬢ちゃん達も見込みはあると思ってるからな。」

 

別のアイドル………八神マキノの言葉に白衣の男であるカドマツがいつものように頭をかきながら答える。

 

「じゃあ、使わせて貰いますね、二人共。ありがとうございます!」

 

最後に大石泉が笑顔で頭を下げた事で、346プロのアイドル達は自由にエクストラバトルのメモリを使えるようになった。

 

 

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「泰葉ちゃん、動きが数段早くなってるね………!流石、アジアを駆け抜けた猛者!」

「忍さんこそ………!日本の大会を制覇して回っただけあって、動きに無駄がありません!」

 

円形のフィールドの谷に囲まれた砂漠の闘技場で、工藤忍の「ガンダムAGE-2イグザス」と岡崎泰葉の「デスティニーガンダム・ディサイダー」が熱闘を繰り広げていた。

 

 

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最初はビーム兵器の撃ち合いから試合が始まったが、攻撃用のビルダーズパーツを付けない代わりに装甲と機動力をほぼ限界まで強化してある忍のイグザスと、「Iフィールド」と「ビーム・シールド」でビーム射撃を出来る限り軽減できる泰葉のデスティニーディサイダーとでは共に相性が悪く、既に射撃武器を捨てて格闘戦の応酬に入っていた。

 

「どうにか………防御を突破出来れば!」

「そう簡単には………やらせませんよ!」

 

忍機は「ガンダムエクシア」の「GNビームサーベル二刀流」で攻め立て、それを泰葉機が「デスティニーガンダム」の「フラッシュエッジ2」のビームブーメランを投げずに右手で握って受け止める攻防が続いていた。

 

「ダメージソースは今の所こっちの方が有利!………でも泰葉ちゃん………!何でデスティニーガンダムの武装なら、大剣の「アロンダイト」に頼らないのかな~!?」

「隙が大きいから………と言ったら疑いますか!?」

「じゃあ………その何も掴んでない左手は何かな~!?」

「ふふっ………気づきましたか!でも、もう遅いです!」

 

押されているデスティニーディサイダーの左手が緑色に輝く。

パワーを貯める事で、強力な掌底で全パーツアウトを誘発させられるEXアクションである「バスターフォース」を狙っていたのだ。

 

「敢えて言いましょう!この瞬間を待っていました!さあ、どうしますか!?」

「そういう時は………正面からドーーーンッ!!」

「なッ!?」

 

緑のオーラを纏った左腕を引いた泰葉のデスティニーディサイダーに対し、忍のイグザスはEXアクションの「ブラストタックル」を選択。

何と、逃げるのではなく、逆に自分から右肩で放たれようとした掌底にぶつかっていく。

この為に腕が伸びた十分な姿勢で掌底が発動せず、パーツアウトしたのは激突してきたイグザスの右腕だけ。

 

「チャンス!」

「こっちも右腕を削ります………!」

 

そのまま左手のGNビームサーベルで斬りつける忍機に対し、泰葉機は右腕で防御。

フラッシュエッジ2ごと腕が持っていかれるが、泰葉は落ち着いてデスティニーガンダムの「光の翼」を発動して高速で後ろに下がる。

忍機もGNビームサーベルを捨てると左腕を振りかぶり「疑似GNドライブ」の「トランザム」を選択し追いかける。

 

「最後はやっぱりアタシの一番で!」

「ならば、グーよりパーが強いと証明しましょう!」

 

フィールドの壁際まで下がった泰葉はそのまま後ろの壁に両足を付き、その勢いで正面から突撃する忍機に向かって弾丸のように飛び掛かり、左手を開いて突き出す。

イグザスは鍛えに鍛えまくった「ガンダムアスタロト」の「サブナックル」で。

デスティニーディサイダーは瞬発力を利用したデスティニーガンダムの「パルマフィオキーナ」で。

力と技………それぞれのサウスポーの手がぶつかり合う。

 

「シグル………ナックルーーーッ!!」

「パルマ………フィオキーナッ!!」

 

お互いの最高の一撃は………互いのコックピットを見事に貫いていた。

 

「………あちゃー、これは引き分けかなー。」

「みたいですね………。応援してくれた人には申し訳ないですが………。」

「でも、楽しかったよ!泰葉ちゃん、ありがとう!」

「こちらこそありがとうございました!また戦いましょうね、忍さん!」

 

二人のガンプラアイドルの礼と共に、機体が爆発した。

 

 

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「赤の工藤忍、青の岡崎泰葉………バトルの結果は引き分けです!でも、素晴らしい試合を演出してくれた二人のガンプラアイドル達に拍手をお願いします♪」

 

ゴールデンタイムの生放送の中、連邦軍のオペレーター服を着た栗原ネネの実況に会場から大きな拍手が沸き起こる。

そんな中、シミュレーターからアセム・アスノの軍服を着た忍と、シン・アスカの軍服を着た泰葉が出てきて笑顔で握手を交わす。

元々は乙倉悠貴と松原早耶、そして喜多日菜子も含めた「TIP! TAP! FLAP!」のメンバーが司会を務める中、ガンダムキャラのコスプレを着てガンダムトークをする番組なのだが、たまにこうやってガンプラのデモンストレーションバトルを行う事もあるのだ。

今回は仕事の都合上、ジャパンカップファイナリストである喜多見柚と関裕美と一緒に修行を行って回っていたこの二人がゲストであった。

 

「やっぱり楽しかったですか?」

「うん!色々な感情が芽生えるけれど、やっぱり自分の作ったガンプラで戦えるのは凄いよ!」

「そうですね。自分の経験や努力、そして想いがこもったガンプラですから、それを存分に活かせるのは嬉しいです!」

 

そんな柚や裕美達と一緒に鍛えている内にかなりの実力を付けた二人の言葉に、会場も盛り上がる。

こうしてまたガンプラやバトルに興味を持つ者達が出てくるからこの番組はゴールデンタイムに行われているのだ。

そして、そんな感情を持った娘は番組のセットの裏方にも………。

 

「自分で作ったガンプラでバトルかぁ………。」

 

彼女は今井加奈。

自分のガンプラをまだ持たない346プロのアイドルである。

今日は番組に出ているアイドル達に差し入れを持ってきたのだ。

しかし、あの熱いバトルを見ていると………。

 

「わたしもやってみたくなるかも………。」

「……………。」

 

そんな彼女の呟きを………同じく差し入れを持ってきていて「はぴ☆かむ」というユニットでコンビを組んでいる矢口美羽が聞き逃すはずが無かった。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

「よーし、いいかてめえら!今日は加奈の大切なガンプラとの出会いの日だ!気を抜くんじゃねぇぞ!」

「え?え?え?」

 

ある日、美羽によってとある模型店に行く用事をお願いされた加奈は、その前にいた向井拓海を始めとした346プロのアイドル達の姿に唖然としていた。

 

「ど、どうして………こういう事に………?」

「こないだの忍と泰葉のバトルを見てガンプラバトルに興味を持ったんだろう?美羽から皆に情報が回っていたぞ?」

「ええッ!?」

 

屈託のない笑顔で答える晶葉の言葉に仰天する加奈。

まさか、聞かれているとは思ってなかったのだ。

ちなみにこの場に集まっているのは、他には冴島清美、橘ありす、輿水幸子、木場真奈美、小室千奈美………更に、そのバトルを繰り広げていた忍と泰葉や、実況や司会を行っていたネネもいた。

共通点があるとすれば、以前、皆でとある番組の企画で学力テストを行った事だ。

あの時は加奈の力もあり、全員無事に合格する事ができたという経緯があるのだが………。

 

「あ、でも、その………。」

「加奈………素直になれ。ガンプラバトルは楽しいぞ?」

「う………でも………私、ほとんど知識も無いし………。」

「だからみんなに来て貰ったんだろ?特にネネは収録番組の都合上、結構色々知識を蓄えているみたいだし、頼りになるぜ?なぁ!」

 

ニヤリと笑みを浮かべる拓海に対し、ネネも笑顔で応える。

 

「加奈ちゃん。そういう時こそ魔法の言葉ですよ♪そして、こういう時はみんなに頼っちゃいましょう!」

「う、うん………!分かった!じゃあ、みんな今日はお願いします!………かなかな、ファイファイ、おー!」

 

おー!という言葉と共に、アイドル達は模型店へと入っていった。

 

 

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「うわ~………!凄い種類の箱の数………!?これ全部ガンプラ………!?」

 

模型店の中に入った加奈は、様々な場所に山積みになっているガンプラの種類の多さに驚きを隠せないでいた。

何せガンダムの歴史はとてもとても長い。

その為、登場モビルスーツも多く、その分ガンプラの数も多彩であったのだ。

 

「どうですか、加奈ちゃん♪こうなると自分だけのガンプラを組み上げてバトルをしたくなりますよね!」

「う、うん………で、でも………多すぎてどの子を選べばいいか………。」

「その為にみんながいるんです!早速おススメを聞いちゃいましょう♪」

 

しどろもどろになる加奈に対してアドバイスを送ったネネの言葉に、まず出てきたのは拓海。

 

「いいか、加奈………。ガンプラバトルってのはまずはスピードだ!トップスピードでぶっちぎる力があれば、何とでもなる!」

「メモメモ………!」

「………あの、拓海さん。まさか「土星エンジン」で空中分解の可能性がある「ヅダ」を加奈ちゃんにおススメする気なのでは?」

 

訝しむネネに対し、拓海は歯を見せた笑顔で笑う。

 

「そんなわけねぇだろ、心配するな!加奈に似合う機体………アタシのおススメは「セカンドVガンダム」だ!!」

「うわー!何か凄そう!」

「やっぱり空中分解の危険があるガンダムじゃないですか!?加奈ちゃんがゴーストファイターになってしまいますよ!?」

 

目を輝かせる加奈に対し、仰天したネネが思わずタイムを掛ける。

ここで話題になっている空中分解とは、文字通り機体がスピードに耐え切れずにバラバラになってしまう事であり………要は扱いが極端に難しい機体なのだ。

 

「し、忍さん!忍さんのおススメは何ですか!?」

「アタシ?そうだなぁ………ガンプラバトルは、努力と根性だからね。最後に物を言うのは自分のガンプラのフレームの硬さかもしれない。」

「メモメモ………!」

「だからアタシのおススメは「Dガンダムサード」!「Gブラストナックル」でフィニッシュブローを決める!!」

「す、凄く強そう!」

「まさかの鉄拳ガンダムですか!?というか、それってフレームの硬さじゃなくて、単純にパンチの硬さですよね!?」

 

ネネのタイム2回目。

Gブラストナックルとは、簡単に言えばナックルガードでぶん殴る技だ。

強力かと言えば強力ではありそうだが、初心者向けの技では無かった。

 

「あ、晶葉ちゃんは!?」

「任せろ。この天才に掛かれば加奈に似合う機体を分析する事は容易だ。加奈はまず自分の適性を見つける為に換装できるガンプラを選択するのがいいだろう。」

「メモメモ………!」

「だから私がおススメするのは、「ガンダムF90」だ!これなら加奈にあった換装形態も見つかるぞ!」

「な、何かできる気がしてきた!」

「換装形態が多すぎますよ!?そんなに多かったら加奈ちゃんの場合、全部乗せしようとして無茶苦茶になっちゃいます!」

「ネネちゃん………わたしの事、どう思ってるの………?」

 

加奈が落ち込む中でネネのタイム3回目。

ガンダムF90の換装タイプはA~Zのアルファベットの数だけ少なくとも存在するとは言われている。

加奈は何でもかんでも取り込むような性格をしているので、これだととんでもないことになってしまいそうだったのだ。

 

「ご、ゴメンなさい加奈ちゃん………。えっと、清美ちゃん………。」

「ガンプラバトルも清く正しく………というのは当たり前なので、非道な相手に気持ちで屈してはいけません。」

「メモメモ………!」

「なので、あたしがおススメするガンプラは「ガンダムアストレイ アウトフレーム」!これで邪な相手に鉄槌を下しましょう!」

「強そう!何か巴ちゃんが前に似たようなの使ってたよね!」

「「レッドフレーム」とアウトフレームは別物ですよ!?戦闘用の装備を持ってないじゃないですか!?」

「野蛮な武器を持たず、非戦闘を貫く姿勢………素晴らしいとは思いませんか?」

「加奈ちゃんが目指しているのはガンプラバトルですよ………。」

 

ネネのタイム4回目。

アウトフレームは作業用モビルスーツであり、基本「ビームライフル」以外の戦闘用装備を持たない。

その為、持ち合わせの作業用武装を駆使して何とかするしかない機体なのだ。

 

「ダメですね、皆さん。加奈さんは初心者です。そんな彼女でも楽しむ為には補助AIに頼る必要もあります。」

「メモメモ………!」

「ありすちゃん………!ありすちゃんならば、ちゃんとしたおススメあるんだね!」

「はい。私が加奈さんに乗って貰いたいのは「ガンダムデルタカイ」!この組み合わせが一番です!」

「とてもカッコ良さそう………!」

「「n_i_t_r_o(ナイトロ)」を積んでるよ!?一番危ない補助AIだよ!?」

「ガンプラバトルならば強化人間にはなりません!」

「そんなドヤ顔で言っても説得力無いよ~!?」

 

ネネのタイム5回目。

n_i_t_r_oとは、簡単に言えばシステムが稼働する度にパイロットの脳内を強制的に強化人間へと書き換えてしまう物。

これによってオールドタイプでもニュータイプ並の戦闘力を備える事が可能であるのだ。

しかし、ガンプラバトルとはいえ、加奈がこの真相を知ったら怖がる事は間違いなかった。

 

「や、泰葉さん………。」

「ふふっ、大丈夫ですよ、ネネさん。………皆さん、ガンダムに拘り過ぎです。モビルスーツはサポートする量産機も活躍してこそ。」

「メモメモ………!」

「だから、私がおススメするのは「ジェノアス」です!」

「何かカワイイ名前!」

「「ジム」よりも敵に負け続けた機体じゃないですか!?加奈ちゃんにいきなりそれは………!?」

「ところが拡張性がいいんですよ!「ジェノアスOカスタム」まで改造すれば、格上にも勝てます!」

「それは機体性能じゃなくてパイロットの腕前ですよね!?」

 

ネネのタイム6回目。

ジェノアスは火力と装甲で敵戦力の「ガフラン」に大きく劣っており、その為に「ガンダムガンダムAGE-1」が登場するまで全く歯が立たなかった経緯がある。

勿論、時代が進めばカスタム化されたその性能を遺憾なく発揮する猛者も出てくるのだが、あくまでそれはベテランの話である。

 

「さ、幸子ちゃん………!」

「フフーン、やっとボクの出番ですね!加奈さん、いいですか?ガンプラにはアクロバティックな動きが求められる事もあります。トリッキーさも時には必要なんです!」

「メモメモ………!」

「そんなボクがおススメするのは、「ゲルググ・ウェルテクス」です!さあ、この機体で一緒に飛びましょう!」

「うん!何か私も飛べる気がしてきた!」

「まさかの「機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還」からの最新鋭機!?幸子ちゃん、加奈ちゃん目が回っちゃいますよ!?」

「拓海さんのチョイスよりはマシだと思いますし………それに目が回るのに慣れなきゃ上達しませんよ?」

「う………確かに。」

 

ネネのタイム7回目。

「ゲルググ」を発展機である「リゲルグ」を元に、とあるエース達用に改造したのがゲルググ・ウェルテクスだ。

幸子の言う通り空中分解の心配はないが、初心者の加奈にとって、操作性が良いとは言えない機体であった。

 

「真奈美さんのおススメは何ですか?」

「そうだな………要は安定した防御性能を持っていれば安心なのだろう?だったらおススメがある。」

「メモメモ………!」

「だから、私が加奈にプレゼンテーションするのは「火器運用試験型ゲイツ改」だ!「フェイズシフト装甲」があるから安定しているぞ!」

「な、何か漢字が難しそう!」

「真奈美さん!?何でそんな希少なチョイスをするんですか!?それに、すぐにバッテリーが尽きてしまいますよ!?」

 

ネネのタイム8回目。

火器運用試験型ゲイツ改は、「フリーダムガンダム」や「ジャスティスガンダム」の元になった「ゲイツ」の改造機だ。

真奈美の言う通り、実弾に強いフェイズシフト装甲を備えているが、エンジンの都合上、バッテリーが尽きるのが非常に早く長期戦を苦手としていた。

 

「ら、ラストは千奈美さんですけれど………。」

「そんなに怖がらなくてもいいわよ、ネネ。加奈自身を変えてしまうような、とびっきりのガンプラ考えてるから!」

「メモメモ………!」

「だから、私のおススメを言うわ!「インプルース・コルニグス」を組み立てて鳥になるのよ!」

「鳥………!何かパイロットの人も清らかそう………!その人みたいになりたい!」

「なっちゃダメです、加奈ちゃん!というか、まさかの木星帝国のガンプラですか!?」

「あら、あの機体は木星帝国にしてはセンスが良いでしょう?」

「そ、そうですけれど………、動きが破天荒ですよ!?」

 

ネネのタイム9回目。

インプルース・コルニグスは回避する際、機体の前後を入れ替えるというとんでもない構造になっている。

また、「フェザー・ファンネル」という扱いの難しいサイコミュ兵器も備えており、操作が難しい。

何よりパイロットの「影のカリスト」の性格が危険すぎた。

 

「みんな、真面目にやって下さいよ………。加奈ちゃんのガンプラを決めるんですから………。」

「悪ぃ、悪ぃ!………でも、言ってる事は結構真面目だぜ?」

 

慣れないツッコミに疲れが来たネネに対し、拓海が苦笑。

それに対し、加奈は自分の取ったメモを真剣に見ていた。

 

「「スピード」「フレームの強度」「換装」「気持ち」「補助AI」「拡張性」「トリッキー」「防御性能」「自分を変える」………。」

「流石、加奈さん。要点のメモに関しては右に出る者はいませんね。ですが、その条件を満たすモビルスーツは………。」

「そう簡単には見つからないだろうな。何せ、散々言っておいて何だが、必要項目が多すぎる………。」

 

ありすや晶葉が悩む中で、メモを見ながら歩いていた加奈は誤って正面のガンプラの箱にぶつかってしまう。

 

「う、わわ………!?」

 

上から箱が1つ落ちてきたので慌ててキャッチ。

 

「危なかったぁ………。」

「あら、ガンプラとの運命の出会い?それにしちゃったら?」

「それはいいな。どうせ悩んでも決まらないだろうし、思い切りも大事だ。」

 

千奈美や真奈美の言葉を聞きながら、加奈は箱をまじまじと見つめる。

そこには綺麗なモビルスーツが映っていた。

 

「もう、そこまで無責任だったら加奈さんが後悔しますよ………。」

「このガンプラ………わたし、好きかも………。」

「こんな感じで………え?」

 

幸子が驚く中で、清美が眼鏡を上げて箱を見てみる。

すると………。

 

「ネネさん、ちょっと見てくれませんか?加奈さんが選んだこのガンプラ、もしかしなくても………。」

「え………あ………!」

 

ネネも慌てて見てびっくりする。

そのガンプラは先程まで加奈が取っていたメモの条件を、見事に満たす機体………「ユニコーンガンダム」だったからだ。

 

 

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その後は寮に帰っての地道な組み立てであった。

仲間達に見守られながら、時に助けられながら加奈は自分のユニコーンガンダムを組み上げていった。

そして、組み上げた後は登場アニメである「機動戦士ガンダムUC」の鑑賞会を行い、さわりだけでも知識を学ぶ。

その上で、346プロのシミュレーターを借りての軽いバトルの練習。

勿論、初心者の加奈は勝つ事はできなかったが基本操作は学ぶことが出来た。

 

「中々素質があるじゃねぇか!あのガンプラは加奈に出会う為に落ちてきたのかもな!」

「うーん………だったら、わたし、もっとこの子を上手く扱いたいけれど………何かいい方法は無いかな………?」

 

基礎を学べば上達もしたくなる。

そんな加奈の言葉に晶葉はハッとしたようにポケットからメモリを幾つか取り出す。

 

「そのメモリは………!?」

「エクストラバトル………!?」

 

既にその存在を知っている忍や泰葉の言葉に頷きながら、晶葉はそれをテーブルの上に並べ、加奈達に説明する。

 

「成程なぁ………忍や泰葉達が上達した秘密として、このメモリの存在があったと………。」

「勿論、それだけでは無いだろうが………ある物は活用してみたく無いか?」

「いいですねぇ。ボクらももっと強くなれるかもしれませんからね!………どうです、加奈さん?」

 

既に自作のガンプラを組み上げている拓海・晶葉・幸子は加奈を見る。

加奈は両手に力こぶを作るとうんうんと答える。

 

「やってみたい!私もそんなバトルができるならば、チャレンジしたい!」

 

その加奈の言葉を受け、晶葉はネネ・清美・ありす・真奈美・千奈美の力を借りて、346プロのシミュレーターにエクストラバトルをセットし始める事になった。

 

「晶葉、加奈の為に今回は簡単なのにしてやれよ?」

「分かってる。天才の選別に間違いはないさ。………多分、これで大丈夫だろう。」

「も、もの凄く不安なんですが………。加奈さんも震えてますし………。」

「こ、こここれは武者震いだよ………!」

 

そんな事をしている内に、バトルステージの登録が完了する。

後は、各自ガンプラをセットすればいいだけだ。

 

「しっかし………ガンダムキャラとのバトルかぁ………。ガンプラバトルの大会なら里奈や美世とかと一緒に色々こなしてるけど、このタイプは初めてだな。」

「私も調整は何度かした事があるが、実際に自分で本気で挑んでみるのは初めてだ。」

「勿論、実力で負けるつもりはありませんが………この場合、エクストラバトルの経験がある忍さんや泰葉さんにリーダーを任せた方がいいかもしれませんね。」

「じゃあ、泰葉ちゃんリーダーお願い!アタシはサポートに回るから!」

「分かりました。加奈さん、色々説明しますので安心して下さいね。」

「う、うん………!宜しくお願いします!大丈夫………みんなのガンプラのメモもバッチリだから………!」

 

頭を下げた加奈が持っているのは、何の変哲もない白いユニコーンガンダムだ。

オーソドックスな近接武装である「ビーム・サーベル」に、強力な遠距離武装である「ビーム・マグナム」を持ち、シールドには「Iフィールド」が搭載されている。

それ以外にこの姿で特徴がある事と言えば、マニュピレーターを始めとした各部位が非常に硬く作られている事であろうか。

しかし、このガンプラはトランスEXの「NT-D」が発動し、ユニコーンモードからデストロイモードに切り替わる事で真価が発揮される。

外見が大きく変化する上に、機動力が跳ね上がった状態での、腕の「ビーム・トンファー」による連撃が非常に強力な機体に変化するのだ。

欠点を上げるとすれば、そのピーキー過ぎる操作性故に、加奈がまだ慣れておらず、十分に扱いきれていないという点であろうか。

とにかく未知の力を秘めた可能性の獣である事だけは確かであった。

 

 

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「拓海のガンプラは………何て当て字だったかしら?」

「「ヅダ・バーニングブースト(尽駄爆荒仁惧舞撃朱斗)」だ。」

「相変わらず凄い字を考えるわね。」

「それがアタシの個性だからな!」

 

そう千奈美の言葉に答えた拓海が、ニンマリとした笑顔で取り出したのは紫の「ヅダ」を元にしたガンプラ。

ヅダと言えば「土星エンジン」故に空中分解のマイナスイメージが強いが、その加速性能はバイクをかっ飛ばす拓海からしてみたら心を鷲掴みにするには十分な物であった。

そのヅダを高速での格闘戦に強くし、自爆までの限界時間を引き延ばす処置を行い、高出力スラスターで強化したのがヅダ・バーニングブーストである。

剛性を増した拳に加え、射撃武器でもある「ギャプランTR-5フライルー」の「ロング・ブレード・ライフル」の「ヒート・ブレード」や「ペイルライダー」のシールドに備わっている「パイルバンカー」等で、対戦相手を熱くガチンコでぶっ飛ばしていくのがこのガンプラのスタイルであった。

このような経緯から、土星エンジン発動中の高機動格闘戦に関しては、NT-D発動時の加奈のユニコーンや、デスティニーの光の翼発動時の泰葉のデスティニーディサイダーに匹敵する物を持っているのだ。

 

 

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「晶葉のガンプラ………「メンテロボ《ドーベン・ドクター》」は設定からもう、個性的だな。」

「只のメンテロボだと思っては困るぞ?例のウイルス事件でも活躍した逸材だ!」

「成程………その技能と精神がこのバトルでも遺憾なく発揮される事を願うまでだ。」

「任せてくれ。加奈はやらせはしないさ!」

 

片手で真奈美にVサインを送った晶葉がセットしているピンクのガンプラは「ドーベン・ウルフ」をモチーフにした物だ。

修理用工具にも活用できる射撃と格闘を両立した武器である「カレトヴルッフ」や背中の「陸戦型ガンダム」のバックパックに組み込んだ3タイプの「マーキュリーレヴA ソードユニット」が一番の特徴であり、それを胴体のマニュピレーターに加え、腕から無線で伸ばせる「ビーム・ハンド」やその内部に仕組まれた「隠し腕」、更に「ジ・O」脚の「隠し腕」と合わせて8本の腕で操っていく仕組みになっている。

勿論、その操作は人の手では不可能なので、支援AIとして「8」と「ハロ」を組み込んで、円滑に作業を行えるように工夫もされているのもポイント。

8本の腕は戦闘面でも活躍する為、単純な攻防においても決して侮れないガンプラに仕上がっている。

正に色んな意味でドクターの名に相応しい名機と言えるだろう。

 

 

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「幸子さんのガンプラの改造元は「バイアラン・カスタム」ですか。」

「そうです!名前は「バイアラン・キュートダイバー」!カワイイボクにピッタリでしょう!」

「ダイバー………スカイダイビングの超☆落下をイメージしてるのですか?」

「そ、そこはせめて超☆滑空って言って下さいよ!」

 

幸子が清美に見せびらかしているのはピンクと紫で出来た飛行型のガンプラ。

本人の言う通り、空からカワイイ幸子が舞い降りてくるような姿をイメージして作られた機体であり、「ウイングガンダム(EW版)」のバックパックを装備して羽を追加している。

性能としてはブースターやスラスター、ウイング等を増設して空戦能力を強化しており、空中から「Vダッシュガンダム」の「ガトリング・ガン」やビルダーズパーツで増設した「6連装ミサイルポッド」等で空対地戦闘を得意としている。

他にも多数のビーム兵器を備えている為、武装の選択の幅が広く、様々な局面に対応できるのがこのガンプラの強みであった。

尚、重点的な強化ポイントはブースト性能で、幸子曰く急に落っこちないように工夫を施したらしい。

身体を張る事に誇りを感じる側面がある幸子ではあるが、その要素や天使のような可愛らしさもしっかりとアクセントとして組み込めている機体であった。

 

 

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「後は忍さんと泰葉さんのガンプラをセットすれば大丈夫ですね♪」

「頼みますよ、二人共。加奈さんのエクストラバトル初陣で変なトラウマを植え付けないで下さいね。」

「大丈夫、ありすちゃん!加奈ちゃんは努力を惜しまないから、負けないよ!」

「後は私達がちゃんと援護すれば、彼女も活躍できるはずです。」

 

ネネとありすの言葉を受けながら、忍はイグザスを、泰葉はデスティニーディサイダーをシミュレーターにセットする。

これで6機のガンプラがカタパルトに順次動いていった。

 

「一番手は拓海さんですね。超☆安全運転でお願いします。」

「清美。そいつは、無理な話だな!アタシは全速力でぶっちぎるぜ!」

「後で説教が必要ですね。………ですから無事にみんなで戻ってきてくださいよ?」

「応!………向井拓海!ヅダ・バーニングブースト!超☆最高速でかっ飛ばすぜ!!」

 

「晶葉さん。次は貴女ですよ?何をしているんですか?」

「ありすか。………いや、このAI達の調子を確かめていただけだ。」

『心配はいらないぞ、晶葉。ありすに論破をする事も可能だ。』

『ロンパ!ロンパ!』

「8にハロ、喋るんですか!?とんでもない機能です………。」

「詳しい解説は帰ってきてからだな。じゃあ、池袋晶葉、メンテロボ《ドーベン・ドクター》………ガンプラバトルという名のオペを開始する!」

 

「幸子。今回の主役、分かっているわよね?」

「それくらい分かってますよ、千奈美さん。ボクほどじゃないですけれど、加奈さんも十分にカワイイですからね!」

「それくらい軽口が叩けるならば、大丈夫ね。………さあ、みんなの為に飛んできなさい!」

「任せて下さい!………行きますよ!カワイイ輿水幸子のバイアラン・キュートダイバーが舞い上がります!」

 

