デート・ア・ライブ 騎士は剣を (SUMI)
しおりを挟む

始まりの日

アニメを見ていたら衝動が湧いて、原作見たら書きたくなった。
後悔はしていない



夢を見る。

 

それは悪夢。ごうごうと一面を埋め尽くす劫火。逃げ惑う人々の悲鳴。

 

これは地獄。津波が何もかもなぎ倒すように人の命を刈り取っていく。

 

 

その片隅、少年と少女がいた。燃え盛る紅蓮の中でも生きていた。

 

少年は膝をつき、少女を抱えている。

 

「しっかりしろ! まだ、まだなんとかなる!」

 

少年は声を掛ける。まだ助かると諦めていない。

 

「――――――」

 

少女は否定する。

 

「――――――」

 

だって…………腹に穴開けた少女の血でおびただしい水たまりが出来上がってしまっているのだから。

 

「そんなこと言うなよ! まだ病院行って輸血すれば助かるかもしれないだろ!!」

 

少年はなんとしても諦める気はない。だが輸血など無意味だ。それどころか致命傷なのは誰の目から見ても明らかで少年がただその現実を認めたくないだけ。

 

「―――――――」

 

「――――――分かった。キスすればいいんだな?」

 

少年と少女の唇が触れる。やさしい口づけ。一瞬にも永遠にも思えるような口づけが終わると少女は満足そうに笑い、瞳を閉じて動かなくなった。

 

「…………おい、何満足そうな顔して眠っているんだよ。起きろよ。お前は満足したんだろうけど、俺は満足していねえよ」

 

揺する。だが少女はなんの反応すらも。少年もなんの意味を持たないなんてわかっている。だが心が分かっているのに理解するを拒絶している。理解してしまえば完全に離れてしまう。

 

「俺はお前と一緒にいるだけで満足だったんだ」

 

理解と拒絶。二つの相反する感情が少年の心をぐちゃぐちゃに乱し砕いていく。

 

「こんな急展開なんていらなかった」

 

血の池にポタリポタリと透明な雫が落ちる。もはやこれがなんなのかは語るまでもないだろう。それほどまでに少年にとって少女は大切な存在だったのだ。

 

「グダグダと過ごして、無駄話して、ふざけあって笑いあって…………そんな、普通のさ。どうでもいいお前との日常が好きだったんだよ。なあ、眠ってんなよ。起きろよ」

 

もう彼女は動かない、語らない、生きていない、笑わない。そして、二度と起きることはない。その事実が少年へ無慈悲に突きつけてくる。

 

「なあ…………起きてくれよ…………なあ」

 

炎の中、少年の嗚咽しか出てこなかった。それはまるで………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天に、いや純白の天使に祈るような呪詛のような嘆きでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――ッハ!」

 

夢は醒めた。まだ日の上らない早朝の自身の部屋。顔に手を触れれば相当うなされたようで冷汗がべっしょりとかいていた。

 

「あの時の夢…………クソッ!」

 

八つ当たり気味にベットを殴りつけた。無論、それが無意味だと判っていてもだ。それでも感情が収まりを見せないのだから。

 

「ああ、ちくしょう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、シャワーで汗を流してリビングの机に伏してゆっくりしていたら、上からドスンドスンと飛び跳ねている音が聞こえてくる。おそらく義理の妹の琴理が同じく義理の弟の士道を起こしているのだろう。軽く説明すると妹の琴里については年相応のお兄ちゃん大好きな甘えん坊で士道はまあ、ごく普通のお人よしの高校生として言えない。そして二人には重大な秘密を抱えているらしい。なんでらしいかって? そうゆう一面もあると聞いているだけで見たことないからだ。後は俺には甘えてくれるどころか事あるごとにパンチとかキック飛んでくるんだよな。デレは士道限定なんですよ。

 

タタタと降りてくる足音がしたら琴里が降りてきた。

 

「ん、琴里か。おはぎゃぼ!?」

 

「兄さん邪魔!」

 

俺は無視かよ。いったいどこからそんな力が湧いてくるのか伏せていた俺を無理やりどかして机を盾にするように立てて隠れている。しかもなにかに怯えているようだ。

 

「でどうした? 琴里?」

 

「お兄ちゃんが! お兄ちゃんが~!」

 

そんなやり取りで納得した。おそらく士道がおふざけで琴里をびっくりさせたんだろう。それが予想以上に効いていたんだろう。

 

「はいはい、士道は俺がなんとかするから」

 

琴里をなだめていると制服に着替えた士道が入ってきた。目の前の様子にすこしだけ引いていた。

 

「あ、おはよう。兄さん」

 

「おはよう。士道もすこしふざけすぎだ」

 

で後は士道がおふざけを琴里に謝ってそれで仲直り。そんな日常。前とはほとんど変わりなく。唯一違うと上げるのならば空間震と呼ばれる災害だろう。

書いて文字通りの災害で空間そのものが揺らぎ、その影響で周囲を破壊するという。最初に確認されたのは最大級の三十年前のユーラシア級と呼ばれるもの。被害者は一億五千万人もの人が死傷した。

最初の空間震そのものに何かしらの秘密が隠されている……らしい。

 

あとはどっかのライノベみたいな日常を送っている。

 

ん? ああ、自己紹介が遅れたな。俺は五河零士。五河家の長男で19で大学生だ。後は俺のことをこういう人物がいるくらいかな? そう、転生者という存在でもあるのだ。ここはライトノベルの世界…………らしい。疑問形なのは知らんからだ。あとは知っている転生者から大雑把に聞いたくらいだ。そして今日が始まるとしか知らん。詳しい内容なんて忘れているも同然だから。

 

「兄さんも伏せていないで手伝ってよ」

 

ま、なるようになるしかないからな。未来なんてわからないもんなんだしよ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

騎士〈ナイツ〉

二話目、投稿


その日、天宮市で空間震が発生した。せいぜい百メートル程度の規模。規模としてみればまだ小さめな方だろう。だがまじかで見た五河士道にはその脅威を身をもって知っただろう。

 

そして、その中心。ひとりの少女が佇んでいたのだ。

 

「――――――」

 

まるでゲームのような幻想的な服装。その奇妙なドレスを着た少女が剣が刺さった玉座に足をのせて佇んでいた。

 

気が付けば士道は話しかける。たとえ少女に警戒されようとも。たとえ敵と判別されようとも。たとえ、少女が想像を絶する力を持っていようとも。それが向けられたとしても。

 

士道は見てしまったのだから。誰かを見た瞬間、少女がとても悲しそうな寂しそうな表情を。それをほおっておけなかったのだから。

 

