剣士として戦いたいので聖剣使いになってみました (BURNING)
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聖剣使いとゲームスタート

初めましての人は初めまして、BURNINGです。痛いのは嫌なので防御に極振りしたいと思いますを読み始めて衝動的に書きたくなりました。それではどうぞ!


俺の名前は剣崎海斗(けんざき かいと)。今日は学校のゲーム仲間の白峯理沙(しろみね りさ)に勧められて『New Would Online』をやる事にした。どうやらこのゲームはここ最近急激に売り上げを伸ばすVRMMOというジャンルのゲームらしい。

 

何やら理沙の友達で俺と同じクラスの本条楓(ほんじょう かえで)も今日初めてやるからお前がついていてくれと言ってきた。

 

 

 

「はぁ……何で俺が理沙の友人の面倒を見ないといけないのやら……ま、いっか」

 

海斗はハードを起動するとまずは初期設定及びステータスポイントを決める必要があるようでまずは名前を入れる画面が現れた。

 

「名前かぁ……取り敢えず今回は剣使いになりたいし、俺の苗字に剣の文字があるから“セイバー”にしようっと……」

 

海斗が名前を決めると次は初期装備を決める画面に移行した。そこには大剣に片手剣、弓に杖に大楯など多くの選択肢があったのだが、剣士になるって考えると選択肢は自ずと限られる。

 

「剣士になるって考えるのなら大剣か片手剣、短刀ぐらいだけど、今回はバランス重視の何でもできる剣士にしようかな。そう考えると大剣は動きづらいだろうし短刀だとバランスタイプにするならリーチがちょっと足りないかな」

 

 

 

海斗が初期装備を選ぶと続けてステータスを振る画面へと移行した。

 

「次にステータスかぁ。HP(体力)、MP(魔力)、STR(筋力)、INT(知力)、VIT(耐久)、AGI(敏捷)、DEX(器用)に合計100ポイント振れる訳だけど……バランス型とは言え最初っからMPなんていらないし、INTも必要ない。ただ、STR、VIT、AGIはある程度無いと話にならないから振るとしてあとHPとDEXか……HPは後からでも大丈夫にしてもDEXは少し振っておくかな」

 

 

 

海斗がポイントを振り終わると最後に外見の設定へと移行した。とは言っても身長や体格は弄れないらしく変えられるのは紙や瞳の色だけっぽいので特に変更も無く確定のボタンを押した。

 

「っしゃ!行くぞー!!」

 

海斗は期待に胸を躍らせながらゲームの世界へと突入すると広場へと出てきた。

 

 

 

「ここが初期地点か」

 

周りの景色を確認するとそこには巨大な噴水があり、両側にはレンガ造りの家々が連なっていた。さらに他のプレイヤーも沢山歩いていた。

 

 

 

「取り敢えずステータスの確認をしよう」

 

セイバーが画面を開くとそこにはステータスが出現した。

 

 

 

セイバー

Lv1

HP 35/35

MP 20/20

 

 

 

【STR 25〈+15〉】

【VIT 30】

【AGI 35】

【DEX 10】

【INT 0】

 

装備

頭 【空欄】

体 【空欄】

右手【初心者の剣】

左手【空欄】

足 【空欄】

靴 【空欄】

 

装飾品 

【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

 

 

「ふうん……てか、ステータスが0の所って俺が最初のステータス振る画面でやらなかった所じゃん。良かったぁ、ちゃんと振っておいて……振らなかったら0スタートだったよ。さてと、本城さんはどこかな?」

 

確か小柄の黒髪でアホ毛が特徴だったけど、容姿も変えられる設定だったらダメだったな。

 

セイバーが設定に感謝して周りを見てみるとそこには大楯を持ってキョロキョロしている小柄のアホ毛をした黒髪の女子……本条さんはいた。そしてすぐさまその子の元へ歩いていくと話しかけた。

 

「本条さんだよね?理沙の友達の」

 

「あ、はいっ!確か、剣崎君だよね?」

 

「うん。あ、でもここではセイバーって名前にしてるから本条さんもそうやって呼んでくれる?」

 

「あ、うん!あとそれと私はメイプルって名前にしたよ」

 

「OK!じゃあメイプルって呼ぶね。早速だけどメイプル、まずは街の外に出てモンスターと戦ってみようか」

 

「うん!」

 

それから2人は歩き始めるのだが……

 

「ま、待って!歩くの早いよぉ〜」

 

メイプルの歩く速度はセイバーの速度と比べて明らかに遅いのだ。慌ててメイプルのステータスの所を確認するとまさかのVIT以外にはポイントを振っておらずAGIが0なのでAGIが35の俺とは歩く速度に差が出来てしまっていたのだ。

 

「ごめん!取り敢えず俺がゆっくり歩くから……」

 

「あ、そうだ!」

 

セイバーがゆっくりと歩こうとした瞬間、メイプルはいきなりとんでもない事を提案してきたのだ。それは……

 

「あの〜メイプルさん、なんでこうなったの?」

 

「こうしたら2人共速く行けるかな〜って」

 

何故かセイバーはメイプルを背負って歩く事になったのだ。

 

ちょっと!本条さんは普段から天然だとは思ってたけど少しはこういうのに抵抗感持ってくれよ!!これじゃあ理沙に知られたら何されるかわかったものじゃ無いんだけど!?

 

暫く歩いて森の中に入るとセイバーはメイプルを下ろした。

 

「それじゃあここからは別行動にしない?見た感じ初心者の森だから出てくるモンスターも弱いし、それぞれステータスもバトルスタイルも違うだろうから明日からも暫くは来る時だけおんぶして森に入ったら別行動するって感じで」

 

「良いよ!それじゃあまた後でね!」

 

 

 

セイバーはメイプルと別れると森にいるモンスターと戦うべく森の中へと入っていった。すると早速元気そうな白兎が飛び出してきた。

 

「お、早速モンスター発見!」

 

兎はセイバーへと突っ込んでくるがセイバーはすれ違い様に兎を一刀両断すると兎の体力ゲージと思われるバーが消えて兎は消滅して通知が鳴った。

 

『レベルが2に上がりました』

 

「レベル上がるの割と速かったな。さて、ステータスポイントは……お、5振れるようになってる。けど、今すぐは良いかなぁ。スキルがどんなのかわからないしあと1時間ぐらいやってみるかな」

 

 

 

 

 

それから1時間後、セイバーのレベルは10に上がっていたがステータスポイントは敢えてまだ振ることはしなかった。

 

「さてと、レベルも10になってスキルも取得出来たからそろそろメイプルと合流かな」

 

セイバーがメイプルの元へと行くと彼女は丁度蜂を倒して指輪をゲットしている所だった。

 

「メイプル!調子はどう?」

 

「順調だよ!どんどんVITも上がってるし!」

 

「へぇ……やっぱり極振……はい?」

 

セイバーがメイプルのVITを確認すると154であったのだが、大物喰らい(ジャイアントキリング)と絶対防御のスキルの能力で616にまで数値が上がるということがわかったため、驚きを禁じれなかったのだ。

 

「おいおい、これが始めて僅か1時間の人が出せる値なのか?」

 

「ん?私は普通にプレイをしてるだけなんだけどなぁ……」

 

何処が!?と思わずツッコもうとしたけど何とか言葉を押しとどめた。

 

「なんだか疲れちゃったから今日はもう終わりにしない?」

 

「そうだな。そろそろログアウトするか」

 

俺達は街へと戻るとそのままログアウトして現実世界へと戻っていった。

 

ちなみに、メイプルをおんぶした事が理沙にバレるとセイバーは現実世界で彼女に思いっきりシバかれた。




1話終了後のセイバーのステータス
セイバー (振られてないポイント 30)
Lv10
HP 35/35
MP 20/20
 
【STR 25〈+15〉】
【VIT 30】
【AGI 35】
【DEX 10】
【INT 0】

スキル
【剣の心得I】

いかがでしたか?モチベーションが上がるので感想を書いて頂ければ幸いです。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとスキル集め

2日連続投稿です。それではどうぞ!


ゲームを始めた翌日、セイバーは再びログインしていた。今回もメイプルとは一緒にはやらずに敢えてバラバラに行動しようという事で最初に顔合わせだけしてメイプルを森へと連れて行ってからは1人で入っている。

 

 

 

「早速モンスター狩り及びスキル集めといきましょうか!」

 

セイバーは1人で森の中へと入っていくと俺の姿を見て次から次へと飛びかかるモンスターを斬りつけていった。ある時はすれ違い様に、ある時は正面から、ある時は背後へと周ってからと、モンスターというモンスターを狩りまくっていた。

 

そんな中、セイバーはある技に挑戦してみた。

 

「ふぅ……」

 

セイバーが目を閉じると全神経を集中、周りに潜むモンスターの気配を探った。

 

暫くすると目を閉じていて隙だらけと思ったのか狼のモンスターが襲いかかってきた。

 

「はあっ!せいっ!」

 

次の瞬間、目を閉じたままモンスターは真っ二つに斬られており、ポリゴンとなって消えた。

 

さらに続け様にモンスターが飛んできてセイバーを襲おうとするもそのたびにモンスターは斬られつづけ、10体ぐらいが消えた所で通知音が鳴った。

 

『スキル、【気配斬り】を取得しました。スキル、【気配察知】を取得しました』

 

【気配斬り】

視界に入ってない相手を斬る際に威力を2倍にする。

 

取得条件

目を閉じたままモンスターを10体以上斬る。

 

【気配察知】

周囲10m以内の敵や味方の気配を探知できる。

 

取得条件

モンスターが視認できない状態でモンスターの気配を10体以上感じとる。

 

「なるほど、やっぱりスキルは戦ったりして条件を満たしたりすると得られるんだな。それじゃあどんどん行こうか!」

 

 

 

 

 

そして初めてから約3時間が経過し、レベルは15にまで上がっていて、さらにスキルを増やす事に成功した。3時間経過しての成果は以下の通りである。

 

 

 

セイバー (振られてないポイント 40)

Lv15

HP 35/35

MP 20/20

 

【STR 25〈+15〉】

【VIT 30】

【AGI 35】

【DEX 10】

【INT 0】

 

スキル

【剣の心得Ⅲ】【気配斬り】【気配察知】【火魔法I】【水魔法I】【風魔法I】【土魔法I】【光魔法I】【闇魔法I】【筋力強化小】【疾風斬り】

 

 

 

「取り敢えずこんな所かな。本格的にダンジョンを探すのは明日にして今日はもうログアウトを……ん?」

 

セイバーがふと横を振り向くとメイプルが寝転がっておりその周りにキャタピラーや狼、蜂などの大量のモンスターがいて、それらから攻撃を受けまくっていた。

 

何あれ?てか、メイプル、あんなに攻撃を受けても大丈夫だとか化け物すぎるでしょ。助けた方が良いのかな?まぁ、攻撃は無効化してるみたいだし暫くこのままにしてみるか。

 

尚、その数分後に目覚めたメイプルが悲鳴を上げながらモンスターを何とか倒す事になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

同時刻、とある掲示板

【NWO】やばい大盾使いと片手剣使いを見つけた

 

1名前:名無しの大剣使い

やばい

 

2名前:名無しの槍使い

kwsk

 

3名前:名無しの魔法使い

どうやばいの

 

4名前:名無しの大剣使い

何か西の森で大ムカデとキャタピラー数十匹に取り囲まれてたのと目を瞑ったままモンスターを何体も葬ってた奴がいた。

 

5名前:名無しの槍使い

は?あり得なくね

普通死ぬだろwいくら大盾装備でも

もう片方はプレイヤースキルで何とか……因みに俺は無理ですね

 

6名前:名無しの弓使い

>1

強力な装備だったとか?そこんとこどうなん

 

7名前:名無しの大剣使い

見た感じは初期装備だった

思い出すだけでも気持ち悪くなるわ

何で芋虫とムカデの中で平然としてられるんですかね

もう片方は動きの次元が違う。初期装備でこのゲームやり始めたのは最近だろうけど明らかに動きがプロのレベルだった。

 

8名前:名無しの魔法使い

その状況で死なないのはダメージを無効化してる?としか……

もう片方についても本当にスキルを使わずに剣の腕だけで倒しているのなら化け物すぎる。

 

9名前:名無しの槍使い

剣使いは置いておいて、VIT特化にしてもモンスターの攻撃を耐えまくるって出来るか?

 

10名前:名無しの弓使い

確かβテストの時の検証で防御を極振りにしても白兎の攻撃を耐えられるだけだったはず。

 

11名前:名無しの槍使い

ゴミじゃねぇか

 

12名前:名無しの大盾使い

俺多分そいつら知ってるわ

 

13名前:名無しの大剣使い

教えてくれると嬉しい

 

14名前:名無しの大盾使い

プレイヤーネームは両方知らないが片方が身長150無いくらいの美少女。もう片方は身長170cm無いぐらいの男子で仲良くしている所を見ると多分リア友とかだと思う。

因みに俺がちっこい方と同じことしたら一瞬で溶けますはい

 

15名前:名無しの魔法使い

なるほど、女子の方はやっぱ極振りか?まあ、でも隠しスキルでも見つけたとかかも知れん

 

16名前:名無しの槍使い

あーそれっぽいなって言うか女かそれも美少女か

 

17名前:名無しの弓使い

ほうそこに目をつけましたか。でも、剣士の方がリアルでは彼氏だったりしないよな?

 

18名前:名無しの魔法使い

そんなの俺が許さん!!

 

19名前:名無しの大剣使い

んー、その件も含めてまた追々情報集めるしか無いか

トッププレイヤーになるのなら自然と名前も上がってくるだろ

 

20名前:名無しの大盾使い

また何か見かけたら書き込むわ

 

21名前:名無しの魔法使い

情報提供感謝します!(敬礼)

 

 

 

とまぁこのようにセイバー達は知らない所で話題になってしまっているとは本人達は微塵も思っておらず、さらに翌日にセイバー達はゲームにログインすると2人で合流した。

 

「今日もここに来ちゃったな」

 

「うん……」

 

セイバー達は理沙に勧められるままに初めてから3日、完全にこのゲームにはまってしまっていた。

 

「理沙の野郎、自分は勉強で参加は出来ないくせして何で俺達にこのゲームを勧めたのやら……まぁ、その間にあいつが追いつけないぐらいのレベルと装備に……ん?」

 

セイバーがメイプルと自身の装備を見ると初期装備のままであり周りの人間は装備が何人かは豪華になっていた。

 

「私達、初期装備のままだ!」

 

「まぁ、初めて3日目とは言えこの状況は何とかしないとダメだなぁ……ってあれ?メイプル何処行った?」

 

セイバーが1人で喋っているといつの間にかメイプルが側にはおらず、近くにいた格好良い大楯を装備した男の元へと行っていた。

 

「あのーそういう格好良い盾は何処で手に入れれば良いんですか?」

 

「ちょっとメイプル!?知らない人の所にいきなり行くなよ!!」

 

セイバーはメイプルの大胆すぎる行動に驚きを隠せなかった。

 

「ん?え?お、俺?」

 

男性の方も急にメイプルに話しかけられて驚いているようだった。

 

「はい!その大盾格好良いですよね!」

 

「あ、ああ。それはどうも……これは、オーダーメイドだよ。生産職の人にお金を払って作って貰うんだよ」

 

「むむむ……成る程……」

 

「そうだな……紹介してあげようか?同じ大盾装備のよしみでね」

 

「っ!ぜひお願いします!」

 

「それじゃあついてきて」

 

待って、俺の事完全にそっちのけで話が進んでるんですけど……てかこれが詐欺だったらどうするの!?メイプルは大盾のことしか考えていないみたいだし、最悪この人がメイプルに危害を加えるのなら俺が倒しておかないと……。

 

だが、この人は本当にただ親切な人であったためセイバーの心配は杞憂に終わった。

 

 

 

3人が暫く歩くと一軒の店に入った。

 

中には女の人が一人カウンター越しに作業をしておりその人はセイバー達が入った事で手を止めて俺達の方を向いた。

 

「あら、いらっしゃいクロム。どうしたの?まだ盾のメンテには早いはずだけど?」

 

「ああ、ちょっと大盾と剣を装備した新入りを見つけてな……衝動的に連れてきた」

 

クロムと呼ばれた大楯使いは女性に連れてきた理由を話すと女性の方はとあるページを開いた。

 

「あら、可愛い子達ね……クロム、衝動的にこの子を連れて来たの?通報した方がいいかしら?」

 

そう言って、女性はパネルの通報のボタンを押そうとした。

 

「ち、ちょっと待てよ!それは、何ていうか言葉の綾だって!」

 

「会ったばかりですが、おそらくクロムさんは多分そんな事をする人では無さそうなので大丈夫ですよ」

 

「そこを曖昧にしないでくれよ!」

 

俺がクロムさんの信用を敢えて濁すとクロムさんはしっかりとツッコんでくれた。

 

「ふふっ……分かってるわよ。冗談冗談」

 

「はー……心臓に悪いから止めてくれ」

 

「あなた達もそんなに簡単に怪しい人についていっちゃ駄目よ?」

 

「わかりました!」

 

「俺はそんな簡単にはついていくつもりは無かったんですけどね」

 

「俺は怪しくねーよっ!?」

 

2人共仲良いな……まぁそれはそうとして、セイバー達は早速本題に入って新しい装備を何とか作ってもらえないかとイズという生産職の女性に聞いてみると……

 

「メイプルちゃんはVIT特化装備で大丈夫だけど、セイバー君の方は一応バランス型で良いのよね?」

 

「はい。どんな状況でも対応できるようなバランス型を目指すつもりです」

 

「うーん。作れなくも無いけど2人共始めたばかりだし予算ないでしょ?」

 

「「……あ」」

 

そう、2人共始めてから何も買っていないとは言え所持金は初期値の3000Gしかないのだ。

 

「2人共3000ずつで合計しても6000Gしか無い……これじゃあ確実に足りない……。ちなみに、最低な物でもいくらぐらいかかるんですか?」

 

「オーダーメイドの装備が欲しいのなら最低でも100万Gは必要ね。まぁ、気づけば貯まってると思うわ」

 

「うぐぐ……しばらくおしゃれはお預けかぁ……」

 

「仕方ない。別の方法にしようぜ」

 

「ダンジョンに潜るのもありね。ダンジョンにはお宝がいっぱいあるしお金も溜まるわよ。強力な大盾とか剣あるかは分からないけど」

 

「その方法で行くか」

 

それからセイバー達は2人とフレンド登録してから店を後にした。

 

「取り敢えず、これからはダンジョン攻略がメインになりそうだな。お金と装備のためにも」

 

「うん!私も早く装備が欲しいからね!」

 

 

 

 

 

その後、掲示板にて……

 

241名前:名無しの大盾使い

大楯の子と剣士の子に遭遇したというかフレンド登録したw

 

242名前:名無しの槍使い

は?

 

243名前:名無しの弓使い

どうやって?

 

244名前:名無しの大盾使い

ログインしてきた時に大楯の子がめっちゃキョロキョロしてて一瞬目が合ったと思ったら走ってきて話しかけられたw

 

245名前:名無しの大剣使い

大楯少女コミュ力たけーなおい

 

246名前:名無しの魔法使い

>244

んでその後は?

 

247名前:名無しの大盾使い

格好良い大盾って言われて

俺が生産職の人紹介するからついてこいっていったら2人共後ろついてきたけど、女子の方は男子におんぶしてもらってた。

ちなみに男子の方の速度は俺の速度に余裕でついてきてたし、多分俺よりはAGIが上だと思う。

 

248名前:名無しの槍使い

>247

お前のAGIいくつよ

 

249名前:名無しの大盾使い

まあ待て今まとめる

 

いくぞ

女子の方の名前はメイプル

大盾を選んだ理由は攻撃を受けて痛いのは嫌だから防御力を上げたかったとのこと

 

超素直で活発系少女

 

総評

めっちゃ良い子

 

 

もう片方の名前はセイバー

剣士をやるって決めていて、片手剣にしたのは大剣だと動きづらいのと、短剣だとリーチが足りないからだって。ちなみに、大楯を使う女子の友達から面倒を見てくれって言われているらしい。あと、俺からも彼の強さがある程度は感じられた。

 

 

総評

真面目で強そうで、メイプルを守る人って感じだった。

 

 

あー見守ってあげてー

後お前らとは2人に関する情報を交換していきたいと思ってるから俺の情報晒すわ

取り敢えず俺はクロムって名前でやってる

んでAGIは20な

お前らとはフレンド登録しときてーから明日これる奴は22時頃に広場の噴水前に来てくれると嬉しい。

 

250名前:名無しの槍使い

情報サンクスっていうかお前クロムかよ!

バリッバリのトッププレイヤーじゃねーか!

 

251名前:名無しの魔法使い

まさかの有名人過ぎてビビったわw

 

252名前:名無しの弓使い

よっしゃその時間行けるわw

つーか活発少女とその騎士で良いのかな?この2人の成長が楽しみだな

 

253名前:名無しの大剣使い

とりあえずこれからも二人を暖かく見守っていく方向でいいかなー?

 

254名前:名無しの槍使い

いいともー!

 

255名前:名無しの弓使い

いいともー!

 

256名前:名無しの魔法使い

いいともー!

 

257名前:名無しの大盾使い

いいともー!

 

もちろん、このやり取りが掲示板の上で話されている事は2人が知るよしもなかった。




2話終了後のセイバーのステータス
セイバー (振られてないポイント 40)
Lv15
HP 35/35
MP 20/20

【STR 25〈+15〉】
【VIT 30】
【AGI 35】
【DEX 10】
【INT 0】

スキル
【剣の心得Ⅲ】【気配斬り】【気配察知】【火魔法I】【水魔法I】【風魔法I】【土魔法I】【光魔法I】【闇魔法I】【筋力強化小】【疾風斬り】

次回はダンジョン攻略になりそうです。モチベーションが上がるので感想を書いていただければ幸いです。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと初ダンジョン攻略

今回はセイバーが初ダンジョンに挑戦します。それではどうぞ!


大楯使いのクロムさんと生産職のイズさんの2人と別れた俺達は街でポーションや新しい技を買ってからダンジョンへと足を運んでいた。

 

「ダンジョン攻略かぁ〜私達もやっと冒険に出るって感じだね!」

 

「そういや、メイプルは何処に行くか決めてる?」

 

「えっとね、私は毒竜の迷宮って所を目指してるよ。セイバーは?」

 

「正直今の俺のスキルでそこに行くのは危険だと思うから悪いけど別の場所かなぁ。俺には毒への耐性なんて無いし」

 

「それじゃあまた別行動?」

 

2人が話しているといきなりセイバーの歩く先の足元に落とし穴が開いていたのだが話しながらのため俺がそれに気づく事は無くそのまま話し続けた。すると……

 

「やっぱりそうなるのかなってうわぁあああ!!」

 

「セイバー!?」

 

案の定俺は落とし穴に引っかかり穴をそのまま滑り落ちるとかなり深い所に落ちた。

 

「うぉっとぉ!?」

 

落下した先には丁度クッションのように落ち葉があったがそれが無ければ耐久値的に死んでいたであろう。

 

「危ねぇ……これ、落下先に落ち葉無かったらダメージで死んでたよ……てか、ここ何処だ?」

 

俺が落ちた先には祠が描かれた古い扉があり、両サイドには灼熱のマグマが流れており、ダンジョン感を滲ませていた。

 

「これ、どっからどう見てもダンジョンだな……てか、まさかと思うけどいきなりボス部屋じゃないよね?」

 

俺が扉を開けるとそこには空間が広がっており、真ん中には巨大な円のバトルフィールドのようでそのフィールドの周囲は用水路のような窪みがフィールドを囲むように形成されていた。ちなみに、そこに行くためには人1人が渡れるであろう橋を渡るしか無く渡ればボス戦が始まるのは目に見えていた。

 

「……これ、絶対フィールドの上に登ったらボス戦始まるやつだよね?まぁ、行くけどさ!」

 

俺が橋を渡ると突然窪みの部分にマグマが流れ込み退路を塞いだ。勿論、渡ってきた後ろの橋は焼き消えて無くなり、ボスに勝つか自分が死ぬかの2択になった。

 

そして、目の前に巨大な本のような物が降りてくるとそれが開き、中から紅く巨大な龍が現れた。

 

『よくぞここに来たな。私の名はブレイブドラゴン。全てを滅ぼす力を得た神獣だ。だが、私はその力の全てを出した事は無い。お前で私の力の底を試してやる。生き残りたければ私を倒すが良い』

 

「なるほど、俺はお前自身の力を試す実験台って所か。だったら俺もお前を利用して自分の力を試してやる。さぁ、来いよ!」

 

ブレイブドラゴンは早速挨拶代わりの火炎放射を放ち、俺はそれを横に飛んで回避した。

 

「炎には水でどうだ!」

 

俺が貴重なMPを少し使って水の魔法陣から水を発射し、ドラゴンへとぶつけるが彼には全く効いておらずHPバーはミリ単位でしか減ってなかった。

 

『ふん!私にその程度の水は通用せんぞ!』

 

そのままドラゴンは火炎弾を発射して攻撃してきた。

 

「火炎弾か……わざわざ躱す必要も無いな!」

 

俺は得物の剣を振うと火炎弾を叩き斬りながら接近、そのままドラゴンを切り裂いた。

 

「うらぁっ!」

 

さらに斬り上げた剣をそのまま振り下ろし、2撃目を入れる。

 

『小癪な!』

 

ドラゴンは強靭な尾を鞭のように撃ち込み、俺を叩き落とそうとしてくる。

 

「おっと!これでも喰らえ!【パワーアタック】!」

 

俺はその攻撃を利用して尾の上に飛び乗りそのままパワーの上がった力を利用して剣を突き刺した。

 

『ぬうっ!?』

 

流石にこの攻撃は効いたのかHPバーが1割分減った。

 

「うっし!」

 

『無駄だ!』

 

するとドラゴンの背中に火がつき始めてその場にいるのは不利と悟ったセイバーは咄嗟に背中から飛び降りた。

 

「危ぶね……あんまり長い時間は居られないかぁ」

 

『私の身体に傷をつけるとは、だが、まだ戦いはこれからだぞ』

 

ドラゴンは再び火炎放射で地上にいるセイバーへの攻撃を再開するとセイバーはそれを躱しながら距離を取った。

 

「やっぱ簡単に近づけさせてくれないな。なら、さっき得た新しい技を試してみるか。【スラッシュ】!」

 

俺が剣を振うと斬撃がドラゴンへと飛んでいき彼にダメージを与えた。だが、やはりそれでは大したダメージにはなってない様子であった。

 

「あらら、これは持久戦も覚悟しないとダメかなぁ……」

 

戦闘開始から1時間が経過する頃、俺はドラゴンの攻撃を回避しつつ遠くから【スラッシュ】でダメージを与えたり、隙が見えれば接近しながらの【パワーアタック】を使って着実にダメージを与えながらドラゴンのHPを残り3割にまで減らしていた。

 

「よし、残り3割!このまま一気に……え?」

 

すると周りの窪みにだけ流れていたはずのマグマが少しずつ俺の立っているフィールドにまで上がってきており、それに伴って地面から足場である事を示すように地面から岩が突起のように盛り上がってきた。

 

「ここでステージ変化……攻撃を躱しにくくするギミックか。でも、関係無いね!」

 

俺は今まで躱し続けてきた火炎放射の攻撃を躱すのでは無く敢えて【スラッシュ】の斬撃で切り開きつつドラゴンへと突っ込むようにしてすれ違い様に斬りつけた。

 

「まだまだぁ!」

 

さらに反対側の足場に着地するとすぐに振り返ってから次の攻撃を仕掛けて何度もドラゴンを斬り裂いた。そして遂にドラゴンのHPバーを残り1割へと追い込んだ。

 

『ぬうう……私をここまで追い詰めたか……ならば私のフルパワーの一撃を受けるが良い。この攻撃を受ける勇気が貴様にはあるかな?』

 

するとドラゴンは自ら吐き出した炎を自らに纏うとそのまま大きく旋回しながら速度を増し、そのまま俺へと突っ込んできた。

 

「やば!?」

 

俺は何とかそれを回避するがドラゴンの勢いは更に増した様子で再び旋回して突っ込んできた。

 

「これ、俺が喰らうまで止まらないパターン!?てか、あれを受けたら確実に……そうだ!」

 

俺はドラゴンの突撃を3回ぐらい回避した所でふと思いつくとその場に留まってドラゴンの攻撃を剣で受け止めた。

 

「ぐううう……」

 

俺が攻撃を受け止めると纏われている炎が俺へと継続ダメージを与えていきさらに剣の耐久値をゴリゴリと削っていった。

 

「まだだ……もう少し……」

 

俺は攻撃を耐えに耐え、耐久値と体力が1割を切った。

 

「ここだ!うらぁああ!!」

 

俺はそのまま渾身の力でドラゴンの軌道をギリギリずらすとドラゴンが俺の真横を掠っていきその瞬間、剣にはドラゴンの炎が移ったのか炎の剣と化しておりスキル習得の通知が鳴った。

 

『スキル、【火炎斬り】を取得しました』

 

「スキルゲットか。けど、じっくり内容を確認している暇は無さそうだ!」

 

ドラゴンは更に旋回して三度セイバーへと突貫してきた。

 

「これで決める!【火炎斬り】!!」

 

そのまま炎を纏った剣で突貫してくるドラゴンを斬りつけるととうとうドラゴンのHPバーは消え、光の粒子となり始めた。それと同時に剣の耐久値が消えて消失、俺は武器を失う事になった。

 

『見事だ……まさか私の力を利用するとは……だが、私は自身の力の底を見る事が出来た。これからは私の力はお前が引き継ぐが良かろう。私は暫く眠る』

 

そう言ってドラゴンは地に落ちると身体が完全に粒子として消え、後には報酬である宝箱が落ちてきた。

 

『スキル、【火炎砲】【爆炎放射】【火炎激突】【大物喰らい】を取得しました。【火魔法Ⅰ】が【火魔法Ⅴ】へと進化しました』

 

「どうやらステージクリアか……疲れたぁ!!」

 

俺はその場に仰向けに倒れ込むと取得したスキルを確認する。

 

【火炎砲】

火炎球を相手へと撃ち込み、着弾した場所から半径3メートルの範囲にいる相手に5秒間の火属性の継続ダメージを与え続ける。

 

取得条件

ブレイブドラゴンを初回で討伐する。

 

【爆炎放射】

強力な火炎攻撃を放つ事ができ、当たった相手のVITに関係なく一定のダメージを与えられる。さらにMPを消費する事で威力を上げられる。

 

取得条件

ブレイブドラゴンに火属性の攻撃をした上で撃破する。

 

【火炎激突】

炎を纏いながら相手へと突撃する。相手へのダメージは自身のSTRとAGIで計算され、発動中は他の行動が一切出来なくなる。

 

取得条件

ブレイブドラゴンの火炎を纏った突撃を真正面から受け止めて、なおかつブレイブドラゴンの炎を利用した攻撃をする事。

 

【大物喰らい(ジャイアントキリング)】

HP、MP以外のステータスのうち四つ以上が戦闘相手よりも低い値の時にHP、MP以外のステータスが二倍になる。

取得条件

HP、MP以外のステータスのうち、四つ以上が戦闘相手であるモンスターの半分以下のプレイヤーが、単独で対象のモンスターを討伐すること。

 

「うーわ、割と面倒臭い条件の奴が2つもあるし取得条件ちゃんと満たしてて良かった。でも取得した中で大物喰らいは要らないかな。バランスタイプにこのスキルは合わない」

 

セイバーはそう言って大物喰らいを廃棄した。

 

「てか、最後に取得した火炎斬りって何だったんだ?」

 

【火炎斬り】

剣に炎を纏わせる事で火属性の斬撃を繰り出す事が可能になる。

 

取得条件

何らかの形で剣に炎を纏わせる事。

 

「なるほど、それで技を取得したのか。まぁ、あいつが攻撃を放つ直前に“この攻撃を受ける勇気が貴様にはあるか”とか何とか言ってたから多分攻撃を敢えて受け止めるのが良いかなって思ったけど正解だったみたいだね。さてと!宝箱の中の物でも確認するかな」

 

俺は起き上がると宝箱へと近づいて開けた。

 

すると中にはそこらにありそうな黒い色をした割と普通の装備があった。

 

「あれ?あれだけ強いモンスター倒したからさぞかし報酬も豪華だと思ったんだけど……何々、ユニークシリーズ?」

 

 

 

【ユニークシリーズ】

 

単独でかつボスを初回戦闘で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる攻略者だけの為の唯一無二の装備。

一ダンジョンに一つきり。

取得した者はこの装備を譲渡出来ない。

 

 

 

『聖剣士のヘッドギア』

【VIT +10】【破壊不可】

この装備は聖剣を装備する事によってその聖剣の特性にあった姿へと変わる。

 

『聖剣士の鎧』

【VIT+10】【AGI+10】【破壊不可】

この装備は聖剣を装備する事によってその聖剣の特性にあった姿へと変わる。

 

『聖剣士の靴』

【AGI+10】【破壊不可】

この装備は聖剣を装備する事によってその聖剣の特性にあった姿へと変わる。

 

「……これだけ!?嘘だろおい、聖剣を装備って言われても俺の剣はさっきの戦いで焼き消えたんですけど……」

 

俺が途方に暮れていると近くに錆びついた剣が地面に刺さっているのを見つけた。

 

「……まさかと思うけどこれが聖剣じゃ無いよね?」

 

俺はその剣の柄を持つとその剣はいきなり燃え始めて剣にこびりついた錆を全て消しとばした。

 

「うお!?」

 

そのまま剣は抜け、その姿を露わにした。その剣は刀身が灼熱の炎の如き色をしており、鍔は赤いドラゴンの顔が噛み付くような形となっていた。

 

『火炎剣烈火(かえんけんれっか)』

【STR+70】【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】

【紅蓮爆龍剣】【破壊不可】

 

「何このぶっ壊れ性能!!てか、何この剣についてるスキルの数!?さっきの装備が霞んで見えるんですけど!?」

 

【爆炎紅蓮斬】

刀身に爆炎を纏わせて相手を斬り裂く。

 

【火炎十字斬】

剣に火炎を纏わせて相手に十字文字型の斬撃を浴びせる。また、この技は斬撃波として飛ばすことも可能。

 

【紅蓮爆龍剣】

MPを40消費する事で龍の形を模した斬撃を相手へと飛ばす。さらにこの技は斬撃の飛ぶ場所を斬撃を放った後でも変える事ができる。

 

「ふむふむ、これはヤバい武器手に入っちゃったよ……そりゃあの龍が全てを滅ぼす力って言うのも頷けるわって、およ?」

 

俺が剣を持ったまま先程手に入れた装備を身につけると装備は光り始め、黒い塗装が剥がれ落ちるように姿を変えていった。

 

すると靴は真紅の炎のように染まり、鎧も紅く染まるとそこに先程倒したブレイブドラゴンの絵が刻まれた。そして、ヘッドギアも龍の頭を連想するような形へと変わると一気に力が身体中に入る感覚がした。

 

『紅蓮のヘッドギア』

【MP+30】【VIT+25】

【破壊不可】【進化の可能性】

【火属性無効】【消費MPカット(火)】

 

『紅蓮の鎧』

【VIT+30】【INT+40】

【破壊不可】【進化の可能性】

【極炎】

 

『紅蓮の靴』

【VIT+15】【AGI+70】

【破壊不可】【進化の可能性】

【フレアジェット】

 

 

 

【火属性無効】

火属性による攻撃を全て無効化する。

 

【消費MPカット(火)】

火属性の技を撃つ時に消費するMPを10%カットする。

 

【極炎】

MP50を消費する事で周囲20m範囲を焼き尽くす。なお、この技を撃った後には10分間火属性の攻撃が撃てなくなる。

 

【フレアジェット】

足から炎をジェットのように噴出する事で2分だけ飛ぶ事ができる。この技には一度使うと20分のクールタイムが必要となる。

 

【進化の可能性】

鎧が進化してパワーアップする可能性がある。

 

手に入れたスキルの説明文を読み終わると先程手に入っていたスキルのうち、火魔法Ⅴを除く3つのスキルは強制的に全て鎧に付与された。

 

「……は?は?嘘だろ?てか、火炎剣烈火を装備しただけで鎧も超進化してるんですけど?何この格差。本当に同じ装備か?」

 

試しに俺が烈火を外すと他の装備も元に戻った。

 

「うん、同じ装備だわ。この装備完全に聖剣無いと話にもならない奴じゃん」

 

すると先程まで烈火が刺さっていた場所が光るとそこから文章が出現した。

 

『聖剣は全部で12本ある。それらが全て集まった時には貴殿に最強の力が手に入るであろう。尚、たった今から聖剣のダンジョンに挑めるのはあなただけとなった。他の人に聖剣を取られる心配は無いので思う存分頑張りたまえ』

 

俺はその文を一通り読み終わる頃にはワクワクが止まらなかった。

 

「うおっしゃあ!!こうなったら12本の聖剣全部集めて最強の剣士になってやるぜ!!!」

 

そしてその叫びは戦いの苛烈さが残るダンジョンのバトルフィールドにこだました。




3話終了時点のステータス
セイバー (振られてないポイント 50)
*補正値は火炎剣烈火を装備時
Lv18
HP 35/35
MP 20/20〈+30〉

【STR 25〈+70〉】
【VIT 30〈+70〉】
【AGI 35〈+70〉】
【DEX 10】
【INT 0〈+40〉】

装備
頭 【紅蓮のヘッドギア】
体 【紅蓮の鎧】
右手【火炎剣烈火】
左手【空欄】
足 【紅蓮の鎧】
靴 【紅蓮の靴】

装飾品 
【空欄】
【空欄】
【空欄】

スキル

【剣の心得Ⅲ】【気配斬り】【気配察知】【火魔法Ⅴ】【水魔法I】【風魔法I】【土魔法I】【光魔法I】【闇魔法I】【筋力強化小】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】
*火炎剣烈火の装備時:【火炎砲】【爆炎放射】【火炎激突】【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】【紅蓮爆龍剣】【火属性無効】【極炎】【フレアジェット】【消費MPカット(火)】


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聖剣使いと2本目の刃

今回は第1回イベントへの準備回です。それではどうぞ!


ブレイブドラゴンとの戦闘でレベルが18となったセイバーだったが、今現在、レベルが伸び悩んでいた。あと数日で最初の第1回イベントが始まる。方式はバトルロイヤルらしい。ちなみに、今の最高レベルは48らしいのでこのままだとレベル差で負けるのは目に見えていた。

 

「取り敢えず、装備は他の人にバレるのを防ぐために初期装備の状態にして、今は武器が無いと死ぬだろうから烈火だけ装備するとして、現状だとやっぱり烈火だと水属性の敵が来た時に相性悪いだろうし、できればもう一本何か欲しいけど聖剣じゃないと装備が壊滅的に弱くなるからなぁ……」

 

俺は悩みながらも飛びかかってくるモンスターを斬り裂いて倒し、自らの糧にしていた。

 

「てか、あの後メイプルもユニークシリーズ?を手に入れてたからもし当たる事になったら多分【爆炎放射】ぐらいしか俺からの有効打ないだろうし、ヒドラ食ったから毒も多分効かない。今なら彼女はいないし、対策はいくらでも立てられるけどやっぱりメイプルとは戦わないのが良いのかなぁ」

 

そう、今はメイプルとは手の内を見せないように別行動している。

 

え?メイプルとはずっと別行動してるって?知らんな。

 

俺が森の中を探しているといきなり目の前に洞窟が現れた。

 

「あれ?こんな所に洞窟ってさっきまでただの森だったよね?取り敢えず他の装備をつけてと」

 

俺は聖剣士の装備を装備し、紅蓮の装備へと変えると洞窟の中へと入った。だが、洞窟の中は暗く俺が入った瞬間に入り口が消えてしまったので光もまったく入らなかった。

 

「うー……道が全く見えんな。お陰でさっきから何度も壁とかにぶつかるし、モンスターは俺の事見えてるように襲ってくるし。気配察知無かったらやられてるよ」

 

なんとか道を進みながら歩いていくと自分の足音から広い場所に出たのがわかった。

 

「広い部屋に出たかな?もう烈火の炎で灯りの代わりにでも……」

 

するといきなり部屋の電気が付いて目の前に空中に浮いた黄色いランプが現れた。

 

「何これ?ランプが出てきたんだけど……取り敢えず擦ってみるか」

 

俺が擦ってみるとランプから煙と共に黄金の巨大な魔人が現れた。

 

『我が名はアランジーナ。私を呼んだのはお前か?』

 

「え?あ、はい」

 

『よくぞ我を呼び出してくれた。我が力をお主に与えようと思うがその前に我の出す試練を3つの程受けてもらう』

 

「3つの試練って、何ですか?」

 

『まずは1つ目、この攻撃を全て避け切って見せよ』

 

そういうといきなり目の前から大量の電気を纏った針が飛んできた。

 

「うわっ!?ってえ!?え!?これ避けるの!?」

 

俺は夥しい数の針の隙間を縫うように何とか躱し続けた。

 

それが約1分ほど続くとようやく降りやんだ。だが、その頃には俺の身体も大分疲れていた。

 

「はぁ……はぁ……あれだけの針を躱せって無茶振りするなぁ……」

 

『よくぞ避けたな。次の試練だ。休む暇は無いぞ』

 

すると俺の前に稲妻と共にケルベロスが出現した。

 

『ガオォオ!!』

 

「ケルベロスかよ!?てか、お前は戦わねーのかい!」

 

するとケルベロスは3つの頭から電撃を発射、俺はそれを回避しつつ接近、技を発動した。

 

「【火炎十字斬】!はあっ!」

 

俺は烈火を振るって十字斬りを発動してケルベロスを斬り裂いた。

 

するとケルベロスのHPバーは約2割ほど減少した。

 

「やっぱ中ボス的な立ち位置なせいかブレイブドラゴンより固くないな」

 

ケルベロスはその言葉に怒ったのか強靭な足から伸びる爪で俺を引き裂こうと足を振り下ろした。

 

「うおっ!?」

 

俺はそれを紙一重で回避するもすかさずケルベロスは雷をランダムな場所に落として俺を潰そうとしてきた。

 

「前言撤回するわ。さっさと倒す!極炎はデメリットがデカいからこっちだ。【紅蓮爆龍剣】!」

 

すると紅蓮の龍が飛んでいきケルベロスを襲うとHPが5割ぐらい消し飛んだ。

 

ケルベロスはいきなりHPが半分消えた影響か苦しそうに唸ると電撃のブレスを放ってきた。

 

「無駄だ!【火炎砲】!」

 

手から火炎の砲弾が飛んでいくとケルベロスへと命中し、直撃のダメージと継続ダメージでHPバーを1割にした。

 

「これでトドメ!【火炎激突】!!」

 

俺は炎に包まれるとケルベロスへと突進し、ケルベロスの残ったHPを消しとばした。その後、技の反動でダメージを受けた。

 

「ぐっ……これが反動か……この調子だとバトルロイヤルではあまり使えないな」

 

『第二の試練をクリアしたか。では、最後の試練だ』

 

そう言うとアランジーナは俺の前へと出てきた。

 

『最後の試練は俺から出す問題に答えてもらう、早速いくぞ。アラジンが手に入れる魔法のランプが叶えてくれる願いの数はいくつだ?」

 

「ここでその問題!?てか、その話俺知らねーんだよなぁ……。うーん」

 

『ちなみに制限時間は無いからゆっくりと考えるが良い』

 

うーん、いくつだろ?この質問をすると言う事は1個じゃ無いだろうし5個は多分多い。だとしたら……ん?確かあいつの名前はアランジーナ。って事はモチーフはアラジンの可能性が高い。そして試練の数は3つ。これは賭けだけどやるしか無い!

 

「答えは……3つだ!!」

 

俺が答えてから暫くの静寂が走った。するとアランジーナは笑みを浮かべた。

 

『正解だ。よくぞ答えた。褒美に我の力を与えてやろう』

 

そう言うとアランジーナはその姿を雷へと変えると地面へと突き刺さり、それは剣の形となった。そしてその近くには巻物が落ちた。

 

「え……これってクエストクリア?」

 

俺は言葉を発すると剣がそれに応えるように光を放った。

 

「……よっしゃあ!!」

 

俺は喜びの声を上げると刺さっていた剣を抜いた。すると装備が電撃を発しながら変化し、その姿を変えていった。

 

靴は黄色くケルベロスの足のような形をしており、鎧は黄金でランプと魔神の絵が描かれており左手にはケルベロスの頭の装飾がされている。そして、ヘッドギアは黄色く魔神の顔を模した雰囲気を出した形となった。

 

剣の方は刀身が黄金であり鍔の部分には雷を模した形となっている。

 

『雷のヘッドギア』

【MP+20】【VIT+20】【INT+30】

【破壊不可】【進化の可能性】

【魔力吸収】【消費MPカット大】

 

『雷の鎧』

【MP+20】【VIT+30】【INT+30】

【破壊不可】【進化の可能性】

【魔神召喚】【蓄電】【サンダーブランチ】

 

『雷の靴』

【MP+20】【AGI+60】

【破壊不可】【進化の可能性】

【サンダーブースト】【麻痺無効】

 

『雷鳴剣黄雷(らいめいけんいかずち)』

【MP+10】【STR+60】【破壊不可】

【稲妻放電波】【雷鳴一閃】【落雷】

 

 

 

【魔力吸収】

自身の攻撃で倒した相手のその時点で残っているMPを吸収し、自分のMPに加える。

 

【魔神召喚】

MP30を消費する事でランプから魔神を召喚し、魔神による電撃攻撃、電気を纏った針を飛ばす、ケルベロスを呼び出して使役するのどれかを発動出来る。(1日3回まで)

 

【蓄電】

相手からの電撃攻撃を全て無効化しMPに変換できる。

 

【サンダーブランチ】

地面から電気の鞭を出す事が出来、触れた相手に電撃を与えたり拘束したり出来る。MPを10消費する度にその数を一本増やせる。

 

【サンダーブースト】

MP40を消費して自身の速度を1分間倍にする。一度使用したら1時間使用できない。

 

【麻痺無効】

自身にかかった麻痺を無効化する。

 

【稲妻放電波】

MPを30消費して雷鳴剣黄雷から放電波を放つ。また、MP10、30、50を追加で消費する事で攻撃範囲を広く出来る。(多く消費するほど拡大範囲は広くなる)

 

【雷鳴一閃】

稲妻の如き速度で相手へと接近し、雷を纏わせた剣で居合い斬りを放つ。

 

【落雷】

MPを20消費して自身が指定した場所に雷を落とす事ができる。尚、MP10ごとで落雷の数を増やせる。

 

俺はそれらを確認し終わると思考を始めた。

 

「なるほど、この剣は魔法攻撃に特化した剣か。そのためのMP吸収とMP消費を減らすスキル持ちって訳ね。てか、これあればバトルロワイヤルでも無双できるくね?だってMP吸い続ければMP消費が激しい魔法撃ち放題だし……」

 

俺は最早驚きを通り越して呆れてしまっていた。烈火といいこの黄雷といい聖剣ってのはぶっ壊れ性能の物しか無いのか?

 

「まぁ良い。これで後は聖剣の入れ替えがスムーズに出来るスキルがあれば完璧なんだけどこの巻物は何だろ?」

 

俺が巻物を拾って開けると光り輝いてからボロボロと崩れて消え、それと同時に通知音が鳴った。

 

『スキル、【抜刀】を取得しました』

 

「【抜刀】?なにそれ」

 

俺がスキルの中身をチェックしてみた。

 

【抜刀】

聖剣を使う者のみ取得可能で、インベントリの中にある聖剣と現在持っている聖剣を入れ替える。入れ替える時は“聖剣名、抜刀”と言う必要がある。

 

「へぇ。じゃあ早速、烈火抜刀!」

 

すると持っている黄雷が消えて瞬時に烈火が手元に出てくるとそれと同時に装備も紅蓮の装備に変わった。

 

「すげぇ!これでいつでも聖剣を入れ替えられる!!」

 

俺はその場ではしゃぎまくってから時間も遅かったため余っているポイントをようやく全て振り分けてからログアウトすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

〜その頃、運営〜

 

「た、大変だぁ!!」

 

「どうした?バグか何かでも見つけたかぁ?」

 

「ま、まずはこれを見てくれ!!」

 

するとそこに映し出されたのはセイバーがブレイブドラゴンとアランジーナの試練を突破して装備を獲得する瞬間が描かれた。

 

「嘘だろおい!なんでこの2体が攻略されてんだ?」

 

「アランジーナはブレイブドラゴンの力を取った後だからわかるにしてもその前のブレイブドラゴンを初期装備で倒すとか化け物すぎるだろ!!」

 

「てか、ブレイブドラゴンってHP残り1割であの最強の技が発動するんじゃなかったのか?」

 

「ああ、俺が“この攻撃を受けたら初心者はほぼ全員即死なんだぜグエッヘッヘ”って思いっきり作ったんだけど……」

 

「バカァー!!何でもっと凶悪にしなかったんだよ!!そのせいであいつの聖剣を集める作業がどんどん進んじまってるだろうが!!」

 

「でもまだゆうて2本だしこれより凶悪なのはこれからドンドン出てくるから多分大丈夫……なはず」

 

「あー、ありえねー。てかこれ後数日後のイベント大丈夫だよな?」

 

「「「「「あ……」」」」」

 

とまぁセイバーが知らず知らずの内に運営の頭を悩ませていたのだがもちろんこれは本人が知らない所でなのでセイバーは全く気にするものでは無かった。




セイバー
*補正値は雷鳴剣黄雷を装備時
Lv20
HP 135/135
MP 120/120〈+70〉

【STR 35〈+60〉】
【VIT 35〈+50〉】
【AGI 40〈+60〉】
【DEX 10】
【INT 30〈+60〉】

装備
頭 【雷のヘッドギア】
体 【雷の鎧】
右手【雷鳴剣黄雷】
左手【空欄】
足 【雷の鎧】
靴 【雷の靴】

装飾品 
【空欄】
【空欄】
【空欄】

スキル
【剣の心得Ⅲ】【気配斬り】【気配察知】【火魔法Ⅴ】【水魔法I】【風魔法I】【土魔法I】【光魔法I】【闇魔法I】【筋力強化小】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】
*雷鳴剣黄雷の装備時:【魔力吸収】【魔神召喚】【蓄電】【サンダーブランチ】【稲妻放電波】【雷鳴一閃】【麻痺無効】【落雷】【サンダーブースト】【消費MPカット大】


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聖剣使いと第1回イベント

今回は第1回イベント回となります。それではどうぞ!


2本の聖剣を手に入れたセイバーは今日、とうとう1回目のイベントを迎えていた。まずはルールを聞くためにいつもの噴水広場にメイプルと共にいた。

 

「メイプル、もうすぐ始まるけど準備は良い?」

 

「大丈夫!セイバーはどう?」

 

「問題無しだよ。まぁ問題があるとすれば・・・」

 

俺は身体を見ると真っ赤な紅蓮の装備をしていた。

 

「聖剣との併用で得られる装備が人の目を引きすぎる事かな」

 

「あはは・・・。私もダメージ受けないといいなぁ・・・」

 

「メイプルがそれ言っちゃうの?多分メイプルのVITでダメージ受けるのなら他の人みんな受けてるよ」

 

俺はしっかりとツッコむと最後に自身のステータスの確認をした。

 

セイバー 

Lv20

HP 135/135

MP 120/120〈+30〉

 

【STR 35〈+70〉】

【VIT 35〈+70〉】

【AGI 40〈+70〉】

【DEX 10】

【INT 30〈+40〉】

 

 

装備

頭 【紅蓮のヘッドギア】

体 【紅蓮の鎧】

右手【火炎剣烈火】

左手【空欄】

足 【紅蓮の鎧】

靴 【紅蓮の靴】

 

装飾品 

【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

スキル

【剣の心得Ⅲ】【気配斬り】【気配察知】【火魔法Ⅴ】【水魔法I】【風魔法I】【土魔法I】【光魔法I】【闇魔法I】【筋力強化小】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【火炎砲】【爆炎放射】【火炎激突】【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】【紅蓮爆龍剣】【火属性無効】【極炎】【フレアジェット】【消費MPカット(火)】

 

「へぇ、私よりスキル沢山持ってるんだね。それと、確か装備は2つあるって言ってたけどどうしてこっちにしたの?」

 

「取り敢えず様子見で烈火を装備して、相手によって装備を変えた方が良いからかな。それに、メイプルとも戦うかもしれないから一応その保険でね」

 

「えぇ〜私としてはセイバーとは戦いたく無いよ」

 

「俺もだよ。そのVITは崩せる気がしないし」

 

俺達が話しているとアナウンスが聞こえてきた。

 

『それでは、第一回イベント!バトルロワイヤルを開始します!』

 

「ウオオオオオオ!!!」

 

参加者達の叫びが聞こえるとアナウンスは続けてルール説明に入った。

 

『それでは、もう一度改めてルールを説明します!制限時間は三時間。ステージは新たに作られたイベント専用マップです!倒したプレイヤーの数と倒された回数、それに被ダメージと与ダメージ。この四つの項目からポイントを算出し、順位を出します!さらに上位十名には記念品が贈られます!頑張って下さい!』

 

説明が終わるとスクリーンに転移までのカウントダウンが表示され、それがゼロになった瞬間、俺達は光に包まれて転移した。

 

光が見えなくなると既にそこはスタート地点であり俺は早速相手を探し始めた。とは言っても【気配察知】のおかげで探し始めて僅か数秒で見つかったのだが・・・

 

「お、最初の敵発見!【疾風斬り】!」

 

俺はスピードの上がった剣でやってくる敵をすれ違い様に斬り裂いた。

斬られたプレイヤーは粒子となり消えていく。

 

「まず1人だな。取り敢えず、スキルは極力温存で行こう。いきなり手の内全て晒す訳にはいかないからね」

 

俺はそのまま走り出すとスキルを使って俺を倒すために迫り来る敵をただの剣術だけで次々と葬って行った。

 

 

〜【MWO】第一回イベント観戦席3〜

 

241名前:名無しの観戦者

やっぱ優勝はペインか?

ゲーム内最高レベルだし無双してんな

 

242名前:名無しの観戦者

あれはやばい

動きが人間辞めてるw

 

243名前:名無しの観戦者

でもやっぱ順当に勝ちを重ねてるのはよく聞く名前ばっかだな

 

244名前:名無しの観戦者

トッププレイヤーが強いのはそりゃ当然よ

 

245名前:名無しの観戦者

は?何こいつ・・・やばくね?

 

246名前:名無しの観戦者

うっわ映ってる奴ら強っ

 

247名前:名無しの観戦者

 

暫定成績ランキング

メイプルっていう大盾

百二十人潰して被ダメなんとゼロ

 

セイバーって剣使いもおかしい

ここまでほとんどスキル無しで250人以上潰してるのにこいつも被ダメゼロ。

 

248名前:名無しの観戦者

ふぁっ!?

 

249名前:名無しの観戦者

チート?いや・・・無いか

 

250名前:名無しの観戦者

って言うかそんだけ暴れてたらそろそろスクリーンに映るんじゃね?

 

251名前:名無しの観戦者

こいつか?今映ってる。大楯の方。

 

252名前:名無しの観戦者

盾がw剣食ってるw

何これw

 

254名前:名無しの観戦者

可愛い顔してやることえぐすぎんよー

状態異常とあの大盾で殆ど無抵抗のまま潰してる。

 

 

254名前:名無しの観戦者

でも動き遅くね?

さっきからカウンターばっかり

 

255名前:名無しの観戦者

確かに、あの立ち回りならダメージ貰って普通だよな。ほら、言ってるそばから・・・は?

 

256名前:名無しの観戦者

あいつ何で頭に振り下ろされた大剣頭で弾き返してるの?

 

257名前:名無しの観戦者

おい、何か少し見ない内に剣使いの装備変わってないか?

 

258名前:名無しの観戦者

マジだ。さっきまで赤い装備だったのに黄色くなってる。

 

259名前:名無しの観戦者

でも色が変わってもスキルを使わないのは変わらな・・・はい?

 

260名前:名無しの観戦者

なんか黄色のになってから倒したプレイヤーからオーラ?みたいなの吸収してない?

 

261名前:名無しの観戦者

大剣はじいたプレイヤーの大盾よりも状態異常よりも本体の方が謎すぎてやばい件とほとんどスキル無しで無双している奴がやばい件について

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そんな話がある事を知らないセイバーなのだが、今も順調に敵を倒し続けていた。

 

「うーん、途中から黄雷に変えたし、俺はスキルを使わないし、それはMPを使わない事に直結するからMPが溜まる溜まる。もう黄雷装備時の最大MPが190なのにオーバーに吸収しすぎてもう軽く1000に達するんだけどそろそろスキルの試し撃ちするかな」

 

俺は敵を倒しつつ次の相手を探していると近くに50人近い魔法使い達だった。彼等は俺を視認すると一斉に杖を掲げて魔法を撃ち出そうとする。

 

「おっと、魔法使いは貴重な供給源だしMP使われると俺に入る値も減るの。だから撃つ前に倒す!【サンダーブースト】!【雷鳴一閃】!」

 

サンダーブーストで倍となった速度に雷鳴一閃の効果である一時的なスピードUPの上乗せ効果でとんでもない速さになったセイバーは相手が魔法を放ってくる直前に敵を一瞬にして蹂躙するとMPを全て吸収した。勿論、50人いた魔法使いは全てポリゴンとなって消えた訳だが。

 

「ごっつぁんです!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

295名前:名無しの観戦者

化け物すぎんだろ。2人共

 

296名前:名無しの観戦者

大楯の方のおかしい所は

防御系スキル発動無しの素のVITで魔法をノーダメで受けきる。

アホみたいな威力の魔法

あいつのステどーなってんの?

 

297名前:名無しの観戦者

魔法受けたのは鎧がヤバいスキル持ちかもしれないが、エフェクトが無いから何も無いとは思う。絶対では無いけど・・・

 

298名前:名無しの観戦者

なるほど、剣使いは・・・はい?

 

299名前:名無しの観戦者

うっわなんか地面から電撃の鞭?みたいなの大量に出してるし、何か電撃の範囲攻撃を乱発してるし、しかもアレに当たった奴ほぼ即死なんだが・・・

 

300名前:名無しの観戦者

てか剣使いが魔法攻撃主体ってどうなの?

 

301名前:名無しの観戦者

剣使えよwって言ってたそばから一瞬でいなくなったと思ったら既に何10人も斬られてんだけど。てかあの調子だと赤い方の装備もスキル解放したらかなりヤバいのでは?

 

302名前:名無しの観戦者

マジ何なのあの歩く要塞に2本の魔法剣使いw

 

303名前:名無しの観戦者

その呼び方マジで草生える

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そんなこんなで残り時間は1時間となり緊張感が高まる中、突然アナウンスが鳴り響いた。

 

「現在の1位はペインさん2位はセイバーさん3位はメイプルさんとドレッドさんです!これから1時間上位4名を倒した際、得点の3割が譲渡されます!4人の位置はマップに表示されています!それでは最後まで頑張って下さい!」

 

「どうにも簡単には終わらせてくれないようだな」

危機感は感じていない様子のペイン。

 

「お、これは良いや。俺を狙ってくるのならこのまま黄雷使ってMP貯め続けよ」

この状況を嬉々として楽しむセイバー。

 

「うぇーめんどくせーマジで?」

露骨にだるそうなドレッド。

 

「やった!私3位だ!」

喜ぶメイプル。

 

4人がそれぞれ反応を各地で見せる中、イベントはクライマックスへと向かっていく。四人の元へ我先にとその首を狙うプレイヤー達が走り出す。

 

「いたぞ!2位だ!」

 

森からわらわらと出てくるプレイヤー達。俺はそれが来るのを見て剣を構える。

 

「やっちまぇ!!」

 

「うらぁああ!」

 

集まってきたプレイヤーの数はこれまでの比では無く、並のプレイヤーなら倒されてしまうだろう。だが、上位4人のスキルは並をとっくに超えており、セイバーもそれに漏れなかった。

 

「【稲妻放電波】!【落雷】!」

 

セイバーは最大火力の稲妻放電波を発動すると周囲へと放電波を放ち、敵を一掃、さらにこれで撃ち漏らした敵は落雷による指定攻撃を受けて消えていった。

 

その結果、消費したMPを相手を倒した事で得るMPで相殺し、見事に敵を全て片付けきった。

 

「終了!結果、1位から3位の順位変動はありませんでした。それではこれから表彰式に移ります!」

 

するとセイバーの目の前が一瞬白く染まり、気づけば最初の広場に出ていた。

1位から3位までが壇上に登るように言われてセイバーとメイプルも登壇する。メイプルは視線を感じるのが恥ずかしいのか顔を赤くして前を向いていた。

 

 

まずは1位のペインさんがインタビューを受け、言葉を発し、そのままセイバーの所にマイクが来た。

 

「では次に2位のセイバーさんどうぞ!」

 

セイバーはマイクを受け取って話し始めた。

 

「初めてのイベントでしたが、相手が次から次へと来てくれたおかげで楽しめました。出来ればまた戦いたいので俺と勝負がしたい人はいつでも待ってます」

 

「セイバーさん、ありがとうございました。次はドレッドさん・・・」

 

それから続いてドレッドさんがインタビューを受け、最後にメイプルへとマイクが渡された。

 

「えっあっえっ?えっと、その、一杯耐えれてよかったでしゅ」

 

メイプルは噛んだ。それも盛大に噛んだ。

しかも何を話せばいいか分からなかったために言っていることが滅茶苦茶である。

 

あちゃあ・・・やっぱり本条さんこういうのに慣れてないからしっかりと緊張しちゃってるしホラ、超顔真っ赤だよ・・・。

 

結局、表彰式が終わって記念品を受け取ったメイプルはそそくさと宿屋に帰り、同じ宿屋に行ったセイバーが落ち込むメイプルをなだめる事になった。そしてその夜、掲示板はメイプル可愛すぎスレとメイプルとセイバーが強過ぎスレで大いに盛り上がった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【NWO】メイプルちゃんとセイバー君の謎【考察】

 

1名前:名無しの槍使い

スレ立てたぞっと

 

2名前:名無しの大剣使い

おう

議題は我らがメイプルちゃんとセイバー君のことだ

 

3名前:名無しの魔法使い

正直メイプルちゃんはペインやセイバーよりもやばいと思ったけど

何で3位なん?

 

4名前:名無しの槍使い

序盤廃墟でお絵描きしてたから

 

5名前:名無しの弓使い

可愛すぎかよw

 

6名前:名無しの大盾使い

あれ本当に大盾なのか不安になるわ

あっ因みに俺は九位でした

 

7名前:名無しの槍使い

流石

大盾でそこまでいくとは

(メイプルから目を逸らしつつ)

 

8名前:名無しの大剣使い

それでは今回のメイプルちゃんとセイバー君のまとめだ

 

第1回イベント

メイプル3位

死亡回数0

被ダメージ0

撃破数2028

 

装備は敵を飲み込む謎の大盾とアホみたいな状態異常魔法を発生させる短刀と黒い鎧。

黒い鎧は異常性能を発揮していないように思われる

異常なまでの防御力で魔法使い数十人からの集中砲火をノーダメで受けきる

 

セイバー2位

死亡回数0

被ダメージ0

撃破数3047

 

赤い剣と黄色い剣を使っていて、剣を変えた瞬間すぐに装備が剣と同じ色に変化した。

前半は赤い剣を使い、スキルをほぼ使わずに剣の腕だけで敵を倒していた。

黄色い剣に持ち変えてからは突如として馬鹿みたいな威力の電撃魔法を撃ちまくれるようになった上に、倒した敵から何かを吸収していた。

もしかするとスキルを使ってないだけで赤い剣も化け物じみた性能かもしれない。

 

9名前:名無しの魔法使い

もう本当何回見ても頭おかしいとしか・・・

 

 

10名前:名無しの大盾使い

メイプルちゃんの場合

大盾→まあそういう装備もあるかもな・・・うん

短刀→まああるかもしれんな

メイプルちゃん本体→は?

本体のステとスキル構成が一番の謎

VITいくつよ・・・

 

セイバー君の場合

赤い剣→まぁ今の所普通の剣

黄色い剣→そういうスキルでもあるのかな

本体→単純なプレイヤースキルが化け物すぎる。

鎧→剣を入れ替えたらスキルか何か発動?

赤い剣は普通なのにどうやって黄色い剣を手に入れた?

 

11名前:名無しの大剣使い

メイプルちゃんはマジで歩く要塞

セイバー君はもういっそ魔法使いになった方が良いのでは?

 

12名前:名無しの弓使い

単純にVIT値で受けてるっぽいんだよなぁ

っていうかメイプルちゃんの持ってるスキルに心当たりある奴いんの?

魔法攻撃受けてる時とかなんかキラキラ光ってたし何かしらスキル使ってるのは確定。

セイバー君は相手倒した時に吸収してるあれ何だ?そんでもってなんで高火力の魔法をバカスカ撃ってMP切れしない?

 

13名前:名無しの大盾使い

状態異常→分からん

防御力アップ→そんな硬くなるスキルがあれば取ってる

大盾→知らん

 

 

14名前:名無しの大剣使い

プレイヤースキル→あんなレベルになるまで練習した

吸収してる物→分からん

2本の剣→知らん

 

15名前:名無しの弓使い

これ

2人の持ちスキルが1つも分からん流石に基本的な奴は持ってるだろうけど固有のやつが本当分からん。

 

2人ともタイマン最強だと思う。メイプルちゃんは硬すぎるしセイバー君は近づけば純粋なプレイヤースキルで殺される。離れたら雷落とされるか超スピードで接近されて秒殺→勝てる気がしない

 

16名前:名無しの魔法使い

マジであり得る

メイプルちゃんの広範囲の状態異常攻撃を何とかしないとまあまず勝てん

致死毒とか言ってたし相当高位の魔法

それで疑問なんだがMPどうなってるん?

あんなポンポン魔法使って、しかも多分VIT極振りだろ?

MP足りないだろ普通

セイバー君は彼が気づかない内に不意打ちで倒すか、彼が視認できないくらいの遠距離から狙撃か何かで倒す。ただ、両方ともやろうとした奴はいたけど、後ろ取るどころか近づいたらすぐに察知されたから多分気配察知持ちで、狙撃もやったけど彼の化け物じみたプレイヤースキルか勘か何かで躱された。

そんでもって彼もMPどうなってんのか分からない。多分MPにもある程度振ってるだろうけどそれだけじゃ絶対足りないくらい撃ちまくってる。

 

17名前:名無しの大剣使い

あれなー・・・メイプルちゃんは多分大盾が魔力タンクになってる

喰ったものを魔力にして溜め込む感じ

セイバー君は多分黄色い剣で倒した際に何かを吸収してただろ?多分それがMPで常にMPが増え続けてるからいつまでも魔法攻撃を撃ち続けられると思う。

 

18名前:名無しの槍使い

じゃああの赤い結晶がそうか確かに魔法使う度に割れてたしな。セイバーの方は・・・多分装備が魔力タンクになってると思う。よくよく見ると吸収されたMPは鎧を伝ってヘッドギアへと向かってるから。

 

19名前:名無しの大剣使い

つまりメイプルちゃんは

自分自身はあり得ない程の高防御であらゆるダメージをゼロにし

その装甲を抜こうとした攻撃やプレイヤーをMPに変換し

状態異常で叩きのめす

とこういう訳だな

セイバー君は

プレイヤースキルで攻撃を全て回避するか剣で叩き斬り

接近してきた相手には純粋なプレイヤースキルで斬り捨てて

敵が纏って来たり広範囲に展開してたり遠距離から攻撃をしてきたらMP消費の高火力攻撃か超速で接近からの斬撃って感じか。尚、MPは倒すたびに回復するから常時自身の最大MPをオーバーする。

 

20名前:名無しの槍使い

何そのラスボス

 

21名前:名無しの弓使い

ええ・・・2人共鬼畜すぎんよ〜

 

22名前:名無しの大盾使い

しかもまだ隠し持ってるスキルがあるかもしれないという(特にセイバー君の赤い剣と鎧)

今回はダメージ与えた奴がいないから分からんがHP回復するかもしれんぞ

 

23名前:名無しの魔法使い

ラスボスのHP回復は禁止って昔から言ってるだろォ!?しかもセイバー君はもう1本性能不明な剣があるっていう

 

24名前:名無しの大剣使い

自分でも文字に起こすと変な笑いでたわ

しかもまだ二人とも始めたところ

大型新人過ぎる

 

25名前:名無しの魔法使い

次のイベントではメイプルちゃんは鎧も異常仕様に!セイバー君は新しい剣持ってる!

はいこれ

 

 

26名前:名無しの弓使い

実際既にトッププレイヤーなんだよなぁ・・・

あれヤベェわ

可愛くて強いとか最高かよ

 

 

27名前:名無しの槍使い

因みに俺はあの後セイバーと戦ってみたけど案の定スキル使われるまでもなく赤い剣に秒殺された。

まぁ、二人とも見守ってやろうぜ

ステが第一線級でも中身は初心者だ

とは言ってもセイバー君の方は他のゲームで鍛えてるのかもしれんが

 

28名前:名無しの大剣使い

取り敢えず、これからも各自調査を頼むぞ

 

29名前:名無しの弓使い

ラジャ!

 

30名前:名無しの魔法使い

ラジャ!

 

31名前:名無しの槍使い

ラジャ!

 

32名前:名無しの大盾使い

ラジャ!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

とまぁこのように毎度の如く2人についての考察がその日の内に立った。



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聖剣使いと友人参加

タイトル通り、今回はようやく友人が参加します。それではどうぞ!


第1回イベントから数日経った。その間にNewWorld Onlineが発売されて3ヶ月が経つのでそれに合わせた大規模アップデートが行われていた。内容は幾つかのスキルやアイテムの追加。さらに現在のマップの最北端にあるダンジョンのボスを倒せば、アップデートで新たに追加された第二層に進むことが出来るようになるというものである。

勿論この攻略はパーティでもソロでも問題無いそうだ。

 

俺達はそこの攻略は一旦後回しにしてメイプルが【悪食】という何でも吸い込んでしまうスキルがあっては取りたいスキルが取れないらしいので、新しい装備が欲しいと言っていた。そのため、俺は装備を作る用の素材集めのためにメイプルと共にマップの南にある地底湖に釣りに行く事に専念していた。まぁ、DEXが0と10なのでそこまで効率は良く無いのだが……。

 

このように俺達はゲームの世界を楽しんでいた訳だが、今はゲームでは無く現実世界の話からスタートする。

俺はいつも通り学校へと校門をくぐると教室に向かって自分の席に着いた。この後は俺はゲームの事を考えるのだが……自分の一個前の席から本条さんがぶつぶつとNewWorld Onlineのスキルのことを考える声が聞こえてきてしまっていた。

 

……そういや本条さん、ゲームにどハマりするのって初めてだけど、ここまで独り言が聞こえてくるくらいなんだけど。

俺はいてもたってもいられず彼女へと話しかけた。

 

「本条さん……聞こえてるよ?」

 

「え?あ、えぇ!?もしかして聞こえてた?」

 

「うん、俺はバッチリね。まぁ、他の人には多分聞こえてないから大丈夫だと思うよ」

 

「えぇ……それでも恥ずかしいよぉ〜」

 

ホント、本条さん変わったよなぁ。ちょっと前までゲームなんてやってる素振りすら無かったのにすっかりハマってゲームの虜になったな。

 

俺がその様子を温かい目で見ているといきなり頭をスパーンと叩かれた。

 

「痛ってぇ!!?」

 

俺が痛みで振り返るとそこには理沙が立っていた。

 

「なーに楓をマジマジと見てるのかな!」

 

「理沙、お前!!いきなり何するんだよ!!」

 

「女の子をマジマジと温かい目なんかで見てるからよ」

 

「ぐっ……正論だが元々は本条さんが……」

 

「あん?」

 

「な、何でもありません」

 

「宜しい」

 

俺は抗議しようとするも理沙のあまりにも怖い目線に黙らざるを得なかった。……こんなの理不尽だ……。

 

「まぁ、アンタのおかげで楓は無事にゲームを満喫してるから良いとして、今日は重大な発表があるからここに来たのだよ」

 

そう言って理沙が腰を曲げてずいっと顔を近づけてくると謎のキャラを作った。そんな理沙に本条さんも乗っかっていたが俺は平常運転をする事にした。

 

「むむっ……何だい理沙くん。今日はテンション高いね」

 

「まぁこのタイミングで言ってくるって事は大体言いたい事予想つくけどね」

 

「何と、何と!ゲームをプレイする許可が下りたんですっ!」

 

すると本条さんはパチパチと小さく拍手をする。

本当に、やっとコイツも参戦できるのか。あと数日早かったらイベントで戦えたのに……。まぁ、参加出来るようになっただけ良しとするか。

 

「と言うわけで、2人へとゲーム押し付けただけになってたけど今日からやっとプレイ出来るよ〜」

 

「じゃあ、やっと3人でパーティが組めるね!」

 

「うん、そうそう。3人でのパーティが……って2人共もうパーティになってるの!?」

 

「え……えへへ……」

 

「てか、俺としては本条さんがどうしても装備を作りたいって言うもんだから俺も一緒にやってあげてるって方が正し……痛ててぇ!?」

 

案の定、理沙に耳を引っ張られては散々な目に遭った。勿論この後本条さんから事情説明はあって、それでようやく解放された。

 

「それにしてあの楓が、私にゲームを押し付けられて嫌々ながら付き合ってくれてた楓が……」

 

「押し付けてた自覚あったの!?」

 

「いやー嬉しいなぁ……3人でプレイは無理かなと思ってたんだけどまさか楓が乗り気だなんて……」

 

「2人共何レベルまで上げたの?それともアカウント作っただけ?」

 

「え、えっとぉ……その……に、20レベル」

 

「因みに俺も同じだ。本条さんの素材集めに協力してなければもう少し上だろうけど、ゲーム仲間の頼みだし付き合ってあげてるよ」

理沙は一瞬ポカンとしていたが、楓の言った意味を理解したのかニヤニヤし始めた。

 

「おーっとぉ……予想以上に2人共ゲームにハマっているようですねぇ」

 

「むうぅ……」

 

「あはは、ごめんごめん冗談だって、でもそこまで育ってるなら2人共キャラの方針も決まってるんでしょ?」

 

「うん!防御特化の大盾使いだよ!それでねー……理沙になら話してもいいかなー」

 

「その流れで俺も話すわ。理沙とは最初からパーティ組むつもりでやってたし」

 

それから2人は理沙に自分自身のスキルやステータスのことを全て話した。勿論、理沙はその内容に驚きを禁じられなかったが。

 

「何その化物キャラ!さっすが楓、普通のプレイから完全に脱線してるし、海斗も剣士でありながら魔法特化の剣と装備を使ったりしてるんだ。あー……これは追いつくの大変そうだなぁ……」

 

「で、でも私と同じようにすれば……」

 

楓がそう提案するが理沙は手を胸の前で交差させてバツ印を作って首を振った。

 

「楓は楓。私は私。楓の見つけたスキルを友達権限で掠めとる気は無いの!まあ……異常なスキルを手に入れる糸口は貰っちゃったけどね。それは仕方なかったってことで」

 

「それで、理沙はどうするの?」

 

「楓が防御特化のタンクで海斗が剣士だから魔法使いもいいかなと思ったんだけど、それなら海斗の魔法剣で事足りるし、2人とパーティー組むのにそれは普通過ぎるよね」

 

理沙は暫くの思考の後、思いついたのかニヤリと笑った。

 

「よし!決めた!私は……『回避盾』になる」

 

「回避……盾?」

 

「あー、なるほど。とにかく相手の攻撃を躱しまくるってスタイル?」

 

「うん!敵の攻撃を引きつけて回避することで攻撃を無力化するんだ」

 

「おおおお!格好良い!……でも、盾なら私がやるよ?」

 

楓が疑問に思ったことを口に出す。そう、盾職ばかり集まっても仕方が無い。

 

「海斗は自身のスキルで受ける反動ダメージを除けばノーダメなんでしょ?だったら、私達のパーティーはどんな戦いに出てもノーダメージ!いつだって無傷!どう?格好良くない?」

 

その言葉を聞いて楓がその光景を想像したのか首をぶんぶんと縦に振った。興奮しすぎて手までぶんぶん振ってしまっている。

 

「そういうコンセプトでパーティを組みたいと思ったから回避盾を目指す!」

 

「頑張って!私はもっと防御力上げるね!」

 

「それじゃあ俺は剣士としての出来る事の範囲を広げるためにも鎧に対応できる聖剣を探すよ」

 

「回避盾……難易度は最高クラス?でも、だからこそ燃えてくる……!」

 

小さな声で呟いたそれは楓の耳には届かなかった。

ゲーマーとしての性だろうか。

理沙は達成条件の難しいものを選択するのを好む傾向がある。

さっき理沙が言った、無傷の無敵パーティーのを実現するためには、まずは理沙が敵の攻撃を避け続けることが必須条件である。

 

 

何十発と打ち込まれる魔法。高速の連続攻撃。それを紙一重で避けて敵を倒す自分をイメージするだけで。

 

「ゾクゾクするっ……!」

 

今日の授業が早く終わって欲しくて欲しくて仕方ない理沙であった。

 

その日の夜、セイバーとメイプルが先にログインして待っているとそこにキャラ設定を終えた理沙が入ってきた。

 

「おー!町はこんな感じなんだー!それはそうと、2人との装備との見た目に凄い格差があってちょっと辛い」

 

「あはは、まだ初期装備だもんね」

 

「まぁ、始めたばかりだし仕方ないだろ」

 

それから3人は早速フレンド登録してパーティを組むと、理沙は2人へとステータスを見せた。

 

サリー

Lv1

HP 32/32

MP 25/25

 

【STR 10〈+11〉】

【VIT 0】

【AGI 55〈+5〉】

【DEX 25】

【INT 10】

 

装備

頭 【空欄】

体 【空欄】

右手 【初心者の短剣】

左手 【空欄】

足 【空欄】

靴 【初心者の魔法靴】

装飾品 【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

スキル

なし

 

「色んなステータスに振ってるんだね」

 

「これが普通だから!」

 

「メイプルが異常なんだよ!」

 

2人はメイプルへとツッコミを入れるとセイバーがサリーに質問した。

 

「そういや短剣ならMPはともかく、VITとHPは振らなくていいのか?」

 

「ああ、それなんだけど・・・VITとMPとHPには取り敢えず今は振らないでおいたんだ」

 

「どうして?」

 

「全部回避して、ノーダメージならHPもVITもいらないからね!魔法を使うかどうかは分からないから・・・今はMPとINTは低めでいい。STRは武器である程度補えるしね」

 

「色々考えてるんだねー」

 

「ふふふ…受け切ってノーダメの人とは考える量が違うのだよ。そういや2人共、2位と3位だったんでしょ?入賞の品は装備品とかじゃなかったの?」

 

見たところ装備がサリーの聞いていた話のままなため疑問に思ったのだ。

 

「あれは記念メダルだった。装備品かもと期待してたんだけどなぁ」

 

「まぁ・・・次のイベントもそうとは限らないからなぁ・・・っと、それで?・・・今からどこか行くの?」

 

メイプルの今の目的が地底湖に行くことだと告げると理沙はふむふむと考えると思いついたように手を叩いた。

 

「それなら、私に任せて!いい考えがあるから・・・」

 

2人はその話に素直に耳を傾けた。

 

数分後、サリーとセイバーは地底湖方面へと爆走していた。厳密には火炎剣烈火を装備しながら靴を紅蓮の靴へと変えているセイバーはサリーの速度に合わせるために少し手を抜いているのだが。

それで肝心のメイプルはというと・・・理沙の背中にしがみついていた。

3人で歩くとAGIが0のメイプルはかなり遅いのでサリーがメイプルを背負って走り、セイバーはそれの護衛をするような形にしたのだ。

 

「前方から狼系モンスターが三匹!セイバー!」

 

「了解!はあっ!」

 

セイバーは一時的に本気で走りサリーより前に出ると烈火を振り抜きモンスターを瞬殺して道を作った。

 

これにより3人は素早く移動する事が出来て無事に地底湖に到達する事が出来た。

 

「おおおお!セイバーに背負われた時と同じですっごい速かった!」

 

メイプルが重量を落とすために外していた装備を付け直して嬉しそうに言う。サリーはメイプルの役に立ててどこか得意げだ。

 

「ふふふ・・・崇めたまえ〜!」

 

「ははーっ!サリー様〜!」

 

「早速釣りするぞ。1匹でも多く釣らないといけないんだからさ」

 

「「は〜い!!」」

 

俺達はその後釣りを始めた。3人で釣りを進めているとサリーが【釣り】のスキルを手に入れたため、そこからは効率良く釣りを進めていく事が出来た。サリーはその後、素潜りで魚を倒せるか試すために潜り始めてからは釣りの比では無い量の魚を倒せるようになり、水から上がって来たサリーは魚の鱗を80枚も出してきた。

 

「こ、これ貰っていいの?」

 

「私はいらないし・・・今度私の手伝いをしてくれるのと引き換えで」

 

「じゃあ、それで!手伝うって約束する」

 

メイプルはありがたく80枚の鱗をインベントリにしまった所でサリーが神妙な面持ちで話し始めた。

 

「ねえ2人共。確か、今見つかっているダンジョンって2つだっけ?」

 

「えっと・・・うん、そうだよ」

 

「もしかして何か見つけた?」

 

「地底湖の底に、小さな横穴があった」

 

「・・・!それって!」

 

「隠しダンジョンって奴か」

 

「でもさ・・・」

 

「うん・・・私達は行けないね」

 

「俺ならワンチャンあると思うけど、スキル無いから最悪足手纏いになりそう」

 

メイプルのステータスではまともに潜水など出来やしないし、溺れれば祝!初死亡である。セイバーなら行けなくも無いかもしれないがまだサリーの持っている【潜水】と【水泳】を持ってないためやはりついて行くのは無理そうだ。

 

「そうね。だから、慎重に攻略しようと思ってる。2人と同じユニークシリーズが手に入るかもしれないし・・・だから・・・」

 

「うん、地底湖まで来るのを手伝うよ!借りは即返すってね!」

 

「そう言ってくれると思ってた!さっすがメイプル!」

 

「まぁ俺も付き合うよ。それに・・・俺も俺で見つけたし。ここの秘密」

 

「え?それって何?」

 

セイバーがふと湖を挟んで反対側を見ると他の2人にはもやがかかっていて絶対に見る事が出来ない陸地に巨大な青い扉があった。



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聖剣使いと地底湖攻略

今回はセイバーの地底湖攻略回となります。それではどうぞ!


サリーが隠しダンジョンを見つけてから数日、俺達はそれぞれのやる事を進めていた。

サリーはダンジョンの入り口に繋がる道のマッピング、メイプルは相変わらず釣りを続行、そしてセイバーはサリーと同じ【潜水】と【水泳】のスキルを頑張って取得し、サリーのⅩ程とまでは行かずともⅦぐらいにまで上達した。これに加えて既に取得していた【光魔法】をIIにあげて【ヒール】を取得し回復が可能になった。何故セイバーが【潜水】と【水泳】を取得したのかと言うと、もし聖剣を手に入れるダンジョンが水の中だった場合、相手への対処が出来なくなるからである。

 

「ぷはぁっ……!はぁ……はぁっ……何分潜ってた?」

 

サリーが水面まで上昇して来るとメイプルにタイムを聞く。

 

「す、凄いよ!40分!」

 

「【水泳Ⅹ】と【潜水Ⅹ】になったってことは……これが今の私の最大ってことだから……片道二十分で奥まで辿り着けないと溺死か……」

 

「それなら半分の20分が経過したらメイプルがフレンド機能でメッセージを送れば良いんじゃないか?」

 

「確かに、それなら通知音が頭に響くから分かると思うよ」

 

「2人共ナイスアイデア!じゃあ、お願いしていい?」

 

「任せといて!存分に潜ってきてね!」

 

「行ってきます!」

 

サリーはそう言って水の中へと潜っていき、俺も聖剣入手らしきダンジョンを見据えた。

 

「セイバーはどうするの?」

 

そう聞くメイプルにセイバーは答えた。

 

「俺もあそこにあるダンジョンを攻略しに行く。俺も聖剣が手に入るイベントが目の前にあるのにそれを放置には出来ないからね」

 

「わかった。気をつけてね」

 

「おう!【フレアジェット】!」

 

セイバーは両足から炎を噴出して飛ぶとダンジョンのある島へと移り、早速扉を開けた。すると光に包まれて転移し、そこには広い空間で周囲は洞窟のように岩の壁があって、空間の奥の方には道が続いており、地面には足首が浸るくらいの浅い水が張っていた。

 

「やっぱ水関係のステージ。ここは黄雷、抜刀!」

 

セイバーは相性を考えて烈火を黄雷へと変えるとダンジョン空間の中央へと歩いて行った。すると突如として声が聞こえて来た。

 

『誰だ?私の聖域を侵す者は!』

 

その声の主は青い巨大なライオンであった。

 

『貴様、ここに来たと言う事は私の宝に手を出すつもりなのか!!』

 

「宝って、俺はただ聖剣を得られるクエストならそれをクリアしに来ただけだ」

 

『よりによって聖剣を狙うか、この盗賊が。良かろう、私が貴様を滅してくれる』

 

ライオンはいきなり挨拶代わりの青い炎を発射し、セイバーはこれを後ろへと跳んで回避した。

 

「いきなりそれか。なら、こっちも最初から全力で行くぜ!【サンダーブランチ】!」

 

セイバーが剣を地面へと刺すと地面から雷の鞭が5本出現し、ライオンを襲った。この攻撃は地面にある水を通しているため、ライオンへの通りやすさや威力は普段よりもさらに上がっていた。

勿論その煽りはセイバーも受けるものの、自身の持つ【蓄電】により余分なMPは自身へと戻って来ていた。

 

『ぬん!』

 

するとライオンは水のベールを纏いサンダーブランチによる電撃を全て遮断すると共に減らされた体力を少しずつ回復し始めた。

 

「ちょ!?ボスキャラが回復は反則だろ!【雷鳴一閃】!」

 

セイバーは超速で接近するとライオンをすれ違い様に斬り裂いた。するとライオンはダメージを受けてこそいたがベールによって威力が落とされておりバーが1割減ったのみであった。

 

「あのベール厄介だな。あのベールの前では電撃はあまり通用しなさそうだし、攻撃の威力も削がれるんじゃ拉致があかない……」

 

『聖なる水よ。悪しき者の力を削ぐが良い』

 

ライオンが咆哮を上げると足元の水が競り上がり膝ぐらいの高さにまで上昇した。

 

セイバーはライオンへと走ろうとすると何故か足が重くなるのを感じた。それを受けてふとステータスを見るとそこには移動速度低下のデバフがかかっていた。

 

「えぇ!?何で、向こうの攻撃は受けてないはずなのに……」

 

『聖なる水は悪しき者の足を鈍らせる。受けるが良い!』

 

するとライオンは口から水流の竜巻を飛ばして来た。

 

「くっ!こうなったら【サンダーブースト】!」

 

セイバーは落ちてしまった速度を補うために超スピードで移動するとライオンの背中へと飛び乗って黄雷を突き立てた。

 

「【稲妻放電波】!!」

 

それと同時にベール越しでは無くライオンへと直接容赦なく電撃が流されてライオンは電撃でダメージを受けていた。

 

『ぬうう……』

 

「どうだ!!」

 

セイバーはライオンに順調にダメージを与え、ライオンは少しずつ弱り電撃による麻痺で少しずつ弱っていった。

 

「このまま一気に倒す!」

 

『小僧!調子に乗るなよ!!』

 

ライオンは完全に麻痺しきる前にセイバーを振り落とすと強靭な腕を振り下ろした。

 

「ぐっ……」

 

セイバーはそれを受け止めるとそのまま踏ん張った。だが、その瞬間足元の水が光るとセイバーの力を鈍らせた。

 

「力が抜ける……何でだ?」

 

セイバーは咄嗟にステータス画面を開くとそこには機動力低下やSTR弱体化のデバフがいつの間にかかかっておりそれが足元の水が原因である事が明らかであった。

 

「この水、厄介すぎるだろ。てか、これ不味くない?」

 

セイバーの危惧は当たっていた。今現在、セイバーはライオンの腕を受け止めているがその力は足元の水の影響で弱まりつつあった。セイバーはなんとかライオンの腕から逃れようとするも思うように力が入らず押し潰されるのも時間の問題であった。

 

『しぶとい奴め。だがこれで終わりだ』

 

するとライオンからオーラが溢れ出すと口にエネルギーがチャージされていった。

 

待て待て待て。これ喰らったら終わるじゃん。さっさと抜けないとヤバい。けど、この水が無くなれば……あ。

 

セイバーは何かを思いつくとすぐに実行した。

 

「烈火抜刀!からの【極炎】!」

 

セイバーは水属性には相性が悪いはずの紅蓮の装備へと切り替えると極炎の効果によって身体中に炎が迸っていきそれを地面へとでは無く周囲へと熱線として放出した。すると極炎の熱線で足元の水が蒸発していき跡形も無く消え去り、さらにはライオンの水のオーラも消しとばした。

それによりセイバーは窮地を脱する事が出来た。その代わり、部屋が相当な蒸し暑さになったが……。

 

『な、何!?』

 

「うおらぁ!」

 

セイバーは怯んだライオンを押しのけると再び構えた。ライオンは力の源である水を失いかなり精神的なダメージも受けている様子であった。

 

「良し、これなら行ける!【パワーアタック】!」

 

セイバーは力が弱まったライオンへと飛びかかるとトドメを刺すべく剣にエネルギーを高めた。すると突然ライオンの前に何かが現れてセイバーはそれを見て思わず攻撃を中断した。

 

「うわっ!?」

 

セイバーが攻撃を中断せざるを得ない状況にした原因はライオンを守るべく立ち塞がった。その正体は……

 

『父さんに手を出すな!!』

 

 

「子供の……ライオン!?」

 

そう、今戦っていたライオンより体のサイズが小さい子供のライオンであった。

 

「え、もしかしてあなたの子供?」

 

『何故出てきた?お前が勝てる相手では無いぞ』

 

『父さんがやられてるのに黙って見てられないよ!!』

 

……うーん。これ、どうするのが正解なんだろ?てか、もしかして……。

 

「ねぇ、ライオンさん。あなたにとっての宝ってこの子の事を指してたりする?」

 

『……そうだ。私はこの子を守るためにここを守らねばならない。まぁそれも最早お前が私を倒せば果たせそうに無いがな』

 

「……なら、俺は君を倒さないよ」

 

『情けのつもりか?』

 

「いや、そうじゃねーよ。子供がいるのにその目の前でお前を倒すのはこっちとしても良い気分じゃ無い。だったら、俺はここの聖剣は諦める」

 

『不思議な奴だな。……気に入った。これよりお前に私の息子の次に大事な聖剣を託す』

 

そう言うとライオンは目を光らせてセイバーの目の前に青い刀身を持ち、持ち手には水が流れるような形をした鍔の聖剣を召喚した。

 

「良いのか?倒してないのにもらっちゃって」

 

『情けの礼だ。だが、これを渡す代わりにもうここには来ないと約束しろ』

 

「ああ、わかった。約束するよ」

 

そう言ってライオンの親子は奥の道へと入っていき去って行った。

 

「あいつ、あんなに冷たい態度こそ取っていたが、本当は子供想いの良い奴なんだな。それじゃあ、聖剣の方でも見るかな」

 

セイバーが聖剣を抜くと今度は姿が青く塗り変わっていった。鎧には蒼きライオンが咆哮を放つ絵が描かれていき、靴は紺色で鎧は青、頭は水色でライオンの顔を模している。

 

『水勢剣流水(すいせいけんながれ)』

【STR+65】【破壊不可】

【ハイドロスクリュー】【ウォータースラッシュ】【アクアトルネード】

 

『百獣のヘッドギア』

【MP+30】【HP+60】

【破壊不可】【進化の可能性】

【雄叫び】【MP消費カット(水)】

 

『百獣の鎧』

【VIT+50】【INT+30】

【破壊不可】【進化の可能性】

【アクアリング】【渦潮】【レオブレイク】

 

『百獣の靴』

【AGI+65】

【破壊不可】【進化の可能性】

【聖水展開】【アクアドライブ】

 

 

 

【ハイドロスクリュー】

流水に大量の水を纏わせてそれを相手へと発射したり、そのまま斬りつけられる。

 

【ウォータースラッシュ】

水圧を圧縮したエネルギーを剣に纏わせて相手を斬り裂く。

 

【アクアトルネード】

流水の剣先から激流を発射して相手に低威力のダメージとノックバックを与える。

 

【雄叫び】

叫び声を上げる事で次に放つ攻撃の威力を10%上昇させる。

 

【MP消費カット(水)】

水属性の技を撃つときに消費するMPを10%カットする。

 

【アクアリング】

自身に水のリングを纏わせる事で5秒につき最大HPの1%を回復させる。持続時間は10分。

 

【渦潮】

MP20消費して自身の指定した場所に半径5mの渦潮を発生させ、巻き込まれた相手を強制的に行動不能にする。

 

【レオブレイク】

MP30を消費して獅子の顔を模した衝撃波を放つ。この攻撃は相手の防御系のスキルを無視してダメージを与える。

 

【聖水展開】

半径10mの地面に水の膜を張り、水に触れている相手のSTRとAGIを2割減少させる。

 

【アクアドライブ】

水の中を移動する際、AGIが1.2倍となる。

 

『【水魔法Ⅰ】が【水魔法Ⅴ】に進化しました』

 

「今回は水中戦とか水の攻撃が得意そうな装備って感じか。なんだかんだで水魔法も進化したし。それに、他の2つと同じで進化の可能性があると。てか、進化したら具体的にはどのくらい強くなるんだろ?それに、進化したら戦い方を変えないとダメとかじゃないよな。ま、その時はその時か。取り敢えずメイプルが待っているし戻るか」

 

 

セイバーは新しい装備を確認してからそのまま魔法陣へと乗り、メイプルの元へと戻った。ちなみに、サリーもボスを倒して新たな装備を手にしており、翌日に3人でその装備のスキル確認をする事になった。




セイバー 
*補正値は水勢剣流水を装備時
Lv22
HP 175/175〈+60〉
MP 180/180〈+30〉

【STR 35〈+65〉】
【VIT 35〈+50〉】
【AGI 40〈+65〉】
【DEX 10】
【INT 30〈+30〉】

装備
頭 【百獣のヘッドギア】
体 【百獣の鎧】
右手【水勢剣流水】
左手【空欄】
足 【百獣の鎧】
靴 【百獣の靴】

装飾品 
【空欄】
【空欄】
【空欄】

スキル
【剣の心得Ⅲ】【気配斬り】【気配察知】【火魔法Ⅴ】【水魔法Ⅴ】【風魔法I】【土魔法I】【光魔法Ⅱ】【闇魔法I】【筋力強化小】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅶ】【水泳Ⅶ】
*水勢剣流水を装備時
【雄叫び】【消費MPカット(水)】【レオブレイク】【渦潮】【アクアリング】【聖水展開】【アクアドライブ】【ウォータースラッシュ】【ハイドロスクリュー】【アクアトルネード】


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聖剣使いと階層攻略

今回は3人の第一層のボス攻略から第2回イベント直前までとなります。それではどうぞ!


サリーが新しい装備を手にした翌日、3人は二層に行くために一層のボスがいるダンジョンに向かっており、3人は例の如くサリーがメイプルを背負い、セイバーが露払いする形ですぐに着いた。

 

「到着!」

 

「よーし、早速中に入ろう!」

 

「さーて、ボスはどんなのかな」

 

目の前には石造りの遺跡の入口があり、情報通りならここが二階層に繋がるダンジョンだ。

 

取り敢えず3人はメイプルを先頭にして道を歩き、メイプルの盾である闇夜ノ写を構えながら歩いているだけでも防御面は万全だ。そうして歩いている内にモンスターにも遭遇した。前から現れたのは少し大きめの猪だった。

 

「【ウィンドカッター】!」

 

サリーが先手をとって魔法を撃ち込むも、猪のHPバーを二割程削っただけだった。

 

「むぅ……結構威力減ってるなぁ。これは私も状態異常攻撃スキルを上げないとなぁ」

 

「仕方ないだろ?お前が【器用貧乏】取得したんだから」

 

そう、サリーは昨日のボス戦の後に、スキル【器用貧乏】を取得しており、その効果は与えるダメージを3割減少させる代わりに消費MPを10%カットし、AGIとDEXを10ずつ上げるものだった。その影響でサリーの攻撃そのものが弱体化してしまっていたのだ。

 

すると体勢を立て直した猪が突進してきた。それは勢いよくメイプルへとぶつかろうとして大盾に飲み込まれた。

 

「んー……猪との戦闘は任せていい?」

 

「おっけー!」

 

 

このダンジョンは道幅が狭いため猪の突進はただの自殺行為だった。

メイプルの大盾のことを知らない猪達は自ら飛び込み消えていく。それから3人は分かれ道を右へ左へと進み少しずつ少しずつ奥地へと進んでいく。

 

「おっ!別のが来たよ!」

 

3人が曲がり角を曲がると目の前に熊が現れた。熊も同じ様に飛び込んでくるかとメイプルは盾を構える。だが、熊は遠くから太い腕をブンッと振ると、爪の形の白いエフェクトが飛んでくる。

それはメイプルが構えていた大盾に飲み込まれて消えたがメイプルを驚かせるには十分だった。

 

「び、びっくりした」

 

「まさか、遠距離攻撃があるなんてね。しかも距離を取りながら道を塞いでるし」

 

「まぁ、流石に行動パターンが違う奴もいるだろ」

 

「私がやってみる。真っ直ぐ大盾を構えて立ってて」

 

するとメイプルが持っている大盾が地面へと落ちた。すると、熊がチャンスと思ったのだろうか突撃してきた。

メイプルもその手に大盾を持っている感覚が無ければ地面に手を伸ばしていただろう。次の瞬間、熊が元々大盾の構えられていた地点に到達すると同時にその体が消え失せた。そして、何もなかった筈の空間が歪んで大盾が姿を現した。地面に落ちていた大盾も同様にして消えていく。

 

「【蜃気楼】の実験は成功かな?」

 

「【蜃気楼】かぁ!私、いきなり大盾が地面に落ちててびっくりしちゃつた」

 

「俺も何となくわかったけどさ、これがもしメイプルが地面へと手を伸ばしてたら反応が間に合わなかっただろ?事前に話しとけよ……」

 

「結果的に上手くいったんだから良いでしょ!今回は実験として使ってみたけど、回数制限もあるしボスまで取っておくから、戦闘は当分任せた!」

 

「うん!任された!」

 

それから3人は再び奥へと進んでいく。ダンジョンはそこまで深くなかったようで、10回ほどモンスターとの戦いを挟むとボス部屋に到達することが出来た。3人は大扉を開けて中に入る。

 

 

すると天井の高い広い部屋で奥行きがあり、一番奥には大樹がそびえ立っている。3人が部屋に入って少しすると背後で扉が閉まる音がする。そして、大樹がメキメキと音を立てて変形し、巨大な鹿になってゆく。

樹木が変形して出来た角には青々とした木の葉が茂り、赤く煌めく林檎が実っている。鹿は樹木で出来た体を一度震わせると大地を踏みしめ2人を睨みつける。

 

「来るよ!」

 

「おっけー!」

 

「さっさと終わらせてやるよ」

 

鹿の足元に緑色の魔法陣が現れ輝き出し、戦闘が始まった。

 

まずは鹿が地面を踏み鳴らすと魔法陣が輝き、巨大な蔓が次々に地面を突き破り現れ、3人に襲いかかる。

 

「よっ!と……」

 

「ははっ!遅いね!」

 

「オラよ!」

 

メイプルの大盾は正面からその蔓を受け止めて飲み込み、サリーは自慢の回避力で、唸りを上げて襲いかかる蔓を難なく躱す。セイバーは烈火の炎を纏わせた斬撃で蔦を斬りつけながら燃やし、その数を潰していく。

3人のメインの火力はメイプルの新月とセイバーの聖剣であり、メイプルがカウンターとばかりに毒竜を、セイバーが紅蓮爆龍剣を放ち毒と炎の龍が鹿へと飛んでいく。

それは蔓を飲み込み、片方は蔦を溶かし、もう片方は蔦を焼き尽くして消し飛ばし、鹿へと迫る。

しかし、2匹の龍は鹿の目の前で緑に輝く障壁に阻まれて消失した。

 

「えっ!?」

 

「攻撃を防いだ。バリアか?」

 

「多分、あの魔法陣だよ!あれには攻撃が通ってないよ!」

 

鹿は負けじと再度蔓を伸ばして攻撃してくる。それ自体は3人にとっては問題で無いのが救いといったところだろう。それからしばらく耐えていた3人だったが埒があかないと思ったサリーが提案する。

 

「ちょっと観察に回るから、2人とも、防御を受け持ってくれる?」

 

「分かった!……【挑発】!」

蔓の向かう先が明らかにメイプルに偏り、メイプルが受けきれない蔦をセイバーが潰していく。その隙にサリーが実験へと回る。

魔法で攻撃を重ね障壁を何度も出させているうちに、サリーはついにあることに気付いた。

 

「角の部分には攻撃が通るよ!……あと、障壁はあの林檎が維持してるっぽい!」

 

サリーが木の葉の中で煌めく林檎を指差す。障壁発動時には林檎がより赤く輝いていた。

 

「なら、俺もこの剣の試運転だ!流水抜刀!【アクアトルネード】!】

 

セイバーは剣を水勢剣流水に変えると水の竜巻を発射して林檎を全て水の勢いで押し流した。

 

「【ウィンドカッター】!」

 

今度は障壁に阻まれることなく鹿に攻撃が通り、赤いダメージエフェクトが散った。

 

「よしっ!通った!」

 

「チャンスだぞ!メイプル!!」

 

「大技でいくよ!」

 

メイプルの大盾に浮かんでいた結晶がパリンパリンと音を立てて割れると共に新月から巨大な紫の魔法陣が展開される。それはしばらくして光を増し、3つ首の毒竜となって鹿に襲いかかった。

すると鹿の体が溶けて赤いエフェクトが絶え間なく溢れていき、それは間違いなく致命的ダメージを与えている事を示していた。

だが、鹿の足元に緑の魔法陣が現れると輝きその傷を癒す。HPバーを2割まで回復すると毒の状態異常を取り除いて魔法陣はその役目を終えたのか薄れて消えていった。

 

「さっきのってまだ打てる!?」

 

「いけるけど、ちょっと時間かかる!」

 

「なら今度はこっちが焼き消す!」

 

だが、3人が相談するのを鹿が待ってくれる筈も無く、行動パターンの変わった鹿がセイバーが聖剣を変えるよりも速く風の刃とさらに太くなった蔓で攻撃してくる。

 

「っ!」

 

「ヤベェ!【アクアトルネード】!」

 

「う、うわあっ!」

 

地面が急に隆起して足元から3人攻撃してくる。サリーはそれを敏感に察知して躱し、セイバーは咄嗟にアクアトルネードを地面へと撃ち込んで緊急回避するが、躱す手段の無いメイプルは空中に弾き上げられた。

ノーダメージではあったが、メイプルは地面に叩きつけられると、【スタン】の状態異常を受けて倒れてしまった。本来なら生存は絶望的だがその後、風の刃を受けてもHPバーが減っていないのを見るに起き上がるまで耐えられるだろう。

だが、メイプルのスキル発動も大幅に遅れることとなることは確かだ。

 

「仕方ない……面倒だけど……」

 

「私が殺るか。セイバー、援護よろしく!」

 

「しょうがねーな。頼まれてやるよ!」

 

 

サリーは攻撃の隙間を縫いつつ接近する。集中状態の彼女にとって、この程度の攻撃は無いに等しい。サリーは鹿の足元に近づくと【跳躍Ⅰ】で鹿の目の前まで飛び上がる。そこは風の刃の止まない戦場で唯一静かな安全地帯。

 

「ここが安地なのは分かってるんだよ?……【ダブルスラッシュ】!」

 

「【レオブレイク】!」

 

サリーは体を回転させて両手のダガーでの四連撃、セイバーは遠距離からの獅子の顔を模した衝撃波による遠距離攻撃。武器を二本持つことで一本の時と比べて二倍の攻撃を繰り出せる。一本の時よりも単発の威力は落ちるが、手数で圧倒する。そして、獅子の顔は風の刃を消し飛ばしつつ鹿の腹へと炸裂する。

そしてサリーはそのまま顔を背中に向かって駆け上がっていく。

 

「【パワーアタック】!」

 

「【ハイドロスクリュー】!」

 

額から首筋にかけてを切り裂く二連撃。さらに、火魔法でその背中を焼き、セイバーは再び遠くからの激流の発射でダメージを入れつつ鹿の注意を適当に引く。

 

背中では飛び回るサリーに、正面には剣を構えるセイバーに風の刃が飛んでくるが、彼等にとって回避や防御は容易だった。

 

「ん?ここは安地じゃなかったか」

 

「サリー、しっかりしろよ〜!お前が攻撃受けたら俺1人で派手にぶっ放すよ!」

 

「うるさい!集中出来ないっての!!」

 

サリーはヒュンヒュンと音を立てて飛ぶ風の刃を縫うように移動して回避する。

セイバーはサリーへと鹿の意識が向く瞬間を狙っており、それはすぐに訪れた。

 

「ここだ!【ウォータースラッシュ】!」

 

「トドメ!【ダブルスラッシュ】!」

 

2人は鹿の隙を突いての連撃を与えてついにHPバーを削り取った。

 

 

「んんっ……そ、そうだ!戦わないと……」

 

メイプルがようやく起き上がり鹿を見据えた。とはいえ、目の前で光となって爆散する鹿を見届けることしか出来なかったが。

 

「ええええええええっ⁉︎」

 

「寝てる間に終わらせちゃった」

 

「メイプル、起きるの遅い。てか、流石、VIT化け物レベル。俺が遠目から見てる限りでもメッチャ攻撃受けてたのによく無事でいたな」

 

2人が戻ってきてそう言う。

3人はこうして二層進出の権利を手に入れたが、メイプルにとってはなんとなく腑に落ちないダンジョン攻略となってしまった。

 

 

その数日後、セイバー達3人のゲームプレイに翳りが生まれる出来事があった。それは……

 

「あうぅ……」

 

「やっぱこうなるかぁ……」

 

新しく二層の町を拠点として活動を始めた3人だったが、メイプルは暗い顔で唸っており、セイバーは当然かぁと諦めていた。その理由は……

 

「うーん……私もまさかイベントの2週間前にメンテが来るとは思わなかった。しかも……」

 

イベントとは第2回イベントの事であり、今回は時間加速を使い、現実では2時間しかやらないが、ゲーム内では1週間分行った事になる仕様にし、フィールドの探索をするそうだ。

 

ちなみに、3人はメンテナンスが終わると早速ログインしたのだが、そのメンテナンス内容を見て愕然としたのだ。

主にメイプルとセイバーが。

 

メンテナンス内容は一部スキルの弱体化とフィールドモンスターのAI強化。対象となるスキルの名称はゲームの仕様上明かされてはいないため所持している者しか分からない。そしてさらに残り一つ変わったことがある。それは……

 

 

防御力貫通攻撃スキルの実装と、それに伴い痛みの軽減。

スキルは一つの武器につき三種から五種あり威力もそこそこ確保出来るものだが、問題はスキルの方だ。

 

 

 

 

「うぐぐ……」

 

「まあ……目立ち過ぎればよくあることかな」

 

「俺達、第1回イベントで派手に暴れたからね。こればかりは仕方ない」

 

サリーがドンマイドンマイと肩を叩き、セイバーがメイプルを宥める。

 

まずスキル修正では【悪食】及び【魔力吸収】が修正された。

【悪食】の修正後の能力は1日10回の回数制限が付き、吸収出来るMPが2倍になるというものであり、【魔力吸収】も1日10回だけで、その代わり吸収できるMPは相手の最大MPとなった。

悪食の方は常時発動が変わらないため10回攻撃を大盾で受けた後は、闇夜ノ写はただの大盾になってしまう。吸収できるMPが2倍になっているためある程度の魔力タンクにはなるだろうが弱体化しているのは間違いない。

魔力吸収に関しては発動するタイミングは任意で変えられるようだが、これで前回のイベントで撃てていた魔法攻撃の発動のタイミングを考えざるを得なくなった。

 

次に、AI強化はモンスターが回り込んで攻撃してくるようになったり、場合により逃走する様になるというものだ。

これはメイプルの再発防止だろうと2人はメイプルに話した。どういう意味か分からないという様子のメイプルにサリーが詳しく説明する。

 

「だって……AIを強化すればメイプルの根本となる【絶対防御】が白兎っていう抜け道を使って取れなくなるでしょ?AIを強化した白兎が一時間も突進してこないだろうし……運営もあの取り方は予想外だったんじゃない?」

 

このメンテナンスでメイプルというイレギュラーの発生は防止されたが、サリー曰く流石にメイプルの今の性能を完全に殺してしまうピンポイントなメンテナンスは出来ないだろうとのことだった。

 

「例えば……【絶対防御】を消去するとか。そう言うのは無いと思う。多分だけど……上位プレイヤーの持ってる様な強力なスキルは幾つか弱体化を受けてると思う。その一つがメイプルの【悪食】だったっていうわけ」

 

「んー……まあ仕方ないとも思うよ。【悪食】すっごい強かったもん。でも……あの修正がなぁ……」

 

メイプルの言いたいことを察したセイバーが続きを話していく。

 

「これでメイプルもダメージを受ける様になったからな。あの調整は苦肉のメイプル対策だろうね」

 

「うぐぐぐぐ……」

 

「まあ、貫通攻撃はよくあるスキルだし、今までが少な過ぎたかな」

 

そうサリーが言うとメイプルは両手を合わせて申し訳なさそうに話し出した。

 

「あー……ごめんね!無敵じゃなくなっちゃった……これじゃあ無敵パーティになれないし……せっかくサリーには回避盾になってもらって、セイバーには攻撃を防いだりしてもらってたのに」

 

そう言ってメイプルが2人に謝る。3人のパーティの理想は3人ともノーダメージというものだった。これではそれが出来ない。

 

「それは仕方ないよ。それに、ダメージは受ける様になったけど……絶対ノーダメージじゃなくなっただけだし……ダメージエフェクトが出る分削っても削っても死なない!ってなって無敵感が強調されるし。不敵に笑っていれば格好良いままだよ!」

 

メイプルは相手がダメージを与えられていることを唯一の希望にして、必死に攻撃してくるのをふふふと笑いつつ受け止めて、相手が疲労しきった所で倒す所を想像した。

 

「おー……確かにいいかも……」

 

「黒い笑みがこぼれてるよ?」

 

「メイプルって意外と性格黒いのか?」

 

「わわっ!い、今のなし!なしで!」

 

「んー……でもそうなるとHPも上げないといけないか。貫通で削られちゃうとまずいし……痛いのは平気?」

 

「まあ……どうしても無理、ではないかな?現実よりは全然痛くないし……しかも、痛みが軽減されたみたいだし」

 

「プレイヤースキルを磨いて出来るだけ防ぐのと……回復系のスキルと装備、MPとHP系統もいるかな?」

それさえあれば結局のところ無敵のようなものだろうと理沙は言う。

 

「装備品とか集めるの手伝ってあげる!あとはスキルも良さそうなのを探してみるね」

 

「い、いいの?」

 

「私が誘ったゲームなんだからメイプルと一緒に楽しむためならそれくらいするよ?っていうか今から一緒に行かない?」

 

「ありがとう!」

 

「まぁ私も手伝って欲しい時があるから……」

 

「うん!その時は頑張るね!」

 

「おーい、俺の事を置いといて話を進めるな」

 

「あなたは聖剣集めつつパターン増やせば良いんじゃ無い?」

 

「雑いなオイ!」

 

サリーはそんなセイバーを放っときつつメイプルに話した。

 

「それじゃあ……まずはHPを上げるスキルを取得しに行こうか。それが一番大事そうだしね。私も幾つか知ってるし、それからだね。イベントも近いし急ごう!」

 

「おー!」

 

3人はフィールドに飛び出していった。

新たなスキルを手に入れて、メイプルの弱点をカバーして、第二回イベントでも好成績を残すために。今出来ることをするのである。

 

それから数日間、セイバー達はそれぞれで準備を進めて行った。メイプルはイズさんに作ってもらった新しい大楯で攻撃を受け止める系のスキルを、サリーは戦闘での選択肢を増やすために防御貫通のスキルや光魔法のレベルアップ、状態異常攻撃をしやすくしたりするなどをしていた。そんでもって俺はというと……

 

「ヤバい……聖剣獲得のダンジョン見つかんねぇ。第2回イベントまであと数日……防御貫通スキルの【ディフェンスブレイク】とかサリーが取得していた中にあるMP関係のスキルも取ってみたけど、それ以外何も変わってない……。強いて言うならレベルが4上がったくらいだな」

 

セイバーはかなり焦っていた。このままでは自分だけ2人に置いていかれる……と。

 

「どうしたもんかなぁ……」

 

セイバーが悩んでいるとそこに1人の男が声を掛けてきた。

 

「久しぶりだね、セイバー!」

 

「え?」

 

セイバーが振り返るとそこには黒髪に右手には金の片手剣、さらに左手に盾を装備した男が立っていた。

 

「あなた……確か前のイベントで戦った【崩剣】のシンさん……ですよね?」

 

「覚えててくれて光栄だよ。この前のイベントの終わりに君、話してただろ?勝負したい人はいつでも声をかけてくれと。だから、僕は君に挑戦するよ。そんでもって今度は勝つ!」

 

「……良いですよ。ちょうど俺も誰かとバトりたい気分だったんでね」

 

2人の意見が合うと同時に決闘のステージへと転移し、2人とも持ち武器である火炎剣烈火と片手剣を構え、シンは左手にも盾を持つ。

 

「行きます!」

 

「おう!」

 

開始の合図と共に2人は剣を交えた。

 

「はあっ!」

 

まずは様子見でお互いスキル無しの斬り合い。ただ、セイバーとシンではセイバーの方がプレイヤースキルは上でありシンは片手剣だけでは捌ききれず、何回かは盾を使って防いでいた。

 

「やっぱり強いな。単純な剣の腕前じゃかなわねぇ」

 

「そっちも、前回より強くなってる上に盾が少し厄介ですね。防げない攻撃を盾で防ぐ。まぁメイプルと戦ってるなら盾に攻撃を当てた時点で飲み込まれている可能性大だけど」

 

「なら、こっちもそろそろ本気で行くかな。【崩剣】!」

 

するとシンの持つ剣が突如として10個の小さな飛行する剣へと変わり、セイバーの周りを飛行し始めた。さらに、その10個の剣は次々とセイバーへと突っ込んできた。

 

「うわっ!ちょっ!この!!」

 

セイバーはこの剣の不規則な軌道をなんとか剣で捌きつつあるが、何本かは捌けないため、剣が掠ることによるダメージを受けていた。

 

「どうかな?進化した崩剣の力は」

 

「やっぱり面白い技ですね。1発の威力が無い代わりに手数で押しまくる。こうやって捌くのも大分面倒臭いですし、前回より動きも精密になってる。でも、勝つのは俺です!【爆炎放射】!」

 

セイバーが剣を弾いてシンへの射線を確保するとそのまま強力な爆炎をシンへと放った。シンはこれを盾で受け、爆炎放射の特性である固定ダメージこそ受けたものの防ぎ切った。

 

「あらら、この前のイベントで使わずに取っておいたスキルだったけど、流石にトップクラスには防がれるかぁ」

 

「そっちもやるね。盾が無ければやられてたよ。けど、そろそろ決めさせてもらう!」

 

さらにシンは崩剣の軌道を複雑にし、セイバーへと襲いかからせた。

 

「これ以上は捌き切れない。なら……【フレアジェット】!」

 

セイバーはフレアジェットで空中へと飛ぶとそのまま飛行しながらシンへと迫る。

 

「これで決める!黄雷抜刀、【雷鳴一閃】!」

 

セイバーは武器を黄雷に変えるとフレアジェットが中断されて落下を始め、その速度と雷鳴一閃で得られる速度を重ねがけし、そのまま盾を構える暇も与えず、すれ違い様にシンを斬り裂いた。

 

「やるねぇ……今回も俺の負けだ。けど、またいつか君を超えてみせる!」

 

それから2人は元のフィールドに戻った。

 

「流石2位。強いなぁ」

 

「お互い様ですよ。こっちも割とヤバかったですし、アレで決まってなければもしかしたらやられてかもしれませんし」

 

「そっか。それはそうとセイバー、俺達の組織に来ないか?」

 

「え?それって、確か炎帝ノ国……でしたよね?」

 

「ああ。前回イベント5位のミィを筆頭に出来た巨大組織だ。ミィは前回イベントで10位以内の奴が入るとなれば喜ぶはずだ。だから一緒に来てくれないかな」

 

「……ごめんなさい。俺は俺で既に入るチームが決まってるんでそっちの組織に入る事は出来ません」

 

「そうか、なら仕方ないな。イベントとかでまた会ったら今度は勝たせてもらうからな」

 

そう言ってシンさんは去って行った。

 

「炎帝ノ国のミィかぁ。また近いうちに戦ってみたいな。同じ炎使いとして。さてと、得たものがこの戦闘の経験だけじゃ物足りない。レベリングついでにまた色々と探してみるかぁ」

 

こうして、セイバーは再びイベントに向けた準備を再開し、とうとうイベント当日を迎えた。だが、その間に聖剣を手に入れる事は出来なかった。




セイバー 
Lv25
HP 175/175
MP 180/180〈+30〉

【STR 40〈+70〉】
【VIT 35〈+70〉】
【AGI 40〈+70〉】
【DEX 10】
【INT 30〈+40〉】


装備
頭 【紅蓮のヘッドギア】
体 【紅蓮の鎧】
右手【火炎剣烈火】
左手【空欄】
足 【紅蓮の鎧】
靴 【紅蓮の靴】

装飾品 
【空欄】
【空欄】
【空欄】

スキル
【剣の心得Ⅳ】【気配斬りⅡ】【気配察知Ⅲ】【火魔法Ⅴ】【水魔法I】【風魔法I】【土魔法I】【光魔法II】【闇魔法I】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅶ】【水泳Ⅶ】【ディフェンスブレイク】【MP強化小】【MP回復速度強化小】【状態異常Ⅱ】
【火炎砲】【爆炎放射】【火炎激突】【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】【紅蓮爆龍剣】【火属性無効】【極炎】【フレアジェット】【消費MPカット(火)】


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聖剣使いと第2回イベントスタート

今回から第2回イベントに入ります。それではどうぞ!


第2回イベントの日、3人は第二階層のスタート地点にいた。3人とも気合いもバッチリ、準備も出来る限りやりきってある。

ここで、運営からのアナウンスが入った。

 

『今回のイベントは探索型です!目玉は転移先のフィールドに散らばる三百枚の銀のメダルです!これを十枚集めることで金のメダルに、金のメダルはイベント終了後スキルや装備品に交換出来ます!』

そうアナウンスが流れステータス画面が勝手に開くとそこに表示されたのは、金と銀のメダルである。

そのうち金のメダルの方はセイバーとメイプルには見覚えがあった。それは、金のメダルは2人が前回イベントの記念品で手に入れたあのメダルだったためである。

 

『前回イベント10位以内の方は金のメダルを既に1枚所持しています!倒して奪い取るもよし、我関せずと探索に励むもよしです!』

幾つかの豪華な指輪や腕輪などの装飾品、大剣や弓などの武器などの画像が次々に表示されていく、全てこれから行くフィールドの何処かに眠っているのだ。その中でセイバーが注目したのは1本だけ影絵になっている大剣だった。

 

「あの剣、もしかして・・・」

 

『尚、死亡しても落とすのはメダルだけです!装備品は落とさないので安心して下さい!そしてメダルを落とすのはプレイヤーに倒された時のみです。安心して探索に励んで下さい!死亡後はそれぞれの転移時初期地点にリスポーンします!』

 

取り敢えずは一安心である。装備品を奪われないのならばある程度は気楽に出来ることだろうし、探索も全力を出せる。

 

『今回の期間はゲーム内期間で1週間、ゲーム外での時間経過は時間を加速させているためたった2時間です!フィールド内にはモンスターの来ないポイントが幾つもありますのでそれを活用して下さい!』

 

つまり、ゲーム内で寝泊まりして1週間過ごしても現実では2時間しか経っていないと言う訳だ。

 

「なんていうか不思議な感じだね」

 

「一度ログアウトするとイベント再参加が出来なくなるって、だから最後まで参加するにはログアウトは出来ないね。後は・・・パーティーメンバーは同じ場所に転移するってさ」

 

3人は説明を耳で聞き、ステータス画面に流れてくるのを目で見て、相談した結果ログアウトはしない方向に決めた。

 

「3人分のメダル、取れるといいね」

 

「うん、頑張ろう!」

 

「さて、始めようか!」

 

3人の体は光となり、第二層の町から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……着いた?」

 

「着いたみたいだね」

 

「やっぱ転送だとあっという間だな」

 

足に伝わる大地の感触。

3人がいたのは開けた草原のど真ん中で、空には重力の影響を受ける事なく浮遊する島々が見え、遠くの方には山岳地帯なども見えている。そして広く、澄み渡る大空を竜が優雅に飛ぶ姿も見る事が出来た。

 

運営が用意した今回のフィールドは自然豊かな、モンスター達の理想郷。

誰もが夢見た事のあるファンタジーの世界を写し取ってきたような幻想的な世界だった。

 

「おおー!綺麗!」

 

「すっごい…綺麗すぎてぞくぞくした」

 

「感動してる暇は無いよ。早く探索に入ろう」

 

3人は草原を話しながら歩いていく、20分程歩いたが他のプレイヤーには遭遇することは無かった。前回、メイプルやセイバーがすぐに会敵したことを考えると今回はかなり広めに設定されたステージなのかもしれない。

 

「メダルとか見つかるかなあ…」

 

「さあ?まあ、じっくりやろう?まだ時間はあるしね」

 

「おっと、早速来客だ」

 

そんな話をしていた3人だったが、ここで右手に背の低い草を掻き分けてゴブリンが走ってくるのが見えた。どうやら3人を狙っているらしく左へ左へ進んでみても追いかけてくる。

 

「ゴブリン相手なら…白雪でいいかな」

 

メイプルは大盾を装備しなおす。【悪食】を無駄遣いする訳にはいかないからだ。

 

「私は当分はこの装備でいってもいい?いざという時は闇夜ノ写に変えるから」

 

「おっけー!頼りにしてるよ。今回は私が倒してくるね?」

 

「よろしく〜」

 

サリーはゴブリンに急接近してダガーを振り抜くとゴブリンはその手に持った棍棒で受け止めようとするが、その粗悪な武器ではサリーのダガーを受け止めるには至らなかった。

 

スパッと切り落とされた棍棒と共にゴブリンの体に深々と赤い筋が入る。そして、最初の襲撃者は呆気なく光となって消えていった。

 

「おー!やっぱり速いね!」

 

「ふふふーありがとう!この辺は弱いモンスターのエリアなのかな?…メダルは無いかもしれないね」

 

「んー…そうかも。メダルはもっと分かりにくい所に隠してあると思う」

 

「例えば隠しダンジョンとか?」

 

メイプルの意見に2人も賛成のようであり取り敢えず洞窟や、森林などモンスターの多そうな地形を探して回ることにした。

 

 

 

 

それから歩くこと1時間。

 

「右、草原!左、草原!後ろ、草原!前、草原っ!」

 

サリーがヤケになって叫ぶ。何処をみても草原しかない。地平線まできっちり草原だ。

 

「広すぎるよ〜…さっきからゴブリンしか出てこないし…ほらまたいた…」

 

「そろそろここから抜けたいな」

 

メイプルの言う通りゴブリンが捕らえた獲物なのだろう兎を引きずりながら歩いていた。メイプル達には気づいていないのだろう、嬉しそうにゲギャゲギャと耳障りな声で笑っている。

 

 

そしてゴブリンはメイプル達が見ている中、そのまま【歩いて】地面の中へと沈んでいった。

 

「「「……え?」」」

呆然と立ち尽くしていた3人だったが、はっと正気に戻るとゴブリンが消えていった場所へと急いで向かう。

 

「な、何もない?」

 

「いや…絶対何かある!あるはず!」

 

「例えばここに蜃気楼がかかってるとか?」

 

「ならやってみるよ。【ウィンドカッター】!」

 

サリーが地面へとその技を放つとそれは歪んだ空間を切り裂いて、その場の景色を正常に戻した。そこには地下へと続く階段があった。

 

「やっぱり【蜃気楼】みたいなスキル・・・それで入り口を隠してた。もしかしたら、他にも入り口はあったかも。この草原広いしね・・・」

 

「入る?」

 

「当然!念入りに隠したこの洞窟・・・きっとメダルの1枚や2枚あるって!」

 

「よーし!じゃあいこう!」

 

3人は洞窟の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「よっ・・・と!」

 

サリーのダガーがゴブリンの顔面を切り裂く。

内部のモンスターも特に強い訳では無かったため、サリーやセイバーの攻撃で簡単に倒れていく。

道幅は3人が並んで歩ける程度には広く、武器を振り回すことに不自由は感じない。

 

「また分かれ道…」

 

「やっぱ迷路系のダンジョンなのか?」

 

2人の言うように、この洞窟は分岐が非常に多い。まるで蟻の巣のように何本もの道が伸びていて、行き止まりや小部屋も多い。

 

「どっちに行くか・・・メイプルどうする?」

 

「……じゃあ、右!右は下へ向かってるし、ボスがいるなら深いところだと思う!」

 

「おっけー、じゃあ右で」

 

3人は道を進んでいく。そして、少し大きめの部屋に入った。すると・・・咆哮が響き渡り、地鳴りがする。

3人はこれはボスの咆哮だと直感した。

それと共に、3人の元へと近づく足音、金属音。それに不快な鳴き声。

 

「ボスが何か指令出したかも、ゴブリンが集まってくる!」

 

「どうする?」

 

メイプルの問いにサリーは武器を構えつつ言う。

 

「この部屋に続く道はこの3つだけ、1人1本ずつね!」

 

「おっけー!任せて!」

 

「りょーかい!」

 

メイプルはまだ大盾を切り替えない。ボスまでは取っておかなければと考えているのだ。

メイプルが新月を抜き、セイバーも烈火を構える。

 

 

 

「さっさと終わりにするぞ【爆炎紅蓮斬】!」

 

セイバーが烈火に強力な炎を纏わせるとそれを振り下ろし、その炎の波が迫ってくるゴブリンを飲み込もうとするといきなりゴブリン達の目の前に現れた光の壁が攻撃を全て打ち消した。

 

「はあ!?おいおい、何で…あ」

 

セイバーがよくよくゴブリンの群れの奥の方を見るとそこには帽子を被って杖を持ったゴブリンが3匹いた。3匹共かなり疲れている様子だったが・・・

 

「あれが魔法役って訳か。とは言ってももう限界っぽさそうだけどな。まぁ、念のためだ。【火炎砲】!」

 

セイバーが手を翳すとそこから火炎の砲弾がゴブリンへと降り注ぎ、魔法使いのゴブリンは必死にそれを防ぐが、1発防いだ所でMP切れしたのか障壁が消えてしまい残る火炎砲がゴブリンを蹴散らしていき、更には奥にいる魔法使いゴブリンを火炎の余波による継続ダメージを与えていった。

 

「終わりだ【火炎斬り】!」

 

セイバーは最早瀕死に近い状態の残ったゴブリンと魔法ゴブリンを一瞬にして斬りつけて終わりにした。

 

「ふう。2人共終わったかな?」

 

セイバーが振り返るとそこにはゴブリンを倒し切ったサリーと丁度メイプルがシールドアタックでゴブリンを倒した所であった。

 

「【シールドアタック】!で、終わりっ!」

 

2人がメイプルの所に行くと先に行ったサリーは魔法使いのゴブリン達に気付き魔法攻撃を開始した。

 

「【ファイアボール】!さらに、【ウィンドカッター】!」

 

魔法使いのゴブリン達は魔法攻撃を前に呆気なく沈んだ。

 

「お疲れ、サリー、セイバー!」

 

「お疲れメイプル。にしても、派手にやったねー」

 

「寧ろ派手すぎて部屋が毒まみれなんだけど…」

 

2人がメイプルのいた部屋を見るとそこには部屋中が毒の海と化していた。

 

「えへへ…そんなことより行こう!きっとこっちがボスだよ!」

メイプルは照れ笑いを浮かべつつ話を変える。

 

「そうだね、行こうか!…よっ!」

 

「そういや、これ踏んだら俺達も毒になるんだったな!」

毒無効の無い2人はメイプルが毒竜によって撒き散らしてしまった毒の海を飛び越える。メイプルは勿論歩いて渡る。毒耐性は完璧だ。

 

「私達が触れたら1発アウトだよ」

 

味方の魔法でダメージは受けないが、それが引き起こした現象は別だ。

味方のファイアボールで燃やされた枝を掴めば、ダメージが入ると言うわけだ。

 

「気をつけるね」

 

「お願いします」

 

3人は洞窟の奥へ奥へと向かっていった。暫くすると木製の扉があり、ボス部屋についたと連想させた。

 

「ボス部屋っぽい部屋発見!」

 

「早速入ろう」

 

3人が中に入るとそこは広く、薄暗かった。天井までは10メートル近く、周りを見るに横幅も同じくらいだ。

そして奥行きだけはその倍程でその最奥には巨大な玉座。

そして、そこには醜悪な顔をした巨大なゴブリンが座っていた。

座っているため、正確な大きさは分からないが先程の扉程はある。通常のゴブリンの3倍近い大きさだ。

ゴブリンが3人に気付いて咆哮する。

凄まじい音量に3人が顔を顰める。

 

「さっと倒しちゃおう!あいつうるさい!」

 

「同感、行こう!」

 

「ただ、ボスだからそれなりに強いだろうから気を抜くなよ!」

 

3人はボスへと向かっていく。メイプルの大盾は闇夜ノ写に変わっており、決戦仕様だ。

ゴブリンまでの距離はおよそ20メートル。サリーとセイバーが最速でその距離を詰めようとするも、ゴブリンはそれを許さない。

玉座の真横、立てかけてあった巨大なサーベルを手に取りつつ立ち上がると、前進しつつ乱暴に振り抜く。

 

凄まじい剣圧と共に迫る凶刃。

 

「【カバームーブ】!【カバー】!」

 

2人がこれを回避出来たかどうかは分からない。メイプルが身の丈の2倍はあるそのサーベルを恐れずに大盾で受け止めて消し飛ばしたからだ。圧倒的な破壊力で敵のメインウェポンを戦闘開始早々削り取った。

サーベルが光となって消えていく。

 

「ナイス!よしっ…!」

 

「サリー、2手に分かれて撹乱するぞ!」

 

「オッケー!」

 

2人が更にボスに近づいていく、そしてここからのメイプルの行動は2人にとって、もしかするとゴブリンにとっても予想外のものだった。

 

「【カバームーブ】!」

 

走り続けるサリーの元にメイプルが急加速して追いついてくる。ゴブリンからの攻撃は来ていないのだ。

サリーは驚きながらもボスに近づく。

 

「【カバームーブ】!」

 

メイプルが無理やりサリーに追いつく。これで2人揃ってゴブリンの目の前だ。

ゴブリンが筋肉の隆起した腕を轟音と共に振り下ろしてくる。

しかしその攻撃はサリーには当たらなかった。

その自慢の回避力はゴブリンの単調な攻撃など受けはしなかった。サリーはそのまま高く飛び上がりゴブリンの腹部に狙いをつけた。

サリーのダガーがゴブリンの体に届く距離まで近づいた時。

 

「【カバームーブ】!」

もはやカバームーブというのが馬鹿馬鹿しくなるその使用目的にサリーが苦笑する。

メイプルはゴブリンに肉薄することとなり、その大盾が届く範囲内に入った。サリーは一撃を加えるとその場から避難する。メイプルは体をひねり大盾を振り抜いた。

 

「どーだっ!この威力!」

 

ゴブリンの腹部には大盾の幅のダメージエフェクトが派手に散り、そのHPゲージが3割程減少する。

それはゴブリンの怒りを誘ったようでメイプルに拳が叩きつけられ、地面へと落ちる。

 

「ふふふ…ダメージが2倍?ゼロの2倍はゼロっ!」

 

【カバームーブ】のデメリットのダメージ二倍は、常軌を逸したメイプルの防御力の前で無いものとなった。とはいえ、鎧はそうでは無かったらしく、ピシッとヒビが入って砕けてしまった。

 

「うえっ!?」

 

驚くメイプルだったが壊れた鎧は淡く輝くと即座に

元の形を取り戻した。

 

「あっ!そうか、【破壊成長】!」

 

壊れた装備はより堅牢に、強固に成長する。

サリーがメイプルに声をかける。

 

「もう1回いける!?」

 

「もちろん!」

 

「その前に俺も攻撃させろっての!!」

 

すると2人に気を取られたボスゴブリンの背後に烈火を振り上げるセイバーがいた。

 

「【パワーアタック】!」

 

セイバーの渾身の一撃はゴブリンの背中を穿ち、HPバーをさらに1割減らす。

 

その隙にメイプルは立ち上がりサリーの動きを見る。

そして、セイバーからサリーにタゲが移ったゴブリンの拳が叩きつけられられるその瞬間。

 

「【カバームーブ】!【カバー】!」

 

メイプルは拳とサリーの間に立ち大盾を構える。その腕は先端から大盾に飲み込まれて赤い光を散らしていく。素早いサリーに当てるために全力で振り下ろしたその勢いは止まらない。

再びHPゲージがガクンと減少する。残り3割といったところだ。

メイプルは新月を抜き放つ。

 

「ちょっとぐらいは活躍しないとね!【超加速】!」

 

サリーの体がぶれて、加速する。サリーが高速でゴブリンの背後に回り込む。

 

「【ダブルスラッシュ】!【ウィンドカッター】!【パワーアタック】!【ダブルスラッシュ】!」

 

【超加速】の効果も相まった高速の連撃が叩き込まれる。これだけやってもゲージは1割半ほどしか減少しないのだからセイバーの剣の1発とメイプルの大盾の異常さが際立つ。

流石にこれだけの攻撃を加えればゴブリンもサリーの方に注意を向けざるを得なかった。ゴブリンは振り返ると赤いダメージエフェクトを上書きするように黄色のエフェクトをその腕に纏わせて殴りかかる。その攻撃はサリーには当たらなかったが、殴りつけた地面が陥没する。

 

「威力は上がってるけど…遅いね!」

 

サリーがゴブリンから離れていく、ゴブリンは血走った目でサリーを追おうとする。

 

「いいの?私なんか追いかけて?きっと…あっちの方が怖いよ?」

 

「【毒竜】!」

 

「【紅蓮爆龍剣】!」

 

2人の声が3つ首の毒竜と紅く巨大な龍を呼び出す。

サリーを追いかけてより大きな脅威を放置してしまったゴブリンはその背に毒竜と紅蓮の龍の攻撃を受けることになってしまった。

紅蓮の龍での大ダメージに加えて、毒竜による最高レベルの毒ダメージ。それでも、何とか立っていたのはゴブリンのボスとしての意地だったのかもしれない。しかしそれも長くは続かず、その巨体を輝く光に変えて爆散した。

 

 

 

 

 

 

「お疲れー!」

 

「お疲れ様…で?あの謎の挙動は何?」

 

「それは気になった。めっちゃ【カバームーブ】って言いまくってたし」

 

「あれのこと?あれいいよね!私の予想通り移動してからの攻撃にも使えたし!」

 

「そんな使い方して生きていられるのも、有効打を与えられるのもメイプルだけだよ…」

 

「普通の大盾使いがそれやったら致命傷は確定だからな」

 

実際、大盾使いが真似をしようものならダメージ2倍で沈むだろう。

さらに、このぶっ飛んだ攻撃能力を持っているのもメイプルくらいだろう。火力を出すなら大盾である必要は無いのだ。

 

「サリーも速かったよ!最後のあれ!」

 

「まあ、AGIが50%増加だからね。30分空けないと次使えないけど…十分かな」

 

「でも【悪食】はあと7回しか使えないから…短期決戦で出来るだけ使わないようにしたけど…」

 

「今のメイプルは燃費悪いもんね。今回のスキル取得でいいの取ろう!」

 

「うん、そうだね!」

 

「話もその辺にして戦利品でも見るか」

 

「見よう見よう!」

 

そう言うと3人はゴブリンが座っていた玉座の元へ向かう。

そこには装飾は無いものの大きめの宝箱があった。

 

「開けるよ?」

 

「おっけー!開けちゃって!」

 

サリーが宝箱を開ける。中に入っていたのはゴブリンが持っていたのと同じ見た目のサーベル。そして、銀色に輝くメダルが2枚だ。

 

「やった!メダルだ!」

 

「しかも2枚、2枚だよ!」

 

「いや、少しはサーベルも気にしろよ?」

 

メイプルとサリーはサーベルなどそっちのけでメダルに夢中になる。そもそも、サーベルはその2人は装備出来ないのだから興味がなくて当然とも言える。

 

「ダンジョンごとにメダル2つなら…150もダンジョンがある…?」

 

「難易度で変わるのかも?もっと強いボスもいるとか!後は…隠されているだけでボスはいないとか…」

 

「それもこれから探索すればわかるでしょ」

 

「そうだね!」

 

「さて、サーベルの方はどうなんだ?」

 

セイバーは思考を切り上げるとサーベルを手に取ってその性能を見た。

 

『ゴブリンキングサーベル』

【STR+75】

【損傷加速】

 

「うおぉ…なかなかの脳筋武器だぁ…」

 

「どういう感じ?」

 

「壊れやすくて長時間戦闘は出来ないけど、STR+75だな」

 

「私達は装備出来ないよね?」

 

「うん」

 

「一応俺が持っていくけど、STR補正なら少しだけ劣る火炎剣の方がまだずっとスキルの性能が良いし、俺はこっちが使いやすいからね」

 

「装備ははずれだったかぁ…」

 

「次のダンジョン探しに行く?玉座の裏に魔法陣あるし、乗れば外に出れると思う」

 

「……あと1つくらいなら今日中に行けそうかな?スキルも持つと思う!」

3人は相談を終えると魔法陣に乗った。

 

メイプルの【悪食】のことを考えると1日の内に出来るだけ探索して使い切りたいところだ。

明日に持ち越しは出来ないため、攻略出来る数が減ってしまう。

 

 

 

そして光が消えるとそこは元の草原だった。

 

「忘れてた……取り敢えず、草原を出るところから始めないと…」

 

「ど、どっちに行くのがいいかな?」

 

「前進!多分それが一番。最初から見えてるあの高い山までずっと草原ってことは無いはず」

 

「それもそうだね!」

 

「それじゃあ早速行ってみよう!」

 

3人は山岳地帯を目指して歩き出した。




前回までの間でステータスについてミスが見つかったので修正をかけました。次回から本格的に第2回イベントの内容に入るのでお楽しみに。


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聖剣使いと探索再開

今回はイベント1日目の夜となります。それねはどうぞ!


3人が草原を歩くこと一時間。

遂に前方にちらっと森が見えてきた。

3人は活力を取り戻してペースを上げて歩いていく。

 

「や、やっと着いた!」

 

「結構深い森だね…」

 

「中には色々ありそうだな」

 

3人は森の中に足を踏み入れる。

鬱蒼としたその森は上空からの光をほとんど通しておらず薄暗い。

それに、藪も多くモンスターの奇襲攻撃に向いた地形だ。

 

「私が守ってあげるよー!」

 

「本当、誰より頼りになるよ」

 

「てか、今のレベルのモンスターじゃメイプルには勝てないしね」

 

メイプルがやられる攻撃ならば誰だって耐えることは出来ないだろう。サリーやセイバーも周りを警戒しつつ楓の陰に隠れるようにして森を進んでいく。

その後30分。3人が危惧した奇襲攻撃は結局一度もなく、平和な探索が続いていた。

 

「何も出てこねーな」

 

「もう、出てこなさ過ぎて不気味」

 

「あはは…確かに…」

 

しん、と静まり返った森はサリーの言うように不気味だった。

奥に行くにつれて本当に物音一つしなくなっていく。

 

「な、何か話さない!?」

言い表せない不安からサリーが叫ぶ。

 

「えっ!?い、いいけど?えーっと…」

 

この空気を変えるためにメイプルが無理やり話し始めようとしたその時。

3人にはボッという発火音が聞こえた。

ここにきて初めての物音だったため、3人は敏感に反応して音のした方を向く。

 

 

 

そして、3人には青い人魂が数個ゆらゆらと近づいて来ているのが見えた。

 

「ここはゲームここはゲームここはゲームっ……!よし、大丈夫、大丈夫……」

 

サリーがぶつぶつと呟く。

 

「それ全然大丈夫じゃないよね!?」

 

「てか、サリー。まだお化けとか苦手なの克服できてないの!?」

 

「逃げる?逃げよう?そうしよう?」

 

大丈夫でない事は証明された。

 

「まあ、【悪食】使うのもったいないし…」

 

「じゃ、じゃあ装備外して!乗せていくからさっ!ち、近づいてきてるから!」

 

メイプルは念のためにと新月だけを装備した状態でサリーの背に乗る。

その瞬間サリーが無言で走り出した。

あの人魂が現れてからはモンスターも活気づいてきた様子で。

浮遊する髑髏や、色とりどりの人魂や、ゾンビや半透明の人間など、よりどりみどりの亡霊や幽霊が現れ始めた。

 

「くうっ……!こんな森入るんじゃなかったっ!」

 

「おー!綺麗な炎!緑色とかもあるよ!」

 

砂漠とツンドラ程に温度差の激しい3人は戦闘をすること無く森を駆け回る。

そして、遂にボロボロの廃屋を見つけて緊急避難とばかりに飛び込んだ。

 

「ボロボロだね…探索しておく?」

 

「任せた」

 

「昔っから幽霊駄目だもんね〜」

 

「あれに慣れるのは無理。ゲーム内なら逃げ切れるだけマシだけど……」

 

「いやいや、少しは頑張れよ。臆病なサリーさーん!」

 

「アンタ、現実世界では覚悟しなさいよ!!」

 

サリーは疲れ切った様子で廃屋にあった椅子に座る。メイプルは探索を始めるが、そもそもこの廃屋内にはほとんど家具が無いのだ。

あるのはボロボロのテーブルと、理沙が使っているこれまたボロボロの椅子。

テーブル下に敷かれた薄汚れた絨毯。それに古びた箪笥くらいである。

ベッドすらないこの部屋には、人は住んではいないだろう。窓には所々ひび割れたり、欠けたりしているガラスがかろうじてはまっている。

 

「箪笥の中身はっと…何もないかぁ」

 

少しだけメダルがあるかと期待したメイプルだったがそこまで都合よくはいかなかった。

メイプルがステータスを開き、付随している時計で現在時間を確認する。

 

「どうする?ゲーム内時間が6時を過ぎてるし…もうすぐ夜になっちゃうね」

 

「あー…だから幽霊が出てきたのかも…入るタイミング間違えた……食料はある程度持ち込んだから何とかなるけど。ここに泊まるのは嫌だなぁ……でもなぁ」

 

サリーがそっと窓から外を見る。

外には明らかにプレイヤーではない人影がうようよといる。

廃屋内にモンスターが入ってこないことからここは安全そうだ。

しかし外に出れば理沙にとって阿鼻叫喚の地獄であることは間違いない。

 

「仕方ない…我慢するか……」

探索を終えたメイプルとセイバーもサリーの側に座る。椅子は無いため床に直接だ。

 

「一応装備は戻しておいてと…大盾は白雪でいいかな……後は、トランプでもする?」

 

ゲーム内にも簡単な娯楽アイテムは幾つか存在するのだ。これはそのうちの一つである。

 

「ちょっとは気も紛れるかもしれないけど……まぁ、やってみよっか」

 

「うん!」

 

メイプルが笑って頷くとサリーもふふっと笑う。

多少は調子も戻ってきたようで、ぐっと伸びをするとメイプルの持っていたトランプを受け取って配り始める。

 

夜はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

「よーし…こっちだっ!」

 

「はい残念、ジョーカーです」

 

「ぐぐぐ……」

 

「良し、次は俺だな!」

 

セイバーが続けてトランプを引くとそれも再びジョーカーだった。

 

「嘘ぉ!!」

 

「セイバー、昔っからババ抜きだけは運が無いのよね〜」

 

「これから挽回するから見とけよ!!」

 

3人は、トランプやチェスなどメイプルが出したゲームで遊んでいた。

途中に夕食を挟んで、ゲームを続ける。ゲーム内のため食事は摂らなくても問題は無いのだが、理沙はゲーム内で時間を過ごす時もリアルと同じように食事を摂らないと調子が出ないとのことで、食料を大量に持ち込んでいた。

セイバーとサリーはメイプルにも食料を渡して3人で食べた。

メイプルが持ち込んだのは娯楽アイテムくらいである。

 

「んー…こっち!よし、勝った!」

 

「あー!!またジョーカーで負けかよ!!」

 

修学旅行の一室を切り取ったかのような光景ではあるが、周りは樹海、いるのは廃屋である。

 

「結構時間経ったね…もう10時だよ」

 

メイプルが時間を確認し、トランプなどをインベントリにしまう。

 

「外は相変わらず元気に動き回ってるし…これはここで一泊かなぁ…」

 

「それでいいと思う。多分この森の中にもメダルか装備があると思うし…朝になってモンスターが消えてからでいいんじゃない?」

 

「ごめんね探索出来なくて」

 

「いいって!ただし、明日は頑張って活躍すること!」

 

「了解!」

 

3人は寝袋を出すと床に広げる。

互いに挨拶を交わして床につく。

モンスターが襲ってくる可能性がゼロではないため交互に2時間ずつ眠る。

まずはメイプルとセイバーが眠る番だ。

 

 

 

 

 

 

「静かだなぁ…」

 

2人の寝息しか聞こえない廃屋で理沙は一人椅子に座って周りを警戒する。

心配も杞憂のようでモンスターは襲ってこなかった。

そして12時になりそろそろメイプルを起こそうと立ち上がった時。

 

 

 

テーブル付近からノイズのかかった低い声が聞こえた。

それは断続的に、しかし確かに聞こえる。

 

「うううわぁあああっ!」

 

メイプルを起こそうと立ち上がったサリーは足を滑らせるとセイバーの上に思いっきりの倒れ込む。

 

「ふげっ!?」

 

セイバーが思わず声を上げるとメイプルもそれにつれて目を覚ました。

 

「どうしたの……?」

 

「で、出た!テーブルに!テーブルに!」

恐怖と焦りで語彙が貧困になっているサリーをひとまず置いておいてメイプルがテーブルに近づいていく。

 

そこからは確かに低い声が聞こえて、メイプルは音の出所を突き止めようとして耳を澄ませる。

 

「テーブルの…真下?」

そこにはボロボロの絨毯が敷いてあり、サリーがその場でで丸まってしまっているためテーブルを全力で動かす。

【STR 0】とはそういうものだ。そして絨毯をめくって下を確認する。

 

「これは…地下がある?」

 

そこには切れ込みの入った床があり、取っ手が付いていた。

メイプルは早速それを開けてみる。

 

「簡単に開いたね!…階段か」

声は大きくなっている、元凶は間違いなくこの下にいる。

 

「探索行ってくるけど、2人共、いつまでそうやってるの?」

 

メイプルがそういうと、サリーはハッとした。そう、サリーの下にはセイバーが押し倒されており、サリーの方は怖さのあまりセイバーへと抱きついている状況だった。

 

「な……な……いやぁああああ!!」

 

「ちょとサリー、落ち着け!てか、押し倒したのお前だ……ふげあああっ!!」

 

結局、その場には気持ちいいビンタ音とセイバーの悲鳴が響き渡った。

 

数分後、ようやく一息ついたサリーやセイバーもメイプルと共に行く事になった。

 

サリーがゆっくりと立ち上がってメイプルの後ろにぴったりひっつき、セイバーはその隣を歩く

 

「前は任せなさーい!」

 

「ありがとう…よしっ…!行こう!」

 

サリーも気合いを入れ直し、目指すは地下から響く声の主のところだ。

3人は階段を下っていった。3人は一歩一歩警戒しつつ、下へ下へと向かう。声はどんどん大きくなって来ている。不意打ちに備えてメイプルを前にして階段を下ると古びた扉が見えてきた。

メイプルがドアノブに手をかける。

 

「……鍵がかかってない。開けるよ」

 

「おっけー。よし、こいっ!」

 

メイプルが扉を開きつつ大盾を構える。扉を開けたことで声は鮮明になって聞こえてくる。

 

「痛い…痛い……あぁあ…あ」

 

メイプルが大盾から顔を出して中を覗き込む。

部屋には地面に置かれた半ばまで溶けた蝋燭が置かれており。それが照らし出しているのは、血まみれのまま椅子に括り付けられた男性だった。

 

「敵意は無さそう…かな?プレイヤーでも無いよ」

 

「めっちゃダメージ受けてそうだし、助ける系のイベントかな?」

 

メイプルやセイバー続いてサリーも恐る恐るメイプルの陰から顔を出した。そしてその痛々しい見た目に顔を顰める。

 

「どうする?」

 

「んー…痛いって言ってるし…治してあげたいなぁ…」

 

「私【ヒール】あるけど?やってみる?」

 

「俺もあるし、2人分の方が効率いいだろ」

 

「うん…お願い!」

 

方針も決まり2人が【ヒール】を使用する。優しい光が男性を包み込み、傷が少しだけ治った。まだまだ全快には程遠い。

 

「もう一回!【ヒール】!」

 

「【ヒール】!」

 

サリーは傷の治り具合を確認しつつ何度も何度も【ヒール】を使う。

持ち込んだMPポーションを2本使用したところでようやく男性の傷が全て治った。3人が満足そうに笑顔を見せる。

 

「あり……がとう………」

 

傷の治った男性は微笑むと少しずつその体を白い光に変えて次第に薄れていき、ついには消えてしまった。

 

「成仏した…ってこと?」

 

「そうなんじゃない?多分生きてはいなかったんだろうし……ん?」

 

「お、なんか指輪が落ちてるなぁ」

 

サリーが男性の座っていた椅子に指輪が置いてあるのを見つける。薄暗いこの部屋で指輪は蝋燭の光を受けて僅かに輝いていたのでサリーがそれを拾い上げる。

 

「これは…指輪?」

 

「おー!あの人からのお礼かな?」

 

「あらかたイベントクリアの報酬でしょ」

 

サリーがその真っ黒い指輪の能力を確認する。

 

『生命の指輪』

【HP+100】

 

「んー…メイプルのタフネスリングの上位交換かな?取得条件も簡単だったしそこまですごい装備はくれないか…」

 

サリーはそう言うとメイプルにリングを渡す。因みに、タフネスリングはHPを30増やす効果なのでこの指輪の方が効果が高いのである。

 

「メイプルにあげる。私はHP増やしてもあんまり意味無いし」

 

「えっ…でも、いいの?イベント限定の装備かもしれないし、HP増やすのならセイバーだって……」

 

「うーん。確かに俺もHPは欲しい所だけど、今はまだ要らないかな。それに、メイプルが固くて損する事は無い。だから、メイプルがもらいなよ」

 

2人がそう言うも、まだメイプルは抵抗感を滲ませていた。

 

「どうしても、ただで受け取るのに抵抗があるなら貸しってことで」

 

「多分、この先にメイプルのいらない装備とかもこのイベントで手に入るだろうから、それが良い物ならそれで代わりにするって事でどう?」

 

「分かった!その時は2人にあげるね!……それじゃあ、これはありがたく装備させてもらってと…」

 

これでメイプルのHPは100から倍の200だ。

かなり安心出来る数値になってきたと言えるだろう。

ただし、同時に装飾品の枠も埋まってしまったので、ここからはHPも上げにくくなる。

 

「改めて眠り直そうかな…」

 

「この森のイベントってこれだけかな?」

 

「どうだろうなー。もう一つくらいあるかもしれないけど、時間帯が影響しそうなんだよな。これも12時になって発生したイベントっぽいし」

 

他にも幽霊の出現時間などもおそらく時間によるイベントのため、ここでの探索は日数をかけてみないと正確な結果が得られないだろうという結論になった。

 

「じゃあ、明日は森を抜ける方向で」

 

「うん、そうしよう」

 

「まぁ流石にサリーもここにいたらいつかお化けに取り憑かれるとか言い出しそ……痛たたたぁ!?」

 

 

サリーとしてはこの森にあまり長居したく無く、それをセイバーに揶揄われたためにしっかりとセイバーはサリーにシバかれた。

 

3人は地下から出ると家具を元に戻して最初の予定通り交互に眠ることにした。

 

「じゃあ、おやすみメイプル」

 

「おやすみー!しっかり見張ってるから安心して!」

 

「またお化けにビビって俺の上に乗っかってくるなよ。その胸の絶壁が虚しさを誇張するだけだ……痛たああああ!!」

 

「セイバー、少しは女の子に対するデリカシーを考えなさいよ?」

 

「お前のどこに女の子の要素が……うぎゃああああ!!」

 

そうして、見張りを交代しつつ夜は更けていった。尚、セイバーはその夜、サリーの逆鱗に何度も触れたせいか、その度にサリーにキツイお仕置きを受ける羽目になり、セイバーの悲鳴が夜の廃屋に響いたとか。




次回はイベント2日目となります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと山登り

お気に入り登録数が100件を超えました。皆さん、ご愛読ありがとうございます。今回はイベント2日目に入ります。それではどうぞ!



イベント2日目、3人は目を覚ました。

 

「よし、今日も頑張ろう!」

 

「おー!」

 

「うー……身体中が痛い。サリーの奴本気で殴りやがって……」

 

「それはセイバーが失礼な事ばかり言うからでしょ?」

 

「まぁまぁ、2人共、仲良くしよう?」

 

セイバーとサリーは学校でしているいつものいがみ合いをしながらも、メイプルに取りなされて機嫌を戻し、3人は軽く朝食を摂ると、廃屋から出て森を突き進んだ。

時間短縮のため、サリーがメイプルを背負い、セイバーが護衛するいつものスタイルだ。

時折、セイバーが木に登って山岳地帯の方角を確認しつつ走ること1時間。

ついに森の終わりが見えてきた。

 

「よっし!抜けた!」

 

「んー!久しぶりに明るいから眩しいや…」

 

メイプルは装備を戻して伸びをする。

目の前にはほとんど草の生えていない荒地が広がっている。そしてそれは山岳地帯にまで続いていた。

 

「この環境の変わり方はゲームじゃないとありえないよねー」

 

「それがこのゲームの醍醐味でしょ」

 

「それに次はどんな景色が待ってるか分からないのはワクワクするよね!」

 

3人は荒野を進みつつ会話する。モンスターが近づいてきてもすぐに分かる地形のため、索敵は容易い。

だから、遠くに歩いている3人のプレイヤーらしき人影を見つけることが出来た。

 

「メイプル、セイバー。誰かいる」

 

「装備はどうする?【悪食】は取っておいた方がいい?」

 

「【悪食】は使えた方がいいかも、即戦闘になるようなら…【カバームーブ】で突っ込んでいけた方がいい…あとは…」

 

サリーがメイプルとセイバーに小声でもう一つの作戦を伝える。

 

「了解」

 

「なるほど、それが良さそうだね」

 

3人は警戒心を強めつつ進む。メイプルは前回イベントで3位、セイバーは2位になっているため大抵のプレイヤーはその顔を知っているだろう。

人によっては、メダルを奪うために襲ってくる可能性もある。

そうして進むうちに向こうも3人に気付いたようで立ち止まって相談し始めた。

そして武器を構えることなく、3人は歩いてきた。

プレイヤーは3人とも男性で大剣、短剣、片手剣という偏ったパーティーだった。

声が届く範囲まで来ると3人が口々に話し出す。

 

「いやー初めて人に会えたと思えば…まさか前回ランカーが2人とは…」

 

「本当びびったわ…俺らに戦闘の意思は無いんで出来れば見逃して欲しい…!」

 

「俺達は今から登山だからなあ…無駄にスキルは使いたくないんだ」

 

「なるほどー。私達も今から登山なんですよね。きっとあの山には何かあると思うんですよ……」

 

メイプルの発言に3人も同意見のようで、同行させて貰えないかと申し出てきた。

 

「どうするサリー?」

 

「………いいんじゃない?」

 

「メンバーは多い方が良いだろ。敵が来た時に対処しやすくなる」

 

こうして、6人で山を目指すこととなった。

 

「じゃあ、私とセイバーが先頭行くから…メイプルは3人の前に立って守る感じで」

 

「おっけー!どんなモンスター相手でも守って見せるよ!」

メイプルがぐっと大盾を構えてみせる。

 

「頼もしいな」

 

「本当にな」

 

後ろでボソボソと三人が話しているのを聞きながら歩く。

途中何度かモンスターと会敵したもののメイプルが守るまでもなく、サリーとセイバーが倒してしまった。

そして、目的地が近づいてきた。

 

「よっし、もうひと頑張り!」

 

メイプルが大きく伸びをした瞬間。

 

 

 

 

 

「かかれ!【鎧砕き】!」

 

「【ディフェンスブレイク】!」

 

「【スルーブレイド】!」

 

メイプルの後ろにいた3人が一斉に斬りかかる。

防御力貫通スキルがメイプルに迫る。

ずっとメイプルの隙を窺っていたかの様にその連携はスムーズだった。

これ以上ない奇襲と言える。

 

「【カバームーブ】!」

 

しかし、その凶刃はメイプルには届かない。

 

サリーとセイバーの伝えたもう一つの作戦は3人が同行することになった時にメイプルがわざと隙を見せて、3人の同行の真意を晒させるというものだった。

2人は同行を申し出てきた場合は攻撃してくる可能性が高いと踏んでいたのだ。

 

 

サリーとセイバーが近くにいる以上、最速の回避手段がメイプルにはある。

 

 

絶対に安全では無いとのことだったが、メイプルも2人の提案に同意した。

そして3人には注意を払っていたのだ。

男達はメイプル達が自分達を観察していることに気付けなかった。

獲物を狙うあまり、自分達もまた狙われているかもしれないということに頭が回らなかったのだ。

 

「なっ!?」

 

男達が奇襲が不発に終わったことに驚愕し、動きを止める。

絶対の自信があったのだろう。

 

「メイプルだけなら勝てるとでも思った?【火炎十字斬】!」

 

メイプルはスキル温存するため、代わりにセイバーから反撃として繰り出された十字型の炎に3人はなす術なく飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

「本当に襲ってくるとは…」

 

「そりゃあ、メイプルは狙われる理由があるし…警戒してて良かったでしょ?」

 

「ホント、ああいうのがいるからこういうイベントはキツいんだよ」

 

「すぐに【カバームーブ】発動出来たからね!あれがないと危なかったかも…」

 

「後は…メダルはある?落としてるかも」

 

サリーに言われてセイバーが炎の海を進んでいくと3人を倒した辺りの地面を探るが、メダルは落ちてはいなかった。

 

「一攫千金なんて狙うものじゃないってことだね」

 

「確かにそうかも」

 

「ま、普通のメダルもたった300枚だけなんだから俺等みたいに前回ランカーでメダルが確定である訳じゃ無いからね」

 

今回イベント初めてのPvPはセイバー達の勝利で終わった。

 

「気を取り直して…登山といきますか!」

 

「おー!」

それから3人は改めて山を目指して歩き出した。

地面に傾斜が出てきた。

いよいよ山岳地帯に差し掛かったのだ。

 

「この山は他のプレイヤーも目指してるだろうし、先を越されないようにしないとね」

 

「そうだね、出来るだけ急ごう」

 

「了解」

 

3人はずんずんと山を登っていく。3人が今登っているのは最も高い山だ。現状、周りに他のプレイヤーはいない。

とはいえ、別方向から登っている可能性はあるだろう。

 

「メイプル!モンスター来るよ!」

 

「分かった!」

 

大盾は白雪に変えてある。

ボスモンスターがいることを想定して、【悪食】は温存しておくつもりなのである。

樹海とは打って変わってモンスターが多いため、当然戦闘回数も増える。

 

「おっ、レベル上がった。これで19!ステータスは…AGIに全部振っておこうっと」

 

周囲には大岩があちこちにあり、モンスターが急に飛び出してくるため警戒を解くことができない状況だ。

常にどちらかは周りを気にしつつ進むことで奇襲に対応する。

鳥型のモンスターが上空から度々襲ってくるため大体はセイバーの黄雷などによる魔法で相手をするしかなく、MPを持っていかれる。

地上のモンスターは狼型で、素早い動きで攻撃してくる。

 

「足場も悪いし、やりにくいなぁ」

 

「さっさと登りきっちゃおう!」

 

モンスターを撃破しつつ進むこと2時間半。

地面にも雪が積もるようになった。ザクザクと音を立てながらさらに歩を進める。

 

「結構、進んだね」

 

「うん、もう後1時間くらいで頂上かな?」

 

「でもまだ1時間かかるのか」

 

サリーが頂上を仰ぎ見る。

 

そのお陰で前方にいたモンスターに気付くことが出来た。

20メートル程先にいたのは真っ白な毛で全身が覆われた猿だ。

その猿が雪を散らしながら駆け下りてくる。

 

「来るよ!」

 

「うん!」

3人が身構える。

猿の周りに青白い魔法陣が2つ浮かぶ。

猿には今までの魔物と違う点があった。

そう、魔法を使えることだ。

 

「【カバー】!」

 

メイプルが咄嗟に防御の薄いサリーをかばう。

メイプルは大盾から連続して衝撃を感じる。まるでマシンガンの様な氷の礫の連続攻撃。因みにセイバーはそれらを烈火で全て叩き切る。

猿はそのまま近づいてくると、魔法陣を消してその拳に白い輝きを纏わせ、殴りかかる。

今度は大盾により重い衝撃が走る。

 

「サリー!」

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

 

メイプルに猿の注意が向いている隙にサリーが猿の真横をすり抜けて、背中を切り裂く。

猿は悲鳴を上げるものの倒れることはなく、その目に怒りを宿してサリーへと向き直り、拳を振り抜く。

足元の雪が邪魔をして動きにくいが、サリーは問題無く回避する。その間にフリーとなったセイバーが剣を振り上げる。

 

「【パワーアタック】!」

 

カウンターの一撃が腹を深々と切り裂き、猿は消滅した。

 

「ふう。襲ってくるモンスターのレベルが上がってるな〜」

 

「やっぱり、私ももっと参加した方が…」

 

「いや、メイプルはボスに備えていた方がいい。もしものために【超加速】があるし、道中は私達2人に任せて!」

 

「んー…分かった。でも、やばそうなら【カバー】とかするよ?」

 

「ありがとう!助かる」

 

3人は再び雪山を進む。猿は中ボスのような存在だったのか、もう一度遭遇することは無かった。

代わりに出てきたモンスターは雪煙を上げながらジグザグに雪中を進んでくるモグラと、雪を巻き込みながら転がってくる真っ白いアルマジロだった。

 

「モグラは気をつけないとだけど…アルマジロは避ければそのまま転がっていくから楽だね」

 

「アルマジロは当たったら即死だと思うけどね…まあ、メイプルなら耐えれるかも」

 

「いや、俺も耐えられない前提?流石に耐えられるでしょ。数発だけなら……」

 

そんなことを話しつつ登っていく。

そして、ようやく山頂に辿り着いた。

 

 

 

山頂は綺麗な円形になっており、中心に石で出来た祠がある。

祠の前には白く輝く魔法陣があり、3人を誘うように輝いている。

何度か見た転移の魔法陣だ。

 

3人がその魔法陣に近づこうとしたその時。

3人が登って来た方とは逆側から、プレイヤーが4人登って来た。

大剣、大盾、魔法使い2人のパーティーだ。

向こうもメイプル達に気付いたようで二人の方を見る。

PvPを覚悟したサリーだったが、そうはならなかった。

 

「あっ!…クロムさん!」

 

「おっ?……メイプルにセイバーも。ここで会うとは思わなかったな……ああ、俺達に戦闘の意思は無い。勝てるとも思わないしな」

そう言ってクロム達が武器をしまって、両手を上げてみせる。

 

「私も戦いたく無いです。……いいよね、サリー?」

 

「まあ、そうだね。私達も浪費はしたくないし…警戒しておくに越したことは無いけど…多分大丈夫…かな?」

 

「不意打ちは殆ど無いと思うけど、あの人達割と良い人だし」

 

流石に絶対に安全とは言い切れないため、サリーとセイバーは警戒を解くことなく話を続ける。

 

「それで…この祠はどうするの?どっちかしか報酬は貰えないんじゃない?」

 

サリーの言うことはもっともで、クロムかメイプルのどちらかが先に入ることになり、もし攻略に成功した場合はダンジョンの報酬はなくなってしまうかもしれない。

メイプルはしばらく思案し話し出した。

 

「んー………サリー、セイバー。クロムさん達に譲ってもいい?」

 

申し訳なさそうに切り出したメイプルにサリーとセイバーが驚いた後で微笑みながら答える。

 

「……メイプルがいいなら、私は何でもいいよ?」

 

「ま、メイプルにとってはあの人達には恩があるしね」

 

「ただし、後悔はしないこと!これは約束しておいてね」

 

「うん……分かった!……じゃあ、どうぞ先に行って下さい!」

 

メイプルがクロム達に向かって言う。

 

「い、いいのか?こういうのは普通早い者勝ちだと思うが…」

 

「いいんです!私の気が変わらないうちに行った方がいいですよ?」

 

メイプルがそう言うとクロム達は礼を言って魔法陣に乗って消えていった。山頂に3人が取り残される。

 

「よかったんだよね?」

 

「うん…ここで戦闘になってスキルを使ったら結局転移先で戦闘になった時にまずいし…何よりフレンドの人と戦いたくなかったし」

 

「うん!後悔してないならいいかな」

 

「てか、さっきは俺も納得したけど、勿体無いなぁ。ここまで登山に時間かかったんだから多分あそこ報酬豪華だと思うよ?」

 

「メイプルの決定だから仕方ないでしょ」

 

サリーは輝きの消えた魔法陣を見ながらそう言う。

 

「さてと、どうする?降りる?それか、戦ってるなら負けるかもしれないし…スキルも温存したんだから待ってみる?」

サリーがそう提案したその時、魔法陣が再び輝きを取り戻した。

再侵入可能の印だ。

 

「「「えっ!?」」」

 

3人が驚く。

クロム達が入ってからまだ1分程しか経っていないのでこれは予想外の速さだ。

 

「ど、どういうこと!?」

 

戸惑うメイプルにサリーが静かに自分の考えを話し始める。

 

「取り敢えず思いついたのは2つ。1つは転移後に装備やメダルを回収するだけだったから速攻で終わったっていう可能性。もう1つは…」

 

サリーはそこで一旦言葉を区切り、現実であって欲しくなさそうに、酷く不快な様子で続きを呟いた。

 

「強力なモンスターになす術もなくやられた可能性」

 

「それは…」

 

「どっちかっていうと、後者だろ。まだ魔法陣が光ってるのは挑戦出来るってことだろうし、それなら…中にあったのは装備なんかじゃなくて何かのボスモンスターだろうね」

 

幸い他のプレイヤーは登って来そうに無かったため。3人は互いにステータスを確認し合って戦略を立ててから挑むことにした。

 

「【破壊成長】で鎧が【VIT+40】になってるのと、HPが増えてるくらい。スキルはバッチリ温存してあるよ」

 

「私もあんまり変わってない。【超加速】は温存してるし【蜃気楼】も残ってる」

 

「俺も黄雷でのMP消費は最小限に抑えてあるし、普段は烈火使ってるし、スキルはあんま使ってないからまだ前のイベントでの過剰吸収の余りと今までの吸収してきたMPが僅かに残ってる」

 

セイバー 

 

*セイバーのMPは過剰吸収分を除く。

 

Lv26

HP 105/105

MP 100/100〈+30〉

 

【STR 45〈+70〉】

【VIT 35〈+70〉】

【AGI 40〈+70〉】

【DEX 10】

【INT 30〈+40〉】

 

装備

頭 【紅蓮のヘッドギア】

体 【紅蓮の鎧】

右手【火炎剣烈火】

左手【空欄】

足 【紅蓮の鎧】

靴 【紅蓮の靴】

 

 

 

装飾品 

【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

 

 

 

スキル

 

【剣の心得Ⅳ】【気配斬りⅡ】【気配察知Ⅲ】【火魔法Ⅴ】【水魔法Ⅴ】【風魔法I】【土魔法I】【光魔法II】【闇魔法I】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅶ】【水泳Ⅶ】【ディフェンスブレイク】【MP強化小】【MP回復速度強化小】【状態異常Ⅱ】

【火炎砲】【爆炎放射】【火炎激突】【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】【紅蓮爆龍剣】【火属性無効】【極炎】【フレアジェット】【消費MPカット(火)】

 

 

メイプル

Lv24

HP 40/40〈+160〉

MP 12/12 〈+10〉

 

【STR 0】

【VIT 170〈+81〉】

【AGI 0】

【DEX 0】

【INT 0】

 

装備

頭 【空欄】

体 【黒薔薇ノ鎧】

右手 【新月:毒竜】

左手【闇夜ノ写:悪食】

足 【黒薔薇ノ鎧】

靴 【黒薔薇ノ鎧】

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】

【タフネスリング】

【命の指輪】

 

スキル

【絶対防御】【大物喰い】【毒竜喰い】【爆弾喰い】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【大盾の心得Ⅳ】【体捌き】【攻撃逸らし】【シールドアタック】

【HP強化小】【MP強化小】

【カバームーブI】【カバー】

 

サリー

Lv19

HP 32/32

MP 25/25〈+35〉

 

【STR 25〈+20〉】

【VIT 0】

【AGI 80〈+68〉】

【DEX 25〈+20〉】

【INT 25〈+20〉】

 

装備

頭 【水面のマフラー:蜃気楼】

体 【大海のコート:大海】

右手 【深海のダガー】

左手 【水底のダガー】

足 【大海のレギンス】

靴 【ブラックブーツ】

装飾品 【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

スキル

【状態異常攻撃Ⅲ】【スラッシュ】【ダブルスラッシュ】【疾風斬り】【筋力強化小】

【連撃強化小】【ダウンアタック】【パワーアタック】【スイッチアタック】【体術I】

【短剣の心得II】【器用貧乏】【ディフェンスブレイク】【超加速】

【火魔法Ⅰ】【水魔法Ⅱ】【風魔法Ⅱ】

【土魔法Ⅰ】【闇魔法Ⅰ】【光魔法Ⅱ】

【ファイアボール】【ウォーターボール】

【ウォーターウォール】

【ウィンドカッター】【ウィンドウォール】

【サンドカッター】

【ダークボール】

【リフレッシュ】【ヒール】

【MP強化小】【MPカット小】

【MP回復速度強化小】【魔法の心得II】

【釣り】【水泳Ⅹ】【潜水Ⅹ】【料理I】

【採取速度強化小】【気配遮断II】

【気配察知II】【しのび足I】【跳躍I】

【毒耐性小】

 

 

「多分これ、作戦立てないとすぐに詰む」

 

「取り敢えず、入ったらすぐに私が大盾を構えるから後ろに隠れて」

 

「了解。それでその後は…」

 

3人はその後も20分程話し合うと、立ち上がり魔法陣に向かった。

 

「よし!いこう」

 

「うん!」

 

「いっちょ頑張りますか!」

 

そして、転移と共に3人の姿は光となって消えていった。

 

 

 

暫くして、3人の視界を覆っていた光が消えていく。

それと同時にメイプルは大盾を構えて先制攻撃を警戒するが、危惧していた強力な一撃が来ることは無かった。

それどころか、モンスターなどどこにもいなかったのだ。

3人は警戒を続けつつ周りを確認する。そこは円形の広い空間であり、壁は青く輝く結晶に覆われ、天井は吹き抜けになっている。

空からは雪が舞い降りてきていた。

そして、正面の壁の結晶の一部が突き出ており、そこに大きな鳥の巣があった。

しかし、その巣の主は今はいないようだ。

 

「おっけー……分かった。絶対鳥型のボスが来る。【大海】は使えないかも」

 

「どうする?鳥の巣に近づいてみる?」

 

「……慎重に行くよ。多分、近づいたら来るからね」

 

3人は警戒しつつじりじりと鳥の巣へと向かっていく。

鳥の巣まで残り5メートル。

 

 

その時上空から轟音と共に、何かが高速で広間に撃ち込まれた。

しかし、警戒していた3人は辛うじて後ろへと飛び退いて躱すことが出来た。

それは鋭く尖った氷だった。

それに続いて雪のような白の翼を持った怪鳥が急降下してくる。

ギラついた目に鋭い嘴と爪、強者の持つ風格をその身に纏い怪鳥は広間に降り立った。和解の道など最初から存在するはずがない。

それが戦闘開始の合図であり、それと同時に3人は剣とダガーと盾を構えた。




次回は銀翼戦となります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと銀の翼

今回は銀翼戦となります。それではどうぞ!


3人が戦闘を開始すると早速怪鳥は左右に魔法陣が展開した。

そこから、視界を埋め尽くす程の氷の礫が射出される。

 

「【カバー】!」

 

メイプルが大盾を下ろしてサリーの前に立つ。

この礫を受ければ【悪食】の使用回数は一瞬で無くなってしまうためだ。

 

「よし!貫通じゃない!」

 

メイプルが礫をその身で受け止め、無力化する。

怪鳥は普通のモンスターよりも賢いらしく、攻撃が通らないと理解すると、魔法陣を一つに纏めて空から撃ち込んだ氷と同じものを射出する。

威力と引き換えに隙間が出来る。

 

「お、頭良いな。メイプルには効かないと見てすぐに切り替えるとは」

 

「でも、これはチャンスだよ!」

 

それと同時にサリーとセイバーは別方向へと飛び出した。

 

「メイプル!」

 

「【カバームーブ】!」

 

メイプルはサリーの方に無理やり追いついて、怪鳥との距離は3メートル程。

怪鳥までもう後一歩のところで怪鳥が耳障りな鳴き声を上げる。

真っ白な魔法陣が、広間の床全体に広がった。

 

「やっば……!」

 

「おいおい、早速使わせるなよ。【フレアジェット】!」

轟音と共に広間の地面を貫いて極太の氷の棘が生えてくる。それは1メートル程伸びて床を埋め尽くした。

 

 

ただし、メイプルの周りを除いてである。

舞い散る雪煙の中、メイプルが地面に向けていた大盾を構え直す。セイバーの方はフレアジェットによる空中への回避で凌いでいた。

 

「…………助かった!ナイスメイプル!」

 

「【悪食】は後6回だよ!」

 

「おっけー!」

 

「こっからはこっちの番だ!」

 

サリーが氷の棘を蹴って跳ねるように怪鳥に近づいて行き、セイバーはそのまま空中を飛行しながら近づく。

サリーの方は足場が悪いため、どこかに静止することが出来ないのだ。さらに、セイバーの方には再び礫が飛んでくる。

「【火炎十字斬】!」

セイバーは十字型の斬撃で礫を打ち消し、その間にサリーが接近する。

怪鳥は足の爪でサリーを捕らえようとする。その速度はサリーにも匹敵する程だ。

 

「【超加速】!」

 

するとサリーは超スピードでの移動を開始し、怪鳥はサリーの急激な加速にほんの一瞬だけ反応が遅れた。そして、それは目まぐるしく戦況の変わるこの状況において致命的だった。

 

「【カバームーブ】!」

 

一瞬にして距離を詰めたメイプルが振るった大盾はサリーへと攻撃するところだったその爪を足ごと飲み込んだ。

 

怪鳥が痛みと怒りから大声で鳴く。

しかし、その行動はさらなる隙を生むだけだった。

 

「【毒竜】!」

 

「【紅蓮爆龍剣】!」

3つ首の毒竜と火炎の龍が怪鳥を飲み込んでいく。

メイプルは滴り落ちた毒で溶けた氷の上に着地し、セイバーもフレアジェットを切って着地、サリーはさらに少し離れて様子を見る。

 

 

 

すると怪鳥から凄まじい冷気が発せられ、怪鳥を覆っていた毒と炎が凍りついていく。

そして、それはパリンという高い音と共に割れてキラキラと輝いて落ちていった。

 

「HPバーが1.5割しか減ってない!?」

 

「嘘…!」

 

「おいおい、俺達の必勝コンボを簡単に耐えるのかよ」

 

メイプルとセイバーの攻撃で速攻で決めるつもりだった3人にとってそのHP量は予想以上だった。

驚く3人をよそに、怪鳥の周りに地面から生えた氷の棘が、折れて集まっていく。

そしてそれは数瞬の後、弾丸として打ち出された。

 

「【カバームーブ】!【カバー】!」

 

「チッ。黄雷、抜刀!【魔神召喚】、【サンダーブランチ】!針飛ばし!」

 

セイバーは魔神を召喚してからの電撃を纏った針を飛ばさせて何とか棘を相殺し、残った物は全て3本分出す事で自身ごと覆ったサンダーブランチで消しとばした。

サリーの前に移動したメイプルの方は大盾を下ろしてその凶弾を受け止める。するとその体から赤いエフェクトが弾けた。

 

「くぅっ…貫通するっ!【瞑想】!」

 

【カバームーブ】の弊害で貫通してしまえばダメージは2倍。一撃ごとにメイプルのHPバーが1割ずつガクンガクンと減少する。

 

「【ヒール】!」

 

どうしようもない貫通攻撃が来た時の対処法として採用した方法は、メイプルが【瞑想】サリーがメイプルの後ろで繰り返し【ヒール】。

これで隙が出来るまで耐えることだった。

耐えること20秒。

氷の暴風は止み、荒れた地面が残るのみとなった。

セイバーもサンダーブランチを解除するとダメージの影響を受けない魔神が次の指示を待っていた。

 

「いくよ!」

 

「うん!」

 

「こっちも行くぜ!」

 

3人が違うの方向に駆ける。

 

怪鳥が狙ったのはサリーだ。怪鳥が猛スピードで突進する。

 

「集中!」

 

自分自身に喝を入れると怪鳥を見据える。

突進と共に氷の礫が飛んでくる。しかし突進中のためか、その礫には隙間が多かった。サリーならば回避は容易だった。

 

「【跳躍】!」

 

サリーは怪鳥の突進を見切りその体のギリギリを飛び越えて行く。

 

「【スラッシュ】!」

 

その際に【状態異常攻撃】を使用し、麻痺毒を注ぎながら切り裂くことも忘れない。

この麻痺毒が積もり積もって致命的隙を作り出せるかもしれないのだ。

 

HPバーの減りは目に見えないほど僅かだったが、減っていない訳ではない。

怪鳥が振り向き、その翼を広げて羽ばたく。暴風と共に地面から巻き上げられた氷の礫が不規則に迫ってくる。

サリーは跳躍で暴風の範囲を横っ飛びで抜けていく。

 

「【毒竜】!」

 

「ケルベロス招来!」

 

サリーが抜けたのを見計らって毒竜と魔神から呼び出された3つ首の番犬、ケルベロスが怪鳥に迫っていく。

羽ばたきの直後を狙われた怪鳥は、万全の状態で2人の攻撃と向かい合うことが出来なかった。

3つ首の竜の1つが胴体にヒットし、番犬が3つの頭を背中へと噛みつかせる。

 

「【ウィンドカッター】【ファイアボール】!」

隙あらばサリーも攻撃に回る。少しでも多くのダメージを蓄積させなければならない。

こびりついた毒は再び氷となって払い落とされてしまう。だが、ケルベロスの方は本体は消されてしまうものの、身体に強烈な麻痺を浴びせていた。

 

怪鳥は強力な麻痺に動きを鈍らせながらもメイプルへと突進する。

メイプルには氷の礫は効かないため、この行動ならば問題なかった。避けようとしないメイプルに突進が迫る。

 

 

その爪が、メイプルの体を引き裂かんと振り抜かれる。

大盾が、怪鳥の体を飲み込まんと振り抜かれる。

 

 

怪鳥が派手にダメージエフェクトを散らしつつ仰け反る。

メイプルは追撃のチャンスとばかりに再び大盾を振り抜く。

メイプルの体からも、僅かに赤いダメージエフェクトが散っていた。

怪鳥の攻撃はメイプルの1000にも及ぶVITを貫通スキル無しで僅かに貫通してダメージを与えていたのだ。

 

だが、どちらがより大きい犠牲を払ったかは誰の目にも一目瞭然だった。

怪鳥の頭上にあるHPバーは残り6.5割程にまで減少していた。

 

「【跳躍】!」

 

サリーとセイバーがそのチャンスを見逃すことはなく、サリーはメイプルの攻撃でよろめく怪鳥の背に飛び乗った。

 

「【大海】!」

 

怪鳥の背中を起点にして水が広がる。

それは一瞬にして怪鳥に染み込んだ。

怪鳥が怒りの声と共に暴れ始めた時にはサリーはもう飛び退いていた。

怪鳥の速度が落ちる。

 

「流水、抜刀!【渦潮】!」

 

「【毒竜】!」

 

速度の落ちた怪鳥がさらに渦潮に閉じ込められて動きが完全に止まった所にメイプルの攻撃を躱すことが出来るはずも無くHPバーがさらに減少する。

 

「【ダブルスラッシュ】!【ファイアボール】!」

 

「【ハイドロスクリュー】!」

 

メイプルがインファイトで怪鳥を削り、セイバーは遠くから激流を顔面に浴びせて視界を奪いつつ動きを止めさせる。

そこにサリーがヒットアンドアウェイで麻痺毒を入れつつチャンスを伺う。

さらにメイプルの大盾が再び怪鳥を喰らった。

怪鳥の爪もメイプルのHPを半分程まで削ってはいたものの致命傷には至らない。

 

怪鳥のHPバーが半分を切った。

その時。

 

怪鳥が3人から距離を取り、地面にその爪を深く差し込む。

 

 

 

 

その嘴が大きく開かれ、メイプル達の倍ほどはありそうな魔法陣が広がる。

3人は本能でこの後の危険を察知した。

 

「【アクアトルネード】!」

 

「【カバームーブ】!【カバー】!」

 

セイバーが咄嗟にアクアトルネードでサリーの隣に移動し、メイプルが叫んだ直後。

 

 

 

3人の視界全てを白銀のレーザーが埋め尽くした。

数秒後、白銀の光が薄れて消えていく。

地面はレーザーによってボロボロに削られており先程のレーザーの威力を物語っていた。

 

そのボロボロになった地面にメイプルは大盾を構えて立っていた。

サリーとセイバーもその強固な守りによって致死のレーザーから逃れることが出来た。

サリーとセイバーがメイプルのHPを【ヒール】で回復する。

サリーはメイプルの陰に隠れたままMPポーションを飲んでMPを回復する。

 

「【悪食】は後1回だよ」

 

「うん、分かってる」

 

「うひー。こんな化け物作るとか運営頭おかしいだろ……」

 

流石にあのレーザーを受け止めるには【悪食】を切るしかなかったのだ。生き延びられたとはいえ、貴重なダメージソースと引き換えとなってしまった。戦況は悪くなっていく。

 

「またレーザーが来そうなら全力で【カバームーブ】して。あと、あまり離れないで。セイバーも、極力単独になるのは避けて」

 

「しょうがないな」

 

サリーが早口で言い、セイバーが同意すると2人は怪鳥に向かって駆け出していく。

メイプルもサリーの後を追って怪鳥に近づく。

怪鳥が2人に気を取られていた時には【毒竜】を撃ち込むつもりなのだ。

 

 

怪鳥が地面から乱暴に爪を抜くとふわりと飛び上がって氷の礫を射出する。

標的はセイバーよりも固く無いとわかっているサリーだ。勿論サリーもそれは分かっている。

メイプルは簡単に受け止めていたこの氷の礫が体を掠めただけで自分は終わりだと。

 

前にユニークシリーズを得るために巨大魚と戦った時のように、集中力を極限まで高めていく。

次第に礫が遅くなっていく感覚、僅かな隙間が見えるようになってくる。

サリーが体を捻って避ける。

時に屈んで、時に跳躍し、時にその礫を武器で撃ち落として怪鳥の懐へと迫る。

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

サリーは礫と爪を回避しつつ、スキルを織り交ぜ斬り刻むその手を緩めない。

怪鳥の爪がサリーの命を刈り取ろうと迫るが、全て紙一重の所でサリーに躱される。

怪鳥が攻撃すればする程その突き出した足を切り裂かれていく。

その間にセイバーも接近、剣本体での攻撃が当たる距離になっていた。

 

「【スラッシュ】!」

 

「黄雷、抜刀!【雷鳴一閃!】」

 

サリー与え続けた小さな傷にセイバーの電撃による麻痺。

それらは積もり積もってついに怪鳥の体を大きく縛った。

 

「【毒竜】!」

 

2人が命懸けで作り出したその隙をメイプルが見逃すことなどありえなかった。

麻痺した怪鳥の緩慢な動きでは毒竜を躱すことが出来ない。

メイプルの大技を確実に当てるために、2人が全力のサポートをする。

そして、メイプルはきっちりとそれに応えた。

怪鳥のHPバーが残り4割と少しになる。

 

「【ヴェノムカッター】!」

 

「持ってけ!【落雷】!」

 

メイプルとセイバーが続けて攻撃する。剣先の魔法陣から打ち出されたそれは【毒竜】には遠く及ばないものの確かなダメージを与え、セイバーの落雷も片羽にだけ集中して2回当てて怪鳥をよろけさせた。

サリーも少しでもダメージを稼ぐために魔法を打ち続ける。

 

「これでどうだ流水、抜刀!【レオブレイク】!」

 

獅子の顔を模した攻撃が怪鳥のHPを4割を切らせたところで麻痺が解けて怪鳥が自由を取り戻す。

メイプルを標的に定めて暴風と礫での弾幕攻撃を繰り出す。

この攻撃はメイプルには通らないため貴重な【悪食】を温存するべく大盾を下ろす。

メイプルに礫の攻撃が来ている間は2人が安全に攻撃することが出来るためチャンスと言える。

サリーとセイバーのラッシュでHPが3割まで減る。

しかし、セイバーはともかく、サリーが火力を出すにはMPの消費が激しいのだ。しっかりと管理しなくてはここぞという時に全力攻撃が出来なくなってしまう。

 

HPがさらに減って2割半になった瞬間。

怪鳥が暴風攻撃を止めて、空に向かって飛翔する。

3人は同時に嫌な予感を感じ中央に集まって固まる。

雪降る空に舞い上がった怪鳥はその白く輝く翼を闇すら飲み込むような漆黒に染めていった。

同時に怪鳥のHPゲージが少しずつ減少していき、残り1割となったところでその減少を止めた。

 

 

怪鳥が空気が震えるような叫びを上げる。

 

「来るよ!」

 

「分かった!」

 

「これは、特大の技が来そうだな」

 

何が来てもいいように、メイプルは最後の【悪食】すら捨てる覚悟で大盾を構える。

 

 

 

 

漆黒の怪鳥は翼を折りたたみ突進してくる。

それは音すらも置き去りにして、メイプルの大盾に衝突する。

最後の【悪食】がそのHPバーを半分ほど持っていくが、そこでメイプルを守る最強の大盾はその効力を失った。

怪鳥の爪が高速でメイプルを襲う。

 

構えた大盾を砕き割り。鎧をバラバラに引き裂いて。

 

そのHPバーを残り1割以下まで削った。

 

「う、あっ……」

あまりのダメージにメイプルか呻く。怪鳥の口元から黒い光が溢れる。

 

「メイプル!」

 

「ヤバい!」

 

咄嗟にサリーが跳躍する。

メイプルにとっての最大の救いはサリーが思考を停止することが無かったことだろう。

 

「【カバームーブ】っ!」

 

気力を振り絞って叫ぶメイプルの体が高速でサリーの元へと移動し、続くレーザーを間一髪のところで躱す。

 

怪鳥が追撃のために突撃してくる。

サリーの予測すら間に合わない暴力的で理不尽な速度。

その攻撃がサリーに突き刺さる直前。

 

「【カバー】!」

 

「なっ……」

 

メイプルがサリーと怪鳥の間に立ちはだかる。

僅か1割のHPバーにも関わらず、メイプルはサリーを守るためにこの戦い最後の行動になるだろう選択をした。

 

ただ、そうしたいと思ったからだ。

 

 

怪鳥の爪は【破壊成長】によって頑強になった大盾と鎧を砕き、メイプルの体を引き裂いた。

おびただしい量のダメージエフェクトが飛び散る。

 

正直、もうメイプルは限界だと俺の勘が言っていた。だからこそ、メイプルの今の行動に俺の頭の中はメイプルがやられるということで一杯だった。

 

だからこそ、次の瞬間にサリーの方を見た時に映った光景に驚きのあまり目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

メイプルはまだ倒れていなかったのだ。

HPバーをほんの1ミリだけ残して白いエフェクトを身に纏って立っている。

 

「【跳躍】!」

 

「今だ!烈火、抜刀!」

 

怪鳥が爪を振り抜いたこの一瞬がラストチャンスだと悟ったサリーとセイバーは、メイプルがどうして耐えられたかなどの、メイプルに関する思考の一切を中止してサリーは怪鳥に向かって跳び、セイバーは怪鳥の視線がサリーへと移ったと確信して怪鳥の死角に入った。

 

 

メイプルがそれに高速で追いついてくる。構えた短刀には紫色の魔法陣が輝く。怪鳥は爪を振り抜いた直後で体勢が崩れている。まず、避けられない。

 

 

サリーとセイバーは勝利を確信した。

 

 

しかし、怪鳥の瞳が怪しく輝きメイプルとサリーの間に漆黒の魔法陣が展開された瞬間に、そんなものはまやかしだったと悟った。

2人の顔に焦りとも驚愕とも取れる表情が浮かぶが、空中ではもはや身動きが取れない。

 

毒竜よりも先に撃ち出された漆黒の魔弾。

怪鳥の最後の切り札が2人を飲み込みながら飛んでいく。

 

飲み込まれた2人の姿は儚く消えていった。

 

そう、まるで。

 

 

夢か幻のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のとっておきはどうだった?」

 

魔弾が通り過ぎた一瞬後に空間がぶれてサリーが姿を現す。

最後の最後。

この一瞬のために見せずに取っておいた【蜃気楼】。

それを初めて見る怪鳥はその幻想を見破ることが出来なかった。

 

「【カバームーブ】!」

 

本物のメイプルがサリーまで接近する。

怪鳥が避けれるような時間は存在しないゼロ距離攻撃。さらにセイバーはこのタイミングでメイプルの攻撃に被るように剣を抜いた。

 

「【毒竜】!」

 

「【爆炎紅蓮斬】!」

 

セイバーは後ろから放たれた毒竜に飲み込まれたかと思うとその毒と発動させた紅蓮の炎による斬撃で怪鳥を一刀両断していった。

 

怪鳥は遂にその体を地面に沈めた。怪鳥から溢れ出る白い光が3人を祝福するかのように輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「やった……勝った…」

 

「疲れた…寝たい」

 

「あはは……でも久々に楽しめたなぁ……」

 

ボロボロになった広間に倒れ込みながら3人が呟く。

 

するとセイバーの方でスキル取得の通知が鳴る。

 

『スキル、【毒刃】を取得しました』

 

「およ?また新しいスキル取得したみたいだな。何々、猛毒を纏わせた剣で相手を斬り裂く。取得条件は毒攻撃を剣に纏わせて攻撃し、尚且つそれで相手を倒す事。あ、これ完全にラッキーで得られたスキルじゃん」

 

「そうだ。メイプルのあのスキルなんだったの?最後の攻撃を耐えたやつ」

 

「それは俺も気になった。何だったんだ?」

 

「ちょっと待ってね…【不屈の守護者】っていうスキルで、HPが1割以下の時に味方をかばうと取得出来る大盾専用スキル。一日に一度だけどんな攻撃もHP1で耐えられるってさ」

 

「ああ、なるほど。そういうスキルか……私はレベルが上がったくらいかな…」

 

「俺も、今のスキルとレベルアップを果たし……」

 

「「っていうか今メイプルHP1なの!?【ヒール】!」」

 

2人分の暖かい光がメイプルを包み、HPを回復する。

これで何かの拍子に死ぬことは無くなっただろう。

3人は起き上がって探索を始める。

 

「怪鳥が毒の海の中だから探索はお願い」

 

「俺もパスかな。毒耐性無いし」

 

「え?でも、炎も混ざってるから私だけでいけるかな?」

 

「あ、それなら大丈夫。さっき流水の力で炎を全部消しといたから」

 

「わかったよ。2人はどうするの?」

 

「「鳥の巣を見てくる」」

 

3人が分かれてそれぞれ探索を開始する。

 

宝箱は現れなかったため、何処かにそれ相応の報酬があるはずだ。

メイプルはジャブジャブと毒の海を進み怪鳥がいた所に向かう。

 

「あっ!素材が残ってる!」

落ちていたのはメイプルすらも貫いた大きな黒い爪が四つと真っ白い羽が3枚だ。

いずれも最上級の素材だろうことは予想出来た。

 

「メイプルー!ちょっと来てー!」

 

「凄いのがあるよー!」

 

2人が大きな鳥の巣の中から叫ぶ。

 

メイプルがとことこと走っていくと下から2人に問いかける。

 

「上まで行った方がいい?」

 

「うん!【カバームーブ】で来て」

 

「おっけー!【カバームーブ】!」

 

壁を蹴って跳躍し、2人の元へとたどり着いたメイプルが見たものは3つの卵と、5枚のメダルだった。

 

「これ…怪鳥の?」

 

「いや、3つ共大きさも色も違うし…何処かから拾ってきたとかかも……何の卵かも分からないかな」

 

「これも持って帰れるの?」

 

「そう。インベントリにしまうかどうかの表示が出たし…どれがいい?」

 

「先に選んでもいいの?」

 

「いいよー!好きなのを選べば良いよ。今回の戦いで、メイプルいなかったら俺等即死だったし」

 

卵の1つは深い緑の殻をした卵。1つは白い物、そして最後の1つは真紅の赤い物だった。

 

「じゃあ……緑が好きだからこっちで!」

 

「セイバー、私達はどうする?」

 

「お前が先に選べよ。こういうのはレディファーストって言うだろ?」

 

「セイバーの癖に珍しいこと言うじゃん!」

 

サリー、セイバーの背中をドンと叩いてからニッコリと笑う。

 

「痛てぇ!?何でだよ!!」

 

ったく、何で俺が叩かれるんだよ。まぁ、サリーの笑顔見れたから良いけどさ。

さて、俺も最後の1個をもらいますか。

 

3人が卵の情報を確認する。

 

【モンスターの卵】

温めると孵化する。

 

 

「情報が少ない」

 

「私もそう思う。モンスターが孵化するだけだったら嫌だけど…テイム出来るかもしれないしなぁ…」

 

「俺的にはテイム出来たら嬉しいんだけどなぁ」

 

このゲームにはサモナーもテイマーもいないため可能性は低かったが、怪鳥の討伐難度を考えると特別な報酬かもしれないのだ。

3人は取り敢えず卵も持ち帰ることにした。

 

素材は3人で爪を1つずつと、羽を1枚ずつ。そして先に卵を選ばせてもらったお返しにとセイバーが残った最後の爪をもらうことになった。

3人は巣から降りて魔法陣の元へと向かう。

 

「魔法陣3個あるよ?」

 

メイプルの言うように、現れた魔法陣は3つだ。

全て違う場所に繋がっていると考えるのが妥当だろう。

 

「サリー、セイバーどれがいい?」

 

「【悪食】もないし戦闘の少ないところに行きたいよね…」

 

「俺は対人戦大歓迎なんだけどな〜」

 

「このバトルジャンキー!少しは私達の事も考えなさい!」

 

サリーはセイバーへと拳骨を喰らわせてからしばらく悩みながら歩き回り、1つの魔法陣の前で足を止めた。

 

「これで!」

 

「おっけー!じゃあ行こう!」

 

「ホント、サリーはすぐ殴るなぁ……」

 

3人が魔法陣の中へ入り光となって消えていった。

残ったのはここでの激戦を物語るボロボロの空間だけだった。

 

 

それと同時刻、ゲームを運営する者達が不具合が出ないようにそれぞれイベントを管理している部屋でのこと。

 

「ああぁあぁあああ!!【銀翼】がやられた!」

 

1人の男が叫ぶ。

その声に部屋にいた全員が反応する。

 

「は?【銀翼】?あいつはプレイヤーが倒せるような設定じゃないだろ?」

 

「ああ、殺傷能力の高いスキルを詰め込んだし、HPを高く、MPを高く、ステータスを高く。俺達の悪意の塊だ」

 

「誰だ?誰にやられた?」

 

「今映像を出す……」

男が機械をいじると1つのモニターに映像が流れる。

白く輝く翼の怪鳥。

相対するは黒の鎧の少女と、紅蓮の鎧の少年、青の衣の少女の3人組だ。

 

「メイプルにセイバー!?マジか!?おいおい、流石に【銀翼】は無理なはずだろ!?」

 

「メイプルの方は機動力が、メイプルが青い方を守っているのならセイバーは防御力が足りない筈だ!【地竜】が相手なら分かるが……」

 

ありえない、ありえないという言葉が飛び交う中で戦闘が始まった。

 

 

 

「礫は…まぁそうだろうな」

 

「相変わらず狂った防御力だ」

 

「てか、セイバーの奴あの貫通攻撃の棘をあんな防ぎ方するのか?聖剣3本分持ってかれた影響が響いてるなぁ……」

 

部屋の中の全員が、イベントを管理しつつもその画面をチラチラと見る。

しばらくして問題のシーンが流れる。

 

 

「こいつが問題だ!この青コートがメイプルの機動力になっている!」

 

画面には【カバームーブ】で高速移動するメイプルが映っている。

それは流石に想定外だったようだ。

全員で食い入るように画面を見る。

 

「……そいつは【サリー】AGI重視で、スキル構成は広く浅く。強力なスキルは【蜃気楼】と【大海】だけだ」

 

1人の男がサリーの情報を調べて提供する。

 

「まぁ、普通か。いや、メイプルやセイバーと比べれば何だって普通だ」

 

「確かにな」

 

そう言って苦笑いを溢す全員の前で。

サリーの異常性が姿を現す。

 

 

 

「……前言撤回だ。こいつもヤバイ。もしかするとメイプルよりもヤバイ」

 

「予知系スキルは持ってないんだろ!?」

 

「あ、ああ。持ってない」

 

映像ではサリーが人間とは思えない回避能力で銀翼の攻撃を躱していた。

まるで本当に予知しているかのようなその動きにあちこちから驚きの声が上がる。

 

「どうやって躱してんだ?」

 

「礫が止まっててもあの間を潜るのはきついぞ、おい」

 

 

そして、部屋にいる全員が呆然とその戦いの一部始終を見届ける。

そこで一人がハッとしたように声を上げる。

 

「やべぇ!【幻獣の卵】が持ってかれるってことか!?」

 

「中身はどうなる!?」

 

「狐と亀だ。まぁ…まだましなほうだ」

 

「鳥と狼は?」

 

「【海皇】の所だ。あいつらは彼処からしか出ない様にしてある…まぁ、あれは大丈夫だろ…」

 

「って待てよ?この戦闘のトドメは誰が刺した!?」

 

「セイバー!しかも、火属性の攻撃!!」

 

「嘘だドンドコドーン!!……は?は?ウッソだろおい〜!!」

 

「よりによって3個目の条件満たすなよ!!最後のメイプルがそのまま決めたことにしとけよ!!」

 

「3つ目の中身は?何だったか?」

 

「そ、それが……」

 

運営人、その中身を聞いて全員が気が遠くなりかけ、さらにセイバーがその3個目を持って行ったと知りさらに全員の意識が消えかける。

 

「もうダメだ〜これじゃあセイバーに手をつけられなくなるぞー!!」

 

「てか、このフィールドにもう1本聖剣を実装してなかったか?」

 

「「「「「「あ………」」」」」」

 

「余計な事を言うなよ!!」

 

「まぁ、流石に今のセイバーの3本の剣の力だけで【玄武】を単独クリアするのは無理だろ。あれもあれで銀翼と同じかそれ以上のスペックあるし……まだ【海皇】もいる」

 

そう言うと疲れ切ったように椅子の背もたれにもたれかかる。

 

「あー……ありえねーあれで弱体化後とかありえねー」

 

「おい、手の空いてる奴はメダルスキルにチェック入れ直せ!変な使い方が出来そうなスキルがあるか再確認だ!」

 

「「了解です!」」

 

「………もう、あいつらがラスボスでいいかもしれん……」

 

「ああ…かもな」

その声には疲れが色濃く出ていた。

この出来事をメイプルとサリー、セイバーが知ることは無い。



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聖剣使いと3日目

怪鳥との戦いの後、3人は魔法陣に乗ってダンジョンの外に出た。

【悪食】は無くなっているものの、メイプルは奇襲攻撃に備えて大盾を構える。

 

「大丈夫そう……かな?」

 

3人は周囲を確認する。

周りには廃墟が広がっている。幾つもの倒壊した建物の跡が残っていた。

山岳地帯の位置から察するに、現在地はスタート位置から真逆の位置のようだ。

 

「取り敢えず、いい方向にはこれたかな?」

 

「でも、もう誰かが探索しちゃってるかも」

 

「それでもまたすぐに戦闘するよりはマシでしょ?」

 

「それにまだ2日目だし…隠されているようなところは見つかって無いはず…ここは、多分何もないんだろうね。魔法陣の転移先だし」

 

流石に、運営がメダルの目の前を移動先にするはずが無いだろう。

安全な場所を探しつつ、一応探索することに決めて、3人は廃墟を歩き回る。

 

「…プレイヤーが3人いる。どうする?」

 

「出来れば戦いたくないかな……【悪食】も無いし…負けたらまずいし」

 

「分かった。じゃあ、こっちに行こう」

 

3人は廃墟を抜けてこっそりと森の中へと入っていく。

出てくるモンスターは蜘蛛や梟だった。

怪鳥の後でモンスターを見れば、どんなモンスターも雑魚に見える。

動きは鈍く、攻撃力も無く、HPも少ない。

 

「楽勝、楽勝」

 

「あーあ、あの怪鳥と戦うのが面白すぎたせいでちょっとつまらないなぁ」

 

森の中を進んでいく。探すのは安全に一夜を過ごせる場所だ。登山にかなり時間をかけてしまったためにもう日も落ちかけている。

3人はモンスターを倒しつつ森の探索を続ける。

 

「むぅ……何も無いなぁ…」

 

メイプルの言う通り、周りにはただの森が広がるばかりで特別な建物や洞窟などは無さそうだった。

 

「取り敢えずちょっと高い木の上にでも登っておこう。地面にいるよりはマシだと思うから」

 

サリーは枝が高い位置にしか無い木を選んで【跳躍】で飛び上がり、セイバーもその後を追う。

 

「【カバームーブ】!」

 

さらにメイプルが移動して木の上に辿り着く。

枝が低いところに無いため好き好んで登ってくるプレイヤーもそうそう現れないだろう。

3人は幹に背中を預けて一息つく。

そうすると、怪鳥との戦闘での疲れがどっと襲ってきた。

 

「サリー…12時を過ぎれば【悪食】は回復するけど。どうする?」

 

つまりメイプルが言いたいのは、12時まで少し休憩した後で夜中の探索をするかどうかということだ。

先日の樹海の件もあり、時間帯によって発生するかどうかが決まっているイベントもあることだろう。

3人の目標はメダル30枚だ。

そのためには多くのことを試さなくてはならないし、探索出来るところは探索しきる必要がある。

しかも、他のプレイヤーよりも早くなければならない。

イベント終盤になってから焦って探索するようでは駄目なのだ。

 

「メイプルが行けるなら」

 

「うん、じゃあ…12時を過ぎたら探索を再開しよう!」

3人はレベルアップで手に入ったステータスポイントを振ることにした。

 

「そうだなぁ…AGIとSTRかな?」

 

「VIT一択!」

 

「うーん。一応防御力をもう少し欲しいからVITかな」

 

セイバー 

 

Lv28

HP 175/175

MP 180/180〈+30〉

 

【STR 45〈+70〉】

【VIT 40〈+70〉】

【AGI 40〈+70〉】

【DEX 10】

【INT 30〈+40〉】

 

装備

頭 【紅蓮のヘッドギア】

体 【紅蓮の鎧】

右手【火炎剣烈火】

左手【空欄】

足 【紅蓮の鎧】

靴 【紅蓮の靴】

 

 

 

装飾品 

【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

 

 

 

スキル

 

【剣の心得Ⅴ】【気配斬りⅡ】【気配察知Ⅲ】【火魔法Ⅴ】【水魔法Ⅴ】【風魔法I】【土魔法I】【光魔法II】【闇魔法I】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅶ】【水泳Ⅶ】【ディフェンスブレイク】【MP強化小】【MP回復速度強化小】【状態異常Ⅱ】【毒刃】

【火炎砲】【爆炎放射】【火炎激突】【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】【紅蓮爆龍剣】【火属性無効】【極炎】【フレアジェット】【消費MPカット(火)】

 

 

メイプル

Lv26

HP 40/40〈+160〉

MP 12/12 〈+10〉

 

【STR 0】

【VIT 175〈+141〉】

【AGI 0】

【DEX 0】

【INT 0】

 

装備

頭 【空欄】

体 【黒薔薇ノ鎧】

右手 【新月:毒竜】

左手【闇夜ノ写:悪食】

足 【黒薔薇ノ鎧】

靴 【黒薔薇ノ鎧】

装飾品 【フォレストクインビーの指輪】

【タフネスリング】

【命の指輪】

 

スキル

【絶対防御】【大物喰らい】【毒竜喰らい】【爆弾喰らい】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【大盾の心得Ⅳ】【体捌き】【攻撃逸らし】【シールドアタック】

【HP強化小】【MP強化小】

【カバームーブI】【カバー】

【不屈の守護者】

 

サリー

Lv21

HP 32/32

MP 25/25〈+35〉

 

【STR 30〈+20〉】

【VIT 0】

【AGI 85〈+68〉】

【DEX 25〈+20〉】

【INT 25〈+20〉】

 

装備

頭 【水面のマフラー:蜃気楼】

体 【大海のコート:大海】

右手 【深海のダガー】

左手 【水底のダガー】

足 【大海のレギンス】

靴 【ブラックブーツ】

装飾品 【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

スキル

【状態異常攻撃Ⅲ】【スラッシュ】【ダブルスラッシュ】【疾風斬り】【筋力強化小】

【連撃強化小】【ダウンアタック】【パワーアタック】【スイッチアタック】【体術I】

【短剣の心得II】【器用貧乏】【ディフェンスブレイク】【超加速】

【火魔法Ⅰ】【水魔法Ⅱ】【風魔法Ⅱ】

【土魔法Ⅰ】【闇魔法Ⅰ】【光魔法Ⅱ】

【ファイアボール】【ウォーターボール】

【ウォーターウォール】

【ウィンドカッター】【ウィンドウォール】

【サンドカッター】

【ダークボール】

【リフレッシュ】【ヒール】

【MP強化小】【MPカット小】

【MP回復速度強化小】【魔法の心得II】

【釣り】【水泳Ⅹ】【潜水Ⅹ】【料理I】

【採取速度強化小】【気配遮断II】

【気配察知II】【しのび足I】【跳躍I】

【毒耐性小】

 

セイバーはステータスに【VIT+5】とスキルに【毒刃】が追加され、更に【剣士の心得】がⅤに進化している。

メイプルはステータスに【VIT+5】と【破壊成長】によりさらに【VIT+60】だ。

スキルには【不屈の守護者】が追加されている。

サリーはステータスに【AGI+5】と【STR+5】である。

メイプルとセイバーはサリーから渡された食べ物を受け取って食べる。

12時に向けて体を休めておかなければならない。

 

 

 

モンスターが動く音すら無くなってきつつある真夜中になって二人は木から降りてきた。

【悪食】も回復しているため戦闘準備もバッチリだ。

それに伴いメイプルは大盾を白雪に変更している。無駄遣いを避けるためだ。

 

「森か、廃墟か。どっちにする?」

 

「うーん…森で!廃墟はさっきプレイヤーがいたしもう探索されてそう」

 

「うん。じゃあ森で」

二人は森を奥へ奥へと進んでいく。

時折、梟が音もなく突撃してくるがサリーは持ち前の回避力で容易く躱し、セイバーは叩き斬り、メイプルはどうせノーダメージと無視している。

そして、森を彷徨うこと1時間半。

 

 

「ねぇサリー?あそこ…光ってない?」

メイプルに言われてサリーが眼を凝らす。

メイプルの言う通り、かなり前方に僅かに光が見えた。

 

「プレイヤーかもしれないから…慎重に」

 

「分かった」

二人が息を殺して近づく。

サリーに至っては【気配遮断】まで使う念の入れようだ。

 

「これは……」

 

「……竹?」

そこにあったのは竹林。

そしてその内の一本の一部が僅かに輝いていた。

 

「ど、どうする…?割ってみる」

メイプルがサリーに聞く。

 

「中から人が出てきたらすっごい困るんだけど……」

 

「これ、かぐや姫か何かじゃないよな?」

 

「でも…メダルかもしれないし…探索で手に入るメダルもあるんでしょ?」

3人はしばらく話し合った後で、結局割ることに決めた。

サリーがダガーを振り抜く。

 

竹がスパッと切れて輝きを増す。

危惧していたようなことは起こらず。

中に入っていたのは銀色に輝くメダルが1枚だ。

 

「やった!面倒なことにならなくて、メダルもゲット!」

 

「よっし!これで後22枚!」

 

「まだ先は長そうだけどな〜」

 

それから喜ぶ3人だったが、面倒ごとが無いというのは間違いだった。

周りの茂みがガサガサと音を立て始め、長い角の生えた兎達が次々に飛び出してきたからだ。

 

「月の兎か?」

 

「かもね……あの角、貫通攻撃かも。気を付けて」

 

「了解!」

 

3人は戦闘準備をする。

メイプルもゲーム開始当初と比べれば随分と普通のプレイヤーらしくなってきた。

といってもステータス以外の話だ。

 

兎など怪鳥と比べれば可愛いものである。

3人は目の前の飛びかかってくる兎達との戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

しばらくして戦闘が終わった時には、竹林だった場所は炎と毒の海に変わり、真っ直ぐに伸びた竹は途中でスッパリと切り落とされているという酷い状況だった。

兎の1匹1匹は大したことは無かったのだがその数が凄まじかったのだ。

 

「か、数が多すぎるよ…」

 

「100?……200?疲れた…」

 

「戦闘力は低いのに馬鹿みたいに多すぎるんだよ……」

 

竹林内を自分の庭のように駆け回る兎達を倒しきるのは中々に骨が折れるものだった。

 

「どこかの木の上で休もうか…」

 

「うん…賛成」

 

「はぁ……結局成果はメダル1枚だけかぁ……」

 

まだ、イベント三日目は始まったばかりだと言うのに早速3人は疲労を溜めてしまう結果となった。

それから木の上で交代で眠った3人は日が昇り始めた頃に木から降りてきた。

かなり森の奥に来ているため、次の探索箇所を探すのは大変そうだ。

 

「メイプル。どっちに行きたい?」

 

「じゃあ……真っ直ぐ進んで森を突っ切っていこう!」

 

「了解。じゃあそれで行くか」

 

3人は廃墟とは逆方向へと森を突き進む。

30分程進んだところでサリーがメイプルに小さな声でこっそりと話しかける。

 

「メイプル。背後、右の茂みに私達を狙ってるプレイヤーがいる」

 

「ホントだ。あれで隠れているつもりなのかな?」

 

サリーは【気配察知】とは別に、茂みから発生する音や鎧が生み出す金属音をも利用してモンスターやプレイヤーの居場所を探知しているのだ。

3人は怪しまれないように、歩きながら小声で会話を続ける。

 

「多分そこまで強くないけど…私達の隙を狙ってる」

 

「取り敢えず、捕獲しようか?」

 

「出来る?」

 

「うん」

 

簡潔に返事をすると僅か数センチだけ新月を鞘から抜く。

 

「【パラライズシャウト】」

 

静かな森の中にキィンと澄んだ納刀音が響いていく。

背後の茂みから呻くような声が聞こえる。

 

「どう?」

 

「完璧。流石!」

 

3人で問題の茂みへと近づいていく。

そこには3人のプレイヤーが強力な麻痺を受けて倒れていた。

 

「返り討ちになる覚悟を持って、またいつかお越し下さいっと!」

 

「お前らじゃ楽しめない。また次は強くなって挑戦しろよ〜」

 

サリーとセイバーの攻撃があっさりと3人のプレイヤーを沈める。

メダルは無しだ。

 

「メイプルやセイバー狙うのは無謀だと思うんだけどなぁ…私なら絶対狙わないよ……」

 

これでイベントが始まってからのプレイヤーとの遭遇は4回目だ。

そのうち2回は戦闘になったが、大したことのない相手だったため特に何の問題も無かったのだ。唯一、強敵だっただろうクロム達のパーティーは戦うことが無かったので、まだ対プレイヤーで苦戦したことはない。

 

「今日を含めて後5日…どこかで強力なプレイヤーに出会うかもしれないね」

約2日で4回遭遇したのなら単純計算でこれから10回遭遇することになる。

 

その内の1度が前回のイベントのランキング上位のプレイヤーになるかもしれない。

気を引き締めていないといつ襲われてもおかしくないのだ。

そう。彼らもまた、3人と同じような実力を持っているのだから。

 

 

 

森を進むことさらに1時間。

太陽が木々の隙間から光を届けてくれるようになってきた頃。

ようやく、森の外の景色が見えてきた。

 

「おー……」

 

「すご……」

 

3人の前に広がるのは渓谷だった。

3人がいるのはその最も高い崖の上だ。

草木が生い茂り、小鳥の声が聞こえる。

谷底は深い霧に覆われていて、全貌は把握出来ない。

もしここを探索するというのならば、まずはどうにかして下まで降りなければならないだろう。

 

「ここ、誰かが探索してるかな?」

 

「分からないけど…この大きさなら探索し忘れてる場所もあるんじゃない?」

 

メイプルの言うように、この渓谷はかなりの大きさだった。

今3人がいる所から一番下までは間違いなく100メートル以上はある。

その上、横幅も広い。

こちらも100メートル以上は軽くあるように見える。

 

「そうだね。じゃあ、どうにかして降りてみようか」

 

「俺は【フレアジェット】使って先に降りるからサリー達はゆっくりと降りてきなよ」

 

そう言ってセイバーは【フレアジェット】を発動して降りていった。

 

サリーがしばらく目の前の崖を確認して足場になりそうな場所を探して少しずつ降りていく。

 

「うーん…メイプルが乗れそうな足場が無いなぁ…」

【カバームーブ】の届く範囲は限られているのだ。メイプルは自力で崖を降りることは出来ないため、サリーが近くの大きめの出っ張りを探しているのだが、そんなものは無さそうだった。

 

「うーん…取り敢えず、着地出来そうな所があったら合図して!無さそうなら、下まで降りちゃって構わないよ!」

 

メイプルが時間を確認しているのか、青いパネルを見つつ言う。

 

「えっ?…わ、分かったー!」

サリーがひょいひょいと降りていくが、メイプルの乗れそうな足場はどこにも無い。

サリーは2時間近くかけて崖を降りきってしまった。

 

「結局下まで降りてきちゃったし…もう一度メイプルにメッセージを送って…」

 

「遅いなぁ。俺は約2分で降りられたぞ?」

 

「それはアンタのスキルのお陰でしょ?私はそれ無いんだけど!」

 

因みに、サリーは降りている途中も、時々メイプルに現在地点を教えていたのだ。

今回は降りきったことを報告するためのメッセージを送ったのだ。

サリーがメッセージ送って1分もしない内にメイプルからメッセージが返ってくる。

 

『ちょっとだけ、離れてて!』

 

「な、何をする気だろう…」

 

「何か嫌な予感する……」

 

サリーは了解と返事をすると、言われた通りに少し離れ、木の上からメイプルの動向を見守ることにした。

 

「うわぁ…何あれ……」

 

「うん、やっぱり普通には降りてこないよな?」

 

2人がが崖の上に見つけた物は直径10メートルはあろうかという紫色のボールである。

 

それはサリーの見守る中で。ゆっくりと前に転がって、崖から落ちた。

ぶつかった崖の一部を見るも無惨な溶けた姿に変えて、少しずつその大きさを小さくしながら落ちてくる。

そしてそれは地面に辿り着くと落下の衝撃でその一部を弾けさせ周りに紫のねばついた液体をぶちまけた。

 

「め、目が回るぅ〜………」

 

ぐちゃぐちゃになった球体の中心からメイプルがふらふらと出てきた。

サリーは木から降りるとメイプルに近づく。

と言っても毒々しい液体には触れないようにしているため隣までは近づけない。

 

「で?あれは何?」

 

「おそらくだけど毒のカプセルか?それで衝撃を抑えたんだろ」

 

「うん……あれは【ヴェノムカプセル】って言って…毒のカプセルで対象を閉じ込めて……出てこれなくするスキルだよ」

 

閉じ込めると言うだけあって耐久性はかなりのもののようだ。

目が回っているためかメイプルの話し方に元気は無かったが、本来の使い方でないことはサリーにも理解出来た。

 

「あ、【毒無効】がないとじわじわHPが減ってじっくりやられるからサリーもセイバーも使う時は注意してね?」

 

「いや、使わないから」

 

「それにあんなやり方するのメイプルだけだし」

 

次第に元気を取り戻したメイプルがやっとまともに歩けるようになったため、3人は谷底を目指して歩き出した。

 

 

まだ傾斜は続いており、ところどころで大きな段差がある。濃霧で前がよく見えないためそういう段差が非常に危険だ。

 

「前が全然見えない…」

 

「これなら…見逃してるメダルがあるかもしれないね。奇襲と、あと段差に気をつけてねメイプル」

 

「うん!分かった」

 

「最悪俺は気配察知持ちだし、来たらすぐわかるから」

 

ただ、メイプルのHPを削る段差などそうそうないだろう。

そのためには目の前に崖を用意しなくてはならない。

数メートル先すら見えない濃霧の中を慎重に進んでいく。

 

「んー?水の音がする…?」

 

「えっ?……本当だ!近くに水場があるのかな?」

 

「丁度良い。そこに行こうぜ」

 

3人は水の音のする方へと進んでいく。

途中に出てきた蝙蝠型のモンスターははっきり言って雑魚だった。

この辺りの敵のレベルはそれ程高くないようである。

 

「あった!」

目の前には小さな川があった。

透き通ったその川に、僅かな段差から水が流れ落ちて音を立てていたようだ。

 

「見て、あそこ!」

メイプルが指差す先。岩肌に亀裂が入っていて洞窟になっているのが辛うじて分かる。

3人はダンジョンかもしれないと、近づいてその中に入ってみるが、奥行きはさほど無くモンスターの形跡もないただの大きな裂け目だということが分かった。

 

「…ここを拠点にしようか。渓谷探索には時間がかかりそうだし」

ただの裂け目とはいえ、サリーの言う通り拠点にするには十分な条件だ。少なくとも木の上よりは遥かにいいだろう。

 

「うん。賛成!あと…卵のことも確認してみないとね」

 

「ああ、そっか。暖めてあげないとダメなんだっけ」

 

「どんなのが孵るのかなぁ」

 

3人は洞窟を拠点に決めて少し休息を取ることにし、それと同時に、卵についても確認することに決めたのだった。




次回は卵についての回になります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと卵孵化

今回はタイトル通り卵回となります。それではどうぞ!


3人が洞窟に入ると早速岩壁の裂け目の中で座りこんで卵をインベントリから出しつつサリーが言う。

 

「さてと、まずは卵かな?」

 

「これって、しまっておかないと消えちゃったりしない?」

 

メイプルがサリーやセイバーに聞いてみる。

装備やポーションなどのアイテムはインベントリから出して2時間放置しておくと消えてしまうのだ。

 

「多分大丈夫だろうけど、念のために、2時間経つ前に1回しまうことにしよう」

 

もう1度手に入れることなど出来ないだろうこの卵を失うわけにはいかないのだ。

 

「うん、そうしよう」

 

「これ、どうやって温めるの?」

 

「んー…やっぱり人肌?」

 

「まぁ、中身にもよるけど温めるのならそれが良いのかな」

 

メイプルが鎧と大盾を外して、深緑の卵を優しく持ち上げて抱く。

 

「どんな子が生まれてくるんだろうね?」

 

誕生の時が待ち遠しくて仕方ないという風に笑顔で卵の表面を撫でる。

サリーやセイバーもメイプルと同様にして卵を温める。

 

「大事なのは愛情だよ!愛情!」

 

「まぁ、確かに」

 

「あながち間違ってないけど、女子の2人ならともかく俺もやるのか?」

 

「仕方ないでしょ?それとも、セイバーは卵が孵らなくても良いとか思ってる訳?」

 

「それは無い」

 

「でしょ」

 

3人はそれぞれ卵を撫でながらこれからの探索の予定を立てる。

 

「まずはあの川に沿って探索しよう。それなら拠点にも戻ってこれるしね」

 

酷い濃霧で前もまともに見えない中で目印になるものが無ければすぐに迷ってしまうだろう。

ただでさえ奇襲の多いフィールドなのだから休息を取ることの出来る場所を失えば、いずれ集中力が切れて攻撃をまともに受けてしまうだろう。

 

メイプルやセイバーにとってはどうということはない攻撃ではあるが、サリーにとってはそうではないのだ。

HPの少ないサリーは一撃でやられてしまうかもしれない。

回避にはかなりの集中力を使うのだ。

その疲労は計り知れない。

 

「おっけー!川沿いだね」

 

それから1時間程卵を暖めたものの、結局今回は孵化することは無かった。

2人は卵をインベントリにしまって、探索に出かけることにした。

 

 

「よーし!メダルを探しに行こう!」

 

「「おー!」」

 

意気揚々と探索を開始した3人は川の上流を目指して歩いていく。

サリー曰く。

 

「こういうのは流れ始めてる場所に何かがあることが多いと思うんだ」

 

メイプルも確かにそうかもしれないと納得する。自分が何かを設置するなら何か意味のある場所にすると思ったからだ。

何かの始点や終点はそれにちょうどいい。

 

「何があるか楽しみだなぁ」

 

「絶対に何かある訳じゃないからそこだけ注意ね?」

 

「うん!分かった」

 

上流を目指しているため、次第にごつごつとした岩が増え始めて歩くことが困難な地形になっていく。

 

「メイプルー【カバームーブ】で登ってきてー!」

 

「了解!【カバームーブ】!」

 

メイプルが登りにくいような起伏はサリーとセイバーが先行し、メイプルが【カバームーブ】をすることによって乗り越える。

 

そうやって進むこと1時間。

拠点の位置が元々上流寄りだったためか、3人の想定よりも早く辿り着くことが出来た。

そこにあったのは直径3メートル程の澄んだ泉だった。

綺麗な円形のそれは3人に神秘的な泉という第一印象を与えた。

濃霧も神秘的な雰囲気を作り出す一つの要素となっている。

 

「結構…深そう」

 

サリーが泉を覗き込んで呟く。

泉は大きさはそれほどでも無かったが深さはそこそこありそうに見える。

 

「潜ってみる?」

 

「やってみる価値はあると思う。【潜水】と【水泳】を持ってるプレイヤーは少ないと思うから…ここに来ても見逃してるかも」

 

残念ながらメイプルは潜ることが出来ないため、ここでサリーとセイバーの帰りを待つことにした。

 

「いってらっしゃい!」

 

「うん、いってくる!」

 

「良し、行くか。流水、抜刀!」

 

サリーとセイバーが泉に入り、一気に潜水していく。

光の届かない静かな水中を真下へ真下へ突き進んでいく。

 

そして泳ぐこと10分。泉の底に2つのボロボロの宝箱が沈んでいるのを発見した。

罠を警戒しつつ、2人が慎重に宝箱を開ける。

中に入っていたのは銀色の杖だった。先端には赤と青の宝石が嵌め込まれている。

 

もう1つを開けるとそこには真空パックに入った古い本があった。

 

それからメダルなどが無いかどうかの最終確認を終えると2人は水面に向かい浮上していった。

 

 

「はぁっ!よっ、と!」

 

「うー。中々に疲れるなぁ」

 

バシャバシャと水音を立てつつ2人が泉から上がってくる。

 

「どうだった?」

 

「ハズレ。中にあった装備は杖だけ」

 

「うー…そっかぁ……性能は?」

 

「ちょっと待ってね………【水魔法強化】と【火魔法強化】がついてるくらいかな」

 

「取り敢えずはいらないね」

 

「俺も杖はパスだな」

 

「そういえば装備はハズレって言ったけどそれ以外に何かあったの?」

 

「まぁ、この古い本があったって言う感じ。中身は何かの伝承みたいなのがあって、その中には“古より四聖獣の一角を担いし強靭な鎧の神獣、砂の迷宮に潜み侵入者を何人たりとも生きて返さない”としか無いんだよね。後は“その絶対装甲の鎧、何人たりとも崩せた物は無し”とかぐらい」

 

「えぇー。それを相手する事になったらもしかするとメイプルじゃ相性悪いかも。だって装甲って言ったから多分大分硬いモンスターだろうし、毒が効かなかったらお手上げだよ」

 

「まあ……そうなるよね……。どうする?まだどこか探索するか?」

 

「うーん…じゃあ拠点に戻りながら近場を確認する感じで」

 

「じゃあそれでいこう。これだけ大きい渓谷なんだし、もう1つくらい何かがあってもおかしくないね」

 

3人は注意深く拠点までの道程を行く。

途中、川を見失わない程度に川の両側を探索したものの、結局何かを見つけることは出来なかった。

 

そして、そうこうしている内に拠点としていた裂け目の場所まで戻ってきてしまった。

 

「どうする?下流へ向かってみるのもアリだと思うけど…ちょっと大変かな」

 

「そうだなぁ……なら今日は卵の孵化に専念するっていうのはどう?」

 

サリーとセイバーは濃霧の中で常に警戒を最大にしておくことと、【潜水】での探索をしたことで少なからず疲労していたようで、メイプルの提案を受け入れた。

 

 

「卵、卵っと…あったあった」

 

「よっ、と」

 

3人ともインベントリから卵を出して、それを抱きつつ撫でる。

 

「あー…つるつるで触り心地がいいー…」

サリーが岩肌にもたれかかりながら呟く。

出来のいい陶器のような手触りにメイプルもいつまでも撫でていたいと思った。

 

「中々孵化しないねー」

 

「まあ、そんなすぐに孵化するようなものでもないでしょ」

 

たまにインベントリにしまっては、出して暖めるのを繰り返すこと3時間。

3人は雑談しつつそれぞれ卵を撫でる。

 

「何が生まれてくると思う?」

 

「私のは白でメイプルのは緑でしょー…んー……メイプルのは草食動物でも生まれるんじゃない?鹿とか」

 

「卵から…鹿?」

 

「モンスターならありえそうだな。何が生まれてくるか全く分からないなぁ」

 

セイバーの言う通り、ゲームの世界なら設定さえすれば何だって卵から生まれることが出来るだろう。

 

「可愛い子だったらいいなぁ…」

 

メイプルは色々な動物を思い浮かべる、可愛い生き物は沢山思い浮かぶ。可愛くない生き物も同じくらい思いついたが。

特に、一部の昆虫は遠慮したいところだ。

 

「私のは何が生まれるかな?」

 

サリーの卵は白色だった。

メイプルはその卵から生まれてきそうな生き物を想像する。

 

「白、白……んー?………白蛇?」

 

「あー…それは、ちょっと遠慮したいなぁ」

 

白蛇生まれてきた場合、一緒に戦うようになったとして、毒を使おう物ならサリーの周りが毒浸しでサリーが動けなくなるのは必至である。

 

「白蛇かぁ…出来ればもうちょっと穏便そうなのが良いなぁ」

 

「セイバーは赤いのだから……何だろ?」

 

「インコとか狐とかかな?」

 

「うーん。ちょっと微妙かな。俺的にはもうちょっと強そうなのが良い」

 

3人は卵の中身に想いを馳せる。

これがいい、これは嫌だと、わいわい話しつつ卵を愛情を込めて暖める。

なんだかんだ言っても、3人は生まれてきたならばどんなモンスターでも優しくしてあげようと思っていた。

 

 

 

 

その想いが届いたのか。

 

 

3人の卵にピシッとヒビが入る。

 

 

「「「うわっ!?」」」

 

「ど、どどどどうする!?」

 

「と、ととと取り敢えず地面に置いて!」

 

「2人共、慌てすぎ……」

 

3人は安定した地面に卵を置くと寝そべるようにして卵を見つめる。

 

そしてついに卵が割れて。

 

中から3匹のモンスターが姿を現した。

 

「おー!」

 

「生まれたねー!」

 

「生命の神秘って感じだな」

 

3人個が嬉しそうに笑う。

深緑の卵から生まれてきたのは卵より少し小さいくらいのサイズの亀だった。

卵と同じ深緑の体をしていて動きはゆっくりとしている。

白の卵から生まれてきたのは雪のような白の体毛を持つ狐だった。

狐は体の感覚を確かめるように数回伸びをすると、紫色の炎をふわりと宙に浮かべて自分の魔法を眺め始めた。

そして真紅の赤い卵から生まれたのは赤い龍だった。背中にはオレンジの毛が生えており、生まれて間もないにも関わらずすぐに飛べるようになった。

 

「おおー…卵から狐かぁ……予想外だった」

 

「モンスターだからその辺は関係ないのかもね」

 

「やっぱ生まれたてって可愛いな」

 

3人が話していると亀はメイプルに、狐はサリーに、龍はセイバーに近づいていく。

3人が恐る恐るモンスターを撫でてみると3匹は気持ちよさそうに目を細めた。

 

それと同時に卵が薄く輝き始める。

その輝きは次第に強くなり、3つの卵の殻はそれぞれ白の指輪と緑の指輪、赤の指輪に変わった。

3人はそれを手を伸ばして拾う。

 

「アイテム名は……【絆の架け橋】。これを装備することで一部のモンスターとの共闘を可能にする…だって!…これはもう外せないかなぁ」

 

サリーの説明は指輪の最も重要な能力のことだけだった。メイプルとセイバーも自分の目で見てその能力を確かめる。

 

【絆の架け橋】

装備している間、一部モンスターとの共闘が可能。

共闘可能モンスターは指輪一つにつき1体。

モンスターは死亡時に指輪内での睡眠状態となり、一日間は呼び出すことが出来ない。

 

死亡時に即消えてしまう訳では無かったため3人は安心する。

そんな仕様だったなら迂闊に戦闘に出せないところだった。

 

「むぅ…指輪かぁ。装飾品枠はいっぱいだから【フォレストクインビーの指輪】を外そうかな。HP回復は【瞑想】でも出来るし」

 

3人が指輪をはめると亀と狐はそれぞれ自分の主人へと嬉しそうに体を擦り寄せる。ただ、龍はセイバーの元へは積極的に擦り寄せる事は無かった。

 

「あはは、くすぐったいよー!」

 

「んー…もふもふー……」

 

「あれ、2人と比べてあんまり甘えてこない。やっぱ龍はプライドが高いのかな?」

 

すると龍はセイバーに向けて火を吹き、セイバーは顔が黒焦げになった。それを見て龍は嬉しそうに飛び回る。

 

「この龍まさかの悪戯っ子なのか!?」

 

そうして戯れていた3人だったが、サリーがあることに気付いた。

 

「この子のステータスが見れるようになってるね」

 

指輪の効果なのだろう、自分のステータス表示の下にもう一つステータスがある。

3人はその内容を確認する。

 

 

ノーネーム

Lv1

 

HP 250/250

MP 30/30

 

【STR 30】

【VIT 150】

【AGI 15】

【DEX 10】

【INT 20】

 

スキル

【喰らいつき】

 

 

 

ノーネーム

Lv1

HP 80/80

MP 120/120

 

【STR 10】

【VIT 15】

【AGI 70】

【DEX 75】

【INT 90】

 

スキル

【狐火】

 

ノーネーム

Lv1

 

HP 180/180

MP 70/70

 

【STR 65】

【VIT 65】

【AGI 60】

【DEX 30】

【INT 60】

 

スキル

【火炎放射】

 

上が亀、真ん中が狐、下が龍のステータスだ。

モンスターの子どもなだけあって生まれたてでもステータスがある程度確保されている。

 

「ノーネームってことは…名前をつけてあげないとだね!」

 

「そっか、それもそうだね」

 

「どんな名前にするかな……」

 

3人は慎重に名前を考える。

しばらく考え込んでいる間はモンスター達はじゃれあって遊んでいた。

モンスター仲は良好のようだ。

 

「よーし決めた」

 

「うん、私も!」

 

「俺もだ!」

 

3人は名前を思いつくとそれぞれのモンスターの元へ近づく。

3人はしゃがみこんでモンスター達に目線を合わせる。

 

「亀さんの名前はシロップ!むふふ…私と合わせてメイプルシロップだよ!」

 

意味もなく得意げになるメイプルだった。

亀は名前が気に入ったのかその体をまた擦り寄せてくる。

1人と1匹が楽しそうに戯れていた。

 

「じゃあ…朧(おぼろ)でどう?駄目?」

 

サリーが狐に尋ねるように言う。

狐は満足しているようで、ぴょんと跳び上がるとサリーの首元に巻きつくようにしがみついた。

サリーの首元はマフラーと狐でもこもこである。

 

「お前の名前はブレイブ。初めて俺が戦ったドラゴンの面影を感じるし、そいつの名前もブレイブドラゴンだったからさ」

 

するとその龍は嬉しそうに飛び回りながらセイバーの顔に再び炎を吹きつけた。

 

「ぐはっ!!……まさかと思うけど、それがお前なりのスキンシップなのか?」

 

ブレイブは鳴きながらセイバーに頬を擦り寄せる。

 

和やかな雰囲気が流れていた中、メイプルが急に叫んだ。

その目の前にはステータスの表示されている青い画面が浮かんでいる。

 

「あ、あれ!?も、もしかして…」

 

「ん?どうかした?」

 

「あ、メイプルが叫んだ理由、何となくわかった」

 

サリーが不思議に思って近づき、画面を覗き込む。

 

「えっ!?あっ、み、見ないで!」

 

「んー…ああなるほど……」

 

サリーが画面を見れたのはほんの5秒程だったが、メイプルの考えていることは理解できた。

メイプルが開いていたのはシロップのステータスで、特にその一点を凝視していたため、観察眼の鋭いサリーはメイプルの見られたくなかったものが分かった。

 

「メイプル…亀よりもAGIが低いだなんて」

 

「うぐぅっ!!」

 

シロップは【AGI 15】メイプルは【AGI 0】である。

 

「亀とメイプル……」

 

「うさぎとかめみたいに言うなぁ!競争したら流石に勝てるよ!足の長さが違うもん!」

 

「じゃあ…やってみる?」

 

「えっ…………ち、ちょっと遠慮しておこうかなぁ〜。あははは……」

 

「まぁ、もし負けたら立ち直れないもんな」

 

そんなことになれば防御極振りを捨てて【AGI】にステータスを振ってしまう。

 

わざわざそんなことをする必要はないだろうとメイプルは考えてそう言ったのだが、そんなのはただの逃げでしかないといえばそれまでである。

 

「ステータスは、育ての親にある程度似るのかな?メイプルとシロップは両方防御特化だし朧は敏捷が高いし。それにブレイブはバランスタイプだし」

 

「かもしれないね」

 

「てか、やっぱブレイブは龍だけあって他の2匹よりも基礎ステータスの合計は高いのな」

 

3人はさらに3匹のステータスを見ていく。

 

「装備はつけられないけど…レベルは上げられそうかな?」

 

「レベルを上げればステータスポイントが貰えるのかな?それとも、勝手にステータスが伸びるのかな?」

 

「後者だとステータスを振る手間が省けるけど、前者なら自分好みの成長が出来るからどっちかっていうと俺は前者が良いかな」

 

その辺りの情報は指輪の説明に載っていなかったため分からないのだ。

 

「とりあえずレベルを上げてみる?」

 

「うーん……やられちゃったら嫌だし…」

 

サリーが首元から頭の上に移動した朧を触りながら言う。

 

「じゃあ私がモンスターを捕獲してくるっていうのはどう?」

 

「名案…かな?しばらくはそれでレベルを上げてみよう」

メイプルはシロップに待っててねと言って、頭を撫でてやると裂け目から出てモンスターの捕獲に向かった。

 

 

 

 

 

 

それから10分。

メイプルが両手に蝙蝠を3匹持って戻ってきた。

麻痺しているのだろう、蝙蝠は身動きが取れないようだった。

メイプルはそれを地面に置く。

 

「えっと……シロップ!【喰らいつき】!」

 

「朧!【狐火】!」

 

「ブレイブ!【火炎放射】!」

 

シロップが蝙蝠の体を喰いちぎる。

朧が紫色の炎で、ブレイブは赤い炎で蝙蝠を焼く。

赤いエフェクトが裂け目の中を照らし、蝙蝠が光となって消えていった。

 

「あー…レベル上がってない」

 

「こっちもそう」

 

「多分…この子達はかなり強いモンスターの子どもだと思う。だから必要経験値も多いんじゃないかな?」

 

蝙蝠を倒せば、レベル1のプレイヤーなら確実にレベルが上がっているだろう。

 

「もっと必要かな?」

 

「お願いしていい?私は捕らえるスキルが無いから……」

 

「出来るなら俺の分も。俺の技だと多分捕獲出来ずに秒殺しちゃうから」

 

「うん!適材適所ってやつだね!でも、私がいないうちに何かあった時はシロップを頼んだよ?」

 

「きっちり守り抜くよ!」

 

「りょうかーい!」

 

2人の返事を聞いて、メイプルは再び外へと向かった。

メイプルが帰ってきたのは20分後。

合計12匹の蝙蝠を抱えるように持って帰ってきた。

 

「なんて言うか、親鳥の気分」

 

「やってることは親鳥と変わらないしね」

 

「これで成長するかな?」

ドサドサと蝙蝠を地面に落とす。

シロップと朧にそれを4匹ずつ倒させると3匹ともレベルが2に上がった。

 

 

シロップ

Lv2

 

HP 300/300

MP 30/30

 

【STR 35】

【VIT 180】

【AGI 15】

【DEX 10】

【INT 20】

 

スキル

【喰らいつき】【甲羅防御】

 

 

 

 

Lv2

HP 85/85

MP 130/130

 

【STR 15】

【VIT 15】

【AGI 85】

【DEX 80】

【INT 95】

 

スキル

【狐火】【火柱】

 

ブレイブ

Lv2

 

HP 200/200

MP 80/80

 

【STR 70】

【VIT 70】

【AGI 70】

【DEX 40】

【INT 70】

 

スキル

【火炎放射】【噛み付く】

 

「ステータスは勝手に上がるみたい」

 

「あとスキルも自動取得か」

 

「そうみたいだね。っていうか、伸び幅凄いね」

 

将来有望な3匹の為にその後もメイプルが狩りに出ること数回。

しかし、近場にモンスターがあまりいなかったためにレベルは上がらず、結局3人は3日目を卵の孵化と3匹との戯れで過ごしていた。

時間は夜の10時。もう一度探索に出るのは億劫な時間帯である。

 

「あー…どうするー……探索行くー?」

 

「今日はもういいかな……」

 

「俺ももう行きたくないね……」

 

3人はそれぞれのパートナーを撫でつつ明日の予定を決めていく。尚、ブレイブは戯れるのは良いけどいきなり火を吹くのはダメと言われ、今度はセイバーの身体に巻きつくのがスキンシップの代わりになった。

 

「明日は下流を探索して、降りてきた方と逆側に上がろう」

 

「そうだね……ん?上がる!?」

 

「下りてきた時とと同じように……あ!」

 

「いや、メイプルじゃあ脱出出来なくね?サリーや俺みたいに機動力無いし」

 

メイプルは完全に後のことを考えていなかったのだ。

そう、メイプルにはこの渓谷から脱出する手段がないのだ。

 

「ど、どどどどうしよう!?」

 

「…………どうしよう?」

 

メイプルがサリーに答えを求めるが、サリーもこれといった解決策が見つからずに唸っていた。

 

「なら、俺がフレアジェットで2人を抱えつつ上まで連れて行くか?それなら短時間で戻れるぞ」

 

「あ、その手があった!!」

 

「けど、それは最後の手段にしない?多分、下流の方も方で何かあるかもしれないし……」

 

「それじゃあ、明日は下流に向かいつつ上に戻る方法を探すことにしよう」

 

下流を探索するだけのつもりが、思ってもみない問題の浮上によって探索時間が想定よりもかかることになった。

 

上に上がれる手段が見つからなければ無駄足になってしまうが仕方なかった。

 

「じゃあ、早めに出発しないといけないね」

 

「4日目の内に上に出たいからね」

 

出発時間を早朝4時に決めて3人は交互に眠ることにした。




卵からモンスターが生まれる回でした。次回は再び探索に戻ります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと偽者戦

今回は4日目に入ります。それではどうぞ!


イベント4日目の朝、3人は挨拶を交わして探索に向かう。

イベントも後半戦となり、メダルを手に入れたプレイヤーも増えてきていることだろう。

奪い取り、奪い取られる戦いがあちこちで起こっているのだ。

それは3人に関係のない話ではない。

戦闘になる覚悟は常にしておかなければならないのだ。

 

「何かあった?」

 

「いや、今のところ何も」

 

「ダンジョンらしい物はねーなぁ」

 

注意深く辺りを観察するもダンジョンらしきものも無く、魔法陣も見当たらない。

そのまま下流へと向かうこと2時間半。

 

道中で数回の戦闘を挟み、シロップと朧、ブレイブのレベルが1上がって興味深いスキルを覚えた。

スキル名は【休眠】と【覚醒】。

【休眠】は3人の指令で指輪の中で眠って安全に体力を回復させるスキル。

【覚醒】は3人の指令に応じて指輪から出てくるというスキルだ。

現在は3匹は指輪の中で眠っている。

霧が深くなってきており、見失いそうになったためである。

 

そうして、歩くことさらに30分。

3人はついに川の終点に辿り着いた。

ここに辿り着く前から薄々感じていたことのあった3人だったが、ここにきてそれが確信に変わる。

 

「ここが霧の発生源だね」

 

「うん、間違いない」

濃霧はより濃くなっていき、セイバーは既に真横にいるサリーとメイプルを視認することが困難なほどになっていた。

 

3人が川に近づいていく。

すると。

 

ブワッと風が吹いて霧が吹き飛ばされていき目の前が露わになる。

そこには上流同様泉があり、その中心に一つの壺があった。

壺からは白い霧が休むことなく吹き出している。壺は泉の水を吸引して霧を出しているようだった。

 

「あの壺…調べてみる?」

 

「………それしかないか」

 

「よし、行くぞ…ってあれ?」

3人が泉に足を突っ込んだその瞬間。

狙い澄ましたように風が止んで濃霧が一瞬にして辺りを覆い尽くす。

 

「サリー、セイバー!いる!?」

メイプルのその声に対して反応は1つも無かった。

メイプルが警戒心を高める。

 

「うわっ!?くっ!ああっ!」

 

「チッ……このっ!」

 

サリーとセイバーの声が聞こえる。

ガキンガキンと金属のぶつかる音も聞こえてくる。2人の声は焦っているようでメイプルの不安を煽る。

 

「大丈夫か?メイプル」

 

セイバーは気配察知によって素早くメイプルと合流するもサリーは未だに見つからなかった。そこで、2人は声の方と向かい、2人の目の前に現れたのは真っ黒な穴だった。

覗き込んでも中は見えない。

しかし、サリーの声は確実にこの中から聞こえてくる。

 

「よしっ!いこう!」

 

「一応、不意打ちもあるかもしれないから警戒はしよう」

 

メイプルは目をぎゅっと瞑り、セイバーは思い切って穴の中へと飛び込んだ。

そこにいたのは体から赤いエフェクトを散らしているサリー。

そして。

 

 

白銀の全身鎧に身を包み、白く輝く大剣を構えた騎士だった。

 

 

 

「サリー!」

 

メイプルが驚きのあまり叫ぶ。

それもそのはず。メイプルはサリーがダメージを受けているのを初めて見たのだ。

サリーもメイプルに気付いたようで急いで下がってきてメイプルに寄りかかる。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「うん、何とか…」

 

「ったく、お前は1発分のダメージでも致命傷なんだから無理すんなよ」

 

サリーの体を【ヒール】の光が包み込む。

痛々しい赤のエフェクトも消えた。

 

「私の後ろにいて!何だって止めてみせるから!」

 

メイプルは力強く言うと新月を抜き放つ。

その刀身から紫の魔法陣が展開される。

騎士はゆったりと剣を構える。

 

「【毒竜】!」

 

3つ首の毒竜が騎士へと迫る。

騎士は剣を振りかぶり斬り下ろす。

それは毒竜にずぶりと沈み込み、毒竜を真っ二つに切り裂いた。

しかし、斬り裂けたのは1匹のみ。

残りの2匹は騎士に直撃する。

騎士が呻き、その膝をつく。

それでも剣を支えに立ち上がろうとする。

しかし、それは叶わなかった。

ボロボロになった鎧からは白い光が溢れ始めていた。

騎士は立ち上がるのを諦めたように剣から手を離す。

それと共にその白銀の鎧にも負けない光の奔流となって天に昇っていった。

 

「怪鳥とくらべれば弱い弱い!」

 

「ああ、流石にあれレベルが何体もいてたまるかっての」

 

実際、毒竜を切り裂く能力は驚異的だったがそれにHPと防御力が伴っていなかった。

その点、怪鳥は異常だったと言えるだろう。

 

「倒せたね!」

 

「ふふふー!メダルが落ちてないか見てくるね?」

例のごとく討伐地点は毒の海に沈んでいる。

メイプルが見に行くしかないだろう。

 

「1枚くらいならあるかな?」

 

メイプルが討伐地点へと向かって歩き出す。

 

 

 

 

 

 

「「【ディフェンスブレイク】」」

すると、唐突に聞こえた声。背中に走る痛み。

メイプルが振り返って見たものは何度も何度も自分を切り裂いていく深い青のダガーと赤い剣。

 

「え?え?」

 

「あはっ。あはは、あはははははははっ!」

 

「くくく……はははははは!!」

狂ったように笑うそれはサリーとセイバーだった。

 

「な、何で!?」

 

メイプルはガリガリと削れていく自分のHPバーに気付く。

このままでは自分の身が危ない。

 

「【パラライズシャウト】!」

 

強力な麻痺の状態異常攻撃。

 

 

メイプルは気付いたのだ。

目の前にいるサリーとセイバーの姿をした何か。

それが、決して2人などではないことに。

パーティーメンバーに直接ダメージを与えることは出来ないためだ。

 

「「あはっ、あははは」」

 

「効いてない!?」

 

強力過ぎる麻痺耐性。

2人でないことが確定した。

しかしその速度はサリーと同じ、いや、それよりも速く、セイバーも方も一撃が本来の彼よりも更に重かった。

 

「強化されてる!?」

 

狂ったような笑い声と共に、その姿がかき消えてメイプルの体から赤いエフェクトが弾ける。

 

「くうっ…捉えきれない!」

 

自慢の毒竜も、大盾も、当たらなければ意味がないのだ。

幸いサリーの方は攻撃力は高くないが、セイバーの方はかなりのダメージになるため、メイプルはセイバーの攻撃を重点的に防ぎにかかる。

名案を思いつくか、削りきられるか、どっちが早いかである。

 

 

 

 

メイプルが偽物と戦っている。

そして、それはサリーも、セイバーも同じだった。

 

 

 

「くっ…メイプルと同じ異常な防御力にセイバーと同じ攻撃の正確さ!」

 

サリーがすれ違うようにしてその体を斬っていくも、メイプルHPバーは一ミリも減らず、セイバーの方も正確な斬り返しでサリーの躱すスレスレを掠めて行く。もしこれが数センチでもズレていればサリーはやられているレベルだ。絶望的な防御力に攻撃の鋭さ。これらを相手するなど嫌になる。

 

「出来れば戦いたくない相手の中でぶっちぎりの1位2位なんだけど…」

 

「あははははっ!【毒竜】!」

メイプルの形をしたそれから、毒竜が撃ち出される。サリーがそれを躱す。

特別速いわけでもない毒竜を躱すことなど容易だった。

しかし、あれを倒すことは容易ではない。

 

「これは…しんどいなぁ」

 

 

メイプルがサリーとセイバーに、サリーがメイプルとセイバーに。互いに信頼している部分がある。

そしてそれは敵に回すととんでもなく厄介なものなのだ。

騎士との戦いなどただの前座。

信頼するパートナーの姿と能力を持った相手との本当の戦いが今幕を開けた。

 

 

ここまでまだ触れていなかったが、突然セイバーも2人を相手する事になっていた。

 

「うわー。何でコイツらの相手しないとダメなんだよ!!」

 

「あっはは!!【ダブルスラッシュ】!」

 

「チッ!」

 

サリーの速さはセイバーの上を行っており、一撃の威力こそ無いものの着実にダメージを与えて行った。

 

「あははは!【毒竜】!」

 

さらに遠距離から飛んでくる毒竜。セイバーはその攻撃の速度が遅いのを良い事に全て躱しまくるが何度も撃ち直される毒竜にヤバさを覚えていた。

 

「俺の火炎十字斬を相手に【悪食】をさっさと使ってくれたのは幸いだったけど、あの無限毒竜に隙は無いのか?」

 

しかも、なんだかんだで偽メイプルの周りに毒の海が広がってるから烈火の接近技ではどうしようも無いな。遠距離から狙う手もあるけど、それには目の前の偽サリーが邪魔すぎる……。だったら……

 

「黄雷、抜刀!【サンダーブースト】【雷鳴一閃】!」

 

セイバーは黄雷を抜刀すると超スピードで動き始め、偽サリーもそれに合わせるように【超加速】を発動する。

 

2人は超速の世界で剣とダガーをぶつけ合う。2人の速度は偽サリーが若干上だったものの、雷鳴一閃の威力が上乗せされた黄雷は偽サリーのダガーを押し切り、偽サリーを撃破した。

 

「ふう。フルパワーの速度でも偽サリーの方が速度は上だったかぁ。けど、何とか倒せたな。さて、次はって、うぉっとぉ!!!」

 

偽メイプルは何度も毒竜を連発してきており、セイバーは躱しこそ出来ていたものの、徐々に追い詰められていた。

 

「く、こうなったら、【サンダーブランチ】!【稲妻放電波】!」

 

セイバーが地面から電撃の鞭を出して偽メイプルを拘束し、放電波を使って偽メイプルを麻痺にしようと攻撃を重ねた。だが、いつまで経っても偽メイプルは麻痺になる様子は無かった。

 

「もしかして麻痺無効とか持ってんの!?そりゃねーよ!!」

 

セイバーの予想通り、このメイプルは麻痺を完全に無効化しており、防御力を超えられないためセイバーの黄雷はまるで通用しなかった。

 

「あーもう!だったら、烈火抜刀!」

 

セイバーは烈火へと戻すと偽メイプルに対しての唯一の有効打を放った。

「【爆熱放射】!【火炎砲】!」

 

セイバーの手から撃ち出されたそれらは偽メイプルに何度も命中、ダメージはVIT無視の固定ダメージ分と火属性の継続ダメージ分しか入る事は無かったが、それでも偽メイプルにはかなりのダメージが入っていた。

 

「良し、このまま一気に……」

 

すると偽メイプルは光に包まれて回復を始めた。

 

「まさか、【瞑想】!?いや、回復力が高い。これじゃあ継続的に撃ち続けてもキリが無い。どうすれば……」

 

セイバーは攻撃を継続しながら考えているとセイバーは何かを思いついた。

 

「あ!こうなったら一か八か、一点突破にかけて見るしか無い!」

 

セイバーは攻撃を撃ち込みつつ跳び上がった。偽メイプルはそれをチャンスと見て毒竜を放ってきた。

 

「そう来るのはわかっている!だから、その攻撃は俺には当たらない!

【フレアジェット】!【火炎激突】!【爆熱放射】!【爆炎紅蓮斬】!」

 

するとセイバーは極炎の業火に包まれていき、偽メイプルへと突貫、毒竜の威力を上回り、毒竜を貫きながら偽メイプルへと突っ込んでいく。

 

「これで、トドメ!!【ディフェンスブレイク】!」

 

炎の龍となったセイバーは防御を貫通する極炎を纏わせた攻撃で偽メイプルを貫き、反動ダメと毒竜のダメージを受けながらも偽メイプルを倒し切った。

 

「はぁ……はぁ……」

 

セイバーはすぐに毒とHPを回復させるポーションを飲むと僅かとなっていた体力が戻り、スキルの通知音が鳴り出した。

 

『スキル、【毒耐性大】を取得しました。スキル、【火炎激突】が【爆炎激突】に進化しました』

 

セイバーはそれを聞き、慣れた手つきでスキルを確認する。

 

「ふむふむ、爆炎激突は火炎激突と比べて、技の威力アップに反動ダメの減少、そして貫通効果が新しく付与されているのか。中々に強そうになったな」

 

セイバーがふと足元を見るとそこにはクリア報酬なのかメダルが落ちていた。

 

「良し、これでやっと戻れる。アイツら、偽者とはいえ俺に負けたりしてないよな?」

 

セイバーは2人を心配しつつ魔法陣に乗る。

光が薄れていき、目の前に現れたのは螺旋階段だった。

見上げてみると光が差しており、どこかに繋がっているようである。

だが、2人の姿はまだ見えなかった。

 

 

「うーん。2人共まだかぁ。どうやって暇潰そうかなぁ……」

 

セイバーが考えているとそこにメイプルがやってきた。

 

「良かったぁ!セイバーが無事で!!」

 

「お、メイプルも勝てたみたいだな」

 

「セイバー、私に勝てたんだ」

 

「いやいや、流石に偽者には負けないって」

 

「うーん。でも私も偽者相手にはギリギリだったんだよなぁ」

 

「ふーん。まぁ、どうやって勝ったのかは大体予想ついたよ」

 

「え?そうなの!!」

 

「大方、ベノムカプセルを連続発動して部屋全体を毒で埋めたんだろ?そうしないとメイプルの速度じゃあ俺等2人は捉えられないし」

 

「うぅ……全部お見通しかぁ……」

 

「まぁ、俺も割とギリだったから、お互い様だよ」

 

「そっかぁ。それはそうとサリーは…先に行っちゃったりしないはずだよね?」

 

「まだ戦ってたりして。暫く待ってみよう」

 

「うん。そうだね」

 

2人はここでしばらく待ってみることにした。

3人はどこかで死亡した時にはそれを連絡すると決めていた。

サリーからはメッセージでの連絡が来ていないため、負けて初期地点に戻っているようなことは無いとは分かった。

それならば、サリーはまだ戦っていていずれ転移してくるか、完全に分断されたかの二択である。

分断されたというのは、サリーは偽者と戦っていない場合だ。

サリーを霧の中に残してメイプルとセイバーだけが戦っていたかもしれないのだ。

しかし、2人はサリーがまだ戦っているのだと直感した。

 

「サリーもきっと戦ってる……そうだ!シロップ【覚醒】!」

 

指輪が輝いてシロップが姿を現す。

 

「一緒にサリーを応援して待ってよう」

 

「元気だねぇ。ま、俺もじっくり待ってみるか」

 

メイプルはシロップと一緒にサリーを応援しながら、セイバーは今後の動き方を考えながらその場で待機すること1時間。

その場が眩い輝きに包まれる。

2人は念のためにと大盾と剣を構えて様子をうかがう。

 

「はぁ…勝てた……」

 

光が薄れて、そこにいたのはサリーだった。

 

「………本物……だよね?」

 

サリーもメイプルの声でメイプルとセイバーに気付き身構える。

 

「………本物か確認させて」

 

「いいよ?」

 

「まぁ、取り敢えずな」

 

メイプルとセイバーはサリーが疑うところを見て、サリーが偽メイプルと偽セイバー相手に戦っていたことが分かった。

それならば、確認は当然だろうと了承する。

 

「あなたは小学6年生の時に予防接種を受けて大泣きしている所を私に目撃されたメイプルと、ゲームの大会の日の当日に寝坊して遅刻で予選敗退しかけたセイバーですか?」

 

「な、ななななな、何でそれ覚えてるの!?忘れてよっ!」

 

「おいサリー、お前流石にそれは言い過ぎだし、遅刻はしたけどギリギリセーフだっただろうがよ!!」

 

メイプルとセイバーが予想していなかった確認方法。

本人しか知らないようなことを言う。

理に適ってはいるが、羞恥心を煽られるその内容に2人が恥ずかしそうに大盾の後ろに隠れたり、大声で反論する、

サリーはこのメイプルとセイバーが本物だと分かっていたが、ちょっとからかってやろうと思ったのだ。

疲れていたためちょっとふざけてみた訳だ。

 

「ふふふ…本物だね!まあ分かってたけど」

 

「………待って。私がまだ確認してない」

 

「お前言ったなこの野郎。だったら俺も容赦しねーぞ!」

 

メイプルとセイバーが真剣な目つきでサリーを見る。

 

「えっ……」

 

サリーが何か言う前にメイプルが話し出す。

 

「……あなたは中学生の時お化け屋敷に入り途中で腰を抜かして係員に連れられて泣きながら非常口から出てきたサリーで間違いないですか?」

 

「そ、そんなこと覚えてなくていい!」

 

「ゲームにはまり過ぎて自分で考えた奥義をノートに書いていたあのサリーですか?」

 

「待って、ごめん!悪かったって!」

 

「ゲームの大会の決勝で俺と戦って僅差で負けて大泣きしたサリーですか?」

 

「ちょっとセイバー!1番気にしてる事言わないでよ!!あの時はセイバーだって散々に私に勝ち誇ってたじゃん。それで丸く収めてよ!!」

 

「「ちょっとした仕返しをしてみた」」

 

「……はぁ…藪蛇だったかぁ」

 

何はともあれ3人は無事に再会することが出来た。

 

「メイプルとセイバーはどうだったの?私は偽メイプルや偽セイバーと戦ってたけど」

 

「私は偽サリーと偽セイバー。勝ったのは1時間前くらいかな?」

 

「俺も偽メイプルと偽サリーを相手にして、勝ったのはメイプルの少し前ぐらい」

 

サリーもメイプルもメダルを1枚獲得していたようで、3人は相談してからメダルをメイプルに集めた。

これでメダルは11枚だ。

 

「2人はどうやって偽者に勝ったの?」

 

「一応簡単に言うと先にスピードと手数のあるサリーを処理してからメイプルの耐久性を高火力の技を重ねがけして一点突破で倒したって感じ」

 

「ふうーん。それで、サリーは?」

 

サリーは一度それに答えようとしたが、口を噤んだ。

 

「もし…もしも、トーナメント形式のイベントがあった時にメイプルとセイバーに簡単に負けたくないから今は秘密にしててもいい?」

 

「いいよ!んー……じゃあ、私もどうやって偽サリーに勝ったかは秘密!私も負けたくないもんね!」

 

「まぁ、俺はメイプルの方は何となくでわかっちゃったから、あとはサリーの方を考えるだけだな」

 

サリーは勝った方法は秘密と言いつつステータスだけは2人に見せた。

 

「スキルから推測してもいいよー!」

 

「なら、ありがたく見させてもらうね」

 

メイプルがサリーのステータスをじっくりと見る。

 

 

サリー

Lv21

HP 32/32

MP 25/25〈+35〉

 

【STR 30〈+20〉】

【VIT 0】

【AGI 85〈+68〉】

【DEX 25〈+20〉】

【INT 25〈+20〉】

 

装備

頭 【水面のマフラー:蜃気楼】

体 【大海のコート:大海】

右手 【深海のダガー】

左手 【水底のダガー】

足 【大海のレギンス】

靴 【ブラックブーツ】

装飾品 【絆の架け橋】

【空欄】

【空欄】

 

スキル

【状態異常攻撃Ⅲ】【連撃剣Ⅰ】

【疾風斬り】【筋力強化小】

【連撃強化小】【ダウンアタック】

【パワーアタック】

【スイッチアタック】【体術Ⅴ】

【短剣の心得II】【器用貧乏】【ディフェンスブレイク】【超加速】

【火魔法Ⅰ】【水魔法Ⅱ】【風魔法Ⅲ】

【土魔法Ⅰ】【闇魔法Ⅰ】【光魔法Ⅱ】

【ファイアボール】【ウォーターボール】

【ウォーターウォール】

【ウィンドカッター】【ウィンドウォール】【サイクロンカッター】

【サンドカッター】

【ダークボール】

【リフレッシュ】【ヒール】

【MP強化小】【MPカット小】

【MP回復速度強化小】【魔法の心得II】

【釣り】【水泳Ⅹ】【潜水Ⅹ】【料理I】

【採取速度強化小】【気配遮断II】

【気配察知II】【しのび足I】【跳躍Ⅲ】

【毒耐性小】

 

 

「いくつか変わってるね」

 

「色々試したってのがよく分かるよ」

 

「残りの期間に使うこともあるかもね」

 

「ちょっと見ないうちに頼もしくなっちゃってもう!」

 

「ここからは、また一緒に戦えるね」

 

サリーが嬉しそうに微笑むとメイプルも微笑み返し、セイバーもニヤリと笑う。

 

 

「じゃあ、階段上ろうか」

 

「そうだね。まだメダルも欲しいし」

こうして3人は探索を再開すべく螺旋階段を光に向かって上って行った。



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聖剣使いと砂漠探索

偽者に勝った3人は森の中を探索していたが、森は今までのものと比べて規模の小さいものだったため、割とすぐに森を抜けた。

 

「お、もう抜けた!」

 

「おー……砂漠だ」

 

「新しい地形だね」

 

3人の目の前に広がっているのは広大な砂漠だった。

ところどころにサボテンが見えるくらいで一面砂である。

プレイヤーの姿は見えない。

 

「行ってみようか」

 

「そうだね」

 

「さて、どんなダンジョンがあるのやら」

 

3人は砂漠へと足を踏み入れる。

 

「喉が渇いたりしないのは助かるね」

 

「確かに、それだったら探索出来ないもんね」

 

脱水症状はこのゲームに存在しない。

砂漠だからといって気温でダメージを受けたりはしない。

砂に足を取られるため、探索は快適とは言えないが3人は砂丘を乗り越えて着実に先へ進んでいく。

 

「なーんにもないね」

 

「見たところね」

 

「ただ、この前の草原同様に景色が全然変わらないからちょっと飽きてきたなぁ……」

 

大きな砂丘が多いため、砂丘を乗り越えた先には何かがあるかもしれない。

 

「取り敢えず進んでいこう」

 

「そうだね」

 

「しょうがねーな」

 

朧とシロップ、ブレイブは出していない。

まず、シロップは1度は出してみたものの砂丘をまともに登れなかったのだ。

途中で崩れる砂に押し流されてしまったためである。

朧は体毛が砂まみれになっていたのを見てサリーが戻した。

サリー曰く、申し訳ない気分になったとのことだ。

ブレイブについては飛べるので砂は関係なかったのだが、レベリングするための敵も中々いなかったのであまり飛ばせるのも気の毒になり戻してある。

そして10数回砂丘を乗り越えた時に3人は、ついに遠くにオアシスを見つけた。

 

「やっと見つけた!」

 

「早速行こう!」

 

「ようやく休める〜!」

 

砂ばかりの景色の中にその緑は鮮やかに輝いて見えた。

3人は足取り軽くオアシスへと向かう。

 

「どう?ダンジョンに繋がってそう?」

 

「手分けして隅々まで見てみよう。そんなに大きくないからすぐに終わるし」

 

「そうだな。探して見るか」

 

3人は隅から隅まで見て回ったがこのオアシスには何もないことが分かっただけだった。

 

「むー…何もないね」

 

「残念だけどそうだな……」

 

「ちょっと休憩してから行く?」

 

「そうしようか。私も結構疲れたかも」

 

サリーがぐっと伸びをする。

サリーもメイプルもセイバーもこの日は既に長時間の戦闘をしているのだ。

疲れるのも無理は無いことである。

メイプルは寝転がってぐったりと周りを眺める。

 

「んー……ん?サリー!誰か来るよ!」

 

メイプルが起き上がり大盾を構える。

サリーもその声に反応してダガーを構え、セイバーも剣を抜いてこっちに向かってくるプレイヤーを見つめる。

 

「おっと…先客か。それも、メイプルにセイバーとは……私も運が悪い」

 

やってきたのは和服を着た女性。

上半身は桜色の着物。

それに紫の袴。

そして刀を1本装備しているのがぱっと見て分かる特徴だろう。

 

「あの人前回イベント7位の人だよ」

 

「えっ!?本当」

 

「確かカスミさん。太刀と名の付くスキルを多く使ってくる使い手だ」

 

 

 

「そこまで調べてあるのか。ならば、悪いが……出来れば見逃していただきたい」

 

どうやらこの女性に戦闘の意思は無いらしい。

本心がどうかは分からないが。

 

「………無理だと言ったらどうしますか?」

 

「その時は……仕方ない。誰か1人は道連れにしてみせようじゃないか」

 

女性はどちらかと言ったが、その意識はサリーに向けられていた。

メイプルやセイバーいつでも攻撃や防御に転じることが出来るように身構えている。

 

「それなら残った人がメダルを総取り出来る私達の方が有利だね」

サリーが呟く。

 

「…………あっ」

 

「やっちゃう?」

 

「やっちゃおうか?」

 

「2人がやりたいのなら俺も参加する。ただ、あんまりその人と距離を詰めない方がいいよ。刀の射程に入ったらスキル飛んでくるし、遠距離からじわじわと攻撃しよう」

 

3人が揃って女性を見る。

 

「【超加速】!」

 

女性は全力で逃げ出した。

もうそれは目にも留まらぬ速さで逃げていったのだ。

 

「【超加速】!」

 

サリーは全力で追いかけた。

もうそれは目にも留まらぬ速さで追いかけていったのだ。

 

「ま、待ってよー!」

 

メイプルは全力で2人を追いかけた。もうそれは亀の如き遅さだったが。

 

「カスミさんも【超加速】持ちだったかぁ。ま、サリーなら問題ないだろ。俺はゆっくり追いかけますか」

 

セイバーについてもサリーの実力を知っているからかのんびりとサリーの反応を追跡する事にした。

 

 

 

一方、超加速で高速の世界に入った2人はと言うと……

 

「何で【超加速】を持って……っ!」

 

「私のこと舐めてました?」

 

2人の超加速が切れる。大きな砂丘に囲まれた谷間だ。逃げ場など無い。

女性も仕方ないと刀を抜く。

実際、メイプルとセイバーが相手でないなら勝てると考えていた。

なにせ7位なのだから。

 

「【一ノ太刀・陽炎】」

 

カスミの姿が揺らいで消える。

 

そして、次の瞬間には目の前に現れているのだ。

横薙ぎに振るわれた刀がサリーの胴体を深く切り裂く。

 

「はっ…!?」

 

カスミが驚く。

サリーだったものは目の前で空気に溶けて消えていってしまったのだ。

 

「皆、最初はそういう反応をするんですよ」

 

カスミの体から赤いエフェクトが散る。

サリーには攻撃力が無いため大したダメージにこそならないが、すれ違うようにして腹部を切り裂いていったのだ。

そしてサリーは再び距離をとる。

 

「メイプルかセイバーが来るまでに倒せないと、まずいですね」

 

サリーがカスミに語りかける。

 

「くっ…【一ノ太刀・陽炎】!」

 

カスミが再びサリーに急接近する。

そして、その刀を同様に振り抜く。

 

「それは、さっき見ました」

 

異様な光景だった。

至近距離で振り抜かれた刀はサリーがしゃがみ込みながら突進したことによって空を切った。

サリーはそのまま女性の左側を低い姿勢で駆け抜ける。

 

「ぐっ……」

 

女性の足から赤いエフェクトが散る。

 

「まさか、ここまで強いとは思わなかったよ…」

 

「それはどうも」

 

2人が振り返って向き合う。

サリーは自分からは仕掛けない。

相手の攻撃を躱しながら体勢が崩れたところを狙うためだ。

反撃を受ければ一発で終わりなのだ。

もっとも、相手はそんなことは知らないのだが。

 

「……全力でやるしかないな」

 

ポツリとそう言ったカスミの雰囲気が。

いや、見た目すらも変わっていく。

綺麗な黒髪は雪のような白に変わり、その黒い瞳は緋色に染まっていく。

女性の周りには着物と同じ桜色のエフェクトが輝く。

 

「………」

 

サリーも無駄口を止めて集中力を極限まで高める。

これがサリーの最高の切り札。

他の誰にも真似出来ない絶対的な力。

 

「【終ワリノ太刀・朧月】」

 

太刀筋の見えない連撃がサリーに襲いかかる。

あまりの速度に刀身が揺らぎ、消えてしまっているかのようだった。

視覚でその太刀筋を捉えることは不可能だろう。

 

「っ……!」

 

小さくそう呟いたのはカスミの方だった。

見えない連撃はサリーを捉えられないでいたのだ。

連撃スキルを発動すればスキルが終わるまではある程度決まった動作しか出来ないのだ。

当たれ、当たれと願いながら刀を振り抜く。

 

 

サリーはこの連撃を躱す。

足の動きを。

目線の向きを。

腕の動きを。

肩の動きを。

刀の風切り音を。

全ての情報を刀の軌道予測のために使って紙一重で避けていく。

 

カスミからすれば不気味で仕方ないだろう。目の前で最小限の動きで自分の攻撃が躱されているのだ。

そう、まるでそれは。

刀がサリーを避けているように見えるほどだった。

 

 

その一撃一撃が必殺の威力を持つ12連撃が終わる。

カスミはサリーを見るとにっこりと笑ってそのまま背中から倒れた。

 

「私の負けだ。一思いにやってくれ」

 

髪と目の色も元に戻っている。

オーラも消えていた。

 

「こっちも結構、やばかったです」

 

「次は、当ててみせるさ」

 

サリーがダガーを振り下ろそうと構えたその時。

 

 

 

 

 

「あああああああっ!?ちょっ、止まらないぃぃぃぃいいぃ!!」

 

叫び声に2人が反射的にその方向を見ると、そこには砂を巻き上げて砂丘の斜面をゴロンゴロンと転がってくる黒い塊があった。

 

「えっ、ちょっ!メイプル!?まっ、待って!てかセイバーは!?」

 

そう、その塊はメイプルだった。

大盾を外しているところが唯一褒めることの出来る点だ。

そして、待ってと言われても既に止まれる状態ではなかった。

 

メイプルが2人の元に飛び込んでくる。

派手に砂を巻き上げて倒れ込む。

流石に3人とも、この状況に対応するのに少し時間がかかった。

 

 

 

 

 

そして、その一瞬の空白を突くように起こった足下の変化に対応出来なかった。

 

 

 

「はっ!?」

 

「くっ、逃げられない!」

 

「え?え?」

 

三者三様の反応を示しつつ、3人は凄まじい速度で流砂に飲み込まれていった。

 

 

 

 

そこに遅れたセイバーが到着する。

 

あれ?反応はここのはずなのになんか消えてるな……。なんか地面には何かが引き摺り込まれたような流砂の跡あるし多分トラップか何かを踏んだんだろうけど、あの2人なら大丈夫でしょ。

 

セイバーは2人が生還すると信頼してその場で伸びをした。

 

「さてと、2人が戻ってくるまで何をするか……ん?」

 

セイバーがふと前を向くとうっすらと何かの建物があるのが見えた。それは岩が積まれた事によって出来た何かの遺跡のようだった。

 

「取り敢えず攻撃を当てて様子を見るか。【火炎砲】!」

 

セイバーが火炎の弾をぶつけて見るとうっすらとしか無かった遺跡は完全に姿を現し、堂々とそびえていた。

 

「2人が戻って来るまで暇だし、入って見るか」

 

セイバーはゆっくりと歩きながら中へと入っていった。そこが、今のセイバーにとって地獄レベルでヤバい場所だと気付くこともなく……。

 

 

セイバーが中に入るとそこには砂でできた迷宮であり、道がかなり入り組んでいた。おまけに足元の砂や壁の砂の中から小型のモンスターが襲いかかってくるものだから中々面倒であった。

 

「うー。何でこんな面倒なギミックしてんだよ……。一応流水にして【アクアリング】を発動してるから常時回復出来るけどさ、一部気配察知にもかからない奴がいるから大分面倒臭い。しかも、さっきなんてアリ地獄みたいな奴が俺の足引っ掛けて転ばせに来てたし。怒って八つ当たりしたらすぐやられてくれたけどさ」

 

セイバーは途中の迷路に苦戦しつつも迷宮を確実に進んでいき、1時間も経つ頃には最奥部のボス部屋と思われる部屋の前にまで到達した。

 

「ようやくボス部屋かぁ。ま、どんなのが相手でも大体には勝てるしなぁ……サクッと終わらせよう」

 

セイバーは装備を烈火に戻すと岩でできた頑丈そうな部屋の扉を開けて中に入った。すると中は洞窟の中にある大きな空洞のような場所であり、足場は良いものの、天井周りにはゴツゴツとした岩肌が覗かせており、叩きつけられでもしたらダメージは必至だった。

 

「さてと、ボスさーん!出て来ても良いよー!!」

 

するといきなり轟音と共に怪鳥とほぼ変わらないぐらいの大きさの巨大な亀が現れた。その身体は岩のように硬そうであり、足も筋肉質な感じで強靭さを感じさせた。顔もゴツゴツとした感じで人睨みするだけで相手を退けそうな気迫を有していた。

 

「……んんん?なんかこれヤバくない?今パッと見でHPバー見たんだけど、バーが2段分あったんだが?あれ、これってもしかして1人で来たら確実に死ぬ系なのか?てか、ここに来てやっと思い出した。まさかと思うけど、もしかしてこいつが昨日の古文書に書いてあった神獣、玄武なのか!?」

 

セイバーはここに来てようやく思い知らされた。自分が今、かなりヤバい状況にあると言う事に……。

 

「ああもう!こうなったらヤケだ!!何としてでもこいつを攻略してやる!!」

 

セイバーはもはや開き直り、向き合うしか無かった。この圧倒的な理不尽の塊相手に……。




次回は玄武戦となります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと玄武戦

今回は玄武との戦闘となります。それではどうぞ!


前回、セイバーは古文書に記されていた神獣、玄武との戦闘を開始した訳なのだが……。

 

「【火炎十字斬】!」

 

セイバーの火炎の十字文字斬りの攻撃は玄武に直撃したものの、HPバーは1本目の内、0.5割減ったのみだった。

 

「はぁ!?お前ふざけんなよ!!何でそんなミリぐらいしか減ってねーんだよ!!てか、硬すぎだろ!!メイプルすらビックリレベルだぞこれ!!」

 

そう。今現在のメイプルのVITの数値はスキル込みで1000を超えてるかどうかぐらいなのだが、この玄武はHPに関してはメイプルよりも何十倍もある上に、VITもメイプルの実数値である300はあるのでは?と言わんばかりの硬さなのである。その証拠にセイバーのスキル込み攻撃を僅かなダメージのみに抑えてしまっていた。

 

「何でこんな化け物を単独で攻略しようと思ったんだよ俺は!!【爆炎放射】!」

 

セイバーはVIT無視で固定ダメが入る爆炎放射を撃つも、それすらも削ったのは1本目のたった0.8割のみだった。総合的に見ても合わせてもまだ全体の0.5割のみなのであり、それはこのモンスターの恐ろしい硬さを示す物だった。

 

ねぇ、マジでふざけてんの?何でこんな硬いんだよ!これさ、スキルなしだと何回斬れば良いんだろうか?

 

 

セイバーが思考を重ねていると玄武は眼光を光らせるとセイバーの頭上に大量の岩石を召喚して落下させてきた。

 

「嘘ぉ!!」

 

セイバーは咄嗟にそれを縫うように躱すも、次々降って来る岩石を前に逃げに徹さざるを得なかった。

それを良い事に玄武は岩をどんどん降らせてくる。

 

「長い長い長い!!いつまで降らせるんだよ!この野郎、そろそろ反撃させてもらう。逃げてもダメなら……うおらあっ!」

 

セイバーは思い切って岩石を剣で思い切り打ち返した。岩は玄武に当たりようやく彼は意識を散らせたのか岩を降らせるのをやめた。

 

『ゴオオオン!』

 

玄武は独特の鳴き声を発し、続けて地面から蔦を出現させるとそれでセイバーを鞭打ちにしようとしてきた。

 

「お、今度は鞭攻撃、だったら炎が有効だな!【紅蓮爆龍剣】!」

セイバーが一振りすると灼熱の龍が蔦を焼き切りつつ玄武へと襲いかかり彼にダメージを入れるが、それでもダメージはやっと1本目の2割分に届くくらいだった。

 

「相変わらずの硬さ、本当にお疲れ様だよ。もうこうなったらスタイルを変えてみるか。黄雷、抜刀!」

 

セイバーは黄雷を抜くと姿を変え、それを見た玄武は再び岩の雨を降らせてきた。

 

「今度は当たらないぜ。【サンダーブースト】【稲妻放電波】!」

 

セイバーは超スピードで回避しながら放電でダメージを入れていった。すると、先程までよりもダメージが入っており、1本目の3割ぐらいにまでダメージが入っていた。

 

「良し、電撃ならダメージが早く入る!だったらどんどん撃っていこう!【サンダーブランチ】、【落雷】!」

 

セイバーが剣を地面に突き刺すとサンダーブランチによって玄武は縛られた上にそのまま真上からの落雷でダメージが蓄積していきようやく1本目の半分を超えた。

だが、その瞬間、電撃によるダメージが全く入らなくなった上にサンダーブランチによる拘束が簡単に解かれてしまった。

 

「は?なんでこんな簡単に!?だったら、【魔神召喚】!魔神攻撃!」

 

すると魔神が現れると電撃を放ち、そのまま魔神に玄武を殴らせた。

だが、パンチによる物理的なダメージこそ受けていたものの、電撃によるダメージは全く通用しておらず、HPバーはほぼ減ってなかった。

 

「嘘だろオイ!何でいきなり電気効かなくなってるんだよ!」

 

麻痺耐性?いやいや、それじゃあ電撃を受けなくなる理由にならない。

もしかして、装甲強化か何かでも使った?まぁ、取り敢えず黄雷は相性悪くなったから、今度はこっちだ!

 

「流水、抜刀!」

 

セイバーが流水を抜刀するとそれとほぼ同じタイミングで玄武は地面へと足を叩きつけると今度は地面から棘の如き鋭さをした岩が飛び出て来た。

 

「はいはい、今度は地面からスパイクタイプね。まぁ今回は死角からの攻撃とは言ってもよく見たら気づけるし、さっきの岩雪崩よりはマシかな。んじゃ、さっさと反撃と行こう!」

 

セイバーは地面から生える岩を紙一重で避けつつそのまま接近、懐に潜り込んだ。

 

「ここなら下から岩を生やす攻撃は出来ないだろ?【聖水展開】、【ハイドロスクリュー】!」

 

 

 

まずは足元に聖水を展開すると玄武のSTRとAGIを鈍らせた。とは言っても相手のAGIはほぼ無いに等しいが……。そして、大量の水を甲羅に覆われていないであろう首元に向けて放出、玄武はこれには堪らず苦しそうな声を上げながらHPバーをゴリゴリと減らしていき、1本目のバーを全て失った。

 

それと同時に玄武は叫び声を上げ、それと同時に衝撃波がセイバーを襲い、吹き飛ばした。

 

「ぐっ!!?」

 

セイバーは壁に叩きつけられると多少のダメージを受けた。

 

「痛てて……まさかこのゲームでの初ダメージが君かぁ。ま、そのくらいやってくれないと困るけどね。【アクアリング】、【渦潮】!」

 

セイバーは減った体力の回復を始め、それと同時に玄武を渦潮の中に閉じ込めた。

 

「ちょっと休憩入れるか。【渦潮】発動中は相手の動きは封じられるからね」

 

セイバーが一息ついた瞬間、突如として玄武は咆哮し、その余りの強さに渦潮が強制解除させられた。

 

「はぁ!?おまっ!咆哮だけで弾くかよ普通!!」

 

玄武はこの行為に怒ったのか地面に足を叩きつけると先程までの岩を突き出す攻撃に加えて、衝撃波によって周りの地面を抉り、それが小型の津波の如く何発も押し寄せて来た。

 

「くっ!こうなったら、【アクアトルネード】!」

 

セイバーは地面へと剣先を向けて激流を放出、そのまま空中へと緊急回避をしながら玄武へと突貫、そのまま剣先を玄武の方向へと変えて玄武をノックバックさせようと撃ち込むが……

 

 

「な!?ノックバックが発動しない。まさか、それの耐性もあるのか!!」

 

そう、このモンスターは甲羅や足の装甲がかなり厚いため、重量も半端では無いのだ。そのため、ノックバックもまるで通用せず、玄武は簡単に踏ん張ってしまった。

 

「くっ。だったら、【レオブレイク】!」

 

セイバーが獅子の顔を模した攻撃を放つと玄武の足に噛み付くが、玄武は再び咆哮を上げると簡単にかき消されてしまった。

 

『ゴオオオン!!』

 

さらにはHPバーを今のレオブレイクで残り2本目の8割分になった影響か、先程まで放って来ていた上からの岩、下からの岩、そして蔦による攻撃を同時発動して来た。

 

「ちょ!?嘘だろおい!こうなったら、【ハイドロスクリュー】!」

 

セイバーは高威力のハイドロスクリューを使って周囲を薙ぎ払い、攻撃を何とか自分の方向へと来ないように調整する事で一斉発動を耐え切った。

 

「何とか凌げたけど、あれ1発当たるだけでも致命傷だろうし、もう次は耐えられない。だったら!」

 

それと同時にセイバーは走り始め、玄武の攻撃の中で唯一弾けない蔦を回避しつつ接近、再び懐へと潜り込んだ。

 

「うおおおりゃああああ!!【ウォータースラッシュ】!!!」

 

セイバーは叫ぶ事で【雄叫び】を発動し、その火力を上乗せした水の剣撃が玄武のHPを残り2本目の半分にまで減らした。

 

「良し、やっぱこの段階は水が有効っぽいな。てか、何で有利な属性攻撃したら急にダメージ入るんだろ?もしかして、段階ごとで有利な属性攻撃とかあるのかな?ま、攻略しやすいのならそれで良いけどさ」

 

すると玄武はHPバーが規定値を下回った影響か、灰色の身体をドス黒く染め上げていき、今度は口から岩石砲がチャージされ始め、それに合わせるように甲羅から砲門が出現すると岩の大砲を連続で撃ち込み始めた。

 

 

「のわっ!?ちょ!!いきなりパターン変わりすぎ!まぁ、取り敢えず、躱せるから良いけどさ!」

 

セイバーは距離を取りながら攻撃を回避するとそのまま有効打である水のスキルを発動した。

 

「【ハイドロスクリュー】!」

 

それと同時に玄武も岩石砲を撃ち出して2つの攻撃がぶつかり合った。

 

「ぐぐぐ……負けて…たまるかぁあああ!!」

 

それまで玄武の岩石砲がセイバーの激流を上回っていたが、雄叫びが発動された事により形成が逆転、玄武は攻撃をモロに喰らう事になった。

 

「どうだ!!」

 

だが、玄武はまだ2本目のHPバーを3割残しており、それは水属性の攻撃が有効で無くなっていることを示していた。

 

「げっ!!流水も効果無しになるのか……もうこうなったら相性悪いけど、烈火、抜刀!」

 

セイバーは剣を烈火に戻すと再び構え直した。

 

すると玄武はドス黒く染まった真っ黒なエネルギーを口へと集約していった。

 

「これってもしかしなくてもヤバいよね!!」

 

セイバーが危機を察して回避しようとするが、玄武の甲羅から岩が絶え間なく発射されて玄武の真正面以外に行く道を遮られてしまった。

 

「は?は?オイ、嘘だろ……」

 

セイバーが心の整理をつけようとするが玄武が待ってくれるはずもなく玄武のフルパワーを込めた最強のエネルギービームがノーガードのセイバーを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ……俺は初めてデスしたのかぁ……。悔しい悔しい悔しい悔しい!!てか、あんな攻撃躱せる訳ねーだろーがよ!理不尽にも程があるぞあのクソ運営!!こんなのに勝てるかよ……。

 

セイバーはもはや諦めて初期転送地点に戻されたと思った。だが、セイバーが目を開けるとそこにはまだ残る体へのダメージと、先程までいたフィールド。そして極め付けは、目の前にHPバーが残り2本目の3割となっていた玄武がいた事だ。

 

 

「あれ?何でだ……確かに俺はさっき……待てよ?飲み込まれた瞬間、何かの通知音が届いていたような……」

 

セイバーがそれを開くとそこにはこう書かれていた。

 

 

『スキル、【不屈の竜騎士】を取得しました』

 

【不屈の竜騎士】

1日に1度だけどんな攻撃もHPを1残して耐えられ、龍の力を持つ能力やモンスターの能力を倍にする。

 

取得条件

HPが満タンの時に、龍のモンスターをテイムした状態で即死攻撃を受けるか、一撃で死亡する攻撃を受ける。

 

 

「おお!!って事は今俺HP1で耐えてるのか。よっしゃあ!さっさと逆転行くぜー!」

 

セイバーが勢いよく攻撃を再開しようとするといきなり装備が全て光始めた。

 

「え……何この光?もしかして!!」

 

すると鎧は輝きを放ちながら変わっていき、灼熱の赤から鋼の銀色へと色が変わると鎧の形状も騎士が着るような甲冑となり、ヘッドギアはヘルメットのように上の部分には剣のようなものが突き出てヘルメットの横側には赤い龍の意匠が描かれている。

 

 

『竜騎士のヘルメット』

【MP+40】【VIT+35】【HP+80】

【破壊不可】【進化の可能性】

【火属性無効】【消費MPカット(火)】

 

『竜騎士の鎧』

【VIT+60】【INT+60】【STR+50】

【破壊不可】【進化の可能性】

【極炎】【爆炎激突】【爆炎放射】

【火炎砲】【騎乗】

 

 

『竜騎士の靴』

【VIT+25】【AGI+80】

【破壊不可】【進化の可能性】

【フレアジェット】【龍神鉄鋼弾】

 

進化条件

プレイヤーのレベルが25以上の状態で【不屈の竜騎士】を取得する。

 

『火炎剣烈火(かえんけんれっか)』

【STR+70】

【破壊不可】

【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】

【神火龍破斬】【紅蓮爆龍剣】

 

『【火魔法Ⅴ】が【火魔法Ⅶ】に進化しました』

 

「うおおお!すげぇ!これが進化か!いくつかスキルも増えてるし、補正値も倍ぐらいに増えてる。よーし!一気に逆転と行こう!」

 

すると先程の砲撃の反動で動けなかった玄武が再び動き出し、また岩石砲のチャージを始め、甲羅の砲台から再び岩を発射し始めた。

 

セイバーはそれを再び躱しつつ様子を伺った。

 

「どうやら、詳しく説明を見ている時間は無いみたいだな。それに、さっき俺を一撃で沈めたあの技は乱発叶わない1発限りの物と見るべき。だったら、次を撃たれるまでに決着をつける!」

 

セイバーは剣を振るい岩を強化されたSTRを持って岩を斬り裂きながら接近、そのまま新技を発動した。

 

「【神火龍破斬】!」

 

セイバーは玄武へと突撃しながら烈火に灼熱の炎を纏わせるとそのまますれ違い様に切り裂いた。すると玄武のHPバーは先程までとは打って変わってダメージがかなり入っており、1発で残りHPバーを2本目の1割にまで減らした。

 

「流石進化した装備の威力……と言いたいけど、どこかおかしい。いくら進化したとは言ってもこんな簡単に削れたっけ?」

 

玄武を見るとダメージを受けたにも関わらず、岩石砲は先程よりも一回りも二回りも巨大になっていた。

 

「まさか、防御力を捨てる代わりに威力を上げているとでも言うのか?あのサイズは躱せねーぞ」

 

セイバーの心配を他所に玄武は黒いオーラを発すると共に岩石砲は更に大きくなるとセイバーを再び一撃で葬らんとしていた。

 

「どうやら、考えている暇は無さそうだが、あれを上回るには……ん?そういや、先程ゲットしたスキルの中に気になる物があったな。取り敢えず、試すにはブレイブ、【覚醒】!」

 

セイバーは指輪からブレイブを召喚すると再びスキルを言った。

 

「【騎乗】!」

 

するとブレイブは数回り大きくなるとセイバーがブレイブの上に跨り、ブレイブは飛び上がった。

 

「やっぱり行けた!このまま行くぜ!!」

 

ブレイブは玄武の砲門から放たれる岩を回避しつつ旋回すると玄武へと突っ込んでいき、セイバーはブレイブを踏み台にして跳ぶとそのままキックの体制に入った。

 

「【龍神鉄鋼弾】!うおらあぁあああああああ!!」

 

セイバーはブレイブが放ったブレスを纏いながら自らも燃え上がり、玄武へと突撃、玄武も負けじと岩石砲を撃つが、不屈の竜騎士の効果によって能力が倍となったセイバーとブレイブの合わせ技を前に岩石砲は砕かれ、そのまま岩石砲を撃つためにVITが落ちた玄武へとキックが入り、とうとう玄武の体力を全て消し飛ばした。

 

それと同時に玄武は光の粒子となって消え、その場には宝箱と黒い色にオレンジの刃の巨大な大剣が刺さっているのが残るのみだった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……終わったぁああ!!」

 

セイバーはその場に倒れ込むと戦いによって削られ、残っていたHP1を満タンにまで回復すると暫く寝転がっていた。

 

「今回の敵は1人で相手した事もあってか怪鳥以上の手強さだったなぁ。流石に疲れたし、ここで休もうかな?」

 

すると元の大きさになったブレイブが疲れ切っていたセイバーの顔をペロペロと嘗めた。

 

「ちょっ!ブレイブ、くすぐったいってば!」

 

ブレイブはセイバーのこの発言にも全く止める様子も無く心配そうな顔でひたすらセイバーを嘗めていた。

 

「もしかして心配してくれてたのか?ありがとうブレイブ。お前のおかげであいつに勝てたよ」

 

『レベルが30に上がりました。共闘モンスターのレベルが上がりました』

 

「お、レベルがまた上がったな。今回はINTとDEXに5ずつ振っておこうっと」

 

それからセイバーは宝箱を開くとそこにはメダルが5枚入っており、隣にはスキルの入った巻物が2本あった。

 

 

「えっと、これは何かな?ふむふむ、スキル【大抜刀】に【メタルアーマー】。効果はっと、大抜刀が予め聖剣をセットしておく事で武器を二刀流にして戦える。ただし、聖剣を抜く事による装備の変化は無し。で、メタルアーマーは発動してから1分間全ての攻撃によるダメージを半分にする代わりにAGIが半分になり一度使ったら再使用までに30分か。剣を二刀流に出来るのは強いな。これで対応の幅が広がる。んでもってこの剣は……」

 

セイバーは剣を抜こうと踏ん張るが全くと言って良いほど剣は動かなかった。

 

「……あれ?何でだ?何でこれ抜けないんだよ!!」

 

その後、セイバーは試行錯誤して抜こうとするも全く抜けなかった。痺れを切らして剣を説明を見るとこう書いてあった。

 

『土豪剣激土(どごうけんげきど)』

【STR+100】【破壊不可】

【大地貫通】【大断断斬】【激土爆砕】

【リーフブレード】

 

装備条件、装備無しの素のSTRが50以上

 

ふうーん。STRが50無いと装備できないかぁ。ふむふむ……って

 

「なんでそんな大事な事言わねーんだよ!!ポイント振った後だし、32レベルになるまでこれの装備はお預けかよ!!」

 

あーもう!!何でこうなるかな!!てか、装備条件有りなんて聞いてねーよ!!

 

セイバーは泣く泣く剣をイベントリにしまうと外へと転移した。




17話終了時点のステータス
セイバー 
 
Lv30
HP 175/175〈+80〉
MP 180/180〈+40〉
 
【STR 45〈+120〉】
【VIT 40〈+120〉】
【AGI 40〈+80〉】
【DEX 15】
【INT 35〈+60〉】
 
装備
頭 【竜騎士のヘルメット】
体 【竜騎士の鎧】
右手【火炎剣烈火】
左手【空欄】
足 【竜騎士の鎧】
靴 【竜騎士の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅴ】【気配斬りⅡ】【気配察知Ⅲ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅴ】【風魔法I】【土魔法I】【光魔法II】【闇魔法I】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅶ】【水泳Ⅶ】【ディフェンスブレイク】【MP強化小】【MP回復速度強化小】【状態異常Ⅱ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】
*火炎剣烈火を装備時
【火炎砲】【爆炎放射】【爆炎激突】【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】【紅蓮爆龍剣】【火属性無効】【極炎】【フレアジェット】【消費MPカット(火)】【龍神鉄鋼弾】【神火龍破斬】【騎乗】

次回はセイバーが再び砂漠のフィールドに戻ってからの話になります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと5日目突入

今回は玄武戦が終わってからの話となります。それではどうぞ!


セイバーが玄武と激戦を繰り広げていた間、ダンジョンへと落ちていたメイプル達もダンジョンをクリア。そして、メイプル、サリー、カスミの3人は元の砂漠に戻ってきた。

 

「はぁ…夜空だ…」

 

「そんなに長くいた訳でもないのにね」

 

「ああ、何故だか嬉しい」

 

3人は洞窟内でカタツムリのモンスターから逃げながら探索を行なっていたため、洞窟では見ることの出来なかった夜空は解放感に満ちていた。

 

するとそこに玄武戦を終えたセイバーが出てくる。

 

「やっほー!2人共、無事だったか!」

 

「セイバーも!私達2人がいなかったけど大丈夫だったんだね」

 

「まぁ、流石にお前らがいなくても簡単にやられるほど俺は弱くねーよ」

 

「ん?てかセイバー。その姿どうしたの?数時間前と随分と様変わりしてるけど……」

 

「ああ、これは俺の方も色々あったという訳だ。それとカスミさん、悪いけど今日はもう戦いはやめにしませんか?お互いかなり疲れている訳ですし」

 

「そうだ…私達、カスミと戦うつもりだったんだっけ……もう、戦意が湧かないや」

 

セイバーは玄武との死闘で疲れていて戦う気が起きず、メイプルとサリーは洞窟内で協力し合った後らしく戦闘に持ち込む気にはなれなかった。

 

「私も戦う気は無い…まぁ、最初から無かったがな」

 

「そうだ!なら、フレンド登録しようよ!」

 

「ん、構わないぞ」

 

「あ、それじゃあ俺も良いですか?同じ剣士として」

 

「勿論構わない」

 

4人はそれぞれフレンド登録を済ませると寝転がって空を見上げた。

疲れからか、安心からか、しばらくの間はそうしていたいと思ったのだ。

 

「カスミは…この後どうするの?」

 

「そうだな…取り敢えず3人とは別れようと思う。フレンド登録もしたことだしイベント後にでもまた会えるしな」

 

「私達と一緒に来てもいいけど…」

 

「うん、いいよいいよ!」

 

「俺としても戦力アップはありがたいな」

 

「はは…嬉しいが今回は止めておく。金メダルが一箇所に3枚もあれば戦闘回数も増えそうだしな」

 

カスミの言うことももっともだった。

カスミとメイプル、セイバーは金メダルを持っているのが他のプレイヤーにバレている。

当然それを狙う者も多い。

3枚もあるとなれば尚更だ。

 

「そっか…残念だけど仕方ないね」

 

「ああ……よっ、と!私はもう行くとするよ」

 

カスミが立ち上がり砂を払う。

 

「頑張ってね!」

 

「まぁ、今度会ったら同じ剣士同士、一騎打ちでもしましょうよ」

 

「ふっ、それはそれで楽しみだな。では3人共、またな」

 

カスミは最後に3人に手を振って3人から離れていった。

 

 

「私達も行こうか」

 

「そうだね」

 

「ここだと誰かに襲われそうだしな」

 

カスミが立ち去ってしばらくして3人も立ち上がった。

目標は今夜の寝床の確保である。

 

「まずは砂漠を抜けないと…」

 

身を守るものの無い砂漠で眠るのは危険極まりない。

3人は歩き出した。

 

 

 

 

 

「広いなぁ……」

 

「そうだね……」

 

「流石にキツい……」

 

砂丘を乗り越え乗り越え先へ進むも、同じような風景が続くばかりだ。

大きな砂丘があちこちにあるために見通しが悪くどちらに行けば砂漠を抜けられるのかが分からない。

それに、モンスターがいない訳ではないのだ。

正直なところ、3人は戦闘は避けたいところだった。

 

「この砂丘を越えたら一旦休憩にしない?」

 

「うん、そうしよう」

 

「ううー。まだこの砂漠を抜けられねーのかよ……」

 

急斜面を手をついて登りきる。

すると、そこには今までとは少し違った風景が広がっていた。

 

「砂丘が無い?」

 

「真っ平らだね!」

 

目の前に広がっていたのは起伏の無い砂漠だった。

砂丘など一つもなく、夜で無ければ遠くまで見通せる状況だっただろう。

 

「こっちに行ってみる?」

 

「そうしよう!こっちのほうが歩きやすいしね」

 

「さっさと抜けたい……」

 

意見が一致した3人は砂丘を滑り降りて再び歩き出す。

 

「昼間なら何か見えてたかもね」

 

「確かにそうかも。イベントって後何日だったっけ?」

 

「後3日。そのうちに後13枚メダルを集めるのが目標」

 

「うーん…ってえ?13?って事はセイバーもメダルを手に入れたの?」

 

「ああ、5枚手に入った」

 

「凄ーい!いつの間にそんなに手にしてたんだ〜!」

 

「セイバーも少しは役に立つ事はわかったけど、残りのメダルはプレイヤーキルでもしないと厳しいかな」

 

「おーい。俺はちゃんと役に立つぞー!」

 

セイバーはサリーに対してツッコむが、サリーの言っている事は正しく、どうしてもというならプレイヤーキルも選択肢に入ってくるだろうが、誰がメダルを持っているかも分からないためダンジョンを探すのと同じような難易度だろう。

 

「まあ、そういうのはプレイヤーと出会ってからでいいよ。相手が戦うつもりなら返り討ちにする」

 

「うん、そうだね」

 

3人はだだっ広い砂漠を歩き続けた。

暗くて先はよく見えていなかったが、次第に木の葉が風でガサガサと揺れる音が聞こえ始めたことで、砂漠の終わりを知ることが出来た。

 

「どんなモンスターがいるか分からないから注意して」

 

「おっけー!」

 

「こんな奴ら、さっさと倒して抜けよーぜ」

 

暗い森の中を進んでいくこと30分。

3人は1つの洞窟を見つけた。

 

「入ってみよう。それで、浅そうなら拠点にしちゃおう」

 

「私が前を行くよ」

 

「フォローは任せろ」

 

もしかしたらまた深い洞窟かもしれないと思った3人だったが、この洞窟は5メートル程奥に伸びているだけの何も無い洞窟だった。

3人はやっと休めると地面に寝転がる。

 

「あー…今日は疲れた」

 

「私も……」

 

3人はそれぞれのパートナーを呼び出す。

癒しという理由もあったが、中々呼び出してあげられる機会が無く放っておいたことを悪いように思っていたからでもあった。

 

「外に出してあげられなくてごめんね」

 

「イベントが終わったら本格的にレベルを上げてあげるからね」

 

「さっきはお試しだったけど、お前ももう少ししたら本格的に戦いに出してやるからな」

 

3人がそう言って優しく撫でてやると3匹は嬉しそうだった。

 

「明日はこの森の探索からスタートするとして、今日はもう終わりでどう?」

 

「私もそれでいいよ」

 

「俺も賛成」

 

交代で眠ることにして、3人は早々に眠りについた。この日は出来る限り休んでおきたかったのである。

3人はそれぞれシロップと朧、ブレイブを抱くようにして眠った。

 

 

 

翌朝6時。

疲れもある程度はとれて、3人の探索への意欲も戻った。

軽めの朝食を済ませると洞窟から出て森の探索を開始する。

 

 

「心機一転!気合い入れて行こう!」

 

 

「「おー!」」

 

今までも何度か森を探索したが、この森は何の変哲も無い森だった。

なぜなら2時間ほど探索した結果、何も見つからなかったからである。

 

「特殊条件とかは分からないし…」

 

「この森は、もう抜けちゃおうか?」

 

「もしかすると既に探索された後かもしれないしね」

 

メイプルとセイバーの提案に少しの間思案していたサリーだったが、肯定を示すように頷いた。

 

「どっちに行く?」

 

「引き返しても仕方ないし、このまま直進しよう。まだ探索の済んでない場所が無い訳じゃないしね」

 

3人の探索の方法は奥地の辺りを探索するというもののため、森の出口付近に何かがあるかどうかは分からない。

 

しかし、望みは薄いと言えるだろう。

ダンジョンにしろ、通常フィールドにしろ大切なものは奥に隠して、強力なモンスターに守らせるのがよくある手法だ。

わざわざ、出口付近にメダルの入った宝箱を設置するようなことはないだろう。

そして森の出口が近づいてきた時に、3人はあることを感じ取った。

 

「波の音?」

 

「うん、私にも聞こえる」

 

「もしかして、海があるのか?」

 

森の終わりが見えて、3人が見たのはセイバーの予想通り、真っ白い砂浜と、雄大な海だった。透き通った海の底には色とりどりの魚達が楽しそうに泳ぎ、美しい珊瑚が花が咲いているかのように海の中を彩っていた。

遠くには1つの小島が見える。

海は太陽を反射してキラキラと輝いていた。

 

「おー…今度は海かぁ…本当このフィールドは広いなぁ」

 

「色々あって面白いね!」

 

「まぁ、かなり広い範囲をここまで探索してきたからな」

 

そう、この5日間で3人は草原、森、雪山、渓谷、砂漠、そして洞窟と多くの場所を探索してきた。

それでもまだ新たな地形に出会えているのだから探索のしがいもあるというものである。

 

3人がこれ程多くの光景に出会えているのは、何よりも3人が探索に熱心であるというのがあった。

毎日何時間も探索を続け、その結果としてようやく新たなダンジョンや地形に出会うことが出来ているのだ。

そのダンジョンがまだ攻略されていなかったのは3人が幸運の持ち主だったということだろう。

 

 

「でも…海は私は探索出来ないなぁ」

 

「取り敢えず、私とセイバーが海中を探索してくるね」

 

「うん、お願い」

 

「そんじゃ、行きますか」

 

サリーとセイバーはバシャバシャと海に入っていくと大きく息を吸い込んで潜っていった。

サリーとセイバー潜水可能時間はそれぞれ40分と32分である。

当分は上がってこないことだろう。

 

「何して待ってようかな…釣りはまともに出来ないしなぁ…森は探索したし…うーん、砂浜に何か埋まってないか探してみようかな?」

 

そう言ってメイプルは砂を掘り返し始めた。

 

ところ変わって海中のサリーとセイバーまるで宝石のような魚達に見とれていた。

それ程に綺麗な光景だったのだ。

サリーに至っては先日、ヌメヌメしたカタツムリばかり見ていたせいもあってより綺麗に見えていたのである。

しかし、ずっと見とれている訳にもいかない。珊瑚の隙間や海底の砂の中を調べていく。

スキルが無ければかなりの時間がかかる作業だが、2人のスキル構成ならば素早く、手際よくやる事が出来る。

 

「ぷはっ…!よっし、メダル1枚ゲット!【潜水】と【水泳】を持ってる人が少ないのかな?深い所は探索出来てなさそうだね」

 

「ぷはあっ!俺の方もメダル1枚あった。【潜水】も【水泳】も共にⅧのレベルに達して潜水時間が前より伸びたのは良いけど、やっぱサリーには及ばないなぁ」

 

「でもその分、セイバーには流水の時に持ってる【アクアドライブ】があるでしょ?機動力ならセイバーの方が上だったし」

 

2人は限界ギリギリまで潜る必要も無いため1度息継ぎを挟んで潜り直す。

珊瑚の隙間が深くまで続いている場所がいくつかあり、先程のメダルもそこにあったのだ。

サリーはそこを重点的に探索する。

メダルや装備があるとすればそういう場所だからだ。

浅瀬は探索されてしまっているだろうから、深い部分を見つけて探る。

その結果、もう1枚メダルを見つける事が出来た。

 

「ふぅ……後は…あの島かな?」

 

サリーが島に向かって泳いでいく。

メイプルには到底来られない距離に位置するその島は小さく、中央に地下へと続く階段がある以外はヤシの木が1本生えているだけだ。

 

「取り敢えず…行ってみよう」

 

サリーは慎重に階段を下りていく。

100段ほど下った先にあったのは普通の木製の扉だった。

封印されているようでも無ければ、鍵もかかっていない。魔法陣が浮かんでいたりもしなかった。

サリーは慎重にそれを開ける。

そして、中の光景に驚いた。

 

 

 

中は綺麗な半円のドームだった。

そしてその中央には見覚えのある古い祠が魔法陣と共に静かに佇んでいた。

 

「うっわ…まだあんなのがいるの……」

 

「へぇ。疲れるけど、なんか面白そうだなぁ」

 

サリーとセイバーが魔法陣と祠を確認して呟く。

あんなのとはもちろん怪鳥のことである。サリーとしてはもう一度あのレベルの敵と戦うのは正直なところ避けたかった。

 

「取り敢えず、1回戻って…メイプルの意見を聞いてみよう」

 

2人は階段を引き返していき、地上に出た。

今まで潜水しての探索に熱心になっていた2人は砂浜の方を振り返ることが無かったためここで初めて砂浜の状況に気が付いた。

 

 

 

「メイプル…何してるの……」

 

「うーん。俺達がいない間に随分と楽しんでるなぁ……」

 

小島からでも分かる。

そこには2人のの背丈を優に超える砂の城が出来上がっていた。

 

「取り敢えず…戻るか…」

 

「そうだな」

 

バシャンと海に飛び込んだサリーとセイバーは急いで砂浜へと戻っていった。

 

 

 

 

 

「うわ……近くで見ると大きいなぁ」

 

サリーとセイバーの2倍程の高さ。

その中からギャーギャー騒ぐ声がする。

入り口になっている所から中を覗き込むと、そこにはメイプルの他にもう1人の人がいた。

赤色の癖毛にスペードの形のイヤリング、色白の肌に髪と同じパッチリとした赤い瞳。身長はメイプルより少し高いくらいだった。

頭装備のイヤリング以外は、ぱっと見たところ初期装備だった。

特徴的なのは武器を装備しているように見えないことだ。

大盾でも無ければ剣でも杖でもない。

どうみても手ぶらである。

そんな、サリーとセイバーの見たことのない人物はメイプルとオセロをして遊んでいた。

 

「あー!駄目だって!」

 

「はい、パーフェクトー」

 

盤面は白一色だ。

メイプルが選んだ色はその自慢の装備の色だった。

つまり黒。惨敗である。

悔しそうにしていたメイプルがサリーとセイバーに気付いて立ち上がる。

 

「おかえりサリーにセイバー!」

 

「え、ああ、うん。それはいいんだけど……誰?」

 

「俺が知らない所を見ると有名な人じゃないな。それか、つい最近始めたばかりか……」

 

「僕はカナデ。さっきまではメイプルと一緒に砂の城を作って遊んでたんだ」

 

「楽しかったよねー」

 

「ねー」

 

2人には何となくこの2人が似ているような気がした。

思考回路が似ているのだろう、2人は一瞬にして打ち解けたようだった。

 

「大丈夫なの?」

 

「大丈夫だと思うよ?ねーカナデ?」

 

「だって僕まだレベル5だよ?自慢じゃないけど弱いよ?」

そう言って、カナデはサリーにステータスを見せてくる。

確かにレベルは5だった。

 

「い、いいの?そんなに簡単に見せて?」

 

「普通は見せないからな?」

 

「いーよいーよ。メイプルのパーティーメンバーのサリーさんにセイバー君でしょ?なら別にいいよ!」

 

2人が探索に行っている間に何があったのかは分からないが、メイプルはかなりの信頼を得ているようである。

その逆もまた然りだ。

サリーとセイバーもメイプルに押し切られるようにしてカナデとフレンド登録をした。

メイプルとカナデは既に登録し合っているとのことだった。

 

「んー……サリーでいいよ」

 

「俺もセイバーって呼んでくれ」

 

「私としてはメイプルが大丈夫って言うなら、まあいいや。それに…」

 

「それに?」

 

「向かってきても、今なら簡単に倒せるしね」

 

そう言ってサリーがダガーを構える。

 

「そ、そんなことはしないと誓うね、うん」

 

カナデもいるが、サリーとセイバーはメイプルに先程のダンジョンの話をした。

 

「えー……あんまり行きたくない…」

 

「それには同感。でも、中がどうなってるかは分からないし…入ってみる価値はある」

 

「俺は面白そうだから行きたいなぁ」

 

「うーん……そっか」

 

どうするかを静かに考え込んでいた3人だったが、その沈黙を破ったのはどちらでもなくカナデだった。

 

「なら、僕が見てきてあげる!スタート地点もここから100メートルくらいしか離れてないし」

 

死ぬことを前提とした提案である。

3人もそんなことはしなくても大丈夫だと言ったがカナデは飛び出して行ってしまった。

バシャバシャと泳いでいく姿が小さくなっていく。

 

「【水泳I】持ってたし…たどり着けるとは思うけど…」

 

「だ、大丈夫かな?」

 

「分からないなぁ…」

 

「ま、なるようになるだろ」

 

小島にたどり着くのを見届けると3人は中に何があるのかを考える。

 

「どう思う?」

 

「すっごいモンスターがいるんじゃないかなぁ…」

 

「あの怪鳥みたいなの?」

 

「そうそう!」

 

「俺もそれが妥当だと思う。流石に怪鳥レベルじゃ無いにしてもそれなりに厄介な敵はいそう」

 

ただ、これはあくまで予想でしかない。もしかすると、転移先は金銀財宝で溢れる部屋かもしれないのだ。

 

「財宝なら、カナデに持ってかれちゃうかな?」

 

「まあ、そうだろうね」

 

財宝を目の前にして持ち帰らないということは無いだろう。

その後の転移先も予測出来ないので追いかけることも出来ない。

 

 

「あー死んだ、死んだ」

 

その時、カナデが森から出てきた。

3人は報告を聞くまでもなく中にいるモンスターの能力を理解した。

怪鳥の時と状況が酷似していたためだ。

 

「報告します、メイプル殿」

 

「ほほう、何だね?」

 

「うーん。なんか見た事のあるノリだなぁ」

 

謎のノリだが、たまにサリーもするので人のことは言えない。

 

「転移先は水中。さらにその水に浸かっていると動きが鈍り、なす術なく巨大イカに叩き潰されました」

 

「なるほど……無理!」

 

「俺1人ならワンチャン行けるかな?流水の水中での移動速度増加あるから動きについてはプラマイゼロだろうし……」

 

「多分厳しいと思うよ。あのイカ、水中ではかなり速く泳いでたし」

 

ただし、水中となればメイプルは参加出来ない上にサリーの【大海】のような水で埋め尽くされているのならサリーの回避も役に立たないだろうから2人は参加出来ず、セイバー1人となると怪鳥や玄武レベルのモンスター相手に水中戦はまず無理であろう。

無理に挑んでも意味などない。無謀と勇敢は別物である。

 

「今回は諦めよう」

 

「僕もそれがいいと思うよ」

 

「もうしばらく海の探索をしたら終わりにしようかな」

 

サリーが伸びをして海を見る。

まだ、探索の済んでいないところも少しは残っているだろう。

 

「僕も手伝おうか?メダルを見つけたらあげてもいいよ?」

 

ノーリスクハイリターンの提案だが、そんなうまい話など普通は無いだろう。

 

「カナデ?本気?」

 

「まあ、僕はこれがあればいいかな」

 

「それって、キューブ?」

 

そう言ってカナデが取り出したのは一つのルービックキューブだった。

 

「何それ?」

 

「これはね、僕のイベントでの戦利品だよ。後ろの森には周りに飛んでる浮遊島に繋がる魔法陣があって……僕が攻略したから今はもう消えちゃったけどね。ともかく、そこで手に入れた杖なんだ」

 

「そのルービックキューブが杖!?」

 

「そう。転移先は古びた図書館だったんだけど…そこの一室にジグソーパズルがあったんだ。それを完成させたら出てきたんだよ。4日かかったけどね」

 

ルービックキューブは薄く白い光を放ちながらカナデの手のひらの上に浮かんでいる。

 

「わーお。4日もかかるパズルって相当難しかったんだろうなぁ」

 

「これにはスキルがついてるんだ」

 

「へー…私達の装備と同じ感じだね」

 

「スキル名は【神界書庫(アカシックレコード)】。面白いスキルだよ」

 

「どんなの?」

 

メイプルの問いにカナデは答えようとしたが考え直したのかこう口にした。

 

「パーティーメンバーになることがあったら、教えてあげる」

 

悪戯っぽい笑みにメイプルはこれ以上の追求が無意味だと悟った。

 

「んー…今すぐパーティーってのは無理かなぁ…」

 

「そっかぁ、残念」

 

カナデが楽しそうに笑う。

それは残念そうには見えなかった。

カナデは今までに出会ったどのプレイヤーとも違う、どこか摑みどころの無いような独特の雰囲気を持ったプレイヤーだった。

 

「イベントが終わったらまた会いたいなぁ」

 

「いいよ?その時はまたオセロしよう!」

 

「うん、そうしようか」

 

「話もまとまったし、私は探索に行くね」

 

「俺も行くか。ついでに何か無いか見てみたいし」

 

「僕もいくよ、多少は足しになるとおもうよ?」

 

サリーとセイバーとカナデが海へと歩いていく。

メイプルは今度こそ真面目に砂浜を探索することにした。

ただ、結果は何も無しだったが……。

 

それからは3人はカナデと別れて再び新たなエリアの探索に行く事になった。

 

「面白いけど、不思議な人だったねー」

 

「そう?私はメイプルで見慣れているからなぁ…」

 

「うんうん。俺もカナデを見てると不思議とメイプルに似てるなぁと思ったし」

 

「ど、どういう意味かなぁああ!?」

 

3人は取り敢えず海岸線に沿って、進むことにした。

変に迷うこともなく、それが最善と判断したからである。

 

 

さらに海岸線を進み始めて数分、いきなりセイバーが2人の前に出てきた。

 

「あのさ、提案なんだけど……」

 

「え?」

 

「どうしたの?」

 

「ここから先は別行動取らない?俺、ちょっと気になる場所を見つけたんだ」

 

「え?でも私達の前には何も無かったよ?」

 

「セイバー、まさかと思うけど聖剣を得られるダンジョンでもあったの?」

 

「まぁそんな所。だから俺の持ってるメダルをメイプルに預けるから俺はそっちの方をやって来てもいい?」

 

「うーん。でも別行動すると戦力ダウンするからなぁ」

 

「私は良いと思うよ。その方が探索の効率は上がるし」

 

メイプルはこれに乗り気だったが、サリーはかなり渋々だった。何故なら、サリーとしてもセイバーの力は必要だと感じていたからである。

 

「死んだ時に備えて金メダルも預けとくよ」

 

「わかった!」

 

「えぇ!?ちょっと!」

 

「それじゃあ、また後でね」

 

セイバーはサリーの静止も聞かずにさっさとその場から離れてしまった。

 

「メイプル。何で良いって言ったの!」

 

「え?でも、私足遅いし、効率上げるならこの方が良いかなぁ〜って」

 

「うーん。メイプルが言うなら良いんだけど…さっき多分セイバー、嘘ついてたよ?」

 

「……え?」

 

「大体、こういう時にセイバーを1人にすると何するかわからないの!別のゲームをした時なんて私がお化けに怖がっている間にレアアイテムのクエストに挑戦してたりしたもん!」

 

「まさかまさか、そんな事なんて……無いよね?」

 

「ああーっ!何でこうなるのー!!」

 

 

 

 

そう、セイバーはただ何も無く別れたわけでもない。聖剣についても勿論嘘である。彼はどうしてもあの祠の中にいるであろうイカをクリアしたくてたまらなかったのである。ただ、今の彼ではクリアする事は難しいと感じていたため、彼はクリアのために必要となりそうなアイテム捜索も兼ねて2人と別れたのである。それに、メダルもメイプルに持たせておけばそうそう奪われる事も無いと思っており、それ故に自分のメダルをメイプルに預けた。

 

 

「さーて、あのイカを倒すには条件を有利にするためのギミックか、攻略のためのアイテムがあるはずだ。それを探してみるか!」

 

こうして、セイバーは堂々と2人の元を離れてダンジョン攻略の方法を探し始めたのであった。




本編にある通り、ここでセイバーが別れてオリジナル展開が入ります。また次回も楽しみにお待ちください。


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聖剣使いと廃墟探索

今回は殆どがメイプル、サリー視点の話になります。それではどうぞ!


カナデと別れて数分、セイバーと強制的に別れさせられた2人は海岸線を歩いていた。

因みにここは今回のイベント島の外周である。

この島は周りがぐるっと海に囲まれているのだ。

そして、空には浮遊島がいくつか漂っているのである。

 

「あのうちの1つに図書館があるのかぁ…あそこもフィールドの一部なんだね」

 

メイプルが空を見上げて呟く。

島の周りに浮かんでいるといっても結構な距離がある浮遊島は見えている限りで6個あった。怪鳥のいた山岳の後ろにも隠れているかもしれないため正確な数かどうかは分からない。

つまり、カナデが言っていた図書館のある島を除くとあと5つは探索出来ると思われる浮遊島があるのだ。

 

「まあ、もう探索されてるかもしれないけどね」

 

「【4日で出来るジグソーパズル】を解いてダンジョンクリアなら…2人でやればすぐに終わりそう!」

 

「まぁ、同じようなダンジョンがあるかは分からないから、行くならセイバーも一緒の方が心強かったのに……」

 

「そうだけど……仕方ないよ」

 

「あいつ後で覚えておきなさいよ……」

 

「まぁまぁ……それにしても、パズル系のダンジョンもあるんだね」

 

3人は戦闘系のダンジョンばかりと出会っていたため、メイプルは探索や謎解きによってクリア出来るダンジョンもやってみたいと思ったようだった。

 

「見つけられるかは運次第、かな」

 

「そうだね」

 

会話を続けながら2人は海岸線をひたすらに進む。

隣は何の変哲もない森が続くばかりで、モンスター1匹すら姿を見せない。

時折海から出てくる大きめの蟹型モンスターとの戦闘が唯一の変化だった。

それ以外はただ歩くだけである。

そうして進むこと1時間。

砂浜が終わって地面に傾斜が出てきた。

次第に海面との距離が離れていき、崖になっていく。

 

「メイプルー落ちないでね?」

 

「だ、大丈夫だよー!」

 

道幅は決して狭くは無いし、隣はただの森だ。

壁に張り付くようにして歩いている訳でも無いのだからよっぽどのことが無い限り落ちるということは無いだろう。

 

「まあ、メイプルなら落ちても死なないだろうけど」

 

「でも、登ってこれないけどね」

何にせよ落ちるべきではないということである。

 

 

 

 

2人がさらに歩くこと2時間。

長い間横にあり続けた森は姿を消して、苔むし、古びた石レンガで出来た廃墟が右手に姿を現した。

見るからに何かがありそうな地形だ。

廃墟から伸びた石レンガの道は2人の前を横切って海の方に突き出た崖の先端にまで続いている。

そしてそこには幾つかの石が突き立ち、中央にある台座を囲んでいた。

 

「何かあるよね?」

 

「既に探索されてなければね」

 

2人が廃墟の方に足を踏み入れる。

ボロボロになった建造物の中を片っ端から探索していくが何も見つからない。

それでも隠し部屋などがあるかもしれないと探索を続けていた二人に遂に変化が訪れた。

 

「おっ…と」

 

サリーが廃墟から出ようとした所でその体を物陰に引っ込める。

メイプルもサリーにならう。

そこには3人のプレイヤー。

今まで出会ったプレイヤー達と比べれるならば装備は中の上の物を着けているように見えた。

ユニークシリーズには遠く及ばないもののそこそこ上質な装備だ。

レベルもそれに伴っているだろう。

かなり近い。物音を立てれば見つかってしまうだろう。

 

「どうするの?」

 

メイプルがサリーの耳元で小声で聞く。

ここまですれば流石に聞こえない。

 

「戦ってもいいし、戦わなくてもいい…もしやるなら…私が1人でやってもいいしメイプルと一緒でもいい」

 

メイプル1人で行かせるという選択肢は無いようだった。

そこで、プレイヤー達が興味深い内容を口にする。

 

「なぁ、あの本、どういう意味か分かったか?」

 

「いや、ボロボロ過ぎて断片的にしか読めないし…水が関係するのは分かるんだけど、【古ノ心臓】の場所がなぁ」

 

「頼むぞ、その本は死亡時に落としちまう特殊アイテムなんだからな…早く解読してくれ」

 

「分かってるよ」

 

そう言って、拠点にしている場所があるのかそのまま歩いていく。

2人には気付かなかったようだ。

距離が離れていく。

 

「メイプル。あのプレイヤーは倒したい…けど、本があるから恐らく逃げに徹してくる。だから…」

 

サリーがメイプルの耳元で早口に作戦を告げる。

 

「……分かった。大丈夫?」

 

「ふふふ、もちろん!」

 

プレイヤー達が歩いていく。

これ以上離れられては見失ってしまうだろう。

 

 

2人の作戦が始動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったー!!5枚目のメダルだー!」

 

廃墟に少女の声が響く。

その声に3人のプレイヤーが振り返りつつ物陰に隠れる。

それが本当なら狩りたい所だ。

しかし、相手の強さが分からない。

そのため、声の主を観察しようというのである。

スキップをしながら物陰から出てきたのは1人の少女。

満面の笑みを浮かべている少女の装備は海のように青いマフラーにそれより暗い色のレギンス。綺麗な装備は嫌でも注目を集めることだろう。

しかし、全身となるとそうではなかった。

他の装備は初期状態。

何も装備していない、ただの服である。

補正など一つも無いだろう。

靴も初期装備であることが分かった。

 

「どうだ?」

 

「明らかに初期装備だ。部分的にいい装備があるが…今回のイベントで手に入ったのを着けているんだろう。俺の初心者の頃を思い出す。あの格好悪いちぐはぐさはな…」

 

「だけど…メダルが本当にあるかは分からない」

 

プレイヤー達が観察を続ける中、少女はモニターを操作してインベントリから何かを取り出した。

 

それは、5枚のメダルだった。

 

 

「うふふふ…後半分、後半分!」

 

それが彼女の日課なのだろう。

崩れた石レンガに腰掛けて1枚1枚メダルを眺め、ぎゅっと握りしめて嬉しそうにインベントリに戻す。

 

「確定だ。行くぞ」

 

「ああ、潰そう」

 

3人が物陰から飛び出すと少女はビクッとして3人の方を見た。

少女は立ち上がってダガーを構えながらじりじりと距離を取る。

 

「な、何ですか?」

 

「ごめんな?こっちもメダルが欲しい」

 

「………っ!」

 

少女が駆け出そうとした所で3人が少女を囲むようにして逃げ道を潰す。

 

3方向からじりじりと詰め寄って来ているプレイヤー達に少女は上手く対処する術を持たないのか足を震えさせながらキョロキョロとしている。

 

「かかれ!」

 

「「おう!」」

 

3人がそれぞれの武器を振るう。

それを苦し紛れに振るったダガーで弾ける筈もなく、少女の体に武器が沈み込んだ。

3人がメダルを思い描く。

 

しかし。

メダルなどそこには無かった。

少女はまるで幻のように薄れて消えていってしまう。

 

「「「は?」」」

 

驚きを上書きするように、1人のプレイヤーからダメージエフェクトが噴き上がる。

2度、3度。

呆然としているうちに斬りつけられ続けたのだ。

そして、それは致命傷となった。

 

「ごめんね?私も本が欲しいんだ」

そう言って地面に落ちた本を拾おうとするのは、弱者だと思い狩ろうとしていた少女だった。

 

「は?ふ、ふざけんな!」

 

ありえない状況に、冷静さを失ってスキルを使って斬りかかるもまるで剣が避けたかのように躱されてしまう。

少女の両手には1本ずつダガーが握られている。

それが回避の最中に斬りかかった腕を斬りつけていくのだ。

 

「ぐあっ!?」

 

怯んだ隙に、少女は本を拾ってインベントリにしまうと駆け出した。

 

「ま、待て!」

 

ダメージエフェクトを散らしつつ少女を追いかけた男は。

 

 

 

 

次の瞬間腹部から鮮血のようにエフェクトを散らして光となった。

 

 

いつの間にか走っていた少女は消えて、男のやられた地点でダガーを弄んでいる。

 

「2度も同じ手に引っかかるのは良くないなぁ」

 

「は?え?な、何だこれ…」

 

残りの1人も状況が受け入れられないようでうわ言のように何かを呟いている。

そんな状態で少女。

もとい、サリーに勝てるはずがなかった。

 

 

 

 

「バイバイ」

 

少しの後、最後の1人も光となって消えていった。

初期地点が何処かはサリーには分からないが、彼らには本を取り戻すことは出来ないだろうことは分かった。

 

「私に勝てないようじゃ…メイプルやセイバーは倒せないしね」

 

メイプルがサリーに駆け寄ってくる。

 

「どう?上手くやったでしょ?」

 

「うん!いつもと違う雰囲気のサリーがちょっと面白かった!」

 

「そんなとこは見なくていいのっ!」

 

「ねえ、もう1回して!やったー!って言ってスキップして!」

 

「しないよ!しない!それより、戦利品の確認しよ?」

 

「……今回は見逃してあげるー」

 

「…それはよかった。……普段と違うことするのはやっぱり恥ずかしいなぁ」

 

サリーはこれからはよっぽどのことがない限りしないようにしようと心に決めた。

2人はこの戦闘で手に入れた物をチェックし始めた。

今回の戦闘で手に入った物は、まず第一目的だった本。

そして、メダルが3枚だ。

これはかなり幸運だったと言える。

メダルを3枚持っているプレイヤーならば高レベルプレイヤーとの戦闘は極力避けるからである。

サリーも普通の装備のままでは逃げられていただろう。

負けたプレイヤー達が持っていた3枚という数よりも多い5枚のメダルは、3人から冷静さを奪うことに成功した。

メダルが一気に3倍近くになる誘惑に抗うことは出来なかったのだろう。

 

「ミイラ取りがミイラに…ってね」

 

そう言うとサリーはインベントリからあの古びた本を取り出した。

 

「さて、読んでみようか?」

 

「うん!そうしよう!」

 

2人で大きな石レンガに腰掛けて本を覗きこむ。

ボロボロになっていてどのページもまともに読み取ることは出来なかったが、パラパラと捲っていると途中に1ページだけ、読み取れる部分を見つけた。

 

「【古ノ心臓】、湧水ニ導カレ、淡イ光ノ中、ソノ姿ヲ現サン。勇敢ナル者ヨ、魔ヲ払イテ、青ク静カナ海へ」

 

「どういうこと?」

 

「【古ノ心臓】に湧水が関わってて…それがあればダンジョンに行けるのかな?戦闘もありそうな感じ」

 

「……湧水っていうくらいだし…噴水とか?」

 

2人が探索した結果廃墟群には4つの噴水があった。

廃墟の中央に大きな噴水があり、そこから離れた所に小さな噴水がある。

 

噴水の頂点は菱形の赤い水晶で出来ていて綺麗だった。

といっても水の気配はなく枯れてしまっている。

 

「取り敢えず真ん中の大噴水で試してみようか」

 

「うん、そうしよう」

 

 

少し歩いて2人は大噴水にたどり着いた。

すると、サリーには何か考えがあったのか、かつては水が溜まっていたであろう噴水の受け皿の部分にすっと乗った。

 

「【大海】!」

 

サリーの足元から水が広がる。

それは、受け皿を満たしていく。

それと共に噴水が淡く青色に輝き始めた。

 

「おおっ!?」

 

「どう?」

 

しかし、その光は次第に薄れていく。

受け皿に溜まっていた水も噴水に吸い込まれるようにして消えていった。

耳を澄ましてみるものの、何かが作動したような音はしなかった。

 

「んー…何も起こらない?」

 

「…そうみたい。でも、この噴水は何かあると思うよ」

 

「うん、私もそう思う。他の噴水でも試してみよう」

 

2人は他の噴水でも同じようにしてみたところ、どの噴水も淡く輝いたが、それ以上の変化は起こらなかった。

 

 

 

 

 

「サリー、あの本はまだ最後まで読みきってなかったよね?もう1回ちゃんと読んでみようよ?」

 

「……そうしよっか。他にもヒントがあるかもしれないしね」

 

行き詰まってしまった2人はもう一度じっくりと本を読む。1ページ目から見ていくもののやはり読める文字は無かった。

そして、読むのを止めたあの文章までやってくる。

 

「淡い光っていうのはあの噴水の光で、湧水はあれでいいだろうし…」

 

考えてみるものの新たに何かを思いつくことは無く、一旦置いておいて先のページを見る。

 

「おっ?」

 

「これ……絵?」

 

最後のページ。

ボロボロになってしまってはいたもののそこには絵が描いてあったのだ。

 

「壺?…いや、水瓶?」

 

4つの噴水の周りにそれぞれ壺らしきものを置く人々の姿。絵の上部には丸い何かが浮かんでいた。それは赤色に塗られている。

 

「これが、【古ノ心臓】?」

メイプルが赤い丸を指差して言う。

 

「……かもしれない。んー…水瓶に入れて周りに置かないと駄目とか?分かんないなぁ…」

 

2人はうんうん唸りながら考えていたがこの絵から得られた情報が曖昧過ぎて、いい考えに繋がらなかった。

 

「ちょっと休憩しようか。このまま考えていても何も思いつかなさそう」

 

「確かにそうかも」

 

2人は廃墟の中央で座り込んでくつろぐ。

変に隠れるよりも見晴らしのいい場所にいた方が、プレイヤーからの接近に気付きやすくリラックス出来る。

 

「このイベントも今日を合わせて後3日かぁ…」

 

サリーが呟く。

イベントももう折り返し地点を過ぎている。残りは僅かだ。

 

「すっっっごく濃厚な4日間だったと思うよ?今までのプレイ全部よりも内容が濃いかも!」

 

「あはは、確かにね!」

 

「ここにセイバーもいたらなぁ」

 

「あいつ、あそこに残って何をするつもりだったんだろ?」

 

「けど、終わったら何があったか聞こうよ。セイバーもセイバーで新しい発見をしてるのかも!」

 

「ふふっ。そうだね、メイプル」

 

2人はゴブリンの王を倒し、亡霊の彷徨う森で一夜を明かし、雪山では圧倒的強さの怪鳥との戦いを制しシロップと朧を味方につけ、その後は竹林を探索した。

渓谷では偽物との戦いがあり、砂漠ではカスミと共にカタツムリから逃げ回りながらの探索し、セイバーは玄武との死闘を繰り広げた。

海ではカナデと出会い新たな繋がりを得て、メダルも手に入れた。

 

メイプルの言う通り、3人は非常に濃い内容のイベント期間を過ごしてきた。

 

「この廃墟と…あと1つダンジョンを探索出来れば御の字かな」

 

「5日目は丸々廃墟に使う?」

 

「うん、そのつもりでいよう。それくらいはかかるかもしれない」

 

2人は休憩もそこそこに再び廃墟の探索を始めた。

1回目とは違い、時間をかけて地下室や隠し部屋を探そうとしているのだ。

理由は先程の古びた絵である。

二人はこの廃墟内のどこかに絵に描かれていた水瓶があるのではないのかと予想したのだ。

絵の状況を再現するには水瓶が必要になるだろう。

あの絵が絶対に正しいという訳では無かったが、2人には今の所手掛かりがそれしか無かったのである。

2人で、時には手分けして、探索を続けたものの結局なにも見つからないまま日が沈もうとしていた。

 

「どこか屋根の下に入って休もう」

 

「そうしようか」

 

思うように成果が出なかったことに肩を落としながら、2人は食事をした。

 

「何も無かったねー」

 

「……夜になったらまた何かが変わるかもしれないし…時々交代で探索に出ることにしない?」

 

「うん、いいよ!」

 

2人同時に探索をせず、片方は休むことにしたのは、まだ明日も探索が待っているからだろう。

2人は余裕を持って行動しなくてはミスが起こると言う事をカタツムリ達からの逃亡の間で学んだのである。

夕食後にしばらく話をすると、まずはサリーが探索に出かけた。

 

「いってらっしゃい!」

 

「いってきます」

 

メイプルはシロップを呼び出して戯れている。他にすることがないのだ。

とはいえ、時には休むことも立派な仕事となるのである。

2人で決めた以上、約束を破って探索に向かう訳にはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくするとサリーが戻ってきた。

その様子から察するに成果は無かったのだろう。表情も明るくなかった。

さらに、少し時間をおいてメイプルが出発する。

 

 

それを何度か繰り返し、何度目かのメイプルの番が回ってきた。

 

「いってくるね」

 

「うん、何かあるといいなぁ…」

 

メイプルが廃墟内を探索する。

まずは大噴水からだ。

今までもまずは大噴水からだった。

そして全体を見回りながら小さな噴水を確認するのだ。

メイプルは空を見上げる。

 

「綺麗な月……」

 

空に浮かぶ満月は静かに淡い月明かりを地上に浴びせていた。

現実世界は電気の光で溢れているため、ここまで月明かりの明るさを感じることは出来ないだろう。

メイプルが大噴水へと向かう通路を歩いていく。

 

「ん?」

 

メイプルが立ち止まる。

大噴水には待ち望んだ変化があった。

噴水は、2人が何もしていないにも関わらず薄く輝いていたのである。

 

メイプルはメッセージ機能ですぐにサリーを呼んだ。

1分と経たないうちにサリーが大噴水まで駆けつけてくる。

 

「おー…光ってるねー」

 

「うん、何かあると思うんだ」

 

サリーが受け皿に入って【大海】を発動させる。

 

「光は強くなったけど…駄目みたい」

 

【大海】は全て吸い込まれてしまう。

また進展が無かったことに肩を落とすサリーだったが考え込んでいたメイプルが何か思いついたようで話し出した。

 

「同時…とかは?ほら!絵にも4つの噴水が書いてあったし!」

 

「確かに…でも、水を発生させるのが追いつかないよ。【超加速】を使っても間に合わない」

 

「このままじゃどうやっても無理だからさ…1回試してみない?」

 

「え?何を?」

 

「【液体】を作れるのはサリーだけじゃないんだよ」

 

そう言ってメイプルが思いついた方法をサリーに話す。

 

「えっ……そう、か。うん…そうだね。やるだけやってみよう」

 

サリーは再び受け皿で【大海】を発動させる。

その少し前にメイプルが叫ぶ。

 

「【毒竜】!」

 

そう、毒液も液体である。

そしてこの毒竜の頭は3つ。

それぞれが別の小さな噴水に向かっていき受け皿ごとどっぷりと飲み込んだ。

水でないと駄目なのかは2人には分からなかった上に、同時かどうかにも確信は無かった。

しかし、それでも試さなければならなかったのである。

 

その理由は恐らくこのイベントが発生するのに時間が関係しているからだった。

時間はもうすぐ夜の12時だ。

いつこの発光現象が終わるかどうか分からない上に、これを逃せば次は6日目の夜である。

流石にそこまで待ってなどいられない。

 

粗の多いメイプルの作戦だったが、神は2人に味方したようだ。

 

「うわっ!?」

 

「眩しいっ…!」

 

3つの噴水から眩い光が大噴水に向かって伸びてくる。

 

 

 

 

 

 

だが、その光は突如として消えてしまい眩く輝いていた光は薄く戻ってしまった。

 

 

「……え?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよぉ〜!光が戻っちゃったぁ!」

 

「……うーん。今の行けると思ってたんだけどなぁ……何でいきなり光が薄くなったんだろ?」

 

メイプルはかなり焦っており、サリーは暫く原因を考えていたが、その結果、ある結論に至った。

 

「もしかすると、このダンジョンに別ルートから誰か挑戦してるのかも」

 

「えぇ!?それじゃあ、私達は入れないって事?」

 

「……そうなると思う」

 

「えぇー!!ここまでやったのにまたやり直し?うぅー。誰が挑戦してるか気になるなぁ……」

 

「同感ね。もし今挑戦してる人がクリアしちゃったら私達は報酬を得るどころか、ダンジョンにすら挑戦出来ないから……」

 

 

 

2人が突入が出来ずに困っている頃、その2人が入ろうとしたダンジョンを正規ルートで挑戦しようとした者がいた。その者はメイプル達よりもコンマ数秒速くダンジョンに突入しており、先に挑戦する権利を得ていたその者の名は……

 

 

 

 

「さーて、いっちょ狩らせてもらおうか。イカちゃん!流水、抜刀!」

 

 

その日の昼間にカナデが挑戦してボコボコにされ、その後、メイプルとサリーがギミック解除ルートで挑戦しようとしていたダンジョンの主であるイカを倒すべく挑戦した人物は誰あろうメイプル達と別れていたセイバーだった。今、セイバーは流水を抜刀して水中戦特化の姿となり、それがセイバーによるイカ攻略の幕開けとなった。



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聖剣使いと巨大イカ戦

今回はイカとの戦いとなります、それではどうぞ!


セイバーは祠の扉を開けて水中に転移、流水を抜刀するとイカとの戦闘体制に入った。その瞬間、セイバーの体にデバフがかかって動きが僅かに鈍った。

 

「(やっぱデバフはかかるか。けど、【アクアドライブ】のお陰で少しはそれを軽減出来てる。これなら何とか行けそう……と、言いたいけど……)」

 

するとイカは触手を展開し、セイバーへと襲いかかって来た。

 

「(うらっ!はあっ!)」

 

セイバーは触手を見切って3本ほど斬り落とす。が、イカは全くダメージを受けておらず、HPバーは減ってなかった。さらに斬られた触手も再生していた。

 

「(あらら、これは本体攻撃しないとダメかな)」

 

セイバーは泳ぎながら触手を処理しつつイカへと接近しながら考える。

 

これはキツいな。機動力は向こうが上だし、触手は斬っても意味は無し。接近すればこっちの間合いなんだけど、イカの方が速いからすぐに逃げられそう。

 

セイバーの読みは当たっており、セイバーが泳いで近くに行こうとするとイカは全力で阻止し、一定以上に距離が縮まるとすぐに距離を取っていた。

 

うーわ、すぐに逃げるとか面倒だなぁ。こうなったら、今日の夕方に海の中で見つけたこのスキルを使ってみるか。

 

「(【シャットアウト】!)」

 

するとセイバーが光に包まれて動きがいきなり速くなり、その速度を持って接近、イカが反応する前に更にスキルを発動した。

 

「(【ウォータースラッシュ】!)」

 

セイバーの一振りはイカにダメージを与え、HPバーを1発で2割程持っていった。

 

「(あれ?思ってたより防御は薄い。いや、あの玄武と怪鳥が硬すぎただけかな?)」

 

セイバーが考察を立てていると光が消え、動きが再び遅くなった。

 

「(もう時間切れかぁ。やっぱ30秒は速すぎるなぁ)」

 

セイバーが先程発動した【シャットアウト】とは自身にかかっている全てのデバフを30秒間だけ無効化する効果であり、これを使った後には30分間のインターバルを挟む必要がある。

単純計算なら後これを4回繰り返せばイカを倒せる訳なのだが……

 

「(次使えるのは30分後、けど、【潜水】と【水泳】をMAXまで上げても息が続く時間は40分。これを後4回なんて使ってる時間はない)」

 

そう、セイバーの最大潜水時間は僅か40分。これでは最後までは息は保たない。そこで彼はこのダンジョンを攻略するためのもう1つの策を実行してみた。

 

「(近づけないのなら、無理矢理近づくまで。うぉおおおおお!!【アクアトルネード】!)」

 

セイバーは心の中で叫ぶ事で【雄叫び】を解放、その効果で上乗せされたパワーのままにアクアトルネードを発動、ジェットのように噴射する事で強制的にイカへと突貫、そのまま剣を振り抜いて本体へとダメージを入れた。

 

「(うっし!このまま一気に……)」

 

セイバーは勢いに乗って一気に攻撃をしようとするも、イカの体力が7割となったためにパターンが変化、イカの周りに魔法陣が現れると次々に魚が出現してきた。

 

「(ここで魚?もしかして当たったらダメ系?)」

 

セイバーが動揺している間に魚はセイバーへと直撃、セイバーのHPをほんの僅かずつだが削り始めた。

 

「(.チッ。この魚、ダメージそのものは大した事は無いけどいかんせん数が多すぎる。触手をメインで捌いてるから魚までは防げない!!)」

 

更には魚は体当たりする度にセイバーの動きを鈍らせていっていた。サリーの【大海】と同じようなデバフ効果である。

 

「(魚に当たると機動力低下。まだ触手だけなら何とか捌けるけど魚にまでは手が回らない。こうなったら回復を優先する。【アクアリング】!)」

 

セイバーは魚の威力は大した事無いと踏み、体力の自動回復が可能なアクアリングで少しずつ回復しつつ戦闘を続けていった。

 

 

だが、戦闘開始から既に10分、セイバーの時間制限のカウントダウンは着実に進んでしまっている。このままでは倒されはしないがジリ貧だ。

 

「(こうなったら、周囲を薙ぎ払うしか無い!【渦潮】!)」

 

セイバーは自身の周りに渦潮を発動、それに当たっている魚とイカの触手の動きを渦潮の流れに強制的に縛りつけた。

 

「(はあああああああああああ!!【ハイドロスクリュー】!)」

 

そのまま【雄叫び】の威力アップを加算したハイドロスクリューによる激流がイカを周囲の魚ごと飲み込んだ。耐久力の無い魚は全て消滅し、イカもHPバーが残り5割にまで減った。

 

「(そろそろ次の変化が来るでしょ?さっさとしろよ)」

 

セイバーが挑発気味に心で思うとイカはそれに応えるように周囲をイカ墨によって埋め尽くし、辺りを真っ黒に染め上げるとセイバーの視界は完全に奪われてしまった。

 

「(これは、キツいな。渦潮はそろそろ効果切れだし、触手と追加された魚の動きが見えない……)」

 

セイバーはスキルとして気配察知を持っているため、触手が見えずとも防ぐ事は出来ていたが、それでも危険な状況だった。

 

セイバーは苦戦していたが、突然何かを閃いた。

 

「(そうだ!水が濁ってるのなら、綺麗な水を出して濁りを薄めれば良い訳だ!【アクアトルネード】!)」

 

セイバーは流水から水を噴射すると周りへとばら撒き、それによって少しずつ真っ黒な水は薄まり始めた。

 

「(どんどん行くよ!【アクアトルネード】!【アクアトルネード】!【アクアトルネード】!)」

 

セイバーはアクアトルネードを乱発する事によって触手をノックバック効果で弾きつつ効率的に新しい水を展開、薄まり続けた海の水はようやくうっすらとイカの姿を見れるようになった。

 

「(見えた!うらああああああ!!【レオブレイク】!)」

 

セイバーはイカが見えた瞬間に【雄叫び】からの遠距離攻撃を撃ち込み、イカの体力をさらに1割削った。イカはさらにイカ墨を吐いて再び海を真っ黒にしようとする。

 

「(させるか!おりゃああああああああ!!【ハイドロスクリュー】!)」

 

イカが完全に墨と魚の追加を終えきり再び海が黒く染まる前にセイバーが威力を上げた激流を当ててイカの体力を残り2割にまで減らした。

 

イカはそれを見ると今度はセイバーを確実に仕留めるために自身の持っている触手を全て展開するとセイバーを拘束せんと伸ばしてきた。

 

「(な!!今度は俺を捕まえる気かよ!)」

 

セイバーは必死に避けようと逃げるが、先程よりも大幅に増えた魚が障害となりセイバーは完全にイカの触手に縛られてしまった。

 

「(ぐ……ううう……この野郎……離せよ!)」

 

イカはセイバーの怒りなど全く気にしない様子でその強靭な触手でセイバーの締め付けをドンドンキツくする。

 

「(このおっ!!)」

 

セイバーは何とか必死に拘束を解こうとするが、触手に絡まれていない膝下辺りに魚が体当たりして来ており、そのせいで今度はAGIだけで無くSTRも落ち込んでいて、どれだけ力を入れても拘束は解けず、何とか装備の状態が解けないように剣を保持しているのみで手一杯だった。

 

「(くそおっ……)」

 

こうしている間にもセイバーのHPは残り3割を切り、そして時間制限も残り5分にまで減ってしまっていた。

 

「(このままじゃあ、時間も体力も終わっちまう……こうなったら一か八か、賭けるしかない!!あああああああああああああああ!!!)」

 

セイバーはありったけの大声で叫ぶと【雄叫び】の効果で次の攻撃の威力が上がった。するとセイバーの周りにいつもと違ってエネルギーの高まりが見られていた。

 

「(絡まれて逃げるスペースが無いのなら……無理矢理作るまでだ!【シャットアウト】、【渦潮】、【アクアリング】!)」

 

するとセイバー自身にかかったデバフが消え、触手の周りに渦潮が発生してセイバーにかかる圧力を落とすと水のリングを無理矢理展開する事でスペースを作りセイバーは急いで抜け出した。

 

「(はぁ……はぁ……何とか抜けれたか……けど、もう残り2分。相手はあと2割ほど、あと2発。撃ち込むしかない!)」

 

シャットアウトの時間が切れ、セイバーが最後の突貫をしようとすると、突如として鎧が再び光り始めた。

 

「(これは……もしかして!)」

 

セイバーの鎧は紅蓮の鎧の時同様に輝くと鎧の形が変わり始め、セイバーの周りを青く、2門の大砲を背負ったライオンが駆け回るようなエフェクトが入るとその鎧は姿を変えた。

 

 

鎧は獣のような筋肉質な物からメカの装甲のような硬い物へと変わっていき、両肩にはそれぞれ1門ずつ大砲が背負われ、胸にはライオンの顔を模した造形が造られる。足の爪は前よりも強靭な物に変わり、ヘッドギアもライオンの顔からロボットの顔のようなメカっぽい物に変化、そして頭部には剣のような形の装飾が出てきた。

 

 

『百獣王のヘッドアーマー』

【MP+50】【HP+100】

【咆哮】【MP消費カット(水)】

【進化の可能性】【破壊不可】

 

『百獣王の鎧』

【VIT+70】【INT+60】【STR+35】

【アクアリング】【渦潮】【キングキャノン】

【ライオン変形】

【進化の可能性】【破壊不可】

 

 

『百獣王の靴』

【AGI+120】

【聖水展開】【アクアドライブ】

【進化の可能性】【破壊不可】

 

 

『水勢剣流水』

【STR+65】

【ハイドロスクリュー】【ウォータースラッシュ】【アクアトルネード】【キンググレネード】【グランドレオブレイク】

【破壊不可】

 

【咆哮】

叫び声を上げる事で次に放つ攻撃の威力を30%上昇させる。

 

【ライオン変形】

体をライオンへと変形させる。この時、一部のスキルが使えなくなる代わりにSTRとAGI、VITが150プラスされ、HPが800になりHPが無くなると元の姿に戻る。この姿でのみスキル【キングドライブ】が発動できる。1日1回のみ変形可能。

 

【キングキャノン】

MPを30消費する事で両肩の砲門からレーザー砲を発射できる。

 

【キンググレネード】

剣から巨大な水の砲弾を作り出して相手へと発射する。当たった相手を20%の確率で怯ませる。

 

【グランドレオブレイク】

体にライオンのオーラを纏わせたまま突進し、相手へと突きを放つ。この攻撃は魔法によるガードが出来ない。突進中は他のスキルが発動できない。

 

装備の進化条件

1回のボス戦の中で【雄叫び】を使って攻撃を当てるのを5回し、尚且つ残りHPが3割を切る。

 

『【水魔法Ⅴ】が【水魔法Ⅶ】に進化しました』

 

「(この装備も進化したか。これなら、行ける!まずは、【キングキャノン】!)」

 

するとセイバーのMPが消費されると背中の砲門から水の大砲が連続で撃ち出された。

 

それはイカの触手と魚を吹っ飛ばし、一気に視界を開けさせた。

 

「(このまま一気に行く!【グランドレオブレイク】!)」

 

セイバーはライオンのエネルギーを纏ってイカへと突撃、イカの脳天を貫くとHPを残り0.5割に減らした。

 

するとイカはセイバーの周りを泳ぐ魚を吸収、そのまま青い光を纏って突っ込んできた。

 

「(うわっ!?)」

 

セイバーは急いでそれを回避するもイカは再び旋回して再び突っ込んできた。

 

「(そろそろ終わりだ。最後にこれを試そう【ライオン変形】!)」

 

セイバーはその言葉を発すると同時に1回転しながら体の形を変えていき、前足の付け根に2問の大砲を備え付けて、口に流水を加えた機械仕掛けのライオンになった。

 

「(うぉおおおお!!)」

 

セイバーは【咆哮】を発動して攻撃の威力を上げるとこの状態でしか使えないスキルを発動した。

 

「(【キングドライブ】!)」

 

セイバーは水の中を陸のように走ると水のエネルギーを纏いつつ突貫し、流水にもそのエネルギーが伝達、イカをすれ違いざまに真っ二つに斬り裂いた。

 

するとイカは遂にHPバーが0となり光の粒子となって消え始めた。

だが、それと同時にセイバーの息が切れてしまいセイバーのライオン化が解けるとそのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

それから約1時間。セイバーが目を覚ますとそこには空気のある空間があってセイバーはそこに倒れ込んでいた。

 

「ゲホッ!ゴホッ……え?死んでない?」

 

セイバーは起き上がると周りを見渡した。そこは先程まで自分が戦っていた場所であったが、イカはもうおらず、近くの海中に転移用の魔法陣が残っているのみだった。

 

「そっか。俺、アイツに勝てたんだな………っしゃあああ!!」

 

セイバーはひとしきり喜んでから海中を捜索し、素材としてイカの触手を2本拾うと魔法陣に乗って移動する事にし、転移するとその先も海だった。ただし、そこは息が出来る所で青く美しい海だったため、セイバーはその景色にうっとりとした。

 

「海の中にこんな美しい場所があったなんてな……。これも、あのイカがいなくなった影響なのか?」

 

セイバーが黙ると泡の音だけが断続的に聞こえてくる。

そこは海の底にいるようで、それでいて水面に近いようで。

今にも眠ってしまいそうになるような、落ち着く青に支配されたその空間には、珊瑚に包まれるようにして青い宝箱が置いてあった。

 

「宝箱か。開けてみよう」

 

中にはメダルが4枚と巻物が2つ、前に見た卵が2つに古びた本が1冊あった。

セイバーはメダルをしまい込むと巻物を手に取って情報を見る。

 

「えっと、スキル名は……【古代の海】。効果はっと、水系のスキルを持っている事で取得でき、さっきの青い光を持った魚を呼び出せるか。ってか、やっぱあの魚にはAGIが10%下がる効果があったのか。俺とサリーは取得出来るとして、メイプルは無理だろうなぁ。あいつに水のスキルは無いし」

 

続けてセイバーは2つの卵を手に取った。

 

「あー、多分これはブレイブみたいなテイムモンスターが手に入るって感じか。まぁ、流石にあと2体も俺は必要無いし、いつか必要な時が来るかもだからしまっておこう。それで、最後の本はっと……」

 

セイバーが本の表紙を見るとそこには“大海ノ歴史書”と書いてあり、中身には“剣士ガ聖剣ヲココノツ集メタトキ、コノ歴史書ノ真ノカラクリハ解キ放タレル”だった。

 

「なるほど、多分これは俺が聖剣を9本集めるまでは攻略出来ない系のイベントか。さーて、そこに魔法陣が3つあるし、乗ってみるか」

 

 

セイバーが魔法陣に乗って転移するとそこには廃墟があった。

 

 

「ふう。何だこの廃墟?なんか近くに4つぐらい噴水もあるし。ま、いっか。それにしてももうすっかり夜だなぁ……」

 

セイバーが近くをウロウロしていると2人ぐらいの女子の声がしてきた。

 

「誰かいるな?敵なら容赦なく倒してやる……」

 

セイバーは息を殺しながらそこに接近すると相手も自分の存在に気づいたらしく武器の金属が擦れる音が聞こえた。

 

「向こうも気づいたか。けど、それはそれで好都合。さっさと倒して戦利品増加と行こう」

 

セイバーは走ると敵と思われる2人へと剣を突き出した。それと同時に自分の目の前に見覚えのあるダガーが突き出されて眼前でそれは止まった。

 

「「「………え?」」」

 

3人の声は重なると3人共驚きを隠せなかった。セイバーが出会った相手は何を隠そう……

 

 

 

 

「お前らかよ!!」

 

「な、なんであんたがここにいるのよ!」

 

「んなのこっちのセリフだよ!」

 

「セイバーいたー!!」

 

なんと偶然にもセイバーが転移した先はダンジョンに突入が出来ずに困っていたメイプルとサリーの近くであったのだ。

 

「あんたねぇ!!よくもまぁ勝手な行動を取ったわね!!」

 

「待て待て待てサリー、その手にあるダガーをしまえぇ!!」

 

当然の如くセイバーはサリーにシバかれるとグロッキーとなりメイプルが慌ててオロオロとする場と化した。

 

 

それから暫く後、サリーの説教を受けたセイバーは2人と別れてからの行動を事細かく報告させられる羽目に遭った。

 

「はぁ……セイバー、あんたね」

 

「サリー様、誠に申し訳ありませんでした。今回はこの巻き物とメダル4枚で勘弁して頂けませんでしょうか?」

 

「サリー、そろそろ許してあげたら?」

 

「ホントしょうがないなぁ……。セイバー、メイプルに感謝しなさいよ?メイプルが言わなかったら私は許すつもりなかったからね」

 

「はい……次からは勝手な行動は控えるように致します」

 

「けどこれからどうするの?確か4枚を加えてもまだ30枚まであと4枚だよ」

 

「取り敢えず、今日はもう休もう。誰かさんが勝手に攻略してくれたおかげでこっちは歩き疲れたし、あんたはあんたで戦闘の疲れがあるんでしょ?」

 

「そうだな。今日はもう休もう」

 

「そうだね」

 

3人の意見は一致するとそのまま廃墟の人目につかないような場所を拠点として交代で寝る事になった。こうして、5日目は終わりを迎える事となった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

同時刻、運営

 

「イベント5日目が終わったかぁ。あと2日、これ以上何も無ければ良いんだが……」

 

「た、大変だぁー!!玄武がぁ、海皇がぁ!!」

 

「何だよ、そんな血相を変えてさ、またなんかあったのか?」

 

「玄武と海皇がセイバーにやられた!!」

 

「「「「「「はぁ!?」」」」」」

 

「おいおい、嘘だろ?玄武はセイバーの今の装備じゃ攻略出来ないんじゃ無かったのか?」

 

「ああ、だがセイバーはレアスキルを戦いの中で取得した上にそれが影響で装備も戦闘力も進化しやがったんだ!!」

 

「あいつもメイプルと一緒なのか?ちょっと目を離したら俺達の想像の斜め上を行くんじゃねーよ!」

 

「ありえねぇ……てか、玄武がやられたのならアレも持ってかれたのか?」

 

「そうじゃん……これで4本目かぁ。ますます手がつけれないよぉ……」

 

「しかもあの剣はメイプル……と言うより、盾使いを殺すために生まれたんだよな?」

 

「そんな剣士がメイプルの仲間になるのかよ……ますます盾使いの人気が落ちちまう……」

 

「だから言っただろ!悪ノリで聖剣をこの探索ダンジョンにぶち込むから!!」

 

「だって本当にクリアするとは思ってなかったんだよ〜」

 

「そういや、海皇の方はどうやってクリアしたんだ?まさかと思うけどギミック無しでクリアしたなんて事……」

 

「……そのまさかだ。これを見ろ」

 

モニターが運営陣の前に降りてきて映像を見ると運営陣は言葉を失った。

 

「何で動きが鈍った状態でアッサリと動けて触手を切れるんだよ!」

 

「こっちの装備も進化しちゃってるし……しかも2つとも進化のパターンとしては最強の奴」

 

「これで鳥と狼も強制入手かぁ……胃が痛い……」

 

こうして、運営はまた心配で眠れない夜を過ごす事になった。




20話時点でのステータス
セイバー 
 
Lv31
HP 175/175〈+100〉
MP 180/180〈+50〉
 
【STR 45〈+100〉】
【VIT 40〈+70〉】
【AGI 40〈+120〉】
【DEX 15】
【INT 35〈+60〉】
 
装備
頭 【百獣王のヘルメット】
体 【百獣王の鎧】
右手【水勢剣流水】
左手【空欄】
足 【百獣王の鎧】
靴 【百獣王の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅴ】【気配斬りⅡ】【気配察知Ⅲ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅶ】【風魔法I】【土魔法I】【光魔法II】【闇魔法I】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化小】【MP回復速度強化小】【状態異常Ⅱ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】
【咆哮】【消費MPカット(水)】【渦潮】【アクアリング】【聖水展開】【アクアドライブ】【ウォータースラッシュ】【ハイドロスクリュー】【アクアトルネード】【ライオン変形】【キングキャノン】【キンググレネード】【グランドレオブレイク】
*ライオンモードのみ【キングドライブ】

この話を読む際に【雄叫び】を使用する時に水中じゃ叫べなくね?と思う人がいるかもしれませんが、一応、心で叫んでも発動可能な仕様にしてあります。また次回も楽しみにしてください。


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聖剣使いと6日目

今回はイベント6日目となります。それではどうぞ!


イベント6日目、3人は起きると再びこれからの事を話し合う事になった。

「まだ攻略されてないダンジョンは…高難度か…発見すらされないようなものだろうね」

 

「そっか…じゃあ、すぐにでも歩き出さないとね」

 

「けど、俺的にはそろそろプレイヤーキルしないとあと4枚は間に合わないと思う。怪鳥や大イカ、玄武みたいらラスボスクラスなんてそうそういるもんじゃないし、プレイヤー相手なら俺とサリーは無双出来そうだからその方がいい気がしてきた」

 

「まあ、確かにそれが良いとは私も思うけど、取り敢えずそれはダンジョンが見つからなかった時に考えよ」

 

「そうだね!」

 

「取り敢えず海沿いを行こう。まだ続いてるし」

 

3人は廃墟を後にして先へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あと4枚メダルを取ったら朧とシロップ、ブレイブの育成をしようか?」

 

「いいね、それ!」

 

「了解」

 

セイバーは一応玄武戦の時にブレイブを出していたが、メイプルとサリーは強力な敵とばかり戦っているため2匹を育てることが出来なかった。

そのため、まだレベルも低いままだ。

 

「ダンジョンは…1度攻略されると入れなくなるんだったよな?」

 

「カナデがそんなこと言ってたね」

 

3人は流石に海ダンジョンはもうないだろうと踏んでいた。

左は海。右は森が続くばかりで特に変わったところはない。

 

「これは本格的にプレイヤーを狙わないと駄目かも」

 

「むぅ…仕方ないか」

 

メイプルはプレイヤーキルにあまり積極的ではなかったが、狩るか狩られるかの環境においてそれは仕方ないことだと割り切ることが出来た。

今まで出会ったプレイヤーもメイプル達を倒そうとする者が多かった。

そのため、それが一般的だと考えたのである。

 

「なら…森に入ろう。メイプル?あの山見える?」

 

「んー?見えるよ」

 

「あっちに行こう。ああいう目立つ場所ならプレイヤーも集まってくると思う」

 

サリーが指差すのは3人が2日目に登った山岳地帯とは少し違う場所の別の山だ。

ダンジョンがありそうなものだが、目立つ地形のためあったとしても攻略されてしまっている可能性が高い。

 

「じゃあ…行こうぜ」

 

3人は山に向かっていった。

 

 

 

 

3人が方針を決めてから3時間後。

3人は山の中腹の洞窟の中にいた。

途中で遠くに数人のプレイヤーを見つけたものの全速力で逃げられてしまった。

 

 

「という訳で…メイプルはここに隠れてて?」

 

「了解!ごめんね?」

 

「いいよいいよ!」

 

「メダルはしっかり取ってきてやるからよ」

 

サリーとセイバーは青いパネルを操作すると、装備していた指輪をメイプルに渡す。

それは朧とブレイブとの繋がりを持つための指輪だった。

 

「HP下がっちゃうけど…朧も護衛に置いていくね?」

 

「ブレイブもよろしく〜」

 

メイプルはシロップと契約している指輪を除いて他の指輪を外し、2人分の指輪をはめるとシロップと朧とブレイブを呼び出した。

 

「「じゃあ…行ってくる!」」

 

「頑張って!」

 

サリーが洞窟から出ていく。

シロップと朧とブレイブは並のプレイヤー程度の性能を持っている。

ある程度護衛の役目を果たせる能力だ。

メイプルがやられれば今まででに稼いだメダルが無くなってしまう。

 

「責任重大だよ……そうだ!」

 

ボス部屋こそ無かったものの元はダンジョンだったのか、この洞窟は広かった。

山の内部に蟻の巣が出来ているような構造の洞窟だった。

メイプルはその洞窟の最奥にいるのだ。

 

「【ヴェノムカプセル】!」

 

誤爆防止のために朧とシロップを戻すと毒のカプセルを広げる。

これはメイプルが素の状態でも使える能力である。

 

「サリーが戻って来るまで…生きないとね」

 

メイプルの毒は一定時間ごとに狭い洞窟の通路を侵食していく。

ダンジョンが毒沼のギミックで覆われていく。

それはまるで、メイプルが新たにこのダンジョンのボスになったかのような光景だった。

 

「くるなー!誰もくるなー!」

メイプルはカプセルを広げていった。

 

 

 

 

 

 

メイプルが毒を放出しているころ、サリーとセイバーは洞窟外に出てきていた。

 

「私1人なら…倒せると思うプレイヤーも多いはず」

 

「俺も俺で倒せそうな奴探してさっさと狩りに行ってくる。一応、他の力は見せないようにするために黄雷、抜刀!」

 

セイバーは他の2本では新たな性能を晒すリスクがあるために唯一性能があらかた知られている黄雷へと変えた。

 

メイプルとセイバーの姿は多くのプレイヤーに知られている。

逃げていくプレイヤーはメイプルとセイバーの特徴的な装備を見て逃走しているのだ。

皆が2人の危険性を把握している。

 

 

だが、サリーは違う。

サリーはまだ何も知られていない。

 

 

サリーはメイプルと同レベルの異常能力を持ち、メイプルよりも好戦的だ。

そんなことを知るものは殆どいない。

 

 

そして、サリーには現在失うものが何もない。

メダルは全てメイプルに預けてきているのだ。

 

一方のセイバーの方も3本の中で最大瞬間速度が高く、尚且つ相手を拘束できたり、広範囲への攻撃が可能な黄雷をもってすればサリー程では無くとも、敵を逃しにくくなるのである。

 

「久しぶりに……思いっきり暴れてみようかな?」

 

「サリー、やられるなよ?」

 

「セイバーこそ、やられないでよね!」

 

サリーとセイバーにとっては共闘も楽しいが、1人での戦闘にもまた違った魅力があった。

 

2人はバラバラに別れるとそれぞれメダルを求めて戦闘を開始した。

 

サリーの方は山を駆け下りていく。

時間帯はまだ昼過ぎで視界も良好だ。

 

「お!いたいた」

 

サリーは森の中を歩く女性2人組を見つけた。ちょうど2人も周りを警戒していたようで、サリーの接近に気付く。

 

「やるよ!」

 

「おっけー!」

 

装備はそれぞれ片手剣と槍。

片手剣持ちは盾も装備している。

 

「【疾風突き】!」

 

片手剣装備のプレイヤーは、サリーに向けて突き出された槍に対するサリーの対応を予想し次の行動に出ていた。

ダガー装備ならば恐らく回避してくるのでバランスを崩しているところを叩く。

そういう予定だったのだろう。

 

一般的なプレイヤーなら後ろに引いて回避するか横に避ける。

片手剣の女性は、今回は後ろに下がることを想定しつつダッシュで距離を詰めていた。

これならば横に避けられても対応しやすく最善だっただろう。

 

 

 

サリーが一般的ならばだが。

 

 

 

「えっ!?」

 

サリーの回避は違う。

体を捻り槍をすれすれで回避し、前進する。ダガーが隙だらけの槍使いに迫る。

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

赤いエフェクトが飛び散るが、女性は何とか生き残った。

咄嗟に槍を引き戻して横薙ぎに払う。

 

「嘘!?」

 

サリーはその槍を上体反らしで回避したのだ。反応速度が人間とは思えないその回避に女性の思考が止まる。

 

「はい、おしまい」

 

サリーのダガーは今度こそ女性のHPバーをゼロにした。

 

「【パワーブレイド】!」

 

素早い縦切りがサリーの背後から迫る。

 

いける。

女性はそう思った。

 

「………っ!」

まるで後ろに目がついているかのようだった。

サリーがその体を半身にする。

ただそれだけでサリーの中心を狙った剣は、まるで自らサリーを避けているかのようにすれすれを通って抜けていくのだ。

 

「【スラッシュ】!」

 

体を斬りつけながらサリーが女性の横をすり抜ける。

女性は酷く不気味に感じた。

攻撃すれば攻撃するだけ自分の状況が不利になっていくのだ。

 

「くっ…」

 

「【ウィンドカッター】!」

 

どうすれば攻撃が当たるかを考えてサリーを睨んでいた彼女は、相手から魔法攻撃をしてくることなど頭になかった。

それだけ、異常な相手を前に焦っていたのである。

 

「くっ!」

 

女性は横っとびで回避する。

それはまさに最初に自分達が仕掛けようとしたことだと、女性はバランスの崩れる中で気付いた。

 

「さよなら」

 

一般的なプレイヤーが常軌を逸したプレイヤーに真っ向勝負で勝つことは厳しい。

今回は、奇跡は起こらなかった。

 

「さて、メダルは無し…と」

 

サリーは次の獲物を求めて歩き出した。

 

 

セイバーも同じように10人ぐらいのパーティと遭遇した。

 

「お、獲物発見!」

 

「あ、あの黄色い装備、セイバーだ!」

 

「逃げるか?」

 

「いや、俺達全員でかかればいくら奴でも……」

 

10人のプレイヤー達は次々にセイバーの間合いの外から魔法や弓、衝撃波による遠距離攻撃を放ってきて、それはセイバーを貫いた……はずだった。

 

 

セイバーはその攻撃をモロに受けるが、突如としてその姿は消えた。

セイバーはここに来る前にサリーに【蜃気楼】をかけてもらい最初の1発だけ攻撃を無効化、その間にプレイヤー達へと接近する。

 

「10対1なら勝てると思った?【雷鳴一閃】」

 

セイバーの超スピードは全く反応できない前衛6人を一瞬にして斬り捨てると光の粒子へと変えさせた。

 

「ヤバい、逃げ……」

 

「【サンダーブランチ】」

 

逃げに走ろうとしたプレイヤーをセイバーは逃すはずもなく4本のサンダーブランチによって拘束し、相手の身動きを封じた。

 

「終わり」

 

セイバーは足の止まった敵を一瞬にして切り裂いて倒した。最大MPが多い魔法使いからMPを吸収して前々からあった余剰分が無くなって不足し始めたMPを補った。

 

「ふう、メダル無しかぁ。流石にそんな簡単に持ってる訳無いよな。で、そこにいる人達は何をしてるのかな?」

 

セイバーが振り向くとそこにはセイバーが金メダルを持っていると信じ込んでいる数多くのプレイヤー達の気配を感じていた。

 

「全員俺のメダル狙いか。……さぁ、楽しませてくれよ?」

 

セイバーは黄雷を構えるとプレイヤー達へと向かって行った。

 

 

偶然にも、六日目にこの辺りにいたプレイヤーは多かった。

そのプレイヤー達はイベント後に口々に語り始める。

 

曰く、【幻のように消える】。

曰く、【剣が避けていく】。

曰く、【まさに幻影】。

 

曰く、【雷鳴の如き稲妻の剣】。

曰く、【敵を縛り付ける電撃】。

曰く、【この地獄から逃れたものは無し】。

 

【6日目の悪夢】と呼ばれる出来事を生み出した殲滅劇の始まりはまさに今この瞬間だった。

 

 

 

「サリー、どうやら無事だったようだな」

 

「流石セイバー。あの中から生きて帰るなんてね。さて……帰るか…」

 

舞い散る赤いエフェクトとプレイヤーの死亡エフェクトの中で合流した2人が呟く。

もしも、このゲームで攻撃した際にエフェクトではなく血液が出ていたとしたならばその綺麗な青と黄色の装備は綺麗な赤い装備に変わっていたことだろう。

イベント後に、突然発生した徘徊型ボスではないかとちょっとした騒ぎになる殲滅劇は終わりを迎えた。

理由はメダルが2人合わせて4枚見つかったからである。

 

「持ってる人ってやっぱり少ないんだなぁ…私達の運が良かっただけかぁ」

 

「まぁ、俺らみたいにボスが相手の時に他のプレイヤーが必ずしも勝ててるとは限らないしね」

 

既に日が落ちつつあった。

移動しつつ、5時間程戦っていたのである。

かなり遠くに沈みかけの太陽に照らされてメイプルのいる山が見えた。

そこは既に10キロは離れているだろう。

倒したプレイヤーの数はそれぞれが100を超えてからは数えることを止めていた。

それでも手に入ったメダルはたった4枚である。

 

サリーの言うように3人は運が良かった。

また、セイバーの言う通り彼ら3人には発見したダンジョンを攻略するだけの強さがあったことも他プレイヤーとの大きな違いだった。

 

「きっちり持ち帰らないとね」

 

「さっさと戻るか」

 

サリーとセイバーは走り出した。

途中で出会ったプレイヤー達が数人、光となってしまったがそれは仕方ないことだった。

 

 

 

 

 

「よし!到着!」

 

「メイプル、無事か!」

 

2人がさっと中に入る。

道順は覚えているのでメイプルの元へと急いで向かうが、途中で足を止めた。

 

「うわ……」

 

「あーらら」

 

メイプルのいる場所に繋がる通路に毒の壁が出来ている。

壊したとしても地面や壁が毒まみれでまともに進めないだろう。

 

「メイプルか…メッセージ送るか…」

 

メイプルにメッセージを送るとしばらくしてメイプルが毒壁を通り抜けて出てきた。

 

「メダル取ってきたよ」

 

「おお!凄い!」

 

サリーがメイプルにメダルを渡す。

これで3人のメダルは30枚。

後は守りきるだけである。

 

「どうする?3匹の育成に入ってもいいと思うけど」

 

「あ!そうそう!それについて言いたいことがあったんだ!」

 

「何?」

 

「着いて来て!」

 

「「いや…無理なんだけど…」」

 

毒まみれの床を進んでいくのは2人には出来ないことだった。

 

「んー…じゃあ、大盾に乗って?」

 

メイプルがカプセルを解除して毒壁を消すと地面に大盾を置く。

 

「乗るけど、どうするの?」

 

サリーが大盾に乗る。ちょうど、そりのような感じだ。

 

「頑張って押す」

 

「え?」

 

「頑張って押す」

 

「無理だろ?」

 

「いけるいける!」

 

メイプルがぐっと押す。

大盾は50センチ程動いたところで止まった。

 

「……いけない」

 

「ですよねー」

 

「それで?話したいことって?まずそれを聞きたいな」

 

「ああ、えっと…私のいた場所とはまた違う行き止まりに小部屋があって、そこに20センチくらいの蟻のモンスターが出たんだけど、それが弱くてシロップと朧とブレイブにちょうどいいかなって!」

 

3人は洞窟内をそこまでしっかり探索していなかったため気付かなかった。

メイプルは暇だったため、毒で安全を確保した後に散歩も兼ねて探索をしていたので見つけることが出来た。

 

「ずっと出てくるの?」

 

サリーが聞く。

時間経過でいくらでも出てくるのならそこでの育成もありかもしれないと考えたのである。

 

「10分ごとに3匹出てくるよ!」

 

「なら…悪いけどメイプルだけでやってくれる?私は行けそうにないから…」

 

「シロップと朧がメインで良いよ。ブレイブは玄武の戦いの時にある程度経験値を得ているし」

 

「分かった!頑張るね!」

 

サリーが大盾から降りるとメイプルは大盾を装備し直して洞窟の奥へと消えていった。

 

「うーん、やることなくなっちゃった」

 

「これからどうするかなぁ」

 

2人は取り敢えず洞窟を引き返す。

まだ全域が毒に覆われている訳ではなくおよそ3分の1といったところだ。

サリーは入り口から少し進んだところにある広間に座り込む。

一辺約20メートルの正方形で、壁には装飾がされている。

元は中ボスの部屋だったのかもしれないとサリーは思った。

 

「メイプルを守ってあげるか」

 

「そうだな」

 

ここは魔法陣で転移するダンジョンではない。

ダンジョン内は既に攻略されているためかモンスターの湧きも悪い。

メイプルの言っていたような場所が何箇所か残っているだけだった。

もっとも、サリーとセイバーは数箇所あることは知らなかったが。

 

では、サリーとセイバーが何からメイプルを守るか。

それは、モンスターではなくプレイヤーである。

ダンジョンが残り少なくなっている今、ダンジョンらしき場所ならば、メダルを求めてとにかく入ってみることだろう。

 

「【毒無効】がいたら突破されるからね」

 

【毒無効】持ちのプレイヤーがいるとメイプルの所まで行かれる。倒せない訳ではないがメイプルの負担は減らしたい。

やることが無いのなら念のために守ってあげるべきだと2人は考えたのだ。

 

「ここも…もうダンジョンみたいなものだしね…」

 

メイプルをボスとして、サリーとセイバーを2大中ボスとし、報酬のメダルは30枚+金メダル2枚。

モンスターはほぼいない。

破格のダンジョンだ。

 

 

「この考え方だと…何だかメイプルがどこかの魔神みたいだなぁ…」

 

「そうだな。多分、向こうで探索する場所が見つからなければこっちにくると思う」

 

周りに多くなっていたプレイヤーのことを考えると、山岳地帯の向こうは探索が粗方終わってしまったのかもしれないと2人は思った。

 

「それはそうと、どうしてセイバーは烈火を持って竜騎士みたいな装備なの?手の内は晒さないって言わなかった?」

 

「いや、ここなら相手が見知らぬ装備の方がボス感が増すだろ?そうすれば相手は俺をボスとして勘違いする可能性が高いからな」

 

「なるほど、それなら納得」

 

こうして、2人がしばらく待機していると正面の通路から話し声が聞こえてきた。

 

「何かいるぞ!」

 

武器を構えつつ広間に入ってきたのは4人組だ。

サリーは素早く武器を確認する。

槍、大盾、杖、大剣だ。

いつもパーティーとして行動しているのだろう、バランスのとれた編成だった。

 

「このダンジョンに何か用?」

 

「お前…プレイヤーだよ…な?」

 

あからさまな中ボス部屋に佇む豪華な装備の少女と少年がいれば疑うのも無理はないだろう。

HPバーは見えているが、それはモンスターでも変わらない。

2人がモンスターだと言えば2人はモンスターになる。

 

「戦う?」

 

「ここを通りたければ我々を倒すが良い」

 

プレイヤーと明かしてもメダルを奪い取りにくることを考えると戦闘になるだろう。2人が持っていないと言ったとしてそれを信じる義理もない。

それに、きっと奥まで探索するつもりだろう4人をここでスルーすれば、メイプルの作った毒の通路にたどり着くだろう。

あれは、まだ攻略されていないダンジョンに見えてしまうこと間違いなしだ。

毒の通路を通り抜けられればメイプルが暴れる事になる。

2人はそれでも良いのだが、万が一を考えてここで倒すのが最も安全だ。

それならばいっそモンスターとして立ち振る舞ってみるのも面白いと2人は思った。

そのため、定型文のように聞こえる返答をする。

 

「どうやら…当たりだな!」

 

4人は2人を中ボスと思い込み、このダンジョンをまだ探索されていないものとして認識した。

 

「楽しい勝負になるといいね」

 

「我を倒したければ本気で来るが良い」

 

サリーとセイバーの周りから青い光を纏う魚達が現れる。

 

2人がモンスターのように振る舞った理由。

 

それは殲滅劇でちょっと気持ちが高ぶっていたからだ。

もう少し戦闘がしたくなってしまったのである。

モンスターだと思われれば間違いなく戦闘になる。相手も全力だ。

どのみち倒さなければならないなら楽しくやりたかった。

2人にとって、楽しめてこそそれはゲームなのだ。

 

「ふふふ…やっぱり、楽しいな」

 

「お主ら、我を楽しませてくれよ」

 

「気をつけろ!行くぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

ゲームをする者は誰しもそこに現実とは違った快感を求めているのだろう。

サリーも、セイバーも、そして4人のプレイヤーもその例外では無かった。

 

ところ変わってメイプルは奥の小部屋で寝転がりシロップと朧とブレイブを応援していた。

 

「【喰らいつき】!行けー!頑張れ!【狐火】!【噛み付く】!」

蟻が倒れていくのを見て満足そうにメイプルが微笑む。

 

「いいよー!いいよ!頑張ってレベル上げて強くなってね!」

 

メイプルが起き上がって3匹を撫でる。

メイプルが完全装備でなければペットと接する普通の少女の図である。

それは、よくある現実世界のままの光景だった。

メイプルはサリーとセイバーが上で戦っていることなど全く知らなかった。

 

メイプルはどちらかというと例外に近いタイプなのかもしれなかった。



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聖剣使いとイベント終了

イベント6日目の終盤、セイバーとサリーは侵入者を撃退していた。

 

「ぐぁっ!」

 

「さよなら」

 

「少しは楽しめたよ」

 

プレイヤー達が光となって消えていく。

サリーとセイバーは武器をしまうとその場に座った。

何度かの襲撃があったものの誰一人として2人に傷を負わせることは出来なかった。

6日目もそろそろ終わりに近づいてきていた。

 

「あと30分で7日目か…」

 

最後の襲撃からしばらくは誰も来ることが無かったため現在の時刻は11時半である。

このまま7日目に移っても自由に行動出来ることだろう。

今と同じようにダンジョンに引きこもるもよし、外に出るのもよしだ。

 

「今日最後の…相手だな。さて、楽しい相手だと良いけど」

 

サリーとセイバーが立ち上がって武器を抜く。

誰かが歩いてくる音が聞こえたのだ。

 

「ん?」

 

「……ん?」

 

「あ……」

 

侵入者と2人が顔を見合わせる。

侵入者は1人。

その装備は綺麗な和服に刀だった。

 

「また…会ったな!」

 

「はぁ…こんなところで何してるのカスミ?」

 

「おー。楽しそうな相手で良かった」

 

そう、侵入者はカスミだった。

カスミは刀に手をかけすらしない。

戦闘の意思は無いのだろう。

 

サリーにも戦闘の意思は無かった。

もし向かってくるようなことがあれば戦うつもりではあったが、1度協力してダンジョンを攻略した相手である。

自分から斬りかかっていくつもりはさらさら無かったのだ。

 

セイバーに関してはやる気マンマンだったが、サリーに拳骨を落とされて大人しくせざるを得なかった。

 

「私も一応金メダル持ちだからな。身を隠そうかと思ってな」

 

「私達と同じ感じだね」

 

「やっぱりメイプルもいるのか?姿が見えないが…」

 

「メイプルは奥に引きこもってる」

 

「会いに行っても大丈夫か?」

 

「毒の上を歩けないと一瞬で死ぬよ?」

 

サリーがそう言うとカスミは奥がどのような状況なのか察したようで行こうとはしなかった。

 

「まあ、そのうち出てくると思うよ。私はメイプルにメダルを渡してあるから…ここでメダル狙いのプレイヤーを倒してる感じ」

 

「ったく、サリーテメー!何かあったら即俺を殴るんじゃねーよ!」

 

「それはアンタが悪い」

 

それの会話を聞いていたカスミは一つ提案をした。

 

「なら、私もここにいていいか?外を歩いているとやたらと戦闘になってな…」

カスミは多くのプレイヤーに顔を知られているので外を歩いていれば戦闘になる回数が多いだろう。

 

「いいよ。誰か来たら斬って」

 

「了解。私も金メダルは持ち帰りたい」

 

中ボス枠は3人になった。

 

ただ、カスミが加わったことで他のプレイヤーがモンスターだと勘違いすることは激減しただろう。

だが、代わりに金メダル2枚分の誘惑が追加されたため戦闘になる可能性は大して変わらないだろう。

3人が会話しつつ通路の先を警戒していると3人の後ろの通路からメイプルがやってきた。

 

「サリー、セイバー!レベル上がったよー!ほらほらー!……あれ?」

 

奥から走ってくるメイプルの横をシロップと朧とブレイブがついてくる。

メイプルはそこでカスミと目が合った。

 

「カスミ!?なんでいるの!?」

 

「ん…それはまあ、メダルを守るためだが……その3匹は何だ?」

シロップと朧とブレイブを見たのは3人以外ではカスミが初である。

 

「この子達はパートナーだよ!」

 

前回出会った時には怪鳥の話はしていなかったためそのことを話す。

カスミは怪鳥のありえない強さと3人がそれを倒したということに驚いていた。

 

「報酬の卵か…現状3人しか持っていないだろうな。私も結構プレイヤーと出会ったが見たことがなかったしな」

 

カスミの予想は当たっている。

幻獣を従えているのはメイプルとサリー、セイバーだけである。

今後のイベントでどうなるかは分からないが、その時も恐らく高難度のダンジョンクリアを要求されるだろう。

 

「そうだ、朧とブレイブ返すね?」

 

「ん、ありがとう」

 

「ありがとうな。レベル上げしといてくれてってうわっ!」

 

ブレイブはいつも通りセイバーへと飛び込むと巻きついて押し倒した。

その間に他の2人は装備を元に戻す。

 

「どうする?この洞窟から出る?」

 

この4人が組めば引きこもらなくても生き残れるだろう。

だが、メイプルはあまり出たいとは思っていないようだった。

メイプルはメダルを慎重に守り切りたいと思っていた。

メイプルがその旨を2人に伝える。

 

「なら…取り敢えず通路を潰してきてくれるとありがたいかな」

 

「ん、了解!」

 

メイプルが広間の入り口に歩いていき新月を構える。

久しぶりに大きな紫の魔法陣が展開される。

 

「【毒竜】!」

 

毒竜は狭い通路をグチャグチャにしながら出口に向かって突き進んでいく。

途中で1組のパーティーを飲み込み、さらにたまたま出口にいたプレイヤーの顔面を吹っ飛ばしていったことなどメイプルは知らない。

メイプルはそのまま通路を歩いていき、しばらく進んだ場所に【ヴェノムカプセル】を展開すると戻ってきた。

 

「これで安全は確保されたね!」

 

「もう、私もカスミもセイバーも出られないけどねー」

 

「ああ、そうか。そうだったな……信じてるぞ?」

 

「けど、毒無効なんてそうそう持ってる奴いないから簡単に突破はされないと思うぞ」

 

この状況ならカスミは逃げられない。

つまり、メダルの強奪も可能である。

ただ、聞かれるまでもなく3人はそんなことはする気はなかった。

 

「これで後は1日過ごすだけだね」

 

時間はもう既に12時を過ぎている。

ここは一旦眠るのが得策だろう。

わざわざ疲れを残して7日目を迎える必要などない。

念のためにと交代で1人が見張りをしつつ睡眠をとった。

結局侵入者は1人も現れることはなく、朝を迎えることが出来た。

入り口ではたまに毒耐性があるからと足を踏み入れて死亡するプレイヤーもいたりした。

 

 

「おはよう」

 

「おはよう!」

 

「おはよう。最終日だな」

 

「おはよう。ついにここまで来たって感じ」

 

長かったイベントも遂に終わりを迎えることとなる。

3人としては目標も達成することが出来て、充実したイベントとなった。

 

「あ、そうだ!いつメダルが必要になるか分からないからサリーとセイバーの分は渡しておくね?」

 

メイプルがサリーとセイバーの分のメダルをインベントリから取り出して渡す。

 

「ありがとう」

 

「これでようやくそれぞれ枚数が揃った事が実感できたな」

 

サリーとセイバーはそれをしっかりと受け取るとしまい込んだ。

カスミは銀メダルを探すことに全力を尽くさず、金メダルがあればいいというスタンスだったので銀メダルは3人のように大量に持っていない。

 

「でも、あれだね?1日ここにいるのも暇だね?」

 

「確かにな」

 

「じゃあメイプルの遊び道具で遊ぶ?色々持ってたでしょ?」

 

メイプルはサリーの提案に乗って、持ってきていたものを片っ端から出していく。

その中にはオセロもあった。

 

「カナデ、強かったなぁ」

 

メイプルはカナデと遊んだことを思い出した。また会った時には遊ぶことを約束しているのだ。

 

「カナデ?誰だ?」

 

カスミはカナデのことを知らないので、メイプルが説明する。

その話の流れでセイバーは玄武や巨大イカとの戦闘のことも話した結果、カスミは驚いていた。

立て続けに強敵と戦っている3人のようなプレイヤーは珍しいのだろう。

 

「メイプルが弱いだけじゃないの?」

 

「むむむ…言ったなー?じゃあ私とやろうよ?」

 

「いいよ?」

 

「俺は高みの見物とでもいくかな」

 

メイプルが黒、サリーが白でゲームスタートだ。

 

 

 

 

 

結果。

盤面のほとんどは黒に覆われていた。

 

「え…メイプル強くない?」

 

「結構得意なんだよ?カナデには負けたけど…」

 

「じゃあ、次は別のやつ!4人で出来るようなので」

 

「あ、サリー勝てないと思って逃げた」

 

次の瞬間、セイバーの頭には拳が落ち、セイバーもメイプルと戦う羽目になったのだが、やはりオセロではメイプルには手も足も出ずに完敗した。

結局、2人とも負けたままではいられないので別のゲームで勝負することになった。

 

 

 

こうして4人で遊んでいる間、それを邪魔するプレイヤーは誰1人として現れなかった。

そしてついに。

 

 

 

イベント終了の時がきた。

フィールド全体にアナウンスが鳴り響き今から五分後に元のフィールドに転移することになる。

これでまたカスミとはお別れだ。

 

「じゃあ、また戻ったら」

 

「ああ、また会おう」

 

新たな出会いと、新しい力の入手。

3人にとって大満足の第2回イベントはついに幕を閉じた。

 

 

 

それからイベントが終わり、もといた場所に帰ってくる。

加速していた時間の流れも元通りだ。

運営からは放送が入り今から30分後にスキルとメダルの交換を行うため、メダルの受け渡しがある場合は行うようにと言われた。

メイプルはサリーとの受け渡しを済ませているので問題無しだ。

 

「どんなスキルがあるかな?」

 

「さあ?見てみないとなんとも…」

 

「確か100個ぐらいあるらしいからゆっくりと決めようぜ」

 

そして30分後。

再度運営のアナウンスが入り、専用の部屋に個別で転送されることが告げられた。相談などは出来ないとのことなので自分の必要だと思うスキルを自分で選ばなければならない。

そして、メダルを10枚以上持っている者の姿が光に包まれて消えていった。

 

セイバーの視界はステータスプレートと同じ青に埋め尽くされている。

セイバーが現在いる出口の無い部屋の中心には一つのパネルが浮かんでいる。

セイバーがそれに近寄って見てみるとそこにはスキル名が並んでいた。

1つ1つのスキルから詳しい説明のページに飛ぶことが出来た。

 

戦闘系スキル、生産系スキル、ステータスアップ系スキル、そのどれにも属さないスキル。

それらが順に並べられている。

 

「うーん。俺のスタイルは聖剣を使った戦術がメインだけど、今回は仮に聖剣無しになったとしても戦えるようになるスキル2つを選ぶか」

 

セイバーはズラリと並んだスキルの中で選んだのは【無限刃】、そして【精霊の光】だった。

 

無限刃の効果は剣による攻撃を連続で当てる度に次の攻撃の威力が1%ずつ上がり最大100%まで上昇するが、攻撃が外れると攻撃力上昇の効果が消える。

 

精霊の光は全ての攻撃を10秒間無効化できるものであり、セイバーはこのスキルを状況の打開に使えると思って取得した。

 

 

 

セイバーはスキルを得ると外に出て他の2人と合流した。

 

「サリーはどんなスキルを選んだの?」

 

メダルスキルを選び終えた2人は第二の町のベンチに座っていた。

 

「んー…結構迷ったんだけど【追刃】にした」

 

「【追刃】?」

 

メイプルは攻撃系スキルの内容を見てすらいないので、どんなスキルかが分からない。そこにセイバーが捕捉する。

 

「武器での攻撃が成功した時にその攻撃の3分の1の威力の追撃が発動するスキルだな」

 

「えっと……?」

 

「手数が2倍になる。私は二刀流だから【ダブルスラッシュ】が8連撃になったりする」

 

「すごっ!」

 

「まあ、【器用貧乏】もあるし二刀流は一撃ごとのダメージが減るし、まだまだ本格的な運用は出来ないけどね」

 

サリーは手数の多い攻撃方法や高速の攻撃方法を好む傾向がある。

メイプルは耐久力を高めようとする傾向がある。

 

「メイプルはどんなスキルにしたの?」

 

「お前なら【フォートレス】辺りじゃね?耐久力アップ出来るし」

 

「うん。片方はそれだけど、もう片方は私もちゃんと使えるか分からないスキルだよ」

 

「「え?」」

 

サリーとセイバーはメイプルの言っていることがよく分からなかった。

どんな理由があれば自分のよく分からないスキルを選ぶことが出来るというのだろうか。

 

「じゃあ砂漠にいこう?人目につかないところで試してみたいな」

 

「う、うん。分かった」

 

「なんか既に嫌な予感がするんだけど……」

 

メイプルが何のスキルを選んだのか2人には見当もつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし。シロップ出ておいでー」

 

メイプルはシロップを呼び出した。

 

「シロップ!【巨大化】!」

 

メイプルの声に反応してシロップの体が光に包まれ大きくなっていく。

高さ3メートル。

体長5メートル半といったところだ。

これはイベント6日目にシロップがレベルアップして手に入れたスキルだ。

 

【巨大化】

HPが2倍になる。

 

巨大化しHPを2倍にする代わりに的が大きくなりダメージを受けやすくなってしまうため、スピードの遅いシロップでは今の所は有効に使えないスキルであった。

 

「上手くいけー…上手くいけー…」

 

メイプルが目を閉じて手を合わせながら祈る。

しばらくそうしていたメイプルはカッと目を開くと叫んだ。

 

「【念力(サイコキネシス)】!」

 

その声が響き渡ると、シロップの体がふわりと浮き上がった。

その巨体は重さを全く感じさせず、ふわふわと10メートル程浮き上がると止まった。

 

「「えぇ…?」」

 

「やった!やった!上手くいった!」

 

ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶメイプル。

それに対して、怪鳥戦のギリギリの場面ですら冷静だったサリーとセイバーは呆然としていた。

何があったかは見れば分かるが、この謎の状況に流石に思考が停止したのだ。

メイプルは直感に身を任せてスキルを選択した。

それは2人には出来ないことだ。

だからこそ【よく分からない何か】が生まれる。

 

メイプルの選んだもう1つのスキルの性能はばっと見たところはメイプルが選ぶようなものではなかったのだ。

 

ちなみに、【念力】の効果はモンスターを浮かせることが出来き、モンスターごとに設定された抵抗確率によってスキルの成功率が変わる。1度失敗すると1時間は対象となったモンスターに対して再使用出来ず、モンスター以外には作用しない。また、抵抗確率によりスキル使用時のMPの消費量は変わるという物だった。

 

メイプルにスキルを見せて貰った2人は困惑した。

このスキル説明からは、メイプルがこのスキルを取る理由が全く分からなかったのだ。

2人の見たところではこれは敵モンスターを拘束するものだったが、確定で敵を拘束出来るわけでもなく消費も大きそうだった。

 

「そのスキルを取った理由は?」

 

「シロップと一緒に空を飛べると思ったから!」

 

「うん、なんとなく知ってた」

 

そこに深い理由など無かった。

メイプルはただ楽しいと思うこと。したいと思うことのためにスキルを取ったのである。

 

そして、先程述べたようにメイプルの直感は時に凶悪過ぎる現象を引き起こすのだ。

 

「ねぇメイプル?…シロップさ?いつまで飛んでるの?」

 

「えっ?……あれ?本当だ」

 

「確かに、メイプルのMP的にそろそろ降りても良い頃だけど」

 

メイプルがMPを見てみるが全く減っていない。

 

「………まさか!」

 

「何?何か分かったの?」

 

「……シロップは普通のモンスターじゃない。【絆の架け橋】のお陰でメイプルと絆で結ばれている」

 

「うん!そうだよ」

 

メイプルは当然今も指輪を付けている。

 

「【絆の架け橋】だよ?絆で結ばれたモンスターなら……抵抗確率って…何%?」

 

2人が言いたいのは【絆の架け橋】でメイプルと結ばれているシロップが【抵抗】するのだろうかということである。

抵抗確率が0%なら消費MPはいくつになるのか。

 

このスキルはその辺りの説明が無かったため2人はスルーしたのだ。

2人にはメダルを投げ捨てて賭けに出る必要などなかった。

 

「つまり、シロップと一緒に長い時間飛べそうなんだよね?」

 

「まあ、そうだね」

 

「と言うか、MP消費が0なら無限に飛べるんじゃ……」

 

「なら細かいことはいいや。シロップ!戻っておいで!」

 

メイプルがシロップを呼び戻す。

 

「背中に乗せてー」

 

シロップはメイプルの頭をガッチリと咥えると反動を付けて上に放り投げた。

 

「よっ!」

 

メイプルがガシャンと甲羅の上に落ちる。広くなった甲羅は乗り心地もいい。

メイプルは7メートル程まで高度を上げて周りを見渡す。

 

「メイプルー!ダンゴムシの集団が来てるよー!」

 

メイプルには真下からサリーが叫んでいるのが聞こえた。

確認するとダンゴムシが周りを動き回った時に発生する砂埃が見える。

 

「2人共!離れててー!」

 

メイプルが何か始めることを悟った2人はすぐに逃げた。

何をやらかすのか見当もつかなかったからだ。

 

「【アシッドレイン】!」

 

メイプルが新月を天に向けて突き出す。

そこから広がる魔法陣から飛び出した直径15センチほどの紫の水の塊はメイプルから5メートル程離れた位置にランダムに着弾していく。

 

「雨よ降れー!降れー!」

 

メイプルが降らせた雨はダンゴムシに当たる度にダンゴムシの動きを止めていく。

素早い動きが出来なくなれば後は駆逐されるだけだ。

 

 

そんな光景を遠くから3人の人物がみていた。

1人はサリー。

1人はセイバー。

もう1人は弓を持った男だった。

 

 

「「「うわぁ……」」」

 

メイプルの謎行動を見たものは高確率で語彙が貧困になるようだった。

 

 

 

それから少し後のこと。

モニターに映るスキル選択中の数字がゼロになった瞬間に、彼らは背もたれに全体重を預けてもたれかかった。

 

ここは運営達の部屋。

全員の顔に疲労の色が色濃く出ている。

もう今にでも眠ってしまいそうだ。

 

「うし、全員のスキル選択終わったな」

 

「いやー…第2回イベントは疲れた…本当バグが起こらなくて良かったわ」

 

「はぁ…そうだ!あいつは?メイプルやセイバーは何を選んだんだ?」

 

「セイバーは【無限刃】と【精霊の光】だ。【精霊の光】を取ったのは意外だったがまぁ、まだマシな方だろう」

 

「メイプルなら【フォートレス】とかその辺だろ。そうだよな…?そうだと言ってくれ…」

 

「ああ、【フォートレス】を取ってる。問題ない。防御力とかもう既におかしいからここから増えてもな……えっ…サイコ…キネ、シス?」

 

「嫌な予感がする」

 

「俺もだ」

 

「メイプルを探せ!モニターに映せ!」

 

すぐにメイプルがモニターに映される。

メイプルは。

 

 

空飛ぶ巨大亀に乗って飛び回りながら毒の雨を降らせているところだった。

 

 

 

「「……あかん」」

 

「スキル確認しろって言ったよな!?俺言ったって!」

 

「し、しましたよ!でも、メイプルがあのスキルを取る訳ないからあの調整で大丈夫だと…」

 

スキルをチェックした内の1人が慌てて話す。

 

「「それを慢心って言うんだよ!!」」

 

「メイプルなら何だってやってくる!それが【普通】なんだ!」

 

「うわああああ!うわあああ!」

 

その映像のあまりの衝撃に耐え切れず、疲れも相まって数人がそのまま気絶して眠りに落ちていく。

 

その後諦めと共にモニターの映像が消される頃にはもう全員の気力が尽きていたとか。




今回で第2回イベント終了となりました。次回は日常回となりそうです。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとイベント後

今回は前回の運営の嘆きから続けての話となります。それではどうぞ!