「さて………忍、泰葉。エクストラバトルに慣れている君達の経験が今回は重要だ。頼むぞ。」

「真奈美さん………心配しないで下さい!泰葉ちゃんは勿論、アタシも底力はありますから!」

「ふふっ、少しではありますが、このバトルの先輩として見せ場を引き出しませんとね!」

「では、発進してくれ!………慎ましくな。」

「了解!工藤忍、ガンダムAGE-2イグザス………加奈ちゃんの未来を斬り拓く!」

「岡崎泰葉、デスティニーガンダム・ディサイダー。運命という名の鎖を断ち切り、笑顔という名の花を咲かせます!」

 

「やっぱり口上はみんな、カッコいいですね。さあ、加奈ちゃん!」

「う、うん!ネネちゃん!………バトルに関するメモもちゃんと取ったから………後は………!」

「後は自信です!思い切って行ってきてください!」

「よーし………!今井加奈、ユニコーンガンダム!バトルを楽しみます!かなかな、ファイファイ、ゴー!!」

 

仲間達に見送られながら、6人のガンプラアイドル達は戦闘エリアへと出撃していった。



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6章:想いを込めた一角獣(加奈・拓海・晶葉・幸子・忍・泰葉)・2話

向井拓海、池袋晶葉、輿水幸子、工藤忍、岡崎泰葉、そして今井加奈の6人のガンプラは宇宙の中の隕石の1つに降り立った。

普通のシミュレーターと同じ、何の変哲もないギミックも無い空間ではあるが、他のステージと変わっているポイントが一点ある。

その拓海達の後方のステージ端に、青い円形の船が停泊していたのだ。

 

「ね、ねえ、泰葉ちゃん………あのおっきな船は………?」

「「機動戦士ガンダム00」の1期に登場した母艦「プトレマイオス」ですね。」

「晶葉ちゃん、アタシ達が挑むこのエクストラバトルのシチュエーションは何か分かる………?」

「「国連軍」との決戦だ。以前、巴達が2期の決戦のステージをやってクリアしていたのを聞いたんだ。だから………。」

「成程!それに比べれば1期の決戦は難易度が低いってわけですね!」

『生憎、そう簡単にはいかねえんだ。』

「誰だ!?」

 

会話に割り込んできたAIの言葉に、拓海を始めとしたアイドル達が警戒をする。

すると、彼女達の後ろ………ソレスタルビーイングの前に、ゆっくりと大型の青いモビルアーマーがホログラムになって現れる。

 

「うわー、これもおっきい!」

「「GNアームズTYPE-E」………?搭乗者は「ラッセ・アイオン」さんですか?」

『そうだ。今回の味方AIって言うのが俺だ。』

 

 

ラッセの言葉にエクストラバトル初体験の忍と泰葉以外のアイドル達は興味深そうに見つめる。

そんな彼女達をモニター越しに見比べながら、ラッセはもう一人、男性の顔を映し出した。

 

『どうもっス。今日はお世話になるっスよ!』

「この喋り方は、「リヒテンダール・ツエーリ」さん?」

『リヒティって呼んでください。今日は宜しく頼むっス。』

「頼むって………あ!成程、国連軍に対して援護射撃をしてくれるんですね!」

『何言ってるんだ?』

 

味方AIが増えた事で喜びを見せる幸子に対して、ラッセが一言。

 

『国連軍からリヒティが操舵をするプトレマイオスを守るんだ。』

「え?」

『モニターの上の方を見ろ。上に青色のゲージがあるだろ。それがプトレマイオスの耐久値だ。』

「ほ、本当だ。今までのバトルと違う………。アレ?でも、じゃあ、耐久値がゼロになったらわたし達………。」

『勿論、敗北っス。護衛失敗っスね。』

「………泰葉ちゃん。」

「私も初めてです。護衛対象がいるバトルは………。」

 

今までのエクストラバトルと違う条件を提示されて唖然とする忍と泰葉。

簡単なエクストラバトルだと思って晶葉が選んだ物は、そう甘くは無かった。

 

「おい、晶葉………。」

「すまん、この天才とした事が………。」

「ど、ドンマイだよ、晶葉ちゃん!ファイファイ、オー!」

『まあ、ある程度の射撃は「GNフィールド」で防御するんで心配いらないっスよ。敵機を近づけさせないで下さい。』

『というわけだ。国連軍を迎撃していく。………来るぞ!』

 

ラッセの言葉と共にホログラムとなって現れる国連軍。

銀色の「ジンクス」と共に、「ティエレン宇宙型」・「AEUイナクト宇宙型」・「オーバーフラッグ宇宙型」が続々と出てくる。

 

「泰葉!どうする!?」

「敵の前線を押し留める為にも数名、前に出た方がいいですね。私と拓海さんと晶葉さんで前に出ます!後衛の4人は誤射に気を付けて援護を!」

「了解!」

 

泰葉の指示で、彼女のデスティニーガンダム・ディサイダーと、拓海のヅダ・バーニングブーストと、晶葉のメンテロボ《ドーベン・ドクター》が前に飛び出す。

その後ろから加奈のユニコーンガンダムと、幸子のバイアラン・キュートダイバーと、忍のガンダムAGE-2イグザスと、ラッセのGNアームズが射撃支援を行う形だ。

 

「ビーム・マグナム………。加減が効かない武器だってアニメで言ってたけれど、練習だとみんな素早くて1回も当たらなかったなぁ………。よーし!」

 

専用のカートリッジをセットした加奈のユニコーンが泰葉のデスティニーディサイダーがかき乱しているジンクス達の群れに向かって狙いを定める。

 

「かなかな………マグナム!………ってわ~~~!?」

 

思い切って照射したビームは凄まじい威力となって撃ち出され、ジンクスどころかその後ろにいたAEUイナクト宇宙型等も纏めてパーツを全部吹き飛ばして消し飛ばしていく。

反撃でジンクスが「GNロングバレルビームライフル」でユニコーンやプトレマイオスを狙うが、加奈機は盾のIフィールドを………母艦は、リヒティがGNフィールドを張っている事もあり、ダメージは無い。

 

「こ、こんなに強力なんて………!?」

「加奈さん、手を抜かないで下さい。もっと撃ちまくって!」

「う、うん!」

 

加奈に指示を送った泰葉のデスティニーディサイダーはジンクスの「GNビームサーベル」をデスティニーガンダムの右腕の「ビーム・シールド」で防ぎながら、最大までチャージをしたバスターフォースの左手の赤いオーラを纏ったアッパーで、周囲の敵を纏めてパーツアウトさせていく。

 

「拓海さん、状況はどうですか!?」

「こっちは絶好調だぜ!!」

 

拓海のバーニングブーストはティエレン宇宙型の繰り出す「カーボンブレイド」を踏み台にして前方宙返りをしながら眼下の敵機にロング・ブレード・ライフルの高威力射撃を発射していく。

土星エンジンはまだ使っていなかったが、拓海の操縦技術も合わせてかなりの器用さが伺えた。

 

「幸子!援護の手は抜くなよ!」

「ボクを誰だと思っているんです!カワイく力強くいきますよ!」

 

幸子のキュートダイバーは近くの坂から助走をつけて上に飛び上がると、EXアクションの「ダブルガトリングストーム」を選択し、Vダッシュガンダムのガトリング・ガンを分裂させて、広範囲に継続射撃を行う。

こちらもかなり器用に使いこなしている様子であった。

 

「フフーン!ボクに見惚れて下さーい!」

「やるなぁ、幸子ちゃんも。………アタシも負けない!」

 

忍のイグザスは「ガンダムAGE-2ノーマル」の「ハイパードッズライフル」の高威力射撃をシューティングモードでオーバーフラッグ宇宙型にどんどん撃っていく。

「耐ビームコーティング」がされている機体ではあるが、比較的脆い関節部分を狙ってパーツアウトを重点的に起こせば関係無かった。

更にその機体の群れには、晶葉のドーベン・ドクターがジ・Oの「隠し腕+ビーム・ソード」でドリルのような怒涛の回転攻撃を連続で喰らわせていき、パワーによるゴリ押しで破壊していく。

 

「柚ちゃん達から聞いていたけれど、晶葉ちゃんのガンプラ………凄い力だね!」

「直す以上は壊す事も出来なければな。しかし、手ごたえが………。」

『ゾウエンカクニン!ゾウエンカクニン!』

『各機油断をするな!フォーメーションで確実に仕留めていくぞ!』

「………と思ったらここで来たか。」

「今の声は「セルゲイ・スミルノフ」中佐かな?」

 

ほぼ雑魚機がいなくなったことで、ハロの警報にネームドの乗ったジンクスの増援が来る………と思った忍達であったが………。

その乗機を見て思わず全員目を丸くする事になる。

何と左翼から「GNフラッグ」こと黒の「ユニオンフラッグカスタムⅡ」が3機。

更に右翼から「ガンダムスローネ」が「アイン」・「ツヴァイ」・「ドライ」と計3機。

最後に正面から黒い「アドヴァンスドジンクス」が1機現れたからだ。

 

「な、何だ!?この増援は!?何故GNフラッグが3体も!?スローネもセットで何故!?アドヴァンスドジンクスだって………8、搭乗者を分析してくれ!」

『ユニオンフラッグカスタムⅡには「グラハム・エーカー」、「ハワード・メイスン」、「ダリル・ダッジ」。スローネはアインがセルゲイ・スミルノフ、ツヴァイが「アンドレイ・スミルノフ」、ドライが「ソーマ・ピーリス」。アドヴァンスドジンクスには「パトリック・コーラサワー」が乗っているな。』

「待て待て!他はまだともかくとして、ハワードとアンドレイは時系列が明らかに違うだろ!?」

 

思わずツッコミを入れてしまう拓海の言葉を察したのか、それぞれのパイロットのAI達から通信が送られてくる。

 

『隊長達とこうして飛ぶのは夢だったんだ。ダリルと共に3人で阿修羅を凌駕しても罰は当たらないだろう。』

『親不孝者の息子なのだ。たまには父と姉となるかもしれなかった女性と組ませてくれ。』

「………だそうだよ、拓海ちゃん。」

「マジか………まあ、意気込みは認めるけどよ!遠慮はしないぜ!」

 

そう奮起する拓海であったが、言葉とは裏腹にバーニングブーストを一度後退させ、機体をキョロキョロとさせている加奈の近くに戻る。

流石にこれだけのネームドの相手はまだ荷が重いと判断したからだ。

それを見て泰葉も指示を考える。

 

「フォーメーションを変更します!左翼のGNフラッグ3機は………!」

『ガンダム!君の相手は私達だ!』

『隊長と俺達のフォーメーションを見せてやる!』

『覚悟して貰うぞ!』

「………!?そう来ますか!?」

 

しかし、指示を出す前にデスティニーディサイダーを囲い込むようにGNフラッグが3機集まる。

 

「泰葉ちゃん!今………!」

「大丈夫です!1機で3機も釣れれば………!拓海さんと加奈さんはアドヴァンスドジンクスを!忍さんと晶葉さんと幸子さんとラッセさんはスローネをお願いします!」

「分かった!」

 

援護に向かおうとした忍を制し、泰葉は他のネームドに対処するように改めて指示を出す。

 

『たった1機でオーバーフラッグスに対抗しようとするとはその度胸、気に入った!だが、今は己の歪みの為ではなく、このバトルに勝つ為に仲間達と戦っている私達が勝利を頂く!』

「………真っ先に私を狙ったのは………何か理由がある?」

 

グラハムの言葉に疑問を浮かべた泰葉ではあったが、それはすぐに分かる事になる。

 

『少尉!アンドレイ!作戦通りで行くぞ!』

『了解です、父さん!………ファングを射出する!』

 

スローネ3機の内、ツヴァイに乗っているアンドレイが忍達に向かって8基の「GNファング」を射出する。

 

「来ましたよ!?」

「落ち着いて、幸子ちゃん!アンドレイさんは、ファングはアニメでは未使用だったはず!操作に関しては………!」

『確かに私は自力でマニュアル操作はできない。だが、狙いを変えれば………!』

『しまった!?マズイ!?』

 

ラッセの警告と共に、ファングは全て忍達を素通りして何と後方に鎮座しているプトレマイオスへと向かう。

その棘のビット兵器はGNフィールドを突破し、次々と母艦を何度も刺していく。

 

「プトレマイオスの耐久値が!?」

 

ほぼ無防備に等しいプトレマイオスがどんどん傷つけられ耐久値がゴリゴリと減っていく。

このバトルは防衛戦である事を利用されてしまったのだ。

 

「リヒティさん!何とかならないの!?」

『無理っス!GNフィールドを突破されたらなぶられるだけっスよ!』

 

ファングの動きを封じようとGNビームサーベル二刀流でファングを操るアンドレイ機を狙う忍のイグザスであったが、粒子を纏った盾としても使える実体剣である「GNバスターソード」で防御されてしまう。

オート操作の利点として、防御行動を取りながらでも攻撃を継続できる為に、これは厄介であった。

晶葉機や幸子機もツヴァイを狙おうとするが、セルゲイのアインやピーリスのドライに邪魔をされてしまう。

 

「くっ………ラッセ!EXアクションの「フィールドリペア」や「アーマーリペア」でプトレマイオスを回復は出来ないのか!?」

『無理だ!母艦までは効果範囲外だ!』

「詰みじゃないですか!?どうするんです!?」

「……………仕方ない、幸子付いてきてくれ!忍、ラッセ!スローネの相手は任せる!」

「え?何をするんです、晶葉さん!?」

 

背後でダメージを受けているプトレマイオスの方に向かう晶葉のドーベン・ドクターに付いていく形になる幸子のキュートダイバー。

更に晶葉は順番に指示を送っていく。

 

「リヒティ、GNフィールドを解除!幸子、悪いがキュートダイバーでドーベン・ドクターをプトレマイオスの上に乗せてくれ!」

『何をするか分からないけれど………とりあえず、了解っス!』

「?????」

 

キュートダイバーに抱えられてプトレマイオスの上に乗ったドーベン・ドクターはハロと8を使い破損個所を素早く確認すると、隠し腕やビーム・ハンド等を全て取り出し、腕を8本にする。

そして、その手にカレトヴルッフと背中の陸戦型ガンダムのランドセルから取り出したマーキュリーレヴA ソードユニットを持つと破損個所に刺し込んでいく。

 

「晶葉さん………?」

「幸子、悪いがファングを撃ち落としていってくれ!」

「プトレマイオスを傷つけないようにですか!?無茶ですよ!?」

「牽制するだけでいい!」

「というか、貴女は何をするんですか!?」

「伊達にこのガンプラにメンテロボ《ドーベン・ドクター》と名付けたわけではない。………EXアクションが効かないなら、直接「修理」するまでだ!」

 

そう言うと晶葉のドーベン・ドクターは、ビーム・ハンドで中のケーブルの束を広げると、バチバチと音を立てている破損している部分の周りを隠し腕で掴み、マーキュリーレヴAの「ソー」と「アーミーナイフ」をハサミ状にして切り取る。

そして、カレトヴルッフの「溶接用トーチ」で正常につなぎ合わせ、更にケーブルの束を元に戻して、ついでに装甲版もトーチで元通りにしていく。

減っていたプトレマイオスの耐久値が僅かながら回復していった。

 

「ほ、本当に修理できるんですか!?というか、どうやって8本も腕を………!?」

「その為のハロと8だ。」

『シュウリカンリョウ!シュウリカンリョウ!』

『他にも破損個所は沢山ある!手早く行くぞ!』

「分かっている!これで………うわっ!?」

 

動こうとしたドーベン・ドクターであったが、急にプトレマイオスが傾き落ちそうになる。

慌てて幸子のキュートダイバーが支えた事で事なきを得たが、何事かと前線を見てみれば、セルゲイのアインにピーリスのドライが合体をし、回避行動を行うプトレマイオスに向けて「GNメガランチャー」を撃とうとしていた。

 

『GNフィールドを解除する事も中佐は織り込み済みだ!』

『こちらも本気を見せなければな!』

「忍!止めてくれ!」

「無理!ツヴァイが邪魔!」

『俺に任せろ!』

 

ラッセのGNアームズが射線上に飛び出すと咄嗟に「GNフィールド」を張る。

これにより、放たれた強力なビームがプトレマイオスに届く事態だけは避ける事ができた。

しかし………。

 

『マズイ………粒子を大量に使っちまった。もうGNフィールドは張れない!』

「ええ!?ど、どうすれば………!?」

『GNアームズには、太陽炉は無いんだ!粒子が尽きたらそれまでなんだよ!』

「えっと………ならば!」

 

仕方なくツヴァイから離れてハイパードッズライフルによる遠距離戦で3機纏めて狙っていこうとする忍であったが、無茶があった。

今度は「GNビームライフル」等の射撃兵器で3機がいっぺんに忍機を狙ってくる。

イグザスは「耐ビームコーティング」があったが、それでも耐久値が削れるのは早い。

「リペアキット」に頼らざるを得ない状況が出来てしまった。

 

「こんな時にIフィールドが使える泰葉ちゃんのデスティニーディサイダーがいれば!………ってそうか、だから最初にGNフラッグに囲まれたのかぁ!?」

 

不利な状況に忍はどう状況を打開すればいいか分からず、文字通り耐え忍ぶ時間に突入した。

 

「ど、どうしよう!?みんながこのままじゃ………!」

「待った!加奈!お前は盾を持ってここから動くんじゃねぇ!」

「どうして!?………ってわわッ!?」

 

Iフィールドを持つ故に、泰葉の代わりに忍の加勢に向かうのを拓海に止められた加奈は、その理由を悟る事になる。

コーラサワーのアドヴァンスドジンクスが隙を見せた途端、こちらも高出力の「GNメガランチャー」を撃ってきたからだ。

加奈のユニコーンのシールドのお陰で防ぐ事ができたが、彼女がいなければプトレマイオスに当たっていた。

 

「アタシがコーラサワーを何とかする!それまでプトレマイオスへの被弾の増加だけは防いでくれ!」

 

加奈にそう言うと、拓海はバーニングブーストの土星エンジンを起動させ速さでねじ伏せようとするが、流石にエース相手にはそうはいかない。

コーラサワーは、的確にエネルギーを拳にまとって突進するEXアクションの「ブラストナックル」を回避すると、反撃の「プロトGNランス」の一撃を喰らわせる。

拓海も急所に当たる事だけは避けるが、右腕がパーツアウトしてしまう。

 

『悪いが今日は俺もシリアスモードで行かせて貰うぜ!大佐の勝利の為に………なぁ!!』

「くっそ………!?」

「拓海ちゃん!?」

 

更にEXアクションの「ミリオンスパイク」で攻め立てるコーラサワー機の猛攻に左腕もパーツアウトした拓海は危機的状況に陥る。

それを見た加奈の決断は本人でも信じられない程に速かった。

 

「お願い!!」

 

EXアクションであるNT-D。

操作性を犠牲にする代わりに強力な加速力を得るトランスEXを起動させた加奈のユニコーンがデストロイモードの赤いフルサイコフレームをむき出しにして、ガンダムフェイスをオープンする。

そして、そのままブーストを全開にすると一直線にコーラサワー機に向かってビーム・トンファーを突き出し、突撃していく。

 

「わ、わわわーーーッ!?」

『へ!?』

 

その驚異的なスピードをコントロールできない加奈であったが、拓海へトドメを刺そうとしたコーラサワーにしても流石に捉えきれなかったのだろう。

ロケットのように飛んできた加奈機に左腕を持っていかれてしまい、思わずバランスを崩す。

 

「サンキュー、加奈!うらぁッ!!」

『何ぃッ!?』

 

拓海機は何とかバランスを戻したアドヴァンスドジンクスの懐に素早く潜り込むと何と顔面に頭突き。

メインカメラをやられたコーラサワーは距離を取ろうとするがそこにバーニングブーストの右腕が戻ってくる。

その右手にロング・ブレード・ライフルを持つとヒート・ブレードを起動させ、プロトGNランスを斬り払い、胴体を思いっきり薙ぎ払う。

 

『な、なんじゃそりゃあああああああ!?』

 

ご親切にコックピットが脱出する演出と共に爆散するアドヴァンスドジンクス。

左腕も戻ってきたバーニングブーストの状態を確認した拓海は、デストロイモードを解除したユニコーンを駆る加奈の元に向かう。

 

「助かったぜ、加奈!………って、大丈夫か?」

「め、目が回る~~~?」

「だよなぁ………。でも、そうも言ってられねぇ!とにかく泰葉と忍の加勢に………!」

 

そこで拓海は気づく。

プトレマイオスがまた大きく回避行動を取った事に。

アインは忍機を狙っており、GNメガランチャーを使う様子は無い。

という事は………。

 

『高出力ビームが来るっス!みんな回避を!!』

「加奈!」

「わわわ~~~!?」

 

慌てて拓海機に抱えられて横に動く加奈機。

すると、さっきまでいた空間を………黄金の極太のビームが通過していった。

 

「な、何………!?今のは………何!?」

『フハハハハハハ!脆弱なパイロットにしてはやる!だが………世界を変えるのはこの私、「アレハンドロ・コーナー」だ!』

 

その如何にも傲慢そうな声と共に黄金の巨大すぎるモビルアーマーが現れる。

加奈は知らなかったが、アレハンドロ・コーナーが操る「アルヴァトーレ」であった。

 

「こうして間近で見ると本当に悪趣味だな………。とはいえ、今の「大型GNキャノン」がプトレマイオスに当たったら耐久値が持たねえぞ………。」

『その通り!もう貴様らは私が現れた時点で、ここで詰んでいるのだよ!』

「つ、詰んでいるって………!」

『全ては私の計画の通り!貴様らのような未熟なパイロット達には無理なバトルだったのだ!』

「み、みんなを馬鹿にしないで!」

 

自分というより仲間達を馬鹿にされた事で怒った加奈がビーム・マグナムを撃つが、アルヴァトーレは巨大な「GNフィールド」を張る事で対処。

ビーム兵器では簡単にはいかない相手であった。

 

『無駄無駄無駄ァ!このアルヴァトーレは無敵だ!』

「加奈!実体を持った近距離武器じゃねぇとGNフィールドは突破できねぇ!」

「えっと、じゃあ………ヒート・ブレードやパイルバンカーを持つ拓海ちゃんだと有利に戦えるんだね。」

「そうそう………って、本当にアタシ達の機体の事メモってるんだな。」

 

牽制射撃をしながら、アルヴァトーレの2門の「GNビームライフル」を防御している加奈が拓海の言葉に頷く。

 

「わたし、初心者だから………。せめてみんなの事は知っておきたくて。他にもちゃんとメモってるよ?例えば幸子ちゃんの機体は空対地の戦闘が得意だったり、泰葉ちゃんの機体は格闘戦をメインにしていたり、忍ちゃんの機体は擬似太陽炉でトランザムができたり………。」

「相変わらず凄ぇ………ん?待て、忍の説明もう一度言ってくれ!」

「擬似太陽炉でトランザム………。」

「擬似………太陽炉?」

 

その加奈の言葉でスローネ3機の猛攻を受けていた忍はハッとする。

もしかして………もしかしなくても………。

 

「ラッセさん!」

『やるのか!?確かに構造上は………!』

「突破口になるならばやるまでだよ!丁度頭文字も一緒だし!」

 

忍機は素早く後方に下がると、GNアームズTYPE-Eを変形させていくラッセに合わせ、機体をバックさせる。

スローネ達が追いかけてくるが、加奈のユニコーンがビーム・マグナムをその進路上に撃ち、一時的にだが動きを封じる。

 

「一度言ってみたかったんだよね!………イグザス!コアチェンジ!ドッキングゴー!!」

 

アニメの擬似的な再現ができる事に、気分が高揚した忍の叫びと共に、GNアームズTYPE-Eは「GNアーマーTYPE-E(イグザス)」へ。

擬似太陽炉がドッキングされた事により、底をつきかけていた粒子が補充される。

 

『中佐!アンドレイ!』

『了解した、義姉さん!』

『「GNハイメガランチャー」を使用する!』

 

ツヴァイとドライが合体する事で、より強力な粒子ビームを放つアインであるが、GNアーマーは巨大な「GNフィールド」を張って受け止める。

 

「凄い凄い!何か凄く強くなった気分!!」

『あんまり、はしゃぐなよ!コントロールは任せるぞ!』

「了解!………早速、「トランザム」で!!」

 

忍はGNアーマーをトランザムさせると高速でスローネ達に突撃していく。

 

『父さんと義姉さんはやらせん!』

 

アンドレイのツヴァイがGNバスターソードを構えながら前線に飛び出してくるが、その振られた一撃を難なくジャンプして躱すと、下部の「クロー」で蹴りを当ててバスターソードを破壊。

そのまま「大型GNソード」を振りかぶりツヴァイを真っ二つに斬り裂くと、「大型GNキャノン」を、GNビームライフルを撃ってきたアインと「GNミサイル」を射出してきたドライに照射。

その凄まじい威力の前に2機纏めて吹き飛ばされる。

 

『これは後で反省会だな………。すまない、二人共。』

『いえ、こちらも力量不足でした。父さんと義姉さんと一緒に戦えたのに………。』

『仕方ないさ、アンドレイ。負けは負けだ。認めよう。』

 

嘆息した………しかしどこか満足げな3人の言葉と共に、スローネは3機とも爆発を起こした。

 

「やりましたね、忍さん!これでボクも自由です!修理は晶葉さんに任せて泰葉さんの加勢に向かいます!」

「お願い!………後、この手柄はメモをちゃんと取っていた加奈ちゃんのお陰だよ!」

「え!?え、えへへ………。」

 

ファングの誘導が切れて近距離での脅威が無くなった事で、幸子のキュートダイバーがGNフラッグ相手に苦戦している泰葉のデスティニーディサイダーの元へ向かう。

忍のGNアーマーはアルヴァトーレの相手であった。

 

『ハワード!ダリル!世の中には「ジェットストリームアタック」なる物がある!ならば、私達は「フラッグストリームアタック」なる物で阿修羅を凌駕してみせよう!』

『了解!』

「何ですか、その珍妙な名称は!?………でも、強い!?」

 

泰葉のデスティニーディサイダーは既に「リペアキット」を幾つも消費してしまっていた。

GNフラッグの実質的な武器は「GNビームサーベル」のみ。

しかし、「GNドライヴ[Τ]」に直結したそのビームサーベルの出力は段違いに高く、ビーム・シールドで受け止めるとそのまま腕を持っていかれてしまった。

ならば同じく出力の高い両手剣のアロンダイトならば………と逃げながら考えたが、精々一本のサーベルを受け止めるのが精一杯で、その隙に残りの2機の猛攻を喰らってしまう事になった。

その為、急所を避けるのが精一杯だったのだ。

 

「泰葉さん!援護に来ましたよ!………って、色んな意味で面倒なのに絡まれてますね。」

「幸子さんですか!すみません………こっち側はどうにもならなくて………!」

「いいんですよ!ボクの見せ場があるだけで!………デスティニーだから実弾を軽減する「ヴァリアブルフェイズシフト装甲」を持ってますよね!ちょっと手荒に行きますよ!」

 

近づいてきた幸子はそう言うと、飛び上がりEXアクションのダブルガトリングストームを選択。

敢えて泰葉機を中心に捉えガトリングの雨を降らせて、GNフラッグ3機を巻き込んで動きを止める。

 

『ダリル!ガンダムとの果し合いを所望する隊長を守るぞ!』

『心得た!叩き落としてやる!』

 

その不意打ちにハワード機とダリル機が幸子機を狙い、GNビームサーベルを振りかぶりながら飛び上がるが、幸子のキュートダイバーはEXアクションの「ラピッドショット」を選択し、宙返りをして華麗に回避。

そのままハワード機を狙い「サザビー」の胴体の「拡散メガ粒子砲」を放つ。

 

『くっ………それ位でフラッグは!』

「「耐ビームコーティング」があるんですよね。じゃあ、これでどうです!」

『何!?』

 

ビーム兵器が、あまり効果が無い事を確認するや否や、「アドバンスド・ヘイズル」の「シールド・ブースター」で上空から急加速し、着地して振り返ったハワード機のコックピットに痛烈な蹴り………EXアクションの「アースシェイカー」を喰らわせて沈黙させる。

 

『ハワード!?コイツ!?』

「そちらのバランスが悪いのは織り込み済みです!華麗に舞いますよ!」

 

更に幸子はそのまま振り向かずに飛び上がり、ダリル機のGNビームサーベルを回避すると、空中で逆さまになり、両肩の「6連装ミサイルポッド」を喰らわせる。

 