次に現れたのは空を飛ぶ奇妙な人間たちだった。まるで機械を身にまとったは少女に敵意を向けてミサイルを次々と放っていく。

 

「こんなものは無駄だと、なぜ学習しない」

 

おそらく、少女に対して何度も行われたのだろう。少女の言葉からそれは効果はなく、あっけなく防がれる類の攻撃なのだろう。剣を持っていない方の手を掲げた。おそらくミサイルを止めるためだろう。

 

少女が止める前に切り払われた。ミサイルが爆発し、周囲を巻き起こすが士道には目には見えない何かが遮り通さない。士道はそれでも反射的に目を閉じてかばってしまう。

 

「またおまえか」

 

少女の声が聞こえた。目を開けるともう一人立っていた。一目でわかるのは時代逆行したような中世のフルプレート。闇をぶちまけたかのように真黒なそれは人の形をしているのに人でないような錯覚をさせる。手には彼女の持っている大剣ではなく長剣に分類される現実的な剣。見る人が見ればまるで黒騎士とも見えるだろう。奇妙にも不思議にも士道にはその騎士を知っている。こんなフルプレートを持っている人物なんて知り合いになんていないのにそんな気がした。

 

「答えろ! おまえはなんだ!?」

 

少女の問いに騎士は答えない。ただ不気味に佇むのみ。剥き身の刀身を手に持っている。けれども士道には知っているのと同じように騎士は自分たち(・・)を害せさない。そんな確信を無意識に持っていた。

 

「おまえもわたしを傷つけるのか!?」

 

騎士に向かって少女は剣を振るう。それに対して騎士は半身ずらして交わすと同時に手に持った長剣を背後に振るう。そして数瞬遅れて爆発した。さきほどの繰り返しだ。彼女に向けて放たれたミサイルを切り払ったのだ。

 

(護っている?)

 

士道は下手したら巻き込まれるかもしれないのに冷静にその様子を観察していた。いや、彼女やほかの敵意から外れ傍観者となったからこそ見えてきたものがある。傍目八目である。

 

騎士はその長剣をだれかに向けて振っていない。少女や空を飛ぶ人間に向けられた敵意に対して振るっているのだ。士道から見ても騎士が振るう剣が達人の技であると判るほどに確かな技量を持って振るわれている。そんな技を持って振るえばこの場にいる全員を斬り倒すなんてことが出来るだろう。しかし、装備こそ破損しているし、倒れている者もいるが怪我すらしていないのだ。騎士は空飛ぶ人間の銃弾を切り落とし、少女の斬撃をいなす。それだけを剣ひとつで成し遂げている。

 

「一切、合切……消えてしまえ!」

 

騎士が防いでくれてはいるが自身を攻撃してくる空飛ぶ人間が煩わしく思えてきたのか風が靡き、衝撃が飛ぶ。少女が空を飛ぶ人間たちに向けて斬撃が放たれる。

 

しかし、それは届かない。斬撃の進路に移動していた騎士が切り払う。それだけで斬撃は進路を変えて誰もいない場所を斬る。なんという絶技。たとえ彼女と同じ力を持っていようとも目に見えない斬撃を正確に捉えて斬り流したは困難なことなのだから。

 

空飛ぶ人間と少女の戦闘は騎士によって膠着状態に陥っている。ふと騎士と切り結んでいる人間たちの中に見覚えがある顔が一つ見えてしまった。肩に届くか届かないくらいの白い髪に人形のような端正な顔立ちの少女は空飛ぶ人間たちと同じ機械を纏っている。

 

「鳶一……折紙」

 

士道とはクラスメイトであるはずの彼女がなぜここにいる? そんな疑問とともに彼女の名前が口から洩れてしまう。

 

「五河士道……」

 

彼女もつぶやかれた彼の言葉が聞こえたのかこちらを見る。それが少女にとって隙なのか見えたのか切りかかる。だがこうしてここにいる以上即座に反応して剣を取り出して受け止めた。少女と鳶一折紙が剣を交えた瞬間、衝撃が放たれる。

 

衝撃を受けて吹き飛ばれた。いつの間にか移動していた騎士が受け止めてくれたが衝撃に打たれ士道は気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騎士は気絶してしまった士道を安全な場所に避難させた後、すぐに戻れば少女の姿はいなくなっていた。どこかに去ったのだろう。空飛ぶ人間たちは一堂に騎士の姿を認識すれば行動を始める。

 

「〈プリンセス〉消失。まだ〈ナイト〉は現存中です!」

 

一斉に騎士に向かって銃弾が放たれる。やはりと言えばそうだろう。騎士の周りに少女がミサイルを止めようとしたように目には見えない力場が展開され、銃弾を防いでいく。切り落としたのは跳弾や流れ弾の可能性をなくすためだろう。

 

銃撃がやんだ瞬間、騎士は地面に長剣を刺し、柄を踏み抜く。亀裂が走り粉じんが舞う。そして粉じんが風に流された後には誰も存在していなかった。空飛ぶ人間たちと惨劇しか残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。夕暮れの校舎にて士道と少女は出会う。正直言って士道にはあまりの急展開に目を回す気絶した後に〈フラクナシス〉と呼ばれる運ばれたり、そこで義妹の琴里が二重人格とでもいいくらいに変わって〈ラタトスク〉の司令をしていたりとか空間震が精霊が違う世界から来る余波だとかそれに対抗するASTとかデートして恋させろとか。

 

そんなどこのSFだと言いたくなるような展開に突っ込みたくもあったが士道はあの時に遭った少女と話をしたかった。上手く行きかけたところに琴里からASTが動いたと連絡があった。

 

しかし士道は疑問を覚えた、外にはASTが攻撃を加えている。精霊と呼ばれるの特異な力をもった少女は何もしていない。なのに銃撃の音がするのにただの一発も銃弾が襲ってこない。いや、ごくわずかに壁を破壊する音が聞こえたが発射する音とは釣り合わない。

 

壁が崩れたときに見えた。そこには騎士が佇んでいた。<ラタトスク>でも殆ど正体がわかっておらず、かろうじてわかるのは精霊である可能性が高いと言うことだけ。そのほとんどが夕暮れの校舎を背に何一つ通す気はないと立ちはだかっている。

 

「…………」

 

騎士はなにも答えずに長剣で少女に向けて放つ銃弾を切りさばく。おそらく銃声がしたときからずっとこうしていたのだろう。ただひたすらにASTの攻撃を防ぎつつけている。なんのためにそうしているだろうか騎士の胸中は図れない。