運営達がメイプルの様子を見て気を失っていた時、ダンゴムシ達を制圧したメイプルも満足そうな表情を浮かべていた。

 

「よーし、倒した!」

 

メイプルがそのままシロップの高度を下げる。

ゆっくりと足にしがみつきながら降りようとしていたが、当然滑り落ちた。

メイプルはシロップを指輪に戻すとサリーのもとへ向かった。

 

「ただいまー!」

 

「メイプルはたまによく分からない進化するよね」

 

「そう?」

 

「普通なら亀と一緒に空飛ぼうとは思わないし、完全にスキルの効果の穴を無意識についてるから俺達でも頭の処理が追いつかないんだからな?」

 

「そんなに変かな?」

 

「「うん」」

 

第2回イベントの中で得たものに大盾と巻物がある。

それは、メイプルとサリーがカタツムリのいた洞窟の中で手に入れたものだ。

2人は後で確認しようとしているうちに忘れてしまっていたので、3人揃っている今確認することにした。

性能によってはメイプルがさらなる進化をとげることだろう。

 

「まずは巻物からかな」

 

【鼓舞】のスキルを習得することが出来る巻物である。

これは、サリーとカスミも持っている。

 

【鼓舞】

半径15メートル以内にいたパーティーメンバーの【STR】【AGI】を一分間20%上昇させる。

使用者には効果が無い。

 

「パーティー用だね…セイバーには効果はありそうだけど、メイプルには意味ないかな?」

 

サリーがメイプルのステータスを上げたとしても無意味だ。

0を何%上昇させても0である。

【VIT】上昇ならまた変わってきただろうがこの2つが上昇では必要ないだろう。

それでもセイバーは強化出来るのでサリーも渋々習得だけはしておいた。メイプルも当然習得する。

 

「じゃあ次は大盾かな」

 

カスミに杖と槍を渡して交換した大盾は紫の結晶で出来ていた。

メイプルはこの大盾を見ることでカタツムリの蔓延る洞窟を鮮明に思い出す。

 

「こんな壁だったよねー」

 

「そうだったね…カタツムリがいなければまた行きたいかも」

 

メイプルは大盾の能力を確認する。

 

『紫晶塊』

【VIT+30】

【水晶壁】

 

メイプルはスキルをチェックする。

【白雪】より【VIT】の上昇値が低いためこの大盾の価値はこのスキル次第だ。

 

【水晶壁】

スキルを発動したプレイヤーのHPと同じ値のHPの壁を半径五メートル以内に出現させる。

使用後、再使用可能まで5分。

 

「んー…使えるような使えないような」

 

「これが【VIT】の値と同じだったなら、恐ろしいことになっていただろうなぁ。5分ごとにメイプルと同じ防御力の障害物がメイプルを守るように湧いてくる事になるし」

 

「メイプルのHPが高ければ結構使えたかもしれないね」

 

ステータスポイントをHPに1振ればHPが20増えるのだ。MPも同様である。

そのため【VIT】に極振りするよりもHPに振って【瞑想】のような割合回復のスキルを身につけた方が確実に生存能力は上がるだろう。

【VIT】極振りがポンポン出てこないのもそのためだった。

メイプルの所までいって初めて【VIT】のダメージ軽減は化物になるのだ。

 

「たまには使ってみようかな」

 

メイプルが大盾をインベントリにしまい込む。

メイプルは【水晶壁】があるため全く使わないということはないだろうと思った。

 

「メイプルの大盾はそれで十分だからなぁ…」

 

「盾が2つ以上装備できれば使う機会あるかもね」

 

サリーの言うそれとはもちろん【闇夜ノ写】のことだ。

それを上回る大盾はそうそう出てくることは無いだろう。

 

「そういえば…レベルも上がったなぁ」

 

「私も上がってるよ。プレイヤーキルしまくってたしなぁ」

 

「俺もだな。怪鳥、玄武、巨大イカの3タテしちゃったし、プレイヤーキルも含めればレベルはかなり上がったな」

 

セイバー 

 

Lv32

HP 175/175〈+80〉

MP 180/180〈+40〉

 

【STR 50〈+120〉】

【VIT 40〈+120〉】

【AGI 40〈+80〉】

【DEX 15】

【INT 35〈+60〉】

 

装備

頭 【竜騎士のヘルメット】

体 【竜騎士の鎧】

右手【火炎剣烈火】

左手【空欄】

足 【竜騎士の鎧】

靴 【竜騎士の靴】

 

 

 

装飾品 

【空欄】

【空欄】

【空欄】

 

 

 

 

スキル

 

【剣の心得Ⅴ】【気配斬りⅡ】【気配察知Ⅲ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅴ】【風魔法I】【土魔法I】【光魔法II】【闇魔法I】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化小】【MP回復速度強化小】【状態異常Ⅱ】【毒刃】【毒耐性大】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】

【火炎砲】【爆炎放射】【火炎激突】【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】【紅蓮爆龍剣】【火属性無効】【極炎】【フレアジェット】【消費MPカット(火)】【龍神鉄鋼撃】【神火龍破斬】【騎乗】

 

メイプル

Lv29

HP 40/40〈+160〉

MP 12/12 〈+10〉

 

【STR 0】

【VIT 180〈+141〉】

【AGI 0】

【DEX 0】

【INT 0】

 

装備

頭 【空欄】

体 【黒薔薇ノ鎧】

右手 【新月:毒竜】

左手【闇夜ノ写:悪食】

足 【黒薔薇ノ鎧】

靴 【黒薔薇ノ鎧】

装飾品 【絆の架け橋】

【タフネスリング】

【命の指輪】

 

スキル

【絶対防御】【大物喰らい】【毒竜喰らい】【爆弾喰らい】【瞑想】【挑発】【極悪非道】【大盾の心得Ⅳ】【体捌き】【攻撃逸らし】【シールドアタック】

【HP強化小】【MP強化小】

【カバームーブI】【カバー】

【不屈の守護者】

【念力】

【フォートレス】【鼓舞】

 

 

 

サリー

Lv24

HP 32/32

MP 45/45〈+35〉

 

【STR 30〈+20〉】

【VIT 0】

【AGI 85〈+68〉】

【DEX 25〈+20〉】

【INT 30〈+20〉】

 

装備

頭 【水面のマフラー:蜃気楼】

体 【大海のコート:大海】

右手 【深海のダガー】

左手 【水底のダガー】

足 【大海のレギンス】

靴 【ブラックブーツ】

装飾品 【絆の架け橋】

【空欄】

【空欄】

 

スキル

【状態異常攻撃Ⅲ】【連撃剣Ⅱ】

【疾風斬り】【筋力強化小】

【連撃強化小】【ダウンアタック】

【パワーアタック】

【スイッチアタック】【体術Ⅴ】

【短剣の心得II】【器用貧乏】【ディフェンスブレイク】【超加速】【古代ノ海】

【追刃】【鼓舞】

【火魔法Ⅰ】【水魔法Ⅱ】【風魔法Ⅲ】

【土魔法Ⅰ】【闇魔法Ⅰ】【光魔法Ⅱ】

【ファイアボール】【ウォーターボール】

【ウォーターウォール】

【ウィンドカッター】【ウィンドウォール】【サイクロンカッター】

【サンドカッター】

【ダークボール】

【リフレッシュ】【ヒール】

【MP強化小】【MPカット小】

【MP回復速度強化小】【魔法の心得II】

【釣り】【水泳Ⅹ】【潜水Ⅹ】【料理I】

【採取速度強化小】【気配遮断II】

【気配察知II】【しのび足Ⅱ】【跳躍Ⅲ】

【毒耐性小】

 

 

「もうすぐレベル30だ!」

 

「俺は念願の32レベルになったし、ちゃんとSTRにポイントを振って、これで激土が使えるぜ」

 

「結構頑張ったけどまだ差は詰まらないかぁ」

 

「今最高レベルの人ってレベルいくつなんだろう?」

 

「イベント前で確か61?だったかな?今はレベル100が限界だけど…その人が到達したら上限解放されたりするかも」

 

「61!?うわぁ…すっごい…!私達がそこに行くのは当分無理そうだね」

 

「そういう人は別次元だからな。いや……メイプルも別次元のプレイヤーだけどな」

 

メイプルの事を言う2人だが、2人共ネット上では人外認定を受けつつある。

セイバーは言わずもがだが、サリーに関しては前回のイベントと違い映像が流れていないためまだそこまで有名になってはいないが、時間の問題である。

別次元の存在の仲間入りも近い。

 

「明日は学校かぁ…なんだか久しぶりな感じ」

 

「そうだね。今日は早めにログアウトしようか?」

 

「うん!そうしよう」

 

「それじゃあまた明日な」

 

3人はそれぞれログアウトした。

視界が光に包まれていく。

 

 

 

 

現実世界に戻ってきた海斗は時計を確認した。

 

「はぁ〜楽しんだ楽しんだ。てか、本当に2時間しか経ってないんだなぁ」

 

現実世界の時計を見ることで改めて実感する。

イベント中の濃い7日間は目を閉じて思い返せば、海斗の頭の中に鮮明に浮かんでくる。

大変な戦いも多かったが、それ以上に2人と共に楽しく過ごせたことが記憶に残っていた。

 

「またあんなイベントがあると良いなぁ。それに、ようやくあの剣も使えそうだし」

 

しばらく余韻に浸っていた海斗だったが、切り替えると明日の用意をして勉強に移った。

 

「あの2人はちゃんと勉強してるか?いや、本条さんはともかく、理沙は寝てるだろうなぁ……ま、俺は俺のやる事をするか」

 

海斗は理沙や楓と共にゲームをする中でこのゲームに確実にハマっていた。前までは理沙とはあまり協力してプレイする事は少なく、あくまでも2人はライバル的な立ち位置でゲームを楽しんでいた。それが楓も加わる事によってライバルとしてゲーム内で幾度となくぶつかってきた2人を結びつけたのだ。

 

「あーあ、こんなに楽しいのならもっと早くアイツと組んでプレイすれば良かったのかな……」

 

また明日会ったら色々と話そうと決めた海斗は成績を落としてしまわないように勉強に集中し始めた。

 

この日、第2回イベントについてのスレが掲示板で立ち、そこでは名無しの弓使いが見たメイプルが巨大な亀に乗りながら毒の雨を降らしていた事や、怪鳥(銀翼)の事、6日目の悪夢の事やその後洞窟にてサリーとセイバーが暴れていた事など全体的にメイプル、サリー、セイバーの異常さについて話が挙がったのだが、3人がこの事を知る事は無かった。

 

 

 

 

第2回イベントの翌日

 

海斗は登校すると理沙とある話を始めた。それから暫く後に楓が教室へと入ってきた。

 

3人共いつも通り早くに登校しているので教室にはまだ3人しかいない。

 

「おはよう楓」

 

「おはよう理沙に剣崎君!」

 

楓は自分の席に荷物を置くと2人の元へ近づいていった。

 

「何だか学校に来るの、久しぶりな気がするよー!」

 

「まあ、7日もゲームの中にいればな」

 

「…ああそうだ。楓、海斗と話しあったんだけど今日は楓も気を付けた方がいいと思うよ」

 

「え?な、何に?」

 

理沙が気を付けた方がいいと言ったが楓には何に気を付ければいいのかが分からなかった。

 

「ゲーム内ではいつもモンスターやプレイヤーを警戒してただろ?ついついあっちでの習慣が出ちゃうかもしれないってことだ」

 

2人が言っているのはメイプルやサリー、セイバーとしての一面が、気を抜いた時に出てくるかもしれないということだった。

 

「でも、もう結構プレイして来たけど今までそんなことなかったよ?」

 

「まあ、念のためね?楓は今までに7日も連続してログインすることなんてなかったでしょ?」

 

「俺達は割と慣れてるけど本条さんはゲーム始めたばかりだしな」

 

「確かに…うん、分かった!気を付けておくね」

 

そうして話しているうちにチラホラと他の生徒が教室に入ってくる。

3人は授業の始まる5分前には話を切り上げて自分の席に戻った。

 

 

 

 

その日の体育の授業の後、海斗は保健室を訪れるとそこには楓が枕に顔を埋めており、近くには理沙がいた。楓は顔を赤らめると叫んだ。

 

「……今日をなかったことにしたいいいいいっ!」

 

「あぁー。そういや、今日の本条さん散々だったらしいな。理沙、1限目のは知ってるけど、それも含めての説明よろしく」

 

「しょうがないなぁ……」

 

 

 

3人は楓の今日1日を振り返った。

 

1限目。

 

「……すぅ…すぅ」

 

昨日そわそわしてよく眠れなかった楓は珍しく居眠りをしてしまっていた。

席替えによって窓に近い席になり、程よく日の当たる環境も眠気を誘う原因となった。

 

そして、居眠りすることが珍しい人は起こされるのだ。

海斗は普段から真面目に授業を受けるタイプの人間であり、精神力も並では無いため、前日にゲームをしまくろうと授業中に寝るような行動には出ない。その代わりその夜は早く寝落ちするが。

理沙は既に起こされないタイプの人間である。

 

楓の隣の席の女子が教師に言われて楓をつついて起こす。

 

「ん…ん?…ふぁ…もう見張り交代?…あれ?」

 

伸びをしつつ中々に大きな声でそう言う。

楓の発言に教室がざわっとした。

楓は自分が今どこにいるのか思い出したが、既に遅かった。

 

「だから気を付けろって言ったのに」

 

「仕方ないよ。本条さん、天然だし…」

 

理沙と海斗が小声で呟いて楓の方を見る。

 

「……授業に集中するように」

 

「は、はい…ごめんなさい」

 

これがやらかしその1である。

 

 

 

 

 

次は3限目終了後の休み時間だった。

トイレから教室に帰る途中の廊下。

移動教室のクラスがあったのか廊下の人通りは多かった。

その時たまたま、楓の後ろを歩いていた女子が他の生徒とすれ違う際にぶつかってしまい、手に持っていた教科書や筆箱を落としてしまったのだ。

当然、地面に落ちた際には音が鳴る。

 

「…っ!」

 

楓はそれはもう綺麗にターンを決めて左手を突き出して右手を腰に持っていく。

理沙と海斗に言われて何度も繰り返し練習してきた動きだった。

 

場所が場所なら完璧な反応だっただろう。

ただ、大盾も短刀もここにはない。

 

「え?えっ?」

急に目の前でポーズをとった楓を見て女子生徒が固まる。

楓はゆっくりと腕を引くとぎこちない笑みを浮かべて誤魔化し足早にその場を後にした。

もうこの時点で楓のメンタルはボロボロである。

流石に人前で2回も大失敗をすれば誰だってテンションが下がるだろう。

 

 

楓はもう失敗しないようにと自分の言動に気を付ける。

ただ、2度ある事は3度ある。

失敗しないようにしようと思えば思うほど失敗してしまうというのはよくあることである。

 

 

 

 

昼食後、体育。

 

体育館でのドッジボールだ。

楓と理沙は同じチームになった。

この時点で楓のチームの全滅はなくなった。

誰がどう頑張っても理沙には当たらないのだ。

相手チームが執拗に理沙を狙っているものの当たらない。

ゲーム内とは違い、ギリギリで避ける必要もないのだから当たる筈もない。

 

「相変わらず凄いなぁ…」

 

この時点で理沙を見るのを止めていればこの後の本日最大の失敗は起こらなかったかもしれなかった。

 

「……楓!」

 

理沙ばかり狙っていた相手チームが急に狙いを変えたなら、仕留められる確率は上がるだろう。

今回、狙いを変えた先にいたのは楓だった。

楓は理沙の方を見ていたため対応が遅れてしまった。

 

理沙の声に反応してボールの方を見た時には既にボールは楓に向かって真っ直ぐ飛んできていた。

 

以前の楓なら咄嗟にしゃがむなり横に跳ぶなりしたことだろう。

 

ただ、ここ最近の飛んでくる何かに対する楓の回避方法はそうではなかった。

 

「【カバームー…あっ!」

 

ギリギリで気付いて両手で咄嗟に口を塞いだものの、その状態ではボールを避けることも受け止めることも出来なかった。

 

顔面セーフは適応されなかった。

 

「楓!?大丈夫?」

 

「大丈夫…」

 

楓にとって、急に楓が何かを叫んだことについて話していることを除けば問題なかった。

ここにいる女子達が理沙を除いて誰一人としてNewWorld Onlineをプレイしていなかったため、楓が何と言ったかよく分かっていなかったことは不幸中の幸いだった。

 

「ちょっと休んでおく…」

 

「それがいいよ」

 

楓は壁に背中を預けて項垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

これが今日の失敗の全てである。

 

「流石に酷いな……」

 

「……ちょっとの間だけゲームは止めておこう」

 

ここから3日間、楓は念のため一度もログインしなかった。

その成果が出たのか、それとも決意したことが効いたのか。

3日後には楓が失敗することは全くなくなった。

 

 

 

 

 

その日の放課後、海斗と理沙は一緒に帰っていた。

 

「ねぇ、なんで私がアンタと一緒に帰ってんの?」

 

「そんな事言ったって、仕方ないだろ?道が一緒なんだから」

 

「はぁ……いつもは楓と一緒に帰るはずなのに今日は楓がゲームを断つために敢えて私達と帰るのを避けたからなぁ……」

 

そう、いつもならこの2人に加えて楓もおり、その日のゲームの行動計画を立てたりするのがいつもの日課になっていたが、楓がゲームを断つ為に先に帰ってしまったのだ。しかも、いつもなら楓がいなければバラバラに帰る2人も丁度偶々タイミングが合ってしまいこのような事態となったのだ。

 

「けど俺達、小学までは一緒に帰ってたのに、なんでバラバラに帰るようになっちゃったんだろうな……」

 

「……多分、その頃から私達はゲームの中でのライバルとしてお互いを敵視しちゃったからじゃない?ホラ、昨日のイベント内で言ってたけど私がゲームの大会の決勝で海斗に負けて大泣きしたあの日からでしょ?私達が何処か余所余所しくなって、人前で所構わず喧嘩を沢山するようになったの」

 

「そうだったな……。あの時は理沙相手にゲームで勝てた事で俺は調子に乗って、その翌日から理沙にマウント取りまくって理沙をイラつかせていた。多分、喧嘩をするようになったのは俺のせいだ」

 

「ふふっ、なーに今更そんな事言ってんの。流石に私もそれには慣れたわよ。次の大会では海斗の事ボコボコに仕返したし」

 

「なっ!?アレは理沙が俺に2度も負けて悔し泣きするのが見てられなかったから手加減してやっただけですー!!」

 

「何よそれ!そんな事言ったら私だってあの時手加減してましたー!!」

 

2人はそれから再びいつもの口論合戦を繰り広げてからいがみ合いとなるがそれはすぐに終わった。何故なら……

 

 

「「ぷっ……くっ……あはははは!!」」

 

2人は顔を見合わせて笑いあった。

 

「こうして俺達がゲーム以外で正面切って笑い合うの、久しぶりだよな?」

 

「そうね。いつぶりかしら?確かに、私達は今までもずっとゲームを楽しんでた」

 

「だけどやっぱ何かが足りなかったんだよなぁ。大切な何かが欠落してたって言うか」

 

「でも私はこのゲームを海斗に薦めた。多分私も心のどこかではチームを組みたいって思ったんでしょうね」

 

「思えば本条さんがいたおかげでようやく俺達の心の中に詰まっていたモヤモヤがやっと吐き出された」

 

「ありがとうね、海斗」

 

「おう、そうだな」

 

理沙が微笑むと海斗はサムズアップする。すると突如として突風が2人の間を駆け抜けた。そして、その突風に足を取られてしまった理沙が海斗へと倒れ込む。

 

「きゃっ!!」

 

「ちょ!?おまっ!」

 

2人が倒れた痛みを何とか振り払うと目を開けたすると、海斗は理沙に押し倒される形となり海斗はそれを抑える為に理沙のある所に両手を出して思いっきり掴んでいた。

 

 

 

そして、そのある所は柔らかく弾力性があった。2人は暫く呆然としていたが、2人の思考回路が戻ると海斗は自分が今理沙へととんでもない事をしてしまったという事を理解した。

 

 

 

 

「あ………」

 

海斗の声と共に理沙は一瞬にして顔を真っ赤にすると海斗へと強烈なビンタが飛んでいった。

 

「い……いやあああああああああ!!」

 

「いだぁああああああああ!!」

 

その場には理沙の叫び声と共に海斗の断末魔が響き渡った。幸いにもその場には誰もおらず、この問題行為が露呈することは無かったが、その夜海斗は理沙に現実とゲーム内のダブルでフルボッコにされる事になり肉体、精神共にボロボロにされた上、それから楓が復帰する3日間もの間、海斗は理沙に許される事は無かった。

 

 

「理沙ぁー!!許してくれー!!」

 

「知るか!問答無用!!死ねこのドスケベが!!」

 

「ギャアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

閑話休題

〜イベント後の運営その2〜

 

第2回イベントにてセイバーとメイプルに精神を削られまくった運営陣は完全にグロッキーだった。

 

「はぁ……何でこうなるんだ……」

 

「セイバーは俺達自慢の怪物を2体も蹂躙するし、メイプルは謎のスキルの取り方でとんでもない進化をするし……」

 

「これもうアイツら2人に手がつけられる奴いるか?」

 

「ペインならギリギリで……いや、メイプルはどうにか出来てもセイバーは微妙だなぁ……」

 

「アイツの剣ももう4本。早速3分の1が彼の手に……」

 

「これからの聖剣の実装日程はどうなっている?」

 

「既に第二層に1本、もうじき実装予定の第三層に1本だな」

 

「割とすぐに2本増えるじゃん!」

 

「うわああん!どうすれば良いんだよー!!」

 

1人が頭を抱えると端っこでモニターを見ていた男が声を上げた。

 

「み、皆!!これを見ろ!!」

 

運営陣がその画面を見るとそれは運営にとって願っても無い物が映っていた。

 

「す、凄い!!まさか、このイベントをクリアする者が出るとは!?」

 

「しかも特別報酬付き!!」

 

「その特別報酬って何だっけ?」

 

疑問を抱いた男に他の男が耳打ちすると運営陣は全員で喜んだ。

 

「やったぁ!これでセイバーを抑え込めるぞ!」

 

「だが、逆にコイツが暴れすぎたりはしないか?」

 

「寧ろそれで良いんだよ。セイバー1人だけに無双されるより、彼にもライバル…いや、天敵がいた方が良い」

 

「まぁ、俺達運営の立場でこんな事を言うのもダメだがセイバーは暴れすぎた。そろそろ修正のかけどきって訳だ」

 

「頼むぞ……今度こそセイバーを止めてくれ……魔剣・ダインスレイヴ!」

 

モニターに映っていた男はダインスレイヴと呼ばれた剣を片手に禍々しい鎧を着ていた。

 

 

 

 

〜運営のモニターの向こう側、ゲームの中にて〜

 

魔剣を手にした男は見上げると小さな声で呟いた。

 

「……セイバー。第1回イベントで俺はアイツに手も足も出なかった。だが、今度こそは奴を……倒す」

 

同時刻、別の場所では黄色い髪をショートヘアにした可愛らしい少女が槍を持った鎧の騎士……【オーディーン】を倒して報酬である宝箱から槍を手にしていた。

 

「待っていてね……セイバーお兄ちゃん。私、セイバーお兄ちゃんと一緒にプレイしたいから……」

 

少女がそう言うと槍は形を変え、両腕にガントレットとして彼女に装備されると初期装備だった少女の体にアーマーが装着された。



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聖剣使いとギルド結成

セイバーがサリーに激怒されてから3日目、その日はメイプルが3日ぶりにログインして広場で2人と合流した。セイバーは何度もサリーへと土下座をしておりサリーはまだご立腹の様子だった。

 

「不慮の事故とはいえ、あの時はマジですんませんでした」

 

「アンタねぇ、どこをどうやったら私の胸に両手がいくかな?絶対にわざとでしょ」

 

「でも倒れてきたのはサリーの方じゃ……」

 

「あん?」

 

「すんませんでした……」

 

「サリー、そろそろ許してあげたら?セイバーだってわざとやった訳じゃ無いし……」

 

「仕方ないわね。今回はメイプルの顔を立てて許してあげるわ。けど、ゲーム内でも現実世界でも次やったら本当に許さないから」

 

「……はい」

 

「それはそうとして、今日はどうする?」

 

「うーん…そうだなぁ。メイプルはこの3日間のことをどれくらい知ってる?」

 

「え?…全く知らないよ?ゲームから離れるようにしたから」

 

メイプルはここ3日間でこのゲーム内で何があったのかを知らない。

ログインはしなかった上に、ゲームの情報すらシャットアウトしていた。

 

「じゃあ、1つずつ説明していくぞ」

 

「うん、お願いします」

 

「まず1つ目は大盾のスキルが新しく追加された。貫通攻撃に対抗するスキルだった」

 

「おお!」

 

メイプルとしてはとても嬉しいことだった。

2人曰く、取得方法も運営によって知らされているとのことだ。

スキルはメイプルが後で見ておくことにして、サリーが続きを話す。

 

「それでこれが重要なんだけど…メイプルのいないうちにイベントっていうか…新要素?とにかくそれが追加された」

 

「新要素?」

 

「【光虫】っていう金色の虫がフィールドのどこかに出るようになったんだよ」

 

サリー曰く、様々な種類の虫がフィールドに現れ、それを倒すと【光虫の証】を確定でドロップするとのことだ。

 

「その証は何に使うの?」

 

「新要素【ギルドホーム】を買うのに必要なんだよ」

 

「ギルド…ホーム?」

 

メイプルが質問で返すとセイバーが話を引き継ぐ。

 

「この町ってさ、入れない建物がいっぱいあるよな?」

 

「うん」

 

3人が周りを見回すだけでそれらしきものがいくつも見える。

この広い町のほとんどは入れない建物だった。

NPCの店や、プレイヤーがNPCにお金を払うことにより借りている鍛冶屋などを除けば全てこれにあたる。

 

「証1つにつきあれを1つ買える。虫の種類によって買える【ギルドホーム】のランクも違う。レアであるほどランクも高いし、規模も大きくなる」

 

「ふむふむなるほど」

 

さらにサリーが【ギルドホーム】の良さとしてステータスアップの恩恵があることを話し、その後に【光虫】の数について話し始める。

 

「【光虫】の数には限りがあって…今ある建物の数しかいない」

 

「ええ!?」

 

「運営は少しずつ建物の数を増やしていくつもりらしいけどね」

 

しかしそれは今の【光虫】の数を増やすことには繋がらない。

つまりメイプルは乗り遅れたのだ。

 

「じ、じゃあ急いで探しにいこう!」

 

メイプルとしては【ギルドホーム】というものを体験したかった。

今回証を取得出来なければ、次はいつになるか分からない。

ここでいつまでも話している訳にはいかなかった。

 

「メイプル」

 

「な、何?」

 

セイバーがさっと青い画面を操作してインベントリからアイテムを取り出す。

 

「もう取ってある。メイプルが欲しがると思ってな。サリーにもお詫びの印がいるし、俺1人で実装された当日、速攻で取りに行った。【気配察知】のお陰ですぐ見つかったし、これで取り敢えず買う権利は確保しといたぞ」

 

「お…おおお!ありがとう!」

 

「ただ…これは【ギルドホーム】を買う権利を手に入れられるだけで、買うためにはお金も必要なんだよね」

 

「それ…どれくらい?」

 

「500万ゴールド」

 

「ごっ…!?え?」

 

メイプルは所持金を確認する。

メイプルはお金を必要としたことが少なく、貯めようとも思わなかった。

そのため、メイプルの所持金は5万ゴールドと少ししかなかった。

 

「じゃあ…今日はお金を稼ぎにいこうよ!早く【ギルドホーム】欲しいし」

 

そうしてメイプルが町の外へと歩き出そうとする。

 

「メイプル」

 

「な、何?」

 

続けてサリーがステータス画面を出しつつメイプルに近づく。

その一部をちょんちょんと指差し、メイプルに見せる。

サリーの所持金の欄には5が1つにゼロが6つ。

 

「既に用意してあるんだなぁこれが」」 

 

「す、凄いよ!サリー凄い!」

 

「ふふふ…もっと褒めたまえー」

 

「とは言っても半分は俺の稼ぎなんだけどね」

 

これだけの金額を稼いだのは裏技でもなんでもなく、ただただ2人が3日間全力でドロップアイテムを集めて売るのを繰り返しただけである。

 

しばらくメイプルに褒め讃えられた後で2人は話し出す。

サリーとセイバーはメイプルに購入出来る家の方に向かおうと言い、メイプルもそれに賛成する。

場所を知っている2人の後をついていくようにしてメイプルも歩き出した。

 

「お金、また今度返すね?」

 

「うーん…別にいいよ?そんなに必要としてないし。どうしても何か返したいなら私に合った装備品とかがいいかな?」

 

「俺もお金はあんまり要らない。強いて言うのなら聖剣に関する情報があれば欲しいってぐらい。俺の戦力の強化に聖剣は必要だから」

 

「分かった、探してみる!」

 

「いつでもいいからね」

 

「まぁ、聖剣に関しても挑戦できるのは俺だけだし、地底湖みたいに普通のプレイヤーには見えないかもだからこっちも出来たらで良いよ」

 

 

 

 

話を終えた所で3人は【ギルドホーム】を探して町の端近くまで歩くとサリーが足を止める。

中心の広場やNPCの店などを利用するには不便だろう。

 

「この辺りかな」

 

「結構歩いたね」

 

「俺が手に入れた証はランクが低いからなぁ…もっといいランクの証なら町の中心の【ギルドホーム】が買えるんだけど」

 

「手に入れてくれただけで十分十分!」

 

メイプルは【ギルドホーム】の大きさなど気にしていなかった。

メイプルの性格、思考からすればそう思うのは普通だった。

 

 

メイプルはしばらく歩いているうちに1つの【ギルドホーム】を見つけた。

 

「ここ…いいかも」

 

人通りの無い道の奥。

ひっそりと存在する巨大な木の形をした【ギルドホーム】は隠れ家的雰囲気をかもし出していた。

 

「確かに、メイプルが好きそう」

 

「ここでいい?」

 

「うん、いいんじゃないかな」

そう言うとサリーは【光虫の証】を取り出して扉に押し付けた。

 

白い輝きが路地を埋め尽くし、扉がゆっくりと開いた。

3人は中に入っていく。

 

 

「おー…結構広いね」

 

ぱっと内装を確認したところ落ち着いた色合いの木製の家具が中心だった。

部屋の奥には青いパネルが壁に嵌め込まれておりそこに情報を入力することでギルドメンバーを登録出来た。

サリーとセイバーがメイプルにギルドマスターを譲ったためメイプルがギルドマスターである。

2人は今回は止めておくと言ってギルドマスターを辞退したのだ。

 

「これでも最下級だけどな。ギルドメンバーは…50人まで登録出来るっぽい」

 

「2階もあるけど…そんなに入る?」

 

「まあ、限界値だから快適ではないかもしれないね…誰か誘ってみる?急がないと皆他のギルドに入っちゃうよ?」

 

「……カスミとカナデに聞いてみようか!」

 

「そう言うと思った。いいと思うよ」

 

「カスミさんは剣の腕では俺とタメはるだろうし、カナデさんは【神界書庫】っていうヤバそうなスキル持ってるらしいし、かなり力にはなるだろうな」

 

メイプルは2人にメッセージを送る。

数分後に2人から返事がくる。

幸い2人ともまだギルドに所属していなかった。

そして、メイプルの誘いに快く乗ってくれたのだ。

 

「やった!サリー、セイバー!ちょっと広場まで行ってくる!」

 

「いってらっしゃい」

 

「手早く済ませてこいよ」

 

メイプルは扉を勢いよく開けて駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

メイプルが広場に着く。

2人は中心にある噴水の縁に座っていたが、メイプルに気づくとそれぞれ近づいてきた。

カナデとカスミが自己紹介をし合った所でメイプルが話し出す。

 

「2人ともありがとう!嬉しいよ」

 

「僕も誘ってくれて嬉しいよ」

 

「ああ、ありがとうな」

 

それぞれお礼を言い合って歩き始めようとした。

その時。

 

「ん?あれは…」

 

メイプルがじっとその人物を見ていると向こうもそれに気付いたようで近づいてきた。

 

「お、イベント振りだな」

 

「クロムさん!久しぶりです」

 

その人物とはクロムだった。

メイプルとしては雪山の頂上で会ったきりだった。

 

「メイプルはイベントはどうだった?俺達の後で雪山のあれ入ったんだろ?」

 

あれとはもちろん怪鳥の住処のことである。

 

「強かったですよー!なんとか勝てましたけど」

 

クロムとしてはメイプルが倒したのだと予想していたが、実際に本人の口から聞いたことで改めて驚愕した。

そう、【あれ】を倒したのかと。

 

「その強さならギルドにも入り放題だろうな、まぁ…条件をつけている所もあるが…」

 

「ギルド……そうだ!良かったらクロムさんも私のギルドに入りませんか?まだ予定がなければですけど」

 

クロムは第2回イベントでパーティーを組んでいたため、メイプルは無理だと思っていた。

そのためメッセージも送らなかったのだが、せっかく会えたのだから取り敢えず話してみようと思ったのだ。

 

「いいのか?メイプルがいいなら喜んで入るが…」

 

クロム曰く、前回イベントのパーティーはその時限りのものだったとのことだ。

つまり 今の所はクロムはフリーである。

 

それならばとメイプルはクロムも連れて4人で【ギルドホーム】へと向かった。

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

「おかえり、あれ?クロムさんも連れてきたんだね」

 

「偶然会って、入ってくれるって!」

 

「これでかなりの戦力が増えたな」

 

「じゃあ早速、全員登録しちゃおう」

 

新たに入ってきた3人がそれぞれ部屋の奥にある青いパネルに入力を済ませていく。

 

「そういえば…ギルドの名前を決めないとだな」

 

「メイプルが決めてよ、ギルドマスターだし」

 

「私もそれがいいと思うぞ」

 

「そうだな、俺も賛成だ」

 

4人から言われてメイプルが考える。

しばらくしてメイプルがパネルに名前を入力した。

 

【楓の木】

 

メイプルが名付けたこのギルドは少人数のギルドとして活動していく。

 

そして後に【人外魔境】や【魔界】などと呼ばれたりするようになるが、それはまだまだ先のことである。

 

 

ギルド結成から数日後、メイプルはシロップの背中に乗ってフィールドを飛んでいた。

歩くよりも遥かに速いのだから仕方ないだろう。

 

「カナデ!今日はよろしくね」

 

「任せといて!」

 

カナデも乗っている理由は素材集めのためである。

 

ギルド結成の次の日、イズが新たにギルドに加わった。

今日は【ギルドホーム】内の工房に素材を溜め込むために鉱山へと向かっているのである。

サリー、クロム、カスミ、セイバーの4人は木材と布のドロップアイテムを集めに別の場所に向かっている。

 

イズは生産能力に全てを注ぎ込んでいるため戦闘はからっきしだ。

元々運動が苦手らしく、まともに戦闘が出来ないとのことだ。

 

その代わりに生産スキルのレベルは高い。

武器、布製品、アクセサリー、家具。

何だって出来るのだ。

 

「私が護衛するから、【採掘】は頼んだ!」

 

カナデは【採掘Ⅴ】を持っているため鉱山へと向かうことになった。

ピッケルで鉱石を掘るのである。

鉱山にはゴーレムも出るためその素材集めがメイプルの仕事である。

 

「今回は【神界書庫】が役に立ったからね」

 

カナデはこのスキルの説明をギルドメンバー全員にしている。

 

【神界書庫】

生産系スキル、戦闘系スキル、その他スキルからそれぞれ三つずつランダムで、合計9個のスキルを取得する。

スキルレベルは中またはⅤ固定。

使用後1日経過で取得スキルは消える。

既に取得済みのスキルは選ばれない。

 

 

「杖以外の武器スキルは無意味だから、戦闘が出来るようになるかは運次第だけどね」

 

カナデのレベルが上がり、このスキルなしでも戦えるほどの力をつけた時、このスキルは真価を発揮する。

新たな戦略を生み出す鍵になるのだ。

 

カナデは毎日違うスキルを使うことが出来る。

それは時に、奇跡的に噛み合って恐ろしい効力を発揮するだろう。

 

「見えてきたよ!」

 

「よーし!いこう!」

 

途中でレアモンスターと間違われて何度か魔法や矢が飛んできたものの、その度にメイプルがプレイヤーの目の前に飛び降りて注意することで何とかなった。

 

攻撃が止まったのはメイプルの注意が効いたからではなく、急に降ってきたメイプルに驚き戸惑っていたためだったが、そんなことはメイプルの知らないことだった。

 

 

 

「奥地まで行くから私の近くにいてね」

 

「了解!」

 

二人は鉱山の中へと続く洞窟を進んでいく。

カタツムリの洞窟のような綺麗な結晶はないものの、所々に鉱石が露出しているので、見つけ次第カナデがピッケルを使い【採掘】する。

 

「どんどんいこう!」

 

「うん、そうしよう!」

 

シロップは指輪の中に戻しているのでメイプルの守る対象はカナデだけだ。

ゴーレムは大盾や【毒竜】を使うまでもなく、弱い毒攻撃で倒すことが出来た。

 

ゴーレムのドロップアイテムもきっちりと回収する。

 

この鉱山には様々な種類の鉱石があるがレアリティの高い鉱石はそうそう出てこない。

 

「鉄鉱石、灰結晶、石ころ…」

 

カナデのピッケルの音が響く。

その度に鉱石が手に入るが、特筆すべき物はない。

2人は分かれ道をどんどんと奥に進んでいき、最奥にある採掘ポイントからも採掘を終えた。

 

「まあ…質より量だよ量!」

 

メイプルが言う。

 

「いや…流石にそれは…」

 

カナデも流石に賛同しかねるようだった。

鉱石ならば量より質だろう。

 

「あ、帰り道ってどうだっけ?…適当に歩いても出れるかな?」

 

「道くらいなら全部覚えてるから大丈夫だよ?」

 

「おー!やるなぁ、じゃあ…案内お願いするね」

 

カナデは分かれ道の多い洞窟内を迷いなく進んでいき、1度も道を間違うことなく外に出ることが出来た。

 

 

 

 

 

サリーやセイバー達は森にいた。

こちらは戦闘がメインで、ドロップアイテムを集めている。

 

「やっぱりサリーちゃんもやばかったか…」

 

「あぁ、そういえばクロムさんがサリーの異常さを見るの初めてでしたっけ?」

 

クロムの目の前には攻撃をヒラリヒラリと躱すサリーがいる。

今にも当たりそうなギリギリの回避に見えるが、たったの1度も当たらない。

 

「おー…凄い…オーラが」

 

そう呟くのはサリーだ。

サリーの体からは青白いオーラが溢れ出ている。

サリーはメイプルのためにモンスターを倒して、ドロップアイテムを売り払いゴールドを大量に用意した。

その時にレベルが上がったのだ。

 

そして、とあるスキルを手に入れた。

 

【剣ノ舞】

攻撃を躱す度にSTR1%上昇

最大100%

ダメージを受けると上昇値は消える。

 

取得条件はレベル25到達までノーダメージであることだった。

青白いオーラはこのスキルによるものである。

 

サリーを相手にする場合、倒すためには攻撃しなければならないが、攻撃すればするだけ不利になっていくという訳だ。

 

「これでもメイプルは貫けないなぁ」

 

「え…メイプルのVIT値ってどれくらいなんだ?」

 

「多分もうそろそろ3桁ぐらいにはなるだろうけどね」

 

「詳しい数値はメイプルに聞いてみたら?多分教えてくれると思うよ?」

 

 

そう言いつつサリーはセイバーの方を見るとセイバーも調子良さげにモンスターを狩っていた。

 

「よっ!ほっと!」

 

「前は見る事が出来なかったが、やはり剣の腕は想像以上に高いな」

 

「ま、カスミぐらいだったら剣の腕のみに限れば十二分に勝負は出来ると思うよ。ただ……」

 

サリーがそう言うとセイバーの方は剣を入れ替えていた。

 

「今日はこいつの試運転だ。激土、抜刀!」

 

するとセイバーの鎧は光っていくと装甲は黒やグレーの物となり、さらには籠手や胸部、肩などのあらゆる装甲が厚く、固くなっておりヘッドギアの部分は岩を真っ二つに割るようにオレンジのパーツがつき、その間にはツノのようなものが出た兜のようだった。

 

『玄武の兜』

【VIT+100】【HP+120】

【破壊不可】【超絶対防御】【宿木】

【消費MPカット(土)】

 

『玄武の鎧』

【STR+150】【VIT+100】

【破壊不可】

【岩石砲】【装甲破壊(アーマークラッシャー)】【パワーウィップ】

【マキシマムボディ】【グランドブレイク】

 

『玄武の靴』

【VIT+100】【MP+30】

【破壊不可】

【ヘビィレッグ】【グランドウェーブ】

【ドリルストライク】

 

『土豪剣激土』

【STR+100】【破壊不可】

【大地貫通】【大断断斬】【激土爆砕】【リーフブレード】

 

「なるほど、これは中々強いな。てか、補正値が+700、【進化の可能性】が無い分の補正か。土魔法もⅦになったし、スキルも相まってこの装備は超パワー型って感じかな!」

 

セイバーが思いっきり剣を振ると装甲の硬そうなゴーレムがたった一撃で跡形も無く粉砕した。

 

「まぁ、セイバーには聖剣による補正があるからね」

 

「ああ、あれがある事考えたら勝てる気がしないぞ」

 

サリーとカスミがそう言っていると更にセイバーはゴーレムを両断する。

 

「ってかセイバー、その装備のスキルは使わないの?」

 

「いやね、スキルを使うまでも無くゴーレムが消えてんの。てか、ゴーレムの方が他のモンスターよりもオーバーキルしているのかダメージエフェクトが大きく散ってる」

 

「ん?それってどう言う事だ?」

 

「多分このスキルが原因」

 

セイバーがそう言ってステータスのあるスキルを見せた。

 

【装甲破壊】

常時、相手の装備に大きなダメージを与える事ができ、相手のVITが高いほど与えるダメージの値が上昇する。

 

「……何この大盾使い殺しのスキル」

 

「ってか常時発動かよ。俺もメイプルもお前が敵にならなくて良かったぞ。メイプルなんてVITが別次元で高いから余計にダメージ入るだろうし」

 

「そうね。この火力は正直相手にしたく無いわね。メイプルと一緒なら尚更」

 

それからサリーはクロムの方をチラッと見る。

 

クロムは再び戦闘をしていたが、彼の戦闘は一言で表すならば堅実といったところだろう。

大盾できっちりと攻撃を受け止め、短刀で斬りつけることでダメージを与える。

大盾の使い方が上手く、的確に攻撃を弾く。

さらに、囲まれないように戦況を確認しつつ立ちまわっていた。

 

「あれが本来の大盾使いだぞ」

 

「そうだね…」

 

「メイプルのような派手さはないけど、プレイヤースキルは確実にメイプルを上回っているな」

 

メイプルはクロムのように攻撃を大盾で受け止める必要がないため、大盾の使い方は上手くない。

 

大盾よりも身体の方が硬いのだ。

むしろ悪食を残すために大盾を下ろしている時の方が多い。

 

「このギルドは【普通】の方が少数派だからな…」

 

メイプル、サリー、カナデ、セイバーが異常枠。

カスミ、クロムは普通枠だ。

イズは生産の面で言えば異常枠に片足を突っ込みつつある。

クロムも無事に戦闘を終えて4人で帰路につく。

 

 

「私も…このギルドにいる内に普通でなくなるのか?」

 

「俺も、そうなるかもな?」

 

「メイプル色に染まっていくかもね」

 

「ま、そう遠く無いうちに2人共化けると思いますよ」

 

素直に喜んでいいのか微妙なところだ。

今度はそれぞれが持ち帰った素材を使ってイズが力を発揮する番である。

 

 

 

2組は町の外で合流して、町の中へと入っていった。

目立つ6人組である。

メイプルは言わずもがな。

クロムとカスミ、セイバーは第一回イベントの入賞者。装備も豪華で目を引く。ただ、セイバーは黄雷の装備にする事であまり周りに知られていない装備を隠しているが。

サリーを見て何人かが反射的に武器を抜こうとした。

カナデはルービックキューブを高速でガシャガシャと組んでは崩してを繰り返して暇を潰している。

 

町の端に向かう6人の様子を周りにいるプレイヤー達が注目するのも無理ないだろう。




24話時点のステータス

セイバー 
*補正値は土豪剣激土の装備時
Lv32
HP 175/175〈+120〉
MP 180/180〈+30〉
 
【STR 50〈+250〉】
【VIT 40〈+300〉】
【AGI 40】
【DEX 15】
【INT 35】
 
装備
頭 【玄武の兜】
体 【玄武の鎧】
右手【土豪剣激土】
左手【空欄】
足 【玄武の鎧】
靴 【玄武の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅴ】【気配斬りⅡ】【気配察知Ⅲ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅴ】【風魔法I】【土魔法Ⅶ】【光魔法II】【闇魔法I】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化小】【MP回復速度強化小】【状態異常Ⅱ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】
*土豪剣激土を装備時
【超絶対防御】【宿木】【消費MPカット(土)】【岩石砲】【装甲破壊】【パワーウィップ】【マキシマムボディ】【グランドブレイク】【ヘビィレッグ】【グランドウェーブ】【ドリルストライク】【大地貫通】【大断断斬】【激土爆砕】【リーフブレード】

セイバーがギルドに入る話でした。また次回もお楽しみ。


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聖剣使いと疾風の風

ギルド結成し、素材を集めた翌日、セイバーは二層の街を歩いていた。

一応メイプルも同じ時間帯にいたのだが、今回は別で周りたいという彼女の頼みを入れてバラバラでの活動となった。

 

 

「さてと、メイプルはメイプルで街を探索するって言ってたし、俺は俺で聖剣を探してみるかな」

 

セイバーは街を歩いていき、近くの掲示板に寄ってから有益な情報が無いか探してみた。すると街の南西にある森の中で、常に霧に包まれている地帯があるとあった。その霧はある程度歩くと消えるらしいが、霧の中にいる間は何者かに見張られているような感覚がするらしい。

結局はそこから先は何も無い訳だがセイバーの感はこれを見逃さなかった。

 

「ふむふむ、森の中に常時霧がかかって何者かに見張られる、しかもそのプレイヤー達には何も害は無い…か。なーにかあるんだよなぁ。これまでのパターン的に。ま、行けばわかるか」

 

セイバーはその日の目標をそこにすると歩き始めて、街から出ると森の中に入った。

 

「後はこの森を探るだけだけど、本当に霧のある所なんてあるのかなぁ?」

 

今回の目標を決めたのは良いものの、セイバーは掲示板の情報こそ見てこそいたが、その場所を完全に把握している訳でも無い上にこの辺に来た事がある訳でも無い。果たして本当にあるのかどうかも怪しい所である。

 

そんな訳でセイバーは早速森を彷徨う羽目になった。

 

「モンスターは簡単に倒せるから良いけど、ここには来た事無いんだよなぁ。どうしよう……」

 

セイバーが悩んでいると近くで何かが吹っ飛ぶ音がしたかと思うといきなり狼のモンスターが飛び出してきた。

 

「な!?」

 

狼のモンスターは地面を転がってからすぐに立ち上がると血走った目でセイバーを見るや否やすぐにその牙をこっちへと向けて飛びかかってきた。

 

「うわっ!?コイツ、いきなり出てくるな!」

 

セイバーはすれ違い様にモンスターを斬り裂くとモンスターはポリゴンとなって消えた。

 

すると割と近くで草をかき分ける音や話し声が聞こえてきた。

 

「もう、ドラグったら、派手にやりすぎ!余計なモンスターも吹っ飛ばさないでよ!」

 

「面倒臭いからもう少しどうにかならないのか?ドラグ」

 

「アレより威力を落とせって言われても無理だな。加減が難しいからよ」

 

その3人組は1人は短剣を弄ぶ男、もう1人はその男とは対照的に巨大な斧を担ぐ男、そしてもう1人は杖を持った女だった。

 

「さーてと、さっきふっ飛んでった奴は……」

 

「あのー、それならさっき俺が倒しました。というか、あなた達って第1回イベント3位、【神速】のドレッドさん、イベント6位、【地割り】のドラグさん、そして魔法を使って支援に攻撃に何でもこなせるサポート役、フレデリカさんですよね?」

 

「おう、知っててくれて光栄だぜ」

 

「そういうお前はイベント2位でペインと同じ聖剣使いのセイバーだな」

 

「私の順位を言ってくれないのはなんか嫌だけど、まぁトップ10で無いのは事実だししかたないわね。取り敢えずよろしく〜」

 

「御三方はここでレベル上げですか?」

 

「まぁ、そんな所だ」

 

「んで、お前は何をしているんだ?」

 

「あぁー、俺はこの辺で聖剣がありそうな場所があったからそれを探してるって感じです」

 

「えぇ〜、まだ強くなるつもりなの?」

 

「当然ですよ。強敵に勝つにはまず準備が必要ですからね。それに、1度見せた手は上級者が相手であるほど2度目は効かなくなる。新しい手を多くして損はないですよ」

 

「ま、理には叶っているな」

 

「それで、3人に聞きたいんですけど、この辺で常に霧に包まれる場所があるって聞いたんですけどそれってどの辺にありますか?」

 

「俺は知らないなぁ」

 

「俺も噂だけなら聞いた事はあるが、実際はどうもなぁ……」

 

ドレッドとドラグは知らないと言い、セイバーは最後に残されたフレデリカの方を見る。

 

「え、私?うーんとね、確かここを真っ直ぐ南に進んだら霧の地帯に入ると思うよ〜。けど、本当に行くつもりなの?あそこ私が1回行ったけど視線がヤバいくらいにプレッシャー掛けてきたからすぐにその場から逃げ出しちゃったし」

 

「それでも俺は行きますよ。自分の戦力アップがかかってるんで。それじゃあ、情報をありがとうございます。それではこれで……」

 

セイバーが行こうとするとフレデリカはセイバーの前に立った。

 

「ちょっと待ちなさい。こっちは情報をあげたんだからセイバーも情報をくれないかな?」

 

「ギブアンドテイクですね。良いですよ……と言いたいんですが、御三方に有益な情報と言うと……あ、そうだ。だったら、流水、抜刀!」

 

セイバーは流水を抜刀して姿を変えた。

 

「じゃあ、俺のスキルを2つほど見せるって事で良いですか?」

 

「確かに、それなら俺達の知らないセイバーの情報が得られるし良いと思うぜ」

 

「フレデリカ、お前次第だけどどうする?」

 

「まぁ、私達はその姿は知らないし、そっちがスキルを見せてくれるのならこっちとしてもありがたいからまぁ良いかな」

 

セイバーはフレデリカのご要望通り、自身のスキル、【ウォータースラッシュ】と【アクアトルネード】を見せた。

 

「こんなもんでいいですかね?」

 

「ありがとうね、これであなたを相手する時に手の幾らかは読めるようになったかな」

 

「あ、そうだ。セイバー、お前はウチのギルドに入らないか?俺達3人はペインの作ったギルド、【集う聖剣】にいるんだが」

 

「お前も聖剣使いだし、イベントも10位以内。実力としても申し分無い。だから来ないか?」

 

「お誘いは嬉しいのですが、もう既に俺は【楓の木】ってギルドに入っています。ですからお断りさせてください」

 

「あー、もう既に他の所入ってたかぁ。なら仕方ないな」

 

「その内またやりあうかもしれないからまたその時はよろしくな」

 

「はい、ありがとうございました」

 

そう言ってセイバーは3人と別れるとさらに森の奥へと入っていった。するといつの間にか辺りが一面霧の海になった。

 

「およ?そろそろかな……」

 

セイバーが歩いていると霧が晴れてそこには1人の老人が立っていた。

 

「もしかしてあの人が掲示板にあった視線の正体?」

 

『よくぞここまで参られた。聖剣を振るう剣士よ』

 

「もしかして、ここに来る人を霧の中から見ていたのは聖剣使いか見極めるためか?」

 

『左様。ここに通る者全てを見ていた。私の試練を受けるに相応しいかどうかをな』

 

「ふーん。で、俺を見て目の前に現れたって事は」

 

『其方が私の試練を受けるに相応しいと判断した……そういうことだ』

 

「それじゃあ早速始めてもらいたい」

 

『よかろう。合格条件は私に攻撃を当てるか私に触れる事だ』

 

そう言って老人は一瞬にして姿を消した。

 

「消えた……けど、【気配察知】で……あれ?」

 

セイバーは気配を探ろうとするが、老人の気配は全くと言っていいほどしないのである。

 

次の瞬間、俺の背中にダメージエフェクトと共にダメージが入った。

 

「な!?」

 

さらに老人は2度、3度と斬りつける。

 

「このっ!」

 

セイバーは流水を振り抜くが攻撃は空を切った。

 

「いない……もう回避したのか?」

 

『……今のお前では私を捕らえる事など出来ん』

 

セイバーは再び構えると老人の気配を感じようとするもやはり気配は無く、セイバーは再びダメージを受けた。

 

「く……こりゃ、捕らえるには暫くかかりそうだな。だったら、激土抜刀!」

 

セイバーは激土を装備して防御面を強化すると、老人の不意打ちを再び受けるが、今度はダメージが全く入らなかった。

 

『!!』

 

流石の老人も攻撃が通らなかった事には動揺したらしく動きが慌ただしくなっていた。

 

「驚いたでしょ?この形態のスキル、【超絶対防御】、これで俺のVITは常時ステータスの3倍になっている。いくらあなたでもそうそう簡単に崩せませんよ」

 

老人はそれを見てすぐに手を変えた。

 

今度は遠距離からクナイを投げつけてきたのだ。そしてその攻撃は防御貫通らしく僅かにダメージを受けた。

 

「くっ。流石に対応が早い。しかも……」

 

セイバーは攻撃を受けながらステータス画面を見るとそこにはAGI低下のデバフがついていた。

 

「デバフをかけに来てるなぁ。多分、もう少ししたら状態異常をかけにくる。そうなったら機動力が低いこの姿は不利。かと言ってそれ以外の剣じゃあアイツの速度を見切る前にHPが無くなる。どうしたら……」

 

セイバーが迷う間にも老人は次々とクナイや手裏剣を投げまくってきた。

 

「どうにかアイツとの距離がわかれば……あ、そうだ!場所がわからないのなら、相手のいる場所に技が出るスキルを使えば良いんだ!」

 

セイバーは早速対抗できるスキルを発動した。

 

「【宿木】!」

 

するとセイバーの、周り一面に宿木の蔓が伸び始めた。このスキルはMPを毎秒1ずつ消費するが、相手のいる場所に蔓を出して巻き付かせ、相手の最大HPの1%を5秒ごとに吸収して自身を回復させるスキルなのである。つまり、相手がいる場所に宿木が現れるため、それが目印になる。

 

「蔓が生える速度は老人が逃げる速度よりは遥かに遅い。けど、逃げに徹する間は攻撃は飛んでこない。これなら、捉えられる!」

 

セイバーはようやく剣を抜くと剣の刀身は大地のエネルギーが溜まっていき、それは10mぐらいの超巨大な刃となった。

 

『何!?』

 

「これなら躱しようが無いぞ!【大断断斬】!うおらああっ!!」

 

セイバーが激土を思いっきり振り抜くと周囲10mを障害物の木ごと全て薙ぎ払った。

 

老人はこの攻撃を身代わりの術で回避するが回避した先に宿木の蔓が発生、セイバーは老人の位置を完全に見切った。

 

「これでどうだ!【パワーウィップ】、【ドリルストライク】!」

 

セイバーは残された木々の切り株等に極太の蔓を巻き付かせるとゴムが縮むような要領で勢いをつけてセイバーは老人へと突貫、剣を使わずに体をドリルのように回転させながらキックを老人へと当てた。

 

『……見事』

 

それと同時に老人はオーバーキルされたのかポリゴンとなって消えると緑の剣が地面に突き刺さっており、その隣には木の札が落ちていた。札には老人の名前らしきものが書いてあった。

 

「“猿飛佐助”……多分あの老人の名前かぁ。って事は真田十勇士の猿飛佐助をモチーフにしてるのかな?あと、剣も落ちてる所を見るとこれも聖剣だな」

 

セイバーは剣を引き抜くとそれをインベントリにしまった。今ここで使う事も考えたが、老人が倒れたと同時に霧が消えており、装備が他のプレイヤーに見られる可能性があるため、剣を黄雷にしてすぐに拠点へと戻る事を選択したからである。

 

「これで5本目か。割とペースは速いけど、こっから先はボスも厄介なのが多くなるんだろうなぁ……」

 

そう言いながらセイバーは拠点へと帰ることになった。この間に自分だけで無くメイプルもとんでもない進化をしている事を知らずに……。




今回登場した聖剣の能力は次回以降明らかとなります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと新装備

今回はメイプルとセイバーの新装備お披露目回です。それではどうぞ!


セイバーが新しい剣を手にして5日後、メイプルと示し合わせて同時にログインするとそこには工房から出てきたイズがいた。

 

 

「メイプルちゃんの装備…完成したわ」

 

「本当ですか!」

 

「あぁ、数日前からやってたアレな。けど、メイプルの新しい装備ってどんなのだ?」

 

「今見せてあげるわ」

 

そう言ってイズがインベントリから取り出したのは真っ白い全身鎧に大盾に短刀そして、白銀のティアラだった。

全ての装備に青い宝石がアクセントとして数箇所付けられている。

イメージとしては、ティアラを除けば聖騎士といった感じである。

 

「本当に騎士様になっちゃった?」

 

「なんか俺より騎士になってない?」

 

メイプルは、装備一式を装備すると装備の能力を確認する。

 

【大天使のティアラ・Ⅹ】

【HP+250】

 

【大天使の白盾・Ⅸ】

【HP+300】

 

【大天使の聖刀・Ⅷ】

【HP+200】

 

【大天使の聖鎧・Ⅸ】

【HP+350】

 

「わーお、HP補正が1100も。これでまたメイプルは硬くなるのかぁ」

 

「この…ⅩとかⅨとかの数値は……?」

 

メイプルが呟く。

 

「それは【鍛冶】スキルで生産した装備にだけ出来る【強化】でついた数字ね。【鍛冶】の装備にはイベントの装備と違ってスキルは付けられないから、その代わりの利点よ」

 

「なるほど……」

 

「【強化】の成功率は【鍛冶】スキルのレベルで変わるけど…最大値のⅩに到達するのはかなり運が絡むわ」

 

「これは、イズさんも相当頑張ったんでしょうね……」

 

イズはほぼ妥協なしの最高級の装備を作り上げた。

その後にボソッとクロムに作った装備より2段階は強いとこぼしたが、自分の装備を確認することに夢中なメイプルは気づかなかった。

 

メイプルが装備を確認している内に、残りのギルドメンバー4人もギルドホームにやってきた。

 

「ん?…おお!それがイズの作ってた装備か。いいな、似合ってる。俺も新しい装備が欲しくなるな…」

 

「メイプルが装備を欲しがるとか、何があったか怖い……」

 

「ああ、そうだな…」

 

「メイプル、白も似合ってるよ!」

 

クロム、サリー、カスミ、カナデが口々に話す。

 

 

「じゃあ…私が装備を作って貰った理由を説明するのを兼ねて、戦闘しにいかない?」

 

「それじゃあついでに俺も新しい剣の力見せるよ」

 

それで何があったか見れるのならと全員が了承した。

イズもその装備での【アレ】を見たいからとついていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「この辺でいいかな?」

 

メイプルはシロップに全員を乗せて飛んでいくと、モンスターが群れで発生することの多い地帯に降りた。

 

「じゃあ…いくよ!【身捧ぐ慈愛】!」

 

メイプルの体から赤いダメージエフェクトが弾ける。

それが消えると同時、メイプルを中心として半径10メートルの範囲の地面が薄っすらと輝く。

 

それだけではない。

メイプルの背中からは2つの真っ白い翼が伸び、頭の上には白く輝く輪が浮かんでいる。

その髪は綺麗な金に変わり、瞳は深い青色になった。

 

「「「「「えっ……?」」」」」

 

「私も最初はそうなったわ」

 

「この見た目、完全に天使だろ?」

 

「あはは…見た目変わっちゃうんだよねー…ああ、モンスターきちゃう」

 

5人は一瞬思考が止まりかけたが、メイプルなら何だってありえると、思考を切り替えた。

随分とメイプルに慣れたといえる。

 

「みんなー!攻撃受けても大丈夫だよ!」

 

「はぁ?流石に攻撃受けるとか自殺行為なんじゃ……」

 

「私が受けるわ…皆分からないだろうしね……」

 

イズがモンスターの前に自ら歩み出るとその攻撃を胴体に受けた。

しかし、イズのHPバーは全く動かない。

 

「は?どういうことだ?」

 

「メイプルちゃんのスキルよ…この光るエリアの中にいるパーティーメンバー全員に常に【カバー】が働く…らしいわ」

 

「最初にHPを一定値もっていかれちゃうけどね」

 

メイプルはHPをコストとして払うためにイズにHPを増加させる装備を作って貰ったのである。

 

 

【身捧ぐ慈愛】は【毒竜】と同じ、いくつものスキルが内包されたスキルである。

これでもまだ、メイプルには見せていない力があるのだ。

そして、その全てがHPコストを支払わなければならないのだ。

メイプルの以前の装備では、そのスキル全てを運用するためのHPが足りなかった。

 

 

また、【博愛の騎士】の完全上位互換である。メイプルはこのスキルを手に入れるためにエクストラクエストをプレイしたのだが、やはりそれは伊達では無かった。

 

「……つまり、全員がメイプルと同じ防御力になっているようなものってこと……か、うわぁ…」

 

「今のメイプルを落とせるプレイヤーってあんまりいないし、こんなのここにいる間は完全に無敵だからな」

 

そう、このエリア内にいる限り、メイプルを倒さなければ他のメンバーを倒すことが出来ない。

ただ、メイプルを倒すということの難しさは相当である。

 

全員に貫通攻撃を繰り出さなければ勝負にすらならない。

しかも、ちゃんと誰かに当てなければならないという鬼畜仕様だ。

サリーなどは当たるわけはなく、クロムやセイバーも大盾と剣で弾くだろう、カスミも回避力がある。

戦闘員なら当たるとしてカナデくらいだ。

 

「でも、メイプルは装備を変えてるでしょ?僕らへの攻撃を無効化できる程の防御力が無くなってたり…しない?」

 

「大丈夫!何も装備してなくてもVITは1000を超えてるから!」

 

「「ははっ…1000?」」

 

「文字通り桁が違うなぁ。この数値に対抗できるの、激土装備時ぐらいだぞ……」

 

それはもう笑ってしまうほど、おかしいだろうと思ったカスミとクロムだった。

2人はもういっそ、考えることを放棄してしまうことにした。

 

「えっと、じゃあそろそろ俺の方も良いかな?」

 

「ああ、見せてくれ」

 

カスミがそう言うとセイバーは剣を抜刀した。

 

「【翠風、抜刀】!」

 

するとセイバーは風のエネルギーに包まれてその姿を変えていった。

鎧は忍者の着るような緑の忍び装束となり、頭には手裏剣のマークが入った鉢巻が締められていた。足には靴の代わりに脚絆が装備され、首には深緑のマフラーが巻かれていた。

 

そして、剣は2つに分割されて緑の剣の二刀流となっており、片方は黄緑、もう片方は深緑の色でそれぞれに手裏剣とクナイのマークが描かれていた。

 

『忍びの鉢巻』

【HP+100】【MP+50】

【破壊不可】【空蝉】【視野拡大】

【消費MPカット(風)】

 

『忍びの装束』

【STR+80】【DEX+100】

【破壊不可】

【影分身】【超速連撃】【クナイの雨】【気配消去】

【3豚刃】【竜巻】

 

『忍びの足袋』

【AGI+300】

【破壊不可】

【烈神速】【超跳躍】

 

『風双剣翠風』

【STR+70】

【破壊不可】

【疾風剣舞】【手裏剣刃】【トルネードスラッシュ】【影縫い】

 

「今度は忍者かぁ……」

 

「まーた派手な変化したね」

 

「味方なら心強いから良いんじゃない?味方なら……」

 

「ちょっと走ってみるわ。【烈神速】!」

 

セイバーがそう言って走り始めると突如としてセイバーの姿が消えた。

 

「「「え?」」」

 

カスミ、クロム、サリーは驚きで硬直し、さらに続けて近くにいたモンスターが一瞬にしてポリゴンとなって消えた。

 

「うえ!?何でモンスターがいきなり……」

 

そして次の瞬間にはセイバーがいきなり目の前に現れた。

 

「「「「「うわぁああ!!」」」」」

 

「ふう。このスキルは30秒間だけ通常の4倍の速度で動けるよ。その代わり、1度使ったら2時間は使えないけどね」

 

セイバーはそう言いながら得意げな顔をするがそれ以外には目の前で起こった事は他の面々には全く動きが見えて無いうちに終わってしまっていた事に驚き、唖然とするばかりであった。

 

 

その後、セイバーが散々性能を試してから、楓の木のメンバーはシロップに乗ってギルドホームへと戻る事になったのだが、帰る途中、クロムが話し始めた。

 

「俺、掲示板でメイプルとサリー、セイバーのこと話題にしてたんだが、止めた方がいいか?」

 

「うーん…私は別にいいかな。クロムさんに教えたことは知られてもいいことだし」

 

「俺も問題無し。知られちゃ不味いものは普段から隠してるし」

 

「私もサリーと同じ、だってさ…」

 

「「「知られたところでやることは変わらないからね(な)」」

 

クロムが今知っていることを掲示板に流したとして、セイバーの剣の性能は変わらないし、サリーの回避力は落ちないし、メイプルの防御力は下がらない。

 

クロムはスキルの取得方法は知らないため、肝心な部分は書けない。

 

3人にとってはたいした問題ではなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その日、掲示板にて

 

126名前:名無しの大盾使い

やあ

 

 

127名前:名無しの槍使い

おう

メイプルちゃん達のギルドに入るとは…

憎い!羨ましい!

 

 

128名前:名無しの大剣使い

いいよなぁ

サリーちゃんに接近してもらうように頼んだがそれ以上とか

 

 

129名前:名無しの弓使い

情報をくれ

何かしらあるだろ

でも話しちゃ駄目なことまでは求めないぞ

 

 

130名前:名無しの槍使い

身内になったら情報出しにくいよなぁ

出せる範囲で頼む

 

 

131名前:名無しの魔法使い

頼んだ

 

 

132名前:名無しの大盾使い

分かった

まずサリーちゃんのことからな

 

サリーちゃんはPS人外勢だった

実際に見た感じスキルは使ってないと思ったぞ

モンスターと結構戦闘したがダメージを受けている所は見れなかった

後何かオーラが追加されてた

 

 

133名前:名無しの弓使い

やっぱイベントのあれはサリーちゃんだろうな

 

 

134名前:名無しの大剣使い

しかも進化してるぞ

オーラって

 

 

135名前:名無しの槍使い

ふむ

サリーちゃんも正体不明のスキルを持ってそうではあるな

メイプルちゃんとセイバー君ほどではないが

 

 

136名前:名無しの大盾使い

次はメイプルちゃんのことな

ここ数日メイプルちゃんは1人でどこかに行ってたんだ

 

帰ってきたメイプルちゃんは

 

 

137名前:名無しの大剣使い

焦らすね

 

 

138名前:名無しの槍使い

はよ

 

 

139名前:名無しの魔法使い

何だ何があった?

 

 

140名前:名無しの大盾使い

 

天使だった

 

 

141名前:名無しの弓使い

メイプルちゃんが天使とか知ってる

 

 

142名前:名無しの魔法使い

今さらだな

 

 

143名前:名無しの大剣使い

メイプルちゃんはいつだって天使だろ?

 

 

144名前:名無しの槍使い

当たり前だろ

 

 

145名前:名無しの大盾使い

いやまあそうだが

 

言い直すわ

 

メイプルちゃんは天使の輪と翼を出現させて金髪青目になるスキルを手に入れて帰ってきた

 

 

146名前:名無しの槍使い

えっ

 

 

147名前:名無しの魔法使い

目を離すとすぐそういうことになる

 

 

148名前:名無しの大剣使い

何で?どこにそんなスキルあった?

 

 

149名前:名無しの大盾使い

俺も知らん

 

スキル名は【身捧ぐ慈愛】

HPをコストとして支払って範囲内のパーティーメンバーを常に【カバー】するスキルらしい

 

メイプルちゃんがこれを使うとな

 

範囲内のパーティーメンバーはメイプルちゃんを倒さない限り不死身状態になる

 

 

150名前:名無しの大剣使い

ついに第二形態を手に入れたのか

ラスボスになればいいんじゃないかな?

 

 

151名前:名無しの槍使い

地獄絵図すら生温い

 

目を離すとな

そのうちあれだ

第三形態を手に入れて帰ってくるぞ

絶対

 

 

152名前:名無しの大盾使い

しかもメイプルちゃんは装備を全て外してもVITが1000を超えていることが判明した

 

 

153名前:名無しの弓使い

もう意味わからん

 

 

154名前:名無しの槍使い

装備無しで1000は異常

体が鋼鉄で出来てるのかな?

オリハルコンかな?

 

155名前:名無しの大剣使い

でもメイプルちゃんって始めてからそんなに経ってないよな

メイプルちゃんの噂が出たのは二層にも入ってない時だったし

 

これ一層に何かあるぞ

 

 

156名前:名無しの大盾使い

それは俺も思ったが

なら第二第三のメイプルちゃんが現れてもいいと思うんだよなぁ

 

 

157名前:名無しの魔法使い

それなんだよ

 

メイプルちゃんしか出来ない理由が何なのかが分からない

 

158名前:名無しの大盾使い

取り敢えずメイプルちゃんの事は置いておいて最後にセイバー君の上方行くぞ。セイバー君曰く、剣の性能や固有のスキルは教えられないらしいけど、新しい剣の力をザックリとなら言って良いと言われた

 

 

159名前:名無しの弓使い

それで、何なんだ?その新しい剣の力ってのは?

 

 

160名前:名無しの大楯使い

セイバー君の新しい剣はAGI特化になってその最高速度は近くで見ている俺達には見えないぐらいの速度だった。

 

 

 

161名前:名無しの大剣使い

……待って。見えない速度ってどう対処しろと?

 

 

162名前:名無しの大盾使い

俺も最初その速度でモンスターを倒したのを見たときは目を疑ったよ。多分かなりの速度での連撃を使ってる。その状態の速度と攻撃力は明らかにサリーちゃんを超えてる。

 

 

163名前:名無しの魔法使い

うわぁ……もうこの3人に勝てる奴いるのかなぁ?セイバー君の剣はわかってるだけでももう3本あるのに、これ以上あるって言われたらもう無理よ?ってか、そんなスキルどこで見つけたんだよ……。

 

 

 

この後、メイプルやセイバーのスキル取得方法について全員で考えていたものの、結局思い至ることはなかった。




26話時点のステータス
セイバー 
*補正値は風双剣翠風の装備時
Lv34
HP 175/175〈+100〉
MP 180/180〈+50〉
 
【STR 50〈+150〉】
【VIT 40】
【AGI 40〈+300〉】
【DEX 15〈+100〉】
【INT 40】
 
装備
頭 【忍びの鉢巻】
体 【忍びの装束】
右手【風双剣翠風】
左手【風双剣翠風】
足 【忍びの装束】
靴 【忍びの足袋】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅴ】【気配斬りⅡ】【気配察知Ⅲ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅴ】【風魔法Ⅶ】【土魔法Ⅶ】【光魔法II】【闇魔法I】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化小】【MP回復速度強化小】【状態異常Ⅱ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】
*風双剣翠風を装備時
【空蝉】【視野拡大】【影分身】【超速連撃】【クナイの雨】【気配消去】【3豚刃】【竜巻】【消費MPカット(風)】【烈神速】【超跳躍】【疾風剣舞】【手裏剣刃】【トルネードスラッシュ】【影縫い】


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聖剣使いと近況

セイバーが新しい力を使ってから数日。その間にクロムがダンジョン攻略によって得た装備でクロムも人外への一歩を踏み出した。そこからさらに数日経った後。

短いメンテナンスが入り新スキル【毛刈り】が追加された。

【毛刈り】は文字通り毛を刈るためだけのスキルだ。

 

それに伴い一部のエリアに羊が現れるようになったのである。

イズ曰く、素材として優秀なため暇があれば取ってきて欲しいとのことだった。

ちょうど暇だったメイプルとカスミ、セイバーは、3人で一層の草原を探索していた。

 

 

「暇だから来てみたが…【毛刈り】しかない私達で大丈夫だろうか?」

 

「私達じゃないよ、カスミしか持ってないよ……」

 

「そうそう。てか、俺等役に立つ?」

 

防御力に全てを注ぎ込んだメイプルが【毛刈り】を取得出来るわけがない。セイバーに関しても【毛刈り】は取得してないため、ここで実質羊から毛を取れるのはカスミのみなのだ。

メイプルは【パラライズシャウト】による足止め担当である。

 

羊のHPはかなり低く、HPを削らないようにして足止めをする必要がある。

メイプルはその点において適任だった。

 

「毛がある羊はいないねー」

 

「そうだな…他のプレイヤーも【毛刈り】に来たんだろう」

 

「ま、ゆっくりと探そうぜ?時間はまだあるし」

 

既に【毛刈り】を使われた羊は見かけたものの、普通の羊が見つからない。

 

そうして探すこと30分。

 

「いたぞ!」

 

カスミが指差す先には10匹の羊。

ここまでの流れではセイバーは何も役に立たなそうに見える。だが、セイバーにはある役割を担う事が出来るのだ。それは……

 

 

「はぁ……出来れば聖剣の力はイベントのために取っておきたいけど、しょうがないなぁ……翠風、抜刀!」

 

セイバーは翠風の二刀流となり忍び装束に身を包んだ。

 

「他の人見にくるなよ?【影分身】!」

 

セイバーは分身すると羊達を追いかけて、その集団をメイプル達の方へと追い込みをかけた。

 

「メイプル、後よろしく〜!」

 

「任せて!」

 

「【パラライズシャウト】!」

 

セイバーが纏めて追い込んだ所にメイプルが即座に羊を麻痺させにかかる。だが、範囲から外れていた羊もいたため、2匹、取り逃がしてしまった。

3人が麻痺させた羊に近づいていく間に残りの2匹の羊は逃げていく。

 

「取り敢えず8匹いこう。【毛刈り】」

 

カスミがスキルを使うと羊の毛が綺麗さっぱり消えてインベントリに羊毛が8つ追加された。

 

「これじゃあ絶対足りないよな……」

 

「うん……多分」

 

「8個ならワンチャン小さいのなら作れるんじゃね?服とかは無理だろうけど」

 

 

「ふむ……私なら逃げた羊に追いつけそうだし、セイバーが追い込みをかければ1度に狩れる数も多くなる。私自身も動きを止められるスキルも…ないことはないしな。ちょっと行ってくる」

 

「メイプルはゆっくりとしてな。あ、またいつもの天然で変な事になるなよ〜!」

 

「うん!分かった……って、私は天然じゃないよぉ!」

 

そうして、カスミとセイバーは羊の逃げた方に走っていった。

その場には麻痺した毛のない羊とメイプルが残された。

 

「……………」

 

メイプルが羊をチラッと見た。

柔らかそうだった。

 

 

 

 

 

カスミとセイバー5匹の羊を追いかける。

 

「俺が追い込みます。カスミさん、隙を逃さないでくださいよ!」

 

「了解した!」

 

 

カスミが【超加速】を使うことでようやく追いつけるようになる速度をセイバーは加速系のスキル無しでも追いつける。AGI補正+300は伊達じゃない。

 

「ここだ。【毛刈り】!」

 

カスミはセイバーが追い込んだ羊に対して【毛刈り】を発動した。

するとカスミの周囲にいる羊に対してスキルを使うと羊の毛は綺麗に刈られた。

 

 

「やはりお前がいるだけでやりやすいな。これならかなりのペースで集まりそうだ」

 

「えぇ……まだやるんですか?これ以上は他にバレる危険があるのに……」

 

カスミがインベントリを確認するときっちり羊毛が増えていた。

 

メイプルならモンスターにやられることなどそうそうないため、安心して戻ることが出来る。

そうして2人はメイプルの元へと戻ってきたのだが、そこには謎の真っ白い球体が鎮座していた。

 

「「は?」」

 

カスミとセイバーは刀を抜くと警戒しながらその球体に近づく。

 

「これは……羊毛?」

 

「まさかと思うけど、この球体のサイズ的に……」

 

カスミとセイバーがその球体を見て触って確かめると確かにそれは羊毛だった。セイバーの方も嫌な予感がしつつもその球を見守る。

 

「【毛刈り】!」

 

カスミがその球体に対してスキルを発動させる。

スキルはこの球体にもきっちりと効果を発揮し、羊毛の球体は羊毛10個になってカスミのインベントリに入った。

 

それと同時、ガシャンと音を立ててメイプルが地面に落ちた。

 

「メイプル?…あの中にいたのか?」

 

「中にいたというか……あれ自身というか……」

 

「うーん。やっぱりと言うか案の定と言うか……」

 

「ど、どういうことだ?」

 

「………ちょっと、出来心で」

 

「メイプルさぁ、天然発動するなって言ったよな?」

 

「しょうがないでしょ!出来心なんだからぁ!」

 

メイプルはそれ以上詳しくは話さなかった。

 

「な、何だかよく分からないが…聞かない方がよさそうだな……」

 

カスミとセイバーは空気を読んでそれ以上は何も聞かなかった。

 

「私が24時間ごとに羊毛を作れるようになったから、【毛刈り】はお願い」

 

「あ、ああ。分かった」

 

2人はシロップに乗ってギルドホームに帰っていく。

途中、メイプルは自分のスキルを再確認した。

 

【羊喰らい(シープイーター)】

 

 

 

 

 

 

 

ギルドホームに戻ったカスミとセイバーはクロムと3人でテーブルを挟んで椅子に座り話していた。

話題はメイプルと羊毛のことである。

 

「私達がちょっと離れた間に何かスキルを手に入れていたんだ」

 

「たった5分足らずだよ?あの間にああなりますか普通!」

 

「いや、私達が知らない間に聖剣の数を増やしている辺りセイバーも大概だからな?」

 

「まぁ、俺の知り合いの言葉を借りるなら……目を離すとすぐそういうことになる」

 

クロムは俺はもう慣れたと付け加える。

 

「……慣れたのか?」

 

「俺もあっち側に深くまで足を突っ込んだしなぁ……」

 

「確かにそうですね。【魂喰らい(ソウルイーター)】、【命喰らい(ライフイーター)】、【吸魂】で回復しながらの持久戦、更には【デッド・オア・アライブ】による疑似的な不死身の生命力。もうその力は普通を超越してますよ」

 

クロムは自身の装備を見ながら言い、セイバーが同意する。

このように、クロムも一般からかなり外れてきているのだ。

 

「ちなみに、クロムはメイプルがどうなったら驚くのか?」

 

カスミのその問いにクロムが考え込む。

しばらくして、クロムが話し始めた。

 

「そうだな…そのまま空に浮き上がって雲になって雷でも落とし始めれば驚くかもな」

 

クロムは冗談っぽくそう言う。

 

「はははっ!流石にそれはないな」

 

「いやいや、それあったらヤバくないですか?鋼鉄が中にいる雲が空から雷なんて落とそうもんなら対処できないですからね?」

 

「ああ、俺もそう思う。ああそうだ。運営からメッセージが来てたが見たか?」

 

2人は見ていなかったようで首を横に振る。

クロムはメッセージの内容をかいつまんで話し始めた。

 

「第3回イベント。2週間後だ」

 

「なかなか立て続けにくるな……それで?内容は?」

 

「期間限定のモンスターが現れて、そいつの落とすアイテムを集めるんだ。集めた個数で個人報酬とギルド報酬がある」

 

クロム曰く、ギルド報酬はギルドの大きさによって必要個数が変わるとのことだった。

メイプルのギルドは小さい証なので必要個数は少なめである。

個人にはランキングがあり、それに応じて報酬が追加される。

 

また、アイテムの譲渡は出来ない。

インベントリに入るものではなく、個数だけがカウントされるためである。

 

「……まあ今回はキツイだろうな」

 

「……そうだな」

 

「このタイプのイベントは相性が悪いですからね」

 

3人が言っているのはメイプルのことである。

今までのイベントでメイプルは常に結果を残してきたが、それは強さによるものであり、時間をかけたものではない。

セイバーやサリー、カスミが本気になればそこそこの順位には行くだろうが、今回ランキングの上位に入るようなことはどうやっても不可能である。

 

「俺も結構時間はかけてるが……上には上がいるからな」

 

「取り敢えず今回は翠風だけでイベントに潜るつもりです。それ以外の装備は晒したく無いので」

 

「それが今後のためだな。隠せる部分は隠すべきだ」

 

楓の木内も第3回イベントに向けて準備する期間に突入した。

そんなある日のこと、ギルドホーム内でイズとカナデが話し合っていた。

 

「私達は基本はあの5人の支援役になりそうね」

 

イズは戦闘以外のサポート。

カナデは貴重な後衛である。

 

「僕も攻撃魔法を覚えてみたけど…あの感じだといらなそうだったから、ちょっと方向性を変えてみた」

 

カナデが攻撃するよりも先に、前衛5人がモンスターを倒してしまうため、カナデは味方のステータスを上げるスキルや回復魔法にばかり手を伸ばした。

 

「杖は僕1人だし、皆が覚えられないようなスキルも手に入るからね」

 

サリーやセイバーが覚えている魔法よりも、多くの種類の魔法をカナデは習得出来る。

それがこのギルド内でのカナデの個性である。

 

「あの5人を強化してあげれば勝手に倒してくれるから」

 

「そうね。本当頼もしいわ……ああ、それとカナデの装備も出来ているわよ」

 

今日はそのために呼んだとイズが言う。

カナデは初期装備から多少買い足したくらいで、第2回イベントから見た目がほとんど変わっていなかった。

イズが作成した装備品をカナデに渡す。

 

髪の色と同じ、赤のキャスケット。

残りも黒と赤を主とした装備で、装備というより普段着に近い見た目だ。

これらにはメイプルの羊毛も素材として使用している。

全ての装備が【INT】と【MP】上昇の効果を持っているため、カナデならこの装備にするだけでも大幅強化だ。

 

「鎧は僕には似合わないからね」

 

カナデは貰った装備を身につけるとギルドホームを出て行く。

カナデはこの日は【魔力障壁】を取得しに向かった。

現在、このギルド内ではカナデが一番次々とスキルを取得しているのだ。

 

カナデを倒さなくては支援、回復が止まらない。

ただ、場合によってはカナデを倒すためには大天使状態のメイプルを倒さなければならないのだ。

そして、そのメイプルの【VIT】はカナデにより強化される。

減ったメイプルのHPも回復させられる。

さらにはその間に大体の相手はセイバーの攻撃で殺されるのだ。

 

メイプル達との戦闘を避けることが常識になる日も近い。

いや、既に来ているのかもしれない。

 

それから数日経ったある日、メイプルは羊毛を生やすスキルについて検証しようと西へ向かっていた。因みにそこにはセイバーもいた。

 

 

「メイプル、ここなら大丈夫じゃね?」

 

「わかった。【発毛】!」

 

メイプルがそう言うと、もこもこの羊毛で視界が覆われた。

 

「見た感じ、前と生えてる量は変わってないよ」

 

「やっぱり、生える量は調節出来ないかぁ……んー…んー!よっ!」

 

メイプルは中心から斜め下に体を動かして羊毛から頭を突き出す。

同様にして手足も出す。

 

「これなら動けるかな?」

 

「いやいや、動けた所であんまり意味は無いけどな」

 

ただ、この状態のメイプルに向かって攻撃してきたモンスターをその目で見ることが出来たため、あることに気付いた。

 

「もしかして、この羊毛も私の防御力と同じ?」

 

「ああ、モンスター全部弾いてるし、多分同じくらいだと思うぞ」

 

メイプルの体から生えている間はメイプルの体の一部なのでメイプルのステータスが反映される。

 

「羊毛の中に籠れば【毛刈り】されない限り強い?」

 

「いや、多分これは火に弱いよ」

 

「……え?」

 

すると先程セイバーが炎と共にモンスターを切った影響で残っていた地面の残り火がメイプルの毛に発火して燃え始めた。

 

「うわあぁああっ!!も、燃えてる〜!!」

 

「やっぱりか。取り敢えず火は消しておくよ。流水、抜刀」

 

セイバーはメイプルへと水を発射して火を消した。

 

「ありがとうセイバー」

 

「次から気をつけろよ?火を使う相手が敵の時は特に不利だからな」

 

それから2人は色々と使い道を考えたもののこれといって思いつかなかったのでメイプルは先程の炎で燃えなかった残りの羊毛を解除しようと思って気がついた。

 

「あっ!?私一人じゃどうにもならないっ!?」

 

「俺も【毛刈り】無いから無理だわ」

 

「えぇ!?」

 

謎の毛玉に気づいたプレイヤー達が遠くから歩いてくるのが見えた。

このままでは四足歩行の状態で晒し者である。

メイプルは急いでカスミに連絡を取り、セイバーはその場から一旦退散した。周りに知られていない姿を見られては厄介だからである。

 

「も、戻る戻る!」

 

メイプルは慌てて羊毛の中心に戻っていき、プレイヤーを近づかせないように中から毒を染み出させた。

 

「あっ!?カスミもセイバーも近づけない!」

 

やってしまったものは仕方がなかった。

外から聞こえてくる声は多くなっていくが、毒のせいで誰も【毛刈り】が出来ない。

 

しばらくして、毒が消えてカスミに回収された時にメイプルだったことが知れ渡り、また訳のわからないことをしていたと掲示板で話題になったのであった。




次回は第3回イベントとなると思います。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第3回イベント

今回は第3回イベント回となります。それではどうぞ!


セイバーがログインしてギルドホームへと現れる。

ギルドホーム内にはサリーとカナデとイズ、そして今来たと思われるメイプルがいた。

 

「さーて、第3回イベント始まったな!」

 

「まだ始まって5時間だけど凄いよ?トップはもう5桁。あとは、クロムさんとカスミはもう狩りにいったね」

 

「おお……皆凄いね……」

 

ここにいる5人はまだ0ポイントである。イズは今回のイベントは少しだけ手を出して止めるつもりのようだ。

 

「攻撃スキルはないけど、【STR】値なら多少はあるわ」

 

鍛冶のハンマーで叩きつければ、敵によっては倒せないこともないとのことだ。

当然【STR】はメイプルよりも高い。

 

「私達も行こうか」

 

「そうだね」

4人はイズを残して出ていこうとしたがイズに呼び止められる。

イズはサリーとメイプルに装備品を渡した。

 

「羊毛で作った装備よ。使った羊毛の量によって今回のアイテムのドロップ数を上げるらしいわ」

 

メイプルとセイバーのお陰で羊毛はかなりの量が確保出来ていた。

カナデは既に羊毛をふんだんに使った装備のため問題ない。

 

イズがサリーに渡した装備は現在のサリーの服装をそのまま真っ白にしたものだ。

メイプルの装備はまさに羊といった見た目である。

真っ白な全身装備でその全てが羊の体毛のようにもっこもこである。

 

「流石に鎧を羊毛で作るのは無理だよね」

 

大盾と短刀は攻撃能力を考えていつもの黒装備なため、愛らしい見た目に似合っていなかったが仕方なかった。

 

「ってかこれ、イズさんがこれを見たくてこんな感じにしたんじゃ……」

 

「あら、バレちゃった?」

 

「完全な個人の趣味じゃないですか!ってか俺の分は!!」

 

「セイバー君は鎧外したら弱体化するからダメでしょ?剣の能力で鎧がパワーアップしてるとは言え殆どのスキルは剣以外の装備由来だから」

 

「うぅ……確かに正論ですね……」

 

3人は今度こそギルドホームを出ると、全員が違う方向に向かう。

固まっていてもポイントを稼ぎにくくなるだけであり、ギルド報酬と個人報酬のポイントに貢献することも考えた結果である。

 

「翠風、抜刀!」

 

セイバーは翠風を両手に持つと普段の何倍にも上昇した速度で牛を制圧するべく動き出した。

 

「翠風の速度なら牛が逃げる前に……追いつける。【影分身】、【超速連撃】、【クナイの雨】!」

 

セイバーは走りつつ分身すると牛の群れに突っ込むと連続で斬りつけた。そして、足の止まった牛達へと上空からエネルギーで作られたクナイが降り注いだ。

 

それによって牛達はどんどん狩られていった。

 

「まだまだぁ!【3豚刃】!」

 

するとセイバーの前に3匹の子豚が現れてそれぞれが牛の群れの3方向に回り込むと道具と材料を取り出した。

 

「行っけぇ!」

 

すると3匹の子豚は牛達へと煙玉を投げて混乱させると大急ぎでレンガの壁を作り始め、牛達が正気を取り戻す前に子豚達は壁を完成させる。牛達は逃げ出そうと壁へとぶつかるがその壁は頑丈であり、崩れる気配は全くなかった。その間にセイバーは壁の裏に潜むと牛の様子を伺う。

 

「ここだ!」

 

セイバーは牛達の注意が散漫になった瞬間を狙って襲いかかり一瞬にして牛達を斬り倒した。

 

「翠風の速度にもようやく慣れてきたな。ま、このイベントの中でこの姿は必要だから順位を上げるためにも使わないとだけど……多分このイベントが終わる頃にはこれの性能はバンバン露見するだろうなぁ」

 

セイバーが危惧している通り、既にこの姿は偶々そこを通った何人かのプレイヤーには見られており、能力も幾らかは知られてしまっていた。まだ激土や流水の真の力を知られてないとは言え今後のゲームプレイする上でも情報を曝け出すのは避けたかった。

 

「ま、全部は晒さないように上手い事立ち回るしかないかぁ……」

 

セイバーが溜息をついているとそこにいきなり土煙と共に大量の牛が逃げてきていた。

 

「な、なんだ?何でこんなに牛がこっち来るんだ?」

 

牛達はセイバーがいるにも関わらずセイバーの方へと走っていた。まるで……既に何かに追いかけられているように。

 

 

「まぁ良い。一気に稼ぐチャンス!【超速連げ……」

 

「【炎帝】!!」

 

次の瞬間、セイバーの目の前に巨大な炎が燃え上がり牛達は消し飛んだ。

 

「うぇ!?この炎……まさか!」

 

セイバーが振り向くとそこには赤い装備を着た大勢の兵士と、炎に照らされた炎を使う戦士、炎帝ノ国のギルドマスター……ミィが立っていた。

 

「炎帝ノ国……」

 

セイバーが感嘆しているとそこに1人の男が出てくる。

 

「よぉ!セイバー、久しぶりだな」

 

「シンさん!シンさんもイベントでポイント稼いでいたんですか?」

 

「ああ、俺はさっきまで単独で狩っていたんだけど丁度こっちに戻ってきてな。お前も新しい装備で狩り中か?」

 

「はい。まぁ、この装備の情報は余り晒せないので程々になるかもしれませんけど」

 

さらにそこにミィと黒服に身を包んだ男と教会にいるような白い聖女の服を着た女性が両サイドに控えて歩いてきた。

 

「どうした、シン」

 

「紹介するよ。こいつは聖剣使いのセイバー。イベント2位だったからミィも知ってるかもだけど、かなりの使い手だぜ」

 

「まぁ、噂に違わず強そうですね」

 

「というか、この前イベントで無双してた時は黄色い装備じゃなかったか?今回は緑みたいだけど」

 

「もしかして【トラッパー】で第1回イベント8位のマルクスさんに、第1回イベント10位で【聖女】ことミザリーさん。そしてこのギルド最強の戦士、【炎帝】、ミィさんですか?」

 

「知ってるとは話が早い。いかにも、私がミィだ」

 

「よろしくお願いしますね。セイバー」

 

「僕達の事キッチリマークしてるなぁ……正直僕は敵にはあまりしたくないタイプのプレイヤーかも」

 

「ミィさん、凄いですよ。あれだけの数を一瞬にして倒すなんて」

 

「褒めてくれるのは嬉しいが、それを言うのならセイバーもだろう?イベントでの戦いぶり、私は遠くから見ていた程度だが、その強さは超一流と言っても過言では無い。私としては仲間に入れたいぐらいだ」

 

「よしてくださいよ。俺はもうギルドに入ってますし、そんな事をしたらウチのサリーに怒られますって」

 

「サリーってアレですか?あの第2回イベントの6日目の悪夢のセイバーと並ぶもう片方の戦士……?」

 

「はい。アイツの強さはホンモノですから。戦ってみれば分かると思いますよ。アイツは俺とは違う分野でヤバいんで」

 

「ああ、私としてもいつかは戦ってみたい所だ。今はイベントに集中するが、また会う時があれば同じ炎をメインで使う者同士、1対1で戦ってみたいものだ」

 

「その時は手加減無しですよ」

 

「それではこの辺で私達も失礼させてもらいますね」

 

「セイバー、お前にもカスミにもちゃんとリベンジするからな!」

 

「僕達のギルドと戦う事になったらお手柔らかにね」

 

「はい!」

 

そう言って炎帝ノ国は去って行った。

 

牛を倒し損ねたのは残念だったけど……あの人達と接触出来て良かったなぁ。これであとは、第1回イベント上位の人間の中で顔を合わせて無いのは……ペインさんだけか……。

 

「ま、適当に探索してたらじきに会えるでしょう。取り敢えず俺はイベント攻略の続きを……」

 

セイバーが再び牛探しに本腰を入れようとすると突如として何かがこっちに向かってくるかのように土煙を上げながら何かが突っ込んできていた。

 

 

「止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めてぇええ!!!」

 

「ちょっ!?な、何あ……へぶうっ!!」

 

セイバーはそれに思いっきり吹き飛ばされると押し倒された。

 

「な……何で俺だけ毎回こうなるのぉ……」

 

セイバーが目を回しているとそこにはセイバーを押し倒した何かがキョトンとしてセイバーを見ていた。

 

「え……もしかして……海斗……お兄ちゃん?」

 

「んぁ?」

 

セイバーが目を開くとそこには身体のラインがピッタリ見えるようなスーツに、腕にガントレットのようなアーマー、腰にはブースターが付いており、足には膝上は肌が露出するものの、足にはアーマーがついた身体に黄色のショートヘアで可愛らしい目をセイバーへと向ける少女がいた。

 

「もしかして……立花ちゃん?」

 

「久しぶりー!!海斗お兄ちゃん!!」

 

「待て、今ここで抱きつくなぁ!!ぐはあっ!!?」

 

結局セイバーは立花と呼ばれた少女に強く抱きしめられた影響で再び気が飛ぶ事になったのだが……30分後、なんとかセイバーは目を覚ます事になった。

 

「はぁ……はぁ……立花ちゃん……俺に抱きつくのは良いけどさ、何でこんないきなり……」

 

「だってぇ、私ずっと会いたかったんですよ?お兄ちゃん」

 

「でも、立花ちゃんもやってたんだ、このゲーム」

 

「うん!始めたのはつい2週間前だけどもうレベル16だよ。この辺でものすごーく強い聖剣使いがいるって聞いたし、お兄ちゃんあの日も剣士として参加してたでしょ?だから私、待ちきれなくて来ちゃったの」

 

「来ちゃったのって、俺じゃ無かったらどうするつもりだったんだ?」

 

「うーんとね、もしそうだったら……背を向けて逃げる!」

 

「オイ、逃げるのかよ」

 

「だってまだ私じゃ強い人には勝てないもん」

 

「よく言うよ。あの日のお前、俺がかなりヤバいって思えるぐらいに強かったくせして」

 

「えっへへ〜!」

 

「けど、お前が元気そうで良かったよ。で、色々とツッコミたいことがあるんだけど良いか?」

 

「うん」

 

「まず、その格好で恥ずかしく無いのか?アーマーとアンダースーツの部分以外露出してるし、スーツもボディラインがクッキリと見えすぎて、他の男から変な目で見られてたりしないよな?」

 

「大丈夫だよお兄ちゃん。私の事をそんな目で見る人は全員私の拳でぶっ飛ばすから」

 

「うん、笑顔で言っていい内容じゃ無い。というか、立花ちゃん。ここでの俺の名前はセイバー。立花ちゃんはなんて名前でやってるの?」

 

「えっとね、ここではヒビキって名前でやってるよ」

 

「そっか、良い名前だね。取り敢えずフレンド登録しておこうか」

 

「うん!」

 

「そういや、ヒビキはもうギルドに所属してたりする?」

 

「ううん。私はまだどこにも入ってないよ」

 

「それじゃあ、このイベントが終わったら俺達のギルドに入るか?」

 

「お兄ちゃんのいるギルドになら喜んで入る!」

 

「そっか」

 

「でも……今日はお兄ちゃんと一緒にイベントをしたいの……ダメ?」

 

ヒビキはセイバーへと可愛らしさ満開のつぶらな瞳を向けた。セイバーは少し考えたが、ヒビキが余りにも断りづらい目をしたのでセイバーは仕方なく折れる事にした。

 

「わかった。その代わり、ちゃんとイベントに参加しろよ?」

 

「うん!」

 

 

結局その日はセイバーはヒビキと共にイベント攻略を進める事になったのだが、ヒビキのお陰でセイバーの牛との追いかけっこは捗ったとか。

その後はセイバーの身に特に何か変わったこともなく平穏に第3回イベントは幕を閉じた。

そして第3回イベントが終わったその後、ギルドホームに楓の木のメンバーが全員が集合していた。

 

「はぁー……疲れた」

 

サリーが椅子の背もたれに全体重を預けきる。余程疲れているのか元気がない。

 

「ああ……私もだ」

 

カスミは机に突っ伏していた。 

 

「けど、お陰でかなりキル数稼いだし……まだ良かった方だろ?」

 

セイバーは椅子に座る気力も無く床でうつ伏せになっていた。

 

この3人は特に多くの牛を倒していたため、疲労感も強い。

次にクロム、そしてカナデだ。

メイプルは全く疲れていない。

イズを除けばメイプルは討伐数最下位であり、最後の方は森の奥の人目につかない場所で遊んでいたらしく疲れてないのも当然だった。

 

「メイプルは今回はあんまりだったな」

 

「あんまり気が乗らなくて……」

 

「まあ、仕方ない。俺らみたいなのには厳しいイベントだったしな」

クロムの言うように【AGI】の低いプレイヤーには厳しいイベントだった。

 

メイプルならば尚更である。

 

「でも、僕達はギルド報酬なら最高のところまでいったね」

 

カナデの言う通り、メイプルが駄目だった分を他の5人がカバーしたことによって最高報酬まで届いたのだ。

 

「ギルドホームに届いてるわよ」

 

そう言ってイズが報酬を取り出す。

それは壁に取り付けることの出来る、牛の頭部の剥製だった。

効果は【楓の木】に所属するメンバーの【STR】を3%上昇させるというものだった。

 

「積み重ねが効いてくるって訳だ」

 

「ああ、そうだな」

 

「私には意味ない……いや、そうだあるんだ!」

 

メイプルがそう言うと、カナデを除く5人の顔色が変わる。

メイプルの【STR】のことを考えると意味があるのは変だった。

そのため、5人共同じ思考に行き着いた。

 

「メイプル……このイベントの間にどこか行ってた?」

 

「二層にいたよ?……多分」

 

「うーん。これはお前何かやったな?」

 

メイプルがそう言うとサリーとカスミが額に手を当てて諦めをあらわにする。

クロムとイズも止められなかったと思っていた。セイバーはヒビキの事もあったため、注告する事すら出来てなかった。

 

「………近々第三層が追加されるからな。出来ればその時のダンジョン攻略で見せてくれ」

 

もう全員がメイプルが何かしらをやったことを察していた。

それも、やばそうなスキルの気配をである。

事実それは当たっている。

 

楓の木のメンバー全員が項垂れているとそこに勢いよくギルドのドアが開けられた。

 

「セイバーお兄ちゃん!!」

 

いきなりのヒビキの乱入にその場の空気が凍りつくとその場の全員が叫んだ。

 

「「「「「「誰—————!!!?」」」」」」

 




ヒビキ

Lv16
HP 70/70
MP 20/20
 
【STR 48〈+50〉】
【VIT 35〈+40〉】
【AGI 50〈+50〉】
【DEX 10】
【INT 0】
 
装備
頭 【黄色いヘッドホンギア】
体 【イエロースーツ】
右手【パンチングガントレット】
左手【パンチングガントレット】
足 【黄色いレッグアーマー】
靴 【黒い靴】
 
 
 
装飾品 
【白いマフラー】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
スキル
 
【体術Ⅲ】【筋力強化大】【跳躍Ⅰ】【パンチ強化中】【キック力増加中】【格闘術Ⅲ】【ジェット噴射】【アームジェット】【剛腕Ⅱ】【ジャッキバウンド】【逆鱗】【飛拳】【飛撃】【インファイト】


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聖剣使いと新戦力

第3回イベントが終了した当日、セイバーが他のメンバーにヒビキが来る事を言っていなかったため、他のギルドメンバーはかなりの驚きようだった。

 

「セイバー……お兄ちゃん?」

 

「なぁ、セイバー。この娘、誰だ?」

 

「あら、可愛い娘ね?セイバー、通報しましょうか?」

 

「ちょっ…ちょっと待ってください〜。ちゃんと訳がありますからぁ…」

 

セイバーは疲れた身体に鞭を打ちながら立つとヒビキの隣に立った。

 

「取り敢えず紹介しますね。この娘の名前はヒビキ。簡単に言えば現実世界でのゲーム仲間です」

 

「よろしくお願いします。皆さん」

 

「セイバー……私もこの娘知らないわよ?ってか、まさかと思うけどセイバーあなた……」

 

「だから誤解だって!」

 

「大丈夫ですよ。セイバーお兄ちゃんは、私が初めてゲームの大会に出て緊張して、会場で迷子になってしまっていて泣きそうになっていた私を励ましてくれて、会場まで連れて行ってくれたの」

 

「サリー、この娘とはお前が参加してなかった大会で知り合ったんだ。だからサリーが知らなくても仕方ないよ」

 

「ふーん、それなら良いけど。その娘、どのくらいやれるの?」

 

「うーん。この前イベントの手伝いをしてもらったけど、かなりの強さだったし、今度の階層の攻略で実力を見たらそのヤバさがわかるから」

 

「セイバーが言うのなら良いけどさ……」

 

誤解が晴れてからもサリーはどこか素っ気なさそうだった。

 

「取り敢えず、今日はログアウトするわ。もうこれ以上やる気力が無い……」

 

そう言ってセイバーはログアウトしていった。

 

「それにしてもセイバーにはサリー以外にもゲーム友いたんだね」

 

カナデがそう言っているとサリーの身体からドス黒い何かが出てきていた。

 

「サリー?真っ黒なオーラみたいなの出てるけど大丈夫?」

 

「コロスコロスコロスコロスコロス……あいつ変な所で女作ってぇ……ユルサナイ……」

 

「サリーの嫉妬ってメッチャ怖く無いか?」

 

クロムのその言葉に他のメンバーも同意する。

 

「サリーお姉ちゃん!」

 

「え?何で名前知ってるの?」

 

「お兄ちゃんが言ってました。このギルドにいるメンバーについて、特にサリーお姉ちゃんの実力は凄いって聞いたんです」

 

「ま、まぁ私だってセイバーとは同じくらい強いし……」

 

「それはそうと、サリーお姉ちゃんはセイバーお兄ちゃんの事が好きなんですか?」

 

「ふぇ!?」

 

それと同時にサリーはいつもの強気な姿勢はどこに行ったのか急に顔を赤くした。

 

「ち、ちが……あれはその……」

 

「まさかサリーにこんな弱点があったとはな」

 

「メイプルちゃん、リア友として聞くがあんなサリーちゃんは見たことあるか?」

 

「ううん。あそこまで恥ずかしがっているのは初めて見たよ」

 

「あの娘、意外と天然で相手の地雷を踏んでたりするのかな?」

 

「ちょっ、ちょっと皆……私とセイバーはそんなんじゃないってば……」

 

「心配しなくても大丈夫ですよ?私はセイバーお兄ちゃんを横から掠め取るような真似はしません。あくまでセイバーお兄ちゃんとはゲームの友達で私の恩人ってだけです。ですからゆっくりで良いですよ」

 

「だからセイバーとはそんな関係じゃないの!!」

 

結局その後、サリーはセイバーを除く残りの楓の木のメンバーから質問攻めに遭ったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、三層が追加された日から少ししてメイプル達一行は三層に続くダンジョンにやってきていた。

イズやヒビキも含めての8人パーティーである。

パーティーは最大8人なので今のメンバーならば全員が1つのパーティーに入ることが出来た。

 

このメンバーならば現状どのダンジョンも蹂躙出来るだろう。

実際、道中はサリーとクロムとカスミとセイバーの4人をカナデが支援する形で十分過ぎたのである。

道中メイプルは一切戦闘に参加することはなく、イズを守ることにのみ集中していた。そんな中、ヒビキの力も見る事になり、セイバー達の前に植物のモンスターが立ちはだかった。

 

「それじゃあ、そろそろ私の力を見せて良いですか?」

 

「ああ、頼むぞ」

 

カスミに言われてヒビキは他の7人から突出すると向かってくる植物のモンスターへと走って行った。

 

「さぁ、いっくよー!!」

 

するとヒビキの腰に装着されているブースターが発動するとモンスターへと突っ込んでいき、そのまま蹴りを叩き込んだ。

 

「はあっ!」

 

そのまま体を捻っての回し蹴りを2体目に当て、攻撃を受けたモンスターは吹っ飛んで一撃で消えた。更にモンスターは蔦を伸ばすとヒビキの両腕を拘束した。

 

「無駄だよ。【剛腕】!」

 

ヒビキはスキル発動と同時に思いっきり蔦を掴んで引っ張るとモンスターは堪らず引き寄せられ、ヒビキはモンスターへと拳をぶつけて吹き飛ばし、倒した。

 

「まだまだ行くよ!【アームジェット】!」

 

するとヒビキの右腕が変化してアーマーからジェットが噴出、推進力を得た剛腕がモンスターを次々に貫いて行った。

 

「凄い……」

 

「流石にセイバーが推すだけあるな」

 

「あの拳が味方だなんて頼もしいわね」

 

カナデ、クロム、イズがそれぞれ三者三様の反応を示すとサリーは頭を捻るような顔をしていた。

 

「うーん。なんか、どっかで見たことあるのよねぇ……あの格闘技術に体捌き……」

 

「せいっ!りゃあっ!」

 

その間にも次々と襲いかかるモンスターを殴り、蹴り、更にはスキル【飛拳】によって起こされる衝撃波によって殲滅していった。その様子を見てサリーはようやく思い出した顔をした。

 

「あ!!」

 

「サリー、どうしたの?」

 

「もしかしてヒビキって……某格闘ゲームで日本一になってた……」

 

「そう。あの娘こそが俺をも倒して日本一の座についた格闘ゲームでは右に出る者無しの最強ゲーマーHibikiだ」

 

「えぇー!!?」

 

「あー、なるほどな。それならあの強さにも頷ける」

 

「まさかサリーちゃんやセイバー君レベルの怪物だったとはな」

 

「僕もあの強さにはビックリだったけど、それなら納得だね」

 

それと同時にヒビキは敵を全て蹂躙しておりセイバー達の所へと戻ってきた。

 

「ぶち抜いたよ。セイバーお兄ちゃん」

 

「お疲れ、ヒビキ」

 

「えへへ〜。私お兄ちゃんのために頑張ったんだからね!」

 

それから8人は歩き始めた訳だが、今のヒビキの突貫によってボス部屋までの敵はほぼ全て殲滅されており、後は悠々と全員で歩いて行くだけだった。尚、その間ヒビキがセイバーへと甘えていたためサリーが嫉妬の表情を浮かべていた事は言うまでも無い。

 

 

「よし、ボス部屋っと」

 

「ちゃちゃっと攻略するか」

 

「ああ、そうしよう」

 

そう言ってカスミが扉を開けると全員が中に入る。

すると部屋の奥にボスが出現した。

ボスは樹木の姿をしており、幹の部分が顔になっていた。

一層を突破してきたセイバー達は一層のボスのように木に果実があるかを確認したが、それらしきものはなかった。

 

「じゃあ、私が行くね。【挑発】!」

 

メイプルがボスの方へと向かっていく。

ボスは伸ばした根や枝で攻撃してくるがメイプルにはそれらは通らない。

そうしている内にメイプルがボスの真下まで近づいた。

 

「【捕食者】【毒竜】【滲み出る混沌】!」

 

メイプルの周りから化物が姿を現し、毒竜が幹をぐちゃぐちゃに汚染し、最後に打ち出された化物の口が幹を喰らった。

HPバーがガクンガクンと減少する。

2匹の化物の攻撃も止むことがない。

 

「あれがメイプルの新しい力かぁ。やっぱあの力は半端じゃ無いなぁ」

 

そう、これがメイプルが第3回イベントにて手に入れた力。前に手に入れた天使とは真逆の悪魔の力だった。

 

それはそうと樹木のボスは怒りを露わにし、2匹の化物に攻撃を仕掛ける。

 

「【身捧ぐ慈愛】!」

 

メイプルのHPが減少し天使の翼が顕現する。メイプルは2匹の受けるはずだったダメージを引き受け無力化した。

メイプルは素早くポーションを取り出すとHPを回復させる。

7人はこの姿を部屋の隅で見ていた。

 

「あれは何だ?どう取り繕ってももうモンスターよりだろ……俺はそう思う」

 

「そうかー……そんな感じかぁ……」

 

「見る度に付属品が増えているのは何でだろうか……」

 

「平常運転で安心したよ」

 

「もう味方ならいいわ…味方なら」

 

「まぁ、もうこれは受け入れるしか無いな。俺の勘だとこの後にも何かありそうなものだが」

 

「メイプルさん凄ーい!!」

 

そう言って今回のメイプルの進化を受け入れようとしていた6人と1人だけはしゃぐ少女だった。

 

しかし、セイバーの予測通りメイプルにはまだ1つ残されたスキルがあった。

メイプルは今回それを試してみるつもりだったのだから使わずには終われない。

 

「よし……【暴虐】」

 

小さく呟いたメイプルの体を黒い輝きが包み込む。

そして、真っ黒な太い光の柱が天井に向かって伸びるとメイプルの両サイドにいた化物に似た姿になる。

違う点は何本もの手足が生えている点だった。

メイプルの両サイドの化物は消えてしまった。

 

 

化物が樹木のボスに突進して掴みかかり、その口から炎を吐き出す。

木に炎はよく効いたようで、化物を倒すためにと根や枝さらには魔法まで使って攻撃する。

しかし、樹木のボスは化物を倒すに至らないどころか傷一つつけることが出来なかったのである。

化物は爪で幹を割き、蹴りつけて陥没させ、口しかない頭部で喰らいつく。

しばらくそうして戦っていた2体だったが、結局耐えきれずに樹木のボスが倒れてしまった。

化物はサリー達の方に向かってのしのしと歩いてくる。

警戒する7人に向かって化物が口を近づける。

 

「いやー……これ操作難しいよ!」

 

そう言った化物を見て流石にヒビキ含む全員の思考が停止した。

 

「め、メイプル?」

 

「うん、そうだよ?」

 

ノイズ混じりの声で話す化物の正体はメイプルだった。

皆が困惑する中サリーが元の姿に戻れるかメイプルに聞く。

 

「んー…ちょっと待ってね」

 

そう言ってから数秒後腹部が裂けてメイプルが落ちてきた。

メイプルが化物から出てくると化物の姿は崩れて消えてしまった。

7人が近寄ってくる。

 

「俺もある程度はヤバいのが残ってるとは思ったが、これは想定外だったな……」

 

「出来る範囲で説明してくれると嬉しいんだけど……」

 

「メイプルさん……人間ですよね?」

 

サリーやセイバー、ヒビキも今回は流石に許容範囲を超えてしまったらしい。

 

「えっとね…あれは装備の効果が全部無くなる代わりに【STR】と【AGI】が50増えてHPが1000になって、HPが無くなっても元の状態に戻るだけっていう…」

 

デメリットは装備の能力値上昇や装備のスキルを使えなくなること、それに1日1回しか使うことが出来ないことくらいである。

このスキルによりメイプルは死にかけた際の緊急回避が可能になった。

 

「ああ……遂に本当に人間を辞めたのか」

 

「ああ、 辞めたな。これはもう間違いない」

 

比喩などではなくメイプルは化物になれるようになってしまったのだ。

 

「操作が難しくて…何ていうかすごい大きい着ぐるみの中みたいな感じ?」

 

メイプルはあの状態で細かい操作は出来ないのである。

 

「まあ…それ以前のもかなりおかしかったけど」

 

サリーは化物が二匹生えた辺りから既に今回もまずそうだと感じていた。

 

「私でもこれが普通じゃないことくらい分かるわ……」

 

「んー…シロップに乗るより速い……」

 

「僕はそれで移動するのは止めておいた方がいいと思うよ」

 

「うん。メイプルが構わないというのなら良いんだが、それは周りから見ててもヤバいってわかる」

 

それはもうモンスターを引き連れた少女という光景ではなく、醜悪なモンスターが急にフィールドを駆け回り始めるというものなのである。

 

「山奥で練習して戦闘で使えるようにしておくね」

 

「見たやつが誤解するだろうな……」

 

取得してしまったものは仕方なかった。

三層に向かって歩き出すメイプルを追って残りの面々も歩き始めた。

 

 

 

三層の町は曇り空に覆われた、機械と道具の町だった。

【楓の木】の面々が三層の町に辿り着き気づいたことがあった。

それは明らかな違いであり、誰でも気づけることである。

 

「皆、空飛んでるね」

メイプルが言うようにプレイヤー達のほとんどが多様な機械によって空を飛んでいた。

 

「何かのアイテムか?」

 

「んー……あれじゃない?」

サリーが指差す先にはゴールドを支払って買うことの出来る様々な種類の機械があった。見ているうちにも1人のプレイヤーが購入して青い光の灯った機械を背負って空へと舞い上がっていった。

 

「また、変わった階層になりそうだな」

 

「確かにな。私達も空を飛んで探索するのだろう」

 

「俺は一応空飛ぶスキルはあるけどずっとは無理だから何かしらの手は打たないとダメかぁ」

 

三層の町での普通を知った【楓の木】の面々は各階層にあり当然三層にもあるギルドホームへと向かった。




次回は第三層での話となります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとお菓子の迷宮

セイバー達楓の木が三層のギルドに入ってから暫く経つとメイプルとサリーが更なる戦力の強化として一層からユイとマイという攻撃力に極振りした双子の姉妹を連れてきた。

 

白髪のプレイヤーの名前がユイで黒髪のプレイヤーの名前がマイ。

2人の武器は大槌で、低身長の2人の1.5倍はあるハンマーだった。

それからギルドメンバーがそれぞれ紹介すると早速セイバーが質問を投げた。

 

「へぇ。攻撃力に極振りかぁ。2人は何で攻撃力に極振りしたの?」

 

「え、えっと、現実では体力や筋力に乏しいために、ゲーム内では力一杯動き回りたかったからです」

 

「なるほど。やっぱメイプルが連れてくる子は普通じゃない強みを持ってるなぁ……」

 

それからギルドメンバーが色々と話をするが、その間にイズはユイとマイの装備を作るために工房にこもった。

ユイとマイはとりあえず今日のところはこれでログアウトするとのことだ。

 

 

 

 

それから日を改めて、メイプル、ユイ、マイは、レベル上げをするべく集まった。

その中のユイとマイにサリーはアイテムを手渡す。

 

「はい、2人にはこれ」

そう言ったサリーからユイとマイに顔全体を覆い見えなくする頭装備が渡される。

 

「メイプルの指示に従って使ってね」

 

2人は頷いて答える。

 

「それじゃあ、ついてきて?」

 

「「は、はい!」」

 

メイプルと2人がギルドホームから出ていく。残されたサリーはサリーでやることがあるため即ログアウトという訳にもいかない。そこにクロムとセイバーが来る。

 

「セイバーとクロムさんも行くんですか?」

 

「まあな。カスミはもう行ってるぞ」

 

「今は夏だ。そして今は全モンスターがアイテム【スイカ】を低確率でドロップする期間。これを集めることでギルドのサポート性能を上げることが出来る訳」

 

「メイプルには2人のレベル上げに行ってもらったので、私達はギルドの強化ですね」

 

「あの2人がどうなって帰ってくるか…【ユニークシリーズ】を取りに行く訳でもないんだろ?」

 

「まあ、取り敢えずはレベル上げです。人目につかないように一層に向かって貰いましたが…」

 

「けどサリー。勿論それには理由があるんだよな?」

 

「まぁね」

 

サリーがその理由を2人に言うと2人も確かにそうだと苦笑いをした。それから2人がとんでもない進化をする事になるのだが、それは一旦さておき、今回は他のメンバーとは別で行動していたセイバーとヒビキの話。

 

2人がギルドホームから出て、森の中でも人目のつかない場所に行くとヒビキはセイバーから譲渡されたあるものを温めていた。

 

「ねぇ、セイバーお兄ちゃん。本当にこれから何か生まれてくるの?」

 

「多分な。俺のブレイブがそうだったようにその卵はテイムモンスターの卵だと思う」

 

「可愛いのだと良いなぁ〜」

 

何故こうなったかと言うと、セイバーはテイムモンスターが3体もいても勿体ないと考えてヒビキに1体譲る事にしたのだ。

それを聞いたヒビキは喜んで愛情たっぷりに卵を温める。すると卵にヒビが入っていき、中から出てきたのは黄色の翼を持ち、身体にパチパチと電気を纏った小さな鳥のモンスターだった。

 

「可愛い〜!!」

 

ヒビキはこのモンスターの事を気に入ったらしくモンスターを顔に近づけると全力の笑顔で頬擦りを始めた。鳥の方もヒビキを母親と見なしたのか嬉しそうな様子だった。

 

「取り敢えず気に入ってくれた様子で良かった……。これでヒビキが嫌がったらどうしようかと思った……」

 

ヒビキは好きなだけ鳥と戯れるとようやく名前を付ける気になった。

 

「えっと、名前は……どうしよっかなぁ〜」

 

ヒビキは暫く名前について考えていたが、良い案が思い付いたのかヒビキは鳥へ名前を告げた。

 

「決めた!この子はミクにする」

 

「んんん?ミク?待て待て、ヒビキ。その名前、どこからやって来た?」

 

「え?この子がこの先の未来で立派な鳥に育ってくれるように未来という漢字を言い換えるとミクって読めるから」

 

「ふーん。何か俺的にはヒビキとミクの組み合わせってどっかで聞いたことのあるような親近感が湧くけど……ま、いっか」

 

「これからよろしくね〜ミク!」

 

ミクと名付けられた鳥は幸せそうに鳴いて返事を返す。

 

「そういや、ミクのステータスはどうなってる?」

 

「あ、そうだ。確認しよ」

 

ミク

Lv1

 

HP 60/60

MP 120/120

 

【STR 70】

【VIT 50】

【AGI 70】

【DEX 30】

【INT 70】

 

スキル

【つつく】

 

「やっぱりステータスは親であるヒビキと似るのかな?」

 

「確かに、私のステータスはSTRとAGIが高めだけど……MPとINTも高いね」

 

「多分それはミクが元々持っていた潜在能力だろうな。電気使うっぽいし、雷属性の攻撃が得意なんだろう」

 

「へぇ〜。それじゃあセイバーお兄ちゃん、私ミクのレベル上げするけどセイバーお兄ちゃんはどうするの?」

 

「うーん。まぁ、俺としても特にやる事は無いし、手伝うよ」

 

「やったぁ!じゃあお願いね」

 

それから2人は森の中を歩きながらモンスターを見つけ次第セイバーの黄雷による電撃でモンスターを弱らせつつ麻痺にするとミクがそれを倒し、ミクの経験値を稼いでいった。

そして、ミクのレベルは2に上がり、暫く歩いていると突然2人の周りに霧が立ち込めた。

 

「何これ!?セイバーお兄ちゃん!」

 

「離れるなよ、ヒビキ。多分近くに何かある」

 

「で、でも霧が濃くてお兄ちゃんが見えない……」

 

「え?」

 

セイバーがヒビキのその言葉に反応しようとするも、突如として甘い香りがしてその瞬間取り憑かれたようにセイバーは濃霧に視界を奪われたヒビキを置いて何処かへと歩いて行ってしまった。

 

そして、セイバーがいなくなってしまうと霧は消えた。勿論ヒビキはセイバーと逸れてしまった。

 

「セイバーお兄ちゃん?どこ?」

 

困惑するヒビキを心配するようにミクが肩へと止まってヒビキを見つめる。

 

「ミク、心配してくれるの?」

 

ミクはそれを肯定するようにヒビキへと擦り寄る。

 

「心配してくれてありがと。お兄ちゃんはそう簡単に負けないよね。信じて待とうか」

 

こうして、ヒビキを置き去りにしてしまったセイバーなのだが、彼が何をしているのかというと……。

 

 

「どこだ……ここは?」

 

セイバーは甘い香りに導かれながら森の中を彷徨い続け、ようやく広い場所に出たのだが、そこにはお菓子で作られた巨大な家があった。

そこでようやく甘い香りによる導きが消えてセイバーの行動が元に戻ったのである。

 

「はぁ……ヒビキに“離れるなよ”って言いながらこのザマか……。後で謝らないとな」

 

セイバーは取り敢えず家の中を探索しようとドアを開けるとそこは以前玄武を攻略した時と同じように迷路状の道となっていた。ただ、以前とは違って壁や床はお菓子で出来ていたが……

 

「今回は迷路攻略か?それだけなら嬉しいけど、玄武みたいに半端じゃ無いボスはいて欲しく無いなぁ……。いつもなら喜んでやるけど今回はヒビキの事もあるし」

 

セイバーは不安になりながらも歩き始め、迷路を攻略し始めた。するとどこからともなく音が聞こえてきた。

 

「何だこの音?なんか激しいロック調の音楽だけど……ちょっとこの音の出所を探してみるか」

 

セイバーは音が出ている場所が攻略に必要だと読み、その発信源を探すべく聞き耳を立てた。

 

……この音、周りの壁に反響しているせいか発信源を探すだけでも一苦労だな。でも、やるしか無い。

 

セイバーは極限まで集中すると細かな音の響きまで感じられるようになり、そうする事約2分。

 

「捉えた……こっちだ!」

 

セイバーは音を聞き分けると自身の勘を信じるままに歩き出した。それから更に5分後……セイバーは行き止まりにぶち当たる事になった。

 

「嘘だろ?確かにここから来ているはずなのに……」

 

セイバーはこの結果に途方に暮れてしまった。しかも、迷路の中を音が聞こえるままに動いたせいか今自分がどこにいるのかさえも全くわからない状態になってしまっていた。

 

「はぁ……これどうすれば良いんだろ?」

 

セイバーはかなり疲弊しきった様子だった。何故なら極限まで集中した状態を5分も維持したのだ。体力も精神力もかなり削られているこの状態で集中状態を維持したまま活動出来る時間はかなり限られる。最早ここまでか。そうセイバーが思った直後、セイバーはある事に気づいた。

 

「ん?この音、壁の向こうから聞こえるな……けど、壁は蜃気楼では無く普通に立っている……もしかしてこれ、破壊できるかな?」

 

セイバーは直感の赴くままに烈火を構えると技を打ち出した。

 

「【火炎十字斬】!」

 

すると壁は破壊され、その先には道が続いていた。

 

「やっぱりあったか。どうやら、この先に何かあると見るべきだな」

 

セイバーは更に歩を進めて行くとそこには隠し部屋のようなひっそりとした扉があり、音楽はその中から聞こえてきていた。

 

セイバーがその扉を開けるとそこには少年と少女がギターやベースを弾いており、その周りにはロバ、犬、猫、鶏が振動で音が鳴ると思われる特殊な楽器を弾きながらロックに乗りまくっていた。

 

……ナニコレ?え?いや、確かにさっきまでロックが流れてるなとは思ってたよ?けど、何でこうなった?

 

すると少年と少女はセイバーに気付いて演奏しながらセイバーへと話しかけた。

 

『ようこそ!僕達のライブに!』

 

『沢山楽しんでくださいね!!』

 

「いやいや、俺はライブを聞きにきたわけじゃ無い。ただ甘い香りに導かれて……」

 

『知ってるよ!だからこそここにまで来たんでしょ?』

 

『これからさっきの迷路の中でこの4匹の動物達から逃げてもらうわ』

 

「……は?」

 

セイバーが混乱する中でも2人は更に交互に話を続ける。

 

『制限時間は30分。逃げ切れたら君の勝ちだよ』

 

『因みにこの4匹には常時君のAGIを1.2倍にするバフがかかっていて、4匹を攻撃をしても倒せないから注意してね』

 

「はぁ!?ちょっと待てそんなの逃げられる訳……」

 

『よーいドン!!』

 

「話を聞けぇ!!」

 

セイバーが困惑している間に転送をされてしまいセイバーは先程までいた迷路に放り出されてしまった。

 

しかも、先程までとは違いその場には大音量の音楽が流れているせいで4匹の動物達の足音すらも完全にかき消されていた。辛うじて【気配察知】は通用し、大体の場所は把握できたが、最早この迷路に対する熟練度、周りの条件等全ての要素がセイバーに対して不利だった。

 

「あーもう!こうなったら何が何でも逃げてやる!!」

 

セイバーが叫ぶとその瞬間4匹はセイバーの方へと向かってきた。セイバーは気配察知でこれを探知しており、急いでその場から離れるべく急いで移動を開始した。

 

声にも反応するのかよ!チートすぎるだろうがよ、この動物共!!

 

セイバーはその場から離れようとすると早速ロバに見つかってしまった。

 

「ヤベッ!逃げるんだよ〜!!」

 

セイバーは全速力で逃げ、ロバは加速しながら追いかけてきた。

セイバーとロバの距離はグングン近づき、セイバーは捕まりそうになるが咄嗟に曲がり角を曲がるとロバは速度を落としたのか曲がる瞬間に追いかける速度が遅くなった。

 

「なるほど、ロバは直線は早いけどカーブは苦手っと」

 

セイバーはロバの弱点を見抜くと角を使いまくり視界から完全に外れた。

 

セイバーは安心するのも束の間、前から猫が飛びかかってきた。セイバーはそれを後ろへと跳んで躱し、さらに距離を取った。

 

 

 

流石に休ませてはくれないよね。多分こいつはロバより速度は遅めだけど小回りは効きそうだな。こんな時は

 

「翠風抜刀!【影分身】、【烈神速】!」

 

セイバーは4人に分身し、その状態で超スピードを発動。猫の速度が翠風のAGIに合わせられる直前にその場から離脱し、目立たないような行き止まりに隠れた。

 

 

取り敢えずここで時間が経つのを待つか……。今は始まってから10分、あと20分。隠れ切れば……。

 

セイバーは翠風の【気配遮断】を発動して見つかりにくくなるとそこで時間が来るのをじっと待った。それから何事も無く10分が過ぎ、残り10分となったその時、セイバーに取って予想外の出来事が起きた。

 

『ワン!ワン!!』

 

いきなりその道に犬が入ってきたのだ。これによりセイバーは行き止まりに完全に追い詰められた事になる。

 

な……!?何で急に場所が……まさか、こいつ。嗅覚に優れているって言うのか?

 

「くっ!!黄雷、抜刀!【サンダーブランチ】」

 

セイバーは咄嗟にサンダーブランチを発動して犬の真上に道を通すとその上を踏み台にして犬を飛び越えて躱し、逃げに徹した。

 

恐らく、犬も直線勝負にしなければまだ巻ける!急いでここを離れ……。

 

セイバーが心の中でセリフを言い切る前に突然T字路の道で右に曲がったタイミングで鶏に見つかってしまった。

 

『コケコッコー!!』

 

すると鶏は朝でも無いのに思い切り鳴きながらセイバーを追いかけ始めた。

 

ヤベェ!後ろ……は、無理だから左に逃げる!

 

セイバーは後ろから追いかけてくる犬がT字路に到達する前に別の道に入り、何とか逃げていった。

 

残りはあと3分!これなら……行ける!!

 

セイバーは角を使って逃げに逃げまくるが、犬の能力である嗅覚の影響で中々2匹を巻く事が出来なかった。セイバーが走り続けると広い部屋に出た。

 

ここは……道が2本続いてる……ここは急いで……ん?何か嫌な気配を両方から感じたんだけど……まさか!

 

セイバーの予想通りその道からはロバと猫がジリジリと迫ってきていた。

 

うげっ!?てかこれ、逃げ道無くね?だって……。

 

セイバーが後ろを振り返ると既に追いついた犬と鶏が部屋の後ろ側に逃げられないように包囲していた。

 

さっきまでうるさかった鶏が静かになってる。鶏の能力は見つけた獲物に応援を呼ぶための音か。しかも、これだけ音楽が流れているのに他の動物に聴こえているとは、特殊な周波数でも使ってるのか?

 

セイバーの思考とは他所に4匹は包囲の輪をどんどん縮めており、最早脱出するのは困難だった。

 

もう一回サンダーブランチで出れるか?いや、多分2度目は通用しない……クソ……ここまでか……。

 

セイバーはとうとう諦めると4匹の動物達はセイバーを捕まえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだったのだが、セイバーが捕まる直前にセイバーは光に包まれて転送されていた。これが何を意味するのか、それは明白である。

 

「ここは……さっきの部屋?」

 

『おめでとう!君は動物達から逃げ切ったよ!』

 

『あの4匹から逃げ切るなんてやるわね!』

 

「は、はぁ……」

 

セイバーが少し困惑していた。先程まで完全に捕まっていたと思っていたのである。こうなれば困惑するのも当然である。

 

「で、これからどうするの?まさかと思うけどこれから戦うのか?」

 

『いや、その必要は無いよ』

 

『この4匹から逃げ切った時点であなたは既に試練をクリアしているわ』

 

すると2人の子供達と動物は消えると2人の子供達の間にマゼンタカラーで刀身にはスピーカーのような円がついており、取手の部分がグリップのようで、引き金がついている剣が刺さっていた。

 

「あ、これが今回の報酬ってやつか。何々、この剣の名前は『音銃剣錫音(おんじゅうけんすずね)』。見た感じと名前的に銃に変形できるのかな?取り敢えず装備してみるか」

 

セイバーは剣を引き抜くと今持っている黄雷をしまった。するとその姿はピンクやマゼンタをメインとしたアンダースーツに鎧を着たようであり、鎧にはチョコの絵が描かれ、肩にはクッキーのような模様となってる。頭のギアにはヒビキと同じような形をした黒いヘッドホンだった。足のアーマーにはスピーカーのようなものが付いている。

 

『音銃剣錫音』

【STR+60】【破壊不可】

【ロック弾幕】【シャウトスラッシュ】

【スナックチョッパー】【ビートブラスト】

 

『お菓子のヘッドホン』

【MP+100】

【破壊不可】

【ロックモード】【超聴覚】

【甘い魅惑】

 

『お菓子の鎧』

【DEX+100】【STR+60】

【HP+150】【破壊不可】

【ブレーメン音楽団】【鍵盤演奏】

【スナックウォール】

 

『お菓子のスピーカーアーマー』

【INT+80】【VIT+70】

【破壊不可】

【爆音波】【超音波】【音弾ランチャー】

 

『お菓子の靴』

【AGI+80】

【破壊不可】

【軽やかステップ】【飴玉シュート】

 

「……うーん。ナニコレ?銃撃戦が得意な装備なのはわかるけど……」

 

セイバーは正直この装備の性能は微妙なのではと思った。何故なら激土や翠風とは違いそこまで尖った能力は無く、烈火、流水、黄雷とは違って進化の可能性も無いのである。インパクトという面ではあまり好印象では無かった。

 

「てか、ヒビキ待たせてるし……急いで出ないと……取り敢えず黄雷にしてと」

 

セイバーは黄雷に戻すと急いでその場から出る事になった。因みに、何故か転移先にヒビキが突っ込んできてセイバーはヒビキと初めて出会った時のようにセイバーは押し倒される事になった。その後、ヒビキにこっ酷く怒られたそうで。




30話時点のステータス

セイバー 
*補正値は音銃剣錫音の装備時
Lv35
HP 175/175〈+150〉
MP 180/180〈+100〉
 
【STR 50〈+120〉】
【VIT 40〈+70〉】
【AGI 40〈+80〉】
【DEX 15〈+100〉】
【INT 40〈+80〉】
 
装備
頭 【お菓子のヘッドホン】
体 【お菓子の鎧】
右手【音銃剣錫音】
左手【空欄】
足 【お菓子のスピーカーアーマー】
靴 【お菓子の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅴ】【気配斬りⅡ】【気配察知Ⅲ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅴ】【風魔法Ⅶ】【土魔法Ⅶ】【光魔法II】【闇魔法I】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化小】【MP回復速度強化小】【状態異常Ⅱ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】
*音銃剣錫音を装備時
【超聴覚】【ロックモード】【甘い魅惑】【鍵盤演奏】【ブレーメン音楽団】【スナックウォール】【爆音波】【超音波】【音弾ランチャー】【軽やかステップ】【飴玉シュート】【スナックチョッパー】【ロック弾幕】【シャウトスラッシュ】【ビートブラスト】

次回はあのキャラが初登場します。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと強敵襲来

いつの間にかお気に入りが300になっていました。読者の皆様、ご愛読ありがとうございます。今回は前々から登場を匂わせていたもう1人が出てきます。それではどうぞ!


セイバーが音銃剣錫音を手に入れて数日が経った。その間に楓の木の面々は更なる戦力の強化に勤しんでいた。第4回のイベントも近づいてきている。内容はギルドごとの対抗戦。詳しい内容はまだわかってないが、今回はギルドごとの絆が試されるようなイベントだった。

 

そんな中、楓の木に目をつけるギルドがあった。

 

「さて、ギルド対抗イベントだが……気掛かりなギルドは2つだ。1回イベントで5位、8位、10位2人がメンバーの巨大ギルド【炎帝ノ国】と、少数だが2位、3位、7位、9位が所属する【楓の木】」

 

この騎士のような鎧を着て、聖剣を持つ金髪の青年こそ第1回イベント1位の実績を持つ男、ペインだった。さらにそこにはドレッド、ドラグ、フレデリカの3人もいる。ペインは1人で戦局を変えられるようなプレイヤーがいるとすればこの2つのギルドだと考えた。

 

「【楓の木】には第2回イベントで話題になってた青服の子もいるんじゃなかったっけー?あれもやばそうだよねー」

 

フレデリカがそう言う。

どうやばいかが明確に分かっていないのは【楓の木】の情報が圧倒的に少ないためである。

特にメイプルとカナデに関しては情報が少ない。さらにセイバーは力の殆どをここまで隠してきているので今知られている情報は割と少ない。

ユイとマイ、ヒビキに関しては絶無である。存在すら知られていない。

 

「イベント内容にもよるけどさぁ、物量で押し潰せばいいんじゃねー?最悪ペインがなんとかすればいいだろ…」

 

ドレッドの言うように彼ら4人の所属するギルドと【楓の木】では所属する人数が違いすぎる。

少数ギルドに何かしらの優遇があるとしてもそれを上回るだろう物量があった。

 

「俺らのギルドは全体的に強い奴が集まってる、問題ねぇだろ。全員に毒耐性を付けさせ、余裕がある奴は麻痺耐性にも手を伸ばしてんだ。こうなりゃ警戒するのは【炎帝ノ国】の方だろ?」

 

そうドラグが言って聞かせる。

 

「それにー、私達のギルドは生産職さん達にダンジョンに行ってもらって、装備作ってるでしょー?」

 

フレデリカの言うダンジョンとは三層で見つかった2つ目のダンジョンで、生産職しか入れないものの、史上初めて【スキルの付いた装備】を作ることの出来る素材が手に入るというものだった。

そこをパーティーで周回し耐性のある装備を大量に用意しているのである。

 

「メイプルちゃんだっけ?攻撃手段は状態異常と盾でしょ?後は亀?信じられないけど、極振りっぽいしー……封じ込められると思うよ」

 

「ただ、問題はセイバーの方だ。うちの諜報部が掴んでいる情報では彼は聖剣を5本持っていて、しかもそのうち性能が割れているのが4本。残り1本はどんな力があるのかもわからない」

 

「特に見えない速度の剣が相手じゃペインでもキツいんじゃない?」

 

「……何を言っている?それこそ俺の出番だろう」

 

すると突然部屋の戸が開き黒い鎧に身を包みフードを被った男が現れた。

 

「……キラーか」

 

ペインの言葉に男は無言で4人へと近づく。

 

「俺の魔剣を持ってすれば聖剣など取るに足らん」

 

「そういえば、お前も剣士だったな」

 

「セイバーとやらせろ。奴の力、剣ごと俺がへし折ってやるよ」

 

「怖い怖い〜。ペイン〜何でキラーをスカウトしたの?」

 

「ああ、キラーの力は折り紙付き。1度の手合わせでキラーの力はとてつもない事は身に染みている。そして直感した。セイバーに対抗出来るのはこいつだけとね」

 

「ま、ペインが言うんだ。フレデリカもそろそろ受け入れろ」

 

「ええ〜」

 

「取り敢えずフレデリカとキラーは情報収集を頼む。【楓の木】もきっちりとな。それと、キラー。セイバーと接触したら戦っても良い」

 

「おいおい、良いのかペイン。みすみす相手に情報渡して」

 

「構わない。キラーもそろそろセイバーと戦いたいだろう?だったら彼の力を1度見ておくべきだ」

 

「任せろ」

 

「キラーと一緒かぁ……まあいいけどさっ!」

そう言うとフレデリカとキラーはそれぞれの得物を片手に部屋を出ていった。

それに続くようにしてドレッドとドラグも部屋から出ていく。

1人になったペインが呟く。

 

「……未知は何より恐ろしい。【楓の木】の情報がなさ過ぎだ」

 

彼らはクロムの装備の力を知らない。

カナデの魔法を知らない。

サリーの回避を体験したことがない。

ユイとマイの破壊力を知らない。

そして何より。

 

ほぼ全てのメンバーがメイプルは毒と盾により敵を倒すもの、セイバーには使える剣が5本だけだと思っている。

彼らは天使も化物も機械神もシロップが光線を吐くことも、セイバーが6本目を得ている事、ブレイブに騎乗出来ること、巨大なライオンへと変形出来ることも知らない。

 

唯一、ペインだけはそうではないのではと直感していたがそれを裏付けるものはどこにもなかった。

 

ほぼ同時刻、楓の木ではイズが新たな鉱石を採掘しに出かけ、それと入れ違うようにメイプルとセイバーがギルドへと戻ってきた。

 

「んー……戻ってきたけど…やることもないし空中散歩でもしようかなー」

 

「いやいや、やる事ないからって1番に思いつくのが空中散歩かよ」

 

メイプルが次の行動を考えて、セイバーがそのやり方の異常さにツッコミを入れていると入り口からサリーが、奥からユイとマイが現れた。

 

「あ!皆も私と一緒に空中散歩に出かけない?どう?」

 

「そう…だね。うん、いいよ」

 

「「私達も行きますっ」」

 

「はぁ……ついでに俺も乗るわ。こうなったメイプルは止まらないし」

 

4人はメイプルの意見に承諾したため5人は外へと向かう。

 

ユイとマイがシロップの背中に乗ることにしたため、サリーもそうすることにした。セイバーに関してはブレイブに乗ることも出来るのだが、それだとイベントでの奇襲ができないということでセイバーも一緒にシロップに乗ることになった。因みに、ユイとマイは機械よりシロップの方が好きなようだった。

極振りでもあるためメイプルと似た考えを持っているのだろうとサリーとセイバーは納得する。

 

「皆乗ったー?いくよー!」

 

メイプルは4人が乗ったことを確認するとシロップを浮かせて空へと舞い上がった。

 

「メイプルは何処へ行ってたの?」

 

「んー…神様の所」

 

「「「えっ……?」」」

 

「……待て、お前またなんかやったな?」

 

4人の予想を遥か飛び越えたその答えに思考がフリーズする。

そんな中最初に口を開いたのはサリーだった。

 

「ねぇ……何を手に入れたの?」

 

最早確信を持ってそう呟くサリーにメイプルは少し考えてから返事をする。

 

「んー完全に使うと目立っちゃうから、ちょっとだけ。【展開・左手】」

 

1度装備を壊せば一定回数はその装備により武装を生み出せるのだ。

メイプルの左手からは幾つもの銃が展開された。

 

「うっわ……えぇ?」

 

「撃てるよ!撃たないけどね」

 

「す、凄いですね…」

 

「ああ、メイプルにまた付属品が増えたなぁ……」

 

「それを言うならセイバーもでしょ?音銃剣だっけ?新しい剣」

 

「それなんだが、戦闘で使えるかはちょっとわからないんだよね。見た感じスキルは強そうなんだけど、とんがった能力も装備が進化するみたいな表記も無いし……」

 

セイバーとサリーが話している間にメイプルは他のプレイヤーに見られないように武装をしまう。

 

「まぁ、ギルド対抗では頼りにしてるよ」

 

「任せて!第3回イベントの分も頑張るよ!ユイとマイも頑張ろうね!」

 

「「は、はい!」」

 

「まあ、2人はメイプルと一緒に行動だからね。流石に【身捧ぐ慈愛】が欲しいかな」

 

「そういや、2人はもう通常攻撃を掠らせるだけでモンスターが爆散するんだったか?」

 

「はい!2つ持ちも練習中です!」

 

2人は互いに爽快だと言い合っていた。今までの中途半端な攻撃力を脱出し、文字通り当てれば相手は死ぬ状態である。

手数の増えた大槌を振り回しているだけで、その利点を生かしてモンスターくらいボコボコである。

レベリング後にはめっきりと死ななくなりプレイすることが楽しくなっていった。

 

「ん……メイプル。この下に湖があるよ」

 

「へぇー……行ってみようか?」

 

ユイとマイも賛成なようで、高度を落として湖の側に降りる。

5人は座り込んで湖の水をパチャパチャと触ったりする。現実ならば涼しくて気持ちがいいことだろう。

 

「対抗戦はどんな感じになるのかなぁ」

 

「時間加速があるってことは1日以上期間があるんだろうねっと……さて」

 

「どうやら、サリーも気づいたか」

 

サリーがそう言ってゆっくりと立ち上がった。

 

「どうかしたんですか?」

 

「何かいました?」

 

「うん。ちょっと私達を尾行しているプレイヤーが2人」

 

そう言って歩いていったサリーとセイバーが少し後ろの岩の陰を覗き込む。

そこには金髪ポニーテールのプレイヤーが1人と黒い鎧を着た男がいた。フレデリカとキラーである。

 

「あー…バレてた…」

 

「フレデリカさん。尾行とは趣味が悪いですよ。てか、その人、どっかで見た事あるような……」

 

「こいつの名前は……」

 

「キラーだ。久しぶりだな、セイバー」

 

「ああー。そう言えば第1回イベントでキルした奴の1人……だったな」

 

キラーはセイバーの前に立つとその姿をじっと眺めた。

 

「……やはりお前は剣士の中でも纏う空気が違うな」

 

「それはどうも」

 

「それはそうと私達を尾行?何のために?」

 

メイプルが首をかしげる。

ユイとマイも理由が分かっていないようだった。

 

「まあ、ギルド対抗戦のための情報収集でしょ。私達はギルドメンバーが少ないからメンバーからの情報の流出も少ないし」

 

人数が増えれば当然情報を管理しにくくなる。大人数のギルドは誰かがぽろっと情報を流出させてしまうことが多くなることは間違いなかった。

 

「それで、尾行していたあなた達に相談があるんだけど」

 

「な、なーに?」

 

サリーは顔を近づけて小声で呟く。

 

「【集う聖剣】か……【炎帝ノ国】の情報を持ってたら渡してくれない?」

 

【集う聖剣】はペインのギルド。つまりフレデリカが所属するギルドである。

フレデリカがじりっと後ずさる。

 

「な、何でそんなことしないといけないのかなー?」

 

「渡してくれたら、私と【決闘】させてあげる。私の情報も欲しいんじゃない?戦闘中に探るもよし、あとは…私に勝てば私のことなら何でも1つ答えてあげる」

 

サリーがそう言うとフレデリカは少し俯き考え始めた。

【決闘】とはルールを定めて行うPvPである。

サリーの言う通り、サリーについての情報は不確定で数が少ないものだった。

そんな中、直接戦闘能力を探ることが出来るのならこのチャンスを捨てるべきではないとフレデリカは結論づけた。

 

それに、フレデリカが【炎帝ノ国】の情報を流すことで【楓の木】と【炎帝ノ国】の削り合いになる可能性も高い。

そうなれば危険視している2つを一手で弱体化させられる。

取り敢えず情報だけ流しておけばその目的は達成出来る。

サリーが【決闘】を拒否して情報を持ち逃げしてきても問題なかった。

 

「うーん、受ける!私は【炎帝ノ国】の情報しか出せないから、それを話すねー」

 

「ふーん。やっぱそっちを言うんですね」

 

セイバーにとってもこれは予想通りである。わざわざ自分のギルドの情報を出す訳が無い。セイバーはそれを知りつつも敢えて深くは追及しなかった。

 

そしてフレデリカは知っている限りの【炎帝ノ国】の情報を嘘偽りなくサリーに話した。

そうすることできっちり潰しあって貰わなければならないからだ。

その中には貴重な情報も混じっていた。

 

 

「ふぅん……【トラッパー】ね。そのプレイヤーは知らなかったな」

 

「ま、俺は知ってたけど。マルクスさんだっただろ?」

 

「やっぱセイバーはちゃんとチェックしてるんだねー。それじゃあ、約束通りお願いしまーす」

 

フレデリカはどうせ受けないだろうと思いつつそう言った。

サリーにとってはここで持ち逃げがベストだろうと考えたのだ。

 

「はい、申請した」

 

「え?……あ、ああはい」

 

フレデリカは困惑しつつ申請を受ける。

ルールは別空間に転移して、HPがゼロになるまで戦うデスマッチ。

目の前に現れた魔法陣に乗った2人の姿が消える。

残されたメイプルは当然驚く。

 

「ど、どっかいっちゃったよ!?」

 

「メイプルさん!た、多分あれは決闘ですよ!そんなシステムがあったはずです」

 

「そ、そうなの?」

 

メイプルが混乱していると今まで静かだったキラーが口を開いた。

 

「セイバー。俺と勝負しろ」

 

「ん?キラーさんとですか?」

 

「そうだ。俺は今のお前の力を見ておきたい。お前としても今ここで新しい俺の力を見れるのは1つのアドバンテージになるはずだ」

 

セイバーはその言葉に数秒の思考時間をかけるがすぐに返答した。

 

「わかりました。やりましょう」

 

「では行くぞ」

 

「ああ」

 

2人はそれと同時に決闘するための闘技場へと移った。

 

「ルールはフレデリカ達がやっているのと同じで良いな?」

 

「ああ。ただし、俺が使う剣は……黄雷、抜刀」

 

セイバーは黄雷を抜いて雷の装備となった。

 

「なるほど、確かにその剣なら流出する情報は最小限で済む。だが、それでは俺の魔剣には勝てん」

 

そう言うとキラーは手を翳し、目の前に漆黒の如き黒い剣が出現。その剣の刀身の真ん中にはレールガンを思わせるスペースがあり、刀身の付け根には赤い目のような模様が入っている。

 

男はフードを取ると黒いヘッドギアが装着されており、ギアの額の部分には剣と同様に赤い目がついていた。

 

「はあっ!」

 

まず戦闘の開始と同時に仕掛けたのはセイバーだ。黄雷による斬撃波を飛ばし、キラーはそれを真っ二つに叩き切るとそれを皮切りに激しい斬り合いが始まった。

 

お互い実力は拮抗しているゆえか勝負はお互いに一歩も譲らず、5分経過してもまだお互いノーダメージだった。

 

「やるようだな」

 

「お前もな。ヤバいくらいにワクワクする強さしてるぜ!」

 

キラーは剣を振り下ろすとセイバーはそれをバックステップで躱して距離を取る。黄雷の特性である魔法攻撃は相手とある程度距離がある方が余裕を持って撃てる。セイバーはそれをわかっているからこそこの行動を取った。だからこそ、キラーの次の行動は予想できなかった。

 

「【ブラックアウト】」

 

それと同時にセイバーの視界がいきなり真っ暗になって完全にキラーを見失った。

 

「な!?」

 

「【呪いの一撃】」

 

キラーはセイバーが混乱した一瞬の隙をついてセイバーを両断した。

 

「ぐあっ……」

 

まず先制でダメージを与えたのはキラーであった。セイバーはまだHPに余力があるためまだまだやれそうだが、ステータスには多くのデバフがかかっていた。

 

「く……攻撃弱化、防御力低下、鈍足、MP消費量増加にMP減少。これがあと5分続くのか。けど、このスキルの前でデバフは関係ないね【シャットアウト】、【サンダーブースト】!」

 

セイバーは一時的なデバフの無効化を行うとそのまま超スピードを発動してキラーへと斬りかかる。

 

「だが、無意味だ。【呪いの鎖】」

 

すると突然として発動したセイバーの【サンダーブースト】が効果時間を超過する前に消え、速度が著しく落ちてしまった。

 

「は?」

 

「【呪魔狼刃剣】。はあっ!」

 

キラーが剣を振るうと漆黒の狼が襲いかかりセイバーを飲み込んだ。

 

「チッ……まさかここで【不屈の竜騎士】を使わされるとは……」

 

セイバーはスキル込みだが辛うじてこの一撃を耐えていた。そして、龍の能力が2倍となる……のだが、今の剣ではそれは叶わない。そもそも、このスキルを最大限に活かすためには烈火を使わないとダメなのだ。そして現状、手の内を隠すために烈火を出す訳にもいかない。それを踏まえてセイバーが出した結論は……

 

「これは、長引かせる訳にはいかない!!ここで倒す【サンダーブランチ】、【落雷】!」

 

セイバーは地面に剣を突き刺すと稲妻の鞭がキラーを捕らえ、さらには雷攻撃でようやくセイバーもキラーへとダメージを与えた。

 

「ぐうう……ぬん!」

 

キラーが、体に力を込めると紫の禍々しいオーラが出て、サンダーブランチを無効化、さらに落雷の電撃さえも振り払った。

 

「やはり攻撃は防がれるか……なら、【雷鳴一閃】!」

 

セイバーは電撃を纏ったままキラーへと突っ込む。キラーはこれを見ると剣を逆手持ちにして振りかぶった。

 

「【呪血狼砲】!」

 

キラーがそう言うと自身のHPを少し削った。するとレールガンの部分に赤いエネルギーが火花を散らしながら高まっていきキラーが魔剣を振り下ろすとそれが狼の爪の如く3本の斬撃を飛ばしセイバーはそれを電撃を纏った黄雷で受け止めた。

 

「ぐ……」

 

「終わりだ」

 

キラーがそう言うと黄雷の剣から電撃のエフェクトが消えた。つまり、技が強制的に中断させられた事を意味している。

 

それと同時に斬撃は爆発を起こすとHPが1になっていたセイバーの体力を消した。

 

 

それは、セイバーが初めて敵に負けた事を意味していた。




今回でとうとうセイバーが初敗北を喫する事になりました。キラーの能力に関してはまた次回以降明らかにしていきます。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとイベント対策

初めて……負けた。

人生を過ごしていれば誰もが勝負で負ける事はある。

だが、セイバーのこの敗北は彼にとってかなりの精神ダメージを受けていた。

 

セイバーとキラーが勝負を終えて戻ってくるとそこには勝負を終えたと思われるサリーとフレデリカ、釣りをしていたメイプル、ユイ、マイが待っていた。

 

「あ、お帰りセイバー。どうだった?」

 

「……手も足も出ない。完敗だった……」

 

「え……セイバーが完敗した?」

 

「凄いじゃんキラー。あのセイバーを倒せるなんて」

 

「ふん。俺の魔剣が相手なんだ。こうなるのは当然の原理だ」

 

「魔剣……それってどんな効果なんですか?」

 

「……なるべく情報は漏らしたく無い。知りたければセイバーから聞くんだな」

 

そう言ってキラーは去っていった。

 

「ちょっと!待ってよキラー!」

 

フレデリカも置いてかれまいと後を追う。

 

その場に残ったのは仰向けに転がっているセイバーと未だにセイバーが負けたと言う真実を飲み込めない3人、そしてセイバーをじっと見つめるサリーだけだった。

 

「ねぇ、セイバー。あいつの魔剣の力、何かわかったの?」

 

「……俺の聖剣を元にして発動するスキル全て無効化していた。おそらく、奴の剣や装備の能力は聖剣由来のスキルの効果を半減、無力化する事だ。完全な俺に対するメタ装備って感じ。しかも、あいつ自身のプレイヤースキルも俺と同等レベル。単純な力比べも奴はこなせるだろう」

 

「ふうーん。ま、あんたならどうにかなるでしょ」

 

「……最善は尽くす」

 

そうやって話していると突然通知音が鳴った。

それはイベントの内容が書かれた運営からのメッセージだった。

5人はそれぞれメッセージに目を通す。

 

「時間加速……前と同じで途中参加や中断はなしか」

 

「期間は5日間かー…ちょっと短くなったんだね」

 

そして、ここからが大事だ。

次に書かれていたのはイベントの内容である。

 

ギルドごとに配備された自軍オーブの防衛。また他軍オーブの奪取。

自軍オーブが自軍にある場合、6時間ごとに1ポイント。

ギルド規模小の場合、2ポイント。

 

他軍オーブを自軍に持ち帰り、3時間防衛することで自軍に2ポイント、また奪われたギルドがマイナス1ポイント。

ギルド規模小に奪われた場合、オーブを奪われたギルドはマイナス3ポイント。

ギルド規模中に奪われた場合、オーブを奪われたギルドはマイナス2ポイント。

 

他軍オーブはポイント処理が終わり次第元の位置に戻される。

防衛時間3時間以内に奪還された場合、ポイントの増加や減少はなし。

同じギルドメンバーの位置と自軍のオーブの位置はステータスと同じく、パネルに表示されるマップで確認することが可能。

 

奪取したオーブはアイテム欄に入る。

ギルド規模が小さいほど防衛しやすい地形になる。

ギルドに所属していないプレイヤーは参加申請をすることで複数作成される臨時ギルドのどれかに参加可能。

 

死亡回数について。

1回。ステータス5%減。

2回。さらにステータス10%減。

3回。さらにステータス15%減。

4回。さらにステータス20%減。

5回。リタイア。

死亡回数四回時点、ステータス50%減。

プレイヤーが全滅したギルドからはオーブが発生しなくなる。

同じギルドから奪えるオーブは1日に1つきり。

 

ルールはこんなところだった。

 

「なるほど……5デスで終わりか。まあ3デスあたりからまずいかな?」

 

楓の木の人数を考えると捨て駒などどうやっても使えない。

大型ギルドのような死を恐れぬ数の暴力は使えない。

 

「この感じだと取り敢えず防衛には人数を割きたいけど……これはかなりキツいなぁ……んーでも、上手く攻めれば……」

 

「どこが大変そう?」

 

「まず第一に攻撃に出られる人数が足りない。防衛も同じ……後は、まあ、これが最大の問題点なんだけど、どうしても疲労が溜まるよね。ひっきりなしに誰かが攻めてくるだろうし、夜襲もある。少人数の問題点はそうそう休めないこと」

 

メイプルが眠っている間の戦力低下は凄まじいものだ。

メイプルさえ万全ならばオーブを持ち帰っての防衛に希望が持てそうだった。

 

「そっか……前の時間加速と違って誰かが攻めてくるから、ずっと戦闘になる」

 

戦闘が続けば休む暇もなくなって次第に判断力が鈍る。サリーにとって回避能力低下に直結するそれは厳しかった。

 

また、メイプルにも厳しい点がある。

 

「メイプルの【悪食】の弱体化も5日のうちにはバレるだろうし……メイプルがスキルを使い切って、ほとんどのスキルに回数制限があることを悟られたらやばい」

 

メイプルを1日中攻め続ければ、メイプルは間違いなく大規模スキルを使えなくなる。

つまり、1日の終わりが最も危険な時間帯だ。

 

「確かに……」

 

「メイプルの能力をどこまで隠せるかで決まる……かも」

 

メイプルのスキルには決め手になるようなものがいくつもあり、それらは知られていない。

ギリギリまで隠しきることで対応を遅れさせて逃げ切るのが狙いだ。

 

「防衛はメイプルとユイとマイは確定だね。フィールドを動き回れないし……カナデも入れてもいいかも。攻撃は私とカスミとセイバー、クロムさんでになるかな?で、イズさんは支援を……」

 

「セイバーもそれで良いかな?」

 

メイプルはそう聞くがセイバーはまるで元気が無いような感じだった。

 

「はぁ……あいつに勝てるビジョンが見えない。どうやったらあの魔剣を破れるんだ?」

 

落ち込むセイバーにサリーが詰め寄る。

 

「はぁ……久々にボコボコにされてしょげてんのアンタ?」

 

「だってよ……聖剣の力は全部封じられるんだぜ?これじゃあ今まで俺が作ってきた情報アドバンテージが無いも等しいよ」

 

「まぁ、私も正直驚いたわ。アンタに勝てる奴がいる事に。けど、それ以上に、アンタのその豆腐メンタルにびっくりね。ホント、アンタには失望した」

 

サリーはここぞとばかりにセイバーを煽る。

 

「もうホントダメダメ。アンタなんかを信じてた私がバカだった。アンタがそのテンションならもうアンタはイベントに参加しないで。足手纏いだから」

 

「サリー!言い過ぎだよ!」

 

流石にメイプルがサリーを止めに入り、これを聞いているユイとマイもどうすれば良いか分からずオロオロしている。

 

するとセイバーから熱い炎が迸っていた。

 

「誰が足手纏いだって?」

 

セイバーがサリーを見るとその顔にはイライラが溜まっていた。サリーもこれに対して一歩も引かずにセイバーを睨む。

 

「ええそうよ。今のアンタじゃ話にもならないわ。1回負けた程度でそんな落ち込むなんてアンタらしく無いのよ!!」

 

サリーのその言葉にセイバーは目を閉じて深呼吸すると心を落ち着けた。

 

「そうだったな、サリー。ずっと勝ち続けていたせいでちょっと忘れてたな。負けた時の悔しさなんて……いつぶりだろう……」

 

セイバーは暫く虚空を見つめていたがそれからサリーと向き合った。

 

「サリー、すまなかったな。ちょっと取り乱した。まだアイツに勝つ手段が無いなんて決めつけるのは早かった。今度のイベントでは絶対勝つ」

 

「……それで良いのよ、セイバー。今度は勝ちなさいよね」

 

「サリーこそ、やられてから俺みたいにしょげるのは無しだからな」

 

「言ったわね!!こいつ!!」

 

それから2人は笑い合った。

 

「それじゃあ、イベントの事について今から戻って話すのはどうかな?」

メイプルが提案し、それにユイとマイも賛成する。

ユイとマイは今回が初の時間加速イベントである。メイプルとサリー、セイバーで概要を話しつつ【楓の木】へと向かった。

 

それからイベントの日程と内容を把握した楓の木の面々は話し合うとそれぞれにイベントに向けての準備を始めた。

幸い、楓の木は全員が参加出来る日程だったので役割を振り分けていく。

メイプル、ユイ、マイ、イズの4人が拠点防衛。

サリー、クロム、カスミ、セイバー、ヒビキが攻撃。

そしてカナデが防衛と攻撃を兼任する形に決まった。

 

クロムとカスミはモンスターと戦ってドロップアイテム集め。

これはイズの所持ゴールド増加を狙っているのと、感覚を研ぎ澄ませるための2つの理由があった。

 

イズは【天邪鬼な錬金術師】というスキルを新しく入手しており、ゴールドを素材へと変換できるためゴールドが増える事はその場で新しく武器を生産することができると言う事に繋がる。

 

サリーは回避の特訓と言ってギルドホームを出ていく。

 

ユイとマイは二層へと向かい目立たないように連携を上達させる予定である。

 

カナデはイズに頼まれて最上級のMPポーションを作るための素材を狙いにフィールドへ向かった。

 

メイプルはギルドメンバーから自由に探索するように言われたため、ドロップアイテムを集めつつふらふらと三層を歩き回ることに決まった。

 

セイバーはキラーに対抗するための対策を練るのと今持っている聖剣を100%使いこなせるように特訓した。

 

セイバーは誰一人として周りにプレイヤーがいない状態で今まで使用を控えていた烈火、流水、激土、錫音の4本の剣と装備に付いているスキルを一通り試し打ちし、さらには近場のボスモンスターを相手に何度も周回、スキルの発動タイミング、スキルごとのメリットとデメリットを全て叩き込み、どのパターンで動けば最善なのかを試した。時にはヒビキやサリーなどメイプルとイズを除くギルドメンバーに頼み込んでギルドの訓練場で実戦形式の戦いも行った。幸い、セイバーもサリーも高校生のため、夏休み中である今の期間は時間もたっぷりあった。

 

「ふう……これで一通り今使えるスキルと剣は確認し終わった。これでどうやってキラーに勝つか……いや、キラーだけの対策じゃダメだ。プレイヤーはキラー1人じゃない。その場その場の状況次第では動き方を変えないとな……」

 

セイバーの試行錯誤はまだまだ終わりそうになかった。

 

サリーは1人、二層のモンスター多発地域に足を踏み入れた。

理由は自身の集中力の持続時間を伸ばすためである。

 

「………ふっ!」

 

ダガーとは思えない威力の攻撃がモンスターの命を刈り取っても次から次へと湧いてくる。

サリーは己に課した目標に届かせようとひたすら体を動かし続けた。

 

「……うん、徹夜も試してみよう」

 

サリーは今出来る最善を延々と続けていくのであった。

 

 

ユイとマイは二層で戦っていた。

イベントでの作戦が決まり、メイプルを温存するために重要な役割を任せられた2人ははりきっていた。

イズに装備を揃えてもらった2人はそれぞれの髪の色と同じ色の大槌2本と、それに合わせた純白と漆黒の装備を身につけていた。

装飾品には指輪2つとチョーカー。

そのどれもが【STR】を上げるものであり、極限まで攻撃に特化していた。

 

今は互いを守るように動いている2人だが、メイプルの支援により守りを捨てて攻撃すれば惨劇は免れないだろう。

ユイとマイのステータスを知らないために、中には盾で攻撃を受け止めようと考える者もいるだろう。

盾の性能にもよるが、盾ごと爆散すらありえる。

そうなった時に敵対した者たちは冷静でいられない。

そうして訳の分からないうちに攻撃を受けて終わりである。

 

「【ダブルインパクト】!」

 

スキルによって叩きつけられる連撃などオーバーキルでしかない。

ここ最近で二人もスキルをいくつか取得していた。

その中には【投擲】も含まれている。

 

 

そして2人のインベントリは、イズに渡されたバスケットボールほどの大きさの鉄球が埋め尽くしていたのだった。

 

ただ、2人は今回それを使うことはなかった。

 

 

メイプルはシロップのレベルを上げつつ、毒竜に武装を破壊してもらっていた。

全ての武装が破壊されればもう一度【機械神】を発動させることが出来て、それにより防御力が上がる。

メイプルはこれをイベントまでの日課にすることにした。

 

 

「あっ!シロップレベル上がったんだねー!」

 

メイプルがシロップの頭を撫でて、にこにこと笑う。

 

「スキルが増えてる。【城壁】?」

【城壁】はスキル発動から30秒間、絆の架け橋装備者の周囲に破壊可能な壁を生み出し続けるというものである。

メイプルが試しに使わせてみると、メイプルを中心に2メートルほどの距離をとって高い壁が瞬時にせり上がった。こちらから攻撃は出来そうにないが、相手も同じである。

 

敵視点から見た時に、それはさながら卵であった。

中から生まれるものの姿はどう転んでも凶悪である。

 

「朧やブレイブはどんなスキルを覚えるのかなぁ……まだ成長するよね?」

 

メイプルは毒竜に武装を破壊してもらったところで後回しにしていたとあるスキルの巻物を買いに向かった。

 

そのスキルは【ピアースガード】。

つまり、大盾に与えられた貫通攻撃対策である。

このスキルを使えば貫通効果を無効化することが出来る。

ドタバタしていて取得出来ずにいたメイプルだったが、その存在を忘れてはいなかった。

 

そしてヒビキはセイバーの特訓に付き合いつつもサリー同様にモンスター多発地域での訓練を進めていた。

 

「はあっ!せいっ!」

 

ヒビキへと飛びかかるモンスターは次から次へと矢継ぎ早にヒビキを倒そうと襲うが、ヒビキはそれをいとも容易く裁き、殴り、蹴り、終いには頭突きまで試した。

 

「そうだ、ミク!おいで!」

 

ヒビキは外に出してヒビキが瀕死にまで追い込んでからそれを倒させる事によりレベル上げをしていたミクを呼び寄せた。

 

ミクはヒビキの肩に止まると嬉しそうに顔を擦り寄せる。

 

「おお〜。新しく【電磁波】と【真空波】も覚えてる。よーしよし、えらいよ〜」

 

ヒビキの格闘技にミクの遠隔支援。このコンビの連携力はかなりのものになってきていた。

 

ギルド本体の強化も無事に終わり、カナデの魔導書も着々と増えていく。

 

イズのゴールドも満足いくだけ溜まり、【新境地】でのアイテム製作も無事に十分な量が用意出来た。

サリーは疲労を抜いて最終調整まで完璧にやりきった。

クロムとカスミはギルドの性能を最大まで上げきり、メイプルはより硬く、ユイとマイはより高火力になった。

ヒビキは今極められるだけの格闘術を極め、セイバーは聖剣ごとのバトルスタイルを構築し直した。

 

 

 

そうして準備期間の内に各自やるべきことをやりきったところで、ついにイベントがやってきた。

今回は10人での参加である。

 

「目指すは上位で!」

 

「異議なし!」

 

「さぁ、行こうか!」

 

ギルドを立ち上げたメイプルとサリー、セイバーのこのゲーム初の団体戦。

少数精鋭の力を見せつけてやろうと意気込んで、10人揃って光に包まれてバトルフィールドへと転移した。




次回から第4回イベントとなります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第4回イベント

光が薄れ、10人の目の前に見えたのは緑色に輝くオーブとそれが乗った台座である。ここが自軍であることはすぐに理解出来た。

広い部屋から伸びる通路は3本。

サリーとカスミは台座の後ろ側にある2本の通路を素早く探索して戻ってきた。

 

「こっちは行き止まりで水場があるくらいだったよ。休めそうだね」

 

「こっちは特に何もなかった。まあ、横になることは出来るだろうな」

 

「てことは、残る1本が地上へ向かうルートか?確かに防衛しやすそうだ」

 

1本道なら背後からの奇襲など起こらない。

 

「じゃあ、私達は攻撃に」

 

「おう、予定通りいこう」

 

「さーて、俺も出ますか」

 

「セイバーお兄ちゃん、私も行くっ!」

 

時間が惜しいとばかりに攻撃組の5人は自軍から飛び出していった。

残った面々はイズから渡されていたローブを着る。イズ自身もそれを着て、自軍に座りこむ。

これは防御力も何もない、ただ外見を隠すだけの布である。

ただし、遠目に見たときにメイプルだと気付かない憐れなプレイヤーにはめっぽう効くのである。

メイプルはヤバイの象徴だからだ。

 

ヤバイと思えなければ5人の手によって貴重な命を一つ持っていかれる。

 

「誰か来たらユイとマイに倒してもらおう」

 

「そうね。取り敢えず、5人がオーブを持ち帰ってくるのを待ちましょう」

5人は入り口を警戒しつつ、体力を消費しないように待機することにした。

 

 

 

 

「敵を見つけた場合は、問答無用のキルで問題ないよな?」

 

「はい、大丈夫です……まずは近場を探索していきましょう。周りの危険から順に排除します」

 

「俺達は別行動で行くよ」

 

「オッケー、セイバー。ちゃんと敵を狩って来なよ」

 

「へーい」

 

そう言って森の中をサリー、カスミ、クロムの組とセイバーとヒビキの組へと分かれて敵を探していった。セイバーは走る途中でプレイヤーの話し声を聞きとった。

 

「ヒビキ、俺が正面から敵を叩く。おそらく俺を見た瞬間敵はヤバいと思って逃げるか、人数に任せて押してくるからその隙をついてくれ」

 

「良いよ!」

 

 

2人は持ち場についたところでセイバーが【気配察知】を使い5人ぐらいの人の集まりへと突っ込んでいった。

 

 

 

セイバーが攻撃しにいったプレイヤー達もセイバーと同様にオーブを探して早速自軍から外へと向かった者達である。

 

「1つくらいなら近くにあると思うが……」

 

「大丈夫よ。焦らずいきましょう」

 

そう言って歩く5人がセイバーを見たその瞬間、臨戦態勢に入った。

 

「この姿、セイバーか?」

 

「そんな事はどうでも良い。こいつをやるぞ」

 

「そうね。5人がかりなら……」

 

「さて、楽しませろよ!」

 

セイバーは烈火に炎を纏わせると突っ込んでいき、5人は一斉にスキルによる遠距離攻撃を撃ってきた。

 

「その程度か?【火炎十字斬】」

 

セイバーの斬撃が敵の攻撃の威力を簡単に上回り、敵のうち1番前に出ていた1人を倒した。

 

「うわあああああっっ!?」

 

セイバーから無慈悲の追撃がかかる。

 

「せいっ!」

 

続けてセイバーは2人目を葬り、3人目と4人目の剣と槍を易々と捌くとそのまま3人目を斬った。

一瞬で状況が変化してしまい、残る2人は見るからに動揺している。

 

「ヤバい!」

 

「撤退よ…っあ!」

 

2人は撤退しようとするがそこに空気の拳が飛んできて女性プレイヤーを吹っ飛ばす。

 

「はあああ!!」

 

そのまま拳が飛んできた方からジェット噴射で加速したヒビキが飛び出すと左ストレートがプレイヤーのHPを0にすると消滅させた。

 

「ナイス、ヒビキ」

 

「うん!」

 

2人はわざと1人だけ逃した。

そして、1人では他のギルドを倒すことなど出来ない訳で、そうなると自軍に引き返す訳だ。

ただ、最後の1人になった者はおとなしく死んでおくべきだっただろう。

そうしておけば鬼を自宅に招き入れることはなかったのだから。

 

セイバーは【気配察知】により逃げたプレイヤーの位置を確認するとそのプレイヤーを密かに追い始めた。

そう、2人は逃げ帰ったプレイヤーを追いかけるだけでよかったのだ。

 

「お、あれが敵の拠点か」

 

「私達と同じ小規模ギルドかな?」

 

「そう考えるのが妥当みたいだな」

 

少し先には木々に入り口が隠され見つけにくくなっている洞窟が見えた。

 

「とは言っても俺達は10人だけだが、最小規模でも何人いるか分からない。ヒビキ、俺が錫音で先に入る」

 

「わかったよ」

 

「錫音、抜刀」

 

宣言通りセイバーを先頭にして穴の中へと入っていく。

少し進んだ先にはオーブが台座に乗っているのが見えた。

そして、何やらヤバイやつらに会ったと騒ぐプレイヤー達の話を聞いている30人程のプレイヤーがいた。

当然入り口の方を向いているプレイヤーもいるため、侵入者に気づく。

 

「皆、構えろ!」

恐らくギルドマスターだろう男が号令を出すと全員が武器を構え始める。

 

「さて、こいつの能力を実践で試すか。【超音波】」

 

セイバーの両足のスピーカーから音波が出ていくとその場にいる敵プレイヤー全てを強制的に混乱状態へと追い込んだ。

 

「あ、頭があああ!!!」

 

「何でだ?何も受けてないはずなのに〜!!」

 

「来い、ヒビキ!」

 

「行っくよ〜!!」

 

ヒビキは飛び出すとそのまま混乱状態でまともに行動できないプレイヤーを1人ずつ倒していった。

 

「こんのぉ!」

 

「小娘がやってくれる!!」

 

ヒビキが1人ずつ相手していると流石に混乱も解けるプレイヤーも出てきてヒビキへと襲いかかった。

 

「【スナックウォール】」

 

すると突如としてプレイヤーを分断するかのようにお菓子の壁が地面から湧いてプレイヤー達を数人ずつの塊へと分散させた。

 

「激土、抜刀。ヒビキ、伏せろ!!【大断断斬】!」

 

セイバーは激土を抜刀すると巨大な刃を振るってヒビキ以外の全てをスナックの壁ごと真っ二つにした。

 

「よっと、オーブを回収して……ヒビキ、取り敢えずこれを持って帰ってくれる?俺はちょっと周りの偵察をしてくる。この感じだと思ったより近くにギルドがある可能性が高いからな」

 

セイバーはヒビキを帰すとギルドが周りにあるかを確認するためにセイバーは戦場に残り、ヒビキは戦利品を持ち帰ることにした。

 

 

 

 

 

一方でサリー達もオーブを無事に回収するとカスミとクロムがオーブを持って拠点に戻っていったのだが、3人が戻ろうとしていた【楓の木】の拠点に侵入者(犠牲者)がやってきていた。

 

「5人!行けるぞ!」

 

意気揚々と入って、メイプル達に向かってきた8人組を出迎えたのは、まるで雪合戦のように軽々と投げられた高速の鉄球である。

 

「「えいっ!」」

 

可愛らしい掛け声で投げられた鉄球は轟音と共にプレイヤーに迫った。

 

盾に身を隠した者は次々と飛んでくる鉄球に盾ごと破壊された。

剣で弾こうとした者は剣を叩き折られて爆散した。

鉄球を躱そうと横へと避けた者は地面にある小さなスイッチに気づかずに踏んでしまいセイバーが出る前に仕掛けておいたクナイの雨が発動して天井から降り注いだ。

逃げ出そうとした者は勢いよく飛び込んだために、あまりに遠い出口に絶望して背中の衝撃を最後に感じて消失した。

 

 

 

ボロボロにされて帰った8人は、だがしかし、ギルドの面々にあそこには決して近付かないように伝えることが出来るではないか。

それだけで、最大級の功績と言えよう。

 

 

再び戻ってセイバーはというと、サリーとは別方向へと走り回ってオーブを探しつつ敵の拠点の位置をメモしていった。姿は当然のように翠風である。

 

「お、敵発見。30人ぐらいの中規模?のギルドかな。けど、俺にとっては高々30人。サリーには余り目立つなと言われているけど、俺の聖剣には無理かな」

 

それと同時にセイバーは敵へと突っ込んでいく。

それを見た敵も続々と集まってくる。

 

「敵は1人だ!包囲して殲滅しろ!!」

 

敵プレイヤー達はセイバーが単騎だという事を見て一斉に囲んで魔法攻撃を撃ちまくってきた。

 

セイバーはその攻撃をモロに受けると一瞬にして消滅した。まるで、そこにいたセイバーは影のように……。

 

そう、セイバーはこの段階で【気配消去】及び、第2回イベントと同じようにサリーから【蜃気楼】をかけてもらっており、その間に本体が音もなくオーブ付近の敵を倒すとオーブを奪っていた。

 

勿論相手もそれを気づいて追ってくるわけで、セイバーはそれを見つつスキルを発動した。

 

「【クナイの雨】」

 

それと同時に空からはクナイの雨が降り注ぎ追ってくる敵を次々に潰していった。当然、クナイも途中からは防がれるのだが敵はその時点でセイバーを見失っており、さらには敵の戦力の8割近くがやられているためそれ以上の追撃をしたくとも出来なかった。

 

セイバーは大混乱の敵プレイヤー達を尻目に走ろうとすると何かを感じて翠風を投げた。

 

すると翠風の片方の刃が飛んでいった先には青い騎士の装備を着た男がやられておりどこかのギルドの偵察部隊だという事が見て取れた。

 

「残念。【集う聖剣】の偵察部隊さん。監視するならもっとバレないようにしないと」

 

セイバーは投げた翠風を拾い走り始めると先程メモした近くの中規模ギルドを襲うべく動き出した。

 

その近くには20人近い集団がいた。おそらく、どこかの中規模ギルドの攻撃部隊であろう。既に相手も気づいたらしくセイバーの事を確認するやセイバーを包囲した。

 

「どうやら、このまま行かせてはくれないようだな。【影分身】、【烈神速】」

 

次の瞬間、20人の敵プレイヤー達の横を風が吹いたかと思うと敵プレイヤーは一瞬にして蹂躙された。

 

「遅い。遅すぎる」

 

セイバーがプレイヤー達がいた所へと歩いていくとそこには他のギルドから奪ったであろうオーブが落ちていた。

 

「オーブ持ちの集団だったか、ラッキー。襲う手間が省けた。それじゃあ、他の所も狙いますか」

 

 

それからセイバーは幾つものギルドを襲い、次々にオーブを奪う事になるのだが、それに巻き込まれたギルドのプレイヤー達は1人残らず1デスを喰らう事になった。

 

 

場所を変えて【楓の木】の拠点。ここではサリーやセイバーが集めたオーブを防衛していた。

 

そこではクロムが一旦戻ってきたサリーやセイバーから受け取ったオーブを持ってメイプル達の元へ戻り、それらを自軍に置いた。

 

「やっぱりサリーすごいね!」

 

「セイバーお兄ちゃんも!」

 

「ああ、サリーは掠め取り、セイバーはスキルの効果を相手が理解する間もなく秒殺したと簡単に言ってるが……誰にでも出来ることじゃない」

 

2人について話しつつ防衛するメンバーを決める。

そしてメンバーはカナデ、ユイ、マイ、メイプル、ヒビキに決まった。

 

「俺達は取り敢えず奥にいるぞ」

 

「危なくなったら……ならないわね」

 

「ああ、凌いだら私達3人は偵察と削りに出るとしよう」

戦闘が可能になったイズも含めた3人で偵察部隊を屠る予定である。

 

「じゃあ、私は【水晶壁】を使えるように大盾を変えておこう」

メイプルは攻撃をしない予定なため、【水晶壁】での妨害に徹することに決まった。

 

「私達は大槌は1本にしておきますね」

 

「私もミクは隠しておこう!」

 

切り札は隠しておくものである。

 

そうして待ち構えること15分。

次から次へと殺気立ったプレイヤーが飛び込んできた。

 

 

中規模ギルドの面々が鬼の形相で雪崩れ込んだ先には5人の防衛戦力。

距離を詰められる前に魔法部隊による面攻撃で倒そうと考えた彼らは、予定通り面攻撃に成功した。

 

しかし、爆炎が消えた後に現れたのは無傷のまま歩いてくる5人と、1人のプレイヤーの背中の光り輝く天使の翼だった。

彼らが魔法攻撃を防いだと思えるそのプレイヤーを倒しに向かうのは当然であり、その際に大槌を装備している2人を後回しにすることもおかしくなかった。

 

「【水晶壁】!」

 

走り抜けようとしたプレイヤー達が、突然現れた水晶の壁に衝突してよろめく。

そして、それは致命的な隙となる。

 

「「【ダブルスタンプ】!」」

 

「【飛拳】!」

 

鎧を打つ轟音と大気が拳のパンチによって拳型の衝撃波が震える音が響き渡り、その一撃ごとにプレイヤーが葬られる。

鮮血のように飛び散るダメージエフェクトに、彼らは認識を改めた。

あの3人はもっとやばいと。

【ダブルスタンプ】は一般的なスキルであり、普通ならば耐えられるダメージなのだ。

ヒビキの【飛拳】も2人の火力には遠く及ばないものの相手を足止めするには充分すぎるくらいの怯ませる効果があった。

これにより、ヒビキが敵の足止めをし、足が止まった瞬間に双子の攻撃が敵を潰していく。

 

魔法攻撃がさらに打ち込まれたが、相変わらずダメージは与えられていない。

その間にも避けきれなかったプレイヤーが儚く散っていく。

それでも圧倒的人数有利に変わりはなかった。

故にまだ退かない。

 

大槌の動きが遅いこと、羽持ちのスキルの範囲らしき光る地面から3人が出ないこと、さらにそれに部屋の広さを考慮すれば回りこむことが出来ると判断したのだ。

 

「全員!回りこめ!まずはあの羽持ちを倒す!」

その指令に重ねるようにしてもう一つ別の声の指令が5人の方向から飛ぶ。

 

「3人共!アレで!」

 

「「「はい!」」」

彼らにはアレというのが何か分からなかった。

そんな中、大槌を持つ2人が真っ直ぐ等間隔に並び走り出した。

更にヒビキは跳び上がりつつ拳を引き絞る。

 

「【カバームーブ】!……【カバームーブ】!」

効果範囲を示すフィールドが一瞬にして位置を変える。

それも、1度ではなく2度も。

するとどうだろう、後衛のいる場所まで光る地面が到達しているではないか。

それはつまり、あの3人がやってくるということである。

 

「これっ……は!ひ、退け!」

 

そう言って危険な3人との距離を確認しようとした彼は、我関せずとばかりに最奥にひっそりと佇んでいたプレイヤーの周りに、本棚が浮かんでいるのを見つけた。

 

「【影縫い】」

 

静かに呟かれたその言葉は敵である者達全てを3秒間その場に縫い付ける力を持っていた。

 

「な、っ……!?う、動けぇぇえっ!」

 

必死に足を動かす彼らの元に、ついに3つの絶望が飛び込んだ。

振るわれる大槌と振り下ろされた拳は【魔力障壁】を突き破ってなお止まらずにプレイヤーを粉砕していく。

永遠にも思われる3秒が終わった時には後衛は壊滅、指揮官は倒され、先行していた前衛は退路を塞がれてしまった。

僅か数分のうちにたった5名に壊滅させられたことで、彼らは理解した。

オーブは諦めて他のギルドを襲った方が何倍もマシだと。

 

「さぁ、覚悟は良いですか?」

 

ヒビキの言葉と共に前衛も一瞬にして殲滅される事になった。

こうして【楓の木】は結果的に他者を潰し合わせるように仕向けることとなり、自軍の安全を手に入れることと他軍を削ることの、2つの目標を1日目の開始早々にして達成したと言える。

 

そしてその状況を作るためにオーブを手に入れてきた張本人であるサリーとセイバーは、それぞれの獲物となるギルドを眺めているところだった。

 

「さて…ここは人数少なそうだね」

 

サリーが岩陰から見下ろすギルドは現状5人しかプレイヤーがいなかった。

メイプルのようなプレイヤーでない限り1人で防衛をこなせるような者などいない。

となると防衛には普通なら多めに戦力を割くことになるが、そうしていない以上【楓の木】と大して変わらない人数であることが予想出来た。

 

「よし……倒そう」

 

サリーは岩陰からスルリと抜け出て足場から足場へ隠れつつ移動する。

大人数でやってくればすぐにバレてしまう場所だが、1人なら注意深く移動すればそうそうバレない。

 

「朧、【瞬影】」

 

そしてついに隠れ場所がなくなったところでサリーは姿を消し、その一瞬でギルド周りの茂みに隠れた。

 

サリーがそっと聞き耳を立てると、プレイヤー達は気付いていないようだった。

 

上から観察していたサリーは、5人全員が常に上を見ている訳ではなく見ているのは1人だけで、残りは歩いての侵入が可能となる細道を見張っていることを知っていた。

 

「さて……やろう」

 

サリーは茂みから静かに姿を現し、一気に崖上を見張るプレイヤーに近づく。

サリーは声を上げる間もなく倒すことも出来たが、敢えて少しだけ攻撃を遅れさせた。

 

「て、敵襲!!」

 

プレイヤーはそう叫んだ直後にサリーに倒され、そのままそのギルドはサリーの人間離れした技によってオーブを奪われる事が確定した。

 

一方でセイバーはサリーが見つけたものよりも少し大きめな15人が防衛のギルドを見つけた。

 

「さーて、今後の餌食はこのギルドかな!錫音、抜刀!【ロックモード】!」

 

セイバーがスキルを言った瞬間、体を揺らしながらリズムに乗り、そのまま敵へと向かっていくと錫音を銃モードにして撃ち始めた。

 

「ヘイヘーイ!俺のロックに震えて眠れぇえええい!!」

 

セイバーは何故かテンションがハイとなると錫音を撃ちまくり敵プレイヤーをの数を減らしていった。しかも、セイバーの動きが余りにもノリノリすぎるせいで敵プレイヤーは混乱しており、攻撃開始が数秒遅れていた。その隙にセイバーの弾丸が蹂躙していく。

 

「フウウウウウ!!イェエエエエイイイ!!」

 

「ひ、怯むな、やれ!!」

 

「うおおお!!」

 

敵プレイヤーの何人かはセイバーの弾丸をなんとか掻い潜り魔法攻撃や斬撃を撃ち込んできた。

 

「無駄だぜ!!【ロック弾幕】ファイヤ!!」

 

セイバーがそういうと錫音から大量の弾幕が展開されて、それは敵プレイヤーの放った攻撃ごと蹂躙し、残っていた敵を粉砕した。

 

「俺のロックは響きが違うぜエエエエイイイ!!」

 

それと同時にセイバーは悠々とオーブを取ってその場を離れていくと【ロックモード】が解除されてその場に力が抜けるように倒れ込んだ。

 

「はぁ……はぁ……これ、何度も練習したけどキツイなぁ。スキル発動中の5分間は能力が1.5倍になる代わりに自分の意思では何も出来ないし、終わった後の10分間は疲れて能力が半分となる上にあのモードになっている間はスッゲー恥ずかしいセリフ放ちまくるし……。最初これをやった時なんて全く動けなかったからな……。取り敢えず退避しますか。翠風、抜刀」

 

 

セイバーは翠風を抜刀するとさらに距離を取った。今度はもう少し使い所を考えようと思いながら……。

 

 

 

その頃、防衛を任されたメイプル達は見事にその役目を果たしていた。

メイプルが見せた重要なスキルは【身捧ぐ慈愛】だけであり、またそのスキルが貫通攻撃に弱いことを悟らせることもなかった。

全てのプレイヤーを粉砕したユイとマイはメイプルのそばで座り込んだ。

 

「はぁ……はぁ……疲れたぁ……」

 

「うん……ふぅ……そう、だね」

 

ユイとマイが攻撃を一手に受け持って動き回っていたためその疲労もかなりのものである。

 

「まあ、もう当分こないとおもうけどね。流石に僕達にあれだけやられてもう一回挑戦はないよ」

 

「でも、私はまだまだ行けるかな〜!」

 

ヒビキはまだまだ力が有り余っている様子であり余裕そうな笑みも浮かべている。

それはそうとして、カナデの言う通り、やられた者達は既に奪還を完全に諦めていた。

1日目が始まったばかりで死亡回数が2回になるのは論外である。

 

「3人は偵察部隊を倒しに行ってるし、サリーとセイバーは……かなり遠くにいるなぁ」

 

メイプルがマップを確認しながら呟く。

サリーとセイバーのアイコンは別方向にギルドから離れるようにして移動し続けていた。

メイプルはマップを閉じるとふぅと一息ついた。

 

「うん、休憩しておこう。簡単に奇襲も出来ないしね。5人に攻撃は頑張ってもらっておこうっと」

 

メイプルからの期待を受ける5人のうち【楓の木】のブレーキ兼保護者担当の3人は予定通り偵察部隊を屠っていた。

 

「イズのこれ、便利だな」

 

「でしょう?【ドーピングシード】は本当強いわ」

 

【ドーピングシード】とは【新境地】により作ることが出来るアイテムで、1つのステータスを10%上昇させるかわりに一つのステータスが10%減少するというものである。

1度に五個まで使用出来て、効果時間は10分と長い。

 

ただしどのステータスに影響するかは製造後にしか分からないため、欲しいものを作るためには大量の素材を使わなければならない。

イズはその素材をゴールドと引き換えに大量生産し、ギルドメンバーに必要なシードを準備していた。

 

イズはサリーには【VIT】が減少し【AGI】が上昇するドーピングシードを10個渡してある。

クロムは【VIT】上昇と【STR】上昇で、減少は【DEX】だ。

カスミは【STR】上昇で【INT】減少のシードを持っている。

カナデは【INT】上昇で【STR】減少である。

 

メイプル、ユイ、マイのシードは減少が何でもいいため余り物で問題ないのでイズにとってありがたかった。

 

ただし、セイバーに関してはバランスタイプの上、剣ごとでステータスが大きく変わってくるためドーピングシードは使えないが。

 

これらを全員分生産するためにイズが溶かしたゴールドはギルド2つくらい簡単に作れるレベルである。

 

「ふふっ……ゴールドの分、しっかり働いて欲しいわ」

 

「勿論。任せておけ」

 

カスミが【遠見】でプレイヤーを探し当てると、3人は先回りして集団を倒しに向かった。

 

まだまだ第4回イベントは始まったばかりだ。果たして、セイバー達はこのイベントで勝ち抜く事ができるのか……。それはまだ誰も知らない。




第4回イベントの開始と、錫音の本格的は初使用回でした。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと本陣強襲

今回はセイバーがあるギルドを奇襲します。それではどうぞ!


カスミ達が偵察部隊をさくさく屠っている頃、【楓の木】から遥か遠くにある【集う聖剣】ではフレデリカとドラグが防衛担当となっていた。

 

「あー!私も攻めたーいー!」

 

「仕方ねーだろ。俺達は足おせぇからな」

 

ドラグの言うように、2人は【AGI】にはあまり振っていない。

その為【AGI】特化の偵察兼攻撃部隊に割り当てられなかったのである。

フレデリカは大きめの石に座って退屈そうに足をぶらぶらさせていた。

 

【集う聖剣】は大型のギルドなため、防衛には適さない地形にオーブがある。

場所は平地に囲まれた岩場で、岩場までくると見通しが良くない上に侵入経路が多い。

オーブのある場所に天井はなく、岩から飛び降りての奇襲も考えられる。

ただ洞窟が幾つも近くにあり、オーブは隠せないものの休める場所ではあった。

 

そうして暇を持て余していた2人の元にギルドメンバーから敵襲の知らせが届いた。

それを聞いた途端に2人の雰囲気が変わり、ビリビリと威圧感が出始める。

 

「数はー?」

 

「およそ40です!こちらの防衛に匹敵する人数です!」

 

「それなら俺らが行った方がいいな。犠牲は減らせってペインに口うるさく言われたしな」

 

「だねー……さっさと潰そうー」

 

「行くか。ああ、そうだ……全員下がっとけ。俺らでやる」

 

「ふ、2人でですか?」

 

「ああ、問題ない」

 

強者故の慢心ではないかと報告した者は思ったが、2人の威圧感に負けて素直に下がった。

2人が最前線へと向かうと、報告の通り40程が平地を真っ直ぐ向かって来ているところだった。

 

「うちの監視部隊は優秀だねー」

 

「だな」

 

ドラグは大斧を担ぎつつ40人のプレイヤーを見据え、自分の範囲へと入ってきた瞬間に大斧を振り下ろした。

 

ただ、ドラグの範囲は普通の大斧使いとは大きく違っている。

 

「【地割り】!」

 

その範囲は前方20メートル。

地面に50センチ程の深さの裂け目を無数に生み出し、動きを止めるのである。

真っ直ぐ進もうとしていたところに亀裂が入れば足をとられてバランスを崩してしまう。

そして、ドラグがフレデリカと共に戦う際にこの支援は最大限効果を発揮する。

 

「【多重炎弾】!」

 

フレデリカの周りに展開された魔法陣から次々と炎弾が撃ち出される。

それらは足を取られたプレイヤー達を次々に撃ち抜いていく。

 

フレデリカが持っている特殊な能力は【多重詠唱】である。

使用する魔法3発分のMPでそれよりも遥かに多い数の魔法を発動するという反則じみたスキルで、サリーと戦った時のように【多重障壁】によって防御能力も高水準である。

 

「【重突進】!」

 

フレデリカが魔法を放つ中をドラグが突進していく。

そして振り抜かれた凶悪な斧が裂け目から脱出したところのプレイヤーを地面に叩きつけるようにして斬り裂いた。

 

「オラァ!!【バーンアックス】!」

 

燃え盛る斧を振り回し防御を捨てたドラグは隙だらけだが、同時に高火力である。

近づいてくる者を倒し続ければ当然攻撃は受けにくくなる。

攻撃は最大の防御という訳だ。

 

ただ、今回の相手は40人。

流石に囲まれて全方向から攻撃される。

ただ、相変わらずドラグが防御に意識を向けることはない。

そうなると当然スキル込みの攻撃がガンガン飛んでくることになる。

 

「【多重障壁】!【多重水壁】!」

 

しかしそれらはフレデリカが次々に繰り出す防御壁により威力を失っていき、ドラグのHPを削り切らせない。

フレデリカが守ってくれることを知っているドラグは防御に意識を向ける必要がないのだ。

 

「【グランドランス】!」

 

ドラグが地面を叩きつけると、ドラグを中心にして6本の岩の槍が地面から突き出る。

真下から貫かれたプレイヤーは脱出しようともがいた後にフレデリカの魔法のダメージも重なって次々と倒れていった。

 

「こんなもんか!?ハッ!」

 

「【カバー】!」

 

ドラグの斧を大盾使いが受け止めるものの、そのままに振り抜かれた斧に庇った味方ごと吹き飛び地面に倒れる。

これがドラグのもう一つの個性。

【ノックバック付与】である。

ドラグの攻撃を防御すれば吹き飛び、その身に受ければ大ダメージだ。

 

「【重突進】!」

 

追撃の斧が容赦なくHPを削り取る。

1度倒れてしまったならばドラグの追撃を受けて、さらなる衝撃に立ち上がれずに終わってしまう。

 

どんな時も攻撃力は正義だ。

しかし、それを振るえる環境がなければ意味がない。

その点において支援と攻撃を続けるフレデリカは超一流の後衛だろう。

 

「【多重光砲】」

 

フレデリカの周りに現れた4つの魔法陣。数秒後、そこから放たれたレーザーがプレイヤーを包む。

彼らもスキルで応戦するものの、フレデリカへに接近出来ないため有効打にならない。

 

彼らはドラグに背中を向けてフレデリカに向かうことが出来ないのだ。

それは死を意味するからだ。

 

たった1人、ドラグを無視出来ない理由の一つとしてドラグが有名なこともあるだろう。

多くの場合、自分より上だと明確に感じた相手に出せる力は100%になりえない。

 

「「「【ウォーターウォール】!」」」

 

彼らは脱出しようとして逃げ腰になったせいでさらに人数を減らし、残り10人程度になった所でようやく隙を見つけ全速力で逃げ出した。

ドラグは追いかけようとしたものの、自分より足が速いことを理解しフレデリカの元へ戻った。

 

「ふー……暴れた暴れた」

 

「相変わらず人使い荒いよねー!荒いよねー!?いつも前のめりなんだから!」

 

「悪りぃ悪りぃ。でも役に立ったろ?」

 

「まーね。ドラグは動きが分かりやすいから支援しやすいしー」

 

2人で撃退すると言い切った彼らの中には確かに強さ故の慢心もあっただろう。

 

だが、本物の強者は次元が違う。

彼らはその上で勝ちきる。

 

「フレデリカもアレだな。どうしてMPが切れない?なぁ?」

 

「ふふーん!秘密でー」

 

フレデリカはそう言うとオーブの元へと歩いていく。

ドラグもその後をついていく。

 

「あの人達も無謀だよねー。せめて私達の所以外にすればいいのに」

 

「俺達は少し前は洞窟にいた。だから見られなかったんだろ」

 

「あー……そうか。あの人達も運が悪いね」

 

「だな」

 

見事に防衛しきった2人はオーブの元へと戻ろうとするとオーブの方から叫び声と断末魔が聞こえた。

 

「うわあああああ!!」

 

「ぎゃあああああああ!!」

 

そこにいたのは風双剣翠風を両手に持ち50人近い兵士達を一瞬にして蹂躙した剣士、セイバーが立っていた。

 

「この損害じゃあ私達が敵倒した意味無いじゃん」

 

「へぇ、オーブを奪って宣戦布告か?」

 

「いや、オーブは盗ってませんよ。安心してください。俺としてもあなた方との全面戦争は避けたい」

 

「なら、何故ここにいる?」

 

「決まってるじゃ無いですか。ここの近くを通ったら強者の気配がした。来た理由なんてそれで充分でしょ」

 

「ほう。なら、見せてもらおうか」

 

「今はキラーがいないけど、負けるつもりは無いよ」

 

「あなた達が相手なら……激土、抜刀」

 

それと同時に重装甲の鎧に身を包んだセイバーが土豪剣激土を地面に突き刺して立っていた。

 

「おうおう、強そうな装備じゃねーか」

 

「【地割り】のドラグさんが相手なんですよ。パワータイプで勝負です」

 

「上等だ。【土波】!」

 

ドラグの大斧が大地を穿つと土波がセイバーへと迫り、セイバーはこれを剣で受け止めた。その瞬間、セイバーにはノックバックが発動する……はずなのだが……。

 

「この程度ですか?」

 

セイバーはその場で無傷で立っているのだ。ドラグレベルとなるとその攻撃力は一撃で相手に致命傷を与えるレベルに等しい。剣で受け止めたとしても余波は来るはずなのだ。だが、セイバーにはその一撃は全く通用していなかったのだ。

 

「な!?あれを受けて無傷だと?」

 

「しかもノックバックも受けてない?」

 

「スキル【ヘビィレッグ】。これにより俺にはノックバックを無効化できる。そして、この装備の耐久を舐めてもらっては困りますよ」

 

「だったら、これでどうだ!【バーンアックス】!」

 

「【多重障壁】!」

 

ドラグは炎の大斧をぶつけるべくセイバーへと走っていきフレデリカはそれを援護するべくドラグの防御力を上げた。

 

セイバーはその一撃を剣でしっかり受け止めた。ただ、衝撃波で周りの地面が抉れる事になったが……。

 

「ドラグのパワーに張り合ってる!!」

 

「こいつ……」

 

ドラグは笑みを浮かべながら更にパワーの圧力を上げるがセイバーには全く通用している様子は無かった。それもそのはず。セイバーのスキル、マキシマムボディによりSTRの値は常に2倍となっている。そのおかげでセイバーの今の最大STRは驚異の500を誇る。並大抵のプレイヤーではこれは超えられない。例えSTRを極振りにした今のマイとユイの姉妹でも他人からの支援無しではこの数値は超えられないのだ。

 

当然ドラグに超えられる訳がなく簡単に押し返されるとセイバーは激土を突き出しながらスキルを放った。

 

「【大地貫通】!」

 

それと同時に突き出された激土から衝撃波と共に全長30mに及ぶ範囲で地形をお構いなしの強撃が飛んでいった。

 

ドラグは咄嗟にこれを回避するが、直撃を受ければ即死は免れないだろう。

 

「おいおい、こんな威力なんてどうやって止めろと?」

 

「【多重貫通弾】!」

 

フレデリカはセイバーの防御力を突破するのは困難だと踏み、貫通攻撃を撃ち出した。

 

「あんまスキルを見せる気は無いから、そろそろ決めるか【大断断斬】!」

 

これに対してセイバーが打った手はフレデリカの攻撃によりダメージを受けつつも剣のエネルギーを高めていき、巨大となった激土で薙ぎ払った。

その攻撃は2人のいる場所を横一閃に全て薙ぎ払い、AGIがそこまで高くない2人を一撃で斬り捨てた。

 

「くぅー。悔しいけど、次は負けないからね!」

 

「久しぶりに楽しめた。またやろーぜ。今度は、うちのリーダーと一緒にな!」

 

2人がポリゴンとなって消えるとセイバーはオーブを取ろうとしてオーブへと近づくが、何を考えたのか翠風を装備してその場から離れていった。

 

数分後、復活したドラグ、フレデリカとだいぶ前に復活したが、2人の指示で敢えて出てこなかった守備隊が来る。

 

「あいつ……なんでオーブを取らなかったんだ?」

 

「……多分、今うちとやり合うのは得じゃないって思ったんでしょ?今うちの恨みを買ったら戦力差的に負けるってわかってるから」

 

「けど、アイツは俺達とは勝負した。アイツもゲーマーとしての本能が騒いだんだろうなぁ……」

 

そこに2人の報告で帰ってきたペインとキラーが来る。

 

「ドラグ、フレデリカ。どうだった?アイツの力は」

 

「私達じゃあアレの相手は到底無理。それこそペインかキラーじゃ無いと」

 

「そうか。けど、手の内は幾つか見れた。それだけでも良しとしよう。だけど……損害を多くしたのは余り良いとは言えないけどね」

 

「……すまんペイン」

 

「ふん。セイバー……。俺の宿敵。こうでなくては面白くない」

 

集う聖剣のエースクラス達はは改めてセイバーの強さを確認する事になった。

 

ほぼ同時刻、とある森の中。そこでも強者達が激突しようとしていた。

 

集う聖剣の攻撃係、ドレッドは30人の仲間を引き連れてオーブを2つ手に入れていた。

ドレッドが範囲攻撃を得意としないため犠牲も数人出たものの、間違いなく順調と言えるだろう。

 

「もう1ついくか……怠いけど」

 

そう言って次の標的目指して歩き出そうと向かうべき方向を見た時。

静かに佇む1人のプレイヤーを発見した。

その姿を捉えたドレッドは特に理由もなくゾッとした。

 

「………お前ら、予定変更だ。オーブ持って全員帰れ。頼む、急げ」

 

急にそう言われたプレイヤー達は戸惑っていたものの、ドレッドの普段とは違う雰囲気を察して言われた通りに帰っていった。

そうして全員を帰すとローブの人物は近づいてきた。

ドレッドは2本の短剣を抜きつつ声をかける。

 

「さて……お前強いな?」

 

「そうかな?」

 

「……俺は俺の直感を信じる。そうして勝ってきた。だからよ…」

ドレッドは息を吐き、集中力を高めて静かに呟く。

 

「面倒くさいが……ここで潰しておかないとな」

 

「私も……ここであなたに会うとは思わなかったけど」

 

そう言ってローブの人物……サリーが青い2本のダガーを抜く。

それを見たドレッドが目を細める。

 

「……チッ、あいつの報告よりヤバそうだ」

 

そう小さく悪態をついたのをサリーは聞き逃さなかった。

そこでサリーは方針を固め、ドレッドへと向かっていった。

 

偶然出会ってしまった2人の化物の戦闘が始まる。

 

ドレッドもサリーも攻撃系のスキルは使わない。

軌道が決まっているスキルの発動は隙に繋がるためである。

そもそも、短剣を2本持つ者は回避がある程度出来なければ話にならないのだ。

 

サリーの攻撃はドレッドに弾かれ、ドレッドの攻撃はサリーが余裕を持って躱していた。

ドレッドの方が動きは素早かったため、攻撃回数を稼ぐことができ、サリーに反撃を許さなかった。

 

「【超加速】!」

 

その上で先に仕掛けたのはドレッドだった。

加速した状態での攻撃にサリーの回避が一瞬遅れたその瞬間にドレッドが踏み込もうとする。

 

「……ッ!?」

 

しかし、ドレッドは短剣を突き出そうとした所で急に動きを変えて飛び退いた。

 

「………勘…か」

 

「これを疑ったら俺は終わりさ」

 

ドレッドが踏み込むのを止めた理由は勘でしかない。

サリーは自分とはまた違った回避の技術を見た。

ドレッドはサリーと距離をとったままサリーを見据える。

 

「やっぱここで倒さないとと思ったからよ……【神速】!」

 

ドレッドの二つ名にもなっているそのスキルは文字通り神の速度に至る力。

神の速度が人に認識出来るはずがないという風にして設定された力は、10秒間姿を消すというものだった。

 

「………へぇ」

 

サリーは情報収集により二つ名になっているそのスキルを知っていた。

ドレッドがスキルを隠さなかった理由は1つ。

知っているから対応出来るというものではないからである。

 

 

 

一握りのプレイヤーを除いて、対応出来るプレイヤーはいない。

 

ただ、サリーはその一握りだ。

 

「【流水】!」

 

サリーは音と風の流れで見えないドレッドを探り、そしてわざと致命的な隙となっている部分を作ることでそこに攻撃を誘導した。

そして、フレデリカとの決闘でブラフとして見せたスキルを叫んで綺麗に短剣を弾き返した。

 

「【跳躍】!」

 

後ろに飛ぶことで距離を稼ぎ、もう一度接近する方向を探る時間を得たサリーだったが、ドレッドはいつになっても現われなかった。

 

「………帰ったか。まあ、【流水】を見せれたし良かったかな」

 

フレデリカとドレッドが同じギルドだと確信したサリーは、フレデリカに見せた偽の情報により信憑性を増させることが出来ただけで良かったと思ったのだ。

 

「………ドレッドに攻撃を当てるのは苦戦しそうだなぁ」

 

サリーは恐怖と勘をセンサーにして攻撃を避けるドレッドの技術を練習してみようと思い、次のギルドを探しに向かった。

 

 

ドレッドは先に帰らせた集団を追いかけつつ考えていた。

 

「【流水】……それを抜きにしても回避能力は高い……それに、あの感覚は」

ドレッドがこのゲーム内でその姿を見てゾッとしたプレイヤーは3人。

 

1人はペイン。2人目はセイバー、3人目はメイプル。

 

「あいつらと同格だと考えるなら……俺は、何故生き残った?」

 

サリーにはまだ隠された力があり、先程の勝負では手加減している。

でなければ、ゾッとする程の強さたりえない。

と、そこまで考えたところでドレッドは考えるのが面倒になった。

 

「帰ったらペインにでも話すか。頭脳担当は俺じゃねーな」

 

偶然に出会った2人はそれぞれに大事なものを手に入れた。

ドレッドはフレデリカから聞かされたサリーと会ってみたサリーとの間にある違和感を。

サリーは【流水】が存在するとより強く思わせることに成功し、そして何より。

 

さらなる回避技術向上の糸口を手に入れることになった。

 

 

 

そして、サリーはオーブを3つ集めていた。そこにセイバーも合流する。

 

「ヤッホー、サリー」

 

「セイバー。あなたちょっと暴れすぎ。その分だと集う聖剣のギルド行ったでしょ。間違えてでもオーブ奪ったりしてないでしょうね?」

 

「流石に大丈夫だよ。オーブは取ろうと思えば取れたけど、流石に今アイツらを敵にするには早すぎるからさ。それに、代わりのオーブは5個あるし」

 

2人合わせてオーブは8個ある訳だが、それだけ集まればそろそろ1度【楓の木】に戻る頃合いとなる。

 

「そろそろ最初に奪ったオーブの得点が入る頃かな」

 

「確かに、そろそろだな」

 

このイベントが始まってから過ぎた時間の内にいくつもの戦闘が起こった。

当然大型ギルドが最も戦果を上げているが、中規模ギルドも戦略を駆使することで対抗していた。

流石に小規模ギルドは1つを除いて劣勢だった。

 

時間加速するフィールド内の開始時間設定は正午。

もうしばらくすれば日も落ち始める。

夜は今ほど見通しが良くないため、各ギルドの攻撃は激しさを増すだろう。

当然、サリーの襲撃も闇に紛れることでより大胆になる。セイバーは昼間に暴れたため警戒されてしまうが、だからこそサリーの攻撃はより奇襲性を増す事になる。

 

「ささっと帰ろう」

 

「ああ」

 

2人が急いで帰る中。

メイプル達は足を踏み入れてしまったプレイヤーを倒していた。

入ってきたプレイヤーが5人だったためユイとマイが鉄球投擲、ヒビキが飛拳で倒すこととなった。

 

「「メイプルさん!新スキルが手に入りました!」」

 

「えっ!それはすごいね!」

 

ユイとマイは自分のスキルの能力をメイプルに隠すつもりがないようで、スキル名と取得条件、効果を教える。

 

スキル名は【飛撃】で、取得条件は【投擲】でとどめを刺すこと。

 

効果はその名の通り武器を振った際に攻撃が飛ぶのである。

つまり剣を振れば斬撃が、ハンマーを振れば円形の衝撃が真っ直ぐに飛んでいくのだ。

本来の攻撃より威力は落ちるものの、ユイとマイなら落ちてもなお即死圏内だ。

 

因みに、ヒビキはこれをユニークシリーズを手に入れた際に巻物から得ているため、【投擲】無しでも習得が出来たのだ。

 

「次の戦闘で使ってみる?」

 

「止めておきます。切り札は隠しておく方がいいってサリーさんも言ってましたし。ちょっと奥で試して終わりにしておきます」

 

「じゃあ、行ってきていいよ」

 

ユイとマイはオーブの防衛から離れて新たなスキルの使い心地を確かめるとすぐに戻ってきた。

役に立ちたいという意志がはっきりと感じられる、やる気に満ち溢れた目だ。

 

「4人共、サリーとクロムがこっちに向かってるみたい」

 

カナデがマップを確認しつつ話す。

カナデは魔導書の消費を【影縫い】のみに抑えており、メイプルは【身捧ぐ慈愛】でのサポートがメインで夜に備えることが出来ている。

それもこれもユイとマイ、ヒビキが頑張っているお陰だ。

ただ、3人もそろそろ疲れてきている頃だった。

プレイヤーを倒しきる度に座り込んで休んでいることも考えると限界だろう。ヒビキはまだ少しは動けそうだが、流石に1日中はキツいのか息を整える場面もあった。

 

「サリーも戻ってくるし、クロムさんも帰ってくるし、3人は1回休んでおいて。疲れてるでしょ?」

メイプルがそう言うと3人は素直に従ってまた奥へと向かった。

やる気だけでは体は動かない。

時には休む必要がある。

 

「カナデは休まなくていいの?」

 

「僕はほとんど動いてないしね」

そうしてメイプルがしばらくカナデと話しているとクロムが帰ってきた。

 

「カスミとイズは小規模ギルドを攻略中だ」

 

「2人で大丈夫かな……」

 

「ああ、イズが延々と爆弾を作ってはカスミが洞窟内に転がしてる。しばらくすれば終わるだろ」

そんな戦略を取れるのはイズだけである。仮に他に出来るプレイヤーがいたとして、同じように洞窟に拠点があるメイプルが受けたとしても爆音がうるさいだけで無傷だろう。

 

「んで、防衛に戻ってきた訳だ」

 

「ユイとマイ、ヒビキがかなり疲れてきているので…助かります」

 

ゲーム内でそれぞれ1位と2位の強さを持つ大盾が防衛するのだ。

たった2人でもその死ににくさは圧倒的である。

 

 

 

防衛を安心して任せられるからこそ、攻撃に専念出来るというものだ。

だからカスミとイズは時間をかけて確実にギルドを落とすという選択が出来る。

 

「はい、どんどん転がして」

 

「ああ。任せろ」

 

大型爆弾。

工房でのみ生産出来るそれを、イズならばどこでも作ることが出来る。

素材は金で生み出せるのだ。

資金は集められるだけ集めたため、大型爆弾を大量に作ったとしてもまだまだ余裕がある。

 

カスミは次々手渡される爆弾を坂になっている入り口に放り込む。

それは坂をころころと転がっていき、しばらくして爆音を発生させる。

そして、最初のうちは聞こえていた悲鳴も次第に小さくなっていった。

 

「……終わったかしら?」

 

「私が先頭で入ろう」

 

カスミはイズを守るようにして刀を構えて坂を下っていく。

その先にあるオーブの部屋は爆発によって焦げた跡が地面に点々と残っていた。

辛うじて生き残っていた一人のプレイヤーがふらふらと立ち上がり剣を構えたものの。

 

「【一ノ太刀・陽炎】」

 

走って近づき、さらにスキルで瞬間移動し目の前に現れたカスミによって斬り伏せられた。

 

「ふぅ……やはりサリーとセイバーが異常なだけか」

 

サリーはこれをしゃがんで躱してきたが、何度試してもこの攻撃を躱してカウンターに繋げてきたのはサリーだけだった。またセイバーの方も訓練で何度か戦ったが、彼は【陽炎】を見切った上で防御してからの返しの技をぶつけていた。ここからもセイバーの強さがわかる。

とはいえ、【楓の木】の中では最も普通よりなカスミは奇策を用いないからこそひたすらに安定している。

勝てるものには必ず勝つ。

弱点を突かれるといったことがないためである。

 

イズやクロムと比べても心臓に優しいプレイヤーである。

もっとも、敵から見れば全く優しくなく理不尽なまでに強いのだが。

 

「さて、オーブを奪って戻ろうか。復活されても面倒だ」

 

「そうね。そうしましょう」

 

カスミはオーブをしまうとギルドへと戻ることにした。

 

きっちり1つ1つ成果を持ち帰ることでアクシデントがないように努めたのである。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと炎帝ノ国

第4回イベント1日目。現在は大規模ギルドと特別な小規模ギルド1つがトップ争いをしており、大型ギルドの中でも勢力のあるギルドの【集う聖剣】と【炎帝ノ国】は一歩抜け出ていた。それを追いかける形で【楓の木】が続いている。

 

【炎帝ノ国】は木がそこそこ生えた草原地帯でオーブを守っていた。

そこにいるのは第1回イベント8位の【トラッパー】ことマルクスと、10位の【聖女】ことミザリーである。

 

ミザリーは範囲回復のスペシャリストだが、範囲攻撃も得意とする。

治すも壊すも彼女次第という訳だ。

 

【トラッパー】ことマルクスは第1回イベントでは上手く罠を使ったことを隠していたつもりだが、セイバーにその姿を遠目から確認されてしまった上に後にギルドメンバーが話していた内容から偶然フレデリカに流出してしまった。

ギルドメンバーが増えることでこういったデメリットもあるにはある。

 

人の口には戸が立てられないのだ。

 

【トラッパー】という2つ名を付けられたマルクスの特技は罠のように設置出来る魔法を使うことである。

その種類も煙幕を発生させるものや、火柱を上げるものなど様々だ。

それらは味方に属する者以外、つまりギルドメンバーやパーティーメンバー以外が範囲に入った際に発動する。

 

事前に設置する必要があるため、攻めるのには不向きで、防衛に回ることとなったのである。

5位の【炎帝】のミィとミザリーと同じく10位の【崩剣】のシンはそれぞれ攻撃に向かっている。

 

「大丈夫かなぁ……罠を突破されたりしないかなぁ?」

 

「大丈夫ですよ。それにほら突破されても頼もしいメンバーの皆さんがいます」

 

その場にいるギルドメンバーはそれを聞いて、お前達の方が頼もしいという目線を送っていた。

 

「心配だなぁ……オーブを取られたら怒られるよなぁ……」

 

こう言ってふらふらとオーブの周りを歩き回るマルクスだったが、その心配をよそに彼の置いた罠は猛威を振るっていた。

罠は発動するまで見えず、発動した頃にはもうほぼ避けられない。

そして設置された量が多いのと設置位置が上手いため、プレイヤー達は見事にやられていた。

火柱が上がったり、爆音がしたりするとその方向からプレイヤーが来ていることが分かるため防衛も簡単になるのだ。

 

「ほら、もう今回の襲撃者もボロボロですよ。罠が効いています」

 

「そっかぁ……なら安心だなぁ」

 

ボロボロになったプレイヤー達は、ミザリーの回復によるサポートを受けたギルドメンバーに倒される。

それが終わるとマルクスは護衛を連れて罠を再設置しに行くのである。

 

 

 

「えっと……ここかなぁ。んー……後はここ……?」

 

ぶつぶつと呟きながら恐る恐る罠を設置していくその姿を見てギルドメンバーは何故これで上手くプレイヤーを倒せるのかが不思議だった。

 

適当に置いているように見えるが、面白いようにプレイヤーが罠を踏んでいくのだ。

 

一言で片付けるなら才能なのだろう。

 

サリーが回避に優れるように、メイプルが何かしらを見つけてくるように、セイバーが聖剣を自在に使いこなすように、ドレッドが恐怖をセンサーにするように。

上位陣のほとんどは不可解に思えるような何かを持っている。

 

マルクスの罠設置能力もそういったものの1つで、一種の勘。

そう、感性に支えられている。

 

マルクスは罠を設置し直してオーブの近くまで戻ってきた。

挑んでくるプレイヤーも徐々に減っており、マルクスはようやく安心出来るようになると一息ついた。

 

「何者かが来てます!」

 

ミザリーの声に飛び上がったマルクスがミザリーの指差す方向を見ると、連続して火柱と爆炎が発生していた。

 

「私が見てきます!」

 

どうしようどうしようと慌てるマルクスをおいて、ミザリーが5人のギルドメンバーと急いで現場に向かう。

 

 

すると、そこにはローブを纏った人物が2人いるだけだった。

ミザリーはそこで起こっている光景に目を疑った。

1人は罠を踏んだ後、まるでそこに罠があると分かっていたかのように俊敏に回避するのだ。もう1人に至っては罠の場所すら踏まない。

 

「んー……恐怖センサー、もっと正確にしたいけど……これは私には難しいかな。セイバー、アンタは出来てるみたいだけど何かコツは無い?」

 

「無い!というか、今サリーが極めようとしてるのはドレッドさんがよく使っている勘で危機を回避する技術だろうけど、それは多分何度も場数を経験して、そこから見出した物だろうから極めようと思ったらかなり練習しないと」

 

「やっぱ簡単には出来ない……かぁ」

 

それだけ呟くと、ローブを纏った2人はその場を去っていった。

 

「………助かりましたね」

 

「な、何がでしょう?」

 

「全く……どこの化物ですか。スキル?それとも素でしょうか……」

 

去ってくれたのはありがたいとこぼし、マルクスの元に戻ったミザリーはその後不安になったマルクスが罠を設置し直すのに付き合うこととなった。

 

「この辺どうかなぁ……いや、また突破されるかも……ううぅ」

 

「大丈夫です。あのプレイヤー達が常軌を逸しているだけですよ」

 

「そうかなぁ……」

 

そう言っている間に逆側で火柱が上がりプレイヤーが倒されているのを伝えられたマルクスは少し落ち着いた様子で設置作業を進めていった。

 

それからしばらくして【炎帝】はギルドメンバー20人を引き連れて発見したギルドを滅ぼそうとしていた。

 

そして、帰る帰ると言いながら寄り道をしていた2人がその姿を隠れて見ていたのである。

 

【炎帝】の名を持つ女性。

ミィは集団の先頭に立って、剣を構える敵へと近づいていく。

 

「どけ。そうすれば死なずに済むぞ」

 

ピリピリとした空気が張り詰める中、ミィの透き通った声が響く。

ただ、それはオーブを守る者達にとっては受け入れられる提案ではない。

 

「かかれっ!」

 

前衛がミィに向かって走り出す。

 

ミィの武器は杖。

服装は赤いマントが印象的ではあるが、後衛故の防御の低さがある。

 

「【炎帝】」

 

静かに呟かれたその言葉に応じてミィの周りから直径1メートルの炎球が2つ現れる。

両手の動きに連動して動く炎球はその威力によって敵をねじ伏せる。

ミィが先頭の理由はそれが最も攻撃力を発揮出来るからである。

文字通り超火力で敵を焼き尽くすのだ。

 

「愚か。実に愚かだ」

 

余裕を持って敵を滅ぼすその姿にはカリスマ性が見て取れた。

 

「【噴火】」

 

地面が爆発し、火柱が噴き上がる。

炎を自在に操るミィはその性質上派手な一撃が多い。

それはミィの力を印象付け、敵の萎縮を促進する。

 

「【爆炎】」

 

さらに、攻撃を乗り越えて近づいてきた者には低ダメージ高ノックバックの爆風が襲いかかる。

圧倒的な力の差がそこにあった。

 

ただし、燃費は非常に悪い。

派手な魔法は消費も大きいのが当然だ。

そのため後ろの20人はインベントリに詰め込めるだけのMPポーションを詰め込んだ、いわば補給部隊である。

 

「ハッ……この程度か。終わりだ」

 

最後の一人を焼き尽くしたところで炎球も消えた。

 

「MPポーションです」

 

「ああ」

 

ミィはMPポーションを受け取るとMPを回復させてふぅと一息ついた。

 

「オーブを回収しておけ」

 

「はい」

 

ミィはすっと目を閉じ達成感に浸る。

 

 

ただ、それが致命的なミスだった。

 

「ぐあああっっ!?」

 

ミィが何事かと目を開けた時には既にオーブを回収していたプレイヤーが光となって消えており、ローブを着たプレイヤー2人がそのオーブを奪い取って走り出すところだった。

 

「っ!……奴等は強い。私には……分かる。オーブを持って先に戻れ、全滅もあり得るぞ!」

 

カリスマ性を発揮しての号令はギルドメンバー達に響いたようで、彼らは既に手に入れていたオーブを持って帰っていき、ミィはローブの2人を追った。

 

「【フレアアクセル】!」

 

ミィは爆炎を上げながらローブの人物を追いかけていたものの、しばらく進んだところで完全にその姿を見失ってしまった。

 

というのもローブの人物、すなわちサリーが曲がり角で【瞬影】を、セイバーは【烈神速】を使い見えないほどの速度で離脱したためである。

ミィが追跡対象が急に消えてしまって周りを確認する内にその場を離れたのだ。

 

そんなことは知らないミィはひたすらに周りを探し続けた後にぺたんとその場に座り込んでしまった。

 

「ああ……失敗したぁ……皆ごめんなさいぃ……」

 

そこにいたのは先程までのミィとは全く違う雰囲気のミィだった。

カリスマ性は何処へやら、弱々しい姿で自分のミスを反省する姿があるのみである。

 

「キャラなんて作らなければよかった……」

 

そう、先程までのミィはキャラを演じているだけだったのだ。

強力なスキルを手に入れてあれよあれよと言ううちに注目されるようになってしまい、素の状態を見せるのが恥ずかしくなってキャラを演じてしまったことをミィは今でも後悔している。

 

ミィが感じていた達成感とはつまり、今回も誰にも素の自分のことがバレなかったことへの達成感である。

 

「ううっ……最悪だー……くそぉ、何処かのギルド一つ潰して帰ろうかな」

 

ほとんど八つ当たりである。

ただ、これを実行出来るだけの力がミィにはある。

そしてサリーを探し回っている時に見つけた中規模ギルドがお手頃な人数だということも知っている。

 

「1つは持ち帰らないとなぁ……本当あのローブの2人、次会ったら絶対焼く」

 

ただ、そのローブを着た2人の内、1人は既に会ったことのあるセイバーだと言うことにミィは気づかなかったが……。

 

こうして爆炎とともに中規模ギルドに突っ込んでいったミィは地面から火柱、空中から炎球、おまけにマルクスから貰った【特製痺れ罠】も一つ使ってたった1人で中規模ギルドを潰した。

 

 

これが出来るのはミィが火力面に優れているためであり、向き不向きがあるため第1回イベントの10位以内のプレイヤーなら全員出来るという訳ではない。

安定して出来るのはミィの他にはペインとメイプルとセイバーくらいだろう。

ミィはオーブをしまうと爆炎と共に【炎帝ノ国】へと帰っていった。

 

 

 

 

「おかえり、ミィ」

 

オーブの周りをふらふらと歩いていたマルクスがミィが帰ってきたことに反応する。

オーブを取り返しに向かっていたことを先に戻ったプレイヤーから聞いているようで、それについて触れてきた。

 

「新たにオーブを1つ奪った。奪われたオーブは取り返せなかった。悪いな」

 

1人でギルド1つを潰したという事実はギルドメンバーが何度聞いても凄まじいことのようで、どよめきが起こる。

 

「またしばらくすれば出る。準備しておけ」

 

「「「はい!!」」」

 

元気のいいその返事に本当は行きたくないと内心思うミィだった。

 

 

 

サリーは今度こそ【楓の木】に帰ることにした。

持っているオーブを奪われれば一気にそのギルドの得点を上げてしまうため、流石に危険だと判断したのだ。

 

「最後の1つはラッキーだったね」

 

ちょうどミィが目を離してくれたお陰で油断を突くことが出来たのだ。

 

「確かにな。ただ、1日目の間に動けるだけ動いておかないと、俺達小規模のギルドは太刀打ち出来なくなる。だが、そろそろ休まないと保たないぞ?」

 

「いや、私はまだ動く。それよりもセイバーは1日目から派手にやりすぎ。これ以上は晒せないから一旦ギルドで防衛して」

 

「はいはい」

 

メイプルと共に勝つために、セイバーはともかく、サリーは限界まで活動するつもりだった。

 

2人は心に決めた通りに【楓の木】へと帰ってきた。

 

「「ただいまー」」

 

2人が戻ってきた時はちょうどユイとマイ、ヒビキが鉄球を拾っているところだった。

メイプルも手伝おうとしていたものの全く戦力にならないことを思い出して諦めた。

カスミや【剛腕】を使ったヒビキでやっと持ち上げられるかどうかといったくらいの重さなのだから、メイプルに持ち上げられるはずがない。

 

「あっ!おかえりサリー!」

 

「オーブがはい、9つ!」

 

「「「「おおー!!」」」」

 

極振り組4人から歓声が上がる。

 

これを守りきればポイントがまた一気に加速する。

4人の歓声が聞こえたのか、奥からクロムとカナデが出てくる。

それに少し遅れて再度偵察に向かっていたカスミとイズが帰ってきた。

 

奪ったオーブは計15個。

その内5個は防衛に成功し既に元の位置に戻っている。

最初にサリー、カスミ、クロムの3人で手に入れたオーブとサリーの奇策で中規模ギルドから奪った2個、そしてセイバーが暴れて奪った2個のオーブである。

 

カスミとイズが持ち帰ったオーブとサリーとセイバーの持ち帰ったオーブ。

計10個を防衛する必要があるため、気の抜けない状況に変わりはない。

ただ、守るのはゲーム内最強の盾だ。

破れるプレイヤーがいたとして片手の指で足りるだろう。

 

「あっ、そうだ!私はオーブだけ盗んできたようなものだから多分その内奪い返しにくるよ。小規模ばかりだけど」

 

「俺は中規模の奴らからも奪ってるが、その度にその場にいる奴らほぼ全滅させてるし、そこまで総がかりで来る事は無いと思う」

 

「本当、何回聞いても信じがたいことをしてるよね……」

 

カナデが呟く。

 

「おっと、噂をすればってやつだ」

 

クロムが武器を引き抜き、入口を見据える。そこから次々と突入してきているプレイヤーは明らかに小規模ギルド1つの人数ではなかった。

 

小、中規模ギルドが劣勢の中、即席の同盟が出来たのである。

ギリギリまで裏切るメリットが存在しないこの状況だからこそ、オーブを奪えるかどうかというところまでは互いに利用し合うのである。

 

飛び込んできた者達の目に映ったのは10個のオーブ。

そして10人だけのプレイヤー。

即席の連合軍で連携はそこまで取れていないものの総勢60名のプレイヤーがいる。圧倒的物量差。

また、宝の山を目の前にして士気も高まる。冷静に敵を倒した後に味方だった者達を倒すことを考える者も出始める。

 

ああ、彼らの何と幸運なことか。

たった10人を倒せばオーブ10個の総取りすらあり得るのだ。

このようなチャンスは2度と訪れないかもしれない。

 

全員が雄叫びを上げて突撃する。

魔法が飛び交い、土埃が舞う。

目を血走らせて駆ける彼らと対照的に10人はのんびりと構えた。

 

「10人で戦うのって初めてだっけ?」

 

「10人全員が戦闘に関わるのは初めてかな?イズさんとか」

 

「メイプル、いつもの頼む」

 

クロムがそう言うだけで全員がああアレのことかと理解する。

そもそもこのイベントでのメイプルの役割が今の所1つだけだ。

 

「りょうかーい!【身捧ぐ慈愛】!」

 

「はい、【ヒール】」

 

減ったメイプルのHPはカナデが即座に回復させる。隙はない。

メイプルの前進に合わせて9人が歩を進める。

正面衝突した両軍が斬り合う。

ユイとマイがあちこちからくる攻撃を次々と受けてしまうが、2人が倒れることはない。

 

「「【ダブルスタンプ】!」」

 

轟音と共に弾け飛ぶプレイヤーを見て、2人から離れたプレイヤーに襲いかかるのは鉈と刀、剣だ。

 

「おらぁっ!」

 

「ふっ!」

 

「うらっ!」

 

3人の攻撃を耐え、躱してオーブを先に狙おうとする者達は利口だった。

輝く地面の範囲から逃れ、オーブへと向かう者達に降り注いだのは爆弾の雨。

 

「あら、悪い子ね?オーブだけ狙うだなんて」

 

イズもメイプルがそばにいれば最早戦闘員と変わらない。

十分過ぎる程に脅威となる。

 

 

それを無理やり潜り抜けた者はめでたくカナデの図書館にご招待だ。

 

「【パラライズレーザー】」

 

カナデが放った低威力、高確率麻痺のレーザーが空間を水平に薙ぐ。

追加効果が強力なために、届く範囲が狭いことを除けば文句なしだ。

ただ、カナデが倒さなくとも後始末をしてくれるプレイヤーがいる。

 

「ぐっ…がっ!」

 

「く、くそっ!」

 

レーザーを受けたプレイヤーが呻きながら逃げようとするものの、動きは緩慢だ。

 

「誰が逃すと言った?ブレイブ、【覚醒】、【ファイヤーウォール】」

 

それと同時にブレイブが出てきて炎の壁を展開し、逃げるプレイヤーの道を塞ぐ。

 

「はーいさよなら」

 

トドメは彼らからオーブを奪った張本人。

サリーによって、カナデとセイバーに動きを止めさせられたプレイヤーはギルドに送還されていく。

こうしている間にも前衛の攻撃により倒れる者が次々に出る。

気づけば同盟軍は崩壊、心の折れた者から順に敗走に入っていた。

 

ただ、そんな中で一矢報いようとする者も確かにいた。

 

「【跳躍】!」

 

クロムとカスミの間をすり抜けて飛び込んだプレイヤーはもう生き残る気などさらさらなかった。

 

そして天使の羽を持ち、前線を支えたプレイヤーに一撃加えてやろうと剣を振るった。

 

「【ディフェンスブレイク】!」

 

「【ピアースガード】」

 

剣と言葉を叩きつけるようにして振るった渾身の一撃はあまりにも無慈悲な宣言にその効力を失い弾かれた。

迫り来る2つの大槌の気配を背中に感じつつ、最期にそのプレイヤーが見たのはフードを目深に被っていてはっきり見えていなかったプレイヤーの顔だった。

 

「メイプルかよ……ミスったな」

 

彼は諦めと共に小さく呟き、大槌にその身を打ち据えられた。

 

残っていたプレイヤー達は全て、オーブに触れることは出来なかった。

完全敗北と言える。

 

ああ、しかし彼らの何と幸運なことか。

彼らは史上初めて10人での戦闘を目撃し、体験したのだ。

きっとイベントが終わった時には自慢気に語ることだろう。

ゲーム内で最も恐ろしいパーティーとの戦闘を体験したのだと。

 

そうしている内に空は次第に闇に包まれていき、遂に夜襲と暗殺の蔓延する初めての夜が訪れた。




次回は1日目夜の戦闘回になりそうです。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと夜の戦い

第4回イベント、1日目の夜。ズブリと突き刺さったダガーにより、また1人のプレイヤーが光となった。

 

日が沈んで3時間。

メイプル達は危なげなくオーブを守りきり、ポイントを加速させた。

早めに防衛から抜けたサリーは再びフィールドを駆け回っているのだ。

3時間の内に奪ったオーブは2つ。

倒したプレイヤーは数え切れない。

今も1人のプレイヤーを倒したところである。

 

「ふぅ、もう9時か……明日の朝までに後いくつオーブを奪えるか……」

 

サリーがマップを確認する。

そこには夥おびただしい量のメモが書き込まれていた。

内容はセイバーから貰ったものも合わせて武器修理アイテムの場所、地形、ギルドの規模や防衛の基本人数、偵察部隊がよく通る道に、待ち伏せの可能性の高い場所など多岐にわたる。

 

イベント開始から9時間。

走り回って続けた偵察によって手に入れた情報を元に、ギルドの隙を突いているのである。

サリーがここまでして1日目から全力を尽くしている理由は、倒しやすいギルドが残っている内にオーブを奪いたいからだ。

後半になればなるほどオーブを巡る争いは激化する。

最終日までに小規模ギルドの全滅というのもあり得るのだ。

そうなってはオーブを奪えない。

 

「先行逃げ切りが唯一の勝ち筋……」

 

だからこそサリーは走り続ける。

 

 

無理と危険を覚悟して。

 

 

「次は……よし、ここにしよう」

 

サリーは再び走り出す。

その頃、あちこちで出来つつある同盟が、サリーに倒された偵察部隊からサリーの存在を知りつつあった。

 

 

 

所変わって【楓の木】ではユイとマイが話していた。

 

「ねえねえ、マイ。私達、やっぱり普通の攻撃は避けられないね」

 

「そうだね……でも短剣ならまだ見慣れているからもしかすると1回くらいは避けられるかも?」

 

サリーの武器である短剣の攻撃動作は、訓練の中で最も目にした回数が多い動作だった。

そのため、他の武器と比べれば通常の攻撃の動きも読みやすいのだ。

と言ってもあくまで比較的読みやすいだけであり、安定して躱せる訳ではない。

 

「それでね、私思ったの。私達の個性を目一杯使える戦法ってあるかなって」

 

ユイはフルメンバーでの戦いで全員が個性を発揮しているのを見たことで、自分達も何か出来ることがないか試してみたくなったのだ。

もっとも周りから見れば2人も個性の塊なのだが、とにかく自分というものを発揮して、役に立ちたいと思うお年頃な訳だ。

 

「うん、なるほど」

 

「それでね、1つ思いついたんだけど……」 

 

ユイがマイの耳元で小声で話す。

それは思わず目を見開いてしまうような突飛さで、そして2人だからこそ可能になる戦法のように思えて、2人は顔を見合わせてどちらともなく笑い合った。

 

「すごい!いいと思う!」

 

「でしょ!ここぞっていう時に上手く出来たらいいなって」

 

「そうだね!」

 

2人は作戦の細かい部分を話し合い始めた。

それを少し遠くから眺めつつ話しているのがヒビキ、カナデ、メイプル、クロム、セイバーの5人だ。

 

「僕、ちょっと偵察に出てくるよ。2時間くらいになる」

 

「私も行く。そろそろ私も外で暴れたい」

 

「そう?分かった」

 

メイプルはカナデとヒビキの外出を許可した。

防衛戦力も十分。2時間で帰ってくるのなら就寝時間での交代にも間に合う。

止める理由がない。

 

「メイプルぅー。俺も行ったらダメなのかぁ?」

 

「ダメだよ。サリーに大人しくしなって言われたんだから」

 

「うぅ……てか、俺的にはサリーの体が心配だよ。アイツ、勝つためにはどんな無茶するかわかんないからなぁ」

 

 

所変わって外に出たカナデは初めて、ヒビキは2回目のギルドからの外出をするとマップを確認して歩き出した。

 

「2人に貰った情報通りならこっちかな」

 

「私はこっち行きますね」

 

2人は偵察半分、オーブ奪取半分くらいの気持ちで外に出てきた。

 

カナデに関してはサリーとセイバーの作り上げたメモで溢れたマップは、10人での戦闘の後に見せてもらっているため完全に記憶している。

ヒビキの方は地図を見て完全に記憶している訳ではないが、元から持っている戦闘の勘で移動を開始していた。

 

「ちょっと無理し過ぎだし、助けてあげないとダメだね」

 

「私も今回は暴れようかな〜!」

 

サリーも無制限に動ける訳ではない。

休む時間を与えるためにカナデとヒビキもオーブを奪いに向かう必要があった。

 

カナデは目的の方向へと歩き、そして隠れている森のその木々の隙間から夜闇に輝くオーブを目撃した。

 

「中規模ギルドのは……あれだね」

 

カナデは本棚を具現化させるとどれを使うかを吟味し、最終的に2つの魔道書を使うことに決めた。

 

「思ったより早く帰れそうかな……さて【巨人の腕】」

 

カナデの声に応じて1冊の魔道書が飛び出てくる。

効果は右腕の変質。

ほんの少しの時間だけ腕を長く太くする魔法。

操作性が悪く、効果時間も短いため細かいことは出来ない。

しかし。

 

 

7メートル先のオーブを握り込み足元に投げることくらいは出来る。

 

 

「【フレアアクセル】」

 

カナデは爆炎と共に加速し、オーブ1つを手にしてギルドへと駆けていく。

 

「お、追えっ!!今すぐだっ!」

 

カナデの背後から聞こえる声はすぐに遠のいていく。

不意打ち過ぎる一撃に反応が遅れてしまった彼らは魔境にお宝を持ち帰ることを許してしまった。

 

「これで、少しでも助けになればいいんだけど」

 

今も走り続けているであろうサリーのことを思い浮かべながら、カナデは【楓の木】の中へ駆け込んだ。

 

ヒビキの方もギルドを見つけるや否や腰のブースターで一気に加速して敵へと肉薄し、敵を殴り倒した。

 

異変に気づいた敵はワラワラと寄ってくるが、ヒビキは更に敵を攻撃していった。

 

「【ジャッキバウンド】!」

 

ヒビキを囲んで斬りかかってくる敵がヒビキへと攻撃を当てる前に足のジャッキが引き絞られてそれがゴムのように戻る勢いを利用し、ジャッキを地面へとぶつけ、その衝撃で飛び上がるとそのまま両腕のガントレットの形が変形してブースターがつく。

 

「【アームジェット】!」

 

そのままオーブへと突っ込んでいきオーブを掠め取った。敵は慌ててヒビキを追いかけるが、ヒビキは腰と腕の3箇所のジェットで空中を猛スピードで飛行しながら自身のギルドの拠点まで逃げ切り、中へと入った。

 

カナデとヒビキがオーブを奪う中、サリーは変わらず闇夜に紛れてギルドを襲っていた。

 

「朧、行くよ」

 

サリーは首元の朧に声をかけて静かに小規模ギルドへと忍び寄る。

屋外にあるギルドは松明などのアイテムによって明るさを保っていることが多いため、遠くから見ても場所が分かる。

襲われやすくなってしまうとしても、明るくしておく必要があるのはサリーのようなプレイヤーがいるせいである。

 

サリーも夜になってから、歩き回るプレイヤーが増えたことを感じていた。

 

「人数は……15人か」

全員を倒すことも可能ではあったが、サリーは戦闘は避けたかった。

 

目立たないためにそうしようと決めたサリーだったが、心のどこかで、疲労が溜まっているから戦闘をしたくないとも思っていたのだ。

 

サリーは歩き回る見張りが背を向けたその一瞬で駆け出す。

 

「【超加速】!」

 

もつれそうになる足を動かして、オーブへと一直線に進む。

邪魔するものは切り捨て、魔法で妨害する。

1日の内に何度も繰り返した奇襲の動きは1回ごとに洗練されて無駄のないものになっていっており、元々のサリーの能力も相まって、少し強い程度のプレイヤーではもう打ち破れなくなった。

 

「【跳躍】!」

 

地面を蹴ってオーブに手を伸ばす。

インベントリにオーブが吸い込まれたのを確認して、そのまま台座を飛び越えて疾走する。

サリーは立ち止まることは出来ない。

現在、インベントリには今のを含めて3つのオーブが入っているためだ。

常に追手が襲いかかってくる危険があるのである。

 

「はあっ…!次っ!」

1つでも多くのオーブを得るために。

サリーは止まらないし、誰もそれを止められない。

 

「朧、【狐火】!」

 

サリーは朧の炎で先ほどのギルドの追手の足を止めてさらに距離を離す。

ギルドを防衛するのは基本足の遅いプレイヤーだ。

【楓の木】がメイプルを防衛に置いているのもその為である。

となると、1度奪ってしまえばサリーのようなプレイヤーにとって逃げるのは容易いのだ。

 

追手の足を止めて、暗闇に紛れて見失わせて、後は奪われたオーブの位置をマップを見て確認している内に攻撃の届かない場所まで行ける。

それでも追ってくるようであればどこかのギルドに突っ込めばいい。

 

「次……次は……ん?」

 

サリーの視界の端に映ったのは松明に照らされて煌々と輝くエリア。

防衛のメンバーが1人も見えないというこの上なく手薄なギルドだった。

 

「いける……!」

 

サリーは進行方向を変えてそのオーブを取りに向かった。

罠かもしれないと警戒しつつ、それでいて迅速に近づいたが、結局1人のプレイヤーも出てこなかった。

 

「……奪われたオーブが再生したところだったかな?地形から見るに中規模ギルドだね」

 

このギルドのプレイヤーが戻ってきてしまうと面倒なことになるため、サリーは足早にその場を去った。

 

 

その頃メイプルはカナデが持ち帰ったオーブの防衛をしていた。

 

「【水晶壁】!」

 

シロップの背中に乗るために跳ね上げられた時に使ったきりだった【水晶壁】は今回のイベントで素晴らしい活躍を見せている。

目の前にいきなり障害物が現れ立ち止まった所を撃破、このパターンで数を減らし、次にメイプルによって死ななくなった前衛をぐいぐいと押し付けていく。

 

メイプルのサポートがこの上なく強力なのだ。ユイとマイは何度も何度も攻撃を受けているし、クロムも囲まれている。

セイバーに関しては囲まれようがあまり関係ないも同然だが……。

なのに、崩壊するはずの前線はいつまでも残り、回避を捨てた攻撃により命を失ってしまう。

 

メイプル側には回避という行動がほぼない。それに対し、攻撃側は相手の攻撃を避けなければならない。

ここに殲滅力の差が生まれる。

攻撃に使える時間が圧倒的に違うのだ。

 

メイプルを倒せなかった彼らは当然のように敗北した。

 

「ふぅ……終わったね」

 

「そう……ですね……」

 

「疲れました……」

 

「そろそろ1日目が終わるしな。交代で眠るか?」

 

「確かにそうですね」

 

クロムの提案に全員が賛成する。

サリー、イズ、カスミは現在外出中なためローテーションに組み込めないので、人数を考えると2人ずつ短い時間休むのがベストということになった。

 

「ユイとマイからにする?私は基本はいた方がいいかな?」

 

「んー……メイプルがいない間は僕が防衛に入るよ。範囲支援も出来るしね。後は、僕も2人からでいいと思うよ」

 

ユイとマイの疲労はピークである。

そろそろ休む必要があった。

 

「じゃあ、早速休んできて」

 

眠る時間を決めて、2人を送り出す。

 

「イズとカスミはそのうち帰ってくるだろうしな」

 

2人が帰ってくれば防衛がより楽になるためユイとマイを今休ませても特に問題はなかった。

 

「ここからが大変なんだよね」

 

防衛人数が嫌でも減る時間帯に差し掛かっている。

ここで隙を狙って攻撃に転じるか、堅実に防衛に徹するかはギルドの人数と現在のポイントによって変わるだろう。

【楓の木】はポイントを稼ぎつつも、防衛は絶対に成功させるいう面倒なことをしなければならない。

それも10人でだ。

 

「頑張ろう。5日目まで生き残るために皆を守る。うん、そう」

 

「……」

 

セイバーは何かを考え込んでおり、それに気づいたメイプルが話しかけた。

 

「セイバー、どうしたの?」

 

「いや、ちょっと胸騒ぎがする。サリーの方で何かありそうな気がして……」

 

「サリーなら大丈夫。きっと戻ってこれるし、いざとなったら……」

 

「そうだな……」

 

2人は決意を新たに深夜を迎えた。

 

深夜1時。

サリーは1度も拠点に帰ることなくオーブ奪取に専念していた。

得られたものは多い。

サリーのインベントリには10個のオーブが入っていた。

それだけでも驚異的だが、サリーの目的はオーブを奪うことだけではなかったため、帰るわけにはいかなかったのだ。

しかし、その目的もようやく終わろうとしていた。

 

「ふぅ……そろそろ帰ろう」

 

ぐったりとするサリーはそれでも走り続ける。

止まれば追手がやってくるのはもう随分前から変わらない。

 

「……ん?」

 

サリーが立ち止まり岩陰に身を隠す。

もう1度集中し直すとはっきりと分かるプレイヤーの気配。

 

それも10、20ではない。

もっと多く。

そう、100よりも多い。

 

「囲まれてる……!」

 

疲れのせいで気づかないうちに索敵能力がいつもより下がっていたのだ。

バラバラと広い範囲で物陰に隠れているプレイヤー達に居場所がバレていることは明白だった。

 

「………このオーブのどれかが、大規模ギルドと繋がってた……!」

 

サリーはその答えに辿り着く。

しかし、どれかは確定させられないためオーブを捨てて逃げるわけにもいかなかった。

 

「……逃してはくれない、よね」

 

サリーは手早くパネルを操作するとマップを確認し【楓の木】のメンバーの位置を確認し、メッセージを1つ送るとドーピングシードを5つ取り出した。

 

「……何としてでも帰ろう」

 

覚悟を決めたサリーのいるエリアが昼間のように明るくなる。

誰かの魔法が空に小さな太陽を浮かべており、これにより暗闇に紛れて逃げることも出来なくなった。

罠にかかったプレイヤーを確実に倒そうと準備をしていたのは明白だった。

 

「……相手としては、運良く大物がかかったってわけか」

 

サリーはドーピングシードを全て飲み込むと岩陰から出た。

囲んでいたプレイヤー達も次々に潜伏を止めてサリーを取り囲む。

攻撃がしやすいようにある程度プレイヤーごとに隙間はあるが到底抜けられそうにはない。

 

「よし、追い詰めた!いくぞ!」

 

声を上げて突撃しようとしたプレイヤー達はしかしその足を止める。

 

「追い詰めた?誰を?」

 

それはサリーの雰囲気が変わったためだ。

集中しているなどという生易しいものではない。

サリーから発せられるのは最早明確な殺気だった。

1歩動けば死ぬ。そう思わせるギラついた目と裂けるような笑みがサリーの顔に浮かんでいたのである。

 

自分達が不利なのではと錯覚する程の存在感がサリーにはあった。

 

サリー自身、疲れが吹き飛んだように感じていた。

一周回って限界を超えたところに普段以上の力の源があったのだ。

感覚は研ぎ澄まされ、身体が軽くなっていく。

 

「さぁ……生き残ろう」

 

サリーは心を奮い立たせてダガーを構えた。

 

 

 

 

 

 

メイプルとセイバーは誰も襲ってこないために暇を持て余していたところにメッセージが届く。

 

「サリーから?何だろ?」

 

そこにはたった一行だけ。

 

多分死ぬ。ごめん。

 

とだけ、書かれていた。

 

それと同時にセイバーは飛び出して行った。

 

「あのバカ!!」

 

「ちょっとセイバー!?」

 

セイバーも何故我を失って飛び出したのかわからない。ただ、ハッキリとしたのは、今行かないと後悔するという思いがあったからであろう。

 

 

 

サリーはいつも以上に感覚が研ぎ澄まされていることが実感出来た。

さらに、戦闘に気持ちが入っていくにつれて感覚はどんどんと鋭くなっていく。

そんなサリーの耳に指揮官らしき人物の声が聞こえてきた。

 

「フレデリカ……」

 

聞き覚えのあるその声は間違いなくフレデリカの声だった。

つまり、このプレイヤー達は【集う聖剣】のプレイヤーという訳だ。

それならばと、サリーが生き残る術を紡ぎ出す。

 

「【攻撃誘導】!」

 

サリーが前のフレデリカとの決闘で使った偽のスキルを使ったように見せて1度目の魔法攻撃を躱す。

すると前衛のプレイヤーの動きが変わり一気に前進してきた。

情報は行き届いているようだった。

 

サリーが生き残る為には裏で主導権を握りつづけなければならない。

相手の行動を操作することが出来なければ次の瞬間には死が待っている。

 

「ありがとうフレデリカ」

 

未だ姿は見えない彼女に小さく言って、サリーは前進してきたプレイヤーの攻撃を躱す。

 

「【攻撃誘導】!」

 

その言葉を聞いてプレイヤー達の動きに鋭さがなくなる。

予想外は迷いと焦りを生み、動きを鈍らせる。

そしてサリーの力が2回で打ち止めではないことに彼らはまだ気づけない。

ただ、スキルの支援がないということはつまり、サリーは次々と飛んでくる攻撃全てを自力で避けなければならないということである。

 

「凄い……全然違って見えるよ」

 

サリーは自身の感覚の変化に驚いていた。

今までの集中した自分の見ていた世界が高速に感じられる程に剣は遅く感じられた。

練習しても身につかなかった恐怖センサーも使えている。

それも、ドレッドよりも遙かに上手く。

 

近い未来の危険が全て過去に起こったことのように把握できた。

 

限界を超えた先の覚醒は一時的にサリーを遙か高みに押し上げたのだ。

 

「当たんねぇ!!クソが!」

 

「負けない。負けないよ……!」

 

サリーの攻撃は必中で、サリーへの攻撃は全て外れた。

何度も使用される【攻撃誘導】にフレデリカが違和感を感じ始めた頃には既に20人のプレイヤーがサリーに倒されていた。

そしてフレデリカは答えに行き着く。

 

「スキルじゃ……ない?」

 

仮にそうだとして、どうすることも出来ないという結論が残るだけ。

対処法を失うだけだ。

徐々にスキルではないという恐ろしい現実が全てのプレイヤーに理解され始めていた。

 

しかし、だからといってどうにかなるという訳ではない。

 

「おらぁっ!!」

 

気合いを入れて振り下ろされた剣を見たサリーはそれを躱す。

それも、ただ躱すのではない。

ギリギリで躱して必殺のカウンターに繋げるのだ。

 

「今だ!」

 

魔法での面攻撃がサリーに襲いかかるがサリーはそれが来るタイミングが何となく分かっていた。

 

「【背負い投げ】」

 

武器をしまってプレイヤーを引っ掴み空中へと放り投げる。

空から降り注ぐ魔法攻撃は投げられたプレイヤーに遮られてサリーの位置にだけ届かない。

フレンドリーファイアはないためプレイヤーにダメージはないが、落ちた先のサリーのダガーは別である。

 

「化物かよ……っ!?」

 

今だ70人以上残っていると言うべきか、既に三十人ほどやられたと言うべきか。ただ一つ、サリーがたった1人で多くのプレイヤーの心を折っていることは確かだった。

 

「朧、【影分身】」

 

サリーに出し惜しみなどしている余裕はない。

常に相手の思考を止めるような予想外を生み出し続けなければならないのだ。

 

「生き残る……潰すっ!!」

 

駆け回るサリーの分身はサリー本体とは違い直ぐにやられてしまう、それでも1体ごとに一人は道連れに出来た。

その間にサリーは生き残るために包囲を破ろうとする。

 

その時。

 

「貰った!!」

 

サリーの背中側から1本の剣が突き刺さった。

遂に与えた一撃に歓声が上がる。

 

「いいや、まだだよ」

 

【蜃気楼】により作り出された幻影は空気に溶けて消えていく。

次々に出てくる予想外。

最初は余裕だと指揮に徹していたフレデリカが戦闘に参加する程にはサリーは脅威だった。

 

もっとも限界突破して覚醒している今のサリーでなければもう決着はついていただろう。

サリーを包囲するためには限界を迎えさせる必要があり、サリーを倒すためには限界を超えさせない必要がある。

 

「【多重炎弾】!」

 

フレデリカは信じがたいものを見るような目でサリーを見る。

たった一撃すら当たらない。

ほんの数ミリだけズレれば当たるのだが、その数ミリが果てしなく遠い。

 

「これは、やばい……!」

 

流石にサリーも無理な攻めは出来ないためプレイヤーの減る速度は遅いものの、それでも確実にやられていた。

 

潜伏するためにフレデリカが選んだ障害物の多い地形は、ここにきてサリーが生き残るのに有利に働いていた。

 

「くっ……追手が追いついてきた」

 

サリーを追ってきたプレイヤーが第3勢力としてサリーの包囲に加わった。

サリーはそれを感じつつフレデリカの魔法を走って避ける。

 

「いいよ。まだいけ……る?」

 

それは突然だった。

足の動きが止まり、膝からガクンと崩れ落ちた。

 

「【ウォーターウォール】!!」

 

襲いかかる炎弾を辛うじて転がって躱すものの、次の瞬間には倒れこんだサリーは警戒されつつも隙間なく包囲された。

 

すぐに襲いかかることが出来なかったのはサリーの予想外な行動に警戒心を抱いているからだった。

それでしてやられているのだから尚更である。

 

サリーは限界を超えて動いていた。

そんなものが長く続く筈がない。

フレデリカが全員に障壁を張りながら迫ってくるのを見て、サリーは静かに呟いた。

 

「次は負けないから」

 

「【多重炎弾】」

 

フレデリカの詠唱と共に爆音が響いた。

それはフレデリカの魔法ではなかった。

天空を爆炎が照らし、煙の尾を引いて流星のように何かが高速で降ってくる。

 

 

それはフレデリカとサリーの間に落ち、

直後炎弾の輝きが火炎の竜巻によって打ち消され、全員の視界を塗りつぶした。

 

光が収まった時にゆっくりと立ち上がったのは極炎を纏った竜騎士。そしてその近くには真紅の赤いドラゴンが主人とサリーを守るべく浮かんでいた。

 

「今の俺は気分がすこぶる悪いんだ……覚悟しろよ……」

 

そこにいたのは……セイバーだった。




次回はサリーを追い詰めた集団への反撃から始まります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと圧倒

セイバーはサリーの前に立つとフレデリカと相対し、さらに空から降りてきたメイプルが合流する。さらにメイプルはシロップを呼び出すと素早く命じた。

 

「【城壁】!」

 

メイプルとサリーがせり上がった壁の中に隠され、セイバーのみが敵と向かい合う。

フレデリカ達に、天高く伸びるその壁を乗り越えることは出来ないだろう。それより以前にセイバーを突破しなければ2人を攻撃する事すら出来ないのだから。

 

「セイバー、メイプル……どうやって……?」

 

メイプルがシロップで飛んでくるには遠すぎる距離だった。一応セイバーは翠風があるため【烈神速】を使えばワンチャン行けるのだが、セイバーの今の装備は烈火。よって、【烈神速】は使えない。

それ以前にタイミング的に間に合う筈がなかったからサリーはあのメッセージを送ったのである。

しかし、サリーは疲れていたため頭からすっかりと忘れていた。セイバーにはブレイブがいるという事に。ブレイブに乗ればメイプルよりも早く飛ぶことが出来るのである。

 

 

「話は後で!ユイとマイだけを残してきちゃったから早く帰らないと!私に掴まって?」

 

「で、でもセイバーは?あの感じだとセイバーだけ囲まれて……」

 

「大丈夫。セイバーならあの数を倒せるから」

 

「わかった……」

 

サリーはフラフラと立ち上がるとメイプルに抱きつくようにして掴まった。

メイプルはサリーを両手で抱き締めると脱出の準備を始めた。

 

「【砲身展開】」

 

メイプルの全身から【城壁】の内部を埋め尽くすように兵器が伸びる。

それらの砲口は全て下向きだ。

 

「行くよ!」

 

「え!?う、うそ、まさか!」

 

サリーの主張を無視して噴き上がる爆炎と煙。

 

それは最早自爆だった。

ただ、メイプルならば耐えられる。

 

メイプルは最高級の武装を惜しげもなく使い捨てて高速で空へと打ち上げられた。

足の武装がなければ反動で吹き飛ぶ。

その反動が普通ならどうやっても耐えられないレベルなのだ。

それを乗り越えられるメイプルはロケットのようにして遥か高い空へ飛ぶことが出来た。

 

そのままメイプルは再度自爆して【楓の木】の方向へと吹き飛んで帰っていった。

 

 

「ううっ……何あれー……」

 

フレデリカはサリーを逃した事よりもメイプルのあのスキルに驚きを隠せなかった。

 

「おい、俺を忘れたとは言わせないぞ。激土、【大抜刀】!」

 

セイバーは大抜刀のスキルで二刀流となるとフレデリカ達をいつもよりかなり強い視線で見据えていた。

 

「完全に怒りで我を失ってるわね……。しかもなんか剣2本持ってるし……。で、これからどうするの?」

 

「……俺の大切な仲間を潰そうとしたお前らを全員斬る!ブレイブ、【ファイアーウォール】」

 

それと同時に全員を囲うように炎の壁が展開されて何人たりとも逃げられないようになった。

 

「うぇ!?またこれ?でも、今度は逃げさせてもら……」

 

フレデリカがいい終わらない内にセイバーは激土を振りかぶると必殺のエネルギーが溜まった巨大な剣となった。

 

「まさか!?今の会話でタメの時間を……」

 

「【神火龍破斬】、【大断断斬】。うぉらああああああ!!」

 

セイバーは巨大な激土で周り全てを薙ぎ払い、さらに烈火による火炎の斬撃が放たれた。その影響で、咄嗟に炎の壁を水の魔法で打ち消して逃げる事ができたフレデリカを除くほぼ全員が真っ二つとなって消滅した。

 

「残りの奴等もタダで済むと思うなよ?」

 

地面は烈火から飛び火した炎で赤く燃え上がっており、セイバーの怒りを示すようであった。

 

「【爆炎紅蓮斬】【リーフブレード】!ブレイブ、【逆鱗】!」

 

続けてセイバーは烈火には爆炎の炎を、激土の刃に新緑の緑のエネルギーをチャージすると残った僅かな敵を次々と斬りつけて1人ずつ確実に潰していった。

プレイヤー達はフレデリカが開けた穴から逃げようとするも逆鱗によって怒りの力を突撃のパワーに変えたブレイブが隙だらけのプレイヤーを次々と倒していく。

 

その様子を辛うじてその場から離脱したフレデリカが見ていた。

 

 

「くうう……2度もやられるなんて悔しい!!でもただでは終わらないよー……!」

 

 

ボロボロになったフレデリカは1つ機転を利かせていた。

それが実れば今回の大惨事も帳消しである。

逆に言えば、実らなければペインから何を言われようと文句は言えない立場となった。

 

「お願いドレッド、何とかしてー……」

 

フレデリカはここにはいないドレッドに望みを託して祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

ユイとマイは2人でオーブの前に立っていた。

 

「メイプルさん、間に合ったのかな?」

 

「マップで見たらサリーさんと同じ位置にいるし、間に合ったんじゃないかな」

 

「どうやって行ったんだろ?」

 

「分からないけど……すぐに帰ってきてくれるよ」

 

ただ、本当にすぐに帰ってくるのかどうかは2人には分からない。

 

「ユイ、一応準備しておいたけど……」

 

「うん。でも……カナデさんとクロムさんを起こしに行った方がいいかな……?その方が安全かな?」

 

因みに、ヒビキはオーブを盗りに出てており、ここにはいなかった。そのため2人は安全策を取ることを選んだ。

しかし、それは叶わなかった。

 

「っ!ユイ、敵!」

 

「えっ!?」

 

2人がそれぞれ大槌を構える。

入り口からゆっくり歩いてくるのは1人のプレイヤー。

 

ドレッドだった。

【楓の木】の場所は特定されていた。

【集う聖剣】が手を出さなかったのは常にいるメイプルが危険だと判断したためだ。

そのメイプルがおらず、更にはセイバーもいないとわかった上でドレッドが近くにいるのであれば襲うに決まっている。

 

「はぁ……フレデリカも人使いが荒い。だが、本当にセイバーとメイプルがいない?なら……いけるな」

 

ぶつぶつと呟くドレッドはフレデリカからメッセージを受け取ってすぐにここにやってきていた。

 

メイプルがここに戻ってくるまで数分。セイバーもこのタイミングでようやくサリーを追っていた面子を全滅させた所なので今から戻ったとしてもメイプルよりも遅くなる。

この状況ではユイとマイにとって長過ぎる数分である。

 

「マイ!倒すよ!」

 

「うん!」

 

「はっ……そりゃ無理だ」

 

ドレッドが走って距離を詰める。

それに対してユイが大槌を振り下ろす。

 

その距離はまだ開いているものの、関係がなかった。

 

「【飛撃】!」

 

スキルにより光るユイの大槌から衝撃波が飛ぶ。

それは必殺の一撃だ。

 

「ふっ!!」

 

しかしドレッドはそれを躱す。

躱しながらぐんぐん距離を詰めてくる。

 

「【ダブルスタンプ】!」

 

ユイの攻撃を躱して、ドレッドはマイに狙いを定めて斬りかかった。

 

「マイ!」

 

「だ、大丈夫!」

 

マイがドレッドの一撃を躱すことが出来たのは偶然だった。

サリーと同じ短剣使いだったためその動作は最も身体に染み付いていたため、考えるよりも早く身体が避けたのだ。

 

しかし、次はないだろう。

 

ドレッドはこの1日の内にユイとマイの攻撃力について知ることが出来た。

そのため、攻撃を受けないように深入りを避け、結果としてマイが生き残ることが出来た。

 

「マイ!距離をとって!」

 

「うん!」

 

マイが壁際に向かって走る。

しかし、ドレッドの方が遥かに速い。

すぐに追いつかれてしまう。

 

「遅いな」

 

「っ……!ああっ!!」

 

ドレッドの短剣がマイに迫る。

その瞬間。

 

マイは自分の持っている武器を追ってくるドレッドの方向に投げつけた。

 

「はっ!?」

 

ドレッドすら予想外な捨て身の戦法。

驚いているドレッドに、マイが決まったと笑みを浮かべる。

 

「当たるかよ!」

 

それでもドレッドは身体を捻って避ける。そして丸腰のマイを刻もうと再度短剣を振りかざしたところで、ゾッとする感覚にその場を飛び退いた。

 

それに少し遅れて衝撃波がドレッドのいた場所を破壊する。

 

「もう1人の……!は?」

 

ドレッドが見たのはスキルにより光り輝く【2つの大槌】。

その1つは紛れもなく先程放り投げられた大槌だった。

 

「しまっ……がっ!?」

 

2つ目の衝撃波をもろに受けたドレッドが壁へと叩きつけられる。

 

マイは大槌を装備していなかった。

ユイの装備している大槌をその手に持っていただけ。

放り投げたのは、ユイの元に返すため。

ユイの元に帰れば、予想の範囲を超えた2回目のスキルが発動する。

 

これが2人にしか出来ない、とびきりの隠し玉だった。

 

「私達、半人前だから」

 

「2人合わせて」

 

「「1人前のあなたを倒すよ」」

 

まだまだ経験も技術も足りない2人が、初めて自分達の力で一皮剥けたのだ。

大きな大きな一歩だった。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それでもまだ足りない。

 

「本当、エグいやつばかりで面倒だ」

 

「「嘘っ!?」」

 

「まず1人!」

 

ドレッドの短剣がマイを切り裂く。

マイがその攻撃を耐えられる筈がなかった。

 

ドレッドのHPはたった1だけ残っていた。

純粋に耐えたのではなく、スキルによるものであることは明白だった。

 

注ぎ込んだ時間の差。

積み上げたものの差があり過ぎた。

 

「じゃあな……!」

 

「メイプルさん……ごめんなさい……」

 

とっておきを乗り越えられたユイもまたドレッドの刃により倒れた。

ドレッドは短剣をしまうとポーションを取り出しHPを回復させる。

 

「はぁ……面倒くせぇ。このギルドとやるのキツイわ」

 

HPが回復しきったところでドレッドはオーブに向かって歩きながら呟く。

 

「今回は俺の勝ちだ……っ!?」

 

後はオーブを取るだけ、しかしここでタイムアップだ。

 

竜巻と共に飛び込んできたのは、忍び服に身を包み、風双剣を手にしたセイバーだった。

 

「なっ!?いくらなんでも速すぎる!!確か、フレデリカの話だとメイプルよりも出るのが遅かっただろ!!」

 

「確かにそうですね。でも、俺の速度は【神速】を超えている」

 

そう、セイバーのスキルは【神速】を持つドレッドを遥かに上回る【烈神速】。僅か30秒という短時間だが、ただでさえ300を超える速度を持つ翠風装備のセイバーの速度は通常の4倍へと跳ね上がる。よってこの30秒のみでも最短ルートを突っ切って来れば敵の目に止まる事なく帰って来れるという訳だ。

 

 

さらにサリーを連れたメイプルも来る。

 

「……ユイとマイにあやまらないと」

 

「メイプルもか……フレデリカ…っ!恨むぞオイ!」

 

ドレッドは試合には勝った。

だがしかし、勝負には負けたのだ。

 

ユイとマイが稼いだ値千金の時間。

それを無駄にするメイプルとセイバーではない。

 

「チッ……こうなったら【神そ……】」

 

「逃すか、【影縫い】」

 

セイバーが翠風の片方を投げるとそれはドレッドの影へと刺さり、動きを完全に止めた。セイバーの【影縫い】は普通の物とは違い、翠風の剣の1本を相手の影へと投げて突き刺す事により剣が刺さっている間は相手の動きを完全に止めてしまう事ができる。

 

普通の物と違って止められる対象は1人だけだが、その分拘束力はかなり強い。

 

そして、メイプルは拠点に戻る途中にサリーとあることを話していた。

 

それは今から2日目にかけて能力を1つ解禁するというものである。

そこで使い勝手が良く、最も消費が少ないスキルを選んだ。

 

メイプルは動きを封じられたドレッドへとスキルを発動した。

 

「【捕食者】!」

 

地面から2匹の醜悪な化物が姿を現す。

ドレッドに外部に初公開のそれを予想出来る訳がなかった。

 

「はぁっ!?何だそれ!!」

 

「シロップ【大自然】!」

 

メイプルの声に応じて地面から蔓つるが伸びドレッドとメイプルを閉じ込める。

蔓は何重もの壁を作り、内部の空間を小さくしていく。

ドレッドは蔓を切り裂いて脱出を試みたが、影縫いにより動きを止められているため、最早どうしようも出来なかった。

ドレッドが蔓への攻撃を諦めてメイプルやセイバーの方に振り返る。

 

「……オーケー、今回は俺の負けだ。次はキラーも連れてくるぜ、セイバー。そして今度こそ勝ってやるよ」

 

ユイとマイとの戦闘を終えた直後に、絶対に間に合うはずのなかったメイプルとセイバーからの奇襲。

結果、2人はドレッドを閉じ込めることに成功した。

今回は2人に有利な状況が偶然生まれたが、次もそうとは限らない。

普通に対峙しても間違いなく逃げられてしまうだろう。

 

「何度だって返り討ちにします!」

 

【捕食者】がドレッドに迫る。

 

「また来るぜ、次は本気で2人を狩りにな……!」

 

そう言い残して、ドレッドは光となって散っていった。

散り際に何か策があるかのような獰猛な笑みを浮かべていたのが、2人の目に焼き付いていた。

 

「どんな攻撃をしようが、全て倒してやる」

 

メイプルはシロップに【大自然】を解除させ、セイバーは残った翠風の半分を抜くとサリーの元に戻った。

【大自然】により2人とドレッドだけが隔離されていたのだ。

メイプルはサリーに近づくとすぐ、サリーの頬をグニグニと引っ張った。

 

「無理しすぎだよ」

 

「……ごめん」

 

「取りあえず、ユイとマイが復活したら謝らないと」

 

「うん……」

 

サリーはそれからセイバーの方を向くとセイバーはサリーをジッと見ていた。

 

「セイバー……私……」

 

セイバーはサリーの頭を優しく撫でると言葉を発した。

 

「もう無理するなよ。それと……頑張ったな」

 

サリーはそれから顔を赤くしてセイバーの体に顔を埋めていたが、ユイとマイが復活するとすぐに離れていつもの顔に戻った。

それから3人はすぐに謝ったが、ユイとマイはそもそも気にしていなかったようだ。

むしろ2人到着までの間、強敵からオーブを守りきれたことで役に立てたと嬉しそうだった。

 

「取りあえず、オーブは全部設置しておくね」

 

サリーのインベントリから10個のオーブがゴロゴロと出てくる。

 

「サリー、何であんなに無理したの?別にもうちょっと早く帰ってきても良かったんだよ?」

 

「ああ……それは……取りあえずカナデを呼んでくれる?」

 

「ちょうどそろそろ交代ですし、私が呼んで来ますね!」

 

マイが奥へと走っていき、カナデを連れて戻ってきた。さらにヒビキも戻ってくる。

 

「たっだいま〜!」

 

「ヒビキも戻ったか」

 

「うん!オーブ3つ、取ってきたよ」

 

「カナデ、早速だけどこれを覚えて」

 

そう言ってサリーが見せたのは自分のマップだった。

 

「これは……すごいね」

 

その場にいた全員の目に飛び込んできたのは今回の広大なフィールドほぼ全ての情報が詰まったマップだった。

一部セイバーが手伝ったものの、12時間走り続けて作り上げたマップにはギルドの位置や規模なども書かれていた。

 

「私は……ちょっと、限界みたいだから……カナデ、メイプルのマップに書き写してあげて」

 

「ん、了解。もう覚えた」

 

カナデは相変わらずの超人的記憶力で難題を余裕でクリアした。

 

「ありがとう……メイプル、プランBで」

 

プランBとは前衛部隊が崩壊した際にする予定だった行動である。

実際にイベントをやっていると予想とは違う部分も多かったため、早々にこれを発動することとなった。

 

プランB。

またの名をメイプル解放策。

防衛という枷を取り払って、外へと放つのである。

 

既にほぼ全てのギルドがサリーによってその位置を暴かれている。

次にやってくるのは本命の化物だ。

 

「防衛が危なくなったら呼んで、飛んで帰ってくるから」

 

「回数制限はある?」

 

サリーの問いにメイプルは消費量を計算する。

 

「距離にもよるけど……サリーを助けにいった時の距離なら1日に2往復出来るかどうか……かな?」

 

兵器を破壊することで飛んでいるのだから、常に使える訳ではない。

しかも、移動用に使い切ってしまうと攻撃の分がなくなってしまう。

慎重に使わなくてはならないのだ。

 

「遠くまで順に回収して飛んで帰ってくるね」

 

サリーのマップのお陰でギルドを探す必要がなくなり、メイプルは最短距離を移動出来るようになる。

 

大幅な時間短縮だ。

 

「セイバー、あんたも暴れるんでしょ?やり方は任せるわ。私は少し……休むね」

 

「うん、バトンタッチだね」

 

「任せとけ。今回の大暴れでようやくスイッチが入った。ここからは蹂躙の時間だ」

 

サリーから2人へ。

今ここに準備は整った。

 

「じゃあ、明日の朝から行ってくるね」

 

「僕も急いでマップを写すよ」

 

カナデは次々とメイプルのマップに情報を書き入れていった。




次回はあるプレイヤーとセイバーが再戦します。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと雷対崩剣

メイプルが動き出したのは朝になってからだった。

サリーの持ち帰った10個、ヒビキが取ってきた3個のオーブを守りきるまではギルドから出ることが出来なかったからである。

 

ギルドの奥ではヒビキは豪快に、サリーは死んだように眠っており、当分目覚めなさそうだった。

サリーのマップはカナデにより全員に書き写された。

さらに、修理アイテムは探さなくてもイズがいるため問題ない。

となると、外に出る必要がほぼなくなってしまう。

 

【楓の木】にメイプルがいないからと襲いにいくのはごく一部であり、【楓の木】の面々は早くも暇を持て余していた。

 

「どうする?誰か1人くらい外に出て行くか?プレイヤーを減らしにな」

 

そのクロムの提案に反応したのはカスミだった。

 

「ふむ……私が行こう。防衛はイズの爆弾とユイとマイの投擲で十分だろうからな」

 

そう言ってカスミが拠点の出口に向かって歩いていく。

 

「無理はするなよ」

 

「ああ、死なない程度にやるさ」

 

クロムに返事をして、カスミの姿は通路の向こうに消えていった。

 

 

 

 

カスミは1日目はイズと行動している時間が長かった。

この2人でオーブを奪うには地形に助けられなければならなかったため基本は競争相手を減らすことに徹していた。

装備の耐久値はイズがいれば問題ないため、夜の間は手当たり次第に他プレイヤーを切り捨てて回っていたのだ。

 

メイプルがいないとしても【楓の木】と戦闘をすれば無事では済まない。

もしも既に1度死んでいるのであれば【楓の木】を襲うのは避けるだろう。

【楓の木】を襲撃する者が減っているのはカスミとイズが近場のプレイヤーのデス数を次々に増やしていたためでもあったのだ。

 

それはまさに、じわりじわりと効果を発揮する行動だった。

そして今日もプレイヤーを倒すことに専念するという訳である。

 

「さて……メイプルやセイバーのいる方向とは違う方向にいくべきか」

 

2人が進んだ道に無事なプレイヤーを探しに行くのは不毛である。

 

「よし、こっちにいくか」

 

カスミは身を隠せる場所が多い森の中を進むことにした。

カスミ自身の姿を隠すのにも役立ち、他のプレイヤーがいることが多いためこのような地形を巡るのである。

 

「よし……きたな」

 

カスミはプレイヤーを見つけると素早く背後から斬りかかった。

 

「警戒が甘いな」

 

カスミに気づき、剣を振るう。

しかしカスミは迫る攻撃を受け流し、斬り返す。

これまでに何度も繰り返した動きでありこのイベント中にも役立っている。

 

カスミは3人のプレイヤーを倒し、再び歩き始めた。

しばらく歩いて森を抜けた所でカスミは1人のプレイヤーとばったり出くわした。

 

「………おっと、見覚えのある人がきたなぁ」

 

「……帰るか」

 

カスミがすっと引き返そうとするものの目の前のプレイヤーは帰らせてくれそうにはなかった。

 

「俺達のギルドに誘うつもりだったんだけどなぁ」

 

「悪かったな、メイプルの方が先だった」

 

優秀な人材はどこのギルドも必要としている。

カスミやクロムを誘う気があったギルドは【楓の木】だけではないのだ。

カスミと対峙している男は仕方ないかと呟いてカスミをじっと見る。

 

「第1回イベントでは俺負けてるからさぁ……今回は勝たせてもらう」

 

そう言って片手剣を抜き、盾を構えるのは【崩剣】の二つ名を持つ、シンだ。

 

カスミとは第1回イベントで直接対決をしており、その際はカスミが勝利を収めていた。

 

「はぁ……死に戻ってもらうぞ!」

カスミも刀を抜いて応じる。

 

【崩剣】という二つ名を持つシンにはもちろん特徴的な部分がある。

 

「【崩剣】!」

 

シンの声に合わせて片手剣がボロボロと崩れて宙に浮かぶ。

それらは元の剣を縮めた見た目の十の剣となった。

片手に盾を、宙に十の剣を。

これらを操って戦うのが【崩剣】のスタイルである。

 

「はあっ!!」

シンの剣が次々にカスミに向かって飛来する。

 

「ふっ!」

 

カスミは短く息を吐くと、出来る限り多く叩き落とし、受け流し、防御に専念する。

しかし、サリーのような回避能力やセイバーのような対応力を持たないカスミはセイバーよりもダメージを受けてしまう。

だが、耐えられる。

2人と違う点はHPの高さだ。

体の中心に向かってくる剣を避けることで戦闘は続けられる。

 

「【一ノ太刀・陽炎】!」

 

シンの前に瞬間移動して斬りつける。

しかしそれは盾によって防がれてしまった。

 

「相変わらず……凄いスキル。盾がないと凌げないなぁ」

 

「はっ……素で躱した奴もいたがなっ!」

 

振り抜いた刀を引き戻して再度斬りつける。

しかしそれも防がれ、カスミは背中に剣が飛んでくるのを感じ、飛び退いた。

 

 

1度戦い互いの手の内をある程度知っているため、現状両者共に虚を突かれることがなく、決め手となる一撃を入れられずにいた。

 

ただ、第1回イベントからはかなり時間が過ぎている。

どちらも停滞していた訳ではないため、成長している部分がある。

 

それを上手く凌げた方が生き残るだろうことは2人共感じていた。

 

カスミは一気に攻撃に転じるチャンスを待っていた。

シンは盾を持っているため、以前のイベントでサリーに放った【終ワリノ太刀・朧月】では受け止められてしまう可能性がある。

このスキルは発動後にステータスが大幅に減少し、一部スキルが使えなくなる。

その代わりに、高威力かつ高速だ。

 

1対1の場面でのみ使える奥義という訳である。

本当に、シンが盾さえ持っていなければ今すぐ発動しているところだ。

 

「はっ…!ふっ!」

 

カスミは体を捻り、刀を振るい飛び交う剣から逃れる。

 

カスミがシンに近づけないでいるのは何と言ってもこのリーチの差である。

加えて前回戦った時と比べて剣の操作が上達していたためでもあった。

このままではじりじりとやられていくことを実感したカスミは自ら打って出た。

 

「【四ノ太刀・旋風】!」

 

高速の四連続攻撃。シンはそれをきっちり盾で受け止める。

反撃の剣が飛んできてカスミのHPを減らすもののまだ耐えられる。

【崩剣】は一撃の威力と引き換えに手数を手に入れるものだ。

全ての剣がクリーンヒットしない限りはまだ生き残れる。

 

「【七ノ太刀・破砕】!」

 

ノックバック効果を持った大上段からの斬り下ろし。

シンはこれを受け止めて後退する。

このスキルの本当の性能は両者の装備に大きいダメージを与えるというものだ。

当然、敵の装備に与えるダメージの方が大きいが、自分の武器に返ってくるダメージも馬鹿にならない。

 

つまりカスミは自分のHPがなくなる前にシンの盾を破壊することで、一気に勝利することが最善であると考えたのだ。

 

「思ったより……っ、攻撃力上がってるねぇっ!!」

 

シンは押し込まれないようにカスミの背後から手元へと戻して牽制する。

 

そして。

 

「【崩剣】!」

 

2度目のスキル発動。

カスミの知らないシンの新たな力。

シンの剣はさらに小さく、20本に分かれた。これは前にセイバーと戦った時よりも多い。

シンはそれで面攻撃を仕掛けたのだ。

壁のようにして正面から剣が迫ってきたことが予想外だったのもあり、カスミはその多くを受けてしまった。

 

一つ一つのダメージが小さいとはいえ、回復している暇もないのだから、HPは既に限界だった。

 

「……仕方ない、か」

そう言って、カスミは全身から力を抜いた。

 

「今回は勝たせてもらうよ!」

 

先程と同様の面攻撃がカスミに迫る。

 

「【始マリノ太刀・虚(うつろ)】」

カスミの髪が白く染まり、瞳が緋色の輝きを放つ。

シンがその姿を見て強く警戒する。

前回負けた時は、この姿になったカスミにやられたためだ。

 

警戒するシンの前で、カスミの姿は消え去った。

 

「……っ!どこだっ!?」

 

「ここさ」

 

シンの真後ろから聞こえた声。

 

カスミはシンへとトドメを刺そうと両腕を出そうとする。だが、シンはこれを辛うじて避けた。

 

「なっ!?」

 

カスミはこの攻撃を躱されるのは想定外で、シンとしてもこれを躱すのは紙一重で次も上手く出来るとは限らないぐらいの奇跡の回避だった。

 

「あっぶね。またそれにやられる所だったぜ」

 

「くっ……ここまでか……」 

 

先程のスキルにも【終ワリノ太刀】と同様に代償がある。

それはステータス減少などではない。

 

そう、それは装備の耐久値を大幅に削るというものだ。

そして既に消耗していたカスミの装備品は、装飾品を残して全て壊れた。

当然、刀も失っている。 

 

カスミが諦めるのも当然だった。

 

「今回は俺の勝ちだぜ!!」

 

それと同時にシンは1つに戻った剣を振り下ろす。カスミは負けを覚悟してそれを受け入れようとした。だが、攻撃は剣によって受け止められていた。

 

「お前は!!」

 

シンは予想外の敵の乱入に驚き、カスミも驚いていた。何故なら、そこにいたのはギルドを潰し回っているはずのセイバーだったのだから。

 

「久しぶりですね。【崩剣】のシンさん」

 

 

セイバーはシンを吹っ飛ばすとカスミの隣に並んだ。

 

「選手交代です。カスミさん、ここは任せてください」

 

「わかった。任せるぞ」

 

そう言い、カスミは【超加速】で撤退する。

 

「丁度良い。今度こそ勝たせてもらうぜ!」

 

「黄雷、抜刀!」

 

それと同時にセイバーは向かってくるシンの剣を受け止めた。

 

「おっと、その装備で良いのかい?それ、ネタが大分割れてるはずだけど」

 

「相手がシンさんだからこそこの剣にしたんです」

 

「面白い!【崩剣】!」

 

するとシンはセイバーの剣を弾いて距離を取ると20本に別れた剣を飛ばしてきた。

 

「君にも進化した【崩剣】の凄さを見てもらおうか」

 

「生憎それは対策済みです。【稲妻放電波】!」

 

セイバーは剣を振り抜くと全方位に放電を飛ばしてシンの崩剣を全弾弾き飛ばした。

 

「うおっ!」

 

シンはこれを盾で受け止めるも、崩剣を凌がれた驚きもあり体勢を崩してしまった。

 

「決めます。【雷鳴一閃】」

 

セイバーは超スピードでシンへと接近し、剣を振り抜こうとした。

 

「くっ!けど、その技は前に受けた!今回は通用しないぜ!」

 

シンは盾を前に出しつつ崩剣を一斉に撃ち出して面攻撃を仕掛ける。これにより、セイバーはシンの攻撃を真正面から受ける事になった。

 

「……【魔神召喚】!針飛ばし!」

 

するとセイバーの後ろに魔神が現れて大量の針を飛ばした。その針は敵の剣を相殺し起動を逸らしてセイバーの急所を外させていく。

 

「【サンダーブランチ】、【サンダーブースト】!」

 

セイバーはスピードを更に上げてシンへと突貫、シンは崩剣によって剣が分離しているため、盾で攻撃を凌ごうとするが、いきなり盾を持っている左腕が後ろへと引っ張られた。

 

「ッ!?」

 

シンが驚いて振り向くと左腕にのみサンダーブランチによる拘束が施されており、それに気を取られてセイバーに剣の間合いにまで近づかれた。

 

「終わりです!」

 

セイバーはシンをすれ違い様に斬りつけるとシンはHPを0にされた。

 

「……くそっ、また負けか」

 

そう言い残してシンは光となって消えていった。

 

「勝敗の差はシンさんが俺の魔神を知らなかった事。またやりましょう。今度は、更に強くなって」

 

 

セイバーはその言葉を残すとその場を去って行った。

 

 

「……今回は引き分け、いや、負けか」

 

1人【楓の木】へと戻るカスミは呟く。

 

「まさか【始マリノ太刀】が防がれた上にここまで壊れるとは……少し消耗し過ぎていたか……」

 

先程もあったが現在、カスミの装備はスキルの反動でほぼ壊れており、この状態で他のプレイヤーと遭遇してしまうと危険である。

そのため、カスミは予備の武器を急いで装備して【超加速】を使ってギルドへと駆け戻ることにした。

 

「はぁ……セイバーがいなければ負けていたなぁ……。装備だって大事にしていたんだがなぁ」

 

愛刀を失ったことで、カスミのテンションは下がる一方だった。

 

 

 

ギルドに戻り、イズに刀を作り直してもらえることとなったカスミのテンションが急上昇するまで後5分である。

 

 

 

 

カスミとセイバーがシンとの死闘を終えた頃、メイプルは破壊を振りまいて歩いていた。

 

「次はー……こっちか!」

 

歩くのが面倒になったメイプルはシロップの背に乗って飛ぶことした。

当然非常に目立つ。

ギルドの近くまで行くと地上から叫ぶ声が聞こえる。

 

「【アシッドレイン】」

 

プレイヤーを蝕む雨が地面に向かって落ちていく。

 

「あーめーよーふーれー!」

 

そうしてしばらく雨を降らせていたメイプルはプレイヤーが減ってきたことを確認して地面へと飛び降りた。

 

「【捕食者】」

 

既にダメージを受けてしまっているプレイヤー達は化物が何度か攻撃すると倒れていく。

 

「では、オーブは貰っていきます」

 

メイプルは次の標的をマップで確認して崩壊したギルドを後にする。

 

「んー……【暴虐】で走っていきたいけどまだ駄目だし……サリーの素早さだけ借りれたらいいのになぁ」

 

そんな都合のいいことは今のメイプルには出来ない。

精々背負って走ってもらうくらいのものである。

サリーが寝込んでいる以上、それが出来るようになるのもいつになるかは分からない。

 

「やっぱりシロップに乗っていくのが一番早いかな」

 

メイプルは目立とうがどうしようが関係なく進むだけであった。

 

「追手が全然来ないなぁ、サリーは追手が大変だったみたいだけど」

 

サリーが盗んでいっただけなのに対してメイプルは正面から叩き潰してオーブを奪った。

流石にそんなメイプルを追いかけるような馬鹿はいなかったのだ。

 

そう、たとえ6つのギルドを潰していてもだ。

 

「サリーの予定より早くオーブが集まってるから、余裕あるね!」

 

メイプルがシロップの甲羅の上で寝転んでいると、下から剣のぶつかり合う音が聞こえてきた。

メイプルがシロップの端まで向かい下を見るといくつかのギルドがオーブを奪い合って戦っていた。

強者と出会ってオーブを失ったギルドがわらわらと集まっている訳である。

 

「戦ってるのかな……あっ!あのオーブ、私が次に取る予定のオーブだ!」

 

魔法飛び交い剣が弾ける戦場にオーブがあることを知ったならば、放っておいて次に向かうだろう。

 

サリーならばそうしたはずだ。

 

ただ、メイプルは一切の躊躇なくその中心に飛び降りた。

 

天から降り落ちた厄災が戦場の中心で化物と共に立ち上がる。

 

「そのオーブ、私のだから!」

 

そんなことは断じてない。

ただ、その言葉が現実となる可能性は非常に高い。

 

「【毒竜】!」

真下に放たれた毒の奔流は地面で跳ね返り、降り注ぐ。

メイプルを中心にして、まるで噴水のように弾ける強力な毒は運悪く近くにいたプレイヤーから順に飲み込んでいく。

そして、毒の地面はメイプルの周りにプレイヤーを近づけさせないという効果もあった。

 

読み切れない行動で相手の思考を一瞬止めることはメイプルの強みだろう。

誰がメイプルが降ってくることを考えながら戦闘をしているというのか。

 

だが、メイプルが台座の方を見るとオーブは既にそこにはなかった。

切り替えの早かった者がチャンスとばかりにオーブを手にしたのだ。

しかしそれが誰なのかはメイプルには分からない。

 

「あれ?……どうしよう……っ、そうだ!シロップ【大自然】!」

 

メイプルが今現在いるのは木が適度に生えた平地である。

そこそこの範囲を蔓つるで急いで隔離したメイプルは周りを見回す。

 

オーブを手に入れたプレイヤーがまだそこまで遠くには逃げていないだろうと予想したメイプルは、蔓の牢獄を作り出して多くのプレイヤーを捕らえた。

 

「サリーのメモは……【上手く取れない時は全滅させよう】か。了解!」

 

誰がオーブを持っているか分からないのならば全員を倒せばよいのだ。

簡単に出来ることではないが、全力を出したメイプルならば容易い。

 

ただ、今のメイプルはまだ枷をつけられており、全力で戦えない。

そのため、地面を毒に沈めながら歩いてプレイヤーの動ける範囲をなくし、一網打尽にするしかなかった。

 

しかし、先程まで争っていたプレイヤー達が急に団結して生存に向けて動き出したため、足の遅いメイプルにはたったの一人も捕まえられない。

 

「うー……無理だこれ!」

 

メイプルが最後の手段に出ようとすると轟音と共に敵のプレイヤーが吹き飛ばされた。

 

「うぇ?」

 

メイプルが唖然としている間にも敵は次々と倒されていく。

 

「メイプルさん!私も手伝います!」

 

そこにいたのは休憩を終えて攻撃側に回ったヒビキだった。

 

「ヒビキ!どうしてここに?」

 

「メイプルさんのおかげで充分休めました。ここからは私も入ります!私の拳に飛ばされたい人はかかってきてね!」

 

それと同時にヒビキは走り出すとプレイヤー達へと突っ込んでいき、挨拶代わりのキックを皮切りに大勢のプレイヤー相手に蹂躙を始めた。

 

「【インファイト】!」

 

ヒビキはスキルを発動すると相手を殴り、蹴り、肘打ち、跳び膝蹴り、等による連続攻撃を絶え間なく続けて行った。

 

このスキルは一定時間の間、敵対モブや敵プレイヤー相手に休む間もない連続攻撃を仕掛ける事ができる。だが、このスキル発動中は防御が出来ない上に、カスミのスキルと同様にスキル終了後にはステータスが一定時間減少し、スキルが一部使えなくなる弱点がある。だが、この弱点もメイプルといる事である程度改善できる上に、ヒビキの素の制圧力の高い無駄の無い動きはプレイヤー達を全潰しするには充分すぎるくらいであった。

 

「また相手になってね!」

 

ヒビキは1分間の蹂躙タイムを終えてステータスが下がるが、その時には最早敵となるプレイヤーは誰もいなかった。

 

それからメイプルはオーブを拾い上げるとヒビキと共にシロップに乗って空へと戻っていった。

 

「助かったよヒビキ。ありがとうね!」

 

「お役に立てて何よりです!」

 

「私としても【毒竜】はそろそろ控えた方が良さそうかなって思ってたし……」

 

「でもまだ機械の姿は見せられないんじゃ無かったんですか?」

 

「そうなんだよね……一部だけ機械化して……うーん」

まだ2日目も昼前である。

サリーとはまた違った理由で、メイプルも1日中外で侵略に明け暮れるわけにはいかなかった。

 

「あと1つか……2つかな?うん、そうしよう」

 

「それじゃあ、私が前衛を張りますのでメイプルさんは支援をお願いします!」

 

「良いよ!」

 

狙うオーブを決めて、それが終われば2人は1度帰ることにした。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと侵攻作戦

今後の展開の都合上色々と変更する必要があったためタグを変えました。それでは本編をどうぞ!


イベント2日目、メイプルとセイバー、ヒビキ本格的にエリアに放たれてからというもの、既に5回死んでリタイアした者や今回のイベントに参加しなかった者がいる観戦エリアのあちこちではその危険性が話されていた。

 

「おい、何してんだよあれ!?」

 

「ああ、ちょっと見ないうちに成長して……」

 

いつか相対することがあるかもしれないという事を考えるとどうにもならないだろうと答えているくらいだった。

 

「メイプルは毒以外も使えるようになったのか……というかあの羽は何?」

 

「メイプルと行動している少女も半端じゃない強さだぞ!?」

 

「リーチこそ短いが、アイツの体捌きが尋常じゃない。剣や槍での攻撃が一切当たってない……」

 

「しかもアイツの攻撃は拳やキックなのに威力が砲弾クラスなんだが!?」

 

「メイプルも両サイドに化け物従えて……」

 

「ああああ!次会った時はもう終わりだよ!もっと穏やかに進化してくれ!心臓に悪い!」

 

「真ん中のメイプルが天使の翼が生えて可愛い見た目な分、両サイドが醜悪過ぎるだろ。あんなの従えなくていいよ。本当に……」

 

「セイバーに至ってはまた剣の数増えてるなぁ……。炎、水、雷の剣にむっちゃ速い風の剣、防御無視の攻撃を入れる剣、セイバーが変なテンションになる音の剣……これでもう6本目……。どこまで増えるんだよ!」

 

「どの剣が相手でも鬼畜なんだよなぁ……」

 

そして、話が進んでいると彼らに暴れ回られて犠牲になり、リタイアした者達がまた現れて3人について話し始める。情報を得なければ今後この3人をどうにも出来ない。

 

「天使が何なのか映像だけではわかりにくいけど、現地で犠牲になった奴曰く、攻撃を代わりに受けるとか?……イメージとしては範囲内にずっと【カバー】している感じ?らしい」

 

「天使じゃなかった……ええ?メイプルが常に【カバー】?地獄かよ。見た目は綺麗なのに」

 

「少女も相手が近づき次第連続で攻撃を、仕掛けていたなぁ……しかもその間ずっと防御無しで殴りまくってるけど……」

 

「もしかしてそのスキル使っている間は防御出来ないとか?」

 

「そのスキルが終わった後にメイプルの近くに戻ってる所からステータス減少が反動なのは間違い無さそう」

 

「セイバー……は、もうこれスキル発動までのタイミングを覚えるしか無いのかな?」

 

「無理だろ。風の奴なんてスキル使われたらほぼ死亡確定だし、速すぎて対処出来ねーよ」

 

「土の奴も防御貫通の盾使い殺しのスキルありそうだし、アレ対処するなら攻撃1発躱して全力で攻撃するしか……」

 

「無理無理、それやったけど装甲がメイプル並みに固すぎる。防御貫通しても全然減ってない」

 

「誰が倒すんだそれ?逃げようぜ、強い相手には近づかない。これが生き残る術だぞ」

 

「今回はオーブあるしそれは無理だろ」

 

「あと、この3人のせいで薄れているけど大槌持った小さい子達、アレは何だ?」

 

「なんか一撃でやられたとかそんな事言ってる奴もいるぞ」

 

「あそこに一般人はいないのか?ランカーと化け物しかいないのか?」

 

「ランキングも5位だぞ。メイプル崩さないとオーブ奪えないという鬼仕様だからもう誰も行かねーよあんな所」

 

「ハイリスクローリターン……?いや、もうノーリターンで良いな」

 

「そのうち【集う聖剣】とか【炎帝ノ国】とやるかもしれないぞ。ギルドもどんどんやられて減ってるし。順位も上位をキープしてるしまだまだ残れるだろ」

 

「現にセイバーは第1回イベントの上位ランカーを次々と倒してるし……」

 

観戦者にはこの2つのギルドがやられてしまうようには思えなかったが、一部ではセイバーの力なら1人でも全てのギルドを全滅させられてしまうのでは?という声もあった。

 

「まぁ、映像も全部の場所を見られる訳じゃないしな……メイプルとやり合うのさえ見られるのなら見たい気もするな」

 

そんな事を話しているうちにリタイア組は続々と現れてはそこで出会った強いプレイヤーの話をするのだった。

 

 

 

同時刻、【楓の木】の拠点を防衛している面々は何一つすることがなかった。

現在は自軍のオーブしかないため、取り返しに来る者はいない。

また、1日目の時点で襲いに来るプレイヤーは極めて稀な状態になっていた。

 

サリーはまだ起きてこないままであり、イズはカスミの刀を作っている。

カスミは刀が気になるのか、そわそわうろうろとイズの周りを歩き回っていた。

 

【楓の木】を襲うならば今がチャンスなのだが、1日目のインパクトが強過ぎたためか既に偵察すらやってこなくなっていたのである。

 

それから暫く経ち、2日目も昼を過ぎた頃。

 

【楓の木】の奥でサリーがゆっくりと起き上がった。

 

「……メイプルとセイバーは上手くやってるかな」

 

サリーがマップを開いてメイプルの位置を確認すると、メイプルはちょうど【楓の木】に向かって戻ってくる動きを見せていた。

一方でそれとは対照的にセイバーはあいも変わらず暴れ回っていた。

 

彼もここまで連続で動いているといい加減疲れそうなものなのだが、彼の体力は文字通り化け物だった。よって、彼に疲れなどとはまるで無縁の状態となっていたのである。

 

「そろそろ、いこう」

 

まだ本調子ではないものの、ずっと寝ているわけにもいかない。

サリーは立ち上がるとオーブのある部屋へと向かった。

 

 

 

サリーが防衛に戻ってくるとそこには変わらず自軍のオーブがあった。

サリーはホッとした様子で伸びをしつつギルドメンバーの元に近づく。

 

「おっ、起きたか。どうする?また外に出て行くか?」

 

クロムの問いにサリーはそのつもりはないと答える。

本調子ではないため、全ての攻撃を回避出来るかどうか不安だったのだ。

また、2日目になったことでギルドによっては奇襲への対応が上達しているだろうという予想もあった。

奇襲に失敗すればやられてしまうだけとなるため、サリーは外出するとしても夜にしようと決めていた。

 

そしてここでサリーは気になっていたことについて触れる。

 

「カスミは……」

 

「ああ……新しい刀が出来てからあんな感じだ」

 

そうして2人でカスミの方を見る。

表情はかつてない程緩んでおり、鞘を眺めて刃を眺めてを繰り返している。

 

「はぁああ……いい……」

 

カスミはしばらくはこちらの世界には戻ってこないだろう。

 

「カスミは【崩剣】を相手にしたのは良いが、セイバーに助けられてセイバーが倒したらしいしな……。一歩間違えればカスミがやられていたし、後半に向けてどれくらいトップクラスが死ぬか……」

 

「最終日は荒れそうですね……恐らくトップクラスは皆生き残っているでしょうし」

 

ドレッドもシンもフレデリカもドラグも強者とぶつかり合ってやられた訳だ。

強者と強者が出会わなければ彼らは順当に生き残るだろう。

 

そんなことを話しているとメイプルが戻ってきた。

 

「ただいまー!オーブ9個手に入れてきたよ!」

 

「うわぁ……相変わらず本当デタラメだなぁ……」

 

サリーは自分の持ち帰ったオーブとほぼ同じ量のオーブを持って帰ってきてもピンピンしているメイプルに対して改めてそう思った。

 

「サリーのマップのお陰だけどね。あれがないとどうしてもギルドがすぐ見つからないから……」

 

「そっか、役に立ってよかった」

 

メイプルはオーブをセットすると取りあえずその場に残ることにした。

スキルの使用可能回数が減ってきたのもあったが、確率は低いとはいえ全てのギルドがオーブを取り返しにきたとしたら危険なためでもあった。

流石に自ら死地に赴くようなプレイヤーはいなかったが、警戒しておいて損はなかった。

 

「あとは……空から見た感じだと、結構いろいろなところで戦いが起こってるかなぁ。何回もやられた人もいそうな感じだった」

 

「結構荒れてるのか。まあ、大規模ギルドにオーブを奪われて取り返すのを諦めたんだろう、それで他を襲う」

 

「クロムさんと同じ意見かな。いい感じに数が減ってきてるかも」

サリーのように1日目に暴れたプレイヤー達によって作られた激戦の流れはまだ途切れていない。

むしろ強まったとさえ言える。

 

「防衛はユイとマイが強いしな、この地形がかなり味方してくれている」

 

現在、ユイとマイは鉄球でキャッチボールをしている。

2人だけはどうやっても外に出て活躍出来ないタイプのプレイヤーなので、常に防衛に回っていた訳だがそれだと今の状況では暇なのだった。

 

「今回の防衛が終わったら……ユイとマイにも活躍してもらいたいな」

 

「ん?だが、サリー。2人はもう活躍してるぞ?」

 

「ああ、えっと。外で、です」

だがそれでは機動力が、そうクロムが言うよりも早くサリーがメイプルに話しかける。

 

「メイプル、もう1回攻撃はキツイよね?」

 

サリーが聞いているのはスキルの消費が厳しいかどうかだ。

少し前まで眠っていたのにも関わらず、メイプルの現状を何となく把握出来ているのはそれが分かるくらいに長い間一緒にいたからだった。

 

「んー……そうだね……あ、そっか!」

 

「うん、2人を連れていけばメイプルの負担は減る……防衛に人数を割く必要がなくなってきている感じもするし」

 

「それじゃあ、私ももう一回行きます。メイプルさんの負担を私でも軽減できますから」

 

「そうだね。ヒビキちゃんにもお願いしよっか」

 

メイプルならば高速で戻ってくることも可能だ。セイバーやサリーは攻撃寄りの人員だが、メイプルは防衛の要であり、攻撃の要だった。

 

「じゃあ取りあえず守り切って、3人を連れてもう1回だね」

 

「体力的には?大丈夫?長時間の行動は……ね」

 

自分が動けなくなったために、サリーはその辺りは無理をして欲しくないと思ったのだ。

 

「第2回イベントで鍛えられたからね!あとうさぎとか、瞑想とか!それに私は歩かないし」

サリーのように走って移動する意味がないため、ゆったりと空中を進むメイプルは疲労が溜まりにくいのだ。

 

「じゃあ、お願い」

 

「うん!」

 

3時間後、メイプルは最強の矛を3つ携えて再び戦場へと舞い戻る。

メイプルの弱点はユイとマイによってカバーされ、ユイとマイの弱点はメイプルによってカバーされる。

 

メイプル、ユイ、マイ。歪な能力値の3人は、集まればそうあることが自然であるかのように完璧に噛み合って、より凶悪になるのだった。そこにヒビキも入り、3人には出来ない範囲をカバーする事で更に凶暴性は増していく。

 

 

2日目の昼を過ぎる頃にもなるとポイントにも差が出てくる。

その中でも【楓の木】と【炎帝ノ国】と【集う聖剣】が頭一つ抜けていた。

大規模ギルドの中にただ一つ食い込む小規模ギルドが放つ異質な雰囲気は誰もが感じ取っていた。

 

もちろん【炎帝ノ国】の面々も【楓の木】を警戒していた。

特に、メイプルが徘徊していることが偵察部隊より知らされてからは、マルクスも罠の種類を変えるなどして対策をするようになった。

 

「でもなぁ……メイプルかぁ……こないといいなぁ……」

 

「ですね。それには同意です。シンも死に戻りましたし、あのギルドには大人しくしていて欲しいですね……」

マルクスとミザリーはメイプルとの相性が良くないのだ。

2人ともメイプルに対する決め手に欠けるため、個人で倒すことは非常に困難である。

シンはめげずに再度繰り出したため、ここにはいない。

ミィも外出中である。

 

そんな話をしていると、1人のプレイヤーが慌てた様子で走ってきた。

 

「マルクスさん!……亀がこっちの方向に飛んできてます!」

 

「へっ……?あぁ……」

 

「さて……どうします?」

 

空飛ぶ亀などこの世界に1匹しかいない。

そしてそれは最上級の危険人物の接近を意味する。

 

「ミザリー……ミィ呼んで……」

 

「はい。そうしましょう」

 

「僕は頑張って時間を稼ぐから……幸い対策も間に合ったし」

 

「では、行きましょう」

 

2人は貫通スキルを持つプレイヤーを連れて亀が向かってくる方へと急いだ。

 

 

迎撃場所に辿り着いた2人は、遥か遠くからゆっくりと空を飛んで近づいてくる影を確認する。

 

2人が遠くの空を見つめているうちに、少しずつ少しずつその姿は大きくなってくる。

 

「ミィは……?」

 

「急いで向かうと」

 

「分かった……十分は稼ぐ。それよりかかると……」

 

ミィの到着がそれより遅れた場合は、防衛失敗の可能性が激増するという訳だ。

 

「私も、援護します」

 

「うん……まずは地面に落とそう。弓と魔法の準備」

 

そうして準備をしていた2人だったが、もう少しで射程圏というところで亀はその姿を消した。

 

そして、地面へと向かって落ちる4つの人影。

4人の内3人は皆一様に鈍足であったが、それぞれ異常な点があった。

1人は両脇の化物。

2人は本来ありえない大槌の2本持ち。

そしてもう1人は武器すら持っていないが雰囲気から只者では無いオーラを出していた。

 

マルクスにとって空を飛ばれないことは好都合ではあったが、空を飛んでいてくれた方がよっぽど威圧感は少なかったことだろう。

 

「大丈夫……僕は、時間を稼ぐだけでいいんだ」

 

マルクスは勝つ気など全くない。

ひたすらに耐えること。

それが今出来ることだと分かっていた。




次回からは炎帝ノ国との戦闘に入っていきます。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと炎帝強襲

炎帝ノ国の本陣を襲ったメイプル、ヒビキ、マイ、ユイの4人。彼女達は真っ直ぐに歩いていく。当然、マルクスの設置してあった罠を次々と踏み抜いていく……のだが、それらは何の効力も発揮しなかった。

発動はしているが、全ては圧倒的な防御力により無効化される。

 

「やっぱり……効かないのかぁ……」

 

何十人分の罠を無駄にさせられたかはマルクスにももう分からなかった。

しかしマルクスはメイプルが来た時の為の罠もきっちり用意してあった。

 

「かかった……!」

 

メイプルがその罠を踏むと次々に植物が伸び始めた。

それはメイプルの腕や足を拘束してその歩みを止めさせる。

こういった進行を妨げるための罠は機動力が低いメイプルによく効くのだ。

 

破壊するにはそれ相応のダメージを与える必要があるが、マルクスは自分の持つスキルからメイプルのスキルに何らかの制限があると予想していた。

そうそうポンポンと大規模なスキルは使えないだろうと考え、もし使ってきたならばミィが戦いやすくなると考えた。

 

マルクスはここで1度死んでもそれはそれで仕方ないと思っているため、メイプルがスキルを使ってきたとしても構わなかったのだ。

 

「へっ……?」

 

ただ、かなり頑丈なはずの植物を一撃で粉砕するユイとマイのことは予想していなかった。

 

「えぇ……?本気?」

 

次々に罠は発動するものの、ダメージはメイプルが、拘束はユイとマイがそれぞれ受け持って無傷のまま少しずつ進んでくる。さ

 

「ミザリー!」

 

「はい!」

 

ミザリーの指揮の下、貫通能力を持った魔法が動きの鈍いメイプル達に撃ち込まれる。

遠距離からの魔法攻撃ではそう簡単に致命傷を与えることは出来ない。

それでも、回避行動を取らせることは出来る。そしてそれは時間を稼ぐことに繋がっていく……はずなのだが……。

 

「【飛拳】、【グランドスタンプ】 !」

 

その遠隔攻撃はヒビキの【飛拳】と新しく得たスキル、【グランドスタンプ】によって発生した衝撃波を前に全て阻止されてしまう。

 

「サリーのアドバイス……うん」

 

楽々と進むメイプルはサリーからのアドバイスを読むとすぅっと息を吸い込んでマルクス達に聞こえるようにスキル名を叫んだ。そして、その後に聞こえないように小さく言葉を続けた。

 

「【武器成長】!………」

 

短刀を持っていた方のメイプルの腕が金属に覆われていき、メイプルの身長程もある剣の形になった。

 

サリーのアドバイス。

それはもしどうしてもという時があれば【機械神】をそれっぽく偽装して、メインの銃撃の正体を隠して使うといいというものだった。

 

剣となった片手をスキルの補佐によって振り回して拘束する植物を切り刻む。

どんな対策をも乗り越えてくるのだから厄介極まりないことだろう。

 

「行くよ!」

 

「「「はい!」」」

 

一歩踏み出す毎に次々と罠が発動し、壁がせり上がり地面が陥没し空から魔法が降り注ぐ。

それでも4人の歩みは止められない。

ユイとマイのパワーが障害物を一撃で木っ端微塵にすることで、マルクスがメイプルに最も効くと思っていた種類の罠は悉く不発に終わってしまい、ヒビキの対応力によってミザリーらによる遠隔からの貫通攻撃も通用しない。

 

「仕方ないかぁ……皆、戻ってて」

 

マルクスはミザリーを残して全てのプレイヤーを拠点に帰した。

 

「死亡覚悟で、ですね」

 

「うん……」

 

罠を突破されてもまだ最大の防衛戦力が残っている。

それは2人自身。

今の状況に臨機応変に対応することが出来る最後の砦である。

 

マルクスとミザリーは両方とも魔法による攻撃が主体である。

そして、メイプルの天使の羽の防御フィールドに気づいているためその範囲に入らないようにして貫通攻撃を仕掛けることが出来た。

メイプルのスキルで薄く光る地面がそのまま他の3人の行動範囲となるため、その範囲に入るのは危険極まりない。

 

ユイとマイにしても罠が溢れる場所でメイプルの能力の及ばない場所には出ることが出来ない。

 

だが、ヒビキは違う。彼女だけは防御フィールドを出てもある程度戦う力がある。

 

「【ジャッキバウンド】!」

 

ヒビキは足のジャッキが地面へと叩きつけられる勢いを利用して跳び上がると防御フィールドの外に出た。

 

「うぇ!?出るの!!」

 

「【炎弾】!」

 

マルクスは驚くが、ミザリーはこのチャンスを逃さずにスキルで遠距離攻撃を放った。

 

ヒビキはメイプルの防御フィールドから出たので当然の行動だろう。だからこそ、ヒビキの次の行動は予測できなかった。

 

「ミク、【覚醒】!【守護の翼】!」

 

ミクは出てくると共に翼を広げて防御フィールドを展開、ミザリーの攻撃からヒビキを守備した。

 

 

その間にメイプルはダメージを回復する為に攻撃を3人に任せて【瞑想】を始めた。

 

「「【飛撃】!」」

 

「【飛拳】!ミク、【電撃波】!」

ユイとマイには遠距離攻撃がある。

それも必殺の威力を持ったものだ。

ただ、これも距離が開いているため当たらない。

 

ヒビキとミクの攻撃も飛んでいくが2人はこれを易々と躱す。ヒビキもこれはわかっているようですぐにミクを戻してメイプルの元へと戻った。

 

このままでは互いに有効打がないまま遠距離攻撃を打ち合うことになる。

 

ただ、この硬直状態はメイプルの思案が終わるまでのものだ。

 

そしてそれは今終わった。

 

「【毒竜】!」

 

唐突に撃ち出された毒竜は一瞬にしてマルクスの逃げ場を奪い去った。

たった一撃で全てを奪い去る力。

メイプルとマルクス、自分の強みを発揮出来たのはメイプルだった。

罠が本領のマルクスが罠を突破されてしまっている以上、メイプルが勝つことは当然とも言えた。

 

「っ!【リザレクト】!」

 

ミザリーから放たれた白い光が散りゆくマルクスを包んでいく。

それはミザリーが【聖女】たる所以。

スキルがきちんと発動する為には死亡直後に合わせなければならないが、完全な後出しが可能な蘇生のスキルである。

 

「【遠隔設置・岩壁】!【遠隔設置・風刃】!」

 

生き返ったマルクスは素早く罠をばら撒いてメイプル達の動きを阻害する。

しかし、今度はミザリーが標的となっており追撃を仕掛けてくると読んでの罠の設置は裏目に出た。

 

「くっ……!」

 

【リザレクト】は自分には使えない。

ミザリーが生き残るためには消費するものが大き過ぎる。

それならば、死んだ方がマシなくらいだった。

回復魔法は、ユイとマイの全て一撃死という特異性には相性が悪い。

一応使った魔法の壁を破壊して飛んでくる衝撃波にミザリーは目を伏せる。

 

「先に死に戻りますか……」

 

そうして諦めたミザリーの元へユイとマイが迫る。

より近づいて確実に攻撃を当てるために。

 

「何を諦めている?」

 

だが、それを遮る者がいた。

爆炎を散らし炎を纏うのはそう、ミィだった。

ミィは即座に【炎帝】を使うと続いて【爆炎】を使い迫るユイとマイに爆風を当てる。

ただ、ノックバック効果が入るのはメイプルなため3人の足を止めることに直接繋がるわけではない。

ただ、メイプルの位置が変われば無敵空間も当然変わる。

 

そうなると機動力があるヒビキはともかく、ユイとマイはマルクスによって地雷原となっているフィールドを進めなくなり、引かざるを得なくなる。

ミィが咄嗟に使った使い慣れた防衛手段は最高の効果をもたらした。

 

「【爆炎】!」

 

「か、【カバームーブ】!」

 

ミィがメイプルを弾き飛ばせば、メイプルがすかさず走って戻ってくるユイとマイの方に移動し、ヒビキもフィールドに入る。

 

「なるほどな……奥の2人から仕留めるぞ」

 

ミィはメイプルの弱点を瞬時に見抜き、2人へと指示を出す。

 

「「了解(です)」」

 

「【爆炎】!」

 

ミィがメイプルへと攻撃を当てると再びメイプルはノックバックによって戻される。

 

「うぇえ!!また!?」

 

すかさずマルクスが罠を投げる。

 

「【遠隔設置・宿木】!」

 

するとユイとマイが蔦に拘束されてHPを少しずつ吸われ始める。メイプルはすかさず【カバームーブ】しようとするも、ミィの【爆炎】に中断させられてしまう。

 

「こうなったら…【剛腕】!」

 

動けないメイプルの代わりにヒビキが2人の蔦を無理矢理引き剥がすと2人を抱えてメイプルの元へと走る。

 

「【ホーリージャベリン】!」

 

それを見たミザリーは3人を逃すまいと魔法攻撃をかける。

 

「【捕食者】!」

 

メイプルはこれを【捕食者】にぶつける事で隙を作り3人を自身の安全圏内にまで逃す。

 

「ユイちゃん、マイちゃん。こっちに!」

メイプルはシロップを呼び出すと機動力の無い2人を背に乗せて遥か上空へと逃がした。

強力なノックバック使いがいる中ではユイとマイを守りきれない可能性があるためである。

 

ヒビキはその限りでは無いため、残るが、当然メイプルは【身捧ぐ慈愛】を解除するので防御力は落ちる。

 

「【炎槍】【フレアアクセル】!」

 

ミィは中距離からの【炎帝】での攻撃、さらにその手に持った炎の槍と加速での近距離攻撃を使い分けて攻撃し始めた。

メイプルは剣となった左手を振るうがミィの速度についていけていない。

【捕食者】もミィを捉えることが出来ないでいた。

 

ヒビキの方も接近しようとすればマルクスとミザリーによる遠距離攻撃がそれを阻む。

 

ただ、ミィもメイプルにダメージを与えられないままなのでメイプル対ミィ、ヒビキ対マルクス、ミザリーの構図は膠着していた。

 

「【炎帝】でも駄目か……!」

 

ミィは自身の最高火力ならばもしかしたら貫けるとそう考えていたが、そんなことはなかった。

 

「ミザリー!マルクス!メイプルを集中攻撃だ」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

「【爆炎】!」

 

「うわっ!っもう!」

 

ミィによってノックバックさせられたメイプルをミザリーの貫通攻撃が襲う。

さらに、マルクスの罠がメイプルの手足を絡め取る。

 

「はあっ!」

 

その間にヒビキは接近して拳を振るうもミィには全く当たらない。

 

「【爆炎】!」

 

更にミィから反撃を受けてヒビキは再び距離を取った。

 

「むぅ……」

 

メイプルはその間に剣を振るって手足を縛る植物を切り捨て罠から脱出すると、大盾でミザリーの貫通攻撃を防ぐ。

大剣サイズの剣と大盾によりメイプルに攻撃を当てるためには妨げとなるものがかなり多い。

それに加えてあからさまに危険そうに見える【捕食者】の攻撃範囲に入らないとなるとメイプルの反応速度でも防御が間に合うのだ。

 

ただ、【捕食者】での攻撃が出来ない距離となるとメイプルの攻撃手段もなくなってしまう。

短刀のスキルは既にあと1回しか使えない状態なため、まだ使うわけにはいかなかった。

 

「どうしようかなぁ……んっ!」

 

繰り返されるミィのノックバック攻撃がメイプルの体勢を崩す。

メイプルの体に当てなくとも、【捕食者】に当てればメイプルにノックバック効果が入ってしまう。

そしてその先にはまた罠となればこれはもう大変である。

 

「もう!」

 

ミィ、マルクス、ミザリーの3人との距離はある程度離れており、3人共メイプルより速い上地面はメイプルの足止め用の罠で溢れている。

ランカー3人がメイプルと戦うつもりでしている行動はモンスターとは全く違うのだ。

向こうから接近してくることは一切なく、機動力の差で撹乱しつつじっくりとチャンスを狙ってくる。

 

ヒビキに関しても同様だ。近づけなければ彼女の有効打は【飛拳】と【グランドスタンプ】しか無い。そのせいでヒビキもメイプルを捕らえる罠を潰す事しか出来なかった。

 

ただ、ミィ達にしても貫通攻撃が一撃当たった程度では意味がないため、攻め手を欠いていた。

 

「うー。どうしよ……このままじゃあ近づけない」

 

「私も、もう接近すらさせてもらえませんね。罠を壊すのは割と簡単なのですが……」

 

「あちらも攻め手を欠いているようだな」

 

「けど、こっちとしても攻撃に有効打は無い」

 

「どうしましょうか……」

 

お互い、有効な攻め手が無い中での膠着状態。メイプルやヒビキからすればこの間に炎帝の国の守備隊が他のギルドにやられてオーブが取られるのは避けたいと思っており、少し焦りがあった。また、ミィ達もそれは同様で一刻も早くメイプルを倒してオーブの守りへと戻りたいと思っていた。

 

するとそこに下がっていた【炎帝の国】の兵士達がやってきた。

 

「今ならメイプルを倒せるぞ!」

 

「数で押せば……流石のメイプルも!!」

 

「待て!勝手に突出するな!」

 

ミィの静止も虚しく炎帝の国の守備隊は我先にとメイプルへと襲いかかった。

 

すると突如としてメイプルと炎帝の国の守備隊との間に火柱が立つとそこに炎と共に1人のプレイヤーが火炎の剣と共に降り立った。ミィに並ぶほどの火炎の使い手……。最早1人しかいなかった。

 

「オイオイ、誰が勝手にうちの大将に触れて良いって言ったんだ?」

 

男はゆっくり立つと火炎剣の切っ先を敵へと向けた。

 

「来てしまいましたか……」

 

「うわぁ……これはかなり面倒な事になりそうだなぁ」

 

「……また会ったな。セイバー」

 

「【炎帝の国】の皆さん。どうもこんにちは。来て早々に悪いですが……死に戻ってもらおうか」

 

それと同時にセイバーは烈火を振るった。

 

「【爆炎紅蓮斬】!」

 

巨大な炎が敵プレイヤーを包むと彼らを1人残さずに殲滅された。ミィ、マルクス、ミザリーは射程外にいたため難を逃れたが一瞬にして味方を半壊させたセイバーの力を前に気を引き締めるようであった。

 

「さぁ、ミィさん。今日こそ決着をつけましょう。どっちが最強の炎使いか!」




次回はセイバー対ミィとなります。ただ、ここでセイバーには【火属性無効】があるのにミィはダメージを入れられるのか?という話になるのですが、ご安心ください。ミィには【火属性無効】があっても無くても関係なくダメージが入るスキルがあるので彼女だけは火属性でダメージを入れられるようになっています。それではまた次回もお楽しみに。


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聖剣使いと紅蓮の戦い

今回はセイバー対ミィがメインとなります。それではどうぞ!


セイバーは炎帝ノ国の守備隊を蹴散らすと3人のランカーと相対した。

 

「ミィさん。以前言ってましたよね?今度は決着をつけるって。なら、今やりましょう。どっちが本物の炎使いか」

 

「良いだろう。私とお前、どちらの炎が上か勝負だ」

 

セイバーは相手には聞こえないように後ろにいるメイプルとヒビキに話しかけた。

 

「メイプル、お前は一旦離れてろ。この3人相手にお前の力は相性が悪い。俺が戦っている間にオーブを奪ってくれ」

 

「わかった。【カバームーブ】!」

 

メイプルは【カバームーブ】でマイとユイの元へと行くとシロップに乗ってオーブの方へと進んで行った。

 

「ヒビキ、お前はまだやれるな?」

 

「うん!」

 

「なら、ヒビキはマルクスさんとミザリーさんを引きつけてくれ。取り敢えず、メイプルがオーブを奪うためにはあの2人がいたら厄介だからな」

 

「わかった。やってみる!」

 

「何を話している?やるんじゃないのか?」

 

「勿論やるさ。それじゃあ、行くぞ」

 

5人はそれぞれ構えると緊張状態に入った。お互い、僅かな隙も見逃すまいと真剣な目をする。

 

「【グランドスタンプ】!」

 

ヒビキの【グランドスタンプ】が起こした衝撃波がミィとマルクス、ミザリーの2人を分断するとその間にセイバーは突っ込んでいった。

 

「【爆炎激突】!」

 

「くっ!【フレアアクセル】」

 

ミィはこの激突をフレアアクセルによってジャンプする事で躱す。

 

「うらあっ!」

 

セイバーは激突の効果が消えるとミィへと肉薄、烈火での連続攻撃を仕掛けた。

 

「チッ……近すぎる!」

 

ミィの武器は杖だ。本来、杖は後方からの攻撃や支援が得意なのだが、ミィの場合は前衛として出した方が高い攻撃力を発揮できる。だが、今はそれが災いし、魔法を発動するための隙も無いセイバーの剣撃に、ミィはこれを躱すのに手一杯になっていた。

 

「ミィ!【ホーリージャベリ……」

 

「させないよ。ミク、【エレキフィールド】!」

 

ヒビキはミクを再び呼ぶと自身とマルクス、ミザリーの2人を囲むように電気のフィールドを展開、攻撃を阻止した。

 

「こうなったらもうやるしか無いなぁ……。【遠隔設置・毒液】【遠隔設置・槍襖】!」

 

マルクスが罠を遠隔から投げると罠が発動してヒビキを毒の液で包んだ後に周りからの棘がヒビキを貫こうとした。

 

「無駄だよ!ミク、【凶払い】!」

 

ミクはヒビキに覆い被さるとヒビキにダメージを与えていた2つの罠を消滅させた。

 

「【飛拳】!」

 

「【魔力障壁】!」

 

返しのヒビキの飛拳はミザリーによって止められるも、ヒビキの牽制はかなりの有効打となっていた。

 

セイバーとミィの対決も激化しており、お互いスキルを放ち攻撃していった。

 

「【爆炎】!」

 

「【火炎十字斬】!」

 

火炎の弾と十字型の斬撃がぶつかり合って爆発が起きる。

 

「はあっ!」

 

セイバーは剣を振るってミィを仕留めにかかるが、ミィはこれを紙一重で避け続ける。

 

「やりますね……ここまで攻めているのに一撃も当たらないなんて……」

 

「私はまだ負ける訳にはいかないからな。【爆炎】!」

 

「【火炎砲】!」

 

今度は炎の弾どうしがぶつかり合う。その衝撃波は2人の間を駆け抜けていく。

 

さらにセイバーはミィへと接近しつつ斬撃を次々と浴びせていく。

ミィはこれを躱していくが、押されているのはミィだった。

 

「(くっ……セイバーの力がこれ程とは……。こちらの攻撃はほぼ全てMPの消費が激しい。長時間の撃ち合いは向こうに分があるな)」

 

「さーて、流石はミィさん。攻撃が全然当たらない。当たったら即死と見てるなこれ。HPはサリーよりはあるとはいえ、杖は近接戦闘は苦手だ。分はこっちにある。ミィさんみたいな攻撃特化の構成なら尚更な。こっちは長期戦するのが良いんだろうけど、それはそれでこっちのネタを見せるから嫌だな」

 

セイバーは意を決するとミィから距離を取って烈火のスキルを発動した。

 

「【爆炎紅蓮斬】!」

 

セイバーは先程よりも強力な火炎の斬撃を振り下ろす。勿論ミィも黙っている訳が無い。

 

「【炎帝】!」

 

ミィの最高火力。つまり、フルパワーの攻撃だ。2つの大技はぶつかり合うと大爆発を起こす。セイバーはその爆発に乗じてミィへと接近する。

 

「はあっ!」

 

「【フレアアクセル】!」

 

ミィは足から炎を噴射する事で飛び、空中で失われたMPを回復させる。

 

「ブレイブ、【覚醒】!【騎乗】!」

 

セイバーもMPを回復させてから大きくなったブレイブに乗るとミィを追いかける。

 

勿論、ミィはセイバーが飛べる事を前提とした対策もしてあり、ミィはセイバーの頭上から攻撃を仕掛けた。

 

「【爆炎】!」

 

セイバーはこれをブレイブを巧みに操って回避する。

 

「【神火龍破斬】!」

 

セイバーはミィへと接近し、更に強化された炎の剣でミィを斬りつける。

 

「【炎槍】!」

 

ミィはこれを炎の槍で受け止めるが、威力の差は歴然であり、ミィはセイバーによって叩き落とされた。

 

「ぐうっ!」

 

「これで決める!【龍神鉄鋼弾】!」

 

セイバーはブレイブが吐いた炎に包まれながらミィへと突貫するとキックの体制に入った。

 

「チッ!【炎帝】!」

 

ミィは咄嗟に炎帝を放つと2つの技の激突で爆発が起き、2人共その余波で少しダメージを受けた。

 

「はぁ……はぁ……やはり強いな。流石は私の上を行った男」

 

「こっちも気が抜けないですよ。【炎帝】の名は伊達じゃ無い……」

 

2人はお互いを認め合うとお互いを倒すための考えを巡らせていた。2人は再び激突を始めるとその衝撃波が周囲を駆け巡っていった。

 

その頃、ヒビキとマルクス、ミザリーも電気で作られたリングの中で凌ぎを削っていた。

 

「はあっ!」

 

ヒビキの拳はマルクスに躱されると地面へと叩きつけられて、拳の当たった地面は思い切りヘコんでクレーターが出来るほどだった。

 

「うわぁ……。あの威力、当たったら即死かも……」

 

「ですが、それなら近づけないように遠くから攻めていきましょう。【ホーリージャベリン】!」

 

ミザリーは遠くからヒビキへと射撃を放ち、ヒビキはこれをスレスレで躱していく。

 

「【遠隔設置・岩壁】、【遠隔設置・粉塵】!」

 

ヒビキが逃げた先にはマルクスの罠が飛んでおり、ヒビキは周囲を岩の壁で囲われてその中では粉塵がヒビキのHPを僅かずつ奪っていった。

 

「くうう……」

 

「【多重炎弾】!」

 

ミザリーは炎弾を飛ばすと壁ごとヒビキを葬ろうとしてきた。

 

「はああ!せいっ!」

 

ヒビキは思い切り壁を殴ると1発で壁を吹き飛ばし、飛んでくる炎弾を躱していった。

 

「長期戦は不利ね……このまま一気に決めるよ!【ジャッキバウンド】!」

 

ヒビキは先程のパンチで壊れた岩壁を足場として思い切り蹴ると一気に2人へと接近していく。

 

「【遠隔設置・風刃】!」

 

真っ直ぐに突っ込むヒビキに対してマルクスは罠から風の刃を飛び出させるとヒビキを襲わせた。

 

ヒビキはこの刃の攻撃をまともに受けてしまいHPをゴリゴリと減らされ、痛みに襲われるも、そんなのお構いなしに無理矢理2人へと接近していく。

 

「まさか、ダメージ覚悟で!?」

 

「【ホーリージャベリン】!」

 

「【逆鱗】!」

 

ヒビキは激しいオーラに包まれるとミザリーの攻撃を弾いていく。

逆鱗の効果は攻撃の威力が2倍となる代わりに敵1人にしか攻撃出来なくなり、更には3分後には疲れてステータスが半分に減るというまさしく捨て身の技だった。

 

ヒビキはミザリーとマルクスでは先に回復と支援をこなせるミザリーを仕留めたいと思っており、逆鱗でどちらに縛られるのかは賭けであったが、見事に攻撃対象をミザリーのみに絞る事が出来た。後は時間が切れるまでにトドメまで持っていくのみである。

 

「はああああ!!【我流・特大撃槍】!」

 

ヒビキは両腕のガントレットをいつもの5倍は引き絞るとそれが戻る威力を利用した両手のパンチをミザリーへと繰り出した。

 

「せえぇえい!!」

 

「【遠隔設置・岩壁】!!」

 

マルクスは咄嗟にヒビキとミザリーの間に岩壁を5つ展開するとヒビキはそれによってパンチの勢いを完全に殺されてしまった。

 

「しまっ……」

 

「【多重光弾】!」

 

最後にミザリーの攻撃を受けてヒビキはHPを0にされて消えてしまった。それと同時にエレキフィールドも解除される。

 

「ふう……なんとかなった……」

 

「罠による支援ありがとうございます。お陰で気づかれずに攻撃を放てました」

 

「咄嗟に岩壁を出したのが正解だった……。あの威力をまともに受けたらほぼ即死だし……」

 

「これからどうします?ミィの方に加勢しますか?それともオーブを取り返しますか?」

 

「あぁー。オーブなら多分大丈夫。ミィが既に指示出してたし」

 

「そうですか。でしたら……」

 

するとそこにミィが吹っ飛ばされて2人の前に着地する。

 

「くぅ……」

 

更にセイバーもゆっくりと歩いてくる。

 

「やっぱりこうなるよね?」

 

「えぇ、全力でセイバーを倒しましょう」

 

そう言い、マルクスとミザリーは構えた。一方でセイバーもヒビキが負けてしまった事には薄々感づいており心の中で謝っていた。

 

やっぱりランカー2人相手はキツかったか。すまんヒビキ……仇は取る。

 

「さて、3対1だけど……勝てるかな?」

 

「ですが、やるしかありません。ここで彼を倒せれば……」

 

マルクスとミザリーは全力でセイバーを倒そうと攻撃を仕掛けようとする瞬間、ミィが2人の前に立った。

 

「2人共待て。おそらくセイバーは3人でかかっても勝てない」

 

「「ミィ……」」

 

「奴はまだまだ力を隠してる。だが、こちらは手の内をかなり晒してしまっている。しかも、戦ってみてわかったが、奴の力は底無しだ。戦いの中で強くなっている。ならば、こちらも出し惜しみはしていられない。私も最強のアレを使う。2人共、この後の防衛戦力を調整してくれ」

 

「っ、はい!」

 

「わかった」

 

ミィはセイバー相手に1つのスキルを発動させる。

 

「【火炎牢】」

 

「牢……」

 

突如としてセイバーを中心として天に向かって炎が伸び、セイバーは炎の壁で囲われた。

上部分は開いているものの、かなりの高さである。

セイバーが炎の壁を剣で斬って見るものの炎の包囲は崩れない。

 

「……防御貫通の攻撃……。しかも、すぐには終わりそうに無いな。さて、どうするか……」

 

防御力に関係なく、一定時間毎にダメージが入っていることに気付いたセイバーはHPを回復させるポーションを飲みながらスキルが終わるのを待つが、これがなかなか終わってくれない。

ミィが渋々切った1日1回の切り札である。そう簡単に終わりはしないのだ。

 

一応、ブレイブで空へと飛ぶという手もあるが、予想以上にダメージの入りが速い。ブレイブのHPが切れたら今度こそ抜けれない。だったら、他の属性使っちゃうけど……。

 

 

セイバーが思考を巡らせている間、外ではミィがMPポーションを次から次へと空けていた。

【火炎牢】の維持時間はMPがなくなるまでであり、上限は10分。

ただ、10分も保たせようとすれば何10本ものMPポーションを飲まなくてはならない。

今回のイベントの性質からそれは避けるべきだったが、セイバーを相手にするとなればそうも言っていられなかった。

 

「さて……どうなる?」

 

「私としては、このまま倒れて欲しいですね」

 

「うん……もうそろそろヒビキとメイプルによって使わされた罠が厳しい感じだし……」

 

 

そうして話す3人の強者の前で1つの声が聞こえた。

 

「流水……【大抜刀】!」

 

するとミィの炎を一瞬にして蒸気として散らせると煙幕の如く周り一体を覆った。

 

「な!?」

 

「【ハイドロスクリュー】【火炎十字斬】!」

 

2つの斬撃はそれぞれマルクスとミザリーへと飛んでいき、マルクスは避けるも、ミザリーは魔力障壁を破られてしまい消滅した。

 

「ミザリー!」

 

「翠風、抜刀!【疾風剣舞】!」

 

セイバーは一瞬にしてマルクスの後ろに到達すると翠風を合体させて手裏剣のようにすると投げつけた。

 

「うわっ!?」

 

マルクスはそれを紙一重で躱すも翠風は5つのエネルギー斬に分裂、その内の4つはマルクスを切り裂き、セイバーは本体を掴むと体ごと回転しながらマルクスへと翠風を振り下ろし、マルクスを倒した。

 

そして、ようやく水蒸気が消えた後にはセイバーは烈火を持ってミィの前に立っていた。

 

「これで邪魔はいなくなりました。決着を付けましょう」

 

「くっ……」

 

ミィはこの時、かなり動揺していた。

僅か一撃で破られた自身の切り札、一瞬にしてやられた2人のランカー。そして、セイバーが今までずっと隠していた力の片鱗。ミィにとってセイバーの力はここまでとは想像出来てなかったのである。

 

「……最早、私に勝ち目は無さそうだな」

 

ミィは潮時をわきまえていた。その証拠にミィのMPポーションは切れてしまっており、今のセイバーに対抗する事は出来なかった。だからこそセイバーへとこの言葉を放った。そして、セイバーもそれを受け入れるように言葉で返した。

 

「そうですか……またやりましょう」

 

セイバーはそう言ってミィへとトドメを刺すべく剣を振りかぶる。

 

「【紅蓮爆龍剣】!」

 

 

セイバーが剣を振り下ろすと紅蓮の龍がミィへと襲いかかる。

 

「【フレアアクセル】」

 

ミィは赤い龍をギリギリで躱すとセイバーへと突っ込んでいく。

 

「……【自壊】!」

 

ミィはセイバーの背中側に回って密着するとミィの体を炎が覆っていく。

 

「……道連れ狙い。確かに、有効な手だけど……激土抜刀!」

 

 

セイバーがそう言って剣が激土へと変わったタイミングでミィの体が天高く火柱を上げてセイバーごと燃え盛った。

もうこれ以外にセイバーに対して有効な可能性のある魔法は残っていなかったのだ。

 

そうして散りゆくミィは最後に聞いた。

 

「激土の防御力なら……問題無しだ」

 

セイバーのトドメの宣言を。

 

 

 

 

 

炎が止んだ時その場にはセイバーが1人仁王立ちをするだけだった。

 

「HP残り10。流石は激土の防御力。それ以外の装備だったら即死だったぞ。さてと、メイプルはオーブを奪えたのかな?」

 

セイバーがHPを回復しているとメイプルからの通知が来た。するとそこには衝撃の内容が書いてあり、セイバーはメイプルの元へと向かっていった。

 

 

 

セイバーがメイプル達が【炎帝ノ国】の拠点にたどり着くと、そこにはオーブもなければプレイヤーの1人すらおらず、メイプル、ユイ、マイが慌てて探している様子だった。

 

「メイプル、逃げられたってマジ?」

 

「ごめんセイバー……せっかく足止めしてもらったのに……」

 

「いや、俺としても完全にノーマークだった。おそらく持っていったのはシンさんだろうなぁ……」

 

セイバーの予測は当たっており、オーブはメイプルが到達する頃にはミィの指示を受けたシンの手によって持ち去られた後だった。

 

陽動で先に行ったメイプル達にオーブを奪われて、それをいつまでも拠点に持ち帰ってくれなければミィ達のオーブは永遠に帰ってこなくなってしまう。

ミィの悪足掻きはメイプルの行動を出来るだけ無駄にしつつ、最悪の状況を回避するものだった。

 

「ど、どうしよう!?元々ここのオーブは取れたら取るってことだったけど……うー……」

 

「えっと……じゃあ一つ考えがありますけど……」

 

「何?」

 

メイプルがユイの言葉に耳を傾ける。

 

「ちょうどこの周りにはギルドが沢山あるので、倒しながらここのオーブを持った人を探すのはどうですか?」

 

「……うん、それでいこう!」

 

「取り敢えず俺は奪ったオーブ拠点に入れてくる。ついでにヒビキにも謝ってこないと」

 

「オッケー。わかったよ」

 

「セイバーさん、気をつけてくださいね」

 

「ああ」

 

セイバーはそう言って離脱し、メイプル達もオーブ探しを始めた。

 

そんな訳で、ミィのせいで急遽襲われることとなったギルドの数は6つ。セイバーも拠点へと戻りつつ3個もオーブをギルドごと潰したので計9つ。

とんだとばっちりである。

 

「じゃあ早速行こう!」

 

襲ったギルドでメイプル達がしたことは道場破りのごとく正面からオーブまでの道を真っ直ぐに歩いただけである。

その道中で食い散らかされたプレイヤーは数知れず、ユイとマイの攻撃を受け止めて盾ごと消し飛んだプレイヤーも数え切れない。

 

これによりメイプル達はオーブを手に入れたが【炎帝ノ国】はいち早く避難していたのが幸いし、遂にメイプル達から逃げ切った。

 

 

ミィは復活すると周りに誰もいないのを確認してから素のミィを丸出しにした。

 

「うわああああん!!セイバー強すぎるよぉ……。あんなのに勝てる訳無いじゃん!!馬鹿なの?あんな化け物をどうやって倒せと?聖剣を全部使わないという舐めプされてた上に私の最後の切り札もまるで効かないしぃー」

 

ミィは誰もいない事を良い事に泣きまくった。流石のミィもセイバー相手には分が悪すぎた。

 

そこにマルクスとミザリーも戻ってきたため、ミィはいつものポーカーフェイスに戻る。

 

「まさか、僕達3人共セイバーにボコボコにされるとはね……」

 

「水蒸気の中で辛うじて見えましたけど、セイバーは二刀流を使っていましたね。おそらくアレがセイバーの奥の手だと思います。切り札を1つ見れただけでもマシでしょう」

 

「うぅ……僕がやられたあの技も速度が速すぎて躱せなかったし……。でも、確かアレも剣を2本持ってなかったっけ?」

 

「ああ、だがアレは同じ剣を2本だったような……」

 

「そういえば、僕達の狙い通りメイプル達が周りのギルドを潰してくれているお陰でこっちには敵の戦力は向いてこないかな」

 

「おそらく、暫く身を隠していれば、メイプルが拠点周りの安全を確保してくれるだろう」

 

3人のランカーはメイプルやセイバーがこれから取る行動を考えてギルドメンバーに話していく。

ひしめくプレイヤーの処理をメイプルとセイバーに押し付けて安全確保をさせる代わりに、自軍オーブのポイントと近くのオーブのポイント分だけ損をした。

 

「痛いが……一応メリットもある。メイプルが触れてはいけないものだと分かったのもいい……」

 

ミィは心の中で次こそセイバーを倒すと誓った。今度は、彼の全てを引き出してから勝ちたいと思いながら……。

 

それからミィ達【炎帝ノ国】は遠出してメイプルやセイバーが去っていくまでオーブを奪うことに専念することになり、それは後から強力なギルドが全力で襲ってくるということに繋がっていく。

 

2日目の夜にかけて再び環境は動きつつあった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと最強襲来

2日目も日が落ちた頃、【楓の木】のメンバーは全員が拠点にいて、セイバーはヒビキに対して謝っていた。

 

「ヒビキ、ごめんな。ランカーを2人も相手にさせる事になって……」

 

「ううん、大丈夫だよ。寧ろ私にとっては強い人達と相手できて楽しかったし、セイバーお兄ちゃんが3人共倒せたんでしょ?」

 

「まぁ、そうだけど……」

 

「なら良いよ!やっぱりお兄ちゃんは凄いよ!」

 

そして、メイプルとサリーは現状について話していた。

 

「【炎帝ノ国】はメイプルが罠の殆どを踏み壊したし立て直すのには少しは時間がかかると思うけど……やっぱりオーブを持って逃げられたのは痛いね」

 

「ごめんねサリー。結構探したんだけど見つからなくて」

 

「【炎帝ノ国】が周りを襲ってくれてるなら大丈夫なんだけど……どうだろう」

 

今回メイプルが【炎帝ノ国】を襲った理由は【楓の木】より上位に入るギルドを【炎帝ノ国】に減らしてもらうことであった。

【楓の木】が上位に食い込むためには大型ギルドに暴れてもらう必要が出始めていたのだ。

 

というのも、小規模ギルドは予想よりも早くその多くが駆逐されてしまい、中規模ギルドと大規模ギルドの戦闘が多くなってきており、中規模ギルドを利用してのフィールド荒らしの効果が薄くなってきているからであった。

 

【楓の木】の目標は10位以内に入ることである。

10位以内ならば報酬は1位でも10位でも変わらないため現在はこれを目標としている。

そして【楓の木】は現在6位である。

他は全て大規模ギルドで埋まっているため1位よりも遥かに目立っていた。

 

「やっぱりあれだね。人数差があるから……」

 

「予想より高い順位だけどね。正直ここまでやれるとは思わなかった」

 

ただ、サリーが復帰したとしても現状1位まで駆け上がるのは難しいだろうことは明白である。

 

「まだ2日目だから追いつけるチャンスがない訳じゃない。けど……これ以上離されたくはないかな」

 

そこにセイバーがやってくる。

 

「サリー、俺もそろそろ休んでも大丈夫か?流石にかなり疲れて……」

 

セイバーはここまでずっと動き続けた影響か、その場に倒れ込むと寝てしまった。

 

「セイバー……流石に疲れたよね。取り敢えずクロムさん。セイバーを奥の部屋で休ませてください」

 

「わかった」

 

クロムはセイバーを奥の部屋へと連れていくとセイバーは寝る事になった。

 

【楓の木】内で話し合った結果、疲れでダウンしたセイバーと守備部隊であるイズとカナデを残して全員で夜の戦場へと出て行くことに決まった。

 

チームはサリー、ユイ、マイ、ヒビキの4人。

もう片方がメイプル、カスミ、クロムである。

 

「じゃあ、行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい。私とカナデ、セイバーはここで待っているわ」

 

サリーのマップは全員に写されているのでそれを見てそれぞれギルドを襲って帰ってくる予定である。

 

 

 

サリー達は茂みに隠れてギルドを襲うチャンスを狙っていた。

 

サリーはメイプル達が【炎帝ノ国】を襲って帰ってくるまでの間にカスミに斬りかかって貰って回避能力がどこまで落ちているかを試していた。

結果、そろそろ復帰出来ると感じたため攻撃に参加することにしたのだ。

 

「ふぅ……よし!」

 

「私も!」

 

サリーとヒビキは隠れていた茂みから飛び出すとオーブへ向かって走り出す。

 

「侵入者だ、やれ!」

 

「よし……!見える!」

 

「こっちも行くよ。よーい、ドン!!」

 

サリーとヒビキは迫り来る攻撃を避けながらプレイヤーを斬りつけ、殴り、オーブを狙う。

 

「囲め!逃げ道をなくせ!」

 

素早い連携により2人を囲もうとプレイヤー達が動く。

 

「「私達に気を取られてるともっと怖いよ!」」

 

2人がそう言うと同時にサリーを注視していたプレイヤーが衝撃波により一撃で木っ端微塵になった。

 

何事かとその方向を向いてしまったプレイヤー達はサリーによって斬りつけられてしまい、無理やりに注意先を限定させられる。

 

多くのプレイヤーは茂みに気を取られつつサリーの方を向いた。

ただ、そんなことをしていては茂みから出てきたユイとマイやサリーとは別の方向から前衛を張るヒビキへの対処が遅れるというものだ。

 

ユイとマイが投げた鉄球がサリーの方を向いていたプレイヤーの背中に当たり、訳の分からぬままにその命を散らしていく。

 

さらにヒビキは【インファイト】によって手当たり次第に敵プレイヤーを葬っておりこれを見たプレイヤーは激しく動揺してしまう。

 

メイプルにもある得体の知れない攻撃能力は思考を止めるのに非常に効果的だった。

 

「朧、【影分身】!」

 

そんな中で再び目を引く出来事が起こればもう思考は正常ではいられない。

分身したサリーをどうにかしようとしたところで遂にユイとマイの大槌がプレイヤーを捉えることとなった。

 

大槌は鈍い音を立てて数人のプレイヤーをまとめて宙に弾き上げるとキラキラと輝く光に変えた。

 

「あ、ありえねぇ……」

 

「「【ダブルスタンプ】!」」

 

ユイとマイが次々と敵を潰していく。

当然、ユイとマイを攻撃出来ればそれで終わりなのだが、呆然としているものはそんなことは出来ず、そうでないものはすなわちサリーやヒビキへと背を向けてユイとマイを襲っている訳で、2人が黙っているはずが無かった。

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

「【我流・雷撃槍】!」

 

サリーの斬撃が、ヒビキの雷を纏った拳が槍の如く敵プレイヤーを背後から次々に倒していく。

 

ユイとマイを倒そうとしているプレイヤーの見極めは2人にとって容易いことだった。

 

2人はメイプルとは全く違う方法によってユイとマイを守りきった。

たった1回攻撃を当てるだけで体力が初期値のサリー、ユイ、マイは倒れてしまう。

ただ、今回はそれが可能になるような状況を生み出させないように戦闘がコントロールされた。

 

「オーブは貰うとして……次はもうちょっと鉄球でいってみようか。ヒビキも、次はもっと暴れても良いよ。その方がマイとユイも仕事がしやすいし」

 

「「「はい!!」」」

 

「それじゃあ、次に行ってみよう!!」

 

4人は次の目的地に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

カナデとイズはギルドで2人暇を持て余していた。

 

「この辺りのギルドはもう諦めて近づいてこないし……暇ね」

 

「僕達のことを知らないギルドが遠出してくるかもしれない……おっと」

噂をすればなんとやら、入り口からぞろぞろとプレイヤーが入ってくる。

プレイヤー達は遠目で2人の装備を見て生産職と後衛であることを把握した。

 

「いけるぞ!前衛無しだ!」

 

剣と盾を構えたプレイヤー達が前線を上げ始める。

 

「さて、やりましょうか」

 

「うん。セイバーの手も出来れば借りたいけど、流石に今は起こせないからね」

 

イズは両手に爆弾を持ち、カナデは浮かぶ本棚をそれぞれ出した。

 

【楓の木】が2人だけに防衛を任せることにしたのは攻撃に重点を置くため仕方なくという訳ではない。

 

 

防衛はカナデとイズとで十分過ぎるほどだからである。

迫る前衛に向かってイズが放り投げた爆弾は彼らの頭上で10倍に増えて降り注いだ。

爆炎と衝撃に視界を奪われる中、盾に身を隠すことでやり過ごそうとしたのも仕方ないことだ。

ただ、それら爆弾はカナデが増やした幻でしかなかった。

数は変わっておらず、増えた分のダメージも当然ない。

 

ならばなぜそんな魔法を使ったのか、それはまず一つが今日限定で使える【神界書庫】のスキルだったことである。

出し惜しみをせずともこの後で魔導書にすることが出来るのだから問題ない。

そしてもう1つの理由が時間を稼ぐためである。

 

彼らの視界が戻った時、カナデはバチバチとスパークする白い球体を体の前に浮かべていた。

 

「よし……!」

それは圧縮されどんどんと小さくなっていき、危険を察知したプレイヤー達が防御の姿勢を改めて取ったところで眩い光とともに弾けた。

 

カナデの使ったスキルは【破壊砲】。

それはカナデの真正面を白い光で焼き尽くしていく。

光が収まった時、固まっていたプレイヤー達を2つに裂くように誰もいなくなった1本道が伸びていた。

 

「イズ、あまり魔導書を使いたくないから……」

 

「分かったわ、アレね……」

 

それを聞いてイズがポーチから物を出そうとするといきなり敵プレイヤー達は燃え始めたのだ。セイバーは寝ていて、2人も何もしていないのに何故燃えたのか。その理由は簡単である。

 

 

「ブレイブ!出てきていたの?」

 

奥の部屋から現れたセイバーの相棒の赤い龍、ブレイブは敵を次々と炎の渦の中へと閉じ込めては焼き尽くしていく。

 

「これは、僕達が出るまでも無さそうだね」

 

実は、セイバーはこのギルドに戻ってくる前にブレイブを呼び出しており、その時に指示を出していたのだ。

 

だからブレイブはセイバーの指示無しでも相手へと攻撃を始めたのだ。しかも、その戦闘力はシロップや朧の戦力を遥かに上回っており、セイバーがどれだけブレイブと共に敵を倒し続けたのかがよくわかった。

 

「イズ、流石にブレイブだけに任せるわけにはいかないよね?」

 

「えぇ。それじゃあこっちも行くわよ」

 

イズは改めてアイテムポーチから真っ黒い液体の入った瓶を取り出しカナデに手渡した。

 

イズがカナデに渡したアイテムは【新境地】で作ることが出来るようになった、MPの回復速度を短い時間異常な程に上げるものだ。

カナデはそれを飲み込むと、我に返ったプレイヤー達の目に新たに展開される無数の魔法陣を焼き付ける。

 

それらは暗に告げている。

死にたくなければさっさと帰れと。

 

「くっ……止めだ!撤退だ!」

 

盾を構え防御を緩めないまま後ずさりして出て行こうとするプレイヤー達のうちの何名かを発動させた魔法で打ち抜いて葬ったところで撤退は完了した。ブレイブも追撃までは指示されていないため、深追いはしなかった。

 

彼らが退くことが出来たのは、カモだと思っていたギルドが実はそうでなかったことが分かった時には全員殺されていたということがなかったためだ。

 

ユイとマイがいた場合はそうはいかなかっただろう。

メイプルやセイバーでもそうだ。

 

「強力な魔導書は限られてるからすぐに退いてくれたのは嬉しいな。それにブレイブのお陰でこっちはかなり楽だったよ。ありがとう」

 

カナデの言葉にブレイブは嬉しそうに鳴く。

 

「流石セイバーね。ここまで予想して作戦を考えてたとは」

 

カナデは【神界書庫】で引き当てた魔法は全て魔導書に変えて保存してあるが、毎回目当ての魔法を引き当てられる訳ではないため、使い所のないような魔法もある。

勿論【破壊砲】のような魔法もあるがカナデの言うように少数である。

 

「【集う聖剣】がくる可能性が高いし、大事な魔導書は残しておかないといけないね」

 

今回はあっさりと退いてくれたが次もそうとは限らない。

ただ、2日目にして死亡回数に余裕のないギルドも増えてきているため慎重になって退いてくれる可能性はかなり高くなっていると言えた。

 

 

 

その頃、メイプル達も順調にオーブを集めており、今回もまた、オーブを奪うべくメイプル達3人はとあるギルドを襲おうとした。メイプル達がギルドの前に着陸し中へと入ろうとした時、見知らぬプレイヤーが後ろを確認しながら慌てて外へと駆けてくるのが確認出来た。

彼の逃げ切れたという表情は暗闇の中に立つ3人が誰かを理解して絶望の表情に変わり、一瞬の後クロムとカスミの刃によって同時に体を斬り払われ消えていった。

 

「襲われてる!」

 

「ああ、急ごう!」

 

カスミを先頭にオーブの元へ繋がる道を駆けていく。

カスミが刀を構えて部屋に入ると、そこにはサリー達も含む6人がいた。セイバーはまだ寝ているらしくこの場にはいなかった。また、ブレイブもMPが少し乏しくなったので自動回復待ちで休んでいる。

ユイとマイが落ちている鉄球を回収しているところからも撃退してすぐのところだということが分かる。

 

「無事か……」

 

カスミは刀をしまうと6人の元へと歩いていく。

クロムとメイプルもその後を追い、全員が無事に集まった。

防衛の2人はブレイブのサポート有りとは言え消耗がかなり激しいようで地面に座り込んでいる。

 

「いやー疲れた……イズのアイテムとブレイブがいなかったらまずかったかもね」

 

「爆弾もかなり使ったから……今から急いで作っておくわ」

 

イズならばどこでも工房の機能を使うことが出来る。

一度準備期間があれば弾切れはおこらないのだ。

 

「うーん……今まではあんまり襲われてなかったのになあ。何でだろう?」

メイプルの言うように、【楓の木】は触れてはいけないものとして認識されつつあったためここにきての連続襲撃は少し奇妙ではあった。

 

「メイプルはオーブを集められた?」

 

「え?うーん……あんまり。オーブのないギルドが多くて……サリーは?」

 

「私達の方も荒れてたかな……結局2つしか奪えなかった」

 

とりあえず持ち帰ったオーブを設置した後でメイプルはメッセージについて聞いた。

 

「【集う聖剣】がどこかで1回はくるはずだからそれなら夜だと思ったのと、後は展開が思ったよりかなり速くて今のやり方が厳しいと思ったから……かな」

 

サリーが現在のランキングを開いてその項目をスクロールしていく。

全滅したギルドにはギルド名の隣にマークがつくのだが、そのマークは小規模ギルドだけでなく中規模ギルドにも及び始めていた。

 

1日目から全開で飛ばしたギルドは幾つかあり、それらにオーブを奪われたギルドが全力攻撃に移行して展開は加速し続けた。

死亡者なく防衛を成功させるギルドは稀であり、結果2日目終了間際ですでにかなりの量のギルドがリタイアすることとなっていた。

残っているのは人数の多いギルドを中心に一部の例外が僅かだけである。

よってオーブにありつける可能性も下がってきているのである。

【楓の木】が襲われていたのも【楓の木】だと知らないような遠くのギルドがここまできているからだった。

 

ユイとマイとメイプルの足ではフィールドを歩き回ってオーブを奪うこのルールではスピードで負けている。

いくら3人が強くともオーブがなければ奪うことは出来ないのだ。

 

「もう少しもつかと思ったけど……どのギルドもやる気あり過ぎで……序盤で稼ぐつもりが思ったより稼げなかったし」

 

サリーの予想よりもかなり速く大規模ギルドが跋扈する環境になりつつあり、ここからさらにフィールドが荒れていくだろうことは分かりきっていた。

 

「だから予定よりかなり早いけど次の段階に移行してもいいかなって」

 

「セイバーお兄ちゃんはどうするんですか?もう起こしてきましょうか?」

 

ヒビキの質問に対してサリーも答えを返す。

 

「セイバーはまだもう少し寝かせておこう。まだ行動開始にまでは時間あるし、恐らくセイバーもこの決定には賛成すると思うし」

 

取り敢えず、今この場にいる全員が次の段階に移ることをよしとして自分の役割を確認する。

そうして役割を思い起こしていたメイプルがサリーに声をかける。

 

「じゃあ後は……」

 

「うん」

 

サリーはメイプルが何を言おうとしているのか分かっており、続きを話す。

 

 

 

「【集う聖剣】待ち……かな」

 

メイプルはそれを聞くと今使うことが出来るスキルと兵器の残りの入念な確認をし始めた。

2日目も残すところ10分となりメイプル達が今日の深夜防衛の順番を決めようとした時、この日最後の来訪者がやってきた。

 

メイプル達は話を止めてそれぞれの武器を構える。

現れたのは万が一にも油断出来る相手ではなかった。

入ってきたのは僅か5人のプレイヤー。

その面子はペイン、ドレッド、フレデリカ、ドラグ、キラーの5人……【集う聖剣】の中でも最強の5人だった。

 

彼らが【楓の木】を攻撃しなければならない理由は本来ない。

強いて言うならばランキングを脅かす可能性があるギルドを倒しに来たということだが、それをしなくとも【集う聖剣】と【楓の木】のポイントの差は開いている。

 

ペインを筆頭にして5人が全員ここに来た理由、それは【楓の木】と戦って勝利したいという単純な欲求に他ならない。

彼らは同等、またそれ以上の可能性もあるギルドとの戦闘をどこかで望んでいた。

そのため全員がいることを確認した上での襲撃である。

ただ、無意味に近い攻撃を行うことをギルドメンバーに納得させるために、メイプルが最も弱っているであろう時間帯を選ばなければならなかったのは彼らにとって不本意ではあったが仕方なかった。

 

それ故に1日の終わりのこの時間にやってきたのである。

 

「やっほー、サリー。また来てあげたよ」

 

「そういや、セイバーはどこにいる?俺としてはセイバーに借りを返したいんだが……」

 

ドレッド、ドラグ、フレデリカはセイバーにこっ酷くやられた事もあってセイバーが出てくる事を強く望んでいた。ただ、当の本人はまだ寝ていたが……。

 

「……どうする?今から起こせるかな?」

 

「どうだろ。流石に今すぐは……」

 

メイプルとサリーが小声で話していると奥の部屋から足音がした。

 

「ふぁあああ……。よく寝た。さてと、どうやら俺が寝ている間に強い奴の気配がビリビリするのは何でかな?」

 

そこには傍にブレイブを従えて、音銃剣錫音を持ったセイバーが立っていた。

 

「セイバー!」

 

「ちゃんと起きてくれて良かったな」

 

「大丈夫ですよクロムさん。こんな面白そうな人達を相手にいつまでも寝ていませんって」

 

「強者としての勘という訳か。だが、今回は相手が相手だからな」

 

「初めまして……ペインさん。会ったばかりで悪いのですが、お手合わせお願いします」

 

「ああ、全力で来い……と言いたいけど、今回の相手は俺じゃ無い」

 

ペインが退くとセイバーの前には聖剣殺しの魔剣・ダインスレイヴを片手にオーラを放つキラーが今にも獲物を仕留めんとした目で見ていた。

 

「セイバー、今度こそお前の聖剣を俺の魔剣でへし折ってくれる」

 

「良いぜ。俺のリベンジマッチだ。数はこっちが上だけど、コイツだけは俺がタイマンする。それでも良いかな?」

 

「はいはい、けど、ヤバかったらこっちの加勢してよ?」

 

「オッケー。それじゃあ、長話もここまでにして始めようか」

 

そう言うと全員がそれぞれが剣を、刀を、大槌を、盾を、短刀を、爆弾を、大斧を、魔剣を、魔導書を、拳を、聖剣を構える。

最強同士によるこのイベント内での最強決定戦が……今、始まった。




次回は対集う聖剣戦となります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと聖戦

第4回イベントの2日目も残り約10分、【楓の木】のギルドを襲った【集う聖剣】の5人と迎え撃つ【楓の木】の面々。

その戦いはメイプルが天使の羽を天に伸ばし化物を召喚したのをきっかけに始まった。

 

「【飴玉シュート】!」

 

セイバーがフレデリカが支援魔法を4人にかけるよりも速く飴玉のボールを作り出すとそれを5人へと蹴った。それらは5人の足元に当たるとドロドロに溶けて動きを完全に拘束した。

 

「!?」

 

「ヤベッ!」

 

そこにすかさず大槌コンビが低耐久のドレッドへと攻撃を仕掛ける。

 

「「【飛撃】!」」

 

「【衝撃消滅】!」

 

だが、その攻撃は魔剣の効果で飴玉による妨害を受けなかったキラーが衝撃波を無効化する剣撃で相殺する。

 

「【障害無効化】!」

 

その間にフレデリカが自身を含めた4人へ飴玉の効果を無くすスキルで動きを取り戻させる。

 

「【多重加速】!」

 

続けて繰り出されたフレデリカの魔法が【集う聖剣】の移動速度を上げる。

ドレッドとペイン、続いてドラグ、キラーが前に出る。

 

「「【飛撃】!」」

 

「2度目はねーよ」

 

ユイとマイの攻撃はドレッドには当たらなかった。

ドレッドに正面から戦っていては相性が悪いことこの上ない。

 

ドレッドは死と引き換えにユイとマイの異常性を身をもって体験し、それをギルドに持ち帰った。

つまりユイとマイの最大の武器とも言える未知がなくなってしまったのである。

盾で受けるような愚か者はいないのだ。

 

そして最前線にいたユイとマイにドラグからの攻撃が入る。

 

「【土波】!」

 

「チッ……【スナックウォ……】」

 

「させるか。【呪いの鎖】!」

 

セイバーはドラグを阻止しようとするも、キラーからの鎖によってスキル発動を止めざるを得なかった。

 

「【煉獄魔狼・ディストピア】!」

 

キラーは剣のエネルギーを足へと伝わせると赤黒い氷を纏わせた連続キックでセイバーの腹を蹴り飛ばした。

 

「がはぁっ……」

 

セイバーは吹っ飛ばされると一撃でHPを半分近く減らされた。

 

その間にドラグは斧を叩きつけ、地面が波打ちバキバキと裂けて弾けユイとマイにぶつかる。

メイプルのお陰でダメージは無かったもののドラグの特性である【ノックバック付与】は別である。

メイプルが後退し最前線のユイとマイが【身捧ぐ慈愛】の範囲から抜ける。

それは偶然に起こったことではなかった。それを裏付けるようにドラグとドレッドがユイとマイに突撃する。

 

メイプル達はこの2日目で派手に暴れた。特に【炎帝ノ国】との戦いはメイプルとユイとマイの異常性とセイバーの聖剣の力が大いに発揮された戦いだったと言える。

 

【集う聖剣】の偵察部隊が静かにその様子を見ていたことにメイプルやセイバーは気づかなかった。更には、1日目のサリー救出作戦の際にもメイプルの姿についてもキラーに見られてしまっていた。

故に【集う聖剣】は知っている。

【身捧ぐ慈愛】の弱点を。

メイプルの武装展開を。

メイプルの大盾に回数制限が追加されていることを。

セイバーの聖剣の性質を。

セイバーの戦い方を。

その上で計画を立てて本気でメイプルとセイバーの首を取りに来たのだ。

 

「【カバームーブ】!」

 

「やらせるか!」

 

「【魔力障壁】!」

 

「【剛腕】!」

 

カスミがドレッドをクロムがドラグを止め、カナデが魔法で守りを固める。

さらにヒビキがドラグへと肉薄し、大斧の柄越しに渾身の拳をぶつける。

メイプルやセイバーが崩れてもクロムやカスミもトップレベルのプレイヤーだ。

攻撃をいなすことには慣れている。

 

「メイプル!解除した方がいい!」

 

「う、うん!分かった!」

 

サリーの声を聞いてメイプルが【身捧ぐ慈愛】を解除する。

対策を立てられていることが分かった以上、貫通攻撃が次々に飛んできてもおかしくない。

そして実際、後方からのフレデリカの魔法には防御力貫通能力のある魔法がほとんどだ。

メイプルにも直接向かうその魔法は流石に大盾に受け止められるが動きにくくなるため厄介だ。

 

ドラグとドレッド、キラーに6人が引き付けられたその一瞬にペインがさらに先へと進む。真っ直ぐにメイプルを見据え、盾と剣を持って駆ける。

 

「行かせない」

 

サリーが2人の間に立ち塞がり、次のどんな行動も見逃すまいと集中する。

 

「ドレッド!」

 

ペインが叫ぶ。それによって反応したのはドレッドとドラグとフレデリカだ。

 

「【神速】!」

 

「【バーサーク】!」

 

それぞれのスキルによってドレッドの姿が消え、ドラグのスキル後の硬直がなくなった。

2人が強力な切り札を使ったところでフレデリカの声が響く。

 

「【多重全転移】!」

 

フレデリカの切り札の魔法がドレッドとドラグにかかっていた全ての効果をペインに移す。

ペインの姿は消え、その速度は跳ね上がった。

 

「【超加速】」

 

さらに加速したペインがサリーを振り切る。

サリーにはペインの位置を掴むことは出来ても追いつくことが出来なかった。

それはレベルの差。

サリーとペインには2倍以上のレベル差があり、元々のステータスがサリーよりも高い。

戦闘となれば反応し躱すことで互角以上に戦えるかもしれないが、相手にされなければ意味がない。

 

「ど、どこ!?」

 

ペインを探しつつ大盾を構えるメイプルは大盾のない側を警戒していた。

その背丈よりも大きい大盾はその身を守ってくれるだろうと。

それ故に大盾の向こうから声が聞こえたのは予想外だった。

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

姿を現したペインの光り輝く剣が一瞬の溜めの後に振り抜かれる。

4人分の切り札を一点に集め、その首を取らんとする。

 

「うっ……ぁ……」

 

数える程しか味わったことのない感覚にメイプルの思考が一瞬停止する。

 

ペインの剣は迫る化物とメイプルの大盾を真っ二つに切り裂いて、鎧すら破壊してメイプルの体を深々と抉り、メイプルを壁まで弾き飛ばし、メイプルのHPを1にするまでに至ったのだ。

メイプルが激しい音を立てて壁に叩きつけられたことでそのメイプルが致命的ダメージを負っているのを見てしまった【楓の木】のメンバーのほとんどに隙が生まれる。

特にユイとマイの表情からは誰の目にも動揺が見て取れた。

クロムとカスミもヒビキも心中穏やかではいられなかった。

 

 

「【パワーアックス】!」

 

「ぐっ……!」

 

クロムとヒビキの隙をついてのドラグの攻撃が2人を襲う。ヒビキは咄嗟に上体をそらしてスレスレを回避するが、クロムの方は胴へと攻撃が決まってしまう。

フレデリカが後方から掛け続けている多様な補助魔法がただでさえ高いドラグの攻撃力を底上げしており、まともに受けてしまっては耐えられるものではない。

【不屈の守護者】が発動し、クロムのHPを1だけ残してくれるため即死は免れたがそれでも厳しい状況だ。

 

メイプルの方に向かいたいところではあったがドラグがそうさせてくれそうにない。

ならばとクロムとヒビキはメイプルの方に向かわせないことに意識を向ける。

クロムを攻撃するドラグはぐんぐんと回復するHPに目を見開いた。

ただ、降り注ぐ魔法からユイとマイを守るために動きが制限されている中での戦いはそう長く続けられそうになかった。

 

だが、ヒビキは別である。クロムのように守る対象が無いためにドラグへと全力の攻撃をぶっ放す。

 

「【我流・特大撃槍】!」

 

「【多重障壁】!」

 

ヒビキの両腕のバンカーが引き絞られるとそれが戻る勢いを加算した強力な槍となってドラグの腹をぶん殴った。

 

 

「がっ!?……この野郎!」

 

しかし、フレデリカの防御が間に合ってしまい攻撃こそ当たる物の仕留めることが出来ず、逆にドラグの体当たりに吹っ飛ばされてしまう。

 

「がはあっ!」

 

「ヒビキ!」

 

セイバーはヒビキを心配するが、その間もなくキラーによる連続攻撃が放たれる。セイバーはこれを何とかいなすがキラーがスキル込みの攻撃をかける。

 

「遅い。【聖断ノ剣】!」

 

それと同時にキラーはセイバーを斬りつける。

 

だが、それを受けたのはセイバーでは無かった。

 

「うわあああああ!」

 

咄嗟にヒビキがセイバーを庇ったのだ。

 

「何!?」

 

ヒビキはスキル無しでギリギリHP1を残して耐えるも、強烈な攻撃を2度も受けて暫く動けそうに無かった。

 

そうしているうちにペインがメイプルに再度迫る。

ペインとしてはメイプルが【不屈の守護者】を持っていない可能性もあると考えていたがそんなことはなかった。

 

「俺以外にもメイプルを……」

 

呟きながらペインが駆ける。

ドラグから引き継いだ【バーサーク】が大技の後の硬直を消し飛ばしたため、スムーズに次の動作に移ることが出来たのである。

 

「【黒煙】!」

 

メイプルの元へはそう簡単に辿り着かせないとカナデが放った魔法がペインの視界を奪う。

そこに投げつけられたイズの爆弾が轟音とともに炎を上げる。

 

「【退魔ノ聖剣】」

 

ペインが剣を一振りすると場を覆っていた黒煙は消え去り目の前にイズとカナデを捉えることが出来た。

 

ペインはいとも簡単に後衛の2人を切り捨てて遂にメイプルまで数歩のところにまで来た。

 

ペインはメイプルの装備が再生していることに驚きつつも貫通スキルを使って最後の一撃を決めにいった。

 

集中状態にあったペインにとってそこからの光景は酷くゆっくりと見えた。

壁にもたれかかるメイプルの未だ突き出されたままの左手、その手に持った大盾が手から離れて前方へと倒れていく。

 

 

そして、大盾に隠されていた左手が大きな砲口になっているのを確かに見た。

カナデとイズが爆音と煙幕でメイプルの動作を隠したことが発覚を遅らせた。

 

「ここでかっ……!」

 

ペインはスキル発動中なため回避動作が取れない。剣を振り抜くしかない。

 

「【カウンター】!」

 

それはメイプルが第3回イベントで唯一手に入れた真っ当なスキル。

ダメージを受けた際、その攻撃の威力を次の自分の攻撃に乗せるスキル。

 

ペインの攻撃よりも早く砲口から放たれた一条のレーザーがペインの体を焼き尽くす。

自身の最大威力攻撃が跳ね返ってくる。

 

 

「ぐっ……まだだ……!」

 

ペインもまたHPをたった1だけ残してメイプルに再度肉薄せんとする。

 

「【破砕ノ聖剣】!」

 

「【暴虐】!」

 

黒い靄が形を成して現れたのは一瞬前までメイプルだったもの。

逆転した手数とリーチにペインが目を見開いて迫る化物の数本の腕を見る。

 

「おいおい正気か……!?」

 

1本目を切り捨てて2本目を盾で受け止めた。

2本の腕を止めきった。

 

ただ、相手は人間ではなかった。

 

さらにその後に伸びてきた醜悪な口がペインの上半身を食い千切ったのである。

 

「チッ。セイバー、お前をさっさと倒してやる。はあっ!」

 

メイプルの変化を見て焦ったキラーだが、セイバーは対照的に冷静だった。

 

キラーのスキル込みの攻撃を相手に全く動じずにそれをスキル無しで最小限の動きで止める。

 

「こいつ……戦いの中で成長してるのか!?」

 

……あの日キラーに負けたからずっと聖剣の力を引き出そうと訓練をやって来て思っていた。何故俺はキラーに勝てなかったのか?聖剣は魔剣相手に相性が悪かったってのもあるかもしれない。だが、“その逆も言えるのではないのか?”と。

 

でも、俺はその答えを出せなかった。けど、キラーとの2度目の勝負をしている今ならわかる。

 

「うらあっ!」

 

キラー、セイバーが剣を振り上げた瞬間の脇を狙うが、セイバーは咄嗟に剣を逆手に持ち変えるとそれを真下に下ろす事で攻撃を防御する。

 

「甘い!」

 

「ッ!?」

 

さらに動揺するキラーにセイバーは剣を押し返すとその場で飛び上がってアクロバティックな動きをしながら剣を振り下ろし、ようやく彼に一撃を入れた。

 

「コイツ、まさかスキル無しで俺を攻撃してるのか!?」

 

俺が奴に勝てなかった理由。それは、攻撃も防御もスキルに頼りすぎていたんだ。

聖剣の特徴を活かそうとしてスキルを使った攻撃ばかりに目が行っていた。だからスキルを封じられた瞬間奴に大敗北を喫した。だから俺はもうスキルのみには頼らない。己の剣を信じるんだ!