『ぬおっ!?しまった、サーベルが!?』

 

ダリルが、その狙いは機体ではなく手持ちのGNビームサーベルであった事を悟った時には時既に遅く、一番の武器を破壊されてしまう。

そのまま幸子機はバイアラン・カスタムの「ビーム・サーベル」を二刀流で構えて、機体バランスを戻しながら突撃。

ダリル機は苦し紛れに「20mm機銃」を使うがほぼ意味は無く、コックピットを貫かれて沈黙してしまう。

 

「泰葉さん、宇宙で言うのも何ですが………空中戦です!敵はバランスが悪いから上に飛び上がれば素直に追ってこられません!」

「ありがとうございます、幸子さん!」

 

弱点をちゃんと見破った幸子の助言に笑顔で応えた泰葉は、空中に飛び上がりながらEXアクションの「アースシェイカー」を狙う。

 

『フラッグが飛べないと思ったか!だが………!』

「貴方の性格なら無茶を押し通して見せると思いました。でも、それが敗因です!」

 

バーニアを全開にして無理やり飛び上がって来たグラハム機ではあるが、泰葉のデスティニーディサイダーは、空中でデスティニーの光の翼を使用。

寸での所でGNビームサーベルを、残影を伴った高速移動で回避すると一瞬で背後に回り、アロンダイトでコックピットを貫く。

 

『………次があるならば、今度はフラッグの究極系………「ブレイヴ」で相手をしよう。潔く引くぞ、ハワード、ダリル!』

『了解です、隊長。』

『フラッグファイター………覚えてくれよな。』

「はい………対戦、ありがとうございました。」

 

アロンダイトをしまった泰葉の礼の言葉と共に、3機のGNフラッグは爆発を起こした。



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6章:想いを込めた一角獣(加奈・拓海・晶葉・幸子・忍・泰葉)・3話

『使えぬ奴らめ………!こうなったら私一人で蹂躙してくれるわ!ファング!』

 

他の味方を失ったアレハンドロ・コーナーのアルヴァトーレは6基の「大型GNファング」を移出し、機体左右から「格闘用巨大アーム」を取り出して一番動きの鈍そうな今井加奈のユニコーンガンダムを狙う。

 

「えっと………!こ、こういう時は!!」

 

しかし、徐々にではあるが、基本操作に慣れてきた加奈はビーム・マグナムを3つに分裂させ、EXアクションの「スペクトラルショット」を選択して3列のビーム・マグナムで格闘用巨大アームを吹き飛ばす。

 

「アレ?もしかしてわたしでも対応できる………?」

『ちょ、調子に乗るな、小娘!!』

 

アレハンドロはユニオンのパイロットという経歴が実はあるのだが、それでも今まで戦ってきたグラハム・エーカーやセルゲイ・スミルノフ、パトリック・コーラサワー等のエースクラスに比べれば実力で劣る。

何より搭乗機のアルヴァトーレが大き過ぎて、加奈にしてみれば今までのモビルスーツに比べ、力任せの動きが鈍く思えたのだ。

 

『ファング!あの小娘を四方八方から………!』

「やらせませんよ!」

 

ならば………と大型GNファングを加奈機に集中させようとするアレハンドロであったが、意識を彼女に集中させ過ぎたのか、その上空から加勢に来た輿水幸子のバイアラン・キュートダイバーが、腕のバイアラン・カスタムのメガ粒子砲を連射してきたのに全く気付かなかった。

気が付けば、加奈を狙ったファングの6基の内の片側半分が、幸子機の華麗な舞によって破壊されてしまった。

 

「隙だらけですねぇ………。アニメでもラストバトルの前座扱いでしたし、仕方ないのかもしれませんが………。」

『ま、まだ半分………!半分ある!!』

「その半分も動揺故に制御しきれていませんね………。」

 

残り3基も同じく援護に来た岡崎泰葉のデスティニーガンダム・ディサイダーによる「高エネルギー長射程ビーム砲」により纏めて吹き飛ばされる。

次々と武装を奪われるアルヴァトーレの姿に、アレハンドロの声色が明らかに変わっていった。

 

『じ、GNフィールドさえあれば貴様らの攻撃など………!』

「その為のこの合体だよね!」

 

そんなアルヴァトーレの黄金の装甲を、工藤忍とラッセ・アイオンのGNアーマーTYPE-E(イグザス)が大型GNソードで深々と斬り裂く。

強力な出力のGNフィールドも、大型の実体武器には無効だったのだ。

 

「いいぜ、忍!アタシも混ぜろ!!」

 

更に拓海がヅダ・バーニングブーストの右拳を振りかぶり巨大なエネルギーの拳を形成する。

EXアクションの「デッドリーブロウ」で全パーツアウトを狙ってきたのだ。

その凄まじい拳の一撃は正面から黄金の装甲にめり込み、様々な部分にヒビを入れる。

 

「勝負有り……だな!」

『か、かくなる上は………!!』

「!?」

 

呆気無いアルヴァトーレ戦に笑みを浮かべる拓海だったが、そこで取ったアレハンドロの行動に、皆が驚愕する事になる。

ボロボロになって爆発を起こすアルヴァトーレから分離した、黄金のバイザー状のゴーグルをした機体………「アルヴァアロン」が空中に飛び出したのだ。

そこまでは、予想通りの展開ではあったのだが、アルヴァアロンは長砲身の「GNビームライフル」に粒子を圧縮させると「圧縮粒子ビーム砲」を即座に撃ってきた。

加奈でも幸子でも泰葉でも忍でも拓海でもなく………プトレマイオスに向けて。

 

『この一撃はアルヴァトーレの主砲に匹敵する!貴様らを倒さなくてもこの方法で………!』

「しまった………!?」

 

防衛戦故の勝利条件を満たす事を確信し、再び笑みを浮かべたアレハンドロ。

迂闊だったと悟る加奈達であったが………。

 

「この天才を忘れて貰っては困る!」

 

だが、プトレマイオスに当たる瞬間、カレトヴルッフを「Gモード」にして巨大なビーム刃を形成してビームを真正面から斬り上げて逸らす存在が。

プトレマイオスを直接修理していた池袋晶葉のメンテロボ《ドーベン・ドクター》がEXアクションの「二連ビーム・ライフル斬り上げ」で凶悪な出力のビームを弾こうとしたのだ。

 

「プトレマイオスはやらせんよ!」

『無理っスよ!「ヤタノカガミ」を持ってるわけじゃないし、ビーム刃で防ぐなんて………!』

「不可能を可能にする女にはなれないって言うのか!?そんなのこのカレトヴルッフにエネルギーを集中させればどうとでもなる!!」

 

リヒテンダール・ツエーリの警告に笑って見せる晶葉であったが、ドーベン・ドクターの至る所から煙が噴き出している。

 

『晶葉!機体が持たないぞ!?私の分析だと後数秒で………!』

『キケン!キケン!』

「その数秒だけ持たせればいい!私は約束したのだ!加奈の勝利を守ってみせる………となぁッ!!」

 

晶葉の気合が通じたのか、遂に圧縮粒子ビーム砲を巨大なビーム刃で防いで見せるドーベン・ドクター。

しかし、機体がオーバーロードを起こしたのか、その直後に耐え切れずに爆発してしまう。

 

「晶葉ちゃん!?………わぁぁっ!!」

 

最後の晶葉の叫びと撃墜にショックを受けた加奈が、ユニコーンガンダムを隙だらけになったアルヴァアロンに突撃させて、ビーム・サーベルでコクピットを貫く。

 

『ば、バカな………!?コーナー一族の悲願がぁぁぁッ!?』

『そういう物言いだから、器量が小さいのさ。』

「え?」

 

嫌な直感故………であろうか。

咄嗟にアルヴァアロンから離れた加奈は驚く。

上空から降り注いだ巨大なビームによってアルヴァアロンが掻き消される。

いきなりの展開に、拓海達も驚きを隠せないでいた。

 

『リボンズゥーーーッ!!!』

「リボンズって………「リボンズ・アルマーク」なのか?」

『そう………彼がラストバトルの相手だと締まらないだろう?』

 

そう、緑髪の青年の顔がモニターに映し出されると、上から「GN粒子」で出来た光の羽………「GNフェザー」を展開しながらダークグリーンの増加装甲を纏った「ガンダム」が舞い降りてくる。

 

「きれい………。でも、あの機体は………?」

『教えてあげよう。この機体こそ、人類を導くガンダム………「フルアーマー0ガンダム」さ!』

「ふ、フルアーマー0ガンダム!?」

 

拓海達は知らない機体の登場に、思わず怪訝な表情を見せる。

多分、荒木比奈辺りならば知っているとは思うが、少なくとも彼女達の知識には、この機体の情報は入って無かった。

そんな対戦相手の戸惑う様子に満足したのか、リボンズは傲慢そうな言葉と共に翼と両腕を掲げる。

 

『さあ、相手をしてあげよう。誰からかかってくるかな?』

「何か知らないけれど………リボンズが相手なら容赦しないよ!」

 

忍のGNアーマーが大型GNキャノンを撃ち出してフルアーマー0ガンダムに先制攻撃を仕掛ける。

しかし、フルアーマー0ガンダムは余裕をもって左肩の「ビームバズーカ」を発射。

高威力のビームとビームがぶつかり合うが、何とリボンズ側のビームが押していく。

 

「う、嘘!?出力高いのに!?」

『「太陽炉」に直結したこのビームバズーカが只の擬似太陽炉に負けると思ったのかい?』

『マズイ!?忍、加奈とプトレマイオスを頼むぞ!』

「ら、ラッセさん!?」

 

ビームが迫るや否や、ラッセは忍のガンダムAGE-2イグザスを強制分離。

彼女だけをビームの範囲外に逃がすと、自身のGNアームズTYPE-Eはビームに巻き込まれて爆散し、大型GNソード等のパーツが飛び散る。

 

『つまらないね………。もっと僕を楽しませてくれないのかい?』

「なめてんじゃねぇぞ!!」

 

EXアクションの土星エンジンを全開にした拓海のバーニングブーストが今度はその隙を突いて、フルアーマー0ガンダムの背後から左腕のペイルライダーのシールドに備わっているパイルバンカーを喰らわせる。

だが、おかしい事に、装甲に傷がつかない。

 

「な、何だと!?」

『教えてあげようか。この装甲は「GN複合装甲」と言ってね。装甲の内部にGN粒子が蓄えられていて、防御力を向上させるのさ。』

 

慌てて右手にヒート・ブレードを持って振りかぶろうとしたバーニングブーストであったが、その前に振り返ったフルアーマー0ガンダムに蹴り飛ばされて体勢を崩され、右腕の「二連ビームガン」でコックピットを貫かれてしまう。

 

「チッ………!抜かったか………!?」

「た、拓海ちゃん………!?」

「加奈………!大丈夫だ、まだ泰葉達もいる………だから………ッ!!」

 

爆散するバーニングブーストを見て加奈の精神状態が悪化していく。

その様子を楽しむようにリボンズは、今度は泰葉のデスティニーディサイダーを狙いに行く。

 

「そう、事が上手く運ぶとは思わないで下さいよ………。」

 

しかし、事前に準備をしていた泰葉は右手のフラッシュエッジ2のビームブーメランを投げて牽制すると、一気にデスティニーの光の翼で距離を詰め、最大までチャージを済ませて赤色に輝かせたバスターフォースのEXアクションを発動。

 

「破ぁッ!!」

 

強烈な掌底をリボンズの胴体に喰らわせて増加装甲のパーツアウトを狙う。

だが、その瞬間、強烈な光が発生し、泰葉の目の前が真っ白になる。

 

「これはッ!?」

『GN粒子が蓄えられていると言っただろう?分離した装甲からは粒子が漏れ出して目くらましになるのさ。』

 

泰葉は咄嗟に距離を取ろうとしたが無駄だった。

装甲をパージしたリボンズは、「0ガンダム (実戦配備型)」になると、「ビームサーベル」でデスティニーディサイダーのコックピットを貫く。

 

「泰葉ちゃんッ!?」

「ゴメンなさい、加奈さん………!でも、まだ………!」

『どうだい?頼りになる味方がどんどん倒れていく様子は………?』

「あ、ああ………。」

「加奈ちゃん、しっかり!………クッ!」

 

圧倒的な実力で嘲笑いながら加奈の心を折りに来ているリボンズの姿に苛立ちを覚える忍であったが、0ガンダムはそんな心情を組み取ってくれない。

また、GNフェザーを広げ、大仰に両腕を掲げるリボンズの姿を見て、イグザスのトランザムを発動させようとするが、幸子のキュートダイバーがその前に出て押し留める。

 

「幸子ちゃん………?」

「ボクが牽制しますから、忍さんは加奈さんを立ち直らせて下さい。」

「でも………。」

「これは加奈さんの為のバトルなんです。それに………ありすさんに言われたでしょう?変なトラウマを植え付けるなって。」

「……………。」

「頼みます。」

 

それだけを言うと、幸子のキュートダイバーは飛び上がり、0ガンダムに空中戦を仕掛け始める。

しかし、6連装ミサイルポッド等を発射しても、「GNフィールド」に防がれてしまう。

それでも幸子は諦める事無く、攻撃を続けていく。

その姿を見て、忍は加奈を画面越しに覗き込む。

彼女は………操縦する事を忘れ、泣いていた。

 

「う、うう………。」

「無理も無いか。初めてのエクストラバトルでこんなに味方が倒されていったら………。」

「うう………わたしが………わたしが初心者なのにエクストラバトルをしたいなんて言ったから………。」

「………それは違うよ。加奈ちゃんのお陰でアタシ達突破口見つけられたんだし、みんなバトルを楽しんでる。そりゃ怖い事もあるけれど、実戦を積まないと………。」

「でも、でもこのままじゃ………わたし達………。」

「加奈ちゃん、負けても………。」

 

ここで忍は言葉を止めた。

楽しむためのバトルだから負けてもいい………それは初めてエクストラバトルを経験した際に、勝つ事に縛られてしまった柚に言った言葉だ。

普通に考えればそれは正しい言葉だろう。

勝ち続けられるバトルなんて存在しないのだから。

だが、今この状況でかけるべき言葉なのかと言われたらどうだろうか。

少なくとも忍はリボンズ相手に負けるのは嫌だった。

ならば………。

 

「加奈ちゃん、負けたい?」

「え?」

「傲慢で偉そうで人を見下しているようなリボンズに負けたい?」

「……………。」

「アタシはイヤ。多分、幸子ちゃんを含め、他のみんなも。だから全力で加奈ちゃんに………託したんだよ。」

「託した………?わたしに?」

「そう、加奈ちゃんは託された。」

「託された………。」

「あ、偶然かな?リボンズのライバルである刹那さんと同じだね?………加奈ちゃんは託された。みんなの想いを。それを………初心者だからって言い訳にしてかなぐり捨てて、最初から負けたい?」

「……………。」

 

多分、凄くヒドイ事を言っていると忍は思った。

勝手に期待して勝手に責任を押し付けるなんて卑怯者のする事だからだ。

それでも………忍は………忍達は………。

 

「わたしも………イヤ。」

 

その想いを悟ってくれたのか………加奈は涙を拭いた。

そして、操縦レバーに再び手を掛ける。

 

「あんな人に負けたくない!わたし………最後まであがきたい!!」

「やれやれ………カワイイボクが体を張った意味はあったみたいですね!」

 

声に反応して振り向けば、奮闘空しく幸子のキュートダイバーが「ビームサーベル」と「ビームガン」のコンビネーションを受けて爆発していた。

 

「ゴメン、幸子ちゃん………でも、わたし!みんなの想い、ちゃんと託されたから!!」

「じゃあ、思いっきり暴れて下さい………!ボクらの分まで!」

 

相変わらず上空から見下ろすリボンズはつまらなそうにビームガンを加奈のユニコーンと忍のイグザスに向ける。

 

『託された………?そんな気持ちでボクを倒せると思っているのかい?』

「倒せるよ!………わたし、分かっちゃったから、貴方の弱点!」

『小娘の癖に見栄だけは張る!』

 

それまでとは違う加奈の強気の言葉に苛立ちを見せたリボンズはユニコーンにビームガンを連射するが、加奈は下がりながらビーム・マグナムを発射する。

その攻撃はGNフィールドで弾いてみせるが、入れ替わりで前に出た忍のイグザスが、トランザムを発動させて左腕を振りかぶり突撃する。

 

「GNフィールドで弾けない攻撃………!シグルナックルなら………!」

『当たらなければ意味は無いさ。』

 

しかし、リボンズは殴り掛かった左拳を華麗にバク宙で回避するとビームガンでイグザスの左腕を弾き飛ばす。

 

「ヤバッ………!?」

『彼女に更なる絶望を見せてあげるよ………君を落としてね!』

「それは、させない!!」

『!?』

 

声にリボンズは上空を見上げる。

深紅の閃光が弧を描きながら降って来たからだ。

それは、NT-Dを発動させたユニコーン。

 

『ビーム・トンファーかい?そんなのGNフィールドで………。』

 

ビーム兵器を受け付けない特殊なフィールドを張ったリボンズ。

しかし、そこに加奈が目を付けた「弱点」があった。

当たり前だが、GNフィールドを張る時は動かない。

そして………。

 

「実体剣は………弾けない!」

『何………を?』

 

次の瞬間、リボンズは驚愕する事になる。

落下しながら振りかぶったユニコーンの両腕に握られた剣が、GNフィールドを貫通し、0ガンダムの両腕を斬り落としたのだ。

何事かと思い、リボンズが地面に突き刺さった二振りの剣を見ると、それは青い実体剣。

ラッセのGNアームズが破壊された時に飛び散った大型GNソードの破片だったのだ。

 

『な!?僕がこんな簡単なトラップに………!?』

「今のはラッセさんとリヒティさんの分!」

 

そのまま、手持ち武器のビーム・サーベルで顔を貫く。

 

「これは、晶葉ちゃんの分!」

 

更に背中からビーム・サーベルを二振り取り出し両脚に突き刺す。

 

「拓海ちゃんと泰葉ちゃんの分!」

 

そして、ビーム・トンファーでコックピットをバツの字に斬り裂く。

 

「後、幸子ちゃんと忍ちゃんの分!」

 

最後にビーム・マグナムを太陽炉に突き付け、有りっ丈の想いを込めて照射する。

 

「最後に………わたしの分!!いっけぇーーーッ!!」

 

怒涛の連続攻撃に0ガンダムが耐え切れるはずもない。

ビームの奔流に巻き込まれ、リボンズ機は掻き消されてしまう。

 

『しょ、初心者風情がァァッ!!』

「わたしを初心者と侮った貴方の心………それが弱点だよ!!」

 

リボンズの最後の叫びと共に、最後の敵機が消えた事でミッションがクリアになる。

その表示を見た加奈は、荒い息を吐き、汗を流しながら、モニターに映る忍の顔を見る。

それに対し、彼女はこう言った。

 

「みんなを代表して言わせて貰うね………ありがとう、加奈ちゃん!勝ってくれて!!」

「!!………うん!!」

 

忍の笑顔に加奈は満面の笑顔で応えた。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

「全く………簡単なバトルと言ったじゃないですか。危うく加奈さんが暗黒面に落ちる所でしたよ?」

「本当にそうですよ。加奈さんがマフティー化したらどうする気だったんですか?」

「だから悪かったと言っているだろう、清美、ありす。私もこんな恐ろしいミッションだとは思っていなかったのだ………。」

 

エクストラバトル終了後、冴島清美や橘ありすに説教をされて頭を抱える晶葉の様子を見て、苦笑いを浮かべながら加奈は自分のガンプラを眺めていた。

ユニコーンガンダム………可能性の獣………その可能性の一端を、ガンプラバトルで知る事ができた気がしたからだ。

 

「何処となく嬉しそうね、加奈。ガンプラバトル、思ったより気に入ったのかしら?」

「はい!わたし、自分が勝てた事も嬉しかったけれど、みんなが想いを託してくれた事の方が嬉しくて………!」

「ははっ、加奈らしいな!………だが、その心はとても大事な物なのだろう。」

 

小室千奈美や木場真奈美の言葉を受けて、加奈は笑顔を見せる。

本当に、今回は大変ではあったが、大切な経験をして、大事なことを学べた気がする。

しかし………。

 

「ねえ、ネネちゃん………。」

「どうしたんですか、加奈ちゃん?」

「このガンプラを………みんな自分らしく更にカスタマイズしてるんだよね?」

「そうですね。少なくとも今回バトルに参加した5人は既に改造が出来ていますね。」

 

栗原ネネの回答を受けて、加奈は自分のユニコーンを持ち上げて呟く。

 

「わたしも………自分だけのユニコーン、作りたいな。もっとわたしらしく動けるような。」

「!?」

 

その言葉を受け、その5人のガンプラアイドル達が反応する。

彼女達は加奈の周りを囲むと早速談義を始める。

 

「やっぱりもっとスピードを強化だよな!ヅダのパーツ使うか!?」

「加奈さんは綺麗に空を飛ぶことが必要なんです!バイアラン・カスタムのパーツが必要ですよ!」

「ふふっ………羽ならば、デスティニーガンダムもおススメですよ?」

「泰葉、悪乗りしてるだろ?………いっその事ジ・O等で腕をもっと生やしてみるか?」

「晶葉ちゃんこそ悪乗りしてるじゃん!………ここはやっぱり努力のガンダムAGE-2で………!」

「わ!?わ!?わ!?」

 

いきなり色々なおススメを言われて、加奈は手をあたふたさせて、しどろもどろになってしまう。

そんな様子を見ながら、まだガンプラを持っていない者達は溜息。

 

「加奈さんのガンプラ道はまだまだ試練が多そうですね………。あたし達も加わって、正しく導きませんと。」

「折角ですから、今度は加奈さんが好きそうなガンプラの改造プランを、みんなでプレゼンテーションしてみませんか?」

「いいわね。個性的な物ばかり集まりそうだけれど、加奈ならばきれいにメモで纏められそうだし。」

「面白そうだ。私達にとってもよい刺激になるだろうし、加奈にとってもよい刺激になるだろうからな。」

「もう、皆さんやり過ぎないで下さいね。………それにしても、加奈ちゃん、やっぱりみんなの輪の中で楽しそうです♪」

 

色んな意見が飛び交う中で、加奈は困りながらも笑顔を浮かべていた。

そして、知らぬうちに気分が高揚した加奈はいつも通り腕を上げると思いっきり叫ぶ。

 

「みんなありがとう!じゃあ、立派なガンプラアイドル目指して………!」

 

お約束の言葉のサインに、皆が腕を上げる。

 

「かなかな、ファイファイ、おー!!」

 

ここにまた、一人のガンプラアイドルが誕生した。



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7章:自由を求める焔の鳥のように(飛鳥・悠貴・日菜子・マキノ・保奈美・穂乃香)・1話

中二病アイドル………それが自他ともに認める二宮飛鳥の個性であり称号でもある。

色とりどりのエクステを付け、社会にささやかな抵抗をする。

そんな痛いヤツと自らを称する14歳の心の塊である彼女は………現在、困惑をしていた。

 

「どうしたんだい、マキノさん………。君はそんなキャラじゃないだろ?」

 

346プロに設置されたカフェでスイーツを嗜む飛鳥。

その正面には、好物のパフェを前に普段の凛々しい姿からは有り得ない位、深くため息を付いている八神マキノの姿があった。

 

「先程から言っているでしょ?泉も晶葉もいつの間にかエクストラバトルを経験したって………。」

「耳に穴ができる程聞いているさ。ボクが聞きたいのは、君がそんな拗ねて、アイドルとしての醜態を見せるような人物なのかという事なんだけれどな………。」

 

先日、マキノはガンプラバトルのシミュレーターを整備する仲間である池袋晶葉や、彼女を何故か先生と慕う今井加奈から体験したエクストラバトルの詳細を語られた。

それは、本当に無邪気に楽しそうに………。

大石泉もエクストラバトルの実験に当たって村松さくらと土屋亜子の3人のユニットである「ニューウェーブ」で体験していた為に、これでシミュレーター周りを整備する人間で未経験なのは彼女だけになってしまっていた。

 

「飛鳥。貴女なら分かるでしょう?未知への遭遇への興味が。」

「まあ………確かに話を聞いていれば興味が湧かないと言えばウソにはなるが………。」

「でしょう!だからこそ、私は貴女をこうして誘おうとしているのよ!」

「マキノさん、君のキャラが壊れる!?」

 

知的好奇心から思わず語気を強めるマキノの珍しい姿に身を引きそうになる飛鳥。

マキノも………そして飛鳥も、ベースとなるガンプラを選定するだけでなく、そこから改造を加えて、自分だけのガンプラを完成させていた。

更に、それぞれ友人達と色んな大会に参加しており、それなりの実力を付けている自負はあった。

恐らくマキノはそうした飛鳥の情報もリサーチしており、こうして誘いに来たのだろう。

 

「平穏な日常から脱却して、真実の世界を見たいとは思わない?」

「………そう言えば、全ての中二病アイドルが反応すると思わないでくれ。」

 

マキノの誘い文句に(ちょっとした過去のトラウマも有り)深く嘆息する飛鳥であったが、正直に言えばエクストラバトルという物には興味はあった。

未知なる世界観の中でバトルを繰り広げれば、それだけ経験を得ることが出来る。

それは知的好奇心豊富なマキノでなくても、何物にも代えがたい物になるだろう。

 

「分かった………。とりあえず、折角のスイーツを食べてから、まずはシミュレーター室に行こう。そこならボクらのように暇を持て余した偶像達がバトルを繰り広げているはずだ。それに、その未知の世界というのは、ボクらの食事を邪魔する程、慌ただしい物でも無いだろう?」

「フフフ、そうね。後は………誰を引き込もうかしら?フフフフフ………。」

 

仲間集めを計画しているマキノの姿は、今だけは自分より遥かに幼く見える飛鳥であった。

 

 

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「あら~ぁ、飛鳥ちゃんにマキノちゃん!二人共、いい所に来てくれたわぁ♪」

「早耶さん………?どうしたんだい?ボクらの存在が渡りに船でもあるようなセリフをいきなり呟いて………?」

「オリジナルガンプラを作り上げている実力者である二人の存在が丁度欲しかったのよ!」

「ふむ………それは何か事情があるみたいね。」

 

シミュレーター室に来た飛鳥とマキノは早速アイドルの一人である松原早耶に出会う。

実は以前二人は、早耶や栗原ネネ、乙倉悠貴、喜多日菜子の4人のメンバーで構成される「TIP! TAP! FLAP!」のガンダムトーク番組に出演した事がある。

その為、このユニットのメンバーからは、その高い実力等を知られていた。

 

「実はぁ………この度、日菜子ちゃんも悠貴ちゃんも遂にガンプラデビューしちゃったの!まだベース機の段階だけれど、自分のガンプラを組み上げて、今正にバトルをしてるのよぉ♪」

「へえ、日菜子に助手………おっと、公演での役が抜けきって無かったかな。」

 

助手………というのは悠貴の事で、「追想公演」と呼ばれる演劇をした際の配役だ。

この時は飛鳥と悠貴は、加奈と矢口美羽、新田美波、木村夏樹等の面々と深い内容のドラマを演じた事で世間では知れ渡っていた。

 

「ふふっ、何だかんだ言って、飛鳥ちゃんもあの世界、気に入ってるのね。」

「ま、飛鳥の言葉を借りれば善意で構築されたっていう綺麗な世界もたまにはいいって事だろ?」

「からかわないでくれ、美波さん、夏樹さん。ボクだって一応年相応の側面は………って、二人ともシミュレーター室にいたのかい?」

「早耶ちゃん(さん)に誘われたから。」

 

会話の流れの中で自然に参加してきた美波と夏樹の二人に、飛鳥は溜息を付く。

他にも誰が早耶に誘われたのかと、よく見まわしてみれば、バトルの様子を視聴する事ができるモニター画面の前で、西川保奈美が笑顔で手招きしていた。

 

「保奈美さんもここで戯れてるんだね。ボクが言うのも何だけれど、最近はガンプラ沼という世界に漬かっているアイドルが続出している。そして、ガンプラを持たなくても興味本位で観戦するアイドルも増えてきた。言わばこれは一種のスパイラルであり………」

「飛鳥………酔いしれている所悪いけれど、保奈美は自分の改造ガンプラを持っていたはずよ。」

「………ん?そう言えば………保奈美さん、君はバトルには参加してないのかい?」

 

マキノの言葉に、TIP! TAP! FLAP!のゴールデンタイムのガンダムトーク番組で、自分のガンプラを披露していた保奈美の姿を思い出した飛鳥は、他のアイドルがバトルに参加しているのかと思い、モニターを確認する。