 

「…………」

 

正直あの騎士がどういう目的を持っているのか分からない。〈ラタトスク〉でも精霊を護るためとは考えられてはいる。それが真実なのかわからない。だけど今は士道には都合のいい展開だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ASTは学校に現れていた学校の前に現れていたへと攻撃を加えている。〈プリンセス〉がいるであろう場所には〈ナイト〉が立ちはだかっている。〈ナイト〉に苦渋を飲まされたのは一度や二度ではすまない。

 

ASTでも精霊として認定はされているがあくまで暫定的なものだ。〈ナイト〉は初めて確認されたのは四年前に他の精霊との交戦中に乱入してきたのだ。乱入、当時の観測班でも空間震の予兆が全くなかったと報告された。それは〈ナイト〉が空間震を起こさずに現れたことを示していた。それこそが暫定的な理由。では精霊ではないのかと言われれば〈ナイト〉から霊力、精霊しか持ちえない力が観測されているからややこしいのだ。しかも全身鎧に特性なのか捕捉しずらくいつ乱入するか予測しずらい。一番厄介なのは〈ナイト〉は殆ど被害を出していない、空間震を起こさずASTとの戦闘でも負傷者は殆ど出ずそのくせ装備だけに被害が集中する。周囲には被害を及ぼさないからこそ危険度はかなり低くなっているのが忌々しさに滑車をかける。

 

周りの隊員たちも相も変わらずに邪魔してくる〈ナイト〉に歯噛みしている。いつも精霊がいるのに邪魔をする。漆黒のフルプレートに身を包んだ〈ナイト〉は表情は読み取ることが出来ず不気味に長剣を振るう。

 

四方八方から〈プリンセス〉をあぶりだすための攻撃も〈ナイト〉が防いでいる。折紙も攻撃を与えている最中、偶然空いた壁の穴からある一人の男子学生の顔が見えた。おそらくは逃げ遅れた生徒なのかと考える。だが顕現装置(リアライザ)によって強化された視力は鮮明に誰かを見分ける。

 

「―――っ!」

 

それはクラスメートの五河士道だった。それを認識した折紙はこれ以上ないくらいのスピードで行動へと移す。顕現装置(リアライザ)を通じて自身が出せる最高速で校舎へ向かう。だがその前に当然のごとく〈ナイト〉は立ちはだかる。

 

「よせ折紙!」

 

「邪魔だ!」

 

隊長の制止は聞かず、誰であろうと突破するような気迫を持って対精霊用近接戦闘武装のレイザー・ソードを〈ノーベイン〉を構えて突撃する。

 

だがその蛮勇でしかなかった。騎士は複数の隊員たちと剣ひとつで渡り会えてしまう。そして一人だけかつ騎士の土俵である。二、三合剣を合せただけで〈ノーベイン〉と背中に装備したCR―ユニットは三つに分割された。防御フィールドの随意領域(テリトリー)なぞ最初から存在しないもののように分割した。その直後、装備を破損し飛行できなくなり墜落していく中。

 

『未熟、感情に囚われすぎだ』

 

折紙はそんな声を〈ナイト〉から聞こえた気がした。憤慨した、斃すべき精霊からそんな情けをかけられた。折紙には途轍もない屈辱でいつも無表情が崩れるほどで殺意で染めた視線を送るが〈ナイト〉はどこ吹く風のごとく視界にすら入ってはいなかった。

 

その直後に半壊していた校舎は耐えきれずに崩壊していった。戦闘の余波で基礎部分にダメージが蓄積しすぎたのだろう。〈ナイト〉はまぎれ何処へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの校舎が崩壊した瞬間に〈フラクナシス〉へ回収され難を逃れていた。回収された後に反省会をやらされていたが夜には家へ戻ることになった。家には零士が、家族がいるのだ。流石に一日中家を空けるのは問題だろう。琴里は白いリボンに変えてある。まだ〈ラタトスク〉や〈フラクナシス〉のことを知らない兄さんに怪しまれてしまう。

 

「ただいま」「ただいまー!」

 

居間に入ると最低限の灯りだけでテレビもつけずに一人で何かを飲んでいる。ふと嗅いだことのある匂い。ために兄さんの零士は両親が居ないときに酒を飲んでいるだ。そして兄さんが酒を飲んでいるはどんな時か大抵決まっている。

 

「お帰り、二人とも。ずいぶんと遅かったな」

 

それは自分たちを心配しているときだけ。その時だけ兄さんは酒を飲んでいる。なんで酒を飲むのかはわからない。けど酒を飲むときは自分たちを心配しているのだ。兄さんが引き取られてすぐのことだ。

琴里が帰ってこなかったことがあった。今思えば〈ラタトスク〉に出向いていたんだろう。琴里のことを心配してずっと家で帰るのを待っていた。目元にはすっごい隈作ってすごく眠たそうな顔してうつらうつらしながら気付け薬代わりのお酒をチビチビと飲みながらずっと待っていた。それから心配しているときは気付け薬代わりとして飲むようになっている。

 

「あはは、今日は琴里がさ。どっかに出かけたいって言って言うこと聞かなくってさ」

 

「ごめんなさい、兄さん」

 

それを聞いた兄さんはただただ目を軽く細める見てる。家族だからこそ声の調子で嘘かどうかなんて見抜くなんて容易いだろう。それはすぐに戻って、軽い溜息を吐く。あえて聞かなったことにしたんだろう。

 

「そっか……ま、あんまり遅くなるなよ。士道たちになんかあったら父さんと母さんに申し訳がたたんからな」

 

そういって兄さんは優しく自分達の頭を撫でてくる。五年前にこの家に引き取られてからずっと。たかが五年、されど五年。零士が家族になるには十分な時間だった。士道には心配されるようなことをしたことがすこし忍びなかった。

 

「あー! これデラックスキッズプレートだ!」

 

琴里がびっくりしたような声を出していた。テーブルのほうを見てみればラップが掛けられてはいたがまるでファミレスで出されるようなエビフライなどが乗ったお子様ランチがあった。いやよく見れば皿は専用のものではなく家で使っているものだ。お店で注文したものじゃなくて兄さんが作ったものであった。

 

「せっかく琴里が食べたいって言ったデラックスキッズプレートだっけ? それを再現してみたんだがな」

 

「……どうして?」

 

「どうしてって、昨日の朝食べたいって言ってただろ」

 