 

「クソォ!【呪魔狼刃剣】!」

 

キラーは狼の衝撃波を放つがセイバーは剣を振るうと剣が光り、ピンクの楽譜のような音の壁が展開、それが彼の攻撃を押し留めた。

 

「甘い!甘すぎる!!」

 

セイバーは剣で指揮をするような動きをすると狼は楽譜に縛られていき、完全に消失した。

 

「馬鹿な!?魔剣の力をかき消したのか!?」

 

「剣の声が聞こえるぜ。俺達の響きを聴かせてやろうとな!」

 

「くっ…… 【呪血狼砲】!」

 

キラーがそう言うとレールガンの部分に赤いエネルギーが火花を散らしながら高まっていきキラーが魔剣を振り下ろすとそれが狼の爪の如く3本の斬撃を飛ばした。

 

「はあっ!」

 

セイバーは剣をX字を描くように振るうと楽譜の壁を作って爪の斬撃を防ぎ、さらに後ろから突きを放って技をキラーへとお返しした。

 

「ぐわっ!?」

 

「この形態の俺は耳が良くてね。よーく聞こえるぜ。……周りの状況が手に取るようにわかる!」

 

セイバーは一瞬の内にその場にいる全てのプレイヤーの位置、行動を把握。そこから導いた次の行動は……。

 

「【スナックウォール】!」

 

セイバーが地面に手を置くと丁度カスミとサリーの攻撃を躱して着地し、攻撃を仕掛けようとしたドレッドの周りを囲んで視界を封じた。

 

「な!?」

 

「マイ!ユイ!」

 

「「わかりました!!」」

 

「チッ……させるかよ!」

 

セイバーはマイとユイに指示を出すとドラグがクロムを押し退けてマイとユイを倒そうと迫るが、彼は1発の衝撃波によって押し留められた。

ダウンしていたヒビキが辛うじて【飛拳】を撃ちドラグの動きを一瞬止めたのだ。そして、この一瞬を逃す2人では無い。

 

「「【飛撃】!」」

 

「フッ……いっそ安らかな気持ちだ」

 

2つの衝撃波は諦めの言葉を発したドレッドをお菓子の壁ごと葬った。

 

セイバーはその間に走り出すとドラグを仕留めようと剣を抜いた。

 

「そう簡単に負けるかよ!」

 

ドラグは大斧で迎え撃とうとするが、セイバーは既に布石を打っていた。

 

ドラグの大斧の刃の部分がピンクの楽譜に絡まれてそれが壁の柱に縛られていた。先程セイバーが作り出した楽譜は死角を通ってドラグの大斧を封じたのだ。

 

「マジかよ!?おい!?」

 

「【スナックチョッパー】!」

 

セイバーは間髪入れずに動揺するドラグの体を斬り、倒した。

 

「ぐっ……だが、今ならヒビキって奴を……」

 

キラーはセイバーがいなくなった瞬間にヒビキを仕留めようと走り出して剣を振り上げるがそれは大盾によって阻止された。

 

「【カバー】!」

 

クロムがセイバーの意図を汲み取ってヒビキのカバーに回ったのだ。一歩間違えればノーガードのマイとユイがやられるのにクロムはセイバーを信じていた。だからこそこの行動に出たのだ。

 

「取り敢えず、そろそろ逃げないとまずいかな〜!!【多重炎弾】!!」

 

フレデリカは怪物となったメイプルへと攻撃し、その衝撃波で生じる煙を煙幕にして逃げようとするも、それは全て撃ち落とされた。

 

「俺達のコンビネーションは……響きが違うんだよ!!」

 

セイバーが錫音の銃モードで全て撃ち落としたのだ。さらにその間に2人のアタッカーがフレデリカを仕留めにかかる。

 

「「【超加速】!」」

 

セイバーによって相手がいなくなり、フリーとなったサリーとカスミがフレデリカを挟むように攻撃を仕掛ける。

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

「【一ノ太刀・陽炎】!」

 

「逃げられる訳無いよねー!!」

 

2人の斬撃がフレデリカを仕留めるとただ1人残ったキラーは最後の抵抗とばかりに体から激しいオーラを出していた。

 

「逃げる事も叶わない…か。こうなったら、お前達を1人でも多く道連れにする!」

 

その覚悟はセイバーにも伝わったようでセイバーは他の面々が構える中、1人前に出た。

 

「皆、ここからは俺とキラーの因縁、手は出さないでくれ」

 

皆もそれをわかったのかオーブの周りに集まって守りを固める。

 

「烈火、抜刀」

 

セイバーは竜騎士の鎧を纏うと錫音同様に剣の真の力が発揮され、赤く輝いた烈火を構えた。

 

「次で決めるぞ」

 

「ああ、行くぜ」

 

2人の間に緊張した空気が張り詰める。無限にも思える長い数秒の後、2人は走り出した。

 

「【神火龍破斬】!」

 

「【魔芥氷狼・ユートピア】!」

 

キラーは今まで以上に赤黒く染まった剣から吹雪を纏わせた狼の斬撃を放ち、セイバーはそれをいつも以上の炎を纏った剣で迎え撃つ。

 

攻撃がぶつかり合って大爆発を起こすとその爆心地にいたキラーとセイバーのHPを1へと減らし、彼等の体に【不屈の竜騎士】等の生存させるスキルが発動した事を示すオーラを纏わせた。そして、セイバーは飛び上がると剣を持つ手を後ろへと引いた。

 

「そう来るのはわかってる!だが、聖剣を手にする以上、俺の魔剣には勝てんぞ!!」

 

「……抜刀!!」

 

セイバーは小声で剣の名前を言い、姿を変えた。キラーはセイバーが【不屈の竜騎士】発動後に自分を一撃で仕留めるつもりで動いているのがわかっていたからこそこれをしっかりと予測しており次のスキルを撃とうとした。だが、セイバーの体は聖剣を持っていない時になる聖騎士の装備だった。彼が手にしていたのは……。

 

「「あれは……第2回イベントで手に入れた、『ゴブリンキングサーベル』!!」」

 

セイバーはいつもの抜刀を使うタイミングで敢えて聖剣を出さずに聖剣以外の剣をスキル無しで普通に入れ替えたのだ。

 

メイプルとサリーが叫ぶとキラーはようやく状況を理解した。

 

「装備が……弱くなった?まさか、聖剣じゃ……無い!?」

 

「うおらあああ!!」

 

聖剣で無ければ魔剣による無効化効果も受けない。だが、聖剣でないため、装備は最初の聖騎士の装備になった。これによりセイバーは全てのステータスを捨てる事になり、ステータスをバラバラに振っているセイバーにとってそれはまるで自殺行為だった。

そのため、キラーは問題無く赤黒いエネルギーの高まった攻撃を放つ。

 

「終わりだ!セイバー!!」

 

その瞬間、セイバーはニヤリと笑うとそのままスキルを発動した。

 

「【精霊の光】、【火炎斬り】!」

 

セイバーは10秒間のみ【精霊の光】により無敵となってキラーの攻撃を無効化。さらに聖剣以外で剣に属性を付与できる数少ないスキル、【火炎斬り】を発動してセイバーはキラーとの決着をつける。

 

「はああああああああああ!!【パワーアタック】!」

 

セイバーの攻撃はキラーを貫き、彼に膝をつかせた。

 

 

「……悔しいが俺の負けだな。またやろーぜ」

 

キラーはセイバーに腹を貫かれると粒子となって消え、その場には嵐の後の静けさが漂った。

 

 

勝敗を分けたのはメイプルの【暴虐】を知っているかと、セイバーの成長の速度を甘く見ていたかどうかだった。

 

【暴虐】がなければペインの最後の一撃は間違いなくメイプルのHPを刈り取っていただろう。また、セイバーもキラーが出て来たので途中までは聖剣の力が発揮できずに不利であった。

そうなれば押され気味だった前線の崩壊が先だった可能性は高かった。

もっともそうなった場合はサリーが限界まで粘ることだろうが、それでも【集う聖剣】が有利だっただろう。

 

 

 

 

 

生き残った8人はそれぞれHPをMAXまで回復するとイズとカナデの復活を待ち、取られたオーブをサリーが回収した。

 

「さぁ、メイプル、セイバー。第二段階だよ」

 

「うん!だね!」

 

「いっちょ暴れますか」

 

 

 

 

時間は1時を少し過ぎたところ、丑三つ時に近づいていく時間帯。

 

闇夜に紛れて化物が1匹。

その背に9人の化物を乗せてギルドを襲うようになった。




次回は3日目に入ってからの話になります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとフルパワー

第4回イベントの3日目に入る頃。深夜の森の中では、大規模ギルドが灯りを点けて防衛に励んでいた。

 

「かなりハイペースでギルドが潰れているな……」

 

「ああ、そろそろ大規模ギルド同士の戦闘が本格化するだろうな。いつ仕掛けてきてもおかしくない」

 

2人が話していると暗闇の中でがさりと音がした。

 

「……いくぞ」

 

「ああ、確認しよう」

 

2人は剣を抜きつつ音のした茂みに近づいていく。

 

 

そうして茂みを照らし出すと、そこに大きく口を開けた化物の頭が浮かび上がった。

 

「「……は?」」

 

彼らは驚いて硬直したその瞬間に捕食されることとなった。

それだけでは終わらずに、化物は中心へ向かって突き進む。

異常に気づいたプレイヤーを轢き殺して嚙み殺して燃やし尽くして荒らし回る。

 

大規模ギルドの人数からすれば倒されたプレイヤーの数はまだ大したことはなかったが、それ以上に動揺による精神的ダメージの大きさが影響しまともに連携を取ることが出来ずにいた。

大量のプレイヤーが襲ってくることは想定出来ても、化物が1匹襲ってくることを想定することは出来なかったからだ。

 

さらにその背中から静かに飛び降りた9人のプレイヤーが混乱し悲鳴すら飛び交う中でプレイヤーを倒していく。

圧倒的存在感を放ち今も捕食と破壊を続ける化物のために、9人の動きは目立たなくなっていた。

 

気が動転して9人の強さに気づかない内にギルドは既に半壊してしまった。

 

「ここはもう終わりかな?」

 

「オッケー!次!」

 

その声が化物に届くと化物は捕食を止めてその背に9人を乗せて通り道にいたプレイヤーを引き裂きつつギルドを後にした。

 

 

 

 

「うん、オーブも手に入ったしいい感じいい感じ」

 

「次はどっち?」

 

「んー……左の方のギルドへ行こう」

 

サリーは化物形態のメイプルの背中からメイプルに話しかける。

 

メイプルが持つ最後にして最大の異常性が知れ渡る前に、大規模ギルドが何の準備も対応も出来ない内に荒らし尽くすつもりなのである。

大規模ギルドからすれば半ば交通事故のようなものでどうにもならない。

意味も分からないままオーブとギルドメンバーの半分を失い、標的は去っていってしまうのだから。

 

人間味を犠牲に機動力を手にしたメイプルにより一夜の内に大規模ギルドの多くが荒れ果てた。

化物形態のメイプルの強みはメイプルには貫通スキルというもはや決まりきったその行動パターンを引き出すのに時間がかかることだろう。

そして、その行動に移るかどうかというところを見極めてサリーとセイバーが撤退の指示を出すのだ。

こうして被害は拡大していったのである。

 

 

平原に拠点を構えるギルドで灯りを消して目立たないように夜を過ごそうとしているギルドというのもあった。

大規模ギルドは拠点が野晒しになっていることが多く、中でも平原は最も防衛に適さない地形だった。

 

「月明かりも弱いし……真っ暗だな」

 

「第2回イベントの時も思ったが夜は行動しにくくて辛いよな」

 

静かな時間が流れる。

虫の鳴く音と風が吹く音、後はギルドメンバーの話し声が少し聞こえるくらいでほとんど無音と言えた。

 

だからこそ何かが走ってくる音は際立って聞こえたのである。

 

「灯りだ!灯りを点けろ!」

 

魔法による光が音のした方向を明るく照らし出す。

そこにはここ2日間で1度も見たことのない巨体がいた。

 

明るい光のお返しに輝く炎を受けたプレイヤー達は困惑と動揺に包まれた。

ここにいた全てのプレイヤーにとって、きっと生涯これ程までに動揺することはないだろう。

そう言っても過言ではないくらいに目の前にいる化物に対しての反応に困ったのだ。

 

「オーブは貰うね」

 

化物はそのままギルドの中央を走りオーブを掴み取った。

 

「代わりに爆弾をあげるわねー」

 

「これも持ってけ!【クナイの雨】!」

 

9人がそれぞれ持っている爆弾を投げつけていく。更に追撃とばかりにクナイが大量に降り注ぐ。

走る化物の背中からは絶えず爆発物や刃物が降り注ぎ、またそれに混じって時たまに鉄球や衝撃波や魔法も飛んでくる。更には逃げようとする者もブレイブが起こした炎の壁によって足止めされ、その間に爆弾などの投擲物にやられていった。

その中でも飛んでくる数が少なかった鉄球と衝撃波に当たった者は不幸だっただろう。

 

こうして特に大規模な戦闘が始まるでもなく10数名が捕食され、30名程が降り注ぐあれこれと炎のコンボで死に、その他大勢が轢き逃げにあった。

 

 

「この夜のうちに……この夜のうちに1人でも多く初見殺しにかけないと」

 

「うん、だね」

 

「ちぇっ。もうちょっと暴れたいのになぁ……」

 

「ダメ。ゆっくりしている暇は無いんだから」

 

この作戦は大量リードを狙っているというのもあるが、それよりは大規模ギルドの完全壊滅を早めることが目的だった。

つまり、ただでさえ目まぐるしく加速している展開をさらに加速させ最終日が来る前に全壊滅エンドへと導くつもりなのである。

そしてそこまでいかなかったとしても、サリーとセイバーは今の成功を見る限り今夜の内に大幅に加速させることが出来ると踏んだ。

 

「メイプル、もうちょっとだけ頑張ってね」

 

「うん!まだまだいけるよー!」

 

次のギルドへ向けてメイプルはスピードを緩めることなく駆けていった。

そうして夜の間続いた破壊の行進は朝の6時に終わりを告げた。

手に入れたオーブを全てセットして自軍オーブも元に戻した所で今回の作戦は終了である。

 

「はー……疲れたー!こんなに走ったの初めてだよ……」

 

未だ化物形態のメイプルがそう呟く。

サリーとセイバーの危機管理によりほとんどダメージを受けなかったメイプルだが、疲労は別である。

しかもここまで動いたのは初めてとなれば疲れるのも仕方ないことだろう。

 

「ちょっと寝てきてもいい?何かあったら起こしに来てくれたら……」

 

「うん、大丈夫」

 

「流石に化物にも疲れはあるみたいだな」

 

「そりゃあ、元が人間なんだからあるでしょ」

 

「いやいや、今のメイプル見ても人間って言えるか?」

 

「……少し無理があるかな……」

 

 

2人が話している間にメイプルは元の姿に戻ることなく奥へと消えていった。

壊される前に解除するのは流石に惜しいため当然だろう。

 

「大規模ギルドが来たら予定通り誰も倒されないように適度に戦って終わりでいいな?」

 

「うん、それでいい。自軍オーブは持ってメイプルの所へ駆け込もう」

 

【楓の木】は小規模ギルドに分類されてしまうため、オーブを奪われたギルドは大きい減点は避けたいと考え何とか奪い返しにくる可能性が高い。

現状【楓の木】にあるオーブは12個。

そのうち8個が大規模ギルドのオーブである。

 

どのギルドもやってくるならば、目的地が同じなため【楓の木】に入る前に潰し合いになる可能性はかなり高い。

また全てのギルドが団結したとしてもそれは一時の結束に過ぎず、オーブを奪い合う相手が変わるだけだ。

取り返しに来ないというのならそれはどこかのギルドを襲っている可能性が高い。

12個のオーブがどう動こうと多くのプレイヤーがどこかで何らかの形で倒れるだろう。

 

展開を早めようとしている【楓の木】にとって欲しいのはオーブよりも潰し合いが起こる状況なのだ。

故に防衛が失敗しようと成功しようと大した問題ではなかったのである。

 

「今のままでも10位以内はいけそうだしな……スタートが良かったからな」

 

「僕達は逃げ切り狙いで……さて、来るかな?」

 

全員がそれぞれ入り口を警戒しつつ夜の間に溜まった疲れを抜くことに努めた。

 

 

 

 

 

7時を少し過ぎた頃、大盾を構えたプレイヤーを先頭にして防御を固めつつ90人程のプレイヤーが入ってきた。

 

「……潰し合った後かな?」

 

「ああ、かもな。俺も人数が少ないと思うぞ」

 

それでも多いことには変わりはないのだが、大規模ギルドが攻めてきたにしては少ないと言える。

 

【楓の木】の布陣はサリー、クロム、カスミ、セイバー、ヒビキを先頭にしつつ続くユイとマイの正面を開ける形である。

ユイとマイの間にはイズがおり、最後方にカナデがいる。

 

ユイとマイの正面が開いている理由はもちろん鉄球を投げるためだ。

 

「「えいっ!」」

 

激戦を繰り返していた盾は繰り返し鉄球を受ければ砕けてしまう。

 

「追加よー」

 

かといって球切れを狙おうものならユイとマイの間で工房を展開しているイズから鉄球が次々と生産されるというのだから正気ではない。

 

ただ、それでも強力な盾と数の暴力で前へ前へと進んでくる。

ユイとマイの鉄球が必殺の威力を持っていても、全員に同時攻撃が出来るわけではないため全員を足止めすることは出来ないのだ。

そして当然派手に先制攻撃をしている3人は魔法の標的となり、3人に魔法が撃ち込まれる。

 

「【カバームーブ】!」

 

クロムが3人の前に移動して盾と体で攻撃を受け止める。

かなりのダメージが入るがそれでも盾とスキルの回復効果で持ち直す。

クロムは死ななければ立っているだけでも回復していくうえ、死ににくい要素を幾つも持っている。

メイプルがいるため目立たないことが多いが、厄介極まりないのは確かである。

 

「【氷雪大地】」

 

「【飴玉シュート】!」

 

カナデが使った薄い青の魔導書が今まさに進もうとしているプレイヤー達の足を氷で地面に縫い止める。

行動不可になるのは僅かに5秒。その間にセイバーの飴玉がプレイヤー達の足元で弾け、プレイヤー達の足を止める。

そこにユイとマイからの投擲が決まっていく。

足の止まった敵は的になるには十分だった。

1人、また1人と盾を叩き割られていく。死ななくとも装備にダメージを与えられるとこのイベントの性質上かなり厳しくなる。

既に損害は大きくなってきていた。

 

「朧、【影分身】」

 

「【甘い魅惑】!」

 

セイバーはスキル、【甘い魅惑】によって敵の注意を一手に引き受け、その間に分身したサリーと鉄球が彼らを倒していった。

 

サリーは多人数相手の防衛戦には向かないため、適度に援護しつつ相手を混乱させるようなスキルを使って精神的ダメージを稼ぐという戦法を取っていた。

 

カスミは前衛の盾持ちを瞬間移動で切り捨ては【跳躍】で離れるといったヒットアンドアウェイに徹している。

 

ヒビキは遠距離の敵には【飛拳】で、近くの敵には己の格闘技で次々と倒していく。

 

セイバーは錫音の装備で全体をコントロールし、敵の注意をなるべく自分へと引き寄せて周りの仲間が倒しやすくしたり、クロムが防げないと判断した攻撃は銃撃で撃ち落としていった。

 

この9人はそれぞれに強みがあり、それを発揮している時はそれ相応のプレイヤーでなければ何人いても意味を成さないのだ。

一線を越えた強さがなければまともには戦えない。

 

そして、これだけ激しく鉄球のぶつかる音がしていれば入眠から1時間経つかどうかといったところの親玉も起きてきてしまうというものである。

 

奥の通路からのっそりと、眠りかけているのにうるさいと這い出してきた化物に侵入者達が露骨に嫌な顔になる。

 

「静かにして欲しいから!倒すよ!もう!」

 

一線を越えた者が何かを踏み外すことで出来上がる化物がさらに支援を受けている状態なのに、一線を越えてすらいない者がそれを倒すというのは流石にありえないことであった。

1度目の襲撃から1時間後。

ゾロゾロと入ってきた300人近いプレイヤー達に【楓の木】は自軍以外のオーブを明け渡して奥へと駆け込むこととなっていた。

 

「まあ、奪われるのならちょうどいいくらいのギルドが来たかな?」

 

「ああ……で、ここからだ」

 

奥の部屋。

眠るメイプルの側で侵入者が追撃してくるかどうか足音を聞く。

来るのであればメイプルを起こすだけだが、侵入者達は触らぬ神に祟りなしとばかりに余計なことはせずに帰って行った。

【楓の木】のオーブを奪うということは常に【楓の木】に位置がばれてしまうということだ。

オーブ1つとの対価を考えるとすべきではないことになるだろう。

 

侵入者が帰っていった5分後、クロムを先頭にして台座のある部屋に戻ってきて自軍オーブを設置し直した。

 

「さてと……これでどこかで大規模ギルド同士の戦闘が起こるかどうか……」

 

呟くサリーにカスミが近寄ってきて現状のランキングを見せる。

 

「ランキングを見るに……中規模ギルドも次々潰されているな。間違いなくペースが上がっている」

 

壊滅したギルドの数を見るに4日目には大規模ギルド以外はほとんど残っていないだろうことは明白だった。

 

「オーブは守りきれそうなら守りたかったけど……メイプルなしであれは流石に厳しいし」

 

「えぇー。俺が本気出したらあんなの一瞬で終わるのに?」

 

「アンタはこれから役割があるから本気を出せないでしょーが!」

 

サリーはいつもの如く戦いたがるセイバーを叱る。

ポイントを加速出来なくてもそれはそれで次の行動がある。

サリーは出口に向かって歩いていく。

 

「私はさっきのギルドを追う。もしどこかで大規模戦闘が起こりそうなら……その時は……」

 

サリーがカナデの方を向く。

 

「うん、僕とサリーのスキルで」

 

「メイプルも連れてね」

 

「うん、分かってる」

 

「おっけー。いってくる」

 

そう言ってサリーは拠点から出ていった。

メイプルを起こすのはあと3時間経つかサリーから連絡があった時のどちらかである。

 

「まあ、もう私達を襲ってくるギルドもないだろうしのんびりしていよう」

 

「「そうですね」」

 

 

「それはそれで暇だけどなぁ……」

 

「それじゃあ暇な間私を鍛えてよ!」

 

「ヒビキちゃんも役割あるでしょ。休んでおきなさい」

 

「はーい」

 

ヒビキもイズに宥められて大人しくなる。

当然だが、セイバーにもヒビキにもユイとマイにも重要な役目が残っているのだ。

 

 

ゆっくりと休んで備えておかなければならない。

 

 

 

 

 

 

サリーは200人近い集団を比較的早く見つけることが出来た。

集団で行動するとなると速度も落ちる。さらに進む方向も人数の利を殺さないような地形がある方に成りがちだ。

もっとも、確実ではないが今回はそれを元にした読みが当たったのである。

 

「まだどのギルドともぶつかってない……か」

 

サリーは遠くから集団を監視する。

決して見つからないように、しかし見失わないように。

彼らは多くの大規模ギルドにその位置を知られ続けている。

どこかのギルドはやってくるだろう、そう思って監視していたサリーの目に2つの炎の球が映った。

 

「意外……偶然?……うん、あそこは襲ってない」

 

炎は大地を焼き、天まで伸びてはプレイヤーを消し飛ばしていく。

迎撃の魔法が飛び交う中、爆炎を纏い圧倒的な機動力でそれを躱す1人のプレイヤーがそこにいた。

 

「【炎帝ノ国】か……なるほど。残りギルドも減ってきてるし10位以内を目指すギルドは【炎帝ノ国】を攻撃せざるを得ない……かな?メイプルには悪いけど……」

 

サリーはクロムにメッセージを送り、サリーの元に全員で集まることとなった。

 

 

 

 

 

 

1つの大規模ギルドをいとも容易く壊滅させたミィはオーブ全てを持って拠点へと帰っていく。

【炎帝ノ国】は現在5位。

セイバーとメイプルの襲撃というつらいイベントがなければもう少し順位は上がっていただろう。特に、メイプルがマルクスの罠を大量に無駄遣いさせたお陰で防衛はボロボロになってしまった。

それが影響して多くのプレイヤーが死亡してしまったのである。

 

「このオーブを守り切れれば何とかなるか……」

 

ミィはオーブを奪われないように拠点へと帰り着くとオーブを設置し、肩の力を抜いた。

 

「さて……運よく奪えたが……」

 

「どこのギルドかは分からないですが、恐らく取り返しに来ますね」

 

隣にいたミザリーが続ける。

いくつのギルドがどのタイミングでやって来るかは分からないが、このオーブがポイントになる前には来るだろう。

 

「ああ……シンも呼び戻してくれ」

 

「分かりました」

 

全員を呼び寄せて万全の体制を整える。

 

シンも間に合い、静かに待つ【炎帝ノ国】に索敵部隊からの報告が次々に入ってくる。

その内容はどれも大規模ギルドが侵攻してきているというものだった。

 

【炎帝ノ国】の強さを知っている多くのギルドが周りと足並みを揃えて最後に美味しいところだけを掻っ攫おうと考えた結果、いくつもの大規模ギルドが【炎帝ノ国】を囲むという状況が生み出されたのである。

 

「もう来るぞ!全員、準備だ!」

 

「うん……頑張ろう……!」

 

「大丈夫大丈夫、ミィがなんとかしてくれるって」

 

「回復は任せて下さい」

 

意気込む4人だが、ミィに新たに一つのメッセージが届いた。

 

そこには、恐らくメイプルと思われる化物接近中、危険。

と、そう書かれていた。

 

ミィの顔色がすうっと悪くなる。

 

「嘘……もういいでしょ……ないないない……」

 

思わず素が出るミィに3人がどうしたのかと問いかける。

ミィはメッセージの内容を3人に伝えた。

 

「とてもつらい」

 

「俺……セイバーにも負けてるんだけどなぁ……負けてるんだけどなぁ!」

 

「あ、はい……そう……」

 

マルクスはそのまま地面に寝転がってしまった。

罠の効かないメイプルにもっとも苦手意識を持っているのである。

 

「とてもつらい」

 

そうしているうちに大規模ギルドも迫ってきていた。

 

大規模ギルドが次々とその姿を現し【炎帝ノ国】を取り囲む。

 

「……どうせ全滅だ。1人でも多く道連れにするぞ!」

 

ミィが【炎帝】を発動させつつ覚悟を決める。

 

「……やるよ、やる」

 

マルクスも怠そうに立ち上がると頬をペチペチと叩いてやる気を取り戻した。

 

 

 

「さあ……いくぞ!【フレアアクセル】!」

 

轟音と爆炎が戦闘開始の合図となって【炎帝ノ国】の集団に向けて一斉に魔法が撃ち込まれる。

複数の大規模ギルドからの攻撃である。たったこれだけで終わりかねない。

 

「【聖女の祈り】!」

 

ミザリーの魔法によって天から光が降り注ぐ。

全MPを使用し3分間MPが回復出来なくなる代わりに、超広範囲に一定時間高速自動回復の効果を与えるスキルである。

受けたダメージはみるみるうちに回復していき、全弾を受けるようなことがなければ倒れることはないだろう。

 

勿論MPが回復したとしても連発は出来ない。

それでも切らざるを得なかった。

 

「お願いします!」

 

早くも戦力外となったミザリーは頼れる仲間に託すしかない。

 

「ああ!」

 

シンとマルクスはミィとは逆方向に向かう。ギルドメンバーも分が悪くなると分かっていてもそれぞれ分散せざるを得なかった。

 

 

 

「【爆炎】!」

 

迫る魔法を豪快に吹き飛ばし、魔法使いとは思えない動きでミィが1つの集団に迫る。

炎球を顔面に叩きつけ、地面から炎を噴き上げて蹂躙する。

ただ、MPも凄い速度でなくなっていく。全員を倒す為には少なくなってきていた手持ちのポーション全てを使っても足りないだろう。

 

「それでも……!」

 

1人でも多く倒せばそれは後の自分達に有益になる。

そもそも逃げられないだろう現状では限界ギリギリまで戦うことしか出来ない。

 

そんな状況でさらに最も恐れていたものが現れる。

開けた平地、大規模ギルドの後方から巨大な化物が駆けてくる。

戦闘中でなければ額に手を当てて空でも仰いでいただろう。

 

「これは……駄目か……」

 

そう思ったミィだったが、そうはならなかった。

化物は大規模ギルドの後方に着くと後衛を食い千切って引き裂いて大規模ギルドを攻撃し始めたのだ。

援軍では決してないが、今この状況においてその行動は確かに助けになった。

 

「まだやれるか……!」

 

ミィはもう一度気合いを入れ直して大規模ギルドを攻撃し始めた。

 

 

 

 

 

メイプル達の目的は【炎帝ノ国】に群がる大規模ギルドの壊滅。

その際に【炎帝ノ国】の中でもより強いプレイヤーは出来るだけ倒されないようにするということになっている。

つまりミィ、マルクス、ミザリー、シンの4人は生かされる。

4人が大規模ギルドに重大な損害を与えてくれるからだ。

 

ミィは大規模ギルドを攻撃してくれているメイプルの邪魔をしようとはしない。

また、メイプルもミィには関与しない。

これにより実質の共闘関係が生まれた。

 

「どんどん次に行って!」

 

「うん!」

 

背中の面々は爆弾を放り投げてダメージを与え、メイプルはプレイヤーを轢きながら大規模ギルドを突っ切っていく。

 

「メイプル!あっちがピンチ!」

 

「おっけー!」

 

暗い時は暗い時で不気味だが、明るい場所での今のメイプルはそれはそれで恐ろしい。

大規模ギルドの注意が全てメイプルに向くほどの存在感があった。

結果大規模ギルドは話し合うこともなく本能に従うように一斉にメイプルへと刃を向けた。

【炎帝ノ国】を後回しにしてでも倒さなければならないものがそこにいるのだ。

 

「おー……すっごい来たよ!」

 

「だね……っ!?メイプル!守って!」

 

切羽詰まったサリーの声がメイプルに届く。

メイプルが【身捧ぐ慈愛】を発動させたのと近くにいた大規模ギルドごとその場を光が包み込んだのは同時だった。

 

「【暴虐】がやられちゃった!」

 

「でも皆無事だよ!……でも」

 

サリーが数瞬前に見つけたのは木陰で剣を引き抜いたペインだった。

つまり大規模ギルドの騒ぎを聞きつけ大打撃を与えられそうならとこっそり機をうかがっていたという訳だ。

ちょうどメイプルに注意が集まり多くのプレイヤーが固まり始めた所を狙ったのである。

 

「メイプル!来るよ!だから……」

 

「うん!【暴虐】!」

 

昨日の分の【暴虐】が壊れてもまだ今日の分が残っている。

絶望が再臨する。

さらに。

 

「「【幻影世界(ファントムワールド)】!」」

 

カナデとサリーが叫んだ魔法。

3分間対象の分身を3つ作り出す魔法。

それらはメイプルに吸い込まれていき。

 

 

化物姿のメイプルは合計7体になった。

 

「さーて、俺も本気で暴れまくるか!!【分身】!」

 

セイバーは剣を持たない状態で6人へと分身すると6人がそれぞれ剣を抜いた。

 

「烈火!」

 

「流水!」

 

「黄雷!」

 

「激土!」

 

「翠風!」

 

「錫音!」

 

「「「「「「抜刀!!」」」」」」

 

セイバーはそれぞれが別の剣を抜刀すると無数と思えるくらいの敵プレイヤーと向き合った。

 

「「「「「「さーて、これがこのイベント最後の……祭りだぁあああああああ!!!」」」」」」

 

6人はプレイヤー達の波に突っ込むと無双を開始した。

 

近づいてきていたのはペイン以外にもドラグとフレデリカとドレッドとキラーもいた。

メイプルの姿が元に戻った今、攻撃のチャンスだと1歩を踏み出していたのだ。

 

「メイプルの奴、見る度におかしくなってるぞ、おい!【地割れ】!」

 

ドラグが慣れと諦めと共に地面を割る。

 

「ったく、セイバーも本気でかかってるしな!」

 

ドレッドの斬撃も敵を切り裂いていく。

 

「ふん。あれくらい強くなければ面白くない。セイバー、次は俺が勝つ!」

 

キラーはこの状況に燃えていた。ライバルが弱くては自分は強くなれない。キラーはセイバーが高みに上がれば上がるほど強くなる。

今まではセイバーを倒す事のみを考えていた彼だがここに来て彼もまた1つ、精神面での成長をすることになった。

 

それはさておき、どのセイバーやメイプルが近づいてきても危険なのだから足止めしなくてはならない。

 

 

聖剣の光は天を照らし、地面は割れ、炎は噴き出て、化物は駆ける。

 

植物は蔓つるを伸ばし、魔法は空を覆う。剣が舞い、幻想が人を惑わせる。

 

破壊は繰り返され、プレイヤーの消えゆく最後の光は戦場を儚くも美しく彩った。

 

その中心にいるのは8人のプレイヤーに1人の化物、そして6人に分身した剣士だった。




次回でおそらく第4回イベントは終了になると思います。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと打ち上げ

第4回イベントの3日目。

突如現れた地獄のようなこの環境では凡人から順に死んでいく。

1人また1人と倒れていき、3分が経ちメイプルの分身が消えた頃には半数以上のプレイヤーが光となって消えていた。

 

ただ流石に【暴虐】状態のメイプルにも貫通スキルを使用することには全員が思い至ってしまったため、小さなダメージが積み重なってメイプルは元の姿に戻されてしまった。

天に向かって伸び上がった化物の姿が消えメイプルがプレイヤー達の集団の中に落下してくる。

プレイヤー達はそれぞれにスキルを準備しており、着地してからの行動を許さないつもりである。

 

「【全武装展開】!」

 

空中にいるメイプルから地面に向けていくつもの銃口砲口が向けられる。

ガシャガシャと音を立てて次々に黒い兵器が展開される。

 

「【滲み出る混沌】!【毒竜】!」

 

地面に向かってもう嫌という程見た化物の口が放たれメイプルを真下から攻撃しようとしていたプレイヤー達を消し飛ばした。

続く毒竜が地面を毒に沈めメイプルが有利に動けるようになる。

また、【毒耐性】が十分でないプレイヤーはそのままやられてしまう。

 

メイプルを包む化物の体は確かに消えた。

だがしかし、メイプルというものは化物を人の形に変えたものと言っても過言ではない。

いや、それ以上のものとも言える。

 

見た目は遥かに良くなれどその攻撃手段は比べられないほど多彩になっており、攻撃も当てにくくなっている。

あの姿よりも厄介な、可愛らしい顔をした天使のような悪魔。

敵対したプレイヤーからすればこういった印象になるのは仕方なかった。

 

着地したメイプルが纏う兵器はメイプルをぐるりと取り囲んでいたプレイヤーを撃ち抜き焼き払って倒していく。

強力な毒の海の中心にいるメイプルには【毒無効】がなければまともに近づけないが、遠くからの貫通効果付きの魔法は大盾によって受け止められてしまう。

結果、取り囲んでいたプレイヤー達は完全にメイプルを諦めて包囲を解いてメイプルから離れることになった。

 

当然メイプルが無事に離れさせてくれるはずもなく、爆炎と共にメイプルが高速で飛び回り始めるという事態になった。

 

一方で、セイバーはと言うと……

 

「オラオラどうしたぁ!!その程度か?【激土爆砕】!」

 

激土のセイバーは激土にエネルギーをチャージするとそれを地面に突き立てた。すると地面から岩のスパイクが現れて敵を蹂躙していった。

 

「へいへーい!お前らの速度じゃ俺は捕まえられねーよ!【超速連撃】!」

 

翠風のセイバーは超スピードと【影分身】で敵の目を撹乱すると一陣の風の如くプレイヤーの横を駆け抜けながら斬りつけていき、僅か5秒で敵10人を葬った。

 

「お前達では相手にならねーな!また鍛えて出直しな!【稲妻放電波】、【魔神召喚】!魔神攻撃!」

 

黄雷のセイバーは放電による平面の範囲攻撃と魔神による頭上からの雷攻撃で敵を攻撃、運良く生き残った者も麻痺状態となってしまい動けない隙を突かれてセイバーに攻撃を受けて倒された。

 

「うおっしゃああ!!乗ってキタァ!!【ブレーメン音楽隊】!【ビートブラスト】ファイヤ!!」

 

錫音のセイバーは【ロックモード】による時間制限付きのハイテンションモードを【ブレーメンの音楽隊】の効果で持続時間を4倍に延長し、【ビートブラスト】による極太レーザーが敵を貫いていった。

 

「俺の音楽は……響きが違うぜェエエエエイイイ!!!」

 

このように1人1人がボスクラスの戦闘力を持つセイバーが6人もいれば大規模ギルドが連合を組もうとほぼほぼ関係無いのである。いつものように蹂躙してしまうのだから……。

 

一方で【集う聖剣】の面々は奇襲攻撃に失敗した直後に【地割れ】によって周りを足止めしたことでカウンターを防ぐことが出来た。

現状は【炎帝ノ国】のオーブを狙いつつせっかく集まってくれている競争相手を潰しているといったところだった。

ペインとドレッドとキラーは1人でも十分過ぎるほどに戦えるプレイヤーなため単独で、ドラグとフレデリカは固まって行動していた。

【楓の木】からは離れて戦っている理由は主に2つで、大規模ギルドのライバルを潰すために効率がいいことと基本【楓の木】は危険なことの2つである。

 

「標的が移る前には撤退……か」

 

ペインは1人呟きながら目の前のプレイヤーを処理していく。

ペインにしろメイプルにしろあるラインを超えると格下との戦いは作業になる。

 

だが、ペインが避けていたはずの【楓の木】との接触は簡単に破れてしまう事になる。

 

「うおおお!!どけどけどけぇ!!」

 

ペインの隣に激流と共に流水のセイバーが降り立ったからである。

 

「よ!ペインさん」

 

「……どうして君がここに?」

 

「決まってるじゃないですか。一緒にやりたいからですよ」

 

「フッ……つい数時間前までは敵だったが……今回は一緒にやるか」

 

ここにペインとセイバーの共同戦線が張られたのである。

 

「出し惜しみは無しだぜ!【キングキャノン】!」

 

セイバーは挨拶代わりの水の大砲をぶっ放し、敵の勢いが削がれた所でペインが前に突撃する。

 

「【破砕ノ聖剣】!」

 

ペインの聖剣が振るわれるとプレイヤー達は宙を舞い次々に倒れていく。

 

「行きますよ!【キンググレネード】!」

 

セイバーは流水から作り出した砲弾をペインへと射出、ペインはセイバーの意図を理解するとそれに自身の剣をぶつけた。

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

ペインの最強の技が砲弾にぶつかると砲弾は弾け、雨となって周囲の敵へと降り注ぐ。その1発1発の威力は落ちているが相手を怯ませる効果は別である。本来は20%の確率だが、相手へと多段ヒットするために怯む者が次々に増えたのだ。そこに間髪入れずセイバーが突っ込む。

 

「【ハイドロスクリュー】!」

 

セイバーの薙ぎ払いが敵を殲滅していった。

 

 

ペインとセイバーはそれからも共闘を続け、立ち塞がる敵をいとも容易く蹴散らした。

そんな中、ペインは頭の中でメイプルとの戦闘をイメージし、結果を思い浮かべる。

するとどう立ち回っても両者共に万全の状態ではメイプルを倒すまでには至らないという結論が出た。

 

「鍛え直すか……」

 

ペインはいつかまた勝てる可能性が生まれた時に戦うつもりなのである。

 

「新たにスキルでも探してみるとしよう……」

 

ペインはセイバーが暴れまわっているのを隣に見ながら目の前のプレイヤーをまた1人斬り捨てた。

 

一方、【炎帝ノ国】のミィの所にもセイバーは出ていた。

 

「また会いましたね、ミィさん」

 

「セイバーか。今はお前とは……」

 

「わかってますよ。だから、コイツらをさっさと片付けてから昨日の続きをしましょうか!」

 

「ふん。好きにしろ」

 

ここでも烈火のセイバーとミィによる共闘が始まっていた。

 

「【火炎砲】!」

 

セイバーは左手から火炎の砲弾を次々と撃ち出してミィを庇いながら敵を殲滅していく。当然ミィも違和感を覚えたようで直接聞きに来た。

 

「何故私を庇う?私がやられた方がお前達は有利なはずだが?」

 

「なーに言ってるんですか。俺の今の使命を果たしているだけですよ」

 

「なるほど、今は私達に1人でも多く敵を倒してほしい。だからいつやられてもおかしくない私を庇っているという事か」

 

「そういうことですよ。という訳で、行きますよ。ブレイブ、【覚醒】!アンド【騎乗】!」

 

セイバーはブレイブを呼ぶと上に乗り、更にはミィをも後ろに乗せた。

 

「セイバー!?これは……」

 

「しっかりと捕まってくださいよ!俺のブレイブの飛行は少し荒いですからね!」

 

ブレイブは低空飛行しながら敵の合間を縫うように飛び、セイバーが近距離を、ミィが遠距離をそれぞれカバーし合いながら倒していった。

 

「【炎帝】!」

 

ミィが【炎帝】を使うとセイバーの剣にそのエネルギーを纏わせた。

 

「セイバー、使え!」

 

「良いでしょう!【神火龍破斬】!」

 

セイバーはいつもの数倍の威力になった烈火を上空から振り下ろし、その斬撃は下にいる敵をほぼ全て壊滅させた。

 

 

どのギルドからも危険だとされているギルドが3つ共集まっているのだ。

その殲滅力は並大抵ではない。

しかもセイバー以外は三者共に干渉しないように意識し合っているのだからたちが悪い。

 

ボロボロになって全ギルドが撤退した後で残ったのは【炎帝ノ国】の4人とセイバーと共闘していたペイン、【楓の木】の面々だけである。

【楓の木】はクロムがユイとマイと後衛組を【カバームーブ】と【カバー】を乱用して守っていたためボロボロになっているくらいでカスミもヒビキも回復が間に合っているし、サリーも問題ない。

メイプルも当然大丈夫である。

セイバーに関してはまだ6人の分身を維持しているどころかダメージ1つ受けてないくらいである。

 

「スキルがなければ終わってたな……」

 

クロムは自分が生き残っていることが不思議なくらいだった。

何度もHPはなくなりかけたが気味が悪い速度で回復していったのである。

 

対して【炎帝ノ国】は満身創痍であり、もう既に多くの切り札も使ってしまっている。さらにギルドメンバーの多くが既にリタイアすることになってしまっていた。

 

ここから【楓の木】とは戦えないだろう。

 

ペインとミィは敵がいなくなった事を確認するとセイバーと分かれてそれぞれの仲間の元へと戻って行った。

 

 

暫くしてから大爆発が起き、ミィはありったけのMPを使ってメイプルの自爆飛行を真似て、ミザリーとシンとマルクスをつれてその場から緊急離脱した。

メイプルとは違い回復をミザリーに頼るのだが、結果としてそれは成功した。

これは【炎帝ノ国】のギルドメンバーの総意だった。

上位に留まることをギルド内最強の4人に託したのである。

 

メイプル達は再びオーブを手に入れることに成功したのであった。

 

メイプル達はメイプルが【暴虐】をもう一度使うことが出来ないためギルドまでシロップに乗ってゆっくりと帰る。

そして手持ちのオーブ全てを設置して全員が休息に入った。

 

そうしていること1時間。

普通ならばどこかのギルドがやってきてもおかしくはなかったが、高速化する展開のために死亡回数が危険域に入っている中でわざわざ死地に赴こうというプレイヤーはいなかった。

大量のオーブを所持していながらも、今このゲーム内で最も静かな時間が流れているのが【楓の木】の拠点だった。

拠点内ではセイバーがHPは満タンながらも死にかけており、完全にグロッキーだった。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「アンタ、流石にやり過ぎ。限度ってものを考えなさいよ?」

 

「だ、だってぇ……あんなに面白い状況を前に黙っている訳ないでしょ」

 

「はぁ……その分身で6人分の力を発揮するスキルも【ロックモード】によるテンションとステータスアップも激土や翠風による超パワーも超スピードもエネルギーを消費するのに更にはペインさんとミィさんとも共闘するとか無茶のしすぎ」

 

セイバーが先程まで使っていたスキル、【分身】は自分の数を増やせる代わりに弱点もある。それは分身の疲労や受けたダメージを本体もある程度共有してしまう点であった。今回の場合、本体は烈火を使っていたのだが、それでも他の5本の剣を使っていた個体はダメージこそ無かったものの疲労は別の為、それらが一気に襲いかかり、セイバーは完全にダウンしてしまっていたのだ。

 

「以降……気をつけます……」

 

サリーは青いパネルを見ながら完全に呆れており、メイプルはサリーに近づいた。

 

「サリー?何見てるの?」

 

「んー?ああ、えっと……凄いことになってるなあって」

 

「凄いこと?」

 

メイプルがサリーの出しているパネルを覗き込むとそこにはランキングが映っていた。

そしてそのランキングにおいて今までと違う所は壊滅している大規模ギルドがあるということだった。

 

「あ、また1つ……これは【集う聖剣】か【炎帝ノ国】が暴れているのかも、うん、多分」

 

「そうなの?」

 

「どっちかと言うと【炎帝ノ国】だと思うけどね。【炎帝ノ国】はさっきので壊滅寸前みたいだったし、多分あと2日以上戦えない。だから……ライバルを壊滅させて後は運を天に任せるっていう」

 

サリーには確認しようのないことだが、【炎帝ノ国】が周りを潰すことでこれ以上ポイントを増加させないようにして、10位以内を何とかキープしようと考えているというのは当たっていた。

 

ただ、ただでさえ限界の【炎帝ノ国】がジリ貧になるのを避けるためとはいえ他のギルド、それも大規模ギルドを襲うというのはかなりの負担がかかる。

そう長くは持たないだろう。

 

「この殲滅力は凄いよ……メイプルが全力でやってる時よりも凄い」

 

「私は上手く轢けないと倒せないから……でも皆立ち上がってこないから攻撃してこないんだけどね!」

 

【暴虐】状態のメイプルに跳ね飛ばされたプレイヤーの多くは死亡してはいない。死亡するのは運悪く進行方向に弾かれて連続で轢かれた場合くらいである。

 

ただ、ぶつかって宙を舞うことになれば冷静さは吹き飛んでしまう。

そうして惚けている内に今度はきっちりとトドメを刺されてしまうのだ。

プレイヤーがぽんぽん跳ね飛ぶため冷静さを奪い混乱させる能力は高いが、全滅させるのにはその巨体を生かしてもそれなりに時間がかかる。

 

そもそもメイプルの持つ初見殺しの要素が今回のイベントにおいてかなり上手く働いただけであり、同じことは1ヶ月後には出来ないだろう。

 

メイプルに対してミィは分かりやすく、躱して超火力を押し付けるだけである。

火力においてメイプルのそれを遥かに上回っていると言えるだろう。

メイプルを見て自爆飛行も覚えた今、無理をすれば短時間で大規模ギルドを壊滅させることも可能ではある。

 

大規模ギルドを殲滅してくれれば【楓の木】にとっても嬉しいことだ。

 

「誰も取り返しにこないけど……今回のオーブを守りきれば10位以内はぼぼ確定だと思う」

 

「じゃあもう外に出ていく必要は?」

 

「まあないよね」

 

サリーがそう言うとメイプルはにっこりと笑いつつ座った。

 

「今回は今までで1番頑張ったから……ほんと疲れたなあ」

 

「後は【水晶壁】と銃撃の用意で万が一に備えておいて。セイバーもあと半日だけあげるからその疲労をなんとかしなさい」

 

「うん、分かった」

 

「へーい……」

 

メイプルとセイバーが返事をしたところでサリーもその場に座り込んで、メイプルと一緒にギルドがどうなっていくのかを確認し続けることにした。

 

 

 

その頃、ゲーム外では運営陣が残りギルド数を表す表示を見つめていた。

 

「これは……もう終わっただろ」

 

「だな……」

 

明るく輝く数字は6という数字を浮かび上がらせている。

そしてそれらのギルドは全て現在10位以内であることが確認されている。

つまりもう10位以内に入るギルドは確定したということだ。

 

5日を予定していた今回のイベントは4日目の早朝には実質の終了を迎えていた。先程までは減り続けていたギルドの数表示は全く動きを見せなくなった。

 

「どいつもこいつも殺意高いなぁ!?おい!?」

 

「今回のイベントの見所編集して動画にするぞ。もうこれといったことは起こらないだろ」

 

男が周りに指示を出すと次々に膨大な量の録画データからこれはと思ったシーンが選び出されていく。

 

「5割近くメイプルかセイバーが映ってるんだが……」

 

「メイプルとセイバーを映さずに見所を抜き出せと言うのか?これでも削った方だぞ」

 

呟いた男の方に首だけを向けてそう言うと、呟いた男は額に手を当て椅子の背もたれに身体を投げ出した。

 

「まあ【楓の木】に引っかき回されたのがイベントが思うようにいかなかった原因か……」

 

「【炎帝ノ国】は10位だしな、しかも既に全滅だろ?順位予想もやってみていたんだが……まあ当たらない」

 

【炎帝ノ国】はライバルを次々に倒していたが、無理をし続けたために全滅に至った。

ただ、何とか10位を確定させることには成功していた。

 

「セイバーとメイプルの行動が読めるようになればなあ……」

 

それは多くのプレイヤーも思っていることだった。

対策の立てやすい者ほど対処は容易になるからだ。

 

「無理なことを考えても無駄……それより次回の日数……考え直さないとな」

 

「だな、流石に丸2日余るほど加速するとは……」

 

プレイヤー達のやる気を読み切れなかったが故のミスである。

彼が次回のことを考えていたところで、思いついたというように1人の男が部屋の中にいる全員に聞こえるように言い放つ。

 

「なら1つ予想してみよう!お題は今のメイプルが何をしているか!どう?当たった奴には俺が1回奢るよ」

 

その提案にその場にいた全員が乗った。

メリットしかないのだから当然である。

 

「少し前の録画データを見ればいけるか。オーブ周りしかないが……」

そう言って適当に選び抜いた【楓の木】の4日目の広間の映像を映し出す準備をし始める。

 

「なら、拠点にいないってのもありか?」

 

「いいんじゃね?それだと簡単に探せないからな……まあ多分拠点にいるとは思うが……」

 

「じゃあ予想開始!思いついた奴は挙手!」

 

奢ると言い出した男が合図をすると早速何人かが手を上げた。

そして男が指示した順にそれぞれに予想を述べていく。

 

「ギルメン全員でボードゲーム中」

 

「機械神で空を飛ぶ練習」

 

「双子に人間お手玉をされている」

 

「【鍛冶】で作られた武器を齧ってスキルが得られないか試している」

 

「何だ、皆普通過ぎやしないか?」

 

「それもそうか……」

 

普通過ぎると言われたことで全員がメイプルならばどんなことをするかと再び思考を巡らせた。

そうしてどんどん予想は混沌としていく。

 

「巨大化した亀の口の中に入っている」

 

「何故かサリーと戦っている」

 

「いっそ亀を齧る」

 

「セイバーの龍と戯れる」

 

「ギルドメンバーとババ抜きしてセイバーがボロ負けしている」

 

全員が口々に予想を述べていく。

そして粗方意見が出尽くして部屋が静かになったところで発案者が終了を宣言した。

 

「じゃあ……映すぞ」

 

「ああ」

 

一瞬の後、大きなモニターに【楓の木】が映し出される。

 

 

肝心のメイプルは、全身を完全に包む羊毛の塊からニョキニョキと兵器を生やして、ユイとマイに担がれながら拠点を歩き回っているという状況だった。

 

 

それを見たところで動画はそっと閉じられた。

 

「あれも入れるか?」

 

「……ああ」

 

そのワンシーンはそっと見所集に加えられ、運営陣はそれぞれが何か理解を超えたものを見たことに対する処理へと移った。

 

 

 

 

 

運営がもう既に終わったと予想したのは正しかった。

4日目からゲーム内で戦闘は一切起こらずに平和に時間は過ぎていった。

 

そうしてランキングも特に変動することなく5日目を終えたメイプル達は通常フィールドへと転移した。

転移してから数秒後、各プレイヤーの目の前に青色のパネルが浮かび上がり今回の最終順位を表示する。

 

「今回も3位だ!」

 

「そう言えばメイプルは最初のイベントも3位だったね」

 

「俺としてはもう少し上だと思ってたけど、流石に無理かぁ」

 

10位までならば報酬は変わらないためより上位を目指そうとはしていなかったが、大規模ギルドのオーブのポイントをまとめて手に入れることが出来たことが大きかったのだ。

そうしている内に最高ランクの報酬がパネルに表示される。

 

銀のメダルが5枚に木製の札が1枚。ギルドマスターであるメイプルには全ステータスを5%上昇させるギルド設置アイテムも贈られた。

 

メイプルはそれらを自分のインベントリにしまうと木製の札を改めて取り出して眺める。

 

「【通行許可証・伍】……ふむふむ」

 

そう書かれた文字の下には小さくメイプルの名前も入っていた。

貸し借りは出来ないようになっているのである。

 

「次階層で役立つらしいね。まあまだ少し先のことだけど」

 

「早く出ないかなぁ……新しい階層」

 

サリーとセイバーはメイプル同様に取り出していた札をしまった。

 

「何はともあれ……お疲れ様、メイプル、セイバー」

 

「お疲れ様!サリー!」

 

「今回は皆頑張ったからな!お疲れ!」

 

互いに健闘を讃え合うと【楓の木】のメンバー全員でギルドに戻っていった。

 

 

メイプルの無事10位内に入ることが出来たことを祝ってパーティーでもしようという案に全員が賛成したため、数日後に【楓の木】で打ち上げを行うこととなった。

イズは【料理】スキルも最大まで上げてあるため料理も絶品である。

 

だが、全員が揃ってもメイプルだけがやってこない。

 

「私も何か買ってくるって飛び出したっきり……私も付いていった方が良かったか……」

 

「そうね……1人にするとフラフラとどこかへ行くもの」

 

「うーん。この感じだとまたなんかやりそう」

 

サリーとセイバーが会話を止めてメイプルを探しにいこうとしたその時ギルドの扉が開いてメイプルが帰ってきた。

 

いつものように予想外を引き連れて。

 

「ただいまー!」

 

「わーお、メイプル、すっごい豪華な人達が揃ってるなぁ」

 

「うん、おかえりメイプル。で、後ろの皆は?」

 

サリーとセイバーの目線の先には【集う聖剣】の5人と【炎帝ノ国】の4人。

何故いるのかとメイプルに問うと明るい調子でメイプルは答えた。

 

「外で出会って話してたら流れでフレンドして貰えたから招待したから?あれだって、えっと、強い人同士の繋がりを持つみたいな?私も強い人になってきたんだよ!」

 

「ああ、うん……」

 

メイプルが見せてくるフレンド欄には【楓の木】と【集う聖剣】と【炎帝ノ国】のプレイヤーの名前がずらっと並んでいる。

メイプルの一般的な扱いを知っているサリーとセイバーはそれをフレンドとはまた違うもののように眺めていた。

魔王でも真っ青になって逃げ出すだろう。

 

突然のゲストに対応してイズは料理を次々に作る。

【楓の木】は10人しかいないため追加で誰か来ようとも余裕を持って席に着くことが出来る。

それぞれに料理を楽しみ時間を過ごしていると運営からの通知が届く。

そこには1つの動画があった。

 

「ギルドのモニターで映してみようか。皆同じ動画みたいだし」

 

メイプルが立ち上がってギルドに備え付けられたモニターをいじり動画を再生する。

映し出されたのは今回のイベントのハイライト。

ただ、ほとんどはここにいる者達の行動である。

最初はセイバーの大暴れから始まり、ペインが移ったと思えばミィが、切り替わったと思えばサリーが映る。

 

「あー……これあの夜の……私の失態がー!」

 

フレデリカが叫ぶ。

 

「もうちょっと元気だったらフレデリカもいけてたんだけどなぁ」

 

サリーがそう言うとフレデリカはむっとした顔で返す。

 

「そんな簡単にはいかないけどねー」

 

「じゃあ後で1回どう?」

 

「いいよー!?今度は当てる!絶対当てる!」

 

そんな話をしている内にメイプルとランカー相手に無双するセイバーが映る。

 

「まだ人型なんだな」

 

「7匹になるんだろ、知ってるぜ」

 

「てか、よくよく考えたらペイン以外の第1回イベントの上位陣はセイバーに1回はやられてるんだよな?」

 

「ああ、けど、今度は勝つぜ」

 

「流石に負けっぱなしはシャクだからな」

 

ドレッドとドラグが虚ろな目で呟き、キラーとシンはやる気マンマンである。

 

「僕としては思い出すだけでつらい」

 

最後にマルクスがションボリとした声を上げる。

 

男性陣がモニターを眺める。クロム以外は全員が1度はやられているため良い思い出はないだろう。カナデは違和感なく女性陣に混じってそこからモニターを見ていた。

 

マルクスが克服するには特に時間がかかりそうだ。

最後の方でクロムがユイとマイとイズとカナデの4人を【カバームーブ】での変則移動と常軌を逸した回復力で守りきる映像が流れた時には、比較的普通だと思っていたのにというような視線が向けられていた。

 

「俺もメイプルやセイバーに追いつかないとな。負けたままでいるのは嫌いなんだ」

 

「ほんの少し目を離しただけで毛玉になったり化物になったりするメイプルに追いつくのは……ああ」

 

「それに、セイバーだってちょっとフリーにさせたらすぐに新しい聖剣抱えてくるしな」

 

「でも、それでこそセイバーお兄ちゃんです!」

 

クロムが意気込むペインに返し、カスミとヒビキが補足する。

セイバーとメイプルは実力差以上に遥か遠い位置にいる。

追いつけるかどうかは分からない。

 

1ヶ月半ほどすれば新たに階層が追加される。

となればそこでの動きが決め手となるだろうことは明白だった。

 

 

「あ、そうだ!そういえばまだペインさんとやってませんでしたよね?今からやりましょうよ今から!」

 

「「「「「今から!?」」」」」

 

「セイバー、流石にそれは…」

 

「よし、やろうか、セイバー」

 

「「「「「やるの!?」」」」」

 

その場の全員のツッコミを他所にセイバーとペインは決闘による勝負を始めた。

 

「流水、抜刀!手加減は無しですよ。ペインさん!」

 

「ああ、君を全力で倒す!」

 

そのまま2人は激突をし、数分後にはその決闘場は大荒れする事になった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

780名前:名無しの大盾使い

やあ

 

 

781名前:名無しの槍使い

おう動画見たぞ

 

 

782名前:名無しの弓使い

今まで歩く要塞だの人外防御だの言われてたのが走る要塞と人外になってて、セイバーも剣が6本。ついこの前は3本だけだったよな?

もうどうしたらいいんですかね?

 

 

783名前:名無しの大剣使い

ちょっと前までは中身はともかく人だったんだがなぁ。セイバーも相変わらずのバトルジャンキーだし。てか、ペイン、メイプル、カスミ、クロムを除く上位陣を1人でフルボッコにするとかアイツもう名実共にトップで良くね?

 

 

 

784名前:名無しの大盾使い

大丈夫。終わった後の打ち上げの後の決闘にてセイバー君単独でペイン倒したから。聖剣全部使った上だけど。

2人共ちょっと目を離した隙にすくすく育っててなあ

 

 

785名前:名無しの魔法使い

嘘だろオイ!?ペインでもダメかぁ。

それにしてもどう育てば武装展開やら身体変化やらするようになるのか。あと、セイバーの化物クラスの戦闘力を得る方法もご教授願いたい。

 

 

786名前:名無しの大盾使い

だから本当電光石火なんだよ

ほんの1日だけ目を離したらその瞬間に一皮剥けてくるんだよ

 

 

787名前:名無しの槍使い

一皮?ひとかわ?ほよよ

 

 

788名前:名無しの大剣使い

メイプルの場合一皮剥けて成長というか突然変異クラスだろうそうだろう

 

 

789名前:名無しの弓使い

と言うか楓の木は全員まともじゃないぞ

クロムの映像見て確信したぞ

 

 

790名前:名無しの大盾使い

そうか?

 

 

791名前:名無しの弓使い

そう

クロムも人の皮を被っていただけだった

 

 

792名前:名無しの大剣使い

メイプルちゃんとセイバー君がやばすぎて相対的に普通に見えてしまうだけでなあ

ただそれを考慮してもサリーちゃんと双子ちゃんと黄色い髪の子はおかしい側

 

 

793名前:名無しの魔法使い

俺楓の木の轢き逃げからの復活したてのタイミングでセイバーからのリスキルにあってるからな

暗闇で急に空を舞う感覚と一瞬にして2デスさせられる理不尽は味わえまい。

 

 

794名前:名無しの弓使い

双子は前衛を鉄球数発とかな

これメイプルちゃんの系譜だろ

明らかに足遅かったし

 

 

795名前:名無しの槍使い

だろうな

まあメイプルよりはマシな感じはしてるけどこれ多分メイプルちゃんが育成してるんだろーな

 

 

796名前:名無しの大盾使い

ヒビキちゃんはまだマシな方だが、既に戦闘力やらなんやらがサリーちゃんやセイバー君並みに強いんだよな。

 

 

797名前:名無しの大剣使い

は?

特性:メイプル、セイバーってのは感染すんの?

 

 

798名前:名無しの魔法使い

するよ?

クロムにも感染してそうなんだよなあ

 

 

799名前:名無しの槍使い

動画を見る限りクロムはしてるだろ

てかカスミくらいじゃねーの装備変わってないの

後衛も軒並みおかしい

 

 

800名前:名無しの大剣使い

でもまぁ1対1なら何とかなりそうだろ

ならない奴がヤバい奴

 

 

801名前:名無しの大盾使い

まじめな話サリーちゃんやセイバー君に1対1で勝てる奴いる?

俺やカスミはイベント前にギルドホームの訓練場でセイバー君とやってみたが無理だった。それぞれ土と風の剣にやられたよ。しかもある程度手加減されたし。

 

 

802名前:名無しの弓使い

てことはセイバー君が倒せてないのはメイプルちゃんとサリーちゃんだけかぁ……。

サリーちゃんは躱すんだっけか?

動画で見た感じだともう少しでって感じなんだがな

 

 

803名前:名無しの大盾使い

噂も広まってると思うがマジで噂のままだからな

ただただ攻撃が当たらない

 

 

804名前:名無しの大剣使い

楓の木の噂というか話?

溢れ返ってるからな特に今回のイベントでの動画がインパクト強すぎ

 

 

805名前:名無しの槍使い

神魔大戦とか終末の日とかまあ凄まじい呼ばれ方してる3日目な

 

 

806名前:名無しの大盾使い

分裂したからな

まああれはメイプルちゃん1人では無理らしいが。

セイバー君の方のアレは自力で6人になって剣使って大暴れって感じ。

 

 

807名前:名無しの弓使い

絶無の希望がひとつまみの希望になるだけで大した差はないです

 

 

808名前:名無しの魔法使い

ペインがメイプルちゃんにダメージ与えた瞬間にメイプルちゃんにHPの概念があったことを再確認したわ。

 

セイバーの方もキラーって奴がようやく追い詰めたと思ったら一瞬にして逆転してるし。これはもう手がつけられん。

 

 

809名前:名無しの槍使い

てかメイプルちゃんとセイバー君はあれだ

何で確定耐えスキル持ってんの?

2人を削った奴が以前にもいんの?

 

 

810名前:名無しの大盾使い

いるなあ

多分どっちも人ではないだろうが

そしてメイプルちゃんの今のVITなら削られないだろうし、セイバー君はそういうのは全部躱すだろうな。

 

 

811名前:名無しの弓使い

まだ上がってんの?

もう既にこれ以上必要ないレベルだろ

 

 

812名前:名無しの大盾使い

メイプルちゃんに最近聞いたら5桁が見えていると

そうおっしゃいまして

私も意識飛びかけましたよ本当もう

 

 

813名前:名無しの大剣使い

俺のSTRの50倍くらいなんだが?

 

 

814名前:名無しの魔法使い

そうなるとあれかもう他のステータスには振りたくない気分になってきたと

 

 

815名前:名無しの弓使い

楽しんでくれて何よりです

というか他のステータスに振り始めると手がつけられなくなる

普通に走るようになるだけで超強化とかうけるわ

 

 

816名前:名無しの大盾使い

メイプルちゃんは効率とか考えてないのか考えてるのかよく分からん

 

 

817名前:名無しの魔法使い

ガチガチに考えてないから強くなった説を推しておこう

 

 

818名前:名無しの槍使い

普通の思考では毛玉になって神輿は思いつかんわな

 

 

819名前:名無しの弓使い

4日目以降の唯一の映像があれだからな

 

 

820名前:名無しの大剣使い

炎帝のバトルシーンからぱっと切り替わった先であれを見せられた俺はまた思考を停止させられましたよ

 

821名前:名無しの魔法使い

それはセイバー君も同じ。あの化物が6人に増える上に戦闘力が落ちないのは強すぎるな。

 

822名前:名無しの弓使い

まぁ、それぞれの弱点知ってれば何とか…なる訳ないよね。

 

823名前:名無しの大剣使い

もうセイバーと言いメイプルと言い化物が2人もいるなんてこれはますます手が出せないなぁ。 

 

 

このように掲示板はメイプルとセイバーのスレで8割ぐらいが占められる事になった。




今回でイベントが終わりました。次回は第四層の話になると思います。また次回も楽しみにしてください。


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聖剣使いと第四層

第4回イベントが終わって1ヶ月と少し、10月に入ったある日。

この日は第四層が追加される日だった。

海斗は理沙に誘われて楓と共にログインしていた。

 

3人が集まると早速三層のボスを攻略しに行った。

 

だが、ログインするタイミングを合わせている訳ではないので、今【楓の木】でログインしているのは3人だけだった。

今先に上層へと上がってももう1度ギルドメンバー全員でボスを倒さなければならないだろう。

それでも3人は新層への興味には勝てなかった。

 

 

 

 

どんなボスかも確認しないまま【暴虐】状態のメイプルはその背にサリーとセイバーを乗せてフィールドをダンジョンに向かって駆ける。

既にこれがメイプルであると知れ渡っているため機械で空を飛んでいるプレイヤー達から攻撃されることはない。

ただし注目されるのは変わらない。

 

モンスターを轢きながらダンジョン内を進みボス部屋に到達するとメイプルはその扉を開けて中に入った。

 

「サリー、セイバー?着いたよー!」

 

「おっけー!さっさと終わらせよう」

 

「とは言ってもメイプルなら楽勝だろ?」

 

部屋の奥にいたのは3人の3倍近い背丈の鋼のゴーレム。

もしもゴーレムに意識があったなら、扉を開いて顔を覗かせた相手が化物だったことに頭が真っ白になっていただろう。

 

「【幻影世界】!」

 

サリーだけでもメイプルは4体になる。

4体のメイプルは鋼で出来たゴーレムに巻きつくようにして攻撃を開始する。

それに対抗してゴーレムも攻撃をするものの当然メイプルにダメージは入らない。

それを見たサリーとセイバーは安心したとその場に座って朧とブレイブの頭をそれぞれ撫で始めた。

しかし、そんな2人をメイプルの焦った声が引き戻す。

 

「サリー、セイバー!?どうしよう!?」

 

「「えっ!?何!?」」

 

「ダメージ入らないんだけど!?」

 

「えっ!?」

 

「あー。そういう系のボスかぁ」

 

2人がゴーレムを見るとゴーレムのHPは全く減っていなかった。

運営は考えていた。

自然に【暴虐】状態のメイプルを封じられる方法を。

そして思いついたのは理不尽なほどの攻撃力を持ったボスを配置することではなく、高い防御力とHPを持ったボスを配置することであった。

 

メイプルの天敵は超高火力のボスではなく、同じ個性を持った相手だった。

メイプルには貫通攻撃スキルがない。

ゴーレムもダメージを与えられない以上この戦いに決着はない。

1対1の場合にメイプルを抑える方法である。

 

「これは私が何とかするしかないか」

 

「いや、俺がいれば十分だ。激土、抜刀!」

 

セイバーは激土を抜くとゴーレムに有効となるスキルを宣言する。

 

「【マキシマムボディ】!」

 

するとセイバーから激しいオーラが噴き出てパワーが上がったような演出がされた。

 

セイバーの【マキシマムボディ】の基本効果は自身のSTRを常時2倍にする事だが、それだけならマイとユイの【侵略者】でも出来る。2人のスキルとの決定的な違いは自身のVITを半分にする事でさらにSTRを2倍に。つまり、通常の4倍の力を得られるようになるのだ。その代わり30分経過で効果が切れてそれと同時に1時間の間STRとVITがそれぞれ元の値の半分に減ってしまうが。だが、今の状況ならたった一撃入れるだけなのでこの欠点はさほど問題では無いだろう。

 

「【大断断斬】!」

 

セイバーが激土を振ると【装甲破壊】のスキルも相まってたった一撃でゴーレムを沈めた。

 

 

「はぁ……まさか激土で一撃とは。もう少しやると思ったんだけど」

 

「これは完全に人選ミスね。この場合はメイプルよりもセイバーが適任だった」

 

ここをさっと突破して第四層を見に行こうとしていた3人としては作戦ミスをした事にモヤモヤしながらも、すぐに気持ちを切り替えて第四層へと向かった。

 

「どんなところかな?」

 

「さあ?ほら、見えてきた」

 

「さーて、どんなのが待ち受けてるか楽しみだぜ!」

 

サリーが走り出し、2人も追いかけた。

 

第四層は常闇の町。

星の煌めく夜空に赤と青の2つの満月。

今までで最も大きなこの町は全ての建物が木製であり和の様相を呈していた。

町中を水路が走り、灯りは静かに道を照らしている。

町の中心に見える一際高い建物には一体何があるのだろうと心は躍る。

 

「探索する?しちゃう?」

 

「いいね。でも、とりあえずギルドホームへ行ってから」

 

「確かに、拠点はちゃんと見ておこうぜ」

 

「うぅ……そうしよっか」

 

3人ははやる心を抑えてギルドホームへと向かった。

 

ギルドホームの位置を確認し、内装を一通り見て回ったところで【楓の木】の残りのメンバーがログインしたことにサリーが気付いた。

 

「ごめんメイプル、手伝いに行ってくる」

 

「じゃあ、私も行くよ。【身捧ぐ慈愛】で守るだけだけど」

 

「俺は……」

 

「「当然来るよね?」」

 

「……はい」

 

セイバーは2人に詰め寄られたため渋々四層の探索を後回しにし、再度三層へと舞い戻った。

 

第四層の実装に合わせてパーティを組める最大人数が8人から10人へと増えた。これにより、1つのパーティで出来ることが更に広がる事になる。

とは言ってもセイバー達にとっての2度目のボス戦は【身捧ぐ慈愛】による保護を受けたユイとマイによる通常攻撃連打でセイバーが手を出すまでもなく驚く程あっさりと終わることとなった。

 

新たな町にやって来た一行はギルドホームに入ると一息ついていた。

 

「四層に来たがこれからどうする?」

 

「そりゃあ探索でしょう。新しい階層ですし楽しまないと」

 

「だね。それじゃあ早速行ってみよう!」

 

それぞれが散り散りに興味のある場所を探索を開始し、セイバーは伍の街を探索していた、

 

「さーて、どこから見ていくかな……およ?あの古物屋……なんか引っかかるな」

 

セイバーは己の勘が示すままに古物屋に立ち寄った。そこから何か目ぼしい物を探していると所狭しと大量に並べられた物の中で1個だけ目を引く物があった。自分でも何故それを取ったのかわからない。ただ、自身の直感がこれには何かある。そう思って手にしたのだ。

 

セイバーが手にしたのは古びた巻物だった。それを開くとその中身は1体の龍の伝承だった。

 

「ふむふむ、“コノ国ヲ守リシ伝説ノ龍。彼ハ守リ神トシテコノ国ノ人々カラ愛サレテイタ。アル日突然龍ハ姿ヲ眩マシテ消エ、ソレ以降二度トコノ国ニハ戻ラナカッタ”か。伝説の龍……ブレイブドラゴン?いや、色が違う。この龍の色は水色……何の龍だ?」

 

『少年、それを手にするとは中々見所があるな』

 

そこにこの店の店主と思わしき初老の男が店の奥から出てきた。

 

「は、はぁ……」

 

『その龍は古よりこの村…いや、今は街か。それを守ってきた。そのお陰でこの街は何人たりとも妖怪や怪物を寄せ付けなかった。なのだが、彼は300年ほど前にこの国を去ってしまった。それ以降、彼は2度とこの国の守護には戻ってこなかった。一説によれば彼は幸福を授ける龍から災厄を授ける龍になってしまい人々から忌み嫌われる存在になったとも、この街に主が入った際に戦って負けて滅ぼされてしまったとも、あるいは存在そのものが幻だったとも言われてきておる。いずれにしても、この国の他の住人はこの龍の存在を認めていない』

 

「そっか……爺さん。この巻き物を買う。いくら掛かる?」

 

『まいどあり。値段は……』

 

 

セイバーは巻き物を買うとその店を後にしつつ考えていた。

 

古から伝わってきた龍……か。パッと見この街が別段おかしい所がある訳じゃない。あと、この国に主がいるとか何とか言ってたな。そいつと一回戦ってみたいなぁ……。

 

セイバーは伝説に出てきた龍とこの国にいるとされる主についての想いを馳せていた。それほど強い奴であれば戦ってみたいと。だが、セイバーはこの2体よりもかなりヤバい奴と戦う事になると、この時は知らなかった。

 

 

そうして各自存分に探索を行い、それから数日後、ギルドに全員が集まっていた。

そしてそれぞれが成果を話し合う。

 

「じゃあメイプルは?」

 

サリーがメイプルに話を振る。

 

「私は即死効果を手に入れて着物買ったよ!」

 

「……うん、後でゆっくり話すとして」

 

「というか、それ絶対毒に関係する即死効果だろ?さらっとエグいスキルもらってんじゃねーよ!」

 

それからサリーは情報をまとめて話し始めた。

サリーが話し始めたのは通行許可証のことだった。

通行許可証がなければこの町での探索は十分に行えない。

そして、その通行許可証のランクを上げるためには面倒なクエストをこなしていかなければならないという訳だ。

クロムやカスミ、セイバーなども既に知っていたが、その手の情報を積極的に集めることがないメイプルにとっては初耳となる話だった。

 

「じゃあ私達の通行許可証は凄いってこと?」

 

「まあ、かなりのアドバンテージになると思うよ」

 

「その話は置いておいて、取り敢えずクエストについても話そうか」

 

それからそれぞれがここにこういったクエストがあるなどを話し合ったが、メイプルの受けたクエストに挑戦したそうなメンバーは出てこなかった。

 

「じゃあまた何かあれば!」

 

メイプルがそう言ったことで話は終わり各自やりたいことに移っていった。それから1週間経った頃、メイプルはギルドの机に突っ伏していた。

 

「さーりーぃー……せーいーばーぁー……通行許可証のランク上がらないよー……」

 

メイプルが向かいの椅子に座っているサリーとセイバーに話しかける。

 

「まあ、メイプルは時間かかるかもね」

 

 

「確かに、通行許可証をランクアップさせるためのおつかいイベントをこなさないとダメだからなぁ……」

 

 

そしてイベントの内容は採取から討伐まで多岐に渡る。

カスミはもう捌らしいが、彼女の速さが異常なだけで本来はなかなかの時間を要するのだ。

 

メイプルは防御力と引き換えに色々と投げ捨ててしまっているために普通よりもさらにスピードが落ちてしまっている。そのため、メイプルはまだ伍のままであった。

 

因みに、サリーの通行許可証の文字は漆、セイバーはカスミと同じ捌だ。

 

「早く奥まで行ってみたいなぁ……」

 

メイプルがそう呟いたその時、確かに感じられる地鳴りが四層全体に発生した。

 

「な、なに?」

 

「分からない……っと?」

 

「誰か何かをやらかした?」

 

3人に同時に運営からの通知が届く。

3人がそれぞれメッセージを開いて確認する。

 

【プレイヤーが初めて玖の鳥居を突破したため町が本来の姿を取り戻しました。またこれによりアイテム、クエストが追加されました】

 

「サリー!ちょっと出てみようよ!」

 

「うん、見てみようか」

 

3人がギルドから出ると明らかに変わっている点があった。

 

「おお……?あれは……」

 

「んー……見た感じ……鬼だね」

 

「まさか、あの老人の話って……こういう事だったのかよ」

 

そこには人ならざる者、ぱっと見て分かるような鬼などを始めとして物怪や妖怪と呼ばれるような者達が闊歩していた。

第四層は妖怪と呪術の町だった。

 

「サリー?こういうのは大丈夫なの?」

 

メイプルがふわふわと浮かぶ人魂を指差す。どう見てもサリーの苦手なタイプのものだ。

 

「向かってこないし、驚かせてこないからね……そっとしておけばいいから」

 

とは言っても好きなものではないため表情が明るいとは言えない。

サリーは通り過ぎていく人魂を気にしつつメイプルに話しかける。

 

「到達したのってカスミかな?」

 

「すっごい進んでるみたいだったもんね」

 

「うぅ……また先を越されたんだけど……。せっかくなら俺が最初に玖に到達したかった」

 

 

3人は今ここにいないカスミのことを思い浮かべる。

そしてその予想は当たっていた。

 

 

玖と書かれた鳥居を潜った先でカスミは座り込んでいた。

カスミが鳥居を潜った途端に妖怪が溢れ出したために驚いてしまい立ち上がれないままそれを見ていたのである。

カスミの元にも運営からのメッセージが届いてカスミは事態を把握した。

 

「なるほどな……よっと……ふぅ」

 

カスミは立ち上がると改めて新しい区域を見渡す。

 

「次の鳥居は近いな」

 

今潜った鳥居から伸びる道は一本だけである。

妖怪達が歩く大通り、両側に店が構えられたその通りを最奥まで進むと一際高い建物の前に辿り着いた。

その建物の入り口の前に最後の鳥居が設置されているのだ。

そしてその鳥居の隣には立て札があった。

 

【次代の主は赤鬼の角、龍の逆鱗、天の雫を持つ者に託す】

 

「今までに買うことが出来たアイテムにはなかったな……アイテムも増えているようだし再探索といくか」

 

カスミは3つのアイテムの情報を集めるのも兼ねて追加されたアイテムを見るために心躍らせて店を回り始めた。

 

 

そしてそれはどのプレイヤーも同じだった。一斉に探索を始めるプレイヤー達とNPCの妖怪達で今まで静かだった町は賑やかになった。

 

3人も新たなアイテムを見て回ることにして近くにあった店へと入った。

人間だった店主は狐の尻尾と耳を生やした女性に変わっていた。

 

「化けてたってことなのかな?」

 

「かもね」

 

「それが正しそう」

 

3人は新しい商品を見て回る。

実用的なアイテムからそうでないものまで、この店だけでも見たことのないアイテムはいくつもあった。

 

「見てメイプル、これ」

 

そう言ってサリーが手に取ったのは紐でくくられた3枚の御札である。

サリーは左手には白い御札、右手には黒い御札を持っている。

 

「2つは違う効果?」

 

「うん。黒い方は3分間対象のスキルを一つランダムで使用不能にする。白い方は事前にスキルを選んでおいてそのスキルが封印される時に身代わりになってくれる」

 

サリーはどちらも枚数分、つまり3回使えると付け加えた。

 

「ほほー……なるほど」

 

「白黒一セットずつしか持てないけどね」

 

「……とりあえず、買っとこうかな?」

 

「それがいいと思うよ、どこかで使うタイミングがあるのかも」

 

「てか、スキル封印って俺の装備じゃ致命的な弱点だなぁ……」

 

買っておいても損はないアイテムだったため3人は御札を2色とも購入することにした。

 

「サリー!サリー!こんなのもあるよ」

 

そう言ってメイプルが見ているのは付け角や付け耳である。

 

「試しに一つ付けてみたら?」

 

試着可能の表示を見たサリーがメイプルに提案する。

 

「んー……あっ!じゃあこれ!」

 

メイプルが付けたのはくるりと巻いた角である。

 

「んー……」

 

「羊になった時に似合うかなって!」

 

「ん!ああ、羊……そっかそっか。うん似合ってるんじゃないかな」

 

「じゃあサリーはこれとか!」

 

「え?私は別に……」

 

メイプルが渡したのは真っ白い狐耳と尻尾のセットである。

 

「朧とお揃い!」

 

「そうだね……人のいないところでなら付けてみてもいいかな?……尻尾まで付けるのはちょっと恥ずかしいし」

 

もしこれらがプレイヤー間に浸透したなら付けてもいいかもしれないと考えつつサリーはメイプルと共に会計を済ませて店を出た。

 

セイバーは未だに店の中にいると何か無いか探していた。すると店の奥の方の一角に紫の本があった。

 

セイバーがそれを開くとそこには紫の龍の絵と妖怪や人々が苦しむ様が描かれていた。

 

「えーっと、“カツテコノ村ノ外レニ潜ミシ龍、暗キ漆黒ヲ纏イテ人々ヲ苦シメ、世界ヲ闇デ覆イツクシタ”。見た感じ暗黒龍ってとこかな?これが描かれた日は……250年前。水色の龍が去って、村に主って奴が入った後か。で、この村にいた人達はその龍によって全滅、妖怪達は辛うじて生きていたものの龍の生み出した暗黒は妖怪の力を遥かに上回っていた」

 

セイバーがページをめくるとそこには村の主と龍が争っており、その激しさで村は愚か、世界全てで天変地異が起きる程の物だった。

 

「これは思ってたよりエグいな。んで、その時、“1匹ノ龍ガ現レルト暗黒ノ龍ノ力ヲ鎮メタ”……って、この龍は何だ?見た感じ水色の龍……いや、違うなぁ……オーラは水色だけどここまで骨は剥き出しじゃ無かったはず……」

 

セイバーは何かの手がかりかもしれないと思ってその本を買うと外に出てきた。外にはサリーがおらず、メイプルが1人で立っていた。

 

「あれ?サリーは?」

 

「現実世界で用事があるらしいから帰ったよ」

 

「そっか。メイプル、この後はどうする?」

 

「うーん。街を探索かなぁ。まだ見てない所いっぱいあるし……セイバーは?」

 

「俺はちょっと気になる場所があるから行くね」

 

「わかった。また後でね!」

 

「ああ」

 

セイバーはメイプルと別れると歩き出した。尚、この後メイプルは素のミィがふれあいルームで猫と触れあう所を見るのだが、セイバーには関係のない事だった。

 

 

セイバーは森の中に入ると翠風の速度でモンスターを狩りながら自分の勘が示す先へと歩いていった。暫くするとセイバーは重力の鎖を引きちぎってふわりと浮かび始め、近くにあった湖の真上までふわふわと飛んでいった。

 

「な、何かあるとは勘でわかってたけど……これは聞いてないぞ!」

 

 

湖の真上についたセイバーの体はそのまま空へ向かって上昇していく。

 

「これは……イベントなのか?最悪落ちてもダメージは【空蝉】で無効化出来るが……」

 

セイバーが水面から5メートル程上昇した所で湖の水が柱のように伸びてセイバーを包み込む。

しかし、それも一瞬のことでセイバーは光に包まれると、次の瞬間別の場所にいた。

 

「ここは……」

 

セイバーはいつの間か地面の上にいた。

 

いや、正確には地面ではない。

 

「雲の上……なのか?」

 

セイバーが今踏みしめているのは土ではなかった。

ふんわりと柔らかい雲だったのだ。

 

「すごい星だな……」

 

 

足下を確認したセイバーは今度は空を見上げる。

星々が眩しいくらいに輝いているのは、思わず見惚れてしまうような光景だった。

 

「綺麗な夜空だが、まさかこれだけじゃないよな?」

 

セイバーはしばし夜空を眺めていた。

 

「取り敢えず進んでみるか」

 

セイバーは一先ずは雲の壁を乗り越えて先へと進んでいく。

そうして進んでいくとまっすぐに伸びる雲の道に辿り着いた。

セイバーはギリギリ2人が横に並べるくらいの道幅の道に足を踏み出した。

 

するとセイバーは何かの悪寒を感じて後ろへと飛び退くとそこに空から道に光る物体が降り注ぐ。それが何発か地面に着弾すると雨のように降り注いでいたそれは止んだ。

 

「おいおい、これを避けながら行けって事?てか、この感じかなりの距離があるし、やり過ごせそうな場所も無かった。こんなのどうしたら……あ!そうだ」

 

セイバーは翠風を双刀から1本に戻すと刃先を後ろへと向けた。

 

「ふぅ……上手くいってくれよ?」

 

セイバーは息を吸うと覚悟を決めた。

 

「位置について……よーい、ドン!!」

 

セイバーは長い道を全力で走って行った。それと同時に星はセイバーへと次々と降り注ぐ。だが、それはセイバーの所に到達する前にセイバーは通り過ぎていく。

 

「良し……このまま一気に……」

 

セイバーはそう呟くが流石にそうはいかないとばかりに星の落下速度が上昇してきた。これでは、セイバーに当たるのは時間の問題である。

 

「【トルネードスラッシュ】!」

 

セイバーは翠風の風のエネルギーを1本分に集約する事でようやく打てるスキル、【トルネードスラッシュ】を斜め前方に放つ事によって風の斬撃が星を破壊、道を切り開いて行った。

 

「そろそろ決める。【烈神速】!」

 

セイバーはラストスパートで一気に加速、徐々に大きくなる星をスルーして駆けていく。

 

長い道を進んだ先には雲の壁、そしてそこにできた横穴があった。

セイバーはそこに駆け込むように滑り込むと後ろで大量の星が落下してそのその衝撃波が駆け抜けた。

 

「あっぶね。2発ならセーフだったけど、アレ喰らったら終わってた」

 

セイバーはそれから横穴を歩いていく。穴はそこまで長くはなく、すぐに終着点がやってきた。

 

そこには煌めく光が注がれていた。

静かに、糸のように伸びる光。

それが天から雲で出来た器へと続いている。

 

「これは……」

 

セイバーは器に近づいて、溜まった光に触れてみる。

何かを触った感覚はなかったが、セイバーはそれぞれ1つのアイテムを手に入れた。

 

「【天の雫】か。使い道はわからないが、俺の勘が重要なアイテムだと言っている。取り敢えずギルドに持ち帰って情報の共有だな」

 

セイバーはその日は現実世界の夜も遅くなってきたためログアウトした。尚、セイバーがいなくなった後にメイプルとミィが2人でこのイベントに挑戦し、2人はメイプルの圧倒的防御力で星の雨の中をゴリ押して【天の雫】を入手した。

 

 

その翌日、セイバーとメイプルはサリーに【天の雫】について話していた。

 

「んー……何かのキーアイテムだと思うから大事に残しておいたらいいんじゃない?」

 

「そうする。あと、そろそろ通行許可証のレベル上げもしないと」

 

「俺はもう玖だし、そろそろこの層の聖剣を探したいかな」

 

今までで最もやることが多い階層に毎日がイベント期間と言っても過言ではないくらいだった。

 

「私も早くマックスにしないとね。メイプル、先に最奥で待ってるよ」

 

「うん、絶対追いつく」

 

「それじゃあ、俺も自分のやるべき事を頑張りますか」

 

最初はカスミ、次にセイバーが玖を突破したのを皮切りに他のプレイヤーも次々に玖の鳥居を越えていく。

そしてそのうちの1人が情報を公開したことで、11月初めにこの町の最終目的は明らかになった。

そう、3つのアイテムを集めることだ。

 

既にその内の1つを手に入れているメイプル、ミィ、セイバーにより、両ギルドは情報収集の過程を飛ばして【天の雫】を手に入れようとしたが、【炎帝ノ国】は予想を上回る星の威力に苦戦することとなる。

【炎帝ノ国】では時折ミィに頼まれてメイプルが助っ人に向かってその凄まじさを改めて【炎帝ノ国】は知る事になった。

 

一方で、【楓の木】はメイプルがクロム、カスミ、ヒビキを連れて一度、サリーが単独で行って終わった。

残りの4人は最後の鳥居の先に向かうつもりがなかったため、挑戦は見送りとなった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと共闘

セイバー達が天の雫を得てから時間が経ち、残り2つのキーアイテムもプレイヤーたちの探索により入手場所が明らかになった。

情報も出回っており、調べれば3つのキーアイテムや敵のことを知ることは容易である。

ソロでなければいけないという訳でもないが、それでも難易度は高く現状ではクリア出来るプレイヤーの方が少数派だった。

 

「今から俺は【龍の逆鱗】取ってくるわ」

 

「やっぱアンタは1人で行くのね」

 

「でも、難しくない?龍の電撃は防げるとしても魔法攻撃は効きにくいし、それにいくらセイバーでも1人だと……」

 

カナデの言う通り、【龍の逆鱗】をドロップするボスの情報は空中から電気の玉を吐き出してくる。魔法攻撃が軽減され、一定値までHPを減らせば地面すれすれまで降りてきての突進や爪攻撃、ブレスがメインの攻撃なのだ。貫通攻撃は爪だけとはいえしばらくすると空に戻って行ってしまう。後はそれの繰り返しだ。今のセイバーなら1人でも攻略は可能かもしれないが大体の飛び道具を魔法に頼る以上、苦戦は必死かと思われた。

 

「大丈夫。今回は強力な助っ人を1人用意してるからさ。それじゃあな!」

 

「お、おい!」

 

クロムの静止も聞かずにセイバーはギルドを飛び出して行った。

 

「元気ねぇ」

 

「大丈夫かな、セイバーさん……」

 

「助っ人もいるとは言っても龍を2人でなんて」

 

心配するギルドの面々を他所にサリーは半分諦めの顔だった。

 

「まぁ大丈夫じゃない?それにセイバーはこうと決めたら絶対曲げないから」

 

 

「そうだね。それじゃあ、私達はそれぞれのやる事をしよう!」

 

 

ギルドから出かけてきたセイバーは龍の逆鱗を手に入れる場所のスタート地点ににいた。そこにセイバーの言う助っ人も来る。

 

「セイバー、態々俺を呼び出して2人で攻略しようとは何のつもりだ?」

 

「1度で良いからお前と共闘したかったからだよ。それに、アレもそろそろ孵った頃だろ?」

 

セイバーの言う助っ人とはキラーの事だった。そして彼はセイバーの言葉に反応して指につけた指輪……【絆の架け橋】を見せる。

 

「ふん。前にお前から渡された卵、ちゃんと孵化させたんだ。まさか、狼とは思わなかったがな。亡、【覚醒】」

 

すると指輪から白い毛をふさふさと立てたニホンオオカミをモチーフとしたテイムモンスターが出てきた。

 

亡と呼ばれたそのモンスターはキラーに懐く。

 

「へぇ。その卵は狼だったか」

 

「お前も知らなかったのかよ」

 

「けど、似合ってるぜ」

 

「ふん」

 

 

それから2人は中へと入っていくとそこは荒野だった。

遥か高い暗い空、そこを真っ白い鱗を持った龍が飛んでくるのが2人には見えた。

低空飛行でない状態では魔法攻撃すら届かない。そんな高みから龍はバチバチと音を立てて白く輝く玉を2人へと放った。

それはきっちりと2人のいる場所に落ちた。

 

「よっ、と!」

 

「取り敢えず、お前には俺は合わせんぞ」

 

「ああ、それで良い。下手に連携してバラバラになるよりはそれぞれが思う行動をした方が良いからな!」

 

2人は降り注ぐ攻撃など物ともせずに龍討伐のための準備をする。

セイバーはブレイブを呼び出してから自身は流水を抜刀する。キラーは亡をブレイブの上に乗せると自身はダインスレイヴを構えて龍が来るのを待つ。

セイバーは龍の位置を見るとまだかなり高い位置におり、さらにその距離から雷の玉を発射してきた。

 

「やっぱ遠い。これじゃあ俺の大砲も射程圏外かな」

 

「ふん。ならばどうする?俺には対処法はあるがな!」

 

するとキラーのダインスレイヴのレールガンの部分に電撃を纏いながら赤黒いエネルギーが高まっていく。

 

「【デスキャノン】!」

 

キラーはダインスレイヴを突き出すとレールガンの部分から赤黒いレーザーが発射され、それは龍を直撃してHPバーを1割持って行った。

 

「へぇ。中々威力あるじゃん」

 

「これでも相手との距離の関係上かなり威力は落ちているけどな。で、お前はどうする?」

 

「ブレイブ、【巨大化】!亡を連れて龍の方にまで行ってくれるか?」

 

ブレイブは騎乗で乗る時よりも更に大きくなると相手の龍の前に躍り出た。当然、龍のターゲットはセイバーやキラーからブレイブへと変わる。

 

「亡、【影分身】!」

 

キラーはすかさず亡に指示を出してブレイブごと自身の数を6体に増やす。

龍はいきなり増えた分身に一瞬驚いたような硬直を見せるが、すぐにその中の1体を襲おうと雷の玉を発射しようとする。

 

「ブレイブ、【炎の渦】!」

 

セイバーはブレイブに指示を出して6体のブレイブは炎の竜巻で敵の龍を閉じ込めた。

 

「亡、【高速移動】!」

 

「ブレイブ、【逆鱗】!」

 

亡の高速移動によって機動力が強化された6体のブレイブは龍を連続で攻撃し、HPバーを規定値まで削った。

 

すると龍は瞬く間に強靭な爪で5体の分身を引き裂き、本体を攻撃しようと迫った。

 

「亡、【凍える風】!」

 

ブレイブの上にいる亡が龍の目を眩ませるとブレイブは急いで地上へと戻っていった。さらに目眩しが解けた龍も後を追ってくる。

 

「良し、ここまで来れば行けるな」

 

「行くぞ。【魔狼烈斬】!」

 

「【キングキャノン】!」

 

セイバーとキラーは降りてくる龍へと水の大砲と赤黒い斬撃を放つ。その攻撃は龍を直撃してHPバーを2割減らすがそれでも尚突っ込んでくる。

 

セイバーとキラーは跳び上がると龍の爪による攻撃を紙一重で避けてスキルによる攻撃を放った。

 

「【聖断ノ剣】!」

 

「【ウォータースラッシュ】!」

 

2人の効果が龍のHPを更に1割分削るがそれでも龍はHPを半分残してピンピンしていた。

 

「チッ。随分と頑丈だな」

 

「キラー、こうなったらこっちも空に行くぞ。あんまりお前には見せたく無い切り札だけどね」

 

「何?」

 

「【ライオン変形】!」

 

セイバーは空中で1回転すると巨大な機械仕掛けのライオンとなり、キラーの所へと走るとキラーは本能的に反応して上に乗る。

 

「掴まってろよ!」

 

そのままセイバーは空中を駆けていく。

 

 

上空からは龍は咆哮と共に再び突進してくる。だが、今彼が向かっている相手は龍の力を何倍も上回っている。だが、それでも龍は定められた行動に従って自ら死に直進していくしかないのだ。

 

 

「決めるぜ、キラー」

 

「言われずともわかっている【魔芥氷狼・ユートピア】!」

 

「【キングドライブ】!」

 

2人による最強の合わせ技は龍をすれ違い様に切り裂き、たった一撃で残っていたHP5割を1発で消しとばした。

 

龍は断末魔と共に爆散し、2人が地面に降り立つ頃には龍は原型も留めていなかった。

 

「ふぅ。どうだった?乗り心地は」

 

「悪くない」

 

「そういや、思ったんだが魔剣の力って制御出来るのか?俺はバリバリ流水のスキル使ったのに魔剣の効果で無効化されなかったし」

 

「いや、魔剣の力の制御は出来ん。だが、魔剣の効果を与える対象は変えられる。だから、今回はお前を対象から外しておいただけだ」

 

「へぇ。そうなんだ」

 

「それにしてもお前にはそんな奥の手があったとはな」

 

「正直、お前とやる時まで取っておきたかったけどこの場合はしょうがないからな」

 

セイバーもライオンモードを解除し、2人は【龍の逆鱗】を回収すると魔法陣に乗って外に出た。

 

「キラー、これからどうする?」

 

「俺はアイテムを2つ手にしたからな。最後は星が降る場所だ」

 

「ああー。アレね、普通のプレイヤーがやったらかなりキツイよ?メイプル張りの防御力を持つか、超スピードで駆け抜ける事をお勧めするぜ」

 

「そうか。だが、俺には俺のやり方がある。好きにやらせてもらうぞ……それと、その口ぶりだとお前まだ鬼を攻略して無いな?」

 

「……何でわかった?」

 

「何となくだ。で、そこを攻略するのなら高い攻撃力で一掃するのを奨励する。あの鬼は時間が経つほど攻撃力を上げてくるらしい」

 

「なるほどね、だから攻撃力が低めの最初の方に殲滅するのが良い。という訳か」

 

セイバーとキラーはお互いの持つ情報を交換し、それぞれが有益な情報を手にした。

 

「最後に……いや、これを話すのはやめておこう」

 

「ちょっ!?何でだよ!」

 

いきなりのキラーの黙秘はセイバーを驚かせた。

 

「……俺と1対1で5本勝負をし、先に3回勝てたら喋ってやる」

 

「しょうがねーな」

 

それからセイバーとキラーは闘技場にて一騎討ちをし、セイバーは辛うじて3勝する事ができた。

 

 

 

「やはり強いな……」

 

「約束通り、話してもらおうか」

 

「ああ。で、その情報なんだが、今俺達が集めている第四層の裏ボスとも呼べるべき主が住まう塔の上の方に漆黒の霧に包まれた空間があるらしい。なんでも、プレイヤーが行ったらいつの間にか街に戻されているそうだ。何か匂うと思わないか?」

 

「ふーん、それは面白そうな匂いがしますなぁ」

 

「つまりはそういう事だ。せいぜい、死なないように頑張るんだな」

 

「へーい」

 

セイバーはその情報を聞くと一先ずギルドホームに戻る事にした。因みに、メイプル達は後日龍のボスをメイプルの【機械神】のスキルで接近し、カスミとメイプルの火力でダメージを入れてから降りてきた所をマイとユイが瞬殺する事になるのだが、それがあるのはまだもう少し先の未来での事になる。

 

数日後、セイバーは【赤鬼の角】を取るためにダンジョンに来ていた。

 

「さーて、主への挑戦権。得るとしようか!激土、抜刀!」

 

セイバーは激土を抜くと目の前に巨大な赤鬼が現れた。鬼は早速セイバーへと手にした棍棒を振り回す。

 

「うおりゃ!」

 

セイバーは激土でこれを迎え撃ち、2人の武器がぶつかり合う。

 

だが、セイバーのパワーは圧倒的であり逆に鬼が数歩よろめいた。

 

「オラよ!【岩石砲】!」

 

セイバーは魔法陣から巨大な岩を発射すると鬼はこれをまともに受けて吹き飛ばされた。

 

「あれ?もしかしてもう終わり?」

 

次の瞬間、鬼は怒り狂ったように体からオーラを噴出させるとセイバーへと殴りかかった。

 

「これはもうトドメ刺そうか。【パワーウィップ】」

 

すると地面から巨大な蔓が出てくると鬼を雁字搦めにしてそのまま地面へと叩きつけた。さらにセイバーはそのまま激土を鬼の額へと振り下ろし、トドメを刺した。

 

「意外と楽だったな。もう少しはやると思ったけど」

 

それからセイバーは【赤鬼の角】を入手し、四層の主への挑戦権を得る事になった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第5回イベント

セイバーが龍の逆鱗を手にしてからまたさらに時間が経った。ただ、その間に条件こそ満たしているものの主とは戦っていなかった。理由としてはカスミが以前に主と戦った際にかなりの強さだったという事を聞いて、セイバーとしては勝てる見込みが出来てからやるつもりだったので暫くは様子見にする事にしていた。

 

そうこうしている内に12月の第1週、第5回イベントとしてフィールド探索型イベントが開催された。それにともなってフィールドは白い雪に覆われ、空からは静かに雪が降り始めた。

 

「12月の終わりまではこのままらしいよー」

 

「辺り一帯雪景色って感じだなぁ」

 

第四層のギルドホーム、その窓から外を眺めるサリーとセイバーがメイプルに言う。

 

「綺麗でいいよねー……歩きにくくなったりもしないし」

 

「だね。じゃあ私は適当にイベントモンスター倒してくるから」

 

「りょーかーい」

 

「逆にイベントモンスターの攻撃喰らって死ぬなよ〜」

 

 

サリーはセイバーに揶揄われたせいか窓から顔を離すと無言でセイバーに腹パンを喰らわせてギルドホームから出ていった。

サリーが出ていったところでメイプルも窓から離れる。セイバーは当然の如くサリーのいきなりの攻撃によってダウンしていた。

 

「今回のイベントは高ポイントのモンスターに出会えたら倒してみようかな」

 

「痛っててて……それで良いと思う。メイプル、こういう探索系はあまり気が乗らないでしょ?」

 

「ま、まぁね……」

 

 

今回のイベントでは討伐対象となるモンスターが四種類いる。

その四種類は出現確率と得られるポイントが違っており、最も出現しにくいモンスターは高いポイントの他にも、レアアイテムを低確率でドロップすると運営からお知らせが届いていた。

 

「出会えたらそれだけ倒そうかな、低ポイントモンスターは足が速くて追いかけるのが大変だったし……」

 

メイプルはぶつぶつと呟きつつ思考をまとめてギルドホームから出る。

あくまでも通行許可証のクエストを達成する過程で見つけたら倒すという程度にとどめておくことに決めていた。

 

「さてと、俺も出るかな」

 

セイバーもメイプルに続いて扉を開けると雪の降る町へと繰り出していった。

雪が降っているというだけで雰囲気がガラリと変わったように思えて歩くことも苦にならなかった。

 

セイバーは、現在メイプルが受けている【魂の残滓】の収集クエストを自分も受けて、それを進めるためにメイプル同様に雪降るフィールドを真っ直ぐに西へと向かった。

 

「さてと、俺はこのクエストは今日始めたばかりだけど、火属性の攻撃が使えるから攻略ペースはメイプルより早いかな」

 

セイバーはそう意気込んで目的のイベントモンスターを探しながらこちらもイベントモンスターとなる白い狼を次々と斬り捨てていった。

 

セイバーが探しているのは火の玉のモンスターである。

このモンスターの出現率は高いとは言えず、さらに少しすると姿を消してしまうのである。

とはいえ、セイバーの言う通りメイプルよりは効率よくモンスターの討伐ができるのでメイプルよりは速く攻略できる……と思っていたのだが……

 

 

「はぁ……はぁ……ふざけんなよ………何で2時間やって1体も出てこないんだぁあああ!!」

 

今日のセイバーの運は最悪だった。2時間イベントモンスターを狩り続けているのだが、お目当ての火の玉には全く出会えない。出会えなければ倒してアイテムを得られないのでセイバーの作業は全く進展していなかった。

 

イライラするセイバーの元にまた狼が現れる。

 

「またお前か!!いい加減にしろー!!」

 

セイバーは鬱憤を晴らすように狼をオーバーキルする。

 

「クソォ……てか、火の玉よりも更に出現率が低い雪だるまの方が出てるってどう言う事だよ!!」

 

セイバーは狼以外にもこのイベントで1番ポイントを得られる雪だるまのモンスターも倒していた。勿論、出現率もこちらの方が火の玉よりも低いのに雪だるまの方が多く出会っている。

 

「雪だるま出るのは良いけど全くレアアイテムドロップしないし……やる気が無くなる……」

 

セイバーは火の玉に出会わない事にイライラしていたのだが、雪だるまの方から低確率でドロップされるレアアイテムが全く出ない事にもストレスを溜めていた。

 

さらに30分が経過し、ようやくセイバーは火の玉と出会ってアイテムを取れるようになるが目標にはまだまだほど遠かった。

 

「はぁ……やっと数個か。これじゃあ今日はもう無理かな?」

 

セイバーは遂に今日の探索は諦める事にした。

 

 

 

 

 

だが、確率とは収束するものである。

セイバーが散々火の玉に会えなかったり、雪だるまからのドロップアイテムが得られなかったようにここまで不運が続けば何かしらの運は回ってくるものである。

 

セイバーはモンスターを倒す事に疲れて雪の上に座り込むとその瞬間、雪の中から何かのスイッチが押された音がした。

 

カチッ!

 

「へ?」

 

それと同時にセイバーの体は光に包まれてその場からいなくなった。

 

 

 

 

 

「な……なんじゃここー!!」

 

セイバーは気がつくと氷河の上にいた。さらに周りは一面の海であり、その海の上にいくつかの氷河が点在するフィールドだった。

 

「また聖剣入手系のイベントか?それとも、フィールドの状況的に……」

 

セイバーが言い終わらないうちに突如として海の上に水色の背鰭が突き出した。

そしてその光景から意味することはセイバーにとってよくわかっていた。

 

「このタイミングでサメが来るってことはコイツを倒せって感じかよ!」

 

すると水中から水色のボディ白い腹をした4メートル程の巨大なサメが飛び出してくると口を開けて遠くから氷の礫を飛ばしてきた。

 

「ちょっ!?マジかよ!」

 

セイバーはこれを何とか躱すもサメは水中を自由自在に泳いでおり、しかも、水面に出てくるのは攻撃の瞬間のみなので次はいつ出てくるかわからなかった。

 

「多分氷属性の攻撃をしてくるから多分サメそのものに有利なのは火属性だろうけど、水中じゃあ炎は使えないからなぁ……」

 

セイバーが考えている間にサメは再び水上に飛び上がると氷の礫を再び飛ばしてきた。

 

「【火炎砲】!」

 

セイバーはカウンター気味の火炎の弾を飛ばして氷の礫を壊しつつサメへと一撃入れるが、サメのHP自体は1割消えたものの継続ダメージが入る前に水中へと逃げられてしまい火が消えてしまった。

 

「だよね……やっぱり火を使っても大きなダメージが入る前に逃げられるかぁ……」

 

セイバーはサメの攻撃を躱しながら考えていると何かを思い付いたのかある設定をしてから剣を変えた。

 

「錫音、抜刀!」

 

サメはそんなのお構いなしに礫を放つがセイバーはその攻撃を軽やかにステップを踏みながら躱していく。

 

「スキル、【軽やかステップ】の効果、一定時間の間、相手の飛び道具攻撃が自分に見えている際に最小限のステップで相手の攻撃を躱す事ができる。そして……」

 

 

再びサメはセイバーに攻撃しようと水面から跳び上がった瞬間にセイバーはその方を振り向いた。

 

「【鍵盤演奏】!」

 

セイバーは目の前にエネルギー状で造られたピアノの鍵盤を演奏し始めた。すると演奏された音がエネルギーの楽譜となっていきサメの口を拘束、攻撃を中断させた。

 

「うおりゃあ!」

 

さらにセイバーは楽譜を引っ張るとサメは氷河に叩きつけられて水の上に完全に出た。

 

「喰らえ!!【音弾ランチャー】!」

 

音符の形をしたミサイルが足のスピーカーから放たれるとそれは一斉にサメへと直撃した。

 

サメはこれによりHPバーを1割減らされると楽譜を食いちぎり再び水の中へと戻っていった。

 

「あーらら、流石にそこまではやらせてくれないかぁ」

 

セイバーが水面を見ていると今度はサメは直接セイバーに噛みつこうと接近して氷河を破壊しつつ飛びかかってきた。

 

「やっべ!」

 

セイバーはそれをバックステップで躱すも氷河を破壊された影響で足場が少し減ってしまった。

 

「おいおい、足場を壊すのは反則だろうがよ!」

 

セイバーは足元から足場を壊しながら突然飛び出してくるサメを【気配察知】で躱しながら隙を伺った。

 

「これ、躱すには躱せるけど、足場はどんどん無くなるし……どーするかな……」

 

サメはセイバーの考えなどお構いなしに氷河を破壊しつつ口を開けて噛みつこうとしてきた。だが、セイバーはこの瞬間を逃さなかった。

 

「今だ!烈火、大抜刀!【紅蓮爆龍剣】!」

 

セイバーは錫音に変えたタイミングで烈火を大抜刀の枠に入れておき、不意打ちの体制を整えていた。そして、烈火からの炎はもう飛んでこないと踏んでいたサメは強靭な牙でセイバーを噛み砕こうと飛びかかるも、待ってましたとばかりにセイバーから放たれた紅蓮の龍はサメの口の中に突っ込んでいくとサメのHPを一撃で4割消し飛ばした。 

 

サメは1発でかなりダメージを負ったのか水中に潜ると暫く出てこなかった。

 

「流石に口の中に炎をぶち込まれたらそりゃあダメージ入るよな?」

 

セイバーの予想は合っており体の外側に炎のダメージを受けたのであれば水に入ってしまえば火は水で消されて比較的早くダメージは消える。ただ、口の中のダメージは水に入るのみではどうしようも無い。一旦水の中で口を開かねばならないのだ。そのせいで炎が消されるタイミングが普通よりワンテンポくらい遅れる。そんな訳でサメは普段より大きくダメージを受けていた。

 

「あと4割だろ?さっさと出てこいよ」

 

セイバーが挑発するとサメは背鰭を水上へと見せるとセイバーのいる氷河の周りを周回し始めた。

 

「おいおい、ビビったなんて言わせねーぞ。早く来いよ」

 

セイバーがそう言うとサメは背鰭に氷を纏わせていき水上に出る事なく突っ込んできた。

 

「なるほど、水上に出なければ炎攻撃されるリスクは下がる。中々良い考えだな。だけど……」

 

サメの背鰭は氷河を砕きながらセイバーへと突っ込んでいくがセイバーはそれを烈火をしまって錫音で受け止めた。

 

「甘い……甘すぎるぜ!【爆音波】!」

 

セイバーはゼロ距離での音による攻撃を放った。サメは聴覚に優れている上に水中では音の攻撃は伝わりやすい。サメは水上に出ては来ないが氷河を砕いているため、サメが通った後は完全に水が剥き出しとなっている。そこに音の衝撃波が水へと飛んでいくとサメはかなりのダメージを受けて今度はHPを1割飛ばされた。

 

サメはあまりのダメージの大きさに逃げ出すと今度はサメは体を黒く染めていった。そしてその変化はセイバーには見覚えがあった。

 

「これって……第2回イベントで出会った怪鳥と似てるなぁ。って事は……」

 

セイバーの予測通りサメのHPは残り1割に減ると再びセイバーへと突っ込んでいった。

 

「今回はメイプルいないし、まともに受けるのはヤバそうだな……だからといって逃げるのは何かシャクだし……よし、アレをやってみるか」

 

セイバーは流水を抜刀するとすかさず大抜刀の対象となる剣を変えてスキル名を言った。

 

「【ライオン変形】!」

 

セイバーは機械仕掛けのライオンとなるといつもは口に咥える流水を尻尾で掴むと新しく剣を抜く。

 

「激土、大抜刀!【キングドライブ】!」

 

セイバーは激土を口に咥えると水中へと入り、エネルギーを纏いつつ向かってくるサメを迎え撃つ。

 

「(これで決める!!【大断断斬】!)」

 

セイバーは突進のエネルギーごと激土のスキルのエネルギーに変換、普段の何倍もの威力となった激土をセイバーは水中で跳び上がりながら回転し、サメへと振り下ろした。

 

その剣はサメの突進とぶつかり合うが一瞬にして激土が打ち勝ちサメを真っ二つにした。サメはポリゴンとなって消え、セイバーはライオン変形を解除しつつ水上へと飛び出て氷河に着地した。

 

「ふう……。実戦で初めてやってみたけどやっぱこれが水中戦での最大火力だわ。流水以外じゃ水中ではあんま上手く動けないし、ライオン状態でも大抜刀できる事は前の特訓でわかってたから後は激土の火力が水中で殺されるかもと思ってたけど杞憂で済んでよかった」

 

セイバーはそう言うとサメがドロップしたアイテムを探した。

 

「さてと、戦利品は……あったあった!」

 

セイバーはサメがドロップした牙と鱗、背鰭をイベントリにしまうと近くに落ちていた箱を拾い上げた。それは水色の包装に白のリボンが巻かれた箱。セイバーはそれを見てからアイテム名を確認する。

 

「プレゼントボックス……今はまだ使えないが、クリスマスから何日間か使用可能なアイテムで、中には何かが入っていると。……あれ?でもこれ確か雪だるまが落とすはずじゃ……まぁ良いか」

 

セイバーはそれからダンジョンから転移して元のフィールドに戻ると元々自分がやっていた目的達成も兼ねて再びポイント稼ぎを始めるのであった。

 

 

 

同時刻、運営にて。

 

運営の1人、セイバーがサメを倒すのをモニターで見ている。

 

「あぁあああ!!」

 

その男の叫びに周りの者も集まってくる。

 

「今度はどうした!」

 

「まさかと思うが……」

 

「そのまさかだ!セイバーが白鮫を倒しやがった!」

 

「おいおい、よりによってアイツかよ〜!!」

 

そこに新しく運営に関わる部署に配属されてセイバーの恐ろしさを知らない社員が話しかけた。

 

「あの……そんなにヤバい事なんですか?隠しボスが一体倒されるなんて、これだけプレイヤーがいればいずれそうなるんじゃ……」

 

「バカ!これだから新入りは!セイバーのヤバさを知らないと大変な事になるぞ!」

 

「そうなんですか?」

 

「これで銀翼に続いて2体目……あと1体でアレの条件満たしちまうじゃねーか!」

 

それを聞いた運営陣、新入りを除いて溜息をつく。

 

「……誰だよ今回は他のプレイヤーにもチャレンジできるようにしたから絶対にセイバーは1番に討伐しないって言って実装した奴!!」

 

「うぅ……こうなったらもうアレに託すしかないよぉ……」

 

 

その日、運営陣は新入りを除いてかなり精神を抉られる事となった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとプレゼント

第5回イベントの期間が終わり、時は流れてクリスマスを少し過ぎたある日。つまりセイバーが手に入れたプレゼントボックスを開けられるようになった日である。

セイバーとメイプルとサリーは偶然同じタイミングでギルドホームに姿を見せた。

 

「あっ、サリー、セイバー久しぶり……でもないか」

 

「うん、まだ冬休みに入ってすぐだし別に久しぶりってほどでもないかな、この後どこか行く?」

 

「俺はちょっと行きたい所見つけたからもう少ししたら出かけるつもり」

 

 

「……待ちなさい?行きたい所って、まさかと思うけど……」

 

「ん?何の事だ?別に俺はどことは言ってねーぞ?」

 

「嫌な予感しかしないんだけど……」

 

「メイプルはどうする?」

 

「んー……私は行かないかな。今日はとりあえずプレゼント?うん、それを開けに来たんだよね」

 

そう言ってメイプルはインベントリから赤い箱を取り出した。

 

「メイプルも手に入れてたんだね。実は私も」

 

そう言ってサリーは黄色の箱を取り出した。メイプルの物とはまた別の包装がなされているがこれもまたプレゼントボックスとしてドロップしたものである。

 

「俺も実は持ってるんだよなぁ」

 

セイバーはそう言って水色のプレゼントボックスを出す。

サリーはプレゼントボックスを両手で持つと感慨深そうにじっと眺めた。

 

「いやー……大変だった。もう何体倒したか覚えてないからね……」

 

セイバーとしてはそう言って箱を撫で始めたサリーに自分は雪だるま以外から入手したとは言えなかった。しかも、隠しボスがドロップしたという事もあって黙秘を決め込んだ。

セイバーがメイプルを見ると同じような顔をしているのを見た。ただし、彼女はちゃんと雪だるまから入手したのだが……。

メイプルはサリーに流れで聞かれるよりも先に話を変えることにした。

 

「うん、じゃあ早速開けちゃおう!さてさて何が出るかなっ?」

 

リボンを解いて3人揃って蓋をぱかっと開けるとそこにはメイプルとサリーにはそれぞれ巻物が1つ入っていた。

スキルを取得出来るアイテムである。

 

「スキルか……さてと、中身はどうかな?」

 

2人は自分の巻物からスキルの情報をまずは確認した。

 

【氷柱】

消費MP3で破壊不能な氷の柱を1本生み出す。最大5本

1分経過で消滅

 

【凍てつく大地】

自分を中心として半径五メートル以内の地面に接触しているプレイヤーまたはモンスターを発動から3秒間移動不能にする

3分後再使用可能

 

前者がサリーの得た巻き物のスキル。

後者がメイプルのスキルである。

 

「サリー、こんなスキルだったよ」

 

「私のはこれ。何種類かあるみたいだね……【大海】も最近使ってないし、私はこっちの方が使うかな?んーMPも管理するかぁ」

 

サリーがぶつぶつと呟きながら今後のことを考え始める。

上手く使うことが出来れば少なくとも防御能力の向上は期待出来るだろうスキルだった。

 

「強そうなモンスターは凍らせちゃえばいいってことだね!こう、ぱぱっと!」

 

「まあそうだね。それでいいと思う」

 

サリーはそう言うといつまでもプレゼントを凝視するセイバーの方を見る

 

「セイバー、アンタはどんな巻き物だったの?」

 

サリーがそう言うとセイバーは震えながら2人を見た。

 

「そそそそんなの別に何だって良いんじゃない?ホラ、サリーはそのスキルの試運転するんだろ?早く出かけなよ……」

 

ここまで不自然な反応をしてしまえば余計に2人は気になった。……当然である。だが、セイバーはそれを言った後に気づいた。

 

「セイバー、見せなさい」

 

「え、嫌だ……」

 

「見せろ」

 

「……はい」

 

サリーに恐喝されてセイバーは中身を見せた。そこには氷漬けにされた1冊の本があった。本の表紙には白の丸い円が描かれて、円の周りの上、左、右に3つの三角形のパズルのピースを埋める場所があった。

 

「……セイバー?どうして私達とは違うプレゼントが入ってるのか説明しなさい」

 

「……え、そんな事言っても……」

 

「説明しろ」

 

「ひゃ、ひゃい!!」

 

セイバーは余りのサリーの怖い顔にビビって心当たりのある出来事……イベント中のサメとの戦闘について話した。

 

「ふうーん。そう言うことね。確かにそれから中身が違っても納得……するかぁ!!」

 

セイバーはサリーの手によって10分近くシバかれたあと解放された。

 

「……何で毎回こんな事に……」

 

「アンタが知らない間に変な事しでかすからでしょ?」

 

サリーはかなりご立腹の様子だった。プレゼントの中身に対して怒っているのではない。セイバーがまたやらかした事について怒っているのである。

 

「誠に申し訳ありませんでした……」

 

セイバーが謝るとメイプルがなんとか間に入って仲裁し、サリーはようやく怒りを収めた。するといきなりセイバーのインベントリに入っていた怪鳥とサメの素材が光り始めて飛び出して本を覆う氷を通り抜けると本の三角形のピースを入れる部分へと吸い込まれていった。そして、3つのピースの内、上の部分に青い背景にサメの絵が入り、右の部分に赤い背景に鳥の絵が入った。

 

「何だったの?今の……」

 

「今まで怪鳥の素材をとっておいたけど、まさかいきなり吸い込まれるとは……」

 

「あれ?あと1つ入る所があるけど、これなんだろ?」

 

「……多分、何かのボスモンスターを倒して素材を手に入れると入ると思う。この2つの絵と一緒でさ」

 

「なるほど……」

 

3人はそれから本に入った絵柄をじっと見てからメイプルが話を切り出した。

 

「プレゼントの中身も見れたし、もう今年はこれで終わりかな」

 

「「ん?そうなの?」」

 

そう言ってログアウトしようとしたメイプルに2人が問いかける。

 

「少しずつ課題終わらせないとだし、1月になったすぐも忙しいし……ちょっとの間やらないでいるかな。サリーもちゃんと課題やらないとだよ?」

 

「私はもう終わらせたからね、遊ぶよ?」

 

「俺も宿題なんて毎日少しずつやれば終わるし、暇な時間はゲームかな」

 

メイプルはサリーのやる気を出した時とそうでない時の差に少し呆れつつログアウトした。

 

 

それから2人は改めて今後の予定を考えていた。

 

「もうすぐまた新しい層も来そうだしおとなしくしてるか……最後の鳥居の奥のあいつは弱体化も見つかってないからまだ無理だし……機械の町辺り再探索でもしてみようかな?」

 

メイプルのいない間に追いついてやろうと思うサリーは珍しく具体的なビジョンを持たずに探索をしてみることにした。

 

「たまには私も何も考えずにやってみるかな。セイバーやメイプルみたいな進化をすることができるかもしれないしね!」

 

「よし、それじゃあ俺も行ってくるわ」

 

「ん、気をつけなよ。セイバー」

 

「おう」

 

セイバーがそう言ってサリーの横を通って行こうとすると運命の悪戯かそれとも偶々そこに落ちていたのかセイバーは足元にあった小さなネジを踏みつけて足を滑らせた。

 

「……へ?」

 

「え!?ちょ!?」

 

そのままセイバーはサリーを押し倒すとその顔をサリーのある場所に埋めてしまった。

 

セイバーがその感触に驚いてすぐ起きるも時すでに遅し。サリーは顔を真っ赤に染めてキレていた。

 

「さ、サリー……さん?」

 

「……死ね!!このドスケベが!!」

 

サリーは目にも止まらぬ速さでセイバーを強制的に訓練場へと引きずると剣を叩き落とし、装備による強化を解除させた。

 

「サリーさん……マジですいませんでした……」

 

「誰が許すかこの変態が!!一度ならず二度までも!!覚悟しなさいよ!!」

 

「お願いしますマジでこれは不可抗力です!!だから少しは手加減を……」

 

「誰がするかこのクソ野郎が!!」

 

「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」

 

その後、約1時間に渡ってセイバーの悲鳴が訓練場に響き渡ったのだが、セイバーはその間誰にも助けてもらえず、1時間後にはボロボロになったセイバーとまだ怒りを収めないサリーが出てきた。

 

「サリーさん本当に誠に申し訳ありませんでした……」

 

 

「ふん!もうセイバーとは口きかないから」

 

そう言ってサリーは出て行った。その日、サリーは三層の街で八つ当たりとばかりにモンスター相手に物凄い形相での蹂躙劇を行った。

そして、今回は2回目だからかサリーはセイバーの事を2週間は許さなかったとか。

 

 

それはともかく、セイバーはサリーにボロボロにされた後、予定通り出かけていた。

 

「うぅ……完全にやらかした。これ、絶対サリー許さないだろうなぁ………」

 

セイバーは現実から逃げるように今日行く予定だった場所に来ていた。セイバーが四層の玖の門をくぐって真っ直ぐ行くと四層最強の主がいる塔があるのだが、目的の場所はその塔の上にかかっている薄暗い霧であった。何故セイバーがここを今日の移動先にしたのか?それは以前にキラーに言われたからである。

以前からこの霧は掲示板でも話題になってはいたのだが、その後何人もの人間が中に入ろうとしては何も出来ないままに外に弾き出されたらしい。

セイバーは自らの勘とこの状況から考えて、この層の聖剣はここにあると踏み、やって来たのだ。

 

 

「さてとブレイブ、【覚醒】、【巨大化】」

 

セイバーはブレイブを呼んで大きくするとその上に乗り雲の中へと入っていった。

 

霧の中は紫の空気が漂い、気味悪さを出していた。

セイバーがブレイブに乗ったままある程度雲の中を進んでいると突然ブレイブが強制的に指輪に戻されて、自身も転移の光に包まれた。

 

「……へ?」

 

転移した先は障害物も何も無い広い空間だった。だが、空気は重く、薄らとドームを形成するような薄い紫のバリアが張られ、その外は真っ暗の闇が覆い尽くしていた。

 

「ここは……」

 

するとセイバーの目の前には本が落ちておりセイバーはそれを拾って開いた。そこには紫の龍が描かれており、その龍がたった1体で世界を暗黒の暗闇に染めている様子が描いてあった。

 

「この光景……どこかで見たような……」

 

セイバーが考えているといきなりインベントリにしまってあった紫の本と巻き物が飛び出し、2冊の本と巻き物が共鳴し合うとそれらから暗黒の煙が出てきて辺りを覆い尽くした。

 

 

「煙が邪魔で前が見えない……ッ!?」

 

セイバーは何かの気配を察知した。その力からは邪悪の闇の力がビリビリと感じられ、セイバーは嫌でも集中せざるを得なくなった。

 

煙が晴れると目の前にいたのはブレイブドラゴンによく似た姿をしているが、色が紫であり、頭には剣の刃の部分とも呼べるような形をした金色のツノがあって、目の部分には銀色の仮面のようなものが付きその目を見ることができなかった。

 

『……この辺りの人間は私が滅したと思ったが……まだいたとはな』

 

「お前がここのボスか?それとも、はるか昔にこの街を襲った暗闇の龍か?」

 

『どちらも正しい。だが、勘違いするな。俺は村を滅したと言うが好きで滅した訳では無い』

 

「何?」

 

『私の仲間が守護していた土地を妖怪などと言う外道な輩に侵略されたのが腹正しくて潰しただけだ』

 

「よく言うぜ。だったら滅ぼすのは妖怪だけで良いはずだ。何故人間を滅した!」

 

『ふん。私にとってあの村の者は妖怪に染まったようなものだった。私の仲間に守護してもらった恩を忘れた村など滅びて当然なのだ。……奴が止めなければ私は妖怪を全て滅せたというのに、それが今のこのザマだ。なんだあの街は?妖怪に支配されたようではないか』

 

「……だからって滅ぼすのは違うだろ?アイツら妖怪だって直接人間に害を加えた訳では無い。だから……」

 

『どうやらお前は真実を知らぬらしい。奴が村を後にした本当の理由を、そして……これからお前自身に降りかかる未来を!』

 

「何……俺に降りかかる未来?どう言う事だ!!」

 

 

『……悪いが、これで話は終わりだ。ここから先を知りたければ私を倒すが良い……私の剣を託すに相応しいか試してやる』

 

「……わかった。なら、俺にボコボコにされても文句言うなよ?黄雷、抜刀!」

 

セイバーは黄雷を抜刀すると暗闇の龍を倒すために構えた。

 

『私の名はジャアクドラゴン。これは挨拶代わりだ。受けるがいい!!』

 

ジャアクドラゴンは先制攻撃として口から邪悪なブレスを放った。

 

「はあっ!」

 

セイバーはこれを雷を纏わせた黄雷で両断する。それと同時にセイバーはジャアクドラゴンとの激闘を開始する事になった。

 

「お前を倒して、真実を暴く!【魔神召喚】!ケルベロス招来!」

 

セイバーの指示で魔神から呼び出されたケルベロスはジャアクドラゴンへと噛み付き電撃を流す……が

 

『この程度か?』

 

ジャアクドラゴンは身体から闇のオーラを出すとケルベロスを一瞬にして無効化した。

 

「だったら、【雷鳴一閃】!」

 

セイバーは速度を上げてジャアクドラゴンへと一太刀浴びせる。それでも、ジャアクドラゴンのHPは0.5割しか減らなかった。

 

「硬っ!!」

 

『拍子抜けだな。それでもブレイブドラゴンに勝った男か!!』

 

「何!?ブレイブドラゴンを知ってるのか?」

 

『知ってるも何もアイツは俺とは瓜二つの姿をした龍。俺が影なら奴は光。対をなす龍なのだ』

 

「……なるほど、それでお前達は姿が似てるのか」

 

『ふん。お喋りが過ぎたな。再開するぞ』

 

ジャアクドラゴンはそれと同時に黒いエネルギー弾を連射してくるとセイバーへと直撃させた。

 

「ぐっ……」

 

セイバーは黄雷で受け止めて辛うじて凌いだがさらにドラゴンはたたみかけるようにブレスを放ってくる。

 

「こうなったら、範囲攻撃の合わせ技で仕留める!【魔神召喚】、針飛ばし!【稲妻放電波】!」

 

セイバーはブレスを相殺するとそのまま一気に決めにかかった。

 

「【サンダーブランチ】、魔神攻撃!」

 

ジャアクドラゴンの周りに生えてきた電気の鞭はジャアクドラゴンを縛りつけるとそのまま魔神のパンチがドラゴンの顔面に炸裂、ドラゴンはその威力に思わず怯んだ。

 

「良し、こいつで決める錫音、抜刀!」

 

セイバーは錫音にチェンジすると走り込みジャアクドラゴンの前で跳び上がった。

 

「【スナックチョッパー】!」

 

そのまま音のエネルギーをチャージした斬撃を龍へと振り下ろした。

 

『小癪な!』

 

ジャアクドラゴンは目から衝撃波を放つとセイバーの斬撃を簡単に受け止めてしまいさらに雷の鞭を引きちぎると闇のオーラを纏わせた尻尾で薙ぎ払い、セイバーを叩き落とした。

 

「痛ってぇ……」

 

するとセイバーの持つ錫音に鎖のエフェクトが出たかと思うと錫音を装備する事によって得られるお菓子の装備が突然元の聖騎士の装備になってしまった。

 

「な………何でいきなり聖剣の力が?」

 

『お前にはその力は過ぎている。だから封印させてもらった』

 

「マジかよ……聖剣封印とはやってくれるな!!」

 

セイバーは言葉とは裏腹にこの効果に戦慄を覚えた。前に聖剣を無効化させられた事はあったのだが、聖剣そのものを封印される事は初めてのため、かなり動揺してしまっていたのだ。だが、迷っている暇は無い。セイバーは次の手を考えながら再びジャアクドラゴンへと向かっていくのであった。




次回はジャアクドラゴンとの決戦です。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと暗黒の龍

セイバーとジャアクドラゴンとの戦いが始まった。戦いは互角で進むかに見えたが、ジャアクドラゴンは聖剣を封印する攻撃を放ち、セイバーの戦力を削ぐ手に出てきた。これに対するセイバーの次の手は……

 

「いくら聖剣を封印できると言っても、見えない速度ならどうだ!翠風、抜刀!」

 

セイバーは二刀流となりスピードをかなり上げるとジャアクドラゴンの周りを走り、撹乱した。

 

『その力も貴様には過ぎている。封印させてもらおうか』

 

ジャアクドラゴンは闇のエネルギー弾を発射すると走っているセイバーへと直撃させた。

 

『ふん。所詮、その程度か?わかっているぞ、上だろう?』

 

ジャアクドラゴンはセイバーの位置を分かりきっていた。地上を走っているのはただの陽動だと。そして、次にセイバーがどう動くかも予想しており、その予想に違わずセイバーは上にいて翠風を振り下ろそうとしていた。

 

『ふん!』

 

ジャアクドラゴンは先程と同じように闇のオーラを纏わせた尻尾でセイバーを吹っ飛ばした。

 

「ぐあああ!!」

 

『これで2本目……』

 

だが、その姿はいきなり消えた。

 

『!!』

 

「甘いぜ!【竜巻】!」

 

セイバーは竜巻を発射するとジャアクドラゴンの視界を奪った。

 

『小僧……調子に乗るなよ!』

 

ジャアクドラゴンは竜巻を弾くと既にそこにはセイバーが4人おり、それぞれがジャアクドラゴンを4方向から取り囲んでいた。

 

「【疾風剣舞】、【手裏剣刃】!」

 

セイバーは翠風を合体させると手裏剣の形にし、それをジャアクドラゴンへと投げつけると手裏剣はそれぞれが5個に影分身し、20の手裏剣がジャアクドラゴンを切り刻んだ。そして最後に4人のセイバーがそれぞれ翠風の本体を手にすると連続で斬りつけた。

 

ジャアクドラゴンのHPはこの攻撃で1割減っており、そこそこダメージは入っていた。だが、ジャアクドラゴンの対応力はこの程度では終わってなかった。

 

 

「【烈神速】、【トルネードスラッシュ】!」

 

剣を1本に戻す事でセイバーは風の力を一点に収束、さらには烈神速による超高速移動でジャアクドラゴンの視界から完全に外れた。

 

「はあっ!」

 

セイバーはジャアクドラゴンの真横に回り込むと横からとびかかり首元を的確に斬りつけた。

 

最大限に高められた風の一撃をジャアクドラゴンは受けてHPをさらに1割減らした……だが……。

 

 

「よし、これで……え?」

 

突如としてセイバーの忍者の装備が解除されたのだ。それが意味する事はただ1つ。

 

『言っただろう?お前の行動は読めている。いくら速くとも相手の裏をかけたと思えば僅かに心に隙が生まれる。私は攻撃を受ける直前にその部分にだけ封印のエネルギーを一点収束させた。これにより先程のように尻尾へエネルギーを集めずとも封印が使えたと言う訳だ』

 

「ぐ……だったら、激土、抜刀!」

 

 

セイバーは激土を抜くとさらに遠距離からの攻撃をしてきたジャアクドラゴンの攻撃を正面から受け止めた。

 

『小僧が、その力なら私の攻撃が効かぬと思ったのか?』

 

「さぁな?確かにお前が貫通攻撃を使えばこの姿でもダメージを負う。だがな、それでも俺はお前を倒すために考えて戦ってるんだよ!」

 

セイバーは話している間に激土にエネルギーをチャージしていき、激土は超巨大な大剣となった。

 

『ふん。私と話す事で大技発動までの時間を稼ぐか。しかし、その程度の力では私は倒せんぞ』

 

「どうかな?やってみなきゃわかんないぞ!」

 

そしてセイバーは激土へエネルギーのチャージを完了し、巨大になった激土を振り上げた。

 

「喰らえ。【大断断斬】!」

 

セイバーが剣を振り下ろすとエネルギー斬がドラゴンを両断した……かに見えたが、ドラゴンはダメージをたった3割のみで抑えてしまっていた。

 

「な!?激土のアレを受けてたった3割のダメージ……防御力で受け切ったのか?」

 

『ふん、それは違う。私はあらゆる闇を司る。お前の攻撃を闇の壁で受け止めてその力を削がせ、更には闇の壁に当たった瞬間に5秒間のみかけることが出来る相手への攻撃力半減のデバフを使い威力をさらに抑えた。それだけの事だ』

 

「チッ……まさか、あの瞬間にあれだけのことをするとは…どうりで凌げる訳だぜ」

 

『お前の方こそ私の体力をよくぞ半分にまで減らした。褒めてやる。だがここからは私もさらなる力を見せてやろう』

 

ジャアクドラゴンが目を光らせると後ろに巨大な本が現れて開いた。するとジャアクドラゴンよりも小型の金色の龍が4匹飛び出してきた。それと同時にジャアクドラゴンの姿も変わっていき身体は先程よりも一回り大きくなり目の部分の仮面が外れ、赤い目が剥き出しとなり、さらには背中の棘のようなものがより一層鋭くなった。

 

『これが私の真の姿……。あらゆる闇を支配する龍だ』

 

「その姿……本で見た姿と同じ……なるほど、今までは力を隠して戦っていたのか」

 

『その通り、そしてお前はこの時点で私に勝つ事は不可能となった』

 

その瞬間、ジャアクドラゴンの周りに出てきた4匹の金の龍がセイバーへと突っ込んできた。

 

「くっ……」

 

セイバーはこの4匹を激土で受け止める。だが、セイバーはこの瞬間、自身がやってはいけない対応をしてしまったと悟った。

 

「ヤバい……これだと……後ろが見えない!!」

 

金の龍の圧力は4匹分でようやく激土の力と拮抗できる。だが、4匹に気を取られるあまりセイバーは後ろを完全にガラ空きにしてしまったのだ。

 

『詰めが甘いな。ぬん!』

 

セイバーはジャアクドラゴンの尻尾による封印の攻撃をまともに受けてしまい、さらに封印によって鎧の力が弱まると4匹の龍による追撃で自身のHPが半分以下にまで減らされてしまった。

 

「ぐああ!!」

 

倒れるセイバーに手を緩めないということを示すように金の龍が迫る。

 

「流水、抜刀!」

 

セイバーは迫り来る金の龍を弾くとそのまま【アクアリング】でHPを回復させていく。

 

「これでもう3本目……早めに決着つけないと聖剣全部封印されるかも……」

 

セイバーは何度も攻撃をしかけてくる5匹の龍を上手くいなしながら考えるが良い考えは浮かんで来ず、その間にもジャアクドラゴン達は攻撃の手を緩めなかった。

 

「ヤバいな……4匹ばかりに気を取られると負ける…だったら、先にコイツらを始末する。【キングキャノン】!」

 

セイバーは両肩の大砲を撃ちまくり金の龍を攻撃するが、龍はそれをヒラリヒラリと躱していき、セイバーは大砲を撃ち続けるがその大砲が止まってしまった。

 

「大砲が撃てない?まさか……MP切れ……!」

 

ここまでの戦いでセイバーは高威力のスキルを乱発しており、その影響で残っていたMPが切れてしまった。

 

「く……せめてアイツらの動きさえ止められれば、ポーションを飲めるんだけど……」

 

『苦戦しているようだな、小僧。やはりその程度では私の力をやる訳にはいかない。死ぬ前にさっさと帰るがよかろう』

 

ジャアクドラゴンはそういうと4匹の金の龍とと共に闇の竜巻を起こしてそれをセイバーへと叩き込んだ。

 

これにセイバーは何とかダメージを抑え込むも最早打つ手は無かった。

 

「くそ……このままじゃ……」

 

『その剣も使えないようにしてやる。封印の際は激しい痛みをともわないだけ感謝するんだな』

 

ジャアクドラゴンは再び尻尾に封印のエネルギーを溜め始めた。今回は竜巻ごと剣を斬るつもりである。

 

『はあっ!』

 

ジャアクドラゴンの攻撃はセイバーへと迫っていく。だが、これで諦める気はセイバーには無かった。

 

 

「終わって……たまるか!竜巻には竜巻だ!【アクアトルネード】!」

 

セイバーは自身を中心に水の竜巻を起こすとジャアクドラゴンの竜巻を相殺し、さらに迫り来る尻尾の斬撃を紙一重で躱して攻撃によって隙が出来たドラゴンへと突っ込む。

 

「【グランドレオブレイク】!はああっ!」

 

セイバーは青いライオンのエネルギーを纏いながら突進。強烈な突きがジャアクドラゴンへと炸裂した。

 

『ぬぐうっ……』

 

これによりとうとうジャアクドラゴンのHPを3割にまで減らし、これによって出来た隙を突いてポーションでMPを回復させた。

 

『HP残り3割か……次はこれでどうだ!』

 

ジャアクドラゴンは口からブレスを放つとそのブレスは周りの光を奪っていき、ドームの中も外同様に真っ暗の闇に染まった。

 

『これでは私達の姿は見えまい。今度こそ終わらせてやる』

 

「……お生憎さまだけど、そういう攻撃は見たことがあるからな。対処は出来るんだよ。ブレイブ、【覚醒】、【火炎竜巻】!」

 

セイバーはブレイブを呼び出すと灼熱の竜巻が周りを照らしつつセイバーへと突っ込んでくる4匹の金の龍を弾き飛ばした。

 

「よし、【ハイドロスクリュー】!」

 

セイバーはそのスキルで一気に薙ぎ払い金の龍を全て倒し切った。それと同時に闇も消えて残されたのはジャアクドラゴンのみだった。

 

『ほう。我が僕を退けるとはやりおるな……が、すでに貴様は闇の呪縛に囚われている』

 

「何!?」

 

するとセイバーは体を動かそうとするが何かに縛られたように動けなくなっていた。

 

「これは……金縛りなのか……?何にせよ体が動かねぇ……」

 

『アイツらはタダでは死なないタチだからな!』

 

セイバーは動かない間にジャアクドラゴンの尻尾の攻撃を受けてしまい流水も封印されてしまった。

 

「くぅ……これで、4本目……」

 

『後が無くなってきたなぁ。小僧、早くブレイブドラゴンの剣を出すが良い』

 

セイバーとしては黄雷はもう通用しない事は分かり切ってる。セイバーは最後の1本の烈火を使うしかなかった。

 

「く……烈火、抜刀!」

 

セイバーはいよいよ烈火を使いジャアクドラゴンとの決着をつけるべく構えた。

 

『最早剣を封印する必要も無い。はあっ!』

 

ジャアクドラゴンは再び金の龍を呼び出すと5匹の龍はセイバーへとエネルギー弾の総攻撃を放ってきた。しかも、その内の金の4匹は水、風、土、音の属性攻撃を放っており、セイバーの封印された剣の能力を使っていた。

 

「封印ついでに属性を奪ったのか……。やるね!」

 

『お前に勝ち目は無い。諦めろ、小僧!!』

 

「さっきから小僧小僧うるせぇよ!!今からお前はその小僧に負けるんだぜ!【爆炎紅蓮斬】!」

 

セイバーは爆炎の斬撃で相手の攻撃を全て抑え込み、そのまま金の龍は相手にせずにジャアクドラゴンへと直接斬りかかった。

 

「はあっ!」

 

『無駄だ!』

 

ジャアクドラゴンはセイバーへと漆黒のオーラを放ち、彼を包み込もうとするがそれはセイバーから発せられた光によって防がれた。

 

「【精霊の光】、ブレイブ、【赤雲展開】!」

 

セイバーは攻撃を無効化するスキルで特攻し、更にはブレイブに赤い雲を呼ばせると自らはそれに乗って猛スピードで相手を撹乱、ジャアクドラゴンの懐に潜り込んだ。

 

「【神火龍破斬】!」

 

セイバーはジャアクドラゴンをすれ違い様に斬り裂き、一気にHPを残り1割にまで減らした。

 

『おのれ……小僧。いつまでも調子に乗るなよ!!私は漆黒を操るブレイブドラゴンに並ぶ最強の龍だ!!ブレイブドラゴンの力を借りねば私と張り合うことすら出来ない奴に負けるか!!』

 

セイバーは赤い雲から飛び降りるとブレイブに騎乗し、ジャアクドラゴンへとトドメを刺すべく突っ込んでいった。

 

そこにその歩みを邪魔しようと金の龍が立ちはだかる。

 

「邪魔だ……どけぇ!!【爆炎激突】!」

 

セイバーは金の龍を1体ずつ激突で破壊、粉砕していく。ジャアクドラゴンはセイバーに巨大な紫のレーザー砲を放つがセイバーはHP1を残して耐えていた。

 

『まだ粘るか!!お前では私には勝てないと言っただろうが!!もう結末は定まっている!!』

 

「だとしても!!この戦いの結末は……俺が決める!!【龍神鉄鋼弾】!」

 

セイバーは【不屈の竜騎士】の効果で上がった能力を持ってブレイブの炎に包まれて突撃、ジャアクドラゴンは紫のエネルギーを纏わせて突っ込んでくるが、僅かな差でセイバーがジャアクドラゴンを押し切るとジャアクドラゴンは体制を崩した。

 

さらにセイバーはここに来て最後の切り札を切る。

 

「これで決める。黄雷、【大抜刀】!」

 

セイバーは先程の翠風の超スピードでジャアクドラゴンを撹乱した際に設定しておいた黄雷を左手に持つ。そしてこの瞬間、セイバーは新しいスキルを取得した。その名も……

 

「【豪火大革命】!はあああああああああああ!!」

 

ジャアクドラゴンを相手にする際、烈火の装備の状態でもう1本を抜くと取得できるスキル。その効果は火炎ともう1本の剣による2つの属性の合わせ斬り……今回は黄雷のため、紅蓮の炎と電光の雷によるクロス斬りがジャアクドラゴンの最後のHPを斬り裂いた。

 

『ぐあああああああああ!!!』

 

ジャアクドラゴンは地へと堕ちるとぐったりとし、セイバーが近くに降り立ち、ジャアクドラゴンへと剣を向けた。

 

『……見事だ……小僧……いや、強き剣士よ』

 

「ったく、お前も強かった。今回は俺が勝ったけど、次やったら勝てるかはわかんないな」

 

『ふん。次やったら……か。……すまないがそれは叶いそうにない』

 

「……」

 

『私は長く生きすぎた。その場の怒りに任せて奴が追い出された街を襲い人間を壊滅させ、妖怪を全滅寸前まで追い込んだ。それをアイツに止められてからこの街の変わりようをずっと見てきた。……皮肉なものだな。あの日私が守ろうとした方が私の手によって滅び、私が憎む者どもが活き活きとしている……全て私がした事とはいえ……複雑だな』

 

「……あなたのやり方はちょっと酷いけど、仲間の仇を討とうとした。多分根は優しい龍だと俺は信じていますよ」

 

『そうか……最後に、私からの頼みだ。……アイツを救ってやってくれ……。あの龍は街を追われたあの日。人間という友達を失ってから、仲間の龍も人間に滅ぼされてずっと1人で生きてきた。奴と同年代に生まれたブレイブドラゴンも私もいなくなればアイツを救えるのはもうお前だけだ。あの悲しみを少しでも和らげさせてくれ……頼んだぞ……』

 

そう言い、ジャアクドラゴンは体から1本の剣を飛び出させるとそれは近くに突き刺さった。するとジャアクドラゴンの体は塵となっていき、最後には骨もボロボロと崩れて消えた。

 

「……あの龍、まさか聖剣を体に宿していたからここまでずっと生きれたのか?だとすると……あの本にあった骨の龍は……まさかな……」

 

セイバーはそう考えながら答えを無意識に濁した。そして、地面に刺さった剣を抜くといきなり体が闇のオーラに包まれてセイバーの頭の中にある光景が浮かんだ。

 

『ヴァアアアアアアアアアアア!!!』

 

そこにいたのは肉や皮が消えて骨が剥き出しとなった水色の龍であり、それはセイバーに向かってくると骨ばかりとなった腕を伸ばしてセイバーの体に入り込み、セイバーの体を乗っ取ると見境を無くして暴れ回る様子だった。

 

「はっ!……はぁ………はぁ……何だったんだ?今のは……」

 

セイバーは剣を見るとその剣は闇黒剣月闇(あんこくけんくらやみ)という名前であり、セイバーは烈火を装備したままこれを見ていると烈火の鍔の部分が龍から炎のような形に変わり、さらに月闇から発せられた闇がブレイブの中へと入り込んでいった。

 

「ブレイブ大丈夫か!?」

 

セイバーがブレイブの心配をするとブレイブは割と大丈夫そうでありいつも通りセイバーに戯れてきた。

 

セイバーはブレイブに少し違和感を感じたがすぐにそれは振り払われた。だが、セイバーのこの勘は正しく、ブレイブにはあるスキルが追加されており、それがセイバーの力をさらに上げることに繋がるのだが……まだ彼等は知らない事である。

 

「取り敢えず、ここから出るか」

 

セイバーはブレイブを戻すと外に出た。すると塔にかかった黒い霧は消えていた。そしてそれはボスを失ったダンジョンの消滅を意味していた。

 

「さて、これで剣は7本。目的の本数まであと5本か。次にここに来る時は主との戦闘だ。安らかに眠れよ。ジャアクドラゴン」

 

セイバーは塔に背を向けると去っていった。月闇を手にした事で再びとんでも無い進化をしていると気づかずに……。




月闇の力は次回以降明らかになります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと主との戦い

セイバーが闇黒剣を手にして暫く経った。3人の冬休みも終わり、1月も半ばを過ぎていた。その間にセイバーは何とかサリーへのスケベを許してもらう事ができ、そうこうしている間に2人が強く待ち望んでいた第五層が実装された。

実装当日、いち早くギルドホームへ来た2人が待つこと少し、同じ考えを持つギルドメンバーが揃ってくる。

 

「おお、全員揃った!」

 

「やっぱ皆さんも考える事は一緒みたいだな」

 

まさか全員が集まるとは思わなかった2人は驚きと喜びの混じった声を上げた。

 

「ん?いや、メイプルとヒビキがいないぞ?」

 

「ああ……メイプルは……」

 

クロムの問いにそう言えばそうだったと2人が訳を口にする。

 

「インフルエンザにかかったので……今年も。いつものことです」

 

「ヒビキは現実世界で用事があるらしいので無理だそうです」

 

「そ、そうなのか。どうする?また別の日に全員で行くか?」

 

そのクロムの提案に対して出た意見をまとめた結果出た結論は、メイプルがいれば都合の合うメンバーが数人いるだけで倒せるだろうから、ここは今いるメンバーで先に進もうというものである。だが、ここでセイバーも異論を唱えた。

 

「あー、俺は今回はパスかな」

 

「どうしてだ?」

 

「はい。俺はここを出る前にあの主ってのをやらないと気が済みません。それに、この剣を託してくれた龍も主とやるのを望んでいます。だから…」

 

「アンタねぇ……はぁ……ま、こうなったセイバーを止めるのは無理ね。仕方ないから良いわよ」

 

そういう訳でセイバーも別行動する事にし、残りのメンバーは四層のボスの元へと行った。そしてセイバーも主のいる塔へと歩いていき、ボス部屋の前にまで来た。

 

「さて、この剣の力でどこまでやれるか、試すとしよう。月闇、抜刀!」

 

『闇黒剣月闇』

【STR+80】【破壊不可】

【月闇居合】【暗黒闇龍剣】

【ムーンブレイク】【暗黒クロス斬】

 

『闇龍のヘッドギア』

【MP+125】【VIT+50】

【破壊不可】

【消費MPカット(闇)】【封印無効】

【暗視】

 

『闇龍の鎧』

【VIT+75】【STR+45】

【HP+125】【破壊不可】

【呪縛の鎖】【邪悪砲】

【ダークスピア】【闇の障壁】【闇渡り】

 

『闇龍の靴』

【AGI+100】【INT+100】

【破壊不可】

【影踏み】【漆黒の霧】【暗黒龍破撃】

 

セイバーは月闇を装備するとその姿を紫のアンダースーツに体の所々に黒いアーマーが装着されたような感じとなり、左肩にはジャアクドラゴンの顔を模したアーマーが付いている。また、胸には銀の装甲が付与されており頭は紫のドラゴンの顔のようなヘッドギアとなる。

 

続けてセイバーはボスの部屋に続くと思われる襖を開けた。

 

中は畳が敷かれているくらいで何の変哲もない部屋だった。

その1番奥に真っ白い袴と着物を着た白髪で額に2本の角を生やした妖が1人座っていた。

 

特徴としては鬼に最も近いが、この前激土の力を持って瞬殺した4メートル近い筋骨隆々の鬼とはまた違った見た目である。

セイバーはこの建物の入口で見た情報から恐らく彼が主だろうと思い、次の動きに注意を払う。

 

『おぉ……?まさか人間が来るとはな』

 

鬼はそう言うと立ち上がりセイバーの方へ歩いてくる。

2メートル程だろう身長が威圧感を強めている。

 

「一応、持ってるか。ならついて来い」

 

鬼はセイバーに背を向けてもといた場所へと戻っていき、地面に魔法陣を描くと消えていった。

 

「さぁ、行こうか」

 

気を引き締めて魔法陣に乗ったセイバーが辿り着いたのはこの間の龍退治を思い出させるような荒野だった。

鬼も少し離れた場所に立っている。

周りを確認しても木の1本、大岩1つ見当たらない。

 

『あっさり引き継がせてやろうかと思っていたが……人間、気が変わった。その力は私の宿敵の力だな?その力で俺と戦え。相手が変わったが、あの時の決着をここでつけてやろう』

 

この発言にセイバーは驚くこともなく月闇を構える。

 

『さあ、やろうか人間、いや……ジャアクドラゴンの力を継ぎし者よ』

 

その声がセイバーの耳に届いた直後、鬼の右手から白い光が弾ける。

鬼の手に握られていたのはセイバーの持つ紫の持ち手や刀身に刃の部分が金となっている剣、月闇とは対照的に白い刃の大剣だった。

 

 

 

セイバーはジャアクドラゴンと並ぶ力を持つとされている四層の【最強】と対峙することとなったのである。

 

「お前を倒して、悔いなく五層に行かせてもらおうか!」

 

セイバーは元気よく鬼へと言い放つと突っ込んでいく。

 

「挨拶代わりだ。【月闇居合】!」

 

セイバーは一瞬だけ月闇を腰についている刀を納刀する場所に刺してから再び抜いて闇のエネルギーを高め、それを紫の斬撃として放った。

 

しかし、鬼は簡単にこの斬撃を大剣で叩き落とす。セイバーはその間に接近し、鬼と刃を交えるが、そのパワーと体格差に吹っ飛ばされた。

 

「くっ……流石にそう簡単にはやらせないよね?それじゃあ、ブレイブ【覚醒】、【火炎放射】!」

 

セイバーはブレイブを呼び出す事により鬼の死角から攻撃でダメージを入れようとするがしかし鬼はそれを受けずに回避する。

 

「頭良いなぁ。それ受け止めたら隙が出来ると思ったけど。なら、次はこれかな。【邪悪砲】!」

 

セイバーの手から出現した魔法陣より漆黒のエネルギー砲が放たれ、ランダムで相手にデバフを与える攻撃が鬼へと迫る。

鬼はこれに対して大剣で砲弾を真っ二つに叩き切り防いだ。

 

セイバーはこのタイミングを見て突っ込んだ。攻撃を防いだ瞬間こそ攻撃を決めるチャンスだと思ったのである。

ただ、それは同時に無防備な姿を鬼に晒すという事だ。

 

『吹き飛べ人間!』

 

鬼の超反応により鬼は振り下ろした大剣をそのまま突き上げ、それは飛び込んできたセイバーを穿とうとしてきた。

 

「良し、ここだ。【闇渡り】!」

 

その瞬間、セイバーの目の前に空間の切れ目が出現してその中にセイバーは消えた。当然、鬼の攻撃を透かす事になる。

 

『!!』

 

「貰い!【暗黒クロス斬】!」

 

セイバーは【闇渡り】の効果で10秒間だけ別空間に潜み、繋がった空間の中であれば好きな場所から出る事が出来るため、鬼の裏を取りそのまま紫の2つの斬撃を放った。斬撃は空中でX字に合体すると鬼へと炸裂し、HPを1割程減らした。

 

『むう……流石はジャアクドラゴンの力……一筋縄ではいかんな』

 

「こっちも油断したらやられそうで怖いですよ!」

 

それからセイバーは鬼の隙を見つつ飛び道具を上手く使って遠目に見えるHPバーを残り8割に届くかどうかというところまで削っていた。

 

「流石この層の最強モンスター。中々削れないな……けど、このままじっくりやれれば……」

 

セイバーが更なる攻撃をしようとしたところで鬼の動きが変わった。

突然の跳躍。5メートル程の高さまで飛び上がった鬼の周りに紫の炎が現れる。

 

「アレは……喰らったらヤバい!」

 

セイバーが慌てて攻撃に備えるが、鬼の炎が射出される方が早かった。

 

『全て返そうか』

 

セイバーの使用したスキル全てをそのまま炎で再現してのカウンター。

普通のプレイヤーならばセイバーレベルの攻撃を返されれば即死するくらいのカウンター。だが、セイバーは自分の攻撃でやられるようなタマでは無い。

 

「【闇の障壁】」

 

セイバーは自身から流れ出る闇のオーラによって一種の壁を生成、鬼のカウンターを吸収しつつ防御した。だが、障壁に当たらなかった攻撃は地面に当たりセイバーの立つ所以外を全炎で焦がしていく。更には地面に広がった炎がセイバーの視界を奪っていく。

 

「周りが見えないな……【気配察知】のお陰で敵の場所はわかるが、視認が出来ないとなると何してるかわからないからなぁ」

 

セイバーの攻撃に貫通能力はなかったため、カウンターでのダメージはないものの、背丈より高く伸びる炎の中では鬼を視認することはどうやっても出来ない。

 

 

セイバーはブレイブを【巨大化】させて乗ると空へと飛び上がった。

 

 

「ブレイブ、【流星弾】!」

 

セイバーはブレイブに乗りつつ相手のカウンター攻撃を回避しつつブレイブのスキルで天からの流星群の雨を降らせ、鬼の攻撃を相殺したり逆にカウンターで手一杯の相手にダメージを与えたりしていた。

 

 

「ブレイブ、次は左!今度は急上昇からの右!」

 

セイバーはブレイブに的確な指示を出して相手の攻撃を躱しつつダメージを入れていると相手にダメージが入った影響か、視界を照らす業火が止んだ。

 

「良し、ブレイブはここにいてくれ。下手に降りてくると的になる」

 

そういうとセイバーは飛び降りた。セイバーは落ちる速度と自身の重さを加算して加速、鬼へと迫った。

 

 

鬼へと突っ込むセイバーのその目に映ったのはすぐ自分を迎撃しようと大剣を赤く光らせて下から上へと斬り上げようとする鬼の姿だった。

 

『甘いぞ、人間!』

 

「そっちがな!【暗黒龍破撃】!」

 

セイバーの暗黒を纏ったキックと鬼の大剣がぶつかり合うと火花を散らすが、落下の勢いを利用しているセイバーの方が有利であった。さらに……

 

 

「今だ、【闇渡り】!」

 

その瞬間、セイバーが闇の中に消え、攻撃の圧力がいきなり消えた。そのため鬼は攻撃の勢いで体勢を崩してしまう。そこに攻撃が拮抗してお互いダメージを受けてしまう事態を避けるべく1秒間だけ消えていたセイバーが出てきて鬼へと強烈な一撃を入れる。

 

『ぬう!?』

 

「【月闇居合】!」

 

セイバーは追撃とばかりに鬼へと闇のオーラを纏わせた居合斬りをすれ違い様に放った。鬼も大剣を振り抜くもセイバーには掠ったのみでありその間にセイバーは鬼を切り裂いてそのHPを残り半分に減らした。

 

すると鬼の様子が変化し始めた。

 

『人間……中々やるな!』

 

そう言い放った鬼を中心に白く輝く光が渦を巻いている。

地面近くには風が吹き荒れ、セイバーはその暴風に飛ばされないように耐えていた。

 

この鬼の明らかな変化にセイバーは剣を構え、相手の様子を伺う。

 

『さぁ……行くぞ!』

 

響く声と同時、鬼は宙を駆けた。

そのまま白い光の尾を引きながら空中を飛び、セイバーとの距離を詰めてくる。

 

「おいおい、お前も飛べるのかよ!」

 

さらに赤く光る大剣を見たことでセイバーは危険を察知した。

 

「ブレイブ【ファイアーウォール】!」

 

セイバーはブレイブに自身と鬼の間に炎の壁を作り出させると鬼が壁を薙ぎ払う間にブレイブの背中に乗った。

 

「ブレイブ、お前も俺とお揃いになるか。【邪悪化】!」

 

するとブレイブの体がジャアクドラゴンのと同じように紫に変化、顔には騎士のバイザーのような銀の仮面を付けた。

 

セイバーはそのまま鬼との空中戦を展開、空中では鬼の大剣とセイバーの月闇が何度もぶつかり合い火花を散らす。だが、いくらセイバーといえどもブレイブを庇いながらでは鬼の攻撃は凌げずに鬼の強攻撃を弾いた瞬間にバランスを崩してブレイブから落ちてしまった。

 

「やばっ!」

 

『喰らえ人間!』

すかさず鬼が炎弾を撃ちながらセイバーへと接近して大剣を振りかぶった。

 

「なーんちゃって!【呪縛の鎖】!」

 

セイバーは空中に魔法陣を出すとそこから闇のオーラが鬼の大剣を持つ手に絡みつき、その動きを強制的に制限する。その間にセイバーは攻撃を捌ききり落下するセイバーに追いついたブレイブと共にスキルを放つ。

 

「ブレイブ、【闇のブレス】!【ムーンブレイク】!」

 

セイバーは辺り一体を一時的に夜の闇へと変えて急上昇すると三日月をバックに黄色と紫の二重の斬撃を放ちブレイブからも漆黒のブレスが噴射される。

 

鬼は攻撃を凌ごうとするが、先程使った【呪縛の鎖】がみるみるうちに全身に絡みついていき全く身動きが取れない状態にまでなっていたため、その間にセイバーとブレイブの攻撃が鬼のHPを残り3割に減らした。

 

 

その瞬間、鬼から衝撃波が発生し、鬼は鎖を破壊して抜け出した。

 

そのままセイバーから距離をとった鬼の周りに白い光が集まっていく。

 

『まだだ、人間……!』

 

鬼の姿は大きくなり、真っ白い髪を揺らす大鬼となった。

 

「ようやく最終形態ってか?面白い!ブレイブ、ここからは休んでてくれ【休眠】」

 

 

セイバーはブレイブを指輪へと戻した。理由は簡単。鬼が更にパワーアップしたため、ブレイブがやられるリスクが上がるからだ。テイムモンスターは1度やられてしまうともうその日は出すことは出来なくなってしまう。1日経てば呼び出せるのだがその時には恐らく鬼との決着がついているだろう。セイバーはここでブレイブを1日呼べなくなるリスクを避けたのだ。

 

「行くぜ、【漆黒の霧】」

 

セイバーは辺り一体を黒い霧で覆い尽くした。鬼の視界を奪うためである。今の鬼の火力は並大抵のものでは無い。まともに打ち合うのはやはり不利と踏んでの搦め手だ。しかもセイバーには【暗視】があるため暗闇の中でも相手を見切ることが出来る。

 

「みーつけた!【邪悪砲】!」

 

セイバーはまず相手の出方を見るために左手の魔法陣から邪悪なエネルギー弾を撃ち出した。だが、鬼はこれを簡単に叩き切ってセイバーへとに斬りかかった。まるで相手が見えているように……。

 

「やっぱこれでもダメか。なら、【ダークスピア】!」

 

セイバーは自身の周りに漆黒のエネルギーで生成された槍を出現させると相手へと飛ばして攻撃していく。当然鬼に防がれるがセイバーはその間に鬼へと突っ込んでいく。

 

セイバーは自身の剣の間合いにまで近づくと月闇を振り抜き相手にダメージを入れる。

 

「よし……ってえ?」

 

鬼はセイバーの攻撃を喰らってダメージを受けても尚攻撃をしてきた。

 

「もしかしてこの形態は防御より攻撃優先!?」

 

鬼はセイバーへと大剣を振り下ろす。セイバーはこれをなんとか受け止めるが余波でダメージを受けて残り3割にまでHPを減らされた。

 

「くう……強すぎるだろうがよ!【闇渡り】!」

 

セイバーはエスケープ手段として【闇渡り】を使いその場から離れる。そして先程と同じく鬼の後ろを取る。

 

『無駄だ、同じ手は効かんぞ!』

 

鬼はセイバーの行動を読んで後ろへと大剣を振り抜くが振り抜こうとする直前にいきなり鬼の行動が鈍くなった。

 

「残念。読んだ所までは良かったんだけどね〜。【影踏み】が無かったら死んでたよ。【月闇居合】!」

 

セイバーは【影踏み】で鬼の影を踏む事で動きを一瞬だけ制限、すかさず【月闇居合】による一撃を入れた。

 

鬼はこれでとうとうHP1割となり全身からエネルギーを迸らせていき始めた。

 

『人間、ここまで戦ったのは賞賛するが、これで終わりにしてやる』

 

「それじゃあ俺もこれで終わりにしようか」

 

お互いに最後の一撃を放つべく力を上げていった。それは2人の体からオーラとして溢れ出しエネルギーの高まりが目に見えてわかった。

 

「【暗黒闇龍剣】……はああっ!」

 

『ぬん!!』

 

セイバーは【紅蓮爆龍剣】と同じように今回は漆黒の龍を模したエネルギー斬を放ち、鬼は今までのどの攻撃よりも威力の高い最高火力の赤いエネルギー斬で迎え撃った。

 

2つの斬撃は真ん中でぶつかり合い火花を散らしていく。

 

そしてそれは爆発を起こして周囲を煙が包んだ。セイバーはこの瞬間で跳び上がるとキックの体勢に入っていた。

 

「【暗黒龍撃破】!うぉりゃああああああ!!」

 

セイバーの放った暗黒の龍のエネルギーを纏わせたキックは鬼の額に深々と突き刺さり鬼は大きく吹き飛ばされるとHPを0にされた影響かその場に崩れ落ちた。

 

セイバーも疲れたのか着地するとすぐにその場にへたり込んだ。

 

「はぁ……はぁ……やった……やったぞ!!」

 

セイバーが喜んでいると倒れていた鬼が口を開いた

 

『ははは……!やるなぁ、人間。流石は俺の生涯の宿敵の力を得ただけの事はある……』

 

座り込んだまま鬼が笑う。

鬼は体についた土埃をぽんぽんと払うとゆっくりと立ち上がった。

 

『ついてこい』

 

そう言って歩き出した鬼の後ろをセイバーがついていく。

鬼が出現させた魔法陣に乗り、セイバーはもといた四層の一室へと戻ってきた。

 

『さて、人間。本来ならばお前は俺の後を継ぐのだが……お前は特別だ。これをくれてやる』

鬼の両手が輝くと1本の巻き物が出現した。

鬼は巻物をセイバーに手渡すとセイバーにその巻き物について話しだした。

 

『その巻物には私の宿敵の力の一部がある。かつての戦いの時に私は奴の力の一部を封印したのだ。とは言っても奴の強大な力には私も死を覚悟したがな』

 

「……どうして人間の村から龍を追い出したのですか?」

 

『ほう?』

 

「俺は前に元々はジャアクドラゴンの仲間の水色の龍が村を護っていたこと、そして村の者は龍を追い出したという話を聞きました。その後にあなたがあの村を支配したということも……おそらく、人間に龍を追い出すように言ったのは今、村が発展したこの街に住んでいる妖怪達ですよね?そこまでする理由が俺にはわかりません。あの村にはそこまでの価値があったんですか?」

 

『……元々私の支配下の妖怪は人間の街に憧れていた……。あの龍と同じで人間と仲良くしたかったのだ……。私はあの龍にも友好的に接するように言ったのだが、妖怪の中には村にいた龍が邪魔だと考えた者もいた。そいつらは村の人間を唆し、龍を追い出す原因を作ってしまったのだ……あの龍に許しを乞うてももう許さないだろうな……』

 

「そうでしたか……」

 

『私からの頼みを聞いてくれるか?』

 

「なんですか?」

 

『……あの龍ともし会うことができたら謝ってほしい私の部下のせいで酷い目に遭わせてしまった……と』

 

「わかりました……」

 

『人間よ、お前にはまだ行かなければならない所がいくらでもある。だが、また強くなったらここに来い。歓迎するぜ?俺が死ぬその時まで……いつだって戦ってやる』

 

「……良いですよ。今度は今回よりもさらにボコボコにしますんで。その時はまたよろしくお願いします」

 

『ではさらばだ。人間よ』

 

鬼はそういうと消え、セイバーは塔の外に出てきた。

 

「ふぅ……さすがに疲れたなぁ……。けど、あの鬼に悪意がないのはわかった。けど、この街も色々と事情があって出来てるって思うとなんかなぁ……。後にするのが惜しいぜ……」

 

セイバーとしてはもう少しここに残りたい気がしていた。ジャアクドラゴンと主の過去について知ってしまったがために情が湧いたのだろう。だが、いつまでもここにいる訳にはいかない。仲間が待っているのだから……。

 

「そうだ、スキルは確認しておかないとな」

 

セイバーはそう言って先程の巻物を開けるとスキルの取得音が鳴ってそれは鎧に強制的に付与された。

 

【邪龍融合】

1日につき1回のみ闇の龍と融合する事で自身を強化することができる。融合できる相手は自身のテイムモンスターのみ可能。融合している間のみスキル【金龍ノ舞】と【封印斬】と【邪王龍神撃】を使えるようになる。

 

「……どうやら、ヤバいスキル手に入れたかも……。てか、多分これブレイブと融合するって事だよな?どんなのかは楽しみだけど、ちょっと複雑かなぁ……。割とブレイブのサポートを頼りにしてる所あるし、それが無くなるから……」

 

セイバーはそれから伸びをしてギルドホームへと戻る事にし、丁度五層へと行ってから一旦戻ってきたサリーと鉢合わせると毎度の如くサリーに驚かれる事になった。

 

 

 

その頃、運営にて

 

「ああっ!四層の主がセイバーにやられた!!」

 

「もう驚かないぞ。アイツのチートっぷりは最早日常茶飯事だ」

 

「そろそろアレどうにかしようぜ?他のプレイヤーからの苦情が来るぞ」

 

「だな。ここまで強化してしまうと流石にそのままにはできない。次のメンテナンス辺りで対策を打たないと」

 

「でもどうする?またスキルの弱体化をするのか?」

 

「いや、奴ならそれすらも乗り越えて来る。黄雷のMP吸収効果を抑制しても上手く使っていたのが良い証拠だよ」

 

「だったら、こんなのはどうだ?」

 

それから運営は協議を重ね続けた。どうやったらセイバーを抑制しつつ尚且つ彼がゲームを辞めてしまわないようにするか。そしてその答えは出た。

 

「よし、次のメンテナンスでセイバーを抑制するぞ。その内容は………」

 

こうして、運営が水面下でセイバーを弱体化させようとする策を講じる中、セイバーはそんな事は知る事もなく呑気に敵を蹂躙していくのであった。




セイバー 
*補正値は闇黒剣月闇の装備時
Lv45
HP 175/175〈+125〉
MP 180/180〈+125〉
 
【STR 50〈+125〉】
【VIT 45〈+125〉】
【AGI 45〈+100〉】
【DEX 30】
【INT 45〈+100〉】
 
装備
頭 【闇龍のヘッドギア】
体 【闇龍の鎧】
右手【闇黒剣月闇】
左手【空欄】
足 【闇龍の鎧】
靴 【闇龍の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅶ】【気配斬りⅣ】【気配察知Ⅴ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅵ】【風魔法Ⅶ】【土魔法Ⅶ】【光魔法Ⅲ】【闇魔法Ⅶ】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化中】【状態異常Ⅳ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅲ】【業火大革命】
*闇黒剣月闇を装備時
【月闇居合】【暗黒闇龍剣】【ムーンブレイク】【暗黒クロス斬】【消費MPカット(闇)】【封印無効】【暗視】【呪縛の鎖】【邪悪砲】【ダークスピア】【闇の障壁】【闇渡り】【影踏み】【漆黒の霧】【暗黒龍破撃】【邪龍融合】


ブレイブ
Lv25

HP 180/180
MP 360/360

【STR 180】
【VIT 175】
【AGI 165】
【DEX 70】
【INT 155】

スキル
【火炎放射】【噛み付く】【ファイヤーウォール】【火炎龍】【巻き付く】【龍ノ舞】【逆鱗】【流星弾】【巨大化】【炎の渦】【邪悪化】
【火炎竜巻】【赤雲展開】【ファイヤーテール】【龍の波動】【火炎弾】等……

果たして運営が行うセイバー対策とは何なのか?それは次回、明らかとなる。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと五層へと

セイバーが主を倒したその日、セイバー、ヒビキ、メイプルの3人を除く他の7人は無事五層へと進出したその数日後、メイプル、セイバー、ヒビキが四層のギルドホームに集まった。ただ、その前日になるのだが何故か不自然なことにこのタイミングで運営から緊急のメンテナンスが入った。

その後、セイバーはログインしたのだが、ある異変に気がついた。

 

「あれ?なんか前よりも火力落ちてね?」

 

セイバーはその日、モンスターと戦ってから合流しようとしてモンスターを狩っていたのだが、何故か以前よりもモンスターにダメージが入っていなかった。

 

「おかしいなぁ、デバフとかかけられた覚え無いんだけど……」

 

セイバーは自身のステータスを開けると自身にとってとんでもない事態になっていた。

 

「……え?ええぇ!!?」

 

セイバーはそれから急いでギルドホームに戻るとサリーとメイプル、ヒビキが話していた。

 

「サリー!メイプル!ヒビキ!ヤバイ!ヤバイ!緊急事態!!」

 

「どうしたの?そんなに慌てて」

 

「また何かやったんじゃないでしょうね?」

 

「俺は何もしてない。けど、運営がとうとうやりやがったよ」

 

セイバーが自身のステータスを見せるとその数値が以前と比べて大幅にダウンしていた。

 

「え!?え!?なんでこんなに数値が落ちてるの?」

 

「ああ〜、とうとうこの日が来てしまったかぁ」

 

メンテナンスで変更されたのはいくつかあったのだが、その中でも大きかったのはセイバーの装備のステータス低下であった。

 

「まぁ、良かった方じゃない?今まで目を瞑ってもらえてたんだから」

 

「確かにチートレベルのステータスだったからいつかはこうなるとは思ってたけどさぁ……」

 

「具体的にはどのくらい減ったんですか?」

 

「今メモを見せる」

 

そう言ってセイバーは変化前と後を数値で表した。

 

『火炎剣烈火』

STR+70→+40

 

『竜騎士のヘルメット』

MP+40→+40

VIT+35→+20

HP+80→+50

 

『竜騎士の鎧』

VIT+60→+30

INT+60→+40

STR+50→+20

 

『竜騎士の靴』

VIT+25→+10

AGI+80→+50

 

『水勢剣流水』

STR+65→+40

 

『百獣王のヘッドアーマー』

MP+50→+40

HP+100→+50

 

『百獣王の鎧』

VIT+70→+50

INT+60→+40

STR+35→+20

 

『百獣王の靴』

AGI+120→+60

 

『雷鳴剣黄雷』

MP+10→+0

STR+60→+40

 

『雷のヘッドギア』

MP+20→+20

VIT+20→+10

INT+30→+20

 

『雷の鎧』

MP+20→+20

VIT+30→+20

INT+30→+30

 

『雷の靴』

MP+20→+10

AGI+60→+30

 

『土豪剣激土』

STR+100→+60

 

『玄武の兜』

VIT+100→+50

HP+120→+60

 

『玄武の鎧』

STR+150→+80

VIT+100→+60

 

『玄武の靴』

VIT+100→+20

MP+30→+20

 

『風双剣翠風』

STR+70→+60

 

『忍びの鉢巻』

HP+100→+30

MP+50→+40

 

『忍びの装束』

STR+80→+40

DEX+100→+60

 

『忍びの足袋』

AGI+300→+120

 

『音銃剣錫音』

STR+60→+60

 

『お菓子のヘッドホン』

MP+100→+50

 

『お菓子の鎧』

DEX+100→+70

STR+60→+10

HP+150→+40

 

『お菓子のスピーカーアーマー』

INT+80→+40

VIT+70→+40

 

『お菓子の靴』

AGI+80→+40

 

『闇黒剣月闇』

STR+80→+70

 

『闇龍のヘッドギア』

MP+125→+50

VIT+50→+0

 

『闇龍の鎧』

VIT+75→+70

STR+45→+0

HP+125→+60

 

『闇龍の靴』

AGI+100→+60

INT+100→+60

 

左側が変更前、右側が変更後である。こうしてみるとかなりのステータス低下が目立っていた。

 

「これは凄い下がっちゃってるね」

 

「スキルは変化ない所をみると今回はスキルを抑えるよりも、装備のステータス上昇を少しでも抑える事で、根本的なスペックダウンをさせる事が目的だと思う」

 

「これはセイバー、今までとは少し考えてプレイしないとね。前は1発で倒せた敵がそうじゃなくなるわけだし」

 

「そっか、それじゃあ今までみたいにセイバーお兄ちゃんだけを攻撃の起点に出来なくなるね」

 

「ギルドとしてのフォーメーションも見直さないとダメかも」

 

「あはははは!!」

 

セイバーは何故かこのタイミングで笑い始めた。

 

「どうしたのセイバー?いきなり笑い始めて」

 

「いや、嬉しいんだよ。俺の事を弱くしたって事はバランスが崩壊してるって思われている訳だ。俺は運営を動かすほどの強さを持っていたって事が証明されて嬉しいんだよ」

 

「でも、セイバー弱くなったんだよ?」

 

「それが良いんだよ。今までは普通にやり合うことすら出来なかった奴とも普通に戦えるんだぜ?強すぎるのは良いけど、ライバルが減ってつまらないだろ」

 

「そっか、それもそうね」

 

セイバーはこの状況に満足そうな顔をしていた。

自分1人だけ強いというアドバンテージが無くなり、ようやく他の人との駆け引きを楽しめるということに。

 

「でも、運営も上手いよね。セイバーなら幾らスキルの弱体化をしてもその都度対応してくるって予想してスキルを弱体化させるのではなく、セイバーのステータスの基本数値を下げてくるなんて」

 

「まぁ、激土とか翠風のスキルの中には俺の基本ステータスを参照にしてSTRやVITとかAGIを上げるものもあるしな」

 

「それに、セイバーお兄ちゃんの強力なスキルは残っていますからそれを駆使すれば相手とのステータス差を埋められますし、その分まだマシなのかなって思います」

 

「ま、セイバーならそれすらも軽く乗り越えそうだけどね」

 

それはさておき、セイバー、メイプル、ヒビキの3人は四層のボスの攻略に行くことにした。サリーは現実で用事があるためログアウトすることになった。

 

メイプルとヒビキがセイバーの心配をするとセイバーはケロッとした顔で

 

「いや、寧ろボス戦は丁度いい。今のダウンしたステータスを見ておくには十分だ」

 

と言ったため3人で行くことにした。

そしてボスのいるダンジョンまで歩く3人だったが……メイプルだけ途中で逸れてしまった。

 

「おっかしいなぁ……アイツなんでボス攻略するって言ったのにいなくなるんだ?」

 

「どうしましょう?メイプルさんを探しますか?」

 

「場合によってはモンスターに囲まれているのかも……」

 

心配するヒビキを他所にセイバーは心配の表情をすぐに緩めた。

 

「まぁアイツの事だし大丈夫だろ。まさかと思うけどこの層の主と戦いに行ったりはしないだろうし」

 

「そうだね、セイバーお兄ちゃん!私だってお兄ちゃんに新しい力見せたいし、早く行こう!」

 

そう言って2人はメイプル抜きでボス攻略に行く事にした。因みに、メイプルはこの間にセイバーの危惧通りの行動を起こして主と戦い、両脇に鬼を従えるようになるのだが、それはまだもう少し先の話になる。

 

そうこうしている内に2人はダンジョンへと到達した。

ダンジョン内には物理無効モンスターや物理大幅軽減モンスターが溢れかえっていた。

物理攻撃が無効や軽減のモンスターが相手ではヒビキの一撃の火力は活かしづらくなるものの、セイバーの錫音の装備の銃撃やヒビキの衝撃波でダンジョンを攻略していく。

 

そもそも、弱体化したとはいえ1人でボスクラスの力を持つセイバーとこれまで四層を攻略してきたヒビキによる連携なのだ。そう簡単に負けるはずが無い。

 

ダンジョンに溢れる雑魚モンスターではこのコンビを脅かすことは出来ないのは当然だった。

 

結局2人は苦もなくボス部屋へと辿り着いた。

 

「じゃあ、行ってみよう!!」

 

ヒビキが振り返って言うと、セイバーが無言で頷き、剣を構える。

直後扉は開け放たれ全員が中へと飛び込んでいく。

 

部屋の奥にいたのは9本の尾を持つ大きな狐だった。艶のある毛並みの黄色い尻尾をゆらゆらと揺らしている。

 

「燃えろ!私の心の響き!」

 

「さぁ、楽しませてくれよ。【月闇】抜刀!」

 

早速ヒビキは構えを取りセイバーは月闇の装備へと変わって剣を抜く。

 

まず先制したのは狐の方だった。自身の周囲に大量の紫の狐火を出現させると2人へと放ってきた。

 

「露払いは任せろ!【月闇居合】!」

 

セイバーは闇のエネルギーを纏わせた斬撃で敵の炎を薙ぎ払い消していく。だが、やはり火力が落ちているせいか前よりも体にかかる負荷が大きくなっていた。

 

その間にヒビキは狐へと迫っていった。

 

「行っくよ〜!!【我流・雷槍衝撃波】」

 

ヒビキは地面へと拳を叩きつけるとそれによって電撃を纏った衝撃波が発生し狐へと襲いかかる。

 

ヒビキの攻撃は狐へと当たると狐のHPを1割消し飛ばした。

 

「うぇ!?これでも1割だけなの!?」

 

「流石はこの層のボスでも、これならどうだ!【呪縛の鎖】」

 

セイバーはすかさず狐の動きを抑えるべく鎖で狐を縛り付け、その間にセイバーは遠距離からの攻撃を放つ。

 

「喰らえ!【邪悪砲】!」

 

セイバーは魔法陣から暗黒のエネルギー砲を発射すると狐はこれをまともに受けるが、狐の体に風穴が開くと突如として狐の姿が幻のように消えた。

 

「なっ!?」

 

セイバーが驚いている間に狐は6体に影分身すると2人を取り囲んだ。

 

「まるでサリーお姉さんのモンスター、朧の力にそっくり!」

 

「なるほど、こういうタイプか。ヒビキ、無闇に攻撃するな!このボスは恐らく搦め手で来るタイプ。下手に突出すれば敵の術の餌食だ」

 

「オッケー、お兄ちゃん!」

 

「取り敢えずこいつでも喰らっとけ!【邪悪砲】!【暗黒クロス斬】!」

 

セイバーは邪悪砲を真上に撃ち出すとそれを暗黒クロス斬で細かく分割し狐へと攻撃を雨のように降らせた。

 

狐の分身はこれを受けて次々と消滅するが、本体は攻撃を受けておらず、今度は巨大な紫の狐火を撃ち込んできた。

 

「でかっ!」

 

「たかだかそのくらい!うおりゃああ!!」

 

ヒビキは狐火へと飛びつくと狐へと思いっきり蹴り返した。まさか自分の攻撃が蹴り返されるとは思っておらず狐はこれを本体で受けてしまい、本体がダメージを受けたためか、分身は消えていった。

 

「今よ!セイバーお兄ちゃん!」

 

「おう!【月闇居合】!」

 

セイバーは紫の刃と共に狐をすれ違い様に斬りつけてダメージを入れた。

 

さらにヒビキが追撃をかける。

 

「【剛腕】、【我流・特大撃槍】!」

 

ヒビキは跳びあがるとそのまま狐の腹に思い切り拳をぶつけた。すると狐はその威力の高さに吹き飛ばされて壁に叩きつけられて残りHPが6割となった。

 

「やったぁ!」

 

「気を抜くなヒビキ。このまま終わるボスモンスターじゃない。おそらく、そろそろパターンを変えてくる頃だ。気をつけろ!」

 

すると狐は起き上がると今度は9本の尻尾を揺らしたかと思った次の瞬間、いきなり尻尾が伸びてきて2人を直接攻撃してきた。

 

「うおっ!?尻尾が伸びた!?」

 

「くっ……このままじゃキリがない!」

 

2人は近接戦が得意のため何とか捌く事はできるが、対処で精一杯となり反撃するのは難しかった。

 

「こうなったら、尻尾は俺が全部引きつける!【分身】!」

 

するとセイバーは4人へと増えてそれぞれが尻尾を2〜3本分ずつを受け止めた。

 

「今だ!」

 

「うん。アレで一気に決めるよ。【イグナイトモジュール・抜剣】!」

 

『ダインスレイヴ!』

 

すると電子音が鳴り響いてヒビキの胸に付いているマイクユニットが空中へと浮かび、形を変えると針のような物が出てきてヒビキの胸に突き刺さった。

 

「ぐあああああああああ!!」

 

ヒビキはダメージこそ入ってないもののかなりの激痛と彼女の心の中にある破壊衝動を掻き立てるような感覚に襲われており、黒い闇のオーラに包まれた。

 

「やっぱりこれ、正気を保たないと……飲み込まれる……」

 

ヒビキは辛うじて意識を保とうと心の中でもがくが破壊衝動は時間が経つほどに高まっていく。最早飲み込まれるのは時間の問題だと思われた。

 

しかし、その時ヒビキの脳裏に浮かんだのはギルドメンバーと過ごす温かい時間だった。

 

「そうだ……私は1人じゃ無い。だから、この衝動に塗りつぶされてなるものか!!!」

 

次の瞬間、ヒビキの正気が完全に保たれるのと同時に体の装備が黒く変化を始めた。

 

ヒビキの装備の白い部分が黒く、禍々しい色へと変わっていき、ヒビキの装備は黄と黒の配色へと変化し、パワーの高まりを感じた。

 

「やった、出来た!」

 

「ヒビキ、何それ?」

 

「えっと、【イグナイトモジュール】だよ。この前のイベントで私がキラーさんに攻撃を喰らった際にダインスレイヴのカケラが手に入って、それを持ってあるクエストに挑戦したら装飾品に変わったの。で、今まで変身するための練習してきたんだけどやっと成功したんだ」

 

「おいおい、ヒビキの奴恐ろしい進化してきたぞ」

 

ヒビキがステータス画面を見ると自身のステータスが全て1.2倍となる代わりに999秒のカウントが始まっていた

 

「このカウント、多分この姿の時間制限。だったら、一気に倒す!」

 

すると狐はセイバーから離れると遠吠えと共に仲間の妖怪達を呼び出した。

 

「このタイミングで増えるのかよ」

 

「でも、この程度なら!」

 

ヒビキは妖怪達へと向かっていくと彼らを先程までとはまるで見違える動きで妖怪を次々と倒していった。

 

「はああああああ!!せいっ!!」

 

ヒビキの掛け声と共に妖怪がまた一体吹き飛ばされる。

 

「流石にヒビキだけに負担をかける訳にはいかないかな。俺も手伝いますか!」

 

セイバーは月闇を抜いて妖怪を次々と斬り捨てていく。

 

「ヒビキ!行けぇえ!」

 

「稲妻を喰らえ!!【我流・火炎龍撃拳】!」

 

ヒビキは腕に炎の龍を纏わせると騎士へと特攻。拳が騎士の体に当たると大爆発を起こし、その衝撃を利用しながら上空へと跳んだ。

 

「【我流・雷電撃槍】!」

 

上空へと跳んだヒビキは自身を雷に撃たせると稲妻の槍となり、キックを狐へと叩き込んだ。狐はHPを一気に減らしていくと残り4割にまで到達した。ただいきなりヒビキの体に痛みが走るとヒビキはその場に膝をついた。

 

 

「はぁ……はぁ……どうして?まだカウントは半分以上残ってるのに」

 

「多分その姿の負担だ!ヒビキ、流石に休め!これ以上は……」

 

「けど、まだボスは……」

 

「ここからは……俺がやる」

 

「セイバーお兄ちゃん……」

 

「お前がここまで頑張ってくれたんだ。俺1人休んでる訳にはいかねーよ」

 

セイバーはイグナイトを解除して疲労も色濃いヒビキと入れ替わるように前に出た。

 

「行くぞ、ブレイブ【覚醒】、【邪悪化】!」

 

セイバーは邪悪状態のブレイブを呼び出すとブレイブはセイバーの横に並んだ。それと同時に狐も体を赤く染めていく。

 

狐はその巨大とは裏腹に超スピードで動くとセイバーへと爪を振り下ろした。

 

「ぬん!」

 

セイバーは爪を受け止めるとそれを押し返し、狐を吹っ飛ばすが狐は先ほどよりもさらに素早い動きでセイバーを翻弄する。

 

「【邪悪砲】!」

 

セイバーは魔法陣からエネルギー弾を撃ち出すがこれは狐に難なく躱されてしまう。それからもセイバーは狐を遠距離から攻撃するも狐の速度を前に躱され続けられた。

 

「中々速いな。だが……【漆黒の霧】」

 

するとセイバーの足元から黒い霧が出現、辺り一体を覆い尽くした。

 

前回の使用時は触れなかったが、この霧には相手の視界を奪う以外にも効果がある。それは、相手のステータス低下である。この霧に触れている相手のSTR、VIT、DEX、AGI、INTの5つをそれぞれ1割ずつ低下させる事ができ、主相手に使った時は主のステータスが桁外れすぎて体感的にはあまり変化が無かったものの、ここのボスは別である。視界が悪い中での回避は困難を極める上に相手の判断を鈍らせると言うことは相手の初動を遅くし、捉えやすくできる。その一方でセイバーは【暗視】持ちのため前回同様に相手の動きが丸わかりだった。

 

「さーて、何回耐えられるかな?【邪悪砲】!ブレイブ、【流星弾】!」

 

セイバーは動きが鈍くなって攻撃を躱しにくくなった狐に容赦なくエネルギー弾を連続でヒットさせた。さらに上からの流星弾の雨が範囲攻撃で降り、狐が回避をするための場所なんてものは残っていなかった。

 

HPはゴリゴリと削れていき残り1割にまで減っていた。

 

「そろそろ決めるか。【暗黒闇龍剣】!」

 

セイバーが月闇を一振りするとジャアクドラゴンの形をした龍が狐へと向かっていき狐の残されたHPを消し飛ばした。

 

「ふう……終わったな」

 

「セイバーお兄ちゃん!!」

 

「どうした?ヒビ……ぐへああっ!!」

 

セイバーは安心し切った所をヒビキに横から抱きつかれて吹っ飛んだが……。

 

「カッコ良かったよー!お兄ちゃん!!」

 

「あ、ありがと……いだだだだだだぁ!!?ちょっとヒビキ、俺ステータス下がってるんだよ!!これ以上強く抱きしめん……ギャアアア!!」

 

……セイバーはヒビキとこのゲームで初めて出会った時のようにヒビキに思い切り抱きしめられて小一時間ほど意識が飛ぶことになったが、無事2人でダンジョンをクリアする事ができた。

 

「そういや、さっきの力。えっと……イグナイトだっけ?それの詳細を見せてくれるか?」

 

「え?うん、良いけど……」

 

そう言ってヒビキはパネルを開きセイバーに見せた。

 

【イグナイト】

イグナイトモジュール・抜剣の言葉で力を解放する事ができ、発動と同時に999秒のカウントダウンが始まる。このカウントが0になるまでの間全てのステータスが1.2倍となるが、カウントが切れるとそこから30分の間全てのステータスが元の値の3分の1に減少する。1日1回のみ使用可能で3段階まで解放が可能。尚、解放するごとにステータスの上昇値が上がるがその分カウントの減りも早くなる。

1段目のニグレドは999秒で1.2倍。2段目のアルベドは333秒で1.5倍。3段目のルベドが111秒で2倍。

 

「は?フルパワー出したら2倍!?半端ねーなこれ」

 

「ただ、多分今の私じゃあルベドどころかアルベド行ければ良い所って感じかなぁ。また鍛えないと」

 

兎も角、2人は無事に第五層に到達する事が出来た。セイバー達はメイプルに連絡を取り、来れるかどうか聞き、メイプルはフレデリカ達と来ると言ったため2人はメイプルを待った。それから暫くして主との戦いを終えてフレデリカ達と一緒にボスを攻略してきたメイプルも五層に到達、3人は晴れて五層の街と対面する事になった。果たして、第五層ではどのような冒険が繰り広げられるのか。3人は期待を高めながら五層の街へと足を踏み出すのだった。




52話時点のヒビキのステータス

ヒビキ

Lv32
HP 170/170
MP 60/60
 
【STR 63〈+50〉】
【VIT 45〈+40〉】
【AGI 63〈+50〉】
【DEX 15】
【INT 0】
 
装備
頭 【黄色いヘッドホンギア】
体 【イエロースーツ】
右手【パンチングガントレット】
左手【パンチングガントレット】
足 【黄色いレッグアーマー】
靴 【黒い靴】
 
 
 
装飾品 
【白いマフラー】
【絆の架け橋】
【イグナイトモジュール】
 
 
 
スキル
 
【体術Ⅲ】【筋力強化大】【跳躍Ⅰ】【パンチ強化中】【キック力増加中】【格闘術Ⅲ】【ジェット噴射】【アームジェット】【剛腕Ⅱ】【ジャッキバウンド】【逆鱗】【飛拳】【飛撃】【インファイト】【グランドスタンプ】【我流・特大撃槍】【我流・狂雷撃槍】【我流・雷槍衝撃波】【S2CA】【イグナイト】【我流・火炎龍撃拳】【我流・雷電撃槍】【我流・鳳凰無双撃】


今回の調整に関して余談なのですが、流石にセイバーのステータスのインフレをしすぎたので、ここでステータスにデフレをかけることにしました。
次回からは五層での話になります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第五層

セイバー、メイプル、ヒビキの3人は他の【楓の木】の面々から遅れて五層に入った。

 

「五層、とうちゃくっ!」

 

「ったく、メイプルが途中で逸れたりするからちょっと遅くなっただろうがよ」

 

「ええ〜!私だってわざとじゃないし!」

 

「それよりも……ここは……」

 

「雲の上に来る日が来るとはな」

 

五層の風景……それは、少し弾力があるふわっとした地面は一つの汚れもない白。

そこは一面雲の国。天上の楽園だった。

 

「この感触、気持ち良い〜!!」

 

「家のベッドよりふかふかかも」

 

早速はしゃぐメイプルとヒビキをセイバーは暖かく見ていた。

それから3人は足から伝わる感触に癒されながら、ギルドホームへと向かっていった。

 

「ここが今回の町かあ」

 

雲の壁を超えた先には眩しいくらいの白の町が広がっていた。

現実には存在出来ない濁りのない壁や道がそこにはあった。

 

「あれ、でもこれは雲じゃないんだね」

 

「流石に壁まで雲って事はないだろ。耐久性が不安になる」

 

メイプルが家の壁に触れるとつるつるとした感触が伝わってくる。

足下の雲とは違い、磨かれた石材を思わせる質感だった。

 

「そういえば私も雲の上に立てるし、この層でも探せばいろんな素材があるのかも」

 

「そうだね。他の層では手に入らないような物があったりして」

 

3人はこの層に存在するアイテムが必ずしも雲でできているのではないのかもしれないと思いながら歩き、マップも確認しつつギルドホームへと辿り着いた。

3人は白い扉を開けて中へと入っていく。

 

「誰も……いないな」

 

「丁度全員出払ってるのかな?」

 

「まぁ、いずれは誰か帰ってくるだろうし、俺は早速探索行ってみようか」

 

「私は疲れたし今日はログアウトするね」

 

メイプルは青いパネルを出すとトントンとタップしてログアウトした。

 

セイバーはそれを見届けると再び街へと繰り出していくのだった。

 

 

 

数日後、セイバーはギルドホームでサリーやメイプルと話していた。

 

「ああ……そっち行っちゃってたかー」

 

「まさかメイプルも主とやっていたとは思わなかったなぁ……」

 

「てか、アンタはメイプルと一緒に来るって言ったんだからちゃんとメイプルの面倒くらい見なさいよ」

 

「なんで俺!?」

 

「けど、今回は今までで一番疲れたよ……」

 

「だろうね。セイバーも苦戦したらしいし、当然と言ったら当然か……」

 

「確かに今考えたらそうだったかも」

 

そしてメイプルは鬼を倒した後どうやって五層へ来たのかを話し始めた。

そしてその途中でメイプルはフレデリカに【百鬼夜行】を見せていたことに気づいた。

 

「疲れてて何も考えてなかったよー」

 

苦笑するメイプルに2人は気にすることはないと伝える。

 

「まあ、いいんじゃない?もうそれくらいなら驚かないかもしれないし」

 

「てか、寧ろそれを見せる事で相手への牽制にもなる。相手の気が引ければ俺のスキルが不意打ちで決められるよ」

 

「そっか」

 

フレデリカなどはもう何が出て来てもおかしくないと割り切っているプレイヤーに入るだろうと思っての発言だったが、実のところはそんなレベルには至っていなかった。

 

セイバーは言うまでもないがサリーはその領域に足を踏み入れつつあったためその評価となっていた。もっとも近くにいた2人でようやくというくらいだった。

 

「そっか、じゃあ話は変わるけどサリーはもう五層は探索したの?」

 

メイプルの質問にサリーは少し間を置いて何かを思い出してから答えた。

 

「まだ全部ってわけじゃないけどある程度はね。立体構造になっている所が多くて階段の上り下りとか坂道とかが多いフィールドだよ。あとは……」

 

「あとは?」

 

「地面の感じが結構違うから走ってたりすると転びそうになる」

 

「そうなの?気をつけた方がいいかな」

 

「私にとっては死活問題だからねー」

 

「確かに、相手の攻撃を躱す際に足を滑らせようもんなら一撃でやられて死ぬしな」

 

激しい攻撃や多対一の戦闘よりも、足元が不安定だったりすることがサリーにとっての問題なのである。

微調整しなければ全ての回避が狂ってきてしまうのだ。

 

「2人はこの後探索いく?」

 

「私はいいかな。1週間分ぐらい戦った気分だから探索はまた今度」

 

「そっか……自分のペースで楽しむのがいいよ。その方が長続きするし、もっとメイプルとゲームしていたいから。それで、セイバーは?」

 

「俺は探索コースかな?出遅れた分とステータスダウンした分を取り戻したいし」

 

「ふーん。追いつける物なら追いついてみなさい。なんなら実力でもセイバーを抜いて見せるから」

 

「へぇ……言ったなサリー。覚悟しなよ!!」

 

2人は立ち上がるとギルドホームの出口へと走り出した。

 

「うぇ!?ちょっと2人共!!」

 

「それじゃあ探索に行ってくるよ。ついでにどこかメイプルの好きそうな景色の場所とか見つけてくる!」

 

「俺もそうしてみる。ただ、俺は聖剣あったらそっち優先になるけどね!」

 

「「メイプルの分も探索してくるから期待してていいぜ(よー)!!」」

 

「するする!」

 

「「じゃあいってくる」」

 

「いってらっしゃい」

 

挨拶を交わすと2人はギルドホームから出て入口の扉をきっちりと閉めた。

 

「そっか。勝ったかあ……」

 

閉めた扉にもたれて空を見上げる。そんなサリーを見たセイバーも足を止める。

空を見上げたサリーの視界には青く澄み渡った空が広がっていた。

 

サリーは目を閉じて一度静かに深呼吸すると扉から離れて歩き始めた。セイバーもそれの後を追う。

 

「負けるのは嫌だなあ、うん」

 

「やっぱサリーも負けず嫌いだな」

 

「なんかメイプルには悪いんだけど私は人をゲームに誘っておいて、負けず嫌いだから。メイプルにも負けたく無いの」

 

「当然俺にも……だろ?それは俺も同じだ。サリー……。俺はお前にも勝つからな」

 

そう言ってセイバーはサリーの頭を優しく撫でた。

 

「じゃあな!また後で!」

 

セイバーはそのまま探索へと出かけていった。サリーはそんなセイバーの後ろ姿を見て顔を少し赤くした。

 

「……バカ。少しは気づきなさいよ……」

 

 

誰に話しかける訳でもなくサリーは1人呟いた。

 

 

セイバーは五層を探索していると早速モンスターが湧いてきた。

モンスターの形状は小型で灰色の雲のような形をしており、セイバーの周りをフワフワと浮いていた。

 

「お、もしかしてこれが五層のモンスター?見たままの雲だな」

 

すると雲は水を発射してきた。セイバーはそれを軽く躱す。

 

「ふーん。これは雨雲って感じかな?取り敢えず倒すか。錫音、抜刀!」

 

セイバーは錫音を抜くと雲を切り刻んで倒した。

 

「やっぱ雑魚モンスター?聖剣が弱くなったとはいっても割と呆気ないなぁ……。てか、これまで強敵ばっかと勝負してきたせいか雑魚モンスターの相手は飽きる」

 

セイバーがそう言っていると今度は先ほどの雨雲が大量に現れてセイバーを取り囲んだ。

 

「はいはい、俺に構って欲しいのか?この雲さん達。とは言っても雑魚の群れなら通用しないぞ?」

 

セイバーは割と余裕そうな感じだったが、大量の雲の群れは集まっていき人型のサイズになった。

 

「お?少しはマシなサイズになったかな」

 

セイバーは集まる事によってパワーが上がった雨雲をも圧倒した。

 

「へいへーい!まだまだそんな程度か?」

 

セイバーは僅かな間に雨雲を始末するとようやく先へと進んでいった。

 

すると今度は雹を放つ雲が現れた。

 

「今度は雹かぁ……けど、無駄だね!烈火抜刀!」

 

セイバーは氷属性相手に相性が良い火属性の力を使える烈火を使い雲を次々に両断していった。

 

「うっし!楽勝楽勝!このままどんどん狩っていこう!」

 

セイバーがそう言っていると足を踏み出した瞬間に雲で足を滑らせた。

 

「ん?」

 

するとセイバーはその場で転んでしまい転ぶ痛みに晒されるはずだったのだが……。突如としてセイバーが転ぶ先の雲に穴が空いた。

 

「へ!?穴!!?」

 

セイバーにはもうどうすることも出来ず、その穴の中へと吸い込まれた。

 

 

「うわあああああああ!!」

 

セイバーは穴の中へと入っていくとその中を滑り始めた。そして落ちた先に転移の魔法陣があった。

 

「嘘ぉ!転移すんのかよ!まだ心の準備が出来てな……」

 

セイバーが言い切る前にその魔法陣は輝きを増してセイバーを吸い込んでしまった。

 

そしてセイバーが飛ばされた先には……とある街の中だった。どうやら、セイバーはダンジョンへと入ってしまったらしい。

 

「うぅ……毎回毎回なんでこうなるんだよ。てか、なんかこの流れ前にもあったような……」

 

セイバーがそう言っていると突然周りから闇の斬撃が飛び出してきた。

 

「うわっ!?危っ!!」

 

セイバーはこれを紙一重で回避するも斬撃はドンドン飛んできた。

 

「取り敢えずここは……逃げるんだよ〜!!」

 

その場から駆け出したセイバーは自身を追いかけてくる斬撃を躱しながらダンジョンを走っているとその景色が途中で変わっている事に気づいた。

 

「あれ?なんでいきなり暗くなってるの!?」

 

突如としてセイバーの周りに竜巻が発生するとそれが空の色を暗くしていった。

 

「一体誰が……」

 

するとセイバーは何かを感じ取った。そして直感が示すままに真後ろへと剣を振り抜いた。その瞬間、セイバーの剣が他の剣か何かに当たっていた。

 

「……え?」

 

セイバーの目線の先にいたのは髑髏と昆虫を組み合わせた様な顔、両肩に配置された狼の顎の様な意匠や漆黒のボディを持つ怪人のような者がおり、彼は赤いマフラーの様な物をなびかせていた。

 

『匂うなあ…… 。剣が擦れ合う、最低で最高に楽しそうな匂いだ……!』

 

「お前は……誰だ」

 

『俺の名か?俺の名はデザスト。お前、その感じだと聖剣を7本持ってるな?』

 

「どうしてわかる?」

 

『匂うんだよ。聖剣達の匂いがお前からプンプンする』

 

「で、結局お前は俺に何の用なんだ?」

 

『お前の持っている聖剣、貰いに来てやった』

 

「良いぜ。お前の相手はこの剣がしてやる。翠風、抜刀!」

 

セイバーは翠風を抜くとデザストへと斬りかかった。デザストはこれを剣で受け止めて鍔迫り合いとなった。

 

『ほう。中々良い剣じゃねーか』

 

「それはどうも!【超速連撃】」

 

セイバーはデザストの剣を弾くと超スピードでの連続斬りを放つが、デザストは普通なら見えない程の速度をまるで見えてるように体を逸らし、剣で防ぎ、足を退け、体を捻り、躱していった。

 

「お前こそ、これを見切るとかヤバすぎない?」

 

『そいつはどうも!』

 

デザストはお返しとばかりにスキルを使い終わって隙ができたセイバーの喉元へと剣を突き出す。セイバーはこれを翠風の片方で下から弾き、軌道を逸らした。

 

「おわっ!危ね!!」

 

そのまま剣で薙ぎ払うがデザストは再び上体を逸らして躱す。

更にはセイバーの足元を狙った攻撃を放った。セイバーはこれをジャンプで避けるとデザストはニヤリと笑う。

 

『貰った!』

 

デザストは振り向きざまに首の赤いマフラーを伸ばしてセイバーを拘束、そのまま自分の元へと引き寄せた。

 

「くっ……この野郎!」

 

『終わりだぜ。オラァ!』

 

デザストは剣に赤いレーザーのようなエネルギーを纏わせるとセイバーを斬りつけた。その攻撃でセイバーは吹っ飛び、しかも、HPをたった一撃で0にしてしまったのだ。

 

「なんで……まさか、即死!?」

 

『その通り。この攻撃には5%の確率で相手を即死に追い込む事が出来る。運が無かったなぁ……』

 

デザストが言い終わる頃にはセイバーはポリゴンとなって消えた。だが、次の瞬間にはデザストの真後ろにセイバーがいた。

 

「確かに、お前も運が無かったな!」

 

『何!?』

 

「【竜巻】!」

 

セイバーが剣を振るうと小型の竜巻が発生し、デザストを飲み込むと彼を上空へと打ち上げた。

 

『チッ!!』

 

「おおらっ!」

 

セイバーは空中へと跳ぶとデザストが飛んでいく先に回り込んで剣を振り下ろし、デザストを地面へと叩きつけた。

 

その後セイバーもデザストの前に着地した。

 

『お前……何故生きてる?即死喰らったんじゃねーのかよ』

 

「スキル【空蝉】。1日に1度だけ致死ダメージを無効化し、その後1分間だけAGIを50%アップさせる事が出来る。これでお前の攻撃の即死を耐えたという訳だ」

 

『へぇ……やるじゃねーか。そうこなくちゃ面白くないねぇ』

 

「お前だって中々面白い勝負をさせてくれる。けど、勝つのは俺だ。【3豚刃】!」

 

するとセイバーの前に3匹の子豚が現れた。

 

「今回も建築宜しく!」

 

セイバーの指示と共に子豚達は走り出すと超スピードでレンガの壁をデザストの周り三方向に建築、セイバーはその周りをグルグル回り始めた。

 

『おい、何のつもりだ?てかどこ行った?』

 

デザストはこの壁のせいでセイバーを見失っていた。だが、セイバーは壁の裏に隠れておりデザストが自身がいる壁から背を向けた瞬間に飛び出すとデザストを斬りつけた。

 

「オラよ!」

 

『うわっ!?この野郎!』

 

デザストはHPを一定値まで減らされた影響か今度は首のマフラーを触手のように大量に展開するとマフラーを使ってセイバーを攻撃し始めた。

 

「【手裏剣刃】」

 

セイバーは翠風を手裏剣の形にするとそれを投げ、自身に近づくマフラーを弾き、セイバーはマフラーの中の一本に乗ってその上を走っていった。

 

『何!?』

 

「今度はこっちの番だ!」

 

セイバーはデザストに接近すると翠風を掴み二刀流状態でデザストを連続で斬りつけ、更には回し蹴りを叩き込んだ。

 

『ぐうっ……』

 

「もう一回!」

 

怯んだデザストへとセイバーは翠風をクロスさせるように斬撃を浴びせる。

 

 

『調子に乗るなよ!』

 

デザストはセイバーに飛びかかると脚でセイバーを挟み、自身の重量でセイバーのバランスを偏らせ、そのまま剣を振り下ろした。

 

「甘いね!【トルネードスラッシュ】!」

 

セイバーは翠風を1本の剣に合体させると竜巻を纏わせてデザストの剣を竜巻で弾き飛ばし、そのままデザストを振り落とした。

 

『なっ!!』

 

「そろそろ終わりだ。【疾風剣舞】!」

 

セイバーは翠風を投げるような動作をすると翠風から5つのエネルギー手裏剣が飛びだし、それらはデザストへと飛んでいく。

 

『この程度……喰らうか!』

 

デザストはそのエネルギー手裏剣を弾いていくが、5つの手裏剣は1つに合わさり、それは一際大きな手裏剣を作り出す。デザストはこれを剣で受け止めるが、中々弾けない。その間にセイバーは跳び上がって空中にいた。

 

「楽しかったよ。ありがと〜う!!」

 

そのまま自分ごと手裏剣のように回転し、デザストと拮抗しているエネルギー手裏剣を後ろから押し込んだ。更なる威力を得た攻撃はデザストの剣を弾き、本体を貫いていく。

 

『ぐああああああ!!』

 

デザストはHPを0にして爆散するとセイバーが地面へと降り立った。

 

「うっしゃあ!」

 

セイバーは一応撃破した事を確認するべく後ろを向くとそこには自身の影の中から声が聞こえてきた。

 

『よう。俺に勝った人間』

 

「……へ?」

 

『なーに驚いてんだ?こんなの普通じゃねーかよ』

 

「いや、何勝手に俺の影の中入ってんの!?てか、お前を倒しただろ!!」

 

『残念だが、俺は不死身なんだ。体の中にあるアルターライドブックと呼ばれる自身の核を壊さない限り俺は何度でも再生できる』

 

「へぇ。中々面白そうだけど、どうして俺についてくる?」

 

『お前が面白れー奴だからだ。こんなにも充実した勝負をしてくれたのはお前が初めてだったからな』

 

「はぁ……取り敢えずもう敵意は無いって見て良いか?」

 

『そう思ってくれて良いぜ。相棒』

 

「誰が相棒だこの野郎!!」

 

セイバーはデザストを捕まえようとするが、セイバー自身の影の中にいる彼が捕まるはずもなく、結局諦める事になった。こうして、セイバーに頼もしい相棒が加わる事になった。

 

「おい地の文!さりげなく相棒って書いているんじゃねーよ!!」

 

『別に事実だし、いーだろ』

 

因みに、セイバーがデザストを紹介するべく【楓の木】に帰ると、丁度全員揃っていたが、その際にデザストが影からいきなり出たためにお化けと勘違いしたサリーの叫び声が響いたとか。




今回からデザストが登場しましたが何故オリジナルに無い影に入る能力を入れたかというと、今後セイバーに同行させるには、影の中にいた方が都合が良いと思ったのでそのような能力を追加しました。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第6回イベント

セイバーがデザストを仲間にしてから時間は流れて、イベントが始まる2月になった。

サリーやクロム、カスミが最速で参加するのはもちろんのこと。セイバーも最速で参加しに行っていた。

そして、イベント開始から数日。今まで静かに休んでいたメイプルも、ついに探索へのモチベーションを取り戻したのかイベントが開始したらログインしてきた。

 

セイバーとメイプルが同時にギルドホームに入ると、入れ替わるようにクロムとカスミが飛び出していった。

2人が振り返って走っていくクロムとカスミを見つめていると、奥から近づいてきたサリーがメイプルの肩をポンと叩く。

 

「メイプルも来たんだね。今日から探索?」

 

「うん、久しぶりに頑張ってみる!」

 

「ならちょっと分かりやすくイベントの説明を」

 

「てか、俺はスルーかよサリー。悲しいなぁ」

 

「別にアンタは知ってるから良いでしょ?」

 

「はいはい」

 

2人は今回のイベントの概要を話し始めた。

今回のイベントはまず第一段階としてフィールドでのアイテム回収をし、そのアイテムを使い別フィールドへと移動するというものである。

また、それだけでなく移動先のフィールドのどこに着くかはランダムになっている。

 

「それで、その移動した先がジャングルね。運営によると貴重な素材がメインらしいよ……後はスキルもあるとか?」

 

「なるほどなるほど」

 

「それと注意点。ジャングルではHP回復アイテムとHP回復スキルは使えないらしい。メイプルなら……とりあえず【瞑想】が使えなくなる。そんでもって、死亡してしまうかステータス表示の下に追加されている【フィールドから出る】のボタンを押すかすると、町の広場に戻ってくる仕組みだ」

 

「という事は【身捧ぐ慈愛】とかはむやみに使わないほうがいいっていうこと?」

 

2人は頷く。

自分からHPをコストとして支払うのはリスクが高い行動だからだ。

また、貫通攻撃も基本受けてはいけないと言える。これでもまだ、メイプルは普通の攻撃に気を配る必要がないという点で、その他のプレイヤーよりも戦闘は遥かに楽なのである。

 

「じゃあ私はアイテム集めに行くねー」

 

「いってらっしゃい」

 

「俺もダンジョンに突撃するか」

 

2人はクロムとカスミのようにギルドホームを飛び出してそのままフィールドへと出ていった。

残されたメイプルはマイペースにてくてくと歩いてフィールドへと出ていく事になる。

 

「うっし、じゃあ早速行ってみよう!」

 

セイバーがアイテムを使用するとその体を光の渦が包んでいく。

そのまま光は空へと伸びてすうっと消えた。

 

セイバーを包む光が消えた時、周りに広がる景色は木の葉が風で揺れる音くらいしか聞こえない静かなジャングルがあった。

高い木が何本も並び、そこには蔦が垂れ下がっている。

 

「取り敢えず、今は誰もいない……かな?」

 

プレイヤーの気配もモンスターの気配もセイバーには感じられなかった。

イベントエリアのどこに出るかは様々である。

そのため、セイバーがどこかにいるかもしれないサリーやクロム、カスミとともに探索するというのは難しい。

 

「さーて、今回は何が見つかるかな?」

 

セイバーはジャングルの中を歩き始める。

何か変わったものがないか、キョロキョロと辺りを見渡していたセイバーは綺麗な赤い花を見つけた。

セイバーの腕の長さより少し短めの大きさの花弁が5枚付いており、甘い匂いが漂っている。

 

「あ、この花って確か……」

 

セイバーの姿を確認すると花はその茎を伸ばし、花弁でセイバーの上半身を包み込もうとしてきた。

外からその光景を見ているものがいればそれは補食と言えるだろう。

 

「もうその手は効かねーよ」

 

セイバーはすぐにバックステップを踏んで花を回避する。

 

「【火炎十字斬】!」

 

セイバーが僅か一撃で花のモンスターを沈めると消える寸前に甘い香りを弾けさせた。

 

「やっべ……この香りが弾けたら……」

 

セイバーは既にここに何度も来ているため、花の香りがただの癒しのための香りなどでは無い事を知っている。

 

すると茂みが揺れる音、木の葉のざわめく音、何か重いものが移動しているようなズシンズシンという音などが静かだったジャングルに響き始める。

それはどんどんと大きくなり、鳥や猿、動く植物、さらに苔むした岩で構成された巨人までもがセイバーを取り囲むように姿を見せた。

 

「やっぱこうなるよな?」

 

およそ10メートル先にいるそれらを見てセイバーは嫌な顔をした。

セイバーはこの状況になる事を理解していたため、再び剣を構えた。

 

「今回は楽しませろよ?」

 

セイバーは烈火を構えると敵を制圧し始めた。

 

「【爆炎紅蓮斬】!」

 

特にどのモンスターを狙うでもなく周囲へと放たれた斬撃はその圧倒的火力によってモンスター達にダメージを与えていく。

このダンジョンの木は燃えない事もあってかセイバーの攻撃の一部は木に妨害されて威力が落ちてしまうものの、体力が並レベルまでのモンスターは倒れていく。

しかし、素早いモンスターは木の陰を上手く移動してセイバーまで辿り着いた。だが、接近するという事は当然セイバーのリーチに自ら入る事になる。セイバーは内心ほくそ笑んでいた。

 

「ありがとうな、わざわざ射程圏内に入ってくれてよ!」

 

セイバーの見事な剣捌きによって敵モンスターはセイバーに全くダメージを入れられない内に次々とやられていった。

 

「そんな程度じゃ当たんねーよ。ブレイブ【覚醒】!【火炎放射】!」

 

セイバーの背後にいる敵もブレイブの炎が進路を妨害し、その間にセイバーが斬り捨てる。セイバーがトドメを刺し損ねて僅かにHPが残った瀕死のモンスターはブレイブが焼き尽くす。このようにモンスターが大勢いようとも、連携が取れないのではセイバーに勝つ事は不可能であった。

 

「そろそろ終わり……かな?」

 

セイバーが石の巨人を倒すとその足元からひょこっと顔を出した赤い花が出てきた。ちょうどそのタイミングでブレイブが火炎放射を花の方向へと放っていた。

 

「っ!?ヤベッ!」

 

 

セイバーは慌てて火炎放射の前に回り込むとそれを剣で斬りつけて軌道を逸らした。だが、次の瞬間にセイバーへと攻撃しようとしていた動物の口から発射されたビームが花の中心を貫いた。

 

「あ………」

 

瞬く間に甘い香りは広がっていき、騒がしくなったジャングルはより一層その騒がしさを増していく。

 

「オイふざけんなよ折角ここまで倒したってのによ!!」

 

セイバーはもうやってられないと言わんばかりに叫んだ。

結局、その後1時間の間、セイバーは迫り来るモンスターを倒す事に時間を取られるのであった。

 

 

 

 

 

〜1時間経過〜

 

「はぁ……はぁ……やっと止まったか……」

 

セイバーは息を切らせながらもあの猛攻を凌ぎきっており、しかもダメージを受ける事すら無かった。

 

だが、弱体化したセイバーだと制圧力が落ちてしまい他の人と比べるとかなり遅れてしまっていたためセイバーは慌てて探索を再開した。暫く歩いていると突然セイバーの目の前に何かの遺跡が現れた。

 

その遺跡は石でできていたものの、成長して伸び放題となっていた蔓や苔がこびりついたりしておりかなり古びている様子だった。

 

「何だ?ここ……」

 

するとセイバーの目の前に門番と思わしき石でできた巨大な騎士が現れた。

 

『……貴様は何者だ?』

 

「セイバーだけど、あなたは一体……」

 

『お前が聖剣を受け継ぎし者か。中へと入るが良い。あるお方が待ち望んでいる』

 

「は、はぁ……」

 

セイバーは中へと入っていくととある個室の中へと案内され、門番が何かのサインを書くといきなり転移の魔法陣が目の前に現れた。

 

「嘘ぉ!!」

 

『この中に入るのだ。そうすれば全てがわかるであろう』

 

するとセイバーはその中へと吸い込まれていった。

 

セイバーが次に目を開けるとそこには森の中にある新しい遺跡があった。

 

「ここは……」

 

『ここは私の主君が戦いの傷を癒すべく訪れた土地。アヴァロンである』

 

石の騎士がセイバーを導くと新しい遺跡の中へと入った。その中の一室には鎧を着た男が玉座に座っていた。

 

『セイバー……だったか?聖剣を集めていると噂に聞いた』

 

「そうですけど……あなたは?」

 

『私の名はアーサー王。この剣、エクスカリバーと共に幾多の戦場を駆けては敵を倒していった』

 

……アーサー王の伝説はだいぶ前に本で読んだ事はある。けど、確かアーサー王がアヴァロンにいると言う事は……。

 

『私は仲間の裏切りに遭ってしまった。最早私はここまでだ。最後に俺の力を託す者が必要だ』

 

「……何故あなたほどの人がそんな簡単に諦めるのですか?俺に託したとしても俺は力を誤った使い方をするかもしれませんよ?」

 

『……確かにそうかもしれないな。だが、私はお前を信じている。かつて仲間であった円卓の騎士を信じていたようにな』

 

「……」

 

『それに、力をどう使うかは力の持ち主が決める事だ。では、私の剣をお前に託す』

 

そう言うとアーサー王は近くに刺さっていたエクスカリバーを抜くとそれは空中を浮きながらセイバーへと託された。その瞬間、剣は光り輝くとその形を変えていき、最終的にはエクスカリバーは水色で上から塗装されていき、持ち手の部分は人の足を思わせており、もう片方の足は剣の左側の鍔の部分と合体しているような形となった。

 

そしてエクスカリバーは新たな名前を得る事となった。その名も……

 

「キング…エクスカリバー」

 

『キングエクスカリバー』

【STR+30】

【破壊不可】

【キングスラッシュ】【巨剣両断】【王の目覚め】

 

するとセイバーの鎧の左側が輝き、肩にアーサー王の頭を模したアーマーが装着されて更には左腕や左足には水色の塗装が入った。

 

「おお。この感じだとパワーを上げてくれそうだけど若干重いな。多分これ、数値上には出ないけど機動力が低下しそう。激土は相性良さげだけど翠風は逆に相性悪そうな感じ……かな」

 

セイバーが感想を述べているといきなりアーサー王が苦しみ始めた。

 

『ぐああああ!!』

 

「な……いきなりなんだ?」

 

『く……セイバーよ、私はここで消えるが、お前が私の代わりにその剣で皆を導いてやれ……後は任せるぞ!!』

 

するとアーサー王が光となって消えると同時にアーサー王のいた所に闇のオーラを纏った騎士2人も立っていた。

 

『我が名はランスロット』

 

『私の名はモードレッド』

 

『『お前があのアーサー王から力を受け継いだ者か。私達の手で殺してやる』』

 

「……へ?ちょちょちょちょっと待てーい!!」

 

セイバーの静止も聞かず2人は突如としてセイバーへと剣を振るって攻撃を開始した。

 

2人は手にした剣をセイバーへと振り下ろす。セイバーはこれをキングエクスカリバーで受け止め、烈火で横に薙いで2人を後ろへと下がらせた。

 

「いきなり不意打ちとは中々厄介な事をしてくれるなぁ、オイ。俺に手を出した事後悔させてやるよ」

 

セイバーは烈火とキングエクスカリバーによる二刀流で2人と斬り合いを始めた。ランスロットとモードレッドは2人がかりでの見事な連携攻撃をセイバーへと放ち、1人がセイバーと真正面から打ち合っている間にもう1人が死角からの攻撃を仕掛け、セイバーもこの連携には苦戦をしていた。

 

「流石に強いな……。しかも、どっちかは必ず俺の死角に入るように立ち回ってる。連携力も中々侮れない……。こいつは参ったなぁ……」

 

セイバーが嘆いているといきなりキングエクスカリバーが発光を始めた。

 

「……ん?もしかしてこの剣には真の力か何かでもあるのか?」

 

セイバーがそう言うとキングエクスカリバーから全く同じ剣が出てきてそれは巨大化。元の剣の数倍はあるであろう巨大な大剣が空中に浮かんだ。

 

「なんだこれ?見た感じキングエクスカリバーと同じだけど、もしかして操れたりする?」

 

セイバーが試しにキングエクスカリバーを振ると巨大なキングエクスカリバーも全く同じ動きをした。

 

「あ、こういう感じね。それじゃあ逆襲行ってみよう!」

 

セイバーはキングエクスカリバーの使い方を理解すると2人のリーチの外から剣を振った。すると巨大なキングエクスカリバーがそれに連動。2人へと巨大なキングエクスカリバーが振り下ろされた。

 

『むっ!?』

 

『な、何!?』

 

「決めるぜ。【巨剣両断】!」

 

セイバーがエネルギーを高めると巨大なキングエクスカリバーの方の刀身が水色に輝き、そのままランスロットを両断して撃破した。

 

『ぐああああ!!』

 

モードレッドはこれを見て一瞬の狼狽えを見せるが、すぐに気持ちを持ち直すと自身の体を巨大化していった。そしてモードレッドは天井を破壊すると空が見えるようになった。

 

『おのれ!貴様だけは許さん!!踏み潰してくれるわ!』

 

「はぁ!?巨大化とか聞いてない!!流石にこれはヤバいって!!」

 

セイバーはモードレッドから振り下ろされた剣を巨大なキングエクスカリバーで受け止めるが、その圧力に吹っ飛ばされた。

 

「痛ってぇ……巨大なのにはどう太刀打ちしろと……あ。もしかしてこの剣に何かあるのか?」

 

セイバーは何かを思い付いたのか自身の持つキングエクスカリバーをいじると剣の裏に小さなスイッチがあり、セイバーはそこを押すと口が勝手に動き、スキルを叫んだ。

 

「見〜つけた。よっと!【王の目覚め】!」

 

するとセイバーの上にある巨大なキングエクスカリバーから歌か流れ始めた。

 

《キング・オブ・アーサー!から〜の〜!剣が変形〜!巨大な剣士が目を覚ます〜!キング・オブ・アーサー!!》

 

「は?歌?」

 

それと同時に巨大なキングエクスカリバーの持ち手がずれていき、鍔の一部となっていたパーツと合わせて2本の足となり、更には鍔の部分から剣の刀身にかけての部分が180°回転。鍔の部分は少し後ろにスライドしてから両側に少し開き、剣の先端は横に90°回転して顔となった。

 

巨大なキングエクスカリバーは巨大な剣士の姿になったのである。更に刀身の一部は新しい剣となり彼の左手に握られた。

 

「おお。これならいけそう!おりゃあ!」

 

セイバーが再びキングエクスカリバーを振ると剣士も連動して剣を振るいモードレッドを斬り裂いた。

 

「オラオラオラァ!!」

 

さらに上段からの斬り下ろし、そのまま右下から左上への斬り上げ。続けて左から右への薙ぎ払いがモードレッドを襲った。

 

『ぐぬう……最早これまでか。ならば私の最後の足掻きを受けるがいい!』

 

モードレッドが手を挙げると突然巨大な隕石が出現、セイバーの元へと落下してきた。

 

「待て待て待て!!あんなの落ちたら終わるだろ俺!!あーもう!こうなったら俺が斬るしか無い!!」

 

セイバーがそう叫ぶと自身の背中に違和感を感じた。

 

「あれ?なんか今背中に何かを感じたような……」

 

セイバーが言い切る前に背中に折りたたまれていたブレードがセイバーの頭にフィットするように展開。そのままセイバーの体は空中へと浮いた。

 

「え!?え!?何何何何何何!!!」

 

巨大な剣士はセイバーの体を掴むとさながらセイバーその物を剣として見ているかのように二刀流として構えた。

 

「オイオイオイ、俺が斬るってこういうつもりじゃ無いんですけど!?この際しょうがない!!【キングスラッシュ】!!」

 

巨大な剣士はセイバーの剣には灼熱の炎を、自身の剣には水色のエネルギーを纏わせてから2つの剣をクロスさせるようにして隕石を4つに分轄させて消し飛ばした。

 

「もう一回!【キングスラッシュ】!」

 

さらにセイバーはスキルを言うと巨大なキングエクスカリバーがそれに応えるようにモードレッドを2本の剣で真っ二つに斬った。

 

『む、無念!!』

 

モードレッドは大爆発を起こすと消え、セイバーはキングエクスカリバーから解放されて元の姿に戻った。

 

「ふう……なんとかなったけど、もう今日は疲れたなぁ……。報告はまた明日にしてログアウトするかぁ……」

 

流石のセイバーも自分自身が剣となって巨人に振り回される事になるとは思っていなかったのかセイバーの疲労は濃く、今回はログアウトする事にした。




ようやくキングエクスカリバーを出すことができました。補足しておきますが、キングエクスカリバーは聖剣とは別の枠です。次回はイベントの続きとなります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと骨の王

セイバーがキングエクスカリバーを得て2日後。メイプルも転移するためのアイテムを集め、ジャングルでの探索に参加する事になった。

 

その日、メイプルは単独行動の後にペインと合流し、サリーは1人で蜘蛛のモンスターを攻略。カナデとクロムはそれぞれマルクスとミザリーと協力してのジャングル攻略を進めていた。

セイバーはというと、今日もジャングルの攻略を進めていく。狙いはMPをアップさせる効果を持つスキルを得られる場所だ。

今回もセイバーは毎度の如く1人で挑む予定だったのだが……セイバーにとって予定外の事が起きた。

 

「どうやらここでMPを増加させるスキルが得られるらしいが……なんであなた達がここに……ミィさん、フレデリカさん」

 

「私達魔法を使う者がここに来ない訳がないだろう」

 

「それよりも寧ろセイバーの方がここに来る理由がわからないんですけど〜」

 

「俺としてもMPが幾らあっても足りないんですよ。ここ最近はMPの消費が激しい上にそれを回復させるための手段が乏しいから黄雷とかで思いっきり暴れられないんです。激しいMPの消費をポーションに頼るのでは限界がありますからね」

 

このとき、セイバーと同じくクエストに挑戦しようとしたミィやフレデリカと鉢合わせていたのだ。

セイバーは2人には装備が弱体化した事を伏せた。言ってしまえば弱くなったという事を二大ギルドの主要メンバーに晒す事になるからである。

 

「まぁ、確かにアンタがこの前キラーと始めてやった時の映像と第1回イベントで蹂躙する映像の両方を見たけど黄雷を使った時の制圧力にかなり差があったし、もう少しMPが欲しくなるのもわかるよ」

 

「取り敢えずここは3人の利害が一致しているって事で3人がかりで攻略するってのはどうですか?」

 

「私としてはそれがありがたいが……良いのか?」

 

「ああ。俺としても2人の力は確認しておきたいですし、MPアップも得られるのなら一石二鳥ですよ。そしてそれはあなた方2人も同じ」

 

「お見通しかぁ……流石に第4回イベントでランカーキラーとして恐れられる暴れっぷりをしただけの事はあるわね」

 

「3人の意見が一致した所で行きましょうか」

 

「そうだな」

 

「良いよ〜」

 

こんな感じにセイバー、ミィ、フレデリカによる共同戦線が張られる事になった。

 

3人が歩いていると不自然にぐにゃりと曲がった木々があった。

 

3人は歪んだ木々の森をさらに中央へと進んでいくと、何本もの太く大きな木が絡み合ってできた大木が現れた。

木の根元には入口があり上へと繋がる木の階段が見える。

 

「取り敢えず、自分が先頭いきます。ミィさんは防御より攻撃型だと思いますし、フレデリカさんも前衛張るのはあまりやりたくないと思うので」

 

「それなら任せるぞ」

 

「私もいつもはドラグとかと組んで壁役になってもらってるからそれがありがたいかな。それに回復は無理でも防御系の支援はかけられるし」

 

「激土、抜刀」

 

セイバーが防御力に優れた激土を装備すると3人は木の階段を慎重に登っていった。

 

3人は警戒しつつ階段を上り、何事もなくその頂上へと辿り着いた。

大きな木の枝は3人が立ってもまだ十分な広さがあった。

また、その場所には爽やかな風が吹き抜け、木の葉の揺れる音が響いている。

落ち着く緑と風の中、1本の枝の先に緑色の魔法陣が輝いていた。

 

「入りますか?」

 

「ああ、当然だな」

 

「私も良いよ」

 

3人はコツコツと音を鳴らして枝の上を歩いていく。そうして接近した魔法陣はキラキラと輝いており、3人を誘っている。

セイバーが魔法陣に触れるとその体は緑の光に包まれて消えていく。

2人もセイバーの後に続き、3人はどこか別の所へと降り立ち目を開けた。

 

先程とは一転、恐ろしいほどに静かな森。

立ち並ぶ木、青々とした葉。

瑞々しい赤い果実が輝く茂みに、高い空から見える青。

しかし、いきいきとしたその森には一切の音がなかった。小鳥のさえずりも木の葉のざわめきも、3人の足音さえ鳴りはしないのである。

 

 

この森の中をどこへ向かえばいいのか、既にメモという形でその手に持っているセイバーは時折それを確認しつつ、無音の森を進んでいく。

 

「2人共、コース外れるとモンスターが出るんで注意してください」

 

「わかった」

 

「オッケー!」

 

セイバーの後ろをミィとフレデリカはついていく。

そうしているうちに、3人はこの森に一度もモンスターの声を響かせることなく、目的地に辿り着いた。

 

風に木の葉が舞う広場。その奥には直径1メートルほどの切り株が1つあった。

 

「さーて、そろそろボスが来ると思うんだが……」

 

「ああ。気をつけて進むぞ」

 

3人がそれぞれの武器を構えるとそれと同時に切り株の上で緑の光が形を成していく。そして、それを突き破るようにして全身が木で構成された人間が現れた。

 

その人間は160センチほどの小柄な体で、ツタと木の葉でできた帽子を被っている。

また、右手には同じく木でできたシンプルな杖を持っており、杖には花のついたツタが巻きついていた。

 

ボスモンスターへと3人が攻撃するよりも先に、ボスはその杖を振りかざすと木の葉が舞い上がり3人に迫ってくる。

ミィとフレデリカはするりと木の葉の横を抜けてボスに攻撃し、セイバーは咄嗟に剣を変えた。

 

「烈火抜刀!」

 

木の葉がセイバーを取り囲もうと迫ってくる。

木の葉の効果は、現在の装備をインベントリの中の装備とランダムに入れ替え、戦闘終了まで固定するというものだった。

セイバーは聖剣を強制的に変えさせられた際に相性の悪い物で固定されると困るために木の葉を破壊する方針にした。

 

「喰らうかよ。【神火龍破斬】!うおらあっ!」

 

セイバーの斬撃は迫り来る木の葉を跡形も無く焼き消していく。

 

「それじゃあ私も働きますか〜。【多重障壁】、【魔力障壁】!」

 

フレデリカは後衛らしく2人へと防御力上昇の支援魔法をかける。そうして防御面で万全になれば前衛の2人が思いっきり暴れられるものだ。

 

「【炎帝】、【爆炎】!!」

 

「【紅蓮爆龍剣】!」

 

2人から放たれる最高クラスの攻撃力がボスのHPを容赦なく奪う。

 

「短期決戦でいけますか?」

 

「勿論だ!」

 

セイバーは勢いのままに剣を振るい、ミィは最強クラスの火力を撃ちまくる。

ボスの作り出す木の壁も、ツタの鎧も切り裂き、焼き払い、真正面からその全てを越えていく。

 

フレデリカはセイバーやミィの火力をサポートや、2人の防御面のケアをして敵の攻撃を遠くからの援護射撃で撃ち落としていく。

ボスの撃ち出す風の刃も、セイバーとミィは木の葉の渦もはじき返して真正面からその全てを踏み潰していく。

 

この3人はここのボスモンスターが1人きりで勝てる相手ではなかった。

 

それから3人はスキルを得るとダンジョンの外に出た。

 

「よし、目的も達成したしこれからどうします?」

 

「私はまだここに残って森の奥に進むつもりだ。セイバーは?」

 

「俺もそのコースですかね。もう少し攻略したいですし」

 

「私はこれから行きたい所あるから別行動で良いかな?」

 

「良いですよ。フレデリカさんはフレデリカさんなりの考えで動いていると思うんで」

 

「それじゃあまたどこかで会えたら今度は2人共倒すからね」

 

「俺はいつでも受けて立ちますよ」

 

「また会おう」

 

「じゃ、ばいばーい」

 

そう言ってフレデリカは2人と別れた。それから2人はゴーレムが溢れる森の奥へと向かうことにしたのである。

 

2人は湧き出てくるゴーレムを倒しながら暫く歩いていると大量のゴーレムがうごめく音が聞こえてきた。

 

「む、この音は……」

 

「うーん。どうやら近くにプレイヤーがいるせいかかなりの数になってますね……取り敢えず制圧しましょうか」

 

2人がゴーレムを焼き払っていると近くでしていた戦闘音がさらに大きくなっていき、2人にもそのメンバーの戦い方が把握できるようになった。

 

「この感じだと……クロムさんとペインさん、カナデがいる感じかな。んで、あとの2人は……」

 

「おそらくマルクスとミザリーだな。この2人がいるのなら…」

 

 

何故ペインと合流していたメイプルがいないのかというと、メイプルはうっかり【身捧ぐ慈愛】を使ってしまいHPが大きく減ってしまったので離脱していたのだ。

 

そのような事はさておき、ミィは大きな火柱でゴーレムを足元から燃やしていく。ミィの周りのゴーレムとペイン達の周りのゴーレムがそれぞれ巻き込まれていった。セイバーは烈火でゴーレムの足元を斬りつけていく。

流石に倒すまではいかないものの、ゴーレムをよろめかせた。

ペイン達5人はその隙をついてゴーレムの足下を抜けてセイバー、ミィと合流した。

 

ペイン達としても2人と合流できるのはありがたいと思ったのか共闘を受け入れた。

 

クロムとカナデはセイバーと会うと言葉を交わした。

 

「お、やっぱりセイバーもいたか。前衛が増えるって意味でもありがたい」

 

「セイバー、敵の制圧よろしくね」

 

「了解!」

 

一方でミィはマルクスとミザリーを確認するとミザリーに呼びかけた。

 

「ミザリー!」

 

「はい、分かっています!」

 

細かい指示など必要ないと、ミザリーは即座に行動する。

このダンジョンのルールの都合上、仲間の回復が出来ないために自身の持てあましているMPをミィに譲渡したのだ。

 

「いくぞ……!」

 

「フルパワーで片付けてやる」

 

ゴーレムの足音とぶつかり合う音でスキル名はかき消されてしまったものの、起こったことは強力なスキルを連想させた。

 

一瞬にしてセイバー達全員の両側にできあがったのは揺らめく炎の壁、内側は1本の道となりゴーレムを隔離して真っ直ぐ続いている。

 

「【隠密の花】」

 

マルクスがその言葉を小さく口にすると、周りにいる全員の体に細いツタが一本巻きついてその頂点で白い花を咲かせた。

 

モンスターに視認されていない時に使うことができるそのスキルは、それなりに重い消費と引き換えに対象を30秒間モンスターから見つからなくしてくれる。

 

効果が切れると花が枯れて落ちていくという風になるため持続時間は分かりやすい。

 

「ゴーレムはプレイヤーを見失って少しすると消滅するぞ」

 

ミィはそう言うとできあがった炎の道を歩いていこうとする。

 

「私達も行きましょう。炎の壁もそこまで長くはもちませんから」

 

ミザリーはそう言うとミィの近くまで行き耳元でこそっと話しかけた。

 

「私達と一緒に行きませんか」

 

「お願い……私1人じゃ本当に大変で……特にセイバーの前でキャラ作るの……」

 

メイプルにバレてから少しして、気が緩んでいたミィは即座にボロを出してミザリーにもキャラ作りが露呈したのである。更に、ミィはどういう訳か、セイバーと行動していると自分が作られたキャラで接するのにどこか恥ずかしさを持ち始めていたため、心細かったのである。

ただ、ミザリーと楽に話せるため、ギルド内で過ごしやすくなりもした。

 

ミィの言葉を聞くとミザリーはペイン達の方を振り返って話す。

 

「ミィもついてきてくれるそうで、戦力増加ですよ!」

 

ミィは堅苦しいキャラを作っているため、それを理解して橋渡しをするミザリーは重要な役割を持っているのだ。

 

「僕の魔法攻撃は不安定だし、助かるな」

 

断る理由もなくすんなりと受け入れられたミィが、こっそりほっとしていたのに気づいたのはミザリーだけだった。

 

「ならもう行こう、時間がないんだろう?」

 

「えぇ……多分激土なら逃げる必要なく蹂躙出来るのに?」

 

「僕達としてはこれ以上の戦闘は避けたいかな」

 

「はーい。わかりました……」

 

セイバーは渋々承諾し、一行は話を切り上げて歩き出す。

そうして隠密の効果が切れる前にゴーレムの包囲網を抜け出すことができた。

ジャングルが燃え上がらないようにできていたことはミィにとって救いだっただろう。

 

1人も欠けることなく全員で進んでいく。

 

「見えてきたな」

 

守護者であるゴーレム達を突破したのだから、その先にあるのは当然守られている何かである。

ペインが指差す先には苔むした岩でできた遺跡があった。

その遺跡の奥、一際大きい建物が強い存在感を放っている。

遺跡の周りにはモンスターはおらず、順調に奥の大きな建物まで行くことができた。

 

7人の前には地下へと続く長い長い階段がある。

下りない理由はなく、全員が地下へと足を踏み入れた。

未だ突き止められていない、守られている何かを手に入れるために。

 

7人は明かりのない階段を降りていく。

階段は途中で折れまがり、地上からの光も次第に届かなくなってくる。

 

「ランタン、用意しますね」

 

ミザリーがランタンを出して暗い階段を照らす。

1つだけでも十分な明るさを確保することができていた。

 

「何も出てこないな……」

 

「俺の【気配察知】でもかかりませんね……」

 

クロムは大盾を構えつつ、セイバーは月闇を片手に持ちながらキョロキョロと周りを確認する。辺りには仄暗い闇に覆われた壁があるばかりだ。

 

「……!何か見えてきてる、っ……ように思うが?」

 

「ミィ!?」

 

ミザリーがチラッとミィの方を見る。

ミィは斜め下に視線を逸らしていた。

隣にミザリーがいるという安心感は恐ろしいものである。

 

「いや、ああ分かっている……もう少し下った先で階段が終わっている。扉があるな、要警戒だ」

 

「確かにそうですね。何が来ても対応できるようにしましょう」

 

そう言うミィの両目はうっすら赤く輝き、セイバーの目は薄い紫の輝きをしていた。

ミィは暗視効果のあるスキルで他のメンバーよりはっきりと先が見えているのである。

セイバーも月闇を装備しているため暗視効果はセイバーも発動している。

 

ミィの言った通り、そこには石でできた扉があった。と言っても、手をかけて横へスライドさせるためのへこみがあるだけのものである。

クロムはそれに手をかけるとぐっと力を入れて扉を開けようとした。

 

「ん?……駄目だ。開かない」

 

「【STR】値要求かもしれない。代わろう、俺がやる」

 

ペインは剣を鞘に収めると力を込めて扉を動かしにかかった。

すると、ゴリゴリと石を引きずる音と共に扉がゆっくりと開いていく。

 

そして、同時に眩しいほどの光が溢れ出した。

その先にあったのは上下左右、乱雑に張り巡らされた通路や階段。

また、あちこちで輝く魔法陣や、1つだけある意味深な古びたレバーである。

 

一言で表すならば迷宮といったような、そんな雰囲気を漂わせる景色が7人の目の前には広がっていた。

 

「あー……どこから行く?」

 

クロムが隣のペインに聞く。

 

「選択肢が多すぎる。流石にこれはな」

 

ペインがチラッと左を見るとそれだけで魔法陣が5、6個は確認できた。

面倒この上ないと言える。

 

「どうする……僕はどこから行ってもいいよ?」

 

マルクスが【暴虐】メイプルに会った時の表情を半分ほど薄めた表情で言う。

つまりもうかなり帰りたくなっているのだが、そうしないのは最もいいと言えるほどのメンバーが集まっているからだろう。

 

「適当に侵入すればいい。モンスター程度なら問題はない。それに、考えていても答えなどない」

 

「ええ、そうですね。ミィ、私もとりあえず魔法陣かもしくはレバーを触ってみることを提案しますね」

 

「僕は道だけ記録しておくよ。迷って、どう進んだか分からなくならないように」

 

そうして全員の方針は固まった。

近くのレバーを切り替えてみるのである。

 

「おーけー、やるぞ?」

 

クロムがレバーに近づき手をかけて、6人の方を振り返る。全員が小さく頷いたことを確認するとクロムはレバーを逆方向に倒した。

 

その瞬間、張り巡らされた階段はゴトゴトと組み変わりその向きを変え、壁が開いて新たな通路ができ、先程までの通路が消えていく。

魔法陣は薄れて消え、別の場所で再び輝き出す。

 

レバーを一度倒しただけで、迷宮はその様相を完全に変えてしまった。

 

「ええ……」

 

マルクスが【暴虐】メイプルと会った時の顔でこぼす。

レバーを倒したクロムも渋い顔をしていた。

 

「これはちょっと想定外かなぁ……」

 

「どうするペイン。次に試す所を決めてくれても構わないが?」

 

「正直面倒極まりない。ははは、クロム、セイバーどうする?」

 

前衛3人がどうするどうすると言っていたところでカナデが話し始めた。

 

「どの階段も通路も魔法陣も入れ替わったように見えるけど……1つだけさっきのままの通路があるしそこに行ってみるのはどう?」

 

カナデは先程の光景をそのまま全て覚えていた。

6人が見つけられずとも、カナデの目には違和感としてはっきりとその通路が映っていた。

 

その提案に反対する理由もこれまたなく。

全員がカナデに指示された方向へと向かう。

カナデの言う通路を通った先にはまた一つ似たような作りの部屋とレバーがあった。

 

「これの繰り返しとなると……ほとんどはトラップなのかもしれませんね」

 

「うーわ。ってかこれカナデいなかったらかなりヤバかったかも」

 

「カナデ、頼む」

 

「もちろん!」

 

こうして7人は進む。

凶悪なモンスターや即死クラスの罠をするりするりとすり抜けて。

遺跡内の罠全ては1人のプレイヤー、カナデによって崩れ去っていった。

遺跡を守る叡智はさらなる叡智に敗れたのである。

 

7人は地下へ地下へとゆっくりと下っていき、そして今までとは明らかに雰囲気の異なる部屋へと辿り着いた。

部屋の最奥、金と宝石で飾られた大きな棺があるだけで他は何もないのである。他はサラッとした砂が乾いた石の床を覆っているだけで、地面そのものに異常は見られない。

 

地面に横たえられたその棺は5メートルほどあり、中にまともなものが入っていると思った者は7人の中には1人もいなかった。

 

そして、その予感は的中する。

 

7人の存在を感じ取ったのか、ゆっくりと蓋がずれ音を立てて外れた。

 

中から出てきたのは未だ輝きの残る王冠を頭に乗せ、金でできた杖を携えた骨の王だった。

目の部分、暗い穴の向こうからその穴を拡張するように黒い炎がなびいている。

 

「来るぞ、構えろ!」

 

「さてと、今回は楽しめるかな?」

 

そのセイバーとペインの声と骨の王の行動は同時で、戦闘が始まった。

同時に真っ先にセイバー、ペイン、ミィがボスに向かって飛び出していく。

クロムがそれを追いかけようとした時、ボスが持つ杖の先端で青い炎が燃え上がった。

その途端、なんの変哲もなかった地面を突き破って次々と武器を持ったスケルトンが現れる。

その手に持った錆びた槍や剣からは黒い雫がポタポタと垂れていた。

 

「クロムさん、後衛頼みます!」

 

セイバーが行く手を阻むスケルトンを切りとばしながら叫び、ペイン、ミィもそれぞれスケルトンを倒していく。

 

「ああ!【挑発】!」

 

クロムは足を止めて、後衛3人の前で盾を構えた。部屋全体から湧くスケルトンが、後衛に直接迫ることは避けなければならないのである。

 

そうしてガードを固めたクロムの後方から炎の塊や唸る風の刃が次々に打ち出された。

カナデは範囲攻撃ができる魔導書を使って、そしてミザリーは持ち前の範囲魔法で攻撃する。

 

マルクスはクロムをサポートすべく罠でスケルトンを拘束し負担を減らしていく。

しかし、【挑発】を使っていることもありクロムに集まるスケルトンは多い。

 

クロムはうまく大盾で捌き、鉈で斬り伏せてはいたものの、とうとう腕に槍が突き刺さった。

クロムはすぐに対応し、大盾で突き刺してきたスケルトンを弾き飛ばしたものの、腕からは赤い光が溢れている。

 

「ダメージ自体はたいして……くそっ!マジかよ!皆気をつけろ、骨の攻撃にはHP減少効果があるみたいだ!」

 

クロムのHPは今もじわじわと減少している。

それは数秒して止まったものの、毒でもないその効果には対処法が現状存在しなかった。

 

「スケルトンは無限湧きのようです!」

 

「なら……ミィとペインの周りを撃って。ここは罠で頑張るから」

 

マルクスが腰につけていたポーチから結晶と何かの種を取り出し、ばら撒いた。

結晶が弾けると、近くにいたスケルトン数体をバチバチと音を立てる光が縛り上げる。

種は急成長し、太いツルが壁を作り上げて、スケルトンを遮断した。

 

それを見たカナデとミザリーはより前方へと魔法を撃ち始めた。

ボスに近づくほど多くなるスケルトンに足を止めさせられていたセイバー、ペイン、ミィだったが、強力になった支援攻撃のお陰で、ついにボスの間近まで行くことに成功したのである。

 

「炎は効くか?」

 

ぐんっと腕を振って【炎帝】によって現れた炎の玉をボスに直撃させると、HPが目に見えて減少していく。

 

しかし、HPが減少すると同時、噴き上がるはずの赤いダメージエフェクトはドス黒い液体に置き換わっていた。

ミィは直撃こそ避けたもののその液体をいくらか浴びてしまった。

 

「HP減少か……!」

 

HP回復がないこのエリアにおいては面倒この上ない攻撃性能でミィのHPを削っていく。

 

「おいおい、相手の攻撃を利用してくるタイプの敵か?ここじゃあ厄介すぎるだろうがよ!」

 

「だが脆い【断罪ノ聖剣】!」

 

ペインが剣を振り抜く、ボスがガードしようと構えた杖を弾き上げ、肉のなくなった胸から顔にかけてを深く切り裂いていく。

黒い液体を浴びつつペインが追撃しようとした所で棺の中から黒い液体がドロリと溢れ出した。

 

「くっ、セイバー、ミィ!」

 

「もう一撃!」

 

「俺も働きますよ!【月闇居合】!」

 

ミィはボスの頭部に、セイバーはボスの腹に火球と紫の斬撃を叩きつけて怯ませるとペインと共に一旦距離をとった。

3人の下がる場所のスケルトンは、後方からの途切れない魔法で倒され続けているため、ボスに集中することができるのである。

 

棺の中から溢れ出た黒い液体はボスの周りの地面を覆い尽くすと止まった。

歩いて近づくためにはそれなりのダメージと引き換えにする必要がある。

 

さらに、ボスが杖を天井に向かって放り投げ、それは天井に吸い込まれていった。

そして黒い輝きがボスの骨の体を覆っていく。

それに伴いスケルトンの半数ほどが力を失い消えていったが、代わりに天井から黒い雫がポタポタと滴り始める。

見覚えのあるそれは1ずつ確かにHPを削っていっていた。

 

「全員前に出ろ!総攻撃だ!」

 

「ったく、俺の本気を出させるんじゃねーよ!!【ダークスピア】【ムーンブレイク】!」

 

セイバーとペインが再度突撃する。それに合わせ後ろにいた4人もボスに攻撃が届く位置まで前進する。

 

しかし、それら全ての攻撃の威力はボスの体を覆う黒い輝きがより強くなった瞬間に大幅に減少してしまった。

 

「クロム……!ボスの側まで行ける?今、ボスに強力なバフがかかってる……解除するから」

 

そう言うマルクスの右目の前にはまるで片眼鏡でもしているかのような白い円が浮かんでいた。

つまり、これによりボスのデータを見抜いているわけである。

 

「2人は何とかなるか?」

 

「僕が防御系の魔導書を使うよ!大丈夫」

 

「いや、移動の間にダメージを受けないっていう意味なら俺の方が行ける」

 

「そうか?なら任せるぞ」

 

セイバーはマルクスの隣にまで戻るとすかさずマルクスの手を握り、スキルを発動した。

 

「【闇渡り】!」

 

セイバーは月闇で空間を斬り、その中へとマルクスを連れて入ると数秒後にボスの後ろにまで出てきた。

 

「よし……【聖なる鎖】!」

 

ボスの体の周りに黄色い魔法陣が次々と現れ、そこから白く輝く鎖が伸びて、ボスの体を締め上げる。

ボスを覆っていた黒い輝きは消えて、さらに動きを3秒間完全に止めるおまけ付きである。

その3秒はセイバー、ミィ、ペインを前にしてはあまりに重いものだった。

 

「終わらせる!」

 

「当然!」

 

「闇の中に消えろ」

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

「【炎帝】!」

 

「【暗黒闇龍剣】!」

 

ミィの火球が骨を焼き、火柱が棺もろとも焦がしていく。

ペインの聖なる連撃がボスの顔面を横一文字に叩き斬る。

そしてセイバーの放った暗黒龍がボスの顔を噛み砕いて破壊した。

 

黒い雫が全員のHPを半分以下にした頃、骨の王は再び眠りにつくこととなった。

 

骨の王は光となって消えていき、そこには棺だけが残った。

7人がその棺の中を覗き込むと、そこにはいつかの埋葬時に入れられたようにして、7つの巻物と見覚えのある7つの銀のメダルがあった。

 

他にも錆びた剣などは転がっていたものの、アイテムとして取得できたものはその2種類のみだったのである。

 

7人はそれぞれに報酬を手に入れ、そして巻物に入っているスキルを確認する。

 

【死霊の泥】

使用後30秒間、攻撃に、与えたダメージの4分の1のHPロスを追加する。

1分後再使用可。

 

つまり、このダンジョンで7人のHPを削っていったあの黒い液体を元としたスキルである。

 

それぞれがこのスキルを確認し、どういった用途で使うことができるかを考えた。

何人かは興味深そうにスキルを見つめて、また何人かはそれなりに嬉しそうに、ダンジョンを後にした。

 

 

また、その後彼ら7人は残ったHPが尽きるその時まで、ジャングルの中を探索していくことにした。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと光の試練

セイバーがキングエクスカリバーの力を得る事ができた第6回イベントは終了した。積極的にイベントに参加したセイバー達【楓の木】だったが、メイプルは今回のイベントに消極的な所があり、メイプルの足はジャングルから遠のいていた。

そんな訳でイベントも終わって小休止、といった雰囲気が漂っているギルドホーム内にメイプルとセイバーはいた。

 

「気づいたらイベント終わっちゃってた……でも、もう一回行くためのアイテムを取るのも大変だったし、いいかな」

 

「まぁ、確かにメイプルはやる気がある時と無いときじゃあモチベーションがだいぶ違うからな。今回はそれで良いと思うよ」

 

そうしてメイプルが次は何をしようかと考えていると入り口からサリーが入ってくる。

メイプルが小さく手を振ると、サリーはそのまま2人の方へと歩いてきた。

 

「どう、セイバー、メイプル。ジャングルでの成果はあった?」

 

私はそれなりに成果はあったかな、とサリーは付け加える。その表情はなかなかいいものを手に入れたという風である。

 

「俺は王の剣を手に入れたって感じかな。ただ、装備が全部変わらない所を見ると聖剣では無さそう」

 

「ふーん。その事は前も聞いたけどアンタは目を逸らすとすぐに余計な事するわね」

 

「ちょっ!!酷くね!?」

 

「んで、メイプルは?」

 

「うーん……そんなになかったよ。途中からは普通にこの階層を探索してたから」

 

「あー、まあ行くにも準備がいるから……なら、こっちでは成果はあった?」

 

「それならあったよ!」

 

メイプルが何かを手にしたことを示すようににっこりと笑って返事をする。

 

「お、どんなの?」

 

「え、俺すでにすっげー嫌な予感するんだけど」

 

セイバーは危険を察知していた。メイプルがイベントの最中でイベントに無い行動を取るということは何かの変化が入るということである。第3回イベントの悪魔の力が良い例である。そして今回もそれは裏切らなかった。

 

「えっとね、玉座!」

 

「玉座……もう一回言って?」

 

「……?玉座!」

 

「そっかあ……」

 

「うん、まぁ知ってた」

 

サリーはそれだけ言うとメイプルが座っているソファーの隣に座り、セイバーはもう諦めた表情だった。

セイバーとサリーはイベントの方へ力を入れていたため、メイプルと顔を合わせるのは少しばかり久しぶりといったくらいである。

 

メイプルが言った玉座についてや、セイバーやサリーがジャングルで見たあれこれなど話題には事欠かない。しばらく話していると話題は変わって次の階層の話となった。

 

「イベントも終わったし、また少ししたら階層が増えるかもしれないね」

 

「そうだねー、次はどんなところかな。綺麗なところだったらいいなあ」

 

「次はサリーが苦手な所だったりして」

 

「あん!?」

 

「ごめんなさい。サリーさんすいませんでした」

 

セイバーが怖い目を向けたサリーに謝っている間、メイプルはまだ見ぬ景色に想いを馳せる。

それは綺麗な海だったり、静かな森だったり、賑やかな町だったりした。

するとセイバーから目線を戻したサリーがメイプルに話しかけた。

 

「だから、ここでやり残したことはやって……それで次に行こう?」

 

「やり残したこと、って何だっけ?サリー」

 

「ほら、メイプルがまだ行ってない場所。ゆっくりと雨が降ってくるところ。アレ、クリアしておこうよ」

 

サリーが言うゆっくりと雨が降る場所、それはクロムとカスミが見つけていた場所である。

サリー曰く、既に攻略情報も上がっており、得られるものも分かっているとのことだった。

 

「サリーは雷のところも行ってないんじゃないの?」

 

「まあ、私は今回はいいよ。メイプルが教えてくれたスキルにもあんまり惹かれないし」

 

「そっか。じゃあ……行く?」

 

「うん、準備して雨エリアに行こう」

 

「あー、それなんだけど俺はパスして良いか?」

 

「……は?」

 

「いやいやだから、俺はパスしても……痛い痛い痛い痛い痛い痛いサリーさんお願いしますこのヘッドロックを解いてもらえませんか痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」

 

「サリー、そろそろやめてあげたら。理由も聞いてないのに攻撃するのは流石に……」

 

メイプルの言葉にサリーはヘッドロックを解いてメイプルの方を向いた。

 

 

「あのね、メイプル。セイバーがこう言うって事は大体は良からぬことを考えている証拠なの。だから変な事する前にそれを止めたいって訳」

 

「サリー、流石に酷くない!!?え?俺って自由に行動する権利無いの!?」

 

「まぁまぁ、サリーもセイバーを自由にさせてあげてよ。サリーだって好きな所行くんだから……」

 

「メイプルが言うのなら仕方ないわね。セイバー、今回は見逃してあげるけど変な事したら許さないから」

 

「誰が変な事するんだよ。ちょっくら聖剣を探しに行くだけっての」

 

「はいはい……って聖剣!!?」

 

サリーがツッコミをする頃にはセイバーはいなくなっておりメイプルとサリーは数秒間唖然とする事になった。

 

こうして、セイバーは第五層に眠る聖剣を探し始めた。

 

「とは言ったものの……この雲の上のフィールドでどうやって探せば……」

 

『困ってるみたいだなぁ。相棒』

 

セイバーが振り向くといつの間にか自身の影から出てきたデザストが立っていた。

 

「だから相棒って言うの止めろ。そういえばデザスト、お前には聖剣が匂いでわかるって言ってたよな?なんか匂いとかしない?俺以外で」

 

『あー。えっとなぁ、あっちの方向に聖剣とは正反対の嫌な匂いはする。だが、お前の持っている剣以外からの匂いはしねぇ』

 

「ふーん。多分嫌な匂いの方はキラーだろうし、どうしようなぁ……」

 

セイバーが困ったといった感じで街の外を歩いていると突然声が聞こえてきた。

 

『どうやら困っているようだな。聖剣を集める者よ』

 

「……え?」

 

セイバーが声の主を探そうと辺りを見渡すが人の姿は全く見えない。一体、何なのだろうか?そう考えているといきなり目の前に光のゲートが開かれた。

 

「何だよこれ?」

 

『お前が望む物を手にするのに1番の近道だ』

 

セイバーが謎の言葉に惑わされているとデザストが割って入った。

 

『オイ、どこからどう見ても怪しいなぁ。第一、今まで聖剣が自ら主を求める事なんて1回も無かったんだろう?』

 

「まぁそうだけど……でも、例えこれが罠だとしても俺は行くよ。覚悟はしてるからさ」

 

セイバーはそう言うとデザストを自身の影に戻し光のゲートをくぐった。するとセイバーは全てが真っ白な空間に立っていた。

 

「なんだここ……」

 

そこにフードを深く被った男が歩いてくる。

 

『ようこそ。光の空間に』

 

「えっと、あなたは?」

 

『俺の名前はユーリ。2000年もの間、光の聖剣として世界を守ってきた剣だ』

 

「え?剣って、あなた人間ですよね?」

 

『確かに、今の俺は人間の姿だ。ただ、俺は剣と同化しているから、人間のように寿命が無い。そして、2000年も生きていれば世界も色々と変わってくるものだ。俺が普通の人間として生き、剣と同化した頃とは色んなことが変わった。聞いた所によると君は聖剣を既に7本集めたらしいな』

 

「えっと、まぁそうですけど……」

 

『……昔は聖剣ごとに使い手となる剣士がいてそれぞれが1本ずつ剣を所持し、世界の均衡を保ってきた。だが今は君1人に7本も集まってしまっている。それがどんな影響を及ぼすか、俺にはわからない。ただこれだけは言える。今のその状況は良くない。もし、今強大な敵が襲ってきたら戦える剣士の数が足りないからな』

 

「……え?」

 

『聖剣を元の持ち主達に返す必要がある。だから俺はお前を斬る』

 

「ちょっ!?え?」

 

するとユーリは腰にベルトのような物を巻くと1冊の本を出して開いた。

 

《最光ドライバー!》

 

《金の武器!銀の武器!GOLD OR SILVER!》

 

「へ?いや、何してるんですか?」

 

困惑するセイバーに対してユーリは全く答える様子もなくベルトの金色の刃のような部分を外側に展開し、空いた部分に本をセットすると持ち手のような物を握った。

 

ユーリは持ち手を持ったまま上に上げるとバックルから本が入った部分が外れてそれと同時に本も開き、ユーリは手にした部分を横に突き出した。

 

《最光・発光!》

 

『変身』

 

《Who is the shining sword? 》

 

ユーリは光の粒子に包まれていくと剣へと吸い込まれていき、その姿は剣そのものになった。

 

《最光1章!金銀の力を得た輝く剣! 最光!》

 

「えぇー!!!?」

 

『言ったはずだ。俺こそが光の聖剣。光剛剣最光(こうごうけんさいこう)こと仮面ライダー最光だ!』

 

「嘘だろ!!?てゆーか、人が剣になるとかまず有り得んだろうがよ!!」

 

『早速だがルールを決めよう。俺の取っ手を握ることが出来れば君の勝ち。俺は君のHPを0にすれば勝ちだ。ただし、この試練の間、君は聖剣を入れ替えるのはアリだが聖剣のスキルを使うこととHPの回復をするのは無しにしてもらう。では始めるぞ』

 

「わかりました」

 

『それでは、始め!!』

 

それと同時にユーリこと最光は容赦なくセイバーへと斬りかかってきた。

 

「うわっ!!でも、これならあなたでも攻撃通らないでしょ?激土抜刀!」

 

セイバーは回避力こそ無いが耐久力に優れた激土へと変えた。

最光は容赦なくセイバーの体を斬りつけていく。

 

「ん?あれ、なんか受けてるダメージデカくね?嘘だろてか、貫通がかなり入ってる!!?」

 

『スキルは使えないと言っただろ?この試練の間は君はスキルが全て使えなくなると言うわけだ。それが例え常時発動の物だとしてもだ』

 

「くっ、つまりは防御力倍増も意味なしか。……それってかなり不味いよな!!翠風抜刀!」

 

セイバーは咄嗟に瞬間速度が1番速い翠風の装備へと変える……が。

 

『遅い』

 

最光は光の力を使えるのと、セイバーより小回りが利くためセイバーは攻撃を一部掠ってしまう。

 

「翠風の速度でもダメなのか?てか、これじゃあ不味い……スキルが使えないのなら剣での技術で対抗しないとだけど……烈火抜刀!」

 

セイバーは烈火に持ち直すと剣が赤く輝き、炎が宿った。

 

「やっぱり剣そのものの能力は使える。スキル無しでもこれなら……」

 

『さて、どうかな?光あれ!!』

 

《最光・発光!!》

 

すると最光は刀身を光らせながら高速回転し始め、セイバーへと一直線に突っ込んできた。

その速度でセイバーが対応する前に体当たりし、刃の部分でセイバーに多段ヒットする攻撃を喰らわせ、ダメージを与えた。

 

《Good Luck!》

 

「ぐうう……」

 

これによりセイバーは早くもHPを半分失ってしまった。

 

『お前の力はその程度か?やはりお前では聖剣を扱うのに相応しくないな』

 

「……言いたい放題言ってくれるじゃないですか……。けど見つけましたよ。あなたの弱点!」

 

『ほう?なら見せてもらおうか』

 

「錫音、抜刀!」

 

セイバーは錫音を抜刀すると力をダランと抜いて目を閉じた。

 

『隙だらけだな。攻撃してくれと言ってるようなものだ!』

 

最光はセイバーの背後に回り込むと斬りかかった。

 

次の瞬間、最光の太刀は受け止められており、セイバーの目は閉じたままだった。その代わりに聖剣はピンクに光っていたが。

 

「残念。惜しいなぁ」

 

『ならこれはどうかな?』

 

最光は今度は後ろに回り込むとセイバーの体ではなく足元を狙った斬撃を放った。

 

「甘い!甘すぎる!!」

 

セイバーはその場で跳ぶとその攻撃を回避した。当然、目は閉じたままである。

 

『……まさか、心の眼で俺を見ているのか?』

 

「……半分正解ですね。確かに、俺はあなたの動きを心の眼で見ていた。空気の僅かな流れから動きを予測して対応する。けど、これでは100%の予測には程遠い。あなたが光の速度で動こうものなら対応しきれないでしょう」

 

『では何故俺の動きを見切ったのか?』

 

「答えは簡単です。剣の声を聴きました」

 

『なるほど。確かに、錫音の剣そのものの力である音色を奏でることが出来る能力は制限していない。お前は聖剣の音を聴いてそれによって俺の動きを知った。それから自身の経験と勘で回避したという訳か……見事だな。だが、それだけでは俺の動きは止められない。光あれ!』

 

《最光・発光!!》

 

「来ましたね、その技。でもこれも対応できる!黄雷、抜刀!」

 

最光は光を纏わせて高速回転しながら一直線にセイバーへと突っ込んでいく。

 

「その攻撃の弱点。それは……攻撃の軌道が直線になる事だ!」

 

セイバーが黄雷に想いを込めると黄色く輝き電撃が放出。

セイバーの周囲に電撃の雨を降らせた。

 

『何!?』

 

それにより最光の技は威力を削がれてしまいセイバーにも見える回転速度になった。

 

「そしてあなたの最大の弱点。それは……」

セイバーは最光に接近するとその体を地面へと叩き落とし、剣先を地面へと刺さらせた。

 

「パワー勝負にめっぽう弱い」

 

そう、最光は人間の時より体重を軽くする事で剣に速度を確保させているのだが、今回はそれが仇となりセイバーに叩き落とされてしまったのだ。

 

「俺の勝ちですね」

 

セイバーはそう言って最光の取っ手を掴み引き抜いた。

 

『見事だ、セイバー。どうやら君には聖剣を扱うだけの資格はあるみたいだな。ただ、今のだけでこの剣を託すかどうかは決められないな。では、2つ目の試練を受けてもらおう。取り敢えず、7人に分身してくれ』

 

「へ?あ、はい。【分身】」

 

セイバーは7人に分身すると最光の前に並んだ。

 

『では、次に君が使う剣を選んで、残りは分身に持たせるんだ』

 

「えっと、じゃあ今回は月闇、抜刀!」

 

セイバーの本体は月闇を選び残りは分身が1人ずつ持った。

 

「これで何をするんですか?」

 

『なぁに、こうするんだよ』

 

次の瞬間、最光から眩い光が溢れ出すとセイバーの分身達を照らし、その足元にある影をより濃くした。

 

するとセイバーの本体以外の影が起き上がると実体化し、烈火、流水、黄雷、激土、翠風、錫音をそれぞれ装備して、体も剣に対応する姿に変化した。

 

「嘘ぉ!!何ですかこれ!!」

 

『見ての通り影だ。光がある所に影はある君達6人には自分の影と戦ってもらう。1人でも負ければ試練は失格だ。そして、君の本体は俺が相手しよう』

 

すると最光のボディとも呼べる部分に付いている小さなスイッチが自動で押されると最光が再び光を放ち始めた。

 

《Who is this? 最光2章!光から生まれし影! シャドー!》

 

次の瞬間には最光の足元にある影からむっくりと真っ黒な人間が起き上がり、最光を手にした。

 

「……影が起きたぁ!!?」

 

セイバーは影が動いた事に驚きを隠せなかった。

それと同時にワクワクしていた。これから起こるであろう戦いを楽しもうという思いに気持ちを高めながら。




次回は試練の続きとなります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと影の試練

最光から出された2つ目の試練。それはセイバー自身の影と戦う事。そしてもう一つ。最光と戦う事なのだが、最光は公平を期すために自身を握るための人型の剣士を用意した。そしてそれは自分自身の影だった。

 

『こいつの名は最光シャドー。言い換えれば俺の影武者だ』

 

「いやいやいや、ツッコミたい所満載なんですけど。え?影が起きた?そんでもって剣持てるっていよいよわかんない……」

 

『細かい事は気にしなくて良い。あと、このまま戦っても良いんだが、この姿だとお前の攻撃は全部通り抜けてしまう。それではフェアじゃない。俺の最強の姿を見せてやる』

 

すると最光は一冊のブックを出した。

 

《エックスソードマン!》

 

《エピソード1!全ての色で戦え!》

 

最光はそれを腰のベルトにセットすると剣のグリップでスイッチを押し、それと同時に剣に入った本のページが1枚めくられた。

 

《最光・発光!》

 

すると本が開き最光の後ろにも今開いた本と同じものが出現して開いた。

 

《Get all Colors!エックスソードマン!》

 

最光の後ろの本から漫画のようなコマが出てくるとそれが最光のシャドーに鎧の如く張り付いていき最後に顔の部分に十字形の金の顔パーツが装着されて変化を完了した。

 

《エピソード1!フルカラーで参上!ババババーン!》

 

『俺は世界を守る剣であり……剣士だ!』

 

「今度は人型……もうわけわかんない……」

 

『セイバー。お前の力を今度は剣士として見極めさせてもらう』

 

その言葉を皮切りに戦闘が開始された。7対7で行われるその戦いは全ての局面で互角の勝負となっていた。

 

『あはは!!【紅蓮爆龍剣】!』

 

影の烈火は紅蓮の龍を光の烈火へと放ち光の烈火はこれを躱した。

 

「おいおい、影だけあって俺のスキル全部使えるのかよ!」

 

『遅いなぁ。【疾風剣舞】!』

 

「チッ……【超速連撃】!」

 

2人の翠風は超高速での斬り合いを繰り広げ、それとは真逆に激土の方は超パワー型の戦闘を進めていた。

 

『【大地貫通】!』

 

「やべぇ!」

 

影の激土は直線上を破壊する攻撃で光の激土を誘導。更にスキルを発動する。

 

『【リーフブレード】』

 

「このっ!」

 

光の激土はこれを受け止めるも、終始押されていた。

 

「こいつら、スキルをポンポン使ってMP切れしないのかよ!!」

 

黄雷のセイバーも影と剣をぶつけていたが、影の黄雷はかみ属性のスキルを使いまくりながらもMPが切れる様子も無かった。

 

「多分、こいつらのMPは無限だ。黄雷の魔法はMP消費が激しいのにまるで気にしないように撃ってくる。しかも、どういうわけかお互いに【蓄電】のスキルが発動しない。電撃でダメージを受けるのが良い証拠だぜ」

 

『ククク……【ハイドロスクリュー!】』

 

「ぐっ!?……くそっ……こっちはスキルの制限ありなのに向こうはスキルばっか発動してくるな……」

 

「いや、ならば必ず弱点はある!」

 

錫音のセイバーは冷静に分析していた。

 

『へいへーい!【ビートブラスト】!』

 

影の錫音が放った極太のビームを光のセイバーは音の壁で防ぐ。

 

「スキルばかりを使うという事は当然隙もできる。その隙をついて決めるぞ!」

 

それに光の烈火が頷く。

 

「なるほど、それで行くか。俺、負けるんじゃねーぞ!」

 

「言われなくてもわかってんよ!」

 

周りから見ればこの光景は自分同士の会話のため違和感マシマシなのだが、それでもセイバーが勝つには自分自身の隙を見つけるしかないのである。

 

そしてセイバー本体と最光の勝負も白熱していた。

 

「はあっ!」

 

『やっ!』

 

闇の剣と光の剣。属性的には正反対の2つの剣だが、太刀筋は似ていた。

 

『中々やるな』

 

「こっちとしてもあまり長引かせる気はありません。一気に決めさせてもらいます。【暗黒クロス斬】!」

 

セイバーは闇の十字の斬撃を放ち、最光はこれを受けて大爆発……するのだが。

 

《移動最光!腕最高! Fullcolor goes to arm! 》

 

《エピソード2!カラフルソードでズバズバーン!》

 

爆発の煙が晴れる頃にはHPこそ2割減っていたが、そこには全身の色を腕に集めたエックスソードマンパワフルが立っていた。

 

「色が腕に集まった?」

 

『今度はこっちの番だ』

 

最光は腕の剣と最光自身の剣の二刀流でセイバーの月闇を弾きつつの攻撃をしてきた。

 

「痛てっ……くっ……二刀流になったせいかやりずらい!!しかも……」

 

セイバーが最光へと剣を振り下ろすも、最光は光のバリアを左手で張って防ぎ、更には右手の剣で薙ぎ払ってきた。

 

「ぐあっ……」

 

セイバーは吹き飛ばされると地面へと叩き伏せられた。

 

「く……バリアも使えるとかチートがすぎませんかね?けど、まだ手はある!【闇渡り】!」

 

セイバーは闇の中に消えると最光の背後に回り込み闇から出ると剣を振り下ろした。

 

「甘い!」

 

だが、最光はこれを読んでいたのか振り向きながらの攻撃を放ってきた。セイバーはこの攻撃をまともに受けたのだが……その姿はいきなり消えた。

 

『!!』

 

「【邪悪砲】!」

 

セイバーは闇で自身の幻影を作ると最光を襲わせたのだ。その間に最光の目の前に出てくると闇のエネルギー弾をゼロ距離でぶつけた。

 

『がっ……』

 

それと同時に最光のエックスソードマンはHPを2割減らされて再び全身に色のついたカラフルに戻った。

 

『痛いな……でもこの感じ、最高だな!』

 

「えぇ……ユーリさんってもしかして意外とドMなんですか?」

 

『そろそろ終わりにしよう』

 

最光はベルトに付いているスイッチを2回押すとページがめくられた。

 

《移動最光!脚最高! Fullcolor goes to leg! 》

 

《エピソード3!カラフルキックで、ドカドカーン!》

 

すると今度は最光の色が右足に集まりエックスソードマンワンダフルとなった。

 

「今度は足か……」

 

『これで俺の勝ちだ』

 

最光は本を閉じると再びスイッチを3回押し、閉じる前と同じページを開いた。

 

《フィニッシュリーディング!最光ワンダフル!》

 

『エックスソードブレイク!』

 

最光は跳ぶとセイバーの両サイドに漫画のコマが流れてきた。

 

「これは不味いな」

 

『はあああ!!』

 

最光はセイバーを延髄蹴りの要領で蹴り飛ばした。

 

セイバーは吹っ飛ばされるとHPを残り1だけ残して消しとばされた。

 

「はぁ、はぁ、くっ。【不屈の竜騎士】が無かったら死んでましたよ」

 

着地した最光はカラフルに戻ると驚きの顔をしていた。ただ、顔は仮面で見えなかったが……。

 

『だが、そろそろ終わりだな。その闇の聖剣を手に入れるほどだから強い奴だとは思っていたが、次の攻撃で今度こそ俺の完全勝利だ』

 

「く……ふふ……はははははははは!!」

 

『どうした?そんなに笑って』

 

「いやぁ、嬉しくてね。俺をここまで追い詰めた人間がいて」

 

セイバーはこのゲームを始めて以来、強い敵を求めて戦ってきた。だが、実際に自分をここまで追い詰めたのはプレイヤーではペイン、キラー。敵モブでは玄武、ジャアクドラゴンくらいのものである。しかも敵モブの2体はどちらもモンスターであり人間の敵モブでセイバーを追い詰めたのはユーリこと仮面ライダー最光が初なのである。

 

「やっぱこのゲームはやめられねぇわ。あなたみたいな強い敵を前にして俺の心は昂っている。あなたに勝ちたいという気持ちが抑えられない」

 

『変な奴だな。お前も』

 

セイバーはニヤリと笑うと剣を腰に納刀した。

 

「この姿の俺の奥の手、見せてやるよ。ブレイブ、【覚醒】!そして【邪悪化】!」

 

セイバーはブレイブを呼ぶと紫にその姿を変えさせた。そして言い放った。月闇装備時の最強の姿へと変わるスキルを。

 

「【邪龍融合】!」

 

セイバーの声と共にブレイブは顔の仮面を破壊し、4匹の金の龍を呼び出した。そしてブレイブはセイバーの体に入っていくと胸の装甲が金に変わり、肩アーマーと腕アーマーに金の装甲が付与され、背中にはマントが出てきた。さらに金の龍が2匹ずつセイバーの肩に止まり装飾と化するとヘッドギアの部分のバイザーが壊れて赤い目をした紫の龍の顔を模したものに変わった。

 

『その姿は……闇の剣士、カリバーのジャオウドラゴンに似ているな』

 

「さて、この姿の力を試させてもらおう。はあっ!」

 

セイバーは最光へと斬りかかると最光はこれを受け止め、剣を弾くも、セイバーはそのまま横に剣を振り抜いた。

 

『ぐっ………』

 

最光のHPはこれで1割近く減っており、先程までよりもパワーが上がっている様子が見られた。それもそのはず、この姿のセイバーは融合前より能力が上がり、スペックが向上しているのだ。

 

「早速これを試すか。【金龍ノ舞】!」

 

セイバーが手を翳すと肩に乗っていたオブジェから金龍が4匹飛び出してセイバーの周りを浮遊し、闇のエネルギーを高めていった。

 

「【月闇居合】!」

 

そのままセイバーはスキルによる攻撃を放つといつも以上の火力が最光を襲いHPを3割飛ばした。

 

『ぐ……この局面での大幅パワーアップ。だが、負ける訳にはいかない!はあっ!』

 

《最光・発光!》

 

最光はHPを残り2割に減らされた影響か、これまでよりも更に強い輝きを見せた。

 

 

それとほぼ同時刻、分身セイバー6人の勝負も決着へと進んでいた。

 

光の6人は影の6人を圧倒し、追い詰めていた。

 

「「「「「「お前らの弱点……それは、スキルに頼りすぎてるって事だよ!!」」」」」」

 

『【神火龍破斬】!』

 

『【ウォータースラッシュ】!』

 

『【雷鳴一閃】!』

 

『【大断断斬】!』

 

『【トルネードスラッシュ】!』

 

『【スナックチョッパー】!』

 

6人の影は相変わらずのスキル込みの攻撃を放った。だが、自分のスキルを熟知している光のセイバー達に通用するはずが無かった。

 

「その炎じゃ俺は斬れない!!」

 

光の烈火は赤く輝かせた烈火を振るい、スキルを弾くとカウンター気味の斬撃を決めた。

 

「流れる事水の如し。はあっ!」

 

光の流水は青く光った流水で相手の斬撃を受け流しつつ接近し、ゼロ距離で水を大量に発射して影にぶつけ、影が怯んだ直後にキックを放った。

 

光の黄雷は影の黄雷が直線でしか動けない事を知っており、それを利用して黄色く光った黄雷で雷の雨を降らせて勢いを削いでから、すれ違い様に切り裂いた。

 

「これで話は終わりだ」

 

「この姿で躱すのは苦手だが、躱してやるぜ!」

 

光の激土は相手の攻撃を飛び込みのように前へと跳んで紙一重でギリギリ躱し、そのまま茶色に光った激土を振り下ろし、両断した。

 

「この竜巻、利用してやるぜ!」

 

光の翠風は影の翠風が起こした竜巻を緑に輝かせた翠風で受け止めるとそれを自分の物に変えて打ち返し、影の翠風を飲み込ませた。

 

「お前の音は偽物だ。本物の音を聴かせてやる」

 

光の錫音は目を閉じると影の錫音の動きを読み切り、自分へと振り下ろされる剣を受け止めてそのまま錫音を相手の錫音の刃の部分を滑らせながらピンクに輝かせ、切り裂いた。

 

『『『『『『ぐあああああああ!!』』』』』』

 

大爆発と共に6人の影は消え、セイバーの分身達の元へと戻った。

そしてセイバー本体もその事を感じ取った。

 

「どうやら、分身の俺もやってくれたみたいだな」

 

『まさか、影を全部倒したのか?』

 

「さぁね?でも、これだけはわかりましたよ。俺の強さは影でも越えられないってね!」

 

『ならばこちらも決めよう』

 

そう言い、最光は腰の本を閉じるとスイッチを1回押した。

 

《フィニッシュリーディング!最光カラフル!》

 

『エックスソードブレイク!』

 

すると最光の剣に金と銀の輝きが宿り必殺のエネルギーが高まった。

 

「俺もこの一撃で決める!【邪王龍神撃】!」

 

セイバーは月闇に紫の輝きを纏わせるとそれと同時に体中から闇のオーラを溢れさせ、剣に龍が集約された。

 

『はああっ!』

 

「おりゃあああああ!!」

 

最光は金と銀のクロス斬を放ち、セイバーは4匹の金の龍と巨大な紫の龍を模した斬撃を放った。

 

2つの攻撃がぶつかり合い火花を散らすが、僅かに闇の龍が上回り金と銀のクロス斬を突破すると最光を飲み込みHPを0にさせた。

 

『見事だ……』

 

それと同時に大爆発が起きて最光はユーリに戻っていた。

 

「俺の勝ちですね」

 

セイバーは分身を解除して1人に戻るとユーリに手を差し伸べた。

 

『何故手を差し伸べる?俺はお前から剣を取り上げようとしたんだぞ?』

 

「そんなの関係無いです。良い勝負をした相手に敬意を忘れない。それが本当の剣士ってものじゃないんですか?」

 

『……完敗だな。やはり、この剣は君に託すのが良さそうだ』

 

ユーリは召喚した光剛剣最光をセイバーへと渡すとセイバーはそれをしまった。

するとユーリは光の粒子となり始めていく。

 

『どうやら、時間のようだ』

 

「え?どうしてですか?まだ俺はあなたから色々と聞きたいことがあるんです!」

 

『残念だが、それには答えられない。ただ、1つだけ君に光剛剣について話そう』

 

「え」

 

『その剣を扱う際には今の俺みたいに自身の体と心を剣の内部に入れないと使えない。それだけ注意してくれ』

 

 

「ん?それってもしかして……」

 

『悪いが、そろそろ時間だ。君の未来に光があることを願っている』

 

ユーリはその言葉を最後に消滅した。

 

 

「ユーリさん……」

 

セイバーはブレイブとの融合を解くとその場に座り込んだ。理由は当然、体にかなりの消耗を感じたからである。7人の分身を維持させる精神力、そしてユーリとの戦いでかなりダメージを受けたために体にかなりの負担をかけてしまっていた。

 

セイバー「はぁ、はぁ……流石にキツイな。今日はもうこれ以上はもうやりたくない。けど、最後に最光の力だけ試すか。最光抜刀」

 

セイバーが最光を抜刀すると右手にユーリが持っていた光剛剣最光が現れた。すると、いきなり体が光の粒子に包まれた。

 

「え!?ちょっ!!?てか、もしかしてこれ……」

 

次の瞬間にはセイバーの体は宙に浮いていた。いや、厳密には……

 

「な、何じゃこりゃあああああ!!」

 

光剛剣最光そのものとなっていた。




57話時点のセイバーのステータス

セイバー 
*補正値は闇黒剣月闇の装備し、【邪龍融合】発動時
Lv52
HP 175/175《+70》
MP 180/180《+50》
 
【STR 50《+80》】
【VIT 50《+80》】
【AGI 50《+60》】
【DEX 40】
【INT 50《+60》】
 
装備
頭 【闇龍のヘッドギア】
体 【闇龍の鎧】
右手【闇黒剣月闇】
左手【空欄】
足 【闇龍の鎧】
靴 【闇龍の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅶ】【気配斬りⅣ】【気配察知Ⅴ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅵ】【風魔法Ⅶ】【土魔法Ⅶ】【光魔法Ⅲ】【闇魔法Ⅶ】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化中】【状態異常Ⅳ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅳ】【死霊の泥】【深緑の加護】
*闇黒剣月闇を装備時
【月闇居合】【暗黒闇龍剣】【ムーンブレイク】【暗黒クロス斬】【消費MPカット(闇)】【封印無効】【暗視】【呪縛の鎖】【邪悪砲】【ダークスピア】【闇の障壁】【闇渡り】【影踏み】【漆黒の霧】【暗黒龍破撃】【金龍ノ舞】【封印斬】【邪王龍神撃】

また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと禁断の書

セイバーが光剛剣最光を手にした翌日、セイバーは他のギルドメンバー全員を集めて最光について見せる事になった。

 

「それでセイバー。態々皆を集めるということは相当ヤバいものなんじゃないでしょうね?」

 

「どうもこうもねーよ。流石に今回は俺でも驚いたぞ!」

 

「セイバーさんが驚く能力って……」

 

「一体何なのでしょう?」

 

セイバーのその言葉にユイとマイが心配そうな声を上げる。

 

「それじゃあセイバー、時間も惜しいから見せてくれ」

 

「わかりました。最光、抜刀!」

 

セイバーがそういうと最光が手に握られ、その瞬間セイバーは光の粒子となって剣の中に吸い込まれた。

 

「「「「「「………え?」」」」」」

 

そこにいたのは剣となったセイバーだった。

 

「「「「「「はぁああああああああああああ!!?」」」」」」

 

「やっぱりというか案の定の反応ですね……」

 

「まさかセイバー君が剣そのものになる日が来るとは」

 

「ああ、私としても想定の斜め上を行かれた気分だ」

 

クロム、カスミの3人は呆れながらも言葉を発し、カナデ、イズ、ユイ、マイは驚きのあまり固まったままだった。

 

「セイバーお兄ちゃんすごーい!!ねぇねぇ、剣になるってどんな感じなの!?」

 

「えっとな、普通に動くのは出来るけどまだ扱いには慣れてないかな」

 

「ねぇねぇ、セイバー。アンタ覚悟できてる?」

 

いつも通りはしゃぐヒビキと後ろにゴゴゴゴゴというエフェクトがつきそうなくらい怒った顔をしているサリーがいた。

 

「待ってサリー。これは俺も不可抗力だから許してく……」

 

「問答無用。死ねぇ!!」

 

サリーはセイバーへと飛びかかるが空中に浮いている剣のため当然セイバーの方が逃げ足は速い。よってサリーはセイバーを追いかけるものの捕まえられなかった。

 

「アンタ逃げるの速い!!」

 

「そんな事言ったってぇ!!」

 

2人の追いかけっこをキョトンと見ていたメイプルはセイバーに話しかけた。

 

「ねぇセイバー。ちなみにその状態でのスペックとかわからないの?」

 

「あー、それならメモがあるから今送るよ」

 

セイバーはそう言うと、自身を追ってくるサリーをあしらいながらメイプルの前にパネルを出現させるとそこにデータを送った。

 

『光剛剣最光(こうごうけんさいこう)』*聖剣状態

【STR+70】【破壊不可】

【発光】【閃光斬】【シャイニングブラスター】

【シャドーボディ】【カラフルボディ】

 

*この形態の時のみステータスのHP、VITの概念が無くなり、STR80、MP80、AGI80、DEX90、INT70で固定となる。また、この形態は5分間しか変身できず、尚且つDEXが50以上無いと維持できない。一度使ったら3時間のインターバルが必要となる。その代わり、【シャドーボディ】か【カラフルボディ】を使う事により新たな力を得る事ができる。

 

「5分間だけ?じゃあそろそろ時間じゃ……」

 

次の瞬間、セイバーは強制的に元の姿に戻り、地面へと落下した。

 

「痛てっ!!」

 

「戻ったな」

 

「戻ったね」

 

「そりゃ流石にずっとは強すぎるでしょ」

 

「ふう。酷い目に遭ったな。でもこれでようやく」

 

セイバーが振り返ると丁度追いついたサリーのパンチが鳩尾に入った。

 

「し、しまった……」

 

セイバーはその一撃でダウンし、目を回してしまった。

 

それから気を失ったセイバーをサリーは柱へと括り付け、セイバーは起きてからサリーからの厳しい説教地獄を受ける事になる。

 

 

 

その件から更に数日後、ギルドホームにはほぼ全員が揃っており、もうじき追加される第六層について話していた。そこにメイプルが入ってくる。

 

 

「あ、メイプル。やっほー」

 

「サリー。あれ、セイバーは?カナデもいないけど……」

 

「2人なら近くの図書館にいるわよ。なんか、セイバーがカナデの探し物を手伝うって」

 

「ふうーん」

 

「セイバーお兄ちゃん。行くのなら私を誘ってくれれば良いのに」

 

「本当、アイツはすぐ何かしでかすんだから。また何かやるんじゃないでしょーね?」

 

「いや、流石に今回はカナデがいるから大丈夫だろ。多分!」

 

「クロムの多分はあんまり当てにならないわよ?」

 

「おいイズ!変な事言うなよ!」

 

 

 

こんな感じで楓の木内でのやり取りを他所にセイバーとカナデはギルドホーム近くの図書館に何か有益な情報が無いか探していた。

 

「うーん。特に目ぼしい本は無いなぁ……。まぁ怪しそうなのはいくつかあったけどどれも核心には至らずだからなぁ……」

 

セイバーの本探しはかなり難航していた。どれを見てもセイバーにとって有益そうな情報は無かったのである。セイバーはカナデの様子を知るべくカナデへと声をかけた。

 

「カナデ、そっちは何かあったか?」

 

「えっとね、1冊だけだけどあったよ。君が興味ありそうな本」

 

「え?俺の興味がそそられる本?」

 

「うん。取り敢えず読んでみて」

 

セイバーがカナデから本を受け取るとページをめくり始めた。

 

「ふむふむ、“災厄をもたらす最低の龍。彼はありとあらゆる者を悲しませ、それによって彼が住み着いていた村は苦しみ、嘆き、悲しんだ。そこに現れし英雄がその龍を完膚なきまでに叩きのめし、村を災厄から救い出した。以後、その龍は何度も村を奪い返そうとするもそのたびに叩き出されることとなった。”随分と酷い内容だな。てか、カナデ。これのどこに俺が欲しがる要素があるんだよ?」

 

「次のページを見てみて」

 

「え、次は」

 

セイバーがページをめくろうとするとそこにはページが破られた跡があり、更には今読んできたページをよく見ると誰かがページを破いた後があってそれに貼り付けられるように今の文面が描かれていた。そして極め付けは最後の方の破られていないページに、鎖で縛られたような絵が描かれてあった。そしてそれはそれ以上めくるのは危険だということを読者に伝えるような雰囲気を出していた。

 

「何これ」

 

「僕にもわからないんだよね。試しに開けてみようとしたんだけど、僕の力じゃびくともしなかったんだ」

 

「なるほどねぇ。俺がやったらどうなると思う?」

 

「多分何かしらは起きると思うから、めくってみなよ」

 

「へぇ。じゃあやってみるか」

 

セイバーはそう言って本のページに手をかけるとカナデがめくれなかったページが簡単に開きセイバーはそこに書いてある文字が一気に目に映った。

 

するとセイバーの前に飛び込んできた光景は1人の少年が闇の中を悲しそうに佇む姿であり、その少年がセイバーの姿を確認するといきなり手から骨の腕を伸ばしてきた。

 

それと同時に現実世界でも本の中から骨の腕が出てくるとセイバーの体へと巻きついた。

 

「ぐあああああああ!」

 

「セイバー!?一体何が」

 

夢の中ではセイバーが少年へと声をかけていた。

 

「君は誰だ?」

 

『それは僕の台詞だ……また僕を傷つけに来たんでしょ?』

 

「違う!俺はそんな事はしない!!」

 

『嘘をつくな!!今更人間なんて信じられるか!!』

 

「頼む!話だけでも聞いてくれ!!」

 

『うるさい!寄越せ……お前の体!!返せ、僕の友達を!!』

 

セイバーはその言葉と共に闇へと飲み込まれてしまった。

 

現実世界ではセイバーは骨の腕が今にもセイバーを取り込もうとしており、セイバーは必死に抵抗するも、本が水色の闇と共に宙へと浮かぶと、セイバーの中へと吸い込まれた。すると骨の腕は本を追うようにセイバーの体へと入っていくとセイバーは完全に乗っ取られたのか体の力が脱力された。

 

「セイバー?」

 

カナデはセイバーの異変に気づいて身構える。

 

「ウヴゥ………」

 

セイバーの声が呻き声に変わると烈火を抜刀し、次の瞬間には竜騎士の装備の上にかぶさるように骨の腕と骨の龍の顔が現れた。

 

そして水色の骨の龍はセイバーの体に纏わりつくと新たな装甲に変わり、セイバーの装備を強制的に進化させた。

 

『骨龍のヘッドギア』

【MP+50】【VIT+35】【HP+60】

【破壊不可】【進化の可能性】

【消費MPカット(火)】【火属性無効】

 

『骨龍の鎧』

【VIT+35】【INT+60】【STR+40】

【破壊不可】【進化の可能性】

【爆炎激突】【爆炎放射】

【火炎砲】【極炎】【破壊の刃】

 

 

『骨龍の靴』

【AGI+60】

【破壊不可】【進化の可能性】

【フレアジェット】

 

進化条件

プレイヤーのレベルが50以上の状態で悲しみの龍を取り込む。

 

『火炎剣烈火』

【STR+40】

【破壊不可】

【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】

【破壊必殺斬(クラッシュひっさつざん)】

【紅蓮爆龍剣】【龍神破壊撃】

 

セイバーの姿は右胸に骨の龍の腕が抱きつくような形であり、龍の頭が右肩にアーマーとして装備され、両足にも骨を模したアーマーが装着。左側にはブレイブドラゴンの絵が描かれており、ヘッドギアも骨の龍が噛み付くような形をして、ツノのように剣が伸びている。

 

「ヴァアアアアアアアアアアア!!!」

 

セイバーはその場で咆哮を上げると図書館を飛び出して走っていった。

 

「セイバー!!」

 

カナデも選んだ本の会計を放り出してセイバーの後を追いかけた。

 

図書館を飛び出したセイバーはダンジョンに行くと敵のモブを無差別に攻撃、破壊していった。当然、プレイヤーと敵モブの区別もつかないのでプレイヤーであろうとお構いなしに蹂躙していく。その様子を見たプレイヤーと被害に遭ったプレイヤー曰く、セイバーの姿はダンジョンのボスが暴走して外に出てきたのではと思えるほどであった。

 

そこにカナデの知らせを受けた【楓の木】の面々が来ると荒れ狂うセイバーの姿を見て驚きを隠せなかった。

 

「ちょっ、セイバーアンタ何してるの!」

 

「待って、今のセイバーには何を言っても多分意味がない」

 

「じゃあどうやって止めるんだ!」

 

「戦いましょう。セイバーお兄ちゃんの意識を飛ばせばきっと元に戻るはずです!」

 

「私達もやります」

 

「行くよ、お姉ちゃん!」

 

「クロム、あなたはやる?」

 

「ああ、正直セイバー君の強さは半端じゃないが、今回は9人。全員でかかれば何とかなると思う」

 

「決まりだな。カナデは大丈夫か?」

 

「うん。元はと言えば僕が軽率に本をめくってみてよって言ったのが原因だし」

 

「メイプル」

 

「うん。皆、セイバーを助けるよ!」

 

メイプルの言葉に全員が答える。ここに悲しみの龍に取り憑かれて暴走状態のセイバー対【楓の木】のほぼフルメンバーとの戦いが始まった。




58話時点のセイバーのステータス

セイバー 
*補正値は光剛剣最光の装備し、自身が聖剣の状態の時
Lv52
HP ー
MP 80
 
【STR 80】
【VIT ー】
【AGI 80】
【DEX 90】
【INT 70】
 
装備
頭 【光剛剣最光】
体 【光剛剣最光】
右手【光剛剣最光】
左手【光剛剣最光】
足 【光剛剣最光】
靴 【光剛剣最光】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅶ】【気配斬りⅣ】【気配察知Ⅴ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅵ】【風魔法Ⅶ】【土魔法Ⅶ】【光魔法Ⅶ】【闇魔法Ⅶ】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化中】【状態異常Ⅳ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅳ】【死霊の泥】【深緑の加護】
*光剛剣最光を装備時
【閃光斬】【発光】【シャイニングブラスト】【シャドーボディ】【カラフルボディ】


次回は暴走したセイバー対【楓の木】となります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと荒れ狂う剣士

【楓の木】と対峙する悲しみの龍に乗っ取られたセイバー。戦いの火蓋は切って落とされた。

 

「ヴァアアアアアアア!!」

 

セイバーはまず最初に紙耐久であるユイとマイへと飛びかかった。

 

「【身捧ぐ慈愛】!」

 

咄嗟にメイプルは範囲防御でセイバーの攻撃を防ぐ……が、次の瞬間メイプルからダメージのエフェクトが出た。

 

「うぇっ!?」

 

「まさか、激土と同じで通常攻撃にも貫通が入るの!?」

 

この状態のセイバーのスキル、【破壊の刃】によってセイバーには常時防御貫通が付与されている。さらにこれは【破壊の刃】の常時発動効果。瞬間的に発動される効果もある。

 

「ガアアアアアア!(【破壊の刃】)」

 

セイバーは龍の叫び声でスキルを発動すると水色エネルギーを剣に纏わせた。

そしてカスミへと斬りかかる。

 

「くっ」

 

カスミは自身の刀で受け止めるも、それは一瞬にして耐久力が3分の1近く減らされた。

 

「え……」

 

「嘘でしょ?いくらパワーがあると言ってもカスミの刀はユニークシリーズ。それなのに耐久値がたった一撃であそこまで……」

 

一応刀は鞘にしまっておけば【自己修復】の効果で耐久値も回復するのだが、今のこの状況ではそれも難しいだろう。

 

「「【飛撃】!」」

 

そこにマイとユイから放たれた2つの即死級の攻撃が迫る。

 

「ガウウウ(【フレアジェット】)」

 

セイバーは空へと飛ぶ事で攻撃を回避し、一撃で死ぬ事を避け、さらにはユイ、マイへと迫った。

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

そこにサリーがカバーに入るが、セイバーはサリーに足止めされることを嫌ったのかスキルを叫んだ。

 

「ヴァアアア!!(【爆炎放射】)」

 

セイバーは周囲に火炎を放つ事でその勢いを利用して離脱。遠距離からの攻撃を放った。

 

「ガアアアア!(【火炎十字斬】)」

 

「く……」

 

その斬撃はクロムが受け止める。

 

「【パラライズレーザー】」

 

カナデはレーザーを放ってセイバーを遠くから撃ち抜こうとしたがセイバーはこれを躱した。

 

「やはりセイバーの強さは半端じゃないな」

 

「俺達9人が相手でもまるで動じてない」

 

「メイプル、まだ【暴虐】は残ってるよね?」

 

「うん」

 

「これはかなりキツい勝負になるかも」

 

サリーは厳しそうな顔で言うと再びセイバーは楓の木の面々へと攻撃を再開していた。

 

その頃、セイバーの心の中ではセイバーが悲しみの龍を相手に必死に抵抗していた。

 

「お前は何の目的でこんな事をするんだ!」

 

『僕は一度は人間を救おうと頑張った。でも、奴らは僕を追い出した!そして、伝承を書き換えて僕が悪者みたいに扱って……僕がいなければ妖怪に侵略されてしまうことも知らずに!!』

 

「妖怪に侵略?……まさか、君はジャアクドラゴンの言ってた……ぐあああああ!!」

 

『おしゃべりはここまでだよ。さっさと僕に乗っ取られてよ!!』

 

 

 

〜現実世界〜

 

セイバーと楓の木の戦闘は更に激しさを増しており、メイプルは不利になると踏んで【身捧ぐ慈愛】を解除したものの、それによって他の面々がダメージを負うようになってしまった。

 

「【一の太刀・陽炎】!」

 

「これでもどうぞ!」

 

カスミの斬撃とイズの爆弾がセイバーを襲うがセイバーはこれを簡単にガードしていた。

 

「はあっ!」

 

続けてヒビキが近接戦を仕掛けるがセイバーはこれを軽くあしらい、弾き飛ばす。

 

「ガアア!(【爆炎紅蓮斬】)」

 

セイバーは火炎を纏わせた剣をクロムへと振り下ろし、彼の体を両断した。

 

「ぐ……」

 

するとクロムの体から禍々しいオーラが出るとクロムはまだ耐えていた。

「クロム、大丈夫?」

 

「ああ、【デッド・オア・アライブ】でギリギリだったけどな」

 

しかし、セイバーは執拗にクロムを狙って攻撃してきた。何故ならクロムには驚異的な再生力があり、何度でもHPが回復するため放っておけば厄介とセイバーが判断したからである。

 

「まさか、こんなになっても知能はそのままだなんてね」

 

「厄介すぎる事この上ないな」

 

 

「ヴァアアアアア!(【破壊必殺斬】)」

 

セイバーはこの形態の最強攻撃、破壊必殺斬を放った。それは剣を逆手で持ち、思い切り振りかぶってから放たれる3本の水色の斬撃。龍の爪を模したその攻撃はクロム、ユイ、マイへと向かって飛んでいった。

 

「ヤバい、カバーム……」

 

「ダメ!メイプルさん!」

 

ヒビキは【カバームーブ】でユイ、マイを助けようとしたメイプルに体当たりをするとその行動をキャンセルさせ、その代わりにユイ、マイ、クロムが攻撃に巻き込まれる事になった。

 

「「きゃあああああ!!」」

 

「ぐあああああ!!」

 

すると3人は粒子となって消え、死亡してしまったことがわかった。

 

「え……ヒビキ、どうして私を止めたの!」

 

「いえ、ヒビキがやった事は間違ってない。見てみてメイプル」

 

そこには3人が跡形もなくなっていた。

 

「え!?クロムさんってまだ【不屈の守護者】を使ってなかったよね?」

 

「ああ、確かに使ってない。だがそれでもセイバーはクロムを一撃で葬った」

 

「もしかして、セイバーのあのスキルは相手のスキル発動を無視しつつ、相手を確率で即死させる効果があるのかも」

 

カスミとカナデは冷静に答えを出す。

 

2人の考えは当たっていた。セイバーの【破壊必殺斬】には相手を確率で即死させる効果がある。しかも、クロムのように攻撃で倒される事が確定したら発動する【デッド・オア・アライブ】や【不屈の守護者】のような生き残る事が可能なスキルが残っていたとしても確定で相手を殺せるのだ。

 

「今メイプルがカバーして、もし即死が発動していたら私達の戦線が完全に崩壊する所だったの。ヒビキ、ありがとう」

 

「でも、ごめんなさい。代わりに3人を見殺しにしてしまって」

 

「反省は後!今はセイバーを止めるのが先!」

 

「行くよ【サンドボール】!」

 

カナデはセイバーに牽制で土のエネルギー弾を使いセイバーを撹乱。その間に今度はサリーとカスミが来る。

 

「【ウォーターボール】!」

 

「【七ノ太刀・破砕】!」

 

セイバーはサリーの水弾に目眩しされている間にカスミのノックバック効果持ちの斬撃を受けて後ろへと後退した。

 

「ヴアアア(【龍神破壊撃】)」

 

セイバーは跳ぶと後ろに骨の龍が出てきて骨の龍がセイバーと一体化すると後方にいるカナデへと突っ込んでいった。

 

「く。【ファイヤーボール】!」

 

だが、セイバーに対してそれは自殺行為だった。烈火を装備したセイバーには火属性の攻撃は通用しないのだ。よって簡単にセイバーはカナデへと肉薄すると放たれたキックがカナデを倒そうとしていた。

 

「【超加速】!【終ワリノ太刀・朧月】!」

 

 

カスミはカナデを救うべくセイバーとの間に割って入ると目に見えぬ速度で刀での連続攻撃を放った。

 

「はあっ!」

 

カスミのそのスキルはセイバーの動きを一時的に止めるも、やはりスキルの効果時間切れのタイミングでカスミはデバフを受けてしまいそのまま2人纏めてやられてしまった。

 

「これでどうよ!!」

 

イズはありったけの爆弾を出すとセイバーへと投げまくった。だが、セイバーはこれを軽々と躱し、イズを一瞬にして両断した。

 

「メイプル、ごめんなさい。あとはお願いするわ」

 

「イズさんも……セイバー、やっぱり強すぎる……。こうなったら!【百鬼夜行】、【捕食者】、【機械神】!」

 

するとメイプルの隣に鬼と怪物が現れ、更にメイプル自身も機械仕掛けの砲台となった。

 

「全兵器発射!」

 

メイプルは大量のレーザービームを放ち、怪物や鬼にセイバーを襲わせた。流石のセイバーも物量を相手にダメージこそ負うが、大した動揺には繋がらなかった。

 

「ガアッ!」

 

するとセイバーの胸からいきなり骨の腕が出てきて、鬼や怪物を一瞬にして薙ぎ払い蹴散らした。

 

「そんな……」

 

狼狽えるメイプルの前にサリーが割って入る。

 

「大丈夫。セイバーは私が助けるから」

 

サリーは構えるとその前にヒビキが立つ。

 

「ヒビキちゃん!!」

 

「ここは私がメインの攻撃をします。メイプルさんとサリーお姉ちゃんは援護を」

 

ヒビキは胸のマイクユニットに手をかけた。

 

「【イグナイトモジュール・ダブル抜剣】!」

 

『ダイン・ダインスレイヴ!』

 

ヒビキはイグナイトを2段階目まで起動するとカウントがスタートし、フェーズ・アルベドとなった。

 

ヒビキの体から黒と白のオーラが出てくるとセイバーを見据えた。

 

「セイバーお兄ちゃん、今助けるからね!!」

 

ヒビキは飛び出すとセイバーへと猛攻を開始した。

 

「うぉりゃああ!【我流・特大撃槍】」

 

彼女の攻撃はセイバーにダメージを与えるには十分であり、セイバーが後退りをした直後にヒビキの渾身の一撃がセイバーの腹に決まってセイバーは吹き飛ばされた。

 

「ウガァ!?」

 

「【機械神】!」

 

「【サンドボール】!」

 

2人の遠距離攻撃もしっかりとセイバーを追撃し、セイバーはかなりのダメージを受けていた。

 

「あれが前に言っていたヒビキちゃんのパワーアップ手段ね」

 

「あれなら行ける!」

 

メイプルとサリーは勝てる事を確信した。

 

「セイバーお兄ちゃん、ちょっとだけ我慢してね!【我流・鳳凰無双撃】!」

 

するとヒビキの体が鳳凰の幻影に包まれていくとそのままセイバーへと突貫し、パンチを繰り出すとそれはセイバーの顔面に直撃し、彼のHPを1に減らした。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「やった!」

 

「いや、まだセイバーには【不屈の竜騎士】がある。多分1だけ残ってるよ!」

 

次の瞬間、セイバーは起き上がると必殺のエネルギーを剣に込めた。

 

「グァアアアアア!!(【破壊必殺斬】)」

 

セイバーは目の前にいるヒビキにフルパワーの一撃を放とうとした。

 

ヒビキは痛みに備えて目を閉じた。だが、その痛みは全く来なかった。

 

 

「ホント……アンタは世話ばかりかけるわね……」

 

目の前にサリーがヒビキを庇うように立つとセイバーは攻撃をサリーの眼前で止めていた。

 

「ガ……ア………」

 

「もう良いでしょ?……これ以上アンタのその姿は見るに耐えないのよ!!」

 

サリーの目には涙が浮かんでおり、これ以上セイバーが暴れるのは見たくないという顔だった。

 

「お願いだから……元のセイバーに戻りなさいよ……」

 

サリーは泣きながら懇願しており、それが届いたのかセイバーの目にも涙が浮かぶと電撃が走り、骨の龍の装甲は体の中に引っ込み、竜騎士の鎧に戻ったセイバーがその場に倒れ込んだ。

 

「すまない……サリー……迷惑かけたな……」

 

「ひぐっ……ぐすん……バカ………セイバーのバカ!!」

 

サリーはセイバーを罵倒しながらも泣きながら抱きつき、セイバーが戻ってきた事を喜んだ。

 

そこに復活した楓の木の面々とイグナイトを解除したヒビキが2人の様子を遠くから見ていたが気を使ってこの場を2人だけにした。

 

その日、サリーは30分くらいはセイバーに抱きつきながら泣いており、その様子を見たプレイヤー達が掲示板に話題にする事になった。

 

 

同時刻 運営にて

 

セイバーが暴れている頃、運営陣はというと……

 

「これはやったな……」

 

「ああ、流石に今回のは責任問題だぞ!?」

 

「だってまさかセイバーがプリミティブドラゴンを取り込むとは思ってなかったし!!」

 

「元々はセイバーとプリミティブドラゴンが戦うって予定だったのになんでこうなった?マジで誰がこれやった?」

 

「下手をすればセイバーや【楓の木】の面々から訴えられてもおかしくないからな?」

 

「うう……多分だが、セイバーが予定外の行動をしたからじゃないか?本当ならあそこで本は開かずに、これから実装する第六層のダンジョンへと持っていってから本から龍が解放される予定だった。その証拠にカナデってプレイヤーが開けようとしたときも開かなかったし」

 

「だが、以前にセイバーがジャアクドラゴンの力でパートナーの龍と融合した事で、セイバーの中に僅かだがプリミティブドラゴンのかつての仲間だったブレイブドラゴンやジャアクドラゴンの力が入った。これにより仲間だと思い込んだプリミティブドラゴンが本のロックを緩めたんじゃ……確か、アイツには仲間を求める感情を強く設定したはず。だからその感情がバグを起こさせたとか」

 

「いずれにせよ、これはセイバー及び、【楓の木】の面々、そして暴走セイバーによって被害を受けたプレイヤー達にお詫びをしないとダメだろうな」

 

「そうだな。流石に今回はこちらが悪い。バグだったとはいえセイバーは肉体を乗っ取られた上に暴走させられた訳だからな。以後、このような事態が2度と起きないようにしよう」

 

 

「「「「「「はい」」」」」」

 

このような会話もあって、後日セイバー達【楓の木】やセイバーに巻き込まれたプレイヤー達に謝罪文とお詫びのスキルが1つずつ贈られる事が決定し、順次それは贈られる事になった。




59話時点のセイバーのステータス

セイバー 
*補正値は火炎剣烈火の装備時
Lv52
HP 175/175〈+60〉
MP 180/180〈+50〉
 
【STR 50〈+80〉】
【VIT 50〈+70〉】
【AGI 50〈+60〉】
【DEX 40】
【INT 50〈+60〉】

装備
頭 【骨龍のヘッドギア】
体 【骨龍の鎧】
右手【火炎剣烈火】
左手【空欄】
足 【骨龍の鎧】
靴 【骨龍の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅶ】【気配斬りⅣ】【気配察知Ⅴ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅵ】【風魔法Ⅶ】【土魔法Ⅶ】【光魔法Ⅶ】【闇魔法Ⅶ】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化中】【状態異常Ⅳ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅴ】【死霊の泥】【深緑の加護】
*火炎剣烈火を装備時
【火炎砲】【爆炎放射】【爆炎激突】【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】【紅蓮爆龍剣】【極炎】【フレアジェット】【消費MPカット(火)】【龍神破壊撃】【破壊必殺斬】【火属性無効】【破壊の刃】

また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第六層

セイバーが暴れまくったその日、ギルドメンバー全員に土下座で謝った。

 

「今回は俺のせいで皆さんには多大なご迷惑をおかけしました事、誠に申し訳ございませんでした」

 

このような謝罪もありなんとかセイバーはメンバーに許してもらうことができた。ただ、セイバーの中で1つの課題が浮き彫りになった。

 

「えぇ!?もう烈火は使えない!?」

 

「ああ、多分今のままでもう一回烈火を使ってもまたさっきみたいに暴走してしまう。やるなら本当に自分以外誰もいない所でやらないと……また周囲に迷惑かけちゃう」

 

「まぁ、その辺はアンタならなんとかするでしょ?ちゃんと扱えるようになりなさいよ。その力」

 

「わかっている」

 

……とは言ったものの、あの龍の悲しみをなんとかしてやらない事にはどうにもならないな。一先ず方法は考えていこう。

 

更にその翌日、運営からの謝罪文とお詫びのスキルがそれぞれに贈られて、メイプル、サリー、セイバーがそのことを話していた。

 

「運営も仕事が早いわね。もうお詫びのスキル寄越すとか」

 

「えっと、2人はどんなスキルだった?私のは【鋼鉄装甲】だったよ。VITが1.5倍に増えて更に貫通攻撃のダメージを1日に1回だけ無効にできるようになった」

 

「私は【水刃斬波】。地面を伝わせて好きな場所に水の刃を生やすスキルだけど、防御貫通ができる上に自身が見える範囲ならどこからでも放てるらしいわ」

 

「えげつな……それって見えてさえいれば範囲攻撃可能じゃん」

 

「そうでも無いわよ。これ、一度に3発までしか撃てないし、割と出てくる刃のリーチ短いからちゃんと使う場所見極めないとダメかも」

 

「なるほどな」

 

「他の皆もそれぞれ別のスキルを貰ったみたいよ。マイとユイは同じらしいけど……」

 

「もしかしてプレイヤーの特徴ごとで違うスキルが配られたのかも」

 

「確かに、イズさんは【コスト削減】でアイテムを作る際に必要となるゴールドが2割少なくできるようになったらしいし、クロムさんは私と同じ【鋼鉄装甲】だったね」

 

「カスミは【乱れ居合斬り】。居合斬りの要領で刀を抜いて一瞬のうちに連続で相手を斬りつける攻撃。カナデは【MP貯蔵】。事前にMPを消費する事で消費した分のMPを貯めておくことができ、いつでも好きな時に使用できる」

 

「マイとユイは【パワーボディ】だったっけ。確かSTRを1.5倍にして、尚且つ相手からノックバック効果を受けなくなるようにするスキル。そんで、ヒビキは【エクスドライブ】。1日1回だけ装備のポテンシャルを解放できて、それによりステータスをあげられるスキルだったか」

 

「それに、今回セイバーの被害を受けたプレイヤー達はそもそも死んでいない扱いとみなされて、私達のようにスキルを1つ取得。そしてデスペナルティによる損失分が補填されるらしいよ。」

 

「えぇ……最早こうなってくると俺のお陰で周りのプレイヤー強化って感じじゃん」

 

「まぁ、私達だけ特別扱いにしても周りは納得しないからね。で、アンタはどうなの。貰ったスキルってのは」

 

「それなんだけど、こんなのだった」

 

セイバーが画面を見せるとそこにはスキルが書いてあった。

 

【暴走抑制】

暴走効果のある装備の暴走を抑制し、火炎剣烈火以外を使用する際に普段のプレイに支障をきたさないようにする。

 

「これだけ!?」

 

「うん」

 

「ちょっと運営に抗議してくる」

 

「待て待てサリー、落ち着け」

 

「だってアンタが1番の被害者でしょ?アンタはそれで良いの?」

 

「そんなこと言ったって、俺はあの力が普段のゲームで悪影響及ぼすよりマシでしょ。というか、運営の通知だと一回取り憑かれたらもう分離はできないっぽいし、またいきなり暴走するよりはいいだろ」

 

「そうだけど……」

 

「俺がまた烈火を使ったらあの龍の力で暴走するのはもうどうにも出来ないらしいし、こればっかりはしょうがないよ」

 

「アンタがそれで良いのならいいけど……」

 

「それにさ、解決法は次の層に行けばわかるって通知も来たからじきにどうにかなるよ」

 

「ホント、アンタはお気楽よね。烈火使ったら自分が暴走するってわかってるのに」

 

サリーは不服そうな顔をしていたが仕方なく納得した。こうして、運営からの補填が終わることになった。

 

 

それから約数日が過ぎて3月の初めに入ると、とあるダンジョンに次の階層へ進むことができる道が用意された。

先行部隊に続いて、セイバー達【楓の木】もダンジョンへと向かおうとしている。

 

「今回のボスは雲でできたクラゲだと。状態異常を何種類か使うらしいな」

 

カスミが簡単にボスの情報を話す。

クロムとサリーとセイバーはそれを聞き、そしてクロムが口を開いた。

 

「物理攻撃は効くか?」

 

「ああ」

 

「今日は……ユイとマイもいますね」

 

サリーが補足する。

それを聞いてクロムがもう一度質問する。

 

「貫通攻撃はあるか?」

 

「今のところ確認されていない」

 

カスミがそう言うと、クロムは一つ大きく息を吐いてにこやかに言い放った。

 

「勝ったな」

 

「ですね」

 

「そうだな」

 

「ちぇっ。俺の出番は無さそうだな」

 

今日は今のところ全員がギルドホームにいる。

であれば、完璧な状態でボスを叩くことが可能となる。

4人が勝ちを確信するのは慢心などでは決してなく当然であった。

 

4人がそんな話をしているとギルドホームの奥から、イズを先頭にして残りの6人がロビーに出てきた。

 

「行くか!ぱぱっと終わらせて六層だ」

 

「じゃあシロップに乗って行こう?」

 

「賛成!」

 

メイプルの提案に全員が賛成して、【楓の木】一行はシロップの背中に乗って、ふわふわと飛びながら雲の海を行くこととなった。

 

 

 

「到着!」

 

メイプルが地面にシロップを降ろし、頭を撫でてから指輪に戻す。

10人の前には雲でできたダンジョンの入り口が、まるで出迎えるように口を開けていた。

 

「じゃあ行こう?」

 

「メイプルが先頭、俺とカスミで最後尾を行く。まあ念のためってだけだ」

 

クロムの言うようにまさに念のための行動である。なぜならそう言っている途中で既にメイプルが【身捧ぐ慈愛】を発動しているからだ。

 

「まあ、突然スキル解除が飛んでくるかもしれないからな……」

 

「その場合俺が敵を叩き潰しますので安心してください」

 

「いや、別に構わないけどアレにはなるなよ?」

 

「大丈夫ですよ。烈火が使えないのは痛いですけど他の剣でも十分すぎるんで」

 

セイバー達一行はユイとマイを中心として細い通路を進んで行く。

ユイとマイは大抵の場合、ボス戦までは守られる立場となる。

 

「まあ、私はメイプルだけでも勝てると思うが」

 

「俺もそう思うよ」

 

「俺も」

 

セイバーとカスミとクロムがそんなことを話している中、メイプルの大盾が突っ込んできた雷雲をいつものように飲み込んでいたりした。

 

「進めー!すっすめー!」

 

細い道では盾を突き出しているだけでも十分過ぎるくらいである。

もしも、1人きりならば通路は毒で埋まるのだから今回は優しい方と言えるだろう。

 

メイプルの行進を止めることができるモンスターがいればそれは最早雑魚として道中にいるべきものではないのだ。

セイバーとサリーが進む方向を教えている以上、メイプルがボス部屋の前に辿り着くのは容易いことだった。

 

ボス部屋の扉を開け全員が中へと踏み入ると、全て雲でできた部屋の天井部分が膨らみ始める。

そして、その部分が千切れゆっくりと触手状の雲が伸びてクラゲの形を成していった。

 

「おおー柔らかそう!」

 

「多分毒があると思うけどね。メイプル、適当に相手しててくれる?」

 

「おっけー!」

 

メイプルは迫ってくるクラゲと、わちゃわちゃとふれあい始める。

 

その触手が持つ麻痺効果はメイプルには効かないため、本当に触り心地がいい程度である。

強く叩かれようが変わらず、むしろ触手が弾かれているといった状態だった。

 

そしてその後方、メイプルの庇護下のギリギリの位置で9人がユイとマイを強化していく。

 

そしてしばらくして。

 

「よし。はい!終わりました!」

 

「大丈夫です……!」

 

準備が整った2人は身の丈よりも大きな大槌を2本持ってクラゲの元へと歩いていく。

 

「あ、クラゲさん。ごめんね?私達も倒さないと駄目だから」

 

近づいてくる2人に気づいたメイプルは、少し名残惜しそうにふわふわとした触手を離すとクラゲから離れた。

 

「「【ダブルスタンプ】!」」

 

クラゲはその身を打ち据えられて、吹き飛ばされてポロポロと崩れ雲の塊となってしまった。

 

「物理耐性がないのが悪かったと僕は思うなー」

 

「あら、私もよ」

 

「てか、そろそろ運営も対策ぐらいしてくれないとヌルゲーになるし、俺の出番が無くなるじゃん!」

 

主にユイとマイを強化して一撃レベルにまで持っていったのは2人である。

ただ、惨状の原因の1つであるカナデとイズの言うことも一理あるとも言えた。

 

こうして、特に苦戦などすることもなく10人はまだ見ぬ六層へと向かう。

 

「どんなところだろうねサリー」

 

「さあ?まあどんなところでも大丈夫だけど……糸使いで攻略できるところだと嬉しいな」

 

「てか、前情報で仕入れたんだけど確かここお化けが出るホラーエリアらしいよ?」

 

「……え?」

 

サリーのキョトンとした返事が聞こえると新たな階層へ続く出口が見えてきた。

10人の前に広がった景色は、一面の荒野とそこに残る古びた墓標だった。

薄暗く少し霧のかかったエリアは空からの月の光を受けて不気味に見える。

 

「おー……ん?」

 

景色を見ていたメイプルが右手を握られてその方を向く。

 

「だ、だいじょうぶじゃなかった……」

 

「やっぱこうなるよね〜」

 

そこには見るからに顔色の悪いサリーがいたのだった。

 

セイバーの言った通りよくあるホラーゾーン、それが六層としてやってきたのである。

 

セイバー達はいつも通りに、まずギルドホームへと向かうことにした。

その間サリーはずっとメイプルの右手を掴んだまま、いつもの索敵とは違う理由できょろきょろと落ち着きなく視線を動かしていたのだった。

 

ギルドホームは外観こそ廃屋だが、中に入ってみれば今まで通り、過ごしやすい快適な部屋が広がっている。

それぞれが自分の部屋へ向かったり、設備の位置を確認したりとロビーから離れていき、セイバーとメイプルとサリーがロビーに残った。

 

「はぁ……落ち着ける」

 

サリーは大きく息を吐くと、パネルを操作してログアウトの文字を表示する。

 

「じゃあ……メイプル、セイバー。七層が実装されたら帰ってくるから……」

 

「えっ?」

 

「うん、まぁ、知ってたけどちゃんと戻って来いよ」

 

「わかってる……」

 

サリーは力なく微笑むと、セイバーとメイプルの返事も聞かず、逃げるように消えていった。

逃げるようにというよりは正に逃げた訳なのだが、それも仕方ないとサリーをよく知る2人は思ったのである。

 

「サリーと探索はできないかなあ」

 

「流石にああなったサリーをここに連れてくるのもアレだろ」

 

メイプルが痛いことを嫌うようにサリーもまた嫌うものがある。

 

「ああまで言ったら……戻ってこないよねー」

 

「仕方ない。ここは2人で行くか」

 

今回ばかりは諦めて、セイバーとメイプルは2人で町を見て回ることにしたのだった。

2人はギルドホームを出てどっちに行こうかと左右を確認する。

 

「うん!サリーが戻ってきた時に六層のことを全部教えられるくらい見て回ろうっと!」

 

「それが良いと思う。アイツもそれで少しは喜ぶだろ」

 

2人はそう意気込んで月明かりに照らされた夜道を歩いていった。

 

 

「うわあ……どこも廃屋ばっかり。多分中は普通なんだろうけど……んっ!?」

 

「あー。なんかサリーが嫌がりそうな感じ」

 

時折ある完全に崩れ切った廃屋跡の側を通ると、首筋を生温かかったり冷たかったりする風がふわっと撫でるのである。

メイプルが後ろを振り返ってもそこには何もいなかった。

 

「これ、サリーは町も歩けないかも」

 

『確かにそうだなぁ。だが、俺はすげー気持ち良いぜ?』

 

「へぇ……そうなん……ってええ!?」

 

「おいデザスト、勝手に出てくるなって言っただろ?」

 

『しょうがねぇだろ?ここがとても気持ちいいんだからよ』

 

「デザスト、今すぐ戻ってくれ。周りのプレイヤーに悪目立ちする」

 

『へいへーい』

 

そう言ってデザストは影へと戻った。

 

「ねぇセイバー」

 

「何だ?」

 

「前も思ったんだけどデザストって人強いのかな?なんかそんな気がして」

 

「いや、強いよ。俺は一回戦って感じた。あの強さは本物だってな」

 

「ふうーん。ま、いっか!それにしてもさっきから人魂も増えてない?」

 

「確かに。まぁ俺達は平気だけどサリーは無理だろうな」

 

窓には青い人魂がちらっと映ったりもして、メイプルよりも鋭い感覚を持ってしまっているサリーは、そういうものに余計に気づいてしまうのである。

 

「とりあえず、どこかのお店に入ってみようっと!」

 

「そうだな」

 

2人はそう言ってぼんやりとした灯りの見える店へと入っていった。

 

 

 

セイバーとメイプルが探索をしている頃。

現実世界へと戻ってきた理沙はベッドに寝転がっていた。

 

「あー無理無理。ま、別にいいよね、他の階層でレベリングしてれば」

 

理沙は未練などないというようにごろごろとしていたが、しばらくすると六層の情報を調べ始めた。

 

そうしてまず出てきたのはMP増加系のスキルが手に入るというものである。

 

「カナデとかが取るかなー……ちょっと欲しいけど……レイス?スケルトン?無理無理」

 

出現する敵を見て理沙がそう独り言をこぼす。

 

理沙はその後も情報を確認していく。

まだほんの僅かしかないものの、分かりやすい場所で手に入るものは調べることができた。

 

そうして出てきたのは、状態異常を与えられるようなスキルに、低確率で一部アイテム効果を2倍にするスキル。【AGI】強化に、加速スキル。

そして、空中に透明な足場を一つ作ることが出来る靴である。

 

「ああー、うぅー……くぅ、んー!あ゛あ゛ー……っ」

 

酷い声で呻きながら、理沙は画面を指でなぞって確認する。しかし、そこに書かれている文字は変わらなかった。

 

そうして理沙は再度ゲームを始める準備をしてはそれを止め、もう1度始めようとしては止めを繰り返して部屋をぐるぐると歩き回った後、最終的にその日はぐったりとベッドに倒れこんだ。




セイバーが暴走を完全に克服するのはもう少し先になると思います。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと幽霊屋敷

六層へやってきてから少し。

今日も今日とてセイバーはログインしていた。

今は、メイプルが白い方の装備をメンテナンスに出しているためにそれが完了するのを待っている所である。

 

セイバーは自分の装備には【破壊不可】が付いている物ばかりなので忘れていたのだが、例え体が攻撃を跳ね返しても装備は傷つくという事をメイプルを見て実感した。

 

メイプルはイズから装備を受け取って、【クイックチェンジ】の枠にセットし直した。

 

「よし、お待たせセイバー!今日も探索しよう!」

 

「了解」

 

 

2人がギルドホームから出ようとした所で、扉を開けて意外な人物が中に入ってきた。

 

「えっ?サリー?」

 

「あ……メイプル」

 

「なんだよ。怖いの克服できたのか?」

 

「いや、流石に無理。それでも今日来たのは…」

 

サリーは2人にここへ来た理由を話す。

理由としては、どうしても逃すわけにはいかないあれこれがあった。

しかしフィールドへ出てすぐに無理だと悟って、誰かに助けて貰おうとしたというものだった。

 

「おっけーおっけー。じゃあ、私が手伝うよ!ちょうどやることも特になかったし」

 

「乗りかかった船だ。俺も付き合うぜ」

 

「本当……ありがとうございます……」

 

「じゃあ、早速行こう!」

 

こうしてメイプルはサリーの手を引いてギルドホームを出ていった。

 

メイプルはサリーの手を引いたままフィールドへと出て、シロップを呼び出し巨大化させると、甲羅の上に乗って甲羅を優しく撫でて話しかける。ちなみに今回はセイバーもシロップの上にいる。装備は暴走があるために烈火が使えないので、流水にしている。

 

 

「よろしくね。【身捧ぐ慈愛】!【天王の玉座】!」

 

シロップの甲羅の上に玉座が出現し、メイプルはそこに座った。サリーはその前の甲羅の上に座って目を細めている。

メイプルはそのままシロップを浮き上がらせて待機させた。

 

「サリー、目的地は?」

 

「町から西に行った所に洋館があるから……そこに」

 

「分かった。西だねー」

 

「さーて、今回はどんな強い奴と会えるかな?」

 

「悪いけどセイバー、基本的に今回は戦わずにさっさと抜けても良い?サリーが持たなそう」

 

「ちぇっ、しょうがないな」

 

メイプルはシロップの向きをぐぐっと変えると西へ向かって進み始めた。

 

「はぁ……ここからだ……嫌だ」

 

サリーは両手で顔を覆って甲羅の上に座り、丸まっていた。

ふわふわと順調に進んでいたもののメイプルが唐突に声を上げる。

 

「あっ!」

 

「え?なに……」

 

「ん?」

メイプルの声に反応してセイバーとサリーが顔を上げる。

 

すると、目の前には青白い顔をした女性が浮かんでいた。

それは3人の顔にすうっと手を伸ばして触れてくる。

 

「…………!!」

 

「【砲身展開】【攻撃開始】!」

 

「【キングキャノン】!」

 

サリーがセイバーに飛びつくのと銃弾と水の砲弾で霊の姿が霧散したのはほとんど同時だった。

 

「結構近くに出てきたね」

 

「確かにサリーには無理だな」

 

「あ、っあれ!だ、駄目でしょ!」

 

サリーがセイバーにひっついたまま、虚空を指差して言う。

 

「玉座のお陰でただ触ってくるだけだから安心して!」

 

「なんなら俺1人で対処可能だろ。って、さっきからなんかくっついて……は?」

 

「あの……サリーさん」

 

「な、何メイプル?」

 

「さっきからなんでセイバーにくっついてるの?」

 

「ふぇ!?あ………」

 

サリーは顔を真っ赤にして離れるも、すぐに霊が寄ってきてサリーの顔色は赤から青に戻った。

 

「うぇぇ……」

 

「まだ出てくるのか」

 

「でも倒せてないっぽいんだよね。すぐまた寄ってくるし。あ、2人共、来た!」

 

辛そうな呻き声を上げながらふらふらと霊が寄ってくる。

 

「除霊です!」

 

「さっさと成仏しろ!」

 

マフラーを顔に巻き始めたサリーはそのままにしておいて、セイバーとメイプルは霊を追い払っていった。

 

 

しばらくして、眼下にボロボロになった大きな洋館らしきものが見え始める。

その周りは他の場所に比べ霧が濃く、全体をはっきりと確認することはできそうになかった。

 

「サリー!着いたよ。えっと、多分……確認して?」

 

「何もいない?」

 

「んー、いないね!大丈夫」

 

「てかビビリすぎ。本当に昔からホラーがダメだよな」

 

メイプルが周りを確認してサリーに伝えると、サリーはマフラーをずらして隙間から下を確認する。

 

「うん。大丈夫、合ってる。よし……よし!行く!」

 

「じゃあ降りるよー」

 

「よっと!」

 

メイプルがゆっくりとシロップを降ろしサリーの手を引いて地面に降りる。セイバーも降り立つと剣を構えた。

そして、メイプルは玉座を消してシロップを指輪に戻す。

洋館の中では巨大化したシロップはまともに動くことができないからである。

 

流石に探索をするというのにマフラーを顔に巻いているわけにもいかないため、サリーもいつも通りの格好に戻った。

 

「1回駄目だと思ったら無理……心を無にする、無にする……」

 

「行くよ?サリー」

 

「ま、待ってまだ心の準備が……」

 

「……1時間かかっても終わらなかったのを知ってるから、私は心を鬼にします!」

 

「良しメイプル。やっちまえ」

 

「ちょっとセイバー……」

 

メイプルはかつてサリーがお化け屋敷に入る前に、1時間の心の準備の後に涙目逃走したことを覚えていた。

 

メイプルはまだ兵器を展開したままである。

 

よってサリーを逃げさせないために、半開きの扉に向かって自爆飛行で突っ込むという選択をしたのも仕方なかった。

サリーの性質を知るメイプルのする多少の強引はサリーのために他ならない。そしてセイバーは咄嗟に機械へとしがみつくとメイプルは武器をジェットの代わりに発射した。

 

「豪快におじゃましまーーす!」

 

「ウェエエエエエエエエエエイ!!」

 

「あああああああっ!!」

 

そして、轟音とともに3人は屋敷へと突っ込んでいったのだった。

 

メイプルが2人を連れて洋館へと飛び込むと、背後で扉がバタンと閉まった。

 

「はーい、サリー立って立って!目的のものがあるんでしょ?」

 

「あ……うん。メイプル……離れないでね」

 

「もちろん!」

 

「しょうがねーから俺が前に立ってやるよ。デザスト!」

 

セイバーの呼びかけにデザストが出てくる。

 

『珍しいな、俺を呼ぶなんて』

 

「ひいっ!」

 

いきなりセイバーの影から出てきたデザストにサリーは恐怖の声を上げた。

 

「デザスト、ちょっとメイプルとサリーの後ろに立ってカバーしてやってくれ」

 

『あん?コイツがあのサリーか?前会ったときと随分違うなぁ』

 

「サリーは今ちょっと恐怖で神経質になってるからこうなってるだけだから。あとさ、サリー。なんで毎回俺にくっつくの?」

 

「だ、だって……怖い………」

 

『ラブラブだなぁ』

 

「うるせぇ!お前はさっさと周り警戒しろ!!」

 

『ま、今回は良いぜ。なにせ、この層はどういうわけか俺の大好きな匂いがすげーしてくるからな』

 

という訳でデザスト含めて3人プラス1体で探索を始めた。

セイバーはサリーの手を優しく握るとエスコートし、その隣でメイプルが辺りを見渡した。

随分と大きな洋館のようで、今いるエントランスらしき場所から、入り口とは別に正面と左右に扉が3つ。

さらに階段があり、2階にも扉が見えた。

 

天井にはボロボロのシャンデリアがある。

また、壁に取り付けられている燭台の上で小さくなった蝋燭がゆらゆらと小さな火を灯していた。

 

「広いねー。で、どこへ行ったらいいの?」

 

メイプルがサリーに尋ねる。

 

「えっと……あれ?……ちゃんと調べられてない」

 

サリーの調べた情報にはいくつも穴があった。

それはまだ情報が集まりきっていないからというよりは、いつも通りの情報収集ができていないからであった。

 

「ならー、全部見て回るしかないか」

 

メイプルがそういうとサリーは首をぶんぶんと横に振った。

 

「しょうがないだろ?俺も一応ここについては調べたけどあんま詳しくないし」

 

「な、ならちゃんと調べてもう一回来ようよ。そうしよう?今このまま探索しても効率が悪いし、モンスターも弱くはないよ。戦闘回数も増えるだろうし最短距離を確認してから……」

 

そう話し始めたサリーをセイバーとメイプルが目を細めてじっと見るとサリーは口を噤つぐんだ。

 

「だーめ。ささっと探索して終わりにしよう?ほら、私がいるから大丈夫!」

 

「なんなら俺もデザストもいるしモンスター来てもまず大丈夫だからさ」

 

「うん……」

 

メイプルがいるうちは発動しっぱなしの【身捧ぐ慈愛】によって、基本的に全ての攻撃から守ってもらえる。

サリーの足が生まれたての子鹿のように震えていても、仮にセイバーに抱きついて彼が普段通り戦えなくてもやられる可能性は極めて低いのだ。

 

「じゃあ私の勘で……右っ!」

 

メイプルが右の扉まで歩いていき扉を開ける。

すると、少し埃が舞い上がった後で扉の向こうに伸びる廊下が見えた。

 

セイバーとメイプルは耳に手を当てて廊下の向こうに聞き耳を立ててみるが、特に物音はしなかった。

 

「うん。何もいないかな」

 

「俺の【気配察知】にも何もかかってない。多分大丈夫だよ」

 

3人プラス1体はそう言って廊下を進んでいく。

長い廊下には左に曲がることができるところがいくつかあった。

 

またそれだけでなく、部屋につながっているのだろう扉もあって調べる場所は多そうだった。

 

「どこから行こうかな……うわっ!」

 

メイプルが足に違和感を感じて下を見る。

 

すると、歩き出そうとしたセイバーとメイプルとサリーの足を、地面から伸びる無数の透けた白い手が掴んでいたのである。何故かデザストは掴まれてなかったが。

 

「ちょ、なんでお前だけ捕まってねーんだよ」

 

『だって俺プレイヤーじゃないからターゲットにされねーんだよ』

 

「だったら助けろぉ!!」

 

手は少しずつ伸びて体を掴んでくる。

そして、道中にもいたあの女性の霊が壁からするりと抜けて3人に近づいてくる。

 

「めっ、めめめ、めっめメイプル!」

 

「待ってね!」

 

「ああもう!切り札だけど使うしかない!最光抜刀!」

 

セイバーは剣へと姿を変えると強制的に腕を引き剥がし、メイプルとサリーに纏わりつく手を切り刻んで払いのける。

 

「霊を倒すならこれだ【発光】!」

 

セイバーは光り輝くと霊を光で目を眩ませ、霊達は堪らずその場から逃げていった。

 

「ふぅ。よし!もう大丈夫だよ?」

 

「うん……メイプルと一緒でよかった」

 

「いや、霊を退治したの俺なんだけどな?あとサリー。不安なら俺のこと握っていろ」

 

「わかった………」

 

ひたすら弱々しいサリーは既にもう半分心が折れているようで、最光となったセイバーの取っ手を握る手は震えていた。

 

サリーが言っていたように一度駄目だと思ってしまえばそれで最後なのである。

 

「急いで探索して帰ろう!」

 

「それが良さそうだけど……!?待て、メイプルそっちに行くな!」

 

セイバーの注告がメイプルに届く前に彼女は歩き出し、その先で足元が鈍い青色に光る。

いつものサリーならばこのタイミングでもメイプルを避難させ自分も逃げることくらい容易いことだっただろう。セイバーだって同様だ。だが、今のセイバーの姿では2人を突き飛ばせるだけのパワーが足りなかった。

 

 

光は大きくなり、気づいた時には1番後ろにいたデザストを含む3人プラス1体は転移していたのである。

光に包まれる中、緊急事態を察したサリーの感覚は、知りたくないことを鮮明に伝えてきた。

 

それは、弱々しく掴んでいたセイバーの体と目の前にいたメイプルがすうっと消えていく感覚だった。

 

サリーが飛ばされたのと同様にセイバーやメイプルもまたどこかに飛ばされていた。

 

「く……サリー、メイプル、デザスト?」

 

『俺ならここにいるぜ』

 

セイバーが振り向くとデザストが呑気そうに立っていた。

 

「そうか、てか他の皆は!?」

 

セイバーが周りを確認するものの2人の姿はない。

 

セイバーがいるのはどこかの部屋だった。

扉が外れてしまったクローゼットに、埃の積もったベッド。シーツはボロボロになっており、床はところどころめくれている。

 

「探しに行くか」

セイバーが外へ出ようとドアノブを掴もうとするがそもそもドアノブが掴めなかった。

 

「……あ。俺今剣だから無理じゃん!!」

 

そう、セイバーは今最光になっているためそもそも手が無いのである。

 

「ああ、もう!こうなったらこの扉壊してやる!」

 

セイバーはそう言いつつ剣先を扉に向ける。その間にデザストはセイバーの影に戻った。

その時背後でギシッと音がして、セイバーは振り返った。

すると、まるで夜闇を固めて形作ったようなどこまでも黒い影がのっそりと起き上がっているところだった。

 

「へ?」

 

人型のその影はセイバーへと迫り、攻撃してくるのだが、セイバーには今HPの概念が無いため何も起こらない。

 

「とりあえず……大丈夫だな。なら、切り刻んでやる!」

 

セイバーが自ら斬りかかるもののそれはするりと通り抜けてしまう。

影はそのまま剣先を掴んで直接セイバーを攻撃してくるが、どうということはなかった。

 

だが、1つセイバーには誤算があった。剣そのものを抑えられたせいで身動きが取れなくなったのだ。

 

「ちょっと、テメェ!何しやがる!動けないだろうが!」

 

セイバーには今時間が無いのである。剣でいられる時間のタイムリミットが迫っているからだ。最早セイバーには使った事ない奥の手を使うしかなかった。

 

「コイツでどうにかするしかない!【シャドーボディ】!」

 

するとセイバーの体が光り始め、それは地面を照らすと地面から影が伸びてセイバーと同じ体つきをした影が立ち上がった。

 

「やっぱり出た!」

 

『セイバーシャドー』

セイバーの影が実体化した姿。この形態になると引き続きHPとVITの概念は無くなり、MP80、STR80、AGI80、DEX100、INT90で固定となる。形態変更から5分間のみ変身可能で時間経過で剣の体に戻る。

剣の体に戻った場合、カウントダウンは残り時間からの継続となり、この形態のみスキル【シャドースラッシュ】、【影移動】が使えるようになる。

 

「良し、シャドーやれ!」

 

セイバーがシャドーを操るとシャドーが影を弾き飛ばし、セイバーを掴ませる。

 

「もしかして影同士ならダメージ入るのかな?」

 

セイバーが予測を立てると検証するために試しに影を斬りつけて攻撃するとダメージが入るようなエフェクトが出た。

 

「お、やっぱりな!ならこのまま行くぜ!」

 

セイバーは連続で影を斬りつけると影のHPが高くなかった影響か影は倒されて扉が自動で開いた。

 

「出れた!このまま急いで2人を……」

 

するとセイバーにメッセージの受信音が聞こえた。

中身はサリーからの助けて欲しいという連絡だった。

 

「取り敢えず急いだほうが良さそうだけど……やっべぇ」

 

セイバーが開けた部屋には丁度沸いてきたのか霊が溢れかえっていた。

 

「やるしか無い!【発光】!」

 

セイバーは先制攻撃でダメージは与えないものの目を眩ませる輝きを放ち敵を一気に怯ませて、その間に斬り刻んでいった。

 

「やっぱ影同士なら相性良いみたいだな。無効のはずの剣が普通に通るぞ!」

 

セイバーの猛攻で敵の集団は次々と斬られていき、残り僅かな敵のみとなった。

 

「これで決めるぜ。光の中に消えろ!【シャドースラッシュ】!

 

するとセイバーシャドーが自身の影を剣に纏わせると光と影の竜巻となり敵を斬り刻んでいった。続けてセイバーはもう1つの決め技を放つ。

 

「【閃光斬】!はあっ!」

 

セイバーは眩い光を纏わせた最光を振り下ろし、最後に残った霊を両断した。すると丁度時間が切れて剣の状態に戻り、数秒後には人の姿に戻った。

 

「あ!もう5分経過したのか?早すぎるだろ。てか、あとはもう遠距離攻撃するしか無いか。あと1時間も待てないし。それじゃあ月闇抜刀!」

 

セイバーは月闇を抜くとサリーとメイプルを探すために歩き出した。

 

 

一方その頃、サリーは1人きりになってからというもの、霊達から逃げて逃げて、部屋を移って移って。

そうしているうちにサリーは何度もAGIを減少させる冷たい腕に捕まっていた。

そのせいでAGIはどんどん低下しており、普段の回避力が出せなくなっていった。

とは言え、そもそも、霊達からまともに逃げられてすらいないのが現状である。

 

サリーは霊がオークやゴブリンの見た目をしているなら、触れてくる腕を躱し続けることも容易な程の能力を持っている。

ただ、それを発揮できなければ少し素早い程度のよくいるプレイヤーに過ぎないのだ。

 

サリーの【AGI】は既に4分の1にまで減少していた。

普段とは違った感覚がただでさえ下がっている回避能力をさらに下げてしまっている。

 

そのため、サリーの捕まるペースは次第に早くなっていた。

 

「ひぐっ……すんっ……っ。セイバー……助けて………」

 

さて、そうして遂に完全に心が折れたサリーは、クローゼットの中に閉じこもって、目を閉じて震えているのである。

 

セイバーとメイプルにクローゼットの中にいると、返信はいらないことを添えてメッセージを送り、もう自力生存の文字は頭の隅にもなかった。

 

「セイバー……メイプル……すん……きて……」

 

すんすんと鼻を鳴らして呟くサリーへの返事は聞こえてこない。

 

 

この時サリーにはゆっくりと近づいてくるものが3つあった。

1つはサリーを追い込んでいる霊であり、残り2つはようやくサリーのいるフロアに来ることができたセイバーとメイプルだった。

 

暫くするとセイバーとメイプルからのメッセージがサリーに届く。

サリーはそのメッセージを読んで、差し込んだ希望の光に助かったという表情を見せる。

 

「あ、足音……!セイバー?メイプル?」

 

足音は部屋の前で止まり、扉が開く音がした。

扉を開けて右手の壁にはサリーのいるクローゼットがある。

 

「ちょっとだけ……」

 

サリーはクローゼットの扉を少しだけ開けて入ってきた人を確認する。

 

不思議なことに、サリーはこの時入ってきた者をほぼ間違いなくセイバーかメイプルだと信じていた。

それはもうどうしても助かりたいと思っていたために起こった判断ミスだったのである。

 

細長い腕、血の気のない肌。

初めて見た顔、長く伸びた前髪の向こうにあるはずの目は既になく、真っ黒な穴からはどろりとした濁った血が涙のように流れ出ていた。

 

サリーと霊は一瞬ではあるものの確かに目が合った。

 

合ってしまったのだ。

 

「ひっ……!」

 

慌ててサリーがクローゼットを閉めるが、床を踏みしめる音が近づいてくる。

 

「や、やだ、やだ!」

 

サリーが震える手で扉を抑えるが、ゆっくりとそれは開いていく。

そして、そこでは霊の暗い暗い目の跡が隙間からサリーをじっと見つめていた。

 

「あ……」

 

サリーから一切の力が抜けて、クローゼットの床にぺたっと座り込んでしまう。

扉は開ききり、霊がゆっくりとサリーに手を伸ばしてくる。

 

霊の周りには黒い影が溢れ出し、眼窩(がんか)からはどろどろと血が零れ落ちてくる。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

サリーがもうどうしようもなくなって謝り始めたとき、開いていた扉から飛び込んできたのはセイバーだった。

 

「ブレイブ、【邪悪化】!【邪龍融合】!【邪王龍神撃】!」

 

次の瞬間、サリーの目の前にいた霊達はセイバーの月闇から放たれた紫の龍の攻撃によって一撃で吹き飛ばされた。

 

さらにそこにメイプルも入ってくる。

 

「っ!【天王の玉座】!」

 

広がる光のフィールドは霊の足元まで届き、復活してセイバーの元へと向かいかけていた不気味な黒い影はパッと消えた。

 

「サリー!セイバー!大丈夫!?」

 

「うっ、ううぅ……メイプルぅ……セイバーぁ……」

 

サリーはクローゼットから出て、玉座から動けないメイプルにしがみついた。

 

「よかった……けど、これどうしよう」

 

メイプルが顔を上げると、サリーの上からあの霊がさらにメイプルにまとわりついてきていた。

 

「すごい見てくるんだけど!」

 

「うーん。一応俺の力なら1時間待てばこいつらを倒せなくも無いんだが流石にそこまでは保たないでしょ?」

 

「確かに……というかあれ?デザストは?」

 

メイプルは質問しながら顔を逸らして両手で霊の顔を押そうとするがするっとすり抜けてしまう。

 

「ああ、アイツなら今俺の影の中だ。なんか、もうだるくなったって言ってサボってる」

 

セイバーが説明する間にもサリーは泣きじゃくる。

 

「うえっ……ぅう……えぐっ……」

 

「本当、どうしよう……」

 

「取り敢えず、もう出よう。流石にサリーがこんなのじゃもうまともに探索できないだろ」

 

メイプルがしばらく考えているとサリーも徐々に落ち着いてきた。

 

「メイプル……まだいる?」

 

サリーが顔を上げずにメイプルに聞く。

 

「うん、まだいる」

 

「うぇぇ……早くどこか行ってくれないかな……」

 

そういうサリーの声は少し震えが残るもののいつもの調子に戻ってきていた。

 

「どう、落ち着いた?」

 

「落ち着いたけど。滅茶苦茶恥ずかしいから顔は見ないで……」

 

サリーはセイバーとメイプルに泣き顔をばっちりと見られた訳で。

隠れていないサリーの耳は真っ赤になっており、顔も同様かそれ以上に赤くなっていることはメイプルにも想像できた。

 

「分かった。けど……そこまでして欲しいスキル?だったの?」

 

「止めておけばよかったと後悔してるところです……本当に。もしかしたら大丈夫かもって思った自分を殴りたいよ……」

 

「馬鹿だなぁ。いつもの癖だ。利益のためなら無茶を平気でしようとする」

 

サリー曰く、スキルに目が眩んだとのことだった。

 

「珍しいね、サリーが見誤るのって」

 

「あんまりにも欲しいものが並んでたからつい、ね。でもいいや、落ち着いて頭冷やしたらなくてもまあ何とかなるスキルだし」

 

「はぁ……」

 

サリーの言葉にセイバーは思わず溜息をつく。

 

「結局サリーの欲しかったスキルってどんなの?ちゃんと聞いてなかったよね」

 

メイプルがそう言うと、サリーは欲しいと思っていたスキルやアイテム、ここで起こったあれこれなどについて知っていることを話し始める。

 

セイバーとメイプルはそれを聞いて、自分に役立てられそうなものは少ないことが分かった。

必要ないものは取りに行かないでよくなるため、今後の探索の効率を上げることができる。

 

しかしメイプルは探索そのものを、セイバーは強敵との戦いを楽しんでいるところがあるため、行かないとも言いきれなかった。

面白そうと感じたなら出向くこともあるかもしれないのだ。

 

こうして話をしている間に霊がどこかに行ってくれないかと思っていたメイプルだったが、霊は頑なに動こうとしない。先程からセイバーも霊の対処が面倒になって玉座の背もたれの上に乗る始末である。

 

「玉座から離れたらまずいよね……攻撃はできないかな?」

メイプルが手を伸ばしてアイテムを使うと、霊の体を風が切り裂く。

すると霊は少しよろめいて後退した。

 

ただHPゲージはなく、ダメージという概念がなく倒せないだろうことがセイバーとメイプルには分かった。

 

呻き声を上げて、顔を両手で覆っていた霊は少しするとまた3人に近づいて触れてくる。

 

「怯ませているうちに脱出……サリー、できる?私は多分追いつかれるし」

 

メイプルはサリーだけでも逃げられないかと提案してみたのだ。

 

「えっと……だめそう」

 

それは【AGI】がゼロになっているからというだけではないことは間違いなかった。

 

「どうしようかなー?」

 

「あと少し待てば最光になれるし、そうすれば霊を追い払う事も出来るぞ?ただ、今のサリーがあの姿を見て平気かという話にもなるが……」

 

セイバーが言っているのはセイバーシャドーの事である。アレはセイバーの影がお化けの如く起き上がるので今のサリーに耐えられるとは思えなかった。

 

「どうしたものか…ん?」

 

セイバー達からなかなか離れようとしなかった霊は、突然3人からふらっと離れてそのまま部屋から出ていく。

メイプルは突然の変化にそれをぼーっと見守るしかなかった。

 

「チャンスだ!!行くぞ2人共!!」

 

「えっ、えっ?う、うん!」

「ちゃんと掴まれよ。翠風抜刀!【烈神速】!」

 

セイバーはサリーと咄嗟に装備を脱いで身軽になったメイプルを両脇に抱えるとセイバーは猛スピードで駆けていく。

 

 

 

背後からは代わりに霊の餌食になってくれた者の声が聞こえてくる。

新しく入ってきた誰かが狙われて上げている声に、サリーは自分もああだったのだろうとまた少し顔を赤くした。

 

「見えた!出口だ!!」

 

「っ、だっしゅーつ!」

 

セイバーは覚えていた道を最短で帰って、とうとうログアウト可能な場所まで戻ってきた。

 

「ありがとう、セイバー。メイプルも」

 

「えへへ……どういたしましてー!」

 

「ふん。今回の事で少しは俺の剣探しが重要だってわかっただろ?少しくらい変な行動しても許してくれよな」

 

「うん……ごめんなさい」

 

戻ってきたことを喜ぶ3人。

 

その背後から、冷たい腕が伸び3人をまとめて抱きしめる。

 

「ひっ……!」

 

「んっ!」

 

「へ?」

 

3人が驚き一瞬固まったところでスキル獲得の通知がきた。

 

「えっと……【冥界の縁】?あ、サリーがアイテム効果が2倍になるって言ってたスキルだ」

 

メイプルがスキル内容を確認する。

その場にへにゃっと座り込んだサリーも、同じスキルを手に入れることができているようだった。

 

スキルに書かれているフレーバーとして、時折背後からそっと手を貸してくれる誰かとの奇妙な縁というものがあった。

 

「う……そんな縁いらないよ」

 

「確かにいきなりそんな事されたらビビるよな」

 

「どうするサリー?次の探索まだ私付き合えるよ」

 

「ログアウトする。帰る」

 

「ですよねー」

 

即決でサリーが答える。

 

「だよね、じゃあバイバイ?」

 

「せいぜい気をつけろよ」

 

メイプルが小さく手を振ってみる。

 

「今日はありがとう。埋め合わせは必ずするから」

 

「いいよいいよ、今までいっぱい手伝ってもらってたし!ようやく一つ返してあげられたかなーって」

 

「俺は今後の聖剣探しをちゃんと認めてもらえればそれで良いよ」

 

2人がそう言って笑うと、サリーも少し表情が明るくなった。

 

「ありがとう。じゃあ、また七層が出た時にでも」

 

「そう言ってまた戻ってきたりして」

 

「しないよ……流石にね」

 

「いや、お前ならやりそう」

 

「それはそうと、サリーさん。今回はセイバーにベタベタだったよね?」

 

「ふぇ………」

 

サリーは再び顔を真っ赤にすると手で覆った。それを見たメイプルはニヤニヤと笑いながらサリーへと小声で話しかける。

 

「ねぇ、サリー。本当はセイバーに惚れてるんじゃないの?」

 

「ち、ちが……あれは……その……」

 

「ん、何の話だ?」

 

そこに話についていけてないセイバーが横から声をかける。

 

「セイバーには内緒〜!」

 

「ええ!気になるだろ〜!教えてくれよ」

 

「内緒だよ〜」

 

セイバーとメイプルが話している間、サリーは更に顔を赤くしながらセイバーを目で追っていた。

 

「私がセイバーのことを好きって、メイプルの変な冗談だよね。あれ……だとしたら私はなんで今、胸がドキドキしてるんだろ」

 

その後、サリーはセイバーやメイプルに別れの言葉を言ってからログアウトして帰っていった。

 

喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉がある。

いつ喉元を過ぎるかは別の話ではあるが、多くの場合過ちは繰り返されるものなのだった。

 

その日の夜現実世界で理沙は中々眠る事が出来ず、楓に夜の間ずっと電話を繋ぎっぱなしにしてもらい話をした。

その翌日2人は当たり前の如く寝不足になったそうで。




61話時点のセイバーのステータス

セイバー 
*補正値は光剛剣最光の装備し、セイバーシャドー状態の時
Lv52
HP ー
MP 80
 
【STR 80】
【VIT ー】
【AGI 80】
【DEX 100】
【INT 90】
 
装備
頭 【光剛剣最光】
体 【光剛剣最光】
右手【光剛剣最光】
左手【光剛剣最光】
足 【光剛剣最光】
靴 【光剛剣最光】
影 【セイバーシャドー】
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅶ】【気配斬りⅣ】【気配察知Ⅴ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅵ】【風魔法Ⅶ】【土魔法Ⅶ】【光魔法Ⅶ】【闇魔法Ⅶ】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化中】【状態異常Ⅳ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅴ】【死霊の泥】【深緑の加護】【暴走抑制】【冥界の縁】

*光剛剣最光を装備時
【閃光斬】【発光】【シャイニングブラスト】【カラフルボディ】
【シャドースラッシュ】【影移動】

また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと龍の墓場

セイバーとメイプルとサリーが幽霊屋敷を探索してから数日。

流石にサリーもまだ、もう一度六層に挑戦しようという馬鹿げた考えが浮かんでいない頃、セイバーとメイプルは六層のギルドホームでくつろいでいた。

 

「メイプル、俺はこれからキラーと待ち合わせしてある場所に行くんだがお前はこれからどうするんだ?」

 

「うーんとね、サリーは五層でレベル上げだし、ユイとマイも別の階層を探索するって言ってたし……私はどうしようかな?」

 

サリーとはまた別の理由でユイとマイにも六層は厳しい場所だった。

多くの敵が物理攻撃を無効化してくるため、当たれば必殺の攻撃が意味をなさないのである。ただ、これはセイバーにも言える事ではあるのだが、セイバーには剣を使いこなす事による属性付与があるためこのデメリットはあまり関係無いのである。

 

「ん、そういえば。サリーが言ってた欲しいものの中にアイテムがあったはず……私はそれを探しに行くよ」

 

「わかった」

 

「サリーが欲しそうなアイテムがあったらあげるって約束したのに、まだ何もあげられてないし。ちょうどいいからね!」

 

メイプルはサリーにHP増加の装飾品を貰っていたり、素材集めを手伝ったりしてもらっている。

ギルドホームの開設のための代金もサリーが集めてくれていた。

 

そのお返しができるいい機会だとメイプルは思ったのである。

 

「あ、でもどこで手に入るかサリーはちゃんと調べてないんだっけ」

 

今回のサリーの情報収集は甘いなどというレベルではないため、メイプルはまずゲーム内の広場に設置されている情報掲示板を確認しにいくことにした。

 

「いや、大体大まかな情報なら俺が集めてある。これを参考に探してみな」

 

セイバーはそう言ってメイプルに1枚のメモ用紙を渡した。そこにはサリーが欲しそうなアイテムの大まかな場所、そこに出る敵の特徴などが書いてあった。

 

「よーし。そうと決まれば早速行こう!」

 

メイプルはぱたぱたと走ってギルドホームを出て行った。

 

それから数分後、セイバーも時間に遅れまいとギルドホームを出た。

 

右も廃屋、左も廃屋の大通りを進んでいくと、キラーとの待ち合わせ場所である広場に来た。

 

「えっと、キラーは……あ、いた!!」

 

セイバーは早速キラーを見つけると彼の元へと駆け寄る。

 

「おーい!」

 

「セイバーか。久しぶりだな」

 

「おう!元気そうで何よりだ」

 

「お互いにな。それならさっさと目的の場所に行こうか」

 

「おう」

 

2人は雑談もそこそこに目的地に向けて歩いて行った。当然モンスターも出るわけなのだが、2人にとって敵ではなかった。

 

「月闇、抜刀!」

 

「はあっ!」

 

セイバーは月闇を、キラーはダインスレイヴを振るい襲いかかる敵を次々と斬り倒していった。

 

「それがお前の新たな力か?」

 

「ああ、お前も腕上げたじゃん」

 

「ほう?何故わかる?」

 

「見たらわかるよ。強くなってる事くらいな」

 

「そういうお前もな」

 

2人が話しているとデザストが影から出てくる。

 

『おいおい、さっきから嫌な匂いがすると思ったら魔剣使いがいるのかよ』

 

「な、何だお前は……」

 

驚き構えるキラーを見てセイバーは慌てて割って入る。

 

「待て待て、キラー。こいつは味方だ。ちょっと悪役っぽいけどな」

 

『おい!誰が悪役だ!』

 

「なら良いんだが……心臓に悪い」

 

それから3人は目的の場所に着くとそこには沢山の墓が建てられていた。

 

「ここが目的地か」

 

「うん。いかにも霊が出そうな所だけど…」

 

すると墓が輝き出して中から骨ばかりとなった龍の霊が次々と出てきた。

 

『ほう。中々面白そうな場所じゃねーか』

 

デザストがそう言うと墓から出てきた龍の霊の中でも一際大きな体をした個体がセイバー達の前に出る。

 

『よくぞ参られたな。人間達よ。約1名人間では無き者もいるようだが、まぁ良い。要向きを話すがよかろう』

 

「ちょっと戦力を強化したくてね」

 

「俺達はここで得られるスキルを貰いに来た」

 

『ふむ、ならば我等の中でも最強の龍と戦い勝てばスキルをくれてやろう……と普段なら言うのだが。気が変わった。そっちの聖剣使い』

 

「あ、俺?」

『見たところプリミティブドラゴンに目をつけられたみたいだな』

 

「プリミティブ……もしかして俺の体を乗っ取ろうとした奴ですか?」

 

『そうだ』

 

龍はセイバーの言葉を肯定すると次の瞬間には頭を下げた。

 

『色々と……すまなかった』

 

「え!?」

 

『元はと言えばあの龍がああなったのは我々のせいなのだ』

 

「何の事か話が見えてこないが、その理由は何なんだ?」

 

『彼は我々と同じ国に生まれ、我々を家族と思って育ってきた。ある日彼は人間と仲良くなりある村の守護を買って出るとそこへと旅立った。人間達と長い時間を過ごせるという期待を胸に秘めてな』

 

「「………」」

 

『だが、プリミティブドラゴンが出てから時が経つと我々ドラゴンの住まう場所は人間の手によって襲われた。初めは我々龍達がいる所など人間は近寄ることすら無かったのだが人間の中には文明を築き、銃火器や機械を造り出し、科学を発展させて我々にのみ致命傷の与えられる弾丸を開発した者も現れたのだ』

 

「なるほど、要するにあなた達は人間に狩られてしまったという訳か」

 

『いかにも。彼等の手によって我々は殆どが壊滅。残った僅かな仲間も散り散りになった。お主が力を宿しているブレイブドラゴンやジャアクドラゴンもな。そこに村から追い出されたプリミティブドラゴンが身寄りを求めてここに戻ると既に村は人間によって荒らされた後だった。彼は人間を酷く恨み、憎んだ」

 

「え、でも確かプリミティブドラゴンがいた村に行って暴れたのはジャアクドラゴンだって……」

 

『確かにそうだ。だが、そんなジャアクドラゴンを止めたのもプリミティブドラゴンだ。おそらく、自分のために怒る必要は無いとジャアクドラゴンに伝えたかったのだろう。龍は人間よりも遥かに長い時を生きる事ができる。我々のように誰かに殺されなければな。それが影響してプリミティブドラゴンは人間への恨みと憎しみを高め続けてきた。そうして、彼には人間の手で二つ名が付けられた。その名も“悲しみの龍”』

 

「なるほど。その龍は人間のせいで辛い思いをしていたんだな」

 

「でも、人間は誰もがお前達を殺した奴等のような悪い奴ばかりじゃ無い。それはあなた達にはわかりますか?」

 

『勿論心得ている。だからこそ我は悲しい。人間がこのような事をする奴らだとは思わなかっただけにな。……今から君の体に取り憑いたプリミティブドラゴンと話をする。上手くいけばお前はその力を暴走させる事なく使えるようになるだろう』

 

「でも、今の現状では俺がプリミティブドラゴンの力を引き出すと暴走してしまいます。話が出来るんでしょうか?」

 

『そこでそこにいる魔剣使いに頼みがある。そっちの聖剣使いがプリミティブドラゴンの力を使って暴れたらそれを押さえつける役割を担ってほしい』

 

「「……え?」」

 

『もし彼と対話する事ができれば君が欲するスキルを与えよう』

 

「キラー、どうする?」

 

「ふん。こちとらお前にリベンジする機会を待っていたのだ。丁度良い。その提案に乗らせてもらおう」

 

『そうか。ならばバトルフィールドに案内する』

 

龍が目を光らせるとセイバー、キラー、デザストの3人は龍の用意したバトルフィールドに転移した。

 

「デザスト、今回はお前にも手伝ってもらうよ」

 

『はいはい。しょうがねーなぁ』

 

「セイバー、能書きは良い。さっさと始めるぞ」

 

「ああ。烈火、抜刀!」

 

セイバーは烈火を抜くと竜騎士の装備となるがその上からプリミティブドラゴンが抱きつき骨龍の装備へと変化させた。

 

「ヴァアアアアアアア!!」

 

「最早化け物だな。理性のかけらも無い」

 

『へぇ。コイツを相手にするのは流石にヤバそうだ』

 

キラーとデザストが感想を言うとすぐにセイバーは飛びかかってきた。

 

セイバーはキラーに組みつくと馬乗りになり上から炎の剣を振り下ろす。しかし、キラーには魔剣があるためセイバーの炎を完全には止められないもののある程度は減衰させられる。そうして耐えていると横からデザストがセイバーを斬りつけた。

 

「ガ……」

 

『ったく、理性失ってパワーが上がってんのか?前やった時より数段強いな。だが、俺も強くなってるんでね。【カラミティストライク】!』

 

デザストは跳ぶとそのまま回転しながら突撃し、連続で斬撃を放った。

 

「ガウウウ……(【爆炎紅蓮斬】)」

 

セイバーはデザストの斬撃を受け止めつつ紅蓮の剣で押し返し、デザストを斬りつけようと迫った。

 

「任せろ!【聖断ノ剣】!」

 

キラーは魔剣のエネルギーでセイバーのスキルを遮断。そのまま斬り返した。

 

「ガアッ!!(【破壊の刃】)」

 

セイバーは水色のエネルギーを纏わせた剣でキラーを斬りつけると続けてデザストへと飛びかかり、その体を両断した。

 

『ぐああああ!!』

 

デザストは自身の特性で受けた傷を再生させるが体力は失われている様子だった。

 

『チッ……流石に効くなぁ』

 

「呑気な事言ってる場合か。俺も手に握ってるのが魔剣じゃなければとっくに死んでるんだぞ」

 

「ガアッ!(【火炎十字斬】)」

 

セイバーは剣を振り抜くと十字型の火炎の斬撃が飛んでいった。

 

「くっ、亡【覚醒】!【吹雪】!」

 

キラーは亡を呼ぶと口から吹雪を吐き、炎を相殺する。

 

「【狼爪切り】!」

 

キラーは刀を納刀すると両手に狼の爪を生やして超スピードでセイバーに連撃を放った。その連続攻撃はセイバーに確かなダメージを与えていく。

 

『オラよ!』

 

続けてデザストは首のマフラーを触手のように展開するとセイバーを手数で攻撃していった。当然セイバーはこれを防ぐがデザストの狙いはこの後だった。

 

「ヴアアアア!!(【龍神破壊撃】)」

 

セイバーはプリミティブドラゴンのエネルギーを剣に纏わせるとデザストに向けて放った。

 

『今だ!』

 

「おう!【呪血狼砲】」

 

セイバーが水色の龍を放つと同時にキラーも赤黒いエネルギー砲を発射。2つの力はぶつかり合うが、魔剣の効果によりセイバーの龍は無力化されるとセイバーをエネルギー砲が飲み込み、HPを1にまで減らした。

 

「デザスト!」

 

『はあっ!』

 

デザストはセイバーが怯んでいる間にセイバーを羽交い締めにした。

 

『今だぜ、主の龍さんよ!』

 

『感謝する!』

 

 

龍は骨ばかりになったその顔をセイバーの腹に優しくつけた。すると、彼の体は人間に殺される前の姿に戻るとセイバーの体に入っていき、セイバーとプリミティブドラゴンがいる精神世界に現れた。

 

〜精神世界〜

 

『お前などもう僕に体を乗っ取られれば良いのに何故無駄な抵抗をする!』

 

「ぐうう……乗っ取って何をするんだ?仲間の復讐か?それとも人間を滅ぼすためか?……どっちも違うな。お前は仲間が、友達が欲しかったんじゃ無いのか?」

 

『うるさい……うるさい!うるさい!!お前なんかに僕の気持ちがわかるものか。何百年もたった1人で寂しく生きてきた僕の気持ちを!!』

 

『プリミティブドラゴンよ。心を鎮めるのだ』

 

『その声は……父さん……』

 

「は?父さんって……まさか、本当の父親だったの!?」

 

セイバーが驚いている間にプリミティブドラゴンがセイバーを手放した。それと同時に現実世界でも暴走が一時的に止まった。

 

『すまなかった。我が不甲斐ないばかりにお前を1人にしてしまって……』

 

『………』

 

『お前は本当に人間を憎んでいるのか?』

 

『何言ってるんだよ、父さん……僕は………』

 

プリミティブドラゴンは答えに詰まった。プリミティブドラゴンには何故詰まったのかわからない。次の瞬間プリミティブドラゴンは苦しそうな叫び声をあげ始めた。

 

『ヴァアアアアア!!』

 

 

〜現実世界〜

 

それと同時に現実世界ではセイバーは暴走を強制的に解除させられるとその場に倒れ込み、主の龍も骨の姿となって出てきた。

 

「セイバー!大丈夫か!?」

 

「はぁ………はぁ………」

 

『すまない。完全にプリミティブドラゴンの心を正気には戻せなかった』

 

「いえ、でもあなたのおかげで何かのヒントは得られたと思います。次にあの姿になったとしても今度は制御できる気がします」

 

『我の息子が迷惑をかけて本当に申し訳ない。そちらの魔剣使いの方にもご迷惑をかけた。約束のスキルだ』

 

そう言うと龍は目を光らせてセイバーとキラーを元の場所に戻すとセイバーの前には小さな宝石を、キラーの前には1本の巻き物が置かれた。

2人はそれぞれ目の前の物を受け取るとセイバーは不思議そうな目で宝石を見ていた。

 

「これは……」

 

『我らに伝わってきた宝石だ。何かの役に立つと思って持ってきた。どうか、我の息子を助けてやってくれ』

 

龍はそう言って手を伸ばすとセイバーはその手を硬く握った。

 

「わかりました。俺が必ず救ってみせます」

 

『我等はそろそろ帰らせてもらう。さらばだ』

 

そう言うと主の龍も周りにいた龍も消え、そこには元の墓がある場所に戻った。先程と比べて変わっていた点を挙げると、墓に龍の骨が備えられたことであった。

 

「結局、目的を果たせた訳だがなんか締まらないな」

 

「そう言うなよキラー。お前はちゃんとスキル取れたんだから」

 

「ふん。だが、やはりモヤモヤする。何か物足りない……」

 

「……キラー、もう一度改めて勝負するか?」

 

「何?」

 

「だって物足りないんだろ?だったらライバルと勝負するのが1番だ」

 

「光栄だな。だが手加減はしないぞ!」

 

それから2人は遅くまで一騎討ちを楽しむ事になった。お互いに強さを認め合った者だからこそ感じれる喜びを2人は存分に感じていた。

 

その様子を遠くからデザストが見ている。

 

『やっぱアイツは見ていて飽きないなぁ』

 

するとデザストは何かを感じ取るように鼻をひくつかせた。

 

『これは……中々面白い。新しい聖剣の匂いだな。さて、どんな事をしてくれるのやら』

 

デザストはニヤリと笑ってセイバーの影へと戻った。キラーと激しく決闘を戦っていたセイバーは当然気付くことは無かったが。




次回辺りで新しい聖剣を出せそうです。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと煙の森

セイバーがキラーと共に龍の墓を訪れてからまた数日が経ち、その間にセイバーは興味深い情報を手にしていた。

 

ギルドホームから南西の森に入ると何も無いのに所々煙が発生しているらしい。しかも、その煙はプレイヤーに直接的な害は無いものの大量の目に見られている感覚がするらしい。

 

セイバーは以前にもこのような状況を経験していた。

 

「翠風の時と同じような感じだな。という事は聖剣について何かわかるかも。取り敢えず行ってみるか」

 

セイバーはギルドホームを出ると南西の森の中を進んでいった。森の中に入って数十分が経過する頃、セイバーの周りで変化があった。

 

「どうやら、この辺が怪しいとは思っていたが当たりのようだな」

 

セイバーの周りに出てきたのは情報にあった不気味な煙だった。しかも、その煙の中から様々な種類の巨大な昆虫が出てきた。その数……100体。

 

「どうやら、当たりのようだな。錫音、抜刀!」

 

セイバーは多人数を同時に相手にする事に長けた錫音にすると昆虫へと攻撃を仕掛けた。

 

「はあっ!」

 

だが、セイバーが昆虫を斬りつけた瞬間、その昆虫は煙となって消えるとすぐ近くに煙が集まって復活した。

 

「……え?」

 

セイバーが戸惑っている間に他の昆虫が攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「チッ!」

 

セイバーはそれを【超聴覚】で察知し、斬りつけるがまたしても煙となって回避された。

 

「だったら!【シャウトスラッシュ】!」

 

セイバーは錫音を薙ぎ払うように振るうと音のエネルギーと共に斬撃が飛んでいくがやはり昆虫達には通用しなかった。

 

「マジかよ。攻撃が一方的に回避されるのか。多分相手の攻撃は通るだろうし、どうしようかな……」

 

セイバーが悩んでいるのも束の間で昆虫達は地上から、空から、容赦なくセイバーへと攻撃をしていく。しかも、普通の昆虫よりも巨大な物を相手しているため、セイバーは大苦戦を強いられていた。

 

「まるで怪物だな。もし現実世界でこんなのが来たらと思うとゾッとする。相手が煙になるのか……取り敢えずこれが効くかやってみるか。激土、抜刀!」

 

セイバーは激土を抜くと振り下ろすがやはり昆虫達は煙となって躱される。

 

「だったら、【宿木】!」

 

セイバーは昆虫達の足元に宿木を出すとそれは昆虫達に絡み付こうと伸びてくるがそれも昆虫達の煙化で防がれてしまった。

 

「く……やっぱダメか。けど、まだ終わってねーよ」

 

すると昆虫達の中から一際大きなボスとも言える巨大な蜘蛛が出てくると糸を吐き出してセイバーを拘束し、電撃を流し込んだ。

 

「が……。体が……」

 

セイバーは蜘蛛によって麻痺させられており、さらには昆虫達はエネルギー弾を撃ちまくってきた。

 

「ここで遠距離からの一斉斉射かよ!!」

 

セイバーは装備のお陰である程度はダメージは抑えられるのだが、それでも数が多すぎるためダメージは少しずつだが確実に入っていた。

 

「くそっ……こうなったら【マキシマムボディ】!うぉらああああ!!」

 

セイバーは【マキシマムボディ】の力でVITを捨てる代わりにSTRを何倍にも引き揚げると無理矢理糸を破壊し、そのまま地面を蹴って蜘蛛へと飛びかかった。

 

「【リーフブレード】!らあっ!」

 

だが、配下の昆虫達が煙化出来るのにボスができない訳もなくボスも煙化されて攻撃は透かされた。

 

「チッ……こんなのどうしろと?でも、負ける訳にはいかない。翠風、抜刀!」

 

セイバーは翠風に変えると攻撃を躱しながら時間を稼ぎ、煙化の弱点を探し始めた。

 

「あの煙化、なんの仕掛けも無しに出るわけがない。スキルでアレなら何かしらの対処法はあるはずだ……煙を凍らせる?いや、俺には煙を凍らせるスキルも剣も無い。風で煙を吹き飛ばす?でも吹き飛ばした所で撃破は出来ない。うーん……」

 

セイバーが戦いながら考えるとある答えに至った。

 

「もしかして、スキルであの煙化がなっているのだとしたら1つ有効な手がある。ここは月闇抜刀!ブレイブ、【覚醒】、【邪悪化】、【邪龍融合】!」

 

セイバーはブレイブと融合すると月闇を地面へと突き立てた。

 

「【封印斬】!はああっ!」

 

すると地面に紋章が浮かぶと赤い鎖が広がっていき、それが虫達を捕まえると見えない鎖で何かを縛りつけた。

 

「【暗黒龍破撃】!」

 

セイバーが跳ぶとキックを昆虫の1体に当てた。すると昆虫は煙化しようとするが煙化しかける途中で元に戻ってしまい爆散してやられた。

 

「やっぱりこれが有効手か」

 

何故セイバーの攻撃がいきなり通るようになったのか。その理由は簡単である。

 

【封印斬】

 

1日5回まで使用可能。効果範囲内の敵のスキルを任意で1つ封印できる。範囲を広くすればするほど効果時間は短くなり、最短で30分。最長で5時間封印可能。

 

セイバーはこれを最大範囲で使用したため、速攻で決める必要があるのである。

 

「スキルが邪魔ならスキルを封印すれば良い。あとは時間内にコイツら全員倒すだけだ!最光、抜刀!」

 

セイバーはブレイブとの融合を解除してから最光に変化すると空中を飛来しながら昆虫達を次々と斬りつけて倒していった。

 

「煙化を封じればこっちのもんだ!【閃光斬】!」

 

セイバーは刀身を輝かせながら高速回転し、光の斬撃を周囲へと放ち、昆虫達を壊滅させていった。

 

「オラオラどうした!そんなものか!!」

 

最早勢いに乗ったセイバーを止めることなど不可能であり昆虫達は自身より身軽な体を持った剣によってバラバラにされていく。

そして最後に残ったのは昆虫達の親玉である蜘蛛のみであった。

 

「あとはお前だけだ。とは言ってもこの姿じゃあちょっとやりづらい。アレを試すか。【カラフルボディ】!」

 

セイバーの言葉と共にセイバーの足元からセイバーシャドーが出てくるとそこに最光自身から出ていたカラフルな色の装甲が張り付いていき最後に顔の部分に十字型の金の顔が張り付いて剣の部分についた顔がなくなってX字型の絵に変わった。

 

「ふう。ようやく普通の人間の視界に戻ったな」

 

その姿は前に戦った最光のエックスソードマンを彷彿とさせるような感じであり、セイバーシャドーの体に様々な色の装甲が張り付くような感じであった。

 

『光剛剣最光』

【STR+70】【破壊不可】

【発光】【閃光斬】【シャイニングブラスト】

【エックスソードブレイク】【シャドーボディ】

 

『エックスソードマンの顔』

【MP+60】

【破壊不可】

【消費MPカット(光)】

【光の加護】

 

『カラフルな鎧』

【VIT+60】【INT+80】

【HP+60】【破壊不可】

【腕最光】【光の矢】【イージスフィールド】【癒しの光】

【漫画撃】

 

『カラフルなブーツ』

【AGI+70】

【破壊不可】

【足最光】【光速移動】【状態異常無効】

 

【カラフルボディ】

このスキルを発動するとセイバーシャドーに装甲が装着されて、意識が元の体に戻り、制限時間が無くなる。その代わりにHPとVITの概念が復活し、ダメージを受けるようになる。

 

 

「へぇ。なら早速行ってみよう!【漫画撃】!」

 

するとセイバーの前に漫画のコマが現れると、光の羽が描かれてコマがセイバーの背中へと移動すると張り付き光の羽が生えた。それからセイバーは空中へと浮かび飛行しながら蜘蛛を撹乱していく。

 

【漫画撃】

MPを消費する事でその場の状況に合わせて漫画のコマが現れて、そこに描かれた物が具現化する。

 

蜘蛛はセイバーを撃ち落とすべく羽に攻撃を当てるが光でできた羽のため攻撃は通過するのみであり当たり判定など無かった。

 

「【シャイニングブラスト】!」

 

するとセイバーの目の前に白い魔法陣が現れてそこから光のレーザーが発射された。それは蜘蛛のHPを2割削り残り7割に減らした。

 

蜘蛛は今度は8本の足の内、2本を鋭利な刃のように尖らせると空中にいるセイバーへと突き出してきた。

 

「うわっ!」

 

セイバーは更に空中に浮いて距離を取ろうとすると今度は先程のように電流の走る糸を飛ばしてきた。

 

「へぇ。対策はばっちりかぁ。けど、この姿には効かないぜ?」

 

セイバーは糸に思い切り当たるが電撃は走らなかった上に体は巻かれるものの羽は実体では無いため地面に落下する事も無く空中を飛び続けていた。

 

「残念でした!【光の加護】と【状態異常無効】の効果で麻痺もデバフも通用しないんだよなぁ。じゃあ、反撃するぜ。【腕最光】!」

 

するとセイバーの羽が強制解除するとカラフルな色の装甲が左腕へと張り付いていきセイバーの意識も頭から腕へと移動した。

 

「なるほど、これを使うと空を飛べなくなるのか。けど、それなりの利点もある。何故なら……」

 

蜘蛛は対象が地上に降りたために足を連続でセイバーへと叩きつけようとするが、セイバーの腕からバリアが発生。攻撃を受け止めた。

 

「効かねーよ!【エックスソードブレイク】!」

 

セイバーは最光の剣には金の、左腕には銀のエネルギーを纏わせると蜘蛛を金と銀のクロス斬で切り裂いた。

 

蜘蛛のHPは5割となり蜘蛛の体にヒビが入ると今度は中から蝶が羽化してきた。

 

「へ?蜘蛛の中から蝶ってありえねーだろ。てかお前も空飛ぶんかい!」

 

蝶は鱗粉を雨のように降らせてくる。

 

当然デバフが入るのだがセイバーにとってはまるで意味も無いも同じである。デバフが効かないとわかったのか今度は竜巻を飛ばしてきた。

 

「力でゴリ押しに来たか。だが、その竜巻は使わせてもらうぜ!」

 

セイバーは跳ぶと竜巻の中に自ら入りダメージを受けながらも竜巻の目の部分に入り込んだ。

 

「行くぜ!【足最光】」

 

今度は足へとカラフルな色が移動すると脚力が上昇。その脚力を持ってして一気に竜巻から抜けると蝶へと肉薄した。

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

セイバーは足に必殺のエネルギーを高めると蝶を延髄蹴りの要領で蹴り飛ばし、蝶のHPを残り3割に減らした。続けてセイバーは元の全身フルカラーに戻ると追撃のスキルを言い放つ。

 

「【光の矢】!」

 

するとセイバーの周りに大量の光の矢が出てくるとそれか蝶の羽を狙い撃ちしていった。

 

蝶は羽がやられたために落下を始めており、セイバーはこの瞬間を逃さなかった。

 

「もう1発行くぜ。【エックスソードブレイク】!」

 

すると蝶の両サイドに漫画のコマが流れ始め、蝶の逃げ道を制限。セイバーは一気に決めるべく金と銀の光を纏った剣を振るった。

 

まずセイバーがすれ違い様に銀のエネルギー斬で蝶を斬りつけるとそのまま着地しながら振り返って金の斬撃を放ち、蝶はX字に切り裂かれ、大爆発を起こしてポリゴンとなり消えた。

 

「ふう……これで今回も俺の完全勝利みたいだな!」

 

セイバーは終わった感傷に浸り暫く体を動かしまくっていた。

 

「この体、やっぱり影がベースになってるせいかなんか動かしにくいなぁ。ただ、聖剣に入っている時より時間制限が無いという大きな利点がある。これだけでもこの装備の価値は大きい。流石にこの層を最光無しで攻略するのはキツイし、それになにより最光だけ時間制限有りだなんてつまんない事にならなくて良かった」

 

セイバーが一安心していると再び煙が立ち込めた。

 

「え!?まだ終わりじゃないの!?」

 

すると周りに立ち込めた煙が集まっていき1本のサーベル型の剣が形成された。その色は持ち手の辺りが真紅で所々に黄色のアクセントがされた剣であった。

 

「ビビったぁ……まだあるのかと思ったよ……」

 

セイバーは剣を抜くと振ってみた。

 

「えっと、この剣の名前は煙叡剣狼煙か。見た感じ煙属性って所かな?え?という事は俺煙になるの?……まぁ別段困る事は無いから良いけどさ」

 

セイバーは一応剣の性能を見ることにした。

 

『煙叡剣狼煙(えんえいけんのろし)』

【STR+60】【破壊不可】

【狼煙霧中】【煙幕幻想撃】

【昆虫煙舞】【インセクトショット】

 

「ふーん。やっぱ予想通り昆虫と煙の力って所かぁ」

 

セイバーがそう言っているといきなり一冊の本がインベントリから飛び出すとページが開いた。

 

「はぇ!?これって確か『大海ノ歴史書』だったっけ?あれ?なんでいきなりこれが……」

 

セイバーが戸惑いながらもページを見るとそこにはこう記されていた。

 

『ヨクゾ聖剣ヲココノツ集メタナ。オ主ハ大海ト時間ヲ司ル聖剣ヲ手ニスル試験ヲ受ケル資格ヲ得タ。深海ノ層ニテオ主ヲ待ツ。待ッテオルゾ』

 

「んんんー?深海の層って言われてもまだ実装されてないから無理じゃね?それとももう第七層についての情報が出たのか?別に良いけどそっかぁ、まだ試験段階かぁ……」

 

セイバーは9本集めた時点で10本目も手に入ると思っていたから少し残念がるも同時にワクワクしていた。これは面白い事になってくれたと。

 

「取り敢えず狼煙を極めるのが先だな。また明日近くのダンジョンを探してみるか」

 

セイバーは喜びと期待を胸にログアウトする事になった。




63話時点のセイバーのステータス

セイバー 
*補正値は光剛剣最光の装備し、【カラフルボディ】を発動時
Lv53
HP 175/175《+60》
MP 180/180《+60》
 
【STR 50《+70》】
【VIT 50《+60》】
【AGI 50《+70》】
【DEX 40】
【INT 50《+80》】
 
装備
頭 【エックスソードマンの顔】
体 【カラフルな鎧】
右手【光剛剣最光】
左手【空欄】
足 【カラフルの鎧】
靴 【カラフルなブーツ】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅶ】【気配斬りⅣ】【気配察知Ⅴ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅵ】【風魔法Ⅶ】【土魔法Ⅶ】【光魔法Ⅶ】【闇魔法Ⅶ】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化中】【状態異常Ⅳ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅴ】【死霊の泥】【深緑の加護】【暴走抑制】【冥界の縁】【ドラゴンラッシュ】

*光剛剣最光を装備時
【発光】【閃光斬】【シャイニングブラスト】【エックスソードブレイク】【シャドーボディ】【消費MPカット(光)】【光の加護】【腕最光】【光の矢】【イージスフィールド】【癒しの光】【漫画撃】【足最光】【光速移動】【状態異常無効】

今回でようやく9本目の剣を出せました。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと絆カタメ

セイバーが狼煙を手にして数日。メイプルに変化があった。なんかお化けのような手がメイプルの横に出ていてその手が盾をそれぞれ持っているのだ。メイプルに聞くとどうやら元々はサリーにプレゼントする予定の物だったらしく、サリーが見た目の問題で使えないとメイプルに返したためこうなったそうだ。

 

「本当にメイプルも大概だなぁ……」

 

セイバーはこう言ってはいるものの自分も色々とやらかしており、その自覚すら無かった。その点で言えばメイプルと同じと言えるだろう。それは一旦さておき、セイバーは現在、六層の街の外れを歩いていた。何やらとてつもなく強い人型の敵モンスターがいるらしいのだ。セイバーがこの情報に食いつかない訳もなく絶賛そこに移動中だ。

 

「さて、確かこの辺にあったはず……」

 

セイバーが歩いていると目の前に1人の青年が立っていた。

 

『……俺に挑みに来たのか?』

 

「その話し方だとどうやら当たりのようだな。お前はこの辺ではかなり強いらしいな?俺はお前と勝負しに来た」

 

『良いだろう。この俺、幻獣を司る者、レジエルがお前の相手をしてやる。ただ、ここでやるのもなんだから場所を変えるぞ』

 

そう言って2人は闘技場へと転移した。それからレジエルと名乗る男は姿を怪物へと変えていきその姿はドラゴン、グリフォン、フェニックスなどの幻獣達の特徴を少しずつ混ぜ合わせたようであり、体は茶色で全体的に刺々しく、手にはボルヘストと呼ばれる大剣を持っていた。

 

「うっし。じゃあ始めるか。月闇、抜刀!」

 

2人はそれぞれ得物を持つと向かい合った。

 

「『うおらあっ!」』

 

2人の剣はぶつかり合い、闘技場には甲高い金属音が鳴り響く。

 

セイバーが月闇を上段から振り下ろすとレジエルはこれを受け止め、更にキックでセイバーを吹き飛ばす。

 

「はあっ!」

 

レジエルは幻獣を司る者の名の通り、神獣が扱う炎、電撃、竜巻、激流、岩石砲を放ってきた。

 

「【闇渡り】!」

 

セイバーは咄嗟に闇の中に入る事で攻撃を回避。レジエルは戦う相手を見失ってしまう。

 

『チッ……』

 

「うらっ!」

 

セイバーはレジエルの後ろから出てくると月闇で斬りつけた。

 

『がっ……』

 

「【月闇居合】!」

 

セイバーの闇を纏わせた斬撃はレジエルを襲い彼を数歩下がらせる。

 

『中々やるな。だが、はあっ!』

 

レジエルは手を翳すと再び魔法攻撃を放ってきた。

 

『この距離ならワープは出来ないだろ!』

 

「ぐあああ!」

 

セイバーもまさかゼロ距離での魔法攻撃が飛ぶとは思っておらずガードが入る前に攻撃を受けてしまった。

 

「痛ってぇ……お前だってやるじゃねーか」

 

『フフフ。早く全力を出せよ』

 

「何?」

 

『この俺に挑むんだ。お前の本気で来いって言ってるんだよ。手を抜いて勝てると思うのならそれは間違いだってことを思い知るぜ』

 

「だったら、俺に本気を出させてみろよ。最光、抜刀!【カラフルボディ】!」

 

セイバーは最光を抜くとセイバーカラフルボディとなり剣を構えた。

 

『まだお前の本気はそれじゃねーだろ!』

 

「はあっ!」

 

2人は再び剣を交えるが、今度はセイバーは力でゴリ押すのでは無く遠くから魔法で相手の魔法を相殺しながら接近し、突きを放った。

 

「がはっ!」

 

レジエルのHPが8割となりセイバーはそろそろ形態変化なり何なりが起きると思った。だが、その様子は全くなかった。

 

「あれ?まだ変化しないのか……?」

 

『残念だが俺の形態変化は1回だけだ。あんまり大袈裟に変わっちまうと体が上手く動かせなくてよ。ただ、戦闘能力は別だがな!』

 

すると先程よりも数段早い速度でセイバーに接近するとセイバーを斬りつけた。セイバーは辛うじてこれを受け止めるが余りの威力に膝をついた。

 

「な、なんてパワーだ。まだ8割残ってるとは思えねーマジっぶりだよ」

 

『俺をその辺の雑魚と一緒にされちゃあ困るぜ』

 

「だったら!【発光】、【光速移動】!」

 

セイバーは剣を発光させてレジエルの視界を奪うと光速でレジエルの背後へと移動。一気に決めにかかった。

 

「これで決める!【エックスソードブレイク】!」

 

セイバーは金と銀の斬撃で一気にレジエルを倒そうと彼をX字に斬り裂いた。だが、彼はHP6割を残して耐えていた。

 

「な……硬い!」

 

『ふん。その程度か?』

 

レジエルは炎を纏わせた剣を振り抜くとセイバーはこれを躱す事も出来ず吹き飛ばされた。

 

「ぐうっ……こいつ、今までのどんな敵より強い……」

 

『炎の剣で勝負しろ』

 

「え?」

 

『それじゃあ物足りないって言ってるんだよ。確かお前は炎の剣を使っているんだろ?だったらそれで来いよ』

 

「く……今炎の剣を使っても暴走する……けど、あの野生的な動きを止めるにはこっちも野生の力しか無い。【分身】!」

 

するとセイバーは一旦分身を発動した。仮に烈火の自分が止められなくなった場合のストッパーの役割を担わせるためである。

 

「流水」

 

「激土」

 

「最光」

 

「「「抜刀!」」」

 

「【カラフルボディ】!」

 

3人のセイバーはそれぞれの姿になると一旦後ろに下がった。

 

『あん?全員で来るんじゃねーのか?』

 

「ああ。それだとフェアじゃない。ちゃんと公平に1対1で相手してやるよ。それに、今から使う姿は危険だからな。そいつがもし止まらない場合のストッパーだと思ってくれ」

 

『良いぜ。なら、見せてみろよ!』

 

「烈火、抜刀!」

 

セイバーは烈火を抜くと竜騎士の装備がされるが、その上からプリミティブドラゴンが抱きつき骨龍の装備になった。

 

「ヴァアアアアアアア!!」

 

『来いよ!!』

 

セイバーは理性を失い、レジエルを倒すのみの破壊兵器と化すとレジエルへと飛びかかった。

 

『うおっ!?』

 

セイバーは足でレジエルへと組みつくとそのまま剣を逆手で突き刺すように何度も振り下ろす。

 

『こいつ!!』

 

レジエルはセイバーを振り払うと魔法で電撃を飛ばしてきた。

 

「ガアアア!!(【破壊必殺斬】)」

 

セイバーが放った龍の爪を模した斬撃はレジエルを襲い大ダメージを与え、彼のHPを残り4割に減らした。

 

『この野郎。俺の真の力で叩き潰してやる!!あああああああ!!』

 

レジエルは咆哮を上げると赤黒いオーラを纏いながら体の色を変えていきその体を赤と黒と金をメインとする色に変化させた。

 

『セイバー……これが俺のフルパワーだ!受けてみやがれ!』

 

レジエルが大剣を地面へと突き立てると大地が割れ、マグマが流れ込んでいきそれにセイバーは飲み込まれた。

 

『ガアアア!!』

 

セイバーはみるみる内にHPを減らしていき、残り僅か1にまで減らされた。

 

『終わりだなぁ』

 

烈火のセイバーはその場に倒れ込むと気を失ってしまった。

 

『うらあっ!』

 

レジエルはセイバーへとトドメを刺そうとするとそこに先程分身させた流水、激土、最光のセイバーがレジエルを押し留めた。

 

『おいおい、1対1なんじゃないのか?』

 

「そのつもりだったけど、流石にこの状態で本体に攻撃を喰らうのはヤバいからな」

 

「不本意だけど加勢させてもらうよ」

 

「お前を1秒でも長く止める!」

 

セイバーの分身にはとある弱点があった。それは、本体がやられてしまうと分身も纏めて負けてしまう点である。今回で言えば本体が烈火を持っているため、烈火のセイバーが消滅すると他の分身も消えてしまう。その事態にしないように3人の分身セイバーが止めに入ったのであった。

 

そんな経緯もあり、3人のセイバーはパワーアップしたレジエルとの戦闘を開始した。

 

〜精神世界〜

 

セイバーの精神世界ではセイバーが再びプリミティブドラゴンと向き合っていた。セイバーは現実世界でやられかけているせいかかなりダメージを受けている状態であったが、プリミティブドラゴンは全く攻撃をしようとしなかった。

 

「はぁ……はぁ……。どうした?俺の事乗っ取るんじゃないのかよ?」

 

『………』

 

「……本当は人間を憎む気持ちなんて無いんじゃないのか?」

 

『なんだと?』

 

「君は本当は友達が欲しかったんじゃないのか?」

 

『うるさい!!お前に何がわかる!!1人で寂しさを堪えていた僕の気持ちを……仲間と楽しそうにしているお前に何が……』

 

龍はそう言って気づいた。自分が本心を曝け出した事に。

 

「やっと君の本音が聞けたな」

 

『お前……』

 

「なぁ、プリミティブドラゴン。友達は世界のどこにだっているよ?君は悲しさで手を伸ばさなかったから気がつかなかっただけ。例え、殆どの人間がお前の事を邪魔者扱いしたとしても世界の何処かには必ずお前が伸ばした手を取ってくれる人がいる。俺がそうみたいにね」

 

そう言ってセイバーは烈火を地面に突き刺すと手を伸ばした。

 

『……どうして?僕は君を乗っ取ろうとしたんだよ?』

 

「だからこそだよ。俺は君の心の闇を晴らしてあげたい。そのために君に手を伸ばす。君が世界で独りぼっちにならないように、君の手を取るために」

 

するとセイバーの持つ宝石が輝き、セイバーの後ろに黄色い体に赤とオレンジの炎を纏う龍……エレメンタルドラゴンが出現。セイバーが手を出すと同時に彼も手を伸ばした。

 

「プリミティブドラゴン。俺達と友達になってくれ」

 

プリミティブドラゴンはじっとセイバーを見つめていると涙を流し始めた。

 

『僕……ずっと1人で辛かった……仲間を殺されて、友達だった人間から追い出されて……』

 

プリミティブドラゴンは光と共に人間としての姿である少年を作り出すとセイバーの手をゆっくりと握り、龍の方もセイバーの後ろにいる龍の手を優しく掴んだ。

 

その瞬間、2人の体は光に包まれるとプリミティブドラゴンとセイバーの後ろにいる龍はセイバーの体へと入っていき、プリミティブドラゴンの本の伝承に新たな話が書き加えられていった。

 

 

〜現実世界〜

 

現実世界ではレジエルが3対1の状況でもセイバーを圧倒していた。理由としてはレジエルがそれほどまでに圧倒的な力を持っていたからである。

 

『邪魔だ……消え失せろ!』

 

レジエルは剣を振ると電撃を纏った巨大な竜巻が最光と激土のセイバーを襲い、2人に防御貫通でダメージを与えた。

 

「がっ!?」

 

「痛ってぇ!!」

 

『うおらあっ!』

 

さらに剣を地面に突き立てると先程と同じように地面が割れてマグマが放出し2人を消し飛ばした。

 

「くそっ!【キングキャノン】!」

 

流水のセイバーは一矢報いるために水の大砲を放つがレジエルには傷一つ付かなかった。

 

『痛くも痒くもねーな。消えろ!』

 

レジエルはカウンターとばかりに雷撃を纏わせた剣で流水のセイバーを斬りつけてポリゴンへと変換させた。

 

『ふん、この程度か。ガッカリだ。死ね!』

 

レジエルは最後に倒れているセイバーの本体へと攻撃を放ち、彼の周辺を爆破させた。

セイバーは爆発に巻き込まれて終わりに見えた。だが、爆発の寸前、いきなりセイバーが立ち上がるとセイバーとプリミティブドラゴンが手を繋ぐ絵と共に攻撃は止められ、中から烈火を持ち、聖騎士の装備をしたセイバーが立っていた。

 

『何!?』

 

「ありがとう。お陰でようやく力を存分に振るえる。……一緒に戦ってくれ。プリミティブドラゴン、エレメンタルドラゴン!」

セイバーは2匹の龍の名前を呼ぶと後ろから水色の龍と、赤と黄色の龍が出てきてセイバーの横に並ぶと鳴き声を上げた。

 

「行くぞ。レジエル!烈火……抜刀!」

 

セイバーは烈火を抜く動作をしてから剣を両手で持ち、剣先を下に向けた。

すると2匹の龍はセイバーの周りを飛び回るとセイバーの前で手を繋ぎ、それがセイバーの装甲として纏われた。

 

その体は骨龍の装備の時の特徴はそのままに胸のアーマーが2匹の龍が手を取り合うような形となり、全体的に赤い塗装がされていった。そしてヘッドギアも赤い炎のような装飾が付き、角のような剣も赤く染まった。

 

『絆龍のヘッドギア』

【MP+50】【VIT+35】【HP+60】

【破壊不可】

【消費MPカット(火)】【火属性無効】

 

『絆龍の鎧』

【VIT+35】【INT+60】【STR+40】【DEX+30】

【破壊不可】

【爆炎激突】【爆炎放射】【四属性光弾】

【火炎砲】【エレメント化】【極炎】【絆の輪】

 

『絆龍の靴』

【AGI+70】

【破壊不可】

【フレアジェット】【元素必殺撃(エレメンタルひっさつげき)】

 

 

進化条件

プレイヤーのレベルが50以上の状態でプリミティブドラゴンの悲しみをエレメンタルドラゴンで癒す。

 

『火炎剣烈火』

【STR+40】

【破壊不可】

【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】

【森羅万象斬】【紅蓮爆龍剣】

 

また、それと同時に【暴走抑制】が【繋いだ手】へと変化した。

 

【繋いだ手】

悲しみの龍と友達になった証であり、このスキルを一度でも取得すれば仮にスキルが封印されたり奪われたりしたとしても二度と暴走をしなくなる。

 

「つまり、もう暴走の危険は無くなったってことか!良し!!」

 

『面白い……どんな姿だろうが、俺が叩き潰す!』

 

「さて、出来るかな?」

 

『ほざけ!』

 

レジエルが剣を振ると激流がセイバーへと飛んでいくが、セイバーは体に水を纏いながら空中を浮かぶように飛行。そのまま回転斬りを喰らわせた。

 

『このぉ!』

 

レジエルは負けじと電撃を突きとして放つが、セイバーは烈火で受け止めるとそれの倍のエネルギーの電撃でお返しした。

 

『な!?』

 

「凄ぇ!これ、炎以外の属性攻撃も出来るのか。なら、他の剣との使い分けも考えないとな」

 

『人間がこれほどの力を得るとは……ますますお前を倒したいぜ』

 

「ああ、俺もだ」

 

2人は剣に炎を纏わせると激しく斬り合うが、セイバーの方が完全に上手であり、何度も斬りつけた後にキックで吹っ飛ばした。

 

「はあっ!」

 

さらにセイバーは緑の風を纏いながら空中へ浮かび、高速でレジエルを斬りつけてそのまま地面に潜り、大地のエネルギーを纏わせたパンチを地面から出ながら浴びせた。

 

『がはぁ……が……あ……』

 

今の一連の攻撃でレジエルは残りHP1割となりもう虫の息だった。

 

『まだだぁ……まだ終わりじゃねーぞ!!』

 

レジエルは残り僅かなパワーを振り絞り、赤黒いオーラを纏うとセイバーへと最後の一撃を放とうとした。

 

「いいや、これで終わりにしよう。物語の結末は……俺が決める!」

 

セイバーの想いに応えるように烈火は虹の輝きを纏わせた。

 

「【森羅万象斬】!」

 

セイバーの振るった烈火から虹のエネルギーと共に多種の属性を彩った斬撃がレジエルを両断。彼の残ったHPを消した。

 

『お前の……勝ちか……ぐあああああああ!!』

 

レジエルは一瞬人間の姿に戻ると笑顔を浮かべ、次の瞬間には怪人となって爆散し、その場に巻き物を残すと消滅した。

 

『……セイバー。友達になってくれてありがとう』

 

セイバーは心の中でプリミティブドラゴンの声を聴き、こう答えた。

 

「ありがとう……か。礼なら俺が言いたいよ。これからよろしくな。プリミティブドラゴン、エレメンタルドラゴン」

 

セイバーの答えに2匹の龍は嬉しそうに声を上げた。

 

セイバーが巻き物を開くとスキルの取得通知が鳴った。

 

『スキル【神獣招来】を取得しました』

 

【神獣招来】

MP50を消費して1日1回だけ神獣を呼び出せる。呼び出される神獣はランダムでありどれが出るかは呼び出すまでわからない。

 

「随分と運要素が強い効果だな。てか水中戦とかで水棲の神獣でなかったら詰みじゃん」

 

セイバーが効果を見ていると突如として笑い声が聞こえた。

 

『はははははは!!』

 

「誰だ」

 

『俺か?俺の名はズオス。生物を司る者だ。レジエルを倒すとはやるじゃねーかよ!』

 

そこに現れたのは白い屈強な体型に青い模様の入った体をし、生物の特徴を引き出したような怪人であった。

 

『次会えたら今度は俺様が相手してやる。楽しみにしてるぜ!』

 

そう言ってズオスはその場を去っていった。

 

「ズオス……か。楽しませてくれるな。これでまたやる気が出てきたぜ!!」

 

セイバーは喜びを噛み締めていた。また強い奴が出てきてくれた事に。




64話時点のセイバーのステータス

セイバー 
*補正値は火炎剣烈火の装備時
Lv54
HP 175/175〈+60〉
MP 180/180〈+50〉
 
【STR 50〈+80〉】
【VIT 50〈+70〉】
【AGI 50〈+70〉】
【DEX 45〈+30〉】
【INT 50〈+60〉】

装備
頭 【絆龍のヘッドギア】
体 【絆龍の鎧】
右手【火炎剣烈火】
左手【空欄】
足 【絆龍の鎧】
靴 【絆龍の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅶ】【気配斬りⅣ】【気配察知Ⅴ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅵ】【風魔法Ⅶ】【土魔法Ⅶ】【光魔法Ⅶ】【闇魔法Ⅶ】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化中】【状態異常Ⅳ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅴ】【死霊の泥】【深緑の加護】【繋いだ手】【冥界の縁】【ドラゴンラッシュ】【神獣招来】
*火炎剣烈火を装備時
【火炎砲】【爆炎放射】【爆炎激突】【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】【紅蓮爆龍剣】【極炎】【フレアジェット】【消費MPカット(火)】【元素必殺撃】【森羅万象斬】【火属性無効】【エレメント化】【四属性光弾】【絆の輪】

今回で暴走を克服させることが出来ました。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと氷の猛虎

セイバーがプリミティブドラゴンの制御に成功して日が経ち、彼は現在、フィールドの端の方でエレメンタルドラゴンの力を試していた。

 

「この辺なら大丈夫かな?早速やってみるか。【エレメント化】属性、水!」

 

するとセイバーの体が液体へと変化し、セイバーはその状態で動いてみようと体を動かすがいきなり変な方向へと行き始めた。

 

「へ?ちょっ!止まれぇ!!」

 

案の定セイバーは近くの木に衝突してエレメント化が解除された。

 

「痛ててて……こりゃあ、暫くは練習かなぁ。これ使えないとこの姿の利点が半分くらい消えちゃうし」

 

そうやって暫く練習をしていると近くでレーザーが発射される音が鳴った。

 

「んんん?この音ってもしかして……」

 

セイバーは歩いてその方に行くと案の定メイプルがいた。近くにはカスミとクロムもいて、つい先ほど3人は合流したのだとわかった。

 

「あ、セイバーやっほー!」

 

「メイプル……また装備変えたな?」

 

メイプルの装備は頭に冠をして緑の洋服を着ていた。

 

「うん!セイバーもその姿前に暴れてた時に着ていた姿に似てるね?」

 

それを聞きクロムとカスミは身構える。またセイバーがいきなり暴れると思ったからである。

 

「ちょっ!?ちょっと待ってください!もう暴れませんって!」

 

セイバーは焦りながら訂正する。それによりようやく誤解が解けた。

 

「やれやれ、制御出来たのならそうだと言ってくれ。心臓に悪い」

 

「しっかし、ここに来てこの2人がパワーアップか」

 

どうやら、メイプルは新しい装備として【幽霊少女の洋服】を手に入れた際に新しくスキルも手にしたらしい。

 

 

その名も【ポルターガイスト】。MPを消費して自分が出した物を10個まで自在に操れるらしい。メイプルで言えば【機械神】のレーザーや【毒竜】等がこれに当たるだろう。

 

「中々に強いよな。その【ポルターガイスト】。多分俺は使えないだろうけど」

 

セイバーの装備は聖剣を抜刀した瞬間に固定されるため、装備変更ができない以上、装備に付属されるスキルは使いたくとも使えないのだ。

 

「セイバー君もヤバい進化してるじゃないか。攻撃を属性化する事で回避するとか」

 

「煙の剣もまだ使う所を見た訳ではないが恐らくかなりの強さだろうな」

 

セイバーが先程使った【エレメント化】について補足すると、1日10回まで使用可能で火、水、雷、風、土の中から好きな物を選び30秒間だけ全身をその姿へと変化させる。この間は一切のダメージを受けず、デバフを無効化する効果がある。

 

「セイバーの方も十分強くなってるじゃん!」

 

「ま、まあ頼もしくなったようでなによりだ」

 

「ん、ただ、装備の変更はどうするんだ。メイプルは後2つよく使う装備セットがあるだろう?」

 

カスミがメイプルにそう聞くと、メイプルは解決法はもう見つけたとばかりに、にこっと笑った。

 

「シロップ、ちょっと待っててね」

 

メイプルはシロップからすとっと降りると、すたすたと歩いていく。

セイバーとカスミがそんなメイプルに声をかけようとしたところで、メイプルの背中から伸びる兵器の量が倍近く増える。

 

それは今までに何度も見てきた、メイプルが無理やり空へと飛び上がる直前の動作である。

 

直後、メイプルは爆炎を残して空へと消えていった。遥か高く吹き飛んだメイプルが何をしているのか、3人の目では全く見えない。

 

「おい、どうする?」

 

「いや、どうするといってもな……」

 

「絶対何かやらかしてますよ。本人は無自覚でしょうけど」

 

3人がまた顔を見合わせていると爆音と共に砂煙が上がった。

 

「なっ……!?」

 

「おおっ……?」

 

そうして砂煙の舞う中ゆっくりと立ち上がったのは、いつもの黒い装備に身を包んだメイプルだった。

メイプルが考えたこととは、地面で装備を変えている暇がないのなら変えられる場所まで一時的に避難すればいいということである。

 

遥か上空にメイプルを倒しうる攻撃を飛ばせるものなどいないといっていい。

一時的に全ての装備を外したとしても、攻撃が当たらなければ問題はないのである。

 

メイプルは砂埃を払うと、上手くいったという風に頷いてみせた。

 

「これなら戦闘でも使えるはず!」

 

「そうだな。私もそう思う」

 

「俺もだ」

 

「1つ弱点を挙げるとすれば下にいる敵はメイプルが空で装備を変える間はメイプルを気にせずに動ける時間だからその間に対応される可能性があるって点だな」

 

「あとは……サリーにも見せに行かないと!」

 

「聞けよ!!」

 

セイバーのツッコミをスルーしてメイプルはサリーに新しい装備を見せにいきたいと思っていた。

メイプルはシロップを指輪に戻すと、3人に別れを告げて五層へと向かっていった。

 

 

離れていくメイプルの姿を見送りつつ、カスミがぽつりと呟く。

 

「まあ、味方である内は頼もしい限りといったところか」

 

「だな。まー、レーザーはそこまでめちゃくちゃな威力じゃないし【毒竜】よりは……いや、5分間となるとレーザーの方が強いか」

 

メイプルが話したスキルの情報を元に色々と考えた3人だったが、最終的にそもそもメイプルの飛び道具はどれも危険極まりないため、どれを操ったとしても攻撃される側はつらいということに落ち着いたのだった。

 

「それでは自分もこの辺で」

 

「ああ、わかった」

 

「健闘を祈る……いや、祈る必要も無いな」

 

それからセイバーも2人と別れるとセイバーはとある洞窟の中の祠の前に来ていた。そこの周りは氷ついており、明らかに何かがいるような感じであった。

 

「さて、今回はここに挑戦してみるかな」

 

するとセイバーの影からデザストが出てくる。

 

『おい、今回は俺にもやらせろ。お前との連携を試したい』

 

「好きにしろ。ただ、足は引っ張らないでくれよ」

 

『へいへい』

 

デザストは呑気に返事を返すと剣を片手にセイバーの隣に並び、1人と1体は祠の中へと突入した。

 

そこは氷の大地が広がっておりそこには目の前に氷漬けにされた虎が眠っていた。

 

「さて、多分こいつを相手にするんだけど……やるか。翠風、抜刀!」

 

セイバーは意を決すると氷の中からヒビが入る音が聞こえ中から眠っていた虎が出てきた。

 

『ガオオオン!!』

 

「さっさと倒しますか!」

 

『行くぜ!』

 

2人は別の方向に走り込むと虎は地面に爪を叩きつけた。すると地面から氷の岩が発生し、セイバーとデザストへとそれぞれ飛んでいった。

 

2人はそれを空中へと跳びながら回避し、そのまま2人での回転斬りを浴びせた。

 

『おいおい、俺の真似か?』

 

「そんなつもりはねーよ!」

 

虎は2人を弾き飛ばすとセイバーへと氷のブレスを吐き出してきた。

 

「それを喰らうのはお断りだ。返品するぜ。【トルネードスラッシュ】!」

 

翠風を一刀流にして放てる巨大な竜巻がブレスを巻き込むと氷の竜巻のして虎にダメージを入れた。

 

『やるじゃねーか。なら、俺もやるぜ』

 

デザストは再び虎へと走っていくと剣に赤いエネルギーを纏わせて虎を斬りつけた。

 

『チッ。即死は発動せずか』

 

「まだまだぁ!最光、抜刀!【カラフルボディ】!」

 

セイバーは最光を抜くと人型に変化、さらに剣を振りかざす。

 

虎は周囲を凍らせながらセイバーへと走ってくると強靭な顎でセイバーを噛み砕こうと口を開いたが、それが失敗だった。

 

「なんてね!【シャドーボディ】!」

 

セイバーは影に貼り付けた装甲を消すと剣を手放し影だけが攻撃を受けるが、ダメージは無かった。何故なら今のセイバーの体は影だからである。

 

「【影移動】!」

 

セイバーは影を高速で移動させると自身も剣として移動し、虎の背後から斬りつけた。これにより虎のHPは残り7割となる。

 

虎は怒ったのか地面に腕を叩きつけると全体を凍りつかせる攻撃を放ち、それはデザストとセイバーの影を凍りつかせた。

 

セイバーの本体はなんとかこれを耐えきるも、5分間という時間制限を考えるともう時間のロスは聖剣を維持できなくなるというリスクが高くなるだけである。

 

「やるね。でも、これならどうかな?光あれ!【発光】!」

 

セイバーは刀身を眩く輝かせると同時に光を放出し、その熱で氷を全て溶かした。

 

『へっ。助かったぜ』

 

「【カラフルボディ】!【シャイニングブラスト】!」

 

セイバーは光のレーザーを雨のように放ち虎を光の檻で囲った。

 

「こんな事も出来るんだよね。このレーザー」

 

『うおらあっ!』

 

そのままデザストが虎の真上から斬撃を放ち虎を地面へとめり込ませた。

 

「【光の矢】、【漫画撃】!」

 

セイバーが手を振ると光の矢と漫画によって描かれた炎の隕石が虎へと降り注いだ。

 

デザストは咄嗟に虎の影に逃げる事で回避するが、虎は問答無用で雨を受け、HPを3割削られた。

 

虎はこれによりさらに怒り、体を黒く染めていった。まるで、銀翼や白鮫のように……。

 

虎はオーラで光の壁を消しとばすとセイバーへと突っ込んでいった。

 

「げっ!?」

 

『これは不味いんじゃないのか?』

 

「【イージスフィールド】!」

 

セイバーが防御フィールドをドーム状に自身とデザストを囲うように展開、攻撃を耐えにかかる。このフィールドは基本の耐久値は200で、自身のMPの値だけ耐久力が上がる効果を持っており、今のセイバーのMPは240であったため、セイバーの作るフィールドの耐久値も同様に+240されて440である。

 

だが、この時、虎の攻撃力は500を上回っていた。ドームにはヒビが入り破壊されるのも時間の問題であった。

 

「ヤバい……」

 

『おい、どうするんだよ!』

 

「こうなったら……」

 

次の瞬間、ドームは破壊されてセイバーとデザストのいた場所は大爆発を起こした。

 

虎は敵を倒したと踏み一瞬だけ気を緩めた。だが、それが間違っていた。

 

虎の頭上には火に【エレメント化】したセイバーがおり、そのまま元に戻ると烈火を振り下ろした。

 

「うおらあっ!」

 

さらにセイバーの影に入って回避したデザストもダメージにのけぞった虎の目の前におり、必殺の攻撃を放った。

 

『【カラミティストライク】!』

 

デザストのカラミティストライクは虎に大きなダメージを与え、HPをゴリゴリと削っていった。

 

『へっ。こいつは気持ち良いなぁ』

 

虎は咆哮を上げると全方位に氷の氷塊を撃ちまくり、デザストはこれを受けて爆散するがセイバーは再び【エレメント化】で咄嗟に横に跳んだために回避することが出来た。

 

「くう……やっぱこれまだ上手く使えないなぁ……。一方向に跳ぶだけなら出来るけど複雑には動けない……」

 

虎がセイバーにトドメを刺そうと氷を全身に纏い突進してきた。

 

「お前もトドメ刺しにきたか。なら!俺もこれで決めるぜ」

 

セイバーは跳ぶとキックの体制に入り体に火、水、雷、風、土の属性を纏い、虹色の輝きを足に光らせた。

 

「【元素必殺撃】!うらぁああ!!」

 

そのキックは虎を地面へと叩き伏せるとHPを0にし、爆散させた。

 

その場には虎の爪や毛皮などの戦利品が落ちており、セイバーはそれを回収するとインベントリから以前の凍りついた本が出てきて、その瞬間に虎の爪や毛皮は左側の枠に吸い込まれ、黄色い虎の絵になった。すると氷にヒビが入り本を覆う氷が割れた。

 

『なんだそれ?』

 

「ああ、この前の第5回イベントで手にして、この本を手にする前に2体ほど氷属性のボスモンスターを倒した訳。その素材が何故かこの本に吸い込まれているんだ」

 

『見た感じもう開けられそうだな』

 

「うーん。でもさ、今開こうとしているんだけど何故か開かない」

 

『あん?まだ何か条件でもあるのか?』

 

「多分そうだけど、この先どうするんだろ」

 

『まぁ、なるようにはなるんじゃね?』

 

「そうなんだろうけどなぁ」

 

セイバーは疑問を深めながらその場を後にした。その本を開けるにはまだ条件があり、それをクリアしなければ絶対に開かないという事を知らずに。

 

 

〜運営〜

 

「た、たたた大変だぁ!!」

「どうしたんだ急によ、またメイプルがなんかやったのか?」

 

「違うんだ!セイバーが、セイバーがぁ、氷虎を倒しちゃったんだ」

 

「「「「えええ!!?」」」」

 

「おいおいどうするんだよこれ、もうじきアレの最強進化形態になっちまうじゃねーか」

 

「で、でもまだ最後の条件を満たしてないよな?」

 

「そうだけどセイバーのことだ。じきに気づくだろうな」

 

「取り敢えず、今は対策を考えるんだ」

 

「ああ、でも今回は対策ができるだけまだマシだと思うぜ」

 

「そうだな」

 

運営陣は完全にこの状況を危険視していた。またセイバーがパワーアップを果たしてしまうと思われたからである。

運営陣はその日、セイバーが条件をクリアして、進化をしてしまった場合の対処法について話し合うことになるのだった。




今回で3体目の氷属性のモンスターを倒したのですが、文中にある通りまだ進化はしません。氷の本を開けるにはまだ条件があります。そして、その本が開いた時に進化は訪れますのでその時を楽しみにしてください。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第7回イベント

セイバーが氷虎を攻略してから数日後、セイバーがギルドホームに来るとメイプルが足をプラプラさせながら椅子に座って考えていた。

 

 

「むう……どこだろう?どこかにあると思うんだけどなあ、時間帯限定とかなのかな?」

 

うーんうーんと考えていたメイプルを見て流石にセイバーも彼女に話しかけた。

 

「あのー、メイプル。何をそんなに考えているんだ?」

 

「あ、セイバー。えっとね、【ヘビィボディ】と【アイアンボディ】を取得できる場所って知ってる?」

 

「あー、その2つなら知ってるぜ。ただ、メイプルには相性はあまり良くないかなぁ」

 

「……え?」

 

「取り敢えず俺の書いたメモを見てくれ」

 

そう言ってセイバーがメイプルにメモを送るとスキルの効果が書かれてあった。

 

【アイアンボディ】

炎、電気属性のダメージが2倍。

魔法以外のダメージを30%減。

消費MP50

効果時間2分

5分後再使用可

 

習得時要求MP数値50 VIT数値80

 

【ヘビーボディ】

ノックバックを受けなくなる。

【STR】が【VIT】以下の場合移動不可。

消費MP10

効果時間1分

3分後再使用可

 

「えぇ……」

 

「残念だけどこれはマジだ。でも、まさかことごとくメイプルと相性悪いとは思わなかったけどなぁ。特に【アイアンボディ】の方」

 

「うん……。でも、せっかく教えてもらったのだから【ヘビィボディ】は取ってみるよ」

 

「オッケー。じゃあ場所は……」

 

セイバーはメイプルにイベントの場所を教えようとするとメッセージの通知音に遮られた。

 

「んー。あ、次のイベントだ。ダンジョン攻略タイプかあ」

 

「へぇ。中々面白そうじゃん」

 

2人は情報を読み込んでいく。

イベントは小さめの階層が十層積み重なった塔の攻略で、選択した難易度に応じてメダルの枚数が変わるというものだった。

時間加速はなく、進んだ階層まで転移することができるため、長めの期間のうちにクリアを目指すようになっている。

 

「一番難しいのに皆は行くのかな?んーと、1人でクリアすると報酬が良くなるんだね」

 

最高難易度ならば、複数人でクリアした時は貰えるメダルは1人当たり5枚。ソロでクリアした場合は10枚である。

 

「他のプレイヤーと戦うのは、今回はなし……うん、そうだね。よしよし」

 

「メイプルはプレイヤーキルはあまりしたく無いだろうしな」

 

これなら気楽に楽しめるとメイプルは1人うんうんと頷く。一方でセイバーは少し残念そうであった。

このイベントは4月の頭から開催されるとのことだった。

2人はその表示を見て、ふとあることに思い至る。

 

「もう1年も経つんだねー……私にしては珍しく楽しんでる?次のイベントかあ……」

 

「俺としてもまさかサリーが持ってきたゲームがここまで面白いとは思わなかったけどな」

 

2人が色々とやってきたことを思い返してみても楽しんでいる記憶ばかりがそこにはあった。

思い出すだけで笑顔になるような記憶や、数えられる程の、しかしそのために鮮明な苦戦した記憶。

それらを振り返っていた2人に、次第に探索へ向かう気力が戻ってくる。

 

「んっ、よーし!次のイベントの前にささっとスキルを集めるとしましょうっ!」

 

「その前に俺の情報をちゃんと受け取れよ」

 

「わかってるよ〜」

 

メイプルはセイバーから情報を受け取ると椅子からぴょんと立ち上がって心機一転六層の町へと繰り出した。1人残ったセイバーはどうしようかと考えているとデザストが出てきた。

 

『おい、相棒』

 

「誰が相棒だデザスト」

 

『今俺は退屈なんだ。また俺と勝負しないか?』

 

「ええ……でもなぁ………」

 

『お前的にはパワーアップしたいんだろ?だったら対人戦が1番向いている』

 

「なるほど、わかった。相手を任せても良いか?俺も試したい剣がある」

 

『おう』

 

それからセイバーはギルドの訓練場に入るとデザストと向き合った。

 

「それじゃあ、行くぞ。狼煙、抜刀!」

 

セイバーは狼煙を抜くとその姿を変えていった。

 

 

『煙叡剣狼煙(えんえいけんのろし)』

【STR+60】【破壊不可】

【狼煙霧中】【煙幕幻想撃】

【昆虫煙舞】【インセクトショット】

 