すると、表示は「綾瀬穂乃香VS喜多日菜子&乙倉悠貴」となっていた。

 

「今回は、1対2の変則バトルなの。飛鳥ちゃんみたいに大会経験の豊富な「ピルエット・オペレッタ」の穂乃香ちゃんの胸を借りて、初心者である二人が挑む形になってるのよ。」

「成程………如何に初心者である二人が連携を駆使して穂乃香を追い詰めるかがカギになりそうだな。………折角だし、私達も視聴しましょうか。」

「そうだね。興味深いバトルだからボクらも同伴させて貰おうか。」

 

そう言って、飛鳥達は椅子に座って試合を映し出しているモニターを見た。

 

 

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バーチャル空間を模した漆黒のフィールドにて、3機のモビルスーツが立っている。

1機は穂乃香の駆る「バスターガンダム」を元に改造した水色の「ヘリクスバスターガンダム」。

それに対峙するのは、赤黒い翼を生やした「ガンダムエピオン」と、白と水色の大きなバックパックを背負った小柄な「Vダッシュガンダム」であった。

 

「むふふ………ガンダムエピオン………その「ゼロシステム」で、日菜子の妄想を具現化して下さい~!」

 

トランスEXアクションにて銀色のオーラを纏った日菜子のエピオンは脚から取り出した「ビームソード」を握りながら、翼をはためかせ、猛スピードでヘリクスバスターに迫る。

当たれば強力な一撃の斬撃を振りかぶるが、ヘリクスバスターガンダムは軽やかにバク宙をして身を躱す。

 

「今です、悠貴ちゃん!「オーバーハング・キャノン」です!」

「は、はいっ!」

 

日菜子の言葉にVダッシュを駆る悠貴は背中の巨大なバックパックから対艦クラスの強烈なビームを放つ。

空中に飛び上がっているのならば回避は出来ず直撃………のはずが………。

 

「戦術は良好………故に予測も容易いですね!」

 

穂乃香は飛び上がりながら左腰の「94mm高エネルギー収束火線ライフル」を右腰の「350mmガンランチャー」に接続し、空中でバランスを上手くとりながら同じく戦艦クラスの「超高インパルス長射程狙撃ライフル」を放ち、ビームの相殺を行う。

 

「ええっ!?バスターガンダムであんな動きができるんですか!?」

「ひ、日菜子の予測が~!?」

 

更に穂乃香のヘリクスバスターは空中で相殺した勢いで後ろに飛びながら、落ち着いて着地し接続した腰のライフルとガンランチャーを分離し、日菜子機にバックパック上部に装備した「6連装ミサイルポッド」を放つ。

 

「あわわわわ………ゼロシステム~!?」

 

その攻勢に慌ててしまった日菜子は射撃武器として装備していた「ガンダムアスタロト」の「ライフル」を連射して応戦ながら、とにかくもう一度距離を詰めようとするが、穂乃香機は焦る事なくEXアクションの「サイクロンアックス」を選択し、回し蹴りを日菜子機に当てて引き寄せる。

 

「あう………!」

「チェックメイト。」

 

至近距離にバランスを崩しながら寄って来たエピオンに向けて350mmガンランチャーを突き付け、連射。

あっという間にエピオンはバラバラに吹き飛び日菜子機が脱落する。

 

「ご、ごめんなさい~、悠貴ちゃん!」

「日菜子さん!?………って、わわわ!?」

 

更に息を付く間もなく手持ち武器である「ストライクフリーダム」の「MA-M21KF 高エネルギービームライフル」を側転しながら連射する穂乃香のヘリクスバスターに、「ビーム・シールド」で防御をする悠貴のVダッシュではあるが、数を減らされ怒涛の攻撃を受ける羽目になってしまい、どんどん体力が減っていく。

 

「「リペアキット」!………って、このままじゃ………!」

「一気に落とします!」

 

止まっているのはマズイと思ったのか、悠貴はVダッシュに装備させているEXアクションである「MEPE」を起動させて、思いきって二本の脚で走り回る。

機体が小柄である事と悠貴の思い切りの良さが功を奏し、穂乃香機のロックオンを振り切り、背後に回り込む。

 

「こ、この距離なら………!」

 

「ビーム・サーベル」で落とせる………と得物を振りかぶった所で悠貴は固まる。

穂乃香は機体の片足を180度の角度で高々と上げ、胴体を後ろに逸らし、腰の「94mm高エネルギー収束火線ライフル」と「350mmガンランチャー」を悠貴のVダッシュに突き付けていた。

 

「バスター………ってこんな事できましたっけ?」

「それが、このヘリクスバスターの魅力です。」

 

その言葉と共に、思わぬ背面射撃を受けた悠貴のガンプラも爆発。

変則バトルは、穂乃香の勝ちという展開に終わった。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

「す、清々しい程に見事な負けっぷりだったね………。経験だけでこれだけの差が出るとは………。」

「実力差があり過ぎました………。私達、まだまだです………。」

「五飛さん教えて下さい。日菜子達は後何回負ければいいんですか?エピオンは何も教えてくれません………。」

「た、戦い方は良かったんじゃないかな?それ以上に穂乃香さんの戦術と体幹が柔軟だっただけで………。」

 

試合後、どんよりとしたムードに包まれる悠貴と日菜子を、珍しく宥める形になった飛鳥であったが、敗戦のショックが強いのか、肩を落とす二名。

どうやら、この変則バトルは穂乃香だけでなく、保奈美とも何度もやったらしく、一度も勝てていないらしい。

 

「と、とにかくだ!君達がそんなネガティブに陥るなんて、らしくは無いだろう?いつも通りに気ままにポジティブに我が道を貫いていてくれ!こっちのテンションが狂う!」

「そ、そうですね………。でも、どうすればもっと上達できるかなぁ………。」

「みんなオリジナルガンプラを作っていますが、その為にはまずは性能に慣れないといけませんからねぇ………。」

「加奈はその為の手段としてエクストラバトルに挑戦していたがな。」

「エクストラバトル?」

 

流石に見ていられないと思ったのか、合いの手を入れて来たマキノの言葉に、経験がある穂乃香と実はまだ知らなかった保奈美を含め、反応をしてくる。

そこで、今回飛鳥達がこのシミュレーター室に来た経緯が話され、丁度今6人のガンプラアイドルが集まっている事も一緒に説明される。

 

「同じく初心者だった加奈もエクストラバトルを行って一皮剥けたと聞いた。日菜子も悠貴も………勿論、熟練者である穂乃香と保奈美も試してみたらどう?」

「むふふ………それは素晴らしい話ですねぇ………。日菜子に見合った王子様と会話できるかも♪」

「王子様がいるかはともかくとして………とても新鮮な気がしますっ!」

「私は以前「フリルドスクエア」で戦った事があるけれど………あの楽しさをもう一度味わえるのならば………!保奈美さんは?」

「穂乃香ちゃんと一緒にガンダムの世界で舞って歌ってみるのも面白いわね!マキノさん、メンバーに入れて貰ってもいいかしら?」

「ええ、勿論よ。………じゃあ、早耶、美波、夏樹。早速、手伝ってちょうだい。」

 

そしていつものようにシミュレーターに手を加えて調整を行う。

ここで、データの入ったメモリを選ぶことになるが………。

 

「折角だから飛鳥、ランダムで選んで。」

「いいのかい?緻密な計算を元に行動している君が、そんな積極的に不確実な要素を組み込んで?」

「だから………よ。最初から分かりきったバトルなんてつまらないでしょ?」

「それもそうだね。」

 

マキノの提案で飛鳥が直感で選んだメモリを採用。

それをセットし、いよいよ舞台が整う。

 

「さ!スペシャルメニューの始まりよぉ♪みんな頑張ってねぇ♪」

「応援してるからね!でも無茶は禁物よ?」

「勇気と無謀は違うからな。しっかりと自分に見合った戦い方をしろよ!」

 

早耶、美波、そして夏樹のエールを受け、飛鳥達はガンプラを取り出しセットをする。

 

「そう言えば、飛鳥さんのガンプラって「ストライクフリーダムガンダム」が元になってますよね?」

「そうさ。このガンプラバトルにおける相棒は「ガンダム・リベルタ・リベリオン」。「自由を求める反逆者」という意味合いだ。」

「失礼かもしれないけれど、てっきり飛鳥さんだから「デスティニーガンダム」を使うかと思ってました。」

「フ………だからこそ、分かりきったイメージへの反逆をするのも中二病らしいだろう?」

 

飛鳥が取り出したのは、顔にエクステの付いている深紅のガンプラ。

以前彼女が撮影をした「灼熱のリベリオン」と呼ばれる炎帝のような恰好の姿をモチーフに作成しているのが特徴で、「バルバトスルプス」の同じく深紅の巨大な「ソードメイス」がメイン武装となっていた。

このソードメイスには、実はある特殊な効果が秘められているのだが、それをエネルギー面で支えているのが腹の「カリドゥス砲口」の代わりに埋め込まれている「太陽炉」。

EXアクションで「トランザム」が使える他、「GNフィールド発生装置」と「シールドビット」がマント状に組み合わされており、外見のアクセントと防御性能を一体化させていた。

この他、「アストレイレッドフレーム」の腕と「ストライクノワール」のバックパックにより「光雷球」、「2連装リニアガン+フラガラッハ3ビームブレイド」も兼ね備えており、バランスの良い武装と飛鳥なりの中二病らしさを表現。

ビームと実体武器がバランス良く組み入れられている安定感のある改造と言えた。

 

 

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「光雷球は、「碧落のリベレイター」要素でもあるのね。今までの飛鳥ちゃんの撮影での要素を上手く取り入れるなんて素敵だわ。」

「ボクとしては、保奈美さんの「ガンダムヴォーチェ・リゾナンツァ」のような、作品内でのコンセプトを見出した設定も称賛に値すると思うよ。」

「ふふっ、ありがとう。私の好きなオペラの歌の要素をどう組み込もうか考えたらこうなったのよ。」

 

保奈美が見つめるライトブルーの四肢の太いガンプラは、「ガンダムヴァーチェ」を元に、頭を「ガンダムエクシア」、胴体を「ダブルオークアンタ」に置き換えた物である。

ヴォーチェとはイタリア語で「声」、リゾナンツァは「共鳴」を意味しており、「響き渡る声」と命名しているのが大きな特徴だ。

設定としては、対「ELS」戦後、同様の存在との接触を想定したイノベイター用量産機開発を目的に先行設計された実験機であり、「純正太陽炉」1基と紫の「GN粒子」を発する「擬似太陽炉」2基で、広域へ高濃度粒子領域を展開し接触相手に「声を伝える」ことを主目的にしている。

残念ながら戦闘に突入した場合は、「GNキャノン」4門による「カルテットキャノン(フォートレスフォアブラスター)」や「GNバズーカ」の火力での高出力での支援も可能で、声を伝える力で戦闘での指揮や情報伝達にも長けている。

只、戦闘を行うだけでなく、対話の為の機能も備えた、保奈美の優しさを表現しているのだ。

 

 

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「マキノさんの機体は「ジム・エージェントアサルト」だったね。只の「ジム」だと思って侮ると痛い目を見るとか………。」

「貴女の機体と同じく「ヴァリアブルフェイズシフト装甲」を兼ね備えているもの。………もっとも、私の機体はそれを戦闘以外の要素に使う事がメインだがな。」

「………君の性格と合わせて考えると、末恐ろしいよ。」

 

マキノが不敵な笑みを見せながらセットしたのは黒いジムをベースに改造をした機体。

ジムをスパイ仕様にチューンアップした特別仕様であり、特殊なヴァリアブルフェイズシフト装甲によって、機体強度だけでなく、傷や汚れ等の一部形状、質感まで変化・再現させることが可能となっている。

そして、「ガンダムNT-1」の右腕に内蔵された「ロケットアンカー」状のクラッキングシステムでネットワークに侵入、情報を奪取するのが目的としているのだ。

勿論、戦闘でも強化が施されており、アサルト仕様は夜間迷彩とエネルギー節約を兼ねて、機体強度が落ちる代わりに、消費電力の低い黒のVPS装甲を採用。

ガンダムNT-1の「90mmガトリング砲」や膝に装備した「イージス」の「ビームサーベル発振刃」、「ジムⅢ」の脚の「大型ミサイル・ランチャー」、「ガンダムMk-Ⅱティターンズ仕様」の「シールド」に備えられた「ミサイル・ランチャー」等の暗器類の他、何処から奪ってきたのかトランスEXの「HADESシステム」という奥の手まで備えている。

 

 

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「むふふ………皆さん、それぞれの素敵な妄想を備えていますねぇ………。日菜子もいずれは王子様が迎えに来てくれるような………!」

「その為のベースとしてまずはエピオンを選んだみたいだけれど………、いいのかい?一応主人公も乗ったとはいえ、敵側の機体だよ?」

「王子様は剣と盾で戦うのが鉄則なのです!後、そこはここから日菜子の妄想パワーでいくらでも………むふふふふ………。」

 

完全に得意の妄想で上の空になっている日菜子がベース機として大切に組み上げたのは、W世界のラスボス機でもある赤いガンダムエピオン。

強大な出力を誇るビームソードやシールドから伸びる伸縮自在な「ヒートロッド」、回転しながら爪で攻撃を仕掛ける「エピオンクロー」等、接近戦に長けた………というか、接近戦しかできない機体であり、必ず敗者にならなければならないモビルスーツだと作中で言及されている。

流石にこれだけだと問題なので、日菜子は手持ち武器として、剣と盾で戦う王子様らしく「ウイングガンダム」の「ビームサーベル」を装備し、射撃武器は以前シューティングゲームで培った技術を活かす為、アスタロトのライフルを持っている。

更にトランスEXのゼロシステムの他、日菜子の妄想を活かす為に「エクスカリバー」のEXを装備し、ビームサーベルをブーメラン状に投げ、返って来たそれをキャッチするモーションを、「どこからともなく王子様が助けてくれた」風に見なしている。

 

 

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「そして、助手………じゃなかった、悠貴はVダッシュか………。」

「今は助手でもいいですよっ♪何か久しぶりに飛鳥さんとの公演を思い出しますし、これからのバトルで教わる事も多いですから!」

「恩に着るよ。………で、助手は分かりやすい構成のガンプラを選んだわけだね。」

 

悠貴が、外れそうになっていないかどうか接着面を入念に確認しているガンプラは、白と水色のVダッシュガンダム。

ハードル走を得意としている上に、走る事が好きな悠貴にとって「ダッシュ」の文字が印象的に映ったのがこの機体の選択理由である。

「ビーム・ライフル」やビーム・サーベル等、オーソドックスな武装が備えられているが、この機体の一番の特徴的な武装は、先程のバトルでも見せた背中の巨大な「オーバーハング・パック」に備え付けられているオーバーハング・キャノン。

戦艦の主砲クラスのビームを2門発射する事ができる他、高機動のブースターにもなっている為、火力と機動力もの両方を高めることが出来るのがポイント。

これに加え、悠貴オリジナルの要素として、トランスEXのMEPEを装備しており、元となった「ガンダムF91」のように、とにかく得意の足捌きと反応速度でかき乱していく事を得意技として磨いていた。

 

 

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「そして、最後に穂乃香さんのヘリクスバスターガンダムか………。フリルドスクエアで挑んだ時は司令塔を務めたんじゃないのかい?」

「よく分かりましたね。」

「後方支援役な上に落ち着いた性格だからね。戦況の把握は一番できると睨んだだけさ。………折角だし頼りにさせて貰うよ?」

「任せて下さい!では、私もセットして………。」

 

 

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6人のガンプラがセットしシミュレーターが立ち上げられる。

後はカタパルトから、順次発進するだけでよかった。

 

「えっと………発進コールは、今日は私、美波が担当させて貰います!………何で、早耶ちゃんも夏樹ちゃんも私を推すんだろう?」

「鼓舞の仕方の問題じゃないのかい?………とにかく宜しく頼むよ、美波さん。」

「じゃあ、行きますね♪ガンダム・リベルタ・リベリオン、発進お願いします!」

「了解。二宮飛鳥………まあ、14歳なりの矜持、見せてみるさ。」

「素直じゃないなぁ………。ガンダムヴォーチェ・リゾナンツァ、発進お願いします!」

「力強く、そして空高く歌う事を忘れずに………西川保奈美、新たなる邂逅を目指して!」

「どんどん行きますね。ジム・エージェントアサルト、発進お願いします!」

「フフフ………遂に私もエクストラバトルを………!八神マキノ、データは頂くわ!」

「て、テンション高い………?ヘリクスバスターガンダム、発進お願いします!」

「あの興奮をまた掴み取る為に………!綾瀬穂乃香、華麗に舞い踊ってきます!」

「日菜子ちゃんも頑張ってね!ガンダムエピオン、発進お願いします!」

「妄想テンションはマックスです!喜多日菜子………王子様ぁ!待っていて下さい!」

「悠貴ちゃんも恐れないでね!Vダッシュガンダム、発進お願いします!」

「ハードルを飛び越えるように新しいバトルも飛び越えてっ!乙倉悠貴、行きまーすっ!」

 

6人のガンプラアイドル達は次々と飛び出していった。

この時、飛鳥達は知る由も無かった。

今回の舞台は、いつもよりも「IF」という「夢」に溢れた戦場である事を。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

飛鳥達が降り立った舞台は、一面黄土色の土に覆われたなだらかな荒野であった。

周りには同じ色の山が見え、空は若干曇っているような感じである。

 

「変わった戦場ですね………。マキノさん、ここは何処でしょうか?」

「そうね。何か機械の類でもあればハッキングして調べる事も出来るのだけれど………。」

『ここは「火星」だ。』

 

第三者の言葉に一同は振り向く。

そこには、白い大きな槍と盾を持った機体が立っていた。

 

「「獅電」………いや、「獅電(オルガ専用機)」か。」

『乗ってるのはオルガじゃないけどな。一応、自己紹介しとくか。「ユージン・セブンスターク」だ。』

「「鉄華団」の副団長か。じゃあ、何だい?君達と一緒に「ラスタル陣営」と戦うのかい?」

『いや、違う………。』

 

飛鳥の言葉にユージンはやや機嫌が悪そうな声で話す。

 

『何ていうんだ?今回はそういうの無しなんだよ。』

「どういう意味なの………?」

『つまり、陣営関係無しって事だ。鉄華団とか「ギャラルホルン」とかそういう括り無しで………、メタ的な事で言えば、「ガンプラアイドルVSオルフェンズ代表」って事なんだよ。』

「オルフェンズ………代表?」

 

つまり、ユージンの言葉を解釈すれば、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」に登場した代表的な機体が飛鳥達と対峙するって事になる。

 

『………ってなワケで俺はアンタ達にとって敵だ。んで、だから………。』

 

ユージンの言葉に2機、ホログラムが出現する。

派手なオレンジ色の獅電に似た機体に、派手なピンク色の背中に何か背負った機体。

 

『俺!「ライド・マッス」の「雷電号」と!』

『「ノルバ・シノ」の「流星号」!………一応「ガンダム・フラウロス」が正式名称か?』

『とにかく俺達が最初に相手するっスよ!』

「成程、君達3人が相手なんだね。ならば早速………。」

『あー………いや、本当は4人なんだ。………4人?いや、4人だよな、一応………。』

 

とてつもなくイヤそうなユージンの言葉に何事かと思いきや、更に彼等の前にホログラムとしてカーキ色をメインとした機体が出現し………。

 

『ガンプラアイドルどもめ!この「イオク・クジャン」専用機である「レギンレイズ」の裁きを受けよ!!』

「……………。」

『ねえ………何で俺達、アイツのお守しなきゃならないんスか?』

『仕方ねえだろ………押し付けられたんだから………。』

『………というわけだ。アイツに関してはもう煮るなり焼くなり好きにしてくれ。』

 

一応イオクの味方扱いになっている3人の如何にも面倒そうな言葉に、6人のガンプラアイドル達はしばし沈黙。

そして、飛鳥が一言。

 

「………惜しいな、「レンチメイス」とかあれば、潰せたのに。」

『ま、待て待て!?貴様ら!?何でトドメを刺す話を既に話している!?』

「………まあ、いいさ。見せてやろうじゃないさ。ガンプラアイドル達の矜持を………しばし、この夢のような空間に浸りながら………ね。」

 

飛鳥は自然と強気の笑みを浮かべて、IFの世界に没頭し始めていた。



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7章:自由を求める焔の鳥のように(飛鳥・悠貴・日菜子・マキノ・保奈美・穂乃香)・2話

『行くぞ!邪なるガンプラアイドル達め!』

 

バトルが始まった途端、イオク・クジャンのレギンレイズは「長距離レールガン」を構える。

威力・射程共に従来のライフルを上回っており、取り回しにも優れる物であるが、問題は………。

 

『当たれ!!』

「あ………。」

 

狙われたはずの乙倉悠貴のVダッシュガンダムの動きが思わず止まる。

それもそのはず………狙いが明後日の方向を向いていたのだから。

 

『躱すか。賊にしてはやる………!』

「あの、私何もしてないですけれど………。」

 

イオクの下手過ぎる射撃に思わずツッコむ悠貴であるが、レギンレイズは実体剣である「ナイトブレード」を振りかざし、一直線に突撃してくる。

 

『正義の一撃を受けよ!』

「え、ええ………?」

 

次の瞬間、そのナイトブレードが真っ二つになる。

悠貴のVダッシュがビーム・サーベルで防御したのだ。

ビームの刀身に、コーティングも無い実体剣を真正面から当てれば、溶解して折れるのは当然なのだが………。

 

『ば、バババ馬鹿な!?正義の一撃がこんな簡単に………!?』

「あ、飛鳥さーん!どうすればいいですか!?」

 

イオクの間抜けっぷりに付いていけなくなった悠貴の言葉に、二宮飛鳥のガンダム・リベルタ・リベリオンは高速で悠貴機の背後に接近すると、その上からソードメイスを振り上げ、敢えて「面」の部分で上から叩きつけEXアクションの「デッドエンドインパクト」を放つ。

 

『あ、あああ………この展開は………!?』

「チャンスがあれば、すかさず引導を渡しておけばいいさ。」

 

メキメキと嫌な音を立てたイオク機は、そのまま潰されていく。

 

「サヨナラだ。」

『あああああいやああああああああ!?』

「う、うわぁ………。」

 

情けない悲鳴と共に、イオク機は潰され爆発。

アイドル側は、呆気無く1機落とす事に成功する。

 

『全然役に立たないじゃないっスか!?』

『落ち着け………予測できた事だろ………。』

『とにかく弾幕を張れ!』

 

ユージン・セブンスタークの獅電(オルガ機)を筆頭に、ライド・マッスの雷電号と、ノルバ・シノのガンダム・フラウロス(流星号)がそれぞれ手持ち武器の「ライフル」や「マシンガン」を連射する。

特に、フラウロスのマシンガンは2門ある分、連射性能も威力も強烈だ。

しかし、その砲撃に対し、西川保奈美のガンダムヴォーチェ・リゾナンツァが前に出て、太陽炉と2つの擬似太陽炉から構成された紫のGNフィールドを展開して盾となる。

これにより、喜多日菜子のガンダムエピオンや、綾瀬穂乃香のヘリクスバスターガンダム、八神マキノのジム・エージェントアサルトは全く被弾しなくて済む。

 

『GNフィールド、スゲエ!?………って、俺達どうすればいいんスか!?』

『ライド!「ガントレットシールド」で殴れ!俺は「パルチザン」を使う!シノはアレ準備しろ!』

『おう!』

『了解っス!………って、わあッ!?』

 

そう意気込んだライドの雷電号であったが、突如飛来してきた極太のビームの束に、軽減する力を持つとはいえ、「ナノラミネート・アーマー」の限界許容量を超えてバラバラに吹き飛ぶ。

ヴォーチェ・リゾナンツァが両肩の4門のカルテットキャノン………フォアフォートレスブラスターのEXアクションを放ち、雷電号に集中砲火を喰らわせたのだ。

 

『ちょ、ちょっと流石にそれは無いんじゃないっスか!?』

「ゴメンなさい、私の場合はこうするのが、一番効率がいいから………。」

 

両肩の砲門から殲滅級のビームを撃った保奈美機はすかさず下がる。

すると、今度は上空から黒いジム………マキノのエージェントアサルトがユージン機の前に降下し、至近距離から「ジェスタ」の「ビーム・ライフル」を連射。

 

『うお!?』

「それ、借りるわね。」

『何!?』

 

獅電が怯んだ所で、右腕のロケットアンカーを移出し、パルチザンの槍の柄を掴むと思いっきり引っ張って何と奪い取る。

 

『おい!?そんなのアリかよ!?というか、「借りる」じゃなくて「頂く」の間違いだろ!?』

「あら?バトルで盗んじゃいけないって決まりは無いわよ?」

 

そのまま膝のビーム発振刃を展開せずに回し蹴りを放って巨大な「ライオットシールド」を弾き、コックピットにシールドのミサイル・ランチャーを直撃させて獅電も破壊。

 

『クソっ!シノ、後は頼むぞ!』

『任せろ!1体くらいはコイツで………!』

 

シノがそう言うと、フラウロスは両手を付き、両足を回転させて四足歩行モードに入ると、背部に搭載された1対の「レールガン」を動きが一番鈍そうなヴォーチェ・リゾナンツァに向けて発射する。

 

『ギャラクシーキャノン………発射ァッ!!』

 

だが、その強烈なドリルのような槍の弾丸が当たる瞬間に、保奈美機は赤く光り高速移動をして回避する。

トランスEXの「トランザム」を発動させたのだ。

 

『外れた!?ってか、あんなデカい手足して速いのかよ!?』

「出力に助けられました。………さて、どうします?」

『射撃が無理なら白兵戦に決まってるだろ!』

 

その強気な発言と共に二足歩行モードに戻ると、右手で「アサルトナイフ」を構え保奈美機を狙おうとするシノ機。

しかし、その横合いから穂乃香のヘリクスバスターが右腰の350mmガンランチャーを前に、左腰の94mm高エネルギー収束火線ライフルを後に連結して、「対装甲散弾砲」の拡散弾を横合いから放つ。

 

『まだまだァ!』

 

だが、その拡散弾を左腕で庇う形で耐えたシノ機はまだ前に突き進む。

 

「日菜子ちゃん!」

「はいぃ!」

 

そこに今度は日菜子のエピオンが、左腕の盾から伸縮自在のヒートロッドを伸ばし、アサルトナイフを構えた右腕を弾き飛ばす。

 

『うおおおおおおおお!!』

 

両腕を無くしたフラウロスは尚も腰の下部アームにマウントしたままのマシンガンを、GNフィールドで防御できない至近距離で放とうと、保奈美機に接近しようとするが、穂乃香機が今度は「グフカスタム」の「ヒート・サーベル」を構えると一直線に飛び、そのコックピットに思いっきり突き刺す。

ここまでして、ようやくフラウロスの動きが止まる。

 

『あー………これで終わりかぁ………。』

「凄まじい執念ですが、1機じゃ無理です。」

『………なあ、アイドルのおっぱいって柔らかいのか?』

「貴方はいきなり何を言ってるんですか………。」

『いや………俺達お袋の味ってヤツを知らなくてさ………だから心が豊かになるってそういう事なのかなって………。』

「……………。」

『まあ、ガンプラバトルで良かったよ。整備してくれたヤマギには悪いがな………。』

 

そう言ったシノは満足そうな顔をして………ヒート・サーベルを抜いた穂乃香の前でフラウロスは爆発した。

 

「鉄血のオルフェンズ………悲劇的な結末を迎えた作品として有名ですよね。そんな彼等にとって、この闘いは救いなんでしょうか?」

「彼等にとってはこの世界はそれこそ善意で成り立つ夢なんだろうね。それを虚しい足掻きとして捉えるか、それとも闇に照らされた光のような救いとして捉えるか………。ところで、マキノさん、何でパルチザンを盗んだんだい?」

 

飛鳥の質問に、マキノは白い槍であるそれを悠貴のVダッシュに差し出す。

 

「悠貴にあげようと思ってな。………この世界の敵は、ナノラミネート・アーマーを備えている。つまり、ビーム兵器だけじゃ戦えない厄介な猛者ばかりが登場する事が予測されるわ。」

「確かに………アレ?という事は………!?」

 

ハッとした悠貴に応えるように、今度は上空から2機の機体が降下してくる。

黄金の剣を二本携えた白い二刀流の剣士と、紫の大型の槍を携えた青色の騎士と。

 

「「マクギリス・ファリド」の「ガンダム・バエル」に、「ガエリオ・ボードウィン」の「ガンダム・キマリスヴィダール」………!?」

 