その後にその機会がなくなっちまったからなと寂しそうに呟いた。そういえば昨日昼は空間震があり食事どころではなく今日だって夕方に発生している。そんな状況ではファミレスで食事どころではなく、琴里が楽しみにしていたことを覚えていたんだろう。真似事でも店で出しても遜色のない出来栄えで丁寧に手間を掛けて作られていることが見て取れた。冷めてしまったのが勿体ないくらいで琴里は帰ってきたらデラックスキッズプレートがあったことが予想外でとても喜んでいる。

 

「悪ぃ、そろそろ限界だから寝る」

 

琴里の喜びようを見て、満足したのかそれだけ言って兄さん出ていくが足取りはふらついていた。さっきまでいた場所に置いてある酒瓶の中身がほとんどなくて相当飲んでいたんだろう。そんな兄さんに隠し事をするのが申し訳なく感じた。

 

 

 

 

 




お酒は二十歳になってから。
零士君は気付け薬がわりですけど。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初めてのデート

さっそく書きあがったので投稿。
ちょい短めです。もっとクオリティ高めたい。


さてどうも、零士だ。

 

昨日は琴里のためにお子様ランチを再現してみたもの次の日、大学に行ったら空間震の影響が大学にも及んでいたのか休講になっていたので家に帰る途中で見てしまった。

 

「なん……だと。士道がデートだと……」

 

士道がすごい美少女と一緒にいる。どこからどう見てもデートしている以外には見えない。どうやってあんな美少女を引っ掻けたのか。士道の性格からして全く想像ががつかないし学校はどうした、学校は……そういや、空間震で崩壊していたな。なら休校になるのは仕方ないな。

 

まじまじと美少女を観察する。黒曜石と絹の美しさを併せ持った髪と水晶のような美しさを称えた瞳。その笑顔は愛らしさに満ちている。人によっては傾国の美女とたとえられてもおかしくないほぼの美貌だろう。

 

服装は士道が通っている高校の制服で美少女以外のことならば人ごみに紛れても違和感はほぼないだろう。見間違いでなければあの少女(・・・・)であるのは間違いないだろう。

 

それにしても俺はどうするべきか……このまま見守るか、ほんの僅かに手助けをすべきか。幸いにも今日は予定に穴が開いたからな……にしても。

 

「なんだか、見ていて微笑ましくなる光景だな」

 

少女の方は見る物聞く物初めてでどんなものがあるのか楽しみにしているし、士道のほうも若干振り回されてはいるが満更でもない様子。お互い初めてでどうすればいいのか分からず手探りの初々しいデート。

 

ああ……それは昔の……

 

 

―――――――ザッ

 

『ふふ、精神年齢――でしょ。なのにどきまぎしてて年相応な少年みたい。……私もなんだけどね。さあ、行こ。私たちの戦争(デート)を始めましょ』

 

ザザッ――――――

 

 

っと、いかんいかんつい感傷に浸っているんじゃねえ。一先ずは生暖かく見守ることにしようかな。彼らのデートをさ。

 

「……………………」

 

その前に俺と同じように後をつけている彼女は誰なんだ? いや、彼を彼女と同じ制服だから同じ高校なのだろう。どこかであったような気がするが思い出せない。向こうもこっちに気が付いたのか見てくる。

 

「「……………………」」

 

…………さて、こうして同じようについてきているということは知り合いなのかな? なんだろうけど何だろうかこの気まずさは

 

「……………士道の兄の零士です」

 

「……………鳶一折紙。士道の恋人。よろしくお願いします義兄様」

 

待て、ちょっと待て、しばし待て、少し待て。今この子はなんて言った? 俺の聞き間違いでなけば恋人と言っていた。義兄様は行き過ぎな可能性はあるが付き合っているとしたら…………つまりは二股? OK、明日は士道とじっくりとお話をしよう。まずは詳しい話を聞かなきゃ始まらない。

 

「…………経緯はあそこの喫茶店でしよう。ちょうど士道たちも入ったしな。代金は俺が持つ」

 

「…………ん、分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「令音、私が見間違えているわけじゃないよね?」

 

「大丈夫だ。私にもはっきりと見えている」

 

士道たちが立ち寄った喫茶店に琴里もいた。彼女も中学へと登校したのはいいが零士と同じように空間震の影響を受けたために休校になってしまい暇を持て余していたのだ。そこで同じく仕事がない令音を呼んで早めのおやつとしゃれこんでいたらの不意打ちである。思わず一緒にいる令音に確認を取るのも仕方ないことだろう。

 

「これは……」

 

なんせ士道が女の子を連れて座っているのだから。しかも、連れてきたのがよりにもよって精霊なのだから。〈ラタトスク〉から連絡はないということは空間震を起こさずにこちらへ現れた。もしくは万が一の可能性としてそっくりさんという線があるが士道を知っている琴里からすれば前者のほうが可能性が高い。

 

〈ラタトスク〉としてもこんゆう状況は、その前に令音が何かに気が付いたのか士道たちとは別の方向を見ている。

 

「それよりもそうだが……これは後が大変かもしれない」

 

令音が指差した先、そこにはASTの隊員でお兄ちゃんのクラスメートと頭を抱えている零士と一緒の席でいる。それだけなのにどうゆう状況なのかがありありと分かってしまうのがなんだかやだった。

昨日のを勘違いして。彼女から聞いていて、さらには同じ店にはお兄ちゃんたちがいる。誤解の連鎖反応。琴里には兄さんがどう勘違いしているのか理解してしまった。令音が言う通り下手したら零士によって士道の行動に支障をきたす可能性も出てきたわけだ。

 

「これは……いっその事〈ラタトスク〉へと引き込もうかな」

 

零士が障害になりうるのはなにも知らないため、なにも知らずはたから見れば複数の女子と遊んでいる不誠実な男に見えるのは違いない。零士はあれこれ言い出さない方ではあるが流石にこれには釘をさす位はやるだろう。

だったら事情を話してこちらへと引き込んだほうがやりやすくなる。しかし、士道のようにそれを見たわけではないのだ下手すれば妄想の類いとして一笑にされることをありうるだろう。

 

「…………いや、もしかしたらいけるかもしれない」

 

そんな考えの途中で令音がそれはないと言ってくる。令音は〈フラクシナス〉でも最高の解析官だ。それゆえに誰かの感情を読み取ることが誰よりも長けている。本人が気が付かないような特性すらも見抜くほどの。だからこそこんな遠目からでもなにかに気が付いたかもしれない。

 

「私見だが……彼は意外と知っているかもしれない」

 