『昆虫のヘッドギア』

【HP+20】【MP+50】

【破壊不可】

【複眼】【有毒の煙】

【透視の目】

 

『昆虫のアーマースーツ』

【VIT+30】

【INT+60】【DEX+60】

【破壊不可】

【スパイダーアーム】【ビーニードル】

【バタフライウイング】【煙幕】

【甲虫の盾】【電撃の糸】

 

『昆虫の靴』

【AGI+70】

【破壊不可】

【昆虫の足】【昆虫の舞】

 

今回のセイバーの姿はアーマーや装甲は最小限のみであり、スーツは白に真紅がメインで体にピッタリとひっつくタイプであり所々に昆虫の意匠が施され、ヘッドギアも昆虫の顔のような形を模している。

 

「これが狼煙の姿か。随分と紙耐久だな。どっちかっていうと翠風と同じ感じのスピードタイプ?いや、瞬間速度なら翠風が圧倒的に上だろうし。ま、使ってみればわかるか」

 

『さっさとやるぞ』

 

2人はそれから手合わせを開始するとセイバーはいつになく慎重に攻撃を捌くことを意識していた。何故なら、装備の耐久性に不安を感じていたからである。

 

『おいおい、もう少し攻めろよ。そんな屁っ放り腰じゃどうにもならねーぜ、俺はよ!』

 

セイバーはいつもと戦い方を変えているせいか隙だらけであった。そこにデザストが剣を振り下ろす。

 

『おらよ!』

 

「かかった!【狼煙霧中】!」

 

次の瞬間、セイバーは煙と化するとデザストの周囲を飛び回った。デザストの隙を突いて攻撃するためである。だが、デザストにそんな甘い手は通用しなかった。

 

『うらあっ!』

 

デザストはセイバーが煙化を解除するタイミングに合わせてセイバーの本体が潜む煙を叩き切った。

 

「ぐあっ!!な、何で。初見のはずなのに」

 

『ああ、確かに俺がそれを見るのは初めてだ。だが、匂うんだよ。お前の動きが手に取るようにわかる。つまり、その力は俺には通用しないって事だ。今度はこっちから行くぜ』

 

デザストは剣に赤黒いエネルギーを高めると以前にセイバーを一撃で倒したスキルを発動した。

 

「あれは不味い!【バタフライウイング】!」

 

すると背中に蝶の羽が生えて空中を飛行。攻撃を回避した。

 

「次はこれだ。【ビーニードル】!」

 

セイバーは左手に蜂の針のような物を出現させるとそれでデザストを突いた。

 

『チッ…』

 

デザストは剣で受け止める事で攻撃を防ぐが勢いで後ろにのけぞった。

 

「良し!【煙幕幻想撃】!」

 

セイバーはそう言って煙で形成された赤い斬撃を放ち、デザストはこれを受けて数歩下がった。

 

『おうおう、少しは慣れてきたか?』

 

「……ああ、やっとわかったぜ。こいつの使い方がよ」

 

『なら見せてみろよ!』

 

デザストはセイバーへと飛びかかり、剣を横に斬りつけた。

 

「【狼煙霧中】!」

 

『はぁ?』

 

デザストが驚く中、セイバーは煙となりデザストの周囲を飛び回った。

 

『だから言ってんだろ?そいつは俺には効かねーよ』

 

「さて、どうかな?」

 

セイバーは飛び回りながらデザストの様子を観察した。するとデザストとは常に目が合う状態であった。つまり自分の場所を完全に察知しているという事。逆に言えば自分以外の場所には目がいってないという事だ。

 

「ここだ」

 

セイバーは煙化を解除するとデザストより少し距離を取って出てきた。これならカウンターで反撃される事も無い。

 

セイバーが【狼煙霧中】を解除すると同時に周りの煙も広がってデザストの視界を狭めた。

 

「どうだデザスト。こっちはよく見えるぜ」

 

『そいつはこっちのセリフだ。目で見えなくても匂いで丸わかりだぞ?』

 

デザストがセイバーの場所を的確に攻撃すると何かの金属音と共に攻撃は止められた。そこにいたのは……。

 

 

《キング・オブ・アーサー!》

 

『何!?』

 

ロボット型に変形した巨大なキングエクスカリバーだった。キングエクスカリバーはデザストを斬りつけるとその間にセイバーはデザストの背後にいた。

 

「貰ったぜ。【スパイダーアーム】!」

 

セイバーの背中から出た蜘蛛の足はデザストをしっかりと捕まえて拘束した。

 

『お前……どういう事だ』

 

「へっ。煙で視界を奪った瞬間に巨大なキングエクスカリバーに俺の聖剣と同じ匂いを染み込ませた。そして自分の代わりにお前へと向かわせる事であたかも俺がお前に向かっているように見える。後は遠隔でロボット型に変形させてお前の攻撃を迎え撃ち、その間に俺はお前の背後に回ったんだよ」

 

『まさか、この匂いを逆手に取るとは』

 

「チェックメイトかな?」

 

『いいや、まだだぜ!』

 

デザストは次の瞬間、マフラーで拘束を破壊するとそのままセイバーへと回転しながら突っ込んできた。

 

『【カラミティストライク】!うらぁああ!』

 

デザストはセイバーから再び【狼煙霧中】を引き出すことが狙いだった。先程までなら咄嗟のタイミングでセイバーは煙化して対処していた。よって今回も咄嗟のタイミングを作れば煙化で攻撃を回避すると思ったのだ。

 

「甘い!【甲虫の盾】!」

 

するとセイバーとデザストの間にカブト虫などの甲虫類が持つ硬い装甲を模した盾が空中に出現し、デザストの猛攻を防いだ。

 

「【電撃の糸】!」

 

さらに煙で生成された糸が回転の勢いが落ちたデザストを襲い彼を雁字搦めにすると電撃を流した。

 

『ぐあああ!』

 

「これでトドメ!【昆虫煙舞】!」

 

再びセイバーの背中から蜘蛛の足が出ると今度は煙で赤く光り、それはデザストの体を貫いた。

 

デザストは不死身のためすぐに戻ったが、決着は最早ついていた。

 

『はぁ、また負けか。お前、まさか【狼煙霧中】を囮や罠を張るために使うとはな』

 

「まぁ、あの姿では単純な殴り合いよりも搦め手を使う方が得意かなぁと思って試したらハマっただけさ。次やったらどうなるかわからないし、同じ事を他の人にやって効くとも限らないしな」

 

『へぇ、よく分かってんじゃねーか……お前なら強さの果てに辿り着けるかもな?』

 

「え?強さの果て?そんなのが無いから俺はどんどん強くなれるんじゃないの?」

 

『……何でもねーよ。もう1回勝負だ。次は勝つ』

 

「オッケー。俺もまだ見ぬ装備の真の力を探したいしね」

 

こうして、2人は己の限界を試すべくその日は何度も戦った。

そして、それからセイバーがほんの少しレベルを上げたり、色々と準備をしている間にイベントが始まる日になった。

 

そんなセイバーが今日も今日とてログインし、ギルドホームの扉を開ける。

するとそこにはサリーとメイプルがいた。セイバーが行ったのは五層のギルドホームの扉だったのである。

メイプルとサリーは急に入ってきたセイバーに少し驚いた後、話し始めた。

 

「あ、メイプル。今日からイベントだね。どうする、ソロ?それとも10人で行く?」

 

サリーは後ろに誰もいないことから、ソロだろうと推測した。

 

「ソロでも、10人でもないよ!」

 

「……?」

 

「今回はセイバーとサリーと3人で行くんだよ!」

 

「おおー!そいつは面白そうだな!」

 

メイプルが事前にギルドメンバーにメッセージを送っており、その内容は今回はできればセイバーとサリーと自分の3人で参加したいということを書いたものだった。

そして3人での探索を駄目だというような人は【楓の木】にはいなかったのである。

 

「久しぶりにさ、3人で遊ぼうよ?」

 

「ここ最近は1人でやる事が多いし、それに何よりこのゲームを始めた原点に戻るって点でも良いと思うぜ」

 

メイプルとセイバーのその言葉にサリーは少しきょとんとした様子で、そしてすぐに楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「いいね!なら、目指すは……」

 

「もちろんノーダメージ!」

 

「ちゃんと五層でも回避の練習はしてたから、衰えてないよ」

 

「私も、サリーを守りきる準備は完璧っ!」

 

「で、俺は?」

 

「「とにかく向かってくる敵をぶった斬れ!」」

 

「了解!!」

 

それならばと、3人は早速イベントのために設置された塔へと向かう。

その足取りはいつにも増して軽かったのだった。




66話時点のセイバーのステータス

セイバー 
*補正値は煙叡剣狼煙の装備時
Lv55
HP 175/175〈+20〉
MP 180/180〈+50〉
 
【STR 50〈+60〉】
【VIT 50〈+30〉】
【AGI 50〈+70〉】
【DEX 45〈+60〉】
【INT 50〈+60〉】

装備
頭 【昆虫のヘッドギア】
体 【昆虫のアーマースーツ】
右手【煙叡剣狼煙】
左手【空欄】
足 【昆虫のアーマースーツ】
靴 【昆虫の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅶ】【気配斬りⅣ】【気配察知Ⅴ】【火魔法Ⅶ】【水魔法Ⅵ】【風魔法Ⅶ】【土魔法Ⅶ】【光魔法Ⅶ】【闇魔法Ⅶ】【筋力強化中】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化中】【状態異常Ⅳ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅴ】【死霊の泥】【深緑の加護】【繋いだ手】【冥界の縁】【ドラゴンラッシュ】【神獣招来】

*煙叡剣狼煙を装備時
【狼煙霧中】【煙幕幻想撃】【昆虫煙舞】【インセクトショット】【複眼】【有毒の煙】【透視の目】【スパイダーアーム】【ビーニードル】
【バタフライウイング】【煙幕】【甲虫の盾】【電撃の糸】【昆虫の足】【昆虫の舞】

次回から第7回イベントに本格的に入っていきます。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと塔一階

セイバー、メイプル、サリーは町の広場に設置された魔法陣の前までやってきた。

この魔法陣を利用して塔へと向かうのである。

 

「えっと、一番難しいのでいいよね?」

 

「もっちろん!やる気十分です!」

 

「あ、それと良い?」

 

「何よ」

 

「今回、俺は縛り付きでやるわ」

 

「え?」

 

「今、俺は9本の聖剣を持ってるから一から九階の間は1つの階につき1本剣を決めてそれ以外の聖剣は使用しない」

 

「へぇ。でも、それだと咄嗟の切り替えできるの?」

 

「そこはなんとかするさ」

 

「ふうーん。ま、取り敢えず足は引っ張らないでよね」

 

「わかってるよ」

 

セイバーとサリーはテンションを上げながら話すとメイプルもワクワクしたように歩き始める。

 

「ふふっ、ならこっち!さっと一階層をクリアしてこよっか?」

 

「うん、そうだね!」

 

「さて、一階はこいつだ!黄雷、抜刀!」

 

サリーが自信に満ちた表情でそう言うとメイプルも楽しそうに返す。セイバーは黄雷を抜き装備を変更した。

こうして3人は最高難度の塔へと続く魔法陣に乗り、白い光と共に消えていった。

 

 

光が収まって、新たに3人の目の前にあったものは天を貫く高い塔だった。

塔の上部は雲に隠れて見えなくなっており、また一階層ごとの広さも相当である。

 

「これは時間かかりそうだな」

 

「確かに。見た目通りなら通常フィールドの4分の1あるかないか……かな?でも途中で転移とかあるかもしれないね」

 

「お、おー……頑張らないとね!」

 

「ん、そうだね。ほどほどにやっていこう」

 

「さーて、俺に狩られる最初の獲物は誰だ?」

 

3人は真っ直ぐに進んでいき、大きな扉を押し開けると塔の中へ入った。

塔の内部には人が4人ほど並べる通路が伸びており、3人が見える範囲でも分岐がいくつかある。

また、天井までは4メートルほどである。

 

「とりあえず……」

 

「うん、迷路っぽいね。出会い頭には注意しないと」

 

「えっと、じゃあ【身捧ぐ慈愛】!」

 

メイプルはまずはといった風に【身捧ぐ慈愛】を発動させ、万が一の場合にセイバーとサリーを守ることができるようにした。

メイプルの黒い装備の背中から白い羽が伸びる。

準備も整ったところで3人はダンジョンの中を歩き始める。

 

「そういえば、メイプル。あの盾を2つ増やすのは装備しないの?」

 

「あれ?あれはまだ練習中なんだー。色々同時にできるようになるのはもうちょっとかかりそうかなー。あと、サリーが嫌そうだから?」

 

「うっ……まあ、ちょっとね。ちょっとだよ?」

 

「私も慣れないとなぁ……それはそうと、聖剣全部使うって言ったよね?セイバー、あんた烈火は使用不能じゃなかったのかしら?」

 

「あー、それなら大丈夫。サリーはさっき流水の姿しか見せてないから知らないだろうけど、もう暴走は克服したぜ」

 

「なら良いけど。あっ!?2人共そこっ!」

 

「え?あっ……」

 

「ヤッベ!【雷鳴一閃】!」

 

話をしていたセイバーとメイプルは少し色の変わった地面を踏み抜いた。

するとパカっと床が開いて、メイプルはそのまま下へと落ちていく。

サリーはというと咄嗟に壁に向かって糸を射出してピタッと止まっていた。セイバーもスキルの効果で真上に強制的に移動して剣を天井に刺して持ちこたえた。

 

「メイプルー!大丈夫ー?」

 

「大丈夫ー!ただの毒沼だったー!」

 

「俺等が落ちたら大丈夫じゃないっての」

 

サリーが声をかけると暗い穴の底からメイプルの元気な声が帰ってくる。毒沼を大丈夫と言う彼女へとセイバーからもツッコミが飛んだ。

 

そしてそれから少しして、白い手に掴まれふわふわと浮かぶ盾二枚に挟まれたメイプルが、浮かび上がってきた。

 

「ふふーん。装備さえあれば落とし穴なんて怖くないよー」

 

「……無事だったならよかった。で、でも、もうちょっと気をつけて歩いていこう。セイバー、アンタもね」

 

「すまん。あれはちょっと油断してた」

 

サリーは少し目を細めて、顔を逸らしながらセイバーとメイプルに注意する。

 

 

「……そうだ!【発毛】!」

 

メイプルは何を思ったのか、その場で毛玉になった。白い球体から顔と天使の羽がぴょこんと飛び出ている状態である。

 

「メイプル?」

 

「これなら罠も考えなくていいし、サリーも怖がらないし一石二鳥だよ!前もこうやって探索したんだー。セイバーも入る?」

 

メイプルはそのままセイバーとサリーにすうっと近づいてきて、2人は毛玉の中に入ることとなった。

 

「しゅっぱーつ!」

 

「お、おー?……ダンジョン探索ってこんな感じだっけ……?」

 

「てか、この状態だと俺は下手に動けないなぁ。もし毛玉で事故ったら殺されるし」

 

セイバーが言っているのはサリーに対するラッキースケベである。ここ最近触れてこなかったが、このゲームを始めてからというもの、始める前より頻度が何故か右肩上がりになっていたのである。

 

「やったら殺すからね」

 

「勘弁してください」

 

睨みつけるサリーと観念するセイバーをおいて、メイプルはふわふわと通路を飛んでいく。

 

「ん、メイプル!モンスターだよ」

 

曲がり角からふわりと飛んで現れたのは赤い翼をもった2メートル程の鳥だった。

 

「ふふふ、どこからでもかかってきなさーい!【全武装展開】!【攻撃開始】!」

 

毛玉から黒い支柱が伸びて、銃や大砲が展開される。

メイプルが得意げに攻撃を開始するが、赤い鳥に命中した攻撃はそのまま鳥の体をすり抜けていき、鳥はその姿を炎に変えて勢いのままに体当たりをしてきたのである。

 

「既に嫌な予感するんだけど!」

 

「メイプル!」

 

「あっ!え、そ、それはだめええっ!」

 

浮かぶ毛玉に機動力はなく、毛を全て燃やしながら鳥が通り抜けていく。

【身捧ぐ慈愛】があるため、セイバーやサリーにもダメージはないがもう毛玉には戻れない。

 

「やっぱりこうなるよね〜」

 

「むー……」

 

「取り敢えず、俺の出番か!任せろ!」

 

「援護は任せるね!」

 

「おっけー【挑発】!」

 

メイプルが浮かぶ盾から降りてスキルを使い、炎の鳥の注意をひく。

そして【悪食】を温存するために体で体当たりを受けていると、サリーが横から水魔法を直撃させる。

 

すると炎の鳥は確かな赤いダメージエフェクトを散らせた。

炎は小さくなり、ただの赤い鳥になっていた。

 

「やっぱり水は効くよね、そう思ったっ!」

 

「ほらほら、今度はその自慢の羽を潰してやる!【落雷】!」

 

セイバーは鳥の羽を狙って雷を落とし、鳥は羽を片方だけ潰されて上手く飛行できなくなった。

 

サリーはその隙を逃さずに両手のダガーで斬りつけてみるとさらにダメージが入る。

 

「メイプル!」

 

それを見たサリーがメイプルに合図をする。

 

「仕返しっ【毒竜】!」

 

紫の本流が赤い鳥を飲み込んで吹き飛ばす。

【蠱毒の呪法】による即死のエフェクトが出て跡形もなく鳥は消えていった。

 

戦闘が終わるとメイプルは装備をいじった。

 

「【救いの手】は外しておいて……ふぅ」

 

「んー、お疲れ。まだちょっと特殊なくらいで雑魚モンスターだろうけど、無事終わってよかった」

 

「てか、トドメはメイプルかよ。せっかくなら俺が放電波で倒そうと思ったのに」

 

「はぁ?そんなの臨機応変に決まってるでしょ」

 

2人が喧嘩をしているとメイプルは1人呟いた。

 

「もう【発毛】できなくなっちゃった」

 

「同じ手は通じないってことじゃない?ほら、少しはトラップを見抜く練習しないと」

 

「うん、そうだね。やってみようかな?」

 

そうして、メイプルが罠を数回踏み抜きながらも3人は奥へと進んでいったのである。

通路を左へ右へ、階段を上に上にと進んでいく3人だったが、複数回の戦闘で最高難易度とされるモンスターの強さを感じていた。

 

「面倒だなあ」

 

「だねー。どれも強いよ……」

 

「てか、こんなの面倒すぎる。電気効かない奴に会った時の絶望感よ」

 

物理攻撃を無効化するもの、魔法を無効化するもの、一定条件を満たすことでしか倒せないものなど一癖あるモンスターが勢ぞろいである。

 

サリーの【剣ノ舞】も壁を素早く飛び回るモンスターと戦った時に限界値まで上がっていた。

 

セイバーやメイプルを筆頭に強いプレイヤーが来るのだから、それ相応の敵が出てくるのも当然だった。

 

そんな3人の前にまた新たなモンスターが現れる。それは雲が人の形をとったようなモンスターだった。

 

「サリー!また何か来たよ!」

 

「見たことないモンスターだね。気をつけて!」

 

「さっさと倒してやる!」

 

メイプルは【身捧ぐ慈愛】を使っている状態で、さらに大盾を構えて2人の前を歩く。

セイバーとサリーはその後ろで飛び出すタイミングを見計らっていた。

そんなメイプル達に気づいたようで雲のモンスターも戦闘体勢に入る。

 

一瞬の静寂の後にモンスターの体が緑色に輝き、通路を埋める程の風の刃が飛んでくる。

 

「「メイプル!」」

 

「うん!」

 

メイプルはここまでの戦闘で残り7回となった【悪食】を温存するために盾を下ろす。

最も速く届いた風の刃がメイプルの体に当たる。

メイプルにダメージは通らないが、しかし、メイプルの体がぐんっと跳ね飛ばされる。

 

「わっ!?」

 

「【ウォーターウォール】!」

 

サリーはそれを見て瞬時に水の壁を張り時間を稼ぐと、セイバーと共にノックバックにより吹き飛んだメイプルの方に走る。

 

メイプルが吹き飛べば【身捧ぐ慈愛】の範囲から外れてしまうのだ。

2人といえど逃げ場のない攻撃は避けられない。

 

「メイプル、【ヘビーボディ】!」

 

「あっ!そっか!【ヘビーボディ】!」

 

サリーの声に、思い出したようにメイプルがスキルを発動する。

そして、スキルの効果でその場から動けなくなる替わりに、ノックバックを受けなくなったメイプルの元に2人がざざっと駆け込んでくる。

 

「んー、あれじゃあ近づけないよ?」

 

「出た瞬間ダメージ入るからなぁ」

 

「1本道っていうのも運が悪いね、とりあえず今の内にノックバックをどうするか考えないと」

 

「……それなら【天王の玉座】!」

 

メイプルがそう言うと白い玉座が現れる。

そして、ノックバック無効が切れたところで、メイプルは吹き飛ばされてすとーんと玉座に着席した。

 

「これなら弾かれても大丈夫!」

セイバーとサリーが受けている風の刃のノックバックも引き受けてメイプルが笑う。

 

「なら、あとは元凶を何とかしないとね。メイプル、一回撃ってみて?」

 

「ん、了解!【砲口展開】っ」

 

メイプルの両肩から支柱が伸び、2つの大きな砲口がモンスターに向けられる。

それらは白く輝くレーザーを撃ち出し、いくつかの風の刃を吹き飛ばしながら雲のモンスターに迫る。しかし、レーザーはモンスターの張った風の障壁に受け止められて消えてしまった。

 

「うん、おっけー。障壁は正面だけだね」

 

「でもどうにもならないよ?」

 

「私達が注意を引くからその隙に撃って」

 

「いや、俺が倒す!」

 

「ちょっとセイバー!」

 

セイバーはサリーの静止も聞かずに飛び出すと風の刃を弾きながら突っ込んでいく。モンスターはセイバーを警戒し、攻撃を集中させていく。

 

「【魔神召喚】!ケルベロス招来!」

 

セイバーは魔神の攻撃がしっかりとダメージとして入る距離に近づくとケルベロスの頭を召喚し、モンスターへと攻撃させる。

その間にセイバーはモンスターの背後に回り込み、それに合わせるようにモンスターも背後を向く。

 

「あーあ。こっち向いて良かったのかな?」

 

セイバーがそう言った直後、通路に爆音が響いて炎が舞う。

煙を貫いて、吹き飛んできたメイプルがモンスターに一気に肉薄する。

メイプルを押しとどめていた大量の風の刃も強力な障壁もそのがら空きの背中にはないのである。

 

「魔神攻撃!」

 

「【攻撃開始】っ!どう!?」

 

ゼロ距離から放たれるレーザーと、振り抜かれる全てを飲み込む大盾、そして魔神によるパンチがモンスターのHPを一瞬にして消し飛ばしていく。

 

「とどめだよっ!」

 

振り抜いた大盾を引き戻して、もう一度叩きつけるとモンスターは光となって消えていった。

 

「お疲れーメイプル、ナイス攻撃!あとセイバー。変に飛び出すなって言ったよね?」

 

「結果オーライだから良いだろ!別に失敗した訳じゃないし」

 

「まぁまぁ、サリーもセイバーもありがとう!あっ、ちょっと待ってね」

 

メイプルは玉座を戻し、兵器をしまうとぽんぽんと鎧についた煤を落とす。

 

「うー、HPはそこまで高くないけど、ボスみたいだよね。ボスみたいなのがただの通路にいるってやっぱり難易度が高いってこと?」

 

「……皆もそう思ってたりするよ、きっと」

 

「ま、俺にとってはそのくらいが丁度いい」

 

サリーは少し目を細めて、セイバーは喜びながら言った。

 

「……?っとと、それはともかく。早く行こう!またあれが来たら大変だよ!」

 

「ん、そうだね。急いで突破しちゃおう」

 

「へいへい」

 

セイバーとサリーが罠を見つけつつ、避けられるモンスターは静かに道を変えて避けながら、3人は探索を続けるのだった。

 

モンスターを倒しては進み、倒しては進み。

メイプルとサリーはそうしてボス部屋まで辿り着いたのである。

ダメージを受けることこそなかったものの、度重なる戦闘で【悪食】は使い切ってしまっていた。

 

「一階層はまあこんな感じだろうね。貫通攻撃持ちも見なかったし」

 

「そのおかげで助かったよー。二階にもいないといいけど……」

 

メイプルはそう呟く。

メイプルにとっては貫通攻撃があるかないかで難易度が大きく変わる。

メイプルのHPは低いため、貫通攻撃を受け続ける訳にはいかないのである。

 

「けど、後はもうボスだけだ。さっと倒して二階へ行けるようにしよう」

 

「うん。もう結構やってるし、今日はここまでかな?」

 

「そうだね。そうしようか」

 

ボスをささっと倒してしまおうと宣言して、3人はボス部屋の扉を開けて中へと入った。

 

ゴツゴツとした岩の壁に、ひび割れた地面。

地面には所々流砂があり、まともに歩くことができる場所は限られていた。

 

「……サリー」

 

「うん。多分、下から来る」

 

「さて、どんなのかな〜」

 

セイバーがそう口にしたその時、地面の砂を巻き上げて、地中から砂色の鱗を持った竜が現れる。

赤く輝く瞳は3人を見据え、直後大きな咆哮が部屋に響き渡る。

 

「メイプル!セイバー!」

 

「【攻撃開始】!」

 

「【稲妻放電波】!」

 

援護してという言葉はもう不要で、サリーが駆け出すと共にメイプルとセイバーが射撃と放電を開始する。

弾丸やレーザー、電撃が竜へと迫る。

 

しかし、それを見た竜が咆哮すると竜の体の表面を透明な結晶が覆っていき、攻撃全てがそのまま跳ね返される。

 

「……っ!【超加速】!」

 

サリーは加速すると跳ね返ってきたメイプルの弾丸をダガーで弾き、レーザーと電撃をするりと回避してメイプルの【身捧ぐ慈愛】の範囲内へと戻ってきた。

 

「ごめん、サリー!」

 

「てか跳ね返すとかマジ面倒なんですけど」

 

「取り敢えずメイプル、ちょっと様子見で」

 

「うん、分かった」

 

メイプルはサリーの前に立つと、大盾と【身捧ぐ慈愛】でサリーを完璧に守る体制に入る。

広範囲の貫通攻撃はメイプルの【身捧ぐ慈愛】では上手く受けることができないため、大盾はきっちりと構えなければならない。

 

セイバーはメイプルがサリーに行く分自力で躱すために神経を集中させる。

 

3人がじっと様子を見ていると竜はばっと砂の中に戻っていく。

 

「下警戒!メイプル!」

 

「それならっ!【砲口展開】!」

 

「ヤッベ!」

 

ガシャンと音を立ててメイプルの兵器が大量展開される。そして、メイプルはサリーをぐっと抱き寄せると、そのタイミングでセイバーもメイプルに飛びつき、その瞬間メイプルは爆煙を残して、天井に向かって吹き飛んだ。

 

竜は3人の真下から飛び出して攻撃してきていたが、高い天井まで飛んだメセイバー達には届かない。舞い上がった砂や岩石がバラバラと地面に落ちていく。

 

「相変わらず豪快な……でもナイスっ!」

 

「てか、俺も爆風に巻き込もうとしてるんじゃねーよ!」

 

「仕方ないでしょ!」

 

「2人共、このまま離れるよっ!」

 

爆風で吹き飛んでいるだけであり、基本的にまともな着地ができるものではない。

メイプルはセイバーとサリーを上にして背中から地面に落ちていき、自爆による損壊を逃れた兵器すらガシャガシャと壊してしまう。

 

「どうやって攻める……ん?」

 

サリーは地面に転がる黒い岩石に気づく。これは竜が砂を巻き上げた時に転がり出たものだった。

サリーが思考をまとめようとしたところでメイプルが叫ぶ。

 

「サリー!なんか来る!っ【ピアースガード】!」

 

メイプルの声をかき消すように、竜の口から砂のブレスが吐き出される。

ブレスは盾に隠れた3人を強力なノックバックで吹き飛ばし、地面に転がす。

メイプルがとっさに発動した【ピアースガード】のおかげで、元は貫通攻撃だったブレスはその効力を失いメイプルに受け切られる。

 

「ごめん、油断したっ!」

 

「大丈夫!」

 

「ノックバックもあるのか……」

 

3人の声を竜の咆哮が遮る。

それと同時、地面に転がっていた黒い岩石は大きな音を立てて爆発した。

 

「メイプル!あれ!あの岩を使って攻撃できるはず」

 

「……?」

 

「ブレスの時に口に放り込んで!外からの攻撃が弾かれるなら、大体そう!」

 

「分かった!」

 

「なるほど、口の中と外からのダブルパンチか」

 

やりたい放題されたが、ここからは反撃だというように3人は勢いづく。

 

3人は竜が再び岩石を撒くのを待って行動を始めた。

 

「私が注意を引くから、2人は岩石をお願い!」

 

「りょーかい!」

 

「おう!」

 

サリーは【身捧ぐ慈愛】の範囲から外れて竜に攻撃を仕掛けにいく。

それらは弾かれるものの、注意は引けたようで、竜は爪や尻尾で攻撃してくる。

 

しかし、宙を駆けられるようになったサリーに大振りな攻撃が当たるはずもない。

 

「おっけー……ブレスが来るよ!」

 

サリーは後ろで岩を集めているメイプルに声を掛ける。セイバーも構える。

しかし、そう上手くもいかないようで、竜はブレスを横薙ぎに変更してきた。

 

「ふっ!」

 

しっかりと集中していれば問題ないというように、サリーとセイバーは横薙ぎに変化したブレスを空中を駆けて躱す。

 

そして、砂の奔流と轟音が消えた時にメイプルを確認しようと振り返ったサリーの横側をメイプルが飛んでいった。

 

「「えっ?」」

 

兵器に複数個の岩石を引っ掛けて運んで来たメイプルは、舞い散る砂を吹き飛ばして、そして。

 

 

そのまま大きくあいた竜の口の中へと飛び込んだのである。

 

 

「ふふふー……今度は私達の攻撃だよっ!【全武装展開】!」

 

メイプルが口の中に放り込んだ岩石は次々と爆発するが、それがメイプルに与えるダメージはない。竜はそのままメイプルを噛み砕こうとするが、岩石の方が幾分マシである。

兵器は壊せても肝心のメイプルのHPにその牙は届かない。

 

 

「【毒竜】!【攻撃開始】!」

 

 

メイプルはそのまま口の中に兵器を展開して引っ掛け、竜の口の中に詰まると、ありったけの銃とレーザー、そして劇毒を流し込んだ。

暴れても暴れても、竜はメイプルを吐き出せない。

兵器の爆発は何度も起こっているが、メイプルは爆発しても消えないのである。

見る間にゴリゴリとHPバーが削られていく。

 

「んんん!暴れないでっ……わっ!?」

 

「メイプル!今助けるぜ!【サンダーブースト】、【雷鳴一閃】!」

 

セイバーは超スピードで竜へと接近し、赤い2つの目の内、片方を潰して、攻撃を跳ね返す余裕のない竜の体にも攻撃を仕掛ける。

 

竜は中と外からの痛みから逃れるようにセイバーを振り払うとメイプルを口の中から出せないまま地中に潜ろうとしたが、頭を砂に突っ込んだところで、体を化け物の口が貫いて抜けていった。

 

そしてあまりにもあっけなく。

竜は砂となってさらさらと消えていく。

 

竜がいた流砂の部分へ駆け寄ってきたセイバーとサリーはメイプルを探す。

すると、流砂の中心で頭だけを出してサリーを見つめるメイプルと目があった。

 

「「……引っ張ろうか?」」

 

「おねがーい!」

 

一階層でのサリーの最後の仕事はメイプルの救出となったのだった。

 

 

そして、その頃運営はこの映像を見て竜に口を開けさせてしまった事を後悔するような言葉を嘆くことになった。




今回は塔一階攻略回でした。次回以降もこのような感じで一階ごとに話を区切っていこうと思います。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと塔二階

一階を攻略した3人は日を改めて二階の攻略へと移った。

1度一階をクリアした3人は二階からすぐに始めることができる。

二階へを足を踏み入れた3人の目の前に広がったのは、壁一面が本で埋め尽くされた通路だった。

 

高い本棚が天井にまで届いており、通路は一階と同じ程度の幅である。

 

「図書館、かな?」

 

「そんな感じだね。んー、魔法攻撃が多そう」

 

「今回は……狼煙、抜刀」

 

セイバーは狼煙の装備になると警戒を高めた。

 

「このくらいの幅だとシロップに乗れないんだよねー……」

 

メイプルの言うように、屋内の場合はシロップに乗って移動できないことが多い。

空を飛んでいれば避けられるものも多いが、今回のイベントではそうはいかなかった。

 

「ちゃんと歩いて攻略しよう?」

 

「はーい。そうだね、ちょっと時間はかかるけど」

 

「それはそうと、アンタまた聖剣増やしたわね?」

 

「悪いかな?」

 

「……悪いとは言わないけど、どれだけ増やせば気が済むのかなぁって」

 

3人は話しながら通路を進み始める。

右も左も本だらけの通路をある程度進むと十字路があり、そのどれもが同じような景色だった。

 

「メイプル、どっちから行く?」

 

「……左?」

 

「じゃあ左で」

 

「勘頼りでどうにかなるのかなぁ」

 

次の瞬間、セイバーの腹にサリーの蹴りが入った。

 

そうして3人が十字路を左へ曲がってすぐ。

本棚から勢いよく1冊の本が飛び出してきて、3人の方へと向かってくる。

 

「……!よっ、と!」

 

サリーは素早く反応して体を捻り、飛び込んできた本を躱すと、そのままダガーを振り抜いてカウンターを決める。

 

 

「【スパイダーアーム】!」

 

セイバーは先端が鋭利に尖った蜘蛛の足を出すと8本の足を自在に操り本を攻撃していく。

 

本型モンスターは赤いダメージエフェクトを散らしながらも、まだ勢いを失わなかった。

そしてばっと開かれて、本来本にはあるはずのない鋭い牙がページの端に現れる。

 

それは、そのままメイプルの顔に噛み付いた。

 

「うわっ!?ちょっ……と、セイバー、サリー!見えない見えない!は、剥がして!」

 

メイプルはぶんぶんと首を振るものの、モンスターはがっちりと噛み付いたまま離れない。

 

「ちょっと待ってね。【ダブルスラッシュ】!」

 

「はいはい、そのまま動くなよ」

 

セイバーが蜘蛛の足の精密な動きで本を引き剥がし、そこにサリーが素早い連撃を叩き込む。

HPはかなり低く設定されているようで、本型モンスターは簡単に倒れて光となって消えていった。

 

「びっくりした……でも、ここで出てくるモンスターならあんな感じだよね」

 

「確かに。でも、そうなるとどこから来るか分からないなあ」

 

「俺はいつでもエスケープする手段はあるけどね」

 

分からないからといって躱せない訳ではないセイバーとサリーだが、警戒しつつ辺りを確認する。

しかし、どこか規定の位置を通らなければ出てこないのか、今の所モンスターの気配はなかった。

 

「【身捧ぐ慈愛】する?」

 

「うん、お願い。風魔法とかは範囲攻撃多いし」

 

「範囲攻撃だとサリーでも躱せないもんな」

 

メイプルは【身捧ぐ慈愛】を発動させると、ポーションを飲んでHPを全回復させた。

3人は改めて、ぎっしりと本が詰まった本棚に挟まれた通路を進んでいく。

 

「さっきの本はあんまり強くなかったね」

 

「どうだろう?攻撃力が高かったんじゃない?多分……」

 

メイプルにある程度の攻撃力の高さで挑んだとしても、周りから見ている者にはその威力は分からない。

一も千もメイプルの前では同じなのである。

 

「不思議な本を見るとカナデを思い出すなあ」

 

「……ボスは本当にそんな感じかもね。攻撃の種類が多そうっていうか」

 

「まさかと思うけど本のページ数だけ攻撃の種類が多いとかじゃないよな?」

 

「えぇ。それはちょっと御免だよ?どこかに情報とか書いてないかな?こんなに本があるんだし」

 

メイプルが左側の本棚に手を伸ばして、本を1冊抜き取ろうとする。しかし、本は固定されていて動かなかった。

 

「駄目かー。残念」

 

「でも確かに、どこかにはあるかもしれないね。一階はきっちり全部回らないうちにボスまで行けたし気にしなかったけど。じゃあ、そういうのも探しながら行こう」

 

「そうだね!」

 

メイプルが元気よく返事をしたところで再び本が飛び出してくる。

それはふわりと天井近くまで行くとすぐさま雷を落としてきた。

広い範囲に電撃が走り、轟音と共に光が通路を照らす。

 

「どうするサリー?撃つ?」

 

「うん、眩しいし」

 

「さっさとやっちゃいな」

 

3人は落ち着いてそんなやりとりを交わす。

メイプルは兵器を展開して砲口を向けた。

迸るレーザーの光が落ちてくる雷を打ち消して、続くレーザーが本を焼いていく。

容赦のない攻撃に今回もまたモンスターはすぐに倒されていった。

 

「ふふふ、罠もないしこれくらいなら大丈夫!」

 

「頼もしいねー。っと、次は3冊同時みたい」

 

遠くから光を纏った本がふわふわと3人の方に飛んでくる。

 

「なら、今度は俺の番だ。【煙幕幻想撃】!」

 

セイバーが剣を振ると赤いエネルギー斬が飛び出し、本を両断していく。

 

探索を開始したばかりで、まだ能力がフルに使えるセイバーとメイプルを相手にすることになっては、雑魚モンスター程度ではどうにもならなかった。

3人は広い図書館を進んでいく。

まるで迷路のように入り組んだ図書館は、右も左も同じような景色ばかりで、奥へと進んでいるのかどうかも分からないようなものだった。

 

気分を変えるとばかりにメイプルは装備を変更して、六層の屋敷で手に入れた緑の洋服を着ている。

 

「どれくらい広いのかな?」

 

「んー、どうだろうね。結構進んではいるんだけど……あ、また来たよ」

 

暗い廊下の先から数冊の本が飛んでくるのを確認したサリーがセイバーとメイプルに声をかける。

2人は言わずとも分かるというように聖剣と兵器を向けた。

 

「ふふー【攻撃開始】【ポルターガイスト】!」

 

「【煙幕幻想撃】!」

 

2人がそう言うとセイバーの斬撃が分散し、本の行動を制限させるとメイプルから撃ち出されたレーザーがメイプルの手の振りに合わせてぐんと軌道を変え、追い詰めた本を焼いていく。

高難易度の塔なだけあってすぐに倒れることはないものの、斬撃の一部か、複数のレーザーのどれかが命中してHPを削り取る。

 

1本道の通路はセイバーやメイプルにとってこの上なく戦いやすい場所なのである。

 

「おー……器用になった……ちょっと違うか」

 

「1本ずつ動かしてるだけだから簡単!」

 

「なんか、弾丸を操るって言うより剣を振るみたいな動きの方が正しい気がする」

 

メイプルはセイバーの言葉に頷いてから手をブンブンと振った。

真っ直ぐ飛んでくるだけの本は次第にHPを失っていき、やがて光に変わって消えていった。

 

「遠距離攻撃は流石だね。すごい不思議だけど……不思議だけど」

 

「でも、この攻撃はそこまでダメージが与えられないし、私がまだまだ下手だから速いモンスターには当たらないんだよね」

 

「要練習だな。当てやすい攻撃ではありそうだし」

 

「そうだね……もう、全部いなくなった?」

 

メイプルが目を細めて通路の先を見つめる。

セイバーとサリーも同様に確認し、何もいないことを確かめた。

 

「うん、完璧」

 

「よーし、なら進もうっ!」

 

「てか、これいつ終わるんだろ。早くボス戦がしたいよぉ……」

 

時折現れる本を蹴散らしながら、3人はさらに進んでいく。

曲がり角が来る度にセイバーとサリーが慎重に先を確認し、戦闘はできる限り避けていた。

 

「いいよ、メイプル。メイプル?」

 

「どう?2人共、賢そうに見える?」

 

サリーがメイプルの方を向くと、メイプルはインベントリから取り出したのだろう眼鏡をかけており、その手に1冊の分厚い本を持っていた。

そして壁となっている本棚からは本が1冊抜き取られている。

 

「「……その一言がなければ?」」

 

「うっ……そう?むぅ、そっか」

 

メイプルは抜き取った本をパラパラとめくりながら呟く。

2人はメイプルの近くまで来てその本を覗き込んだ。

 

「真っ白?何も書いてないんだ……」

 

「何か書いていくー?あっ!?」

 

メイプルがそんなことを言っていると、本はぱっと光になって手から消えてしまう。

そして、少しして元あった場所にすうっと現れた。

 

「持っていけないんだね……残念」

 

「持っていけたら変に悪用されるかもしれないしねー」

 

「前科持ちさん」

 

「「ねぇ?」」

 

2人がそう言ってメイプルの方をじいっと見る。

メイプルはその視線の意味に気づき、すっと目をそらした。

 

「そんな……えっと、たまーに、変なことが起こったりするけど。うーん……狙ってるけど、狙ってないよ?というか、そんな事言ったらセイバーもじゃん!」

 

「確かにそう、だね。うん、確かに」

 

「待て待て、俺も変な進化はしてるかもだけどメイプルみたいに化け物にはなってないだろ」

 

「まぁ、セイバーの場合はギリ許容範囲だけどね。それはそうとそろそろ行こう」

 

「っとと、ごめんごめん!えっと、先に進めそうなんだっけ?」

 

「あ、そうそう。そうだよ。今のところ敵の気配もなしかな。だけど……ここからちょっと暗くなってるから気をつけて」

 

3人は話し合って、メイプルが明かりを持つことにした。

その気になれば、盾を増やすことも武器を増やすこともできるのだから適任だと言えた。

 

メイプルがインベントリからランタンを取り出して通路を照らす。

 

「サリー?これ光、いつもより弱い?」

 

「……そういう場所、なのかな。分からないけど……なら【ファイアボール】!」

 

「ごめんよ。俺今狼煙だから火を扱うための手段が乏しいんだ」

 

サリーが魔法を発動すると普段よりも小さな火球が通路を飛んでいく。

 

「一部の魔法とかスキルとかが弱体化してそうだね。光とか炎とかかな?メイプルは……攻撃面は大丈夫じゃない?」

 

サリーがメイプルのスキルを思い出しながらそんなことを言う。

メイプルのスキルは光か闇かといったような構成であり、攻撃を担うスキルは名前からして明るいものではない。

 

「俺は煙属性だけど、まぁ多分大丈夫でしょう」

 

「そう言えば……【身捧ぐ慈愛】は光っぽいけど変わってなさそうなんだよね。どうしてかなあ?」

 

メイプルが二階に入ってから使い続けている【身捧ぐ慈愛】はその見た目に変化はなかった。

 

「もっと進んだら変わるかも。ちょっと攻撃を受けないようにしておこうかな」

 

「できる、よね?」

 

「もちろん。だから、範囲攻撃はきっちりこの盾でガードするよ」

 

「「任せた!」」

 

3人はできるだけ危険を潰すように、より一層慎重に薄暗い通路を進んでいったのだった。

暗い通路を、メイプルが後ろ、セイバーとサリーが前で進んでいく。

 

「今の所は何も……」

 

「さ、サリー、セイバー!?」

 

「「メイプル?」」

 

唐突にメイプルが声を上げ、2人が驚いて振り返る。

後ろにいたメイプルは、地面から伸びた手の形をした黒い影に足と兵器を掴まれて動けなくなっていた。

 

「大丈夫!?」

 

「うー、動けないだけみたい?わっ!?」

 

「っ!ごめん!」

 

「うわぁ……これはいくらメイプルが硬いって言っても」

 

メイプルがそう言っているところに、いくつもの牙の生えた本が飛んできてメイプルの全身に噛み付いていく。

セイバーとサリーは飛びのいたものの、拘束されていたメイプルは身体中を噛まれてしまった。

 

「セイバー、サリー!外して外して!こ、この装備は壊れるから!」

 

「待ってね、すぐ外す!」

 

「【スパイダーアーム】、【ビーニードル】!」

 

サリーはメイプルに接近すると、まず本を斬り捨てていく。

セイバーも蜘蛛の足で本を剥がしつつ右手の狼煙と左手の針で本を潰していく。

相変わらず耐久力はないようで、簡単に全てメイプルから剥がすことができた。

 

「後は手の方……消えた?あれ……」

 

「装備は大丈夫そうだけど、後で直してもらわないと」

 

「てか、何だったんだ今の」

 

メイプルは壊れても問題ない黒の装備に切り替える。

当然メイプル本人にはダメージはない。

そこでひとまず落ち着いたサリーはメイプルの変化について話し始めた。

 

「メイプル?【身捧ぐ慈愛】消えてるよ」

 

「あれ?何でだろう。んー……しかも使えなくなってる。30分だけみたいだけど」

 

「やっぱアレは封印系かな。メイプルだけ狙った理由は……【身捧ぐ慈愛】かランタンかも」

 

「でも消すわけにはいかないし……あ!でもこれで私がまだ狙われたらランタンとか光るものだって分かるね!」

 

「光るだけなら私も【剣ノ舞】のエフェクトがあるし、まあ何かあるとは思うけど、メイプルの防御力ならとりあえず安心かな」

 

メイプルが狙われる分には、一応問題はないのである。

目標であるノーダメージは達成できなくなるものの、【不屈の守護者】により一度は攻撃を耐えられるため、即座にやられるということはない。

 

「鉄壁の守りという訳だな」

 

「まー、その通りだね。貫通攻撃は私達が見切るよ【ピアースガード】は意識しておいて」

 

「うん、大丈夫!」

 

メイプルは自信ありげに盾を構える仕草をする。

 

「そんなこと言ってたら、早速次が来たみたい。多分……?」

 

サリーが少し自信なさげに呟く。

サリーが指差す暗闇の奥。そこにはひっそりと立つ人型の影が見えていた。

 

その影は一つだけの赤い目を本棚に向けたまま全く動かない。

 

「どうする?2人共」

 

「近づきたくないけど、1本道だし、んー上の方通っていく?でも一応、どんな敵かだけ確認した方がいいか……」

 

「上……通れるのか?一応俺は煙化あるけど」

 

「まあ、メイプルが自爆するよりは静かにいけると思うよ。やる?」

 

モンスターが避けられるならと、メイプルはサリーの提案に乗った。

 

「ん、じゃあちょっと待ってね。セイバー、アンタは煙化ってのでついてきなさい」

 

「うん、分かった」

 

「はいはい。【狼煙霧中】!」

 

サリーは下準備というようにメイプルに糸を巻きつけると2つ指輪をつけて【STR】を上げ、氷柱を出現させた。それと同時にセイバーも煙化する。

 

「じゃあ、いくよ」

 

「え?」

 

メイプルは糸でサリーと繋がったままぐんと引っ張られる。サリーは壁と氷柱を経由して天井に張り付いた。

 

メイプルは糸に巻かれて宙吊りである。

 

「お、おー……」

 

メイプルはふらふらと空中で揺れながらサリーに運ばれるままである。セイバーは煙になっているため気づかれることも無い。ただその場に煙が漂っただけなのだから。

そうして3人はモンスターの遥か上を通り過ぎていき、十分な距離を取ったところで地面に降り、セイバーも煙から戻った。

 

「ふぅ、思ったより上手くできたかな」

 

「す、すっごいね!忍者みたい!」

 

「まあ、またどこかでは使えるかな。メイプルさえ良ければ」

 

「たまには楽しいかも!新感覚?って感じで!」

 

「まあ、現実ではできないだろうけど」

 

「てか、俺は煙化の制限で危うく1時間煙になれなくなる所だったんですけど」

 

セイバーの煙化は無制限には出来ない。1回の煙化では最大30秒しかなれず、しかもそれを超過すると1時間の間、変われなくなってしまうのである。

 

「それにしても本当に動かないね……」

 

サリーが振り返ってモンスターの方を見ると相変わらず一切動いていなかった。

移動すらしないのだろうかと、サリーは少し観察してみるものの変化はない。

 

「近づくか、攻撃するかかなあ?普通に進んだら避けられなさそうなところにいたらやってみようよ」

 

「そうだな。ボス部屋に取り巻きとしていたら怖いし、1体だけならボス戦で警戒することもないからね」

 

危険度が分からないため、3人は今回のところはスルーすることにしたのである。

 

「じゃあ、進もうか、メイ……」

 

「セイバー、サリー……また捕まったー!」

 

進もうとしたメイプルの体を再び黒い手が拘束している。

セイバーとサリーは今度はメイプルに噛み付く前に、飛んできた本を叩き落としていくが、その途中であることに気づいた。

 

「メイプル!ちょっと待ってて!」

 

「ん、んんー?分かったー!」

 

両手で本を引き剥がそうとしながらメイプルが答える。

サリーは先程スルーしたモンスターの方へ走っていく。

そのモンスターは青い光を放っており、黒く染まった地面からはゆらゆらと手が伸びていた。

 

「やることが分かれば問題ないっ!【ダブルスラッシュ】!」

 

「【インセクトショット】!」

 

サリーはダガーで、セイバーはキックで攻撃するとすぐにモンスターはどろりと溶けて床に染み込んでいった。

 

「あ!外れた!外れたよーセイバー、サリー!」

 

メイプルを拘束していた手は同じようにどろっと消えてなくなっていった。

後は、もう慣れたものというように本を剥がすだけである。

 

それが終わったところで2人が話し始めた。

 

「んー、さっきのモンスター多分倒せてないんだよね。逃げたみたい」

 

「この先定期的に出てきそうだなあ。どこかに隠れている可能性もあるし」

 

「どうにもできない?」

 

「どうかな?通ってない道もあるし、対策できるものがそこにあったかも」

 

3人は今回全ての道を通っている訳ではない。見落としがあるかどうかは分からなかった。

 

「ボス部屋?にもいるかな?」

 

「もしかしたらな。そうだと大変だろうが」

 

「入ってすぐ全力で倒すとか!」

 

「それもありだね。どのスキルも封印できるとしても、その前に倒せば終わりだし」

 

ボスを蹂躙するだけの力があると言ってのける3人だったが、もしこの場に誰かがいたとしてそれを否定するかは微妙なところである。

 

そうして、3人は改めて歩き出した。

そうしてその後もメイプルが何度かスキル封印を受けながらも、3人はボス部屋まで辿り着いた。

目の前にはいつも通りの大きな扉が見える。

 

「やっと着いたねー!」

 

「途中で行かなかったルートも見に行きたいけど……まあ、今回はいいか。で、メイプルはまだスキル封印されてる?」

 

「うーんと……あと20分で元に戻るみたい」

 

「じゃあそれを待ってからだな。万全の態勢で入ろう」

 

3人は扉の前に座って、話しながら時間を潰す。

そして、メイプルのスキル封印が全て消えたところでいよいよボス部屋へと突入した。

 

「雰囲気は同じ感じ……だね」

 

メイプルが周りを見渡す。

同じように本の詰まった本棚が壁となっている広い部屋だった。

2人も同様に警戒していると、薄暗い部屋の最奥、その空中に青い魔法陣が展開される。

 

「ん、メイプル!来るよ!」

 

「おっけー!【全武装展開】!」

 

構えた3人の前に現れたボスは数メートルはある分厚く大きな本だった。

それは青い光を纏いながらゆっくりと地面付近まで降りてきた。

 

「先手必勝!【攻撃開始】!」

 

「【煙幕幻想撃】!」

 

メイプルが銃弾を、セイバーが斬撃を撃ち出すと同時、空中にあった本はパラパラとめくれて、燃える本の絵が書かれたページが開く。

 

そして、そのページに対応するように周りの本棚から赤い本が飛び出してきて、火球を撃ち出し始めた。

 

「メイプルは右をセイバーは正面をお願い!左は任せて!」

 

「うん、大丈夫!」

 

サリーは2人から離れて走り出すと、魔法とスキルで本を叩き落としていく。

 

そうしているうちに大きな本の新たなページがめくれて部屋の端に人型の影が現れる。

道中でスキルを封印してきたモンスターが合計5体召喚されたのである。

 

「あっ!そ、それはだめっ!」

 

「全部は間に合わない……!」

 

「んー、ならっ【毒竜】【滲み出る混沌】!」

 

封印される前にと放った毒竜と化物が、銃弾をも飲み込んでボスに向かって飛んでいく。

それと同時にパラパラとページがめくれて、ボスの前に青色の障壁が現れる。

 

結果、それらはボスの前で青色の障壁に阻まれてしまい、高い音を立てて障壁を砕きこそしたもののダメージはかなり減少していた。

 

「2人共、全然効いてないよ!」

 

「威力の高過ぎる攻撃は逆効果みたい!私がやる!【超加速】!」

 

「じゃあ私は影の方を!」

 

「俺も影の方だな!【昆虫の舞】!【スパイダーアーム】!」

 

サリーは氷の柱を出してメイプルが作った毒の海を躱しながらボスの方へと向かっていく。

メイプルは自分に迫って来る影のモンスターを撃ち抜いていく。

セイバーは自身に黄緑のオーラを高めると虫属性の攻撃の威力が上がり、蜘蛛の足で次々に影を斬りつけていった。

 

「これで、どうっ!」

 

周りのモンスターは2人に任せて、サリーはボスの上を抜けるように移動しつつ、ダガーで何度も斬りつける。

本が障壁のページをめくらなければ防御も甘く、それなりのダメージが入った。

 

「よっ、と!もう一回!」

 

サリーがもう一度糸を使って移動したところで、本のページがめくれ、ばっと風が吹いた。

サリーは無理やり糸を伸ばして素早く範囲から逃れる。

 

「危ない……よし。ノックバックかな?」

 

メイプルが遠くで吹き飛んでいるのを確認しつつ、サリーは再びボスを斬りつけてメイプルの方へと帰っていった。

 

「それなりに削ったかな」

 

「ありがとうサリー!」

 

そこにセイバーも戻ってくる。

 

「まだまだここからだ。次はどうでるか」

 

3人がボスを確認すると、ちょうどボスはページをめくっているところだった。

そして開かれたのは何も書かれていない白紙のページである。

 

「……あれ?真っ白」

 

「「っ、メイプル!避けろ(て)!」」

 

咄嗟に2人が叫ぶものの、間に合わずにメイプルの足元から生えてきた黒い鎖が、メイプルの体を這い上がり縛り上げる。

 

サリーはスキルが封印されるだろうと考えてメイプルを真っ先に助けようとする。

 

「ちょっ、と!あれ、封印されてない?」

 

セイバーとサリーが何とか外そうと1つずつ攻撃して壊している時、メイプルがそんなことを言う。

 

「えっ?」

 

「まさか、封印じゃないなら……」

 

セイバーが本を見るとそれと同時にメイプルが叫んだ。

 

「あっ、違う!う、奪い取られてる!スキル!」

 

そう言ったメイプルの兵器が全てすっと消えた。

 

「……えっ?」

 

サリーが最後の鎖を切り落とした時、ボスはページをペラペラとめくった。

 

そこに書かれていたのはいくつもの兵器の絵柄である。

 

「やっば……!」

 

「マジで言ってんの?」

 

サリーが目を見開く中、空中にいくつもの魔法陣が展開され、そこから枝が伸びるように兵器が生えてくる。

 

「っ!メイプル、ごめん!【右手:糸】!」

 

「【狼煙霧中】!」

 

「えっ?うわっ!?」

 

サリーはメイプルに糸をひっつけるとそのまま引っ張ってボス部屋から逃走した。セイバーも煙化して跡を追う。

無理やり引っ張られたメイプルがガシャンガシャンと音を立てて地面を跳ねる。

 

「……一時撤退!てったーい!」

 

「そうだね、擬似メイプルとか相手にしてられないからっ!」

 

「というか、ヤバすぎだろ!!」

 

銃弾が撃ち出される直前で3人は部屋から飛び出すことができたのだった。

3人は部屋から飛び出すと、急いで扉を閉めて扉にもたれかかった。セイバーも煙化を解除する。

 

「取り敢えず、これで一旦落ち着けるな」

 

「ど、どうするサリー?」

 

「どうするって言っても……メイプル、奪われたスキルは何?」

 

まずそれを知らなければ始まらないと、サリーはメイプルに聞く。

メイプルはスキルを確認していき【機械神】【滲み出る混沌】【天王の玉座】【百鬼夜行】がなくなっていることが分かったのである。

 

「【滲み出る混沌】は【暴虐】とかも含めて全部消えてるよ」

 

「うぇ……装備でも関係ないし……しかも効果の強いのばっかり。時間制限とかある?」

 

「ないみたい?こ、これ返ってこないのかな?」

 

メイプルが不安そうにサリーの方を見る。

 

「多分ボスを倒すか、ここから出るかの2択かな。流石にここから先スキル無いと困るし。最悪イベントが終われば返ってくるでしょ」

 

ここから出ると言うことはこの塔の攻略を諦めるということであり、3人にとってあり得ないことだった。

 

「んー……やりようはあるけど。どうしようかな……」

 

「えっ、どうにかなるの?」

 

メイプルが意外そうにサリーの方を見る。

 

「まあ、ノーダメージは無理だと思うけど、メイプルの【身捧ぐ慈愛】を押し付けるとかね。あんなのただのボスが使ったら自殺なんだけど……使ってくれるか分からないし」

 

「あと、サリー【絶対防御】とか取られたら大変だよ!」

 

「それなんだよね……防御力がなくなったメイプルは流石に……」

 

防御力を失ったメイプルはもうただの人である。

攻撃も防御もできなくなってしまってはどうしようもないと、そう考えたところでセイバーはふと思った。

 

「ちょっと待て、メイプル。【VIT】いくつだ?スキルなしで」

 

「えっ?あ、うーん……?そういえば最近気にしてなかったんだよね。えっと……」

 

メイプルが青いパネルを出して今の【VIT】の値を確認する。

 

「うーん2000とちょっとくらい?」

 

「んー……」

 

「はい、もうこの時点でヤバいの確定」

 

サリーは目を閉じてその言葉を飲み込むがセイバーは思わず声に出てしまうくらい衝撃的だった。

 

「あ、細かい数字も言った方がいい?」

 

「いやもう誤差……誤差じゃないけど……」

 

2人はそれならばメイプルの心配はいらないと理解した。

メイプルのスキルには防御貫通攻撃が存在しないため、メイプルから何かを奪い続けるだけではメイプルを倒すことはできないからである。

 

「それならメイプル、私を守って。流石にあの射撃があると無理だし……。それにセイバーなら問題ないでしょ」

 

「おい、相変わらず俺の扱い酷いな」

 

「うん、大丈夫!それでどうするの?」

 

「ゆっくり待とうよ。あのボスが運悪く【身捧ぐ慈愛】を引いてしまうまで」

 

サリーは【ダブルスラッシュ】がそれなりにダメージを出していたことから、ボスの元の防御力は高くないと考えた。

そして、それならば【絶対防御】や【フォートレス】を持っていかれたとしても何とかなると結論づけたのである。

 

「おっけー!そうしたら一気攻撃だね!」

 

「なら、俺が攻撃の起点になる。今のメイプルは火力ダウンしてるし、サリーは火力不足だしね」

 

「え?でも高火力は防がれるんじゃ」

 

「いや、あの防御には弱点がある」

 

セイバーはニヤリと笑いながらサムズアップする。

 

「なら任せるけど、それでも面倒な場面は出てくるだろうから作戦会議はしていこう。ここなら安全だし」

 

サリーはそもそもまだ他の行動をしてくる可能性もあると、2人に対して油断はできないことを伝える。

 

「じゃあいろんな作戦を立ててからいかないとね」

 

「備えあれば憂いなしだな」

 

こうして、3人はきっちり勝つための作戦を練り始めたのだった。

3人は一通り対策を考えると立ち上がった。

 

「結局ほとんど私のスキルのことだったねー」

 

「メイプルのスキルはボスが使った方が似合うくらいだし……対策を考えておかないと私は絶対やられるし」

 

「でも、勝つ準備は出来た。後は勝つだけだ」

 

メイプルには効果がないことが分かっているが、サリーはどの攻撃を受けても駄目なのである。

メイプルの攻撃手段1つ1つについて考える必要があった。

 

「メイプル、ちゃんと短刀と大盾は外した?」

 

「うん、外したよ!毒耐性がなくなったら私も駄目そうだし……」

 

メイプルはスキルを奪われてしまわないように黒い短刀と大盾を外し、イズに作って貰った白い短刀と大盾を装備した。

鎧はもう既にスキルが奪われてしまっているためそのままである。

 

防御力は最初の予定より下がってしまっているものの、【蠱毒の呪法】もあるため【毒竜】を渡さないためにはこうするしかなかったのだ。

【悪食】もメイプルに対してどれ程の効果があるか分からないため、3人は安全策をとったのである。

 

「あのボスのステータスがどれくらいか分からないし。弱体化?……うん、弱体化するとはいえメイプルの防御が抜かれたら誰でもそうだし仕方ないよ」

 

「そうだね。大丈夫だといいなあ……」

 

メイプルが少し不安そうにボス部屋の扉を見つめる。

 

「じゃあ、メイプル。開けるよ」

 

「……よーし!いいよ!」

 

メイプルはぺちぺちと自分の頬を叩いて気合いを入れ、ぐっと盾を構える。

それを見たサリーが一気に扉を開けて、3人は中へと入った。

 

中に入るとボスのHPは全回復しており、炎を放つ本とスキルを封印する影を呼び出す最初の動きに戻っていた。

 

「最初から使ってはこないみたい。メイプルはスキルが奪われるようになったら、いつも確認して持っていかれたものを教えて!」

 

「うん!分かった!」

 

「さて、ラウンド2と行こう!」

 

再確認という風にサリーがメイプルに呼びかけて走り出す。それに合わせてセイバーも走る。

メイプルもそれについて行くように、ぱたぱたと走って行く。

 

「序盤は変わらないなら、問題ないっ!」

 

サリーは前回と全く同じようにボスのHPを削り取っていく。セイバーもスキル無しの通常攻撃で攻撃していく。

メイプルは基本的に【挑発】で炎を放つ本の注意を引く以外は特にすることがないため、サリーに【カバー】ができる位置に立っていた。

 

「むー……久しぶりにちゃんと【カバームーブ】を使わないと。この距離なら届いたはず……も、もうちょっと近づいておこうかな」

 

位置を微調整しながら、サリーがダメージを与えていくところを見ていたメイプルは、せめて封印は受けないようにしようと足元を確認する。

 

2人は集中力が切れてしまう前にHPを減らそうと激しく攻撃を続け、そのかいあって早くもボスが奪ったスキルのページを開いた。

 

「「メイプル!」」

 

「【カバームーブ】【カバー】!」

 

「【狼煙霧中】!」

 

行動の変化を見逃さずにバックしてきたサリーにメイプルが追いつく。

直後、メイプルの体に弾丸が直撃した。

 

「ちゃんと見ておけば大丈夫だね!」

 

大きな音を立てながらメイプルが弾丸をその身で弾く。セイバーも煙化で攻撃を回避する。

 

「そう……みたい?一度奪ったら頻繁には奪ってこないのかな」

 

それなら問題ないと、サリーはメイプルの背中にぴったりと張り付いたままで前進する。

 

「うう……すっごい量!」

 

「前回はちゃんと見る時間もなかったけど、周りの雑魚モンスターは一旦消えてるね」

 

「あ、本当だ!これなら楽だね!よかったー……」

 

「またいたら雑魚の処理で時間を食う所だったぜ!」

 

ボスの近くに来るにつれて上から撃たれるようになり、メイプルは盾を傘のように上に構えてサリーを守る。セイバーは煙化無しでも素早い動きで回避していく。

 

「これは……体で受けてもいいメイプルにしかできないね」

 

「ふふふ、この程度の攻撃なら大丈夫!スキルも取られてないし!」

 

「そうだね。うん、追加で奪われないならパパッと攻撃していこうかな」

 

「しっかりついていくよ!」

 

「ん、お願い。じゃあ……いくよ!」

 

サリーがメイプルからぱっと離れてボスに攻撃を仕掛ける。

無理と言っていたものの、サリーは飛んで来る弾丸を当然と言わんばかりにダガーで弾きながら駆ける。

そして、耐久値を減らさないように盾をかばってメイプルがついていく。

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

【剣ノ舞】の青いオーラが散り、ボスのHPがガリガリと削れていく。

サリーが何本も伸びる氷の柱を利用して上手く弾丸を避ける。

それは2人から見ても相当練習したことが分かるほどのものだった。

 

「……っ、サリー!」

 

「大丈夫!気づいてる!」

 

HPが削れたことで、ボスはもう一つのスキルを並行で使用し始めた。

地面が黒く染まり2匹の化物がずるりと出てくる。

 

そして、それに紛れるように再びスキルを奪う鎖が反応できなかったメイプルを縛った。

 

「ううっ……予定通り!予定通りだもん!」

 

「メイプル、【捕食者】そっち行ったぞ!」

 

メイプルが縛り上げられたことでターゲットになったようで、弾丸に加えて捕食者も近づいてくる。

 

そして、1匹が足から胴までを大きな口で噛み、2匹目は飲み込むようにメイプルの頭に噛みついた。

メイプルは思わず目を閉じたものの、ダメージはないことに気づきゆっくり目を開ける。

 

「お、おー……口の中ってこうなってたんだ!結構一緒に戦ってたけど知らなかったなあ……」

メイプルはそのまま奪われたスキルをサリーに伝える。

 

「【蠱毒の呪法】と……【フォートレス】と【身捧ぐ慈愛】!あと【絶対防御】!でも大丈夫そうだよ!」

 

「短刀装備してたら終わってたな!」

 

メイプルは前が見えない状態でサリーの方に叫び、セイバーも安堵の声を上げる。

サリーはこっちも何とかなっていると返し、そしてメイプルの耳に魔法の音や氷柱の伸びる音が聞こえてくる。

 

「脱出しないと……えーっと、よし!」

 

メイプルはインベントリを開くと、そこから次々爆弾を取り出した。

爆弾はそのまま地面に落ちていき、飛んできた弾丸によって連鎖爆発を引き起こしたのである。

 

「どーだっ!私だってスキルがなくても攻撃できるんだよ!」

 

メイプルは化物の口の中でドヤ顔をみせる。

こうして、燃え上がる炎の中で鎖は断ち切られたものの、メイプルも何度も支えられてきた化物二匹はメイプルを噛んだままだった。

 

「……も、もう離してくれてもいいよ?」

メイプルのその声に反応したというよりは、拘束が解けたことが決め手となって、2匹は離れてサリーの方に向かっていく。

 

「そ、それは駄目だって!」

 

メイプルが開放され周りを確認すると、そこでは溢れかえる小さな本によって炎や水、風の刃に石の弾丸などが飛び交っていた。

 

そしてさらに、本からは白い翼が伸びている状態である。

ボスからの攻撃も激しくなっており、サリーがどこにいるかがメイプルにはすぐに分からなかった。

 

「そろそろ決めるぜ!【インセクトショット】!」

 

セイバーは飛び出すとボスに攻撃を仕掛けようとしてキックを繰り出すが、ボスは当然のように自身の前に障壁を作り出す。

 

「貰った!【狼煙霧中】!それの弱点は……」

 

次の瞬間、セイバーの体は煙となると障壁を迂回するように素早く内側へと回り込んだ。

 

「守りが正面しかないこと、そして!」

 

セイバーはボスの眼前に迫ると煙化を解除した。すると狼煙が赤い輝きを得た。

 

「この距離ならバリアは張れないな!!【昆虫煙舞】!」

 

セイバーは背中からスパイダーアームを出してスパイダーアームと狼煙でボスを滅多刺しにし、HPを0にした。

 

「よっと。やっと終わった!」

 

「疲れたぁ……」

 

その光の向こうからサリーがすたっと地面に降りてきてその場に座り込む。

それを見たメイプルは急いで駆け寄っていく。

 

「た、倒しちゃったの?」

 

「そうだよ。あのバリアの弱点を上手くついて高火力で殴れたから勝てたって感じ。まぁ、アレが無くてもその内【身捧ぐ慈愛】使って自爆したかもだけど」

 

「うー、ちゃんと戦いたかったなあ!噛まれてたから何も見えなかったし……」

 

「誘った身としてはさ、たまには私もメイプルより活躍して、いいとこ見せたいし……なんて。でも私が活躍する前にセイバーがやっちゃったし、捕まった時に助けないでいたのが災いしたのかな?」

 

セイバーは得意そうに、サリーは少し申し訳なさそうに目をそらしつつそんなことを言う。

するとメイプルは少し考えてから何か思いついたようにぱっと顔を上げた。

 

「なるほどなるほど!じゃあ……一階は私が頑張ったし、二階ではセイバーが頑張った。三階では誰がボスを倒すか勝負だね!」

 

メイプルがそんなことを言うとセイバーとサリーは少し驚いたような表情をする。

 

「……うーん、勝てるかな?」

 

「ふふっ、無理だったら私が勝っちゃうよ!」

 

「負けねーよ。2人にもな」

 

セイバーとメイプルはそう言って自信ありげに笑う。

それを見て、サリーもいつも通りの調子に戻ったようだった。

 

「……よーし、なら負けないよ。次はきっちりサポートもしてボスも倒す!」

 

「じゃあさ、もう三階に行っちゃおう!善は急げ……とはちょっと違うけど」

 

「思い立ったが吉日っていうやつかな。行こうか!」

 

セイバーも賛成するとメイプルとセイバーはぱっと三階に向かって駆け出した。

 

「……よし、次はちゃんと落ち着いて戦おう」

 

サリーは反省して2人の後を追いかけていった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと塔三階

三階にたどり着いた3人の前に広がっていたのは、今までとは違って比較的広い空間とゴツゴツした岩の壁、そして赤く燃える溶岩だった。

 

「ここはこれかな。烈火抜刀」

 

「また全然違う感じだねサリー」

 

「そうだね……通路タイプばかりじゃないみたい、道はいくつかあるけど」

 

「取り敢えず1つずつ見ていこうか」

 

2人が観察する中、そう言ってメイプルが歩き出す。

 

そして足元からごぽっと噴き出た溶岩がメイプルの足をじゅっと焦がした。

そして、ほんの僅かにメイプルのHPバーが減少する。

 

「「「あっ……」」」

 

3人そうしてぴたっと固まった。事態を把握したメイプルは慌てて飛び退いて、2人の方へと戻ってくる。

 

「えっ?えっ?」

 

「そうだ!メイプル、スキル確認!」

 

わたわたとしているメイプルにサリーが呼びかけて、メイプルがスキルを確認すると全てのスキルが戻ってきていた。

 

「え、あ、あるよ!防御力も戻ってる!」

 

「え?う、うーん?駄目だ、一旦落ち着いて……」

 

「多分、このマグマ固定ダメージなんじゃね?俺の【爆炎放射】と一緒で」

 

2人が慌てる中セイバーは冷静に分析する。

 

 

「あー、固定ダメージを与える地形かぁ。ダメージもそこまでだし。火山マップの時点で考えるべきだった……」

 

「ダメージは20みたい。サリーは……避けないと駄目っぽい?」

 

「そうだね……かなり痛いかな。でもほら、見てメイプル」

 

サリーがそうして指差した先には、先程メイプルがダメージを受けた場所がある。

そこではひび割れた地面が、ほんの少し赤く輝いてから溶岩を噴出させていた。

分かりやすい予兆である。

 

「なるほど、あれだけわかりやすいのならメイプルの速度でも躱せるって訳か」

 

「壁とかも警戒しておいた方がいいかもね。あとはどんなタイプのモンスターが出てくるかだけど」

 

メイプルはそれを聞いていたが、何かを思い出したかのように、唐突に悲しそうな表情を浮かべた。

 

「ダメージ……受けちゃった……せっかくボスは何とかできたのに!」

 

「んー、じゃあ……地形はノーカウントで?ふふっ、ほら?明確に敵じゃないし」

 

「えぇ。それ有りなの?」

 

「有り!!」

 

「はいはい」

 

サリーが少し笑いながらどこかずるいような提案をすると、セイバーは苦い顔をした。それからメイプルは目を閉じてうーんうーんと葛藤を始めた。

 

「なら……ノーカウントで!モンスターからはノーダメージでここから頑張る!あ、地面もちゃんと見るよ!」

 

メイプルはそう言って黒の装備に変更し、やる気に満ちた表情を見せる。

 

「よし、じゃあ行こうか。とりあえず周りにはモンスターもいないみたいだし」

 

「ここは見通しが良くて良いな」

 

「警戒は任せて。見逃さないよ」

 

そうして3人は改めて三階へ一歩を踏み出した。

メイプルはいつも以上に地面を確認しているため、セイバーとサリーはしっかりと周りを見渡すことにしたのである。

3人の前には3つの道があり、見た目はどれも変わらず岩の壁だった。

 

「メイプル、どうする?」

 

「……真ん中の道ならどこかで左と右も確認できそうだから、真ん中で!」

 

「良し、ならそれで行こうか」

 

メイプルが盾を構える中、他の2人は【カバー】の範囲内から周りを確認する。

そうして3人が足元からの溶岩を何度か避けつつ通路を進んでいくと、再び広い空間に出た。

 

「メイプル、ストップ。何かいる」

 

「うーん……あ、本当だ!壁から溶岩が流れてるから見にくい……一階でみた燃える鳥とはちょっと違う感じ」

 

「前は炎の鳥だけど今回は溶岩の鳥って感じかな」

 

メイプルが額に手を当てて目を細めて見る先には、煌めく溶岩をどろどろと滴らせながら飛ぶのは1メートル程の鳥型モンスターがいた。

モンスターは壁から流れる溶岩から湧き出しているようで、直接根元を断つことは難しくなっている。

 

「鳥が落としてる溶岩も固定ダメージの可能性あるから当たらないようにして」

 

「分かった。その時はこうだね!」

 

メイプルが盾を頭の上に掲げて傘のようにする。

3人は話し合うと、一度戦闘をしてみることに決め、そしてタイミングを見て飛び出した。

 

「【氷柱】……んん!?」

 

空を飛ぶ鳥のさらに上を取ろうと、いつものように氷の柱を生み出したサリーはその足を止めた。

生み出した氷の柱は一瞬にして溶けていき、効果を失ったのである。

 

「氷は駄目か……なら水はどう!」

 

サリーは水魔法をモンスターに的確に命中させる。すると、モンスターの溶岩はみるみるうちに黒く固まり、飛べなくなった鳥はメイプルの目の前に落ちてきた。

 

「水に弱いんだね!って言っても……水は使えないけど【全武装展開】【攻撃開始】!」

 

「だったら、【四属性光弾】!」

 

セイバーは水、雷、風、土の属性から水を選び、水の光弾が鳥を次々と固めていく。

さらに地に落ちた鳥に突きつけられた銃口から次々に銃弾が放たれ、雑魚モンスターでしかない鳥は耐えることができずに消えていった。

 

「そのまま、上もっ!」

 

メイプルが上を向いて弾丸を撃ち出すが、それは空を飛ぶ鳥に当たってそのまま貫通して飛んでいった。

 

「あ、あれ?効いてない?」

 

「水系の攻撃が必要っぽい、落とすのは任せて!」

 

「俺もやるぜ」

 

「うん、お願い!」

 

3人の前で一度地面に落ちてしまえばもう飛ぶことなどできはしない。

二階とはまた違ったタイプのモンスター、3人がその性質を理解するにはちょうどいいレベルの相手だったのである。

3人は雑魚モンスターを簡単に撃退すると、改めて周りを見渡した。

壁から吹き出る溶岩は相変わらず滝のように流れ落ちており、壁や天井を煌々と照らしている。

 

「すっごいね……現実だったら暑くてこんな所居られないよ!」

 

メイプルは溶岩の海の淵にしゃがみこんでその先を眺める。

メイプルも流石に触りはしないものの、音を立てて弾ける溶岩を興味深そうに見つめていた。

 

「確かにそうだね……んー、そっかそっか、攻略ばかりに気を取られててももったいないか」

 

「せっかくなら観光もしないとな」

 

そうしてセイバーやサリーは周りを警戒しつつも、メイプルを真似るように、外では見ることができない景色を眺め始める。

 

「四階はどんな感じかな?」

 

「さあ?私も情報は見てないし……でも、通路だけの階層じゃないんじゃないかな。シロップもいい感じに飛ばせるかも」

 

「それだったらいいなあ。地面のことも気にしなくていいしね!」

 

広場はまだしも、通路は巨大化したシロップでは通ることができないくらいの狭さである。

 

そうしてしばらくのんびりとしていると、ここが戦闘フィールドであることを思い出させるように、また燃える鳥が滝から現れ始めた。

それを見つけたメイプルが溶岩から目線を上げて鳥の方を指差す。

 

「あ、セイバー、サリー!また出てきちゃったよ?」

 

「無視して行こう」

 

「だな。これ以上はキリがない」

 

「ッ!メイプル!!」

 

「えっ、わっ!?」

 

サリーの声にメイプルが目線を戻すと、どろっと溶けた燃える鱗を持つ魚型モンスターが、ちょうど口から溶岩塊を放つところだった。

 

メイプルは咄嗟に盾を振って【悪食】で溶岩塊を飲み込んで無効化する。

そのままモンスターはバシャンと溶岩の海から飛び出してきて、1メートル程の大きな燃える体でメイプルに飛びかかり、そして盾の中へと飲み込まれていった。

 

「び、びっくりした……」

 

「私も。ちょっと気を抜いてたから……」

 

「すまん。俺もだ」

 

「ううん、いいよ。それより、急ごう!気づかれないうちにっ!」

 

メイプルは溶岩の海の方から目を離さないようにして立ち上がり、そして後ずさると次の通路に向かって走り出す。

 

「そうだね……やっぱりその盾強いなあ」

 

「もう【悪食】だけに頼る必要が無くなっても全然使えるしな」

 

最近はメイプルも攻撃手段が増えたため、【悪食】に頼りきりではなくなったものの、メイプルと相性のいいスキルであることは変わらない。

2人はメイプルに走って追いつきながら、その強さを再確認したのである。

 

3人はモンスターに気づかれることなく通路へと飛び込むと一息ついた。

 

「やっぱり、落ち着いてられないね……どこからモンスターが出てくるか分からないもん!」

 

後ろを振り返りながらメイプルがそんなことを言う。広場と比べれば、むしろ通路はモンスターの潜伏場所がないため安全とも言える。

 

「階層が上がっていく度に面倒なモンスターとか一癖あるのが増えるだろうし、貫通攻撃とか固定ダメージとかも気をつけないとね。後は回復封じもかな」

 

サポート役から崩しにくるのはよくあることだとサリーはメイプルに教える。

 

「確かに、ただ攻撃してくるだけなら大丈夫だし、そうかも!私もサポート役から倒したいって思う」

 

「俺は倒しやすい奴を集中して落とすかな。連携されたら厄介な場合が多いし」

 

3人はそんな話をしながら通路を進み、慎重に次の広場を確認する。

そこには短い間隔で溶岩が噴き出す危険地帯が広がっていた。

赤々と燃える炎は時には高い天井にすら届いており、それを見て3人は顔を見合わせる。

 

「さ、サリー、セイバー?これ、どうすればいいの?」

 

「えっ?無理、だと思う……いやダメージ覚悟なら進めるかもしれないけど。それは正攻法じゃなさそう」

 

「どこか別の道か、あとは【ウォーターボール】!」

 

サリーは水魔法を地面にぶつけてみるものの溶岩の噴出は止まらない。

メイプルはサリーが水魔法を使った瞬間に、これは正解だと思ったため、少し肩を落としたようだった。

 

「うー……駄目みたい。えっとじゃあ、どこかに解決法とかあるのかな?」

 

「とりあえず引き返して他の道見るしか無さそう。いくつか分岐もあったし、隅々まで探索してみるか」

 

「そうだね!うっ……でもさっきの場所に戻らないと駄目かあ」

せっかく気づかれないで来ることができたのにと、メイプルは残念そうな顔をする。

 

「きっと他の場所にも嫌っていうほどいるよ」

 

「うぐぐ、ならアイテム準備!」

 

メイプルは水属性ダメージを与える球をインベントリから取り出すとぐっと握り締める。

 

「本当いろんなアイテム持ってるね……」

 

「ふふふ、結構使えるんだよ!」

 

こうして3人は一旦引き返すことに決めたのだった。

 

メイプル達は溶岩溢れる広場を引き返して、そのまま別の道へと向かった。

広場を飛び回るモンスターは通路にはやってこないようで、一安心である。

 

「とりあえず別の道に来てみたけど……他にもあったよね?」

 

「1つずつ見ていくしかないよ。地面には気をつけてね、メイプル。」

 

「うん、大丈夫!んー、ちょっと下り坂だね」

 

「でもまた溶岩で通行止めじゃないよな?」

 

「流石に無いでしょ」

 

3人は地面を確認しながら歩いていると確かに下へと下がっていた。

先程とは違った場所に行けそうな予感に、3人は警戒しつつもワクワクするように進んでいく。

そうして通路を抜けた先に広がっていたのは、黒く固まった溶岩でできた壁と地面が中心となる空間だった。

 

広さは変わらないものの、炎は時折地面から小さく吹き上がる程度である。

 

「この辺りは固まってるみたい?これなら歩きやすいし、モンスターがいるかもよく分かるね」

 

「今のところは何もいなそうだけど……こういう時は!」

 

メイプルは分かってきたと言わんばかりにセイバーとサリーの方を見る。

 

「うん、隠れてると考えるべき。言ってたら来たな」

 

ボコボコと地面が盛り上がり3メートル程の岩の巨人が立ち上がる。

 

3人の体より大きな黒い拳と足、響く足音。

途中見てきたモンスターと比べると見るからに強力そうである。

 

「えぇ…私ゴーレム嫌いなんだけど。攻撃弾くし」

 

「なら俺に任せろ。【爆炎放射】!」

 

セイバーは防御無視の固定ダメージを与える炎でゴーレムを確実に仕留めた。

 

「おおー。流石セイバー」

 

「さっさと先に行こうぜ」

 

「賛成賛成!あ、でもちょっと待ってね……」

 

メイプルはインベントリを手早く操作すると、装備を変更して【救いの手】を身につける。

そうして現れた白い手に盾を持たせると、それを操作して2枚の盾の間に挟まり空中に浮き上がった。

 

「またさっきみたいにいきなり溶岩にやられるのも嫌だからもうこれでいく」

 

「……おっけー。ちょっと慣れてきたかな」

 

サリーは少し目を細めてチラッと2つの白い手を確認する。

 

「使う?元々サリーのために色々探してた時のだから、いいよ?」

 

「1回ダメだと思うと、ね」

 

「拒絶反応って奴か。面倒だなぁ」

 

そんなことを話しながら、3人は次の道へと歩いていく。メイプルはその隣を盾に挟まれながらすうっと滑るように移動する。

 

そうして暫く進んでいく中で3人はすぐに変化に気づいた。

 

「サリーサリー!」

 

メイプルが目を丸くしてサリーの方を見る。

サリーも驚いたようにメイプルの方を見て、そして目の前の景色を改めて確かめた。

 

「うん、そうだね……変な感じだけど」

 

しばらく進んだ3人の目の前に広がったのは、雪に覆われ真っ白な床に、大きな氷でできた壁。

凍てつくような白の世界だったのである。

3人は一転して氷に支配された洞窟内を進んでいく。メイプルは盾に挟まって浮かんだまま、キョロキョロと辺りを確認する。

 

「もう降りてもいいんじゃない?」

 

「急に足から凍ったりしない?」

 

「しない……と思うよ」

 

「流石にそれは鬼畜でしょ」

 

2人が分からないけどと付け足すと、メイプルは結局降りないことに決めたのだった。

そのまま進んでいくと、3人の耳には氷が砕ける音が聞こえ始める。

 

「メイプル、セイバー、上!」

 

「了解」

 

天井の氷がバキリと剥がれていき、氷でできた蛇が地面に降りてくる。

メイプル達くらいなら一呑みにできるサイズである。

 

「とりあえず、引きつけるから!」

 

「その必要は無い!【火炎砲】!」

 

セイバーは降りてこようとする蛇に火炎のエネルギー弾を当てると一撃で蛇は光となって消えていった。

 

「ありがとうセイバー!」

 

「やっぱ氷相手に火属性は強いね。セイバー、もしかしてこれを見越して烈火にしたの?」

 

「いや、俺の勘だ」

 

「ま、その勘も大事にしないとね」

 

サリーはそうして広がる炎の海を見ていたため、その中に半分沈んでいる何かを見つけた。

 

「メイプル、セイバー、何かあるっぽいんだけど」

 

「うーん……?とりあえず炎の中だしセイバー、お願いできる?」

 

「任せろ」

 

セイバーは火の中を移動すると、何かの近くまでやってきてそれを拾い上げる。

それはソフトボールほどの大きさの氷の塊である。氷の塊は火で焼かれても溶けず、光を受けてキラキラと青く輝いていた。

 

「えっと、アイテムかな?」

 

【万年氷】

使用することで【溶岩】を固めることができる。

 

「メイプル、サリー!いいのあったぜ」

 

「じゃあ持って戻ってきてー」

 

「おう!」

 

セイバーは落ちている【万年氷】3つを拾うと、慎重に2人の元まで戻っていく。

2人は【万年氷】をセイバーから受け取ると、なるほどと頷いた。

 

「これを使えば、あの溶岩の所がもう1回出てきても乗り越えられるけど……どっちかなー」

 

「どっちって?」

 

「いやー、ボスが炎か氷かってこと。このアイテムがあるなら炎の方の先にいるのかな」

 

サリーがキラキラと光る【万年氷】を眺めながらそんなことを言うと、メイプルは少し悩んでいるような表情を浮かべる。

 

「こんなに綺麗なのに使っちゃうのもったいないなあ……もっと落ちてたらよかったのに」

 

メイプルは残念そうにサリーの手の中で輝く【万年氷】を見つめる。

こんなに綺麗なものも使ってしまえばなくなるのである。

 

「だったら使わずに勝てば良いんじゃね?そうすればアイテムとして残るさ」

 

「確かにそうね。蛇もそこまで強くないし。あれならメイプルの銃撃も効くだろうし」

 

もし蛇が出てこなかったら、私とセイバーの分だけでどうにかしようとサリーは提案した。

 

「いいの?」

 

「いいよ。そのかわり上手く守ってよ?」

 

「任せて!痛いのも……ちょっとだけなら」

 

「取り敢えず先に進もうか」

 

3人は先へと進むが、出てくるのは2メートル程の人型氷像や、氷の息を吐くコウモリばかりであって先程の蛇とは一度も会わなかった。

 

「今日は一旦終わる?メイプルのスキルもセイバーのスキルも大分使ったし、それに二階からそのままだしね」

 

「収穫はあったし、いいかも!」

 

「2人がそう言うなら俺も構わないぞ」

 

攻略に使うであろうアイテムも手に入り、氷側の探索も終わった。

そして、ボス部屋が氷エリアになかったことから、3人にはボスが溶岩を使ってくる可能性が高いことが分かったのである。

 

「なら、次は溶岩の先に一気に行こう。ということでお疲れ様!」

 

「うん、ばいばーい」

3人は揃ってログアウトする。

万全の体制で先へと進むのは、ボスが厄介だろうことが予想できるからだった。

 

 

日を改めて、3人は再び三階へとやってきていた。スキルの使用可能回数なども回復して準備は万端である。

 

「よーし、今日はボス倒すぞー!」

 

「うん、そうだね。三階は敵も面倒だし……あの先にいるかは分からないけど」

 

「てか、いてくれないと困るんだよ」

 

3人はもう一度【万年氷】を探しには行かず、そのままあの溶岩の噴き上がるエリアへとやってきた。

目の前では以前と変わらず溶岩が溢れかえっている。

 

「じゃあ、使ってみようか。多分ここのためのアイテムだし」

 

「いや、待ってくれ。それを使わずに行く方法を思いついた」

 

「「え?」」

 

「2人共、絶対に俺の中から出るなよ?」

 

「え?」

 

「それってどういう……」

 

「【エレメント化】!属性、水」

 

セイバーは体を水へと変化させると2人をその中に閉じ込めてそのまま溶岩の真上を飛び始めた。

 

「ええー!」

 

サリーはこれには驚き、メイプルも驚くが、それ以前にメイプルは【潜水】を持ってないためあまり息が続かなさそうだった。

 

「この状態に変化するのを10回繰り返せば……」

 

セイバーは猛スピードで溶岩地帯を突破していき、途中に現れたモンスターやゴーレムをスルーするとなんとか6回目の使用で溶岩地帯を突破することができた。

 

勿論、メイプルは窒息しかけだったが。

 

「ぷはぁ……し、死ぬかと思ったぁ……」

 

「セイバー、アンタねぇ!」

 

「待て待て!今回は良いだろ。無傷で行けたんだからよ」

 

「そういう問題じゃない!」

 

「はぁ、はぁ、サリー、もうその辺にしてあげなよ。私としてもすぐ行けたのは助かったし……」

 

「はぁ……メイプルが言うなら良いわ。そろそろ進もうか2人共」

 

3人はそのまま先へと進み、特に何の障害もなくボス部屋の扉を見つける。

 

「お、本当にここにあったね」

 

「予想通りって感じ!」

 

「まだ行ってないルートもあるけど今更戻るのも面倒だしやるか!」

 

「うん、行こう!私は準備万端だよ!」

 

そう言ってメイプルが腕をぐるぐると回しているのと、セイバーが戦闘態勢に入っているのを見て、サリーはそれならと扉を開ける。

 

こうして中へ入った3人には地面に広がる溶岩によって、足場が飛び石のようになって制限されている広間が待っていた。

 

「うぐぐ……私は飛んでるね」

 

メイプルはそう言うと2枚の盾に挟まってすっと浮き上がる。

セイバーやサリーにとってもやりにくいフィールドである。

 

「私もきっついけど……」

 

「そんな事言ってる場合か。ボスが来るぞ」

 

「わかってるわよ!」

 

3人が警戒している中、地面が揺れて最奥の溶岩だまりが大きく飛沫を上げて形を成していく。

そうして現れたのは煌々と燃える溶岩でできた巨人だった。

 

「サリーサリー!すっごい強そうだけど!?」

 

「氷は残しといて正解だったわね!メイプル、フォローお願い!」

 

「まっかせて!ちゃんと上から見てるよ!」

 

メイプルはそうして盾に挟まれたまま高度を上げていく。

溶岩系の敵はメイプルに固定ダメージを与えてくる可能性が高いため【身捧ぐ慈愛】も使いにくいのだ。

 

「【氷柱】……駄目か。おっけ」

 

サリーは【氷柱】が使えないことを確認すると、安全地帯を器用に飛び移りながら距離を詰める。

 

「【古代ノ海】!」

 

「【四属性光弾】!」

 

そうして移動するサリーの周りに、第二回イベントで手に入れたスキルによって、ふわふわと宙を泳ぐ青い光を纏った魚が現れ、セイバーの方は水の光弾が4発出てきた。

 

「【ウォーターボール】!」

 

「喰らえ!」

 

2人は途中の雑魚にしたようにまずは水属性での攻撃を試みる。

巨人の動きは遅く、水魔法も、魚が撒き散らす【AGI】低下の水も当てることは容易だった。

 

「あいつが移動する度に足場が……っと、くっ!」

 

「面倒だな。俺は最悪【エレメント化】を使えば30秒ずつなら空中に留まれるけどあと4回で終わりだからな」

 

巨人が地面を這うように進む度足場が溶岩で消えていく。

しばらくすると次の足場が出てくるが飛び移るタイミングはシビアである。

 

そんな中、巨人は溶岩の腕を振り上げ、サリーの方へ叩きつけてきた。

 

「……!」

 

サリーは空中に足場を作り、無理やりにそれを回避する。

しかし、叩きつけられた地面から放射状に火柱が噴き上がり、サリーに追いつかんとする。

 

「ちゃんと見てたから、ねっ!」

 

サリーに火柱が直撃するかどうかというタイミングで、メイプルがそれはさせないと降りてくる。

サリーと火柱の間に滑り込んだメイプルは浮かぶ2枚の大盾の上に乗ったまま、手に持った漆黒の大盾を斜め下に向けてぐっと構え、火柱を受け止める。

 

「サリー、セイバーも緊急避難!緊急避難!」

 

「う、うん、ありがとう」

 

「オッケー。【エレメント化】!属性、風!」

 

サリーがメイプルの大盾に飛び乗ると、メイプルはそのままエレベーターのようにすうっと上昇していき、セイバーも後を追った。

 

「わっ、下ですっごい暴れてるよ」

 

メイプルが下を見ると地面をずるずると動き回り、腕を叩きつけては火柱を生み出していた。

 

「火柱も届かないみたいだしとりあえず作戦会議だね」

 

「じゃあ足場も不安定だし、シロップ呼ぶね!」

 

メイプルはシロップを呼び出すと巨大化させ、落ちないように慎重に大盾から乗り移った。そこに【エレメント化】を終えたセイバーもやってくる。

 

「対空性能が低い敵なら確認してから作戦立てられるのはやりやすい……普通ではないけど」

 

「さあさあ、どうぞこちらへ」

 

「ん、じゃあお邪魔しまーす」

 

こうして3人は燃えるフィールドの上でのんびりと作戦会議を始めたのだった。

 

3人はしばらく話し合って、とりあえず安全な上空から、サリーの水魔法とセイバーの水属性の攻撃を撃つことに決めた。

メイプルの銃撃が効かなかったため、道中の雑魚モンスターと同じ方法を試してみることにしたのである。

 

さらに安全策として、メイプルは白の装備に変更し、HPを増加させて【身捧ぐ慈愛】に含まれているダメージ無効化スキル【イージス】の準備をする。

メイプルはポーションでHPを最大まで回復させるとサリーに準備が整ったことを伝えた。

 

「準備完了!いつでもいいよー?ふふ、【身捧ぐ慈愛】以外使うの久しぶりだなあ」

 

「じゃあメイプル大盾浮かせて?そうそう……あとは」

 

メイプルは少し高さを変えて2つの大盾を浮かせる。低い方に飛び乗ったサリーは落ちないように糸で足と大盾を繋げた。セイバーも盾に乗るとスノーボードに乗るような感じに構えた。

 

「すいーっと、どう?届く?」

 

メイプルはそのまま大盾をすうっとスライドさせて高度を下げ、2人の魔法がギリギリ巨人に当たる位置まで持っていく。

 

「向こうが動くのに合わせてくれれば大丈夫かな。何かあったら避難する」

 

「最悪俺が無理矢理にでも投げ飛ばすから。【エレメント化】もあと3回使えるし」

 

盾にはメイプルから離すことができる限界があるため、一定の距離を保ったまま、巨人に合わせてフロアをぐるぐると移動していく。

 

「うーん、やっぱり難しいなあ……サリー!どうー?」

 

「本当に固まるか分かんないけど、しっかり決められるように狙い定めてて!ダメージは入ってるんだけど……」

 

「もちろん!よっと、シロップも頑張ってね」

 

そう言ってメイプルは背中や腕から生えた黒い砲塔を下に向ける。サリーは魔法に特化しているわけでは無いが、セイバーとの協力で素早くダメージを蓄積させて遂に溶岩でできたその巨体が一気に黒く固まった。

それを合図にメイプルが攻撃を開始する。

 

「【攻撃開始】!シロップ【精霊砲】!」

 

メイプルとシロップによって、砲弾と光線の雨が降り注ぐ。

それらは巨人に命中し、ゴリゴリとHPを削っていく。

 

「やった!銃も効いた!」

 

メイプルが嬉しそうに攻撃していると、巨人の体がまた赤く輝き始める。

 

「ああー、もう終わっちゃった。サリーお願……い?」

 

メイプルがまたサリーに固めてもらおうとしたその時。燃え盛る巨人がメイプルの方にゆっくりと向けた腕が一際大きい炎を上げた。

 

「「メイプル、防御!」」

 

「え、えっと!【イージス】!」

 

メイプルが生み出した光がぱっと広がり、3人とシロップをまとめて包み込む。

溶岩の塊とでも言うような赤が3人の視界を覆い尽くしたものの、光はその全てを無効化して3人を守りきった。

光がゆっくりと薄れていき3人の視界が元に戻るのに合わせて、3人は巨人を確認する。

 

「えっ!?サリー、何あれ!」

巨人がいた場所を見たメイプルの目には、青く輝く塊が地面から少し浮かんでいる光景が映っていた。

 

「炎……じゃない?氷?」

 

「なるほど、2つの属性に変化するタイプのボスか!」

 

セイバーの言葉を聞き届けたようにして、塊を中心に氷が広がっていく。

溶岩の床を塗りつぶし、壁を駆け上がって、天井に大きなつららを作る。

そして、木が伸びるように塊から氷が伸び、巨人が立ち上がった。

 

「形態変化!でもHPは減ったまま、それに……」

 

サリーはメイプルの方を見て笑みを浮かべる。

 

「氷なら私も戦えるよサリー!」

 

「向こうから弱体化してくれたね」

 

「ついでに言えば炎はこっちの専売特許だ!」

 

「ふふふー、じゃあ【攻撃開始】!」

 

「【火炎十字斬】!」

 

セイバーとメイプルが攻撃すると、それは炎の形態の時よりも早くダメージを与えていく。

しかし、有利と言えども一方的に攻撃できる訳ではなかったのである。

 

「よーしこのまま……へっ?」

 

下を向いて攻撃していたメイプルは、自分の足元が急に陰になったことに気づいてふと上を見る。

そこには折れて落ちてきたのであろうつららが迫っていた。

 

「やっ……いっ、たい!うぅ……」

 

つららは派手な音を立ててメイプルの兵器を砕き壊すと、避けようとしたメイプルの背中に直撃し、赤いダメージエフェクトを散らせる。

 

「っ防御貫通!メイプル、シロップも戻して!どんどん降ってきてる!」

 

「今度は上から攻撃かよ!」

 

サリーは氷の柱を作り下へと滑り降りる。

メイプルはシロップを指輪に戻すと、そのまま地面に向かって落ちてくる。

 

「装備を変えて……よしっ!」

 

「装備変えるの速くなってきたね」

 

「練習したんだー!で、これで攻撃モード!」

 

「やりやがったなこの野郎!ブレイブ【覚醒】!」

 

メイプルは黒の装備に切り替えると、頭上を気にしながら戦闘態勢を取る。

サリーも使うことができるようになった【氷柱】により氷の柱を生み出した。

そしてセイバーはブレイブを呼ぶと炎のエネルギーを剣に高めていく。

ちょうど3人が攻撃に移ろうとしたタイミングで、地面を白く輝く冷気が走り、大きな音を立てて氷の波が襲いかかる。

 

「メイプル来るよ!」

 

「【滲み出る混沌】【攻撃開始】!」

 

「ブレイブ、【炎の波】!【爆炎紅蓮斬】!」

 

ブレイブの放った炎が氷の波にぶつかり、氷を全て融解させる。しかし、それでも氷の一部がメイプルに直撃し、メイプルの体勢を崩す。

だが、ダメージには繋がらない。それどころか、セイバーとメイプルの攻撃がボスを一方的に痛めつける。

 

「ただの攻撃なら大丈夫っ!」

 

サリーはその隙に素早く【氷柱】を乗り継いで、巨体の肩に乗ると首から頭を斬りつける。

肩周りから防御のために飛び出る氷の棘、そして落ちてくるつららを狭い足場で器用に躱しながら、青いオーラを散らせて攻撃を続ける。

 

「よし。燃えてないなら簡単だね」

 

「あれ?」

 

メイプルはつららを避けるために、氷の波や巨人の拳は受けても気にせずに移動しながら攻撃していたが、いつのまにか体に霜が降りていることに気がついた。

メイプルはポンポンと払うものの払い落とせない。

 

「サリー気をつけて!何か……何か凍ってきた……のかな?」

 

飛び回るサリーに危機感なさげに注意するメイプルは、現状特に影響がないと判断して攻撃を続ける。

 

「……メイプルに効果のないものって多過ぎるから危ないか分からないなあ。私は今のところ大丈夫か」

 

「多分攻撃を受けたら発動する系だと思う。てか、ブレイブにも影響出てるな。一旦戻ってくれ」

 

セイバーはブレイブを戻すと再び巨人の攻撃を躱す。

 

HPが減るにつれ攻撃は激しくなり、威力も上がっているものの、それでも速さで攻めてくる敵でないため、サリーは思考を他に回していても余裕をもって回避できていた。

 

そうしてダメージを蓄積させていくと、巨人から一際強く冷気が放出される。

 

「メイプル、セイバー!炎になる前に決めて!」

サリーは最後に激しい乱撃を加えると、宙を駆けて避難する。

 

「任せてっ、【毒竜】【滲み出る混沌】【暴虐】!」

 

放たれた攻撃を受けてよろめく巨人に、化物の姿のメイプルが突進する。

 

「メイプル!」

 

セイバーはメイプルを呼ぶとメイプルがセイバーを掴み、口の中へと入れた。

 

「……え?」

 

セイバーはメイプルが冷気を押し返すように口から炎を吐くタイミングで口の中から出てくると炎を剣に宿した。メイプルはそのまま氷の体を引き裂き噛み砕いていく。

 

「これで終わりだ!【森羅万象斬】!」

 

地面から大量の氷の棘が伸び始める中、メイプルは炎を吹きつけながらつゆを払い、セイバーが最後の一撃を加えた。

 

すると、ピキピキと音を立てて末端から巨人の体は崩れていき、そうして遂に氷の塊は光の粒となって弾けて空中に溶けていったのである。

 

「勝てたー……むー、空中にいれば安全だと思ったのになあ」

 

「てかメイプル!俺を掴むのは良いけど、口の中は聞いてない!」

 

「えぇ……」

 

サリーはセイバーを見てドン引きしていた。流石にアレは無いと言いたげな顔だ。

 

「はぁ、こうなるんだったらメイプルの力借りずに突っ込めばよかった」

 

メイプルは化物の見た目のまま、落ち込んだように体を伏せる。

 

「お疲れ。ん、スキル獲得?」

 

「あ、私もだ!確認確認」

 

「お、俺もだな」

 

サリーとメイプルは予想外の通知に、ステータス画面を開いて獲得したスキルを確認する。

 

「本当、それどうやって確認してるのか不思議だなあ……」

 

サリーは化物の見た目のメイプルを見ながらそんなことを呟くのだった。




今回は三階を攻略する回でした。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと塔四階

3人はスキルの確認を終えると、そのままの勢いで四階へと向かうことにした。

 

「そのまま行くの?メイプル」

 

「【暴虐】解除するのもったいないし……」

 

「確かに1日1回だけなら尚更解除しない方がいい」

 

セイバーとサリーが前を歩きながら、後ろを化物の姿のメイプルがついていく。

そうして3人は話をしつつ、ボス部屋の奥にあった四階へと続く階段を上る。

 

「あ、そうだ!スキルを大盾にセットしないと」

 

「さっきの……ええと【大噴火】に【猛吹雪】だっけ?私はMPと硬直が厳しいなあ」

 

「俺はどっちも行けそうな感じだけど、あんまり回数は使えないかな」

 

【大噴火】

 

消費MP50。発動前に3秒間硬直。3分後再使用可能。直線上に高威力の溶岩を放ちつつ、1分間地面に防御無視のダメージフィールドを生み出す。

 

【猛吹雪】

 

消費MP50。発動前に3秒間硬直。3分後再使用可能。直線上に高威力の吹雪を放ちつつ、1分間AGIを50%低下させるフィールドを生み出す。

 

 

「メイプルなら硬直はどうにかなるし。フィールドを上手く使えば、防御が高いボスとも戦えるかもね」

 

「うん!でも、自分で踏まないように気をつけないと……」

 

「爆発で飛んでる時とかは特に気をつけろよな」

 

セイバーがそう言ったところで、何か思い当たることがあるようにメイプルの方を振り返った。

 

「……んー、メイプル。思ったんだけどまだセットしない方がいいんじゃない?」

 

「そう?」

 

「この塔を登り切ったらメダルも貰えるし、そのスキルを見てからでいいと思う」

 

「今回塔を登り切れば、銀のメダルも10枚に届く。そこにより強力でMPを要求するものがあるかもしれないからな」

 

メイプルの装備へのスキル付与は不可逆なものなため、急ぐべきではないのである。

 

「攻撃力は足りてるでしょ?」

 

「攻撃も防御もバッチリです!」

 

「なら今は置いておいて次へ行くぞ。もう次の階の光が見えてきたからな」

 

薄暗い階段を上った先に見えたのは音を立てて落ちる水とその向こうに広がる森である。

四階の入り口は滝の裏に開いた穴に繋がっており、眼下には幅の広い川が流れていた。

 

滝と崖の隙間から外を確認すると、塔の中だというのに、上を見れば空があり遠くには海らしきものも見えていた。

 

「おー!すっごい広いよ!」

 

「だね、とりあえず……降りようか?」

 

「そうだな」

 

穴からは足場が続いており、そこから川へと降りられるようだった。

ただ、これは人のサイズに調整されたものである。メイプルは今の姿では通れない。

 

「メイプルなら、飛び降りても大丈夫かな?」

 

「うん、このくらいの高さなら問題なさそう」

 

サリーが崖に沿って降りる中、メイプルは滝に突っ込むように飛び降りて、大きな音を立てて滝壺に叩きつけられた。

しばらくすると、滝壺の底から何事もなかったかのように化物がにゅっと頭を出す。

 

「結構深いよ!このままだと泳がないと駄目かも!」

 

「それなら、四階では流水かな?流水抜刀」

 

「思ったんだけどさ、そのセイバーの剣を決めるのって次に何が来るか大体予想つけてやってるの?」

 

「ん?そんなのその場の勘に決まってるじゃん」

 

次の瞬間、セイバーは毎度のようにサリーに殴られた。

 

「せめてもう少し考えて選びなさい」

 

「……はい」

 

「うーん。でもさ、森の方には入れないようになってるし……このままだと川を下っていくしかなさそうだね。シロップに乗って飛んでいく?途中何かあったら困るけど……」

 

「【暴虐】を解除しないと駄目だけど……どう?」

 

「そっか。じゃあいいや、勢いのままガンガン進みたいし!」

 

「さっさと進もうぜ」

 

3人はメイプルの貴重な攻撃力を優先することにした。

三階であれだけ空を攻めることができるつららを落としてきたというのに、空中を行くことで四階をスルーできる筈がないと考えたのである。

 

「おっけー!あ、ねえねえ2人共、背中に乗る?水の中はモンスターがいるみたいだし……」

 

「そうなの?」

 

「すっごい噛まれてるよー」

 

そう言ってメイプルが6本ある足のうち1本を水から上げると、何匹かの魚が噛み付いた状態でビチビチと動いていた。

 

「じゃあ、乗せてもらおうかな」

 

「水の中まで警戒するのは大変だしな」

 

「ふふふー、川下りと行きましょー!」

 

メイプルは2人を背中に乗せると、6本の足を器用に動かしてゆっくりと川を下りはじめたのだった。

3人はそうしてしばらく川を下っていたが、森から何かが襲ってくることもなく平和だった。

メイプルの【身捧ぐ慈愛】が守ってくれているのもあって、セイバーとサリーは背中の上で寝転がっている。

 

「メイプルー、水中はどんな感じ?」

 

「魚とか、色々いるみたい?たまに引っ掻いて倒しちゃう……」

 

メイプルは、不幸にも何かが巻き込まれた証拠として、ほんの少し経験値が入ってくる度に、6本のうち2本の足を合わせて申し訳なさそうにする。

 

「水の中に入るのは危ないし、私は釣りでもしてみようかな。珍しい素材とかあるかもしれないし」

 

「釣り……私でももうちょっと釣れたらよかったのになあ」

 

「メイプルはステータスが偏ってるからな。効率はあんま良くないのかもな」

 

メイプルでは1時間やっても1匹程度しか釣り上げることが出来ないのである。

 

「メイプルは潜るのも厳しいしね。ま、適材適所って事で……よっと!」

 

2人は水中に釣り糸を垂らすと、のんびりと釣りを始める。しばらくすると、見たことのない魚が釣れるが、特に特殊な効果はないただの美味しい魚だった。

 

「あ、そうだサリー。他の皆も四階は泳いでるのかな?」

 

「どうだろ……水の中はモンスターでいっぱいなんでしょ?メイプルと同じ下り方はしないんじゃないかな。ほら、確か町のショップにはボートとかもあったし」

 

「ボートかあ……いいなあ……ねえねえ2人共、今度乗ろう!」

 

「オッケー。また釣れたかな……ん?」

 

「どうかしたのセイバー?」

 

「気のせい……じゃない。流れが速くなってるぞ!」

 

水の流れが速くなるのとともに川の途中に大きな岩があるのも見え始める。ボートなどがぶつかればただでは済まないだろう。

 

「2人共、落ちないように捕まってて!ぶつかっても多分大丈夫!」

 

「避けるものだと思うんだけど……まあいいや。来るよ!」

 

サリーが自分とセイバーを蜘蛛糸でメイプルに体を固定して、落ちて【身捧ぐ慈愛】の範囲から外れないようにしたところで、水に押し流されて、泳ぐまでもなくメイプルの体が下流へと進む。

 

「よーし!やっぱり大丈夫!どうっサリー!」

 

体の大きさのせいもあり、避けることができずにことごとく障害物に衝突するものの、メイプルにダメージはない。そんなメイプルは激流の中を滅茶苦茶に流されながらも得意げに背中のサリーに話しかける。

 

「うっ……の、乗り心地はなかなか……」

 

「メイプルっ!前だ前!!」

 

「へ?わっ!わーっ!?」

 

大岩に連続して衝突し、メイプルがバランスを崩して水中に沈んでいく。

2人は咄嗟にメイプルから糸を外すと岩に張り付いて難を逃れた。

 

「やっば……メイプル、どこ!?」

 

「これは最悪窒息したか?」

 

サリーは空中に足場を作り、糸を使い遠くの岩へと飛び移ってメイプルを捜索する。セイバーは流水から水を噴射して勢いをつけてその後を追った。

しかし、黒い巨体はどこにも見当たらない。

さらに、サリーが空中を進むと、それに反応するように水中から水の矢が次々に放たれる。

 

「邪魔をするな!【ウォータースラッシュ】!」

 

サリーは体をひねって水の矢を避け、セイバーは水の斬撃で全て叩き折ると岩の上へと着地する。

 

「とりあえず水は飛んでこなくなったけどっ、水中はモンスターだらけだし、潜れない……ん?」

 

焦るサリーの視界に、黒い塊が岩にぶつかって跳ね上がったのが映る。

サリーはもう一度空中を駆けると、水の矢を避けながら水中に糸を放つ。

 

「捕まって……よしっ!」

 

確かな手応えを感じたサリーは、岩に体を固定すると力を込めて引き上げる。

すると、水中から人に戻ったメイプルが姿を見せる。

 

「よっ、と!大丈夫メイプル?」

 

「うぇぇ……溺れた……ありがとサリー」

 

「やっぱり窒息で【暴虐】が解けたな。取り敢えず無事でよかったけど」

 

「ぐるぐる回って……どこ流れてたか分からなかったあ……」

 

メイプルは目が回った様子で岩の上にペタッと座り込む。

 

「まずは休憩しよっか。メイプルも大変だったし、どうやって川を下るかも考えないとダメだしね」

 

「それなら今持っている俺の剣の上に乗るか?サーフィンをするみたいに」

 

「メイプルの盾ならともかく、剣になんて乗れるか!!」

 

「私も多分DEXが足りなくて乗れないよ」

 

「そういえば俺の剣はユニークシリーズ扱いだから他の人には貸せないんだった」

 

「そもそもダメじゃん」

 

「で、それ以外には何か無いの?」

 

「いや、あるにはある。ただ、行けるかどうかは五分五分だけど」

 

「そ、そっか。……まずは休んでから……うぅ、川の水止められたらいいのに」

 

「そんな蛇口みたいな……でも、確かにできたら楽だねー」

 

メイプルが落ち着くまで、3人は岩の上で一休みすることにしたのだった。

そうして3人はしばらく岩の上で釣りをしながら休憩する。モンスターは釣れないようになっているのか、危険な魚も釣れず、サリーとセイバーはイズに渡すような素材を次々手に入れていく。

メイプルは相変わらず、全く釣れないままである。

 

「むぅ、ダメだあ」

 

「ステータスは変わってないしな。で、どう?元気になったか?」

 

「うん。もう大丈夫。でも、どうするの?」

 

メイプルの背に乗ることで、水中のモンスターを無視して突破できてしまったため、3人はボートなど持っていない。

正攻法を試すには一度、塔から出なくてはならないのである。

 

「うう……あの水の矢って貫通攻撃かなあ……」

 

「メイプルなら間違いなく空を飛ぶし、可能性は高そうだよね。わざわざ矢の形してるし」

 

「そもそも、貫通攻撃や、対空手段が全くないとは考えにくい。ただ、ある程度の威力の攻撃を当てれば崩れて消えている。だからこその手がある」

 

「うーん。でも、【身捧ぐ慈愛】は使いたくないけど、使わないと2人を守れないし……」

 

「それをカバーするのがこれ」

 

そう言ってセイバーが出したのはキングエクスカリバーだった。

 

「え?それって」

 

「こうするんだよ!」

 

すると巨大なキングエクスカリバーが出現して水の上に浮かんだ。

 

「なるほど、その上に乗るのね!」

 

「いや、さっき自分で言っちゃったけど、これに乗るより早い下り方を思いついた」

 

「そうなの?」

 

「ああ、【ライオン変形】!」

 

セイバーは機械仕掛けのライオンへと変形すると2人は驚きの顔をした。何故なら今まで2人はずっとこの姿を見たこと無かったからである。

 

「セイバーアンタ、いつからそれになれるようになったの?」

 

「え?割と最初からだけど……」

 

「なんでこんなの隠してたの?カッコいいのに……」

 

「えぇ、でもさ、出来れば切り札は隠したいじゃん」

 

「味方に隠してどうするのよ……」

 

サリーが呆れているとセイバーは2人を上に乗せた。

 

「取り敢えず、これで空中を走るという機動力を確保しつつ、キングエクスカリバーによる防御も出来る。この剣は聖剣じゃないけど【破壊不可】ついてるからな」

 

「おおー」

 

「それじゃあ、早速行こう」

 

「しっかり掴まってろよ!」

 

そう言ってセイバーは2人を乗せたまま走り出した。当然空中を走るため矢からの問答無用の攻撃が迫るが、攻撃は尻尾で掴んだキングエクスカリバーで巨大な剣を操作して全て止めていく。

 

 

それから数分後、矢が飛んでこない場所にまで到達した。その頃には激流も緩やかになっていた。

 

「セイバー、サリー!矢飛んでこなくなったよ!」

 

「ふー……ようやく、落ち着けるね。水の中は相変わらずモンスターだらけっぽいしセイバーからは降りられないけど」

 

「あっ、魚の影が見えるぜ」

 

水の中には素早く泳ぐ魚の影が見える。

その多くがモンスターであることは間違いない。

メイプルはセイバーの上でゆったりしながら下流へと進み、さらに同じくゆったりとしているサリーに話しかける。

 

「水の矢が防御貫通かは分からなかったね」

 

「ふふっ、試しに戻る?」

 

「ノーです!ノーノー!」

 

メイプルは首をブンブンと横に振る。

基本的にダメージを受けたくないメイプルは尖ったものでの攻撃を極力受けないようにしているのだった。

 

「ま、ボスが使ってくるかもしれないし。その時はまた対処しよう」

 

「ボスかあ……うう、使ってこないといいなあ」

 

「最初遠くに見えた海も近いんじゃない?」

 

「海かぁ。って事はボスは水中にいるのかな?」

 

「だねー。水の中にいそうなボスの対策でも考えながら行こうかな」

 

水の中のモンスターを無視できる3人は集中力を高めながらもゆったりと進んでいく。

そして途中川が別れることもなく、周りの森も終わり、3人の前に広がる景色がパッと開けた。

 

広がるのは一面の海。光を受けてキラキラと輝く海は波も小さく穏やかだった。

 

「サリー、セイバー、ボス……いそう?」

 

「どうだろう?足場全くないし……うーん、ここで戦いたくないんだけど……」

 

「てか、この形態解こうかな?でも2回目は無理だしなぁ…」

 

セイバーが悩んでいると3人の眺める海の一部がゆっくりと隆起して音を立てながら弾けるとボスモンスターが姿を現わす。

 

それは5メートルを超える海亀だった。

 

「おー海亀だ!」

 

「ってことは、ここで戦うしかないってことだね」

 

「シロップとどっちが大きいかな……」

 

メイプルはこれからボスと戦うとは思えない、楽しいことがある前のようにうずうずした様子で海亀の方をじっと見る。

 

「……あんまり愛着湧かないようにね?」

 

「だ、大丈夫!」

 

「倒すのに抵抗感生まれたら終わりだからな」

 

そうして会話をしているうちに、海亀の方が動きを見せる。

海亀は一旦水の中に潜ったかと思うと、空へ向かって水の道を伸ばしながら自在に空中を泳ぎ始める。

後ろに、空へと昇るように流れる水の道を作りながら海と空を行き来する。

 

3人が驚いて固まっているうちに、空間はいくつもの水の道が駆け巡る、摩訶不思議なものとなった。

 

「すっごい!すっごーい!」

 

「攻撃してこないし……ここまでがフィールドの事前準備なんだろうね。綺麗……」

 

「サリー、セイバー!あの海亀の背中、乗ってみない?」

 

「えっ……できるかな?」

 

「……いや、そもそもボスだからな?」

 

「ちょっとだけ!試してみるだけ!絶対楽しいよ!シロップに乗るのとはまた違うと思うよ!」

 

メイプルは目を輝かせてぐいぐいとサリーに詰め寄る。

サリーは海亀の方をチラッと見て、少しやってみたいと思ってしまった。

 

「ちょっとだけ……だよ?」

 

「やった!じゃあ【身捧ぐ慈愛】っ!」

 

メイプルは2人を守る準備を整えると、何かを思いついたのかインベントリからアイテムを取り出す。

 

「シュノーケル?」

 

「水の中でちょっとだけ息が続くようになる優れものだよ!えへへ、あるの忘れてたけど……」

 

「本当、色々買ってるね。じゃあ甲羅に固定するための糸は任せて!」

 

「ありがとう!絶対乗るぞー!」

 

「それなら、勿体無いけど俺も戻るか」

 

そう言ってセイバーは元の人間へと戻る。

 

こうして、四階のボス戦が始まったのである。

 

「で、どうやって乗るの?すごい飛び回ってるし、何か水の塊飛ばしてきてるし……」

 

戦闘が始まってすぐ、海亀は作り出した水の道の間を縫うように飛び回りだした。

その巨体の周りには青い魔法陣が輝いており、そこから大きな水の塊が撃ち出されては、のろのろと移動する3人に直撃していた。

 

「ダメージはないんだけど……むぅ……とりあえず上から攻めよう!」

 

メイプルはシロップを呼び出し、巨大化させて浮き上がらせると盾の上に乗り、【ポルターガイスト】で盾を操作してシロップの甲羅に着地する。

セイバーとサリーもメイプルに続いてシロップに移ると、足場が広くなったことで落ち着いたようで、ぐっと伸びをする。

 

「よし!準備完了!」

 

「私も、いつでもいいよ」

 

「俺もだ」

 

メイプルはシロップの高度を上げていき、海亀が飛んでいる辺り、空に伸びた水の道が張り巡らされた場所までやってくる。

 

「すっごい流れてるね……」

 

「ここ泳げるんじゃないかな?じゃないと普通はボスに届かないし」

 

「ふむふむ、この周りを飛んでるのはそれでかな?」

 

「かもね。ま、今は背中に乗ることから!近づいてきた時に糸くっつけようか?」

 

「うん!できれば丁度下にいる時に!」

 

「本当に、うちの女子達はとんでもないことばかりするな」

 

3人は呑気に会話しながら近寄ってくるのを待つ。攻撃は続いており、普通ならこんなことをしている暇はないのだが、貫通攻撃でない限りメイプルには何もないのと同じなのだ。

 

「よしっ、今っ!」

 

サリーはすいすいと空を泳ぐ海亀の甲羅に糸を貼り付けると、メイプルを抱きしめ、そのまま甲羅から甲羅へと飛び移りセイバーも送れまいと後を追いかける。

 

サリーが糸を収縮させると、少しの衝撃とともにメイプルとサリーは海亀の甲羅に着地し、そこからサリーは糸でセイバーを引っ張ると無事に3人共亀の甲羅に乗ることができた。

 

「成功!」

 

「ダメージを与えてないから、行動パターンも少ないし。乗るだけなら簡単だね」

 

「ここからどうするかな」

 

サリーは2人を甲羅に繋ぎとめ、メイプルは【身捧ぐ慈愛】の範囲から外れてしまったシロップを指輪に戻す。

これで、好きなだけボスの背中で空を飛び回ることができるようになった。

 

「シロップは飛べる訳じゃないから……すいすい飛べるのっていいなあ」

 

「普通は空を飛ぼうとするものじゃないからね?メイプルは変な方法で空中移動するけど」

 

「というか、もうそれが当たり前になってるから逆にメイプルがそれ以外の手段で空を飛ぶ所見たらビビりそう」

 

メイプルは【身捧ぐ慈愛】のエフェクトによって背中から生えた天使の羽をいじる。

 

「あと……思ったより快適じゃないかな……」

 

「うぅ……雨の中みたいな感じだもんね」

 

「仕方ねーだろ?元々ボスなんだし」

 

相変わらず3人の元にはバシャバシャと大きな水の塊が降ってきている。ダメージはないものの、快適とはいえない状況である。

 

メイプルはボス戦開始前に取り出したシュノーケルをつけているものの、潜ることにはならなかったため何の意味もないままだ。

 

「んー何かあったかなあ……あっ!これとか?」

 

インベントリを漁ったメイプルはパラソルとビーチチェアを取り出す。

 

「……何だかんだ色々持ってるね。よくお金ないって言ってるのはこれのせいか……」

 

「でも多分上に置くだけじゃ飛んでいくだろ?サリー、頼めるか?」

 

「ん、了解」

 

こうして3人はボスの背中に拠点を作り上げていく。

大きなパラソルが水の塊を受けてくれるため、3人はとりあえず水から逃れることに成功した。

3人は椅子に座ると、遠くで煌めく水平線を眺める。

 

「海、綺麗だね……」

 

「夕焼けとかにはならないんだろうけど。それも見てみたいな」

 

「いいね!また、どこかの層の海行ってみよう?」

 

3人は川下りの疲れを癒すようにしばらくそうしていたが、和やかな時間は終わりだというように音を立てて頭上のパラソルが壊れる。

常に攻撃を受けている訳で、メイプルには耐えられるものでもアイテムはそうはいかなかった。

 

「メイプル、何か変!海に降りていってる!」

 

「えっ!?ま、まだ何もしてないよ!」

 

「流石に甲羅の上でのんびりしすぎて怒ったか?」

 

海亀はそのまま高度を下げて海へと潜っていく。サリーはともかく、メイプルはアイテムを使っていてもそう長くは持たない。

サリーが離脱し浮上しようかと考えた所で、ボスの方から水面に向かっていく。

そうして、3人が息の心配をする前に、海亀は水の道が伸びている場所の中央へと浮上した。

 

「ふぅっ……な、何だったの?」

 

「空である程度時間が経つと降りてくる……とか?」

 

「あー。動きのパターン的な奴?」

 

3人がそうしているうちに、ボスを中心にして大波が起こり、水の道からは重力など無視して、押し流すように水流が向かってくる。

糸で体を固定しているため流されてはいかないが、心地いいものではない。

 

「背中でくつろぐなって言われてるね……」

 

「うぐぐ……じゃあせっかくだし最後に……」

 

メイプルはそう言ってインベントリから一度も使ったことのないサーフボードを取り出す。

 

「えっ、使えるの?」

 

「せっかく大波を起こしてくれてるし!」

 

「待て待て、まさかと思うがここでやるのか?」

メイプルはありがとうと言いながら甲羅を撫でる。

 

「命綱は繋いでおいてあげるね」

糸の長さは一定のため、【身捧ぐ慈愛】から外れることもない。

 

「ありがとう!」

 

「あ、メイプル。この後ちゃんとボス戦だからね?やる気と元気を出しすぎないように!」

 

「だ、大丈夫!」

 

「なら、おっけー。私はちょっと休んでるね」

 

「俺もだ」

 

サリーは甲羅の上で横になると、すりすりと甲羅を撫でる。

 

「ひんやりしてて気持ちいい……」

 

そんな中、波の音に混じってメイプルが海に沈む音がしていたのだった。

それからしばらく時間が過ぎて、ボスの行動パターンはまた変化し、空を飛び回り始めた。

ただ、それは時間が経過したからではなく、HPを減らしたからだった。

 

「お、首は甲羅よりダメージ出るんだ」

 

「【滲み出る混沌】……」

 

セイバーとサリーがザクザクと剣と短剣で攻撃している中、メイプルは寝転んだ状態で甲羅に糸でひっつきながら疲れた様子で攻撃する。

2人の背後からは絶え間ない銃撃音や、毒の跳ねる音が響いていた。

 

「もう、元気は残しておくようにって言ったのに」

 

「う……ごめん。つ、つい」

 

遊んで戯れて、これ以上ないくらい体を動かして楽しんだメイプルは、サリーに引き上げられる頃には疲れてぐったりしていた。

満足そうな顔をして引き上げられたメイプルはそこでようやくボス戦のことを思い出したのである。

 

「回復は待たないからねー?」

 

「うん、でもこれならひんやりしてて疲れが取れるー……」

 

「……ボス戦とは思えないなあ」

 

「えへへ、甲羅の上は熟知してますから!」

 

「もうただのバカンスだろ」

 

「ま、現状貫通攻撃もないし、足場と窒息さえケアすれば何とかなりそうだね」

 

「【毒竜】!」

 

「【ハイドロスクリュー】!」

 

セイバーとメイプルが強力な攻撃を加える度、HPがガクンと減り赤いダメージエフェクトが吹き上がる。

 

 

背中から押し流す攻撃は、サリーの糸で防がれており、セイバーとメイプルが居座っている限りはその他の攻撃は無意味だった。

 

「あ、メイプル。海が荒れてきたよ」

 

「本当だ!背中に乗ってなかったら大変だったね!」

 

「もう完全なヌルゲーだよ。てか、今までで1番楽なボス戦かも」

 

3人は眼下に広がる景色をたまに確認しつつ、水の塊を受けながらも我関せずと攻撃を続ける。

 

「サリー今度はボスがビーム出してるよ!」

 

「シロップも出すし、標準なんじゃない?」

 

「やっぱりビームは搭載しないとね……うん?あ、サリー!効かなくなっちゃった!」

 

順調に体力を減らしていた3人だったが、海亀の甲羅や皮が硬質化して攻撃が通らなくなる。

また何か変化したのだろうとは攻撃できそうな場所を探す。

 

「海ももう大荒れだよ?ボートとか沈みそう」

 

「わぁ……あ、あれの中で戦うのは無理だし、ひっついて正解だったね」

 

海の方では水が槍のように伸びて、そこにいるものを突き刺そうとしているのが見えた。

 

「多分これは正攻法ではないだろうがな!」

 

「これからどうする?」

 

「ここからは俺がやろう」

 

セイバーはそう言ってサリーから糸を借りるとそれを甲羅に貼りつけて自分は甲羅から離れるとターザンをするように亀の腹へと降りていった。

 

「上からがダメなら下からだな!【キンググレネード】!」

 

セイバーは水の砲弾を作るとそれを射出して腹に打撃を与え、更に腹の部分を流水で真っ二つに割るように切り裂いた。

 

するとパリンと音を立てて海亀が光に変わって消えていった。

それはつまり、3人を支えていたものが消えるということだった。

 

「サリー、掴まってっ!」

 

「うん、頼んだ!」

 

「俺も逃げるんだよ〜!」

 

一瞬の浮遊感の後、3人は海面めがけて真っ逆さまに落ちていく。

メイプルはサリーを抱き締め【身捧ぐ慈愛】の範囲から外れないようにすると、そのままいつもシロップから飛び降りる時のように体勢を整えて着水する。

 

セイバーは剣先を下向きにしてスキルを発動した。

 

「【アクアトルネード】!」

 

セイバーは剣から激流を放ちゆっくりと着水した。

大きな水飛沫が治った頃、3人は海面近くに浮かせた大盾にしがみついた状態で波に揺られていた。

 

「ふぅ……終わった?」

 

「みたいだね。私と相性悪かったから楽できた。次の場所への入口も出てるし、ガンガン行こう」

 

「休憩とかは……」

 

「目一杯したでしょ?」

 

「もうこのボス戦そのものが休憩だった気がするんだけど」

 

「えへへ」

 

ボス戦のピリピリした緊張感がなかったこと、さらに戦闘も楽に勝てたこともあり、心も体もリフレッシュすることができていた。

 

「じゃあ、五階へ!さて、どんなところかな」

 

「楽しみだねー!」

 

3人はそのまま現れた島へと向かい、そこに描かれた魔法陣の上に乗る。

少しの後、視界は光に包まれて、3人の目の前に五階の景色が広がる。

 

 

そうして3人が転移した場所は、仄暗い闇の中、淡く青白い光を放つ古びた墓石がいくつも並ぶだだっ広い荒地だった。

 

「め、メイプル……きゅ、休憩しよ?」

 

「……うん、そうだね」

 

「運営さんも中々キツイことするなぁ。まさかこのタイミングでうちのサリーが1番苦手なフィールドを持ってくるとは」

 

さっきまでの勢いはどこへやら、落ち着きなく辺りを見回すサリーを見て、3人は一旦塔から離脱することとしたのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと塔五階

3人は日を改めて五階へとやってきた。

サリーがまともに歩くことすらできない状態で塔を攻略するには【暴虐】がまた使えるようになる必要があったのだ。

 

何も起こらないように四階の小島で準備を済ませて、3人は五階へ転移する。

 

「よーし!一気に駆け抜けるよ!」

 

「一瞬でお願い……」

 

「ええ……ここの探索は?」

 

「そんなのやる訳ないでしょ!!」

 

メイプルは化物の姿になり、天使の翼を広げてその背中に大きな木箱をロープでくくりつけていた。当然中にいるのはサリーである。

 

セイバーとメイプルが攻略のために一歩を踏み出したところで、青い光を放つ墓石から青白く透けるゴーストが現れる。

 

「わっ、早速出た!」

 

「いっ、言わなくていいよ!」

 

「しょうがないから俺が処理する。錫音抜刀」

 

セイバーは錫音を抜くと銃撃でゴーストを露散させた。

それからセイバーがメイプルに乗るとメイプルはゴーストを振り切るように加速して荒地を駆けていく。

その足を止めようとするかのように地面からは腐肉の腕や骨の腕が伸びてくるが、メイプルはそれを蹴り砕いて走り抜けていく。

 

「っとと、幽霊も増えてきたし……燃えちゃえっ!」

 

「ついでにこれも持ってけ。【ロック弾幕】!」

 

メイプルは炎を吐き出し、セイバーは大量の弾幕を放ってダメージを与えるものの、それだけではゴーストは倒れず逆に反撃してくる。

不意をつかれたメイプルはゴーストの出す黒い霧のようなものをきっちりと受けてしまった。

 

「ダメージは……なしっ!なら、バイバイっ!」

 

メイプルは脅威にならないならと、無視して駆け出していく。

しかしどこか力が入らずに、じりじりとその距離が詰まる。

 

「……?あっ!ステータスがっ!」

 

「あーあ、もうメチャクチャだよ!」

 

普段なら気にする必要がない【STR】と【AGI】の低下だが【暴虐】中ならば効果的なのである。

【VIT】低下は無意味だったが、メイプルはゴーストを振りきれなくなっていく。セイバーはエネルギーの弾丸を集中させて1体ずつ倒していくがやはりそれでは処理が追いつかない。

そんな中、1匹のゴーストがするりと木箱をすり抜けた。

 

「ひぅっ!やっ……何でっ!」

 

「ごめん!すぐ離れるっ!」

 

メイプルはゴーストの攻撃を受けながらも炎を吐き出し走り出す。

多少ステータスが下がったところでメイプルにダメージはない。

 

しかし、ただのアイテムであるロープは別だった。

 

「あっ……」

 

メイプルの背中が軽くなり、ガタガタと音を立てて木箱が転がる。

 

「ちょっ、まっ……うわあっ!?」

 

サリーの入った木箱を拾おうとした所で、メイプルを地面から生えた手ががっしりと掴む。

 

「うぅっ……はがせない……っ!」

 

「ヤッベ!」

 

セイバーが咄嗟にメイプルから降りると鈍い音を立てて地面が割れ、メイプルはその裂け目に落ちていく。

こうして静まりかえったフィールドに木箱とセイバーだけが残される。

 

「め、メイプル、セイバー……?ねえ……?」

 

不安になったサリーが静寂に耐えきれず、横を向いてしまった木箱の蓋を少し開けると、真っ黒な眼窩と目があった。

 

「ふぁぅっ!?」

 

サリーは体をびくっと跳ねさせると、蓋を跳ね開けて外に転がり出る。

サリーが見ざるを得なくなった景色は地面から生える無数の手と迫ってくるゴースト達だった。

 

「うぅっ……何で、何で!」

 

「ちょっと待てサリー!落ち着けぇ!!」

 

セイバーの声がサリーに届くはずも無くサリーは涙目で駆け出す。この場にはいたくないという理由だけで。

 

「六層から逃げてこっちきたのにっ!何でぇっ!」

 

サリーはスキルを使うことも忘れて愚直に駆けていく。モンスターを振り切って目指すのはただ一つ。

 

「ログアウト!ログアウトぉっ!」

 

いつにも増して必死の逃走で、セイバーとメイプルのことも忘れた様子のサリーは荒野を行くのだった。

 

サリーとバラバラになってしまったセイバーとメイプルは、サリーのログアウトに気づくと一旦塔から出て、サリーを待った。勿論、メイプルは【暴虐】を解除せずにである。

 

そうしてしばらくすると、サリーがばつの悪そうな顔をして戻ってくるのだった。

 

「次は絶対落ちないようにしていこう?」

 

「うん……」

 

「待って。そんな事言っても多分また落ちると思う。だから俺に考えがある」

 

それからセイバーが説明をするとサリーはその言葉に頷いた。

 

「……わかった。それで行く」

 

「え、本当に!?」

 

「という訳でメイプル、サリーは任せた」

 

「わ、わかったよ」

 

それからメイプルはサリーを口の中に入れるとセイバーと2人で再び五階に突入した。

 

「メイプル、多分この中でゴーストに捕まるとかなり厄介だから極力攻撃や掴みは躱してくれ。今度サリーの前にゴーストを見せようものならどうなるかわからないからさ」

 

メイプルは口を開けられないため、コクリと頷く。

 

「このまま一気に突破する!」

 

セイバーは意気込んで五階の攻略を開始した。

この階に現れるゴーストはただの攻撃を無効化するため、普通の剣撃は通用しない。ただし、セイバーの剣には全て属性が付与されている。よって、属性を加えた攻撃なら魔法攻撃とみなされるためダメージは通っていく。

 

「オラオラオラ!さっさとそこをどけよコラァ!」

 

セイバーは先程と同じようにメイプルを拘束しようとするゴーストを次々と斬り捨て、撃ち抜いていく。

 

最早、ゴースト達の数などセイバーに取ってはまるで関係なくなっていた。

 

「【シャウトスラッシュ】!」

 

セイバーが全方位に放つ音の斬撃がゴーストを消滅させていく。そこに先程メイプルを引き摺り込んだ手が地面から出てきた。

 

「今度は上手く行かないぜ?【ビートブラスト】!」

 

セイバーは前へと跳びつつ振り向いてメイプルの足元に向けて放った強力な音のレーザー砲が地面からの手を全て破壊していく。

 

それから暫く歩くと周囲に黒い霧が発生した。

 

「これは……!?」

 

セイバーは何かの変化に気づいて振り返るとそこには後ろからついて来ていたメイプルがいなくなっていた。

 

「な!?メイプルがいない……まさか、トラップか」

 

セイバーは一旦冷静になって考えているとそこに大量のゾンビが湧いて来た。

 

「ええ……マジで言ってんの?面倒だなぁ。取り敢えず、メイプルに連絡だけ入れておいて後から合流する事を伝えてから……」

 

セイバーは急いでメイプルに連絡を取ると自身の無事と後から合流するということのみを簡潔に伝え、自身は敵と向き合った。

 

「さーて、ゾンビ狩りの時間と行きますか!【超音波】!」

 

まずはセイバーが先制攻撃とばかりの超音波でゾンビ達を怯ませると射撃で1体ずつ倒していった。

 

「【音弾ランチャー】ファイア!!」

 

さらに音のミサイルが敵を蹂躙していく。

 

「甘い!甘すぎるんだよ!!」

 

セイバーはゾンビ達に接近させると今度は剣にした錫音で音のエネルギーを常に込めた状態でゾンビを斬り続けた。

 

するといきなり通知音が鳴った。

 

「ん?メイプルから?何のメッセージだろ………え?」

 

そこに書いてあった内容はメイプルがついうっかり間違えて口を開けてしまいそのタイミングでお化けがサリーの目の前に出てきて彼女が泣き叫びながら口を飛び出してしまったとのことだった。

 

「……おいおいメイプルしっかりしてくれよ……また最初からやり直しじゃねーか」

 

セイバーがガッカリしていると遠くから物凄い叫び声と共に走ってくる影が見えた。

 

「あれ?何あの影。どっかで見たことあるような……ん?あれってまさか!」

 

セイバーがその影の正体に気づく頃にはもう遅く、その影はセイバーに向かって突っ込んできた。

 

「え?ちょっ!待て!止まれ!落ち着け!サリー!!」

 

次の瞬間にはセイバーは猛スピードで突っ込んでくるサリーに押し倒された。

セイバーは突っ込んでくるサリーを止めるために両手を前に出していたのだが、そのせいで手に柔らかい感触を感じた。いや、感じてしまった。

 

「痛ってぇ……サリー、大丈夫か……あ」

 

セイバーは以前にもこのような事があった事を思い出し、彼は悟った。これはもう自分は助からないという事を。

 

「あ……あ……」

 

そこには泣きじゃくって涙に塗れながら、恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤に染めていくサリーの姿があった。

 

「えっと……サリーさん……マジで今回は不可抗力ですから許してくださ……」

 

「い、嫌ぁああああああああああ!!!」

 

その瞬間、セイバーの顔にサリーからの張り手が決まり、セイバーは辛うじてそれに耐えたものの、その場でサリーからのキツイお仕置きを受ける羽目になった。

 

 

 

数分後サリーは何とか落ち着いたものの、未だに恐怖心が消えておらず、その場で座り込み顔にマフラーを巻いてスンスンと泣き出した。

 

「取り敢えず、サリー。動けるか?」

 

セイバーの問いにサリーは首を横に振る。

 

「だよね……。もうこうなったら、サリー。我慢してよ?」

 

「……ぇ?」

 

セイバーはサリーをお姫様抱っこするように抱えるとそのままモンスター達を無視して走り出した。

 

「うぉらああああああ!!道を開けろぉおお!!」

 

半ばヤケになりながらセイバーはサリーを抱えて突っ走る。勿論途中にいるモンスターは全て無視である。ただ、それでも正面のモンスターだけはどうしようも無いので、そこだけは【音弾ランチャー】で撹乱する間に隙間を駆けていく。そのまま突っ切ること数分。セイバーとサリーは無事に霧の地帯から抜け出す事ができた。

 

「はぁ、はぁ………ふう。やっと抜けれた。取り敢えずここでメイプルを待つか。サリー、大丈夫?」

 

「ぇ……あ……う……」

 

サリーの顔は耳まで真っ赤であった。もう彼女の心に恐怖心など無く、セイバーに見惚れてしまっていた。

 

「ん?大丈夫か?サリー」

 

「うぇ!?あ、え、えと……だ、大丈夫だよ……」

 

「そうか?なら良いけど」

 

サリーは恥ずかしさもあったのか小声で彼に感謝の言葉をかけた。

 

「……その……ありがとう……」

 

当然セイバーには聞こえないため聞き返す。

 

「え?なんて?」

 

「な、なんでもない」

 

サリーはそっぽを向きながら恥ずかしさを隠すように誤魔化した。

 

それから数十分後、メイプルが霧の中から出てきた。

 

「セイバーにサリー、いた!良かったぁ。思ったよりもゾンビ相手に苦労しちゃって」

 

「俺としてもメイプルが無事で良かったよ。ただメイプル、今度はもう不用意に口を開けたりするなよ?」

 

「それについては本当にごめん。サリーも大丈夫だった?」

 

「……うん」

 

「あれ、サリー。なんでそんなに顔が真っ赤なの?」

 

「なんでもないよ……」

 

メイプルはサリーの反応に何かを感じたが、それを敢えて言わずにサリーを再び口の中にそっと入れることにした。

それからセイバーとメイプルは何事もなくボス部屋の前に到達するとそのままボス戦へと突入した。

 

中は先ほど抜けてきたエリアと同じく濃い霧に包まれた、荒地であり、これといった遮蔽物もなくボスとは正面からやり合うこととなる。

そんな中、セイバーとメイプルを感知したのか霧の向こうからボスである首なしの騎士がゆっくりと現れてきた。

 

首の部分からは青い炎が溢れており、古びた鎧を装備し大きな剣を携えてゾンビの馬に跨っている。

馬は一つ大きく嘶くと、2人に向かってきた。

 

「さて、やりますか!」

 

それからセイバーとメイプルはボスとの戦闘を開始した。

 

まずは挨拶代わりにボスが剣を振り下ろしてくる。

 

「ふん!」

 

それをセイバーが受け止めるとその間にメイプルがボスへと掴みかかる。ボスはメイプルを引き剥がそうと剣をメイプルへと振り下ろそうとするが、セイバーがこれを許すはずも無くガラ空きの脇に銃撃を撃ち込むと更に斬撃を右肩へと喰らわせた。

 

「オラよ!【スナックチョッパー】!」

 

セイバーはお菓子のエネルギーを纏わせたピンクの斬撃を放ち、ボスにダメージを入れると、その足元に大量のゾンビを沸かせた。

 

「な!このタイミングで手数が増えるのかよ!」

 

セイバーは取り敢えずボスをメイプルに任せてその他大勢を相手にし始めた。

 

「うらあっ!おりゃあ!」

 

セイバーは連続で敵を切り刻むがそれでも生成される速度の方が早く、中々その数を減らせなかった。

 

「ああもう!こうなったら賭けだけど、【神獣招来】!」

 

それは1日1回だけ使えるギャンブル要素の強いスキル。MPを大量消費して神獣をランダムで召喚して使役する事ができる。今回出てきたのは……羽の生えた馬ことペガサスであった。

 

「おお!」

 

ペガサスは一鳴きすると宙を駆けながら羽で風を起こし、更には水のエネルギーを纏わせたエネルギー弾を両羽に纏わせるとそれをゾンビへと発射した。

 

「あれ、ペガサスって水を扱ってたっけ?あ、もしかしてこのゲームでの特別仕様かな。ま、いっか。俺もそろそろ本気で行こうか!【ロックモード】!」

 

それからセイバーもペガサスに跨るとハイテンションで上空から弾丸を撃ちまくった。

 

「オラオラオラァ!どいつもこいつも邪魔するんじゃねーよ!!ファイヤ!!」

 

一方でボスと戦っていたメイプルも後残り僅かにまで追い詰めていた。

その勝負は一方的で、ボスの攻撃ではメイプルのHPは全く削れておらず、じりじりとボスは死に近づいていく。

 

「よしっ!これで、終わりっ!」

 

行動パターンの変化などなかったかのように正面から蹂躙して、メイプルは勝利を収めた。これにより、ゾンビ達も消滅した。セイバーは【ロックモード】が解除され、ペガサスも消えた後にメイプルの元へと歩み寄った。

 

「お疲れ、メイプル」

 

「セイバーが敵を引き付けてくれたおかげだよ」

 

「それじゃあ、サリーにも悪いし、六階行くか」

 

「うん。六階に行くには……あっちか!」

 

メイプルはセイバーを乗せるとのしのしと歩いていき、転移の魔法陣に乗る。やがて五階の風景が見えなくなり、今度はゴツゴツとした岩肌に囲まれた洞窟といった風な場所に出る。

 

「よし……もう大丈夫そうだね。いいよサリー!」

 

メイプルがそう言って大きな口をがぱっと開くと、べちゃりと音を立ててサリーが転がり落ちた。

 

「うぇ……酔ったかも……」

 

「情けないなぁ」

 

「仕方ないでしょ?口の中いたんだし」

 

サリーは目を回しながら地面に寝転がる。いつの間にか心も落ち着いたみたいで顔もいつものサリーに戻っていた。

メイプルは人の姿に戻ると、地面に寝転がるサリーに近づいてしゃがみこみ得意げな顔をする。

 

「でも、何とか済んだでしょ?」

 

「代わりに俺が酷い目に遭ったんだけどなぁ」

 

「まぁ、お陰で大分楽に行けたかな……。ただセイバー、アンタ私の胸触ったでしょ!」

 

「はぁ!?こっちはお前が泣きながら走ってくるわ、お前に押し倒されるわで大変だったんだからな。寧ろ感謝して欲しいんだけど!!」

 

「そ、それは悪いと思ってるけど………」

 

「けど何?」

 

「ッ……何でもない!!」

サリーはセイバーに背を向けると再び顔を真っ赤にして心の中で悶えていた。

 

「(うぅ……なんでよりによってアイツなの……いつもいつも私の心を鷲掴みにしてくるくせに、こういう時ばかり鈍いんだからぁ………)」

 

「サリー、どうしたの?」

 

「何でもないよ。ちょっと考え事をしてただけ」

 

サリーは何とか顔色を戻すと振り返り、2人を見た。

 

「それはそうと……食べられるってこんな感じなんだね」

 

「あ、そうそう、私も一回食べられたんだよ!あれはびっくりしたなあ……」

 

「マジで?多分俺だったらそれされた瞬間死亡確定なんだけど」

 

「とにかく、これで私もまた戦える……はず。六階は、だ、大丈夫だよね?」

 

サリーが不安そうにしながらも目の前に伸びる洞窟を眺める。

するとそこからはダイヤモンドのような輝く体を持ったゴーレムが姿を現した。

 

「良かったぁ……ただのモンスターだぁ……」

 

「ふふっ、五階の分も頑張ってよね!」

 

「任せて!メイプルが休んでても大丈夫なくらい頑張るからっ!」

 

こうして、セイバーとメイプル、そして元気を取り戻したサリーは六階の攻略へと移るのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと塔六階

第7回イベントの塔六階を攻略し始めたセイバー一向。六階にて初めて出会った敵はゴーレム。取り敢えず倒そうとメイプルとサリーが攻撃し始めるが……。

 

「うう……防御力が……」

 

「めちゃくちゃ硬くない!?」

 

洞窟の雑魚モンスターとして出てきた宝石の体をもつゴーレムはメイプルの攻撃を一切受け付けず、サリーの防御貫通スキルでも僅かしかダメージが入らなかったのである。

ただ、メイプルの【身捧ぐ慈愛】による防御に対する有効打も持っていなかった。

 

「メイプルの防御も破られなかったし、負けはしないんだけどねー。次からは基本はスルーかなあ」

 

戦っていても時間がかかるばかりである。素材が貴重だとしても回収の効率が悪すぎるため、2人は諦めようとするが…。

 

「何言ってんだ?この場所こそ俺の出番でしょ。激土抜刀!」

 

セイバーは激土を抜くとスキル無しでゴーレムを真っ二つに両断して倒した。とは言っても厳密には【装甲破壊】込みのためスキルを使ってないとは言えないが。

 

「早っ!」

 

「次からもうセイバー1人でやれば良くない?」

 

「まぁ、確かにそうだな」

 

そう言ってセイバーは激土を肩に担ぐ。

 

「ボスもあんな感じだったらやだなあ」

 

「その時はセイバーが頑張れば良いんじゃない?最悪私もやるし」

 

「おい、五階の分も頑張るって約束したのは何処のどいつだよ」

 

「取り敢えずメイプル、防御は任せるね」

 

「うん!」

 

3人が進んでいくと、分岐する道が見えてくる。

そして、それを待っていたかのように煌めく鉱石の体を持った兵士のような人型モンスターも現れた。

盾と槍を持ったそれは3体で横並びになって道を塞ぎながら進んでくる。

 

「避けることもできそうだけど……どうする?」

 

「避けよう避けよう!あれ絶対防御力高いよ!」

 

「え?そんなに硬いかな?」

 

セイバーは大地のエネルギーを込めた激土を横に振ると兵士からダメージエフェクトが出たが、一撃では沈まなかった。

 

「あれ?一撃じゃ無い。ならもう一回!」

 

セイバーが二撃目を繰り出すと今度こそ兵士は粉砕された。

 

「あ、うん。ありがとうセイバー」

 

「やっぱり私ここでもサボって良いかな?」

 

「いや、ダメでしょ」

 

「だってアンタがやれば殆どのモンスターを簡単に倒せるんだし私要らないんじゃないかなーって」

 

「確かにそうなりそうなんだけどなぁ」

 

それから3人は歩き出すといくつも分岐点があるが、その度に必ず片側からはモンスターが現れる。ただ、そのモンスターは全てセイバーによって次々と葬られた。

 

「やっぱセイバー1人で良いじゃない」

 

「セイバーのお陰でサクサク進むね」

 

 

セイバーがゴーレムを蹂躙するお陰で3人はぐんぐんと進め、最後に大きな部屋に辿り着いた。

 

「ボス部屋……じゃなさそう?」

 

「まだ奥に通路見えるし違うと思う。けど、何かは出てくると思うから警戒してて」

 

「俺とメイプルが前に出るからサリーは下がってろ」

 

そうしてセイバーとメイプルが部屋に一歩踏み入ったその瞬間、少し後ろでパキンと音がしてモンスターと同じ鉱石の壁が退路を塞ぐ。

それと同時に大部屋の地面から壁と同じように鉱石が伸び、おびただしい数のモンスターを生み出していく。

 

「うわっ、モンスターハウス!」

 

「えっ?えっ!?」

 

「とにかくよくない!一体ずつ相手しないと……!」

 

「そんな必要は無い。俺がこいつらを全て斬る!」

 

セイバーはそう言うと激土に力を込め、激土はそれに応えるように巨大化した。

 

「【大断断斬】!」

 

セイバーが激土で敵を薙ぐと彼らの装甲は一撃で全て破壊され、倒された。

 

「ナイスセイバー!」

 

「火力が落ちても【装甲破壊】の効果で硬いモンスター相手にはダメージが跳ね上がるから一撃圏内には収まりそうな感じだな」

 

「でも、私も活躍しようと意気込んだのに全部セイバーがやっちゃったよ。ついでに素材もかなり手に入ったし……塞いでいた壁も消えたね」

 

「どうする2人共?戻る?」

 

「ここまできたし、一番奥まで見ていこう。何かあるかもしれないしね」

 

3人は相談して、メイプルの羊毛に隠れながら進むことにした。

もう一部屋モンスターハウスに踏み入ることになった場合のことを考えたのである。

 

「「……転がしていくかあ」」

 

「いつでもいいよ!」

 

サリーとセイバーはメイプルの羊毛にぐっと手を突っ込むとコロコロとゆっくり転がして奥の通路へと入っていく。

結果として通路はさらに分岐することはなく、奥には小さな宝箱が一つ台座に乗せられていただけだった。

 

「どう思うメイプル?」

 

「な、何か怪しいような……でも開けないで帰るのもやだよね」

 

「仮に敵だとしても倒せば良いだけだし」

 

3人で手を伸ばし宝箱の蓋を勢いよく開ける。

特にトラップなどもなく、3人はほっと息を吐いて中を覗き込む。そこにはスキルを習得できる巻物が3つ入っていた。

 

「どれも同じみたいだね。はい、1つはメイプルの、1つはセイバーの分」

 

「やった!どんなスキルかなー」

 

「さっきの壁が結晶みたいな奴だったから多分これは……」

 

【結晶化】

1分間AGIが半減し、あらゆるバッドステータスをうけなくなる。

3分後再使用可能。

 

取得条件VIT100以上。

 

「私はクロムさんにでもあげるかー、これは一生使えないね」

 

サリーのVITはゼロのままである。これからもあげる予定は全くないため、100ははるか彼方だ。

 

「じゃあ私は早速取得!」

 

「俺も今の装備なら全然取得できるし、取っておくか」

 

セイバーとメイプルは早速巻物を広げると、【結晶化】のスキルを習得する。

 

「この辺りはモンスターもいないし、戦闘の前に一回試しておいたら?」

 

「そうする!じゃあ、【結晶化】!」

 

すると、メイプルを光が包み込み、まるでコーティングされるように先程のモンスターと同じ鉱石が覆っていく。

 

「皮膚が変わっちゃったみたい?でもちゃんと動けるし変な感じ……」

 

「それも不思議だけどこれもコーティングされるんだな」

 

そう言ってセイバーは羊毛を叩く。コンコンと音が返ってくるそれは、手触りだけならもはや岩の塊である。

 

「顔を引っ込めたら、中に閉じ込められるのかな?」

 

「うぇっ!?ち、ちょっと怖いかも……っ?う、腕が引っかかって中に戻れない……?」

 

「「へっ……?」」

 

メイプルはぐにぐにと体を動かすものの、突き出した上半身の部分から表面は毛玉になっており、叩いてもコンコンと音がするばかりである。

 

 

「まあメインの効果はバッドステータス無効だし、普段はこんなことにもならないでしょ」

 

「てか、普段硬いメイプルが更に硬くなるのかぁ」

 

鉱石の塊のようになった毛玉から上半身だけが飛び出しているメイプルを見て、サリーはやれやれと首を振る。

 

「うぅ……どんどん考えることが増えていく……」

 

「そういうところも面白いところだよー」

 

メイプルは使いこなせるかなあとそんなことをこぼしながら【結晶化】が切れるまで待つ。この塔の中で手に入れたスキルやアイテムはいくつもあり、またいつかそれらを試してみるタイミングが必要だと思うのだった。

 

「この塔をクリアしたらメダルで交換できるスキルも手に入るからな。前と同じラインナップかは分からないけど」

 

「あー!そっかー、むー……ちゃんと考えてスキル取った方がいいのかなあ」

 

「好きなのを選んだらいいんじゃない?こう、直感でさ。よっぽど変なスキル選ばない限り全く使えないってこともないよきっと」

 

それに今深く考えていても仕方ないと言うと、メイプルもそれもそうかとうなずく。

 

そうこうしているうちに【結晶化】の効果も切れて、探索再開となった。

 

「今度は槍を持った兵士がいる方に行くしかないね」

 

「槍かあ……貫通攻撃してきそうでやだなあ……」

 

「いや、あの感じなら多分割と簡単に倒せるよ」

 

「「本当?」」

 

「……うん」

 

それから先へ進むために大きな部屋に入る度、通路が封鎖されモンスターが溢れ出てくるのだが……。

 

「次はこれでも喰らえ!【激土爆砕】!」

 

セイバーが激土を地面に突き立てると地面から棘が生えていき、モンスターを次々と貫いた。

 

「【リーフブレード】!」

 

そのまま激土に緑のエネルギーを高めるとすれ違い様に緑の斬撃を繰り出して残りのモンスターを葬った。

 

「ふう。ざっとこんなものかな」

 

このように、セイバー相手には全くと言って良いほどモンスター達の力が通用せず、完全なセイバーの独壇場になってしまっていた。

 

「この感じだとボス戦もすぐに終わるかな?」

 

「……多分ね」

 

「こんな感じの硬い相手って激土の絶好のカモだからなぁ」

 

ともあれ、3人を倒せる程のモンスターもおらず、例えいたとしてもセイバーの持つ土豪剣激土の前に防御は何の意味もなさず僅かな時間でボス部屋の前へと辿り着くことができた。

 

「どうするサリー、このままいく?」

 

「そうね。セイバーがいれば何が来ても大丈夫でしょう。このまま行くよ」

 

「おっけー!じゃあ、入っちゃおう!」

 

「さっきから殆ど一撃でモンスターがやられていくから面白くない。頼むから少しは耐えてくれよ」

 

ボス部屋の扉を押し上けて中に入ると、ドーム状になった空洞の奥に、大きな杖を持ち魔術師風の帽子とコートを身につけた170センチ程の男が1人立っている。

男はメイプル達が部屋に入るやいなや、杖で地面をコンッと突き、地中から結晶に覆われたモンスターを次々に召喚する。

 

「うわっ!出たよセイバー、サリー!」

 

「セイバー、メイプル。取り敢えず様子見るよ!」

 

「うんっ、シロップ【巨大化】!【念力】!」

 

メイプルはシロップを空中に浮き上がらせていき、サリーは毛玉に入ったままシロップの腹部と毛玉を【糸使い】で繫ぎ止める。

メイプル特有の空中退避によって、ドームの天井付近には人が3人入った巨大な毛玉をひっつけた亀が飛び回ることとなった。

3人はどうなっているのかと下を確認する。

 

「うわ……思ったより多いなあ」

 

「よっ、と!わわっ、凄いことになってる……」

 

「でもあのくらいなら倒せると思うんだけどなぁ」

 

地面には結晶の鎧を身にまとった兵士で溢れかえっていた。3人が上空から様子見をしているうちにも、ボスである魔術師は定期的に兵士を増やしていく。

 

「ボス自体の防御力とかHPは低そうだし……」

 

「取り敢えず攻撃するね!っと、毒がひっつかないようにして……【毒竜】!」

 

メイプルが短刀を持った腕を突き出して放った毒の奔流に反応し、ボスは目の前に障壁を展開する。

毒の塊はその障壁を突き破ったものの、一瞬防がれたその隙にボスはうまく範囲から逃れてしまう。

しばらくそうして試してみたが、結果は変わらない。

 

「うー、どうするサリー?当たらないや」

 

「でも、1つ分かったよ。あいつそんなに大きく動き回らないし遅い。あれならもうセイバーでトドメ刺せるね。という訳で」

 

「はいはーい。俺が行きまーす!」

 

「おー!いいね!」

 

「とうっ!」

 

セイバーは飛び降りると着地の際に1体葬り、そのまま一気に決めるべく剣を構えた。

 

「【マキシマムボディ】!【大地貫通】!」

 

セイバーが毒に触れないようにボスの直線上に立つと防御を捨てる代わりに攻撃を跳ね上げてからセイバーは激土を振り下ろした。その瞬間、大地のエネルギー波が地面を伝いながらボスを飲み込み、一撃でHPを0へと変えた。

 

「世界は弱肉強食。弱い奴は強い奴の経験値に変わる。今回は俺達の勝ちだな」

 

セイバーがそう宣言すると周りに残されていた兵士達は消え去り、セイバーが勝った事を示した。

 

「2人共!!次に行くか?」

 

「「もっちろん!」」

 

3人は次もサクサク倒してしまおうと話しながら七階へと向かうのだった。




塔攻略も折り返しに入りました。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと塔七階

「ここって……」

 

「うーん。烈火とっておけば良かったかも」

 

「またすごいとこに出たね……」

 

七階にやってきた3人を待ち受けていたのは視界を白く染める吹雪と膝下まで積もった雪、そして一歩先の断崖絶壁である。

塔の中とは思えないその景色に3人は息を飲む。

吹き付ける吹雪のせいか装備の一部には氷がつき白い光を放ちはじめる。

 

「烈火はもう使ったし、ここは月闇抜刀!」

 

「どうするサリー?とりあえずモンスターはいなそうだけど」

 

「崖の上って感じだし……下へ向かう……のかな?」

 

どうにも吹雪で周りが確認出来ないため、3人はとりあえず足元に気をつけながら周りを探索していく。その結果、崖方向に降りることができそうな足場が続いているだけで、その他の方向には行けないことがわかった。

 

「崖のすぐそばを渡っていくしかないね。ただ……」

 

「うぅ、すっごい風だよ!」

 

「これは歩くだけでも一苦労だな」

 

吹雪で視界も悪く、足元も雪に覆われている。強風まで合わされば小さな足場を移っていくのは難しいと言えた。そもそもメイプルにとっては普通の環境でも厳しいくらいなのである。

 

「とはいえ、下へ行くしかないけども。どうする?」

 

「シロップ呼んで乗せてもらえば楽に降りられるんじゃないかな?」

 

メイプルがそうしてシロップを呼び出そうとするものの、どうしたことか反応はない。

 

「あれ?んー、だめだあ。どうしたんだろ?」

 

メイプルの反応を見てサリーがステータスを確認する。

すると、そこには装備の一部スキル、能力を封印していることが表示されていた。

 

「【破壊不可】とステータスの上昇は消えてないけど【蜃気楼】は駄目みたい。セイバーやメイプルのもそんな感じじゃない?」

 

「え?俺封印されてないけど?」

 

「「はぁ?」」

 

「そんな事言ってもホラ」

 

セイバーがステータス画面を見せるとそこには【封印無効】と書かれたスキルがあった。

 

【封印無効】

自身の所持するスキルは全て封印の効果を受けなくなる。

 

「嘘でしょ?」

 

「封印効かないとかやりすぎだよ〜!」

 

「そんな事言っても仕方ないだろ?ホラ、行くよ」

 

「うぅ……私達は大変だけど……でも、七階まで来たって感じだね!」

 

「お、いいね。やる気十分。後セイバーにはメインで攻撃と防御の中心やってもらうからね」

 

「はーい」

 

「さてと、素直に降りる?」

 

サリーには何か思うことがあるようで、メイプルの方を見て笑みを浮かべる。

 

「えへへ、ショートカットできそうじゃない?」

 

「ん、そうだね。そう言ってくれると思った」

 

「待て待て、もし降りた先で罠があったらどうするんだよ」

 

3人は足場の続く崖の淵に立って崖下を見る。

目的地が見えずとも、メイプルならば飛び降りようと思えば飛び降りることができる。

つまり、ショートカットとはメイプルの防御力に物を言わせた自由落下だった。

ただし、セイバー的にはリスクのある行為と考えて消極的だった。

 

「メイプルの【身捧ぐ慈愛】が封印されてないなら私もセイバーもついていけるし、アンタは良いかもしれないけど正規ルートの方がメイプルには辛いでしょ」

 

「じゃあ準備準備!きっちり体は固定してね?飛んでいっちゃったら大変だし……」

 

「おっけー、念のためアイテムは構えておくよ」

 

「ああもう!なるようになれだ!」

 

片手は【糸使い】のために残しておき、もう片手にアイテムを持って、メイプル、セイバーと共に背中合わせになってロープで体を固定する。

 

「ゲームの中とはいえ……崖に身を投げるって発想が出てくるようになっちゃったなあ。もう、メイプルのせいだからね?」

 

「あはは……晴れてたら今度はもうちょっと普通に降りようかな……」

 

「頼むから何事も起きるなよ?」

 

「じゃあ、行く?」

 

「おっけー!……いっせーのーでっ!」

 

3人は1つ深呼吸をすると、大きく手を振って反動をつけ空中へと飛び出す。

メイプル達は吹雪を切り裂いて、足から真っ直ぐに遥か下の見えない地面に向けて落下していく。

 

「うぅぅ……すっごい風の音!」

 

「そうっ、だね!」

 

「あんまりこういうの好きじゃないないんだけどなぁ〜!!」

 

そうして落ちていくにつれて吹雪は弱くなっていき、雪煙の中に薄っすらと地面の景色が見えてくる。

 

そこに見えたのは、見るからに防御を貫通しそうな、空に伸びる鋭い氷が敷き詰められた大地だった。

 

「うぇっ!?だ、だだだめだよそれはっ!」

 

「飛び降り読みの剣山……!?」

 

「だから言ったのに!!こうなったらブレイブ、【覚醒】、【邪悪化】【邪龍融合】!」

 

セイバーは封印無効の効果で全てのスキルが使用可能になっているためブレイブと融合し、無理矢理ロープを破壊した。

 

「【金龍ノ舞】!」

 

セイバーはサリーをお姫様抱っこすると4匹の金龍にメイプルを支えさせながら落下し、最後に下の棘を対処する。

 

「【封印斬】!」

 

セイバーは氷の針の持つ【防御貫通】のスキルを封印し、だだの氷の針へと戻すとそのまま地面に着地した。当然氷の棘は3人に突き刺さるも、防御貫通が消えており、尚且つギリギリメイプルの【身捧ぐ慈愛】の効果範囲内だったためダメージは入らなかった。

 

メイプルは金龍達の支えによってゆっくりと着地し、メイプルは顔を青ざめさせた。

 

「や、やっぱりズルはだめだね……」

 

「そうだね……見えない場所に飛び降りるのはやめとこう」

 

とはいえ3人は序盤中盤をすっ飛ばして一気に崖下近くまでやってくることができたのである。

 

「ふー……心臓がきゅってなったよー」

 

「本当の紐なしバンジーにしなくてよかった……」

 

「それはそうと、サリー?いつまでセイバーに抱いてもらってるの?」

 

「「……あ」」

 

サリーは急いで飛び退くと顔を真っ赤に染め、セイバーも咄嗟に顔を背けた。

 

「あ、ありがとうセイバー……」

 

「べ、別に?俺も咄嗟に体が動いただけだから」

 

「サリーさーん。またセイバーに抱っこされて気分はどうですか〜」

 

「べっべっべっ別に何ともないし。セイバーに抱っこされたからって嬉しい気持ちでいっぱいだなんてそんな訳ないし」

 

「サリー、もうそれすっごくわかりやすい返事だよ」

 

「(はうう………セイバーってば事あるごとにお姫様抱っこして来ないでよ……私だって恥ずかしいんだからぁ……)」

 

それから3人は雑談をしつつ、氷の棘の森から出られる場所を探していくと近くに大きい氷の棘が森のように広がっていた。

 

「……あっちかな?進めそうなのは」

 

「この棘じゃ進めなさそうだし、道を歩くのが良いと思うぜ」

 

吹雪も弱まり、視界も良くなったところでサリーが棘の間に細い道が続いている場所を指差す。

 

「横からなら刺さらないし、よかった」

 

3人は氷の棘の並ぶ間をするすると抜けていく。そうして進んでいくと、ぱっと目の前が開けて雪に覆われた円形の広場に出た。

 

「ボス?」

 

「今のところはいないみたいだけど……来たかな?」

 

「うん、そうっぽいな」

 

氷の棘をへし折りバキバキと大きな音を立てて、3人の正面から棘だらけの巨大な球体が転がってくる。

それは3人の前でぱっと体を開く。

そうして現れたのは背中には青白い氷の棘、雪でできた真っ白な体を持つハリネズミというような見た目のボスだった。

 

「かわいいっ!けど……かわいいけどっ!」

 

「あれで転がってくると困るね……」

 

「絶対刺さったら痛いやつじゃん」

 

3人は硬そうな背中の棘とその見た目からは想像できない速度で転がってくるところを見たばかりである。

防御を貫通すると分かりやすく示しているそれを受けるわけにはいかないのだ。

そうしているうちに雪でできた身体を丸め、一つの雪玉になると表面を氷の棘で覆って3人に突進してくる。

 

「2人共構えて!」

 

「うん!」

 

「ああ!」

 

メイプルは2人を後ろに隠してその巨体を盾で受け流そうとするものの、速度に押されるようにして弾き飛ばされる。

 

「うぅ……いたた……」

 

雪を払いながら立ち上がったメイプルの肩には赤いダメージエフェクトが煌めいていた。

サリーは即座にメイプルを回復させ、次の作戦を考える。

 

「【ヒール】!」

 

「ど、どうしよう?」

 

「……ん?メイプル、あれ見て!」

 

サリーが指差したボスの背中、そこに生えていた氷の棘が根元から2本折れていたのである。

あれさえなくなればメイプルを脅かす貫通攻撃は無くなるかもしれなかった。

 

「試してみよう。攻撃と、あときっちり防御して棘が折れるならきっと攻略できる」

 

「うん、頑張る!【全武装展開】!」

 

「【月闇居合】!」

 

メイプルは武装を展開すると再び転がってこようとするボスに向かって射撃を開始し、セイバーは闇の斬撃を撃ち出す。

 

それはボスの体に当たってもダメージを与えることはないが、氷の棘は少し折ることができた。

 

「来るよ!」

 

「【闇渡り】!」

 

「【カバームーブ】!」

セイバーは闇の中へと離脱し、メイプルはギリギリまで射撃を続け、飛び退いたサリーに高速で追いついて回避する。

 

「えへへ、久しぶりにこれで避けたかも」

 

「今は当たったらダメージ2倍になるから気をつけてね?」

 

「あっ!そうだった。当たらないようにしないと……」

 

「……転がってる間は攻撃しても意味ないみたいだね」

 

「ほんとだ!折れてないよ」

 

「とりあえずダメージを与えられるようになるまでやってみよう。変化はあるみたいだし」

 

「うん!避けられるなら怖くないね!」

 

「安定してるし、攻撃は任せるね」

 

「いいよー!かわりに避けるのは任せる!」

 

「俺もいる事忘れんなよ!オラァ!」

 

更に動きが止まったボスへとセイバーが剣を叩きつけ、針を折っていく。

 

そこからはセイバーとメイプルが攻撃し、サリーが避けるのに合わせて突進から逃げる。これを繰り返して、3人は背中の棘を全て叩き折った。

そして、次の突進に対して構えていた3人の眼前で、ボスのハリネズミは雪でスリップし仰向けで

わたわたと暴れだしたのである。

 

「チャンスだ!」

 

「くっ、でも微妙に遠い!」

 

「俺なら問題ない!【邪悪砲】」

 

「サリー!つかまってっ!」

 

「えっ?あっ、分かった!」

 

メイプルは武装を地面に向けるとそれを爆発させ真っ直ぐにボスの方へと飛んでいく。それを援護するようにセイバーは闇の砲弾でボスを牽制した。

そうしてメイプルは墜落するように隙だらけの腹部に降りると上手くいったという風に笑う。

 

「【ファイアボール】【トリプルスラッシュ】!よしっ、ダメージ入る!」

 

「えっと……使える攻撃スキル……あっ【百鬼夜行】!」

 

わたわたもがくハリネズミの両側に大鬼が2体現れ、その金棒でゴンゴンと叩きつけ、ダメージを与えていく。

 

「え、絵面が……」

 

「あんまりダメージ出ないや……うわっ!?」

 

「耐性があるのかも。一旦離れるよ!」

 

「【ムーンブレイク】!」

 

ようやく体勢を整えたボスに振り落とされたメイプルをサリーがキャッチし、距離を取る。セイバーは追撃を受けないように月の黄色と闇の紫の斬撃で牽制した。

火属性以外の攻撃に対してはダメージ減衰があったため、ダメージはそこまで入っていなかったが。

 

「うん……あっ!2人ももう攻撃しなくていいよ!」

 

大鬼はガサゴソと雪の中に潜っていくボスに追撃しているものの、ダメージは与えられていない。そして少しすると氷の棘に覆われたボスが再び姿を現し、ゴスゴスと金棒に殴られていく。

 

しかし、それでは棘全ては折れず、そのまま突進をモロに受けて大鬼は消えていってしまった。

 

「あーっ!」

 

「攻撃力上がったかも!メイプル、きっちり避けるよ!」

 

「う、うん!絶対当たりたくない……」

 

「俺もアレは勘弁して欲しいぜ」

 

まだまだ時間はかかる。集中し続けられるかが勝利への鍵だった。

 

突進を避けては少し攻撃して離れるのを繰り返して、3人はじりじりとボスのHPを削っていく。

メイプルの強力な攻撃スキルがほとんど使えないのとセイバーのスキルは火属性ではなく闇属性であるため多少時間がかかってしまうのである。

しかし、慎重に戦えばダメージを受けるような相手でもない。

 

「避けて……攻撃っ!」

 

「よし、半分切った!」

 

「一気に仕留める!」

 

セイバーはブレイブが火属性攻撃を放てるように融合を解き、通常の状態に戻した。

HPバーの色が変わり、3人はようやくここまできたと再度集中力を高める。

ここで負けてしまっては全てが水の泡なのだ。

3人の見ている前でハリネズミはガサガサと雪の中に潜っていき、その姿は見えなくなった。

 

「2人共!一旦離れて様子見るよ!」

 

「分かった!」

 

「了解!」

 

サリーは【氷柱】を発動し、糸を繋いで急いで地面から離れる。

その直後、地面から氷の棘が不規則に伸び、3人を貫かんとする。

 

「あ、危なかったあ……」

 

「潜ったら地面に注意しておかないとね。それっぽい動きの一つってわけ」

 

「なるほどね」

 

「また出てきたし、降りるよ!」

 

「おっけー!」

 

そうこうしているうちに氷の棘は収まり、代わりにボスが地面から出てくる。

3人は同じように突進を待つと、横にずれて躱そうとした。

ただ、行動パターンの変化はここにも現れており、3人が避けた方向にぐいっと進路を変えて突撃してきたのである。

 

「わっ!?か、【カバー】!」

 

「【闇渡り】」

 

咄嗟にスキルを発動させサリーの前で大盾を構えたメイプルに氷の棘が直撃し、セイバーは闇に入って離脱する。

バキバキと音を立てて棘が砕けるも、そのまま勢いを落とさずに転がり抜けてくる。

 

「うぅ……頭擦られたぁ……」

 

ダメージエフェクトが立ち昇る頭を撫でてながら、転がっていった方を見つめる。即死でなければ回復も間に合うが、辛いものは辛いのだ。

 

「ありがとうメイプル。ごめん、今度はうまく逃してあげるから」

 

「うん、お願いするっ!」

 

そこにセイバーも闇から出てくる。

 

「やれやれ、追尾するようになるとか厄介だなぁ」

 

再度突進してくるボスを、同じように飛び退いて躱すと、当然追いかけるように向きを変えてくる。

 

「【跳躍】!よっ、とっ!」

 

サリーは【跳躍】で飛び退くと、メイプルに糸を付けて引っ張り突進の軌道から外した。

もう一度曲がってくることはなく、3人はそのまま真っ直ぐ転がっていくのを眺める。

 

「【カバームーブ】だと、もし当たった時に大変なことになるしね」

 

普段はないものとして扱っているダメージ2倍も、防御貫通攻撃相手では無視できない。HPが低いメイプルにとっては致命傷である。

 

「もっとHP減らしたらもう一回曲がってくるかな?」

 

「かもね。気をつけておこう」

 

「えぇ。面倒だなぁ」

 

スキルで上に避難することができる3人にとって、地面からの棘はたいした脅威とならず、同じことを繰り返して着実にダメージを与えていく。

イズから貰った攻撃に火属性を付与するアイテムやブレイブの炎攻撃を使ってスキルが制限されているとは思えないほど順調にボスのHPを削る。

 

「飛び乗るよ!」

 

「よーし、攻撃ターイム!」

 

「そろそろ大人しくしてもらおうか。【呪縛の鎖】」

 

3人はセイバーの動きを封じる鎖を受けて動きを止めさせられたボスを武器や火属性のスキルで削りながらHPを残り2割にまで減らした。

しかし、もう一息といったところで、ボスは再び地面へ潜ってしまう。

 

「とりあえず避難避難!」

 

「そうだね。また動き変わったかもしれないし、気をつけて」

 

「もうそろそろ慣れてきたぞ」

 

3人はぴったりと氷の柱にくっついて次の動きを観察する。

同じように地面から氷の棘が次々に突き出す中、エリアの中央でハリネズミは体を丸め氷の棘に覆われると、高速で回転しその背の棘を飛ばしてきた。

 

「やっ、ば!」

 

「【カバー】!」

 

「この程度なら!」

 

構えた大盾にぶつかり巨大な氷が音を立てて砕ける。次々と飛んでくるそれを受け止めるので精一杯といった状態である。

 

セイバーはその棘を斬りつけて叩き折っていく。

 

「ううっ、すごい衝撃!」

 

「掠ったりしないようにきっちり見て!」

 

「捌くのも割とキツイな。こんなの直撃したらヤバいだろ」

 

不安定な状態でしばらく耐えていると棘を打ち切ったボスはもぞもぞと雪の中へ戻ろうとする。しかし、それを見逃す3人ではない。

 

「こっちだって遠距離攻撃は得意なんだよっ!」

 

「面倒だし、もう潜らせない!」

 

「ここで倒す!」

 

地面の棘は収まる気配がないため、メイプルはサリーに体を固定してもらったまま、レーザーと銃弾を叩き込む。サリーは魔法とアイテムを使い、メイプルの支援と火力補助を行う。セイバーはブレイブに炎攻撃をさせつつ自身はその援護にまわった。

火属性で弱点を突くことができていたためか、みるみるうちにHPは減少していき、地面に潜る寸前でそのHPをゼロにすることができた。

 

「終わった!」

 

「やった!」

 

「うん!ナイスガード、助かった」

 

「ううん、サリーの【氷柱】のおかげだよー。これがなかったらすぐに地面からの棘にやられちゃってた」

 

「ふふ、役割分担ってことで。こっちもメイプルのおかげで楽に倒せたし。そもそも多分途中のダンジョン部分すっ飛ばせてるし、セイバーもあそこではナイス危機回避」

 

「俺の役目を果たしただけさ。ただ、今度は串刺しにされないように下見てから飛び降りるのをオススメするぞ」

 

「あはは……気をつける」

 

残りは後三階となったところで、3人は一旦帰ることとした。アイテムもかなり使っており、メイプルのスキルと【機械神】の兵器も打ち止めである。休憩し戦闘能力を元に戻すついでに、クロム達がどれくらい進んだのか聞いてみようと、ギルドホームへ戻っていくのだった。

 

3人がギルドホームに戻ると、ちょうどクロム達も攻略を中断して休んでいるところだった。メイプルはちょうど良かったというようにぱたぱたと駆け寄る。

 

「お、そっちも一段落ついたか?」

 

「はい!スキルがほとんど使えなくなっちゃったので今日は終わりです」

 

「メイプルちゃん達はどこまで進んだの?」

 

「ちょうど七階が終わったところです!」

 

3人はイズが追加で出してくれた飲み物を受け取って、椅子に腰掛ける。

クロム達は九階まではクリアしたとのことだった。

 

「おー!すごいです!」

 

「うん、私達も早く追いつきたいね」

 

「流石うちのメンバー7人組」

 

「3人の楽しみを奪わないように大きなネタバレは避けるが、十階のボスは強いぞー」

 

「私達はそれに負けて戻ってきたんだ。ボスには会えるだろうからな、気をつけておくといい」

 

「マジですか?え?ヒビキはイグナイトは使ってました?」

 

「えっとね、イグナイトは2段目まで使ってたけどそれでも勝てなかった感じかな」

 

「やばすぎるでしょそれ」

 

「あれ?そのヒビキはどこにいるんですか?」

 

「なんか負けたのが悔しくて訓練室に篭り切って修行している。私はさっきまでその訓練に付き合った所だ」

 

3人は相当強力なボスがいることは容易に想像がついて気を引き締める。

 

「メイプルさん達も……頑張ってください!」

 

「私達も何とか倒してみせますっ!」

 

「まー、様子見だったから僕の魔導書もまだ使ってないし。でも、間違いなく強かったね」

 

7人はまだ試していないアイテムや戦術は残っていると言うが、皆一様にそれでもかなりの強敵になることは変わりないとこぼす。

 

「……す、すごいボスがいるんだね。何か緊張してきた」

 

「メイプル、まだ早いよ。それに八階と九階もクリアしないといけないし」

 

「でも、心が躍るな!」

 

「そうだね!準備万端で行かないと」

 

「足りなくなったアイテムがあったら言ってね。それと、塔の途中で手に入れたアイテムで作ったアイテムもあるから、後で見るといいと思うわ」

 

「ありがとう!」

 

「うん、助かるね。やっぱ3人だと火力アップの為のアイテムガンガン使うし……」

 

メイプルの火力は基本的に固定なため、STRに頼ることなくダメージが出せるが、逆に言うとこれ以上火力を伸ばしにくいとも言える。

セイバーは高い火力を出せるが今回は縛り付きのため2つ以上の属性が必要な場合対処力に欠けてしまう。

ボスが強くなるにつれて、サリーの火力が重要になってきているのだ。

 

「こっちにアタッカー4人がいるからなあ。ただ、回復のありがたさは久々に感じてるな」

 

「普段はメイプルちゃんがいるものね」

 

「私達はヒビキとマイとユイのお陰でボスを楽に倒せるのが救いだろうな」

 

「役に立てて嬉しいです!」

 

「今回は、上手く当てられました……」

 

活躍できたことが嬉しかったようで、2人は笑顔を見せる。メイプルもそれを見て改めてギルドに誘って良かったと思う。

その後、ここまで攻略した中で苦戦したボスについて話は移っていく。

 

「あの本のボスはキツかったな」

 

「ああ、私の刀のスキルを持っていかれたりクロムの復活を持っていかれたり……」

 

「ユイちゃんとマイちゃんの攻撃力がガタ落ちしたりもしたわね」

 

「やむなくヒビキがイグナイトをMAXまで発動した事もあったぞ」

 

メイプル以外のギルドメンバーも強力なスキルをいくつも所持している。それが奪われるとなっては戦術も崩壊するというものである。

 

「あー、あれは大変だったなあ……私ほとんどスキル取られちゃったし」

 

「それで結局セイバーが障壁をゴリ押しで突破して高火力をぶつけて勝ったんだよね」

 

「相変わらず滅茶苦茶してるね?」

 

カナデのその言葉にメイプルも言うことがあるようで、でもでもと腕を振って話し出す。

 

「サリーだって、私が【捕食者】に齧られてるうちに【機械神】の攻撃を避けていたしすごかったんだよ!」

 

「私も【身捧ぐ慈愛】無しで回避するボス戦は久しぶりだったし、結構楽しかったな」

 

「【機械神】の銃撃も避けるのね……」

 

「あれだけは誰も真似できないだろうな」

 

こうして話を続けていくうちに、セイバーとメイプルとサリーがまともに攻略している層が少ないという話になり、さらに、それならば7人での攻略もボスが簡単に倒れていくのも普通でないという話題になった。

 

「今回のイベントが終わったらまた全員で探索に行きたいね!」

 

「うん、それもいいね。なら、きっちり十階までクリアしないと」

 

「俺達も策を練り直してクリアするぞ。先に塔の外で待っててやるからな」

 

「私達も負けませんよー。頑張って追いつきますっ!」

 

「あと残り三階分。楽しんでいきますよ」

 

イベントが終わったらまた全員で探索するという約束を一つ交わして、その後もイベント中に起こったあれこれの話に花を咲かせるのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと塔八階

翌日、3人は宣言通り準備を整え、いよいよ八階へと足を踏み入れることにした。

 

「ようやく八階に行けるな」

 

「どんな感じなのかな?」

 

「行ってみてのお楽しみだね」

 

3人は揃って一歩を踏み出し、七階の魔法陣から八階へと転移する。

目の前を覆う光が薄れていくと、そこに広がったのは深い森だった。

イベントでのジャングルエリアを思い出させるようなその場所には明確な道はなく、前にも後ろにも同じような森が広がるばかりである。

 

「今回は翠風抜刀!さてと、行くか!」

 

「でも、どっちに行けばいいんだろう?」

 

「転移した時に向いてた方向……かな?」

 

3人とも自信はないものの、このまま立ち止まっていても埒があかないと、とりあえず正面へと歩き出す。

その瞬間。

 

「っ!?」

 

「サリー!?」

 

「嘘だろ?」

 

サリーから【空蝉】発動時のエフェクトが発生した。それはサリーが何者かにHPをゼロにされる攻撃を受けた証である。

サリーはバッと反転すると、2本のダガーを抜き放ち鋭い目つきで木々や茂みを凝視する。

 

「み、【身捧ぐ慈愛】っ!」

 

それに少し遅れてメイプルがサリーを守るためのフィールドを展開し、セイバーが剣を構える。

しばらく3人は背中合わせになって周りを警戒していたものの、追撃は飛んでこなかった。

サリーは一旦ダガーを収めて一息つく。

 

「はぁ……ありがとうメイプル」

 

「ううん、それより大丈夫?」

 

「何とかね……あー、全く気配も感じなかったのに」

 

「まさか俺の【気配察知】も通用しないとは」

 

「何かの罠かな?」

 

「どうだろう、まだ何とも言えないけど。私もセイバーも多分あの攻撃は避けられないから……」

 

「うん、任せて!ちゃんと守るから!」

 

【身捧ぐ慈愛】さえ発動していればサリーがもう一度攻撃を受けても問題ない。

当然のように躱しているため、感じさせないでいるが、サリーはどんな攻撃でも続けて2回被弾すればそれだけで死んでしまうのである。

 

「と言ってもやられっぱなしは嫌だし、犯人を見つけたいね」

 

「無駄かもしれないが気配を探ってみるぜ」

 

「私も警戒しておくね!」

 

メイプルはそのまま武装を展開し、いつでも攻撃できる準備を整えて進んでいく。セイバーもいつでも攻撃にスイッチできるように警戒心を高めた。

そうしているうち、猿のモンスターが爆発する木の実を投げてきたり、地面からボコボコと根が伸びて来たりもしたが、メイプル相手には無力であり秒でセイバーに倒されていった。

 

「モンスターがいないと気楽に探索できるんだけどなあ」

 

「だね。それに、私を攻撃した何かも正体を掴めないし……」

 

「仕方ないよ。寧ろそれが今回の1番の特徴なんだから」

 

セイバーとサリーもいつも以上の警戒を続けているため落ち着けないままなのだ。サリーに至ってはモンスターが遠くから攻撃してくるものばかりだったため反撃に出ることもできないでいた。

 

「どのモンスターもすぐ逃げていっちゃうね」

 

「そう……だね。セイバーが倒してくれるのは嬉しいけど私が直接倒したいなぁ」

 

ボスが分からない以上、無駄に攻撃する理由もない訳なのだがセイバーは極力現れた敵を倒していく。そうしながらボス部屋らしき場所を探す。

すると、そんな3人の前に草木に侵食された古い石碑が見えてきた。

 

「あ、2人共!!何かあるよ」

 

「あれは……石碑?」

 

「魔法陣もないし、ボス部屋って訳じゃなさそうだけど、とりあえず見に行ってみようか」

 

3人が石碑に近づいていくと、そこには文字が書かれていることが分かった。

 

「狡猾な森の主を倒した者の前に道は現れる、か」

 

「ボスのことかな?」

 

「だと思うぜ」

 

「じゃあ倒さないとぉっ!?」

 

話している途中で唐突にメイプルが前につんのめって石碑で顔を強打する。

何者かに後ろから攻撃されたのだ。

2人がとっさにその方向を見ると巨大なカメレオンが木に引っ付いており、伸ばした舌を元に戻してすっと透明になって消えていくところだった。

 

「あいつか……!」

 

「狡猾ってこういう意味かよ」

 

「うぇっ、何?何かいた?」

 

「うん、多分最初に私を攻撃したカメレオン。あと、これは予想だけど。もうボス部屋の中だと思う。っていうかフィールドをボスが動き回ってる感じ?」

 

「じゃあ追いかけないと駄目なのかな」

 

「おそらく。けど!透明になってるし、かなり大変そうだなあ……さっきのはイベントでの顔見せっぽいし」

 

メイプルの遠距離攻撃もこれだけ木々が多くては効果も半減である。サリーも気配も何もないカメレオンの攻撃は避けられないため、いつものように速度を活かしての偵察もできない。セイバーも姿を捉えられれば動きを止めさせることも出来るのだが透明化されてはそれも出来ない。

 

「さて、追いかけっこといきますか」

 

「面倒だけどやるか」

 

「色々試してみないとねっ!……すぅ」

 

そう意気込んだところでメイプルの瞼がすっと閉じられてそのままずるずると石碑に寄りかかるようにして眠ってしまう。

 

「……メイプル?……あっ、【睡眠】!」

 

「さっきの攻撃の追加効果か」

 

ダメージを受ければ解除されるものの、20秒の間行動不能になる強力な状態異常。

先程の見えない攻撃にはそれを与える効果があったのだろう。

そして、それを待っていたかのように頭上からは爆発する木の実が大量に落ちてきて炸裂する。

 

「確かに狡猾ね。【身捧ぐ慈愛】があって助かった……」

 

ただ、こんなものではメイプルはダメージを受けないため【睡眠】も解除されない。

 

「しばらく待つしかないか」

 

「だな。どうにかしてアイツを捕まえないと」

 

2人は気持ちよさそうにスヤスヤと眠るメイプルを見ながらどうやってカメレオンを捕まえるかを考えるのだった。

 

「ん……うぅ、あれ?」

 

20秒経ってメイプルがゆっくりと起き上がり、慌てた様子で周りを確認する。

 

「おはよう。あの後は襲ってくることはなかったよ」

 

「そっか。【身捧ぐ慈愛】も消えてないし……よかったあ」

 

「でも、時間差で【睡眠】を与える攻撃と透明化は捕まえるのに時間がかかりそうだなぁ」

 

「イズさんに貰ったアイテム使ってみる?」

 

イズから貰ったアイテムには一定時間睡眠の状態異常を無効化するものもあったが、効果時間が短く、用意できた数もまだ少ない。

むやみに使えない以上、いつ攻撃してくるか分からない敵には相性が悪いと言えた。

 

「まずは接近できるようにならないと、HPもどれくらいあるか分からないし」

 

「いや、案外まだ近くにいたりして」

 

「兎に角、頑張って探さないとぉっ!?」

 

立て続けての不意打ちで、メイプルの背中に何かがぶつかる。しかしそれはメイプルを突き飛ばすのではなく、そのまま空中後方に引っ張り上げた。

 

「うぇぇええっ!?」

 

「ちょっ、それはまずい、って!【超加速】!」

 

「俺も追わないと!」

 

【糸使い】の糸が届かないほどにぐんと離れたメイプルに追いつくためにサリーが加速し、セイバーはそれには劣るが素の速度で辛うじて付いていく。

その後ろからは木の根が迫り、爆発する木の実が2人を巻き込んでいく。

 

「あっ、ぶない!ギリギリ……助かった……」

 

「あと少し離れてたらダメージが入ってたぞ」

 

2人は転がり込むようにして急速に遠ざかる【身捧ぐ慈愛】の範囲内に入ると、生きていることにほっと息を吐く。

 

「うぅ、びっくりした……」

 

メイプルは引っ張っていたものから放り投げられるように解放されて、ガシャンガシャンと音を立てて地面を転がる。

2人もメイプルの近くに戻ってきて、今度はあらかじめ【糸使い】でメイプルと体を繋ぐ。

 

「命綱、繋がせて……はぁ、心臓に悪い……」

 

「うん、いつ攻撃してくるか分からないし……」

 

「毎回背後に来るのなら狙いもつけれるんだけどなぁ」

 

まだ攻撃された回数も3回だけである。背後から攻撃する方が有利なのは常に言えることのため、まだ結論は出せない。

 

「次攻撃されたらそっちに撃って見るね。当たるかもしれないし!」

 

「そうだね、そうしてくれると助かる」

 

「足さえ止まれば即俺が倒しに行くから」

 

基本的に3人から探知することが出来ないため、モンスターの攻撃を待って後手に回るしかないのである。

そうして3人はしばらくその場で敵の出方を待つ。

 

「……中々来ないな」

 

「気を張ってても仕方ないよ。どうせ分からないしさ」

 

「うん、そうっひゃぁっ!?こ、【攻撃開始】っ!」

 

言っているうちに反応があったようで、メイプルが正面に向けて弾丸を発射する。

それは木々や茂みを滅茶苦茶に攻撃するものの、どこからもダメージエフェクトは上がらなかった。

代わりに木の上からは色とりどりの木の実が落ちてきたくらいである。

 

「うぇぇ……顔にべったり張り付いたぁ」

 

メイプルはそう言って両手でゴシゴシと顔を拭う。サリーもインベントリからタオルを取り出しメイプルに渡した。

 

「多分時間が経てば落ちるだろうけど、何か嫌だしね」

 

「うん、ありがとう」

 

「で、命中はしなかったけど何か落ちてきてたし、それを確認しに行こう」

 

「素材とかアイテムかもしれないしね!あ、装備も変えとこうかな……【救いの手】で盾を増やしておいた方がいいかも」

 

「それが良いだろ。どこから来るかわからないし」

 

メイプルの顔も綺麗になり、装備も変更したところで3人は警戒しつつ、落ちた木の実の元へ向かう。

 

「素材?」

 

「いや、八階限定のアイテムみたい。3種類あるね」

 

「まさかここで限定のアイテムが手に入るとはな」

 

透明になったモンスターを視認できるようになる代わりに姿の見えていたモンスターが見えなくなるもの、一定時間状態異常無効を得るもの、10秒間カメレオンの現在位置を把握できるものの3つがあった。

 

「なるほど、これで攻略が捗りそうだな」

 

「だね。ある程度数を集めたいし、森の中回ろうか」

 

「うん!そうしよう」

 

時折攻撃を受けつつも、後できっちり倒すためと割り切って、3人は木の実を大量に集めてきた。特に位置を把握できるものを重点的に集め、攻撃できるだけの基盤を整えたのだった。

 

「よし、反撃開始かな」

 

「じゃあ、行くよっ!」

 

「今まで好き放題させた分きっちり倒してやる」

 

メイプルは木の実を一つ齧ると、セイバーとサリーをぎゅっと抱きしめて爆炎とともに木々の間を吹き飛んでいく。

メイプルが一気に距離を詰め、サリーが糸を使って微調整をする。

ゆっくり追い詰めるような手間のかかることはなしで、真っ直ぐに撃破に向かったのである。

 

「サリー!右に曲げて!」

 

「おっけい!」

 

無理矢理に空中で方向を変えると、メイプルが再び兵器を爆破して加速する。

 

「近いよっ!」

 

「分かった!」

 

セイバーとサリーはここで透明化を破る木の実を口にして、メイプルから糸を外し木に飛び移る。

それに対応して、カメレオンは舌を伸ばしてくるが、今度はそれを回避した。

 

「見えてれば何てことないっ」

 

「たっぷり礼はさせてもらおうか!【手裏剣刃】」

 

リスクは承知の上で、一気に【跳躍】で距離を詰め、その勢いのまま顔から尻尾までを深く斬りつけ真下にいるメイプルの元に着地する。更にセイバーは翠風を手裏剣の形にするとそれをカメレオンへと投げてカメレオンを斬り裂いた。

カメレオンは一度姿を現し、ばたばたともがいた後すっと木を移ってどこかへ行ってしまった。

 

「2人共!カメレオンのHP半分になってたよ!」

 

「なるほど、まともに戦う相手じゃないってことかな」

 

セイバーが翠風をキャッチするとサリーと共にもう一度木の実を食べ、透明化の状態を元に戻すとぐっと伸びをする。

 

「んー。あと一回斬れば終わるかもしれない」

 

「この攻撃でHPを半分に減らしたし、多分次で決着がつきそう」

 

「じゃあまた見つけないとだね」

 

ただ、当然全く同じ条件というはずもなく、3人の視界に何体ものカメレオンが姿を現し、スルスルと動き始める。

変化があったことだけを見せて、それらはすっと消えていってしまう。

 

「全部倒さないと駄目……なのかな?」

 

「一体だけが本物ってタイプかも」

 

「うー、見破る方法あるのかなあ……」

 

「HPバーが表示されてたらいいねってくらい。多分駄目だろうけど……」

 

「いや、1つ手がある」

 

「もしかして数を減らすの?」

 

「正解。俺の範囲攻撃で敵の総数を減らす」

 

3人は透明化を破る木の実を齧りそのままセイバーは手を振り上げた。

 

「【クナイの雨】!」

 

すると遥か上空からクナイの雨が降り注ぎ大量のカメレオンを次々と減らしていった。

 

カメレオンは倒される度にいつもの撃破のように光となって消えるのではなくサリーの蜃気楼のように姿が消えていった。

 

「やっぱりこのタイプか。これなら本体倒せば終わりそうだな」

 

「でもその本体はどこにいるんだろ……」

 

「あれじゃない?」

 

サリーが指さすとそこにはクナイの雨を必死に避けるカメレオンがいた。その直後に10秒が終わり姿が見えなくなる。

 

「逃がすか!」

 

「【超加速】!」

 

2人はすぐに木の実を齧るとカメレオンを追いかけた。

 

カメレオンは舌を使い木の枝を素早く渡っていき、2人はその後を追っていく。

 

「どうする?このままだと逃げられるわよ」

 

「俺が止める。サリー、トドメを任せて良いか?」

 

「わかった」

 

「【烈神速】!」

 

セイバーの姿が揺らぐとその瞬間に超高速での移動を開始。一瞬にしてカメレオンの前に回り込むとカメレオンに踵落としを入れて地面へと叩き落とした。

 

「【影縫い】」

 

セイバーは剣の片方を投げるとそれはカメレオンの影に刺さり動きを封じた。

 

「決めろ!サリー!!」

 

「【パワーアタック】!!」

 

サリーは何とか逃げ出そうともがくカメレオンにざっくりとダガーを突き刺すと、一つ鳴き声をあげてそのまま動かなくなり、パリンと音を立てて消えて行った。

 

「2人共!大丈夫ー?」

 

メイプルががさがさと茂みを揺らして近づいてくるのと同時に、木々がざわざわと揺れて、まるで意思を持っているかのように移動し、森に一本の道ができた。

その先には光の柱が立っている。その真下に魔法陣があることは間違いないだろう。

 

「無事、撃破したよ。セイバー、アンタのお陰で楽に倒せたわ」

 

「あのくらい当然だ」

 

「さっすがー!びっくりはしたけど……結構楽だったね」

 

「だね。メイプルの防御があったし、道中もなかったしね」

 

「じゃあ、早速次行こうよ!」

 

「さっさと残りの九階をクリアしてラスボスとの戦闘にしようぜ」

 

3人はそのまま魔法陣へと向かい、揃って足を踏み出し転移する。

 

次のボス、そして道中はどんな風だろうと思っていた3人を待っていたのは満天の星空だった。

ただ一つまずかったのは、3人が上空におり、現在進行形で落下していることだった。

 

「え……?」

 

「は……?」

 

「……嘘だろ?」

 

3人は顔を見合わせる。

 

「「「ええっ!?」」」

 

そして、3人の体は落下を開始した。




塔攻略も残す所、あと二階分です。また次回も楽しみにしてください。


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聖剣使いと塔九階

「メイプル、シロップ呼んで!」

 

「うんっ分かった!」

 

「俺は一先ずブレイブを……」

 

メイプルとセイバーはシロップとブレイブを呼び出そうとするものの、スキルが発動しない。同じようにサリーの【糸使い】も発動できないでいた。

 

「な、何もできないよ!」

 

「落ちるしかない……?」

 

「こうなったら光の剣で……」

 

3人はどうしようもないと覚悟を決めるが、しかしゆっくりと速度は落ちていき空中でピタリと止まった。

 

「浮いてる?」

 

「みたいだね」

 

「取り敢えず、縛りもあるし今のうちに、最光抜刀!【カラフルボディ】!」

 

改めて落ち着くとセイバーは唯一変化していない最光になった。それから3人は辺りを見渡してみると、いくつか同じように浮かんでいる星の形の足場もいくつかあり、それはキラキラと光っていた。

3人の体も同じように光っており、浮いていられるのはこれを纏っているからだった。

 

「見て、2人共。バフがかかってる。【星の力】だって、2分しか持たないみたいだけど……あの星型の足場に20秒乗ってれば掛け直せる」

 

「落ちないように休憩しないと駄目ってことだね!」

 

「スキルも使えるようになってるからようやく戦闘フィールドになったって感じかな」

 

「よかったー。シロップも今度こそよろしくね」

 

「今回はブレイブも頼む」

 

メイプルはシロップを巨大化させ自由に移動できるアドバンテージを得る。さらにセイバーは巨大化したブレイブへと乗りシロップの護衛をするように並ぶ。

サリーなら、シロップを寄せれば糸を伸ばして緊急避難することもできるだろう。

そうして、3人が準備するのを待っていたかのように空の様子が変わる。

 

「何か来るよ」

 

「うん、大丈夫」

 

「さて、何が出るのやら」

 

星の煌めく夜空から、3人でも手を回せないほどの太さの黒い円柱が降りてきて、そこから鉤爪のついた十メートルはある長い腕が2本伸びてくる。

ぷつりと空との接続が切れ、顔と思える部分に2つ目のように光がともり、その下が避けて大きく咆哮を響かせた。

それは明らかに雑魚モンスターとは思えない見た目で、3人に緊張が走る。

 

「……ボス?」

 

「恐らく!八階以降はボスとの戦闘なのかも」

 

「1体倒すだけで良いのなら楽で良い!」

 

八階のようにボス自体に特殊なギミックあるわけではないようで、頭の上にHPバーが表示される。本格的な戦闘の予感に3人は武器を構えた。

 

「先手必勝!」

 

「真っ直ぐボスのところまでっ!」

 

「一気に倒す!」

 

八階とは違って目の前を遮るものはない。【星の力】など不要とばかりに自爆して、サリーを連れてボスの目の前まで吹き飛んで行こうとする。

しかし、ボスがそれを見過ごすはずもなく、メイプルに向けて横薙ぎに腕が振るわれる。

 

「よいしょっ、とぉ!」

 

メイプルは体を捻って【悪食】付きの大盾でもってその腕を受け止めダメージを与えるが、そのまま横へと吹き飛ばされる。

 

「ノックバック付いてるよ!」

 

「防御貫通じゃないなら大丈夫!」

 

距離はそれほど詰まらなかったものの、ダメージがないことに安心し、体勢を立て直す。

 

「じゃあ【全武装展開】!【攻撃開始】!」

 

「今度は俺も行くぜ。【光の矢】!」

 

「っ、待って!」

 

「え?」

 

メイプルが銃撃を、セイバーは光の矢を放ち始めたところで3人の体の光がふっと消え、シロップから飛び出していたメイプルは地面に向かって加速し始める。

 

「任せて!」

 

サリーはメイプルと繋がった糸を引くと、ステータスを低下させ足下に透明な足場を作り出す。そして、とんとんとそれを飛び移り、近くの星型の足場に飛び乗った。

 

「ふぅ……多分落ちたらメイプルでも即死だからね。気をつけて」

 

「う、うん。そういえば2分だったね」

 

「次来るよ!」

 

「俺はブレイブの上にずっといれば大丈夫だけどノックバック受けたら不味いな」

 

「えっとえっと、あ!【ヘビーボディ】!」

 

ヘビーボディは【STR】が【VIT】以下のため動けなくなるが、代わりに一分間ノックバックを無効化する。

これさえ使えば強制的に吹き飛ばされずに、【身捧ぐ慈愛】で防御する事ができる。

 

「ナイス対応!」

 

「ちょっとずつだけど考えて戦えるようになったじゃん!」

 

「えへへ、せっかくミィに教えてもらったし!使いこなしていかないと!」

 

「下手に手を出して変な行動されても困るし、様子見かな。シロップをもっと寄せておいて。セイバーももう少しこっちに来て」

 

「りょーかいっ」

 

「わかった」

 

「メイプルが大丈夫そうなら、私は別で攻撃に向かおうかな。これなら避けられるし、私かセイバーを狙わせた方がいいと思う」

 

八階から続けて攻略しているため、メイプルは武器を消費している。そのため、落ちた時のケアのために温存して、糸と空中歩行のあるサリーと咄嗟の時に飛行する形態とスキルがあるセイバーがメインで攻略することになった。

 

「気をつけてね!」

 

「うん、そっちこそ落ちないでよ?」

 

「落ちたら終わりだからな!」

 

「が、頑張る!」

 

サリーはメイプルに繋いでいた糸を外すと、すっと空中に舞い上がって、移動の感覚を確かめる。

空中移動の速度は遅く、きっちりと攻撃を読み切る必要がある。

 

「私が引き付ければ、メイプルの【毒竜】も、セイバーの強力な攻撃も通せるはず……朧!【覚醒】」

サリーは朧を呼び出して肩に乗せるとそのままボスへと向かっていく。

 

「これだけ的が大きければ……【ウインドカッター】!」

 

メイプルやセイバーに向いている注意を自分に向けさせようと、手始めに魔法を放つ。それは確かにボスに命中し、わずかにHPを削る。

それと同時、ボスの体が動き、サリーの方に黒い刃が飛んでくる。

 

「っと……同種のカウンターか」

 

もちろんその程度サリーに当たるはずもなく、悠々と回避する。サリーは数回魔法を放ち、カウンターだということを確信する。

それと同時にメイプルに安易に攻撃させられなくなったと感じた。

 

「攻撃をそのまま真似してくる!ノックバックも付いてるかもしれないし、撃つタイミングは考えて!」

 

「分かった!」

 

「俺もそろそろやるぞ。【シャイニングブラスト】!」

 

セイバーは光のレーザーを発射していきそれはボスへと当たる。ボスはダメージこそ受けるがすぐに反撃の黒い刃を返してきた。

 

「喰らうか!【イージスフィールド】!」

 

セイバーは自身の周りに防御フィールドを展開すると刃を凌ぎ、さらに接近していく。

 

ただ、サリーの方は【剣ノ舞】も八階で回避するようなことがほとんどなかったためまだ効果が薄い。

ボスのHPも多く、セイバーのレーザーもHPの減りが思ったより低く、防御力もなかなかのものだということが見て取れた。

メイプルも攻撃に入る必要があることは本人が一番よく分かっていた。

 

「足場がないのは困るし……うーん、そうだ!」

 

次の攻撃までに名案が浮かばないものかと考えるメイプルは、思いついたとばかりにポンと手を打った。

メイプルが何かを考えている間にも、セイバーとサリーはボスのHPをじりじりと減らしていく。

近距離で攻撃すると、それに対応して黒い体から棘のようなものが伸びてきて、カウンターをしてくるが、サリーにとっては【剣ノ舞】のバフを強化してくれるものでしかない。セイバーもブレイブの炎や自らの斬撃で簡単に斬り落としていく。

 

「にしてもHP多い……突っ込みすぎると流石に避けられないし……っと!」

 

「この剣の弱点、火力の高い攻撃が少ないのも問題だな。その代わりに周りのメンバーを防御するというサポート面では強いけど。キングエクスカリバー使った方がマシかこれ」

 

2人は横薙ぎに振るわれた腕をふわっと浮き上がって躱すと、サリーは近くにある足場に着地する。

 

「ふぅ……ん?」

 

さて次はどこから攻撃しようかと考えていると、ボスを挟んで向かい側にシロップの姿が見えた。

 

「うっわ、何あれ」

 

「嘘だろ?」

 

シロップは地面に向かって白い柱を伸ばしており、その上ではメイプルが玉座に座っていた。

両サイドには、メイプルにぴったりひっつくようにして大盾が浮かんでおり、中央には正面に向けて【闇夜ノ写】が構えられている。

そして、その隙間からは大きな砲塔が伸びており、緑の洋服を着て冠を被ったメイプルが自信ありげにボスを見据えていた。

 

「【攻撃開始】【ポルターガイスト】!シロップ【精霊砲】!」

 

大盾の隙間から伸びた4本の砲塔とシロップの口からレーザーが放たれ、ボスの体を焼いていく。メイプルはそのままレーザーをぐんと振って逃げようとしたボスに追撃をかける。

当然誘発したカウンターは、ゆっくりと空を動くメイプルには避けられない。

メイプルに5本の黒いレーザーが襲いかかり、砲塔をきっちり砕いていく。

ダメージはないものの、武装をまた壊されてしまった。

 

「むぅ……【ポルターガイスト】はあんまり意味ないかあ……元が壊されちゃうとなあ」

 

メイプルは再び攻撃対象がサリーに移ったところで、これならノックバックも気にしなくていいとばかりに近づいていって、玉座から立ち上がると【闇夜ノ写】を叩きつけた。

赤いダメージエフェクトが伸び、カウンターが飛んでくるものの、また使えるようになった【ヘビーボディ】で受け止める。

そして、そのままシロップに動いてもらって離れていく。

 

「これなら動けなくても大丈夫!」

 

「大胆な攻撃するねー!」

 

「中々面白いな」

 

下の方でピョンピョンと足場を移り、振り抜かれる手を交わしながら動くサリーから声がかかる。メイプルは少し考えてからすいっとシロップを移動させて、サリーの真上に陣取った。

 

「【身捧ぐ慈愛】なら上下も守れるからー!上から守っておくねー!」

 

「いいね!ありがとー!」

 

「なら俺は遊撃部隊だな。両サイドから一気に削ろう」

 

これで万が一サリーが攻撃を受けてもメイプルがかばうだけだ。

しかも、メイプルは追撃を受けないよう3枚の盾と玉座に四方を囲まれており、ダメージカットと回復まで発動している。

後はイズ特製のポーションを出して、足の上に置いておけば完璧な防御姿勢の完成である。しかも、セイバーがメイプルと共にボスを挟むように陣取っているため常にどちらかには背を向けてしまう事によりボスの不意を突きやすくなった。

 

「ピアースガードだけ覚えておかないと……後は瞑想!」

 

メイプルも使えるスキルが多くなってきて、考えることも増えてきた。なかなか慣れないと思いつつ、下で色々なスキルを使いこなして戦っているサリーの戦闘音を聞く。

 

「うーん、座ってる間はほとんど攻撃スキル使えないし……えいっ!」

 

メイプルは盾の隙間からイズにもらった麻痺付与アイテムを放り投げる。

殴り飛ばされてもどうということはないという姿勢でギリギリまで近づいているため、外れるはずもなく、バリバリと音を立てて黄色いエフェクトが散る。

 

「効きそう!なら……とぅっ!」

 

メイプルはインベントリからゴロゴロといくつも同じものを取り出すと、横から上から巨大な腕に叩かれながらも投げつけていく。

1つ1つはボスには効果が薄いとはいえ、牽制も攻撃も無視して投げつけられ続ければ話は別である。

 

「よーし!麻痺になった!」

 

「ありがとう、これなら一気に攻められる!」

 

「こっちも行こうか。今日は何が出るかな?【神獣招来】!」

 

セイバーはチャンスを逃さずに神獣を召喚。今回出てきたのは大鷲の頭部と翼、獅子の体を持つ神獣であるグリフォンだった。

グリフォンは麻痺しているボスに体当たりをしてから、強靭な爪で切りつけ攻撃を行い一気にHPを削っていく。

こうしてHPがようやく6割まで来たところで麻痺が解けてボスがのっそりと動いていたボスが咆哮する。それと同時に効果時間切れでグリフォンは消えた。

 

「ちょっと下がる!」

 

「分かった。ついてくね!」

 

「うーん。もうちょいグリフォンに暴れて欲しかったけどしょうがないなぁ」

 

メイプルとサリーは軸を合わせるようにして浮かんでいき、離れた場所の足場に着地する。

ボスの咆哮は止まず、そして空に変化が訪れる。

炎の尾を引いて、天からいくつかの流れ星が落ちてくる。それらは星型の足場に直撃し、あちこちの足場を砕いていった。

 

「うげ……嫌なことを……」

 

「どうするサリー?乗る?」

 

メイプルがすっと高度を下げてシロップを隣に止める。

 

「向こうの方が足場少し多いし、そっちまで連れて行って。メイプルの側なら安全だしね」

 

「りょーかい!じゃあ攻撃されないうちに早く早く!」

 

「うん、にしてもかなりタフだなあ……結構削ったと思ったのに」

 

「だねー」

 

「いや、多分寧ろこれからが本番なんじゃ」

 

メイプルとサリーは咆哮が終わる前にと、急いで逆側へ回るのだった。

「また上にいるねー」

 

「うん、お願い」

 

メイプルはサリーを足場に下ろすと、そのままゆっくりと高度を上げていく。

咆哮を終え、鉤爪を伸ばしてくるボスの攻撃をすっと躱してすれ違いざまに腕を切り裂く。

 

「カウンターの数が増えたかな……っ!」

 

「そんな所だろ。こっちはギリ捌けるとは言え長くはキツイかも。ブレイブもMPが少しずつ無くなってきてるし」

 

サリーは背後から気配を感じてとっさにぐんと前方に加速する。

直後サリーの背後から、空間を切り裂いて黒い棘が伸びてきた。

 

「見える分だけ優しい……かな。ま、これなら避けられる!」

 

サリーはそのままボスの近くまで行きダガーで攻撃し始める。

それに対応して、ボスの周りにいくつもの大きな魔法陣が展開される。うち一つはサリーの真下に位置していた。

 

「範囲広っ……!」

 

「大丈夫!そのまま攻撃してっ!」

 

「俺は取り敢えずエスケープするぜ。ブレイブ、【休眠】!最光抜刀」

 

セイバーはブレイブを戻し、自身は剣の状態になる事で空中に浮かぶこととダメージを無効化する事を両立させた。

 

その間になんとか発動までに逃げようとするサリーに上空から声がかかる。

【ピアースガード】をいつでも使えるように準備しつつ前に出たサリーを【身捧ぐ慈愛】の範囲内に入れ直す。

 

「ナイス!これなら……」

 

それぞれの魔法陣から黒い奔流が空に向かって吹き上がる。強力な攻撃だということは間違いないものの、【ピアースガード】で貫通攻撃を無効化したメイプルを傷つけられる攻撃など無いに等しい。

セイバーもHPの概念を消す事で一時的に攻撃を回避しながらボスへと接近していく。

 

サリーは防御をメイプルに任せて黒い奔流から飛び出ると、そのまま体を捻るようにしてダガーを振り抜く。

 

「よし!」

 

「【閃光斬】」

 

カウンターをするりと躱して【剣ノ舞】のバフを強化しダメージを加速させる。セイバーも輝きを纏った剣でボスを斬り裂いた。

それからすぐにセイバーは【カラフルボディ】を使い人に戻ると今度は【漫画撃】で羽を創り出し空を飛行する。

積極的に前に出て攻撃を繰り返すことで、カウンターを仕掛けさせ、それを全て自分の力に変えていく。

上手く凌ぐことができる3人にとって、突き上げる奔流は嬉しい行動である。

大きい隙をきっちりとついて、連撃を叩き込み【星の力】の効果が切れないうちに足場へと撤退する。

セイバーに関しては攻撃がくる瞬間のみ剣のみに変身。攻撃を凌いだらすぐに【カラフルボディ】になる。そして攻撃を叩き込んだらすぐに剣の状態へと戻る。これを繰り返していった。

 

「こっちも……【攻撃開始】!シロップ【精霊砲】!」

 

メイプルも上空から再びレーザーを放ち、シロップにも攻撃させダメージを稼ぐ。当然カウンターが飛んでくるものの、今度は兵器を壊されないように、大盾を動かし兵器を守る。

メイプル本人に攻撃が直撃する方が遥かに良いのである。

 

「よしっ、どんどんいくよっ!」

 

メイプルは玉座から立ち上がって座っている間自分にかかっているスキル封印を解除する。

 

「【滲み出る混沌】!【毒竜】!」

 

ダメージカットと回復の恩恵を受ける代わりに下がっていた攻撃能力を元に戻す。毒塊と化け物の口がボスに襲いかかり、HPゲージを減少させる。

 

「うん、結構効いた!って、うわわわっ!?」

 

メイプルが大質量の攻撃をすれば当然それも同じように返ってくる。

体に染み付いていないことというのはとっさに出ないもので、【ヘビーボディ】を使う前に黒い塊によって上空へ吹き飛ばされる。

ずっとシロップの上にいたため【星の力】のバフなどかかっていない。

 

「っ……!」

 

「よっ、と!危なっかしいんだから」

 

「まだまだやれるよな?」

 

「勿論。サリー」

 

【身捧ぐ慈愛】の光が離れていったのを見て取ったサリーは【超加速】も使っていち早くメイプルの元まで行くと、落下するメイプルをきっちりと受け止め、近くの足場に下ろす。

 

「ありがとう。助かったよー」

 

「とりあえずシロップの上に戻らないとね。ちょっとこっちで引きつけるから、兵器は使わずに戻っておいて」

 

「分かった!」

 

「俺も引きつける方に回るか?」

 

「いや、セイバーは火力をもってボスを制圧して。朧【影分身】!」

 

引きつけるという言葉通り、朧の力も借りて攻撃をより激しくする。

サリーの姿が5つに分かれ、それぞれがボスに向かっていく。

振り抜かれる腕や、飛んでくるようになった黒いレーザー、背後からの突然の攻撃もきっちりと回避していく。

そうしてサリーが再びダメージを稼ぎ、メイプルから注意がそれたところで、メイプルは【星の力】で浮き上がってシロップの元へと戻っていった。

 

「【ヘビーボディ】と【ピアースガード】と、【結晶化】と……うー、後でサリーにスキルを上手く使うコツ聞かないと……まず今は【全武装展開】【攻撃開始】っ!」

 

「【漫画撃】、【シャイニングブラスト】!」

 

漫画撃によりミサイルが描かれると光のレーザーと共にボスへと飛んでいった。さらにまだまだ細かいスキルには慣れていないメイプルも、自分にはこれが分かりやすいとばかりにボスに大技を叩きつけるのだった。

ボスが大量のHPを持っているといえど、カウンター攻撃や範囲攻撃が全て対処されてしまえば決め手に欠け劣勢になっていくのは当たり前だった。

サリーの【剣ノ舞】の効果も最大まで高まり、後はガンガン攻めて撃破するだけである。

 

「あと……3割ちょっと!」

 

「【毒竜】!」

 

「【光の矢】!」

 

繰り返されるセイバーとメイプルの攻撃とサリーの状態異常付与攻撃によって、ついに毒状態になりダメージがじわじわと与えられていく。

それもあって、ようやくHPバーが3割を下回った。

 

「また何か変わりそう。気をつけて!」

 

「うん!」

 

「あと少しなんだ。こんな所で死ぬかよ!」

 

3人が身構える中、2本の腕の下からどろりともう1組の腕が伸びてくる。

そして、空からは黒い炎を纏った流星が次々に降り注いできた。

それらは的確に3人に向かって落ちてくる。

 

「今度は私達を狙ってるっぽい!」

 

「取り敢えず、メイプル防御を任せても良いか?」

 

「オッケー!」

 

メイプルは大盾2枚を頭の上に移動させると、大きな星を受け止める。

 

「っ!うぇっ!?」

 

しかし、確かに受け止め砕けた流星から黒い炎が伝ってきて、メイプルの体を覆っていく。それはメイプルの防御を無視してダメージを与えているようでじりじりとした痛みが走る。

【天王の玉座】の効果とポーションで何とか回復するものの、受けたくない攻撃である。

 

「ご、ごめんサリー!これ当たっちゃダメなやつみたいっ!」

 

「おっけー!っ、こっちも、返事してる余裕ないっ!」

 

「取り敢えず、その炎の追加ダメージを減衰させるよ。【癒しの光】!」

 

セイバーの放った光はメイプルのHPを回復させ、さらには防御貫通によって受けるダメージをゆるやかにした。

 

「ダメージが小さくなった」

 

「サリー!反撃よろしく!」

 

「わかったわ!」

 

サリーはサリーで4本の腕と攻撃した際のカウンター全てを捌けるタイミングでしか接近できず、火力の下がる魔法で攻撃するしかなかったもののそれでも隙を見て回避に移行可能なタイミングでダガーを振るっていく。

攻撃を受けるわけにはいかない。

流星はサリーがダメージを与えていても関係なくメイプルに飛んでいっているようで、回避で精一杯のメイプルはサリーの頭上の位置を維持できないのだ。さらにセイバーも回復をしている間は動けないようで現状サリーのみが攻撃をしている感じだった。

 

「これは、下からっ!」

 

真下に現れた魔法陣から素早く脱出すると、体を切りつけて背後に抜けていく。

そうして【星の力】のバフをかけ直そうとした所で咆哮が響き渡り、星型の足場を黒い炎が包み込む。

 

「っ!まずっ……」

 

「シロップ【大自然】!」

 

遠くから声が響き、サリーの方に向けて巨大な蔓が伸びてくる。

サリーは即座に意図を汲み取って、後ろから襲ってくる腕を躱しつつその蔓を駆け上っていき、メイプルの元までやってきた。

 

「ありがとう助かった!」

 

「えへへ、どういたしまして!」

 

サリーのHP事情ではダメージを受けながら【星の力】のバフをかけ直すことはできない。

一旦メイプルの元に戻るにはステータスをほとんどゼロにして、相当な量の足場を空中に作らなければいけなかったのである。

 

「今みたいな感じで【ヘビーボディ】とかも上手く使うんだよ?」

 

「今のはサリーを見てたからたまたま上手くいっただけだよー」

 

「足場が元に戻るまでは頼むね」

 

「もちろん!じゃあ、今度はセイバーが攻撃に回って、サリーが【ヒール】してくれる?」

 

「分かった。こんな時くらいしか使わないしねー」

 

「了解!」

 

【身捧ぐ慈愛】の範囲内に入ってしまえばメイプルが健在である限りサリーに危険はない。

その間にセイバーが【漫画撃】で羽を生やすと再び空へと飛んだ。

 

そして今度は剣による連続斬撃でボスを攻撃していく。

そうしてしばらくシロップの上で耐えていると、足場が元に戻った。

 

「また叫んだら何とか助けるから、攻撃はお願い!【機械神】も【毒竜】ももう撃てないし」

 

「任せて。本当は攻撃できる方がおかしいくらいなんだからさ」

 

サリーは足場の上に降りると光を纏ってボスの方に向き直る。

 

「まだ十階も残ってる。コイツは一回で倒したい!」

 

再戦したい相手ではないと、サリーは力を込めて足場を蹴り、空中に飛び出す。

メイプルが真上にいてくれるため、敵の攻撃を気にせずにダメージを稼ぐことができる。

動きを途中で止められず反撃が躱せなくなる連続攻撃のスキルも、ガンガン使っていける。

 

「こっちの方が威力は出るしねっ!」

 

「ラストスパートだ!」

 

両手のダガーでの連撃を動きの鈍いボスの巨体では避けられない。さらにセイバーがボスの注意を引くお陰でサリーは攻撃のみに集中できる。

足場が壊れても対処できる3人にとって、行動変化は致命的なものにはならなかった。

 

「【トリプルスラッシュ】!」

 

「【滲み出る混沌】!」

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

最後に3人の攻撃が突き刺さり、ボスのHPがゼロになる。すると、ボスの体は真っ白に染まって光を放ち弾けるように消えていった。

メイプルはすいっと降りてきてサリーをシロップの上に乗せ、セイバーもシロップの上に降り立つと羽が消えた。

 

「これで後は最後の十階だけだ!」

 

「お疲れ。今日はここまでにする?」

 

「うん、すっごい強いらしいし……スキルを回復させたいなあ」

 

「だね、じゃあ目指せ一発突破ってことで!」

 

「うん!頑張ろー!」

 

「「おー!!」」

 

3人は万全の準備を整えて最終決戦に向かうのだった。




次の階で塔攻略も最後になります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと塔十階

3人は九階を攻略後、日を改めて、サリーの【空蝉】やメイプルの【機械神】などのスキルが再使用可能になった所で塔の前に立った。

 

「今日で攻略しちゃおうね!」

 

「もちろん。それにイベントの期間もあるし、1日に何回も戦えないから」

 

「目指すは1発攻略だ!!」

 

「「「おー!!」」」

 

メイプルのスキルは1日に使える回数に制限があるものがほとんどである。

強力なモンスターと何度も戦うのは不向きなのだ。

 

「じゃあ九階へ、ごー!」

 

3人は九階に戻り、上に続く魔法陣の前で最終確認をして、いよいよ十階へと足を踏み入れた。

目の前の光が薄れていき、景色が鮮明になる。3人の前に広がったのは光差し込む石造りの広間だった。ドーム状の天井を持つ円形のフィールドに、どこかへ続く道はなく、中央には光を受けて輝く銀の重鎧を身につけた人間がいた。

フルフェイスのヘルムにより表情は読み取れないものの、それは明確な敵意を持って、腰の剣を抜き放ち3人に向けてくる。

 

「来るよ」

 

「うん!」

 

「俺達3人の力を見せてやる!烈火抜刀!」

 

セイバーが絆龍の装備になり、メイプルが盾を構えた所でボスがグンと加速し一気に距離を詰める。

メイプルは慌てて大盾を合わせるものの、ボスはそれを避けて側面からメイプルを叩き斬る。

 

「わ、っ!」

 

「メイプル!」

 

「はっや!」

 

メイプルは派手な音を立てて飛んでいき、壁に激突し土煙をあげる。

サリーがHPを確認する間もなく、ボスはサリーに斬りかかってくる。

 

「っ……ふっ!」

 

斬撃を紙一重の所で躱し、斬り返す。

しかしボスも剣で弾き落とすために、ダメージがほとんど入らない。

 

「くっ……!」

 

サリーは負けじと剣を弾くと、一旦距離を取ろうとする。

しかし、常に距離を詰めてくるボスはサリーのバックステップに合わせて更に剣を振るってくる。

 

「【カバームーブ】!【カバー】!」

 

それに合わせてメイプルが割り込む。【悪食】が剣を飲み込み、そのまま体を抉る。

 

「ナイスっ!」

 

「オイコラ、俺を忘れんなよ!【火炎十字斬】!」

 

セイバーはその一瞬の隙にボスの背後から火炎の十字斬りをボスに喰らわせる。

 

しかし、ボスは構わないという風にメイプルの側面に回り大盾のない方向から高速の連撃を繰り出す。

 

「【全武装展開】!【攻撃開始】!」

 

メイプルも即座に兵器を展開し、襲いくるボスに反撃する。ボスのHPはガリガリと削れるが、それでは足は止まらない。

斬り上げ、斬り下ろし、突きの三連撃がメイプルの兵器を破壊して、メイプルを掠めHPをガクンと減少させる。

 

「うぅっ……!」

 

「メイプル、こっちに……っ!」

 

サリーが咄嗟に糸を伸ばし、メイプルを無理矢理引き寄せる。

続く攻撃は空を切り、ボスは一度剣を構えて2人の様子を窺う。

 

「だーかーら、俺を無視すんなっての!!【爆炎紅蓮斬】!」

 

先程よりも高い火力の紅蓮の斬撃がボスを斬ると流石にボスもセイバーの方を向き、セイバーと斬り合いを始めた。

その間にメイプルはサリーに回復をしてもらう。

 

「【ヒール】!」

 

「ありがとう、ど、どうしよう!?」

 

「私が一旦ボスの速度を落とさせるから、メイプルは攻撃を受けないようにしてて!セイバー!!聞こえる?」

 

「何とかな!でも、こいつがかなりヤバいってのがよくわかるぜ」

 

セイバーはサリーの話を聞きながらでもボスの攻撃を捌けてはいるが、烈火を使いこなしている事を示す赤い輝きを放っている状態でも押され気味であった。

 

「私がこいつの速度を抑えるから攻撃して!」

 

「了……解!!」

 

セイバーは振り下ろされる剣を受け止めてなんとか押し上げるとボスの腹にドロップキックを入れて距離を取る。

 

隙のない攻撃とガードを持つこのボスに対し、セイバーはともかく、サリーは反撃を入れるタイミングがほとんどない。装備でのステータス上昇が高いセイバーでさえ押され気味なのだ。

サリーが1対1で戦っていてはじりじりと不利になっていってしまう。

メイプルかセイバーが上手くボスの不意をついてダメージを稼がなければならない。

サリーは自分からボスに突撃し距離を詰めるとボスのターゲットがサリーに変わり、剣が振り下ろされた。それをサリーは2本のダガーで受けて逸らす。

 

「朧【覚醒】【幽炎】!【大海】!【古代ノ海】!」

 

朧からは青白い炎が放たれ、サリーからは水が溢れボスを侵食する。

どのスキルも受けた相手の【AGI】を低下させる効果を持っている。

【古代ノ海】によって生まれた魚達も【AGI】を下げる水を辺りに撒く効果がある。

動きは鈍ったものの、何とか対等に戦えるかどうかだとサリーは分析した。

 

「くっ!」

 

横へのなぎ払いをしゃがみこんで躱し体勢が崩れた所で三連撃が繰り出される。

サリーは目を見開き、回避しようとするがそのまま三連撃がその体を斬り裂いていく。

 

しかし、その姿はかき消えて、ボスの背後からサリーが現れる。そして消えたサリーの代わりにセイバーが目の前に現れる。

 

「【森羅万象斬】!」

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

作った隙を見逃さず、威力があるスキルでの攻撃を通して、2人はメイプルの元まで退いていく。

 

「【蜃気楼】使ってないと……斬られてたっ」

 

「……えっと、【身捧ぐ慈愛】で守るよ!」

 

「でもそれだと……」

 

「いいよ!本当はダメージ受けたくないけど……こういう時はサリーを守らないとっ!それに、勝ちたいし!」

 

「やばそうなら解除していいからね?」

 

「りょーかい!」

 

「なぁ、サリー。俺にちょっと考えがあるんだけど良い?」

 

セイバーはそう言うとサリーは珍しく反対の声を上げる。

 

「待って!それだとセイバーに負担が行きすぎる。それに、メイプルの防御フィールドからも出るって。今のあなたの耐久力でも【不屈の竜騎士】を含めて数撃しか耐えられないわよ?」

 

「それだけあれば十分だ!」

 

「……わかった。そこまで言うなら任せるよ!」

 

メイプルは【身捧ぐ慈愛】と【天王の玉座】を発動するとサリーに【鼓舞】を使いステータスを上げる。

 

「けど、行動パターンが変わるまではメイプルのスキルは残さないとダメよ?」

 

「わかってる。だからこそ俺が出るんだろ」

 

「頑張ってセイバー!」

 

「任せろ!」

 

セイバーは再びボスと向き合うとボスの突進に合わせてメイプルの防御フィールドを出た。そこに容赦なく剣が振り下ろされるとその瞬間、セイバーの体は薄く透けて消えた。まるでサリーの【蜃気楼】のように

 

「え?何でセイバーが…」

 

「まさか!」

 

メイプルとサリーが混乱するようにボスもまたいきなり標的が消えて一瞬の隙が出来た。その間にセイバーはボスの後ろに回り込む。

 

「【紅蓮爆龍剣】、【毒竜】!」

 

するとセイバーの剣から紅蓮の龍とメイプルの使う毒竜が出現。これにはメイプルとサリーも驚きを更に大きくした。

 

「嘘!セイバーはメイプルのスキルなんて使えないのに……」

 

「でも、これなら!」

 

セイバーの強撃はボスを襲いそのHPを7割へと減らした。

するとボスの行動パターンが変化して大きく剣を振りセイバーと距離を取ると、刀身に手をかざす。すると、刀身から炎が吹き上がり煌々と燃え始める。

 

「メイプル、観察するからしばらくはもしもの時の回復に専念してて!」

 

「うん、そうする!」

 

「来いよ。それは俺には……効かねーぜ?」

 

ボスは剣を振って炎の刃をサリーとメイプルに放つと、セイバーに突進する。

サリーは飛んできた炎を避け、セイバーは剣を烈火で受け止める。セイバーには【火属性無効】があるため通用しないが、次の瞬間、メイプルの鎧に炎が散りメイプルのHPを減らしていく。セイバーがその時偶々メイプルの防御フィールドの中に入ってしまいメイプルの【カバー】が入ってしまったからである。

 

「う……っ!」

 

「これも燃えるか……!」

 

「ヤベッ!ごめんメイプル!」

 

ボスはセイバーには通用しないと踏んでサリーに攻撃を集中させてきた。サリーはこれを受け止めずに何とか躱してメイプルにダメージを受けさせないように動く。

ボスの攻撃には全て炎が追加されており、ギリギリで躱そうとすると判定の残っている炎に焼かれてしまう。距離を取らなければ、ノーダメージは難しい。

 

「本当、隙がどんどんなくなってくね……」

 

「これはまたセイバーに前衛をしてもらうしか」

 

「待って、それだと不味い。さっきの【紅蓮爆龍剣】と【毒竜】でMPをかなり持ってかれたから回復だけさせて」

 

3人は距離を取ると今度は炎の刃が連続で飛んでくる。そのため、メイプルはシロップを、セイバーはブレイブを出さないでいた。

 

その間に動き自体の変化は少ないと見たサリーはメイプルに指示を飛ばす。

 

「よし、メイプル!攻撃するよ!」

 

「分かった!」

 

「こっちも回復完了。攻撃再開!」

 

セイバーとサリーが攻撃し、ボスの注意を引いているうちにメイプルは武装を展開し、爆発して一気に距離を詰める。

 

「【凍てつく大地】!」

 

音を立ててメイプルを中心に地面が凍結する。それはそのまま地面に接触していたボスにも伝わり、ボスの動きが3秒間止まる。

 

「【パワーアタック】!」

 

「【毒竜】!【滲み出る混沌】!【捕食者】!」

 

「【爆炎放射】【火炎砲】!」

 

その3秒のうちに隙の大きい攻撃、躱されやすい攻撃を叩き込む。

【捕食者】の攻撃によって、さらにボスのステータスが低下するが、3秒というのは短いものですぐにボスが動き出す。

 

3人が離れようとした瞬間、ボスは地面に剣を突き立てた。

それと同時、ボスを中心に巨大な赤い魔法陣が展開される。

 

「まず……っ!」

 

「【暴虐】!」

 

「【四属性光弾】!」

 

セイバーとメイプルが叫んだのと、地面から巨大な火柱が上がったのは同時だった。

燃え盛る炎が収まった時、サリーは無傷でいたものの、その目の前で【暴虐】がボロボロと崩れ落ち、メイプルがサリーの方に転がり出てきた。それと同時にセイバーの放った4つの属性の光弾はボスにダメージを与えながら煙幕を張る。

その間にサリーがメイプルを抱えて、セイバーは後ろへと下がりボスから距離を取る。

ボスには大技の硬直時間があったようだが、3人としてもそれどころではない。

 

「あ、危なかった……」

 

「ごめん、まだこんな隠し技があったなんて」

 

「やっぱ強いな。アイツ」

 

「一気に攻撃するのは危ないのかも?【暴虐】なくなっちゃった……」

 

「【身捧ぐ慈愛】は解除しておいて。範囲攻撃がくるとメイプルを回復する前にやられるし」

 

「うん、頑張って避けて!」

 

「任せて、それが取り柄だしね」

 

「俺はアイツの炎攻撃が来たら極力受け止めるわ。今の俺に炎は効かないし」

 

「了解!」

 

メイプルは改めて兵器を展開し、大盾を構える。

サリーもダガーを構えて再度集中力を高める。

セイバーは烈火を構えて敵を見据える。

 

「行くよメイプル【幻影世界】!」

 

「【攻撃開始】!」

 

銃撃を開始するメイプルの姿が3人になり凄まじい量の銃弾がボスに対してばら撒かれる。

ボスと距離を取っているため、分身作成に対応した攻撃は届かないが、ボスは目の前に炎の壁を作りメイプルの攻撃を防御する。

 

「うぅ、壊れて!」

 

メイプルの願いが届いたのか炎の壁は消えていくが、銃弾を避けるように斜め上に飛び上がったボスがそのままメイプルに飛び込んでくる。

 

「【ピアースガード】!」

 

メイプルは少しでもダメージを稼ぐために上に銃口を向け、【悪食】を直撃させる準備をする。

炎の勢いが増し巨大な火柱のようになった剣が分身もろともメイプルを斬り裂く。

炎のダメージは貫通攻撃とはまた別のため防げないが、剣のダメージは無効化し、なんとか持ちこたえる。

分身が消えたことは気にせずに、メイプルは大盾を振り抜いて肩から胴体にかけてを大きく抉り取った。

 

「もうっ1回!」

 

メイプルが再度振り抜いた大盾は炎の刃で跳ね除けられ、そのままの勢いでボスが突っ込んでくる。

メイプルにそれを完璧に対処するすべはない。

それでもメイプルは作戦通りというように笑った。

 

「サリー!セイバー!」

 

「【クインタプルスラッシュ】!」

 

「【森羅万象斬】!」

 

メイプルの射撃に乗じてすっと離れ、朧の【瞬影】で姿を消して完全に狙いから外れたサリーはボスの背後から攻撃のチャンスを待っていた。さらにセイバーもボスの注意が完全にメイプルに移る瞬間を狙って姿を眩ませてサリーと共に攻撃に転じた。

 

【ドーピングシード】を限界まで使用したサリーの最大連続攻撃にセイバーの最大火力の火、水、雷、風、土の5属性斬り。サリーはスキル【追刃】の追加効果も合わさって片手ごと10回の計20連撃が、セイバーは虹色の輝きを纏わせた烈火が、無防備なボスの背中に突き刺さりメイプルを攻撃しようとしていた剣が止まる。

凄まじいダメージを受けたことにより、優先する行動が変化しボスは地面に剣を突き立てる。

先程3人を焼き尽くした業火を生む魔法陣が再び展開される。

 

「【クイックチェンジ】!」

 

「【ヒール】!」

 

「【イージス】!」

 

メイプルが急いでポーションを飲み、それでも足りないHPをサリーが回復で補い、全てのダメージを無効化する光のドームを展開する。

大技には大技で、即死級攻撃には絶対の防御を押し付ける。

その外側で炎が轟音とともに吹き荒れる。

 

「チャンス!」

 

「うん!」

 

「これでも喰らっとけ!【爆炎紅蓮斬】、【キングスラッシュ】!」

 

今度はその硬直を見逃さず、メイプルが銃撃を、サリーが連撃を、セイバーはキングエクスカリバーを左手に持っての高火力攻撃を繰り出し、残りHPを2割程度まで減らした。

すると衝撃波が発生し、ダメージはないものの3人を遠ざける。

セイバーとサリーはすぐにメイプルの元まで来ると、HPを回復して、ボスの様子を窺う。

メイプルは装備を元に戻し、シロップも呼び出して攻撃力を確保する。

 

「上手くいったね!」

 

「でも、まだ終わってない」

 

「最後まで油断しちゃダメだよ」

 

セイバーはキングエクスカリバーをしまい、再び烈火を構える。

3人の眼前で、ボスは地面に突き立てた剣から炎を迸らせる。すると地面が砕け、炎の柱が何本も立ち上がり、フィールドを一変させる。

ボスの背後には炎の剣が5本浮かんでおり、纏わせた炎もより勢いを増している。

 

「……ここから本番って感じ」

 

「負けないよっ!」

 

「だから、俺に炎は効かねーんだよ!」

 

ボスの形態変化も済んだようで、ボスも攻撃体勢を取る。背後に浮かぶ5本の剣が切っ先を3人に向け、高速で飛来する。

サリーは余裕を持ってそれを回避し、セイバーは剣を受け止めるとダメージが入り始めた。

 

「嘘ぉ!?ダメージ入るのかよ!!」

 

「馬鹿!向こうだって無効化の対策くらいはするわよ!」

 

サリーは移動しながら叫び、メイプルはそんなサリーに糸で引っ張られて避ける。

 

「チッ!このやろ!」

 

セイバーは剣を弾くと次は攻撃を受けないように躱すことを始めた。 

 

「【カバームーブ】は駄目。ダメージ2倍は今は痛い!」

 

「うん、ありがとう!」

 

3人はそうして炎の剣を避け切ると、それらは空中に留まり、再び切っ先を向けてくる。

さらに、フィールド中央に立つボスの背後にさらに5本の剣が浮かんでいることに気づき3人は目を見開く。

 

「増えるの!?」

 

「流石に倍はヤバいって!」

 

「2人共!短期決戦!」

 

「う、うん!」

 

このままでは状況は悪くなる一方だと、3人はボスへの距離を詰める。

 

「【挑発】!……何とかして止めるから!2人は攻撃してっ!」

 

「分かった。頼んだからね!」

 

「こっちは任せろ!」

 

飛んでくる10本の剣がメイプルを狙う中、セイバーとサリーはボスに向かっていく。

 

「シロップ【城壁】!」

 

いくつもの壁がメイプルを囲むように立ち上がり、砕けながらも何とか数本を受け止める。

【悪食】の消費も仕方ないと大盾でもガードするが、うち3本がメイプルの体を貫き、直撃したシロップのHPはゼロに、メイプルのHPも半分を切る。

 

「うぅ……頑張ってサリー!」

 

「朧【影分身】!【ウィンドカッター】!」

 

「【四属性光弾】!」

 

2人は魔法で相手のガードを引き出し、サリーが【影分身】でなぎ払いを誘発する。

 

「行動さえ分かっていれば……!」

 

一撃で倒される分身を囮に接近したサリーを、さらに鋭くなった一閃が両断する。

直後、その姿は消失し、ボスからダメージエフェクトが弾ける。

【蜃気楼】をも使い二重に囮を設置していた背後からさらにサリーが斬りつける。

これ以上囮となるものは無く、サリーに対してボスが炎の剣を振るってくる。

 

「させるかよ!!」

 

その剣をセイバーが代わりに受け止めてダメージを負いつつもカウンターの攻撃を決める。

 

「っ、【超加速】!まにあ、ったっ!」

 

サリーはその間に加速し、地面を転がり何とか離れる。

 

「【滲み出る混沌】!」

 

セイバーへの追撃を止めるために大技を使用し、メイプルはまた射撃を開始する。

いくつかがボスに直撃し、HPを減らすがそれでもまだ撃破には至らない。

そうこうしているうちにさらに5本の剣が空に追加される。

 

「きっつい!」

 

「うぅ、もうちょっとなのに!」

 

「15本は多すぎる!!」

 

あと少し、それが遠く、メイプルがダメージを受けてしまうこともあり状況は悪い。

 

「っ、これは……」

 

飛来する炎の剣とボスそのものがサリーに向かってきて、サリーは冷静に現状を把握する。

 

どう避けても2本は直撃する。

 

「少しでもダメージを……!」

 

そう思うサリーの目の前を遮るものが爆音の直後横から割り込んでくる。

それは何本かの炎の剣を受けたのだろう、ダメージエフェクトを散らせながら、それでも3枚の大盾を構えるメイプルだった。

 

「サリー!回復して!」

 

「【ヒール】っ!」

 

「2人に手を出してんじゃねーぞ!」

 

セイバーはボスへと突っ込むがそこに剣が6本も突き刺さる……が、セイバーはこれを炎になって回避した。

 

「喰らえよ!オラァ!!」

 

更にセイバーはボスに剣を振り下ろす。

 

一方、メイプルも3枚の大盾で受け止めるものの炎が次々にメイプルを焼く。しかし、サリーの回復のおかげでほんの僅かHPは残った。

 

「【凍てつく大地】!」

 

メイプルを斬りつける直前でボスの動きがもう一度止まる。

メイプルはボスの残りHPを確認し、2割まで減っていることを見てスキルを発動した。

 

「【ブレイク・コア】!」

 

メイプルから赤い球体が飛び出しバチバチと音を立てる。

超強力な自爆攻撃、発動までは5秒。

サリーはそれを見てボスが逃げられないようにボスの周囲に【氷柱】と【サンドウォール】を設置する。セイバーも地面に手を置いて【爆炎放射】を使いその壁をさらに外側から囲って逃げられなくした。

普段ならば避けられうる攻撃も、今この場なら必中となる。

 

「これなら……当たる!」

 

ボスの回避より先にメイプルのスキルが発動し、轟音と共に天井まで届く光の柱が発生する。

ボスのHPがガクンと減少し、メイプルのHPが【不屈の守護者】の効果で1だけ残る。

 

 

 

白い光が消えた時。

ボスはほんの僅かHPを残して健在だった。

 

「っ!?」

 

メイプルが驚愕する中、地面に先ほど見たものよりもさらに大きい魔法陣が展開される。

 

「ど、どう……わっ!?」

 

思考が止まったメイプルを空中に駆け上がったサリーの糸が引っ張り上げる。

サリーは素早くメイプルを空中に投げ上げて【衝撃拳】でさらに高く跳ね飛ばす。

 

直後、業火が足元から吹き上がる。

サリーは空中に足場を作り、それを蹴り飛ばすと業火の中に突っ込んでいった。

一方でセイバーはこの攻撃を受けるも【不屈の竜騎士】により攻撃を凌いでいた。

 

「痛てーなこの野郎!!」

 

「っ……!」

 

サリーも攻撃を受けて【空蝉】が発動し、受けるダメージを無効化し、彼女をさらに加速させる。

 

メイプルに業火が届くよりも速く、サリーは炎を貫いて、2本のダガーで首元を斬り裂いた。そしてセイバーは飛び込みながら最後の攻撃を放つ。

 

「【元素必殺撃】!」

 

セイバーの虹色の輝きを纏わせたキックがボスを貫くとその瞬間炎は止まり、残り火が燃える中ばたりとボスは地面に倒れた。

 

「守ってくれたおかげで……間に合った」

 

「終わったな……」

 

サリーはすっとダガーをしまって落ちてきたメイプルを両手で受け止める。それと同時にセイバーも着地し、息を吐く。

 

「「……ふぅ」」

 

「……えへへ」

 

「「「勝ったぁ!!」」」

 

3人は疲れ果てたように地面に座り込むと顔を見合わせ笑ってハイタッチをするのだった。




今回セイバーが本来使えないはずの【毒竜】と【蜃気楼】を使用していましたが、その理由は次回辺りで明らかにします。それでは、また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと攻略後

魔法陣に乗り塔から出ると、運営からメッセージが届き、塔攻略の祝福と報酬についてが綴られていた。

3人は塔を攻略しきり、銀のメダルを5枚手に入れたのである。

 

「これでギルド戦の時と合わせて10枚か」

 

「早速選ぶか」

 

「ちょっと待って、セイバー。気になる事が1つある」

 

「うーん。何となく聞きたいことの予想はつく。俺がメイプルやサリーのスキルを使えた事だろ?」

 

「そうそう。なんでアンタに【毒竜】や【蜃気楼】が出来たの?」

 

「それはだな、【絆の輪】というスキルだ。これを使えば1日1回に限りパーティを組んでいるメンバー1人から1つずつスキルを使う事ができる。例えば今回はメイプルからは【毒竜】。サリーからは【蜃気楼】のスキルを使わせてもらったって感じ」

 

「中々チートね。もしかして【暴虐】とか使えたりしないわよね?」

 

「ああ、それは無理だな。【暴虐】みたいな形態そのものが変化する系のスキルは使えないようになっている。【機械神】も同様だ。体が変化して使うスキルは借りる事が出来なくなっている」

 

「それでも凄いよ。私達のスキルを使えるなんて……」

 

「はぁ……もう突っ込む気も失せたわ……」

 

メイプルは目を輝かせる中、サリーはもういつもの事すぎて諦めの言葉を発していた。

 

「もう良いわ。そろそろスキルを選びましょう」

 

「そうだね。スキルとかも変わってるかも」

 

「じゃあ、選び終わったらギルドにいるよ」

 

「おっけー……五層でいいよね?」

 

「……うん」

 

3人は10枚のメダルを使用すると、スキル選択用の空間に転移した。

 

 

 

そしてしばらくして、セイバーがギルドホームにやってくると2人はすでに選び終わってソファーに座っていた。

 

「お、2人共もう終わってたんだ」

 

「どれにしようかなーって思ったけど分かりやすいのにしたよ」

 

「まー、私も方針は決まってるし」

 

「えへへ、私はこれ!」

 

そう言ってメイプルは自分のスキルを2人に見せる。

 

【不壊の盾】

30秒間ダメージ半減。

3分後再使用可能。

 

「なるほど、今回結構ダメージ受けてたしね」

 

「本当は無効があれば良かったんだけど……」

 

「確かに無効の方が良いよな。まぁ、流石に都合良くは行かないって事で」

 

「それにあったら教えているよ。私は【水操術】っていう水を操るスキルにした」

 

「水魔法……とは違うんだよね?」

 

「スキルレベルも上げていけるタイプだから、面白いスキルにならないかなって。あと凍らせて足場にするのにちょうどいいし」

 

「どんな感じになるか楽しみだね」

 

「セイバーは?」

 

「俺は【火炎ノ舞】だな」

 

【火炎ノ舞】

火属性の攻撃を使用する際にその威力を1.5倍に上昇させる。効果時間2分。20分後再使用可能。

 

「まぁ、今回はマシな方ね」

 

「マシな方ってどういう意味だ!」

 

そんなことを言っていると、メイプル達がいると確認したのか、ギルドホームに残りの7人のメンバーもやってきた。

疲れてはいるものの嬉しそうなその表情を見て3人は何となくその理由を理解する。

 

「お!メイプルにサリー!十階勝ってきたぞ!」

 

「セイバーお兄ちゃん!リベンジ果たせたよ!!」

 

ヒビキとクロムが嬉しそうにそんなことを言う。

 

「ふふっ、私達もです」

 

「何とか1発突破しました!」

 

「かなり苦戦しましたけどね」

 

「おぉ!それはすごいな。かなり強かったろ?」

 

「すっごい燃やされましたよ!」

 

「先を越されてしまったか、惜しかったのだけれどな」

 

「スキルももう決めたのかしら?」

 

その言葉に3人は取得したスキルを教えることで返す。7人はもうすぐ七層が解放されるため、それをクリアしてから決めるとの事だった。

 

「じゃあ次は皆で戦って七層ですね!」

 

「……め、メイプル。私は塔の時と同じ感じで……」

 

六層のボスがどんなものなのかなど考えなくてもわかると言うものである。

サリーが戦える相手ではない。

 

「うん、七層行ったらまた探検しよう?」

 

「全員での戦闘かー、これならちょっとは楽できそうかな」

 

「私達頑張りますね!」

 

「……頑張りますっ!」

 

全員が目標を達成して、次に目指すは七層ということになった。

 

 

そしてしばらく経って、メンテナンスが入り七層が実装された日。

セイバー達は少しでも早く集まってダンジョン攻略を始める予定である。

六層のギルドホームに集合した10人はボスの能力を確認し、いよいよダンジョンに向かうこととなった。

 

「……その、サリーは大丈夫なのだろうか?」

 

「あー、アレは昔からなので多分ダメですね」

 

カスミとセイバーの目線の先にはソファーに倒れ込み頭にマフラーを巻きつけて、隙間から死にそうな顔を覗かせるサリーがいた。

 

「いつもはあんなに強いのにね」

 

「早く攻略してやるしかないな」

 

10人はフィールドへ出る。

するとすぐにメイプルが【暴虐】を発動させた。

 

「じゃあサリー?」

 

「うん、お願い……」

 

メイプルががぱっと開けた口の中に入っていくのを見て、流石に残りのメンバーが言及する。

しかし、サリーの意思は固かった。

 

「ここの方がまだいいので……」

 

「サリー姉さんにこんな弱点があったなんて……」

 

そうしてサリーは口の中に収まった。

尚の事早く倒した方がいいと、残りの8人はメイプルの背に乗ってフィールド、そしてダンジョンを駆け抜けていく。

そうしてサックリとボス前についてしまえば後は簡単である。

 

「属性なしの攻撃は効かないからまずこれを使ってね」

 

「今日はいいバフスキル引いてるんだよね」

 

「アイテムも使うといい」

 

「そんじゃあ今回は相手からのデバフを無効化させるバフをかけるよ。最光抜刀!【カラフルボディ】からの【光の加護】」

 

いつも通り戦闘前にマイとユイに全力でバフを盛り、さらにはセイバーのスキルでステータスダウンを無効化させて、それからメイプルの【身捧ぐ慈愛】下で敵に麻痺を入れるだけである。

 

「塔と比べればこの程度!」

 

「サリーのためにもすぐ終わらせないと!」

 

ボス部屋の扉を開けるとそこには巨大なゴーストがいた。

おどろおどろしい見た目をしているそれは通常フィールドにおいては確かに強力なボスだった。

 

しかし、塔を突破してきた10人もとい9人にとってこの程度は敵ではない。

 

「麻痺入ったぞ!」

 

カスミの斬撃で麻痺が入ると、メイプルが背中にマイとユイを乗せて走ってきて、そのまま2人を下ろす。

 

「「いきます!」」

 

動けなくなったところに強力な一撃が次々に叩き込まれていく。

それに耐えられる程のボスがこんな場所にいるはずもなく、ボス部屋突入から1分と少しで巨大ゴーストは爆散した。

 

「ドロップ素材は回収したわ」

 

「なら上に上がろう……本当、サリー大丈夫か?」

 

全員が心配そうにする中、次の層が見える手前でメイプルはサリーを口から出し【暴虐】を解除する。

 

「大丈夫?」

 

「二度と六層行かない……」

 

サリーは立ち上がると目の前に迫った次の七層に不安そうな顔をする。

 

「流石に同じのは2回も連続しないって」

 

「そうそう!きっと違う感じだと思うよ?」

 

「そうだね……よし!行くぞ行くぞ……っ!」

 

サリーが覚悟を決めたところで全員で七層の景色を確認する。

そこに広がっていたのは広大な大地と自然、そして駆け回る多様なモンスター達だった。

 

ここはモンスター達が住まう層。

中には友好的なものもいる。すなわち七層はモンスターを仲間にできる階層なのだった。

 

「良かったぁ……普通の階層で」

 

「まったく、心配してたんだからな。この層ではちゃんと前の階層で動けなかった分動いてもらうからぞ」

 

「わかってるよ」

 

サリーはセイバーとそんな会話を交わすと他のギルドメンバーと共に七層のギルドホームへと向かうのであった。

 

 

 

〜閑話休題 運営にて〜

 

「ふう、これでようやくイベントも終わったな」

 

「とは言ってもボスを作った奴ら皆ダウンしているよ」

 

「メイプル、サリー、セイバーの3人を組ませたらダメってのが本当によくわかるイベントだったな」

 

「ああ。一階は口を開けたボスの口の中に入って中と外からボコボコにするし、二階の本はセイバーの煙の剣で無理矢理高威力ダメージを無効化する防御を崩されるし、三階ではセイバーが液状化してマグマ地帯を駆け抜けてしまうし。お陰でスキルを両方取られちゃったしなぁ……」

 

「四階はもはや休み時間だったな。海亀の甲羅の上に張り付くとかあり得ねー事してくれたせいでボスがボスの役割をしていなかったよ」

 

「五階でようやくサリーが苦手なボスに当たって負けてくれると思ったのにまさかメイプルが運ぶことになるとは……。六階のゴーレムは……うん、まぁセイバーが相手の時点でああなるとは予想していた」

 

「七階で飛び降りをした時は“よっしゃあ!自爆してくれたぞ!”って思ったが、それも束の間でセイバーの対応力にやられたな」

 

「言うなよ。それを言った奴が1番ダメージ受けてるから……」

 

「八階の透明になる奴は予想通り超スピードで動きを止めさせられたな。その瞬間にはもう負けるってわかったけど……」

 

「その後に九階でのボスとの戦い。アレを1発で倒したのはデカかっただろうなぁ。アレを3人でクリアしたの全プレイヤーの中でも初だったし」

 

「そんでもって最後のラスボスも苦戦しつつもしっかりとクリアしてる。もうアイツ等3人を止める手立てなんてあるのかな?」

 

「いやー、キツイでしょ。サリーは攻撃を当てれば2回で死ぬのにまず攻撃が当てられない。セイバーは既に聖剣を9本所持していて対応力も高い上に聖剣は他の装備よりもステータスのアップの値が他のユニーク装備よりもかなり高いからなぁ」

 

「誰の悪ふざけでこんな事になったと思ってるんだよ」

 

「そして防御の要のメイプルはというと今や人間かも怪しい事になってるし、どうしようもないんだよな」

 

「まぁ、俺達の悪ふざけで実装したスキルや装備なんてまだまだ沢山あるし、それにその1つを取った奴もいるぞ」

 

「ん?えっとなぁ……あ、本当だ!!確かアレは……ダウルダブラ……ダウルダブラだと!!?」

 

「アレをクリアした奴が出たのか!!」

 

「はい。しかも、それに加えてあと2人ほどかなりヤバいのもいるんですよ」

 

「ほう……あの難解パズルをクリアした者が出たのか。それに、アガートラームを手にした者も……これは面白くなりそうだぞ!」

 

「でも、その3人でどうにかなるのでしょうか?」

 

「なぁに、コイツらがセイバーを倒しても話題になるし、この3つは単体でもかなりの強さを誇る。だからこそ、この3人をセイバーが倒したというのならそれはそれで良いんじゃないのか」

 

「確かに……」

 

「よーし!これから次のイベントに向けての会議だ!」

 

「えー。そろそろ休みもらえませんかね?」

 

「う……なら仕方ない。明日は特別にオフだ。存分に休んで来い!!」

 

「「「「「やったぁ!!」」」」」

 

翌日、運営の者達はゲーム管理をする為に必要な者達を除いて、久しぶりの休みを満喫するのであった。




次回から第七層に入ります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第七層

七層にやってきたセイバー達は早く探索がしたいとばかりに急ぎ足でギルドホームに向かうと、そのまま10人で手分けをして町の様子を確かめる。

中央には天をつくような大樹があり、町の中には流れる水路と、入り組んだ石造りの道が続き、上を見れば町の木と木を結ぶ木製の橋が複雑に樹上のツリーハウスを繋いでいる。

 

「よーし!探索するぞー!」

 

「おー!」

 

セイバーはメイプルの掛け声に返事をすると新しい町に興味津々という風に駆け出していく。そうしてしばらく辺りを見渡しながら道を進むと、すぐに今までの町とは違う部分に気がついた。町に配置されたNPCが皆何かしらの動物を連れているのである。

 

「なるほどこの層からはテイムモンスターを連れて行けるようになるのか。となると、チェックする相手が増えそうだな」

 

セイバーはNPCに話しかけたり、店を回ったりして情報を集めると一旦ギルドホームへ戻っていった。セイバーがギルドホームに戻るとちょうどこの層での目的を知ったギルドの面々が次々と帰ってきており、最後にメイプルが来た。

 

「おーい!皆ー!どうだった?」

 

メイプルは楽しそうに、早く皆の持つ情報を共有したいと言わんばかりだった。

そんなメイプルに対して、サリーが情報をまとめて話し始める。

 

「おかえり。メイプルも分かってるみたいだけど、やっぱり七層では朧やシロップ、ブレイブやミクみたいなペットモンスターを手に入れられるらしいね」

 

「そうそう!色んな方法で仲間にできるんだって!」

 

「倒したり、依頼を達成したり、アイテムを与えたり、それこそ様々だったよ」

 

10人が集めた情報は特別なイベントに関わるようなものではなかったが、それでもテイムモンスターについての様々な情報が手に入った。

 

「ただ、【絆の架け橋】を使って仲間にするのは変わらないみたいだから、私は朧以外は仲間にできないんだよね」

 

「……?」

 

「あ、まだ確認してなかった?七層の実装に合わせて【絆の架け橋】の効果に1人1つしか所持できないってのが追加されてたからさ」

 

1人1つしか所持できなければメイプル、サリー、セイバー、ヒビキはそれぞれシロップ、朧、ブレイブ、ミクの分の指輪があるためこれ以上は手に入れられない。

 

「そっか……うん、でもシロップがいるもんね!」

 

「だから私達はこの層では他の皆の手助けかな?」

 

「それが妥当だと思う」

 

「私もそうする!」

 

セイバーとメイプルとサリー、そしてヒビキはすでに相棒のモンスターがいるため、6人の手助けに回ることができるのだ。

 

「それは助かるな。強力なモンスターのテイム条件が倒すこととかだと俺1人はキツイしな」

 

「ああ、ただまあとりあえずは広く浅く探索だろう。七層もずいぶん広いみたいだ」

町から遠くのフィールドを眺めてみても、雪の積もった険しい山や、火山など様々な環境が存在することが見て取れる。

 

「仲間にしたいモンスターに目星をつけてから探すのもアリかもね。僕はどうしようかな……」

 

「生産系統をサポートしてくれるモンスターもいるのかしら……」

 

「私達も頑張ろうね!お姉ちゃん!」

 

「そうだね、ユイ」

 

それぞれにまだ見ぬ相棒に想いを馳せて、エリアごとやモンスター傾向ごとなどの細かい情報収集に移っていくのだった。

 

「とは言ってもなぁ、俺はもうブレイブがいるし、新しくテイムモンスターは捕まえられないんだよなぁ」

 

セイバーが敵対するモンスターを探して七層の街の外を歩いていると洞窟の入り口が見つかった。

 

「なんだここ?またいつものパターンじゃないよね?」

 

セイバーが危惧しているいつものパターンとは何かの不幸が発動した後にうっかりスイッチを押して強制的にダンジョンへと転移させられるパターンである。セイバーは咄嗟の時に煙化出来る狼煙に変えると洞窟の中を歩いていった。

 

「見た所普通の洞窟っぽいけどなんか嫌な予感がするんだよなぁ……」

 

セイバーが恐る恐る歩いていると洞窟の奥の部屋に到達し、扉を開けた。そこには3冊の本があり、セイバーが部屋に入った瞬間、それは浮かび始めた。

 

「なんだあの本は……」

 

するとその本は融合していき、1人の白い体を持った怪人へと変化していった。

 

「どうやら友好そうな感じじゃないな?」

 

その白い怪人は金色のジッパーが蛇のように全身にまとわりついた白い甲冑を思わせる見た目をしており、右肩には騎士のヘルムを思わせる装飾がある。 また、鮫に似た顔を持ち、無数の鋭い牙が生えた口が備わっており、手には両手持ちと思われる巨大な鉈を持っていた。

 

『………』

 

怪人は無言でセイバーを見つめると鉈を構えて襲いかかってきた。

 

「ちょっ!?いきなりかよ!」

 

セイバーは狼煙でこれを受け止めるが、パワーは向こうが上なのか軽く後ろへと吹っ飛ばされた。

 

「くっ……パワータイプの敵か。どんな能力を使ってくるか分からないから厄介だけど、それなら激土、抜刀!」

 

セイバーは激土を抜くと固い装甲を持つ姿へと変わり、怪人へと向かっていった。

 

「オラァ!」

 

セイバーが激土を振り下ろすと怪人はこれを受け止め、鍔迫り合いとなる。だが、セイバーのパワーは怪人を上回っており今度は怪人を吹き飛ばすと今度はセイバーが走りながら突っ込んでいった。

 

「いっくぜ!【ドリルストライク】!」

 

セイバーは地面を蹴ると体をドリルのように回転させながらドロップキックを放ち、怪人を貫いた。

 

「次はこれ!【パワーウィップ】!」

 

更に追撃とばかりに地面から巨大な植物の蔓を出現させるとそれで怪人を地面へと叩きつけた。

 

「良し。このまま速攻で決めてやる」

 

セイバーは一気に決めにかかるべく再び突撃し、激土を振り下ろして体を両断。怪人にダメージエフェクトを散らせるとそのまま振り抜いて怪人を吹き飛ばした。

 

「悪いけど、終わりにするよ。【岩石砲】!」

 

セイバーは手を翳し、魔法陣を呼び出すと巨大な岩が出現してそれは怪人へと飛んでいった。

 

「いっけぇ!!」

 

セイバーは決まったと思い笑みを浮かべた。だが、次の瞬間にはその笑みは驚きに変わった。

 

怪人の腹のジッパーが開くとそこに花弁のような形をした巨大な口が現れたのだ。

次の瞬間怪人は岩を喰らい出したのだ。その強靭な顎で岩を噛み砕き体に取り込んだ。

 

「嘘ぉ……」

 

『フフフフ………ワタシノナマエハ、カリュブディス……』

 

「喋ったぁ!!!」

 

カリュブディスと名乗った怪人は巨大な鉈を振ると先程セイバーが放った岩石砲と全く同じものを発射してきた。

 

「な!?」

 

セイバーは激土で受け止めるも、威力までは殺しきれずにダメージを受けた。

 

「このパワー。まさか、アイツの能力はあの口で食べた能力をそっくりそのまま自分のものに出来るのか」

 

『ヨクワカッタナァ……ダガ、ワカッタトコロデトメラレナイ』

 

「うーん。中々面白い能力だな。さて、どうするか」

 

セイバーが考えていると声が聞こえてきた。

 

『助けて……お願いします……助けて!!』

 

「何だこの声……まさか、あの怪人の中から!?」

 

セイバーが怪人を見ると薄っすらとだが、助けを求める女性の顔が見えた。

 

「!!!やっぱり……」

 

『オラァ!』

 

カリュブディスが鉈を振り下ろすとセイバーはこれを受け止めた。ただし、表情には怒りが垣間見えていた。

 

「お前、その人を人質にしたつもりかよ?……正々堂々と勝負をしやがれ!!最光、抜刀!【シャドーボディ】!」

 

セイバーは剣となると影の体に自分を掴ませてカリュブディスに斬りかかった。

 

『ムダダ!』

 

カリュブディスが鉈をセイバーの体にめり込ませるとその瞬間影の体を通り抜けた。

 

『ナッ!!』

 

「これでも喰らっとけ!!【シャドースラッシュ】!」

 

セイバーの影の力を纏わせた斬撃はカリュブディスへと炸裂し、囚われていた女性の体を彼の体から一部分だけ外に見えさせた。

 

『ヌン!』

 

だが、すぐにカリュブディスは女性を再び取り込んでしまう。

 

「なるほど、こうすれば出てくるんだな?【カラフルボディ】!」

 

セイバーはすかさず体をカラフルなアーマーで武装すると今度は連続でカリュブディスを斬りつけてダメージを蓄積させる。

 

『オノレ……』

 

「待っててください……今助けます!!【腕最光】!」

 

セイバーのカラフルな装甲が腕に集約されていくと右手の剣と左腕の武装の二刀流となり、一気に女性を救いにかかる。

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

セイバーはカリュブディスへと突撃すると金と銀の斬撃でカリュブディスを斬りつけた。そしてそのスキルの威力で女性をカリュブディスから救い出そうとするが、今度は女性が2人出てきた。しかも全く同じ顔のである。

 

「同じ顔が……2人?まさか、双子の姉妹か!!」

 

セイバーがそう言っている間にカリュブディスは持ち直してしまいセイバーの顔面に左ストレートを喰らわせた。

 

「がっ!!?」

 

『ククク……アブナカッタゾ。ダガ、モウオナジミスハシナイ。シネェ!!』

 

さらにカリュブディスは腹の口を開くと空間を食べてセイバーを自分の間合いに強制的に引き摺り込んだ。

 

「ヤベッ!」

 

カリュブディスはそのまま鉈を振りまわし、セイバーを何度も斬りつけた。

 

「ぐあっ!!」

 

セイバーは色を腕に集めていた状態が元に戻り、全身がカラフルな状態になった。

 

「痛ってぇ……けど、まだ手はある」

 

すると最光が光り輝き、剣の力を最大限に引き出した。

 

「剣士は剣を極めてこその剣士だ。今度こそ救う」

 

『ヤッテミロヨ。ヤレルモノナラナ!!』

 

「【分身】!」

 

「烈火抜刀!」

 

「狼煙抜刀!」

 

セイバーは烈火と狼煙を抜くとそれぞれ剣を輝かせた。

 

「「「さぁ、誰がお前に攻撃をするでしょうか?」」」

 

カリュブディスはいきなり3人に増えたセイバーに対して驚きを隠せずに動揺した。セイバーの集中力はその隙を見逃さなかった。

 

「はあっ!」

 

『クッ…』

 

まず狼煙のセイバーがカリュブディスへと突っ込んでいくと狼煙を突き出す。カリュブディスはそれに合わせて鉈を振り下ろすが、次の瞬間にはセイバーは煙となって消えていた。

 

『!!』

 

「うぉおおお!!」

 

そこに間髪入れずに烈火のセイバーによる斬撃が腹を切り裂き、囚われていた姉妹をカリュブディスから分離させるとこに成功した。

 

「【スパイダーアーム】!」

 

そこに煙化を解いた狼煙のセイバーが2人を優しく受け止めた。

 

「今だ!!【足最光】!」

 

セイバーは足にカラフルな装甲を移動させるとそのまま跳び上がった。

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

『グアアアアアアア!!』

 

セイバーのキックはカリュブディスを貫くと金と銀の輝きと共にカリュブディスは爆散。セイバーは着地すると装甲を全身に戻した。

 

「ふう……今度こそ俺の完全勝利だな」

 

セイバーは落ち着くと先程助け出した双子を寝かせて分身を解除して1人へと戻った。すると割とすぐに双子の姉妹は目を覚ました。

 

「大丈夫ですか?」

 

『ん……んんっ……』

 

『私達確か怪物に……』

 

『あなたは……私達を助けてくださった……』

 

『そうなの?姉さん』

 

『ええ……』

 

2人は起きると立ち上がり、セイバーの前で深々と頭を下げた。

 

『『この度は助けていただきありがとうございました』』

 

「いえいえ、当然の事をしただけですよ」

 

『本当にありがとうございます。私も姉さんもあなたのおかげで救われました』

 

『お礼と言ってはなんですが、これをお受け取りください』

 

そう言われてセイバーは龍の絵が描かれた2冊の本が手渡された。片方は白の、もう片方は黒の龍である。

 

「これは……」

 

『私達の家に伝わる龍の本です』

 

『白い方は愛情の、黒い方は誇りの名を持つ龍が記されています』

 

「ん?この2匹の龍……ブレイブドラゴンに似ているような……」

 

『私達はこれで失礼させていただきます』

 

『どうかあなたの旅に幸多い事を祈っています』

 

そう言って双子の姉妹は消えていった。

 

「何だったんだろう……多分この本もどこかで使うだろうからインベントリに常備しておくか」

 

セイバーはインベントリに本をしまうと洞窟を後にした。洞窟の通路の影に1人の青年がいるのに気づかずに。

 

『……カリュブディスがやられるとは想定外です。彼はこの私が創り出した最高傑作の怪人だったのですが……。ただ、流石はレジエルを倒した男と言うべきでしょうか。今度はズオスが相手すると聞いているので私はその後ですかね。それと、デザスト……アイツは……好きにさせましょう。どうせ彼には存在価値などありませんからいずれは処分してしまいますがね』

 

青年はそう言うと手に収まるサイズの小さな白い本を出した。そのページには先程倒したはずのカリュブディスの絵が描かれていた。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとパートナー

セイバーたちが七層に来て暫く経ち、その間にマイとユイはそれぞれ黒と白の子熊を仲間にした。名前はツキミとユキミだそうで、この日はギルドメンバーが集まってマイとユイを囲んでいるところだった。そこにカスミが白蛇を連れてやってきた。

 

「あ、カスミさん!」

 

「ん?ああ、それが2人の相棒か」

 

カスミの前に子熊を連れたマイとユイが歩いてくる。それに反応するように、カスミの首元にいた白蛇がすいっと体を動かす。

 

「あっ、カスミさんも決まったんですね!」

 

「白い蛇……もしかして、前に言ってた四層にいる蛇を倒して仲間にしたんですか?」

 

「まぁそんな所だ。で、名前はハクにした……少し単純過ぎただろうか?」

 

カスミは名付けは得意じゃないんだと少し恥ずかしそうに頬を掻くが、ハクは嬉しそうにするすると動き回っている。

 

「いいと思います!」

 

「はいっ……合ってると思います!」

 

マイとユイにそう言われて、さらに照れ臭そうにするカスミを見つつ、まだ相棒となるモンスターを見つけていない3人もそれぞれにどうしようかと考える。

 

「おー、これであとは俺とカナデとイズだけか」

 

「そうねー。私のこの層で追加されたアイテム作成にも目処が立ったし、そろそろ工房の外に出ようかしら」

 

「僕も早く探さないとなあ。この層の醍醐味だしね」

 

「情報は結構集めてきたから……求めてるものがあればいいんだけど」

 

サリーもツキミとユキミを撫でつつ、集めてきた情報をざっくりと話す。

どこにどんな種類のモンスターがいるかや、何かありそうな地形、時間帯や所持スキルによって遭遇できるかが変わるレアモンスターで、情報が分かっているものなど、情報の中には足で稼ぐものもあった。

 

「私とメイプルとセイバーとヒビキはこの層の要素はもう終わってるから、手助けする役をね」

 

「俺はまだ見ぬこの層の聖剣を……と言いたいけど、なんかこの層には聖剣が無い気がするんだよね」

 

「え?そうなの?」

 

「流石に運営さんもこれ以上俺が強くなるのは対策するはずだから何処かで聖剣が無い層があってもおかしくないと思う。まぁ、仮にあったとしても試練は相当難しい物だと思うし、今の俺にクリアできるかは五分五分かな。それに、今のままでも十分強いし」

 

「それは言えてるわね」

 

「そういえば……メイプルがいないな」

 

カスミがキョロキョロとギルドホームの中を見渡すものの、メイプルの姿はどこにもない。

 

「テストも一段落したし、ログインしてるっぽいけど……」

 

噂をすればなんとやらというようにギルドホームの扉を開けて、メイプルが入ってきた。

メイプルは中に入ってきてすぐツキミとユキミ、そしてハクに気づいたようで目を輝かせて近づいていく。

 

「かわいいーっ!3人のモンスター?」

 

メイプルは3人の相棒をそれぞれ愛でるだけ愛でて、ニコニコと楽しそうにする。

 

「ギルドホームもどんどん賑やかになっていくね!」

 

「確かに、モンスターをギルドホームでも出せるようになったしね」

 

そう言うサリーの足元には朧が、メイプルの足元にはシロップがおり、ヒビキの肩にはミクが止まって、セイバーの近くにはブレイブが浮いている。10人だけのギルドも、駆け回るモンスターが増えたことで、メイプルの言う通り賑やかにもなるというものである。

 

「あ、そうだ。全員集まってるし情報共有してたんだけど、メイプルからも何かある?」

 

「うーん、ち、ちょっと言いにくいんだけど……触手出せるようになったよ!」

 

「……は?」

 

「今なんて?」

 

予期していない言葉にセイバーとサリーが思わず聞き返すと、メイプルは律儀にもう一度繰り返してくれる。

どうしてそうなったのか、モンスターを仲間にすることが目的の層で何故自分がモンスターになってしまうのか、その場の全員の頭の中をそれらがぐるぐると回った結果、全ての言葉を飲み込んで、まず見てみるのが早いと言う結論になった。

 

そうして訓練場に来て、9人はメイプルの何らかのスキルを待つ。

 

「よーし、【水底への誘い】!」

 

メイプルがスキルを発動すると同時に、大盾を持つ腕が、大きな青黒い触手が何本も絡むようにして伸びるものに変わり、左目の白目部分は黒く、黒目部分は黄色に染まる。

メイプルがどうだろうかと左手を動かしてみると触手が解けてまるで指のように5本に分かれ、何かを握るようにまた収束する。

9人はそれを見て顔を見合わせ、コソコソと話し始める。

 

「そうはならないだろ」

 

「そうね、分かるわ」

 

「知らないままフィールドで出会ったら刀を抜いていた」

 

大人組が久し振りの人の域を逸脱する行為にリアクションも忘れて話し始めたところでメイプルも話している内容を察したのか、手と触手をぶんぶんと振って弁解する。

 

「これにはふ、深いわけがあって……いやっ、そんな深くないかも……でも仕方なかったんだよぉっ!」

 

「あのさぁ、どうせまた食べたんだろ?」

 

「え?何でわかったの?」

 

「なんとなくそんな気がした」

 

どうやら、メイプルはテストが終わってからログインした際にダンジョン攻略をしたのだが、その最中にタコと戦い、タコの足を食べた結果こうなったそうだ。

 

【水底への誘い】

触手で拘束または攻撃した対象に麻痺の状態異常を蓄積させる。対象の【STR】の値が自分より低ければ低いほど長時間拘束する。

 

「なるほどねぇ。本当ならメイプルみたいなSTRが低いプレイヤーを拘束するのが目的のスキルなんだろうなぁ」

 

「でも、メイプルさんは上手く使えるんですかね?だってメイプルさんのSTRは低めだし……」

 

「ま、まぁ何とかなるよ!」

 

「嫌な予感しかしないわ……」

 

 

掲示板にて

 

750名前:名無しの大剣使い

もう皆モンスター仲間にしたか?

 

751名前:名無しの槍使い

まだ様子見てる

中途半端に育てて後でこっちの方がいいとかあったら悲惨だろ

 

752名前:名無しの弓使い

レアモンスターっぽいのの中でも条件が緩い奴はもう見つかってたりするな

 

753名前:名無しの魔法使い

動物系が多いけどもガチガチのゴーレムとか欲しい

 

754名前:名無しの大盾使い

うちのギルドは何人かモンスターを仲間にしてたな

 

755名前:名無しの弓使い

メイプルちゃんやセイバー君は2体目を仲間にしたか?

 

756名前:名無しの大盾使い

それならメイプルちゃんが仲間にしてないけどした

 

757名前:名無しの大剣使い

なるほどねえ……ちなみに何を?

 

758名前:名無しの大盾使い

禍々しい触手

 

759名前:名無しの魔法使い

そうはならんだろ

 

760名前:名無しの大盾使い

まあ……仲間にしたというか体内に取り込んだというか……腕が触手になる

 

761名前:名無しの槍使い

およそ人が仲間にしたりするものではない

 

762名前:名無しの魔法使い

人形態と化物形態の間に変化中が追加されたのか

 

763名前:名無しの弓使い

人形態っておい

いやまあそうなんだけども

あと人体はどれだけ残ってますか……?

 

764名前:名無しの大盾使い

実際人と化物の間みたいな感じだったぞ

効果はいつかのイベントでその身で確かめてくれ

 

765名前:名無しの大剣使い

でもメイプルちゃんのステータスなら掴まれても逃げられそう

 

766名前:名無しの槍使い

よわよわSTR

 

767名前:名無しの弓使い

人は目の前にいる女の子の片腕が触手になったら思考停止するから初撃は避けられなさそう

 

768名前:名無しの大盾使い

分かるぞ俺もそうだった

 

769名前:名無しの魔法使い

モンスターを取り込むためのエリアじゃないんだよなあ

 

770名前:名無しの大剣使い

次回イベントではキメラになったメイプルちゃんの姿が

 

771名前:名無しの弓使い

街の中でモンスター連れて歩けるって言ってもラスボスモンスターはちょっと……

 

772名前:名無しの槍使い

飼い主がいないのにすくすく育ったんだよなあ

今回の餌は触手ですか?

 

773名前:名無しの大盾使い

メイプルちゃんは持ち帰った触手をたこ焼きみたいにして食べてたぞ

煙とは違う黒い靄出てたけどな!

 

774名前:名無しの魔法使い

そんな危ないもん食べちゃダメだろ

 

775名前:名無しの大剣使い

それはそうとセイバー君の方の情報は何か無いかな?

 

776名前:名無しの大楯使い

えっとな、まぁ、色々進化してるよ

 

777名前:名無しの弓使い

確か前に暴れてたもんな。水色の骨の龍?そんな感じの姿で

 

778名前:名無しの魔法使い

そういやそうだったな。けど、やばいよなぁ。第4回イベントの際はまだ6本だけだっただろ?ここまで来る間に何本増えたんだよ

 

779名前:名無しの大盾使い

詳しい事は言えないが簡単に言うと闇、光、煙の剣を得て、更には暴走も克服した

 

780名前:名無しの弓使い

はぁ?アレを克服するとか絶対ヤバい形態じゃん

 

781名前:名無しの大盾使い

そうなんだよなぁ。なんかパーティのスキルを制限付きだが使えるとかなんとか

 

782名前:名無しの大剣使い

なるほどねえ……もう勝つの絶対無理だろ

 

783名前:名無しの大盾使い

割とセイバー君も成長速度が半端じゃない。

龍と融合したり剣そのものになったり

 

784名前:名無しの魔法使い

そうはならんだろ(2回目)

 

785名前:名無しの大盾使い

まあ、俺達もめったには見ないんだけどな

 

786名前:名無しの槍使い

もう人間離れしてるよ。ああ、誰かあの化け物達を止めてくれ……

 

 

そんな事を話す5人はセイバーとメイプルが今後、更にパワーアップすると予想して、どのように進化していくのかについて盛り上がるのであった。

 

それからさらに数日後。まだモンスターを仲間にしていない3人はギルドホームで、どんなモンスターを仲間にしようかと考えていた。そこにセイバーも入ってくる。

 

「あ、クロムさん、イズさん、カナデ、3人で集まってどうしたんですか?」

 

「えっと、私達はまだパートナーとなるモンスターがいないからそれを探すための情報共有してるって所かな」

 

「そうですか。カナデとイズさんはサポート型、クロムさんは耐久力を上げてくれそうな感じのモンスターを探しているって感じですか?」

 

「そうだね。とは言っても僕は皆の穴を埋める役割が多いから、一点特化っていうよりは器用な子がいいかな。目星はついてるんだけどね」

 

「俺は耐久力というより回復力が高い方が噛み合う感じだな。ちょうどうちにはヒーラーもいないし……まあ今1つクエストを走ってるからそれ次第って所だ」

 

「私は生産系用のモンスター探しかしら。きっと戦闘系とはまた別に用意されていると思うのよね。そろそろ情報も出そうなのだけれど」

 

3人ともそれぞれの強みを活かすことができるモンスターと巡り会いたいのである。とはいえそんなものはそれぞれ数種類ずついればいい方だろう。さらに言えば、イベントで張り合うギルドは【集う聖剣】や【炎帝ノ国】となるのだから、それらに対抗できるだけのポテンシャルを持っている方がいい。となれば仲間探しも難航するというものである。

 

「なるほど、確かに3人にはその方が合ってるかも……」

 

「それに、仲間探しが終われば全員で動きやすいしな。うし、今日で終わらせる気でやるか!」

 

クロムはそう言って立ち上がる。求めているものが違う以上バラバラに動かざるを得ない。全員で七層を歩き回るにはもう少しかかるだろう。

 

「いってらっしゃい。私も町を見てこようかしら」

 

「僕もそうしようかな。クエストとかがあるかもしれないしね。セイバーはどうするの?」

 

「それなんですけど、今日は行きたい所があるのでそこに行くことにしています」

 

「そっか。セイバーも頑張ってね」

 

「おう!」

 

そうして4人はそれぞれに目的を持ってギルドホームを出ていった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと悪魔の試練

カナデ、イズ、クロムと別れてギルドホームから出てきたセイバーはいつものように街を出るとブレイブに乗って森の上を飛んでいった。

 

「それじゃあ、今日の目的地にまでレッツゴー!」

 

セイバーは巨大なブレイブに乗って空を飛びながら暫く行くとそこには砂浜と青い海があった。ここは以前、メイプルが触手を手にした際に来た場所である。

 

「ブレイブ、ありがとう。降ろしてくれ」

 

そう言ってセイバーはブレイブに着陸させるとブレイブから降りてブレイブを指輪に戻した。

 

「さて、早速海中探索と行きますか。流水抜刀!」

 

セイバーが流水を抜くと海の中に潜り、探索を開始した。

 

セイバーはそれから約20分近くの間、海の中を深く潜りながら何か無いか探しているが、中々見つからない。セイバーとて無制限にずっと潜り続けることは出来ない。暫くして潜っていられる時間が半分を切るため撤収しようと考えた。

 

「(これ以上潜ると今度は戻れなくなりそうだなぁ……仕方ない。戻りますか)」

 

セイバーは方向転換をしようとすると近くに海底洞窟があった。

 

「(なんだ?これは見た感じ昔は地上にあったっぽさそうな洞窟だけど、何かあるのかな?)」

 

セイバーは洞窟に興味を持つと一旦呼吸のため海面まで上がり、空気を補給してから再び潜って洞窟の前にまで戻ってきた。

 

「(良し、行ってみようか)」

 

セイバーが洞窟の中に入っていくと早速中から魚のモンスターが出てきてセイバーへと次々と襲いかかってきた。

 

「(【アクアトルネード】!)」

 

セイバーはノックバックの効果付きの激流で敵対する魚を次々と押し流し、壁に無理矢理激突させて倒した。

 

「(ふう。数がいても俺を倒すのならもっと連携してくれないとダメだよ。で、この道で合ってるのかな〜)」

 

セイバーはあんまりのんびりするつもりは無く、寧ろさっさとこの洞窟に眠る隠しアイテム等を早めに見つけてしまいたいという気持ちが強かった。それ故にセイバーの心の中には少しずつ焦りの色を見えてきていた。

 

「(不味いな。時間だって限られている。このまま何も無いのなら引き返す事も……)」

 

セイバーが困っていると道の分岐に辿り着いた。その分岐は4つもあり、全部は見れないということは明らかだった。

 

「(ええ……頼むから勘弁してよ。ここで分岐をぶつけられてもなぁ)」

 

仕方なくセイバーは自らの勘で道を決めると先を急いだ。すると前から先程よりも大きめな魚が泳いでくると水のブレスを放ってきた。

 

「(チッ…。お前はお呼びじゃないんだよ!!)」

 

セイバーはブレスを斬り裂きながら接近していき、すれ違い様に魚を両断して倒した。

 

「(あと10分くらいか?もう抜ける際は最悪ログアウトで緊急離脱する方にするか。今は行けるところまで調べよう)」

 

セイバーは更に奥に進んでいくと開けた場所に出てきた。そこに転移の魔法陣があり、おそらくそこがボス部屋に繋がっていると思われた。

 

「(こっちが正解のルートだったか。ラッキー!さっさと制限時間もそろそろヤバいし、さっさと行こう)」

 

セイバーは即魔法陣へと突入するとそこはとある建物の中の一室で、普通に空気があった。

 

「ふう。何とか空気のある部屋に出れたか。間に合ってよかった。それにしても、この部屋、なんか不気味だな……」

 

セイバーが部屋を見ていると目の前に1人の男が立っていた。そしてその姿はセイバーと全く同じだった。

 

「え?俺が……もう1人!?」

 

『正確にはお前じゃ無いんだけどな』

 

男がセイバーよりも少し低い声で話し始めた。

 

『俺の名前はカゲロウ。人間の中に潜む悪魔だ』

 

「で、その悪魔さんが俺の前に出てきてなんの用?」

 

『へぇ。面白い発言をするね。普通なら俺の正体を聞いた瞬間に驚くはずなんだけどなぁ』

 

「あっそ。お前がこの部屋のボスなんだろ?さっさとやろうぜ」

 

『ふっ。なら話は早いな。だったら、俺がお前を叩きのめしてやるよ』

 

そう言うとカゲロウは緑のベルトのような物を取り出して腰に巻いた。

そして黒に白い蝙蝠が描かれたスタンプを構えると上のボタンを押した。

《バット!》

 

そしてベルトに描かれた2人の戦士が背を向けているような絵にスタンプを押す。

 

《Confirmed!》

 

するとカゲロウの影が伸びて中から大量の黒い蝙蝠が飛び出した。

 

『変身』

 

カゲロウがそう言うとスタンプをベルトにセットし、それと同時に音声が流れ始めた。

 

《Eeny, meeny, miny, moe…! Eeny, meeny, miny, moe…! 》

 

音声が鳴り響く中、カゲロウがベルトに付いている取っ手を握り、ブレードのような物をベルトから取り外すとトリガーを引いた。

 

《バーサスアップ! 》

 

《Madness!Hopeless!Darkness!バット!(Hehe!) 仮面ライダーエビル!(Yeah!Haha!) 》

 

カゲロウから出てきた蝙蝠は群れをなすとカゲロウの真上で黒い巨大なスタンプとなり、カゲロウへと覆い被さるとその体を変化させ、緑と黒を基調として胸にジッパーと蝙蝠の紋章が描かれた仮面の戦士に変化した。

 

「ユーリさんと同じか。お前、その姿での名前は?」

 

『この姿は仮面ライダーエビル。ま、すぐにお前は俺の餌食になるけどな』

 

「面白れぇ!翠風、抜刀!」

 

セイバーが翠風の姿へと変化すると2人は剣を交えた。

 

「はあっ!」

 

『ふん!』

 

セイバーは二刀流の翠風を振り下ろし、エビルがこれをブレードで受け止めながらキックで距離を取る。

 

「【手裏剣刃】!」

 

セイバーが負けじと翠風を手裏剣の形にして飛ばすとエビルがこれを弾き、その間にセイバーはエビルへと肉薄しながらの回し蹴りを決めた。

 

「ほらほら!この速度について来れるか?【烈神速】!」

 

セイバーの超高速のスピードがエビルには到底視認出来るはずもなく、翠風による斬撃がエビルを苦しめていった。

 

「この程度なら楽勝だな。カゲロウさんよ!」

 

『調子に乗るなよ』

 

《バット!》

 

カゲロウが剣から蝙蝠のスタンプを外すと体に押した。その瞬間、蝙蝠が放つ超音波が発生してセイバーにヒットすると電撃と共にダメージを入れた。

 

「ぐあっ………こいつ、こんな事も出来るのか」

 

『オラよ!』

 

そのままエビルは飛び上がるとブレードを振り下ろした。

 

「くっ!」

 

セイバーはブレードが当たるギリギリで回避に成功すると地面を転がりながら距離を取った。

 

『やるなぁ。セイバーさんよぉ』

 

「音には音だ!錫音、抜刀!」

 

『オラァ!』

 

再びエビルは超音波を放つが、セイバー相手に2度は通用しなかった。

 

「【スナックウォール】!」

 

セイバーの目の前にお菓子の壁が出てくると超音波を跳ね返し、相殺したのだ。

 

「【ロックモード】!行っくぜぇ!!【ロック弾幕】ファイヤ!!」

 

セイバーが放った大量の弾幕がエビルを貫き、彼のHPを残り7割に減らした。

 

「俺の最高のサウンドでお前をかき消してやるぜ!」

 

『あまり俺を怒らせるなよ?』

 

エビルは腰から黄色とピンクのスタンプを出すとそれを押した。

 

《ジャッカル!》

 

そしてそれを蝙蝠のスタンプと入れ替えてトリガーを引いた。

 

《バーサスアップ! 》

 

《(Yeah!Haha!)Feel! a thrill! Spiral! 》

 

《仮面ライダーエビル!ジャッカル! 》

 

するとエビルの顔の部分がジャッカルの顔のように変化し、胸のマークもジャッカルの顔の絵となった。

 

「姿が変わった所で関係無いぜぇ!!」

 

セイバーはノリノリで銃にした錫音から弾丸を放つが、エビルはこれを超スピードで回避した。

 

「What!?」

 

『うらっ!』

 

セイバーが気づいた頃にはエビルのブレードによる斬撃が彼を襲い、吹き飛ばされていた。

 

「この野郎!!【音弾ランチャー】だぜ!!」

 

セイバーの足からミサイルが放たれるとエビルを攻撃するが、彼には全く当たらなかった……と言うより、全て躱されてしまった。

 

『終わりだ』

 

エビルはそう言いながらスタンプのボタンを押してトドメの構えを取った。

 

《必殺承認!》

 

「くうっ………」

 

《ジャッカル!ダークネスフィニッシュ!》

 

エビルは再び超スピードで動くとセイバーを連続で斬りつけて【ロックモード】を強制的に解除させるだけでなくHPを残り2割へと減らした。

 

「ぐあああ!!」

 

『その程度かよ?弱いな』

 

「痛ってぇ……お前、悪魔だけあって強いな。けど、負けねーぜ。最光、抜刀!」

 

セイバーは剣のみの姿へと変わると空中を飛来しながらエビルへと攻撃を仕掛けた。

 

『何!?』

 

エビルは反撃を試みるも、今のセイバーにダメージは通らない。よって、この場はセイバーの独壇場へと早変わりした。

 

「影には影で勝つ!【シャドーボディ】!」

 

セイバーが自身の影を呼び出すと最光となった自身を掴ませてエビルを連続で斬りつける。

 

『お前、卑怯だぞ!』

 

「お前、この姿を知らないとは可哀想だな。よーく体に刻み込みな。【シャドースラッシュ】!」

 

セイバーが影と光のオーラを纏うとエビルを両断し、彼のHPを一気に減らした。

 

「追い討ちと行こうか。【閃光斬】!」

 

セイバーは自身を思い切り発光させるとその輝きでエビルの目を眩ませて、その間に接近しながらの斬撃を叩き込んだ。

 

『ぐはあっ……』

 

エビルはジャッカルからバットへと強制的に戻されるとHPを残り3割に減らしていた。

 

『お前……』

 

それと同時にセイバーの方も時間切れとなって影が消えると剣の姿に戻った。

 

「そろそろ時間か。流水、抜刀!」

 

セイバーが流水の姿になると剣を構えた。

 

「さてと、そろそろ決めるぜ」

 

『ふん。それはこっちのセリフだ!』

 

「【アクアトルネード】!」

 

セイバーが流水から激流を放ち、エビルへと攻撃を仕掛けるがエビルはこれを回避しながら接近。セイバーも近接戦用のスキルで対抗する。

 

「【ウォータースラッシュ】!」

 

『ふん!』

 

2人の力は拮抗し、鍔迫り合いへともつれ込むとお互いに相手を斬りつけ、残りHPを少しずつ減らした。

 

「【キンググレネード】!」

 

《必殺承認!》

 

《バット!ダークネスフィニッシュ!》

 

セイバーは巨大な水の砲弾を、エビルは緑の斬撃を放ち、2つの攻撃は中間で弾けた。

 

「【渦潮】!」

 

セイバーは確実に次の攻撃を決めるため、相手を拘束するスキルを放った。しかし、エビルはそれを察知してギリギリで回避。セイバーの目論見は外れてしまう。

 

「くっ。やっぱ小細工は効かないか。なら、うぉおおおお!!」

 

セイバーは叫ぶと【咆哮】の効果で次の一撃の威力が上がり、一気にトドメを刺すべく跳び上がった。

 

『今度こそ終わりだ!』

 

エビルもそれを察したのか同じく跳び上がるとブレードを腰にセットしてスタンプのボタンを押した。

 

《必殺承認!》

 

「【グランドレオブレイク】!」

 

《バット!ダークネスフィニッシュ!》

 

2人のフルパワーの一撃は空中でぶつかり合い、火花を散らす。そして大爆発を起こすと2人共地面へと叩きつけられた。

 

「ぐうっ……」

 

『がっ!?』

 

2人は何とか立ち上がるが、エビルの方はHPバーが消えていた。

そして、セイバーはと言うと……。

 

「どうやら、勝負アリだな」

 

HP1を残して耐えていた。何故なら、【不屈の竜騎士】の効果で耐えていたからである。

 

『ば、馬鹿な……』

 

「勝負は俺の勝ちだ。何か言い残す事は無いか?」

 

『……負けたよ。お前の勝ちだ。だがな、次は俺が勝つ』

 

そう言ってエビルもとい、変身解除されたカゲロウは消えた。

 

「ふう……何とか勝てたって感じだな」

 

セイバーは報酬の宝箱の元へと歩み寄るとそれを開いた。そこには2本の巻き物と一冊の本が入っていた。

 

「えっと、巻き物の方は……」

 

【デビルスラッシュ】

悪魔の力がこもった斬撃を放つ。ヒットした相手のAGIを1割ダウンさせる効果を持つ。尚、追加効果は10分間発動する。

 

【デビルインパクト】

悪魔の力がこもったキックを放つ。ヒットした相手のVITを1割ダウンさせる効果を持つ。尚、追加効果は10分間発動する。

 

「で、本は……え?」

 

そこに描かれていたのは11本の剣がセフィロトの樹の形に並んでいる絵であり、こう記されていた。

 

「“人ガ鍛エシ始マリノ聖剣ニ火ヲ灯サントスル者現レシ時、星ヲ結ビテ力ヲ束ネ、物語ヲ終焉ヘト導ク聖剣ガ生マレル”……この人が鍛えし始まりの聖剣って何だろ?火を灯すって書いてある辺り烈火のことかな?……いや、その前にこれを手にするには聖剣があと2本いるって所か。よーし、新しい目標も出来たし、頑張ってみるか!!」

 

セイバーはそう意気込み、この日はログアウトすることにした。

 

エビルとの戦いから暫く経ち、セイバーがギルドホームにやってくるとそこにはカナデが相棒にしたスライムのソウをぐにぐにと弄っているギルドメンバーの姿があった。さらにそこにクロムも来る。

 

「あ、クロムさん、セイバー!見てください、カナデのモンスターですよ!」

 

カナデ本人よりもメイプルがどこか嬉しそうにクロムにアピールする。

クロムはカナデもようやくモンスターを仲間にしたんだと、スライムをしげしげと眺める。

 

「中々面白そうなモンスター仲間にしているなぁ」

 

「スライムか、なるほどなあ」

 

「面白いよーソウは。町の中だとスキルも使えないしこんなだけどね」

 

とろけるようにして地面に垂れると急に弾力を持ってコロコロと転がっていく。

それをみてヒビキとマイとユイが追いかけて捕まえにいく。

 

「本格的に賑やかになってきたな」

 

「っと、その指輪。クロムさんも仲間にしてきたんですね」

 

「で、どんなのを仲間にしたんですか?」

 

サリーが指摘し、セイバーが質問するとクロムはガシガシと頭を掻く。

 

「ああ、まあ……ちょっと皆とは毛色が違ってな。よし、サリー!先に言っておくぞ」

 

「な、なんです?」

 

特に何も思い当たらないという様子で、サリーが首をかしげる。

 

「俺の相棒は、中身がない動く鎧だ」

 

それを聞いて、サリーもクロムの言わんとしていることが理解できたのかピクッと反応して固まる。

 

「いえ、はい。はい、大丈夫です。鎧はまあ、あのカッコいい寄りなので」

 

藪蛇だったと、恥ずかしそうにぽつぽつ話すサリーを見て、クロムもモンスターを呼び出す。

 

「おし、ネクロ。出てこい!」

 

ネクロと名付けられた鎧は、見えない糸で緩く繋がれているように、ガチャガチャと音を立てて、その場に浮かぶ。ただ、見た目としては浮かんでいるだけの普通の鎧と剣と盾である。

サリーもああは言ったものの、恐る恐るという風にネクロの方を見てほっと息を吐く。

 

「よし、大丈夫……うぅ、でもやっぱアンデッドとかもいるよね……うぇぇ」

 

「諦めて慣れろ、サリー」

 

「だってぇ……」

 

現実逃避も兼ねて、サリーは努めてそれらの情報を見ないようにしていたものの、薄々その存在には気づいていた。

あとはたびたび決闘を挑んでくるフレデリカがそこにたどり着かないことを祈るばかりである。

 

「まあ、こいつも面白いモンスターだぞ。全員モンスターが揃ったらどこかで試したいが……」

 

「その前にレベル上げだね。僕のモンスターもまだレベルが低くて覚えてるスキルとか全然ないし」

 

「ん、そうだな。あとはイズだけか?」

 

クロムが姿を探してキョロキョロと部屋の中を見渡すものの、肝心のイズは見当たらない。

 

「ああ、何でもアイテムの生産があるみたいでな。また工房にこもりっきりなんだ」

 

「私とサリーとヒビキも素材集め手伝ったけど……大変だったよね」

 

「そうだね、あの量を全部使うとなると……」

 

「イズさんも流石に大変だと思いますよ」

 

4人の反応を見て、随分大変なことをしているんだと、クロムは少し心配そうに工房の方を見る。

するとちょうど工房の扉が開いてぐったりとした様子のイズが出てきた。

 

「お、おい……大丈夫か?」

 

「え?あ、クロム。おかえりなさい。こっちも……なんとか終わったところよ」

 

よっぽど根気のいる作業をしていたのか、そのまま眠ってしまいそうな様子である。

イズはペチペチと自分の頬を叩くとグッと伸びをして、目的を達成しに行こうとする。

 

「じゃあアイテムを提出しに行ってくるわね」

 

「おお、期待してるぜ」

 

口々にかけられる全員からの言葉にイズは笑顔で返すと、提出先の民家へと向かった。それから約10分後、イズが白い妖精にフェイと名付けて連れてくる事になった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとイベント情報

イズを最後に全員の相棒が決定したことで、次は【楓の木】の面々で次は力試しということになった。

そのため、セイバーとサリーは全員がレベル上げをしている間にどのダンジョンがいいか吟味していた。

 

「色んな能力が要求される方が弱点も見えるし……ここかな」

 

「そうだな。総合的に見てもここが良さそう」

 

そうして計画を練っていたところ、ギルドホームの扉が乱暴にバァンと開かれ、フレデリカが飛び込んでくる。

 

「あーいたー! よーやく見つけたよー」

 

「うげ……」

 

「またか」

 

「決闘しよー、ほらいつものいつものー」

 

セイバーとサリーがちらっとフレデリカの指を見ると、そこにはサリーがはめているものと同じ【絆の架け橋】があった。サリーは何かと理由をつけてフィールドを歩き回っていたが、ついに出会ってしまったわけだ。

 

「いや、まあ……んん……」

 

「なーにー? 何か気になることでもあったー?」

 

「サリー、諦めて決闘を受けて来い」

 

ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべるフレデリカに嫌な予感がしつつも、引き下がらないフレデリカに押し切られる。サリーとしても、フレデリカの仲間にしたモンスターがアンデッドだと怖いから戦いたくないとは言いたくないのである。

フレデリカは入り浸っているため、もう【楓の木】のギルドホームの訓練所の場所も覚えており、いつにも増して高いテンションでサリーを引っ張っていく。

 

「じゃあいつも通りね」

 

サリーが準備を終え、フレデリカに決闘の仕様を伝える。いつもと変わらない、HPを削りきるか降参するかのルールだ。

 

セイバーは2人がいなくなってから決闘の予想をしていた。

 

「今回の決闘。もしかするとサリーは始まった瞬間すぐに連続攻撃を仕掛けて何もさせずにフレデリカを倒すかも」

 

セイバーの予想通り数十秒後に訓練場の中を見るとそこにはセイバーの予想通り、開幕からサリーに殺意マシマシの連続攻撃を受けて秒殺させられたフレデリカがビターンと地面に落ちた所だった。

 

「なんか、いままでで一番殺意感じたんだけどー」

 

「……気のせいじゃない?」

 

「まぁ、フレデリカさん、どんまいです」

 

「せっかく今日は相棒のお披露目に来たのになー……あ、そうだ! 別に戦闘中じゃなくてもいいしー見せてあげるよー」

 

「えっ、あっ、いや……待っ!」

 

今度はサリーが止めるよう言うがその要求は通らない。指輪が光っていよいよ何かが出てくるというところでサリーは目をぎゅっと瞑り、両手で耳を塞ぐ。少しの間そうしていると、フレデリカがサリーの眉間を指で弾いてサリーに目を開けさせる。

するとそこにはニマニマと笑顔を浮かべるフレデリカになんとも言えない表情を浮かべるセイバー、そしてフレデリカの頭の上にとまった黄色の小鳥がいた。

 

「……ぅえ?」

 

「この子が私の相棒、ノーツ。ふふふ、どーしたのー? 何が出てくると思ったー?」

 

「あっ……! ふ、フレデリカっ!」

 

「今回は完全に遊ばれたな」

 

「うるさい!!」

 

サリーは最初からからかわれていたことに気づいて、顔を赤らめてそう言うのが精一杯だった。

 

「案外可愛いとこもあるじゃーん、戦闘中の動きは人間のそれじゃないけどさー」

 

フレデリカは相変わらずニマニマと笑顔を浮かべながらサリーの方を見る。

 

「くぅ……次もボコボコにするからね」

 

「望むところだよー。正々堂々やってー、負けましたって言わせてあげるー。それにノーツはちゃーんと強いからね」

 

そこまで言ったところでピロンとメッセージの通知が来て、一旦3人はそのメッセージを確認する。そこには次回のイベントについての詳細が書かれていた。

今回はまず予選があるということ。そしててそこではプレイヤーごとに生存時間とモンスターの討伐隊数に合わせてポイントを獲得することとなる。

上位のプレイヤーから順に本戦のエリアが決定され、順位が良いほどより良い報酬が得られるようになる。予選は個人戦なためテイムモンスターを既に仲間にしているプレイヤーは、手数も対応力も上がり有利になることが予想される。

 

「予選は第1回イベントにモンスターも出てくる感じで……本戦は時間加速でのPvEかー、ハードなイベントになりそうだねー」

 

「生き残ることが目的みたいだし、サバイバルかな。全員で予選を上位で突破したいけど……」

 

「今回はトップ目指してみるかぁ」

 

「間違ってでも私達と戦わないでよ?」

 

「流石にそこはわかってるって!」

 

ざっくりと確認したところで、さてもう1戦いこうとフレデリカが構える。そこでフレデリカの方にもう1通メールが来る。

 

「うげ、ペインからだ」

 

「ん、何か予定でもあったの?」

 

「あんまりサリーやセイバーに手の内を明かすなよってさー。むー、バレてるかー」

 

「それもそうだね。またやり合うこともあるかもしれないし」

 

「ただーし、その裁量は私に任されたのでー。やりたいようにやるよー!」

 

「ははっ、ペインも苦労してそうだなあ……」

 

「やれやれ……」

 

そんなことを言いながら、サリーとフレデリカは第2戦へと入っていく。結局この日は5回決闘をしたものの、サリーの全勝だった。ただ、フレデリカもペインの言うことを守っていたようで、ノーツと呼ばれた小鳥に強力なスキルを使わせはしなかった。

 

それからフレデリカは帰っていき、代わりにメイプルが入ってきた。

 

「あ、サリー、セイバー!」

 

「よっ!メイプルも通知見たか?」

 

「うん!またイベントがあるって事でしょ?」

 

「ああ」

 

「そういえばさっきフレデリカさんが出て行ったけど何かあったの?」

 

「それはさっきまでフレデリカさんがサリーと決闘していてな、それでサリーが……」

 

「ちょっと待ちなさいセイバー。ここから先は私が話すわ」

 

それからサリーがメイプルに数分かけてフレデリカとの件を話すとメイプルは納得した。

 

「結局フレデリカは小鳥のスキルは使わなかったけど……見た目から考えるならバフかデバフを得意としてるのかなあ」

 

「そうなの?」

 

「ただの予想だけどね。ほら、たとえばマイとユイの熊なんかと比べると攻撃系って感じしないでしょ?」

 

「確かにどっちかっていうとサポートって感じかも!」

 

「フレデリカさんもペインさん達と5人で動くときは魔法関連のサポートは殆ど私だーって言ってるからなぁ」

 

「モンスターを仲間にしたら色々変わってくるよねー」

 

「そうだね。得意なところを伸ばすか、穴を埋めるか……」

 

3人は結局、ここで考えていても仕方がないと外に出ることにした。

フィールドの情報はざっくりと手にしているものの、今の3人がどうしてもクリアしたいようなイベントは見当たらなかった。

そうしてサリーとセイバーがまとめた情報を3人で眺めながら、今日の行き先を決める。

 

「メイプルはどこか行きたいと思う所あるか?」

 

「うーん……海は行ったし、森も火山も行ったし。んんん、景色いいところだと……」

 

「完全に観光気分だね……うん、ならあっちこっち行ってみる?」

 

サリーはメイプルの様子を見てくすりと笑うと、レベル上げに有効なエリアや、イベントが多いエリアなどの攻略情報を閉じる。

 

「いいの!?やったー!七層はね、いろんな綺麗なところがあってね!」

 

すると、今度はメイプルがまとめた情報を提示する。サリーのそれとは違って、綺麗な景色や見られるかや可愛らしい動物がいるかなど、フィールドを楽しむための情報が並んでいる。

 

「なるほど。でもエリアごとには結構距離があるし、移動手段がいるかな」

 

「【暴虐】だと行きにくい場所もあるし……急ぐってなるとセイバーに乗せてもらう?」

 

「また俺?というか、【暴虐】を移動手段の1つにするとかずっと【暴虐】の姿を維持しないといけないし、仮にそれを解いてしまったら2回目以降は変身できないから面倒でしょ」

 

「ま、そんなことだろうと思って、いいものを準備しておいたよ」

 

「……?」

 

メイプルはそうやってもったいぶってにこにこと笑顔を見せるサリーの後をあれこれ予想しながらついていくのだった。

 

 

 

「おおー!はやーいっ!」

 

「掴まっててよメイプル!落ちても大丈夫だろうけど!」

 

「いやいや、また乗り直すの待つの面倒だから出来れば落ちないでくれ」

 

少し後そこには馬に乗るメイプルとサリー、セイバーの姿があった。馬はフィールドで手懐けて、町の施設に預けておくことができるのだ。一定の【DEX】がなければ乗りこなすことができないため、メイプルはサリーに掴まるようにして2人乗りである。セイバーはその隣を1人で乗っている。

 

「2人で乗るとスピード落ちるけど……いい馬を捕まえてきたからなかなか速い!」

 

「さっすがサリー!ありがとう!」

 

「それでもお前らに合わせないといけない俺にも感謝して欲しいぜ」

 

「それは当たり前でしょ。それとも、レディが2人もいるのにアンタはこんな所に置いて行くつもり?」

 

「は?レディ?おっかしいなぁ。そんなのメイプルしかいないけど……」

 

次の瞬間、セイバーの脇腹にサリーのキックが炸裂した。

 

「ごふあっ!?」

 

「死ね!!このノーデリカシーが」

 

「すんませんでした」

 

「あ、そうだメイプル。もうすぐ道悪くなるから落ちないでよ」

 

「お、落ちないよっ!あ、そっち右!」

 

「オーケー!」

 

メイプルの案内に合わせて、2人がそれぞれ馬の向きを変える。そんな3人がやってきたのは、見渡す限り広がる平原だった。高台から見下ろすと、中央には川がゆったりと流れており、数多くの仲間にできるモンスターがいるのが分かる。

 

「なるほど、いかにもメイプルが好きそうな場所だな」

 

「この辺りは好戦的なモンスターは湧かないしレベル上げはできないけど、くつろぐならちょうどいいよね」

 

「来たことあった?」

 

「いや、情報だけ。って言っても情報を集めてるうちに皆もう仲間のモンスター決めちゃったんだけどさ」

 

「思っていたより皆早かったからなぁ。まぁ、それだけピンときたモンスターと早く出会えたって訳だけど」

 

3人は馬から下りると、平原を歩いていく。そこにはサリーが手懐けた馬や、牛や水鳥など多様な動物がそれぞれに過ごしている。

 

「うう……皆連れて帰れないのが残念だなあ」

 

「できたらやってた?」

 

「本当に全部は無理だけど可愛い子は連れて帰りたいかも」

 

可愛いモンスターはいればいるだけいいと、メイプルは呼び出したシロップを抱き上げながらにこにこ笑顔を見せる。

 

「一応レアモンスターは探しておこうかな。いないエリアはないっぽいし……」

 

「情報は大事ってやつだね!」

 

「……ほら、このエリアなら私は攻撃されないし遊んできたら?」

 

すぐにでも平原を駆け回りたそうにしているメイプルを見て、少し可笑しそうにサリーが言うと、メイプルは照れたように笑ってから駆け出していった。

 

「兎さーん!まーてー!」

 

「……あれは追いつけなさそうだなあ」

 

「仕方ないよ。メイプルの足が遅すぎて擬似的な兎と亀になってるから」

 

兎の群れを追いかけるメイプルを見てセイバーとサリーはそんなことを思うのだった。

 

セイバーとサリーでしばらくここにいるモンスターを観察しつつ、景色を楽しんでいた。

するとそこに1人の女子が歩いてきた。

 

「セイバーお兄ちゃん?」

 

「ヒビキ、なんでここに……」

 

「えっと、私もここの動物と触れ合いたくて……」

 

「ヒビキ、ここに来るのは初めて?」

 

「ううん。つい数日前にここを見つけて以降、ミクと一緒に遊ぶためにここに何日か来てますけど……」

 

「何かレアモンスターとかの情報は知ってるか?」

 

「そんな話は聞いてないですね」

 

「そっか。残念」

 

それからサリーとセイバーも本格的に草原でゆっくりしながら探索していた。だが、透き通った川の底には魚が泳ぎ回っていたり、そらには鳥が飛んでいたりするものの、特に何かイベントがある様子はない。

 

「ふぅ、何もなしか。純粋にモンスター探しのための場所なのかな?」

 

「どうもそうっぽいな。おーい!メイプルー?」

 

メイプルは今何をしているか聞いてみると、返事は返ってくるものの姿が見えない。

2人は不思議に思いつつマップを確認して、メイプルのもとに歩いていく。さらにヒビキも2人の後を追った。

 

「ああ……分かった」

 

「これはいつも通りの展開だな」

 

サリーが歩いて行った先にはもこもことした球体が並んでいる。この玉羊という名のモンスターはその名の通り羊毛によって玉のようになっている。そしてその群れの中に心地よさそうにしている羊毛を生やしたメイプルが埋もれていた。

 

「完全に同化してて最初分からなかったよ」

 

「えへへ、でしょー?この子たちたまに動くんだけど、その時ポンポン跳ねさせて一緒に運んでくれるんだよ!」

 

「……それ本当は轢かれてるだけじゃない?」

 

メイプルがおいでおいでという風に手招きをするため、3人は玉羊に刺激を与えないようにしつつメイプルの羊毛の中に入る。

もうこの過程も慣れたものだ。

 

「たまにはのんびり過ごすのもいいよね!」

 

「ふふっ、メイプルはだいたいそうじゃない?」

 

「ええー?そんなことないと思うけど」

 

「いや、マジでのんびりしてる。その中で突然変異を起こしてどんどん進化してるだけ」

 

「えぇー」

 

「っと、のんびりもしてられないかな」

 

サリーが玉羊が動き出すのを感じてメイプルの羊毛の中に体を埋めて、外にすっぽ抜けてしまわないように3人を糸によって固定する。

 

「【身捧ぐ慈愛】!念のため使っとくね」

 

「ん、ありがとう」

 

4人が準備を終えたのとほぼ同時に、羊の群れが大移動を始め、平原を駆け回り始める。

それに合わせて、自分で走っていないメイプルの毛玉はボールを蹴るようにして前に飛ばされぐるぐる回転する。

ダメージは受けないが、こうも回転させられては目も回るというものだ。

 

「ちょっ……メイプル!滅茶苦茶回ってるけど……」

 

「うぇぇ、さっきまではもっとゆっくりだったのに……」

 

「楽しいけどやっぱりちょっと目が回ります〜」

 

メイプル以外の3人は中途半端なタイミングで糸を外して放り出されるとダメージを受けるかもしれないため、このまま転がされるしかなかった。

そうしてしばらくしたところで、ガサガサと音がしたかと思うと、何かにぶつかったのか衝撃が伝わってきて、メイプルの毛玉が停止する。

 

「こんなにぐるぐる回ったのは初めてかも……」

 

「そう、だね。ごめん、流石にちょっと休んでから出るかな」

 

「うん、私もそうする……」

 

「俺も賛成だ」

 

「私もそうさせてもらいます」

 

上下もよく分からなくなる程に転がされた4人は、気分が落ち着いてきたところで、ぽんっと毛玉から顔を出す。

すると、目の前には小さな泉が一つあり周りは木々で溢れる森の中だった。周りは深い茂みに覆われていて、メイプル達が聞いたガサガサという音はこれを無理やりかき分けたものだと分かる。

玉羊達は泉の水を飲んでおり、大移動は終わったようである。

 

「結構移動したっぽい?」

 

「まあ、あれだけ回転してたし相当進んだとは思ったけど……んーと、もう平原の外に出ちゃってるね。それにしても少し移動しすぎな気もするけど……」

 

「あんなに広かったのに!?羊って速いんだね……」

 

「速いっていうよりどっちかって言うとメイプルが転がりすぎなんだよなぁ」

 

マップ上では広い平原を抜けてそこからもさらに進んだ森の中にいることになっている。

真っ直ぐに進めばもう少し時間もかかりそうなものである。

 

「せっかく運んできてもらったし、この辺りも見ていかない?」

 

「うん、いいよ。もうちょっと休むのも兼ねてね」

 

サリーはメイプルの毛を刈り動きやすくすると4人で泉の方へ歩いていく。

 

「近づいても逃げないね。一応仲間にすることもできるんだ」

 

「もう連れて帰ってあげられないんだよね。ふわふわでかわいいのになあ」

 

「仕方ないよ。俺達4人共パートナーいるし」

 

メイプルとヒビキが玉羊に抱きつくようにしてふわふわの羊毛の感触を味わっていると、それに反応したのか玉羊がその丸い体をぶるんと震わせる。

 

「わっ!?わわわっ!」

 

「え?きゃっ!!」

 

2人はそのまま弾かれてバランスを崩し、後ずさったところでバシャンと泉に落ちてしまう。

それに驚いて玉羊が逃げていく中、サリーはさっと泉に近づくとメイプルに糸を繋げて釣り上げる。

 

「もう、大丈夫?メイプル」

 

「ヒビキもだ」

 

「うん、びっくりしたけど大丈夫だよ」

 

「私も平気です」

 

お礼を言うメイプルとヒビキを地上まで引き上げたところでサリーはあることに気づく。

 

「2人共、水の中で何か落とした?」

 

「え?大盾もあるし……短刀も……うん、指輪もあるよ!」

 

「私もマフラーとマイクユニットはありますし、指輪も無事です」

 

「ほら、3人共、見てみて」

 

サリーに促されるままに泉を覗き込むと、その底にキラリと光る何かがあった。

 

「これくらいなら潜って確認できるし、ちょっと待ってて」

 

サリーは泉に飛び込むと、光っている何かを手にとって戻ってくる。

 

「よっ、と!ふぅ……」

 

「おかえり!えっと……宝石?」

 

「いや、何かのキーアイテムかな?」

 

サリーの手の中には白い鉱石でできた球体があった。それはつやつやしており、うっすら光っているようにも見える。

 

「とりあえずアイテム説明見てみようか」

 

【白の鍵】

とある扉を開けるための3つ鍵のうち1つ。

 

「……どこで使うんだろう?」

 

「分からないけど……多分他にも似たようなものがあるんじゃないかな。ほら、鍵の1つって書いてあるし」

 

「うう、こんな小さいの探すの大変そう」

 

「ヒントを探さないとね。今回はなんか……よく分からないうちにたどり着いたし……」

 

「もしかするとここと同じような場所があと2箇所あるのかも…」

 

ここに来た経緯を思い出して、サリーは少し思うところがあるようで思考を巡らせる。

 

「……移動するモンスターは他にも何種類かいるはず。だからさ、探索ついでに他のモンスターも何種類か確認してみない?」

 

「賛成賛成!それでもう1つ手に入ったら予想が当たったってことだもんね!」

 

「そうそう、目的がもう1つ増えたってことで」

 

「そうだ、ヒビキも来る?」

 

「お兄ちゃんや皆さんが良いなら良いよ!!」

 

4人は新たに宝石を見つけることを目標にして、探索という名の観光を続けるのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと鍵探し

前回、3つの鍵の内の1つを手にしたセイバー、メイプル、サリー、ヒビキだったが、メイプルが羊毛を生やした状態で転がされたためにかなり遠い所に来ていた。

 

「まずは馬のところまで戻らないとダメだよね」

 

「でもかなり距離がありませんか?メイプルさん、結構転がっちゃったから」

 

不安になるヒビキを他所にサリーは得意そうな顔だった。

 

「ふふふ、そこは問題なし。見てて」

 

サリーがインベントリから取り出した笛を吹くと、少しして茂みをかき分け馬がやってきた。

 

「おおー!すっごい!それで呼べるの?」

 

「そうだよ、どこにいてもすぐに来てくれるから便利だね」

 

「空飛んでばっかりだったから分かんなかったけど、結構乗ってる人もいるの?」

 

「ああ、移動手段としては便利だからな。多分、これから使う人が増えていくと思うよ」

 

馬の種類によって速度や走ることができるエリアに違いがあるため、最適なものを見つける必要がある。

 

「割とどのエリアにも移動するモンスターはいるんだが、どこから行くべきだろ……」

 

「あ、もしそのモンスターがいるなら海とか?結構探索したし、場所を絞れると思う!」

 

「いいね、そうしてみよっか」

 

「私も賛成です!」

 

サリーはメイプルに馬に乗るよう促し、ヒビキはセイバーと共に乗ることになった。それから4人は森の中を馬で駆け始める。

 

「こんなに速度を出して大丈夫なんですか?」

 

「ぶ、ぶつからないっ?」

 

「だーいじょうぶ。結構練習したからさ!」

 

「まぁ、慣れてしまえば結構楽だけどね!」

 

メイプルとヒビキの心配は杞憂だったようで、茂みを飛び越え、木々の隙間を抜け、まるで平地を走っているかのようにサリーとセイバーの馬は森を抜けていく。

 

「これならすぐ着きそう!」

 

「用意されてるものは使わないとね!」

 

結局一度も事故は起こらずに4人は海までたどり着いた。

 

「気をつけてね。どこかから蛸が狙ってるんだよ」

 

「メイプルに触手くれたやつだよね?どうだった?」

 

「……?生でも美味しかったよ!」

 

「……は?」

 

「嘘ですよね?」

 

「嘘じゃ無いよ」

 

メイプルがそう言うとサリーに額をぴしっと指で弾かれる。

 

「もー、話が外れてる。今聞いているのはボスの強さの話。急に捕まったんでしょ?私が捕まるとまずそう?」

 

「洞窟の中は危ないかも。すごい狭いし……」

 

メイプルは少し恥ずかしそうにしながら答える。セイバーは烈火か、最光か、狼煙であれば万が一捕まっても逃げることができる。サリーは普通の攻撃なら捕まることはないが、もし回避不可の命中時連れ去りギミックなら危険に晒されるだろう。ヒビキは蛸の拘束力次第では一応イグナイトでステータスを上げれば抜けられるだろうが、それを発動する前に締め上げられれば恐らく逃げられなくなる。

 

 

「メイプルが言ってた島の近くには行かないとして、【身捧ぐ慈愛】使った状態で真上にいてくれる?」

 

「おっけー!今回もシロップに乗って待ってるよ!」

 

メイプルはサリーを確認できるようにシュノーケルをつけつつ、シロップを巨大化させ海へと出る。

ある程度深くなったところで、サリー、セイバー、ヒビキがシロップの上から水の中に飛び込む。因みにセイバーは剣を流水にして水中での動きが速くなるようにした。

メイプルはその様子を確認しつつ範囲から外れないようにシロップを動かす。

 

「ん……」

 

3人はメイプルの展開している【身捧ぐ慈愛】の範囲を確認すると、魚の群れを探す。

海中は色とりどりの珊瑚が広がっており、本来なら同時に生息していないような魚たちが泳ぎ回っている。ところどころ隙間を深くまで潜っていけそうな場所もあるが、闇雲に探索するわけにもいかない。

そして、3人は移動し続ける熱帯魚の群れを見つけて、ドルフィンキックでぐんとその方向に近づいていく。セイバーとサリーは【水泳】のレベルが高いおかげでそのまま魚に追いつくことも容易い。

 

「っ……」

 

ただ、あまりの速度にメイプルが追いつけない。

範囲が広いとはいえ積極的に離れていくものを守る程ではないのだ。

今も時折鋭い牙を持った魚が突撃してきたり、珊瑚がまるで蛸の触手のように体を成長させて伸ばし足を搦め捕ろうとしてくる。

 

サリーとセイバーは仕方ないと、さらに加速してモンスターを振り切りながら魚群を追う。ヒビキは【水泳】や【潜水】のスキルを取っていたが、それでも2人ほどでは無いのでどちらかと言うと珊瑚や魚を引きつけて迎撃し、2人にターゲットが向かないようにしていた。

 

その上で追いついてきたモンスターだけ、サリーは風の刃で、セイバーは流水を振るって、発生する斬撃で迎撃していった。

 

そうしてしばらく熱帯魚を追っていると、今までのぐるぐると同じルートを泳ぐ動きから変わって、すっと一つの珊瑚の裂け目に入っていく。

2人は慎重にそこへ近づいていき、インベントリから取り出したライトで奥を照らす。魚の影は見えるものの、奥がどうなっているかはよく見えない。かなり深そうだと2人は一旦浮上して、メイプルを呼び、ヒビキが追いつくのを待つ。

 

「サリー!大丈夫だった?ごめんね、追いつけなくて」

 

「大丈夫大丈夫、こっちから離れていってたし仕方ないよ」

 

「セイバーお兄ちゃん、サリー姉さん!追いつけました?」

 

「あー、それなんだけど、取り敢えず状況だけ説明するよ」

 

2人はシロップに捕まった状態でメイプルとヒビキに現状を伝える。

 

「なるほどー、じゃあ私はこの真上にいたら大丈夫?」

 

「うん、お願いしたいな」

 

「まかせて!ダメージを受けてもいいようにポーション構えておくし……安心して探索に集中して!」

 

「私も行きましょうか?」

 

「いや、ヒビキはここに残ってくれ。出来れば探索速度を上げたい。もし俺達が探索していて後ろから襲われそうならそれに対応して欲しい」

 

「わかった!」

 

それから2人は海中へと戻っていった。

2人は裂け目の部分まで一気に潜ると片手にライトを持って裂け目を照らしながら奥へ入り込んでいく。

入り口が狭くなっているだけで、奥はトンネルのようになっており、珊瑚の隙間から入る光が熱帯魚の鱗をキラキラと光らせている。

2人は危険なものがないか確認しつつ慎重に進んでいく。すると行き止まりの部分に海藻と珊瑚に包まれるようにして石板があることに気づく。

 

「「……」」

 

2人はその表面を照らすと、海藻をかき分け、珊瑚を切り捨てて表面に書かれているものを確認する。

2人はそれを確認すると、画像として保存して浮上していく。

 

「ぷはっ!メイプル、収穫あったよ」

 

「おおー!どんな感じだった?」

 

2人がシロップによじ登ると、ヒビキも上がり、メイプルも早く聞きたいとばかりに寄ってくる。

2人はそんなメイプルに画像を見せる。それは七層全体をざっくりと描いた図だった。

そして、そのあちこちにマークが付いている。

 

「こんな感じ。クロムさんが言ってたドロップする地図ともまた違うみたいだし……別のイベントの探索に使うのは間違いないと思う」

 

「中々良く出来てる地図だよこれ」

 

「うんうん!うー、でも本当に多いね。鍵は三つって書いてあったし……」

 

「あれ?でも、これってさっきの泉ですよね?」

 

ヒビキはそう言って指を指す。

 

「うん。そこにもちゃんとマークがある。だからきっとこのマークのどこかが当たりで他はヒントになってるんじゃないかな」

 

ざっくりとした図というだけあって、エリアごとにマークが付いているという状態である。現状だと砂漠からジャングルまで総当たりで探すしかない。

 

「でも流石にこれ全部はキツいぞ?」

 

「うーん。一旦帰る?他の皆が何かを知ってるかもしれないし」

 

「確かに。いろんな所にイベントのきっかけがあるっぽいし、ギルドの誰かがちょっと触ってるかもしれないね」

 

4人は総当たりで七層を駆け回るくらいならばとギルドホームに帰ってみる。

ギルドホームの扉を開けると、カナデとマイとユイがテーブルで向かい合ってボードゲームをしているところだった。

 

「ん?ああ、お帰り皆。どう、遊んでいく?」

 

そう言いながら片手間で打った次の一手でユイとマイがぐったりとして白旗を上げる。

 

「うーん、今日は何か知ってることがないかちょっと聞きたくて来てみただけなんだ」

 

メイプルは3人に事情を話す。すると、カナデかが思い当たることがあるという風に数回小さく頷く。

 

「それなら、町の図書館にらしい話があったかな。昔栄えた町がいくつかあって、そこでは今よりももっと上手くモンスターと心を通わせていたとか……町の場所はこの画像だとこの辺り」

 

そうしてカナデはいくつかのマークを示す。そのうちの1つは泉があった場所だった。

 

「おおー!有力情報だよそれ!」

 

「本当、よく知ってたね。図書館って言ってもあれかなり本あるでしょ?」

 

「うん、まあ全部読んだからね」

 

「「ぜ、全部ですか!?」」

 

マイとユイの声が綺麗に揃ったところで、カナデは次のボードゲームの用意を始める。

 

「結構面白いし、イベントのヒントになることも書いてあったりするから自分でも見てみるといいよ。ふふ、時間はかかるだろうけど」

 

「いやいや、俺らには到底無理だって。そこまで集中力保たないし」

 

なら何故カナデは全部読めているのか、それは個人の能力の問題だった。

処理能力の差を感じて、マイとユイがへなへなと椅子に体を預ける。

 

「お姉ちゃん、やっぱり勝てる気がしなくなってきたんだけど……」

 

「う、うん……もともとダメそうだったけどね」

 

「じゃあいい報告期待してるよ?で、戻ってきたら遊ばない?」

 

「いいよ!ばっちり攻略して戻ってきたら今度こそリベンジだね!」

 

「メイプルも。だって1回も勝ててないでしょ?」

 

「でも楽しいよー。カナデ、ゲームみたいにレベル調整してくれるし!」

 

「えぇ、そんなコンピューターみたいな」

 

サリーも驚いたようで、カナデの方に本当かと目を向ける。それに対していつも通り少し笑みを浮かべて頷くのだから、サリーも納得する。カナデならできてもおかしくはないと思っているのだ。

 

「2人が今やってるのはレベル1の僕だね」

 

「レベル1から強すぎですっ!」

 

「レベル10まであるんですよね……?」

 

「因みに、セイバーだけは僕にレベル5を出させたけどね」

 

「「本当ですか?」」

 

「セイバーお兄ちゃん凄い!」

 

「それでもカナデには勝てなかったけどな」

 

「あはは、じゃあ行ってくるね!2人共、頑張って勝ってね!」

 

「「頑張ってみますっ」」

 

また遊びだした3人に見送られて、今度は確かな情報を持ってフィールドへと向かうのだった。

 

「さて着いたわけだけど……」

 

「ここ上るんだよね?」

 

「けど、これはかなり高いなぁ」

 

3人の目の前にあるのは雲を貫くほどの高さの巨木である。その巨大な幹には蔓が巻き付いていたり、木の皮が少し剥がれて足場になっていたりしていて、なんとか上ることができるようにルートが作られていた。

ただ、上を見ると海のモンスターとは比べものにならないくらい凶暴な怪鳥達が飛んでいるのが眼に映る。

 

「……普通に上るのは?」

 

「うっ、ちょっと難しいかも」

 

「なら強行突破だな」

 

「えへへ、その言葉を待ってましたっ!」

 

「3人共、どうするつもりですか?」

 

メイプルは装備を変更すると周囲に2枚の盾を浮かべ、巨大化したシロップの背中に【天王の玉座】を設置する。

メイプルは玉座に座ると【身捧ぐ慈愛】を発動し、兵器を展開する。さらに装備を白の方に変えダメージ無効スキルを発動する準備も万端である。

 

「3人共も乗って乗って!落ちないようにね?」

 

「私は空中に足場も作れるし大丈夫」

 

「俺も一応飛べるからな。心配があるならヒビキくらい」

 

こうして力を合わせ浮遊要塞と化したシロップは足場などお構いなしに高度を上げていく。それに反応してギャアギャアと声を上げて怪鳥が3体近づいてくる。

 

「【攻撃開始】!【ピアースガード】」

 

「【飛拳】!」

 

「錫音抜刀!【音弾ランチャー】!」

 

「朧【拘束結界】!」

 

3人の攻撃に合わせて、サリーが朧に指示を出し、怪鳥の動きを停止させる。動きが止まってしまえばそこまで狙うのが上手くないメイプルでも外しようがないし、それでも倒せないモンスターはセイバーとヒビキが倒していく。

 

「ありがとう!鳥は飛び回るから当てにくいんだよねっ!」

 

「どういたしましてっ、と【サイクロンカッター】!」

 

「シロップ【精霊砲】!」

 

「ミク【電撃波】!」

 

「ブレイブ【火炎放射】!」

 

メイプル、ヒビキ、セイバーもそれぞれのモンスターに指示を出して自分の攻撃とパートナーの攻撃の二重の攻撃で怪鳥を焼き払う。

怪鳥も負けじと攻撃するが、念には念を入れて【ピアースガード】まで使って貫通攻撃を受け付けなくなったメイプルにダメージが入るはずがなかった。

不落の浮遊要塞にただ凶暴なだけの鳥が敵う道理はなかったのである。

 

「よーし撃破!」

 

「これなら大丈夫かな。ガンガン進んで一番上まで行こう」

 

「よーし。さっさと攻略だ!」

 

そんなことを話しているうちにも怪鳥は大きく口を開けてどんどん群がってくるが、どちらが餌になるかはもう明白である。

セイバー達はレベルを1つ上げて、頂上にたどり着くことに成功した。

幹に見合った巨大な木の葉は4人が乗っても問題ない強度であり、木の中心には大きな鳥の巣が一つある。4人は小細工なしで、そのまま正面から近づいていく。

 

「来るよ!」

 

「おっけー!」

 

「いっくよー!」

 

「心が躍るな!」

 

3人はシロップから降りると木の葉の上に立ち、サリーは短剣を、ヒビキは拳を、セイバーは翠風を構え、メイプルは巣の方向に砲口を向ける。

そして、その後4人の身の丈ほどもある羽がふわりと落ちてきて、それに続くように怪鳥が現れる。その体格、雰囲気にヒビキ以外の3人には覚えがあった。

 

「第2回イベントの時と同系統!攻撃方法も似てるかも!」

 

「なるほど!じゃあ強くなったところを見せてあげないとっ!」

 

「それに、ほら頭の所!」

 

サリーが指差した怪鳥の首には緑の宝石がついた首輪の様なものが見える。それは二人が目的としている宝石に違いなかった。

 

「なるほど、ようするにアレを倒せって事だな」

 

「勝つぞー!」

 

「もちろん!」

 

「行きます!」

 

4人が意気込み、怪鳥が金切り声を上げたところで戦闘がスタートした。

 

 

メイプルの【身捧ぐ慈愛】がある限り3人も強気に出ることができる。背後から響くいつも通りの銃声を聞きつつ、スキルを発動する。

 

「【水の道】!朧【拘束結界】!」

 

メダルスキルのレベルを上げることで手に入ったこのスキルを使用すると、サリーの足元から重力に逆らって斜め上に向かって太い水の柱が伸びていく。サリーはざぱっとその中に入るとぐんと加速して泳ぎ、一気に飛び出して回転しつつ怪鳥の肩口から腹部にかけてを切り裂く。

 

「翠風抜刀!【超速連撃】!ブレイブ【火炎竜巻】!」

 

「【我流・雷撃槍】!ミク【閃光】!」

 

セイバーが翠風を抜いてから超スピードでの連撃を放ち、それは怪鳥を怯ませ、そこにブレイブとミクの遠距離射撃が怪鳥を襲う。最後にヒビキの強烈な一撃が決まっていく。

 

「【鼓舞】!シロップ【大自然】【茨の枷】!」

 

メイプルは防御よりの装備のため、3人の攻撃のサポートに回る。

木の葉の間から幹に巻きついていたような蔓が伸び、怪鳥を絡みつく。さらに続いて伸びた茨がダメージを与えつつ、麻痺状態を与える。

朧のスタンから、シロップの麻痺へ繋がり、動かせないまま一方的に攻撃することができる。

 

「【クインタプルスラッシュ】!」

 

「【トルネードスラッシュ】!」

 

「【インファイト】!」

 

サリーは【ドーピングシード】をかじり【STR】を限界まで上げると、メイプルが蔦で作ってくれた足場を駆け上がり、凄まじい勢いでの連撃を顔に叩き込む。

セイバーの斬撃やヒビキの連続パンチも怪鳥へ着々とダメージを与え、そこに入ったメイプルの銃撃もきっちりと決まりダメージは加速していく。

ここでようやく麻痺が解けて、茨と蔦を引きちぎろうとするが、メイプルもそうはさせない。

 

「シロップ【精霊砲】!【眠りの花弁】!」

 

今度は甘い香りが漂い、ピンクの花弁が散る。それに合わせて怪鳥からゆっくりと力が抜け、眠ってしまう。

サリーは一旦攻撃をやめて、イズ特製の爆弾を取り出す。

 

「っと、シロップ強くなったね。すごい拘束力」

 

「ブレイブがそれ喰らったら無力化されちゃいそうだぜ」

 

「ミクももっと強しないと!」

 

「動けなかったら私が遅くても追いつけるからすごい助かるんだー!よっと!」

 

メイプルは玉座から立ち上がると装備を黒の方に変更しながら近づいていく。

玉座の悪属性封印はメイプルにとって大きな枷にもなっている。そこから立ち上がったということは一気に攻撃に転じるつもりだということだ。

 

「【全武装展開】【水底への誘い】【捕食者】!」

 

「うわっ」

 

「ここでやるか!」

 

「何回見ても慣れないですよ」

 

背中からは天使の翼を生やし、全身を強力な兵器で囲み、両脇に化物を従え、左手は黒い靄を放つ5本の触手になっている。

そんなものが近づいてきたら誰だって咄嗟に逃げるだろう。逃げはしないものの、3人も改めてその様子を見ておよそ味方のそれではないと思い直す。

 

メイプルはぎりぎりまで接近すると触手で顔を包み込むのに合わせて、両脇の化け物に攻撃させ、さらに追撃する。

 

「【毒竜】【滲み出る混沌】【攻撃開始】!」

 

それぞれの攻撃が激しくダメージエフェクトを散らし、サリーの設置した爆弾も起爆していく。

 

「やっば……」

 

「こいつは人間の戦い方じゃねーな」

 

「でも、メイプルさんはこうじゃないと!」

 

素直な感想が出てくるばかりの3人の前で、もう一度バクンと触手に頭が包み込まれて、茨と蔦に包まれた怪鳥の体は爆散した。

 

「よーしっ!まだまだ全部当てれば勝てるっ!」

 

「ははっ、頼もしいね。ほら、宝石見失う前に拾っとこう」

 

サリーにそう言われて、メイプルはバシャバシャと毒を跳ねさせながら撃破後に落ちている首輪のもとに急ぐ。メイプル達にとってはフラフープ並みの大きさなため、すぐにそれは見つかった。

首輪を手に取るとそれは砕けて、手の中には緑色の宝石だけが残った。

 

「2つ目の鍵だよ皆!」

 

「うん、いいね。どうする?次も行く?」

 

「【悪食】はもう使えないけど……3人は大丈夫?」

 

「もちろん。本当は私がダメージを出す役なんだよ?戦闘になってもやれるやれる」

 

「俺もまだまだ行けるぜ」

 

「私も!!」

 

「相棒達にも期待してるよ!」

 

メイプルがそう言ってサリーやヒビキの肩に乗っている朧とミクとセイバーの近くに浮くブレイブの頭を撫でてやる。

 

「シロップも強くなってたみたいだけど、朧も結構レベル上がってスキルも増えたからね。次は見せてあげる」

 

「うん、楽しみ!」

 

「俺のブレイブも忘れてもらっちゃ困るぜ」

 

「私のミクもだよ!」

 

こうして、4人は宝石を持つ怪鳥をさっくりと倒すと次の目的地に向かうのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと浮遊岩

セイバー達4人の次なる目的地は何らかの力でふわふわと岩石が浮かんでおり、強風が吹いているエリアである。大地をそのまま引っぺがしたようにして浮かぶ巨石群は死角も多く、またプレイヤーも影響を受けているのか、重力が弱くなったようなふわふわとした動作になる。

 

「やっぱりちょっと回避しにくくなるか……メイプル、慣らしてから進んでいい?」

 

「いいよー!ここすごいね、なんだか変な感じ」

 

「私は多分大丈夫。動きが鈍ってもこのくらいなら」

 

「取り敢えず今回はこれにするか。月闇、抜刀!」

 

セイバーは月闇を抜き、ヒビキはその場で演舞をして感触を確かめる。

メイプルはぴょんぴょんと飛んでは、空中で羽を落としたようにゆらゆらふわふわ落ちてくる。

 

「ここは前のイベントみたいに【星の力】みたいなのもないし、浮かんでる時間は減らさないとね」

 

サリーはしばらく動作確認をしたのち、これなら問題ないと歩き始める。

 

「風が強い……地面を歩いてないと飛んでいきそうだね」

 

「言ってたら飛んできたよ!」

 

「え?うぇっ!?」

 

「マジかよ!」

 

4人の進行方向から強風に乗って猛スピードで飛んできたのは巨大な岩石である。

サリーは動作確認が生きたのかすっと避けることができ、セイバーとヒビキは拳と剣で岩を破壊するが、メイプルにそんな器用なことができるはずもない。

大きな音を立てて、岩石と正面衝突しそのまま吹き飛んでいく。メイプルは数回バウンドした後べちゃっと別の岩石にぶつかって地面にぽとりと落ちた。

 

「メイプル!は、派手に飛んだね……」

 

「まさかここまで飛んでいくとはな」

 

「び、びっくりしたあ……急にあんなの飛んでくると思わなかったよ」

 

何ごともなかったように体を起こすメイプルを見て、サリーとセイバーもいつも通りだと安心して手を差し伸べる。

 

「風に乗って飛んでくるみたいだから風の吹いてるくる方に注意してるといいんじゃないかな」

 

「うん、分かった!でも防御貫通じゃなくて安心したよー。これなら【身捧ぐ慈愛】を使ってても大丈夫!」

 

「ありがとう。躱せるだけ躱すけど、保険があると助かる。動きにくいエリアだしね」

 

「今は右から風が吹いてくるからこっちだね!」

 

「また来ました。今度は礫です!」

 

サリーは2本のダガーを構えて集中力を高める。正面から真っ直ぐに飛んでくる石の礫なら今までにも何度か避けてきた。1つは短剣で弾き、1つは体を逸らし、1つは飛び退いて回避する。

その度にサリーが纏う青いオーラは大きくなっていき、【STR】が上昇していく。

 

セイバーは闇の壁を作ると礫を防ぎ、それでも飛んでくるようであれば叩き切った。

 

ヒビキは格闘技で培った反射神経で回避していく。

 

「止まったな」

 

「なんとか避けれました〜」

 

「ふぅ……」

 

「流石だよ3人共!」

 

「まあボスまでに能力は上げきっておきたいからさ。ちょっと集中して避けてみた」

 

もうこのエリアの体の動きの変化にも慣れたようで、サリーはそれからも飛んでくる岩や石をすいすいと避けていく。ガンガン音を立てながら岩が直撃しているメイプルとは対照的だった。

セイバーとヒビキも飛んでくる物に応じて破壊するか躱すかの2択から選択し、上手く凌いでいった。

 

「っと、モンスターだよ」

 

4人の目の前に現れたのは、白く輝く風が集まってできた狼と鷹だった。

目の部分だけが赤く光っており、普通の生き物でないことは確実である。

 

「朧【影分身】【幻影】!」

 

サリーの指示によって、サリーの姿が5つに分身したかと思うと、それがさらに倍に増える。

それらはそれぞれに狼と鷹に迫っていくが、2体はその体を震わせて風の刃を生み出すと、分身を切り裂いていく。

 

「一瞬隙ができれば十分!【ピンポイントアタック】!」

 

サリーが狼の横に回り、すっと首元にダガーを差し込む。すると、糸が解けるように風でできた体は霧散する。

 

「弱い……?【跳躍】!」

 

サリーは高く跳ぶと、そのまま分身に気を取られている鷹にダガーを振り下ろす。

すると、鷹もまた一瞬にして霧散していく。

 

「ってことは、数で来る!」

 

1体1体が弱いなら、脅威になるだけの数を用意するのは当然のことである。

サリーがそれに気づくと同時、あちこちで風が渦巻いて、狼の群れが地面を埋め尽くし、鷹が空から4人を狙い出した。

 

「メイプル、セイバー!一対多は任せる!」

 

「おっけー!【全武装展開】!【攻撃開始】!」

 

「行くぜ。ブレイブ【邪悪化】からの【闇のブレス】!【月闇居合】!」

 

あちこちから襲いかかる風の刃と石の礫を銃撃で撃ち落としながら、メイプルはぐるぐる回って360度漏れなく攻撃する。

さらにセイバーは暗黒の龍となったブレイブと協力して迫り来る攻撃を打ち消し、その火力の高さで制圧していく。

 

とはいえかなりの数なため、風の刃も多少は抜けてくる。

 

「いたっ!?あっ、貫通!えっと【ピアースガード】!」

 

「こっちも数は減らすから!朧【渡火(わたりび)】!」

 

「【飛拳】!ミク【電撃波】!」

 

朧が放った炎は近くの狼に当たるとパチパチと音を立てて爆ぜ、近くのモンスターに燃え移っていく。そこまで威力は高くないが、風でできた狼を散らす程度なら容易である。ヒビキもミクの電撃で鷹を、自身は拳を突き出すことで発動する衝撃波で狼を倒す。

 

「ありがとー!じゃあこっちも……」

 

メイプルは緑の洋服に装備を変更すると、【ポルターガイスト】を発動させ、レーザーをビームサーベルのように滅茶苦茶に振り回す。サリーが倒しにくい空中の敵もこれなら簡単に倒すことができる。

数が多いとはいえ、貫通でなくなればどうとでもなるメイプルがいる以上、そこまでの脅威にはならなかった。

 

「これで最後!」

 

セイバーは最後の1体を斬るとようやく終わった。

 

「ふぃー……ちょっとびっくりしたけど、そんなに強くなかったね」

 

「うん、ちょうど回避の回数も稼げてよかったかな」

 

「あ、そうだ!朧また分身増やせるようになったんだね!10人ってすごいよね」

 

「まあ【幻影】で増やした5人は【蜃気楼】に近くて、ダメージとか与えられない完全な囮なんだけどね」

 

「【影分身】はダメージ与えられますからね」

 

「じゃあさくさく行こう、また囲まれても面倒だし」

 

「さんせーい!」

 

「おーう!」

 

4人は少し足早により奥地へと進んでいくのだった。

浮いた岩を飛び移って、再びの狼の襲撃を切り抜けて。時折大岩に吹き飛ばされるメイプルを回収したりしつつ、4人は最奥へとたどり着いた。

いくつもの岩が浮かんだ平地には、渦を巻くように風が吹いていて、その中心に全身が風でできた巨人がいた。

 

「流石に一撃とはいかないだろうし、気合い入れていくよ」

 

「うん!任せて!」

 

「ここからは本気で行くぜ。【邪龍融合】!」

 

セイバーはブレイブと融合し、月闇の力を100%引き出す。

それからメイプルが銃口を向けるとともに、巨人も戦闘体勢を取る。すると巨人を中心に渦を巻いていた風がより強まり、浮かんでいた岩が動き始める。

 

「ちょっ!?私はそれ避けられないのぉおっ!」

 

金属の塊が硬いものにぶつかった音とともに、メイプルが跳ね飛ばされる。当然、襲い来る岩は一つではなく、メイプルは次の岩、また次の岩とピンボールのように跳ね回る。

 

「わ、わわわわっ!」

 

「メイプル!それは……ちょっと助けられないかな……っと、私も集中しないと!」

 

「行きます!」

 

サリーとヒビキは姿勢を低くしたり立ち止まったり加速したり、今日に岩を躱して接近する。セイバーは【金龍ノ舞】で飛んでくる岩を4匹の金龍に任せながら遠くから斬撃を飛ばして巨人を牽制した。

メイプルが滅茶苦茶にフィールド内を吹き飛んでいるため、【身捧ぐ慈愛】の効果範囲も当てにできない。

 

「朧【妖炎】!【火童子】!」

 

「ミク【閃光】!【電磁砲】!」

 

 

サリーが朧に命じるとサリーの体から青い炎が舞い散り、ダメージを強化する。さらに、ダガーからは炎の刃が伸びてリーチを強化する。

その間にミクが紫の光線と電気の砲弾で巨人にダメージを入れてヒビキの方に意識を逸させる。その間にサリーが飛びかかり、ぐんと体を回転させて、巨人の放った風を切り裂くと、そのままの勢いで伸ばされた腕を深く切り裂く。

赤いダメージエフェクトと、朧が纏わせた青い炎が同時に弾ける。

 

「朧のMPもまだ大丈夫……っ!?」

 

巨人の背後からレーザーと闇の龍が放たれるのを見てサリーは思わず飛びのく。

ただ、それはサリーではなく巨人にダメージを与えたようでダメージエフェクトが上がる。

 

「セイバーにメイプル?うわ、滅茶苦茶してるなあ……」

 

メイプルは岩によって跳ね飛ばされているが、ダメージは受けていない。そしてそれを利用してデタラメに高速移動し、【ポルターガイスト】でレーザーを中心に向けて適当にぶん回しているのである。時折兵器を爆発させ無理やり岩に当たりに行ったりしているためボスの風の塊も上手く当たらない。セイバーも攻撃は全て金龍がガードしているためセイバーにまで攻撃が届かず、そのため安全圏からの強攻撃を連続で放っていた。

 

「あの2人のアレはフィールドギミックかな……?ん、私は私のやれることをしよう」

 

セイバーとメイプルがダメージを稼いで狙われている今ならば隙の大きいスキルも使うことができる。そしてそれはヒビキも同じと考えたのエネルギーを右腕に一旦収束させていく。

サリーは片足に密着するとスキルを発動させて一気にダメージを与える。

 

「【クインタプルスラッシュ】【パワーアタック】!」

 

「【我流・火炎龍撃拳】!」

 

【妖炎】による追加ダメージと【追刃】による追撃、そしてその全てに影響する【剣ノ舞】とアイテムによるバフは手数を武器とする短剣とは思えないダメージを叩き出す。

さらにヒビキももう片方の足に火炎の龍を纏わせたパンチをぶつける。

ダメージエフェクトが収まると同時に巨人の両足が消えて、地面に倒れこむ。

 

「チャンス!」

 

「このまま一気に!」

 

サリーとヒビキは飛んでくる石の礫を避けつつ頭に近づくと、さらにサリーは短剣で滅多斬りにし、ヒビキは拳で滅多撃ちにする。

しかしそれを邪魔しようと大岩が猛スピードで迫ってくる。

 

「朧!【神隠し】!」

 

サリーがそう指示すると、ヒビキはサリーに触れ、2人の姿が消える。それは【瞬影】のように透明になるのではなく、ほんの1秒完全に存在しなくなるスキルだった。

存在しないものには当たらない。大岩の激突直前でスキルを使えば岩は何ごともなかったかのように2人のいた場所を通過する。

 

「よし、成功!朧【拘束結界】!」

 

今回も上手くいったとサリーとヒビキはさらに攻撃を加速させる。依然として戦闘フィールドを横切るように乱暴に振るわれるメイプルのレーザーのダメージとセイバーからの遠隔攻撃のダメージが蓄積していたこともあり、ボスは2人の連撃に耐えきることができずに残りHPが僅かとなる。

 

「良し、トドメ!」

 

「任せろ!【邪王龍神撃】!」

 

セイバーがトドメに暗黒龍と金龍の合計5匹の龍による攻撃を加えるとその場に強い風が吹き荒れて、浮いていた岩もその動きを止める。それに合わせてメイプルも地面に放り出されてサリーとヒビキのもとに転がってきた。

メイプルは当然無傷なため、少しふらふらしつつもちゃんと2人の方に歩いてくる。

 

「お疲れさま!朧の炎も色々できる様になったんだね。おー……ミィみたい」

 

「朧は炎と幻系担当で、私は水と氷かな。どう?【妖炎】で強化した剣。かっこいいでしょ」

 

「うん!忍者って感じ?岩もすり抜けてたし!」

 

「朧のお陰でまたどうしようもなくなった時に一回避けられるようになったかな」

 

「ヒビキちゃんも凄いよ。サリーのあの動きについていくなんて」

 

「はい!私も日々強くなりますから!」

 

「で、肝心のこれ!」

 

サリーが地面から赤い宝石を拾い上げる。それは巨人の目の部分だった。

 

「これで3つ揃ったな」

 

「あとはカナデが教えてくれた遺跡に行くだけだね」

 

「これで足りてるといいな。ボス討伐も結構大変だし……」

 

今のところ他に集めるものもないと、4人は遺跡に向かうことにした。現地に行かないことには足りないものがあっても分からない。

 

「じゃあ早速行こう行こう!何があるか楽しみなんだよね!」

 

「はいはい、じゃあまた馬に乗って」

 

「はーい!」

 

「それじゃあ遺跡にまでレッツゴー!」

 

いよいよ集めるものも集めきった4人は、遺跡に向かって馬を走らせるのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと遺跡

セイバーとサリーはメイプルとヒビキを乗せた状態で馬を走らせて、目的の遺跡にやってくる。石畳や家の残骸はあるものの、ほとんどが自然に飲み込まれてしまっていて、遺跡や廃墟というよりはほぼ森に近い状態だった。

 

「とりあえず手当たり次第探してみよう」

 

「分かった!早く見つかるといいなあ」

 

「流石にあるだろ。じゃないとマジで絶望物なんだけど」

 

「私もあると思います!」

 

4人は手分けして人工物が残っているエリアを歩き回る。すると探し物は案外早く見つかった。

 

「3人共!こっち来てー!」

 

メイプルが示すのは石の破片が散らばっている中で、唯一残った台座の様なものである。

そこには3つの窪みがあり、今の4人にとってそれが何を意味するかは簡単に察せられることだった。

 

「はめ込むよ?」

 

「うん、いいと思う」

 

「よっと!」

 

メイプル、セイバー、ヒビキが3つの窪みにそれぞれ宝石をはめ込むと、台座を宝石の光が覆っていく。それと同時に、勝手にブレイブ、ミク、シロップ、朧が指輪から飛び出した。

 

「シロップ?」

 

「朧?」

 

「ミク、どうしたの?」

 

「ブレイブ?」

 

不思議そうにする4人の足元に赤と緑と白の光が広がり、何度も体験してきた転移の感覚がやってくる。

強い光が収まって、4人が目を開けると、そこには動物が溢れる町が広がっていた。

ただ、町といってもそこに人がいる様子はなく、あらゆる動物やモンスターが共に過ごしている場所といった様子である。

4人がそんな光景を眺めていると、テイムモンスター達が勝手に歩き出してしまう。

 

「ミク、どこに行くの?」

 

「ど、どうしたんだろ?」

 

「とりあえずついていってみよう」

 

「多分行った先に何かあると思う」

 

ここに来たはいいものの、何をすれば良いかは分からない。ならばいつもと違う動きをしているブレイブ、ミク、シロップ、朧についていくのがベストと言える。

そうして歩いていくと、町と呼べる様な場所から少しずつ離れていき、4匹は輝く水が溜まった石造りの水場の前で立ち止まる。

 

「なんというか、大事な場所っぽい?」

 

「多分?普通の水じゃないみたいだし……」

 

4匹のテイムモンスターはそれぞれの主人の方を振り返る。どうやらこの水の中に入りたいようだった。

4人としても、拒むつもりはなく4匹の要求を受け入れて、持ち上げて優しく水につける。

 

「なんともない?大丈夫そう?」

 

「離すよ、浅いみたいだし」

 

「存分に浴びておいで」

 

「さて、どうなる事やら」

 

4人はぱっと手を離して、4匹を光る水の中で遊ばせようとする。すると、光は4匹を包んでいき、表面を覆って体が見えなくなってしまう。

 

「わーっ!?やっぱりダメだった!?」

 

メイプルが慌ててシロップを持ち上げるのに合わせて、サリーも朧を光る水から離す。

 

だが、ヒビキとセイバーは落ち着いており特に何もしなかった。

 

「大丈夫だと思いますよメイプルさん、サリーお姉ちゃん」

 

「ああ、多分これは……」

 

 

すると一際強い光がパッと放たれたとともに4匹は元に戻る。

 

「よかったー……ん?シロップ?」

 

「朧?」

 

「おめでとうミク」

 

「ブレイブ、よく強くなったな」

 

「「え?」」

 

 

するとシロップは甲羅の柄が少し変わり、真下の地面から草花が生え始めている。

朧は装飾が少し豪華になり、そして何よりゆらゆらと揺れる尻尾が1本増えていた。

ミクは体が一回り大きくなり、小鳥から鷹くらいのサイズになってさらに巨大な電気を纏わせていた。

ブレイブは体に鎧のような装飾が増え、体の一部にオレンジと赤の炎が燃え盛り、体色も赤一色からオレンジも加わっていた。

 

相変わらず4人に懐いている様子で体を擦り寄せてくる4匹をメイプルとサリーはそれぞれ抱き上げながら、顔を見合わせ、ヒビキは嬉しそうにミクを肩に止らせると頭を撫で、セイバーはブレイブの顔を優しく触っていた。

 

 

少しして、頭が回り始めた2人はようやく2匹がどんな状況に置かれたのかを理解し、シロップと朧の変化をしげしげと眺める。

 

「シロップちょっとおしゃれになったね!あと……大きくなった?」

 

「そっかー、尻尾増えるかあ……どこまで増えるかな?」

 

「ミクも立派になったね。私、とっても嬉しいよ!」

 

「ブレイブ、お前の新しい力を見るのが楽しみだ」

 

テイムモンスターを可愛がる4人にシステムメッセージが届く。

 

「進化……なるほど。新しいスキルが獲得できるようになったみたいだよ」

 

「おおー!進化、進化かあ……一緒に戦ったりしてたもんね」

 

「俺達3人は第2回イベントの途中からだから相当一緒に戦ったし、そろそろあるのかなと思っていたらやっぱり進化したな」

 

「私は皆さんよりテイムするのは遅かったですけど、それでも長い間一緒にいたからかな?大きく育ってくれて驚きと喜びで一杯だよ」

 

「立派に育ったなあ……えへへ、私嬉しいよー」

 

「ま、でもまだまだ先がありそうだけどね」

 

「そうなの?」

 

「ああ、進化のメッセージには十分に経験を積んだモンスターを進化させるって書いてあったんだが、それが1回きりとは書いてなかったんだよね」

 

それに、とサリーは続ける。狐のモンスターの尻尾はどれくらいまで増えるか予想がつくとのことだった。

 

「流石に九本まで1本ずつってことはないだろうけど……朧、そこまで育っちゃう?」

 

「夢が広がるね!そうだ、皆にも教えようよ!手伝ったらすぐに宝石もまた手に入るし!」

 

「いいね、そうしよっか。じゃあ善は急げってことで」

 

「ギルドホームにゴー!!」

 

4人は相棒の4匹をそれぞれ自慢げに抱きかかえたままギルドホームへと戻っていった。

4人はそのまま早く皆に見せたいと急いで帰り、ギルドホームの扉を勢いよく開ける。

中ではまだカナデがボードゲームをしていたようで、ユイとマイの二人をカスミ、クロム、イズの3人が囲んでいた。

 

「おっと、どうしたいつになく元気いいな?」

 

「んー、お帰り。ふふっ、どうやらいい報告が期待できそうだね」

 

メイプルとサリーは抱き抱えたシロップと朧を突き出すようにして披露し、ヒビキは肩に止らせたミクを見せ、セイバーも空中へと浮いてるブレイブを前に出させて皆に見せた。

ギルドメンバーも自分の相棒よりも見慣れている4匹の変化にすぐに気づいた。

 

「えっ、それどうしたんですかっ!」

 

「ふふふ、進化だよ!もっと強く可愛くなったんだよ!」

 

メイプルは攻略したイベントについて6人に細かく話す。

 

「なるほど……進化とはな。だが……」

 

「ああ、俺はその岩の浮かぶ所には行ったが巨人とかいうのは出てこなかったな」

 

皆も進化させられると思っていたメイプルだったがそうはいかないらしい。イズも巨大樹の上でそういった戦闘があったとは聞いたことがないらしかった。

 

「あの……レベルとかなつき具合とかが影響するんじゃないですか?メイプルさん達4人はずっと前からシロップ、朧、ミク、ブレイブと一緒ですから……」

 

「それはあるかもね。僕の読んだ本ももっと上手く力を引き出すって方向だったし。基本の能力が出来上がってからってのは考えられる」

 

仲間にしてすぐのモンスターでは進化することができないのはある種当然とも言える。

 

「じゃあ、本当にずっと一緒にいたからかあ……えへへ」

 

メイプルはまたシロップの頭を撫でてやる。これからもずっと一緒にフィールドを飛び回って戦う相棒なのだ。進化ともなれば喜びもひとしおである。

 

「でも、まだまだブレイブには先があると信じてるぜ。これからもドンドン強くしていくつもりだ」

 

「メイプルちゃん、サリーちゃん、ヒビキちゃん、セイバー君のモンスターもまた強くなったみたいだし。次のイベントが楽しみね」

 

「ああそうだな。俺達の戦い方も変わるだろうし、試す機会としてはちょうどいい」

 

「あ、そうだイベント!じゃあまた頑張ってシロップのレベル上げしなくちゃ!」

 

進化させたっきりでは、せっかく強くなった部分が生かせない。ここからはレベルアップのための地道な特訓の時間である。

 

「今日は結構色々回ったけど、どうする3人共?」

 

「も、もうちょっとだけやろうかな。1レベル上げたら何か覚えてくれるかもしれないし!」

 

それならまたフィールドへ出ないとと、興味があることから興味があることへ、楽しいことから楽しいことへと4人は走り回るのだった。

 

 

その頃、七層実装に合わせて、大量のモンスターやイベントを用意した運営陣はぐったりとしていた。エリアごとに違うモンスター、さらにそれらに進化先まで作るとなると相当な労力である。

 

「レアモンスターはどれくらい仲間になった?」

 

「2割以下ですねー。何しろエリア自体が広いですし、レアモンスターじゃなくても強いモンスターは多いですから」

 

用意されたレアモンスターはむしろピーキーな性能をしているため、プレイヤーによっては出会ってもスルーすることもあった。

 

「まあ、きっちりバフをかけてくれるモンスターが人気か。逆に魔法使いがタンク役をテイムしてるケースが多いな」

 

「主要ギルドは?」

 

「示し合わせたみたいにレアまみれです」

 

「すぅー……まあ、見つけるのが難しいってだけで……いや、相性いいから選んでんだよなあ」

 

当然、【集う聖剣】や【炎帝ノ国】。もちろん【楓の木】のモンスターも確認する。

 

「いや強っ、ちゃんと実力の伴ったレアモンスター捕まえてんな」

 

「メイプルとサリーとセイバーはきっちり進化まで行ってますね。まだ情報もほとんどないと思うんですけど……ヒビキもちゃっかりセイバー達について行って進化させてるなぁ。流石にキラーは卵を孵らせたタイミングが遅かったからかまだまだ進化してないって感じだな」

 

セイバー、メイプル、サリー、ヒビキは先行してモンスターを仲間にしていた利点をきっちりと生かしているといえる。それでも想定よりはかなり早かったのだが。

 

「レアイベに反応する磁石かなにかで体ができてるのか?」

 

「そうなのかもしれませんね……本気でそんな気がしてきました」

 

七層のあれこれが落ち着いたら次はイベントである。

 

「次のイベントはどうなるかな」

 

「プレイヤーも化物じみてるんですから、こちらも化物をぶつけることになりそうですね」

 

エネミーの最終チェックをしながらそんなことをこぼす。最高難度にはそれ相応のモンスターを用意しておかなければならない。

 

「あ、あとついでにメイプルは触手生やしてますよ」

 

「……ついでで処理することじゃないんだよなあ」

 

「てか、セイバーがまた変なパワーアップしないか心配だ」

 

「「「「「それには同意だな」」」」」

 

そんな会話をしつつ、モンスター達の挙動がおかしくなっていないかを確認するのだった。

 

 

それから【楓の木】の面々はパートナーのお披露目をイベントの際に取っておく事にしてそれぞれでパートナーのレベルを上げていた。

 

「黄雷抜刀!【サンダーブランチ】」

 

セイバーは黄雷のスキルで敵モンスターを麻痺させ、その状態でブレイブにトドメを刺させる事でレベルを上げていた。

 

「お、またレベルが上がったな。進化したことで戦力アップは勿論の事、新しいスキルもドンドン手に入るな」

 

【アクアボルテックス】

 

MPを消費して水を纏い敵へと突っ込みダメージを与える事ができる。効果時間30秒。

 

【サンダーボール】

 

MPを消費して電撃の砲弾を放ち、相手を確率で麻痺させる事ができる。

 

【ウインドブレード】

 

MPを消費して風の刃となった尻尾を叩きつけるか風の刃を飛ばす事ができる。攻撃が当たった相手をノックバックさせる。

 

【グランドクロー】

 

MPを消費して大地のエネルギーを纏わせた爪で相手を引き裂く攻撃がクリティカルに当たりやすい。

 

【ファイヤーインフェルノ】

 

辺り一体を一定時間炎の海にし、炎に当たった相手に継続ダメージを与える。また、MPを消費すればするほど持続時間が伸びる。

 

以上の5つがブレイブが進化してから手にしたスキルである。

 

「なるほど、今までは炎属性しかダメだったけど、進化で炎以外にも扱えるようになった感じかな?まるで今の烈火の装備と同じだな。まぁ、流石にここから先はスキルの取得は緩やかになるだろうけどこれでブレイブも戦略の幅が出来たな」

 

セイバーが成果に満足しているとそこに2人の戦士が通りかかった。

 

「お、セイバーじゃないか久しぶりだな」

 

「第4回イベントぶりかな?」

 

そこに来たのは【集う聖剣】の戦士、ドレッドとドラグだった。

 

「お久しぶりです。2人もお元気でなによりですよ」

 

どうやら2人もセイバーと同様にパートナーを仲間にしたらしい。彼らは今からパートナーのレベル上げに行くそうだ。そんな彼らの目にブレイブが映った。

 

「お、そいつそんなんだったか?」

 

「なんか前見た時よりも色が増えてるじゃねーか」

 

「ああ、おかげさまで進化しましたよ」

 

「へぇ。テイムモンスターは進化させられるのか」

 

「なら、俺達の相棒も進化するのかな?」

 

「お2人もパートナーは決まったんですか?」

 

「そうだな。せっかくだから見せてやる」

 

「お前もパートナーの進化を見せたしな」

 

そう言って2人は指輪からパートナーを呼ぶとドレッドの所には黒い毛の狼が、ドラグの所には岩でできたゴーレムが出現した。

 

「それが2人のパートナーモンスター」

 

「そうだ。こいつはシャドウ」

 

「俺のはアースだ」

 

どうやら2人も強力なモンスターをテイムしたらしく、ドレッドの方がシャドウ、ドラグの方がアースと名付けられている。

 

「中々強そうですね」

 

「だが今回は顔出しだけだ」

 

「安心してくれ。今度イベントで会ったら叩き潰してやるからよ」

 

「2人の強さには期待してますよ。それではまた会いましょう」

 

それからセイバーは2人と別れると再びブレイブの成長に力を入れるのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第8回イベント予選

セイバー達がそれぞれ相棒となるモンスターのレベルを上げる日々を過ごしているうちに、いよいよ第8回イベントの予選の日がやってきた。

 

今回のイベントではパーティーを組むことができない個人での戦いとなるため、相棒のモンスターの能力も重要になってくる。

競うことになるのはフィールドにいるモンスターの撃破数と1デスまでの時間である。

時間内にモンスターを倒しつつ、他のプレイヤーも撃破して妨害しつつ順位を上げなければならない。

もちろん、どちらかに偏りすぎてもいけないのだが。

上位に入っていれば、より報酬のいいフィールドで本戦を戦うことができる。

 

「よーし、皆で本戦行こうね!」

 

「もちろん。メイプルこそ、頑張ってね。今回はモンスターを倒すのも大事なんだから」

 

「今回はスキル全部使っちゃって大丈夫だし……頑張る!」

 

予選から本戦はまた少し間があるため、回数制限があるスキルも出し惜しみなく使っていい。

 

「俺は可能なら最後まで残ってみようかな」

 

「ふーん。できるものならやってみなさい。今回は個人戦だから油断してたら襲うわよ?」

 

「あん?だったら俺もお前が油断してたら不意打ちしてやるよ」

 

「まぁまぁ、セイバーお兄ちゃんもサリーお姉さんも落ち着いて……」

 

「「お前(アンタ)には負けない!!」」

 

2人が大揉めしているところにメイプルが割って入り鎮めると、彼女はギルドメンバーに掛け声を放った。

 

「それじゃあ、ファイトー!」

 

メイプルの掛け声に全員が返すとともに、10人は光に包まれて、予選のフィールドに転送されていった。

 

体を包んでいた光が消えていき、セイバーの前に予選フィールドの景色が広がっていく。

今回は第1回イベントと同じように森に出た。セイバーは周りを確認するものの、すぐ目に付く場所に他のプレイヤーの姿は見えない。

 

「さてと、最初の獲物はどこかな〜」

 

この予選ではモンスターの撃破が重要になってくる。もちろん生存時間も大切だが、それだけでは上位に入ることはできない。

セイバーが最初の敵を探しているとそれは向こうからやってきた。

 

「お、恐竜型のモンスター発見。早速始末する」

 

それは大きな胴体と頭があり、長い尾が伸びている肉食恐竜を模したモンスターだった。

 

「【火炎十字斬】!」

 

セイバーは早速先制攻撃の火炎の十字斬りを放ち、それはモンスターを切り刻んだ。

 

「あれ?まだ耐えるのか。ならもう1発!」

 

セイバーの2発目の火炎十字斬がモンスターに当たると流石に2度目は耐えられず、モンスターは倒れて消えた。

 

「うっし!早速一体目撃破!これからどんどん行こう!!」

 

それからセイバーは迫り来る敵モンスターを次々と狩っていった。そして数十体を倒したくらいになると何故か出てくるモンスターが限られるようになっていた。

 

「……んん?さっきからコイツばっかりだな。何でだろ?」

 

セイバーがモンスターを倒してからステータス画面を開くとセイバーが受けた覚えのないバフやデバフがかかっていた。

 

「ああー。なるほど、多分これモンスターを倒した際に自動的にかかる系っぽいね。だとするとこれはかなり面倒だな。取り敢えずどんな敵がどんなバフやデバフかけるか知らないと闇雲に狩っていたらどんどん厄介な事になるかも………いや、もういっそのこと範囲攻撃で仕留めるか!」

 

セイバーは開き直ると剣を抜いた。

 

「範囲攻撃といえばこれかな?最光、抜刀!【カラフルボディ】!」

 

セイバーはカラフルな装甲に包まれると一気にスキルを言い放つ。

 

「【漫画撃】、【シャイニングブラスト】、【光の矢】!!」

 

セイバーが剣を高く突き上げながらスキルを発動するとまずは【漫画撃】の効果で森へとミサイルが降り注ぎ、森の木々を半径10メートル前後に渡って消しとばした。そのまま空中から大量の光のレーザーと光の矢が雨の如く降り注ぎスポーンしたモンスター及び、近くのプレイヤーを問答無用で蹴散らした。

 

「やっぱこれ、気持ち良いなぁ。次は、錫音抜刀!」

 

セイバーは剣を錫音に切り替えると剣から銃へと形を変えて構える。

 

「【甘い誘惑】、【鍵盤演奏】!」

 

そのまま自身の周囲にいる敵モンスターやプレイヤーを全て引き寄せてからのピアノの鍵盤を弾くことで紡がれた楽譜で相手を拘束。逃げられなくした。

 

「終わりだよ【ロック弾幕】【音弾ランチャー】!」

 

そこからの音の弾幕とミサイルが敵を貫いていった。

 

「ふう。一気に撃破数稼げて気持ち良いな。そんでもってそろそろ敵が壊滅しちゃったし、移動しようかな……およ?」

 

セイバーが近くの高台に移動するとそこには割とカオスな光景が広がっていた。ある一帯では赤と白の花園が咲き、その中には毒の沼が広がっており、中に入ったモンスターを次々に飲み込んでいく様子があったり、ある所では轟音と共に地形が変貌するほどの大爆発が起きてその後には爆発した物と思われる色んな物質が辺りを漂い、そこには元の地形というものは跡形も無かった。

 

「あーあ、アレ多分メイプルとイズさんなんだろうけど、やる事が半端じゃないんだよなぁ……。あそこには近づかないでおこう」

 

セイバーは錫音のスキルである【超聴覚】で敵プレイヤーとモンスターを探し始めると手当たり次第に狩っていく。

 

だが、セイバーが倒していたモンスターの中にモンスターが近寄りやすくなるバフがかかってしまったせいかモンスターが次々に寄ってきてついに囲まれてしまった。

 

「うわぁ、面倒だなぁ……」

 

セイバーは溜息を付くと剣を構える。

 

「しょうがないから相手になってやるよ。狼煙、抜刀!」

 

セイバーが狼煙を抜くとモンスター達は一斉に攻撃を始めた。

 

「【狼煙霧中】!」

 

敵の一斉攻撃を煙化で回避するとセイバーは敵を一体ずつ確実に葬り始めた。

 

「平伏しなさい。なんてね!」

 

セイバーは自身の反射神経と体術でモンスターの攻撃をサリーほどでは無いにしてもひらりひらりと躱しており、まるでそれは舞を見ているかのようであった。

 

「いっくぜー!【昆虫の舞】、【ビーニードル】!」

 

セイバーの周りに昆虫が舞い踊るエフェクトが出るとオーラに包まれ、虫属性の攻撃の威力が上がり、それによって蜂の針を模した【ビーニードル】の火力が上がった。

 

「オラオラオラァ!【インセクトショット】!」

 

セイバーは狼煙とニードルの二刀流で敵を連続で斬りつけ、さらにはそこそこ距離のある相手には虫属性のキックで対処。

 

セイバーの体術も相まってかなりの数をキルする事になった。

 

「初めて使ったときは大丈夫かって思ったけど、慣れると面白いな。ダメージさえ受けなければ低耐久も問題にはならないし、それに何より、こうやって敵を次々と倒せるのがなんか良いね!」

 

セイバーが快感を覚えるとマップにあるマークが出ていた。

 

「ん?これって、ミィさんの位置が映ってる?あ、丁度いいや。倒しに行こうっと!」

 

セイバーはそう言ってミィの元へと駆けていった。当然、その進路にいたプレイヤーは問答無用での殺戮にあった訳だが……。

 

暫く走るとそこにはモンスターやプレイヤーを焼き尽くすミィの姿があった。ミィのいる荒地はあちこちに炎が立っており、激しい戦闘があったことを思わせる。そしてその傍らには不死鳥のテイムモンスターがいた。

 

「あれがメイプルが言っていた不死鳥のモンスター。確かイグニスだっけ?面白そうだから遊んでやるか」

 

セイバーがミィの前へと移動すると丁度そのタイミングで白い鎧に青いマント、そして剣を携えた男……ペインが現れた。

 

「マップに映っていたのは知っていたが、まさかお前達2人がくるとはな」

 

ミィは2人を視認するとMPポーションを飲みいつでも戦闘に入れる体勢を整える。

 

「丁度面白そうな人がいたものですからね。ブレイブ、【覚醒】」

 

セイバーは烈火を構えるとブレイブを呼び出す。

 

「もう十分な量のモンスターも狩った。だからライバルの強さを確かめに来た。レイ、【覚醒】」

 

ペインがそう言うと指輪からは銀の鱗を持った子供の竜が現れる。それは大型の鳥程度の大きさで、翼をたたんで肩にとまる。

 

「奇遇だな。私ももう十分モンスターは倒したところだったんだ」

 

「三大ギルドの最強が勢揃いか。これは面白そうな勝負になりそうですよ!」

 

セイバーがそう言うとミィはイグニスと並び、【炎帝】を発動してペインは剣を抜き放ち、セイバーも烈火を構え直す。

それが合図となった。

 

「【豪炎】!」

 

「【光輝ノ聖剣】!」

 

「【紅蓮爆龍剣】!」

 

ミィからは業火が、ペインからは光の本流、セイバーからは紅蓮の龍が放たれ、荒野を吹き荒れる。

 

「イグニス【連なる炎】!」

 

「ブレイブ【火炎ノ舞】!」

 

「レイ、【聖竜の加護】だ」

 

それぞれがバフを受けて、一気に前進する。ミィも距離を取る気はさらさらないようで、【フレアアクセル】を使って接近する。

 

「【蒼炎】!【爆炎】!」

 

「【退魔ノ聖剣】!【聖なる光】!」

 

「【森羅万象斬】!【爆炎紅蓮斬】!」

 

一度接触する度に、激しいエフェクトが散り、スキルとスキルが相殺される。そのどれもが一撃で大勢を決するような超高威力のものばかりである。

ペインとセイバーが剣を振るうのを、ミィはきっちりと躱して魔法を返す。しかし、2人もそれをまともに受けることはなく、きっちりと捌いて再び攻撃に転じる。更にその間もセイバーとペインの剣がぶつかるが、技量は互角であり、そこにミィの攻撃が飛んできてはお互いに離れるを繰り返した。

 

「レイ、【巨大化】【聖竜の息吹】」

 

「イグニス!【巨大化】【消えぬ猛火】!」

 

「ブレイブ、【巨大化】【ファイヤーインフェルノ】!」

 

レイの吐いたブレス、イグニスが放った炎、ブレイブが大地を覆うように放つ炎の柱は3人の間で弾け、地形を抉るが、互角といった様子だった。

 

「なるほど、2人とも良いモンスターだ。特にセイバーの龍は進化したのか更にパワーが上がってるね」 

 

「2人のモンスター、かなり苦労して手に入れたってのがよくわかりますよ。三つ巴とは言え進化したブレイブと互角だなんて」

 

「それは光栄だな。ただ……力を隠しているというのなら、このまま2人共焼き尽くしてやる。特にセイバー。第4回イベントの時のように剣や龍のスキルを温存するのならば容赦はしない」

 

 

ミィは出し惜しみはしないというような様子で、MPを回復すると、イグニスに命じる。

 

「イグニス【不死鳥の炎】【我が身を火に】」

 

最初のスキルでミィにバフをかけると、イグニスはそのまま体を炎の塊へと変えていく。それはそのままミィを包み込み、地面を伝い荒地に広がり始める。

 

「なるほど、ただでは済まなそうだ。レイ、【聖なる守護】」

 

「確かにこれはヤバそうだな。でも、ブレイブ【火炎龍】!【エレメント化】属性、炎!」

 

「いくぞ!【インフェルノ】!」

 

ミィが叫ぶと同時に、灼熱の炎が放出され、ミィを中心として空間全てを焼き払っていく。眩しいくらいのその光は、しかしセイバーやペインの方から発生した負けないほどの炎や光とぶつかり合い、爆発する。それは周りの森や平地を滅茶苦茶に破壊して、砂埃を巻き上げた。

砂埃が収まったところには、変わらず無傷のままのミィと少しHPが減り、鎧を焦がしたペイン、そしてノーダメージのセイバーが立っていた。

 

「ちっ、レイかブレイブに大技を使わせるかと思ったが……ペインはダメージ軽減と聖剣の威力。セイバーは2人がそれぞれ炎そのものになって受けきるか……食えない奴らだ」

 

「はは、そこまで情報を渡す訳にはいかない」

 

「でも、この技で相殺出来るかは割と賭けだったんですよ」

 

「最初から私を倒す気はなかったか……だが、無事で返すと思うなよ?」

 

「ああ、いいとも。やるというなら」

 

「最後まで付き合いますよ」

 

2人は受けて立つとばかりに聖剣を構える。

第二ラウンドといったところで、バキバキと木々をへし折る音が響いてくる。

3人は、何かが迫ってくることを察して、一時休戦といった風にそちらを見る。すると、森からは何条ものレーザーが滅茶苦茶に飛んできた。

 

「何……!?レイ!」

 

「ちっ、一旦避難するか!イグニス!」

 

「ブレイブ、来い!」

 

3人はそれぞれテイムモンスターに乗って地上から離れる。

少しして、木を倒しながら現れたのは10メートルはあろうかという巨大なワニだった。1つおかしな点があるとすれば口からレーザーを吐いていることである。

 

「……興が冷めた。2人共!再戦は、またの機会としよう」

 

「ああ、俺は構わない。【インフェルノ】を見ることができたからね」

 

「えぇーもう終わりですか?」

 

「そんなに心配しなくてもそのうちまたやりあえるさ」

 

「しょうがないですね」

 

こうして乱入者によって、勝敗つかずで3人の勝負は終わりを迎えた。

因みに、今乱入してきたのはメイプルがワニに咥えられたままワニの機動力を使ってフィールドを駆け抜けており、丁度、3人の近くを通っただけであった。ただ、その光景は周りから見れば自分達の近くを通るたびにレーザーが大量に飛んでくるので、地獄であった訳だが……。

 

そして、そのすぐ後に予選は終わりを迎え、セイバー達生き残った者は転移の光に包まれるのであった。

 

 

 

予選後、掲示板

 

851名前:名無しの大剣使い

予選終わったなあ

 

852名前:名無しの大盾使い

結果出るのはもうちょっと先になるがうちは誰も死んでなかったみたいだし期待できる

 

853名前:名無しの槍使い

強いな

 

854名前:名無しの魔法使い

テイムモンスターがなー。かなりいい仕事するのが改めて分かったわ

 

855名前:名無しの大剣使い

強いよなあ俺も仲間にしたけどあいついなかったら死んでた場面はあった

 

856名前:名無しの弓使い

まあそんなのなくても強い奴は強いけど。特にセイバー、ペイン、ミィ、メイプル、キラー辺り。

ソロだとでかいよな

 

857名前:名無しの槍使い

イベントで何箇所か行っちゃいけない場所みたいになってるとこあったからな

自主的に向かうのを避ける場所

 

858名前:名無しの大盾使い

話聞いてる感じだとうちのメンバーが混じってそうなんだよなあ

 

859名前:名無しの大剣使い

だろうね

メイプルちゃんとかずっとマップに映ってるのにガン無視されてたからね

そらそうだと思うけど

 

860名前:名無しの槍使い

いやだって見てきたけどあれは選ばれたものしか近づけないからな

凡夫は巻き込まれて死ぬ

 

861名前:名無しの大盾使い

定期的にどこかしらで爆炎とか上がってたり、光の矢が雨のように降り注ぐのやべえなあと思ったよ

俺はそんなことできんからな

 

862名前:名無しの魔法使い

そのままでいてくれ

当然のようにフィールドの一部を死地に変えないでくれ。

 

863名前:名無しの弓使い

お前はそれでいい

今のままでいいんだ

 

864名前:名無しの大剣使い

で、近づいたら死ぬらしいメイプルちゃんはマップにずっと映りながら何してたんや

 

865名前:名無しの槍使い

自分を餌にしてモンスター呼んでるっぽかった

森から勢いよく飛び出したモンスターが次々死んでいく光景とかもうホラーだぞ

 

866名前:名無しの大盾使い

じゃあメイプルちゃんはイベント中はずっと自分を餌にしてたのか……

 

867名前:名無しの魔法使い

どういうこと?

 

868名前:名無しの大盾使い

メイプルちゃんは最終盤はなんかクソでかいワニの口の中に入ってフィールド一周コース走ってたらしい

映像が撮れてなくて?悔しそうだった

 

869名前:名無しの大剣使い

どうやってそこに行き着いたのか

 

870名前:名無しの槍使い

聞いても分からなそう

理解の範疇か?