反射的にEXアクションの「フィールドオフェンサー」で攻撃力を強化した保奈美の前で、二人は何かを喋りだす。

 

『ガエリオ。アグニカ・カイエルの魂に誓ってここに宣言しよう。今度こそアルミリアを幸せにしてみせると。』

『マクギリス………。お前はアルミリアかバエルかアグニカ・カイエルしか言えないのか………?』

『アグニカ・カイエルの遺したバエルは私の全てだ。故に、この機体でアルミリアを幸福にする事こそ、我が宿命とも言える。』

『わけが分からないよ、マクギリス………。』

 

リボンズのように両腕を広げ、悠々と空を飛ぶマクギリスのバエルと、頭を片手で抱えるがガエリオのキマリスヴィダールを見て、唖然とするガンプラアイドル達。

それを見たガエリオはコホンと咳払いとして改めて一言。

 

『と、とにかくマクギリス。頼むから真面目にやってくれ!』

『………私はいつでも真面目だが?』

『そういう所はある意味頼りになるよ………。とにかく行くぞ!』

『フ………任せろ。今だけは味方だからな。』

 

その瞬間、二機のガンダムフレームが………異なる「阿頼耶識」の超反応を発動させた二機が、閃光のように加速して消える。

気付いたらバエルは「バエル・ソード」の剣でマキノのエージェントアサルトのヴァリアブルフェイズシフト装甲で強化された右腕を斬り飛ばしており、キマリスヴィダールは悠貴のVダッシュの左腕に「ドリルランス」の槍からの「200mm砲」の至近距離からの連射を喰らわせ、ビーム・シールド発生装置を破壊していた。

 

「な!?フェイズシフトの効果が無い!?」

『フェイズシフト………?バエルの前に効くと思ったのか?』

「そんな、見えなかった!?」

『俺とアインの力を侮るな!』

 

慌ててリペアキットを使いながら、マキノ機が左腕から90mmガトリング砲を放ち、悠貴機がオーバーハング・キャノンを撃つが、それを2機とも簡単に回避すると、互いに空を舞うように飛び交い、「電磁砲」と200mm砲を、何とか狙いを付けようとしている穂乃香機に集中させていく。

 

「動きを止めないと………!?でも速すぎて………!?」

 

穂乃香機が保奈美機のGNフィールドに庇われる形になった所で、今度は2機共、バエル・ソードとドリルランスを飛鳥のリベルタ・リベリオンに喰らわせてくる。

 

「クッ………閃光のようなスピードで………というか難易度設定が間違っている!?」

 

どうにかヴァリアブルフェイズシフト装甲で受け止めた飛鳥は反撃とばかりにソードメイスを振り回すが、すぐに離脱されて空振りに終わってしまう。

それを見ていたマキノは右腕が赤外線レーザーで戻ってくるのを確認しながら、左腕などを回しつつ、日菜子に一言。

 

「日菜子………空中戦に対応できる機体が貴女しかいないわ。」

「えぇ!?ひ、日菜子の実力じゃあの2機は無理ですよぉ!?せめて、ビームが効けば………。」

 

当たり前ではあるが、バエルもキマリスヴィダールも阿頼耶識から成り立つ「ナノラミネート・アーマー」を備えている。

それ故に、効く兵器が制限されているのが難点であった。

 

「飛鳥、確か貴女の武装………。」

「………動きを止める事が前提だよ。あんな彗星のようなインファイターが2機も相手じゃ、狙いも定まらない。」

「成程………。」

「マキノさん、何か策があるんですか?」

 

穂乃香の言葉に、マキノは素早く内線で閃いた作戦内容を送る。

そうしている間に、またバエルとキマリスヴィダールの2機が突撃をしてきた。

 

「まずはバエルだ。私が前に出る。」

『ほう………また斬られるか?』

 

マクギリスのバエルがまた閃光のようにバエル・ソードを振るってきたのに対し、前線に出たのはマキノのジム・エージェントアサルト。

先程、フェイズシフトを無視して斬られた事から、マキノは「ターンエーガンダム」の「ビーム・サーベル二刀流」を両手に持ち、コマのように縦回転して斬りつけ先制攻撃をしようとする。

 

『無駄だ。』

 

しかし、マクギリスのバエルはそのビーム・サーベルをナノラミネート・アーマーによる白い綺麗な装甲で受け止めると、何事も無かったかのように右手のバエル・ソードを振りかざして、何とマキノ機のビーム・サーベル二刀流の柄のビーム発生装置の部分を破壊し、武装解除を行う。

 

「何っ!?武器の扱いに関する技量が違う………!?」

『終わりだ。』

 

あくまで淡々とマクギリスは左手のバエル・ソードを振りかざすと、後退しようとするマキノ機の装甲の右肩から左腰へ、袈裟斬りにしようと剣を振り下ろす。

その重い一撃により、エージェントアサルトの黒い右肩が赤く血に染まる。

 

『血………?』

 

そこでマクギリスは違和感に気づかされる。

モビルスーツから血が出ている事もそうだが、叩きつけたバエル・ソードが今度はマキノ機の装甲を斬り裂かず、止まってしまう。

 

『まさか………?』

「………でも私は、こっちの「技量」に優れているのよ。」

 

直感故か、バエル・ソードを引こうとしたマクギリスだが、その剣に対して、マキノ機が右腕からロケットアンカーを移出し、掴み取る。

意図せず2機によるバエル・ソードの引っ張り合いになってしまう。

 

『赤い血………いや、赤いヴァリアブルフェイズシフト装甲。消費電力を上げて、その部位だけ一時的に装甲を強化したのか?』

「あら、理解が早くて助かるわ。貴方達の攻撃が赤い装甲の飛鳥の機体に防がれたのを見て、ティンと来たのよ。」

『だが、この剣の軌道に合わせて装甲を強化するのは並大抵の技術では無理なのでは無いか?』

「こういう操作は得意なの。………だから、褒美としてその剣、貰うわよ!」

 

ユージン機に対して行ったように、また左手のバエル・ソードを盗もうと思いっきりロケットアンカーを引っ張るマキノ機に、同じように取られまいとマクギリス機もバーニアを吹かし、右手に持ったバエル・ソードでロケットアンカーの先端部分に叩きつけて破壊しようとする。

徐々に形を崩していくロケットアンカー。

 

『無駄な努力だったな。』

「無駄かどうかは………貴方の目で確かめて………なんて。」

『!?』

 

次の瞬間ロケットアンカーを離したマキノのエージェントアサルト。

僅かだがバランスを崩したバエルに向けて、今度はマキノ機の後ろから、飛鳥のリベルタ・リベリオンが巨大なソードメイスを振りかざし急降下してきた。

 

「敢えて言おうか。………この瞬間を待っていたと!」

 

そのまま真っ赤なソードメイスで装甲を斬り裂く飛鳥機。

勿論、それだけでは致命傷にはならない。

だが………斬りつけられた綺麗なはずの胸の装甲が、焼け焦げたのだ。

 

『ナノラミネート・アーマーが焼け剥がれただと………?』

「ボクのソードメイスはGNドライブから生み出されている、粒子を熱変換する加護を受けている。「GNソードⅢ」等に実際に使われた技術さ。」

 

そのまま焼け剥がれた装甲に向けて、至近距離に一気に迫り、左手の光雷球による圧縮ビームを喰らわせる。

明らかにこれまでと違い、ダメージが通った。

 

『クッ………成程。だから熱で焼き切って破壊する事ができ、それが不可能な場合でも、こうして特殊装甲を無力化できるわけか………。』

「マキノさんじゃないけれど、理解が早くて助かるよ。」

『だが、バエルの加速力の前には一時的な隙と多少の装甲の脆さなど………。』

「いや、もう君は詰んでいるよ。」

『何………?』

 

一度距離を取ろうと飛び上がったバエルを駆るマクギリスは見る。

飛鳥の言葉に応えるように、彼女の背後で巨大な緑のビームの剣が形成されていくのを。

 

「ビームさえ通れば、日菜子のエピオンの最大出力のビームソードが火を吹きます~!!」

『今までの行為はこの為の布石か………!?』

 

マクギリスは阿頼耶識を全開にして飛び回るが、日菜子もトランスEXのゼロシステムを発動し、追いかける。

そして、「ビームソード(最大出力)」を思いっきり振りかざすと空中を素早くジグザグに飛ぶバエルを狙う。

 

「日菜子は………王子様に会うまで負けれませ~ん!!」

 

ゼロシステムによる予測能力を駆使した日菜子は、僅かだがバエルの軌道を読む。

その「僅か」が、勝敗を分けた。

 

「たああああああああああ!!」

『すまない………アルミリア………私は………。』

 

巨大なビームの波をまともに受けたバエルは、掻き消されるように爆発をする。

 

「や、やりましたぁ………?」

「だね………。君の勝利だ、日菜子。」

「バエルに勝てた事、誇っていいわよ。」

 

難敵であったが、飛鳥達3人の連携で何とか退ける事に成功した。

 

『マクギリス………詰めが甘いんだよ!』

 

一方でガエリオのキマリスヴィダールに対しては、穂乃香のヘリクスバスター、保奈美のヴォーチェ・リゾナンツァ、そして悠貴のVダッシュが挑んでいたが、かなりの苦戦を強いられていた。

何せ機動力がバエル並みに半端ない上に、こちらは飛鳥機のようなビームを貫通させる手段が無い。

加えて3機共射撃重視の機体である事が、高機動格闘戦主体のガエリオ機に好きに振る舞わせる要因になっていた。

 

『頼む、アイン!………届けさせてくれ!』

 

何度目かの攻防で、膝に仕込まれた「ドリルニー」を保奈美機に喰らわせるガエリオ機。

すると、今まで防御していた分、もう耐え切れなかったのか、「エクシア」の「GNシールド」が破壊されてしまう。

 

「シールドが………!?こうなったら………!」

 

至近距離に相手が居る事を逆手に両肩のカルテットキャノンを発射する保奈美機。

機体はナノラミネート・アーマーで大した効果は無いが、手持ち武器のドリルランスは耐え切れずに爆発を起こす。

 

『それしきの事で!』

 

だが、新たに取り回しの優れる「刀」を取り出したキマリスヴィダールは、厄介な両肩のキャノンを斬り飛ばしてパーツアウトさせて、一時的にカルテットキャノンを封じてくる。

悠貴機がビーム・ライフルのチャージショットを、穂乃香機二丁のMA-M21KF 高エネルギービームライフルを連結させて、それぞれ強力な砲撃を放った事でガエリオ機はようやく一時離脱するが、保奈美機はまたリペアキットを使わざるを得なくなる。

 

「穂乃香さん、どうしましょうか………。バエル優先で、マキノさん達の方に有効な機体を回しましたから………。合流するまでリペアキットで何とか耐えます?」

「最悪在庫が無くなりますね………。では、ビームが効かない………のならば、こちらは「ハシュマル」並のビームを炸裂させてみましょうか。」

「ハシュマル並………?」

「え?でも、オーバーハング・キャノンでも………。」

 

そこで二人に穂乃香が驚くような指示を送る。

そうする内にガエリオのキマリスヴィダールがまた突撃してきた。

 

『まずは初心者の貴様を倒す!』

「私の所に来た!?だったら………!」

 

悠貴はオーバーハング・キャノンをガエリオ機に放つ。

勿論、ナノラミネート・アーマーがある故に威力は大幅に軽減されてしまう。

だが、そこに………。

 

「GNバズーカ………ハイパーバーストモード!」

 

保奈美機がGNバズーカから巨大な圧縮粒子を放ち、悠貴機の攻撃で、僅かながらに動きが制限されたガエリオ機に球体のビームを当てに行く。

 

『どんなことをしても無駄だ!』

 

ガエリオは背部からサブアームで接続されている「シールド」で防ごうとする。

だが、その球体は圧縮されている事により、シールドにぶつかっても簡単には消えない。

 

『何だ!?この粘土のような………!?』

「穂乃香ちゃん!」

 

そこで穂乃香のヘリクスバスターが、両腰のライフルを接続させ、超高インパルス長射程狙撃ライフルの構えに入る。

だが、ここで驚くべき事態が発生した。

 

「フェイズシフト………ダウン。」

 

水色のヘリクスバスターの装甲がグレーに変わる。

「フェイズシフトダウン」で、対弾性能のあるヴァリアブルフェイズシフト装甲をオフにしたのだ。

つまり………。

 

「これで、エネルギーを攻撃に全て回せます。」

『な、何!?』

「銃身が焼け着くまで………とはこの事です!」

 

そして、まだビームの球体に動きを縛られているキマリスヴィダールに、極太のビームを発射する。

元々超高インパルス長射程狙撃ライフルも、戦艦を撃ち落とせるだけの威力があるビーム砲だ。

それを過剰なまでにエネルギーを集中させて強化すれば、その一撃はそれこそハシュマルのようなモビルアーマークラスにまで底上げできる。

 

『グッ………!?正気か!?最悪機体が耐えられないぞ!?』

 

凄まじいビームの奔流を受けたキマリスヴィダールは、何とか耐えようとするが、シールドが真っ先に吹き飛び、刀も吹き飛び、庇おうとした両腕も耐え切れずに吹き飛んでいく。

一方で、穂乃香の超高インパルス長射程狙撃ライフルも、煙を吹きスパークし始める。

そして………ライフルの方が先に爆発を起こし、支えていたヘリクスバスターの右腕も吹き飛んだ。

 

「これで限界………!」

『た、耐え切った………しかし何て………いや!?』

 

そこでガエリオは更に悠貴のVダッシュがパルチザンを構えて突撃してくるのを見る。

ダメージが溜まって両腕が吹き飛んでいる今、キマリスヴィダールに出来る事は限られている。

 

「い、行きます!」

『侮るなぁッ!!』

 

それでも膝のドリルニーを喰らわせようと逆に突撃をするガエリオ機だったが、行動を予測できた悠貴はギリギリの所で動体視力を活かし、MEPEのトランスEXを発動。

 

「走り回れば………勝機はっ!!」

 

膝蹴りを躱し、素早く背後に回ると、コックピットを全身全霊の力で貫く。

 

『また………俺は………マクギリスの事も言えないか………すまない………アイン………。』

 

嘆息したガエリオの言葉と共に、キマリスヴィダールも爆散した。

 

「げ、撃破しました………。って、大丈夫ですか、保奈美さん!穂乃香さん!」

「リペアキットを使えば大丈夫よ。………あまり残りは無いけれど。」

「武装も思った以上に削れたし残りがどうなるかですね………。」

 

肩に戻って来たキャノンの調子を確認する保奈美と、再びフェイズシフトでガンプラを水色に輝かせる穂乃香は心配する悠貴の言葉に答える。

そして、程なくして飛鳥達も合流してきた。

 

「マクギリスとガエリオ………。本編で分かり合えそうで分かり合えなかった二人がここで邂逅するなんてね。救いを求める者達から見たら、それこそ神が送ったプレゼントのように感じるんじゃないのかな?」

「本編で本気で組む事になったらどれだけ恐ろしいのか、今回思い知らされましたけれどね………。」

「私もハードなバトルの展開はあまり好きでは無いがな………。しかし、興味深い物だ。鉄華団とギャラルホルン………それらの混合軍というのは。」

 

保奈美がフィールドオフェンサーを使う間に、このIFのバトルに付いて考え合う飛鳥達。

恐らく次が最後であろうが、出てくる組み合わせはまた夢のような物なのだろうか?

そう考えていた所で………いよいよその最後の3機がアラートと共に降って来た。

 

『よし………筋肉隊、覚悟を決めろ!最後に意地を見せる!』

『待て!私を含めるな!?………三日月と言ったな!?お前はそれでいいのか!?』

『オルガが言ったのならいいんじゃない?………面倒だからさっさと始めよ。』

『待て待て!始める前に、貴様らは自己紹介くらいできないのか!?』

『自己紹介って何言えばいいんだ?所属か?』

『例えば家族構成とか恩師とか………。』

『昭弘・アルトランド!弟が一人!嫁が一人!』

『三日月・オーガス。妻が二人。息子が一人。オルガが一人。』

『すまん………私が悪かった………。』

 

振ってきたのは四本の腕の力強そうな橙色の機体と、両手で頭を抱えてうずくまるダークグリーンの機体と、そして尻尾の生えた白い狼のような機体。

「昭弘・アルトランド」の「ガンダム・グシオンリベイクフルシティ」と「ジュリエッタ・ジュリス」の「レギンレイズ・ジュリア」と………そして、「三日月・オーガス」の「ガンダム・バルバトスルプスレクス」であった。

 

「わ、分かっていたとはいえ………最後に………常識の通じない連中が来たね………。」

 

無茶苦茶好き勝手に言いまくる3機の凸凹発言に、飛鳥の声は思わず恐怖とは違う意味で震えていた。



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7章:自由を求める焔の鳥のように(飛鳥・悠貴・日菜子・マキノ・保奈美・穂乃香)・3話

「………で、最後はラストバトルを演じた君達3人なんだね。ある意味このバトルの終着点には相応しいだろうけれど。」

 

二宮飛鳥の発言に、昭弘・アルトランドとジュリエッタ・ジュリスと三日月・オーガスがそれぞれ顔を見合わせ一言。

 

『まあ、事情があってな………。』

『ラスタル様が言ったから。』

『オルガが言ったから。』

「………悪いけど言わせて貰うよ。清々しい位に単純だね。」

 

飛鳥は思ってしまう。

何だかんだ言って、彼等はこのバトルを楽しんでいるのだろうか。

先程まで登場していた面々も含めて………だ。

 

(このエクストラバトルの設計者にオルフェンズの救済を望む人がいるのは明白だよ。)

 

だが、悪い気はしないと心の中で思った飛鳥に対し、その様子を見たジュリエッタが問いてくる。

 

『こっちが自己紹介をしたんだから、そっちもしてもらおうか?』

「そうだね、ボクは二宮飛鳥。ガンダム・リベルタ・リベリオンを駆る只の中二病アイドルさ。」

「綾瀬穂乃香です。ヘリクスバスターガンダムのパイロットで、バレエが趣味ですね。」

「西川保奈美よ。ガンダム・ヴォーチェ・リゾナンツァが乗機で、オペラが好きなの。」

「八神マキノだ。相棒はジム・エージェントアサルトで、情報収集が得意よ。」

「喜多日菜子ですぅ。ガンダムエピオンで、王子様を探してまぁす!」

「乙倉悠貴ですっ!Vダッシュガンダムと一緒に、走ってます!」

『成程………ガンプラアイドルというのも、女としてはとても逞しいのだな。』

『俺達の知り合いにも逞しい女はいるがな。三日月、お前はどう思う?』

『畑を耕すのが得意なアイドルがいたら勉強はしたいな。』

「畑………か。」

 

バトル前にのんびりと会話をするアイドルとAI達であったが、やはりもの悲しさは感じてしまっていた。

 

『じゃ………もういいだろ。本当に始めよっか。』

 

三日月のガンダム・バルバトスルプスレクスが「超大型メイス」を取り出し持ち上げるのを見て、昭弘のガンダム・グリオンリベイクフルシティが4本の腕で「120mm50口径ロングレンジライフル」を4丁構え、ジュリエッタのレギンレイズ・ジュリアが両腕部の「ジュリアンソード」を振りかざす。

そして………グシオンの砲撃と共に、戦闘が始まった。

 

「大物はボクが頂くよ。………アイツは厄介そうだからね。」

 

飛鳥のリベルタ・リベリオンはグシオンの砲撃を躱しながらバルバトスに迫り、ソードメイスと超大型メイスを激しくぶつけ合う。

ストライクノワールのフラガラッハ3ビームブレイドを使うという手段もあったが、メイスが大き過ぎる為に、すぐに折れる危険性があったから断念する。

それにこちらでも高熱で徐々にではあるが、武装を溶解させていく事が出来た。

 

「根競べはボクの方が有利だ。このバトルでは、ボクが君の首を取らせて貰うよ!」

『……………。』

 

静かに黙る三日月ではあるが、攻撃には容赦がない。

飛鳥が周りを見渡すと、射撃戦重視のグシオンには穂乃香のヘリクスバスターと保奈美のヴォーチェ・リゾナンツァが。

蛇腹剣にもなるジュリアンソードを振り回すレギンレイズ・ジュリアにはマキノのエージェントアサルトと日菜子のエピオンが。

そして、飛鳥の後ろには、何とか支援をしようとしているのか、悠貴のVダッシュが居た。

 

「悠貴。ボクは一人で大丈夫だから他の所に向かってくれ!」

「待って下さい、飛鳥さん!バルバトスは………それだけの機体じゃなかったはずです!」

「それだけのって………うわッ!?」

 

ここで飛鳥機は吹っ飛ばされる。

バルバトスが高熱でボロボロになった超大型メイスを投げ捨て、飛鳥機の顔面を吹き飛ばしたのだ。

慌ててパーツアウトした顔が戻ってくるまでパルチザンを構えて飛鳥機の前に立つ悠貴。

すると………バルバトスの両眼から赤い光が発し始めた。

 

「これは………阿頼耶識の「リミッター解除」!?」

『寄越せよ………バルバトス。』

 

そのまま両腕を痙攣させるバルバトスに危険信号を感じた悠貴はオーバーハング・キャノンを撃つ。

しかし………そのバルバトスが、消えた。

 

「ど………こ?………ッ!?」

 

その悠貴のVダッシュの右腕が外れ、凄まじい衝撃と共にパルチザンが真っ二つにされて吹き飛ぶ。

素早く辺りを見渡した悠貴は、グシオンと対峙していた穂乃香機に咆哮と共に猛スピードで迫るバルバトスを見つけ、慌てて知らせる。

 

「穂乃香さん、避けて!!」

「!?」

 

しかし、穂乃香が動く前にバルバトスは指の先端の爪である「レクスネイル」を振りかざす。

穂乃香は「ガンダムMk-Ⅱエゥーゴ仕様」の「シールド」で防御をするが、凄まじい速度で振りかざされるレクスネイルの前に粉々に破壊され、両腕も吹き飛ばされる。

 

「は、速………!?」

『仲間はやらせない………!』

 

そのまま首根っこを掴まれ投げ飛ばしたヘリクスバスターに向けて、空中に飛び上がり、両腕で掴むとそのまま地面に叩きつけ、トドメとばかりに両脚の踵に装備されているパイルバンカー………「ヒールバンカー」を炸裂させる。

この怒涛のラッシュの前に、いくらフェイズシフト装甲があるとはいえ、ヘリクスバスターは耐えられず爆発。

アイドル側に離脱者が出てしまう。

 

「す、すみません………後は………。」

 

そのままバルバトスは息を付く暇も無く、奇怪な鳴き声を発する尻尾の「テイルブレード」を振りかざし、近くのヴォーチェ・リゾナンツァを貫こうとする。

 

「くっ………トランザム!」

 

寸での所でトランスEXを発動させて機体を加速させて回避をする保奈美機であったが、グシオンから目を離し過ぎていた。

 

『うおおおおおおお!!』

「あ!?」

 

気が付けば、横合いから「グシオンリベイクハルバード」を構えて接近していたグシオンの回転斬りをまともに受ける間合いに居た為、慌てて飛び上がり避けるが、その隙を狙ってまたバルバトスの接近を許してしまう。

 

「は、ハイパーバーストモード!!」

『どけ………!』

 

空中でバルバトスに向かって圧縮粒子の球体を放つが、それごとレクスネイルで斬り裂いたバルバトスは、テイルブレードで今度こそコックピットを貫きヴォーチェ・リゾナンツァも爆散させる。

あっという間に離脱者二人。

 

「みなさん!トランスEXを!これでは………!」

 

やられた保奈美の警告を聞いたのか否か、「トランザム」を発動させた飛鳥機がようやくバルバトスに追い付く。

しかし、その驚異的なスピードに対応する為に、切り札のソードメイスは捨てておくしかなかった。

一方でHADESシステムを発動させたマキノ機もグシオンの方に向かい、飛鳥機への割り込みを封じようとする。

だが、こちらも先程の戦闘でビーム・サーベルを破壊されており、間合いが難しい状態であった。

そして、日菜子機に至っては、経験不足な上に、再チャージ中でトランスEXがしばらく使えない中、レギンレイズ・ジュリアに挑まなければならなかった。

 

「あ、飛鳥さ………!」

「悠貴!君は下がれ!」

「な、何で………!?」

「日菜子と同じく前の戦いでMEPEを使っただろ!?しばらくは再チャージ中で使えない!更にパルチザンも失った今、有効な武装がVダッシュには備わっていない!」

「でも、私は………!それじゃあ、役立たずじゃないですかっ!」

「MEPEが回復するまではそう言われても仕方ない!何とか生き残ってくれ!」

「そんな!?」

 

戦力外通告を受ける悠貴は愕然とするが、実際にVダッシュがビーム偏重の装備ばかりである為に、ナノラミネート・アーマーには役に立たない。

それでも………いくら自分が初心者だからって、このまま黙って見ているのは悠貴には耐え難かった。

 

『どうした!?ガンプラアイドルというのはこれだけの力しか無いのか!?』

「そんな事言われてもぉ………日菜子も初心者なのでぇ………。」

 

一方で悠貴と同じ初心者である日菜子も、レギンレイズ・ジュリアとの戦いでかなり悩まされていた。

こちらはナノラミネート・アーマーにも有効な武装があるからまだ戦力にはなるが、トランスEXが使えない今、上手く攻められなかったのだ。

結局モビルアーマー形態に変形しながら上空を逃げ回り、ジュリアンソードや「機関砲」の攻撃を躱して回るばかりだ。

 

(ライフルがもっと上手く扱えればいいんですけれど………えっと、他にはヒートロッドとエピオンクローと後は………。)

 

そこで、日菜子はハッとする。

もしかしたら………もしかしたら自分でも何とかイケるかもしれない。

そう思った瞬間、日菜子はゼロシステムでは無く、自分の妄想パワーをフル回転させる。

そもそもエピオンはどんな機体だったか?

ならば、そのエピオンを操る自分はどんな戦術を披露すればいいのか。

 

「上手く………行って下さいよ!」

 

何度目かの攻防か、蛇腹剣として先端がドリルのように伸びてきたジュリアンソードに向けて、変形を解くと伸縮自在のヒートロッドを伸ばす。

 

『何!?』

 

それは上手く絡み合い、お互いの厄介な武装を封じる形になる。

また、エピオンの盾とレギンレイズ・ジュリアの腕部に接続されている武装の為に、そう簡単に外せなくもなる。

只、モビルアーマー形態ではヒートロッドは尻尾の位置になる為、日菜子にとっては逃げる手段であった変形その物が封じられてしまう。

 

『捨て身でジュリアンソードを封じたくらいで………!』

 

ならばと、脚部ブースターの「脚部ブレード」でドリルのような蹴りを放とうとするジュリエッタ機に対し、日菜子機はEXアクションの「エクスカリバー」を発動させ、ウイングガンダムのビームサーベルをブーメランのように投げつける。

ビームのブーメランとドリルの蹴り………勝ったのは後者であった。

 

『喰らえッ!!』

 

ビームブーメランを蹴り飛ばされ、そのままの勢いで顔面が吹き飛ばされたエピオンは至近距離で両肩の機関砲の射程に入り、絶体絶命の危機に陥る。

 

『勝負あったな。初心者にしては………。』

「知ってますか?エピオンの事………。」

『?』

 

至近距離で恐ろしいほど静かに喋りだす日菜子の言葉にジュリエッタは首を傾げる。

それすらも気にせず、淡々と日菜子は呟いていく。

 

「エピオンは「必ず敗者にならなければならないモビルスーツ」なんです。勝ったら………いけないんです。」

『だから敗けて当然だと………?』

「勝ったらいけないのならば、選択肢は2つですよね。敗けるか………引き分けるか。」

『き、貴様………まさか!?』

 

日菜子が目を付けた「最後の切り札」に気づいてしまったジュリエッタは思わず機体を離そうとするが、その前に日菜子機は両腕でがっしりとジュリエッタ機を掴む。

 

「今回は王子様に出会えませんでしたが………仕方ないですよね、「みんなが勝つ」為ですし。」

『貴様は何でそこまでするんだ!?初心者と言われた反骨心からか!?』

「自分の足で歩けシンデレラって歌詞があるんです。日菜子の望む王子様は何度も自分の足で探しませんと!」

『やめろ!………「自爆」はするな!!』

「ここではこう言いましょうか。………日菜子はみんなを守るガンプラアイドルです!!」

 

その日菜子の言葉と共に、エピオンが光る。

最後の切り札………自爆を使った日菜子機は、ジュリエッタ機を巻き込み、盛大に爆風を辺りに巻き起こした。

 

『これが、ガンプラアイドルの執念………想い………!?』

「だから………悠貴ちゃんも自信を持って、大切な人達を守って下さい………。」

「日菜子さん………。」

 

その凄まじい姿を見ながら、悠貴は後方で呆然としていた。

 

『何て爆発だ………。俺達も巻き込まれていたらヤバかったかもな………。』

「そうね。………でも、押されていたこっちに気合を入れ直すには十分な効果があったわ。」

『その気合がHADESとその真っ赤な姿か?』

「そう解釈して貰ってもいいわね。」

 

昭弘の言葉に、マキノはニヤリと笑みを浮かべて答える。

マキノのエージェントアサルトは、全身が黒では無く赤く染まっており、ヴァリアブルフェイズシフトの効果を強めていた。

勿論、エネルギーを防御装甲に集中させる分、ビーム・ライフル等のビーム兵器は使えなくなっていたが、その分、120mm50口径ロングレンジライフル等の集中砲火にも耐えられるようになっていた。

 

「攻めさせて貰うわよ!日菜子の想いは受け取ったわ!」

『グッ………。』

 

左腕の90mmガトリング砲やシールドのミサイル・ランチャー、脚の大型ミサイル・ランチャー等を次々と発射していくマキノ機。

その砲火の前に、元々回避型とは言えないグシオンはダメージを貯めていくが、それでも二梃の「300mm滑腔砲」を撃つなどして反撃を行う。

 

『俺達は………終わらねぇ!!』

「弾数はこちらの方が有利よ!HADESで機動力も………!」

 

だが、そのマキノ機の左腕がシールドごと吹き飛ぶ。

何事かと思って見れば、後ろからバルバトスがレクスネイルで斬り裂いていた。

 

「嘘………!?」

『仲間はやらせないって言っただろ………?』

 

更にその後方では、本来バルバトスと対峙しているはずの飛鳥のリベルタ・リベリオンが片腕を吹き飛ばされておりうずくまっている状態だった。

 

(気づくべきだった………!ソードメイスが使えない飛鳥の機体には有効な武器がレールガン位しかない!?)