琴里はそれを聞いてふと思い出した。長男の零士の過去について全くと言っていいほどに知らないことを。五河家に引き取られる前、零士はどんな付き合いがあってどんな生活をしていたのかも話していない。極々僅かでも小数点以下の確率でも、もしかしたら関わっていた可能性もありうる。だって五年前の事件では…………そういえば、五年前の事件に何があった? 思い出そうとすればするほど霧がかかったように分からなくなってくる。零士はこの事件がきっかけで引き取られることになったはずだ。関わったのは憶えているけどなぜ関わったのが思い出せない。

 

「琴里?」

 

令音の声で琴里ははっと我に返る。どうやら思考に耽りすぎていたようだ。

 

「ま、零士については明日あたりでもフォローが効くから置いといて」

 

このことは後でも考えればいいことだ。後で零士に話すなり聞くなりすればいいだけだ。士道とのデートを邪魔しなければ問題はない。すべきことを定め、すぐに携帯から〈ラタトスク〉へと回線を繋げて指示を出す。

 

「令音、あなたも動いて。作戦コードF-08・オペレーション『天宮の休日』よ」

 

士道が精霊を連れてデートをしていると言うことだ。ならば〈ラタトスク〉の目的を果たすのみ。そのためにも五年の月日をかけたのだから。

 

「さて、私たちの戦争(デート)を始めましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽くお茶した後から彼女、鳶一折紙と別れることになった。曰く行かなければいけないとのことだ。

その後も士道たちに着いてきたんだが…………

 

「は、え?…………あれ? どゆうこと?」

 

え、昨日まで住宅街だった場所がいつの間にか商店街になっていた。俺の勘違い? いや、そんなことはない確実に住宅街だった場所だと言い切れる。それが一晩で商店街へと変貌していた。

進化した技術として空間震で崩壊した建物を一晩で復元できる技術はあるのだが……いやあれは復元だ。別の何かに変えることじゃない。

 

「…………一晩で変わった?」

 

住宅が沈んだと思ったら次の瞬間には店舗が浮かんできた。そういえばこの街って最近再開発された街で空間震対策技術をこれでもかって位に詰め込んでいたっけな。ああやって、住宅ごとシェルターへと格納できるシステムが組まれているなんてすごいよね。あっという間に平凡な住宅街が商店街に早変わりだ。劇的にびっくりなビフォーアフターでもびっくりするだろう。

 

「待てぇぇぇぇ! 力入れるところ違うだろぉぉぉぉ!」

 

誰にも聞こえないような声なき絶叫を上げてしまう。たかがデート。されどデートだろうが! 二人にとって重要なことでもあるけどそこまでするのか!? いったいどんな組織がそんな力の入れどころを間違えているんだよ! 少女がそうゆう存在(・・・・・・)だとしてもだ。

 

―――――――ザァ

 

『主人公なら大仰にサポートする秘密結社がいるんだけどね。まだ存在なんてしていないし、本当に二人きりでのデート。だから頼りにしているわよ騎士(ナイト)さん』

 

ザザァ―――――――

 

待て、そういえばあいつがそんなこと言ってたな…………当時の俺はいつか出来るであろうバカげたような秘密結社にんな莫迦なとありえねーと思っていた。こうも実際にやられては信じるほかないだろう

 

その組織力を目のあたりにして顔が引きつっていた。本当にさ、なんで…………もっと早く出来なかった(・・・・・・・・)。もっと早く存在してればあいつは…………

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夕暮れ

夕暮れ。それは日が降りる時間帯であり、昔ならば一日が終わる時間でもある。また不安や恐怖が集う時間でもある。人は逢魔時と呼ぶ。

 

今はまさにそこに一つの終わりがあった。一人の学生が倒れている。誰の目から見ても即死であるのは分かるであろう程の穴が開いている。

 

ただ零士はそれを見つめることしかできなかった。動くことが出来なかった。ずっと見ていたのになんの反応する暇も許されずに。家族が撃たれ死に逝く様を見つめるだけ。

 

 

ああ、ああ、ああ、ああ、五年前(・・・・)と同じだ。方法の違いがあれども結果が同じだった。それは彼の記憶のフラッシュバックを引き起こす。

 

あいつが死んだ日と同じだ。いつも唐突に理不尽に俺から奪っていく。

 

どうして? なんで俺から大切な人を奪っていく? そんなに俺を苦しめたいのか?

 

また殺したのは誰だ? また俺から大切な人を奪ったのはどいつだ?

 

ああ、あいつか…………

 

あいつかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女、士道から十香と呼ばれた少女は完全に怒っていた。

 

否定され続けた中で自分を肯定してくれた、認めてくれた人を目の前で殺された。それだけでも心を怒りで満たすには十分すぎた。精霊に許された奇蹟。完全に解放された〈鏖殺公(サンダルフォン)〉-『最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)』。十メートル近くもはや武器でなく兵器といった方がいいだろう。振り回すだけで地形そのものを蹂躙するなぞ武器の範疇を軽く凌駕している。

 

「貴様だなぁ!」

 

それを手に振るう十香もまた超越の存在。先程までの制服はなく纏うは精霊の霊装。それは彼女の領地。引き出された力を持って敵を殲滅せしめる。

 

「よくもぉ!」

 

振り上げたときにどこからか誰か飛び込んできた。盛大に着地した衝撃で土煙が巻き上がる。

 

「くっ、なんだ?」

 

風に流され、正体を現す。それは闇をぶちまけたような漆黒のフルプレート。ASTの隊員たちは見間違えることはないだろう。散々辛酸をなめられ続けた相手を間違えることはまずない。

 

「〈ナイト〉…………出現」

 

だがここにいる全員が疑ってしまった。これは〈ナイト〉なのだろうかと? 何時も乱入し、邪魔してくる泰然とした力強さはなく。風に吹かれれば吹き飛びそうなほど力なくゆらりゆらりと佇む姿は幽鬼、亡霊と連想させる。長剣だけがやけにぎらぎらしているが余計に印象を刻み込む。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――――――!!!!!!!」

 

突如として咆哮が〈ナイト〉から放たれる。まるで憤怒と嘆きの入り混じりった狂気の咆哮。咆哮自体に力が宿っているかのように隊員たちは弾き飛ばされる。

 

「一体……なんだ?」

 

あまりに違う、自分たちの知っている〈ナイト〉とは違いすぎる。いつものような騎士然としたものは存在せず、正気を失い狂気に囚われた狂戦士《バーサーカー》にしか見えない。

 

あまりの驚愕に囚われていたために気が使いていない。女性ではなく男性の声であることに。

 