 

871名前:名無しの弓使い

1人別のゲームしてない?目標が俺らのそれと違うじゃん

 

872名前:名無しの魔法使い

俺それに轢かれたのか……なんだこのビーム出すワニはって思ったんだよ

そりゃそうだわワニはビーム出さなくても噛めばいいもんな

 

873名前:名無しの大剣使い

まだ強くなるんかな

テイムモンスターとかずっと一緒にいるしスキルとかも覚えきってたりしてそう

 

874名前:名無しの大盾使い

シロップもまだ強くなってるからなあ

この後のイベント本番で確認できるだろうけど。

 

875名前:名無しの大剣使い

強くなってるのか

まだ先があるってのはやばいな

 

876名前:名無しの魔法使い

楽しみにしとくかあ怖くもあるけど

 

877名前:名無しの弓使い

基本怖くもあるなのいつまでったっても慣れないな

 

878名前:名無しの大盾使い

そう簡単に慣れるもんじゃないぞ

メイプルちゃんになれたと思ってたらほんの最近触手にビビらされたからな

 

879名前:名無しの弓使い

そういや、セイバー君はどうだった?今回は運良く見なかったが。

 

880名前:名無しの魔法使い

見なかったことを運良くというのもなぁ。ただ、今回もいつも通りの蹂躙劇を見せていたよ。

 

 

881名前:名無しの大剣使い

ブレイブだったっけ?あのテイムモンスターも進化してますます手がつけられない。何人か鉢合わせた奴がいた所を偶々見たんだが、そこら辺のテイムモンスターじゃ歯が立ってなかった。

 

882名前:名無しの大盾使い

ブレイブは基本火属性だったのがそれ以外の属性も使えるようになってたし、今回は範囲攻撃でとにかく暴れたって感じかな。

 

883名前:名無しの大剣使い

あー、あるときは光の矢を降らせたし、またあるときは音の弾丸撃ちまくってたしな。最後の方は……煙か?そんなのを使って走りながらモンスターやプレイヤーを叩きのめしてた。

 

884名前:名無しの魔法使い

移動式のボスとかもう理不尽すぎる。てか、よくそれで生き残った奴いたな。

 

885名前:名無しの大剣使い

ああ、確かにアイツに見つかった瞬間死刑宣告されるようなものだし。俺はそれ喰らって殺された。

 

886名前:名無しの大盾使い

本人から聞いた所最後の方はミィやペインとやり合ってたらしい。ただ、メイプルの乱入のせいで仕留めるまでは行かなかったっぽいが。

 

886名前:名無しの弓使い

ミィやペインと張り合うなんて事自体セイバー君が化け物だって事がよくわかるなぁ……。

 

こうして予選も終わり、セイバー達を含めたプレイヤーはみな結果発表の時を待つのだった。

 

 

同時刻、運営視点

 

予選も終わり、一旦落ち着いた運営ルームでは順位の確定作業が行われていた。運営としても覚えている名前が上位に並んでいる。

 

「結局大番狂わせはなさそうですね」

 

「まー強いところは順当に強いテイムモンスター見つけてるみたいだし。仕方ないな。もう少しPVPの要素を強くしても良かったかもしれないか」

 

「そうですね。次回に活かしましょうか」

 

反省点を上げつつ、作業を行い、一通り方がついたところでいつも通りの俯瞰でのプレイヤーの動向観察に移っていく。

 

「……なあ俺達はエリアボスを配置したか?」

 

「いえ……明確なものは」

 

「これプレイヤーによってはそうだと思ってそうですよね」

 

「相当数巻き込まれてるだろうしなあ」

 

ミィによる業火、ペインによる光の奔流、イズの爆破やカスミの霧の森、そしてメイプルの形容できないよく分からない何か。更にはセイバーによる範囲攻撃と徘徊によるプレイヤーの大量キル。

それらは最早エリアボスと言ってもいい雰囲気だった。

 

「今回は地形と戦闘スタイルとルールがマッチしたとも言えるが、なるほどなあ」

 

「なるほどなあじゃないですが」

 

「1つずつ見ていくか、いい点は残して悪い点は変更だ」

 

そうして、刺激物は最初のうちにというようにメイプルの映像を流す。そこにはいくつものスキルが重なって元の草原がめちゃくちゃに変わってしまっている、メイプルが鎮座していたあの場所が映る。

 

「あの花……ああ……そうか」

 

「プレイヤーに居場所がばれてもメイプルのとこ行く奴いませんからね。完全にモンスター呼び寄せ機ですよあれもう」

 

「違うんだよなあ、そうじゃないんだよなあ……」

 

「分かりますよ。その気持ち」

 

「前にジャングルで効果を覚えさせたのが悪かったか……」

 

ただそのまま映像を回していき、メイプルがワニの口の中に入ったところで運営ルームはかなりの盛り上がりを見せた。

 

「何でそうすっぽり入るんだ?」

 

「いやー胃を消しておいて正解でしたね。また体内爆破食らうところでしたよ」

 

「体内があるモンスターはダメですね、やっぱ」

 

しかし蛸の件から素早く修正しておいてよかったと頷く面々の前で、数10秒後にはこれだけ褒められていたワニは車がわりにされてしまうのだった。

 

「何で口から出ないんだ!」

 

「いやー全く分からないですね。でも確かに移動速度はいいですね」

 

「牙は貫通攻撃にすべきだったなあ……」

 

その後もシーンを1つ1つ変えては、ここはどうだだの、あれはこうだだのワーワー言いつつ確認を進めていく。

 

「本戦のモンスターは大丈夫だろうか……」

 

「やりたい放題されないといいですね……次はパーティーを組んで襲ってきますからね」

 

「襲うのはこっちのはずなんだけどなあ」

 

「エリアボスみたいなことしてる時点で、もうどっちがどっちなのか分かったものじゃないと思いますよ」

 

「まあ、一理あるな」

 

「で、セイバーはどうなんだ?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「んんっ、セイバー、セイバーねぇ……」

 

「もうどうでもよく無いっすか?アイツの戦い方なんて高い火力で制圧してただけっぽいし」

 

「今回は新しくスキルを覚えさせるような場所も無いし」

 

「ダメですよ。流石にセイバーの映像だけ見ないのは」

 

「コラ!意図的に見ていなかったのがバレるだろうが!」

 

「だって見た所で……ねぇ」

 

「アイツはこっちが対処したところで勝てるような相手じゃない気が……」

 

「諦めて映像見ようぜ?その方がまだセイバーに対抗できるモンスターを作れるかもだから……」

 

「「「「「それもそうか……」」」」」

 

それから運営は意図的に避けていたセイバーの映像を見て全員が精神的疲労でダウンしかける事になった。

ただ、テイムモンスターとの連携は確かに強いのだが、それならばそれに見合ったモンスターを出すだけだと、本戦用に用意したモンスター達のデータを見て、全員で期待と不安の眼差しを向けるのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと予選後

第8回イベントの予選からしばらくして結果発表があり、【楓の木】は全員が上位に入ることに成功しており、10人全員で最高難易度への挑戦が可能となった。

本戦ではパーティーを組むことができるため、これで改めて思う存分テイムモンスターの力を発揮できるというものである。

 

「フィールドは予選の時と同じだってさ。よかったねメイプル。今度はメダルもあるし、隅まで探索するよ」

 

「バトルも好きだけど探索もやっぱり綺麗な景色が多くて好きなんだよねー」

 

「やっぱメイプルはそっちの方が好きみたいだな」

 

予選の際にワニに咥えられて、暴れ回ったのは良いものの、この時に映像記録結晶を置き忘れてなくしてしまったメイプルだったが、早くも再探索の機会が来たということで張り切っている。

 

「でもよかったーみんなでちゃんと上位に入れてて」

 

「ツキミがすごい頑張ってくれました」

 

「私もユキミが!」

 

「私もミクが大活躍だったよ!」

 

嬉しそうに子熊を抱き上げて見せる2人に鳥を撫でるヒビキを見ているとギルドホームにいる7人全員が笑顔になる。特にマイとユイの2人は自分が上手く生き残れるか不安だったのもあって、この結果に喜びもひとしおといった様子だった

 

「まあ、テイムモンスターはすごい強いし、助けてくれるけど、逆に今度はそれを踏まえた難易度になってるだろうね」

 

サリーがそう言うと、クロムやカスミも頷く。

 

「上位層はほとんど全員が仲間にしているだろうからな。テイムモンスターがいるからと言って楽はさせてもらえないだろう」

 

「むしろ、レベルが上がってないとキツイ可能性もあるな」

 

「んー、じゃあまだまだレベル上げもしないとだね!シロップも頑張って強くしなきゃ!」

 

本戦までにはまだ少し間がある。ただ、全員が待ち遠しそうだった。というのも、自分の相棒のモンスターのすごいところを見せてやりたいのである。

うちの子が可愛い自慢というようなものだ。

 

「あ、そうそう。僕、予選の途中でドレッドとドラグのテイムモンスターの能力を確認したよ」

 

【楓の木】の面々は一応セイバーから2人のテイムモンスターの存在だけは聞いていたのだが、実際の能力がわからなかったので願ってもない情報になるだろう。

 

そして、カナデはドレッドのモンスターは影を扱う狼で、ドラグのモンスターは砂や大地をコントロールするゴーレムだったことを伝えた。

 

「うう……【大自然】が無効化されちゃうのは苦手な相手かも」

 

「確かに、シロップって割と地面から発動するものがあるし、テイムモンスターごとの相性もありそうだよな」

 

他にもシロップのスキルで地面に影響を与えるものはいくつもある。それを無効化してくるとなると困ったものだ。

 

「ドレッドの方も要注意だね。影に潜ってる間は無敵の可能性が高いし、大技を考えなしに使ったらこっちが不利になるかも」

 

「ふぅん……俺らがPVPでやりあうのは早くても次のイベントだしな、ちょこちょこと情報を集めていくしかねえな」

 

カナデが【集う聖剣】の情報を伝えると、セイバーとサリーもメイプルが乱入してくるまでのミィとペイン、セイバーの3人の三つ巴の戦闘についての話を始める。

ミィの方はメイプルがともに探索しているので、どちらかというとペイン中心にである。

少なくとも、広範囲のブレスと飛行能力があることは分かっているのだ。さらに、現状目撃例がないモンスターであることからも、レアリティが高いモンスターで、まだ隠された強力なスキルを持っている可能性が高い。

 

「現状だと要警戒としか言えないのが悔しいけど。ブレスとかは竜ならだいたい持ってるし……フレデリカにああ言っただけあって実力を隠してるんだろうなあ。ミィの方は【インフェルノ】ってスキルが強かったよ。超広範囲だし、多分威力も相当だと思う。あの範囲の広さは近くで使われると私でも避けきれないかな」

 

「俺は自ら炎に変化して火力を相殺したけどアレの威力は半端じゃなかったしな」

 

セイバー達のライバルも皆テイムモンスターを仲間にしていることが確認されている。それはそのまま攻撃パターンが多彩になったことを示すのだ。

 

「よしっ、次のイベント頑張って、メダルもいっぱい手に入れてもっともっと強くなろう!私達は少数精鋭にならないと駄目だもんね」

 

「そうね。1人1人が強くないとね」

 

セイバー達はそれぞれ決意を新たにして、テイムモンスターをより鍛えつつ、本戦の日を待つのだった。

 

 

そんな中、セイバーは本戦までの間、剣の腕を磨いていた。

 

「はあっ!せいっ!ふん!」

 

フィールドにスポーンするモンスターをブレイブと協力して倒しながら自身とブレイブの強化を行なっていたセイバー。彼が強さの高みを目指す理由はただ一つ。

 

「誰も見た事の無い強さ。俺がこの世界で最強のプレイヤーになる……。そのために、俺の強さに限界は無い……あってたまるか!!」

 

既に最強クラスの力を持っているセイバーだったが、彼はまだ満足しなかった。己の限界を更に超えるために修行を怠らず、強さの限界を極めていた。

 

そこにデザストが勝手に出てくるとセイバーの前に立った。

 

『よう。精が出てるな』

 

「デザストか。今日は何の用で出てきたの?」

 

『なぁに、俺もお前と同じだ。俺は強さの果てを知りたい。だからこそ強くなる。お前はどうだ?強さの果てを知りたく無いか?』

 

「前にも言ってなかったっけ?強さの果てなんかあったらそれ以上強くなれない。俺は自分に限界を作るのは嫌いだからさ。可能性はとことん追い求めたい訳。だから自分の強さに制限があるなんて信じて無いよ」

 

『そうか……』

 

「デザスト、また相手をしてくれるか?」

 

『勿論だ。今度は俺がお前を叩きのめす!』

 

「やれるものならやってみな!」

 

それから2人は再び戦い、お互いの強さを磨くのであった。

 

 

場所は変わってヒビキ視点。彼女もまた、別の場所で強さの高みを目指していた。

 

「ふう……どうやったらセイバーお兄ちゃんに追いつけるんだろ……」

 

ヒビキはこのゲームをやる中でもセイバーを目標にしていた。ただ、いつまで経っても彼に追いつけない自分にモヤモヤとする気持ちも募っていた。

 

「はぁ……どうしよう……どうしたらセイバーお兄ちゃんに強くなった自分を見せられるんだろ……」

 

ひとしきり動いて疲れたのか、ヒビキがその場に座り込んでため息をついているとそこにピンク髪を靡かせた1人の女性が現れた。

 

「あなたが【楓の木】に所属している剛腕の異名を持つヒビキね」

 

「うぇ!?だ、誰ですか一体!!私の事を知っているんですか」

 

「知ってるも何もあなたは有名だからね。ただ、そんなあなたがため息をつくだなんて余程追い込まれているのかしら?」

 

「その前に名前だけでも教えてもらえませんか?私、あなたの事知らないので……」

 

「おっと、これは失礼したわ。私はマリア。まぁ、とは言ってもギルドマスターの指示だから今日は挨拶だけよ」

 

「ギルドマスター?って事はどこかのギルドにいるんですか?」

 

「そうよ。でも、まだそれは言えないわ。知りたければ何かしらの対価を貰わないと」

 

「なら、これならどうですか?私と一対一の勝負です」

 

「……どうして私があなたと?」

 

「あなたの力が見たいからです」

 

「そう。でもマスターからは挨拶だけって言われたから、どうしてもというのならマスターから了解を貰わないと……」

 

マリアはそう言ってパネルを操作するとマスターと思わしき人物と連絡を取った。それから数分後、マスターからの返事が返ってきたのかヒビキと向き合った。

 

「良いわ。許可が降りたし、やりましょうか」

 

「やった!それじゃあ早速……」

 

「待ちなさい。ここだと目立つわ。決闘にしましょう」

 

そう言ってマリアはヒビキを決闘に呼ぶと自身も転移して闘技場の中に入った。

 

「ルールはシンプルにしましょう。相手のHPを0にして倒すか降参させた方が勝ちね。勝った方は相手の情報を得る。良い?」

 

「わかりました!……でも、良いんですか?その装備、始めたばかりの物じゃ……」

 

そう、マリアが今着ている装備はゲームを始めたばかりの初心者が着る装備であり、その状態でヒビキとやり合うにはあまりにも貧弱であった。

 

「安心しなさい。今回はこっちで相手してあげるわ。烈槍!」

 

するとマリアの胸のペンダントが光り輝いて中から黒いアーマーが出現。マリアの体へと装着されていき、最後に背中から黒いマントが出て、右手に黒い槍が武装されると変身を完了した。

 

「そ、それって……」

 

ヒビキはマリアの装備を見て目を丸くした。それもそのはず、マリアの装備はヒビキの装備をそのまま黒とピンクにリペイントしたような感じで違う点を挙げるとすれば背中の黒いマントと手にした身の丈ほどもある黒い槍ぐらいであった。

 

 

「あら?あなたは知らなかったのかしら?あなたが得たユニーク装備。アレは同じ物が2つ存在する事を!!」

 

「つまり、マリアさんもあの試練をクリアしたって事ですね」

 

「そうよ。そしてこれが、私の装備。あなたとは別物の力を見せてあげる!」

 

マリアは先制攻撃とばかりに突っ込むと槍を突き出す。ヒビキはこれを腕で横に弾くも、マリアの攻勢は止まらない。どころか、ヒビキを圧倒し始めた。

 

「くっ……リーチの差がキツイ!!」

 

「そんなものかしら?あなたの実力は!!【ホライゾン・スピア】!」

 

マリアは槍を遠距離から突き出すと先端から黒いエネルギー砲が放たれ、ヒビキを吹き飛ばした。

 

「ぐあああああ!!」

 

「まだまだ行くわよ!!」

 

続けてマリアはヒビキへと迫っていく。ヒビキはダメージを受けた体を無理矢理起こすとマリアの攻撃をいなして腹へと強烈な一撃を放った。

 

「【我流・剛腕雷撃槍】!」

 

ヒビキの拳はマリアの腹へと当たる……が、突如としてマリアの背中のマントが動くとヒビキを攻撃して吹っ飛ばした。

 

「がっ!?」

 

「今のは……効いたわよ!!」

 

マリアは槍で薙ぎ払い、ヒビキは辛うじてこれを回避するが、劣勢は明らかだった。

 

「この人、強い!」

 

「まだまだこんな物で根を上げてもらっては困るわ。【ドリルクラッシャー】!」

 

するとマリアの槍がドリルのように回転し、そのまま突っ込んでいく。

 

 

「こうなったら、ぶん殴ります!【我流・火炎龍撃拳】!」

 

ヒビキはこれに対抗するように火炎の龍を右手に纏い2つの攻撃はぶつかり合う。

 

「はぁあああ!!」

 

「やぁあああ!!」

 

純粋なパワーとパワーのぶつかり合い。そしてそれは大爆発と共にお互いにダメージを受ける形で終わった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「フフフ、これで終わりかしら?」

 

「くっ………」

 

ヒビキは疲れから完全に息切れしており、一方でマリアはまだまだ余裕そうな表情だった。

 

「(これ以上長引くと不味い。セイバーお兄ちゃんならここで……)」

 

「やめにしましょうか」

 

「……え?」

 

マリアのその言葉にヒビキは驚きを隠せなかった。

何故なら今有利なのはマリアでありもう少しでヒビキを倒せる所にまで来ているのだ。それなのにマリアは止めた。そのために彼女の意図が読めなかった。

 

「どうして……まだ私はやれます!勝手に終わらせないでください!!」

 

「いいえ、この勝負はもう終わりよ。だってあなた、私以外の事を考えたでしょ?」

 

「!!?」

 

「はぁ……あらかたセイバーならどう対応するかみたいな所かしら。随分と舐められたものね」

 

「ッ……」

 

ヒビキは突然図星を突かれて狼狽えていた。

 

「あなたとセイバーがどんな因果を持っているかは知らないわ。でも、対戦相手に失礼だと思わないの?今の対戦相手は私よ?セイバーならどう対処するかじゃない。あなた自身の対処法を見つけなさい」

 

「さっきから偉そうに……あなたにセイバーお兄ちゃんの何がわかるの!!私にとってセイバーお兄ちゃんは……」

 

「ええ知らないわよ?でも、セイバーの強さに囚われている今のあなたじゃ私には勝てないわ。あなたはヒビキという1人のプレイヤー。そこから目を背けないことね。あ、私から勝負を投げたから情報はあげるわよ。私は【ラピッドファイア】というギルドのメンバー。それじゃあまた会いましょう。今度はあなたの本気が見たいわ」

 

そう言ってマリアは決闘から去って行った。ヒビキは暫く呆然として立ち尽くすしか無かった。マリアの言葉が胸に刺さって中々現実に戻れなかったからである。

 

「私は何が間違ってるの?……私はただ、セイバーお兄ちゃんの強さに追いついて、セイバーお兄ちゃんを超えて……セイバーお兄ちゃんに認めてもらいたくて……。それなのに私は……セイバーお兄ちゃんどころかマリアさんにも見逃されて………」

 

悔しさのあまり、ヒビキの目には涙が浮かび、いつも笑顔の顔は見る影も無いほどぐしゃぐしゃになって泣き始めた。

 

するとそこに偶々通りかかったのかサリーが来た。

 

「え?ヒビキ、なんで泣いてるの!?」

 

サリーは急いで駆け寄ると泣き続けるヒビキの背中をさすった。

 

「サリー……お姉さん……」

 

「ヒビキ、一体どうしたの?らしくもない……」

 

「実は……」

 

それからヒビキはサリーに事情を説明した。

 

「なるほどね、どうしたらセイバーの強さに追いつけるかと考えて、その気持ちを切り替えないままにそのマリアって人と戦ったんだ」

 

「私、あの人に失礼なことしちゃった……。マリアさん、許してくれるかな……」

 

「また会ったときに謝るしかないわね。まぁ、ちゃんと謝れば許してもらえるわよ。それで、私からアドバイスね」

 

「え?」

 

「セイバーの強さに追いつきたいのなら彼の何倍も努力しなさい」

 

「努力……」

 

「それと、セイバーに憧れるのを辞めなさい」

 

「それって……」

 

「だって憧れるって事はその人の後を追いかけるという事。後追いだったらいつまで経っても抜くことなんて出来ないわよ。昔の私がそうだったようにね」

 

「昔のサリーお姉さんって、サリーお姉さんも憧れていた時期があったんですか?」

 

「そうね。そんな時期も私にはあったわ。私がゲーマーとして未熟で中々相手に勝てなかったときに参考にしたのはセイバーのプレイだった。でも、そのプレイでセイバーと戦っても彼にはずっと勝てなかったわ。だって、セイバーのプレイを模倣しただけじゃあ、そのプレイを1番知っている本人相手には通じないのは当然だったからね」

 

「…………」

 

「初めてアイツに勝てた日なんてどれほど喜んだか……。私の名前もそこから有名になったわ。……そういえばヒビキがセイバー相手に勝てた格闘ゲーム。セイバーに勝てた理由はセイバーのプレイを真似したからなの?」

 

「ううん……ちゃんと私自身のプレイスタイルだった……」

 

「なら、自分の強さを信じなさい。だってあなたは違うゲームとはいえセイバーに勝った人なんだから」

 

「……うん。サリーお姉さん、ありがとう!」

 

「どういたしまして」

 

「あ、そうだ。サリーお姉さん」

 

「何?」

 

「初めてあなたと会った日に言いましたよね?私はあなたとセイバーお兄ちゃんの関係には手を出さないって」

 

「え?あ、ああ、そうだったけど……」

 

「あの言葉、撤回します。初めてセイバーお兄ちゃんに助けられたあの日から私もセイバーお兄ちゃんが好きです。サリーお姉さんも油断していたら私が横から掻っ攫いますから覚悟してください!」

 

ヒビキのその言葉にサリーはかなり驚きの顔をしていたが、すぐにヒビキを見て嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「わかったわ。それは私に対するあなたからの宣戦布告って事で捉えるから後から後悔しないようにね」

 

「勿論ですよ。サリーお姉さん」

 

それから2人は笑い合った。そして、再び自分達の特訓に戻っていくのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと本戦開始

セイバー達が予選前同様にレベル上げを進めていると、日にちも経っていよいよ本戦開始の日がやってきた。

全員で最後に方針を確認しつつ、フィールドに転移する時を待つ。

10人が挑むのは最高難度のフィールドであり、最後まで生存することで5枚のメダルを手にすることができる。

 

「フィールドのモンスターを倒したりすれば別でメダルも手に入るみたいだし、生き残るだけじゃなくてもっとかき集めたいよね。本戦の仕様を考えても……10人でずっといるかどっちか選べってことだろうし」

 

サリーの言うように、別途メダルを集められればその分だけ戦力強化につながる。そして、本戦フィールドで手に入れたメダルはパーティー全員に配られるのだ。たとえばメイプルがメダルを1枚手に入れたとして、それは他の9人にも1枚ずつ追加される。

10人でばらけてそれぞれ強力なモンスターを倒すことができれば多くのメダルを得られるが、死亡して生き残った時にもらえるメダルの数を減らす可能性も高くなる。

 

「強力なモンスターが出てくる時間があると書いてある。そのタイミングで集まれるようにしながらも、基本は拡散する方が私達が得られるものは大きいだろうな」

 

「ああ、生き残るのも大事だけどよ。どーんと稼ぎたいよな!」

 

「俺は大好物ですよ。強敵とやり合うのはね」

 

「まあ、ばらけるって言っても僕らの中の相性を考えて半分に分けるくらいがベターかな」

 

カナデの言うことに全員が賛成して、チーム分けはメイプル、サリー、ユイ、マイ、ヒビキの5人とセイバー、カナデ、イズ、クロム、カスミの5人となった。

メイプルはいきなり奇襲されダメージを受けた時に一撃死してしまう3人と組むのがベターなため、残り1人を誰にするか迷ったが、3人と同じく近接戦が得意で、メイプルの防御フィールド内にとどまることが多いヒビキに決まった。

 

「本戦も頑張ろうねお姉ちゃん!」

 

「うん、ユイもね」

 

「そろそろ時間かしら?……言っていたら転移みたいね」

 

「私も今回は頑張ります!」

 

「よーし!それじゃあ皆最後まで生き残ろー!」

 

メイプルが最後にそう言ってぐっと拳を突き上げ、9人がそれに反応する中【楓の木】の面々は光に包まれて転移していった。

 

 

10人を包む光が消え、予選の時のフィールドにやってきた。【楓の木】の初期位置は辺り一面砂と岩しかない砂漠とも荒地ともいえるそんな場所だった。

 

「見通しがよくてよかった。周りにプレイヤーはいない、か……」

 

「ああ、だが早速のお出ましだぞ!」

 

「さっさと倒すか。黄雷抜刀!」

 

周りの砂が大きく波打ち、砂中から10人をまとめて一飲みに出来そうな口を持つ巨大なワームが次々に姿を現わす。それらはメイプル達を感知するとそのまま大きな口を開けて一気に頭を寄せてくる。

 

「よーし!【身捧ぐ慈愛】!」

 

メイプルが全員を守るためにスキルを発動させ、砂煙が上がる中、全ての攻撃を引き受け無力化する。そんな中、全員がそれぞれテイムモンスターを呼び出し、一気に攻勢に出る。

 

「設置している時間はないわね……フェイ【アイテム強化】!」

 

イズが強化した攻撃力アップアイテムを地面に叩きつけ、赤い光が10人を包む。それを確認するやいなやユイとマイがテイムモンスターに跨って飛び出す。

 

「「【パワーシェア】!【ブライトスター】!」」

 

マイとユイの指示に従って、ツキミとユキミから球状にエフェクトが弾け、接近してきていたワーム全てにかなりのダメージを与える。

しかしそれでもまだかなりのHPが残っており、さすが最高難度といった様子である。

 

「逃すかよっ、カスミ!サリー!セイバー!ヒビキ!」

 

「ああ!【血刀】!ハク【超巨大化】【麻痺毒】!」

 

「朧!【拘束結界】!」

 

「【サンダーブランチ】!ブレイブ、【火炎竜巻】!」

 

「ミク、【電磁波】!」

 

カスミの側にいたハクが急激に巨大化し、素早く動いて怯んだワームを締め上げ、麻痺させて動きを封じる。朧も同様に一体の動きを止める。さらにセイバーの電撃の鞭が相手を縛り付け、ブレイブの炎が竜巻の如くワームを閉じ込める。最後にミクが確定で相手を麻痺にさせる電撃をハクが巻き付いた個体を除いた全てにかけた。

 

「ネクロ【死の炎】!」

 

「【稲妻放電波】!」

 

そうして動きが止まったところで、さらにネクロを纏ったクロムから炎が噴き出し、セイバーからは電撃の範囲攻撃でダメージを加速させる。

と、ここでマイとユイが、ツキミユキミと共にめちゃくちゃに殴りつけていたワームが流石に耐えきれずに爆散し、残りのワームは不利を悟ったのか何なのか麻痺した体を何とか動かして砂に潜ると逃げていった。

 

再び砂煙が舞い、それが収まった時にはフィールドには静寂が訪れていた。

 

「おおー!すっごい!皆のモンスター強いね!」

 

「全部は倒せませんでしたけど……メイプルさんが守ってくれているので戦いやすかったです」

 

「私とお姉ちゃんが攻撃してたモンスター以外にも倒れてましたし、どの子もすごい強いんですね!」

 

ユイがそう言ってマイと一緒に尊敬の眼差しを向けると、攻撃していた5人は不思議そうにする。

 

「ん?いや、俺はそこまでの手応えはなかったけどな」

 

「ああ、私もだ。確かにハクの攻撃力は高いが……」

 

「あそこまで速くは倒せないはず……」

 

「カナデ、お前だな?俺達とは別でモンスターに攻撃してたの」

 

「ふふふ……ソウ!こっちこっち」

 

不思議そうにする面々を見てカナデは可笑しそうに笑うと、ソウを呼ぶ。【超巨大化】したハクの影から現れたのは、白い髪にピンクのメッシュ、フリルとリボンがたくさん付いた洋服を着た、ユイと全く同じ見た目をしたソウだった。

 

「えっ!?わ、私!?」

 

「そう、ちょっとその攻撃力借りさせてもらったよ。流石の威力だったなあ」

 

ソウはスキルで姿形やステータスを反映した状態で行動していたのである。擬態先がユイとなればその攻撃力は相当なものだ。

 

「おー、カナデのテイムモンスターも強いね。戦略の幅が広がる広がる……」

 

「と言っても、っと時間切れみたいだね」

 

カナデがそう言うと同時にユイの姿をしていたソウは光に包まれ透明なスライムに戻ってしまう。

 

「ずっとは続かないしクールタイムも長いけど、面白いでしょ?直前に記憶したパーティーメンバーかそのテイムモンスターに化けられるんだ」

これならセイバーの超火力を含めて、カナデ達5人の方の攻撃能力も問題ないだろうと、5人は改めて辺りを見渡す。

 

「あ!サリー、メダル落ちてたりするかな?」

 

「んー、ちょっと探してみるね」

 

特にそれらしいものは見つからず、あの程度は雑魚モンスター枠ということらしかった。

 

「気を抜くとすぐ死んじまいそうだな」

 

「これが最高難度ということなのだろう。よし、まずは少し落ち着けるところを探そう。ハクの上に乗ってくれ」

 

全員、一旦テイムモンスターを指輪に戻すとハクの背に乗ってズルズルと砂漠を抜けていくのだった。

 

砂漠からはそのまま森と湿原に繋がっており、周りにモンスターもいなかったため、ちょうどいいとここで分かれることとなった。

サリーはマップを再度確認し、方針を伝える。

 

「マップにパーティーメンバーの位置は映ってるし、ここで分かれて強いモンスターが出る時間の少し前に集まる感じでいこう」

 

「ああ、いいんじゃないか。なら俺達は森の方へ行こう。メイプル達は湿原の方を頼む」

 

「分かりました!きっちりメダル見つけてきますね!」

 

「おう!こっちも、それっぽいモンスターを見つけて狩ってみる」

 

「取り敢えず死ぬなよ!!」

 

「アンタに言われなくてもわかってるわよ!」

 

メイプルがぶんぶんと手を振る中、セイバー達5人は予定通り分かれてメダルを探しに向かった。

 

「さて、と【身捧ぐ慈愛】は発動しっぱなしだし、このまま探索行こうか」

 

「うん、そうしよう!マイ、ユイ、ヒビキ、大丈夫?」

 

「「「大丈夫です!」」」

 

「じゃあ行こー!」

 

テイムモンスターを仲間にしたことで、マイとユイの移動速度はシロップに乗るより速くなっている。ツキミの背中にマイとサリーとヒビキが、ユキミの背中にユイとメイプルが跨り、そのまま湿原へと進んでいく。

 

「でも今回のフィールドも広いよねー。うーん、どこを探せばいいのかな……」

 

「ふふふ、こんなこともあろうかと……っと、これ見て」

 

「これは!!」

 

サリーが4人にメッセージを送る。そこには予選の時のサリーのマップの写真が添付されていた。

 

「同じマップって話だったし、何かそれっぽいものがあったところをマークしておいたんだ。少しは役に立つはず。もちろん向こうにも送っておいた」

 

「やるぅーサリー!えっと今いるのがここだから……」

 

4人は今のマップと送られた画像を見比べて近くにあるマークを見つける。

 

「あ!メイプルさん湿原にもありますよ!」

 

「本当だ!」

 

「そそ、だからまずはそこから行ってみない?マイ、細かい場所は教えるから」

 

「はい、分かりました。ツキミ!」

 

最初の目的地を決定した5人はそこに向かって歩を進めていく。周りは障害物がほとんどなく、池と背の低い植物が続くばかりである。

 

「湿原の真ん中の方だよね」

 

「そう、ま、そう簡単に通してはくれないみたいだけどね!」

 

「でも、倒しがいがありそうですよ」

 

歩みを進める5人を囲むように池と地面から水と泥の人形が次々に起きあがる。それらはズルズルと足を引きずりながら距離を詰めてくる。

 

「ど、どうしますか!」

 

「任せて、シロップ!【沈む大地】!」

 

「ミク【エアスラッシュ】!」

 

メイプルがシロップに命じるとシロップを中心に地面の性質が変わり、地面から現れた人形達はまた地面へズブズブと沈んでいく。それでも尚動こうとする個体もミクから放たれた風の刃が足を止めさせ、沈む大地に巻き込ませていく。

 

「メインの目標も生き残ることだし……マイ、ユイ今の内に逃げちゃおう!」

 

「そだね、魔法攻撃もないし移動速度も遅い……逆に捕まったらやばいタイプだと思う!足場は私が作るから!」

 

「「分かりました!」」

 

2人は【スターステップ】を発動させ移動速度を上げると、サリーが空中に作った足場を使って人形達を飛び越えた。

 

「この調子で進もー!」

 

「メイプルのスキルは強力なモンスターが出るまで残しておきたいし、頑張ってもらうよ3人とも!」

 

「「「はいっ!」」」

 

こうして、シロップやミクのスキルで足止めをしているうちにサリーが空中に足場を作ったり【氷柱】でツキミとユキミがよじ登れる場所を用意したりして、交戦を避けて、サリーがマップにマークをつけていた場所まで辿り着いた。

そこにはひときわ大きい池が広がっており、その中央に小島が1つ浮かんでいる。

小島にはピンク色の小さな花が咲いており、他の場所とは違う雰囲気を漂わせている。

もちろんその大きな池にも大量の水人形と泥人形が蠢いているため、メイプルの持っていた双眼鏡で遠くから見ているという状況だ。

 

「どうサリー?前来た時と何か変わってる?」

 

「予選では流石にここまでモンスターはいなかったかな。地形は変わってないよ」

 

「確かに……何かありそうですよね」

 

「どうしますか?」

 

「強行突破!と、行きたいですけどそれは難しそうな気がします」

 

「そうだね。いきなりやられるとメダルは何も貰えないからね」

 

通常モンスターも強力なこのフィールドでより強力なボスモンスターの住処に自ら突撃することは、生存することで貰えるメダルを逃す可能性を高めることにもなる。

 

「でも!攻略してもっとメダル取るって決めたもんね!」

 

メイプルがそう言い切ると、4人も同じ気持ちだというように頷く。

 

「多分、ユキミ達だと小島に行くまでに戦闘になると思います」

 

「だーいじょうぶ!こういう時は、シロップに任せて!」

 

背中に乗って移動できるテイムモンスターは【楓の木】にもいる。しかし空を飛べるのはこの場ではシロップとミクだけなのだ。

 

「本当は飛べないはずなんだけどね……じゃあそれで空中から行こうか。途中見てた感じだと撃ち落とされる心配もなさそうだし」

 

「私はミクに乗っていいですか?もし戦闘になった場合その方が対処がしやすいですし」

 

「わかった」

 

攻略が決定したところでメイプルとヒビキはシロップとミクを呼び出し、【巨大化】させてその背に乗る。

そうして、地面を這いずるモンスターをやり過ごして、花の咲いた小島の上へとやってきた。

 

「このままシロップ下ろせそうだし、行っちゃうね」

 

メイプルがそのままシロップを小島に着陸させるとヒビキもミクから降りた。その瞬間小島が光り始め、5人はそれが今までに何度も体験した転移の前兆だと気づく。

 

「大丈夫!【身捧ぐ慈愛】もあるから!」

 

向こうで何がきても大丈夫だとメイプルが胸を張る。そんな中5人の姿はぱっと消えて湿原からいなくなった。

 

それから数分後、5人は順調に敵モンスターを倒していた。

 

「ふーやっと終わった……マイ、ユイ、ヒビキもお疲れ様」

 

「ふう、流石に疲れますね。でも、楽しいです」

 

「まさかいきなりぶっ放すとは思わなかったけどね。ま、倒せたのならいいや」

 

「ごめんね。全然倒すのに参加できなくて……」

 

「いいんです!メイプルさんは守ってくれてましたし!」

 

「ボス戦のために温存しないとですから……!」

 

メイプルのスキルはとても強力だが、そのほとんどが回数制限つきの代物である。それは今回のイベントのような1日中戦闘が起こる場合には重いデメリットとしてのしかかってくる。だからこそ、攻撃能力がずっと落ちないヒビキ、マイ、ユイが多くの戦闘を受け持つことになる。

 

「このままボス戦まで行っちゃいましょう!倒し方もわかりましたし!」

 

「そうだね。メイプルもボス戦では頑張ってもらうよ?」

 

「うん、途中温存させてもらった分頑張るよ!」

 

雑魚モンスターの倒し方が分かってしまえば道中は苦戦することもなく進んでいく。本来は弱点を突いても一撃とはいかず、かなりのリソースを消耗させられる作りになっているが、マイとユイならば手当たり次第殴りつけるだけでいい。しかも、サリーとヒビキが3人の出来ない範囲をしっかりとカバーするので全く苦戦する事は無かった。

マイが泥人形担当、ユイが水人形担当、サリーとヒビキは倒しそこねたものを的確に倒し、メイプルは攻撃が当たってしまっても問題ないように【身捧ぐ慈愛】で4人を守り続ける。全ての攻撃位を無効化されてしまう人形にこの5人は食い止められない。

 

そうして、気持ちよく人形たちを撃破していったメイプル達は一歩一歩着実に歩を進めボスが居るであろう部屋につながる扉の前にたどり着いた。

 

「やたら数は多かったから時間はかかっちゃったけど、ようやくボスかな」

 

「「準備はできてます!」」

 

「私もです!」

 

「よーし!じゃあ開けるよ!」

 

メイプルが扉を開け、5人は警戒しつつ部屋の中に入る。部屋の中は、ところどころにある水たまりと泥だまりがあり、黄緑の苔にその他すべての地面が覆われている場所だった。

そんな5人の目の前で身長4メートルほどの2体の人形が起き上がる。一体は泥でできた体に、苔や草花を生やしたもので、もう1体は、水でできた体を持つものだった。

 

「とりあえず、道中と同じく属性攻撃でいくよ!一体ずつ倒そう!」

 

「「はいっ!」」

 

「いっくよ!」

 

メイプルを除く4人はまず倒す対象を泥人形に決めると、武器や拳に炎を纏わせてボスの方へと向かっていく。 メイプルは役割分担とばかりに水人形の注意を引いて4人を攻撃に集中させる。

 

「一気に決めるよお姉ちゃん!」

 

「うん!」

 

マイとユイは燃え盛る大槌を振りかぶり一気に叩きつける。当然この2人の攻撃力を基準としてボスモンスターは作られていないため、宣言通り、一気にHPバーが削れる。泥人形はゆったりとした動きで2人に攻撃を繰り出すが、それはメイプルが【身捧ぐ慈愛】で引き受ける。これによってメイプルのスキルのクールタイムが進まなくなるが、どうということはない。

 

「こっちも、負けてられないね!」

 

「はい!」

 

サリーとヒビキはマイとユイとは違う動きをしていた。サリーは回避して【剣ノ舞】の効果を高めながら足元を斬り刻んでいく。ヒビキは素早い動きで撹乱しながら炎の【飛拳】で遠くから削っていく。

 

「うぉりゃあああ!!」

 

「「もう一回っ!」」

 

ヒビキの渾身の攻撃で体制が崩れたところに、マイとユイの大槌が突き刺さり、泥人形のHPバーがいとも容易くゼロになる。

 

「「よしっ!!」」

 

「おー!さっすがー!」

 

「……待って、何か変!」

 

サリーがそう言うと同時、泥人形は内側からボコボコと膨らみ、大きな音を立てて弾ける。

マイとユイがそれを受けてしまうが、メイプルのお陰でダメージはない。

 

「大丈夫大丈夫!……うぇっ!?」

 

泥を無効化し、胸を張っていたメイプルのHPバーが少し遅れてきっちり2割減少する。メイプルが何があったかと辺りを見渡す。

 

「マイ、ユイ、ヒビキ!足元!」

 

「えっ、あっ!」

 

「くうっ!」

 

泥溜まりの中で立つ3人の足元には泥に紛れて茶色の種が落ちており、そこから伸びた蔓が足に絡みついていた。メイプルのHPがまた2割減少したところで、3人は蔓を引きちぎる。

 

「メイプルはシロップ出して!3人はこっちこっち」

 

サリーが誘導して、種をかわしつつメイプルが浮かせたシロップの背中に4人で飛び乗る。

種は地面にいる者にしか反応しないようで、何とか難を逃れ、メイプルのHPも回復できた。

 

「ふー、びっくりした……うう、でもこれじゃあ降りられないね……」

 

「うわ……しかも泥人形さっきの回復で復活するのかあ」

 

「でも、地面にいなければ大丈夫そうです!」

 

「練習しておいたので……ここからでも攻撃できます」

 

「むう、この感じだと私は相性最悪かなぁ」

 

頼もしいユイとマイの宣言とは裏腹にヒビキは残念そうにしている。

メイプルとサリーは姉妹の攻撃を見守ることにした。

飛んでくる泥や水は変わらずメイプルが受け止める。そんな中2人はインベントリから次々に鉄球を取り出した。

第4回イベントの時から改良され、棘まで付いてサイズも大きくなったそれに炎を纏わせて、投球のモーションに入る。

 

「「せーのっ!」」

 

可愛らしい掛け声から放たれたそれは凄まじい速度で泥人形の顔面に飛んでいき、回復してすぐのHPを再び消し飛ばして、後ろの地面に深々と突き刺さった。

 

「やった!当たりました!」

 

「練習の成果です!」

 

「あの練習は2人しかできないからね……それにしても本当いいコントロール」

 

「2人の特訓がようやく実を結んだって感じですね」

 

2人で空き時間にやっていた鉄球でのキャッチボールは役に立ったようで、2人は次の的に狙いを定める。今度はバチバチと放電する鉄球を持ち上げると全力投球で巨大な体を撃ち抜いていく。

 

「おー!あ、そうだ!それだったらさ大槌で打った方がもっと威力出るんじゃない?」

 

「あ……それは駄目なんです」

 

「鉄球が砕けちゃうんです!イズさんにもっと硬いのを頼んでいるところです!」

 

鉄球はただのアイテムなため、一定のダメージを与えると壊れてしまう。一度試した時には凄まじい音を立てて雪玉かのように粉微塵になったのだった。

打てない分鉄球自体に色々と付けた結果が今の形なのだ。

 

「流石にこのサイズの鉄球は手渡してあげられないし……見てるしかないか」

 

「私も手伝うよ」

 

「いいえ、大丈夫です」

 

「「ここは任せて下さい!」」

 

音を立てて地面に鉄球が突き刺さる度、水の体に穴が開いていく。

地面は種まみれになっているが、そんなことは関係ないと最後の鉄球が頭部を吹き飛ばし、泥人形、水人形が共に倒れたところで、地面の種も含めて全てが光になって消えていった。

そして、通知音が鳴って【楓の木】のメンバー全員に銀のメダルが1枚配られたことが伝えられる。

 

「ふー、何とかなったね!それにメダル1枚!」

 

「うん、よかった。でも気をつけないとね。今回もシロップが飛べなかったら危なかったし」

 

「そうですね。復活もしますし……本当はもっと強いはずだったのかも」

 

「近接戦ばかりのメンバーですからね。私としてはもう少し暴れたかったんですけど」

 

「でも、ここからは相性の悪いダンジョンに入らないように周りの雑魚モンスターから予測したりしないとね。っと、ダンジョンからは強制脱出か……」

 

「ここの中で安全に過ごすのは無理なんですね」

 

「よーし、次もがんばろー!」

 

メイプル達の体が光に包まれていき、いつもの転移と同じようにしてダンジョンから出ていくのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと拠点作り

メイプル達がメダルをゲットしたのと同時刻。セイバー達5人も森の中を進んでいた。

 

「お、メイプル達がメダルを獲得したみたいだ」

 

「恐らく湿原にダンジョンがあったのだろうな。サリーのマップを目安にするのは正解なのだろう」

 

「あいつ、こういう時は用意いいからな」

 

森の方へと向かった5人は基本的に【超巨大化】したハクの頭に乗った状態で移動している。

モンスターはイズがアイテムを、カナデがデバフをばら撒いたところをハクで絞め殺すか、セイバーが遠くから仕留めるのが基本になっている。

クロムやカスミは遠距離攻撃がそこまで得意ではないため、攻撃をくぐり抜けてきたモンスターを撃退する役割である。

 

「3日間とはいえ、しっかり準備してきてよかったわ」

 

「ここのモンスター、かなりの強さですしね」

 

イズの強みは全て多様なアイテムによって生み出されている。当然、それが一種類なくなる度できることは少なくなっていく。

通常の生産職とは違いゴールドからアイテムを作り出し、さらにどこでも工房を使えるイズはゴールドさえあればアイテムを補充できるのだ。

ギルドホームが何軒も建つ程のゴールドを用意したイズに死角はない。

 

「あ、そろそろサリーの目印がついたポイントじゃないかな」

 

「よし、気合入れて行くか!」

 

ズルズルと這いずっていくと、その先には魔法陣のようなマークが付いている木があった。

 

「恐らくあれだろう。周囲には特に何もいないようだが……」

 

「触れてみるか?魔法陣みたいだしな」

 

「俺も賛成です」

 

全員が賛成して、カスミがハクの頭を寄せて魔法陣に触れる。すると予想通りに模様から光が発せられて全員が本戦フィールドから移動する。

そうして移動した先は同じく木々に囲まれた森だった。唯一の違いは、木々の向こうに大木や蔦でできた壁があり、それが一周ぐるっと5人を囲んでいることだった。

広さはそれなりにあり、即戦闘かと身構えるものの、周りからは何の気配もしてこない。

 

「何もいないってことはないよな」

 

「そうね」

 

そうして警戒していると、突然風切り音が聞こえ、一早くクロムが反応する。

 

「【カバー】!」

 

キィンと音がして飛来物が弾け、宙に舞う。クロムがさっと素早くそれを確認する。

そこには導火線からバチバチと火花が散る爆弾がついたクナイが三本舞っていた。

 

「ちっ、カナデ、セイバー頼む!」

 

「ソウ【対象増加】【精霊の光】!」

 

「最光、抜刀!【カラフルボディ】、【イージスフィールド】!」

 

カナデの姿に化けたソウが魔導書を取り出し防御スキルを発動する。さらにセイバーは4人を包むように防御フィールドを展開。その直後、轟音と共に凄まじい爆風と爆炎が吹き荒れる。

それが収まった時、HPは減少すること無く全員が無事に生き残って立っていた。

 

「ソウに使わせるとダメージ無効効果はダメージ軽減に弱体化しちゃうけど、セイバーがいてくれたおかげでノーダメに出来たね」

 

「いや、ソウのダメージ軽減なかったら多分ダメージ入ってた。サンキュー」

 

「ああ、助かったぜ」

 

「さて、どこから攻撃されたのか……」

 

「飛んできたのがクナイってことは忍者とかそんな感じか?あの威力だとばらけて探す訳にもいかないしな……」

 

攻撃方法がクナイだけとは考えにくい。HPが低いカナデとイズは下手に攻撃を受ければ、ものによっては即死もありえる。

 

「しばらく探してみる?ソウがいれば回数制限があるような強力なスキルでしのげはすると思うよ」

 

「そうしてみるか。まず姿が見えないことにはな……」

まずは姿を確認することとした5人だが、森の中を回れど回れどそれらしき姿は見つからず、ひたすらにあちこちから飛び道具が飛んでくるばかりである。

 

「んー、カナデが溜め込んだ魔導書とセイバーの対応力のお陰で何とかなってるが……見つからねえなあ」

 

「どうしたものか。上手く接近できさえすればな」

 

悩んでいるとイズがしばらく言うかどうか迷った後で口を開く。

 

「そうね……荒っぽい方法でいいなら手はあるわ」

 

「へー、どんなの?」

 

「待ってください。嫌な予感しかしないんですけど」

 

「ここは広さが決まっているみたいだから……準備に時間はかかるけど空間全部爆破するわ」

 

「なるほど……なるほどな?いや、ま、アリだな。アリだ」

 

「アリなんですか!?」

 

イズからそんな言葉が出てくる日が来るとはと言った様子でクロムがたじろぎ、セイバーは驚くが、このままやっていても仕方がないということでその案でいくことに決定した。

 

「予選でもやってたあれだよな?」

 

「そうよ。ただ、新アイテムの制作も間に合ったから、上空も対応できるわ」

 

そう言ってイズはアイテムを取り出す。それは箱にプロペラが付いており、真下に紐が伸びているアイテムで、イズはそれに爆弾をいくつか括り付けると上空へ舞い上がらせる。真っ直ぐ上空に登っていくそれはある程度で上昇をやめる。

 

「結構コストは高いけれど……出し惜しみもしていられないわ」

 

「またえっぐいもん作ったな……起動は?」

 

「専用のアイテムがあるわ。樹上はこれに任せて、地面と幹に仕込みましょう」

 

「爆破されたなら爆破仕返すってか……俺達は?」

 

「中央だけは安全圏として残すわ。アイテムは平等にダメージを与えるから、間違って安全圏から出ないでね」

 

「念のため【イージスフィールド】は展開したままにしますね」

 

用意された安全圏から飛び出せばセイバーやクロムですら命の保証はできない連続ダメージと大量のデバフ、状態異常が降りかかってくる。

ソウの魔法とハクの巨体での防御で設置アイテムを守って、森の中をぐるぐると回り爆発物を敷き詰めていく。その間の敵モンスターからの攻撃は全てセイバーが防ぎ、倒せるものは倒していく。

 

「よし、準備完了。すごい音が響くのと、眩しいから気をつけてね」

 

予選と同じように空中に張り巡らされた水の糸に電気を通すと森の中に轟音が響き渡る。

それは敵のクナイの爆発攻撃がちっぽけに感じられるほどで、安全圏を除く森の空間全てを焼き払った。

 

「流石に倒せてはいないはずよ!」

 

「うん、予定通りやろう。【暗殺者の目】!」

 

カナデが【神界書庫】により今日限り使えるスキルで、状態異常がかかったモンスター及びプレイヤーへのダメージを増加させ、位置を把握できるようになる。

 

「いた!」

 

「いくぞカスミ、セイバー!」

 

「ああ!」

 

「おう!最光、抜刀!」

 

クロムはネクロを纏い鉈のリーチと威力を上げ、カスミは両脇に武者の腕を呼び出す。セイバーは剣へと変化して一気に接近する。そこには毒を受け、体が麻痺し、凍りながら燃える無残な忍びの姿があった。

 

「【終ワリノ太刀・朧月】!」

 

「【死霊の泥】!ネクロ【死の炎】!」

 

「光あれ!【閃光斬】!」

 

姿が見えてしまえばあとはあっけないもので、3人の攻撃をもろに受けて、忍びはHPを全損させて消えていった。

 

「ふう……よし、何とかなるもんだな」

 

「終わったかしら?」

 

「ああ。まあ……確かに死んではいなかったが、似たようなものだったと思う」

 

「良かったよ。流石にダメージ軽減スキルもなくなってきてたところだったからね」

 

ここで、メイプル達がそうだったように通知が鳴って、メダルが獲得できたことが伝えられた。

 

「うし、1日目でいきなりこれならかなりいいだろ!」

 

「森をいくつか越えたし、今回も結構時間がかかったから、意外に時間が過ぎているわね」

 

「もう1つか2つ探索したところで合流かな。タイマーを見るにどうやら夜は強いモンスターが出るみたいだし」

 

「ある程度なら対応できますけど、流石に大勢でかかられたらキツイですからね。【カラフルボディ】」

 

セイバーは再び人型に戻るとハクの上に乗った。

 

「そうだなあ。ハクのお陰で楽に移動できているけど、結構進んだもんな」

メイプル達と連絡を取り、あまり離れ過ぎないようにしつつ、また夜を過ごす場所を探しつつ、クロム達5人も次なるダンジョンを目指して探索を続けたが、それから暫く探したものの、あまり良い成果は得られなかったため、この日は【楓の木】が拠点とできるような場所を探すことにした。

 

それから暫く移動するとセイバー達はメイプル達と合流する事になった。

 

「あ!いたいた!おーい!」

 

セイバー達はメイプルを探していると彼女は大きく手を振っていたので簡単に見つける事ができた。

 

「お、メイプル達か。そっちも上手くやったみたいだな」

 

これでギルドの全員が銀メダルを2枚獲得したことになる。あと3枚集めて最後まで生き残れば、目標の10枚に届く。

 

「そうだそうだ、拠点にできそうな洞窟があったからな。こっちだ」

 

セイバー達はメイプル達との合流前に洞窟を見つけており、その洞窟にクロムの先導で入っていく。洞窟は奥へ続いており、ダンジョンとは違い明かりなどはないものの、いくつか少し広くなった空間があり、蟻の巣状になって最奥のより広い空間につながっていた。

 

 

 

 

 

「見た目だけならダンジョンっぽいけど……何も出ないか……」

 

「ああ、こんな感じにダンジョンっぽい場所がいくつかあってな。おそらくダミー兼休息用だと思う」

 

「じゃあ、夜までの間はここを整えないと!快適にしないとね!」

 

「さーて、改良を始めますか」

 

ゆったりと夜を過ごすためには、こんな岩肌がむき出しの洞窟ではいけない。英気を養うためにも改良は必須である。

 

「外に出しておいても消えないタイプのアイテムもあるわ。流石に家具はそこまで持っていないから、今から作るわね。」

 

「んー、頼もしいなあ。じゃあ僕はイズにアイテムを貰って防衛用のトラップでも仕掛けてこようかな」

 

「「私達も手伝います!」」

 

「時間がないからね。私とセイバーとあとメイプルも分担して、まずは防衛機構を完成させよう」

 

「うん!頑張るよ!」

 

メイプルの性質上、【楓の木】は攻め込むより守りに徹する方が得意である。入り口を限定し、アイテムをフル活用すればただの洞窟も強力な防御能力を備えた要塞となる。

 

セイバーもイズからアイテムを受け取って、部屋をカスタマイズすることとなった。

 

「さてと、どうするかな。部屋の防御を固めるために罠を沢山設置するのもアリだけど、あんまり置きすぎると今度は通り抜けられなくなるからなぁ………。取り敢えずマルクスさんがやってたみたいに……」

 

セイバーは第4回イベントでマルクスが罠を張っていた時を思い出すと彼のように部屋の至る所に罠を設置していく。しかも、設置された罠は最も効果的な威力を発揮される場所に的確に置かれていった。

 

「こんな感じかな。良し、そろそろ他の部屋を観に行ってみようかな」

 

セイバーはそう言うと他の部屋へと移動し始めた。すると、メイプルが作ったと思わしき部屋は一面が毒で満たされていた。

 

「これ、どこからどう見ても毒の海だよな?メイプル、流石にこれはやりすぎじゃね……」

 

セイバーが唖然としているとメイプルが部屋から出てきた。

 

「よーし一部屋完成っ!次々!」

 

「なぁメイプル。なんで部屋ごと毒に沈めてるの?これ、俺達通れないよな?」

 

「………あ」

 

「取り敢えず、次から気をつけよっか」

 

「うん……」

 

それから守りを固めるために2人はまた他の部屋へと走っていく。そうしていくつか部屋を回るとマイとユイの姿があった。

 

「マイ、ユイ、そっちはどう?」

 

「上手くいってる?」

 

「あ!セイバーさんにメイプルさん!」

 

「は、入ってきちゃ駄目です……!」

 

「え?わっ、あうっ!?」

 

「ちょっ、危なっ!」

 

メイプルが部屋に踏み入って、うっかり何かを踏んだ瞬間、セイバーは後ろに飛び退くと高くなっている天井から凄い勢いで両手を回すことも難しい程の巨大な岩が落ちてきてメイプルの頭に直撃する。それはガンッと音を立てて少し跳ねると前に転がり落ち、それが次のスイッチを踏んで次々に岩が落ちてくる。

それが収まったところでマイとユイが慌てた様子でひょいひょいと岩をどけていくと、その下から無傷のメイプルが現れる。

 

「び、びっくりした……ごめんね!折角の罠が発動しちゃった!」

 

「大丈夫ですっ!それにメイプルさんが無事でよかったです」

 

「てか、俺だったら無傷じゃ済まないだろうなぁ」

 

「もう一回置き直すの手伝うよ。シロップは呼べないし……この盾に乗って!」

 

「俺もやるか」

 

メイプルは装備を変更し大盾を3枚装備すると、2枚に岩を持ったマイとユイを乗せて再設置に向かう。更に、セイバーは2人に設置場所についての指導をし、先程よりも効果的な場所に設置するのを助けた。

 

「うう、他の部屋を見にいく時も気をつけないと」

 

「上手く歩けば通り抜けられるので……外に出るときに困ることもないはずです」

 

「通ることすら出来ない部屋もあるけどな」

 

「うぅ……」

 

メイプルは罠の設置は不得意なようで、自分のカスタマイズした部屋を思い返しどうしたものかと考える。

あの部屋は近づいたものを問答無用で倒すことはできるが、その代わりギルドの面々も誰一人近づけないのだ。

 

「あとでサリーにも相談して、作り直そうかな……」

 

「ど、どんな部屋を作ったんですか?」

 

「ついでにセイバーさんの部屋についても教えてください」

 

「えへへ、それはねー」

 

 

2人はそんなマイとユイの質問に答えつつ、罠の再設置を済ませて、この部屋を後にした。

マイとユイの部屋もまた殺傷力の塊のような部屋なため、入ってくるモンスターがひたすら可哀想になるものである。

 

ここから4人で残った部屋に落石トラップや毒沼を設置して、やりきった表情で最奥に戻ると、そこは半分を境に照明やテーブルが置かれ、パーテーションによって個人のスペースも作られた快適空間になっていた。興が乗ったのか、イズはカーペットを敷いて壁紙まで貼り始めている。

加工がされていないもう半分のエリアは罠をくぐり抜けてきたモンスターの迎撃用である。

 

「わっ、すっごい綺麗になってる!」

 

「あ、おかえりなさい。もうトラップ設置は終わったのかしら?」

 

「はい!大丈夫です!」

 

「きっちり準備してきました」

 

「だいぶ苦労しましたけどね」

 

「こっちもほとんど完成よ。第4回イベントの時と比べてもかなり快適になったと思うわ」

 

イズは最後の仕上げとばかりに迎撃エリアに向けて砲台を設置して、一気に襲ってこないように壁を作り、ふぅと一息つく。

 

「結構大仕事になったわね。でも、いい経験になったわ。それに楽しかったもの」

 

「す、すごいですね。かなり素材を使ったんじゃないですか?また集めないと……」

 

「貴重なものはそこまで使っていないわ。でも、また今度お願いするわね」

 

「私もお姉ちゃんもいつでも大丈夫です!」

 

5人でそうやって話していると、残りの5人も罠を設置しきって戻ってきた。

 

「いやー、設置してきたぞ。ただ、外に出る時もちゃんと注意して出ないと、しくじったら死ぬようなのも多くてやばいな」

 

全員が同じような感想を抱いているようで、うんうんと頷いているとメイプルがハッとした表情で声を上げる。

 

「あ!そうだ、他のプレイヤーの人が入ってきたらどうしよう!巻き込まれちゃうよ!」

 

「ん、あー大丈夫。外に看板立ててきたから」

 

「へっ?あ、そうなの?ありがとうサリー!えっと、どんなの?」

 

「『楓の木本拠地 危険物多量 命の保証なし』って」

 

「……間違ってはいないだろう」

 

「むしろこれ以上ないほど正しいと言えるね」

 

「そうね。トラップ塗れだもの」

 

そんな殺人トラップ塗れのダンジョンを用意して、遂に強力なモンスターが現れる時間がやってきた。

 

「とりあえず、構えて待っておこうか」

 

「そうだね。どんな感じで出てくるかも分からないし」

 

休息エリアと迎撃エリアの境で、イズが建てた壁に身を隠しつつ、いつでも攻撃ができるように、それぞれが武器を構える。そうしていると、上から地響きが連続して聞こえ、何かがこのダンジョンの中に入ってきたことが分かる。

 

「何か来た」

 

「うん、いつでも攻撃できるよ」

 

緊張した空気が漂う中、しかし上から聞こえていた地響きは次第に収まっていき、いつまで経ってもそれらしいものはやってこない。

 

「……死んだか?」

 

「おそらく……一度罠の起動状況を確認する必要があるだろうな」

 

どの程度強力なモンスターだったのかを予測できる上、倒せていたのであれば、罠の再設置も必要になってくる。

 

「私とメイプルとセイバーで見てこようか。最悪の場合でも逃げてこれるだろうし」

 

「そうね。変に罠が起動してもメイプルちゃんがいれば安心だもの」

 

そうして3人が休息エリアから足を踏み出したところで、上へと続く通路から一体、メイプルの【暴虐】状態のような角が生え、目や鼻のない、悪魔らしい翼を生やし槍を持ったモンスターがダメージエフェクトを散らしながらふらふらと飛んできて、ズシャッと地面に落ちて光となって消えていった。

 

「ああ……頑張って生き残ったんだろうにな」

 

「お疲れ様としか言えないな」

 

「そう、だな。いや、私達も生き残ることが目的だからな」

 

どっちが悪役でダンジョンのボスか分からない状態になったが、あの悪魔は一つ貴重な情報を与えてくれた。

 

「多分、対空性能が足りないのかな」

 

「そうだねー、確認したら罠もより改良するかなあ」

 

3人が罠をチェックして回ると、入り口から順に罠が作動しており、地面を歩くタイプの悪魔のものと思われる素材が大量に落ちていた。

 

「そこまで再設置も難しくないし、皆を呼んで作り直そう」

 

「うん。あ、そうだ!マイとユイなら大きな岩とかも運べるし、道を塞いだりして、罠の方に向かわせるとかもできるかも!」

 

「なるほど、それも面白そうだな」

 

「それに、今回はゆっくり寝たいし、防御機構は盤石にしていこう」

 

3人は現状を写真に撮ったりして記録し、また最奥へと戻っていった。

 

 

 

そうして夜も深くなってきたところで、罠の再設置も終わり、交代で休むこととなった。

 

「さてと、強力なモンスターっていうのは勝手にこっちに向かってくるみたいだし、交代で寝るしかないかな」

 

「とりあえず入り口は塞いでおいたらどうだ?マイとユイなら楽にできるだろ」

 

「マイ、ユイ頼める?」

 

「「はい、大丈夫です!」」

 

ユイとマイは迎撃エリアの奥にある出入り口まで向かうと、罠にも使った大岩をいくつも取り出し、さくさく通路を塞いでいく。

 

「よし、これで無理矢理入ってくるやつがいたら分かるだろ」

 

奥へ行くにはいくつもの大岩を壊さなければならない。破壊音が聞こえれば即座に対応すればいいため、奇襲も受けづらくなったと言える。

 

「これでひとまず安心かな……」

 

「だな。まぁ、もしも罠が抜かれたら俺が叩きのめしてやるからよ」

 

「セイバーお兄ちゃんばかりずるい!私にもやらせてよ!」

 

「オッケー」

 

「おーい!サリー!セイバー!ヒビキ!こっちで遊ばなーい?」

 

「わかりました!!」

 

肩の力を抜いた3人を居住スペースからメイプルが呼ぶ。空き時間を潰すためのアイテムはいくつもインベントリに入っているのだ。今までもそうだったように、笑顔で手を振ってくるメイプルを見て、ヒビキが走っていき、サリーは少し微笑むとメイプルの元に歩いていく。セイバーもその後を追っていき、一夜目はこうして遊んで休んでをしているうちにどんどん深まっていくのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとパズル男

第8回イベント本戦の1日目の夜。【楓の木】の面々は交代で休んではいたものの、結局運営に用意されたダンジョンを遥かに上回るレベルの殺傷力を持ったセイバー達のダンジョンは突破されず、入り口に積み上げた大岩をモンスターが突き破ってくることはなかった。

最後の見張りを担当していたサリーとカスミが眠っている8人を起こしてまわる。

 

「メイプル、朝だよ起きて」

 

「んー、ふぁ……んぅ、おはようサリー、大丈夫だった?」

 

「大丈夫でしょ。2人が俺達を途中で起こさなかった所を見ると緊急事態にはならなかったみたいだし」

 

「セイバーの言う通り、何にも起こらなかったね。罠の起動音は結構聴こえたけど、結局突破はされなかったみたい」

 

「よかったー。よしっ!今日も頑張ろー!」

 

 

メイプルは頬をぺちぺちと叩いて目を覚ますと、セイバーと共に仕切りで区切られた部屋から出る。するともう全員が用意を済ませており、いつでも探索できる状態だった。メイプルはそれを見て、【楓の木】のギルドマスターとして改めて目標を言う。

 

「あとメダル3枚!これで最後まで生き残ればメダル10枚だから頑張ろう!」

 

「じゃあ、今日もどっちに行くかまず決めようか」

 

サリーがそう言ってマップを開く。しかし、何やら様子がおかしいようで、サリーはパネルをトントンと指で叩く。

 

「マップが……表示されなくなってる」

 

「俺も表示されねーな」

 

「ん、ああ私もだな」

 

「僕もそうみたいだね。あと、メッセージ機能も使えなくなってるみたい」

 

「これじゃあ連絡が取れないですよ」

 

「いずれにしても、この状態で逸れたら不味いだろうな」

 

セイバーの言う通り、現在地の確認及び、連絡手段がなくなれば暗闇の中を行くようなものである。1日目とは異なったその様子に、何か嫌な予感がすると、10人の間に警戒する雰囲気が流れる。

 

「とりあえず10人で動こうよ!ばらばらになったら大変だし」

 

「そうだな。目標も達成しないといけないからな。ただ、何かでバラけた時の目印くらいは決めてから行こう」

 

しばらく相談して良い案も出たところで、10人は外に出ることにする。

 

「……よし、じゃあ目印はそうするか」

 

「……そうね」

 

「よーし!じゃあ行こう!」

 

「おー!!」

 

この洞窟には敵味方関係なく即死するトラップが大量に仕掛けられている。メイプルは念のため【身捧ぐ慈愛】を発動させるとその間にマイとユイが大岩を回収して、10人は外へと向かっていく。

 

「今日は10人で攻略かあ。これならどんどん勝てそう!」

 

「そうだね。まあ、1日目でメダルも2つ取れたし、わざわざ別れなくてもよさそうなのも運がよかったかもね」

 

トラップを発動させないように、回収できるアイテムは一旦回収しつつ、外へと向かっていく。

 

「っとと、【ヴェノムカプセル】も解除して玉座も回収しておかないと!」

悪魔のようなモンスターが出るのならスキルを封印できるかもしれない【天王の玉座】も必要になる。回収できるものは回収して万全の体勢で臨む必要がある。

 

 

 

拾えるものは拾い切った一行はそのまま外へと出る。するとそこは朝にもかかわらず薄暗く、空には星一つ見えない闇が広がるばかりだった。

 

「うぅ、なんだか嫌な感じだね……」

 

「気をつけて……っ!メイプル!」

 

「この広範囲は躱せない!!」

 

外に出て少しすると、10人の足元に漆黒の魔法陣が展開される。メイプルの【身捧ぐ慈愛】の範囲に匹敵するサイズであり、魔法陣の外に飛び退くことは不可能だった。

 

「大丈夫!回復の準備だけしてて!」

 

メイプルがそう言うと同時、全員が漆黒の光に包み込まれ、セイバーは来るであろうダメージに備える。しかし、セイバーの体には一切の衝撃がやってこない。

 

「……ダメージが無い?まさか、これは!!」

 

悪い予感というのは当たるもので、目を開けたセイバーの周りには誰1人として立ってはいなかった。それだけでなく、セイバーの背後には今出たばかりの拠点もなく、どこか分からない場所だった。

再確認してもマップには現在地が映らず、メッセージも送ることができない。

想定していた中で最も悪い状況だが、それでも想定外ではないだけマシである。

 

「やはり分断してきたか。けど、何となく予想はしていた。だから、ちゃんと生き残れよ。皆」

 

そうしてもしも分断された時の相談しておいてよかったと思いながら空の方を見ていると丁度良く目印として決めていた物が空に上がった。因みに、目印とはメイプルが体に爆弾を括り付けて、上空で爆発。それは花火のように周囲に見えた。

 

「良し、あれだな。さっさと行こうか」

 

セイバーが足を踏み出そうとするといきなり目の前に人影が現れた。森の中から歩いてきた者は頭には青いヘッドギアをつけ、肩に青い装甲を纏い、胸にパズルの絵が描かれた服を着た男だった。右腰にはダイヤル付きの長方形の物体を挿しており、足は黒いタイツにカナデのブーツをそのまま青くしたような装備をしていた。

 

「セイバーだな?」

 

「え?あんた誰?」

 

セイバーが困惑するのも当然である。何故ならセイバーはこの男を知らないのだから。

 

「俺の名前はパラドクス。まぁ、パラドとでも呼んでくれ」

 

「ふぅん。で、パラド。お前は何の用で俺の所に来た。悪いが俺はお前の名前を聞いた事すらないんだが」

 

「当然だろ。だって俺、最近になってようやくギルドに加入したばかりの新顔だからな」

 

「ん?待て待て、お前新顔だと?まさか、それでここにいるのか?」

 

「あー、それなら大丈夫。俺の強さは保証するぜ。なんだってこれでレベル30だからな」

 

「レベル30でここにいるって、化け物すぎるだろ。パラド、お前どうやってここまで勝ち上がってきたんだ?」

 

「んー?それなら今から見せてやるよ【アイテム展開】」

 

するとパラドクスの体から大量にメダルが飛び出すとそれはセイバーやパラドクスの周囲に散らばった。

 

「何したんだ?」

 

「まぁ見てなって」

 

パラドクスはニヤリと笑うとそこに丁度良く人型ののモンスターが大量に現れた。

 

「まずは、【アイテム集約】!」

 

パラドクスがそう言うと周囲に散らばったメダルの内、近くにあった16枚のメダルが集まり、縦横4枚ずつで並ぶとパラドクスが手を翳した。するとメダルがパラドクスの腕の動きに合わせて動き始めた。まるでパズルを解いているように。

 

「メダルを操ってるのか?」

 

セイバーがポカンとしているとモンスターはそんなのお構いなしにセイバーへと攻撃をしてきた。

 

「ヤベッ!」

 

セイバーは人型モンスターの腕に付いている鉤爪を烈火で受け止めるが、あまりの重さに膝をついた。

 

「くっ。重たいなぁ……でも、そんな程度じゃ……効かないぜ!激土抜刀!」

 

セイバーは激土を抜くと足を思い切り振り上げた。

 

「【グランドウェーブ】!」

 

セイバーが足を思い切り地面に叩きつけるとその衝撃で地面が波のように振動し、土の波が発生。それがモンスター達をノックバックさせて怯ませた。

 

「続けて、【グランドブレイク】!」

 

更に激土を地面に叩きつけるとそこからエネルギー波が発生。地面を抉りながら飛んでいくその衝撃波は人型モンスターを撃破していった。

 

「ふう。流石にこれは……痛てっ!」

 

安心するのも束の間。セイバーの背後に先程の攻撃では倒しきれなかった個体が攻撃を仕掛けてきた。

 

「くっ。だったら、黄雷、抜刀!」

 

続けてセイバーは黄雷へと変化すると一気に決めるために黄雷を振り上げた。

 

「【落雷】!」

 

【稲妻放電波】ではパラドクスも巻き込むために【落雷】を選択したセイバーだったが、それでも全ては倒しきれずにモンスターが立ちはだかった。ただ、それでも尚パラドクスのパズルは終わらなかった。

 

「まだかよ……俺が全部倒しても良いか?」

 

「そう焦るなって。良し、これにしよう!」

 

パラドクスはパズルを終えると中心の方に集められた3枚のメダルが出てきてパラドクスの中に吸い込まれた。

 

「【高速化】、【マッスル化】、【透明化】!」

 

パラドクスは自分でメダルに描かれている強化要素を言うと透明になり、次の瞬間にはモンスター達を横から殴り飛ばしていた。

 

「早っ!」

 

そのまま連続で攻撃を仕掛け、更には空中へと跳び上がる。

 

「決めるぜ」

 

パラドクスの透明化が解除されると同時に彼の腕には近くに落ちていたと思われるメダルが握られていた。

 

「【キック強化】!【パーフェクトコンボ】!」

 

パラドクスの足に青い光が集約されるとモンスターに向けてキックを放ち、モンスター達はポリゴンとなって消えた。

 

「オールクリアってな」

 

パラドクスはキメ顔でそう言い放ち、セイバーの元へと歩み寄る。

 

「パズルで時間をかけちゃったのは悪かったよ。でも、どうだった?」

 

「お前なぁ、初対面の人にいきなりモンスターの相手させるか普通よ」

 

「解決したから良いでしょ。それに、本当ならもっと早くクリア出来たんだよね」

 

「はぁ?」

 

「セイバーの強さを見るためにわざと遠回しのパズルをさせてもらったよ」

 

「この野郎!」

 

「それは悪かったって言っただろ?それに、回復なら任せてくれ」

 

パラドクスは手にしていたメダルをセイバーに取らせると先程ダメージを受けて減っていたセイバーのHPが回復した。

 

「回復まで出来るのかよ」

 

「どう?これで俺の強さは証明されたでしょ」

 

「そうだな。で、お前はこれからどうするんだ?その感じだとお前もパーティメンバーと逸れただろ」

 

「確かにな。だから2人で一緒に探そうぜ。この感じだと恐らくモンスターも沢山いるだろうし、強いメンバーが一緒で悪いことは無いだろ」

 

「もしかしなくても最初からそれが狙いで俺に近づいたんじゃ……」

 

「バレたか」

 

「ま、良いけどな。で、お前はどこのギルドに所属してるんだ?」

 

「俺は【炎帝ノ国】のメンバーだ。ただ、入って2週間ぐらいの新入りだけどな」

 

「そりゃ、どうりで噂を聞かないわけだ。しかも、【炎帝ノ国】かぁ。お前みたいな強いサポーターがいればもっと強くなるだろうな」

 

「まぁな。とは言っても、俺も攻撃には参加するぜ。要するに、サポーター兼前衛だ」

 

「ん?前衛?どっちかっていうと能力的には後衛寄りな気がするけど……ま、いっか。それで、これからどうする。やっぱり合流か?」

 

「そうだな。取り敢えずお互いに仲間探しと行こうぜ。幸いにも、俺の方はマルクスさんのスキルによって分断前に生成された【印の札】とかいうプレイヤーの位置がわかる優れものがあるお陰で俺の方は割とすぐに見つかりそうだけどな」

 

「そんな手段があったのか。あの人も多彩なスキル使うね。良し、これからよろしくな。パラド」

 

「こちらこそよろしく。俺もセイバーと仲間になれるなんて心が躍るぜ」

 

セイバーはここに至って新しいメンバーと出会った。その名はパラドクス。2人はそれぞれの仲間達との合流のために動き出すことになる。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと合流

第8回イベント2日目。ダンジョンの中で全てのパーティがバラバラに転送される罠が発動し、【楓の木】の面々は別々の場所に飛ばされていた。そんな中、セイバーは【炎帝ノ国】の新入り。パラドクスと合流。2人で仲間を探すことになった。そしてそれは【楓の木】の他のメンバーも同様である。メイプルはマイと合流し、クロムはミィやミザリーと、イズはマルクスと、カスミはシンとそれぞれ共闘の形を取った。

 

そして、カナデやユイはドラグと合流後、そこにサリー、フレデリカ、ペイン、ドレッドが集まっていった。そしてヒビキもまた、ある人物と合流していた。

 

「やああっ!せいっ!」

 

ヒビキがまた1体、モンスターを殴り倒すと1人のプレイヤーと背中合わせになり、そのプレイヤーに声をかけた。

 

「やっぱりキリがないですね」

 

「ふん。まさか分断されてから初めて会ったプレイヤーがお前だとはな」

 

「私もびっくりですよ。キラーさん」

 

ヒビキが合流したプレイヤー。それはキラーだった。

 

「だが、強いプレイヤーであるお前と出会えて俺もラッキーだな」

 

「キラーさんにそう言ってもらえて嬉しいです」

 

「で、お前らは合流の手段とか用意しているのか?」

 

「えっと、メイプルさんを目印にするって決めていて、さっき見えたのでいる方向はわかっているんですけど、まだかなり距離があると思います」

 

「そうか。あの方角なら俺も行こうと思っていたし、2人で行くとするか」

 

「うん!」

 

それから2人はメイプル達がいるであろう方向へと歩き始めた。

 

「そういえば、お前は確か俺の魔剣の力を取り込んだらしいな」

 

「イグナイトのことですね。はい。以前に攻撃を受けた時に偶然生み出されました。おかげでかなりパワーアップしましたよ」

 

「……なんか複雑だな。俺の魔剣が役に立ったのなら喜ばしいことなんだろうが、強化されたのは本来敵であるはずのプレイヤーだし」

 

「ふふっ。それなら今度は私がキラーさんの強化のお手伝いをしましょうか?」

 

「結構だ。お前らのギルドの奴らは皆デタラメな進化をするらしい。俺もそれに巻き込まれるのは御免だ」

 

「えー。別に良いじゃないですか」

 

ヒビキはそう言って頬を膨らませる。そうこうしているうちに2人の前に再びモンスター達の群れが現れた。それらは狼の姿で体色は黒く、1匹1匹が2人を獲物として見ていた。

 

「また来るの〜?」

 

「何度でも倒すまでだ」

 

キラーは魔剣を抜くとヒビキも構える。

 

「行くぞ」

 

「はい!」

 

2人はモンスターの群れに向かって突撃していくと交戦を始めた。

 

 

「はあっ!【我流・双撃連打】!」

 

「【聖断ノ剣】!【呪血狼砲】!」

 

「ミク、【覚醒】!【雷撃波】!」

 

「亡、【覚醒】!【氷結ノ爪】!」

 

2人はパートナーのモンスターと共にモンスターを圧倒していく。ヒビキは両腕の拳のラッシュで、キラーは魔剣から放たれる高火力の攻撃で、ミクは自身に蓄えられたありったけの電撃を衝撃波として放ち、亡は自慢のスピードを活かしてモンスターをすれ違い様に連続で切りつけていく。

 

「楽勝楽勝!」

 

「このまま何も無ければな」

 

キラーがそういうとそこに群れのボスとも呼べるモンスターが現れた。その体は通常の個体よりも5倍近くもあり、尚且つ体毛が灰色であった。

 

「大きい……」

 

「ふん。群れのボスがお出ましか。だが、俺達相手で通用すると思ったのか?」

 

キラーがそういうと魔剣をインベントリにしまった。

 

「え?何でしまったんですか!?」

 

「ふん。俺の剣がいつまでもこの剣だけだと思うなよ」

 

するとキラーはインベントリから新たな剣を取り出した。

その剣は赤く燃え盛っており、まるで火炎剣烈火のようであった。

 

「それって……」

 

「俺の2本目の剣……炎の魔剣。レーヴァテインだ」

 

「うぇえ!?いつの間に……」

 

「……それをお前らにだけは言われたくないな。俺だって偶には進化しても構わないだろ!【魔の炎柱】」

 

キラーがレーヴァテインを地面に突き立てると炎の柱が吹き上がり狼を炎で包み込んだ。

 

「よーし、私もいっくよー!【イグナイトモジュール・抜剣】!」

 

『ダインスレイヴ!』

 

「はああっ!」

 

ヒビキも決戦スキルである【イグナイト】を起動すると一気に肉薄してからのキックを叩き込んだ。

 

「次はこれだ。【獄炎】!」

 

キラーは剣に地獄の炎を高めるとそれをもってして狼を斬りつけた。

 

これにより、狼はHPの半分近くを削られることになった。

 

「流石に私達の連携相手はキツかったかな?」

 

「いや、安心するのはまだ早い」

 

すると狼は体から黒いオーラを噴き出させると速度が先程よりも大きく上昇した。

 

「うわぁ……速度が上がっちゃうなんて……」

 

「中々面倒な事をしてくれるな。だが、無意味だ。【ドラゴンラッシュ】!」

 

キラーがスキルを叫ぶと何処からか4匹の龍が現れてキラーの周りに集まると龍達が狼に襲いかかり、速度の上がった狼へと連続で突進していった。最初の数撃こそ狼は自慢の速度で回避していたが、一度攻撃を受けてしまうと怯んでしまい、その間に次々と攻撃を受けて狼は叩き伏せられた。

 

「決めるぞ」

 

「はい!」

 

「亡、【銀狼ノ加護】!【魔炎狼斬】!」

 

「ミク、【蓄電】、【電力移行】!【我流・雷撃拳】!」

 

2人はそれぞれテイムモンスターからの支援を受けてスキルの火力を上げるとそのまま狼へと渾身の一撃を喰らわせ、狼は堪らず吹っ飛ぶと地面へと打ち付けられて撃破された。

 

 

「やったぁ!」

 

「ふん」

 

ヒビキがその場で喜んでいるとキラーは何かの気配に気づいたのか警戒を強めた。

 

「待てヒビキ。何がいるぞ」

 

「え?」

 

次の瞬間、ヒビキへとモンスターが突進してきた。

 

「うぇ!?」

 

当然ヒビキが防げるはずも無い。そのため、直撃は免れないかに見えた。

 

「パラド!頼む!」

 

「オッケー。【マッスル化】!【斬撃強化!】」

 

「【疾風剣舞】!」

 

そこに2本の翠風を1つに合体させたセイバーがパラドクスの支援のもとモンスターを横から真っ二つに両断した。モンスターは爆散するとセイバーが降り立ち、2人を見た。

 

「ふう。間に合ったぁ」

 

「セイバーか」

 

「セイバーお兄ちゃん!ありがとう!!」

 

「まったく、ヒビキはすぐ油断するんだから。もっと周りには警戒をしとけよ」

 

「わかってるって〜!」

 

「そういえば、お前その姿であんな火力出るか?確か速度重視のスタイルだったはずじゃ」

 

「ああ、それなんだけど俺も他のプレイヤーと合流していてね」

 

セイバーとキラーが話していると茂みからパラドクスが出てくる。

 

「やれやれ、俺に支援してもらっておいて俺を置いてくとかせっかちな奴だな」

 

「お前は……」

 

「初めましてだな。魔剣使いのキラーに剛腕のヒビキちゃん」

 

「【炎帝ノ国】の新入りらしい。因みに実力は折り紙付きだ」

 

「ほう。ならば丁度良い。お前達が加われば俺達も憂なく仲間を探せそうだ」

 

「利害も一致してるしパラドも良いよな?」

 

「ああ。それにしても、これだけ豪華なメンバーが揃っているんだ。心が躍るぜ」

 

「それじゃあ、そろそろ行くか」

 

「うん!」

 

「待て、セイバー。折角お前が来たんだ。ブレイブを使って空から捜索した方が早いだろ」

 

「……あ」

 

「お前まさかずっと忘れてたなんて訳ないよな?」

 

「すいません。完全に忘れてました」

 

「ええ!?」

 

「はぁ……」

 

セイバーのこの言葉にヒビキは驚き、キラーは呆れていた。

 

「ブレイブ、【覚醒】、【巨大化】」

 

それから4人はブレイブの背中に乗って空を移動することになった。それから暫く空を飛ぶと遠くに3つの巨大な影が見えた。

 

「お、敵モンスターか?」

 

「いや、違う。あれは……」

 

セイバーがよく目を凝らすと、それはモンスターなどではなく、シロップとイグニスとレイだった。

 

その背にはそれぞれ【炎帝ノ国】と【集う聖剣】の面々、そしてまだ合流できていなかった【楓の木】のメンバーが乗っているのが見えた。

 

「ちゃんと生き残っていたみたいで安心したぜ」

 

「取り敢えず、合流だな」

 

それからセイバー達は【楓の木】、【炎帝ノ国】、【集う聖剣】のメンバーと合流し、会話を交わした。

 

「予想より早かったが、また会ったなメイプル。セイバーも」

 

「ミィと皆も!」

 

「合流できて一安心って所ですね。まぁ、パラドやキラーにはお世話になりましたけど」

 

「えっと、そっちはペインさんと、ええ?な、何があったの?」

 

「タイミングまで同じとは思わなかったが、サリーと俺と考えてることは同じだったみたいだな」

 

「そうみたいですね」

 

「あ、もしかして2人共同じこと考えてる?」

 

つまり、セイバー、サリー、ペインの3人がそれぞれのギルドに提案したこととは拠点の提供だった。【楓の木】の拠点はマップの中央近くにあり、モンスターもそこまで溢れかえってはいない。

拠点を提供する代わりに防衛戦力になってもらおうという訳である。

 

「おー!いいね!皆がいたら賑やかだし、モンスターにもばんばん勝てそうだしっ!」

 

メイプルは笑顔でそう返すとようやく合流できた【楓の木】の面々をシロップに乗せ直して先導しつつ拠点のあるあたりまで飛んでいく。

 

セイバーだけは護衛のためブレイブの上に乗っていたが。

 

「んーと、サリー、この辺だったよね?」

 

「うん、あの山の位置は変わってないし、ここの麓で大丈夫なはず」

 

メイプルはそのままゆっくりとシロップの高度を下げて着陸する。しばらくその周りを探すと拠点を示す看板があり、見覚えのある洞窟に戻ってきた。

 

「ふー、良かったあ。じゃあ一旦拠点に戻ってからできたら探索だね」

 

「って言っても合流に時間かかったし、設営次第では強化時間入っちゃうかも」

 

「それならさっさと拠点を作り直すか」

 

それならまずは急いで拠点作成だと、全員で洞窟の中へと入っていく。トラップの再設置にも時間がかかってしまうため、奥へ進みながら設置していく。

 

「うわ……何この殺傷力だけ考えたトラップ……でもなんか所々僕と似たような配置をしている場所があるけど……」

 

「マルクス、貴方もどこか設置しておいてもいいんじゃないですか?」

 

「うん、頼んでみるよ。それに1本くらい僕らが出る時に発動しないトラップだけのルートがあったほうがいいよ……ミスして踏んだらおしまいだよ?」

 

メイプルが常に【身捧ぐ慈愛】を発動しているため【楓の木】の面々は毒沼などに突っ込んでも問題ないが、他のギルドはそうはいかないのだ。

そうして、マルクスも設置に加わりつつ最奥へと辿り着く。追加で10人、人が増えたためスペースの使い方も変わってくる。

 

「サクッと作るわよ!皆、手伝ってね?もちろん全員よ」

 

「拠点の作成も心が躍るなぁ!」

 

「なぁ、こいついつもこんな感じなのか?ミィ」

 

「そうだな。だが私はパラドクスには才能があると思ってギルドに入れた。その結果、前よりも暴れられるようになったしな」

 

「なるほどね。俺達のキラーと同じ感じか」

 

イズが指示を出して、居住スペースを作り変えていく。トラップの配置が終わっているうえ、人が増えているため、初めての時よりもはるかに早く設営は終了し、なんとか強化モンスターが現れるようになる少し前に拠点は完成した。

ただ、迎撃スペースを少し削ることにはなったが、マルクスのトラップ設置によって質はより良いものになっていた。

 

「あら、スクリーン?何か見るのかしら?」

 

「ここに、映像が出るようにしておくから……」

 

マルクスが張ったスクリーンにパッと映像が映し出される。そこには蟻の巣状になったこのダンジョンの全ての部屋の様子が映っていた。

 

「わー!すごい!」

 

「流石罠を張るスペシャリストのマルクスさんだな」

 

「み、見えてれば再設置したいトラップの種類もモンスターの強さも分かるから……あとセイバー。君の罠の位置も中々良いセンスしてるよ。じゃあね」

 

マルクスはメイプルに戦闘の方は他のギルドメンバーに任せることを伝えて、仕切りで区切られた自分のスペースに戻っていく。

新しく作り直された居住スペースは、中央に広めのくつろげる空間を用意し、そこに接続するように各ギルドの区域が設けられている。マルクスのスクリーンがあるのもここだった。

基本は【楓の木】の拠点なため、ワイワイガヤガヤとしているのは楓の木のメンバーだが、よく【楓の木】に来ているのもあり、フレデリカなどはそんな雰囲気にすぐに溶け込んでいた。

 

「暇だねー。ダンジョン攻略って訳にもいかないしー、でも気も抜けないしねー」

 

「馴染んでるなあ……何か来たら防衛は頼むからね?」

 

「分かってるってサリー。炎帝もいるし、負けないよー」

 

「ま、流石に全員が必要なだけの敵は来ないでしょ。それに来たとしても最強の三大ギルド相手じゃあ襲ってくるモンスターが悲惨な目に遭いそうだ」

 

「サリーさん!セイバーさん!何か入ってきたみたいです!」

 

噂をすればというように、マルクスの設置したアイテムに侵入者の姿が映る。そこにいたのは四本の足を動かして走りこんでくる一つ目の化け物だった。メイプルの【暴虐】から足を減らして代わりに目を増やしたようなそれは、次から次へとメイプル達の拠点へ飛び込んでくる。それは凄まじい数で雪崩れ込んできており、物量で罠を突破してくる。罠のおかげで数は減っているものの、全ては倒しきれそうにない。

 

「あー、これはここまで来そうだねー。昨日の夜より強くなってるかなー。ペイーン!仕事だよー!」

 

フレデリカが【集う聖剣】の区画へ向かっていくのに合わせ、【炎帝ノ国】の区画からもミィが出てくる。

 

「私が行こう。後ろに控えていてくれ」

 

「ミィ、1人で大丈夫?」

 

メイプルがそう聞くと、ミィは自信ありげにふっと笑う。

 

「私も大規模ギルドのギルドマスターだ。それにシンやパラドクスはともかく、マルクスとミザリーは後方支援の方がメインだからな」

 

それなりの耐久力を持つ大量のモンスターが雪崩れ込んでくるのであれば、ミィ1人での戦闘が一番やりやすいとのことだった。

 

「危なかったらいつでも飛び出すからね!」

 

「ああ、安心しているといい。その必要はないだろう」

 

ミィがそう返したところで、ペインがやってきて、それに同調する。

 

「ああ、俺も行く。拠点を借りた分の仕事をすると誓おう」

 

「はいはーい、じゃあバフだけしてくからよろしくー」

 

「俺も行くか。流石にお二方だけにやらせるのも不味いし」

 

「セイバー、行くのは良いけど派手にやりすぎるのだけはやめてよね?」

 

「わかってるって!」

 

それからフレデリカに合わせて、マルクス、ミザリー、イズが3人にかけられるだけのバフをかける。3人からは様々な色のオーラやエフェクトが立ち上り、準備は整った。

 

「行こうか、ミィ、セイバー」

 

「今度は出し惜しみは無しだぞ2人共」

 

「2人との共闘は燃えますね」

 

「ああ、それとあの数……下手に残すより一撃で倒す方がいいだろう」

 

セイバー、ミィ、ペインはそれぞれブレイブとイグニスとレイを呼び出すと、迎撃エリアまで歩いていき武器を構える。

そこにドスドスと足音が響き始め、モンスターが通路から大量に飛び出してくる。

モンスターは3人を捕捉した途端、眼球の前に黒い魔法陣を展開し、何らかの攻撃をしようとした。しかし、その魔法陣から何かが発生する前に3人が攻撃を開始する。

 

「ブレイブ【爆龍演舞】【龍ノ舞】」

 

「イグニス【不死鳥の炎】【我が身を火に】」

 

「レイ【光の奔流】【全魔力解放】」

 

セイバーは体に赤い炎のようなオーラを纏わせると力が昂っていき、ミィの体は赤い炎に包まれ、地面を炎が伝っていく。ペインの剣は青白い光に包まれていき、バチバチとスパークのような音が聞こえ始める。

 

「【紅蓮爆龍剣】!」

 

「【殺戮の豪炎】!」

 

「【聖竜の光剣】!」

 

モンスターの魔法陣から黒い光が放たれたその瞬間、それをはるかに上回る量の赤と白が空間を埋め尽くす。セイバーが生み出した紅蓮の龍が正面にいるモンスターを次々と飲み込み、焼き尽くしていく。更に、ミィの生み出した炎は地面全てをダメージフィールドに変えて、前方全てを焼き払い、ペインの生み出した光は悪魔型モンスターへの特攻性能を持ち、光に包まれたものから順に浄化するように消し飛ばしていく。

その炎と光は通路を逆走し、途中に残っていたアイテムなどもまとめて吹き飛ばして、ダンジョン内を暴風のように吹き荒れてやがて消えていった。

 

 

「何だ、二日目といえど思ったほど強くはないものだな」

 

「今回は地形がいい。ここなら俺達は隙の大きい大技で簡単に対応できる」

 

「ま、それでも俺達3人の火力ならこのくらいの強さは当然のように出るかな」

 

「すごーい!さっすがセイバーにミィとペインさん!」

 

「また攻めてくることもあるだろう。20人いれば交代で守ることも楽になる。俺達のギルドにはいつ声をかけてくれても構わない」

 

「私達も同じだ」

 

「ありがとう!」

 

メイプルがすごいすごいと二人にさっきの技の感想を伝える中、モニターを見ていたフレデリカが駆け寄ってくる。

 

「ちょっとペインー!マルクスのカメラも吹き飛んだんだけどー?」

 

スクリーンには入り口辺りのものを除いて何の映像も映らなくなってしまっていた。

 

「……?いつも掛からないバフの中に射程延長があったか……すまない」

 

「ミィも……僕のあれ再設置に時間かかるんだからね」

 

「あ、ああ、悪かった」

 

「セイバー!アンタもやり過ぎるなって言ったよね?少しは加減しなさい!!」

 

「そんな事言ってもなぁ。スキルに加減する方法ってあるのか?」

 

「言い訳するな!この鬼火力!!」

 

当然のようにセイバーもサリーからの説教に遭っていた。

 

そして、罠も含めて再設置の必要があると話している面々を見て、クロムとカスミは先ほどの光景を思い返す。

 

「ギルドマスターというのはどこもああいったものなのだろうか」

 

「いや、あんな一騎当千はそこまでいないだろ。俺達の周りにそういうのが多いだけだ」

 

「まぁ、セイバーの場合はいつものことだろうな」

 

「ああ、アレはもう加減しろって言う方が無理だろ」

 

自分達のギルドマスターにセイバーのことも思い浮かべながら、次にいつ襲撃が来てもいいように、この2人も罠の再設置に向かうのだった。

 

それから、何度か襲撃を受け、その度に罠を設置し続けるのは割に合わないと感じた面々は、入ってきたモンスターを即座に撃破する方式に切り替えた。ここにいる20人はそれぞれがゲーム一を争うような強さを持っているため、ローテーションしても問題なく撃破することができていた。

 

一例としてユイとマイが通路から顔を出した所を2つの大槌で叩きつけ、振りかぶる前に飛び込んだ者や何らかのスキルで生き残った者はイズの大砲とフレデリカやミィなどの後衛によって遠距離から撃ち抜かれるといった具合である。

 

そうして、思ったよりも楽に迎撃ができることが分かった頃、共有スペースで【炎帝の国】と【集う聖剣】の面々がそれぞれ何か話をしていた。

 

「何やら話しているみたいですけど」

 

「どうかしたんですか?」

 

モンスターの襲撃がないことを確認して、メイプルとセイバーが2つのギルドの話を聞きに行く。

両ギルドとも話していた内容は同じなようで、この夜のうちに一度ダンジョン攻略のために外へと出るべきかもしれないとのことだった。

 

「今夜のモンスターも弱いわけでないが、ここまでの迎撃で倒せないほどではないと感じる。俺達が今日強制的に転移させられたことを考えると、明日の朝にも何か起こる可能性も考えられる」

 

「ペインの言う通りだ。夜は昼に比べると危険、とのことだが。2日目の夜と3日目の昼……3日目の方が危険な可能性も十分ある」

 

「な、なるほど……」

 

「理にかなってますね。モンスターが強いとはいえ迎撃が可能だって分かっているうちにさっさとメダルを探すのも有りだと思います」

 

ゲーム内で1、2を争う大規模ギルドとしてはメダルは手に入れられるだけ手に入れたいものである。ある程度戦力を確認できたため、5人で問題ないと判断し、探索に向かおうというわけだ。

 

「あ、そうだ!じゃあ私達も手伝いますよ!」

 

「丁度俺も暴れ足りないですしね。それなら良い運動になりそうです」

 

それを聞いてペインとミィは少し驚いた表情を浮かべる。そして少し考えて、メイプルにはおそらく打算はなく、本当に1フレンドとして手伝おうという純粋な申し出だということに思い至る。

 

「ああ、私達としても前衛が増えるなら心強い。それに、メダルはそれぞれに分配されるようだからな。メイプルやセイバー達にもメリットはあるが……」

 

「危険を冒してまで外に出るかは他のギルドメンバーとも相談するといい。申し出には感謝するが、今ですら拠点を借りているからな」

 

2人は【楓の木】として力を貸してくれるなら、喜んで受け入れると返して、仮に外に出た際の戦略などを考え始める。

メイプルとセイバーは言われた通りに、一旦【楓の木】の面々を集めると先ほどの話を始めた。

 

「まあ、有りかもね。確かに、3日目に何か起こらない保証はないし。今のモンスターなら勝てるっていうのも納得かな」

 

「僕達も、貰えるメダルは貰いたいからね」

 

「「私達も今度は頑張ります!」」

 

「私としては3日目の朝までにここに戻れるならいいと思う」

 

「同意見だ。カスミとイズがメダルを手に入れてくれたが、今日は探索自体は全くしてないからな」

 

「私もメダル集めに行きたいです!」

 

「早めに集め切るのは賛成ね。3日目にあと1枚探している余裕はないかもしれないもの」

 

全員が賛同したことで、メイプル達も手を貸し、【楓の木】【炎帝の国】【集う聖剣】のメンバーを分けて、探索を開始することにした。

 

「ダンジョンがありそうな場所にマークを付けたマップがあるから、見せますね」

 

「はぁー、サリーちゃっかりしてるねー。んーどれどれー?」

 

「今見せるって」

 

サリーが予選の時に作成しておいたマップを全員に送信する。これを元にどの辺りに向かうかを決めなければならない。

 

「こうして見ると……特殊なオブジェクトがある場所はマップの端に偏っているな。俺達はこの辺りは調べてきた」

 

「2日目以降のことが考慮されているのだろう。よりモンスターが強力なマップ端へ向かう必要を考えるとやはり今で正解か……」

 

ペイン達とミィ達の情報も考慮し、リスクとリターンを考慮し、バランスをとりつつ多くの場所も探索できるよう、4つの5人組を作ることとなった。これで4組全てに各ギルドのメンバーを入れて東西南北に分かれ、ダンジョンを探すのである。

こうして機動力や耐久力、攻撃能力を考慮して、各組ごとに強みを作ると、全員で拠点からフィールドへと出ていくのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと東組

イベント2日目の夜、【楓の木】、【集う聖剣】、【炎帝ノ国】のメンバーは3日目に入る前に5人ずつの4組に別れてフィールドの探索を行うことになった。東へ向かったのは、ドレッド、マルクス、マイ、ユイ、ヒビキの5人である。

5人はツキミとユキミの背に乗って、フィールドをガンガン進んでいく。

 

「ほー、中々速いもんだな」

 

「うん、これならモンスターに出会っても上手く振り切れるかも……」

 

そう言っていると、正面から、拠点を襲ってきた1つ目で4足歩行のモンスターが現れる。マルクスのクリアの能力でも消え切ることはできないため、正面から5人に向かってくる。

 

因みに、クリアとはマルクスのカメレオン型のテイムモンスターの事を指しており、隠密能力に優れるモンスターである。

 

「「【パワーシェア】【ブライトスター】!」」

 

ツキミとユキミは主人の方が攻撃力が高いため、STRを分かち合って上昇させることとなり、球状にダメージを与える光を放つ。

目の前から接近してきていたモンスターはそれを2つ重なるように受けてよろめく。

 

そうしてよろめいたところを両脇をすり抜けるようにツキミとユキミを駆けさせる。さらに、すれ違いざまに2人が振り抜いた大槌はきっちり全てモンスターに直撃し、そのまま光にして消しとばしてしまう。

 

「ひでぇ通り魔だ」

 

「改めて隣で見るとすごい威力だね……」

 

「マイちゃんとユイちゃんの火力を舐めてもらっては困りますよ」

 

「俺は嫌と言うほど知ってるけどな」

 

「僕もね」

 

以前、第4回イベントで実際にマイとユイに倒されたドレッドと、自身の罠を潰されたマルクスは2人の火力が尋常では無いという事を身をもって知っている。

 

この5人の基本戦略はマイとユイを上手くモンスターに接敵させ全てを破壊するというものである。また、ツキミとユキミがいるおかげで速度もそれなりに確保されており、マルクスの罠も含めれば離脱能力も問題ない。

5人はサリーが作ったマップの画像を見て、楓の木の拠点の位置から印がどの辺りにあるかをおおよそ推測する。

 

「地形は変わってねーからな。サリーの話だとこの辺りに……あれか」

 

星すら見えない夜の闇が広がる中、目の前の湖には月が写っていた。空を見上げても月はどこにも見当たらないことから、その光景が異質なものであることは簡単に理解できる。

 

「もう行きますか?」

 

「ああ、ここで見ててもモンスターが来て面倒だ。それにマルクスはダンジョン内の方がやりやすいって聞いてっけど」

 

「うん、ここのモンスターだとクリアの能力が生かせないし……」

 

「だったら尚更行きましょう」

 

「本当にダンジョンかも分かんねーしな」

 

「分かりました。ツキミ!」

 

マイとユイはツキミとユキミを走らせるとそのまま湖の淵までやってくる。

 

「とりあえず、湖の中央辺りまで行くぞ」

 

「ボート……出す?」

 

ツキミとユキミは泳ぐこともできるため、その必要はないと、水面へ足を伸ばす。すると、不思議なことにツキミとユキミの足は水中へと沈んでいかずに水面でぴたりと止まる。そのまま歩を進めても問題なく水面を歩くことができた。

 

「これは……当たりみてーだな」

 

「ダンジョンですね」

 

5人がそのまま湖の中央、月の映る場所まで行くと体を光が包み込んでいく。

 

「早速発見か、まぁ死なねーようにな」

 

「うん」

 

「「はい!」」

 

「絶対に5人で帰りましょう」

 

全員で意気込んだところで5人の体は完全に光に包まれすっとダンジョンに転移していった。

転移先は地面が水びたしになっており、壁もじっとりと湿っている、全体的にジメジメとした場所だった。5人がいるのは円形の空間で、スタート地点だということがすぐに分かる。

この部屋からは通路が1本だけ伸びており、そこへ進むしかないようだった。

 

「さて、やるか」

 

「うん、じゃあクリア……【透明化】」

 

「これで消えたんですか?」

 

「うん。でも、効かないモンスターは向かってくるから気をつけてて」

 

「PVPだと分かってても対処できねーかもな」

 

「……どうだろうね」

 

「取り敢えず、先に進みましょう」

 

5人は警戒しつつ通路を進んでいく。すると通路の向こうから1メートル程のうなぎが水をまといながら空中を泳いでくるのが見えた。泳いだ後には水の道が残り、そこにはバチバチと音を立てて青白い光が走っている。

5人はさっと武器を構えるものの、うなぎは5人に気づいてはいないようでそのまま真っ直ぐ泳いでくる。

 

「お姉ちゃん!」

 

「うん!」

 

「私も行きます!」

 

3人は1歩前に出るとマイとユイは2本の大槌をそれぞれぐっと振りかぶって、全力で振り抜く。ヒビキは拳にエネルギーを高めて【飛拳】を放つ。

それはゆったりと泳いでいたうなぎを真上と横から叩き落とし、パァンと音を立てて地面に叩きつけられたうなぎはバチバチと放電しつつ光になって消えていった。

 

「豪快な暗殺だな……」

 

「【透明化】しがいがあるね」

 

攻撃を加えればバレてしまうため、このイベント内でイズとダンジョンに入ってしまった時は見つからないために使うしかなかったが、ヒビキとマイとユイがいれば全く違う効果をもたらす。モンスターからすれば何もない空間から不可視の即死攻撃が飛んでくるという状態なのだ。一撃で倒してしまえば、モンスターに見つかることもない。

 

「ウチのギルドじゃやれねー戦い方だ」

 

「あくまでも奇襲のためのスキルなんだけどね……」

 

「「あ、また見えるようになっちゃったので掛け直してくれると助かります!」」

 

「私にも!」

 

「ボス戦で出てくるかもしんねーし、新しい見た目の奴は倒して行くとするか」

 

マイとユイの一撃が即死圏内かどうかは戦略に大きく関わってくる。

ヒビキの攻撃に関しては2人が一撃で倒せなかった場合の保険としての攻撃になっており、お陰で殆ど敵を見つからずに倒す事を可能にしている。

こうして5人の攻略は順調な滑り出しを見せたのだった。

マルクスは3人へと再度【透明化】をかけると、そのまま3人にトラップの変化系のスキルで、相手の攻撃に反応して防御壁を生み出す効果を付与する。

 

「放電してたし……見えないだけだから無差別攻撃なんかには気をつけて」

 

「メイプルの【身捧ぐ慈愛】だったか?流石にあんな防御能力はねーからな。ある程度は予測して避けねーとな」

 

それが失敗した際の最後の砦がマルクスの防御壁なわけだ。マイとユイもメイプル以外の面々と組んだ時にも攻撃を上手く命中させなければと思っていたため、丁度いいスキルアップの機会と言える。

 

「このまま一番奥まで行っちゃいましょう!」

 

「気をつけて進まないとダメだからね、ユイ」

 

「大丈夫、最悪2人で倒しきれなかったら私が引きつけるから。安心して攻撃して良いよ」

 

意気揚々と進んでいく中、放電するうなぎ以外にも、多様な魚が空中を泳いでいた。そして、しばらく行ったところで目の前に大部屋が現れる。そこはバチバチと放電する水を空中に残しながら泳ぎ回る魚で溢れかえっていた。

下手に触ったり攻撃したりすれば、全てのモンスターがこちらを向き一斉に攻撃してくることは容易に想像できる。

 

「ど、どうしますか……私達は一気に全部倒すのは難しいです」

 

「すり抜けたい所だけど、ちょっと難しいかな」

 

「私もあの数を全て倒すのはキツいです」

 

「しゃーねえ、シャドウ【覚醒】」

 

ドレッドの声に合わせて真っ黒い毛を持つ狼が呼び出される。

 

「戦闘回避能力があるのはマルクスだけじゃねーってことだ」

 

ドレッドはスキルの発動と同時に反対側の通路に向かって真っ直ぐに走るように4人に指示する。

それを聞いてマイとユイはツキミとユキミに乗ると、準備ができたことをドレッドに伝える。

 

「いくぞ、シャドウ【影世界】」

 

ドレッドの声に合わせて5人の真下が黒く染まり、そのままずぶりと全身が地中に入り込んでしまう。一瞬呆気にとられそうになった4人だったがドレッドの指示を思い出してそのまま真っ直ぐに駆け出す。斜め上には地面を透過して先程まで見ていた景色が広がっていた。そうして走っていると、下から押し上げられるようにして地上に近づいていく。

5人は何とか逆側の通路までモンスターに気づかれることなく走り抜けることができた。

 

「はは、これだと罠もすり抜けられちゃいそうだなあ……これの方が対処できなくない?」

 

「……どーだろうな」

 

「いや、絶対に何か弱点はありますよね?こんなのがノーリスクだったら強すぎますよ」

 

「言っとくが教えないからな」

 

「わかってますよ」

 

【集う聖剣】メンバーの強さの一端を見たという様子のヒビキとマルクスに対して、マイとユイは先程の不思議なスキルに驚くばかりだった。

 

「すごいです!いろんな使い方ができそうなスキルでした!」

 

「助かりました。ありがとうございます」

 

「いーんだよ。こっちもボスで火力出してもらわないとだからな。にしても……」

 

何をしても純粋な反応を返してくるマイとユイを見て、普段の攻略とは全く違う雰囲気にドレッドは頭をかく。

 

「【楓の木】らしい、か……」

 

「あ……考えてること分かる気がする」

 

たまにはこんな攻略も悪くないと、目を輝かせる2人を連れて、ボス部屋を目指すのだった。

 

 

クリアとシャドウの戦闘回避能力と、困った時にモンスターを一撃で屠れるマイとユイの攻撃力、そしてヒビキの対応力があれば、道中に関してはそこまで苦戦する要素はなく、5人はボス部屋の前までたどり着く。

 

「マルクス、準備は終わったか?」

 

「うん、大丈夫」

 

「「私達も大丈夫です!」」

 

「私も行けます」

 

「よし、なら開けるか」

 

ドレッドが先頭で中へと入る。すると、部屋の奥に水の塊を纏い浮かんでいる十メートル近い巨大ナマズがおり、その太く長い髭からは音を立てて電気が弾けていた。

ナマズの頭上にHPバーが表示されると同時に、その体をぶるりと震わせて体のまわりの水を5人に向けて飛ばしてくる。それは空中を漂っていたが、ナマズのヒゲがより激しい電気を纏ったかと思うと、合わせて電気を帯び始める。

 

「【遠隔設置・土壁】」

 

嫌な予感がしたマルクスは土壁を立てて、水球と自分達の間を遮る。その直後、轟音と共に浮いていたいくつもの水球の間をつなぐようにして極太の電気の糸が伸び、しばらくして消えていった。

 

「心配すんな。俺とヒビキが隙を作る。サリーとの連携もやってるよな?」

 

「「はい大丈夫です!」」

 

サリーと同じスピードタイプ、同じ武器のドレッドならマイとユイも動きを合わせやすい。サリーとは特訓で一緒にいた時間も長いのだ。

動きに似た部分を見出すことくらいはできるだろう。また、ヒビキは近接戦では無類の強さを誇るため、ドレッドほどの速度は出なくても瞬間火力はこちらの方が高い。よって、ダメージで相手に隙を作らせるにはヒビキが出た方が良いのだ。

 

「シャドウ、【影の群れ】!」

 

「ミク、【覚醒】!【避雷針】!」

 

ドレッドは走り出すのに合わせて、影の中から何体もの狼を呼び出し、先行させて地面から少し上を浮かんでいるナマズに突撃させる。更には、ミクが避雷針としてナマズの電撃を吸収しているため、狼達はダメージを負う事なくナマズへと連続で攻撃をかける。

 

「やるじゃねーか。お前のモンスターもよ!」

 

「でも、【避雷針】は長く保ちませんよ」

 

ヒビキの言葉通り【避雷針】の効果が切れたのかミクに吸収されていた電気は再び狼達へと向かうようになり、狼達は次々と消えていった。

 

「流石にそこまで万能じゃないか。面倒くせぇが、魔法でやるしかねーな」

 

「私も飛び道具で援護します」

 

【避雷針】無しに近づけば自分も電撃を受けることになる。HP1で生き残るスキルも持っているため、試すことはできるだろうが、リスクとリターンが釣り合わない。

 

そうして2人は魔法や遠距離攻撃スキルを使って注意を引きつつ、マイとユイの攻撃が難しくなったことで、どう攻略するかを考える。とりあえずマイとユイの方に背中を向けさせようとナマズの側面に回り頭をこっちに向けさせたところで、電撃にも負けない轟音を立ててナマズの腹に巨大な何かが激突する。

 

ナマズが大きくよろけたところで、その何かは地面に落下しズシンと地面を揺らしつつめり込んだ。2人が飛んできた方向を見ると、そこにはトスバッティングの要領で、何かを放り投げるマイとそれを大槌でジャストミートするユイの姿が目に映った。見えはしないが隣でマルクスが2人のパワーに引いていたりもした。

 

再び轟音と共に飛来した何か。正確には一夜目についに完成したマイとユイの打撃に耐えうる超硬度のゲーム内物質調合謎物質球は、2発目も運良く反撃しようとしたナマズの顔面に突き刺さり、ダメージを受けたナマズは水の力を失って地面に落ちてダウンする。

 

「ドレッドさーん!今です!」

 

「ヒビキちゃんもお願いしますっ……!」

 

「なんつー力技……【セプタプルスラッシュ】!シャドウ【影の群れ】」

 

「でも、最高です!【我流・特大撃槍】!ミク【ウインドスラッシュ】!」

 

ドレッドは物は試しと今は電気を発していない、ナマズのヒゲの部分を攻撃する。数は力というように狼の群れと高速の連撃は確かなダメージを与えていき、連撃の途中でナマズの髭に大きな傷が入る。本体はまだ倒れないが、ドレッドには電撃攻撃の性能が落ちたことが予想できた。

そこにヒビキがミクに繰り出させた風の刃でナマズを怯ませつつ、両腕同時のパンチをナマズの腹に叩き込んで大きなダメージを与えていく。

 

そこでナマズの体がバチバチと電気を放ち始めたため、2人は一度距離を取る

 

「あの2人は……熊に乗っても間に合ってねえな」

 

「割と復活までが早いですね」

 

ダウンがそこまで長くなかったことと、次のバッティング体勢に入っていたこともあって、それには間に合わない。

 

「マイ、ユイ!もう一発頼めるか!」

 

「「はいっ!」」

 

2人は万に一つも自分に当たらないようにナマズを挟むように位置取ると、電撃を回避することに集中する。2人はサリーとは違って多少ダメージを受けたとしても死にはしないため、マルクスが設置し続ける壁と、付与されるダメージカット効果を生かしてもう一度ダウンするまで時間を稼ぐ。

 

「こっちは……多分危ねーな。シャドウ【影壁】!」

 

「ミク、【避雷針】!」

 

次の攻撃を予測し、被害を最小限に抑える。そして、回避できないほどの巨大な電撃が飛んできた際はミクの【避雷針】とシャドウのスキルの合わせ技で上手く回避していく。

2人のスキルと技術を連携させて時間を稼いでいると、再びナマズがバッティング攻撃を受けて地面に叩き落される。

 

「「今回は行けます!」」

 

次は急いで近づこうと決めていた2人はツキミとユキミに飛び乗って一気に接近する。

 

「「【ダブルストライク】!!」」

 

2人がツキミとユキミから飛び降りつつ放った攻撃はバッティングなどという2人だからダメージが出ている変則攻撃とは違い、きっちり攻撃スキルらしいダメージを叩き出す。

他の全てを犠牲に手に入れた破壊力はペインやミィにも決して劣らない。

誰でも手に入れられる市販の攻撃スキルですら即死級のダメージになるのである。

しかし、ナマズはHPがほんの僅かだけ残った状態で生き延び、体が今まで以上に激しい電気を放ち始める。不自然な耐え方からも見て、何かが来るとドレッドは一早く距離を取ろうとする。

 

「「耐えられた!?」」

 

「多分ギミックだ!」

 

「2人共下がって!!」

 

ツキミとユキミに乗り直した2人はドレッドやヒビキに合わせて、マルクスの方まで退避する。

4人がちらっと背後を見ると、巨大ナマズの放電はピークに達し、落雷のような天井まで伸びる幾本もの光る柱となって、地面をえぐりつつ向かってくる。

 

「【遠隔設置・土壁】【遠隔設置・障壁】【遠隔設置・城壁】!」

 

マルクスが逃げる4人の背後に壁を設置し、少しでも電撃が追いつくのを遅らせる。そうして何とかマルクスの元までやって来たところでマルクスはイズと共に戦った時にも使った砦を生み出す。

 

「【設置・一夜城】!これでもまだ相殺できない……!」

 

「どれくらい持つ!?」

 

「このままのペースだと……30秒!」

 

砦の外に見えるのは電撃の真っ白い光だけで、その向こうがどうなっているかは分からない。しかしこのままやられるわけにもいかない。

 

「しゃーねえ、あと一撃だ。どうせこのままじゃ焼かれるんなら、やってみるか。面倒だけどな」

 

「私もフルパワーで決めます。【イグナイトモジュール・抜剣】オールセーフティ、リリース!」

 

ドレッドとヒビキは他に手もないと砦を飛び出し、極大の電撃の中へ飛び込んでいく。

 

「【超加速】【トップスピード】【神速】シャドウ【影潜り】!」

 

「【我流・火炎龍撃拳】!ミク【避雷針】!」

 

ドレッドは一気に加速するとそのままシャドウのスキルによって影の中に沈み込む。時間としてはほんの僅かだが、スキルによって加速したドレッドはその一瞬で巨大な電撃をすり抜ける。

ヒビキはイグナイトのフルパワーであるルベドを発動し、ステータスを倍にするとミクの【避雷針】を利用して電撃が自身へと向かない間に突貫。火炎の龍を右腕に集約させて一気に電撃を突破した。

 

その先には巨大ナマズがおり、大量の電撃が降り注いでいるが、ドレッドはそこを駆け抜けるのは自分じゃなくて良いと土魔法で石弾を生み出した。

 

「行け!ヒビキ!!」

 

撃ち出された石の弾丸はナマズの電撃の方向を変えてヒビキには当たらないように晒させた。

 

「うぉりゃああああああああああ!!!」

 

ヒビキの拳がナマズを貫くとHPを0にして倒した。

 

「はぁ……何とかなったか」

 

「援護、ありがとうございました」

 

「良いってことよ。お陰で俺があの中に行かなくて済んだしな」

 

ヒビキがイグナイトを解除すると他の3人も2人の元へとやってきた。

 

「ドレッドさんにヒビキちゃん、大丈夫ですかー!」

 

「ん、ああ、気にすんな。問題ねーよ」

 

「えっへへー、私も大丈夫!」

 

戦闘が終わり、全員に1枚のメダルが渡される。嬉しそうにするマイとユイを見つつ、ヒビキとドレッドは次のダンジョンはもっと楽に勝てる相手ならいいと思うのだった。




20人の戦力を4つに分けてそれぞれが別の方角を探索する回が始まったばかりですが、今回で年内の投稿は最後にしようと考えています。読者の皆様もよい年をお過ごしください。それではまた次回もお楽しみに。


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聖剣使いと西組

西へと向かったのはペイン、ミザリー、イズ、カナデ、パラドクスの5人である。この5人となると移動手段は自ずとレイに乗って飛んでいくことに決まる。

 

「ドレッド達が無事にダンジョンを攻略したようだ」

 

「流石だね。この速さってことはマイとユイとヒビキも上手くやれたのかな」

 

「俺達も負けてられないぜ」

 

5人が向かう先は空に浮かぶ浮遊島である。その多くが行くことのできない場所に、雰囲気づくりのために浮かべられているのに対し、1つだけギリギリ侵入可能な場所に浮かんでいるものがあった。

 

「1つだけというのは妙ですから。きっと何かあると思いますよ」

 

「そうね。ただ……やっぱり来たわよ」

 

ギリギリ侵入可能な範囲ということは当然マップの端であり、空でも強力なモンスターが現れるようになっている。そして5人の予想通り正面からはコウモリのような翼を羽ばたかせて、頭に2本の巻角が伸びた悪魔型モンスターが次々に飛んでくる。

 

「地上にもいたけど、配下を呼び出すタイプだね。どうする?」

 

「浮遊島まではそう距離はない。一瞬隙があればすり抜けられる」

 

「分かった。じゃあそれで決まりだね」

 

「ならまずは、これにしよう【範囲拡大】!」

 

パラドクスがメダルをカナデのテイムモンスターであるソウに取らせるとソウが放つスキルの効果範囲が拡大された。

 

「パラドクス、ありがとう。ソウ行くよ【スリーピングバブル】【パラライズシャウト】」

 

本から電撃にも似たエフェクトが弾け、虹色に輝く泡が吹き出していく。因みに、カナデが使えるスキルはソウにも使えるのだ。パラドクスのお陰で効果範囲が広まったこともあり、ほぼ全ての悪魔に睡眠や麻痺の効果を与えさせると彼等はボトボトと地面に落下していき、浮遊島までの道が開けた。

 

「レイ【流星】!」

 

5人が乗っているレイの体を光が包み込み、急激に加速し真っ直ぐに飛んでいく。突進系スキルを発動させることによって、辛うじて睡眠や麻痺を受けることなく近づいてきたモンスターを跳ね除けつつ高速で浮遊島まで突っ切るつもりなのである。

それは予想よりも遥かに上手くいき、周りのモンスターを振り切って一気に浮遊島まで接近する。

 

「後ろの牽制は任せておいて!」

 

「前方のモンスターを倒すのにスキルを集中させた方がいいですから」

 

「なら、今度はこれかな。【MP増幅】、【投擲強化】、【魔法攻撃強化】!」

 

パラドクスがパズルで目当てのメダルを取り出すとそれを4人へと付与していき4人を強化。

 

そうした上でイズとミザリーは追いかけてくるモンスターを追い返す役割を担い、ペインとカナデは残るモンスターを払いのける。

 

「よし、降りられそうだ」

 

こうして無事浮遊島までたどり着くと、ペインは一旦レイを元のサイズに戻して、辺りを観察する。5人が降りたのはいかにも着陸してくれと言わんばかりに開けた場所になっている浮遊島の端で、島自体はそう大きいものではなく、数分あれば端から端まで歩ける程度の大きさだった。

 

「目の前の森に入るしかなさそうだ」

 

「そうね。警戒していきましょう」

 

ペインを先頭にして、5人で森の中を進む。この森にはモンスターが出てこないようで他の場所とは違っていることが分かる。

 

「洋館か……」

 

「いかにもだし、入ってみる?」

 

「ああ、入らない手はない」

 

正面の扉を開けて5人が中へ入ると、そこにはエントランスが広がっており、中央では血で描かれたように見える大きな魔法陣が存在感を放っていた。

 

「早速ね。分かりやすくて助かるわ」

 

「万が一罠だった時のためにダメージ無効や蘇生は準備していますので」

 

サポートも整っており、ダンジョン攻略が目的でここまで来たのだから乗らない理由はない。心配は杞憂で済んだようで、5人の体は見覚えのある光に包まれて転移していく。光が収まるのを待って、目を開けると目の前には石レンガでできた人工的な通路が伸びていた。背後はすぐ壁になっており、分かりやすい一本道のようだった。

 

「とりあえず進むしかないだろう」

 

「ええそうね。モンスターの気配もないわ」

 

「さっさとボスの所に行きますか」

 

ここでも同じくペインを先頭にして通路を進んでいくと、3つの扉がある広間に出た。扉にはそれぞれ剣、杖、槍のマークがついており、何かを示していることは間違いない。

 

「やっぱり、中のモンスターの傾向かしら?」

 

「私もそう思います。なら最も対処しやすいものを選ぶのがいいかもしれません」

 

5人は相談して、剣の扉を選ぶことに決めた。そして、扉を開けるとそこは障害物の存在しない決闘場となっており、対面には鎧を着込みヘルムをかぶり、大剣を持ったモンスターがいた。

 

「やっぱり対応したモンスターが出るので間違いなさそうね」

 

「ええ、それにもし全て出てくる敵が1体ならやりやすそうです」

 

そう、この5人の戦略とはメインアタッカーにペインを据えて、それにバフ掛けが得意な4人がバフをかけられるだけかけて一騎当千のプレイヤーを作り出すというものだった。状態異常から回復蘇生、援護射撃、更には火力の強化まで、ペインへの支援はかなり手厚い。

 

「ここまでして貰って負けるわけにはいかない。役目を果たすとしよう」

 

こうしてペインは剣を抜き放つとモンスターと対峙する。まずは戦略が成功するかどうかを確かめるために、4人でペインにバフをかけていく。相手側への干渉はなしで、使うスキルもレアスキルと呼べるものはない。

ペインはバフが乗り切ったことを確認すると、向こうが近づいてくる前に自分から接近する。

 

「レイ【聖竜の息吹】【破砕ノ聖剣】!」

 

レイが吐き出した輝く光のブレスがモンスターにダメージを与えつつ体勢を崩す。ペインはそこに一気に駆け込むと剣を振り抜き胴を深々と斬り裂く。返しでの大剣の振り下ろしを横にかわすと今度は肩から腹までをばっさりと斬る。モンスターも当たれば相当なダメージを与えられそうな大剣を怪力でもってブンブンと振るうが、その悉くは受け止められ、躱されて、ペインに傷をつけるに至らない。

バフがかかっているのもあるとはいえ、同じ剣という土俵においてこのモンスターとペインでは明らかに格が違っていた。

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

ペインの声とともに剣から光が吹き出て、振り下ろされた剣は相手の上半身と下半身をスパッと別れさせた。こうして結局危なげなく、終始圧倒したまま、ペインは目の前の剣士を斬り捨てたのである。

 

「想像以上……ね」

 

「雰囲気は塔十階のボスに近いかなあ。純粋に強いや」

 

「だが、俺達4人が支援に徹すれば勝てない相手でもないな」

 

「確かに。これなら、本当に1対多になるまではバフのみで大丈夫かもしれませんね」

改めてその強さを実感しつつ、5人は闘技場の奥にある扉をくぐる。すると、今度は2つの扉があり片方には刀、片方には弓が書かれていた。

 

「どちらにしますか?」

 

「刀で行こう。射程がある相手より戦いやすい」

 

次の相手を刀に決めて扉をくぐる。すると、同じような闘技場がありそこには侍が1人、居合の構えで立っていた。

 

「なるほど。バフが残っているうちに仕掛けてみる。援護を頼めるか」

 

「もちろんよ」

 

「いつでも大丈夫」

 

「回復の準備はできています」

 

それを聞くと、ペインは片手に剣を片手に盾を持って侍に接近していく。きっちりと盾を構えて正面を守りながら間合いに入った瞬間、ペインの目にも見えない速度で刀が振るわれ、剣と盾のガードが及ばなかった腕や肩からダメージエフェクトが散り、ノックバック効果で吹き飛ばさせる。ダメージはミザリーが即座に回復させるため、被害はないが、睨み合いという状況である。

 

「なるほど。やはりさっきの剣士とはタイプが違うな」

 

「じゃあ予定通りいこう」

 

「ああ、そうするとしよう。【不動】!」

 

ペインはスキルでノックバック無効を付与すると今度は盾は構えずに突っ込んでいく。

 

「ソウ【重力の檻】」

 

「フェイ【絡む草】」

 

「暫く大人しくしな!【麻痺】!」

 

居合の構えのまま動かないのであれば起点指定の魔法もたやすく当てられる。カナデはソウに移動速度を大幅に低下させるフィールドを設置させ、イズはモンスターが踏み入ると移動を阻害する植物を生やし、更にはパラドクスが侍を麻痺させる。このように3人は侍が万に一つもペインから逃げられないようにした。

 

ペインがそのまま侍との距離を詰めると侍は見えない居合を繰り出そうとするが、パラドクスが与えた【麻痺】の効果で先程よりも速度も、威力も下がってしまいペインには大したダメージにはならなかった。更にはそんなものは関係ないとばかりにペインが大上段に剣を構える。ペインはダメージを物ともせずにそのままモンスターを攻撃する。

 

「【治癒の光】!」

 

ペインの側には人数の有利がある。これを生かさない手はないのだ。ノックバックを無効化したペインがひたすら攻撃し続ければ、本来なら侍が攻撃速度で勝りモンスター故のHPの高さで勝ち切るかもしれない。しかし、ミザリーがいればそれは成り立たない。ミザリーの回復によってペインは沈まず、重い一撃を放ち続ける。そして、先程もあったが、侍にはパラドクスの【麻痺】が入っているため、居合を連続で繰り出そうにも体が動かしにくく、攻撃する速度でもペインが上を取っていた。

このように侍は居合をHPで受け切ってくる強力なプレイヤーに勝てるはずもないのだ。

 

「【壊壁ノ聖剣】!」

 

光とともに振り下ろされた剣は、ガードされるより速く侍の首元に突き刺さり、侍は光となって消えていった。

元々、一騎当千を地で行くための5人である。モンスターサイドが1人では相手にならないのも当たり前だった。

 

「さて、次へ行こう。恐らく、敵の人数も増えると考えられる」

 

「なぁ、ペイン。次は俺にやらせてくれないか?」

 

「丁度バフも切れてキリは良いが大丈夫なのか?」

 

「ああ、出血大サービスで俺のもう一つの姿を見せてやる」

 

「わかった。任せるぞ」

 

それから次の部屋に到達すると、今度は両腕にナックルを装備した格闘家のような敵モンスターが現れた。

 

「ミザリー、イズ、カナデ、バフかけてもらっても良いか?」

 

「オッケー」

 

「任せてよ」

 

「パラドクス、アレになるのですね」

 

「ああ。俺の心が滾ってきたからな」

 

パラドクスは3人からのバフを受けると腰に挿さっていたダイヤル付きの長方形の物体を抜くとダイヤルに半分ずつ描かれていた絵を180度回転させた。

 

「【大変身】!」

 

 

その声と共に両肩に付いていたアーマーが外れるとそれが赤く染まり、パラドクスの両腕へと装着された。

それと同時に胸に装甲が付与され、頭のヘッドギアが赤く変わり、足のブーツも赤くなった。

 

「姿が…変わった」

 

「見るからに近接戦闘が得意そうな感じがするね」

 

「これがパラドクスのもう一つの姿です」

 

「なるほど、これは強そうだ」

 

 

「さぁて、行くぜ」

 

パラドクスはモンスターへと向かっていくと先制攻撃とばかりにパンチを繰り出し、僅か一撃でモンスターを後退させた。

 

「オラオラ!」

 

そのまま再び突っ込んでいき連続でパンチを繰り出す。当然モンスターもやられっぱなしでは無く、反撃の拳を放つがバフのかかっているパラドクスの装甲を前に簡単に防がれた。

 

「【炎の拳】、オラよ!」

 

パンチを繰り出して隙ができたモンスターの腹にパラドクスの炎のアッパーが決まり、モンスターは再びダメージを受けた。

 

「この姿の俺は相手をKOするまで殴り続ける。あと何発耐えるかな?【爆裂ラッシュ】!」

 

パラドクスは連続でパンチを繰り出し、敵モンスターのHPはゴリゴリと減っていった。そして、パラドクスはトドメの一撃を放つ。

 

「【ノックアウトスマッシュ】!はあっ!!」

 

パラドクスの渾身の一発がモンスターにクリティカルヒットするとモンスターは爆散し、パラドクスの勝利が決まった。

 

「KOってな。ま、俺にかかればこんなものだ」

 

「凄いな。ここまでの力とは」

 

「セイバーから強さは聞いていたけど、これなら彼が認めたのも納得かな」

 

「もしかすると格闘戦ならヒビキちゃんと互角以上にやれそうかも」

 

「やっぱり、何度見ても新メンバーとは思えない強さです」

 

4人が感想をそれぞれ述べているとパラドクスが4人の元へと歩み寄った。

 

「さぁ、さっさと行こうぜ」

 

「ああ。それと、ここからは2人で前衛をしないか?」

 

「確かに、その方が早そうですね」

 

「僕達の負担は少し増えるけど、いざとなったらパラドクスも支援に回れるし、大丈夫だと思うよ」

 

「ええ、セイバーみたくドンドン暴れちゃって」

 

「わかった。なら、俺も前衛として戦おう」

 

こうして5人は前衛2人、後衛3人体制となり、倒せるところはさっと倒して進んでしまおうと次の扉へ向かうのだった。

 

 

結論から言えば、先程のペイン達の想定通り敵の人数は増えていった。2人から3人、3人から4人。場合によってはこちらの人数を上回ることもあった。

しかし、それは全く意味をなさなかった。元々ペインやパラドクスが戦い他のメンバーがバフと妨害に専念していても問題ない相手に人数を増やしたところで、後ろで控えていた3人がそれぞれに攻撃能力を発揮し始めるだけなのである。

部屋中に転がる爆弾、次々に取り出される魔導書、全員が攻撃と防御を必要とするようになり、より存在感を増す範囲バフと範囲回復。最強クラスの前衛を突破しなくてはこの滅茶苦茶に場を荒らしてくる後衛陣にたどり着けないとなれば、モンスター程度には荷が重かった。

 

「ふぅ、ようやくボスか。予想以上の部屋数だった」

 

「そうね。いったいどんなボスかしら?」

 

「道中からは想像できませんね。人型のエネミーばかりでしたから、ボスもそうかもしれません」

 

「入ってみれば分かるよ。んー、倒しやすいのだと嬉しいなあ」

 

「誰だろうと俺達で叩きのめす」

 

パラドクス以外の4人はそれぞれテイムモンスターを召喚するとボス部屋の扉を開けて中へと入る。

中は長方形の部屋になっており、入り口から縦に奥へ長く伸びていた。最奥には細かく装飾がなされた巨大な長方形の石板が浮かんでおり、5人の後ろの扉が閉まるとともに、その上にHPバーが表示された。

 

5人が5人とも予想外の相手だという表情を浮かべる中、石板の周りに道中扉に掘られていたマークが浮かび上がる。

しかもそれはペイン達が倒さなかったルートのものばかりで、マークだけ見ても魔術師や弓使い、砲手など遠距離攻撃のものが並んでいる。

そのマークが光ったと思うと、それに対応するモンスターがわらわらと湧き出てきた。

 

「……なるほどな」

 

「遠距離攻撃持ちが大量に並びますよ」

 

「なら、あの作戦でいくしかないわね」

 

「俺も遠距離は相性が悪い。ここは、【大変身】!」

 

「じゃあ僕が時間を稼ぐよ」

 

パラドクスが青い姿になると、カナデが1人前に出て、次々に魔導書を取り出す。

 

「【痺れ粉】【高波】【粘着弾】【魔力阻害】」

 

淡々と、効果的なものを即座に選択し発動させる。効果の落ちるソウのものではなく、自分の貯蓄した魔導書を使用し、麻痺をばら撒き、ノックバック効果のある大波を呼び出し、地面に繋ぎ止めて、こちらに向かってくる数少ない前衛を足止めする。

後衛の魔法使いには魔法の威力と射程を減少させるスキルによって妨害を行う。

 

「あー、あの石板、定期的に召喚するのか……」

 

それはどうにも止められないと、使う魔導書を増やしつつ接近を拒否し続ける。

 

「【大規模魔法障壁】ソウ【大規模魔法障壁】!」

 

前衛を止めているうちに増えに増えた後衛から大量の魔法と矢や砲弾が飛んでくる。カナデがソウと合わせて二重に展開した障壁はその全てをしっかりと受け止めて無力化する。

と、ここで発動まで時間がかかるペインのスキル及び、パラドクスの支援がついに発動する。

 

「【マッスル化】、【マッスル化】、【マッスル化】!」

 

「【聖竜の光剣】!」

 

【楓の木】の拠点でミィとともにモンスターを迎撃する際に使ったスキルは単純に広範囲に超威力の攻撃を行うもので、シンプルだからこその強さがあった。元々、これを使っての一騎当千がこの5人の奥の手であり、大量にモンスターを召喚してくるこの石板相手はまさに絶好の使い所だったのだ。そこにパラドクスによる筋力強化の3枚積みである。万が一にでもモンスター達が耐えられるわけが無かった。

 

光と衝撃波が吹き荒れモンスターが消しとばされていく中、その光も止まぬうちに5人はレイの背に飛び乗って【流星】によって一気に石板へ距離を詰める。

 

「追撃もしておかなくちゃね」

 

後衛の4人は事前に渡しておいた爆弾をインベントリから取り出して巻きつついくのも忘れない。

石板にレイが突進しダメージを与えると、それぞれが攻撃を繰り出していく。素早い召喚とプレイヤーが避けていた方を呼び出すということに特化させていた石板本体にはそれなり程度の魔法しか搭載されておらず、ミザリーの回復魔法を打ち破れずにゴリゴリとHPが減っていく。

召喚タイプが一撃でモンスターを屠られていては勝負にならないのだ。

 

「【投擲強化】、【魔力強化】、【攻撃強化】!」

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

「【ホーリースピア】!」

 

「フェイ【アイテム強化】【リサイクル】!」

 

「【トルネード】!」

 

石板を派手な攻撃エフェクトが包み込み、ペインの強力な範囲攻撃にも巻き込まれていた石板は端から順にヒビが入っていき音を立てて砕け散った。

 

「ま、こんなものだろ」

 

「戦略勝ちかな?」

 

「相性がよかったと言える。部屋の形状も俺のスキルに噛み合っていた」

 

「魔法使いと弓使いがあれだけ並んだ時はちょっと焦ったけれど、豪快に勝てたわね」

 

「ええ、流石の強さでした」

 

通知音がして、ペイン達もメダルを手に入れることに成功した。ただ、まだ時間も残っているため5人は次のダンジョンを探しに向かう。日毎に回数にリセットがかかる強力なスキルなどは日を跨ぐ前に使い切って探索してしまうのがもっともいいのだ。

こうして5人はまた元の洋館へと戻っていくのだった。




読者の皆様、あけましておめでとうございます。

新年最初の投稿です。今年もこの作品をよろしくお願いします。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと南組

南へ向かったのはキラー、ドラグ、シン、クロム、カスミの5人である。もちろんこの組にも5人合わせて移動できる手段を持つプレイヤー、カスミがいる。カスミはハクを【超巨大化】させて、1日目に【楓の木】が転移してきた砂漠の方へ進んでいた。というのも、5人はサリーのマップに沿って怪しいポイントを回ってみたものの運悪く空振りばかりで、南はポイントは固まっていて探索はしやすかったが、サリーのマップに記された怪しい地点は少なかった。

 

こうして探索する優先度が高い場所を回り切ってしまったため、サリーが目をつけたオブジェクトはないのだが、発見しづらい場所にある可能性も考えて広い砂漠へとやってきたのである。

 

「ペインのドラゴンでも思ったが、移動の時乗せてくれるモンスターってのもアリだったぜ」

 

「ウチのミィも移動できるのは助かるって言ってるなぁ」

 

「まあ機動力は攻略速度に関わるからな……何かそれらしいものは……」

 

「ないものだな。別方向に行った組は順調に攻略しているようだが……」

 

「流石にこのまま何もないなんて事は無いだろ」

 

5人でハクの頭に乗って周りを観察すると、遠くでワームや悪魔がプレイヤーと戦っているようで魔法のエフェクトが弾けているのが見える。

 

「マップ端の方にもプレイヤーがいるみたいだな」

 

「考えることは同じってな。まあこれだけデカイ砂漠なら何かあると思うのは当然だぜ」

 

「嫌な予感がするな」

 

「どうした。キラー」

 

「いや、この先に何かある気がする」

 

「そうかぁ?俺は何も感じないけど」

 

「いや、キラーのこの勘は割と当たるからな。気をつけて行こうぜ」

 

「そうだな」

 

「何かあったら俺が守るぜ」

 

そうしてしばらく進んでいくとキラーの勘が当たったかのように突然天候が悪化し、強烈な砂嵐が吹き始める。警戒はするものの、マップの端にも関わらずうじゃうじゃいた悪魔型モンスターが近寄ってこない。クロムは盾役として誰よりも警戒していたが、一向にモンスターが近づいてくる気配はない。

 

「何かあるなこれ……カスミ!一旦降りないか」

 

「ああ、そうしよう」

 

何かがあると感じた5人は一旦ハクを元のサイズに戻すと徒歩で探索を始める。

 

「本当、すげぇ砂嵐だぜ。ほんの少し先も見えねえ」

 

「【崩剣】を周りに飛ばしておくかあ。これなら何かが近づいてきてるのは分かるからなあ」

 

シンは【崩剣】を発動させ、5人を中心に大きめの円になるように分割した剣を回転させる。これでそれなりの大きさのモンスターなら前後左右どこから襲ってきても【崩剣】に引っかかるため、奇襲の可能性を減らすことができる。

そうしてしばらく歩いていると、シンの【崩剣】に反応があった。

 

「お、何か当たったぞ……この感じモンスターじゃないな」

 

「なら向かおうぜ。何かあるんだろ」

 

5人が向かっていくと、そこには砂嵐に紛れて砂交じりの岩場が広がっており岩の隙間から地下へと潜って行けそうだった。

 

「行ってみるか。ようやく当たりっぽいしな」

 

「ああ、そうしよう。この狭さだとハクは巨大化できないが、仕方ない」

 

「警戒しながら徒歩で行くとしよう」

 

岩の隙間を伝って降りていくと、さらさらと砂が落ちる音が聞こえる地下空間が広がっていた。地面は砂地のようで足が沈むことはないものの、少し歩きづらい。

 

「おっ、こりゃあ本格的に当たりっぽいぜ。いいねぇ」

 

「とりあえず俺が先頭を行こう」

 

「ん、じゃあクロム任せるわ」

 

「さて何が出るか……」

 

「クロム、まだ俺の嫌な予感が消えてない。注意してくれ」

 

「勿論だ」

 

クロムを先頭にして一歩を踏み出した所で足元の砂から1匹の大きなサソリが飛び出してきて、全員の武器が届く前にクロムを一刺しして帰っていく。

それと同時にクロムからエフェクトが弾け、以前イズにもらった即死攻撃を受けた際に肩代わりしてもらえるアイテムが起動したことが知らされる。

 

「なっ、嘘だろ!?あのサソリ即死効果持ちだ!」

 

「そりゃあ一旦避難しないとまずいぜ!」

 

「ならこれに乗れ!地面と距離を取ろう」

 

「まさかこんな形で予感が当たるとはな」

 

そう言ってシンは各人の前に足場になるように浮かぶ【崩剣】の刃を並べる。それの上に乗って一時的に急場をしのぐと、作戦会議を始める。

 

「シン、このスキルこんなこともできたんだな」

 

カスミはこれは知らなかったと足元の崩剣を指差す。

 

「メイプルからヒントを得てさ、飛ぶ剣の使い方もいろいろあるって訳だ」

 

「でもどうするよ。イズから貰った即死耐性アイテムはあるが……雑魚モンスターにそうぽんぽん使えるもんでもない」

 

「いや問題ねえぜ。俺に任せてくれ。とりあえず砂の中のサソリの位置分かればいいんだろ」

 

「なるほど、アレをする気だな」

 

ドラグはそう言うとアースを呼び出す。アースは地面に関するスキルを豊富に持つゴーレムなため、対応策も持っていた。

 

「アース【地震】!」

 

アースが地面を揺らすと砂の中からダメージを受けたエフェクトが弾ける。それはそこに何かがいることを示すものだった。

 

「シン、今だ!その剣なら安全に行けるぜ」

 

「おう!」

 

シンは足場にしていない剣をダメージエフェクトが発生した砂中に飛び込ませ、引き上げる。

するとそこにはどれも串刺しになった真っ黒いサソリがあり、抜けようともがいた後パリンと音を立てて消えていった。

 

「HPが低いのが救いか。砂の上を歩く前は地道にこれを続けるしかないだろう」

 

「仕方ねえかあ。つってもボスが嫌な予感しかしないな」

 

「ああ、だが、メダルを手にするまで休む訳にはいかないからな」

 

道中の雑魚モンスターが即死攻撃持ちのサソリということを考えると、ボスも相当捻くれたものであることが予想できる。

 

「まあ対処法があるだけマシだぜ。あと刺されたのがクロムだったのも助かったな」

 

人によっては訳の分からないまま脱落である。改めてダンジョンに自ら入っていくことのリスクを思い知って、それでも5人は先へ進むのだった。

 

 

それからしばらく、地面全体に影響を及ぼせるアースとドラグが跳ね上げたり突き刺したりしたサソリを4人で倒して安全圏を確保して進んでいると、ようやく足場が砂で覆われていない場所にやってくることができた。

 

「はぁ……良かったここなら多少落ち着けそうだぞ」

 

「いや、本当あのサソリ面倒だったなぁ。また砂地には行きたくないけど……」

 

「【崩剣】ほんと助かったぜ。体感だとこれで半ばってとこか?」

 

「岩場になったことを考えても、一区切りついたということなのだろうな」

 

足元への警戒をある程度緩めても問題なくなったことで5人の進行速度はグンと上昇する。そうしてクロムを先頭に進んでいると新顔のモンスターが現れる。

 

「っと、ここは蛇か。岩穴から出てくるな」

 

「どうせ毒か即死だぜ。さっさとやっちまおう」

 

「なら、今度は俺がやろう。レーヴァテインの力を見せてやる。【地獄の炎】!」

 

キラーがレーヴァテインを一振りすると業火が蛇を襲い、一瞬にして焼き尽くした。

 

どうやらこの蛇もHPは低いようで、5人はこのダンジョンがおおよそ奇襲によって即死を狙うタイプのコンセプトだと理解した。

 

「神経がすり減るようだな……」

 

「早くボスまで行きたいとこだが、っと何だ?」

 

先頭を歩いていたクロムが角を曲がったところで岩壁からいくつも花が咲いていることに気がつく。今の5人にとってあらゆるオブジェクトは即死攻撃をしてくるもののように思えているため、刺激しないよう、触れないよう静かにそこを通り抜ける。しかし、そうは問屋が卸さないといったところか、岩穴からするりと抜け出た蛇がその花を体で刺激してしまう。

すると花に触れた時のものとは思えない鈴の音のような『音』が響き、壁の穴から蛇が這い出してくる。

 

「あっ、くそっ!せっかく触れないようにしたのによ!」

 

「ふざけるな!」

 

「ウェン【風神】!」

 

シンが鷹のテイムモンスターであるウェンを呼び出すと押し寄せてきた蛇を倒しきるために、シンは仕方なく風の刃を放たせる。それは当然他の花をも刺激してしまうが、まずはこの蛇の群れをしのぐことが先決である。

シンは【崩剣】を回転させ近づいてくる蛇を次々に切り捨てていく。

 

「内側に入りそうなやつに攻撃してくれ!そこまで細かい操作はまだ無理だからな!」

 

「とりあえずこっちは弾き返すぜ!【土波】!」

 

「ネクロ【死の炎】!」

 

「【血刀】!」

 

「【魔の火柱】!」

 

押し寄せる蛇に噛まれないように全員が複数体を攻撃できるスキルで数の不利を覆す。下手に逃げるよりも居座って迎撃に全力を尽くすというのは間違っていなかったようで、全ての蛇を倒しきることに成功した。

普段のそれとは違い一撃を受けてはいけないという戦闘が終わり、5人共が安堵の息を吐く。

 

「早くボスまで行こう。これ道中の方が疲れるよ」

 

「同感だぜ……」

 

「これ以上何も無いと良いが……」

 

もう一度花が効果を発揮することがないうちに5人は急いでこの場を後にして先へと進むのだった。

 

 

 

そんな5人の願いが届いたのか、ボス部屋まではそこまで長くはなくしばらく蛇を対処しているうちに普段もよく見る扉前までやってくることができた。

 

「さてと、開けるぞ。いいな?」

 

「ああ、問題ないぜ」

 

「いいぞ、こっちも準備万端だ!」

 

「私もいつでも構わない」

 

「今回は二刀流で行こうか」

 

キラーは右手にダインスレイヴ、左手にレーヴァテインを構えると4人と共に並び、全員の了承が得られたところで、クロムを先頭にボス部屋の中へ飛び込む。そこは天井からさらさらと砂が落ちて何箇所かで砂山になっており、地面が砂で覆われている部屋だった。

 

しばらく5人で固まって様子を見ていても特に何も現れないため、どういうことかと訝しむ。

 

「何もいない……のか?」

 

「いや、奥の砂山に何か埋もれてるなぁ。怪しさ全開だぞ」

 

「さっさと始めるか」

 

シンは何かを見つけると、もう自分から近づいていってはやらないとばかりに剣を飛ばしてそれを掘り出していく。カスミはそれを見てスキルを使ってそれが何かを確認する。

 

「【遠見】……人骨か?いや、何かいるな。クリスタルの蛇と……サソリ?」

 

頭蓋骨の中にキラリと光る何かが見え、それが全身クリスタルでできた蛇とサソリであることが分かった途端、2匹は頭蓋骨から這い出して砂山に隠れてしまう。

それと同時にいくつもある砂山の中から見覚えのある蛇とサソリが這い出してくる。

 

「「「「「またか!」」」」」

 

予想通り、だが当たって欲しくなかった予想が当たり5人は声を揃えて叫ぶ。ボスとなるのは間違いなくあのクリスタルの蛇とサソリだが、それを倒す前にこの大量の即死効果持ちの雑魚モンスターを処理しなければならない。

ボス部屋に出てきて欲しくなかったものは全部出てきてしまったが、5人は腹をくくって武器を構える。

 

「蠍は間違いなくやばいぜ!俺とシンとキラーでそっちをやる。カスミとクロムは蛇を頼む!」

 

「「ああ!」」

 

「亡、【魔眼】!【聖断ノ剣】、【獄炎】!」

 

「【土波】!アース【地震】!」

 

「ウェン【風神】!【崩剣】!」

 

キラーが亡に【魔眼】を発動させて亡の見ている範囲のサソリの動きを止めると、キラーが2本の魔剣で切り裂き、ドラグは地面を揺らし、広範囲のサソリに一気にダメージを与え、ノックバックで跳ね飛ばして砂から引きずり出す。

シンは【崩剣】で分割できる最大数まで剣を分割するとそれを地面スレスレにまとめて横薙ぎに振るって一気に撃破していく。

 

「【死の炎】!」

 

「【武者の腕】!【血刀】!」

 

クロムとカスミはクロムが少し前に出ることによって敵を引きつけ吹き出す炎で一気に焼き払う。残った蛇はシンと同じように横薙ぎに振るわれた液状の刀が斬り捨てていく。

しかし、砂からは次々にサソリや蛇が湧いて出て、キリがない。

 

「こっちはスキル使って対応してんだぜ!?このままじゃクールタイムで捌ききれねえぞ!」

 

「どこかにあの2匹がいるはずだ!ボスはあのクリスタルの奴だろ、探すしかねえ!」

 

カスミとクロムの範囲攻撃は連打することができない。シンが何とか剣を分割して捌いているものの、ワンミスで崩れたとしてもおかしくない。

 

「っ、しゃーねえ奥の手だ。アース【怒れる大地】!」

 

 

ドラグがアースに命じると、部屋のほとんどを覆うレベルで地面が赤く光り、そこから鋭く尖った岩が飛び出してくる。それは蛇やサソリを問答無用で砂から引きずり出して、串刺しにしていく。

 

「いたぞ、あそこだ!」

 

「おーう、任せろ!」

 

「俺もやる」

 

カスミはボスの居場所を見つけるために観察に回り、そうして素早く見つけた蛇とサソリをシンとキラーの剣が一気に斬り裂いていった。

 

「どうだ!?」

 

「いや、終わってなさそうだぜ」

 

一定のダメージを受けた所で2体はするりと抜けてまた砂の中へ潜っていってしまう。5人はまた砂の中から蛇とサソリが溢れ出てくるのに備えて身構えるが、一向にその気配はない。

 

不思議に思っていた5人だったが、部屋の奥の砂山がもぞもぞと動いているのを見てそちらに体を向け直す。

次の瞬間にでも溢れ出してくるのではないかと思うものの、2つの砂山はそのまま形を成して凝固していき、最終的に砂でできた5人よりも大きい蛇とサソリになった。額部分にはクリスタルの体が小さく露出しており、2体が形をなすと同時に溢れかえっていた蛇とサソリは消えていった。

形態変化。本来なら気を引き締める所だったが、5人は待っていたとばかりに嬉しそうに武器を構える。

 

「これなら真正面からやれるぜ」

 

「俺が引きつけよう、4人はその隙にやってくれ」

 

「まずサソリから行こう。いっても攻撃は面倒そうだしな」

 

「ああ、これなら【武者の腕】もよく当たる」

 

ようやくボスらしくなった2体を見て、残ったHPはそれほど多くはないものの、ここからがボス戦だというような雰囲気で5人は駆け出していく。

 

「【挑発】!ネクロ【衝撃反射】!」

 

「【地割り】!」

 

「【呪魔狼刃剣】!」

 

クロムが注意を引きつつ砂のサソリに接近する。サソリはオーソドックスにハサミと尻尾を使って攻撃してくるほか、地面から先ほどのドラグのように鋭く尖らせた砂を突き上げてくるが、クロムに攻撃されつつ防がれつつなため、砂の棘を直撃させても回復速度を上回れない。

ドラグやキラーはクロムがサソリを引き付けているうちに蛇の方の地面を割り、行動を阻害する。

 

そうしているうち、カスミとシンがクロムの両脇を駆け抜けていく。狙うは見るからに弱点である、露出した本体部分である。

シンは全ての剣を一点に集中させ、そのまま高速で飛ばし、カスミは武者の腕と合わせて3本の刀で突きを繰り出す。

パキィンと高い音がなって全ての剣がクリスタルの体を貫き、作り上げたばかりの立派な砂の体はさらさらと崩れていく。

 

「なんだ、存外あっけないものだな」

 

「んじゃ次な」

 

「お、これタゲ取らなくてもいけそうだな?」

 

「さっさと終わりにしよう」

 

先行して攻撃しているドラグやキラーの元に3人も参加して攻撃していく。

その結末はサソリと寸分違わないものになるのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと北組

残った5人であるセイバー、メイプル、サリー、ミィ、フレデリカは北へ向かって進んでいた。

移動手段はシロップ、イグニス、ブレイブ、暴虐メイプルといくつかあったが、速度もあり不可逆的な変化を起こさないイグニスでのものとなった。

 

「あ!またメダルだよ!みんな速いなぁ……」

 

「そもそも全然ダンジョン見つかってないしね。1つはクリアしたけど、ハズレだったし」

 

「やけに簡単だとは思ったけど、結果を見れば納得だよな」

 

「まー簡単だったのはメイプルやセイバーがいたせいもあると思うけどー?【身捧ぐ慈愛】と高防御はボスによっては完封できるしー」

 

「まあ、メイプルだけならそれでも万能ではないことも分かってきた……それなりに共闘もしてきたからな」

 

「代わりにセイバーが攻撃面で広い範囲を対応してくれるから私達は楽できるね」

 

「俺にばかり頼っているともしものことがあるかもしれないので少しは警戒をお願いしますよ」

 

メイプルのスキルはどれも相性が極端なのだ。毒耐性持ちや高防御モンスターには【機械神】や【毒竜】は相性が悪い。メイプルは防御極振りにも関わらずダメージを出せるが、そのダメージを上げていく方法を持たない。七層でミィに言われていたことになるのだが、皆の攻撃能力が上がるにつれて、平均的な威力に落ち着いていくのだ。

 

ただ、セイバーは別である。今現在、セイバーの持つ聖剣は9本。そしてそれぞれの剣に長所と短所があり、セイバーがそれを上手く見極めて使い分ける事でそれぞれがかなりの強さを発揮する。今のセイバーに対応できない相手などそうそういないだろう。

 

「そもそもー?ダメージがここまで出るのがおかしーんだって」

 

「えー。フレデリカさんもそう言いますか?」

 

「アンタの場合は火力が高すぎるのよ」

 

「ぐっ………」

 

「私もセイバーの力は頼もしいが、敵となった時にどう対処すればいいのかすぐには浮かばないくらいの強さはあると思うぞ」

 

「ミィさんまで!!」

 

「まぁまぁセイバー落ち着いて……」

 

「メイプル、お前も大概だからな?」

 

 

ともかく頼もしいギルドマスターに聖剣使いだとサリーは笑う。こうやって和やかに話していても問題ないのはメイプルの【身捧ぐ慈愛】が常に展開されているためである。

 

「さてどうする?現状北の方でサリーが見つけたオブジェクトは全て回ったが……」

 

「空から見てて特徴的な地形に行ってみるしかないかな。元々マップかなり広かったし流石に全部は回れてないからなあ」

 

サリーは予選のタイミングでポイントを稼ぐついでに印をつけておいただけであり、あくまでメインは本戦のためのポイント稼ぎだったのである。

 

「じゃあ1つ1つ探していくしかないかあ。むぅ、これは大変ですね?」

 

「確かにそうだな」

 

「もー、本当にどうするか決めないとさー」

 

「それなら一度降りるか。空からでは細かいことは分からない。それに、偶然ダンジョンに侵入するなどということも起こらないだろう」

 

メイプル達も賛成のようで、ミィはイグニスの高度を下げ地面に降りる。すると、周りからは早速ガサガサと何かが近づいてくる音がする。そして出てきたのは、2日目夜の基本モンスターである1つ目4足歩行の悪魔だった。

 

「あ、出たー偽メイプルだ」

 

「えっ、わ、私?」

 

「言いたい事はわかりますけどね」

 

フレデリカに偽メイプルと称されたモンスターはフレデリカをガシガシと爪でひっかくが、それは全てメイプルに庇われて無効化される。

 

「本当、外で安心できるってすごい便利ー」

 

フレデリカが杖でモンスターの頭をペシペシ叩いていると、横合いからミィの【炎帝】の火球が飛んできて、モンスターを焼き払う。

 

「探索するのだろう?」

 

「はいはーい。私も頑張りますかー」

 

「私もー【全武装展開】【攻撃開始】!」

 

「俺も暴れますか。黄雷、抜刀!【落雷】!」

 

サリーは接近して変に射線を遮らないように一旦引いて成り行きを見守る。

こちらがダメージを受けない以上どこまでいっても一方的な蹂躙になるのは仕方ないことだった。

そうしてしばらくモンスターを倒しながら歩いているとミィが不思議な点に気がつく。

 

「この辺りは少しモンスターが多いな」

 

「マップの端の方だからじゃないのー?」

 

「……確かに多いような感じもするね」

 

「俺の【気配察知】にもビリビリかかってます。これは普通の数を超えてますよ」

 

既に1つダンジョンをクリアしている5人はその過程で別のマップ端辺りを探索していた。その時と比べると確かに襲撃が激しいように感じられた。

 

「何かあるのかな?……モンスター発生装置とか!」

 

「それはやだなぁ。でも、この辺り探してみる?時間的にもそろそろラストチャンスだし」

 

「俺はモンスターとの勝負なら望む所ですよ」

 

「何でもかんでも勝負すれば良いってものじゃないでしょーが!」

 

不測の事態にも備えて拠点には早めに戻っておきたいものである。休息を取らずに3日目の探索に向かうとパフォーマンスも悪くなってしまうのは間違いない。

諸々を鑑みると、そろそろ探索を切り上げなければならない頃だった。

 

「んじゃあモンスターが多い理由を見つけに行こー!」

 

「んー、サクッと見つかるといいねー」

 

セイバーとミィとサリーは攻撃能力が十分にあるため、基本は【身捧ぐ慈愛】内で迎撃していれば探索は容易である。モンスターを倒しつつ、それが大量にいる場所を探して歩き回っていると次第に疑念は確信に変わっていく。

 

「本当だね、多いかも!」

 

「だね。間違いなく何かある」

 

最もモンスターが多い場所までやって来ると、紫色で渦を巻いている円形の光がゲートのように浮かんでいるのが木々の隙間から見て取れた。

そこからは多様な悪魔型だけでなく予選の時にメイプルが見た恐竜や大型ワニなども這い出して来る。

 

「ダンジョン……とは違うような気もするけど、どうセイバー、サリー?」

 

「うーん、まあ雰囲気違うよね」

 

「俺の勘もここだと言ってるぜ」

 

「でも本当はどうなのか分かんないし、ほらメイプルが入ればあれ触りに行けるでしょー?」

 

「試してみても悪くはないだろうな」

 

違っているかどうか確かめずに帰るというのは愚策と言える。

 

「ただ、色んな種類がいるから貫通攻撃もってるのもいそうなんだよね」

 

「うっ、だよね。うーんじゃあぱって近づいてぱぱって離れないと怖いし……飛んでいくとか?」

 

「イグニスか?木々が多いからな、回り込むなどしなければ……ここからは行けなそうだ」

 

「飛ぶって、メイプル。あっち?」

 

「うん!これで!」

 

「ですよねー。ま、俺は構わないけどさ」

 

メイプルは自分の背中にある立派な兵器をポンポンと叩く。セイバーとサリーがまあそれもアリだとすっと受け入れているのを見て、2人がいいと言うなら大丈夫かとフレデリカとミィも受け入れる。こんな大層な兵器なら飛行能力も備え付けられているのだろうと、2人は勝手に推測した。

 

「行けると言うなら私も構わない」

 

「じゃあ皆私にしっかり抱きついてね」

 

「ん?んー、こう?」

 

「こ、こうか?」

 

メイプルを囲むようにして4人で抱きつくと、メイプルはアイテムボックスからロープを取り出して固定する。

 

「ふー……よし。いいよメイプル!いつでも!」

 

「な、何その覚悟……あ゛っ!?まさかこれギルド戦の時空から落ちてきた……」

 

「フレデリカさん。よく分かりましたね」

 

フレデリカの記憶に普通の飛行ではありえない爆発の記憶がフラッシュバックし、セイバーはそんなフレデリカの推測が当たっていることを伝える。

 

「【攻撃開始】!」

 

「ま、まずいのか?ひゃうっ!?」

 

メイプルの背中のレーザー兵器などにエネルギーが充填されていき、限界を超えたチャージによって兵器が爆散すると同時、その爆発の反動で5人は砲弾のようにかっ飛んで木々の間をすり抜け、真っ直ぐ紫の光に突っ込む。

光は見た目通りゲートだったようで、メイプル達を通過させると、親切なことに速度を落としきって緩やかにゲートの先に着地させてくれた。

 

「とうちゃーく!お疲れ様です!短い旅でした!」

 

「な、なるほどねー。これで飛ぶのは私には無理だなー……」

 

「……これ程羨ましくない機動力も珍しい」

 

「ふぅ、私も慣れないなあ」

 

「俺も。普段なら飛ぶと言う行為はブレイブで十分だからな」

 

「サリーとセイバーが妙に落ち着いてるから、普通だと思ったでしょー!」

 

「あれもメイプルの普通かな」

 

そういうことじゃないけれどと、そんなことを言うフレデリカだったが、ゲートも潜ってしまったことですっと切り替える。ここはモンスターを吐き出す謎のゲートの向こう側なのである。

 

「今のところ、特に何かがいるようには見えないが……」

 

5人が落とされたのは暗い紫色の壁と床が広がる広い空間である。壁や床は時折動いているようで、この場所がまともなダンジョンではなさそうなことが分かる。

 

「でも、着いてすぐモンスター塗れとかじゃなくてよかった」

 

「そうだね。じっくり探索していこうか」

 

「さーて、探索タイムと行きますか」

 

こうしてセイバー達5人はこのダンジョンの最奥を目指して歩き出したのだった。

 

 

 

枝分かれしている通路を右へ左へ進んでいくと、最早見慣れた仮称偽メイプルと巻角を持ちコウモリのような翼を生やした悪魔が度々襲ってくる。それらは何かしらの方法で視界外のプレイヤーを認知しているようで、立ち止まっていても向こうから次々にやってくる。

 

それが無謀な突撃だとしてもである。

 

「メイプルがいればこの2種に負ける要素はないな」

 

「ふつーに経験値美味しいー。いいねー」

 

「俺も防御や回避が要らないなら攻撃に神経を全振りできるし、助かるぜ」

 

「MPポーションはイズさんからもらったのがいっぱいあるから大丈夫だよ!」

 

「……ダンジョン内にこれがいるってことはやっぱり2日目以降発生とかなのかな?予選の時にあったらあんな紫のゲート滅茶苦茶目立つだろうし」

 

メイプル程ではないもののミィも燃費が悪いため、モンスターを何体か倒すたびにMPポーションを使わなければならない。

 

サリーやセイバーもモンスターを斬り伏せてさらに奥へ歩を進める。メイプルの性能が極端なため、セイバー抜きにして考えるなら、ダンジョン攻略は基本的に全てを無力化し簡単に終わるか、メイプルにとってはかなり厳しいものになるかの両極端になりやすい。

ただし、セイバーがいると圧倒的火力が超防御の中から飛んでいくため、どんなダンジョンだろうが敵を蹂躙しながら進む事が多くなる。

 

今回のダンジョンも同じ事が言えた。ただ、このダンジョンもモンスターをけしかけるだけではないようで、ある程度奥に進んだところで初期地点のような広い空間が現れる。その壁は今までのような紫色のものではなく、白い膨らみがいくつも見られるものに変わっていた。

 

「んー……壁に白い膨らみがあるね」

 

「撃ってみる?」

 

「いや、何があるか分からないしやめとこう」

 

「どうやら、こちらから動かなくとも向こうから来てくれるようだぞ」

 

ミィがそう言って一つの膨らみを指差す。それはつまるところ、言い表すなら蛹だとか繭だとか、そういった類のものだった。5人が近づいたのに反応してそれらは裂けてなかからずるりとモンスターが這い出てくる。

量からして塔でのモンスターハウスを思いだしたメイプルとサリーは、フレデリカとミィに指示を出す。

 

「尖ってる武器とか、角とか持ってるのから順に倒すよ!」

 

「防御貫通攻撃がなければ大丈夫!」

 

「そうか、それもそうだな。分かった」

 

「これならガンガン前に出られるしー、それっぽいのくらい探して狙える狙える」

 

「さぁ、蹂躙の時間だぜ。月闇、抜刀!」

 

悪魔型の中でも槍を持つもの、鋭い牙や爪を持つものなどから順に倒されていき、逆に筋肉が異常に発達しておりいかにもなパワーファイターなどは後回しにされて最後まで残っていく。力ではメイプルを突破できないため優先順位は低い。

 

「【炎帝】イグニス【連なる炎】!」

 

「朧【火童子】【渡火】!」

 

「ブレイブ、【サンダーボール】!【邪悪砲】!」

 

サリーとミィのスキルによって炎が炎を呼び、モンスターを焼いていく。ある程度の量のモンスターがいることで真価を発揮する連鎖ダメージスキルなため、部屋を埋めるように溢れかえるモンスター群には効果覿面だった。セイバーは2人が撃ち漏らしたモンスターを1体も残さずに倒していく。

 

「【毒竜】!」

 

「本当メイプルは数に強いな……」

 

範囲攻撃と有効打を持たないものをシャットアウトする防御力。そしてそれは周りに他のプレイヤーがいて、より凶悪なものとなる。どこまでいってもメイプルの本質であり得意分野なのは防御なのだ。

防御貫通を持っていそうなモンスターを倒しきってしまえばあとは消化試合だった。リソース消費を抑えるためMPを使わずにダメージを出せるサリーやセイバーがダガーや剣で攻撃してモンスターを倒しきる。

 

「ふぅ、片付いた」

 

「お疲れサリー、セイバー!いっぱいいたけど全然問題なかったね!」

 

「うん、メイプルのお陰で楽に戦えてる」

 

「ああ、防御があることの安心感半端ないわ」

 

「えへへー、そうー?」

 

「また奥へ進めそうだな。この調子ならボスまでに詰まることもないだろう」

 

「だねー。さ、行こ行こー」

 

メイプルの【身捧ぐ慈愛】の範囲から外れないように進んでいくと、そこからは標準装備とでもいった風に白い膨らみが通路や壁から飛び出しており、初期地点と比べてモンスターの量も多くなっていた。

 

「あ、そうだ!日を跨ぐ前に……【暴虐】!」

 

もうすぐ1日が終わってしまうため、メイプルはスキルを発動しておく。ダンジョン内なら無駄になることもまずないだろう。そして【暴虐】を使ったことによって今までは偶に致死毒を撒いたりレーザーを放ったりするだけでおとなしめだったメイプルが本格的に戦闘に参加することとなる。

 

「あ、真メイプルだー」

 

「真って何、真って」

 

「カスミのハクにも感じたが、やはりサイズは正義だな……」

 

「俺もいつかこの状態のメイプル相手に戦ってみたいぜ」

 

「そんなこと言うのはアンタぐらいね。セイバー」

 

メイプルは巨大な口を広げ、通路を先頭で走っていく。流石に【暴虐】サイズに調整してはいないため、姿勢を低くしなければ通れないがそれはモンスターが左右から回り込むことができない程度の広さだということと同じである。

 

メイプルがガシガシと開閉する口は正面から突っ込んできたモンスターを無差別に飲み込み食い散らかしていく。何とか生き残ったモンスターは口から這い出るがそのままメイプルの6本の足に踏みつけられて後方に抜ける頃にはボロ雑巾のようになっている。

 

「【多重風刃】!」

 

「【ダークスピア】!」

 

ただ、別にメイプルのそれを生き残ったところで見逃してもらえるわけではなく、魔法の使える4人によって安全にトドメを刺されるだけだった。

 

「流石にこの形態なら雑魚は一方的になるかぁ」

 

「そうだな……普通プレイヤーにはどの形態も特にないはずだが」

 

ついでに炎も吐きながらモンスターを蹂躙して回っていると、5人の予想通りあっという間にボス部屋前までたどり着いていた。

 

「ギルドが違えば攻略法も変わってくるねー」

 

「断言するけど、これはメイプルとセイバーだけだから」

 

「は?俺は流石にこうはならないだろ」

 

「いやいや、ライオンがあるじゃん」

 

「もしかしてキラーが前に報告してくれたやつ?」

 

「アレでもこうはいかねーよ」

 

「そのライオンが何なのかは知らないが、セイバーも変化するのか」

 

「まーね。これ以外にも人間離れする形態があっ……」

 

「それ以上他のギルドに情報を与えるようなことするな!!」

 

慌ててセイバーがサリーの口を塞ぐと何でもないとフレデリカやミィに話す。

 

【楓の木】全員がメイプルのようにはいかない、似たような雰囲気を出し始めているものもいるがここまでではないのだ。

 

「開けるよー?」

 

「うん、入っちゃって」

 

メイプルが頭で扉を押し開けて中に入ると、部屋はモンスターを生み出す白い膨らみが大量にあり、最奥に今まで見てきたものより遥かに大きく、これはもう完全に繭と言っていいような楕円の白い塊があった。

5人が部屋に入ると同時、その巨大な繭はバクリと裂けて中から紫の光が溢れ出し、歪に伸びた鋭い爪を持つ十を超える手足と顔のない頭に、皮膜の破れた翼。フレデリカが偽メイプルと形容したモンスターを違法改造したようなモンスターが這い出してくる。

 

「真偽メイプルだー!真偽メイプルじゃない?」

 

「馬鹿言ってないで戦うよ!」

 

「ああ、全力で行く」

 

「皆、来るよ!」

 

「最光、抜刀!【カラフルボディ】!」

 

繭から完全に抜け出た翼でバサリと羽ばたくと、鉤爪をぎらつかせながら、ボスは5人に飛びかかってくるのだった。

 

 

ボスが反動をつけて長く伸びた手足を振ると、それはゴムのように伸びてかなりの速度で両サイドから5人に向かってくる。

 

「【多重障壁】!ノーツ【輪唱】!」

 

フレデリカによってミィと自分の前に障壁が生み出される。サリーやセイバーは間違いなく回避するだろうし、メイプルのサイズを覆い切るのは無理なため守るならばここという訳だ。

 

「っ、つよ……!?」

 

腕は予想よりも遥かに威力が高く、フレデリカの障壁が砕かれていく。しかし、到達を遅らせることに意味はあった。

 

「【フレアアクセル】!」

 

ミィが一気に加速して、フレデリカの元まで来ると、そのままフレデリカを抱えて鉤爪が届く範囲から脱出する。

 

「ナーイス、ミィ!」

 

「気を抜くなよ?」

 

フレデリカの予想通りサリーやセイバーも当然のように回避する中、メイプルはその巨体ゆえに逃げ切れずに鉤爪を受けてしまう。

メイプルの外皮には左右からの鉤爪の数だけ傷がつきダメージエフェクトが弾ける。

まだ【暴虐】が解除されるまでは至っていないが、このままでは時間の問題である。

 

「うぅ、これ全部防御貫通……!」

 

「まずは空から落とすよ!ミィ、フレデリカ、セイバー!【氷柱】!」

 

「イグニス【消えぬ猛火】!」

 

「はいはーい【多重重圧】」

 

「ブレイブ、【アクアボルテックス】!【漫画撃】!」

 

次の攻撃を繰り出そうとするボスに対してセイバーが【漫画撃】によってボスにかかる重力を上げ、フレデリカが魔法を使い更に動きを鈍らせる。

正面からブレイブに乗ったセイバー、左からはサリー、右からはイグニスに乗ったミィが接近し、一気に頭上を取ると地面に叩き落とさんと攻撃する。

 

「【クインタプルスラッシュ】!」

 

「【炎帝】!」

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

セイバーはブレイブの【アクアボルテックス】の勢いを利用しながらボスへと激突しながら金と銀の斬撃を繰り出し、頭部に着地したサリーはスキルを発動し、頭から背中を切り裂いてから転がるようにしてボスの背後へ抜けていき、ミィはイグニスの機動力を生かして迎撃のために向けられた鉤爪を躱して反撃するとダメージによってボスが地面へと叩き落とされる。

 

そこに待ってましたとばかりにメイプルが飛びかかり、先程の仕返しとでも言うように腕を食いちぎり羽を引き裂いていく。

しかし、ボスも黙ってはおらず、鉤爪でメイプルを斬り裂き、口からはいた紫色の光線で外皮を焼いていく。

 

「「「「…………」」」」

 

共食いのようなその光景に、4人は一瞬呆けてしまうが、すぐにメイプルに加勢する。4人から援護されて、メイプルはさらにボスにダメージを与えていく。4人の攻撃でひるめば、すかさず6本の足で相手をがっしりとホールドして熱線のような炎を浴びせる。

 

【身捧ぐ慈愛】があるため、巨体がめちゃくちゃに暴れていようが味方の参戦は容易なのだ。しかし、ボスの意地といったところか、メイプルがボスを捕食しきるよりも先に、ボスがメイプルの【暴虐】を引き裂いて、メイプルを地上に落下させる。

体格差が一気にできたことで、ボスはメイプルを押しつぶすように体を重ねる。それくらいならと構えるメイプルだったが、ボスの腹の部分がぐにぐにと蠢き、そこから鋭い針が生成されるのを見て目を見開く。

 

「あっ、えっと【ピアースガード】!」

 

明らかに使い慣れていないスキルで何とか貫通攻撃を無効化した直後、巨体に押しつぶされて4人からはその姿が見えなくなる。

 

「メイプル、大丈夫!?」

 

サリーの問いかけに対して返事は聞こえてこないが、少ししてボスの体が内側から弾ける鈍い音と共に、 ダメージエフェクトを大量に発生させて背中から黒いもやを纏った5本の触手がうねうねと伸びてくる。

 

「自傷して形態変化ー?」

 

「いや、あれは」

 

「メイプルだね」

 

「ここで触手かよ!」

 

「えぇ……?」

 

その触手を器用に動かし、体に空いた穴を通って背中側からずるっとメイプルが出てくる。

 

「ふぃー、脱出成功!わわっ【カバームーブ】!」

 

メイプルは再び飛び上がって距離を取ろうとするボスの背中からサリーの元へ瞬間移動する。

 

「どうかな?結構ダメージ与えたと思うけど……」

 

「半分ってとこだね……結構タフだなあ。炎攻撃が効きにくいのかも」

 

「なら、火属性以外でやれば良いじゃん」

 

メイプルの触手には攻撃性能しかないため、次のボスの出方に備えて、左腕を元に戻す。

 

「【悪食】もまだまだ使えるよ!」

 

2日目は拠点で過ごしていたか、目印となるように爆発していたかという二項目でほとんどの時間が使われている。

そのため、【機械神】の兵器の量は残り少ないものの【悪食】や【毒竜】や【捕食者】はまだまだ呼び出せるため、パワーも十分だ。

5人は飛び退いたボスの次の出方を見ようとじっと構える。すると、ボスは生まれた繭の前で高度を保ち、後ろの繭から紫色の光を取り込み始めた。

 

「何か来る!」

 

紫色の光が十分に溜め込まれ、ボスの体から同じ色の光が立ち上り始め、いくつもの魔法陣が展開され、それらから紫色の炎が撃ち出され5人に向かってくる。

 

「【多重加速】【多重障壁】!」

 

「【イージスフィールド】!」

 

移動速度を上昇させることで、3人は回避を試みる。逆にメイプルはしっかりと大盾を構えてその攻撃を受け止めにかかる。セイバーはブレイブを戻してから防御フィールドを展開して攻撃を凌いでいく。

紫の炎は【悪食】によって吸収されていくが、その凄まじい量に先に回数の方が尽きてしまう。セイバーも同様で防御フィールドの耐久力を上回った攻撃が飛んでくる。

 

「おっと、【足最光】!」

 

セイバーは咄嗟に脚力を上げてジャンプし、攻撃の範囲から外れていく。

しかし、ただ受け止めるだけになったメイプルの周りが燃え上がり、メイプルのHPを削っていく。

 

「やっぱり!?炎は駄目だって!」

 

炎にはいいイメージがないメイプルは、急遽兵器を展開すると、自爆して一気に後方へ下がる。

 

「私達は避けられるから!こっちで注意を引いてるうちに回復して!」

 

「うん!ありがとう!」

 

サリーは集中力を高めると、弾ける炎の間をすり抜けて、一気に距離を詰める。セイバーも全身に装甲を纏うとサリー同様に走り込む。

 

「【水の道】!【氷結領域】!」

 

「俺も続くぜ。【漫画撃】!」

 

サリーの足元から前方に水の柱が伸びていき、それと同時に、サリーの体から白い冷気が放たれる。更に、凍らせきれない炎はセイバーの【漫画撃】により凍らされていく。そうして、2人の周りのものは急速に凍っていき、サリーの武器からは朧によって付与された炎と【氷結領域】による氷が代わる代わる現れる。セイバーは最光を使いこなしたことを示す金と銀の輝きが剣に宿っていく。

炎と氷を散らしつつ、水の道を凍らせて、2人は再びボスを地面に落とさんと駆けていく。

 

「空中でも、随分動けるようになったかな!【氷柱】!」

 

「一気に行くぜ。【漫画撃】!」

 

サリーは空中に足場を作るスキルと、糸を伸ばすスキルによってボスの炎をかいくぐり、まるで地面を走っているかのように自在に飛び回り、ヒットアンドアウェイでダメージを与えていく。一方でセイバーは再び【漫画撃】を使い、空中を蹴りながらサリーと同じような機動力を確保し、ボスを切り刻んでいく。

 

「よし、ボスはこっち向いたね……」

 

一旦サリーとセイバーのみが攻撃しているため、ボスは2人の方を向き、全ての炎が2人に襲いかかってくる。

だが、それは予定通り。

 

「サリー。ここは任せろ!【腕最光】!」

 

大型ボスなだけあって、攻撃自体は細かなものというより全体を焼き払ってしまえばいいというタイプである。ただし、セイバーの前にそれは通用しなかった。

 

【腕最光】によるバリアが2人をガードしたからだ。これでは、全体攻撃をしようとも防がれてしまう。

 

「サンキュー、セイバー!」

 

サリーはセイバーに護られながら空中を駆けていく。

 

前のイベントで塔十階にダメージフィールドを残すタイプでもっと繊細で強い敵がいたのもあり、セイバーはサリーの動きと炎の出現場所を完璧に読みながらガードしていく。

 

「フレデリカ、ミィ、メイプル!そろそろ準備終わった?」

 

「うん!大丈夫!」

 

「ああ、問題ない」

 

「バフ掛けもオッケーだよー」

 

「なら、【超加速】!朧【神隠し】!」

 

「【光速移動】!」

 

サリーとセイバーは加速し、背後から迫る鉤爪を朧のスキルで透かすとメイプル達の元まで走っていく。

そこには巨大化したシロップとイグニス、ブレイブ。そして残った兵器を展開するメイプルと全身を炎に包まれたミィがいた。

 

「んじゃあ最後の仕上げにー、ノーツ【増幅】!」

 

「【殺戮の豪炎】!」

 

「【攻撃開始】!【毒竜】!【滲み出る混沌】!」

 

 

フレデリカがスキルの威力を強化すると同時に、2人からは強力なスキルが、シロップとイグニスとブレイブからはそれぞれ炎と光線が放たれる。

 

それらは紫の炎と正面衝突し、派手にエフェクトを弾けさせるが、サリーが注意を引いているうちに積めるだけ積んだバフが乗った2人の怒涛の攻撃は、炎を押し返して背後の繭ごと破壊し尽くし、大きな爆発を起こす。

爆発の光が収まった時、壁にあった繭はボロボロになっており、ボスは体から黒煙を上げながらベシャリと地面に崩れ落ちて消滅していった。

 

「ふー、よしっ!勝ったね!」

 

「ああ、いい攻撃だった。フレデリカもありがとう」

 

「豪快に倒してくれるとバフのかけがいがあるねー」

 

「今回はちゃんとメダルも手に入ったみたいだし、これで笑顔で帰れるかな」

 

「セイバー、今回はアンタの防御のお陰でやりやすかったわよ」

 

「これで少しは俺のことを見直してくれたかな?」

 

「ええ。ただ、防御は要らなかったかもね」

 

「おい。まさかと思うけどアレ全部回避するつもりだったのか?」

 

「勿論よ」

 

「強がりはその辺にしとけよこの野郎!」

 

「はぁ?だったらここで決着つけようかしら?」

 

セイバーとサリーは火花を散らすように睨み合う。

 

「まぁまぁ2人共、落ち着いて……」

 

「ほんと、2人共良いコンビね」

 

「ああ、そうだな。ただ………私としてもセイバーはカッコ良かった………かな」

 

「え?もしかしてミィ、セイバーに惚れてるの〜?」

 

「ち、違う。あんな風にサポートしてくれる奴がいたらと思っただけだ」

 

「ええ〜それって嫉妬じゃないの〜?」

 

「違う」

 

「ふうーん」

 

フレデリカの揶揄いにミィは心の中で動揺しつつも何とかポーカーフェイスを保ち、メイプルはいつまでも喧嘩腰のセイバーとサリーを宥めた。

 

 

それから暫くして、5人は全員が無事に拠点に帰り着いていることを信じてダンジョンから出ていくのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと3日目

セイバー達が拠点まで戻ってくると、そこにはすでに残りの15人がいた。全員無事に戻ってこれたようで、メイプルがその姿を見ると嬉しそうにぶんぶんと手を振ってぱたぱた駆け寄っていき、その後をセイバーがゆっくりと歩いていく。

 

「皆お疲れー!上手くいったね!」

 

「お疲れ様です。皆さんそれぞれ成果を上げられたようで何よりですよ」

 

「ああ、メイプル達も上手くやったようだな。私達も……少し面倒なダンジョンだったがなんとかなった」

 

「僕らのとこはペインやパラドクスを強化する戦略がハマったから、それなりに楽だったかな」

 

「「私達も皆さんが強くて上手く行きました!」」

 

「私も大活躍だったよ〜!」

 

「ヒビキ、そこは皆が頑張ったんだからもうちょっと謙遜しなよ」

 

「よかったー!あ、えっと一緒に探索してくれてありがとうございます!お陰でメダルもザクザクです!」

 

メイプルが嬉しそうに【集う聖剣】と【炎帝ノ国】にお礼を言うと、むしろ礼を言うのはこちらだと、ペインとミィが返す。

 

「元々、俺達だけで向かって1枚でも得られれば上々だったんだ。こちらこそ、助かった」

 

「ああ、共闘も存外いいものだった」

 

笑顔を見せる2人を見て、メイプルも嬉しそうにより笑顔になる。

 

「3日目も頑張りましょうね!」

 

「勿論だ」

 

「ああ、俺達も最後まで生存できるよう尽くすとするさ」

 

ライバル関係であるとともに、メイプルにとってフレンドでもあるペイン達ミィ達を応援することは至極当然のことだった。

 

「夜中の見張りは俺がやろう。拠点とメダルの礼だと思ってくれ」

 

「私も同じだ。間借りしている分の働きはさせてもらう」

 

「えへへ、ありがとうございます!」

 

それでも何かあったらいつでも飛び出してきますからと言い残して、メイプルやセイバー達【楓の木】は共有スペースへ駆けていくのだった。

 

 

 

それから交代で警戒しつつ全員がゆっくりと休むこともでき、状態も良好なまま3日目の朝を迎える。

メイプルはベッドから起き上がるとぐっと伸びをして、隣のサリーの部屋へ向かう。

部屋から出たところで、ちょうどサリーも外へと出てきてメイプルと鉢合わせる。更にそこにセイバーも出てきた。

 

「おはよー。今日で3日目だね」

 

「うん、メダルはもう十分集まったし私達は生き残ること重視でいこう」

 

「あ、そうだ!マップとメッセージは……」

 

「メッセージ機能は停止したままだ。ただ、マップはまたちょっと変化があった。まあ見たら分かるぜ」

 

メイプルがマップを開くと、そこには無数の青い点が表示されており、いくつか赤い点も表示されていた。

 

「これは?あ、書いてある。えーっと青い点がプレイヤーで、赤い点が特殊モンスター?」

 

「うん。誰かと合流して生き残るか、特殊モンスターってやつ?マップに写ってるくらいだし、多分ボスクラスの強さだと思うんだけど、それから逃げるか。ここまで生き残ってるなら通常モンスターくらいどうにかできるだろうし」

 

「ふんふん、なるほどー」

 

「でもさ、この特殊モンスターってのがなんか引っかかるんだよなぁ」

 

「どういうこと?」

 

「なんか倒しといたほうが良い気がするのは俺だけか?」

 

「ええ〜、でも今日はよっぽどのことが無いなら中にいた方が良いでしょ」

 

今現在、マップに写っているのがプレイヤーという単位であり、ギルドメンバーの位置が特定できないため、【集う聖剣】と【炎帝ノ国】も外に出る理由が薄い。

つまり、きっちり準備をして全力で迎撃する、メイプル達の一番得意な戦法を貫くのが定石になるのだが、セイバーは何か嫌な予感を感じていた。

 

「ただ、3日目は1日目や2日目と比べて終わりまでが短いのも気にはなってるんだよね。ただ生き残らないといけない時間を短くしたとも思えないし」

 

「大丈夫だよサリー。皆と一緒に戦えばきっと勝てるよ!」

 

「……ふふっ、それもそうだね。考えすぎても仕方ないか」

 

「ま、最強の俺が全部纏めて倒してやるから見とけよ」

 

「はいはい、強がりはそこまでにしなさい」

 

「何だとサリー!試してみるか?」

 

「まぁまぁ落ち着いて!」

 

ある程度は目の前の出来事にその場その場で対応する柔軟性も必要である。しばらくすると各部屋からそれぞれに起きてきて、いつ戦闘が起こってもいいように準備を始める。

メイプルとサリーとセイバーはマルクスが設置した視界をスクリーンで確認しにいく。

昨日の夜、せっかく外に出たのだからと、拠点外にもいくつか設置しておいたため、さらに確認できる範囲は広くなっている。

 

「便利だなあ……私もこんなスキル探すかあ」

 

「サリーなら使いこなせそうだよね。あ、モンスター映ったよ」

 

「入ってはこないみたいだね……ちょっと変わったのかな?」

 

3日目になっても外は薄暗いままであり、悪魔型モンスターはあちこちを徘徊している。そうして共有スペースでしばらく映像を見ていると、興味深いものが映る。

 

「あ、サリー、セイバー!あれっ!」

 

「ん?あれは昨日の……」

 

外の様子が分かる映像の1つ、そこに突然紫の靄のようなものが発生し、しばらくするとそこに見覚えのあるゲートのような紫の光が現れる。

3人が目を離さずにそれを観察していると光からずるりと2日目に大量発生した偽メイプルが現れて、のしのしと歩いていく。

 

「こっちに移ってきたってこと?」

 

「かもしれないけど……もしかしたら、増えた?」

 

「これは、3日目はかなりヤバいかもな」

 

あれの奥がダンジョンに繋がっているのかは不明だが、サリーやセイバーには移動してきたというよりは増えたという方が自然に思われた。難易度を上昇させる際、分かりやすいのはHPなどステータスを高くするか、敵の数を増やすかである。

 

「他の場所でも増えてるとしたら……ちょっとまずいかもね。流石に対処できる数に限度はあるし」

 

メイプル達が複数体のモンスターを相手取るにはスキルや魔法が必要になる。それもそれなりの質を持ったものでなくては一撃で倒しきれず2度手間、3度手間になってしまう。

ペインやミィの奥義といえる【聖竜の光剣】や【殺戮の豪炎】なども連発できるものではない。

 

セイバーは高火力スキルをある程度なら乱発できるだろうが、それでもいつかは撃てなくなってしまいジリ貧になるだろう。

 

「場合によっては外へ出る必要があるかもね。ほら、この洞窟がモンスターでぎっちり埋まっちゃうくらい襲ってきたら倒しきれなくて困るけど、外なら逃げるって手も取れるし」

 

「確かに……」

 

ただ、これもその時が来てみないと分からないことだとサリーは説明し、インベントリから林檎を取り出す。

 

「ま、何事も臨機応変にね。あ、2人も食べる?」

 

「うん、もらう!どこかで取ってきたの?」

 

「いや、いつもメイプルがこういうの持ってきてるし、たまには私からも何か渡そうかなって」

 

「んふふ、じゃあ私もお返しに……」

 

「それじゃあ、俺も」

 

そうやって朝の時間を和やかに過ごす。他のメンバーもモンスターが襲ってこない間は平和なもので、それぞれに時間を過ごしていた。

しかし、今は生存を目標とするイベントの途中である。いつまでも、のんびりとさせてくれる程モンスター達も甘くは無い。

 

しばらくして、モンスターが雪崩れ込んでくるようになり、空いた時間を使って、ミィやペインもスクリーン元までやってきて増えていくモンスターを確認する。

 

「これは……洞窟内の方が危険かもしれないな」

 

「ああ、私もそう思う。それに、最後のモンスター強化時間に大きな変化があるかもしれない」

 

「今ですら、結構な人数を割かないといけなくなってきてるからね」

 

2日目ではセイバーとミィとペインの大技で一気に片付けることができていたのに対し、今はそこにバフや妨害、纏まってやってくるモンスターの寸断など、協力しより丁寧に戦闘を進めなければならなくなっていた。

セイバーやサリーも危惧していたようにミィやペインもこの中で物量によって押し切られることを恐れていた。

 

「幸い俺達は緊急退避の術をいくつかもっている。様子を見て、外へ出てしまうこともアリだろう」

 

ブレイブ、ミク、イグニス、レイ、シロップは空を飛ぶことができる。もちろんゲートから生み出されているモンスターには空を飛べるものもいるが、対処しなければならない数はぐっと少なくなる。

 

「サリー、セイバー。皆で相談してみようよ。生き残るためには20人でいた方が絶対いいし!」

 

「そうだね。そうしようか」

 

「俺も賛成だ」

 

全員で集まって今後について相談した結果、メイプル達20人は、次の襲撃を乗り切ったところで外へ出ることにした。

向かう先は、マップ中央あたりにある山である。山頂付近まで行ってしまえば、上がってくるモンスターがいても見やすく、避難も容易である。

 

「じゃあ次は全員でさっと倒して急いで外に向かいます!」

 

メイプルは最後にそう言うと、次の襲撃を待つ。襲撃には一定の間隔があるため、今のうちにイズは居住スペースを構築していたアイテムの回収を行っていた。そうして洞窟が元の何もない空間に戻ったところで、待っていた襲撃がやってくる。

しかし、まだ危惧するだけの物量に至れていないモンスターの群れではこの20人を傷つけることはできず、完全に殲滅されてしまう。

 

「今だね!」

 

「うん、出るよ!」

 

移動の速いものから順に先頭を行き、極振りの3人はツキミとユキミの助けを借りて急いで脱出する。

そうして外へ出ると【集う聖剣】はレイ、【炎帝ノ国】はイグニス、【楓の木】は今回はブレイブに纏まって移動する。

 

今回は機動力を重視した移動のため、本来飛ぶことの出来ないシロップでは無くブレイブを選択した。そして、ブレイブも巨大化すれば【楓の木】のメンバーを全員乗せることが出来る。

 

よって、空を飛行できるモンスターを上手く蹴散らしながらイグニスやレイと並んで山頂にまで移動することができた。

 

「じゃあモンスター倒して降りちゃおう!」

 

メイプルは装備を変更し、【ポルターガイスト】を発動させると兵器から伸びたレーザーを操り1体1体的確に焼いていく。

残りのメンバーもそれを手伝って、モンスターを倒しきったところで山頂にブレイブを降ろす。

 

「ふぅ、後はここで生き残るだけだね!」

 

「うん。ここなら何か異変が起こったとしてもすぐ分かるし、対応もしやすいね」

 

薄暗いとはいえ、様々な地形が広がっている様子が分かる。何か異様なものが見えれば、すぐに反応できるだけの開けた視界があった。

 

「私は少し周りにアイテムを設置してくるわ。無抵抗でそばまで来させるわけにはいかないものね」

 

「なら俺が護衛でついていこう」

 

「私も行こう。それなら囲まれても問題ないはずだ」

 

「助かるな。頼む」

 

クロムとカスミがイズの護衛について迎撃用アイテムを設置しに向かう。マルクスもそれについていって、迎撃準備も整えていく。

道が細くなっている場所や、不安定な場所には大量のトラップを仕掛けておくという訳だ。

これで地面を歩いて迫ってくる第一陣は順に坂を転がり落ちていくことになるだろう。

そうして、準備をするメンバーがいる一方で、迫るモンスター強化時間に向けて、残りのメンバーは360度異変がないか様子を見ている。

 

「異常なーし!……?セイバー、サリー。どうかした?」

 

「ん、いや、マップ開いてみて」

 

「これは、少しずつだが戦局が不利になってるぞ」

 

サリーに言われた通りにマップを開くと、プレイヤーの表示が減っているのと、特殊モンスターを表す赤い点が増えていることがわかった。

 

「やっぱり皆逃げ回っているからかな。赤い点は減ってない」

 

「生き残らないとダメだもんね」

 

「うん、私達も倒しには行けてないし。でも……何だか嫌な感じがする」

 

わざわざ特殊モンスターとしてマップに映っているものを放置していてもいいのか。先程のセイバーと同じ疑念がサリーの中に浮かぶものの、確信となる情報はない。

 

「今は待つしかないか」

 

「不安だが、いざとなったら暴れればいいし」

 

「大丈夫!何かあった時は私が守るから!」

 

メイプルがそう言ってぐっと盾を突き上げる。

 

「ふふっ、ありがとう。頼もしいね」

 

山頂に来た以上、基本となる戦略は洞窟の時と同じ、有利な場所での迎撃である。

こちらから手を出しづらい特殊モンスターについて今考えても仕方がないとサリーは結論を出し、メイプルと共に飛んでくるモンスターの迎撃に専念するのだった。

 

 

視界が開けているというのは大きなアドバンテージであり、モンスターを先に察知することができれば対応も取りやすい。

そうして無事に生存を続けた20人は、最後のモンスター強化時間を迎える時が来た。

 

時間は1時間。今までのそれよりかなり短い時間はプレイヤー達に安心より不安を感じさせる。

何かがあるだろうと。そして、それは的中した。

強化時間に入った瞬間、マップのあちこちから紫の炎が空に向かって噴き上がる。サリーはすぐさまマップを確認し、それが特殊モンスターがいる位置と完全に一致していることに気づく。

その数は数十に及び、場所もばらけている。

 

炎は一点に集まっていき、巨大なゲートを生み出すと、そこからメイプル達には見覚えのあるモンスターが現れた。

 

「サリー!あれ私達が倒したのに似てない!?」

 

「サイズは比べ物にならないけどね!」

 

「おいおい、ここにきて最強のラスボス登場かよ!」

 

いくつもの腕を持ち、翼から炎を散らすそれは2日目の夜に攻略した繭から生まれたボスとよく似ていた。違う点は完成しきったとでもいうような太くなった手や体。そして山頂からでも炎を纏ったその姿が見えるほどの圧倒的な巨体である。

 

「50……いや、100はあるか?」

 

「ちょっと本物より強そうになってるんだけどー?」

 

ミィとフレデリカも似て非なるその姿に反応する。体がゲートから完全に抜け出ると、腕を大きく広げ、ビリビリと空気が震えるような咆哮をあげた。

それと同時に、その巨体は紫の炎に包まれて様子が変わる。

 

「何か来る……っ、上!」

 

「うぇっ何あれ!?」

 

「あんなの防げるか?」

 

星一つない空からは巨大な紫の火球が、流星群かのように降ってくるのが見えた。

それはプレイヤーのいる場所に落ちるようにできているようで山頂に向かっても降ってくる。

 

「メイプル!」

 

「あっ、うん!」

 

あれが2日目に会ったボスと同じならメイプルの防御では無効化できないダメージを発生させる。

サリーとの意思の疎通は完璧で、メイプルはすぐにサリーの考えを理解して、装備を変更し、セイバーもサリーと同様に援護に入る。

 

「「【ヒール】!」」

 

セイバーとサリーの回復を受け、大天使装備を身につけたメイプルは迫る火球をしっかりと見据える。

 

「【イージス】!」

 

火球が直撃する直前に展開された光のドームはダメージを完全に無効化して、降り注ぐ火球の雨からセイバー達を守り切る。

 

「アース!【大地制御】!」

 

それでも燃え盛る地面は【イージス】の効果が切れる前にドラグが対処した。燃え盛るものとして変更された地面を元に戻すことで、炎は全て無力化された。

 

「ナイスメイプル!」

 

「うん!でも……」

 

次がすぐに飛んできたとしたら同じ手は使えない。山頂からは炎の雨が眼下のフィールドも燃やしているのがよく見えた。今の攻撃だけでもかなりのプレイヤーがマップから消えているのが分かる。そして、悪いことに、特殊モンスターからまた炎の柱が噴き上がり、プレイヤーを求めてドスドスと歩き回る巨大な悪魔に炎が充填されていく。

 

「ペイン、メイプル。このままあと1時間は保たない。危険を承知で特殊モンスターを狩りに行くべきだ」

 

「う、うんそうだよね!」

 

「それだけじゃない。恐らくこの1時間。逃げているだけでは生存は難しくなっているはずだ。恐らくあの巨大なモンスターの撃破が必要になる」

 

巨大な悪魔にはHPバーの表示があり、メイプルがかつて第2回イベントで追い回されたカタツムリなどとは違い、倒すことができるものであることが示されていた。

 

「可能性はある、か。ともあれまずは素早くフィールドを回って特殊モンスターを倒しきるしかない。マルクス、ミザリー、シン、パラド!」

 

「さて、強敵との勝負は心が躍るぜ」

 

ミィは4人を呼ぶとイグニスに乗り込む。同じように、ペインもドレッド達を集めレイに乗り込む。まとまっていてはプレイヤーごとに狙いを定めて落ちてくる火球に次々に焼かれてしまうのもあり、ここで一旦分かれて、大量にいる特殊モンスターを倒しに向かうことにした。

 

「俺達も行く。機動力に優れる者が素早く倒すのがベストだ」

 

「セイバー、俺以外に倒されるのは絶対に許さないからな」

 

「生きてまたあの巨大な悪魔の元で会うとしよう!」

 

そうして10人は分かれてモンスターの撃破に向かう。メイプル達もやるべきことをやらなければならない。

 

「ど、どうするサリー!?」

 

「私達の移動速度だとモンスターだらけの地上を倒して回るのは厳しい。でも、シロップの速度じゃ遅すぎる……ブレイブやミクなら行けると思うけど、どっちかと言えば私達がやるべきなのは巨大ボスに他のプレイヤーを倒させないこと」

 

「なーんだ、俺達の得意分野じゃねーかよ」

 

炎が落ちる度にプレイヤーの数自体が減ってしまう。それは特殊モンスターの撃破を遅れさせることになる。であれば、ボスを怯ませたりなどしてそれを少しでも遅らせることも有効である。

 

「ほら、私達は駆け回るよりボス戦の方が得意だから」

 

「ああ、いいんじゃないか。アイツを倒していいとこ持ってくってのも」

 

「逃げ回っていても仕方ないなら、いっそ全力で立ち向かうのも一つの手か」

 

「私もやります!」

 

「私達だって頑張ります!」

 

「行くよ、お姉ちゃん!」

 

「あんまり戦いは得意じゃないけど、ここまで来たらやるわよ」

 

「僕もやるよ。なんか、面白そうだし」

 

「さーて、俺も久々にフルパワーで暴れますか」

 

やるならば全力で、メイプルは1つ強く頷くと全員でシロップに乗って巨大な悪魔の元まで飛んでいくのだった。




次回はイベント内での最強のボスとの戦いです。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと大決戦

近くで見るとそれは凄まじいサイズで、注意しなくては足元を歩くだけで移動に巻き込まれて倒されてしまいそうなレベルだった。メイプルはシロップを少し離れた位置に下ろすと、今度はカスミが呼び出したハクに乗って近づいていく。

 

「じゃあ、作戦通りにやってみよう!」

 

「うん、危なかったら引くつもりで」

 

「じゃあソウやろうか」

 

「【暴虐】!」

 

「「「【幻影世界】!」」」

 

メイプルの体が悪魔のものとなり、さらにそれを朧、カナデ、ソウの3人が分身させる。第4回イベントの時は7体だったメイプルは本体を含め10体になってそれぞれに駆け出していく。

それはボスの足元で爪を立てると、そのまま体をよじ登っていく。

 

「メイプル!炎には気をつけて!」

 

「うん!」

 

サリーの声を聞きながら、メイプルは体の燃えている部分をうまく避けつつ、分身とともに体を引き裂きながら頭を目指していく。

 

「っとと!危ない危ない」

 

巨大な悪魔が足元のプレイヤー達を攻撃している中、メイプルは身体中に傷跡をつけていく。しかし、流石の巨体なだけあって、HPバーはほんの僅かずつしか減少していかない。

分身は3分間しか持たないため、まずはここでできる限りHPを削るつもりなのだ。

そうしていると、メイプルの存在も知覚され、メイプルの足元が紫に発光し、炎が噴き上がる。

 

「うっ!?やっぱりダメージが……」

 

分身も対応する炎に焼かれていく。しかし、それだけではまだ【暴虐】は解けはしない。

 

「どんどん削っちゃうよ!」

 

今もペインやミィ達が弱体化のために頑張ってくれているのだから、こっちは攻撃を引きつけなければならない。

事実、巨大な悪魔の足は止まっており、大きな腕も他の【楓の木】の面々を狙っているようだった。

 

「皆、頑張って!」

 

また新たに傷跡をつけつつ、メイプルは9人のことを思うのだった。

 

その頃、セイバーはフルパワーを出す為のスキルを発動していた。

 

「行くぜ。【分身】!」

 

セイバーが第4回イベントの終盤等で見せた【分身】を使い今回は8人へと増えた。

 

「烈火」

 

「流水」

 

「黄雷」

 

「激土」

 

「翠風」

 

「錫音」

 

「月闇」

 

「最光」

 

「「「「「「「「抜刀!」」」」」」」」

 

「【カラフルボディ】!」

 

「狼煙、【大抜刀】!」

 

セイバーの本体と7人の分身体が狼煙以外の剣をそれぞれ握り、狼煙は本体である烈火を持ったセイバーが【大抜刀】によって左手に装備した。

 

「これで良し、いっちょ暴れてみますか!!」

 

それから烈火のセイバーがブレイブの上に乗ると空中へと浮かび、流水と最光のセイバーも空中へと浮かぶ準備をする。

 

「【ライオン変形】!」

 

「【漫画撃】!」

 

流水のセイバーはライオン形態になり、最光のセイバーは羽を生やす。そして、ライオン形態のセイバーに月闇を持ったセイバーが乗り、4人の空中部隊が空へと飛んでいった。地上に残ったメンバーは他の【楓の木】のメンバーのサポートに向かう。

 

「私も飛ぶよ〜!【エクスドライブ】!」

 

ヒビキは輝きに包まれていくと背中に黄色い羽を生やし、装備は白い部分が増え、黄色いラインが金に変化し、空へと飛び立つ。

 

 

セイバー、メイプル、ヒビキが空や怪物の体の上で暴れる中、残りの【楓の木】の面々は3人と4人に分かれて攻撃を開始した。

 

落下による事故死を防ぐため、マイとユイは地上で足を攻撃することになった。そしてそんな2人を守るのはクロムである。

 

「防御は任せとけ!今は足も止まってる、やってやれ!」

 

「「はいっ!」」

 

2人はドーピングシードを使い、ツキミとユキミに乗って突撃するとそのまま大槌を振りかぶる。

 

「「【ダブルストライク】!」」

 

メイプルの攻撃の比ではないダメージが入り、凄まじいダメージエフェクトが弾ける。

 

「「【ダブルインパクト】!」」

 

2本持ちの大槌と最高クラスの攻撃力が叩き出すダメージは凄まじく、本来生き残っているプレイヤーが何人も集まってようやく出せるダメージを一撃ごとに与えていく。攻撃に専念できるなら、それはより強力なものとなる。

しかし、それを許してもらえるはずもなく、当然2人を簡単に薙ぎ払えるサイズの悪魔の腕が1本振り抜かれる。

 

「【マルチカバー】【ヘビーボディー】!」

 

「「クロムさん!」」

 

その巨体からノックバックを警戒したクロムはスキルを使いがっしりと大腕を受け止め、盾で受け流す。腕は炎に包まれており、受け止めたクロムを燃やすものの、クロムは驚異的な回復力で次々に振り下ろされる腕での攻撃を耐えて生存を続ける。

 

「ははっ、普段はメイプルがやってるからな。たまには俺にも守らせてくれ!」

 

するとそんなクロムの隙を突いて腕が再び振られた。

 

「ヤベッ!」

 

クロムはその攻撃をギリギリで受け止めるが、ダメ押しとばかりに2本目の腕がマイとユイに向かって振り抜かれる。だが、その攻撃が当たる直前に巨大な剣がそれを防いだ。

 

「オラよ!!」

 

激土を構えたセイバーが【大断断斬】と【ヘビィレッグ】の組み合わせでノックバックを封じつつカバーしたのだ。これにより、ダメージこそ受けたものの結果的にマイとユイを助けることができた。

 

「クロムさん1人にはやらせませんよ。俺も行きます!」

 

「セイバー、助かるぜ」

 

「これでも喰らっとけ!【トルネードスラッシュ】!」

 

更に翠風のセイバーが竜巻を纏わせた剣で横から斬りつけて激土のセイバーが受け止めていた腕を弾き飛ばす。

 

「「ありがとうございますっ!クロムさん、セイバーさん!」」

 

そうしてまた力強く何度も大槌が振るわれ、一度今までよりも大きな轟音が響いたかと思うと、片足が傷だらけの見た目に変わり、悪魔はがくりと片膝を突く。

 

「なるほどな……!でかした、効いてるぞ!」

 

ならば次は逆側の足である。翠風のセイバーは自慢の機動力で走っていき、クロムはツキミに、激土のセイバーはユキミに乗せてもらうと、分身セイバー2人を含めた5人でもう片足を破壊するために駆けていくのだった。

 

クロム達と分かれたサリー達はハクの頭に乗って、体の周りに巻きついて足場になって貰ったところで切りつけていく。

 

「【武者の腕】!【四ノ太刀・旋風】!」

 

「【クインタプルスラッシュ】!」

 

カスミとサリーが攻撃を加え、マイの姿を取ったソウがさらにダメージを加速させる。

カナデとイズはそれに対応して噴き出る紫の炎からそれぞれ魔法による防御と、アイテムによる回復で全員を保護する。

 

更にそこに分身セイバー2人も駆けつけた。

 

「【ロック弾幕】!」

 

「【魔神召喚】!針飛ばし!」

 

錫音のセイバーは弾幕を撃ち込み、黄雷のセイバーも魔神を呼び出して大量の針を飛ばさせた。

 

「セイバーも来てくれたか」

 

「頼もしいわね」

 

「それに背中側ならやりやすい。腕の触れない場所で戦うぞ!」

 

「そうだね、って言っても、そこまで優しくないみたいだけどっ!」

 

サリーが上を見ると見覚えのある紫の魔法陣が展開されており、直後、サリー達に大量の炎が降ってくる。

 

「【火炎の体】!【守護の輝き】!」

 

カナデが使った魔法は炎の塊よりも先にテイムモンスターを含めた全員を赤い炎で包み込む。炎属性に対する強力な耐性を得ることができるが、これではサリーは生き残れない。そこでサリー単体にはダメージ無効魔法を使い全員を生存させる。

 

「助かった!ありがとうカナデ!」

 

「大丈夫、まだ対応できるよ」

 

「回復は私に任せて。攻撃をお願いね!」

 

「一気に行くぜ!」

 

そうして攻撃していると悪魔の体勢が崩れる。それはマイとユイによる攻撃が片膝を突かせたためだった。サリーは傷ついた足を見ると、おおよそこのモンスターの対処の仕方を理解する。

 

「カスミ!私は上に行く!翼を傷つければ炎も止まるはず!」

 

「ああ、分かった!」

 

サリーは空中に足場を作ると、【水の道】の中を泳いで一気に背中あたりまで泳いでいく。するとそこには、背中に対して【悪食】を発動させつつ銃弾を撃ち込むメイプルと、空中から突撃を繰り返すセイバー本体と3人の分身セイバー、そしてヒビキがいた。

 

「メイプル!もう戻っちゃったか」

 

「あ、サリー!こっち来たんだ!」

 

「お前が来たってことは何かわかったのか?こいつの弱点」

 

「ええ、私とメイプルとヒビキで翼を攻撃しに行くから。セイバーは注意を引いておいて」

 

「わかった!」

 

セイバーはブレイブに遠距離から攻撃させつつ強力なスキルを叩き込んでいく。

 

「【火炎砲】!」

 

「【シャイニングブラスト】!」

 

「【暗黒クロス斬】!」

 

「【キングキャノン】!」

 

それと同時進行でメイプルとサリーは翼を攻略する準備を進めた。

 

「【身捧ぐ慈愛】!」

 

「いいの?」

 

「うん、2人を守るって言ったでしょ!」

 

「でしたらダメージを受けないうちに行きましょう!」

 

「そうね」

 

3人は意気込んで翼の方へ向かう。

 

「足場作るよ!よっ、と、これで!」

 

メイプルは【救いの手】により宙に盾を浮かべると、翼の周りに配置する。サリーならこれを足場にして上手く戦ってくれるからだ。

 

「じゃあ行くよ!」

 

「うん!」

 

「私も!」

 

メイプルの射撃に合わせてサリーが羽の根元から先に向けて水の道を通り抜けつつ斬りつけていく。ヒビキも連続で翼を殴りまくり、ダメージを与えていく。そして、それを追うように炎が噴き上がるがサリーの速度とヒビキの機動力にはついていけない。翼の周りに伸びる水の柱を泳いだり、飛び回ったりしながら、体を回転させ次々に羽を斬り裂いていく。2本の翼を3人で攻撃して、何とか翼を破壊しようとする。

 

しかし、そこで今までとは明らかに違う兆候があり、モンスターの体全体から紫の光が発され始める。

 

「これは不味いかも!」

 

「サリー!こっち!」

 

サリーは空中のメイプルの盾を経由してメイプルの元に飛び込み、メイプルはすぐさまシロップを召喚し空中に浮遊する。その直後悪魔の全身が発火し、ギリギリのところで3人はその炎を逃れる。

 

しかし、これはここからが本番だということは3人も分かっていた。この後、空から炎の塊が降ってくるためである。

悪魔が炎を纏うと同時に咆哮を上げる、エフェクトとともに近づく音の波は貫通ダメージを発生させ、メイプルはシロップと朧、サリー、ヒビキの分のダメージを一気に受けることとなった。もう一度【イージス】を使うこともあるかと考えていたメイプルは盾以外は大天使装備だったものの、それでもHPを削りきられて、【不屈の守護者】が発動する。発生源からのあまりの近さに回避ができず、一気にHPは危険域に落ちる。それは3人にとって予想外だったようで、いつもは冷静なサリーも驚きを隠せない。

 

「うぅっ……!」

 

「【ヒール】!メイプル、ほらポーション!」

 

「メイプルさんでも受け切れないなんて……」

 

サリーは慌ててメイプルを回復させる中、空からは炎の塊が降ってくる。

避けるにはあまりにも大きく【イージス】は今はない。朧やシロップ、ミクに庇わせるなど、サリーはメイプルが倒されない方法を考える。1度目は無効化したため、威力やダメージ範囲も不明、絶対と言える方法はない。

 

「【超加速】!」

 

「わわっ!」

 

 

サリーが咄嗟にメイプルを抱えて走り、ヒビキは飛行しながら逃げる中、背後から炎の光が近づくのが分かる。ダメージフィールドをメイプルに直撃させるわけには行かないため、サリーが狙うのはギリギリまで引きつけ、メイプルを放り投げてヒビキに任せ、地面の炎上範囲から逃すことだった。メイプルを守れば、サリーはスキルで何とか生き残れる可能性がある。

しかし、その分の悪い賭けに出る直前、ダメージを与えていた両の翼を豪炎と白光が貫き、破壊したかと思うと、それはそのままこちらにやってきて、それぞれ2人を掴むとギリギリのところで空中へと非難させる。

 

「ペインさん!」

 

「ミィ!」

 

「ああ、ちょうどいいタイミングだったな。しかし、随分弱らせたな。10人……いや、セイバーが分身しているから17人か。よく耐えたな」

 

「これなら、総攻撃でいけるかもしれない」

 

「勿論です!お二人が一緒なら絶対に勝てますよ!」

 

飛んできたのはレイに乗ったペインとイグニスに乗ったミィだった。

2人は特殊モンスターの撃破をギルドメンバーに任せ、こちらに飛んできていたのである。というのも、この大型モンスターは体力を減らすことで定期的に特殊モンスターを生み出しており、特殊モンスターにかかりっきりでもどうしようもないことが分かったからだった。

ヒビキを含めた3人は突き出される腕を上手く回避しつつ、飛行して距離を取る。

 

「あの炎の雨を早く止ませなければ不利になる一方だ。今はまだプレイヤーが残っているが、数が減ればおそらくあれを連打してくる」

 

「隙ができ次第俺達で頭を狙う。3人も構えてくれ」

 

頭を狙いに行けば今も振るわれている太い腕や魔法陣から放たれる炎は5人を襲うことになるだろう。しかし、どこかでそれをくぐり抜けなければ大きなダメージも見込めない。

メイプルも攻撃に備えて装備を変更し、兵器を展開し、シロップにも【精霊砲】の準備をさせる。

 

更には空中を駆けながらダメージを与えるセイバーもメイプル達と合流して構える。

 

しばらく回避を続けていると、再びHPがガクンと減少し、片足を引きずっていた状態だった悪魔は、もう片方の足からも力を失い前に倒れ込み、幾本もある腕を使って体を支える。

そこで、再び炎が充填されかけるが、ギリギリのところで特殊モンスターから供給されている炎が停止する。ばらけていたドレッド達によって、3度目の炎の雨の直前で、特殊モンスターは狩り尽くされたのだ。

訪れたチャンスを見逃さず、9人は一気に接近する。飛んでくる炎をすり抜けて、それでも伸ばされた腕を避けて、顔のない頭に最接近した所それぞれが一気に大技を放つ。

 

「【聖竜の光剣】!」

 

「【殺戮の豪炎】!」

 

「【我流・火炎龍撃拳】!」

 

「【紅蓮爆龍剣】、【煙幕幻想撃】!」

 

「【月闇居合】!」

 

「【閃光斬】!」

 

頭の横をすれ違うようにしてペインとミィとセイバーとヒビキが凄まじいダメージを与えていく。その直前、レイから飛び降りたサリーはスキルで空中を蹴って正面から近づくと、大きく開かれた口を上に避け、頭部を射程内に捉える。

 

「【クインタプルスラッシュ】!」

 

青いオーラを纏ったサリーの連撃がボスの頭部を深く斬り裂く。そして、イグニスから飛び降りたメイプルはシロップに移って、そのまま武器を向ける。このタイミングなら他人を巻き込まずに全てをぶつけられる。

 

「【攻撃開始】【毒竜】【滲み出る混沌】シロップ【精霊砲】!」

 

「ブレイブ、【爆熱のブレス】!」

 

「ミク、【電磁砲】!」

 

ミィの攻撃により燃え、ペインの攻撃により浄化されるようにボロボロとダメージエフェクトを散らせる中、サリーの連撃に追い討ちまでされていたのである。

そこに降り注ぐ大量の銃弾と毒、レーザー、炎に電撃の砲弾。そして最後にメイプルは大盾を構えると、背中の兵器を爆発させた。

 

「行くよっ……!」

 

大きく口を開け、メイプルを噛み砕かんとする悪魔の口に、こちらも全てを飲み込む大盾を構えて突撃する。

メイプルは鋭い牙に直撃すると、それを全て飲み込んで、そのまま喉の奥を貫き、大量のダメージエフェクトと共に背中側に転がり出る。

連撃を終えたサリーはちょうどそのメイプルを見つけて抱きかかえると、糸と足場を使いその場を離れる。

 

「ど、どうなったの!?」

 

「ナイスメイプル。ほら、もう終わ……」

 

「まだだ!」

 

ミィが叫ぶと悪魔はまだ生きており、メイプルとサリーへと炎を放とうとしてきた。

 

「やっば!」

 

「くっ。ここまでか」

 

「待て、上を見ろ!」

 

メイプル達4人が上を見るとそこにはライオン形態を解除した流水のセイバー、最光のセイバー、月闇のセイバー、烈火と狼煙を持ったセイバー本体がいた。更に、地上からは黄雷、激土、翠風、錫音のセイバーが跳び上がり、合計8人のセイバーが必殺の一撃を放った。

 

「【雷鳴一閃】!」

 

「【大地貫通】!」

 

「【疾風剣舞】!」

 

「【スナックチョッパー】!」

 

地上にいたセイバーは悪魔をすれ違い様に斬りつけ、ダメージエフェクトを散らせる。そこに追い討ちとばかりに空中の4人がキックの体勢をした。

 

「【グランドレオブレイク】!」

 

「【暗黒龍破撃】!」

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

「【元素必殺撃】、【インセクトショット】!」

 

「「「「うぉりゃあああああ!!!」」」」

 

8人のセイバーによるフルパワーの連続攻撃は悪魔のHPをとうとう0にし、その巨体は光となって消えていった。

それと同時に、薄暗かったフィールドは元通りの空を取り戻す。そして、蔓延っていた悪魔型モンスターも全て消えていった。

予想外だったのは撃破したことによって、メダルが得られたことである。

 

セイバーは着地と同時に1人に戻ると笑みを浮かべたが、次の瞬間には疲れで倒れ込んだ。

 

「ちょっとセイバー!」

 

そこにサリーが駆け寄ると肩を貸して何とか立たせた。そこにメダルを持ったメイプルが駆け寄ってきた。

 

「サリー!メダルだよメダル!しかも3枚!」

 

「ははは……まあ3枚だと割りに合わない気もするけど。よかったね」

 

「でも、やり切ったって感じだな……」

 

「アンタは少し休みなさい。流石に8人への分身は疲れたでしょ」

 

「まぁな……」

 

そんな3人の元に、【楓の木】の7人がやってくる。7人も何とか無事だったようで、消耗してはいるが脅威が去って安心したという様子だった。

 

「おーい、みんなー!よかったー」

 

3人が残りの7人と合流した所で、ブザーが鳴り、3日目が終了したことが告げられる。

セイバー達は無事に3日間の生存に成功し、また元のフィールドに戻っていくのだった。

 

 

 

 

イベントを終えて、運営陣は結果を振り返っていた。

 

「あれ、あれ?アイツ普通にやられちまったな?」

 

「そうですね……え、HPを見誤りましたね。あまり高すぎてもと思ったんですが」

 

マップ全体への超強力攻撃など、中々の殺意を持ったモンスターであり、その巨体から手を出しに行きたいとは思えないのではないか、そうすれば炎の雨の中逃げ惑わせられるという考えだったが、HPある者は殺せる者である。

全力で突撃して来られるとそれはそれで巨体が邪魔をして繊細な攻撃ができなかった。

 

「次回大型モンスターを出すときはまた考えますか……」

 

「だなあ……もうちょっと攻撃力は下げてHPも考えてだな」

 

「ただ、セイバーは今回もヤバかったなぁ」

 

「聖剣をほぼ全部持ってくるとか反則だろアレ!」

 

「いやいや、それ以前に聖剣を実装しなければここまでアイツが暴れるなんてことになってないからな?」

 

「ま、まぁ過ぎたことを言っても仕方ない。それに、この層には聖剣を実装してないだけマシですよ」

 

「また色々と対策を考えないとなぁ……」

 

こうしてイベントが終わった後も運営陣の試行錯誤は続くのだった。




今回で第8回イベントも終了となります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとパラドクス

第8回イベントも終わり、【楓の木】はイベントでの目標も達成できた。後は手に入れたメダルの使い道である。

楓と理沙と海斗は学校からの帰り道を歩きながら、それについて話していた。

 

「楓と海斗はどんなスキルにするか決めたの?」

 

「まだだよー。交換期間はまだ先だしギリギリまで考えようかなって」

 

「俺も一旦保留かな」

 

「他の皆と一緒かー」

 

「理沙は?」

 

「私も、しばらく次のイベントは来ないし、急に欲しくなったスキルっていうのも今の所無いしね」

 

理沙の言うように、イベントは終わったばかりで、急いで戦力増強をする必要はない。七層がかなり広く作られているのもあって、八層の実装にもまだしばらくかかりそうだったため、目先の目標が特にないのである。

 

「またのんびりできるね!」

 

「そうだね。レベル上げとスキル探しでもして備えるかー」

 

「それが妥当って感じかな……」

 

理沙と海斗がそう言うと、楓は1つ思いついたという風に表情を明るくする。

 

「……そうだ!スキル探すなら、一緒に今までの層巡りしない?行けてない場所もまだまだあるし!」

 

「確かに。このゲーム層ごとがすごい広いし、一層でも【絶対防御】とか取れたりしたしね」

 

理沙としても行けていない場所を探索するのはアリだと思えた。色々と隠されたものがあることは楓がその身で証明している。ただ、楓の表情から察するにスキル探しをすることが主目的ではないことは明らかだった。

 

「ふふっ、そうだね。観光ついでに、スキル探しもしよっか」

 

「あはは、分かっちゃった?」

 

「まあね?いいよ、いいスポット探しに行こう。計画なんてなくてもいいよね?」

 

「うん!まだ見ぬ秘境探しってことで!海斗はどうする?」

 

「あ、それなんだけど今日は俺はパス。なんかパラドさんが前に俺と会ったときに一緒にやりたいことがあるって言ってきたからさ」

 

「えー。それは残念だよ」

 

「ま、先約があるんだし仕方ないわね」

 

「久しぶりに2人だけで楽しんできなよ。俺も俺で楽しんでくるからさ」

 

「わかったよ。その代わり、後で羨ましがるのは無しね」

 

「はいはい」

 

それから3人は別れるとそれぞれでゲームにログインし、セイバーはパラドクスとの約束の場所に来ていた。

 

「なぁ、パラド。今日はどうしたんだ?こんな森の奥にまで俺を連れ出して……」

 

「あー、それなんだけどな。ちょっと手助けをして欲しいことがあってな」

 

「で、それはなんだ?」

 

「ちょっとモンスターを仲間にするのを手伝って欲しい」

 

「……はい?」

 

「だーかーら、俺の相棒を仲間にするのを手助けして欲しいって…」

 

「いやいや待て待て、何でそんなことをお前と違うギルドに所属する俺に頼む?」

 

「何でって、お前が良いって思ったから」

 

「あのさぁ、敵に情報を与えるようなものだぞ?てか、カナデやイズさんに聞いた話だとお前は前衛も後衛も両方こなせるんだろ?だったらお前と同じギルドに強いプレイヤーは幾らでもいるだろ」

 

「まぁな。ただ、今日はセイバーと一緒にプレイがしたくてな。セイバーにとってはまたと無い機会だと思うぜ。相手がわざわざ自分から情報を晒してくれるんだからよ」

 

「……わかったよ」

 

「よっしゃ!」

 

「ただし、条件がある」

 

「何だ?」

 

「お前がテイムモンスターを手にしたら俺と決闘してもらう。良いな」

 

「わかったぜ」

 

「なら、さっさと行くか」

 

「おう」

 

2人は他愛もない雑談をしながら森の奥へと歩き始めた。どうやらパラドクス曰く、今回仲間にしたいモンスターは森の中を徘徊しているらしい。そのため、モンスターがいつどこで現れるかがわからない。そこで、【気配察知】を持っているセイバーがレーダーの代わりとなり、目的のモンスターを探すことにしたのだ。

 

捜索開始から30分が経ち、その間に目的と関係ないモンスターが2人を何度か襲撃していたが全て返り討ちにしていた。

 

「出てくる気配無しか」

 

「パラド、本当にこの辺なんだろうな?」

 

「おかしいなぁ。いつもならこの時間帯にはここを通るはずだけど……」

 

2人がのんびりと話していると突然2人の真横を風が通り過ぎたと思えば、目の前に巨大な体をしたピンク色の毛並みをしたジャッカルが現れた。

 

「見つけた!!アイツだ!!」

 

「アレがパラドが探していたっていうテイムモンスターか」

 

「【アイテム展開】!」

 

パラドクスは大急ぎでメダルを周囲に展開するとパズルを始めた。

 

「おい、何もそこまで急がなくても……」

 

セイバーが振り返っている一瞬の間にジャッカルは2人へと背中を向けて逃走を始めた。

 

「嘘ぉ!!?」

 

「アイツはプレイヤーを見つけると一瞬だけ目の前に現れてからすぐに逃げるんだよ。しかも、めっちゃ速いからモタモタしてると逃しちゃうんだ」

 

「それを早く言え!!翠風抜刀!【烈神速】!」

 

「【高速化】、【高速化】、【高速化】!」

 

2人はAGIを特化のバフをかけると猛スピードでジャッカルの追跡を始めた。

 

「まさかと思うがこの特性があるから俺にしたのか?【炎帝ノ国】に所属する他のランカーの中に高速のアタッカーがいないし」

 

「そうだぜ。それが今回セイバーを選んだ1番の理由だ」

 

「なるほど。取り敢えず効果時間が切れる前に足を止めるぞ。【影縫い】!」

 

セイバーが翠風の片方を投げるとそれは見事にジャッカルの影に刺さり、その瞬間にジャッカルの動きが停止した。

 

「ナイス、セイバー!」

 

「このくらい朝飯前だぜ」

 

するとジャッカルは捕まったことで戦闘のスイッチが入ったのか、無理矢理【影縫い】の拘束から逃れると2人を睨みつけた。

 

「どうやら戦う気になったようだな」

 

「そうこなくっちゃ面白くないぜ。【大変身】!」

 

パラドクスは近接戦特化の赤い姿へと変化するとジャッカルへと突撃をしていった。

 

「【炎の拳】!オラァ!!」

 

パラドクスの繰り出した拳は炎を纏い、ジャッカルへと向かっていくが、ジャッカルは持ち前の超スピードで回避してしまった。

 

「こいつ!」

 

「俺はこの姿かな。狼煙抜刀!【有毒の煙】、【電撃の糸】!」

 

セイバーは狼煙を抜くと周囲に煙を展開し、その煙を浴びたジャッカルを毒状態へと追い込んでからすぐに電撃を纏わせた糸を絡ませてジャッカルの機動力を奪った。因みにパラドクスはというと事前に【毒無効】のメダルを取って毒の煙を無効化していた。

 

「良し。パラド!一気に決めろ!!」

 

「ああ!【爆裂ラッシュ】!」

 

機動力の鈍ったジャッカルなどパラドクスにとっては格好のサンドバッグであり、パラドクスが放った連続パンチによってHPをどんどん失っていった。

 

だが、ジャッカルもタダでやられるほど弱くはない。ある程度ダメージを受けると自動的に麻痺と毒が回復して拘束を解き、硬質化した尻尾でパラドクスを弾き飛ばすと距離を取った。

 

「大丈夫か?パラド」

 

「大丈夫だ。あの野郎、素直に仲間になるつもりは無いらしいな」

 

「最初からわかってたことだろ。さっさと片付けて決闘しようぜ」

 

「勿論だ」

 

2人がそう話していると今度はジャッカルが2体に分身し、それぞれが紫の光弾を放ってきた。

 

「【大変身】!」

 

「【狼煙霧中】!」

 

セイバーは煙化で、パラドクスはスタイルチェンジをすることで生じる無敵時間を使い攻撃を凌ぐとセイバーが走り込み、ジャッカルの気を引きつけた。その間にパラドクスはパズルを解き始める。

 

「【インセクトショット】!」

 

セイバーが分身したジャッカルの片方にキックを放つとそのジャッカルはまるで【蜃気楼】のように姿が揺らいで消え、もう1体のジャッカルが鋭い爪を振り下ろす。

 

「おっと、やらせねーよ。【甲虫の盾】!」

 

爪がセイバーにヒットする直前、何も無い所から硬い盾が出てくると爪をしっかりとガードして防いだ。

 

「次はこれ。【煙幕幻想撃】!」

 

セイバーはすぐに体制を立て直すと狼煙を振り抜いて斬撃をジャッカルに命中させた。

 

「パラド!!」

 

「おっしゃあ!【伸縮化】、【キック強化】、【ジャンプ強化】!」

 

パラドクスはセイバーが時間を稼ぐ間にパズルを解き終わり、そのまま跳び上がると両足をゴムのように伸ばしてアウトレンジからキックを叩き込んだ。

 

ジャッカルはこれには堪らず吹っ飛び、残りHPを半分にまで減らした。

 

「さて、次は何が来るか……」

 

「頼むから対応しやすいのにしてくれよ」

 

そんなパラドクスの願いも虚しく、ジャッカルは体に紫の炎を纏わせると10体に分身。更にはそのまま猛スピードで突っ込んできた。

 

「くっ。【鋼鉄化】!」

 

「【バタフライウイング】!」

 

セイバーは蝶の羽で飛ぶとジャッカルの突撃を回避し、パラドクスは体を鋼鉄化して受け止めた。だが、10体分受けるはずのダメージは思ったより低かった。

 

「!?ダメージが無い。まさか、本体以外は全部ダミーか!」

 

「だったら、【透視の目】!」

 

セイバーのスキル【透視の目】は分身等で相手の姿が増えた際にその本体を的確に見抜くことができる。つまり、セイバーにとっては分身などまるで意味が無かった。

 

「パラド、本体を捉えた。俺がそいつをマークするから集中攻撃してくれ!」

 

「任せろ!」

 

「【電撃の糸】、【ビーニードル】!」

 

セイバーは先ほどと同様に電撃を纏わせた糸を使用し、ジャッカルの本体の尻尾に巻きつけると目印とした。そのまま飛行しながら接近し、蜂の針をジャッカルへと突き刺して動きを止めた。

 

「今だ!【高速化】、【鋼鉄化】!」

 

パラドクスは自ら鋼鉄の塊に変化すると高速で動きながら連続でタックルを浴びせた。

 

「【昆虫煙舞】!」

 

セイバーの渾身の一撃もジャッカルを貫き、ジャッカルの残りHPを僅かに減らしていく。

 

ジャッカルは本体が集中攻撃を受けたせいか分身も消えており、いよいよラストスパートであった。

 

「油断するなよ。パラド」

 

「お互いにな」

 

2人はジャッカルと向き合うとジャッカルは再び2体へと分身して襲ってきた。

 

「またこれか。いい加減芸が乏しいぜ」

 

セイバーが狼煙を振るとジャッカルはそれを爪で受け止めた。だが、そのタイミングで消えるかと思えたもう1体のジャッカルは全く消える様子もなくパラドクスに牙を剥いた。

 

「まさか、2体とも本物!?」

 

2人はそれぞれジャッカルを攻撃して距離を取るが、ジャッカルは怯むことなくセイバー達へと突撃してきた。

 

「厄介だな」

 

「セイバー、さっさとトドメを刺すぞ」

 

「わかってるよ!」

 

2人は素早いジャッカルの攻撃を紙一重で躱しつつそれぞれが反撃のスキルを放つ。

 

「【パンチ強化】、【高速化】!」

 

「【スパイダーアーム】!」

 

パラドクスはパンチ力を強化してからの高速パンチで、セイバーは蜘蛛の足を出してからそれの先端を鋭利にしてジャッカルを貫いた。2体のジャッカルはダメージを受けると漸く2人から距離を取った。

 

セイバーはその隙を逃さずに追撃をかける。

 

「【昆虫の足】!」

 

すると、セイバーの足がバッタのような物に変わると跳び上がり、ジャッカルはそれを迎撃するために光弾を放つが、セイバーは空中で回転しながらドロップキックを放ちジャッカルを吹き飛ばした。

 

「パラド!!」

 

「ああ!【分身】、【キック強化】!【パーフェクトコンボ】!」

 

パラドクスは5人に分身するとトドメの連続キックを放ち、とうとうジャッカルのHPを0にした。

 

「よっしゃあ」

 

そして、倒した後には先程まで戦っていた個体と全く同じ姿だったが、サイズが大きめの小型犬ぐらいとなったジャッカルがいた。

 

「どうやら、仲間にできそうだな。パラド」

 

「ああ。俺はこいつにエムって名付けるぜ」

 

「エムか。ま、良い名前だと思うぞ」

 

「エム。これからよろしくな」

 

パラドクスのその言葉にエムと名付けられたジャッカルは嬉しそうに頷いた。

 

「さぁ。パラドクス、約束だ。勝負するぞ」

 

「わかってるって。ただし、やるからには本気で行こうか」

 

「そうこなくっちゃ」

 

それから2人は決闘の機能を使い転移すると2人は戦闘に突入した。因みに、テイムモンスターに関してはパラドクスのモンスターは仲間にしたばかりのためレベルが低く、レベルが上がった時にまた改めて勝負するという約束で今回は無しにしている。

 

「烈火抜刀!」

 

「【アイテム展開】!」

 

2人はそれぞれの定石を取ると激突した。

 

「挨拶代わりだ。【紅蓮爆龍剣】」

 

セイバーは先制攻撃とばかりの大技を繰り出し、パラドクスはこれをパズルを解きながら回避する。その間にセイバーはパラドクスに接近して剣を振るうが、既にパラドクスはメダルをとっていた。

 

「【幸運】!」

 

パラドクスは幸運のメダルを使うとセイバーの攻撃を紙一重で回避し続け、パズルを解き進めた。

 

「くっ、幸運だな。多分これ、パラドクス的にはラッキーで攻撃を回避している感じだろ?もう何でもアリだな。そのメダル!」

 

「【高速化】、【鋼鉄化】!」

 

パズルを解き終わったパラドクスはセイバーへの反撃を開始し、高速で移動しながら鋼鉄化した体で連続タックルを仕掛けてきた。セイバーも1回目は何とか見切って回避するも、2回目は躱す事ができずにモロにタックルを受けて上空に弾き飛ばされた。

 

「ぐっ!」

 

「もらったぜ。【伸縮化】!」

 

パラドクスの追撃は止まらない。今度は近くに落ちていたメダルを拾って腕に使うと腕が伸びてセイバーをぐるぐる巻きにし、そのまま地面へと叩きつけた。

 

「痛って!!」

 

「ホラホラどうした?それじゃあ楽しめないぜ」

 

「やりたい放題してくれたな。けど、お前の弱点がわかったぜ」

 

「弱点だと」

 

「ああ。最光抜刀!【カラフルボディ】!」

 

セイバーは最光を抜刀して人型になると剣を構えた。それと同時にパラドクスもパズルを始めていった。

 

「【シャイニングブラスト】!」

 

セイバーから光の光弾が出現するとパラドクスへと降り注いでいき、パラドクスはそれを回避しながらパズルを進めるが、セイバーは余裕そうだった。

 

「次はこれだ。【閃光斬】!」

 

追い討ちをかけるようにセイバーはパラドクスへと光の斬撃を叩き込む。流石のパラドクスもこれは躱しきれずにダメージを受けることになったが、そのタイミングでパズルも終了し、3枚のメダルがパラドクスの中に吸い込まれた。

 

「【マッスル化】、【高速化】、【透明化】!」

 

パラドクスは取得したメダルの効果を発動して透明になるとセイバーへと突っ込んでいくが、セイバーは冷静に対抗策を講じた。

 

「【漫画撃】!」

 

セイバーが手を翳すと周囲に光が降り注いでいくことになり次の瞬間、消えていたパラドクスの姿が露わになった。

 

「なんだと」

 

「そこだ!【エックスソードブレイク】!」

 

セイバーが畳み掛けるように必殺のスキルを発動すると戸惑うパラドクスへと攻撃を決め、その一撃は偶然にもクリティカルヒットしてパラドクスのHPをゼロにした。2人は決闘の場所から出てくるとパラドクスは疑問を浮かべていた。

 

「なんでバフがいきなり消えたんだ?確かにかけたはずだけど」

 

「答えは簡単。俺がかき消したから」

 

「おいおい、そんなこともできるのかよ」

 

先程セイバーがパラドクスにかけたのは【漫画撃】の効果で、MPを多めに消費する代わりにパラドクスにかかっていたバフを全て消してしまったのだ。

 

「うーん。流石に今回の負け方は納得がいかないなぁ。できれば正面から俺のバフを攻略してほしい」

 

「そうだな。正直俺も今回はちょっとズルイとは思った。何ならもう一回やるか?」

 

「その言葉を待っていたぜ。セイバー、今度は勝つからな」

 

「おう。俺も負けねーよ」

 

それから2人はその日、遅くになるまで決闘を続けることになるのだった。

 

 

 




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと錬金術師

パラドクスとの戦闘を終えたセイバーは、その日はもう遅かったために解散して日を改めて探索を進めることにした。そんなある日、セイバーが七層の中を歩き回っていると轟音と共に何かが大爆発を起こしている音がした。

 

「なんだ!?この音……イズさんか?いや、イズさんは今日、ギルドホームで作業をしているはず。だったらこの音は………」

 

セイバーが音を頼りに周辺を捜索していると割とすぐ近くに金髪をしており、メイプルと同じくらいの身長で赤いワンピースを着た少女が周囲を焦土化していた。

 

「この層の敵といえども……この程度か。やはり、この力は素晴らしいな」

 

少女を遠巻きから見ていたセイバーは驚きの声を上げていた。

 

「これ全部コイツがやったのか?いくらなんでも火力が半端なさすぎだろ。俺だったらここまでやるのは絶対に無理だぞ……」

 

セイバーが小声で少女について話していると少女はその声に気づいたのか振り向いた。

 

「誰だ!!」

 

それと同時に緑の竜巻が飛んできてセイバーを吹き飛ばそうとしていた。

 

「うわっ!?危なっ!!」

 

セイバーはギリギリで【エレメンタル化】を発動。土へと変わるとセイバーが変化した土は砕けたが、すぐに再生して元に戻った。

 

「危なかった……」

 

「その手に持った剣に身のこなし。お前は噂に聞くセイバーだな」

 

「そうだけど君は……」

 

セイバーが少女の問いに答えると少女はセイバーへと歩み寄って彼を睨みつけた。

 

「おい」

 

「何?」

 

「この俺の前に現れるということはそれなりの覚悟があってだろうな?もし、何も覚悟が無いのなら俺はお前を粉砕してくれる」

 

「待て待て、なんでそんなに偉そうなんだよ。多分君は年下だろ?せめてその態度はどうにかしなよ」

 

「ふん。これが俺の性分だ。今更変えることなど俺はしたくない」

 

「なるほどね。ま、いっか。それで君の名前は?流石に名前がわからないと俺としても困る」

 

「良いだろう。俺の名はキャロル。奇跡の殺戮者だ」

 

「……はい?奇跡の殺戮者?」

 

「そうだ」

 

「何事にも奇跡というものがあるだろう。圧倒的に不利な状況でも奇跡が起きれば逆転して勝つことができたりする」

 

「確かにそうだな。だからこそ勝負は最後までわからないんだろ」

 

「だが俺はそれを許さない。奇跡など起こさせない。そのくらい相手を叩きのめす」

 

「キャロルの言い分はわかった。けど俺は奇跡があった方が良いと思うんだけどなぁ」

 

「ふん。好きにしろ。それで、セイバーは俺に何の用だ?」

 

「あ、そうそう。さっきさ、この辺で轟音と共に大爆発が起きたじゃん。多分キャロルの仕業だと思うけどアレをどうやってやったんだ?見た感じすごい軽装だし、何かしら強力なスキルでも持ってるのかな〜って」

 

「なるほど、それで俺の前に現れたのか。ならば、ついて来い。俺が奇跡を殺す様を見せてやる」

 

「は、はぁ……」

 

セイバーはキャロルに言われるがままに着いていくととある遺跡に辿り着いた。その遺跡はどこか見覚えがあるようであり、セイバーが記憶を辿っているとキャロルはそんなのお構いなしにさっさと歩き始めた。

 

「え、キャロル、ちょっと待って!」

 

「誰が待つか。そもそもお前が見せてほしいって言ったんだろうが」

 

「そうなんだけどさ、もしかするとここのボスは巨大な亀かも」

 

「ほう?何故わかる?」

 

「いやね、以前のイベントでここと似たような遺跡を攻略してな、その時に出てきたのが巨大な亀だったからさ」

 

セイバーが言っているのは第2回イベントの時に激闘を繰り広げた玄武のことである。

どうやら、一部のギミックや、ボスモンスターは場合によっては再設置されていることもあるようだった。第2回イベントのフィールドには今は行けないのもあって、ギミックを再利用するのにはちょうど良い訳だ。

 

「なるほどな。まぁ、俺にとっては楽な戦いだ。セイバーもいる今ならばな」

 

「あ、もしかして俺もやらないとダメ?」

 

「当たり前だ。ノーリスクで俺の情報をやるわけないだろう」

 

「ですよねー」

 

それから2人は中へと入ると砂の迷宮を攻略することになった。

 

その中には雑魚モンスターがうじゃうじゃ湧き出しており、面倒なことになっていた。

 

「雑魚は引っ込んでな!!【爆熱放射】!」

 

「【ウインドカッター】!」

 

2人はそれぞれスキルでモンスターを一撃で葬っていく。

 

「やるな、キャロル」

 

「当然だ。俺を誰だと思っている!」

 

「このままボスまで突っ切るぞ!」

 

「ああ!」

 

それから2人はボス部屋の前まで危なげもなく着くと扉を開いた。すると目の前に以前のイベントでセイバーが戦った玄武と似たような姿をした亀が出てきた。

 

「やっぱここのボスは亀だったか」

 

「大分硬そうだな。ならば、俺の真の力を見せてやろう。【ダウルダブラ】!」

 

 

キャロルは紫の魔法陣を展開すると中から金と紫の竪琴を召喚。そして、竪琴を奏でた。

 

次の瞬間、紫の光がキャロルを包み込むと琴から大量の弦が飛び出してその体に巻き付いていき、プロテクターを形成。足には紫のブーツとタイツが履かれて、背中に琴がアーマーのように変化して装着。紫の帽子を被るとキャロルから見て右側から赤、青、黄、緑の順で宝石が帽子に装着された。

 

「この姿、ヒビキのアーマーとどこか似てる……」

 

「ふん。剛腕の名を持つヒビキか。だが、アレとは少し違う。アレでは引き出せるパワーに限界があるが、俺のは底なしだ。少し加減を間違えればさっきセイバーが見たような光景になる」

 

「へぇ……そいつは期待できるな」

「その代わり、セイバー。お前にも本気は出してもらうぞ」

 

「当然だ!」

 

それから2人はボスの亀へと攻撃を開始した。

 

「【フレイムテンペスト】!」

 

「【火炎十字斬!】」

 

2人の放った火炎弾と炎の斬撃は亀に直撃してダメージを与えるが、ダメージは微々たる物だった。

 

「何!?」

 

「やっぱ最初は炎は効果が薄いのか」

 

「どういうことだ」

 

「前に似たような奴とやり合ったときはHPバーの減り具合で有効な攻撃が違ったんだ。以前と同じなら最初は雷属性、次に水属性、最後に火属性の順に有効だ」

 

「だが、前と同じとは限らないだろう?だったら効く攻撃を探るまでだ」

 

「ああ。翠風、抜刀!【トルネードスラッシュ】!」

 

「【ウインドストーム】!」

 

セイバーは翠風を抜くと竜巻を纏わせた斬撃を放ち、キャロルは魔法陣から高威力の攻撃を飛ばす。

 

亀はこれをまともに受けると先程の火属性の攻撃を受けた際よりもダメージを受けており、風属性が有効であることを示していた。

 

だが、亀もただ黙って攻撃を受けていたわけではない。亀は反撃をするために地面から岩を浮かばせると2人へと飛ばしてきた。

 

「【手裏剣刃】!」

 

「【トリスメギストス】!」

 

これに対して、セイバーが翠風の手裏剣モードで投擲して岩を破壊し、キャロルは3枚の魔法陣を出して障壁を展開すると攻撃をシャットアウトした。

 

「やっぱ防御も魔法でするのか」

 

「いや、これは錬金術という物だ。ただの魔法だと勘違いしてもらっては困る」

 

「それでもかなりのチートだけどな!」

 

セイバーは自慢の速度で走っていくと亀の周りを周回して撹乱していった。

 

「【超速連撃】!」

 

そのまま多方向からの連続攻撃を撃ち込み、亀にダメージを入れていく。

 

だが、亀のHPが一定以下になると突然風属性が効かなくなった。

 

「キャロル!」

 

「次は土属性で行くぞ!【グランドバースト】!」

 

キャロルの放った強大な大地のエネルギー波が亀の足下から発動して亀を飲み込み、亀を怯ませた。

 

 

「激土、抜刀!【激土爆砕】!」

 

セイバーも地面から生やした棘状の岩が亀の装甲の無い腹の部分を突き刺し、確実に追い込んでいった。

 

「やるな、キャロル」

 

「お前もな。セイバー」

 

2人はもう既にお互いの事を認めており、信頼していた。攻撃を合わせるようなことはしないものの、それぞれがやりたいように攻撃するだけでタイミングが上手く噛み合い、相手を着々と追い詰めていた。

 

「【エレメンタルブースト】!」

 

「【大地貫通】!」

 

キャロルのアシストでセイバーは元素の属性による攻撃力が上がり、高火力攻撃を更に強く撃てた。そしてそれは亀を貫くと大きなダメージを負わせてHPを半分に減らした。

 

「っしゃあ!」

 

「まだ倒れてないぞ!」

 

亀はダメージを入れられた影響か、体からオーラを滲み出して更に難易度を上げてきた。そして、亀の目が光ると今度はセイバー達の頭上から岩を降らし始めた。

 

「流水抜刀!【ハイドロスクリュー】!」

 

「【魔力障壁】!」

 

 

2人はそれぞれ防御を優先し、亀の岩を凌ぐとすかさず反撃をした。

 

「【キンググレネード】!」

 

セイバーは水のエネルギーによって砲弾を形成するとそれを亀へと放った。亀も当然黙っていない。口から岩石を放って攻撃を相殺した。だが、それこそがセイバーの狙った展開だった。

 

「今だ!キャロル!!」

 

「【アクアウェーブ】!」

 

キャロルは4つの青い魔法陣から水を発射すると亀を体ごとに押し流して水圧による攻撃を加えた。亀はこれに抗って何とか水を弾き飛ばしたが、既に目の前に流水を構えたセイバーが迫っていた。

 

「【グランドレオブレイク】!」

 

セイバーの渾身の突きが亀の首筋を穿ち、亀は苦しそうに悶えた。セイバーはそれをチャンスと見て追撃を仕掛ける。

 

「黄雷、抜刀!【雷鳴一閃】!」

 

セイバーから放たれた電撃を纏った高速の斬撃が亀を斬り裂き、ダメージエフェクトが散った。更に、キャロルからも攻撃が放たれる。

 

「【ゴールドインパクト】!」

 

キャロルの魔法陣から黄金の光弾が次々と連射され、亀はとうとうHPを残り1割に減らした。そして、追い詰められた影響か、亀は先程とは比べ物にならないエネルギーを放出し、全方位へと岩石や岩の鞭を放ってきた。

 

「【サンダーブースト】、【魔神召喚】!魔神攻撃!」

 

セイバーは魔神を召喚して攻撃をさせている間にAGIを上げて離脱し、キャロルの手を引いて攻撃の範囲外へと逃れた。

 

「なっ!!俺は助けろなんて言ってないぞ」

 

「そうだな。けど、お前だけに負担をかけるわけにはいかないからな」

 

「ふん。ならば、さっさと終わりにするぞ。スキルを同時にぶつけるんだ」

 

「それなら話は早いな」

 

「俺が奴の動きを止める。その隙に」

 

「わかった!」

 

キャロルはそう言うと背中のアーマーが開き、中から弦が出現。それと同時に両腕から弦を射出して亀の足を全て地面に拘束した。亀は弦を引き剥がすために攻撃を中断して弦を振り解くが、その間にセイバーとキャロルの攻撃準備は終わっていた。

 

「烈火抜刀!【森羅万象斬】!」

 

「【エレメンタルノヴァ】!」

 

セイバーが虹の輝きを纏わせた斬撃を放ち、それと同時にキャロルの黄金の魔法陣が展開。火、水、風、土の四大元素のエネルギーを高め、巨大なエネルギー波が極太のレーザーの如く発射されてそれが亀を貫き、体に大穴を開けた。その後にセイバーの斬撃が亀を縦に両断し、亀は大爆発と共に消滅した。

 

「終わったぁ!!」

 

「俺達にかかればこの程度だな」

 

2人がそれぞれの感想を述べているとキャロルの姿が会った時の赤い服に戻り、その傍らに竪琴が出現した。

 

「キャロル、まさかその姿は時限式なのか」

 

「ああそうだ。とは言っても、その制限時間はいつも一定では無い」

 

「ん?どゆこと」

 

「あの姿は俺がスキルを使えば使うほどに制限時間は限られる。強力なスキルを反動無しでドカドカ撃てる反面、ダウルダブラそのものに蓄えられた魔力が尽きれば俺自身のMPを消費してしまい、それも尽きるとこのように変身が解ける」

 

「おいおい、そんな弱点見せて良いのかよ」

 

「構わん。わかった所で凌ぎ切るのは不可能に近いからな。本来ならばこれの倍くらいは変身可能だが、お前と会う前に一度変身していたからか魔力がいつもより蓄えられなかった。よって今回の時間制限は何のアテにもならないということだ」

 

「面白い。今度お前とやり合う日が来たら俺がその攻撃を全部凌ぎ切ってやるよ」

 

「ふん。それはそうと、今度お前を俺の仲間に紹介してやろう」

 

「……へ?」

 

「セイバーが【楓の木】に属しているように俺にも属するギルドがある。名前は【thunder storm】」

 

「それって確か、第4回イベントで大暴れした……」

 

「その時に俺はいなかった。もしいたらどうなっていたんだろうな」

 

「そう思うとゾクゾクするね。キャロル、フレンド登録するか?」

 

「良いだろう。もう俺とセイバーは友達だからな」

 

「そう言ってくれて嬉しいぜ」

 

それからセイバーはキャロルとフレンド登録をして今度お互いのギルドメンバーに紹介するという約束を交わした。だが、丁度同時刻にメイプルがキャロルの所属する【thunder storm】のギルドマスターと会っている事や、セイバーとキャロルは意外な形で再開することになる事をまだこの2人は知らなかった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと転校生

セイバーがキャロルと出会って数日後、現実世界ではセイバーこと剣崎海斗、メイプルこと本条楓、サリーこと白峰理沙の3人が学校で話をしていた。今回は久しぶりに彼ら3人の日常の話である。

 

学校にて

 

「前に楓が会ったベルベットにヒナタ。それに加えて海斗が会ったキャロル。この3人が【thunder storm】のエース格って所かしら」

 

「ベルベットは雷を操りながらの格闘戦に長けている。格闘戦だけならヒビキもできるけど、高火力の電撃を喰らうのは不味いかなぁ」

 

「ヒナタも一緒だと動きも封じてくるからね。氷と重力増加ってかなり厄介だし」

 

「俺、それ喰らったら動ける気がしないんですけど」

 

2人が話しているのは【thunder storm】の主要メンバーについてである。因みに、ベルベットとヒナタというのはメイプルこと本条楓がセイバーとキャロルが出会った日に偶然見かけてフレンド登録をした2人である。能力を簡単に説明すると、ベルベットが雷をメインに使用した範囲攻撃や格闘戦が得意であり、ヒナタは氷属性や重力増加での敵の足止めを行なってベルベットが攻撃を確実に当てることができるようにするためのサポーターだ。

 

海斗と理沙が話しているとそこに楓もやってきた。

 

「剣崎君!理沙!」

 

「本条さん。おはよう」

 

「おはよう楓」

 

「2人共おはよう。それで、今日は何の話をしていたの?」

 

「ちょっと【thunder storm】の対策をね。あのギルドの2人はもしかすると俺達と相性が悪いかもしれないからな」

 

「楓には前も話したけど、私は敵の攻撃を回避することが前提だけど、ヒナタの魔法を使われるとそもそも回避が出来なくなるからね」

 

「それに、ベルベットの雷による範囲攻撃。これもヒビキなら対抗は可能かもしれないが、俺はちょっとキツイかもしれない」

 

「どうして?」

 

「まず剣の間合いに入る前に電撃が飛んできたら躱せない。理沙とは違って俺には回避力が無いからな。加えて、唯一電撃を無効化できる黄雷を使ったとしても無効化を貫通してくるタイプだと遠くからスキルを撃ちまくるしか無いから戦術が限られてくる。最初は通用するかもしれないけど対応された時が辛い」

 

「ふうーん。でも、剣崎君なら何とかしてくれるよね?」

 

「考えておく。流石に無抵抗でやられるつもりは無いからな」

 

「それはそうと、剣崎君が会ったキャロルって人はどんな感じなの?」

 

「簡単に言うと高火力の魔法を自身のMPが保つ限りぶっぱなしてくる。ミィと同じような感じ」

 

「流石に楓の防御力を防御貫通無しでは越えてこないとは思うけど、あっちはミィとは違って火属性以外も撃ってくるからね」

 

「しかも燃費に関してはミィよりも良い。ミィは数発強力な魔法を使ったらMPの補給をしていたのに対して、キャロルは装備自体にMPを貯蔵しておくことでミィよりも長い時間の間、補給無しで攻撃してくる。しかも1発1発が鬼みたいな火力してるからかなり厄介」

 

「対策をするならMP切れまで粘るか、先手を取って守りにMPを使わせる方が良いかもね」

 

「だな」

 

3人が話しているとチャイムが鳴り、3人がそれぞれ席に戻ると担任の先生が前に立って朝のホームルームの時間が始まった。このとき、海斗は今日もいつも通りの学校が始まるのかと思った。だが、その考えは僅か5分で壊れることになる。

 

「まず始めに、今日は新しく転校生が入ります」

 

先生のその言葉にクラス中が騒然とした。そして、暫くしてクラス内が静かになると先生はその転校生を教室へと呼んだ。

次の瞬間、海斗は目を丸くした。入ってきた転校生は金髪で低身長の女子。まるで、以前出会ったキャロルにそっくりの容姿をしていたからだ。

 

「それでは自己紹介をお願いします」

 

担任がそう言うと転校生は黒板に名前を書いて自己紹介を始めた。

 

「僕の名前はエルフ・ナインです。皆さんエルフナインって呼んでください」

 

「嘘ぉ!!?」

 

海斗は驚きのあまりつい席を立ってしまった。そして、エルフナインもそれを見て驚きの表情をしていた。何故なら、エルフナインは海斗の予想通りキャロルその人であり絶対にゲーム外では会わないと思っていたからである。

 

「なんだ。2人は知り合いか?丁度良いや。剣崎、お前がエルフナインにこの学校のことを教えてやってくれ」

 

「はぁ!?」

 

海斗が驚く間に話はどんどん進んでしまい、結局エルフナインは海斗が面倒を見ることになった。そして、朝のホームルームの後、当然の如く理沙に詰め寄られた。

 

「ちょっと海斗。話が違くない?キャロルは一人称を俺って言ったんだよね?私てっきり男だと思ってたんだけど」

 

「待て待て、俺は一言も男とは言ってないし、それに勘違いをしたのは理沙だろ」

 

「問答無用!!死ねぇ!!」

 

「あ、あの……」

 

理沙が海斗に掴みかかると横から声がして、その方を向くとエルフナインが立っていた。

 

「エルフナインちゃん。どうしたの?」

 

「ちょっと剣崎君と話がしたいんですけど大丈夫ですか?」

 

「良いわよ。コイツへのお仕置きは後でも出来るしね」

 

「え、俺がお仕置きされるのは確定事項なの?」

 

「それではこっちに来てもらえますか?」

 

エルフナインはそう言って海斗の手を握ると女子とは思えない力で引っ張り始めた。

 

「ちょっ!!思ってたより力強いな」

 

そして海斗とエルフナインが去るとそこに楓が来たのだが、理沙はかなり嫉妬した様子だった。

 

「エルフナインちゃん、いきなり海斗相手に馴れ馴れしくしすぎじゃないかしら。転校生だから聞きたいことが色々あるんだと思うけど流石にね……」

 

「理沙、嫉妬してるの〜?」

 

「べっ別に。そんなことありませんけどー」

 

「わかりやすい返事だなぁ」

 

「ぐっ……」

 

 

 

一方でエルフナインに連れて行かれた海斗はというと、学校の屋上にまで連れて行かれていた。

 

「あの……エルフナインさん」

 

「何故お前がここにいる?」

 

「急にゲームの口調で話すなっての」

 

「そんな事はどうでも良い。問題は何故お前がこの学校にいるんだって事だ」

 

海斗は急に豹変したエルフナインに戸惑いを感じつつも対応することにした。

 

「いやいや、仕方ないでしょ。この学校に在籍しているんだからさ」

 

「ふん。まぁ良い」

 

「あのさ、エルフナイン」

 

「何だ?」

 

「エルフナインはどうしてこの学校に転校してきたんだ?」

 

「……表向きは親の転勤。だけど、本当は違う」

 

「?」

 

するとエルフナインは先程までの強気な姿勢は何処へやら、落ち込んだ表情になった。

 

「僕は元々体が弱くて、昔からその事が理由でイジメを受けてきた。前の学校から転校したのも、そのイジメがエスカレートしていったからなんだ」

 

「……」

 

「僕がゲームの中で強気な女子を演じるのはもし周りにイジメの人達が一緒にプレイしていたときにバレてしまわないようにするため。要するに自分を守るための鎧だよ」

 

「なるほどな。それであんなキャラを作ってたんだな」

 

「……僕は、素の自分に自信が持てない。だって、体は弱いし、すぐにイジメに負けるくらい心もダメで……こんな自分さっさと変えてしまいたいと思っても中々上手くいかなくて」

 

「なーに言ってるんだよ。別に無理して変える必要無いんじゃね?」

 

「え……」

 

「だってよ、無理に背伸びしたってさ、後からその負担は自分に返ってくる。だったらそのままの方が自分らしくて良いと俺は思うよ」

 

「そうかな……僕みたいなダメな奴でも、大丈夫なのかな……」

 

「そんなに心配ならエルフナインのことを虐める奴を俺がぶっ潰してやるよ」

 

「で、でもそれだと剣崎君が……」

 

「俺なら大丈夫。無理してないし、友達のことを守るのは当たり前のことだからさ」

 

「でも……」

 

「それとさ、この学校には体が弱いくらいで虐めるような奴は1人もいないぜ?だから安心して学校生活を楽しみなよ」

 

「……うん。ありがとう」

 

エルフナインがそう言うと次の瞬間、無防備だった海斗の背後から理沙のドロップキックが炸裂した。

 

「痛たぁ!?」

 

海斗はそれを受けて数メートル吹っ飛ばされると床へとその体を打ち付けた。

 

「剣崎君、大丈夫!?」

 

「理沙!!テメェ!!!」

 

怒る海斗にどうすればいいのかわからず、オロオロするエルフナイン。そして海斗よりも更に怒っている理沙が鬼のような顔で海斗へと詰め寄った。

 

「少しは我慢するつもりだったけどもう限界!!海斗、アンタ何エルフナインちゃんを口説いてるのよ!!」

 

「何だよ!ゲーム仲間を助けようとして何が悪い」

 

「ふん、言い訳は良いわ。そんなことよりも何勝手に転校してきたばかりの女子にカッコいい所見せようとしてるのよ」

 

「そんなつもりじゃねーし!少なくとも俺はエルフナインが困ってるから助けようとしているだけですー!」

 

このように2人が大揉めし始めるとそこにやってきた楓がエルフナインに話しかけた。

 

「エルフナインちゃん?」

 

「は、はい!」

 

「私も理沙も話は聞かせてもらったけど、大丈夫。私達が味方になってあげるからさ。自信持って良いよ」

 

「うん……」

 

「あ、あとそれと、この2人が喧嘩を始めたら暫くは収まらないと思うから2人で色々話さない?」

 

「う、うん!!」

 

エルフナインは嬉しそうな顔になると楓と共に雑談を始め、その間も海斗と理沙の喧嘩は続くのであった。

 

 

それから放課後になり、その日は海斗、理沙、楓、エルフナインの4人で帰ることになった。そんな最中、10人くらいの集団と出くわすことになり、その中のリーダー格とも言えるガタイの良い男子が楽しくゲームについて話す4人の前に立ちはだかった。

 

「あれ〜?誰かと思えば泣き虫エルフナインじゃん」

 

「ひっ!?」

 

「いつも独りぼっちだったあなたが何で集団でいるのかなぁ〜」

 

「クズはクズらしく大人しくぼっちでいれば良いのに」

 

リーダー格に続いて周囲にいた男女が追い討ちをかけるようにエルフナインへと罵倒の言葉を投げかける。

どうやらこの集団は前の学校でエルフナインにイジメをしていたグループのようだった。この日、教師から無理矢理情報を聞き出したイジメのグループは転校したエルフナインを探しに隣町にまで出てきていたらしく、寄ってたかって彼女を潰しに来たのだ。

 

「でもまさかこんなクズと仲良くする奴がいるなんて思わなかったなぁ」

 

「マジウケる〜!ほんと、死んじゃった方が良いんじゃない?そうしたらこの人達を巻き込まずに済んだのにさ」

 

「「「「あははははは!!!」」」」

 

イジメのグループはエルフナインをゴミのように見下すと笑いだし、侮辱の言葉を投げ続けた。エルフナインの顔は真っ青になっており、以前の学校での恐怖がフラッシュバックしてその場にうずくまると泣き始めた。

 

それを見た楓も理沙も憤りを感じて言い返そうとするが、それを海斗は手で制すとリーダー格の男子の前に出た。

 

「お前ら、黙って聞いてたら好き放題してくれやがって……」

 

「あ?クズの友達がどうしたんだ?」

 

次の瞬間には海斗の顔は完全にキレていた。

 

「俺の友達を何バカにしてくれてんだよ?」

 

「なーに熱くなってんだよ?そんなゴミみたいな奴なんてさっさと見捨てろよ。そうすれば楽になるぜ?」

 

「ここまで友達のことをバカにされて黙っていろという方が無理だな」

 

「あーあ、だったらさっさと死ねよ」

 

そう言うとリーダー格の男子が海斗を殴ろうと拳を引いた。その瞬間を見たエルフナインは泣きながら目を逸らすが、次の瞬間にはリーダー格の男子の体は後ろへと吹っ飛ばされていた。

 

「ぐはぁ!?」

 

理由は簡単。海斗が男を殴ったからである。

 

「……剣崎君、どうして……」

 

「き、貴様!?」

 

「言っただろ、エルフナイン。お前の事を虐める奴は俺がぶっ潰すって」

 

「海斗、もしかして言ってなかったの?」

 

「当たり前だろ。こんな奴に言うだけ無駄じゃん」

 

「え……どういうこと?」

 

「海斗は昔、ゲーマーとして有名になる前は武道をやっていたのよ。ま、今もそれが健在だとは思ってなかったけどね」

 

「まぁトレーニングだけは定期的にしてたしな。まさかここまでコイツが弱いとは思わなかったけど」

 

それからリーダー格の男子は仲間に海斗を潰すように指示を出したが、それらは全て海斗によってボコボコにされ、終いには仲間を連れて急いで逃げ出すことになった。

 

「お、覚えてろよ!!」

 

「ふん。一昨日きやがれってんだ」

 

「け、剣崎君……」

 

「ん?ああ、コイツらぶっ潰した事?まぁ、一応向こうから攻撃してきたし、正当防衛を主張しとけば大丈夫でしょ」

 

「過剰防衛な気もするけどね〜」

 

「あ、余計なことは言わない方でお願いします」

 

「大丈夫。流石にこれのせいで一緒にゲームできなくなるなんて嫌だし、言わないよ」

 

「それを聞いて安心した」

 

「剣崎君……そ、その……ありがとう」

 

「俺はエルフナインがバカにされるのが許せなかっただけ。またアイツらが来たらいつでも言ってくれ。その度にボコボコにしてやるからさ」

 

「ううん……今度は剣崎君無しでも頑張ってみる。剣崎君に勇気をもらえたから……」

 

「そっか。でも、無理はするなよ」

 

「あ、あのさ……剣崎君」

 

エルフナインは顔を赤くしながら海斗のことを見ていた。

 

「どうしたの?」

 

「ぼ、僕……剣崎君のことが……」

 

「はーいストップ!!」

 

次の瞬間には理沙がエルフナインを引っ張って海斗と楓から見えない場所に移動した。

 

「エルフナインちゃん、もしかしなくても海斗に惚れたよね?」

 

「ふぇっ!!な、なんでわかったんですか!?」

 

「わかるわよ。わかる。海斗ってこういう時カッコいいわよね。けど、私も海斗のことが好き。それと、同じギルドのヒビキちゃんもね」

 

「ヒビキさんもですか………」

 

「そうね。もし海斗のことが好きって言うのなら私達と真っ向勝負することになるけどそれでも大丈夫かな」

 

「……正直勝てるなんて思ってないです。でも、僕は初めて会ったあの日。海斗さんから魅力を感じました。それに、今日も僕なんかのためにあんなに必死になって怒ってくれて。剣崎君は僕のヒーローです。だからこそ誰にも取られたくありません」

 

「なら良し。これからは友達兼ライバルね。覚悟しなさいよ」

 

「はい。未熟な僕ですけど、剣崎君に貰えた勇気を力に頑張ります」

 

それから2人は海斗や楓の元に戻ってくると海斗は疑うような目で理沙を見ていた。

 

「なぁ理沙。2人でコソコソと何話してたんだ?」

 

「何でもないわよ。ね、エルフナインちゃん」

 

「はい。でも、剣崎君もこれからはただのゲーム仲間ではありませんので覚悟してください」

 

「へ?本条さん。俺、なんかしたっけ」

 

「え、えっとねぇ。私、なんで2人がコソコソ話したのかわかった気がするけど剣崎君には言えないかなぁ……」

 

「嘘ぉ!!」

 

その答えに唖然とする海斗や2人の恋心を察した楓を尻目に理沙とエルフナインは笑顔で仲良く話をしながら帰ることになった。

 

こうして、また海斗は1人の女子を虜にしてしまったのである。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとthunder storm

セイバーがキャロルと現実世界でも友達になって数日後。ゲーム内でセイバーはここの所毎日各層を駆け回っているメイプルとサリーと共に七層の町で待ち合わせをしていた。

 

「そろそろかな?」

 

「あ、そうそう。キャロルは現実世界とはキャラが違うから注意してね」

 

「わかってるわよ」

 

「それなら大丈夫だよ。キャラを作っている人については見慣れてるし」

 

メイプルが言う見慣れているとはミィのことである。以前メイプルはふとしたことでミィの素を見ており、それ以降彼女とよく遊ぶようになっていた。

 

「あ、来たみたい。ほらあの3人でしょ?」

 

サリーが示す先にはこちらに向かって歩いてくるベルベットとヒナタ、キャロルがいた。ベルベットやヒナタはメイプルから聞いていた特徴通りだったため、セイバーやサリーにもすぐに分かった。

 

ベルベットは後ろで団子にしてまとめた金の髪と赤い目で白のブラウスにロングスカートで武器らしきものは装備してなかった。

 

ヒナタは黒に近い濃い紫の長い髪を後ろで三つ編みにしてまとめており、両手で少し不気味な人形を抱えている。服装の雰囲気はマイやユイに近かったが、装飾などは少なく控え目に抑えられていた。

 

「思ったより早く予定が合って良かったっす!」

 

「セイバー、お望み通り遊びに来てやったぞ」

 

「そちらが、えっとサリーさんにセイバーさん……?」

 

「うん。よろしくね」

 

「会いたかったですよ。雷使いのベルベットさんに氷と重力使いのヒナタさん」

 

「そう言われると恥ずかしいっすね。それと、時間が惜しいから話しながら行くっすよ!」

 

「いいよー。サリーとセイバーもいいよね?」

 

「大丈夫」

 

「行きますか」

 

こうして6人はフィールドへと歩いていく。今日の目的は交流。そして裏の目的としては、スキル等の戦闘能力を測ることとなっているが、セイバーやサリーのそれとベルベットのそれの性質が違うことは明確である。

 

6人は他愛無い話をしつつ、ちょうどいいモンスターが出る場所まで移動する。今日はサリーの馬に乗ることができるため、メイプルが移動に困ることもない。そうして移動しているとベルベットが唐突にサリーに切り出す。

 

「あ!よければ後で決闘したいっす!」

 

「私と?フレデリカみたいなこと言うね……まあ、メイプルから話を聞いた時に言いそうだとは思ってた」

 

ベルベットは目を輝かせて返答を待っている。サリーは少し考えて該当する。

 

「……やるとして、今日の予定が終わった後でね」

 

「なるほど!まずはボスモンスターで肩慣らしってことっすね!」

 

「でも、メイプルじゃないんだね。出会った時に色々見たからもう十分?」

 

「うーん、正直なところ……サリーと戦いたいだけっすね」

 

「あ、ずるい。俺にもやらせてくれよ」

 

「俺で良かったら相手になるぞ?」

 

「今日の所はキャロルで我慢してほしいっす。次に会ったらちゃんと決闘するっすから」

 

「仕方ないなぁ」

 

ベルベットの考えとしてはスキルの情報を得るだとか、そんなものは二の次で、ただ純粋に強い相手と戦いたいのだ。そして、メイプルやセイバーではなくサリーを選んだ理由は、サリーの方が他の2人より自分に近しいものを感じたというだけだった。

 

「本当に聞いてた通りなんだね。ま、メイプルよりは対人に積極的だよ。勝てる限りは勝つし、負ける勝負はしない。だから、今日の戦闘を見て勝てなそうなら遠慮しようかな?」

 

サリーはそう言うと冗談っぽく笑い、ベルベットはそれに対してなんだって真っ直ぐにやってみないと分からないと返す。

 

「でも勝てない勝負はしないのは本当。私負けられないんだよね」

 

「サリーはまだ一回もダメージ受けたことないんだよ!」

 

「えっ!?本当っすか!?んんん、なおさら燃えてくるっすね!」

 

「対人戦で死亡しないことが条件のスキル……とか、あ、あるのかもしれません」

 

「どんなスキルにも取得条件があるからそういうスキルもあるのかもな」

 

「どうだろうね。ただ、そういう訳だから絶対にやるとは言えないかな」

 

「分かったっす……でも、楽しみにしてるっすよ!」

 

「はぁ、俺はベルベットさんとやるのも楽しみにしてたのに……」

 

「セイバーさんはやっぱりキャロルから聞いてた通りのバトルジャンキーね。そういう意味ではベルベットと同じかしら」

 

「まぁ、あまりベルベットのことばかり考えているようなら俺が叩き潰してやるからな」

 

そうして6人は七層のとあるモンスターを倒しに向かうのだった。

 

 

 

6人が馬を止めた場所、それは岩山の麓だった。目的地に向かうには順路通りに頂上へ向かう必要がある。

 

「途中にチェックポイントがあって、それを全部突破して最後にボスっす!」

 

「シロップとか、飛行能力のあるモンスターで飛んでいくと頂上のイベントが発生しないって訳」

 

「……知ってるんですね」

 

「ちょっとメイプルとの約束で色々調べてただけ。ここは行かなかっただろうけど」

 

「ま、俺はいずれ挑戦してたと思うし、丁度良いかな」

 

メイプルが1人ここは観光スポットではないと理解する中、6人は岩山へと歩を進める。岩山は内部を進みつつ、最終的に頂上に出るようにできている。ベルベットの言うチェックポイントは岩山の内部にあると言う訳だ。

 

「じゃあ早速行こー!」

 

「そうっすね!」

 

メイプルとベルベットとセイバーが先頭を行き、キャロルとサリーとヒナタがそれについていく。岩山の中は今までも何度か探索してきた洞窟になっているものの、モンスターは一切現れない。そのためチェックポイントまで楽に辿り着くことができた。

そこにはボス部屋の扉に似た、細かい装飾がなされた閉まった門があり、一目見てこれがチェックポイントなのだろうと察せられるものになっている。

 

「着いたっすね!」

 

「おっきい門だねー……えっと、どうしたらいいの?」

 

「パーティーから好きな人数選んで、中のモンスターに勝てば進めて、挑戦人数によってモンスターの強さも変わる」

 

「なるほどぉ」

 

「ここは私が行くっすよ!」

 

「俺も行くぜ。キャロルとやる前の肩慣らしと行こうか」

 

「……相性がいいっていうよりは、戦いたくって仕方なかったって感じだね」

 

「当たりっす!」

 

「俺もだな」

 

ここに来るまでは移動だけでモンスターとの不要な戦闘は全て避けてきたため、元気が有り余っているのだ。ベルベットが挑戦人数を自分とセイバーの2人に設定すると同時に門が開く。

 

「私達も入ることはできます……せ、戦闘には参加できないですけど」

 

「じゃあ、応援だね!」

 

「そうなるね」

 

「セイバーの強さ。今のうちに見ておくとするか」

 

セイバーとベルベットが門をくぐったのに続いて、メイプル達も先へ進む。門の先には円柱状に整備されたエリアが広がっており、中央には2メートル程の人型の石像がある。

ベルベットがガントレットを装備した拳をぐっと握り締めて戦闘体勢を取ると同時に、石像は鈍い音を立てて動き出した。

石像もまた武器を持っておらず、同じように拳を構える。石でできた体はセイバーやベルベットよりも遥かに屈強で、外見だけを見れば2人に勝ち目などないように見えるだろう。

 

「さて、やるっすよ!【雷神再臨】!」

 

「黄雷抜刀!【稲妻放電波】!」

 

その言葉とともに2人から凄まじい量の電撃が弾け、殴り掛かろうと駆け寄ってきていた石像の動きを一瞬停止させる。

 

「【電磁跳躍】、【ハートストップ】!」

 

「【サンダーブースト】、【雷鳴一閃】!」

 

動きの止まったその一瞬、ベルベットはサリーが使うそれよりも遥かに速く跳躍し距離を詰めると、その勢いのまま石像を殴りつける。セイバーも速度を上げてから地面を駆け回り、背後から稲妻の如き一閃を放って石像を斬りつけた。

それと同時に電撃が弾け、動き出そうとした石像が再び僅かな時間硬直する。

 

「【サンダーブランチ】!」

 

更にセイバーは地面から雷の鞭をを生やして石像を拘束した。

 

「【重双撃】!」

 

それに合わせて左右の拳での二連撃が石の体に突き刺さる。華奢な体に似合わない威力のそれは鈍い音を立てて、石像を後方に撥ね飛ばす。

 

「【疾駆】!」

 

「【魔神召喚】魔神攻撃!」

 

ベルベットは素手を武器とする際に使うことができるスキルで急激に加速し一気に距離を詰め、再び得意なレンジに持ち込むとその体から青白い電撃を迸らせる。

セイバーは魔神を呼び出すと石像の背後へと移動させて拳の一撃を放たせた。

 

「【放電】!」

 

石像が背後からの攻撃によろけている間にベルベットから攻撃回数、被弾回数に応じて溜まった電気が吐き出されて、石像を何度も繰り返し焼いていく。その収束と同時にベルベットから弾けていた電気は収まり、石像は地に倒れ伏して光となって消えた。

 

「んー、流石にもう相手にならないっす!」

 

「やっぱ同じ雷を使う姿でも火力が段違いだな」

 

「すごーい!前と違ってびゅんびゅんって動いて一瞬で終わっちゃった!」

 

「セイバーはサポートに回ってもかなりの強さを持つな。やはりこの俺が倒すに相応しい強さだ」

 

「サンキューベルベットさん。あなたのお陰でかなりやりやすかったよ」

 

「何度もここに来てるから、もう倒すのも簡単っす!でも、私はセイバーと一緒に戦えて楽しかったっすよ」

 

「いいなあ、やっぱり速く動けるのもかっこいいよね!」

 

「…………」

 

「……サリー、さん?」

 

ベルベット、セイバー、キャロル、メイプルが盛り上がる中、サリーはじっと目を閉じて先程の戦闘を振り返っていた。メイプルから聞いていた電撃だけでなく、今回は武器種特有の戦闘を間近で見ることができた。そんなサリーは一つの違和感を抱く。

素手のレンジは最も短く、それ故に威力が高く設定されているスキルもある。しかし、それを鑑みてもベルベットの拳はあまりに重いように感じられた。

 

「リスクは……仕方ないか」

 

「…………?」

 

「あっ!どうだったっすか私の戦闘!戦いたくなったっすか?」

 

「うん、なったよ。後でやろう」

 

サリーがそう言うと、ベルベットは嬉しそうに笑顔を見せる。

 

「ま、ただ、そっちにだけ見せてもらうのもね。次は私がやる」

 

「ならば俺も力を振るおう。サリー、急ごしらえのタッグだが行けるか?」

 

「勿論」

 

「おおー!いいっすね!」

 

「それで戦ってもつまらなそうだったら考え直してよ」

 

サリーはそう言うと、次の門を目指して先頭で歩き始めたのだった。

 

 

 

 

 

1つ目の門までがそうだったように2つ目の門への道もモンスターがおらず簡単に進んでいけるものだった。

 

「そういえばベルベットさっき何度も来てるって言ってたよね?」

 

「そういやそう言ってたな。周回が趣味なのか?」

 

「ここなら1対1でとことん戦えるっすからね!でも、そろそろ物足りなくなってきたところっす」

 

良さそうなダンジョンがある度キャロルとヒナタを引っ張って突撃していたベルベットは、強力なボスモンスターを探していた。キャロルやヒナタと3人で戦えばほとんどのボスは一方的に倒しきることができる。

となれば、ベルベットが望む楽しい戦いはできないだろう。いつも2人を付き合わせる訳にはいかず、1人ならまだ強く感じる相手もいると、ベルベットは1人で修行に来ていたわけだ。

 

「なるほどねぇ。やっぱベルベットも強さの果てを目指しているってわけか」

 

「私個人もどんどん強くなってるし、キャロルやヒナタと3人でなら負けないっす!」

 

「で、新しい対戦相手に私とメイプルとセイバーを見つけたってことね」

 

「3人が強いのは以前のイベントで知ってるっすから!」

 

「そうそう、私はベルベットやヒナタとはライバルなんだよ!」

 

「俺はまだヒナタの力を直では見てないが、それでも全員がライバルだと思ってるぜ」

 

「奇遇だな。俺もだセイバー」

 

会話をしていてサリーは改めてベルベットに裏がないことを確信する。メイプルの言った通りだったというわけだ。

 

「ライバルって言ってもメイプルは進んでPVPはしないでしょ?」

 

「うーん……そうかも。イベントの時くらいかな」

 

「ま、そういう訳だから普段は私やセイバーの方に来たら?特にセイバーは喜んで相手になるわよ?」

 

サリーとしては既に1人そんなことをしているプレイヤーがいるのだから、もう1人増えたところで大きな差はない。セイバーに関しては強敵との戦いがこのゲームの面白さの1つになっているためベルベットが来るのは願ってもない話なのである。

 

「ヒナタは私みたいに戦闘ばかりっていう訳じゃないっすから、キャロル以外で1対1ができるのは嬉しいっす!」

 

ヒナタは必要があれば戦うというスタイルなため、1人で好きに戦いを楽しみ続けられる場所を探しているベルベットとはまた違う。

 

キャロルはベルベットの良い対戦相手になっているため共に互いを高め合う仲間というポジションである。

 

「ベルベットと一緒にいるのは楽しいです……でも、ベルベットを楽しませてあげられる人が沢山いると……嬉しいです」

 

「サリー責任重大だね!」

 

「ま、お前なら楽勝だろ」

 

「んん、まあまずはあの門の先で、楽しめるくらいかどうか見てよ」

 

「分かったっす!」

 

そう言うと、サリーは道の先に姿を見せた2つ目の門に向かうのだった。

 

 

「挑戦者は私とキャロルでいいよね?」

 

「頑張ってサリー!」

 

「キャロルも、頑張れよ」

 

「えっと……応援してます」

 

「しっかり見てるっすよ!」

 

「ふん。俺を誰だと思っている」

 

「じゃあ、行ってくる」

 

サリーは戦闘人数を自分とキャロルの2人にすると同じく円柱状の戦闘エリアに足を踏み入れる。

そこには最早鈍器と言っていいような石の大剣を持った石像がいた。

 

「見るからにパワーファイターって感じだね」

 

「俺の力の前では無意味だがな」

2人は石像と対峙するとキャロルはダウルダブラを奏でて装甲を纏い、サリーは2本のダガーを抜いて構える。

 

「朧【火童子】」

 

「【フレアブラスト】!」

 

サリーは朧によって炎を纏うとそのまま駆け出し、真っ直ぐに石像との距離を詰める。キャロルはそんなサリーを後ろから火炎弾で援護し、石像の動きを牽制した。因みに、セイバーとベルベットの時と同じく石像とは体格差があり、今回は武器のリーチも石像の方が上回っている。だが、キャロルの火球が石像へと放たれており、石像は石の体とは思えない素早い振り下ろしで、大剣を用いて火球を防ぐ。その隙にサリーは自身の攻撃が当たる距離に近づくとまず石像が持つ大剣を斬りつける。

 

「ダメージなし。ならこのまま……!」

 

サリーは石像のすぐ横をすり抜けて、2本のダガーで脇腹に傷をつける。ダメージエフェクトが弾ける中、サリーはそのまま再び石像との距離を取る。

まだ【剣ノ舞】によるSTR上昇値が小さいため、ダメージは最大とは言えない。とはいえ、サリーの攻撃力は決して低くはないのだ。先程と違い僅かに減少しただけのHPバーを見てサリーはベルベットの攻撃力が相当高いことを確信する。

 

「【フレアブラスト】!」

 

「ふっ!はあっ!」

 

サリーは振り返ると、今度は横薙ぎに振るわれた大剣を地面に張り付くような低姿勢での突進によって回避し、片足を貫いて再度背後に抜けていく。更に、石像がサリーを追ってキャロル相手に背中を向けるとその瞬間に火球が石像の背中を容赦なく撃ち抜く。そのダメージはダガーの比ではなく、圧倒的高火力で石像を削っていった。

 

それでも石像は何とか自身の攻撃の射程圏内にいるサリーへと攻撃を繰り出すが、石像が攻撃に転じるたび、逆に石像からはサリーのダガー攻撃によるダメージエフェクトや炎が弾け、背中を炎に焼かれる。

攻撃は全て隙となり、攻めようとするたびHPは徐々に減少していく。

完璧すぎるカウンター。サリーはスキルなど使わずに、ただ純粋な技術のみで石像をボロボロにする。一目見て分かるような強力なスキルを使わずとも、その戦闘には凄みがあった。更に、キャロルも1つのスキルを定期的に放つだけで確実なダメージを石像に与えていき、見事にサリーのカバーをしていた。

 

「ちゃんと目の前で見るのは初めてっすけど……」

 

「はい……石像にデバフはかかっていないと思います。えっと、サリーさんは本当に……ただ避けています」

 

「えへへ、すごいでしょ!」

 

「すごいっす!」

 

「キャロルもキャロルだな。あの火力は一撃一撃がベルベットの攻撃に匹敵する。アレをまともに喰らうのはかなり不味いだろうな」

 

「そうっすね。アレでもキャロルの攻撃の中では割と低コストで撃てるものなので、実際はもっと火力が出るっすよ。ただ、MPの効率はもっと下がるっすけどね」

 

自分のことのように誇らしげなメイプルの隣でベルベットはキャロルの事を話してから、じっとサリーの動きを見る。ベルベットから見てもサリーは回避のために特殊なスキルを使っているようには思えなかった。実際そんなものはなく、故にただの基本攻撃と身体能力だけで戦っているサリーはまだまだ全力とは言えないだろう。

 

セイバーもキャロルの高火力を改めて見てキャロルにはかなりの実力を持っているという事を実感していた。

 

「んー!すっごい楽しみっす!」

 

「俺もキャロルとの決闘は楽しみだな」

 

セイバーとベルベットは決闘を楽しみにしつつ、サリーが危なげなく大剣を避けて石像を斬り伏せるところやキャロルが石像を炎で撃ち抜くところを眺めるのだった。

 

 

結果として、2人はただの一度も攻撃を受けることなく大剣を持った石像を破壊した。この戦いで使われたスキルはサリーの【火童子】やキャロルの【フレアブラスト】くらいである。

 

「お疲れ様サリー!」

 

「やっぱ強いな。サリーは」

 

「うん、ありがと」

 

「キャロルもお疲れ様っす!」

 

「俺にかかればこのくらい簡単な事だ」

 

「私はサリーとやり合うのが俄然……楽しみになってきたっす!」

 

「それは良かった」

 

「もっともっと戦っているところが見たいっす!石像じゃ力不足過ぎたっすねー」

 

当たりさえすれば防御力の低いプレイヤー1人程度簡単に消し飛ばす威力があったものの、連続スタンによる行動不能に全攻撃の回避からの背後からの火炎弾とくれば2体ともその力を発揮できなくて当然である。

 

「ボスはそれなりに強いらしいけど?」

 

「流石に敵わないっすよー。だから、ぱぱっと倒して本題に行くっす!」

 

「やりきりはするんだね」

 

「ま、俺達が全員でやれば楽勝でしょ」

 

「当たり前だ」

 

楽しそうに話すベルベットとそれに応対しながら次の門へ向かって歩き出すサリーやセイバー、キャロルを見つつ、メイプルとヒナタも後ろをついていく。

 

「仲良くなってるみたい。息ぴったりって感じ?」

 

「あの4人は……似ている所があるのかもしれません」

 

「そうかも!」

 

出会ってすぐなのにも関わらず4人の息が合っているように思えるのは、4人の性質が似ているためかもしれない。

 

「チェックポイントっていくつあるか知ってる?」

 

「えっと……あと1つです。ボスも合わせれば、戦闘はあと2回です」

 

「ありがとう!じゃあ、サリー達はもう戦ってくれたし、最後は私達の番だね」

 

「あの、私は1人での戦いには……向いていませんから、よければメイプルさん1人か……えっと私と一緒か」

 

ヒナタは極端なデバフ特化型である。相手を滅茶苦茶に弱体化させることはできてもそれを倒しきる能力に欠けるのだ。

 

「じゃあ、2人で!それで、ボスは皆でやろう!」

 

「は、はいっ……頑張ります!」

 

「よーし、サリー、セイバー!次は私達2人でやるー!」

 

「聞こえてたよ」

 

「てか、この2人を相手にする石像が可哀想に見えてくるよ」

 

「そうっすね。ヒナタは強いっすよ!」

 

「メイプルも強いよ」

 

「あはは、前によく分かったっす!」

 

「俺は前に見てないし、メイプルの力も見ておくとするか」

 

2人は他の4人にも増して、有利不利がはっきりしている。先程までのような石像なら、結果も見えるというものだった。

頂上が近づく中、最後のチェックポイントまでやってきたメイプル達は、予定通りメイプルとヒナタの2人で挑戦することにした。

 

「頑張ろー!」

 

「は、はいっ」

 

メイプルが大盾を構えて前に立ち、ヒナタを背後に隠すようにして中に入る。今までと同じ見た目の戦闘エリアには、今までとは異なり2体の石像がいた。

1体は石でできた巨大な弓を持ち、もう1体は大きなハンマーを持っていた。

 

だが、メイプルとヒナタのコンビにとって石像など敵ですらなかった。何故なら、メイプルが【身捧ぐ慈愛】によって防御している間にヒナタが石像を冷凍した。2人は石像が動けない隙をついて次々と自分達やシロップのスキルを使って自身達に有利なフィールドを展開。ヒナタが完全に石像の動きを封じ、その後メイプルが銃撃を放って石像を軽く叩きのめした。

 

「メイプルから話は聞いてたけど……それ以上だね」

 

「アレはやっぱ俺でも防げるかわかんねーぞ」

 

「ああなったら負けっすねー」

 

「ヒナタの力を侮るとああなるということがよくわかるな」

 

4人が見守る中、2人の戦いは、ヒナタの重力と氷、メイプルの地形変化と状態異常によって石像がただの的と化すという、ここまでで最も一方的な蹂躙となり終わりを迎えるのだった。




今回で遂にこの物語も100話目に到達しました。まだまだこの物語は続きますのでこれからもどうぞよろしくお願いします。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと決闘

最後のチェックポイントを過ぎた6人はそのまま休むことなく頂上に向かって進んでいく。

 

「どうっすか、ヒナタはやっぱりすごいっすよね?」

 

「うん!すごかった!」

 

「俺もちょっとヤバイって思えるくらいの力は持ってるし、十分トップクラスの実力はあると思うぜ」

 

「あの、えっと、そんな……」

 

「本当に強いのはヒナタの方っすよー!」

 

「ああ、俺たちが強力なスキルを好きなだけ連打できるのもヒナタの力があってこそだ」

 

「ベルベットやキャロルも強いけどね。ヒナタみたいなタイプはまだ見たことなかったかな」

 

ヒナタのスキル範囲内に無策で飛び込んではいけないのだ。ベルベットの落雷やキャロルの錬金術よりも防ぐのは難しく、一度当たるだけでそこから連鎖的にスキルが命中しまともに動くことができなくなってしまうのだから、危険度は高い。

 

「ヒナタやキャロルと3人なら無敵っすよ!」

 

自信満々にそう言ってのけるベルベットの横で、ヒナタは手放しに褒められて恥ずかしそうにしているが、過言でないことは戦闘で証明されている。

 

「私とサリーとセイバーも3人なら無敵だよ!」

 

「いいっすね!」

 

「そこまではっきり言われると、期待に応えないとなあ」

 

「俺もセイバーとやり合うのが楽しみなんだ。ベルベット、さっさとボスを倒すぞ」

 

「そうっすね。ボスはすぐに倒してメイプルの相棒達のお手並み拝見といくっすよ!」

 

「本当に……楽しみみたいです」

 

途中一戦分その目で戦闘を見ることができた分尚更なのだろう。待ちきれないという様子で坂道を駆け上がっていく。

 

「あ、でも6人でのボス戦は初めてっすから、予想より強いかもしれないっす」

 

「6人で全力でやれば大丈夫だと思うけどね。というかそれで駄目なボスは相当……」

 

ここにいるのは全員が強みを持ち、そしてそれが群を抜いて強力な6人である。並大抵のボスでは太刀打ちできないのは自明だった。

 

「ヒナタ!キャロル!どんなのが来てもよろしく頼むっす!」

 

「防御は私に任せて!」

 

「俺とセイバーとベルベットは火力をもって敵を倒す」

 

「ワクワクしてきたぜ!」

 

「は、はい……とても、頼もしいです……」

 

「私のダメージの出し方は地道だから、ボスはメイプル、ベルベット、セイバー、キャロルがメインになるかな?」

 

サリーもベルベット同様6人でのボス戦がどういったものになるかは知らないため、実際どうなるかはボス戦が始まってから柔軟に対応していくことになる。そのために相手の出方を見る時間は、ヒナタとメイプルがいればいくらでも稼ぐことができるだろう。

例のごとく移動中に山場はなく、ボス前まで簡単に辿り着くことができた6人は躊躇なく扉を開けてボス部屋へと入る。

 

そこはすり鉢状になった山の頂上で、周りを岩壁に囲まれ、さながら巨大なコロシアムのようだった。そんな戦闘エリアの中央には途中戦ってきたよりも2回りほど大きい石像が、石の槍と盾を持ち、鎧を着て佇んでいた。

 

「槍は初めてっす!ヒナタ、全力で頼むっすよ!【雷神再臨】!」

 

「はい……!」

 

「よーし私も【捕食者】!」

 

「さてと、どうくるか」

 

「俺も行くぜ。激土、抜刀!」

 

「ダウルダブラ!」

 

各々戦闘体勢を取りつつメイプルの【身捧ぐ慈愛】の範囲内から出ないように、今まで通り石像が動き出すのを警戒しつつ前へ進んでいく。

 

「きたっすね!」

 

セイバー達がある程度近づいた所で、石像は動き出し、その巨大な槍を天に突き上げる。セイバー達が出方を窺っていると石像がぐっと膝を曲げて天高く跳躍した。

 

「わわっ!飛んだよ!」

 

「そのまま突っ込んでくる!」

 

「正面から堂々と来るか!」

 

石像の持つ槍は遠目から見ても分かる程輝いており、開幕から強力な一撃で陣形を破壊しようとしているのが伝わってくる。

 

「でも、それなら……」

 

「こっちのものっす!」

 

「ヒナタ、任せるぞ!」

 

「えっと、【溶ける翼】……です!」

 

ヒナタがスキルを発動すると飛びかかってきていた石像は一気にその勢いを失って地面に墜落する。

 

「【凍てつく大地】【星の鎖】【災厄伝播】」

 

メイプルも持っているスキルによってヒナタが地面に落ちた石像をそのまま縫い止め、いつも通り防御力を低下させる。そこにメイプルは銃口を向け、サリーとベルベットとセイバーはそれぞれ炎と雷と土を纏って駆け出していき、キャロルは魔法陣を展開する。

 

「【電磁跳躍】!」

 

「【水の道】!」

 

「【ドリルストライク】!」

 

サリーは水中を泳いで、ベルベットは雷を残し跳躍して、セイバーは地面へと潜って距離を詰めると、一気に攻撃を叩き込む。

 

「【嵐の中心】【稲妻の雨】【落雷の原野】!」

 

「【激土爆砕】!」

 

足元まで辿り着いたベルベットを中心に大量の雷が降り注ぎ、それは容赦なく次々と石像を焼き焦がして、HPバーをガクンガクンと削っていく。続けて、地面から現れたセイバーが激土を突き立てて岩の棘を出すと石像の片足を突き刺してボロボロにした。

 

「【クインタプルスラッシュ】!」

 

凄まじいダメージを与えたことで攻撃の対象がベルベットやセイバーに向いた瞬間にサリーはスキルでの攻撃を選択する。通常攻撃よりもダメージの高いそれは【剣ノ舞】の強化が完全でなくとも満足できるダメージを叩き出す。

 

「【攻撃開始】【滲み出る混沌】!」

 

「【ウォータースプラッシュ】!」

 

【毒竜】を撃つわけにはいかないため、メイプルは後方から遠距離攻撃スキルで援護と言うには強すぎる射撃をし、キャロルも同時に激流を放って援護をする。石の盾でも全てを防ぎきることはできていないようで、体のあちこちからダメージエフェクトが弾ける。

【凍てつく大地】は移動を止める事しかできないため、攻撃に仰け反りつつも、最もダメージを出しているベルベットやセイバーに向けて巨大な槍を突き出す。

 

「【パリィ】【渾身の一撃】【連鎖雷撃】!」

 

「【パワーウィップ】!」

 

突き出された槍は構えられた拳に当たると同時に弾かれて逸れ、ベルベットには届かない。スキルによる確定の防御、それが作った時間を使ってベルベットは石像の足に右ストレートを叩き込む。セイバーも太い蔓を鞭のように操作して先程ボロボロにした足とは逆の足を打たせた。

 

そこに、ベルベットから発生した電撃は凄まじい量のダメージエフェクトを散らし、今もなお止むことのない落雷も相まって、逆側で今も尚攻撃を続けるサリーや、射撃を続けるメイプルにボスの攻撃対象を移らせない。

 

一瞬のうちにあまりにも多くのダメージを受けたボスだったがようやくヒナタの拘束が解けたようで、落雷の雨が降る範囲から逃れようとする。だが、セイバーによって両足を潰された石像には機動力があまりにも足りなかった。

 

「私も!もう一回っ!」

 

そこに自爆飛行でメイプルが吹き飛んで来て、バウンドしながら足元に転がってくるとスキルを発動する。それはヒナタが持っており、メイプルもまた持っているスキル。

 

「【凍てつく大地】!」

 

メイプルの声と共にもう一度地面に氷が走り、後ずさろうとしたボスは地面に縫いとめられる。

 

「畳み掛けるっす!」

 

「斬り刻む!」

 

「これで決める!」

 

「行くぞ!」

 

唯一のチャンスと言えたこの瞬間に逃げられなかったボスの末路は、最終チェックポイントの石像と何ら変わらないものになるのだった。

 

 

 

「あー、終わっちゃったっす」

 

「案外あっけなかったね。メイプル、セイバー。お疲れ様」

 

「うん、お疲れ様」

 

「おう」

 

「えっと……この後は……」

 

ボスも倒した所で、ベルベットがサリーの方を、セイバーがキャロルの方を見る。2人の意思も変わらなかったようで無言で頷いて返答すると、セイバーとベルベットは早速決闘の誘いを出す。

 

「頑張ってサリー、セイバー!」

 

「負けないよ。絶対」

 

「言うっすねー」

 

「俺の力を見せてやる。セイバー、本気で来い」

 

「わかってるぜ」

 

「ベルベット、キャロル……応援してます」

 

「ボスより楽しい戦いになりそうっす!」

 

サリーとキャロルが決闘の誘いを受けると、4人は転移して姿を消した。

 

決闘専用の空間に飛ばされたセイバーとキャロルは、距離をとって向かい合いつつ決闘開始の時を待っていた。

 

「いつでも行けるぜ」

 

「HPがゼロになった方が負けだ。それでいいな」

 

「ああ。それと今回は錫音、抜刀!」

 

「ほう?今回はそれか」

 

「遠距離戦が得意なんだろ?だったらこの剣が相手だ」

 

「面白い!」

 

カウントダウンがなされて、セイバーは剣を、キャロルはダウルダブラを纏って開始を待つ。そして決闘開始の合図と同時に、キャロルから魔法陣が展開する。

 

「【フレイムテンペスト】!」

 

まずは挨拶代わりとばかりにキャロルから炎の竜巻が放たれた。

 

「【ビートブラスト】!」

 

セイバーはこれを極太のレーザーで迎え撃ち、攻撃は2人の中央で爆発した。

 

「【サンダーストーム】!」

 

続けてキャロルの魔法から出てきたのは嵐とその中に発生する雷である。流石にこれを相殺するのは難しいと見てセイバーは回避をすることに集中し、走りながらギリギリの所で避け切った。

 

「ふー、危なかった」

 

「まだ終わりじゃないぞ?ダウルダブラよ、敵を拘束せよ!」

 

今度はキャロルの背中のアーマーが開き、中から大量の弦が出てきてセイバーを捕まえんと追ってきた。

 

「げっ!?【ロック弾幕】!【音弾ランチャー】!」

 

セイバーもこれを黙って喰らうつもりなど無く、銃モードにした錫音から無数の弾丸をエネルギー弾として放ち、更には足のアーマーからミサイルも総動員して弦を全て破壊しようと撃ちまくった。

 

セイバーの正確な射撃とミサイルによって自分自身へと向かってくる弦を全て破壊することに成功した。だが、キャロルから射出された弦はそれが全てでは無かった。

 

「これは……」

 

セイバーが気づいた時にはもう既に遅く、キャロルを中心にして大量の弦がワイヤーのように設置されてセイバーの逃げ道を完全に消してしまっていた。

 

「思ったより楽に捉えられたな。セイバー」

 

「なるほどねぇ。こうやって逃げ道を封じたって訳か」

 

「ああ。さっきみたいに逃げ回られるのは御免だからな。一気に叩かせてもらうぞ」

 

「さて、そう上手くいくかな?」

 

「寝言は寝てから話してもらおう。【エレメンタルノヴァ】!」

 

キャロルは必殺の一撃をセイバーへと放つべくエネルギーを最高にするための溜めを始めた。セイバーを張り巡らせたワイヤーごと破壊するつもりである。当然セイバーはこの状況を黙っては見ていない。

 

「【シャウトスラッシュ】!」

 

セイバーの放った全方位を切り刻むエネルギー斬がキャロルの張り巡らせたワイヤーを切り刻み、除去していった。しかし、それでも全てのワイヤーを消した訳では無く、キャロルにまでダメージを与えるとまではいかなかった。その間にキャロルの魔法陣から火、水、風、土の四大元素のエネルギーが高まり巨大なエネルギー波を形成。それをセイバーへと発射した。

 

「これで終わりだ!」

 

次の瞬間、セイバーのいた場所は大爆発を起こし、衝撃波が周囲を駆け抜けた。

 

キャロルの目の前にセイバーの姿は無く、自身の周囲に張り巡らせたワイヤーもエネルギー波に巻き込んだために消し飛んでいた。

 

「ふん。他愛もない………」

 

キャロルがセイバーのいた所を見つめていると何かを感じ取ったのか自身の目の前に防御障壁を展開した。そのタイミングで弾丸が障壁にぶつかって弾けた。

 

「これは……」

 

「うらあっ!」

 

キャロルが見上げるとセイバーが空中からキャロルへと突っ込んでいる所だった。実は、先程の攻撃を受けてしまう寸前に【ビートブラスト】を地面に放ち、その勢いを利用して離脱していたのだ。

 

「ちっ」

 

キャロルが手を振ると鋭い3本の弦がセイバーを両断するべく伸びていった。だが、その程度でやられるほどセイバーは弱くはない。

 

「【スナックチョッパー】!」

 

セイバーのピンクの斬撃は伸びてきた弦ごとキャロルの体を斬りつけて、ダメージエフェクトを散らせるとそのHPを3割削った。

 

「ぐっ」

 

「やっぱ火力はトップクラスだけど、耐久力は並みだね。もう少し紙耐久だと思ったけどそこは流石と言ったところかな?」

 

「黙ってやられると思うなよ!【ゴールドインパクト】!」

 

キャロルはセイバーに攻撃を受けてからすぐに切り返し、黄金のエネルギー弾をカウンターとして放った。セイバーはこれをまともに喰らって後ろへと吹き飛ばされた。

 

「痛ってぇ……ちょっと油断してたなぁ。今のは効いたぞ」

 

「ふん。お前もな!【アクアウェーブ】!」

 

「そう来ると思ったぜ。【鍵盤演奏】!」

 

次にキャロルから撃たれたのは高圧の水であった。しかし、セイバーはこれを読んでいたのかすぐに対処のためのスキルを発動した。

セイバーが召喚された鍵盤を弾くとそこから音の壁が出現して水圧を全て防ぎ切った。

 

「アレを耐えるか」

 

「甘い。甘すぎる!!」

 

セイバーは続けて錫音を銃モードにして連続で弾丸を発射し、それはキャロルの真横を通過した。

 

「どこを狙ってる。その程度の腕でよく俺を倒せると思ったな」

 

「いいや、狙い通りだ」

 

「なんだと」

 

キャロルがそう言うと地面から周囲からいきなり壁が迫り出してキャロルの周囲を囲んだ。セイバーは銃撃を仕掛けつつ足元から【スナックウォール】を発動してキャロルの動きを限定することに成功したのだ。しかも、これは先程セイバーがキャロルからやられたことであり、セイバーは敢えてキャロルのやり方を真似てみることにしたのだ。

 

「これは」

 

「【飴玉シュート】!」

 

セイバーの放った飴玉は唯一壁によって囲まれてないキャロルの真上から飴玉を打ち込んで彼女にヒットさせると動きを完全に抑え込んだ。

 

「く……まさか、俺の攻撃をそのまま使ってくるとは」

 

「俺なりのレッスンってやつだ。こうやって動きを止めた方がもっと効果的ってことさ。【爆音波】!」

 

「ぐあああ!!」

 

セイバーは錫音から放たれた強力な音による攻撃でキャロルのHPを残り4割にまで減らした。

 

「調子に乗るな!!【ウォータースプラッシュ】!」

 

キャロルは周囲の壁と自身に纏わりついた飴を水で押し流すと拘束を無理矢理解いて自由となり、続けて反撃のスキルを放った。

 

「【グランドバースト】!」

 

キャロルの一撃は地面を抉りながらセイバーへと襲い掛かり、セイバーはこれをジャンプすることで効果の範囲外へと逃れた。

 

「【フレイムブラスト】!」

 

更に追撃の炎弾がセイバーを直撃し、セイバーはこれを錫音でしっかりとガードするも、発生した煙が視界を奪った。

 

「煙幕のつもりか?でも、この姿相手なら無駄だぜ」

 

セイバーには【超聴覚】というスキルがあり、これならば目だけでなく音でも周囲の状況を探ることができる。よって、キャロルの姿が見えずとも余り不利な状況では無いと言えた。逆にキャロルは煙のせいでセイバーの姿が見えずにどこから攻撃が来るかわからない状態になっていた。

 

「セイバーが見えないか。ならば竜巻で吹き飛ばすまでだ!【ウインドストーム】!」

 

キャロルの放った竜巻は煙を全て吹き飛ばしてしまい、煙の中にいるセイバーを一瞬にして炙り出した。

 

「ヤベッ!」

 

「そろそろMPが不味いな。次で決めてやる!!【エレメンタルユニオン】!」

 

キャロルの周囲に火、水、風、土のエネルギー弾が出現するとそれがセイバーへと飛んでいき、その四方を囲んだ。

 

「不味い!」

 

そのまま4つのエネルギー弾から火、水、風、土のエネルギー波が一斉に襲いかかり、セイバーの体を包み込むと強力なダメージを喰らわせて、その場で爆発を起こした。それと同時にキャロルが纏っていたダウルダブラが解けてしまい、MPが完全に切れてしまった。

 

「これで倒せなければ俺の負けだがどうだ?」

 

爆風が消えてキャロルがセイバーの気配を探ると、彼はダメージを受けつつも辛うじて耐えていた。いや、正確に言うとセイバーの周囲にボロボロだったが音の壁ができており、それがセイバーへのダメージを抑えていたのだ。

 

「ふう。危なかった」

 

「……俺の負けか。やはり強かったな。セイバーは」

 

「いや、一歩間違えれば俺が負けていたよ。どっちが勝ってもおかしくなかったさ」

 

それから2人は“ありがとうございました”の意味を込めて握手を交わし、互いの健闘を讃えあうとメイプル達の待つ元のフィールドへと戻った。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと決闘後

セイバーとキャロルが決闘を終えて元のフィールドに戻ると既にサリーとベルベットは決闘を終えており、メイプルやヒナタと合流していた。

 

「どうやらそっちも終わったみたいだね」

 

「そっちはどうだったっすか?」

 

ベルベットの問いにキャロルは少し悔しそうな表情を浮かべてから答えた。

 

「完敗だ。俺のMPが尽きるまで見事に粘られたぞ」

 

「キャロルの攻撃を耐え切るなんて凄いっすね。次に会って戦える時が楽しみになってきたっす」

 

それから6人は満足そうな顔をしたベルベットを先頭にして山を降りていった。

 

「よかったです……ありがとうございますサリーさんにセイバーさん」

 

「決闘しただけだし、お礼を言われるほどじゃないよ」

 

「俺も決闘できてよかったよ。ベルベット、今度はちゃんと戦ってくれるよな?」

 

「勿論っすよ。サリーにもやられっぱなしは嫌っすし、今度戦うまでにはまた強くなっておくっすね!」

 

「セイバー。俺もやられっぱなしは性に合わない。もっと強くなったらリベンジさせてもらうぞ」

 

「楽しみにしてるぜ」

 

3対3はいつかのお楽しみにとっておいて、今日のところは解散することとなった。

 

「あ、そうっす。ちょっといいっすか」

 

「ん、私?」

 

解散する直前にベルベットはサリーを呼ぶと、楽しい決闘のお礼に1つ情報を渡した。

 

「最近マップの……この辺りで、強いプレイヤーがレベル上げしてるらしいっす」

 

「へぇ、行ってみようかな。飛び抜けて強いプレイヤーも増えてきたし」

 

「サリーはああ言ってたっすけど、サリーは私が最初に倒すっす。ライバルっすね!」

 

同じようなことをずっと言っているプレイヤーをもう1人思い浮かべながら、サリーは情報を受け取る。

 

「私に倒されるまで負けちゃダメっすよ!」

 

「私が負けることがあるならそれはベルベットにじゃない。そのプレイヤーに負ける時が来るまで私はちゃんと勝ち続けるわよ」

 

「その方が燃えてくるっす!」

 

「セイバー、俺もセイバーのことをライバルにしていいか?」

 

「良いぜ。でも、俺も負けるのならキャロルにじゃないからね」

 

「ん?それは一体誰だ?」

 

セイバーは一瞬だけ目線をサリーへと移すとすぐにキャロルと向き合った。

 

「さぁね」

 

「ほう。俺を相手にはぐらかすとは良い度胸だな」

 

「それとさ、キャロル」

 

セイバーはキャロルの耳元に近づくと小声で話しかけた。

 

「何だ?」

 

「キャロルってさ、サリーやヒビキと一緒で好きな人でもいるのか」

 

「へっ!?」

 

キャロルは変な声を上げると一瞬にして顔を真っ赤に染めて飛び退いた。

 

「な、な、な、何故そんなことを……」

 

「いや、ここ最近現実世界のお前と、サリー。そしてゲームをしているときのヒビキを見てるとそんな気がしてな」

 

「言う訳ないだろうが、そんなことを!!」

 

「ふーん。いるんだ」

 

「あ……」

 

「ま、俺はそれ以上は詮索しないし、3人の恋がちゃんと実ることを俺は祈ってるからな」

 

「ば、ば、馬鹿ぁ!!!」

 

「なんでぇ!?」

 

キャロルの恥ずかしさが頂点に達したのかセイバーはキャロルに思い切りビンタされてしまった。そして、この時。セイバーは思いもしなかった。サリー、ヒビキ、キャロルの恋心は自分へと向いているということに。

 

 

ともあれ、情報をもらったところでこの日は本当に解散となった。ベルベットとヒナタとキャロルの3人と別れたメイプルとサリーは町へと戻ることにする。メイプルはサリーの馬に一緒に乗って、風を切って町までの道を帰っていく。

 

「ベルベットとキャロルは強かった?」

 

「キャロルは俺が苦戦するくらいは強かったぜ」

 

「ベルベットも強かったよ。他にも強いプレイヤーがどんどん増えてるみたい。ベルベットからもらった情報も面白そうなプレイヤーの話だし。行ってみる?」

 

「うん、せっかく教えてくれたんだし!3人みたいに仲良くなれるかも!」

 

「じゃあ今度行ってみよう。週末によく来てるんだって。あ、でもベルベット達みたいにライバルになるかもしれないけどね」

 

「あー。今度の週末が楽しみだなぁ〜!」

 

セイバーやサリーだけでなく、メイプルにもライバルと呼べるような人は増えてきている。これも人とのつながりの1つの形という訳だ。

 

「また強くならないと!これでもギルドマスターだもんね!」

 

「いいね。私も手伝うよ」

 

「俺も偶には手伝うかな」

 

「うん!2人がいたらすっごい頼もしい!」

 

「ふふっ、それはどーも」

 

「よーし、サリー。ギルドホームに戻ったらまた訓練してもらえるか?」

 

「ふふっ、良いわよ。その代わり、泣いても知らないからね」

 

「なんだと!お前こそ俺の攻撃を受けて泣くなよ」

 

そうしてあれこれと話をしているうちに、3人は気づけば町まで戻ってきていたのだった。

 

 

 

 

623名前:名無しの大剣使い

イベントもないし 八層もまだ先だし

のんびりした期間だな

 

624名前:名無しの槍使い

七層広いしな 別にまだ隅から隅まで探索できてないし

 

625名前:名無しの弓使い

他の層も同じだけど 七層は特に広いからなあ

 

626名前:名無しの魔法使い

でもテイムモンスター手に入れたら目的達成したようなもん

 

627名前:名無しの槍使い

この間期間のうちにモンスターを育てておく必要が出てくるんだろ

 

628名前:名無しの大剣使い

それはそう。1つ前のイベントで重要性が改めて認知されたしな

 

629名前:名無しの大盾使い

俺もひたすらレベル上げだわ

 

630名前:名無しの弓使い

あ 出た

 

631名前:名無しの魔法使い

どう 最近何かあった?

 

632名前:名無しの大盾使い

んー最近は特にないな というかセイバー君はともかく、メイプルちゃんは七層にいないことの方が多い

 

633名前:名無しの大剣使い

おっ何か新しいダンジョンでも見つけたか?

 

634名前:名無しの大盾使い

いやサリーちゃんと観光だと

 

635名前:名無しの槍使い

満喫してるなぁ

 

636名前:名無しの弓使い

らしいっちゃらしい

 

637名前:名無しの魔法使い

元々躍起になってレベル上げとかダンジョン探しするタイプじゃなさそうだったしな

第1回イベントの時からそうだった

 

638名前:名無しの大盾使い

あの絵描いてたやつとかな

 

639名前:名無しの大剣使い

あれやらないとこれやらないとってなるからたまには俺ものんびりするか

マジでそういう期間なのかもしれんわ

 

640名前:名無しの槍使い

このゲーム観光スポットっぽいところ多いしな

 

641名前:名無しの弓使い

俺ほとんど行ってないな 今思うともったいないのかもしれん

 

642名前:名無しの魔法使い

まあ楽しみ方はそれぞれよ

ちなみにどこへ観光行ったの?

 

643名前:名無しの大盾使い

直近で聞いたのは浮遊城 雲の上のやつ

 

644名前:名無しの槍使い

あれは観光スポットじゃないだろ クッソ強いドラゴンの根城だろ

 

645名前:名無しの弓使い

景色は綺麗だぞ油断したら死ぬけど

 

646名前:名無しの大剣使い

メイプルちゃんならどこでも景色見ながら歩けるもんな それはちょっと羨ましい

奇襲されても大丈夫なのが1番のメリットな気がしてきた

 

647名前:名無しの大盾使い

きっと今日もどこかでのんびり観光してるよ

 

648名前:名無しの槍使い

そのどこかは一般的なプレイヤーにおける死地でもいいんだよなあ……

 

649名前:名無しの弓使い

時代は観光にも防御力か……

 

650名前:名無しの魔法使い

まあ一般人向け観光スポットなら俺たちでも行けるし 俺もたまには行くかあ

 

651名前:名無しの大剣使い

それはそうとセイバー君の方はどうなんだ?

 

652名前:名無しの大盾使い

ここ最近は大人しい方だな。新しい聖剣を手にしたって話も無ければ装備がパワーアップするって事も無い。

 

653名前:名無しの槍使い

寧ろこれ以上強くなられたら困るんですが……

 

654名前:名無しの弓使い

十分今のままでもヤバいだろ。てか、出来ることなら現状維持を続けて欲しいくらいなんですが。

 

655名前:名無しの魔法使い

それは言えてるな。

 

 

このような会話があったことはさておき、ベルベットが教えてくれた場所へは週末にメイプルやサリーと向かうことにして、セイバーはいつも通り七層の町の外にいた。

 

「さーてと、今日は何をしようかな」

 

セイバーが考えているとそこにヒビキが走ってきた。

 

「セイバーお兄ちゃんいたー!!」

 

「へ?ヒビキどうし……へぶっ!!」

 

セイバーは毎度の如くヒビキに抱きつかれるとその勢いのままに押し倒された。

 

「今日はセイバーお兄ちゃんに紹介したい人がいてね、その人もセイバーお兄ちゃんに会いたいって言っててさ、それでね〜」

 

「ちょっ、ヒビキ待て、ヤバイってこんな所サリーに見られたら洒落にならないんだって」

 

「ええ〜良いじゃん別にさぁ!」

 

「ヒビキがよくても俺はダメなのー!!」

 

ここ最近、ヒビキは以前にも増してセイバーへとスキンシップを求めてくるようになっていたのだ。この行動の裏にはヒビキのセイバーへの想いが関わっている訳なのだが、セイバーにはそんな事がわかる訳もなくただただヒビキに迫られて困惑するばかりであった。

 

「もう良いだろヒビキ。というか、3日前も同じことしたよな?」

 

「良いでしょ減るものじゃないんだからさぁ〜。セイバーお兄ちゃんのケチ」

 

「はいはい。そろそろ行くぞ」

 

セイバーはガッカリするヒビキを連れて森の奥へと入っていった。

 

「そういやヒビキ。俺に紹介したい人がいるって言ったよな。それって誰だ」

 

「えっと、それならこの先にいるって話だけど……あ、いた!!」

 

そこにいたのはピンクの髪を靡かせた高身長の女性で、黒い装備に槍を携えていた。そしてその人間は以前にヒビキと互角以上の戦いを演じたプレイヤー。その名は……

 

「マリアさん!!セイバーお兄ちゃんを連れてきました〜」

 

「マリア……って事はこの人がヒビキを追い詰めたっていうほどの実力の持ち主、烈槍のマリアさんか」

 

「そうよ。私はマリア……だけど、その烈槍ってのは初耳ね。私ってそんな異名がついていたかしら」

 

「ああ、それなら俺がわかりやすいように勝手に付けた名前なんで安心してください」

 

「ふうーん。ま、良いわ。早速だけど、セイバー。あなたの力が見たいわ」

 

「まぁ、普通はそうなりますか。でも流石にタダでとは言わないですよね?」

 

「ええ。私の力と引き換えで良いわ。それじゃあこの辺のダンジョンで試すとしましょう」

 

それから3人は移動を開始すると近くに存在する転移の魔法陣へと歩いていった。

 

「今日はここが良いわね。2人共、準備は良いかしら」

 

「勿論だ」

 

「いつでも行けます」

 

3人は転移の魔法陣へと乗るとダンジョンへと移動することになった。

ダンジョンへと移動するとそこは先程まで3人がいた森の中だったが、両サイドが壁のようになっており、まるで森の迷路であった。

 

「今回はここを攻略するんですね」

 

「そうなるわ。まぁ、私はここのダンジョンは周回しているし、大体のことなら理解してるわ。こっちよ」

 

それからセイバーとヒビキはマリアに言われた通りにダンジョンの攻略を開始した。どうやら、このダンジョンも以前にベルベットやヒナタと攻略したダンジョンと同じつくりで、道中はモンスターが全く出てこずに途中にある3ヶ所のチェックポイントを攻略してからボス戦になるらしい。ただし、道が迷路状になっている分チェックポイントまでの移動で苦労する仕掛けになっているのだが、その点はマリアがダンジョンを熟知しているため心配は無いと思われた。

 

3人がマリアの指示通りに暫く歩いていると木で作られた扉があり、いかにもチェックポイントのような場所に出た。

 

「早速チェックポイントに付いたな。もしかしてここも最初に戦う人数を設定してそれに応じた敵が出てくるのか?」

 

「あら、詳しいわね」

 

「いや、つい最近にも似たような場所を攻略したからな」

 

「わかっているのなら話が早いわ。今回は誰が行くかしら」

 

「はいはーい!!私が行きます!!」

 

そう言っていつものようにヒビキが手を挙げると前に出た。どうやら戦いがしたくてウズウズしていたらしく、2人もヒビキが戦うことに賛成した。

 

「それじゃあ私1人に設定してっと」

 

「ヒビキ、頑張れよ」

 

「うん!!」

 

それからヒビキが中に入るとセイバーとマリアは観客席のような所で見物することにした。

 

「さて、ヒビキはどのくらい強くなったかな」

 

「以前私が戦った時とどう違うのか。見せてもらうわよ」

 

ヒビキが森の闘技場の中に入ると目の前に現れたのは鋼鉄の鎧を着て手には斧を持ったゴブリンが50体近くも出てきた。

 

「うぇ!?こんなにも出るの」

 

「あらら、どうやらこっちは数で攻めてくるタイプの場所か。けど、ヒビキを相手に近接専用の武器で良いのかな」

 

「随分信頼しているのね」

 

「当たり前ですよ。ヒビキの強さは俺もよく知ってます。この程度に負けるなんて有り得ないです」

 

「ま、いっか。いっくよー!!」

 

ヒビキはゴブリン達へと果敢に突っ込んでいくといつものように格闘戦を繰り広げ、ゴブリンの鎧を粉砕しながら一体ずつ倒していった。

 

「やああっ!はっ!!」

 

繰り出させる拳はマリアが以前戦った時よりも鋭く、迷いなく、強くなっており、以前よりもヒビキの自分らしさを際立たせていた。

 

「ふっ。やればできるじゃない」

 

ヒビキはゴブリン達をあっという間に倒していくと最後にゴブリンの親玉と言うべき巨大なゴブリンが出てきた。片手には得物として巨大なハンマーを担いでいる。

 

「親玉だね。一気に決めるよ」

 

ヒビキは跳びあがると振り抜かれるゴブリンのハンマーを紙一重で避け、そのまま腹に両腕から繰り出される強力な一撃。

 

「【我流・特大撃槍】!」

 

ヒビキの一撃はゴブリンを数歩退がらせるとそのまま膝を突かせた。

当然ヒビキの攻撃はこれでは終わらない。

 

「ミク、【覚醒】、【電磁砲】!【我流・雷電撃槍】!」

 

ヒビキの稲妻のキックとミクの電源の砲弾がゴブリンへと放たれる中、ゴブリンも負けてはいない。ヒビキを撃退しようとハンマーに炎を纏わせてヒビキと砲弾を迎え撃った。2つの力は拮抗し、互角の勝負をするかに見えた。だが、ゴブリンの持つハンマーの耐久値はその凄まじい衝撃に耐えることが出来ず、粉々に砕けてしまった。

 

「これで終わり!!【我流・鳳凰無双撃】!」

 

ヒビキはトドメとして鳳凰を纏わせたパンチをゴブリンの顔面にぶち込み、ゴブリンはとうとう耐え切れずに爆散した。

 

「やったぁ。勝ったよ!セイバーお兄ちゃん、マリアさん!!」

 

「そうみたいね」

 

「ああ、流石ヒビキだ」

 

2人はヒビキと合流すると再び森の迷路へと足を踏み出して移動を再開した。

 

「ヒビキ、また強くなったな。見違えたぞ」

 

「えっへへー。もっと褒めてくれても良いんだよセイバーお兄ちゃん」

 

「随分と懐かれているわね。セイバー」

 

「まぁね。ヒビキは俺にとっては妹みたいな存在だし、強くなってくれて嬉しい気持ちもあるからな」

 

「むう。妹かぁー」

 

「当の本人は不服そうね。まぁ、何か特別な感情を持っているからだと思うけど」

 

「特別な感情?」

 

「もうマリアさん!余計なこと言わないでくださいよ」

 

「言わないわよ。何となく察しはついちゃったしね」

 

「ええー。そこまできて勿体ぶるんですか」

 

このように3人が雑談をしていると第2のチェックポイントへと到達した。

 

「チェックポイントね。今度は私が出るわ」

 

「なら、マリアさんの力をこの目で確かめさせてもらいます」

 

「マリアさんはね、強いよ。私でさえ苦戦したんだから」

 

「それは楽しみだ」

 

それからマリアは1人で闘技場に入ると今度はゴブリンが1体につき、剣を2本ずつ持って現れた。

 

「今度は二刀流か。さて、マリアさんはどう出るか」

 

セイバーがマリアの様子を注目するとマリアは黒い装備を解除した。

 

「え!?」

 

「どういうつもりだ……」

 

混乱する2人を他所にマリアは懐から2つ目のペンダントを出した。

 

「多人数にはこっちね。できれば見せたくなかったけど……【クイックチェンジ】、銀腕!」

 

するとマリアは光に包まれると先程までの黒い装備とは全く正反対の白と銀の装甲が装着されていき、最後に左腕にアーマーが装着されて、そこから短剣を抜くと変身を完了した。

 

「これが私のもう1つの姿。銀腕アガートラームよ!」

 

マリアは銀の輝きに包まれながら自信満々に敵を見据えた。まるで、自分の敵ですら無いと言わんばかりに。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと銀腕

ベルベット達thunder stormとの出会いから数日。セイバーはヒビキと合流し、ヒビキから紹介したい人物がいると言われたセイバーは、【ラピッドファイア】のギルドメンバーのマリアと初顔合わせする。セイバー、ヒビキ、マリアの3人はそのままお互いの実力を見るためにダンジョン攻略に繰り出すことになった。そんな中、第2チェックポイントにてマリアは銀の輝きに包まれながら新たな姿をセイバーとヒビキに見せた。

 

「これが私のもう1つの姿。銀腕、アガートラームよ」

 

「銀の……左腕か」

 

「まさか、マリアさんにこんな姿もあったなんて…」

 

「さぁ、ステージの幕開けよ。ついて来れる奴だけついて来い!!」

 

マリアは走り始めると双剣を構えるゴブリン相手に攻撃を開始した。

 

「【エムプレス・リベリオン】!」

 

するとマリアの持っている短剣がいきなり伸びていき蛇腹剣へと変化するとそれが鞭のように周囲のゴブリンへと叩きつけられた。

 

「続けていくわよ!」

 

そのままダメージを負って動きの鈍ったゴブリンを短剣で連続で斬りつけていく。だが、ゴブリンもタダでやられるつもりは無いのか増援を呼び出してマリアを隙間なく取り囲んだ。

 

「無駄ね。【トルネード・インパクト】!」

 

マリアは再び短剣を蛇腹剣へと変化させて竜巻のように回転させながらゴブリン達を吹き飛ばし、地面へと叩きつけ、蹴散らしていった。そしてその様子はセイバーやヒビキからよく見えていた。

 

「なるほどな、普段はあの短剣を武器にして戦い、スキルを使う時に短剣を蛇腹剣の形として運用するといった所か」

 

「前に私に見せた槍を使った戦い方。あれはどっちかというと1対1で使った方が効果が高い。だからあの時は槍を使っていたんだ」

 

「つまりこっちが多人数用って所か。黒と白。一度にどっちかの装備しか使えない点についてはマリアさんの持つ高い判断力で使い分けているんだろう」

 

2人が考察を立てている間にマリアは雑魚ゴブリンを片付けてしまい、続けて親玉のゴブリンが出てきていた。今回は得物として薙刀を持っており、長いリーチを活かしてマリアを撃破するつもりであろう。

 

「今度はこっちね。烈槍!」

 

すぐにマリアは姿を黒い装備に戻すと槍を構えてゴブリンと激しく打ち合った。

 

「はあっ!」

 

マリアはゴブリンの薙刀を弾くとガラ空きの足元に接近して槍を振り抜いてダメージを与え、更には体勢を立て直したゴブリンの薙刀を回避しつつ槍を投擲してゴブリンの腹を貫いた。

 

「一気に決めるわよ。【ホライゾン・スピア】!」

 

マリアはゴブリンへと突き刺さった槍を掴むとそのままエネルギー砲がゼロ距離で放たれてゴブリンの体を吹き飛ばした。流石にダメージを受けすぎた影響か、ゴブリンの体はよろめき、虫の息となっていた。

 

「やああっ!」

 

だからといってマリアが容赦するはずも無く手にした槍をゴブリンの脳天へと突き刺し、それがトドメの一撃となってゴブリンは消滅した。

 

「ふう。ざっとこんなものかしら」

 

「凄いですよマリアさん!まさかあんな姿も持っていたなんて」

 

「セイバー、私の強さを見て何か感じたかしら?」

 

「はい。マリアさんの動きはランカーのそれでしたよ。2つの姿の使い分けもそうでしたが、判断が凄く早くて、武器ごとの性能もちゃんの知っているって感じがしましたね」

 

「そう。それじゃあ、今度はあなたの番よ。次のチェックポイントでは任せても良いかしら」

 

「勿論です。今まで大人しくしてたせいで体が戦いたくて仕方なくなりました」

 

それから今度はセイバーを先頭にして移動を開始するとマリアとヒビキが2人で話を始めた。

 

「マリアさん」

 

「何かしら」

 

「セイバーお兄ちゃんのことをどう思っています?」

 

「……正直、今の私がセイバーに通用するかと言えば多分無理ね」

 

「え!?そんな弱気発言、マリアさんらしくないですよ」

 

「負けるつもりは勿論無いわ。ただ、記録とかでセイバーの戦いを偶に見るんだけど、アレは異常よ。彼はさっき私に判断力があるって言ってたけど、セイバーの判断力はそれ以上。私は2つの装備を使い分けているのに対して、セイバーは9本の聖剣を使い分けている。しかも9本の剣の長所短所もしっかりと見極めた上で全部を使えているんだから化け物と言っても良いくらいね」

 

「マリアさんがセイバーお兄ちゃんをそこまでべた褒めするなんて……」

 

「でも、勝ちたいって気持ちはあるし、セイバーを倒すのはこの私だから」

 

「言いましたね。私もセイバーお兄ちゃんをライバルだと思っています。だからマリアさんにも負けませんよ」

 

2人が話しているとセイバーがチェックポイントに到達したのか声をあげた。

 

「おーい、チェックポイントに着いたぞ」

 

「どうやら、続きはセイバーの戦闘を見ながらね」

 

「はい。ちゃんとセイバーお兄ちゃんの強さを焼き付けますよ」

 

「2人共、何を話してるんだ?」

 

「内緒」

 

「えー、ヒビキ。教えてくれても良いじゃんか」

 

「ほら、早くチェックポイントをクリアしてきてよ」

 

「しょうがないなぁ」

 

それからセイバーは中に入ると今度はゴブリンではなく、鎧を着た鋼鉄の戦士が兵隊として出てくると全員が槍を持って立っていた。

 

「今度は槍か。翠風抜刀!」

 

セイバーは翠風を二刀流で装備すると烈火の時から装備も変化し、兵士達へと突っ込んでいった。

 

セイバーは繰り出される槍を紙一重で躱しながら兵士へと斬撃を決めていった。そんな中、マリアは疑問を浮かべていた。

 

「おかしい」

 

「どうしたんですか?」

 

「セイバーらしく無いわね」

 

「それって」

 

「普通ならセイバーはこの場面はパワー重視の形態で一気に装甲ごと破壊しにかかっているはず」

 

「言われてみれば。確かに普段なら激土を使っている場面ですね」

 

「何か作戦でもあるのかしら」

 

マリアの考えとは他所にセイバーは翠風の機動力と持ち前の反射神経で兵士達を次々に葬り、倒していった。

 

「【クナイの雨】!」

 

続けてセイバーは上空から文字通りクナイの雨を降らせると兵士の動きを鈍らせていく。

 

「【影分身】、【超速連撃】!」

 

セイバーは分身を発揮すると人数を増やして兵士達との人数差を減らすと高速の連撃で次々と倒していき、そのままトドメの攻撃を放った。

 

「終わりだよ。【疾風剣舞】!」

 

セイバーは手裏剣モードにした翠風を投擲し、残っていた兵士を全て破壊すると今度は親玉というべき騎士が鋼鉄の馬鎧をした馬に乗って現れた。

 

「おお。今度は馬に乗った騎士か。面白い!」

 

騎士は兵士達と同様に槍を携えており、馬特有の機動力を使ってセイバーへと走ってきた。

 

「でも、馬に乗ってきたのは失敗だったな」

 

セイバーは敢えて騎士には攻撃を仕掛けず、騎士が乗っている馬の足に翠風での攻撃を加えた。

 

「【トルネードスラッシュ】!」

 

翠風を一刀流にして発動するその剣には竜巻の力が込められており、鋭い一閃が馬の足にダメージエフェクトを散らせてその場に膝をつかせた。

 

当然馬が膝をついたために上に乗った騎士はバランスを崩してしまうことになる。セイバーがこの隙を見逃すはずも無く騎士に組み付くと翠風を二刀流にして連続で斬りつけた。

 

「オラオラ!そんなものか!!」

 

セイバーは翠風に緑の輝きを纏わせると騎士から一旦離脱して風のエネルギーを纏わせた斬撃波を放った。このタイミングでようやく立て直した騎士はこれを防ぎつつ槍を突き出してきた。

 

「おっと。その程度かな?」

 

セイバーはこれを軽い身のこなしで回避すると騎士の周囲を走っていった。

 

「そろそろ決めよっかな。【疾風剣舞】!」

 

セイバーは再び必殺の一撃を放ち、今度は二刀流の翠風を使用して連続での斬撃を叩き込み、騎士は耐えきれずに撃破された。

 

「よっし!終わったぜ」

 

「流石セイバーお兄ちゃん!!」

 

「セイバー、ちょっと疑問があるわ」

 

「何ですか?」

 

「この戦い。わざわざ風の剣を使った理由は?土の剣を使えばもっと楽に勝てたと思うんだけどその辺はどうなの?」

 

「その事ですか。……確かに土の剣、激土を使えばもう少し楽だったかもしれません。でも俺は敢えて風の剣、翠風を使いました。その理由は敵の数が思っていたより多くて、機動力の低い激土で相手するには少し数が多すぎると判断したからですよ」

 

「だから分身などの数を増やすスキルや多人数を同時に相手できる機動力がある翠風で対抗していたのね」

 

「セイバーお兄ちゃん凄い!!」

 

「とは言っても、翠風の姿での底はまだまだこんなものじゃないですけどね」

 

「それは理解しているわ。手の内を見せないのはお互い様だもの」

 

3人はそれからボスの部屋にまで移動をしていき、最後のボス戦に入ることになった。

 

「ここでは3人でやるってことで良いわね?」

 

「はい!」

 

「さーて、もうひと頑張りしますか。月闇抜刀!」

 

「私はこっちね。銀腕!」

 

セイバーは装備を変化させるとマリアもアガートラームを纏う。

 

それぞれが戦闘体制を整えると敵は現れた。今回はボスと兵士が同時に登場し、兵士は全員クロスボウを構えた遠距離部隊であり、親玉は巨大な剣を構えた騎士だった。

 

「どうやら、今回はボスが前衛、兵士が後衛役みたいだな」

 

「ボスは私が引きつけます。その隙に2人は兵士を」

 

「それが最善みたいね。まずは援護射撃をしている雑魚達から倒すわよ」

 

「わかった」

 

セイバー達はヒビキをボスにぶつけている間にセイバーとマリアで数の多い兵士を倒す算段にした。戦いの狼煙はクロスボウ部隊から放たれた大量の矢の雨から始まった。

 

「2人共、私の後ろに!」

 

マリアはそう言いつつ、三角のエネルギーバリアを展開するとセイバー、ヒビキが後ろに隠れ、一斉攻撃を凌いだ。そして、2回目の攻撃が放たれる前にセイバーが飛び出して一気に兵士達との距離を縮め、闇のエネルギーを纏わせた斬撃で兵士達を切り捨てていった。

 

「【月闇居合】!」

 

セイバーの放った居合斬りは闇の一閃となり、棒立ちの兵士達を破壊していく。その間にヒビキはボスとの戦闘を始めており、距離を詰めての格闘戦に入っていた。

 

「【インファイト】!うぉりゃあ!」

 

連続で繰り出させる打撃を親玉は何回かは剣を使って受け止めていたが、剣で防御するスピードを更に上回るヒビキの拳がボスの体勢を崩し、そのまま顔面に一撃を喰らわせた。

 

「【ホライゾン・キャノン】!」

 

マリアは闇黒剣月闇で兵士を蹴散らすセイバーの援護に回り、遠くから左手を砲台化してエネルギー砲を連射。兵士を破壊するのに一役買っていく。

 

「これで最後!【暗黒クロス斬】!」

 

セイバーが最後の兵士を倒すとほぼ同時にヒビキもボスのHPを3割削っており、ここからはセイバー、ヒビキ、マリアの3人がかりでの攻撃が始まることになる。

 

「【邪悪砲】!」

 

「【ホライゾン・キャノン】!」

 

セイバーとマリアは中、遠距離から親玉を撃ちまくり、ダメージを少しずつ蓄積させていく。そうしている間にヒビキも剣を弾きながら肉弾戦で親玉を追い詰めていく。この3人を同時に相手取った時点でボスに勝ち目など無かった。

 

「【エムプレス・リベリオン】!」

 

「【月闇居合】!」

 

「【我流・火炎龍撃拳】!」

 

3人の渾身の一撃がボスに決まり、ボスはこの攻撃に耐えきれず、倒されることになった。

 

「よっしゃ!」

 

「勝ったぁ!」

 

「お疲れ様。2人共」

 

3人はダンジョンから出ると感想をそれぞれ述べることになった。

 

「今回はマリアさんの力を色々と知れました。まさかバリアも使えるなんて思いませんでしたし、良い情報が手に入りましたよ」

 

「私はボスとの打ち合いが楽しかったなぁ。あの爽快感はとても良かったです」

 

「私はセイバーとの連携ができて光栄だったと言うべきかしら。やりやすかったし、あなたが情報を得たのと引き換えに私も情報を得られたからね」

 

「なんなら今からひと勝負しますか?」

 

「あっ、セイバーお兄ちゃんずるい!マリアさんとは先に私とやらせてよ。この前のリベンジがまだだし!」

 

「……そうしたいのは私も同じだけど………」

 

マリアはそう言って後ろを向くと遠くに2人の影が見えた。それは長身細身の男女2人組で、男性の方は身の丈近くある巨大な弓を持った吟遊詩人風の服装をしており女性の方はクラシカルなメイド服を着てモップを持っていた。

そして、2人組の女性の方がギルドマスターなのかマリアを呼ぶような仕草をしていた。

 

「どうやら、呼ばれちゃってるみたいね。私はこれで失礼するわ」

 

「ええー。マリアさんもう行っちゃうんですか」

 

「なら仕方ないですね。マリアさん、今度会ったらお手合わせできますか?」

 

「その時は2人纏めてかかってきなさい。返り討ちにしてあげるわ。それじゃあ、また会いましょう」

 

そう言ってマリアは2人の元へと向かっていき、後にセイバーとヒビキが残されることになった。

 

「強かったね、マリアさん」

 

「ああ、倒すべき存在がまた1人増えたな」

 

セイバーは嬉しそうな顔をしていた。またライバルと呼べるプレイヤーが1人増えたことに対する喜びの気持ちである。だが、マリアが合流した2人のプレイヤー。彼女らが後にセイバーと深い関わりを持つようになるということをこの時のセイバーはまだ知らなかった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとラピッドファイア

セイバーとメイプルとサリーは予定通り週末に七層の町に集まっていた。

 

「メイプル、何でお前はこうも簡単に進化してくるかなぁ」

 

「それを言うならアンタもでしょ。メイプル、また変なスキル見つけてきたね」

 

「うん、びっくりしちゃった。今までのところにも見落としてることあるかも」

 

「確かに無いとは言い切れないね。ボスを倒した時に特に何もなかったり、ボス自体が弱かったりしたところは、もう一回行く価値はあるんじゃないかな」

 

セイバーとサリーが言っているのはメイプルの新しいスキルについてであり、その名も【反転再誕】。

 

効果は消費HP500を消費することで次に使う特定のスキル一つを指定された異なるスキルに5分間の間変更することができるのである。メイプルの持つスキルの中では【暴虐】、【天王ノ玉座】、【身捧ぐ慈愛】の3つが該当し、先日メイプルが試したのは【身捧ぐ慈愛】が変化した【届かぬ渇愛】で、使用者が受ける予定のダメージを範囲内の味方プレイヤーと味方モンスターに肩代わりさせる効果を持っている。

 

「それにしても、同じダンジョンを周回しても違うスキルが得られるなんてな」

 

「もしかすると今まで行ったダンジョンにまだ何かあるのかもしれない。ま、ほとんどノーヒントだけどね」

 

メイプルがスキルを得た場所は以前に触手を得た場所であり、前回は見逃していたスキルを今回は得たといった感じである。

 

「むぅ、探索も奥が深いなぁ。あっ、手に入ったスキルはまたどんなのか見せるね。上手く使うの難しくて、サリーならいい使いかたも思いつくかなって!」

 

「じゃあ考えてみるよ。あ、そうだ。メイプルはまだ前回のイベントで手に入れたメダルでスキル貰ってないでしょ。そこにも何かいいのがあるかも」

 

「うん!ライバルもできたし、いいスキルあるといいなぁ」

 

「私はもう選んだから今度見せてあげる」

 

「俺も選んだし、今度見せるか」

 

「うんっ、楽しみにしてるね!」

 

ベルベットやキャロルとの決闘ではセイバーとサリーが勝ったものの、本当の勝負はPVPイベントになる。勝ちたいならヒナタ対策は特に必要になるだろう。

 

「これから見に行く人もきっと強いから、スキルとか見れるといいね」

 

「よーし、2人共行こう!」

 

「うん、馬用意するよ」

 

3人はそろそろ向かおうと、話を切り上げて、馬に乗って目的の場所へと駆けていく。

 

「ベルベットが言うには見たら分かるってことらしいから、結構目立つ見た目だと思う」

 

「ふんふん」

 

「強い人だと良いなぁ」

 

そうして3人がやってきたのは穏やかな風が吹く、平原だった。ここは鳥や小さな竜など希少価値が高いわけでない飛行型モンスターの住処となっており、見通しのいい平原の空を自由に飛び回っているのが見える。

 

「【身捧ぐ慈愛】!」

 

「うん、ありがとう」

 

「ここまではいつも通りだな」

 

モンスターの数も多く、動きも速い。サリーならそれ全てを避けることくらい容易いし、セイバーなら簡単に倒すことができるのだが今日の目的はプレイヤー探しのため、邪魔が入らない方がいいのは間違いない。

 

「凄そうな人を探せばいいんだよね?」

 

「うん。ベルベットも詳しい見た目とかは教えてくれなかったし」

 

「折角なら見た目も教えてくれれば良かったのに……」

 

初めて見た時に驚いてほしいということなのだろう、ベルベットが教えたのは場所だけだった。それでは普通幾人もいるプレイヤーから見つけ出すことは難しい。それでも見つけられるとするならばメイプルがベルベットと出会った時と同じように、目を惹く何かを持っていることになるだろう。

 

「ぱっと見て変だなっていうのは分かるから。今のセイバーやメイプルみたいにね?」

 

「うぇっ!?」

 

「はあっ!?俺もかよ」

 

実のところメイプルは今こうして話している間も、飛び交うモンスターから放たれる風魔法や体当たりなど、様々な攻撃を弾き返している。3人にはいつもの見慣れた光景だが、一般的でないのは確かだ。

つまり、こういう存在を探せばいい訳である。

 

 

 

そうして平原を歩き回っていた3人は、ピンとくるプレイヤーを見つけた。

長身細身の男女2人組。男性の方は身の丈近くある巨大な弓を持った吟遊詩人風の服装をしており、女性の方はクラシカルなメイド服を着てモップを持っていた。

 

セイバーはこの姿をした2人組をどこかで見たことがあるような気がしたのだが、確信は無いためこの2人組を遠巻きに見ることにした。

 

攻撃は基本男性の方が行なっているようで、メイド服の女性は支援に徹しているようだった。

驚くべきは弓による攻撃の威力と速度である。空を飛ぶドラゴンを狙って弓を引き絞ったかと思えば、次の瞬間には空中のドラゴンから赤いダメージエフェクトが弾け、初撃でHPがゼロになる。同じように次々とただ一射でモンスターを的当てでもするように撃ち落としていく。

 

「すごーい!弓ってあんな感じなの!?」

 

「あー、周りに弓使いいないもんね。あんな感じではないよ、うん」

 

「まず間違い無く異常だろうな」

 

男性の射撃は当然のように動く相手に全てクリーンヒットしているが、まずそれ自体が異常なのだ。サリーが回避力で生き残っていることから分かるように、矢も当然狙いを定める必要がある。そしてその上で見当違いの方向に飛べば外れるわけだ。

 

「威力、命中精度、連射速度。単純にどれも高水準だから強いんだと思う。多分あれスキル使ってないよ」

 

弓にも現実なら不可能な挙動をするスキルがある。複数の矢を同時に放ったり、放った矢の軌道を捻じ曲げたり、そういった力が存在しないただの通常攻撃だとすれば、隠れている分の力は計り知れない。

 

「でもまあ、ユイとマイのことを考えると流石に威力が高すぎるから、何かしら訳があると思うけどね。おそらくあのメイドの人のバフも相当強い」

 

「2人で1組の強さって奴か。なら、相手する時は2人を分断するのが定石になるんだろうけど……」

 

極振りにしてSTRに倍率もかかっている2人と同じような破壊力は何かしらのスキルの影響がないとありえない。

 

「なるほど……」

 

これなら、ベルベットが興味を持っているのも分かるというものである。その後もただの一度の打ち損じもなく、次々にモンスターを撃ち落としていく。

 

「弓もかっこいいなぁ……」

 

「うん、あれだけ当たったら楽しいだろうし」

 

「やってる方は爽快だろうな」

 

セイバーとメイプルとサリーがそうして遠目に2人を見ていると、一通り撃ち落とし終わったのか、空に向けて構えていた弓を下ろし、そして歩いて3人の方に近づいてきた。偶然こちらに歩いてきたというわけではないようで、セイバー達の前で立ち止まると、男性の方から話し始めた。

 

「これはこれは、ずいぶん熱心に見ている方がいると思いましたが」

 

「そうだね。予想外に有名人だ。しかも、1人はマリアが認めた男だな」

 

「マリアさんを知ってるって事はまさか、あの時にマリアさんを呼んでいた2人ですか?」

 

「正解ですよ。聖剣使いのセイバー」

 

改めて正面から2人を見ると男性の方は物腰柔らかな、女性の方はしっかりと、堂々とした雰囲気を感じる。

 

「私達を知ってるんですか?」

 

「ええ、まあ」

 

「それは勿論。その防具を身につけていれば誰だって分かるはずさ」

 

今日は七層なのもあって、セイバーもメイプルもサリーもきっちり最強装備に身を包んでいる。2人の言う通り、この装備を身につけていて、セイバーとメイプルとサリーだと分からないプレイヤーの方が少ないだろう。

 

「で、セイバーさんとメイプルさんとサリーさんですよね。敵情視察といったところでしょうか?」

 

「えっと、ベルベットから面白い人がいるって……」

 

ベルベットの名前を出すと、2人は納得したように頷いた。

 

「この3人だったんですね。先日ベルベットさんがこちらに来たんですよ」

 

「強いプレイヤーと戦って楽しかったから2人のところにも行くように言ったとね。そうか、セイバーとメイプルとサリーのことだったのか」

 

「あと、マリアも言っていたな。セイバーと会って強さの一端を見れたと」

 

「やっぱりマリアさんとは同じギルドなんですね」

 

「私の名前はリリィ。ギルド【ラピッドファイア】のギルドマスター。ま、ウィルやマリアに助けてもらっての運営だよ」

 

「私はウィルバート。マリアと並んでリリィの補佐役って所かな」

 

「さっきはすごかったです!」

 

「そう言われると悪い気はしないですね」

 

「ウィルにとってはあれくらい容易いさ」

 

「少し話しますか?敵情視察というのもあながち間違いでもないでしょう」

 

「私達も直接会うのは初めてだからね。少人数ギルドながら好成績を残す君達には興味があるのさ」

 

「そういうことなら……」

 

「はい!お話ししましょう!」

 

「これは面白いことになりそうだ」

 

こうしてベルベットの紹介により、ギルド【ラピッドファイア】のトップツーと出会った3人は、【thunder storm】の時と同じように交流することになるのだった。

 

「もう少しすれば今倒し切ったモンスターもまた出現するでしょう。話をするならセーフゾーンへ向かうことが得策ですが……」

 

「それが噂の防御フィールドってわけだね」

 

セイバー達が2人を見ている間も、セイバーとサリーを守るために【身捧ぐ慈愛】は展開し続けていた。第4回イベントの映像は勿論、戦闘でメイプルが目撃される場合、大抵天使の翼を生やしているのだから最早最前線で戦うプレイヤーで全く知らないような者はほとんどいない。

 

「えっと、仲間しか守れないんです」

 

「それはそうだろうね。いや、問題ないよ。ウィルも私もここのモンスターに倒されるほどやわじゃあない」

 

「どこまで行きますか?あまりこっちの方には来ていないので、この辺りのセーフゾーンとなると……」

 

それなら私達で先導しようと、リリィが前を歩いていく。それに反応してモンスターが襲って来ようとするものの、的確にウィルバートが撃ち抜き1体たりとも近づかせない。

 

「メイプルが戦うなら、まずは大盾の後ろに隠れないとね」

 

ウィルバートの狙いは凄まじく正確で、AGIが最低値のメイプルの動きなら多少ステップを踏んだりしても無意味だとセイバーとサリーは予想する。それだけで止まらず、顔や足が盾から出ただけでもその部位を撃ち抜かれる可能性すらあると直感する。

 

「うぅ……ほ、本当にそうなりそう」

 

「私も弓の基本スキルは知ってるけど、撃つ矢の本数を変えたりもできるし、山なりに撃ったりもできるからね」

 

「ええ、隠すことでもありませんからね。当然私も弓の基本スキルは取得していますよ」

 

「……ウィルバートさんの場合はそれ以上があるでしょうけど」

 

「ま、今は予想の段階なので断定はできませんけどね」

 

「どうでしょう。といっても、その様子だと予想はほぼ終わってるみたいですね」

 

「何もなしであの威力と速射はあり得ませんから」

 

「いい観察力だと思います」

 

「はは、ウィルは強いよ。例えばサリー、君の回避能力は噂に聞く。けれど、気付いた時には当たっているような速度で飛んでくる矢を避けることは難しいだろう?」

 

「……どうでしょう?」

 

「言うね?君の力も見てみたくなってきたよ」

 

「俺なら躱すのはキツそうだから剣でガードしないと不味いかな」

 

「サリー以下の速度の君にそれが出来るのかな?」

 

「さぁ?やってみないとわからないですね」

 

ベルベットが言っていたのはこういうことだったのかと1人面白そうにするリリィに、メイプルが話しかける。

 

「リリィさんの装備いいですよね!」

 

「これかい?まあ長い間使ってきたからね。そろそろ似合ってきたのかもしれないな」

 

そう言ってリリィはモップをくるくると回して遊ぶ。

 

「元々リリィは気に入っていなかったんですが、まあ装備が装備ですから」

 

「そう!ようやく手にしたレア装備でこれが出てきた人の身になってみてほしいよ」

 

リリィが纏う雰囲気は奉仕する側というよりは上に立つ側のそれである。そのためギルドマスターになっているのも頷ける。似合わないというのもその堂々とした雰囲気にそぐわないということなのだろう。

 

「装備としては一級品さ。この服も槍ということになっているモップもね」

 

「それ槍だったんですか!?」

 

「ああ、と言っても見た目通り攻撃力はほとんどないんだけどね」

 

「……結構教えてくれるんですね」

 

「中々気前が良いじゃないですか」

 

「大したことじゃあない。それに……」

 

リリィはそこでサリーの方を振り返って、挑戦的な笑みと、強い自信を感じさせる雰囲気とともに言い切る。

 

「たとえ全てのスキルを知られてもウィルと私なら勝てると考えているからね」

 

「いつも言いますが、過大評価です」

 

「いやいや強さとはそういうものさ」

 

「……私は私にできることをするまでです」

 

「ああ、ウィル。それでいい。と、そういう訳さ」

 

「ベルベットやキャロルと気が合いそうですね」

 

「ベルベットやキャロルはかなり自信家だから分かるところも多い。それに実際ベルベットとヒナタとキャロルは強い」

 

「次にランキング形式の戦闘があれば勢力図もまた変わるでしょう。と、セーフゾーンはあちらですが……必要なかったかもしれませんね」

 

話しながらでもモンスターを全て撃墜していくウィルバートと、話しながら歩いていても問題ないメイプルが相方を守っているのだから、どこもかしこもセーフゾーンのようなものである。

 

「まあそう言うなウィル、腰を落ち着けて話す方が会話も弾むさ」

 

「それもそうですね」

 

こうして5人はモンスターが介入してこないセーフゾーンへと行くのだった。

 

平原の外れにある大木、それを中心とした一定範囲にはモンスターが寄ってこないため、のんびりと話をしていても問題ない。

 

「イベントで活躍しているところを見たことがあるだけだったからね。いつか話してみたいとは思っていたんだ。ベルベットにはあとで礼を言っておかないと」

 

と、そう言われても3人は、遠目からベルベットの言う面白いプレイヤーがどんな人を確認するために来た程度で、ここまでしっかり話すことになるとは思っていなかったため、特に聞きたいことなど用意してきてはいない。

 

「ふぅん。ならこちらから1つ聞いてもいいかな」

 

「はいっ!」

 

「君達の切り札になるようなスキルを教えてくれないかい?」

 

「おっと?質問が直球すぎやしませんか?」

 

そのあまりにも直球な質問にメイプルとサリーは揃って目を丸くして、セイバーはすぐに反論する。その表情を見て、リリィはおかしそうに笑うと改めて話し出した。

 

「半分冗談だよ。それじゃメリットがないからね。だからさ、ベルベットとそうしたみたいに私達ともダンジョンに行くのはどうだろう?」

 

3人にとってはメリットもある話である。ベルベットとヒナタ、キャロルの強さを思い返すに、【集う聖剣】や【炎帝ノ国】以外にも警戒すべきギルドは増えてきている。

今まで強かったギルドは、すなわちユニークシリーズや強力なスキルのシナジーをいち早く手中に収めたギルドである。時間が経つにつれそれらは増え、二強大規模ギルドという形も変わってきつつあった。

 

「君達も知りたいはずだ。それに私達も君達の変化を見ておきたくてね」

 

そう言うリリィの表情から、セイバーとサリーは意図を読み取った。つまり、【楓の木】のトップスリーと言えるセイバーとメイプルとサリーは変わらず警戒すべきなのか、最早それほどではなくなったのか、それを見極めようとしているのだ。

セイバーとサリーはリリィにはベルベットより正確にこちらが隠しているスキルなどを行動から読み取ってくるだろうと察する。下手な隠し方は効果がないだろう。

 

「セイバー、サリーどうしよう?」

 

「いいんじゃないかな。実際ウィルバートさんの弓を見られるなら、今後の対策に役立つだろうし」

 

「デメリットを差し引いてもメリットの方が大きいんじゃない?」

 

セイバーとサリーは自分のものはもちろんメイプルのスキル構成もきっちり把握している。その上でリリィ達が知っていそうなスキルは使ってしまってもそこまで情報に影響はない。目の前で戦闘することで戦い方の癖を見られる可能性はあるが、切り札となるようなスキルさえ隠しておけば戦況はひっくり返せる。

 

あとは、リリィも言っていたように、見せた上で勝ちきれると確信できる、例えば対策の立てようのないスキルなら見せても何ら変わらない。

 

「ま、メイプルはいつも通り戦って大丈夫」

 

「むしろ下手に隠すよりはある程度までなら見せた方が良いかも」

 

「分かった!頑張るね!」

 

メイプルの戦闘を支えている重要なスキルは第4回イベントから変わっていない。いくつか新たに手に入れたスキルによってできることは増えたが、基本は【身捧ぐ慈愛】で守って召喚系スキルと遠距離攻撃系スキルで戦うスタイルだ。

第4回イベントで大注目を浴びたため、いつも通り戦っていればその時のままのスキルを目の前で見られるだけである。

 

「ではどこへ行きましょうか。ここから近いとなると……」

 

「あそこにしようウィル。モンスターの量も多いし、絡め手も使うだろう?ベルベットが案内した闘技場よりは難しいが似たダンジョンになる。さ、私達にも見せて欲しいね」

 

リリィはそれをちょうどいい場所として提案し、3人もそれに反対する気もなかった。そうして5人で近場のダンジョンに向かうこととなったのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと2つの戦術

セイバー、メイプル、サリーは【ラピッドファイア】のリリィやウィルバートとダンジョン攻略をすることになった。その道中は何も問題なく進み、無事ダンジョンへと入るための魔法陣の前へとやってくる。そこは緑に包まれた森の中でもさらに緑の濃い場所で、魔法陣を中心に蔦が木々を覆い尽くしており、まるでエネルギーを吸い取っているかのような感じである。

5人はパーティーを組んだため、あとはここに乗れば5人全員でダンジョンの中に突入することができる。

 

「見た目は危険だけど、問題ない。乗るといい」

 

「うん、2人共行くよ!」

 

「はいはい」

 

「ここでも楽しむとするかな」

 

メイプルが最後に足を乗せると5人を光が包み込み、ダンジョンの中へと導く、そこは壁や地面が全て木でできた場所だった。

 

「ここのモンスターは火属性に弱いですが、しかし火を使うとダンジョンの特性によりデバフを受けることになってしまいます」

 

「マジっすか」

 

デバフの内容はステータス低下、与ダメージ低下、被ダメージ増加と、よく見るものが一気にかかる仕様になっている。メイプルとサリーは無理に炎を使わずとも戦闘ができるため、このダンジョンでもやりようはある。だが、セイバーは主力である烈火やブレイブが火属性メインのため、今回は別の聖剣での戦いをせざるを得ない。

 

「私は朧のスキルくらいかな。メイプルも大丈夫そうだね」

 

「うん、炎は特に使わないよ!」

 

「俺は今回は狼煙を使うか。狼煙、抜刀!」

 

「まずはお手並み拝見といきたいね」

 

「任せてください!」

 

こうして一つ区切りと言えるような場所が来るまで、セイバーとメイプルとサリーの3人で戦うことになった。リリィ達は【身捧ぐ慈愛】に守られつつ、まずはメイプル達の戦闘を観察する。

しばらく進むと地面に、ここにきたのと同じような魔法陣が展開されそこから全身が木でできた人型モンスターが3体現れる。3体それぞれに特徴があり、1体は両腕が大きくなっており残り2体はそれぞれ木でできた弓と剣を持っていた。

 

「セイバー、メイプル、シンプルにいこう!」

 

「【全武装展開】【攻撃開始】!」

 

「【煙幕幻想撃】!」

 

目の前には3体の敵、そしてここは通路の途中。となればやるべきことはただ1つである。セイバーが剣から遠距離も対応できるスキルを放ち、メイプルも兵器を生み出すとその全てをモンスターに向け一斉射撃を開始する。

いかにもな雑魚モンスターはセイバーの斬撃とメイプルの銃弾の雨を浴びて、そのまま爆散した。

 

「ナイス2人共!」

 

「このくらい当然だ」

 

「まっかせてよ!」

 

その後も3人の快進撃は止まらず、モンスター達は、通路いっぱいに広がった兵器によって作られた弾幕とセイバーから撃ち込まれる斬撃を越えることはできずにいた。リリィとウィルバートは後ろからその様子をじっと見て、噂通りの能力かを確かめる。

 

「どう思うウィル」

 

「確かに強力ですが、メイプルは1発ごとの威力はそう高くないように見えますね。ただ、セイバーの方は高火力の攻撃をほぼノーリスクで撃ってますが」

 

「事実そうさ。ウィル、君ならメイプルのその弱点を突ける。セイバーはまだもう少し観察が必要そうだな」

 

「ええ……ただ、2人のどちらを倒すにしても戦闘場所を吟味する必要はあるでしょう」

 

改めて実物を見てみるのは大事なことで、見た目の派手さと強さは必ずしも釣り合うものではないからだ。ウィルバートの弓はメイプルの銃にも負けない速度と、それ以上の威力を持つ。無策で正面から撃ち合うようなことがなければ一撃の重さは生きてくるだろう。

 

「とはいえ改めて見てもこれをどうにかするのは骨が折れるね。第4回イベントで初めて見た人はさぞ驚いただろう」

 

「セイバーに関してはどういう訳か第4回イベントで使ってない剣を使ってくれてますね。情報を与えたくないなら炎、水、雷、土、風、音の剣のどれかを使えば良いのに」

 

「炎はこのフィールドではデメリットがあるから使わないにしても確かに妙だな。何か裏があるのか、それともただ純粋にその場の気分で聖剣を選んでいるのか……」

 

そう言っている間にも、2人は雑魚モンスターをなぎ倒して一歩一歩進んでいく。モンスター側としても兵器を展開し通路を塞ぎつつ、先制射撃をしてくるメイプルをスルーすることはできない上に、メイプルの更に後ろから飛んでくる強力な斬撃を前に無残に散って犠牲となっていった。

 

 

そうこうしているうちに一区切りと言えるような場所が来た。今までの狭い木の通路から変わって、開けた場所に出る。

壁の雰囲気は同じだが、床にはシロップの花園のスキルのように、様々な色の薔薇が咲き、いばらが張り巡らされている。今までとは違い明らかに広く、様子の異なるその空間にセイバーやサリーは勿論、メイプルも流石に何が起こるか察する。

 

「強いモンスターが出てきそう、かも」

 

「正解!来たよ!」

 

「さぁ、楽しませてくれよな」

 

地面のいばらがみるみる太くなり、部屋の中央で絡まり合うと、一際大きな赤いバラを咲かせる。それは意志を持っているかのように両脇に伸ばしたいばらを操り、鞭のようにしならせている。

 

「ここを過ぎたら変わろうか。3人でも勝てるだろう?」

 

「が、頑張りますっ!」

 

「メイプル、防御は任せるよ。ダンジョンの仕掛けさえ知ってれば、大丈夫なはず」

 

「俺も前に出ますか」

 

見た目から火属性の攻撃を撃ちたくなるように誘っているが、3人はこのダンジョンでそれはしてはいけないことだと知っているため、罠にはまることはない。セイバーとサリーが駆け出したのをきっかけとして、戦闘が始まる。

 

「【滲み出る混沌】【攻撃開始】!」

 

中央に咲く巨大な薔薇にメイプルが放った化物が直撃し、それに続いて追撃の弾丸が放たれる。同時に、セイバーとサリーのためにジリジリと前進して【身捧ぐ慈愛】の範囲内に巨大な薔薇が入るようにする。これで2人の安全を確保すると、あとは後方からの射撃に徹することにする。

 

2人は2人でメイプルにより守られつつも、貫通攻撃などを受けることによってメイプルにダメージが入ることがないよう、油断なく薔薇に向かっていく。

 

「はあっ!」

 

「ふぅっ……!」

 

2人の前から迫ってくるいばらの鞭は計4本。左右から2本ずつ角度をつけて向かってくるそれを2人はギリギリまで引きつけてすり抜ける。1本、2本。メイプルの【身捧ぐ慈愛】ありきの挑戦でないことは、見ているリリィ達にも伝わってくる。

 

「へぇ」

 

「なるほど……」

 

ベルベット達がそうだったように、直接目の前で見るのでは全く違って見えるものだ。

 

「どうだいウィル。当てられるかい?」

 

「ただ速いだけの矢では捉えられないでしょうね。それに……」

 

後方で地面から生えてきた複数のいばらに締め上げられながらけろっとしているメイプルを見て、ウィルバートは苦笑する。

 

「あちらも、ただ高威力の矢では無意味でしょう」

 

「噂通りというわけだ」

 

再度セイバー、サリーに目を向けると、6本になったいばらを完璧に避けて斬り返しているところだった。メイプルを今も襲っている地面から突き出すいばらも、2人を捉えることはない。ただ、スキルを使って攻撃していないため、HPはじりじりとしか削れない。

 

普通のプレイヤーならギリギリの回避を続けていては、焦って一気に決めにいきたくなるものだが、綱渡りのような回避を当然のように続けるのは、それが最早当然だということを示しているのだろう。

 

「セイバー、メイプル!一気に行くよ!」

 

「おう!」

 

「うん!」

 

メイプルは兵器を爆発させて周りのいばらを吹き飛ばすと、そのまま薔薇に向かって突撃する。

 

「【捕食者】!」

 

黒い盾を構えつつ、こちらは両脇に化物を携えて薔薇の花に一直線に落下する。

 

「とうっ!」

 

全てを飲み込む盾は薔薇の花をもぎ取るようにして引きちぎると、その花にも負けない赤いダメージエフェクトを散らせる。【捕食者】にはいばらと潰し合いをさせて、支えがないメイプルはそのまま後ろの地面に激突して転がっていく。

 

「ま、貫通攻撃じゃなさそうだったけど。念のため、ね!【クインタプルスラッシュ】!」

 

「【ビーニードル】、【煙幕幻想撃】!」

 

サリーは片手ごとに5連撃、さらに【追刃】で追加5連撃。誰でも覚えられる短剣のスキルもバフをかけつつ20連撃まで引き上げれば立派な切り札になる。

セイバーもセイバーで強力なスキルを両手同時に使用することで擬似的な二刀流となり、聖剣1本だけではできない連続攻撃を仕掛けていく。

 

メイプルによって大ダメージを受け怯んでいる隙に2人が追撃を仕掛ける。今まで通りの黄金パターンで花を支えていた茎部分を細切れにすると、パリンと音を立てて薔薇のモンスターは光となって消えていった。

 

「お疲れ様2人共。大丈夫?」

 

「うん!棘だらけだったけど貫通攻撃じゃなくてよかったあ」

 

「こんなの相手にもならなかったな」

 

「みたいだね。それならもっとアグレッシブに行っててもよかったかも」

 

地面に転がっているメイプルに手を貸しつつ、鎧についた埃を払っていると、見ていた2人が近づいてきた。

 

「いいね。実際目にしてみると信じ難い戦い方だったよ。君達の強さはやはりその基礎性能にあると実感したよ」

 

メイプルの射撃はその常軌を逸した防御力によって完全固定砲台となることができるため、精度を高めやすい。動き回って相手の攻撃を避けるというプロセスが必要ないのは強みと言える。

サリーもまたその回避力があってこそのカウンター攻撃が全ての軸になっている。

セイバーの聖剣もスキルを組み合わせることにより普通に斬るよりも高い真価を発揮する。今回は煙の力を隠していたが、それを込みでもセイバーの剣捌きだけで十分な力を発揮していた。

リリィの言う通り、スキルや立ち回りは3人の基礎性能に強く影響を受けていると言える。

 

「今度は私達の戦い方を見せようか。そうだな……君達が見せてくれたのと同程度の情報量でね」

 

「全て見たければ手の内を明かせということですね」

 

「ま、俺達も隠しているし当然かな」

 

「まあ、そんなところさ。私はいつでも歓迎するよ」

 

リリィはここに来る前に言っていた通り、見られても問題ないと思っている。全てのスキルを知られても勝てるというのが嘘ではないと仮定するならば、そもそも対策のしようなどない類のもので、セイバー達がスキルを見せれば見せるほど不利ばかりがつくのかもしれない。

 

セイバーとサリーは考えた上で、ここは見れるだけ見ておきたいと結論づける。リリィが洞察力に長けているのと同じように、2人もまたそうである。スキルを隠されていれば雰囲気から読み取れる。

 

セイバーは自身は兎も角、弱点が明確なメイプルとサリーのことを考えると、恐らくこういうスキルを持っているという予想も含めて、情報を得ておこうと考えており、それはサリーも同じ考えだった。

 

「とりあえず、約束通り次は私達が前を行こう。よく見ておきなよ」

 

「はいっ!」

 

「……ふふっ、いや、なんでもない」

 

駆け引きというよりは純粋にどんな戦い方をするのか興味があるという様子のメイプルに、少し毒気を抜かれたようなリリィはウィルバートを連れて少し前を行きつつ、小声で話す。

 

「爆発力もある。いいチームだよ」

 

「そうですね。それに、やはりメイプルさんの【身捧ぐ慈愛】は対象に取れる数に限りがないように見えます」

 

「ああ、ギルド総出で来る時が最大出力だろうね。その時は私が相手をするとして……セイバーとサリーの方に少し気になることがある」

 

「2人の回避能力でしょうか?」

 

「そうだね。例えばだ、ウィルが今私に矢を射るとどうなる?」

 

質問の意図がわからないという様子ではあるものの、ウィルバートは弾かれて無効化されると答える。味方への直接攻撃は着弾と同時に無効化されてしまう、だからウィルバートのように遠距離から攻撃する際は立ち位置も重要になってくる。

 

「そうだ。さっき見ていて思ったのさ、メイプルの銃撃の狙いは上手いとは言えない。その上モンスターの前には壁になってしまうセイバー、サリーがいる。なのにどうして順調にダメージが出るのか」

 

「モンスターに当たる軌道の弾を…………いや、そんなことができるんでしょうか?」

 

「さあ?私は後ろに目がついてても無理だよ。ともかく、アレは後ろから飛ぶ味方の弾も避けてる。それもあの滅茶苦茶な弾幕をだ。もちろん調子にもよるだろうけど……分かるだろう?」

 

リリィがそう言うとウィルバートは小さく頷く。

 

「はい、あのスキルは使わないでおきましょう」

 

「うん。その上、セイバーについては最後まであの聖剣の真の力を隠し通した。使っていたスキルの名前からして恐らくアレは煙の力を使えるのだろうが、その力を全く使わなかった」

 

「厄介ですね。彼があの剣を使った理由は真の力を隠しながらでもある程度は戦えるとわかっていたからでしょうね」

 

「しかもあの2人に加えてメイプルがいるからね、難しいよ。対峙するとここまでに見えるとはね……まあ狙い撃ちと速射は私達の得意分野さ。当ててみせようじゃないか」

 

「はい……そうですね」

 

ベルベットの紹介に感謝だと口にしつつ、リリィは戦闘のことなど二の次で2人はセイバー達を倒す手順を考えるのだった。

 

薔薇を倒した3人は約束通り次は後ろを歩いてリリィ達の戦いを見ることになった。

と言ってもいかにもな雑魚モンスターの木の人形はウィルバートがその大弓で一度矢を放つ度に砕け散って消えていく。

 

「この戦闘にならない感じはユイとマイ以外にはないと思ったけど……」

 

「まさかここにもいたとはな」

 

「本当に全部一発だよ!外してるところも見たことないし……」

 

「移動速度がメイプルより普通に速かったし、そもそも弓はDEXが高くないと取得できないスキルも多いから、攻撃極振りってことはないと思う」

 

「ここにマリアさんが入るとなると、中々厄介なことになりそうだな」

 

遠目に見ていた時と違い分かることは、現状リリィが何かスキルを発動させた様子がないということである。目の前から来るモンスターはこれもまた一切スキルを使わずにウィルバートが撃ち落としており新たな情報は何もない。

 

「んー、となるとパッシブスキルか……」

 

リリィは自分のメイド服をレア装備だと明言している。とはいえ真偽は定かではないが、少なくとも槍使いとして一般的な武器と防具を身につけるより、あの装備を優先する理由があるわけだ。

 

「ま、さっきの薔薇みたいなちょっと強いモンスターに期待しよう」

 

雑魚モンスターは文字通り雑魚扱いなため、戦闘になるような相手が必要なのだ。そうして、リリィがくるくるとモップを回して遊んでいる中、ウィルバートがきっちりモンスターを倒し切って、再び広間にやってきた。

 

「ウィル、ここは何だったかな」

 

「キノコですね。少々厄介です」

 

「なら私も少し手を貸そうか。約束通りさ。それに退屈になってきていたところだったんだ」

 

「ええ、助かります」

 

そんなやりとりをする2人の前で地面から胞子が吹き出し、中央に大きなキノコが生える。それに遅れて周りにもキノコがいくつも生えてくるとそれらは意志を持って2人に向かってくる。

 

「【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】んー……あ、【賢王の指揮】!よし、これでよかったはずだ」

 

「【引き絞り】【渾身の一射】」

 

ウィルバートの弓が赤い光を纏う中、限界まで引き絞られた弓から目にも留まらぬ速度で放たれた矢は直線状にいたキノコ全てを貫いて、その延長線上にいた大元の大きなキノコの中心に風穴を開ける。

しかし撃破とはいかなかったようで、大量のダメージエフェクトを散らしながらもほんの僅かにHPを残していた。直後HPが3割ほど回復し、辺りに大量の胞子が撒き散らされ、数十では効かないほどのキノコが生み出される。

 

「あれ?前はこれで倒せていたと記憶しているが」

 

「3割なら何とかなりますよ」

 

「ならもう少し手助けをしようか。【この身を糧に】【アドバイス】」

 

キノコ達が毒々しい色の胞子を撒き散らしながら近寄ってくる中、リリィはスキルを発動するが、特に目に見える影響は発生しない。

 

「ええ、では行きます。【範囲拡大】【矢の雨】」

 

次いでウィルバートが空に向かって矢を放つと、それは文字通り辺り一帯に矢の雨となって降り注ぐ。【範囲拡大】によって隙間のなくなった矢の雨が次々にキノコ達を貫いていく。それは大元のキノコも同じことで、特に何かをする前にウィルバートによって容易く撃破されてしまうのだった。

 

「いいね。気持ちいい倒し方だ」

 

「でしたら、一射目にもう少し……」

 

「あはは……それを言うなよ」

 

リリィは笑ってごまかすとセイバー達の方を振り返って感想を求める。

 

「すごかったです!弓ってこんなに強いんですね……」

 

「ウィルは特別さ」

 

「……一射目。恐らく対象ごとで一射目に威力が跳ね上がるパッシブスキル」

 

「あ、同じことを言おうとしたのに先に言われた!」

 

「へぇ……」

 

今回初めて見ることができたウィルバートの同一対象への2射目。2人の知らないスキルによるバフは大量にかかっていたものの【矢の雨】については知っていた。基本的な弓のスキルで、範囲攻撃ゆえに威力はそう高くない。

しかし、ウィルバートの2回の攻撃を比べると、今までと比べて威力が激減していることが見て取れた。バフ自体はリリィによって追加された中【矢の雨】の元の威力から予想すると、何らかの大きなバフがすっぽり抜け落ちた跡があったのである。

 

「ほぼ当たりだよ!やるねぇ」

 

「嘘……じゃなさそうですね」

 

「わかったとしても大丈夫とでもいえるのでしょうか」

 

「そういうことだね」

 

「そう、ですか」

 

「ああ。そうだ、適中の景品に、ボス戦も私達がやるよ」

 

「えっ、いいんですか?」

 

ボス戦が見られるならまた新たなスキルを知ることができるかもしれない。断る理由はない。

 

「ああ、そうだ。かわりに道中はお願いしてもいいかい?ここからは道が分かれ始めるけど、上手くルートを選べば今みたいな広間を避けられるし」

 

「はい……それはまあ」

 

「これに乗らない手は無いな。サリー、ボスは2人に任せよう」

 

セイバーはすぐに受け入れ、サリーはその提案を不思議そうにしていたものの、結局はリリィの提案を受け入れることにし、また2人の前を歩く。そして、少し離れた位置でウィルバートはリリィと話し始めた。

 

「いいんですかリリィ」

 

「言ったろう?退屈してきたところだったんだ」

 

「ああ……分かりました」

 

「それに、並大抵のモンスターじゃあこれ以上情報は引き出せないさ。メイプルもむやみに新たなスキルは使わないだろうし、セイバー、サリーは尚更だ」

 

ボス戦までは特にすることもないだろうと、リリィは時折正解のルートを3人に伝えるだけであとはモップを手で弄んでいるのだった。

 

 

 

そうして5人は問題なくボス部屋前までたどり着いた。ウィルバートのように一撃必殺とまではいかなくとも、メイプルとサリーも安定して雑魚モンスターを処理できる。メイプルがいる限り貫通攻撃を持たないモンスターには万に一つもチャンスがないのはいつものことである。

 

「約束通り、ボスは私とウィルでやるよ」

 

「はいっ!頑張ってください!何かあればいつでも……」

 

「はは、大丈夫さ。それよりも、よく見ておくことをオススメするね」

 

「……?」

 

「何かありますね?」

 

真意は分からないものの、メイプルはその言葉に大きく頷いて、2人に続いてボス部屋の中へ入る。ボス部屋の最奥には青々とした葉をつける枝に覆われた祠があり、その前には、子ども程度の背丈の、木の葉でできた服を着て先端に花が咲いている木の杖を持った人形がいた。道中の人形や植物達の親玉であり、それは精霊や木霊といったイメージから作られていると分かる。

 

「あ!前にああいうモンスターと戦ったことあるよ!」

 

「……ジャングルにいたって言ってたやつかな?ちょっと見た目は違うっぽいけど」

 

似たような攻撃をしてくるなら、強制的な装備の変更など絡め手主体となる。ただ、見た目は似ていても中身は違うということがすぐに証明される。

まず手始めと言わんばかりにボスは両脇からメイプル達が倒した薔薇を呼び出すと、さらに魔法陣を地面にいくつも展開し、そこから木の人形を次々に呼び出す。

 

「うん、いつ見てもいい相手だと思うね」

 

「ほらリリィ、来ますよ」

 

モンスター達が向かってくるのを見て、しかしウィルバートは弓を下ろすと、リリィとともにとあるスキル名を口にする。

 

「「【クイックチェンジ】」」

 

それと同時に2人の装備がガラリと変わる、ウィルバートはリリィと入れ替わるようにして執事服を身に纏っており、リリィはというとメイド服のかわりに煌びやかな装飾がなされた鎧を纏い、モップのかわりに紋章の入った旗を持っていた。

 

「【我楽多の椅子】」

 

リリィがそう宣言すると背後に壊れた機械の寄せ集めでできた高い背もたれを持つ椅子が出現する。メイプルの【天王ノ玉座】にも似たそれはわずかに宙に浮いており、リリィはそこに飛び乗ると召喚を続けるボスを見つめる。

 

「【命なき軍団】【玩具の兵隊】【砂の群れ】【賢王の指揮】」

 

「ではお願いしますよリリィ。【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】」

 

リリィの声とともにボス側にも負けないほどの量の機械兵が現れる。3人共、それがどの層由来のものかはすぐに理解できた。

それらはそう、メイプルが持つ兵器からは劣るものの砲や銃を携えており、質を数でカバーすることができると思わせるものだった。

そして、そんなリリィに対しウィルバートは聞き覚えのあるスキルで支援を行う。

 

「わわっ!?」

 

「役割の入れ替え……それも高水準の」

 

「なるほど、1人相手ならウィルバートさん、多人数相手ならリリィさんか。マリアさんは1人でそれをこなしていたけど、こっちは2人での入れ替えですか」

 

どうやっているかは置いておいて、セイバーとサリーは目の前の現状を整理する。ウィルバートは弓を持っておらず、かわりに投げナイフを使っているが、先程までの威力はない。逆に一気に脅威となったのがリリィである。

 

リリィは次から次へと機械兵を呼び出しては射撃によって攻撃させる。何種類かの召喚スキルを併用し、それら全てにバフをかけているようで、凄まじい制圧能力になっている。

 

召喚された兵士を倒すことはそれほど難しくないようだが、補充される速度が速く、ボスの召喚したモンスターは押し込まれていく。

圧倒的質のウィルバートと圧倒的量のリリィ、2人はこれを切り替えつつ、もう片方がバフに徹する戦闘スタイルをとっているのである。

 

「ふぅ……対策しないといけないことが山積みだね」

 

「うん、私も頑張るよ!」

 

「ありがとう」

 

「これでもギルドマスターだからね!」

 

「ふふっ、そうだね」

 

「中々面白いな。これは対策のしがいがありそうだ」

 

目の前で起こる軍団対軍団の戦いを眺めつつ、3人はまた新たな強敵の登場を実感するのだった。




とうとうこの小説のお気に入り数が500を超えました!読者の皆様には感謝しかありません。これからもこの小説をよろしくお願いします。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと白銀のタテガミ

リリィ達とダンジョン攻略をしてから数日。セイバーはいつもの如く七層にいた。リリィ達とはフレンド登録はしたものの、あれ以降はまだ会っていない。2人がボスを倒した後はそのまま現地解散となったため、倒した後に話す時間は少なかった。

 

リリィ達は結局、その召喚スキルによってボスを叩きのめしていった。そして見たからには対策を立てないわけにもいかないと、サリーが戦いで手に入った情報と今現在、できることから対策を考えているのだった。

 

「俺も対策立てないとダメかなぁ……」

 

次のイベントについての情報は既に出ており、今回はプレイヤー達は完全協力型のイベントで、探索重視となっている。なんでも、そのイベントの成果次第では次の第八層で有利に動けるようになるらしい。

 

「ま、俺のやる事は変わらないし、いつも通りに行きますか」

 

そう言ってセイバーが森の中を探索しているといきなり横からキックが入った。

 

「痛ってぇ!!」

 

「なーにのんびりしているのよ。遊んでいる暇は無いんだからね」

 

そこに立っていたのはサリーだった。どうやら、この日はサリーも七層にいたらしく、のんびり構えているセイバーを見つけて喝を入れにきたのだ。

 

「サリー、お前毎回毎回いきなりすぎるんだよ!蹴られる俺の立場にもなれよ!」

 

「へぇ〜、そうかしら。まぁ、ベルベットやリリィ達の対策を練ってる私と違ってアンタは暇そうだし別に蹴っても良いかなって」

 

「この野郎やる気か!」

 

セイバーとサリーが喧嘩しそうになるといきなり足元に攻撃が飛んできて大爆発が起きた。2人がそれを躱すとその先に魔法陣が現れて2人は強制的に転移させられることになった。

 

「へ?」

 

「嘘でしょ」

 

2人が転移した先で目を開けるとそこは先程までと同じ場所だったが、サリーは何故か衣装を変えさせられて、いつも両手で持つダガーや、機動力の高い装備が消えており、代わりにお姫様のような服装を着させられていた。セイバーの方は何とも無いのかいつも通りの装備だった。

 

「サリー、どうしたその格好は……」

 

「なんか、転移させられたら格好も変わってて、もう訳がわからない」

 

「ふーん。それで、ステータスは無事なのか?」

 

「えっとね……あ。これ、ヤバいかも」

 

サリーがそう言ってセイバーにステータスを見せるとSTRやAGIが20と低く設定されており、MPやINTに至っては0だった。その代わりにHPとVITがそれぞれ500と50となって普段の機動力が高いステータスから防御よりのステータスへと変わってしまっていた。

 

「待て待て待て。他人のステータスすらも強制変更できるのかよ。もうここの運営何でもアリだな」

 

「それにしてもどうして私だけ……」

 

サリーがセイバーに問いをぶつけていると突如として笑い声が聞こえてきた。2人がその方へと歩いていくとそこにはセイバーにとって見覚えのある怪人が立っていた。

 

その姿は牛や山羊を思わせる黒い角と鋭い牙を持つ屈強な体格であり、白い体色には青い模様が入っている。更には身体の各所に獣の爪が生えており、また首元には引き千切ったのような短い鎖が垂れ下がっていた。

 

「お前は確かズオス!」

 

「セイバー、知り合いなの?」

 

「ああ。この前烈火の装備の暴走が抑えられるようになったときに戦ったレジエルって奴の後に出てきて、今度は戦おうって言っていたんだ」

 

『覚えていてくれて嬉しいぜ。ただ、今回は特別ルールだ。そっちの女を護りながら俺と戦ってもらう』

 

「はぁ!?なんで私が護られなきゃいけないのよ!私だってやれるんだから覚悟しなさいよ!」

 

「おい、サリー。お前ステータスが戦闘用じゃないの忘れてないか?」

 

「……あ」

 

「あ。じゃねーよ!ここは俺に任せて下がってろ。今回に限っては足手纏いだ」

 

セイバーのその言葉にサリーは悔しそうに俯きながら拳を握り締めるとセイバーの後ろに下がった。

 

『さぁ、楽しませてもらうぜ!』

 

「ズオス。お前はやっては行けないことをやったな。俺の怒りはMAXだぜ!流水抜刀!」

 

セイバーは流水を、ズオスは自身の武器である2本の蛮刀を使い、激戦の火蓋を切って落とした。

 

「うおりゃあ!」

 

『うらあっ!』

 

セイバーとズオス、2人がそれぞれの武器を激しくぶつけ、鍔迫り合いとなるとそれぞれが相手の体を蹴って距離を取った。

 

『少しはやるな』

 

「こちとらお前以外にも激戦は何度もしてるんでね、熟練度の差を見せてやる。【キングキャノン】!」

 

セイバーは遠距離から砲撃を放つとズオスは1発目は後ろへと飛び退くことで回避し、そのまま前に突っ込んでくると2発目を地面に飛び込むことで上手く躱しつつ距離を詰めた。

 

「お。だったら、【ウォータースラッシュ】!」

 

セイバーは接近してくるズオスを相手に水のエネルギーを流水に集約させてズオスへと振り下ろした。ズオスはこれを蛮刀で防ぐとそのまま上へと押し上げ、蛮刀による斬撃をセイバーへと入れた。

 

『どうした?この程度か』

 

「くっ……痛てぇなこの野郎。【アクアトルネード】!」

 

セイバーは流水の姿での得意戦法である豊富な飛び道具を活かすためにノックバック性能のある水の竜巻でズオスを吹っ飛ばしつつダメージを入れるが、思ったよりもノックバックが控えめだった。

 

「これは、ノックバック耐性か。厄介な効果も持ってるな」

 

『ふん。この程度の水流、ものともしないぜ』

 

「だったら、これでどうだ」

 

セイバーは剣に力を込めると聖剣が青く光り、力がフルに発揮されるようになった。

 

『面白れぇ。来いよ』

 

「はあっ!」

 

セイバーは走っていくと流水を斜めに振り下ろした。当然、ズオスは2本の蛮刀でガードするのだが、その圧力はズオスを上回り、今度はセイバーがズオスへとダメージを与えた。

 

『チッ!』

 

「【グランドレオブレイク】!」

 

更に至近距離から放たれた突進しながらの突きはズオスの体を貫き、HPを一撃で1割弱持っていった。

 

「これでも1割程度か。随分と硬いんだな」

 

『お前、やっぱり見越した通り強いな。けど、今回の特別ルールを忘れたとは言わせねーぜ。オラよ!」

 

ズオスは2本の蛮刀での斬撃を自身の後ろにいるセイバーにでは無く、ズオスを挟んで反対側にいるサリーに向けて放った。

 

「やばっ!」

 

サリーは咄嗟に回避行動を取ろうとするも、いつものAGIが無いのと、反応が遅れたこともあって躱すことはできそうに無かった。

 

「だったら!【ライオン変形】、【キングドライブ】!」

 

セイバーはライオンへと変化すると激流を纏い、ズオスへと突進。彼を弾き飛ばしつつ最短距離でサリーの目の前に到達すると斬撃を口に咥えた流水で真っ二つに切り裂いた。

 

「おいおい、何するつもりだったんだよズオス」

 

『見ての通りだ。そうやって油断しているといつでもそっちの女を攻撃するってことだ』

 

「やってくれるな。けど、今回は上手く凌いだぜ。それに、この姿を引き出させてくれてこっちはラッキーだ。この姿のままお前をぶっ倒してやる。【キングドライブ】!」

 

セイバーは本日2度目の水を纏っての突撃を発動し、ズオスへと突っ込んでいく。そしてそのまま流水で彼を両断しようと振り抜くとその攻撃は見事に2本の蛮刀で防がれていた。

 

「な、何!?」

 

『残念だったなぁ。同じ手は2度と喰らわねーんだよ』

 

「だったら、【キングキャノン】!」

 

セイバーはそのままゼロ距離で両肩の水の大砲から砲撃を放ち、その爆風を利用して距離を取るとライオン状態を解除した。

 

『おいおい、解除しちゃって良かったのかよ?』

 

「同じ手が通じないなら違う手で攻めてやるって所だ。最光、抜刀!【シャドーボディ】!」

 

セイバーは光剛剣最光に変化し、影の体に自身を持たせるとズオスを見据えた。

 

『新しい姿か。中々面白いじゃねーか』

 

「今度はこの姿で相手してやるよ」

 

『ふん。ならばこっちもフィールド変更と行くか』

 

ズオスがそう言うと、手にした本をめくった。すると、フィールドが変わっていき、先程までの森の中から、草原のフィールドへと変化した。

 

「状況が変わったか。でも、草原なら何の問題も無い。【閃光斬】!」

 

セイバーは剣に光を纏わせるとその輝きと共にズオスを両断し、ダメージを与えた。

 

『うらあっ!』

 

ズオスは反撃として蛮刀を振るうが、影の体には通用することは無く、通り抜けてしまい、それによってできた隙をついて更にセイバーが攻撃を加えた。

 

『イライラさせやがって!オラァ!』

 

ズオスは攻撃が全く当たらないことに対してイライラを募らせたのか、セイバーが影で攻撃がすり抜けてしまうことを利用し、セイバーの後ろにいるサリーをターゲットにして口から光弾を放った。

 

当然セイバーの体は影のため攻撃をすり抜けてしまうのだが、その影響でサリーの方に攻撃が飛んでいった。

 

「またか!最光抜刀!」

 

セイバーは剣のみの姿に変化すると空中を飛行しながらサリーとの間に割って入り、【カラフルボディ】を使うことによって攻撃を受け止めた。

 

「痛って……」

 

「セイバー大丈夫?」

 

「ああ、まだまだこんなものでやられるほどやわじゃねーよ。それよりもサリー。お前のスキルは使えないのか?」

 

「ごめん。どうやらスキルも完全に封印されちゃって本当に何もしてあげられない」

 

「そっか。なら、さっさとアイツを倒すからここで待っててくれる?」

 

「うん」

 

『お話はそこまでだ。さっさと続きをやろうぜ』

 

「わかってる。けど、俺の友達をここまで痛めつけようとしてくれた報いは受けてもらうからな。烈火、抜刀!」

 

セイバーは自身の最大火力である烈火を抜刀すると一気にズオスを倒すべく剣先を向けたのちに突っ込んでいった。

 

『来いよ!』

 

「はあっ!」

 

2人の武器は再びぶつかると今度は激しく斬り合った。2人の剣裁きは互角であり、セイバーがズオスを斬りつけたと思えばすぐにズオスも斬り返し、お互いにダメージを蓄積させていった。だが、当然ズオスの方が体力が多いため、このままではセイバーが先にジリ貧になるのは見えていた。

 

『どうした?このままだと体力差で俺が勝つんだぜ。うらあっ!』

 

「ここだ。【エレメント化】属性、火!」

 

セイバーはこの装備の真価である属性化することによって攻撃を回避する効果を使ってズオスの渾身の一撃を回避。そのまま攻撃が終わって対応が出来ないズオスの真上に現れるとそのまま真下に赤く輝かせた剣を振り下ろした。

 

『ぐわっ!』

 

「喰らえ。【森羅万象斬】!」

 

セイバーの烈火の姿での最高火力スキル。【森羅万象斬】でズオスの体に大きなダメージを与えるとエフェクトと共にHPを残り6割にまで減らさせた。

 

『コイツ……だが、まだ終わらねーぜ』

 

「ああ。まだまだここからだ!」

 

2人はそれぞれニヤリと笑うとお互いの強さを認め合った。セイバーは再びズオスへと向かっていき、今度は振り下ろされるズオスの剣を弾くとガラ空きの腹に斬撃を入れた。だが、今回は攻撃があまり効いておらず、ズオスの反撃を許すことになった。

 

『うらっ!』

 

「【エレメント化】!」

 

セイバーは先程と同じように炎になると今度は背後に回り込んでズオスを斬ろうとする。しかし、ズオスには2度同じ攻撃は通用しない。

 

『甘い!』

 

「ぐはあっ!」

 

セイバーはエレメントの状態から攻撃のために元の体に戻った瞬間を狙われて反撃を許してしまい、ダメージを受けてその衝撃で烈火を落としてしまった。

 

「しまった」

 

剣が装備された状態で無くなってしまった影響か、装備が弱くなってしまい無防備な姿を晒すことになってしまった。

 

『オイオイ、それで終わりかよ。ほら、悔しければ立ってみな』

 

「セイバー……」

 

ズオスは倒れたセイバーを煽り、サリーはそんなセイバーを心配そうに見ていた。しかし、それでもセイバーは立つことなく倒れ込んでいた。

 

『チッ。これで終わりかよ。だったらまずはそっちの女から潰してやる』

 

「くっ」

 

サリーは構えるも、慣れない格好に慣れないAGIの数値ではどうしようも無かった。だが、次の瞬間、ズオスの前にいきなり影が割って入った。

 

『あん?』

 

「誰が終わったって?もっと俺の様子を見ておくべきだったな。流水抜刀!烈火、【大抜刀】!」

 

セイバーは烈火と流水の二刀流となるとズオスへと渾身のスキルを放った。

 

「【ハイドロスクリュー】、【爆炎紅蓮斬】!」

 

2つの必殺技は強力な一撃となり、ズオスに決定的なダメージを与え、HPを残り4割にまで削った。

 

「よっしゃ!」

 

セイバーがガッツポーズをしていると炎と共にズオスが立ち上がり、その姿が赤黒く染まっていった。

 

『まだだ……まだまだ、まだだぁ!!』

 

ズオスはレジエルがパワーアップした時と同じように体が白と青から漆黒と赤に変化し、胸には先程の攻撃でつけられた傷が生々しく残っていた。

 

「これは、レジエルと同じパワーアップか!」

 

『俺をここまで追い詰めた事は素直に認めてやる。だが、もうお遊びは終わりだ。跡形も無く消してやる』

 

するとズオスがステージを変化させ、今度はとある屋内に変化した。

 

「とうとう本気になったってやつかよ。上等だ!」

 

セイバーは先程までと同様に烈火と流水の二刀流でズオスへと立ち向かっていくが、流水の姿を先程まで見られていたという事と、ズオスそのものがパワーアップしたことによって圧倒的な戦力差ができてしまっていた。

 

『これでどうだ!』

 

「このっ!」

 

ズオスからセイバーへと蛮刀が振り下ろされるとセイバーはそれを受け止めるが、パワー差が激しく、押し込まれて隙ができた所に連続攻撃がセイバーの体を切り刻んでいった。

 

「ぐあああ!」

 

『どうした?それで終わりかぁ!』

 

ズオスは本気でセイバーを潰しにかかっており、その力は底知れず、セイバーは反撃することすらできずにただ攻撃を受け続け、吹き飛ばされると地面を転がり、装備が聖騎士の装備に戻ってしまった。

 

「が……あ……」

 

セイバーのHPは僅か1割となってとうとう限界だった。そんなセイバーの元にサリーが駆け寄るとセイバーの前に立った。

 

『あん?お前、戦う力も無いのに何故前に出る?』

 

「私はセイバーを信じてる。これ以上はやらせない!」

 

そう言うとサリーはセイバーを庇うように手を広げた。それを見たズオスはサリーのその姿を嘲笑った。

 

『あはははは!!お前も惨めだなぁ。守るべき者に守られて悔しくねーのかよ。やっぱり俺の見込み違いだったようだ。お前は俺の敵ですらねーよ。女、お前に恨みはないが、死ねぇ!!』

 

ズオスはサリーへと襲い掛かろうと跳び上がり、蛮刀を振り下ろした。

サリーは衝撃に備えて目を瞑るがそのダメージはいつまで経っても来なかった。サリーが目を開けるとそこには蛮刀を流水で受け止めるセイバーがいたからだ。

 

『何!?』

 

「セイバー!」

 

「俺の……大切な人に……何、手を出してるんだ!!【ウォータースラッシュ】!」

 

セイバーはスキルを発動してズオスを斬ってから彼を蹴り飛ばして退けた。

 

『まだそんな力が残っているとはなぁ。だが、持ち直した所でお前じゃ俺には勝てねーんだよ』

 

「そうかもな……けど、俺は決めたんだ。大切な人は……自分で守ると!!」

 

するとセイバーの想いに応えたのかインベントリから以前凍りついていた本が飛び出すと開き、中から白銀のライオンが現れた。ライオンは咆哮するとズオスへと噛みつき、彼を吹き飛ばした。

 

『なん……だと?』

 

「水勢剣流水に誓う!大切な人達は……俺が守る!!」

 

セイバーの叫びにライオンは応え、セイバーの周囲を走った。すると、セイバーの周りに氷が撒き散らされ、氷の棘が彼の周りを囲い、そのままライオンはセイバーの真後ろに回るとそのまま飛びつき、装甲を形成。その姿は、今までの青い装甲から一転、白い装甲に包まれていき、両腕と胸には水色のアーマーが付与されている。更には両肩にライオンの腕のような装甲が、頭のヘッドギアはライオンの顔のような装甲となり、ツノのような剣は水色に変化している。そしてなんと言っても特徴的なのが、頭から背中にかけて長く垂れ下がっている白い毛がセイバーの黒髪を白く変化させつつ伸びていた。

 

『氷獣のヘッドアーマー』

【MP+60】【HP+80】

【剣士の心】【MP消費カット(氷)】

【破壊不可】

 

『氷獣の鎧』

【VIT+80】【DEX+40】【STR+40】

【ブリザードラッシュ】【アイスボディ】【氷塊飛ばし】

【白銀の獅子】【氷結化】

【破壊不可】

 

 

『氷獣の靴』

【AGI+80】【INT+80】

【スケーター】【アイスフィールド】【ブリザードレオブレイク】

【破壊不可】

 

 

『水勢剣流水』

【STR+40】

【タテガミ氷牙斬り】【氷獣大地撃】【氷獣大空撃】【氷獣大海撃】

【ハイドロスクリュー】【破壊不可】

 

進化条件

プレイヤーレベルが60以上の状態で氷獣ノ本に認められる。

 

「セイバーがまた進化した……」

 

「どうやら、水の聖剣は氷の聖剣に進化したっぽいぜ。その証拠に殆どのスキルが水系統の効果から氷系統の効果に置き換わっている」

 

『どんな姿になっても、俺には勝てない!』

 

ズオスはセイバーへと襲いかかるが、セイバーはそれを軽く受け止めると、攻撃をいなし、そのままカウンターを決めた。

 

「感じるぜ……歴代剣士の想いの結晶を!」

 

そう、セイバーが手にした力にはそれまで聖剣を振るってきた剣士達の想いがこもっていた。そしてそれは【剣士の心】というスキルになっており、常時発動効果として剣による攻撃の威力を底上げしているのだ。

 

『くっ。このままだと不利だな。一旦外に出させてもらうぜ』

 

ズオスはそう言うと屋内の壁を突き破って外に出た。それを見たセイバーもズオスを追撃しようとスキルを発動する。

 

「逃すか!【氷獣大空撃】!」

 

するとセイバーの白い毛が氷の粒として分離するとそれが背中に氷の羽として置き換わり、空を飛行してズオスの後を追った。

 

セイバーが外に出るとそこは氷の世界……北極だった。そして、ズオスはと言うととある施設の壁を走っていた。

 

『チッ。これでも喰らえ!』

 

ズオスは走りながらエネルギー弾を飛ばしてくるが、セイバーは空中を自在に飛び回りながら回避。お返しとばかりに再びスキルを使用した。

 

「【氷塊飛ばし】!」

 

セイバーの氷の羽の一部が氷塊となってズオスへと飛んでいき、ズオスは最初こそ躱していたが、何発か氷塊をその身に受けてしまい、そこからは一方的に氷塊によってダメージを受けて空中に飛ばされた。更に、セイバーからのキックがズオスに炸裂。結晶を模したエフェクトを通りながら放たれたキックはズオスを地面の氷へと叩きつけ、そのまま氷の下にある海へと押し込んだ。

 

『ぐっ……このままでは……』

 

ズオスは何とか距離を取ろうと泳ぐが、セイバーは逃すつもりは無く、更なる追撃を放つ。

 

「【氷獣大海撃】!」

 

すると、セイバーの背中の氷の羽が氷の鮫のような形に変化してそのままセイバーが流水を振ると鮫の歯の形をした氷塊がズオスへと飛んでいき、それはズオスの逃げる速度を上回ってその衝撃で海から弾き飛ばし、氷の上に叩きつけた。

セイバーも海から上がると背中の鮫が再びタテガミのような白い毛に戻った。

 

「ズオス、これで終わりにしよう」

 

セイバーは剣に氷のエネルギーを高め、刀身を白く輝かせた。そして、ズオスを倒すべく突っ込んでいく。

 

『やらせるかぁ!!』

 

ズオスは近くにあった巨大な剣の形をした錨を振り回すとそれをセイバーへと投げ飛ばした。だが、セイバーは突進しながら体を180°回転させてスレスレで回避。そのまま再び180°回転させて元に戻った。

 

「【タテガミ氷牙斬り】!」

 

セイバーはすれ違い様にズオスを斬り裂き、ズオスは一撃で氷漬けになると光と共に人間の姿を見せた。

 

『……強ぇじゃねぇか、またやろうぜ』

 

そう言うと同時に爆散し、ポリゴンとなって消滅した。

 

「ズオス、レジエルと同じで強い敵だったな。機会があればまた戦いたいぜ」

 

セイバーがそう言っているとスキル習得音が鳴った。

 

「あ、そっか。レジエルと同じなら何かしらのスキルは得られるんだっけ。さーて、何かな」

 

【ゲノミクス】

1日1回のみ使用可能でランダムな生物の特徴を自らの一部として使用できる。効果時間は最大10分。

 

「あらら、これもこれでランダム性が強いなぁ。けど、取り敢えずはクエストクリアだ。さっさとサリーを迎えに行ってここから出るか」

 

セイバーがそう言っているといきなりサリーが走ってきて抱きつかれた。

 

「馬鹿ぁ!ずっと戻ってこないからやられちゃったって心配してたんだからね……。さっきだって、あんなに一方的にやられて……」

 

「あはは……心配してくれてありがとうサリー。けど、もう大丈夫だからね」

 

そう言ってセイバーはサリーを優しく撫でるとサリーは泣きじゃくり、それから暫くして2人でダンジョンから出ることになった。そして、その姿を遠目に見つめる青年がいた。

 

『レジエルに続きズオスもやられるとは、セイバーは興味深いですねぇ……。次は私の番ですが、あのまま普通に戦っても勝ち目は無いでしょう。何か策を考えるとしますか』

 

青年は笑みを浮かべると去っていった。

 

 

 

 

〜同時刻 運営にて〜

 

「あああ!!!」

 

「今度は何だ?」

 

「セイバーが流水の進化を最終段階まで進めた」

 

「え?もしかして最強の氷の戦士じゃないよな?」

 

「そのまさかだ。しかも、人質アリという難易度高めの状態のズオスまでも倒したぞ!」

 

「嘘だドンドコドーン!!」

 

「おいおい、流水の進化には分岐があって水の状態のままでの最強フォームもあったはずだろ?」

 

「まぁ、そうなんだが、氷のフォームになるのは半分読めてただろ?氷の試練を3つともクリアしてたし」

 

「でも逆に考えてみろ。水の最強フォームにならなかったってことはこの後に実装される第八層で最初から無双されるなんて事は無くなった訳だ」

 

「確かに、氷の戦士になったことで水の中での活動が出来なくなったからな」

 

「だと良いんだが、セイバーなら何とかしてきそうな気がするんだよなぁ。一応アイツも【水泳】とか持ってるわけだし」

 

「人並みの機動力なだけマシだろ。それに第八層にはあの聖剣の実装もあるんだからな」

 

「さーて、セイバーは海と時の力にどれだけ抗えるのか、楽しみだな」

 

「そうやって調子に乗ってると、取られた時のダメージが大きくなるぞ」

 

「それは言わないでくれ……」




106話時点のセイバーのステータス

セイバー 
*補正値は水勢剣流水の装備時
Lv68
HP 175/175〈+80〉
MP 180/180〈+60〉
 
【STR 60〈+80〉】
【VIT 60〈+80〉】
【AGI 60〈+80〉】
【DEX 50〈+40〉】
【INT 55〈+80〉】

装備
頭 【氷獣のヘッドアーマー】
体 【氷獣の鎧】
右手【水勢剣流水】
左手【空欄】
足 【氷獣の鎧】
靴 【氷獣の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅹ】【気配斬りⅩ】【気配察知Ⅹ】【火魔法Ⅷ】【水魔法Ⅹ】【風魔法Ⅷ】【土魔法Ⅷ】【光魔法Ⅷ】【闇魔法Ⅷ】【筋力強化大】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化大】【状態異常Ⅹ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅹ】【死霊の泥】【深緑の加護】【繋いだ手】【冥界の縁】【ドラゴンラッシュ】【神獣招来】【大噴火】【猛吹雪】【火炎ノ舞】【デビルスラッシュ】【デビルインパクト】【ゲノミクス】


*水勢剣流水を装備時
【剣士の心】【MP消費カット(氷)】【ブリザードラッシュ】【アイスボディ】【氷塊飛ばし】【白銀の獅子】【氷結化】【スケーター】【アイスフィールド】【ハイドロスクリュー】【タテガミ氷牙斬り】【氷獣大地撃】【氷獣大空撃】【氷獣大海撃】【ブリザードレオブレイク】
また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第9回イベント

セイバーの持つ水勢剣流水が最後のパワーアップをしてから月日は過ぎて、いよいよ第9回イベントの開始の時がやってきた。セイバー、メイプル、サリーはギルドメンバーと共にギルドホームでイベントの内容を確認していた。

 

「今回は対人要素は一切無し。全プレイヤーで協力してイベント期間中にどれだけ限定モンスターを倒せるかだって」

 

「なるほどー。全員で協力だったら私達も皆のために頑張らないとね!」

 

「ふふっ、マイペースに頑張れば大丈夫だよ。こういうのは凄い勢いで討伐する人いるし……」

 

「俺も随分前のイベントでは初っ端からキル数稼いでたからな。今回はのんびりと行かさせてもらおう。ついでにメダルスキルの試し撃ちもしたいし」

 

「そういえばセイバーのメダルスキルはまだ見てなかったね」

 

「どんなものか楽しみね」

 

因みに、先程セイバーが言っていたイベントとは第3回イベントのことである。その時にあったモンスター討伐でも、頭一つ抜けた討伐数を誇るギルドがいくつもあった。今回も似た形式である以上そうなることは予想できる。

 

「まあそれはいいとして、討伐数が一定数に到達する度に報酬が貰えて、最後までいければ八層で役立つアイテムが手に入るんだって。その他にもメダルとかお金とか……」

 

「おおー!じゃあなおさら頑張らないとだ!」

 

「だね。期間は長いし、どの層にも限定モンスターは出てくるみたいだから、好きな所で狩れば大丈夫」

 

「私も今回は張り切っていっくよー!」

 

「張り切りすぎて途中でバテないようにな」

 

「わかってるって!」

 

「目標討伐数も出てるしな。とりあえず俺は毎日どれくらい討伐されるか確認しつつやるか」

 

「そうね。案外あっさり達成しちゃうものだものね」

 

「ゴールもそこまでシビアには設定されていないだろう。私はモンスターが落とす素材をメインに考えるとしよう」

 

クロム、イズ、カスミの3人は他のプレイヤーの様子も見つつ、適度に倒しながらモンスターが落とす素材をメインに置いてイベントを進める予定である。

 

「ユイ、私達はどうしよっか」

 

「うーん……どの場所でも倒せば1体になるから、戦いやすい場所を選ばない?」

 

「そうだね。レベル上げがしたいわけでもないし……」

 

ユイとマイはどこまでいっても一撃で倒されてしまうHPなため、特に競い合う必要がない今回のイベントはのんびりと楽しむことに決めた。

 

「僕もゆっくり遊ぶことにするよ。あ、暇があったら他のプレイヤーでも見てこようかな。対人戦気にしてたみたいだし」

 

「……!ありがとう、助かる」

 

「いやいやー、でもあんまり期待しすぎないでね」

 

カナデはサリーにそう言って笑っている。今回のイベントはそこまで張り詰めてやる必要がないものだったため、それぞれに目標を決めて遊ぶこととなった。

 

「何か面白いものでも見つけたら報告するか。モンスターも何種類かいるしな」

 

「そうね。いい素材を落とすモンスターが限られてたらそれを優先して倒してもらえると助かるかしら」

 

限定モンスターがイベント後にどこかに現れるのかは分からない。となれば集められるものは集めておきたいわけだ。

 

「じゃあ何かあったら教えるってことで!」

 

メイプルがざっくりと情報共有していこうという旨を伝えると一旦全員で各層モンスターの種類に違いがあるかなどそれぞれ確認してみることになった。

 

 

 

イベント自体はシンプルなものだったため、セイバー、メイプル、サリーは内容の確認を終えたところでフィールドへ向かっていく。セイバー達は最もモンスターが強い七層に行くことができるプレイヤーの1人なため、他の層は他のプレイヤーに任せることにして七層で討伐を始める。

いつも通りセイバーとサリーに馬を用意してもらい、サリーの後ろにメイプルが乗り、セイバーと共にフィールドを駆けていると、早速今までに見かけなかったモンスターがいることに気がついた。

 

「私が召喚する魚みたいなのがいるね」

 

「あれでいいの?」

 

「あれが今回の限定モンスターだな」

 

いつも通りのフィールドに新たに現れた空中を泳ぐ魚の群れ。これを倒すことによって討伐数を稼ぐことができるのだ。

 

「モンスターにもいくつか種類があるみたいだし、強いモンスターなら珍しい素材とか落とすかもね」

 

「じゃあどんどん倒していかないとだ!」

 

「でもさ、皆で討伐数を稼ぐのが目的だからとりあえず人の少ない所に行こうぜ」

 

「その方が効率的ってことだよね!」

 

「そそ、どこにでも出るみたいだからさ」

 

要求討伐数はかなり多い、期間も長く取られているとはいえコツコツ数を積み上げるより他にない。いつにもまして人の多い街の近くは他のプレイヤーと競合が起こるため、3人は離れることにしてマップの端を目指していく。

 

そうしてしばらく走った所で3人はゴツゴツとした岩の並ぶ荒地にやってきた。適度に見通しが良く、これといって特殊なモンスターやギミックの存在しないここは討伐数を稼ぐのに適切な場所と言える。セイバーとサリーは馬から降りるとメイプルに手を貸して、近くに馬を待機させる。

 

「よしっ!早速探していこー!」

 

「この辺りを探索して、あんまりいないようなら移動する感じで」

 

「それで行くか」

 

3人が周囲を少し探索すると、目的としているモンスターはあっさりと見つかった。それは青い光を漂わせながら空を泳ぐ熱帯魚の群れで、サリーがスキルで呼び出すことができるものによく似ている。当然荒地にこんなモンスターがいるわけがないため、イベント限定なのは一目瞭然である。