 

装備の相性が不利な状態でバルバトスの動きを止めておく事自体が無茶だったのだ。

動きが封じられたマキノのエージェントアサルトに、怒りのバルバトスのテイルブレードが迫る。

 

「悠貴………ゴメン………。」

 

最後のセリフが情に訴える物なんて、自分らしくないとマキノは思った。

それでも、日菜子から繋がった想いは消したく無かったから………。

 

「助手として………飛鳥の事、頼むわね。」

 

そのままコックピットを貫かれてエージェントアサルトも爆散した。

 

「私に………出来る事は………。」

 

悠貴は見る。

グシオンがリベルタ・リベリオンにハサミ状の「シザース可変型リアアーマー」でトドメを刺そうとしている所を。

その邪魔はさせまいと自分に迫る文字通り悪魔のようなバルバトスの姿を。

 

「このままじゃ………あ………。」

 

そこで悠貴はMEPEが再使用可能になったのを確認する。

でも、今の自分に有効な手段は………。

 

(そんな事、言っている場合じゃ無い………!絞り出すんだ!私が助手として………飛鳥さんを助ける方法を!)

 

だから、悠貴はとにかく前に出た。

走る事が趣味の彼女は………MEPEを発動させ、一直線にグシオンに………迫るバルバトスに向かって愛機を走らせていく。

 

『潰す………!』

 

レクスネイルで小柄なVダッシュを貫こうと右腕を出して来たバルバトスに対し、悠貴は動体視力を最大限に発揮した。

そして、得意のハードル走をするように………バルバトスの爪を踏み台にし、跳び上がる。

 

『俺を踏み台にした………?』

「飛鳥さんを………離せーーーッ!!」

 

そのまま空中でオーバーハング・キャノンをグシオンに放つが、やはりナノラミネート・アーマーの前には大した効果が無い。

実弾武器が有れば、実弾武器………実弾………。

 

「!!」

 

そこで天啓にも似た閃きを得る悠貴。

彼女はスラスターで姿勢を制御しながら背中のオーバーハング・パックを外すと、それを砲丸投げのように回転しながら振り回し、グシオンに向けて思いっきり投げつける。

 

「うわあああああああああああ!!」

『何だと!?』

 

思いっきりブースターで加速しながらぶつかって来たオーバーハング・パックを受けて、シザース可変型リアアーマーを思わず手放してしまうグシオン。

そこに悠貴はビーム・ライフルの射撃を当てて自分のバックパックを爆発させて、グシオンの頭部と腕部を吹き飛ばす。

 

「飛鳥さんっ!!」

 

着地した悠貴は素早くビーム・サーベルで、シザース可変型リアアーマーを解体すると、飛鳥のリベルタ・リベリオンを解放。

飛鳥は素早く両肩のレールガンでグシオンに連射を浴びせ、爆発させる。

 

『驚いたぜ………。やるな、アンタ………。三日月、後は任せる。』

『ああ………。』

 

言葉を受けた三日月が迫ってくる中、悠貴がビーム・サーベルを構えたまま飛鳥に告げる。

 

「飛鳥さん、ソードメイスを拾って来てください!動きは私が封じておきます!」

「悠貴………?」

「大丈夫です!それまで逃げ回るのは得意ですから!速く!」

「………分かった。」

 

トランザムがまだ発動しているのを確認しながら、飛鳥はソードメイスを拾いに行く。

悠貴は三日月のバルバトスのレクスネイルを回避すると、そのまま上から振り下ろされたテイルブレードも転がるように避けて逃げ回る。

オーバーハング・パックが無くなった分、機動力は落ちていたが、それでもまだMEPEがあった。

 

『逃がさない………!』

「逃げます!何度でも!」

 

バルバトスのレクスネイルとテイルブレードの猛攻を凌ぎきるのは至難の技であった。

それでも、悠貴は腕が取れながらでも急所への一撃は回避していく。

 

『だったら………これで終わらせる………!』

「あ!?」

 

だが、距離を取った所でバルバトスの両腕のカバーがスライドし、「200mm砲」が火を噴き、悠貴機の頭部パーツが吹き飛ぶ。

バランスが崩れた所で、再びテイルブレードが迫るが、そこに飛来してきたオレンジのGNシールドビットが盾になった。

 

「飛鳥さんの………!?」

『しつこい………!』

 

三日月は、更にレクスネイルの連撃でGNシールドビットを破壊するが、悠貴はその間に体勢を立て直す。

 

『もっとだ………もっと寄越せ、バルバトス!』

 

更に速度を追及した三日月は、バルバトスのテイルブレードを水平に薙ぎ払い、今度こそVダッシュを横に真っ二つに斬り裂く軌道を描く。

だが………悠貴はそこで、Vダッシュを上半身の「ハンガー」と「コア・ファイター」、そして下半身の「ブーツ」に「分離」させた。

 

『!?』

「これも………飛んでけーーーっ!!」

 

そのままハンガーとブーツをモビルアーマー形態に変形させると「パーツ・アタック」を繰り出し、バルバトスへと突貫させる。

更にコア・ファイターに接続したビーム・ライフルを撃ち、2つのパーツを至近距離で爆発させてバルバトスにダメージを与える。

 

『チッ………!いい加減に………!』

 

コア・ファイターしか無くなったVダッシュガンダムに対し、バルバトスがテイルブレードでトドメを刺そうとするが、そのブレードが飛んできた影に斬り飛ばされた。

 

「飛鳥さん!」

「すまない………かなり遅くなった。それと、前言撤回させてくれ!」

 

飛鳥はソードメイスを振りかざし、傷つき鈍ったバルバトスに迫る。

三日月もバルバトスの残された力を発揮しようと、ボロボロのレクスネイルを突き出す。

 

「君は役立たずじゃない!………やっぱり最高の助手だよ、悠貴!」

『それが、アンタにとっての仲間か………!』

 

ソードメイスはバルバトスを真っ二つに薙ぎ払い、レクスネイルはリベルタ・リベリオンを貫く。

これが、このバトルの最後の攻防であった。

 

「………最初の話に戻るけれど、及川雫ってアイドルが居てね。トラクターとかを持っているから酪農には詳しいはずだ。ガンプラを作ったら連れてくるよ。」

『………アンタ、見た目によらず優しいんだな。』

「だから、最後に君達に聞きたい。焔の鳥のように鉄の華を咲かせながら燃え上がり自由に舞った君達は………求める物を得られたのかい?」

『俺の言葉で全員の答えを決めつけられないさ。でも………少なくとも俺とオルガは辿り着いたから………。』

「そうか………。対戦してくれて礼を言うよ。また機会があったらその時は頼むかな。」

 

飛鳥の何処か優しい言葉を最後に………二機の機体は爆散した。

 

「オルフェンズ………せめてこの世界では幸せに過ごしてくれれば………。」

 

残された………只一人、勝利者となった悠貴はコア・ファイターで火星の空を飛びながら祈った。

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

「さぁ、飛鳥ちゃん♪ちゃんと悠貴ちゃんに言わないとダメよぉ?」

「わ、分かっているよ、早耶さん!でも、その………。」

「おっと、逃げるのはロックじゃないぜ?」

「公演の時と同じ事を言えばいいだけじゃないの。」

「夏樹さんも美波さんも茶化さないでくれ!………いざ面と向かって言うのは流石に………。」

 

バトルの後、松原早耶・木村夏樹・新田美波の三人に急かされる形になった飛鳥は、悠貴を前にして珍しく赤面していた。

しっかりとモニターで全てを視聴していた三人は、飛鳥に「ケジメ」を付けさせるべきだと言ってきたからだ。

悠貴の後ろでは、バトルに参加した四人のガンプラアイドル達が、それぞれ笑顔でいる。

それが、飛鳥にとっては、余計に言いにくい雰囲気を出していた。

 

「もぉ………いい加減言わないと、蘭子ちゃんや志季ちゃんに証拠画像残しちゃうわよ?」

「わ、分かった!それだけは止めてくれ!………えっと、悠貴。」

「はい。」

 

ずいっと背筋を伸ばした飛鳥は、悠貴を見上げながら(実はそれでも背丈の高い彼女よりは低いので)ハッキリと言う。

 

「さっきのバトルでは助かった!………ありがとう!………こ、これでいいんだろう!?」

「あ、お礼を何かしないとな。足手まとい発言もしたし。」

「そうね………悠貴ちゃん、何か望む事ある?」

「もう………好きにしてくれ………。」

 

頭を抱える形になった飛鳥に対し、悠貴は笑顔で一言。

 

「じゃあ、飛鳥さん!もし宜しければ………!」

 

 

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『………で、しばらく色んなエクストラバトルに付き合う事になったってか?』

 

再び火星。

呆れるようなユージン・セブンスタークの発言に対し、飛鳥はもう参ったように言葉を紡ぐ。

 

「腕をもっと磨く為にガンプラバトルの大会にも付き合って欲しいそうだ。しかも、悠貴だけでなく………。」

「むふふ………磨くならば、日菜子も勿論一緒です!」

「当然、私も付き合うわ。………まだまだ興味深い題材は沢山あるし。」

「フリルドスクエアで過ごせない時は私達も付き合いたいですね。」

「そうね、もっと色んな可能性、追及しなきゃ。」

 

後ろに並ぶのは日菜子、マキノ、穂乃香、保奈美。

そして………。

 

「私は飛鳥さんの助手ですからね♪」

 

悠貴が何処か嬉しそうに言うのを見て、飛鳥はいつものように溜息を付き、真っ赤に燃え滾るソードメイスを構える。

 

「まあ、いいさ………。この夢にしばらく浸ってしまうのも。これは堕落じゃない。ボクらの魂はそれこそ焔の鳥のように自由だからね。」

 

そして、最後に彼女は後ろの面々………仲間に対し、顔を向けずに親指を立てながら付け加えた。

 

「だから………これからも宜しく。」



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8章:サイキックは常識を凌駕するか? (裕子・海・美由紀・由愛・聖・小春)・1話

サイキックアイドルを自称する堀裕子は、自身の「ガンダムAGE-FX」を元に組み立てた赤と白と黄色で構成されたガンプラ「ガンダムνAGE-FP」を駆り、足場の悪い宇宙空間の大地に立っていた。

空に映るのは蒼い地球。

周りには「メテオブレイカー」が並んでおり、今正に地球に落下しようとしている「ユニウスセブン」の破砕作業が進められていた。

………と言っても、この舞台はエクストラバトルの一環であり、足場の悪いバトルフィールドで雑魚敵やネームドを相手にしているだけである為、実際の状況はアニメで流れていた時程重要では無い。

そういう意味では裕子はこのバトルを純粋に楽しめていた。

 

「フフフ………このサイキックアイドルユッコに掛かれば、エクストラバトルもチョチョイのチョイです!」

「裕子ちゃん、凄いノリノリだね~。」

「油断するんじゃないよ、追い詰められた獣は凶暴だからね!」

 

裕子が今回組んでいるのは、「イージスガンダム」を元に組み立てた朱色の「イージスキャンサーガンダム」を駆る柳瀬美由紀と、「パラス・アテネ」を元に組み立てた桃色の「ハルス・アテネ」を駆る杉坂海。

2人共、裕子よりも一足早く自分のオリジナルガンプラを作成した先輩であり、今回のエクストラバトルに協力してくれていた。

対するネームドは「イザーク・ジュール」のスカイブルーの「スラッシュザクファントム」、「ディアッカ・エルスマン」のダークグレーの「ガナーザクファントム」、「シホ・ハーネンフース」のブルーの「ブレイズザクウォーリア」、そして「アイザック・マウ」のネイビーブルーとライムグリーンで構成された「ケルベロスザクウォーリア」のザク軍団であった。

 

『全機残り体力も少ない………。アホの子にここまで追いつめられるとは………!』

「ちょ!?イザークさん、アホの子は無いでしょ!?私は茜ちゃんとの「サイキックヒーツ」のぱわー担当なんですから!」

『その時点でもう十分、アホの子なんだよな………。』

『でも、追い詰められているのは事実です。性格面はともかく操縦技術はかなり厄介ですね。』

『隊長、どうします?このままだと全滅ですよ!?アホの子達に!?』

「アレ?何か、みゆき達もアホの子扱いされてない!?」

「不味いね………ちょっと修正してくれないと困るかな。」

「ディアッカさんもシホさんもアイザックさんも美由紀ちゃんも海さんも、何で全員アホの子って言うんですか!?だったら私の本気を見せてあげますよ!」

 

あまりのアホの子発言の連打に怒った裕子がνAGE-FPの右腕をかざす。

すると、全身に装備した長さの違う「Cファンネル」8基に、左肩の「フィン・ファンネル」6基に、更にバックパック左側面の「ファンネル・ラック」から「ファンネル」3基が全て放出される。

 

『な!?まさか、そのビット兵器を全て!?』

「私をバカにした事、後悔させてあげます!行け、ファンネルーーーっ!!」

 

驚愕するイザーク達に向けて、裕子がトドメと言わんばかりに種類の違うファンネルをマニュアル操作で一斉に突撃させる。

その波状攻撃は躱す事などできず次々と炸裂していく。

 

「え!?うわあ!?」

「………アレ?」

 

海のハルス・アテネに………。

 

「裕子!?ファンネルのコントロールができてないじゃないかい!?何で全部ウチに!?って、わああ!?」

 

完全に味方からの不意打ちを受けたのも有り、海機はほとんど抵抗する事も出来ずに撃破される。

次にファンネル達が狙い出したのは美由紀のイージスキャンサー。

彼女は慌ててモビルアーマー形態になって逃げるが、ファンネル達は執拗に追いかけてくる。

 

「裕子ちゃん、ファンネルを止めてよ!?」

「ちょ、待って下さい!何故か私のサイキックが暴発して………!?止まれ、ファンネル!何故止まらん!?………ムムムーン!」

「そんな呑気な事してないでオート操作に切り替えて!?は、早く!?やられる………って、わーーっ!?」

 

裕子のフレンドリーファイアから逃げ惑っていた美由紀機であったが、突如前方から極太のビームを受けて爆散。

ディアッカ機が「M1500 オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲」を撃ったのだ。

 

『………おーい、これじゃ完全に的だぜ?しかもこれだけゴリゴリ体力減らされたら一撃だよな………。』

「あ、あわわわわ!?ファンネルの誤作動で私1人に!?ちょ、待って下さい!?」

『問答無用!』

『人をコケにするなぁ!!』

 

慌ててファンネルを回収しようとする裕子であったが、今度は自分に対して全周囲からファンネルが襲い掛かるという異常事態に。

そこに、シホ機が「AGM138 ファイヤビー誘導ミサイル」を有りっ丈放ち、イザーク機も「MMI-M826 ハイドラビームガトリング砲」を乱射してくる。

ミサイルとビームガトリング砲(と自身のファンネルの攻撃)を喰らった裕子機はどんどん体力が削られる。

 

「り、「リペアキット」を!?回復しないと………って!?」

『ええっと………こんな勝ち方でいいんでしょうか………?』

 

ハッとした裕子が見たのは、いつの間にか接近していたアイザック機が「ビームファングシステム」のビームサーベルを回転させて襲い掛かる姿であった。

エクストラバトルは、裕子達の大逆転負けで終わった。

 

 

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「裕子ちゃん………何でみゆき達を攻撃したのかな?」

「わ、悪気は無かったんですって!?何故か私のサイキックが勝手に暴走して………。」

「だとしたら、それは致命的なミスだねぇ………。」

 

イザーク達とのエクストラバトルを終えた裕子達は落ち込みながらシミュレーター室から出て、346プロ内を歩いていた。

彼女達が目指していたのはカフェ。

実は、今回のエクストラバトルは裕子の組み立てたオリジナルガンプラの試運転の為に行われており、そのメモリは、同じアイドルの1人である成宮由愛から借りた物であったので、彼女に返しに行く途中であった。

とはいえ、その際にフレンドリーファイアの被害を受けた美由紀と海にしてみれば、裕子に小言を言いたくなるわけで………。

 

「大丈夫です、次があれば、このユッコのサイキックは進化しています!このサイキックがあれば、アムロだろうが、シャアだろうが!」

「その自信は何処から来るの!?」

「こりゃ、一緒に組む面子によっては少し考えないといけないねぇ………ん?」

「あ!ユッコちゃん、みゆみゆ、すぎちゃん!」

 

カフェに辿り着いた3人は、妙なあだ名で呼ばれる。

見てみれば、そこでは手を振っている本田未央の姿が。

更にはその両隣には五十嵐響子と栗原ネネが居て、未央の向かいには成宮由愛・望月聖・古賀小春の「ドリームホープスプリング」が座っていた。

 

「未央ちゃん達………何してるんですか?」

「いやー、実は私達も自分のオリジナルガンプラ作っててさ!丁度今、ゆめゆめともっちーがこはるんに教わって完成させた所!」

「小春ちゃんに続いて、由愛ちゃんと聖ちゃんも遂にガンプラデビュー!?やったね!」

 

未央の言葉に美由紀が手を叩いて喜ぶ。

小春が先にオリジナルガンプラ………「ガフラン」を元に作成した黄緑のガンプラ「ガドランくん」を作っていたのは、世界大会に出場する村上巴と「桜舞隊」のユニットで日本中の大会を回っていたからだ。

その為、彼女は最年少ではあったが、ガンプラバトルの腕はこの中では一番上であった。

 

「由愛ちゃんも聖ちゃんも凄いんですよ~。自分のイメージするガンプラをあっという間に作り上げてしまいました~。」

「そ、そんな………小春ちゃんは勿論、未央さんや響子さん、ネネさんに丁寧に教えて貰ったからです。」

「はい………。みんな教え方がとても上手でした………。」

「未央も響子もネネも、弟や妹がいるからねぇ………。年下の相手は慣れてるんだろ。」

「そう言って貰えると嬉しいです♪でも、弟や妹達は私に早く自分のガンプラを作れってうるさくて………。」

「あ、私もしーちゃんによく言われます。お姉ちゃんも早くバトルしてって。」

「そういうわけで私達もオリジナルガンプラ作ってるんだ。もうちょっとで形になるんだけれど………。」

「ははは、そういう時は焦っちゃダメさ。………と、由愛にエクストラバトルのメモリ返しておくよ。」

「あ、ありがとうございます………。結果はどうでした………?」

「うぐ!?………じ、実は………。」

 

ユニウスセブンでの裕子のファンネルが暴走した事を話すと、初めてその情報を知った6人は目を丸くした。

 

「ファンネルが暴走ねー。こはるん、大会でそんな人いた?」

「小春が見た限りではいなかったです~。それだけ裕子さんが凄いのかもしれませんね~。」

「凄くても味方を攻撃したら、みゆき、意味ないと思う。」

「ハッキリ言いますね、美由紀ちゃん………。その通りですけど。」

「お、落ち込まないで下さい………。じゃあ、私達ともう一度エクストラバトルしませんか………?」

「ドリームホープスプリングと組んでバトル………ですか?」

 

聖の提案に裕子達は興味深そうに考える。

確かに由愛と聖のオリジナルガンプラの試運転にエクストラバトルを使うのは面白いかもしれない。

経験者であり熟練者である小春もいる事だし、戦力のバランスも取れているようにも思えた。

 

「私はOKですが………美由紀ちゃんと海さんは?」

「みゆきも楽しそうだから、OK!」

「ウチもOKだね。宜しく頼むよ!」

 

参加する6人の同意が得られた事で、再びエクストラバトルを体験する為に、未央・響子・ネネを含めた9人はシミュレーター室へと向かっていった。

 

 

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「さて、今度体験するバトルは………。」

「あ、それですけれど………試したい事があるので、私が選んでいいでしょうか?」

「由愛ちゃんがですか?構いませんけれど………。」

 

シミュレーター室では、裕子達の許可を得た事で由愛が未央・響子・ネネに協力して貰い、持参していたエクストラバトルのメモリの内の1つをセットしていく。

そして、戻って来た彼女は説明する。

 

「舞台は「メサイア」です………。そこでネームドと2戦する形になります………。」

「ユニウスセブンと同じくDESTINYの時代かい。試したい事っていうのは何だい?」

「それはその時まで待って貰っていいでしょうか………?」

「お楽しみだね!じゃあ、みゆき達もガンプラ、セットしよう!」

 

美由紀の言葉で、各々がガンプラを取り出す。

まずは、裕子が自分のガンプラに謎の念を込めていった。

 

「裕子さんのガンダムνAGE-FPは色んなファンネルがセットされてるんですね。」

「そうです、ネネちゃん。このファンネルを全てコントロール出来れば最強ですが………。」

「マニュアル操作じゃなくてオート操作にすればいいのでは………?」

「そしたら、サイキックの意味が無いですよ!?」

「ふぇっ!?」

 

ガンダムνAGE-FPを大切そうにする裕子の格言に狼狽するネネ。

このガンプラは「ガンダムエピオン」の長いムチである「ヒートロッド」とAGE-FXの巨大な「ダイダルバズーカ」による中~遠距離戦を得意としている。

パーツはAGE-FXと「Hi-νガンダム」と「νガンダム」で構成されている完全なファンネル盛沢山の仕様となっているのも特徴で、仕組みとしてはヒートロッド等でいなしながら、その多彩なファンネルで取り囲み殲滅する戦法を主としていた。

また、シールドに「ユニコーンガンダム」の「アームド・アーマーDE」を付ける事でビームにも強くなっており、「NT-D」のEXアクションで機動力も確保出来ているのもポイント。

機体名はνとAGEを掛け合わせた上でFX(フォローXラウンダー)をもじってFP(フォローサイキッカー)にしており、裕子の拘りが発揮されている。

とはいえ、実は命名時にFSと勘違いをし、新田美波にスペル違いを指摘され訂正したという裏話もあるのだが………。

 

 

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「ゆめゆめは妖精のような機体だね。何て名前なの?」

「「Vガンダムヘキサ」を元にした「ガンダムフェアリアルドリーム」です………。未央さんの言う通り、妖精のような見た目のパーツで作ってみました………。」

「小柄だけれど俊敏そうな機体だね。これは敵に回すと怖そうだ!」

 

由愛がチェックしている水色のガンダムフェアリアルドリームは、「ガンダムF91」の腕や「フォースインパルスガンダム」の背中等、妖精の羽に見えるパーツでミキシングされていた。

更に「Cファンネル」を両肩や腰裏に取り付け、「ビギニング30ガンダム」の「ifsユニット」を装着する事でより羽の生えた妖精っぽさを強調。

「ガンダムダブルエックス」の「ビームジャベリン」を筆に、「陸戦型ガンダム」の「ミサイル・ランチャー」を筆洗に見立てる事で由愛の絵描き要素もイメージする事に成功。

そして、実は「ヴィクトリーガンダム」の胴体を使用している事により、「フォースシルエット」と接続された高機動の「コアファイター」も使用可能となっている。

名前は過去の人力飛行機の仕事から「スカイペインター」と名付けており、アイドルとしての由愛の集大成と言えるガンプラに仕上がっているのがポイントであった。

どちらかと言えば接近戦用に強化された機体である為、扱いは難しそうであったが、由愛にとっては自信作である。

 

 

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「うわぁ………聖ちゃんの機体、大きな羽が4枚もあるんですね!」

「「ウイングガンダムゼロEW」を元にした「ウイングガンダム・オラトリオ」って言います………。ビルダーズパーツを使う事で、羽を4枚にする事を閃きました………。」

「羽が4枚もあったらビュンビュンと飛び回れそうですね!」

「あ、あの………響子さん、私のガンプラ………絶叫マシンの様に捉えてません?」

 

たじろぐ聖が遠慮しながら見せていた白色のウイングガンダム・オラトリオは、「ガンダムアスタロト」の「サイドバインダー」に、「カバカーリー」の「ミノフスキー・フライト内蔵装甲」を組み合わせる事で、肩から大型の羽をもう一対出しているのが最大の特徴。

胴体は「ガンダムキュリオス」採用している他、「太陽炉」を大型ウイングの保持アームに接続して、EXアクションの「トランザム」で「量子化」するようにしてある為、機動力や回避率に特化してあるのもポイントである。

但し、攻撃能力は最低限で、主に「拳法用MSハンド」による格闘と「プロトゼロ」の「ツインバスターライフル」による火器によるメイン武装位しかない。

これは聖が攻撃的な性格で無い事が反映されており、また「ツインドライブ」による対話を、「歌で気持ちを伝えることもできる」という解釈から生み出された為。

トランザムや量子化の時の粒子の色は淡い黄色となっている他、名前は宗教楽曲の形式の一つである「聖譚曲」からチョイスをしていた。

 

 

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「海さんのハルス・アテネはガンダムじゃない良さがありますよね。」

「ガンプラはガンダムだけが主役じゃないからね。美由紀が言っていたけれど、装備が裁縫用具に見えるって所がウチらしいかなって最近感じ始めてるんだ。」

「作ってから気付く事もあるんですね。感慨深いです。」

 

海が見つめるハルス・アテネは、パラス・アテネの背中を「スターゲイザー」に、腕とシールドを「ブリッツガンダム」に換装している。

前者は海の趣味であるウインドサーフィン要素を取り入れており、「ヴォワチュールリュミエール」のEXアクションで太陽風を受け止めるイメージを発揮しているのが特徴。

後者は牽制や拘束に特化する構成にしていたのだが、前に美由紀に近接メイン武装の「カバカーリー」の「ビーム・リング」と合わせ、「トリケロス」の武装が待針や糸等、裁縫用具に似ているという事を受けて納得している。

ちなみにビーム・リングは以前の仕事で裕子達と一緒にスケバン役を演じた事で、年上のアイドル達からスケバンと言えばヨーヨーだと言われた事に由来している。

エキゾチックかつ丁寧に仕上げた塗装、デザインのアクセントとして小さくまとめたビルダーズパーツなど、裁縫や小物作りが得意でデザインにも造詣が深い部分も海の性格を上手く反映させていると言えた。

 

 

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「あ、みんなずる~い!みゆきのイージスキャンサーガンダムも見て!」

「みゆみゆのは………カニですな。」

「カニだよ。」

「でも、私は知ってるぞ~?能あるカニは爪を隠すって。」

「隠れてないけどね。」

 

美由紀が高々と掲げたイージスキャンサーガンダムは、「フルアーマー・ユニコーンガンダム」の腕と「バルバトス第6形態」の腰スラスターである「地上用スラスター」でカニの爪を作り上げた会心の出来である一作。

「アドバンスドヘイズル」の頭部センサーである「強化センサーユニット」等を組み合わせて胴体に付ける事で、モビルアーマー形態になった際にカニの顔状パーツに仕上がっているのも大きなポイントとなっている。