「貴様もかっ!」

 

突然乱入してきた騎士へと十香が攻撃を仕掛ける。邪魔ものと見たんだろう、羽虫を払うには過剰すぎるほどの圧倒的な破壊の濁流。人ひとりをなぐにはあまりにも過剰すぎるほどの暴虐。天災と称しても問題ないだろう。あまりの威力にASTの隊員たちも回避せざるをえない。

 

「■■■■■■■―――!!」

 

それに〈ナイト〉は動じない。それどころか散歩にでも繰り出すかのように暴虐へと踏み出す。それだけ青年は木端のごとく巻き上げられる。それは間違いなく直撃。精霊でもただでは済まない。

 

「馬鹿な……」

 

なのにそれを目撃していた隊員たちは絶句していた。いくら〈ナイト〉でもあの攻撃を喰らったら無事ではすまないだろう。たとえ凌げても多少の負傷は免れない。

 

「無傷だと……」

 

結果は傷一つもついてなく全くの無傷。あれだけの暴虐に臆することなく踏み込みかわし切る。

 

「よくもっ!」

 

「■■■■―――!!」

 

だが十香には関係ない。仕留めきれなかった故の第二撃。それに対応するは狂戦士(バーサーカー)とは思えないようなそっと幼子を撫でるような優しく添えるだけ剣筋。それだけで破壊の暴虐はそらされ、まったく関係ない場所を破壊する。

 

「これが……精霊の……本気……」

 

ASTは戦慄する。彼女たちは精霊というものを過小評価していたんだと。なまじ抵抗できていたのも本気ではなかった。いやそもそも彼女たちにはうっとうしい程度の羽虫でしかなかった。倒すことはできなくても押さえることはできると思い上がっていたんだと。本気の精霊たちには歯牙に欠けない程度なのだと。

 

破壊が吹き荒れる。巨大な剣を振り回すだけで地面は捲れ、木々は消し飛んでいき。長剣を振るうと両断する。ASTはそれに翻弄され、必死に今生き残ることしか許されていない。

 

「よくもよくもよくもよくも!!!!!」

 

「■■■■■■■■■■■――――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。折紙が二人の視界に入ったのは。争いあっていた二人は剣を止める。剣を合わせるなかで。こいつこそが二人の敵なのだと。二人が止まったが故に出来た静寂がやけに不気味に感じさせる。

 

「貴様がァ!」「■■■■■■■■―――――!!」

 

折紙も咄嗟に随意領域(テリトリー)を張るが生半可なことでは生き残ることは許されないほどの暴力を持った精霊の攻撃の前では濡れた障子の張り紙よりも簡単に脆く引き裂かれ砕け散る。

 

「かはっ!?」

 

随意領域(テリトリー)が崩壊した反動と抑えきれなかった衝撃が折紙を襲う。軽減されているはずなのにすさまじい衝撃が折紙を傷つける。

 

「――――!!」

 

憎み切れない怨敵へと鉄槌を下すためにそれぞれの獲物を振り上げる。その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「十ぉ香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 

はるか上空から声が聞こえた。そう、人間だ。人間が空からダイビングしてきたのだ。物語でもどうやったらこうなるんだよと突っ込まれるかもしれないほどに奇妙な光景。その光景に騎士の動きは止まった。どんな表情をしているかはわからないがきっと驚いているんだろう。

 

「シ、ドー……?」

 

でも十香には衝撃的な光景でもあった、その人間が撃たれて死んだはずの士道だったからだ。十香は一瞬だけ疑ってしまうがよく見れば士道の服に大きな穴と赤い汚れが付いているのが見える。間違いなく士道が着ていた服で本人である。

 

「シドー……」

 

どうして空からとかいろいろと疑問に思うところもあるはずだが、十香にはどうでもよかった。士道が生きていたことのほうが大事だった。

 

それが〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の暴走をさせる、士道の生存に気を取られすぎたからでこのままいけば間違いなく暴走した〈鏖殺公(サンダルフォン)〉は周りを破壊し付くだろう。その時の被害は図り切れない。

 

どうするかと思えば十香とキスをしていた。訳がわからない。なんでどうしてこんな行動を起こしたのかおそらく当人ですらも把握していないのだろう。キスした本人がパニックを起こしかけている。

 

だが変化はすぐに起こる。今にも解き放とうとしていた巨大な大剣にひびが入る。解け淡い粉雪のような光へと散っていく様は幻想的な美しさを持っていた。

 

「…………」

 

次第に収まっていく力を見ている中でただ一人だけ警戒を解除しない。その懸念通りに封印されるはずだった力の一部。それが何の因果か漏れ出している。

 

「しまっ!?」

 

放たれた一部の力。それは地上へと十全に威力を発揮し蹂躙しようと牙を向く。地上には折紙がいる。二人の攻撃を受けたために負傷して動けず、満足に行動することすらできない。

 

「やめっ!」

 

誰もが折紙が蹂躙される未来を連想したところに、乱入者が現れる。

 

「…………」

 

それは騎士だった。先ほどまで敵だった折紙を前に立ちはだかる。

 

「■■■■■■■■■■■■」

 

十香の本気。全てを滅す波動。それに対するは黒いはずの鎧が灼熱に染まりまるで溶岩のごとく力を感じる。十香の〈鏖殺公(サンダルフォン)〉とは別の騎士に許されている奇跡なのだろう。灼熱に染まりまるでSFに出てくるような幻想を抱かせる長剣を手に対峙する。

 

「――――――――――――」

 

切りつけるけど放たれた余りにもちっぽけにしか感じない。想像通り弾かれる。

そのままその波動に……飲まれない。士道の目には弾かれたはずの騎士が斬りつける姿だった。分身したのか?違う、人間の目では駒落ちした程度しか見えない速度でもう一度斬りつけた。もしかしたらその動作が見えるときには既に何回も斬りつけているかもしれない。常人の目では写ることすら叶わぬ超高速機動。

 

「!!!!!!!」

 

だが悲しいかな放出された力に長剣の一撃ではごくわずかにしか抑えられない。だが、例え一回では敵わぬとも十回、百回ならば? それでもだめなら千回やればどうなる? 僅かにしか岩を削れない水滴でも何万何億と落ち続ければ穿てる。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――――――――――!!!!!!」

 

ならば目に見えて削れることが出来るならば成せる。幾重ものの果て、破壊は斬り伏せられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これでこの騒動はおしまい。周囲はぼろぼろで負傷者もいるがまだ取り返しがつく範囲であり、間違いなくハッピーエンドだろう。灼熱に燃えていた鎧はすでに冷えてもとの黒に落ちつている。先程までの怒りと狂気はない。手には長剣はないことから戦意はないことが受取れた。