 

「さて、どんなものか試してみよう!」

 

「うん!全力で行くよーっ!」

 

「ま、そろそろ俺もやりますか」

 

サリーが分身を生み出しながら駆け出し、セイバーが烈火を抜いて突撃し、メイプルはその後ろで兵器を展開する。手を抜くことはしないと、ボスと相対した時のように全力の攻撃を叩き込む。モチーフが魚のモンスターとはいえ、わらわらとどこにでもいる熱帯魚は、少しの水を生み出して攻撃する程度の力しかない。

そんな存在が3人を前にしてどうなるかなど火を見るより明らかだった。セイバーは魚を炎で焼き尽くし、サリーは撃ち出される水を全て容易く躱し、メイプルはレーザーで無理矢理水を打ち消して、一瞬のうちに魚達は文字通り消し炭になった。

 

「……数を倒すってだけあって、思ったより弱いね」

 

「秒殺も良いところだな」

 

「そうだね。あっさりだった!」

 

3人の能力が最前線を行くプレイヤーの中でも高いというのもあり、次から次に討伐されることを前提に作られたモンスターは相手ではない。

 

「これならどんどん倒していけるね!」

 

「だねー。ギルドの皆も他の所で狩ってるみたいだし、しばらく倒したら様子見に行ってみる?」

 

「うん、皆に負けないくらい倒していこっ!」

 

「メダルスキルはもうちょっと強いモンスター相手に使うかな」

 

幸先よく1体目を倒した3人はそのまま続けて限定モンスターを倒していく。メイプルの射撃とセイバーとサリーの斬撃で簡単に倒せることは分かっているため、さくさくと魚達を倒し、討伐数を伸ばす中、3人の視界に今までとは違うものが映る。

 

「2人共、あれもそうだよね?」

 

「そうっぽい。いくつか種類あるって話だったし」

 

「お、強そうな奴がやっと出てきたな」

 

岩陰から観察する先には、大きなサメがいた。魚の群れは何度も倒した3人だが、サメを見るのは初めてである。

 

「倒さない理由はないね。何か落とすかもしれないし」

 

「よーし、じゃあ先手必勝!」

 

「楽しませてくれよな!」

 

メイプルは岩陰から砲を構えるとしっかりサメに狙いを定めてビームを発射する。それは真っ直ぐにサメに向かっていき、サメの胴体にクリーンヒットするが、魚の群れとは訳が違うようでHPは減ってはいるものの倒れることなく、大きな口を開けて勢いよく3人へと突進する。

 

「もう一発!わわわっ!?」

 

メイプルが続く攻撃を仕掛けようとした所で地面からどばっと水が噴き出して、メイプルを転倒させる。危険を察知してセイバーとサリーが距離を取ろうとするのを見てメイプルは瞬時に防御に回る。

 

「【身捧ぐ慈愛】!」

 

幾度となく使ってきたスキルを使うべき時は、流石にメイプルにも染み付いているようで、素早く反応して2人を守る。直後間欠泉のように噴き出した大量の水によってメイプルは上空へと吹き飛ばされる。サリーを庇った分空中で2段ジャンプをするように飛んでいくメイプルを見つつ、セイバーとサリーはサメの方に駆けていく。

 

「今度はこっちから!」

 

「俺も行くぜ!」

 

距離を詰めるサリーにサメも大きな口を開けて噛み砕かんと向かってくるが、2人はそれをするりと交わして深く身を切り裂いて距離を取り直す。そうして次の攻撃に移ろうとした所で遥か上空から声がかかる。

 

「サリー、サメの動きを止めてくれ」

 

「わかった。朧【拘束結界】!」

 

セイバーの声に即座に反応して2人がサメの動きを停止させる。

 

「新スキル、行ってみよう!【火炎ノ咆哮】!」

 

するとセイバーの周囲に火炎弾が出現するとサメへと向かっていき、それがサメの体を焼き尽くすとHPを全て削った。

 

「へぇ。今のがセイバーの新スキルね」

 

「おう。【火炎ノ咆哮】は火炎弾を相手に向かって飛ばすスキルなんだが、当たった相手にダメージを与えつつ、一定時間の間、火属性の定数ダメージを与え続ける効果もある。ま、今回もマシなの選んだ方でしょ」

 

「それはそうだけど、なんか忘れているような……あ」

 

サリーが何かを思い出すと2人の真横に上空にいたメイプルが落下してきた。

 

「メイプル!だ、大丈夫……か。ま、そうだよね」

 

「そういや、メイプルが空にいたの完全に忘れてたな」

 

多少落下してきただけではメイプルがダメージを受けないことは今までの戦闘で分かっている。

 

「うう……まさかセイバーに良い所全部持ってかれるとは思わなかった……。新しい落ち方を見せたかったのに」

 

「いやいや、普通に落ちて来いよ。ダメージ受けることは無いんだからさ」

 

「まぁ、メイプルの場合は普通に落ちること自体少ないからね」

 

メイプルのこの発言は自爆によって空を飛ぶメイプルならではと言える。高所から落下することは本来はデメリットであり、より良い落ち方を考えるより、落下ダメージを受けないよう、そもそも高所から落ちない方法を考える方が普通なのだ。

 

「あ、そうだ何か素材は……」

 

メイプルが立ち上がったあと周りを見渡すと、まるでスライムのように形を保った水の塊が転がっているのを見つける。

 

「これかな?」

 

「おー、どんな素材だった?」

 

メイプルが拾い上げて内容を確認する。それは魔力のこもった水とだけ説明があり、現状特別な使い道は専門外である3人には分からない。

 

「んー……イズさんに聞かないとダメかな?大事なアイテムだったら早めに集めときたいし」

 

サメはレアなのか熱帯魚ほどぽんぽん出てこない。もしこのアイテムが重要なものならサメ狙いにシフトしていく必要もあるだろう。

 

「じゃあ早速聞きにいってみようよ!ふふふ、善は急げって!」

 

「おっけー。そうしよっか。クロムさん達と探索に出てるみたいだけど、イズさんならどこでも工房が出せるしね」

 

セイバーとサリーはイズにメッセージを送ると、メイプルを馬に乗せて移動を開始する。

 

「あ、熱帯魚は弱いって分かったし、道中辻斬りしていくよ!何かドロップするかは私が見るから」

 

「うん!攻撃はまっかせて!」

 

こうして討伐数を稼ぎつつ、3人はイズ達の元に向かうことになり、暫く馬で走っていると超巨大化したハクに乗ったクロム、イズ、カスミと出会うことになった。

 

「おーい!」

 

「3人が来たか。ハク、止まれ」

 

カスミはハクを停止させると頭を地面近くまで下げさせた。

 

「3人は順調か?」

 

「うん!ここに来る途中も馬で走りながらたくさん倒してきたよ!」

 

「ま、弱い奴ばっかだったので張り合いが無いですけどね」

 

「そっちも順調そうだね」

 

「ああ、これだけ脆いと手こずることもない」

 

「で、メイプル」

 

「はいはーい!イズさんこれです」

 

メイプルがイズに水の塊を手渡すと、イズはすぐに新しい素材の獲得によって製作方法が解放されたアイテムを確認する。

 

「えっと……作れるのは水中での活動時間を伸ばせるアイテムね。今までに作れたものよりも強力なものみたいだから、水中探索が捗るんじゃないかしら?」

 

「なるほどー。海とか湖とかたくさんあるし……」

 

メイプルはうんうんと頷く。サリーとしても水に関するアイテムの素材だと考えていたため概ね予想通りといったところだ。

 

「言ってた通り次にいつ集められるようになるか分かんねえしな。ここは熱帯魚以外のモンスターを探す方に切り替えるか」

 

「そうね。そうしてくれると助かるわ。合計討伐数も順調に伸びているもの」

 

こちらもまた予想通り、凄まじい勢いで討伐数を増やすプレイヤーがいるためか合計討伐数は目標達成に向けて順調に推移している。討伐数稼ぎを第2目標にして、素材探しをしても問題はなさそうだった。

 

「それにハクなら狙わなくても雑魚は巻き込んで倒せたりするしな。ついででも十分稼げるだろ」

 

「残りの4人にも伝えておいて……よし。私達はとりあえずサメを探してあちこち回ってみます」

 

「ああ、この辺りは私達に任せてくれて構わない。現状手に負えないものに出会ってもいない」

 

セイバー、メイプル、サリーは何かあったらいつでも呼んでくれればいいと伝えてまた馬に乗ってフィールドを走り回る3人。メイプルはというと落ちないように片手でサリーに掴まって、もう片手はガトリングに変えて道中ポツポツといる魚の群れを撃ち抜き、セイバーは錫音を抜刀して馬を走らせながら銃モードで射撃をしていた。

 

「これが流鏑馬かあ……」

 

「百発百中!じゃないけど……百発撃ったらちょっとは当たるよ!」

 

「俺はどんどん当てているけどな」

 

「アンタはメイプルよりもDEXがあるんだから当然でしょーが」

 

「ぐっ……。それにしてもメイプル、射撃も上手くなってきたんじゃないか?」

 

「盾使ってて射撃上手くなるのも変な話なんだけどね」

 

「ふふん、ウィルバートさんみたいに百発百中目指さないとね!」

 

「あはは流石にあれは無理そうだなあ。ま、撃ち漏らした分は……【サイクロンカッター】!」

 

「俺達が倒さないとね【ロック弾幕】!」

 

2人はメイプルの銃撃をかろうじて生き延びた魚群に風の刃と音の弾丸を撃ち込み、トドメを刺していく。

 

「うん、命中」

 

「すごーい!」

 

手綱を握ってかなりのスピードで移動しながら、さらにモンスターにも攻撃するのは難しいことだ。前方不注意で障害物にぶつかってしまわないようにしつつ、2人はメイプルが倒し切れなかった魚群を時に振り返って、時に横を向いて的確に倒して、素材のドロップがないことも確かめる。

 

「足りないところは私達が埋めるよ。でも百発百中狙ってみて?」

 

「おっけー!」

 

そうしてしばらく走り回っていると何体かサメやマンタ、タコやイカなど大型のモンスターにも出会うことができた。ただ、どれも大量の水による攻撃をしてくる程度でそこまでの脅威ではない。

事実、倒していくにつれて馬から降りる必要がないと感じたサリーは、セイバーとメイプルにひたすら射撃させながら馬の最高速で攻撃を躱し距離を取って固定砲台メイプルにより撃破を繰り返していた。

 

「んー、降りる手間も省けていい感じ」

 

「すごいね。馬に乗ってても避けれちゃうんだ。セイバーに至っては馬を操作しながら射撃もこなしているし」

 

「攻撃は単純だし、ある程度読めば大丈夫」

 

「まぁ、訓練すればある程度のレベルにまではいけるし、メイプルもやってみる?」

 

「私は遠慮しておくよ。こうやってサリーの馬に乗せてもらうのも楽しいし」

 

そうして倒してはドロップアイテムを拾うのを繰り返す。討伐数は大型モンスターも1体としか換算されないが、イズの欲しがっていた素材が確定で手に入ることが分かったため、他のプレイヤーに倒される前に優先して倒すことにしていた。

 

「まだ1日目だし、少し経てばどこに出やすいとかも分かってくるかな」

 

「そうしたらもっと集めやすくなるかな?」

 

「うーん、人が集まると競合相手が増えるし一概には言えないなあ」

 

「あーそっかあ。じゃあ穴場を見つけないとだね!」

 

「それが一番だね。だからこうして走り回ってるって感じ」

 

七層を選んだのには、3人で使えるちょうどいい移動手段があったからというのももちろん含まれる。さらに、他の層と比べて広い七層ならば2人の言うような競合も起こりにくいのもいい点と言える。

とはいえ馬は誰でも手に入れることができるものであり、セイバーやサリーと同じようなことを考えて行動しているプレイヤーも当然何人もいるわけだ。

 

「あ」

 

「おー、サリーだー。どう調子いいー?」

 

正面からやってきたのはそれぞれ馬に乗った2人組。【集う聖剣】のフレデリカとドラグである。

 

「ん、まあまあって感じかな。いい狩場探してのんびりやってるよ。そっちは?」

 

「同じ感じー。魚の群れ以外も倒したけどちょっとねー」

 

フレデリカがドラグの方を見るとドラグが所感を述べる。

 

「前回のイベントのモンスターは倒しがいがあったが、今回は手応えがないぜ」

 

「弱いよねー」

 

それは3人も感じていることだった。前回のイベントでのモンスターが強めに作られていたのは間違いないが、それを差し引いてもHPや攻撃パターンの量は大したものではない。

 

「まあ、それは私達も感じてるかな」

 

「うんうん、でねー。私達もこうして何か隠し要素が無いか探して回ってるわけ」

 

【集う聖剣】は所属人数も多く、全てのギルドメンバーが探索に出ていて何も見つからないとなると隠し要素が考えられる。

 

「うん。でも、交換材料にできるような情報はまだ持ってないかな。これは本当」

 

「当てが外れたな。フレデリカ」

 

「この3人のことだからさっくり何か見つけてるかと思ったんだけどなー」

 

「じゃあ見つけたら連絡するよ!ね、サリー」

 

「そうだね。あ、その時はもちろんそっちの情報と交換で」

 

「いいの用意しとくねー。期待してるよー?じゃあねー」

 

「また何かあったらな。で、対人戦も楽しみにしてるぜ」

 

「負けません!」

 

「また返り討ちにしますよ」

 

「おう、俺達もだ」

 

フレデリカは3人に小さく手を振ると馬を進めるドラグの隣を行き、しばらくすると見えなくなった。

 

「情報かあ……て言っても特に何も手がかりないんだよね」

 

「そうだね。じゃあちょっと探索先を変えてみる?」

 

「……?別の層に行くってこと?」

 

メイプルがそう言うとサリーは首を横に振る。フィールドを駆け回っていても特にこれ以上何かが現れることはなさそうだった。であれば、別の区分と言える場所を探索すれば何かが見つかるかもしれない。

 

「ダンジョン。何回かダンジョンに入ってみない?」

 

「あ、そっか何か変わってるかもしれないもんね!」

 

「そうそう。で1回じゃ分からないかもしれないから何回か入る」

 

「じゃあぱぱっとボスまで行けるところがいいよね」

 

「何もなさそうならまたサメ探しに戻る感じで。まだ始まったばかりだし、まずは色々把握するところからだね」

 

「うんっ!」

 

「なら、善は急げだ。ちゃっちゃと行こう」

 

セイバー達も七層のダンジョンはいくつか攻略済みである。3人はその中から簡単にボスまで行けるものを選ぶとダンジョンに向かって馬を走らせていき、何回もそのダンジョンを周回するのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとボスラッシュ前半戦

第9回イベントが始まって数日が経ち、その間に双子の姉妹、マイとユイは驚くべき進化をした。メイプルと共に第六層に行って『救いの手』を手にしたのだ。『救いの手』とは空中に浮かぶ2本の手であり、それには武器を装備させられるため、マイとユイの持ち武器である大槌を1つの手につき1本。よって『救いの手』1つにつき2本ずつ装備できる。しかも『救いの手』は装飾品のため装飾品の枠を全て使えば3つまで装備できるので最大で6本。プレイヤー自身が持てる量も含めて合計8本の大槌を装備できるようになった。

当然、装飾品枠を全て埋めてしまうためにテイムモンスターを使うための指輪との使い分けはいるのだが、これにより2人の火力は更に倍増することになった。

 

「しっかし、まさかあの2人が更にパワーアップするとはな〜。俺も負けてられねーな」

 

セイバーは現在、七層の中で気になるダンジョンを見つけており、そこに移動中であった。ちなみに、そのダンジョンというのはサリーと2人で探索している際に見つけたもので、サリーは攻略する気満々だったが、セイバーとしては1人で攻略したかったのでその場はお預けにし、サリーもセイバーと2人で攻略しないのであれば1人では突っ込まないという事で2人共その場での攻略をしていなかった。

 

「さて、着いたな」

 

セイバーはそのダンジョンに入るための条件を全て満たし、ダンジョンの中へと転移していった。セイバーが中に入るとそこは円形の広間の中心で、壁には先へ進めそうな通路が等間隔に開いていた。セイバーが周りを見渡していると、転移してきた時から残っていた足元の光が、地面を照らしながらすっと移動していき、1つの通路を指し示した。

 

「ここは、広場か?いや、あの通路の先を見ると転移の魔法陣。いざとなったらいつでも出れるというわけか」

 

セイバーが考察をしていると光の通路以外の道に赤、青、黄、グレー、緑、ピンク、紫、金と銀、そして真紅の光が灯り、その中の赤の道から紅蓮の龍が現れた。

 

「早速敵のお出ましか。しかも、ブレイブそっくりの龍、烈火を手にした時に戦った奴か。面白い!激土抜刀!」

 

セイバーが激土を抜いた瞬間、龍は咆哮すると早速火炎放射を放ってきた。

 

「【岩石砲】!」

 

セイバーは火炎放射を岩石を飛ばすことでかき消し、そのまま接近。激土を地面に突き立てながら跳ぶと十分な高さを確保した。

 

「【ドリルストライク】!」

 

そのままドリルのように回転しながら龍へと突進し、龍はこれを炎の尻尾で受け止めた。しかし、ドリルのように回転しながら貫通力を高めているセイバーの方が上手だったのか龍は押し切られてダメージを受けた。

 

「このまま一気に行こうか。【パワーウィップ】!」

 

今度は地面から巨大な蔓を出すと鞭のように操作して龍を地面へと叩きつけた。

 

「良し、【グランドウェーブ】!」

 

セイバーが地面を踏みつけるとその衝撃で土が抉れながら飛んでいき、龍に追撃を与えた。しかし、流石に龍もこれ以上やらせるつもりは無いのか起き上がると空中に浮かび、火炎弾を飛ばしてきた。

 

「まだやられないか。けど、これでどうかな?【リーフブレード】!」

 

セイバーは緑の植物のエネルギーを剣に集約すると火炎弾を斬りながら接近。すると植物が燃えたのか炎のエネルギーが剣に宿り、更に威力が上がった。

 

「これで威力が上がったのは思わぬ幸運だな。喰らえ!」

 

セイバーが剣を振り下ろすと龍がエフェクトと共にHPを半分にまで減らした。すると、今度は龍が雄叫びを上げ、炎に包まれた。

 

「何だ?一体、何が……」

 

炎を破って龍が姿を現すと今度は体に騎士の鎧を纏っており、それはまるでセイバーの竜騎士の装備を示しているようであった。

 

「なるほど、ここに来てのパワーアップね。ただ、その程度なら俺の敵じゃ無いな」

 

セイバーはニヤリと笑うと激土に力を込め、その刀身をオレンジに輝かせた。

 

「そっちが防御力を高めるのなら、こっちはそれ以上のパワーで突き崩す!【大地貫通】!」

 

セイバーが龍との間にある程度距離を取ってから突きを放つと大地のエネルギーがレーザービームのように放出され、セイバーの正面を直線で貫いていった。龍はこれを躱そうと体を動かすが、躱しきれずに胴体にダメージを受けた。すると、龍へのダメージエフェクトと共に騎士の鎧にヒビが入り、その攻撃の火力の高さを示していた。

 

龍はHPを規定値以下にされた影響か、叫び声を上げると炎を再び纏い、セイバーへと突撃してきた。

 

「お、これは確かブレイブドラゴンが最後にやってきた突撃と同じ。だったら躱すのは意味が無いな」

 

セイバーは以前の戦いでこの攻撃は例え躱したとしてもすぐに追撃してくるとわかっているため、敢えて躱す事なく攻撃を激土で受け止めた。その途端、セイバーに炎のダメージが入り始めるが、セイバーは耐えていた。

 

「ぐ……流石にキツイな。けど……その程度の攻撃で沈むと思うなよ?はあああああ……【大断断斬】!」

 

セイバーの想いに応えるように激土に周囲の土や岩が集約されて刀身が巨大化するとそのまま龍の攻撃を押しとどめてから押し上げ、そのまま激土を振り下ろした。

 

「うおらああ!」

 

それと同時に龍は両断され、大爆発を起こして倒された。

 

「ふう……ようやく1体か。これは骨が折れそうだ」

 

セイバーがそう言っていると今度は青い道からライオンが歩いてきた。

 

「……どうやら、俺に休みは無いらしい。烈火、抜刀!」

 

セイバーは烈火を抜くとライオンへと向かっていき、ライオンは強靭な爪をセイバーへと振り下ろすが、セイバーはこれを烈火で受け止めた。

 

「どうした?それで終わりかよ!」

 

セイバーは気合いで爪を押し上げるとガラ空きの腹へとスライディングをしながら烈火で斬りつけ、ライオンの真下を通り抜けて反対側に出た。

 

すると、ライオンは反転して口から水の弾丸を発射してきた。当然セイバーがこれを受けるはずもなく、装備の力によって炎以外も使える効果を利用して烈火に雷属性を付与させると水を叩き切った。

 

「残念。烈火は烈火でも火属性以外も使えるからね。【四属性光弾】!」

 

セイバーは電気の光弾を作り出すとライオンへと発射し、ライオンは攻撃を受け、光弾の追加効果で麻痺していた。

 

「麻痺したな。一気に決めるぜ。【フレアジェット】、【爆炎紅蓮斬】!」

 

セイバーは久しぶりに足の裏から炎を噴射して飛ぶと炎の斬撃波を飛ばしてライオンへとダメージを与えた。すると、ライオンは水のリングを形成すると麻痺を治しつつ、HPを少し回復した。

 

「これも前に戦ったボスと同じ。要するに、今戦わされているのは俺が以前に戦ったことのある奴ばかりって事か。ま、強さは前以上だけどね!」

 

セイバーが1人考えているとライオンが今度は足元に水を展開してセイバーのステータスをダウンさせに来た。

 

「もうその手は効かないぜ。ブレイブ、【覚醒】!」

 

セイバーはブレイブを呼んで背中に乗ると空中を飛び回った。

 

「いくらその水がステータスを下げる水だとしても触れてないと意味が無いからね。ブレイブ、【グランドクロー】!」

 

セイバーはブレイブに接近させると大地の力が高められた爪でライオンを攻撃し、そのまま連続で烈火を使っての斬りつけを決めた。

 

「ブレイブ、【ファイヤーインフェルノ】!」

 

ブレイブは地面に炎を出現させるとその熱線で地面に薄く張っていたデバフをかける水を全て蒸発させつつ、ライオンを火柱で攻撃し、体力を5割に減らした。

 

「ブレイブ、【サンダーボール】!【森羅万象斬】!」

 

するとブレイブは電撃の砲弾を放ち、それに合わせてセイバーも虹色の斬撃を放ってライオンを吹き飛ばし、壁に激突させた。だが、ライオンもこれで終わるほど弱くは無い。暫くすると体勢を立て直して体を水に包んだ。

 

「お、これはもしかしてパワーアップかな?」

 

セイバーの読みは当たり、ライオンは機械仕掛けの体となり、前脚に大砲を装着した。それはまるでセイバーが【ライオン変形】を使ったようである。

 

「やっぱお前はライオン変形もするんだな」

 

ライオンは早速セイバーへと砲撃を放ち、セイバーはブレイブを操って躱した。

 

「当然それも撃ってくるよね。でも、それじゃあダメだよ。【火炎砲】!」

 

セイバーは砲弾には砲弾とばかりに炎のエネルギー砲で水のエネルギー砲を相殺し、炎が水によってかき消される際に発生する水蒸気が辺りを覆った。

 

「こうなっても【気配察知】でわかるんだよね〜。そんでもってここかな。【火炎十字斬】!」

 

セイバーは十字型の炎の斬撃を飛ばしてライオンにダメージを与えつつ怯ませ、その間に一気に接近した。しかし、ライオンも起き上がると水のリングを纏ってHPを3割にまで回復。そのまま激流に包まれて突進してきた。

 

「さっきの龍と同じか。だったら、ブレイブ【アクアボルテックス】だ!」

 

セイバーはブレイブに水を纏わせるとライオンと同じように突進させた。2つの巨体はぶつかり合うと拮抗し、お互いにダメージを与え合う結果に終わった。

 

「ブレイブ、大丈夫か?」

 

セイバーの問いにブレイブは大丈夫だと首を縦に振る。セイバーはそれを見て安心したのかそのまま飛行させ、ライオンへと接近し、赤く輝かせた烈火でライオンを斬りつけ、再び立ち上がらせる暇を与えなかった。

 

「悪いけど、もう立たせるつもりは無いよ【紅蓮爆龍剣】!」

 

セイバーはMPポーションを飲んでMPを回復させると紅蓮の龍を飛ばしてライオンに絡みつかせると龍は炎を纏いながら爆発し、ライオンの水のベールを焼き尽くしてライオンの体を火傷状態に追い込んだ。セイバーがこの隙だらけのライオンを見て何もしない訳が無かった。

 

「トドメだよ。ブレイブ、【火炎放射】!【元素必殺撃】!」

 

セイバーはブレイブから吐き出される炎に包まれながら虹色の輝きを纏わせたキックを放ち、ライオンは何とか口から発射する激流で防ごうとするが、それをブレイブの炎が相殺し、セイバーのフルパワーのキックがライオンへと直撃。大爆発と共にライオンは倒されることになった。

 

「これで2体目。次は恐らく……」

 

セイバーが言い終わらない内に黄色い道からランプから出た魔神が現れた。

 

「ですよねー。月闇抜刀!」

 

セイバーはブレイブを戻すと闇黒剣月闇を抜刀し、魔神の動きに備えた。すると早速魔神は魔法陣を作り出すと電撃を発射してきた。

 

「【闇の障壁】!」

 

セイバーは咄嗟に闇で作られた障壁を生み出すと電撃を闇で消しながら防いだ。魔神はそれを見ると今度は直接電気を纏わせた拳で障壁を殴り、障壁は耐えきれずに破壊された。しかし、既にその場にセイバーの姿は無かった。

 

「ここだよ。【暗黒クロス斬】!」

 

セイバーは障壁が破壊されるタイミングで【闇渡り】を使って闇の中へと移動。そのまま魔神の背後に回ると闇から出て闇の斬撃波を放ったのだ。魔神はいきなりワープしたセイバーに対応する間もなく攻撃を喰らい、HPを減らした。しかし、そのままやられる訳もなく今度は電撃を全方位に向けて放出。背後にいるセイバーにも対応できる手で魔神はセイバーを倒しに来た。

 

「危ねっ!あのやろ、背後にも攻撃するのか」

 

セイバーが以前魔神の試練をクリアした際は魔神との戦闘では無く問題に答えたり、迫りくる針を避けたり、ケルベロスとの戦いだったので魔神との直接対決にはなってなかった。よって、対応が他と比べて劣ってしまうこともあり、セイバーは苦戦を強いられていた。

 

「厄介だな。こっちは電気が無効って訳じゃ無いし、喰らいすぎると今度は麻痺とかになりそうで怖い。けど、だからって負けるつもりは無いんだけどね!」

 

セイバーは紫の輝きを剣に宿すと電気を放出する魔神へと走っていき、電気を剣で受け止めた。すると闇の力によって電気が無効化され、そのまま突っ込んでいき、セイバーは魔神を斬りつけた。

 

「そんなもんか。魔神の力はよ!」

 

魔神もセイバーへと拳を繰り出すが、セイバーは空中で回避すると拳の上に乗り、腕の上を走って接近すると魔神の額へと月闇を突き立てた。

これには魔神もたまらずセイバーを振り払うが、既にセイバーは次の攻撃を構えていた。

 

「【邪悪砲】!」

 

セイバーから放たれた闇の砲弾が魔神の体にダメージを与えていく。そして魔神もある程度HPを減らされた影響か、体を電気に包むと自分の周囲に電気の針を漂わせ、傍にはケルベロスを従えた。

 

「お前は召喚するタイプかい!」

 

セイバーがツッコミを決めるとその瞬間に不意打ちとばかりに周囲の針を一斉に飛ばしてきた。セイバーはその針を紙一重で躱すも、1回で消えるはずも無く、針は空中で方向を変えるとセイバーの方へと戻ってきた。

 

「めんどくさ!【闇の障壁】!」

 

セイバーは闇の障壁を使用して針を防ぎ、消滅させていく。その間に魔神はケルベロスを操ってセイバーへと噛みつかせにかかった。

 

「おいおい、そんなんでやれると思うなよ?【呪縛の鎖】」

 

すると闇の鎖がケルベロスの体に巻きつき、動きを拘束。ケルベロスは身動き一つ取れなくなってしまった。セイバーはすぐにケルベロスの背中に乗ると月闇を突き立てダメージを与え、そのまま足に闇のエネルギーを集約した。

 

「【暗黒龍破撃】」

 

セイバーは真上に跳ぶとケルベロスに突き刺さっている月闇の持ち手をドロップキックで押し込んで貫通させ、ケルベロスを倒した。そしてすぐに魔神の方を向くと一気に接近し、居合の構えをとった。

 

「闇の中に消えろ。【月闇居合】!」

 

セイバーは魔神を居合斬りで両断し、魔神を爆散させて倒した。

 

「……3体目。次は玄武だろ?早く出てこいよ」

 

するとセイバーの予想通りグレーの道から巨大な亀、玄武が出現した。

 

「流石今までのボスラッシュ。HPバーも忠実に再現されてるねぇ。この超絶硬いやつをどうしよっかなー。ま、倒すけどね。錫音抜刀!」

 

セイバーが錫音を抜くとすぐに大量の岩石を降らせると共に地面から蔓を生やしてセイバーを多方向から攻撃しにきた。

 

「これは【スナックウォール】、【音弾ランチャー】!」

 

セイバーは地上の蔓をお菓子の壁で防ぎながら足から発射されるミサイルで空中の岩石を防いでいった。暫くするとクールタイムに入ったのか攻撃がピタリと止まった。

 

「良し。ここからは俺の番だ」

 

セイバーが【スナックウォール】を解除すると走っていき、玄武の足元に達すると跳び上がり、硬い甲羅に覆われてない首の辺りを狙って錫音での一撃を入れた。すると玄武のHPは減るが、そこまでの致命傷にはなってなかった。

 

「あれ?構造上ここが1番弱いと思ったんだけどなぁ」

 

セイバーが疑問を浮かべていると玄武は反撃のための行動を開始しており、叫び声と共に地面から岩の棘を出現させた。

 

「げっ!今度はそれか。けど、【超聴覚】!」

 

セイバーはスキルで岩の棘が出現する場所を聞き分け、死角である地面からの攻撃にも関わらず、攻撃を躱していった。

 

「ほらほら、当ててみろよ。俺は地面なんて一切見てないぜ」

 

玄武の攻撃よりもセイバーの回避力の方が上をいっており、セイバーには余裕ができたのか銃モードの錫音を使っての反撃も開始された。

 

「これでも喰らいな。【ロック弾幕】!」

 

セイバーの走りながらの射撃は少しずつだが、確実に玄武を削っていき、HPバーの1本目を潰した。すると玄武は地面に足を叩きつけ、それにより発生する土の津波でセイバーを倒しにきた。

 

「今度はそれか。いい加減飽きてきたぜ。【鍵盤演奏】!」

 

セイバーは鍵盤を演奏しながら音の道を空中に作るとその上へと飛び乗り、演奏を継続しながら音の道を進んでいった。

 

「そろそろ決めさせてもらうよ。【ブレーメン音楽団】、【ロックモード】!」

 

セイバーは錫音の姿の切り札である【ロックモード】を解放するとノリノリで玄武へと向かっていき、剣モードの錫音で連続で斬りつけた。しかし、玄武もパターンを変えて応戦する。次は口に破壊光線を充填し始めた。

 

「そんなもんか?玄武さんよぉー!【スナックチョッパー】!」

 

セイバーは破壊光線を放つ前に潰すべく錫音をピンクに輝かせてからお菓子のパワーを込めた必殺の一撃を玄武の首へと叩き込んだ。セイバーの攻撃はそれで終わりでは無い。

 

「オラオラ、【爆音波】【音弾ランチャー】!」

 

続けて音のミサイルと爆音が玄武へと直撃して玄武のHPの殆どを削った。だが、玄武は倒れずにセイバーへとゼロ距離で破壊光線を放った。

その光線はセイバーを消し去ったかに見えたが、耐えられることも予測して音の壁を展開したセイバーの防御の前に防がれた。

 

「甘いっ!甘すぎるんだぜー!ヒャッハー!!【ビートブラスト】ファイヤ!!」

 

セイバーから今度こそトドメの一撃が玄武へと決まり玄武は爆散して消えた。それと同時に【ロックモード】も終わって普段のセイバーに戻った。

 

「はぁ、はぁ、流石に四連戦はキツイな。けど、この感じだとあと最低5体。まだまだ先は長いなぁ」

 

セイバーが嘆いていると緑の道から緑の忍び装束に身を包んだ忍者がゆっくりと現れた。

 

「次はこれだ。黄雷抜刀!」

 

セイバーが黄雷を抜くと忍者は高速移動を開始し、セイバーの周囲を撹乱するように動いた。

 

「随分と厄介なことをしてくれるな。だが、無駄だ【稲妻放電波】!」

 

セイバーが黄雷で周囲を薙ぎ払うように動くと電撃がセイバーの周り全てに展開し、その余波で忍者へとダメージを与えた。しかし、1回当てれば終わりだった前回とは違い、しっかりとHPバーがあった。

 

「あれ。前回は一撃で終わりだったけど今回は違うのか。まぁ、それでも関係無いんだけどな!」

 

セイバーはダメージを受けたことで足が止まった忍者との接近戦を展開し、セイバーは雷鳴剣黄雷で、忍者は2本のクナイで激しく斬り合った。2人の剣速はほぼ互角であり、斬り合いは膠着して鍔迫り合いとなった。

 

「こいつ、やっぱり速いな。けど、これでどうだ!【サンダーブースト】!」

 

セイバーは瞬間的に速度を上げると忍者の剣速を上回り、連続での斬りつけで忍者を追い詰めていった。

 

「そんなもので終わりか?忍者さんよ!」

 

セイバーの挑発に刺激されたのか、忍者も本気を見せるようになり、いきなり影分身を発動すると5人へと増えた。

 

「【稲妻放電波】!」

 

セイバーは再び周囲全てを攻撃可能なスキルで忍者の分身達を薙ぎ払うが、この5体の中に本物は存在せず、全ての分身が消滅すると同時にセイバーの背後からクナイを突き立てた。

 

「痛てっ!流石に今回はそっちの方が上を行くか。面白い!」

 

忍者は再び分身を発動するとセイバーを囲み、先程と同様の仕掛けを展開した。

 

「おいおい、二度と同じ攻撃が通用すると思っているのか?【落雷】!」

 

セイバーが黄雷を天へと掲げると忍者の分身全てに落雷が落ちて分身は消滅。そのタイミングで忍者は先程と同じようにセイバーの後ろへと出てきてクナイを突き立てた……しかし、今回は先程のようには上手くいかなかった。何故なら、攻撃すると同時に忍者の上から巨大な剣が降ってきて忍者はそれを受け止めるのに手一杯になったからである。

 

「キングエクスカリバー、力を借りるぜ。【巨剣両断】!」

 

セイバーが左手に持ったキングエクスカリバーを振り下ろすとそれに連動して巨大な剣も忍者へと振り下ろされた。これには忍者も堪らずにダメージを受けることになった。

 

「お次はこれだ。【デビルスラッシュ】!」

 

セイバーはエビルを倒したことによって手にしたスキルを使用し、緑のエネルギーを黄雷に高めるとそのまま忍者へと攻撃し、ダメージと共に追加効果のAGIダウンの効果で忍者の動きを僅かながらも遅くした。忍者はセイバーに連続でダメージを入れられた影響か、セイバーから距離を取るが、先程までの動きのキレは失われてしまっていた。それによってできてしまった隙をセイバーが見逃すはずもない。

 

「【雷鳴一閃】!」

 

セイバーは超スピードで動きながら黄色く輝かせた黄雷で忍者をすれ違い様に斬った。

 

「……これで話は終わりだ」

 

その言葉を言った直後、忍者は倒された。セイバーはキングエクスカリバーをしまうと消えていく忍者の方を振り返り、まだ終わらぬボス達との戦いに備えるのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとボスラッシュ後半戦

セイバーが5体目のボスである忍者を倒した直後、今度はピンクの道から大きな音と共に巨体が歩いてきた。その巨大とは、2本の足と2本の腕が生えたお菓子で築かれた家であった。

 

「……待て待て、今度はこれ?お菓子の家に手や足とか、ロボットかよ。まぁ、どんなのが相手だとしても俺が勝つけどさ。翠風抜刀!」

 

セイバーが翠風を抜くと二刀流となった。するとお菓子の家は周囲に粘着性のある弾丸を放ってきた。セイバーはこれを躱しつつ構える。

 

「マジか。これはあんまり長引かせると不利だな。【手裏剣刃】!」

 

セイバーは緑の風エネルギーを手裏剣のように変化させるとお菓子の家へと投げつけた。お菓子の家には機動力があまり無いためにダメージを与える事ができたが、防御力が高いのかダメージが少なく、鉄壁の防御性能を見せつけていた。

 

「硬いな。けど、勝てない相手じゃない。HPは削れているんだからいつかはやれる!」

 

セイバーは家からの射撃を回避しながら走っていくと剣の間合いに接近。懐に飛び込みながら緑に輝かせた翠風を振るう。これにはお菓子の家も堪らずに数歩さがったが、それでも尚セイバーへと巨大な拳を振り下ろしてきた。

 

「【影分身】、【超速連撃】!」

 

攻撃を受ける瞬間、セイバーの体はいきなり分身すると家へと連続で高速の斬撃を与えて弱らせていった。家はセイバーの素早い動きに翻弄されてしまい、攻撃をモロに受け続けることになった。しかし、突如として家の壁が崩壊したかと思うと中からお菓子の兵士が様々な武器を構えて出てきた。

 

「今度は数で来るか。でも関係無いね。【クナイの雨】!」

 

セイバーは翠風を上に掲げると上空からクナイによる雨が降り注ぎ、兵士達は足を止めて防御に徹した。当然その間、正面に対しては無防備になる。セイバーはその隙を突くように突貫する。

 

「さっさと倒して俺の強さを証明する!【烈神速】、【疾風剣舞】!」

 

セイバーは翠風に風のエネルギーを集中させて兵士達を次々と破壊していった。兵士達も抵抗をしなかった訳では無かったが、猛スピードで自分達を斬りつけて来る疾風の戦士には手も足も出ずに殲滅されていった。それから暫くしてお菓子の兵士達は全滅したが、今度は破壊された破片が集まっていき、1体のお菓子の人間を作り出した。

 

「今度は何だ?ま、何が来ても俺なら大丈夫だと思うけど」

 

お菓子の人間は両肩にスピーカーを出すとそこから爆音を流し始めた。セイバーはその音を聞くと耳が痛くなりその場で耳を塞いだ。

 

「うるさっ!音の攻撃かよ!だったら【竜巻】!」

 

セイバーは自身の周囲に竜巻を発生させるとその音で爆音をある程度相殺し、お菓子の人間へと走っていった。当然お菓子の人間へと近づくほど爆音は酷くなるのだが、それでもセイバーは一撃を入れるために走り続けた。

 

お菓子の人間はそれを見てセイバーから距離を取り始めた。近づかれてしまうのを嫌ったのだろう。しかし、セイバーの今の装備は風双剣翠風。お菓子の人間には逃げ切れるわけがなかった。

 

「【3豚刃】、【超跳躍】!」

 

セイバーはお菓子の人間が逃げる先に子豚達に壁を作らせて逃げ道を無くさせ、その間に超跳躍で接近。一気にトドメの一撃を放った。

 

「これで決まりだ。【トルネードスラッシュ】!」

 

セイバーから放たれたのは二刀流の翠風を合体させて放つ竜巻の斬撃。その一撃によってお菓子の人間は両断されると爆散して消えた。そして、お菓子の人間が消滅した影響か爆音も無くなった。

 

「はぁ、はぁ、流石に最後のはうるさかったなぁ……。頭がおかしくなるかと思ったよ……。それで、次は多分」

 

セイバーが言い終わらない間に紫の道から紫の龍が現れた。

 

「……だよね。闇は光で制する。最光抜刀!」

 

セイバーは最光を抜刀すると剣の姿となって紫の龍へと飛行していくと金の輝きと共に紫の龍を斬りつけた。紫の龍は思わぬ先制攻撃に一瞬怯むが、すぐに闇の光弾で対抗してきた。当然、セイバーにとってはダメージにすらならないのだが、それでも当たると体重の軽さの影響でノックバックを受けてしまうので極力斬らずに躱すことにした。

 

「この剣でいられるのには時間が限られる。出来る限りこの姿でダメージを入れたい!【発光】!」

 

するとセイバーから眩い光が放たれて紫の龍の視界を奪い、その間に猛スピードで後ろに回り込むと無防備な背中を連続で斬りつけた。

 

「次はこれ。【閃光斬】!」

 

セイバーの刀身が光るとそのまま研ぎ澄まされた刃からの斬撃波が飛んでいき紫の龍の体に傷をつけた。しかし、龍も無抵抗でやられるつもりは無く紫の霧を放出した。するとセイバーのステータスが下げられた。

 

「不味いな。DEXを下げられるとこの姿を維持できなくなる……。あと1分くらいあるけど、【シャドーボディ】!」

 

セイバーは刀身から光を放ち、地面に自身の影を呼び出すと自分を影に掴ませた。紫の龍はそれを見て今度は闇のブレスを放ってきた。

 

「ブレスか。この体でもダメージは受けないが、念には念を入れて【シャイニングブラスト】!」

 

セイバーの周囲に光の光弾が出てくるとブレスへと飛ばしてブレスを相殺していった。ブレスを防がれた龍は続けて尻尾に紫のエネルギーを高めるとセイバーへと振ってきた。

 

「アレは多分受けるとヤバい。聖剣が封印されると何も出来なくなるからね。【影移動】!」

 

セイバーは体を影の中に入れると剣のみの状態で飛行し、紫の龍の攻撃を躱しつつ横に移動して再び影を出すと剣を掴ませる。そのまま影の腕を思い切り伸ばすと完全なアウトレンジからの突きを喰らわせてダメージを与え、更には一気に距離を詰めて渾身の一撃を放つ。

 

「【シャドースラッシュ】!」

 

影の体が本体の剣を中心に竜巻のようになるとそのまま紫の龍を吹き飛ばしてダメージを入れた。すると龍はHPを一定以下に減らされた影響か紫の光と共に金の龍を4匹呼び出して尚且つ体を更に荒々しく変化させた。

 

「ようやく真の力って奴か。なら俺も!【カラフルボディ】!」

 

紫の龍が真の力を発揮したようにセイバーもフルパワーのカラフルな装甲を身に纏う。これによってさらにパワーアップを果たした紫の龍に対抗する事が可能になった。

 

「【光の矢】!」

 

セイバーが最光を振るうと光の矢が大量に生成されてその攻撃が紫の龍へと飛んでいく。紫の龍はこれに対して闇の壁を作り出すと攻撃を防いだ。その間に4匹の小型の金龍がセイバーに噛みつこうと口を開けて突っ込んできた。

 

「無駄だな。【光速移動】」

 

セイバーがスキル名を口にした瞬間、その姿が一瞬揺らいだかと思うと金龍達を置き去りにして紫の龍の前に移動。光の速度を持ってして一気に距離を詰めたセイバーはすかさず最光で龍を斬りつける。紫の龍は金龍達を戻してセイバーに攻撃をしかけさせるが、セイバーはそれすらも読んでいた。

 

「【腕最光】!」

 

装甲を腕のみに集めるスキルで腕にカラフルなアーマーを集約させると漫画のコマのような絵が描かれたバリアを展開して金龍達を止めた。

 

「光あれ。【エックスソードブレイク】!」

 

セイバーから放たれる両腕を金と銀に光らせた斬撃は龍に確かな打撃を与えた。紫の龍は追い詰められた証か、紫のオーラを高めると闇のエネルギーを口に集中させていった。

 

「そろそろお前ともお別れだ。【漫画撃】、【足最光】!」

 

セイバーはMPポーションでMPを適時補給してから【漫画撃】の効果で5人分身すると装甲を足に集約。そのまま高まった脚力で跳ぶと光の力を足に込めた。

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

5人のセイバーは紫の龍に向かって突撃すると紫の龍もエネルギーの砲弾を撃ち出し、それと同時に金龍達もブレスを放った。

2つの攻撃はそれぞれ拮抗するが、それでも気合いではセイバーが勝っており、セイバーは闇の砲弾ごと押し込むと紫の龍を貫いて撃破した。

 

「ふう。闇が来たから多分次は光かな」

 

セイバーが話していると今度は金と銀の道から金と銀の剣の二刀流を携えた老人が現れ、剣を構えた。

 

「狼煙抜刀!【ビーニードル】!」

 

セイバーは二刀流に対抗するために【ビーニードル】で左手に蜂の針のような物を出して擬似的な二刀流になると老人と斬り合いを始めた。

 

「いくらお前が剣の達人だからといって、俺は負けるつもりは少しもねーよ。【昆虫の舞】」

 

セイバーは自身に黄緑のオーラを纏わせると虫属性の攻撃の威力を上げ、そのまま蜂の針を模した武器で老人の剣を弾き飛ばしてから突き刺し、ダメージを与えた。すると老人はいきなり光の粒子となって剣の中へと吸い込まれると2本の剣が空中を舞いながらセイバーへと突っ込んできた。

 

「そう来たか。けど、無駄だ。【複眼】」

 

セイバーの目が複眼のように変化すると剣の動きを完璧に見切って躱し続けた。

 

「ほらほら、こっちだぜ?当ててみろよ」

 

セイバーは【複眼】の効果で視界が大幅に広くなっており、剣がどこから来ようが殆どが視界の中であり、回避するのは容易なのである。

 

「躱すのも面倒くさくなってきたな。そろそろ反撃させてもらうよ」

 

セイバーが狼煙を構えると自身へと2本の剣が同時に来るタイミングを見計らった。そしてその時はすぐに来た。

 

「ここだ!【狼煙霧中】!」

 

セイバーの体が煙と化すと再び元に戻り、その時には飛び回る2本の剣をガッシリと掴んでいた。そのまま無理矢理地面へと叩きつけると鋭利な先端を硬い地面へと刺し、剣達は自力では脱出することができなくなってしまった。

 

「そこで大人しくしてなよ。【煙幕幻想撃】」

 

そこにセイバーから放たれる煙の力が込められた斬撃が剣を吹き飛ばし、ダメージを入れた。老人は剣のままでは勝ち目が無いと考えたのか再び出てくると再びセイバーへと近接戦を仕掛けてきた。

 

「【甲虫の盾】」

 

老人が2本の剣を振り下ろすといきなり現れた硬い甲虫の甲羅を模した盾が攻撃を完全に防いだ。更に紅く輝いた狼煙を使ってセイバーは反撃を放つ。しかし、その攻撃は老人が光のバリアを展開したことで不発に終わった。

 

「やるな。けど、これでどうかな?【インセクトショット】!」

 

今の老人が攻撃するのと、セイバーからの攻撃をガードするので手一杯であるのをチャンスとみたセイバーは、両手が塞がっても発動可能なスキルを使い、右足でのローキックを放った。老人は足をやられた影響か、堪らず体勢を崩して後ろへと倒れていき、セイバーの狼煙での斬撃が今度こそ老人へとダメージを与えた。

 

「良し、一気に……ん?」

 

セイバーが老人の変化を感じ取って後ろに下がると、老人の体がいきなり影のように黒くなっていった。

 

「これは、影の力か?だとしたら、かなり厄介になりそうだ」

 

セイバーは自身の影の姿の特性を知っているだけにかなり警戒していた。そして、その対策さえも考えていた。

 

「【有毒の煙】、【煙幕】」

 

セイバーがスキル名を言い放つとその周囲に広範囲で煙を発生させ、老人の視界を奪うと同時にあわよくば毒による定数ダメージも狙った。しかし、毒による定数ダメージに関しては、そもそも老人からHPの概念が消えてしまったせいか入ることは無くなってしまい、狙いが外れることになった。それでも煙の効果は的面であり、老人からセイバーの位置が分かりづらくなった。そのうえ、セイバー自身が煙そのものになることができるため、時間稼ぎにももってこいなのだ。

 

「さて、俺の場所がわかるかな?」

 

老人は2本の剣を振るうが、セイバーには当たることはなくただ時間だけが無駄に過ぎ去ってしまい、効果時間を超過したためか、老人の姿は元に戻っていた。そのタイミングで【有毒の煙】の効果が刺さるようになり、老人は毒による定数ダメージを受けることになった。

 

「終わりにするよ。【電撃の糸】【スパイダーアーム】」

 

弱りきった老人へとトドメを刺すためにセイバーは電撃を纏わせた糸で老人を縛ると麻痺による行動の制限を行い、そのまま背中から生やした蜘蛛の足で老人を滅多刺しにした後に上へと放り投げた。

 

「【バタフライウイング】、【昆虫煙舞】!」

 

セイバーの背中には蜘蛛の足の代わりに今度は蝶の羽を生やさせると空へと飛び、すれ違い様に強烈な斬撃を老人へと叩き込むと老人はHPを全て失うことになり、ポリゴンとなって消えていった。

 

「これで光の敵も倒した……。今度は残っている光る道はあと1本。これで最後かな?」

 

セイバーが言い終わらないうちに真紅に光る道から巨大な蜘蛛が現れるとセイバーを見下ろした。

 

「今回はこれだな。流水抜刀!」

 

セイバーがこの戦いの中で唯一使用していない流水を抜刀すると体が氷に包まれていき、氷獣の装備を纏って巨大な蜘蛛と向き合った。

 

「さぁ、来いよ」

 

セイバーの挑発に蜘蛛は乗ったかのように鋭く尖らせた足をセイバーへと振り下ろしてきた。しかし、セイバーの反射神経は振り下ろされる足よりも早く、蜘蛛の攻撃は全て防がれるか、躱されることになった。

 

「おいおい、そんなものか?だったらこっちから行くぜ。【ブリザードラッシュ】!」

 

セイバーは流水に氷を纏わせるとそのまま連続で高速の斬撃を放ち、蜘蛛へとダメージを与えていった。しかも、その時に蜘蛛の足を凍らせていき、蜘蛛の動きさえも封じていくことに繋がっていった。流石にこのままでは不味いと判断したのか、蜘蛛は自身の特性である煙化を発動して一旦距離を置こうとするが、煙化しかけた所で止まってしまった。

 

「させねーよ。お前の体を組織する煙ごと凍らせてるからな」

 

セイバーにとって最早煙化は敵ですら無かった。ただ、蜘蛛の能力は煙化だけでは無く、他にも存在していた。煙化することが不可能だと悟った蜘蛛が次に取った手は周囲に電気を纏わせた蜘蛛の糸を撒き散らし、セイバーの機動力を削ぐことだった。

 

「これは厄介だな……多分この糸に触れるのはダメだろうし……」

 

セイバーが困っていると蜘蛛は今度は紫の光弾を放った。セイバーはこれを躱すことなく受けると毒のダメージが体へと走り始めた。

 

「うぐ……初めて受けたけど、毒になるとこうなるのか……だったら、アレを試すか。【アイスフィールド】」

 

セイバーは足のつま先で地面を軽く叩くと足元に氷の大地と共に周囲に吹雪が発生。たちまち周りのフィールドが氷の世界へと変化した。それと同時にセイバーを蝕んでいた毒が消え、地面を覆い尽くしていた糸も氷によって凍結してしまった。

 

「ふう。これは良いや。【アイスフィールド】の効果で10分間だけフィールドをこの姿が有利な地形へと変化。しかも【アイスボディ】の力で周囲が吹雪の状態だと状態異常とデバフを解除してくれる。完璧すぎるシナジーだよ」

 

セイバーが感心していると蜘蛛が攻撃を仕掛けてきた。しかし、今のフィールドはセイバーに圧倒的に有利なのである。今の蜘蛛ではスキル【スケーター】によって地面が凍りついているとAGIが1.2倍に強化されたセイバーの動きを捉えるのは困難だった。

 

「さっさと終わりにするか。【白銀の獅子】」

 

セイバーが目の前に白銀の獅子を呼び出すと自身は跳び上がり、両足に氷の力を集約、そのままドロップキックを放ち、蜘蛛を吹き飛ばすとそのまま白銀の獅子に攻撃させて追い討ちを加えた。

 

「お前はこれで終わりだよ。【氷獣大地撃】!」

 

セイバーが着地と同時にスキル名を言うと頭から垂れている白い毛が凍りついていき巨大なライオンのタテガミのように変化。続けて流水を地面へと突き立てるとその瞬間、凍っている地面の上に氷が展開していき、蜘蛛の足を全て凍結させてしまった。

 

「はあっ!」

 

セイバーは蜘蛛が身動きを取れなくなってしまっている間に蜘蛛の元へと走っていくとそのまま切り裂き、蜘蛛は煙化する間も無く真っ二つに両断されて撃破されることになった。そして、蜘蛛が撃破された影響か、凍結された地面に張られた糸は消え去り、10分が経過したことで吹雪とフィールドの凍結も解除された。

 

「これで全部撃破かな?」

 

セイバーが安心したのも束の間、いきなり目の前に水色とオレンジの炎が燃え盛るとその中から水色の骨の龍と、オレンジと赤の炎を纏った龍が出てきた。2匹の龍の姿はまるでセイバーが以前友達になったプリミティブドラゴンと、自身が創造したエレメンタルドラゴンにそっくりであり、その2匹はセイバーを明らかに敵とみなしていた。

 

「おいおいおいおい嘘だろ?まだお前らも出てくるのかよ。HPとMPは今のうちに回復したから良いけどさ、2対1は流石にな……」

 

セイバーが弱り果てていると影から久しぶりに頼もしいセイバーの味方が出てきた。

 

『おいおい、俺のことを忘れてないか?セイバーよぉ』

 

「デザスト、お前…」

 

『ここ最近俺の出番が無くてイライラしていたんだ。ここは俺も参加させてもらうぜ』

 

「しょうがねーだろ。出番が無いのは作者の都合なんだから……」

 

『サラッとメタ発言をしてんじゃねーよ』

 

「わかった。頼むぜデザスト。月闇抜刀!ブレイブ【覚醒】、【邪悪化】、【邪龍融合】!」

 

セイバーは月闇を抜刀するとブレイブと融合して力を高めた。デザストも自身の持つ剣を構えて戦闘体勢を整える。

 

それから2人は拳を突き合わせるとそれを合図に2匹の龍との戦闘を開始した。セイバーとデザストは走り込みながら2匹の龍を撹乱。そのまま跳び上がって連続で斬りつけた。

 

「やるな!デザスト」

 

『当たり前だ。それにこれは久々に良い運動になりそうだぜ』

 

「油断してやられるなよ!」

 

『お前こそな』

 

2人は楽しそうに会話を交えながら2匹の龍を翻弄していき、そのHPを着実に削っていく。

 

「【ダークスピア】!」

 

セイバーは何度も龍達を斬りつけながら闇のエネルギーで作り出した槍を投擲し、炎の龍を傷つけようとするが、骨の龍がそれを見逃さず、骨ばかりの手を伸ばして槍を弾き飛ばした。その隙にデザストが骨の龍へと接近。手にした剣で斬りつけようと剣を振り上げた。しかし、今度は炎の龍が火炎弾を放ってデザストの攻撃を中断させた。

 

『チッ。コイツら、連携もしっかりしてやがる』

 

「敵ながら見事だな。だけど、ここで負ける訳にはいかねーよ」

 

『セイバー、水勢剣を貸せ』

 

「え?でも聖剣はユニーク装備だし、他人には貸せないはずじゃ……」

 

『良いから早くしろ』

 

「わかった。ほら!」

 

セイバーがインベントリから流水を取り出すとそれをデザストへと渡した。するとデザストには何の障害もなく、普通に剣を使用することができた。

 

「嘘だろ?お前、試練を受けてないのに何で使えるんだよ」

 

『ふん。それはお前が1番わかってるんじゃないのか?お前は俺のことを認めている。だからこそこの聖剣を貸したんだろ?』

 

「なるほど、聖剣に認められている俺が認めている奴だから使えるって訳か。なら、烈火【大抜刀】!」

 

セイバーは烈火を抜くと月闇と二刀流になり、デザストも自身の剣と流水による二刀流となり、それぞれが聖剣の力を引き出してセイバーの方は紫と赤の、デザストは白の輝きを纏わせた。

 

『一気に行くぜ!!』

 

「いや、一緒に行くぜ!!」

 

2人は龍達を挟むように両サイドに分かれてから龍達へと突っ込んでいき、セイバーは骨龍から伸ばされる骨の腕を紙一重で回避。デザストも炎の龍から放たれる火、水、雷、風、土の属性を纏わせた光弾を躱しつつ、接近。それぞれが光り輝かせた剣で斬りつける。勿論龍達も黙っているはずが無く、骨の龍は口から炎を放ち、セイバーはそれを2本の聖剣で防ぐ。炎の龍もデザストを捕まえてそのパワーで握り潰してしまうが、デザストは不死身である。すぐに復活すると地面へと落下する流水を再び掴むとセイバーと同時にスキルを言い放つ。

 

『【氷獣大空撃】』

 

「【封印斬】」

 

するとセイバーが骨の龍の腕に封印の力を込めた攻撃を加え、厄介な伸縮自在な骨の腕を封じ、その間に氷の羽で空へと飛翔していたデザストが氷結の一撃を振り下ろし、骨の龍の体を一瞬にして冷凍した。

 

「【暗黒闇龍剣】!」

 

そこにセイバーから繰り出された闇の龍を模したエネルギー斬が骨の龍を襲い、その体を氷ごと砕いて破壊した。これにより、骨の龍は仕留められて残すは炎の龍のみとなった。

 

『【ハイドロスクリュー】』

 

デザストは流水から激流を放つと炎の龍が纏う炎ごと撃破しようとした。しかし、炎の龍のモチーフはセイバーが仲間にしたエレメンタルドラゴンである。よって当然のようにエレメンタルドラゴンの力を使い、炎となって攻撃を回避してしまった。

 

『セイバーと同じか。こいつは厄介だぞ』

 

「いや、デザスト。もう一回アイツにあのスキルを使わせてくれ」

 

『ほう。考えアリだな?』

 

その問いにセイバーは無言で頷く。

 

『なら、行くか。【タテガミ氷牙斬り】」

 

デザストは流水から吹雪を放つと炎の龍の体を凍らせた。すると、龍は体に炎を漲らせて氷を破壊した。その間にデザストが接近して自身の最も得意な一撃を放つ。

 

「【カラミティストライク】!」

 

高速回転しながら連続で放つ斬撃。それは龍へと迫っていき、龍の咄嗟の時を引き出した。再び炎となって龍は攻撃を回避するとデザストの背後に回ってまた元の姿に戻って今度は背後からデザストに攻撃を繰り出そうとする。

 

「甘いぜ。それの弱点は知ってる!【金龍ノ舞】」

 

セイバーが召喚した4匹の金龍は炎から戻ったばかりの龍に噛みつき、その動きを制限した。

 

「今だ!デザスト、決めるぞ!!」

 

『勿論だ。もう一発【カラミティストライク】、【タテガミ氷牙斬り】」

 

「【邪王龍神撃】、【森羅万象斬】!」

 

セイバーからは闇の龍の斬撃と虹色に輝かせた四大元素の力をフルに引き出した斬撃、デザストからは氷の力が付与された高速の連続攻撃が龍へと向かっていき、その一撃は炎の龍の体を一撃で壁へと押し込み、そのまま大爆発と共に龍のHPが0にされて消滅。2人はその爆風から出てくると地面に着地した。

 

「よっしゃああ!倒せたぜ!」

 

『この俺もいるんだ。当然だろ。な、相棒』

 

「ああ、ありがとう。デザスト」

 

セイバーは烈火をしまうとデザストから流水を受け取った。それと同時にブレイブとの融合も解いて休ませた。

 

『というか、これで終わりなのか?』

 

「あー、それなんだけど、今通知音が鳴ってこんなスキルが取得できた」

 

セイバーがデザストにスキルを見せるとそこにはこう書いてあった。

 

【魔の頂点】

召喚したモンスターのステータスを1.5倍にする。

 

『なるほど、これを取得したってことはもうボスラッシュってのは終わりか?』

 

「多分な。いやー、久しぶりに疲れたぞ。まさか、今まで倒してきたボスとの連戦とか運営も鬼なのか?」

 

『まぁ良いだろ。全部倒したし』

 

「それもそうか」

 

それからセイバーはデザストと共にそのダンジョンを後にすることになった。因みに、このダンジョンには後にメイプルとサリーが2人で挑むことになり、戦ったボス達が違ったものの、2人共同じスキルを手にすることになった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと偵察

セイバーがボスラッシュを終えて数日経ち、ギルドホームに入るとサリーがソファーに深く座って目を閉じ、険しい顔で何か考え事をしていた。

 

「サリー、どうした?そんな風に考えて」

 

「サリーがそうしているのはちょっと珍しいね」

 

「セイバーにカナデ?ああ、まあうん。ちょっとね……」

 

「また次の対人戦について考えてるのかな?ほら、新しいスキルも手に入ったみたいだし」

 

セイバー、メイプル、サリーのこともそうだが、マイとユイに関しても新たな力を手に入れている。マイとユイは今日も元気にフィールドで8本の大槌を振り回して、別物になった体を戦闘に馴染ませるとともに討伐数を稼いでいる。

 

「ちなみにカナデの方はどう?」

 

「僕は魔導書を溜め込みながら、他のギルドのことを見てる感じだねー。サリーから聞いてた通り【thunder storm】の3人のテイムモンスターは分からなかったよ」

カナデの戦闘力は1回限りの魔導書を使うことによって変化する。それ以外のスキルには特殊なものはこれといってないため、レベル上げのために戦闘を繰り返すのには向いていない。そういうこともあって、カナデは自分から他のプレイヤーの観察に時間を割くようにしているのだ。

 

「そっか。分かったら対策も立てられるんだけどね」

 

「ほんと、キャロルには現実世界で聞いているんだが一向に口を割らないし……」

 

「でも面白い人達だね。あれだけ派手ならどこにいるか分かりやすいから」

ベルベットとヒナタとキャロルがいればその辺りには大量の雷が落ち、冷気が立ち込め、周囲が爆発し、場合によっては物体が浮き上がっていたりするのだから、セイバー、メイプルに負けず劣らず目立つ存在である。

 

「今度は【ラピッドファイア】の方を見に行こうかな」

 

「うん、何か分かったら助かる」

 

「まあ程々に期待しながら待っててみてよ」

 

「俺も偶には偵察するかな。そのついでにレベル上げもしたいし」

 

ただ、こうして会話をしていてもどこか悩み事があるように見えるサリーにカナデはどうしたものかと少し考える。

 

「んー、何かあるならセイバーかメイプルにでも相談してみたら?特にセイバーに話した方が気が楽なんじゃない?」

 

「へ?何でだよ。同じ女子のメイプルの方がまだ良いんじゃ……」

 

「それはそうだけど、今のサリーの心境的にセイバーの方が良い気がしてね」

 

「ふえっ……」

 

サリーはカナデの言葉に顔を真っ赤にしており、セイバーはそんなサリーを見て何故か疑問に感じた。

 

「ちょ、何でサリーが顔を真っ赤にしてんの?」

 

「べ、別に何でも無いわよ」

 

「それじゃあ、僕はそろそろ行くね」

 

カナデはそう言うとひらひらと手を振ってギルドホームから出て行く。それから取り残されたセイバーとサリーは気まずい雰囲気を見せていた。

 

「……ねぇ、セイバー」

 

「なんだ?」

 

「………今の私のことをどう思ってる?」

 

サリーは緊張からか、思っていたことと違うことを口にしてしまっていた。本来なら、サリーは苦手なホラー系を克服するために一緒にホラーゲームをしようと言おうとしていたのだが、先程のカナデの言葉に完全に調子が狂ってしまった。

 

「……俺から見たサリーか。えっと、口うるさくて、すぐに色んなことで意見がぶつかるけど、どこか憎めなくて……」

 

自分で考えていたことと違うことを言ってしまったことに気づかないサリーはセイバーの言葉を真剣に聞いていた。

 

「偶に無理するし、俺がちゃんと支えてやらないとなって思ってる。あとはサリーのためなら俺の全てを賭けられるかな」

 

「……へ?」

 

「………あ」

 

サリーが変な声をあげ、それによりセイバーは自分で言った言葉の意味を理解した。そして2人共顔を真っ赤に染めると気まずい雰囲気になってしまった。

 

「……サリー、その、今のは……」

 

「大丈夫……」

 

「その、何て言うか……ごめん」

 

「良いよ、セイバーにとって私は大事な存在なんだなってことが知れただけ嬉しい」

 

そんな2人を物陰から2人の影が見ていた。そしてその影は怒ったような雰囲気を出しながら出てきた。

 

「セイバーお兄ちゃん?これ、どういう状況かな?」

 

「サリーも俺が目を離した隙によくもまぁここまでベタベタしてくれたな」

 

「え?ヒビキ、キャロル、いつから……」

 

「「最初からに決まってるでしょ(だろ)」」

 

2人の今の感情はサリーに対しての嫉妬と、セイバーに対する怒りだった。

 

「あ、あの、お二人さん?」

 

「セイバーお兄ちゃん、ちょっとゆっくりお話ししましょ?」

 

「なーに、ちょっとしたお話だ。サリー、お前も後で俺達が叩きのめす!」

 

「その……」

 

「「セイバー(お兄ちゃん)覚悟は良い?」」

 

「ヒビキ、キャロル、落ち着け!!まずその前に俺のことをどうするつも……ギャアアアアアアア!!!」

 

「「浮気した罰よ(だ)」」

 

それからセイバーは嫉妬と怒りに燃えた2人にボコボコにされることになり、その後、セイバーのことで頭がいっぱいだったサリーもヒビキやキャロルから問い詰められることになった。

 

 

それからまた暫く経ち、長い期間のイベントも折り返しに入ろうかといったところで、イベントモンスターの討伐数は既に累計目標達成に近づいていた。

 

「おー思ったより早いもんだな」

 

「そうね。素材もそこまで集まりにくいわけでもなかったからそろそろ十分よ」

 

「結局僕はあんまり参加しないうちに目標達成しちゃいそうだなあ」

 

「大丈夫大丈夫、俺達がカナデの分までしっかり狩ってきたから」

 

セイバー、クロム、イズ、カナデの4人は討伐数を確認しつつ、あとはある程度積極的に動いている大規模ギルドに任せながら、少しずつ無理なく倒せば間違いなく期間中に達成できるだろうと予想する。

 

「じゃあ僕は今まで通りちょっと他のギルドでも見てこようかな」

 

「お、偵察か?」

 

「【ラピッドファイア】の3人も話を聞いてる限りだと面白そうだし。ちょっと見てみたくてさ」

 

「あの3人も強いからなあ。情報があると対人戦で助かるな」

 

「そういうこと」

 

「カナデ、俺もついて行って良いか?」

 

「良いよ。その代わり、今回は決闘するのは無しね」

 

「わかった」

 

「じゃあもし何かあったら連絡するよ」

 

「ええ、必要なものができたらいつでも言ってね」

 

「うん」

 

「それじゃあ行こうカナデ」

 

カナデも魔導書とソウの【擬態】によって柔軟に戦闘ができるため、レベルこそそこまで高くないものの、戦闘のキーになるスキルで戦略の要になれる。カナデは【神界書庫】とその魔導書に大きく依存しているため、七層で本格的に戦闘するなら、魔導書も使っていかなければ厳しい。残しておきたい魔導書を決めるためにも、必要なことがあれば共有しておきたいのだ。

 

セイバーとカナデはギルドホームから出て行くと、リリィとウィルバートとマリアの情報を探りに行く。

リリィとウィルバートとマリアは、決まった時間に決まった場所で射撃練習とばかりにモンスターを撃破しているため、いくつも層がありそれぞれが広いといっても見つけるのは簡単だ。

 

「【thunder storm】の方はこれといって新しく知れたことはないし、何か面白いものが見れたらいいんだけど」

 

「あの3人の連携も強力だからな。特にリリィさんとウィルバーとさんを引き剥がす方法か何かでも見つかれば良いけど」

 

カナデは道中急にモンスターに襲われた時のためにソウを呼び出すと、セイバーと共に馬を使ってフィールドを移動する。

ソウがいれば自分に擬態させることで魔導書の消費を気にせず戦闘ができる。そのため、重要なイベント時やボス戦を除いて、今は基本的な戦闘はソウ頼みなのだ。

セイバーとカナデは以前セイバー達がリリィとウィルバートを見に行った場所の近くまで来ると、馬から降りて木の幹に背中を預けて座り込み、双眼鏡で3人がいるかを確認する。するとリリィとウィルバートはいたのだが、今日はマリアがいなかった。

 

「あれ、今日はマリアさんはいないのかな?」

 

「こればかりはしょうがないね。でも、聞いてた通りの命中精度……それに威力もすごいなあ。あれだと僕なんかは近づけすらしないかもね」

 

「一応ガードが間に合えば俺は近づけそうだけどなぁ。ま、間に合えばの話だけど」

 

ウィルバートは空を飛び回るモンスターに、ただの一度も矢を外さないのだから、必中と言われるのも頷ける。そのうえ一撃でそのことごとくを撃ち落とす威力となれば、並みのプレイヤーでは近づく前に蜂の巣になるだろう。

 

「無理矢理にでも距離を詰めるしかないね。いいスキルと【AGI】がいるなあ」

 

「俺がやるなら激土の防御力で受け切るか、翠風の速度で近づくかだけど、激土は止めておいた方が良いかな。防御貫通なんて来たらどうしようも出来ないし」

 

近づこうにも真正面から走っていったのでは、同じように距離を取られてしまうだろう。仮に防御力に物を言わせて近づいても貫通攻撃が来たらどうしようもなくなってしまう。サリーの言っていた通り、モンスターが爆散していく様子は攻撃力が異様な高さであることを示しているが、細かなステップや攻撃を回避する際の機敏さはマイとユイのような極端な能力値でないことを告げている。

射程があり、攻撃力があり、移動速度も人並みにあるとなればそこには純粋な強さがある。突き崩すのは容易ではないということだ。

 

「隣はリリィもいるしね……うーん、隙がないなあ」

 

「やっぱあの2人を上手く引き離すしか勝ち目は無いのかな」

 

【ラピッドファイア】の3人は個としても高い完成度を誇る。しかも、リリィとウィルバートは片方をもう片方が支援することでより盤石にしている。

ウィルバートが攻撃役ならば一撃の質による必殺、リリィが攻撃役ならば圧倒的な物量での一対多を押し付けてくる。片方が支援に集中することによって意識外から隙をついての攻撃も難しく、全ての能力が高水準だと言えるだろう。しかも、本来であればここにマリアが入ることになる。彼女には槍による一点突破の火力に加えて、蛇腹剣とバリアによる薙ぎ払いや防御があるので隙はもっとなくなるだろう。

ベルベットとヒナタとキャロルとはまた性質の異なるトリオというわけだ。

 

セイバーとカナデが2人を観察する片手間にイズ作のパズルを解きながら、テイムモンスターを呼び出したり、今までに見たことのないスキルを使ったりすることがないかを確認していると、遠くにいたリリィとウィルバートが射撃練習をやめて近づいてきた。

 

「おお!今日はまた面白い見物人がいたものだね。しかも、1人は既に会っている人だ」

 

「すみません。リリィがどうしても行こうと聞かなかったもので」

 

「いや、僕の方こそ覗き見するような形でごめんね?でも、すごいな……かなり離れてたはずなんだけど」

 

「ある程度の気配察知能力でもあるんですか?」

 

イズの作った高性能な望遠鏡でようやく確認できるような距離にいたのだから、とても肉眼で2人のことを確認することができるとは思えない。

 

「はは、うちのウィルは特別でね」

 

「私としてもあまり詳しく話すことはできませんが……ええ、きちんと見えていましたよ」

 

これは困ったとカナデは頭を掻き、セイバーは考えを巡らせる。サリーが感じた何かあるは、勘違いではないようだった。ウィルバートは何らかのスキルもしくはアイテムによって最高レベルの生産職が作る双眼鏡と同等。もしくはそれ以上遠くまで見渡すことができているということである。

 

「はは、いよいよもって奇襲は効果がなさそうだ」

 

「もう正面から攻略するしか無さそうだなぁ」

 

「ふふっ、そうだとも。いいね、包み隠さないのは好感が持てる」

 

そう言ってリリィは自信ありげな表情を見せる。ウィルバートの能力がある程度知られたとしても、それはあくまでおおまかなものでしかなく、完璧な対策をとることは難しい。であれば、問題なく勝ちきれると踏んでいるのである。

 

「少し偵察に来ててさ、ほら2人も僕達のギルドにとって重要人物だからね」

 

「そう言われるのは気恥ずかしいですが……」

 

「いや、悪い気はしないね。実のところそうだろう?」

 

「さあどうでしょう?」

 

「俺的にはここにいないマリアさんも含めて警戒人物ですけどね」

 

「セイバーはやはり私達を警戒してるのか。でも、逆も同じだからね」

 

「お二人やマリアさんも俺のことを警戒しているんですか?」

 

「当たり前だろう。以前のイベントではランカー達を見事に蹴散らしているしな」

 

「警戒するなという方が無理だと思いますよ」

 

「そうですか。それはそうとマリアさんはいないんですか?」

 

「ああ、今日は別でやりたいことがあるらしくてね。別行動だよ。と、話が逸れたね。何か有益な情報は得られたかい?」

 

「改めて索敵範囲の広さと射撃能力を確かめられたくらいかな」

 

「俺も同じです」

 

「そうか。でもまあ言ってしまえばそれが全てだよ。その上でどうしようもないだろう?」

 

「そうだね。少なくとも僕は分が悪いかな」

 

「俺は多少は太刀打ちできそうですけど、正面からはキツイですね」

 

「ウィルと比べて分が悪いと太刀打ちできるで済むなら、中々あなどれないね」

 

セイバーは聖剣をフルに使い、カナデも後のことを考えずに魔導書を惜しみなく使えばやりようはあるが、それでも隠している能力があればそれだけでひっくり返されかねない。だからそれぞれ太刀打ちできると分が悪いと答えたわけだ。

 

「もちろんいくらでも見ていってくれて構わない。といっても見せられるようなものは概ね君のギルドマスターやセイバーに見せたと思うけれどね」

 

「うん。僕も聞いてるよ。まあ偵察とは言ったけど、半分くらいは僕の興味本位なんだ。色んなスキルとそれを使いこなすプレイヤー、それを見てるのは楽しいからね」

 

「俺はきたる決戦に向けての下準備って奴ですね」

 

「なるほど」

 

「嘘ではなさそうだ。うん、分からなくもない」

 

「そういうわけで続けるならしばらく見させてもらうかな。次々モンスターが撃ち落とされていくのは見ていて気持ちいいしね」

 

「そうか。ただ、申し訳ない。今日は切り上げるつもりなんだ」

 

「ははは、謝ることなんてないよ。こっちが勝手に見てるだけだからね。むしろ、やめてほしいっていう方が自然なくらいじゃないかな」

 

ともあれ、今日はここまでとのことで、セイバーやカナデもそれならまた別のギルドのプレイヤーでも見に行こうかと切り上げようとする。

その直後、近い位置でバシャバシャと水音がし始めて、4人は音のした方に向き直る。向き直った先では、地面から湧き水が噴き出しており、水溜りというにはあまりに大きく、直径十メートル以上の範囲を水浸しにしていた。

 

「ん、何だろう?2人のスキル?」

 

「いえ、私は何も」

 

「特にギルドのメンバーにも、もちろん私達自身にもこんなスキルは記憶にないね」

 

近くに他のプレイヤーも見当たらず、そのうえで水となれば想起されるのは今回のイベントである。

 

「ウィル、今まで倒してきたサメやタコやウツボにこんな前兆はあったかい?」

 

「なかったはずですね。使ってきた技に関しても同じようなものを持っているモンスターには出会っていないはずです」

 

「よし、少し待ってみようか。2人もこのまま残ってくれると助かるよ。いつ何が起こるか分からない」

 

リリィは水の広がる規模から、大物が現れるだろうと予測している。となれば今近くにいる戦力を逃す理由もない。

 

「うん、分かった。いいね、想定してなかったけど面白いことには出会えたみたいだ」

 

「さてと、見てるだけは退屈だからね。少しは動きますか」

 

2人も様子を見守ることにして、4人で何かが起こるまで集中してじっと広がる水溜りを観察していると、その中央から波紋が広がりだし、バシャンという大きな音と共に、巨大なイカが姿を現し空中に浮びあがる。

 

「おー巨大イカは第2回イベント以来だなあ」

 

「あの時は流水の力で倒したけど、今回は地上に出るんだな」

 

「いいぞ、訳は知らないが大物だ。仕留めるぞウィル!」

 

「ええ、もちろん」

 

「水中じゃないし、僕も多少強くなってるからね。やりようもある」

 

「今回は出血大サービスだ。進化した流水の力を解放するとしよう。こちらとしてもただ2人の情報を得るだけでは損得が釣り合わないからね。流水、抜刀!」

 

カナデは第2回イベントでは水中に放り出されて巨大イカに瞬殺された。今回の個体はそれとは異なるが、成長の成果の見せ所である。

 

セイバーも巨大イカと対戦するのは第2回イベント以来でその時も流水で水中での激闘を演じた。しかも、今回は流水の装備は当時よりも更なる進化を遂げている。

 

4人はそれぞれ武器を構えると、まずはメインアタッカーであるウィルバートにバフをかけていく。

 

「【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】【賢王の指揮】【この身を糧に】【アドバイス】!」

 

「ソウ【擬態】」

 

「【アイスフィールド】」

 

セイバーが周囲に吹雪を展開して地面を氷のフィールドに変化させ、カナデの頭に乗っていたスライムがぴょんと飛び降りながらその形を変え、カナデそっくりに擬態すると、リリィは目を丸くして興味深そうにそれを見る。

 

「なるほどそういうモンスターか!噂には聞いていたが実際目にすると驚くものだね」

 

「便利だよ。僕の場合は特にね」

 

「セイバーも見たことない装備を着ていますね。パワーアップしたと見て良いでしょうか?」

 

「まぁ、見ればわかりますよ」

 

カナデはソウに魔導書を取り出させると、ダメージを上げるような効果のものをどんどんと使っていく。ソウに使わせると効果は落ちるものの、カナデの場合入手難度などを無視して質がいいスキルをかき集めているため、それでも凄まじい上昇値になる。

 

「【楓の木】でしっかりバッファーになれるのは僕くらいだからね。少しはやれないと」

 

「ははは……少しというには数値が伸びすぎですが……ありがとうございます。射抜きましょう」

 

「俺も今回は遠距離から行こうか【氷塊飛ばし】!」

 

セイバーは氷塊を発射し、ウィルは弓を構えるとギリギリと引き絞りつつイカの眉間に狙いを定める。

 

「【引き絞り】【滅殺の矢】」

 

赤黒いエフェクトと共に、視認すら困難な速度で放たれた矢と氷の塊はイカの分厚い体を突き抜けて空へ消えていく。ドバッと大量のダメージエフェクトが噴き出るものの、その頭の上に表示されたHPバーはほとんど減少していない。

 

「おっと……なるほど」

 

「これは想定外ですね。リリィ、代われますか」

 

「ああ、任せるといい。ただ、そんな次元でもないように見えるが……」

 

ウィルバートは一撃で倒せなかった場合に著しくダメージが減少するため、【クイックチェンジ】によって装備を入れ替えアタッカーをリリィに変更する。

リリィは即座に大量の兵を召喚すると銃撃によって攻撃を開始するが、一撃必殺のウィルバートですらそこまでダメージを与えられなかったことから察せられるように、減ってはいるものの有効打になっているとは言えない。

 

「反撃が来るか……!【その身を盾に】!」

 

「ソウ!【対象増加】【精霊の光】【守護結界】!」

 

「はあっ!」

 

両側から三人を叩き潰さんと迫ってくる触手を見て、カナデはダメージ軽減スキルを発動させ、セイバーは地面から氷の壁を作り出し、リリィは生み出した兵全てを使って自分達を庇わせる。しかし、ダメージを軽減してなお凄まじい威力であり、氷の壁と兵は一瞬の抵抗ののち粉々に粉砕されていく。

 

「想定以上だよ……【ラピッドファクトリー】【再生産】!」

 

2人がサリーから聞いていないスキルが発動され、それと同時に破壊されて直ぐに次の兵が補充され壁となっていく。

 

「へぇ、こんなに召喚できるものなんだね」

 

「ああそうとも。ウィルの力を見ただろう?並び立つには最低限これくらいでなくてはね」

 

「はは、私は別に大丈夫ですよ。頼もしいに越したことはありませんが」

 

「とはいえ、これでは攻撃に移れたものではないからさ。ウィル、ギルドメンバーに連絡を取ってくれ。増援がいる」

 

「分かりました。手の空いてる者に呼びかけてみましょう」

 

「僕もギルドの皆を呼んでみるよ」

 

「それは心強いな。頼むよ」

 

その間くらいは耐えられると言い切って、リリィはおびただしい量の兵士を絶えず生み出すことで、触手の攻撃を防ぎ続けるのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと援軍

第9回イベント、その期間が後半戦に突入する間際。セイバーとカナデは【ラピッドファイア】のトップツー、リリィとウィルバートの情報を得るために偵察に出かけたのだが、遠くから視認されていたことに気づかれて2人と合流。そのまま2人と共に帰還することになった。しかし、突如として巨大イカが出現すると4人へと襲いかかった。4人だけでは勝てないと踏んだセイバー達はそれぞれのギルドメンバーに応援を要請するが町からそれなりに離れたところだったため、急に呼んだ増援が来るまでには時間がかかる。

 

「流石にソウのダメージカットがなければ少し苦しいね、ウィルも私も攻撃力重視のバッファーなのが裏目に出たみたいだ」

 

「一応最光使えば防御寄りのバフはかけられるけどそうなると火力が足りなくなりそうだな」

 

「僕もそこまで持ってるわけじゃないからね?あと何回もこうして受けてられないかな」

 

「十分過ぎるさ。っと、ウィルどうやら予期せぬ応援だ」

 

そうしているうちに少し遠くにいたプレイヤーは巨大なイカの出現に気づいて近づいてくる。これ幸いと、リリィは手を出していいものかと尻込みしている周りのプレイヤーに呼びかける。

 

「突然現れてね!どうにも数人で倒すような相手ではないらしい!手を貸してくれないか!」

 

通常のフィールドに現れたことのないような巨大モンスターに、どうしたものかと動けないでいたプレイヤーも一斉に攻撃を開始する。それによってリリィ達4人に向けられていた攻撃が分散し、ようやく一旦離脱することに成功した。

 

「ふぅ、いつ押しつぶされるかとひやひやしたものだが。ダメージ軽減感謝するよ」

 

「うん、高い防御能力も見られたしラッキーかな」

 

「俺はあの兵士達にこんなこともできるとは思ってなかったから意外だったな」

 

「これだけ兵を召喚しているんだ。これくらいはできるよ」

 

「改めて見てみるのは大事だからね。本当に高いって分かった訳だし」

 

「違いない」

 

「そろそろ、近くにいたメンバーが到着するようです」

 

「増援は有るだけ欲しいね。見ろ、今も来てくれたプレイヤーが見事に吹き飛んでいった」

 

トップレベルのセイバーとリリィがカナデとウィルバートの支援を受けて、それでも防御に専念するのが精一杯だったのだから、人によっては受けきれないのも当然である。

現に気づいてやってきたプレイヤーのうちの3分の1ほどは既に触手の餌食となってしまっている。微妙に浮かんでいるのもあって、近接攻撃は難しく、プレイヤーによっては相性の悪さもあった。

 

「魔法使いは攻撃しやすいし、2人も射撃ができる。セイバーにも飛び道具はあるし、僕らで適度に攻撃していこう」

 

「また攻撃が集中しても困りますから。人が増えるまではじっくり行きましょう」

 

「ああ、そうしようか」

 

「さて、耐えどきだな」

 

リリィは再び呼び出した兵の陣形を整えるとイカに向かって射撃を開始する。カナデもソウが持っている高威力の魔導書を使って攻撃を続ける。セイバーも剣から水や吹雪を発射して遠くからダメージを入れていく。

 

「ソウ【紛れ込み】」

 

これでモンスターから狙われにくくなったはずだとカナデが伝えると、それは助かるとリリィは射撃を強化する。

 

「周りに人も増えてきたからね。4人しかいないなら気配を薄くしても狙われるのは僕達だ」

 

「これだけ人がいるなら文字通り紛れ込めそうですね」

 

「とはいえ、あくまでも狙われにくくなるだけでずっと攻撃したり【挑発】とかを使うとまた狙われるから気をつけて」

 

「覚えておくよ」

 

「俺は別にターゲットにされても大丈夫だけど、近くに3人もいるし、今回は大人しくしようかな」

 

プレイヤー同士なら特に気にすることもなく攻撃できるため、PVPというよりはPVE用のスキルだと言える。

そうこうしているうちに【ラピッドファイア】のギルドメンバーが到着したようで、駆け寄ってきたバラバラのプレイヤーとは違う、統率のとれたパーティープレイにより後衛を守りつつダメージを出していく。更に、強力な戦力であるマリアも4人の元に辿り着いた。

 

「お待たせ、2人共に……セイバーと……誰?」

 

「カナデだよ」

 

「マリア達も到着したみたいだね。これでようやく楽になるよ」

 

「ですが本当にHPが多いですね」

 

「ああ、これは間違いなくボスよりもタフだね。調整ミスでないのなら超多人数攻略を意図しているだろう」

 

【ラピッドファイア】の面々が攻撃を引きつけるようになって、単独参加のプレイヤーも戦いやすくなり与えるダメージは加速していく。大規模ギルドがギルド単位で人を呼んだのもあって、大量の人の移動に何かあったかと付いてきたプレイヤー。リリィ達のように先んじて戦っていたプレイヤーに呼ばれたプレイヤー。こうして大量の人が集まってきたことによって、リリィ達が無尽蔵とも思ったHPは確かに減少していく。

 

しかし、ここまで強力なものとして作られているモンスターが触手での叩きつけだけで終わるはずもなく、行動パターンの変化が起こる。

イカはふわっと空中に伸び上がると、地面に向けて大量の墨を噴射する。それはまるで煙幕のように拡散すると、水中でもないというのに漂って視界を覆い尽くす。

 

「これは……リリィ、マリア!」

 

「分かっている!【傀儡の城壁】!」

 

「バリア展開!」

 

リリィとマリアが旗と短剣を振るうと、召喚した兵士達が崩れ落ちて、巨大な壁として再構築され、その後ろに以前より少し大きめな三角形のバリアが生成される。これにより5人の前方を防御した直後、轟音とともに大量の水が襲いかかり、壁を抉っていく。水によって煙幕は押し流されるように吹き飛んだが、この攻撃の出だしを隠すという目的は既に達成されている。

 

「大人数には範囲攻撃、実に正しい動きだ」

 

「困りましたね……煙幕の範囲からすると、全員が狙われているでしょうし」

 

「いったん怯ませて立て直したい所ね」

 

「でもそろそろ来る頃でしょ。アイツらが……」

 

「……よかった、隙は作れそうだよ」

 

どういうことだとセイバーとカナデの方を見る3人に、セイバーとカナデはその理由を指差して示す。浮き上がったイカのさらに上、地面を照らしつつ空に浮かぶ亀の上から4人の人影が先行して落下してくる。

いち早くそれが何なのかを理解したのはウィルバートだった。

 

「あれはメイプルさんに、マイさんとユイさんにヒビキさん……えっ、あの武器は……?」

 

ウィルバートは高速落下する4人がその勢いのままにそれぞれの武器と拳を叩きつけるのを認識した。メイプルは触手に変えた手でイカを引き裂くように飲み込み、ヒビキは両腕のガントレットのバンカーを引き絞ってから拳を打ち込み、両側のマイとユイはそれぞれ8本の大槌を叩きつける。

ウィルバートのそれをも上回り、通常プレイヤーの何十倍もの破壊力を秘めたその大槌は、異様な量のダメージエフェクトを発生させて、はっきりと目に見えるレベルでイカのHPを減少させ、浮き上がり始めたイカを地面へと強制的に叩き落としたのだった。

その頃、落下する三人を見送ったシロップの上のサリー、カスミ、イズ、クロムの4人は自分達がきちんと【身捧ぐ慈愛】の範囲内にいることを確認し、飛び降りる準備をしていた。

 

「8本持ちはヤバイな。攻撃力がとんでもないことになってるぞ」

 

「きちんと強化までしてあるもの。武器に付与できる増加【STR】は装飾品よりも多いし、両手持ち武器なら尚更よ」

 

ダメージ量を見て、苦労はしたものの、いいものを渡すことができたとイズは満足そうに頷く。本来1本しか装備できないことを前提にしている大槌の高い【STR】値を8本分も参照すればそれだけでも滅茶苦茶になる。2人の場合はそれをさらに倍にしていくスキルがあるのだから、こうなるのも当然と言えた。

 

「でもすごいね。先に降りてもらって怯ませたところに降りるって言ったけど、本当に生き残るとは思わなかった」

 

「ああ、貴重なものが見られたな。あの2人の攻撃を耐える生物がいるとは」

 

それぞれに目の前の惨事に感想を述べつつ、巨大イカを倒しきるために、4人はメイプル達を追って飛び降りる。

その攻撃力が今までとは桁違いに強化された、対ボス特化決戦兵器であるマイとユイが戦場に投入されたことにより、一気に戦況は有利となった。

 

地面に叩きつけられた巨大イカの上にそのまま降り、メイプルに守られながら、2人はとてつもない威力の通常攻撃を続ける。いくら初撃を耐えられたとしてもそれは全身全霊の必殺技でも何でもなく通常攻撃なのだからどうしようもない。

さらに超高ダメージにより巨大イカの放つ水が止まったことで、生き延びた面々は今がチャンスだと一気に攻勢に出る。

生まれた分かりやすいチャンスを生かすため、全員が持てる限りの大技で攻撃する。その中でもやはり一際目立つダメージエフェクトを散らせているのは地面に横たわる巨大イカの上に陣取る【楓の木】の周りだった。

 

「うん、やっぱり僕のギルドの皆は頼もしいや」

 

「これはもう俺が本気になるまでも無いかな」

 

こうして、セイバー達4人が出会った巨大イカは一転攻勢により光となり爆散したのだった。

 

 

 

戦闘が終わり生き残ったものがそれぞれに感想を口にする中、メイプル達はセイバー達の元まで駆け寄ってくる。

 

「ありがとう。ごめんね?急に呼んで」

 

「お陰で助かったぜ」

 

「ううん、大丈夫!でもすっごいのがいてびっくりしたよー」

カナデとメイプルが話していると、リリィもそれに混ざってくる。

 

「驚いたね。聞いていたより随分たくましくなっているようだ」

 

その目線の先にはマイとユイがいる。両脇に浮かんでいるものも合わせて、8本の大槌を持っている姿はあまりにも異様なものである。

 

「ふふふ、特訓の成果です!」

 

「なるほど……そうか。いや、随分凄い特訓をしたね本当に」

 

「ええ。私も大槌が8本見えた時は見間違えたのかと目を疑いました」

 

「これは気をつけないといけない存在が更に増えたわね」

 

マイとユイは全く違う操作感に慣れるために五層で大槌を振り回していたため、最新の層である七層に入り浸っている多くのプレイヤーからすると今回初めて見ることになる。

その常軌を逸した後ろ姿に、あちこちからざわざわと驚いたり狼狽えたりした声はそのためだろう。

と、ここで全員に運営からのメッセージが届き、そこには今回の巨大イカが何だったのかを示す内容が書かれていた。

 

「なるほど……イベント期間が長いのはこれがあるからだったと。そういうわけだね」

 

「巨大ボス出現?」

 

「イベント第2部、レイドボス討伐の後半戦って感じかな?他にも変更点はあるみたいだけど。メインはこれだね」

 

「これからは大型のモンスターが増えていきそうだな」

 

リリィはさっと読み終えて内容を把握し、同様に内容を把握したセイバーとサリーはメイプルに説明する。

期間を半分程残して、限定モンスターを一定数倒すことに成功したプレイヤー達に、次の目標として各層に現れる巨大ボスを倒すことが告げられたのである。

リリィ達が感じていたように、これは1パーティーで倒すようなものではなく、事前に決まった時間にマップ上に示される場所へと向かって多くのプレイヤーで撃破を狙うものである。出現からしばらくすると消えてしまうため、適宜討伐に向かう必要がある。

 

「これも撃破数に応じてイベント後にメダルが貰えるのと、また別の素材のドロップもあるらしいよ」

 

「おおー!じゃあまた頑張らないとだね!」

 

「運営さんも中々考えてるなぁ」

 

今回の出現は特殊で、カスミが四層の町の最奥に初めて辿り着いた時と似ており、イベントモンスターの討伐数がちょうど最後の報酬まで届いたために発生したものだった。セイバー達が居合わせたのも偶然というわけである。

 

「【楓の木】も奮って参加してくれると助かるね。あの巨体を吹き飛ばす攻撃力は唯一無二だ。2人の力は是非とも欲しい」

 

マイとユイは高く評価されて照れているが、その評価も妥当だと言える。討伐をスムーズに終えるのにマイとユイはこれ以上ない貢献ができるだろう。

 

「対モンスター……しかもあれだけの巨大だと当てやすいし、戦いやすいだろうね」

 

動きがそこまで速くないため、カナデの言うように避けられにくいのは大きい。ともかく、今回はここまで。また次の戦闘まで待つことになるだろう。

 

「予期せずして2人の成長も見ることができた。いい収穫だったさ。ウィル、マリア。ギルドメンバーをまとめて戻るとしよう」

 

「ええ、そうしましょうか」

 

「そうね」

 

「えっと、またボス戦で会いましょう!」

 

「今度は3人の力をもっと拝見させてもらいます」

 

「ああ。そうなると嬉しいね。また会おう【楓の木】」

 

リリィはそう言い残すとウィルやマリアと共に去っていく。ここからは期間に余裕のあると思われていたイベントで突如始まった後半戦。セイバー達は改めてイベントに臨むのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと2人きり

第9回イベントの後半戦が始まって数日。セイバーはのんびりとした時間を過ごしていた。イベントに新展開が来たとはいえ、人を大量に集めなければならない都合上、レイドボスの出現する時間は決まっており、それまでは自由な時間があるのである。人によってはその時間を使って、今までと同様に限定モンスターからドロップする素材集めに励んでいる。しかし、イズ曰くもう必要な分は集まったとのことで、多いに越したことはないが、セイバー達が無理に討伐に向かう必要はなくなったのだ。

 

しかし、セイバーは根っからのバトルジャンキーである。ボス戦のような熱い勝負ができない間は暇になってしまっていた。そんな訳で今は七層のとある丘で相棒のブレイブを呼び出して一緒にのんびりとしていた。

 

「はぁ……こうしている時間が暇だなぁ……なぁ、ブレイブ」

 

セイバーの問いにブレイブも頷く。どうやら、セイバー同様にブレイブも戦いがしたいようであった。もしかするとブレイブも自身の主人と同様に戦い好きな性格に育ってきているのかもしれない。それは取り敢えず置いておき、セイバーが寝転がっているとそこに1人の影が現れてセイバーを上から覗き込んだ。

 

「セイバー?ここで何をしている」

 

セイバーが上を見るとそこにはダウルダブラを纏った少女、キャロルが立っていた。

 

「キャロルか。こうやってるのもなんか暇だなぁって思ってさ。何か面白そうなこと無い?」

 

「ふん。俺に聞くな。一応、手頃なダンジョンは見つけたが、それをお前に教える義理は無い……だが……」

 

 

キャロルはセイバーの方をチラリと見ると少し顔を赤くして恥ずかしそうに話を続けた。

 

「そ、その……セイバーとなら一緒に行ってもいいぞ………」

 

「……キャロルさ、ツンデレになってない?俺と行きたいのならそう言えば良いのに」

 

「う、うるさい!!」

 

実際の所、キャロルの心臓はバクバクと強く脈打っていた。何故ならキャロルのキャラはあくまでもゲーム内でのキャラであり、現実のキャロルは心の弱いエルフナインのため、こうやって普通に接しようとしてもどうしても恥ずかしさを隠すことができなかった。

 

「ま、キャロルが行きたいって言うのなら俺はちゃんと付き合うぜ。それで、その場所はどこなんだ?」

 

 

「え、えと……その……」

 

キャロルはセイバーから距離を詰められて焦り、いつものキャラでは無く素の人格が出てきてしまっていた。

 

キャロルのこの行動は恋のライバルであるサリーやヒビキへの牽制とセイバーとの2人だけの時間が欲しいという純粋な気持ちが強く出ていた。だからこそ、セイバーに了承された今、もう彼女の気持ちを遮るものなど何も無い。

 

「それじゃあ、こっちに来て」

 

キャロルはそう言うとセイバーの手を無理矢理掴んで引っ張っていった。

 

「え、ちょっとキャロルさん?何でこんなに強く引っ張るの?」

 

キャロルに連れられるままにセイバーが移動していくと2人はとある扉の前に移動した。しかし、そこはセイバーが以前に攻略した弱いモンスターが出てくるダンジョンだった。

 

「あれ?ここってレアアイテムも無ければ特に強いモンスターも出てこない普通のダンジョンじゃないのか?」

 

「そうだな。だが、今はイベントの期間内。どうやらイベントの期間中は確率でボスが置き換わるらしい。何回か回っていればその内出てくるだろうな」

 

「キャロルが良いならここで良いけど……」

 

セイバーは少々消極的だった。何故なら、ここのダンジョンのモンスターもボスもそこまで強く無いと知ってしまっているからである。先程も説明したが、セイバーは強敵との白熱したバトルを楽しむ傾向があるのであまりセイバーとしては乗り気では無かった。しかし、友達であるキャロルからの誘いだったため、今回は一緒に入ることにした。

 

入ると早速雑魚モンスターが出てくるが、セイバーの敵ではなく一瞬にして倒されていった。

 

「キャロル〜本当にここのボスが入れ替わったりするのか?そもそも、キャロルはそれを見たことあるのか?」

 

「俺はまだ無いが噂でここが変わったという話を聞いた」

 

「えぇ……本当かどうか不確定かよ」

 

「そう焦るな。その内出てくる」

 

「マジかよ……」

 

キャロルの言葉に対してセイバーはまだ乗り気にならなかった。そこでキャロルは覚悟を決めてセイバーの近くに歩み寄った。

 

「……仕方ないな。そんなにも刺激が欲しいのなら俺がくれてやる」

 

そう言ってキャロルはいきなり手を繋ぐと恋人のようにセイバーへと寄りかかった。

 

「……はい?え、え、え?キャロルさん、ちょっと、え?」

 

「俺にこうされるのは嫌か?」

 

「いやいやいや、それ以前に何でこんなに近いの?」

 

セイバーはかなり困惑していた。しかも、キャロルが腕に抱きつくようにしているため、彼女の胸がしっかりと当たっているのだ。しかも、今までは友達としてしかキャロルの事を見ていなかったため、いざ改めて彼女を見るととても可愛いと感じており、そのような可愛らしい顔でセイバーの事を見つめる彼女を意識してしまうのも仕方なかった。このような状況下で焦るなという方が無理である。

 

「(待って、キャロル可愛すぎないか?……確かに俺はサリーやヒビキに対してもただの友人やゲーム仲間とは違う気持ちを持ってるし、実際可愛いと思ってる。けど、流石にこんなことをされたら俺の理性が壊れるぞ!?)」

 

セイバーは心の中でかなりテンパっており、注意力が散漫になっていた。すると近くにいたモンスターがイチャイチャしている2人へと襲いかかってきた。しかし、そのようなことをセイバーとの2人きりの時間を満喫していたキャロルが許すはずも無かった。

 

「今良い所だろうが!邪魔をするな!!」

 

半ばオーバーキルとばかりに放たれた火炎弾がモンスターを一瞬で焼き払い、倒した。

 

キャロルが邪魔者を排除するとセイバーに優しく話しかけた。これに対してセイバーは何とか理性を保ちながら返事をする。

 

「……なぁ、セイバー」

 

「ん?」

 

「……俺とサリーとヒビキ。誰か1人を守ってと言われたら誰を選ぶ?」

 

「ッ……」

 

キャロルのその言葉にセイバーは詰まった。何故なら、セイバーにとっては3人の内、誰1人として捨てられないくらい大事に思っているからである。しかし、キャロルの目は真剣であり、セイバーはちゃんと返事を返すことになった。

 

「……ごめん。俺には多分決められない……。そのくらい3人を大事にしてるし、誰1人として欠けてほしくない。欲張りかもしれないけど俺はサリーにも、ヒビキにも、勿論、キャロルにだっていなくなって欲しくない……」

 

「そうか………そうだよね……

 

「キャロル?」

 

「何でもない。ほら、どうやら噂は本当だったらしいぞ」

 

キャロルが指差すとその先には水溜りができており、明らかにイベントの影響がダンジョンに出ていることを示していた。それから2人はボス部屋の扉を開けるとそこには巨大なタコがおり、以前にダンジョンを見ているセイバー達にとっては初めて出会うボスであった。

 

「どうやらキャロルの言っていたことは本当だったみたいだな。よし、キャロル行くぞ」

 

「ああ。援護射撃は任せろ」

 

2人はそれぞれ気持ちを切り替えるとセイバーは流水を抜刀し、氷の力を纏うとキャロルも魔法陣を展開した。

 

「【白銀の獅子】!」

 

「【サンダーブレイク】!」

 

2人はそれぞれ遠距離からダメージを与えられるスキルを使うとそれぞれ電撃と白銀の獅子を模した衝撃波でタコにダメージを与える。タコはそれを受けて吸盤付きの足を2人に向かって伸ばしてきた。2人を拘束して締め潰すつもりである。しかし、その動きは決して速いとは言えるものでは無かったため、2人は容易にその攻撃を躱す。

 

「遅いな、キャロル、一気に倒すぞ」

 

「ああ。わかっている」

 

キャロルが手を翳すとまた魔法陣が現れてそこから光弾が飛んでいく。更にセイバーも白く輝かせた流水で伸びてくるタコの腕を弾きながら的確にダメージを与えていく。

 

「ブレイブ、【覚醒】!【サンダーボール】」

 

続けてセイバーは相棒のブレイブを呼ぶと電撃の弾を発射させて遠くから攻撃をし続ける。

 

「次はこれだ。【グランドバースト】」

 

「【ブリザードラッシュ】!」

 

今度は大地の力が込められた衝撃波と氷の剣による連撃がタコを傷つけていき、そのHPを大きく減少させた。そもそも、セイバーもキャロルも高火力のアタッカーである。その2人による高威力攻撃の連撃に耐えられるモンスターがそうそういる訳が無いのだ。

 

タコは墨を吐くと2人の視界を奪い取って、その間に足を2人へと接近させた。

 

「危ない!」

 

セイバーは咄嗟にキャロルを抱えると走っていき、墨の中から飛び出した。

 

「なっ!?せ、セイバー?」

 

「いきなりごめん。でも咄嗟に出たのがこれだったから……」

 

「いや、大丈夫だ。寧ろ、助けてもらった礼が言いたいくらいだ。ただ……」

 

「ただ?」

 

セイバーの聞き返しにキャロルは再び顔を赤くした。

 

「……で、できれば今度またやって欲しい……」

 

「……は?」

 

「べ、別に良いだろ!ほら、ボスを倒すぞ」

 

「お、おう」

 

それからセイバーとキャロルは再びタコへと向かっていった。セイバーとキャロルの連携によってタコはあっという間に追い詰められていくととうとうそのHPが消える時がやってきた。

 

「これで終わりだ。【エレメンタルノヴァ】!」

 

「ブレイブ、【フレアドライブ】!【ブリザードレオブレイク】!」

 

2人がスキルを叫ぶとキャロルから高火力のエネルギー波が放たれて、タコを飲み込み、そのまま青い炎を纏ったブレイブと氷の力を足に集約させてキックを放ったセイバーの攻撃を受けてタコは倒されることになった。タコが光となって消えた後にはいくつかの素材と2匹の小さなタコが残された。

 

「ん?これは何だ?」

 

「それは部屋に連れて帰ることができる観賞用のものらしい。ギルドホームやその中の自室に配置することができる。性質としては家具アイテムにあたるものだ」

 

「なるほどね」

 

それから2人はダンジョンの外に出るとギルドホームへの帰り道を歩いていた。

 

「……あ、あの……」

 

「どうした?キャロル」

 

「ま、また俺とダンジョンに出かけてくれるか?」

 

「良いよ。キャロルのおかげでやる事も見つかった」

 

「え?」

 

「観賞用の水中の生物を全部コンプリートするというイベント後半戦の目標。終わるまでに絶対に完成させてやる!!」

 

キャロルはセイバーのその返事に少しガッカリしつつもセイバーらしいと割り切った。その後、キャロルは再び覚悟を決めてセイバーに話しかけた。

 

「セイバー」

 

「何?」

 

「お、俺はセイバーの事が……」

 

セイバーはキャロルから紡がれる次の言葉を待ったが、それが飛び出す前にいきなり背中に衝撃が走って思い切り吹き飛ばされた。

 

「ぎゃっ!?」

 

「せ、セイバー!大丈夫……なっ!?」

 

キャロルがセイバーの心配をしようと駆けつけようとするが、キャロルの前にいた気配に気づいた。そこにいたのは殺気立ったサリーとヒビキだったのだ。

 

「セイバーお兄ちゃん、サリーお姉さんの次はキャロルちゃん?私じゃなくて?」

 

「この前良いことを言ったから暫くは大丈夫だと思ったけどやっぱり油断ならないわね」

 

「お前ら!どうしてここに」

 

「偶々近くのダンジョンに行っていたんだけど、ここを通りかかったら何やらあなたがセイバーに告白しそうな雰囲気じゃない?そんなのぶち壊すに決まってるじゃん」

 

「ホント、キャロルちゃんも抜け目ないよね。その様子だとセイバーお兄ちゃんに何かしたみたいだし」

 

「ほーう?だったらどうする?そんなに俺とセイバーの距離が縮まるのが嫌か?そんなに焦って妨害して」

 

そのまま3人は目から火花を散らしながら睨み合った。その様子を遠くから先程までサリーやヒビキと一緒にいたフレデリカとマリアが吹き飛ばされて気絶しているセイバーをご愁傷様の目で見ていた。

 

「セイバーも大変ね」

 

「ええ〜、私はこういうの面白そうだから良いけど?」

 

「ここまであからさまならいい加減セイバーも気付いても良いのに、こういう所は鈍いのかしら?」

 

「ま、誰が勝つのか見てるのも良さそうだし、観戦に徹しようかな」

 

「その辺にしておきなさい、フレデリカ。その内あの3人に何されても知らないわよ」

 

「はーい」

 

こうして、セイバーとキャロルの秘密のダンジョン攻略は終わり、セイバーはサリーとヒビキの2人にギルドホームで質問攻めに遭った。それから数日、それまでの間登場したレイドボスは全て完膚なきまでにボコボコにされていた。

 

「やはり、改めて見てみるとプレイヤーは強いものですね」

 

「ああ、このHPは高すぎるかと思ったが、存外歯ごたえのないものになってしまっているかもしれないな……」

 

運営陣はレイドボスの能力を見つつ、撃破されたシーンを確認する。後半戦開始を知らせるための巨大イカはプレイヤー達が準備できていなかったのもあり、なかなか善戦したと言えるが、それ以降はボロボロである。というのも出てくる場所と時間が分かっているため、登場前になると大量のプレイヤーが周りを取り囲み一斉攻撃をするからである。

巨大イカがそれなりに攻撃に耐えられていたのは、序盤囲まれての集中砲火がなかったからなのだ。

 

「残りの期間に登場するボス達には何とか頑張ってもらいたいところだな」

 

「そうですね……あんまりあっさり倒されてもレイドボスの風格がないですからね」

 

そう言いながら、あっさり倒していってしまう要因となっている一部プレイヤーのことを思い浮かべる。彼ら彼女らは戦況を変えるような動きが可能なのだ。また、そうでなくとも層が進むに連れて各プレイヤーが見つけた妙なスキルは増え続けているのだから、1人ではそこまででも、それが一箇所に集まればとんでもないことになる。

 

「もう少しHPとか防御力を調整してもよかったかなあ」

 

「ええ、まあ……もともと段階的に強くなるように調整していますし違和感はないでしょう」

 

プレイヤーが協力して数の力で圧倒的HPのモンスターを倒しにくるのだから、ボスもそれ相応の質を保たなければならない。

 

「最後のこいつはやり過ぎかとも思ったが、そうでもなさそうだな」

 

「登場を待ちましょう」

 

「ああ、いい具合に戦ってくれると期待しているからな……」

 

今までそう期待して蹂躙されていったモンスター達のことを思い浮かべつつ、少し不安そうに、しかし期待を込めて運営陣はデータを見直すのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとレイドボス

セイバーがキャロルと共にダンジョンに出かけてから時間も経ち、レイドボスを倒しながら、ミニチュアモンスターを集める日々を送っていたセイバーだったが、長期間開催されていた第9回イベントもいよいよ最終日を迎えることとなった。最終日ということはつまり、最後のレイドボス討伐があるということである。

それに備えてギルドホームに集まった【楓の木】の面々は、出発に向けて作戦を立てる。

 

「ボスは日ごとに強くなってるみたいだしな。最終日は今までで最も強いやつが出てくるんじゃないか?」

 

「私もそう思う。最後となればプレイヤーも相当集まると予想できるだろう。それに対抗できるとなると……」

 

「多くのプレイヤーに周りを取り囲まれても戦えるだけのHPに、優秀な範囲攻撃を持っているということが予想できるな」

 

「でも、どこまで行っても私達の戦略は1つですよね」

 

「いつも通りマイとユイを全力で守って攻撃してもらう方法でいきます!」

 

レイドボスを殴り倒すことさえ現実的な2人を超えるアタッカーなど存在しないのだ。メイプル、クロムを中心として、ダメージを無効化する魔導書を持ったカナデと、アイテムによる防御を行うイズ。そこにサブアタッカーとして設置物などがあれば除去し攻撃を弾く役割のセイバー、ヒビキ、カスミ、サリーを配置して、ボスの元まで送り込むのである。

一度ボスの近くまで辿り着けば、死ぬまで続く必殺技クラスのダメージの通常攻撃によってHPを吹き飛ばすことができる。

 

「「が、頑張ります!」」

 

これは2人にしかできない役割なため、マイとユイは気を引き締める。レイドボスに何度も参加するにあたって、この攻撃力を頼りにしているのは【楓の木】の面々だけではなくなっていた。味方であればこれほど頼もしいものもないのだ。

 

「それじゃ出発しよう!」

 

万が一にも遅れないよう、10人は少し早めに向かって、レイドボスの出現を待つのだった。

 

現状10人で移動するのに最もスピードが出るのはブレイブかハクに乗っていくことなため、今回は【超巨大化】によって巨大な白蛇となったハクでもってレイドボスの出現位置に到着する。レイドボスの出現位置によってブレイブかシロップかハクを切り替えてやってくる訳で、この白蛇を見れば【楓の木】が来たのだとどのプレイヤーも察するようになっていた。

プレイヤーによっては今回は勝ったなどと勝利宣言をしているものもいたりする。もっとも、蛇の頭の上に浮かぶ大量の大槌が見えれば、そう思うのもおかしくないことではあるのだが。

レイドボスすら文字通り叩き潰してきたのをイベント中何度も見ているため、アレは信頼できる火力だと周知されているのだ。

 

「もう結構人いるねー」

 

「そうだね。早めについたと思ったけど、考えることは皆同じだったかな?」

 

「この人数に張り合えるボスであることを期待しよう」

 

周りに大量に味方がいてはハクの巨体も邪魔になってしまう。そのためカスミはハクの頭を地面につけさせて皆を降りさせると、ハクを指輪に戻した。

 

「どんなボスが現れるかも分からない。ここは一旦戻しておく」

 

その巨体のせいもあってハクの戦闘は大味で、基本は高いステータスを生かして攻撃をそのまま受け切って反撃するスタイルである。相手の攻撃を躱せる機動力がないため、出方を見てからでも問題はないだろう。仮に出せなくともカスミもまた強くなっているためやりようはいくらでもある。

後は多くのプレイヤーに混ざってレイドボスが現れる時を待つばかりである。

自分のギルドメンバー達と戦略についてや、モンスターの傾向に合わせた動きの話をしている者が多い中、ハクの姿を見たためか、セイバー達の元にやってくるプレイヤーもいる。

 

「メイプル達も来たっすね!今日も期待してるっすよ!」

 

「こんにちは……ベルベットさんが話に行こうとのことで」

 

「久しぶりだな。メイプル」

 

「あ、ベルベットとヒナタとキャロル!うん、皆で頑張るよ!」

 

メイプルはギルドメンバーの顔を見ちらっと見て、意気込みを述べる。

 

「私はそこまでできることがありませんから、何かあったらベルベットさんを助けてくれると……助かります」

 

「確かに、ヒナタの力だとレイドボス相手には相性が悪いしな」

 

レイドボスは状態異常や移動、スキル封印効果に強い耐性を持っている。そうでなければヒナタ程特化しているとは言わずとも、それなりにいるデバフ使いが全員でデバフをかけ、ボスを棒立ちにして封じ込めてしまうからだ。

ヒナタはより特化していることが裏目に出て、レイドボスでは今まで共闘した時ほど存在感を示せないのである。

 

「こうは言ってるっすけど、それでも頼りになるっすから。ヒナタが何か決めた時は攻めに言って欲しいっす!」

 

「うん!」

 

「勿論だ」

 

こうして互いのことを話し続けるベルベット達と話をしていると、別方向からも見知った顔がやってくる。

 

「やあ、レイドボスもいよいよ最後だ。今回はかなり人が集まっているみたいだね」

 

「これなら勝算はありそうね」

 

「マリアさん!」

 

やってきたのはリリィとウィルバートとマリアだった。今回は既にリリィが旗を持っており、ウィルバートが執事服を着ているため、アタッカーはリリィのようである。マリアも銀のアガートラームを装備しており、今回は防御よりの装備で行くようだ。

 

「【ラピッドファイア】の人もかなり来てるみたいですね」

 

サリーがリリィの歩いてきた方を見ると、ここ最近のレイドボス討伐で見たギルドメンバーが固まっているのが見える。

 

「最後だからさ。それに……今回はかなり大物の予感がしないかい?」

 

今回、レイドボスの出現位置に広がっている水溜りは数十メートルはあろうかという大きさで、今までのそれをはるかに上回る。となれば出てくるものが強くてもおかしくないというものだ。

 

「そうですね。お互い気を引き締めていきましょう」

 

「サリーさん達の方が防御能力は上でしょうから、私達の方がうっかり倒されないようにしないといけませんね」

 

「勿論。ただ、これだけのプレイヤーにどう対抗するか、少し楽しみでもあるね。おっと、【炎帝ノ国】と【集う聖剣】も来たみたいだ」

 

遠くにまた大人数の塊が見える。その近くにはそれぞれ光を纏う竜と炎を散らす不死鳥がおり、どのギルドなのかは一目瞭然である。

七層にいるそれぞれが高レベルのプレイヤー達、最大戦力とも言える程全員が揃って、レイドボスの出現を待っていた。

 

「そろそろだね。終わった後に生きていたら話でもしようか」

 

「はい、是非」

 

 

リリィは話を切り上げると自分達のギルドメンバーの元へ戻っていく。ベルベット達も同じようで、ちょうど話が終わってたのか手を振って戻っていった。

 

「いよいよだね」

 

「うん。メイプル、防御は頼んだよ」

 

「背中は預けるからな」

 

「任せて!」

 

先制攻撃に対応するため、メイプルが【身捧ぐ慈愛】を発動させ少ししたところで、広がった水が僅かに発光し、中心から波紋が発生する。そうして水柱が立ち、その中から現れたのは筋骨隆々で三叉の槍を持ち、その周りの水を激流として操る巨人だった。その場にいた全員が今までとの格の違いを感じる中、その頭上に巨大な水の塊が生成され、そこから今まで見てきたイベントモンスターが大量に呼び出される。

それと同時に、出現した全ての頭上にHPバーが表示され、最後のレイドボス戦が始まるのだった。

 

 

開始と同時、ボスは槍を天に突き上げると、それに連動してボスの周りに大量の水が発生し、津波のようになって一気に全方位へ押し寄せる。

 

「いきなりかい!」

 

「メイプル!」

 

「【ピアースガード】【ヘビーボディ】!」

 

阿吽の呼吸で求められていることを察すると、メイプルは完全な防御体勢で津波を受け止める。ノックバック、防御貫通を無効化したメイプルと【身捧ぐ慈愛】に守られた9人はその攻撃をやり過ごすが、周りにいたプレイヤーはそうはいかない。メイプルが【身捧ぐ慈愛】で守れるのはパーティーメンバーだけであり、水の壁を超えた時には上手く凌げなかったプレイヤーは押し流されて後方で倒れている。

 

「皆!大丈夫!?」

 

「お陰さまでな!しっかし、いきなり手荒だな!」

 

メイプルとクロムは盾役として2人でマイとユイをボスの元まで連れていかなければならない。ボスは巻き上げられた水で見えないものの、腰あたりから地面に繋がっている状態で、移動する様子はない。そのかわりとばかりに頭上の水球からは大量のモンスターが湧き出しており、それらが次々に向かってくる。

水球にもHPがあるようで、まずはそれを破壊しなくてはプレイヤーの強みである数の有利が生かせない。現に多くのプレイヤーは陣形の立て直しを図りつつ、向かってきたモンスターの対処に追われている。

 

「おいおい、まずあれを壊さないと始まらないぞ」

 

「ここからだと機械神でも届かないよ!」

 

「私も近接戦に持ち込まないとかなりキツイよ!」

 

津波をやり過ごしたメイプル達からもかなりの距離があるため、押し流されたプレイヤーからするとさらに距離があり、魔法攻撃も届かない。

そんな中、ただ1人水球に対してダメージを与えるプレイヤーがいた。

 

「ウィルバートさん!」

 

「届くの?流石……!」

 

津波をリリィの兵士の壁で防ぎきると、即座に装備を変更して、弓を引き絞ったのだ。メイプルの機械神よりも長い射程を持っているその弓から放たれた矢は、赤い光を放って一直線に飛んでいき、的確に水球を貫いたがそのHPは期待していたダメージを遥かに下回っていた。このままでは何十発と矢を射る必要がある。モンスターを一撃で吹き飛ばすような威力を持っているのだから、これは流石に何かがおかしいとサリーは感づく。

 

「遠距離攻撃のダメージを減衰する?かもしれない」

 

「あんなに高い位置にあるのにか!?」

 

「これは厄介だな」

 

「ウィルバート、だったか。聞いている攻撃力を考えるとありえない話ではないか……」

 

「話してるところ悪いけど、また何か来るみたいだよ!」

 

カナデの声に全員が顔を上げると、ボスは再度槍を天へ突き上げて、今度は空から大量の水の槍を降らせてくる。

今回もまたセイバー達は無事で済むが、あちこちのプレイヤーからは貫通攻撃だと声が上がる。回避できないほど敷き詰められてはいないが、避けられるとは言いづらいそれからマイとユイを守るには【身捧ぐ慈愛】は解除しづらい。

 

「とりあえず、1つずつ解決していくしかないか。メイプル、何があるか分からないし、クロムさんと一緒に防御に専念して!」

 

その場にとどまって防御に専念すれば、前に立った2人の大盾で水の槍を防ぐこともできるだろう。マイとユイさえ守り切れているのなら逆転のチャンスは常にある。しかし、現状の打開も急務である。ここは一方でリスクをとって動き、もう一方では安全を重視するのがベターだろう。

 

「うん、サリーは?」

 

「水球の破壊を狙ってみる。予想が外れてたら戻ってくるよ。ヒビキも来て。近接戦の火力ならヒビキも高いから」

 

「わかりました!」

 

当然のようにそう言い放ったサリーにメイプルは期待していることを示す笑顔で頑張ってと返す。先程の水の槍や津波、大量に湧いているモンスターを見てなお、問題ないと言えるのはサリーだからこそだろう。

 

「なら、何かあった時に備えて私も行こう。援護くらいならできるはずだ」

 

カスミはそれについていくことに決める。攻撃力であればマイとユイがいれば問題ない。であれば、同じく【AGI】に振って機動力を確保してあるカスミは唯一サリーやヒビキの隣をついていけるのだ。

 

「分かった。行こう、他のプレイヤーの被害がかなり出てる」

 

「いっくよー!」

 

「俺はここで不測の事態に備えておくか。流水抜刀!」

 

メイプルのお陰で開始時と変わらない状態を保てている今こそ行くべき時だと、サリーとヒビキとカスミは【身捧ぐ慈愛】の範囲から飛び出すと、レイドボスに向かって駆けていき、セイバーは烈火から流水に持ち替えて守りを固めることに専念することになる。

 

 

前に飛び出したサリーとカスミと同様に、このまま無限に召喚される雑魚モンスターに構っていられないと判断したのだろう面々が各ギルドの集団から前に出てくる。それぞれがそれぞれの得意な形で、ボスへの接近を試みるのだ。

 

「【武者の腕】【血刀】!」

 

走りながら刀を液体状にして、カスミは近づいてくるモンスターに先制攻撃を決める。カスミはサリーと比べ攻撃の射程や範囲が優れており、効果が強力なスキルも多い。その分を本人の能力でカバーしているのがサリーとヒビキな訳だが、こういった場面においてはカスミの力が生きてくる。

 

「周りは任せてくれて構わない!」

 

「ありがとう、大技は私が見切る」

 

「ッ!!また来ます!!」

 

言っているうちにボスは再び槍を突き上げ今度は薄く水が広がった地面のあちこちから泡が浮き上がってくる。

 

「2人共こっち!ぴったりついてきて!」

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

ヒビキとカスミもまたこれまでの経験からサリーの判断を信じている。タイムラグなくその後ろをついていくと、直後次々に間欠泉のように水が噴き上がる。3人はその隙間をするすると抜けてさらにボスへの距離を詰めていく。

その距離は残り10メートル程度、しかし水球までとなると縦に数十メートル必要になる。とても跳躍では届かないだろう。

ただ、サリー達と同じように大量のモンスターと、ボスの苛烈な攻撃をうまく捌いてここにきたプレイヤーが他にもいる。であれば、協力するのも自然な流れだった。

 

「サリー!また会ったっすね!」

 

「お前らも来たみたいだな」

 

「ベルベット、ヒナタ、キャロル!」

 

サリーにとってベルベットとキャロルが飛び出してきているのは予想通り、ヒナタまでいるのは少し予想外だった。ヒナタはどういう仕組みなのか宙に浮かんでベルベットの隣にピタッと張り付いており、ベルベットの移動に合わせてついてきているのである。

 

「っと、見たことないことしてるね……」

 

「ヒナタにもついてきてもらったっす!」

 

「移動だけで目が回りそうです……っ、話してる場合じゃないですね」

 

ベルベット達の目的も水球を壊すことである。であれば、ここで時間を使っている暇はない。

 

「【氷の階】」

 

ヒナタがスキルを発動するとボスの周りを沿うように氷でできた階段が出現する。これなら誰でも問題なく遥か上まで行くことができる。

 

「助かった!ヒビキ、カスミ!」

 

「ああ、ありがたく使わせてもらおう」

 

「これなら行ける!」

 

「私達も行くっすよ!」

 

ベルベットとキャロル、重力を操って隣にふわふわ浮かびながら文字通りくっついてくるヒナタを加えて、サリーとヒビキとカスミは氷の階段を駆け上がる。ベルベットはいつも通り周囲に大量の雷を落としており、雑魚モンスターは近寄ることができないため、遠距離から水のブレスを放つことによって攻撃してくる。サリー、カスミ、ヒビキ、ベルベット、キャロルはそれぞれ機動力に優れているため、この不安定な足場でもそのブレスを上手く躱していく。ヒナタは機動力はないものの、ベルベットの動きに完全に同期しているため、問題なくついていくことができる。

 

「【氷壁】!」

 

「【魔力障壁】」

 

そのうえで、氷と障壁によって攻撃を防御し、キャロルと共に残りの4人をアシストする。下からは他にもプレイヤーが登ってくる中、6人は水球のそばまで辿り着いた。水球に対してはベルベットの雷が落ちているものの、変わらずダメージはほとんど入っていない。

 

「【重力制御】!」

 

「とりあえず【重双撃】っす!」

 

「【我流・雷撃槍】!」

 

ヒナタのスキルによって僅かに浮き上がって、水球に近づいたベルベットはそのまま二連撃を叩き込み、ヒビキも腰のブースターを使って飛ぶと水球を殴りつける。浮かぶだけで移動速度が出なくとも、ここまで来れれば問題ない。

しかし、予想に反してダメージはそこまで入らず。レイドボスということもあって高く設定されたHPを削り切るにはまだ相当かかることが分かる。

 

「うっ、予想外っすね……」

 

「どうする?いつまでもここにいては流石に削り切ることも難しいんじゃないか?」

 

「俺は多少時間がかかっても水球を倒すべきだと思うがな」

 

現状、ベルベットが水球近くにいるため、落雷の範囲内に水球とボスがおり、それぞれにダメージが入り、かつ召喚される雑魚モンスターも即処理ができている。それはいいことなのだが、ヒナタのスキルにも時間の制限がある。氷の階段も重力制御もいつまでも保つことはできない。

 

「試すことは試してみよう!ベルベット、モンスターに注意してて!」

 

「分かったっす!」

 

サリーはベルベットに呼びかけるとそのまま跳躍してボス同様水を生成し、空中を泳いでいく。回避が難しくなるその一瞬に飛んできたブレスは、ベルベットとヒナタとキャロルにより撃ち落としてもらい、水球の真上までやってくると、サリーはスキルを発動する。

 

「【氷結領域】!」

 

サリーは周囲に冷気を放つと、真下の水球を凍結させる。氷を生み出すスキルとは少し違い、物を凍らせるスキル。それはボスの水球をも凍らせて巨大な氷の塊に変えてしまう。

 

「これならどう!【クインタプルスラッシュ】!」

 

「【振動拳】!」

 

「【終ワリノ太刀・朧月】!」

 

「【我流・火炎打撃】!」

 

凍りついたことで性質が変わったのか一気にダメージが通るようになり、4人が放った技は確かなダメージを与える。このままあと何度か繰り返せば破壊に繋げることができるだろう。

 

「効いてるっすよ!」

 

「いや待て何か……【心眼】!」

 

凍りついた球体の中に青い光が見えたのを見逃さなかったカスミは、攻撃を予測するスキルを発動する。直後、その視界は攻撃予定位置を示す赤い光に覆われた。

 

「まずい!離れるんだ!」

 

それにいち早く反応したサリー、ついで飛び退いたベルベットにヒビキ、キャロル。しかし、そもそも足場のないこの場所がプレイヤーに不利であり、遠くに離れるよりも早く、氷が中から弾け、元に戻った水球を中心に、空中で渦を巻くように刃状の水が拡散していく。当たれば致命傷、それを察した6人はそれぞれに防御行動を取る。

 

「朧【神隠し】!」

 

「【パリィ】!」

 

「【氷壁】……!」

 

「【三ノ太刀・孤月】!」

 

「【トリスメギストス】!」

 

「ミク、【覚醒】!【守護の翼】!」

 

それぞれ、フィールドからの消失、弾くことでの物理的防御、跳躍によって飛び越え、魔力障壁によるガード、テイムモンスターによる防御と、それぞれのスキルで対処を試みるものの、刃の数が多く直撃は免れないことを確信する。

策はないかと考えていたところで、両側から飛び込んできた炎と光が一瞬で水の刃を吹き飛ばし、6人をそのまま緊急離脱させる。

 

サリーとカスミとヒビキが一体何にと顔を上げるとそこには【集う聖剣】の5人がいた。

「やっほー、またギリギリのプレイしてるねー。助かったー?」

 

「まさか空を飛んでくるより早いとは思わなかったぜ」

 

「結局、空中は召喚されたモンスターが多すぎて面倒だったな……」

 

「ふん。結果的に辿り着けたから良い」

 

3人が乗っているのは巨大化したレイの背中だった。もといた方向を見ると、そちらにはイグニスと【炎帝ノ国】の面々がおり、ベルベットとヒナタとキャロルはそちらに助けられたようだった。

 

「前回のイベントに続く形になったか。走っていたのは見ていたが、想定より速くて驚いたよ」

 

「また助けられちゃいましたね。ありがとうございます」

 

「構わない。だが、今度はこちらを助けてもらいたい」

 

「凍結ですよね。大丈夫です。もう一度接近できれば」

 

ヒナタの足場がなくなってしまったものの、代わりにレイとイグニスがいるため、再接近は可能になった。

 

「じゃあ皆にも攻撃するよう言っておくねー。ノーツ【伝書鳩】」

 

フレデリカは頭に乗っていた黄色い小さな鳥を集う聖剣のギルドメンバー達の方へ飛ばすと、再接近を待つ。ミィ達も同じことを考えているようで、モンスターを討伐しつつ、辺りを周回し、機を窺っている。

 

「よし、行くぞ!」

 

ペインはミィ達にも手で合図を送ると、レイを一気に突っ込ませる。サリーが接近したことで再び凍結した水球に16人が総攻撃を加える。それに合わせて次の凍結を伝えられていたギルドメンバーや、それを待っていたプレイヤー達から大量の魔法やスキルが放たれ一気にHPが減少し、ボス撃破の前段階である水球のHPはほんの1ドットになった。それと同時に氷は水に戻り、再び大量の水が発生し、拡散する。

元々水の塊があった場所の中心には、先程同様渦巻く水の刃と、僅かに残った穏やかに漂う水に守られた青いコアと呼べるようなものがあり、それを壊せばいいことは分かる。

 

HPを削ったことにより発生した大技だろう大量の水は、一気にその場にいた全員を通り抜けて空へ登り、それに合わせてボスが槍を振り上げるのと同時に、今までのそれを上回る量の水の槍が空に顕現する。同時に、攻撃しようと近くにいたプレイヤーを咎めるように地面にも変化が起こる。

どこにも逃げ場がない攻撃。威力は不明、範囲はほぼ全域、それを見てサリーは表情を固くする。レイとイグニスよって範囲外に逃げることが難しいと判断したミィとペインはそれぞれダメージを無効化するスキルによって凌ごうとする。ただ、2人のスキルが守る対象はパーティーメンバーとその召喚物だけだ。

 

「私達は対象になれない……!」

 

「これを避け切るのは中々骨が折れるっすね!」

 

「出来る限り支援はする!」

 

「こちらもだ。頼む」

 

「問題無い。全て凌ぐまでだ!」

 

「来ます!」

 

マルクスらが即座に足場や壁を生成し、ミザリーは無差別なダメージ軽減フィールドを展開する。パラドクスとシンとミィは撃ち落とせるだけ撃ち落とす構えである。集う聖剣はドラグが岩によって、ドレッドはサリーと似たスキルでそれぞれ足場を作り、キラーとフレデリカとペインが障壁を作る動きをする。

瞬時にパーティー外の人間にこれだけのサポートが可能なことに、サリーは想像以上だと驚きつつ、多少分が悪くとも生き残ろうと5人にアイコンタクトを取る。

作られた大量の足場とレイ、イグニスを飛び移って降り注ぐ水の槍を避け切るのである。

 

コアさえどうにかできればと思いつつ、ここを凌ぐことを前提にされているのだろうと、上手くやられたと少し憎そうにコアの方を再確認する。

その瞬間、赤い光が渦巻く水の刃のごく僅かな隙間を抜けてコアを貫くのが目に見えた。

サリーが目を丸くする中、空に浮かんだ水の槍はその半数ほどが消失し、一気に回避の目が広がる。サリーはこんなことができるのは1人しかいないと思いつつ、ここまで状況が良くなって当たるわけにはいかないと集中する。

 

 

「射抜いたな。流石ウィルだ」

 

「ふぅ……ええ、弓使いとしての面目も保たれましたね」

 

ウィルバートは1つ大きく息を吐くとリリィとともに装備を入れ替える。

 

「ウィルがこれだけやったんだ。きっと避け切るさ」

 

「ええ。避け切ってもらわないと困るしね」

 

「期待しましょう。こちらはお願いします」

 

「ああ、任せるといい」

 

「私もバリアで防御に回るわ。出来る限り被害は最小限に」

 

リリィは装備を変更し大量の命なき兵を生み出すと、それを身代わりにすることで、多くのプレイヤーを守る準備をする。ウィルバートは役割を果たした。ここからはより多くの戦力をリリィとマリアが守り抜く番である。

 

「やはり数さ。これだけのプレイヤーがいるんだ。それを守った方が合理的だろう?」

 

「ええ、勿論」

 

そう言うと、リリィは降り注ぐ水の槍と噴き上がる水の奔流を、無限に湧き出す使い捨てできる兵士によって肩代わりさせ、周り全てのプレイヤーを守り抜くのだった。

 

「すげえな、かなりキツイと思ったがもう壊したぞ」

 

「サリーちゃん達も無事みたいね」

 

「流石ウィルバートさんと言うべきですね」

 

イズは双眼鏡を覗いて巨人の頭近くを観察する。そこでは無事に水の槍を捌ききったのだろう16人がそれぞれに分かれて一度地上へ戻っていくのが見えた。

セイバー達も当然問題なく攻撃を凌ぎきっており、ここからはこちらがボスに向かって侵攻する番である。

 

「ノックバックで弾かれた時や貫通攻撃を受けそうになった時は俺がかばう。気にせず進んで大丈夫だ!」

 

「はい!」

 

「さてと、反撃と行こうか」

 

クロムもまた【マルチカバー】などで複数人をかばい盾で受け止めることが可能だ。【ピアースガード】のクールダウン中はメイプルは盾を構え、貫通攻撃に被弾しそうなギルドメンバーをクロムがかばい盾で受け止めることで、メイプルにダメージを与えさせない立ち回りによって、じりじりとボスまでの距離を詰めていく。

水球を破壊したことによりモンスターの召喚は止まったものの、代わりに津波や水柱は強化され、さらにその手に持った巨大な槍を振り回す攻撃が追加され、あちこちで死亡したプレイヤーも出始めた。

 

「水の槍来るよ!僕以外をお願い【天使の守り】」

 

「俺の守りもしなくていい。【精霊の光】!」

 

「おお、【マルチカバー】!」

 

クロムは盾を構えると被弾しそうになったマイとユイをかばう。メイプルはイズをかばいしっかりと盾で槍を受け止めることでダメージを受けず、カナデは【神界書庫】によるスキルで攻撃そのものを消滅させて対処し、セイバーは久しぶりに攻撃を無効化するスキルで槍を凌ぐ。

 

攻撃はかなり激しく、魔法や弓による遠距離攻撃か、飛行能力のあるテイムモンスターで空からヒットアンドアウェイで攻めるかのどちらかとなっている。

サリー達が【集う聖剣】【炎帝ノ国】の面々と地面と空を行き来して隙をつきながら着実にダメージを与えているが、流石にレイドボスなだけあって、倒し切るには手数が足りていないようだった。

この状況を変えるには、ボスの攻撃を一時中断させ、プレイヤー全員で一気に攻め立てる必要がある。そのためにも、マイとユイの一撃が必要なのだ。

しかし、近くに行く程ボスの攻撃は苛烈になり、降る槍の数は増え、噴き出す水ごとの隙間は少なくなり、押し流すような水の勢いも強くなる。

 

「俺とメイプルで受け持ってダメージは受けないが、ノックバックがキツすぎる!」

 

「俺も【精霊の光】が切れて攻撃を捌くので結構手一杯だな」

 

メイプルが【ヘビーボディ】を使うと動けなくなってしまうのと、そもそもクールダウン中は無効化すらできないのもあって、どうしてもノックバックの間隔が短くなると厳しいのだ。現状で上手くダメージ自体は受けずに接近できているため、下手に別の手を打って状況が変わってしまわないように慎重に手を探っている。

そうしていると、少し離れた位置から声がかかった。

 

「何だい、随分手間取っているようだね」

 

「正面からの攻撃は私が防ぐわ」

 

「リリィさん!」

 

「マリアさんも」

 

「私達が道を作ろう。そうでないといつまで守っていればいいか分からないからさ」

 

リリィはさらに兵士を呼び出すと指令を出して攻撃を代わりに受けさせ相殺させていく。

 

「さあ、進んでくれるかい?出来る限り早くこの厄介な水を止めてくれると助かるよ」

 

「分かりました!行こう皆!」

 

「ああ、これなら進める。助かった!」

 

「さっさと水を止めるとするか」

 

セイバーとクロムとメイプルは兵士に護られつつギルドメンバーを連れて前へ行く。射程範囲はもうすぐそこだ。

 

「そろそろ私も攻撃参加できそうかな?」

 

「そうですね。到着を待ちましょう」

 

「ああ、そうしたら後方から支援射撃といこうじゃないか」

 

こうして、リリィとウィルバートとマリアは兵士と共に波をかき分け進む【楓の木】の面々を見送ると、攻撃の機会をじっと待つのだった。

そして幾度もの攻撃を乗り越え、大技をかいくぐり、ついにメイプル達はボスの足元へと辿り着いた。ここまでくればやるべきことは1つである。

 

「急いでバフをかけるわね!」

 

「使える限り魔導書を使おうかな。万が一ダウンしなかったら大変だしね」

 

「ああ、後は任せるぜ。1発ぶち込んでやれ!」

 

「頑張って!」

 

効果時間が短いかわりに効果が強力なものを順に順にかけていく。1つごとにマイとユイの与えるダメージは膨れ上がっていき、かけられるだけのバフをかけた状態になった時、様々なオーラの立ち昇る、威圧感のある姿がそこにはあった。

 

「「行きます!」」

 

2人は息を合わせて合計16本の大槌を一気に振りかぶる。

 

「「【ダブルインパクト】!」」

 

それは誰でも使えるような基本スキル。しかし、直撃した瞬間、纏っていた水は全て吹き飛び、かわりとばかりに大量のダメージエフェクトが弾ける。何度見ても異様と言わざるを得ない圧倒的な火力に、最終日のレイドボスですらそのHPを大きく減少させ、倒れこみながら片腕をつき、槍で体を支えるのがやっとである。

これは全プレイヤーにとってこれ以上ないほど分かりやすい反撃の合図。今までのレイドボスで見てきたあの重い一撃が決まった証なのだ。

こうして一気に攻め立てんと、プレイヤーが活気付く中、セイバー達もこのまま起き上がらせまいと追撃に入る。と、ここでヒビキ、サリー、カスミもようやく合流することができた。

 

「メイプル!上手く行ったみたいだね!」

 

「ヒビキ、サリー、カスミ!よかった無事で!」

 

「上手く助けられてな。状況は?」

 

「今から、総攻撃だよ!」

 

サリーとカスミはそれならばと武器を、ヒビキは拳を構え、大きな隙を見せているボスに向き直るのだった。

 

 

倒れたボスに対し、まず真っ先に攻撃を仕掛けたのは【炎帝ノ国】だった。

 

「はは、面白い人だったなぁ」

 

「嵐みたいに去っていったね……文字通り」

 

「あの強さ、いつか戦ってみたいものだ」

 

ヒナタを隣に浮かべたまま、自分のギルドの方に走って帰っていったベルベットのことを思い返す。

 

「向こうは向こうでやるのだろう。こちらもこの好機、逃さず行くぞ!」

 

「はいはい!やるとしますか、【崩剣】!」

 

「あんまりできることないけど……とりあえず起き上がったときの対策しておくよ」

 

「皆さん向かってください。反撃がきても私が回復、復活を担います!」

 

「バフをかけるのは任せろ。【アイテム展開】!」

 

単騎で能力の高いシンとミィがいるため少数戦ももちろん可能だが、【炎帝ノ国】の5人が得意なのは陣形を整えての集団戦である。ミザリーの回復や、マルクスの罠、パラドクスのバフかけはそれでこそ生きてくる。ボスのすぐそばに陣取り陣形を作れた今、それは起き上がったとしても対処しつつ攻撃することすら可能なものになっていた。

 

「ウェン、【彼方への風】【不可視の剣】だ」

 

「【炎帝】【炎神の焔】!」

 

もちろん、シンとミィの2人も周りを支援することができないわけではない。シンはスキルの範囲を拡大し周りのプレイヤーの攻撃に風の刃による追加ダメージを付与し、ミィは辺りに炎を広げ全員のステータスを飛躍的に上昇させる。

リリィも言ったように数は力だ。

 

「畳み掛けるぞ!」

 

こうしてミィの号令に合わせて、全員が攻撃を開始し、大きくダメージを与えていく。

 

【炎帝ノ国】が攻撃を仕掛ける中、逆方向に陣取った【集う聖剣】もまた一気に攻勢に出ていた。

 

「あっちもこっちもバフで大忙しなんだけどー?」

 

「ハハッ、いつもと違って防御は考えなくて言い分楽だと思うぜ」

 

「いつも考えさせてるのはどこの誰かなー?」

 

「やってる場合か、起き上がると面倒だぞ」

 

「ああ、こちらも仕掛けよう。レイ、【聖竜の加護】」

 

「シャドウ【影の群れ】」

 

「【バーサーク】!アース【大地の矛】!」

 

「【聖断ノ剣】!亡、【ブリザードブレス】」

 

それぞれが自前のバフをかけ、テイムモンスターを呼び出していく中、フレデリカはノーツの力も借りて、全員にバフをかけ終えて、うんうんと頷く。

 

「ガンガン戦ってねー。バフ切れたらすぐかけるからー」

 

それじゃあよろしくと、フレデリカが役目を終えたようにくつろごうしたところでドラグに引っ張られる。

 

「このまま攻撃参加も頼むぜ」

 

「もー、扱いが荒いんだけどー。これだけ大きければ、まあ間違いなく避けられることもないだろうし、気持ちよく的当てしようかなー」

 

いつもは決闘の度いいように避けられているフレデリカの魔法だが、多重の効果に追加してノーツのお陰でさらに一度に放たれる魔法が増えたため、当たれば威力は馬鹿にならない。

 

「ペイン、キラー。いいタイミングでバフ全部移すから。そうなったらよろしくねー」

 

「ああ、任された」

 

「人使いが荒いと言ったその言葉、そのまま返してやる」

 

全てのバフをペインとキラーに。滅茶苦茶な性能のこのスキルは対象に取れる人数が多いほどその力を発揮する。つまり、今はフルスペックだ。

光を放つ長剣が振り抜かれ、空まで上るような輝きがボスを切り裂く中、こちらも全員が攻撃に移る。

 

こうして他のギルドが囲んで攻撃していく中、【楓の木】は正面に位置取ってひたすら攻撃を加えていた。人数は他のギルドより少ないものの、文字通り百人力のマイとユイがいるため、ダメージは負けていない。

 

「さっすがに、あれにはどうやっても勝てないね!」

 

「もう比べるものではないだろうな」

 

「多分激土の防御力でももう受け切れませんね」

 

セイバーとカスミとサリーがマイとユイに並んでボスを切り刻む中、メイプルは後方から機械神の兵器による全力射撃を延々と叩き込んでいる。イズは既に大量生産済みの爆弾を放り投げており、クロムとカナデもそれに参加している形だ。

 

「いや、俺はそこまで火力貢献できないけどよ。カナデはできるだろ!」

 

「ほら、隣で僕のそっくりさんが頑張ってるでしょ?ソウ【破壊砲】!まあ、節約だよ節約。それに僕のダメージもあの2人と比較すると誤差みたいなものだしね」

 

「できることをやればいいのよ。あ、バフが切れるわ。クロム、筋力増加ポーションを放り投げてあげて」

 

「おう!」

 

そうしてダメージを与えていた10人だが残りあと少しというところでボスが起き上がり、その槍を突き出してくる。狙いは当然、最もダメージを出していたマイとユイだ。

 

「「大丈夫です!【巨人の業】!」」

 

突き出された巨大な槍の先端にそれぞれの8本の大槌がぶつかり、与えるはずだった衝撃は全てボスに跳ね返る。バフが限界まで積み上げられた2人の膂力は巨人のそれを上回り、その槍を弾き返したのである。残り少ないHPはよりギリギリまで減少する。

 

「よーし!皆で押し切ろう!」

 

メイプルはそのまま銃撃を、サリー、カスミは連撃を、クロム、カナデもそれぞれ撃てるだけのスキルを撃って、イズは爆弾に加えてダメージアイテムを惜しみなく使用する。

 

「【タテガミ氷牙斬り】!」

 

セイバーの攻撃もボスを確実に追い詰めていき、とうとうこの戦いも終わりの時が来た。

 

「「これでとどめっ!」」

 

最後にレイドボス戦最大の功労者であるマイとユイの大槌が振り下ろされて巨人はその体を光へと変え消滅していったのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第八層

「皆、お疲れ様ー!」

 

レイドボス戦が終わり、ギルドホームへと引き上げた【楓の木】はイベント終了とレイドボスの撃破を祝っていた。特に今回活躍したマイとユイの2人は中心ですごかったと褒められて照れ臭そうにしている。

 

「8本持ってきた時は驚いたけどなあ……」

 

「ああ、まさかあの火力で過剰にならない相手がいるとは思わなかった」

 

「これから先どうなのかは分からないけどね……僕はそんなモンスターにはあんまり出会いたくないけどな」

 

「俺もあの火力を相手にするのはちょっと嫌だな」

 

2人と殴り合いをして生きているのはレイドボスくらいにしてほしいものである。

 

「っと、イベント終わって早速だけど。また近く八層の開放があるみたいだよ」

 

「そっか、八層だね!えっと、今回のイベントでメダルが5枚でしょ。それで八層の何かも開放されてるんだっけ?」

 

「うん。何かは行ってみないと分からないらしいね」

 

「どんなところかな?」

 

「私はちょっと予想付いてるけどね」

 

「俺もだな」

 

「えっ、そうなの!?」

 

「僕も何となくは」

 

セイバーとサリーとカナデに教えて欲しいと聞くメイプルだが、やはりこれは実際に目にしてのお楽しみだろうとはぐらかされる。

 

「とはいえ一応ダンジョン攻略があるからな?」

 

「そうね。一応ね」

 

「私達にかかればすぐに終わりますよ」

 

そう言ってイズとクロムはとぼけたように肩をすくめると顔を見合わせ、ヒビキが自信満々に言う。

ボス。果たしてそれがどんなものであれば、マイとユイの攻撃を耐えられるというのだろうか。

こうして、八層へのダンジョンに関しては特に心配はしていないと、【楓の木】は実装を待つこととなる。

 

 

そして時間は過ぎ、八層の実装とともに10人は早速ダンジョンへと向かっていった。道中はそれは酷く、【身捧ぐ慈愛】によって守られたマイとユイが全てを叩き潰して粉々にすることであらゆるモンスターを撃破してのボス部屋到達となった。

 

「よしっ、じゃあ開けるよ!」

 

「うん。僕はいつでもいいよ」

 

「ええ、いつも通りバフは乗せられるだけ乗せたわ」

 

「それじゃあよろしく頼むぞ、2人共」

 

「「はい!」」

 

エフェクトでピカピカに輝いているマイとユイを見て、メイプルは扉を開ける。そこにいたのはスライムのようなゲル状の生物で、七層らしく様々なモンスターの姿に変化して戦う、カナデのテイムモンスターのようなボスだった。

人型、獣型、もっと魔物らしい魔物にも変化でき、変化先によっては空を飛ぶことや地面に潜ることもできる。ステータスもその度に変化し、持っているスキルの変化に合わせて戦闘スタイルを調整して戦わなければ隙を突かれてしまうような、できることが多く柔軟で、強力なモンスターだと言えるだろう。

 

「朧【拘束結界】!」

 

「ハク【麻痺毒】!」

 

「ソウ【スリーピングバブル】」

 

「【パラライズシャウト】!」

 

「ネクロ【死の重み】」

 

「ミク【電磁波】!」

 

入室と同時にばら撒かれる大量の状態異常スキル。様々な姿に変形するだけあって耐性があるのか、効いたのはネクロの移動速度減少効果だけだった。しかし、足が遅くなるというのは距離を取ることができないということであり、それはつまり破壊の権化であるマイとユイの接近を許すことになる。

 

「「【決戦仕様】【ダブルストライク】!」」

 

パァンと音がして、まさに変化中だったスライムはそのゲルごと弾け飛んで消滅する。それはもう一撃で、その持っていた様々なスキルを抱えたまま。

 

「攻撃の威力減衰くらいはありそうな見た目だったけどな……」

 

「無効じゃなかったのが運の尽きだね」

 

「いやあ、2人もメイプルに負けず劣らず尖ってきたなあ」

 

「流石ー!一撃!……十六撃?」

 

「やりました!」

 

「えっと……支援と状態異常ありがとうございます」

 

「これだけすっと倒してくれるのなら清々しいな。少し、ボスは不憫だったが……」

 

「とはいえ当たらなかったら無意味だしな。移動速度減少が効いたボスが甘かったか……」

 

「きっと、他の人達に力を発揮するわよ」

 

「できれば普通に戦いたかったかな」

 

喜んでハイタッチをしているメイプルとユイとマイを見つつ、セイバー、カスミ、クロム、イズは無残にも爆散したボスに想いを馳せる。

 

「あ!そうだそうだ。八層!皆行こう!」

 

「「はいっ!」」

 

先頭を歩き出した3人に残りの7人もすぐに追いついて、全員で並んで八層へと突入する。

 

「わぁ……!」

 

「どうカナデ予想通りだった?」

 

「うーん、ここまでとは思ってなかったかな?」

 

「うん、私も。これは探索に骨が折れそうだなあ」

 

「うーん、流水が進化したのは良かったけど、機動力の面だと進化前の方がまだマシな地形だなぁ」

 

10人の前に広がっていたのは一面の海。そして、かつて人が住んでいたのであろう水没した建物の屋根に、次の建物が建てられることを繰り返している街並みである。

 

「ほー、これはまたすげえ層だな。泳ぎはちょっと厳しいぞ」

 

「いや。かなり深いんじゃないだろうか……?何か補助アイテムがあると期待したいが」

 

「うーん、第9回イベントの限定モンスターの素材で水中探索を強化するものを作ることができたけれど、このためだったのかしら?」

 

「ま、これもこれで面白そうだな」

 

「私も楽しみ〜」

 

ある程度泳ぐことができる、または水泳のスキルを取得しレベルを上げられる面々は面白そうだと受け止めているが、一通り景色を見て楽しんだ先頭3人、メイプル、マイ、ユイはどうしようかとあわあわし始める。

それもそのはず、3人はステータスの都合上どうあがいても【水泳】や【潜水】のスキルを取得することができないのだ。

 

「ど、どどどどうしよう!?」

 

「どうしましょう!?」

 

「うん……このままだと……ずっとこのちょっとずつ水面から出ている建物だけで……」

 

まともに探索などできないのではないかと、危惧する3人の方をポンと叩いてサリーは落ち着くように言う。

 

「大丈夫大丈夫!【水泳】とかは取ってない人も多いスキルだし、ここでいきなりそれがないとダメってことにはならないと思うよ。もちろん、あったら有利だと思うけどね」

 

何か救済策があるだろうと踏んでいるのだ。それを聞いて、メイプル達も落ち着いて一旦素直にこの層を楽しむことに決めた。何があるかはこれから探していくのだ、まだまだ八層には入ったばかり。何も知らないうちから判断することはできないのである。

 

「よーし!今回もいっぱい見て回るぞー!」

 

「おー!」

 

そう言ってメイプルは勢いよく拳を突き上げる。八層は水没都市。海上に転々と突き出た建物と、遥か水中、深海に眠るかつての街を探索することになるのだった。

 

水上まで飛び出た建造物同士に掛けられた橋を渡って、セイバー達は八層のギルドホームへとやってきた。八層のギルドホームでは一部水没した部分があり、完全に水中に沈んだ階段からさらに下へと進んでいけるようになっている。

 

「こっちって行っても大丈夫なのかな?」

 

「ギルドホームの中にあるんだし、危険ってことはないと思うけど……ちょっと見てみようか?」

 

「俺も【水泳】に関しては高いレベルに達してるし、行くか」

 

 

泳ぎが得意なセイバーとサリーが足を踏み入れようとすると、ウィンドウが表示されて現在進入不可であることが告げられる。

 

「はあ?入れないのかよ」

 

「でも……この感じだと条件を達成すればいいのかな?」

 

まだまだ分からないことばかりなため、まずは探索が必要だろう。2人は運営から届いていたメッセージに改めて目を通す。前回のイベントの累計討伐数達成によって、八層でプレイヤーを助ける要素が解放されているはずである。

 

「きっとそれが関わってるんじゃない?」

 

「じゃあ早速探索だね!」

 

メイプルに合わせて、いつも通り全員がそれぞれ町へと繰り出してざっと様子を見にいくことにする。

町自体もほとんどが水没しており、NPCが船で移動している様子も見ることができる。徒歩で行くなら建物の間にかかった橋を渡っていく必要があるようだ。

 

 

セイバーは今回はメイプルやサリーと3人で八層の町を見て回ることにして、ギルドホームから出ると八層の町を歩いていく。

 

「水の中の建物も入れるのかな?」

 

「入れないと色々詰む気がするんだけどなぁ」

 

「どうだろう?結構深いところまであるみたいだけど……」

 

透明度の高い水中には今の建物の土台になっている建物が見える。サリーの言うように、それはいくつも重なってかなり深くまで続いているように見える。

 

「町の外を見てもずっと向こうまで水没してるし、水中探索の方法があるはず」

 

そうでなければ水面から突き出た僅かな建物を探索するだけの層ということになる。そんなはずはないだろうと町を歩く3人は、早速探していたものを見つける。

それは三層で空を飛ぶための機械を売っていたNPCによく似たものだった。いくつも並べられた潜水服はまさに水中探索をしてくれといっているようなものである。

 

「ちょっと見てみよっか」

 

「うん!」

 

3人が品物を見ていると、NPCが勝手に話し始める。

 

『水中探索にはこいつらが必須さ!水の中から引き揚げたお宝次第じゃもっと深くまで潜れるようにできるかもしれないぞ?』

 

それと同時に3人の前にウィンドウが表示され、運営からのメッセージが伝えられる。

 

八層で早めに解放されたのはこの潜水服であり、水中探索を助けるものになっているとのことだった。前回のイベントで手に入ったアイテムと合わせて探索を進め、より深くにまで至り、水底に眠る装備品を手に入れるのがこの層での目的となるのだ。

 

「ガンガン潜って強化パーツになりそうなものを手に入れて、もっと深くまで行けるようにしてレア装備を探すって感じだね。ギルドの下もこれで入れるようになるみたい」

 

「水中でのお宝探しって感じか」

 

「おおー……こんなに深かったら色んなものが沈んでそうだよね!」

 

「沈没船のお宝とかあるかもよ?サルベージしないとね!」

 

かつての文明の跡とも言えるような水に侵食された建造物。その中にはセイバーやサリーが言うようにいくつもお宝が眠っているのかもしれない。四層のように要素解放のために時間をかける必要があるため、急ぐに越したことはないだろう。

 

「じゃあ早速買っちゃおう!」

 

「うん、そうしよう。で、試しに潜ってみようよ」

 

「さんせーい!」

 

「俺もやりますか」

 

セイバーとメイプルとサリーはそれぞれ潜水服を選ぶと、ほとんど足場すらない、水に覆われたフィールドへと向かっていくのだった。

 

 

 

 

そうしてセイバーとサリーはボートにメイプルを乗せるとフィールドへと漕ぎ出る。

八層は四層に性質が近く、先ほど買った潜水服をグレードアップさせていかなければ思うように行動できない。潜水服の説明から分かるのは適性のない深さまで潜ると、水中での活動可能時間が急速に減少していくということである。そのため、何箇所かある浅めのエリアを探索することで素材をサルベージし、より深いところを目指すことになる。

 

「ほんとにもう海って感じだね」

 

「うん、足場がないからモンスターも歩き回ってないし。今までにない探索になりそう」

 

「私は泳ぐのは得意じゃないし……頑張ってアイテム集めないと!」

 

「取り敢えず、潜って色々と探してみようか」

 

潜水服や前回のイベントで手に入った水中探索用アイテムは、あくまで探索を補助するものである。【水泳】や【潜水】のスキルを持たないメイプルは、それらを持つセイバーとサリーと比べれば、元々潜っていられる時間が短く、機動力も劣る。じっくり探索するにはアイテムを揃えて、その時間をより伸ばしていく必要がある。

 

水中の様子もまだよく分からないため、町からそこまで離れることはせず、3人は初期潜水服で潜れるエリアにやってきた。

サリーはそこでボートを漕ぐのをやめると、潜水服を身につける。潜水服は装備品ではないものの、見た目を上書きするようで、セイバーとサリーはいつもの鎧姿や青い服ではなくウェットスーツを身に纏った状態となった。

水中での機動力に補正がかかるが水中での活動可能時間はそこまで伸びないタイプで、素早く探索する2人向けと言える。

 

「見た目は変わるけど……うん。装備自体はそのままみたいだね」

 

「そういうのは初めてかも!今までは着替えたりしてたし……」

 

「これでフィールドに出るわけだし、装備のスキルとかステータスはそのままじゃないと大変だからかな?こういうのが今後増えるなら戦略にも追加できるかも……」

 

「対人戦をするときも潜水服姿なら何を着ているのかわからないし、思わぬスキルを不意打ちとして使えるかもな」

 

セイバーやメイプルの装備の見た目を変更してしまえば、相手の想定外のスキルを使用することもできるだろう。潜水服は八層限定のため、今後に期待というわけである。

ともあれ、今は探索ということで、メイプルも潜水服を身につける。メイプルのそれは宇宙服のように全身をきっちり覆っており、後ろに酸素ボンベらしきものまで背負っているものである。顔の部分だけが透明になっているため、そこから表情がうかがえる。

 

2人のものと違い潜っていられる時間は長くなるものの、水中移動の初期性能は劣るタイプのもので、いっそ素早い移動は諦めてゆっくり歩いて水中探索をするつもりなのだ。

 

「おおー、付けてるところをみると結構本格的だね」

 

「そう?」

 

「うん、長く潜れそう」

 

「よし、じゃあ早速どれくらい潜れるか確かようぜ」

 

「そうだね。せーので潜ろうか」

 

「うん!」

 

3人はタイミングを合わせて水中へと飛びこむ。水飛沫が上がり、目の前を大量の泡が通過していく。そうして、クリアになった3人の前に広がったのは、透き通った青い水の世界と、水に侵食され遺跡と言っていいほどに古びて、ボロボロになってしまった建造物群だった。

その周囲をモンスターでない小魚が泳いでいたり、様々な水草が揺らめいていたりする中に、ちらほらとモンスターの姿も見える。今すぐこちらに向かっては来ないようだが、注意は必要だろう。

 

「どう?2人共」

 

「わっ!?サリー?」

 

「普通に声が聞こえるんだな」

 

3人が今いるのは水中なのだが、サリーの方から自然に声が聞こえてくる。メイプルはしっかり確認していなかったものの、八層の潜水服は特別仕様なのだ。

 

「八層は見ての通りこんな感じだから、水中で快適に探索するために、意思疎通は取れるようになってるみたい」

 

「へぇー、そうだったんだ……何か不思議な感じだね」

 

「活動限界だけ気をつけて、ちょっと探索していこう。普段と違って移動も大変だしね」

 

声は聞こえるとはいえ、水中であることに変わりはないため、泳いで移動していくしかないのだ。

 

「少なくともこの辺りはこっちから攻撃しなければモンスターも襲ってこないみたいだから、まずは建物の中に入ってみよう」

 

「うん!」

 

「そうしますか」

 

すぐに浮上できないような場所は余裕のあるうちに入っておくべきだと言える。サリーが先導しつつ、水中に沈んでしまった建物の中へと入っていく。既に扉や窓ガラスはなくなっているため、たやすく侵入することができ、3人は早速内部を探索することにした。

部屋の中には家具などは既になく、かわりに水草やそこに住む小魚、大きなシャコガイなどが見て取れた。

 

「宝箱っていう感じのはなさそう?」

 

「まだまだ水面から数メートルだからね。そういう本命は結構先かも」

 

「深い所には何が眠っているのか」

 

「おおー、楽しみだね!」

 

「ま、そのためにも潜水服強化の素材集めが必要なんだけど……」

 

それらしいものはないかと、3人で水草を掻き分ける。

 

「サリー、こっち階段あるよ!」

 

「下りてみよっか。外から見た感じだと何かあっても窓とかから飛び出せそうだし」

 

「楽しみだな」

 

沈みゆく中で上に増築を繰り返したという風になっているため、階段や窓、扉などの配置は普通の家とは少し違う。どの階も水面が上昇すれば地上一階になるのだから、出入り口や階段がいくつもあるのも不思議ではない。

3人が今いるのは一番最近水に沈んだと思われる階なため、まだまだ下へと部屋は続いている。

 

「うん!もし、モンスターが出てきても大丈夫!」

 

「……毒だけはなしだからね?ほら、水に溶けるかもしれないし」

 

「そうだな。無差別に周囲のプレイヤーも敵モブも巻き込みそうだし」

 

「う、うん!気をつける」

 

水中に毒が広がってしまうとしたら目も当てられない。セイバーとサリーを含めてモンスターや一部プレイヤーなど、無差別に毒殺することになってしまうだろう。そうなったときにメイプルには毒を回収する方法もないため、とんでもないことになる可能性があるのだ。

使うなら即効性があり辺りを汚染する危険もない『パラライズシャウト』でとどめておくが吉である。

気をつけていれば特に問題が発生することもなく。3人は強化素材らしきものを探してより深くへと潜っていく。潜水服が初期状態でも建物1つの探索くらいなら支障はなく、何階か下りたところで3人は水草の中にキラキラと光る何かを見つけた。それは光が当たって輝いているというよりは、分かりやすいようにエフェクトがつけられているといった風である。

 

「2人共、何かあるよ!」

 

泳ぐというよりはそのまま歩いて近づいたメイプルが伸びた水草を掻き分けるとそこにあったのは青く輝く球体と、機械の部品といえるようなネジやボルトだった。

 

「素材っぽいのと……何だろう?」

 

「全部そうなんじゃないかな?ほら、前のイベントの時のドロップの中にも水の塊とかあったし」

 

セイバーとサリーは取得した物をメイプルに譲ると、手に入れたアイテムが何なのか3人で確認する。

 

「お、やっぱり全部素材みたいだね」

 

「他も見つけやすいように光ってるのかな?」

 

「多分そうだろ。まだ分からないが、偶然光ってたって感じじゃないし。サクサク集めていけそうだな」

 

流石に数分に一度浮上というようなレベルでは、八層での探索にかかる時間が膨大すぎるため、潜水服は元がメイプルレベルでもかなりの活動時間と水中移動能力を与えてくれている。とはいえ、元々水中探索に向いていないことの影響は確かに出てもいるのだが。ともあれ、思っていたよりも早く素材が見つかったのは嬉しいことである。潜水服の性能が上がれば、スキルを持たないことによる影響も小さくなっていくだろう。

 

「これならもう1個くらいはいけそう!」

 

「じゃあもう少し行こうか。溺れちゃわないように気をつけててね?」

 

「うん、八層はそれが一番大変かも」

 

「酸素とかは常に余裕を持って動いた方が良いかもな」

 

気づいた時には溺れていましたではやりきれないというものである。そう考えると、やはりメイプルの1番の敵は溶岩然り水然り、地形なのかもしれなかった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと大海の神

こうしてそれぞれが探索を行い、パーツを集めたところで全員が一旦ギルドホームに集合することとなった。

近場にいたセイバー、メイプル、サリーが最初に到着し、次に着いたクロム達と成果を確認しあう。

 

「結構集まりました!沈んだ建物の中を探索して、家一つにつき1個以上はパーツがある感じでした!」

 

「なるほどなあ、こっちは砂浜に落ちてる感じだったから見つけるのは簡単だったぞ。競合も激しいのがちょっと難点って感じだな」

 

四層のエリア開放にも似ているため、今回各個人が集めた分だけではさらに深くまで潜れるようにはならないようだった。クロムの言うようにコツコツ集めていく必要があるわけである。

と、ここでようやく明らかに場違いなジェットスキーに乗ってイズとカスミがギルドホームの前に到着した。

 

「あら、私達が一番遅かったのね」

 

「か、かなり飛ばしていたんだがな」

 

「……窓の外に見えたあれは?」

 

「勿論ボートよ」

 

「また妙なもの作ったな……」

 

「流石はイズさんです」

 

「セイバー君は多分乗れるけど、クロムは、ちょっとDEXが足りないかもしれないわね」

 

「乗らねえよ、ひっくり返りそうだ」

 

「俺も遠慮しておきます」

 

「えっと、話すのはこれくらいにしておいて……私達はかなり多くパーツを集めてきたわよ!」

 

「ああ、本当にかなり多くだ」

 

そうしてイズが見せたパーツの量は、他のメンバーが集めた分全てを上回るものだった。

 

「おおー!さすがイズさん!」

 

「すごいですね……この短時間でこれだけ集められるなら……」

 

「遠出したのもあって私達しかいなかったの。あとは、やっぱり町から離れている方が1回の採取で手に入るパーツの量も多いみたいよ」

 

「遠くまで出かける訳だから当然の成果ですね」

 

町から離れるほど拠点が遠くなるわけで、それに合わせてモンスターも強くなっていたりする。であれば、得られる報酬が多いのも当然と言えるだろう。

 

「遠くの浅瀬か……」

 

「浅瀬っていうより山だったわ」

 

「恐らく、普通の地面にあたる部分が遥か底に存在しているのだと思う。私達が今いるのは今まででの層で言うと山の頂上辺りだ」

 

「サルベージできるお宝ってのも一番底にあるのが妥当だな」

 

「あと数回今日くらいの長さの探索時間を全員で採取に出れば2人分ならより深くまで潜れるようになると思うわ」

 

潜水服の強化にもいくつか種類がある。能力値に補正をかけたり、活動可能時間を伸ばしたりといったものだ。その中により深くまで潜れるようになる強化も存在する。その強化1本に絞り、かつ全員のリソースを注ぎ込めば問題なく潜水服を強化できるだろうとのことである。

 

「浅瀬で皆で探索していても良いけれど、より先を早めに見ておきたいじゃない?」

 

「それは……そうだな」

 

「他のギルドがどれだけ強化されるかわかりませんですからね」

 

となれば誰にリソースを集中させるかだが、そこで適任となる人物には全員心当たりがあるようで、ちらっとそちらを向く。

 

「私とセイバー……ですか?」

 

「確かに俺達は【水泳】も【潜水】もマックスの値まで上げ切ってるけど……良いんですか?」

 

「うん!私はそうするならサリーがいいと思うなあ」

 

話を切り出したイズを含め、残りの全員がメイプルと同じ考えだったようで、特にこれに異議を唱えるものはいなかった。

 

「水中探索能力も高いし、個人戦闘も得意だ。適任と言えるだろう」

 

「それに、セイバーお兄ちゃんとサリーお姉さんなら新しい何かを見つけられるような気がするんだよね」

 

「……分かりました。全員分のパーツを一旦貰っていいなら、その分探索してきます」

 

「俺も同じです。期待に応えられるように頑張ります」

 

2人に問題がないのなら、【楓の木】の方針は決まったと言える。まず先行してより深い場所へセイバーとサリーを送り、そこでより多くのパーツを手に入れることができたりすれば、それはまたギルドメンバーの利益になる。危険な場所にはより良いものが眠っているものだ。

 

「えへへ、責任重大だよセイバー、サリー」

 

「任せて、ちゃんと成果を掴みとってくるよ」

 

「任された仕事はきっちりとこなさないとね」

 

「それにギルドホームの下も早めに見たいしな」

 

「そうだね。あそこも潜水服を強化していかないと入れないみたいだし」

 

「ギルドホームの一部が入れないなんて初めてですし!」

 

「一体何があるんでしょう……?」

 

八層の攻略はまだまだ始まったばかりであり、分からないことの方が多い。それでも、少しでも早くまだ見ぬ財宝を発見するためにセイバー達は動き出したのだった。

 

それから数日。イズの見立て通り、セイバーとサリーの分のパーツは集まって、一段階深くまで潜っても制限なく活動できるようになった。計画していたように2人の潜水服を強化すると、早速ギルドホームの一角へと向かう。

 

「じゃあちょっと見てきます。一応、町の中なのでモンスターは出ないと思いますけど」

 

「成果を楽しみにしてください」

 

それでも今までになかった仕様なため、警戒しておくに越したことはない。

2人は一つ深呼吸をすると、水中へ続く階段を下りていく。そこはパーツ集めの時に探索したのと同じような見た目の部屋になっており、複数の部屋につながっているようだった。

 

セイバーとサリーが片手に剣とダガーを持ちつつ、安全を確認しながら進むと、そのうちの一部屋に石でできた棚と、そこに並べられた板があった。

 

「本……だと水中に置けないから石版ってことかな?」

 

石板にもより古いものから、比較的新しいものまであり、そこには水面が上昇し始めたことや、どこから水が噴き出したかなど、この層の成り立ちが書き連ねられていた。

 

「この噴き出した場所がダンジョンになってたりしそうだね。こっちは……記号?」

 

「これはカナデに解読してもらった方が良いかなぁ」

 

記号の羅列になっているだけの石板などもいくつかあり、2人には現状その意図が汲み取れない。ただ、こうして部屋を見ていくうちにいくつか見つかった情報から何かがありそうな場所にあたりをつけることはできた。

 

「とりあえずこんな感じかな?もっと深くは……今はいけないか」

 

「どうやら、今の潜水服のレベルではここまでみたいだ」

 

いくつか階段を下りたところで再び侵入制限で止められてしまい、2人は引き返すことにする。ギルドの下は段階に合わせてヒントが得られる場所のようだった。八層は今までと違い闇雲に探索するのは難しいため、ヒントが用意されていたと言うわけである。

町の中なだけあってモンスターはおらず、2人はそのまま無事地上へと戻ってくることができた。

 

「どうだった2人共?」

 

「本の替わりに、石板があっていくつかダンジョンの場所のヒントっぽいのがあったかな」

 

「記号が並んでるだけで読めないのもあったけど、もしかしたら地図か何かだったのかもしれない」

 

「なるほど。そのヒントを生かしてピンポイントで潜れということか」

 

「深い場所にあるダンジョンはまっすぐ行かないともたないだろうしなあ」

 

「ということで、メイプル達にも共有はしとくね」

 

サリーは撮っておいた写真を8人に送ると、今後の自分の方針を伝える。

 

「私達の読みが当たっていれば一段階深くなったところにダンジョンか、レアアイテムにつながるイベントがあると思うので、パーツを集めつつちょっと様子を見てきます」

 

「俺もそろそろ新しい聖剣が出ると思うんでそれも探しつつパーツを集めます」

 

「分かった!気をつけてね2人共!」

 

「うん、危なそうならすぐ撤退するよ。水中戦は難しいしね」

 

「俺も流水が水中戦特化じゃなくなったし、無理はしないようにするよ」

 

少し待てばギルドメンバーと共に探索できるようにもなる。もし危険そうなら、10人全員で向かうのがベストだ。そうすれば並のボスなら手も足も出ないだろう。

 

「集められるパーツの量が増えてることを期待しておくわ」

 

「そうなったら次の強化はイズだな。その方が結果的に早くなるだろ」

 

サリーかセイバーが護衛につけるため、3番手なら問題ない。そして、探索の本番は潜水服を強化しきってからになるだろう。かつての地上まで到達するにはまだまだ時間がかかるのだ。

 

「パーツ集めもするけど、町の方も散策しておくよ。水中にばかり目が向きがちだしね。もし何か見つかったら皆を呼ぶよ。僕1人じゃ戦闘は心もとないしね」

 

「そうか?魔導書使えば結構……」

 

「ふふ、それはまだ貯めておきたいからさ。ま、何も見つからないかもしれないし期待しないで待っててよ」

 

カナデはそう言うが、何か単に散策するというだけでなく思うところがあるようだった。思慮深いカナデが無駄になってしまうと予想できる行動をするとは考えにくいというのもある。

 

そうして、ここからはそれぞれ基本的なパーツ集めはしつつ、レアアイテムやレアスキルの発見のため、順次より深い場所の探索を開始するのだった。

 

それから暫くして、皆の分のパーツを受け取ることによってより深く潜れるようになったセイバーは、目星をつけている場所へボートを漕ぎ出していた。

 

「この前断っちゃったけど、やっぱりジェットスキー作ってもらおうかな。機動力が高いと目的地までさっさと行けるし……」

 

ボートでの移動は七層での馬と比べてゆったりしており、セイバーとしてはもう少しスピードが欲しいところではある。メイプル達とのんびり探索している分にはこれでもいいのだが、効率を重視するとジェットスキーに分があり、イズの言う要求値だけDEXがあるなら乗り換えたいものだ。

 

「ま、次の機会だな」

 

ともあれ今はもうすぐ目的地である。ジェットスキーは一旦次の探索まで置いておいて、セイバーは潜水服を身につけると早速水中へ飛び込んだ。

水面下は岩ばかりになった山が連なっており、かつては尾根だったであろう景観が広がっている。ちょうど、セイバーは空から山を見下ろしているような形になっているのだ。

 

「思ってたよりデカいな……ここのどこかにあるだろうけど……何とか頑張ってみるか」

 

ギルドの地下で見た地図で印が付いていたのはちょうどこの場所だったのだ。実際現地まで来てみて、 セイバーは地形からして何かあるだろうと感じている。

 

「それじゃあ早速行きますか」

 

一通り上から観察したセイバーは水を蹴ってより深くへ潜っていく。水面近くにはモンスターはいなかったものの、山肌に近くなってくると次々にその姿を見せ始めた。

 

「お、好戦的なモンスターが出てきたな」

 

出てきたのは第9回イベントでも戦った事のある鮫の色違いだった。その鮫は集団でセイバーを狙いに来ており、明らかにセイバーを標的としていた。

 

「前回はこっちが有利なフィールドだったからな。今回はお前らの土俵で戦ってやる。流水抜刀!」

 

セイバーは流水を抜刀すると鮫へと向かっていった。前回戦った時は陸地であって、今回は水中という鮫にとって有利なフィールドであったのだが、セイバーにはそんなものは無いも同じであった。

 

「【氷獣大海撃】!」

 

セイバーの背中に氷の鮫が合体するとそのまま高速で泳いでいき、迫り来る鮫から放たれるブレスを回避しながら鮫を捕捉。氷の斬撃で倒していった。

 

「このまま一気に行くぜ」

 

その後も鮫達は果敢にセイバーへと向かってきたが、全て聖剣の錆となることになった。

 

「さてと、そろそろ深くなってきたし、ダンジョンに着いてもいい頃だけど……」

 

既にセイバーは今の潜水服のレベルで潜れる最大の深さにまで到達しており、ダンジョンか何かが見つかっても良い頃であった。すると、突然セイバーのインベントリから『大海ノ歴史書』が出てくると光を放ち始めた。

 

「お、これは確か10本目の聖剣を示す本だったな。これが光っていると言うことは……」

 

セイバーが話していると『大海ノ歴史書』は勝手に移動を始め、セイバーはその後を追う事になった。『大海ノ歴史書』が導くままにセイバーが暫く泳ぐと転移の魔法陣が浮かび上がり、『大海ノ歴史書』はその魔法陣の中へと吸い込まれていった。

 

「『大海ノ歴史書』が示す先がここなら、行ってみるか。多分聖剣に関するものだとは思うけど」

 

セイバーが魔法陣に触れると彼も魔法陣へと吸い込まれる事になり、転移した先はとある青い神殿の一室であった。

 

「ここは……」

 

どういうわけか、この空間には空気が存在しており、セイバーは潜水服を脱ぐことになった。

 

「空気があるのはラッキーだったけど、これからどうするんだろ」

 

セイバーが周りを見渡していると『大海ノ歴史書』が目の前に浮び、開かれた。すると、青い光と共にセイバーの正面に男が現れた。その格好は上半身が裸でたくましい筋肉が見えていた。下半身には白い服を布を巻いており、手には巨大な槍を携えている。男は『大海ノ歴史書』を体に取り込むとその周囲に魚の群れを呼び出して、セイバーを見据えた。

 

『お前か。9つの聖剣を集めた者は』

 

「そうですけど……あなたは?」

 

『私の名はポセイドン。大海を統べる神だ』

 

「へぇ。神様が俺に何の用ですか?」

 

『お前の力を測りにきた。もし、私に勝つことが出来れば私の持つ聖剣をくれてやる』

 

「なるほど、いつも通りの力比べってやつか」

 

『ふん。力比べか。だが、予め言っておく。今のお前では私には勝てない』

 

「そんなの、やってみないとわからないだろ?烈火、抜刀!」

 

セイバーが流水から烈火へと聖剣を変えるとポセイドンは槍の柄を地面に軽く打ち付けた。すると、次の瞬間にはポセイドンの姿はセイバーの目の前から消滅した。

 

「なっ!?」

 

そしてそのワンテンポ後に背中に衝撃と共にダメージエフェクトが弾けるとセイバーは攻撃を受けてしまっていた。

 

「ぐ……今のは……なんだ?」

 

セイバーが振り返るとそこには槍を持ったポセイドンが立っており、セイバーが受けたダメージは彼からの攻撃であることが容易に想像できた。

 

『この技を受けて尚、立ち上がるか。ならば、徹底的に叩きのめす』

 

ポセイドンがそう言うと再び槍の柄を地面へと打ち付けて姿を消した。

 

「どこから……がっ!?」

 

セイバーが周りを見渡している間にもう次の攻撃が決まっており、セイバーは再びダメージを受ける結果となった。

 

「消えてから攻撃開始までが早すぎる……一体、どうすれば……」

 

セイバーはポセイドンの攻撃で受けたダメージに耐えながら、次の一手を探るのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと時の試練

セイバーはポセイドンから放たれる背後を取られての攻撃に対応するため、策を考えていた。

 

『考えても無駄だ。お前には最早勝ち目は無い』

 

ポセイドンはそう言って3度、槍の柄を地面に軽く打ち付けた。その3秒後、またもやセイバーがダメージを受けて今度はその場に倒れ伏した。

 

「あの攻撃、槍を地面に打ちつけてしか発動してないな……。だったら!」

 

セイバーはすぐに立ち上がるとポセイドンへと剣を振り、攻撃を開始した。

 

「あの技が防げないなら、技を撃たせないくらいの攻撃を仕掛ければ!!」

 

『ほう。少しは考えたか。だが!」

 

ポセイドンは自分へと向かってくるセイバーの攻撃を自身の周囲に展開している魚達にガードさせるとその間にまた槍を地面に軽く打ち付けて消えた。

 

「嘘だろ?」

 

『ふん!』

 

「ぐあっ!!」

 

結果は先程までと同じであった。セイバーはポセイドンの攻撃によってダメージを負い、ポセイドンは相変わらず無傷であった。

 

「チッ……マジでこれどうしようなぁ……」

 

セイバーは今までとはまるで違うボスの強さに弱り果てていた。しかも、今回はまだ相手に一度もダメージを与えてないのだ。困るのも当然である。

 

『終わりだな』

 

ポセイドンはまたまた槍の柄を地面に軽く打ち付けると姿を消した。そして、セイバーの背後に出てくると手にした槍を振り下ろした。

 

しかし、今回はセイバーも対策を立ててきた。

 

「【エレメンタル化】!」

 

セイバーは攻撃を受ける瞬間に水に変化すると槍による攻撃を回避したのだ。

 

『む』

 

「今だ!【爆炎紅蓮斬】!」

 

セイバーは槍を振り下ろしたポセイドンの背後を取ると炎を滾らせた烈火でポセイドンに初めてダメージを与えた。その減り方は僅かであったものの、ようやくポセイドンへとダメージを与えることができたのだ。

 

『……私に傷をつけるか』

 

「少しは俺も考えて動いているからな。毎回毎回やられてたまるかっての」

 

『面白い。ならばこれはどうかな』

 

ポセイドンは自身の周囲に召喚した魚達を使役してセイバーへと攻撃をさせた。セイバーはこの攻撃を躱すが、魚達の数は多く、あっという間にセイバーを取り囲んでしまった。

 

『やれ』

 

ポセイドンの合図と共に魚達からブレスが放たれる。その火力は決して高いものとは言えなかったが、数に物を言わせての攻撃である。並大抵のプレイヤーでは確実にダメージを負うであろう。ただし、これはセイバー以外のプレイヤーであればの話である。

 

「最光抜刀!【シャドーボディ】!」

 

セイバーは5分間のみ使用可能な姿である影の体を使うと攻撃を見事に透かした。

 

「【シャドースラッシュ】!」

 

そのまま影の体を竜巻のように変化させると剣となった自身を中心として光と影の斬撃で周囲にいた魚を全滅させた。

 

「【カラフルボディ】!」

 

すぐにセイバーはカラフルな装甲を見に纏うと光剛剣最光を振るってポセイドンの槍に対抗する。当然、ポセイドンもこれを受けて激しく武器をぶつけ合った。しかし、ポセイドンの武器は槍であり、これでは近接戦闘になるとセイバーの剣よりは扱いが難しくなる。ある程度距離が離れているのであれば、リーチが長い分槍が有利なのだが今はセイバーとポセイドンの距離は短く、槍を振り回すには少しばかり距離が近すぎた。勿論、セイバーはこれを見越してポセイドンとの近接戦闘を選んだのだが。

 

「へいへーい、どうしたんだよポセイドンさんよぉ。さっきの技を使わなければ割と弱いんじゃ無いの?」

 

『小僧、甘くみるなよ』

 

ポセイドンは槍では不利と悟ったのか、槍に光を纏わせるとその形を剣へと変えた。

 

「マジで言ってんの?」

 

『ぬうぁあ!』

 

ポセイドンは得物を槍から剣へと変えて、その刀身に大海の力を高めた。

 

「だったらこっちも!【エックスソードブレイク】!」

 

セイバーもそれに対抗して最光に光の力を集約しての斬撃を繰り出し、2つの斬撃は中央でぶつかり合い、その衝撃で爆発が起きた。

 

2人は爆発を突き抜けて再び剣をぶつけ、互いの力を競った。2人の剣捌きは互角であり、お互いにダメージを入れられないまま激しく斬り合いを続けていく。

 

「槍がメインだから近接戦闘は苦手だと思ったけど、中々やるね」

 

『お前も見事な剣捌きだ。流石はここまで聖剣を集めただけのことはあるな』

 

「そいつはどうも!」

 

2人による斬り合いは結局、セイバーの方が剣速で上回り、ポセイドンの体を一閃して切り裂き、そのままポセイドンの体を蹴って距離を取った。

 

『ぐ……なら、これでどうだ』

 

ポセイドンは再び剣を槍へと戻すと自らの真上に大量の水の槍を生成してからセイバーへと雨のように降り注がせた。

 

「無駄だ。【閃光斬】!」

 

セイバーは眩い光を纏わせた斬撃で自分に当たる槍だけを相殺し、残りはスルーした。しかし、水の槍は地面に突き刺さった瞬間に突如として槍が水へと戻り、セイバーの体に纏わりついた。

 

「な、なんだこれ……動きが制限される」

 

『この拘束から簡単に逃れられると思うな』

 

セイバーは脱出するために体を動かそうとするが、水がどんどん強く締め付けていき、セイバーは完全に動きを封じられてしまった。

 

『こうなっては動けまい』

 

ポセイドンがゆっくりとセイバーへと近づいていくと、手にした槍でセイバーを斬りつけた。当然、セイバーに回避する術は無く、まともに一撃を受けてしまった。セイバーのHPは5割を下回り、これではいつやられてしまってもおかしく無かった。

 

『どうやらここまでのようだな』

 

「そうかな。まだ俺は諦めて無いからね」

 

『根性論でどうにかなるとでも?』

 

「さぁな。けど、俺は聖剣を手にするまで諦めるわけにはいかないからさ。狼煙、抜刀!」

 

セイバーは最光から狼煙へと剣を変えると拘束から逃れるためのスキルを言い放つ。

 

「【狼煙霧中】!」

 

セイバーはその言葉と共に煙化。拘束から完全に逃れると再び煙が集まっていき、セイバーを形成。そのままポセイドンへと斬りかかった。ポセイドンはそれを見てまた槍の柄を地面に打ち付けてその場から消えるとセイバーの攻撃を躱す。

 

「またかよ。けど、その攻撃なら【狼煙霧中】!」

 

セイバーが再度【狼煙霧中】を発動して攻撃を回避すると今度こそとばかりにポセイドンへとキックを放つ。

 

「もらった!【インセクトショット】!」

 

しかし、セイバーの攻撃が当たる直前にポセイドンの姿は再び消えてしまった。

 

「え!?」

 

『今度はこちらが一手速い』

 

ポセイドンから振り抜かれた槍によってセイバーは背後からダメージを受けてスキル、【不屈の竜騎士】が発動。HPを何とか1残すが、次にダメージを受けたら終わりという所にまで来てしまった。

 

「何だと。まさか、2回連続でも発動できたのか?」

 

『少し負担は大きくなるが、連続発動など容易いことだ』

 

「く……取り敢えず、ポーションで……」

 

セイバーは急いでポーションを飲むと回復して窮地を脱するが、次にHPを1残すことはできないため、追い詰められているのはセイバーの方であった。

 

「これは不味いなんてレベルじゃ無いな。やっぱりあの技のカラクリに気づかない限りはどうしようも……あ」

 

『どうした?最早戦う力も無くしたか?』

 

「いいや、お前の技に対する対処法を思いついてね」

 

『ほう。ならば見せてみろ、その対処法という物を』

 

「言われなくてもやってやるよ。流水抜刀!」

 

セイバーは流水を抜刀すると氷を纏い氷獣の戦士となった。それを見てポセイドンも槍の柄を地面に軽く打ち付けて技を発動する。

 

するとセイバーの目にはモノクロの空間が発生。そしてセイバーの目の前にポセイドンの幻影が現れた。更に、そこから自身の隣を歩いていくポセイドンの姿を捉えた。

 

「これは……まさか、あの技を発動した時のポセイドンの動きなのか?」

 

このポセイドンの動きが見えたこと自体はセイバーの言っていた対処法では無い。しかし、ここまで何度もポセイドンから技を使用されたことによってセイバーの中に眠っていた力が覚醒したのである。

 

それは兎も角、ポセイドンは歩きながらセイバーの背後に回り込むと槍の柄を再び地面に軽く打ち付けて空間を元に戻した。そしてこれこそセイバーが待ち望んでいた瞬間だった。

 

「今だ!」

 

セイバーは流水を地面に突き立てると自身を氷漬けにして攻撃をガード。そのまま自身を覆う氷を壊しながら剣を振り抜き、ポセイドンにまともなダメージを与えることに成功した。

 

『なん……だと』

 

「もうこの技は俺には通用しないぜ」

 

『ふん。今のはまぐれで止められただけだ。まぐれは2度と起きん!』

 

ポセイドンがまた技を発動するとまたもやセイバーの目にはポセイドンが移動していく姿が捉えられていた。そして、そうとも知らないポセイドンが技を解除すると槍を振り上げた。

 

『はあっ!」

 

「もう通用しないって言っただろ!」

 

セイバーがまた流水を地面に突き立てると今度は地面が凍っていき、ポセイドンの足元を凍結させて動きを止め、そのまま振り返りながら流水の一撃を叩き込んだ。

 

「【タテガミ氷牙斬り】!」

 

『ぐはあっ!!』

 

「【ブリザードラッシュ】!」

 

そのまま氷の聖剣による連続攻撃をポセイドンへと与え、着実にダメージを入れていく。ポセイドンもやられっぱなしにはならないとばかりに槍を振り回すが、セイバーはそれを紙一重で躱していく。

 

「新しいスキルを試してみるか。【ゲノミクス】!」

 

《モグラ!ゲノミクス!》

 

セイバーがそういうと音声が鳴り、その瞬間左腕が変化していくと緑色のドリルが装着された。どうやら今回はモグラを模した変化らしい。

 

「これがモグラの【ゲノミクス】か。見た所地中に穴を掘るためのドリルみたいだな。ま、物は試しだ。早速使うとするか」

 

セイバーが地面にドリルを当てるとドリルが高速回転を始めていき、そのまま地中へと穴を掘っていく。セイバーはその穴の中に入っていくと地中へと潜む。

 

『な、何だ?』

 

ポセイドンが突然のことに戸惑っていると地中からセイバーが出てきて左腕のドリルでポセイドンを殴るとドリルの高速回転も相まって貫通力の上がった攻撃がポセイドンを吹き飛ばした。

 

『ぐぬ……だが、こんな程度では……』

 

「オラよ!!」

 

セイバーは跳ぶと今度は右足にドリルを移動させてのキックを放ち、ポセイドンは更にダメージを受けていった。そして、そのタイミングでセイバーもドリルを解除し、流水を構える。ポセイドンは今のダメージでHPをかなり持っていかれたが、それでもまだHPを半分以上残していた。

 

「やっぱあのスキルは面白いな。その気になれば色々とできそうな気がするぜ。さてと、そろそろ決めさせてもらおうか」

 

『それはこちらの台詞だ。お前を倒す』

 

ポセイドンはセイバー相手に最後の一撃とばかりに大海の力を槍の穂先に集約。セイバーもそれに対抗するように流水を白く輝かせると氷の力を高めた。

 

「【氷獣大地撃】!」

 

『うぉおおお!!』

 

セイバーは自身のタテガミを凍らせて長く伸ばすと力を剣に一点集中させ、ポセイドンへと走っていく。同様にポセイドンも槍の刃先から水の竜巻を発生させてセイバーを飲み込まんとした。

 

セイバーはその竜巻の中へと突っ込むと水の竜巻を凍らせながらポセイドンへと突貫。まさか自分の渾身の一撃が全て凍らされるとは思っていなかったポセイドンは驚き、攻撃を継続するも、最終的には凍った竜巻を破壊され、そのままセイバーからの一撃をモロに受けることになった。

 

「うぉりゃあああああああああああ!!」

 

ポセイドンはこの攻撃でHPが削り切られる事は無く、まだまだHPに余裕があったものの、自身のフルパワーの攻撃を無効化された上に一時的とは言え、自分以上の力を見せたセイバーを認めた。

 

「はぁ、はぁ、これでもまだダメか……」

 

一方のセイバーは満身創痍であった。何故なら、既にここまでの戦いでポセイドンから受けたダメージと、体への疲労が残っており、しかも竜巻に突っ込んだ際にセイバーも少なからずダメージを受けていた。更に、これで決まるはずだった渾身の一撃を耐えられてしまったのである。最早セイバーに戦闘を継続するための力は残っていなかった。

 

それでも諦めずにポセイドンを見据えて戦おうとしたが、ポセイドンはどういう訳か槍の穂先を地面へと突き刺した。

 

「どういうことですか。まだあなたにはHPが残っているでしょう?」

 

『お前のその力。認めるに値する物のようだな』

 

「……え?」

 

『この勝負、決着は着いてないが、お前の強さを認めて私の宝をくれてやろう』

 

「良いんですか?」

 

『ああ。ただし、これからまだもう1つ試練を受けてもらう必要があるがな』

 

「その試練は……」

 

『少しここで待っていろ。ここに私の宝を……聖剣を持ってくる』

 

ポセイドンはそう言って奥の部屋に入っていくと数分もしない内に1本の聖剣を手にしてやってきた。

 

その剣は刀身の上半分にピンクの、下半分に青のラインが入っており、刀身は引き抜き式で刀身の根元を差し込む部分は黒色で四角く、持ち手も黒かった。

 

『時国剣界時(じこくけんかいじ)』

【STR+60】【破壊不可】

【界時抹消】【大海一刻斬り】

【大海三刻突き】【一時一閃】

 

聖剣の名は時国剣界時、その名の通り時を司る聖剣である。

 

「これが、10本目の聖剣」

 

『この剣を使いこなすには修練が必要だ。まずは……これに耐えれなければならない』

 

そう言ってポセイドンが手にしていた槍の柄を地面に軽く打ち付けると特殊な空間へと移行し、その瞬間にセイバーの体にものすごい負荷がかかった。

 

「こ、これは……体が重い……」

 

セイバーはその場で立っているのが精一杯であり、そのことからもかなりの負荷がかかっていることがわかるだろう。

 

『これは時国剣を使う際に避けては通れない空間だ。【界時抹消】を使用するとこのように特殊空間へと潜航するのだが、この空間では現実世界から切り離されて光も音も遅れて届き、深海と同じで体には相当な負荷がかかる。まずはこの状態で歩けるようになるんだな』

 

「嘘……だろ?これで動けって言われても……」

 

セイバーは何とか動こうとするが、体はまるで言うことを聞かずに全く動けなかった。

 

「ポセイドンさんはもしかしてあの技を使う時にいつもこんな空間で動いてたんですか?」

 

『その通りだ。そして、この空間で動くには並大抵の訓練では無理だ。暫くはここに通い続けるが良い。早ければ1ヶ月くらいでこの聖剣を使えるようになるだろうな』

 

「マジか。でも、これもまた試練ってやつだな。よし、受けて立ってやるよ。そんでもってこの空間でも動けるようになる!」

 

『威勢の良さは相変わらずだな。だが、お前には可能性がある。だからこそ私の力を継承してもらおうか』

 

それからというもの、セイバーは度々この空間に通うようになり、【界時抹消】発動時の特殊空間に耐えるための訓練を続けていくのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと修行

セイバーが時国剣を手に入れたその日、ギルドホームに戻ってくるとちょうどサリーも帰ってきており、そのタイミングでメイプルがイズに素材を受け渡しているところだった。

 

「あ、セイバー、サリー!おかえりー。深いところまで行ってたんでしょ?どうだった?」

 

「ふふっ、ばっちり。まずはパーツだね」

 

「俺も手に入れたパーツを出すよ」

 

そう言って2人は一段階深い場所で手に入れてきたパーツを受け渡す。

 

「うんうん、やっぱり量も増えてるわね。私もできるだけ頑張って皆をより深くまで行かせてあげないと」

 

2人がそれぞれ集めてきたにしては明らかに量が多いため、やはりいつも通りより良い場所へより早く向かうことが大切になってくることが分かる。

 

「あとはダンジョン内部に結構な量落ちていたので、入ってみるのがいいかもしれません」

 

「俺は探索系のダンジョンには入らなかったからサリーよりは少なめかな」

 

「分かったわ。皆にも伝えておくわね」

 

「サリーはダンジョン入ったの?どうだった?」

 

「ふふふ、言ったでしょ?上手くいったって。見ててね……」

 

サリーは手早く装備を変更するとその場でくるっとターンして3人に装備を見せる。その姿は今サリーが使っているものより大きい片刃の短剣を持ち、ポケットやベルトがいくつもついたフード付きの灰色のコートにシンプルなチョーカーが一つに頑丈そうなショートパンツであった。

 

「おおー!全然違う感じだね!かっこいい!」

 

「サリーも成果を挙げてきたか」

 

「いいわね。スキルも付いてるのかしら?」

 

「そう、スキル。スキルのこともあって戻ってきたんです。ちょうどよかった。メイプル、少し頼みたいことがあるんだけど」

 

「なになに?」

 

サリーはスキルを使ってみたいことと他の人が必要なことを説明するとセイバー、メイプル、イズを連れて訓練所へと歩いていく。

 

「メイプルのスキルなら特に分かりやすいかなって」

 

「……?」

 

「ふふ、気になるわね」

 

「それは俺も同じです。サリーがどんな力を手にしたのか。楽しみで仕方ありません」

 

そうして訓練所へとやってくると、サリーは早速言っていた頼みごとをする。

 

「じゃあちょっと離れてもらって……メイプル、試しに【毒竜】撃ってみてくれない?」

 

「わ、分かった!えっと【毒竜】!」

 

メイプルが壁に向かってスキルを放つと、いつも通りの毒の奔流が辺り一帯を毒沼に変化させていく。

 

「これでいい?」

 

「うん、じゃあメイプルそのまま盾を構えてこっち向いて」

 

「……?うん、分かった」

 

何が起こるかとセイバーとイズが見守る中、メイプルはサリーの言う通りに盾を構える。

 

「いくよ。【毒竜】!」

 

本来サリーから聞くはずのない声に合わせて大きな紫の魔法陣が展開される。

3人が目を丸くする中、メイプルに向かって先程と寸分違わぬ毒の奔流が迸る。それはメイプルが構えた盾に向かい、普通なら【悪食】に吸い込まれるはずだったが、それはそのまま盾をすり抜ける。

 

「うぇっ!?……え?」

 

驚いたメイプルだが、毒の塊はそのままメイプルの体も通り抜けて辺りの地面に散らばっていく。

どういうことかと首を傾げてサリーの方を見ると、サリーもこんな風になるのかと感心しているようだった。

 

「なるほどな。見たスキルを見た目だけのダミーとして模倣できるのか」

 

「そうそう。セイバーの言う通り決まった時間内に見たスキルを撃てるわけね。ただ、完全に偽物だからダメージはないんだけど」

 

命中して弾けるがダメージがないという訳でもなく、サリーの持つ新たなスキル、【ホログラム】が生み出したものは触れることすらできないものなのだ。セイバーとイズもサリーが生み出した毒沼に触れてみるものの、手応えなくすり抜けるばかりである。ただ、眺めている分にはメイプルが作った本物の毒沼となんら変わりはない。

 

「へぇー、本当に私のと同じ感じだったよ!」

 

「プレイヤー相手に使えばかなり有効かもな」

 

「確かに、相手を混乱させたりできるかも。今回の装備は全体的にpvp用って感じかな。モンスターに使ってもそこまで効果は大きくないかも」

 

「モンスターは悩んだり迷ったりしないものね。でも……また難しそうね。サリーちゃんなら上手く使えそうだけれど」

 

「あとはこうやってできた幻影を実体化させることもできる。基本1戦闘1回きりだけど」

 

「コピースキルのように使うこともできるのね」

 

「それ凄そうだね!本当に【毒竜】が使えちゃうってことでしょ?」

 

「その気になれば俺のスキルも再現可能と言うわけか」

 

「そそ、また今度連携に組み込んでみたいかな」

 

「うんうん!他には他には?」

 

実験が終わって近づいてきたメイプルは他にもスキルがあるかと、目を輝かせながらサリーに聞く。

 

「この武器も面白いよ。見ててね」

 

サリーの持っている武器が光に変わったかと思うと次々に種別を変えていく。

 

「あっ、これは幻じゃないんだね!」

 

「他の武器に変形できるって感じ。帰ってくる途中でちょっと試したけど戦闘中もいけるよ」

 

「適切な武器に変え続けられるのね。ああ、私もそんな武器が作れたらいいんだけれど……」

 

「それは流石に万能すぎますよ。これもユニークシリーズだからこその性能ですし」

 

ユニークシリーズ特有の尖った性能であり、イズでさえも作れないのであれば、現状鍛治によって生み出すことはできないと考えられるだろう。

これによって、他のプレイヤーには真似できない、見たことのない戦闘スタイルを取ることができると裏付けも取れた。

 

「これはギルドの皆といる時以外は使わないでおくつもり。誰にも知られてなければ不意をつける可能性も上がるしね」

 

短剣だと思っていたものが急に大剣になれば回避もかなり困難になる。予想していないことに反応するのは難しいのだ。

 

「で、もう一つあるんだけど」

 

「まだあるの!?すごーい!どんなの?」

 

「今回は新技てんこ盛りだな」

 

「いくよ?【偽装】」

 

サリーがそう言うとサリーの装備が光に包まれ、服装がいつもの青いコートとマフラーを纏ったものに変化する。

 

「【クイックチェンジ】みたいな感じ?」

 

「いや、変わってるのは見た目だけ。ほら」

 

サリーはそう言って【変幻自在】によってダガーを変形させる。するとダガーのみ効果が切れて灰色の太刀が出現した。

 

「うーわ、これは相手からしたらかなりキツイなぁ。いつもの装備を着てると思って構えてたらいきなり違う装備のスキルを使ってくるんだろ?」

 

「あらあら、そんな装備もあるのね!作ってみたいわ……できるようにならないかしら」

 

「スキルとか魔法の名前とか見た目も変えられるから、たとえば……【ファイアーボール】!」

 

そう言うとサリーの手元に緑の魔法陣が展開され風の刃が訓練所の巻藁に向かって飛んでいく。しかし、それは巻藁を切り裂く事なく、着弾するとバシャンと水をまき散らした。

 

「?????」

 

何がどうなっているか掴めていない様子のメイプルにセイバーが説明する。

 

「多分今のは【ウォーターボール】のスキル名を【ファイアーボール】にして、見た目を【ウィンドカッター】に変えたって感じだな」

 

「そうそうそんな感じ」

 

ごちゃごちゃと入れ替えているものの飛んでいるものは【ウォーターボール】なため、着弾した時に弾けたのは水だったというわけだ。

 

「な、なるほど」

 

「これも使いようによっては有利にできると思うけど、私ももうちょっと慣れないと。使い道は思いついてるんだけど、今までとは違う頭の使い方するしね」

 

「これ、相手からしたらびっくりだろうな。【ファイアボール】が来ると思ってたら【ウインドカッター】のエフェクトが来て、実際に当たったら【ウォーターボール】でしたってことだろ?二重の意味でのフェイントじゃん」

 

「あはは……私だと使いこなせなさそうだけど、サリーならできると思う!」

 

「任せて。とりあえず次の対人戦までには色々慣れておくからさ」

 

「それはそうと、セイバー君はどんな成果を挙げてきたの?」

 

「それなんですけど、取り敢えずまずはこれを見てください」

 

セイバーは今まで装備していた烈火をしまうと新しく手に入れた時国剣界時を取り出した。

 

「これって」

 

「そう。この層の聖剣」

 

「へぇ……でもさ、何で装備が変わってないの?」

 

3人がセイバーを見ると界時を装備しているにも関わらず装備が聖騎士の装備のままで強化されていなかった。

 

「多分なんですけど、俺がこの聖剣を使いこなせてないからだと思います」

 

「どういうこと?」

 

「この聖剣を使いこなすには特殊な空間で訓練を積まなくてはいけなくて、俺はまだその空間で動くことすらできてないのでまだ聖剣自体が俺のことを認めてくれてないからだと思います」

 

「それじゃあ、暫くはその剣は使えないってこと?」

 

「そうなるね」

 

「じゃあ、また使えるようになったら教えてくれる?私もその剣の力を見てみたい!」

 

「私もね。だって、剣だけあっても使いこなせないんだったら持っていても腐るだけでしょ」

 

「ああ。いずれは使いこなして見せるさ」

 

「頼もしいわね。何か必要なものがあったら言ってくれれば用意するわ。探索も戦闘も、頑張ってね」

 

「「「はい!」」」

 

こうして手に入った新たな力を上手く使えるようになるため、セイバーは聖剣を手にした場所に何度も通い、サリーは他のプレイヤーに見つからないようにしつつ特訓をするのだった。

 

それからしばらく。プレイヤー達は続々と一段階深いエリアへと進出していき、潜水服の強化により快適に探索が可能になり、【楓の木】のメンバーも全員より深いところまで行けるようになっていた。

セイバーとサリーを先行させて送り込んでいるため、2人だけ進行状況が違うものの、概ね足並みは揃っている状況だ。

 

そんな中、セイバーとメイプルとサリーがギルドホームで話をしているとカナデが入ってきた。

 

「あ、カナデ!今日はどこか探索?」

 

「うん、さくっと行って終わらせてきたんだ」

 

「それじゃあもしかして新しい何かを手にしたのか?」

 

「そんな所だね」

 

そう言うとカナデは新たに手に入れた【技能書庫】について2人に教えることになった。

 

【技能書庫】

MPを使わないスキルを【技能書】として専用の【本棚】に保管できる。

保管されたスキルは【技能書】を使用するまで使用できない。

 

要は【魔導書庫】が保存できなかったスキル群を保存することができるようになったわけであり、下準備に時間さえかければ比類なき強さを発揮することができるということであった。

 

 

「今度は何でもスキルを保管できる……それって自分の使ってない武器のものでも?」

 

「それは結局発動しないね。いや、ちょっと違うか……本は作れるし使うと消費もするんだけど、効果がない、かな?」

 

「それじゃあ実際には使うことができないってことか」

 

それだと発動してようがしてまいが関係ないとセイバーとサリーは残念そうにする。カナデ曰く、この本棚を付け加えるルービックキューブは、【神界書庫】から一連の流れを持ってこそいるものの杖専用ではないらしい。取得時に武器のスキルに追加されるアイテムといった方が正しいだろう。手に入れられれば戦闘時の手札が増えるのは間違いない。

 

「と言ってもそもそもクリアできるか分からないけど。パズル得意?」

 

「ああ……そっかそうだったっけ」

 

「カナデだからこそできることか。俺達には中々キツイなぁ」

 

ボスを倒す形式でなかったことも思い出して、セイバーとサリーはいよいよ入手は難しいと考える。いかに戦闘に秀でていても、【技能書庫】は手に入らない。特段パズルが苦手というわけではないが、ミルクパズルをあっさりといて戻ってくるような芸当は2人には不可能だ。そもそも完全に使うには【神界書庫】が必要でもあり、やはり基本は魔法使い向けのスキルだと言えた。

 

「僕がやってもいいけど」

 

「いや、そういうのは自分でやってこそだしね」

 

「流石にそこで人の手を借りるようなことはしないよ」

 

「ふふ、そっかそっか」

 

「ねぇねぇ潜ったら偶然見つかったの?」

 

「違うよ。ギルド地下にはもう1つヒントがあってね……今までの層で図書館に行ってないと分からないんだけど」

 

カナデがそう言って3人に自分が見てきた文字のことを教えると、3人はそんなものもあったのかと驚いた表情を見せた。

 

「これからは記号を見つけたらちゃんと写真くらいはとらないとね」

 

「カナデなら全部解読できそうだし」

 

「今まで行ったところにもあったのかな?」

 

「どうだろう。3人は僕より随分多くの場所を探索してるみたいだから、どこかにはあったかもね」

 

「今度からは見逃さないようにしないと!」

 

「あはは、じゃあメイプルとサリーも覚えていく?文字として見えるようになったらきっと見逃さないよ」

 

そこまで作りは複雑ではないからと提案すると、3人はそれなら覚えてみたいと乗り気な姿勢を見せる。

 

「じゃあ簡単なところから行こう。数文字読めるだけでも違うはずだよ」

 

「……複雑じゃないってカナデ基準じゃないよね?」

 

「ええっ!?それだとかなり難しいんじゃ……」

 

「俺はギリ分かる……かな?」

 

「さぁ、どうかな?」

 

悪戯っぽく笑うカナデは、こうして3人に自分が覚えたものを教えてあげるのだった。

 

 

そうしてしばらくギルドホームでカナデから新たな言語を教わっていた3人だったが、今回はセイバーが時国剣を使いこなすための特訓に出かけている事もあってある程度進んだところで切り上げることとなった。

 

「どう?」

 

「な、なんとか?」

 

「教えられた分はね」

 

「各層の図書館にまとめられてるから、気が向いたら行って頑張ってみてよ」

 

カナデとしても本格的なヒントとして文字を見たのは八層が初であり、もしかすると八層には他にも文字の書かれた場所があるかもしれない。

覚えておいて損はないだろう。

 

「それらしいものを見つけたら僕にメッセージを送ってくれてもいいよ。判断できると思う」

 

「本当!ありがとー!」

 

「もしかして、それなら覚えなくても大丈夫だったんじゃ……?」

 

「知らないものを知るのは楽しいよ?」

 

「それは否定しないけど」

 

「ふふ、いい経験だったんじゃない」

 

「そう、だね。あんまりそういうのはしてこなかったかな?」

 

ゲームによっては創作の言語があるものももちろんあるが、解読まで要求するものはそう多くない。サリーがよくプレイするアクション要素の強いゲームとなれば尚更だ。

 

「じゃあ僕はまた町でも見て回るよ。今回は町の中も重要みたいだし」

 

「ギルドホームの地下みたいにヒントがあるかもしれないもんね!」

 

「うん、何か見つけたら連絡するよ。場所によっては僕1人じゃ厳しいからね」

 

「その時は言ってくれれば手伝うよ」

 

「私も!」

 

「今度はそっちからの面白い話を期待してるね」

 

「任せて!色々探索してくるよ!」

 

カナデはそれを聞いて少し笑顔で頷いて返すと、言った通りに町へとまた出て行った。

 

 

一方で時国剣を使いこなすための特訓に出ていたセイバーはというと……

 

「はぁ……まだこれでもダメか……」

 

特殊空間で動くための訓練に悪戦苦闘中であった。かれこれ訓練開始から数週間が経過しているのだが、未だに特殊空間内で体を動かすことすらできていなかったのだ。

 

『言ったはずだ。動くためには早くても1ヶ月は必要だと。焦る必要は無い。お前には才能がある。訓練を続けていればいつかは動けるようになるだろう』

 

「ああ、絶対に動けるようになってやる。時国剣、お前を使いこなすためにもな!」

 

『では続けるぞ。ぬん!』

 

ポセイドンがそういうとセイバーは特殊空間へと移行し、体にかなりの負荷がかかった。

 

「ぐあああああ!!動け……動けよ俺の体!こんな所で止まるわけには……いかねーんだよ!!」

 

セイバーは体中に負荷による重さを感じながら体を動かそうと奮闘する。その想いに応えたのか、体が僅か数センチだったが動くのを感じた。

 

「動けた……動けたぞ!」

 

『ふん。中々やるではないか。だが、数センチ動いた程度で満足するのなら時国剣を使いこなすことなど到底不可能だと知れ』

 

「わかってるよ……まだこんなので終わってたまるか。俺は使いこなしてみせるまで、この鍛錬を終わらせるつもりはないぜ!!」

 

それからもセイバーの特殊空間への挑戦は続いた。その間、セイバーは何度も何度も特殊空間に挑み続け、力尽きそうになる日もあった。しかし、その度に立ち上がり続けた。時国剣界時を使いこなすためならばどんな試練でも受けるつもりだったセイバーにとってこの特訓は地獄だった。訓練開始から実に1ヶ月が経とうとしたある日、とうとうその時は来た。

 

『ぬん!』

 

「ぐ……この重さ……1ヶ月経っても尚、まだ俺の前に立ち塞がるか……だが、そんな程度で……負けてたまるかぁああああ!!」

 

すると手にしていた時国剣界時が光り輝くと装備に変化が始まった。

 

聖騎士の装備が青く光り始めると周囲に魚の群れが発生。それがセイバーの装甲に群がっていくと装甲が変化。鎧や足のアーマーは黒と白に水色のラインが走り、ヘッドギアもシャチを正面から見たような形をしている。それはまるで大海を統べる王のような風貌を見せていた。

 

『時国剣界時(じこくけんかいじ)』

【STR+60】【破壊不可】

【界時抹消】【大海一刻斬り】

【大海三刻突き】【一時一閃】

 

『大海のヘッドギア』

【HP+60】【MP+50】

【破壊不可】

【ヘッドソナー】【水中呼吸】

【液状化】

 

『大海の鎧』

【VIT+60】【STR+20】

【INT+40】【DEX+50】

【破壊不可】

【オーシャンカッター】【時の鎧】

【魚群】【海水波】

【オーシャンファング】【タイムシフト】

 

『大海の靴』

【AGI+60】

【破壊不可】

【水中移動】【大海二刻撃】

 

セイバーは新たな姿へと変化すると今まで僅かしか動くことが出来なかった特殊空間内で普通に歩きだした。そしてポセイドンの背後に回ると言葉を発した。

 

「【再界時】」

 

その言葉と共に特殊空間は消えて元の空間へと自力で浮上した。そして、それを見たポセイドンは満足そうな顔をした。

 

『どうやら上手く使えるようになったみたいだな。小僧』

 

「どうやらそうみたいですね」

 

『どうだ?その聖剣の力を使えるようになった気分は』

 

「なんて言ったら良いのかわかりませんが、一言で言い切るなら嬉しいです。やっとこの力を使えるようになったと思うと達成感もすごくあります」

 

『そうか。もうお前には教えることはあるまい。その力を存分に戦いの中で活かすがよかろう』

 

「勿論ですよ。今までご指導ありがとうございました」

 

セイバーはポセイドンへと礼をするとポセイドンはポリゴンとなって消え、その場には1冊の本が残されていた。

 

「へ?何だこれ……」

 

セイバーがその本を手にすると本が勝手に開き、中から突然炎を纏った不死鳥が飛び出した。

 

「不死鳥……なんでこんな本の中に……」

 

『我をここから出してくれたのはお前か?』

 

「待て待て、俺はお前を呼んだつもりはないんだけど」

 

『そんな事はどうでも良い。これで好き放題暴れることができる。かつて我を封印した者も最早いないだろう。お前には礼を言わなければな』

 

「封印って、もしかしてあなた相当悪いことをしてたんじゃ……」

 

『ふはははははははは!!また会おう。我を自由にした恩人よ。礼としてこの世界を破滅させてやる』

 

そう言って不死鳥は炎の竜巻と共に姿を消し、その場には何も残らなかった。

 

「何だったんだ……今のは」

 

セイバーがふと本の表紙を見るとそこにはこう書いてあった。

 

「えっと、この本のタイトルは……『破滅の書』だと……え?もしかして今俺はとんでもないことをやっちゃったのか?」

 

セイバーはのちに不死鳥の封印を解いてしまったことを後悔してしまうことになるのだが、それはまだもう少し先のことである。そして、これと同時刻。メイプルとサリーは水中神殿を探索し、『天よりの光』と呼ばれるアイテムを手にすることになった。




117話時点のセイバーのステータス

セイバー 
*補正値は時国剣界時の装備時
Lv70
HP 175/175〈+60〉
MP 180/180〈+50〉
 
【STR 60〈+80〉】
【VIT 60〈+60〉】
【AGI 60〈+60〉】
【DEX 55〈+50〉】
【INT 60〈+40〉】

装備
頭 【大海のヘッドアーマー】
体 【大海の鎧】
右手【時国剣界時】
左手【空欄】
足 【大海の鎧】
靴 【大海の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【空欄】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅹ】【気配斬りⅩ】【気配察知Ⅹ】【火魔法Ⅷ】【水魔法Ⅹ】【風魔法Ⅷ】【土魔法Ⅷ】【光魔法Ⅷ】【闇魔法Ⅷ】【筋力強化大】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化大】【状態異常Ⅹ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅹ】【死霊の泥】【深緑の加護】【繋いだ手】【冥界の縁】【ドラゴンラッシュ】【神獣招来】【大噴火】【猛吹雪】【火炎ノ舞】【デビルスラッシュ】【デビルインパクト】【ゲノミクス】【火炎ノ咆哮】【魔の頂点】


*時国剣界時を装備時
【ヘッドソナー】【水中呼吸】【液状化】【オーシャンカッター】【時の鎧】【魚群】【海水波】【オーシャンファング】【タイムシフト】【水中移動】【大海二刻撃】【界時抹消】【大海一刻斬り】【大海三刻突き】【一時一閃】

また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと時国剣の力

セイバーが界時を使いこなせるようになってから数日。セイバーがギルドホームに入るとメイプルとサリーがギルドホームで話をしていた。どうやら、とある2つのアイテムについての話をしているらしい。1つは『天よりの光』でもう1つはメイプルが個別で前回のイベント期間内に手に入れたアイテム、『ロストレガシー』だった。しかし、アイテムの使い道を探すと言っても、このアイテムから今以上にヒントは得られないのだ。

机の上に2つのアイテムを出して、さてどうしたものかと考えていると、今日も今日とて探索に出ていた他のギルドメンバーがちょうど戻ってきた。

 

「お、3人も戻ってたのか。ん、それなんだ?」

3人が机の上にだしているものを見て、クロムがまず反応する。

 

「メイプルが見つけたアイテムなんですけどどこで使う物なのかなと」

 

「俺はどっちも初めて見たので全くわからないですね」

 

「メイプルが見つけた物か……一切場所の検討がつかないってことか?」

 

「そうです!私は気軽に潜っていけないし、長い時間の探索は大変で……まだ見つかってないんです」

 

「アイテムの名前はあるのかしら?」

 

「えっとこっちの箱が『ロストレガシー』でこの光ってるのが『天よりの光』です」

 

「また随分仰々しい名前だが……となるともし使い道があるなら何処かでのイベントになるだろうか」

 

「お姉ちゃん、何か心当たりあったりする?」

 

「うーん……そんなに凄そうなものを使う場所は見たことないかも」

 

「私もわからないですね」

 

「なら名前が唯一のヒントってことだね。僕が読んだ石板に、いくつか仄めかすようなものがあったからそれのどれかに該当するかもしれない」

 

「本当!?」

 

「カナデが読んだっていう創作文字か……確かにこういうアイテムがあるって知った上で見ればヒントになったりするかもな」

 

「うん、でもあまり期待はしないでよ?それに、多分これ最終段階まで潜水服を強化しないといけない深い場所だから」

 

【楓の木】も強化パーツを集めてはいるものの、もう少し時間はかかるだろう。

 

「うん、分かった。で、ヒントになりそうなもの話してみてよ」

 

「おっけー、そっちの光の方だけど。天よりって言うけど水に沈む前はもっと低い場所から空だったはずなんだ」

 

「あ、だから水中で見つかったのかな?」

 

「そうかもね。じゃあ昔は空だったって言えるような高い場所か……」

 

「察しがいいね。で、ロストレガシーはこの層で時々見る機械に関係ありそうだよ」

 

「それはあるかもな。三層ほどじゃないが、ここも水の中に結構沈んでたりするしな」

 

クロムが言うように、サリーが攻略したダンジョンのモニターや光弾発射装置などもそれに当たるだろう。それ以外にも、もう役に立たなくなった壊れた機械が岩や建物に引っかかって残っているのも所々に見られる。

 

「そうね。作れるアイテムも増えて嬉しいと思ってたもの」

 

「ふんふん、じゃあ機械がいっぱいある所……ってことだね!」

 

「どこかあったかな……やっぱり潜水服の強化がいるかも」

 

「石板曰く昔の文明ってことだから、かなり深い所かもね」

 

「もしそれが失われたとするなら、アイテムの名前にも合う。あながち間違っていないかもしれないな」

 

「私達もパーツを探すのに合わせて探してみますね!」

 

「が、頑張ります……!」

 

「私も頑張るよ」

 

「皆ありがとう!絶対すごいの見つけてみせるからね!」

 

「メイプルがそう言うと……ちょっと怖いところもあるけどな」

 

「分かるわ」

 

「ああ、そうだな」

 

今まで見せられてきた物を振り返ると、『すごいの』に該当するものがいくつも思い浮かんでくる。味方なら強くなってくれることは喜ばしいが、内容は誰が見てもどこまでもとんでもないものばかりである。

クロム、イズ、カスミの3人がこそっとそう反応する中、ヒントをもらってメイプルはやる気十分な様子なのだった。そんな中でセイバーが手を上げた。

 

「あの、話している所良いですか?」

 

「どうしたんだ?」

 

「メイプルとサリーとイズさんには言っていたのですが、俺もこの層で新しく聖剣を手に入れまして、ようやく使えるようになりました」

 

「それって本当!?」

 

「ああ〜またセイバーがパワーアップするなぁ……」

 

「なんだよサリー、羨ましいのか?」

 

「いや、そうじゃないけどさ」

 

「一体どこまで強くなるのだろうか」

 

「取り敢えず、訓練場に来てください。全員の前で力を見せますので」

 

「良いよ」

 

それから全員で訓練場に入るとセイバーはヒビキを連れて行った。

 

「あれ?どうしてヒビキさんを?」

 

「今回の剣は対人戦をしながらの使い方が良さそうだからヒビキに相手をしてもらおうと思ってな」

 

「そこは私じゃ無いのね」

 

「サリーでも良いんだけど、サリーの場合攻撃が決まったら一撃でやられちゃうし初見でこれを使わない方が良いかなって」

 

「そういうことね」

 

「でもセイバーお兄ちゃん、本気でかかっても大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫。出来る限り早めに使うつもりだし。界時抜刀!」

 

するとセイバーは界時を抜刀して大海の装備を見に纏った。

 

「あれがセイバーさんの新しい装備ですか」

 

「サリーちゃんのいつもの装備と名前は似てるけど……」

 

「力は別物ですね。私の装備からはあそこまで風格は出ませんし」

 

「取り敢えずはお手並拝見だな」

 

「それじゃあヒビキ、いつでも来て良いよ」

 

「先手必勝!いきます!!」

 

早速ヒビキはセイバーへと突っ込んでいくと連続で攻撃を繰り出す。それに対してセイバーは剣の状態の界時で攻撃をいなしながら対応していく。

 

「【我流・雷撃槍】!」

 

ヒビキは雷を纏わせた拳を作り出すとセイバーへと繰り出し、セイバーもそれに対応するように青く輝かせた界時で受け止める。そのまま2人は離れると構えをとった。

 

セイバーは界時ソードの刀身を引き抜いて持ち手と分割すると刀身部分を反転させて持ち手部分に結合。その瞬間、刀身だった部分が長く伸びて槍の柄となり、先程まで持ち手の黒い部分に刺していた場所が鋭利な3本の穂先となった。

 

「な、何あれ……」

 

「時国剣の能力、剣と槍の2モード変形だ」

 

「長いわね。セイバー以上の長さとは」

 

界時を槍にした時の長さはセイバーの身長以上であり、そのリーチを活かした戦い方が界時を使う上でのコツとも言える。

 

セイバーが槍を振り回すとヒビキとのリーチ差によって戦いを有利に進めていく。何故なら、ヒビキの武器は拳であり、セイバーが剣を使うのであればあまりリーチの差は気にならないためヒビキも力を発揮できるのだが、槍が相手だと近づく前に攻撃を受けてしまうのでセイバー相手にこのリーチの差は大きかった。

 

「【オーシャンカッター】」

 

セイバーが腕から水属性の強力な斬撃波を放つとヒビキはこれを躱すことに徹することになる。しかし、ヒビキとしてもいつまでも近づけなければずっとダメージが入れられないためにどのようにしてセイバーへと近づくか考えていた。

 

「やっぱりセイバーお兄ちゃんの武器が槍になったのがとても痛い。私の攻撃は基本近づかないと火力を出せないし、どうしよう……」

 

「ヒビキ、早く攻めに来いよ。じゃないと俺の真打ちを見せる前にダウンだぜ。【魚群】!」

 

セイバーは続けてサリーが使う【古代ノ海】のスキルと似たようなスキルを使い、自身の周囲に群れを成した魚を呼び出してヒビキへと飛来させた。

 

「こうなったら!【イグナイトモジュール・抜剣】!」

 

ヒビキは時間制限がある代わりに高火力を叩き出せるイグナイトを発動して飛んでくる魚を処理しにかかる。

 

「【我流・火炎連打撃ち】!」

 

ヒビキの両腕に炎が纏われてからの拳によるラッシュ。それは近づいてくる魚を一網打尽にしつつセイバーへの突撃を敢行した。

 

しかし、セイバーもタダではやられるつもりは無い。

 

「【オーシャンファング】!」

 

今度は鮫の牙のようなエフェクトがヒビキへと噛みつこうと飛んでいった。ヒビキもこれに対してただ黙って見ているわけがない。迎撃するために炎の拳を構える。

 

「【タイムシフト】」

 

するといきなり鮫の牙のようなエフェクトが空中で止まり、全く動かなくなった。

 

「え?」

 

当然、そのまま来ると思っていたヒビキは面食らうことになる。そのままセイバーがヒビキへと走っていき、槍で薙ぎ払うようにしてダメージを与えた。

 

「く……スキルのフェイント。迂闊だった。けど、来ないってわかっているなら……」

 

「3…2…1…【タイムシフト】解除」

 

セイバーのその言葉と共にいきなり止まっていたはずの鮫の牙のエフェクトが動き出し、ヒビキへと襲いかかった。不意をつかれたヒビキはこれをまともに受けて吹っ飛ばされてしまう。

 

「これは……一体」

 

「【タイムシフト】。俺自身やパーティーメンバーの使ったスキルに対して、時間をずらして発動させられる。ただし、ずらす時間は予め設定しておく必要があるけどね」

 

「やられた……まさか、時間をずらして飛んでくるなんて」

 

ヒビキもやられっぱなしではいない。ヒビキは再びセイバーへと走っていくと攻撃を仕掛ける。セイバーは槍を振り下ろすが、振り下ろされる槍をヒビキが弾き、そのままセイバーの懐に潜り込んだ。

 

「槍なら懐に近づいてしまえば勝てる!」

 

ヒビキはセイバーへと攻撃をするために拳に力を込めてガラ空きの腹に一撃入れようとパンチを繰り出す。しかし、セイバーが狙っていたのはこの瞬間であった。

 

「今だ。【界時抹消】」

 

セイバーがそう宣言しながら槍の柄を掴んで持ち手の黒い部分から引き抜きつつ黒い持ち手のトリガーを引くとセイバーの姿が一瞬にして特殊空間へと消えた。そこは光も音も遅れて届く場所。そして、現実世界ではまだセイバーが消えて1秒すら経っていない。この空間内をセイバーはゆっくりと移動するとヒビキの背後にまで回り込んだ。そして再び槍を結合してトリガーを押し込みながら特殊空間から浮上する言葉を発する。

 

「【再界時】!」

 

その瞬間、ヒビキの攻撃は空を切り完全にセイバーを見失った。そして、周囲にいたメイプルやサリー達にも何が起こったのか分からなかった。その直後、響き渡るダメージ音とダメージエフェクト。ヒビキが後ろからセイバーの槍による攻撃を受けたことを示していた。

 

「がっ……」

 

「嘘……でしょ?」

 

「どうやって後ろに!?」

 

「瞬間移動なのか?」

 

「それにしても移動時間が短すぎる」

 

その場の全員が驚く中、セイバーは得意そうに槍を振り回してみせた。

 

「これが俺の新たな力。時国剣界時の最大の能力です」

 

それからセイバーはこの現象の種明かしをすると共にもう一度発動してみせた。

 

「なるほど、セイバーはさっきの技を発動したときに特殊空間内へと移動してその空間内で背後に移動。それから元の空間に戻って攻撃をしたんだね」

 

「強いなんてレベルを超えたスキルね。こんなのは相手にしたく無いわ」

 

「それはそうと質問なんだけど、何で特殊空間内にいけるのならそこで攻撃をしないの?」

 

「確かに、特殊空間にいるのならそこで攻撃しちゃっても良いですしね」

 

「セイバーさん、そこはどうなんですか?」

 

「それなんだけど、どうやら抹消中は現実世界の人間や物に干渉できないっぽいんだよね。まぁ、とは言ってもこれを使うだけでも相手の意表は突けるし、それこそ攻撃もできたらぶっ壊れ性能になるからさ」

 

「それは言えてるな」

 

「この流れでもう一個質問するね。さっきセイバーお兄ちゃんに攻撃しようとしたら【界時抹消】したじゃん。その時にパンチの拳の位置がちょっとだけ進んでいたんだよね。その記憶が私に無いんだけどそれはどういうこと?」

 

「ああ、それはあのスキルの効果範囲に巻き込んだ他のプレイヤーの記憶は完全に無かったもの扱いにされるからだな。これは敵味方問わずの効果だから【界時抹消】で周りのプレイヤーを巻き込んでからいきなりプレイヤーの場所を移動させるみたいな芸当もできるわけ」

 

「特殊空間内でなら他プレイヤーへの干渉もできるって訳か。流石にここでも攻撃はできないの?」

 

「うーん、多分無理だと思う。俺もやったことないからわからないし。しかもアレ、メッチャ体に負担かかるから今の俺じゃあ乱発もできないんだよな」

 

「でも凄いよ。私だったら初見でアレを受けたら思考停止しちゃうし」

 

「取り敢えずセイバーも強くなったってことで、これが他のギルド相手に不意打ちで決まればかなり強いわよ」

 

「今後は一回でも多く【界時抹消】が使えるように特訓ですね。今の俺だとまだそこまで沢山は使えないので」

 

「それじゃあそれぞれの目的に向かって頑張ろう!」

 

メイプルのその言葉でその場は解散となり、全員がそれぞれのやる事を進めることになった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと宝探し

そうしてまたしばらくして、【楓の木】の10人もついに八層の全ての場所へ行くことが可能になった。そうなればやることは決まっている。

 

「セイバー!サリー!やっとどこでも行けるようになったよ!」

 

「うん、そこに本当に何かあるか確かめに行けるね」

 

「この時を待っていたぜ。さっさと行って確かめるか」

 

3人が探しているのは当然あの2つのアイテムが使える場所である。

当然、パーツ集めの最中にもそれらしい場所はないかと探していた3人だったが、結局見つかることはなかった。もちろん、念入りに隠されていて見つからない可能性も否定できないが、まずは未探索のエリアに行くのが先である。

その方がよっぽど未知なるものがあることは確実なのだ。

 

「いつでもいいよ!」

 

「メイプルがいいなら早速行こう」

 

「イズさんが制作したアイテムも持った?」

 

「うん!息が続きやすくなるアイテムはいっぱいあるよ」

 

「じゃあ出発しよう。最終的には1つずつ見ていくしかないから、時間はあるに越したことはないし」

 

「宝探しの始まりだな」

 

セイバーとサリーはギルドホームから出ると、町の外にジェットスキーを2台用意して、サリーがメイプルを後ろに乗せる。

 

「ちゃんと掴まったよ!」

 

「おっけー!」

 

「飛ばすぜ」

 

セイバーとサリーはジェットスキーを一気に加速させると、そのまま水上を凄い勢いで走っていく。

 

「どこから行くの?」

 

「新しく行けるようになったエリアで一番広い所だね」

 

「飛び地になってる所は連続して探索しにくいから今は後回しかな」

 

「なるほど」

 

「それに、今から行く所はかなり高い場所だから最有力、第一候補って感じだよ」

 

「おおー!じゃあいきなり見つかっちゃうかもだね!」

 

「皆との予想が当たってたらの話だけどな」

 

セイバーとサリーはそうしてしばらくジェットスキーを走らせると、マップを確認してゆっくりと停止する。

 

「この下なの?」

 

「いや、もう少し先の方なんだけど……見たら分かるよ」

 

「これは中々面白そうな場所だな。界時抜刀!」

 

どういうことだろうと首を傾げるメイプルに潜水服を着させてからセイバーも界時を抜刀し、3人は水中へと飛び込む。目の前に広がるのは相変わらずどこまでも続く水と、眼下に連なる高い山脈。そして、その周りをまるで嵐のように取り囲む荒れた水流だった。

水の流れはエフェクト付きで分かりやすくなっているが、それは間をすり抜けるためなどでは決してなく、むしろ近づき滅茶苦茶に流されて死んでしまわないように付けられた目印である。

 

「メイプルなら生き残れるのかもしれないけど……もし出られなくなっても私じゃ脱出の手助けはできないし、気をつけてね」

 

「一応俺には【水中呼吸】と【水中移動】のスキルがあるから機動力の確保と長時間の潜水時間は得られているけど助けようとなると思うと難しいかな」

 

セイバーは界時を装備した際に付与される【水中呼吸】によって潜水服によるサポートとは別で呼吸時間がある程度確保されているので他のプレイヤーに比べて水中で活動できる時間が引き伸ばされている。また、【水中移動】のスキルにより、水中でのAGIが1.5倍されることで水中戦での機動力も高い。これにより、セイバーは水中での行動が大幅に有利になると言えるだろう。

 

しかし、サリーやメイプルと行動する際は足並みを揃えるために移動速度も落とす必要があるので中々難しい所ではあるが。

 

「う、うん。気をつける」

 

少し前に探索した水中神殿内でメイプルは水流によって痛い目を見たところなため、あれに近づくのはやめておくことにした。

 

「じゃああっちは行っちゃだめなんだね」

 

「でもあっちへ行くんだけどね」

 

「え!?」

 

「結局行くんかい」

 

今その危険性を説明されたばかりであり、メイプルにもどう考えても近付くべきでない場所だと、しっかり印象付けられたところである。

 

「行き方があるみたい。ちゃんと水流を確認しながら行こう」

 

「まぁ、流石に行き方が無いならそもそも侵入禁止にした方が良いしな」

 

「そうなんだろうけど、2人は知ってるの?」

 

「まだ中のことは情報がなかったけど入り口の位置くらいは分かってる」

 

「俺も噂に聞いた程度だが大体の入り方ならわかるかな」

 

「おおー!さっすが2人共!」

 

3人は少し離れた場所で水底まで沈むと、そのまま山脈の麓の方まで進んでいく。元は地上だった位の高度にはあの強烈な水流は存在しないようで、問題なく近づくことができていた。

 

「山もこんなに大きいし、入り口もいくつかあるかもしれないけど……とりあえず分かってるのはここだね」

 

3人の目の前には山の中へと続いていく洞窟があった。内部の酸素状況は詳しくは分からないが、外から見える限りは完全に水没してしまっている。

 

「まずそうなら脱出するよ。溺れちゃわないように注意してて」

 

「俺はともかく、2人には時間制限もあるしね」

 

「一応アンタもでしょ」

 

「2人と比べたら長い方だけど」

 

「くっ………」

 

「まぁまぁ2人共落ち着いて……」

 

こうして3人は足並みを揃えて水中洞窟へ入っていく。中は明るさが調整されており、特段暗いということもなく、視界に問題はない。

ダンジョンやモンスターの様子がまだ分からないため、一旦【身捧ぐ慈愛】も使わないで奥へと向かっていく。

 

「あれ?何かいる?」

 

「いるね。ちょっと見にくいけど」

 

「俺の【ヘッドソナー】にもしっかりかかっているぜ」

 

ここでもう1つ紹介すると、セイバーのスキル【ヘッドソナー】は周囲の物や人、モンスターの位置などをキャッチすることが可能であり、このスキルの前では敵の隠密行動も殆ど意味を成さないのである。

それはさておき、ふわふわと漂うように水中を移動しているのは、5体の全身が水でできたスライムのようなモンスターだった。輪郭がわかるように周りの水より濃い色をしていなければ、見つけることも難しかっただろう。

 

「じゃあ先手必勝だね!」

 

「【オーシャンカッター】!」

 

セイバーは水の斬撃波を繰り出し、メイプルの兵器から放たれる大量の弾丸と共に一気に攻撃する。

それは雑魚モンスター程度なら基本容易く吹き飛ばせる攻撃だったが、今回はそうはいかなかった。

セイバーの斬撃波はスライムを真っ二つに両断したが、メイプルの弾丸の方は戦闘状態に入ったスライムがその体を薄く広げていき弾丸を全て受け止めることになった。弾丸がスライムの体を貫くことなく勢いのまま引き伸ばすと、限界になったところで元に戻って跳ね返ってきた。

 

「か、【カバ……」

 

「【界時抹消】」

 

メイプルが2人を【カバー】で守ろうとすると、そのタイミングでセイバーが【界時抹消】を使用。2人を効果範囲に巻き込んで発動したために2人も特殊空間へと移行する。そして、2人の場所を弾丸が当たらないような場所に移動させてから自分はスライムの背後に移動した。

 

「【再界時】」

 

セイバーの【再界時】によって空間は元に戻り、スライムは標的がいきなり消えたり移動していたりしたことで一瞬動揺した。そしてその動揺が命取りだった。

 

「【海水波】!」

 

スライムの背後に移動したセイバーから放たれた海水のエネルギー波がスライムを全て駆逐してしまった。

しかし、移動した2人は突然の事に驚きが隠せなかった。

 

「え!?」

 

「私達、いつの間に弾丸の射程外に……」

 

「処理完了だよ。2人共」

 

「セイバー、もしかして【界時抹消】した?」

 

「したけど何か問題でも?」

 

「いきなりやるのをやめなさいよ!!びっくりするじゃない!!」

 

「なんだよ、助かったから良いだろ!」

 

「2人共落ち着いてって。セイバーも今回はわざとはやってないし大目に見てあげてよ」

 

「わかったわよ……」

 

「それはそうと、さっきのモンスターは魔法じゃないと駄目っぽいね」

 

「えっと……そうなると……」

 

「メイプルは毒は止めておいてくれると助かるかな」

 

「だよねー」

 

「もし使ったら問答無用で大惨事だからな」

 

メイプルの攻撃手段は【機械神】【滲み出る混沌】【毒竜】となっており、魔法と言えるものは【毒竜】のみである。しかも、水中で毒を使えば無差別攻撃となりとんでもないことになってしまうだろう。

【悪食】ならば問答無用で飲み込めるだろうが、雑魚モンスターを倒すために使っていてはきりがない。

 

「取り敢えず、もっともっと進んでいこー!」

 

「そうだね。急ぐに越したことはないかな」

 

「さっきの奴らがまた出たら任せてよ。何度でも倒してやるから」

 

「でも水の中にもスライムっているんだね。なんだか溶けちゃいそう」

 

「確かに。んー、水の中にいるのはちょっと珍しいかな?」

 

地上で跳ね回っている姿はよく見るものの、水中での活動には向いてなさそうなボディである。事実今回は水の流れに乗って漂っていたところに出くわしたのだ。

 

「なにかの魔法で加速しながら移動してるのかも。確かそんな生き物もいたはず……」

 

「私が機械神で飛ぶみたいな感じだね!」

 

「そう……かな?近いかも」

 

「発想は似てるけどね……」

 

移動の際の絵面と周辺への被害に大きな違いがあるような気もしたものの、2人はそこは気にしないことにしたのだった。

 

そうしてしばらく進んでいると、スライムの他にも様々なモンスターが出てきた。ただ、それは鳥だったり獣だったり、水中より地上にいる方がらしいものばかりである。水中にいられるようにするためか、先程のスライムのような青いゲル状の体をしているのが特徴的だった。

 

「八層にも今までみたいなモンスターいるんだね!」

 

「今までみたいって言うと語弊がある気もするけど……でも確かに何故か水中にいるって感じだよね」

 

「どいつもこいつも水魔法ばっか使ってくるからワンパターンで助かるけどな」

 

出てくるモンスターは皆、水中で活動し、水の魔法を使って攻撃してくるが、魚系のモンスターのように素早く泳いで距離を詰めてきたりはしない。

どのモンスターにも地上に適した能力のまま水中にいるようなちぐはぐさが見てとれた。

 

「動きが鈍いのは私としてもやりやすいけどさ」

 

「私も反応しやすいし!」

 

「だな」

 

メイプルと比べられるような相手なら、セイバーやサリーの方がよっぽど速く動くことができる。八層のモンスターを上回る速度で水中を泳ぎ回っているのだからそれも当然だ。

それもあって、3人は特に苦戦することなく進むことができていた。放ってくる水魔法は範囲も広く強力だがメイプルがいれば一切無意味であり、総じて脆いモンスターはセイバーが出るまでもなくサリー1人でも十分撃破可能な範囲である。

 

「1人で来なくてよかったー……どのモンスターも倒せなくて困っちゃうところだったよ」

 

「本来盾役はダメージを出す人と一緒にいて一番輝くものだからね。だからソロプレイはちょっと厳しいことが多いはずなんだけど」

 

「メイプルの場合は異常だからな」

 

「ふふふ!攻撃にもちょっと自信でてきたよ!」

 

「流石に使いこなせてきてるもんね」

 

毒を撒き散らし、化け物を呼び出し、大量の兵器で敵を蹂躙して先に進むのは大盾使いがやることではないのは間違いない。

ダメージを出せるのはパーティーにとっていいことだが、それがなくても戦える方が健全である。

 

「しばらく行ったら他のタイプのモンスターも出てくるかもしれないし、その時はよろしくね」

 

「うん!残弾もばっちりです!」

 

「それは頼もしいね」

 

「最悪また【界時抹消】するから安心して構えていてよ」

 

「乱発しすぎて後でバテないようにね」

 

「わかってるって」

 

セイバーやサリーはメイプルとは違って、使用回数に制限があるスキルを戦闘の中心に組み込んでいるわけではないため、しばらく探索したものの3人のリソースは特に減ってはいない。強いて言うならセイバーの【界時抹消】を使う際に肉体への負担で最大使用回数が1、2回減った程度である。

もしボスが普通の肉体を持って現れたなら、ここまでは温存するしかなかったスキルが容赦なく襲いかかることになるだろう。

そうして水中の通路をしばらく進んでいった3人はいくつかの道に分岐していく広い空間を視界に捉える。3人は慎重に一歩踏み入るものの、特に中ボスのようなものが出てくる様子もなく、分かりやすい分岐点というだけらしかった。まだ先は長そうだと、サリーはメイプルの様子を確認する。

 

「息もまだ続く?」

 

「大丈夫!……?」

 

「メイプル、どうした?」

 

メイプルはどこか違和感があるのか潜水服の胸の辺りをぽんぽんと叩いている。

 

「酸素は……数値上は問題ないみたいだけど、何かあったの?」

 

「何だかこの辺りが少しあったかい感じ……?」

 

「……なるほど?状態異常とかでもないみたいだし」

 

「もしかして何かのイベントか?」

 

サリーはそうして少し考えると、思いついたことを話し始める。

 

「特にダメージとか状態異常もないし、モンスターがいる気配もないなら、何かのヒントかな?私が感じてないってことはメイプルの持ってるスキルかアイテムが反応してる可能性がある」

 

「おおー、そうかも!」

 

「ただ……いい内容か悪い内容かは分からない」

 

「……?」

 

「とてつもなく強いモンスターの居場所を危ないよって教えてるのかもしれないし、逆に良いアイテムの場所を教えてくれてるかもしれないってこと」

 

「ああー、確かにありそうだな」

 

示しているものがあるとして、果たしてそれが近づいて良いものなのかどうかは分からないのだ。今正確に分かるのは、ここまでなかった変化がメイプルに起こっているということだけである。

 

「メイプルはどう思う?」

 

「うーん……サリーの言った通りヒントっぽいし、反応する方があったらそっちに行こうかな?」

 

「とんでもないモンスターがいるかもよ?」

 

「この3人でなら勝てるよ!」

 

笑顔でそう言い切るメイプルにセイバーとサリーは目を丸くするものの、可笑しそうに少し笑って自信ありげな表情を見せる。

 

「そうだね。2人となら勝てるかな」

 

「俺も同意見だね」

 

「それに……そんなに嫌なあったかさじゃないから変なことにはならない気がするんだよねー……本当にそんな気がするだけなんだけど……」

 

「そう?メイプルの勘は当たるからなあ……」

 

「そのおかげでここまで進化してきているしな」

 

それなら少しでも反応が変わる方へと行ってみようと3人はまた泳ぎ始める。

まずは目の前に続くいくつもの分かれ道をどちらへ進むか決める必要がある。

 

「じゃあ1つ1つ確かめていこう。何か反応があるかも」

 

「モンスターが俺のソナーに引っ掛かったらまた教えるからその時は3人で対処していこう」

 

「分かった!」

 

2人に促されて少し通路を進んだところで止まったメイプルは特に変化はないと首を横に振る。

 

「多分変わってないと思う!」

 

「じゃあ次だね」

 

そうして時折通路に入りながら壁沿いにぐるっと回っていると、そのうちの一本の通路の前でメイプルが立ち止まって首を傾げる。

 

「どうかした?」

 

「うーん……一瞬あったかくなったかも?」

 

「本当?」

 

「気のせいかな?」

 

「ならもう一回試してみようぜ。隣にずれてからまた前に立ってみな」

 

「そっか!そうだね!」

 

メイプルは隣へ移動するとまた同じ通路の前に戻ってきて意識を集中させる。

 

「どう?」

 

「変わった!」

 

「どうやら当たりみたいだな」

 

「おっけ。ならこの先がいいかな」

 

変化があるということは、その先には他にはない何かがあると察せられる。

ここからは一度通路の前に立ってみて確認してから進む必要があるようだ。

 

そうしてメイプルの感覚を元に通路を進む3人がしばらく行くと、次の別れ道に続く広い空間に出る。またメイプルに探ってもらおうとしたところで、バチバチと光とも電撃とも取れる何かが中央で弾ける。

 

「……!」

 

「サリー、何か出てきそう!」

 

「え?でも俺のソナーには何の反応も無いよ」

 

「それでも構えてて!」

 

メイプルが盾と兵器を構え、セイバーとサリーがいつでも攻撃に移れるよう2本の短剣と槍モードの界時を握り直す中、激しい音と光は収まり、そこには沈むことなく静止している立方体があった。

石を組み合わせて作られているように見えるそれを観察していると、亀裂が走り幾つかのパーツに分裂し、内部には青い核のような輝きが見えた。

それと同時に上にHPバーが表示され、戦闘態勢をとったのかクルクルと回転し始める。

 

「ゴーレムにちょっと似てるかな?」

 

「前に戦ったゴーレムのこと?」

 

「うん、材質とか」

 

「何のことかは俺は分かんないけど、今わかるのは取り敢えずコイツを倒せってことだよな」

 

同じ石材というだけでなく、作りや色合いも似ていることには、メイプルとサリーが行った水中神殿とこの場所の関わりを感じさせる。であれば、3人の目的地はこの先にある可能性は高くなる。

 

「これは当たりかもよ」

 

「ほんと!?よーし、じゃあますます頑張らないとだね!」

 

「うん、きっとこれが守っている何かがあるはず」

 

「コイツを倒して、それを暴いてやる」

 

守っているだけあってただでは通さないと、同じように光が弾け先へと進む通路が石の壁で封鎖され、それに合わせるように立方体の周りに魔法陣が展開される。

 

「準備できてるよ!」

 

「助かる!」

 

 

【身捧ぐ慈愛】を使えるよう意識しつつ、出方を見ていると、魔法陣の光に合わせて体がゆっくりと左へ流されていく。

 

「攻撃じゃない……ダメージはないよ!」

 

「でもこれって、わわわっ!?」

 

「フィールドの変化か。中々厄介だな」

 

水の塊をぶつけられた訳ではなく、もっと大規模な変化がこの部屋全体に起こっていた。魔法陣の効果により、ボスの回転に合わせて水流が発生しており、問答無用で一定方向へと押し流され続けるのだ。

 

「【攻撃開始】!っとと、狙いにくい……!」

 

「【魚群】」

 

メイプルは展開しておいた兵器で攻撃するものの、その防御力を生かして弾幕を張る運用がほとんどなため、動きながら敵を狙うことに不慣れであり上手くダメージを稼げない。対照的にセイバーの魚は真っ直ぐ飛んでいく弾丸と違い、複雑な動きが可能なため、メイプルが与えられない分のダメージを稼いでいった。

 

「核以外にもダメージが通るのはよかった。私も攻撃するから2人もできるだけダメージ稼いで!」

 

「分かった!今までの分頑張るよ!」

 

「任せろ」

 

道中は水の体を持ったモンスターばかりだったため、ようやくまともに攻撃できる敵が出てきたのだ。まだまだ弾にも余裕があるため、メイプルもここぞとばかりに攻撃を仕掛ける。

 

「これくらいの水流なら……!」

 

「俺も出るぞ。遠くから少しずつやるのは性に合わない」

 

セイバーとサリーは流れに逆らわずに加速すると円を描くように高速で距離を詰める。ボスもそれに反応して魔法陣から水の槍を生成するものの、2人の接近には間に合わない。

 

「【トリプルスラッシュ】!」

 

「【大海三刻突き】!」

 

ほんの一瞬、2人はすれ違うその間に叩き込める中で最もダメージの出せるスキルで合計7つの深い傷をつけるとそのまま水の流れと共に離れていく。

 

「加速できるしむしろありがたいくらいだね」

 

「一撃離脱も慣れてきたな」

 

「2人共すごーい!よーし、私も……」

 

 

狙いを定めて、というのはそこまで得意でないメイプルは、それでも攻撃を命中させるために特大の砲口を生成し中央へと向ける。

しかし、それがレーザーを発射するより先にサリーを狙って放たれた何本もの水の槍が水流に乗って迫ってきた。

同じ水流の中にいる相手にある程度きっちり追いつくように作られている様で、2人はともかくメイプルの速度では逃げられない。

 

「わっ!?ちょっと待って!」

 

「大丈夫だ。任せろ【大海三刻突き】!」

 

セイバーがメイプルの前に出ると水の槍を大海の力を纏わせた槍で全て弾き飛ばしていく。この槍を受けてもメイプル自体は大丈夫なのだが、身に纏う兵器はそうでは無いためガードする必要があるのだ。

 

「ありがとうセイバー!よーしっ!【攻撃開始】!」

 

細かい狙いが定まらないならある程度ずれても当たるような攻撃をすればいいと、メイプルは赤く輝く巨大なレーザーを中心に向かって発射する。それは水流などものともせずに中央に到達すると、立方体の半分を焼き尽くしながら貫通し、奥の壁に直撃して爆発する。

 

「うぅ……ちょっとずれちゃった」

 

「十分だけどね。どんどん撃っちゃって。私達が隣で弾いておくからさ」

 

「うん!」

 

メイプルの兵器のいい使い所なため、セイバーとサリーは攻撃を中止してメイプルの防衛に回る。

相手としては何とかメイプルの兵器を壊していかなければならないが、サリーの防御網を突破するのはかなり厳しい。槍や短剣で弾く他、【ウォーターウォール】や【魚群】などの魔法で物理的に壁を生み出すこともできるのだから、多方向から狙っても攻撃はそうは通らないのだ。

 

「よーし……よーく狙って!」

 

「こっちは気にしなくで大丈夫だよ」

 

「【攻撃開始】!」

 

結果、次々に放たれる深紅のレーザーによってその体が粉々になるまで、メイプルの兵器に傷の一つすらつけることはできなかったのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと救済の残光

立方体が跡形もなく消し飛んで消滅したのと同時に部屋全体の水流も停止し、元通りの穏やかな水中が戻ってくる。

 

「そんなに強くなかったね」

 

「普通ならもう少し苦戦するかもしれないけど……うん、特別難敵って感じではなかったかな」

 

「できればもう少し暴れたかったなぁ……」

 

「けど、2人が守ってくれたから兵器もまだまだ大丈夫!【悪食】もあるよ!」

 

多くのスキルを温存したまま突破できているのはセイバーとサリーの存在が大きいだろう。その防御によってメイプルはレーザーで絶え間なく攻撃することができ、兵器も壊されず最低限の生成で済んだのだ。

 

「じゃあ奥へ行こう。ここからはメイプルが先頭で」

 

「はいはーい!」

 

「行きますか」

 

こうして3人はさらに奥へと進んでいくのだった。

 

反応がある方へと進路をとりつつ水中を泳いでいくと、モンスターが明らかに変化したのが見てとれる。今までは水でできたモンスターばかりだったのが、今度は無機質な石材や金属でできたゴーレム系統がほとんどになったのである。

それらは水中でも機敏に動き的確に攻撃してくるうえ、魔法も物理攻撃もこなす器用なモンスターだったが、攻撃を跳ね返してくる能力がなくなってしまったため、メイプルにとっては倒しやすくなっただけだった。

 

「【攻撃開始】!」

 

「【大海三刻突き】!」

 

「流石に全弾受けるかセイバーの槍を喰らったら耐えられないか……」

 

「通路は水の流れもないし、真っ直ぐだから当てられるよ!」

 

「さっきの立方体よりも弱いからな。楽勝も良い所だぜ」

 

今もまた惜しみなく展開された兵器とセイバーから放たれる斬撃波によって生み出された弾幕等が近づいてくるゴーレムを1体光に変わっていった。

与えられるダメージは変わらないため、階層が増えモンスターが強くなる度物足りなくなっていくことは確定しているものの、それでも正面からまともに弾幕に突っ込んで生き残れる者はまだまだ少ないのが現状である。

モンスターは弱いというほどではないが、3人の脅威となるようなものでもなく、特に策を練らずとも正面から突破することができていた。

 

「よしっ!これなら大丈夫!」

 

「……普通に戦ったら、勝手が違う水中プラス広範囲攻撃なんだけどメイプル相手はなあ……あとは、神殿の方から繋がってるとしたら、向こうのボスがメインだったのかも。ボスはいつもイベントの最後にいるとは限らないし」

 

「あー、俺は神殿のボスとはやり合ってないからわからないけどそれなら残念だな」

 

3人は山々の内部を上へ上へと進んでいく。外に出ないため正確な位置は掴めないものの、緩やかに登っていることだけは確かである。

 

こうして、3人は目の前に現れるモンスターを一体残らず撃破し、連なる山々の内の一つの頂上へと辿り着くと辺りを見渡す。

遠くから見た時はエフェクト付きの水流が邪魔でよく見えなかった山頂は、特に何かがある様子ではないものの、上から衝撃がかかったように平らで広くなっていた。

 

「あんまり山頂って感じじゃないけど……」

 

「でもさ、ここから直接別の場所へ移動していくのは無理だし、メイプル反応はどう……メイプル!?」

 

「なんか光ってるんですけど!?」

 

セイバーとサリーが振り返るとメイプルの胸の辺りが発光しており、慌てて無事かどうかを確認する。

 

「大丈夫だよ!き、急に光りだしたけど……」

 

「何かに反応しているってことかな?」

 

「ちょっと歩き回ってみて」

 

「うん!」

 

メイプルは見逃しがないように端から歩いて広い山頂を調べ始める。

2人はその後ろをついていきつつ、何かあった際の緊急避難に備えていた。特に敵影もなく、問題ないだろうと予測していたセイバーとサリーだったが、その目の前でメイプルが何の前触れもなく一瞬にして消失したことで目を丸くする。

 

「「えっ……!?」」

 

転移の魔法陣でもなく、モンスターの気配もない。そもそも奇襲ができるような地形でもないのだ。メイプルが歩いていた場所をチェックしようと駆け足で近づいていった2人は、直後何もない空間から前触れもなく何かが出てくるのを見てギリギリで停止し、バックステップしながらその正体を確認する。

 

「め、メイプル?」

 

「びっくりしたぞ」

 

「あ!2人共!大丈夫だった?」

 

「う、うん。ほんの一瞬だったし……モンスター出現の合図っていうわけでもなかったから。でも……それ、どうなってるの?」

 

2人の目の前には空中に浮かぶメイプルの生首があった。正確には何もない空間から頭の前半分だけが、壁にお面でも掛かっているかのように浮かんでいるのだが、兎にも角にも不気味である。

 

「こっちに来れるかな?えっと手を……はいっ!」

 

「今度は手が出てくるのかよ!」

 

そう言うと今度は顔と同じような感じでメイプルの腕が伸びてくる。いつかのように偽物のメイプルだという様子でもない。メイプルなら何も伝えず2人を危険な場所に引っ張り込むようなことはしないため、この手をとっても問題はないだろう。

 

「いいよ。掴んだ」

 

「俺も大丈夫だけど、これはどうすれば……」

 

「じゃあそのまま進んできて!」

 

メイプルに言われるまま2人が一歩踏み出すと、見えない壁をすり抜けたように膝から先が見えなくなる。しかし、ダメージなどはなく見えないものの足の感覚もあり向こうで地面を踏みしめているのが伝わってくる。

2人がそのまま前に歩いていき見えない壁をすり抜けると、そこでは眩しい光が降り注いでおり、水中との差に反射的に目を閉じるが、光に目を慣らすようにゆっくりと開いていく。

 

「「これは……」」

 

「すごいでしょ!」

 

目の前に広がっていたのは八層ではどこにもみられなかったような地上の景色だった。地面は草花に覆われ、動物が駆け回っている様子が見られ、鳥の囀りも聞こえてくる。そして何より違うのはこの場所は水に沈んでおらず、見上げればそこには遮るもののない空が見えた。

判定としても水中ではないようで、既に潜水服を脱いでいるメイプルに合わせて、2人も潜水服を脱ぐ。

 

「完全に隔離された空間なのかな。転移したわけではないみたいだけど」

 

「ここに来る時も歩いてきただけだしな」

 

「2人の後ろ辺りから外に繋がってるみたい!」

 

それはメイプルが顔だけ突き出して2人を呼んだことからも察せられる。

動物達も敵対的ではないようで、3人に気付いてこそいるものの攻撃してくる様子はない。

 

「で、それはそれとして……明らかに怪しいものがあるね」

 

「あれはなんだろう……」

 

「変わった形だね……」

 

他の層と変わらない地上の景色とそこに住む生き物達以外に、ここには見逃しようもないものが1つ配置されていた。

それはボロボロになってしまっているものの、確かにそれと分かる形を残す木製の大きな船だった。側面に大きな亀裂が入り、植物に侵食されてしまいすっかり動物の住処となっているが、飛び上がるなり亀裂に入るなりすれば内部も探索できそうである。

 

「また光が強くなった?」

 

「ちょっと眩しいかも……」

 

変化が起こっていることから何かに近づいており、明らかに雰囲気の違うこの場所からその何かまではもうそう遠くないことが予想できる。

 

「入らないで帰る訳にもいかないし、行ってみよう」

 

「もちろん!」

 

「そうだな」

 

3人が所持する回数制限付きのスキルもまだ残っている。リソースが削られていないなら、よっぽどのことが起こらない限り3人がやられることはないため、ここまできて探索を躊躇う理由はない。

 

「どこから入る?」

 

「ちゃんとした入り口がどこかにあるだろうし、そこから入った方が良いでしょ」

 

「なら、あの割れてるところは違うかな」

 

「だったら上からだね。糸繋いで行ってもいいけど……結構高いしお願いできる?」

 

「うん!シロップ【覚醒】!」

 

メイプルはシロップを呼び出すとそのまま【巨大化】させて宙に浮かべる。

モンスターがいないなら、ブレイブを出して急いで登らなくとも問題ないのだ。そうしてシロップの背に乗って上昇していくと甲板部分が見えてくるが、そこにもモンスター等がいる気配はなく草花の絨毯の上で動物達が眠っているだけである。

 

「降りても大丈夫そうだね」

 

「そーっと降りるよ」

 

「変に刺激して戦闘に入ったりしたら厄介だしな」

 

メイプルは甲板の高さまでゆっくりと高度を下げて、船へと移るとシロップを一旦指輪に戻す。

 

「じゃあ早速中に入ろうか」

 

「「おー!」」

 

3人は内部へ続く階段を下りて様子を窺う。ただ、外まで広がっていただけあって船の内部も植物で溢れており、本来あっただろう家具などは最早見る影もない。

 

「中もモンスターはいないみたいだけど……一応警戒はしておくね」

 

「ありがとー!何かあるかな?」

 

「あるとしたら奥だろうな。その場所から他の部屋とか通路とかに繋がらないような所」

 

「探してみる!」

 

「うん、そうして」

 

大きな船ではあるものの、探索できる場所は限られており、メイプルが反応の変化に合わせて移動していけば大きく迷うこともない。

そうして、目的の場所は程なく見つかった。

メイプルの胸元の光に呼応するように淡く光を放つのは、船の中心部にあったため未だ壊れずに残っていた壁のレリーフだった。

 

「ボス……って感じではないみたい」

 

「近づくよ?」

 

「いいよ。敵の気配も感じない」

 

「ここなら安心して行けると思う」

 

セイバーとサリーが警戒する中メイプルが何があってもいいようレリーフに近づいていき、それに手を触れた瞬間、メイプルの体から発せられていた光は一気に強くなって船室内を照らし出す。

それに合わせて地響きがして、今乗っているこの船が大きく揺れる。

どうやらそれは山が揺れているのではなく、船自体が未知の動力で動こうとしているためらしかった。

 

「わわわっ!?」

 

「動く……!?」

 

「どうなるんだ?」

 

互いの姿も見えない程の光の中それぞれが体勢を整えて揺れに対処するものの、しばらくして光は収まっていきやがて船の揺れも完全に収束した。

 

「と、止まった?」

 

「……もう動かすことはできないのかもしれないな。ほら、外から見ても分かるくらい壊れてたし」

 

「なるほど……そうかも」

 

この船を動かして持っていけるならすごいお土産になるのだが、そんなことはできないようだった。

 

「そうだ!メイプル、何か変わった?揺れもすごかったし、こっちまでアナウンス聞こえなくて」

 

「俺も同じだ。メイプルには何か変化は無い?」

 

アイテムやスキルに何か変化はないかと尋ねられて、メイプルは改めてそれらを確認する。

 

「『天よりの光』がなくなってて、代わりにスキルが……うん、1つ増えてる!」

 

「やっぱりそっちかあ。で、どんな感じ?よければ見たいな」

 

「面白そうなスキルだと良いけど」

 

もちろん今ここで使えるようなものであればの話だが、どうやら鍵となったアイテムの雰囲気通り、危険性の高いものではないようでメイプルはちゃんと効果を読んだ上で発動を試みる。

 

「【救済の残光】!」

 

スキルの宣言と同時、先程と同じような強い光が放たれ。メイプルの頭上に今まで見慣れたものとは違う尖った光が集まってできた輪が出現し、髪の色は金に目も青へと変わり、背には計4本の白い羽が生えて地面が発光し始める。思っていた以上のメイプルの変化にサリーは目を丸くしていたが、メイプルに近付いてどんなものかと様子を確認する。

 

「【身捧ぐ慈愛】に近いけど……」

 

「俺の装備と同じでそれが進化したって感じかな?」

 

「ううん、それとは別!ほらっ【身捧ぐ慈愛】!」

 

メイプルが続けてスキルを宣言すると、もう2本白い羽が伸び、既にあった光の輪の内部に今まで通りの丸い輪が生成される。

 

「効果は?」

 

「えっとねー……範囲内にいる味方の人は状態異常への耐性が上がるのと受けるダメージが減るのと、徐々に回復するって感じ!」

 

「動ける【天王の玉座】みたいなスキルってことかあ……それだと私はとりあえずいいかな?」

 

「俺は恩恵を受けそうだな。特に氷と重力を操ってくるヒナタ相手には有利に立ち回れそう」

 

サリーではダメージ軽減を行なっても一撃なことに変わりはなく、そもそもHPが減ったうえで生きている状況が存在しないと言っていいため回復効果も発揮されないだろう。

一方でセイバーはダメージ軽減や状態異常への耐性を上げることで守りを固くすることができ、その分攻撃にスキルを回せそうである。

 

それに、【身捧ぐ慈愛】のように範囲内に効果があるのなら、メイプルとパーティーを組むことが多い2人がもう一度ここまでの道のりをクリアして手に入れる必要もないと言える。

 

「メイプルじゃなければ範囲軽減スキルがいくつも重なるとすごい強化なんだけど……素で弾いちゃうからね」

 

【身捧ぐ慈愛】と持ち前の防御力で既に周りは傷つかないため、そこまで出番がないのも事実である。サリーとは別の理由でダメージ軽減も回復もほとんど使わないメイプルは【天王の玉座】も基本的に封印効果の方のみ役立てている状態なのだ。

 

「でも見た目はすごいね。また格が上がった感じするよ」

 

「羽増えたもんね!」

 

「これで飛べたらもっと強いんだけど……」

 

「流石にそれは強すぎるかな。範囲防御する上に空まで飛べたらなあ」

 

「それは爆発頼りかも」

 

背中の羽を動かそうとしてはみるものの、羽ばたいて飛んでいけそうな様子はない。

 

「収穫はあったかな。スキルはそれだけ?」

 

「えーと、【毒竜】みたいな感じでもう1つ!あと……やっぱり!【反転再誕】もできるよ!」

 

「もう既に嫌な予感しかしないんだけど」

 

「そうね……」

 

「皆にも見てもらおう!スキルも皆がいた方が分かりやすいと思うし!」

 

そう言ってメイプルは2人にウィンドウを直接見せて内包されているスキルを確認させる。

 

「確かに……そうかも。使う時は周りに人が多い時になるだろうし」

 

「だよね!」

 

「良いとは思うよ。あ、新しい方の羽はしまっておいてくれ」

 

「すごい効果ってほどじゃなくてもここぞって時に出したら一瞬動きも止まるだろうから」

 

「うん!切り札みたいにってことだよね!」

 

「そそ。ふふっ、分かってきたじゃん」

 

「えへへー」

 

「それじゃあ、帰るか」

 

ここでの用も済んだため、それなら早速戻ることにしようと、ログインしているギルドメンバーに連絡を取って、ギルドホームへ来れる人を呼んでから帰路に着くのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと方舟

ギルドホームまで戻ってきて扉を開けると、そこには既に他のギルドメンバーが全員集まっていた。

 

「皆来てくれたんだ!」

 

「気になったしな。ったくセイバーもサリーもメイプルも結果出すのが早いなおい」

 

「面白いものが見られそうで楽しみだよ」

 

「早速訓練所に行きましょうか。他のギルドにはまだまだ秘密なのよね?」

 

「はい。隠しておけば初めて出す時に相手も怯むと思いますから。それにメイプルは今回のスキルが無くても戦闘に支障は出ないので……」

 

「理にかなっている。ただ、怯むようなスキルなのだな」

 

「どんなスキルでしょう……?」

 

「うーん、メイプルさんですから」

 

「早く行こう行こう!!」

 

既に人の持つものでないあれやこれやが付属している今何が手に入っていてもおかしくはない。

 

「ふふふ、それじゃあ行ってみよう!」

 

10人はぞろぞろと訓練所へ入っていくと、少し前に出たメイプルのスキル発動を待つ。

 

「ちょっと待っててくださーい!えーっと、この後それもするから……よし【クイックチェンジ】!」

 

メイプルは装備を変更して真っ白な鎧にすると増えた分のHPを回復する。

 

「よーし!行きまーす!【救済の残光】!」

 

スキルの宣言とともに周囲の地面が輝きメイプルの背に4本の羽が生え、今までとは違う天使の輪が頭上に出現する。

 

「おお!なんだ、綺麗なスキルじゃないか」

 

「……何が出てくると思ってたのかしら」

 

「いやほら、深海とかだとすげえ見た目の魚とかも多いだろ?」

 

ちょっと前にも触手を生やし始めたところだったため、どんなとんでもないものが飛び出すかと身構えていた7人だったが、純粋に見栄えのいいスキルだったこともありほっと一安心したようだった。

 

「この範囲だとダメージ軽減と回復ができて状態異常への耐性も上がります!」

 

「効果は……【身捧ぐ慈愛】をよく使ってるメイプルには不要かもね」

 

「とは言ってもクロムさんやカスミさん、ヒビキとかはこの中での戦闘が有利になるから一概に要らないというわけじゃないけどな」

 

3人が感じたことと同じことをカナデも口にする。【身捧ぐ慈愛】があればメイプル以外はダメージも状態異常も受けないのだから広範囲に効果がある意味がなくなってしまう。

 

「メイプルは新しい羽が手に入ったということを嬉しそうにしているぞ?」

 

「……それもそっか。なら価値もあるね」

 

効果を説明したところで、メイプルは今度は全員に近くに来て欲しいと呼びかける。

 

「まだ何かあるんですか?」

 

「これだけじゃない……ってことですよね?」

 

「それは発動してからのお楽しみってことで!危なくはないから!」

 

全員でメイプルのそばまでくると、【救済の残光】の範囲内に全員が入ったことを確認してもう一つのスキルを発動する。

 

「ふー……【方舟】!」

 

メイプルのスキルの宣言と同時に地面を照らす光が強くなり、数秒して10人は光に包まれるとふわっと空中に浮き上がる。

 

「おおっ!?」

 

「何これ?」

 

「へー、面白いなぁ。勝手に浮いたよ。シロップもこんな感じなのかな?」

 

そうして空中に避難したのを確認すると真下からは大量の水が溢れ出し、凄まじい勢いで訓練所を埋め尽くしていく。設置されていたダミー人形も滅茶苦茶に押し流されていく中で10人を包む光は強くなって目の前が真っ白になる。

その直後一瞬上に引っ張られるような感覚がしたと思うと、10人は水が引いた地上、しかし元いた場所とは違い訓練所の壁際まで移動していた。

 

「よかった、成功!」

 

そう言うメイプルの背中からは羽が消失しており他の変化も元に戻っている。

 

「大丈夫そうだね」

 

「うん、皆と一緒に戦う時に使えるといいなって!」

 

「見た感じ攻撃と移動の両立ができるスキルといった所ですね」

 

メイプルは動作確認をした上でスキルの詳しい効果を全員に伝える。【方舟】は【救済の残光】発動中にのみ使用でき、5秒の待機時間の後浮き上がって大量の水で攻撃するスキルだった。ただ、攻撃はあくまでおまけと言えるもので、メイプルがやりたかったのは移動の方だ。浮き上がった後、20メートル近くある【救済の残光】の範囲内の任意の場所に効果を受けている味方と共に転移するというものである。

 

【方舟】を使うと【救済の残光】の効果は切れてしまうものの、メイプルにとっては特に問題のないことだ。

 

「なるほど……詠唱時間もメイプルの防御力があれば大きな隙にはならないだろう」

 

「物陰から背後に飛んで奇襲するとか、戦闘中に水で怯ませているうちに背後をとったり……避難にも使えるな!」

 

「これに【タイムシフト】を合わせれば移動するタイミングとかをずらせますし、中々強いと思いますよ」

 

連発はできないためこれでメイプルの移動能力が改善されるわけではないが、戦闘中の選択肢が増えるのは喜ばしいことだ。

大量の水で視界を奪い目の前から一瞬にして背後に転移した時、相手が初めてそれを体験するのであれば不意をつける確率も高いだろう。

 

「隠しておくと上手く使える場面があるかもね。初めて見た時は混乱するだろうなあ」

 

「水も結構ダメージあるんですね!」

 

「置いてあった人形が……」

 

移動の方に興味があったメイプルにとってはおまけだったが、荒れ狂う水の威力も中々である。スキルの試し撃ち用に設置されていた人形をボロボロにする威力なら、防御力が低い相手には十分脅威になるだろう。

 

「もう1つスキルがあるので待っててくださいね!【反転再誕】!」

 

メイプルはスキルを別のスキルに書き換えると今度は全員に離れるように指示する。

【反転再誕】によって変化するスキルが【救済の残光】であることは全員が察しているため、言われた通りに下がっていく。メイプルにとっては効果が小さいとはいえ、変化元のスキルの格が相当なものであることはメイプルの見た目の変化から読み取れる。であれば変化先のスキルもそれ相応になるだろう。

 

「範囲外まで出てくださーい!」

 

「範囲外!?相当広いぞ?」

 

「これは相当ヤバイのが飛んできそうな予感」

 

クロムが驚くのも無理はない。【救済の残光】の範囲は【身捧ぐ慈愛】同様かなり広く、その範囲内にいてはならない何かが起こるとなればその危険度はかなりのものだ。

 

「【滅殺領域】!」

 

メイプルの宣言と同時、その背に黒い羽が伸び頭上に赤黒い光を放つようになった輪が出現する。黒い光は装備の色すら黒く変化させていき、バチバチと赤黒いスパークが散る中、地面は黒く染まりそこを同じ色の光が駆け回る。スキル名とエフェクトからして踏み込んだ者はただでは済まないことが分かる。

 

「メイプルー!どんな感じ?」

 

「えっとねー、これはこのままだと入ってきた人全員にダメージを与えて、ダメージを与えたら状態異常と回復効果減少だって!」

 

「完全にメイプルだけを守るための防御フィールドだな」

 

元のスキルの効果を逆転させたような能力だが気になるところは全員にダメージを与えると言うメイプルの言葉である。

 

「全員って味方もか?」

 

「はい……そうみたいです」

 

このまま足を踏み入れればサリー、マイ、ユイが即死。次いで体力の低いカナデとイズが消し飛ぶことになるだろう。

 

「これ、試しに入ったらどうなるんだろ……」

 

「まぁ、ダメージは見ておきたいのはあるよな。せっかく訓練所なんだから……よし、ここは一旦俺が入ってみようかと思うんだが」

 

「そうだな。クロムがどれくらいダメージを受けるかによって、戦闘中の効力を予想することはできるだろう」

 

クロムはトップクラスの大盾使いであり、入ってすぐ死んでしまうということもないだろう。せっかく試しているのなら与える被害も見ておきたいものだ。

 

「よし、入るぞ!」

 

クロムがそこに足を踏み入れるとその体を伝うように光が弾け、そのHPが減少する。

 

「メイプルがダメージを与えられるなら攻撃力依存ではないみたいだが、耐えられないことはないな」

 

ただ、一定時間ごとにダメージが入りパッシブスキルでの回復が阻害されていくとじりじりとHPの減少が多くなっていく。

 

「っと、流石にずっといるわけにはいかないな。結構痛えわ」

 

「クロムにもダメージが入るなら実戦でも使えるだろうな。展開するだけで魔法使いなどは離れる他ないだろう」

 

「あ、クロムさんもう一つ試したいことがあるので!」

 

「ん?ああいいぞ」

 

「じゃあ【身捧ぐ慈愛】!」

 

メイプルの4つの黒い羽の間から真っ白い羽が伸びてきて地面に新たなフィールドが展開される。赤黒いスパークと柔らかな光が訓練所を照らし出す中、メイプルは改めてクロムにこの上に乗ってほしいと伝える。

 

「確かにこれならいけるか……?」

 

クロムが再度領域内へ足を踏み入れると再び赤黒い光が襲ってくるが、それは【身捧ぐ慈愛】によってメイプルに受け止められる。

クロムよりも遥かに防御力の高いメイプルは自分のスキルを無効化して、クロムにいくはずだった被害をなかったものにした。

メイプルならば自分以外全てを焼き尽くす領域を展開しつつ、味方を守ることができるため、有利なフィールドだけを適用可能なのだ。

 

「これなら味方をカバーしながら入ってきた敵だけを倒せるといった感じですね」

 

「俺じゃなくてもちゃんと安全に乗れるぞ」

 

「戦略に組み込んでおくよ。メイプルを魔法使いの中に飛び込ませたらかなりの被害が期待できそうだし」

 

「突然降ってきたら怖いわねえ……」

 

「うん、驚くだろうね」

 

「メイプルさんがまた強化されちゃった。私も負けられない!」

 

今まで以上に無差別な殺戮が可能になったメイプルのこれからの成長も期待しつつ、次の対人戦を見据えて同じように強力なスキルを探して、全員はまた探索へと向かうことにするのだった。

 

「さーて、俺も探索を……」

 

「ストップ、セイバーお兄ちゃん」

 

「どうしたんだ?ヒビキ」

 

「サリーお姉さんとキャロルさんとはデートしたんだよね?」

 

「ん?待て待てヒビキそれってお前の勘違いじゃ……てか、サリーとはデートしてないし……」

 

「へぇ、キャロルさんとはしたんだ。デート」

 

「……あ」

 

「私ともしてよ。セイバーお兄ちゃん」

 

「えぇ……でもなぁ……」

 

「嫌……なの?」

 

するとヒビキは目に涙を浮かべて今にも泣き出しそうな顔を作った。

 

「あーもう!わかったから、わかったから!今から行こうか」

 

「えっへへ〜流石セイバーお兄ちゃん、話がわかる〜!」

 

「ちょっと待ちなさい。ヒビキ、アンタ何勝手なこと言ってるの?セイバーが困ってるじゃない」

 

「良いじゃないですか。サリーお姉さんは現実世界でも一緒なんだしゲームの時くらい譲ってくれても良いと思うんですけど」

 

「2人共なんでそんな喧嘩する雰囲気になってるの?取り敢えず落ち着けって……」

 

「「セイバー(お兄ちゃん)は黙ってて!!」」

 

「すいません」

 

「じゃあ今日はどっちがセイバーと一緒にいるかジャンケンで決めましょう」

 

「負けても恨みっこなしね」

 

それから2人はジャンケンをするとヒビキが勝ち、その日はヒビキがセイバーと一緒にいる権利を得た。

 

「それじゃあサリーお姉さん。約束ですので良いですね?」

 

「くっ……仕方ない。けど、変な事はしないでよ」

 

「それはその場の雰囲気次第ですね」

 

「あのー、俺は自由にしてて良い……」

 

「ダメに決まってるでしょ」

 

「ですよねー」

 

「行こっか。セイバーお兄ちゃん」

 

それからセイバーはヒビキに引っ張られるままに連れていかれると六層に移動した。

 

「あれ?八層で探索するんじゃないのか?」

 

「今日は久しぶりに六層で探索したい気分なの。だってセイバーお兄ちゃん、八層で特訓ばかりしてたから他の層も回れてないでしょ?」

 

「まぁ、しかも六層はホラーエリアだからサリーとは回れてないしな」

 

「なら丁度良いじゃん」

 

「うーん。なんか上手く言いくるめられてる気がする」

 

実際の所、これもヒビキの計算の内であった。六層であればホラーが苦手であるサリーからの妨害は無く、唯一の障害であるキャロルも今は八層の探索でかかりきりのためわざわざ六層には戻ってこないだろう。

 

そんなヒビキの思惑も置いておき、2人は六層へと移動すると街の外に出て2人きりのデート(?)が始まる事になった。

 

「たださ、ヒビキ。何で六層なんだ?お前の言うデートがしたいのならもっと良い所が沢山あるだろ」

 

「ふふっ……そうでも無いよ。ほら、セイバーお兄ちゃん。私をお化けから守ってよ」

 

そう言ってヒビキは体をセイバーに預けると聖剣を持っていない左腕に抱きついた。

 

「はぁ!?ちょっ、待て待てヒビキ、こんな所見られたら勘違いされるって」

 

「ええ〜良いじゃん。減るものじゃないし」

 

「サリーは俺としょっちゅう揉めるし、キャロルとヒビキはどうしてこんなに俺に抱きつきたがるんだよ……」

 

セイバーが3人の女子との関係について悩んでいると近くで光り輝く場所が見えた。

 

「ん、あれはなんだ?」

 

「もしかして新しいダンジョンだったりして」

 

「えー、まさかまさか、こんなに簡単に新しいダンジョンが見つかるわけ……」

 

2人がそこに近づいていくと地面に魔法陣が浮かんでおり、それは2人を待っていたかのように大きくなると2人のいる場所にまで広がり、2人を強制的に巻き込んだ。

 

「またかよ!?」

 

「えぇ!?」

 

2人が強制的に転移させられた場所はとある無人の神社であり、そこには3人の女性がいた。

 

「あれ?これは一体……」

 

「取り敢えず、あの3人が何か知ってるのかも」

 

「うーん。もしかするとこの流れは……」

 

セイバーには嫌な予感がしていた。いつもであれば転移した先に戦うべき敵が割とすぐに現れるので今回も同じパターンなのではと思っていたのである。そんなセイバーの考えを知らないヒビキはすぐに3人の女性の元に行った。

 

「あのー、ここはどこなんでしょうか?できれば教えてもらいたいのですが……」

 

『……あなたに教えることなど何も無い』

 

「……え?」

 

「ヒビキ!避けろ!!」

 

すると真ん中の女性が手にした銃をヒビキへと乱射してきた。

 

「うわっ!?」

 

ヒビキは何とかこれを躱すと、それを見た左側に立つ青い髪の女性と右側に立つカエルのぬいぐるみを抱えた女性が言葉を発した。

 

『あーしらにわざわざ質問だなんてこの子、正気かしら?』

 

『どうでも良いわけだ。さっさと計画を進めた方がいい』

 

「計画……だと?」

 

『ああ。私達がするのは何者にも支配されることのない世界を作る。そのために神の力を創造する。そのために7万もの人達の命を革命の礎としてきた。お前達が邪魔をするのであれば革命の礎としてここで消えてもらう』

 

「なるほど、話して通じる相手じゃ無さそうだな。それに、俺達はそんなもの用意してもらう必要なんて無い。だからこそ、ここでその野望を食い止めさせてもらう」

 

「戦う前にあなた達の名前を聞かせてもらえませんか?」

 

『良いだろう。私の名はサンジェルマン』

 

『あーしはカリオストロよ』

 

『プレラーティなわけだ』

 

『私達錬金術師を相手にできることを光栄に思うが良い』

 

どうやらこの3人の内、ヒビキへと銃を放ったのがサンジェルマン、青髪の女性がカリオストロ、カエルのぬいぐるみを抱えているのがプレラーティのようだ。3人は錬金術師であり、かなりの強さを誇ると見られた。

 

「面白い。相手になってやるよ。界時抜刀!」

 

セイバーは界時を抜刀すると槍モードにして構えた。すると3人とセイバーの間にヒビキが割って入りセイバーを止めるように手を広げた。

 

「待ってセイバーお兄ちゃん。この人達とまず話し合おうよ!もしかしたら分かり合えるかもしれないじゃん!」

 

「『『『戦場で何を馬鹿なことを!!」』』』

 

4人から突っ込まれてヒビキは一瞬ビクッとするが、それでも話し合うという姿勢を崩さなかった。

 

「お前正気か?」

 

「だって相手は人間でしょ?だったら話し合えば絶対分かり合えるって」

 

『どうやら、あなたは相当甘いらしいな。だが、こちらは話し合うつもりなど少しもない!!』

 

その言葉を皮切りにカリオストロとプレラーティがヒビキとセイバーへと襲いかかった。

 

「どいてろ!」

 

セイバーはヒビキを無理矢理どかすと槍で前に出てきたカリオストロとプレラーティの攻撃を押しとどめた。

 

「ヒビキ、確かにお前の言う事は正しいかもしれない。けど、それは時と場合を考えろ。今はこの3人を倒すのが目的だ。話し合いはまた後でしてくれ」

 

「でも……」

 

「戦うつもりが無いのならこの3人は全員まとめて俺が倒す」

 

セイバーのその言葉にヒビキは少し迷ったもののすぐに答えを決めた。

 

「ううん……私はこの人達と戦うよ」

 

「そうか。なら、俺も憂なくコイツらを倒しに行けそうだ!」

 

『へぇ、2対1で勝てると思っているわけだ』

 

『あの子はサンジェルマンに任せるとして、コイツをどう始末しようかしら』

 

「来いよ。2人纏めて叩きのめしてやる」

 

それからセイバーと2人は激突し、それと同時にヒビキとサンジェルマンも向かい合った。

 

『それでは私達も始めるとしよう』

 

「わかりました。全力でぶつかります!!」

 

『来い!!』

 

それを合図に2人も戦いを始めることになった。果たして、この勝負はどうなっていくのか。それはまた次の話となる。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとラピスの輝き

ヒビキ対サンジェルマンの戦いは実力が拮抗しており、予断を許さない勝負となっていた。

 

「うぉりゃああ!!」

 

『はあっ!』

 

ヒビキは自慢の格闘技でサンジェルマンへと連続攻撃を繰り出していく。しかし、サンジェルマンも持ち前の反射神経で直撃を防ぎ、攻撃をいなしいく。そして、反撃のエネルギー弾でヒビキを攻撃していき、ヒビキもまたこれを躱す。攻撃の密度ではヒビキが上回っているものの、サンジェルマンへと攻撃が当たってない以上、決定打には繋がらないため、このヒビキの攻撃は反撃を許す隙を与えていないと言えば聞こえは良いのだがこれと言った有効打を与えられていないのもまた事実と言えた。

 

『いくわよー!』

 

『粉々に砕くわけだ』

 

「喰らうかよ。【オーシャンカッター】!」

 

一方でセイバーの方は2対1にも関わらず、2人と良い勝負をしており、2人が放ってくる弾幕をくぐり抜け、スキルで相殺しつつ2人へと接近。そのまま槍をプレラーティへと振り抜くが、プレラーティはこれを魔力障壁で防御。その間にカリオストロからのパンチが繰り出される。セイバーもこれを読んでいたのかすぐに界時を戻すとパンチを受け止める。衝撃で体が後ろへと飛ばされるが、それすらも利用して地面へと着地した。

 

「ふう。2人がかりとは言え中々やるな」

 

『そっちもあーしら相手にここまでとはね』

 

『一筋縄では倒せそうに無いわけだ』

 

「こちとら、数々の激戦を乗り越えてきたからな。そう簡単にはやらせないぞ」

 

「セイバーお兄ちゃん、この人達……」

 

「わかっている。こんな程度がアイツらの全力とは思うなよ。恐らく、まだ能力を隠していると思ってかかるぞ」

 

『そう言うそちらも手の内は隠しているのだろう?』

 

「バレてる!?」

 

「ヒビキ、まだイグナイトは隠しておけ。なんか嫌な予感がする」

 

「う、うん。わかったよ」

 

『取り敢えず、正面から当たるのは不利なわけだ。ここはコイツの出番と行こう』

 

するとプレラーティは手にしていた小さな宝石サイズの石を大量に地面へと投げるとそれが赤い魔法陣を作り出して中から人型であり、両腕に白いキャンディのような武装をしたオレンジの生物が現れた。恐らく、彼女達が作り出した兵士とでも言うべきだろう。

 

『あら、アルカノイズでどうにかなるかしら?』

 

『一先ずは様子見だ。あの2人の強さがラピスを使うに値するのであるかどうかを測る』

 

『私達を倒したければそいつらを倒してみるわけだ』

 

「言われなくてもそうしてやるよ!界時ソード!」

 

セイバーは何かを感じ取ったのか時国剣を剣の形にすると白い部分には触れないように立ち回った。

 

「セイバーお兄ちゃん、この白い部分は……」

 

「ああ、絶対に触れるなよ?何があるかわかったもんじゃねーしな」

 

幸いにも2人にはある程度の機動力は備わっている。これにより、アルカノイズと呼ばれた生物の白い部分に触れる事なく倒していった。実は、この白い部分はアルカノイズ特有の能力、解剖器官が備わっていた。つまりどういう事かと言うと、触れたものを分解して使用不能にしてしまうことができるのだ。2人の装備はユニーク装備で破壊不可能であることから触れても問題はないのだが、それ以外の物は分解してしまうために普通のプレイヤーなら上手く立ち回らないと何もできずに無力化される危険がある。

 

とは言ってもそれはあくまでユニーク装備を着ていない者にのみのため今回の場合は2人の杞憂で済むことになった。

 

「これで終わりだ。【オーシャンファング】!」

 

「【我流・特大撃槍】!」

 

2人がそれぞれ拳と海の力を高めた一閃で最後の1体を倒すと続けていきなり空間が巨大な円のドームとして閉じられ、セイバーとヒビキは中に閉じ込められることになった。

 

「嘘!?」

 

「これは、空間ごと閉じたのか」

 

するとまた人型のアルカノイズが大量に出現すると2人を取り囲んだ。

 

「何度来ても同じだよ!」

 

「全て斬る!」

 

2人はまた向かってくるアルカノイズを片っ端から斬り、殴り、粉砕していくが、何故か倒したはずのアルカノイズが復活していく。何度倒してもキリが無く、それはまるで不死身の軍団であった。

 

「どういうこと?さっきまで一撃だったのに……」

 

「おそらくはこの空間自体にカラクリがある。この空間内ではダメージが減衰されるのだろうな」

 

「だったら、どうしよう?」

 

「……こうなった以上、再生する生命力を上回る火力で倒すしかない。ヒビキ、できれば切りたくなかったけど、今が切り札の使いどきだ」

 

「イグナイトだね。じゃあ行くよ!【イグナイトモジュール・抜剣】!」

 

『ダインスレイヴ!』

 

するとヒビキはイグナイトを解放。セイバーも火力を高めるために聖剣に青い輝きを纏わせた。

 

「ミク、【覚醒】!【雷撃波】!【我流・炎雷双撃槍】!」

 

「ブレイブ【覚醒】!【逆鱗】!【大海一刻斬り】!」

 

2人はそれぞれテイムモンスターとの連携で高い火力を維持しつつ、空間内に召喚されるアルカノイズを集中攻撃で1体ずつ確実に倒していった。

 

「効いてる!!このまま一気に!!【我流・火炎龍撃拳】!」

 

ヒビキは拳に火炎の龍を宿すとそのままアルカノイズを殴りつけていき、あっという間に制圧していく。

 

「【一時一閃】!」

 

セイバーも敵を斬りつけながらリング状に水流が回転する斬撃を放ち、中距離にいるアルカノイズを倒していく。

 

「ブレイブ、【ファイヤーインフェルノ】、【フレアドライブ】!」

 

「ミク、【紫電の翼】、【凶払いの光】!」

 

勿論、テイムモンスターへの指示も忘れずに行っていき、ブレイブとミクも主であるセイバーやヒビキからの指示に従って次々と敵を殲滅した。

 

しかし、今度は倒すことができても、空間が存在する限り無限に湧き続けるため、空間を破壊できなければ徐々に不利になってしまう。しかも、イグナイトには時間制限もある。そのため、いつまでも現状維持という訳にはいかないのだ。

 

「イグナイトならコイツらを倒せる!けど……」

 

「いつまでもこのままだと保たないな。この空間を破壊する方法がどこかにあれば……ん?」

 

「どうしたの?セイバーお兄ちゃん」

 

「いや、さっきから【ヘッドソナー】で部屋全体を探っているんだが何やらデカい何かがこの空間の中央にいる」

 

「それって……」

 

「ああ、ちょっと時間をくれ。多分そいつがこの空間を制御している奴だと思うからな」

 

「わかった。その間の攻撃と防御は任せて」

 

ヒビキはセイバーが空間を探る間、アルカノイズの注意を引くべく激しい立ち回りを行い、1体でも多くのアルカノイズのターゲットが自分へと向くように仕向けた。更に、ブレイブもミクもそんなヒビキをサポートするようにヒビキへと注意が向いたアルカノイズを撃退していく。

 

「【飛拳】、【グランドストンプ】!【我流・稲妻回転脚】!」

 

ヒビキが引きつける間にセイバーも集中して周囲の様子を探っているとやはり中央に巨大なモンスターの反応が見つかった。そして、その正確な位置を把握するために更に集中力を高めていく。

 

「………見つけた!!【オーシャンカッター】!」

 

セイバーが水の斬撃波を放つと空間の中央に隠れていた巨大なアルカノイズにヒットし、その姿を露わにさせた。

 

「やっぱ、制御してやがったな。ヒビキ!!」

 

「わかったよ、セイバーお兄ちゃん!!」

 

ヒビキはアルカノイズの制圧をブレイブとミクに任せ、セイバーの元に駆けつける。

 

「空間を制する個体を見つけたんだね」

 

「ああ、勝期は一瞬、この一撃に賭けるぞ」

 

「うん!!」

 

「界時スピア!【大海三刻突き】!うぉらあああああああ!!!」

 

「【我流・雷電撃槍】!」

 

セイバーは大海の力を纏わせた槍を巨大なアルカノイズへと投擲し、その体を貫く。そこにヒビキが稲妻の槍となってアルカノイズに突き刺さった界時を後ろから押し込むようにキックを放ち、それはアルカノイズを突き抜けると大爆発を起こさせた。

 

その後、閉ざされた空間は消えていき元の場所へと戻ってきた。それと同時にブレイブとミクが残っていたアルカノイズを倒しきり、2人はお疲れ様の言葉と共に2体を指輪に戻すことにした。

 

「これで雑魚戦は終了かな。あとは……」

 

「うん、サンジェルマンさん達を倒さないと」

 

この閉じた空間での戦いの間、ずっと高みの見物をしていた3人はそれぞれ、銃、指輪、けん玉を構えていた。

 

『どうやらアルカノイズではどうにもならないわね』

 

『だからこそ、今度は私達が出るわけだ』

 

『行くわよ。2人共』

 

「ここからが本番だ。ヒビキ、一旦イグナイトは解除して体力の温存を……」

 

「このまま3人を倒すよ!」

 

「待てヒビキ!!」

 

「どうして?私こんなに強いんだよ?警戒しなくたって大丈夫だよ!」

 

3人が何かをしようとするとヒビキはセイバーの注告を無視して3人を攻撃するために突撃していった。しかし、それが自殺行為になってしまうと知らずに……。

 

「【我流・火炎龍撃拳】!」

 

ヒビキは再度、火炎の龍を右腕に纏わせて3人へと攻撃を繰り出す。すると、3人から光が溢れ出ると共に火炎の龍は一瞬にして消し飛ばされてしまった。

 

「………え?」

 

次の瞬間、ヒビキの体に異変が訪れた。イグナイトによって黒く染まっていた装備が突如として元に戻ると共に体中に激痛を走らせたのだ。

 

「があああああああ!!」

 

「ヒビキ!?」

 

光が収まるとそこには先程までとは違う姿となった3人が立っていた。サンジェルマンは白銀をベースに赤や青の差し色が入った騎士を思わせる装備を纏い、手には剣となったスペルキャスターを握っていた。カリオストロは腹や胸、足の辺りの露出が多い黄色い服とスカートを着ており、腕にはボクシンググローブのような物を付けている。プレラーティは赤と黒のアンダースーツに赤いフード付きの上着を着て手には巨大化したけん玉を持っていた。

 

「あれが、あの3人の真の力か……それよりも、ヒビキ!!」

 

セイバーがヒビキの元に駆け寄ると彼女は気絶してしまっており、イグナイトは解除されていた。

 

「……イグナイトが解除されている……どういうことだ?」

 

『この鎧を形成するラピスフィロソフィカス。通称、賢者の石の真価』

 

『それこそが闇や呪いの力を浄化、無効化させる能力なわけだ』

 

『そしてそれはヒビキって子が使うイグナイトモジュールの核心にある魔剣の力を封じ込めたというわけよ』

 

「そうか。ヒビキのイグナイトはキラーの持つ魔剣、ダインスレイヴから引き出された力。ダインスレイヴには聖剣などの聖なる力を封じる呪いの力がある。恐らく、ダインスレイヴそのものがあれば対抗も可能なんだろうが、ヒビキが使っているのはその一部だけ。完全な力を持つラピスの浄化能力が刺さるというわけか」

 

『あなた達には到底私達を倒すことはできないと知るが良い』

 

『わかったらさっさと諦めなさい』

 

『私達は人類の解放を進めるわけだ』

 

「俺がもっとしっかりしていたら……。すまん……。けど、だとしても諦める道理は無い!!」

 

『そうか。では、3人がかりであなたを倒させてもらう』

 

それと同時に3人はセイバーへと攻撃を開始し、セイバーも界時スピアを振るって対応する。

 

『たあっ!』

 

まずはカリオストロからの拳による連続攻撃。セイバーはこれを敢えて受けずに躱していく。そして、カリオストロの隙を見つけて足払いをかけた。

 

『え!?』

 

「【オーシャンファング】」

 

そのままゼロ距離での鮫の牙を模した攻撃でカリオストロを吹き飛ばしていった。そこにプレラーティが巨大化したけん玉の玉の部分を飛ばしてセイバーへとぶつける。セイバーも黙ってやられてはいない。すぐに体勢を立て直すと【魚群】を使って魚を大量に展開した。

 

「狙いはプレラーティだ。時間稼ぎを頼むぞ」

 

セイバーの指示と共に魚達は隊列を組んでプレラーティへと向かっていった。当然魚だけでは幹部のプレラーティは倒せない。しかし、この場は3人が相手のため、少しでも負担を軽くするのが良いと考えたのだ。

 

『あーしらを忘れてもらっては困るわよ!』

 

『はあっ!』

 

その間に距離を詰めたカリオストロとサンジェルマンがセイバーを挟んで攻撃を仕掛けてきた。普通なら挟まれた時点でどちらかの攻撃を受けることが確定してしまうだろう。しかし、セイバーの今の装備は時国剣界時であり、この状況を打開するスキルがある。

 

「【界時抹消】!」

 

セイバーはサンジェルマンとカリオストロを巻き込まずにスキルを発動して自分だけ特殊空間へと移行。そのまま2人の攻撃範囲から外れつつカリオストロの背後に移動した。

 

「【再界時】!」

 

セイバーが元の空間に戻ると攻撃を透かされて体勢が崩れている2人へと薙ぎ払い攻撃を仕掛け、それは見事に決まった。

 

『何、今の攻撃は?』

 

「俺の切り札ってやつだ。ま、これの仕掛けをネタバレをする気は無いけどね!」

 

『だとしてもお前に負けるつもりはない!』

 

サンジェルマンはダメージを受けながらもスペルキャスターの形を変化させて銃にし、セイバーへと弾丸を放った。

 

「効かねーよ。【海水波】!」

 

セイバーは魔法陣から海水を鉄砲水のように放つと弾丸を飲み込ませ、そのまま2人を巻き込んで押し流した。

 

『隙ありなわけだ!』

 

そこに多少のダメージを受けながら魚を倒し切ったプレラーティがけん玉を振り下ろす。セイバーはこれを界時で受け止めてそのまま押し返した。

 

『くっ……』

 

「【オーシャンカッター】、【タイムシフト】!」

 

セイバーは水の斬撃波を2つ生成すると空中で一時停止させた。それから3人へと走っていくと界時スピアを界時ソードへと変化させて乱戦に備えていく。

 

『2人共、彼を囲んで倒すぞ!』

 

『オッケー!』

 

『わかったわけだ』

 

3人はセイバーが突っ込んでくると同時にセイバーを囲むように移動。それから3方向からの同時攻撃を繰り出した。セイバーとしてはこのタイミングで【界時抹消】をすれば躱すことは容易なのだが敢えてそれをしなかった。

 

「【大海一刻斬り】!」

 

セイバーは界時を持つ右腕をリレーのバトンを受け取るように出しながら界時を上へと放り投げ、すぐに右腕を移動させて上へと上がってくる界時を掴み、真後ろから仕掛けてくるプレラーティを斬りつけながら界時を正面にいるサンジェルマンへと振り下ろした。

 

『がっ!?』

 

『まさか、ワンアクションで2人を斬るつもりか!!』

 

『だが、私がいる限りそれをさせないわけだ』

 

プレラーティはその攻撃を妨害しようとけん玉の本体をぶつけようとするが、そのタイミングでいきなり体にダメージエフェクトと共に衝撃が走った。

 

『な、なんだ!?』

 

ここに来て先程仕掛けた【タイムシフト】の効果が発動。今回は10秒間だけ発射のタイミングを遅らせてから【オーシャンカッター】を使用し、擬似的な3方向への同時対応を実現させたのだ。そして、サンジェルマンもセイバーが振り下ろした界時で斬りつけられてダメージを負い、数歩下がることになった。

 

『私達の連携を上回るなんて……』

 

『ちょっと!化け物すぎるでしょ!』

 

『恐ろしい奴なわけだ』

 

「残念だったな。とは言っても次は上手くできるかわからないけどな。ただ、時間稼ぎはここまでだ」

 

セイバーがそういうとセイバーの上にサンジェルマンへと飛びかかる影が映り、その影はサンジェルマンへと蹴りを繰り出した。サンジェルマンはこれをスペルキャスターで受け切るが、険しい表情を見せた。何故なら……

 

「お待たせ、セイバーお兄ちゃん」

 

「遅せーよ、ヒビキ」

 

「さっきのお返し、たっぷりとさせてもらいますからね!」

 

ここに来て倒れていたヒビキが復活したからである。

 

『もうちょっと寝てなさいよ!』

 

『ここに来ての3対2は少し不味いわけだ』

 

『だとしても私達には戦う以外に選択肢は無い。2人共、やるぞ』

 

「ヒビキ、もしダメージがキツそうなら無理はするなよ?」

 

「うん。私もさっきので反省したし、もう無理はしないよ」

 

「なら良し。存分に暴れて来い!」

 

「うん!!」

 

それから再びヒビキ対サンジェルマン、セイバー対カリオストロ、プレラーティの戦いが再開された。

 

「せぇええい!!」

 

ヒビキはサンジェルマンへと肉薄して拳を繰り出していく。サンジェルマンもスペルキャスターを剣にしてその拳に対抗する。しかし、先程までよりもヒビキの拳は重くなっていた。

 

『な、どうしていきなり攻撃の威力が……』

 

「私はあなたを助けたい!!人類を救うお手伝いがしたいの!」

 

『なんだと!?この期に及んでまだそんなことを言うのか?』

 

ヒビキの拳を躱しつつ、サンジェルマンはヒビキの背後を取って蹴りを喰らわせる。それを受けたヒビキも負けじと踏みとどまってカウンターの拳を打ち出した。その拳をサンジェルマンはスペルキャスターで受け止めるが、その重さに耐えきれずに吹き飛ばされた。

 

「戦うしかないのなら私だって覚悟はできてる!でも、サンジェルマンさんとは戦わなくても分かり合える!話し合うことができればきっと手を取り合える!!」

 

『手を取り合えるだと?ふざけたことを言うな!手を取り合ってどうする?そもそも、今まで人の命を奪ってきて、その罪を背負い続けている私がそんな事を今更できると思っているのか?』

 

そう言ってサンジェルマンはフェンリルを模した青いエネルギー砲を放ち、ヒビキを吹き飛ばすと地面へと叩きつけさせた。ヒビキはダメージを受けて先程までの戦闘でボロボロになりながらも何とか立ち上がった。

 

「だとしても!分かりあうために私は手を伸ばし続ける!そして、人の命を犠牲にしなくてもサンジェルマンさんが言う人類を救う方法はきっと……あるはずだから!!」

 

『ッ………』

 

「一撃必愛!!この拳を受けて見ろ!!【火炎龍撃拳】!」

 

ヒビキは拳に炎の龍を纏わせるとその一撃をサンジェルマンの顔面へと叩き込んでみせた。そして、その様子は近くで戦っていた3人にも見えた。

 

『『サンジェルマン!!』』

 

「余所見する暇がお前達にあると思ってるのか?」

 

セイバーは界時スピアを使って2人を薙ぎ払い、叩きのめしていく。

 

『やはり強いなんてレベルじゃないわけだ』

 

『こんなの、サンジェルマンにやらせるわけには……』

 

「そもそも3対1でも俺は対抗できたんだぜ。2対1ぐらいでどうにかできると思うなよ?」

 

『あーしもフルパワーで行かないとね』

 

『全力をぶつけるわけだ』

 

「【分身】!」

 

「狼煙抜刀!」

 

セイバーは2人にわかれるともう1人が狼煙を装備してカリオストロの元へと攻撃を仕掛けた。

 

『分身しても無駄よ。そーれっ!』

 

カリオストロがとうとう本気を出すと手でハートを描き、口に指を当ててキスの要領でハート型のエネルギー核を作り出し、それを先程描いたハートの真ん中に添えるとその後ろからパンチを繰り出して巨大なハート型のエネルギー弾を放った。そしてそれはセイバーを直撃して大爆発を起こした。

 

『やった………ん?』

 

「【狼煙霧中】!」

 

狼煙を使用したセイバーの得意技、煙化によって上手く爆発でのダメージを抑え込んでいたのだ。そして、フルパワーを出した相手に対する最大の礼儀。セイバーも本気でかかることにしたのだ。

 

「ここからは、本気で行くぞ!!」

 

セイバーはカリオストロから放たれる水色の光弾を全て紙一重で躱しながら接近。狼煙による素早い攻撃を仕掛けた。

 

『この速さ、さっきまでの比じゃない。これでもまだ上があると言うの?』

 

「俺の本気を相手にしてこの程度のダメージ量。流石は幹部キャラってわけだな。ただし、俺の力の前じゃ相手にならないぞ!」

 

『だったら……これで一気に倒す!!』

 

カリオストロはここで全ての力を使わんとばかりに力を高め、セイバーを倒すことに全てを賭けてきた。

 

「なるほどね、ここが勝負所と考えたか。なら、俺もそれに応えないとな」

 

セイバーもそれに応えるために狼煙を紅く輝かせるとカリオストロへと突っ込んでいく。

 

『あーしの魅力は……爆発寸前!!うぉらあああ!!!』

 

「【昆虫の舞】、【昆虫煙舞】!」

 

セイバーとカリオストロ。2人のフルパワーのぶつかり合いは一瞬の均衡の後にセイバーが僅かに上回るとカリオストロを吹き飛ばして気を失わせた。

 

『カリオストロ!!くっ……』

 

「お前も終わらせる!!」

 

『そうは……させないわけだ!!』

 

プレラーティはけん玉に跨るとけん玉の玉の部分がタイヤのように高速回転。そのままけん玉自体を乗り物のように使用してセイバーを引き倒そうと迫ってきた。

 

「武器を乗り物にしたか。けど、そういうのは俺もできるんだよね。キングエクスカリバー!!」

 

セイバーもインベントリからキングエクスカリバーを呼び出すと巨大化したそれに乗り、地面の少し上を低空飛行しながらプレラーティのけん玉とぶつかっていく。因みに、片手は巨大な剣を操作するためのキングエクスカリバーの本体を持っているため、界時は剣の状態にしていた。

 

『サンジェルマンのためにも、ここで負けるわけにはいかないわけだ!』

 

「俺も同じだ。お前らを野放しにはしていられない。だからこそ俺がここでお前を倒す!」

 

セイバーのキングエクスカリバーとプレラーティのけん玉がぶつかり合う。パワーではキングエクスカリバーが上を行くが、スピードではけん玉の方に分がある。

 

『スピードで一気に撹乱するわけだ』

 

プレラーティはけん玉の速度を更に上げてキングエクスカリバーの横から体当たりを仕掛けていく。

 

「速いな。俺の剣はそこまで速く動けない……けど、やりようはある!」

 

セイバーは巨大なキングエクスカリバーを体当たりで弾き飛ばされるタイミングで剣から飛び出して二刀流となった剣を振るう。そこから飛んでいく斬撃波がプレラーティにヒットして彼女をけん玉の上から叩き落とした。

 

「【大海ニ刻撃】!」

 

そのまま空中で一回転してから水を纏い、両足を揃えてのドロップキックを放った。

 

「うぉりゃあああ!!」

 

『ぐあああああああ!!!』

 

その衝撃でプレラーティは地面を転がり、カリオストロ同様に気を失うことになった。

 

「ふう……2人目撃破。あとは……」

 

セイバーが向くとサンジェルマンがヒビキによって追い詰められていた。

 

「もうやめましょうよ……これ以上私達がやり合ったって……」

 

『く………』

 

サンジェルマンが悔しそうな表情を浮かべていると突然上空から声が聞こえてきた。

 

『苦戦しているようだね。どうやら』

 

『この声は……』

 

「あれは……」

 

そこにいたのは白いスーツ姿に身を包んだ男性で頭には帽子を被っていた。

 

『落ちたものだね。君達も』

 

『局長!!』

 

「局長……まさか、こいつがこの3人のボスかよ」

 

突然登場した局長と呼ばれた男。果たして、彼が現れたことによってこの戦いにどのような影響をもたらすのか?




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと黄金錬成

セイバー、ヒビキ対サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティの戦いはセイバーがカリオストロとプレラーティを倒して残るはサンジェルマンのみ。このまま大勢は決まると思われた。しかし、そこに満を辞して登場したのは3人の所属する組織のボスとでも呼べるような存在だった。

 

「お前があの3人のボスか」

 

『アダムだよ。僕の名前は』

 

「ヒビキ、アイツは俺が倒して良いか?」

 

「うん。任せるよ、セイバーお兄ちゃん」

 

「任された!流水抜刀!」

 

セイバーが分身を解いて1人に戻ると流水を抜いてアダムへと向かっていく。剣の間合いに入ると同時にセイバーは流水を振るう。しかし、アダムはこの攻撃を見切っているのかどれだけセイバーが剣を当てようとしても全て躱されてしまう。

 

「攻撃が……当たらない?」

 

『僕の相手が務まると思うなよ。その程度の腕で』

 

「流石はボスキャラというわけか。けど、これならどう?【氷塊飛ばし】!」

 

セイバーは続けて氷塊を撃ち出すが、それをアダムは空中へと浮かび上がりながら回避し、それでも躱し切れない物は魔力障壁で防いでいく。まるで意に返さないように。

 

「だったら、【氷獣大空撃】!」

 

今度はセイバーが背中に羽を生やすと飛び立ち、空中にいるアダムへと肉薄。白く輝かせた流水で突きを放つとようやく攻撃が掠り、アダムにミリ単位だがダメージを与えた。

 

『やるじゃないか。僕に攻撃を当てるとは』

 

「これでも掠る程度かよ。これは、さっき以上に本気にならないとヤバそうだ」

 

『攻撃するとしよう。僕も』

 

アダムはようやくセイバーへと反撃を放つことにした。まずは錬金術によって光弾を作り出すとセイバーに向けて射出。セイバーはこれをまともに受けるもダメージは大したことは無かった。

 

「この程度の威力で……な!?」

 

セイバーは目を見張った。そこには空いっぱいを埋め尽くす光弾が生成されていたからである。これでは一発のダメージは小さくとも、多段ヒットしてしまえば何発もダメージを受けることになってしまう。更に、自身の羽を形成するのは氷であり、光弾によって砕かれれば地面へと真っ逆さまに落ちてしまう。

 

「く……これはもう防ぐしかない!【氷塊飛ばし】、【白銀の獅子】!」

 

セイバーは羽の部分は氷塊で、体の部分に氷の獅子の頭部を形成するとそれを放ち、氷塊それらは次々に飛んでくる光弾を受け止め、打ち消していく。しかし、それでも全ては防ぎ切ることが出来ずに攻撃を羽の部分に受けてしまい、根元から折られるとセイバーは空にいることが不可能となり落下を始めてしまう。

 

「やっぱ防ぐには無理があったか。なら、【氷結化】!」

 

セイバーは咄嗟に自身ごと凍結させて巨大な氷の塊となると落下による衝撃を防ぐことに成功した。

 

「ふう……危なかった……」

 

『終わりにするよ。君との無駄な時間を』

 

アダムがそういうと手を掲げ、巨大なエネルギーの核爆弾を作り出した。

 

「おいおいおいおい何の冗談だ?あんなの喰らったら絶対にやられるんですけど?ヒビキ!サンジェルマン!この場から離れろ!!」

 

「なんでってうわあぁ!!あんなのに巻き込まれたら……」

 

『局長の黄金錬成か……。一旦ここから離れよう』

 

そう言ってサンジェルマンはテレポートジェムを使用して攻撃のターゲットであるセイバーからある程度離れた。そして狙われたセイバーはと言うと……。

 

「こうなったら、ヒビキ!この2人を頼む!!」

 

セイバーは先程、敢えて近くで気絶させたカリオストロとプレラーティをヒビキへと投げ渡すと逃げるように指示した。

 

「セイバーお兄ちゃんは?」

 

「この超ヤバイ攻撃を受け止める!!」

 

「そんな。それじゃあお兄ちゃんが……」

 

「そんな事言ってる場合かよ。これは俺の指示だ!」

 

「でも……」

 

『終わりだよ。お喋りはね!』

 

そう言ってアダムは巨大なエネルギー弾をセイバーへと投げ飛ばした。

 

「クソッ……防いでやる……こんな所でやられてたまるか!【分身】!」

 

「烈火!」

 

「流水!」

 

「黄雷!」

 

「激土!」

 

「翠風!」

 

「錫音!」

 

「月闇!」

 

「最光!」

 

「狼煙!」

 

「界時!」

 

「「「「「「「「「「抜刀!」」」」」」」」」」

 

「【カラフルボディ】!」

 

「キングエクスカリバー!」

 

セイバーはこの時の最大人数である10人へと分身すると本体である流水のセイバーが左手にキングエクスカリバーを装備。そして10人でスキルを言い放つ。

 

「【爆炎紅蓮斬】!」

 

「【ハイドロスクリュー】!」

 

「【稲妻放電波】!」

 

「【大地貫通】!」

 

「【疾風剣舞】!」

 

「【ビートブラスト】!」

 

「【月闇居合】!」

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

「【煙幕幻想撃】!」

 

「【大海一刻斬り】!」

 

「【キングスラッシュ】!」

 

10人による遠距離攻撃が空中に浮かぶ巨大なキングエクスカリバーへと集まると相当なパワーが蓄えられ、それがアダムが放ったエネルギー弾へとぶつかって押しとどめる。しかし、今のセイバーのフルパワーでもアダムの攻撃を抑えるのがやっとであった。これでは、落下は防いでも逃げることができない。そして、巨大なエネルギーの爆弾に大きな衝撃を与えればどうなってしまうのか。その結果は容易に想像できた。

 

次の瞬間、巨大なエネルギーの爆弾は大爆発を起こすと地面にいたセイバーの分身と本体を巻き込んで飲み込んでしまった。そして、その様子を遠くから見ていたヒビキは気絶したカリオストロとプレラーティをその場に下ろすと膝から崩れた。

 

「そんな……セイバーお兄ちゃんが……嘘だ……どんな時でも勝ってきたセイバーお兄ちゃんが……負けたの?」

 

するとそこにアダムの攻撃から一時避難していたサンジェルマンが戻ってきた。

 

『あれが、私達の統制局長。アダムの実力よ』

 

「私が……私が不甲斐ないばかりに……いつまでも私が未熟だから……」

 

ヒビキはその場で泣き始めると悔しさで地面を殴っていた。セイバーに憧れることを止めて、自分の力でセイバーを超えると誓いを立てた。あの日からヒビキはずっとセイバーに勝つために特訓を積んできた。そして強くなった自分に惚れさせてやると決めていた。

 

それなのに逃げる事しかさせてもらえず、その上目の前で大切な超えるべき目標が無残にやられていくのを見ているのみになってしまった自分が情けなかった。

 

『……ヒビキと言われていたな。私達も決着をつけよう』

 

「どうしても戦わなければダメですか?」

 

その言葉にサンジェルマンは首を小さく縦に振る。それを見たヒビキは涙を拭うとボロボロになった体を立ち上がらせた。

 

「私は……無力だ。だからセイバーお兄ちゃんを助けることができなかった」

 

『そうか。だが手加減はしない。全力でヒビキ、お前を倒す』

 

そう言ってサンジェルマンはスペルキャスターを剣にして構える。

 

「だとしても!!私はこんな弱いままの自分でいたくない!セイバーお兄ちゃんのような……いや、それ以上の強さを……私は……私は掴んでみせる!そして、サンジェルマンさん。あなたを救ってみせます」

 

『良いねぇ。その心意気、気に入った』

 

その声と共にヒビキの影からデザストが現れた。

 

「あなたは確か……」

 

『セイバーの野郎、予め俺のことをヒビキに移しておいてくれたんだぜ。自分がもし負けてもヒビキと俺のコンビなら絶対に勝ってくれると信じてよ』

 

「そうだったんですね……デザストさん。力を貸してください」

 

『面白そうだな。お前の背中は預からせてもらうぜ』

 

『例え何人が相手だろうと私は負けるつもりは無い!』

 

ヒビキとデザストはサンジェルマンへと向かっていくと拳と剣を振るって攻撃を仕掛けていく。

 

『この剣、思った以上に鋭い。だが、即席のコンビでは連携を上手くはとれないはず!』

 

「【我流・双龍撃】!」

 

『そんな大ぶりな攻撃を躱すなど簡単だ!』

 

ヒビキは両手に龍の顔を模したパンチを繰り出すとサンジェルマンはそれをジャンプで躱す。そしてガラ空きとなった頭上からスペルキャスターを振り下ろすが、それはデザストの剣によって受け止められた。

 

『オラよ!』

 

『くっ……』

 

今度はデザストが剣を振り下ろし、サンジェルマンはそれをスペルキャスターで受け止める。しかし、2対1の状況下でそれは悪手であった。そこにゼロ距離にまで近づいたヒビキの蹴りが炸裂してサンジェルマンは吹き飛ばされた。

 

『コイツら、連携と言うより、お互いが好きなように攻撃をしているのか?お互いの力を信じ、自分の戦いを貫き通す。そうすることで無意識に互いの隙を上手くカバーしているのか』

 

 

『ヒビキ、お前もやるじゃねーか。セイバーほどでは無いが合わせやすいぜ』

 

「当たり前でしょ。だって私はセイバーお兄ちゃんの力を間近で見て研究してきたんだよ?セイバーお兄ちゃんに勝つために。だからセイバーお兄ちゃんに近い戦い方をするなんて簡単にできるよ」

 

『なるほどな。しかも、セイバーとお前には持ち武器の違いによるリーチ差があるんだがそれを感じさせないような攻撃もしっかりとしてやがる。これは、アイツもうかうかしてられねーな』

 

『ならば、これでどうだ!』

 

サンジェルマンはスペルキャスターを銃に変形させると弾丸を撃ち出した。ヒビキがそれを殴って弾き飛ばそうとするといきなり水が出てくるとヒビキの体を水でできた球体の中に閉じ込めた。

 

「ぐああああ!!」

 

『チッ、分断してきたか』

 

『そういうことだ。これでも受けるが良い』

 

続けてサンジェルマンはスペルキャスターから青いフェンリルの顔を模したエネルギー波を放った。

 

『そうくるならこっちもフェンリルだ』

 

デザストは赤いフェンリルの顔を模した斬撃波を放って対抗し、2匹のフェンリルはぶつかり合うと大爆発と共に煙幕が発生した。

 

『くっ……奴はどこに……』

 

「うおりゃあああ!!」

 

そこに水の拘束を振り切ってみせたヒビキがサンジェルマンへと接近するとパンチを繰り出した。サンジェルマンはそれによって吹き飛ばされると地面へと叩きつけられた。

 

「はあっ!」

 

サンジェルマンは立ち上がるが、そこに間髪入れずにヒビキが突っ込んでいくとサンジェルマンへと飛び膝蹴りを放ち、それはサンジェルマンの鳩尾へと炸裂し、サンジェルマンが怯んでいる間に回し蹴りを当てた。

 

「デザスト!決めるよ!!」

 

『おう!』

 

デザストが【カラミティストライク】を発動させてサンジェルマンの腹に回転しながらの連続斬撃を放つとヒビキがその後ろから【我流・雷電撃槍】でドロップキックを放ち、その電撃はヒビキからデザストにまで移動すると電撃を纏わせた連続斬撃を叩き込んだ。それは、ヒビキとデザストが即席で完成させた必殺技。その名も……

 

「『【我流・雷電ストライク】!」』

 

その一撃はサンジェルマンに強烈なダメージを与えると彼女を一撃で彼女を突き崩した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

『まだだ……まだ私は……』

 

サンジェルマンはかなりのダメージを受けたにも関わらず、まだ立ち上がる気力が残っていた。しかし、それも長くは続かず、再び力尽きてその場に倒れてしまった。そこにヒビキが手を伸ばした。

 

「私は強くなりたくて戦いを重ねてきた。憧れの人に追いつきたくて。私の事を見て欲しくて。でも、それだけじゃあ私はいつまで経っても強くなれなかった」

 

『………』

 

「だから変わることにしたんだ。憧れるのを止めて、少しでも自分なりに強くなろうと足掻いた。その中でも他人と手を繋ぐ事を恐れない。私はある人に自分が変わらないといけないという事を教えてもらいました。誰かが困っていたらその人に向けて手を伸ばしたい。それが私の性分です」

 

ヒビキは優しい笑顔を浮かべるとサンジェルマンの事をジッと見据えた。

 

「サンジェルマンさんは神の力を使って人を支配から解放したいって言ってました。でも、人を解放するために神の力を使うなんて間違ってます。人の未来は人の力で変えないと」

 

『人の手で……変わる』

 

「私みたいな人が変われたんですからサンジェルマンさんもきっと変われます。だから、人と人との繋がりを大事にしてください」

 

サンジェルマンはヒビキの言葉に心を打たれ、スペルキャスターを手放すとヒビキの手を取った。

 

『ヒビキ、お前のようなどんな時でも折れない心の持ち主こそが自分も、この先の未来も変えていけるような存在なのかもしれないな。私はこれまで多くの人を犠牲にしてきた。今更心変わりなど許されないのかもしれない。でも、私も人との繋がりを大切にしたい。そんな気持ちになれた』

 

ヒビキはその言葉が嬉しかったのか満開の笑顔になるとサンジェルマンを支えながら一緒に立った。するとそこに声が聞こえてきた。

 

『そろそろ終わってもらおうか、茶番はね』

 

そこにいたのはセイバーを倒した張本人にしてサンジェルマン達を率いていたリーダー、アダムだった。

 

『どうやら面倒な奴が出てきたな』

 

「あなたがセイバーお兄ちゃんを……許さない!」

 

『どうするつもりなのかな?だとしたら』

 

『局長、私はもう……』

 

『構わないよ、戻ってこなくても』

 

『……え?』

 

『クビなんだよ、君達は。役立たずは要らないんだよ、邪魔者を排除できないような奴はね』

 

「なっ!?さっきまで部下だったのに……酷い……」

 

『もう手に入るんだよね。神の力が』

 

「それってどういう……」

 

すると地響きと共にエネルギーがアダムの元へと集まっていった。するとアダムはその姿を異形へと変えていった。

 

体は何倍にも大きくなり、筋肉が隆々としている。また、頭には金と黒色の2本の角が生え、尻には尻尾が出てきて完全に人とはかけ離れたモンスターになってしまっていた。

 

『どういう事ですか?統制局長!神の力を使えば人類を支配から解放できるのでは無いのですか?』

 

『できるとも。でも僕は利用していただけなんだよね。君達を』

 

『おい、その力を使うだけのエネルギー、どうやって蓄えた?さっきセイバーに巨大なエネルギー核爆弾を使ったばかりだろ?もうそんなエネルギーなんて残ってないはずだ』

 

『確かにそうだったよ。ついさっきまではね』

 

『なんだと?』

 

『黄金錬成、先程やったあの技の名前だ。金を創り出せる、読んで字の如く。エネルギーの消耗が激しいからね、アレを使うと。君達が睨んだ通りにね。しかし、アレに対抗してくれたお陰で爆発した際にその力を吸収することができたんだよ。セイバーとか言うやつが使った技で発生した巨大なエネルギーを』

 

『まさか、あの聖剣の聖なるエネルギーを吸収したのか』

 

「サンジェルマンさんは知ってたんですか?あんなことできるって」

 

『あんなことをしたのは初めて、いや、出来なかったはずだ』

 

「どっちにしてもアレを倒すのはちょっとキツイかも……」

 

すると怪物となったアダムは口から巨大なエネルギー光線を放った。

 

 

『危ない!!』

 

デザストはヒビキとサンジェルマンを突き飛ばすとそのエネルギー光線をモロに受けてしまった。

 

「デザスト!!」

 

『すまないな……俺が手伝ってやるのはここまでだ。ぐああああ!!』

 

デザストは文字通り爆散し、その場からいなくなってしまった。ヒビキはそれを見てアダムへと立ち向かう決意を固めるが、それでも怖さが残っていた。セイバーを一撃で葬る火力にセイバーの攻撃を凌げる対応力。果たして、今の自分にどうにかできるのか。ヒビキが考えているとサンジェルマンが横に立った。

 

「サンジェルマンさん」

 

『ヒビキ、どうやら私達は手を取り合わなくてはならないようだ。先程まで戦っていた相手との共闘になるが……いけるか?』

 

ヒビキはサンジェルマンのその言葉に戸惑いを感じたが、それはすぐに無くなった。そして、サンジェルマンの手を取った。

 

「勿論です。見せてあげましょう。私達の底力を」

 

2人はアダムを見据えるとかなりの体格差の敵を相手にして、果敢に向かっていくことになった。




お知らせです。明日からリアルの方で作者に仕事が始まってしまうので話を書くペースが遅くなり、今の投稿頻度を維持できない可能性が高いです。ですので書き溜めが保つ内は良いのですが、恐らく暫くしたら投稿ペースが遅くなるという事をご理解いただきたいと思います。また次回も楽しみにしてください。


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聖剣使いと黄金の鎧

ヒビキは怪物と化したアダムへと向かって跳ぶと腕のバンカーを引き絞った。アダムも黙って近づけさせるつもりは無い。口から光弾を連続で放ってきた。

 

『させるか!!』

 

しかし、今のヒビキは1人では無い。サンジェルマンがスペルキャスターを銃にして弾丸を放ち、ヒビキに攻撃が到達する前に軌道を逸らさせるか爆発させた。

 

「【我流・重鉄拳】!」

 

ヒビキは両腕を合わせるとハンマーのようにアダムへと振り下ろし、叩きつけた。だが、先程までとは違い、怪物となった影響でパワーが上がったアダムにとってそれはさほどのダメージにすらならなかった。

 

『乗るなよ、調子に!』

 

アダムはヒビキを捕まえるとその巨大な両腕で締め付けた。

 

「ゔぁあああ!!」

 

既にイグナイトの強制解除や、これまでのダメージでヒビキの体はボロボロになっている状態で、更に莫大な負荷をかけられた彼女の意識は何度も飛びそうになるが、それを根性で抑え込む。

 

『やらせるかぁ!!』

 

そこにサンジェルマンがフェンリルを模したエネルギー弾を撃ち込んでアダムの気を引かせることでヒビキは力ずくで無理矢理拘束から脱出することができた。そのまま空中で体勢を立て直すとアダムの腹に向かって連続でパンチを叩き込む。

 

「【我流・特大撃槍】!」

 

ヒビキは渾身の力を込めた両手による拳をアダムへとぶつけ、その威力で衝撃がアダムの背中を突き抜けるが、それでもかすり傷にしか感じていないのかアダムは平気そうな雰囲気だった。HPもここまでの攻撃で僅か5%しか減っておらず、ヒビキの攻撃が全く通用していなかった。

 

「そん……な」

 

『神の力を持った完全な存在には及ばないんだよ。君達不完全はね!』

 

アダムはヒビキをもう一度掴むと今度は地面へと思い切り叩きつけてから振り上げて上へと投げ飛ばし、落下してきた所をその巨体から放たれる拳で殴り飛ばした。

 

「ガッ!?」

 

ヒビキはその威力に吹き飛ばされてしまうが、何とか空中で体勢を立て直して地面に着地した。しかし、もう体は限界に近いのか、ヒビキの意識が遠のくのと同時に倒れ込んでしまった。

 

『ヒビキ!大丈夫か?』

 

「大丈夫……です。まだ、やれます……」

 

ヒビキは残る力を振り絞って立ち、HPを回復させるが、それでも疲労はどうにもならないため、今までの疲れが一気に襲ってきていた。

 

「まだ……まだ戦える……頑張れる……」

 

ヒビキは自分を鼓舞しながら体に残る僅かな力を振り絞るが、フラフラになった体は中々言う事を聞いてくれなかった。

 

『無理しない方が良い。君も、サンジェルマンの体も限界だからね』

 

アダムは先程の攻撃で2人の体が限界に達しているのを見抜いていた。そのため、敵ではあるがこの言葉をかけた。

 

「『だとしても!!」』

 

「私は最後まで諦めない!奇跡だって引き寄せてみせる!!」

 

『お前は完全な力を得て私達不完全を侮っている。その事を後悔させる!』

 

『無駄な足掻きを……』

 

アダムが2人を見下しているとそこに2つの光弾が命中した。

 

『なんだと?』

 

そこにいたのは気絶から復活したカリオストロとプレラーティだった。

 

『カリオストロ……プレラーティ!どうして……』

 

『まさか敵であるアイツにあーしらが情けをかけられるとは思ってなかったわ』

 

『あのセイバーとか言う男、私達を倒すときにわざとほんの少しだけ手加減をして気絶で済ませたわけだ。恐らく、アイツもそこの奴と同じで私達と最終的には話し合うつもりでいたんだろう』

 

「セイバーお兄ちゃん……。この世界ではやられたらポリゴンになって消える。それなのにどうして2人がそうならないのかなって思ってたらそういうことだったんだね……」

 

『2人共、力を貸してくれないか?私達4人で力を合わせれば……』

 

『アダムを倒せる。でしょ?』

 

『私達もセイバーに助けられた借りがある。今回だけは手を貸すわけだ』

 

「お願いします。私ももう満身創痍です。どこまで合わせられるかわかりませんが一緒に戦いましょう」

 

『行くぞ!』

 

『鬱陶しいんだよ。蚊蜻蛉共が!』

 

アダムは再び口からエネルギー砲を放ち4人を纏めて狙う。しかし、4人共それを躱すとそれぞれがバラバラに散らばった。そして、4人が必殺の一撃を合わせる。

 

「ミク【覚醒】、【電磁砲】!【我流・火炎龍撃拳】!」

 

『そおーれっ!』

 

『はあっ!』

 

『喰らうわけだ!』

 

ヒビキはミクの電磁砲を右腕の火炎の龍に合体させて炎と電撃の拳をアダムの顔面へとぶつけ、サンジェルマンがフェンリルを模した弾丸を左足へ当てる。カリオストロがハート型のエネルギー弾を腹にぶち込み、プレラーティが背中へと巨大なけん玉を叩きつける。その攻撃はアダムのHPを1割減らすもそれでも意に返さないアダムが気合と共に衝撃波で4人を軽く吹き飛ばした。

 

4人はそれぞれ地面に叩きつけられるものの、まだまだ立ち上がる力は残っており、アダムへと懸命に向かっていく。それでも、力の差は歴然であり、少しずつだが形勢は悪くなっていった。

 

サンジェルマン達3人には回復する手段が無く、しかも3人共がセイバーかヒビキとの戦いでかなりの力を使い果たしてしまっていた。その上でのアダムとの戦いである。ヒビキも気力で持ち直したが、それでも限界が近いことに変わりは無いため時間が経つほど不利になるのは明らかであった。

 

「くうっ……負ける……ものか……」

 

ヒビキはミクの背中に乗って空中を動き回り、アダムを撹乱するが、アダムはミクの飛行するルートを先読みしてエネルギー弾を放った。そしてそれはミクにクリティカルヒットしてしまい、ミクもやられてしまった。

 

「ミク!!ごめんね……ゆっくり休んでて……」

 

『いなくなったようだね。お前の機動力となる者が』

 

アダムはこの時を狙っていたのだ。疲労困憊のヒビキの機動力を支えていたミクを潰した以上、アダムは錬金術師達3人を無視してヒビキへと集中攻撃を仕掛けた。ヒビキには疲れと体への痛みで逃げる足が無いため、一方的にダメージを受けることになった。

 

「く……くうう……何とかポーションで持ち堪えてるけど……ポーションがあと少しで底をついちゃう……」

 

ヒビキはこれに対して攻撃を受けながらポーションで回復し続けたが、それももうすぐできなくなってしまう。そうなってしまえばもう終わりだろう。

 

「何とか……何とかしないと……」

 

『その子を集中攻撃するなんてあーしらも舐められたものね』

 

『今ならアダムに強烈な一撃を……』

 

『2人共、待ってくれ。私に考えがある。その間ヒビキには悪いが1人で耐えてもらう』

 

『え!?』

 

『大丈夫なのか?』

 

サンジェルマンの言葉にカリオストロもプレラーティもヒビキのことを心配するが、ヒビキは大丈夫と言うようにアイコンタクトを送った。

 

『わかった。それで、作戦って?』

 

『その作戦を言う前に2人にも覚悟を決めてもらわないといけない』

 

『覚悟はとっくにしているわけだ』

 

『サンジェルマンのやる事ならあーしらはついていくわよ』

 

『2人共、すまない。ならば、作戦を話すぞ』

 

3人が集まって何かを始めるとその間、攻撃はヒビキ1人に集中し続けた。ヒビキはHPを回復させるポーションを使い果たすと、その直後に攻撃が止むタイミングを見て動き始めた。そこからはアダムからの攻撃をギリギリで躱すことに専念し、アダムの注意を引いていった。

 

「もうHPが回復できない以上、逃げ回るしか手が無い。どうにか……どうにか躱さないと……」

 

ヒビキが必死に攻撃を躱し続けること10分。アダムは痺れを切らしたのか大技を使うことにした。

 

『鬱陶しい奴だ。大技を出すとしよう、こうなったらね』

 

アダムは先程セイバーを一撃で葬ったぶっ壊れの技、黄金錬成を発動し、上空に巨大な核爆弾……黄金錬成を発動した。

 

「あれは……不味い。あのサイズ……セイバーお兄ちゃんを倒した時以上のあの力……どうすれば……」

 

ヒビキがどうにかするために考えを巡らせているとヒビキの前にサンジェルマン、カリオストロ、プレラーティが立った。

 

『ヒビキ、私達はアレを止める』

 

『だから後は』

 

『任せるわけだ』

 

「それって……どういう?」

 

3人は黄金の輝き、ラピスの力をフルに発動させると宙に浮かび上がり、プレラーティが黄金の輝きと共に弾丸を生成。そしてそれをサンジェルマンへと手渡した。

 

『無駄だよ。何をしてもね!』

 

アダムは手を振り下ろし、黄金錬成の巨大な核爆弾を再び落とした。

 

『させるかぁああああ!!』

 

サンジェルマンはそれを止めるように弾丸を射出。弾丸は核爆弾へと当たるとその力を抑え込み始めた。

 

『『『くうううう…………』』』

 

3人は力を膨張させる核爆弾を抑え込むために更に力を高める。そして、自らの命を燃やす。そう、3人が力を解放するために受けた代償は完全なる自らの命の焼却。これにより、アダムの究極の必殺技であるこの技を封じ込めるのが狙いであった。

 

『現時点での私達の最高傑作の錬成!』

 

『これによって局長の黄金錬成の発動を阻止する』

 

『局長なら逃げ回るヒビキや私達を一度で仕留めるならこの技を使うしか無い。しかし、この力の発動回数は今の局長の力を持ってしても1回が限度。だからこそ、ヒビキが局長をイラつかせれば使ってくると思っていた』

 

『そこで私達が命を燃やしてそれを止めるわけだ』

 

『これでセイバーから受けた借りは返せるわね』

 

『だが、命を燃やすということは私達の存在の消滅を意味する』

 

「そんな……私を助けるために……」

 

『ヒビキ、私はあなたのお陰で変わることができた。だからこそ、今度はあなたが私達の想いも受け取って強くなる番だ』

 

『あーしらの分まで局長をぶっ飛ばすのよ』

 

『ありがとうは言わないわけだ。それでも、お前達が私達に与えた影響は大きかった』

 

『2人共!』

 

『ええ!』

 

『ここが最大の魅せ場なわけだ!』

 

3人は更に力を高めるとアダムの攻撃を防いでいく。しかし、それでもアダムの火力が未だに上回っていた。

 

『まだ足りないか。だとしても!ここで諦めるわけにはいかない!ヒビキに希望を託すためにも!!』

 

サンジェルマン達は更に命を燃やしていく。その輝きは今までのどの輝きをも超えていき、そのままアダムの攻撃を抑え込むと光の粒子として露散させた。

 

「攻撃を…かき消した」

 

そして、完全に命を燃やし尽くした3人は光の粒子となって消え始めていた。

 

『どうやら、ここまでみたいだな。すまなかった。付き合わせてしまって』

 

『良いものが見られたし、大丈夫なわけだ』

 

『……え?』

 

『サンジェルマン、笑っているわよ』

 

『そうか……死にたくないと思ったのはいつ以来だろうか……ヒビキ、後は頼んだわよ』

 

その言葉を残して3人は完全に消えてしまった。

 

「どうして……せっかく分かり合えたのに……」

 

残されたのはヒビキただ1人。もうセイバーもデザストも、サンジェルマン達もいない。ここからはアダムとタイマンで決着をつけるしかないのだ。

 

『消えたようだな。あの虫けら共も』

 

「……虫けらですって?」

 

『あ?』

 

「私は、希望を繋ぐために命を燃やし尽くしたあの3人のことを馬鹿にして、見下すあなたを絶対に許さない!」

 

『どうするのだ?許さないというのなら』

 

「私が……あなたを倒す!」

 

『どうにかなると思っているのか?その体で』

 

「はぁあああああああ!!【界王拳】!!」

 

ヒビキは新たなスキル、【界王拳】を使用すると赤いオーラに包まれてステータスを何倍にも底上げした。しかし、それは同時に自らの体に強大な負荷をかけることに繋がる。

 

「ぐ……あ……あ……」

 

『消えるがいい。不完全は』

 

「うぉりゃあああ!!」

 

ヒビキは今までの何倍ものスピードで加速。アダムが放った光弾を弾き飛ばすとそのままアダムの顔面を殴り飛ばした。

 

『なん…だと?』

 

「このスキルは発動したから体に負担をかける代わりにステータスを倍増させる。私の体へのダメージはもう止められない!!だからこそ、短時間で決着を付ける!!」

 

【界王拳】はヒビキの説明通りステータスを最大3倍まで上げられる代わりにその負担が彼女の体を蝕んでいく。

 

ヒビキは【界王拳】の制限時間が切れるまでにアダムとの決着を付けるつもりだった。もう彼女の体は無理に無理を重ねて限界のため、それもいつまで保つかわからない。それでもアダムを倒すために全力を尽くす。これが彼女が導き出した結論だった。

 

「【我流・雷撃昇竜拳】!」

 

ヒビキの渾身の一撃がアダムの顎にヒットし、そのまま彼の巨体は打ち上げられた。その後もヒビキの猛攻は止まらない。

 

「【我流・稲妻回転脚】!」

 

今度は足に電撃を纏わせての回し蹴りが炸裂し、アダムのHPをゴリゴリと減らしていく。だがそれでも未だにHPは7割近く残っていた。

 

『良いってもんじゃないぞ、ハチャメチャすれば!!』

 

「ああああ!!」

 

ヒビキは続けて腰のブースターで加速。腕をドリルのように回転させながら突撃し、それはアダムの腹にぶち込まれるとアダムはまたもや吹っ飛ばされた。

 

「はぁ……はぁ……まだ、まだだぁ!!」

 

ヒビキが気合を入れ直して再度アダムに突撃しようとするといきなり体中に痛みが走り、【界王拳】が強制解除されてしまった。とうとう来てしまった体の限界。そしてそれはアダムへの攻撃の中断及び、反撃のチャンスを与えてしまうことに繋がった。

 

『終わりのようだな。良い気になれるのも!』

 

アダムは体から光を放つと今度こそヒビキを仕留めるためにエネルギー砲をヒビキに向けて発射した。

 

「あ……ぐう……このままやられるわけには……」

 

ヒビキが痛みに悶えているとそこに声が聞こえてきた。

 

(「お前の力はそんなものか?立てよヒビキ!俺に追いつくんだろ?だったらこんな奴に負けるわけないよな?」)

 

(『私達の意志を継ぐんだろう?ここで終わるヒビキじゃないはずだ!』)

 

「セイバー……お兄ちゃん、サンジェルマンさん……そうだ。まだ私は終わってない!!!」

 

その言葉と共にヒビキはエネルギー砲に飲み込まれた。しかし、その中から黄金の輝きと共にヒビキが飛び出してきた。

 

ヒビキの装備が全て黄金色に染まり、その姿はまるで黄金の鎧を着ているようであった。

 

『黄金錬成だと?錬金術師でも無いのに!!』

 

アダムは怒り狂うように両腕の触手を伸ばしてヒビキを捕まえようとする。だが、ヒビキはそれを躱し続けながらアダムへと接近。そのままその腹へと拳をぶつけた。それは一度や二度などという程度の回数では無い。ヒビキは力の限り拳を何度も何度も繰り返し叩き込む。

 

「たあっ!せいっ!うぉおおお!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 

ヒビキの拳が一瞬無数に見えるほどの拳のラッシュ。そしてそれはアダムの体を持ち上げると空中に浮かせた。そしてそのままどんどん上に打ち上げていき、かなりのダメージを与えていく。それこそ、【イグナイト】や【界王拳】の力よりも更に上のダメージが一撃ごとに与えられていくのだ。アダムはあまりのダメージに最早抵抗することが出来なかった。

 

「オラオラオラオラオラ!うぉりゃああああ!」

 

そして、最後の一撃とばかりに両腕同時のパンチがアダムをへと叩き込まれた。その技とは……

 

「【TESTAMENT】(テスタメント)!!」

 

その拳はとうとうアダムを貫き、そのHPを0へとするとアダムは粒子となって消滅を始めた。

 

『砕かれるとはね……人間如きに』

 

「これが私達人間の力です。アダムさん」

 

『あってはならないんだよ。完全が不完全に負けるなど…』

 

そう言うとアダムはヒビキへと触手を伸ばし始めた。ヒビキはこれを躱そうとするが、空中で身動きが取れない上に、限界に達していた体がもう言う事を聞かなかった。

 

「くっ!?」

 

『フハハハハハ!!道連れにするよ。せめてお前だけでも!!』

 

「そいつは無理な相談だな」

 

そこに現れたのはブレイブに乗った白銀の戦士。セイバーだった。

 

「セイバー…お兄ちゃん?」

 

「死ぬのなら1人で逝ってもらおうか。【タテガミ氷牙斬り】!」

 

セイバーが流水を振るうとアダムが伸ばした触手を全て氷漬けにするとそれを破壊した。そして、黄金の鎧が解けて落下を始めたヒビキを抱き抱えると即座にその場から離れた。するとアダムは大爆発を起こし、とうとう戦いに決着がつくことになった。

 

セイバーは地面に降り立つとヒビキを優しく下ろした。

 

「どうして?セイバーお兄ちゃんは確か……」

 

「あんな程度でやられるほど俺は甘くねーよ。俺のスキル、【不屈の竜騎士】の存在を忘れてない?」

 

「そういえば、HPを1だけ残して耐えられるんだっけ?」

 

「とは言っても【分身】のダメージも共有だから10人分のダメージを一度に受けて暫く気絶しちゃってたんだよね。ただ、あの3人が命を燃やし尽くした所辺りにはもう起きてたけど」

 

「え?それじゃあ……どうして助けに来なかったの?」

 

「それだとヒビキの成長の機会を奪うことになるだろ?偶には俺抜きでも勝てるって所ぐらい見せてくれないとライバルとしてどうなのって感じだし」

 

「私のために……そっか。セイバーお兄ちゃんにはセイバーお兄ちゃんなりの考えがあったんだね」

 

「あそこまでギリギリの勝負をするから途中で参戦するか迷ったけど、黄金の力を使ったお前を見て確信したよ。強くなったな、ヒビキ」

 

そう言ってセイバーはヒビキの頭を撫でた。

 

「えへへ……私、頑張ったんだよ?これで私もセイバーお兄ちゃんみたいに……」

 

ヒビキは言葉を最後まで言い切る事なく気を失ってしまった。HPはセイバーが回復させたものの、疲れがかなり溜まっていたからである。そんなヒビキを見たセイバーは彼女を背負うとダンジョンから出ることにした。

 

「お疲れ様。ヒビキ」

 

セイバーが優しく声をかけるとヒビキは幸せそうな表情で眠っていた。

 

その後、ギルドホームに帰ったセイバーはこの事をギルドメンバーに話したのだが、その時にサリーが呼んだのか、偶々ギルドホームを訪れたのか、なぜかキャロルもその場にいて、サリーと共にセイバーを質問攻めすることになるのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと亀裂探索

ヒビキとのデートという名のサンジェルマン達との戦いが終わってから暫くの時間が経った。セイバーは本日もメイプルやサリーと共に探索に出かけている。

潜水服が強化されたことによって侵入に制限を受けている場所は無くなったものの、それはようやくスタートラインに立ったというだけであり、探索箇所はかなり多い。

 

「優先順位はもちろんあるけど、最後は総当たりに近いかなー」

 

「機械いっぱい沈んでるもんね」

 

「面倒だけどこればかりはしょうがないな」

 

次なる目的は『ロストレガシー』の使い道を見つけることである。アイテム名から予測し、あちこちに沈んでいる機械とかつての文明の跡を中心に探索を繰り返しているが、まだそれらしいイベントもダンジョンも見つかっていない。

 

「もう結構いろんなところ行ったけど……見つけるの難しいなあ」

 

「今日こそ見つかるといいね。ここもかなりありそうな場所だよ」

 

「てか、そろそろ見つけたい所だよ」

 

セイバーとサリーはジェットスキーを停止させるとメイプルに水中の様子を見るように言う。言われた通りに水に顔をつけたメイプルが見たのは、遥か下の地面にできた巨大な亀裂である。

透き通った水中では遠くからでもその辺りを泳ぎ回る何体ものモンスターが見えるが、亀裂の奥は暗く深い青となっており、その内部の様子を知ることはできない。

 

「……ぷはっ、セイバー、サリー!あの中?」

 

「そう。早めに行きたかったんだけど、中は酸素の減りが速いらしくて」

 

「俺が行っても良かったけど、戻れない時のリスクが高すぎるからな」

 

「それで今まで行ってなかったんだね」

 

セイバーとサリーはともかく潜水服によって水中での活動時間を手に入れているメイプルは、強化して性能を高めておかなければ探索もしにくいのだ。

 

「底がどれだけ続いているか分からないのもあってまだ何かがあったっていう報告は上がってきてないんだ」

 

「基本暗いから何かがあっても見逃しやすくて、じっくり探索もできないっていう」

 

「むぅ、なかなか大変そう」

 

「いいものを引き上げられると良いね」

 

「うん!」

 

「そうだな」

 

3人はイズのアイテムを使い、きっちり潜水服も着込むとジェットスキーをしまって水中へと飛び込む。

 

「入口までもモンスターは結構多いから、セイバー頼める?」

 

「任せろ。界時抜刀!【魚群】!」

 

水中戦において、数が多い場合はサリーやメイプルよりもセイバーの方が適任である。セイバーが魚の群れを呼び出すと水中を泳がせてモンスターへと向かわせていく。そして、攻撃の判定内に入ると魚達は一斉に襲い掛かり、数の暴力でモンスターを蹴散らしていく。モンスターは攻撃を受けたことによってセイバーへ反撃しようと体の向きを変えるものの、上を取って既に射程内にモンスターを捉えているセイバーの方が圧倒的に有利なのは変わらない。

近づけばセイバーに槍で薙ぎ払われてしまい、自ら死地に飛び込むのと変わらないが、そのままいても魚達の餌食である。

 

「やっぱり相手にならないか……」

 

「流石セイバーだよ」

 

「まぁな。それより急がないと!」

 

「うん。余計なところに時間をかける余裕はないよ」

 

こうして3人はモンスターを撃破しつつ潜り、無事に裂け目の入り口まで辿り着いた。今の3人なら通常のフィールドにいるモンスター程度に遅れを取ることはない。

 

「おおー……深いね」

 

「しかも暗いな。光が届かない世界って感じだ」

 

通常の水中なら考えられないことではあるが、足元の巨大な裂け目から下は濃い青の絵の具を混ぜたように暗い色になっている。ここまでの透き通った水中とは違いその先は全く見えず、水中神殿の隠しルートよりなお暗いほどだ。

 

「行くよ。いつもより酸素の減りが速いから気をつけてて」

 

「分かった!」

 

「こっちも装備による活動時間が縮まってると見て行動するか」

 

3人はヘッドライトをつけると裂け目へ一歩足を踏み出す。

すると暗闇にズッと足が飲み込まれて、足下に地面がないことが伝わってくると共に3人の体は暗い水の中へ沈んでいく。

 

「すごーい、夜でもこんなに暗くないよ」

 

「本当にかなり暗いね。ヘッドライトが向いてる方以外は何か来ても気づけないかも」

 

「その点はご安心を。【ヘッドソナー】の効果で何かが来たらわかるから」

 

この暗さでは少し気を抜くととなりにいる2人ともはぐれてしまいそうになるほどだ。

 

「じゃあ……そうだ【身捧ぐ慈愛】!」

 

メイプルがスキルを発動すると光が溢れその背中に白い翼が現出する。

 

「これなら2人も守れるし目印にもなるよ!」

 

「おおー、一石二鳥だね」

 

「逆に目立ってモンスターが寄ってこないと良いけどな」

 

少し前にメイプルが目印になっていたのは爆弾を抱えて空に打ち上がっていた時のため、それと比べれば随分健全な目印である。

 

「あとは飛び込んだ位置的に後ろが壁になってるからこれに沿って降りていこう。そうすればどうやってもライトで見えない背後からの奇襲は防げるはず」

 

「うん!そうしよう!」

 

「こっちも警戒するべき方向が限定されるのはありがたいし、そうしようか」

 

セイバーだけでなくサリーも警戒しているとはいえ、減らせるリスクは減らすに越したことはない。

 

「モンスターも変わるだろうから気をつけて、暗闇を上手く使って攻めてくると思う」

 

「おっけー!近づいてきたら攻撃だね!」

 

「念の為魚は展開しておくよ」

 

姿が見えないため先程のように遠距離から魚によって先制攻撃はできないが、それが3人の得意分野というわけでもない。3人は後衛の魔法使いではなく、本来得意とするのは近距離戦なのだ。【身捧ぐ慈愛】も展開している以上、近づかれることはそう悪いことではない。

 

「本当に真っ暗だ……」

 

「真ん中の方から潜ったら背中側の壁もないからどこを向いているか分からなくなりそう」

 

「ほんと、この方法で降りてきていて正解だよ」

 

「セイバーやサリーみたいな戦い方だと良く動くもんね」

 

水中であることを利用して立体的に動いてモンスターを攻め立てることは可能だが、こう暗いと正確に自分の向きを把握していなければ潜っているつもりが浮上していたなんてこともありうる。

 

「ボスとか……とんでもないモンスターが出てこない限り、戦闘は抑え目に戦うよ。その分……」

 

「うん、任された!」

 

「ありがとう。無視できるモンスターは無視して進んで大丈夫。経験値を稼ぎにきてるわけじゃないし」

 

「分かった!」

 

「こっちも警戒度MAXで行くぜ」

 

欲しいのは経験値より酸素なため、余計な戦闘は避けて底を目指すことにしたのだ。とはいえ亀裂は深く縦横の幅もかなり広い。ただ、壁際にはモンスターがそこまで配置されていないのか、3人は何かに出会うこともなくしばらく潜っていく。

 

「本当に進んでるのかな?」

 

「沈んでいる感覚はあるし大丈夫……のはず」

 

「これで変な所に出ていたら【ヘッドソナー】でわかるし大丈夫だよ」

 

こう暗いとその場から動いていないような気すらしてくるが、そんな3人の目線の先にヘッドライトとは違う青い光がぼうっと浮かび上がったのを見て話は変わった。

 

「お。やっぱりちゃんと移動できてたみたいだね」

 

「アイテム?イベントかな?」

 

「いや、これはモンスターだ。行ったら食われるぞ」

 

「そうなの?」

 

「ホント、便利よねそのスキル」

 

3人は注意して潜るとセイバー達が罠に引っかからないと判断したのか自ら泳いでやってきた。

 

暗闇に完璧に紛れるのもスキルだったのか、真っ向から向かってくる気になったお陰で姿がきちんと見えるようになった。暗闇は変わらないが、浮かび上がるように輪郭ははっきりとしている。

 

「チョウチンアンコウみたいな感じ?」

 

「モチーフはそれだと思う。見えちゃえばこっちのものだね」

 

「後は倒すだけだ」

 

セイバーとサリーは水を蹴って加速すると一気に接近して大きな体の両側面へと回り槍とダガーで斬りつける。隠れて相手を待ち構えるスタイルなだけあって、チョウチンアンコウの動きは鈍く2人の機動力には全くついていけていない。

 

「【砲身展開】!【攻撃開始】!」

 

「【大海三刻突き】!」

 

そんな動きでメイプルの弾幕から逃れることができるわけもなく、次々に放たれる銃弾と突き出される槍が体を貫いていき次の行動を取らせずにその体を光にして消滅させた。

 

「ナイス2人共!」

 

「これくらいなら大丈夫!」

 

「マジで【ヘッドソナー】に助けられたな」

 

「変なものが見えたら要注意だね。擬態して待ち構えてるかも。さっきのにはもう引っかからないだろうけど」

 

「分かっちゃったもんね」

 

「それとは別に普通に近づいてくるのもいるかもしれないから警戒はしておいて。まぁ、セイバーのスキルなら来る前にわかると思うけど」

 

「そうだな」

 

「はーい!」

 

こうして3人はモンスターを退け、さらに深みへと潜っていくのだった。

それからしばらく潜っていくが、襲いかかってくるモンスターは初めこそ3人を驚かせるものの、姿を見せてしまえばそれ以降は一方的な勝負になっていた。

3人の戦闘能力は高い部類となる上に、暗闇を利用しての初撃がセイバーの【ヘッドソナー】で全てバレてしまうため、隠密に頼っているステータスの低さを突かれてしまうのだ。

 

「順調に進んではいるんだけど……んー」

 

「全然底に着きそうにないねー」

 

「酸素はまだ保つか?」

 

「減ってきてるけど、イズさんのアイテムと潜水服のお陰でなんとかなりそう!」

 

「酸素は半分少し前まで減ったら言ってね。帰りが魔法陣とも限らないわけだし……」

 

「そうだな」

 

「うん!」

 

今は警戒しつつの潜水なため、水面まで戻ることだけを考えて浮上すれば帰りの方がかかる時間は短いだろうが、それでも何かあったとしても引き返せるだけの余裕を持って潜ったほうが安心である。

 

 

そうやってさらに潜ることしばらく。暗い水中ではあるものの、メイプルの【身捧ぐ慈愛】の光に照らされ大量の背の高い岩が並ぶ、岩の森とでも言うべき場所が目の前に広がった。

 

「岩の森か」

 

「漸く底が見えてきたかな?」

 

「後ろの壁以外にも水じゃないものが見えてきたもんね!」

 

目の前に並ぶ岩石はまだ根本は見えないものの、ここまでにはなかったものだ。触れてみるとしっかりと下で地面と繋がっているようでびくともしない。この岩が不思議な力で浮かんでいるなどというのでないなら水底ももうすぐだろう。

 

「……!2人共、こっち!」

 

そろそろ終わりが見えてきたかと、セイバーとメイプルが一息ついたところでサリーがその手を引いて岩陰へと引っ張り込む。

 

「ど、どうしたの?」

 

「……何かいる」

 

「本当だな。ソナーにも反応がある」

 

2人が言うなら間違いないのだろうとメイプルは素早く【身捧ぐ慈愛】を解除する。実際にモンスター相手に光で探知されるかは確かめてみなければ分からないが、見つかる可能性を下げたほうがいいことくらいはメイプルにも分かってきていた。

再び暗闇が訪れた中、岩陰から少し顔を出して3人で闇の向こうに目を凝らす。

 

暗闇の向こう、岩の密林の間をすり抜けるようにして青白い光がすぅっと横切っていく。その光の中には、何か獲物がいないからあたりを見ているのであろうゆっくりと動く瞳が見えた。

泳ぎまわっている巨大な何か。それは普通のモンスターとはどこか違うように感じられた。

 

「おっきかったね……」

 

「見つかったら面倒そうだな。しかも、戦闘する相手じゃ無さそうだし」

 

「そうね。セイバーは知らないと思うけどボスって言うよりは第2回イベントのカタツムリみたいな」

 

「あっ!倒せなかったカタツムリだよね?」

 

「そうそう」

 

「何となく想像はつくけど多分それから逃げ回ってたって感じかな?だとするとやっぱり見つからない方が良さそうだ」

 

ただ強いモンスターなら戦いようはあるが倒す方法がないとなると話は変わってくる。

 

「一瞬だったからHPバーが見えなかっただけかもしれないけど、もともと時間に余裕があるわけでもないから戦闘は避ける方向で」

 

「うん!隠れながらだね!」

 

「そんな感じの地形だしな。近づいてきたら俺が察知する」

 

「分かった、任せるね!」

 

「任された」

 

岩陰がいくつもあるこの場所であれば隠れながら探索することは容易である。初見でも接近に気づくことができたサリーと探知能力持ちのセイバーがいれば、存在を知った今、気づかずに近づかれることもそうそうない。

うろつく巨大魚を新たに警戒対象に加えてもう少し潜ると、予想通り水底までたどり着くことができた。ここからは何かがないか探して回ることとなる。とはいえ、そこまで酸素に余裕があるわけではないため常に残量には気を遣っておく必要がある。

 

「この中を進んでいけば大丈夫?」

 

「ずっと壁際にいても仕方ないしね。そうしよう」

 

「ここからは海底探索の時間かな」

 

3人は立ち並ぶ岩石の間へと入っていく。セイバーとサリーはモンスターに対する警戒、メイプルはアイテムやイベントらしきものがないかに気を配りつつ【カバー】によって咄嗟の防御に備える。

 

「……右にいるな」

 

「じゃあこっちだね」

 

「やっぱセイバーのそれのおかげでかなり楽ね」

 

セイバーのスキルによって暗闇の中でもソナーによる僅かな波の変化が感じ取れるため、この空間での不意打ちは効かないと言っても良いだろう。

ただし、見つかってしまった時に何があるか分からないため戦闘を回避しているが、それは同時に探索速度の低下をもたらす。

仕方のないことではあるものの、タイムリミットは刻一刻と迫ってきていた。

 

「メイプル、何か見つからない?」

 

「だめー、見つかってないよ……広いし暗いし、どこかにあるのかもしれないけど」

 

「もうそろそろ酸素もヤバそうかな?」

 

普段とは違い遠くまで見通しが効かないため、すぐ近くを通ることができなければ何かがあっても見逃してしまうだろう。

 

「手間だけど何回も潜るしかないか……」

 

「でも、本当に宝探しって感じだね!」

 

「……それもそっか。そうだね、宝物にヒットするまでやってみよう」

 

「これだけ大規模なのに未だに特に報告がないし、何もないってことはないだろ」

 

ここなら条件がある隠しイベントでなくとも、隠されているようなものである。

しばらくすれば何かが見つかることもあるかもしれないが、自分達で見つけ出す楽しみというのも確かに存在する。メイプルがそれを楽しんでいることに、2人はほんの少し微笑んだ。

 

「とはいえ、もう少し進んだら今回は引き上げかな。途中どれくらい戦闘になるか分からないし、予期せぬことっていうのは起こるものだからね」

 

「うん、そうだね。また潜水服強化しておかないとなあ……」

 

「最悪酸素が切れそうになったら俺が2人の手を引きながら上まで連れてくから安心しろよ」

 

強化はほとんど終わっており、潜水服はほぼ最高性能になっているがまだもう少し強化の余地がある。普通のフィールドを泳ぎ回る分には現状でも全く問題はないが、これからもここに潜るなら少しでも活動時間を伸ばしておく必要がある。

メイプルの酸素を確認しつつもう少し探索を進めたものの、特に何かが見つかることもなくタイムリミットがやってくる。

 

「むぅ、残念」

 

「また来ればいいよ。メイプルは運がいいし、次は見つかるかも」

 

「確かにな。メイプルが探せばその内何かは見つかると思う」

 

「そうかな?見つかったら嬉しいね!」

 

「じゃあ浮上しよう」

 

「待て!」

 

浮上しようとした所で岩の向こうから大きな影がすっと姿を見せる。セイバーは急いで2人を連れて岩陰に隠れるものの、ちょうど開けた場所だったこともあり隠れきれず巨大魚の様子が変化した。

 

「何あれ。目の光が黄色くなったよ」

 

「……警戒モード?直接襲ってきてないだけ助かるが……」

 

「信号みたいな役割かな?」

 

「多分そうだと思う。そうやって危険度が表されること結構あるし。あれが赤くなったらヤバいかも」

 

「……分かった」

 

こそこそと話しつつ元の様子に戻ってどこかへ去っていくのを待つ3人だが、巨大魚にそういった様子は見られない。こうしているうちにもメイプルが安全に浮上できるよう余裕を持たせていた酸素は減っていく。こういう状況を鑑みて余裕ある探索をしていたことが3人を救っている形ではあるが、状況が悪くなっているのが現状であり喜ばしいことではない。

 

「なかなか離れないね」

 

「こうなったら酸素に余裕がある俺が引きつけてその隙に2人だけでも……」

 

「ダメよ。アンタ1人だけを置いていくわけにはいかないからね」

 

「ねぇねぇ2人共」

 

「何か思いついた?」

 

「一回完全に見えなくなったら諦めてくれないかな?」

 

「なるほど、その可能性はあるかもな」

 

「ほら!シロップの【大地の揺籠】!」

 

3人は今、亀裂の底まで辿り着いている。八層では珍しく、ここなら立っている地面に潜りこむこのスキルを使うことができる。

 

「確かに試してみてもいいかも。駄目だったらそれはそれで。ここでの探索でどうしても使いたいスキルってわけでもないし」

 

どのみち今回はここで撤退なため、使えるスキルは使ってしまっても問題ないのだ。

 

「分かった!シロップ【覚醒】【大地の揺籠】!」

 

スキルの宣言と同時に3人は地面の中へと潜り込む。これで巨大魚からの視線は完全に切ることができたが、スキルの効果が切れるまではどうなっているかは分からない。

 

「上手くいったかな?」

 

「どうだろう。そうだと助かるけど」

 

「うーん。地面の中だと【ヘッドソナー】の効果が反映されないせいか俺にもわからないな」

 

少ししてスキルの効果が終了し、3人は水中へと放り出される。元々いた通りの位置に飛び出した3人が岩に身を寄せて、どうなったかと巨大魚を確認する。すると、そこには変わらず暗闇の中に浮かぶ黄色い光が見えていた。

 

「うぅー、駄目かあ」

 

「時間経過でいなくなる感じだな」

 

「メイプル、あとどれくらい酸素は持つ?」

 

「結構減ってたから、えーっと……あれ?」

 

「どうかした?」

 

「回復してるよサリー!」

 

「えっ、本当に?」

 

「マジで?」

 

2人がメイプルの酸素を確認すると、本当に酸素が全回復していることが分かる。それを見てもしかしてと自分の酸素も確認する。

 

「私も回復してる」

 

「右に同じだ」

 

「そうなの?」

 

「……あそこ、水の外なのかな」

 

「そうっぽいな」

 

心当たりがあるとすれば地面の中に潜り込んだことである。地に足をつけた上でこのスキルを発動したくなる場面がなかったため知らなかったが、むしろ可能性はそれしかない。

 

「これならまだ行けるな」

 

「計算外だけど、嬉しい誤算なら大歓迎。じゃあもうちょっと様子を見ようか」

 

「そうしよ!」

 

3人の酸素問題が解決したため、もうしばらくここで様子を見ていても構わなくなったのだ。

それならばと警戒が解けるまでじっとその場で巨大魚の様子を見ていると光が青に戻り元通りの周回へと戻っていく。

 

「おおー!」

 

「行ったね。ふぅ……諦めてくれたみたい」

 

「探索再開だな」

 

「酸素も回復したし、もう1回来るのも手間だからね。行けるところまで行こう」

 

こうして3人は偶然の酸素回復を経てさらに先へと進んでいく。

 

岩石の森を抜けた先、砂の積もった水底で岩陰に隠れて、先ほどまでうろついていた巨大魚がこちらまで来ていないかを警戒するが、どうやらテリトリーはあの岩石地帯までのようでしばらく待ってみてもあの青い光が見えることはなかった。

 

「ふぅ、これならこないかな」

 

「見つかったらどうなったんだろう?」

 

「わからないな。まぁ、良くないことが起きるとは思うけど」

 

「気になるならしばらくしてから一緒にそこの情報を見てみる?誰かは見つかって何があったか書いてたりするかも」

 

「なるほど」

 

「自分で見つけるのも良いし、他の皆にどんなことがあったか見たりするのもそれはそれで面白いからな」

 

「今度そんな感じで見てみようかな?」

 

メイプルが情報を見る時は必要なスキルがどうしたら手に入るかや、どこにあるのかをさくっと調べるだけでそれ以外のものは見ていない。

 

「楽しみ方はいくつもあるからさ」

 

「じゃあ最初は詳しそうな2人に教えてもらおっと」

 

「なら、予想外なことが発生するイベントとかダンジョンについて探しておくよ」

 

未知の脅威がとりあえず去ったこともあり、3人は和やかな雰囲気で暗い水の中、ヘッドライトに照らされた砂地を歩いていく。

 

「さっきと違って開けてるしここなら何があった時見逃しにくいかな」

 

奇襲されにくい環境でもあるため、メイプル以外の2人もイベント探しに集中できる。であれば、ヘッドライトの届く範囲のものを見逃してしまう可能性は低い。

 

「特に何もないっぽい?」

 

「そうだな。見逃しも無いはず……?」

 

「セイバー?」

 

地面を歩いていたセイバーは足先に僅かな揺れを感じて立ち止まると、少ししてそれに気づいた2人が振り返る。

 

「どうかし……わぁっ!?」

 

「これは……」

 

直後メイプルを飲み込むように砂が巻き上がり、左側からウツボなどに似た長い体の魚が姿を表す。

 

「何もないってことはなかったか……!」

 

「流石に出てくるよな」

 

「だーいじょーぶ!ダメージはないよ!」

 

「おっけー!でもこれ、来るよ!」

 

「戦うしか無さそうだ」

 

真上へ泳いでいったウツボに噛みつかれたままのメイプルの場所をヘッドライトの光で把握して。暗闇の中に声をかける。

直後あちこちから砂が舞い上がり3人程度なら軽く丸呑みにできるような巨大ウツボが大量に現れる。

 

「まったく……全部スケールが大きいんだけど」

 

「ここは多数を同時に相手取るしか無いだろうな」

 

メイプルとは距離が離れているため3分の1ほどは上に、残りは2人の方へと向かってくる。暗闇で正確に数は把握できないものの、全方向から迫って来ていることは分かった。

 

「ついて来れるものなら!」

 

「俺はここで迎え撃つぜ」

 

セイバーは向かってくるウツボ達を前に武器を槍から小回りの効く剣へと形を変えて迫ってくる個体から次々と斬り裂いていく。その火力はサリーのそれを上回り、ウツボ達は一撃受けるだけでもかなりHPを持っていかれるようであった。しかし、次々とやられる仲間を見てウツボ達も考えたのか、タイミングを合わせて一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 

「おっと、流石にそれをもらうのは不味いかな。けど、【界時抹消】!」

 

セイバーは【界時抹消】を使ってウツボの背後に移動。それから界時ソードを界時スピアへと変更させる。

 

「【再界時】。うらあっ!」

 

その後、元の空間に戻ると何が起こったのか理解が追いついていないウツボ達を後ろから薙ぎ払った。ダメージを受けてからようやく状況を理解したのかウツボ達はセイバーへと攻撃を再開するも、それでもセイバーを崩すことができずにただ一方的に槍による突きや薙ぎ払いを受けていく。

 

 

一方で、水中を泳ぐサリーはというと、集中力を高めて迫り来るウツボの大きな口をギリギリで回避する。ウツボ達に噛みつかれればひとたまりもないが、躱してしまえばその巨体が隙を生む。

 

「はあっ!」

 

自由に上下に動きやすい水中であることを生かしてサリーは口元から体の端までを側面を沿うようにしてダガーで切り裂いて抜けていく。

 

「相当効いたでしょ……次!」

 

サリーに対して攻撃を仕掛ける度その長い体に2本の赤いラインが入りダメージエフェクトが弾ける。

 

「数は多いけど、それ頼りで大振りだし怖くない!」

 

サリーとセイバーがウツボ達を相手していると、暗闇を裂いて深紅のレーザーが大量に地面へと降り注ぐ。

 

「海の中でも雨は降るんだね……レーザーのだけど」

 

「あの雨が敵からのじゃなくて良かったよ。俺は回避できるか微妙だし」

 

ウツボが高い位置までメイプルを持ち上げてしまったがためにメイプルが地の利を得てしまったのである。地面に向けて放たれるレーザーが上でメイプルに群がっているウツボを焼きながら下まで飛んできたのだ。

途切れることなく続くレーザーの雨はウツボの全身を焼き焦がしダメージを与え続ける。

 

味方である2人以外のこの領域内の生物は許容できるものではないダメージにさらされ続けるのだ。

 

「これなら避けてるだけでも十分だけどっ!」

 

「少しは相手を削りますか」

 

メイプルにこの場を任せてもこのウツボくらいなら倒し切ってくれるだろうが、【機械神】の兵器も有限だ。この先がどうなるかもわからないため、2人がサボらずにダメージを出すことには意味がある。

肝心の時に弾切れでは困るのだ。

2人は斬りつけてダメージを蓄積させ、メイプルは空から広範囲に無差別攻撃をして襲ってきているウツボ達の総HPをどんどんと削っていく。

数が減るのにこそ時間はかかるが、それはたいした問題ではない。

 

 

そうしてしばらくするとレーザーに多く被弾した個体から順にHPが尽き、光となって爆散し始める。特定の個体を狙って攻撃していた訳ではないためHPは概ね均等であり、1体の死を皮切りにウツボは次々とその命を散らせていく。

暗闇を死亡時の光が照らす中、かなり上にあったメイプルのヘッドライトの光の位置が下がってくる。

 

「お帰り。ナイスダメージ」

 

「取り敢えずお疲れ様」

 

「結構当たっててよかったー。ちゃんと見えてなかったから不安だったよー」

 

「体が大きかったのがこっちに有利に働いたね」

 

「うん!わぁ……流石にあんなに倒したらすごいね」

 

「相手が巨大だったことと数が多かったこともあるし、まだエフェクトが残ってるな」

 

「マリンスノーみたい」

 

「あ、それ聞いたことあるかも!」

 

「流石に本物はこんなのじゃないけどな?」

 

「もう出てこないよね?」

 

「この辺りにはいないんじゃないかな。全部飛び出てきた感じだったし」

 

「いても俺達の相手にはならないでしょ」

 

サリーの予想通り、いるだけ全て襲いかかってきていたようでその脅威を排除した今、当分は静けさが約束されているようである。

 

「この辺はまだ何かある感じじゃないし、もう少し行ってみよう」

 

「何か沈んでないかなぁ」

 

「気をつけて探す他ないね」

 

「頑張ろうな」

 

メイプルが左右を都度確認して何かものが転がっていないかを確かめながら2人の前を進んでいくのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとキューブ

相変わらず景色の一切変わらない水中を進む3人は、途中で酸素が回復したこともあり、初期想定よりもかなり広い範囲を探索していた。

 

「どれくらい泳いだかなあ?」

 

「マップで確認するとちょうど亀裂の真ん中に差し掛かる辺りかな」

 

「ほぼまっすぐ進んでるから端の方とか逆側の壁際とか、調べられてないところは多いけどね」

 

潜ってみるまでは分からないことだったが、水底は何種類かの地形がつなぎ合わされてできあがっており、3人が通過した岩石エリアや砂地エリアのように特徴の異なる場所があるわけだ。

 

「砂地の所はさっきみたいな奇襲メインのエリアっぽいし、目的のものがあるなら別の場所かなあ」

 

「砂ばっかりだもんね」

 

「埋まってる可能性もゼロじゃないけど、それだと探せないしな」

 

何の目印も確証もなくこの広い砂地を掘って回るのは流石に良くない。ないことを証明することは難しく、キリがないからだ。

 

「モンスターは何とかなるよ!」

 

「タネがわかれば下からの奇襲も怖くないし、経験値とかドロップ品が欲しいわけでもないしね」

 

「酸素の制限もあるからな」

 

砂地エリアに用はないと、3人は足下から飛び出してくるモンスターを撃退しながら砂地が終わる所までやってきた。少し先を照らすヘッドライトは今度はまた岩石らしい硬い地面を浮かび上がらせている。

 

「また岩っぽい?」

 

「マップから見るに間違って引き返してはないから場所は別だね。それにほら、さっきみたいな背の高い岩はないし」

 

「本当だ。そうだね」

 

「隠れにくくなってるし、さっきのウツボとかもきっとここにはいないだろ」

 

「そもそも難易度が上がったんだって言われたら別だけど」

 

「ここだと隠れる場所少なくて大変そう……」

 

「ま、慎重に進もうか。また酸素が減っていくし」

 

「そうだ!のんびりしてたら探索できなくなっちゃう!」

 

過剰に警戒していても仕方ないので3人は新たなエリアを泳いでいく。するとゴツゴツとした岩の他に、ボロボロになってしまってはいるものの、石レンガらしき物が転がっているのを発見した。

 

「2人共、どうどう!?」

 

「水に沈んだ何がありそうだね。この辺りの探索に時間をかけない?移動が長くなっても得る物少なそうだし」

 

「そうだな」

 

「まだここにどんなモンスターがいるか分からないからメイプルの隣に居させてもらうね」

 

「いいよ!頑張って守るから!」

 

「俺はその近くで護衛かな。サリーと違って一撃では死なないし」

 

3人がさらなる手がかりはないものかと探索を進めると、かつての人の痕跡をいくつも見つけることができた。ボロボロにこそなっているものの元が頑丈な素材でできているものは痕跡として分かるくらいにはその形を止めている。

 

「こっちにもあるよ2人共!」

 

「落ちている数も増えてきたし、ちゃんとこのエリアの中心部に近づけてるってことだと思う」

 

順調なのは良いことである。そうしてあっちにもこっちにもと泳いでいるメイプルだったが、ふと前方へヘッドライトを向けた時ついにその場所は暗闇の中に浮かび上がった。

 

「家があるよ!」

 

「ボロボロだけど……確かに建物だね。町、かな?」

 

「ここは元々町だったって感じかな」

 

そこはかつての町の入り口だった。ライトの向きを変えて様子を見るとほとんどの建物は倒壊しており、そうだと分かる形が残っているのは少数である。ただ、積み重なった瓦礫の量はこの町の規模が中々に大きかったことを伝えている。

 

「入ろう!」

 

「モンスターの気配も無いしな」

 

ここまで来て中へ入らない理由はない。砂地エリアと比べて物陰が多くなるため、また奇襲には気をつけたうえで町の中を泳いでいく。

 

「入れそうな建物あるかな?」

 

「瓦礫の下は探せないだろうし、そっちが本命になるな」

 

「ふふふ、遺跡探索も慣れたものだよ!」

 

「ええー?本当かなあ?」

 

「ど、どうかな?でも、結構やったからね!」

 

「この層に来て、今までとは比べ物にならないくらい探索してるから何かありそうな雰囲気とかわかるかもな」

 

メイプルの直感の向くままに回ってみればいいと、2人は探索を一任する。

メイプルもやる気十分なようでまず近くの建物の中へと入っていく。

扉も家具も、何なら屋根すらない家の跡を確認するが、中には特に何も見当たらない。

ほとんどのものはこの大量の水が滅茶苦茶にしてしまったことが察せられる。

 

「むぅ、何もないかあ」

 

「次だね」

 

「うん、どんどん行こー!」

 

少し試して見つからなくとも、もう諦めることはない。切り上げるのは探して探して、それでもなかった時である。

元気に前をいくメイプルの後をついて2人も何か見落としがないかを確認する。

せっかくここまで潜ってきたのだから、何かを持ち帰りたいものである。メイプルのためにも、もちろん自分達のためにも。

 

それから3人は泳ぎまわっていたもののどうやらモンスターはいないようで、それならばと少し距離を空けて3人で効率よく探索を進める。もちろんヘッドライトの光が見えたり声がちゃんと届いたりする距離感は保ってである。

 

「メイプルー!何かあったー?」

 

「あったかもー!」

 

「そう、あった……」

 

「あったのか……って」

 

「「あった!?」」

 

さらっと返ってきた言葉をそのまま流しそうになった2人だが、ヘッドライトの光を目印にメイプルの方へと向かう。

 

「で、何があったの?」

 

「あ、2人共これこれ!」

 

「これは……石碑?」

 

「だよな。ただの石じゃなさそうだし」

 

近くの建物の瓦礫が雪崩れ落ちてきて、それに巻き込まれた状態になっている石碑は周りの水と同じような暗い暗い黒色をしていて、周りの瓦礫に見られる石や鉄などとは違った雰囲気を感じさせる。

 

「で、何か書いてあるんだね……これは」

 

「多分文字なんだけど……」

 

瓦礫によって削られたのか全て完璧に残っているわけではないが、黒い石碑の表面にはカナデにほんの少し教わったもののような文字が並んでいる。

 

「2人共読める?」

 

「いや、まあ……ちょっとは。ほとんど分からないけど」

 

「俺も断片的にしか読めない」

 

「私もあの時教えてもらっただけだし……うぅ、授業の回数が……」

 

3人とも頭が悪いわけでないが、いきなり未知の言語を覚えるのは無理がある。

そんなことができるのはそれこそカナデくらいだろう。

 

「「「…………」」」

 

3人は顔を見合わせると、これしかできることはないと、ウィンドウを開いてメッセージを打ち始める。少し待つとメッセージの送り先であるカナデから返信が届いた。

 

『面白いもの、見つけたみたいだね。まだまだ読むのは難しいだろうから手を貸すよ。所々欠けているから補って翻訳しよう。町の中央に何かがあるみたいだね。大事なものらしくて封印されて厳重に守られているんだって。行ってみたら?探索の楽しい話を期待してるよ』

 

「返事が早くて助かる……なるほど封印か」

 

「何があるんだろう?」

 

「変なものじゃないよな?」

 

封印されている物が何かによっては戦闘もありうる。となれば酸素がどれだけ残っているかは重要になってくる。

 

「メイプル、戦えそう?」

 

「スキルはバッチリ残ってるよ!酸素も何とかなると思う!」

 

「なら、早速中心まで行こうか。カナデにはお礼を言ってから、よし」

 

目的地も定まったため、町の中央へ向かって進路を変える。周りの探索も一旦後回しだ。

元々町の中へ結構入り込んでいたこともあって、中央と思しき場所にはすぐに辿り着いた。

 

「あれかな?」

 

「恐らく」

 

「これはまた怪しそうな建物だな」

 

そこには同じく黒い石材によって作られた建物があった。ただし、厳重に塞がれていたのは石碑が作られたときと同じ遥か昔のことだったようで、この水が溢れ出た際に破壊されたのか、入り口の扉は歪んで外れる寸前になっており、扉としての役割を果たしていない。これなら隙間から中へ入り様子を確認することもできるだろう。

 

「外観からして特に中が広いってこともなさそうだし入ろうか」

 

「この辺りのモンスターおっきいしあんなちっちゃいところ入らないよね」

 

「待ち構えている様子でも無さそうだしな」

 

3人は中へ入ってみると予想通り、特に何かがいるわけではなく、中は静寂に包まれていた。

奥行も5.6メートルといったところで、トラップらしきものも見当たらない。

壁伝いにぐるっと中を見たもののあるのは1つの台座とそこに書かれた文字だけだった。

 

「……うわ」

 

「くぅ、助けてカナデー!」

 

「こんなの読めるか!!」

 

今から臨時授業ではどう足掻いても間に合わないため、先生そのものを呼び出す他ない。カナデとしても文字が使われているのが一箇所だけではないことが予想できていたため、もうしばらく3人から追加で何かメッセージが来ることもあるだろうと思っていたので返信は直ぐに帰ってきた。

 

「えーっと、それぞれの壁に対応する属性の魔法を当てる?だって!」

 

「これそんなこと書いてあるんだ……ここは私がやるよ。メイプルはそういう魔法は持ってないし」

 

「俺がやっても良いけどわざわざ聖剣入れ替えるの面倒だしな」

 

メイプルは毒の魔法しかまともに使えないため、このギミックをどうにかすることはできない。セイバーも本人が言う通り聖剣を入れ替えれば条件は満たせるだろうが、今回はサリーがいるため、そんなことは考えなくてもいい。

サリーなら装備を入れ替えずともどの魔法も問題なく使用できる。ギミックを解くためには十分だ。

 

「【ファイアボール】!」

 

サリーは魔法を準備すると壁に向かって放つ。それは壁に直撃すると同時に弾けて消滅し、代わりに赤い魔法陣が浮かび上がってくる。

 

「おおー!成功したんじゃない?」

 

「あからさまに光ってるしな」

 

「だね。他もやってみよう」

 

サリーは残りの壁にも魔法を放っていく。どの壁にどの属性が対応するかはカナデのお陰で解読済みなため迷うことはない。

そうして、全ての壁に魔法陣が浮かび上がると目の前の黒い台座に亀裂が入り青い光を放ちながら2つに分かれていき、中央に弾ける球体を生成した。バチバチと電気のように弾ける光は強いエネルギーを感じさせるが、現状それ以上のことは起こらないようだ。

 

「……何も起きないか。触ってみる?」

 

「でもすっごいバチバチしてるよ……?」

 

「念の為に【ピアーズガード】だけ発動させておいて」

 

「私も咄嗟に回復できるようにしておくから」

 

「分かった!やってみる!」

 

【不屈の守護者】が残っているため、どんなに悪いケースでも離脱までに倒されてしまうことはないだろう。

メイプルは宣言通りスキルを発動させると、その球に触れてみる。その直後、地面に同色の魔法陣が展開され3人の足元から強烈な光が迸る。

 

「か、【カバー】!」

 

メイプルが咄嗟に2人を守ると同時、3人は光に飲み込まれて消えていき、光が収まるとどことも分からない暗闇に放り出されていた。

 

「よかったー、いつもと雰囲気違ったから……」

 

「んー、昔の町の転移はあれが普通だったんじゃない?」

 

「目に悪いからもうやりたくないな」

 

「……ここも暗くて何も見えないけど、水はないみたいだね」

 

「あっ、ほんとだ!」

 

手足を動かしてみても水の中にいる感覚はない。試しに飛び上がってみると、地上にいる時のように落下する感覚があった。

 

「なら潜水服はいらないな」

 

「視界も多少制限されるからね。それが良いね」

 

3人は潜水服を脱ぐと、改めて暗闇をヘッドライトで確認する。

 

「ちゃんと床だな。さっきの石でできてる」

 

「何処かの中なのかな?空も見えないし」

 

空気はあるものの、上を見ても星1つ見えない。床が人工的なものなら、洞窟などというよりは建物の中の可能性が高くなる。

 

「壁にぶつかるまで歩いてみない?そうすれば広さが分かるかも!」

 

「いい提案だね。そうしよう。今のところ静かだし、何かが出てくる前に自分達の周りを把握しておくのは大事」

 

3人は一旦後ろへと下がっていく。これはこれまでボスと向かい合うように転移することが多かったことを鑑みて、それとは逆方向へ進む作戦である。すると、元いた位置の後ろ側はすぐに壁になっていた。黒い石で作られた頑丈そうな壁に扉はなく、出られるようにはなっていない。

 

「部屋の端に転移したみたいだね。じゃあ逆は……」

 

「何かいるかも?」

 

「だな。これは多分ボスが出そうな気がする」

 

「そうだよね!気をつけないと……」

 

即座に襲いかかってきてはいないが、奥に何かがいる可能性は十分ある。かなり広そうなこの場所は今まで何度も突入してきたボス部屋の形によく似ている。どんなものであれ敵ならばできることならこちらの準備が整うまでは待っていて欲しいものだ。3人は今度は横に歩いてこの空間の幅を確かめに向かう。変わらず無音の暗闇に足音が響く中、また特に中かが起こることもなく3人は壁まで辿り着いた。

 

「広いね」

 

「えっと、広いってことは……」

 

「ボスが大型の可能性があるかな」

 

基本的に部屋のサイズはボスのサイズに左右される。部屋の大きさが合っていないと動きを阻害してしまうため当然と言えるだろう。

さらに今回は水中でないため、ボスのパターンも多く事前情報もない今、予想するのは難しい。

その姿を見て、印象から能力を予想するぶっつけ本番での戦闘になるだろう。

 

「逆も探索したら前だね!」

 

「いつ何がきてもいいように準備しておこう」

 

「備えあれば憂いなしだな」

 

3人は逆側の壁まで歩いていき、そちら側にも何もないことを確認すると、中央辺りまで戻って正面に向き直る。

 

「行くよ?」

 

「いつでもおっけー!準備万端!」

 

3人は最大限警戒しつつ、前方へと進んでいく。すると、3人に反応したのか次第に部屋が明るくなっていき、その全貌が明らかになる。

3人が歩いていたのは予想通り部屋の端であり、正面に向かって数十メートルの奥行きが確保されている。

半分を越えた辺りから、壁際にはクリスタルや岩石、既に八層では見られなくなった植物など、素材と思われるものが大量に並んでいる。

 

「これは倉庫なのか?」

 

「それにしては結構雑に入れられてるけど……あれが一番目立ってるかな?」

 

「あれだね!」

 

メイプルが指差した先には一辺が2メートルほどある黒い立方体だった。

それは未知の力によって空中に浮かんでおり、雑多に転がっている他の素材とは雰囲気が違う。

 

「ちょっと前に水中で見たのに似てるかも?」

 

「ああいうタイプのモンスターなら攻撃方法も限られるし。やってくることも本当に似てるかもね」

 

「それならやりやすいんだけど」

 

水中にいたタイプは水を生かしての攻撃だったが、今回ここに水はない。さてどう攻撃してくるかともう一歩近づいたところで黒いキューブに反応があった。表面に複雑な青いラインが入り、ここへ入ってきた時のようにそのボディが半分に割れていく。

 

「来るよ!」

 

「うん!」

 

「楽しませてくれよな」

 

どんな魔法が飛んでくるかと構える3人の前で、ガバッと一気に開いたキューブの間から同じ素材でできた石柱が何本も現れる。

それはまとまってゆっくりと回転し始めると、バチバチと音を立ててエネルギーを溜め、大量の光弾として一気に解放した。

 

「が、ガトリング!?」

 

「【カバー】!」

 

メイプルは2人の前に立つと盾を後ろに隠して光弾を体で受け止める。ダメージはないものの、弾けるエフェクトによって前も見えないほどだ。メイプルの兵器をも上回る発射速度は、本来避けきれなければ一瞬で蜂の巣になるようなものである。

 

「面白い攻撃をするな」

 

「思ってるのとちょっと違うよサリー!」

 

「もっと神秘的なものだと思ったけど……!」

 

発射されているものと発射元が通常の銃などとは異なるため、弾切れが起こるのかどうかも不明である。

 

「……もうちょっと観察させて!」

 

「分かった!ダメージも受けてないし大丈夫!」

 

「こういう時のメイプルは無敵だからな」

 

真剣な目でキューブの放つ光弾をじっと見つめること数分、サリーはこれでもう問題ないと小さく頷く。

 

「大丈夫、避けられる。引きつけるからその隙に撃ち返してやってよ。ついでにセイバーも攻撃に参加して」

 

「わかった」

 

「まっかせて!」

 

避けられると言うなら、2人がそれを疑うことはない。

 

「【クイックチェンジ】……じゃあ行くね!」

 

「頑張って!」

 

「こっちは出来る限り攻撃を相殺する!【魚群】!」

 

メイプルの後ろから飛び出したサリーがキューブに向かって接近していく。3人はどちらもまだ攻撃していないこともあって、より近くまで来たサリーへと攻撃の矛先が向く。セイバーが魚を召喚して光弾を出来る限り相殺し、サリーへと向けられる数を減らしていく。そのため、サリーはいつもより楽に攻撃を躱していた。

 

「【水の道】!」

 

空中に浮かんでいるため、直接攻撃を叩き込むのは水中よりも難しい。そこで、サリーはやっと使い所ができたと水流の中を高速で泳ぎ接近する。

水がないなら生み出せばいいのだ。

 

「【ピンポイントアタック】!」

 

すれ違いざまに貫くように短剣を突き出すと、キューブの表面の青いラインが明滅し表面にシールドが展開される。

 

「貫く!」

 

サリーはスキルの動作のままシールドへ短剣を突き刺す。それは一瞬シールドに反応してバチッと音を立てるものの問題なくキューブまで届きそのHPを削る。

 

「防がれた……のとはまた違う?」

 

何か言い表せない違和感を覚えるが確認のために立ち止まってはいられない。

動き続けることがガトリング回避の絶対条件である。最高速を維持しなければ、計算通りに避け切ることはできないのだ。

 

「【攻撃開始】!」

 

「【オーシャンカッター】!」

 

一撃を加えて水に乗って離れるサリーの代わりにセイバーの斬撃とメイプルの銃撃が飛んでくる。キューブの放つガトリングに発射速度は劣るものの、攻撃範囲はこちらが上である。ほとんど動かないキューブではこの範囲から逃れることはできず、先程のお返しとばかりに正面から大量の斬撃と弾丸が襲いかかる。

それはサリーの攻撃時と同じように薄い壁に接触しバチバチと音を立てたのちキューブの表面を傷つけていく。

 

「効いてるね!」

 

「いいダメージ、だけど……」

 

「これは、何かのゲージか?」

 

2人が攻撃を浴びせたことにより、セイバーとサリーはキューブに起こっている変化に気がついた。HPバーの下には1本の見たことのないゲージがあり、攻撃に反応してそれが少しずつ増えているのである。

 

「2人共!あのゲージ見える?」

 

「えっと……うん!見えた!」

 

「俺は元から見えてるよ」

 

「ダメージ受ける度に溜まってる!気をつけてて!」

 

「分かった!」

 

「絶対何かの攻撃がくるでしょアレ」

 

それが何を表すゲージか分からない以上警戒することしかできない。溜まりきることで有利になるか不利になるかは不明だが、HPをなくすことが目的となるボス戦の性質から、溜まらないように立ち回ることは不可能と言えた。

ならば、相手がやってくることを全て正面から受け止めて勝ち切るほかない。幸い、3人の能力はそういった場面に適している。

 

 

見た目通り硬いキューブはセイバーとメイプルの攻撃によってダメージを受けているもののまだまだ倒れそうにない。水中で出会った個体と見た目こそ似ていてもボスと中ボスでは格が違うというわけだ。

 

「そろそろ半分くらいまで溜まる?」

 

キューブの動きをじっと見て次の動きに備えつつ、ガトリングを避けてヒットアンドアウェイを繰り返すサリーは現在最も気掛かりな点である謎のゲージを常にチェックしていた。

そんなサリーだからこそ、いくつものエフェクトが弾け、まさに攻撃されているその最中でもそのゲージがガクッと減少するのに気づくことができた。

 

「メイプル!セイバー!」

 

 

「……!【カバームーブ】【カバー】!」

 

「【界時抹消】、【再界時】!」

 

短い言葉で意思疎通し、サリーの元へ移動した2人にガトリングに加えて2つ左右から閃光と爆風が襲いかかる。

 

「【身捧ぐ慈愛】!」

 

「【海水波】!」

先程までなかった攻撃にメイプルが咄嗟にさらなる防御を行い、セイバーが2人を抱えて一気にその場を離れる。

 

「おお……!いいね、ナイス判断!」

 

「えへへ、っとと、何があったのかな?」

 

「何か本体とは別のキューブが増えてる?」

 

3人がキューブの方を確認すると、小さめのキューブが2つ本体の周りをクルクルと周回している。ボスの中央に並んでいるのが何本もの石柱なのに対し、此方は棘のついたボールのようなものが1つ浮かんでいた。

 

「爆弾かな?さっきの雰囲気的に」

 

爆風の範囲も広く、サリーが避け続けるのには少しリスクが高くなる。

 

「じゃあ、私が守るね!」

 

「助かる。じゃあ私はメイプルの兵器を守るってことで」

 

「私じゃなくて私達。だろ」

 

そう言ってセイバーも前に出る。

 

「それに、多分まだ武器が増えるよ。攻撃を受けた時に獲得するゲージを消費して生成してる」

 

「本当だ!」

 

減っているゲージを見てメイプルも現状を把握する。ボスのHPがなくなるまでにあと何度武器が追加されるか分かったものではない。

ボスの素の防御力が高いのに加え、あのシールドはダメージを減衰させてゲージへと変換している。これらの要素がボスの耐久力を想像以上に高めているのだ。

 

「結構長い勝負になりそう」

 

「水中じゃないから大丈夫!」

 

「だな。これなら時間を気にせずに戦える」

 

自分達に有利なら特に気にする必要はない。2人は別として、メイプルは地上の方が戦いやすいのだ。

 

「ちょっと前に出るから安心していいよ!」

 

「貫通攻撃も現状なさそうだしね」

 

「まだまだ勝負はここからだ」

 

3人は再度戦闘態勢を取ると一旦開いた距離をまた詰めるために、再度ボスの方へと歩き出した。

 

【身捧ぐ慈愛】とによって防御を固め、【救済の残光】も発動して緊急避難の態勢も整えた状態で、ガトリングと爆発をその身で受け止めてサリーが安全に行動できるよう範囲内に収めにいく。

 

「メイプルもゲージは見てて、武器も増えるから分かるとは思うけど」

 

「りょーかいっ!」

 

「界時ソード!」

 

メイプルは射程内までやってくると、巨大なレーザー砲をいくつも生成し、重心を低くすると、その先をキューブの中心へ向ける。当然立ち止まってそんなことをしていればメイプルに向かってガトリングと爆弾が襲いくるが、その間には2人が立ち塞がる。

 

「【鉄砲水】!」

 

「【魚群】!」

 

サリーは地面から大量の水を噴出させて爆弾を跳ね飛ばし、ガトリングはセイバーが生み出した【魚群】で防いでいく。

 

「【攻撃開始】!」

 

メイプルが展開したレーザー砲から赤い光が放たれ、こちらはキューブに直撃する。それに合わせてキューブの下のゲージはまた伸びていき、また一定値までいったところで消費され新たな武器が生み出される。

 

「長い筒だ!」

 

「大砲か何かかな……見た目が似てるから分かんないな」

 

「嫌な予感はするけどな」

 

さてどうなるかと攻撃を続けていると、長い筒からメイプルの額へとポインターのような細い光が伸びてくる。

 

「それスナイパー……!」

 

サリーが何かを言う前に轟音が鳴り響き、回避など不可能なほどの速度でメイプルの頭に弾が着弾し、そのまま遥か向こうまで吹き飛ばす。【身捧ぐ慈愛】と【救済の残光】のスキルエフェクトが切れていないことと、吹き飛ぶ瞬間にダメージエフェクトが発生していなかったこと、単発攻撃であり【不屈の守護者】が残っていることを考慮して、声だけをかけて前方に集中する。

 

「大丈夫なら射撃を再開してくれ」

 

いかに2人でもよそ見をしながら避けられる攻撃ではない。その上で、あれを防げるかどうかはまだまだ残っているボスのHPを削る上で2人が自由に動けるかどうかを決定づけるものだ。【不屈の竜騎士】や【空蝉】が残っている今が試すチャンスである。

 

「サリー、ちょっとごめんね」

 

「……え?」

 

セイバーがそういうとサリーの手を引いて後ろへと跳ぶ。そのタイミングでキューブがスナイパーライフルから轟音と共に空間を切り裂いて弾丸を発射した。そしてそれはサリーに迫る。空中では回避ができない。しかし、セイバーには回避する術がある。

 

「【界時抹消】!」

セイバーはサリーを巻き込んでこのスキルを発動。これにより、2人が特殊空間へと入るとセイバーがサリーを抱き抱えてから迫ってくる弾丸の射線から逃れながらゆっくりと歩いて距離を取った。

 

それからサリーを下ろして空間を元に戻す。

 

「【再界時】」

 

「うわっ!?」

 

セイバーによって強制的に移動させられたため、サリーの体勢が移動前と少し変わった影響で彼女は驚いたが、その代わりに攻撃を上手く躱すことができた。

 

「成功だな」

 

「ちょっとセイバー!いきなりすぎるわよ!!」

 

「躱せたし良いだろ」

 

2人が揉めているとまたガトリングが襲ってきて、2人は再び走り出す。

 

「流石に今のを何回もは無理だからメイプルに任せたいけど……」

 

2人がガトリングの隙を見てチラッとメイプルの様子を確認すると、予想通り無事だったようで、兵器こそバラバラにされ無くなっているもののHPは一切減っていない。

 

「ごめーん2人共!大丈夫だった!?」

 

「うん。そっちこそ、あれが直撃してなんともないのは流石だね」

 

「今度はちゃんと受け止めるからね!」

 

兆候がある分、メイプルもちゃんと準備をすれば受け止められる。【悪食】で飲み込んで全てなかったものとしてもいい、【ヘビーボディ】で止まってもいい。そもそもダメージを受けないのだから最悪からは程遠い。

 

「ガンガン撃って良いよ。それが安全な削り方だし」

 

「おっけー【全武装展開】!【滲み出る混沌】!」

 

「【サイクロンカッター】【ファイアボール】!」

 

「【オーシャンカッター】【オーシャンファング】!」

 

何重にも張られたセーフティーネットの中から一方的に攻撃する3人を傷付ける手段がないままボスのHPは削られていく。対抗策を持たないモンスターでは3人相手になすすべがないのだ。

相性のいい相手はとことん蹂躙する。それがメイプルとサリーの偏った能力が持つ特徴である。ここにオールラウンダーのセイバーも入るからもう手がつけられない。

 

「……一気に2種類増えたよ!」

 

「その2つを警戒!」

 

1つが3人の真上に舞い上がり、もう1つは胴の辺りで停止する。何をしてくるかと警戒していると、新たに増えた装置から部屋の端から端まで届く太いレーザーが放たれた。

 

「わっ!?」

 

「うわっ、動き出した!潜るか飛ぶかで避けるよ!」

 

「そ、そんなこと言われてもー!」

 

「いや、その必要は無い。【界時抹消】!」

 

セイバーがメイプルを巻き込んで【界時抹消】を発動するとメイプルを抱えて移動していき、レーザーを回避。そのままキューブの目の前にまで到達すると【再界時】をして元の空間に戻った。

 

「うえっ!?」

 

「メイプル!」

 

「よくわからなかったけど、【水底への誘い】!」

 

すぐにメイプルは片腕を触手に変化させるとガバっと触手を広げてキューブを包み込む。シールドで軽減してもなお、みずみずしい果物を握りつぶした時のような大量のダメージエフェクトが弾けるように触手の隙間から吹き出す。

 

「またセイバーの【界時抹消】?もう何でもアリね」

 

「もっと……【砲身展開】!」

 

「【大海一刻斬り】!」

 

メイプルはキューブを鷲掴みにしているのとは逆の手を巨大な砲身に変え、そのままゼロ距離でレーザーを放ち、セイバーは界時ソードでの一閃をお見舞いする。赤い光と青い斬撃に混ざってダメージエフェクトが立ち昇りボスのHPが凄まじい勢いで減少するが、同時にとんでもない勢いでゲージが増加し、発生した衝撃が、くっついていたメイプルと近くにいたセイバーを弾き飛ばす。

 

「わっ!?あーっ!もうちょっとだったのに!うわあっ!?」

 

吹き飛ばされたメイプルはそのままガトリングとライフルの追撃を受け、地面近くを焼く移動するレーザーに全身包まれながら一旦離れていたサリーの元へと転がってきた。セイバーも【界時抹消】を使って何とか退避する。

 

「……無事、でいいよね?」

 

「うん!」

 

「元気な返事ありがとう。それはそうとセイバー!アンタまたやったわね!!」

 

「良いだろ別に回避できたんだからよ!!」

 

メイプルが後少しだと言っていただけあり、もう数撃与えられれば倒せそうなものだが、3人が行動を起こすより先に大量に溜まったゲージが消費され今までとは比べ物にならない光が放出される。

それが止まった時。キューブの中央にあったガトリング用の筒はなくなり、その10倍近い太い筒に変わっていた。何も知らないものが見たとしても石柱程度にしか思えないそれが、凄まじい威力を持った大砲であることを3人は理解している。

それは生成と同時にチャージを始め、ボスからはそれを守るように光のシールドが何重にも展開される。

 

「どうする2人共!?」

 

「できるなら撃たせる前に倒し切りたい!けど……」

 

「このタイミングだと【界時抹消】をやって近づけても倒し切る前に撃たれるぞ」

 

威力も範囲も不明、しかし最後の切り札と言える攻撃であるのは間違いない。

撃たせずに終われるならそれに越したことはないが、防御を固めたボスの硬さもまた未知数だ。

今まで通りいなしきって反撃するのも、一気に詰めにいくのも、どちらでも裏目に出るリスクはある。

 

「じゃあさ2人共、これならどう?」

 

 

 

 

 

 

 

メイプルが提案し、2人はそれを聞くとその考えを肯定するように頷いた。

 

「いいよ。じゃあ撃ってくるのを待つ。メイプルのスキルと防御力を信じる」

 

「その代わり、ちゃんと決めろよ」

 

「うん!大丈夫!」

 

メイプルがいるなら攻勢に出たところを突かれ、下手にばらけて守り切れないリスクを生むより固まっていた方が確実だ。

飛び交う全ての攻撃をメイプルの防御力と【身捧ぐ慈愛】によってノーリスクで無力化できている以上、撃ってくる瞬間まで問題なく待機できる。

 

「そろそろ撃って来ると思う!」

 

「準備は良い?」

 

様子を観察していたセイバーとサリーが武器に収束する光が強くなったのを見て発射の兆候を感じ取る。

 

「念のため……【ピアーズガード】【不壊の盾】!」

 

メイプルは直撃した時のためにスキルを発動し、触手を解除し大盾を構える。それからほんの少しして、発射準備が整ったことを示す高い音が響き、轟音と共に部屋のほとんどを放たれた白い光が覆い尽くした。

 

 

 

それは一瞬のことで、全てが焼き払われた地面に3人の姿はなく、溢れかえる水だけが残っていた。しかしそれが意味するのは3人が倒されたことでも、この部屋が壊れて水が溢れたことでもない。

 

「タイミング完璧!」

 

「えへへ、上手くいったね!」

 

「ナイスすぎるぜ!メイプル!!」

 

3人がいたのはボスの真上。【方舟】によって転移する瞬間をレーザーに合わせることでダメージを受けることなく、攻撃をすり抜けたのである。

メイプルが言った念のためは、これが失敗した時の保険だったのだ。

大技と引き換えに、常にこちらを狙っていたガトリングも消え他の武装もすぐにはこちらに攻撃できない。目の前にあるのは絶好の攻撃チャンスだ。

 

「2人共、いくよ!」

 

「おっけー!」

 

「任せろ!」

 

「「【砲身展開】!」」

 

「界時スピア!【一時一閃】!」

 

メイプルとサリーの片腕がそれぞれ巨大なレーザー砲に変わり、その砲口は真下のキューブをしっかりと捉える。セイバーも界時を槍へと変更して必殺の一撃をチャージする。相手が切り札を切るならこちらも合わせるとばかりにサリーも【虚実反転】で攻撃を実体化させる。

 

「「【攻撃開始】!」」

 

「うぉりゃああ!!」

 

こうして2人が放ったレーザーとセイバーの放った水の斬撃波は混ざり合って、先程放たれたものにも劣らない力でボスのシールドを破壊し、その体を焼いて動きを完全に停止させるのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとロストレガシー

ボスを倒して自由落下していく中、サリーは姿勢を整えるとメイプルを抱き上げ、空中に足場を作って地面まで降りていく。それと同時にセイバーも着地し、2人の元へと行った。

 

「よっ、と!」

 

「ありがとサリー。セイバーも」

 

「うん、お疲れ様。さて……ちょっと変だね」

 

「なーんかまだ終わってないっぽいぞ」

 

「えっ?……あっ!さっきのボスまだ残ってる!」

 

いつもならモンスターは光になって消えていくのだが、先程動きを停止させたキューブはまだその場に残り、今は落下して様々な素材の山に埋もれている。

 

「調べられそうなところ多いし、確認してみよう。もう一回来るのも手間だし、そもそも来られるとも限らないし」

 

「そうだね」

 

「出たらまた最初からやり直しとか嫌だしな」

 

通常フィールドでない場所は侵入に特殊な条件が設定されていることがほとんどだ。再現したつもりでも認識していない条件のせいで同じ場所へ来れないこともザラであるため、探索は心残りのないように行う必要がある。

3人は本命は後にして、周りに転がっている大量のガラクタの中に持ち帰ることができるものはないかと漁ってみる。

 

「んー、2人共、何かありそう?」

 

「ないかもー!特に見つかってないよー!」

 

「こっちも無いよ。ただ、これを全部探しているとキリがないでしょ」

 

あらかた調べたものの、結局特にインベントリに入るようなアイテムは存在しなかった。ただ、ないと分かったなら、改めて目の前のボス本体に集中できるというものである。

 

「また動き出さないかな……?」

 

「流石にないと思うけど、ほら入って来た辺りに魔法陣出てるし」

 

「なら安心だな。いつでも帰れるわけだし」

 

ボスは最初の立方体の形ではなく、戦闘中の時のように中央でパッカリと綺麗に2つに割れてしまっている。

 

「あれ出してみてよ。反応あるかも」

 

「うん!似てるもんね!」

 

「あれってもしかして『ロストレガシー』?」

 

「そうそう」

 

メイプルはインベントリから『ロストレガシー』を取り出す。手のひらサイズの黒い立方体はボスのミニチュア版といった感じで、見た目はほとんど変わらない。

 

「近づけてみるね……わっ!?」

 

メイプルが近くにアイテムを持っていくと、『ロストレガシー』の表面に青い筋がいくつも入り、バチンと音を立てて、衝撃と共にメイプルの手からこぼれ落ちる。メイプルが拾い上げようと手を伸ばしたところで、ボスだった巨大な立方体が呼応するように音を立て始めた。

 

「「メイプル!」」

 

2人が危険を察知してメイプルを下がらせた直後。間に転がっていった『ロストレガシー』を挟み込んで、2つに分かれていたパーツが一体化する。

 

「ありがとう、挟まれちゃうところだった」

 

「一応警戒しておこう」

 

「それが良さそうだな」

 

ボスだったものが再度動いているところを目撃したわけで、もう一度戦闘が始まる可能性も否定できない。事実3人はそういったダンジョンを攻略したこともあるのだ。

しかし、その心配は杞憂だったようで、立方体は強い光を放ちながら小さく小さく縮んでいき、結局飲み込まれた『ロストレガシー』のサイズになってしまった。

 

「飲み込んだ……というより飲み込まれたのかな?」

 

「融合?合体?かな」

 

「それが近いかも」

 

強烈な発光も収まったため、メイプルはそれを拾い上げて確認する。

するとアイテム名こそ変わっていないものの、スキルが1つ追加され、アイテムから装飾品に種別が変更されていた。

 

「装備できるようになってる!」

 

「やっぱ装備するタイプだったな」

 

「おおーいいね。装飾品は枠がキツいけど……どんな感じ?」

 

メイプルはウインドウを開いたまま他の2人が確認できるように少しずれて一緒に効果文を読む。

 

 

『ロストレガシー』

【古代兵器】

所有者が攻撃した時、攻撃を受けた時に追加でエネルギーを取得する。

エネルギーを消費することで形態を変化させ武器として扱うことが可能になる。

一定時間エネルギーを獲得しなかった場合、エネルギーは時間経過で徐々に減少する。

 

 

「さっきのボスがやってたやつかな?MPでもなくてエネルギーっていうのを消費するみたいだし」

 

「これならメイプルの弱点であるMPの低さも気にならないな」

 

「付けてみよっか?」

 

「そうだね。見てみた方が分かりやすいかな」

 

メイプルは装飾品の指輪を1つ外すと代わりに『ロストレガシー』を装備する。すると黒をベースに青いラインの入った怪しげなキューブが一つメイプルの近くに浮かんでついてくる。

 

「適当に攻撃してみて」

 

「【砲身展開】【攻撃開始】!」

 

メイプルは誰もいないところに銃弾をばら撒くがエネルギーのゲージは一向に伸びていかない。

 

「あれれ?」

 

「空撃ちはダメみたいだな。攻撃を受ける方を見てみよう」

 

「じゃあ爆弾で!」

 

メイプルは足元に爆弾を並べると躊躇なく着火する。それは少しして大爆発を起こしメイプルは爆炎に包まれる。

当然ダメージなどないことが分かっているが故の動きだが、2人も一瞬真顔になるというものだ。

 

「サリー!ちゃんと増えたよ!減っていってるけど!」

 

「基本は戦闘中に使う感じなのかな。攻撃して増やすのが普通の使い方だと思う。爆弾で下準備する選択肢があるのはメイプルくらいだろうし……」

 

「そもそもメイプルの耐久性が無ければ爆弾で自発的に増やすのは無理だしな」

 

攻撃を受けた時にゲージが増えるのは確かだが、そちらを中心に運用するものでないのはなんとなく察せられる。

メイプルは溜まったゲージを消費して、早速スキルを発動してみる。

 

「【古代兵器】!」

 

メイプルがスキルを宣言すると浮かんでいたキューブは一気に2メートル程のサイズとなりバカリと2つに分かれて中からガトリング用の筒が伸びてくる。

 

「武装は増えたけど……」

 

「……撃たないのかな?」

 

「基本自動攻撃なんじゃない?今は対象がいないし」

 

「なるほど、でもよかったー。これ以上銃が増えると持ち切れないから」

 

「そんなことあるものなんだね……」

 

「メイプルって大楯使いだよな?その大楯使いが持ちきれないほどの銃を持っているって絵面的にどうなんだよ」

 

「ま、無事に手に入ったし何よりだね」

 

考えても意味のないことだと、サリーはメイプルの純粋な強化を祝う。手に入ったスキルやアイテムはどれも強く、状況を変えるきっかけになりうるだろう。

 

「これでもっと役に立てるよ!」

 

「いいねー。期待してるぞー」

 

「ふふふ、任せたまえー」

 

「もうこの際考えてもしょうがないか」

 

こうして新たな力を手に入れて、3人はこの場所を後にするのだった。

 

それから月日は過ぎて、セイバー、メイプル、サリーはそれぞれ新しく手に入ったスキルや装備を試しながら八層を楽しんでいた。

 

「界時の扱いには大分慣れてきたな。もう【界時抹消】を乱発してもすぐにはバテないし」

 

「使いすぎてもう体が慣れちゃったでしょ。ホント、アンタが味方で良かったわ」

 

「【古代兵器】をいつでも使えるようにイズさんにいっぱい爆弾作ってもらわないと!」

 

「爆発音がしないのとかエフェクトが小さいのとか作れないかな?ほら、隠れて準備した方が強いでしょ?」

 

「いっぱい爆発させたら気づかれちゃうもんね。あ、後ろに銃を置くのはどうかな?イズさん大砲とか作ってたし」

 

自動で発射される銃の前に立てばそれに撃ってもらうだけでゲージは溜まっていくだろう。

 

「絵面を気にしろ。流石に味方に銃で撃たれながら銃を撃つってのはどうなんだよ」

 

「えぇ〜良いじゃん別に」

 

そんな話をしつつ、3人は小さなボートで揺られながらのんびりと水上を進んでいた。目的としていたスキルも集まり、八層での探索も十分行なったと言えるだろう。

ここからは完全に手がかりなしとなるため、そう簡単には見つからない。だからこそ、無理に探索するのではなく休める時は休むのだ。

 

「あ、そういえば今日は次のアップデートの情報があるらしいよ」

 

「え、そうなの!?」

 

「ああ。てか、もうそろそろだろ」

 

話題に出したところで、ちょうどメッセージが届いたことを示す通知音が鳴って、運営から次のアップデートの情報が伝えられる。

 

「えーっと次は九層だって!早いねー」

 

「潜水服の強化とかあれこれしてるうちに結構時間経ってたしね。まだ探索できてないところもあるけど、それは今までも同じだし……」

 

「また頃合いを見て前の層に戻るのもアリかな」

 

初めの頃に入手したメイプルの【毒竜】や【悪食】、セイバーの烈火や流水はまだまだ現役なのだから、前の層に戻っても得るもの、使えるものはあるだろう。行きたいと思ったタイミングでのんびり探索すればいいのだ。

 

「それともう一つ。九層実装後のイベントについてもちょっと書いてあるよ」

 

「えっと、2つの陣営に分かれて大規模対人戦……?」

 

「きたぁあああああ!!!」

 

「うるさい!!」

 

「ぎゃっ!!」

 

セイバーは待ってましたとばかりに叫び、サリーがそれを叱りつけるように頭を殴った。

 

「詳しいことはまだわからないけど、新しいスキルも役に立つね」

 

「2人もね!」

 

「うん。上手く騙せるように練習中」

 

「痛い……サリー、少しは手加減してよ」

 

「自業自得でしょ」

 

サリーの新たなスキルをより有効に使うには、事前にシチュエーションを想定して動きを考えおく必要がある。発動するだけで強力というわけでないスキルの難しいところである。

 

「九層に繋がるようになるダンジョンもこの辺りだし、ちょっと近くまで見に行ってみる?アップデートまでは繋がってないから攻略は後になるけど」

 

「下見はするに越したことは無いからな。行こうぜ」

 

「周りがどんな感じになってるか気になる!」

 

攻略してきた場所がそうだったように、ただ潜っていけば辿り着く場所なのかは分からない。潜る時間が長くなるならイズにアイテムを準備してもらう必要もあるだろう。

距離が近いということもあって、ジェットスキーに乗り換えることもせずゆっくりとした船旅を続ける。そうして目的地が見えてくると、メイプルもここだったのかと小さく何度も頷く。

眼の前にあったのは遥か水底まで続く長く太い塔である。先端は水面から飛び出ており、水中を確認すると水から逃れるように、何度も増築が繰り返されてきた跡がある。当然ではあるが下へ行けば行くほどボロボロになっており、侵食が激しいことが分かる。

 

「ここを降りていくのかな?」

 

「そうなるね。流石に途中から侵入はできないから上から入るしかないよ」

 

「これはまた長い道を潜ることになりそうだなぁ」

 

塔自体はボロボロではあるものの、窓や大穴が空いた場所はなく、ショートカットして中に入り込むのは難しいだろう。

 

「皆で行けば大丈夫だよね!」

 

「流石に私達10人に勝てる相手はほとんどいないと思うよ」

 

「皆強いからな」

 

実際セイバー達に勝てるようなモンスターなど探す方が難しいだろう。仮にいたとしても、弱体化する方法もないなどということは考えにくい。でなければそんなものは倒せないと言っていい。

 

「攻略は別日かな。ん?」

 

「どうかしたサリー?あっ!」

 

3人が空を見上げると、そこには2つの大きな影があった。1つは太陽の光を受けて白く輝く竜。もう1つは太陽と同じように燃え盛る翼を持った不死鳥だった。

 

「ミィ!ペインさん!」

 

「メイプル。偶然、ではないか。大方メッセージを読んで視察に来たといったところだろう?」

 

「そうそう!ミィも?」

 

「まあそんなところだ。ちょうどこちら側に用があったから、丁度いいと思ってな」

 

「ペインさんもそうですか?やっぱりダンジョンの確認を?」

 

「ああ、水中に時間を割いた分未攻略だったからな。このダンジョンは全員が攻略するんだ、隅まで把握しておけば越えていったプレイヤーの強さも少しは分かると思っている」

 

噂は広がるものだ。あの時どんな風に攻略したなどという話は九層に入ってすぐは話題の一つになるだろう。ダンジョンのことを詳しく把握していれば流れてくる噂からスキルに予測が立つかもしれない。

全くの未知と何かあるかもしれないと心づもりができているのでは状況は大きく変わるだろう。

 

「対人戦のため、ですか」

 

「勿論。陣営が分かれるということだったが、もし敵となればリベンジを果たしたいと思っている」

 

「そうはさせませんよ。また全員纏めて返り討ちにしますから」

 

第4回イベント以降、共闘こそあれど正面からぶつかり合うことはなかった。セイバー、メイプル、サリーもあれから随分強くなっている。しかし、それはペイン達とて同じことだろう。

 

「が、頑張ります!」

 

「敵でも味方でも全力を尽くそう。その上で戦うなら今度は俺達が勝つ」

 

「私達もだ。あの時は手酷くやられたものだが、同じようにはいかないと宣言しておこう」

 

「私も……負けません!皆で頑張ります!」

 

メイプルがそう返すと、ミィとペインはそれでこそだという風に少し笑う。

 

「じゃあ俺は行くよ。次のイベントを楽しみにしている」

 

「ではなメイプル。戦場で会った時は全力でいかせてもらう」

 

「また会いましょう。その時は俺達の強さを見せてあげますから」

 

そう言ってペインはダンジョンの中に、ミィはフィールドの果てへと消えていった。

 

「そっかあ、また戦うかもしれないんだね」

 

「強いよ。第8回や第9回のイベントで見た時も明らかに出力が上がってたし」

 

最後に敵として向かいあった時からはもうかなりの時間が過ぎている。その頃よりレベルは高くなっており、当然スキルも増えている。さらにテイムモンスターも手に入れていることが大きな違いとなるだろう。特に、2人のテイムモンスターはそれだけでもかなり強力なものだ。

前と同じようにはいかないだろう。

 

「また作戦考えとかないとね。2人のスキルも増えたことだし。どれも上手く使えば戦況をひっくり返せるはず」

 

「一緒に考えよう!」

 

「おお、ならメイプルが1番やりやすい方法を考えようぜ。その方が良いだろ?」

 

「うん!」

 

ゲームを続けるうち、動きにも慣れてどんな行動を取ればより良い結果につながるかがメイプルにも少しずつ分かってきた。そして、分かるということがメイプルに考える余裕を作っているのである。

 

「『ロストレガシー』のダンジョンでもメイプルの案は上手くいったし……色々聞かせてよ。それがいいし、そんな話もしたかった」

 

「あはは、あれはたまたまだけどね」

 

初めてのスキル使用で【方舟】を発射するタイミングが正確に分からないレーザーに完璧に合わせられたのは運が良かった部分が大きいだろう。

 

「サリーが前に【神隠し】で消えて攻撃を避けてるのを見てこれでもできるかもって思ったんだ」

 

「練習したら偶然じゃなく合わせられるようになるよ、きっと」

 

「そうかなあ?やってみようかな?」

 

「できるようになれば助かるな。戦略に組み込みやすいし」

 

「えへへ、じゃあちょっとやってみる!」

 

「うん。いいと思う」

 

前向きにそう宣言するメイプルを見て、2人は嬉しそうに小さく頷き返事をする。

そうして塔の前でボートに乗って少し話をしていると、ペインやミィの他にもプレイヤーがやってくる。先に進むために攻略する必要があるダンジョンとなれば、下見に来るプレイヤーがいてもおかしいことではない。実際、3人もそのために来ているのだ。

 

「邪魔になっちゃうかな?」

 

「大丈夫だと思うけど、色々話すには適さないかも」

 

「こんな所で重要な作戦会議なんてしたら聞いてくれって言ってるようなものだと思うけどな」

 

そうして移動しようかと思っていたところで、また見覚えのある影がボートで近付いてくるのに気がついた。

 

「あ、本当にいたっすよ!」

 

「それはそうだろう。ウィルが見間違えるはずがないからね」

 

やってきたのは【thunder storm】と【ラピッドファイア】のトップ達だった。どうやらウィルバートの何かのスキルによって3人の視界よりも遥か遠くからこちらを視認したらしかった。

 

「申し訳ありません。話の流れで、丁度近くにいたものですから」

 

「対人戦っすよ!対人戦!」

 

「今度こそ俺がセイバーに勝つときが来た!!」

 

「そうだね。待ちに待ったって感じなのかな?」

 

「キャロルもやる気満々だな。けど、勝つのは俺だ」 

 

「味方もいいっすけど、今回は敵になりたいと思ってるっすよ!」

 

「俺も敵になるぞ。セイバー達をこの俺が叩きのめす!」

 

ストレートな物言いに3人は目を丸くする。

 

「……今回はそういう気分みたいです」

 

詳しい理由は分からないがヒナタがそう言うのならそうなのだろう。

 

「イベントはその期間しかやってないっすからね!戦える機会があるときに敵になっておくっすよ!」

 

「俺も同意見だ。俺はセイバーやサリー、ヒビキと戦いたい」

 

決闘などのシステムを使えばどこでも対人戦はできるが、一度きりのイベントでの緊張感と勝った時の楽しさは全く別のものなのだろう。メイプルはともかく、セイバーとサリーはその差を明確に理解できていた。

 

「敵か。じゃあ対策はちゃんと考えておかないとね」

 

「キャロルもそうだが、俺はベルベットとも戦いたいと思ってるし、対策はしっかりと考え中だぜ」

 

「まだ考え中なのね……」

 

陣営決定に選択肢があれば、確実に逆側に行くと宣言されたのだ。味方になることがないなら、どちらにつくかまだ決まっていない様子だったペインやミィと比べて、しっかりとした対策が必要になる。

 

「あっけらかんとしていていいね。ああ、私達はまだ特にその辺りは決めていないよ。一応ね」

 

「でも、できるなら戦いたい気持ちはあるわ。特にヒビキとね」

 

「ああ。マリアさんは確か以前ヒビキと戦ってましたしね」

 

どうやらリリィ達はその辺りはまだ確定はさせていないようだが、マリアはヒビキと戦いたいという気持ちがあるようだった。

 

「……それが普通だと思います。ベルベットみたく宣言する必要もないですし……」

 

これではまたギルドのメンバーに喋りすぎだと言われると、ヒナタはベルベットとキャロルの脇腹をつつく。

 

「ですが、私達とてどんな方が相手になってもそう易々と負けるつもりはありません」

 

ウィルバートも自信ありげな様子である。その自信を裏付けるだけの実力が彼らにはあるのだ。

 

「それはそうだとも。敵になったら、その時はよろしくお願いするよ」

 

誰にとっても久々の本格的な対人戦だ。皆成長しているのは理解しており、九層の実装からイベントまで時間がある以上、探り合いになるだろう。

 

「じゃあ勝負だね!」

 

「そうっす!今度は前の決闘とは違ってキャロルもヒナタも一緒っす!負けないっすよ!」

 

3人で戦うことで相乗効果により強くなる。それはセイバー達もよく知っていることだ。セイバーとサリーも決闘に勝ちこそしたが、あれが全てでないことは分かっている。

 

「まだ当分先の話ですから。それまでに弓の腕を上げておくとします」

 

今のイベント予告からは誰が敵になるか味方になるかは分からない。できることはただ自分の能力を高めることと、周りの情報を得ることだけだ。

 

「ベルベット達はこの後ここに入るの?」

 

「そうっすよ!3人と一緒に入るっす!」

 

「間近で戦闘が見られるなら私としても断る理由はないさ」

 

ヒナタが複雑そうな顔をしているところからも、ベルベットに情報を探る意思があるわけではないことは分かるが、いつものことなのだろう、特に止める様子もない。

 

「3人も来るっすか?大歓迎っすよ!」

 

「メイプル、セイバーどうする?」

 

「俺はマスターの指示に従うからメイプルの意見に従うよ」

 

セイバーにそう言われて、メイプルはどうしようかと少し考えてから返答する。

 

「うーん、ギルドの皆と一緒に行こうと思ってるから……今回は、ごめんね」

 

「分かったっす!なら、機会があったら遊ぶっすよ!」

 

「うん!ありがとう!」

 

ペインと同じくダンジョンの中へ消えていく6人を手を振って見送ると、改めてそろそろ離れようとボードを漕ぎ出した。

 

「皆次のイベントに向けてって感じだったね」

 

「やっぱりモンスターと戦ったり探索したりするのも面白いけど、人と戦うのも需要があるんじゃないかな」

 

「てか、寧ろそっちが俺にとってのやる気になってるんだけどな」

 

「サリーも得意だもんね」

 

「……そう、だね。得意だし好きかな」

 

ベルベットが言ったように、勝ち負けに大きな違いがある状態で戦うことができるのはイベントくらいだ。やる気を出すプレイヤーがいるのも納得のいくことである。

 

「九層でまた探索して、そしたらイベントだ!」

 

「「…………」」

 

「2人共?どうかした?」

 

「ん、ああ、ちょっと……戦略考えてた。って言っても細かい戦闘形式が分からないとどうしようもないところが大きいけど」

 

「まだ詳細がわからないからな。第4回イベントのように設置されたアイテムの奪い合いになるかもしれないし、バトルロイヤルになる可能性もあるからな」

 

内容によって最適な戦い方も大きく変わってしまうだろう。

 

「今気にしてても仕方ないし、まずは九層に行くところからかな。イベントまでにまたメイプルが強くならないとも限らないしね」

 

新たな層が追加されるということはイベントもダンジョンも一気に増えるということでもある。そうなれば、また異次元の方向へ強化されることもあるだろう。勿論可能性は低いはずだ。だが、それでも偶然あれもこれも見つけた結果生み出された怪物達が今既にここにいる。だから、セイバーもサリーもないとは言えない。

 

「よーし、頑張るぞー!」

 

「うん。私もスキル使いこなせるようにしておくよ」

 

「俺は10本の聖剣の力をもっと引き出せるようにするぜ」

 

サリーは期限がある程度決まった以上、そこまでに新しいユニークシリーズを使った戦闘に慣れておかないといけない。ここから相手にするのはモンスターではなく、トップクラスのプレイヤー達だ。今は【虚実反転】でメイプルのスキルをコピーすることと武器の形状変化くらいしか能力を使っていない。全てのスキルを十全に使えなければならないだろう。

 

セイバーも今までは聖剣の力をある程度使えていれば対処できていたのだが、対人戦となると勝手が違うため、今よりももっと強くなる必要があると言える。

 

「じゃあ戻ろっか」

 

「うん!いろんな人来てびっくりしたー」

 

「今度のイベントがまた総力戦だと嬉しいな」

 

今回の目的は攻略ではなく、外観からのダンジョンの雰囲気と広さ、そして位置の確認なためセイバーとサリーはまたボートを漕ぎ出す。

ジェットスキーとは違いのんびりとした船旅になるため、メイプルは釣竿を取り出して糸を垂らす。

 

「ふふふ、町に戻るまでに釣れるかな?」

 

「つ、釣れるよ1匹くらいなら!」

 

「どうだろうな?」

 

釣りに関してはゲームを始めてから何一つ変化がないため、釣れるまでにかかる時間は全く短くなっていないのだ。

1匹くらいは釣れるようにと、サリーはこっそり速度を少し落として町までボートを漕いでいく。

のんびりとした時間だが、サリーは何か思うことがあるようで。

 

「……機会がある時に、か」

 

ベルベットの言葉をぼそっと口に出して反復する。その言葉は誰かに対して放たれたものではなく、自身が漕ぐオールが出す水音に紛れて空に吸われて消えていくのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと九層突入

そうして時間は過ぎていき、九層が実装される日がやってきた。セイバー達【楓の木】も10人で集まって例の水中深くまで続く塔の攻略に向かう予定である。

 

「八層の収穫の一つとして【水泳】と【潜水】のレベルが上がったのはあるなあ」

 

「九層でも使い所があると嬉しいものだ」

 

「お別れも早いものねー。でも、水属性のあれこれを作るためにはまた来ないとダメかしら」

 

「うぅ、私達も【水泳】のスキルが手に入れば良かったんですけど」

 

「ステータスが足りません……」

 

「その分今日は活躍してもらうんだけどね。さっくり倒してくれると僕は助かるな」

 

「「はいっ!」」

 

「私も頑張るよー」

 

「とは言っても、マイとユイが倒せない敵が出た時に限るけどな」

 

「よーし、じゃあ早速行きましょう!」

 

「シロップお願いするね」

 

全員で足並みを揃えて移動するために、今回は地形など関係ないシロップが丁度いい。

メイプルはシロップを巨大化させると、全員をその背に乗せて塔の方向へと飛んでいく。

 

「地上だとハクでの移動が多かったからなあ」

 

「飛べるのはやっぱりすごいわよね」

 

「飛ぶならブレイブも行けるんですけどね〜」

 

「でも今回はそこまで急いでないし別にシロップでも大丈夫でしょ」

 

今回はダンジョンもモンスターも水中がメインなため、空は特にモンスターもおらず自由に飛んでいくことができる。

そうして特にトラブルが起こることもなく、10人は目的の塔まで辿り着くことができた。

入り口の近くでシロップを停止させると塔へ飛び移って、シロップを元の大きさに戻す。流石に【巨大化】状態では建物の中へ入ることはできないのだ。

準備もでき、【身捧ぐ慈愛】を発動したメイプルを中心に塔の内部へと入っていく。塔の上層部は水に沈んでいないため、まだ家具などが残っていた。直径十数メートルの室内には下へ続く木の扉が床に設置されていた。持ち上げれば一つ下の天井部分が開くことになるだろう。

 

「水を堰き止めるために階段じゃないってわけか」

 

「モンスターはいないようだ。下りても問題ないだろう」

 

家具などがそのままなことからも、ここまではまだ入り口なのが分かる。

 

「じゃあ安全のためにこの辺りに立ちます!」

 

メイプルは扉の近くに立ち、【身捧ぐ慈愛】の円柱状の範囲に下への道を収める。

 

「じゃあ開けるぞ」

 

クロムが扉を開けると窓がないこともあって下は真っ暗だった。ライトで下を照らすとそこはまだ水には沈んでいないようだが、何かが動く気配がする。

 

「……何かいるな」

 

メイプルの防御網は下にも届いているため問題はないが、垂直に鉄の梯子が伸びているだけなため、一気に飛び込むのは難しい。

 

「マイとユイ、もしくはセイバーを連れて飛び込んでもいいが……」

 

「……でも、上を取ってはいるのよね」

 

「あ、これどうなるか何となく察しがついたんですけど」

 

ならもっと戦いようはあるとイズはニコッと笑う。なんとなく察したセイバーとクロムは、それが一番安全だと下へ飛び込むのはやめた。

 

 

 

 

それから起こったのはそれはもう酷いことだった。唯一の出入り口から流れ作業で下の階に注ぎ込まれる大量の爆弾、それが部屋に十分に満たされたところで炎を発するクリスタルを投げ込んで扉を閉める。

 

「耳を塞いで!」

 

直後とんでもない轟音と共に下階から振動が伝わってくる。木の扉が壊れず勝手に開くこともないオブジェクトだったため、メイプル達のいる階は何ともないが下に生き残った生命体はいないだろう。

 

「……地の利ってのは怖えな」

 

「ああ、そうだな」

 

「これ、下の階のモンスターから言わせたら理不尽以外の何物でも無いですよ」

 

「しばらくはこれで進みましょ。水中になったら考えるわ」

 

こうして何階かイズの爆撃による部屋全域への無差別攻撃によって、そこにいたモンスターが何なのかも分からないままに粉々にして進んでいく。

 

「……イズさんに有利なポジションを取らせると怖いね」

 

「すごいね!これなら皆安全だよ!」

 

「攻撃は最大の防御ですね」

 

「っと……ただ、ちょっと様子は変わったぞ。こっからは水だ」

 

「あら、じゃあ爆弾はちょっと駄目そうね」

 

「代わりに暗くはなくなったな。デカめの魚は泳いでるが」

 

「じゃあ潜水服着て入ります?マイとユイを中心に暴れてもらう感じで」

 

「俺も行きます」

 

「入る瞬間は守ってあげられるよ!」

 

「おし、なら行ってみるか」

 

メイプルがいるなら問題はないと、念のためセイバーとクロムを先頭にして、マイとユイをついて行かせる。

水中に飛び込むと、それに反応して、中を泳いでいた魚達が鋭い歯をぎらつかせて一気に襲いかかってくる。

 

「俺に構ってる暇ないぞ?セイバー、マイ、ユイ!」

 

「「【クイックチェンジ】!」」

 

「界時抜刀!」

 

クロムに魚が集まっていったところで遅れて入ったセイバーとマイとユイがそれぞれ界時スピアと8本の大槌を振り回す。

 

 

マイとユイの攻撃はただ大槌を振り回しているだけの通常攻撃なのだが、それは他のプレイヤーの必殺技の破壊力を凌駕する。モンスターは大槌が掠ったものから文字通り粉々に爆散して消滅していく。

 

一方でセイバーの槍はマイとユイほどの火力は出せない。しかし、襲い来るモンスター達をマイとユイの方へと弾き飛ばすことで効率よく敵を粉砕させるのに一役買っている。また、単体でもそれなりの火力を出せるため、何発かクリーンヒットすればモンスターを倒すこともできるのだ。

 

こうして、セイバー、マイ、ユイによって敵は跡形もなく消し去られることになった。

 

「ふぅー……味方だから当たってもダメージを受けないのは分かってるが、緊張するもんだな」

 

マイとユイも当たらないようにはしてくれているものの、何もかもを破壊する鉄塊が目の前を通過していくと反射的に体が固まるものだ。

 

「さっすがー!」

 

「上手くいきました!」

 

「メイプルさんも……防御ありがとうございます」

 

「えへへ、2人のおかげで全然いらなかったけどね」

 

「あれ、俺の活躍は?」

 

「セイバーお兄ちゃんでもマイちゃんとユイちゃんの火力の前だとかなり霞んで見えちゃうからねー」

 

「うっ……」

 

セイバーはかなりショックを受けたが、事実のため全く言い返せなかった。

そして、マイとユイは万が一攻撃を受けても問題ないという安心感があるため、のびのびと攻撃ができるというものだ。クロムはそれを聞いて、それが大盾使いの本来の役割だと1人頷く。

 

「何事もなく終わったみたいですね」

 

「おお、サリー。まあな、あの2人が武器振り回せば雑魚は問題ないだろ。あと、やっぱり縦にも【身捧ぐ慈愛】が効くのがじんわりヤバい」

 

「ですね……」

 

範囲も広く、塔の幅をカバーしきっているため、メイプルの防御力を突破することが、この塔のモンスターに課せられた土俵に上がるための条件である。それがあまりにも厳しく、ほぼ不可能と言っていいものなのは全員がよく分かっていた。

 

「よーしどんどん進んじゃおう!皆攻撃は任せるね!」

 

10人でいるならメイプルは無理に攻撃に回らなくていい。その分突然ダメージを受けることがあった時のため、ポーションを構えておくのが大事だ。メイプルが倒されない限り戦線の崩壊はあり得ないのだから。

イズ中心の攻略から、セイバー、ヒビキ、マイ、ユイ、カスミ、サリーのアタッカー6人中心の攻略に切り替えて、さらに下へと進んでいく。動きの早いモンスターはセイバーとヒビキとカスミとサリーが担当して、HPや防御力が高そうなモンスターはマイとユイがそれを上回って吹き飛ばす。

クロムが引きつけて、ネクロのスキルで【AGI】を低下させることで特に詰まることもなくモンスターを撃破できていた。

 

「流石ねー。私達が攻撃に移るまでもないかしら」

 

「ふふ、僕は楽ができて助かるよ。本も貯めておけるしね」

 

「また増えたのね。全部使いきることはあるのかしら」

 

「んー、あるかもよ?」

 

「カナデがその本全部使ったら凄いことになりそう」

 

「ははは、そうだね。全部のスキルが必要そうなら使おうかな」

 

「相当な強さを持つ敵が相手にならないと無さそうなんだが……」

 

そうして4人が話していると下の階からサリーがぴょこっと顔を出す。

 

「終わったよー。次は一気に深くなってるから全員で入りたいって」

 

「はいはーい!」

 

「何階分か貫いている感じかな?一応魔導書を使う準備はしておくよ」

 

「うん、そうして。外が見えないから分からないけどかなり潜ってきてるはずだから、そろそろボスでもおかしくない」

 

全員が揃って次の階へと進むと、そこからは床が全て抜けてしまって、遥か底まで外壁だけが残っている状態だった。床は水に侵食されて崩れていったというよりは、その砕け方や端の方の残り方からして巨大な何かが破壊していったように見えた。

 

「相当深いね。これを下まで行くのは大変かも」

 

「ただ、1階ごとに分かれていない分一気に進めるとも言えるだろう」

 

「……何か光った?皆!」

 

「俺のソナーにも何かかかった。来ますよ」

 

どうしようかと話している最中、遥か下に何かの輝きを見たセイバーとサリーは全員に注意を促す。そうして皆が下を見たその時。輝く水の塊が3つ時間差で飛んできた。

セイバー、ヒビキ、サリー、カスミは素早い動きでそれを回避し、クロムはうち1つを盾で受け止める。イズとカナデも何とか回避するが、もともと動きが遅く、【水泳】スキルもないマイとユイは避けきれない。

2人に直撃すると泡とエフェクトが弾ける。【身捧ぐ慈愛】によって効果を受けたのはメイプルなため、全員がメイプルの方を振り返る。

 

「……ダメージはないよ!でもっ、空気が!」

 

直撃した回数だけ、ゴリッと残り酸素が削られたのを確認したメイプルは現状を伝える。

 

「なるほど確かにそういう隙はあるか……!」

 

「いやらしいね。長いダンジョンに、酸素を削る攻撃をする敵かあ」

 

「これは余計にメイプルに当てさせるわけにはいかないな」

 

ただ、今までとは違う雰囲気と、戦闘地形の変化からおそらくこれがボスによる攻撃であることは察せられた。

しかし、そもそもかなり距離があるせいで姿は見えない。深く暗い水の底からこちらを上回る長射程の攻撃が飛んでくるばかりだ。

 

「盾で防げば問題ない!俺とメイプルを中心に防御しながら底まで潜ろう。あんまり時間かけるとメイプルがキツイ!」

 

「一気に潜って倒しに行きましょう」

 

「だね。僕も防御魔法準備するよ」

 

「私も刀で弾こう。【心眼】もある。攻撃の予兆は捉えてみせる」

 

「俺も敵の動きが変わったら知らせます」

 

「私も大盾に変えられるのが役に立つかな?」

 

「マイちゃん、ユイちゃん。皆で守るわ、だから辿り着いて一発叩き込んであげて!」

 

「「はいっ!」」

 

「よーし!皆行こう!」

 

メイプルの号令で10人は底を目指して潜水する。マイとユイを後ろに下げてメイプルとクロムを前に立たせ、守りを固め、イズとカナデでサポートをしつつ、最前線でまずセイバー、ヒビキ、カスミ、サリーが攻撃を捌きにいく構成だ。

勝利条件はマイとユイを下にいる何かの元まで届けることである。射程にさえ入れば倒せぬものなど存在しないのだ。

 

「今度は6発!」

 

「こっちは任せてもらおう!」

 

「1つは受け持つ!」

 

「私は遠くからの攻撃で勢いを削ぎます」

 

「じゃあ俺はその分も含めて2発防ぐ」

 

カスミが素早く刀を振るうと、水の塊は直撃する寸前で細かく分かれて泡に変わって消えていく。サリーは安全策をとって武器を大盾に変化させそれを受け止める。ヒビキは【飛拳】である程度勢いを殺し、セイバーがそれを含めた2発分を界時スピアで薙ぎ払って防いだ。残り2発はメイプルとクロムがそれぞれ防御し、ただの1発すら直撃には至らない。

 

「「ありがとうございます!」」

 

「役割分担だよ!」

 

「ああ、適材適所ってやつだ。2人はボスを吹っ飛ばすことに集中してくれ」

 

そうして次々に襲いかかる水の塊を上手くやり過ごしている中、先頭の4人が水中の僅かな変化に感づいた。

 

「これは……」

 

「ボスが中心に移動した?」

 

「……カスミ!」

 

「【心眼】!」

 

3人の予感を確信に変えるため、カスミはスキルをを発動する。その目に見えたのは壁際以外が攻撃予測のエフェクトによって真っ赤に光った光景だった。

 

「壁に寄るんだ!何か来る!」

 

【心眼】を使用している状態のカスミの言葉に間違いはない。それは数瞬後に確実に起こる事象なのだ。

全員が端に寄ったその直後、中央を突き上げるような水流が抜けていく。巻き込まれればダメージを受けるだけでなく、スタート地点まで戻されてしまうだろう。

 

「そのまま端に来る!戻るんだ!」

 

「カスミ、まだいける?」

 

「……ああ、【戦場の修羅】【心眼】」

 

カスミの体から赤いオーラが立ち昇り、スキルのクールタイムが一気に短くなる。これによって【心眼】すら連続使用が可能になった。

 

「効果が切れればスキルは使えなくなるが、2人さえ届けられれば私のスキルなどたいした問題ではないだろう」

 

【戦場の修羅】のデメリットによってスキルが使えなくなるとしても、マイとユイを守る方がプラスである。

今のカスミにまともな攻撃は通じはしない。

前兆がほとんどない攻撃を確かな未来を見ることで完璧に回避していく。経験や直感ではない回避だからこそミスも読み違えもありえない。

襲い来る水流を完全に躱しきった所で、【戦場の修羅】の効果も切れ、カスミの視界が元に戻る。

 

「時間切れか……あとは頼む」

 

「結構潜ってる、そろそろ見えてもおかしくない」

 

「どうやら、見えてきたみたいだぞ」

 

そう言って水底をじっと見ると、暗がりの中でまるで星空のように大量の光が瞬くのが見えた。

それが何を示すのか分からない10人ではない。

 

「防御壁を張るわ!」

 

「ソウ、【覚醒】【擬態】。【ガードマジック】」

 

 

カナデは自分とソウの2人で障壁を展開し、イズは手早く取り出したクリスタルを放り投げてバチバチと音を立てるエネルギーバリアを張る。

水底で光ったものの正体は、大量の水の弾。それは避け切ることがほぼ不可能な弾幕となって10人に降り注ぐ。しかし、直撃するコースのものは重ねて張られた防御壁によって防ぎ切られて、またも直撃を免れる。

 

「「……見えた!」」

 

最も前にいたセイバーとサリーはそこでようやくボスの姿を視認する。いくつものヒレと塔の幅を目一杯使った巨大な体、美しく輝く青白い鱗。それは魚ではなく水竜と言えるような存在だった。

水竜は10人がすぐ近くまで接近していることに気づくとその体を動かし、凄い速度で上昇してくる。

 

「……っ!通さないで!行かせたら上下が逆転する!」

 

「させるかよ!【オーシャンカッター】!」

 

セイバーが水の斬撃波を5回放ち、ボスの動きを牽制する。

もし、ボスに弾き飛ばされたり、すり抜けられればまた攻撃を避けつつ今度は上に戻らなければならない。本来それは避けられないこと。しかし、この10人なら一瞬隙を作ることができればいい。

 

「ソウ、【スロウフィールド】!」

 

「ネクロ【死者の重み】だ!」

 

ソウによって空間が歪み、ネクロの力でクロムの背後に一瞬巨大な髑髏が浮かぶ。それらはどれも水竜の動きを鈍らせ、速度を落とす。

 

「【水底への誘い】!」

 

「ミク、【電磁波】!」

 

メイプルが目一杯広げた触手のうち1本がその体に命中し、大量のダメージエフェクトが散る。しかし、それは本来のスキルの効果ではない。あくまで【悪食】がもたらしているものだ。この触手が持つ本当の効果は別にある。それはミクが使ってるスキルにも共通する物であった。

 

 

次の瞬間、ビリッと音がして水竜の体がほんの一瞬麻痺する。ボス故かミクとの合わせ技でも効果時間はほんの僅か2秒ほどだ。しかし、2秒。確かに動きは完全に止まった。そして、その一瞬をずっとずっと待っていた2人がそこにいる。

 

「「【ダブルインパクト】!」」

 

16本の大槌がその体を捉え、強烈な攻撃を加える。耐性を持つ特殊なボス、もしくはレイドボスでもない限りこの圧倒的な力には耐えられない。

16の衝撃が全身を駆け抜け、ボスのHPは一瞬で吹き飛び消滅することとなった。

 

ボスを撃破し静かになった塔の内部を潜っていくと、底には魔法陣があり次の層へと転移できることが分かる。

 

「お疲れ様ー!皆のお陰で酸素も大丈夫!」

 

「よかった。メイプルもミクもナイス麻痺」

 

「ミクの麻痺はいつもの事だが、その触手の麻痺の方が活躍してるの珍しいよな」

 

「並のモンスターなら麻痺する前に飲まれるせいだろう」

 

「そうね……」

 

「ミク〜よくやったね!偉い偉いよ〜」

 

「これでダンジョンクリアだから次の層に行けるな」

 

これにより、一面水の世界とはしばし別れることとなる。

酸素のこともある。ここであまり話していても仕方ないと、10人は次の層へとつながる魔法陣へ乗った。

 

「どんなところかな!」

 

「行ってみてのお楽しみだね」

 

「さて、次の層はどんな所かな〜」

 

そうして10人は光に包まれ消えていく。しばらくして、真っ白だった視界が元に戻って行くと足元にはしっかりとした地面の感覚があった。10人は潜水服を脱ぐと開けた視界で眼下に広がる世界を確認する。

 

 

そこにあったのは丘の上から眺めることではっきり見えた2つの特徴的なエリアだった。

片側は水と氷、もう片側には炎と響く雷が見える。それぞれ光と闇を象徴するように白を基調とし、豊かな森が見える方と岩石が目立ち溶岩溜まりのある方。対照的なものはここからパッとみただけでもいくつもあげられる。

そしてどちらの側にも遠目に見ても大きな町があることがはっきり分かる。

 

「ははーん、なるほど。対立しての対人戦っていうのも少し分かったかもな」

 

「ああ、これだけ分かりやすければな」

 

「ギルドとしてどちらかにつくのかしら?それとも個人?」

 

「お姉ちゃんはどっちがいい?」

 

「えっ、うーん……緑がいっぱいの方が安全そうだけど……」

 

「これは面白そうだね。セイバーお兄ちゃん!」

 

「ああ、体が戦いを求めてウズウズしてきた!!」

 

【楓の木】の面々も新たな層の初めて見る景色にそれぞれに反応を示す。

 

「メイプルはどうする?多分どっちかにつく感じだと思うよ。印象としては光か闇かって感じかな?」

 

スキルだけを見れば闇よりなメイプルである。といっても、これでも八層で光成分は補充してきたのだが。

 

「むぅ、見てまわらないと分かんないや」

 

「それもそっか。イベントの時に決めることになるんだろうしね」

 

それまでは探索を続け行きたい方を決めることになるだろう。

景色が綺麗そうなのは緑豊かな側。ただ、今まで見たことのないようなものが見られそうなのは、溶岩と岩場溢れる見るからに危険な側である。

メイプルはこうして迷ってはいるが、どちらにも当然見所はあるだろう。

 

「よーし!いっぱい歩き回ってみよーっと!」

 

新しい層を見下ろして、メイプルは元気よくそう宣言するのだった。

 

 

350名前:名無しの槍使い

ついに対人戦きたかー

 

351名前:名無しの弓使い

成長を見せる時だ

 

352名前:名無しの大剣使い

内容はまだ分からんけど早期リタイアとかならないように頑張りたいぜ

 

353名前:名無しの魔法使い

俺も強くはなってるけど化物はマジ化物だからなぁ

 

354名前:名無しの大盾使い

まあ1対1って感じではなさそうだし立ち回りによりそうだ

 

355名前:名無しの魔法使い

あ 化物一家の人だ

 

356名前:名無しの大盾使い

誰がだ誰が

 

357名前:名無しの大剣使い

どう?八層の間は特に何もなかった?