シールドもフルアーマー・ユニコーンガンダムを採用している為、「Iフィールド」も備えており、イージスガンダムの「フェイズシフト装甲」と合わせ、かなり硬い作りになっている。その為、ネタに見えた構成でありながらも、実戦では強襲機としてかなり強いガンプラ。

EXアクションに爪で掴み上げる「爆熱ゴッドフィンガー」や変形からのビーム攻撃である「スキュラ」といった接近戦よりの物を組み込む事で、より破壊力に特化したガンプラに仕上がっているのが特徴である。

 

 

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「小春ちゃんのガドランくんはカワイイですね♪」

「はい~そう言って貰えると嬉しいです~。………アレ~?響子ちゃんのセンスって~?」

 

 

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最後に小春がヒョウ君と共にガドラン君を磨き上げて6人の準備が終わる。

彼女達はシミュレーターに入り、各々のガンプラをセットしていった。

舞台が青い電子的なカタパルトに移行して、いよいよ出撃である。

 

「あーあー………。今回の出撃コールは、私、本田未央が担当します!」

「慎ましくお願いするよ、未央。」

「う………私だって真面目にやるって、すぎちゃん!………てなわけで、堀裕子隊員、ガンダムνAGE-FP、発進どうぞ!」

「サイキックユッコに限界はありません!堀裕子、エクストラリミテッドチェンジ!サイキック………ゴー!!」

「そこでそのセリフネタ!?な、成宮由愛隊員、ガンダムフェアリアルドリーム、発進どうぞ!」

「楓さんじゃないですけれど………由愛らしく夢を見せられるように!成宮由愛、あの空を自分色に染め上げていきます………!」

「純真な少女はいいですなー。望月聖隊員、ウイングガンダム・オラトリオ、発進どうぞ!」

「歌だけでなくガンプラでも私は私を表現します………!望月聖………た、対話の始まりです………!」

「ちょっと恥ずかしがっている所が初々しい………。杉坂海隊員、ハルス・アテネ、発進どうぞ!」

「今回はいい所を見せたいからねぇ………よりどりみどりで頼むよ!杉坂海、風に乗ってビッグウェーブを巻き起こす!」

「うーん、果たしてフラグは折る事が出来るか!?柳瀬美由紀隊員、イージスキャンサーガンダム、発進どうぞ!」

「このガンプラは!甲殻類で!美味しくて!カニなんだよーーー!!………これで、生き残れる事間違いなしだね!行っくよー!!」

「そ、その手があったか!?最後に古賀小春隊員、ガドランくん、発進どうぞ!」

「前も言ったかもしれないけれど~小春もドラゴンらしくカッコよく~!古賀小春~、みんなの力になります~!」

 

それぞれの口上で思う存分はっちゃけた6人は、それぞれのガンプラを駆って宇宙空間に飛び出していった。

 

 

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宇宙空間が広がる地面へと着地した6人は、浮遊要塞を見上げる。

それこそがメサイアであり、DESTINYの最終決戦の舞台だ。

メサイアの前には、戦艦である「ミネルバ」も浮かんでいて臨場感を盛り上げてくれている。

 

「やっぱり………これなら………!」

「ん?由愛ちゃんどうしたんですか?」

「あ………!気にしないで下さい………。」

 

何かを感じ取った由愛に疑問を抱く裕子であったが、彼女はまあいいかと流すと武装の準備に取り掛かる。

しかし………ここで美由紀から思わぬ通信が。

 

「あ、裕子ちゃん。今回のバトルではファンネル使用禁止ね!」

「ええ!?美由紀ちゃん!?何で!?」

「だって、今回のバトルは由愛ちゃんと聖ちゃんのデビュー戦なんだよ?裕子ちゃんのファンネルの暴走で2人がやられちゃったら散々じゃん!」

「う………それはそうですけれど………。」

「確かに………今回に関しては美由紀の方が一理あるね。」

「う、海さんまで………。でも、サイキックが無かったら私は、堀裕子は………。」

「ちゃんと守らないとダメだよ?………あ、敵が出てきたみたい!」

 

狼狽する裕子を他所に、敵がホログラムとなって出現する。

様々な「ウィザード」を背負った「ザクウォーリア」や「ザクファントム」に、「ゲイツR」、「グフイグナイテッド」とザフトの主力機が目白押しであった。

どうやら2戦あるネームドの前にこの雑魚を蹴散らさないといけないらしい。

 

「ふ、ファンネルを封印しながら………戦うしか無いのならば………!や、やってやります、やってやりますよ………!」

 

動揺を隠せない裕子は、敢えて闘争心を見せる事で何とかバトルに集中しようとした。



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8章:サイキックは常識を凌駕するか? (裕子・海・美由紀・由愛・聖・小春)・2話

バトル開始の合図と共にザフト軍の一斉攻撃が始まる。

先制でゲイツRが両腰の「MMI-M20S ポルクスIVレールガン」を複数機で発射してきて、更に「ガナーウィザード」を背負った「ガナーザクウォーリア」はM1500 オルトロス高エネルギー長射程ビーム砲の極太のビーム砲を撃ってくる。

 

「回避ーーーっ!」

「う、うわわ!?」

 

18歳という年長者である故に、今回の司令塔役を担ったハルス・アテネを駆る杉坂海の声に合わせて、各ガンプラ達が一斉に回避行動を取る。

柳瀬美由紀のイージスキャンサーガンダムはモビルアーマー形態で飛び回り、成宮由愛のガンダムフェアリアルドリームは空中に跳び上がってブーストと慣性を利用して回避していく。

望月聖のウイングガンダム・オラトリオは4枚の翼をはためかせ羽を撒き散らしながら華麗に横回転をして躱し、古賀小春のガドランくんは慣れた動きでステップ移動をして避けていく。

しかし、堀裕子のガンダムνAGE-FPは足がもつれ慌ててシールドのアームド・アーマーDEで防ぐ形になってしまう。

 

「ちょっと裕子!?アンタ、さっきのバトルだとディアッカのオルトロスを軽々と回避出来ていたじゃないかい!?」

「さ、サイキックを封印しないといけないって考えると上手く動けなくて………!」

「ああ、もう仕方ないねぇ!」

 

裕子の動きを見て「ブレイズウィザード」を装備したブレイズザクウォーリアや「ブレイズザクファントム」数機がAGM138 ファイヤビー誘導ミサイルを放ったので、慌てて海のハルス・アテネが前に出て、ビーム・リングを回転させ、リングの中心から重力球を発生させ投げつける。

敵をブラックホールの中に引き寄せるEXアクションの「グラビティスフィア」を使ったのだ。

海の投げつけた重力球は裕子のνAGE-FPを狙ってきたミサイルの雨を呑み込みながら敵陣に炸裂し、相手のガンプラ達を固めて動けなくしていく。

 

「今だよ!一斉発射!」

「りょ、了解です!」

 

飛び退いた海の掛け声に合わせて裕子が巨大なダイダルバズーカを眼前に構えると3つに分裂させて「スペクトラルショット」のEXアクションを放ち、ブラックホールの中に極太の複数のビームを炸裂させる。

 

「カニビーム!」

「メガガドランくんビーム~!」

「え、えっと………お、オラトリオビーム………!」

 

更に美由紀のイージスキャンサーがモビルアーマー形態でスキュラを、小春のガドランくんが腹からEXアクションの「メガランチャー」を、そして聖のオラトリオがツインバスターライフルを連結させて照射して、一気に殲滅をしていく。

一方、攻撃範囲から逃れた「スラッシュウィザード」を付けた「スラッシュザクウォーリア」数機が「MA-MR ファルクスG7ビームアックス」を、グフイグナイテッド数機が「MMI-558 テンペスト ビームソード」を構え接近戦を仕掛けてくる。

 

「迎撃………します!」

 

それはさせまいと、由愛のフェアリアルドリームが、ミサイル・ランチャーを構え、脚の「ガンダムデュナメス」の「GNミサイル」と共に発射して弾幕を形成して腕や脚等のパーツアウトを狙っていく。

しかし、敵機も只やられてばかりではない。

幾つかのスラッシュザクウォーリアはMMI-M826 ハイドラビームガトリング砲を、グフイグナイテッドは「M181SE ドラウプニル 4連装ビームガン」で撃ち落として更に由愛機に接近してくる。

 

「試して………みます!お願い………!」

 

そこで由愛は焦らなかった。

飛びかかってくる敵機に対してビームジャベリンを構えると、ifsユニットを発動させて、黄緑のビームフィールドを集約させた薙ぎ払いで一気に破壊していく。

 

「うわ~由愛ちゃん、それ綺麗だね!絵具みたい!」

「あ、ありがとうございます………!」

 

モビルアーマー形態を駆使して、フルアーマー・ユニコーンガンダムの「ビーム・ガトリングガン」を撃ちながら加勢に来てくれた美由紀の言葉に照れながら、由愛はガンダムデュナメスの「GNビームピストル」で側転撃ちをして、更に撃墜数を稼ぎながらお礼を言う。

その間に裕子機も戸惑いながらではあったがEXアクションの「グラビティスフィア」の重力球で援護をして、海機がトリケロスの「ランサーダート」の槍を発射して敵を射抜き、小春機が背中の「フリーダムガンダム」の「バラエーナプラズマ収束ビーム砲」を撃ち、最後に聖機が飛び上がりツインバスターライフルを両手に構えて回転撃ちをして敵機を薙ぎ払い殲滅した。

 

「お、終わったでしょうか?」

「裕子ちゃん、まだネームドと戦って無いよ?」

「動きが相当鈍いね………大丈夫かい?」

「だだ、大丈夫………なはずです。………リペアキットはまだありますし。」

『スティング、アウル、ステラ!出撃だ。慎ましく………行こうか。』

「!?………敵機………来ます!?」

 

ネームドの出現アラームと共に、聖機が「フィールドディフェンサー」と「フィールドオフェンサー」のEXアクションを使い、味方機の強化を行う。

すると、上空から4機の敵機が降下してくる。

 

『さてと、簡潔に自己紹介といこうか、お嬢ちゃん達。俺は「ネオ・ロアノーク」大佐………一応な。この黄金の機体は借り物だが「シラヌイアカツキ」だ。』

『スティング・オークレーだ。一応、4人の中ではサブリーダーをやってて「カオスガンダム」に搭乗している。「ムラサメ」の話題はブロックワード並に厳禁だ。』

『それは単純にトラウマだろ?おっと、「アウル・ニーダ」だぜ!「アビスガンダム」が愛機さ!………一番最初にやられた?それこそブロックワードだ!』

『スティングもアウルもそれ、向こうの人達は言ってない………。「ステラ・ルーシェ」………。「ガイアガンダム」に乗ってる………。怖い物は………無くす!』

「DESTINYの時代の三馬鹿地球連合軍と大佐殿かい。中々厄介だね………。」

『オイオイ、三馬鹿は無いだろ、三馬鹿は………。とりあえず、悪いが後に登場する奴らと約束してるから、さっさと始めさせて貰う。………今度こそ約束は守りたいからな。』

「今度こそ守りたい約束………ねぇ。」

 

ネオの言葉に何かを感じた海であったが、その前に敵機は素早く散開する。

特に深緑のカオスガンダム、水色のアビスガンダム、黒色のガイアガンダムはモビルアーマー形態に変形し、一気に機動力でかき乱す算段だ。

 

『そこの青い妖精!戦闘能力でこっちが勝っている事を証明してやるよ!』

「呼ばれちゃいました………行ってきます!」

 

『じゃあ、オレはカニとバトルだな!どっちが優れた水中戦用機体か教えてやる!』

「只のカニだと思わないでよ~!」

 

『ステラは………トカゲ!背中に背負っている物が何か怖い!!』

「フリーダムのバラエーナプラズマ収束ビーム砲ですか~?仕方ないですよね~。」

 

スティングが由愛機を、アウルが美由紀機を、そしてステラが小春機を指定した事によって必然的に対峙する組み合わせが決まる。

残された裕子機、海機、そして聖機はネオのアカツキとのバトルだ。

 

「聖、周りの状況を見て後方支援!ビームを反射する「ヤタノカガミ」を持つアカツキにツインバスターライフルは撃つんじゃないよ!後、裕子はウチの後ろで援護しな!」

「はい………!」

「あ、アレ?今の私はそんなダメですか!?」

「正直今の裕子じゃ近づいたらやられるよ!実弾武装で何とかしてくれ!」

「は、はい………。」

 

上手くガンプラを操れず、もどかしい想いをする裕子を他所に、ネオ機が「73J2式試製双刀型ビームサーベル」のグリップを握り、両端からビーム刃を発生させて海機に迫る。

 

『さて、格闘戦の腕は………と!』

「侮って貰っちゃ困るねぇ!」

 

海は右腕にセットされたトリケロスの「ビームサーベル」で受け止めるとそのまま左に受け流し、回転する勢いで、パラス・アテネのかかととつまさきに備わった「格闘戦用クロー」で蹴り飛ばそうとする。

 

『おっと!』

 

しかし、その蹴りをネオは咄嗟のステップで回避をすると離れながら武装を入れ替えて「72D5式ビームライフル「ヒャクライ」」で反撃。

 

『さて………全力を出そうか!』

 

そして、背中の「シラヌイ」側のバックパックから7基装備されている「M531R誘導機動ビーム砲塔システム」を一斉に放出してオールレンジ攻撃を海機と裕子機に仕掛けていく。

 

「くっ………裕子!」

「えっと………こう!」

 

若干反応が遅れていたが、裕子はバク宙をしながら背中にマウントされているνガンダムの「ニュー・ハイパー・バズーカ」を撃っていく。

だが、ネオは余裕でシールドの「試製71式防盾」で防御しながら反撃で72D5式ビームライフル「ヒャクライ」を撃っていく。

 

「は、反応がおかしいですよ、あの機体!?」

「参ったねぇ………こりゃ、面倒な事になりそうだ………。」

 

ネオの操縦技術と、そして想像以上に重症である裕子の操縦に海は悩む事になった。

 

『そらそら!ミサイルの雨を喰らわせてやるよ!』

「き、来た………!?」

 

一方で由愛機は空中を飛び交いながらスティング機と相対し続けていた。

スティングはカオスの「機動兵装ポッド」に備わっている「AGM141 ファイヤーフライ 誘導ミサイル」を由愛機が着地する瞬間に放ってくる。

咄嗟に脚のGNミサイルで迎撃するが、スティング機は爆風による煙で視界が封じられた隙を狙い、両方の爪の先に備わった「MA-XM434 ビームクロー」で高速突進してくる。

 

『喰らえ!』

「あ、あわわ………!?」

 

慌ててGNビームピストルの側転撃ちの動きを応用して回転しながら回避をするが、スティング機は素早く反転すると背部センサー下部に備えられたカオスの「MGX-2235B カリドゥス改 複相ビーム砲」を発射してくる。

流石に連続で回避は出来ないので振り向いた由愛機は「ガンダムエクシア」の「GNシールド」で受け止める。

 

「た、体力が………!?」

『一発で仕留めてやる!コックピットに穴を開けてやるよ!』

「!?」

 

リペアキットで慌てて回復する由愛機であったが、その隙にカオスガンダムは正面に高速接近し、モビルスーツ形態になると「MA-M941 ヴァジュラ ビームサーベル」を突き出す。

由愛のフェアリアルドリームの「Vガンダムヘキサ」の胴体に………。

 

「スカイペインター………!」

『!?』

 

その次の瞬間であった。

フェアリアルドリームに穴が開いた。

しかし、ビームサーベルで出来た穴ではない。

コックピットが入ったコアブロックが丸ごと後ろに抜けたのだ。

 

『な、何………が!?』

 

驚くスティングのカオスはそのまま穴の開いたフェアリアルドリームに羽交い絞めにされる。

見上げてみれば、上空にはフォースシルエットと接続されたコアファイターが。

 

『コアブロックシステム!?インパルスと同じか!?だが、ヴァリアブルフェイズシフト装甲で実弾耐性を持つカオスに「バルカン砲」は!?』

「Cファンネル、行って………!」

 

この時点でスティングはまだ落ち着いていたが、次の瞬間驚愕する事になる。

フェアリアルドリームに備わった4基のCファンネルが2基ずつ刃となって襲い掛かり、カオスの………モビルスーツ形態だと背部にある「EQFU-5X 機動兵装ポッド」を破壊したのだ。

 

『ポッドが!?マズイ!?機動力が大幅に………うが!?』

 

更にすかさずフェアリアルドリーム本体が蹴り飛ばすと、スカイペインターが再度合体し、ガンダムデュナメスの脚に備えられた「GNビームサーベル」を2本投擲。

サーベルは機動力が大幅に低下したカオスの脚に刺さり、動きを封じてしまう。

 

『せ、戦闘能力で負けている!?俺が!?』

「ifsユニット発動………!」

 

更にビームジャベリンを取り出すとifsユニットのエネルギーを纏い、EXアクションの「スラッシュペネトレイト」を発動。

より巨大なエネルギーを纏ったビームジャベリンを大きく振り回し、カオスをビームの奔流で消し飛ばす。

 

『ムラサメより結果がひでえーーーっ!?』

「あ、危なかったです………。」

 

1対1のネームドとのバトルに勝利した由愛は、安堵の息を吐いた。

 

「スキュラ!」

『おっとぉ!』

 

その頃、美由紀とアウルとのバトルはモビルアーマー形態での高速でのぶつかり合いに発展していた。

とはいえ、お互いモビルアーマー形態では種類の違う「フェイズシフト装甲」を持つ事もあって出来る事が限られてくる為に、攻撃や防御の時はモビルスーツ形態に変形する事が多かった。

 

『スティング、やられるなんて情けないぜ!オレはそう簡単にいくかよ!』

「うわわ!?」

 

モビルスーツ形態同士だと、「両肩部シールド」に備わった「MA-X223E 3連装ビーム砲」と胸部の「MGX-2235 カリドゥス複相ビーム砲」の合計7門のビーム砲を一気に放つアビスの猛攻がある為、美由紀のイージスキャンサーはフルアーマー・ユニコーンガンダムのシールドに備わっている「Iフィールド」で防御に回るしかない。

 

「参ったなぁ………防御している状態じゃ、ビーム・ガトリングガンもスキュラも使えないし………。「イーゲルシュテルン」の機関砲じゃそもそも届かないし………。」

 

実は中~遠距離武装が2種類しか備わっていないイージスキャンサーは、接近してこそ力を発揮する機体だ。

その為の強襲形態であるモビルアーマー形態でもあるのだが、相手も同じ能力がある故に、苦戦してしまっていた。

 

「リペアキットもこれ以上使ったら2回戦が大変そうだし………近づけない相手の場合………う~ん………あ!」

 

その時、天啓にも似たような物を思いついた美由紀はシールドによる防御状態を解除し、ステップで逃げながらビーム・ガトリングガンを乱射し始める。

 

「それそれそれーーーっ!」

『気でも狂ったか?そんなんでオレは捕まえられないぜ!』

 

アウルはアビスの「耐ビームコーティング」も備わった両肩部シールドで防ぎながら再びモビルアーマー形態に変形。

背部の「M107 バラエーナ改2連装ビーム砲」で怯ませながら一気に急速接近していく。

そして、再度モビルスーツ形態に変形すると、素早く「MX-RQB516 ビームランス」を構える。

 

『お前のガンプラにコアファイターとかは流石に無いだろ!』

 

そして、EXアクションの「ミリオンスパイク」を発動。

滅多突きを放ち、一気にトドメを刺そうとするが………。

 

『ゴメンねぇ!強くってさぁ!』

「今だ!当たらなければどうという事ではない!………だっけ?」

 

バチンッ!

 

美由紀のイージスキャンサーは、ビームランスが突き刺さる瞬間に、すかさずモビルアーマー形態に変形。

そして何と長い4本の爪でランスの柄を力任せに掴み、ビーム刃が刺さる前にへし折ってしまう。

 

『ウソだろ!?』

「組みついちゃえ!」

『うわ!?』

 

そのまま動揺したアウルのアビスに組み付くと笑顔で一言。

 

「この距離なら「自爆」は回避できないよね?」

『何!?や、止めろ!?放せ!?』

「じゃあ、放す。」

『え?アレ?』

 

とんでもない切り札に驚いたアウルは思わず動揺して機体を滅茶苦茶に動かそうとして逃げようとするが、あっさりと美由紀機が放した事で、思わず疑問符を浮かべ動きを止めてしまう。

だが、すぐに目の前で再びモビルスーツ形態に戻ったイージスキャンサーが巨大なエネルギーの爪を………パーツを全て外すEXアクション「デッドリーブロウ」を振り被った事で美由紀の作戦に上手く乗せられた事に今更ながらに気づく。

 

「ドッカーン!!」

『うわあああああ!?』

 

全てのパーツがバラバラになったアビスの頭部をゆっくりと掴んだ美由紀機はEXアクションの「爆熱ゴッドフィンガー」でフィニッシュを決める。

 

「ヒートエンドッ!」

『くっそぉ!こんなの予定にないぜぇぇぇっ!!』

 

元ネタ通り頭部を破壊されてアウルのアビスもリタイアになった。

 

『………スティングもアウルもやられた。ステラ、負けられない………!』

「それは~、この後のシンさん達の為ですか~?」

『ネオも約束守りたいって言ってた。だから………負けない!』

 

更に、小春のガドランくんとステラのガイアガンダムとのバトル。

変形したガイアガンダムの「MA-81R ビーム突撃砲」によるビーム砲の連射と「MR-Q17X グリフォン2ビームブレイド」による両翼のビーム刃による突進を躱しながら、小春のガドランくんは「ビルドストライクガンダム」の「チョバム・シールド」に備えられた「ビームガン」で地道にダメージを稼ごうとしていた。

しかし、機動力重視のガイアの動きの前では空振りが多く、ビーム突撃砲やビームブレイドが掠った事でダメージが蓄積していく。

 

「あんまり小春も戦闘を長引かせたくないですね~。でも、「ミラージュコロイド」はまだ頼りたく無いですし~。」

『逃げ回れば勝機はあるってネオは教えてくれた!ガンプラバトルなら死なないから怖くない!』

「ブロックワードが無いステラさんは強力です~。」

 

強気のステラに対してあくまでマイペースを崩さない小春であったが、リペアキットの在庫には限りがある。

結局少しでもダメージを稼ぐ為に「カバカーリー」の胴体に備えられた「胸部フォトン・レーザー砲」や背中のバラエーナプラズマ収束ビーム砲を撃っていく。

 

『躱す!』

「あれれ~?」

 

だが、モビルアーマー形態で逃げ回るガイアには当たらず逆にビームブレイドの射程に捉えられてしまう。

 

『落ちろーーー!!』

「仕方ないですね~。ちょっと卑怯ですけれど~………。」

 

カオスやアビスとは違い、油断せずガイアはモビルアーマー形態を保ちながら突撃する。

その瞬間であった。

ガドランくんは背中の翼を思いっきり広げた。

「デストロイガンダム」に乗っている際にステラのトラウマになったフリーダムガンダムの翼を………。

 

「ドラゴンらしく威嚇行動です~!」

『ひぃっ!?』

 

思わずモビルスーツ形態に変形して急ブレーキをかけて止まったステラのガイアに至近距離で致命的な隙が生まれる。

小春機はガイアを掴むとEXアクションの「サイクロンパイルドライバー」を発動。

回転しながらきりもみ回転で飛び上がり、頭から叩きつけて全パーツアウトを引き起こす。

 

「トドメの~メガガドランくんビーム~!」

『お、終わり………?シン………ごめん………。』

 

メガランチャーで頭部を撃ち抜かれ、落ち込むステラの言葉と共に、三馬鹿は全滅する事になった。

 

『スティング!?アウル!?ステラ!?………くっ、やるようだなお嬢ちゃん達!だが………!』

「しまった!?」

 

ビーム砲塔システムによるオールレンジ攻撃を受け続けた結果、海のハルス・アテネのシールドであるトリケロスが遂に耐え切れずに破壊されてしまう。

ビームサーベルやビームライフルを始めとした武装は、右腕のトリケロスの中に備わっていた為、これでブリッツの武装は左腕の紐付きのクローを飛ばす「グレイプニール」以外使えなくなってしまう。

 

「裕子!何とかならないかい!?」

「そ、そう言われてもサイキックが無い中じゃ………!?海さんもヴォワチュールリュミエールは!?」

「あのビームの雨の中で近づけなければ意味が………!?」

「私が………仕掛けます!」

 

うろたえる裕子や海に対し、名乗りを上げたのはオラトリオで後方支援をしていた聖。

彼女はツインバスターライフルを連結させるとアカツキに向けて放つ。

 

『おっと、気でも狂ったか!?』

「反射する時に………隙は出来ます!「トランザム」………!」

 

ヤタノカガミで跳ね返ってきたビームをEXアクションのトランザムによる高速移動で回避した聖機は、淡い黄色の粒子を撒き散らしながら拳法用MSハンドを構え、高速でネオのアカツキに突進する。

 

『成程な!だが近接戦闘での対策が出来ているのは、お嬢ちゃん達だけじゃないんだぞ!』

 

ネオ機は器用に7基のビーム砲塔システムによるビームの雨を、眼前で張り巡らせて聖機の動きを止めるとビームサーベルで薙ぎ払う。

 

『悪いな!』

「終わりま………せん!」

『ん!?』

 

だが、ここで聖のオラトリオはツインドライブで量子化をして一瞬だがネオ機の前から淡い黄色の粒子を残し消える。

そして、背後に出現するとウイングガンダムゼロEWの背中に備わった「ビームサーベル」で逆にネオのアカツキを薙ぎ払った。

 

『やられた………か。』

「ごめんなさい………。」

『いや、反省点は次に活かせばいい。とりあえず、若人達へのバトンは繋げたつもりだから………後は任せるかね。』

 

ネオの溜息と共に、アカツキは爆発を起こした。

 

「みんな、大丈夫かい?」

 

1戦目のネームドとのバトルを終え、集まってきた6機のガンプラの様子を見て海が確認をする。

 

「聖です………。私は後方支援役だから、ほとんど傷は無いけれど………。」

「こ、こちら裕子………。リペアキットかなり使っちゃいました………。」

「由愛機です………。私も少しリペアキットを使いました………。後、GNビームサーベルを投擲しちゃいました………。」

「みゆきだよ。リペアキット結構使ったかな~?」

「小春です~。リペアキットの残りはまだそこそこありますね~。」

「ウチが一番重傷かね?リペアキットをかなり減らされた。何よりトリケロスを失ったから武装が………。」

「すみません………。」

「裕子、らしくないよ。サイキックが無いだけでそうなる物なのかい?」

「サイキックの無いユッコは只のユッコです………。」

「うーん、ここまで来ると可愛そうだけど、暴走すると全部台無しになっちゃうし………。」

「……………。」

「ん?小春?」

 

落ち込む裕子の様子を小春がじっと見つめているのを感じた海は疑問を投げかけるが、その前にアラートが鳴る。

素早く聖のオラトリオが「フィールドオフェンサー」と「フィールドディフェンサー」で強化をする。

 

「つ、次は誰が………?」

『ステラ達に勝ったのはアンタ達か?「シン・アスカ」、「デスティニーガンダム」行きます!』

『デスティニーに乗っているのはシンだけじゃないぜ!「ハイネ・ヴェステンフルス」!「デスティニーガンダム」出るぞ!インパルスとは違うんだよ、インパルスとは!!』

『それ、インパルスの前で言います?………「ルナマリア・ホーク」、「デスティニーインパルスガンダム」、出るわよ!』

『コントは控えろ。「レイ・ザ・バレル」、「レジェンドガンダム」出撃する!』

「ええ!?」

 

裕子の驚きと共に2機の配色の異なるデスティニーガンダムと、薄紫色のデスティニーインパルスガンダムと、グレーのレジェンドガンダムが6人のガンプラの前に降り立った。



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8章:サイキックは常識を凌駕するか? (裕子・海・美由紀・由愛・聖・小春)・3話

「ま、まさかシンさん達が出てくるなんて………。」

「何を弱気になってるんだい、裕子!バトルの前から気持ちで負けていたら意味無いよ!」

 

ガンダムνAGE-FPを駆りながらもたじろぐ堀裕子に対し、ハルス・アテネを駆って鼓舞する杉坂海であったが、内心では彼女もかなり焦っていた。

それは、デスティニーガンダムを駆るシン・アスカとハイネ・ヴェステンフルス、デスティニーインパルスガンダムを駆るルナマリア・ホーク、レジェンドガンダムを駆るレイ・ザ・バレルと言った陣容に対してではない。

前回のバトルでの暴走から、サイキックを封印された裕子の様子からだ。

明らかに今の彼女には、いつもの強さは無く完全に弱気になってしまっている。

これではこちらもペースが狂ってしまう。

しかし、サイキックを解放してしまえば、また味方を容赦なく誤射する可能性があるのも事実だ。

 