 

「…………」

 

十香と士道が無事を喜んでいる姿を見つめている様子はどこか優しげで、羨望のような感情を漂わせているのを誰にも気が付いていない。それを見届けた後、背を向けて何処へと去っていった。

 

その様子はただ一人、影を背負うように。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘密の訪問

かなり遅れましたが第五話です。今回は十香とのデートの翌日のお話です。



四月十三日。昼間。

 

零士は珍しく寝坊をしていた。なぜかひどく疲れていたようでいつもよりも長く眠っていたようでもある。それでも完全に疲れが取れきっていないのか気だるそうである。

 

それでも家を預かる長男ゆえか。唐突になった呼び鈴に気だるそうな表情はすぐに引き締められる。客人に対して無様な姿は見せられない。

 

「あ、はい。どちら様でしょうか?」

 

零士が扉を開けるとそこには一人の女性が立っていた。二十代前半の女性で薄紫色の軽いウェーブがかかった髪を後ろでまとめている。何より特徴的なのが目の隈だ。明らかなほどに暗く刻まれたそれは墨でも塗っているじゃないかと思うほどに分かってしまう。

 

だがそれも彼女に魅力の一部となっていた。間違いなく個性的な美人であるだろう。そんな人物が訪れていた。

 

「私は村雨令音。琴里の知り合いでね。琴里から伝言があるためにこちらに赴いさせてもらった」

 

「なるほど、分かりました。でしたらこのまま用事も済ませて帰られるのもなんですし、お茶でもいかがですか?」

 

令音からすれば長くなりうるから家に上がらせてもらうのは好都合だ。一応琴里からも話は聞いていたが流石は家を預かる長男として風格があった。

 

「粗茶ですがどうぞ」

 

「ほう……これは」

 

令音はそれを口に驚いた。この紅茶は安物のティーパックで淹れたものである。だが確かな作法と知識を持って淹れられた紅茶は下手な喫茶店の紅茶よりも上等なものへと仕上がっていた。

 

「どうやらお気に召したようですね」

 

「ああ、これほどおいしい紅茶は久しぶりなのでね。私が訪れた理由なのだが……まずはこれを見てほしい」

 

すっと差し出された一枚の紙。小さく切られた長方形のそれはまさしく名刺である。零士はそれを不思議に思いながらも目を通すと逆に胡散臭いものを見る気分へとなる。

 

「『〈ラタトスク〉機関〈フラナシナス〉所属、村雨令音解析官』……ですか」

 

差し出された名刺にじっと目を通す零士。淡々と口に出して再確認のつもりだろう。だが、令音は疑問を覚える。

 

彼、五河零士は割とどこにでもいるような、ある程度は容姿が整っている青年だ。中の上から上の下くらいでおしゃれをすれば上の中くらいは狙えるだろう。だがその程度ならば世界を探せばどこにでもいるような平凡の類を抜けきれない。ただ落ち着いているせいかより大人に見えているのが特徴なくらいだろう。

 

琴里から直接聞いた彼は何も知らない、何の秘密もない一般人であってお父さんじみた義兄である位だ。つまりはただの人である。彼の対応からしても紳士的で大人びているが一般人の範疇である。

 

しかし、零士から疑いや困惑が感じ取れないからだ。常人ならばこんな秘密結社めいた名刺をぽんと渡されたとしたらいたずらかなにか疑うだろう。しかし零士からはこんな秘密結社みたいな組織を知っている。だが〈ラタトスク〉機関や〈フラクナシス〉自体は知らないのだ。どんなことをすればこんな中途半端な知識を持てるのだろうか? ますます、令音の解析がぶれてくる。

 

「〈ラタトスク〉にはそのためにも君に協力して貰いたいんだ。とは言っても活動するのでなく、琴里とシン、士道が活動することを黙認するだけでいい」

 

だがまずの目的は零士に士道と琴里が参加していることを説明して、活動することを融通することだ。活動は極秘裏に行われるためある程度は誤魔化しが効くと考えていたが。零士の様子からすぐに見抜かれるだろう。仕方なく話すしかない。

 

「所属については本人の意志次第ですから私がいちいち口を挟むのも無粋でしょう。ですが、活動内容だけは説明してもらいますよ」

 

そしてさらに令音の疑問は増えてくる。目的を理解するためにある程度以上の秘密を話すしかない。零士はそれを淡々と聞いているだけだ。本当に何も知らないだけならば質問や疑問が湧いてしかるべきなのに確認しているようにしか見えない。零士の表情は変わらずに微笑んでいるだけだ。その笑みを見て令音はすでに零士がただの一般人であるという先入観は完全に破棄した。

 

「デートしてデレさせる。とフランクに言ってしまえばいいかな」

 

瞬間に部屋の空気が冷え込む気がした。感情を読み取ることに長けている令音は感じ取る。もしかしたらこれが逆鱗なのかもしれないと。

 

「つまり……士道にたくさんの精霊を口説いて落とそうとしている、という解釈でいいですか?」

 

零士の口調は淡々と落ち着いていて穏やかそうな印象を受ける。だが、令音にはそれが怖ろしく思えた。そこで確信が持てた。零士は本当の本心を隠すのがうまい。いや、上手すぎる。令音クラスでなければ騙し通せるほどに面の皮が厚い。令音でさえこれなのに琴里では完全に気が付かないのは当然だろう。

 

「いや、それは違う。〈ラタトスク〉の目的は精霊との対話、及び共存のための組織だ。士道にデレさせるのはあくまでも精霊の力を封印するために必要なプロセスであって、私たちとてもっと穏便な方法があるのならばとらせてもらうよ。それに彼女たちについては〈ラタトスク〉が存続する限り一生サポートは欠かさない」

 

直感で零士の逆鱗に触れたら致命的になる。間違いなく精霊を物のように見えてしまった言い方に怒っていた。それとは別の令音の警報が最大限に鳴らしている。だが令音はそれについては賛成しているし夜刀神十香についてもアフターケアのための準備も兼ねてきている。

 

「………………」

 

焦ってはいたが逆に信憑性を持たせることが出来たみたいで危険な何かは引っ込めたようだ。そこで零士に目に見えてわかるほどに雰囲気が変わる。優しい、でも今にでも泣き出しそうな感情。でも本気で悲しもうとしているのにできないでいるちぐはぐな感情。両方向こうとする矛盾した感情を持ち合わす彼。その時だけ令音ですらその感情を理解できなかった。

 

「おっと、お見苦しいところを……でもそんな危険なことを士道がやるのですか?」

 

まだ完全には凌ぎっていなかった。家族ならば誰とて危険に曝されるのは本意ではないだろう。保護者じみた一面を持つ零士には特に。

 

「現状では彼以外の封印ができる人材がいない」

 

だが現状では士道以外には誰もできないのだから。そして万が一が起こっても対処できるのは彼だけだから。

 

「出来ますよ。ほかの人でも」

 

零士から放たれた言葉は令音に思考を吹き飛ばすには十分すぎるほどの衝撃を持っていた。どうして士道以外には観測されていない事象を出来ると説明できるのだろうか?