 

358名前:名無しの大盾使い

色々あったけど色々あったってだけ

 

359名前:名無しの槍使い

これまた何かやってるよやってるやってる

絶対やってる

 

360名前:名無しの弓使い

そうぽんぽん変なことは起こんないんだよなあ

起こんないよなあ……?

 

361名前:名無しの魔法使い

もうすぐ対人戦だし敵陣営になれば身をもって体験できるんじゃない?

 

362名前:名無しの大剣使い

せめて暴虐タイプは勘弁な

 

363名前:名無しの槍使い

どうする?片手だけだった触手が全身とかになってたら

 

364名前:名無しの弓使い

あーずっと水の中だったしなあ

触手の1本や2本追加があってもおかしくないかも

 

365名前:名無しの大盾使い

メイプルちゃんをなんだと思ってるんだ

 

366名前:名無しの槍使い

ラスボス

 

367名前:名無しの弓使い

化物+人÷2 天使少々

〜触手を添えて〜

 

368名前:名無しの大剣使い

兵器も添えとけよ

 

369名前:名無しの魔法使い

まずそう

 

370名前:名無しの大盾使い

むしろ食われてるのはいつも相手なんだよなあ

 

371名前:名無しの槍使い

当然のように食べないで

 

372名前:名無しの弓使い

でも本当に何も強くなってない可能性もあるだろ

 

373名前:名無しの大剣使い

あまりにも希望的観測

そんなことがあったでしょうか?

 

374名前:名無しの魔法使い

そういえばセイバー君の方はどうなんだ?

 

375名前:名無しの槍使い

どーせまた聖剣が増えてるんですよね、わかります

 

376名前:名無しの弓使い

でも水の聖剣は既に持ってるんだろ?もう氷だけど。同じような属性が2本目?になるのかな

 

377名前:名無しの大盾使い

あー、それなんだが、流水の代わりになるような聖剣が見つかったから。とは言っても属性自体は水とは違うけど

 

378名前:名無しの槍使い

えぇ、また強くなってるのかよ

 

379名前:名無しの弓使い

10聖剣+王の剣(キングエクスカリバー)=セイバー

〜ドラゴンを添えて〜

 

380名前:名無しの大剣使い

もうこれ対抗できる奴いるの?

 

381名前:名無しの魔法使い

剣士ならペインかキラーぐらい?でも3人が同じ陣営になったらもうダメじゃね?

 

382名前:名無しの大盾使い

でもセイバーはペインやキラーとは戦いたいって言ってたぞ

 

383名前:名無しの槍使い

良かった〜。3人が組んだらもうほぼ勝ち目無しだし

 

384名前:名無しの弓使い

もう流石にイベントまでにこれ以上聖剣は増えないよな?頼むから増えないでくれ

 

385名前:名無しの大剣使い

いやー、増やしそうな気がする。えっと、今までは炎、水(氷)、雷、土、風、音、闇、光、煙、と来て、正体不明が1本か。あと1本追加されるなら全部を無に返しそうな奴が来そう。 

 

386名前:名無しの弓使い

それ、当たるフラグだからやめてくれ

 

387名前:名無しの大盾使い

メイプルちゃんもセイバー君もどうなったのかはその目で確かめてくれ

 

388 名前:名無しの魔法使い

それは会敵しているということを示していませんか?間近で見てみたくはあるけど……

 

 

どうなっているかはその目で見るまで分からない。もちろん、それはメイプル以外のプレイヤーにも言えることである。

メイプル達、そしてライバルである【集う聖剣】【炎帝ノ国】【thunder storm】【ラピッドファイア】の面々は、それぞれの日々を過ごしつつ、九層の探索を行い、やがて来る対人戦イベント開催の日を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

第九層のとある場所。そこには既にこの層にやってきて色々と探索を進めていたギルドがいた。

 

「これで最後の1体か。イベントまでに全部揃って良かった」

 

「52体の封印するのにここまでかかるとは思わなかったぜ」

 

「だが、これならセイバーを相手にするのも簡単そうだな」

 

「油断は禁物だ。できることなら4人でしっかりと確実に仕留めるぞ」

 

「えぇー、流石に4人でかかるのはちょっとなぁ……」

 

「ダメだ。可能な限りは4人でかかる。あのセイバーが相手なんだ。本気でかからないとすぐに負けるぞ」

 

「心配性だな。ま、それでこそ俺達のリーダーだ」

 

4人はそれぞれ、剣、銃、弓、杖を携えており、1人1人が13枚のカードを持っていた。

 

「次のイベントはセイバーとは別陣営につくぞ。隠してきた俺達の力を存分に見せてやる」

 

そうして4人に率いられた軍勢は九層の奥の探索を進めるのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第九層

九層にやってきた10人はさてどうしたものかと思い悩む。というのも、目の前には今までとは違い2つの町が見えているからだ。

片方は自然豊かで、所々水や氷でできたオブジェクトが重力に反して浮かんでいるのが見えるエリアが広がっており、その奥に白を基調とした町が見える。

もう片方は荒地が広がっており、空に雷、大地に炎が走っているのが特徴的なエリアで、奥には黒を基調とした町が見える。

 

「どっちに行こう?」

 

「多分機能とかに大きな差があったりはしないだろうけど……雰囲気は違うだろうし、気に入った方に行くのがいいよ」

 

「まだまだ何も分からないからな。入ってすぐどっちかの町から出られなくなるってこともないだろ。両方見に行けるんじゃないか?」

 

「選択に関する運営からのメッセージも無いし、適当で良いだろ」

 

「じゃあ……こっちの森の中の方から!」

 

メイプルはそう言って流れる水と豊かな森、そしてその合間に大きな氷の橋や階段なども見える方のエリアを指差す。

 

「ああ、ならそっちから行くとしよう」

 

「両方行って色んな素材を集めてこないといけないかもしれないわ」

 

「確かに、僕らが手に入れられる素材に差があってもおかしくないね」

 

「どんな所なのか楽しみ〜」

 

エリアが2つに分かれており、それがある程度の広さを持つように作られているため九層も探索する場所は多いだろう。

 

「じゃあまずはこっちですね!」

 

「ユイ、あんまり走ると危ないよ?」

 

「行こうかメイプル、セイバー」

 

「うん!とりあえずここから降りないと!」

 

「さて、どんな物が待ち構えているのやら」

 

10人は丘を降りて森の方へ進んでいく。

森の中は所々小川が流れ、水が湧き出しており、水溜りも多い。そうしてぴしゃぴしゃと音を立てながら歩いていると、まるでサリーの【水の道】のように、空中に水の塊が浮かんでいるのを発見する。遠くから見えていたのはこれのようで、今までの層にもこれに似たモンスターはいたものの、今回はそうではないようだ。

 

「モンスターじゃないみたいだな。こういう地形ってことか」

 

「向こうには氷の塊も浮かんでいる。柱も見えるぞ」

 

「やっぱここは水や氷がメインの地形になるんだな」

 

上から見えていたものはどうやらモンスターがいる証というわけではないようだ。

逆側のエリアにおける溢れる溶岩等に対応しているということなのだろう。

 

「町は近いし、寄り道はギルドホームに着いた後でかな?」

 

「そうだね。まずは町まで!」

 

「レッツゴー!!」

 

町までの道には特にモンスターもおらず、10人は丘の上から見えた町まで辿り着くことができた。

 

「遠くから見た時も思ったけど、今まで町とはまたちょっと違う感じだね」

 

「すごい壁……ねえねえサリー、町を囲ってるのかな?」

 

「多分ね。役割的にもそれが自然だし」

 

「これはいよいよ戦争する気満々って感じだな」

 

町の周りは背の高い壁でぐるっと囲われており、さらに堀がその周りを囲っている。高い場所から降りた今、町の中は堀にかけられた跳ね橋の向こうの入り口からちらっと見えるだけだ。

フィールドとの境界が今までよりはっきりとしているのは大きな違いだろう。

10人が跳ね橋を渡っていくと、正面の入り口上に設置されたクリスタルから淡い光が照射される。しかし、現状特に何かがあったわけではないようでそのまま進んでいくことができた。

そうして跳ね橋を渡り切ったところで、入り口両側にいるがっちりと鎧を着込んだ衛兵らしきNPCから声がかけられた。

 

『旅の者か。宿を取ったなら中央の城まで行くように』

 

「分かりました!」

 

メイプルは元気に返事をすると、そのまま一番乗りで町の中へと入っていく。

ここまでに何層かあった層ごとの特殊なテーマに則って作られた町とは違い、九層のこちら側の町は美しい西洋風の建築物が並び、不思議な力で形状を留める水と氷で装飾された町並みの向こう、中央の少し高くなった場所に白亜の城の建つ、そんな城下町が九層の拠点の一つだった。

八層が完全に水没しており町の形状も特殊だったこともあり、普通の町も随分久しぶりに見たような気がしてくる。

 

「っと、ちゃんとクエスト形式で表示されたな。今までとはちょっと違うみたいだ」

 

クロムの言うように全員の受注中クエストの部分には【王城へ向かう】という表記がされている。

 

「今回はこれをこなしていくような層の可能性があると思うがどうだろう。向こうからやって来たクエストだ、放っておいてもいいことはないんじゃないだろうか」

 

「そうねー。これを進めてくれって感じよね」

 

「じゃあ、ギルドホームに着いたら皆で!」

 

「はい!」

 

「行きましょうメイプルさん!」

 

「ゴーゴー!」

 

次はクエストだと前を行くメイプルとそれに着いていくマイとユイに加えてはしゃぐヒビキ。6人はそんな4人を見守りつつ後を追う。極振りの3人なら走っていかれても見失うことはないだろう。ただし、ヒビキは別なので特に注意していたが。

 

「メインクエストに当たるものは皆同じかな?枝葉がどこまで広がってるかだけど……」

 

「僕は手が空いたら逆の方見てこようかな?どっちも知れた方が作戦は立てやすいだろうし」

 

「俺も行きたいですね。地形を知っておくことで色々と有利に立ち回れそうですし」

 

「なら私もそうしようかしら。メイプルちゃん達がこっちを探索してくれるならこっち側の素材は集まるでしょうし。できるなら全部早めに手に入れたいわ」

 

「じゃあセイバーとイズさんとカナデはそうしてくれると助かります。このフィールドそのものが対人戦に使われることも考慮して」

 

「俺とカスミも探せるものは探すぞ。堅実さは俺達で確保だ。で、偶然に助けられる必要があるようなものはあの4人に任せればきっと問題ない」

 

「問題ない、というのも変な話だが……そう思えてしまうな」

 

「いつも通り楽しくやってくれていれば、きっといい結果も転がってくると思います」

 

「だな」

 

前を行く4人を見つつ、対人戦への備えについて6人は話す。メイプル達は確かに強力だが、それにかまけてはいられない。良い結果に繋げるにはそれ相応の準備も必要なのだ。

元々入念な準備をするのが嫌いでないセイバーやサリーは、今回も作戦を用意するためいち早く準備に取り掛かるのだった。

 

宿、すなわち九層のギルドホームへと一度入った一行は、クエストが示している王城とやらに向かうことにした。

 

「ねえねえセイバー、サリー、あれだよね?」

 

「流石にそれで合ってるはず」

 

ギルドホームからでた10人が目指すのは遠くに見える白く美しい大きな城だ。

そこに続くように幅の広い道が伸びており、他のプレイヤーはもちろんのこと、たくさんのNPCも歩いていて、今いる場所は賑わうメインストリートといったところだろう。

 

「町自体はかなり広いな。四層なんかの時も広いと思ったんだが」

 

「ここはそれ以上のようだ。町を一通り見て回るだけでも中々時間がかかりそうだ」

 

「片側だけでも高い外壁の中にありますからね」

 

10人は城へと続く階段を登りながら、眼下に広がる城下町を眺める。高い外壁の側まで続く町並みと何本かの大通りが確認できた。歩いてみればこの町のあちこちに様々な店を見つけることができるだろう。

 

「まだもう1つあるっぽいから、行けるところは多分これの倍だね」

 

サリーが言うように逆側のエリアにも町らしきものは見えた。対比させているというのなら大きさや構造も似ているものになるだろう。

 

「おー……皆で協力して見て回らないと!」

 

フィールドも広いが、それはそれとして拠点となる町の広さはこれまでにない規模となるだろう。フィールド探索も大事だが、ヒントやクエストのきっかけが町の中にも転がっていることはここまでの層で確認できている。

 

「今回は僕は町の中担当かな」

 

「今回も。じゃないかしら」

 

「あはは、そうだね」

 

「カナデはいつも通りやれば良いと思うよ」

 

「これだけ広ければ戦闘以外でも退屈しなさそうだな」

 

そうやって話しているうちに階段を上り終えた10人は、遠くに見えていた城の正面までやってきた。開かれた城門からは建物へと続く道が見えており、その両側には整備された庭園が見える。

門の前には町へ入ってきた時と同じように兵士らしきNPCが両側に立っており、セイバー達が近づいていくと話しかけてきた。

 

『旅の者か。面白い時期に来たものだ』

 

「何かあるのかなサリー?」

 

「さあ?時期っていうと何かイベントとか?」

 

「どちらにしろ、ただ事では無さそうだな」

 

『案内する。ついて来るように』

 

そう言うと兵士は先導して城の中へと入っていく。ここはついていく他ないとセイバー達は先を行く兵士の後を歩いていった。

城は中まで作り込まれているようで、入ってすぐのエントランスからいくつもの通路が伸び、壁や床、天井に至るまで、綺麗な装飾がなされていた。

 

「他の廊下も歩いていけるのかなあ?」

 

「クエストの進み次第で、とかじゃない?作っておいて入れないってこともないと思うし」

 

廊下を歩き、階段を上り、メイプルが物珍しそうにキョロキョロと周りを見ていると、先導していた兵士が一つの大きな扉の前で立ち止まった。

 

『この先だ。入るといい』

 

兵士は短くそれだけ言うと、その手で扉を開け、ようやくセイバー達にも中の様子が分かった。

部屋はボス部屋よろしく縦に長く伸びており、見るからに強そうな兵士がずらっと両サイドに並んでいる。そしてその最奥には玉座に腰掛け、王冠を被り、白い髭を蓄えた1人の年老いた男がいた。

 

「王様かな?」

 

「見た感じそうじゃない?こんなに簡単に通しちゃって大丈夫なのかとは思うけど……」

 

「俺達が安全だとわかってるからだろ。じゃなければ警備が甘すぎる」

 

セイバー、メイプル、サリーがひそひそと話していると王様の方から声がかけられる。

 

『旅の者よ。良い時期に来てくれた』

 

「セイバー、サリー、やっぱり何かあるみたいだね」

 

「うん。聞いてみよう」

 

『近々、隣国と1年を左右する祭事が執り行われる。旅の者もこれに参加することが可能となっている』

 

「なるほどー」

 

「それがイベントかな?あ、クエストも進んだね」

 

「【陣営を決定する】に変わったな」

 

このクエストには時間制限があるようで、それがイベントの開始を示すものであるだろうことはセイバーにも理解できた。

 

『入国時に光を浴びたことで、現在は我らの陣営となっておる。……当然、変更も厭わない。そういう取り決めである』

 

同じように逆側の国へ入れば光を浴びて陣営が更新されるというわけだ。さらにどちらにも属さなかった場合はどちらかの陣営に割り振られるということも伝えられる。その上で、戦闘に参加するかはあくまで自由となっている。

 

『これは力を示すためのもの。例年、命の心配もなく、魔術によって顕現する現実の複製の中での城攻めとなっておる。我が国に属するというのなら、その力期待しておるぞ』

 

つまるところ次のイベントは、このフィールドと同じ場所をイベントフィールドとして互いの国の最奥にある城を落とすことが目標となるわけだ。

地形を生かした戦闘も、隠密しての潜入も、物量による正面突破も可能となり、戦略の幅は広い。

もっとも以前のギルド対抗とは違い、その規模は何倍にも膨れ上がっている。異なるギルドのメンバー相手に指揮を取るというのも難しいだろう。連携といっても口で言うほど簡単ではないのだ。

 

詳しいルールまではまだ分からなかったものの、これで戦闘形式や最終目標ははっきりとした。どちらの陣営にも属さないプレイヤーとは九層に来ていないプレイヤーも含めるようで、既に到着しているプレイヤーのアドバンテージは地形や設備の詳しい情報を手に入れ準備ができることにあるだろう。

 

『何かあれば来るが良い。来るものは拒まんからのう』

 

王がそう言うと10人を案内してきた兵士がまたセイバー達を部屋の外へと誘導する。

そうして部屋から出たところで兵士は前を向いたまま言葉を発する。

 

『私としては味方になることをすすめるぞ。向かいの国の王も強力だが我らが王はさらに強い、実際見てみるまでは実感も湧かないことだろうが』

 

自分の国のトップを良く言うのは当たり前といえば当たり前だが、それを差し引いてもその言葉には真実味があった。この口ぶりだと城攻めの際には王様とも戦うことになるだろう。

 

「王様強いんだね……」

 

「お爺ちゃんはゲームだと結構強かったりするね。戦闘スタイルとか分からないし、今回のところは実際やってみるまで分からないけど」

 

「そういうものなんだ」

 

「こうなるとますますイベントが楽しみになるな」

 

こうしてセイバー達は来た道を戻りながら色々と話していると入り口にまで到着した。

 

『戦闘に備え準備も進められている。城を出て町を見下ろせば正面に目立つ大きな建物が見えるはずだ。手を貸すつもりがあるのならそこへ出向くといい。依頼がいくらでも貼り出されているはずだ』

 

「はーい!」

 

「となると次はそっちだな」

 

「そうね。クエストも次に進んだみたいよ」

 

「いくらでもということなら、おそらくそこから分岐していくということなのだろう」

 

「NPCも戦闘に参加するみたいだし、僕らが今後もし逆側につくなら敵陣営を強化することになっちゃったりするのかな?」

 

「ありうるね。でも、まずはその依頼っていうのを見てみないとかな」

 

「やりやすいものがあるといいんですけど……」

 

「私もお姉ちゃんもクエストってあんまり受けたことないですし」

 

「まあ、多分問題ないと思うぞ。一応九層のメインとして用意されてるものだからな。全く進められないようなものにはなってないだろ」

 

「はい!」

 

「が、頑張ってみます……!」

 

得手不得手がはっきりしているマイとユイなどは、クエストとして提示されているものをクリアできないことも十分ありうる。モンスターの撃破ならいくらでもできるが、他の能力値を要求するようなものはどうにもならない。

 

「じゃあまずは行ってみる感じで!」

 

「だね。それに、このメインクエスト以外にもイベントはきっと盛り沢山だよ」

 

「じゃあ早速行ってみよう!!」

 

「あんまりはしゃぐなよ。ヒビキ」

 

「えぇー」

 

城下町は広く、フィールドはさらに広大だ。これまでの層のことを考えても、隠しイベントはどこかにいくつもあるのだろう。

 

「そうだね!クエストだけじゃないもんね!」

 

「ふふっ、面白いもの一つでも多く見つけられるといいね」

 

「うん!建物は……あれかなあ?」

 

メイプルは遠くからでも分かる、周りより大きく、高さもある立派な建物を指差す。

 

「みたいだね。クエストに目的地も出てるし、間違いない」

 

「よーし、急ごっ!セイバー、サリー!」

 

「はいはい。転ばないようにね」

 

「メイプルの場合、転んでもダメージにはならなさそうだけどな」

 

そうして、セイバー達は建物目指して足早に長い階段を下りていくのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとクエスト

来た道を戻り、セイバー達は遠くから見えていた建物の前までやってくる。それは大規模ギルドのギルドハウスよりもなお大きく、これならクエストを受けるため多くのプレイヤーが集まっても問題はないだろう。

 

「おじゃましまーす!」

 

メイプルが扉を開けると中の様子が窺える。中は外観通り広い空間になっており、依頼書らしき貼り紙がされた掲示板とNPCが立っている受付カウンターがいくつも目に入ってきた。

依頼前に落ち着いて相談するためのものとして椅子やテーブルも置かれており、奥には料理やポーションなどそれぞれが売られていることを示すプレートが壁に設置されているのも見える。

階段を上れば2階、3階にも続いており、ここはまさに全プレイヤー共同の巨大ギルドといった様子だった。

 

「おおー!広いねー!」

 

「奥によく使うような店も揃ってるみたいだし、ここ中心で動いても大丈夫そう」

 

「後で品揃え確認しておかないとな」

 

「そうね。層ごとに新しいアイテムも増えるもの」

 

「あとはクエストがどうなっているかだが……」

 

「これだけプレイヤーがいても混み合わないようカウンターと掲示板のそれぞれの前でクエストを受けられるみたいだな」

 

セイバー達は早速現在受けられるクエストについて確認することにした。

とりあえず掲示板の前に行くと目の前に青いパネルが出現し、そこにクエスト名がずらっと並ぶ。さらにそれを選択することでより詳しい内容も見ることができる。

 

「おおー、いっぱいあるね!」

 

「これなら全員自分に合っているクエストを選べそう。戦闘、採取……物資運搬とかもあるよ」

 

「バリエーションも豊富だな」

 

「城へ行くのを指示してきたメインっぽいクエストは、ここでクエストを受けることとだけ書いてあるからどれ受けても問題ないんじゃないか?」

 

「そうね。だからきっとこれだけ種類も多くしているのよ」

 

「それを確かめるためにも皆で別のを受けてもいいかもね。僕らの人数である程度クエストとその後の進展を把握したいならさ。ほら、隣の国もあるなら尚更」

 

「では早速どれか受けてみるとしよう」

 

「私達ができそうなのは……」

 

「どう?お姉ちゃん、何かありそう?」

 

それぞれクエストの内容を確認すると、クリア条件を達成できそうなものを選んで受注する。

 

「おしっ、何か変化があるまではクエストをこなしてみるか!」

 

「受けた中で他の人でも楽にクリアできそうなら共有していく感じでいきましょう」

 

「じゃあ皆頑張ろー!」

 

こうして10人はそれぞれが受けたクエストが示す場所へと向かっていくのだった。

 

早速クエストを受けたセイバーは1人町の外にまで出てきていた。今回受けたのは森の中にいるモンスターを一定数討伐せよとのことであった。セイバーが目的地に到達するとクエストを出したNPCが立っており、そのNPCから改めてセイバーに依頼であるモンスターの討伐を指示された。それからセイバーは森へと入ると出てきたのは水の塊のようなモンスターで、この辺の中でも強さは最底辺といった感じである。

 

「最初に受けられるだけあってそこまで強いモンスターじゃねーな。黄雷の火力でもボコボコにできちゃうし、そこまで強めの設定にはしていないのかも」

 

モンスター達はセイバーの言葉を挑発と受け取っているのか何故かさっきからセイバーへと突っ込んできていた。しかし、セイバーの前にモンスター達は次々と倒されていった。

 

「そろそろ強いモンスターが出てこないかな〜っと。あれ?あそこにいるのは……」

 

セイバーが遠くに誰かを見つけるとそこにいたのはパズル使いの戦士、パラドクスだった。

 

「お、セイバーじゃん。久しぶりだな」

 

「パラドもな。お前ら【炎帝の国】はこっち側に付くのか?」

 

「それはまだわからないな。俺達はギルドメンバーを二手に分けてそれぞれの国を偵察中だし」

 

「ああ、なるほど。確かにそういう所で数が多いというのは役に立つな」

 

ギルドメンバーが多ければ多いほど一度に受けられるクエストの数は増え、更には反対側まで見る余裕ができる。セイバー達【楓の木】の何倍もの人数がいる大規模ギルドならこのようなことは容易いだろう。

 

「それで、セイバー。また俺達で戦うか?」

 

「やめておく。今はクエスト中だし、あとちょっとで終わるからその後にしてくれないか?」

 

「そっちもクエスト中か。まぁ、入ったばっかだし当然と言えば当然か」

 

「わかってるならいちいち……ん?」

 

セイバーは言葉を発する途中で話すのを止めた。何かこの辺の空気が変わった気配がしたからである。パラドクスも同じことを感じ取ったのか2人共身構えた。すると、近くの茂みから人と同じ背丈をした白い熊のモンスターが現れた。

 

「な、なんだコイツ?」

 

「この辺じゃ見ないモンスターだな。何かのイベントか?」

 

「いやいや、俺達この辺に来たばかりだぞ?そんな都合よく出てこないだろ」

 

「だとしたら一体何の……」

 

2人が混乱していると熊のモンスターはセイバー達へと氷のブレスを放ってきた。

 

「うわっ!?」

 

「いきなりかよ。だったら!【大変身】!」

 

「烈火抜刀!」

 

セイバーとパラドクスはそれぞれ氷属性に有利を取れる炎の力を宿した形態に変化。それを見た熊のモンスターはセイバー達へと氷の爪で攻撃を仕掛けてくる。

 

「出番だ。エム、【覚醒】!【影分身】」

 

するとパラドクスの姿が増え、熊を取り囲んだ。熊は標的がいきなり増えたことによって混乱し、攻撃を中断することになった。

 

「お、俺と一緒にテイムしたジャッカルのモンスターか」

 

「もう今はあの時とは違ってかなりのパワーを持ってるぜ。エム、【高速斬撃】!」

 

パラドクスの指示でエムは増えたパラドクスの影に隠れながら超高速で動きつつ熊のモンスターへと連続攻撃を加えた。

 

「ならこっちも行くぞ。【爆炎放射】!」

 

セイバーは魔法陣から炎を放射すると熊が纏う氷を焼き尽くしていき、一気に相手に攻撃を叩き込んでいく。それに加えてパラドクスが炎の拳を使って殴りつけ、熊を吹き飛ばす。

 

「思ったんだが、コイツは倒せるモンスターなのか?」

 

「いきなりどうした?」

 

「このモンスター、さっきから攻撃してるのにピンピンしてる。まるでダメージ自体を受け付けてないみたいに」

 

「何だと?討伐不可能なモンスターってことか?」

 

「その可能性も出てきた。もう少しダメージを与えたらわかるかもしれない。もし倒せないモンスターならここから逃げるしか無い。完全に敵対する奴って思われてるからな」

 

セイバーの予想は当たっており、このモンスターにはHPバーが存在しないのだ。HPの概念が無ければ倒すことは不可能に等しい。そして、倒せないということはセイバーもパラドクスもそれぞれが持つ自慢の火力もあまり意味が無いということになってしまう。

 

「取り敢えず、倒せるかどうかの見極めをする。パラド、ちょっと遠距離からアイツを高火力で攻撃できたりしない?」

 

「遠距離から高火力かぁ……うーん。できないことはない」

 

「本当か?」

 

「ただな、この後対人戦が控えてるから新しい手札はあまり晒せないな」

 

「そういうことな。だったら、こっちも新しい物を見せてやる。これでおあいこだ」

 

「そう来たか。なら、交渉成立だな」

 

「流水抜刀!」

 

セイバーはパラドクスには見せたことの無い氷の戦士、流水を使った場合の最新装備を見せた。

 

「これが噂に聞いたセイバーの流水を使った新しい力か」

 

「取り敢えず、お前がその新しい力を見せるまでの時間稼ぎはしてやるよ。【ブリザードラッシュ】!」

 

セイバーは流水に氷を纏わせると熊を連続で斬りつけた。熊も負けじと氷の爪で対抗するが、スピードはセイバーが上回っており、セイバーも反撃をもらっているものの、確実に攻撃を当てていった。

 

「【氷獣大地撃】!」

 

セイバーは熊の足元ごと地面を凍結させるとそのまま走っていき、すれ違い様に熊を両断した。しかし、これでも熊を倒すことは出来なかった。

 

「どうやら、ちゃんとセイバーは役割を果たしてくれてるな。なら、俺もそれに応えるか」

 

パラドクスはいつも使ってるダイヤル付きの長方形の物体を抜くとそれとは別でダイヤルに半分ずつ絵が入っている長方形の物体を取り出した。

 

「遠距離から高火力での攻撃ならこっちだな」

 

パラドクスはその物体のダイヤルを回して戦艦の絵が上を向くように変えた。

 

「【大変身】!」

 

するとパラドクスの上に巨大な戦艦が登場。そこには大量の砲台が備え付けられており、いかにも遠距離攻撃が得意そうな見た目をしていた。

 

そして戦艦がパラドクスの真上に来ると反転し、アーマーへと変化。そしてそれが胸部、両肩、両腕、両足に装着されていく。最後に頭に船の乗組員が被っている帽子のような物を被り、履いているブーツが黒く染まると変化を終えた。

 

「お、アレがパラドクスの新しい力か。メイプルと似たような装備してるな。凄い重そうだけど……」

 

セイバーがこの時に思い浮かべたのはメイプルの【機械神】発動時に展開される全武装状態だった。流石にそこまで重装甲にはなっていないものの、それに近いような雰囲気をパラドクスは出していた。

 

「コイツで大出力の砲撃をかましてやる。【砲撃開始】!」

 

パラドクスが言葉を言い放つとセイバーが近くにいるにも関わらず全ての砲台から高火力の射撃を発射した。

 

「ちょちょっ!?待て待て、まだ近くに俺いるし!!」

 

セイバーは辛うじてこの砲撃が自身へと到達する前にその場から離れることができ、セイバーが離れた瞬間に大量の砲弾や弾丸が熊のモンスターを襲った。熊のモンスターは最初の方こそ体を凍らせることで防御を行なっていたが、それも悪あがきにしかならず片っ端から降り注ぐ弾丸によって粉砕されていった。

 

「アレを俺が喰らっていたらと思うと……恐ろしいな」

 

「どうだセイバー?アイツについて何かわかったか?」

 

「うーん……どーだろ……ん?」

 

セイバーが何かに気づくと聖剣を狼煙へと持ち替えてスキル【透視の目】を発動。それによって熊のモンスターのある一点を見た。その一点とは……。

 

「アイツの腰に黒くて丸いバックルがついてるな。それの周りに円を描くように紫のゲージが溜まってる……もしかしてアレが残りの耐久力なのか?」

 

そのゲージは現在、半分ほどにまで来ていたが、まだ全て溜まり切るまでには時間がかかるようだった。そして、それが残りの耐久力かどうかの保証も無いため今の所はそれが円を描き切るまでダメージを与えるしか無かった。

 

「パラド!今はとにかくダメージを与えまくれ!もしかすると倒せるかもしれない!!」

 

「わかった!セイバーも攻撃に参加してくれよ」

 

「勿論だ。流水抜刀!【氷塊飛ばし】!」

 

セイバーもパラドクスと同様に遠距離から氷塊を飛ばしまくってダメージを与えていく。熊は反撃をしようとしていたが、最早2人の攻撃を掻い潜りながら熊が攻撃を繰り出すことなど不可能に近かった。

 

「おいおい、ここまで一方的だとつまらないぜ。反撃してみろよ」

 

「煽るなパラド。まだ決着が付いてないんだ。気を抜くなよ」

 

「わかってるって。これで追い討ちだ。【バンバンファイヤー】!」

 

パラドクスが一時的に射撃を止めると両腕のアーマーを合体させつつ体中の砲台を中央へと調節。一点集中させた砲撃を熊へと放った。

これにより、モンスターのゲージは9割にまで溜まり後一押しだった。

 

「トドメは譲るぜ。セイバー」

 

「ああ。【タテガミ氷牙斬り】!」

 

セイバーはトドメに熊へと突撃しながらの氷の斬撃を放った。そしてそれはカウンターで爪による反撃をしようとした熊の攻撃を躱しながら叩き込まれ、熊は腰のバックルのゲージを全て溜めることになった。

 

その瞬間、バックルが勝手に開きそのタイミングで大爆発と共に熊のモンスターは消滅するとその場に1枚のカードが落ちた。

 

「……あれ?終わりなのか?」

 

「どうやら倒せたみたいだな。そんで、このカードは何だ?」

 

2人がその場へと歩いて行き、カードを拾おうとすると超スピードでそれは何者かに回収された。

 

「な!?」

 

「お前は誰だ!」

 

そこに立っていたのは緑のアンダースーツを着て金のアーマーを装備し、頭のヘッドギアは蜘蛛とクローバーを模した物を装備したプレイヤーであり、腰にはクラブのマークが意匠として入っているベルトをしていた。

 

「悪いけどこれは僕の持ち物でね、勝手に取られたら困るんだよ」

 

「何だと?そいつを俺達にけしかけたのはお前か?」

 

「当たりだよ。ちょっと君達の力を探れってうちのリーダーが言っててね。セイバー、特に君を」

 

「俺?」

 

「そうそう。今度のイベントに向けての事前情報が欲しくてね。特に君はたった1人でトッププレイヤー数人分の力を発揮するからうちのギルドでは要注意人物ってわけ」

 

「おいおい、セイバーに用があるのなら直接行けよ。何でわざわざ回りくどいことをする?しらけちまうだろ」

 

「おっと、それだと僕の情報もバレるからね。今回は自分の情報を上手く隠しながらセイバーとパラドクスの2人分の力が見れてラッキーだったよ」

 

「くっ……」

 

「そうか。そいつはラッキーだったな。でも、アレは俺達の全力じゃ無いことぐらいはお前もわかってるんだろ?」

 

「勿論。アレで全力ならうちのリーダーどころか僕にすら及ばないからね」

 

「相当強いんだな。お前の所のギルドマスターは」

 

「そうだよ。ま、せいぜいクエストをクリアしている間、情報を沢山晒してくれよな。そうすれば僕達もやりやすいからね」

 

「良いぜ。なら、その知られた情報を上回る実力でお前を倒してやるからよ!」

 

「あ、そういえば自己紹介をしてなかったよね。僕の名前はレンゲル。ま、以後お見知り置きを」

 

そう言ってレンゲルは1枚のカードを取り出すとそれを自身が持つ杖に読み込ませた。するとレンゲルの周囲に煙が発生して彼はその場から立ち去っていった。

 

「なーんか嫌な奴だったな」

 

「ああ。しかも、アイツのスキルについては何も探れなかったな。代わりに俺達のスキルは少し見られてたし」

 

「取り敢えず、クエストを終わらせてさっさと報告に行こうぜ」

 

「そうだな。さっきのは多分レンゲルってのが出した奴だからカウントには入らないだろうしな」

 

それから2人はそれぞれのクエストを終わらせるとクエストを取り扱っている建物へと戻るのであった。

 

 

 

 

レンゲル視点

 

セイバー達の前から撤退したレンゲルは自身のギルドホームへと戻っていた。そこには以前に一緒にいた3人の内、ギルドマスターを除く2人は出かけておりその場には彼のギルドマスターしか残っていなかった。

 

「マスター、セイバーの情報を一部得たので報告をしますね」

 

彼のギルドマスターはレンゲルの報告を真剣に聞くと席に座った。

 

「ご苦労だったな、レンゲル。お陰でセイバーにが改めて強いということがよくわかった」

 

「へぇ。やっぱりマスターはセイバーにご執心なんですね。同じ剣士としての血が騒ぐんですか?」

 

「そんな所だな。よしレンゲル」

 

「何ですか?」

 

「他の2人が戻り次第俺もセイバーの前に顔を出す」

 

「良いんですか?」

 

「ちょっとアイツと直接対決してみたくなっただけだ」

 

「なるほど。なら、2人を反対側から呼び戻し……」

 

「いや、今は好きにやらせておけ。アイツらにも都合がある。4人が再び揃った時がセイバーの元へと出るときだ」

 

「わかりました」

 

そう言ってマスターと呼ばれた人物はギルドホームから外へと歩き出すのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと反対側

レンゲルからけしかけられたモンスターを倒したセイバーとパラドクスはクエストをクリアした後に別れることになり、セイバーだけが町へ戻ってきた。セイバーはクエストクリアの報告のため依頼カウンターへと出向く。九層でできることの多くはここを起点としているため、出て行った時と同じように多くのプレイヤーで賑わっていた。

 

「取り敢えず、終わったクエストの報告に行きますか」

 

セイバーがある程度カウンターの近くまで行くとクエストの表示が切り替わり報告可能となった。青いパネルに表示された達成の文字をタップすると、報酬として素材とゴールド、さらに追加の経験値を手に入れることができた。

 

「なるほど。さっきの戦闘でも素材や経験値はいつも通り入る上にここで追加の経験値。これはクエストをするだけお得だな」

 

九層の中心となる要素なだけあって、クエストを受ける方がいいとプレイヤーが自然に判断するような作りになっているわけだ。

 

「さて、他の皆はどうしてるかな……お、あそこにいるのはメイプルとサリー、あと【ラピッドファイア】のリリィさんとウィルバートさんか」

 

セイバーが4人の元に歩いていくと向こうも気づいたようでメイプルが手を振ってきた。

 

「あ、セイバー!」

 

「セイバーも終わったんだね」

 

「これは面白いことになりそうだな」

 

「そうですね」

 

「リリィさん。もしかして【ラピッドファイア】はこっち側ですか?」

 

「それなら2人にも話したが、今の所半々といったところかな。どちらも見てみないことには分からないからね」

 

パラドクスのいる【炎帝ノ国】と同様に【ラピッドファイア】もギルドメンバーをそれぞれの国に送り込んで情報を揃えている段階のようである。

 

「イベントでもこのフィールドを模したものが使われるようですから」

 

ウィルバートの言う通り細部まで情報を知っているかどうかは戦闘において重要になってくる。大規模ギルドならそこに人数をより多くかけられるため、アドバンテージを活かそうというわけだ。

 

「ですね。私も準備期間だと思っています」

 

「この準備期間でどれだけしっかりと下調べできるかが勝敗を分けそうですし、そこはしっかりとしますよ」

 

どのプレイヤーも九層の探索をするとともに、その先にある対人戦を見据えている。

 

「私達はどちらの国にも一度入ってきたが……早めにどちらもその目で見てみるといいと思うね。やはり自分で見てみないことにはどちらの国につくかは決めにくいだろう?」

 

今回は2つの国でフィールドの性質が大きく異なる。ギルドメンバーから伝え聞いたり、掲示板から情報を収集したりすることはできるが、百聞は一見にしかずというものだ。

 

「国ごとにクエストも用意されていますから。イベントまでにどちらもクエストをこなすとなると難しいでしょうね」

 

「なるほどー……」

 

まだクエストをクリアして行った先に何があるかは分からないが、それがイベントを有利にするものである可能性も捨てきれない。中途半端にどちらもというより、どちらかの国に属することを早めに決められる方がいいだろう。

そのためにリリィ達は最初のうちにどちらも見ておくという選択を取ったのである。

 

「じゃあさセイバー、サリー。向こうも見に行っちゃおうか?」

 

「いいよ。ここは先人にならっておこう」

 

「そうだな。その方が有利にことを進められそうだ」

 

ちょうどどうするか迷っていたところに1つ方針ができた格好となる。もちろんこれで属する国を決めることにはならないが、早め早めに動いていくようにしたのだ。

 

「役立ちそうなものを見つけたら教えてくれると助かるよ」

 

「ふふふ、ライバルになりそうな人には教えられません」

 

「はは、それは残念だね」

 

それはそれとして、現時点では特に対立しているわけでもない。ダンジョンなどともに攻略することがあればそこは力を貸し合うということに変わりはない。

あくまでも、対人戦も気にかけているというだけなのだ。

 

「では、機会があればまたパーティーでも組んでどこかに」

 

「はい!」

 

小さく会釈をしてウィルバートとリリィは奥へ向かっていく。広い部屋の一角にはプレイヤーが集まっており、合流したことから【ラピッドファイア】の面々であることが察せられる。ここからでは何を話しているかは分からないが、おそらく情報を交換しているのだろう。

 

「じゃあさっそく出国だね」

 

「むこうはどんな感じかなあ」

 

「イメージ的には攻撃力の高いモンスターとかトラップとかが多そうな感じだけど……」

 

「こっちは足止め系が多そうだしね。それとは対を成しているとは思う」

 

それもこれも行ってみなければ分からない。最初こそしばらく滞在する予定だったものの、3人は一旦逆側、炎と雷、荒れた大地の広がるフィールドへと向かうのだった。

 

氷と水、緑に溢れるフィールドを離れるように3人が歩いていくと、徐々に足元の草花はなくなり、広がっていた森も見られなくなっていく。

2種類のフィールドの境目は荒れた大地と豊かな森が混ざり合うような形になっている。ところによって優勢な方が変わるといった様子だ。

 

そんな境目の部分を抜けるといよいよ反対側のフィールドが目の前に広がってくる。

そこは背の高い岩石が岩の森とでもいうように並び、その合間を砂地が埋めている場所だった。岩からは定期的に電撃と炎が走っており、反対のフィールドにおける水の道や氷の結晶のように、このフィールド独自の雰囲気を形成している。

さらに小川のかわりにドロドロとした溶岩が流れており、辺りを照らし出している。

 

「あれは触れない方がよさそうだね」

 

「うん、溶岩は燃えちゃうもん」

 

「俺は烈火を持ってたら火属性は平気なんだけどな」

 

「じゃあ入る?」

 

「遠慮します」

 

メイプルも固定ダメージ相手にはどうしようもない。防御力がいくら高くともそれを参照できなければ意味はない。

 

町まではフィールドを横断していく必要があるため、当然途中モンスターと遭遇することもある。3人が岩場を歩いていると、岩陰から1メートルを越える大トカゲがぞろぞろと姿を現したのだ。

 

「ふふん、こっちなら!【全武装展開】!」

 

「錫音抜刀!【ロック弾幕】!」

 

セイバーが錫音に持ち替え、メイプルも兵器を展開すると2人で全方向に無差別に弾丸をばら撒く。基本的に避けることなど不可能といえる弾幕は近寄って来ようとしたトカゲたちを次々に打ち抜きHPを削っていく。しかし、流石に九層というべきかそれだけで撃破とまではいかず、周りを取り囲んだ状態で反撃とばかりに口から激しい炎を吐き出す。

 

「ちょっと避難するよ!」

 

「あ、待てよ。最光抜刀!【カラフルボディ】、【漫画撃】!」

 

【身捧ぐ慈愛】を発動していないため、サリーは巻き込まれないよう素早く空中に見えない足場を作って上空へと避難する。セイバーもそれに乗じて空へと退避する。メイプルはというものの、互いに攻撃を受けながらの攻撃となるが、その防御性能には違いがありすぎる。トカゲ側も硬い鱗による防御はなかなかのものだが、メイプルの体には遠く及ばない。炎に包まれ火柱の中で直立したまま、壊れた分だけ兵器が新たに生産される。

少し離れた位置に着地したセイバーとサリーはその光景を眺めていた。

 

「大丈夫……なのがおかしいんだけど。問題なさそうだね」

 

「ふう。あのまま撃ち合ったらダメージ貰う所だった」

 

「もしアレともう1回戦うのならアンタも注意しなさいよね」

 

「わかってる。2度も喰らうつもりは無いしな」

 

メイプルのHPバーはピクリとも動かず、そうしているうち被弾が多かったトカゲから順にばたりと倒れて消滅していく。

対抗する手段がなければどれだけ攻撃を繰り出そうと、数を用意しようと変わらないのだ。

メイプルを包む炎もトカゲの数が減るとともに小さくなっていきやがてそれは完全に収まった。

 

「安定の勝利だな」

 

「ただの炎だけなら大丈夫!」

 

「トカゲは大丈夫と……他のモンスターも見てみないとね」

 

「?」

 

「このフィールドをそのまま使って戦うならモンスターもこのままの可能性がある。攻め込む先に苦手なモンスターが少ない方が良いだろ」

 

「おおー!確かに!」

 

「封印とかも嫌だけど単純に攻撃的なモンスターが多いのもなーって。出てくるとして扱いも分からないしね」

 

「ふんふん、なるほど……」

 

メイプルもどんなモンスターがいるかは覚えておこうと認識を改める。今までとは違い次回イベントの内容が早めに告知されていることもあって、普段の探索とは意識する場所も変わってくるというわけだ。

 

「じゃあいい感じに隠れられる場所とか探しておくといいってことだね!」

 

「そそ、奇襲されにくくなるし奇襲しやすくなるからね。あとは……飛び出した先が溶岩だまりみたいなこともなくなる」

 

「それは大事かも!」

 

「という訳で今回はモンスターの様子も確認しながら行くぞ」

 

3人はブレイブやシロップに乗って空を行くのはやめにして地形なども確認しながらとすることにするのだった。

 

そうしてほどなくして町の近くまで辿り着いた3人は出会ったモンスターを振り返る。

 

「えっと……棘を飛ばしてくるおっきいサボテンと、地面から出てくるおっきい虫と、さっきクエストで戦った氷の塊の炎バージョンと雷バージョン!」

 

「サボテンくらいかな。貫通っぽかったのは。また今度調べておくね」

 

「俺も覚えておきますか。メイプルの弱点はそのまま防御の綻びに繋がるし」

 

棘が飛んでくるのを見て、見た目からして流石に体で受けるわけにはいかないと盾でガードしたため真偽の程は分からない。大量に飛んでくる棘が防御貫通攻撃の場合、【不屈の守護者】も多段ヒットには弱いため直撃すればメイプルのHPだと危険なのだ。ただ、他のモンスターはエフェクトからして問題なそうだったためその体で受けて貫通攻撃でないことは確認済みである。

そして、大トカゲの時点で分かっていたことではあるが、フィールドに現れるモンスターは完全に違うものになっているということだ。

 

「属性や攻撃方法との相性もあるし、その辺は考えた方が良いかもな。ま、俺は基本何が相手でも対応できるけど」

 

「考えることいっぱいだねー」

 

「どのプレイヤーもできることが増えたしね。その分考慮することも多くなっちゃうかな」

 

レベルが低くスキルが少ないうちは、取れる手段がそもそも少なかったため、考えてもどうしようもないことが多かった。ただ、今はもうそうではないのだ。

 

「このくらいのモンスターならぶっつけ本番でもいいけどね。念のためってやつ」

 

「情報は多めの方が良いだろ?」

 

多少厄介と言えるモンスターはいたものの、あくまでもフィールドに常に湧くタイプのモンスターだ。基本的に経験値を稼ぐために倒されていくものであり、特別強くされているわけではない。九層に来るようなプレイヤーを追い込むのは、大体ボスモンスタークラスである。

 

「ずっと話してても何だし、入ろうか」

 

「うん!」

 

3人はもう街の入り口までやってきている。街を取り囲む背の高い壁と、開かれた門の先に見える黒を基調とした町並みには、向こうで氷と水が装飾に使われていたように、雷と溶岩が町を巡っているのが見える。

白を基調とし水と自然に溢れた国と比べて、禍々しく荒々しさを感じさせる国の中へと2人は足を踏み入れるのだった。

 

 

 

町の中へと入っていってまず分かるのは、2つの国に設備としての差はないということである。門からはまっすぐに大きな通りが伸びており、見覚えのあるNPCのショップの看板もほぼ同じ位置関係に確認できた。

1つ大きく違うのはプレイヤー以外に人が少ないことだろう。

といってもあくまで少ないのは人だ。この町を歩いているNPCは獣の耳や尻尾、竜の翼など、それぞれ人にない特徴を持っていたのである。

 

「なるほど。こっちはそんな感じかあ」

 

「四層みたいな感じだね!」

 

「確かに近いかな?」

 

「イメージとしては向こうが人間の町でこっちは魔族の町かな?」

 

3人は町の様子を確認しつつ、同じように城の方へと向かっていく。既に受けていたクエストは自動的に一旦進行停止し、新たに城へ向かうクエストが受注された。

やはり国ごとにクエストが存在し、さらにそれらを同時に受けることはできないようである。

 

「ま、どっちかを選べってことか」

 

「そうみたいだねー」

 

「中々上手くできてるな〜」

 

手順はこちらも変わらないため、同じように少し高い位置にある城を目指して、大通りを進み長い階段を登る。

そうして城の目の前までやってくると、以前浮遊城で見たような、顔まで完全に爬虫類のそれになった竜人が兵士として立っており、3人に対応してくれる。

やはりこちらも同じように1度王の元へ案内してくれるようである。城の中を歩いている間、時折王や国についてほんの少しではあるものの情報を話してくれる。

 

『ウチの王様は強えからなあ。この時間なら玉座の間だろうが……変なこと言って叩き潰されないようにな!』

 

そう言って竜人の兵士は笑う。

 

「ど、どんな人なんだろう……」

 

「あっちの王様よりは力で押してくるようなタイプなのかも」

 

「魔族の王だから魔王様だったりして」

 

あちらはその見た目から肉弾戦というより魔法での戦闘を予感させたが、こちらは話を聞く分にはどうもインファイターのように思われる。

 

「そうだったとしたら水と自然の国の王様の方が陣営対抗では強そうだよね。味方してくれるかははっきりしてないけどさ」

 

プレイヤーの数から考えるに、大人数でのぶつかり合いがあちこちで起こることになると予想できる。

となると接近戦がいくら強くとも、体が1つでは対応しきれない部分も出てくる。

魔法ならものによってはその弱点をカバーするようなこともできるかもしれない。

 

「カナデが何冊かすごい射程が長い攻撃ができる魔導書持ってたりするし」

 

「確かに……近づけないと困っちゃうけど、魔法はそんなことなくていいよね!」

 

「どっちかと言えば俺は近づかないと始まらないし、魔法使い相手は面倒かな」

 

セイバーは戦闘スタイルが近接戦をメインとしているために射程の長い攻撃の厄介さはしっかりと理解しているのである。

そうこうしているうちに王のいる部屋の前までやってくると、同じように兵士が扉を開け、中へと招き入れられる。

 

「広っ……」

 

「本当だね!」

 

「これは王が巨大化するやつか?」

 

こちらの玉座の間はぱっと見て、水と自然の国の1.5倍程。さらに部屋の中に玉座に座った王らしき人物以外誰もいないこともあってより一層広さを感じさせる。

 

『王!客人です!旅の者で!』

 

兵士が呼びかけると王と呼ばれた人物は立ち上がる。すると、王は何とそのまま膝を曲げ勢いよく跳躍し、3人の前まで飛んできて空中で静止しゆっくりと地面に降り立つ。

改めて近くで見るとどんな人物かがよく分かる。身長は3人よりは少し高い程度、メイプルより少し長いくらいのぼさっとした黒髪に、細い体つきの女性であるが、それ以上に特徴的なのは硬そうな鱗に覆われ鋭い爪が伸びる手足と背中から伸びる竜の羽、そして大きな尻尾だった。

 

『んー?』

 

王は顔を寄せて3人を品定めするようにしばらく見た後、満足したのか少し距離を空けて尻尾と翼を黒い光に変えて消滅させ、手足を人間のそれと変わらないものに変化させた。

 

『何だまたひ弱そうな奴らだな!』

 

「ひと見かけによらないですよ。王だってそうじゃないですか」

 

「疑うのであれば俺達の力をお見せしましょうか?」

 

『ハハ、冗談だ。旅の者、我が国へよく来た!歓迎しよう!』

 

3人は同じように歓迎の言葉と近々起こるイベントに関連した話をもう一度聞いて、所属と依頼の説明を受ける。

 

『敵になった時は容赦しないからな。嫌なら味方についておくといい!』

 

王は自分の強さに自信があるようで、一通り説明をし終えると最後にそう言ってのけて、兵士に命じて3人を外まで案内させた。

玉座の間からの帰り道で3人は短い間に感じたあれこれを共有する。

 

「……あんな感じだった、と」

 

「本当に強そうだったね!」

 

「やっぱ予想通り魔王って感じだな。強さもかなりのものだろう」

 

「戦うなら最初近づいてきた時みたいな機動力を考慮しないといけないし、翼生えてたから普通に飛ぶだろうし……あっちの王様と比べると戦う様子は想像しやすいかな?」

 

予想通り肉弾戦が得意そうな雰囲気である。もし竜を元とした膂力があるならば攻撃力も相当なものだろう。

 

「あと素早い人型の敵は的が小さいっていう強みもあるし」

 

「サリー が言うと説得力あるかも」

 

「寧ろ説得力しか無いな。全く攻撃が当たらないし」

 

セイバーでもサリーの誇るあの速度についていくのは骨が折れることだろう。

 

「王様とも戦うことになるなら、こっちの味方をした方が楽になりそうではあるね。メイプルがいれば範囲魔法には相性がいいし。ほら、肉弾戦って感じじゃないお爺ちゃんの方は魔法を使ってきそうだから」

 

「なるほどなるほど」

 

とはいえ、これはまだ全て予想の段階でしかない。実際のところどうなのかは今後の情報収集次第である。

ともかく、これでどちらの国のトップにも会うことができ、一部のモンスターも確認が済んだ。いよいよここからは情報を集めながら、最終的にどちらの国に属するかを決めていくこととなる。

 

「まだイベントまで時間は結構あるしのんびりやっていこう」

 

「うん!」

 

「そうだな」

 

まだ九層の探索ははじまったばかり。あくまで全てはこれからである。

こうして3人はまた新たな情報を1つ得て城を出ていくのだった。

 

552名前:名無しの弓使い

陣営を決定せよ

 

553名前:名無しの大剣使い

もうちょっと待ってくれ

今のところどっちにしても大きな差はないとみてるが

 

554名前:名無しの魔法使い

そうなのか

まだ片方しか行ってないわ

 

555名前:名無しの大剣使い

とりあえず町の設備に関しては完全に同じ

見た目こそ違ってるけどショップの位置も概ね同じになっててその辺りは差を作らないようにしてあるっぽい

 

556名前:名無しの槍使い

その方がいいよな

片方だけ使い勝手悪いとかだとかなり人が偏るだろうし

 

557名前:名無しの魔法使い

俺はとりあえず自然豊かな方にしたよ

単純に荒地より過ごしやすい

落ち着くし

 

558名前:名無しの大盾使い

それは一理ある

やっぱ拠点にするって考えるとそういうのも大事だとは思うぞ

 

559名前:名無しの大剣使い

でもそっちと違って王が活発不遜系竜娘だぞ

お爺ちゃんではこの良さに勝てないのではないか

 

560名前:名無しの槍使い

爺さんもかっこいいしいいだろ

方向性は違うけど

 

561名前:名無しの弓使い

それ目当てで属する国変えてるやつは実際いた

それがモチベーションにつながるならそれもまた大事

 

562名前:名無しの大剣使い

「竜娘の王」これだけでアド

後単純に強そうだった……

 

563名前:名無しの大盾使い

ギルドメンバーから伝え聞いただけだけども

機動力凄そうな感じらしいな

 

564名前:名無しの弓使い

敵に回した時弓だと不利つくこと間違いないから味方になろうかと思ってる

 

565名前:名無しの大剣使い

実際お爺ちゃんは未知数な怖さがあるけどもそれより優先するのは今分かってる脅威なんだよな

 

566名前:名無しの槍使い

ちょっと待てギルドメンバーから聞いた?

それはつまりギルドマスターである彼女がそちらにいるということでよろしいか

 

567名前:名無しの大盾使い

まあ今のところはな

まだまだ観光と調査って感じだしどうなるかは分からん

 

568名前:名無しの大剣使い

未知数な相手より優先するのは今わかってる脅威なんだよな

 

569名前:名無しの大盾使い

そうだな

 

570名前:名無しの弓使い

NPC気にしてる場合じゃないか……

どっちかの王の元に魔王及び最強の剣士がいるんで……

 

571名前:名無しの魔法使い

一騎当千の化物はいくらでもいるしな

それとは確実に敵か味方になって戦うことになるからそっちに目を向けないと

 

572名前:名無しの大盾使い

まだ詳細も分かってないしな

モンスターとかイベントフィールドにそのままいる可能性もある

 

573名前:名無しの弓使い

だなあ

とりあえず範囲攻撃できるスキル揃えはするけど

 

574名前:名無しの大剣使い

境目の部分平地多いしそこで弓と魔法構えたらそうは近づけないだろうしレンジある方が強そう

だいたいその過程で範囲攻撃も手に入るし

 

575名前:名無しの槍使い

城に近づくほど防衛しやすくなるし逆に攻める側の消耗は増えているはずだからな

他プレイヤーと協力して陣形組まないと

 

576名前:名無しの大盾使い

それが一番だな

数とチームワークが勝つために必要だろ

 

577名前:名無しの槍使い

そんなの関係ないと言わんばかりの生命体と剣士が貴方のギルドにいるのですが

 

578名前:名無しの魔法使い

やってることは味方の強化だから……

ほら天使化とかね。

セイバー君?アレは単体で強いから相手になったらもうどうなっても知らん

 

579名前:名無しの大剣使い

最強の個が集まってチームワークにうんたらかんたら

 

580名前:名無しの弓使い

でも今回は第四回イベントより規模大きいし

より各ギルド間での連携が取れてるサイドが勝ちそう

いくら強いプレイヤーでも2箇所に同時に行くことはできないわけだし……上手く隙をつけばな

 

581名前:名無しの槍使い

結構難しいな

他ギルドのことは自分のギルドほどは知らん

 

582名前:名無しの魔法使い

他ギルドとの交流も必要かあ

 

583名前:名無しの槍使い

あと弓使い、セイバー君相手に2箇所同時に行くことができないは通用しないぞ?

 

584名前:名無しの大盾使い

ああ、セイバー君は分身可能だし、それはお前らも第4回イベントで見ただろ?

 

585名前:名無しの弓使い

そうでした。セイバー君相手にそれは通用しないんだった

 

586名前:名無しの魔法使い

それはそうと妙な噂を聞いた

 

587名前:名無しの大剣使い

何?

 

588名前:名無しの魔法使い

なんか自然豊かな方でモンスターを大量に召喚して使役する奴がいるんだとよ

 

589名前:名無しの槍使い

それってテイムモンスターとは別のなのか?

 

590名前:名無しの魔法使い

そうそう。てか、普通ならテイムモンスターは1体だけのはずなのに2体も3体も同時に使うプレイヤーがいるんだとよ

 

591名前:名無しの大剣使い

それはヤバイな。もしかしたらそいつならセイバー君に勝てたりして

 

592名前:名無しの大盾使い

それはかなり厄介だな。セイバー君でも勝てない相手となると俺達でどうにかなるのか不安になるな

 

593名前:名無しの魔法使い

噂はこれだけじゃない。そのモンスター使いを含めた4人組が最近密かに表舞台に出てきているとか

 

594名前:名無しの弓使い

それ俺も聞いたわ。そいつら、噂ではかなりの強者らしいぞ。てか、何で今まで出てこなかったんだろ

 

595名前:名無しの大剣使い

ああ、ヤバイ相手がどんどん増えていくなぁ

 

596名前:名無しの弓使い

そいつらを相手する時も注意してかからないとな

 

まだイベントの情報全てが開示されているわけではないため、推測を元に準備を進めることとなっているのはどこも変わらない。

だかそのうえで、より鋭い読みを働かせたギルドが戦局を有利にしていくのは間違いない。

だからこそ、どのプレイヤーも今集められる情報を集めて勝ちを手繰り寄せようとしているのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと調査

セイバーは2つの国をざっと確認してから炎と雷の国の地形の偵察を行なっていた。地図上ではある程度の情報が書いてあるものの、それでも足りない部分があるために偵察をしているのだ。

 

因みに他のメンバーはというと、現時点で受けられるクエストは特別苦戦するようなものはないだろうと結論づけられたため、【楓の木】はクエストはそれはそれとして、別にイベントまでの期間に間に合うように10人で手分けして様々な情報を集めることにした。

例えばイズは素材集めをしながらどこにどういった採取ポイントがあるかを記録している。

このフィールドをそのまま使うのなら、物資調達がスムーズにできるようになることに意味はあるだろう。

元々九層の素材は必要だったため、一石二鳥ということでイズに一任しているのだ。

 

他にもサリーは2人で行動していた時に言っていたように、モンスターの強さや能力を確かめており、クロムやカスミは探索ついでに攻める際と守る際に使えそうな地形を確認していた。

第4回イベントと比べて、自軍の陣地は広大で多様な地形が存在する。把握しきれない部分は当然出てくるが、それはなるべく減らしたい。

 

そのためにまずは水と氷の方を優先的に見て回っていた。その分、反対側の炎と雷の方を見るのはセイバーの役割となる。

 

「やれやれ、こっちは先行して俺が見ているとは言え、ここまで広いとなると把握するのが面倒になるなぁ」

 

セイバーはメモを活用しながらどこが危険でどこが攻めやすいのか、逆にどこが守りに適しているか。さらに言えばそこに生息するモンスターなどは、出向いてみないことには詳しく知ることができない。不意に出会うと危険なモンスターもいるのならそこは危険な場所として記録しておくべきだ。そうすることで特にイズやカナデ、マイやユイのようなHP、防御力共に低めな面々の探索時の事故を減らすことができるだろう。

 

このように普段ならレアイベントなどを探し求めるセイバーが珍しく様々な情報を得ることにしていた。

 

「予想通りだったけど、こっち側は攻撃的なギミックが多いな。この辺とか明らかに踏んだらダメージ受けそうな溶岩とか出てるし。あ、俺は踏んでも平気だけどな」

 

セイバーはしっかりと【火属性無効】持ちの烈火で武装しているため、ちゃんと対策をしている。それでも雷系のギミックは防げないのだが。

 

セイバーは両国のトラップにも差があることを薄々だったが感じていた。水と自然の国には、凍てつき【AGI】を低下させる冷気を放っている場所があるのに対し、炎と荒地の国には見るからにダメージを与えそうな溶岩が絶えず噴出している場所があった。

前者はサリーやカスミなどの強みを奪う地形であり、後者はメイプル、マイ、ユイが固定ダメージを受けて呆気なく倒れてしまう恐れがある。

どちらの地形に攻め入りたいか、どちらの地形なら有効に扱えるか、判断基準は様々だがセイバーは改めて陣営決定の際の重要な点であることを認識する。

そうして調査を続けていると、同じように地形を確認しては何か記録を残しているプレイヤーを見つけた。

 

「あれは……マリアさん?」

 

「あら、セイバーもいたのね」

 

近くにいたのは【ラピッドファイア】のエース格、マリアであった。今はアガートラームを装備しているのか白銀の姿であった。

 

「マリアさんも調査をしているんですね」

 

「えぇ。こちらの国は2人から任されているし、抜かりは無いわ」

 

「そういえばこの前もウィルバートさんとリリィさんはいたのにマリアさんだけはいませんでしたね」

 

「あの2人も調査は進めているし、私も少しくらいは役に立ちたいからね。それはそうと、セイバー。あなた、新しい聖剣を手にしたって噂は本当なの?」

 

「え?何ですか?聖剣なんて手にしてませんよ。誰ですかそんな噂を流したのは」

 

セイバーは敢えて返事を濁すことにした。ここで隠してきた界時の情報をマリアに流すわけにはいかないためである。欲を言えば逆にマリアの情報を聞きたいくらいである。

 

「やっぱり乗ってこないわね。まぁ良いわ。新しい力はイベントの時にちゃんとこの目で見させてもらうから」

 

「マリアさんがそれを出させられればの話ですけどね」

 

「あら、それは挑発と見て良いのかしら?」

 

「別に大丈夫ですよ。それでも気を抜くつもりは無いんで」

 

2人はライバルのように火花を散らす。周りから見れば2人が喧嘩しているように見えるかもしれないが、お互いを認めているからこその駆け引きを楽しんでいるのである。暫く2人で話しながら歩いていると前方から2人のプレイヤーが歩いてきた。

 

1人は赤のアンダースーツに身を包み白いアーマーを装備しており、所々にダイヤのマークが付いている。腰にはダイヤの意匠が入ったベルトをしており、ヘッドギアはクワガタとダイヤをモチーフにしていた。

もう1人は黒のアンダースーツに黒と白の装甲を纏い、装甲には金や赤のラインが入っている。腰にはハートの意匠が入ったベルトがあり、ヘッドギアにはカマキリの触覚のようなものと赤いハートマークが付いていた。

 

「初めましてだな」

 

「まさかここで会うとはな。マリア、セイバー」

 

「あなた達は……」

 

「マリア、知り合いなのか?」

 

「知り合いでは無いんだけど、噂で聞いたことがある。ここ最近密かに頭角を表してきた4人のプレイヤー。そのプレイヤー達の特徴はトランプのマークであるスペード、ダイヤ、ハート、クラブをそれぞれモチーフにした装備をしているって」

 

「この前会ったレンゲルもクラブのマークをしていた。まさか、アイツも」

 

「レンゲルとは会ってるとは聞いたがやはり生で見ると漂う強者感が半端ないな」

 

「既に9本の聖剣を使いこなし、圧倒的な強さで上位陣を蹴散らすその力。噂通りの男のようだ」

 

「あのー、話している所悪いのですが、お二人の名前は?」

 

「それはすまなかったな。俺はギャレン」

 

「俺はカリスだ」

 

2人の名前はダイヤの方がギャレンであり、ハートの方がカリスであった。

 

「この前はレンゲルが失礼な言い回しをして悪かったな」

 

「あぁー、確かにちょっとアレはイラっとしましたよ」

 

「アイツはちょっと調子に乗ると口が悪くなる。あとで俺達からもよく言っておくよ」

 

「はぁ……」

 

セイバーは思ったより2人が良い人で困惑していた。レンゲルの態度が態度だったために尚更である。そこにマリアが口を開いた。

 

「それで、あなた達は私達に何か用があるのかしら?」

 

「そうだな。単刀直入に言うと、セイバー。君には決闘をしてもらいたい。そしてマリア、君とは少し話がしたいとうちのマスターが言っている」

 

「なぜそこで私とは話なのかしら?」

 

「そんでもって俺とは決闘かよ」

 

「悪い話では無いだろ?レンゲルとは違ってただ情報を与えるだけではなくこちらの情報も得られる。損はないと思うが」

 

「そうなんですけど……戦う相手はこっちが指定して良いですか?」

 

「構わない。どちらでも好きな方と戦えば良い」

 

「じゃあ、ギャレンさん。あなたと戦います」

 

「わかった。ならカリス」

 

「ああ、マリアは俺が連れていく……と言いたいが、まだ了承をもらってない。嫌なら断ってくれ」

 

「いや、あなた達の所に行くわ。その様子だとセイバーには言えない事情があるんでしょ?」

 

「そんな所だ」

 

「わかったわ。セイバー、それでも良いわよね?」

 

「こっちはギャレンさんとの戦いを楽しみますので別に良いですよ」

 

「交渉成立だ」

 

そう言うとカリスはマリアを案内して2人でその場を去っていき、ギャレンとセイバーは決闘のステージへと転移していた。

 

「戦う前に聞こうか。どうして俺を選んだ?」

 

「うーん。俺の勘ってやつです。何となくギャレンさんと戦いたいって思ったので」

 

「そうか。なら、こっちも手加減無しだ。情報を出しすぎない程度に戦ってやる」

 

「行きますよ。黄雷抜刀!」

 

「やはりな。セイバーが様子見をする時は火力控えめの黄雷にする。だが、それが命取りだということを見せてやる」

 

ギャレンは手にダイヤの意匠が入った拳銃を手にするとセイバーへと銃撃を放ってきた。

 

「お、そっちは遠距離系の武器ですか。なら」

 

セイバーは向かってくる銃弾を黄雷で防ぎながら突っ込んでいく。遠距離戦が得意なら近づけば有利になると考えたのだ。するとギャレンは拳銃からカードの入ったホルダーを展開すると1枚のカードを抜いて拳銃にスキャンした。

 

「【アッパー】!」

 

するとカードから青い絵が出てくるとそれがギャレンの左腕に吸い込まれていき、力が高まった。

 

「うらあっ!」

 

セイバーが黄雷を振り下ろすタイミングに合わせてカウンターの一撃を腹へと放った。それと同時に黄雷もギャレンへとヒットし、お互いにダメージを受ける結果となった。

 

「痛ってぇ……もしかしてギャレンさん、近接戦もできる感じですか?」

 

「当たり前だ。寧ろ、できないと思われていた方が心外だぞ」

 

「マジっすか。なら、【稲妻放電波】!」

 

今度はセイバーがギャレンへと範囲攻撃を放った。射撃戦が得意であろうギャレン相手にセイバーは範囲攻撃を仕掛けて相手の出方を伺う。

セイバーが取れる手としては悪くはない。だが、ギャレンはすぐに対応してきた。

 

「【ロック】!」

 

ギャレンがカードをスキャンすると地面から岩の障壁が出現。放電波を防がれてしまうことになった。

 

「あらら、防がれるか」

 

「今度はこちらの番だ。【バレット】、【ファイア】!」

 

ギャレンは続け様に2枚のカードをスキャン。これにより、先程までよりも強力なスキルへとパワーアップする。

 

「【ファイアバレット】!」

 

今度は炎の弾丸が拳銃から発射されてセイバーを襲った。セイバーは最初の数発を凌ぐも、防ぎきれなかった弾丸を受けることになってしまった。

 

「くっ……これは面倒だな。近づけば格闘技、離れれば射撃。遠近両刀型かよ」

 

セイバーは弾丸が止んだタイミングでいくつかある対処法から1つを実行することにした。

 

「【サンダーブースト】!」

 

それは一定時間スピードを上げることで相手の狙いをつけられないように撹乱することであった。そしてそれは上手くいき、ギャレンは狙いが定まらずにセイバーの接近を許すことになった。

 

「近づいてくるか。だが、それでも無駄だ!」

 

ギャレンはセイバーが近づく一瞬の間に後ろ回し蹴りの体勢に入り、セイバー相手に2度目のカウンター攻撃を仕掛けようとした。

 

「2度同じ手を喰うかよ!【雷鳴一閃】!」

 

今度はセイバーの速度がギャレンを上回り、ギャレンがキックを放つ前にすれ違い様にセイバーがギャレンを斬り裂いていた。

 

「少しはやるな。今の一撃、効いたぞ」

 

「俺もですよ。また防がれるんじゃないかヒヤヒヤでした」

 

「面白い」

 

「続けていきますよ。【魔神召喚】!針飛ばし!」

 

セイバーはランプの魔神を呼び出すと大量の針を召喚してギャレンへと飛ばした。

 

「無駄だ!」

 

ギャレンは後ろに跳ぶと飛んできた針を全て躱しながら拳銃を撃ちまくり、セイバーへと全てヒットさせた。

 

「がっ……射撃の腕もヤバイな。多分これ、錫音でやり合ったら勝てない。なら!翠風抜刀!【烈神速】!」

 

セイバーは翠風を抜くと超スピードでの活動を開始し、ギャレンの周囲を回った。

 

「言ったはずだ。無駄だと【スコープ】!」

 

ギャレンがカードをスキャンして弾丸を放つとその弾丸はいきなりセイバーを追尾し始め、セイバーの【烈神速】が終わる瞬間に動きが止まったセイバーへと弾丸が降り注いだ。

 

「ぐあっ!!」

 

「これで終わりだ。【ドロップ】、【ファイア】!」

 

ギャレンはセイバーにトドメを刺すためにカードを2枚スキャンして一気に勝負を付けにきた。

 

「【バーニングスマッシュ】!」

 

ギャレンは拳銃を腰のホルダーにしまうと跳び上がり、前転宙返りをすると空中からキックを振り下ろした。それはセイバーへと命中し、セイバーは炎に包まれながら大爆発に巻き込まれた。

 

「ぐああああ!!」

 

そして着地したギャレンはセイバーが消えたことを確認するために後ろを振り向く。

 

「終わったか……何!?」

 

ギャレンは後ろを向くと目を見開いた。そこに残っていたのは藁で作られたただの人形だったのだ。

 

「【超速連撃】!」

 

混乱するギャレンを前にセイバーは超高速での連続攻撃を叩き込み、ギャレンへと良いダメージを与えた。

 

「な、何故だ?さっきので倒したはず……」

 

「残念。この姿の俺には【空蝉】があるからよ」

 

スキル【空蝉】。確定でやられる攻撃を一撃だけ耐えることができ、更にはAGIを一時的だが上昇させる効果がある。セイバーはこれによってギャレンの必殺の一撃を耐えたのである。

 

「こっちも決めさせてもらいます。【クナイの雨】!」

 

セイバーはギャレンへとクナイの雨を降らせると彼を守りに入らせて隙を作った。そうしてから高いAGIで一気に距離を詰めて必殺の一撃でお返しする。

 

「【トルネードスラッシュ】!」

 

セイバーが翠風を一刀流にすると竜巻を纏わせてそれでギャレンを両断した。しかし、これでもギャレンはダメージを受けながら耐えていた。

 

「クソッ……ダメージが酷いな」

 

「これでも終わらねーのかよ」

 

「いや、降参だ。これ以上は止めにしよう」

 

セイバーはギャレンからの降参を貰い、勝負を終えることになった。

 

「どうして終わりにしたんですか?」

 

素朴な質問をギャレンにぶつける。

 

「あのままやったらセイバーが勝つと思ったからだ。それに、これ以上俺の手を晒すわけにはいかない」

 

「そういうことですか。ま、でもあなたも十分強かったですよ」

 

「取り敢えず今はこれで解散にしよう。俺ももう戻るようにマスターからの指示を受けてるからな」

 

「わかりました。またイベントで会ったらその時は容赦しませんよ」

 

「わかっている。またイベントで会おう」

 

そう言ってギャレンは去っていった。

セイバーはその場に座り込むと1人考え事をしていた。

 

「ギャレンさん、あの時に降参した理由がこれ以上手を晒せないだった。と言うことはまだ彼には上があるということ。割と手を引き出したと思ったんだけどな〜。こっちも界時を隠しながらだったから人のことを言えないけど。それにしても強かったなぁ〜あの人も」

 

セイバーは今回出てこなかったギャレンの奥の手と思われるスキルの予想をしながらギルドホームへの道を進むことになった。そして、同時刻、メイプルがあるギルドにとある提案を受けることになったのだが、それはまた別の話となる。

 

 

 

ギャレン視点

 

「セイバー……アイツの強さは俺達のマスターに匹敵する。あのままやり合えばまず間違いなく奥の手を出させられて、その上で負けていただろう。取り敢えず、マスターに報告するか」

 

ギャレンはギルドホームに着くとレンゲルと同様にマスターに報告を入れた。

 

「ご苦労だったな。ギャレン」

 

「マスター、【ラピッドファイア】のマリアには何の話をされたのですか?」

 

「ああ、今後のイベントに備えて彼女が所属するギルド、【ラピッドファイア】とは同盟を組みたくてな。特に彼女を含めたトップスリーの能力が厄介だろう」

 

「だから敵になる前に同盟を組むと」

 

そこに近くにいたカリスも出てくる。

 

「だが、よろしいのですか?マスターの性格からして強敵相手なら戦いをすると思ったのですが」

 

「それをしたいのはヤマヤマだったが、チームのためだ。そのためなら進んで同盟を組む。それがマスターの務めだ」

 

「なるほど」

 

「それはそうとギャレン、流石にセイバー相手にあの姿は使ってないな?」

 

「使ってしまえばセイバー相手に不意が付けないからな。使ってない」

 

「そうか。では、2人に次の頼みがある。【thunder storm】のベルベット、ヒナタ、キャロルの誰かに接触してくれ。彼女等とも同盟を組む」

「わかりました」

 

「マスターの仰せのままに」

 

そう言ってギャレンとカリスはまた出かけていった。その姿を見送るとマスターと呼ばれた男は近くにある黒いアイテムを見てそれを腕につけた。それから席を立つと彼もまた、自分の目的を果たすために行動を進めるのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと新たなる剣士

セイバー達【楓の木】がそうしてしばらく九層のフィールドを見て回ったことで、ある程度どこが強くどこが弱いかを確認することができた。

情報の量も多くなってきたため、10人は中間報告という形でギルドホームに集まっていた。

共有しやすいように大きなテーブルの真ん中に九層の地図を広げ、それを囲んでそれぞれが情報を記入していく。

 

「おおー、こうやって改めて揃えると壮観だな」

 

「サリーお姉さんとセイバーお兄ちゃんのお陰でモンスターや地形のことが全部わかります!!」

 

セイバーとサリーの集めたモンスターの情報などは細かすぎて書ききれないため、地形や隠れ場所、どういった特殊な効果が発生するかなど元の地図からすると随分詳しく記載されたものになった。

 

「私が素材、セイバー君とサリーちゃんがモンスターについてまとめているわ」

 

「手が空いていたら読んでみてください。ネットで拾えるものより詳しい部分もあるのと、【楓の木】に合わせた対応方法も書けるところは書いてあります」

 

「対処法についてはある程度簡単な所もありますけど、大体は詳しくなっているので」

 

「それはすごいな。あらかじめ対処法を知ることができるのは大きい」

 

「そうだね、とりあえず僕は見ておくよ。覚えるのは得意だし、咄嗟に教えられる人はサリー以外にもいた方がいいだろうしさ」

 

カナデの記憶力なら全て覚え切るのに1日とかからない。なんなら今日解散するまでに全部覚えてしまえるくらいである。

分かりやすくまとめてあるとはいえ、戦闘中に毎回攻略情報を確認するわけにもいかない。覚えられるなら覚えておくべきだ。

 

「まあマイとユイがいる場合の対処法は大体一行しか書いてないですけど」

 

「そりゃそうだ」

 

近づいて殴る。これで終わりである。そうでないもの、メイプルが出会った電気の塊などは属性をつけて殴るに変わっているだけだ。

当たれば勝てる。ボスの一部にも適用できてしまうセイバー、メイプル、サリーだけのルールは戦闘中に考慮すべきあれやこれやを全て無かったことにする。形態変化は行動パターンの追加が3人の前から消えてしまうのもよくあることだ。

 

「私達はちゃんと見ておく必要があるな」

 

「そうだな。雑魚モンスターとはいえワンパンってわけにはいかねえしな」

 

「普通は削り合いですものね」

 

特に厄介な攻撃をしてくるモンスターは気を付けておかなければならない。そうして擦り合わせをしていると、全員に同時にメッセージが届く。

 

「あっ、次のイベントの情報が来てます!」

 

「えっと……ちゃんと詳しいことも増えてます」

 

やると言われていた第10回イベントだが、おおよその内容は分かっていたものの詳しいことはまだだった。ようやくそれが告知される時が来たのである。

全員がメッセージを開いて内容を確認する。

 

「国ごとに分かれて2陣営での勝負。所属はイベント前日に入国していた方になるみたいだね。九層に来てない人もイベントに合わせて選べるらしいし、選ばなかった人だけ数を合わせて割り振られるってさ」

 

「なるほどなるほど」

 

「あとは地形やモンスターもそのままみたいだな。これは予想通りか。おっ、面白いことも書いてあるぞ」

 

「自分達の陣営のモンスターは攻撃してこなくなるのね。それに、町でアイテムを手に入れてモンスターに使うとある程度言うことを聞かせられるってことは、テイムモンスターみたいにできるってことかしら?」

 

これは予想していなかった点である。プレイヤー以外にも防衛に参加する戦力がいるとなると、単純に数が増えて攻め込むのはより難しくなる。

効果時間は5分とそこまで長くないようだが、モンスターの能力を活かせばより柔軟な攻めと守りも戦略として組み込める。

 

それに効果時間が切れてしまっても、細かい命令ができなくなるだけで、自分達を襲ってはこないのだから頼り得である。

戦場に連れてきさえすれば相手プレイヤーも無視はできない。

 

「なんでも連れてこられるわけではないようだが、これは警戒する必要がありそうだ」

 

モンスターに関してはまだあり、全プレイヤーが参加するため、一部のモンスターは能力が低下しているとのことである。また、一定のレベルを超えたプレイヤーが立ち入ると能力に制限がかかるエリアもあり、プレイヤーのレベルに応じて活躍の場を分けているようだった。

 

「自分に合った場所で戦うのがいいね。僕も流石にある程度レベルが上がっちゃったから制限に引っかかっちゃうな」

 

「カナデとマイとユイ辺りが駄目だったら九層に来ている人は基本皆無理かなあ」

 

「九層まで来れるくらいだとレベルもそれ相応に上がるしな」

 

セイバーとサリーの言うように、3人は特殊な戦闘能力によってレベルに見合わない性能を持っているため戦えているが、九層にいるようなプレイヤーなら基本はもっとレベルも高いものだ。

そんな3人でもレベル制限にかかるなら、本当に低レベルプレイヤーが主役となるエリアということだろう。

さらにモンスターは一定周期ごとに相手陣営に総攻撃をかけるようになっているとのことだ。

プレイヤーとしてはそれに乗じて攻撃するのが基本戦略になるだろう。

 

「町の人も防衛に参加するって書いてありますよ!」

 

「おおー。そうなるといよいよ守りは盤石だな。NPCが大砲とか使ってくれるってことだろ?」

 

「とはいえどれくらい強いか、数値的な部分は現時点では分かりませんし頼り切るのは難しそうです」

 

「あー、まあそれもそうだな」

 

サリーの言うことももっともだ。あくまでNPCはサポート枠であり、それだけで町を守ることはできないように作られているのが自然に思える。

 

「期間は時間加速下で3日。もしくは敵陣営のプレイヤーが玉座に触れた瞬間まで……」

 

「これは、早期決着もありそうな内容だな。一発逆転もできるし」

 

因みに、どちらも玉座まで辿り着けなかった場合は脱落したプレイヤーのより少ない陣営の勝ちとなるようだ。

侵入されないように防衛ラインは強力にする必要があるだろう。それこそセイバー、メイプル、ペイン、ミィやベルベットなど個人の能力が高い面々が無理矢理飛び込んできた際に、止められませんでしたでは目も当てられない。

ただ、そういったプレイを強烈に抑制する文言もその後に付け加えられていた。

 

「ワンデスで脱落か……中々厳しいな」

 

「その分1人を倒すことの価値は大きいだろう。敵の戦力が確実に減少する訳だからな」

 

一度倒されればそれで終わりとなると、死亡覚悟の思い切ったプレーというのは難しくなる。攻撃を受けることの多いフロントラインをいかに死なせないかは大事になってくるだろう。

一方的に負け続ければ、数で押されて次の負けにつながってしまう。

もちろんそれでも王城突撃による逆転が存在するつくりなため、勝っていても気は抜けないようになっているのだが。

 

「おお?すごいことも書いてあるぞ、皆見てみろ」

 

クロムに言われてメイプルは届いたメッセージをスクロールしていく。メイプルがどれだろうと目を通していると、セイバーが先にクロムの言いたいことを察したのか文章を読み上げる。

 

「同陣営のプレイヤーとモンスターについて自分と一定範囲内にいる場合は追加でパーティーとしてみなす。ですか?」

 

「それだそれ。これ、メイプルの……」

 

「【身捧ぐ慈愛】の範囲に取れそうですね……」

 

「だよなあ」

 

「アレが範囲内の全ての味方に適用?ぶっ壊れにも程があるな」

 

それがどれだけ強いことか、この場にいる全員が理解できた。本来パーティーにしか適用できないものだが、その範囲が広がれば広がるだけ、実質的にメイプルの防御力を持つプレイヤーが増えることになる。

それは戦線を維持することを非常に容易にするだろう。またメイプルのスキルの認知度が高いこともここではプラスに作用する。説明しなくともメイプルが天使になれば何が起こるか、多くのプレイヤーは把握できているのだ。

 

「ちゃんと活躍できるよう頑張るね!」

 

「おう、そうしてくれ。と言いたいところだが……ほら、俺達こうして話してるけどな、同じ陣営ってことでいいのか?」

 

「そう言えば詳しく決めてはいなかったな」

 

「そうねー。なんとなく同じだと思っていたわ」

 

「メイプルさん、どうするんですか?」

 

「私も……聞いてみたいです」

 

「マスター、どうしますか?」

 

「そうだね。作戦も何もかもそれからかな」

 

「これもメイプルの決めることだ。どうする?」

 

「そっか、そうだよね。うーん……私は皆で一緒に戦いたいかなあ」

 

メイプルならそう言うと思っていたとばかりに頷く面々を見て、【楓の木】の方針は固まったと言える。

 

「セイバーもサリーもそれでいい?」

 

「私?……うん。メイプルがいいなら私もそれでいいよ」

 

「俺もメイプルがそう言うならそうするぜ」

 

「じゃあ【楓の木】は一緒に同じ陣営で!」

 

方針が決まったならここからはどちらの国を選ぶかなどのイベントに向けてより具体的な準備を進めるフェーズとなる。

 

「なら細かい作戦も決めていこう。特に、倒されやすいけど相手にとっての脅威度が高いマイとユイなんかは滅茶苦茶狙われるだろうし」

 

「そ、そうですか?」

 

「ううっ……大丈夫でしょうか?」

 

「その分手厚く守る必要があるな。俺達だけじゃなく味方のプレイヤーも守ってくれると思うぞ、前回のイベントでレイドボスと対等に殴り合ってるとこ見てるしな」

 

2人が敵にも味方にも最高戦力認定を受けているのは間違いないだろう。

残る時間はそう長くはない。変わらず今できることをやってイベントに備えるセイバー達なのだった。

 

 

そしてまた時間が経ったある日、セイバーはとある人物と一緒にいた。それは……

 

「よう、久しぶりだな。キラー」

 

「ふん。なんか前もこんな事あったな」

 

「そうか?でもあの時は俺の暴走状態を止めるためだったよな」

 

以前にセイバーとキラーが2人だけで一緒に探索をしたのはセイバーがプリミティブドラゴンに乗っ取られて暴走した時だった。あれから2人が会わなかったというわけではないのだが、その時はいつも第三者がいての行動のため、こうして2人だけというのはあまり無かった。

 

「それで、今日はどうするんだ?」

 

「ふっふーん。……実はまだ何も決めてないんだ」

 

「おい!」

 

「まぁまぁそう言うなよ」

 

「それはそうとして、セイバー。メイプルから聞いてないか?」

 

「え、何を?」

 

「うちと【楓の木】がイベントで共闘するって話だ」

 

「ああ、そういえば前にメイプルが言ってたな」

 

実は以前にメイプルは【集う聖剣】の元にお邪魔しており、その際にペインからイベントで共闘を持ちかけられたのだ。メイプルとしては今の所それに乗ろうとしている。第4回イベント以降打倒セイバーを目標にしていたキラーからすればあまり良い話だとは言えない。

 

「俺が言うのもなんだが、メイプルには断って欲しかった気持ちがある。共闘すればお前とは絶対に戦えなくなるからな」

 

「え?でもさ、直前に入っていた国に属するんだろ?個人的にギルドから独立もできるんじゃねーのか?」

 

「……勿論それも考えた。だが、ペインには自分を拾ってもらった恩がある。それに、彼の方針はギルドメンバー全員で同じ方につくというものだ。それを考慮すると俺だけ我儘を言うわけにはいかない」

 

「そうか」

 

セイバーとキラーが2人で話しているとそこにまた1人プレイヤーが現れた。

 

「セイバーにキラーか。また珍しい組み合わせだな」

 

現れたのは【thunder storm】のプレイヤー、キャロルだった。

 

「キャロル!どうしてここに?ベルベット達とは一緒じゃないのか?」

 

「偶々ここを通りかかったらお前等がいただけだ。気にするな」

 

「キャロル、お前達【thunder storm】は陣営についてはどうするつもりだ?」

 

「俺はセイバーと、ベルベットはサリーと戦う方につく。つまり、セイバー達とは必然的に敵側になる感じだ」

 

「なるほど、なら俺達とも敵対するということだな」

 

「聞いたぞ。お前等は手を組むらしいな」

 

「まぁ、そうだけどキャロルは俺と戦う方で良いのか?」

 

「お生憎様で俺はセイバー、お前に借りができている。それを返す絶好の機会だ。だから敵に回る。それだけのことだ」

 

「ふん。セイバー、お前はどうやら敵を作りすぎたみたいだな」

 

「えぇ……俺は別にそのつもりは無かったんだけど。てか、キャロル達は単独で俺達の連合軍に勝てる見込みはあるの?」

 

「ああ、そうそう。勘違いしてもらっては困るが俺達も同盟を組むことになった。そこには【ラピッドファイア】とあるギルドが1枚噛んでいる」

 

「あるギルドだと?」

 

「それって【炎帝ノ国】か?」

 

「それは言えないな。そのギルドのギルドマスターからセイバーと直接会うまで明かすなと言われている。何のつもりだか知らないが折角同盟を持ちかけてきたんだ。うちのマスターであるベルベットとの利害もすぐに一致したよ」

 

「ベルベットとの利害が一致した。ということはそのギルドのターゲットは俺達か」

 

「……セイバー。お前等と俺達で連合軍を蹴散らすぞ」

 

「キラーやる気満々じゃん」

 

「どのギルドもセイバーをライバル視しやがって。セイバーの敵でライバルは俺だけだ。それを証明してやる」

 

「あれーなんか方向性がズレてるぞ〜?」

 

「面白い。受けて立ってやる」

 

「お二人さん?なんで火花を散らしてるの?」

 

このカオスな状況をセイバーが見ているとそこに更にややこしくするようにサリーとヒビキが集まってきた。

 

「セイバーお兄ちゃん……キャロルちゃんと何してるの?」

 

「セイバー、まさかと思うけど浮気じゃないよね?」

 

「待て待て何でそうなるの?おかしくない?俺はただキラーと話してただけなのにそこにキャロルが来たんだぞ。俺関係なくね?」

 

「「「関係あるに決まってるでしょ!!!」」」

 

「……なんというかセイバー、お前も苦労してるんだな」

 

「キラーにまで諭された……」

 

セイバーがガッカリしているとセイバーとキラーはそっちのけでサリー、ヒビキ、キャロルが睨み合っていた。

 

「ホント、目を離すとすぐに飛びつくわねキャロル」

 

「それを言うなら俺だけじゃなくてヒビキもだろう?セイバーにいつも抱きついてそんなに構っていたいのか?」

 

「サリーお姉さんやキャロルちゃんだって現実世界でセイバーお兄ちゃんと好き勝手にしてるんでしょ?このときぐらい別に良いじゃん」

 

「今のうちに行こうか、キラー」

 

「良いのか?3人を放っておいて」

 

「最近あの3人が何故か怖いんだよ。特に3人揃った時」

 

「それはお前が鈍いのが原因だろ。少しは乙女心に気づいてやれ」

 

「……本当はだいぶ前から知ってるんだけどな

 

セイバーはそうボソッと呟く。それはキラーには聞こえたが3人には届いていない。キラーはそれを受けてまだ思う所があったが、それ以上は詮索しないようにした。

 

2人がこっそりと3人から離れるとそれを待っていたかのように3人のプレイヤーに囲まれた。

 

「この前ぶりだな。セイバー」

 

「もう1人はキラーだっけ?やっぱ2人共強そうだな」

 

「ギャレンが形勢不利と見て自分から引くような相手だ。油断するな」

 

セイバー達を囲んだのはギャレン、カリス、レンゲルだった。

 

「またお前らか。今日は他のプレイヤーとよく会うな」

 

「それだけお前が人と繋がっているということだろう。む、明らかに強い気配だ。気をつけろ」

 

「ああ、俺も感じた」

 

そこにもう1人プレイヤーが出てきた。その姿は青いアンダースーツに銀の装甲を纏い、所々にスペードの意匠が入っている。また腰にはスペードの意匠が入ったベルトをしており、ヘッドギアはヘラクレスオオカブトのようなツノのようなものになっていた。

 

「君達がセイバーとキラーだな。俺の名はブレイド。この3人及び、ギルド【BOARD】(ボード)のギルドマスターだ」

 

「なるほど、さっきキャロルが言わなかった謎のギルド。それがあなた達でしたか」

 

「そうだ。【ラピッドファイア】及び【thunder storm】と同盟を組んで【集う聖剣】、【楓の木】と戦いをしようとしている」

 

「待て、何故お前が俺達が組むと知っている?」

 

「僕が調べたんですよ」

 

後ろに控えているレンゲルが口を開く。どうやら、【BOARD】の情報担当は彼らしい。

 

「お陰で割と前から知ってたんですよね。その2つのギルドが組むと言う話は」

 

「レンゲルから話を聞いた俺は早い段階から決めていたギルド連合を組むことを2つのギルドに強く勧めた。勿論、まだギルド連合は完成していない」

 

「なんだと?まだ大規模なギルドを抱き込むつもりか?」

 

「まさか、【炎帝ノ国】まで?」

 

「よくわかったな。まぁ、あそこはまだ確定ではない分多少はつくまでに時間がかかるだろう」

 

「どうして自分達の方につくと言い切れるんですか?」

 

「……俺の勘だ」

 

「……セイバー、これは……」

 

「もしかしなくても不味いだろ。大規模ギルドはそれなりに纏まった人数が揃ってる。多分【BOARD】もそれなりの規模のギルドだと思う。しかも、ギルドごと抱き込めるってことはそれなりに統制の取れた軍団が味方になるってことだ。これは戦力差が半端ないことになるぞ」

 

一応、イベントのシステムで人数は互角にはなるだろうが、それはあくまでどちらにつくか決めなかった個人やまだ九層まで到達してないプレイヤーが入るということである。それでは相手は指揮に従った規律の取れた軍団が攻めてくるが、こちらは個人個人で統制が取れないことになるため、戦力に大きな差ができてしまうだろう。

 

「セイバー、俺はお前の力が見たい。俺と戦ってくれないか?」

 

ブレイドはセイバーにそう提案する。セイバーはギャレンの時と同様に少し悩んでから結論を出した。

 

「わかりました、やりましょう」

 

「そうか。なら……」

 

「待て。それなら俺も戦いたい」

 

キラーも黙ってはいない。キラーもキラーでそれなりに情報が欲しいのだ。だからこそ彼も名乗りをあげた。

 

「なら、俺が相手になる」

 

出てきたのは漆黒の鎧に身を纏う戦士、カリスだった。ここにセイバー対ブレイド、キラー対カリスの戦いが始まることになる。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと難敵

セイバーとブレイド、キラーとカリスはそれぞれ転移するとすぐに戦いを始めた。

 

キラー、カリス視点

 

キラーとカリスの戦いは序盤、キラーが高い戦闘能力を発揮していた。キラーはダインスレイヴを振るい、接近しての連続攻撃をしているのに対して、カリスは武器が弓であり、近接戦は苦手かと思われた。

 

「セイバーにやられてからというもの、俺はスキルだけに頼るのをやめた。アイツがそうだったようにな」

 

「ほう」

 

「俺は魔剣の力を上手く使いこなすために特訓をしてきた。今の俺はセイバーにやられた時の俺では無いぞ!」

 

キラーはカリスへ次々と攻撃を決めていき、彼のHPを少しずつだが確実に減らしていった。

 

「……流石はキラー。その戦闘センスに能力は凄まじい。だが、それでは俺には勝てない」

 

カリスはそう言うと手にしていた弓の弧の部分でキラーを攻撃した。普通であれば弓で攻撃しても相手にはダメージすら与えられないだろう。しかし、カリスの持つ弓は別である。彼の弓の孤の部分は鋭い刃になっており、キラーを斬りつけることで彼にお返しのダメージを与えることになった。

 

「コイツ、弓を近接戦に使ってくるなんて……なんて奴だ」

 

更にカリスはキラーを蹴って距離を取り、そのまま弓を引き絞ってエネルギーの矢を放った。

 

キラーは辛うじてこれを躱すも、何発も撃ち込まれる矢を全て見切るのは難しく、キラーは何発かをモロに受けてしまうことになった。

 

「がっ……」

 

「弱いな。その程度の力では俺を倒すことはできない」

 

「あまり俺を舐めるなよ?レーヴァテイン!」

 

キラーはダインスレイヴからレーヴァテインへと持ち替えるとカリスを相手に炎の斬撃を飛ばしていった。カリスはそれを見て1枚のカードを取り出すとそれを弓にスキャンした。

 

「無駄だ。【リフレクト】!」

 

するとカリスの目の前に障壁が発生。それに斬撃が当たると突然斬撃の向きが反転。斬撃を放ったキラーへと飛んでいった。

 

「なんだと?」

 

キラーはこれを何とかレーヴァテインで受け止めるも、その衝撃で後ろへと下がった。

 

「驚くのも無理は無い。これを初見でやられて反射された技を喰らわない方が珍しいからな」

 

「くっ……ならば、亡、【覚醒】!」

 

キラーは亡を召喚すると再びレーヴァテインからダインスレイヴへと持ち替えてキラーは亡と呼吸を合わせて攻撃を放った。

 

「亡、【ブリザードブレス】!【呪血狼砲】!」

 

まず、亡が放ったブレスがカリスの足元を凍結させていく。その後、躱すことのできないカリスへとキラーから撃ち出された狼の爪を模した斬撃がカリスを今度こそ直撃した。

 

大爆発と共にカリスはダメージを受けると倒れていた。流石のカリスもこれには大きな傷を負うことになり、戦況はキラー有利かに見えた。しかし、カリスは1枚のカードを弓にスキャンすると、それは一瞬にしてひっくり返ることになる。

 

「【リカバー】!」

 

突如としてカリスの受けた傷が回復を始めた。これでは、先程キラーが与えた渾身の一撃がまるで意味を成さない。戦況はカリス有利のまま変わらなかった。

 

「こちらも相棒を呼ぶとしよう。ジョーカー、【覚醒】!」

 

カリスがテイムモンスターを呼び出すと現れたのはカマキリ型のモンスターであったが、その大きさは人間の腰ほどまであり、かなりの大型なカマキリであった。

 

「でかいな」

 

「ああ、俺の自慢のモンスターだ。ジョーカー、あの狼を仕留めろ。【真空斬】!」

 

ジョーカーと呼ばれたカマキリは両腕の鎌に力を高めるとそれを亡へと放った。

 

「亡、【凍結の爪】!」

 

キラーも亡にスキルを使わせて攻撃を辛うじてだが相殺する。しかし、相殺した直後、亡にダメージエフェクトが散った。

 

「何!?」

 

「畳み掛けろ。ジョーカー、【大切断】!」

 

「させるか。亡、【高速移動】!」

 

ジョーカーは羽を広げると空を舞い、そのまま亡へと接近しながら鎌を振り下ろした。これを亡は機動力を上げることで無理矢理躱し、窮地を脱した。しかし、ジョーカーの真の恐ろしさはこれからだった。

 

「亡、【氷のブレス】!」

 

「ジョーカー、【リフレクト】!」

 

カリスはジョーカーに先程自分がカードをスキャンして使用したスキルを指示し、ジョーカーはそれと全く同じスキルを発動した。つまり、氷のブレスがそのまま返されたのである。これにより、亡は自慢の機動力を奪われたことになる。

 

「亡、【凍結弾】!」

 

キラーはどうにかジョーカーを足止めして亡を脱出させるために【凍結弾】を使用させた。効果は亡の周りに氷の弾丸が大量に生成されるとそれがジョーカーへと発射されていった。

 

「ジョーカー、【ファイア】!」

 

カリスはジョーカーに炎を使わせると氷の弾丸を全て掻き消してしまった。亡とジョーカーの戦いは何もかもジョーカーが上回っており、まるで格の違いを見せつけているようであった。

 

「馬鹿な……セイバーのブレイブやメイプルのシロップ、サリーの朧ほどでは無いにしても亡は相当レベルが上がってる。それをこうもあっさりと……」

 

「知らないのか。俺がジョーカーをテイムしたのは第5回イベントの時。その時からずっと俺はコイツを表舞台には出さずにじっくりとレベル上げをしてきた。確かお前が亡を使うようになったのもほぼ同時期。そしてジョーカーは既に1段階進化を経験している。これが俺のジョーカーと進化を経験していないお前の亡との差だ」

 

「誤算だったな……まさか、そんなにも早い段階からテイムモンスターを持っていたとは……」

 

「そろそろ終わりにしてやる。ジョーカー、【デビルズサイクロン】!」

 

ジョーカーはカリスの指示に従い、自身の持つ最高クラスの大技を発動。それは自身の鎌に緑のエネルギーを纏わせ、それを斬撃波として亡へと放った。そしてそれは亡を両断し、一撃でHPを0にし、亡を強制的に指輪へと戻させた。

 

「く……亡がタイマンで負けるとは……」

 

「これがお前のモンスターとの格の差だ。ジョーカーは俺達の使うカードのスキルを全て使える。その戦闘パターンは無限大だ」

 

「だが、まだ俺は終わってないぞ!」

 

キラーは亡の仇を取るために1人カリスへと斬りかかっていく。しかし、それをジョーカーが鎌で受け止め、それによって生じた隙にカリスが後方から射撃を撃ち込む。ジョーカーが前衛、カリスが後衛。既に完成された連携にテイムモンスターを失ったキラーは苦戦を強いられることになる。

 

「一気に片をつけてやる。【フロート】、【ドリル】、【トルネード】!」

 

カリスが3枚のカードをスキャンすると竜巻が彼の体を包んでいき、カリスは回転しながら空中へと浮かび上がる。

 

「【スピニングダンス】!」

 

そのまま回転しながら貫通力の上がったキックがキラーへと叩き込まれ、キラーはかなりのダメージを受けることになった。

 

「がはっ……く、クソッ……」

 

「これを受けてまだ耐えれるか。だが、最早お前に勝ち目は無い」

 

「……まだだ……こんな所でアイツ以外の奴に……負けてたまるかよ」

 

キラーにも執念がある。セイバーに完膚なきまでに負けてからセイバーを最大のライバルとして見てきた彼は、セイバーに再び勝つまで何人たりとも自分に勝たせるつもりは無かった。

 

「俺は魔剣使いのキラー。こんな所で負けてたまるか!!レーヴァテイン!」

 

キラーはダインスレイヴとレーヴァテインの二刀流となり、極限までその力を解放した。

 

「そうか……なら、俺が終わらせてやる【フロート】、【ドリル】、【トルネード】!」

 

カリスは再び【スピニングダンス】を発動。空中へと浮かび上がる。それに対し、キラーも二刀流の魔剣を構えた。

 

「【聖断ノ剣】、【獄炎ノ剣】!!」

 

2人のスキルはぶつかり合い、激しく火花を散らす。それは永遠のように見えた一瞬の刹那。その中心で大爆発が起こり、2人は吹き飛ばされた。

 

「く……凌がれたか」

 

「はぁ……はぁ……」

 

2人は互いに同じくらいのダメージを受けていた。しかし、同じくらいのダメージということはよりそこまでに深い傷を負っていたキラーのHPが無くなってしまうことを意味していた。

 

「……こんな所で……ちくしょう」

 

その言葉を最後にキラーは敗北することになった。

 

「魔剣使いのキラー……手強い敵だったな。覚えておこう」

 

カリスもそう言い残し、その戦場を去った。

 

セイバー、ブレイド視点

 

「うぉらぁあ!!」

 

「はあっ!!」

 

一方のセイバーとブレイドも激しく激突をしていた。セイバーは手にした烈火を、ブレイドも自身の武器である剣を振るって斬り合っていた。

2人の剣の腕はほぼ互角であり、このままでは埒があかない。そこで、痺れを切らせたブレイドがカードをスキャンした。

 

「【スラッシュ】!」

 

それは、他のプレイヤーの効果と異なり、剣の切れ味を高めた。セイバーもこれに対抗するようにスキルを発動していく。

 

「【火炎十字斬】!」

 

セイバーはブレイドの攻撃を受ける前に遠くからブレイドへと負荷を与えるために火炎の十文字攻撃を放った。そしてそれはブレイドへと一直線に飛んでいく。しかし、突然目の前に現れた盾によってそれは防がれた。

 

「なっ!?」

 

「残念だったな。俺の頼もしい相棒にかかればこのくらい容易いんだよ」

 

ブレイドはそう言ってセイバーへと接近すると先程のスキルで高められた火力でセイバーを斬りつけた。

 

「ぐ……頼れる相棒……まさか、テイムモンスターか」

 

セイバーがそう予測するとブレイドのすぐ近くに金色のコーカサスオオカブト型のモンスターが出てきた。そのモンスターはブレイドの前に出ると彼を守護するように立ち、敵であるセイバーを睨みつける。

 

「コイツは俺の相棒、キングだ。以後、可愛がってくれ」

 

ブレイドはそれだけ話すとキングを指輪に戻した。

 

「何?何故そいつと一緒に来ない?」

 

「キングの情報をこれ以上はやれないからな。それと、君の相手は俺だけで十分できるってことさ」

 

「舐められたものだぜ。錫音抜刀!」

 

セイバーは錫音を抜き、遠くから遠距離射撃を放った。その弾丸はブレイドを襲い、彼の体にダメージを与えていく。しかし、ブレイドはそれさえも予測済みと言わんばかりにカードをスキャンした。

 

「【メタル】!」

 

するとカードをスキャンした瞬間からブレイドに弾丸によるダメージが一切通らなくなった。まるで、鋼鉄の鎧を着ているように……。

 

「これは、パラドの【鋼鉄化】に似た効果か。取り敢えず、剣が効くか試してみよう」

 

もしかすると弾丸のみを無効化する効果かもしれない。セイバーはその考えを持ち、銃撃を続けながらブレイドへと接近すると剣モードの錫音で斬りつけた。だが、それも通用しなかった。

 

「【メタル】の防御力を舐めるな。その程度では傷すら付かないぞ」

 

「だったら、これはどう?激土抜刀!」

 

セイバーは硬くなった装甲ごと粉砕するために激土を使用。【装甲破壊】の効果も相まってブレイドへとダメージを与えることに成功した。

 

「よっしゃ。ダメージ入ったぜ。このまま決めてやる。【リーフブレード】!」

 

「それならこれだ。【キック】【サンダー】!」

 

セイバーは激土に深緑の力を高め、ブレイドも地面に剣を突き立ててから足に電撃を溜めつつ跳び上がる。

 

「【ライトニングブラスト】!」

 

「だあっ!」

 

「ウェーイ!!」

 

それぞれの攻撃がぶつかり、互いの威力を競い合う。そしてそれは相打ちに終わった。2人が共に吹き飛ばされ、ダメージを与え合う結果になった。

 

「く……やっぱ強いな、ブレイドさん」

 

「お前もなセイバー。だが、それでも勝つのは俺だ」

 

「そうはいきませんよ」

 

2人は再び剣を交えていく。先程までとは違ってセイバーは細かい動きがしにくくなって攻撃を当てられることが多くなったが、その分防御力も上がっているので然程問題にはならなかった。

 

「ちょっと激土だと小回りが効かないな。なら、狼煙抜刀!【バタフライウイング】!」

 

セイバーは狼煙を使って防御力を下げる代わりに機動力を確保。【バタフライウイング】の効果で舞うように空を飛行しながら空中からの避けにくい攻撃でブレイドを翻弄していく。

 

「【インセクトショット】!」

 

ブレイドは空中からのキックで更に追加ダメージを与える。ここまで来ればセイバーが有利に戦いを進めているのは明らかとなるだろう。しかし、ブレイドも黙ってはいない。この戦況がブレイドの持つ奥の手を引き出すことになった。

 

「中々やるな。だが、この姿を相手にいつまで保つかな?」

 

ブレイドは左腕に巻きつけてある黒い機械に取り出した1枚のカードを入れた。

 

「【アブゾーブ】!」

 

そう言うと機械のホルダーが開き、そこには2枚のカードが入っていた。その内、1枚を取り出して機械にスキャンした。

 

「【フュージョン】!」

 

ブレイドの言葉と共に金の鷲が出現。そしてその姿がブレイドに重なるとブレイドの背中に赤と銀の羽が出現する。そして胸と頭の装甲が金に変色した。最後にブレイドの使う剣の先端が変化し、更に切れ味が増加した。

 

「な、なんだそれは?」

 

「俺のパワーアップした姿。いわゆるジャックフォームって所だな」

 

「【ビーニードル】!」

 

セイバーはブレイドの変化に臆することなく突っ込んでいき、左腕に武装した蜂の針のような武器でブレイドを攻撃する。しかし、今のブレイドには通用しなかった。

 

「はっ!」

 

ブレイドも背中の羽を広げると空へと飛び上がったのだ。2人は空中で剣を交えるが、セイバーの羽がトリッキーな動きをするのに長けているのに対して、ブレイドの羽は空中を素早く飛行するための物のため、機動性の面ではブレイドの羽が圧倒的に上を行っており、結果的にその性能の差が勝負を分けることになった。

 

セイバーはブレイドの速度についていくことができず、すれ違い様に繰り出される斬撃でのダメージを受けることになり、セイバーは地面へと落下した。

 

「がはっ……く、くうう……」

 

「【スラッシュ】【サンダー】!」

 

ブレイドは空中で2枚のカードをスキャンし、必殺の一撃を放つ。

 

「【ライトニングスラッシュ】!」

 

ブレイドは空中を自由自在に飛行したのちに空中からセイバーを真っ二つに斬りつけ、電撃による追加ダメージを与えた。これにより、セイバーは【不屈の竜騎士】が発動するまでに追い詰められた。

 

「クソッ……ジャックフォーム……強い」

 

セイバーは限界ギリギリにまで追い詰められていた。次に攻撃を受ければ終わり。逆境に立たされた彼が取った手は……。

 

「そっちがパワーアップするなら、こっちもパワーアップしか無い!月闇抜刀!【邪龍融合】」

 

セイバーは月闇を抜くとブレイブと融合して強化。HPも僅かだが増え、ブレイドとのステータスの差で押し切るつもりだった。

 

「この力、凌げるものなら凌いでみろ!【月闇居合】!」

 

セイバーは闇の力を高めた居合斬りをブレイドへと放った。ブレイドはこれを受け止めるが、あまりの威力に攻撃の余波でダメージを受けた。

 

「へぇ。これはかなりの威力だな。けど、それじゃあ俺には届かないよ」

 

「そんなの、やってみないとわからねーだろ!」

 

セイバーは余裕を見せるブレイドへと走っていく。しかし、ブレイドの奥の手はこれで終わりでは無かった。

 

「……【エボリューション】!」

 

ブレイドへと突っ込んでいくセイバー。ブレイドへと剣を振り下ろした直後、彼から眩い光が発生。そして、振り下ろした剣は簡単に受け止められ、カウンターの剣がセイバーを襲った。勿論HPが僅かのセイバーには耐えることはできず、セイバーはダメージエフェクトと共に2度目の敗北を迎えることになった。

 

こうして、敗北を喫することになったセイバーとキラーは元のフィールドに戻ると悔しそうな表情を浮かべ、逆に勝ったブレイドとカリスは満足そうにしていた。

 

「今回は俺達の勝ちだな。セイバー、キラー」

 

「見事です……まさか、今の俺より強い人がいるなんて……」

 

「いやいや、今回は偶々勝てただけだ。次やったらどうなるかわからない。それがゲームだろ?」

 

「……はい」

 

「キラー、次に戦う時はイベントでだ」

 

「首を洗って待っていろ。今度は……勝つ」

 

「それではまたイベントで会おう」

 

その言葉を残し、ブレイド達はその場を去っていった。残されたセイバーとキラーは悔しい気持ちをそこそこに今回戦って得られた情報を共有した。次こそは彼等に勝つという断固たる気持ちを持って……。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと不死鳥の過去

セイバーがブレイドに敗北を喫してから数日。メイプルに異変が起きた。どうやら、城の図書館に入った際に『禁忌の主』が体の中に取り込まれたらしく、顔に黒いフェイスペイントを塗られたような感じになっていた。そして、パッシブスキルを除く全てのスキルが封印されてしまい、使うことができなくなってしまった。これではイベントで活躍する所の騒ぎでは無くなるので彼女は急いでクエストを進めることになった。

 

まず、メイプルはアイテムを一定数『禁忌の主』に捧げることになり、それはイズに頼むことで余っていた大量の消費アイテムを確保し、何とかクリアした。次にソロでモンスターを討伐せよとあり、スキルをほぼ全て封印されているメイプルにとってそれは地獄のような条件だった。何せ、攻撃の殆どをスキル頼りにしていたからである。そこでまたもやイズの力を借りてダメージを与えるためのアイテムを渡してもらった。それからはひたすらモンスターとの戦いの日々となる。このようにメイプルはかなりの苦労を強いられていた。

 

その一方でセイバーはサリーと共にギルド、【BOARD】についての情報整理をしていた。

 

「それで、セイバーが戦ってみてどうだったの?その【BOARD】とか言うギルドは」

 

「俺が実際に戦ったのはブレイドさんとギャレンさん。そしてキラーが戦ったカリスさんの3人なんだけど、全員がカードを使って攻撃や防御をしていた。恐らく、それ以外にもスキルはあるんだろうけど、基本はカードメインの戦いだと思う」

 

「ふうん。なら、カードを奪えば勝ちじゃない?」

 

「それが出来ればな。取り敢えず、カードを奪う以外の選択肢で考えるぞ。ブレイドさんは剣を使った近接戦が得意でその腕は俺と互角かそれ以上。属性は雷かな。【サンダー】で雷の力を付与してたし」

 

「雷かぁ。ベルベットとの差別化はできそう?」

 

「ベルベットは広範囲に無差別に雷を落としてくるけどブレイドさんは剣やキック攻撃の追加効果として備えられる程度かな?単体で使用しているのは見てないからまだ確証は得られない」

 

「じゃあ次ね。ギャレンは?」

 

「ギャレンさんは銃撃戦をメインにしてるけど、普通にインファイトもできるから遠近両方が得意かな。しかも、結構射撃も精密だから油断してるとすぐに撃ち抜かれるよ。属性は火を使ってきたな。あと、岩の障壁もある」

 

「これは近づくのも一苦労かもしれないわね。私もプレイヤーが撃つ精密な銃弾を躱すとなると結構集中力使うから」

 

「ウィルバートさんの銃バージョンだな。見た感じ拳銃だったから連射はしにくいかもしれないけど、普通にあの人なら連射みたいなこともしてきそう」

 

「キラーが戦ったカリスはどう?」

 

「カリスさんは弓を武器にしてるけど、あの弓は切れ味抜群の刃にもなるな。しかも、普通に射撃もできるからこっちも遠近両立できる。あと、攻撃を跳ね返したりHPを回復する手段もある」

 

「それは厄介ね。カナデやイズさんの魔法や爆弾を使っても跳ね返されたら不利になるし、回復もできるのなら削っても意味ない可能性もあり得るわね」

 

「そんでもって属性は風って感じ。必殺技を使ったときに竜巻を纏ってたらしいからな。そして、何よりテイムモンスターがヤバイ。カマキリのモンスターなんだけど一回進化していて、カリスさんの話からして【BOARD】が持つ全部のカードの力が使える」

 

「うわぁ……明らかにヤバイわね。私達のテイムモンスターだとシロップか朧かブレイブじゃないと普通にステータスで負けそう。それで、最後の1人のレンゲルは?」

 

「あの人とはまだ戦ってないからまだ確定じゃないけど、多分モンスターを操ってくる。この前レンゲルさんが使役していたモンスターと戦ったとき、かなりモンスターが打たれ強かったから弱いプレイヤーが1対1でもしようものなら負けるのがオチかも」

 

「体感的にはどのくらい強かったの?」

 

「俺とパラドのスキルを何発も凌げるくらい」

 

「面倒ね。しかも、何体も同時使役してきたら物量を前に押し負けるかも」

 

「あ、そうそう。多分あの4人ともパワーアップした姿があると思った方が良い」

 

「……へ?」

 

セイバーの言葉にサリーは固まった。ここまででも十分すぎるぐらいの化け物なのにまだ上があるのか。それを考えるとサリーは背中に寒気が走った。

 

「俺が見たのはブレイドさんだけだけどアレは強いなんてレベルじゃなかった。空を高速で飛べるしそこから連続での斬撃が来るしでもうとんでもなかった。しかも最後に俺が視認できないくらいの光を放ってから物凄い重い一撃を喰らった。俺はあのときその一撃で負けたからわからなかったけどアレは確実に何かある」

 

「そっか……負けちゃったんだね……セイバー」

 

「正直悔しいさ。でも、前みたいに負けたからって俯いてたら勝てるものも勝てなくなるし、また対策は考えてみるよ」

 

「ふふっ……それでこそセイバーね。私の方でも幾つか対策は考えておくから。セイバー、次は勝ちなさいよ?」

 

「わかっている」

 

それから2人は解散し、セイバーはギルドホームから出ることになった。

 

「とは言ったものの、どうするかな?今メイプルは自分のことで手一杯だし、他の皆もそれぞれでやる事があるから手は貸せないだろうからなぁ……かと言って他のギルドの面子だと敵に回ったときに辛いし……どうするか……」

 

セイバーが悩みながら炎と荒地の国を探索しているとインベントリの中にしまっていた『破滅ノ本』が勝手に出てきて開いた。そこには不死鳥が幸せそうに人々と共に暮らす絵が描かれていた。

 

「これは……何だ?」

 

するとセイバーの脳裏に色んな情報が入り込んできた。そこには不死鳥には愛する女性がいたこと、その女性は不死鳥と心を通わせており、不死鳥は彼女を愛し、また女性も不死鳥を大切に想っていた。しかし、ある日その女性は戦争に巻き込まれて命を落としてしまった。不死鳥は彼女を生き返らせようとするが、不死ではない彼女が生き返ることなどできるはずもなかった。

 

「まさか、この前解放された不死鳥の記憶……なのか?」

 

セイバーが次のページを開くと不死鳥がありとあらゆる物を焼き尽くし、破壊の限りを尽くしている絵が描かれていた。

 

不死鳥は怒り狂い、彼女の命を奪ったと思われた戦争相手の国を僅かな期間で焼き払い、戦争をあっという間に終わらせた。だが、不死鳥が愛していた女性を殺したのは戦争をした相手の国の者ではなかった。何と、戦争の混乱に乗じて自国内にいた彼女を憎む人間が彼女を抹殺したのだ。

 

元々、不死鳥と心を通わせていたためにその女性は危険として国の中でも孤立しており、戦争が無くとも近いうちに刺客が送られて殺されただろう。

 

そして、それを後から知った不死鳥は絶望し、報復としてその国に住む人々を虐殺。全てを無に帰した。

 

「うーん。なんで不死鳥の愛する女性を殺したんだろ……不死鳥も不死鳥でやりすぎだけど、不死鳥が危険だからってそいつと仲の良い女性を殺していいとはならないだろ」

 

セイバーが更にページをめくると今度は3匹の龍が描かれていた。

 

「へぇ。不死鳥は女性を抹殺した町の人を壊滅させてからというものの、その怒りは収まることを知らずに近くの町にまで飛んでいき破壊の限りを尽くした。そして、そんな不死鳥を前に困り果てた町の人々の前に現れたのは赤、黒、白の3匹の龍だった」

 

次のページには3匹の龍が力を合わせて荒れ狂う不死鳥の力を1冊の本の中に封じ込めていた。

 

「なるほどな。要するに不死鳥は不死だから倒せない。よって、本の中に封じ込めることでこの場を解決した訳か。で、封印で力を使い果たした黒と白の龍はそれぞれ本の中へと入って眠り、赤の龍はどこかへと飛び去った。そして、不死鳥が封印された本は厳重に保管されることになったと。あれ?でもこの本があったのは深い海の中にいるポセイドンの所だろ?何で地上で保管されていたのにこうなったんだ?」

 

セイバーがまたページをめくり、読み進めていくとこの本、『破滅の書』を聖剣を扱う剣士以外の人間が持つと力を求めるようになる副作用があると書いてあった。そのせいで本を誰も近づかないような場所に隠す必要が出た。そこで、人間達は深き海にこの本を捨て、2度とこの世界に出てこないようにした。恐らく、ポセイドンが持っていたのは偶々流れていた本を見つけたからだろう。

 

「おっと、これでこの本も終わりか」

 

セイバーが最後に『破滅の書』を閉じると空に炎を纏った何かが見えた。

 

「あれは……鳥か?でもさ、あそこまで巨大で炎を纏った鳥なんて俺の知ってる限りだとアイツしか無いんだが……まさかこの場にやってくるなんてこと……」

 

セイバーの予感は当たってしまった。目の前にポセイドンからの修行を終えた際に封印から解かれた不死鳥がやってきたのだ。

 

『ふはははははは!また会ったな。人間よ』

 

「マジかよ。まさか、この層を滅亡させるつもりじゃ……」

 

『当たり前だ。人間は欲に負け、すぐに戦争を起こす。我の大切な人も命を落とした。もっとも、その人が殺された理由は敵によるものではないがな』

 

「……全部見ましたよ。あなたが絶望した理由も、人間を嫌う理由も、そして封印されてしまった理由も」

 

『俺が封印されていた『破滅の書』を読んだか。ならばわかるはずだ。人は愚かで滅ぶべき存在だ。他人を憎み、疑い、すぐに大切な者の命を自らの手で奪っていく』

 

「でも、本当は他の人間達とも仲良くしたかったんですよね?あの愛していた人とそうしていたように」

 

『我は感情を捨てた。最早、愚かな人間を前に感情を芽生えさせるなどできやしない。力こそが全て!この世は力がある者が弱き者を統べる』

 

「違うな。確かに、この層にも支配する者とされる者がいる。だが、力ある者なら何をして良いということにはならない。その力は弱い人達を救うための力だ」

 

セイバーは不死鳥を説得しようと必死に語りかけるが不死鳥はまるで聞く耳を持たない。これでは過去の二の舞となってしまう。そう思ったセイバーに不死鳥が問いかけた。

 

『ならば聞こう。何故お前が今いる2つの国は祭事だからと言って仮想空間で戦争をさせる?弱い者を救うと言うのであればその祭事は弱い者を救うために行うものなのか?』

 

「それは……」

 

『ふん。結局は強き者が持て余した暇を潰すために行うことだ。そして、両国の仲が悪くなればすぐに戦争となる。祭事として行っていた事を魔術で作った仮想空間では無く、こちらの世界でも行うのだ!!』

 

「……だとしても、お前は失った者を誰かのせいにして全てを滅ぼそうとしている。そのやり方は、お前自身がすっきりしても、多くの悲しみを生み、新たな妬みや憎しみの元になる。だから、こんなやり方はもうやめてくれ。お前だってわかってるはずだ。こんな事をしてもお前の愛していた人は帰ってこないことぐらいは……」

 

『黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!我を愚弄するか?』

 

「もし仮にお前が愛していた女性が殺されなくても彼女は人間。お前は不死の体を持つ不死鳥。別れの時がいつかは来たはずだ」

 

『別れの時が来るからこそ、我は彼女を大切にしていたのだ。それを……それを奴等は!!』

 

「落ち着けよ!こんな事をすることが死んだ彼女が望んだ事なのか?全てを破壊して、無に返すことで彼女が救われるとでも思ってんのかよ!!」

 

『小僧、あまり調子に乗るなよ?そういうお前こそ聖剣を集め、力を求めて日々過ごしているではないか。お前も所詮は戦いたいという己の欲のために動いている1人。結局は我と同じなのだ』

 

「……もう話してもやめるつもりはないんだな?」

 

『我に挑むか。ならば、その勇気に免じて場所を変えてやる。ぬん!!』

 

不死鳥が自身とセイバーの真下に転移の魔法陣を展開するとそれは2人を包み込み、転移させた。そして、転移した先はかつては町があったであろう場所であり、そこには焼け焦げた野原や壊された建物の残骸などが点在する不毛な大地だった。

 

「ここは……」

 

『我が壊滅させた場所だ。そして、目の前で彼女を失った所でもある。我の悲しみは底知れず、その時は我を忘れて暴れ回った。あの忌々しい龍達が現れなければ今頃は世界の全てを無に返せたというのにあの者達が邪魔をしたせいで……』

 

「最後にもう一度だけ聞く。本当にお前は世界を滅ぼしてしまって良いのか?」

 

『くどいぞ。我の大切な者を奪ったこの世界になど存在する価値も無い。全て消え去って然るべきである』

 

「なら、そうか。お前がそのつもりならば、お前の暴走は責任を持って俺が止める。烈火……抜刀!」

 

セイバーは烈火を抜き、不死鳥を見据える。それを見た不死鳥も自身が纏う炎を滾らせて戦う意志を示した。ここに、セイバー対不死鳥の世界を賭けた戦いが始まったのである。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと溢れる感情

セイバーは烈火を抜くと不死鳥へと向かっていった。

 

「うらああっ!」

 

そのまま跳び上がると不死鳥の背中へと烈火を突き立てて炎を流し込む。しかし、それは瞬く間に無力化されてセイバーは振り落とされた。

今の攻撃で与えたダメージは0であり、不死鳥のHPは全く減ってなかった。

 

「チッ、全くの無傷か。これは面倒だぞ」

 

『属性攻撃で我に傷をつけるなど不可能だと知るが良い』

 

不死鳥は翼を広げるとそこから燃え盛る羽を飛ばしてきた。セイバーはこれを走って避けようとするがあまりの数に躱しきることができず、ダメージを受けてしまった。しかも、セイバーの持つ【火属性無効】を無視してダメージを入れている所を見ると不死鳥の放つ羽は【無効貫通】のスキルが付与されていると思われた。

 

「この野郎!【森羅万象斬】!」

 

『焦った上に大技か。だが、無意味だ』

 

不死鳥はセイバーが放った虹色の斬撃を正面から受け止めるとまたもや攻撃を無力化してしまった。

 

「おいおい、これでも通らないのかよ。だったら、【爆炎紅蓮斬】!」

 

セイバーは続けて爆炎の斬撃で不死鳥を斬りつける。しかしこれも通用しなかった。不死鳥は何事も無かったように佇んでいる。

 

「マジかよ。俺の攻撃が全く通用しない……」

 

『ふん。お前では我には一生勝てない。我の体は属性攻撃を無に返す。すなわち、先程までのお前の攻撃では傷1つすらつけられないということだ」

 

「まだだ!界時抜刀!」

 

セイバーは界時へと聖剣を切り替えると界時スピアへと変更し、不死鳥の羽を掻い潜りながら不死鳥へと接近。槍の先端で直接攻撃を行う。すると不死鳥は漸くダメージを受けてHPバーがほんの僅かに減少した。

 

「あー、なるほど、属性攻撃が無効化されるのなら属性攻撃をしなければ良いって訳か。でも、このやり方はあまりにも時間がかかるな」

 

『我に傷をつけるか。だが、その程度なら我の相手にすらならんぞ!』

 

不死鳥は更に炎の羽を飛ばしてセイバーを牽制していく。しかし、先程とは違って今のセイバーは攻撃を無理に躱す必要が無い。

 

「【界時抹消】!」

 

セイバーがスキルを発動後、ゆっくりと不死鳥の攻撃を躱しながら空中へと跳び、そのタイミングで抹消を解除した。

 

「【再界時】!」

 

不死鳥はいきなりセイバーの位置が空中へと移行したために驚き、そのせいで対応が遅れることになってしまった。そこにセイバーからの一撃が叩き込まれる。

 

「おりゃああ!」

 

界時スピアによる刺突攻撃。それは不死鳥にとってはあまり効いてないものの、それでも確実にダメージが入っていく。

 

「まだまだぁ!!」

 

セイバーは不死鳥へと突き刺した界時を使って不死鳥の背中に乗るとその状態で使える2本目の剣を取り出した。

 

「キングエクスカリバー!」

 

界時ソードとキングエクスカリバーの本体を使用した属性攻撃を噛ませない普通の斬撃で不死鳥を着々と追い詰めていく。

 

『おのれ!!我を侮るなよ』

 

不死鳥は背中の上から繰り出される攻撃に怒ったのか自身の体の温度を上昇させて体を包む炎の勢いを強めた。結果、セイバーの装甲を燃やし、ダメージを少しずつ蓄積させていく。

 

「くうう……痛いけど……負けるかよ!!」

 

セイバーは痛みを堪えながら何度も何度も連続で攻撃を続ける。不死鳥はこの状況に苛立ちを覚えたのかいきなり飛び回るとセイバーを振り落としにかかった。しかし、先程とは違って今度はセイバーは振り落とされまいと2本の剣をしっかりと突き刺してダメージを与えながらしがみつく。

 

「この野郎……飛び方が荒いんだよ!もっとゆっくりと飛んでくれ!」

 

『我から離れよ!人間風情が!!』

 

不死鳥は飛び回っても落とせないと判断したのか、今度は飛びながら上下を反転し、背中をわざと地面へ叩きつけた。これにより不死鳥自身もダメージを受けるが、同時にセイバーも攻撃することができるようになった。

 

「がっ!?このっ!!」

 

『早く失せろ!小僧!!』

 

「負けて……たまるかよ!!」

 

セイバーは何とか不死鳥が繰り出す自分を犠牲にする攻撃を耐え続けるもとうとう耐えきれなくなり地面に放り出されてしまった。

 

『受けるが良い!』

 

そこに不死鳥から火炎弾が放たれてセイバーは被弾。かなりのダメージを負うことになった。

 

「はぁ……はぁ……だったら!【巨剣両断】!」

 

セイバーは属性を付与しない攻撃の中での最高火力、キングエクスカリバーによる剣の振り下ろしで不死鳥へと強烈な一撃を叩き込んだ。これにより、不死鳥はそのHPを残り5割へと減らし、いよいよ戦いは後半戦へと突入した。

 

「このまま一気に決める!【ゲノミクス】!」

 

《コンドル!ゲノミクス!》

 

セイバーが【ゲノミクス】を発動すると今回は運良く飛行できる生物の力を借りることができ、セイバーの体は空中を飛来。そのまま界時とキングエクスカリバーの二刀流で不死鳥を翻弄していく。不死鳥も不死鳥でタダではやらせない。今度は火炎弾を連続発射してセイバーの動きを制限。飛行するセイバーの動きが止まったタイミングを狙って強靭な足の鉤爪でセイバーを叩き落としにきた。

 

「今だ!【界時抹消】!」

 

セイバーは攻撃を受けるギリギリで【界時抹消】を発動して回避。そのまま不死鳥の死角へと回り込んだ。

 

「ここだ。【再界時】!からの【キングスラッシュ】!!」

 

セイバーがキングエクスカリバーの本体を振ると巨大なキングエクスカリバーが不死鳥を両断し、不死鳥からは凄まじいダメージエフェクトが散った。

 

「もうすぐで倒せる!!」

 

しかし、このタイミングで【ゲノミクス】が終わってしまいセイバーの体は落下を始めた。

 

『終わりだな。ぬん!!』

 

そこにダメージの怯みから立ち直った不死鳥から炎のブレスを受けてしまいセイバーは大きく押し出されてしまう。

 

「こうなったら……流水抜刀!【氷獣大空撃】!」

 

今度は時間制限の無い流水の装備の状態での氷の翼で空を飛ぶ。ただし、氷属性だと火属性相手には相性が不利のために短期決戦をセイバーは考えていた。

 

「もし、モタモタして火属性の攻撃を受けるのであればジリ貧だ。ここはさっさと決めるしか無い!」

 

セイバーが飛行しながら再度接近を試みる。セイバーの遠距離からの攻撃は基本的に魔法が主体なので属性攻撃になりがちである。よって、属性攻撃が通用しないこの状況下でそれは魔法攻撃などの飛び道具が使えず、かなり不利と言えるだろう。

 

『そう何度も近づけるとは思うなよ?』

 

今度は不死鳥自身が炎を滾らせつつ、きりもみ回転をしながらセイバーへと突っ込んできた。これではセイバーは迂闊に剣での接近戦ができない。

 

そこでセイバーが取った手。それは……

 

「こんなの……受け止めてやる!!」

 

真正面からそのきりもみ回転を受け止めてしまうことだった。この行為にはある程度のリスクがある。1つ目はダメージを受ける可能性が高いということ。不死鳥は炎を纏っているために尚更炎の定数ダメージが入りやすいだろう。2つ目は不死鳥からの圧力に耐えきれなければ吹き飛ばされる点である。セイバーと不死鳥では体格差も大きく、一歩間違えれば不死鳥とのパワー差でたちまちやられてしまう。

 

これらのリスクを承知でそれでも尚セイバーは不死鳥に立ち向かった。

 

「ぐううう……やっぱり強い……だが……このチャンス、無駄にはしない!!」

 

セイバーはダメージを受けながらも不死鳥の回転を抑え込み、完全に停止させてからすれ違い様に不死鳥を斬りつけ、そのHPをとうとう0にさせた。

 

「良し!終わったぜ!!」

 

『我が……こんな小僧に……ぐあああ!!』

 

不死鳥は大爆発と共にポリゴンとなって消え、その場には1枚の羽だけが残った。

 

「ふう、戦利品は何かな〜」

 

セイバーは戦いの疲れを吹き飛ばそうと勝利した時に貰える宝箱などを期待したが、そのような物は一向に見当たらなかった。

 

「あれ?なんでだ?アイツを倒したのに……待てよ。アイツは不死鳥……不死ってことはまさか!!」

 

セイバーがそう言った瞬間、1枚の羽に炎が灯ると不死鳥が体力満タンで復活してしまった。

 

『言ったはずだ。お前では勝てないと。はあっ!!』

 

不死鳥はセイバーへと先程とは比べ物にならないサイズの火炎弾を発射し、セイバーはこれをまともに受けてしまってHPが残り1になってしまった。HPが残り1で耐えているという事は【不屈の竜騎士】が発動しているという事を指し、これでセイバーはこの日はもう2度とHP1で耐えることができなくなってしまった。

 

「あ……がぁ……不死だなんて……反則だろーが」

 

セイバーは何とかポーションで回復するが、次に大技を喰らったら即敗北に繋がるためにさらに警戒心を強めるしか無かった。しかも倒しても恐らくまた復活してしまう。この終わりの無い無限地獄にセイバーはどうすることもできなかった。

 

「あーあ、こうなるんだったらあの時『破滅の書』なんて手に取るんじゃなかったぜ」

 

『今更遅いな。我を自由にしたのがお前の運の尽きだ。大人しく殺されるが良い』

 

不死鳥はセイバーへと大量の燃え盛る羽と火炎弾を飛ばす。セイバーはそれを躱す事なく手を広げて受け止めた。

 

『貴様、何のつもりだ?とうとう戦意を喪失したのか?』

 

「違うぜ……俺はまだ諦めたりしてねーよ」

 

セイバーはポーションを使い回復しながらダメージによる痛みを押し殺し、ゆっくりと不死鳥へと近寄っていく。

 

「俺はやっぱりお前を救いたい」

 

『今は戦いの最中だ。変な事を考えるのはやめてもらおう』

 

「変な事?違うだろ。俺は純粋にお前を救いたい。さっきまではお前を倒す事がお前を救う事だと思っていた。けど、それはお前を救うことにはならなかった。死ねない体に無限の再生。俺達人間が生きることができない永遠の時間をお前は生きてきた。多分、今の世界はお前が生きていた頃とは大きく変わっていると思う。だからこの世界でまた穏やかに生きてくれないか?」

 

『世界は何も変わっていない。我が元いた時代も、今も戦争が絶えず続いている。お前が見ているのはそんな世界のほんの一部だけに過ぎない。いつかはお前も後悔することになる』

 

「そうかもな。お前の言ってる事は正しい。俺の住む現実世界でも戦争をしている国もある。世界平和だなんて言葉は口だけで恐らく存在しない。けど、世界は美しいぜ?もっと外に目を向けてみろよ。いつまでもお前の愛人のことを考えてばかりじゃ何も変わらないぞ」

 

『我は感情を捨てたと言ったはずだ。我にもっと力があれば、愛人を失う事など無かったはずなのに!!』

 

「そうか。なら、俺がその間違いを正してやる。最光抜刀!【カラフルボディ】!」

 

セイバーは最光を抜刀すると人型となり手に光剛剣を構える。

 

「行くぞ!【足最光】!」

 

セイバーは脚力を大幅に上げると不死鳥の攻撃の範囲から一気に外れた。そのまま不死鳥へとキックを叩き込む。その威力に不死鳥は怯むと体勢を崩した。そこにセイバーからの強烈な一撃が入る。

 

「【腕最光】!」

 

今度は腕力を強化し、そのまま最光と左腕の武器で不死鳥を斬り裂く。続けて全身に装甲を戻しながら、最光での突きを喰らわせた。当然これだけでは相手を倒すには至らない。そこで、セイバーは発想を変えることにした。

 

「アイツは不死だ。倒しても倒してもキリがない。なら、倒すじゃなくて、封じるならどうかな?月闇抜刀!ブレイブ、【邪悪化】!【邪龍融合】!」

 

セイバーは唯一封印の能力が使用できる月闇へと変わるとブレイブと融合してパワーアップ。そのまま封印のスキルを繰り出す。

 

「【封印斬】!」

 

セイバーが封印の力を込めた月闇を不死鳥へと突き立てると【不死】のスキルを封印しようとした。しかし、それは叶わなかった。本来なら封印のエフェクトが出るはずの不死鳥の体からは何も起きなかったのだ。

 

「封印が効かないのか?封印は確か属性攻撃じゃないのに」

 

『その程度の封印の能力ならば通用しない。我の持つ不死を封印したければもっと強い力が必要だ』

 

「何だよそれ……【不死】の封印ができないとかお前、チートにもほどがあるだろ」

 

セイバーは不死鳥の翼によって落とされると再び立って向かおうとしていくが、突如としてセイバーの体に激痛が走った。

 

「うぐうう……な、何で……体が悲鳴を……」

 

『お前、今までに体に無理をさせてきただろ。そのツケが今返ってきただけのこと』

 

今まで、セイバーは体にかなりの負担をかけてきた。スキル【ロックモード】、【分身】、【界時抹消】。これらのスキルは体に莫大な負荷をかける。特に、【分身】と【界時抹消】に関してはその負荷が大きく、【分身】は増えた人数分だけダメージや疲労を共有してしまう。また、【界時抹消】は特殊空間に潜航する際に同様に体に負担をかける。

 

これまでは【分身】を自身の切り札として期間を空けて使っていたためにあまり気にならなかったが、【界時抹消】については特訓の時からずっと使用してきており、その負荷に体が慣れたかに見えたが、実際には少しずつダメージが蓄積しており、今現在、反動として体中に痛みが返ってきていた。

 

「体が……動かない……このままじゃ……」

 

『どうやら、ここまでのようだな。引導を渡してやる。あの世で後悔しろ』

 

不死鳥はセイバーにトドメを刺すために体のエネルギーを口に集約。巨大な火炎弾を生成した。

 

『愚かな人間よ、その命を持ってして我に楯突いた罪を償え!!』

 

不死鳥はセイバーへと火炎弾を発射した。セイバーはミシミシと痛む体を無理矢理動かすとそれを見据えた。

 

「はぁ……はぁ……ぐっ!?くうぅ……まだ、俺はまだ終われねーんだよ!烈火抜刀!!【森羅万象斬】!」

 

セイバーが火炎弾に対抗するために彼が持つ最高火力のスキルを発動。火炎弾を正面から受け止めた。

 

「俺はお前のことを救いたい!本当ならお前は幸せに生きることができていたはずなんだ!!そしてお前は感情を捨てたと言ったな。だが、お前の中には少なからず感情が残っていると信じている。失った彼女のことを想い続けてきたのもそうだ!怒りで我を失ったのもだってお前に感情があるからだ!感情なんてそう簡単に消えはしない。俺がお前に感情を取り戻させてやる!!」

 

セイバーがそう叫ぶとどこからともなく赤い龍が現れてセイバーが抑えていた火炎弾を弾き飛ばした。

 

すると、セイバーのインベントリから白と黒の輝きが放たれ、双子の姉妹に貰った白の本と黒の本が出てきた。そして、その中から白の龍と黒の龍が飛び出し、空中で赤い龍と1つに重なると指輪が落ちてきた。

 

セイバーがそれを手にするとそれは装備可能と表示された。

 

『感情の架け橋』

【神獣合併】

火炎剣烈火を装備している時のみ使用可能。感情を司る3匹の龍との融合を可能にする。1日1回のみ。

 

「もしかしてこの龍、『破滅の書』に描かれていたあの龍なのか?」

 

セイバーがそう言うと自身の体の中にいるプリミティブドラゴンとエレメンタルドラゴンが使うのを後押しするように咆哮した。

 

「わかった。プリミティブドラゴン、エレメンタルドラゴン、ちょっとコイツらの力を使う間、休んでてくれ」

 

するとセイバーの体からプリミティブドラゴンとエレメンタルドラゴンが飛び出して指輪の中に入るとそれと入れ替わるように赤、白、黒の3匹の龍が出てきた。

 

「【神獣合併】!」

 

セイバーがそう言うと赤い龍がセイバーの右側に黒い龍がセイバーの左側に、白い龍がセイバーの胸の辺りにそれぞれ融合。背中には白いマントが垂れ下がり、頭のヘッドギアはセイバーから見て右から赤、白、黒の色をし、ツノのような剣は銀色に変わった。左腕には黒い盾が装備され、中心には剣の絵が描かれている。

 

『情龍のヘッドギア』

【MP+50】【VIT+20】【HP+70】

【破壊不可】

【消費MPカット(火)】【火属性無効】

 

『情龍の鎧』

【VIT+30】【INT+60】【STR+40】【DEX+40】

【破壊不可】

【爆炎激突】【爆炎放射】【ラブキャノン】

【火炎砲】【極炎】【絆の輪】

 

『情龍の靴』

【AGI+70】

【破壊不可】

【フレアジェット】【情龍神撃破】

 

『情龍の盾』

【VIT+30】

【破壊不可】

【プライドシールド】

 

特殊進化条件

プレイヤーのレベルが70以上の状態でブレイブドラゴン、ルーンブライトドラゴン、ルーンディムドラゴンと融合する。

 

『火炎剣烈火』

【STR+40】

【破壊不可】

【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】【ブレイブスラッシュ】

【紅蓮爆龍剣】【感情爆炎斬】

 

『貴様、その姿はまさか!!』

 

「そうだ。これがかつてお前を封印した力、感情を司る龍達の力だ!」

 

『馬鹿な。お前の体は限界のはず!!』

 

セイバーは今現在、体にかかっている負担が消えており、通常通りの動きができるようになっていた。もしかすると、感情の龍達がセイバーへの負担を軽減してくれているのかもしれない。いずれにせよ、今のセイバーには勝利の二文字しか見えていなかった。

 

「勝負だ。不死鳥さんよ!!」

 

『調子に乗るなよ?小僧!!』

 

不死鳥は再びセイバーへの攻撃を再開。燃え盛る羽と火炎弾での面攻撃を仕掛けた。

 

「【プライドシールド】!」

 

セイバーはその攻撃を左腕に装備した盾を構えた。すると盾は光り輝き、セイバーの前に巨大な盾を出現させて攻撃を全て防いだ。

 

「次はこれだ!【ラブキャノン】!」

 

セイバーの胸に装備されている白のドラゴンの顔にエネルギーがチャージされると白いエネルギー砲が不死鳥に向けて発射された。不死鳥はこれを受けるとダメージが溜まっていき、そのHPを減らしていった。

 

『おのれ!!』

 

「【ブレイブスラッシュ】!」

 

今度は烈火に赤い輝きが纏われていくと不死鳥をすれ違い様に斬り裂いた。

 

『ぐあああ!!』

 

「これで決める!【情龍神撃破】!!」

 

セイバーは跳びあがるとキックの体勢に入り、そのタイミングでセイバーの周囲に3匹の龍が現れ、セイバーは周りを龍に囲まれながら不死鳥へと突っ込んでいった。その威力は計り知れず、不死鳥にキックが当たると不死鳥は大きく吹き飛ばされて地面へと叩きつけられた。

 

『これが……感情の力とでも言うのか?』

 

「ああ、お前が捨ててしまった感情の力。そしてそれは無限の可能性を生み出すんだ」

 

『ククククク……だが、我は不死!永遠に負けることなど無い!!』

 

不死鳥は持ち直すとセイバーへと攻撃を再開しようとした。しかし、セイバーの前に1人の女性が立ち塞がった。

 

『何!?』

 

「あなたは……」

 

『もうやめてください!私は……私はこんなことをしてもらうためにあなたのことを想っていたのではありません!!』

 

立っていたのは不死鳥がかつて戦争で失った愛人だった。セイバーが融合した3匹の龍。それらは彼女が呼び出したのであった。彼女は殺されたのちに無差別に殺戮を繰り返す不死鳥を見て悲しんだ。そして、これ以上不死鳥が罪を重ねないように3匹の龍に頼んで不死鳥を封印してもらったのだ。

 

彼女はそのことを不死鳥に伝えると不死鳥は涙を流し始めた。

 

『すまない……我は……我はなんて愚かなのだ……我が今までやってきたのは……お前を悲しませているだけだったのか……』

 

不死鳥は地面へと降り立つと頭を下げた。

 

『小僧、すまなかったな。謝っても許されないことはわかっている。だが、我を止めてくれてありがとう……我はまた間違いを繰り返す所だった』

 

「こちらこそ、あなたのおかげでまた成長できました」

 

『我はこれから罪を償う。この美しい世界を守ることに力を使おう。小僧、お前の名は……』

 

「セイバー。セイバーだよ」

 

『セイバー、お前に我の力を宿した聖剣を預けよう。受け取るが良い』

 

不死鳥はそう言って黒とオレンジの剣を召喚した。

 

『無銘剣虚無(むめいけんきょむ)』

【STR+60】【破壊不可】

【不死鳥無双斬り】【無限一突】

【バーニングレイン】【無ノ一閃】

 

セイバーがそれを手にすると虚無はセイバーを認めたのか、光り輝いた。

 

「これで11本目。残るはあと1本か」

 

『セイバー、短い間だったが、これでお別れだ』

 

『私も不死鳥さんとまた会えて良かった。これで安心して眠れます』

 

『また我を見かけたらいつでも声をかけてくれ。微力ながら手を貸すぞ』

 

「はい。また機会があったらまた会いましょう」

 

セイバーは不死鳥と女性に手を振ると転移の魔法陣に乗り、その場を後にした。元の世界に戻ったセイバーが『破滅の書』を再び見ると最後のページに幸せそうに人々と過ごす不死鳥の絵が追加されており、それを閉じると『破滅の書』は消滅した。

 

すると装備が絆龍の装備に戻り、またプリミティブドラゴンとエレメンタルドラゴンがセイバーの中に入り、ブレイブドラゴン、ルーンブライトドラゴン、ルーンディムドラゴンの3匹は【感情の架け橋】の中へと戻った。

 

「これで一安心だな……あれ、意識が遠く……」

 

セイバーは今になって再び体の負担が復活し、その場に眠るように倒れ込んだ。このままではモンスターに自身の無防備な姿を襲われて倒される……はずだったが、そのようなことは無かった。何故なら、サリーがセイバーに肩を貸していたからである。

 

「全く、セイバーってばまた無理したわね。ま、今回は許してあげるわ。セイバーのこんな所を見れたしね。……お疲れ、セイバー。ゆっくり休みなさい」

 

そう言ってサリーはセイバーの頬に優しくキスをして、そのままギルドホームにまで連れ帰るのであった。




136話時点のセイバーのステータス

セイバー 
*補正値は火炎剣烈火を装備し、【神獣合併】を使用時
Lv76
HP 275/275〈+70〉
MP 280/280〈+50〉
 
【STR 60〈+80〉】
【VIT 60〈+80〉】
【AGI 60〈+70〉】
【DEX 60〈+40〉】
【INT 60〈+60〉】

装備
頭 【情龍のヘッドアーマー】
体 【情龍の鎧】
右手【火炎剣烈火】
左手【情龍の盾】
足 【情龍の鎧】
靴 【情龍の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【感情の架け橋】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅹ】【気配斬りⅩ】【気配察知Ⅹ】【火魔法Ⅷ】【水魔法Ⅹ】【風魔法Ⅷ】【土魔法Ⅷ】【光魔法Ⅷ】【闇魔法Ⅷ】【筋力強化大】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化大】【状態異常Ⅹ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅹ】【死霊の泥】【深緑の加護】【繋いだ手】【冥界の縁】【ドラゴンラッシュ】【神獣招来】【大噴火】【猛吹雪】【火炎ノ舞】【デビルスラッシュ】【デビルインパクト】【ゲノミクス】【火炎ノ咆哮】【魔の頂点】【神獣合併】


*火炎剣烈火を装備時
【火炎砲】【爆炎放射】【爆炎激突】【爆炎紅蓮斬】【火炎十字斬】【紅蓮爆龍剣】【極炎】【フレアジェット】【消費MPカット(火)】【ラブキャノン】【プライドシールド】【火属性無効】【ブレイブスラッシュ】【情龍神撃破】【感情爆炎斬】

また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと作戦会議

不死鳥との戦いに勝利して新しく聖剣を手に入れたセイバー。彼はその翌日、ゲームにログインをしていなかった。理由としては現実世界でサリーに止められたからである。

 

「何でだよ。新しい聖剣ぐらい試しても良いだろーが」

 

「絶対にダメ。アンタ昨日のこと忘れたの?イベントのときにああやって体を壊して倒れられては迷惑なの。わかったらこれから暫くはゲームをするのを止めなさい」

 

このような感じでセイバーこと剣崎海斗はギルドのメンバーにも了承を貰い、休暇を挟むことになったのだ。『禁忌の主』のクエストをやっているメイプルの方は着々とクエストクリアに近づいており、今は指定されたアイテムを集める段階に来ていた。だが、それもギルドメンバーと協力して殆ど揃ったため、あとは未だに手に入ってないアイテムを集めるだけである。

 

「そうは言ってもよ、このままじゃ感覚が鈍る一方だぜ。メンバーに見られてない所でこっそりやろうかな……」

 

海斗は現実世界でそう悩んでいると家の玄関のチャイムが鳴った。今現在、家には自分しかいないため海斗は渋々だったが出ることにした。

 

「はーい」

 

海斗が玄関のドアを開けるとそこに立っていたのはサリーこと白峰理沙だった。

 

「海斗、遊びに来てあげたわよ」

 

「………」

 

海斗はそれを見て無言でドアを閉めた。

 

「ちょっと!開けなさいよ!!私が来たら閉めるってどう言うことよ!!」

 

怒ったような理沙の声に海斗はまたゆっくりとドアを開けることになった。

 

「あのー、理沙さん、今日は何の用で来たんですか?」

 

「アンタがこっそりとゲームをしないように見張りに来たのよ」

 

「ですよねー」

 

理沙は海斗の心を完全に見通しており、こうなることも予測済みだったようだ。因みに、ヒビキやキャロルには内緒である。理沙がこんなことをしていると知ればあの2人がどんな手を使ってでも止めに来るので当然といえば当然なのだが。

 

「取り敢えず上がってくれ。理沙とは色々と話がしたかったからな」

 

「……え?」

 

海斗は理沙を家に入れると自分の部屋に案内した。それから2人でゲームについての話を始めた。特に、今度のイベントについてである。

 

「今度のイベント、恐らくだがかなり厳しい戦いになるだろうな」

 

「……ギルド連合のこと?」

 

「そうそう。ほぼ確定なのが【thunder storm】、【ラピッドファイア】、【BOARD】によるギルド連合が結成されること。そしてもしかすると【炎帝ノ国】がここに入るかもしれない。これを俺達は【集う聖剣】と共にこれを止めなければならない」

 

海斗は次のイベントでの最大の障害となるであろうギルド連合についての話を進めていった。

 

「当然だがこの4つが組むことで完全に数では負けることになる。他のギルドとの連携も視野に入れたけど、それは恐らく難しい。そもそも、他のギルドにだって作戦や考え方がある。それを全て統率しろって方が無理な話だ」

 

「それは言えてるわね。だとすれば海斗ならどうやってこの4大ギルドを止める?」

 

「俺が考えてるのはとにかく最初は守る。絶対防衛ラインを決めてそこを抜かせない」

 

「なるほど。味方側で戦えば地形を利用した防御で有利に立てるということね」

 

「他のギルドはそれぞれで攻めたり守ったりするだろうけど、あの四大ギルドはしっかりと統率された動きで攻めてくる。勿論それ以外のギルドの事も忘れちゃいけない。最初は中央付近で互いの軍が入り乱れる乱戦になると見た」

 

「でも、私達が出張らないとなると、その乱戦では押し負けるんじゃないの?」

 

「多分な。俺達はとにかく守ることをコンセプトに動くから最初の乱戦は大敗する可能性が高い。向こうだってトッププレイヤーがその乱戦で暴れるだろうからな。だが、そのトッププレイヤーだって乱戦に参加すれば少なからず消耗する。HP、MP、持ってきたポーションとかをね。そこで俺達が万全な状態で迎え撃つ。少ない数で敵の大群を抑えるんだ」

 

「……簡単にそれができれば苦労しないけどね」

 

「まぁそうだよな。だから俺達の配置は前衛5人、奇襲2人、支援及び後衛3人だ」

 

「ちょっと待って奇襲?それってどういうことなの?」

 

唐突な海斗の話に理沙は首を傾げ、海斗はそれを見て続きを話していった。

 

「ここからは予測の範囲だから実際はどうなるかわからないけど、俺が考えた敵の配置はこうだ。まず【炎帝ノ国】。高確率で出張ってくるのがミィさん、パラド、シンさんの3人。回復役としてミザリーさん。ただし、ミザリーさんは回復の能力を城での守りを固めるのに使うかもしれないから出てくるかはわからない。で、マルクスさんが城の防御」

 

「あー、マルクスさんは何となくわかるわ。城に大量のトラップとか仕掛けてきそう」

 

「だろ?それで、前衛のミィさんとシンさんはとにかく暴れる。パラドが必要に応じてバフをかけてくるだろうし、ガンナーやインファイターとして戦うこともある」

 

「ん?ガンナー?パラドクスさんは銃なんて使わないんじゃないの?」

 

「それが使うんだよ。この前共闘した時なんてエグい火力してたから。それこそメイプルと変わらないくらいのね」

 

「えぇ……まぁ良いわ。次は【thunder storm】をよろしく」

 

「【thunder storm】は主力メンバーのベルベット、ヒナタ、キャロルは出てきそうだな。ヒナタの能力はベルベットと組むことで力を最大限に発揮するし、キャロルに関しても高火力をぶっぱしてくるタイプだから前に出るだろうな」

 

「そうね。私は特にベルベットとヒナタの能力とは相性が悪いからできれば正面から当たりたく無いわね」

 

「次は【ラピッドファイア】。【ラピッドファイア】の主力、リリィさん、ウィルバートさん、マリアさんは【thunder storm】とは逆に守りに徹してくると思う」

 

「どうしてそう思うの?」

 

「仮に今のままの布陣が実現されるのであれば、守りが薄すぎる。何せ、攻撃に人員を裂きまくってるからな。それに、リリィさんには大量の機械兵を召喚するスキルがある。これを使う事で城の守りを盤石にできるはずだ。そうなると多くの人員を攻撃に回しても城を守る鉄壁の守備が完成する」

 

「それを攻撃に使うことは無いの?」

 

「形勢が向こうに傾いたら追い討ちをかけるために出張ってくるかもな。まぁ、これはあくまで予想だ。もしかすると前線に機械兵を回して、残りのメンバーで城を守るってパターンもあるかもしれない」

 

「有り得そうね。確かあの機械兵は倒しても倒しても復活してくるから相手の戦力は減らないし、こっちは消耗し続けて不利になるかも」

 

「城の守りに入っても同じだな。で、ウィルバートさんはそうなるとリリィさんのサポートになる。けど、前線が不利になったりしたらリリィさんと役職を交代してあの超正確な弓での援護射撃をしてくるだろ。そうなったら可能な限り1発目を躱す必要が出てくる」

 

「ウィルバートの射撃は1発目がかなり強いしね。2発目以降は火力が落ちてたし、1発目を躱すことが重要だね」

 

「マリアさんは多人数を相手取る時の装備が防御よりの性能をしてるからどっちかといえば防御に回る可能性が高いかな。テイムモンスターの性能次第だけど」

 

「そういえば、ベルベット、ヒナタ、キャロル、リリィ、ウィルバート、マリアの6人はテイムモンスターがわかっていないわよね。対して私達のモンスターは性能も含めて全てわかっているからそこも不利な所ね」

 

理沙の話す通り、自分達のギルドは以前までのイベントの中で【炎帝ノ国】に見られており、彼らがギルド連合に入るのであればその情報は相手の連合に流されるだろう。

 

「あー、それなんだけど、俺に考えがあるから」

 

「……はい?」

 

「ただ、他のギルドメンバーにも話さないとダメなことだから後で話すことになるけど」

 

「じゃあ最後に【BOARD】はどう来ると思う?」

 

「【BOARD】に関してはとにかく情報が少ない。今わかっているのは全員がカードを噛ませてスキルを発動することと、ブレイドさんには強化された姿があること、そしてブレイドさんとカリスさんのテイムモンスターはかなり強力ってことだな。ここから彼等の動きを推測すると、まず前線にはブレイドさんとカリスさんが来そう」

 

「戦闘能力が高いから?それとも、テイムモンスターが戦闘向きだからってこと?」

 

「どっちもそうなんだけど、残りの2人のうち、ギャレンさんが射撃を得意としていて、レンゲルさんがモンスター召喚をメインの戦法にするなら守りに回す可能性が高い。特にレンゲルさんの召喚するモンスターって下手したらプレイヤーが従えてるテイムモンスター以上の能力がある。それを攻めに使うのもアリなんだけど、リリィさんと同じでそうすると守りが薄くなっちゃうから守りに使うのかなって考えてる」

 

「ふーん。……予想が外れて意表を突かれないと良いわね」

 

「大丈夫。対策はしっかり考えてるからさ」

 

「なら良いけど。それで、それと私達の別れ方が3つになるのとどう関係があるの?」

 

海斗は理沙に質問をされてると巨大な紙に書き出した九層の大まかな地図を取り出して赤い駒と青い駒を出した。どうやら、実際にシュミレーション形式で説明するようだ。

 

「まず、俺達【楓の木】が10人、【集う聖剣】の主力メンバーが5人とその他大勢の軍。俺の予想が合っていれば相手は攻め寄りの布陣で来る。そこで俺達10人のうち、メイプル、マイ、ユイの極振り組が前線に出て敵の猛攻を受け止める」

 

「それって、メイプルが負けたらマイとユイもやられるって事でしょ?流石に最初からそれはリスクが高すぎない?」

 

「そうなるな。そこで俺とヒビキが入ってメイプル達3人がやられないように極力敵を引きつける。これが前衛5人」

 

「それで、あと残り半分は?」

 

「カナデ、クロムさん、イズさんの3人には王城での防御。イズさんとカナデにトラップや魔法を使ってもらって空とかから城へと直接奇襲してくる連中をどうにかしてもらう」

 

「でも、クロムさんは戦えるかもしれないけど、イズさんとカナデは数で押されたら不利になるんじゃ……」

 

「そこでだ。サリーとカスミさんの機動力コンビが敵の城を奇襲。短時間で玉座に触れて勝ちを得る」

 

「2人だけで?ちょっと流石にキツすぎるわよ。それにそれだと城に辿り着くまでに敵に見つかって集中攻撃されるのがオチね」

 

「だろーな。そこでさっき言った俺の考えが光るわけだ。それにもし城への奇襲が無理そうなら奇襲先を変えれば良い。例えば俺達を襲っている敵の背後を突くとかな」

 

「アンタの意見はよーくわかったわ。じゃあ次は私の意見を言うわね」

 

それからも2人の議論は続いた。どの作戦なら相手の意表を突けるのか。自分達を勝利に導くことができるのか。試行錯誤を繰り返し、イベントでの作戦を詰めていった。

 

「ここはこうした方が良いわよ」

 

「えぇ、でもさこの人をこう動かした方が……」

 

2人が熱く話を続けていると突然理沙のスマホが鳴り出した。理沙がそれに出ると暫く電話の相手と話し、電話を切った。

 

「誰からだった?」

 

「お母さんからだった。なんか、今日はもう帰って来てって」

 

「もうそんな時間なのか?」

 

2人が時計を見るともう既に18時近くだった。これでは翌日が学校という事もあって親が心配するのも当然だろう。2人による作戦会議はどうやらここまでのようだ。

 

「それじゃあ私は帰るわね。あと、アンタと話した作戦についてはまたアンタがログインできるようになったら2人で皆に話すって感じでいい?」

 

「ああ。俺もそのつもりだ。それで、理沙。ちょっと帰る前にやりたいことがあるんだけど良い?」

 

「何よ。言っとくけど変なことは……」

 

次の瞬間、理沙の頬に柔らかい感触と共に何かが触れた。

 

「……ふぇ?」

 

理沙は海斗にいきなりキスされて戸惑いと共に顔を真っ赤にした。

 

「か、か、か、海斗?いきなり何するの!!」

 

「昨日のお返しだ。お前、よくもまぁ俺が動けない隙にやってくれたな」

 

「……もしかして気づいてたの?」

 

「意識が飛ぶ直前にやられたのはわかった」

 

「うぅ〜!!」

 

理沙は真っ赤にした顔を覆って恥ずかしがっていた。まさか、あの時自分がやったことがバレていたなんて思っていなかったからである。

 

「し、仕方ないでしょ?海斗があんなに無防備だったのが悪いんだからね!」

 

「だからってなんでキスするって考えに至るかな」

 

「減る物じゃ無いから良いでしょ!あと海斗、アンタはもう少し私達の気持ちに気づいてよ!!」

 

理沙は最後にそれだけ言うと怒ったように海斗の家を出ていった。理沙は海斗の家から出て自分の家に帰ると部屋に入り、猛烈に後悔していた。

 

「うぅ〜チャンスだったのに……なんで私は……」

 

そう、先程の状況。恋の敵であるヒビキやキャロルがいないあの時が理沙にとって大きなチャンスだった。しかも、好意を向けている海斗からキスを貰ったのだ。理沙にとってはご褒美以外の何物でも無かった。

 

そのような状況だったにも関わらず、彼女はそのことを逆ギレしてしまったのだ。これでは海斗にも悪い印象を植え付けてしまったと彼女は今更ながら後悔をした。

 

「……結局海斗は私のことなんて何とも思ってないのかな?ただの1人のプレイヤーとしてしか見てないのかな?」

 

彼女はその日の夜、海斗に対してしてしまったことに対する後悔と、彼が自分の事をどう思っているのか。その事で頭がいっぱいだった。そして、理沙にああ言われた海斗はと言うと……

 

 

「……本当なら俺がちゃんとケジメをつければ理沙もエルフナインもヒビキもここまで喧嘩しないで済むのに……いつまでも俺が目を背けているから……すまない」

 

彼も彼で3人との関係について悩みを持っているのであった。

 

そして、それぞれの思惑が交錯する中、着々と近づくイベントの日。メイプルは何とかイベントまでに『禁忌の主』との戦いに勝利し、新たなスキルを獲得した。そして、海斗ことセイバーもイベントの数日前までに復活し、新しく得た無銘剣虚無を含む11本の聖剣を使いこなす訓練を重ね、ギルドメンバーや【集う聖剣】とイベントでの作戦について詰めていった。

 

そして、セイバーが想定していた四大ギルドによるギルド連合。その中心となる【BOARD】のギルドホームにて4人のギルドマスター及び、主要メンバーが集結していた。

 

「今回は我々【BOARD】と連合を組んでいただき有り難く思う」

 

「まさかギルドマスターが直々に頭を下げて来るとは思わなかったが、面白いことになりそうだな」

 

そう話すのは【BOARD】のマスター、ブレイドと【炎帝ノ国】のマスター、ミィ。

 

「私達としてもメイプル達のギルドとは戦うつもりだったし、強力な助っ人が入ってくれて嬉しいっすよ」

 

「この4つのギルドが手を組めばより勝ちに近づけると思ったからな。連合というのも面白そうだったし」

 

続けて【thunder storm】のマスター、ベルベットと【ラピッドファイア】のマスター、リリィが付け加える。

 

「それでは早速、作戦について伝達する。もし修正を加える必要があれば各自言ってくれ。出来る限り対応する」

 

こうして、4つのギルドはイベントで勝ちを得るためにそれぞれのギルドの役割などについて話し合うのであった。

 

そして、とうとうイベントの日はやってきた。メイプル率いる【楓の木】とペイン率いる【集う聖剣】は水と氷の国を選択しており、【楓の木】では少し早めに集まって最後の確認を行っているところである。

 

「この辺りは警戒しておいて……あとこっち。ここは厄介なモンスターがでるから……」

 

「多分ここは集中攻撃を受けやすいです。だからそれを利用して……」

 

セイバーやサリーを中心に立ち回りを再確認する。どのギルドが敵対しているか運営から開示されてはいないため、全てを把握することはできていない。ただ、既に陣営が決定しているこの日、町の中で見かけなかったプレイヤーは敵になっているだろう。

 

「【thunder storm】を含む4つの大規模ギルドは宣言通り敵になってると思う。特にマイとユイ、あとカナデは気をつけて」

 

ベースのレベルも低く防御力もないため無差別攻撃の雷一発でも持っていかれかねない。

そうして注意すべきプレイヤーの確認も済ませ、いよいよイベント開始まで秒読みとなる。

 

「皆!頑張ろうね!」

 

「おう!防御の手が足りないところは任せとけ!」

 

「「はいっ!精一杯頑張ります!」」

 

「もちろんだ。油断なくいこう」

 

「今回は魔導書も大盤振る舞いしようかな」

 

「補給は任せて。危なくなったら下がってね」

 

「聞きたい情報があったら聞いて、答えるよ」

 

「私も今回は大暴れしますよ。セイバーお兄ちゃん、一緒に暴れようね」

 

「ああ。あと、作戦については皆さん大丈夫ですね?」

 

セイバーの問いに全員が頷く。

 

それからメイプルの呼びかけに全員が合わせて、いよいよ転移の光が全員を包んでいく。戦場はここと全く同じ別空間だ。

 

「よーし!勝っちゃおう、セイバー、サリー!」

 

「……今回は勝つ。そう決めた」

 

「今回は最初からクライマックスだ。誰が来ても叩き潰す」

 

セイバーとサリーも集中しているようで、メイプルもそれにならって気を引き締める。

その直後10人は大規模な対人戦の舞台。ここまでで強くなったスキルをぶつけ合う戦場である、イベントフィールドへと転移するのだった。




お知らせです。今回の話で原作の範囲に追いついてしまう事になりました。今までは基本的に原作準拠で、時折オリジナル要素を入れる形で話を進めてきました。しかし、原作に追いついたので次回からは完全なオリジナル展開で進めていこうと思います。それではまた次回もお楽しみに。


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聖剣使いと開幕

第10回イベント。2つの陣営に分かれての大規模戦争。プレイヤー達はバトルフィールドへと転移すると気の早いプレイヤーは早速前線へと向かっていった。【thunder storm】、【ラピッドファイア】、【炎帝ノ国】、【BOARD】の四大ギルドも自分達の陣営を勝たせるために行動を開始。そして、【楓の木】と【集う聖剣】の面々もそれぞれ事前に話し合った通りに1つ目の作戦を決行した。

 

「それじゃあメイプル、早速行こうか」

 

「任せて!!」

 

「マイちゃんとユイちゃんもメイプルさんにしっかりと捕まってね」

 

「「はい!!」」

 

「もし危険ならちゃんと戻ってくるのよ。補給はいつでもできるようにしてるからね」

 

「セイバー、あの4人を頼むわよ」

 

「わかってる。もし俺達がやられるようなことがあったら指揮を任せるぞ」

 

「……セイバーが早々にやられるなんてことは万に一つもあり得ないから絶対にそんな事にはならないわね」

 

「そうか」

 

セイバー、ヒビキ、マイ、ユイの4人はメイプルにしがみつくとメイプルは【機械神】で兵器を展開。いつものように兵器を爆発させて一気に城から前線にまで移動した。

 

そして、城に残った面々の内、クロム、イズ、カナデがそのまま守備となり、サリーとカスミ、そして【集う聖剣】からドレッドが出て奇襲のための移動を開始していく。

 

更に【集う聖剣】の主力メンバーであるペイン、キラーもレイに乗って前線へと飛んでいき、ドラグとフレデリカも持ち場へと移動していく。

 

 

〜最前線〜

 

戦いの最前線ではまず2人のメンバーが大暴れしていた。

 

「【爆炎】!【炎帝】!」

 

「【嵐の中心】【稲妻の雨】!」

 

【炎帝ノ国】のマスター、ミィと【thunder storm】のマスター、ベルベットである。2人は炎と雷による範囲攻撃で敵プレイヤーを寄せ付ける事なく圧倒。次々と迫り来るプレイヤーをキルしていた。

 

「この辺のプレイヤーはまだあまり強く無いな」

 

「このまま一気に攻め込むっすよ」

 

2人は他のギルドメンバーからのサポートもあって気持ち良く蹂躙している。このままでは水と氷側の前線の崩壊は近いかに見えた。だがしかし、そう都合良く事は運ばない。暫く2人が進軍していると今までダメージを受けていたプレイヤー達が全くのノーダメージになっていた。

 

「これは恐らく……」

 

「メイプルっすね。【身捧ぐ慈愛】による範囲防御!」

 

早速メイプルがいることによる恩恵。広範囲の防御フィールドによる範囲防御によってミィとベルベットは思うようにキルができなくなった。そして、あれだけ暴れていれば居場所を教えているようなものである。主力の3人が到着するのもまた早かった。

 

「「【飛撃】!!」」

 

ミィとベルベットの正面から2つの衝撃波が飛んでくる。2人はこれを躱すが、それによって背後に控えていたプレイヤーが1人ずつ一撃で消し飛ばされた。

 

「来たっすね。あの超高火力の2人が」

 

「アレをまともに受けるのは厳しい。ノックバックのスキルで対応するぞ」

 

「そうっすね、それで……」

 

次の瞬間、ベルベットとミィの前に現れたのは双子のマイとユイでは無かった。2人の前に出現したのは炎の竜巻。これが出来るプレイヤーはミィ以外ではもう1人しか有り得ない。

 

「2人共、そう易々と無双させねーよ」

 

「早速来たな。第4回イベントのリベンジと行こう」

 

「私も戦ってみたかった所っすよ。セイバー!」

 

ベルベットとミィの前に立ち塞がったのはセイバーだった。セイバーは挨拶の代わりにスキルをぶっ放していく。

 

「【爆炎紅蓮斬】、【森羅万象斬】!!」

 

2人はこの高火力の攻撃を回避するも、再び後ろにいるプレイヤー達が何もできずに数人葬られていく。

 

「お前達は別ルートから攻めろ!ここは私達が倒す!」

 

「セイバーを倒せたらまた連絡するっす。セイバーの相手は私達に任せて他の所に向かうっす」

 

その言葉と共に【炎帝ノ国】と【thunder storm】の軍勢は別ルートからの迂回を開始する。

 

「良いのかな?アイツらに別行動をさせて」

 

「ここで足止めされるよりはマシっすよ」

 

「そうか。なら、俺も全力で相手させてもらおう。【分身】!」

 

「月闇抜刀!」

 

セイバーは2人に増えると月闇を抜いて2対2の構図となる。それから両軍の先鋒は激突を開始した。

 

「【毒竜】!!」

 

「「【ダブルストライク】!!」」

 

別の場所ではメイプル、マイ、ユイの極振り3人組がセイバーの近くから離れ、プレイヤーが集まりやすい広い場所へと出ると迫り来るプレイヤーやモンスターを次々に返り討ちにしていた。

 

「一気に倒すよ!【機械神】!【全武装展開】【攻撃開始】!」

 

今度はメイプルが展開した武装から大量のレーザーが放たれる。そしてそれは一撃で相手を倒すまでは至らないものの、それでも敵の注意を引くことには成功しており、そこにマイとユイによる一撃必殺の8連ハンマーが当たったプレイヤーを片っ端から木っ端微塵にしていた。

 

「ドンドン行きます!」

 

「私達で敵プレイヤーを討伐するのが作戦ですし!」

 

メイプル、マイ、ユイの3人の役目はとにかく序盤から周囲の気を引きまくることである。3人へと敵プレイヤーに集中攻撃させることによって他の局面を楽にさせるという狙いがあった。当然、この狙いは勘のいいプレイヤー達にはバレていた。しかし、どちらにしろメイプルを突破できなければいつまでも彼女に防御され続けるのでメイプルの攻略は守りを崩すための条件の1つだった。

 

それ故に他のプレイヤー達はメイプルを狙い続けることになる。

 

「このまま敵を引きつけられるだけ引きつけるよ。【捕食者】、【滲み出る混沌】、【百鬼夜行】!」

 

メイプルは鬼や化け物達を次々に呼び出すと周囲にいるプレイヤーを攻撃させていく。それに合わせてマイとユイも他プレイヤーを大槌で倒し続ける。

 

無双を続けていた3人だったが、強いプレイヤーの元には人が引き寄せられる訳で、ここにも新たなプレイヤーが現れた。

 

「まさか、俺の相手がメイプルとはついてないな」

 

「いやいや、俺じゃなくて俺達のな。あと、メイプルとやれるなんて心が躍るぜ」

 

出てきたのはパズルを弄るプレイヤー、パラドクスとハートモチーフのプレイヤー、カリスだった。

 

「早速来ましたね」

 

「メイプルさん、どうしますか?」

 

「どうしよ……セイバーからは出来るだけ引きつけてって言われてるし、強い人は早めに倒してとも言われたから、倒そっか」

 

「わかりました!」

 

「どうやらやる気マンマンみたいだな」

 

「パラドクス、ここはお前に任せて良いか?」

 

「なるほど、要するに俺に足止めをしてくれと?」

 

「そうなるな」

 

「しょうがないな。貧乏くじを引いてやるよ」

 

パラドクスはダイヤルを回転させると格闘家の絵が書いてある方にチェンジし、赤い姿になった。

 

「さてと、心が滾るぜ!」

 

「俺はここを離脱させてもらう。【フロート】!」

 

カリスは風を纏うと浮かび上がり、そのまま空中を飛行して飛び去っていった。

 

「取り敢えず、ここは俺が暴れさせてもらうぜ!エム、【覚醒】!【ソニックブースト】【エネルギー転換】!うらあっ!」

 

パラドクスは先制攻撃とばかりにマイとユイを殴りつける。当然ダメージは受けないのだが、それでもマイとユイの機動力と反射神経をスキルを使って圧倒的に上回っているために返しの大槌は全く当たらない。そうこうしているうちにパラドクスの次の攻撃が決まっていく。

 

「メイプルさん、当たりません!!」

 

「これ、どうしたら……」

 

「うう……マイとユイの振り回す8本ずつの大槌が当たらない相手がいるなんて……」

 

「とは言ってもこっちもそう長くは保たないしな。そろそろ切り替えさせてもらうぜ」

 

パラドクスは以前にセイバーに見せた戦艦の武装に変化すると今度は遠くからの砲撃で3人を撃ち続ける。

 

「さぁさぁどうする?お前らのテイムモンスターだとこの距離にまで離れればどうしようも無いだろ」

 

パラドクスの言う通り、3人のテイムモンスターでは対処が難しかった。メイプルのモンスター、シロップでは機動力が足りず、パラドクスの元にまで近づくことができない。一応遠距離からの攻撃が無いわけではないが、パラドクスが遠くまで離れれば射程が足りなくて一方的に撃たれてしまうだろう。マイとユイのモンスターでは機動力があっても耐久力がいまいち足りないため、たどり着く前にやられるのがせいぜいである。

 

「こうなったら、【古代兵器】!」

 

メイプルは仕方なく切り札の1つである『ロストレガシー』に備えられた【古代兵器】を解放。腕からガトリングを出すとパラドクスに向けて撃ちまくった。

 

「何!?」

 

パラドクスはまさかいきなり連射式の攻撃が来るとは思っておらず、これをまともに受けてしまってHPを減らされることになった。

 

「コイツは、凄ごいな。まさかそんな切り札があるなんてよ。今回はここまでかな。エム、【蜃気楼】」

 

するとパラドクスの姿がサリー同様に薄く溶けていき、パラドクスが撤退していったことが3人にはわかった。

 

「あれは、サリーと同じスキルかな?」

 

「そうですね」

 

「メイプルさん、この後どうしますか?」

 

「うーん、パラドクスさんと戦ってたから他のプレイヤーもいなくなっちゃったし……移動しようか」

 

「そうですね」

 

「わかりました!」

 

それから3人は新たな敵プレイヤーを探して周辺を探し回り始めることになった。

 

 

カリス視点

 

パラドクスを上手く隠れ蓑にして敵の陣営の奥深くに侵攻したカリス。彼はどうしているかと言うと、狭い渓谷でキラーと出会っていた。

 

「どうやら、早速リベンジの機会が巡ってきたようだな」

 

「あそこを抜け出してから最初に会ったプレイヤーがお前とはな」

 

「能書きは良い。さっさと始めるぞ」

 

「今度も俺がお前を叩き潰す。【ドリル】!」

 

カリスはカードを使ってキック力を高めるとキラーへと突っ込んでいき、キラーも魔剣、ダインスレイヴで応戦する。

 

「……お前、前よりも強くなったな」

 

「当たり前だ。そう何度も簡単にやられてたまるかよ」

 

「ならこれはどうだ?【トルネード】、【チョップ】!」

 

カリスはカードを読み込ませると竜巻を右腕に纏わせた。

 

「【スピニングウェーブ】!」

 

「そっちがそれなら!【魔の一撃】!」

 

キラーもそれに対応するように腕に魔の力を集約させて2人は拳をぶつけ合う。このぶつかり合いは互角に終わり、2人共吹き飛ばされる結果となった。

 

「中々やるな」

 

「お前もな。相変わらずの強さだ。だが、パワーアップした俺の力はこんなものじゃないぞ」

 

それから2人は戦いを続けるのであった。

 

ドラグ、フレデリカ視点

 

「【多重炎弾】、【多重石弾】ノーツ、【輪唱】!」

 

「【バーンアックス】!アース、【大自然】だ!」

 

こちらの2人は敵プレイヤーのAGIが落ちる地形での待ち伏せ攻撃を担当していた。元々、2人のAGIはそう高くないため、広い場所で堂々と攻撃するよりも相手のAGIが下がって躱しにくくなった所に追い討ちをかけた方がダメージを稼ぎやすいと考えたからだ。この作戦は上手く行き、2人も順調に敵をキルしていった。

 

「敵の動きが遅くなるおかげで俺達でも楽に倒しに行けるぜ」

 

「私もドラグの防御に回すMPが少しで済むならそれに越したことは無いわね」

 

「なら、もっとガンガン行ってくれても良いんだけどな」

 

「ダメダメ。あんまりやりすぎると後でバテちゃうわよ」

 

「セイバーなんてミィやベルベットとバチバチにやり合ってんだろ。別に俺達が行っても問題無いだろ」

 

「なら、お望み通り僕が相手しましょう」

 

2人の元に声が聞こえるとAGIが遅くなっているおかげか、ゆっくりと歩く影が見えた。

 

「その声は、レンゲルか」

 

「意外ね。セイバーの予想だと守りに行くと思ってたけど」

 

「お生憎様で僕は攻め担当です。取り敢えず、フレデリカさんにはコイツらの相手をしてもらいましょうか」

 

レンゲルは2枚のカードを出すとフレデリカの元に投げた。すかさずもう1枚カードを出すとそれを読み込ませた。

 

「【リモート】!」

 

するとリモートのカードから光が飛び出して投げられたカードに当たると中から蜂とクラゲのモンスターが出現した。

 

「うぇっ!?これがセイバーの言ってたモンスターの召喚能力?てか、キモいキモい!」

 

「ごちゃごちゃ言ってないで頼むぞ!俺はコイツを倒す!」

 

「しょうがないな……。わかったわよ」

 

フレデリカは渋々2体のモンスターと戦いを始め、ドラグはレンゲルと戦闘を開始した。

 

「おらおら!【地割り】!」

 

ドラグは地面に亀裂を発生させるとレンゲルの動きを止めて、火力を叩き込もうと目論んだ。勿論レンゲルもタダではやられるつもりはない。スキルにはスキルで対抗する。

 

「【ラッシュ】【ブリザード】!」

 

「【重突進】!」

 

「【ブリザードラッシュ】!」

 

レンゲルはドラグの突進に合わせて杖による氷属性の連続突きを放つ。その技はドラグの突進を一時的に抑え、彼にダメージを与えるも、最終的には押し負けて吹き飛ばされることになった。

 

「ぐう……」

 

「アース、【大地の鎖】!」

 

今度は地面から土の鎖が出てくるとレンゲルを確実に抑え込む。動きを止めている間に圧倒的なパワーで押し切るつもりだ。

 

「これでも喰らえ!【グランドランス】!アース、【大地の鉄槌】!」

 

ドラグの周りに岩の6本の槍が出現してその1つがレンゲルを貫き、さらには彼のモンスターであるアースが地面から巨大な岩の腕を呼び出すとその腕による鉄槌がレンゲルを上から押しつぶした。

 

「まずは1人か……?」

 

ドラグが攻撃をまともに受けたレンゲルの方を見ているとレンゲルはダメージを負いながらも平気そうに立っていた。

 

「お、流石にこれじゃあやられねーよな」

 

「勿論です。しかし、今のは結構効きましたよ。【地割り】の異名は伊達ではありませんね。その力に私も応えて差し上げましょう。まずは、シマ、【覚醒】!」

 

レンゲルがそう言うと指輪から光が溢れていき、中からカリスのモンスターであるジョーカーと同じくらいの大きさのタランチュラ型モンスターが現れた。

 

「そいつがお前のモンスターって訳か」

 

「はい。シマ、あのモンスターに向かって【粘着糸】です!」

 

レンゲルの指示に従い、シマは粘着性のある糸を発射。そしてそれはアースの足元に当たるとアースの動きを封じてしまった。

 

「しまった!アース、それを振り解け!」

 

アースはその糸を引きちぎろうとするが、糸はかなり頑丈であり、全くちぎれそうになかった。更に、アースが動けば動くほどに糸は強く絡んでいき、アースは先程以上に動きが制限される結果となった。

 

「くっ……」

 

「私も少し本気を出しましょう。【アブゾーブ】!」

 

レンゲルがブレイド同様に左腕に付けた黒い機械にカードを入れてからもう1枚カードをスキャンする。

 

「【フュージョン】!」

 

するとレンゲルに金の象のエフェクトが重なり、両肩には象の顔のようなアーマーが装着。両腕や胸には筋肉質な装甲を纏っていく。左腕には鎖付きの鉄球が新しく装備され、杖の先端には鋭利な刃が付与された。それはまるでレンゲルが象の耐久性やパワーを手にしたようだった。

 

「これが僕のジャックフォーム。どうかな?ドラグさん」

 

「面白そうな姿だな。この俺にパワー勝負を挑むとは」

 

「早速やらせてもらいますよ」

 

「出来るものならな」

 

それからジャックフォームとなったレンゲルとドラグとの激戦が開始されることになり、その一方でレンゲルが呼び出したモンスター相手にフレデリカも善戦していた。

 

「もう!なんで私がこんな奴らと……」

 

蜂のモンスターが空中からフレデリカを倒そうと何度も飛び掛かり、地上ではクラゲのモンスターが触れた瞬間に電気が流れる触手を使いながらフレデリカを拘束しようと伸ばしてきていた。

 

「【多重光弾】!」

 

2体のモンスターがフレデリカへと接近戦を仕掛ける中、フレデリカは対照的に距離をとりながら戦いを進めていた。というのも、フレデリカが得意なのは魔法を使った遠距離戦のため、一度モンスターに捕まってしまえばあっという間に倒されてしまうのは明らかだった。

 

「こいつらしつこいしー、サリーとやり合ってたお陰で何とか回避できてるけど……耐久力もあるから中々倒せない!!」

 

蜂のモンスターは手にした槍で何度もフレデリカを突き刺そうとするが、その度にフレデリカが障壁で防御していく。フレデリカは先にクラゲの方を処理しようとまた光弾を放っていくが、クラゲは液状化するとそれを透かしてしまった。

 

 

「嘘!?私の攻撃を簡単に……」

 

次の瞬間、フレデリカは触手に拘束されると電流を流された。そしてその電流はフレデリカをじわじわと追い詰めていく。

 

「くうう……離し……なさいよ!!」

 

フレデリカは何とか離れようともがくが、クラゲの触手による拘束はかなりキツく締め付けと電撃によるダメージのせいでフレデリカが抜け出すことができなかった。

 

「あ……ぁ……」

 

フレデリカは電撃の受け過ぎで少しずつ体が麻痺していった。これでは気絶するのは時間の問題である。そこに蜂のモンスターからの毒針が迫り、フレデリカにトドメを刺そうと迫ってきた。

 

「こんな簡単に……私が……」

 

すると突然一陣の風が吹き荒ぶとフレデリカを捉えていた触手が全て切り裂かれてクラゲのモンスターがフレデリカから引き離された。

 

「………え?」

 

いきなりの事に驚くフレデリカ。そしてフレデリカが驚いている間にその風を起こした者はフレデリカの前に移動していた。

 

「大丈夫ですか?フレデリカさん」

 

「……別に助けを求めた覚えは無いんだけどー」

 

「良いじゃないですか。強力なスキルを使う前に脱出できたんで結果オーライですよ」

 

「はいはい。それじゃあ、偶には2人で倒しちゃう?」

 

「良いですね。早速行きましょうか」

 

フレデリカを助け、クラゲのモンスターを引き離したプレイヤー、それは今現在、ミィやベルベットと戦っているはずのセイバーだった。ただし、彼が装備しているのは翠風だったが。

 

「セイバー、また前使った分身をやってるの?途中でバテたりしないわよね?」

 

「大丈夫です。まだ平気なんで」

 

セイバーはサムズアップしてフレデリカにそう言うが、まだ初日が始まっていくらも経過してない。そのためにここで多く消耗するのは避けたかった。

 

「行きます。【影分身】!」

 

「ノーツ、セイバーに【輪唱】!」

 

その瞬間、ノーツの増幅効果も相まってセイバーの数が爆発的に増加。そして、増えた手数を使って敵を一気に削りに行く。

 

「【超速連撃】!」

 

「私も働くよー。【多重石弾】、【多重炎弾】!」

 

フレデリカから放たれる大量の石弾や炎弾がクラゲや蜂のモンスターの動きを阻害したり、ダメージを与えていく。そうして動きが鈍った所にセイバーからの連続斬撃がヒットしていく。

 

「これでトドメ!【手裏剣刃】!」

 

最後にセイバーが生成したエネルギー状の手裏剣が2体のモンスターを切り裂き、とうとうその姿をカードへと戻させた。

 

「よっしゃ!」

 

「セイバーのお陰で早く終わったわね」

 

「取り敢えずそろそろ俺は失礼します」

 

「ええー、このままドラグと戦ってるレンゲルを倒してくれない?」

 

「悪いですけど、体力の管理もしないといけないので」

 

「仕方ないわね」

 

セイバーはフレデリカにそう言うと分身を解除してその姿を消した。フレデリカがそれを見送ると落ちていたカードを拾い、レンゲルと戦闘中のドラグの元へと行こうとした。しかし、彼女がそちらへと行くまでもなく彼等の方からやってきた。

 

「【ブリザードクラッシュ】!」

 

レンゲルは空中へと跳ぶとそのまま両足で挟み込むようにドラグへとキックを放ち、ドラグはそれをまともに受けると吹き飛ばされた。

 

「ぐうっ!?」

 

「ドラグ!!大丈夫?」

 

「ああ。だがアイツ、強い!俺のモンスター、アースもさっきやられちまった」

 

「えぇ!?」

 

「僕をみくびってもらっては困りますよ。それに、フレデリカさん、あなたの持つ僕のカードを返してもらいます」

 

「嫌よ。これを持っていればアンタはスキルを使えない。このまま残りのカードも奪うわ」

 

「そうはさせるか。シマ【腐食の毒】、【ポイズンシュート】!」

 

「くうっ!【多重障壁】!」

 

しかし、フレデリカが展開した障壁は毒の玉が当たった瞬間にいきなり溶け始めた。

 

「うぇっ!?マジ?」

 

「うぉらぁああ!!【マキシマムパワー】!【バーンアックス】!」

 

ドラグはフレデリカが時間を稼いでいる間にVITを下げる代わりにSTRをアップさせての強烈な一撃を放った。これに当たればいくら装甲が強化されたレンゲルでもタダでは済まないだろう。しかし、これは当たればの話である。レンゲルは既に対策を取っていた。

 

「【スモッグ】!」

 

その瞬間、周囲に煙が発生し、ドラグは大斧を振り抜くも攻撃は空を切ってしまう。そしてその間にレンゲルは移動すると、左手に装備した鎖付きの鉄球を振り回しながらドラグとフレデリカへとぶつけた。

 

「ぐあっ!」

 

「きゃっ!」

 

フレデリカはその拍子にカードを落としてしまい、レンゲルにカードを回収されてしまうことになった。

 

「くうう……やっぱり強い……」

 

「この絶望感、第4回イベントでセイバーと戦った時以来だ」

 

2人は耐えたものの、かなりのダメージを受けてしまっていた。ドラグはVITを下げたこともあって、よりダメージを負うことになっていた。

 

「こうなったら、フレデリカ。お前だけでも逃げろ」

 

「でもそれじゃあドラグが……」

 

「ここで俺が出来るだけアイツを足止めしてやる」

 

フレデリカは少し葛藤するも、それに頷いてその場から撤退していく事になった。

 

「おや、1人取り逃がしましたか」

 

「ふん。お前なんて俺1人で十分だってことだ」

 

「強がりは良いですよ。あなたでは僕には勝てない」

 

レンゲルはそう言うとドラグにトドメを刺すためのスキルを発動する。

 

「【ラッシュ】、【ブリザード】、【ポイズン】!【ブリザードヴェノム】!」

 

「【オーバードライブ】!」

 

3枚のカードをスキャンしてその力が体に集約されると跳び上がり、杖の先端に付いた刃でドラグへと攻撃を繰り出す。それを見たドラグは【オーバードライブ】を使うことで体から紫のオーラを立ち上らせると効果時間切れの際にステータスを下げる代わりに、今現在、一定時間ステータスを向上させた。

 

「そう簡単に……やられるかよ!!【グランドストラッシュ】!!」

 

ドラグは大斧に体のオーラを全て集約。ドラグのフルパワーの一撃をレンゲルへと放った。

 

「うぉりゃああああ!」

 

「ふん。無駄だ。【ゲル】!」

 

ドラグの大斧がレンゲルを両断する瞬間、レンゲルの体が液状化。ドラグの攻撃を完全に透かしてしまった。そして、ドラグの攻撃が終わった直後、レンゲルの攻撃がドラグへと決まった。

 

「ぐあああああ!!」

 

これまでレンゲルから受けたダメージとステータスダウンの影響でドラグはHPを0にされて敗北を喫する事になった。

 

「これで1人減りましたね」

 

レンゲルはそう言うが、彼のダメージもかなりのものであり、一旦拠点へと撤退していくことになるのであった。

 

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イベント1日目現在の戦況

 

ミィ、ベルベット対セイバー(本体)、セイバー(分身)×1

 

カリス対キラー

 

メイプル、マイ、ユイ(移動中)

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

メイプル       ブレイド

セイバー       ギャレン

サリー        カリス

ヒビキ        レンゲル

カスミ        ミィ

クロム        パラドクス

イズ         シン

カナデ        マルクス

マイ         ミザリー

ユイ         ベルベット

ペイン        ヒナタ

ドレッド       キャロル

フレデリカ      リリィ

キラー        ウィルバート

ドラグ 脱落     マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと奇策

レンゲルのジャックフォームの使用にドラグの敗北。それは【集う聖剣】の諜報員によってすぐに【楓の木】や【集う聖剣】の面々に共有された。トッププレイヤーの敗北による動揺は両ギルドメンバーに衝撃を与えたが、冷静に戦いを続けるプレイヤーもいた。

 

「やっぱレンゲルさんも持ってましたか。強化フォームを……」

 

「私達を相手にして他の事を考えている余裕があるとは流石っすね」

 

「私達を舐めているのか、それともそれだけ余裕があるのか……」

 

セイバーはミィとベルベットをそれぞれ【分身】で相手にしながら思考を巡らせていた。

 

「この状況、尚更この2人を倒す必要が出てきたな。【火炎砲】!」

 

「イグニス、【聖なる炎】、【爆炎】!」

 

「【重双撃】!」

 

「【闇の障壁】!」

 

セイバーの火炎弾をミィは同じ火炎弾で相殺し、ベルベットの拳はセイバーの闇の障壁がガードしていく。一進一退、互角の攻防戦が進んでいた。

 

「そういえば、セイバー。ブレイブって龍は出さないんすか?」

 

「ああ、お前らの相手はブレイブ無しでも十分って事さ」

 

「舐めてもらっては困るな。そろそろ調子を上げさせてもらうぞ。イグニス、【不死鳥の炎】【我が身を火に】!【インフェルノ】!」

 

次の瞬間、ミィを中心に空間全てを焼き払っていく。そしてその威力は以前までの比では無い。このままではセイバーは分身ごと葬られてしまう。しかし、セイバーもそう簡単にやられるつもりは無かった。

 

「【エレメンタル化】!」

 

「【精霊の光】!」

 

分身した2人はそれぞれ対処するためのスキルを使って攻撃を何とか掻い潜った。それを見たベルベットはすかさず自分のスキルを発動していく。

 

「【落雷の原野】【稲妻の雨】!」

 

セイバーは続けて飛んでくるベルベットのスキルを躱しきれずにまともに受けてしまう事になった。分身の内、月闇の方はダメージの受け過ぎで消滅し、本体の方も気を抜けば一気にやられそうだった。

 

「くうう……中々効くな。けど、それでは終わらねーよ。黄雷【大抜刀】!」

 

セイバーは本体で黄雷を構えると敢えてベルベットからの雷を受け続ける。そうしている内にセイバーの持つ黄雷に聖剣に雷の力が吸収されていき、電気が帯電していった。

 

「まさか、私の電気を吸収してるっすか!?」

 

「このままだと不味いな。イグニス、【ファイヤーバード】!【炎帝】!!」

 

そこにセイバーへとイグニスを突撃させて自分は遠距離からの火炎弾を放つ。しかし、もうセイバーの行動は止められない。セイバーは極限まで高められた電気を一気に放出させる。

 

「【稲妻放電波】!!」

 

黄雷から大出力の電撃が周囲へと放たれていき、それはイグニスへと大ダメージを与えつつミィの【炎帝】を掻き消し、一撃で2人のHPを半分近く減らした。

 

「これは、やられたっすね」

 

「くっ……まさか2人がかりでもここまで苦戦するとは……」

 

「あーらら、これでもまだ倒れないか。ま、牽制としては十分かな。あとは……」

 

セイバーが考えているといきなり通知音が鳴り、そこには城が奇襲を受けたという知らせが入った。

 

「おいおいマジで?一体誰が……」

 

「どうやら、ギャレン達がやってくれたみたいだな」

 

「私達はこのまま足止めするっすよ」

 

セイバーが戦っている間に城で何が起きているのか。それは数分前にまで遡ると、【BOARD】のメンバーの1人、ギャレンと【ラピッドファイア】のメンバー、マリアの2人が率いる別働隊がドラグとフレデリカが退いた場所からゆっくりと進撃を進めており、その場所から密かに守備のプレイヤーをキルしながら城を囲む堀や城壁、城門の近くにまで到達してしまったのだ。

 

「これはやられたなぁ………けど、守備の面子もそう簡単にはやられるような奴じゃない。俺はこの2人を倒すとしよう」

 

「……随分と余裕っすね」

 

「てっきり引くと思っていたが、これは厄介かもな」

 

セイバーはニヤリと笑うと2人へと再度向かっていき、2人もそれを見て気を引き締めるのだった。

 

その頃【楓の木】の城では、その近くにまで侵入してきたギャレンとマリアの軍をイズとクロム、そして守備隊のプレイヤーや兵士が対処していた。

 

「これでもどうぞ!」

 

「【ロック】!」

 

イズはお手製の大砲を並べてギャレンへと撃ちまくり、ギャレンも岩の障壁を作り出しながら拳銃で対抗していた。しかし、イズの大砲はギャレンの岩を確実に砕いていくものの、ギャレンから放たれる銃弾はクロムがしっかりと盾でガードしており全く効いていなかった。更に、マリアも近づこうとするが、大砲の砲弾が城壁の上から降り注いでいる事やマリアが黒い装備をしている事もあって中々近づけなかった。

 

「く……これでは近づけないわ……」

 

「完全に上を取られてる。流石にこれでは分が悪い」

 

「こうなったら、私があのスキルを使って……」

 

「待て、あのスキルには制限時間と使用回数があるだろ。そう簡単に切るのは得策じゃない」

 

「ならどうするの?」

 

「俺に考えがある」

 

一方で防衛をしているイズとクロムの方も油断はしておらず、むしろ気を引き締めながら押し寄せる軍勢と戦っていた。

 

「取り敢えず押し返したけど、長く戦うのは良くないかも」

 

「かと言ってこれ以上は引けないしな。しかも、ここで俺達がやられたらもう後はカナデと他の守備隊しか残っていない。何としてでも持ち堪えるぞ」

 

2人がそう話していると下の方から光が溢れ出した。そしてそれはギャレンとマリアの内、どちらかが何かしらのスキルを使ったということだ。

 

「【アブゾーブ】、【フュージョン】!」

 

次の瞬間、ギャレンが空へと飛び上がり、空中から拳銃を撃ちまくる。その影響でイズが設置した大砲が破壊されていってしまった。

 

「嘘!?どうやってあんな所から……」

 

「アイツ、空も飛べるのかよ!?」

 

ギャレンの背中にはブレイドのジャックフォームと同様に6枚の羽が生えており、それがギャレンを空へと飛行させる要因にしていた。

 

「この姿はクジャクの力を融合させている。これが俺のジャックフォーム。マリア!今のうちに仕掛けるんだ!」

 

「わかったわ!【ホライゾンスピア】!」

 

マリアはギャレンが上空から2人や守備兵の意識を集めている間に強力なエネルギー派を城壁へと撃ち出した。それは堀を超えて城壁へとぶつかり、その一部に大きな穴を開けさせてしまった。

 

「不味い!城壁を破られた!?」

 

「今よ!空いた穴から侵入して!!」

 

ギャレンとマリアが率いた軍勢はその空いた穴と城へと入る道である城門の二ヶ所を目指して進撃を始める。そして、いくら守備のプレイヤーが揃っていても2つの場所を同時に守るのは守りを薄くし、突破を容易にする。そしてそれはこの城に対しても同じことが言える……はずであった。何と、守備兵や守備をするプレイヤー達は城門の方へと向かっていったのだ。つまり、今マリアが開けた大穴の守備を放棄してしまったのだ。その代わりにクロムとイズがその場に立ちはだかることになった。

 

「どういうつもりかしら?わざわざ守備を放棄するなんて」

 

「だが、今がチャンスだ。こちら側にプレイヤーを集中させて……」

 

2人がこれを良い機会と見て集中攻撃をさせるためにプレイヤーを集めていった。しかし、そう簡単に事は進まなかった。

 

「……【覚醒】だ!」

 

「……お願い!【覚醒】!」

 

クロムとイズはテイムモンスターを呼び出すと集まってきた大軍勢を相手に真っ向勝負を挑む。そして、2人が呼び出したモンスター達はギャレンとマリアが想定していたモンスター達とは全くの別物であった。それと同時に2人にも連絡が入り、空を飛ぶ龍に城が襲われているという連絡が入った。

 

「馬鹿な!?多分そいつはセイバーのモンスター、ブレイブのはず。そしてセイバーはこちら側の国でミィやベルベットと戦っている。誤報じゃないのか?」

 

「まさか、これって……」

 

2人が嫌な予感をして目の前の光景を見ると巨大な亀、シロップに動きを封じられ、エネルギー砲で蹂躙される様子と、2人のイズが爆弾を投擲し続ける様子が映った。

 

「何故だ……クロムのモンスターは防御力を上げる鎧型のモンスター、イズのモンスターはアイテムの効果を上げる妖精だったはず」

 

「これじゃあ使っているモンスターがバラバラよ!」

 

「ツキミ、【パワーシェア】!うぉりゃあああ!!」

 

そこにマイのモンスターであるはずの黒い熊、ツキミに跨ったヒビキがツキミの持つ高いSTRを分けてもらい火力の上がったパンチで空中にいるギャレンを殴りつけて地面に叩き落とした。

 

「ぐっ!?」

 

「ヒビキのモンスターも違う……これは」

 

「マリアさんの予想通りですよ。今回のイベントで【楓の木】の面々は全員、テイムモンスターを入れ替えました!!」

 

 

(回想)

 

「テイムモンスターを入れ替える!?」

 

「そんな事ができるのか?」

 

セイバーからの提案にその場の全員が驚いた。何故なら、テイムモンスターを入れ替えるという事は普段から戦い慣れている相棒とでは無く、他のメンバーの相棒を借りるということになるからである。

 

「ダメでは無いと思いますよ。そもそも、七層に入ってテイムモンスターが実装されてから付けられた制限はテイムモンスターを仲間にできる【絆の架け橋】を装備できる数が1人につき1つになるということだけ。入れ替えを禁止しているわけじゃないんですよ」

 

「なるほど。でもそれと入れ替えを行うという行為がどう繋がるの?」

 

サリーはセイバーの提案を疑問に思った。先程も書いたが、今まで連携を鍛えてきたのは今のパートナーモンスターとであり、【楓の木】の面々もそれぞれが自分の個性に合ったモンスターと契約している。それを止めるという事は強みを1つ手放してしまうことにも繋がるからだ。

 

「イベントまで残り僅かのこの期間でパートナーを変えて訓練をやるのは大きな賭けです。ですが、相手にはまだテイムモンスター等の手札が割れていないプレイヤーが多すぎます」

 

「そっか。【thunder storm】と【ラピッドファイア】、【BOARD】のメンバーのテイムモンスターはまだ殆どわかっていない」

 

「わかっているだけでもかなり強力なモンスターらしいしな」

 

「メイプルはどうする?セイバーのこの提案、作戦に組み込む?」

 

メイプルはサリーに聞かれて暫く考えるとそれから答えを出した。

 

「わかった。やろう!」

 

「良いのか?」

 

「面白そうだし、それに勝つためだもん!」

 

「決まりだな」

 

セイバーはそれからそれまで決めていた作戦を元にしてモンスターの入れ替え先を決め、できる限り入れ替えても戦術に支障が出ないようにするのと、プレイヤーとモンスターの連携が取りやすいような変え方をした。そうして、残りの期間で入れ替え先のモンスターとの連携を磨き、今回のイベントに臨んだのだ。

 

 

(現在)

炎と荒地側の城ではサリー、カスミ、ドレッドらの機動力に長けた3人がセイバーから受け取ったブレイブに乗って空から城壁へと奇襲をかけていた。因みに、ブレイブを所持しているのはサリーである。

 

「ブレイブ、【爆炎玉】!」

 

ブレイブは破壊力の高い火炎弾を城壁に向けて放っていくと城壁にヒビが入っていき、一気に城壁の一部を粉砕した。更にそこに敵の注意が向いている間にブレイブに乗った3人が内部へと侵入する。

 

「ここからは降りていくわよ」

 

「めんどくせぇが、戦いの早期決着をするにはこうするしか無いしな」

 

「だが、恐らく中にもかなりの人数がいるだろう。気を引き締めていくぞ」

 

3人はブレイブから降りるとブレイブを休ませて街中を走っていく。勿論敵プレイヤーも向かってくるが、今度はカスミが連れてきたユイのモンスターであるユキミが猛威を振るう。

 

「ユキミ、【パワーインパクト】!」

 

3人がユキミに乗って走り出すとユキミはエネルギーを纏い、突進していく。それは直線上にいるプレイヤーやモンスターを容赦なく轢いていき、弾き飛ばした。そうしながら進んでいくと突如として突風が巻き起こり、目の前に鷹のモンスターを連れたプレイヤーが現れた。

 

「ここで待ち構えていたのか。シン」

 

「前のイベントではセイバーの邪魔が入ったおかげで決着は付かなかったけど、今度こそ倒させてもらうぜカスミ」

 

カスミはユキミを戻すとシンの前に立ち塞がり、サリーとドレッドにアイコンタクトを送った。それを理解した2人は別の方向へと移動を開始していく。

 

「おっと、その2人も逃さないぜ」

 

カスミはシンのその言葉に疑問を浮かべたが、すぐにスキル、【心眼】を発動すると自分の横をすり抜けるように攻撃予測のエフェクトが出てきていた。そして、その先にいるのは低耐久の2人である。

 

「ッ!!」

 

カスミは咄嗟に刀を抜くとその場所に刀を移動させた。その瞬間、物凄い速さで矢が飛んでいき、カスミの刀へとヒットした。

 

「これは……」

 

「まさか、ウィルバートさん!!」

 

サリーがドレッドに促すとドレッドはテイムモンスターであるシャドーを呼び出して命じた。

 

「シャドー、【影世界】!」

 

ドレッドはサリーと共に影の世界へと潜り込むとシンの真下をくぐり抜けて反対側へと最短距離を移動して先へと進んでいった。シンも自分の反対側に出てきた2人を黙って通すつもりは無く、斬りかかろうとするが、それはカスミによって阻止されることになった。

 

「私との決着をつけるんだろう?2人に構ってる余裕は無いはずだ」

 

「しょうがないなぁ。けど、本来のテイムモンスターと違う君じゃあ俺には勝てないよ」

 

「さぁな。やってみるまでわからないだろう!」

 

2人は鍔迫り合いを解くと激しく斬り合っていく。暫くスキルを使わずに戦っていた。そうなると、単純な剣の腕比べなのだが、やはりそれだけならカスミが上を行っていた。

 

「やっぱ普通に剣で勝負しても勝てないかぁ……」

 

「これでもセイバーに鍛えてもらってるしな。このまま押し切らせてもらう」

 

「さーて、できるかな?」

 

シンはそう言うと【崩剣】を発動し、今回はいきなり剣を40個に分割しての面攻撃を仕掛けてきた。これは第4回イベントの時と全く同じ戦法である。

 

「前と同じ手は効かないぞ。【血刀】!」

 

カスミも範囲攻撃のスキルで自分に当たる剣のみを相殺して対応していく。しかし、シンはただ普通に面攻撃ばかりを仕掛けた訳では無かった。

 

「今だ。ウェン、【風の檻】!」

 

次の瞬間、その名の通り風の牢獄がカスミを捕らえると動きを制限させることに成功した。

 

「くっ!?」

 

「よーし。そのまま動くなよ?【風刃剣】!ウェン、【風神】!」

 

そうしてできた隙をついてシンが大量の小型の剣に風の属性を付与させた連撃を発動させつつ、相棒のウェンにも一撃を放たせた。これが決まればカスミは連撃を受けて倒されてしまう。だがしかし、これで終わるほど彼女の力は低く無かった。

 

「ふっ……仕方ない。セイバーに取っておくよう言われたが、早速使うしか無いようだな。【月闇ノ太刀・暗黒ノ一閃】!!」

 

すると突如としてカスミの持つ妖刀に闇の力が高められると【風の檻】が強制中断されて消失。更にはカスミへと迫り来る大量の崩剣と風の刃のエネルギーを吸収していき、残されたただの崩剣を撃ち返した。

 

「な!?」

 

まさかシンもあれだけの数の剣を跳ね返されるとは思っておらず、攻撃をまともに受けてしまい、ダメージを負うことになった。

 

「クソッ……まさか崩剣を全部纏めて返されるとはね。それに、その力はセイバーの持つ闇黒剣の力か」

 

「ああ。セイバーに前々から指導を受けていてな。私達全員、聖剣1本分の力を叩き込まれたよ」

 

「カスミなら闇黒剣って所か。けど、そう簡単にやられる訳にはいかないからな。ウェン、【風神】!」

 

「ならこちらは、ユキミ、【真空波】!」

 

シンがウェンに風の刃を放たせるとそれに対抗するようにカスミもユキミに衝撃波を使わせて相殺していく。そうしてできた衝撃に乗じて2人は接近するとカスミが妖刀を振るう。そしてその剣をシンが盾で防ぎながら崩剣によってカスミに多方面からの同時攻撃を実現させる。両者の実力は拮抗しており、決着にはそれなりに時間を有した。

 

「やるね、カスミ。第4回イベントの時と大違いだ」

 

「シンもな。あの時から凄まじいくらいに成長している。だが、勝つのは私だ!【武者の腕】、【一ノ太刀・陽炎】!」

 

カスミはシンから繰り出される手数による攻撃を巨大な刀を持った手と瞬間移動による場所移動をすることで捌いていく。

 

「【旋風刃】!ウェン、【ゴッドウインド】」

 

シンがカスミを追い詰める為に奥の手を使っていく。ウェンがカスミを竜巻の中に閉じ込めるとその中で風属性のエネルギー斬がカスミの体を切り刻んでいく。加えて崩剣による波状攻撃。これらにより、カスミのHPは危険域にまで到達してきていた。

 

「このままでは……押し切られる……かといって今【紫幻刀】を使う訳には……」

 

【紫幻刀】を使えば連続斬撃によってこの場を脱する事ができるかもしれないが、あのスキルには高いリスクがある。それは体が子供サイズに縮んでしまう点である。今それをしてしまうとシンを倒せなくなるだろう。悩んだ末に出した答えは……

 

「【戦場の修羅】、【月闇ノ太刀・暗黒ノ一閃】!」

 

カスミが再度セイバーから伝授されたスキルを発動すると竜巻を掻き消して崩剣のみに対処すべき物を絞るとそこから一気にシンを倒しにかかる。【戦場の修羅】はスキルのクールタイムを大幅に短縮する代わりにその時間内で何も倒せなければ全てのスキルがクールタイムに入ってしまう。そしてこれを使うということはシンを倒す公算が整っているということだ。

 

「やるね。けど、終わりだよ!【崩剣】!」

 

シンは更に手数を増やすと手負いで残りHPの少ないカスミへとトドメを刺しにかかった。

 

「悪いが、喰らわないぞ【乱れ居合斬り】【終ワリノ太刀・朧月】!」

 

カスミはこのタイミングで切り札とも言えるスキルを連発。まずは飛んでくる60本前後の崩剣を2つのスキルで全て弾き飛ばし、相殺。そして、そのままシンへと肉薄するとシンも盾を構える。

 

カスミは【終ワリノ太刀・朧月】の反動でステータスが大幅にダウンしているためにこの状況からシンへの勝ち目は薄いかに見えた。だが、今のカスミのテイムモンスターはハクでは無い。

 

「行くぞ。ユキミ、【パワーシェア】!!」

 

カスミは後ろで待機していたユキミの背中に乗ると足りない機動力を確保。そして、【パワーシェア】を使うことで、下がってしまったSTRを万全なユキミと分け合って高め、十分な火力を得た。

 

「まだだ!」

 

シンもカスミの攻撃に対抗するために【崩剣】一部を剣に戻して攻撃を盾で凌ぐ構えを見せる。

 

「終わりだ!【月闇ノ太刀・月光】!」

 

次の瞬間、カスミとユキミは超スピードでシンへと接近するとすれ違い様に彼を切り裂き、彼のHPを0にするとシンを撃破するに至った。

 

「悔しいけど……俺の負けか……でも、次は勝つぜ。じゃあな」

 

そう言うとシンは消えていき、そしてカスミにかかっていたスキルが次々と効果切れとなると、反動のステータスダウンをモロに受けることになった。そして、【月闇ノ太刀・月光】にもデメリットがある。それは、

 

「……はぁ、前々から思っていたのだが何でこうなるのか……」

 

カスミがため息を吐くと目が赤く染まっており、彼女の視界がモノクロになっていた。これが【月闇ノ太刀・月光】のデメリットでありこの状態が30分続く。その間探知系のスキルが使用不可となり敵の気配が分からなくなってしまう。

 

「2人には悪いが暫くは身を潜めるとしよう。このままではまともに戦う事もできない」

 

そう言ってカスミは隠れる事ができそうな場所を探して歩いていくのだった。

 

———————————————————————

 

イベント1日目現在の戦況

 

ミィ、ベルベット対セイバー(本体)

 

カリス対キラー

 

メイプル、マイ、ユイ(移動中)

 

ギャレン、マリア対クロム、イズ、ヒビキ

 

サリー、ドレッド(移動中)

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

メイプル       ブレイド

セイバー       ギャレン

サリー        カリス

ヒビキ        レンゲル

カスミ        ミィ

クロム        パラドクス

イズ         シン 脱落

カナデ        マルクス

マイ         ミザリー

ユイ         ベルベット

ペイン        ヒナタ

ドレッド       キャロル

フレデリカ      リリィ

キラー        ウィルバート

           マリア

 




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと雷神降臨

シンがやられた頃、メイプル、マイ、ユイの3人は圧倒的な防御力と、火力で敵を蹂躙中だった。更に、マイにはヒビキからもらったモンスターであるミクが、ユイにはカスミからもらったモンスターのハクがついており、それらの存在もあって周囲のプレイヤーを寄せ付けなかった。

 

「マイちゃんユイちゃん、このままドンドン倒していくよ!」

 

「はい!!」

 

「取り敢えず動きを止めるね。ネクロ、【覚醒】、【死者の重み】!!」

 

メイプルがクロムのモンスター、ネクロを呼び出すと周囲のプレイヤー達の動きを遅くさせ、マイとユイの高火力が当てられるようにし、そこにマイとユイの大槌及び、ハクの巨体とミクの高火力スキルが襲い掛かっていく。

 

「【ダブルインパクト】!ミク、【電磁砲】!」

 

「【ダブルストライク】!ハク、【締め付け】!」

 

このように圧倒的な力で迫り来る敵集団を蹂躙していく中でも、敵プレイヤーからの3人への攻撃は止まる事を知らなかった。ゾンビのように倒しても倒しても襲ってくる敵軍勢を相手に流石の3人にも疲れが見え始めていた。

 

「倒しても倒してもキリが無いです!」

 

「この人達、倒されたらそれで終わりなのにどうしてこんなに攻撃できるの?」

 

「……あれ?そういえば、自分から向かってくる人達は皆同じ顔をしてない?」

 

メイプルはこの時、ある仮説を立てた。普通であればワンデスでの脱落となると命を賭けた突撃はやりにくい。となると、絶対に復活できる保証がある状態である状態でないといけない。それなのに今メイプル達と戦っているプレイヤー達のうち、約半数近くが無謀な突撃をしていることとなる。

 

「何のつもりかはわからないけど、向かってくるなら容赦しないよ!」

 

すると、倒していくプレイヤーの内、何人かは倒した瞬間に幻影となって薄く消え始めたのだ。

 

「え?」

 

「メイプルさん!何かがおかしいです!さっきからプレイヤーを倒しているのにその度に次々と復活していきます!!」

 

「こんなの、どうやって倒せば……」

 

3人が困り果てているとふと空を見上げた。すると、ここら一帯を囲むような何かのエネルギードームに包まれていることに気がついた。

 

「これは何だろう?」

 

「メイプルさん、大変です!私達のステータスが減少を始めてます!!」

 

「うぇっ!!私のVITも少しずつ減り始めてる!!」

 

これではステータスが下がることによりメイプルはダメージを受けるようになり、双子のマイとユイは火力を出せなくなってしまう。そして、それは3人の長所を潰すことに繋がる。

 

「早くこの状況を何とかしないと……」

 

3人が苦戦を強いられている中、ドームの外では1人のプレイヤーがそのドームを操作していた。

 

「これの維持も中々に骨が折れるな」

 

その者の名は、パラドクス。ただし、その姿は今までとは違っていた。右手には剣を装備し、魔王のような紫の装甲を身に纏い、左手を翳して魔法陣を展開していた。そこにレンゲルがやってくるとパラドクスへと話しかけた。

 

「どうやら上手くいってるようですね」

 

「お前の指示に従うのはあまり気持ちは良くないが、これもメイプルを仕留めるための作戦だからな」

 

「一応聞いておくけどあとそのフィールドは何分保つ?」

 

「……最大20分」

 

「わかった。それまでに着くように連絡しておくよ。ウチのリーダーにね」

 

そんなやり取りがドームの外で交わされていたが、中の3人はそれどころでは無い。ドームの中では魔法によって無限にプレイヤーが湧き続ける。そして、それを倒しても倒しても復活するためにスキルを無理に使うことができない。3人はテイムモンスターを一旦戻すとどうするか考えた。

 

「どうしよう。このままじゃ、ステータスが足りなくなってダメージを受けるようになっちゃう……」

 

「せめて、このフィールドさえひっくり返せれば……」

 

「フィールド……そうです!メイプルさん、【反転再誕】で【救済の残光】を使ってください!!」

 

「もしかして、全体を一気に攻撃できるアレ?」

 

「私達はメイプルさんの【身捧ぐ慈愛】でダメージを受けませんが、他の敵プレイヤーは全員ダメージを受け続けます。アレで一気に敵プレイヤーを倒すんです!!」

 

メイプルはマイからかけられた言葉に頷くとすぐにスキルを発動していった。

 

「【反転再誕】、【滅殺領域】!!」

 

すると以前のようにその背に黒い羽が伸び頭上に赤黒い光を放つようになった輪が出現すると、黒い光は装備の色すら黒く変化させていった。その領域内はバチバチと赤黒いスパークが散る中、地面は黒く染まりそこを同じ色の光が駆け回る。

 

【反転再誕】の効果時間は僅か5分のみだが、それでも周囲の敵を全て倒すという意味でかなりの効果があった。更に、ゾンビのように復活したプレイヤーを模した幻影は出た側から次々と消えていき、残された本物のプレイヤー達も【滅殺領域】の効果でダメージを負っていく。中には逃げ出そうとする者もいたが、それをマイとユイが許すはずが無かった。

 

「セイバーさん、力を借ります!【狼煙ノ一閃・スチームストライク】!」

 

「私も!【界時ノ一撃・大海八刻撃ち】!」

 

妹のユイが煙で創り出した大槌を地面へと叩き込むとその衝撃で周囲に煙が発生して敵プレイヤーの視界を奪っていく。そこに姉のマイからの八連続の大海の力が込められた強烈な衝撃波が逃げようとするプレイヤーを仕留めていった。

 

「よーし、私も行くよ!!【黄雷ノ咆哮・雷神砲】!」

 

今度はメイプルがスキルを発動する番だ。両肩にミサイルと、左手にいつもより巨大な砲身が展開されるとそこから電撃が迸っていき、まずはミサイルを発射して周辺にいるプレイヤー達の近くに着弾すると無効貫通の効果を秘めた麻痺が3秒間のみ発動。その3秒の間に本体の砲撃が放たれて動けないプレイヤーを飲み込んでいく。

 

そのあまりの一方的な蹂躙の前にそのフィールド内にいたプレイヤー達はこう呼んで恐れた。イベント初日、悪魔の領域……と。

 

そして、このフィールド内で起こっていたことはエネルギードームの外で空間の調律をしていたパラドクスにも影響を与えていた。

 

「これは、物凄い勢いでフィールドの内蔵MPが消えていく……」

 

実はこのフィールド、展開するタイミングで構築のためのMPをかなり持っていき、その内蔵されたMPで稼働する仕組みなのだ。そして、ゾンビのように幻のプレイヤーを生み出すという能力もMPを少しずつ使うことで実現している。普通であれば、MPは僅かずつしか減らないために長い時間維持できるのだが、今現在はメイプルの【滅殺領域】の効果で幻のプレイヤーが一瞬にして溶かされてしまっている。

 

そのために追加しても追加しても秒単位で倒されるためにMPの消費が加速し続けていた。そして、【滅殺領域】が終わる頃には内蔵MPが尽きてしまいエネルギードームが消えてしまった。

 

「まさか、ここまで早いとは……」

 

パラドクスが驚く中、エネルギードームの中のプレイヤーを殲滅したメイプル、マイ、ユイがパラドクスの前に現れた。

 

「あれ?パラドクスさん?」

 

「そんな姿でしたっけ?」

 

「もしかしてさっきの変な空間を作ったのは」

 

「察しがいいな。そう、俺だよ。ただ、ちょっとMPを持ってかれすぎたな。俺はここで引かせてもらうぜ」

 

「逃がしません!!【砲身展開】!【攻撃開始】!!」

 

無数のレーザーがパラドクスを貫こうとしたその瞬間、突然目の前に影が現れると飛んでいったレーザーを全て叩き切った。

 

「え?」

 

「待たせたな。パラドクス」

 

「……ようやく来たのかよ。……ブレイド」

 

そこにいたのは【BOARD】のギルドマスターで今回の敵側の実質的な総大将、ブレイドだった。

 

「さぁ、メイプル。勝負と行こうか。【アブソーブ】、【フュージョン】!!」

 

ブレイドはいきなり鷲の力を取り込んだジャックフォームへと変化するとパラドクスと2人で並び、構えた。因みに、パラドクスはこの僅かな間にポーションを飲んでエネルギードームを作るのに持って行かれたMPを回復しており、万全な状態である。ここに、イベント初日にして両チームの大将同士がぶつかり合う決戦が始まるのだった。

 

一方その頃、セイバー対ミィ、ベルベットのコンビはと言うと、セイバーがミィの火力とベルベットの範囲攻撃を相手に後手に回っていた。

 

「【フレアアクセル】!【爆炎】!【炎帝】!」

 

「【エレメンタル化】、土!」

 

「【落雷の原野】【稲妻の雨】!」

 

ミィは自らセイバーの間合いに接近して至近距離から火球を何発も撃ち込んでいき、更にはベルベットからの攻撃がミィの攻撃を回避したセイバーを襲っていく。サリーほどの機動力が無いセイバーはどうしてもこのダメージを受けざるを得なかった。

 

「この2人……さっきよりも連携力が上がってる!このままだと、圧倒的に不利だな」

 

トップクラスのアタッカー2人が相手では流石のセイバーでも攻撃にMPを使うことができずに受けに回らなければならない。そして、下手に受けに回ればいつかは2人の火力を受け切ることができずに負けてしまうだろう。

 

「こうなったら、朧、【覚醒】だ!」

 

「「!?」」

 

状況を打破するために取った手はサリーから一時的に交換したモンスター、朧を出すことだった。セイバーからはブレイブが出てくると思っていた2人はこれに不意を突かれた。そしてその隙をセイバーは逃さない。

 

「朧、【拘束結界】!【森羅万象斬】!!」

 

「イグニス、【ファイアバード】!」

 

セイバーが朧に2人の動きを一瞬だけ止めさせると虹色の輝きを纏わせた斬撃を放ち、2人を一気に仕留めようとした。しかし、それは拘束の対象にならないイグニスが炎を纏った状態で2人の間に割って入ることで防いだ。その代償として、イグニスに良いダメージが入ることになったが。

 

そして、【拘束結界】の効果切れとなり2人は再び動くことができるようになった。

 

「やっぱ簡単にはいかないか。そろそろ引き時かもな」

 

「逃げるっすか?セイバーらしくない」

 

「俺としてはこのままやられるのは嫌だからな。イベントもまだ初日だし」

 

「だが、私達が逃すとでも?」

 

2人はセイバーが撤退するタイミングで追い討ちをかけるために構えるが、セイバーが撤退することは無かった。何故なら……

 

「【ホーリーレイン】!」

 

空中に突如として光が浮かび上がるとそこから雨のように攻撃が飛び始めた。それはミィとベルベットの足元に着弾すると2人の動きを鈍らせた。

 

「これは」

 

「増援っすか」

 

「苦戦しているようだね。セイバー」

 

やってきたのは【集う聖剣】のギルドマスターにしてセイバーに匹敵する力の持ち主、ペインだった。

 

「遅いですよ、ペインさん。あとちょっとで撤退する所だったじゃないですか」

 

「それはすまなかったな。けど、これで形勢逆転だね」

 

ペインは笑みを浮かべると手にしていた剣をミィへと向ける。

 

「その感じだとミィさんはペインさんが相手にする感じですか?」

 

「そうだな。初期の頃からの腐れ縁だ。ミィは俺が相手しよう」

 

「ペインが相手か。セイバーにリベンジをしたかったが、まずはお前との決着の方が先みたいだ」

 

「場所を変えるぞ。レイ、【覚醒】」

 

「良いだろう。真剣勝負でお前を倒してみせる」

 

2人はそう言うとイグニスやレイに乗って移動していき、その場にはセイバーとベルベットが残った。

 

「さて、ベルベット。そろそろお前の全力を見せて欲しいな」

 

「それはこっちの台詞っすよ。セイバーだってまだまだ実力を隠してるじゃないっすか」

 

「これは失礼した。なら、俺の新たな力を見せてやろう。界時、抜刀!」

 

セイバーは周囲に魚を呼び出すとそれが体を包んでいき、界時を抜刀した時の姿、大海の装備となった。

 

「この姿を見せたからにはもうベルベットに負けるつもりはないよ。勿論、情報も持って帰らせない。ここで倒させてもらう」

 

「だったら、こっちも相棒と一緒にかかるっすよ。ライデン、【覚醒】っす!」

 

するとベルベットは指輪から雷を纏った獅子を呼び出した。どうやらこれがベルベットのテイムモンスターらしい。ライデンは咆哮し、セイバーを睨みつけた。

 

「おお。そいつがベルベットのテイムモンスターか」

 

「ライデン、【エレキフィールド】!!」

 

ライデンが地面に力を込めると周囲へと電気を放っていき、地面から電気が放出される特殊な空間へと早変わりした。

 

「なるほど、雷属性のスキルの威力を上乗せする効果って感じか。面白い!!」

 

「そういう事っすよ!【雷神再誕】、【極光】!」

 

ベルベットは強化された雷撃による範囲攻撃でセイバーを一瞬にして倒すべく己に有利な領域を展開。セイバーも黙って見ているだけでは無く、それさえも想定済みとばかりにスキルで対応する。

 

「【界時抹消】!」

 

セイバーは特殊空間に潜むとごく特殊空間外に存在する電撃が僅かな速度でゆっくりと動く中、その空間内でベルベットの攻撃を全て回避するとゼロ距離にまで近づいた。

 

「【再界時】!」

 

「な!?」

 

「【大海一刻斬り】!」

 

そこにセイバーからの斬撃が彼女の体を切り裂く。ベルベットは何とか持ち堪えるものの、決して高いとは言えない耐久力のためにこれを何度も受けるわけにはいかないだろう。

 

「ッ!【重双撃】!」

 

セイバーがゼロ距離にまで近づいているということは同時にベルベットの拳が当たる距離のため、ベルベットは拳によるパンチを繰り出す。しかし、セイバーの対応力はベルベットの拳を上回っていた。

 

「【ゲノミクス】!」

 

《スコーピオン!ゲノミクス!》

 

ベルベットの拳を尻から生やした蠍の尾で受け止める。更にそこからセイバーは反撃に入っていった。

 

「【オーシャンカッター】!」

 

セイバーは水の斬撃波を出現させてベルベットの体を狙って放っていく。ベルベットは辛くもそれを防ぐが、既にセイバーは目の前にはいない。

 

「【大海ニ刻撃】!」

 

セイバーの放った海の力を纏わせたドロップキックに蠍の尾を巻き付けて威力を底上げしたキックをベルベットがバックステップでギリギリ躱すがその威力に彼女は冷や汗を流した。直撃を喰らえば今のでやられていたという勘が彼女を襲ったのであろう。

 

「ライデン、【電力増加】、【雷神の怒り】!」

 

ベルベットはライデンに指示を出すと【エレキフィールド】の効果で増加した火力による電撃を放たせる。更には自身も追撃をかけていく。

 

「【超加速】【跳躍】【連鎖雷撃】!」

 

【超加速】と【跳躍】によって雷による攻撃範囲が一気にセイバーへと近くなる中、セイバーは再び緊急回避の手段を取るしか手が無かった。

 

「チッ。【界時抹消】!」

 

セイバーはまた【界時抹消】を使って攻撃を躱すが、今度はライデンの攻撃も入っている分攻撃の密度が高く、【界時抹消】による特殊空間に入っても隙間を縫うためのスペースが残っておらず、やむなく距離を取るのみに終わった。

 

「【再界時】」

 

セイバーが抹消を解除するとベルベットは標的を見失い、【超加速】の効果も切れてしまうが、未だに彼女の周囲にある雷撃範囲は消えておらず、セイバーは困り果てていた。

 

「これだと近づけないな。さて、どうしたものか」

 

「一気に仕留めるっすよ。【放電】!ライデン、【電力供給】!」

 

ベルベットはセイバーに接近しながら【エレキフィールド】の力をライデンによって自身に取り込ませる。それから周囲に雷を放出させながらセイバーを叩き潰そうとしてきた。

 

「くっ!これは不味い。最光抜刀!」

 

セイバーはやむを得ずにあらゆる攻撃を無力化できる最光に変化すると攻撃を全て透かしきることになった。

 

「渾身の一撃を防がれた?」

 

ベルベットは【放電】を使ったせいで身に纏う電気が全て消える事になり、セイバーに無防備な姿を晒す事になった。

 

「チャンス!これなら倒せるぜ。界時抜刀!【魚群】!」

 

セイバーはここぞとばかりに手数でベルベットを攻め立てていく。スキル【魚群】によって魚を召喚するとベルベットを囲ませて集中砲火を浴びせていく。その火力は決して高くは無いが、それでも耐久力が低めなベルベットには致命傷となり得る。

 

「くうう……こうなったら仕方ないっす。【放電】も使っちゃったし、状況を打破するには……【雷獣】!」

 

ベルベットが奥の手である【雷獣】を発動すると彼女から光の柱が出現。その光の柱が消えた時、そこには体に電気を纏い薄く発光する白い毛並みの巨大な虎がいた。

 

「うへぇ。メイプルの【暴虐】と同じタイプか。これはヤバそうだ」

 

実はこの姿、以前サリーと戦った際に使ったのだが、サリーにはメイプルの危険域とベルベットの危険域が似ていると言うこともあって通用しなかった。勿論セイバーにもそれは同じことが言えるだろうと考えたベルベットはこれを使うのを躊躇っていたが、あのままではやられるのがせいぜいなので使うしか無かったのだ。

 

「サリーとやり合った時には通用しなかったっすけど、セイバーにはサリーほどのスピードは無いっすよね!ライデン、【雷獅子】!」

 

【雷獣】状態のベルベットはライデンと共に電気を纏いながら突撃してくる。当然だがセイバーにはこれを回避するだけのスピードは無い。しかし、セイバーにはサリーに無い高い攻撃面での対応力があった。

 

「【海水波】!」

 

まずは正面から大量の海水を噴射して2匹の獣を押しとどめる。押しとどめているものが海水のために電気は貫通してくるが、既にセイバーはその場にいない。

 

「朧、【影分身】、【火童子】!」

 

セイバーは朧に指示を出すと界時スピアの先端に炎を纏わせていく。更にはその数を分身で増やし、ベルベットへと界時を突き立てる。

 

「まだまだっす!」

 

当然これでは倒されることは無い。だが、セイバーは既に次の策を打っていた。

 

「朧、【瞬影】!【界時抹消】!」

 

セイバーは朧の力で1秒間だけ消えるとその間に【界時抹消】を使用。ベルベットはどこから来るかわからない不意打ちに備えるがセイバーはそんなベルベットの意識の裏を突く。

 

「【再界時】!」

 

セイバーが【再界時】するタイミングで【瞬影】も解けた。するとセイバーはベルベットの目の前に出現。不意打ちを仕掛けると思っていたベルベットは一瞬面食らった。その一瞬が命取りだった。

 

「【オーシャンカッター】、【タイムシフト】!」

 

その瞬間、目の前に水の斬撃波が出現。そしてそれは一時的に空中で停止する。それからセイバーは連続で【界時抹消】を使いながらベルベットの周囲に【オーシャンカッター】を時間差で仕掛けていく。しかも、その攻撃は当たればダメージになる上にベルベットの周りを囲むように設置されていく。これによりベルベットは少しずつ動くことができなくなっていく。

 

「不味い。このままだと逃げ道が……」

 

「遅いぜ。停止解除」

 

セイバーが指を鳴らしたその直後、ベルベットの周囲に存在した【オーシャンカッター】が一斉にベルベットを切り刻んでいく。それだけで【雷獣】のベルベットは仕留められなかったが彼女の気を引くことはできた。そうしている間にセイバーが彼女へと重い一撃を解き放つ。

 

「【大海三刻突き】!」

 

セイバーの渾身の一撃はベルベットを貫き、【雷獣】状態を解除させる事に成功した。そして、【雷獣】では無くなったベルベットが地面へと叩きつけられるとそのまま復活する前にセイバーが倒しに行く。

 

「終わりだ」

 

セイバーが界時ソードを振り下ろそうとすると横から衝撃が走り吹き飛ばされた。そこにいたのはベルベットのモンスター、ライデンだった。ライデンが主人を庇うためにセイバーへと電気を纏わせた体当たりを仕掛けたのだ。

 

「……勝手に終わらせないで欲しいっすね!」

 

その直後、ベルベットも立ち上がり復活。しかし、ここまでの戦いでメインとなるスキルを多く消費した彼女に勝ち目は無いかに見えた。

 

「……もうこうなったら、あの手を使うしか無いっすね……」

 

「まだ奥の手があるのかよ!」

 

「誰にも見せたことが無かったっすけど、セイバー相手になら見せても良いっす。寧ろ、見せないと勝てないと感じたっすよ」

 

「なら見せてもらおうか。お前の本当のフルパワーを!」

 

ベルベットは構えを取ると彼女が持つ最強のスキルを発動した。

 

「【雷神融合】!!」

 

その言葉を言った瞬間、ベルベットの周囲から雷が集まっていき、そこにベルベットの後ろから彼女のモンスター、ライデンが走ってくるとベルベットと重なるように融合。その時、ベルベットの体には稲妻を纏いながら黄金と黒の鎧がその身を包んでいく。胸には獅子の顔を模したアーマーが装着。まるでその姿はスキル名の通りに雷神が本当にベルベットと一体化したようであった。

 

「ブレイブと合体する【邪龍融合】と似たようなスキルか。この感じだとステータスも大幅に上がってるだろ?これはいよいよ勝てるか怪しくなりそうだ」

 

「行くっすよ」

 

その直後、ベルベットの姿が一種揺らいだかと思うとセイバーが気がついた時にはもう既にベルベットはセイバーの目の前にまで移動していた。

 

「【重双撃】!」

 

「チッ!」

 

セイバーは咄嗟に界時ソードで防御の姿勢を取るがその防御の上からベルベットは殴りつけ、セイバーを大きく後ろへと吹っ飛ばした。

 

「がっ……これは、威力がおかしすぎるだろ……」

 

「もう負けないっす。私の奥の手を使わせたこと、後悔させてやるっすよ」

 

ライデンとの融合で圧倒的な力を手にしたベルベットに対して、セイバーは戦慄を覚えたが、弱気にはなっていられない。今の彼女にどう立ち向かっていくのか。セイバーはただそれだけを考えるのだった。

 

———————————————————————

 

イベント1日目現在の戦況

 

ベルベット対セイバー(本体)

 

ミィ対ペイン

 

カリス対キラー

 

ブレイド、パラドクス対メイプル、マイ、ユイ

 

ギャレン、マリア対クロム、イズ、ヒビキ

 

サリー、ドレッド(移動中)

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

メイプル       ブレイド

セイバー       ギャレン

サリー        カリス

ヒビキ        レンゲル

カスミ        ミィ

クロム        パラドクス

イズ         マルクス

カナデ        ミザリー

マイ         ベルベット

ユイ         ヒナタ

ペイン        キャロル

ドレッド       リリィ

フレデリカ      ウィルバート

キラー        マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと海神対雷神

ベルベットがセイバー相手にフルパワーを発動したその頃、炎と雷の国の城壁の内側に広がる城下町ではその内部へと侵入していたサリー、ドレッドが城下町の守りに付いているNPC及び、プレイヤーを着々と葬っていた。

 

「ドレッドさん、行きますよ!」

 

「ああ、しっかりと仕留めてくれよな」

 

元々2人の武器は短剣の二刀流がメインであり、2人共AGIが高く動きを合わせやすいという理由で同じ奇襲班となっていた。そして、2人のステータスやスキルの関係上、街の中に点在する家を使いながら敵を1人ずつ確実に葬っていく暗殺者のような立ち回りをしていた。

 

「「【オクタプルスラッシュ】!」」

 

2人のダガーから放たれる連続斬撃は2人に敵対するプレイヤー、NPC等関係なく切り刻んでいく。

 

「中々ダルいな。しかも、まだ城の中にすら入ってないとか」

 

「カスミもシンさんを倒したって連絡は入ったけど、追いついてくるまでにまだ時間はかかるって」

 

カスミはシンを倒した際に発生した身体へのデメリットが終わったものの、それでも先行している2人よりは後方に位置するため、まだまだやってくるまでには時間がかかるだろう。その間に2人は敵プレイヤーやNPCの数を減らす事に全力を尽くしていた。

 

「こっちはカスミを入れても3人だけだし、数は圧倒的に不利。最悪撤退も視野に入れないと」

 

「だな。悔しいが、カスミと合流したらこの国から出るとするか」

 

2人が撤退の事を考えている頃、炎と雷の国側の城内では2人のプレイヤーが城から城下町の様子を見ていた。

 

「侵入者は3人。しかも全員ランカーか」

 

「はい。更には防衛の主力であるシンもやられたとの事ですね」

 

その2人とはリリィとウィルバートだった。2人は現在、リリィがメインで煌びやかな鎧を装備しており、ウィルバートが執事の服を着てサポートをする動きである。

 

「ウィルの1発目を凌がれた以上、ここは私がやるとしよう」

 

「サポートしますよ。リリィ」

 

「【我楽多の椅子】、【命なき軍団】、【玩具の兵隊】、【砂の群れ】、【賢王の指揮】!」

 

「【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】!」

 

2人はそれぞれ城内でスキルを言い放つと以前セイバー達に見せた機械兵を大量に召喚。そしてその機械兵は統率された動きで城から出撃していくと城下町を目指していった。狙うは当然城下町で好き勝手に暴れるサリーとドレッドの討伐だろう。そして、それとほぼ同時にプレイヤーによるサリーとドレッドへの攻撃が止み、プレイヤーが城内へと引き始めた。

 

「プレイヤーが城に逃げてる……」

 

「向こうもこれ以上の消費は避けるみたいだな。今のうちにカスミと合流して……」

 

その直後、2人の周囲をリリィが生み出した機械兵が囲んでいく。それに加えて機械兵の軍団をかき分けて2人のプレイヤーが現れた。

 

「僕達の出番か。出来ればこの2人の相手はしたくないんだけど」

 

「仕方ありませんよ。ブレイドやミィからの頼みですし」

 

出てきたのは【炎帝ノ国】に所属するトラッパーの名を持つマルクスと聖女の名を持つミザリーだった。

 

「ここでこの2人?」

 

「意外だな。てっきりリリィやウィルバートが来ると思ったんだが」

 

「ここを通す訳には行きませんからね」

 

「取り敢えず、僕達が相手をさせてもらうよ。【遠隔設置・毒沼】、【遠隔設置・火ノ海】!」

 

「ベル、【覚醒】です!」

 

マルクスは2人の周りに触ると定数ダメージを与える罠を設置していく。これに触れれば2人は一定時間ごとにダメージを受けるようになってしまい、耐久力の低いサリーやドレッドの動きを取りづらくしていく。続けてミザリーが長毛の白猫のモンスター、ベルを呼び出して戦闘に備えていく。

 

「このままだと逃げ道が無くなる」

 

「どこか一方向を突破して逃げるしか無いな」

 

2人は既に逃げる算段を考え始めていた。このままではマルクスの罠によって足場が無くなっていく上にリリィの呼び出した機械兵の射撃で倒されるのは明らかだからである。

 

「逃がしません。ベル、【聖なる鎖】です!」

 

ミザリーがそう言い放つと2人の足元にいくつもの魔法陣が展開されてそこから白く光り輝く鎖が出現。2人をあっという間に縛り付けてしまった。

 

「しまった……よりによって本体を……」

 

普段であればこの鎖を躱すことなど2人にとって容易いだろう。しかし、今はマルクスによって周囲の足場がある程度制限されている。そして、先程まで撤退の事を考えていた2人は咄嗟の判断が一瞬遅れてしまったのだ。

 

「今です!」

 

捕まってしまい完全に身動きが取れない2人に向けて機械兵達からの銃口が向けられる。

 

「こんな所で……終わってたまるかよ。シャドー【覚醒】!」

 

「ブレイブ、【覚醒】!【ファイアーウォール】!」

 

機械兵が攻撃を開始する前にサリーがブレイブを、ドレッドがシャドーを呼び出すとブレイブがサリーとドレッドを囲むように炎の壁を展開。そしてそれは機械兵達が接近するのを防ぐのと同時にシャドーがサリーとドレッドを助け出すための時間を見事に稼いでみせた。

 

「シャドー、【噛みちぎり】!」

 

「【ウォーターボール】!」

 

シャドーが2人を拘束する鎖を破壊。炎の壁はミザリーの魔法によってすぐに掻き消されるもののその時にはサリーとドレッドは自由になっており、どうにか窮地を脱した。

 

「ありがとうドレッド」

 

「それはこっちの台詞だ。さて、どうする?」

 

「こうなったらもう戦うしか無いわね」

 

「しょうがねーな。付き合ってやるよ」

 

2人はその言葉を皮切りに自身のHPが0になるまで戦い抜く突撃を敢行しようと構えた。しかし、それが実現することは無かった。

 

「ユキミ!【突進】だ!!」

 

そこにユキミに乗ったカスミが追いつき、2人を囲む機械兵の外側から突っ込んでくると機械兵を薙ぎ倒しながら血路を開けてきた。

 

「ドレッド、乗れ!!」

 

「ブレイブ、おいで!」

 

カスミが叫びながらドレッドの手を掴んでユキミの背中に乗せるとドレッドは咄嗟にシャドーを戻す。そしてサリーはブレイブの背中に乗りながら空へと逃げていく。

 

「全力で押し通る!!」

 

カスミとドレッドもユキミに走らせながらすれ違い様に機械兵を斬りつけていきながら逃げていく。

当然機械兵が黙っているわけが無く逃げる3人へと射撃を開始する。ユキミとブレイブは紙一重でそれを躱しながら更に逃げていく。

 

「ブレイブ、【フレアドライブ】!」

 

「ユキミ、【パワーインパクト】!」

 

2人はブレイブとユキミに突撃を敢行させ、機械兵を再度押し退けながら包囲を突破。そのまま一直線に近くにある城下町を囲む城壁にまで押し進んでいった。

 

「逃げていったけどどうする?ミザリー」

 

「ここは機械兵達に任せましょう。私達のテイムモンスターやスキルでは機動力が足りませんし」

 

「取り敢えず、次に侵入されても大丈夫なようにトラップの設置を念入りにしておこうか。面倒だけど……」

 

マルクスとミザリーはそう言いながら追撃を断念。しかし、機械兵はリリィの指示で3人への追跡を続けていく。こうして、逃げる3人と追いかける大量の機械兵という鬼ごっこの構図が完成するのであった。

 

その頃、キラー対カリスの戦況はキラーが僅かだが有利に戦いを進めていた。その理由は2人が戦っている場所にあった。

 

2人は現在、水と氷側の国で尚且つ狭い渓谷で戦っている。ここはキラー側の陣地であってそのために近くで湧き出るモンスター達はキラーの味方をしている。幾ら狭い渓谷とは言っても手数で攻められると逃げ場が無く、カリスが徐々に押される結果になっていた。

 

「【呪血狼砲】!」

 

「チッ!」

 

キラーから放たれた狼の爪を模した斬撃がカリスを襲う。カリスはこれを刃のついた弓で受け止めるが、その余波で後ろへと下がる。そこに近くにいた水のモンスターが怯んたカリスへと追撃をかけていった。

 

「はっ!」

 

「チッ!」

 

カリスが水弾を防いでいる間にキラーが再度接近して斬りつける。カリスはカードを出して読み込ませようとするが、キラーがそんな隙を与えるわけが無く、続け様に魔剣を振り抜いていく。

 

「【呪いの一撃】!」

 

更にキラーから撃ち出されたのは相手にデバフをかける斬撃。流石にカリスはそれを受けるつもりは無く刃がついた弓で防いだ。そこから逆にキラーを切り裂いて後ろへと下がらせると一瞬の隙を突いてカードを読み込ませた。

 

「【トルネード】!」

 

カリスは弓を構えるとそこから竜巻を纏ったエネルギー状の矢を放ちキラーへとダメージを与えた。しかし、隙が生じたのはキラーだけで無い。キラーへの攻撃でカリスは周囲に気を配ることができなくなり、そこへ待ってましたとばかりに小型のモンスター達が水弾を射出してきた。

 

「くっ……」

 

カリスがこれを弓で受け止めるが、追加効果でノックバックを受けてしまい飛んだ先に不運にもAGIが鈍る水溜りがあった。

 

「しまっ!」

 

「はっ!」

 

キラーは一気に接近すると赤黒く輝かせた魔剣でカリスを斬りつけた。

 

「どうしたカリス。以前に俺を追い詰めたお前の力はそんな程度か」

 

「ふん。やはりここではこちらが不利か。ならば、この姿ならどうかな?」

 

カリスはカードを取り出すとそれを自身のベルトへと読み込ませた。

 

「【フュージョン】!」

 

するとカリスの姿に変化が現れた。両腕に狼の爪を模したクローが装着され、胸には狼の紋章が入り、足は狼のようなしなやかさを備えた。それはまるで別の生物の力を融合させるジャックフォームに酷似していた。

 

「む、その姿は何だ……」

 

「これは俺の強化した姿。他の3人と違って2枚のカードを使わない分出力は落ちるが、それでも今のお前を倒すには十分だ」

 

「なら見せてもらおう」

 

キラーの言葉にカリスは頷くと先程よりも遥かに素早い動きでキラーへと接近。得物である弓を使うのでは無く長く伸びたクローでキラーへと攻撃を仕掛ける。キラーはこれをスレスレで躱すが、その速さに一瞬背筋に寒気が走るほどであった。

 

「速い!」

 

そこに水のモンスターがカリスへと水弾を飛ばしていくが、それをカリスは軽く切り刻み、相殺。それからカウンターとばかりにクローから斬撃を飛ばしてモンスターを簡単に撃退していく。これを見たキラーはカリスへと走り込んでいき、接近。

 

「【聖断ノ剣】!」

 

聖なる力を断つ刃を振り下ろすが、カリスはこれを両腕のクローで何なく防御。そしてガラ空きとなった腹へと蹴りを繰り出してキラーを吹き飛ばした。

 

「がっ!!」

 

「終わりにしてやる。【ドリル】、【トルネード】!」

 

するとカリスが竜巻を纏いながらドリルのように回転。そのまま宙に浮かぶとキラーへと突っ込んでいった。

 

「【スピニングアタック】!」

 

「負けるかよ!【魔芥氷狼・ユートピア】!」

 

2人の必殺のスキルがぶつかり合い、周囲に衝撃波が駆け巡る。その威力は互角であり、両者共に引き分ける形でそれぞれ吹き飛ばされた。

 

「まだまだ……終われるかよ!」

 

「ああ。続けるぞ」

 

2人はそれから再び戦いを再開し、激しく斬り合うのであった。

 

場所は再び変わってセイバー対ベルベット。ベルベットはライデンとの融合で基礎ステータスが飛躍的に上がっており、雷を纏わせた体を使ってセイバーを圧倒していた。

 

「うぉらぁあああ!!」

 

「くっ!」

 

いつもであれば1対1で無類の強さを発揮するセイバーでもステータスが超強化されたベルベット相手では分が悪く、一方的に押されていた。

 

「【界時抹消】!」

 

咄嗟にセイバーは【界時抹消】を使ってベルベットと距離を取って体勢の立て直しを図るが、それでもベルベットの速度の方が上であり、【再界時】をした瞬間に距離を詰められた。

 

「嘘だろ!?」

 

「【雷鳴拳】!」

 

ベルベットが電気を纏わせた拳を振り抜くとセイバーは界時で防御するが、あまりの威力にセイバーは顔を歪めた。

 

「界時抹消をしても移動した先へすぐに追いつくとか反則にも程があるだろ。【魚群】!」

 

セイバーは【魚群】で群れを成した魚を呼び出すとそれを盾の代わりにしてベルベットの攻撃を防がせることにした。ベルベットはそれを知って尚攻撃を続行。まるで意に返さないとばかりに魚を秒殺していく。

 

「ここだ!【大海一刻斬り】!」

 

セイバーがベルベットが踏み込んで拳を繰り出す瞬間に合わせてカウンターの強撃を放つ。そしてそれはベルベットの胴体に当たり、彼女を切り裂いた。

 

「くう……効いたっすけどまだ終わりじゃない!!」

 

ベルベットはダメージを受けたもののそれでもこの攻撃に耐え切ったのかまだまだやる気を見せていた。

実はベルベットが向上させたステータスはSTRとAGI、そしてHPのみでありVITはアップしていなかった。そのために今回は増えたHPで攻撃を凌ぐ形となり、耐えることができたがそれは何回もすることができない諸刃の剣となる。ベルベットはもう攻撃を受けないためにもスキルで対抗した。

 

「【疾風迅雷】!」

 

ベルベットが叫ぶと先程よりも更にベルベットのスピードが上がり、いよいよセイバーの目でも追えなくなってしまった。辛うじてベルベットの動きを【界時抹消】を一瞬だけ使いながら先読みして防ぐことができていたが、1発でももらえばそれを皮切りに蹂躙されてしまうだろう。

 

「【アクセルスマッシュ】!」

 

揺さぶりが効かないと感じたのかベルベットは動きのパターンを変えて今度はセイバーを正面から殴りに来た。速度が桁違いに上がった拳はとうとうセイバーに当たってしまいセイバーへと強烈なダメージを与えていく。

 

「ぐふっ……威力が高すぎる……。【オーシャンファング】!」

 

セイバーも反撃を行うが、ベルベットの速度が速すぎて当てるどころか掠りすらしないだろう。

 

「てか、そろそろその目で追えないレベルの速度も終わりそうなものだけど……」

 

セイバーはベルベットの超スピードが長時間続くものでは無いものだと予測していた。そして、その時間が切れるまで耐え切ることができれば勝ち目があるとも考えていた。しかし、一向にそれは訪れなかった。

 

「まさかモンスターと融合している間は永続とかじゃねーよな?【魚群】!」

 

どうにかセイバーはベルベットの猛攻を凌ぎながら戦いを続けていくが、もうこれ以上は保ちそうになかった。

 

「(クソッ。もうそろそろ限界だな。………ん?待てよ。さっきからベルベットがやってるのはひたすら俺に近づいて格闘戦を仕掛けるだけ。使っているスキルも電気を纏わせたものを使っているが、融合前みたいに範囲攻撃をするものじゃない)」

 

セイバーは何かに気づき始めた。そしてそれは今のベルベットが抱える致命的な弱点。その一端に触れ始めたのだ。

 

「お前、その姿だと範囲攻撃のスキルを使えないな?だったら!!【時の鎧】、制限解除!!」

 

セイバーは界時を使った時に身に纏う装備の奥の手を発動。元々、【時の鎧】のスキル効果はセイバーが特殊空間内で活動をする際にその負担を軽減させる効果を持っている。これがあるからこそセイバーは【界時抹消】をある程度使用しても耐え切る事ができていた。だが、【時の鎧】のエクストラ効果はまた別で存在する。

 

「【界時抹消】!」

 

セイバーは特殊空間へと潜航するとその状態でスキルを発動した。

 

「【オーシャンカッター】、【大海一刻斬り】、【オーシャンファング】!」

 

本来であれば特殊空間内では他のスキルを使うことや特殊空間外への干渉をする事はできない。よって、この行動は無意味に終わっていただろう。だが、【時の鎧】の制限を解除した場合は5分間のみこの制限が反転する。

 

つまり、セイバーは特殊空間外では【界時抹消】以外のスキルを使う事ができず、攻撃を仕掛けても相手にはノーダメージとなり無意味に終わる。逆に特殊空間内ではスキルや攻撃を行う事ができ、それがそのまま【再界時】を使った際にダメージの入る攻撃として飛ばす事ができるのだ。

 

「【再界時】!」

 

セイバーが再界時を使ったその瞬間、突然目の前に現れた無数の攻撃。そしてそれをベルベットは正面から喰らわざるを得ない状況となった。もしこの時ベルベットが範囲攻撃として電撃を放出できれば全て相殺する事ができただろう。だが、今使っている【雷神融合】のスキルの弱点として溢れ出る大量の電気を自身の中に溜め込む事で瞬間的な出力を上げていたベルベットは体の中の電気を放出してしまえば融合解除に繋がるためにそれができなかった。

 

「しまっ……」

 

そしてセイバーから撃ち込まれた必殺の攻撃をまともに受けたベルベットは【雷神融合】が解けてライデンとベルベットに分かれてしまった。

 

「やられたっす……まさかそんな奥の手があったなんて……」

 

「はぁ……はぁ……これでも結構ギリギリだったけどな」

 

セイバーもセイバーで反動が待っていた。【時の鎧】のエクストラ効果を使った時の反動。それは【界時抹消】を使った時の体への負担が普段の倍になるという点である。しかも、これを実践でセイバーが使ったのはベルベットが初めてでありもうこれ以上【界時抹消】を使えばその負担でセイバーの体が壊れて行動不能になってしまうだろう。

 

「まだこれでも倒れないか。ベルベット!」

 

「良い加減そろそろ終わりにしないと不味いっすね」

 

お互いに奥の手を使い尽くして満身創痍。この状況下でどちらかに援軍が加われば勝負は決しただろう。しかし、その援軍はどちらにも現れる事は無く、2人はそれぞれ最後の力を振り絞ってでの決着をつけなければならなかった。

 

「……良し。スキルのクールタイムが終わったっすね。これでまた範囲攻撃が使えるっす」

 

「マジで?俺もう界時抹消使えないのに……」

 

不利だったのはセイバーであった。ベルベットは最初の方に使っていたスキルがクールタイムを終えて再使用可能になっていたのに対してセイバーの方はもう【界時抹消】をして躱すことができなくなっていた。

 

「いい加減倒すっすよ!【雷神再誕】、【嵐の中心】、【稲妻の雨】!」

 

ベルベットは再び周囲に大量の雷を発生させながらセイバーに接近。セイバーを範囲内に巻き込んで押しつぶすつもりである。

 

「こうなったら、朧【覚醒】!【神隠し】!」

 

その瞬間、セイバーはフィールドから姿を消して雷の雨を突破した。だがそこはベルベット達の間合いでもある。

 

「【放電】!ライデン、【雷電波】!」

 

「無駄だ!【液状化】!」

 

セイバーは体を液体へと変化させるとベルベット及びライデンから放たれた電撃を回避。そしてベルベットへと組み付いた。

 

「く……。けど、この距離は私の格闘技が使えるっすよ」

 

「さて、どうかな?【海水波】!」

 

セイバーは自分ごと地面から発生させた海水で2人纏めて打ち上げた。

 

セイバーは空中でベルベットを蹴り飛ばすとベルベットは近くの岩場に叩きつけられた。その痛みで一瞬怯んでいる間にセイバーのトドメの一撃が放たれる。

 

「【一時一閃】、【大海ニ刻撃】!」

 

まず界時からリング状の斬撃波を放ちベルベットがこれを抑え込んでいる隙を突いて一気に接近。そのまま大海の力が込められたドロップキックがベルベットへと命中し、彼女のHPをとうとう0へと変えた。

 

「まさか、こんなに早く終わることになるなんて……」

 

「でも、この勝負だって紙一重だった。勝てたのはただの運だ」

 

「それでも悔しいっす。またいつかリベンジさせてくれるっすか?」

 

「……いつでも来いよ。待ってるから」

 

ベルベットはそれを聞いてニッと笑うとポリゴンとなって消えていった。その直後、セイバーの体に激痛が走った。

 

「……流石に無理しすぎたか。界時抹消の連続使用にベルベットの重い攻撃を凌ぎ続けたからな。今日は無理せずにどこかで休もう」

 

セイバーが休憩の場所を探すために移動を始めようとするとマイ、ユイから連絡が入った。

 

「マイ、ユイからか。何の連絡か………な?」

 

セイバーは2人から知らされた連絡を聞いて顔を青ざめさせた。そこに書いてあった事。それはセイバーにとって訃報でありこのイベントの戦況を大きく左右する物であった。

 

“助けてくださいセイバーさん!!メイプルさんが……倒されました”

 

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イベント1日目現在の戦況

 

サリー、カスミ、ドレッド(機械兵から逃げながら撤退中)

 

ミィ対ペイン

 

カリス対キラー

 

ブレイド、パラドクス対メイプル、マイ、ユイ

 

ギャレン、マリア対クロム、イズ、ヒビキ

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

メイプル       ブレイド

セイバー       ギャレン

サリー        カリス

ヒビキ        レンゲル

カスミ        ミィ

クロム        パラドクス

イズ         マルクス

カナデ        ミザリー

マイ         ベルベット 脱落

ユイ         ヒナタ

ペイン        キャロル

ドレッド       リリィ

フレデリカ      ウィルバート

キラー        マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと盾の崩壊

メイプルの敗北。何故そのような事になってしまったのか。それはセイバーを相手にベルベットが【雷神融合】を使った時にまで遡る。マップのど真ん中、両国の国境辺りでメイプルとブレイド、マイ、ユイの姉妹とパラドクスが戦っていた。

 

「流石はメイプル。何回攻撃を当ててもノーダメージか」

 

「【全武装展開】、【攻撃開始】、【毒竜】!」

 

ブレイドはジャックフォームの力で空を飛びながらメイプルへと何度か接近して剣で攻撃を仕掛けていたが全て鉄壁の防御力に阻まれていた。

 

「このままだと拉致が開かないな。【スラッシュ】、【サンダー】!」

 

ブレイドはそう言うと刃の威力を向上させる【スラッシュ】と対象に電撃を纏わせる【サンダー】を使用。それからメイプルの真上へと接近するとそこから一気に剣を振り下ろす必殺の一撃。

 

「【ライトニングスラッシュ】!」

 

このスキルは防御を貫通させることができるため、ブレイドは使う事にしたのだが、メイプルもそれは予想できていたのかすぐに対応策を打ってきた。

 

「【ピアースガード】!」

 

それは貫通攻撃を無力化する大盾使いの防御スキル。それによりブレイドの高火力スキル、【ライトニングスラッシュ】を見事に凌いで見せた。

 

「【捕食者】【滲み出る混沌】【百鬼夜行】!」

 

「【マッハ】!」

 

メイプルが反撃のために怪物や鬼達に接近したブレイドを倒すように出していくがブレイドはAGIを上げる事でそれら全てを躱していく。それからヒットアンドアウェイの戦法で近づいては剣で斬りつけ、それから反撃を受ける前にすぐに離れるといった一撃離脱を繰り返し始めた。こうなるとメイプルはAGIが無いために1発当てて逃げるブレイドを追跡する事ができない。

 

「うう……こうなったら!」

 

メイプルはブレイドから少量ずつしかダメージを受けないのを利用してブレイドの動きを見る事にした。行動パターンを見極めて最高のタイミングで逆転の一手を打つつもりだ。

 

「ネクロ、【覚醒】!【幽鎧装着】(アーマード)!」

 

メイプルがネクロにそう言うとネクロがメイプルの鎧の上から被さるように合体していくとメイプルの装備を強化した。

 

「よーし。ネクロ、【幽鎧・堅牢】!」

 

続けてネクロはメイプルの攻撃力や機動力を下げる代わりに防御力を更に上昇させて守り優先の形態へとメイプルの装備を変化させていった。元々メイプルの攻撃力や機動力は高いとは言えないために実質的に欠点が消えているような物である。これにより、メイプルはブレイドの攻撃を耐えながら彼の攻撃のタイミングなどを窺った。

 

「俺の動きを見て対応するつもりか。なら遠慮なく攻めさせてもらう。【スラッシュ】!」

 

ブレイドがカードを読み込ませて剣を強化すると防御の構えを取るメイプルの盾を避けながら斬りつけていく。この攻撃には貫通効果も付いておりこのままではメイプルは一方的にやられるのを待つばかりとなるだろう。しかし、メイプルとしてはこれはある意味チャンスだった。相手に飛び道具が無いのであれば自分の間合いに自ら飛び込んでくれるのでカウンターさえ決まれば形勢を覆す事ができる。

 

「そろそろ決めさせてもらう。【キック】、【サンダー】、【マッハ】!」

 

ブレイドは3枚のカードを読み込ませると足に電撃を纏わせて高速で飛行。そのままメイプルへとキックを放った。

 

「【ライトニングソニック】!ウェーイ!!」

 

「ここ!【水底への誘い】!」

 

メイプルは手にしていた大盾ごと巨大な触手へと変化させると突っ込んできたブレイドをそのまま触手の中に閉じ込めた。そして、大盾のスキルスロットに入っている【悪食】の効果でブレイドへと一方的にダメージを与えていく。

 

「やったぁ!!」

 

「まさか、こんな手を隠していたとは……けど、まだだな」

 

ブレイドは触手によって麻痺状態になっていたが完全に動けなくなる前にカードをスキャンさせて突破を図る。

 

「【ビート】!」

 

ブレイドが左の拳に力を高めるとその高まった力で思い切り触手を殴った。そのあまりの威力に触手が一部千切れてしまい脱出口を作る結果となった。そこからブレイドはもう一枚カードをスキャンさせていく。

 

「【タックル】!」

 

ブレイドは千切れた触手のある方向に向かって【タックル】を発動。【タックル】によって強制的にその方向へと移動したために触手による拘束から完全に逃げる事に成功した。

 

「危なかった……。これは迂闊には近寄れなくなったな」

 

「逃げられた。けど、こっちも攻撃するよ!」

 

メイプルはそう言って爆炎と共に遥か高くの空へと移動すると装備を変更。六層で手に入れた【幽霊少女の洋服】を着るとそのまま地面へと落下しながら【機械神】のレーザーが当たる距離にまで近づくとレーザーを発射した。

 

「狙いもつけずにぶっ放す戦法は嫌いじゃない。だけど、そう簡単には当たらないぜ?」

 

当然のようにブレイドはこれを飛行しながら躱していく。しかし、メイプルがただ空へと移動して装備を変えたわけでは無い。それだけなら装備を変更する必要は無いだろう。それでも変えたという事は新たなスキルで攻撃するということだ。

 

「【ポルターガイスト】!」

 

メイプルが両手を動かすと真下に発射されていたレーザーの一部が反転。ブレイドを追跡していった。

 

「ッ!!【マッハ】!」

 

咄嗟にブレイドは【マッハ】を使って猛スピードで逃げていく。そのためメイプルが動かしたレーザーが追いつく事は無かった。しかし、それでも今まで真っ直ぐにしか飛ばなかった攻撃の軌道が変化するようになったと言うだけでもかなりの脅威と言えることは違いない。

 

「そろそろマイちゃんとユイちゃんに合流しないと!」

 

メイプルは空へと移動したことで【身捧ぐ慈愛】の効果範囲から離れてしまったマイやユイの事を心配して彼女達の元へと飛んでいくのだった。そしてそれをブレイドが追いかけていく。

 

その頃、パラドクスの相手をしているマイとユイの2人も窮地に陥っていた。先程にもあった通り今はメイプルが離れているため、【身捧ぐ慈愛】の範囲外に2人は出てしまっている。そんな中でパラドクスからの猛攻に晒されているのだ。2人はサリーから教わった回避技術で辛うじて攻撃を躱し続けているが回避に精一杯で反撃ができていないためにパラドクスは余裕を持って攻撃を仕掛けられていたのだ。

 

「【眷属召喚】!」

 

パラドクスが魔法陣を展開すると彼の周囲にオレンジの被り物をした戦闘員が呼び出され、パラドクスの指示と共にマイとユイへと襲いかかった。

 

「ユイ!背中合わせで迎え撃とう」

 

「背中はお願い!」

 

2人は機動力の低さを補うために戦闘員に囲まれる瞬間、背中合わせとなってお互いに正面にいる敵を倒す事に全力を尽くした。また、【絆の架け橋】の代わりに【救いの手】を3つ装備する事によって8本に増えた大槌を振り回して戦闘員を寄せ付けなかった。

 

「中々やるな。流石は【楓の木】の怪力姉妹。機動力の低さを突けると思ったけどそこも対策済みか」

 

「「【飛撃】!」」

 

マイとユイの2人から繰り出された合計16の衝撃波がパラドクスが呼び出した戦闘員を次々に粉砕。消滅させていく。2人の火力が一撃必殺級のためにただの雑魚戦闘員では受け切る事など不可能だろう。

 

「だったら俺が相手してやる。【ファイアボール】!」

 

パラドクスは魔法で炎弾を生み出すと2人へと飛ばした。2人はそれぞれが散り散りに避ける事で攻撃を回避するが、それによって背中合わせだった2人が分断されてしまった。

 

「ユイ、戻って!」

 

「うん!」

 

「させないぞ」

 

パラドクスが手を振ると先程の攻撃を生き残った戦闘員がユイを囲み、2人の連携を取れなくしてしまった。普通であればここでツキミやユキミを出して突破することが可能だっただろう。しかし今は【救いの手】を装飾品枠に装備していたことと、テイムモンスターをカスミやヒビキと入れ替えていることも災いしてそのいつも通りが発揮できなかった。

 

「案外孤立させるだけなら楽だったな」

 

パラドクスはユイを戦闘員に任せ、1人孤立無縁となったマイを倒しに行った。

 

「【暗黒斬】!」

 

パラドクスは万が一接近して8本の大槌に袋叩きにされるとひとたまりも無いために遠距離からマイを攻撃した。しかし、これが攻撃が着弾するまでにロスタイムを作ってしまい、その間にマイとユイは光るフィールドの中へと入った。

 

「な!!」

 

「マイちゃん、ユイちゃん、大丈夫?」

 

「「メイプルさん!!」」

 

メイプルの合流によってパラドクスの放った攻撃はメイプルにガードされてしまい不発に終わるのだった。そしてそこにブレイドが追いつくが、形勢はブレイドとパラドクスが不利であった。

 

「【黄雷ノ咆哮・電磁散弾】!」

 

メイプルの宣言と共に両腕がショットガンのように変化すると広範囲に電気の弾丸が発射される。それはブレイドとパラドクスを同時に牽制する物であり2人はこれを受けて迂闊に近寄れなくなった。

 

「「【投擲】!!」」

 

そこにマイとユイがインベントリから取り出した大量の鉄球を投げつけていく。普通なら1発喰らうくらいで死ぬことは無いが、2人のSTRは化け物クラスのために1発受けるだけでも致命傷となり得る。よってブレイドとパラドクスはこれを躱すことに精一杯となっていた。

 

「どうする?この化け物コンビを崩せるか?」

 

「やるしか無いな。出来なければ勝ちは得られない」

 

ブレイドとパラドクスは覚悟を決めると2人は逃げから一転し、3人へと向かっていった。

 

「【メタル】!」

 

「【鋼鉄化】!」

 

ブレイドとパラドクスはそれぞれ防御力を高めるとマイとユイの鉄球のみを回避しながらメイプルからの電気の弾丸は敢えて受けつつ突撃していった。というのも、マイとユイの方は一撃喰らえばそれで即死してしまうのだが、メイプルの弾丸は1発や2発受けた所で大きなダメージにはならないのでメイプルからの攻撃のみを受けながら3人へと近づく策に出たのだ。

 

「行くぜ。【呪滅弾】!」

 

パラドクスは紫と黒が混じった禍々しい光弾を5つ作り出すとそれをマイに向けて射出した。そしてそれは彼女へと飛んでいくと突然の反撃にまともに受けてしまった。しかし、それは全くダメージにならない。

 

「今のは何?」

 

「もう1発!【呪滅弾】!」

 

今度はユイへと攻撃が当たるがこれもダメージにすらならない。

 

「メイプルさん、ダメージになりました?」

 

マイとユイはパラドクスから放たれた攻撃が何のために撃った攻撃なのかがわからなかった。しかも、【身捧ぐ慈愛】の効果が適用されるのであればメイプルに行くはずのダメージも全く無く、ただいつものように攻撃がメイプルの圧倒的防御力によって防がれただけにしか思えなかった。

 

「全然。私は平気だけど……マイちゃん、ユイちゃん!?どうしたの体から変なオーラ出てるよ!!」

 

「「え?」」

 

突如としてパラドクスからの攻撃を受けたマイとユイの体に先程パラドクスが放った光弾と同じ色の禍々しいオーラが放たれ始めたのだ。

 

「余所見してる場合か?」

 

そこに先程から迫っていたブレイドが突っ込んできた。

 

「えい!」

 

それに合わせてマイは8本の大槌を振り抜く……だが、深刻な異変が彼女には起きてしまっていた。いつもであれば当たれば即死するはずのマイからの攻撃にブレイドは耐えていた。

 

「……え?」

 

「うらっ!」

 

「マイちゃん下がって!」

 

咄嗟にメイプルが前に出るとブレイドの攻撃を盾で受け止める。既に【悪食】の使用回数は切れているためにもうただの盾としか運用できないが、それでも攻撃を凌ぐのには十分だろう。

 

「私達の攻撃が効いてない……どうして?」

 

「もしかしてさっきの攻撃で……」

 

「そうだ。今使ったスキル、【呪滅弾】の効果。光弾に1回当たるごとに指定したステータスを3分間半分にする。因みに【身捧ぐ慈愛】のような範囲的なカバーが働いても効果が出るのは当たった人間のみだ。そしてこの効果は重複する。今回は全てSTRを指定している。君達2人は5回当たったからSTRのステータスは15分間の間32分の1。いくら高いSTRでもそこまで下がれば並み以下の値にまで落ち込む」

 

「それじゃあ幾ら攻撃しても15分間は相手に大きなダメージを与えられない……」

 

「次はメイプルのVITを下げさせてもらうかな……と言いたいけど、このスキルは2回使うごとにクールタイムがあるからな」

 

「今ならその攻撃は来ないって事ですね!【古代兵器】!」

 

メイプルが【古代兵器】を使用すると先程と同じようにガトリングが出現。それがパラドクスとブレイドの2人へと向けて乱射される。

 

「無駄だ」

 

パラドクスが背中のマントを広げるとそのまま伸びていき、2人の前に壁のように展開するとメイプルから発射された弾丸を全て防いだ。

 

「パラドクス、また3人を分断できるか?」

 

「……少し難しいな。ネタが割れてない1発目ならともかく、今はある程度手の内を知られている。やれるだけはやってみるが、期待はしないでくれ」

 

「わかった」

 

2人はすぐに話を終わらせるとマイとユイの攻撃力がダダ下がりしている今の間に仕留めるために攻撃を開始した。

 

「エム、【覚醒】!【擬人化】!」

 

するとエムが人間のような姿へと変化。手にはピンクのガシャットが握られていた。

 

「エム、【大変身】!」

 

パラドクスの指示と共にガシャットをいつの間にか腰に巻いていたベルトに差し込むとそれを開き、その姿を頭にピンクの髪を靡かせ、胸にはゲージがついた戦士へと変身した。

 

「うぇっ!?1人増えた!!」

 

「エムは他のモンスターとは違ってこういうこともできるんだよな。エム、【超協力プレイ】!」

 

パラドクスがそう言った瞬間、エムはパラドクスと共にマイとユイのコンビへと襲いかかった。2人は対抗するためにテイムモンスターを呼び出そうとするが、パラドクスはそれを許さないとばかりに装備を変更する暇も与えないくらいの連続攻撃を仕掛ける。今はメイプルの防御フィールドの範囲内だが、そこを出た瞬間に2人は猛攻を受けてあっという間にやられてしまうだろう。

 

「反撃が無いと面白くないな。もっと楽しませてくれよ!」

 

『【マイティストライク】!』

 

エムは言葉を話すとスキルを自動的に発動。空中へと跳ぶと連続でキックを放ちマイにノックバック効果を与えた。そしてそれは【身捧ぐ慈愛】によってメイプルへと移行することになりメイプルがノックバック効果で吹き飛ばされる。

 

「くうう……すぐに2人の所に戻らないと……」

 

メイプルが急いで2人の元へと戻ろうとするが、そこにまたブレイドが立ちはだかった。

 

「させない。【タックル】!」

 

ブレイドが猛スピードでメイプルへと【タックル】を発動。メイプルに激突するとダメージにはならなかったものの、再びノックバックが発動してメイプルはまた距離を取らされることになった。

 

「うぇっ!!これじゃあ近づけない……だったら!【暴虐】!」

 

メイプルは急いで装備を黒い装備へと変更すると奥の手である【暴虐】を解放。その姿を化物へと変えるとある程度のAGIを確保し、ブレイドを無視してマイとユイの元へと駆けつけると急いで2人を掴んで背中へと乗せた。

 

「おいおい、そんなのアリかよ」

 

「どうやらメイプルを潰さないとあの2人も倒せなさそうだ」

 

『【大大大変身】!』

 

エムは赤いガシャットを手にしながら自動的にそう言うと小型の赤いロボットが出現。エムが上から被ると上半身に赤いアーマーとして纏いパワーアップした。

 

「【ファイアボール】、【ファイアスラッシュ】!」

 

『【ゲキトツフィニッシュ】!』

 

パラドクスは炎の弾を生成するとそれをメイプルへと放ち、それに加えて炎の斬撃を飛ばした。更にエムも左腕に武装したロボットアームを勢いよく飛ばしてメイプルへとぶつけた。

 

「こうなったら、俺も奥の手を使うしかないようだ」

 

ブレイドは地面へと着地すると指輪からモンスターを呼び出した。

 

「キング【覚醒】、【カードチェンジ】!」

 

ブレイドがコーカサスオオカブトのモンスター、キングにスキルを使わせるとキングがカードへと変化。そこにはスペードのK、エボリューションと書いてあった。そしてブレイドはアブゾーブのカードと今キングが変化したエボリューションのカードを掴んだ。

 

「【アブゾーブ】、【エボリューション】!」

 

ブレイドが左腕に付けた機械に2枚のカードを使用するとブレイドが所持していたスペードのカード、合計13枚が空中で円を描くとブレイドの体が黄金の装甲に包まれた。

 

「メイプルさん、ブレイドさんの姿が……」

 

「セイバーみたいなパワーアップ……なのかな?」

 

「もしそうだとしたら、大変です!」

 

3人が慌てる中、ブレイドの変化は更に進行。体の至る所に13枚のカードが融合していくと最後に胸の部分にスペードのKが融合して手には先程まで所持していた剣を超えるサイズの巨大な大剣が握られた。カードが融合した部分にはカードに描かれていた絵が金色に輝いており、その姿を一言で表すのなら歩くスペードカード図鑑だった。

 

「これが俺のフルパワー、キングフォーム!!」

 

メイプルが口から吐き出した炎でブレイドを攻撃するが、それは全く通っておらず、全て跳ね返していた。

 

「もしかして、その姿は防御力が上がってたりするんですか?」

 

「ああ。さっきまでのジャックフォームが機動力の姿ならこっちは火力と重装甲を備えたパワータイプって所だ」

 

「ブレイドもパワーアップか。エム、負けてられないぜ!」

 

『【大大大大大変身】!』

 

今度はエムが自分のベルトに差してある赤いガシャットを抜くと、そこに金のガシャットを差し直した。するとベルトに入っていた上半身に武装していたアーマーを分離すると今度は機械仕掛けのドラゴンが出現。そしてそれが分解すると全身に武装として装着された。

 

「【闇の鎖】!エム、アイテムをやるぜ!」

 

パラドクスはメイプルを魔法陣から召喚した鎖で縛り付けてから近くに落ちていたエナジーアイテムを掴むとエムへと投げた。そしてそれをエムが取り、自身を強化していく。

 

『【防御貫通】!』

 

エムは空へと飛び上がると空中から左腕の銃でメイプルを撃ちまくる。そして先程取ったエナジーアイテム、【防御貫通】の効果で着実にダメージを与えていった。更に足元ではブレイドが大剣を振るいながらメイプルへと大きなダメージを与えていた。

 

「がはっ……」

 

「「メイプルさん、大丈夫ですか?」」

 

突如として走る鈍い痛み。メイプルは痛いのは嫌いであるために防御力に極振りをしてきた。そしてそれは1人のトッププレイヤーとしての地位を確立することに繋がることになった。しかし、どこまでいっても彼女自身は痛みに弱い女子のためにこのようにダメージが入るようになると思考が一瞬停止してしまう。何とか痛みに耐えながらブレイドを見ると言葉を紡いだ。

 

「ううっ……もしかしてブレイドさんのその攻撃は……」

 

「そうだ。俺の攻撃には常に防御貫通が働いている」

 

【闇の鎖】の効果でメイプルは抜け出すことができない。こうなるとメイプルはかなり弱くなってしまう。メイプルの長所である防御力が通用せず、身動きも取れないとなればもう一方的にやられるしか無かった。そして、とうとう【暴虐】のHPが切れてしまいメイプルは元に戻ってしまった。

 

「くうっ……」

 

「メイプルさん!下がってください!!」

 

「ここは私達が!!」

 

「でも2人はステータスが下がっているはずじゃ……」

 

「「メイプルさんの頑張りのおかげで15分経ちました!」」

 

メイプルは痛さに耐えながら稼いだ時間。その影響もあって状況は先程と変わっていた。マイとユイの火力がここに来て漸く復活したのだ。これならばメイプルが【身捧ぐ慈愛】を発動しながら防御に専念すればマイとユイの高火力が2人とエムを貫くことができるだろう。ブレイドの一言が無ければの話だったが……。

 

「……そう簡単にさせるとでも?【マグネット】!」

 

「………え?」

 

次の瞬間、メイプルの体がいきなりブレイドの方へと吸い寄せられ始めた。【マグネット】の効果。指定した対象1人を磁力で吸い寄せたり引き離すことが可能となる。今回はメイプルが対象となりその効果で吸い寄せられたのだ。

 

「終わりだ。スペード10(テン)、J(ジャック)、Q(クイーン)、K(キング)、A(エース)!」

 

ブレイドは大剣へとカードを5枚挿入。メイプルとの間に黄金に輝く5枚のカードが並んだ。

 

「【ロイヤルストレートフラッシュ】!」

 

ブレイドは走りながらそのカードを潜り抜けていくと大剣に力が集約。そしてメイプルをすれ違い様に両断した。

 

「……かはっ」

 

とてつもない衝撃と共に彼女へと走る特大の痛み。それによって彼女の思考は真っ白になるとその場へとうつ伏せに倒れてしまった。スキル、【不屈の守護者】の効果でHPは1残っていたものの、その残っていたHPもブレイドの前では無いも同じだった。

 

「……正直、メイプルみたいにゲームを楽しんでいる純粋な少女を倒すのは気が引ける。だが、これも勝負だ。悪く思うなよ」

 

「サ……リー、セ…イ…バー……ごめんね……力に……なれなくて……」

 

メイプルは辛うじて残っていた意識でここにはいない2人へ謝罪の言葉を話すとその次の瞬間、ブレイドから振り下ろされた剣に貫かれて敗北し、消滅していった。

 

「メイプル……さん?嘘ですよね……?」

 

「だって、あのメイプルさんだよ……そんな簡単にやられる訳……」

 

その様子を直で見ていたマイとユイは恐怖に震え、パニック状態に陥っていた。これではステータスは戻ってもまともに戦えないだろう。そこでマイは急いでセイバーとサリーに緊急で連絡を送った。それからユイの手を引いて逃げようとする。幸いにも近くにいた【集う聖剣】の部隊が2人を庇うようにブレイドとパラドクスの前に立ちはだかった。

 

「おいおい、まだエンディングの途中だろうが。邪魔するなよ」

 

『【ドラゴナイトストライク】!』

 

エムが口から発射した炎と両腕から放ったクロス斬を遅かれながら救援にやってきた部隊へと放ち、彼らを一瞬で吹き飛ばしていった。そして、パラドクスはと言うとマイとユイを発生させた黒い竜巻の中に閉じ込めてしまった。

 

「敗者には敗者に相応しいエンディングってものがある。それを見せてやるよ。【タドルスラッシュ】!」

 

そして2人へと放たれる紫の斬撃。そしてそれはマイとユイを両断すると2人はポリゴンとなって消滅。これにより、守る対象がいなくなった【集う聖剣】の部隊は慌てて蜘蛛の子を散らすように逃げていった。守る対象もいないのにこのまま無駄に一個しかない命を捨てるわけにはいかないのである。

 

「おっとお前らも逃がさな……」

 

「パラドクス、そこまでだ。引くぞ」

 

ブレイドはキングフォームを解除すると近くに出てきたテイムモンスターのキングと共に引き返していった。それと同時にエムの【擬人化】も解けてしまいパラドクスは仕方なくブレイドの後を追って行くのだった。

 

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イベント1日目現在の戦況

 

サリー、カスミ、ドレッド(機械兵から逃げながら撤退中)

 

ミィ対ペイン

 

カリス対キラー

 

ギャレン、マリア対クロム、イズ、ヒビキ

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

メイプル 脱落    ブレイド

セイバー       ギャレン

サリー        カリス

ヒビキ        レンゲル

カスミ        ミィ

クロム        パラドクス

イズ         マルクス

カナデ        ミザリー

マイ 脱落      ヒナタ

ユイ 脱落      キャロル

ペイン        リリィ

ドレッド       ウィルバート

フレデリカ      マリア

キラー        




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと逃走

メイプルの敗北。それは【楓の木】及び【集う聖剣】の面々に大きな衝撃を与えた。今まで、彼女が苦戦することはあっても負けるような事は一度も無かったからである。そんなメイプルの敗北はセイバー達にとって完全な予想外の出来事であった。まさか、こんなにも早くやられるなどとは考えなかったのである。

 

「くっ、メイプルに敵を集中させる考えが裏目に出たか……一先ずサリーとカスミ、ドレッドさんに引くように連絡を入れないと。あの3人が今一番狙われる対象だからな」

 

セイバーは痛む体を動かして3人へと連絡を送る。その一方で、連絡が行った3人はと言うと、リリィが呼び出した機械兵から逃げ回っていた。

 

「セイバーから連絡だ!今すぐに撤退してくれと」

 

「そんな事言ってもこの機械兵、数は多いし連携してくるしで撒くのはそう簡単じゃないのよ!」

 

3人はテイムモンスターであるブレイブとユキミに乗っており、機動力の面で機械兵を超えているとはいえ、機械兵は見事な連携力で3人が逃げる先を予測し、先回りをしてくる。明らかに相手の動きを学習しているそれは高性能のAIを搭載しているようだった。

 

「どうする?このままだと逃げ場を失った時に辛いぞ」

 

「どうにか俺達もブレイブに乗れればそのまま空を飛びながら脱出できるんだが……それも今は難しそうだな」

 

「というか、以前見た時はこんな動きをしてこなかったんだけど?」

 

サリー達は以前にもこの機械兵を何度か目撃していた。しかしその時は今回のようにここまで細かい動きはして来なかった。つまりは何かの仕掛けが付与されているという事である。今はその仕掛けについてを考えている暇は無かったが。

 

「逃げてばかりじゃその内追いつかれる。どうにか数を減らそう!」

 

「だな。【旋風連斬】!シャドウ、【覚醒】!【影の群れ】!」

 

「【ウインドカッター】!ブレイブ、【爆炎玉】!」

 

「【血刀】!」

 

3人は自らとテイムモンスターの範囲攻撃系スキルを使用しながら機械兵を次々に葬っていく。それでも数が多すぎてキリが無いのだが、もうすぐで城下町を抜けて来る時に穴を開けた城壁部分に到達できるのでそこまで行ってしまえば後はドレッドとカスミがブレイブに飛び乗るだけである。

 

「良し。このまま城壁まで逃げよう!」

 

「ああ。立ち止まればすぐに捕まる。ならば早いに越したことは無い!」

 

「最悪城壁まで着けば何とかなるだろ」

 

3人はそう考えながら逃げ続ける。しかし、そう簡単に事は運んでいかない。機械兵から逃げる3人の行く先に1つの影が躍り出た。その影からは大量の弾丸のようなものが発射され、3人は咄嗟にテイムモンスターを戻すと横に跳んで躱した。

 

「今度は何?」

 

「新手の敵か」

 

「面倒なタイミングで来てくれたなぁ」

 

三者三様の感想を述べているとそこにいたのは黒髪に白い顔をして黒と黄色い服を着た機械のような女性だった。

 

『……目標補足。マスターの命によりこれより敵を派手に掃討する』

 

「機械仕掛けの女性。これもプレイヤーなの?」

 

「いや、この感じはテイムモンスターみたいなパターンだな」

 

「となると誰が奴の主なのか……」

 

『私は4人の自動人形(オートスコアラー)の一角、レイア。私に地味は似合わない。だから初めから派手に行く!』

 

レイアと名乗った自動人形は手にした金のコインを両手から射出するとそれで弾幕を張った。

 

「「「!!」」」

 

3人はそれを躱していくが、その速度はかなりのものであり、回避するだけでもかなり難しかった。

 

「コインの弾丸……銃から撃ってるわけじゃないのにあの速度、かなりの使い手ね」

 

「ったく、コイツを倒すのはかなり手がかかりそうだが、更に厄介な奴等が追いついてきたぞ」

 

ドレッドがそう言って振り返ると後ろには3人を追いかけてきた機械兵がやってきてしまった。

 

「ここに来て挟まれたか。サリー、どうする?」

 

「カスミとドレッドさんは機械兵の相手をお願い!私でこっちの自動人形を討伐するわ。流石にここまで機械兵の発生元であるリリィさんから離れていれば倒した後の増援が来るまでに時間がかかる。隙を見てブレイブに乗って脱出するよ!」

 

「わかった」

 

「任せるぞ!」

 

3人は即興で作戦を決めるとそれぞれの相手に向かっていくことになった。

 

『派手に仕留める。【ガトリングコイン】!』

 

レイアが再び両手から大量のコインをガトリングのように連続射出。サリーは集中力を高めた本気モードでその弾幕を間一髪で潜り抜けていく。回避しているとはいえ並大抵のプレイヤーであれば1発当たるだけで次の弾丸に多段ヒットしてしまいHPをゴリゴリと削られてしまうだろう。低耐久のサリーであれば尚更である。それがわかっているからこそサリーは攻撃に絶対に当たらないように細心の注意を払っていた。

 

『中々やるな。だが、【エクスプロージョンコイン】!」

 

サリーが弾幕を抜けてレイアまであと一歩になった瞬間、サリーの真上から巨大なコインが落下。サリーはそれを躱すために咄嗟に立ち止まるがそれが命取りだった。

 

その直後にコインは20枚に分裂。そしてレイアが1枚のコインをぶつけるとそれだけで20枚のコインが次々に弾かれていきサリーへと降り注いだ。

 

だが、集中力を高めた今のサリー相手では一見不意をついたこの攻撃も無意味に等しかった。サリーは降り注ぐコインは全て回避し、レイアの目の前へと現れる。

 

『!!』

 

「あなたに近づいてさえしまえば!」

 

サリーはレイアの前にまで到達すると両手のダガーを振り抜く。だがそれは硬い何かによって防がれた。レイアが両手に握っていたのはコインを重ねて生成したトンファー。それでサリーのダガーを防御したのだ。

 

「防いできたか。けど、これでどうかな?【サンドボール】!」

 

サリーはレイアへと土属性の球を作り出してぶつける。レイアはこれをトンファーでしっかりと防御したもののゼロ距離でぶつけられたために一瞬その体がよろめいた。その隙をサリーは逃さない。

 

「【クインタプルスラッシュ】!」

 

サリーから放たれた連撃。それがレイアの体を一瞬にして切り刻む。流石にこれで倒れる事は無かったが、それでもレイアに警戒心を与えるには十分だろう。

 

一方で機械兵達をあいてにしているカスミとドレッドの方は足を常に動かしながらの機動戦を展開していた。

 

「足を止めるなよ。止めた瞬間に狙い撃ちだ」

 

「わかっている。右側の敵は任せた!【一ノ太刀・陽炎】!」

 

カスミとドレッドが次々と銃を向けてくる機械兵を破壊、殲滅していく。2人にはサリー程の回避力は無い。だが、カスミの攻撃範囲の予測とドレッドの危険を感知するセンサーによって機械兵がどんな攻撃をしてくるかはある程度は知ることができる。これによって2人は機械兵に撃たれる前に攻撃をすることができた。最も、一度機械兵に攻撃をされて足が止まればその隙をつかれて集中砲火を受けてしまうだろう。

 

「シャドウ、【影潜り】!」

 

「【四ノ太刀・旋風】!」

 

2人は無双を続けており、機械兵は手にした銃を撃つ間も無いままに倒されていく。このままいけば全滅させるのも容易だろう。しかし、それはこのままいけばの話である。機械兵は2体で1組となると合体し、戦車のような形へと変化した。

 

「ここでパワーアップだと?」

 

「くっ、これはかなり厄介だな」

 

戦車へと変化した機械兵達はその砲門を2人へと向けると砲撃を放ってきた。

 

「おいおい、更に面倒な事になってるじゃねーか」

 

「防御力も上がってる!恐らく火力も。こんな形態、今まで無かった」

 

2人は何とか戦車を破壊しようと攻撃するも、先程よりも大きく上昇した耐久性を前に苦戦を強いられた。

 

「【ウインドカッター】!」

 

「【六ノ太刀・焔】!」

 

ドレッドが風の刃で戦車を切り裂き、カスミは炎の刀で戦車を両断する。2人は戦車を一台ずつ確実に崩していく。そして、2人がある程度戦車を破壊すると漸く2人を囲んでいた機械兵や戦車の密度が減ってきた。

 

「サリー!そろそろ敵の数も減ってきた!撤退するぞ」

 

「わかった!ブレイブ【覚醒】、【巨大化】!」

 

サリーは頃合いを見てブレイブを呼び出すと3人が同時に乗れるように【巨大化】させる。

 

『逃がさない。【ガトリングコイン】!』

 

「はあっ!」

 

レイアは【巨大化】していくブレイブを撃墜しようとコインを乱射するが、サリーがその間に割って入ると持ち前の動体視力と反射神経で全て叩き落とした。

 

『む……』

 

「「【超加速】!」」

 

「【黄泉への一歩】!」

 

その間にカスミとドレッドが【超加速】によって速度を上げるとブレイブへと飛び乗り、ブレイブが空中へと飛び始める。続けてサリーも空中に足場を作るとそのままブレイブへと乗って3人が揃ったことを確認してブレイブは城壁を越えて炎と雷の国の城を後にした。

 

『マスター、申し訳ありません。取り逃しました。次の指示を』

 

レイアはマスターと呼んだプレイヤーからの指示を受けるとそれをすぐに実行へと移した。

 

『【マスターワープ】!』

 

レイアがそう言うとそのまま姿が一瞬にして消えていき、目標を失った機械兵達もそれ以上の深追いはせずにその場から撤退する事になった。

 

その頃、水と氷の国の城ではギャレン、マリアの2人率いる軍勢が未だに城壁辺りでヒビキ、クロム、イズの3人に足止めを受けていた。城壁の周囲に存在する堀が2人の元へと進軍するのを阻害しており、更には堀の向こう側からメイプルと入れ替えたモンスター、シロップが軍勢の行く手を遮り、ワンデスで退場という事もあって完全な膠着状態になっていた。

 

「……どうやらブレイドがメイプルを倒したみたいね。こっちもそろそろ潮時かしら」

 

「これ以上攻めても突破は厳しいだろうし、下手をすればベルベットを倒したセイバーが来るかもしれない。それにここで無駄に味方をやらせる訳にはいかないからな。隙を見て退こう」

 

2人は撤退も視野に入れていた。ブレイドがメイプルを倒した後に退いた事や、ベルベットがやられた事もあってこのまま王城を狙う戦略を続ければブレイドやベルベットに向いていた敵がやってきて敵地で孤立する事になるだろう。2人はその前に軍勢を纏めて撤収を視野に入れていた。

 

そして、城を守っているヒビキやクロム、イズも同じ事を考えていた。

 

「多分そろそろ奴等は退くだろうな。後は退く所に追い討ちをかけるかどうかだが……」

 

「あまり無理はしたく無いわね。こっちにも数に限りがあるし、NPCの兵士が入ってるとは言っても追撃して無駄に損害は出せないわ」

 

「でも、このままタダで逃しても良いんですか?減らせる時に数は減らしておけば良いと思うんですけど」

 

「難しい所だろうな」

 

3人が考えているとそこに今まで他の場所である作業を行なっていたカナデがやってきた。

 

「3人共大丈夫?」

 

「カナデか。今、ここを攻めていた敵からの攻撃の手が止まってな。そろそろ敵も退き時だと思ってると考えてるんだが」

 

ここに集まっている4人の内、ヒビキとクロムは本来近接戦闘を主に行なっているために遠くから攻撃を撃ち合っている今の現状ではそこまで戦力になれているとはいえないだろう。だが、2人の存在が確かに敵に脅威として見られているという点からは十分に役割を果たしているとも取れる。

 

暫くの睨み合いの内にギャレンとマリアが取った手は……。

 

「撤退よ。敵は私とギャレンが引きつける。その隙に私達の国境にまで一気に……」

 

『その必要は無いぞー!』

 

「お前は……」

 

そこに現れたのは赤い髪をしており、レイアと同じように白い顔をした機械の少女が立っていた。

 

「確か、ミカ……で良かったわね?」

 

『そうだぞー。マスターの指示でここから退く手伝いをしに来たぞ』

 

「戦闘特化のお前が来るとは送り主のアイツは何を考えているんだ?」

 

『取り敢えず、軍勢の皆はこれを1人1個ずつ持っておくんだぞ』

 

ミカと呼ばれた機械の女性が手にしていたのは小さな赤い石のような物だった。

 

『これはテレポートジェムだぞ。これを使えば指定した場所にまで一瞬で移動できるぞ。場所は私達の城を指定してあるから遠慮なく使うんだぞ』

 

それを聞いたマリアとギャレンはすぐに軍勢達に使うように指示。この場にはミカ、マリア、ギャレンの3人のみが残される事になった。そしてそれを見たヒビキ達4人は驚きの表情を浮かべた。当然である。突如として自分達を攻めていた軍が消えたのだ。その上、本来であれば追撃である程度の損害を与えるチャンスを失ってしまったのだ。これではこれ以上敵にダメージを与えられない。その焦りがヒビキに突出を決意させた。

 

「ヒビキ待て!これは罠だ」

 

「だとしてもこのまま逃すわけには行きません!セイバーお兄ちゃんの頑張りを無駄にしないためにも!!」

 

ヒビキはクロムやイズの静止を振り切って飛び出してしまい、3人は一瞬唖然とするが、すぐにカナデが正気を取り戻す。

 

「僕も行くよ。引きずってでもヒビキを生きて連れ戻す」

 

カナデがヒビキを連れ戻すためにその後を追っていく。

 

そしてヒビキがミカの元に着く頃にはギャレンとマリアもテレポートジェムで撤退した後だった。

 

『お、強そうな奴がやって来たんだぞ』

 

「あなたがマリアさん達を逃したんですね……私と勝負です!」

 

『良いんだぞ。この私、ミカが相手になるぞ!』

 

ヒビキの言葉にミカは嬉しそうに笑うと手からカーボンロッドを手に握ると向かってくるヒビキと激突した。

 

「はああっ!」

 

ヒビキは連続でミカに殴りかかるもののそれは全てミカが手にしたカーボンロッドに防がれてしまう。

 

『そんなに荒れてたら勝てるものも勝てないぞ!』

 

ヒビキは焦っていた。このままではせっかく自分達の本陣にまで敵を引きつけたことが無駄になってしまうと。更にメイプルがやられたこともあって1人でも強い敵を倒したいとも考えていた。そのためにヒビキは周りが見えていなかった。その焦りが命取りであるとも考えずに。

 

「【我流・火炎龍撃拳】!」

 

ヒビキが炎の龍を纏わせたパンチをミカへと繰り出す。だが、それは無情にもミカが下にかがむ事で躱されてしまった。

 

「なっ!!」

 

『さよならだぞ』

 

ミカは手からカーボンロッドを射出。それはヒビキの腹にクリティカルヒットするとヒビキは空中へと打ち上げられた。そして、空中でカーボンロッドが爆発し、ヒビキは何とか耐えたもののそのまま地面へと落下を始めた。

 

「……そん……な……」

 

『【ペネトレイトロッド】だぞ!』

 

ミカがヒビキへとトドメを刺すために髪に装備されたバーニアを使って加速。手にしたカーボンロッドでヒビキを貫こうとした。このままではヒビキはミカに仕留められてしまったであろう。しかし、何とかヒビキを連れ戻しに来たカナデが間に合った。

 

「【魔力障壁】!」

 

カナデが発生させた障壁によってミカが足止めされている間にカナデがヒビキを受け止めると立たせた。

 

「カナデ……私……」

 

「反省は後。今はコイツを倒すよ」

 

「うん……」

 

感情に任せて無理に戦った事を反省するヒビキにカナデが彼女を励ますと2人は構えた。それを見たミカはやる気満々であり、カーボンロッドを二刀流にした。

 

「フェイ、【覚醒】!【森の怒り】【アイテム強化】【精霊のいたずら】【リサイクル】!」

 

カナデはイズと交換したテイムモンスター、フェイに指示を出すとカナデがインベントリから出した爆弾が変化して大幅に強化された。そしてそれをミカの近くへと次々に設置していく。因みに、【精霊のいたずら】の効果でミカにはこの爆弾が見えていない。ミカがこのまま2人へと攻撃を仕掛ければ爆弾を踏んで爆発させていただろう。

 

『無駄だぞ。【グランドフレイム】!」

 

ミカが自身の周囲に炎を発生させると爆弾を強制的に爆発させてしまった。ミカはその爆風に包まれるがそれが晴れると彼女は無傷だった。その理由は彼女の周りに展開された炎が集まってバリアフィールドのように展開し、彼女を防御したからだ。

 

「これを防ぐか」

 

『その攻撃。そっちの猪女よりはマシだったぞ』

 

「猪!?」

 

ヒビキは挑発された事に苛立ちを覚えるが、ミカは余裕そうな表情を崩さない。このまま乱戦に突入……するかに見えたが、ミカに連絡が入った。

 

「“何をしているミカ。今すぐに撤収しろ。お前に命じたのは味方の撤退だ。それ以上の事をするな”」

 

テレパシーで伝えられたその言葉にミカは少し考えるがマスターの命は絶対のためにその場から離れる事を選んだ。

 

『【マスターワープ】!』

 

ミカがそのスキルを口にするとレイアと同様にその場から姿を消した。そしてそれはミカが敵の陣地へと戻った事を示していた。

 

「逃げたか」

 

「ごめんなさい、私が至らなかったせいで……」

 

「気持ちはわかるよ。けど、ここでヒビキまで失ったら勝てる勝負も勝てなくなる。ヒビキはもう少し冷静にならないとね」

 

カナデはヒビキを連れていくとそのまま城へと戻っていくのだった。

そしてそれと同時刻、ペインと戦っていたミィ及び、キラーと戦っていたカリスも孤立するのを嫌って相手との勝負を預けてテレポートジェムを使用し撤退。これにより水と氷の国側での戦いは一時的とは言え幕を閉じた。しかし、それは主力メンバーのみの話であり他のギルドが個別で攻めたり守ったりの小競り合いは続く事になる。

 

そしてブレイブの上に乗って撤退中のサリー、カスミ、ドレッドは今現在、地上へと叩き落とされていた。何故こうなってしまったのか。それは数分前にまで遡る。

 

「もうすぐで国境だな」

 

「何とか戻れそうね」

 

「このまま何も無ければな」

 

3人が話しているといきなりブレイブの体が揺らぎ始めた。

 

「どうしたの?ブレイブ」

 

サリーがそう言った瞬間、突如としてブレイブの体が地面へと吸い寄せられ始めた。

 

「うわっ!?」

 

「何だ」

 

サリーが咄嗟にブレイブを戻すと3人はそのまま落下を始めた。3人が落下していく先は運悪く溶岩の湿地帯だった。これでは3人纏めてダメージを負ってしまう。そこでサリーが【黄泉への一歩】を使い空中に足場を生成すると3人はその足場を踏みながら何とか溶岩の無い場所にまで降りることができた。

 

3人が無事に降りたのも束の間、そこに竜巻と氷の弾丸が飛んできた。

 

「【六ノ太刀・焔】!」

 

この攻撃はカスミが捌き、防いでいく。するとそこに出て来たのは2人のプレイヤーと2体の機械人間だった。

 

「どうやら凌いだみたいだな」

 

「ご無沙汰しています」

 

「キャロル、ヒナタ!」

 

そして機械人間の内、1体は片手に剣を持ち、緑の服に身を包んでいた。そしてもう1体は水色の服に身を包んだ子供のような少女だった。2体の共通点としてはレイアやミカのように顔が白い点である。

 

『私は自動人形のファラ。マスターの命によりあなた達を倒します』

 

『同じくガリィよ。ガリィにかかればあなた達なんてすぐに終わるわ』

 

「これは面倒な奴に捕まったなぁ……」

 

「それで、そっちの2体の人形さんは2人のテイムモンスターみたいなもの?」

 

「いえ、私は違いますよ。2体共キャロルの相棒です」

 

「何だと?1人で2体分を従えているのか?」

 

カスミが驚いた表情をするとキャロルは溜息をついた。

 

「お前ら、何か勘違いをしてないか?いつ俺の相棒が2体だけだと言った」

 

「……え?」

 

すると3人の後ろにレイアとミカがワープをしてきて3人は完全に囲まれてしまった。

 

「しまった!!」

 

「まさか、4体共キャロルが従えているのか」

 

このままでは3人共キャロルとヒナタ及び、キャロルが従える4体の自動人形に数の暴力でやられてしまうだろう。しかし、そうはならなかった。

 

「最光抜刀!オラオラ、どけよ!!」

 

そこにレイアとミカの後方から最光の姿をしたセイバーが2体を斬りつけて道を開けさせた。

 

「セイバー!?」

 

「3人があまりにも遅いんで迎えに来ました」

 

「それは助かるが体は大丈夫なのか?」

 

「問題無しです」

 

セイバーはこう言ったものの実際はかなり無理しており体へのダメージが抜けきらないままここにやって来ていた。そのため、戦闘になってしまえば逆に足手纏いになるだろう。そうさせないためにセイバーはすぐにその場から脱出するための手を打った。

 

「退きますよ!【発光】!」

 

セイバーは自ら眩い光を放出させるとその場にいるキャロルとヒナタ、4体の自動人形の目を眩ませ、4人でその場から逃げていった。

 

「逃がしたか。ヒナタ、追うぞ」

 

「待ってキャロル。ブレイドからは深追いは無しって言われてる。これ以上はやめておこう」

 

「く……ベルベットの仇は俺が取りたかったが仕方ない。お前達、一旦戻れ」

 

『『『『はい、マスター』』』』

 

そう言って4体の自動人形はキャロルの指輪に戻っていく事になった。

 

空の太陽は既に沈みかけている。そしてそれはイベントの1日目がもうすぐ夜に移る事を示していた。

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        ギャレン

ヒビキ        カリス

カスミ        レンゲル

クロム        ミィ

イズ         パラドクス

カナデ        マルクス

ペイン        ミザリー

ドレッド       ヒナタ

フレデリカ      キャロル

キラー        リリィ

           ウィルバート

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと立て直し

第10回イベント1日目の夜。双方の主力メンバー達はそれぞれ味方の陣営に戻るとそれぞれ事前に練っていた作戦を続行するか変更するかの2択を迫られていた。特に【楓の木】と【集う聖剣】の同盟軍側は作戦の軸であったメイプル、マイ、ユイの3人の極振りメンバーを失って作戦の変更を余儀なくされることになっていた。

 

炎と雷の国side

 

こちら側ではブレイドが守備を他のギルド等に任せて主力メンバーを集めての会議を開いていた。

 

「2日目以降の大まかな作戦はイベント前に立てたもの通りだ。ベルベットとシンの2人が早期に破れたのは痛いが、まだ向こうとは違って致命的じゃない」

 

ブレイドのその言葉にリリィが反応することになった。

 

「何故向こうは致命的なダメージを負っていると思う?」

 

「それは向こうは恐らく作戦の軸にメイプルとセイバーの2人を据えていたからだ。メイプルは防御、セイバーは攻撃。それぞれが決して小さくない役割を持っていたと俺は睨んでいる。現にメイプルは我々からの猛攻を凌ぐ盾として活躍していたし、こちらのプレイヤーの多くを彼女へと向かわせないといけなかった。おかげでメイプルは倒せても多くの犠牲を払った事になるだろうな」

 

ブレイドが言う通りメイプルはその存在だけで高い脅威となっていた。そのために彼女を倒すためだけの理由で多くの人員を割かなければならなかっただろう。そしてそれは炎と雷側の陣営に属するプレイヤーの数を予想より多く減らさせる事に成功していた。

 

「なるほど。そこで明日はリリィとウィルバートが出ると言うわけだな」

 

ミィの言葉にブレイドは頷く。リリィやウィルバートが2人で動けば足りなくなった人員の数をリリィの機械兵が埋めてくれるだけでなく、これ以上炎と雷の国側の陣営に属するプレイヤーを減らさずに敵の数を減らすことができるだろう。

 

「それは良いのだが俺の自動人形はやはり出さないとダメなのか?」

 

「できるなら出してもらいたい。これは勝つためだ」

 

「仕方ないな……だができるなら自動人形には大きなコストがかかっている。破壊されると恐らくこのイベントではもう使えないと思ってくれ」

 

キャロルは渋々の表情であった。彼女の言う通り彼女のテイムモンスター枠の自動人形達は一度起動すれば高い戦闘能力や課された使命を忠実に遂行するものの、破壊されてから再起動するためには多くのMPを消費する。キャロル自身のMP消費量も相まって乱発はできない代物だった。要するにハイリスク、ハイリターンの相棒達である。

 

「そこは向こうの。いや、セイバーの動き次第だ。明日のコンタクトで俺達は彼にどれだけ負担を与えられるか。それにこの勝負の行く末がかかっている」

 

「……あの、セイバーさんの事だから自分に負担をかける戦法だってことを見抜いて来たりはしないんですか?」

 

「そうそう。セイバーはかなりの切れ者だしね。ブレイドがそういう作戦で来ることはわかっているんじゃないかな」

 

「私もヒナタとマルクスに同意見です」

 

ヒナタ、マルクス、ミザリーはそれぞれ心配の声を上げるとブレイドはニヤリと不敵に笑った。

 

「何だ?もしかしてそれも想定済みだとでも言うのか?」

 

「恐らくはな。ブレイドは多分セイバーがこの作戦にわかっていても掛からざるを得ない状況に今なっていると考えている」

 

「メイプルを早期に倒したのもその布石だと思うな」

 

「俺達のマスターは本当に恐ろしい事を考えるね。しかも、俺達全員でセイバーを潰しに行く辺り彼を相当警戒しているみたいだし」

 

パラドクスの指摘にカリス、ギャレン、レンゲルが次々とブレイドの考えを代弁していく。それを聞いていたブレイドがその考えを肯定するとそれぞれの持ち場へと行くように指示を出し、そこからの裁量はそれぞれに任せる事を伝えた。

 

「ふん。ベルベットも何でアイツと同盟を組むなんて言い出したんだ?これではブレイドに従っているようなものだろ」

 

ベルベットを失ってイベント内での実質的な【thunder storm】の指揮官となったキャロルは持ち場に分かれていく途中に僅かに苛立ちながらそのイライラをヒナタへとぶつける。ヒナタは少し考えてからその言葉に返事を返した。

 

「私もそう思う。でもマスターの決定だし、それに同意する事を決めたのは私達もだよ」

 

「それはそうだが……」

 

それでもまだキャロルは納得が行かない様子だった。彼女が苛立っていると同様に【炎帝ノ国】でもパラドクスが反論を示していた。

 

「しらけるぜ。何で俺がギルドマスターでも無いアイツに従わないといけないんだ」

 

「仕方ないよ。ミィがその条件を呑んだんだしミィにも考えがあるんだよ」

 

「今は勝つ事を考えましょう」

 

「すまないな、パラドクス。私の我儘に付き合わせてしまって。私としてはどうしてもあの2つのギルドとの因縁に決着を付けたいという気持ちが勝ってしまった。今度、お前の望みも聞いてやる。だから今は戦いに集中してくれ」

 

「わかった……俺こそすまない。文句を言ってしまって……」

 

そして【ラピッドファイア】の方も意見を交流していた。

 

「敢えて黙っていたけど私は少し危ういと思うわ」

 

そう口を開いたのは先程の会議で終始無言を貫いていたマリアである。マリアはあの状況で口出しすれば話が悪化すると考えて何も言ってなかった。

 

「そうか?私としてはセイバーに負担を与える戦法は間違ってないと思うが」

 

「そうじゃないわ。あの様子だと少なくともキャロルとパラドクスの2人は盟主のブレイドに好印象を持ってない。変な事をしないと良いけど……」

 

マリアの心配にリリィとウィルバートは彼女を安心させるように肩を優しく叩いた。

 

「そのためにあなたがいる。もしあの2人が暴走しそうだったらあなたが止めてあげて」

 

「マリア、もし私とリリィが倒されたその時は指揮を任せますよ」

 

「……2人がやられるなんてことは有り得ないと思ってるわ。だからそうなる事は無いわね」

 

そして今回のイベント内での作戦を提案したブレイド達【BOARD】の面々はと言うと……

 

「全く、何でこんな時にキャロルとパラドクスは素直に従わない。これで負けたらどうする」

 

「まぁ、気持ちはわからなくも無いがけどね」

 

「だが反抗するのは今では無いだろ。戦いに負けたら元も子もない」

 

ブレイドは3人の話を無言で聞いていたが頭の中では様々な思考が働いていた。

 

「(やはりこのギルド連合も即興で作ったが故の弊害が出てきてしまったか。これでは作戦に支障が出かねない。ここが我々の団結力を見せるべき時なんだが……。セイバー、お前ならこの状況でどう動くのか。そしてそれを俺は全て叩き潰す)」

 

夜も深まる中、【楓の木】と【集う聖剣】の陣営でも同じように2日目以降の作戦の変更について話し合いがされていた。ただ、こちらは作戦の軸であったメイプルを失っているためにより厳しい状況になっていた。

 

水と氷の国side

 

「さて、セイバー。君が考えた1つ目の作戦は実行不可になった。代わりの案がいるけど、どうする?」

 

メイプルがいなくなったために実質的な総大将となったペインが元の作戦の立案者のセイバーに問いかける。

 

「……正直別案も色々と考えてましたがそれがどれもメイプルありきの作戦が多かったのでかなり厳しいですね」

 

「おいおい、打つ手無しとでも言うつもりでは無いよな?」

 

ドレッドがセイバーに聞くとセイバーは首を横に振って考えを述べた。

 

「……今の現状、敵の戦力から考えて敵はリリィさんとウィルバートさんを軸にする可能性が高いです」

 

「そう考える理由は?」

 

「1日目でメイプル、マイ、ユイの極振り組とサリー、カスミ、ドレッドさんの奇襲組が相手のプレイヤー数をそれなりに減らしています。今回のイベントは3日間のみの戦いとは言えワンデスでのリタイアはかなり重たい。つまり相手はプレイヤーの消耗を抑えつつこちらを消耗させに来るはずです」

 

「そうね。例えばリリィさんの機械兵とか」

 

「戦ってみて思ったのだがアレは相当な強さだった。下手をすれば並のプレイヤーぐらいには強い」

 

セイバーの言葉に実際にリリィの機械兵と相対したサリーとカスミが同意の意見を話す。

 

「そこでこちらは城の守りにサリー、ヒビキ、ペインさん、キラーを残して残り全員でリリィさんとウィルバートさんを集中攻撃します」

 

「敵の策に敢えて乗ることで敵の主力を確実に潰す感じか」

 

「それは良いんだけどどうして攻撃力の高い4人が城の防御なの?」

 

イズの質問にセイバーが答えを返していく。

 

「さっきも言いましたがこの戦いはワンデスで脱落です。ですから耐久力が低く、仮にウィルバートさんの弓に当たったら1発で持っていかれるサリーは連れて行けません。そしてこの4人は最後の戦力として残します。最悪俺達の作戦が失敗した場合の保険として考えて貰えば良いです」

 

「ねぇー、さっきから思ってたんだけどリリィとウィルバートの対策は良いけど他の面子はどうするの?特に【BOARD】の主力メンバーなんて1人1人が厄介な上に全員残ってるのよ。高火力アタッカーならミィやパラドクス、キャロルもいるしサポートならヒナタやマリアもいる。その人達の対策は?」

 

フレデリカがセイバーの案の欠陥について指摘するとセイバーは覚悟を決めたように口を開いた。

 

「………全員俺が【分身】を使って引きつけます」

 

「ちょっと待ってよ!それってセイバーお兄ちゃんが囮になるって事でしょ?流石にそれは負担がかかりすぎるよ」

 

「僕も賛成はできないかな」

 

「セイバー、お前が考えた作戦で勝手に突っ込んで死ぬなら俺は止めない。だが勇気と無謀を履き違えるな。今のお前は危険だぞ」

 

ヒビキ、カナデ、キラーが相次いで猛反発し、セイバーは少し俯くがそれでも彼の決意は変わらなかった。

 

「幾ら無理だ、無謀だと言われても俺は考えを曲げるつもりはありません。少なくとも今戦力が残っている間にリリィさんとウィルバートさんだけは潰さないとダメなんです。他の敵は【BOARD】のブレイドさん以外なら俺でも十分相手取れますが2人が残っていると無限に死に戻りができる機械兵を生み出してきます。そうなったら俺の体力が尽きるまで粘られて負けになります。それでも良いんですか?」

 

セイバーの覚悟はそう簡単には変わらなさそうだった。しかし、それでもセイバーの事を心配するヒビキは彼へと詰め寄った。

 

「だとしてもセイバーお兄ちゃんだけそうやって無理するなら私も攻撃に参加する。セイバーお兄ちゃんだけに負担はかけさせない!」

 

「ダメだ。お前は特に感情で飛び出しがちなんだ。今日だって自動人形相手に無理に飛び出してやられかけたって聞いたぞ」

 

「それはそれ、これはこれだよ!私はセイバーお兄ちゃんが心配で……」

 

次の瞬間、セイバーはヒビキに思い切りビンタをしていた。

 

「俺の心配をしている暇があったら自分の体力を温存させる事に集中してくれ。お前を含む4人は最後の戦力。俺達7人は今回の戦いで敵戦力を可能な限り削らないといけない。そこでお前まで消耗させる訳にはいかないんだよ……俺の気持ちを少しは考えてくれ……」

 

「セイバーお兄ちゃん……サリーお姉ちゃんは、サリーお姉ちゃんはこれで良いの?セイバーお兄ちゃんだけに無理させて本当に良いの?」

 

サリーはその話を無言で聞いていたがサリーも覚悟を決めた顔つきで口を開いた。

 

「セイバーの言う通りにしましょう」

 

「……え?」

 

「ハッキリ言って私もこの作戦には納得がいかない。けどセイバーが言うことにも一理はある。今戦力が残っている間に倒さないといけない敵を確実に倒すのは良い考えだと思う。だから私はセイバーの案に賛同するわ」

 

ヒビキがそれ以上言葉を口にしようとしてサリーを見るとそこではサリーが悔しそうに唇を噛んで怒りを抑えている様子が映ってきた。

 

「サリー……お姉ちゃん」

 

「わかった。セイバーの案に俺も同意するよ。正直、皆思う所はあると思うがこれも勝つためだ。今やるべき事を全力でおこなってくれ」

 

それからそれぞれのギルドメンバー達は自分達の役目を果たすために持ち場へと散っていく事になる。そんな中、城に残ったヒビキの元にサリーがやってきた。

 

「……ヒビキ。さっきはセイバーが無茶言った時に止めてくれてありがとう」

 

「サリーお姉ちゃん。でも結局私はセイバーお兄ちゃんを止められなかった」

 

「アイツは今、責任を感じてるのよ」

 

「責任を?」

 

「アイツは今、今回のイベントでメイプル、マイ、ユイ、そしてドラグさんが最初の1日でやられたのは自分の作戦が悪かったからって考えてるの。そして同時に何が何でも自分の手でその責任を取らないといけないって思ってる」

 

「だからってあんな作戦を提案しなくてももっと他に方法があったはずじゃ……」

 

「アイツは意外と不器用でね、あんなやり方でしか責任を取れない奴なのよ。だから今回はアイツの我儘に付き合ってあげて。アイツにしっかりと責任を取らせてあげて欲しいんだ」

 

「…………」

 

2人が話している間に日付が変わり、イベントは2日目に突入した。そして夜が明け、少しずつ太陽が昇っていく。イベントのフィールドでは嵐の前の静かさが漂っていた。その静けさは戦いが始まればあっという間に吹き飛んでしまうだろう。だが、それでも今はその静けさが無限に続くかに思えるようだった。

 

その沈黙を破ったのは1発の矢だった。その矢は【集う聖剣】のギルドに所属する兵士の体を貫き、一撃でその体をポリゴンへと変えさせた。

 

「……捉えたぞ。2人組!!ウィルバートさんとリリィさんだ!!」

 

セイバーの【気配察知】にかかったプレイヤーを仕留めるべくその方へと歩みを進めていく。そしてそれはリリィやウィルバートからも感じ取れていた。

 

「アイツが来るな。ウィル、最初の1発は任せるぞ」

 

「はい。可能であればそれで仕留めます」

 

「【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】【賢王の指揮】!」

 

リリィのスキルによってウィルバートの弓に赤い光が纏われていく。

 

「【引き絞り】【渾身の一射】」

 

限界まで引き絞られた弓から目にも留まらぬ速度で放たれた矢は直線状にいたモンスター、プレイヤーを次々に仕留めながらセイバーへと一直線に飛んでいく。そしてセイバーはそれを読んでいたかのように対抗策を言い放った。

 

「流水抜刀!【氷結化】!」

 

セイバーが自身の直線上に十数個の氷の塊を召喚。そして自身を氷の塊に閉じ込めた。その次の瞬間、飛んできた矢が氷の塊を次々に破壊、貫通しながらセイバーへと向かっていく。そしてセイバー自身を閉じ込めた氷に突き刺さるが、セイバーに届く寸前で勢いが完全に殺されてしまいセイバーの僅か1センチ前で矢は止まっていた。

 

「見つけた!【分身】!」

 

「月闇」

 

「最光」

 

「「抜刀」」

 

「【カラフルボディ】!」

 

セイバーは氷状態を解除すると3人に分かれてリリィとウィルバートの元へと向かって走っていく。一方で1発目で仕留めきれなかったためにセイバーに反撃の機会を与えた2人はまだ冷静だった。

 

「「【クイックチェンジ】!」」

 

「【我楽多の椅子】【命なき軍団】【玩具の兵隊】【砂の群れ】【賢王の指揮】!」

 

「【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】!」

 

2人は役職を入れ替えるとリリィがメインとなり再び大量の機械兵が呼び出された。そしてその様子は周辺にいた【楓の木】や【集う聖剣】等の水と氷の国側についている全てのプレイヤーに知れ渡った。

 

「おー、やってるねー」

 

「さっさと片付けるぞ。フレデリカ」

 

「わかってるよ。けど、今回ばかりは一筋縄じゃいかないかもね」

 

フレデリカがそう言っているとそこに炎弾が着弾し、2人は飛び退いた。

 

「うえっ、マジ?」

 

「どうやらアイツらのお出ましみたいだな」

 

そこにやってきたのは【炎帝ノ国】に所属するミィとパラドクスだった。ドレッドとフレデリカはそれを見て身構える。

 

「ペインはここにはいないか」

 

「誰が相手でも構わない。俺と遊んでくれよ」

 

「悪いがペインはここにはいない。代わりに俺達が相手だ」

 

「昨日はレンゲルに良いようにやられたけど今度はそうはいかないよ」

 

ドレッドとフレデリカの言葉にパラドクスはニヤリと笑うとダイヤル付きの長方形の物体を取り出し、腰に差さっていたもう1つの物体を抜いた。

 

「面白い。今回はこっちかな」

 

パラドクスがダイヤルを回転させると魔王の絵が描かれている方を上にし、それを腰に差し込むと自身の真上に魔王の顔をした鎧が出現。そしてそれがパラドクスに装着すると背中からマントが出て頭に黒いツノが2本生えたヘッドギアがパラドクスの頭に装備された。最後に手に剣が武装されるとブーツが紫に染まった。それはパラドクスが前日メイプル達と戦った装備であった。

 

「なんか魔王みたいね」

 

「そう思ってくれれば良いさ。この姿のモチーフはまさに魔王だからな」

 

そうしてミィ、パラドクス対ドレッド、フレデリカの戦いが開始されていく。場所は戻ってリリィとウィルバートへと向かっていく3人のセイバーの前に【BOARD】の面々が立ち塞がっていた。

 

「ここから先には行かせないよ」

 

「悪いが4人がかりでお前を倒させてもらう」

 

「お前さえ倒せばこっちの勝ちは揺るぎない物となるからな」

 

「セイバー、この前同様に勝たせてもらう」

 

「……それはどうかな?」

 

次の瞬間、ブレイド達4人の目の前に炎の壁が燃え盛るとそこに烈火を構えたセイバーが立っていた。

 

「聖剣を入れ替えたか。だが、変えた所で無駄な事だ」

 

しかし、そこにいたのはたった1人のセイバーだけであり【分身】によって生み出されたセイバーはいなくなっていた。

 

「む。わざわざ【分身】を解くとはお前、どういうつもりだ」

 

「ただでさえ数で不利なのに何かあるのか?」

 

「何も無いですよ。ちょっと分身達にはリリィさんとウィルバートさんの方に行ってもらっただけです。ただ、ここで言わせてもらいますが俺が【分身】達の本体です。つまり、俺を倒せれば【分身】は全部消えますよ」

 

セイバーはここに来てわざと分身の本体が自分である事を晒した。これではセイバーの本体が集中攻撃の的になってしまうだろう。しかしそれこそがセイバーの狙いだった。敢えて本体を晒す事で他の場所に向かう敵を少なくし、自分に敵を引きつけるつもりだった。

 

「なるほど。だが4人相手で勝てるとでも?」

 

「それはわかりませんができる限りの抵抗はさせてもらいます」

 

セイバーが4人相手に戦いを始めようとするとそこにカスミ、クロム、カナデ、イズがやってきた。

 

「皆さん!?何で……」

 

「サリーに頼まれてな。流石にこの状況でお前を失うのは痛すぎる」

 

「それに、1人で背負い込むくらいなら僕達も一緒にやるよ」

 

「それがチームでしょ?」

 

「お前ばかりに良い格好はさせないぜ」

 

「皆!」

 

「さーて、これで5対4だ。どうする?」

 

「丁度良い。ギャレン、カリス、レンゲル。この際に【楓の木】を一掃する」

 

「「「おう!」」」

 

こうしてこちらでも【BOARD】対【楓の木】による一大決戦が幕を開けるのであった。

 

そしてそれと同時刻、別の場所でも戦闘が行われようとしていた。

 

「リリィさんとウィルバートさんのサポートに向かうのが私の、私達の役目。それを果たさないと……」

 

ヒナタはキャロルから4機の自動人形を借りてリリィとウィルバートの元へと移動していた。因みに、何故最初から合流できてないのかと言うとキャロルがギリギリまで自動人形の内蔵MPを増加させるのに力を使っていたからである。

 

しかしそれが仇となり分身セイバーに捕捉されてしまった。

 

「【稲妻放電波】!」

 

「【アイスウォール】!」

 

セイバーからの先制攻撃は何とか凌いだものの黄雷を持ったセイバーがヒナタと自動人形達の前に立ちはだかっていた。

 

「あの2人のカバーにはいかせないぜ。ここで止めさせてもらう」

 

「……私達を相手に1人で戦うつもりですか?」

 

「ハズレだ。1人じゃ無くて……5人だ。【分身】!」

 

「激土」

 

「翠風」

 

「錫音」

 

「狼煙」

 

「「「「抜刀!」」」」

 

セイバーは黄雷、激土、翠風、錫音、狼煙をそれぞれ構えると4機の自動人形とヒナタ相手に数で互角となり睨み合った。

 

こうして他の局面で様々なギルドが入り混じって戦いを進める中、それぞれの主力ギルド達は2日目の激戦を開始していくのであった。

 

 

———————————————————————

イベント2日目、現在の戦況

 

ミィ、パラドクス対ドレッド、フレデリカ

 

ブレイド、ギャレン、カリス、レンゲル対セイバー(本体)、カスミ、クロム、カナデ、イズ

 

リリィ、ウィルバート対セイバー(分身)×3

 

ヒナタ、自動人形4機対セイバー(分身)×5

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        ギャレン

ヒビキ        カリス

カスミ        レンゲル

クロム        ミィ

イズ         パラドクス

カナデ        マルクス

ペイン        ミザリー

ドレッド       ヒナタ

フレデリカ      キャロル

キラー        リリィ

           ウィルバート

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと激戦

第10回イベント2日目。イベントの行われているフィールドでは各地で激闘が開始されていた。それぞれの陣営のプレイヤーは自分達のチームの目的を果たすために相手のプレイヤーとただひたすらに戦っていく。そして唯一【分身】によって多くの局面に対処ができるセイバーはリリィ、ウィルバートを速攻で倒すべく他のプレイヤーと共に機械兵達との戦闘を開始していた。

 

「オラオラ!お前らはお呼びじゃねーんだよ!」

 

流水、最光、月闇の3人と【集う聖剣】の軍勢、更に近くに集まっていたプレイヤーやモンスターと協力して機械兵を次々に葬っていく。だが、リリィがいる限り新たな機械兵が続々投入される事や、敵側のプレイヤーやモンスターの参戦で戦況は膠着状態だった。

 

「早く突破してあの2人を倒さないといけないのに……他の皆はここには来れなさそうな感じだからなぁ……せめて1人でも来れれば良いんだけど」

 

その頃、リリィとウィルバートの方では2人が自身も戦いに参加しつつ様子を伺っていた。

 

「中々すぐには崩れませんね」

 

「想定していた通りだ。そう簡単にやられては手応えがない。セイバーが相手なら尚更だ。ただ、そろそろこちらに形勢を傾けないとな。ウィル、アレをやるぞ」

 

「わかりました。【溢れる知性】、【隊列形成】!」

 

「アイ、【覚醒】!」

 

リリィがその言葉を発すると指輪から機械仕掛けの丸いキューブが出現。そしてそれは自身の周囲にパネルを作り出すとマスターであるリリィからの指示を待った。

 

「アイ、【進化する知能】【機械戦車】【鋼の装甲】」

 

リリィが次々とアイにスキルを使わせていくとイベント1日目にサリー、カスミ、ドレッドが苦戦した機械兵同士による合体で戦車を生み出し、前線へとそれを送り込んでいく。前線では戦車の登場により流れは僅かだがリリィ達の有利に傾き始めた。

 

「くっ、サリーから聞いていたけど硬い上に連携が面倒だな」

 

ウィルバートからのスキル【溢れる知性】によって機械兵の1体1体が知能を持つようになり、今までよりも高い連携力を発揮して敵を殲滅するようになっていた。流石にセイバーのような高い戦闘力を有するプレイヤー相手には効果は薄いものの、それでもそれ以外の普通のプレイヤー相手にとっては厄介この上無い強さになっただろう。

 

「【シャイニングブラスト】!」

 

「【月闇居合】!」

 

光の光弾と闇の斬撃が周囲に集まっている戦車や機械兵を倒し、破壊していくが次から次へと投入される戦力にセイバーさえも困り果てていた。

 

「クソッ!このままだと相手の陣形を崩せない。しかも他の皆は敵のランカーに足止めされてこっちに来れないし、俺の分身もあと2体分しか作れない。今呼んでも良いけどこれ以上体力を早く失うのは避けたいし……」

 

おさらいだがセイバーの【分身】は彼自身の体に負担をかけてしまう。今は最大11人にまで増えても耐えることができるがまだイベントは2日目のためここでフルで【分身】を使ってしまうと体力が保たなくなりいずれは負けてしまうだろう。

 

「こうなったら、キングエクスカリバー!」

 

セイバーがキングエクスカリバーを取り出すと巨大な剣が現れ、その圧倒的な質量と切れ味で機械兵や戦車を両断していった。そしてその様子を見ていたリリィとウィルバートに戻ると2人は未だに余裕そうな表情を崩していなかった。

 

「流石にセイバーの強さが相手だと有象無象の機械兵では相手にもならないか」

 

「ですがブレイドの指示通りセイバーに大きな負担をかけることができています。このままいけば彼は自滅するでしょう」

 

大量の手数で敵を殲滅していくリリィに投げナイフを使いながらリリィのサポートを行うウィルバート。物量重視のこのスタイルとなった2人に近づくのは容易ではない。それこそ機械兵の召喚速度を上回る速度で2人に近づくか、ウィルバートのように一撃必殺の狙撃を2人の内のどちらかに当てるぐらいしか突破方法は無いだろう。

 

「【氷塊飛ばし】、【氷獣大空撃】!」

 

流水のセイバーは氷の翼で空を飛ぶと空中から氷塊を発射して機械兵を怯ませていく。そこに最光と月闇のセイバーが追い討ちをかけて機械兵を破壊していった。しかし、機械兵もタダではやられるつもりは無いのか機械兵の内の何体かは武器を変形させてスナイパーライフルを生成。空にいる流水のセイバーを撃ち落とそうと狙撃を放ち始めた。

 

「嘘だろ!?」

 

セイバーは咄嗟に回避するが次々と放たれる狙撃を前に氷の翼の根元を貫かれてしまい片翼を失った影響でセイバーは地面へと落下。咄嗟に【氷結化】を発動して自身を氷漬けにすることでダメージは免れたもののそれでも圧倒的な機械兵の対応力を前にセイバーの思惑は崩されることになった。

 

「コイツ……学習が早すぎる。下手をすれば俺の聖剣全部に対応されるかもな。……わかってはいたが長期戦になればなるほど不利か」

 

セイバーがそう考えるも打開策があるわけでも無いためにここから更に戦いは泥沼に突き進んでいく。

 

場面は移ってドレッド、フレデリカ対ミィ、パラドクス方面になる。そちらではドレッドがミィと、フレデリカがパラドクスと戦いを進めていた。

 

「あはは!やっぱり強敵とのゲームは楽しいな!」

 

「そっちはそうかもしれないけどこっちはそうでも無いんだよね!」

 

フレデリカが遠距離から距離を取って【多重炎弾】や【多重石弾】等で射撃を続ける中パラドクスはそれをマントや魔法で防御しながら接近し、手にした剣を振るう。フレデリカもそれに一度でも当たれば終わると考えているのかすぐに防御を固めて防いでいく。

 

「【多重水弾】!」

 

フレデリカが今度は水の弾丸でパラドクスの動きを止めようと撃ちまくる。しかし、パラドクスはいつまでも防御のみに徹するつもりは無いのか対応策を取ってきた。

 

「【暗黒弾】!」

 

パラドクスが闇のエネルギー弾を水の弾丸にぶつけて相殺するとその隙にフレデリカへと近づいて剣を振り下ろす。フレデリカはそれを杖で受け止めるが、当然STRのステータスはパラドクスの方が上のためどんどん押し込まれていく。

 

「やっぱり強いわね。けど、これはどう?ノーツ、【覚醒】!【ボイスバレット】!」

 

フレデリカは小鳥のテイムモンスターであるノーツを呼び出すとノーツは口から衝撃波を放ちパラドクスを強制的に後ろへとノックバックさせた。流石にダメージはそこまででは無いものの今は距離を取れたことにフレデリカは安心する。

 

「【多重光弾】!ノーツ、【輪唱】!」

 

再びフレデリカが弾丸でパラドクスを牽制する。しかも今回はノーツの得意技である【輪唱】によって数が何倍にも増えている。流石にこれを凌ぐのは厳しいだろう。

 

「ならこっちはこれで行こう。【大変身】!」

 

パラドクスがすかさず腰にセットしてあるダイヤルを180°回転させると戦艦の方を上にし、腰にセットする。すると魔王のアーマーが消えると共に現れた戦艦がアーマーとして装着。以前セイバーとの共闘で見せた黒い戦艦の姿へと変化した。

 

「セイバーから聞いてるよー。それは遠距離戦が得意だったよね。私と撃ちあえるものなら撃ち合ってみなさい!【多重風刃】!ノーツ、【輪唱】!」

 

「【ロックオン】、【砲撃開始】!」

 

パラドクスがそう言うと体の砲台から大量の砲弾が発射され、フレデリカの放った風刃を全て撃ち落とすとその火力差で逆にフレデリカを攻撃した。

 

「マジ?【多重障壁】!」

 

フレデリカは咄嗟に防御をするが自慢の攻撃を凌がれたどころか反撃まで受けて悔しい気持ちだった。

 

その一方でミィ対ドレッドの方はというと、ミィが次々繰り出す炎弾や炎の魔法をドレッドは自らのプレイヤースキルである危険予知センサーを使って辛うじて回避していたが、中々自身の間合いに近づけなかった。

 

「【炎帝】【炎槍】【爆炎】【豪炎】!!」

 

「おいおい、そんなにドカドカスキル使って大丈夫なのかよ」

 

ドレッドが持ち前のスピードと反射神経で躱していくもその炎によって2人の周囲にある木や岩等の障害物は粉砕され、その障害物を盾にしていたドレッドは徐々に近づきづらくなっていくだろう。

 

「面倒だが、一気に近づいて攻撃を叩き込むか。シャドウ【覚醒】、【影の群れ】!」

 

ドレッドは狼のモンスターであるシャドウを呼び出すと影の狼を何体も生み出させてミィへと飛びかからせる。ミィがポーションを飲みながら炎で影の狼を焼き尽くすとその時点でドレッドの姿は目の前から消えていた。

 

「!!」

 

「【オクタプルスラッシュ】!」

 

ミィの攻撃を見事に隠れ蓑に利用して彼女へと接近したドレッドが連撃を叩き込む。ミィからダメージエフェクトが散り、彼女はよろめくがこれだけでやられるほどミィも弱くない。すぐに対応してきた。

 

「イグニス【覚醒】、【巨大化】【消えぬ猛火】!」

 

すぐにミィが不死鳥のモンスター、イグニスを呼ぶと圧倒的な火力を誇る範囲攻撃でドレッドのいる方向全てを焼き尽くそうとした。

 

「チッ。シャドウ【影世界】」

 

ドレッドはこれを受けると一度だけ耐えられるスキルを使わさせられるために咄嗟に切り札であるスキル、【影世界】を発動。ドレッドの体が影の中に沈むとミィの後ろへと出てくると今度は攻撃せずに距離を取った。このまま影から出た後に攻撃するのも可能であったが同じ手は通用しないだろう。対応される可能性を考えて距離を取る考えをしたのだ。

 

「【蒼炎】【業火】【灼熱】!」

 

ミィから繰り出される超火力の炎。それは再び距離を取ったドレッドを襲い彼を近づけさせない。

 

「……サリーみたいに俺も出来れば良いんだが、流石にあそこまでの回避能力は俺には無い。どうにか近づければそこまで耐久が高くないミィにもダメージが入るんだがな」

 

ドレッドが考えを巡らせているとそれと同時にミィもどうやってドレッドを倒すか考えていた。

 

「ドレッドの速度が相手では攻撃が中々当たらないな。ここでMPポーションを使いすぎるのも良くない。射程はこちらが勝っているから一撃でも入れられればそこから崩せるんだがな」

 

それぞれ、相対する相手を倒すために戦いを進めながらどう攻撃をしていくかを思考していくのだった。

 

場面は変わり、セイバーの本体を含めた【楓の木】の5人対【BOARD】の主力4人の戦いはセイバーがブレイドとカリスを相手取り、カスミとカナデがレンゲルを、クロムとイズがギャレンと戦っていた。

 

「カリス、セイバーの言うことが正しければこのセイバーを倒せば他の局面で暴れている分身のセイバーも消える。全力で仕留めにかかるぞ」

 

「ああ。【バイオ】!」

 

カリスは弓にカードを読み込ませると左腕から蔦を召喚。そしてセイバーを拘束した。

 

「そんなの効くか!【エレメンタル化】!」

 

「【スラッシュ】!」

 

セイバーは炎へと変化するとその力で自身を捕まえている蔦を焼き切り、拘束から逃れた。しかし、【エレメンタル化】を解くとそのタイミングでブレイドからの斬撃が当たってセイバーはダメージを受けた。

 

「連携力高いなぁ……。俺とキラーを倒した奴を同時に相手するのはキツイけど他の皆さんに負担はかけられないし、どうしたものか」

 

「ここで考え事とは随分と余裕だな」

 

「【ビート】、【メタル】!」

 

ブレイドが2枚のカードを読み込ませると右腕の拳に力が高められ、更には拳そのものが鋼鉄化。それによって威力が上がった拳が突き出された。

 

「うおらっ!」

 

「くっ」

 

セイバーは何とか烈火で受け止めるもののその威力で腕が一瞬痺れた。そこにすかさずカリスが弓を引き絞りエネルギーの矢が撃ち出された。セイバーはこれをまともに受けてしまいダメージを負った。

 

「この野郎!【爆炎紅蓮斬】!」

 

セイバーが炎のエネルギー斬を放つとブレイドはこれを剣で受け止めたがその威力で押し切り、お返しのダメージを与えた。

 

「カリス、2人で近接戦を行うぞ」

 

「わかった」

 

カリスはブレイドの指示通りセイバーへと近づくと見事な連携でセイバーを攻撃してきた。その連携は見事でありセイバーを追い詰めていった。

 

「マジかよ。戦闘での連携ってそんな簡単に出来るものじゃない。長い時間をかけて動きをしっかりと練って物にしないといけないのにそれをこんなに簡単にやるとは……相当訓練を積んだんだろうな」

 

セイバーは2人の連携力の高さを前に少しずつ攻撃に掠る事が増えてしまい、受け身になり続けていた。このままではセイバーは2人の連携の前に負けてしまうだろう。それだけは何としてでも避けなくてはならない。セイバーは2人の攻撃を凌ぎつつ活路を探すのだった。

 

カスミとカナデ対レンゲルの方ではレンゲルがカードからモンスターを呼び出す隙を与えないくらいに攻撃をし続けてレンゲルを受けに集中させていた。

 

「ユキミ、【覚醒】【ブライトスター】!」

 

カスミがユキミを呼び出すと球状にダメージを与える光を放ちレンゲルに命中させる。そこにカスミからの一撃が放たれた。

 

「【七ノ太刀・破砕】!」

 

カスミから放たれたノックバック付きの一撃を受けてレンゲルは後ろへと押し戻され、そこにカナデからの魔法が撃ち込まれる。

 

「【ファイアボール】!」

 

「チッ」

 

レンゲルがそれを受け止めるとその瞬間にカスミがレンゲルの目の前に現れ、妖刀でレンゲルを斬りつける。レンゲルはそれを辛うじて捌くがそこにカナデからの不意打ちの一手が飛び出した。

 

「ソウ、【覚醒】【擬態】!」

 

「何!?」

 

レンゲルが驚くのも無理は無い。何故ならイベント内でテイムモンスターが入れ替わっているという報告を受けていた彼はイズから借りていたモンスター、フェイを意識していたからだ。更に、カスミの方は未だにユキミを使っている所からもこれ以上の入れ替えは無いと踏んでいた。しかし、それは彼にとって盲点だった。

 

(回想)

 

「入れ替えを元に戻す?」

 

「はい。今日の戦闘で相手には【楓の木】のメンバーはモンスターを入れ替えているという事実が頭の中に入りました。となれば今度は本来のプレイヤーとモンスターの組み合わせへの警戒心はある程度薄れているはずです。そこで俺とサリー、イズさんとカナデ、このペアは入れ替えたモンスターを戻します」

 

「だが、メイプル達がテイムモンスターを連れたまま負けたから私達3人のモンスターは戻せないぞ」

 

「それで良いんです。まず最初の接触でカスミかクロムさんにモンスターを使ってもらってまだ相手のテイムモンスターは入れ替えたままだということを相手に考えさせます。そこに俺達4人が元に戻したモンスターを呼べば少しは相手の思考を乱せるはずです」

 

「なるほど、要するに相手の心理をこっちで混乱させる感じか」

 

「ただ、これも通じるのは最初の1発だけです。だから……」

 

(現在)

 

「ソウ【爆炎放射】、【大海の斧】、【捌きの雷】!」

 

カナデの指示と共に高火力のスキルが次々とレンゲルへと飛んでいく。当然MPの消費はかなりの物になっているが、消耗度よりも相手を速攻で倒す事を意識した攻撃にあのレンゲルを押していた。

 

「まさか、こんな簡単に僕を出し抜くとは……けど、これで終わる訳にはいかない!【ゲル】、【スモッグ】!」

 

レンゲルはやむを得ずに煙を展開するカードと体を液状化させるカードを使用して2人の目を眩ませている間に体を液状化させて攻撃の射程から外れた。

 

「くっ、凌がれた」

 

「不意打ちで決めるつもりだったがそう簡単にはいかないものだな」

 

「ここまで僕を焦らせたのはあなた達が初めてです。その事に敬意を表して僕も能力を出し惜しみ無しと行きましょう」

 

レンゲルは3枚のカードを取り出すとそれを投げ、すぐに1枚のカードを読み込ませる。

 

「【リモート】!」

 

その時、紫の光がカードから飛び出すと3枚のカードに当たり、中からモグラ、コブラ、イカを模したモンスターが出現した。

 

「とうとう使ったか。カナデ!」

 

「僕が捌くよ。ソウ、【挑発】!」

 

カナデは召喚された3体のモンスターをソウに引きつけさせると自分も3体のモンスターとの戦いを開始し、カスミは引き続きレンゲルを倒しに行くのであった。

 

そしてクロム、イズ対ギャレンの方もクロムがシロップで牽制している間にイズがギャレンの周囲にトラップを仕掛け、フェイの能力で強化したトラップによる攻撃を仕掛けたが、ギャレンは見事にそれを耐え切った。

 

「危なかった……まさかテイムモンスターを元に戻していたなんて……」

 

「セイバー君には最初の1発で大ダメージを与えるように言われていたけど、やっぱり厳しかったわね」

 

「だが、それでも相手の気を引くには十分だ。シロップ、【精霊砲】!」

 

「【ロック】!」

 

シロップは【巨大化】した状態のみで使える砲撃を放ち、ギャレンが展開した岩の壁を粉砕していく。

 

「シロップ【眠りの花弁】!」

 

クロムはギャレンを催眠させる効果を持った花で無力化しようと目論むが、ギャレンはその花に危険性を感じてすぐにその場から離れると遠くから射撃で花を破壊した。

 

「【ラピッド】!」

 

ギャレンが再びカードを読み込ませると本来なら連射できない拳銃を連射。これはクロムが盾で凌ぐものの絶え間ない攻撃に2人は苦戦していた。

 

「クロム、どうする?」

 

「どうにか隙を見つけて近づくしかないな。こんな時に透明化できるスキルでもあれば良いんだが」

 

「私もフェイのスキルを使えばアイテムは実質的な透明化できるけどプレイヤーまではできないし……」

 

イズの言葉にクロムが閃いたのかイズの方を振り返りながら声を上げた。

 

「それだ!イズ、アイテムは相手に見えなくできるんだよな?」

 

「えぇ、相手に見えないようにすることはできるわよ」

 

「取り敢えず、どうにかアイテム設置までの時間を稼ぐ。使うアイテムは……」

 

それからクロムはイズに仕掛けるアイテムについて説明し、それをどう利用するかまでを語った。イズはそれに頷くとクロムに言われた通りにアイテムを設置していくのだった。

 

それと同時刻。分身セイバー達とヒナタ及び自動人形達の戦いでも大激戦が繰り広げられていた。

 

「【スパイダーアーム】!」

 

狼煙のセイバーは【スパイダーアーム】を使用すると蜘蛛の足を背中に展開し、ヒナタの四方を囲んでガッチリと防衛する自動人形の中のレイアを捕まえた。

 

『何をする……』

 

「こうするんだよ!」

 

セイバーが思い切り振り向きながらレイアを遠くへと投げ飛ばす。レイアが着地する先には錫音のセイバーが待ち受けており、そのまま1対1での戦闘に入った。

 

『地味に油断した。だが問題は無い』

 

「さて、どうかな?【ロック弾幕】!」

 

『【ガトリングコイン】!』

 

2人はそれぞれ弾幕を張り、撃ち合い続ける。そして錫音のセイバーは上手くレイアを他のメンバーから遠ざけていった。

 

セイバーの狙いはヒナタを孤立させる事だった。ヒナタの能力は元々サポートよりで自分以外で高火力のアタッカーがいる状態の時に真価を発揮する。今で言えば自動人形がそのアタッカーに該当するだろう。そこでセイバーはヒナタ以外の4機の自動人形をヒナタから引き剥がす事にした。そうすればアタッカーのいないヒナタを倒しやすくなると考えたからである。

 

「残り3体!」

 

「自動人形さん、私から離れないでください!敵の狙いは私とあなた達との分断です!」

 

『わかったぞ!』

 

『狙いがわかれば引っかからないわ』

 

『今度はこちらから行きますわ!』

 

そう言って自動人形の1体、ファラが竜巻を起こすと分身セイバーを牽制していく。

 

「無駄だ。【魔神召喚】!」

 

そこに黄雷のセイバーが割って入るとダメージを受けない魔神に攻撃を受け止めさせ、そのまま魔神は自動人形の1体であるガリィを掴むと遠くへと投げ飛ばし、黄雷のセイバーはそれを走って追いかけていく。

 

「あと2体!」

 

「くっ、これ以上は不味いですね。【星の鎖】!」

 

ヒナタは3体のセイバーへと重力増加をスキルを使用し、3人の動きを停止させようとする。しかし、セイバーはそれを受けても普通に動いていた。

 

「なんで?私の重力増加が効いてない……」

 

「おかげさまで自分にかかる負担の増加には慣れているからな。この程度じゃもう足止めにすらならないぞ!」

 

セイバーは時国剣界時のスキル、【界時抹消】を使いこなすための特訓をした際に高い圧力がかかる中で普通に動けるように訓練を重ねてきた。その訓練が思わぬ所で役に立ったのだ。

 

「【パワーウィップ】!」

 

今度は激土のセイバーが地面から巨大な蔓を生やすとその質量でミカを弾き飛ばし、ヒナタの周囲から離れさせると激土のセイバーが飛びついていった。

 

「お前の相手は俺だぜ?」

 

『良いぞ!楽しませるんだぞ!!』

 

そのままミカも激土のセイバーと戦闘に入り、これでヒナタの護衛に付いているのはファラのみ。そして、そのファラも翠風のセイバーが【烈神速】で無理矢理引き剥がし、狼煙のセイバーがヒナタへと剣を突きつけた。

 

「これで1対1だ。どうする?ヒナタ」

 

「……どうやら、私も奥の手を使わないといけないみたいですね」

 

ヒナタはセイバーを相手に1対1の状況となり、サポート役でありながらセイバーと戦わなくてはならなくなった。しかも、【thunder storm】等の大規模ギルドの援軍は戦力温存のためにリリィやウィルバートの場所にしか行っておらず、ここにはいない。そのため、ヒナタは覚悟を決めた。

 

「……ドール、【覚醒】!」

 

するとヒナタの装備していた指輪から兎の人形が現れ、地面に二本足で立った。果たして、ヒナタが呼び出した彼女のテイムモンスター枠、ドールはどのような力を持っているのか?