「とにかく散開!裕子はウチの後ろから援護しな!」

「は、はい………!」

 

数ではまだこちらが有利という事で、成宮由愛のガンダムフェアリアルドリームにデスティニーインパルスを、柳瀬美由紀のイージスキャンサーガンダムにレジェンドを、そして望月聖のウイングガンダム・オラトリオと古賀小春のガドランくんと協力してハルス・アテネとνAGE-FPは2機のデスティニーガンダムを相手取る戦法を取る。

しかし………。

 

『生憎、こっちも素直に相手にする程単純じゃないのよ!メイリン、「シルエットフライヤー」を!』

『シルエットフライヤー発進どうぞ!』

 

ルナマリアの妹である「メイリン・ホーク」の指示で、デスティニーシルエットを乗せたシルエットフライヤーがミネルバから発進され、ルナマリア機の所に飛んでくる。

すると、彼女は二振りのレーザー対艦刀である「MMI-710 エクスカリバーレーザー対艦刀」だけを取り出し、レイのレジェンドに投げ渡す。

 

「ええ、そんなの有り!?」

『実際にデストロイガンダム戦で取った戦法だ。攪乱させて貰う。』

 

そのままレイのレジェンドは、「ドラグーン・システム」を作動。

射出した大型の2基の「GDU-X7 突撃ビーム機動砲」から「ビーム・スパイク」を発生させてエクスカリバーを振り回しながら突進。

モビルアーマー形態を取る美由紀のイージスキャンサーの動きを制限して機動力を上手く封じると、その一方で小型の8基の「GDU-X5 突撃ビーム機動砲」も射出。

由愛のフェアリアルドリームに向けて飛ばしていく。

 

「一気に2機を相手に………!?」

『私を忘れないでよ!』

「わ………!?」

 

ドラグーンに気を取られた由愛に対し、ルナマリアはレイ機にエクスカリバーを投げ渡したデスティニーシルエットをそのまま突撃させてくる。

慌ててGNミサイルで迎撃をする由愛だが、シルエットフライヤーの爆発の中から「光の翼」で高機動状態になったルナマリア機がエクスカリバーを二刀流にして突進してくる。

GNシールドとビーム・ジャベリンにifsユニットを纏って受け止めようとするが、接近戦の反応では向こうの方が上だった。

圧倒的なスピードと破壊力でシールドと最大の近接武器が一度に破壊されてしまう。

 

「こ、こんな事になるなんて………!?」

『メイリン、どんどんデスティニーシルエットを射出して!エネルギー不足はこれで解消よ!』

「北海でのシンさんの戦法を………!?」

 

エネルギーが無くなる度にどんどん新しいシルエットに付け替えていくルナマリアのデスティニーインパルスの戦法に、慌てて背中の「ヴァジュラビームサーベル」を取り出した由愛は困惑していた。

 

『グフとは違うんだよ、グフとは!』

「さっきと言っている事が違います………でも………!」

 

ハイネのデスティニーには、聖のオラトリオがツインバスターライフルで対抗しようとしていたが、先程の戦闘でトランザムを使ってしまった故に、ハイネ機の「光の翼」による高速移動に翻弄されてしまっていた。

こちらは接近すれば対艦刀である「MMI-714 アロンダイト ビームソード」がある。

しかし、離れたとしても「MMI-X340 パルマフィオキーナ 掌部ビーム砲」による掌からのビーム砲での射撃が絶え間なく飛んでくるので、こちらの回避も頭に入れないといけない。

 

「何とか………しないと!」

『逃げてばかりじゃ何も出来ないぜ、そら!』

「あ………!?」

 

素の状態でも生存率は高い聖のオラトリオであったが、その分直接的な支援能力は欠けていた。

ハイネは一瞬の隙を突いて聖機のツインバスターライフルを回避すると、シンのデスティニーと対峙していた海のハルス・アテネにパルマフィオキーナを横合いから放つ。

そのビームは海が振り回していたビーム・リングに命中してしまい、破壊されてしまう。

 

「くっ………もう武装が………!?」

『ナイスだハイネ!このまま一気に仕留める!』

 

そこにシンが「光の翼」を発動させて突撃してくるが、狙いはハルス・アテネでは無く裕子のνAGE-FP。

 

「ぐ、グラビティスフィア!」

『そんなんで………甘い!』

 

裕子はムチからブラックホールを発生させて投げつけて後ろに下がるが、シン機は何とEXアクションの「ストライクストリーム」の回転斬りを利用してブラックホールを「アロンダイト」で真っ二つにしてしまう。

 

「ええ!?」

『終わりだ!!』

 

あっという間に懐に潜り込んだシン機はアロンダイトを振り上げる。

EXアクションの「デッドエンドインパクト」の協力な一撃で、全てのパーツをバラバラにするつもりなのだ。

裕子の目の前で、やたらゆっくりと時間が流れた。

 

(終わった………。)

 

裕子が諦めた瞬間であった。

 

バッキャーンッ!!

 

凄まじい音と共にガンプラのパーツが全て外れバラバラに散らばる。

だが、それは裕子のνAGE-FPではない。

 

『な!?』

「え!?」

 

シンも裕子も驚く。

2機の間に影が割って入り、その機体が………ミラージュコロイドを使った小春のガドランくんが、犠牲になったからだ。

 

『な、何で………!?』

「小春ちゃん!!」

 

緊急事態に、もはやレジェンドには構わず闇雲に突撃してきた美由紀のイージスキャンサーがビーム・ガトリングガンとスキュラを放ってシン機を何とか後退させる。

尚も美由紀は警戒するが、その場にはバラバラになった小春機とそれを呆然と眺める裕子機が残った。

 

「裕子ちゃん、しっかり!早く小春ちゃんのカバーを………。」

「私のせいだ………。」

「ゆ、裕子ちゃん!?」

「私のせいで………ドリームホープスプリングの初陣を………。」

「しっかりして、裕子ちゃん!」

「私が………私が………私が………!」

 

美由紀が裕子機の肩を揺するが彼女は完全に自失呆然としてしまっている。

ガドランくんの頭部パーツだけ転がる形になった小春はその様子を見て、静かに指示を出す。

 

「すみません~。裕子ちゃんと少し会話したいので~、時間稼ぎしてくれませんか~?」

「小春ちゃん………?」

「分かりました………「フォースシルエット」、射出して下さい!」

『え?』

 

小春に呼応した由愛が何とミネルバに通信を送る。

すると、何とミネルバ内部から真っ白なシルエットフライヤーに接続されたフォースシルエットが次々と発進されていき、由愛機の周りに集っていく。

 

『ちょ、メイリン!?どういう事!?』

『その………お姉ちゃん、由愛って子のガンプラはフォースシルエットを背中に付けてるからシルエットフライヤーを操れるの。』

『それってOKなの!?』

『落ち着けルナマリア。………ルール的には反則ではない。』

 

ルナマリア達が動揺する中で、由愛のフェアリアルドリームはフォースシルエットに飛び移り、ヴァジュラビームサーベルを次々と取り出すとGNビームサーベルがセットされていた所に次々と代用品としてセットしていく。

 

「海さんも………!最大限にフライヤーを活用して下さい………!」

「由愛のやりたかった事ってこれだったんだね!………いいよ!聖も!」

「はい………!」

 

海はグレイプニールでシルエットフライヤーの1つに捕まるとヴァジュラビームサーベルを拝借する。

そして、EXアクションのヴォワチュールリュミエールを発動させると、シルエットフライヤーに乗ったまま加速していく。

聖も同様にヴァジュラビームサーベルを拝借すると、シルエットフライヤーを飛び移りながらツインバスターライフルを撃っていく。

 

『ルナ、レイ、ハイネ、どうする!?』

『どうするって………。』

『面倒だが1機ずつ撃ち落としていくしかないだろう。』

『厄介な切り札を持ってやがるねぇ、あの妖精。』

 

レイのレジェンドのドラグーン・システムを中心にシン達はフライヤーを破壊していくが、由愛は絶え間なくシルエットフライヤーをミネルバから発進させていく。

バトルフィールドはたちまち賑やかになった。

 

「小春ちゃん………どうして………私なんかを………。」

 

その一方で、美由紀機を護衛に付ける形で呆然としていた裕子はパーツをバラバラにしてしまった小春に項垂れる。

しかし、小春は裕子を責める事は無く静かに話し始める。

 

「裕子ちゃんは~、今楽しいですか~?」

「え?」

「私の目からは~、楽しいようには見えないです~。」

「……………。」

 

サイキック暴走によるファンネル封印。

そんな状態で戦っていても、裕子は楽しいとは確かに思えなかった。

しかし、上手くコントロールできない自分では、周りに迷惑を掛けるだけだ。

自分の身勝手で周りを楽しませなくさせていては本末転倒だ。

だから………。

 

「仕方ない事なんです………私のせいで………。」

「じゃあ、サイキック解放しちゃいましょう~。」

「ダメですよ、私がもしも暴走させたら………。」

「それで我慢していて仮に勝てても、後悔してしまうんだったら………由愛ちゃんにも聖ちゃんにも失礼です。」

「小春ちゃん………?」

 

珍しく間延びせず真面目に答えた小春の言葉に裕子だけでなく美由紀も思わず振り返る。

通信画面の小春は少しだけ寂しい笑みを浮かべていた。

 

「ある所に、とても強い女の子がいました。その子は本当に強くて自分が公の場で恥をかいても仲間の為に動こうと思える子でした。」

「それは………本当に強い子ですね。」

「でも、そんなに意志の強い子でも………感情を完全に押し殺して生きる事は出来ないんです。」

「えっと………。」

「心の何処かではやっぱり泣きたいんです。甘えたいんです。その強さ故に弱さを抱いてしまうんです。」

「……………。」

 

名前は出さなかったが、小春が言っているのは村上巴の事だ。

彼女はジャパンカップのエキシビジョンマッチで、乱入者であるウィルに無残にガンプラをバラバラにさせられた。

それ以降、彼女は尚も自分を支えてくれる仲間の為に、更に強くなる事を誓った。

だが………だからといって敗戦のショックを引きずらないわけが無い。

その強さ故に弱さを………チームである仲間に対する申し訳なさ、後ろめたさ………そして泣きたい感情をずっと堪えていた。

但し、それは恥ではない。

人として当然の感情であるのだ。

だから小春は………共に修行に付き合った「桜舞隊」の面々は、こっそりとその闇を吐き出す場所を作った。

巴が更なる一歩を踏み出せるように………と信じて。

 

「だから裕子ちゃんも自分の本当の感情に………サイキックに正直になって欲しいんです。」

「でも………。」

「後悔しか抱かないのならば………一緒に戦ってくれている仲間に失礼ですから。何よりガンプラバトルって………楽しむものじゃないですか?」

「や、やっぱりダメです!分からないんですよ!サイキックを暴走させない方法が!?」

「大丈夫です、裕子ちゃん。ちょっと頭を使えばいいんですよ。いっぺんにコントロールしようとして暴走するのならば………。」

 

その時だった。

ガドランくんの頭部がデスティニーの「M2000GX 高エネルギー長射程ビーム砲」の流れ弾で吹き飛ぶ。

コンソールに小春機がロストしたという文字が並び、裕子達は固まる。

 

「小春ちゃん………。」

「裕子!話はちゃんとできたのかい!?」

「………海さん、美由紀ちゃんごめんなさい。私………私………!」

 

暴走は怖い。

フレンドリーファイアはもっと怖い。

でも………それでも小春の言う通り、楽しめないバトルは………持っての他だった。

だから………。

 

「このままみんなの足を引っ張って情けなくやられるぐらいならば、サイキックを………使います!私らしさを………発揮します!」

「裕子ちゃん………。」

「じゃあ、後はリーダー任せるよ!流石に………無理しすぎたね!」

 

「ザクⅡ改」の「ザク・マシンガン」を連射していたハルス・アテネもドラグーン・システムの一斉掃射を受けて爆発する。

 

「ごめんなさい………そして、ありがとうございます、海さん、小春ちゃん!ここからはユッコの本気を見せます!ファンネル達………みんなの想いを乗せて………行けっ!!」

 

裕子が手を振りかざすと共に、νAGE-FP からCファンネル8基にフィン・ファンネル6基、更にファンネル3基が射出される。

それらは規則正しい機動でシンのデスティニーに迫る。

 

『この動きは………オート操作!?マニュアルを諦めたか!だったら………!』

 

迎撃するのは容易いと思ったシンが高エネルギー長射程ビーム砲を構えるが、そこでCファンネル8基が急に円月輪のように輪を作り回転しながら迫り、ビーム砲を切り裂き破壊する。

 

『な!?この動きはオートじゃない!?マニュアルも………そういう事か!?』

「簡単な話だったんですよ………!一度に全て操って暴走するのならば、マニュアル操作で操る分を減らせばよかったんです!」

 

サイキックに拘る故にオート操作を敬遠していた裕子であったが、確実なコントロールをするのならば、オート操作の力を借りながらマニュアル操作を織り交ぜるのが効果的だったのだ。

規則正しい動きの中に不規則な動きが混じれば、敵機は困惑する。

それだけで絶大な効果を発揮するのだ。

 

「追い込ませて貰います!」

『そう簡単に……!』

 

シンは「MA-BAR73/S 高エネルギービームライフル」を連射するが、裕子はフィン・ファンネルをオート操作にして自分を囲み「ビーム・バリア」を形成して防御。

即座にCファンネルをオート操作に切り替えて物理用の「バリア」を形成して種類を切り替えると、一気に懐に飛び込みシンが構えたアロンダイトの折り畳み部分に体当たりを喰らわせて砕いた上で動きを止める。

その上からファンネル3基をマニュアル操作で操り、ビームの雨を降らせて両肩の「RQM60F フラッシュエッジ2 ビームブーメラン」も破壊する。

 

『さっきと全然動きが違う!?これがアンタの本気なのか!?』

「今の私は………阿修羅すら凌駕します!」

 

光の翼で逃げながらルナマリアの放ったシルエットフライヤーから「エクスカリバー」を受け取ったシンは二刀流で構えながら裕子に再度迫る。

一方の裕子も下がりながら牽制で背中のハイパー・バズーカを連射しながら、νガンダムの「ビーム・サーベル」を右手で抜き放ち、由愛のシルエットフライヤーからヴァジュラビームサーベルを左手で取ると奥の手を使う。

 

「サイキック最大解放………「NT-D」起動!!」

 

裕子も高速機動形態になってファンネルを纏い、シンとの激しい攻防が始まった。

 

「裕子ちゃんが復活したのはいいけれど………だったら、猶更こっちを何とかしないと!」

 

その一方で、美由紀のイージスキャンサーはレイのレジェンドを相手にしていた。

裕子がファンネルを自在に扱う手段を覚えたからこそ、それに対抗できるドラグーン・システムを駆使するレジェンドの存在は厄介だと踏んだのだ。

だが、元々近距離主体のイージスキャンサーは、レイの操る複数のビーム突撃砲の雨の前に中々近づけず、仮に近づけても対艦刀であるエクスカリバー二刀流の猛攻の前にリペアキットも体力も減らされるばかりだ。

 

『1人でドラグーンを相手取る根気は褒めてやる。だが、現実はそんなに甘くはない!』

「ううう………せめて何か………何かビット兵器に対抗する手段があれば………!」

 

ビット兵器を打ち破ったオールドタイプの機体は中々存在しない。

「ガロード・ラン」がビットの撃ち落としをやってのけた事があったが、流石に美由紀にそこまでの技量は無かった。

他の事例を考えると………。

 

「………ダメ!邪魔が多すぎて………!」

「美由紀ちゃん!」

「裕子ちゃん!?」

 

そこにシンと対峙している裕子から通信が入って来る。

彼女は強気で笑うと美由紀に言う。

 

「今まで迷惑を掛けた分!私に出来る事があれば言って下さい!」

「………チームワーク、お願いしていい?」

「はい!」

「じゃあ………!」

 

簡潔に通信を終えると美由紀は機体をモビルアーマー形態に変化させ、残りのリペアキットを使う。

 

『防御を捨てる気か!』

「もう………ヤケだよ!」

 

そして、バーニアを全開にすると、一直線にレジェンドへと突っ込んで行く。

あのイージスならではの「合言葉」を口にして。

 

「こうなったら………みゆき自身がファンネルになるしかない!!」

『組み付く気か!?だが、今のレジェンドに………な!?』

 

進路上にビームスパイクを発生させた2基の大型のビーム突撃砲を配置するレイであったが、そこに何とCファンネルが2基飛んできて突き刺さり、爆発を起こす。

更に両手に構えていたエクスカリバーにもCファンネルが突き刺さり、同じく爆発を起こす。

 

『これは、堀裕子か!?』

「みゆきファンネル!!」

『チィッ!?』

 

小形のビーム突撃砲でイージスキャンサーにビームの雨を降らすが、体力を全快させていた分と突貫して加速していた分だけ持ちこたえる事が出来た。

そのまま一気にレジェンドに組み付く。

 

『不味い!?』

「間に合えーーー!!」

 

レイは「MA-M80S デファイアント改ビームジャベリン」を取り出し、咄嗟にイージスキャンサーに突き刺すが、その前に美由紀は零距離からスキュラでレジェンドを貫いた。

 

『………相打ちか。やってくれる。………すまん、シン、ルナマリア、ハイネ。先に抜ける。』

「ふー………裕子ちゃんのお陰で、厄介なレジェンドは落とせたよ。後任せるね。」

 

次の瞬間、イージスキャンサーとレジェンドは共に爆発した。

 

『残りは3対3………!だが、デスティニーはザクとは違うんだよ、ザクとは!!』

「そ、その言葉、何種類レパートリーがあるんですか………!?」

 

聖のオラトリオはハイネのデスティニーの攻撃を必死に躱していた。

元々味方の中で一番リペアキットを維持していたのもあって回復には困らなかったが、パーツアウトはそのまま機体のバランスを崩して機動力の低下に繋がってしまう為、ダメージコントロールを慎重にしないといけなかった。

 

「盾が………ウイングガンダムゼロEWの「ウイング」が外れたら動きが鈍っちゃう………。」

『どうした!?集中力が散漫だぜ!』

 

ハイネは「RQM60F フラッシュエッジ2 ビームブーメラン」を2つ投げつけてくる。

1つ目は回転しながら回避するが、2つ目が逃げ切れなかったので、チャージが完了したトランザムを発動して無理やり機動力を上げて躱す。

だが、そこでハイネは「M2000GX 高エネルギー長射程ビーム砲」を絶えず発射。

 

「りょ、量子化で………!」

『連続使用は出来ないよな!』

「………!?」

 

量子化を使って躱した聖にハイネは光の翼を発動させてアロンダイトを構えて突っ込んでくる。

もう躱せない………そう思った聖は思わず目をつむりそうになるが………。

 

「諦めないで下さい!」

「裕子さん………あ!?」

『何ぃ!?』

 

裕子の通信に聖もハイネも驚愕する。

何とハイネのデスティニーの両腕両膝の関節部分にCファンネル4基が突き刺さって動きを封じたのだ。

 

『ぴ、ピンポイントで動きを封じてきただと!?』

「ありがとうございます………裕子さん………!」

『え、ちょ、ま!?』

 

アロンダイトを取り落としたハイネ機に、聖はツインバスターライフルを連結させて発射し、そのまま巨大なビームソードに見たて、胴を薙ぎ払うように突撃する。

 

「お願い………!」

『け、結局最後はこれかーーー!?』

 

巨大なビームソードに飲まれたハイネのデスティニーはそのまま掻き消された。

 

『もう、どれだけシルエットフライヤーを持ってるのよ!』

「それは、ブーメラン発言じゃ無いでしょうか………!」

 

由愛のフェアリアルドリームは、背中のインパルスのフォースシルエットをルナマリア機にぶつけようとする。

ルナマリアのデスティニーインパルスも同じくデスティニーシルエットを由愛機にぶつけようとして、シルエット同士が激突して爆発を起こす隙に、両者シルエットフライヤーからそれぞれのパーツを再び合体させて武装とエネルギーを補充する。

 

『その機体、元々は接近戦仕様みたいね!でも、それなら負ける気は無いわ!』

「た、確かに………ルナマリアさん、射撃はともかく格闘戦は………。」

『一言余計よ!』

 

両肩越しに「テレスコピックバレル延伸式ビーム砲塔」を展開したデスティニーインパルスは、巨大なビームを放ってくる。

 

「わわ………!?」

 

何とか回避する由愛であったが、ルナマリアはエクスカリバーと光の翼を使い、再び突撃してくる。

 

「き、来た………!?」

 

もうGNミサイルも無くなっていた由愛は、右手のヴァジュラビームサーベルを1本投げつけるがデスティニーインパルスは軽く回避。

更にフォースシルエットを再び飛ばすが、こちらはエクスカリバーで簡単に叩き斬られる。

 

「援護します!」

『3度目が通じると思った!?』

 

そこに裕子がファンネルを3基飛ばして来てくれるが、ルナマリアは右手のエクスカリバーを1本咄嗟に盾として犠牲にして防御。

即座に「ビームブーメラン」を右手で投げつけてファンネルを3基いっぺんに破壊してしまう。

そのまま左手のエクスカリバーを両手で持ち、シールドもビーム・ジャベリンも失った由愛機に対し、思いっきり大上段から斬り下ろすが………。

 

『これで決まりよ!』

「Cファンネル………!ifsユニットで………!」

『え!?』

 

ガキィン!!

 

だが、ここで予想外の事が起こる。

由愛はCファンネル4基を咄嗟にマニュアル操作にすると、右手の甲に小さな刃にして集わせたのだ。

それは黄緑のifsユニットを纏い、砕かれながらもエクスカリバーを弾き、軌道を変える。

 

『しま………!?』

「裕子さん………助かりました!」

 

そのまま左手で脚にセットしたヴァジュラビームサーベルを取り出すとルナマリア機のコックピットに突き刺した。

 

『………ごめん、シン。私もこれで離脱。あーあ、接近戦で負けるなんて。』

「す、凄く強かったです………。私もそれ位の赤服になりたいな………。」

『誉め言葉と受け取っておくわ。ありがとね。』

 

由愛のフェアリアルドリームが離れると共に、ルナマリアのデスティニーインパルスは爆発した。

 

「聖ちゃんも由愛ちゃんも生き残りましたね!これで………!」

『アンタ………わざわざ自分のファンネルを犠牲して仲間を助けたけれど、それでオレに勝てるつもりなのか?』

「勝ちますよ、勿論。勝たないと意味が無いですから!」

『本当にさっきまでと別人だな。だけど、簡単に行くと思うな!』

 

最後にシンのデスティニーと対峙していた裕子のνAGE-FPは強気であったが、3人の仲間を助ける為にファンネルを消耗して、フィン・ファンネルが6基しかもう残っていなかった。

それでも勝とうと思う姿勢は評価できるが、残念ながらその隙と甘さを見逃す程シンは甘くない。

 

『ファンネルが減れば!』

 

ルナマリアのデスティニーシルエットから拝借したエクスカリバーでビームの雨を降らすフィン・ファンネルを狙うと光の翼の高速移動を駆使し、一気に3基破壊していく。

 

「ルナマリアさんもそうですが、貴方達、格闘戦強すぎませんか!?」

『それは上官だったアスランに言ってくれ!』

 

距離を取ろうとしたフィン・ファンネル3基も、シンは左手のエクスカリバーを一旦置いてパルマフィオキーナのビームの連射で一気に破壊する。

更にNT-Dの機動力で距離を取ろうとする裕子に対し、右手のビーム・サーベルと左手のヴァジュラビームサーベルもパルマフィオキーナで器用に破壊してみせる。

もう裕子にはサーベルもファンネルも残っていない。

 

『今度こそ………終わらせるんだ!』

「まだファンネルは残っています!」

『何!?』

 

驚くシンに対し、裕子は左手のシールドを………「フル・サイコフレーム」で構成されたアームド・アーマーDEを射出する。それはシンの右手のエクスカリバーを弾き飛ばすと、左手のエクスカリバーを内蔵された「ビーム・キャノン」で破壊する。

 

『どこまでファンネルなんだよ!?』

「これで………ラスト!」

 

シンが零距離パルマフィオキーナでアームド・アーマーDEを破壊している内に、ダイダルバズーカを3つに分裂させてEXアクションのスペクトラルショットを裕子は放つ。

 

『まだだぁっ!!』

 

だが、光の翼を持つシンは、本当にギリギリのタイミングでそのビーム射撃を躱す。

そのまま一気に接敵しようとするが、裕子のνAGE-FPはその場で両手を上に掲げた。

 

『降参………じゃない!?』

「聖ちゃん!!」

「はい………!」

 

裕子のνAGE-FPに向けて、聖のオラトリオがビームの対艦刀を………ハイネ機が落としたアロンダイトを投げてくる。

それをキャッチした裕子はシンのデスティニーに斜め右から斬りつける。

 

『そ、そこまで計算した上で………!?』

「只のおバカキャラと思わないで下さい!………たぁあ!!」

 

そして、そのまま斜め左から斬り下ろし、×の字にシンのデスティニーを斬り裂いた裕子のνAGE-FPは、最後にコックピットにアロンダイトを突き立てた。

 

『………驚いたな。ここまで視野を広くして状況を把握するなんて。最後のアロンダイトも………。』

「あ、それなんですが、実は裕美ちゃんに勉強を教わった時に教えて貰ったんです。裕美ちゃんも自分の武器を失った時に、泰葉ちゃんや千鶴ちゃんの武器を拝借したって。」

『そう言えば、そんな事も前のエクストラバトルであったな………。』

「それに………私のサイキックを目覚めさせたのは、小春ちゃんを始めとしたみんなの力ですから………。」

『………そっか。いいな、そういうの。』

「シンさんも、対戦、ありがとうございました!」

『もう、フレンドリーファイアは止めろよ。』

「はい!」

 

礼をした裕子の前で、シンは何処か満足がいったような顔をする。

そして、デスティニーが爆発した事で、バトルは終了した。

 

 

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「うう………。16歳のサイキック女子高生アイドルのお小遣いは厳しいんですよ!?」

「と言っても、バトル中に意気消沈した裕子が悪いんだから仕方ないよねぇ。」

 

シン達とのエクストラバトルの後、迷惑を掛けた小春を始めとしたアイドル達に謝った裕子は、彼女の提案で、みんなでカフェでパフェを食べる事になった。

………裕子の奢りで。

 

「大体、何でバトルとは関係ない響子ちゃん、未央ちゃん、ネネちゃんも加わってるんですか!?」

「利子だと思いな。………どうだい、美味しいかい、小春、由愛、聖?」

「美味しいです~。」

「何か悪いですけれど………。」

「ご、ごめんなさい………。」

 

嘆く裕子に対し、海はドリームホープスプリングの面々に笑いかける。

その隣では、利子の名の元で加わる事になった五十嵐響子、本田未央、栗原ネネに混じって、美由紀も甘いパフェを美味しそうに頬張っていた。

 

「裕子ちゃんがフレンドリーファイアを卒業できた祝いだから豪華じゃないとね!」

「だから、何で私がーーー!………もういいです。」

 

最後には拗ねてしまった裕子に全員苦笑。

そんな中、裕子は自分のガンプラを眺めて言う。

 

「それにしても………ガンプラの可能性は文字通り無限大ですよね。響子ちゃん達も完成できそうですか?」

「はい、お気に入りの機体があったのでベースにしたんですが、さっきのバトルを見て、完成図が浮かんできました。」

「あ、私も!未央ちゃんのガンプラはきっと華麗な物になるよ~?」

「私も完成できそうです。………ちょっと変わったガンプラをモチーフにしていましたが、構想が纏まりました♪」

 

その3人のガンプラの完成形を聞いた残りの面々は驚く。

 

「そんなガンプラの姿が………。やっぱりアイドルの数だけ個性があるんですね!」

「裕子ちゃんも~、そんなガンプラじゃないですか~。」

「そうですね………。さっきのバトルはカッコ良かったです………!」

「私達も助けてくれましたし………サイキックは素晴らしいです!」

「ほ、本当ですか!?………アレ、何か涙が。」

「………それだけ苦しんでたんだね、裕子。」

 

無意識の内に涙を流す裕子に優しく笑いかける海。

小春の言った通り、どんな人間にも強さと弱さがある。

だからこそ苦しみ、それを乗り越えて一歩を踏み出せる。

それは巴も裕子も他のアイドルも変わらない。

だから………。

 

(私は………これからもサイキックアイドルで………いいんですよね。)

 

涙をぬぐい、再び自分のガンプラを見つめた裕子は笑みを浮かべた。



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