 

「根拠は?」

 

「私ですよ」

 

たった数文字の何気なくかわすような言葉だった。〈ラタトスク〉でもほとんどわからないことであり、未だに士道以外には確認されていないことである。あっけからんと言われてしまえば驚愕しすぎで思考が停止しまった。令音には彼が真実を言っているのが読み取れてしまうのが皮肉である。

 

「論より証拠ってことで」

 

すると零士の紅茶から湯気が消えた。触ってみると完全に冷え切っていた。冷めたのではなく冷えた。常温でなく低温であること。自然に放置しただけではこうはならない現象が起こっていた。間違いなく零士は精霊の力を持っている上完全に制御をしている。ただの何気ない動作で引き出していることでそれを完璧に証明している。

 

「…………」

 

令音は言葉が出ない。驚愕が過ぎると思考が停止してしまうだなと明後日な方向に思考が飛んでいた。零士はいたずらが成功した悪戯小僧な表情でアイスティーになった紅茶を啜る。令音を持ってしてまでも零士の底が見えない。読み取ることが出来ない。いったい何者なのかさまざまな面を見せすぎてわからなくなる。シンにも秘密があったが自分自身も知らないタイプで零士とは違うタイプだ。しかし零士は確実にその秘密を知っている。

 

「いったい……どこで……」

 

「それについては企業秘密です」

 

零士はニコニコと微笑んでいて今ここで教える気はないのだろう。ここは引くしかないと令音は判断する。同時に疑問が絶えない。いつどこでどうやって零士は精霊の力の封印というものをしたのか? 〈ラタトスク〉が出来てから今まで観測されてきた空間震に彼が関わった記録は存在しない。 得体が知れないとはこのことだろう。

 

「……なら〈ラタトスク〉に…………」

 

令音は言いかけて止める。封印し、保持している精霊の力。さらにそれを完璧に制御している人物が〈ラタトスク〉に協力してくれればどれだけの利益が生まれるのか計り知れない。それこそ今まで分からなかった精霊の謎に迫ることが出来るだろう。士道のデートの際に精霊の暴走に対する抑止力になりうるかもしれない。そうすればどれだけの損害を抑え込めるのか計り知れない。

だが協力してくれるのならば拒否をせず話すしてくれるはずだ。ならば無理やりと考え付いたがそれも取り下げる。零士は力を扱える故に精霊と同義と考えてもおかしくないだろう。もし零士の機嫌を損ねたりするならばどれだけの被害が出るか想像もつかない。もっともいままで人の中で暮らしてきた零士ではあまりにもデメリットが大きすぎるからまず切らない札ではあるが札があるだけで脅威である。

 

「〈ラタトスク〉でしたっけ? 個人的な感情で協力というかそうゆうものには出来ないんですよ」

 

はっきりと。ただその組織があるのは認めているし、確実に協力すれば悲劇を減らせると理解もしている。そのうえで彼は拒否している。

 

「漫画でもよくある話です。ただの八つ当たり。『なんでアイツを救ってくれなかった』って言う我儘じみた。子供のようなね」

 

はっはっはっ、とお道化たようにまだ漫画のような状態ならばいかように対処法があっただろう。だが厄介なことに彼はそれを自覚していて、肯定しているだ。琴里からの話から統合して事があったのは五年以上前のことだろう。しかし当時には〈ラタトスク〉はまだ結成されていない。つまりはどうしようもないである。

 

問題はその事実と感情を理解していて、制御していながら敢えて無視していることなのだ。意地とかプライドとか誇りなんて高尚な物でない、駄々をこねている。令音には安堵した少しだけだが彼のことに近づけた感触がしたからで得体の知れなさが薄れた気がしたから。

 

「ですが、精霊が暮らせるためには協力はさせてもらうよ」

 

それでも協力しないのは〈ラタトスク〉自体だからねと。零士は優しくお道化ていた。優しさの本位は令音には読めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後に細かなことを話し合ったあとに令音は〈フラナシナス〉へと戻っていた。いろいろと衝撃的な事実があった。だが最低限の協力を得られただけでも大きい。しっかりと士道の特異な体質についても説明したところで理解も得られた。

 

「ふむ、やはりままならないようだ」

 

まさかの事情説明でここまでのことに展開されるとは思いもしなかった。消極的ではあるが最低限の協力を得られたことは大きいだろう。仮に敵対されるとなるとどんな被害が及ぶか想像がつかない。まだ信用はされてはないがマイナスではないゆえにまだ取り返しはつく。きちんとした理は理解されていて問題は零士自身の感情故少々時間と掛けて少しづつ信頼されてもらうしかないだろう。現状でも感情を無視すれば好意的に受け取ってもらえているのだから。

 

「まずは彼について調べてみるか」

 

そのためにもより正確な彼を把握するためにも調べることは当然の行動でもあった。それが裏目に出てしまうことに令音は後悔してしまった。彼の過去を調べてしまったことを。そして……

 

「これを……琴里には知らせるわけにいかないな」

 

零士の過去はまさに劇薬も同然であった。琴里にだけは絶対に知られてはいけない。知らせれば最悪の事態になりうる可能性を秘めてしまっているのだから。それどころかそれよりも酷いことになりえることだから。

 

令音が見ているモニターにはこう記されていた。

 

 

 

五河零士 身長178cm 体重65kg

 

生誕年日不明。書類上は19と記入されているが正確な年齢は不明。

 

同じく正確な出自は不明。とある孤児院の前に放置されていたのを発見、保護される。

 

引き取られていた孤児院は五年前の住宅街火災事故によって焼失。その事件によって彼以外の孤児及び職員は一名が行方不明。残りの全員は火災によって焼死が確認された。その直後に五河家へ引き取られることになる。

 

 

 




軽く出ました零士くんの重い過去の一部。でもまだ重くなります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。