 

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イベント2日目、現在の戦況

 

ミィ、パラドクス対ドレッド、フレデリカ

 

ブレイド、ギャレン、カリス、レンゲル対セイバー(本体)、カスミ、クロム、カナデ、イズ

 

リリィ、ウィルバート対セイバー(分身)×3

 

ヒナタ対セイバー(分身)

 

ファラ対セイバー(分身)

 

ガリィ対セイバー(分身)

 

ミカ対セイバー(分身)

 

レイア対セイバー(分身)

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        ギャレン

ヒビキ        カリス

カスミ        レンゲル

クロム        ミィ

イズ         パラドクス

カナデ        マルクス

ペイン        ミザリー

ドレッド       ヒナタ

フレデリカ      キャロル

キラー        リリィ

           ウィルバート

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと自動人形 前編

ヒナタが呼び出した兎のぬいぐるみのモンスター、ドール。ドールは2本足で立つと不敵な笑顔を浮かべた。

 

「怪しい人形だな。これがヒナタの奥の手、テイムモンスターって訳か」

 

セイバーがドールの姿をじっくりと見ていると突然目の前に炎のドラゴンや炎と雷の国で見かけたサボテンや火を吐く大トカゲが奥から姿を現した。そしてそれと同時にセイバーの側からも水のドラゴンに氷の熊、水の塊などのモンスターが出てきた。どうやら今はモンスターが定期的に相手の陣地に攻めかかる時間帯らしく双方のモンスターが睨み合った。

 

「ふふっ。どうやら丁度良く来てくれたみたいですね」

 

するとヒナタは待ち望んでいたものが来たような雰囲気を出すとドールへと指示を出した。

 

「ドール、【操り人形】!」

 

「何だと?」

 

その言葉を言った瞬間、セイバーの周りにいたモンスター達の動きが止まり、棒立ちとなった。

 

「どうなってる?モンスターが急に動きを止めて……ッ!!まさか!?」

 

セイバーは悪い予感をしていた。そしてそれは一瞬の後に現実として降りかかった。

 

「ドール、【人形達の宴】!」

 

ヒナタが指示を出すとドールは手を上に掲げてからそれを前へと振り下ろすとその瞬間、棒立ちだったモンスターが全てセイバーに向かって攻撃を始めた。当然、水と氷側のモンスターもである。

 

「ちょっ!?何で味方のお前らまで俺を攻撃してくるんだよ!これじゃあまるでヒナタのモンスターがコイツら全員を操ってるみたいじゃねーか」

 

「はい。そうですよ」

 

「な……ん……だと?」

 

「このスキルは指定した範囲にいるモンスター全てを操ってドールの意のままに行動させることができます。勿論時間制限はありますけど、その時間までは言いません。ですが、その時間制限が過ぎるまでセイバーさん、あなたは反撃せずに耐えられますか?」

 

ヒナタの策略により、この辺一帯に存在するモンスターは全てセイバーの敵となってしまった。一応制限時間はあるが、それが伝えられてない以上、セイバーは反撃して敵の数を減らす事に全力を尽くさなくてはならないだろう。

 

「くっ、こうなったら全部倒すしか無い!」

 

「さっき重力は効かないって言いましたけどそれなら氷はどうですか?【コキュートス】!」

 

すると今度はヒナタの体から発生した白い靄がパキパキと音を立ててセイバーの体を氷漬けにしていく。

 

「しまっ……」

 

「【災厄伝播】【重力の軋み】【脆き氷像】!」

 

続けて被ダメージが増加するスキルでセイバーに攻撃を受けた際のダメージを増幅させる。これによりヒナタはベルベットと組む際にいつも行っているサポートをしているだけで良くなった。何故なら今現在、セイバーの周りにいるモンスターは全てセイバーを襲おうとしており、ベルベットほどの火力は無いもののモンスターの数は多く、物量で押すアタッカーとなっているからである。

 

「(動けない……これじゃあ……)」

 

「終わりにします。ドール【一斉攻撃】!」

 

ヒナタがドールに命ずるとドールが見えない糸のような物を操って支配下に置いたモンスター全てにセイバーをターゲットとして攻撃をさせた。そしてセイバーはそれを全て喰らう事になるのだった。

 

場所は変わり、黄雷のセイバーと自動人形のガリィは炎と雷の国側にある所々が燃え盛る炎の丘にやってきていた。

 

「さてと、ここまで来れば大丈夫かな」

 

セイバーがそう言って手にしていた雷鳴剣黄雷に黄色い光を纏わせるとその先端をガリィへと向けた。

 

『お前にこの私を倒せるとでも?』

 

「倒せるさ」

 

『ならやってみなよ。【アクアフィールド】!』

 

するとガリィの周囲に水が迸り、周囲に燃え盛っていた炎を次々と消してフィールドそのものを水浸しにしていく。

 

「おいおい、わざわざフィールドのギミックを消すとかどういうつもりだ?」

 

『これがガリィの得意なフィールドだからねー。暑苦しいのはやめにしたって所【ウォーターバレット】!』

 

そう言うとガリィの正面に水の弾丸が生成され、それがセイバーに向けて発射されていく。セイバーはそれを躱していくも、水が着弾した場所には触れればAGIが低下する水溜りが生成されていき、下手に動くことができなくなっていた。

 

「チッ。これじゃあ逃げ場を消される上に相手がどんどん有利になるな」

 

セイバーは水溜りを上手く回避しながらガリィへと接近。そして電撃を纏わせた黄雷を振るう。それをガリィは手を凍らせて作り出した氷の手刀で迎え撃つ。

 

「お前、氷まで使えるのか」

 

『そうだけどそれがどうしたのかしら?』

 

「中々面白いなって思っただけだよ!【稲妻放電波】!」

 

セイバーは範囲を一斉に攻撃できるスキルでガリィに防御体勢を誘わせた。それにガリィは乗り、自身の目の前に蜂の巣のように正六角形の集合体で形成した氷のバリアを展開した。電撃はそのバリアによって凌がれるもののセイバーはこの間にガリィとの距離を詰めていた。

 

「【デビルスラッシュ】!」

 

セイバーが以前エビルとの戦いで手に入れた斬撃のスキルを使うと刀身が緑に光り輝き、緑の斬撃がガリィのバリアを破壊。そのままセイバーは突きを繰り出してそれはガリィの体に命中……したはずだった。

 

なんとセイバーの突きはガリィの目の前に生成された小さな正六角形のバリアに防がれたのだ。

 

「!!」

 

バリアを張った場所から少しでもずれていれば本体に命中していた。その中でも彼女は余裕を崩さずに尚且つ正確にバリアを張った。セイバーは驚きを隠せなかった。

 

『……頭でも冷やしなぁー!!』

 

その瞬間、ガリィのバリアは広がっていき、最終的にはそのバリアそのものが水に変わってセイバーを吹き飛ばした。

 

「くうっ……」

 

『決めた。ガリィはアンタを完膚なきまでにへし折るわ。【アイシクルインパクト】!』

 

するとガリィは足元の地面を凍らせながらその上を滑り、セイバーへと高速で接近。そのまま喉元に氷の手刀を突き出した。

 

『いっただきまーす!』

 

普通のプレイヤーであればこれをされた瞬間、ほぼ確実にガリィからの一撃を受ける事になるだろう。しかしそれは普通のプレイヤーが相手であればの話である。

セイバーは急所に繰り出されるガリィからの一撃を見てニヤリと笑うとその瞬間を待っていたとばかりに黄雷を地面に突き立てた。

 

「……待っていたぜ。【サンダーブランチ】!」

 

すると地面を伝いながらガリィの後ろに電気の鞭が出現。そしてそれはガリィの体を捕まえると後ろへと引っ張った。

 

『何!?』

 

その影響でガリィは攻撃を不発で終わらせる事になり、そのタイミングでセイバーからの一撃が放たれた。

 

「【落雷】!」

 

動きを止めさせられたガリィの真上から雷が落下。彼女にダメージを与える……はずだったのだがいきなりその体は水へと分解された。

 

「これは……幻か」

 

『当たり。けどもう関係ないね』

 

ガリィは一瞬にしてセイバーの背後に回り込むと氷の手刀を振り下ろし、セイバーを切り裂いた。

 

「ぐっ……」

 

『追撃もいくわよー!』

 

続けてガリィは魔法陣から激流を発射。セイバーはそれに飲み込まれるとそのまま激流に流されながらダメージを受け、地面へと叩きつけられた。

 

「くうう……」

 

『まだ終わりじゃ無いわよ』

 

ガリィが続けて地面から噴水のように水を噴き出させるとそこから水の弾丸を飛ばしていった。セイバーはこれを黄雷で捌いていくが、その手数の多さに少しずつ追い込まれていく。

 

「面倒だな。だったら!【サンダーブランチ】!」

 

セイバーは再び地面から電気の鞭を生やすとガリィへと伸ばさせた。今度は彼女を確実に拘束させてからの強烈な一撃を叩き込むつもりでの攻撃である。これが決まれば大きなダメージを彼女へと与えられるだろう。

 

『同じ手は効かないわよ』

 

ガリィはそれを喰らう直前に足元の地面を凍らせながらその上を滑って回避し、そのままセイバーの目の前にやってくるとゼロ距離で魔法陣を出現させた。

 

『終わりね』

 

ガリィの言葉と共に魔法陣から水が出てくるとセイバーに当たり、そのまま彼の体を水浸しにするとそれが凍りついていき、彼は氷漬けにされた。その様子を見たガリィはガッカリしたように明らかにテンションを下げると嫌そうな顔をした。

 

『てんで弱すぎる!何よこれ。セイバーってプレイヤーの中では最強クラスの力があるから油断するなってマスターに言われたから本気でかかってるのにこれじゃあ期待外れも良い所……』

 

ガリィがそう言っているとセイバーが氷を気合いで粉砕し、黄雷を構えて立っていた。

 

「期待外れ……か。それは期待してもらったのにガッカリさせて悪かったな」

 

『そうよ。今のアンタに勝ってもつまらない。弱いアンタに勝ってもね』

 

ガリィの挑発にセイバーは深呼吸をしてからニッと笑うとスイッチを入れ直したのか雰囲気が変わった。

 

『……雰囲気が変わった?』

 

「すまないな。俺は手の内がわからない相手には様子見をするからね。今度はガッカリさせないようにしてみるよ」

 

『なら結果で示してみなよ!【アイシクルコフィン】!』

 

ガリィは先程と同じように足元の地面を凍らせながらその上を滑りセイバーを氷の手刀で連続で斬りつけるとそのまま地面に手刀を突き刺して正面の地面を凍らせていきセイバーをまたもや氷漬けにしてしまった。

 

『スイッチを入れた割にはこの程度?』

 

「……いいや、もうその手は喰わないぜ?【落雷】!」

 

するとセイバーは自らの真上に雷を落下させると氷を粉砕。そのままガリィへと突っ込んでいく。ガリィはそれを見て水の弾丸を放って動きを阻止しようとするが、まるで別人のようなスピードにガリィはついていけなかった。

 

『コイツ、動きがいきなり……ぐっ!?』

 

ガリィが戸惑っている間にもうセイバーはガリィへと黄雷で攻撃を仕掛けていた。ガリィはこの時、完全に油断していた。それまでセイバーが手を抜いていた事もあって彼の限界を低く見積もってしまったのだ。そしてそれは彼相手には命取りとなる。

 

「まだまだ!【サンダーブースト】!」

 

セイバーは速度を上げるとガリィへと連続で剣撃を喰らわせてダメージを蓄積させていく。ガリィもここまでやられれば流石に警戒したのか、途中から対応してきたがそれをもう少し早くできていればダメージも小さく済んだだろう。

 

「【稲妻放電波】!」

 

セイバーがガリィへと電撃を放射するとガリィは大量の泡に分裂。そしてその1つ1つにガリィの影が映っていた。ガリィ流の影分身みたいなものである。このままではどれが本物かわからずに迷っている間に攻撃を撃ち込まれるだろう。しかし、セイバーの取る手に迷いは無かった。

 

「無駄だ。【魔神召喚】!針飛ばし!」

 

セイバーの目の前に魔神が出ると電気を纏わせた針を大量に撃ち出して泡を即座に破壊。その数を減らさせていく。そんな中、ガリィ本体はセイバーの後ろにキメキメのポーズで出てきていた。

 

『良いね良いねぇ!』

 

ガリィはようやく面白くなってきたとばかりにテンションを上げており、それがガリィのパフォーマンスを高めていた。しかし、相手が強ければ強いほど調子を上げるのはセイバーも同じ事。そしてその上がり幅はセイバーの方が大きかったのか、少しずつガリィは押され始めていく。

 

「オラオラどうしたぁ!あれだけ煽っておいてそんなものか!」

 

セイバーは黄雷を持っていない左腕でアッパーを繰り出すとガリィを思いっきり空中へと打ち上げた。そして一瞬にして空中へと飛んでいくガリィよりも上の位置を取ると黄雷を黄色く輝かせた。

 

「トドメだ。【雷鳴一閃】!」

 

そのままセイバーは落下の勢いを付与しつつ猛スピードでガリィをすれ違い様に両断。これによりHPを0にさせられたガリィは敗北を喫することになった。

 

『1番乗りなんだからー!!』

 

ガリィの断末魔と共に彼女は爆散するとその場には着地したセイバーが後ろを振り返る事なく彼女の撃破を確認した。

 

「ふう。それじゃあ、リリィとウィルバートの方で戦っている奴等の加勢に行くとするか」

 

黄雷を持った分身セイバーがガリィとの激闘を繰り広げた戦場を後にし、彼らの戦いは終結する事になった。

 

時はガリィと戦闘が始まった頃に遡る。別の場所では分身セイバーが戦闘特化の自動人形、ミカとの戦いを始めようとしていた。

 

『昨日の猪女よりはマシな事を望むぞ』

 

「猪女って、酷い言われようだな。ヒビキ」

 

セイバーがミカの言葉に呆れているとミカは両手にカーボンロッドを装備して戦闘に備えた。

 

『セイバー、私は強いぞ!』

 

「望む所だ!」

 

セイバーは激土を構えるとミカへと走っていき、激土を振り抜いてカーボンロッドにぶつける。カーボンロッドは激土のパワーを前に少しの拮抗の後に粉々に粉砕され、ミカはそれを見て嬉しそうに目を輝かせる。

 

「【グランドウェーブ】!」

 

セイバーが地面を思い切り踏みつけると土が波のようにミカへと向かっていく。ミカは髪をブースターのように点火させると空中へと飛び、そのままセイバーへとカーボンロッドを持って突っ込んでくる。

 

『行くぞ!』

 

「来なくても良いけどな!【グランドブレイク】!」

 

セイバーが激土から斬撃を放つとそれが衝撃波となってミカとぶつかり合う。それを受けてミカは押し止められるかに見えたが、そんな事は無くすぐに攻撃を相殺すると突っ込んでくる。そのままセイバーはミカに組み付かれてゼロ距離でのカーボンロッドの射出を受けた。

 

「くうう……やるねぇ」

 

『【バーストファイア】!』

 

ミカが空中に赤い魔法陣を展開するとそこから灼熱の火炎弾を大量に放出。セイバーはこれを激土を盾のようにして防ぐが、流石に全部は凌げなかったのかセイバーに炎のダメージが入っていった。

 

「押されてるか、けど負けるつもりは無い!【パワーウィップ】!」

 

セイバーが地面から太い蔦の鞭を生成するとミカへと叩きつけていく。そして、ミカを鞭で捕まえると締め上げた。しかし、ミカのパワーは高く、鞭を引きちぎるとカーボンロッドを射出してセイバーへと反撃していく。

 

一進一退の攻防が続く中、状況を有利に傾けたのはミカであった。ミカがカーボンロッドを連続発射してセイバーの周囲を埋めて逃げ道を無くすと真上から巨大な炎の弾丸を撃ち込んだ。

 

「ぐあっ!」

 

『どんどん行くぞー!』

 

そこに追い討ちをかけるようにミカは炎を纏った状態でセイバーへと突撃。セイバーを連続で殴っていく。それをセイバーはただ受け続けた。

 

『少しは反撃してくれないと面白くないぞー!』

 

ミカはトドメとばかりに回し蹴りを叩き込み、セイバーは吹き飛ばされると近くの岩場に叩きつけられた。

 

ミカは笑みを浮かべるとセイバーが飛んでいった方を見据える。このような状況であれば誰もがセイバーの方が不利だと思うであろう。だが、セイバーはこの猛攻を耐え切っていた。

 

「痛てて……流石に効いたなぁ」

 

『アレを凌いだのか?』

 

「ヒビキを追い詰めるぐらいに強いお前の猛攻を凌げるかは賭けだったけど何とか上手くいったみたいだな。それに……」

 

すると次の瞬間、ミカの体に植物の蔓が巻きつくとミカからHPを吸い取り始めた。

 

『な、何なんだぞ?』

 

「スキル【宿木】。これによって拘束された敵プレイヤーやモンスターからHPを僅かずつだが吸い取って自分のHPを増やせる。まぁ、これだけでお前を倒せるとは思ってないしそこまで俺もお前を甘く見てない。けど、これでお前の動きは封じた」

 

ミカは必死に蔓を引きちぎろうとするが、その蔓はミカの体に複雑に絡んでいくと動きを封殺した。流石のミカでもこれを破壊するのは容易では無いだろう。そして、セイバーがこの状態のミカを前にして何もしないわけがない。

 

「【岩石砲】!」

 

セイバーは魔法陣から岩の砲弾を放ちミカにぶつけていく。そして、自らは空中へと跳びあがるとドリルのように体を回転させながら貫通力を高めたキックを放つ。

 

「【ドリルストライク】!」

 

それを見たミカはその身を拘束する蔓を引きちぎるのでは無く、体の熱を上昇させる事によって炎を纏い、蔓を焼き尽くした。そして拘束が解かれたミカは魔法陣を展開するとセイバーの攻撃を巨大なエネルギー弾で防いだ。

 

「!!」

 

『ドッカーン!』

 

ミカの言葉と共にエネルギー弾は大爆発を起こしてセイバーを吹き飛ばす。それによりセイバーの攻撃は失敗に終わり、再びミカが優勢な状況に逆戻りした。

 

『何となくで勝てる相手じゃないぞ!』

 

「く……これは強いな。激土のパワーと防御に完全に対応してやがる」

 

『そろそろこの戦いも終わりにするぞ!』

 

ミカは決着を付けるためにカーボンロッドをセイバーへと射出して攻撃を再開する。セイバーはそれをサリーのように紙一重で躱しつつミカへと走っていく。

 

「【激土爆砕】!」

 

セイバーが激土を地面に突き立てると地面から岩のスパイクが出現してミカを空中へと打ち上げる。それからセイバーは追撃を仕掛けようと構えるが、それを見たミカもすぐに対応してきた。

 

『アツアツの炎だぞ!』

 

ミカの周囲に魔法陣が展開されると炎の雨が降り注いでいく。セイバーはそれを被弾覚悟で跳びあがるとミカへと突撃していく。

 

『闇雲に突っ込んでも勝てないぞ』

 

「わかってるよ。だがな、ここでやらなきゃ勝てないんだよ!」

 

セイバーは激土の刀身に輝きを持たせるとミカの体を両断する。ミカはこれを受けた直後にセイバーに組み付き2人はそのまま地面へと落下する。2人共落下ダメージに耐えるが、ミカの方はその動きが僅かに鈍った。それをセイバーは逃さない。

 

「【大地貫通】!」

 

立ち上がったセイバーが激土を振り下ろすとその直線上に防御貫通の効果を持ったエネルギーの衝撃波が撃ち出され、ミカを吹き飛ばす。

 

「これを喰らえば流石のアイツでも……何!?」

 

セイバーは驚きを隠せなかった。今までの戦いであれば激土の力を使って短時間で倒せない相手は相当なHPを持ったボス相手ぐらいである。普通であれば【装甲破壊】の効果で相手の防御力が高いほどに相手にダメージを与える仕組みになっているため、守りが固い相手でも勝つのが容易になっている。だが、今のミカはどうだろう。これだけの攻撃を受けておきながらまだ耐えているのだ。

 

『まだまだやれるぞ!』

 

「おいおい、何でまだ耐えられるんだよ……」

 

セイバーはあまりのタフさに疲労が少しずつ溜まっていた。このまま長期戦になるのは本体への負担も考えて避けたい所だろう。

 

「……もしかしてこいつ、VITは並みだがHPがかなり高いのか?」

 

セイバーの【装甲破壊】の効果は相手のVITが高いほど相手に与えるダメージを上げる物である。つまり、VITが高い事が理由で守りが固い相手には有効だが、HPが高い事が理由で守りが固い相手にはスキル補正無しの通常のダメージしか入ってないという事である。

 

「これは、面倒だな……もう後は隙を見つけて大技で倒すしか無い!」

 

セイバーが体のエネルギーを土豪剣激土へと集中させていくとオーラが体から放出され始めた。そして、それと同時に激土の刀身に岩や土が集まっていくと巨大な剣へと変化していく。

 

『これは、底知れず、天井知らずに高まる力!!』

 

それを見たミカが自身の奥の手を発動。纏められていた髪の毛が解けて全身に炎の力を纏う決戦機能。通称、“バーニングハート・メカニクス”を発動。HPを一定値消費してから毎秒内蔵されるMPを少しずつ消費し続ける事で火属性のスキルの効果やステータスを底上げする諸刃の剣だった。

 

「どうやら、お前も本気を出すみたいだな」

 

『お前の力を全力でへし折ってやるぞ!』

 

「ならまずはこれを耐え切ってみろ!」

 

2人の力は最大にまで高まり、互いに次の一撃に全てを賭けるようだった。

 

『【バーニングデストロイ】!』

 

「【大断断斬】!」

 

セイバーからは巨大な刃となった激土での薙ぎ払い攻撃、ミカからは高熱の炎を纏ってセイバーへと突撃する攻撃が放たれた。その2つの攻撃は激突し、激突した場所で火花を散らしていく。そのパワーは拮抗しており、互いに力が緩んだ瞬間に緩んだ方が押し切られる程であった。そうして暫くの間、攻撃は一進一退で押し合っていたが、ミカが更にMPの消費を早める事で活動時間を短縮しながらパワーを上げ、セイバーを叩きのめしにかかった。

 

「く……このままじゃ……」

 

『早く倒れるんだぞ!!』

 

セイバーもこれをまともに喰らえばタダでは済まないとわかっていた。そのために負けるわけにはいかなかった。だからこそ、彼も奥の手を切る事にした。

 

「【マキシマムボディ】!」

 

それはVITを半分にする代わりにSTRを倍にするスキルであり、それを使えば瞬間火力を大幅に上げることができる。この効果もあり、ミカの火力を大きく上回る事に成功した。

 

『私を超えるための足りない火力を補って……』

 

「うぉらぁあああああああ!!!」

 

セイバーの一撃がミカを真っ二つに両断するとミカは爆散し、完全に撃破される事になった。

 

「ふう。これでやっと倒せたな。ただ、このスキルを使うと厄介な点があるんだよなぁ……」

 

マキシマムボディの効果には弱点が存在する。それは30分経過でSTRとVITが元の値の半分になってしまう事である。今はまだSTRが上昇している状態だが、今敵に囲まれて時間切れまで粘られると下がったステータスで相手にしないといけないために激土のセイバーは一旦身を隠してステータスダウンが終わってから戦いに行く事にするのだった。

 

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イベント2日目、現在の戦況

 

ミィ、パラドクス対ドレッド、フレデリカ

 

ブレイド、ギャレン、カリス、レンゲル対セイバー(本体)、カスミ、クロム、カナデ、イズ

 

リリィ、ウィルバート対セイバー(分身)×3

 

ヒナタ対セイバー(分身)

 

ファラ対セイバー(分身)

 

レイア対セイバー(分身)

 

セイバー(分身)×1(移動中)

 

セイバー(分身)×1(休憩中)

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        ギャレン

ヒビキ        カリス

カスミ        レンゲル

クロム        ミィ

イズ         パラドクス

カナデ        マルクス

ペイン        ミザリー

ドレッド       ヒナタ

フレデリカ      キャロル

キラー        リリィ

           ウィルバート

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと自動人形 後編

セイバーが自動人形2体を撃破したその頃、リリィ及びウィルバートと戦っているセイバーの分身3人の方ではリリィのモンスター、アイによって統率された機械兵軍団が戦いを有利に進めていた。

 

「コイツら、倒しても倒しても無限に湧いてきやがる」

 

「てか、戦っている内にリリィさんとウィルバートさんの位置が変わっただろうからもうどうしようも無い気がするんだけど」

 

「せめて居場所が判明すればなぁ……」

 

流水、月闇、最光のセイバーが孤軍奮闘で機械兵や戦車を破壊していくものの、いつの間にか他のプレイヤー達と逸れてしまい孤立状態に陥っていた。そもそも、セイバーのように力があるプレイヤーであれば1人でも無双する事はできるのだが、他のプレイヤーはそうでもない。そのため、リリィとウィルバートを探しながら戦った結果、3人の分身セイバーだけが突出する形になっていたのだ。

 

「【氷獣大地撃】!」

 

「【ダークスピア】!」

 

「【閃光斬】!」

 

セイバーは次々と湧いてくる敵集団を破壊し続けるが、倒しても倒してもキリが無い。更に連携力の高い敵からの攻撃には少しずつ被弾し始めているため、このまま行けばセイバーが力尽きてしまう方が断然早いだろう。

 

するとそこにセイバーが探していたプレイヤー、リリィとウィルバートがゆっくりと歩いてきた。

 

「リリィさん、ウィルバートさん。わざわざ出てきてどういうつもりですか?」

 

「セイバー、君の様子を見に来たんだよ。たった3人で私の機械兵を蹴散らす戦闘力。やはり君は他のプレイヤーとは一線を画する存在らしい」

 

「中々余裕ですね。それとも俺に倒されに来ましたか?」

 

「いえいえ、逆ですよ。……セイバー、あなたがいると下手をすれば戦線が崩壊してしまう。だから先に叩きに来たんです」

 

「……機械兵達に任せておけば良かったと後悔させてやりますよ。それに、丁度援軍も来ましたしね」

 

「「?」」

 

セイバーがそういうと稲妻と共にガリィを倒した黄雷のセイバーがこちらの方面に加勢してきた。

 

「……どうやらキャロルの自動人形の内の1体が倒されたみたいですね」

 

「違いますね。倒されたのは……2体です」

 

セイバーの言葉に2人は一瞬驚きの表情をするが、それもすぐに元の集中した顔に戻り、セイバーを見据えた。

 

「長期戦にすれば勝てると思っていたが、どうやら君達を倒すのは早い内の方が良いらしいな」

 

リリィの言う通り、長期戦になればセイバーは疲労して動きが鈍るが、それと同時に援軍が来るまでの時間が稼げるという事でもある。そうなれば多方面で戦っているセイバーの分身体が加勢にやってくるだろう。その事を考慮し、リリィとウィルバートは早めにセイバーを倒す作戦に切り替える事にした。

 

「そうですね。でしたら私のモンスターも出した方が良いでしょう」

 

「ああ。ウィル、頼むぞ」

 

「それではドギー、【覚醒】!」

 

ウィルバートがテイムモンスターを呼び出すとそこに出てきたのは猟犬のような姿をしたモンスターであり、名前はドギーと呼ばれた。

これにより、リリィとウィルバート。2人のテイムモンスターが揃う事になるのであった。

 

「それがウィルバートさんのテイムモンスターですか」

 

「そうですよ。以後、可愛がってあげてくださいね」

 

「そうだな。その感じからしてかなりできるってことはわかるぜ」

 

「それではやるとしよう。ウィル」

 

「はい。ドギー、【ハンターアイ】!」

 

するとドギーの目が赤く光ると4人の分身セイバーの体を分析。そして弱点の箇所をドギーは理解した。

 

「何だ?今のは……」

 

「では次はアイ、【情報共有】!」

 

続けてリリィが従える機械仕掛けの球体型モンスター、アイがパネルを開くとドギーから共有したセイバーの弱点のデータが打ち込まれ、それが周囲の機械兵へと転送された。次の瞬間、機械兵は目を光らせるとセイバーの弱点を正確に狙いながら射撃を開始した。

 

「ちょちょっ!?さっきよりも狙いが正確なんだけど!」

 

「そうですよ。これが私のモンスター、ドギーとリリィのモンスター、アイの連携能力。ドギーが敵の弱点をマークし、アイがそれを周囲に共有する」

 

「それによって強敵相手にも勝つことができる私達のもう1つの連携だ」

 

「これは、厄介すぎる能力だなぁ……こっちの弱点を正確に見抜いて攻撃してくるなんて反則も良い所だぜ」

 

それから分身セイバー4人は自分達の弱点を的確に突いてこようとする機械兵達相手に再び泥沼の戦闘を挑んでいくのであった。

 

場所は変わり、ここは水と氷の国に存在する一面が雪で覆われたフィールド。そこではキャロルの従える自動人形の1体、ファラとスピードに長けた翠風のセイバーが対決していた。

 

『ここら辺の足場は中々動きづらいわね』

 

今現在、2人が立っている場所は地面に触れている敵にのみAGIを低下させる効果を持っている。つまり、ファラにのみAGI低下が働いている事になるというわけだ。

 

「こっちは普通に動けるぜ?つまりはお前が不利って所だ。それに……」

 

セイバーがそう言っていると5人前後の剣を装備した【集う聖剣】の援軍がセイバーを護衛するようにやってきた。

 

「数の上でもこっちが有利みたいだな」

 

『………』

 

5人の【集う聖剣】のギルドメンバー達はファラを取り囲むとじわりじわりとその輪を小さくしていった。それを見たファラは両手にそれぞれ剣を取り出すとキメキメのポーズで構えた。

 

『この程度で私を倒せるとでも?』

 

ファラがそう言った瞬間、後ろから兵士が剣を振り翳してファラを斬りつける。しかし、ファラはその剣を自身の持つ剣で受け止めた。すると剣と剣が触れ合ったタイミングで兵士が持っていた剣が僅か一瞬にして砕かれた。

 

「お?」

 

得物を失った兵士はそのままファラに切り刻まれて撃破され、残る4人も次々と剣を破壊されて武器を失うと共にポリゴンとなって倒された。

 

「これはどういう仕組みだ?剣が一瞬にして粉砕されるとかその剣に何かカラクリがあるのか?」

 

『私の剣は剣殺し。その名もソードブレイカー。剣と定義される物はユニーク装備である物を除けば全て破壊できる』

 

「おぉー。それはそれは厄介な能力だな。けど、俺の風双剣翠風は生憎な事にユニーク装備って奴だ。破壊はできないぜ!」

 

そう言いながらセイバーはファラと両手に構えた剣を交える。二刀流同士の戦いは剣と剣がぶつかり合うたびに火花が散り、風が舞う。

 

「【超速連撃】!」

 

セイバーは超スピードを発揮するとファラの周りを走り回りながら連続で斬りつけていく。ファラはこれに対して繰り出される攻撃を全てソードブレイカーで的確に防御。攻撃をしっかりと凌いでいく。

 

「だったらこれで!【トルネードスラッシュ】!」

 

セイバーが風双剣を一本に合体させると竜巻を発生させて相手を両断する斬撃を放つ。ファラはこれに対して自分も剣に竜巻を纏わせての斬撃を放つ。2つの斬撃がぶつかり合うと相殺されて双方共にダメージを与えることはできなかった。

 

「くっ……」

 

『思っていたよりもショボイ攻撃ね。この程度ならやられてあげるわけにはいかないわ』

 

「舐めていると痛い目を見る事になるぜ。【クナイの雨】!」

 

今度は空中から大量のエネルギー状のクナイが降り注ぎ、ファラにダメージを与えようとした。

 

『効きませんわ!』

 

ファラが再び竜巻を剣に纏わせると空中から降り注ぐクナイを全て粉砕し、消していく。ただ、この間にセイバーが何もしないわけがなく、彼はファラの眼前にまで迫っていた。

 

「オラよ!」

 

セイバーが空中に対処していることで目の前がガラ空きになったファラへと二刀流の刃を向ける。そしてそれはファラに命中し、ファラは後ろへと下がった。

 

「どんどん行くぜ!【疾風剣……は?」

 

セイバーが勢いに乗ってスキルによる攻撃をしようとするとその瞬間、腹に鈍い痛みを感じた。そこには既にエネルギーの斬撃が撃ち込まれており、ファラが攻撃を受けて後ろへと下がった瞬間にカウンターとして攻撃を撃ち込んでいた。

 

「痛てて……アレにカウンターを合わせるとかもうプレイヤースキルだったら半端ないな。相手はプレイヤーじゃねーけど」

 

セイバーはそれを受けて今度はファラとのスピード差を活かして遠距離からの攻撃を仕掛ける事にした。

 

「【手裏剣刃】!」

 

セイバーがエネルギー状の手裏剣でファラを遠くから少しずつ削る手に出るとファラもそれを見てすぐに対応してきた。

 

『【ストームリフレクター】!』

 

ファラが魔法陣を展開すると自身の周囲に竜巻のバリアフィールドを作り出し、エネルギー状の手裏剣を防いだ。更にセイバーがそれを見て手裏剣を投げるのを一旦止めるとすぐにファラを守っていた竜巻がセイバーへと向かってきた。

 

「げっ!?」

 

セイバーが驚きつつもそれを躱すと目の前にファラが迫っていた。ファラが狙っていたのはセイバーが攻撃を回避するのに手一杯となり攻撃への対処が難しいこの瞬間だった。流石のセイバーでも絶対に隙がないわけが無い。彼だって人間である以上隙ができるのも当然だろう。

 

「ヤバイ!」

 

『遅いですわ。【トルネードバイレ】!』

 

ファラはステップを踏んでから呼び出した竜巻に乗ると空中から剣を振るい大量の竜巻を発生させてセイバーを飲み込ませた。

 

「ぐうう……」

 

『トドメです。【ストームブレイカー】!』

 

そうやってセイバーの動きを止めたファラは一気に決めるべく接近するとすれ違い様にセイバーを二刀流のソードブレイカーで両断。セイバーはそれに巻き込まれると大爆発と共にダメージを受け、HPが0になった。

 

『終わりましたわ』

 

「……勝手に終わらせないでくれるかな?」

 

次の瞬間、先程ファラがダメージを与えてセイバーを確実に仕留めたはずなのにも関わらずファラからダメージエフェクトが散った。

 

『馬鹿な。あの時HPが無くなったはずじゃ……』

 

「あれ?お前は知らなかったっけ?この姿には【空蝉】がある事に」

 

スキル【空蝉】。これはHPが0になると1度だけ復活する事が可能になり、追加で一定時間AGIが上がる効果がある。セイバーはこの効果を活かしてファラにダメージを与える事に成功していた。

 

『やってくれましたわね。けど、あなたが使っている武器が剣である以上、この私には勝つことはできない』

 

「……なら定義を変えたらどうなるのかな?」

 

セイバーは翠風を二刀流で持つとそれを緑に輝かせて竜巻を纏わせた。

 

『それが剣と定義されるなら何をしても同じ事!!』

 

「剣じゃねーよ。これは……空を羽ばたく翼だ!!」

 

するとセイバーはそのまま空中へと飛び上がり2本の翠風を翼のようにはためかせて空を舞う。ただし、本来は長時間飛ぶための物では無いために気休めにしかならないだろう。それでも剣殺しであるソードブレイカーを相手にする場合、セイバーの持つ聖剣は剣と定義されるため対抗するには剣という定義を無理にでも外さなければならなかった。

 

「行くぞ!ファラ。決着を付けてやる!」

 

『くっ!!』

 

ファラは地面に触れていると効果でAGIが低下するため、竜巻に乗って空中戦をするしか無かった。そしてそれはセイバーが狙っていた通りの展開である。

 

「【影分身】!」

 

セイバーが影分身するとファラの頭上から攻撃を仕掛けていく。ファラはそれを的確に躱しながらソードブレイカーで斬り捨てるがそれは全て偽物でありその間に本物を見失ってしまった。

 

『本体は……』

 

「ここだぜ。ファラ!【疾風剣舞】!!」

 

セイバーが竜巻を纏わせた両足を揃えて回転しながら擬似的な車輪となるとそのままファラへと突っ込んでいく。ファラも辛うじて対応を間に合わせて迎え撃つものの剣と定義されない物が相手ではソードブレイカーも威力が発揮されなかった。

 

「うぉりゃあああ!!」

 

その結果、ファラの剣であるソードブレイカーは2本とも叩き折られ、そのままその体を真っ二つに破壊されるとファラは笑みを浮かべながら爆散。これにより、残る自動人形は1体のみとなり翠風のセイバーはファラを確実に仕留めたという事を確認するとその場を走り去っていきリリィやウィルバートの方へと向かっていった。

 

その頃、レイアと対峙する錫音のセイバーはレイアを相手に銃撃戦をおこなっていた。

 

「くっ……やっぱコイツは人型だけど普通のプレイヤーとは桁違い。人外そのものだな」

 

今現在、錫音のセイバーとレイアがいるのは炎と雷の国側にある空が黒い雲に覆われた地形であり、そこではランダムで雷が一定周期に降り注いでいた。これに当たると当然のようにダメージが入るためにセイバーはそちらにも気を配らなくてはならず、レイアが終始優勢だった。

 

「【音弾ランチャー】、【ロック弾幕】!」

 

『【ガトリングコイン】!』

 

2人はそれぞれ弾幕で攻撃を放っていき、そのあまりの手数の多さに周囲にいるプレイヤー達は流れ弾に当たることを嫌って中々近寄れなかった。そのため、実質的に2人は一騎討ち状態になっている。

 

「【スナックウォール】!」

 

セイバーが地面に手を置くと地面から幾つものお菓子の壁が出現して防御壁の役割を果たした。

 

『そう来るならば雨を降らせるとしよう。【ホーミングコイン】!』

 

レイアがコインを上へと打ち上げるとそれは放物線を描きながらセイバーへと降り注いでいく。これならばセイバーの召喚した壁は意味を成さない。そしてセイバーもやられっぱなしではいない。

 

「遠距離戦は不利か。ならば、無理にでも近づいて斬り伏せる!」

 

セイバーが撃ち合いを嫌って先程召喚してお菓子の壁に隠れながらレイアへの接近を試みる。その動きにレイアも気付き、すぐにコインの弾幕を張ってセイバーを近寄らせないようにする。しかし、セイバーの対応力はかなりの高さだった。

 

「【シャウトスラッシュ】!」

 

セイバーが錫音を剣モードにして振るうとセイバーの周囲にあるコインがエネルギーの斬撃によって全て撃ち落とされていく。そしてセイバーは自身の剣の間合いにまで近づく事に成功した。普通であれば射撃を得意とするプレイヤーは近づかれた時点で不利になるだろう。しかし、レイアはそうでは無かった。

 

『はあっ!』

 

「む。コインで生成したトンファーか。これなら確かに近接戦もできそうだ」

 

現在レイアはコインを重ねて作り上げたトンファーを構えており、近接戦への補完がしっかりとできていた。セイバーが苦戦するのも無理は無いだろう。

 

『【グランドエッジ】!』

 

続けてレイアが地面に魔法陣を展開するとそこから岩が出現してセイバーを空中へと打ち上げた。更にそこに運悪くギミックの雷が落下。セイバーはその影響で少なからずダメージを受ける事になり、動きが完全に止まってしまった。

 

『派手に仕留める』

 

そこにレイアからの追い討ちとして大量のコインが発射されていく。それによりセイバーはコインが多段ヒットして大きなダメージを受けることになっていった。

 

「ぐうう……これはキツイなぁ。ギミックの方は相手にとってラッキーだったとは言え追撃もしっかりしてる。中々に手強い」

 

セイバーはこれを受けて持ち堪えており、すぐにポーションで回復してリカバリーを行った。

 

『次は仕留める』

 

「次があれば良いけどな」

 

セイバーがそう言っていると再びギミックとして落雷が発生。それはセイバーの近くに落下するとセイバーは飛び退いた。そこにレイアが接近してトンファーを振るってくる。

 

「落雷がかなり面倒いな。アレのせいで意識が散らされる」

 

『余所見している暇は与えない』

 

セイバーとレイアは激しく剣にした錫音とトンファーで激しく撃ち合っていく。接近戦での実力は互角であり一進一退の攻防だった。

 

「【鍵盤演奏】!」

 

セイバーが剣を持っていない左手で鍵盤を弾くとそこから楽譜が飛び出してレイアを拘束。動きを一時的に封じた。

 

「これで決める!」

 

レイアが動けない間に決めるべくセイバーはレイアとの距離を詰めていく。しかし、レイアはそう簡単にやられるわけがない。セイバーの両側にトラップのように仕掛けられた巨大なコインが起き上がるとセイバーを左右から挟み込んだ。

 

「がっ!?」

 

セイバーがその場に倒れ込むと【鍵盤演奏】の効果も切れてレイアが拘束から解き放たれた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

セイバーは何とか起き上がるが、僅かずつに疲労が溜まっており息切れを起こし始めていた。このままではダメージでやられるよりも先に疲労で倒れてしまうだろう。そして【分身】で増えたセイバー全員にこの疲労が共有されている。つまり、1人倒れればその分の負担が分身セイバー全員にのしかかる。そしてそれはセイバー本体が倒れる事に繋がってしまうのだ。

 

「くっ。もう疲れが来てるのか。このままだと本当に疲労が原因で倒れかねない」

 

『どうした?それで終わりならば私が派手に倒してやろう』

 

「……こうなったら短期決戦で仕留めるしかない。できれば疲労が共有されるから使いたくないけど……」

 

セイバーは一瞬そのスキルを使うかどうか迷ったが、すぐに迷いを振り切ってスキルを使うことを決めた。そのスキルとは……

 

「【ブレーメン音楽隊】、【ロックモード】!」

 

セイバーが【ロックモード】で体への負担と引き換えにステータスを向上させると【ブレーメン音楽隊】でその効果時間を延長。レイアを万全な体勢で仕留めにかかる。

 

「この俺の最高のサウンドを聞けぇえええい!!」

 

『地味にキャラが変わったな。【ガトリングコイン】!』

 

「【ロック弾幕】だぜぇええい!」

 

セイバーは先程以上の精密な射撃でレイアから射出されるコインを相殺。そのまま走っていきレイアへと近づいていく。

 

そしてゼロ距離にまで近づくと錫音を銃モードのまま逆手持ちにした。当然剣で来ると思っていたレイアの意表を突く。

 

『な、拳銃で……』

 

次の瞬間、レイアの首に鈍い音と共に何かがぶつけられた。それこそセイバーが持っていた銃モードの錫音である。

 

「殴るんだよ!!」

 

本来の使用方法とはかけ離れたその使い方にレイアも面食らう。そしてそれは彼女の対応を僅かに遅らせた。

 

「【ビートブラスト】、【ロック弾幕】ファイア!!」

 

至近距離で放たれるエネルギーの光線と音のミサイルにレイアは滅多打ちにされていく。

 

『マスターの使命を果たすためにも……ここで負ける訳には……』

 

「悪いが使命を果たすのは俺だぜ!【スナックウォール】」

 

『また壁を出して射線を切るのが目的か……何!?』

 

セイバーはスナックウォールでお菓子の壁を斜めに召喚するとそれに片足を乗せてカタパルトのように上空へと跳んだ。

 

『地味に窮地!!』

 

レイアが落下してくるセイバーを迎え撃とうと射撃を放っていくがセイバーにもうそれは通用しなかった。

 

「今更ただの弾幕は効かねーぜ。ウェエエイイ!」

 

セイバーが空中から的確な射撃を放ちまくるとコインをまたもや相殺してレイアへと急速に接近。そして剣が届く位置にまで近寄るととうとうトドメの一撃を放つ。

 

「【スナックチョッパー】!」

 

セイバーがレイアをすれ違い様に斬り裂くとレイアが両断されてHPを0にし、とうとう自動人形の最後の1機が爆発四散することになった。

 

それと同時にセイバーの【ロックモード】の時間制限を超過して元のテンションに戻ると力が抜けてセイバーはその場に座り込んだ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……何とか倒したぞ」

 

しかしその代償は大きく、体力を大きく削られる事になった。セイバーは更なる負担をここから先の戦いで背負う事になり、そしてそれがどのような影響を及ぼしていくのか。それはこれからの戦いの中でわかってくるだろう。

 

 

〜運営視点〜

 

運営達はイベントの様子をモニターでチェックしており、今の時点での戦況を鑑みての感想を述べていた。

 

「いやー、まさか1日目でメイプルが退場するとは誰か予想できた奴いるか?」

 

「そんな奴誰もいるわけないだろ。あの化け物プレイヤーを倒すとはブレイドの力は本物みたいだな」

 

「そしてセイバーは2日目のこのタイミングでもう切り札解放か」

 

「これ、アイツの体力が3日目まで保つか?」

 

「……いくら何でも厳しいだろ。まだ2日目の折り返しですら無いんだぞ?3日目も丸々残っているしこれはブレイドの狙いが当たりそうな予感がするな」

 

「主力プレイヤーの数でも炎と雷の国側が優勢だしこれはセイバーにとって厳しい戦いになるだろうなぁ」

 

「そうか。なら、今の戦況を見てどっちが勝つか予想してみるとしようか。ただし、匿名投票という形で誰がどっちに入れたかの詮索は無しだ」

 

「どうして?」

 

「ある特定の人に釣られて意見を変えるということを無くすためだ。それではいくぞ」

 

それから運営のメンバー達が投票をして開票した結果、水と氷の国側が3割、炎と雷の国側が7割といった結果だった。理由としてはメイプルが早期退場したというのと、水と氷の国側の主力メンバーであるセイバーへの負担が大きく、仮に2日目を生き残っても3日目まで体力が残らないといった事が挙げられるだろう。ただし、匿名投票にしたためにこの理由の部分は語られなかったが。

 

「それでは、この先の戦況をゆっくりと見守らせてもらおう。果たして、どっちが勝つのか楽しみだ」

 

そうして、運営達はイベントの様子を見守っていくのであった。

 

———————————————————————

イベント2日目、現在の戦況

 

ミィ、パラドクス対ドレッド、フレデリカ

 

ブレイド、ギャレン、カリス、レンゲル対セイバー(本体)、カスミ、クロム、カナデ、イズ

 

リリィ、ウィルバート対セイバー(分身)×4

 

ヒナタ対セイバー(分身)

 

セイバー(分身)×3(移動中)

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        ギャレン

ヒビキ        カリス

カスミ        レンゲル

クロム        ミィ

イズ         パラドクス

カナデ        マルクス

ペイン        ミザリー

ドレッド       ヒナタ

フレデリカ      キャロル

キラー        リリィ

           ウィルバート

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと人形軍団戦

自動人形が全て破壊された頃、後方で待機していたキャロルが拳を握りしめて苛立ちを募らせていた。

 

「くっ……俺が前線に出てさえいればアイツらを破壊させずに済んだものを……ブレイド、余計な指示を出してくれやがって……」

 

キャロルの苛立ちは高まるばかりであり、それを周囲にいる【thunder storm】のメンバー達が宥めていた。

 

「本当であれば俺が前線に出る予定だったのにブレイドの奴は何を考えている……自動人形が破壊されてしまった今、ヒナタを護衛する者はいない。恐らくモンスターを強制的に操って何とかしているんだろうが……何とか生き残って戻ってこいよ」

 

キャロルはここにはいない同じギルドのメンバー、ヒナタを心配しており彼女が生還する事を望むのであった。

 

その頃、ヒナタは周囲のモンスター達を操りながら狼煙のセイバーと激しい攻防を繰り広げていた。

 

「【昆虫の足】!」

 

セイバーがスキルを発動すると足がバッタのように変化し、高い跳躍力を獲得。そのまま跳びあがると近くにいたモンスターを蹴り飛ばし、その反動で再び空中を跳ぶとそのままキックで次のモンスターを叩きのめしていく。

 

「ドール、【一斉攻撃】!」

 

「【狼煙霧中】!」

 

ヒナタがドールに指示を出すと再びモンスター達を操ってセイバーへと集中砲火を喰らわせようとする。しかし、セイバーはいつものように煙化を使ってそれを躱し、そのお返しとばかりにモンスターを一体ずつ各個撃破していく。

 

「……さっきの攻撃でやられたと思ったのに、まさか躱されていたなんて……」

 

「あの時はかなりステータスダウンのデバフがかかりまくってヤバかったからな。躱せたのも結構ギリギリだったんだぜ」

 

セイバーが何故生存してヒナタとの戦いを続ける事ができているのか疑問に思った方も多いだろう。そこで時を少し遡る。

 

セイバーとヒナタの2人が戦いを始めて周囲にモンスターが現れた頃。ヒナタはドールを使ってモンスター達を操りながらセイバーへ攻撃をさせていた。

 

「さっき重力は効かないって言いましたけどそれなら氷はどうですか?【コキュートス】!」

 

すると今度はヒナタの体から発生した白い靄がパキパキと音を立ててセイバーの体を氷漬けにしていく。

 

「しまっ……」

 

「【災厄伝播】【重力の軋み】【脆き氷像】!」

 

続けて被ダメージが増加するスキルでセイバーに攻撃を受けた際のダメージを増幅させる。これによりヒナタはベルベットと組む際にいつも行っているサポートをしているだけで良くなった。何故なら今現在、セイバーの周りにいるモンスターは全てセイバーを襲おうとしており、ベルベットほどの火力は無いもののモンスターの数は多く、物量で押すアタッカーとなっているからである。

 

「(動けない……これじゃあ……)」

 

「終わりにします。ドール【一斉攻撃】!」

 

ヒナタがドールに命ずるとドールが見えない糸のような物を操って支配下に置いたモンスター全てにセイバーをターゲットとして攻撃をさせた。そしてセイバーはそれを全て喰らう事になるのだった。

 

「これでセイバーの分身を1体倒せて……え?」

 

すると突如としてヒナタからダメージエフェクトが散り、HPが減少した。彼女が驚く中、横には先程氷漬けにされて攻撃を受けたセイバーが立っていた。

 

「危なかったぜ。アレをまともに受けてたら俺は確実にやられてたな」

 

「どうしてあなたが生き残ってるんですか?」

 

「なぁに、【スパイダーアーム】で中から氷を破壊して【狼煙霧中】で煙化しただけさ」

 

セイバーはあの一瞬の間に凍ったままでも発動できるスキル、【スパイダーアーム】で周囲の氷を粉砕。それからすぐに【狼煙霧中】で煙となってモンスター達の総攻撃を躱したのだ。

 

そして煙化したままヒナタへと接近するとすれ違い様に煙化から戻って狼煙による攻撃を加えたのだ。

 

「まさか私の氷の力も凌ぐなんて……」

 

「もう氷漬けも効かないぜ。さぁ、第二ラウンドの始まりだ」

 

このような事があり、そこからセイバーとヒナタのモンスター、ドールが操るモンスターとの戦闘が開始され、現在に至る。セイバーはここまでで多くのモンスターを倒しており、セイバーへと攻撃するモンスターの内、半分以上を撃退していた。

 

「このままじゃ数の有利が無くなる……何か、何か手があれば」

 

「【煙幕幻想撃】!【インセクトショット】!」

 

セイバーから放たれる強撃に次々とやられていくモンスター。このままいけば操っているモンスターが全て倒れるのも時間の問題でありモンスターが倒れれば当然狙いはヒナタへと向く。

 

「オラオラどうした?いくら数が揃って連携ができても単体の強さが大した事無ければ無意味だぜ」

 

「もう追加のモンスターもいない。こうなったら後方にいるキャロルや皆さんを呼ぶしか……」

 

そうこうしている間にヒナタのモンスター、ドールが操っていたモンスターが全てセイバーによって倒されることになり、残されたヒナタへとセイバーのターゲットは変わった。

 

「操っているモンスターさえ倒せれば!」

 

セイバーはヒナタへと剣を抜いて迫っていく。こうなればサポートに特化した性能であるヒナタがやられるのは時間の問題だろう。

 

「お前の敗因は他のプレイヤーを連れずに来たことだ!これで決めるぜ。【インセクトショット】!」

 

セイバーの一撃がヒナタを葬るために繰り出される。そしてそれがヒナタへと当たる直前、ヒナタの目の前に大楯が翳されてセイバーの攻撃をガードしていた。

 

「なっ!?このタイミングで援軍だと?」

 

「ふう……何とか間に合いましたね」

 

セイバーが驚く中、ヒナタは安心したかのような表情だった。そして周りには人形達によって構成される軍勢が剣、槍、大楯、弓等の様々な武器を構えてヒナタの背後にひしめいており、その数は100体近くだった。

 

「おいおい、その数は反則だろーが」

 

「これがドールの奥の手。【人形祭り】です」

 

【人形祭り】の効果は事前にスキルを発動する事で発動から一定時間が経過した後に人形の兵士が召喚される。そして、その数が多いほど必要時間やMPを多く消費するため、ヒナタはセイバーがモンスターと戦い始めた時点でスキルを使っていた。しかし、セイバーがモンスターを駆逐する速度が思っていた以上に早く、間に合わない可能性も大いにあった。あと一瞬スキルの発動が遅ければ間に合う事は無かっただろう。

 

「ここから逆襲です。ドール、【人形達の宴】!」

 

ヒナタの言葉と共にドールがまた見えない糸のような物を操ると周囲に存在する人形達がセイバーを攻撃し始めた。

 

「また雑魚敵相手かよ。いい加減にしてくれ!」

 

「雑魚かどうかは戦えばわかりますよ」

 

ヒナタの言う通り、セイバーはこの人形相手に苦戦を強いられる事になった。そもそも、人形達の耐久力や攻撃力が先程まで相手していたモンスターよりも高く、更に連携力も上回っているからかセイバーの戦闘能力でも対応するのには限界があった。

 

「コイツら、さっきのモンスターよりも強いとかふざけてんだろ?しかもざっと100体とか多すぎだろうがよ」

 

セイバーは先程以上に苦戦を強いられる事になり、少しずつ体力を奪われていく。こうなってくると体力切れでセイバーの体が壊れてしまうのも時間の問題だろう。

 

「こうなったら!【分身】!」

 

「界時抜刀!」

 

セイバーはやむを得ずに10体目の分身を生成。何故ここに来て更に分身を増やして自身への負担を増やすような事をするのか。疑問に思うだろう。セイバーとしてもこの【分身】は賭けであった。体力を更に消費させる代わりに人形達を倒すペースを早める事で結果的に自身の体力の消耗を少しでも抑える作戦である。そしてそれが失敗した場合、更なる負荷がセイバーへとかかり、自滅の道を辿ってしまう。そうしないためにもセイバーは歯を食いしばりながらその負荷に耐えつつ戦いを進めていく。

 

「【大海三刻突き】!」

 

「【煙幕幻想撃】!」

 

2人の分身セイバーから繰り出される攻撃は人形達を少しずつ葬っていく。だが、人形達もタダでやられるつもりは無い。セイバーを取り囲んで弓や魔法を軸とした全方位からの集中砲火を浴びせてくる。セイバーに近い個体は盾や剣で攻撃を防ぎ、後ろからの飛び道具でセイバーをジワジワと追い詰めていった。

 

その頃、ブレイドやカリスと戦っているセイバーの本体にも異変が起きていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……くっ!?」

 

「……どうした?もうバテたのか?」

 

「どうやらブレイドの策は当たったようだな」

 

セイバーは2人だけが相手とは思えない程に消耗しており、今現在も体中に走る痛みや疲れに耐えていた。何故このような事になっているのか。それはここまでに何度も説明した通り、【分身】を大量に、尚且つ長時間使用して戦っている影響が出ているからである。

 

「こんな所で……負けてたまるかよ……はぁ……はぁ……」

 

「いい気迫だ。けど、無理は良くない。【スラッシュ】、【サンダー】!」

 

ブレイドがカードを読み込ませると電撃の力が剣に付与されることになりそのままセイバーを切り裂こうと走っていく。

 

「【ライトニングスラッシュ】!」

 

「……カスミさん、借ります!【一ノ太刀・陽炎】!」

 

セイバーはこの装備のスキル【絆の輪】の効果で同じパーティのメンバーの持つスキルを1人1つまで使用する事ができる。カスミのスキルの中で使ったのは【一ノ太刀・陽炎】。これによりセイバーは超スピードで自分へと向かってくるブレイドの前に移動すると剣を振り抜いた。これならば疲れて多少動きが鈍った体をカバーすることができる。

 

ブレイドはこれに対して咄嗟に剣をセイバーの烈火へとぶつける事で2人は鍔迫り合いとなり、互いにスキルの威力で吹き飛ばされるとダメージを受ける結果となった。そこにカリスが間髪入れずに攻撃を仕掛けに行く。

 

「【チョップ】!【バイオ】!【バイオチョップ】!」

 

カリスは得物の弓から植物の蔦を射出するとセイバーを捕まえた。それからセイバーを強制的に自身の方へと引き寄せるとカードの力で強化されたチョップをセイバーへと叩きつけた。

 

「がっ!!」

 

更に追撃とばかりにカリスがもう1枚カードを読み込ませてセイバーに攻撃を仕掛ける。

 

「【ドリル】!」

 

するとカリスの右足がドリルのようなエフェクトに包まれるとキック力が上がりそれをセイバーへとぶつけようと右足を突き出す。

 

「2度も喰らうか!【ゲノミクス】!」

 

《ライオン!ゲノミクス!》

 

するとセイバーの両腕がライオンの爪をした物に変化。それによってカリスの攻撃を受け止めつつカリスの体を引き裂いた。その威力はかなりのものでカリスがそのダメージの大きさに怯んだ隙を突いて一気にスキルを叩き込もうとするが次の瞬間、目の前にブレイドが瞬間移動したように現れるとブレイドからの剣撃を受けてセイバーは吹っ飛ばされる結果になった。

 

「嘘だろ?今の、高速移動とかじゃない。動きが全く見えなかった……」

 

「これもカードの能力の一種だ。初見でこれに対応できる奴などいないよ」

 

「ッ………」

 

セイバーはあまりの戦力差に息を呑んだ。果たして、今の満身創痍の自分でどうにかなるのか?その事で頭が一杯だった。

 

「クソッ!考えたって仕方ない。このままズルズルやられてたまるかよ【紅蓮爆龍剣】!」

 

セイバーがMPを消費して燃え盛る龍を剣に纏わせると2人へと突き出した。すると紅蓮の龍が2人へと向かっていく。しかし、それはブレイドの前に出たカリスによって受け止められ、そのまま龍は大爆発を起こしてカリスに大きなダメージを与えた。

 

「やったか?」

 

「……甘いな。【リカバー】!」

 

カリスは敢えて自分がダメージを受ける事で回復可能なカードを使用すると減らされたHPを全回復。激しい戦闘をしながらも結局は2人共無傷なままといった状態に戻った。

 

「くっ……」

 

「そろそろトドメを刺してやる」

 

「俺も新たな力を見せてやろう」

 

カリスがカードを取り出すと自身のベルトに読み込ませた。

 

「【アブソーブ】!」

 

するとカリスの姿が変化を始めた。右腕にランの花と思われる花が装備され、左腕や両足には蔦が巻き付いたような武装がされており胸部にはランの花の紋章が刻まれた。

 

「その姿は……キラーから聞いた狼の姿とは別みたいだな」

 

「ああ。これはハートのQ(クイーン)のカードと融合する事で手に入る姿だ。最初に言っておくがこれは狼の力を借りるジャックフォームもどきとは違ってあまり戦闘力は高くない」

 

「!?」

 

セイバーは驚きを隠せなかった。普通であれば敵に弱点を教えるなどあり得ない。まだ手札が割れてもいないのにそんな事を言うということは何か裏があるのだろうとすぐにセイバーは警戒する。

 

「カリス、余計な事は言うな。今はセイバーを仕留めるのが先だ」

 

「すまない。では行くぞ」

 

カリスは先程と同じように左腕の蔦をセイバーへと発射してくると彼を捕らえようとしてきた。

 

「同じ手は喰らわないぞ?【爆炎紅蓮斬】!」

 

セイバーは迫り来る蔦を全て焼き払い掻き消していく。カリスはそれに怯む様子もなく今度は右腕を突き出した。すると今度はランの花から花粉が飛び始め、セイバーがそれを吸うと体が突然言うことを聞かなくなりカリスの方へとゆっくりと歩き始めた。

 

「な、体が……勝手に動いて……」

 

「花の誘惑という奴だ。思うように動けないだろ」

 

カリスの言う通り、セイバーは花の香りに誘われてカリスへと歩み寄っていく。当然このような状況でそれは自殺行為に等しい。そのため、セイバーはどうにか誘惑から逃れようとするが体が全く言うことを聞かない。

 

「ブレイド、任せるぞ」

 

「ああ。【キック】、【サンダー】、【マッハ】!」

 

その間にブレイドがカードを使って全力の一撃を解き放つと空中へと跳び上がり、そのままキックの体勢に入った。

 

「【ライトニングソニック】!ウェーイ!!」

 

セイバーはそれをまともに喰らうと大爆発を起こして後ろへと思い切り吹き飛ばされて近くの木に叩きつけられるのであった。

 

同時刻、再び場面はヒナタがドールに命じて召喚させた人形軍団と分身セイバー2人の勝負に戻る。

 

「2人程度じゃ焼け石に水か?でもこれ以上分身を出すと本体がヤバイ時に逃げられないし……」

 

今現在出ているセイバーの分身体は9体。本体も含めると10本の聖剣を使っている事になるため残っているのは切り札として温存している虚無のみ。そしてそれはセイバーとしてはブレイド達へ強襲をかけるために使いたいために今はとっておいている。つまりもう分身は出したくても出せないという事だ。

 

「……早く切り札を出してください。そうしないと負けますよ?」

 

ヒナタは何が何でもセイバーの奥の手を引き出すつもりだ。そうすればヒナタの近くにいるヒナタの味方プレイヤーにその姿を見せる事になり、情報を共有できるからである。そうなればブレイド達への奇襲にも使えなくなりセイバーは強みを1つ無くしてしまうだろう。

 

「この際もう仕方ないのか……」

 

セイバーが半ば諦めて新しい聖剣である虚無を使おうとすると自身の影から1体の怪人が出てきた。

 

『おいおいセイバー。何だその体たらくは』

 

出てきたのはセイバーの影に潜む戦士、デザストだった。デザストは得物である剣で近くにいた人形を切り捨てるとセイバーの前に背を向けたまま立っていた。

 

「デザスト……お前」

 

『そんな情けない戦いをしているお前を見ていたらな、イライラするんだよ。さっさとこんな奴等倒しちまえよ』

 

「今までずっと見てただけの奴に説教はされたくないな。アイツらかなり強いぞ」

 

『それがどうした。こっちにはこの俺がいるんだぜ?』

 

デザストの言葉にセイバーは今までの疲れが吹き飛んだのか笑みを浮かべるとデザストの隣に立った。

 

「へっ……言ってくれるじゃねーかよ。背中は預けるぜ。コイツらをぶっ倒してヒナタの元に辿り着くぞ」

 

『おう』

 

それから分身セイバーとデザストは人形軍団に突っ込んでいくと無双を開始。襲い来る人形達を破壊し始めた。

 

「【魚群】!」

 

「【有毒の煙】!」

 

まずは界時のセイバーが大量の魚を召喚して人形達を撹乱。動きを一時的にだが鈍らせていく。そこに続けて毒の煙を放出。人形達へと定数ダメージを入れていった。

 

「ほらほら、次は【電撃の糸】だ!」

 

今度は空中に糸を射出するとそれで巨大な蜘蛛の巣を生成してそれを真下へと叩きつけていく。これで人形に麻痺と糸による行動制限が加わって2人のセイバーとデザストからの連続攻撃をまともに受ける事になった。

 

「【インセクトショット】!」

 

「【大海一刻斬り】!」

 

『【カラミティストライク】!』

 

狼煙のセイバーは昆虫の力を纏わせたキックを、界時のセイバーは界時ソードに大海の力を込めた薙ぎ払いによる斬撃を、デザストは回転しながらの連続斬撃を繰り出して動きを封殺されて何もすることができない人形を消しとばしていく。今の状況を人形達からして見れば圧倒的な力を持つセイバーが2人おり、しかも自分達は動くことすら出来ないのである。これでは勝負になるはずがないだろう。

 

そこにただでさえ高いステータスを持つデザストがセイバー側の助っ人として加わっているのだ。この状況下でプレイヤーでもないただの人形達に勝てと言う方が無理難題と言える。

 

「まさか、ここまでの強さを持っているなんて……しかも何あの怪人。強すぎます……」

 

『決めるぜ。相棒!』

 

「勿論だ」

 

セイバーが界時を界時スピアへと変形させると界時スピアを使ってデザストを空中へと打ち上げる。更に狼煙のセイバーも【バタフライウイング】を使って空中へと浮いていく。

 

「くっ。ドール、【一斉射撃】!」

 

ヒナタはドールへと命じて人形達に遠距離から弓での射撃をさせてセイバー及びデザストを撃墜しようと目論むがそれさえも予想済みなセイバーはすぐに対処していく。

 

「【甲虫の盾】!」

 

空中にいるセイバーとデザストの前に甲虫類の装甲を模した固い盾が出現。それは人形達からの射撃を防ぎつつ2人と1体に攻撃を仕掛けるチャンスを作らせた。

 

「【一時一閃】!」

 

界時のセイバーが空中にいる狼煙のセイバーとデザストへと人形達の気が向いた隙にすぐさま攻撃を放って残された人形達を全て粉砕。2人がヒナタとドールへの道を開いた。

 

「今だデザスト!」

 

『おう!【カラミティストライク】!」

 

「【グラビティ】【アイススパイク】!」

 

ヒナタは2人にかかる重力を上げると真下に氷の棘を出現させて落下した所を貫こうとした。しかし、そこにいた2人は落下して氷に貫かれた瞬間、煙となって消えた。

 

「……え?」

 

『【フェンリルブレイク】!』

 

ヒナタが動揺している間に地上に立っていたデザストがフェンリル型のエネルギー波を撃ち出してドールへと直撃させた。元々周囲のモンスターを操ったり、人形を呼び出して使役させるような自分では戦わない支援型のモンスターであるドールにこの攻撃が耐えられるはずも無く一撃でドールは撃破されて光となって消えた。

 

「そんな、ドール!」

 

「【スパイダーアーム】!」

 

そこに間髪入れずセイバーがヒナタを蜘蛛の足でガッチリと拘束するとトドメとなる攻撃を放つ。

 

 

「【昆虫煙舞】!」

 

セイバーがヒナタを【スパイダーアーム】で引き寄せながら紅く光り輝かせた狼煙で貫き、そのHPを奪っていった。

 

「かはっ……」

 

「俺の勝ちだ。ヒナタ」

 

「……そのようですね……でもタダではやられません。【コキュートス】、【星の鎖】、【災厄伝播】、【脆き氷像】、【重力の軋み】!」

 

ヒナタが最後の抵抗とばかりにゼロ距離で次々と狼煙のセイバーとデザストを拘束させるスキルを言い放つと1人と1体がヒナタから離れる前に冷気と重力で完全に動きを停止させた。

 

「何をするつもりだ?」

 

「あなた達だけでも道連れにします。【破滅の呪い】」

 

ヒナタがそう唱えると彼女の体が光り始める。このスキルは自身が確定で死亡する場合のみ発動可能なスキルで周囲にいる敵全てを巻き込んで自爆する効果を持つ。ただし、スキルの発動まで5秒のタメがあるので相手を逃さないように拘束する必要もある。

 

そこでヒナタは自分にトドメを刺しにくるタイミングで狼煙のセイバーとデザストを巻き込んで動きを拘束した。界時のセイバーだけは離れていたので拘束には巻き込めなかったが、離れているために別に拘束する必要は無いと思っていた。しかし、それが今回の彼女の失敗だった。

 

 

「【界時抹消】!」

 

界時のセイバーがスキルでヒナタの目の前にまで移動すると【界時抹消】を解除。そのまま界時スピアで彼女の体を突き刺すとそのまま界時スピアごと思い切り遠くへと投げ飛ばして彼女との距離を取った。その瞬間、大爆発と共に周囲に爆風が駆け抜け、狼煙のセイバーとデザストを凍らせていた氷は砕け散ったが、爆発の中心部から離れた事もあって界時のセイバーは3割、狼煙のセイバーとデザストは7割ほどHPが削れていた。もしこれが先程のようなゼロ距離であれば一撃で全て持っていかれただろう。

 

「ふう。何とかなったな」

 

『最後のは危なかったぜ。まさか自爆してくるとはな』

 

「取り敢えずヒナタは倒したってことで大丈夫なのか?」

 

『道連れって言った所を見るともう大丈夫だろ』

 

実際の所、ヒナタは今の自爆でやられており、セイバー達が倒すべきプレイヤーは1人減っていた。そして同時に【thunder storm】の主力プレイヤーはキャロルのみになっており自動人形の撃破も含めてセイバー達にとっては大きな戦果となるだろう。

 

「さてと、疲労も蓄積しつつあるが、他の場面に加勢に行くか」

 

「あと、お前もありがとうな。デザスト」

 

『はっ。礼は全部終わってからにしてくれ。それにこのイベントの中で手を貸すのはこれっきりだ。次からは出てこないからせいぜい下手な戦いはするなよ』

 

そう言ってデザストはセイバーの中に戻っていき、それを見届けた分身セイバーはそれぞれが向かうべき場所へと進んでいくのであった。

 

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イベント2日目、現在の戦況

 

ミィ、パラドクス対ドレッド、フレデリカ

 

ブレイド、ギャレン、カリス、レンゲル対セイバー(本体)、カスミ、クロム、カナデ、イズ

 

リリィ、ウィルバート対セイバー(分身)×4

 

セイバー(分身)×5(移動中)

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        ギャレン

ヒビキ        カリス

カスミ        レンゲル

クロム        ミィ

イズ         パラドクス

カナデ        マルクス

ペイン        ミザリー

ドレッド       ヒナタ 脱落

フレデリカ      キャロル

キラー        リリィ

           ウィルバート

           マリア



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聖剣使いと剥がれる仮面

セイバーがヒナタを倒した頃、ブレイドやカリスと戦っているセイバー本体は先程ブレイドから受けたダメージに辛うじてスキルを使わずに耐えていたが、痛みが全身を襲っており疲労の色は濃かった。

 

「くっ、この2人を相手するのもそろそろ限界か?」

 

「この程度で終わってはつまらないな。……分身を解除しろセイバー。今のお前を倒しても俺は勝ったとは言えない。俺と本気で戦え」

 

「お生憎様だがそれは無理な相談だ。今は個人戦じゃなくてチーム戦をしているからな」

 

ブレイドはセイバーが本調子で戦えないのは【分身】を長時間維持しているからだと考えており、それの解除を薦めた。しかし、セイバーの返答は当然拒否だった。今【分身】を解除すればリリィやウィルバートをフリーにしてしまうのと、手数が足りなくなってしまうので解除したくともできないのが現状だろう。

 

「なら、本体であるお前を倒して邪魔な分身ごと退場してもらおうか」

 

ブレイドはカリスと共にカードを読み込ませていくとセイバーへとトドメの一撃を放つ用意をした。

 

「【キック】、【サンダー】、【マッハ】!」

 

「【フロート】、【ドリル】、【トルネード】!」

 

2人が空中へと跳びあがるとブレイドは足に電撃を纏い、カリスは体に竜巻を纏いながら回転。そのまま2人はキックをセイバーへと放った。

 

「【ライトニングソニック】ウェーイ!!」

 

「【スピニングダンス】たあっ!!」

 

2人がセイバーへと向かってくる中、セイバーもこのままやられるつもりは無かった。

 

「【森羅万象斬】、【火炎十字斬】!」

 

セイバーが攻撃を押しとどめるために使ったスキルによって2人のキックを防御するとそのまま爆発が起き、周囲に煙が舞い上がって2人は一時的にセイバーを見失った。そんな中、セイバーは2人への対抗策を打っていた。

 

「【分身】!」

 

すると煙が晴れて目の前に現れたのは烈火を構えたセイバーでは無く、狼煙と界時のセイバーだった。

 

「む。2人に増えたか」

 

「これで数の有利は無くなったな」

 

セイバーの言葉に2人は気を引き締める。セイバーが2人に増えたとは言えどちらかは本体のため、今は両方と戦うしかないだろう。しかも片方はセイバーが隠してきた界時であるので見た事のない新たな装備を相手に2人は緊張感を覚えつつも嬉々として戦いを挑んでいくのであった。

 

同時刻。ミィ、パラドクス対ドレッド、フレデリカの戦いは【炎帝ノ国】の2人であるミィ、パラドクスのコンビが優勢だった。

 

そもそも、ミィ対ドレッドの方はドレッドがミィに攻撃を仕掛けるには彼女へと近づかなくてはならない。だが、ミィの範囲攻撃には追加効果として炎による定数ダメージなどが挙げられる。これによって耐久力が低いドレッドは下手に近づけば返り討ちに遭ってしまうだろう。

 

パラドクスとフレデリカの方もパラドクスがフレデリカの大量の弾数を全て相殺してくるのとフレデリカよりも威力が高い攻撃を仕掛けるためにフレデリカは防御で手一杯になってしまっていた。

 

「それじゃあ全然楽しめないなぁ」

 

「くぅ〜。余裕そうな感じを出してくれてムカつく!」

 

フレデリカはパラドクスを相手に撃ち合いを仕掛けるしか無く、完全に相性不利の相手と戦わされていた。

 

「【炎槍】、【炎帝】!!」

 

「ドカドカスキルを使ってくれて、面倒だぜ」

 

ドレッドもミィから撃ち出される高火力の炎攻撃に次々に隠れる場所を破壊され、近付きづらくなっていた。

 

そうしているうちにフレデリカとドレッドは背中合わせでぶつかってしまい前後から挟まれる形になってしまった。

 

「チッ。フレデリカ、そっちはどうだ?」

 

「どうもこうもアイツとの相性最悪。これじゃあジリ貧よ」

 

「……仕方ない。相手を変えるぞ」

 

ドレッドは次の瞬間、イズから貰っていた煙玉を地面に投げつけるとそれに紛れてパラドクスへと接近。そのまま両手の短刀でパラドクスを斬りつけた。

 

「お、今度の相手はお前か?」

 

「そういうことだ。さっさと倒させてもらうぞ」

 

「良いな。そう来てくれないとこっちも困る。せいぜい楽しませろよ」

 

「【超加速】!」

 

その言葉と共にドレッドはAGIを上げてパラドクスへと連続攻撃を仕掛けていく。パラドクスも黙っておらず射撃をしていくが、その攻撃は全て躱されていき命中する様子は無かった。

 

「お」

 

「【オクタプルスラッシュ】!」

 

そこにドレッドから繰り出される斬撃。流石のパラドクスでも短剣が当たる距離まで近づかれては対処が難しいのか苦戦気味だった。

 

「どんどん行くぞ。【影分身】、【ステルス】!」

 

ドレッドは自身の分身を召喚すると自身は僅か5秒のみ透明化できるスキルを使用。5秒という時間はあまりにも短いかに思えるが、トップレイヤーにとっては5秒という時間があれば瞬く間に逆転できる。

 

「【鎌鼬】、【辻斬り】!」

 

ドレッドがすれ違い様にパラドクスを次々に斬りつけてダメージを稼いでいく。ダメージ量は致命傷程にはならないが、それでも沢山受け続ければいつかは大きなダメージへと結びついていく。パラドクスがそのような状況になるのを黙って見過ごすわけがない。

 

「【全砲門展開】【一斉斉射】!」

 

パラドクスは何も考えずに全部の方向へと射撃を撃ちまくる。一見愚直に見えるこの方法だが、ドレッドの機動力は高く、どこから来るかわからないために全ての方向へエネルギーの弾丸を放つことで擬似的な防御フィールドを作り出していた。攻撃は最大の防御の典型的な例と言えるだろう。しかし、ドレッドはそうなる事を見越して行動をしていた。今度は全方位に攻撃する事で薄くなった弾幕を潜り抜けての一方向からの一点突破でパラドクスへと近づいていく。

 

「マジか!」

 

「喰らえ。【シャドーレイン】!」

 

ドレッドが、短剣に影の力を高めるとすれ違い様にパラドクスを斬りつけ、パラドクスはそのダメージの大きさに後ろへと下がった。

 

「こいつは中々やるな。だったらこっちで相手してやる」

 

パラドクスは腰に差さっているダイヤル付きの長方形の物体を抜くとダイヤルの絵を180°回転。再び腰に差し直すと再び魔王のアーマーが戦艦のアーマーの代わりにパラドクスの体へと武装される事になり、手には剣が装備された。

 

「また姿が変わったな。その様子だと俺に対して有利に出れる装備だろ?」

 

「さぁな。戦えばわかるぜ」

 

ドレッドはまたパラドクスへと接近して斬撃を繰り出すが、今回は遠距離特化の戦艦の装備とは違って剣による近接戦がメインとなっており、互角の勝負になっていた。

 

「面倒だな。また機動力で撹乱してやる【トップスピード】!」

 

ドレッドは先程と同様に速度を上げる事でパラドクスの対応力を上回ろうと考えるが、もうパラドクスにそれは通用しなかった。

 

「無駄だぜ。【クリアステータス】!」

 

するとドレッドにかかっていたAGIが上昇される効果が一瞬にして消え、元の速度に戻ってしまった。

 

「何!?」

 

「悪いがお前にかかっているあらゆるバフ、デバフを消させてもらった。【眷属召喚】!」

 

パラドクスは周囲に戦闘員を呼び出すと数に物を言わせてドレッドを取り囲んだ。この戦闘員は戦力自体は低いものの、それでも数で押されれば範囲攻撃に乏しいドレッドは不利になるだろう。

 

「流石の対応力。これは俺も本気でかかるしか無さそうだぜ。シャドウ、【覚醒】【影ノ舞】!」

 

するとドレッドのテイムモンスター、シャドウが10体に分身。そのまま高速で攻撃を仕掛けていくと戦闘員達を削っていく。そこにドレッド自身も加わってあっという間に戦闘員を倒してしまった。しかし、倒し切った直後にどうしても隙は生まれるものである。それをパラドクスが見逃すはずが無い。

 

「【呪滅弾】!」

 

パラドクスが使ったのはイベント1日目にマイとユイの高いSTRを封じた5つのエネルギー弾。それがドレッドへと飛んでいく。ドレッドは何とか4つ目までを回避するが、5つ目は回避することができずに直撃。これによりドレッドのAGIは3分の間半分になってしまう。

 

「さぁて、これで機動力を奪えたし、さっさと終わりにしますか」

 

「そう簡単に終わるつもりは無いぜ」

 

ドレッドは低下した機動力をどうするか考えつつパラドクスとの戦いに臨むのであった。一方でミィとフレデリカの方も戦況は白熱していた。

 

「【爆炎】、【炎帝】、【炎槍】、【豪炎】!!」

 

「流石はミィ。使うスキルが炎ばかりだわ。けど、それなら対処も簡単なのよね!【多重水弾】、【激流波】!」

 

ミィが火属性の高火力スキルを連発するのに対して、フレデリカは水の魔法で的確に攻撃を防いでいく。同じ魔法使いでも圧倒的火力のミィと圧倒的手数のフレデリカ。2人の間を飛び交う魔法の内、何発かは流れ弾となって周囲のプレイヤーを無差別に襲っていく。

 

これにより近くで戦っていたプレイヤー達は流れ弾を受けまいと2人から更に離れていき、2人に邪魔が割って入る可能性は低くなった。

 

「あまり長引かせるつもりは無い。速攻で仕留めさせてもらう」

 

「そう簡単にはやられないよー」

 

「イグニス、【滾る炎】、【不死鳥の炎】、【我が身を炎に】」

 

ミィはイグニスと連携して体に炎を纏うとその火力を一気に底上げ。大技を出す構えのようだった。それに対してフレデリカの取った対処法は……

 

「【多重障壁】、【多重水弾】!ノーツ、【覚醒】、【威力増幅】!」

 

フレデリカは自身の方は防御力を上げると周囲に水の弾丸を大量展開。ノーツのスキルによって1発ごとの威力を高めてミィの高火力スキルを凌ぎ切るつもりであった。

 

「【インフェルノ】!」

 

極限まで炎が高められた一撃はフレデリカへと向かっていくが、フレデリカが展開した水弾によってその威力は相殺されていく。しかし、ペインやセイバーでさえこの一撃を防ぐのにはかなり苦労していたため、それよりも相殺するために発動したスキルの威力が低いフレデリカでは防ぎきれずにHPを半分近く持っていかれる事になった。

 

「ほう。アレを凌いだのはお前で3人目だ」

 

「それはどーも。それに多分今のでMPはかなり持っていかれたでしょ。反撃開始と行こうかな。【多重水刃】!」

 

「【フレアアクセル】!」

 

先程の攻撃でミィのMPが大きく下がった事を悟ったフレデリカがミィへと追撃を仕掛けていく。それに対してミィも機動力を上げてフレデリカの攻撃を躱しながらポーションでMPの補給をし、万全な状態に戻るが、それでもフレデリカの手数の前に逃げに徹するので精一杯であった。

 

「【多重石弾】、【多重風刃】!!」

 

これをチャンスと見たフレデリカの猛攻にミィが攻撃を躱し続けているとそこにパラドクスの攻撃を受けて吹き飛ばされたドレッドが飛んできた。

 

「こいつ、どんな強さをしていやがる。1人だとどうしようもできないな」

 

「ちょっとドレッド〜、自分から交代って言っておいて何やられてるのよ」

 

「そんな事言ってもパラドクスの力は本物だ。奴をどうにかするには2人がかりでやるしか無いぞ」

 

ドレッドの言葉についてはフレデリカも同意見だった。しかし、今のフレデリカはミィを抑える必要があるので中々2人でパラドクスに攻撃を仕掛けるということはしづらかった。

 

「おいおい。2人共俺が纏めて面倒を見てやるよ。ミィ!それでも構わないか?」

 

「好きにしろ。だが、こちらのチームの目的は忘れるなよ?」

 

「わかってるって」

 

パラドクスがダイヤル付きの長方形の物体を抜くと別のダイヤル付きの長方形の物体を取り出して青いパズルの絵が描かれた方を上にするとそれを差し込んだ。

 

「【大変身】!」

 

パラドクスが青いパズルの装備へと変更するとミィを攻撃しているフレデリカへと向かっていく。そこにドレッドが割って入り止めようとするものの、それを紙一重で避けてフレデリカを殴り飛ばす。

 

「くっ!?」

 

「さぁ2人共、俺とゲームを楽しもうぜ!」

 

そして、フレデリカがパラドクスの方に行ってフリーになったミィは自分達の目的を果たすために移動しようとする。しかし、それはあるプレイヤーによって阻止される事になった。

 

「烈火抜刀!」

 

「何だと!?」

 

そこにいたのは烈火を装備したセイバーであった。この登場にブレイドからセイバー本体の持つ聖剣が変わったという報告を受けていたミィも驚いた。まさか分身が自分の所に来るとは考えていなかったからである。

 

「どこに行こうとしていたんですか?ミィさん」

 

「セイバー。お前ならもう私達の狙いには気づいているだろう?知っていてわざわざ私の前に来るとはどういう風の吹き回しだ」

 

「こっちも出来る限りそちらの主力は潰さないといけないんですよ。ですのであなたを倒させてもらいます」

 

「満身創痍の体で私に挑むとは蛮勇だな。だが、それが命取りだという事を教えてやる」

 

ミィはそう言うとイグニスと共にセイバーへと向かっていく。それに対してセイバーも烈火に赤い輝きを纏わせて対応していく。

 

「【バーストフレイム】、【獄炎】、【猛る炎】!」

 

「【爆炎紅蓮斬】、【火炎砲】!」

 

セイバーとミィ。お互いに炎が得意な者同士による圧倒的火力のぶつかり合い。その規模は以前第4回イベントで戦った時のそれを遥かに上回る。そしてその炎は天を焦がし大地を焼き尽くしていく。2人は水と氷の国の森林地帯を主戦場にしていたが、その場所とは思えない程に周囲に炎が燃え移り、森林は焼き尽くされ、ただの焼け野原へと変わっていった。

 

「ブレイブ、【覚醒】!【爆炎玉】!」

 

「イグニス、【火炎弾】だ!」

 

ブレイブとイグニスの方も激しく激突しており、このマッチングも2人の対決の勝敗に関わってくるだろう。しかし、レベルではブレイブが上である事と、イグニスはまだ進化を経験してない事もあり、こちらの戦いはブレイブが優勢に進めている。

 

「やはりセイバー、君は強いな。もし万全な状態なら勝てたかどうかわからなかったぞ」

 

「何もう勝った気でいるんですか。勝負はまだまだこれからですよ!」

 

「……それもそうだったな。行くぞ」

 

「どっからでも来てください!」

 

セイバーが踏み込んで烈火を振るえばミィはそれを躱して炎の魔法で対応する。ミィが距離を取って魔法を撃ち込めば今度はセイバーがそれを烈火で弾きながらミィを仕留めようと距離を詰めていく。戦いは一進一退でありどちらが勝ってもおかしくないと言えた。

 

しかし、同じ火属性を使うセイバーとミィには大きな相違点があった。それはセイバーは心の底からの本音を出しているのに対してミィは作られたキャラとして言葉を発している事だ。そもそも、ミィは元々気が弱くあまり前に立って指揮を務める役は苦手なのである。更にセイバーが相手だと言うこともあって内心ビクビクしていた。

 

「(うぅ……何とかキャラで誤魔化してるけど、セイバー強すぎるよぉ……このままじゃMP切れでまた負けちゃうし、早く倒れて〜!!)」

 

そしてミィのその内心に違和感を覚えたのかセイバーは一旦攻撃の手を止めた。

 

「ミィさん」

 

「何だ?戦いの中で攻撃を止めるとは良い度胸してるな」

 

「あなた、ずっと前から本当の自分を隠していませんか?」

 

「……何?」

 

セイバーはこう見えて勘が鋭い。そして今まで感じていた違和感の正体に辿り着いていた。

 

「……前々から思っていたのですが、あなたの戦い方と話す言葉に何か引っ掛かりを感じていました。もしかしてミィさん、本当は怖いんじゃないんですか?」

 

「何を言う。私は怖がってなどいない。それにそんなのはただの憶測だろう。これが私の本当の……」

 

「嘘ですね。そうやってずっと弱い自分を包み隠して強がっていたからもう後戻りが出来なくなっている。そして、そのせいで限られた人にしか本当の自分を見せられていない。同じキャラ作りをしている人でもまだベルベットの方がマシですよ。アイツは戦いの中、本当の自分で本気の拳をぶつけてきた。本当の気持ちが凄く伝わってきましたよ」

 

「だからどうした。私の攻撃は偽りとでも言うのか!【炎帝】!!」

 

セイバーはミィから撃ち出された【炎帝】を烈火で弾き飛ばすと爆発の中をゆっくりと歩いていった。

 

セイバーは敢えてミィを挑発することで本当の彼女を引き出すつもりだった。セイバーは今の作られたミィでは無く、本当のミィを引っ張り出した上で勝ちたい。そう考えていたからである。

 

「今のあなたでは俺の相手にもなりませんよ」

 

「くっ……【蒼炎】、【爆炎龍】、【燃える大地】!」

 

セイバーはそれを正面から受け止めると烈火の炎で焼き尽くし、全て押し返した。セイバーから発せられる気迫にミィは押されていく。そしてミィはその気迫に観念したのか俯いた。

 

「何故だ?何故そこまでして本当の私を見たい……私なんて、私の本当の姿なんてものを見たらきっとお前は幻滅する……」

 

「……それでも知りたいんです。例えミィさんが嫌がっても、俺はその本性を知りたい。知らなきゃ俺は納得できない」

 

セイバーの言葉にミィは小さな声で話し始めた。

 

「……私の本性は気弱でリーダーなんて向いてないの。このゲームを始めて少しして私は強い装備を、強いスキルを見つけた。そうしている間に注目されるようになって、周りからチヤホヤされて持ち上げられて、その人達を失望させないように偽の自分を演じるようになった。そうしたら取り返しが付かなくなって……」

 

「それがあなたに感じていた違和感の正体でしたか」

 

「……失望したよね。これが本来の私。どうしてあんなキャラを作っちゃったんだろ……」

 

「いいえ、ようやくあなたの本当の顔が見れて俺は嬉しいです。その気持ち、俺も少しわかります。俺も初めてゲームの大会に出た時はとても不安でした。それなのに実力だけが先に行ってしまって全国で優勝してしまった。それ以降、暫くはプレッシャーに押し潰されそうでした。でも、周りに失望されたくなくて、親友にみっともない姿を見せたくなくて虚勢を張り続けていました。まぁ、俺はその後何度も優勝を経験してプレッシャーに慣れて自信もついてしまったんですけどね」

 

「……ふふっ。セイバーにもそんな時があったんだね」

 

ミィはセイバーの話を聞いている内にいつの間にかいつもの演じたキャラでは無く素の自分の言葉で自然にセイバーと話す事ができるようになっていた。

 

「ミィさん。演じるのはもう止めにしませんか?演じているミィさんも良いですけど、演じないミィさんも魅力的だと思いますよ」

 

「……でも皆は演じている私しか知らないんだよ。こんな弱い自分を見せたら皆の心は離れていくんじゃ……」

 

「その時は俺達のギルドに来てください。少なくとも演じていないミィさんを必要としている人が少なくとも1人、いや。メイプルも含めて2人いますから」

 

「……待って。セイバー、何でメイプルが素の私を知っているってわかっているの?」

 

「メイプルの挙動を見ていれば何となくわかりますよ。あとは俺の勘です」

 

「やっぱりセイバーには敵わないね」

 

ミィは笑顔になると演じている仮面を脱ぎ捨て、彼女はようやく心の底からの本音を言えるようになったのである。

 

「セイバー、ありがとう。これからは皆にも演じない本当の私の姿を見せるよ」

 

「良いって事ですよ。困った時はお互い様ですし」

 

「でも、もしこれで皆が私の事を嫌いになったらちゃんと責任取ってよね」

 

「わかっています。それじゃあ、勝負の続きをしましょうか!」

 

「うん!」

 

こうしてセイバーは再びミィと激突すると共に演じていたミィの本当の笑顔を取り戻した。これから彼女は真の意味でゲームを楽しむ事になるだろう。

 

「行くよ!イグニス、【青い炎】、【灼熱ノ輝き】!」

 

ミィがイグニスに指示を出すとイグニスはいつもの赤い炎を更に熱の高まった青い炎へと転換し、その力をミィへと与えた。それに加えて【灼熱ノ輝き】の効果でミィのステータスを一時的に上昇させてセイバーを倒そうと図る。

 

「【蒼炎帝】!!」

 

ミィは【炎帝】が更に進化した蒼い炎による巨大な火炎弾をセイバーへと放っていく。セイバーもそれを見て全力で応える。

 

「【紅蓮爆龍剣】!」

 

セイバーが烈火に紅蓮の龍を纏わせるとミィへと放ち、2つの攻撃がぶつかり合って激しく爆発する。セイバーがそれを隠れ蓑にしてミィへと接近していくと烈火を振り下ろす。ミィはそれを手にした杖で受け止めるとそのまま炎弾でセイバーを攻撃していく。

 

「ははっ!ミィさん、吹っ切れたおかげかさっきよりも良い攻撃しますね!」

 

「そうかな。私は今までと同じ事をしてるだけだけど……」

 

「やっぱり本当の気持ちが入った奴との戦いは楽しいです。さぁ、どんどん行きますよ!」

 

セイバーがミィへの攻撃を再開しようとするとそこにドレッドとフレデリカが出てきた。

 

「2人共、どうしたんですか?」

 

「どうもこうもねーよ。こっちは相当な化け物を相手していたみたいだ」

 

「え?」

 

「パラドクス、今まで本気を出してなかったみたいよ」

 

セイバーが振り向くとそこにはパラドクスが黄緑のベルトをした状態で立っていた。

 

「何だ?そのベルトは」

 

「セイバーもいたのか。丁度良い。俺の真の姿を見せてやる」

 

パラドクスがそう言うと今まで腰に差していた青いパズルの絵と赤いファイターの絵が描かれていたダイヤル付きの物体を手にしていた。そしてそれをベルトに差すとポーズを取った。

 

「【マックス大変身】!」

 

パラドクスがベルトのレバーを開くと赤と青の板が出現。パラドクスがそれを通過するとその姿が変わっていった。両手両足の装甲は黒くなり、胸のアーマーは青いパズルと赤い炎の模様が混ざり合ったような物へと変化した。また、肩のアーマーは右肩が赤、左肩が青い色をしており下半身には前垂れが垂れ下がっている。そして、ヘッドギアは赤と青が混ざったような装甲をしており、右目が赤、左目が青色に変化していた。

 

「パーフェクトパズルとノックアウトファイター。2つのゲームが混ざり合って1つになった。その名も……パーフェクトノックアウト!」

 

パラドクスは笑みを浮かべるとゆっくりとドレッドとフレデリカへと歩き始めた。その表情は強敵との戦いを楽しむバトルジャンキーそのものであり、それを見たセイバーを含めた3人はパラドクスの新たな力を前に気を引き締めるのであった。

 

———————————————————————

イベント2日目、現在の戦況

 

ミィ対セイバー(分身?)

 

パラドクス対ドレッド、フレデリカ

 

ブレイド、カリス対セイバー(本体?)、セイバー(分身?)

 

ギャレン、レンゲル対カスミ、クロム、カナデ、イズ

 

リリィ、ウィルバート対セイバー(分身)×4

 

セイバー(分身)×3(移動中)

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        ギャレン

ヒビキ        カリス

カスミ        レンゲル

クロム        ミィ

イズ         パラドクス

カナデ        マルクス

ペイン        ミザリー

ドレッド       キャロル

フレデリカ      リリィ

キラー        ウィルバート

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとRealGame

パラドクスがいつの間にか腰に巻いた新たなベルトと今まで使っていたダイヤル付きの物体でパーフェクトノックアウトの力を得た。果たしてそこに至るまでに何があったのか。話はセイバーとミィが戦いを始める所にまで遡る。

 

「【アイテム展開】からの【アイテム集約】!」

 

パラドクスはいつもの通り周囲にエナジーアイテムを出してからそれを集めてパズルを開始。そしてそれを2人の攻撃を回避しながらパズルを解いていく。

 

「コイツ、化け物かよ!」

 

「私達の攻撃を見ずに凌ぐとか舐めたマネしてくれるじゃん!」

 

「別に舐めたつもりは無いんだけどなぁ。ほれ、【高速化】、【マッスル化】、【透明化】!」

 

パラドクスが3枚のメダルを取ると透明になりながら高速で動きつつフレデリカを殴り飛ばす。それからドレッドに攻撃を仕掛けるが、ドレッドはいつも強敵相手に使用する勘による危険回避を使って見事に攻撃を避ける。

 

「お。バフ無しでこの速度について来れるの?」

 

「違うな。俺の勘が危険だと思ったから体を逸らしているだけだ」

 

「面白いな!なら、これはどうかな」

 

パラドクスが再びエナジーアイテムを3枚選ぶとそれを体に吸収していく。

 

「【ジャンプ強化】、【鋼鉄化】、【伸縮化】!」

 

パラドクスが大ジャンプして空中に跳ぶと鋼鉄化で硬くなった足を伸ばしてキックをドレッドへと打ち込むがドレッドは持ち前の反射神経で上手く躱していく。

 

「これでも当たらないか」

 

「【多重炎弾】!ノーツ、【覚醒】、【輪唱】!!」

 

そこに大量のエネルギー弾がパラドクスへと飛んでくる。その方向にはフレデリカがおり、先程のダメージを回復したのかピンピンしていた。

 

「ちょっとー。私も忘れてもらっては困るんだけどー!」

 

「忘れてなんかねーよ。ほら!」

 

今度はパラドクスが伸ばした足で弾幕を薙ぎ払い防いでいく。当然弾幕に触れた瞬間爆発するが、鋼鉄化で硬くなっているためにノーダメージで済んでいる。

 

「今だ。シャドー、【覚醒】!【影の群れ】、【シャドーダイブ】!」

 

ドレッドがその隙を突いてシャドーを呼び出すと影の狼にパラドクスを噛みつかせて動きを封じ、シャドー本体は影の中へと潜むと背後から襲いかかってパラドクスへとダメージを与えた。

 

「くっ!」

 

「そこだ。【オクタプルスラッシュ】、【シャドーレイン】!」

 

更に追撃の連続斬りからの影の力を纏わせた斬撃にパラドクスが地面へと叩き落とされる。

 

「くう〜。やるねぇ。だったらこっちでどうだ!【大変身】」

 

パラドクスが腰のダイヤル付きの物体を抜くとダイヤルを回して絵をチェンジ。それから腰に差し直す。すると両腕へと先程まで肩アーマーだった物が装着。更に全身の装備が赤く染まり姿が変化した。

 

「今度はそれか」

 

「お前達は俺の心を滾らせた!」

 

パラドクスがそう言うとドレッドへと接近して拳を繰り出す。ドレッドは辛うじてそれを回避するが、そのあまりの拳の速さに冷や汗を流した。

 

「【爆裂ラッシュ】!」

 

パラドクスからの容赦の無いラッシュはドレッドを回避のみに専念させ、更にドレッドの味方であるフレデリカもドレッドが壁になって中々射撃を仕掛けられなかった。

 

「うおらあっ!【炎の拳】!」

 

パラドクスが炎を纏わせた拳を繰り出すとドレッドがそれを両腕をクロスさせて短剣でガードする。しかしその威力で後ろへと吹き飛ばされて近くの木へと叩きつけられる。

 

「今よ!【多重石弾】!」

 

ようやくドレッドがパラドクスから離れて射線が通ったフレデリカから石弾の雨が降り注ぐ。パラドクスの今のスタイルは近接戦特化のためにこの状況はパラドクスが大幅不利と言える。

 

パラドクスは近くに落ちているエナジーアイテムを拾うとそれを自分に使った。

 

「【鋼鉄化】!」

 

それによって石弾によるダメージを抑え込み、そのまま無理矢理フレデリカへと走って近づいていった。勿論フレデリカが何もしないわけが無い。

 

「だったら、【多重反射板】、【多重光線】!」

 

フレデリカがパラドクスを囲むように小さな反射板を大量に展開して包囲させると光線を放ち反射板を使って乱反射させてパラドクスにダメージを蓄積させていく。

 

「流石に対処が早いなぁ。このままだとやられるぜ。けど、エム【覚醒】!」

 

パラドクスは状況を打開するためにピンク色の毛並みをしたジャッカルのモンスター、エムを呼び出す。

 

「行くぜ。エム、【ボードチェンジ】!」

 

エムはパラドクスの言葉と共にエムはその姿をスケートボードへと変え、パラドクスがその上に乗るとエムが自分の意思で移動を開始。その機動力でフレデリカとの距離を詰めていく。

 

「マジ!?てか、そんなのアリなの!?」

 

フレデリカは驚きつつも攻撃を継続していくがエムに乗ったパラドクスの機動力は想像以上に高く飛び道具が無いのでパラドクスからの反撃は無いが、それでも近づかれれば拳の一撃を受けるのでフレデリカは焦っていた。

 

「ノーツ、【小鳥の囀り】、【輪唱】!」

 

フレデリカのモンスター、ノーツが囀ると弱いオーラがフレデリカを包み込んでいく。そこにいつものスキル【輪唱】でその力を更に増幅させていく。

 

「行くよ〜!【多重水弾】!」

 

フレデリカが水弾を連射するとパラドクスは持ち前の機動力でそれを躱すが突如として水弾はパラドクスを追い始めた。

 

「追尾機能持ちか!」

 

先程掛けられた【小鳥の囀り】の効果で弾丸に追尾効果を与える事ができる。単体では大した追尾力にはならないが、【輪唱】によって効果が増幅されているためその能力は折り紙つきになっている。そうこうしている内に水弾はパラドクスに命中してエムもスケートボードから戻ってしまった。

 

「痛ってて……やるなぁ。2人相手だとどの姿でも対抗されるな。なら、今度は新たな力で対抗しよう。エム【擬人化】!」

 

パラドクスがエムに人間へと変化させると腰にベルトを巻かせた。するとそれと同時に自身にも同じベルトが巻かれた。その瞬間、エムがピンクの粒子になってパラドクスの体の中に吸い込まれた。

 

「え?」

 

「アイツのモンスターが合体した……のか?」

 

2人が混乱する中、パラドクスがいつもとは違うオレンジと青緑の長方形の物体を取り出した。

 

「さて、楽しもうか!」

 

パラドクスがニヤリと笑うとそのアイテムをベルトに差し、ベルトのレバーを開いた。

 

「【変身】!」

 

するとパラドクスの周囲にリングが出るとプレイするキャラのアイコンが出現し、その中の1つを選択。それがパラドクスに被さるとその姿が変化した。それは着ぐるみのように白い装甲が纏われてずんぐりとした体型に変化しており、顔と思われる巨大な仮面がパラドクスの頭部から胸部までを覆っていた。髪は右側がオレンジであり左側が青緑色になっている。

 

「………何これ」

 

「ダサいな」

 

「おいそこ!ダサい思ってもそれを言うんじゃねーよ」

 

「本人もそう思ってるのね……」

 

「これが新たな力なのか?」

 

完全にドレッドとフレデリカは大丈夫なのかと困惑している。と言うのも、今のパラドクスは2頭身のマスコットキャラのような姿でありとてもではないが戦えるような雰囲気では無いのだ。

 

「オイオイ、見た目だけで判断していると痛い目を見るぜ?」

 

パラドクスがそう言うと2人に向かって走り出した。すると2人が思っていた以上にそのスピードは速く、そのままドレッドへと体当たりを仕掛けた。

 

「チッ!」

 

その衝撃でドレッドは吹っ飛ばされると落ちていた【混乱】のエナジーアイテムを意図せず取ってしまった。

 

「う、動きが……」

 

ドレッドは【混乱】の効果で動きが鈍ってしまいそこにパラドクスからのパンチがヒットしてダメージを受けた。

 

「ちょっと舐めてたわ。けど、本気でかかればアンタなんて……」

 

「そういうのを舐めてるって言うんだよ!」

 

フレデリカはエネルギー弾を放っていくが、パラドクスの体型に似合わない機敏な動きによりそれは全て躱されていく。

 

「このっ!ちょこまかと!!」

 

「【高速化】!」

 

パラドクスが近くのエナジーアイテムを取るとスピードが上がりフレデリカの周囲を駆け巡りながら煽っていく。

 

「ホラホラどうした?こんな状態の俺を相手にしたら簡単に勝てるんじゃねーのか?」

 

パラドクスはスピードが上がった状態で木々を足場にしながら立体的な高速機動を展開。そのままフレデリカへと飛びつくと連続でキックを叩き込んだ。更にフレデリカに組み付くとフレデリカのSTRが高く無いことを利用して彼女を投げ飛ばした。

 

「コイツ、ムカつく〜!」

 

「待てフレデリカ。あまり奴の挑発に乗るな」

 

パラドクスの挑発にムキになりかけていたフレデリカをドレッドが押しとどめると落ち着かせた。パラドクス相手に焦りは禁物であると考えたためである。

 

「そろそろこの姿の真価を発揮するとするか」

 

パラドクスは【高速化】が切れるのを見計らって2人の前に立ちはだかるとベルトのレバーを一旦閉じた。

 

「【大変身】!」

 

それからレバーを開くと目の前にオレンジと青緑の板が出現。そこには2人のプレイヤーの絵が描かれておりそれを通過するとパラドクスが跳び上がり、白いアーマーが飛び散った。そして顔だけになるとそこから2人分の両手足が出現した。更に顔が真っ二つに割れて2人のプレイヤーとなるとそのまま地面へと着地した。

 

「俺がお前で」

 

『僕があなた』

 

「『超協力プレイでクリアしてやるぜ!」』

 

2人の容姿は右側がオレンジがメインの装甲をしているが、装甲の縁取りなどのラインは青緑となっている。また、パラドクスの髪の毛の色がオレンジへと変化しており目もオレンジへと変わっていた。

 

左側は右側とは対照的に装甲が青緑で縁取りがオレンジとなっており、髪の毛と目の色が青緑へとなっていた。

 

どうやらこの姿は2人分の能力を発揮するようで右側の方にパラドクスの意思が入っていた。それでは左側は誰の意思なのか?それはすぐに明かされた。

 

「おいおい、分裂とは聞いてないぞ」

 

「てか、1人はパラドクスだとしてもう1人は誰なのよ」

 

「2人共俺だ。ただし、動かしているのは擬人化しているエムだけどな」

 

左側を操作しているのは先程融合したエムのようであり、2人分の意思がパラドクスの体にあったからこそ、この姿が成立しているのだと言えた。

 

「さーて、これで2対2だ。楽しもうぜ!」

 

パラドクスの掛け声と共に2人のパラドクスの周囲にリングが現れるとパラドクスの意思の入った右側にはオレンジ、黄色、青緑色で銃、斧、剣が合体したような見た目の武器、キースラッシャーが召喚されてパラドクスがそれを手にした。左側の方にはピンクと黄緑でハンマーと剣が合体したような見た目の武器、ブレイカーが呼び出されるとエムが手にした。

 

「俺がドレッドを攻略させてもらうぜ」

 

『なら僕はフレデリカさんを』

 

それから2人はそれぞれの敵へと向かっていった。

 

「来るぞ」

 

「わかっているわよ!」

 

それに対して2人も対応するために構えを取る。パラドクスとエムはそれぞれ所持する武器を剣モードにして斬りかかっていく。

 

「うおりゃ!」

 

「はあっ!」

 

パラドクスとドレッドはそれぞれ持つ武器が近接武器という事もあって互角の戦いを演じていた。

 

「こいつ、さっきのずんぐり体型の姿からパワーが上がってるけど、今までの奴より火力が落ちてる?」

 

「そうなんだよな。この姿だとさっきよりも出力が多少落ちちゃうのが難点だが、こんな事もできるんだぜ」

 

パラドクスがキースラッシャーの中央部に存在するキー部分を押してモードをチェンジ。剣から斧へと武器の性質を変化させた。

 

「ズパパパーンってな!」

 

すると斧の部分にオレンジのエネルギーが高められていくとドレッドを連続で斬りつけていく。ドレッドは何とか短剣でガードするがその威力は高く受けた手が痺れた。そしてその隙を突いていきなりもう1人のパラドクスことエムがブレイカーの刃で斬りつけた。

 

「な!」

 

「ちょっとー!私を無視してない?【多重光だ……】

 

フレデリカがスキルを言い終わらない間にパラドクスがキースラッシャーを素早く操作。そしてモードを銃へと変化させると遠くから詠唱中で無防備なフレデリカを狙い撃ちした。

 

「きゃっ!!」

 

「交代だ。俺!」

 

「はい、僕!」

 

するとパラドクスとエムは戦う相手をすかさず変更して今度はエムがドレッドを、パラドクスがフレデリカを攻撃していく。その連携力は2人のそれを遥かに上回っていた。

 

「こいつら、俺達の連携を簡単に上回って行きやがる」

 

「凄くやりづらいんですけど!」

 

ドレッドとフレデリカの連携は基本的にドレッドが前衛で攻撃、フレデリカが後衛として射撃や支援を行うタイプであるのだが、パラドクスとエムの場合は2人共前衛であるためにそれぞれが好きなように相手へと戦いを挑んでいる。そのためドレッドとフレデリカにはいつも通りの連携が出来ていないというのも圧倒される理由になるだろう。

 

「使用回数が限られているが使うか。【トップスピード】!」

 

ドレッドがAGIを上昇させてから見えないほどの超スピードでエムを撹乱。短剣での斬撃で少しずつダメージを蓄積させる手に出た。

 

それと同時にフレデリカも大量のエネルギー弾を生み出してパラドクスにドレッドの方へと行かせないように足止めしていた。

 

「俺達を分断させる作戦か。なら!」

 

パラドクスとエムは同時にレバーを閉じると再び開いた。

 

「『【変身】」』

 

すると2人が粒子となってドレッドとフレデリカの攻撃の範囲から逃れると2人の中間点で再びずんぐりとした体型の姿に戻っていた。

 

「ずるくない?」

 

「これも1つの回避方法って奴だよ。そして【大変身】!」

 

それからパラドクスがレバーを開くとまたもや2人に分裂してそれぞれ構えてた。しかし、今回はエムの方が武器を所持していなかった。

 

「これは何かあるな」

 

ドレッドは自身の勘がパラドクスに何かあるという事を直感させた。そしてそれはすぐに現実となる。

 

2人はまたそれぞれ分かれてドレッドとフレデリカを相手にしていく。しかし、ドレッドと戦っているパラドクスが武器を持っているのに対してエムの方は素手のためそこを突けるとフレデリカは考えた。しかし、それは彼女の見込み違いだった。

 

「やるぜ!俺!!」

 

パラドクスが突如として武器であるキースラッシャーを投げるとそれはフレデリカに当たって跳ね返りそれをエムがキャッチ。そして斧モードに変えるとそれをフレデリカへと叩きつけた。

 

「ぐうっ……」

 

「このっ!」

 

その瞬間、武器が無くなって素手になったパラドクスへとドレッドが攻撃を仕掛けていく。普通であればこの攻撃は成功していただろう。しかし、この2人の連携力は普通では無かった。

 

エムは着地した直後にモードを銃へと変化させて何とノールックでドレッドを撃ち抜いた。

 

「何だと!?」

 

『使ってください!』

 

そして剣モードに戻すと再びパラドクスの方へと投げ渡す。

 

「ナイスパス!」

 

そして武器が戻ったパラドクスがドレッドを斬撃で追い詰めていく。ただでさえ強いパラドクスが2人に増えた上に高い精度で連携してくるのだ。弱いはずがないだろう。

 

「そろそろフィニッシュだ!」

 

『必殺技ですね!』

 

パラドクスがドレッドの攻撃を躱して蹴りを決めるとドレッドを怯ませてその隙にエムと2人で並ぶとレバーを同時に閉じてすぐに開いた。

 

「『【マイティダブルストライク】!」』

 

2人は跳びあがるとドレッドに向かってダブルキックを放つ。

 

「ドレッド!【多重障壁】!ノーツ【輪唱】!!」

 

フレデリカが咄嗟にドレッドの防御を厚くして攻撃に備えさせる。そこに2人のキックが襲い掛かった。

 

まず2人のキックがドレッドに命中。すかさず2人はドレッドの両サイドに移動すると空中に浮かんだまま両側からキックのラッシュを仕掛ける。それから先程のずんぐりとした体型の姿へと変わるとその状態でドレッドを空中へと打ち上げて自身も跳び上がり、再び2人に分裂してキックを放ちドレッドを吹き飛ばした。

 

「ドレッド!!」

 

フレデリカはドレッドの心配をするがドレッドの姿は薄く溶けて消えていった。

 

「あれ?もしかして今のオーバーキル喰らってもやられてない?」

 

「ったく、シャドウのスキルが間に合わなかったら今ので間違いなくやられていたぜ」

 

ドレッドはあの一瞬でシャドウにスキル【影武者】を発動させた。これは1日に1回しか使えない代わりにシャドーが姿を変化させて身代わりとなり攻撃を全て受け止めるというスキルである。要するにシャドウがドレッドの代わりにやられたという事だ。

 

「あれ喰らったら流石に俺もタダじゃ済まねーよ」

 

『やりますね』

 

「けど、もう今度は凌げねーよな」

 

パラドクスはキースラッシャーを取り出すとベルトに差していた長方形の物体を抜き、それをキースラッシャーに装填。するとキースラッシャーが2つに増え、増えたキースラッシャーをエムが持った。

 

「『【マイティブラザーズフィニッシュ】!」』

 

2人はキースラッシャーにエネルギーを高めてドレッドへと走っていく。そして2人はすれ違い様にドレッドを斬りつけようとするとそこにフレデリカが割って入った。

 

「もう!仕方ないわね!ノーツ【挑発】!」

 

フレデリカは渋々ノーツに接近して攻撃させるスキルを発動させて対象をドレッドとフレデリカからノーツへと変更させると2人の斬撃がノーツを襲い、ノーツは倒されてしまった。しかし、ここで2人のどちらかが犠牲になるよりはまだマシな選択と言えるだろう。

 

「さてと、そろそろトドメと行こうか」

 

すると突然パラドクスとエムに電流が走ると2人が1人に戻りジャッカルの姿になったエムが粒子となって出てきた。

 

「どうやら時間切れのようだな」

 

「流石にあの姿にも制限時間があったみたいね」

 

2人がそう言っているとパラドクスは笑い始めた。

 

「やるなぁ。俺達の攻撃を凌ぐなんてよ。それならそろそろ本気を出させてもらおうか」

 

パラドクスがそう言っているとそこに戦っていたセイバーとミィもやってきた。

 

「2人共、どうしたんですか?」

 

「どうもこうもねーよ。こっちは相当な化け物を相手していたみたいだ」

 

「え?」

 

「パラドクス、今まで本気を出してなかったみたいよ」

 

セイバーが振り向くとそこには先程までに引き継いで黄緑色のベルトをしており、セイバーには初見だったため彼は疑問を覚えた。

 

「何だ?そのベルトは」

 

「セイバーもいたのか。丁度良い。俺の真の姿を見せてやる」

 

パラドクスがそう言うと今まで腰に差していた青いパズルの絵と赤いファイターの絵が描かれていたダイヤル付きの物体を手にしていた。そしてそれをベルトに差すとポーズを取った。

 

「【マックス大変身】!」

 

パラドクスがベルトのレバーを開くと赤と青の板が出現。パラドクスがそれを通過するとその姿が変わっていった。両手両足の装甲は黒くなり、胸のアーマーは青いパズルと赤い炎の模様が混ざり合ったような物へと変化した。また、肩のアーマーは右肩が赤、左肩が青い色をしており下半身には前垂れが垂れ下がっている。そして、ヘッドギアは赤と青が混ざったような装甲をしており、右目が赤、左目が青色に変化していた。

 

「パーフェクトパズルとノックアウトファイター。2つのゲームが混ざり合って1つになった。その名も……パーフェクトノックアウト!」

 

パラドクスは笑みを浮かべるとゆっくりとドレッドとフレデリカへと歩き始めた。

 

「さぁ、ゲームを楽しもうぜ!!」

 

「今までと圧力がまるで違う」

 

「これは死に物狂いでかからないとヤバそうだわ」

 

パラドクスを見て2人は彼へと攻撃を仕掛けていく。まずはドレッドが短剣で斬りつけるがパラドクスはそれを簡単に受けながした。そこにフレデリカからの炎弾が襲い掛かるもそれも通用しないのかそれを受けながら彼女へ近づいて殴り飛ばした。

 

「ぐっ!?」

 

そこにドレッドからの短剣が振りかざされるがそれを躱しつつ炎を纏わせた拳で殴るとドレッドがあまりのダメージに地面に叩きつけられて転がった。

 

「【多重暗黒弾】!」

 

今度はフレデリカから闇のエネルギー弾が撃ち込まれた。しかしパラドクスはそれをパズル型の防御壁で防御してしまう。

 

「このっ!【多重光弾】!」

 

「パラブレイガン!」

 

続けて繰り出されたフレデリカからの光弾をパラドクスはリング状のエネルギーフィールドで防御し、そこから斧の形をした武器が生成された。

 

「遠距離攻撃なら」

 

パラブレイガンの形状は斧であるがそれと同時に斧の刃の部分を回転させて裏表を逆にすれば銃へと早変わりする。

 

「【連鎖射撃】!」

 

今度はパラドクスからの射撃がフレデリカを襲い、彼女はそれを散弾で凌ごうとするがまるで散弾を躱すようにプログラミングされたかのような動きで弾丸はフレデリカへと3連続でヒットする。

 

「3連鎖ってな」

 

フレデリカはあまりのダメージに膝をつき、痛みを必死に堪えていた。それを見たパラドクスの方はまるで余裕そうであった。

 

「おいおい、もう終わりかよ」

 

パラドクスがベルトからダイヤル付きの長方形の物体を抜くとそれをパラブレイガンに装填。すると近くにあったエナジーアイテムが飛んでくるとパラドクスの体とパラブレイガンに入った。

 

「【鋼鉄化】、【分身】、【パーフェクトフィニッシュ】!」

 

「やってくれるわね。【多重流星弾】!」

 

フレデリカはここぞとばかりに切り札である大技でパラドクスを倒しにかかる。これが命中すれば幾らパラドクスでもタダでは済まないだろう。

 

しかし、突如としてパラドクスが分身すると分身したパラドクスが落下してくる流星弾を全て撃ち落として相殺。これによりフレデリカの大技は不発に終わってしまった。そこにパラドクス本体からの鋼鉄の弾丸がフレデリカを撃ち抜く。

 

「きゃあああああ!!」

 

「オールクリアだぜ!」

 

これによりフレデリカはHPを0にされて消滅してしまった。

 

「フレデリカ!!」

 

「ヤバイな。俺がパラドの相手を……」

 

「セイバー、あなたの相手は私でしょ!」

 

セイバーがドレッドの援護に行こうとするが、ミィに邪魔されて思うように助けに行く事ができない。その間にパラドクスがドレッドとの戦いを再開する。

 

「チッ!【オクタプルスラッシュ】、【辻斬り】!」

 

パラドクスの武器が遠距離専用である事を突いてドレッドが接近すると斬撃を仕掛ける。当然パラドクスも銃撃で対抗するがドレッドのAGIは高いため上手く躱されて近づかれた。

 

「近距離なら!」

 

すかさずパラドクスがパラブレイガンを斧モードに戻すとドレッドの斬撃を受け止めて斧による強烈な一撃を叩き込む。

 

「こいつ、赤い装備をしている時の化け物じみたパワーも健在なのか!」

 

「【連打撃】!」

 

そこにパラドクスからの斧がドレッドへと叩きつけられるとその時発生した7つの衝撃波でドレッドは近くの岩場に打ちつけられて地面へと倒れ込んだ。何とかHPはスキルで1残ったものの最早満身創痍である。

 

「7連打ってな。それと、その程度じゃ全然楽しめないなぁ」

 

パラドクスが先程と同様にダイヤル付きの長方形の物体をパラブレイガンに装填するとエナジーアイテムが吸い込まれていった。

 

「【高速化】、【マッスル化】、【ノックアウトフィニッシュ】!」

 

「不味い。アレを受けたらドレッドさんは確実にやられる。俺が割って入るしか……」

 

「させないよ。【爆炎】!」

 

パラドクスの戦いに介入しようとするセイバーとそうはさせないとセイバーに攻撃を続けるミィも激しくぶつかっていた。その間にドレッドが立ち上がるがもう既に彼はフラフラだった。

 

「【シャドーレイン】!」

 

何とかスキルでパラドクスに対抗しようとするものの、結果は見えたも同然だった。

 

「うおりゃああ!!」

 

ドレッドが放った斬撃波をパラドクスがパラブレイガンで防ぎ、そのまま【高速化】による超スピードでドレッドに接近しながら【マッスル化】で威力が上がった斬撃をすれ違い様に打ち込み、ドレッドのHPを0にして撃破する事になった。

 

「KOだぜ」

 

そこにようやくミィを振り切ったセイバーが辿り着きパラドクスと相対する。

 

「パラド、これ以上は調子に乗せねーよ。一撃で決めてやる」

 

「やっと真打か。なら、こっちもお前を一撃で潰してやるよ」

 

パラドクスがベルトのレバーを閉じてからすぐに開きエネルギーを両足に高めていった。そして、2人は空中へと跳びあがると必殺のスキルを発動してキックを放った。

 

「【元素必殺撃】!」

 

「【パーフェクトノックアウトボンバー】!」

 

セイバーは四大元素の力を高めたキックを、パラドクスは赤と青のエネルギーが高められたドロップキックを放ち2つの攻撃がぶつかり合うと一瞬の均衡の後にパラドクスが押し切ってセイバーを吹き飛ばした。

 

「ぐあああ!!」

 

セイバーは地面に落下するとHPが1となりギリギリ持ち堪えるものの次に攻撃を受ければ終わってしまうのでセイバーは顔を歪めつつも警戒を強めていた。

 

「くっ……」

 

「倒せなかったのは悔しいけどこれで2対1。しかも敵の戦力も削れたぜ」

 

「潮時か。【紅蓮爆龍剣】!」

 

セイバーが咄嗟にセイバーの前で揃ったミィとパラドクスの目の前の地面に向かってスキルを放ち、煙幕を発生させるとその隙に撤退するに至った。

 

「逃げたわね」

 

「そういやミィ、お前そんなのだったか?キャラが大分違うけど」

 

「これが素の私よ。元々私は気が弱いし、リーダーになんて向いてないのよ」

 

「俺はそんな風には思わないけどな。さてと、自陣に帰るとするか」

 

「え?リリィ達の方に加勢しに行かないの?」

 

「そこまでブレイドの言いなりになる必要は無い」

 

そう言ってパラドクスは踵を返して自陣営の方へと戻っていき、ミィはそんなパラドクスを追って行くのだった。

 

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イベント2日目、現在の戦況

 

ブレイド、カリス対セイバー(本体?)、セイバー(分身?)

 

ギャレン、レンゲル対カスミ、クロム、カナデ、イズ

 

リリィ、ウィルバート対セイバー(分身)×4

 

セイバー(分身)×3(移動中)

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        ギャレン

ヒビキ        カリス

カスミ        レンゲル

クロム        ミィ

イズ         パラドクス

カナデ        マルクス

ペイン        ミザリー

ドレッド 脱落    キャロル

フレデリカ 脱落   リリィ

キラー        ウィルバート

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとジャックフォーム

パラドクスの真の力によってドレッド、フレデリカが撃破されることになり近くにいたセイバーも返り討ちに遭ってしまった。その報告がメッセージ機能で周囲に伝えられていく中、2日目も昼を過ぎて後半戦へと突入していく。

 

「【タテガミ氷牙斬り】!」

 

「【稲妻放電波】!」

 

リリィとウィルバートが無限に生み出し続ける機械兵軍団と死闘を続ける分身セイバー達。少し前から自動人形との戦いを終えて加勢に来た激土、翠風、錫音のセイバーも加わり、これで今現在7人のセイバーが機械兵を相手していた。しかし、機械兵の追加は終わる事を知らないのか次々と行われていく。そしてセイバーの疲労も限界にまで達しようとしていた。

 

「コイツらに終わりはあるのかよ……」

 

「てか、そろそろ終わってくれても良いんじゃね?」

 

普通であればここまでの長い時間、スキルを使用するのは不可能でありどこかで効果切れとなりクールタイムが発生するだろう。しかし、この機械兵達にはそのクールタイムがまるで存在しないのだ。1体倒されるごとに1体ずつ追加されているような感覚であり全体の総数は減ることが無い。

 

「そろそろセイバーも限界か?」

 

「いえ、油断は禁物です。彼に対して下手な手を打てばその隙を突かれます。最後まで手は緩めずに行くべきだと」

 

リリィとウィルバートがセイバーの様子を見ながら機械兵の動かし方をコントロールしており、この2人を倒すには2人の意識の外から攻め込む必要があると言えるだろう。

 

「ウィル、そろそろスキルのクールタイムに入る。またアレをしてくれ」

 

「わかりました。【砕けた機械】、【リサイクル】!」

 

すると2人の元に光の粒子が集まっていきその粒子が形を形成するとそれはセイバーに破壊された機械兵や戦車の破片となり、それがリリィへと吸い込まれるとまた機械兵が生成されるエネルギーへと転換された。

 

このスキルを定期的に使う事によってリリィは絶え間なく機械兵を生み出せるようになり、圧倒的な物量作戦を可能にしている。機械兵の投入を止めるにはやはりこの2人のどちらかを倒す必要があるだろう。

 

「クソッ!あとどれだけ倒せば終わるんだ!いい加減にしやがれよ!!」

 

セイバーの苛立ちは段々と強くなっていた。終わらない戦いは長期化し、出口の見えない絶望戦線となっていく。セイバーが残された力を振り絞って機械兵を粉砕していくが、それでも機械兵の投入は終わらない。果たして、この戦いはいつ終わるのか。それを知る者はいない。

 

その頃、ギャレン、レンゲル及びレンゲルが召喚したモンスターと戦っている【楓の木】の4人の戦闘はより一層激しさを増していた。

 

「くっ、まさか俺の動きを封殺するためにこんな手を使って来るなんてな」

 

今現在、ギャレンを相手に戦いを続けているクロムとイズがギャレンの動きを完全に封じ込めていた。このような状況になった理由は時間を少し遡る必要がある。

 

(セイバーがヒナタを倒した頃)

 

「【ラピッド】、【ファイア】!」

 

ギャレンがカードを読み込ませると炎を纏わせた弾丸が連射式で放たれていく。この弾丸をクロムが盾で防いでいくが、中々弾丸が止む事は無く、クロムの後ろに隠れているイズが動きづらい状況になっていた。

 

「クロム、隙を作るって言ったけどどうするの?」

 

「何とか近づいて乱戦に持ち込む。その間にならイズも動けるだろ?」

 

すると漸く【ラピッド】が効果切れとなり弾丸が飛んでくる感覚が長くなった。要するにリロードに時間がかかるようになったのだ。そのタイミングをクロムは見逃さない。

 

「今だ!【シールド突撃(チャージ)】!」

 

クロムが大楯を構えたままギャレンへと突撃していく。ギャレンがクロムの攻撃を銃で受け止めるが勢いまでは止めきれずにそのまま近くの木に押し込まれると圧力で押さえつけられた。

 

「イズ!」

 

クロムの声にイズは透明化のポーションを飲むと姿を消してテイムモンスター、フェイと共にアイテムを設置していく。その間にギャレンもクロムを何とか押し退けるがその時には既にイズがアイテムを設置し切った後で透明化も解除された。

 

「お前ら、何をした」

 

「ちょっと場を整えさせてもらっただけだ」

 

ギャレンは周囲の地面に警戒心を高める。下手に動けばその瞬間、イズの設置した見えないトラップにかかる可能性が大きいからである。

 

「行くぜ!」

 

そこにクロムが再びギャレンへと近づいて短刀で攻撃を仕掛けていく。ギャレンもそれに対応して銃撃をしようとするが、それをやりかけた所で止めた。何故なら今下手に銃撃をしてトラップを撃ち抜き、それが爆弾であれば自分がダメージを受けかねない。それを避けるために攻撃を銃で受け止めるのみに留めて反撃は拳や蹴りにした。

 

「どうした!得意の射撃はもう終わりか?」

 

「くっ、随分とやりにくくしてくれたな」

 

ギャレンは敢えてクロムとイズの攻撃を凌ぎながら2人の動き方を見た。2人が通った所には踏んで発動するタイプのトラップは無い可能性が濃厚である。ギャレンとしては少しでも安全が保障されるのに越した事は無いだろう。

 

ギャレンは間違えてトラップを踏んでしまわないように用心しながら立ち回る。それを見た2人は何が何でもトラップに捕まらせるために行動をしていく。

 

「【投擲】!」

 

イズが手にした鉄球を投げつけていく。マイやユイのようなSTRは無いので一撃必殺の威力とはなり得ない。それでも当たればギャレンでも怯むためその隙を突かれるだろう。そのため、ギャレンには鉄球を回避するしか道は無く、それが命取りだった。

 

「なっ!?」

 

ギャレンが回避した先には運悪くトラップが仕込まれていた。それは蔦が生えて敵プレイヤーを拘束する簡単な物だった。しかし、生えてきた蔦は5本程であり5本の蔦が複雑にギャレンの体へと絡み合って身動きを取れなくしてしまった。

 

「このっ!」

 

ギャレンが蔦を焼き尽くすためにカードを読み込ませようとするものの、そこにイズが遠隔式のトラップを置いてスキルを発動させた。

 

「【錫音ノ音撃・連鎖音波】!」

 

イズがステップを踏むとそこから円状の音波が放出されていき、地面を覆い尽くす。この音波は味方が振れる分には何も発動しない。ただし、敵プレイヤーやモブが1つでも円を踏めばその瞬間爆発する事になる。そして連鎖的に周囲の円も爆発していくのだ。

 

これによってギャレンは実質的に逃げ場を失う事になり、その身を捕らえている蔦を破壊したとしてもそこから一歩も動けないだろう。

 

このような事があってギャレンが拘束される事になった場面に戻る。

 

「クロム、今の内に!」

 

「ああ。仕留めさせてもらうぜ。【激土ノ侵撃・断崖剣】!」

 

クロムが短刀を地面に突き立てると地面が盛り上がりながらギャレンの方へと向かっていき、そして彼の真下から突如として土の剣が出現。そのままギャレンは貫かれて大きなダメージを受けながら空中へと吹き飛ばされた。そこにイズやクロムがメイプルから借りたモンスター、シロップからの追撃が放たれる。

 

「シロップ、【大自然】、【大地の怒り】!」

 

「フェイ【覚醒】、【アイテム強化】!」

 

シロップからは地面から放出されるエネルギーの柱がギャレンを下から攻撃し、イズはシロップの【大自然】によって召喚される太い蔦を足場にして空へと跳び、フェイと共に空中から仕掛けていく。

 

「これでも……どうぞ!!」

 

イズから投げられるのは【アイテム強化】によって威力が上がった炸裂弾でありそれはギャレンの視界を奪うと共にダメージを与えていき、その直後にシロップからのスキルが命中して大爆発と共にギャレンは落下。下に叩きつけられると最後にイズが残した音波の円に触れて爆発を受け、それを皮切りに周囲に仕掛けられた粘着性の爆弾が次々と爆破していった。

 

「フェイ、【妖精の守り】!」

 

当然爆発をされると2人にもダメージは行くが、そこはイズが計算したのかフェイに自らとクロムを防御させて余波によるダメージを抑えた。

 

「これは、オーバーキルだろ」

 

「でもこうするように言ったのはクロムでしょ」

 

「そうなんだが……なんかギャレンが凄い可哀想に見えてきてな」

 

ギャレンからしてみれば拘束されてから攻撃を受けて空中へと吹き飛ばされ、動けない所に容赦の無い爆発の嵐を喰らったのだ。理不尽以外の何物でも無いだろう。それに加えて爆発の威力が高すぎたせいか、周囲に存在した敵プレイヤーも巻き込んでおり、そのプレイヤーも理不尽に巻き込まれた被害者と言えるだろう。

 

「流石にこれならギャレンも倒れたよな?」

 

「これで倒れないなんて事は無いと思うけど」

 

2人が話していると爆発によって発生した煙が晴れたいき爆破した場所が露わになった。そこには何とダメージを負ったギャレンが何かのバリアフィールドに守られて生き残っていた。

 

「まさか、アレで倒れないとか化け物かよ」

 

「確かにアレはかなり危なかったな。……小夜子が居なければまず間違いなくやられていただろう」

 

すると近くに降り立ったのは2本の角を生やした巨大なギラファノコギリクワガタのモンスターでありそのモンスターは2人を敵として睨みつけていた。

 

「あら、強そうなモンスターね」

 

「まさか俺に小夜子を使わせるなんてな」

 

「てかそのモンスター、雄じゃねーのか?何でそんな名前を付けたんだよ」

 

「べ、別に良いだろ!気にするな!!」

 

ギャレンがそう言うと会話が終わり、再び緊張感が3人の間に流れていく。

 

「そろそろペースを上げて行くとしよう。【アブゾーブ】、【フュージョン】!」

 

ギャレンが2枚のカードを読み込ませると孔雀の姿が重なり、ギャレンジャックフォームへとパワーアップすると空中へと浮かび上がった。これにより、地上に設置されるタイプのトラップは意味を成さなくなってしまい、ギャレンのテイムモンスターである小夜子も空中を飛ぶ事ができると言うのも相まって戦況はギャレン有利へと傾いていく。

 

「【バレット】、【ラピッド】、【ファイア】!」

 

ギャレンは速攻で決めるべくカード3枚を銃に読み込ませ、そのカードは全て銃に吸い込まれた。そして発動される必殺の連続射撃。

 

「【バーニングショット】!」

 

ギャレンが空中で銃のトリガーを引くと威力が上がった炎の弾丸が連続で発射されていき、2人を襲っていく。何とかクロムは大楯でガードするものの、咄嗟に移動できなかったイズの方はまともに射撃を受ける事になってしまいダメージを負った。

 

「くっ……」

 

「イズ!!」

 

「小夜子、クロムに【ギガントホーン】だ!」

 

すると小夜子がクロムへと接近していき、2本の角を巨大化。そのままクロムを挟むと動きを封じてしまった。

 

「しまった!」

 

「こうなったらアイテムで……」

 

イズがクロムの援護に行こうとするが、ギャレンの射撃がその足を止めさせてしまう。

 

「行かせないぞ。トドメを刺してやる。【ドロップ】、【ファイア】!」

 

すかさず孤立したイズへと空中から必殺の一撃を解き放つ。

 

「【バーニングスマッシュ】!」

 

炎を纏わせたドロップキックが無防備なイズを襲いその体を貫いていく。

 

「ごめん……クロム、後は任せるわ……」

 

これによりイズはポリゴンとなって消滅。戦況はクロムとギャレンの1対1になってしまった。

 

 

その頃、カスミとカナデはレンゲル及び彼が呼び出した3体のモンスター相手に戦っていた。まずはカナデとそのモンスター、ソウのコンビとレンゲルが召喚したモンスター達の戦いから見ていこう。

 

数に任せて次々と襲い掛かるモグラ、コブラ、イカのモンスターをカナデはソウと共に冷静に捌いていく。

 

「ソウ、【痺れ粉】、【重力増加】!」

 

カナデが使ったのは3体のモンスターを麻痺にさせる効果を持つスキルにモンスターにかかる重力を増加させる効果を持つスキルでありこのスキルで3体のモンスターを足止めしつつ自らは今までずっと【魔導書庫】に貯め続けてきたスキルを解放していく。

 

「【地獄の業火】、【大地の怒り】、【稲妻放電波】!」

 

カナデは今までずっと【神界書庫】から日替わりで出てくるスキルを【魔導書庫】の本棚に保管してきていた。その量は第4回イベントで扱っていた量の何倍にも及ぶ。1回使えばそれきりのために連発する事は不可能だが扱えるスキルの数だけで考えるならカナデがこのゲームの中でもトップクラスに入るだろう。しかもソウに【擬態】を使わせる事によって効果が落ちるもののカナデが使うスキルを半永久的に使う事ができる。3体のモンスターもカナデを潰すために全力を尽くしてはいるが、戦う相手が悪すぎた。

 

「ソウ【森の大槌】、【猛吹雪】、【グランドブレイク】!」

 

モンスターは何かをしようとする前にソウから撃ち出された魔法によって蹂躙されていく。圧倒的なワンサイドゲームにモンスター達のHPはあっという間に0にまで削れていき、カードに戻ってしまった。

 

「さて、カスミの方に行かないとだね。ついでにカードも回収して……」

 

カナデがモンスターが封印されたカードを拾おうとするとそこにカスミが吹き飛ばされてきてカナデにぶつかるとそのまま2人纏めて地面に叩きつけられた。

 

「く……すまないカナデ、邪魔をしてしまったな」

 

「僕は大丈夫だよ。それよりも今吹き飛ばされてきたのは……」

 

「ああ、レンゲルの奴、思っていたよりも相当強い」

 

そこに歩いてきたレンゲルが落ちていたカードを回収しながら2人を見据える。

 

「やっぱり僕のモンスターでも足止めにすらなりませんか。相手したのがカスミであればもう少し時間を稼げたでしょうが……まぁ良いでしょう」

 

レンゲルがカードを取り出すとそれを杖に読み込ませる。

 

「【スタッブ】!」

 

すると蜂の絵が描かれたカードが杖へと吸い込まれていくと杖による攻撃の威力が増加。そのままカナデへと突きを放つ。

 

「ソウ、【魔力障壁】!」

 

カナデは自分ではなくソウに障壁を張らせるが、それだけで突きを止めるには防御力が足りずに防御壁は破られて突きをソウが受けてしまった。しかし、これでレンゲルには隙が生じた。そこにカスミが踏み込んでいく。

 

「はあっ!」

 

カスミの刀が振り下ろされる瞬間、レンゲルは咄嗟に杖から手を離すとカードを投げて遠隔でスキャンさせる。

 

「【ゲル】!」

 

【ゲル】の効果でレンゲルの体は液状化。攻撃を見事に回避してしまうと杖を回収して2人の前で元に戻った。

 

「流石に手強いね。まさかあのタイミングでも躱す手があるなんて」

 

「下手な踏み込みはやめた方が良さそうだ」

 

2人が話しているとレンゲルもこの膠着状態をあまり良しとは考えていないのか、一気に状況を打開するためにある手を使う事にした。

 

「シマ、【覚醒】!」

 

レンゲルが呼び出したのはタランチュラ型のモンスター、シマでありシマはレンゲルの隣に並ぶと2人を威嚇した。

 

「【ポイズン】!シマ、【毒合成】!」

 

レンゲルがカードを使って毒を生成するとそれをシマへと譲渡。シマはその毒と自らが生み出した毒を合成し、それを2人へと投げつける。当然2人とソウはそれを躱す。わざわざ危険物である毒を受ける必要は無いので当然の行動だろう。しかし、その行動もレンゲルは計算済みだった。

 

「今だ。シマ、【糸噴射】、【操糸】!」

 

レンゲルの指示にシマはすぐに答え、糸を噴射すると発射した毒へと命中させ、その衝撃で毒は弾け飛び散弾のような要領で2人とソウへと攻撃を命中させた。カスミに関しては【毒無効】を持っていたが、【毒合成】の効果によってそれを貫通。2人とソウは毒を超える状態異常、猛毒を喰らってしまい一定時間ごとにダメージを受け始めた。

 

「なんだこれは……」

 

「苦しい……ソウ、【アンチドーデ】!」

 

カナデは毒状態を解除させるスキル、【アンチドーデ】を使うが、まるで効果が無く、多少毒の進行速度が落ちたのみだった。

 

「何で……毒を抑え込むはずなのに」

 

「それはそうですよ。この毒は普通の毒を遥かに上回っている。1回やった程度じゃ落ちません」

 

「く、それなら【オールヒーリング】!」

 

仕方なくカナデは効果が落ちてしまうソウでは無く自分で全ての状態異常を無効にし、HPとMPを全回復させるスキルを使用。これで2人とソウの猛毒を消し、減ったHPとMPを復活させた。

 

「助かったぞカナデ」

 

「でも、次も同じ事はできないから気をつけてね」

 

「ああ」

 

それに対してレンゲルはまだ余裕そうな表情を見せていた。それもそのはず。未だに彼の奥の手は使われていないのである。そして、その奥の手が使われる時こそ彼が真に追い詰められた時である。

 

「さぁ、次はどうしますか?」

 

レンゲルの挑発にカスミは応え、走っていくと手にした妖刀を抜き放った。

 

「【血刀】!」

 

カスミはHP減少を対価とするスキル、【血刀】でレンゲルへと範囲攻撃を仕掛ける。レンゲルはこれを敢えて受けながら突進。カードを読み込ませてスキルを放つ。

 

「【ラッシュ】!」

 

先程の【スタッブ】とは違って今度は突進力が上がった状態での突きである。圧倒的なそのパワーにカスミは妖刀で受け止めるもののその勢いを殺せずに押し返される。

 

「くっ……」

 

「【最光ノ魔法・光領域】!」

 

そこにカナデからの支援が入る。光剛剣最光の力、それでカナデが持つMPを全て使用して光り輝く領域を展開。この中では一定時間の間、味方のプレイヤーやモブは全て常時HPと状態異常の回復、そしてステータスが1.5倍に増加する。これにより実質的にカスミとソウがパワーアップする事になった。

 

「ソウ、【激流】、【水の怒り】!」

 

そこにカナデのモンスター、ソウがカナデの持つスキルを一時的にコピーして使用。発生した水の流れがレンゲルを襲っていく。

 

「【ブリザード】!」

 

レンゲルは急いでカードをスキャンすると迫り来る水を凍らせていくが、もう1つのスキル、【水の怒り】によって生成された追加の水の竜巻を防げずにまともにダメージを受けた。そこにすかさず強化されたカスミが追撃をかける。

 

「【月闇ノ太刀・暗黒ノ一閃】!」

 

闇を纏わせた一撃はレンゲルを両断し、更なる追撃をかけていく。これによりレンゲルは圧倒的不利な状況に追い詰められていった。

 

「こ、こんなはずでは……仕方ない。ジャックフォームで……」

 

「させないよ。ソウ、【棘の鎖】!」

 

そこに地面から棘付きの蔦が飛び出すとレンゲルを拘束して更に定数ダメージを与えていった。

 

「カスミ!」

 

「この勝機、逃すはずがない!!」

 

カスミは強化されたステータスを持ってして接近。一気にトドメを刺そうとする。

 

「【六ノ太刀・焔】!」

 

カスミが炎を纏わせた刃をレンゲルへと振り上げる。そしてそれが振り下ろされる瞬間、レンゲルはニヤリと笑みを浮かべた。カスミはそれを見て違和感を覚えた。しかしもう攻撃は中断できない。そのままカスミがレンゲルを真っ二つに斬るとレンゲルの姿がいきなり煙となって消えてしまった。

 

「何!?」

 

それと同時にカナデのスキルによるバフタイムが終わってしまいステータスが元に戻ってしまった。レンゲルは何故消えてしまったのか。その理由はすぐにわかった。

 

「今斬り捨てたのは煙で形成した幻。本物はこちらですよ。【アブソーブ】、【フュージョン】!」

 

2人が振り返るとそこには象の力を纏ってパワーアップしたレンゲルが立っていた。

 

「しまった、アイツに煙を出すカードがあるのを失念していた!!」

 

「鎖に捕まる直前、あの一瞬で煙の自分を生成して場所を入れ替えたのか」

 

「そういう事です。では、そろそろあなた達を倒します!」

 

カナデはそれを見てソウに対抗するためのスキルをつかわせていく。自分のを使わないのはレンゲルの力を実際に見ていないため、ソウに使わせた方がわかりやすい物差しになると考えたからである。実際それは間違ってはいない。もしカナデが持つ一度限りのスキルを使って仕留め損なえば窮地に陥ってしまうだろう。しかし、今回はそれがミスだった。

 

「ソウ、【パワーウィップ】、【岩の鉄槌】、【ストーンショット】!」

 

ソウがカナデの指示を受けて次々とスキルを放つ中、レンゲルは悠々とそれを受けつつ歩いてくる。これがカナデ自らが使ったものであれば致命傷を負っていただろう。だが、ソウでは火力が落ちるためにレンゲルの防御力を前に致命傷にはなり得ない。

 

「【ラッシュ】、【ブリザード】、【ポイズン】!」

 

その間にレンゲルが3枚のカードをスキャン。杖に毒と氷の力を高めさせるとそのままソウへと突きを放った。

 

「【ブリザードヴェノム】!」

 

これによりソウはやられてしまいカナデの指輪へと強制的に戻されてしまった。そして次の狙いは当然大量のスキルを抱えるカナデである。

 

「【ポイズン】!」

 

レンゲルがカードを読み込ませてからカナデへと近づくと頭を掴んで持ち上げて毒を流し込む。

 

「が……うぐぅ……」

 

カナデはスキルを使う前に毒を流された事で思考が僅かだが停止してしまい動きが止まってしまった。その瞬間こそレンゲルがスキルを放つ時である。

 

「終わりです。【バイト】、【ブリザード】!」

 

レンゲルがカードを使用すると足にエネルギーが高まり、そのままカナデから手を離すとカナデが落ちてくる。そこに合わせての上段蹴りを放つ。

 

「【ブリザードクラッシュ】!」

 

「カナデ!!」

 

そこに【超加速】で走ってきたカスミがカナデを突き飛ばすと代わりに攻撃を真正面から受ける事になった。

 

「ぐあっ!!」

 

ジャックフォームによってパワーが上がったキックをまともに受けたカスミはあまりのダメージの大きさにその場へと倒れてHPの殆どを失っておりレンゲルはそれを掴むと無理矢理立たせた。

 

「くう……すまない、セイバー。ここまでみたいだ」

 

「しぶといですね。【スクリュー】!」

 

そこにレンゲルからのスクリューパンチが決まりカスミはHPを0にされて消滅してしまった。その様子を見ていたカナデは悔しさのあまり地面を殴っていた。何とか毒は回復したものの精神的にはかなりダメージを受けただろう。

 

「さて、次はあなたの番です」

 

レンゲルのターゲットがカナデへと向いたその時、そこに1人の剣士が現れた。

 

「待ってくださいよレンゲルさん。アンタは俺が倒す」

 

そこにいたのは聖剣を持たない状態で装備が強化されていないセイバーだった。

 

「セイバー!どうしてここに……」

 

「事情説明は後で。よくもここまで好き放題してくれましたね」

 

セイバーは怒りを露わにしながらレンゲルを睨みつける。

 

「どうやら僕に倒されたい奴がまた1人来てくれたみたいだな」

 

「倒されたい?倒されるの間違いですよ。何せ今の俺は自分への怒りで本気モードです。手加減はできないので悪しからず。虚無、抜刀!」

 

するとセイバーの手には11本目の聖剣である無銘剣虚無が握られ、その周囲を不死鳥が飛び回った。そしてセイバーの体は炎に包まれていくのだった。

 

———————————————————————

イベント2日目、現在の戦況

 

ブレイド、カリス対セイバー(本体?)、セイバー(分身?)

 

ギャレン対クロム

 

レンゲル対セイバー(分身?)、カナデ

 

リリィ、ウィルバート対セイバー(分身)×7

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        ギャレン

ヒビキ        カリス

カスミ 脱落     レンゲル

クロム        ミィ

イズ  脱落     パラドクス

カナデ        マルクス

ペイン        ミザリー

キラー        キャロル

           リリィ

           ウィルバート

           マリア




何とか書き溜めが溜まってきたのと、夏休みシーズンという事で8月の間だけになりますが投稿ペースを早めようと思います。それではまた次回もお楽しみに。


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聖剣使いと虚無の戦士

レンゲルと戦っていたカスミとカナデ、2人は彼を相手に善戦するものの、レンゲルの策に嵌りカナデのモンスター、ソウとカスミを失うという大きな痛手を被ってしまった。そこに自らへの怒りで本気モードのセイバーが登場したのだった。

 

「虚無、抜刀!」

 

セイバーが11本目の聖剣である虚無を抜刀するとその周囲を不死鳥が飛び回り、自らは炎に包まれていく。そしてセイバーは剣の刀身を左手で掴むと右手の人差し指を口に当てた。

 

「シーッ」

 

それから右手で剣の柄を掴むと虚無を振り抜く。そこに飛び回っていた不死鳥がセイバーへと覆いかぶさってその姿を変えさせていった。その姿は右肩に不死鳥の顔のようなアーマーが、胸には不死鳥の体のような形の装甲が、左肩には不死鳥の翼のようなアーマーが装着。そして腰にはローブが付属し、右側は黒一色だったが左側は不死鳥の尾羽のような意匠が刻まれている。ヘッドギアはオレンジであり、それに付属している角のような剣は黒く染まっていた。全体を見るとまるでセイバーの体にオレンジの不死鳥そのものが合体しているようだった。

 

『不死鳥のヘッドギア』

【MP+60】【VIT+40】【HP+60】

【破壊不可】

【無属性】【無の領域】【自然回復】

 

『不死鳥の鎧』

【VIT+40】【INT+60】【STR+20】【DEX+50】

【破壊不可】

【バーストフレイム】【炎の翼】【不死の体】

【聖なる歌声】【マグナブレイズ】

 

『不死鳥の靴』

【AGI+60】

【破壊不可】

【無の大地】【プロミネンスドロップ】

【フレイムダンス】

 

『無銘剣虚無(むめいけんきょむ)』

【STR+60】【破壊不可】

【不死鳥無双斬り】【無限一突】

【バーニングレイン】【無ノ一閃】

 

「さぁ、戦いを楽しもうか。【無の大地】!」

 

セイバーがそう言うと突如としてセイバーを通じて大地に何かのオーラが伝っていき、それがフィールドのギミックを全て無力化してしまった。

 

「どういうことだ……」

 

「見たままですよ。ちょっとフィールドに存在する効果を全て消しただけです。俺の楽しい戦いの時間をフィールドの効果に邪魔されたく無かったので」

 

セイバーはニヤリと笑うとレンゲルへと走っていき、虚無を振るう。それをレンゲルが刃のついた杖で受け止める。パワーはレンゲルが上回っているのか鍔迫り合いになるとセイバーが押され始め、そのまま押し込まれていく。

 

「【炎の翼】!」

 

セイバーの言葉と共にセイバーの背中に不死鳥の翼が生えると空へと飛び上がり、空中を飛行しながらレンゲルを牽制する。

 

「チッ。シマ、【ポイズンシュート】だ!」

 

レンゲルが自らのモンスターであるシマに指示を出すとシマが毒のエネルギー弾を発射する。セイバーはそれをまともに受けてしまい毒状態になった。

 

「何だ、大したこと無いじゃないか。所詮はこけ脅し……」

 

次の瞬間、セイバーの毒が一瞬にして消え去ると減ったHPが回復を始めた。

 

「なんだと!?HPが勝手に……」

 

「スキル、【自然回復】。これにより俺は一定時間ごとにHP、状態異常、そして体への疲労が回復していく。俺を倒したければ俺の回復速度を上回る火力を出してくれないと」

 

このセイバーの説明。さりげなく疲労回復までこなすと言っているが、ここで思い出してほしいのはセイバーのスキル、【分身】の効果。これを使うと痛みや疲労を本体が共有するとあるのだが、疲労や痛覚を共有できるという事は回復能力にも同じことが言える。つまり、虚無のセイバーがいる限り他の分身体や本体のHPや状態異常、疲労を時間経過で回復していくことができるのだ。これにより、セイバーの【分身】が持つ唯一の弱点も消し飛んだと言って良いだろう。

 

「だったら!【ブリザード】、【スクリュー】!」

 

レンゲルがセイバーを撃ち落とすためにカードを使っての攻撃を試みる。

 

「【ブリザードゲイル】!」

 

レンゲルが発動したのは氷を纏わせた左腕から氷のエネルギー波を放つスキルであり、レンゲルが空中へと跳ぶとスキルを放った。それはセイバーへと一直線に飛んでいくがセイバーに当たった瞬間、氷が消え去ってただのダメージを発生させるエネルギー波になっていた。

 

「なっ!?」

 

レンゲルが期待していたのは氷による翼の凍結での撃墜だったためにこの反応には面食らう。セイバーは未だに余裕そうな表情だった。

 

「【無の領域】の効果。俺が受ける属性攻撃の属性を無かったものとして扱う。レンゲルさんの狙いは最初からわかっていました。だからこそ攻撃を受けてあげたんです。あなたに圧倒的な絶望を見せてあげるために」

 

「くっ」

 

「今度はこっちの番です。【マグナブレイズ】!」

 

するとセイバーの体が炎に包まれていき、巨大な不死鳥を模した姿へと変化。そのまま虚無を突き出すと不死鳥の口へと巨大な火炎弾がチャージされていき、そのまま放たれてレンゲルへと向かっていく。

 

「シマ、【糸ノ障壁】!」

 

レンゲルがシマに糸で生成した壁を展開すると攻撃を防御しようとするが、糸は炎に焼き尽くされてしまいレンゲルとシマは共にダメージを負う結果となってしまった。

 

「冷静な判断ができてませんね。そんなの焼かれるだけじゃないですか」

 

レンゲルは焦っていた。ここでセイバーを倒せれば相手に大きな負担をかけられる。先程も書いたが、今のセイバーには疲労を気にする必要が無く、全ての分身体が全力で暴れられる。ダメージを受けようが倒されない限り無限にHPを回復し続けるのでこの状況を打破するには虚無のセイバーの攻略は必須と言えるだろう。

 

「くっ、なら【スタッブ】、【ラッシュ】!」

 

レンゲルは属性攻撃では無い普通の攻撃を放つために2枚のカードをスキャン。すると杖の刃の部分の切れ味が増し、突きの威力が高められた。そのままセイバーへと突進していく。

 

「無駄だ。【無ノ一閃】!」

 

セイバーがレンゲルの突進に合わせて剣での薙ぎ払いをぶつけると突進の力が強制的にキャンセルされてただの突きとなってしまった。そして、セイバーの方の高い火力は残っているためにレンゲルのみがダメージを負う結果に終わっていく。

 

「何故だ……何故ここまで封殺される!!」

 

「悪いですけどあなたでは俺には勝てません」

 

セイバーのその台詞にレンゲルはとうとう最後の手段へと手を出した。ブレイドと同じあの形態になるつもりである。

 

「こうなったら、キングフォームを使うしかない。シマ、【カードチェンジ】!」

 

シマはレンゲルの指示と共にカードへと変わるとレンゲルの手にカードが掴まれる。そこにはクラブのK、エボリューションと書いてあった。それに加えてクラブのQのカードも手に持つと2枚のカードをセイバーへと見せつけた。

 

「セイバー!俺のキングフォームを見ろ!!」

 

レンゲルはまずクラブのQを右腕に装着した黒い機械にセットすると続けてクラブのKを黒い機械にスキャンしていく。

 

「【アブゾーブ】、【エボリューション】!」

 

そうやってレンゲルは最終手段であるキングフォームに変化しようとするがシマがレンゲルに融合した瞬間、突如としてレンゲルの体に電撃が走ると強制的にジャックフォームも解除されて通常の姿に戻ってしまった。

 

「はぁ……はぁ……どういう事だ?何故キングフォームになれない!!」

 

レンゲルが悔しそうに地面を殴りつける。セイバーはそれを見て少しずつ歩み寄っていく。最早勝負はついたも同然であった。

 

「どうやら奥の手は失敗したみたいですね。引導を渡してあげます」

 

セイバーが虚無を突きつけるとそれをレンゲルへと突き出そうとした。その瞬間、近くで爆発が起きると狼煙と界時のセイバーが吹き飛ばされてきた。

 

「ぐ……アイツ、強い!」

 

「まさか2対2でも不利になるなんて……」

 

そこに出てきたのはキングフォームとなったブレイドとハートのQの力を纏ったカリスだった。どうやら、2人のセイバーが足止めしていたブレイドとカリスの力が2人のセイバーの力を上回っていたようであり、このような状況に至ったのだ。

 

「大丈夫か、レンゲル」

 

「すまないな、ブレイド」

 

「……お前がキングフォームになれなかったのはお前自身にキングフォームを扱う覚悟が足りていないからだ。だからブレイドのように成功しなかったんだ」

 

「くっ……」

 

3人が話している頃、セイバーの方も近くにいたカナデと合流して話し合いをしていた。

 

「カナデ、俺がどうにかしてブレイドさんとカリスさんを3人がかりで足止めする。その隙にレンゲルさんを倒してくれ」

 

「……いや、僕とセイバー2人で足止めするよ。その方が確実にレンゲルさんを倒せる」

 

その言葉にセイバーは首を横に振るとカナデを心配した。何故ならブレイドの力は本物であり、下手に戦えば命取りになってしまうからだ。

 

「大丈夫。寧ろ、足止めするなら君よりも僕のスキルを使った方が効率的だ。どうにかしてみせるよ」

 

「……わかった。カナデ、必ず生きて戻って来いよ」

 

「わかってる」

 

それからカナデ及び、狼煙と界時のセイバーはブレイドとカリスの前に再び出ていった。

 

「どうやら俺達を足止めするみたいだな」

 

「だが、これはチャンスだ。このまま一気にカナデを倒せれば相手にとって大きな痛手にできる」

 

「ブレイド、あのセイバーは僕にやらせてくれ。負けっぱなしは性に合わない」

 

「わかった。ただし、俺が無理と判断したらすぐに引いてもらうぞ」

 

「ああ」

 

どうやらブレイド達の方も考えることは一緒であり、カナデとセイバー2人はブレイドとカリス、虚無のセイバーはレンゲルを相手にするということになった。まずはカナデと2人のセイバーの方から見ていこう。

 

「セイバー、僕が支援に回るから攻撃を頼んで良いかな?」

 

「勿論」

 

「そのつもりだぜ!」

 

「それじゃあ【光ノ聖域】、【自然の罠】!」

 

カナデは自らが本棚に保管してきた大量のスキルの一部を使いながらセイバーへと支援をしていく。そしてその支援を受けて、セイバーは前へと出ていく。

 

「【スパイダーアーム】!」

 

「【魚群】!」

 

2人のセイバーは背中に蜘蛛の足を生やしたり、魚の群れを召喚してブレイドとカリスへと手数で攻撃していく。しかし、カリスは連続で攻撃を仕掛けてくる蜘蛛の足を見事に捌いており、ブレイドに至っては防御すらせずに攻撃を受け続けるが、防御力が高すぎてノーダメージになっている始末である。

 

そんな中、ブレイドがゆったりと歩きながらセイバーへと接近していくが、突然足が何かに引っ張られると動かせなくなった。

 

「む……」

 

足元を見ると地面に生えている草がブレイドの足を縛り付けていた。ブレイドはパワーで無理矢理引き剥がすが、その瞬間に生じた隙を3人は逃さない。

 

「【一時一閃】!」

 

「【煙幕幻想撃】!」

 

「【巨人ノ足】!」

 

3人は3方向からブレイドに向けて集中攻撃を仕掛けていく。そこにカリスが割って入るとカードを読み込ませてスキルを発動した。

 

「【リフレクト】!」

 

カリスはセイバーからの攻撃を反射するとセイバーへとダメージを負わせつつ、ブレイドをカバー。更にブレイドはキングフォームになる事で得た圧倒的パワーで真上から降ってきた巨人の足を簡単に粉砕。防いでしまった。ブレイドとカリスの連携はすさまじく、生半可な攻めでは返って自分達が不利になってしまうだろう。

 

「強い……」

 

「それでも負けるつもりはない!【ビーニードル】!」

 

狼煙のセイバーが左手に蜂の針を模した武装を展開するとまずはブレイドとカリスを分断するためにカリスへと針を突き出す。当然のようにそれは弓で防がれるが、そこから蹴りをカリスの腹へと叩き込み、彼を無理矢理ブレイドから引き剥がした。

 

「【界時抹消】!」

 

そこにセイバーが背後に回って【再界時】すると、界時スピアでの一撃をブレイドへと繰り出した。しかしブレイドはそれを自慢の防御力に任せて受け止めると界時を掴み、自分へと手繰り寄せ、体勢を崩したセイバーに大剣での斬撃を叩き込んだ。

 

「がはっ!!」

 

その一撃は凄まじく、セイバーのHPを削っていった。虚無のスキルを共有しているためにHPはすぐに回復を始めるが、何発も受けているとHPの回復が追いつかずにやられてしまうだろう。

 

「どうした?まさかそれで終わりじゃないよな?」

 

ブレイドの攻撃を耐え切った界時のセイバーは再びブレイドへと向かっていく。そこにカナデからの支援も入った。

 

「【大地の加護】、【深緑ノ魔弾】、【大噴火】!」

 

「【界時ソード!【大海一刻斬り】!」

 

カナデはセイバーへのバフに加えて強力な射撃スキルを連発。遠距離から確実にセイバーへの支援を行なっていく。加えてセイバーからの渾身の一撃。流石のブレイドの防御力でもこれを受け切るのは容易ではない。

 

「無駄だ。【タイム】!」

 

ブレイドがとあるカードを使用するとその瞬間、いきなりブレイドの位置が移動して攻撃は全て空を切った。

 

「馬鹿な!いつの間にそんな所へ!?」

 

「行動が早すぎる」

 

「悪いな。このカードを使うと時間を一時的に停止できる。勿論止めている間は攻撃できないが、自分が歩いて移動することはできるからな」

 

ここにきてのブレイドの新たな力に翻弄されるばかりのセイバーとカナデ。そしてそれはカリスと戦っているセイバーも同じであった。

 

「【フロート】!」

 

「【バタフライウイング】!」

 

共に空中機動を可能にするスキルで空へと飛ぶと空中で激しくぶつかり合う。しかし、カリスの方は空中に風で浮いているのに対して、セイバーは羽で飛んでいるためにその機動力には差が発生していた。

 

その結果、カリスのスピードにセイバーはついていくことができずに地面へと叩き落とされた。

 

「【ドリル】、【トルネード】!」

 

カリスは【フロート】の効果が切れると空中から竜巻を纏いつつ、ドリルのように回転しながらのキックを放った。それに対抗するようにセイバーも防御スキルを使用する。

 

「【甲虫の盾】!」

 

セイバーが目の前に召喚した固い盾は最初、カリスの攻撃を凌いでいたものの、少しずつヒビが入っていき、最終的には貫かれてしまった。咄嗟にセイバーは地面を転がって回避したものの、まともに受ければ致命傷は避けられなかっただろう。

 

「だったら!【有毒の煙】!」

 

セイバーがカリスへと煙を巻くとそれはカリスのHPをじわじわと毒で削っていく。カリスは気配でセイバーの居場所を掴むと弓を引き絞り、エネルギーの矢を放つ。しかしそれがセイバーに当たることは無く、攻撃は空を切った。

 

「【インセクトショット】!」

 

突如として目の前から声がするとセイバーが現れて高火力のキックがカリスの胸に命中。カリスはその衝撃で後ろへと下がった。

 

「やっとまともにダメージが入ったぜ」

 

「ふん。それはどうかな?【リカバー】」

 

カリスがカードを読み込ませると受けていたダメージが回復していき、HPが全て元に戻った。

 

「そういえばそんなのもあったなぁ……」

 

「さぁ、ケッチャコをつけよう」

 

「へ?何て?」

 

「知るか!」

 

セイバーが上手くカリスの声を聞き取れなかったがために聞き返すが、カリスはそんなのお構い無しとばかりに刃のついた弓でセイバーを斬りつける。

 

「おまっ、今のは不意打ちも良い所だろーが!」

 

セイバーも流石に今の攻撃には腹を立てたのかカリスへと再び向かっていく。

 

「かかった。【バイオ】」

 

するとカリスの言葉と共にいきなり手から蔦が飛んでいくとセイバーを拘束しようとする。

 

「へっ。そう来ると思ったぜ。【狼煙霧中】!」

 

セイバーはこれを煙に変化することで回避。更に一瞬の隙を突いてゼロ距離にまで近づくと狼煙を振るってダメージを与えていく。

 

「まさか俺の取った手を利用するとはな」

 

「ああ、そう簡単に好きにやらせてたまるかよ」

 

しかし、押されているのはセイバーの方だった。理由として挙げられるのが狼煙のセイバーは以前から使われていて情報がある程度出ていっているのに対して、カリスは情報が少なく、セイバーがタイマンで彼とやり合うのは今回が初めてだという事もありカリスの戦い方に合わせられていないといった事である。

 

「やっぱ情報が少ない相手とはやりづらいな」

 

「悪いがその姿の情報はある程度知ってる。対策するなどわけないぞ!」

 

その結果セイバーの攻撃はカリスに止められ、逆にカリスの攻撃をセイバーはまともに受け始めていた。

 

「はあっ!」

 

カリスから繰り出された刃付きの弓による斬撃がセイバーを苦しめ、それを避けるために距離を取った瞬間カリスの弓からの射撃がセイバーを襲う。

 

「くうう……このままだと本当にやられる……どうにか打開策が無いと」

 

セイバーが状況を打開するために考えを巡らせる間にもカリスの猛攻は続いていくのだった。

 

その頃、虚無のセイバー対レンゲルの戦いはジャックフォームが解除されてパワーダウンしたレンゲルがセイバー相手に善戦するも、それでも虚無の能力にレンゲルが押されていた。

 

「くっ、属性攻撃の無力化にHPの自動回復。これ以上無いほどの厄介な力だな」

 

「あなたの力はそんなものじゃ無いでしょう?もっと本気で来てくださいよ!」

 

セイバーが近づいて虚無を振るっていく。レンゲルは杖を使って対応していくが、無銘剣虚無によって属性攻撃が封じられている上にセイバーの対応力でレンゲルを封殺。カードを使わせる隙も与えなかった。

 

「【バーニングレイン】!」

 

セイバーがそう言うと虚無に赤黒いエネルギーが高まっていき、それを斬撃波として放出。レンゲルを切り刻んだ。

 

「ぐうっ……だったら、俺のモンスター軍団で相手してやる」

 

レンゲルは7枚のカードを取り出すとそれを正面に投げつけた。

 

「【リモート】!」

 

すると、中から蜂、モグラ、コブラ、クラゲ、イカ、象、虎のモンスターが出現。7体のモンスター達は一斉にセイバーへと向かっていく。

 

「モンスターの召喚能力。なるほど、手数で仕留める作戦か。だけど、今の俺には通用しない!」

 

セイバーは次々襲い掛かるモンスター達を捌いていく。1対7という圧倒的数の暴力を受けても安定した戦いができている辺り、その戦闘力の高さがわかるだろう。

 

「さっさと仕留めるぜ。【フレイムダンス】!」

 

するとセイバーの周りに炎のリングが幾重にも出現。そのままそのリングが広がっていき、モンスター達を炎で包んでいく。

 

「次はこれだ!【マグナブレイズ】!」

 

再び先程と同じようにセイバーが不死鳥の姿を纏うと今度はモンスター達へと突撃。炎の力で無理矢理焼き尽くしていく。7体のモンスターは1体ごとに強みがあってそれを活かした戦いができれば良かったのだが、大量に召喚した影響か細かく動かすことができずに次々と攻撃の的になっていく。

 

「僕のモンスター達が押されているだと」

 

「数を出すのは良いけど、もっと連携して来ないとね!【プロミネンスドロップ】!」

 

そのままセイバーは空中へと跳ぶと両足に猛禽類の脚のような物がエネルギーとして形成。そのままモンスターへとドロップキックを叩き込んだ。

 

「うおりゃああ!!」

 

これによりモンスター達の内、5体が粉砕。残ったのは他と比べて耐久力が高い象と虎のモンスターであった。しかし、数が減った事によってモンスター達がようやく連携した攻撃をしてくるようになり、セイバー相手に先程までよりも良い勝負をするようになった。象が地ならしを起こしてセイバーの動きを鈍らせた隙に虎からの強烈な爪の一撃がセイバーへとぶつけられた。

 

「へぇ。少しはやるじゃん。けど、無駄だね!【バーストフレイム】!」

 

セイバーが左手を翳すと魔法陣が出現。そこから炎が噴射される。2体のモンスターはそれを受け止めるが、その勢いに押されていった。

 

「うおらぁあ!!」

 

そこにセイバーがもう一度押し込むように手を前に突き出すと放出された炎の勢いが更に強まって2体のモンスターを飲み込むとモンスター達は耐え切ることができずにカードへと戻された。

 

「だったら!【ラッシュ】【ブリザード】【ポイズン】!」

 

レンゲルは手元に残っているカードの内、使用可能な3枚を杖にスキャン。それから跳びあがると氷と毒の力を纏わせた突きを放った。

 

「【ブリザードヴェノム】!」

 

その勢いは凄まじく、レンゲルの渾身の一撃だった。しかし、それだけで倒せるほどセイバーは甘くなかった。

 

セイバーは杖の先端を避けてから杖の棒の部分を掴みその勢いを完全にシャットアウト。レンゲルの攻撃を無力化してしまった。こうなると最早攻撃すら繰り出せないだろう。そして、セイバーからの無情な一撃が放たれる。

 

「【無限一突】!」

 

セイバーがオレンジの光に包まれた虚無でレンゲルを薙ぎ払うと彼は吹き飛ばされてそのHPを大きく削られる。レンゲルもなんとか持ち堪えるが大量召喚の影響でカードが手元に無く、万策尽きたのか抵抗する様子は無さそうだった。

 

「楽しかったです。またやりましょう。レンゲルさん」

 

「勿論ですよ。次は必ず勝ってみせる」

 

セイバーはその言葉を聞き、満足したのかレンゲルへと虚無を突き刺して残っていたHPを刈り取り、レンゲルは消滅していった。それからフリーとなったセイバーは近くの仲間を助けにいくべく歩き去っていくのであった。

 

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イベント2日目、現在の戦況

 

ブレイド対セイバー(本体?)、カナデ

 

カリス対セイバー(分身?)

 

ギャレン対クロム

 

リリィ、ウィルバート対セイバー(分身)×7

 

セイバー(分身?)×2(移動中)

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        ギャレン

ヒビキ        カリス

クロム        レンゲル 脱落

カナデ        ミィ

ペイン        パラドクス

キラー        マルクス

           ミザリー

           キャロル

           リリィ

           ウィルバート

           マリア




152話時点のセイバーのステータス

セイバー 
*補正値は無銘剣虚無を装備時
Lv78
HP 275/275〈+60〉
MP 280/280〈+60〉
 
【STR 65〈+80〉】
【VIT 60〈+80〉】
【AGI 60〈+60〉】
【DEX 60〈+50〉】
【INT 60〈+60〉】

装備
頭 【不死鳥のヘッドギア】
体 【不死鳥の鎧】
右手【無銘剣虚無】
左手【空欄】
足 【不死鳥の鎧】
靴 【不死鳥の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【感情の架け橋】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅹ】【気配斬りⅩ】【気配察知Ⅹ】【火魔法Ⅷ】【水魔法Ⅹ】【風魔法Ⅷ】【土魔法Ⅷ】【光魔法Ⅷ】【闇魔法Ⅷ】【筋力強化大】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化大】【状態異常Ⅹ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅹ】【死霊の泥】【深緑の加護】【繋いだ手】【冥界の縁】【ドラゴンラッシュ】【神獣招来】【大噴火】【猛吹雪】【火炎ノ舞】【デビルスラッシュ】【デビルインパクト】【ゲノミクス】【火炎ノ咆哮】【魔の頂点】【神獣合併】


*無銘剣虚無を装備時
【無属性】【無の領域】【自然回復】【バーストフレイム】【炎の翼】【不死の体】【聖なる歌声】【マグナブレイズ】【無の大地】【プロミネンスドロップ】【フレイムダンス】【不死鳥無双斬り】【無限一突】【バーニングレイン】【無ノ一閃】

また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと2人目のキング

虚無のセイバーがレンゲルを撃破した頃、ギャレンと交戦していたクロムは辛うじて互角の戦いに持ち込んでいた。

 

「流石はクロム、生命力が高いな」

 

「これでも俺は【楓の木】の一員だ。そう簡単には死なないぜ」

 

クロムはギャレンからの遠距離射撃を受けながらも僅かずつ近づいおり、もう少しで攻撃が届く範囲にまで来ていた。ただし、クロムの防御も完璧では無い。当然だが、攻撃が掠る事もあるのでHPは確実に減らされていた。加えて、今のギャレンはジャックフォームであるのでいざとなれば空へと退避する事も可能である。そうなればクロムが追いつく事はできないだろう。

 

「【ラピッド】!」

 

ギャレンの連続射撃がクロムを撃ち続ける。弾丸の雨が降り注ぐ中、クロムが取った行動は……

 

「【シールド突撃】!」

 

クロムが弾丸を盾で受けながら無理矢理正面へと突撃を敢行。当然ギャレンは空中へと飛んで距離を取るがそれこそがクロムの狙いだった。

 

「今だ!シロップ【覚醒】、【巨大化】、【精霊砲】!」

 

クロムからメイプルのモンスター、シロップが呼び出されるとエネルギー砲が発射されてギャレンを狙い撃つ。これにより、ギャレンの背中に生えている翼を破壊して地面へと叩き落とした。

 

「良し。これでまともに戦うことができるぜ」

 

「やるな。だが、まだまだだ!小夜子、あっちの亀を攻撃するんだ!【フレイムホーン】!」

 

「シロップ、【大自然】!」

 

シロップもクロムの指示に従って地面から生やした太い蔓で対抗するが、それは全て躱されてしまい代わりに炎を纏った角による攻撃が【巨大化】で的が大きくなってしまったシロップに直撃。その瞬間、シロップの体は炎に包まれてダメージを受け始めた。

 

「小夜子、続けて【ギガントホーン】だ!」

 

続け様に繰り出されたのは角を巨大化させての一撃。これを受けたシロップは溜まらずHPを0にまで減らされてやられてしまった。

 

「小夜子、よくやった。一旦戻ってくれ」

 

ギャレンは厄介なシロップを倒してクロムの護衛を無くし、クロム本人の攻略にかかる。

 

「【バレット】、【スコープ】!」

 

ギャレンは次の一撃を確実に当てるために【スコープ】で照準を強化。狙うはクロムが大楯を構えても収まりきらない体のはみ出た部分である。それを見たクロムは当然警戒し、確実に防御することができる手段を取る。

 

「【ピアースガード】!」

 

このスキルを使用することでクロムはギャレンの攻撃から確実に身を守る事に成功した。しかし、それは同時にスキルがクールタイムに入る事を意味するためある意味ではギャレンの狙い通りだった。

 

「攻撃は凌げたな。それじゃあ、反撃と行こうか!」

 

クロムはまたもやギャレンへの接近を試みる。シロップを失った今、クロムがダメージを出すには近づかなくてはならないために当然の行動だろう。

 

「そう来るか。なら!【ドロップ】、【ファイア】、【ジェミニ】!」

 

ギャレンがクロムの接近に合わせて3枚のカードを読み込ませるとそのカードはそれぞれ吸い込まれていく。

 

「【バーニングディバイド】……ザヨゴー!!」

 

「は?」

 

クロムが突如として叫んだギャレンに対して困惑しているとその間にギャレンは跳び上がり、そのまま前転宙返り。そのタイミングでギャレンが2人へと分身する。

 

「嘘だろ!?」

 

そのまま炎を纏った両足による攻撃を2人分ぶつけた。クロムは溜まらずHPを大きく減らし、残り僅かとなってしまった。

 

「こいつ……いきなり叫んだと思ったら分身して……タチ悪すぎだろ」

 

クロムが怯んでいる間にすかさずギャレンは走りながらカードをスキャン。そのままパンチの体勢に入った。

 

「【アッパー】!」

 

クロムも負けじとクロムの武器で短刀枠である“首落とし”を振り翳す。2つの攻撃はそれぞれに決まりお互いのHPを削っていく。クロムの方はスキル、【命喰らい】によってHPが増えたが、リーチの関係で先に攻撃を当てたことが災いし、その増えた分ごとHPを減らされる結果になった。すると、クロムからオーラが出てスキル、【不屈の守護者】が発動した。これは所持者のHPが0になる攻撃を受けた際にHPを1残して耐えるスキルである。これが発動したと言う事はクロムの持つもう1つの生き残るスキル、【デット・オア・アライブ】が発動しなかった事を示していた。

 

「くっ。今耐えたのは【不屈の守護者】の方でか。だとするともうあまり余裕も無くなってきたぞ」

 

それを見たギャレンはこれをチャンスと見てHPを回復させる隙を与えないくらいに連続で銃を撃ちまくる。クロムの方は1発でも受ければ即死亡する上に、【デット・オア・アライブ】が発動するかは50%というあまりにも運要素が強いために下手にギャレンへと踏み込めなくなってしまった。

 

「このまま押し切る!」

 

「こうなった以上、何とか隙を作って回復しないとな……さてどうするか」

 

クロムが考えている間にもギャレンの攻撃の手は緩まない。ギャレンとしてもここでクロムを回復させずに倒せればスキルを使わずに済むため、その分余裕を持ったまま次の相手へと向かうことができるだろう。

 

「こうなったらイズから貰ったあのアイテムを使うしか無いな」

 

クロムがそう言うと地面に向かって何かを投げつけた。すると突如としてクロムの周りに岩による壁が幾重にも出現。それがギャレンから撃ち出される弾丸を防いでいく。

 

「な、何だこれは……」

 

「イズお手製のストーンウォール。イズが持っているスキル、【新境地】によって生み出された新アイテムでな。入手難易度が高いとある鉱石の欠片を多数合成する事で作られたらしい。その硬度は折り紙付きだ」

 

「なるほど、やるじゃないか。だが、それでも撃ち続ければいつかは壊れる!」

 

「おいおい、俺がフリーだぜ?」

 

「しまっ!!」

 

ギャレンが岩の防御壁を壊そうと躍起になっている間にクロムは残り僅かなHPをポーションで全回復。何とか持ち直す事に成功した。そして岩の壁は未だに健在であり、その存在がギャレンの攻撃を妨げ続けていた。このままではギャレンの攻撃は防がれ続ける上にその間に岩の壁の合間を縫ってクロムが接近してくるのは明らかであった。そこで、ギャレンが取った行動は……

 

「度々呼び出してすまない!小夜子、【覚醒】!」

 

ギャレンは先程戻したばかりのモンスター、小夜子を起こすと奥の手を使うために小夜子にある指示を出した。

 

「小夜子、【カードチェンジ】だ!」

 

小夜子はそれを聞くとその姿を1枚のカードへと変えた。そのカードにはダイヤのK、エボリューションと書いてありブレイドやレンゲルと全く同じであった。その様子を岩の影から見ていたクロムはギャレンの様子を観察していた。

 

「イベント2日目のこのタイミングで、しかもぶっつけ本番になるとは思わなかったが、この状況を打開するにはこれしか無い」

 

ギャレンはもう1枚、カードを取り出すとそれを右腕の黒い機械に装填。それから小夜子が変化したカードを機械にスキャンした。

 

「【アブゾーブ】、【エボリューション】!」

 

すると目の前にギラファノコギリクワガタの絵が描かれた金の板のようなものが出現。それがギャレンを通過するといきなりギャレンに電撃が走って彼が苦しみ始めた。

 

「あぐうっ……ぐああああ!!」

 

「何だ?いきなり苦しんで……でも、今がチャンスだな。この隙に!」

 

クロムとしてはギャレンが銃撃をして来ないこの瞬間に出来る限り距離を詰めていこうと岩の壁から飛び出して一気に走っていく。ギャレンはその頃、体にかかる負荷を必死に抑え込もうとしていた。

 

「頼む……俺に力を貸してくれ……このままじゃ、俺は大切な人達の想いに応えられないんだ!!」

 

しかし無情にもギャレンの求める力は言うことを聞こうともしない。その影響か、電撃は更に強まっていく。

 

「【激土ノ侵撃・断崖剣】!」

 

クロムは自らが出せる最高打点をギャレンへと放つ。そしてそれは地面から土の剣としてギャレンを貫き、彼に大きなダメージを与えた。そしてそれは彼にある光景を思い出させた。

 

(回想)

 

これはギャレンの中のプレイヤーの現実世界での話になる。

 

彼の名は橘朔也。彼は小さい頃にとある女の子と仲良く遊んでいた。その子の名前は小夜子。

 

「小夜子、今日もまたゲームしようぜ」

 

「良いよ!今日こそは勝つからね!」

 

2人は幼馴染でありながらゲームを楽しむ仲間だった。とは言っても、セイバーこと剣崎海斗やサリーこと白峰理沙のようなゲームの大会で名を馳せるような有名プレイヤーでは無く、ただ純粋にゲームを楽しむどこにでもいる少年少女だった。

 

「イェーイ!俺の勝ち!!」

 

「あー、また負けたー!ねぇ、もう一回やろうよ!」

 

「良いぜ。何度でも相手になってやる」

 

2人の仲は睦まじく、それはもう恋人と言っても良いほどだった。2人の関係は何年経っても変わる事なく進むかに見えた。しかし、悲劇というものは突然降りかかるものである。

 

2人はある日、家に帰る途中に些細な事が理由で喧嘩に発展。2人はそのままバラバラで家に帰っていった。その途中、暴走車が歩道に突っ込んできて小夜子を轢いてしまったのだ。運悪く頭に重傷を負った小夜子は数分後に死亡。その時彼女はギャレンこと橘の名前を呼びながら喧嘩したことを小声で謝り、そのまま生き絶えた。

 

橘はその事で喧嘩した事を酷く後悔すると共にそれ以降、彼女の事を忘れてしまわないようにゲームでプレイするときは1番側にいる存在に彼女の名前を付けるようにしたのだ。

 

(現在)

 

「俺はもう2度と同じ過ちを繰り返したりしない。そのためにお前の力が必要なんだ!小夜子……力を貸してくれ!!」

 

その願いが通じたのか、ギャレンの体が変化を始めた。

その体は強靭な黄金の装甲を纏い、背中には翼を模したマントが形成。ヘッドギアはクワガタの角のような形状へと変わり、胸にはダイヤマークの中にギラファノコギリクワガタの絵が描かれた装飾が装着。そして体の至る所にダイヤの紋章が追加されていた。

 

「この姿は……」

 

「どうやら成功したみたいだな。これが俺のキングフォーム!」

 

ギャレンはブレイド同様に王の名を冠する姿へと変化した。姿や雰囲気はブレイドと酷似していたが、ブレイドとの相違点もある。それは13枚のカードとの融合では無いため、他のダイヤのカードの絵は刻印されておらず、武器もブレイドが大剣を使うのに対してギャレンは巨大なライフル銃だった。

 

「ここからは本気で行かせてもらうぞ」

 

ギャレンが銃にエネルギーをチャージするとそれを発射した。クロムはそれを見て咄嗟に先程出した岩の壁の後ろへと隠れるが、たった一撃でその岩の壁にヒビが入ると二撃目にはもう粉砕されてしまった。

 

「この壁をたった2回の通常攻撃で破壊するとかヤバすぎだろ……」

 

クロムはギャレンの攻撃の威力のあまりの高さに戦慄を覚えた。これでは近づくどころか通常攻撃にでさえ何発も当たれば致命傷を負うのは確実だろう。

 

「どうするか……」

 

クロムは進化した化け物を相手にどう戦うのか思案するのであった。

 

 

その頃、界時のセイバーとカナデはキングフォームのブレイドを相手に圧倒されていた。カナデが支援し、セイバーが前衛で戦うスタイルだったのだが、ブレイドの圧倒的な力を前に完全に抑え込まれていた。

 

「【炎の海】、【槍の嵐】、【流星群】!」

 

カナデが広範囲攻撃でブレイドにダメージを与えつつ逃げ場を無くし、そこに【界時抹消】を使ってカナデの攻撃を打ち消さないように間を縫って近づいていく。

 

「【再界時】!」

 

セイバーが【界時抹消】を解いてブレイドへと界時スピアによる突きを放つが、ブレイドはそれを大剣を持っていない左腕で簡単に受け止めるとそのまま界時をガッシリと掴み、セイバーが逃げられないように捕まえるとそのまま大剣でセイバーを斬りつけた。

 

「ぐうっ……」

 

界時のセイバーは虚無のセイバーのスキルの効果を共有しているので何回攻撃を受けてもHP自体は回復していくが、それでも自分達の攻撃が通じない事による精神的なダメージは大きかった。

 

「離せ!このっ!」

 

セイバーはブレイドに掴まれた界時を引き抜こうとするが、STRの値はブレイドの方が上なのかびくともしない。その間にもセイバーへと攻撃は続いていく。このままではその内回復が追いつかずにブレイドに倒されてしまうだろう。

 

「【影世界】!」

 

そこでカナデはドレッドのテイムモンスター、シャドウが持っているスキル、【影世界】を使用。セイバーと彼が手にしている界時を影の中へと避難させる事でブレイドの拘束から逃れさせると共にセイバーに距離を取らせる事に成功した。

 

「すまないカナデ、助かった!」

 

それを見たブレイドは2人が自分から距離を取った事と自分への攻撃が止んだ事を好機と捉え、行動を開始した。

 

「スペード2、3、4、5、6!」

 

ブレイドが体の紋章からカードを5枚を召喚するとそれを大剣に挿入。するとブレイドの手に2本目の剣が握られると同時に目の前に5枚の絵が描かれたカードが出てそれがブレイドの持つ2本の剣に吸い込まれた。

 

「不味いね……【ディフェンスマジック】、【鋼鉄の体】、【魔力障壁】!」

 

ブレイドのこの行動を前に危険を感じたカナデは次々と2人に防御面を強化するスキルを使っていき守りを固めていく。ブレイドはカードの力で強化された2本の剣による斬撃を体力が自動回復するセイバー相手にでは無く、カナデをターゲットとして放った。そしてそれはカナデを斬り裂くと大きなダメージを与えた。

 

「がはあっ……」

 

重ね掛けしていた防御スキルによってカナデはHPを僅かに残すことができたものの、その威力は圧倒的であった。そしてブレイドはセイバーを敢えて捨て置き、カナデの方へと攻撃を仕掛けていった。

 

「俺の事は無視ですか。けど、それが命取りって事を教えてあげますよ!」

 

セイバーは無防備なブレイドの背中へと界時スピアでの薙ぎ払い攻撃を仕掛ける。しかし、次の瞬間にはブレイドの場所が変わっており、そこには誰もいなくなっていた。

 

「また時間を止めるスキルで場所を……いや、それよりも不味い!」

 

セイバーは動揺したものの、すぐにこの状況が危険だという事を察知すると急いでカナデのカバーに向かった。しかし、セイバーの行動はブレイドと比べて一手遅かった。

 

「【マッハ】!」

 

ブレイドが言葉を発するとブレイドの体に描かれている絵の1枚が光り始めた。するとブレイドが超高速で移動していき、カナデのすぐ後ろに回り込んだ。

 

「!!」

 

そのあまりにも速すぎるスピードにカナデでさえも反応が遅れてしまった。

 

「【ビート】!」

 

すると今度は左腕にパワーが高められていき、ブレイドはそこからストレートパンチを繰り出すとカナデの鳩尾を殴った。これにより、クリティカルヒットを受けたカナデはそのHPを全て失う事になった。

 

「カナデ!!」

 

「ごめんセイバー……後は任せるよ……」

 

カナデはその言葉を残してポリゴンとなって消えてしまいその場には界時のセイバーだけが立っていた。

 

「クソッ!また俺のせいで仲間が……」

 

セイバーはイベント2日目のこの局面でも酷く責任を感じていた。1日目の被害はドラグ、メイプル、マイ、ユイの4人だけであったのに対して今はこの時点でドレッド、フレデリカ、カスミ、イズ、カナデの5人と既に1日目よりも多くの強力な味方を失っており、更に2日目最大の目標であるウィルバート、リリィのコンビをまだ倒せていないこの現状を前にセイバーは更に自らへの怒りを募らせていた。

 

「どうしたセイバー。お前の力はそんな程度か?」

 

「俺のせいで皆はやられていってるんだ……俺が責任を取らないと……俺の失策のせいで……」

 

ブレイドの挑発にセイバーは乗ると2人はまた戦闘を再開した。

 

「【魚群】、【オーシャンカッター】!」

 

まずは挨拶代わりの攻撃がセイバーから飛び、それを見たブレイドは大剣を盾のように使いながらガード。そしてそれを見たセイバーは飛び道具はあまり効果が無いと見て接近すると乱戦を開始した。

 

その様子はカナデがいた時よりも更に強く、激しく、周囲のプレイヤー達はその様子を固唾を飲んで見守るしかなかった。下手に介入しようものなら一瞬でやられることが容易に想像できたからである。

 

セイバーとブレイドが死闘を繰り広げている頃、キングフォームとなったギャレンとクロムの戦いにも終止符が打たれようとしていた。それはあまりに一方的な展開であり、一言で表すのならギャレンが巨大なライフル銃を撃ちまくる中、クロムがそれを必死に避けていた。

 

「威力がある上に弾速もそこそこ速いとかチートにも程があるだろ!」

 

クロムは辛うじて障害物を使いながら攻撃を凌いでいたが、障害物も当たった側からあまりの威力で吹き飛んでいるために長くは保たないだろう。

 

「勝つにはどこかで近づかねーとな。けど、どうやって……」

 

「隠れても無駄だ。【ファイア】!」.

 

今度は炎を纏わせた弾丸でクロムの隠れている辺りを焼き尽くしていく。これは炎を使う事で壁やその周りを焼き、クロムを炙り出そうとしている。それを見たクロムは覚悟を決めるとギャレンの目線の先に飛び出した。

 

「やっと来る気になったか……む?」

 

クロムはどれだけ被弾しようともギャレンへと直接攻撃を仕掛けるために最短距離を使って突っ込んできていた。

 

「あと数発なら耐えられるが、盾込みでもかなりのダメージが入るな」

 

「このまま俺の所に来る前に倒す【ラピッド】!」

 

ギャレンが使ったのは連射力の上がるカードであり、クロムへのダメージを一気に加速させる事で押し切ってしまおうという考えだった。勿論クロムも黙ってやられるわけがない。

 

「【精霊の光】、【シールド突撃】!」

 

クロムは【精霊の光】の効果で10秒間のみ無敵となると足りないAGIを補うために強制的に前進できるスキル、【シールド突撃】を使用。これによって無理矢理だがギャレンとの距離を詰める事に成功した。そして、ギャレンにダメージを与えようと手にした短刀を振り上げる。

 

「このまま一気に!」

 

「……無駄だ」

 

ギャレンがそう言うと突然前進していたクロムの動きが何かに押し止められてしまった。

 

「!?」

 

よくクロムが目を凝らすとそこには透明なバリアが展開されており、ギャレンへの攻撃を完全に止めていた。

 

「このっ!」

 

クロムが力任せに押し込もうとするものの、そのバリアは頑丈でありびくともしない。そして、その間にギャレンの反撃の準備は整ってしまった。

 

「ダイヤ10、J、Q、K、A!【ロイヤルストレートフラッシュ】!」

 

ギャレンがライフル銃に5枚のカードを装填するとブレイドと同様にクロムとギャレンの間に黄金に輝いた5枚のカードが1列に並んだ。

 

そしてギャレンがライフルの銃口をクロムへと向けると眩い光と共に銃口にエネルギーが集まっていった。

 

「終わりだ」

 

その瞬間、ギャレンを守るように展開されていたバリアが消えると同時にクロムの無敵時間も終わった。そしてギャレンのライフル銃から放たれた超高威力のエネルギー砲がクロムを飲み込むと残されたHPを全て消し飛ばし、クロムはポリゴンとなると消滅してしまった。

 

「はぁ、はぁ……やっと片付いたか。だが、流石は上位のプレイヤー。俺も危ない場面が沢山あった。また後で反省点を纏めて次に繋げないとな。良し、次はブレイドと合流して……」

 

「おいおい、もう逃げるなんて悲しい事を言わないでくださいよ」

 

「……レンゲルを倒してからもうここに来たのか」

 

そこにいたのは不死鳥の炎に包まれてギャレンへと新たな力を見せつけようとするセイバーであった。

 

「よくもクロムさんを倒してくれましたね。さぁ、仇討ちの時間です。覚悟は良いですか?」

 

「お前こそ、キングフォーム相手には手も足も出なかった奴が今更同じキングフォームに勝てるとでも?」

 

「さぁな。でも今話しているのは可能性の事じゃない。俺だって日々進化しています。今ならあなたぐらいには勝てますよ」

 

お互いに挑発行為を終えるとそれぞれの武器を構えて戦闘体勢に入った。果たして、この戦いの決着はいかに?

 

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イベント2日目、現在の戦況

 

ブレイド対セイバー(本体?)

 

カリス対セイバー(分身?)

 

ギャレン対セイバー(分身?)

 

リリィ、ウィルバート対セイバー(分身)×7

 

セイバー(分身)×1(移動中)

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        ギャレン

ヒビキ        カリス

クロム 脱落     ミィ

カナデ 脱落     パラドクス

ペイン        マルクス

キラー        ミザリー

           キャロル

           リリィ

           ウィルバート

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと虚無対キング

虚無を装備したセイバーとキングフォームとなったギャレン。2人の強者が向かい合うという事は即ち、激闘の始まりを示していた。まず最初に仕掛けたのはギャレンである。手にした巨大なライフル銃を連射。セイバーとしてはこれを受けると大きなダメージは避けられないので攻撃を躱す事に専念する事になる。

 

「どうするか……あの火力、受けに回れはすぐにやられるのは目に見えている。どうにかして対抗できればな」

 

虚無のセイバーにはHP回復能力があるから大丈夫と思うかもしれないが、HP回復能力を上回る速度と威力で攻撃されてHPが0になってしまうと敗北してしまう。そのために迂闊な特攻は避けるべきだろう。

 

「どうした、セイバー。俺の奥の手を見て何も対策しないわけが無いだろう?早くそれを考えて出てこい!」

 

「……なら、これはどうだ!【炎の翼】!」

 

ギャレンの挑発にセイバーは乗ると背中からその名の通り、炎の翼を生やして空中へと飛び上がる。ギャレンが空中にライフル銃を向けると飛び回るセイバーを撃ち続けていく。

 

「空に逃げても無駄だぞ!」

 

「かもな。けど、これでお前の目は地上から離れたな」

 

「どういう事だ?」

 

ギャレンがその言葉に疑問を浮かべていると地上の方から龍の声が聞こえてきた。ギャレンが下を向くとそこにはセイバーのテイムモンスター、ブレイブが迫ってきていた。

 

「!!」

 

「ブレイブ、【フレアドライブ】!」

 

「【バーストフレイム】!」

 

セイバーの指示と共にブレイブは炎を纏っての突撃を、セイバー自身は火炎を放射しての効果を放ち、2方向からの挟撃をギャレンへと浴びせた。

 

「良し、決まったぜ」

 

セイバーがガッツポーズをしているとセイバーとブレイブからの攻撃を受けたはずのギャレンは殆どダメージが入っていない状態で立っていた。

 

「それで終わりか?」

 

「おいおい、今のでダメージほぼ無しかよ。防御力高すぎでしょーが」

 

流石のセイバーでもキングフォームの防御力を前には決定的なダメージを与えることができず、このままでは苦戦する事は間違いないだろう。

 

「だったら、もっと高い火力をぶつけるだけだ。【マグナブレイズ】!」

 

続けて繰り出したのはセイバーの体に炎の不死鳥を纏わせた状態での突撃であった。しかし、それを見たギャレンもただ黙ってダメージを受けるつもりは無かった。

 

「【ロック】!」

 

ギャレンがそう言うと自身とセイバーの間に岩の障壁を幾つも召喚し、守りを固めていく。そこにセイバーが突撃していき、岩の障壁を粉砕しながら突っ込んでいくものの、岩の障壁を破壊する度にセイバーの攻撃の威力は落ちていった。最後にギャレンに攻撃が命中したが、威力が落ちているために大したダメージにならず、ギャレンは平気そうにしていた。

 

「チッ。障壁を出す事でこっちの攻撃の勢いを削いだのか。だったら、ブレイブ【ファイアウォール】!」

 

今度はセイバーがブレイブに指示を出して炎の壁を展開。ギャレンごと囲う事で彼の逃げ道を無くすと共にセイバーが最初から近い距離でギャレンを攻撃できるようにした。

 

「【無限一突】!」

 

するとセイバーの持つ虚無がオレンジに輝き、セイバーは斬撃を放った。そしてそれはギャレンへと直撃して今度こそ確実にダメージを与えることに繋がった。

 

「次はこれだ!【バーストフレイム】!」

 

畳み掛けるようにセイバーは炎を放射してギャレンへと炎での攻撃を仕掛けていく。

 

「【ジェミニ】!」

 

しかし、今回はギャレンの方が上手であった。2人に分身する事で攻撃を見事に回避したのだ。そして、ギャレンも反撃をしていく。

 

「【ファイア】、【アッパー】!【ファイアアッパー】!」

 

2人のギャレンはセイバーへと走っていくと炎を纏わせた2人分のアッパーを繰り出す。セイバーはそれをまともに受けるが、倒し切るには至らないのですぐにHPは回復していく。

 

「このままだと埒があかないな。更に高い火力で粉砕するとしよう。【ドロップ】、【ファイア】!」

 

「させるか!」

 

ギャレンがカードを読み込ませている間にセイバーが虚無での振り下ろし攻撃を行う。その攻撃は分身したギャレンが受け止めると分身ギャレンは消えてしまった。どうやら、ギャレンの方はセイバーの分身のように実体があるというわけでは無いようだ。

 

「【バーニングスマッシュ】!」

 

ギャレンは空中へと跳びあがるとそのまま前転宙返りでのキックがセイバーへと撃ち込まれる。セイバーはそれを虚無で受け止めるとスキル、【無の領域】の効果で火属性が打ち消され、ただのキックとなったギャレンの攻撃を受け流した。

 

「ふう。今のはちょっと危なかったぜ」

 

「中々やるな。だったらこれはどうだ!ダイヤ2、3、4、5、6!」

 

ギャレンが5枚のカードをライフル銃に挿入するとそのカードの絵が次々と現れてはライフル銃の中に吸い込まれていった。

 

「これは……」

 

「【ストレートフラッシュ】!」

 

ギャレンがトリガーを引くと炎のエネルギーが高められた連射式の高威力の弾丸が撃ち出され、セイバーはそれを虚無で受け止めるが、あまりの弾数に押し込まれていくと炎の壁を突き抜けて近くの岩場に叩きつけられた。

 

「がはっ……」

 

セイバーのHPは【不屈の竜騎士】の効果で1残り、何とか持ち堪えたがそれでも致命傷と呼ぶに相応しい状態だった。その後、HPはすぐに回復を始めたが、それでもセイバーの警戒心を高めさせるには十分だっただろう。

 

「この威力、次に喰らったら終わるかもな……」

 

「セイバー。少し俺の話をしよう」

 

「?」

 

その言葉にセイバーは驚いた。普通であればこの場面で無防備な姿を晒すというのは攻撃の的になるようなものであるために絶対に避けるべきである。しかしギャレンはそれを何の躊躇も無く行った。セイバーは当然警戒するがギャレンには先程まで見せていた気迫は消えていた。それを見たセイバーは再びブレイブを呼び出した。

 

「ブレイブ、【アースウォール】!」

 

セイバーがブレイブに指示を出すと2人の周囲に土の壁が出現し、2人を囲った。

 

「これで邪魔は入りません。どうぞ、好きなだけ話してください」

 

「すまないな」

 

ギャレンはセイバーの気遣いに感謝しつつも自身の話を始めた。

 

「……俺には昔、1人の女友達がいた。その友達は俺とゲームをすると凄く楽しそうな顔でキラキラした目を俺に向けてきたんだ」

 

ギャレンは小夜子の話を始めた。2人は友達でありゲーム仲間であったという事、ある日喧嘩別れをしてその後に彼女は帰らぬ人になったことをゆっくりと話した。

 

「……俺は小夜子と喧嘩してそのまま別れた事を凄く後悔している。あの時俺がちゃんと引き留めていたら……喧嘩なんてしなければと何度後悔したことか……」

 

「因みに、どんな理由で喧嘩したんですか?」

 

「次に2人でやるゲームについて話していた時に意見が食い違ってそのまま口論になった。今思えばしょうもない理由で喧嘩したと思う」

 

「……なんか俺とサリーを思い浮かべますね。アイツとはゲーム仲間ですし、しょっちゅう喧嘩もしてしまいます」

 

セイバーはギャレンと小夜子の関係に自らとサリーを重ねたのか、少し心が締め付けられるのを感じた。

 

「セイバー、お前には3人の女子が恋心を抱いているのは知っているか?」

 

「……薄々勘づいてはいます。サリー、ヒビキ、キャロル。あとさっきミィさんからも同じような感情を感じました。アイツらは俺の事になると雰囲気が悪くなっていますし、多分ミィさんもそうなります。なのでその4人は俺に対して特別な感情を持っていると思います」

 

何故ギャレンがセイバーとその周りの関係を知っているのか。疑問に思った人もいるだろう。実は【BOARD】の情報担当であるレンゲルからセイバーの情報は聞いた際にギャレンはこの事を知り、その事を直接聞くためにこのような話をする場を設けたのだ。

 

それはさておき、セイバーの言葉にギャレンは頷くとセイバーの元へと歩み寄っていった。

 

「セイバーはあの4人との関係をどうしたいと思っている?」

 

「……できることなら早く1人に決めてあげたい……いや、もう既に答えは殆ど出ています。でも、俺には勇気がありません。4人の中から選ぶという事は他の3人を傷つけてしまう事になるので。できれば他の3人を傷つけたくないんです」

 

「そうか」

 

ギャレンはセイバーの答えを聞いてからセイバーへとすれ違い様に肩を持った。

 

「お前がどんな答えを出すにしても俺みたいに後悔するような事にはなるなよ」

 

それはギャレンからのアドバイスだった。ギャレンは些細な理由での喧嘩で大切な人を失ったがためにセイバーも同じ轍を踏んで欲しくなかったのだろう。

 

「言われなくても大丈夫です。俺の選択が原因で後悔はしたく無いので。4人にこの事を話すときは慎重にいくつもりです」

 

2人はそれからゆっくりと距離を取ると再び構えた。お互いに話を終えてここからは真剣勝負の再開という事を示した。そして、セイバーはブレイブに土の壁を消させると指輪へと戻し、2人の戦いが再び開始されるのだった。

 

一方で、界時のセイバーと狼煙のセイバーはキングフォームのブレイドとカリスを相手に大きなダメージを受けて吹き飛ばされてしまっていた。

 

「あぐうっ……」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ふん。どうやら俺達の勝ちは濃厚だな」

 

「油断するな。アイツには奥の手があるかもしれない。万が一の事があっては危険だ。気を引き締めて行くぞ」

 

ブレイドとカリスに油断や慢心は無く、これでは隙をつくことなど到底できないだろう。2人のセイバーもHPと疲労はどうにかしているが、これ以上の戦闘は厳しいと考えていた。

 

「このままだとマジでやられる。そろそろ引くぞ」

 

「ああ。この2人の足止めは十分だ。最悪リリィさんとウィルバートさんの方に行かれても大丈夫だ」

 

界時のセイバーと狼煙のセイバーにして見ればブレイドとカリスの相手は負担が大きく、しかも無理にここで倒す必要は無いと考えており既に撤退を視野に入れた考えを示していた。引き時に引くことも重要であるのでこの判断は間違っていない。だが、それを2人が素直にさせてくれるとは思えないため、今度はどのようにして2人から距離を取るかと考えていた。

 

「【界時抹し……」

 

「【タイム】!」

 

セイバーが【界時抹消】を使うために界時スピアを刃の部分と持ち手の部分で分割し、トリガーを引こうとした瞬間を突いてブレイドが時間を一時停止。自分以外の全ての時間が止まった。

 

「何とか間に合ったな。流石に界時抹消をまともに受けるのは良くない」

 

ブレイドはセイバーの目の前へと歩いていくと【タイム】を使う事による時間停止を解除。そのまま大剣でセイバーを薙ぎ払った。

 

「ぐあっ!!」

 

「だったら俺が……【狼煙霧中】!」

 

今度は狼煙のセイバーが撤退するために【狼煙霧中】で2人の周囲を飛び回りながら撹乱。その間に界時のセイバーが立て直すとその場から逃げようとする。

 

「行かせるかよ。【フュージョン】!」

 

カリスがハートのJのカードを腰のベルトにスキャンさせるとその姿を変化させていき、1日目にキラーを苦しめた姿へと変わった。次の瞬間、超スピードで煙状態である狼煙のセイバーを振り切ると界時のセイバーへと爪で攻撃を仕掛けた。当然セイバーはそれを受け止めるが、既にブレイドが対策をしていた。

 

「【マグネット】!」

 

ブレイドが使ったのはメイプルを葬る際に役に立ったカード、【マグネット】である。その効果で界時のセイバーを強制的に引き寄せていった。

 

「【スラッシュ】、【サンダー】!【ライトニングスラッシュ】!」

 

ブレイドによる一撃はセイバーに確実なダメージを与え、そのHPを僅かにまで減らした。そこにカリスからの追撃が入る。

 

「【フロート】、【ドリル】、【トルネード】!」

 

カリスはセイバーのHPが自動回復する前に決着を付けるつもりでスキルを使用。空中へと浮かび上がるとそのまま竜巻を纏ったキックを放つ。

 

「【スピニングダンス】!」

 

そのキックは界時のセイバーに命中すると彼のHPを0へと変え、セイバーを倒してしまった。しかし、界時のセイバーは本体では無かったのか、倒しても狼煙のセイバーが消える事は無かった。

 

「む、どうやら界時のセイバーは本体じゃないようだな。界時か狼煙、どちらかが本体だと思ったんだが」

 

「というより、最初の発言からしてどちらかが本体だろう。界時のセイバーが本体じゃないなら狼煙のセイバーも倒せば良い。ただそれだけだ」

 

ここでセイバーの発言をおさらいすると2日目の戦闘が始まる前にセイバーは本体の場所をブレイド達と戦っている個体だと話した。それが事実なら狼煙のセイバーが本体なのは間違いないだろう。だが、ここでブレイド達にはとある疑問が浮かんだ。

 

「……待てよ?セイバーが最初に本体だと言ったのは烈火のセイバー。その後で抜刀で剣を変えたのも見ている。だが、狼煙と界時のセイバーは剣を変える前にはヒナタと戦っていた奴が分身体としていたよな?」

 

「む、という事はつまりわざわざ分身を解いてからもう一回抜刀したって事か?」

 

「いや、その時に分身の言葉は聞こえたが、抜刀とは言ってなかったんじゃないか?」

 

そう、セイバーは烈火のセイバーがいなくなって狼煙のセイバーと界時のセイバーに変わった際に分身のスキルは使っていたが、抜刀という言葉は発していない。その事実にブレイドの頭の中には1つの仮説が浮かんだ。

 

「まさか、烈火のセイバーと狼煙のセイバー、界時のセイバーが変わった時に剣を入れ替えたんじゃ無くてそもそも本体と分身が入れ替わったのか!?」

 

ブレイドの仮説を聞いていた狼煙のセイバーは笑みを浮かべるとその仮説を否定するように首を横に振った。

 

「半分正解で半分は間違いですね。確かに烈火のセイバーと狼煙のセイバー、界時のセイバーが変わった時に本体と分身体が入れ替わりました。ですが、本体はもう既に烈火を持っていません」

 

「「!?」」

 

「よーく考えてください。何故俺が【分身】と言ったのか。狼煙のセイバーと界時のセイバーと入れ替わるだけなら【分身】を使う必要はありませんよ。ただ爆発に紛れて入れ替われば良いだけですし」

 

その言葉を聞いてブレイドは少し考えていたが、答えはすぐに出てきた。

 

「……ギャレンの所のセイバーが本体か」

 

「どうしてそう思いますか?」

 

「ギャレンの所に出てきたセイバーは最初、剣を持っていなかった。普通ならそんな危険な行為はしない。敵に襲われればひとたまりもないからな。大方、【分身】による疲労を隠すためだろう。あのまま戦っていれば本体がやられるのは時間の問題だったからな。それを避けるために一旦隠れたというのが俺の導き出した答えだ」

 

「正解です。流石はブレイドさん。名推理ですね」

 

「ふん」

 

「正解したご褒美に界時のセイバーのおかわりです。【分身】!」

 

「界時抜刀!」

 

セイバーは再び【分身】で界時のセイバーを呼び出すと2人に立ち塞がった。

 

「もうバレた以上、逃げるフリをする必要も無くなりました。ここからは本気で邪魔させてもらいます」

 

「覚悟してくださいね」

 

「面倒だな」

 

「カリス、可能なら2人同時に倒すぞ。そうしないとまた分身で粘られる」

 

「わかった」

 

それからブレイドとカリスの2人は仲間の元に向かうために分身セイバーの相手をしていくのであった。

 

場面は戻り、セイバー本体である虚無のセイバーとギャレンの戦いに移る。虚無のセイバーとギャレンは激闘を続けていた。セイバーはギャレン相手に敢えて相手の得意な撃ち合いをすることで射撃の合間に発生するであろう隙を探していた。

 

「【ラピッド】!」

 

それに対して、ギャレンは高威力の弾丸を連射できるスキルを使用してセイバーを牽制していく。当然効果時間に制限があるのでセイバーは効果切れまで粘る事にした。

 

「あの威力での連射はかなり面倒だからなぁ。対策が無いわけじゃないけど今は無理してそれをする必要はないかな」

 

セイバーは遮蔽物を使って攻撃を凌ぎつつ近づけそうなタイミングを待つ。そしてその時はすぐに訪れた。

 

セイバーが暫く粘っているとギャレンの連射スキルが止まり、飛んでくる弾幕に穴が空いた。その瞬間、セイバーは遮蔽物の影から飛び出すとその隙間を縫うようにして走っていく。

 

「チッ、そうはさせるか!」

 

ギャレンはセイバーに近づかせる訳にはいかないためにライフルでの射撃を続けるものの、【ラピッド】の効果が切れてしまい弾丸の発射までにリロードの時間が生まれてしまった。セイバーがその隙を見逃すはずがない。

 

「【無限一突】!」

 

セイバーがオレンジの光を纏わせた虚無でギャレンを斬りつける。するとギャレンの周囲に透明なエネルギーフィールドが現れて攻撃が防御された。

 

「お!?」

 

「残念だったな。これでも喰らえ!【バレット】、【ファイア】!【ファイアバレット】!」

 

ギャレンがゼロ距離で炎を纏わせた弾丸を放つとセイバーはそれを受けて吹き飛ばされるが、HPは割と余裕を持って残っていた。

 

「これならまだ耐えられる!【炎の翼】!」

 

そこからセイバーは再びギャレンへと突撃。今度は数発程度の被弾は覚悟の上での突撃である。先程まで頑なにダメージを受けたがらなかったのは通常攻撃の威力を押し測るためだった。

 

最初に喰らった【ストレートフラッシュ】だと火力が高すぎて高威力だという事がわかってもそこから通常攻撃の威力を測るのは難しい。しかし、今度は先程よりも威力が抑えられたスキルを受けた事で大まかなダメージ割合を知る事ができた。そこから通常攻撃の威力を弾き出し、この威力なら数発受けても問題は無いないと踏んだのだろう。

 

その証拠にセイバーは何発か被弾するもののHPが0にはならずに再びギャレンの目の前にまで接近できた。

 

「今度こそ!」

 

「無駄だ」

 

ギャレンは再度自身の周囲にバリアを展開するとセイバーの攻撃をバリアで受け止めた。しかし、今度のセイバーには考えがあった。

 

「【無ノ一閃】!」

 

セイバーがスキルの力を纏わせて虚無をバリアへと叩きつけるとバリアが消滅し、ギャレンの守りを突破した。

 

「何だと!?」

 

「【バーニングレイン】!」

 

セイバーが赤黒い炎を纏わせた斬撃波を連続で放つとギャレンはなすすべなくそれをまともに受け、ダメージを負った。

 

「馬鹿な……あのバリアを破壊するなんて……」

 

「へっ、【無ノ一閃】のもう1つの効果。相手が展開した防御壁を無効にする。このまま一気に決めてやるぜ!【マグナブレイズ】」

 

続けてセイバーは不死鳥の炎を纏うと火炎弾を連続で発射。そしてそれはギャレンへと命中するとその爆発でギャレンの姿が見えなくなった。そして、煙が晴れるとそこには誰もいなかった。

 

「これは倒したか?いや、撤退した可能性もある。気配は……感じないな……」

 

セイバーがギャレンが倒されたのか、それとも撤退したのか。その事について慎重になっているとセイバーが後ろからどつかれた。

 

「痛っ!!って、サリー!?」

 

「アンタねぇ、何ボサッとしてるのよ!」

 

そこにいたのはサリーだった。だが、サリーは今現在、城の守りを固めているはずである。それなのに何故ここにいるのか。セイバーの頭の中は混乱していた。

 

「そっちこそ、城の守りはどうしたんだよ!」

 

「え?ペインさんに守りは良いからセイバーを助けてあげてくれって言われたから」

 

「いやいやいや、は?俺は別にそんな事言ってないけど」

 

セイバーは突然のサリーの出現に加えて謎の発言に戸惑っていた。

 

「……まさかと思うけど偽者じゃねーよな?」

 

「何言ってるのよ、アンタこそ変な事考えてないでしょーね?」

 

「……なら質問だ。サリー、ゲームはゲームでも俺が最も苦手なゲームを言ってみろ」

 

「えっと、恋愛ゲーム!!」

 

セイバーはそれを聞いて無言でサリーへと虚無を突き出した。サリーはそれをギリギリで受け止めるが、サリーは困惑した表情を浮かべていた。

 

「セイバー……?何するの……」

 

「お前、偽者だな。俺がゲームの中で1番苦手なのはババ抜きだ。毎回ジョーカーが手元に残って負けまくる。下手にサリーに化けたのは失敗だったな。ギャレンさん!!」

 

セイバーが虚無に炎を纏わせるとその炎が剣を伝ってサリーへと燃え移り、そのまま姿がギャレンへと変わった。

 

「くっ、流石にセイバー相手には無謀だったか。だが、これでトドメを刺せる!」

 

セイバーがその言葉に違和感を覚えているとセイバーの足元が岩で固められていた。

 

「まさか、さっきの一瞬で!」

 

「終わりだ。ダイヤ10、J、Q、K、A!【ロイヤルストレートフラッシュ】!」

 

ギャレンがセイバーにほんの僅かな隙を作らせるとカードを5枚挿入。自身とセイバーとの間に5枚のカードが並ぶとそれから必殺の一撃を解き放った。

 

「はあっ!」

 

ギャレンの持つライフル銃からの超高密度のエネルギー光線はセイバーを貫き彼のHPを0へと変えた。そして、本体がやられた事によって分身体も全て消えて無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

……かに見えた。ギャレンがブレイドへと連絡を取ると彼からまだセイバーと戦っているという言葉が出てきたのだ。

 

「馬鹿な、たった今セイバーの本体を倒したはず!そんなはずは……」

 

次の瞬間、ギャレンの目の前にまでセイバーが突っ込んできていた。

 

「【不死鳥無双斬り】!」

 

セイバーが剣を振り抜くと不死鳥のエネルギー斬が飛んでいき、ギャレンへと命中すると、今度はギャレンのHPを全て消し飛ばし、0へと変えていった。

 

「な、何故だ……どうして!!」

 

「スキル、【不死の体】。効果で俺の体は1日に1回だけ死亡してもHPとMPを満タンにして復活が可能となる。ま、これをあなた相手に使うつもりは無かったんですけど、こればかりは仕方なかったですね」

 

「やられたよ……セイバー、俺の完敗だ」

 

ギャレンはその言葉を最後に消滅し、セイバーが完全な勝利を手にする事になった。また、2日目も終わりが近づいていた。日は傾き始め、夕方に入っていく。そして、2日目の目玉にして最大規模の決戦。セイバー軍団対リリィ、ウィルバートの機械兵軍団との戦いも決着の時が迫っている。

 

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イベント2日目、現在の戦況

 

ブレイド、カリス対セイバー(分身)×2

 

リリィ、ウィルバート対セイバー(分身)×7

 

セイバー(本体)、セイバー(分身)×1(移動中)

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        ギャレン 脱落

ヒビキ        カリス

ペイン        ミィ

キラー        パラドクス

           マルクス

           ミザリー

           キャロル

           リリィ

           ウィルバート

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと駆け引き

ギャレンとの激戦を終えたセイバーの本体は周囲に存在するプレイヤー達を蹴散らすために行動を開始した。ランカー達の戦いが決着していく中、最後に残った2日目の戦いの中で最大規模の激戦であるセイバー軍団対リリィ、ウィルバート率いる機械兵軍団の戦いも終わりの時が近づいていた。

 

「【氷塊飛ばし】!」

 

「【ダークスピア】!」

 

「【閃光斬】!」

 

「【雷鳴一閃】!」

 

「【グランドウェーブ】!」

 

「【手裏剣刃】!」

 

「【ロック弾幕】!」

 

「【爆炎放射】!」

 

機械兵と戦う流水、黄雷、激土、翠風、錫音、月闇、最光の7人のセイバー。そこに移動してきた烈火のセイバーも加わって合計8人になったセイバー軍団。しかし、彼らの圧倒的火力を持ってしても未だに突破する事ができていない。セイバーの本体が虚無を装備した事によってHP及び疲労の心配をする必要が殆ど無くなったため、戦況は再び一進一退の状態に戻っていた。

 

「こっち側の主力が殆どやられて残っているのはもう俺だけか……。こうなったら何が何でも2人を倒さないといけないな」

 

セイバーは少し焦っていた。この時点で攻撃組の主力メンバーの内、残されているのはセイバーとその分身だけであり、その他は満身創痍な他のギルドの面々や【集う聖剣】の部隊だけ。しかも、敵の攻撃組の主力であるブレイド、カリス、ミィ、パラドクスの4人は未だに倒す事ができていなかった。徐々に開く主力の人数差に加えて攻めきれていないこの現状。いつ敵の後詰めが来るかもわからないためにセイバーは決着を急ぐ必要があると考えた。

 

そしてそれは奇しくもリリィとウィルバートの2人も同じ考えであった。

 

「そろそろ倒れてくれてもおかしくないのですが……」

 

「セイバー、これだけの長時間戦い続けても尚生き残っているとは。地形は攻め込んでいるこちらが不利とは言っても物量では完全に勝っている。その証拠に2日目の序盤から戦っているプレイヤーは殆ど倒されているのと、敵側のNPCや自動沸きしているモンスターは討伐できている」

 

「こうなった以上、私達が直接倒した方が良いと思います。狙撃を仕掛けて一撃で落とせれば……」

 

「いや、あのセイバー達はただの分身。仮に倒せても本体が残っている限り何度でも復活する。セイバーの本体の場所がわかれば狙撃も可能なんだがな」

 

このようにリリィとウィルバートの2人もセイバーの本体の場所を探るようになっており、それだけ邪魔なセイバーを倒したいという気持ちが高まってきていた。

 

「ドギー、【偵察犬】!」

 

「アイ、【マーカー】!」

 

「悪いですけどセイバーの本体の場所を探ってはくれませんか?」

 

ウィルバートは自身のモンスターであるドギーに指示を出して本体である虚無のセイバーの場所を探しに行かせた。そして、それに付け加えるようにリリィのモンスター、アイがマーカーを持たせてセイバーの位置を割り出そうと目論む。

 

ドギーが森の中を走っていく中、2人はセイバーの分身達から距離を取りつつ戦況をコントロールする事に専念していく。

 

「リリィ、あの手を解放しましょう」

 

「だが、アレをすると最悪の場合戦況が逆転されるぞ」

 

「ですがこれ以上セイバーを野放しにする訳にはいきません。今は彼の戦力を削いでいく必要があります。どこかでリスクを冒さなければセイバーには勝てません」

 

「くっ……仕方ない。ならば、【アーマー強化】、【機械の王】、【機械合体】!アイ、【リプログラミング】!」

 

リリィからの言葉が発せられるとアイは画面を次々と開いていき、プログラムを構築。その構築が完了するとリリィの周囲にいる機械兵達に変化が現れた。10体前後ごとで1つのリングに包まれていきその中で機械兵達は形を変えていく。

 

機械兵を包むリングが消えるとそこには先程よりも3倍近く巨大化した機械兵が生み出されていた。そしてその機械兵達は敵を仕留めるためにセイバーの方へと向かっていく。

 

「この野郎!そろそろ終わりやがれ!」

 

セイバー軍団がそう言いながら戦いを継続しているとリリィ達が生成した巨大な機械兵がゆっくりとだが歩いてきた。そして、代わりにリリィとウィルバートは奥へと撤退していく。

 

「は?何だよあのデカブツは!!」

 

「おいおい、まだ上があるのかよ」

 

セイバー達はその体格差に一瞬怯んだものの、それでも正面から立ち向かっていく。強化型機械兵はセイバーを見つけた瞬間、両腕と両足に武装を展開して射撃を開始した。

 

「ここは任せろ!【稲妻放電波】!」

 

「4人は先に行ってくれ!【大断断斬】!」

 

「リリィさんとウィルバートさんを倒して来い!【スナックチョッパー】!」

 

「時間稼ぎは俺たちが!【クナイの雨】!」

 

「「「「すまない!任せた!!」」」」

 

8人のセイバーの内、黄雷、激土、翠風、錫音の4人が強化型機械兵や戦車部隊を引きつけ、その間に烈火、流水、月闇、最光の4人のセイバーが突破していった。

 

4人が気配を頼りに走っていくと今度は大量のプレイヤー達が立ちはだかった。どうやら、ブレイド達の指示で後方から部隊が到着したのだ。

 

「チッ、ここに来て増援かよ!」

 

「俺達を一気に仕留める気か」

 

それを見たセイバーはアイコンタクトをして意思疎通を行うと最光のセイバーが前に出た。

 

「【発光】!」

 

最光から発せられる眩い光が正面にいるプレイヤー達の目を眩ませるとその間に流水と月闇のセイバーがその場を抜けていく。そして残った烈火と最光のセイバーが2人がかりで50人近いプレイヤー達を相手取っていく。

 

「おい、俺!どっちが多く倒せるか勝負だ」

 

「へぇ、そんな余裕あるんだ」

 

そう2人で言いながらプレイヤー相手に無双を開始するのであった。そして、残された流水と月闇のセイバーは再びリリィとウィルバートの2人の元に辿り着く事に成功し、2人と睨み合っていた。

 

「やっと追いつきましたよ。リリィさん、ウィルバートさん」

 

「観念してもらいましょうか」

 

「どうやら私達も覚悟を決める必要があるようだな」

 

「えぇ、相手はあのセイバーです。気を引き締めていきましょう」

 

戦いはウィルバートが手にした投げナイフをセイバーへと投げ、セイバーがそれを剣で弾いた所から開幕。

 

「【氷獣大空撃】!」

 

まずは先制攻撃とばかりに流水のセイバーが空中へと飛び立つと空から氷の羽を飛ばす。

 

「アイ、【バリアフィールド】!」

 

それをリリィのモンスター、アイがバリアを展開して防ぎ、そこに踏み込んだ月闇のセイバーがバリアを破壊しながら2人へと接近。

 

「【ムーンブレイク】!」

 

月闇のセイバーが月の力を高めた一撃を放つ。しかし、それはリリィが手にした旗によって防がれた。

 

「その旗ってそう使えるのかよ!」

 

「悪いな。流石にお前の間合いで戦うわけにはいかない」

 

そこに間髪入れずにウィルバートが投げナイフを使って月闇のセイバーを牽制。

 

彼を一時的にリリィから引き離させた。そこに流水のセイバーも空中から接近して白く輝かせた流水で接近戦を仕掛けていく。2人はそれを辛うじて躱し、距離を取ろうとした。

 

「逃すかよ!【影踏み】!」

 

セイバーが2人の背後へと回り込むとサポート役であるウィルバートの影を踏む事で彼の動きが金縛りにあったかのように封じられた。

 

「これは……」

 

「もう逃さないぜ。終わりだ!」

 

セイバーが背後から月闇を突き立てようとするとそこに虚無のセイバーを探しに行っていたウィルバートのモンスター、ドギーがセイバーの足に噛みついてセイバーを飛び退かせた。

 

「ぐっ!!」

 

「ドギー!」

 

「この野郎!」

 

「アイ、【レーザーショット】!」

 

セイバーが噛みついたドギーを倒そうとしたタイミングでリリィからの指示を受けたアイがレーザーを放った。セイバーはそれに対応するために後ろへと下がらなければならず、ウィルバートの影から足を離す必要が出てしまい、結果的にウィルバートを取り逃がしてしまった。

 

「しまった……」

 

「ドギー、ナイスタイミングです」

 

ウィルバートがそう言うとドギーはとある物を見せた。それは地図の中で光る赤い点が記されていた。それは他の何者でも無い虚無のセイバーの居場所をマークしたものだった。どうやらドギーはセイバーを見つける事に成功しており、セイバーにバレないようにアイから預かったマーカーを付けてきたようだ。

 

「流石はウィルの誇る忠犬だな」

 

「えぇ、これでようやくあの戦術が使えます」

 

「【ハイドロスクリュー】!」

 

2人が話している所に流水のセイバーからの水の斬撃が撃ち出された。2人はそれをアイに障壁を張らせて凌ぐが、それでも長時間耐えるのは厳しいかに見えた。

 

「良し、近づければいつかは倒せる。この2人を倒せれば……」

 

「アイ、【超電磁砲】」

 

リリィの指示と共にアイは周囲からエネルギーを集め始め、エネルギーの砲弾を生成していった。

 

「何だあれ?」

 

「取り敢えず放っておいたら不味いのはわかるな。止めさせてもらうぞ」

 

2人のセイバーはその攻撃が危険だと言う事を即座に理解すると阻止するために動き始める。そこにウィルバートが投げナイフを投げずに短刀として使って月闇のセイバーの攻撃を受け止めた。

 

「ドギー、【猟犬の爪】!」

 

ウィルバートの言葉でドギーも動き、流水のセイバーの顔に飛びつくと足の爪を振り下ろそうとする。流水のセイバーは咄嗟に剣でドギーを振り払いダメージを受けないようにするが、ドギーはまたもや飛びついてセイバーを自由にさせない。

 

「私も行くぞ。【命なき軍団】【玩具の兵隊】【砂の群れ】【賢王の指揮】!」

 

リリィも機械兵を召喚して守りを固め、アイが必殺の一撃をチャージしきるまで時間を稼いでいく。このままでは最大出力まで高められたアイの攻撃を2人のセイバーはまともに受ける事になるだろう。しかし、セイバー達にそれを止める手段は無かった。そしてとうとうその時は来てしまう。

 

「クソッ!【氷塊飛ばし】!」

 

流水のセイバーはドギーを掴むと正面に投げ飛ばし、追撃として氷塊をぶつける事でドギーを撃破。更に加えて、月闇のセイバーもSTRの差を利用してウィルバートを蹴り飛ばし、距離を取らせ、【月闇居合】で壁となっていた機械兵を一掃した。

 

「やっとこいつらを倒せたぜ」

 

「ああ、だが……」

 

「もう遅いぞ。アイ、攻撃だ!」

 

リリィ達がアイの攻撃を通すために時間を稼ぎ続けた結果、その威力は喰らえば殆どのプレイヤーが一撃で葬られるほどの威力になっていた。

そしてその高威力の【超電磁砲】が撃ち出され、2人のセイバーはそれを受けて大爆発を起こすのであった。

 

その頃、強化型機械兵との戦闘では4人のセイバーが1体ずつ集中攻撃をする事によって確実に粉砕していた。

 

「コイツら、耐久力や攻撃力が上がってもスピードはそう大して上がってないな。だったら、俺達の相手にすらならないぞ!」

 

セイバーは虚無のセイバーがいる事によって疲労の心配は無いため、激しく動き回り、敵の照準を定めさせないようにしていた。

 

「ホラホラ、どこ狙ってるんだ?そんな狙い方じゃ当たらねーぞ」

 

「まぁ、機械に言っても仕方ねーか」

 

しかし、セイバーは忘れていた。この機械兵にはある機能が付与されていることを。

 

強化型機械兵達は突如としてセイバーの動きの先を読んで射撃を仕掛けてきた。

 

「うぇ!?何でいきなり俺の動きについてこれ……あ!そうだコイツら相手の動きを学習できるんだった!!」

 

セイバーのまさかの油断によって強化型機械兵の数自体は減らせていても、攻撃を受ける回数が徐々に増えていった。今はまだ強攻撃を躱せているが、それを受ければひとたまりも無いだろう。

 

「だったら学習される前にこっちから攻撃を仕掛けて仕留めてしまおう」

 

セイバー4人はアイコンタクトのみでそれぞれの役割を確認すると散らばっていった。

 

「まずは俺だ!【ロック弾幕】!」

 

最初に攻撃を仕掛けたのは錫音のセイバー。弾幕の動きを操作して強化型機械兵を1カ所に集めるように移動させていった。

 

「次は俺!【サンダーブランチ】!」

 

続けて、黄雷のセイバーが電撃の鞭を地面から生やして強化型機械兵の動きを制限しつつ電撃を流してダメージを与えていく。

 

「【影分身】、【超速連撃】!」

 

そして翠風のセイバーは【影分身】で数を増やして周囲に存在する通常の機械兵や戦車部隊を相手し、強化型機械兵を倒しに行っているセイバー達の邪魔をさせないようにしていた。

 

「よーし、今ので十分時間は稼げたぜ。これで決める!」

 

最後を飾るのは激土のセイバー。片手で激土を掲げると刀身が巨大化。更にもう片方の手にはキングエクスカリバーが握られていた。

 

「コイツで終わりだ!【大断断斬】【キングスラッシュ】!」

 

激土のセイバーが激土とキングエクスカリバーを振るうと圧倒的な出力で強化型機械兵軍団を一撃で両断。激土の【装甲破壊】のスキルも相まって強化型機械兵達を纏めて撃破する事に成功した。

 

「よっしゃあ!」

 

「はしゃぐのは良いけどまだ終わってねーからな」

 

「ああ、まだ雑魚敵が残ってるぜ」

 

「さっさと片付けるぞ」

 

4人のセイバー達は喜びに浸る間も無くすぐさま次の敵を倒すべくそちらへと向かっていくのだった。

 

一方でプレイヤーやモンスター達を相手にしている烈火と最光のセイバーはプレイヤーが相手であるからか僅かに苦戦していたものの、機械兵と違って追加が無いので敵の数は確実に減っていた。

 

「おいおい、お前らの力はそんな程度か?【四属性光弾】!」

 

烈火のセイバーが水、雷、風、土の4つの属性の力を高めた光弾がプレイヤー達を襲っていく。当然攻撃は障壁などで防がれるが、その隙に最光のセイバーが暴れていく。

 

「最光抜刀!【閃光斬】!」

 

剣へと変化した最光のセイバーが回転しながら飛来し、ガラ空きとなったプレイヤー達の懐に入ると斬撃を決めていく。

 

「へっへー、皆ガラ空きだったぜ」

 

最光のセイバーが調子に乗っていると1人のプレイヤーが最光のセイバーを押さえつけ、そこに何人も群がり、STRで抑え込んでいく。

 

「ちょちょっ!タンマタンマ!それはずるいって!」

 

最光のセイバーは剣となって自由自在に飛行できる代わりに体重が軽いため、あまりにも強い力で抑え込まれると身動きが取れなくなってしまうのだ。そしてそこを突かれた最光のセイバーは烈火のセイバーに呆れられながらも助けられた。

 

「いくら俺だからって油断するなっての。相手も死に物狂いなんだから」

 

「サーセン」

 

2人はやり取りを交わしながらも敵は確実に撃破しており、最低限の仕事はしていた。

 

「ったく、そろそろ決めるぞ」

 

「良いぜ。【シャドーボディ】!」

 

最光のセイバーが影の体に掴まれるとそのままプレイヤーを斬りつけていき、ダメージを与えると怯ませていった。そして烈火のセイバーが高火力を解き放つ。

 

「【紅蓮爆龍剣】!」

 

セイバーの言葉と共に紅蓮の龍が飛び出すとプレイヤーやモンスターを蹴散らし、撃退していった。このスキルも初期の頃からあるものだが、未だに前線で通用する辺り強力なスキルと言えるだろう。

 

「残りは任せろ!【シャドースラッシュ】!」

 

最光のセイバーの影が最光を中心に竜巻のように変化するとそのまま周囲のプレイヤーやモンスター達を飲み込んでいき鎌鼬のようにズタズタに斬り裂くと多くのプレイヤー達が地面に叩きつけられると同時にHPを無くして消えていった。

 

「これで全部かな」

 

「そうだな。【カラフルボディ】!」

 

2人は周囲にいた敵を殲滅した事でフリーとなり、最光のセイバーも時間制限を考えて人型に戻るとそれぞれの目的のために分かれて行動を開始した。

 

そして、【超電磁砲】を喰らった流水と月闇のセイバーはどうなってしまったのか。先に結論を言うとほぼ無傷で耐えていた。正確にはとあるスキルの発動時に発生する無敵時間を利用して凌いだのだ。

 

「ブレイブ、【覚醒】、【邪悪化】!【邪龍融合】!」

 

月闇のセイバーが前に出るとブレイブを呼び出してブレイブと融合する事でその間に発生するバリアフィールドを使って防いでいた。

 

「残念でした。まだこの手があったんですよ」

 

「参りましたね……まさかそんな凌ぎ方があったなんて」

 

「さぁ、続きと行きましょうか!」

 

月闇のセイバーが2人を倒すために走っていく。

 

「こうなったら、ウィル!」

 

「えぇ!」

 

「「【クイックチェンジ】!!」」

 

2人はこのタイミングで役職を入れ替えてリリィがメイド服を、ウィルバートが吟遊詩人風の服を装備した。そして、役職を入れ替えた事によって黄雷、激土、翠風、錫音のセイバーが相手していた機械兵達が強制的に消滅した。ここまでして2人が役職を入れ替えたのには理由がある。それは……

 

「【王佐の才】、【戦術指南】、【理外の力】、【賢王の指揮】!」

 

「【ロックオン】、【引き絞り】、【渾身の一射】、【同時射撃】!」

 

ウィルバートはリリィからの支援を受けてから5本もの矢を同時に弓にセットすると引き絞り、それを空中に向けて解き放った。そしてその狙いは目の前にいる流水と月闇のセイバー……では無く、その場にはいない烈火、黄雷、激土、翠風、錫音のセイバーへと命中すると彼らを一撃で貫いた。

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

5人のセイバーはこれまでの戦いで【不屈の竜騎士】のスキルを使ってしまったためにHPを1発で0にされて消滅してしまった。だが、それは同時に2人のセイバーをガラ空きにしてしまう事を示していた。

 

「【封印斬】!」

 

月闇のセイバーが2人に向けてそう言いながら攻撃を放つと2人は倒されずとも鎖のエフェクトと共にあるスキルが封印された。そのスキルは……。

 

「「【クイックチェンジ】!!」」

 

2人は目の前にいるセイバー達に対抗するためにまたもや役職を入れ替えようとスキルを言うが何も変化が起きなかった。

 

「「何!?」」

 

「これでもう2人は一定時間の間役職は入れ替えられませんよ」

 

「まさか、これもセイバーの狙っていた事なのか?」

 

「ええ。2人を追い詰めれば必ず瞬間火力が出るウィルバートさんがメインの装備に切り替えてくると思っていましたから」

 

「後はそれに合わせてスキル封印を使うだけです。どうです?初見では防げないでしょう?」

 

実はセイバーがこのスキルを手に入れてからというもの、他のプレイヤーの前では使っていなかった。そしてそれはこのような場面を想定した上での事である。それが見事に決まったというわけだ。

 

「今なら倒せます!【氷獣大地撃】!」

 

セイバーは2人の足元を氷で凍結させるとそのまま走っていき、すれ違い様に切り裂こうと流水を振るう。それを見たリリィはアイを前に出させた。

 

「アイ、【エネルギー弾幕】!」

 

アイがリリィの指示を受けて弾幕を張るがそれは月闇のセイバーから発せられた【闇の障壁】によって防がれ、そのままアイが一刀両断にされて倒された。

 

「アイ!!」

 

「余所見している場合ですか?【邪王龍神撃】!」

 

月闇のセイバーから繰り出された闇の龍による攻撃がリリィに命中すると彼女の残っていたHPを全て奪い取り0へと変えてしまった。そして、HPが0になった事でリリィはポリゴンにとなって消え始める。

 

「くっ、【この身を糧に】【アドバイス】!」

 

リリィが消える寸前、最後の抵抗とばかりにスキルをウィルバートへとかけて射撃の威力をパワーアップ。そして強化されたウィルバートが狙うのはただ1人。

 

「【ロックオン】、【神の一射】、【長軌道】!」

 

ウィルバートが放った矢は森の中を飛びながら障害物をすり抜けつつ飛んでいき、セイバーの本体である虚無のセイバーを撃ち抜かんとしていた。

 

そしてセイバー本体がそれに気づいた時にはもう遅く、ウィルバートの矢によって一撃で貫かれた……かに思われた。

 

だが、いつまで経っても分身セイバーが消える様子はなかった。

 

 

「どういう事ですか?セイバーの本体がやられれば、分身のセイバーも倒れるはずですよ?」

 

「残念ながら倒れてませんよ?あなたが仕掛けたマーカーをよく見てください」

 

「……え?」

 

ウィルバートが地図を見るとそこには未だにマーカーが点滅したままであり、セイバーの本体が残っている事を示していた。

 

「まさか、これも見越してわざと……」

 

「当然ですよ。あなたのモンスター、ドギーがマーカーを本体につけたのは知っていましたので、敢えてマーカーを外さずにそのままにしておく事で本体を狙わせるように仕向けました。そして、最光のセイバーがカバーに入って代わりに倒される事で本体を守ることができたんです。欲張って本体を狙ったのが仇になりましたね」

 

そう言うと流水のセイバーが既にウィルバートの目の前にやってきていた。もうこの距離では弓を構えても間に合わないのは明らかであり、彼は諦めの表情を浮かべていた。

 

「見事です。今回は私達の完敗ですよ」

 

「いえいえ、俺も一歩間違えれば負けていましたし、ここまで追い詰められたのは久しぶりでしたよ」

 

「皆さん……後はお任せします」

 

「【タテガミ氷牙斬り】!」

 

セイバーからトドメの一撃が放たれるとウィルバートは叩き切られて撃破された。これにより、セイバーは2日目に想定していた最大の目的を達成した。しかし、戦いの爪痕は大きかった。水と氷側の国の戦力は開始時点の4分の1にまで減少しており、2日目にあまりプレイヤーの損害を出していない炎と雷の国側との戦力差は明らかであった。セイバーは分身を解除すると前線から離脱し、それを見たブレイドとカリスも一時撤退。日も沈み2日目も終わりの時が近づく。果たして、この戦いの結末はどうなるのか?それがわかるのはまだ先であるだろう。

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        カリス

ヒビキ        ミィ

ペイン        パラドクス

キラー        マルクス

           ミザリー

           キャロル

           リリィ 脱落

           ウィルバート 脱落

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと3日目突入

第10回イベント。2つの陣営に分かれてのチーム戦はいよいよ終盤へと向かっていっていた。2日目もまもなく終わるという中、それぞれの主力プレイヤー達はそれぞれの陣営で布陣の確認を行なっていた。

 

炎と雷の国side

 

「良い加減にしろ!何故この俺がお前の指図で動かなければならんのだ!!」

 

ブレイドからの指示に猛反発したのは【thunder storm】のプレイヤー、キャロルである。ここまでにブレイドの作戦でベルベットとヒナタを失ってきたがために彼女の我慢も限界に達していた。

 

「落ち着きなさいキャロル」

 

「何だと、マリア。お前もアイツの毒牙にかかったか!アイツの失策のせいで何人やられたと思ってるんだ!」

 

「戦いに犠牲は仕方ない事よ。セイバー相手なら尚更だわ」

 

キャロルの怒りは大爆発を起こしており、マリアがそれを抑えようとするが、それでも中々止まらなかった。

 

「もうメチャクチャだよ……」

 

「今は争っている時では無いはずなのですが……」

 

【炎帝ノ国】のマルクスとミザリーは完全に呆れてしまっており、ミィはアワアワとしている。

 

「というよりミィ、そんな感じだったっけ?」

 

「セイバーに言われてなるべく素の自分でいられるように頑張っているんですよ」

 

「キャ、キャロルちゃん落ち着いて……」

 

「何か凄い新鮮だよね。あのカリスマの塊だったミィがここまで人が変わるなんて」

 

マルクスはあまりのミィの変わりように驚きを隠せなかった。ミザリーは以前からその事を知っていたのだが、それでもいざミィの素を見ると改めて別人みたいだという事を思い知らされている。

 

「それにしてもパラドクス、お前は大人しいな。ブレイドの策は嫌いじゃなかったのか?」

 

カリスからの指摘にパラドクスは一度溜息をつくと観念したように言葉を返した。

 

「今更怒っても何も変わらないと思ったからだよ。それに、俺は強敵とのゲームを楽しめればそれで良いかなと思ったからな」

 

「そうか」

 

炎と雷の国側の主力メンバーがそれぞれ意見を述べる中、ブレイドは1人で考えを巡らせていた。

 

「(予想していた事とは言え、セイバーにリリィとウィルバートを倒されたのは痛かったな。だが、お陰で敵のプレイヤーの数は大きく減っている。こちらにはまだ半数近くプレイヤーが残っているのに対して相手は4分の1いれば良い所だろう。3日目は物量で一気に城を攻め落としに行く!)」

 

ブレイドの作戦は詰めの段階に差し掛かっており、このままブレイドの考え通りに進めば勝つのは炎と雷の国側だろう。だが、それは思い通りに行けばの話であるためまだ油断はできない。何せ、まだ相手には最強のエースがいるのだから。

 

水と氷の国side

 

「はぁ!?アンタねぇ、良い加減にしなさいよ!!」

 

「もう我慢の限界!!幾らセイバーお兄ちゃんでもそれはダメ!!」

 

こちらでもサリーとヒビキが3日目の動き方について話をしたセイバーへと怒号を発していた。

 

「もうこっちにはプレイヤーの人数がただでさえ少ないんだ。仕方ないだろ!」

 

「その状況にしたのはセイバーお兄ちゃんの作戦のせいでしょ!」

 

「だったらヒビキは何か考えがあるのかよ」

 

このままでは話し合い所では無いのは明白である。ペインやキラーが何とか3人を抑えようとしているが焼石に水であった。

 

「なぁペイン、コイツらってここまで言い争うような奴等だったか?」

 

「お互いに相手の事を想っての事だろうが……流石にここまでとは聞いていない……」

 

因みにどんな作戦を提案したのかと言うと、水と氷の国側に残っている全てのプレイヤーで敵の攻撃部隊を防御。引きつけている間にセイバーが単独で敵陣に乗り込み、城の玉座に触れると言った内容だった。忘れがちだが、このイベントの勝利条件は敵陣営の玉座に触れるか、3日が経過した時点で残っているプレイヤーの数が多い陣営が勝つのでプレイヤーの人数が少ない今後者を取るのはリスクが高い。よってセイバーは前者の玉座を狙う作戦を立てたのだが、見事にサリーとヒビキの逆鱗に触れてしまった。

 

「俺だけなら最悪やられてもまだ勝ち目がある。けど、それ以外のプレイヤーまでやられたら勝ち目が薄くなるのがわかんねーのかよ!!」

 

「ふざけないでよ……私は……私達はこれ以上アンタに無理してほしく無いのよ!!」

 

サリーの言葉にセイバーは一時的に黙り込んだ。流石のセイバーでもここまでサリーが怒るとは思ってなかったからである。

 

「今日の事だって本当は許したくなかったのよ……もしセイバーが、無理して負けたらと思うと……心配で心配で仕方なかったのよ?」

 

「私だってセイバーお兄ちゃんの役に立ちたい!1人で無理するセイバーお兄ちゃんを放っておけないよ」

 

「2人共……」

 

「……ならこうするのはどうだ。サリー、ヒビキの2人とセイバーの分身が攻め。俺とキラー、そしてセイバーの分身が城の守り」

 

「え、じゃあ俺の本体はどうすれば……」

 

「君の本体の場所は……」

 

ペインからの折衷案に3人はようやく納得すると作戦を決定した。果たしてこれが上手く行くのか。それがわかるのはまだまだ先の事である。

 

それはさておき、2日目の夜。この間も他のギルドのプレイヤー達は戦いを続けていたが、やはりというべきか2日目の戦いで大きく消耗した水と氷の国側のギルドの方が大幅に不利であり、その数を更に減らす事になっていた。

 

こうして、日付は変わりイベント最終日となった。日が昇る頃、水と氷の国側にいる殆どのギルドは補給のために城へと戻っていった。しかしそれは建前であり、もう殆どのギルドが戦闘継続能力が困難になっているからである。いわゆる寄せ集め状態だった。万全なのは城で防御をしていた者ばかりであり、全体の5分の1にも満たなかった。

 

そして、日が明ける頃に異変は起きた。何と、城の目と鼻の先にまで炎と雷の国側にいる【BOARD】、【炎帝ノ国】、【thunder storm】、【ラピッドファイア】による大規模ギルド連合の軍勢が迫っていた。彼らは守備よりも攻撃に人数を割いて確実に敵を仕留めるつもりである。

 

「ブレイドの読み通りここまで順調に来れたな」

 

「うん。まさか敵に1回もエンカウントしないなんてね。これだけの数で来れば普通なら気づかれると思うんだけど」

 

「恐らく相手にはもうそこまでの人数が残ってない。昨日のリリィとウィルバートの機械兵の働きによる成果だろう」

 

「さぁ、後は叩き潰すだけだ」

 

攻撃部隊に入っているブレイド、カリス、ミィ、パラドクスのトッププレイヤー達がそう話していると突如として城門が開け放たれた。そのあまりに不自然な事態にトッププレイヤー達は警戒心を強める。

 

「どういう事だ?どうして門を開ける?」

 

「普通なら城内に敵を入れるなんてしないでしょ」

 

「罠だな」

 

「いや、それでも俺達は行く。一気に勝負を付けるぞ」

 

ブレイドの指示と共に大規模ギルド連合の面々は城内へと突入。早速初日にカナデがイズのモンスター、フェイと共に仕掛けていたトラップが発動するものの、それだけでは勢いが止まるわけもなく軍勢は中へ中へと入っていく。

 

その頃、空へと飛び立つ1体の龍がいた。その存在に気づく者は誰もいない。何故なら、彼らは開け放たれた城門に釘付けだからである。

 

「どうやらカモフラージュに成功したみたいね」

 

「後は時間との勝負です」

 

「俺達が玉座に触れるのが先か、相手が触れるのが先か。スタートの時点で相手がかなり有利だけど、向こうの軍はこっちの守備部隊……残りのプレイヤーほぼ全てとNPCが足止めしてくれてる。チャンスはまだある」

 

烈火を持った分身セイバー、サリー、ヒビキはセイバーのモンスター、ブレイブに乗って密かに敵陣へと突き進んでいくのであった。

 

そして、城内では既に中にいるプレイヤー達が乱戦を開始しており、状況は膠着していた。そんな中、今まで温存されていた守備のプレイヤーの中でも最強クラスのプレイヤーも動き出す。

 

「【破砕ノ聖剣】!」

 

圧倒的な出力を誇るセイバーに次ぐ聖剣の使い手、【集う聖剣】のギルドマスター、ペインが満を辞して登場である。セイバーがペイン達4人が2日目に守備をするように提案したのは敢えて城の中に配置する事で彼らの持つ強力な切り札と呼べるスキルを敵プレイヤーに見せないためであった。そして、ペイン、キラー、サリー、ヒビキは全員1人で複数人を同時に相手取るだけの力を持つ超攻撃型のプレイヤーのため多少の人数差など気にもならないのである。

 

そんなペインの元に炎を纏った戦士が現れた。セイバー以外で炎を纏える戦士と言えばもう彼女しかいないだろう。【炎帝ノ国】のギルドマスター。ミィである。

 

「イベント初日ぶりだね。ペイン」

 

「ミィか……って、そんなキャラだったか?」

 

「あはは……セイバーに素の自分を見せて欲しいって言われてね。正直ちょっと怖いけど初期からの宿敵、ペインにも見て欲しくてさ」

 

「そうか。だが、俺は手加減なんてしないぞ」

 

「わかっているよ。だから私も全力で行くね」

 

2人は笑みを浮かべるとペインは輝きを纏わせた聖剣を、ミィは両手に真紅の炎を召喚する。それから2人は激突を開始するのであった。

 

そして別の場所でも2人の因縁のある相手が向かい合っていた。

 

「どうやら、何が何でも俺にリベンジをするつもりみたいだな。キラー」

 

「ああ。俺としても負けっぱなしで引くなんて事はしたくない。それに、今は俺達の陣営の勝敗が関わっているからな。ここでお前は倒させてもらう」

 

キラーはそう言うと魔剣を構えてカリスへと突撃していく。それを見たカリスも刃のついた弓で受け止める。そして鍔迫り合いとなると2人共、相手の胸を蹴って距離を取った。それからカリスはエネルギーの矢を放ってキラーを牽制するが、キラーはそれを躱していく。

 

「【聖断ノ剣】!」

 

キラーから放たれた斬撃波はカリスを襲いダメージを与える。しかし、そこまでの威力では無かったのかまだまだ戦えそうな様子だった。

 

「準備運動はこのくらいで良いかな」

 

「ふん。ならば決着を付けるとしよう」

 

2人はそれから走っていくと戦いを激化させていく。その一方で、城下町での戦いの中で普通のプレイヤーを相手に暴れる者もいた。

 

「流水」

 

「黄雷」

 

「翠風」

 

「「「抜刀!!」」」

 

流水、黄雷、翠風の3人の分身セイバーが攻めてくるプレイヤーを相手に圧倒。セイバーの力は1人1人がボスクラスの戦闘能力を有している。そんなセイバーが一般プレイヤーを相手に戦えばその力の差は圧倒的であり、蹂躙すら可能になるのは明白だった。しかし、そうは言っても守備のプレイヤーよりも攻めてくる敵プレイヤーの方が多く、気を抜けば物量で押し切られるのは目に見えているので予断を許さない状況と言えるだろう。

 

別の場所ではパラドクスが赤い装備をして守備のプレイヤー達をノックアウトしている最中だった。

 

「どこかに俺を楽しませる奴はいないのか?出てこいよ。それとも怖気付いたか?」

 

「お望み通り出てきてやるぜ!【月闇居合】!」

 

「【閃光斬】!」

 

光と闇の斬撃がどこからともなく飛んでくるとパラドクスはそれを殴って弾き飛ばし、それは近くにいた味方へと命中してその味方は倒された。そして、パラドクスの前に現れたのは光剛剣最光になったセイバーを手にした月闇のセイバーだった。

 

「へぇ。光と闇の二刀流って訳か」

 

「まぁ、先制攻撃をかけるためだけにそうしただけだ。実際は……2人がかりで倒させてもらうぜ」

 

「【カラフルボディ】!」

 

月闇のセイバーが右手に握った最光から手を離すとすかさず最光のセイバーは光に包まれて姿を変化させた。

 

「2人がかりで悪いな。でも、ここまでしないと勝てないと思ったからな」

 

「良いねぇ。なら、こっちも2人分と行こうか!」

 

パラドクスが近くに落ちているエナジーアイテムを見つけるとそれを取った。

 

「【分身】!」

 

するとパラドクスが2人へと増えてそれぞれがダイヤル付きの長方形の物体を取り出した。

 

「「お前らにはこのコンビが良いかな」」

 

パラドクスはそれぞれダイヤルを回転させると魔王の絵と戦艦の絵が描かれた方を上にしてそれを腰にセット。その姿をそれぞれ変化させた。1人は魔王の装甲を纏って剣を手にし、もう1人は戦艦を装甲として装着すると遠距離特化の姿となった。

 

「タドルファンタジーと」

 

「バンバンシュミレーション」

 

「「どっちの相手がしたい?」」

 

「だったらこの俺、最光のセイバーがバンバンシュミレーションの相手をしてやるよ」

 

「なら闇属性同士、タドルファンタジーの相手は俺がしよう」

 

「「決まりだな」」

 

2人はそれぞれ自分の対戦相手を決めると戦いを始めていくのであった。

 

それから暫くして、ブレイブに乗った3人は敵の城の付近に到着。当然の事だがここまで誰にも合わなかった訳ではない。しかし、有象無象のプレイヤーではこの3人からの攻撃を凌ぐ事はできずに秒殺されていったのだ。そして、3人はブレイブの突撃で無理矢理城門を突破すると城下町へと降り立った。その瞬間、待っていましたとばかりに敵の守備部隊が3人を包囲する。

 

「熱烈大歓迎って所だな」

 

「これを崩すのは面倒かも……」

 

「でも、突破しなければ先には進めません。行きましょう!」

 

「だったら、【分身】!」

 

「激土」

 

「錫音」

 

「「抜刀!」」

 

「【大地貫通】!」

 

激土のセイバーが思い切り剣を正面に振るうと剣から衝撃波が発生。正面にいるプレイヤーや障害物を全て吹き飛ばし、王城への道を作った。

 

「ここは俺達に任せろ」

 

「3人は先に進んでくれ!」

 

「任せたよ!」

 

「お願い、セイバーお兄ちゃんの分身さん!」

 

分身セイバーの働きによって3人は先へと進んでいく。しかし、そこにはマルクスが仕掛けた罠が大量にあった。

 

「うーわ。マルクスさん罠張りすぎでしょ」

 

「え?何も見えないけど……」

 

「セイバーにはマルクスさんの思考がある程度わかってるからわかるのよ。どこにどんな罠を仕掛けているのか」

 

「え!?セイバーお兄ちゃん、そんな事できたの!?」

 

この能力は以前第4回イベントで披露したのだが、ドレッドのような危険察知による危機回避能力の発展系である。セイバークラスになると相手の思考をある程度読むことが出来るのでそこから罠をどこに張っているかの算出もできるのだ。

 

「取り敢えず、俺の言う通りに進んでくれ。じゃないと罠を踏んで痛い目を見るぞ」

 

「わかった」

 

それから2人はセイバーの指示通りに動いていき、罠を上手く回避していく。そこから更に進んで王城の前にまで来るとそこにはマリアが立っていた。

 

「流石はセイバーね。もうここまでやってくるとは」

 

「その感じだとブレイドさん辺りがここに俺が来ると読んでましたね」

 

「そうよ。だからここから先は通行止めね。通りたければ私を倒してみなさい」

 

「よっしゃ、だったら俺が……」

 

「いや、ここは私に任せて」

 

前に出たのはヒビキだった。どうやら、彼女もリベンジに燃えている1人だったのである。以前に戦った時はヒビキはマリアに倒されこそしなかったが、それでも心を見透かされて戦いを中断しただけにすぎない。あのまま戦えば彼女は間違いなく負けていただろう。彼女はその借りを返したいのである。

 

「ヒビキ、この前みたいな無様な勝負はしないわよね?」

 

「わかっています。だから今回は初めから本気で行きます!」

 

ヒビキがマリアへと足のジャッキを使って跳びあがるとマリアもそれを黒い装備の時に所持される槍で受け止める。その隙にセイバーとサリーは王城の中へと入っていく。

 

「初日はここまで来れなかったからどんな仕掛けがあるかわからない。セイバー、注意して」

 

「おう、このまま一気に突破するぞ!」

 

2人が城の中を走っていると広い部屋に出た。奥には更に内部へと入るための道があるのだが、ここでもまたプレイヤーが行く手を阻もうと立ちはだかっていた。

 

「マルクスさん、ミザリーさん……」

 

「辛いなぁ、どうして僕達がセイバーの相手を?」

 

「仕方ありませんよ。足止め役なら私達が適任ですし」

 

「敵として向かい合うのは第4回イベントぶりですね。あの時は俺が勝ちましたけど今回はそうはいかないって雰囲気がビリビリ来てます」

 

「そうですね。私達もあれから大きく成長しました。ここでやられるつもりはありません」

 

「早速だけど足止めさせてもらうよ。【遠隔設置・草結び】!」

 

すると2人の足元から草が出てくると2人の足をに纏わりついていき動きを止めた。

 

「【ホーリーショット】!」

 

続けて2人へと光の弾丸が迫っていく。しかし、それは2人の姿が蜃気楼のように溶ける事で躱された。

 

「それも予想済みだよ!【遠隔設置・毒霧】!」

 

すると周囲に毒の霧が出現してセイバーとサリーはそれを吸ってしまい毒状態に陥ってしまった。

 

「くっ……」

 

「【アンチドーテ】!ブレイブ、【覚醒】、【竜巻】!」

 

すかさずセイバーが光魔法によって使えるスキルを使用して毒を回復すると今度はブレイブに【竜巻】を使わせて毒霧を吹き飛ばした。そして2人を倒そうと接近していく。

 

それを見たマルクスは再び罠を設置しようと構えるが、その次の瞬間にはセイバーとサリーの姿は消えてしまっていた。

 

「「!!」」

 

2人が後ろを振り返るとそこには界時のセイバーが立っており、更に正面には狼煙のセイバーもいた。

 

「悪いですけど、2人の相手は俺達です」

 

「覚悟は良いですね」

 

実は先程サリーの【蜃気楼】を使って回避する際には既に【分身】を使って狼煙と界時のセイバーが生成されており、2人が突撃するタイミングに合わせてセイバーとサリーを巻き込んだ状態で【界時抹消】を使用。これによって2人を先に行かせることに成功したのだ。

 

こうして邪魔する敵を時には倒し、時には回避しながら2人は遂に玉座がある王の間に辿り着いた。

 

「とうとう来たな」

 

「でも、やっぱりというか流石はブレイドね。ここにもちゃんと防衛を残すなんて」

 

そこにいたのは王である竜娘だけでなく、もう1人いた。そう、キャロルである。

 

「防衛ばかりをやらされて最後まで暇だったらどうしようかと考えていたが、ようやく暴れられそうだな」

 

『ようこそ王の間へ。私を倒せば玉座への道が開かれる。だがそう簡単に散るつもりは無い。覚悟は良いな』

 

「サリー、お前はあっちの竜族の女王を倒してくれ。遠距離で戦うキャロルより肉弾戦同士の方がやりやすいだろ?」

 

「うん。セイバーもキャロル相手に負けないでよ?」

 

「勿論だ!」

 

2人はそれぞれの相手を決め、その方へと走っていく。こうして、炎と雷の国の城では玉座を巡る戦闘が開始されるのであった。しかし、玉座にまで攻め込まれていたのはこちらの国だけでは無い。何と水と氷の国側でも玉座を巡る戦闘が始まってしまっていた。

 

〜水と氷の国の王の間にて〜

 

王の間ではブレイドが王の正面に立っており、その隣にはパラドクスの指示でそこにいるのか、何故かパラドクスのテイムモンスター、エムが【擬人化】してピンクの戦士となって立っていた。

 

『よくぞここまで辿り着いた。この私を倒す事ができれば玉座はすぐそこじゃ』

 

「ならばあなたを倒して、俺達の陣営を勝利に導くとしよう」

 

そう言うとブレイドが剣を王へと向けているとそこに炎の不死鳥が飛んできており、現れたのはセイバーだった。しかも、今回は本体である。

 

「やはりお前の本体はここにいたか。ここならばやられた時はほぼ陣営の負けみたいなものだからな。リスクを極力落としてきたか」

 

「ペインさんの作戦ですよ。取り敢えず、侵入者には倒されてもらいます」

 

そう言うとセイバーがブレイドへと突っ込んでいくが、その前にエムが躍り出ると剣モードにしたブレイカーを持って攻撃を押しとどめた。

 

「俺と戦いたければまずエムを倒してみな。俺は先に王を倒させてもらう」

 

これにより、水と氷の国側でも最後の決戦が幕を開け、それぞれの命運を賭けた勝負に身を投じるのであった。

 

〜運営視点〜

 

「イベント最終日に入ったが、まさか2日目でも決着がつかないとはなぁ」

 

「まぁ、ここまで明確に陣営が分かれればそうなるのも当然だろう」

 

「もうこうなってくるとどっちが勝つかわからないな」

 

「この勝負の分かれ目はセイバーが強敵をどれだけ倒せるかに掛かっていると俺は見るぜ」

 

「そうだな。殆どの敵の主力を相手にしてるのはセイバーだし、これはどちらが勝つにしてもセイバーの働き次第って所だと思う」

 

「さーて、イベントの結末がどうなるか楽しみながら見ようぜ」

 

「「「「そうだな」」」」

 

このような会話がありつつも運営達はイベントの決着がどのように着いていくのかを見守っていくのであった。

 

———————————————————————

イベント3日目、現在の戦況

 

ブレイド対水と氷の国の王

 

エム対セイバー(本体)

 

パラドクス対セイバー(分身)×2

 

ミィ対ペイン

 

カリス対キラー

 

セイバー(分身)×3(水と氷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

キャロル対セイバー(分身)

 

炎と雷の国の女王対サリー

 

マルクス、ミザリー対セイバー(分身)×2

 

マリア対ヒビキ

 

セイバー(分身)×2(炎と雷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        カリス

ヒビキ        ミィ

ペイン        パラドクス

キラー        マルクス

           ミザリー

           キャロル

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと撃槍対烈槍

イベント3日目。それは互いの城での総力戦だった。攻める側も守る側も死に物狂いで城を巡ってぶつかり合う。そんなそれぞれの死闘が繰り広げられる中、水と氷の国の一角では最光と月闇のセイバーがパラドクスへと猛攻を仕掛けていた。

 

「【シャイニングブラスト】!」

 

「【砲撃開始】!」

 

最光のセイバーから放たれるのは光の光弾であり、パラドクスもそれを全て的確に撃ち落としていく。パラドクスの左目には映像式のレーダーが付いており、それが敵対するエネルギー物質をマークする。そして、パラドクスがそれを狙い撃ちする事でこの完全無欠な防御を展開していた。

 

「流石にあの姿のパラドクスを相手に遠距離戦は不利か。しかも、この姿の俺は攻撃を仕掛けるよりも防御や援護に回った方が得意だ。これはどうにかしないとな」

 

「それで終わりかよ?【ロックオン】【集中砲火】!」

 

今度はパラドクスが攻撃する番である。パラドクスの砲台から撃ち出される高威力の弾丸はセイバーでも受ければタダでは済まない威力を誇っており、セイバーに回避の手段を取らせていた。

 

「おいおい。避けてばかりじゃ俺には勝てねーぞ?」

 

「わかってるさ。ただ、こっちにも仕掛ける準備ってのがあってね」

 

「へぇ。言っておくが、俺はそれを待つつもりは無いぞ!」

 

パラドクスは問答無用でセイバーへと射撃を続けて来る。セイバーは仕方なくあるスキルを使った。

 

「最光抜刀!【シャドーボディ】!」

 

セイバーの体が影に変化すると攻撃は全てすり抜けて近くの家を破壊する。それからセイバーはパラドクスへと接近し、最光で斬撃を仕掛けた。

 

「おっと、その姿も知ってるぜ。昨日見せてただろ」

 

「お耳が早い事で!【影移動】!」

 

次の瞬間、セイバーの体は影の中に消えるとその影が超スピードでパラドクスの後ろへと移動。元の体に戻りながらパラドクスを攻撃した。

 

「そんな手も使えるのか」

 

「こうやって張り付けば中々射撃もできないだろ。ま、今の俺にそれは通じないけどな」

 

「けど、その姿でいれるのには制限があるだろ?それが過ぎるまで耐えてやるよ」

 

パラドクスはセイバーの【シャドーボディ】に時間制限があるのを見抜いていた。そのため、時間稼ぎをするような動きで【シャドーボディ】の有効時間が切れるのを待った。

 

「そろそろ時間切れか。【カラフルボディ】!」

 

セイバーは時間制限の問題で人型の姿へと戻った。パラドクスはそのタイミングで射撃を再開した。

 

「攻撃再開だぜ。オラッ!」

 

「【光の矢】!」

 

セイバーが剣を振るうと光で生成された矢がパラドクスから放たれる砲弾を撃ち落としていく。セイバーは初撃を撃ち落としてから走っていく。

 

「【腕最光】!」

 

セイバーが装甲を左腕に集めていくと最光と左腕に武装された2本目の剣で撃ち込まれる弾丸を斬り裂き、左腕から展開できるバリアで攻撃を防ぎ、パラドクスへと接近する。

 

「ここだ!【エックスソードブレイク】!」

 

セイバーが弾丸が途切れる一瞬の隙を突いてパラドクスに再接近。一気にカタをつけるために最光に金の光を、左腕に銀の光を纏わせてのクロス斬りを放った。そしてそれはパラドクスを斬り裂くと大きなダメージを与えた。しかし、それで倒し切ることが出来ずにHPが半分近く残ってしまった。

 

更にHPが残る事を見切っていたパラドクスからの捨て身の攻撃が解き放たれる。

 

「甘いな。【バンバンファイア】!」

 

何とパラドクスはセイバーが攻撃を放つために接近するのを見越してセイバーの腹へと両腕のアーマーを合体させて巨大なエネルギー砲を作り出すとそれを至近距離からセイバーへと撃ち込んだ。

 

「ぐあああああ!!」

 

セイバーは吹き飛ばされると地面へと叩きつけられ、勝負は着いたかに見えた。パラドクスは油断する事なくセイバーに確実にトドメを刺すために再び体中の砲門から射撃を放って貫こうとした。

 

だが、倒れたセイバーはニヤリと笑うと立ち上がってスキルを使った。

 

「【イージスフィールド】!」

 

するとセイバーを中心にエネルギーフィールドが展開して攻撃を全て防御してしまった。

 

「何!?」

 

「反撃……開始だ!【足最光】!」

 

今度は右足に装甲を集めて足を強化。その強化された足で空中へと跳び上がる。パラドクスはそれを見逃す事なくセイバーへと射撃を放つ。一見空中では躱す事ができずにセイバーが不利に見えるだろう。セイバーもそれは承知している。

 

「【光速移動】!」

 

次の瞬間、セイバーの姿が揺らいだかと思うと目に見えない速度でパラドクスへと接近。右足でのキックを叩き込んで再び空中へと跳ぶとそのまま装甲を元に戻した。

 

「甘いぜ。それで俺はやられないぞ!」

 

今のキックで怯んだかに見えたパラドクスだが、彼の銃口は既にセイバーを捉えており、すかさず攻撃を発動した。

 

「【バンバンファイア】!」

 

パラドクスからの全砲門による一斉射撃に加えて極太のエネルギー砲の発射だった。普通であればこれを受ければ敗北は免れないだろう。だが、セイバーは普通の域をとっくに超えている。

 

「【漫画撃】!」

 

セイバーが【漫画撃】の効果でMPを使う代わりに正面にバリアを展開。自分に命中する弾丸と極太のエネルギー砲を全て凌いでしまった。こうなるともうセイバーの距離である。

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

セイバーからの突きを喰らうとパラドクスはそのダメージの大きさに吹き飛ばされた。

 

「あらら、これでも倒れないのか」

 

「当然だ。まだやられるつもりはねーよ」

 

「なら、お前がやられるまで攻撃を繰り出すまでだ!」

 

最光のセイバーは戦艦の装備をしたパラドクスを相手に再び攻撃を再開していくのであった。

 

その一方で、魔王の装備をしたパラドクスとの戦闘ではセイバーがパラドクスが召喚した戦闘員を蹴散らしてパラドクスと直接剣を交えていた。

 

「【暗黒クロス斬】!」

 

セイバーが闇の斬撃をパラドクスへと飛ばすとパラドクスはそれをバリアを展開する事で防ぐ。続けて闇のエネルギー弾で反撃するが、これはセイバーが作り出した障壁に防がれる。続けて2人は近づいて斬り合うが、普段から剣を得物として使っているだけあってセイバーの方が熟練度が高く、戦いを有利に進めていた。

 

「やっぱ剣じゃセイバーに敵わないなぁ」

 

「だったらどうする?このままやられるパラドじゃないだろ!」

 

「当然!【ドリルマント】!」

 

パラドクスはマントをドリルのように高速回転させながらセイバーへと突き出す事で彼の不意をついて体勢を崩させる。そこにイベント中にマイとユイの能力を封殺したあのスキルを使用する。

 

「【呪滅弾】!」

 

禍々しい5つの闇の弾丸がセイバーへと飛んでいく。それを見たセイバーは本能でそれが触れてはいけないと判断し、対応策を取った。

 

「【闇渡り】!」

 

セイバーは月闇で時空を歪ませると闇の中に消え、攻撃を見事に透かした。そして、パラドクスの前に出てくると月闇を振り下ろしてダメージを与えた。

 

「チッ、流石にやるな。搦手も効かないなんて」

 

「その装備相手に月闇の相性が良いだけさ。それに、その装備の力はまだまだそんな程度で限界じゃ無いだろ?」

 

「当たり前だ!」

 

パラドクスはそう言うと剣に氷を纏わせて地面へと突き立てた。するとセイバーの足元が凍りつき、その動きが一時的に停止させられた。

 

「お!?」

 

「喰らえ。【タドルスラッシュ】!」

 

その隙をパラドクスは逃がさない。闇の力を込めた斬撃波を飛ばしてセイバーを斬り裂いた。

 

「ぐはっ!?」

 

「追い討ちと行こう。【暗黒弾】!」

 

続けて闇のエネルギー弾をセイバーへと放ち、セイバーを追い詰めようとする。だが、セイバーもやられっぱなしではいられない。そこでセイバーは足元を封じている氷をどうにかすることにした。

 

「【火炎ノ咆哮】!」

 

セイバーは足元に向かって炎属性のスキルを使い、氷を瞬時に溶かして空へと跳び上がった。そして、そのまま空から落ちてくる勢いを利用してパラドクスへと接近しつつ月闇を振り下ろした。

 

「チッ」

 

パラドクスもそれを剣で受け止めるが、勢いまでは殺しきれずにダメージを負って後ろに下がった。

 

「対処が早いな。これは中々の強敵だ」

 

「今更かよ。俺は最初からお前を強敵として見てるぜ」

 

「ふっ、そうだったな。お前はそういう奴だった!」

 

2人は再び接近すると剣で斬り合う。しかし、先程も述べた通りパラドクスは普通に斬り合うだけではセイバーに負けてしまう。そこでセイバーに対抗するために闇のエネルギー弾を置き玉として活用する事で時間差でセイバーを攻撃。上手く斬撃の合間にできる隙をカバーする事に成功していた。これで2人の力は拮抗し、戦況は一進一退にまで落ち着いた。

 

「【月闇居合】!」

 

「【暗黒斬】!」

 

2人の強攻撃がぶつかり合うと爆発と共に2人共後ろへと飛ばされていく。それからすぐに立ち上がるとセイバーは空へと跳び上がる。そして、先程と同様に剣を振り下ろす構えを取った。

 

「セイバーにしてはミスをしたな。同じ手は効かないぜ」

 

パラドクスはセイバーの振り下ろしのタイミングに合わせて斬撃で迎え撃とうと構えた。しかし、セイバーが強敵相手にわざわざ同じ手を繰り出すはずがない。

 

「【邪悪砲】!」

 

セイバーは左手から闇のエネルギー砲を発射。その反動でセイバーは一瞬空中で停止。それから体勢を変えてキックへと移る。更にエネルギー砲が来ていることでパラドクスはそれを防ぐことで精一杯になりセイバーのキックに対処するまでに一歩の遅れが出る。そこにセイバーの攻撃が叩き込まれた。

 

「【暗黒龍破撃】!」

 

それはパラドクスにダメージを与えると彼をその場へと倒れ込ませる。

 

「くっ……」

 

「まだまだ行くぞ!【暗黒闇龍剣】!」

 

セイバーは続けて剣に闇の龍を纏わせるとそれをパラドクスに向けて発射。闇の龍を模した斬撃がパラドクスへと襲い掛かる。

 

「【エネルギーフィールド】!」

 

ギリギリでパラドクスの防御が間に合うと攻撃を何とか防いだ。だが、その時点でセイバーの姿はそこにはいなかった。

 

「なっ!?」

 

「ここだよ。【月闇居合】!」

 

セイバーは一瞬の間に【闇渡り】でパラドクスの背後に回り込んでの斬撃を放った。パラドクスはこれをHPギリギリで耐え、何とか地面を転がることで距離を取るとポーションを飲んで回復した。

 

「危ねぇ……まさかここまで対応されるとは」

 

「その姿の底は見させてもらったぜ。さぁ、お楽しみは俺からだ」

 

それからセイバーとパラドクスの2人は再度激突をしていく。

場所は変わって炎と雷の国の王城の入り口付近では同じボスからユニーク装備を手にしたヒビキとマリアが死闘を繰り広げていた。

 

「せいっ!だあっ!」

 

「やるわね。前に戦った時以上の攻めだわ」

 

ヒビキはマリアに張り付くように攻撃を仕掛けていく。何故ならヒビキの武器は自らの拳や足である都合上、マリアの持つ槍の間合いで戦えばリーチの差で一方的に攻撃を受けてしまうからである。一方のマリアも自分の間合いで戦いたい気持ちは同じであり、何とかヒビキを引き離す為に槍でヒビキを弾き飛ばそうとする。

 

「槍でダメならマントよ」

 

マリアは自身の背中に付けているマントを操るとヒビキを押し出そうとヒビキの死角からマントで攻撃を仕掛ける。

 

「うわっ!!そのマントそう使えるんですか!?」

 

ヒビキはマントを空中にいながらもギリギリで躱すが、それによって体勢に隙が出来た。それをマリアは見逃さない。

 

「今よ!【ホライゾン・スピア】!」

 

マリアが槍を突き出すとその先端がレールガンのように開き中からエネルギー波が飛び出す。それはヒビキに直撃すると彼女を大きく後ろへと吹き飛ばした。

 

「うわあああああ!!」

 

ヒビキはそのまま地面へと叩きつけられるとダメージでぐったりとした。

 

「く……うぅ……」

 

「その程度かしら。それじゃあ私には絶対に勝てないわよ」

 

「まだです……まだやれます!」

 

ヒビキは立ち上がると再び構えを取る。それを見たマリアは笑みを浮かべると再びヒビキへと走っていく。しかし、今度はマリアが槍でヒビキを中距離から攻めていく。

 

「このままじゃマリアさんの距離で一方的にやられる……どうにかしてまた近づかないと」

 

「もうマイターンよ。あなたはこのまま何も出来ずにやられるわ。【メテオ・スピア】!」

 

するとマリアが槍を空へと掲げた。その直後、ヒビキの真上からマリアが使っている槍が大量に降り注いでくる。ヒビキは横に跳ぶことでその範囲から逃れるが、またマリアから距離を取る事になってしまい近づく事ができない。

 

「くっ……だったら、一点突破で!【我流・火炎龍撃拳】!」

 

ヒビキは技の効果で相手へと突撃するスキルで無理矢理マリアへと近づこうと考えた。だが、それではマリアには届かない。

 

「動きが単純すぎる!【ホライゾン・スピア】!」

 

2度目のエネルギー波によってヒビキは火炎の龍ごと押し切られ、再び地面に叩きつけられた。

 

「かはっ……ゲホッ……ゲホッ……」

 

地面に勢いよくぶつかった影響で周囲に土埃が舞い、ヒビキはそれを吸ってむせていた。それから体に走る痛みを堪えて立つとそこにはマリアは既におらず、もう目の前に迫っていた。

 

「え?」

 

「遅い。【ドリルクラッシャー】!」

 

マリアがドリルのように回転させた槍を突き出してヒビキの腹に命中するとヒビキはまたもや後ろへと吹き飛ばされてしまうことになった。

 

「はぁ……つまらないわ。あなたの力じゃこれが限界みたいね」

 

「そんな事……無い!」

 

ヒビキは痛む体に鞭打って立つとマリアへと構えを取るが、今度は痛みが走ったせいかそれが一瞬揺らいでしまう。そんなヒビキをマリアは冷めた目で見ていた。もう彼女には何も期待していないみたいに。

 

「残念だけど、あなたじゃ私に勝てない。でも恥じることは無いわよ。少なくとも前よりは強くなっているから」

 

「マリアさん……見た感じ新しいスキルや装備を使ってるわけじゃないのに……強い」

 

「あなたも十分強いわ。けどね、もうこれ以上はやり合っても無駄よ。力の差は覆らない。【メテオ・スピア】!」

 

マリアが槍を空へと掲げると再び槍が空から降ってくる。ヒビキはそれを再び躱す。しかし、その時にはマリアがヒビキの後ろに立っていた。

 

「終わりよ。【ドリルクラッシャー】!」

 

マリアがヒビキにトドメを刺す為に槍を後ろへと引くとそれを勢いよくヒビキへ突き出した。そして、ヒビキはそれに貫かれて敗北した

 

 

 

 

 

 

 

 

……かに思えた。しかし、ヒビキはそれをなんと素手で受け止めるとダメージを受けながらドリルの回転を止めることに成功した。

 

「!!」

 

「だとしても!私は諦めるつもりなんて無い!僅かでも可能性があるのならそれを引き寄せてみせる」

 

ヒビキが両手で槍を掴むとそれを自分へと引き寄せ、マリアが体勢を崩した一瞬の隙を突き強烈な回し蹴りを叩き込んだ。

 

「【我流・稲妻回転脚】!」

 

それを受けたマリアは体勢を崩して腹がガラ空きになってしまう。ヒビキはその一瞬を見逃さない。

 

「うぉおおおお!!【我流・爆裂連打】!」

 

そのままダメージに顔を歪ませるマリアの腹へと連続で打撃を打ち込んでいく。その攻撃はマリアのHPを確実に削り、後ろへと後退させた。更に追撃をかけていく。

 

「【我流・迅雷撃槍】!」

 

今度は右手に電撃を付与した強烈なパンチを繰り出してマリアの胸を殴り飛ばす。

 

それからマリアは吹っ飛ぶと王城の壁に激突してダメージを負うことになった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

しかし、ヒビキも先程までのダメージと疲労でその場に膝をついてしまう。彼女はあのマリアがこの程度でやられる訳がないと踏んでおり、油断なくマリアが吹っ飛んだ先を見つめていた。

 

「……少し侮っていたわ。私も気が抜けていたのかしら。思ったより強い反撃を受けちゃったわね。あと、ようやくエンジンが入ったようね。ヒビキ」

 

「え?」

 

実はマリアはヒビキをわざと挑発して彼女に本気を出させたのだ。マリアも本気で無い彼女を相手に勝つのは不本意と考えておりそこで彼女に本気を出してもらう為、一芝居打って彼女に眠っている実力を引き出して見せたのだ。

 

「言っておくけど、手の内を隠したまま私に勝てるなんて思わないことね」

 

「!!」

 

「前も言ったわ。今の相手は私。どんな事情があろうとも目の前の相手に全力を尽くすのは当然の事。じゃないと相手に失礼でしょ」

 

「そうでしたね……私、やっぱり未熟だな……これじゃあいつまで経っても強くなれない。確かにマリアさんを相手にするんだ。本気でかからないと勝ち目は無い。だからここからは本気で行きます!」

 

ヒビキは改めて気を引き締めるとマリアへと突撃していく。マリアもそれを見てヒビキへと槍を振るう。

 

「【我流・爆雷撃槍】!」

 

ヒビキが体に電気を纏い体そのものが1本の槍のようなエフェクトを纏うとマリアの槍とぶつかり合う。

 

「おおおおおお!!」

 

「くっ!?」

 

マリアはその勢いに押し切られると電撃と共にダメージを負う。それを見たヒビキは追撃をかけようと足を後ろへと引くが、マリアも二撃目は喰らわずに槍で受け止めた。更に今度はヒビキの攻撃を槍で受け流すと上から踵落としを叩き込んだ。

 

「がっ!」

 

そのままヒビキは叩き落とされる。しかし、すぐに体勢を立て直すと空中へと跳んでパンチを繰り出す。

 

2人の装備は同じボス、オーディーンを撃破した報酬。グングニルという槍を元に生成されている。だが、ヒビキの方はどう見ても拳が武器になっているが。何故ヒビキの武器は槍では無く拳なのか。それは彼女の心象心理に影響を受けたからである。忘れている人が殆どであると思うがヒビキは元々格闘ゲームを得意としていた。その為、彼女に合うスタイルに心象変化した結果、武器が拳を覆うガントレットへと変化したのである。

 

つまりこの戦いは武器こそ違うが普通であれば絶対に有り得ない同一のユニーク装備同士の対決なのである。

 

「はああっ!【我流・雷槍衝撃波】!」

 

ヒビキが地面へと拳を叩きつけるとその時に発生する衝撃波が電気を纏い、マリアへと襲いかかっていく。マリアはそれをマントで防御し防いでいく。更にヒビキの猛攻は止まらない。

 

「これでどうだ!【我流・鳳凰無双撃】!」

 

今度はヒビキの体が鳳凰の幻影に包まれていき、そのままマリアへと突貫。マリアへとパンチを繰り出した。

 

「これ以上はやらせないわ。【エターナル・ストライク】!」

 

マリアの槍に黄金の光が集まっていくと光で強化された槍をヒビキへと叩きつける。2人はそれぞれのスキルの威力で互いにダメージを受けると距離を取った。

 

「マリアさん……あの戦闘能力。やっぱりあの時を大きく上回っている」

 

「ヒビキ、成長したわね。前はあの子が本気を出さなかったとはいえ私についてくのがやっとだったのに今はもう私と互角だなんて」

 

ヒビキの成長ぶりにマリアは自身に秘められた奥の手を解放する事にした。そしてそれはそれだけマリアがヒビキに追い詰められているという事でもある。

 

「もうこの子を解放した方が良さそうね。セレナ、【覚醒】!」

 

マリアがそう言うと彼女が着けている指輪が光り、その中から光り輝く精霊が出現した。そのサイズは小さく、イズのフェイと同じくらいだった。セレナと呼ばれた精霊は小さな短剣を手にしており、それを掲げると彼女の周りに小さな短剣がリング状に大量に展開された。

 

「あれが、マリアさんのテイムモンスター!だったら、こっちも……っと、ミクは今いないけど、代わりにマイちゃんから預かったこの子がいる!ツキミ、【覚醒】!」

 

ヒビキはマイとテイムモンスターを交換したためにいつものモンスターであるミクでは無いが、マイから借りたモンスター、ツキミがミクの代わりを務めてくれるだろう。

 

「そういえばあなた達のギルドはテイムモンスターを総入れ替えしてたわよね」

 

「まぁ、今は元に戻してますけど私のモンスターはマイちゃんがやられちゃった時に一緒にいなくなっちゃったからこうなった感じですね」

 

「そうだったのね。でも、誰が相手でも関係無いわ。セレナの力は本物よ。その恐ろしさを身をもって味わわせてあげるわ」

 

ヒビキはそれを聞いて身構えた。果たしてマリアのテイムモンスター、セレナの実力は如何に?

 

———————————————————————

イベント3日目、現在の戦況

 

ブレイド対水と氷の国の王

 

エム対セイバー(本体)

 

パラドクス対セイバー(分身)×2

 

ミィ対ペイン

 

カリス対キラー

 

セイバー(分身)×3(水と氷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

キャロル対セイバー(分身)

 

炎と雷の国の女王対サリー

 

マルクス、ミザリー対セイバー(分身)×2

 

マリア対ヒビキ

 

セイバー(分身)×2(炎と雷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        カリス

ヒビキ        ミィ

ペイン        パラドクス

キラー        マルクス

           ミザリー

           キャロル

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとパワフルボディ

ヒビキとマリアの戦いは実力が拮抗し、ダメージを与え合う乱打戦に入った。そこで、2人は状況を打開する為にテイムモンスターを呼び出す。ヒビキはマイから借りたモンスター、ツキミを出す一方、マリアは人前で初めてテイムモンスター、セレナを呼び出した。

 

「早速セレナの実力を見せてあげるわ。【ホーリースラッシュ】!」

 

するとセレナの周囲に展開されている短剣が光を帯びて強化。それがヒビキへと飛来していった。

 

「うぇっ!!」

 

ヒビキはそれを持ち前の動体視力と反射神経で回避していくが、それでも躱せる数に限界がある。最初の内は回避できていたが、多方向から何度も迫ってくる刃を躱しきれずに切り裂かれた。

 

「くうう……ツキミ、【鋼の爪】!」

 

ヒビキはツキミに指示を出して短剣を操っているセレナを止める為にツキミにセレナを攻撃させた。

 

「無駄よ。【精霊の守り】!」

 

するとセレナ及びマリアの周囲を覆うようにバリアフィールドが展開してツキミからの攻撃を防御してしまった。そして、マリアからの槍の一撃がツキミのHPを大きく削る事になった。

 

その間に【ホーリースラッシュ】の効果が終わってヒビキも自由になるとヒビキがマリアへと走っていく。

 

「そっちがバリアを張るなら、こっちはそれ以上の火力で押し切る!ツキミ、【パワーシェア】!」

 

ヒビキはツキミに2人分のSTRを足して半分にするスキルを使用すると自身の火力を強化。それからセレナが展開するバリアをヒビキの突破力で破壊するつもりだ。

 

「【我流・火炎龍撃拳】!」

 

ヒビキが炎の龍を纏わせた拳でマリアへと突っ込んでいくとバリアへと拳を叩き込んだ。するとバリアにはヒビが入っていき穴が空いた。そのままマリアへ拳をぶつけようとするも、バリアによって勢いが落ちたためにその拳は簡単に受け止められてしまった。

 

「セレナ、【精霊の舞】!」

 

マリアがセレナに指示を出すとセレナがマリアの体の周りを舞っていきマリアは白いオーラに包まれた。

 

「はあっ!」

 

マリアが槍でヒビキを弾き飛ばすとそのまま向かっていく。

 

「ツキミ!【目眩し】!」

 

ヒビキはマリアの体勢を崩すためにスタンを入れるスキルを使うがマリアはそれを一切受け付けずに走っていくとヒビキへと槍を突き出した。

 

「くっ!」

 

ヒビキはそれを腕で弾きながらガラ空きの腹に拳をぶつける。しかし、マリアには前よりもダメージが入らなかった。

 

「え?」

 

「はあっ!」

 

そこにマリアからの蹴りが決まってヒビキは咄嗟にガードするもののその威力に押されて後ろへと下がった。

 

「まさか、さっきのスキルって……」

 

「ご名答。状態異常耐性やダメージの減衰をしているわ」

 

「くっ……やっぱり本来のパートナーじゃない分、私の方が不利か」

 

ヒビキがそう言っているとマリアは再びヒビキへと攻撃を仕掛けてくる。ヒビキは咄嗟にそれを受け止めるが、セレナのスキルで強化されたマリアを相手するのはやはり厳しい物があった。

 

「このっ!」

 

ヒビキが何とか押し返すとマリアはまだ余裕そうな表情を崩していなかった。

 

「よく凌いだわね。それじゃあ続けていくわよ。ついて来れるかしら?」

 

マリアのその言葉にヒビキは気をさらに引き締めてかかるのであった。

 

同時刻、水と氷の国側ではペインとミィがお互いのテイムモンスターを交えながら激しく戦いを進めていた。

 

「【爆炎】!【炎帝】!イグニス、【巨大化】【連なる炎】!」

 

「【退魔ノ聖剣】!【聖なる光】!レイ、【巨大化】【聖竜の息吹】!」

 

ペインの光とミィの炎。2人から繰り出される高威力のスキル達は2人の間でぶつかり合い、弾け、爆発する。その決闘を邪魔する者は1人たりともおらず、2人の戦闘は激化していった。

 

「ペインはやっぱり凄い。私の攻撃を全部防いで……」

 

「ミィこそ気を抜いたらこっちがやられそうだ」

 

だが、2人の戦いは時間が経つにつれて膠着していく。互いにスキルをぶっ放していくもののそれらは全て相殺されていくためにダメージにならないからである。

 

「レイ、【光の加護】!【聖竜ノ聖剣】!」

 

ペインが大技の体勢に入る。ミィのスキルの中に防御力を強化するスキルはあまり無い。超攻撃型のプレイヤーである。だが、それが原因で防御面が薄いという明確な弱点も存在する。ペインはそこを突くために強力なスキルを解き放った。勿論ミィもただではやられるつもりは無い。

 

「イグニス、こっちも大技で行くよ!【不死鳥の炎】【我が身を火に】!」

 

ミィの対処法は大技での相殺だった。防御面が薄い彼女は攻撃に攻撃をぶつける事でその威力を抑え込むという手段である。ペインに匹敵する火力を持つミィだからこそできる手段だろう。

 

「【蒼炎帝】!」

 

「はあっ!」

 

ミィから繰り出された蒼炎はペインからの斬撃を押しとどめ、抑え込んでいく。ぶつかり合う2人の意地と意地。攻撃は暫くの膠着の後にエネルギーが臨界点に達したのか大爆発を起こして2人は吹き飛ばされた。

 

そして爆発が収まるとペインとミィはお互いにダメージを受けており、大技のぶつかり合いはまたもや引き分けに終わった。

 

「実力が拮抗しているな。この分だと決着はまだまだ先になりそうだ」

 

「ペイン、私とほぼ互角だなんて。前のイベントよりも相当強くなっている……こうなったらあの手を使ってみよう。【クイックチェンジ】!」

 

するとミィは装備を変えるためのスキル、クイックチェンジを使用した。すると彼女の正面にマグマの龍が何匹も出てくると後ろにマグマの入ったビルダーが出現。それがミィの真上でひっくり返ると上からマグマが降り注いだ。そのマグマは彼女の体を包み込んでいく。

 

するとミィはマグマが焼き付いたような赤とオレンジの装甲を纏い、両腕には龍の頭のような装甲が装備された。髪も赤から青へと変化し、頭にはオレンジのドラゴンのようなギアを見に纏い、まるで彼女自身がマグマの力を手にしたような姿へと変化した。

 

「見るからに強そうだな。ミィ」

 

「これが私の新しい力よ。覚悟はできてる?」

 

「君がそう来るなら俺も真の力を見せないとな。【クイックチェンジ】!」

 

ペインの前に白い鎧が出現すると彼の周囲を飛び回る。その後、彼の上から白銀の鎧がペインへと装着。するとペインの体が光り輝き背中には白いマントが現れ、鎧のラインが金色となり、白い騎士の兜を模したヘッドギアが装着され、髪の色も水色に変化した。その姿はまるで最強の勇者のようでありその姿が神々しさを引き立てていた。

 

「これでお互い新たな力を見せた状態だ。ここからは出し惜しみ無しで行く」

 

「そうだね。なら、この力に慣れられる前に決めるよ」

 

それから新たな力を手にして進化した2人はマグマの力を秘めた炎弾と白く光り輝く光弾をぶつけ合い、再度激突していくのだった。

 

その頃、水と氷の国の王城では水と氷の国の王がブレイドと戦う一方で虚無のセイバーがパラドクスのテイムモンスター、エムと戦っていた。

 

「甘いぜ。オラァッ!」

 

その勝負はセイバーが有利に戦況を運んでいた。理由として、エムは擬人化したとは言え操作しているのはあくまでAIでありセイバーから言わせれば1体のボス扱いである。そのため、エムの行動には必ず隙が生じる。そこを突けば有利に立ち回るなどセイバーにとっては容易いというわけだ。

 

エムは武器であるブレイカーを弾かれて虚無で斬りつけられると胸に付いているゲージが着々と減少していった。

 

「そのゲージが耐久力って奴だろ?それなら俺が勝つのは時間の問題だぜ」

 

『【マイティフィニッシュ】!』

 

溜まらずエムはベルトに挿しているガシャットを抜くとそれをブレイカーにセット。エネルギーの高まったブレイカーでセイバーを斬り裂こうとした。しかし、セイバーはその動きを見切って右手に持った虚無で受け止めると左手をエムの腹に当てた。

 

「【マグナブレイズ】!」

 

至近距離からの炎弾の発射にエムは吹き飛ばされるとダメージをかなり受けた様子だった。エムは何とか立ち上がると近くにあった【回復】のエナジーアイテムを取ってHPをリカバーするが、セイバーとの実力差は大きかった。このままいけばセイバーが勝つのは時間の問題だろう。

 

『【大大大変身】!』

 

エムが赤いガシャットをベルトに挿すとベルトのレバーを開き直した。すると前日にメイプル達を相手に使った赤いロボットのアーマーが合体して装甲を纏った姿へと変化した。

 

「ロボットのゲームか。だがそれはもう知っているぞ」

 

エムが左腕のロボットアームをセイバーへと飛ばしてくるが、セイバーはそれを片手で難なく受け止めるとそれをエムへと投げ返した。エムはそれを足元に受けると爆発と共にダメージを受ける結果になった。そのため、エムはこの姿では勝てないと判断してすぐに対応を変えた。

 

『【大大大変身】!』

 

エムは赤いガシャットを抜いて黄緑のガシャットをベルトに挿すとレバーを開き直し、上半身に自転車を纏った新たな姿へと変化した。

 

「自転車を……被った?」

 

セイバーはその奇妙な姿に面食らったがすぐに集中して攻撃に備える。するとエムは胸や肩にアーマーとして装着した自転車の車輪を取り外すとそれをセイバーへと投げつけた。その車輪は高速回転しながらセイバーを攻撃し、セイバーはそれを弾くものの車輪はしつこくセイバーを追尾してくる。

 

「チャリの車輪が武器になるとかもうメチャクチャかよ」

 

そしてエムは高速移動しながらセイバーへとキックを当て、すぐに撤退するヒットアンドアウェイ戦法を披露。これならセイバーに反撃をもらう事は無い。

 

『このまま決める』

 

続けてエムはアーマーを分離すると飛ばしていた車輪を合体させて自転車の上に乗るとそれを漕いだ。

 

「はぁ?」

 

セイバーが困惑している間にセイバーへと体当たりを仕掛けていく。セイバーは自転車に轢かれるとダメージを受けて後ろへと後退していく。

 

「自転車を攻撃に普通は使わないだろ。てか、どういう仕組みでそうなった?」

 

エムはセイバーの言葉を放っておきつつガシャットを抜いて腰に付いているスロットに挿すとボタンを2回押した。

 

『【シャカリキストライク】!』

 

エムは跳びあがるとそのまま自転車ごと回転しつつセイバーへと突っ込んでいった。セイバーはそれを受け止めるものの勢いまでは殺せずに吹き飛ばされてダメージを受けた。

 

「痛ってぇ……」

 

エムはすぐに自転車から降りると再びアーマーとして装着し、車輪を投げ飛ばした。

 

「中々に面倒な事をするな。けど!【炎の翼】!」

 

セイバーは地上戦だと不利と判断して空中へと飛び上がる。室内なので逃げられる範囲には限界があるもののそれでもエムからの直接攻撃を受けなくなっただけマシだろう。

 

「空中戦ならこっちが上なんだよ!」

 

セイバーはそう言うと敢えて車輪を受け止めるとその高速回転を抑え込み回転を停止させてしまった。そしてただの車輪となったエムの武器を捨てるとエムへと飛来しつつ剣でのダメージを与えた。

 

『【大大大変身】!』

 

それを見たエムはこのままでは相性が悪いと判断してガシャットを抜くとオレンジのガシャットを取り出して姿を変化させた。すると今度はジェット機のようなアーマーがエムに合体し、両腕にはガトリングが武装された。そして空へと飛び上がるとセイバーと空中戦を繰り広げた。

 

「おいおい、空も飛べるようになるのかよ」

 

セイバーが斬撃波でエムを攻撃する一方で、エムは両腕のガトリングを撃ちまくる。そのガトリングの火力は高く、空中から敵を制圧するのに長けていた。しかし、そのガトリングの攻撃範囲があまりにも広いのが影響して下にいる水と氷の国の王やブレイドにも射撃が当たっていった。

 

『【ジェットストライク】!』

 

エムはそんな事お構い無しとばかりにガトリングにエネルギーを充填するとセイバーへと撃ちまくった。当然流れ弾は下にいる2人にも命中していく。フレンドファイアはしないのでブレイドにダメージは入らなかったもののブレイドも流石に鬱陶しかったのかエムに抗議をした。

 

「エム!できれば俺達は狙わないでくれるか?ダメージは入らないが鬱陶しい!!」

 

それを聞いたエムはガトリングを撃つのをやめるが、そうするということはセイバーに攻撃のチャンスを与える事になる。

 

「やっと攻撃を止ませたな。【バーニングレイン】!」

 

次はセイバーが攻撃する番である。彼から繰り出されたのは赤黒い炎のエネルギー斬。それはエムへと飛んでいくとエムを切り刻んだ。それを受けてエムは墜落していくと地面へと叩きつけられ、セイバーも地面に降り立った。

 

「良し、このまま一気に……」

 

エムはすかさずガシャットを抜くと今度は黄色いガシャットを取り出して挿すと開き直した。

 

『【大大大変身】!』

 

今度は肩や胸に黄色いスピーカーのようなアーマーを、右腕にターンテーブルのような物をつけ、頭に黄色い帽子を被りマイクを装着した装備へと変化した。

 

「何だ何だぁ。次は何のゲームだよ」

 

セイバーが疑問に思っているとエムは流れてくる音楽に対してリズムを取りながらステップを踏み始めた。すると音符型のエネルギー弾が発射されていく。

 

「もしかして……音ゲー?だったらこの弾丸を躱したら面倒そうだな。だったら!」

 

セイバーはそれを避けるのでは無く敢えてタイミングを合わせて触るとGoodの表記とともに音符が消えた。

 

それを見たエムは高速で飛んでいく音符を発射するが、ゲームを極めているセイバー相手に通用するはずも無く簡単にタイミングを取られるとパーフェクトの文字と共に攻撃を跳ね返されてエムがダメージを受ける結果となった。

 

『【ドレミファフィニッシュ】!』

 

エムは何とかセイバーからダメージを取ろうと必殺のエネルギーを込めた音符を発射。そしてそれはセイバーへと向かっていく。だが、それさえもセイバーには通用しない。セイバーが虚無で受け止めるとそれを無効化してしまった。

 

「残念。そもそもゲームで俺に勝負するなんて自殺行為だっての」

 

エムはそれを受けて流石にダメージを受けすぎた影響か膝を突いていた。

 

「おいおいもう終わりかよ。だったらトドメを刺させてもらうぜ」

 

エムがそれを聞いたからか再び立ち上がるとまたもやガシャットを挿し換えた。

 

『【大大大変身】!』

 

すると黒い両手両足のアーマーが出現するとそれがエムに装着され、最後に兜を模したヘッドギアが合体すると両手に鎌が武装された。

 

「お次は侍か?でも武器が鎌ってなんか違うような……別に良いけどさ」

 

エムがセイバーへと走っていくと両手の鎌を振り抜く。セイバーがそれを喰らうといつもより大きなダメージがセイバーへと入った。

 

「痛ったぁ!!なんで!?この姿の火力エグイんですけど!!」

 

エムはそんな事お構い無しとばかりに連続でセイバーを切り刻もうと迫っていく。セイバーはそんなエムの攻撃を躱してからのカウンターの斬撃を当てると今度はエムが大きなダメージを受けて吹き飛ばされた。

 

「は?さっきとやった事何も変わらないんだけど……ん?もしかしてその姿、相手にも与えるダメージを増やす代わりに自分も受けるダメージが増えてるの?」

 

セイバーの予想は当たっており、今のエムの姿を構成するゲームは一撃一撃が即死級の攻撃となるギリギリのチャンバラゲームでありこのゲームを使っているとお互いに与えるダメージが倍増する効果を付与されている。つまり、攻撃が当たれば大きいが、逆に攻撃を喰らうと大きなダメージを受けてしまうことになる。

 

「俺にはHP回復があるけど、お前にそれは無い。果たして何発受けられるかな?」

 

『【ギリギリストライク】!』

 

エムがそれを見てスキルを発動した。そして鎌に必殺のエネルギーがチャージされるとその鎌を持ったままセイバーへと突撃。すれ違い様にセイバーを切り裂く。

 

「残念。それじゃあ俺は倒せないよ!【バーストフレイム】!」

 

お返しのセイバーからの炎をエムが受けると大きなダメージとなり、吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。

 

「さて、そろそろお前の【擬人化】も終わる頃だ。お前をぶっ倒してやるよ」

 

セイバーの言う通り、もうすぐエムの【擬人化】の効果時間を超過する。そしてそれはエムの変身が解けることになりセイバー相手に勝ち目が無くなってしまうだろう。エムはそうなる前にセイバーを倒すため、切り札を切ることにした。

 

『【大大大大大変身】!』

 

エムは先程までのガシャットよりも出力を出せる金のガシャットを使い、フォームチェンジ。変化したのはメイプル達相手に披露したドラゴンのアーマーを装着した強化モードであった。

 

「悪いけどその姿もメイプルがやられる時に近くにいたプレイヤーからの情報共有で得ている。俺には効かないぞ」

 

エムが両腕の武装でセイバーへと斬りかかるとセイバーはブレードの方を受け止めると左腕のガンの方を受けないようにエムの右側に移動して攻撃を回避。そのまま足払いを掛けてから上からエムを踏みつけた。

 

「どうした?切り札の割に大したことないなぁ」

 

エムはセイバーから逃れるために口から炎を噴射するもののセイバーは属性攻撃の無効化によって攻撃のダメージを最小限にしつつエムを踏んでいた足を離すとその体を掴み立たせる。

 

「【マグナブレイズ】!」

 

それから至近距離で炎弾を撃ち込んで怯ませてから虚無で下段から上段へと斬り上げてダメージを蓄積させる。

 

『【回復】!』

 

エムはなんとか吹き飛ばされる先をエナジーアイテムのある場所にする事で何とかHPを回復させると持ち直すが、そうそう【回復】のエナジーアイテムは落ちていないのでギリギリで粘っている所である。

 

「随分と焦らすねぇ。けど、もうそろそろその【擬人化】ってのも終わりだろ?そうなれば俺の勝ちだぜ」

 

『………』

 

エムに残された時間はあと僅か。その残り時間でセイバーを倒すには必殺のスキルを使うしかない。エムはガシャットを抜くとスロットに装填。2回ボタンを押すとエネルギーが両手と顔、右足に高められた。

 

『【ドラゴナイトストライク】!』

 

エムが空へと飛び上がると右手から斬撃、左手から射撃、口からは炎を放ってセイバーに攻撃の対応をさせて動きを封じた。その上で空中からのキックをセイバーへとぶつけようとした。

 

「【無ノ一閃】!」

 

セイバーが剣にエネルギーをチャージしての一閃を放つとエムが放った攻撃が全てキャンセルされてかき消されてしまった。しかし、エムの本命はこの後のキックである。そしてそれがセイバーに命中するかに見えたが、セイバーが剣を使って攻撃を受け止めた事で失敗に終わってしまう。

 

「さぁ、チェックメイトだ」

 

セイバーがエムを弾き飛ばすと壁へと叩きつけさせ、その衝撃でエムはドラゴンの鎧を解除させられることになった。しかし、不幸なことに壁に穴が空いたことでそこに隠されていたエナジーアイテムが露わになった。エムはそれを咄嗟に取るとそれをすぐに自分に使った。

 

『【効果時間延長】!』

 

これによりエムの【擬人化】の効果時間が延長されて倍になってしまうと解けかけていた【擬人化】をまだ継続することに成功した。

 

「おいおいマジかよ。ラッキーすぎない?」

 

『セイバー、俺の本当の切り札を見せてやる。お前の運命は……俺が決める!』

 

するとエムは挿さっているガシャットを抜くと今度は巨大な長方形でエムの顔が飛び出るような造形が入ったガシャットを取り出した。

 

『【マックス大変身】!』

 

エムがガシャットを挿してレバーを開くとエムの上空に巨大な顔が描かれた物体が出現。そして、エムがガシャットにある顔の部分を上から押し込むとエムの顔の部分がガシャットの中に入った。それと同時に物体が降りてくるとエムがその中に飲み込まれ、巨大な両腕と両足が展開。最後にエムの頭が出てくると地面へと着地した。

 

「待て待て待て、なんでそんなにデカくなるかなぁ」

 

その容姿は巨大な強化アーマーを纏っているかのようで胸にある顔が特徴的だった。

 

『俺の能力はマキシマム。最大クラスにまで引き出された。勝負だセイバー!』

 

「面白い。来いよ!」

 

セイバーがそう言うとエムがセイバーを倒すために攻撃を開始する。果たしてセイバーはこの超強化されたエムを相手に勝つことができるのか。その結果がわかるのはもう少し先になるであろう。

 

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イベント3日目、現在の戦況

 

ブレイド対水と氷の国の王

 

エム対セイバー(本体)

 

パラドクス対セイバー(分身)×2

 

ミィ対ペイン

 

カリス対キラー

 

セイバー(分身)×3(水と氷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

キャロル対セイバー(分身)

 

炎と雷の国の女王対サリー

 

マルクス、ミザリー対セイバー(分身)×2

 

マリア対ヒビキ

 

セイバー(分身)×2(炎と雷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        カリス

ヒビキ        ミィ

ペイン        パラドクス

キラー        マルクス

           ミザリー

           キャロル

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと王の死

エムが超強化アーマーを纏い、セイバーを倒すために向かってくる。セイバーはそれを見て構えるとエムの攻撃に合わせて剣で腹を攻撃するが、エムは怯む事なくパンチをぶつけてきた。

 

「がっ!?」

 

セイバーがその威力に後ろへと飛ばされる。ダメージ自体はそこまで入らなかったもののこれまでとはまるでパワーが違った。

 

「マジかよ。さっきまでとはまるで動きが……」

 

『言ったはずだ。お前の運命は俺が変えると』

 

セイバーは油断していたわけでは無い。寧ろ気は引き締めていた方である。それにも関わらずこの圧倒されようだった。そのため、彼はより一層気を引き締める事になった。

 

するとエムは腕を思い切り伸ばして遠距離からパンチを繰り出してきた。セイバーはそれを動体視力と反射神経で躱すものの続けての逆腕でのパンチがセイバーを襲い吹き飛ばした。

 

「ぐあっ!」

 

更にエムは走ってくると跳び上がり足を伸ばしてのキックを放つ。セイバーはバックステップで回避したが、今度はキックをして地面に着いた足の方へと体ごと移動させて飛び膝蹴りをセイバーへとかました。

 

「痛ぁっ!!」

 

セイバーが空中を舞う中、エムが左腕を伸ばして彼を殴るとそのまま壁へと叩きつけて動きを封じた。そこに右腕にパラドクスとの連携時に使っていた武器、キースラッシャーを握っていた。そして遠くからガンモードで撃ちまくる。エムは腕を弾丸が着弾するギリギリ手前で離したので当たらなかったが、ダメージの大きさに怯んでいたセイバーは咄嗟に躱す事ができずに弾丸をまともに受けた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

セイバーは何とかHPを僅かに残していたためスキルは発動することは無く持ち堪えた。だが、エムの奇襲は成功しており精神的にも肉体的にも大きな損害をセイバーに与える事ができていた。

 

「まさかこんな隠し玉があったなんてよ。これ、勝てるかな?時間切れまで粘れば何とか……いや、さっき延長したばかりだからそうはいかないか」

 

セイバーは少しの間考えていたが、時間制限のあるエムは待ってくれない。セイバーへと接近してくるとアッパーを当てて空中へと弾き飛ばし、そのまま自分も跳びあがると上から鉄槌を叩き込んで地面へと叩き付けた。その直後にセイバーを蹴り飛ばして部屋の壁へとぶつけた。

 

「こうなったら!【ゲノミクス】!」

 

《コング!ゲノミクス!》

 

セイバーが剣を腰に納刀すると両腕がコングのように巨大な腕となった。

 

「パワーにはパワーで勝負だ!」

 

セイバーはエムの強化されたパワーに対応するべく自分もコングのパワーを借りた。そして、セイバーとエムの拳がぶつかり合うとそのパワーは互角でお互いに衝撃で後ろへと下がった。それからセイバーは地面を殴るとその衝撃波でエムの足を一時的に止めさせた。そこにセイバーからの渾身の一撃が放たれる。

 

「【不死鳥無双斬り】!」

 

虚無のセイバー、最大火力のスキル、【不死鳥無双斬り】。それは不死鳥を模したエネルギーの斬撃を放つ必殺の一撃である。エムはそれをまともに喰らい大きなダメージを受けた。だが、それだけでは倒し切るには至らずにHPが残っていた。

 

「チッ。このままだと不味いな」

 

セイバーがそう言っている間に【ゲノミクス】も終わってしまう事になりパワーでの対抗ができなくなってしまった。セイバーがエムからの攻撃を紙一重で躱しながらどうするか考えていると近くに落ちているエナジーアイテムについて思いついた。

 

「そうだ。俺もエナジーアイテムを使えばどうにかできるかも」

 

セイバーは急いで近くにあったアイテムを取った。

 

「【高速化】!」

 

セイバーは猛スピードで動き始めるとエムの後ろに回り込んで飛び蹴りを当てる。パワーが上がっているエムにはあまり効かなかったもののすぐに距離を取って次のアイテムを手にした。

 

「【透明化】!」

 

今度はセイバーの体が透明となりエムからはセイバーの動きが完全に追えなくなってしまった。

 

「次!【マッスル化】!」

 

【高速化】の時間制限が終わる直前、セイバーは筋力を底上げする【マッスル化】を取る事に成功。そして残された僅かな【高速化】の時間でエムの真後ろに来るとパワーの上がった一撃を叩き込んだ。流石のエムもこれには堪らず吹き飛ばされる事になりその場に倒れ込んだ。

 

そのタイミングで【透明化】も終わりセイバーの姿が露わになる。だが、まだ【マッスル化】は終わっていない。セイバーはエムを掴むと軽々と投げ飛ばして空中で身動きが取れない隙に必殺のスキルを発動。

 

「【プロミネンスドロップ】!」

 

セイバーが跳び上がると両足に炎を纏いそのままドロップキックを放つ。エムは何とか体勢を立て直して迎え撃とうとするが、飛ばされた先にとあるエナジーアイテムがあった影響でそれは叶わなかった。

 

「狙い通り。【混乱】だぜ!」

 

エムはエナジーアイテム、【混乱】によって動きを強制的に鈍らされ、セイバーの接近を許す事になりそのまま炎のドロップキックがエムへと命中。エムは炎に包まれるとダメージを負わされる事になった。

 

「よし。何とか対応できるようにはなってきたな」

 

セイバーは周辺に存在するエナジーアイテムを上手く活用することでエムとのステータスの差を埋める事に成功しており何とか対等に戦う事ができていた。唯一の救いはエムがエナジーアイテムを組み合わせて戦うような高度な戦術を使ってこない事だろう。

 

そうこうしている間にエムにかかっていた【混乱】の効果が終わって持ち直した。エムはその手にキースラッシャーを握っておりそのガンモードで遠くからセイバーを撃とうと射撃を仕掛けてきた。

 

「おっと、よっと!」

 

セイバーは身軽な動きでその射撃を躱しつつエムへと接近。それを見たエムはキースラッシャーのモードをブレードにしてセイバーの剣とぶつかり合う。

 

「やっぱエナジーアイテム無しだとエムの方がパワーは上だな。けど、その鎧を着た状態だと小回りは効かないだろ!」

 

セイバーはエムの弱点である小回りの効かなさを突くつもりで攻撃を仕掛けていく。その内にエムの攻撃は躱されていくのに対して、セイバーの攻撃は決まっていった。

 

『む、だったらこれはどうだ!』

 

エムはベルトに挿さっているガシャットの顔の部分を押し込む前の状態に戻すと強化アーマーから人型のエムがキースラッシャーを持って出てくるとセイバーへと斬りつけていった。

 

「は?分離もできるのかよ。お前も何でもアリだな。けど分離してスピードや器用さは戻ったけどインパクトは落ちている。ステータスはそう大して変わってなさそうだけどそれでもあの強化アーマーのデカい拳から繰り出されるパンチには圧力があった。でも今はそれが無い。それがお前の弱点だ!」

 

セイバーとエムは互角の斬り合いをするようになったが、セイバーの言う通り、強化アーマーを分離した影響からかエナジーアイテム無しでも渡り合えるようになった。

 

「【マグナブレイズ】!」

 

セイバーの体に不死鳥の力を纏わせると不死鳥の口から強力な炎弾が放たれてエムへと命中させていく。エムも負けじとキースラッシャーをガンモードにして対抗するもののパワーの差は大きく、押し込まれてダメージを受けた。するとエムは再び強化アーマーの中に戻るとセイバーのスキルが終わるタイミングを利用して彼の足へと腕を伸ばして捕まえるとそのまま思い切り地面へと叩き付けた。

 

「ちょっ!?そんなのアリかよ」

 

それから何度も連続でセイバーを振り回すと壁や床へと叩き付けていく。セイバーはHPが常時回復していくので持ち堪えているが、叩きつける速度と頻度が徐々に速くなっており放置すればその内やられてしまうだろう。

 

「そろそろ終わってもらうぜ。【バーストフレイム】!」

 

セイバーが何とか左手から炎を放出して装甲に包まれてないエムの顔を攻撃。そしてそれはエムを怯ませることに成功してその間に虚無での攻撃を繰り出す。

 

「【バーニングレイン】!」

 

セイバーが赤黒い炎の斬撃波を連続で飛ばしてエムの体にそれを当てるとようやくエムはセイバーを離した。

 

「【炎の翼】!」

 

続けてセイバーが飛翔すると今度はセイバーからの攻撃をエムが凌ぐ番である。

 

「【バーストフレイム】!」

 

セイバーが再び炎を発射するとエムはそれを見て流石に対抗策を取ってきたのかあるエナジーアイテムを自分に使用した。

 

『【炎耐性】!』

 

これによりエムは火属性の攻撃に耐性を得ることになり受けるダメージを最小限にしようという動きだった。しかし、セイバーの対応力はそれの更に上を行く。

 

「【無属性】発動!」

 

セイバーのスキル、【無属性】の効果で自分が放つ属性攻撃を任意で無属性として扱う事ができる。これにより、相手が属性攻撃や状態異常に耐性や無効を持っていてもそれをすり抜けて攻撃する事が可能になっている。今回はエムに炎への耐性を付けられたが、それをスルーしてダメージを与えることに成功している。

 

「このまま仕留めさせてもらう!」

 

するとエムは先程までと同様に強化アーマーを脱ぐとセイバーへと突撃してキースラッシャーのアックスモードを叩き付けた。しかし、セイバーはそれを防いでしまう。

 

「同じ手は何度も効かねーよ」

 

セイバーがそう言っていると突如として後ろに立っていた強化アーマーが自動的に動き始めると胸の装甲に当たる部分に描かれている目からビームが発射されてセイバーを撃ち抜いた。

 

「ぐあっ!?お前、中に人がいなくても動けるのかよ!」

 

セイバーも流石にこの行動には驚きを禁じられなかった。そして強化アーマーも自分で動けるということは実質的な2人がかりという事になる。

 

「このっ!」

 

今度は強化アーマーが前に出るとセイバーを拳で攻撃していく。その一方で、エムは距離を取ってキースラッシャーでの射撃を放ってセイバーの動きを牽制していった。

 

「面倒だな。どうせこっちのアーマーに攻撃してもダメージ無いだろ?だったら暫く動きを止めさせてもらうぜ」

 

そう言ってセイバーはあるエナジーアイテムを背にする場所にまで移動するとそのエナジーアイテムを取らせるように攻撃を回避した。そしてそのエナジーアイテムはと言うと。

 

「【麻痺】!」

 

これによって強化アーマーの動きが一時的に制限されることになり、セイバーはその隙にエムの本体に虚無での斬撃を喰らわせる。エムはこれを受けて何とか持ち堪えるが、先程から受けたダメージの蓄積によってHPは終わりそうだった。

 

そこに【麻痺】の効果が終了した強化アーマーがやってきてセイバーを押し退けるとエムと合体した。それからエムは次の一撃に全てを賭けるつもりで必殺のスキルを発動するべくベルトのレバーを閉じてから開き直した。

 

『【マキシマムブレイク】!』

 

エムが空中へと跳び上がると同時にセイバーも虚無を腰に納刀して跳び上がる。

 

「キックにはキックで相手してやるよ。【プロミネンスドロップ】!」

 

セイバーが炎を纏わせた両足でのドロップキックを、エムは必殺のエネルギーを込めた片足でのキックを放った。2つのキックが空中でぶつかると大爆発を起こしてお互いに吹き飛ばされる事になりダメージを受けたが、エムのHPは限界ギリギリでそれを回復せずに攻撃をしたためにダメージに耐え切る事ができず、強制的に【擬人化】が解けると消滅していった。

 

「はぁ……はぁ……何とか倒せたぞ。取り敢えず、これで邪魔な奴は片付いたし、こっちの王様の加勢を……え?」

 

セイバーが見た光景は水と氷の国の王がブレイドの攻撃で貫かれて消滅していく様子だった。そしてブレイドは振り返るとセイバーを見据えた。

 

「少しエムを倒すのが遅かったな。こっちの国の王は討ち取った」

 

「俺がエムを倒している間に……王を倒したのか?」

 

「その通りだ。ただ、かなり手間取らされたけどな」

 

時はセイバーがエムとの戦闘を開始した頃にまで遡る。ブレイドも水と氷の国の王を相手に戦闘を開始していた。

 

『お前の力で私を倒す事ができるか?』

 

「倒すさ。それが俺達の勝利に近づくならな」

 

『ならばお前はこの伝説の王の剣で葬ってやろう』

 

王はそう言うと魔法陣から1本の古びた剣を取り出すと手に取った。その瞬間、剣に付着している錆が消え去って剣が元の姿を取り戻した。

 

『ではまいるとしよう。はっ!』

 

王が魔法陣を展開すると中から激流が発射されていった。ブレイドはそれを剣で受け止めるものの、そのあまりの威力とノックバック性能で後ろへと飛ばされた。

 

「流石は陣営の王様。他のNPCと比べても桁違いだ」

 

『ぬん!』

 

続けて王は氷の礫を召喚するとブレイドへと飛ばしていく。ブレイドは今度は礫を避けつつ王の元へと走っていった。それに合わせて王も剣を構えると2人の持つ剣がぶつかり合う。

 

すると王の剣が輝きを更に強めていくと王の体を眩いオーラが包んでいった。そして王は老人とは思えないほどの軽い身のこなしで剣を振るっていく。

 

「まさか、その剣の影響で動きが上がっているのか」

 

『その通りじゃ。しかしだからと言って私の体が無理をしているわけでは無いぞ』

 

「だったらこれでどうですか!【サンダー】!」

 

するとブレイドの剣に電撃が走っていくとそのまま王に向かって放電。王はすぐに飛び退いて躱すとそのまま氷の魔法でブレイドを牽制していく。

 

「ここに炎が使えるギャレンがいればなぁ……無い物ねだりしても仕方ないが……」

 

ブレイドはそう言いつつも、カードを出してそれをスキャン。その効果を自身に付与していく。

 

「【メタル】、【キック】!」

 

ブレイドはキック力を強化することで命中した時の威力を上げると、王から撃ち出される氷の礫を【メタル】の防御力アップで凌ぎながら王に接近。そのままキックを打ち込んだ。王はそれを剣で受け止めるがその威力の大きさに後ろへと数歩下がった。

 

「【タックル】、【マッハ】!」

 

ブレイドが2枚のカードを使うと【マッハ】の効果でスピードが上がった【タックル】を使って王へと突進。しかし、王はそう来るのを読んでいたのか、ブレイドの【タックル】を躱してしまった。そしてその間に出来てしまった隙を突かれて足元を凍らされてしまった。

 

「しまった!」

 

『王の剣の威力を味わうが良い!』

 

王が自らの持つ剣を天に掲げると光が収束していき、その剣を振り下ろすとそれが斬撃となって飛んでいった。それはまるでペインの【断罪ノ聖剣】に似たような物であり、かなりの高威力のスキルであるだろう。であればこれをわざわざ喰らう程ブレイドも馬鹿では無い。

 

「【タイム】!」

 

ブレイドがそれを使うと全ての時間が停止し、その間にブレイドは拘束から脱出。そのまま王の後ろへと歩いていく。それから停止を解除すると攻撃は透かされる事になり、加えてブレイドが隙だらけの王の後ろを取ることに成功していた。

 

『何!?』

 

「【ビート】!」

 

完全に無防備な王の背中にブレイドからの渾身のストレートパンチが突き刺さる。これを受けて王は吹っ飛ばされる事になったがブレイドはそれだけでは済まさない。更に彼は追撃のコンボを決めるべくカードを使った。

 

「【マグネット】、【スラッシュ】!」

 

ブレイドが【マグネット】を使う事でその効果により王は強制的にブレイドの方へと吸い寄せられていく。そして、ブレイドはそのタイミングで剣の切れ味を強化。そのまま斬撃を繰り出した。

 

「せいっ!」

 

『ぐあっ!!』

 

ブレイドの斬撃を受けて王のHPは残り8割近くになっていた。ただ、流石はボスキャラだけあってかHPの高さは異常であった。

 

「これは倒し切るまでだいぶかかりそうだな」

 

ブレイドの予想通り、ここから先は長かった。まず王が先程のように隙を見せてくれないのだ。ブレイドの攻撃を連続で受けた事によって王が警戒心を強めたのか隙ができる大技を使わなくなってしまった。それだけであるならまだ良かったが、それに加えて今度は攻撃と防御の動きに無駄が無くなり、動きと動きの繋ぎが滑らかかつ自然な動きをするようになったのだ。

 

「NPCのボスにしては強敵すぎるぞ……何とか打開する手は無いのか」

 

このまま行けばブレイドが疲れで動きが鈍くなった所を疲れを知らない王が一気に仕留めに来るだろう。しかも、王はまだ何回かパターン変化を隠しているので大きく不利になってしまう。

 

「こうなったら奥の手だ。【アブソーブ】、【フュージョン】!」

 

ブレイドは仕方なく奥の手の1つであるジャックフォームを解放。鷲の力を背中に付与して空中へと飛び上がる。そして空からの攻撃によるヒットアンドアウェイでダメージを蓄積させる手に出た。

 

『小癪な……』

 

「そろそろHP的に変化が来るかな」

 

ブレイドがそう言っていると王のHPが6割となり行動に変化が生じた。先程までは剣をメインにして魔法は偶に使ってくる程度だったものの、それが水や氷の魔法攻撃を連発するようになったのだ。しかも、ボスモンスター扱いでMPに制限が無いからか魔法陣が常に展開し続けている。

 

「なるほど、今度は魔法攻撃を中心にしてくるか。俺の攻撃パターンは接近しないと始まらない。なら無理矢理にでも近づけさせるか」

 

ブレイドは先程と同様に【マグネット】のカードを使用すると強制的に王をブレイドの元へと移動させていく。しかしそれは王が展開している魔法陣も近づけさせることになるのでその対策も行った。

 

「【メタル】!」

 

ブレイドは自らを鋼鉄化する事で近距離から降り注ぐ激流や氷のエネルギー弾を凌ぎながら王との距離をゼロにまで近づいた。

 

「【キック】、【サンダー】、【マッハ】!【ライトニングソニック】!」

 

ブレイドは自身の最大出力の攻撃、【ライトニングソニック】を王へと叩き込む。すると王はかなりHPを持っていかれた様子であった。だが、それでも王のHPは4割残っているのでまだまだ余裕があるだろう。

 

『調子に乗るなよ小僧!』

 

その言葉と共に今度は魔法陣から水と氷の他にも雷や炎を放出するようになると魔法のバリエーションが増加した。流石のブレイドもこれを受けると大ダメージは避けられない。そこで何とか離れるためにカードを使用する事になった。

 

「【マッハ】!」

 

ブレイドはAGIを上げる事で空中へと逃げ延びていく。王はそれを見て逃がさないと言わんばかりに魔法陣を地上から空中へと向けていく。ブレイドはそれを見てチャンスと捉えた。今、魔法陣は全て上を向いている上を向いているということは王の懐はガラ空きでもあるということであった。

 

「良し、今だ!【タイム】!」

 

ブレイドが一時的に時間を停止すると王へと近寄っていく。そして剣を振り抜こうとしたその瞬間、突如として王が動き出すとブレイドの剣を受け止めた。

 

「何だと!?」

 

『もうその手は通用せんぞ』

 

何と王は自身の持つ剣の効果で時間停止が効かなくなり、これでブレイドが持っていた最大の長所は消し飛んでしまうのだった。しかしそれでもブレイドは諦めない。咄嗟にカードを読み込ませて反撃のスキルを放つ。

 

「【スラッシュ】、【サンダー】!【ライトニングスラッシュ】!」

 

ブレイドは剣に電撃を纏わせた状態で剣の振り下ろし攻撃を浴びせるが、それにタイミングを合わせて王から斬り上げを喰らい、双方ダメージを負う結果となった。これで王はHPを2割にまで減らし、それと同時にブレイドはジャックフォームが解除される事になった。

 

「く……まさかジャックフォームがやられるなんて」

 

『お主も中々やるな。ここまで追い詰められたのはいつ以来じゃろうか……』

 

王はそう言うと最後の変化を開始した。するとその姿を先程までの老人から魔法によって一時的に若々しい黒髪の青年に姿を変えていった。

 

『私の全盛期を持ってしてお前を完全に叩き潰す』

 

王は先程まで展開していた魔法陣を一旦消すと剣を構えた。ブレイドもHPをポーションで回復してから向かっていくものの、先程までとはまるで動きが違う王を前に一方的なワンサイドゲームを受ける事になった。

 

「クソッ、まるで歯が立たない……あと2割が遠すぎる……」

 

ブレイドが弱りきっていると王がブレイドへとトドメを刺すために炎、水、雷、氷、風、土、光、闇の属性攻撃を剣に集約。その剣は当たれば即死の一撃必殺の剣と化した。

 

「アレを受ければ間違いなく死ぬな。だったら、こっちも覚悟を決めるしか無い!【キック】、【サンダー】!」

 

ブレイドはその必殺の一撃に対抗するためにカードをスキャンすると電撃を足に集中させていく。

 

それから剣を逆手持ちにしてから空中へと跳び上がり、必殺のキックを放った。

 

「【ライトニングブラスト】!ウェェエエエエイ!!」

 

 

王はそのキックを受け止めて跳ね返すために敢えて走りながらブレイドへと向かっていく。

 

『終わりだ!』

 

「そっちがな!【マッハ】!」

 

このタイミングでブレイドは【マッハ】を使用。何故わざとタイミングをズラして【マッハ】を使ったのか。それはキックが直撃するタイミングを早めるためである。ブレイドを迎え撃つために王は剣を後ろに引いており今のタイミングでキックを放てば迎え撃たれた上にパワー差で押し負けるだろう。それを避けるためにブレイドはわざとタイミングを変え、迎え撃たれる前にキックを当てることに全てを賭けたのだ。

 

『しまっ……』

 

「はぁああああああああ!!」

 

そのままキックは王へと決まり、王はのけぞるとHPを残り僅かにまで減らした。そしてブレイドはこの勝機を逃すことなく掴むために続け様に手にしている剣で王の胸へと突きを放ち王の体を貫いた。

 

『見事だ……勇者よ。お前の勇姿は後世に語り継がれるだろうな……』

 

その言葉を残して王は生き絶えると消滅し、ブレイドは辛うじて勝利を手にすることができたのだ。そして同時刻、セイバーもエムを撃破して2人のエースが向かい合った。

 

「互いに敵を倒した者同士。あの玉座を賭けた勝負だ」

 

「面白いですね。この前は不覚を取りましたが今度は勝ちます」

 

「何度やっても結果は同じだ。【アブソーブ】、【エボリューション】!」

 

「俺はそうは思いません」

 

ブレイドはセイバーをフルパワーで叩き潰すためにキングフォームを解放。それから2人は無言で剣を構えるとお互いの勝利のために相手を倒そうと剣を振るっていくのであった。

 

———————————————————————

イベント3日目、現在の戦況

 

ブレイド対セイバー(本体)

 

パラドクス対セイバー(分身)×2

 

ミィ対ペイン

 

カリス対キラー

 

セイバー(分身)×3(水と氷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

キャロル対セイバー(分身)

 

炎と雷の国の女王対サリー

 

マルクス、ミザリー対セイバー(分身)×2

 

マリア対ヒビキ

 

セイバー(分身)×2(炎と雷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        カリス

ヒビキ        ミィ

ペイン        パラドクス

キラー        マルクス

           ミザリー

           キャロル

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと光と闇

虚無のセイバーとキングフォームとなったブレイドが玉座を賭けた勝負を始めた頃、水と氷の国側の王城の城下町ではある因縁の2人が生き残りを賭けた激闘を繰り広げていた。

 

「【呪いの一撃】!」

 

「【ドリル】!」

 

2つの攻撃が激突するものの威力は互角であり2人共に後ろへと下がって構え直した。ここで戦っているのはキラーとカリスである。2人はイベント前に決闘をしており、そこではカリスが勝ったものの当然のようにキラーはイベントでのリベンジに燃えていた。そして今、そのチャンスが回ってきたのである。

 

「今度こそお前を倒して俺の強さを証明する!」

 

「ふん。威勢は良いがそれがいつまで保つかな」

 

カリスがそう言って弓を構えると引き絞り、エネルギーの矢を放つ。キラーはそれを見て魔剣で矢を弾き飛ばしながら接近。そのまま魔剣を振り抜くがカリスはそれを弓の刃の部分でガード。鍔迫り合いとなる。

 

「力は互角か……」

 

「それはどうかな?【シャッフル】!」

 

カリスがそのカードを使用すると突如として自分にかかる圧力が増加した。何故いきなり力が上がったのか。それはカリスか直前に使用したカードに理由がある。カリスのカードスキル、【シャッフル】。これは2種類の効果の内、好きな方を使うことができる。

 

1つ目は範囲内にいるプレイヤーの中でカードを持っている者にのみ作用するカードシャッフル効果。範囲内にいるカード持ちのプレイヤーの手持ちカードを全て混ぜてから元々持っていた枚数だけ配られる効果である。

 

そして2つ目が今回カリスが使用した自分だけに作用する効果、ステータスシャッフルである。これを使うことで自身の持つステータスを5分間の間のみだがランダムに入れ替えることができる。元々カリスはSTRよりAGIの方が高くなっており今回は運良くAGIの値がSTRの所に来てくれたようだ。

 

「どんなカラクリかわからねーがいきなりパワーを上げてきたな。だったらこんな手はどうだ!」

 

キラーはカリスの圧力を前に力を抜くことで敢えて押し切られると後ろに跳びながら斬撃波を放つ。そしてそれはカリスに命中するとカリスはダメージを受けた。

 

「何故防御しない……カリスは機動力に長けている分防御は薄いはずだが……」

 

キラーはカリスかステータスをシャッフルしている事を知らないため今現在、彼のAGIがかなり低く、VITが並みのプレイヤーレベルだということに気づかない。当然疑問にも思うだろう。しかし、次にキラーが仕掛けたことでそれが完全に彼に知れ渡ることになる。

 

「試してみるか。【ソニッククラッシュ】!」

 

キラーが高速で動きながらカリスへと攻撃を仕掛けるとカリスはそれを躱す事なくまともに受け続けた。当然ダメージは蓄積していくものの、今のカリスのAGIは低いのでどうすることもできないのだ。

 

「まさか、わざと受けてるんじゃなくて受けざるを得ないのか?だとしたら今がチャンスだ。【呪血狼砲】!」

 

キラーが狼の爪を模した斬撃を繰り出すとカリスはそれに対抗するようにカードスキルを使用した。

 

「【フロート】、【ドリル】、【トルネード】!【スピニングダンス】!」

 

カリスが空中へと浮くとそのまま回転しながらキラーが放った攻撃へとぶつかり、高まったSTRで粉砕。そのままキラーへと突っ込んでいく。だが、STRを得る代わりにAGIを犠牲にしているため、キラーがその攻撃にカウンターを合わせるには十分すぎる隙ができていた。

 

「【聖断ノ剣】!」

 

キラーはカリスの攻撃を躱しつつカウンターの攻撃を合わせて叩き込む。それによってカリスは大きなダメージを負って倒れ込むと【シャッフル】の効果が切れてステータスが元に戻った。

 

「やはり【シャッフル】の効果はギャンブル性が高すぎる上に効果バレした時のリスクが大きいな」

 

「どうした。お前らしくないミスをするとはこの俺を前にして怖気付いた訳じゃ無いよな?」

 

「まさか。これでも俺は全力で戦っている。……切り札は隠しているがな」

 

そう言いつつ、カリスはポーションで自身の体力を回復させて次の戦いに備えていく。

 

「ほーう?その切り札って奴を見せてみろ。俺を倒せるだけの力があるんだろ?だったら使うべきだな」

 

「そう慌てるな。お前の力が使うに値すると感じれば使う」

 

「その言い方では俺では力不足と言わんばかりだな」

 

「実際その通りだからな」

 

そのカリスの発言に珍しくキラーは苛立った。先程の言葉の意味を考えれば当然の反応と言えるが、それでもキラーは納得のいかない表情である。

 

「調子に乗るなよ。だったら無理矢理にでもお前の切り札を引っ張り出してやる。その上でお前を叩き潰す!」

 

キラーは突然体から赤黒いオーラを放出させるとカリスへと攻撃を仕掛けていく。キラーの変わりようにカリスは一瞬動じるが、すぐに平静を保った。

 

「……そのオーラは何だ?スキルを使ったわけでも無いのに突然出てきたが」

 

「お前に教えるわけが無いだろう。ヒントを与えるとすれば先程までの俺と変わった点が鍵だ」

 

そう言いながらキラーは更に見に纏うオーラを高めていくとカリスへと猛攻撃をしていく。その圧力に流石のカリスも押され気味だった。

 

「この俺を侮ったことを後悔させてやる!」

 

その言葉と共にキラーのオーラは強さを増していき、その様子をカリスは警戒心を強めながら見るのであった。

 

その頃、最光と月闇のセイバー2人組はエナジーアイテムによって無理矢理分身したパラドクスを追い詰めていた。その証拠にパラドクスがかなりのダメージを負っているのに対して、セイバーはほぼ無傷であった。

 

「もうお前らの能力は通用しないぜ」

 

「大人しくやられな」

 

セイバーがそう言っているとエナジーアイテムの効果も終わり分身が消えて元の1人のパラドクスに戻った。すると彼は青いパズルの方の装備をしており、すぐにパズルを解くと【回復】のエナジーアイテムでHPを復活させた。そしてセイバーはパラドクスがあまりに素早くパズルを解いたので彼の回復を許してしまった。

 

「「あ、ヤベッ!」」

 

「詰めが甘いんだよ。俺が持ってるポーションを使うまでも無かったな」

 

そしてパラドクスは切り札を使うためにベルトをセットするとダイヤル付きの長方形の物体、ガシャットギアデュアルを手にした。

 

「ここからは第二ステージだ。【マックス大変身】!」

 

パラドクスがギアデュアルをベルトに挿してレバーを開くとその姿を変化させていき、イベント2日目にドレッドとフレデリカを葬った赤と青の混色の姿へとパワーアップした。

 

「2対1になるのはハンデだ。纏めてかかってこいよ」

 

パラドクスの挑発に2人のセイバーは頷くとパラドクスの両サイドから同時に攻撃を仕掛ける。こうすればどちらかにしか対応できないと考えたからである。

 

「甘いねぇ。【高速化】、【マッスル化】!」

 

パラドクスが青いパズルの装備から引き継いだ能力でエナジーアイテムを組み合わせると超高速で動いて両サイドからのセイバーの攻撃を回避しつつ、立ち止まったセイバーへと強烈なパンチを喰らわせた。

 

「痛てっ!?」

 

「【漫画撃】!」

 

最光のセイバーが対抗するように上空にエネルギーの剣を大量に生成するとそれを雨のように降らせた。こうすることでパラドクスは近づきにくくなるからである。この案は上手くいきパラドクスは一旦2人のセイバーから離れると武器であるパラブレイガンを取り出した。

 

「さーて、こんどはどうしようかな……【連鎖射撃】!」

 

パラドクスが不意打ち気味でスキルを使うと青い弾丸を撃ちまくる。しかし、セイバーはそれを読んでいたかのように対応策を取る。

 

「【腕最光】!」

 

セイバーが装甲を左腕に集めるとバリアを展開して攻撃を防御。そしてすぐさま月闇のセイバーが反撃に移る。

 

「【暗黒闇龍剣】!」

 

セイバーが闇の龍のエネルギーを月闇に纏わせるとそのエネルギーをパラドクスへと放つ。パラドクスはそれをパズル型のバリアで防ぎつつセイバーへと接近し、アックスモードのパラブレイガンで斬りかかる。

 

「【連打撃】!」

 

最光のセイバーがそれを受け止めると発生した衝撃波でダメージを受けた。それでもセイバーはそのダメージを堪えた上にそのままパラドクスを押し返す。

 

「うらっ!」

 

そこにフリーとなった月闇のセイバーからの一撃がパラドクスへと襲い掛かる。しかしパラドクスもそれを予想していたかのようにパラブレイガンで受け止めつつ月闇のセイバーを蹴って距離を取った。

 

「やっぱり2人相手はキツイな。昨日みたいに各個撃破できれば良いんだけど……でも、このくらいのレベルでやってくれた方が心が躍って良いねぇ」

 

パラドクスは自身が不利にも関わらず、嬉々とした表情だった。それは強敵と戦えることへの喜びであり、パラドクスの闘志は熱く燃え滾っていた。その一方でセイバーも強敵との戦いに気持ちが上がっていたものの、2人がかりでもすんなりと倒れないパラドクスをどう対処するか考えていた。

 

「流石に烈火の俺を一撃で倒せる力の持ち主。気を抜いた瞬間に一気に持ってかれるな」

 

「どうする?アイツを撃破するにはパラドの対応を上回る連携をするしか無いぞ」

 

「いや、1個手がある。けどそれをするにはパラドの不意を突くしかない」

 

「そう簡単に不意を作ってくれるとは思わないけどな」

 

2人のセイバーが作戦会議をしているとパラドクスの方はそれが終わるのを待つつもりは無く、いきなりパラブレイガンの銃モードで射撃をしてきた。

 

「おいおい、いつまで作戦会議してるんだ?来ないならこっちから行くぜ!」

 

パラドクスがそう言うとガシャットギアデュアルをベルトから抜いてパラブレイガンに装填。そのまま近くのエナジーアイテムを引き寄せると必殺のスキルを使った。

 

「【鋼鉄化】、【透明化】!【パーフェクトフィニッシュ】!」

 

パラドクスが弾丸を放つとその弾丸は突如として姿を消した。

 

「「へ?」」

 

2人のセイバーがそれに呆然としているとその数秒後にセイバーの周囲の地面が大爆発を起こして最光のセイバーの体に重い衝撃が走り、HPが半分近く減らされた。

 

「まさか、消える弾か!!」

 

「ご名答。けど、わかった所でも躱すのは無理だっただろ?」

 

「そうでも無いさ」

 

そう最光のセイバーが言うとセイバーを包んでいた煙が晴れた。そこにいたのは最光のセイバーだけであった。

 

「む。月闇のセイバーが消えた……一体どこに……」

 

「後ろだよ」

 

その瞬間、月闇のセイバーが闇の中から姿を表すとパラドクスへと斬りかかった。実は先程の爆発が起きた際に月闇のセイバーは【闇渡り】を使って闇の空間にエスケープしていたのだ。

 

「【月闇居合】!」

 

そして、闇の中から出てくるとパラドクスの後ろから闇の力を纏わせた居合斬りを放つ。しかし、パラドクスはそれを読んでいたかのようにパラブレイガンをアックスモードにして振り返りながらセイバーの攻撃を受け止めた。

 

「何だと!?」

 

「数の有利を活かすのは良いけどよ、それならもう少し俺の意表を突いて欲しいぜ」

 

「だったら【光の矢】!」

 

最光のセイバーが光の矢を生成すると遠距離からパラドクスを狙う。そして、月闇のセイバーはパラドクスに張り付くように攻撃を仕掛けて逃げられなくした。

 

「悪いなぁ、その攻撃はこうやっても避けられるんだよ」

 

パラドクスはそう言うと2日目にエムとの超連携を見せた姿に変わるためのオレンジと青緑のガシャットをパラブレイガンに装填するとガンモードでトリガーを引き、続け様にアックスモードでもトリガーを引いた。すると2人が分裂して青いパズルの装備をしたパラドクスと赤いファイターの姿をしたパラドクスへと分かれた。そしてそれによってセイバーから放たれた矢は透かされる事になるのだった。

 

「「は?」」

 

「またまた俺達の分身術って奴だ」

 

「どんどん行くぜ!」

 

そのままファイターのパラドクスが月闇のセイバーへと殴りかかる。それと同時にパズルのパラドクスも最光のセイバーへと向かっていった。

 

「くっ……【闇の障壁】!」

 

「無駄だぜ。【爆裂ラッシュ】!」

 

月闇のセイバーは闇の障壁によって防御を行うが、パラドクスは自慢のパワーでゴリ押すと障壁を粉砕。そのままセイバーへと殴りかかる。セイバーはそれを月闇で受け止めるが、勢いと速度に押し切られるとセイバーは空中に打ち上げられた。そして、セイバーが落下してきた所に合わせての左フックが炸裂してセイバーは吹き飛ばされた。

 

「ぐあああ!!」

 

更にパズルのパラドクスも最光のセイバーを押していた。セイバーがパラドクスに斬りかかるものの、パラドクスはそれを見切りながらパズルを解いていき、3つのエナジーアイテムを自身に使用した。

 

「【マッスル化】、【伸縮化】、【ジャンプ強化】!」

 

パラドクスが大ジャンプして空中に移動すると足を思い切り伸ばしてセイバーを蹴り飛ばし、それから伸びた足でセイバーを薙ぎ払った。

 

2人のセイバーは地面に叩きつけられるとかなりのダメージを受けたようであり、双方共に【不屈の竜騎士】を使ってギリギリ生存した。それからHPだけは虚無のセイバーの効果を共有して徐々に回復していったが、精神的なダメージはかなりのものだった。

 

「まさか2人に分裂するなんて……」

 

「しかも1人1人が分身前と殆ど変わらない戦闘力とか化け物だろ」

 

セイバーが狼狽えていると2人のパラドクスは再びセイバーへと襲いかかってくる。しかも、パラドクスは相性の良い方のセイバーを選んで相手している。

 

月闇のセイバーは強力な闇魔法を使える代わりに力押しに弱く、パラドクスの赤いファイターの姿とは相性があまり良いとは言えない。最光のセイバーは遠距離からの飛び道具が使える上に防御性能が高い分、その性能差をエナジーアイテムで補える青いパズルの姿を相手するのは不利だった。

 

「「さぁ、どんどん行くぜー!」」

 

2人のパラドクスがセイバーに攻撃を加えようとしてくる瞬間、2人のセイバーは得物である剣を投げつけた。2人のパラドクスは当然それを避けるが、セイバーがわざわざ得物である聖剣を手放した意味がわからなかった。

 

だが、2人が聖剣を飛ばした先にいたのはもう1人のセイバーだった。つまり、2人はお互いが持つ聖剣を交換したのである。

 

「最光抜刀!【カラフルボディ】!」

 

「月闇抜刀!」

 

2人は剣を持つと一瞬にしてその姿を変化させて自分達のポジションを変えずに2人の扱う聖剣を一瞬にして入れ替えたのだ。

 

「「しまった!!」」

 

パラドクスはこの行動が自分から不利なセイバーを相手しに行く事になると気づくがもう遅い。

 

「【シャイニングブラスト】!」

 

「【呪縛の鎖】!」

 

最光のセイバーはファイターのパラドクスを相手に飛び道具を使って遠くから牽制。パラドクスを近づけさせなかった。月闇のセイバーも【呪縛の鎖】によってパラドクスの動きを封殺。そのまま月闇での斬撃を加えた。

 

2人のパラドクスはセイバーにしてやられるとダメージを負う事になるのだった。そして、パラドクスの分身にも時間制限がある。

 

「「おっと、もう時間か。」」

 

パラドクスはそう言うと元の1人に戻り、セイバーを見据えながらパラブレイガンを構えた。

 

「そういえば、月闇のセイバーはブレイブと融合しないのか?そっちの方がパワーが上がるんだろ?」

 

「悪いけど今は無理なんだ。ブレイブは呼び出せない」

 

「何人に分身してもテイムモンスターを出せるのは1人だけだ。ここで出すわけにはいかないんだよ」

 

「へぇ。そっちにも事情があるんだな。けど、それなら俺には勝てないぜ?」

 

パラドクスはそう言いながら月闇のセイバーへと走っていく。それを見た最光のセイバーが背後から光の斬撃波を放つ。しかし、パラドクスは背を向けたまま月闇のセイバーに突っ込んでいくとエナジーアイテムで防御を固める。

 

「【鋼鉄化】!」

 

パラドクスが【鋼鉄化】によってセイバーの攻撃を最小限のダメージで凌ぐとそのままパラブレイガンを投げ捨てて月闇のセイバーへと殴りかかった。

 

「ウラワザ!【ノックアウトスマッシュ】!」

 

パラドクスは瞬時にベルトのダイヤルを赤いファイターの柄を上にしてベルトのレバーを閉じて開き直すと右腕に炎を纏っていく。

 

「させるか!【暗黒クロス斬】!」

 

セイバーもスキルで対抗すると2つの攻撃がぶつかり合って相殺。爆発するとその衝撃で2人共ダメージを受けた。

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

その隙に最光のセイバーはパラドクスの背後から金と銀のクロス斬りを放つ。だが、パラドクスはそれを対策済みとばかりにパズルの障壁を背中に展開して防いだ。

 

「な!!」

 

「今はお前の相手をしてる場合じゃ無いんだよ。1人ずつ各個撃破させてもらうぜ。ウラワザ!」

 

パラドクスがそう言って跳びあがるとダイヤルを元に戻してからレバーを閉じて開き直す。すると今度はパラドクスの両足に赤と青のエネルギーが集約。そのまま月闇のセイバーへとドロップキックを放った。

 

「【パーフェクトノックアウトボンバー】!」

 

「負けてたまるかよ!【暗黒龍破撃】!」

 

セイバーもパラドクスに対抗して闇の龍の力を纏わせたキックを放つ。2人のキックはぶつかり合うと今度はパラドクスの方がセイバーをパワーで無理矢理押し切り、月闇のセイバーは大爆発を起こすとHPを0にされてしまった。

 

「うわぁあああああああ!!」

 

月闇のセイバーは何とか一矢報いるために月闇をパラドクスに投げつけるものの通用するはずもなく弾かれて消滅してしまった。

 

「呆気ないなぁ。とにかく、これで後はお前だけだ」

 

「ふふふふ……あははははは!!」

 

それを聞いた最光のセイバーは突如として笑い始めた。

 

「何がおかしい?」

 

「いやー、やっぱお前強いわ。2人がかりでも苦戦させられるなんてよ。けど、最後に勝つのは……俺だ!」

 

「そうこなくっちゃ。なら行くぜ」

 

「【光速移動】!」

 

最光のセイバーは光の速さで移動するとパラドクスが弾き飛ばした月闇を掴んで地面から引き抜いた。

 

「月闇、【大抜刀】!」

 

セイバーが最光と月闇の二刀流となるとその瞬間、2本の聖剣は共鳴するように光を放ち始めた。

 

「何だ!?」

 

「光と闇、相反する2つの属性。普通なら反発し合うこの2つの聖剣を俺は使いこなして見せた。そしてそれによって完成した俺の新たな必殺のスキル。見舞ってやるぜ!」

 

「ほう。なら見せてもらおうか。俺はその切り札を耐えてお前に勝つ!」

 

セイバーとしては満身創痍だった。【不屈の竜騎士】を消費してしまった以上、次のパラドクスからの強攻撃には耐えられないため短期決戦をするしか無くなっていた。そして、パラドクスもそれをわかっていたからこそセイバーに対抗していた。

 

「はぁああああああああ!!【ツインホールブレイク】!!」

 

セイバーが光と闇の聖剣を振るうとパラドクスの背後の次元が歪み、光と闇の2つの穴が出現。そしてそれが1つに合体すると巨大な穴となった。

 

「な、何だ……吸い込まれるぞ!?」

 

パラドクスが動揺している間に彼の体は巨大な穴の中に吸い込まれると穴が閉じていき、完全に閉じ切った瞬間に大爆発が発生。パラドクスに致命傷を与えるとパラドクスのHPは僅かとなった。そして、爆発が収まるとパラドクスが穴から解放されて地面に落とされた。

 

「く……まさかここまでの威力だとは……だが、俺は耐え切った。ここから反撃を……」

 

パラドクスがセイバーへと反撃を開始しようとしたその瞬間、セイバーの姿が揺らいで消えるとパラドクスの目の前に現れて彼を掴んだ。

 

「悪いけどお前に次は与えない。確かお前はマイとユイを倒す時に敗者に相応しいエンディングとか言ってたなぁ。お前にもそれを見せてやる」

 

それからパラドクスを2本の聖剣で斬りつけるとHPを1にし、最後にセイバーが跳びあがると必殺のキックを放つ体勢に入った。

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

セイバーの必殺キックはいつもとは違い、光と闇の力もキックに込められていた。それには最光と月闇の二刀流だということが関係しているだろう。

 

「あ……あぁ……」

 

その時、パラドクスの目の前に走馬灯が見え、心は恐怖に支配されていた。そしてセイバーのキックがパラドクスに直撃するとオーバキルとばかりにHPを消し飛ばしてパラドクスの体をポリゴンに変えていった。

 

「嫌だ……嫌だぁ!!負けたくない……終わりたくねーよ!!」

 

まるで子供のように駄々をこねるパラドクスにセイバーが背を向けるとそのままゆっくりと歩き去っていく。そしてそんなセイバーにもう自分は相手にもされないと感じたパラドクスは涙を流しながら消滅していった。

 

「パラド、俺の……勝ちだ」

 

セイバーはそれから再び月闇のセイバーを呼び出すと街の防衛戦に参加するべくプレイヤーの大群に向かっていったのだった。

 

———————————————————————

イベント3日目、現在の戦況

 

ブレイド対セイバー(本体)

 

ミィ対ペイン

 

カリス対キラー

 

セイバー(分身)×5(水と氷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

キャロル対セイバー(分身)

 

炎と雷の国の女王対サリー

 

マルクス、ミザリー対セイバー(分身)×2

 

マリア対ヒビキ

 

セイバー(分身)×2(炎と雷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        カリス

ヒビキ        ミィ

ペイン        パラドクス 脱落

キラー        マルクス

           ミザリー

           キャロル

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと作戦

セイバーがパラドクスを撃破した頃、炎と雷の国の城の内部でも戦いが激化していた。その戦いとは狼煙と界時のセイバー対ミザリー、マルクスのコンビである。

 

「【ホーリージャベリン】!」

 

「【遠隔設置・火の海】!」

 

「「無駄ぁ!!」」

 

狼煙のセイバーと界時のセイバーは2人の攻撃やトラップをものともせずに2人へと攻撃を仕掛けていく。2人は何とか躱す事ができているものの現状ではセイバーへの有効打が乏しく、攻撃をしても簡単に耐えられる上にトラップも無理矢理崩されていた。

 

「あぁ……全然効いてないよ」

 

「虚無のセイバーの回復能力が他のセイバーにも共有されているおかげで私達の攻撃が届いてませんね」

 

元々マルクスもミザリーもサポート向きのステータスやスキル構成なので火力を出せるエースが不在の状況下では仕方ないかに見えた。逆にセイバーは虚無のセイバーの効果もあって常にHPが回復されるので強気で攻めに転じていた。

 

「【魚群】!」

 

「【遠隔設置・岩壁】!」

 

「【インセクトショット】!」

 

セイバーが【魚群】で範囲攻撃を行い、マルクスに防御手段を取らせるとそこに狼煙のセイバーが走っていき、【魚群】を防いで脆くなった防御壁を突き崩す。しかし、そこには2人の姿がいなくなっていた。

 

「透明化……マルクスさんのモンスター、クリアの能力か」

 

実はこの時、セイバーの【ヘッドソナー】の効果で2人分の反応を検知していた。そのため、カメレオン型のマルクスのモンスター、クリアによって2人の姿が見えなくなっても狼煙と界時のセイバーにとっては見えているも同然である。

 

「隠れても無駄だ!【一時一閃】!」

 

界時のセイバーが2人がいる位置へとスキルによる水の斬撃を飛ばすとそれがミザリーが展開した障壁に命中して防がれた。しかし、障壁を展開したという事は同時に姿を晒したも同然である。界時のセイバーはそれを逃すことなく界時スピアで攻撃をしに行った。

 

「こっちも【透視の目】!」

 

狼煙のセイバーも罠の位置と透明化を破るスキルを使用してマルクスの居場所と踏んではいけない場所を見抜くと罠を避けながらマルクスに向かって突きを放った。

 

「くっ、【遠隔設置・岩壁】!」

 

仕方なくマルクスも【透明化】を解除して防御策を取る。狼煙と界時の能力はマルクスを相手にした場合、相性が良すぎるのだ。罠は狼煙のセイバーの煙化で脱出が可能な物が殆どであり、障壁も界時のセイバーの【界時抹消】を使えばただの障害物でしかない。

 

「これは旗色が悪すぎるよ……」

 

「ここまで対策されるとどうしようもありませんね」

 

「残念ですがマルクスさんの得意な戦法は対策済みです。不意打ちをしたいのであればいつもと違う戦術で来るのをお勧めしますよ」

 

2人にも隠し玉であるスキルが無いわけではない。当然このイベントを想定した奥の手は存在する。しかし、それをこの段階で切るのは早すぎると考えており中々2人は切り札を使おうとしなかった。

 

「取り敢えず、奥の手を使わないならさっさと倒させてもらいます」

 

「ひとまず城の中で戦うのは不利だね。外に出よう」

 

マルクスの言葉にミザリーも頷いた。元々2人の戦い方は味方がいてこそ輝ける。現状の2対2では相性が悪すぎると踏んで一旦外に出るために行動を開始した。

 

「ベル、【覚醒】、【聖なる鎖】!」

 

ミザリーはベルを呼び出すと2人のセイバーを捕まえるとそのまま拘束した。狼煙のセイバーは煙化で抜け出そうとするものの何故か煙化ができなかった。

 

「何!?」

 

「【遠隔設置・起爆】【遠隔設置・爆風】!」

 

マルクスが近くの壁に向かって粘着式の爆弾を投げると壁に張り付いて爆発、壁に大穴が空いた。加えて爆風を吹かせてセイバーを穴の空いた壁から吹き飛ばして無理矢理王城の外へと出させた。

 

「チッ……【魚群】!」

 

界時のセイバーは【魚群】を呼び出すとクッションの代わりに使用して落下ダメージを抑えた。そして、ミザリーとマルクスも2人を追って王城から出てきた。すると城下町に存在する他のギルドのプレイヤーたちが集まってきてマルクス、ミザリーと共に2人のセイバーを取り囲んだ。

 

「随分と大勢で囲みましたね」

 

「そうすれば勝てると思いましたか」

 

「私達2人だけでは勝てなくとも、皆さんの協力があれば!」

 

「セイバーにだって勝てる。【遠隔設置・城砦】!」

 

マルクスがとっておきのスキルを使用すると城下町そのものに櫓や塔が設置されていき、堅固な城砦へと変化していった。ただ、セイバーはこのことに疑念を抱いていた。本来であれば城砦は城砦の外にいる敵からの攻撃を防御するものであり、その内側に敵がいたのでは意味が無いないのではないかと。

 

実際の所、マルクスとしてもこの設置は賭けであった。城の内部に始めから敵がいる状態だと外堀や城壁が機能しないので実質的に城砦の強みがいくらか失われてしまっている。そして、城砦は自分1人で使うものでは無いので他のプレイヤー達の使い方次第では残されている機能も使い物にならないかもしれない。しかし、マルクスの心配は杞憂に終わり、プレイヤー達は櫓などに登ると高所からセイバーへと射撃を開始した。

 

「おいおい、中々面倒だな」

 

「激土や錫音の俺達と連携したいけど、今遠いんだよな」

 

同じく城下町で暴れ回っている激土や錫音のセイバーもいるので味方がいないわけでは無いのだが、他の面々は自分達の城の守備で手一杯なので援軍が来る可能性は無いも等しいだろう。どうにかして自分達4人だけで倒し切るしか道は無い。幸いにも一度に大ダメージを受けなければ勝手にHPが回復するのでセイバー軍団は半ば無敵のようなものである。

 

「取り敢えず、周りのプレイヤーを倒しつつあの2人を狙うぞ」

 

「ああ、ミザリーさんを放っておくと相手も無限に回復しそうだしな」

 

セイバーはマルクスとミザリーの2人が奥の方へと退避する前に仕留めるべく2人へと走っていく。そしてその事は2人もわかっているので罠で足止めしつつ引く作戦に出た。

 

「【遠隔設置・岩棘】!【遠隔設置・氷柱落とし】!」

 

「【狼煙霧中】!」

 

狼煙のセイバーが煙化を使ってマルクスの罠を掻い潜る中、城の中にいる敵プレイヤーの前衛陣はミザリーを逃しつつセイバーを速攻で仕留めるために向かってくる。

 

「邪魔だ!【ビーニードル】!」

 

セイバーが狼煙と蜂の針を模した武器の二刀流でプレイヤー達を蹴散らしていく。それを見たマルクスも撤退しようとするが、界時のセイバーはそれを逃さない。

 

「【界時抹消】!」

 

界時のセイバーが撤退しようとする2人を追撃。逃げる先に回り込んでいく。

 

「【再界時】!」

 

セイバーが特殊空間から出てくるとマルクスへと界時スピアを振り下ろす。マルクスはそれをまともに受けると大きなダメージを負うがそれはミザリーの回復スキルで復活した。

 

「やっぱミザリーさんを先に倒さないと無限に復活されるなぁ……」

 

セイバーが困っているとそこに魔法や矢の雨が降り注いだ。近くの櫓にいるプレイヤー達がセイバーにターゲットを合わせて攻撃してきたからである。

 

「鬱陶しいな。こうなったら、【神獣招来】!」

 

セイバーが久しぶりに【神獣招来】のスキルを使用すると今回はライオンの頭と山羊の胴体、蛇の尻尾を持つ多種の生物の特徴を合体させたキマイラと呼ばれるモンスターだった。

 

「キマイラ、アイツらを相手していてくれ!」

 

セイバーがキマイラに指示を出すとキマイラは近くにある櫓を次々と襲い、破壊していく。そのパワーは圧倒的であり普通のプレイヤーでは手も足も出なかった。厳密には反撃していたのだが、ダメージが全く入らないのだ。これは【神獣招来】のスキルによって呼び出された神獣にはHPの概念が存在しないからである。ただし、召喚時間に限りがあるので無敵と言うわけでは無いが。

 

しかし、そうこうしている内に界時のセイバーは2人を見失ってしまった。【ヘッドソナー】で居場所にある程度の検討はつくが、今から向かうにはまず邪魔な敵兵を蹴散らさなければならなかったからである。

 

「仕方ない。こうなったらお前ら全員ぶっ倒してから探すとしよう!」

 

その頃、マルクスとミザリーの方はなんとかセイバーからの追撃を逃れていた。

 

「なんとか逃げ切れましたね」

 

「セイバーも城下町の方に引きずり下ろせたから僕達はこのままセイバー軍団をこの街で足止めすれば良いだけだ」

 

「ですが、胸騒ぎがします」

 

「どうして?」

 

「あのセイバーが私達を簡単に逃すはずがありません。何か作戦がありそうな気がして……」

 

ミザリーが言い終わらない内に近くの家が吹き飛ばされるとそこから激土のセイバーと錫音のセイバーがプレイヤーを倒しながらやってきていた。

 

「【ワイドレンジリザレクト】!」

 

ミザリーが咄嗟に発動した広範囲蘇生スキルで倒されたプレイヤー達が蘇生されていく。

 

「あらら、ミザリーさんがいると厄介だな」

 

「さっさと倒すとしましょうか」

 

ここに来て激土と錫音のセイバーに捕捉されたミザリーとマルクス。すると先程までセイバーに会った瞬間逃げようとしていたミザリーだったが、それを止めてセイバーを見据えた。

 

「お、追いかけっこはおしまいですか?」

 

「やはりセイバーの狙いが私なのでしたら私が直接彼を倒します」

 

「ミザリー、アレを使うの?」

 

マルクスのその言葉にミザリーは頷くとマルクスは仕方ないと言わんばかりにミザリーの隣に立った。

 

「なら僕も行くよ。僕がサポートしてセイバーの動きを足止めするからその隙に」

 

「はい。お願いします」

 

セイバーは2人のそのやり取りに違和感を覚えた。そもそも、ミザリーはアタッカーになるようなスキル構成をしていない。その事もあってセイバーはミザリーが何をしてくるか気になり警戒した。

 

「【ホーリーウイング】!」

 

ミザリーがそう言うと背中から白カラスの翼が広げられて彼女を包み込んだ。すると周囲に白い羽が大量に舞う中で装備が光と共に変化していった。聖女のような服から水色のアンダースーツに白いアーマーが所々に付与された物へと変わっていき、帽子は消えて代わりに白カラスの頭を模したヘッドギアが装着された。

 

「見た所、悪しき者に裁きを下す天使みたいですね。中々強そうですよ」

 

「これを使ったからには絶対に勝ちますよ。【ホーリーショット】!」

 

ミザリーが杖を翳すと白と水色の弾丸が生成。それがセイバーへと飛んでいく。激土のセイバーは激土を盾にして防御するものの、その威力の高さに少し後ろへと下がった。

 

「【遠隔設置・砂地獄】!」

 

マルクスがセイバーの足元が砂へと変化すると足がズブズブと沈み始めた。それを見たセイバーは何とかその場から逃れようとするものの、中々抜け出すことができなかった。

 

「これはヤバイ。ただでさえこっちは数で負けてるのにこれじゃあただの的じゃねーかよ」

 

2人のセイバーはこの状況に危機感を抱いていた。このままでは【砂地獄】に囚われたまま集中砲火を受けて負けてしまうだろう。

 

「こうなったら強行突破だ!【スナックウォール】!」

 

錫音のセイバーがイベント2日目に見せた【スナックウォール】を足元に出すことによるカタパルト脱出を行なって2人は空へと跳んだ。しかし、それこそがミザリーの狙いだった。ミザリーは空へと離脱した2人を見ると自分も背中の翼を模した装飾から翼を展開。空へと飛翔した。

 

「嘘ぉ!!空も飛べるんですか!?」

 

「【シャイニングレイン】!」

 

ミザリーが杖を掲げた瞬間、空から光の光弾が降り注ぎ、空中にいて身動きが取れない2人のセイバーを狙い撃ちしていく。そのまま2人は撃墜されると地面に叩きつけられた。

 

「「く……う……」」

 

「今がチャンスだよ。一斉攻撃だ」

 

そこにチャンスは逃さないとばかりにセイバーの周囲からの一斉射撃が襲っていく。

 

2人のセイバーは咄嗟に岩やお菓子の壁で防御をするものの焼け石に水である。防ぐどころか僅かな時間で粉砕されると2人を容赦の無い魔法攻撃が襲った。

 

「「【精霊の光】!」」

 

何とか時間制限付きの無敵になるスキルを使ってギリギリ生存するものの【不屈の竜騎士】を使わされてしまい一瞬の出来事だったが、受けた被害は甚大だった。

 

「これは不味いな」

 

「ただでさえ敵が多すぎるのにミザリーさんのパワーアップとかもうやりすぎでしょ」

 

圧倒的不利なこの状況にセイバーは愚痴をこぼすがそれでも負けるつもりは無いのかすぐに対応策を取った。

 

「だったら特大のスキルを見舞ってやるぜ。問答無用!」

 

すると激土のセイバーが持つ激土の刀身に岩や土が集まっていき巨大な大剣と化していく。その大きさはいつもの数倍であり、それが構成されていく程にセイバーがする事を以前までのイベントで知っている者達は激土の特性上防御は無意味と考えて攻撃体勢に入る。

 

「させねーよ。【鍵盤演奏】!」

 

そこに錫音のセイバーが鍵盤を演奏しつつ出現させた五線譜と音符が周囲のプレイヤー達の妨害をしていった。当然の事だがこれも知っているプレイヤー相手には中々通用しないだろう。それでも攻撃の手を一瞬鈍らせる事はできる。そしてそれは激土のセイバーの必殺のスキルをチャージする時間を稼いだ。

 

「失せろ。雑魚どもが!【大断断斬】!」

 

セイバーが周囲を薙ぎ払うように激土を振るうと周りに集まっていたプレイヤーは障害物ごと叩き切られ、直撃を受けた者は一撃で死亡し、櫓や家の屋根などの高い位置にいた者も家や櫓が崩れて地面へと落とされた。それを見たミザリーは死亡直後に有効となる蘇生スキルを使おうとするがそこに待ったをかけるかのように錫音のセイバーがガンモードの錫音を撃ちまくる。

 

「スキルの詠唱はさせないぜ?」

 

錫音のセイバーが先程同様にカタパルト方式の跳躍でミザリーへと肉薄するとスキル詠唱を妨げるように錫音で攻撃を仕掛ける。

 

「くっ……」

 

そして、ミザリーは詠唱のタイミングを逃してしまい多くの犠牲を出すことになってしまった。

 

「こうなりましたらあなた達だけでも仕留めます。【ホーリーフィニッシュ】!」

 

錫音のセイバーがミザリーを斬り捨てるために錫音を振り下ろすが突如としてミザリーは白い羽をばら撒きながら姿を消した。そして錫音のセイバーが気配を感じて振り返るとそこにはミザリーが空中でキックの体勢に入っていた。

 

「はあっ!」

 

空中で身動きが取れない錫音のセイバーは攻撃を受けると【不屈の竜騎士】を失っている事もあってかHPを削り切られて消滅し、続けてミザリーの狙いは地上でプレイヤーを葬っている激土のセイバーに向いた。

 

「今度はあなたです!」

 

ミザリーが空中を飛行しながら光弾を当てて激土のセイバーを牽制すると激土のセイバーもそれを受けてミザリーに目標を変えた。そこに今まで鳴りを潜めていたトラッパーことマルクスが仕掛けを発動する。

 

「今だ。【クラッシュボム】!」

 

「な!?」

 

先程の【大断断斬】の際にテイムモンスター、クリアの能力、【透明化】を駆使して潜んでいたマルクスが仕掛けていた罠を発動。地面が大爆発を起こして激土のセイバーの視界を奪った。これが狼煙や界時のセイバー相手にやったら見抜かれて失敗した可能性が高かっただろう。しかし、激土のセイバーに透視能力や危険回避スキルは無い。

 

「ありがとうございます、マルクス。【ウイニングフィナーレ】!」

 

ミザリーが杖から白い光を輝かせた巨大な光弾を生成。視界を奪われて混乱しているセイバーへと叩き込んだ。激土のセイバーはそれを受けると大ダメージを受けて吹き飛ばされた。そして、HPを0にすると消滅することになる。

 

「ふう。何とか勝てたね」

 

「サポートをありがとうございます。マルクスのお陰でかなりやりやすかったですよ」

 

「一先ずこれでセイバーの猛攻は凌げたかな?」

 

安心感を募らせるマルクス。しかし、2人は勝利の影響で一時的に忘れていた。まだセイバーの分身は近くに残っているという事を。

 

「【煙幕幻想撃】!」

 

すると突如としてマルクスの背中に衝撃が走るとマルクスが後ろから狼煙で貫かれていた。

 

「……え?」

 

「悪いですけどこれで終わりです。マルクスさん」

 

2人はごく僅かだったが安心した。それが油断を作り、隙を生ませた。それを見逃すほどセイバーは甘くない。

 

「あなたもです。ミザリーさん【再界時】!」

 

その瞬間、突如として2人の目の前に界時のセイバーが現れ、ミザリーの体へと界時を突き刺した。何故急にマルクスとミザリーから離れたはずの2人が現れたのか。疑問に思った人もいるだろう。実は彼の作戦は激土と錫音のセイバーがマルクスとミザリーを捕捉した所から始まっていた。

 

「激土と錫音の俺は囮です。敢えて正面からぶつける事で2人に奥の手を出させることが狙いだったんですよ。まさかこうも簡単に出してくれるとは思いませんでしたが」

 

「そして奥の手を出させた後は程よく善戦しながら時間を稼いだ。この間に界時と狼煙の俺は2人との距離を詰めたんです。場所は分身の俺がマーカー代わりになってくれましたのですぐにわかりました」

 

「まさか……でしたらセイバーがあんなにあっさりとやられたのも」

 

「全部作戦通りですよ」

 

人は誰しも相手との勝負に勝った直後は心に隙が生まれるものである。その瞬間、体にも大きな隙を生む。その時間は人それぞれだがセイバーの観察眼はそれを簡単に見抜く事ができる。そこで激土と錫音のセイバーにやられ役をやってもらい気が緩んだ所に狼煙と界時のセイバーが不意打ちをかけたのだ。

 

「油断大敵。戦場では一瞬の油断が隙になるんですよ。そこを突き、上手くいけば勝ちを引く事もできる。誉められた戦法じゃないのは承知してますよ。でも、今は勝つ事が全てなので」

 

「【昆虫煙舞】!」

 

「【大海三刻突き】!」

 

2人のセイバーがマルクスとミザリーにトドメのスキルを使用すると2人のHPがガクンガクンと減少していく。

 

「【遠隔設置・毒霧】!」

 

マルクスが咄嗟に毒の霧を発生させるとセイバーに少しでもダメージを与えて攻撃を中断させようとした。しかしセイバーには【毒耐性大】がありそこまでの痛手にはならなかった。

 

「ベル、【覚醒】!【叡智の光】!」

 

ミザリーが猫のテイムモンスター、ベルにスキルを使わせると光が2人を包んでいき瀕死近くにまで減ったHPを回復させていく。それを見たセイバーはすぐに対応した。

 

「ブレイブ、【覚醒】!あのモンスターを狙え。【ドラゴンファング】!」

 

セイバーはブレイブに2人を回復させている邪魔なモンスターを始末させるためにスキルを発動させて攻撃をしていく。ベルはそれを見て逃げの一手を取るがすぐに捕まると体に深くブレイブの牙が突き刺さり致命傷を負った。やはりレベルがある程度上がっているとはいえ一度進化しているブレイブとベルではスペックに差がありすぎた。

 

「ベル!」

 

「クリア、【覚醒】!【粘着の舌】!」

 

マルクスがクリアを呼び出すと粘着性を付与した長く伸びる舌でブレイブを絡め取るとそのまま地面へと叩きつけようとした。

 

「ブレイブ、そのまま引き摺れ」

 

しかし、ブレイブとクリアの間にもスペック差が存在する影響かクリアはそのままブレイブのパワーに引き摺られていく。そして、2人のセイバーはミザリーとマルクスをガッチリと拘束しながら突き刺した剣を離さない。そのせいで折角回復したHPがまたゴリゴリと減っていく。

 

「もう逃しませんよ。ここで終わりにします」

 

周囲にいるプレイヤー達はそれを見てセイバーへと攻撃を仕掛けるが、セイバーには何もかも通用しなかった。

 

「【界時抹消】!」

 

界時のセイバーがマルクスとミザリーも含めて抹消に巻き込むと2人の位置を移動させて攻撃を回避。そのまま【再界時】して攻撃を継続していく。数十秒後、とうとう2人のHPが完全に消えてしまった。

 

「はぁ、また負けかぁ……」

 

「申し訳ありません、ミィ」

 

2人は最期の言葉を残すと消滅し、その場には2人のセイバーが残っていた。

 

「さてと、【分身】!」

 

「激土」

 

「錫音」

 

「「抜刀!」」

 

セイバーが増えた所を見た街中のプレイヤー達はセイバーへと攻撃を仕掛けるが、セイバーは全く油断していなかった。

 

「「「「さぁ、ここからは雑魚掃除と行こうか」」」」

 

そう言って4人のセイバーは街にいるプレイヤー達を一掃するためにそれぞれの方向へと散らばっていくのであった。

 

 

———————————————————————

イベント3日目、現在の戦況

 

ブレイド対セイバー(本体)

 

ミィ対ペイン

 

カリス対キラー

 

セイバー(分身)×5(水と氷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

キャロル対セイバー(分身)

 

炎と雷の国の女王対サリー

 

マリア対ヒビキ

 

セイバー(分身)×4(炎と雷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        カリス

ヒビキ        ミィ

ペイン        マルクス 脱落

キラー        ミザリー 脱落

           キャロル

           マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと因縁対決

セイバーが作戦を成功させてマルクスとミザリーを撃破した頃、水と氷の国の王城に存在する城下町では光の奔流とマグマがぶつかり合っていた。そこでは新たな力を使って相手を倒そうと死闘を繰り広げるペインとミィがいた。

 

「【迸る溶岩】、【マグマストーム】!」

 

「【聖なる剣】、【シャイニングソード】!」

 

2人のスキルの激突が余波を生み出し、周囲にいるプレイヤーをも巻き込んで粉砕していく。こうなってしまうと他の誰にも止める事はできない。どちらかが倒れるまで撃ち合いは継続する。しかし、スキルの構成的にはミィの方が攻撃寄りであるのと、高火力の代わりに燃費がとてつもなく悪いので普通にやり合えばバランスが取れているペインが勝ち易くなるだろう。

 

つまり、この勝負の行方はペインがミィの攻撃をどれだけ凌げるかに掛かっていると言っても過言ではない。

 

「うぅ……ペインに強力なスキルが多すぎて私の攻撃が全部凌がれる……」

 

「伊達にここまでトップクラスの実力を保持し続けたわけじゃないからね。そしてそれはミィ、君もだろう?」

 

「そうだけど……」

 

ミィは素の自分でペインとやり取りをしているが、実際ペインの力にはこれまでもかなり悩まされてきた。自分が成長した分だけペインもパワーアップしているので実質的な2人の実力は同じくらいに落ち着いている。

 

「そろそろ流れを変えさせてもらうよ。【ホーリーソード】!」

 

するとペインの周囲に光の剣か大量に出現。そしてそれがミィへと飛んでいくと彼女の周囲に着弾していくが、1発たりとも彼女自身には当たらない。

 

「どこを狙って……!!【マグマウォール】」

 

ミィはペインの狙いに気付いたのかすぐに自分にマグマを纏わせるとそのまま黒く固まった。ミィが防御を強化したのに対してペインは強攻撃の体勢に入る。

 

「防御が苦手なミィに凌げるかな?【断罪ノ聖剣】!」

 

ペインが一撃必殺の大技をミィへと解き放つと光の奔流が彼女を飲み込んでいく。そして、その光が収まるとマグマが冷え固められた黒い物体は粉々に砕けると中からHPを8割失ったミィが出てきた。

 

「あ、危なかった。まさかここまでの威力だなんて」

 

「俺も凌がれるとは思わなかったな。確実に仕留めたと思ったよ」

 

「今度は私の番だよ。【黎明】」

 

するとミィのマグマに白い物が混じっていく。その効果は次の攻撃をダメージ無効スキルで防げなくする事である。これによってペインは次の攻撃のダメージをまともに受けなくてはならなかった。

 

「こうなったら出し惜しみはできないね。レイ、【覚醒】!【聖竜ノ怒り】!【騎士ノ聖剣】!」

 

前回はレイに防御スキルを使わせたペインだったが、今回はその対策を取るスキルを使うと読んでいたので今回は防御して凌ぐのでは無く、攻撃に攻撃をぶつけて防ぐことにした。

 

「行くよ。【ギガントインフェルノ】!」

 

以前使った【インフェルノ】の強化バージョン、【ギガントインフェルノ】をミィが使用すると前回の比では無いほどの広範囲の物やプレイヤーを焼き払っていく。ペインはその熱を高威力スキルをぶつける事で相殺していくが、それでも防ぎきれずにHPを削られていきミィと同じくHP8割を持っていかれた。

 

「流石はミィだね。すぐに取り返すか」

 

「これでもダメかぁ……自身無くしちゃうよ」

 

「いや、俺の高火力スキルを圧倒的に上回ったその威力。並のプレイヤーなら一撃死だ」

 

実際の所、ペインとミィは耐え切ったものの、その周囲にいたプレイヤーに耐えられるわけがなく余波を受けて次々と倒されていった。彼らにとって不幸だったのはこの2人の近くで戦いをしてしまった事だろう。2人はそれぞれポーションで減ったHPとMPを回復させると次の攻撃に備えて準備していく。

 

「【マグマナックル】!」

 

ミィが両手拳にマグマを纏わせると魔法使いがしないようなインファイターの構えを取った。彼女のその構え方にペインは見覚えを感じていた。

 

「もしかしてその構え方、パラドクスの赤いファイターの構えか」

 

「えへへ、そうだよ。でも私がやりやすいように少し変えてるけどね。これでちょっと苦手だった近距離戦もバッチリってわけ」

 

「確かに今までなら遠距離から高火力をぶつけるって感じだったけどそれなら白兵戦になっても行けそうだな」

 

ミィはそれからペインへと走っていくとマグマの拳でパンチを繰り出していく。その動きは洗練されており、パラドクスやヒビキにも引けを取らない程の鋭さだった。ペインはそれを得物である剣で受け止め、防御していく。

 

「重く鋭い拳だ。これは使いこなすために相当努力したっていうのが伝わってくる」

 

「褒めているところ悪いけど対策しないならそのまま倒すよ」

 

ミィはアッパーでペインの剣を弾くとガラ空きとなった腹へと拳を叩きつける。それから炎を纏わせた足で回し蹴りを行い彼に確実なダメージを与えていく。それを受けたペインも黙ってはいない。剣に氷の力を高めるとそれを地面に突き立てた。そのまま地面を凍らせていきミィも足元から順番に凍っていき全身を凍らされてしまった。

 

「無駄だよ」

 

しかし、マグマを相手に氷状態が通用するはずがなく簡単に溶かされると全身に被った水もマグマの熱で一瞬で蒸発した。

 

「氷が効かないのなら炎で!」

 

ペインが続けて炎の剣を構えるとミィへと斬りかかっていく。しかし、炎の力はミィの得意分野。自分が扱う系統の能力で負けるつもりは無い。ミィは火球を召喚するとペインへと射出した。

 

「【爆炎】!」

 

「【火炎ノ剣】!」

 

2つのスキルがぶつかり合うが、装備の効果で炎属性の攻撃が上昇している分威力はミィの方が上であり、ペインは衝撃で後ろへと下がった。

 

「【炎の翼】、【爆炎龍】!イグニス、【獄炎】!」

 

ミィは虚無のセイバーが使うスキルと同じ物を使用してその名の通り炎で形成された翼を展開すると空へと飛翔するとマグマの龍を召喚。イグニスの攻撃に合わせてペインへと襲い掛からせた。

 

「レイ、【聖竜ノ加護】!」

 

ペインがテイムモンスター、レイに防御を任せるとすぐに自身も背中に白い翼を展開。空を飛ぶと手にした聖剣でミィを斬りつけようとする。

それに対してミィは先程と同様にマグマを両手に纏わせて攻撃に対応。聖剣と拳がぶつかる度にその威力で衝撃波が起きていった。

 

「レイ、【流星群】!」

 

ペインはミィを撃ち落とすために彼女の上から隕石を大量に降らせる。しかし、ミィはそれを紙一重で避け続けていきそのままペインへと距離を詰めていく。

 

「イグニス、レイに【ヘルファイア】!」

 

「レイ、【聖竜ノ波動】!」

 

ミィは先にペインのモンスター、レイを潰すためにイグニスに攻撃を指示、レイもそれを受け止めるためにエネルギー波を放つ。それぞれの攻撃は相手に命中すると互いにダメージを受けていった。すると突如としてペインの体にオーラが立ち昇っていった。

 

「ペインにオーラが出た?」

 

「この装備の効果。味方がダメージを受けると自分のステータスが自動で上がっていく」

 

ペインの説明通り、彼の装備には味方がダメージを負うたびにステータスを2%ずつ上昇させていくバフがかかっていく。そしてそれは自分のテイムモンスターがダメージを受けた際でも有効である。

 

「厄介ね」

 

「でも君はレイを倒したい。そしてそのためには攻撃をするしかないよ」

 

「イグニス、【消えぬ猛火】!」

 

ミィがイグニスにレイを攻撃させるがレイはそれを受け止めると耐え切った。そしてそれによってペインが更に強化されていく。

 

「まだ倒れない。けど、攻撃していればいつかは……」

 

「甘いね。【聖なる光】!」

 

ペインから光が放たれるとそれがレイを包んでいき減らされていたHPをみるみるうちに回復させていった。ペインにレイを回復させる手段があるという事は早い内に仕留めなければ無限にHPを回復されつつステータスも上げられるだろう。そこでミィも対策を取った。

 

「うぅ……だったら、大技で仕留める!イグニス、【不死鳥の炎】【我が身を火に】!」

 

ミィの指示と共にイグニスがミィの体を包んでいき、彼女の攻撃性能をサポートする。それによってただでさえパワーアップしていたミィの火力が更に膨れ上がっていく。

 

「【猛光火砕龍(マグマライズドラゴン)】!」

 

ミィが最高クラスのスキルを発動。一撃でレイを葬るために8体の龍を呼び出すと5体をペインに、3体をレイに向かわせる。何故ペインにもドラゴンを向かわせたのか。それはペインが横槍を入れる事でレイを仕留め損なう事になるのを嫌ったためである。

 

龍達がペインとレイを襲うとレイはその圧倒的な火力を前に仕留められる事になり、ペインも少なからずダメージを受ける事になった。

 

「レイを倒すとはやるな。けど、それは失敗だったようだね」

 

「え?」

 

すると先程まで纏っていたペインのオーラが更に激しく輝き、光を強めていった。

 

「どういう事?ペインのオーラが……」

 

「流石にこれを教えると警戒されるからな。その身を持って体感してもらうよ。【タドルフィニッシュ】!」

 

ペインがスキルを使うと聖剣が白く輝き、ミィへと突撃していく。その圧力と殺気にミィは一瞬たじろいで攻撃を回避する反応が遅れてしまった。

 

「しまっ……」

 

その瞬間、イグニスがミィを庇うように前に出ると翼を広げて彼女の代わりに聖剣の一撃を受けた。すると物凄い量のダメージエフェクトと共に消滅、撃破されてしまった。

 

「イグニス!!」

 

「防がれたか。でも、イグニスを倒したしこれで互いにテイムモンスターを失う形か」

 

実はこの火力を常時出す事はできない。何故ならこの超火力は味方が死亡した直後の攻撃にしか適用されないからである。効果の詳細は味方が戦闘不能に陥った際、次に放つスキルの威力を倍に増幅させるという物である。それによってペインは一度きりの超火力を叩き出したのだ。欲を言えばこの一撃をミィに当てたかったが防がれたものは仕方ないと割り切っていた。

 

「イグニスの仇、絶対に取るからね。ペイン!」

 

「そうはいかないな。逆に俺が君を倒させてもらおうか」

 

2人はそう言いながら再度激突。今度はミィがマグマで剣を生成すると敢えてペインとの斬り合いを始めた。何故ミィは自分の得意な遠距離戦では無く剣での斬り合いを選んだのか。それはペインの太刀筋を改めて見極めるのと次のスキルを発動するまでの時間稼ぎである。

 

「わざわざ俺の得意分野で勝負するとは何かあるね。ミィ」

 

「それを教えるつもりは無いよ。でもあんまり時間をかけすぎないようにする事をお勧めするね」

 

「それは親切にどうも!」

 

ペインはミィの翼を叩き折るとミィもペインの翼を切り裂いた。2人は互いに片翼を失って落下を開始。2人は地面へと叩きつけられるとダメージを負った。VITの影響でミィの方がダメージ割合が大きかったが、致命傷にはならなかったのでそのまま戦いを続行する。

 

「【ホーリーソード】!」

 

ペインがミィと距離を取ると空中に光の剣を出現させつつ中距離からミィを狙っていく。ミィはペインの方から自分の得意な中距離戦を選んでくれた事に困惑しつつもこれに乗らない手はないとミィも炎弾で対応する。

 

「何のつもりかわからないけど私に有利な間合いで来るとはね」

 

ミィはそう言いながら容赦なくペインへと炎の雨を浴びせていく。ペインはそれを防御スキルや剣捌きで凌ぎつつミィのスキルとスキルの間に生じる間を探っていく。

 

「(ミィが攻撃をスキル頼みにしている以上、どこかに隙ができるはず。その瞬間にこっちの切り札を使って倒す!)」

 

「【炎の雨】!」

 

ペインがミィの猛攻撃を防ぎ続けており、それを受けてミィも焦りが出てきていた。自分が有利な戦いを仕掛けているはずなのに未だにペインが崩れないので焦るのも無理はないだろう。しかし、その焦りは攻撃を単調にし、隙が生まれる事に繋がる。

 

「【蒼炎帝】!」

 

ミィが大技、【蒼炎帝】を使うとその直後に次の攻撃を発射する前にMPの補充が必要となりポーションを飲んだ。ペインはその時を待っていた。

 

「【退魔ノ聖剣】!」

 

ペインは強制的に前進するスキルを発動するとミィの【蒼炎帝】をスキルの一撃で真っ二つに斬り裂き、ミィの目の前にまで肉薄した。ミィはポーションを飲んだばかりですぐには反応できない。そして、ペインは既に攻撃の体勢に入っている。

 

「【破砕ノ聖剣】!」

 

ペインの一撃がミィを両断すると彼女のHPを根こそぎ刈り取り、彼女を撃破したかに思えた。しかしミィはHP1で耐えており、ギリギリで生存。そしてスキルの効果が切れたばかりのペインへと反撃を繰り出す。

 

「【ボルケニックアタック】!」

 

ミィが右腕にマグマの龍を纏わせるとそのままストレートパンチを繰り出してペインへと命中させ、彼の攻撃を確定で耐えるスキルを発動させた。

 

「くっ……まさか凌がれるとは……迂闊だったね」

 

「私も焦って大技を使っちゃった。次からは使い所を考えないと」

 

それから2人は睨み合うとそれからすぐにミィから炎弾が放たれていった。ペインはそれを剣や盾で捌くが、今度はHPを1残して耐えるなどという事は起きない。そしてそれはミィも同じ事。お互いに切り札となる防御スキルを使わされて慎重な戦いを強いられていた。

 

「もう一度近づければ良いんだがこの攻撃の密度では……」

 

「させないよペイン。もう接近する機会は与えない」

 

ミィの攻撃の圧の上昇に伴って消費されるMPも莫大な物になるが、今度は回復するタイミングは効果が長いスキルを使ってカバーしており隙を作らない立ち回りをしていった。

 

「こうなったら被弾覚悟で行くしか無さそうだな。【精霊の光】!」

 

ペインは10秒間のみ無敵となるスキルを使うと敢えてミィの攻撃の中へと突っ込んでいった。

 

「来た!その無敵時間、長くは続かないよね。【ボルケニックフィニッシュ】!」

 

ミィはペインが突っ込んでくるタイミングを狙って自分も前進しながらカウンターのキックを放つ。ミィの想定ではペインはまさかミィが突っ込んでくるとは思わずに前進しながら剣で攻撃するスキルを使うという内容を考えていた。そこに合わせてカウンターのキックでトドメを刺す。そのような筋書きを描いていたが、その考えは簡単に外れてしまう事になる。

 

「【タドルストライク】!」

 

「!?」

 

ペインは自ら聖剣と盾を投げ捨てると光の力を足に集約。そのまま白い翼を広げながらキックを放った。そしてそれはマグマの龍を纏いながらキックを放つミィも同様だった。2人はすれ違い様にキックをお互いの胸へと決め、2人は大爆発と共に相手へと背中を向けながら着地した。

 

「「はぁ……はぁ……」」

 

2人は息を荒げながら立ち上がるが、それぞれのHPゲージは0を示しており互いに相手へと致命傷を与えていたことがわかった。そして、2人はそれぞれポリゴンとなると消え始めた。

 

「どうやら、今回は引き分けのようだね」

 

「引き分け……私は勝ちたかったなぁ」

 

「それはお互い様だよ」

 

2人はそれぞれ笑みを浮かべるとこの勝負に決着はつかなかった事を確認して消滅していくのだった。

 

ペインとミィの戦いに決着が付いた頃、キラーとカリスの勝負も佳境に差し掛かっていた。キラーが謎のオーラを使用してからというものの、戦況はキラーがカリスを終始圧倒し続けていた。

 

「散々俺を挑発しておいてその程度か?お前の力は!!」

 

キラーは赤黒いオーラを更に大きく膨れ上がらせるとカリスを蹂躙していく。その勢いに押されてカリスは劣勢に立たされていた。

 

キラーの動きが少しずつだが良くなっているのだ。まるで、何かのバフがかかってるかのように……。

 

「俺の怒りは最高潮だ!!」

 

キラーはそう言いながら赤黒く禍々しい力を高めたダインスレイヴでカリスを斬りつけてから回し蹴りを喰らわせた。カリスはそれを受けると後ろへと下がった。

 

「この力、何かをトリガーにしてステータスを上昇させているな。だが、そのトリガーは一体……まさか」

 

カリスは思い当たる可能性として1番有り得る物を試すためにキラーの攻撃を受け止めて反撃を仕掛けると先程よりもダメージを受けている様子だった。それを見たカリスはある結論に辿り着いた。

 

「……その力の代償は防御力低下か」

 

「ふん。やっと気づいたか」

 

キラーはカリスの仮説が当たっていることを教えるとそのまま更にオーラにスパークを散らしていった。

 

「スキル、【ガイスト】。自身のあるステータスの値を下げる代わりにそれ以外のステータスを強化させる」

 

キラーはカリスへとスキルの概要を説明した。ただ、効果時間が切れると全てのステータスが2割ほど下がる弱点もあったのだがこれを教えるわけにはいかないので敢えて黙っていた。

 

「【狼牙呪滅撃】!」

 

キラーが赤黒い狼を模した一撃を放つとカリスがそれを弓で受け止めるが、その威力の高さに抑え切れずにダメージを負った。

 

「がっ!?」

 

更にキラーが上がったステータスでカリスの腹へと蹴りを決め、更にダインスレイヴで斬りつける。

 

「調子に……乗るな!【バイオ】!」

 

カリスが棘付きの蔦でキラーを拘束し、継続ダメージでキラーへとダメージを与えるが、それでもキラーの勢いは止まらない。

 

「はあっ!」

 

キラーが蔦を気合いで粉砕するとそのままダインスレイヴからレーヴァテインへと魔剣を変更。今度は氷主体の攻撃から炎主体の攻撃に方針を変えていく。

 

「【獄炎魔剣斬】!」

 

キラーが紅く輝かせたレーヴァテインを振るって斬撃波をカリスへと発射。カリスはこれをギリギリで避けるがその先には既にキラーからの攻撃が迫っていた。

 

「【地獄の業火】!」

 

キラーがレーヴァテインを地面に突き立てると地面から火柱が噴き出していきカリスの体を焼き焦がしつつ空中へと押し上げていった。流石のカリスもこれには堪らず空中へと打ち上げられた。カリスは回復をするためにカードを使おうとするが、キラーは無防備になるその瞬間を逃さない。

 

「【ヘルズインパクト】!」

 

キラーが赤黒いオーラに加えて紫のオーラを纏うとそれを足に集約。そのまま跳び上がってキックをカリスへとぶつけた。カリスはそのまま地面に落下するとHPを残り僅かにまで減らしていた。

 

「【リカバー】!」

 

カリスはここに来てようやく回復を可能とするカードを使用。減らされたHPを補填すると未だに赤黒いオーラを激しく立ち上らせるキラーを見据えた。

 

「……お前の力を低く見ていた。まずはその事について謝罪させてくれ」

 

「ふん。今更泣きを入れても無駄だぞ。俺の怒りは止まらない」

 

「お前がそれだけの力を持って俺へと挑むのであれば俺も全力で応える」

 

カリスはそう言うと相棒であるカマキリのモンスター、ジョーカーを呼び出した。

 

「お前のテイムモンスター、お前にも借りがある。俺の相棒で……」

 

「ジョーカー、【カードチェンジ】!」

 

「なんだと!?」

 

するとカリスはジョーカーにカードへと変化するように指示。キラーはこの行動に面食らった。まさか自分から数の有利を捨てるとは一体何を考えているのか。そしてそれはすぐにわかった。

 

「【エボリューション】!」

 

ジョーカーが変化したのはハートのK、エボリューションのカード。そしてそれはブレイド、ギャレン、レンゲルのテイムモンスターが変化したカードと同じ数字である。そしてそのカードを腰のベルトに読み込ませると突如としてカリスの所持する13枚のカードが金に輝きながら空中で横一列に並ぶとそれがカリスへと吸収されていった。

 

「まさか、ブレイドと同じ……」

 

キラーが反応した直後、カリスの体が一瞬黒く染まったかと思うとすぐに変化し、アンダースーツは赤に変わり、胸や両肩にはアーマーが付与されている。ヘッドギアの赤いハートマークは緑へと変化し、胸部のアーマーには緑でパラドキサの絵が紋章が刻印されており、両腿のホルダーには折り畳み式の鎌が入っている。

 

「どうだ?これが俺の真の姿。名前をつけるとすれば……ワイルドカリス」

 

「ここに来て更にパワーアップ……この状態の俺でも勝てるかどうか……」

 

「この姿の俺は13枚のカードの力を一度に扱える。もうお前を相手に油断や慢心は一切しない」

 

カリスはそう言うと両腿に入っている鎌を取り出すと両手に武装。そのままキラーへと襲いかかっていくのであった。

 

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イベント3日目、現在の戦況

 

ブレイド対セイバー(本体)

 

カリス対キラー

 

セイバー(分身)×5(水と氷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

キャロル対セイバー(分身)

 

炎と雷の国の女王対サリー

 

マリア対ヒビキ

 

セイバー(分身)×4(炎と雷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        カリス

ヒビキ        ミィ 脱落

ペイン 脱落     キャロル

キラー        マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと魔剣の底力

カリスがワイルドカリスとなってパワーアップした頃、炎と雷の国の王城ではセイバーとキャロル、サリーと竜の女王が玉座を賭けた戦いを繰り広げていた。まずはサリーと竜の女王の戦いから見ていこう。

 

「はあっ!!」

 

竜の女王は人型の状態のままサリーへと肉弾戦を仕掛けていきパンチやキックを繰り出していく。それに対してサリーは一撃でも喰らえば負けが決まる体力なので全神経を注いで回避しながらのカウンターに専念していた。

 

「集中……じゃないと被弾して一気に倒される」

 

サリーがこの状態に入ったらもう攻撃を当てるのは至難の業と言えるだろう。そのくらい攻撃を受けたくないとも取れるが。

 

「【ウインドカッター】!」

 

サリーは手にした短剣で女王を斬り裂きつつ偶に遠距離からの飛び道具で削っていく。しかし、流石は竜の力を持つ女王と言うべきか、その装甲の固さは尋常じゃなかった。サリーの攻撃が全く通らないのだ。厳密に言うと通ってはいるのだがHPの減り方がミリ単位なのである。

 

「ここまで固いなんて……竜の力は伊達じゃない!」

 

『お前もこの私の攻撃を全て避けるとはやるではないか』

 

「それはどうも!」

 

サリーは一旦女王から距離を取ると構え直す。それを見た女王はサリーを追っていき攻撃を当てようと格闘技で攻めてくる。

 

「実は格闘技主体の相手とはしょっちゅう戦ってるからもう割と対応できるんだよね!」

 

サリーは特訓相手としてヒビキにも協力してもらっているため、彼女のレベルと同等か少し強いぐらいまでの相手であれば余裕で対処する事が可能になっていた。

 

「そろそろ崩させてもらうよ【鉄砲水】!」

 

サリーが女王の攻撃に合わせて【鉄砲水】を使用。その水の勢いで近くの壁にまで女王を押し込んでいった。更にサリーは押し込まれたことによって一時的に身動きが取れない女王を容赦なくダガーで追撃していく。

 

これによって女王のHPは少しずつ減少していき、残り8割となった。すると女王の攻撃パターンが変化。女王は自身の周囲に眷属である小型の竜が2体出現するとサリーへと攻撃させ、自らは口からのブレスで支援に回った。

 

「面倒ね。でも、この眷属の力はそこまでじゃない。だったら対処法はある!朧、【覚醒】!」

 

サリーは朧を呼び出すと眷属に対応するためのスキルを使用する。

 

「数には数で!朧、【影分身】!」

 

朧がサリーを対象に自身の数を増やさせるスキルを使うとサリーの数が増えて増えたサリーが眷属へと向かっていく。そしてサリー自身は女王本体へと突撃していく。そしてそれを見た女王もすかさずサリーの本体へと口から発射するエネルギー弾や長く伸びた尻尾での薙ぎ払い攻撃を仕掛けていく。

 

『小娘が調子に乗るな!』

 

「それはどうかな。【氷柱】!」

 

それに対応するようにサリーは氷の柱で女王の周囲を囲って足止め。更に女王が氷の柱を避けるために飛び出した瞬間を狙って攻撃を放つ。

 

「【変幻自在】!」

 

サリーは手にしている片方のダガーをセイバーが使う音銃剣錫音へと変化。銃撃を仕掛けて女王を撃ち落とそうとした。

 

『甘い!』

 

女王はそれを見て尻尾での薙ぎ払いで銃弾を纏めて叩き落とし、そのままサリーの本体の目の前に着地しつつ口にエネルギーをチャージしていた。このままではサリーへとエネルギー弾が放たれて直撃は免れないだろう。しかし、サリーは咄嗟に上体を逸らして攻撃を躱しつつそのまま前に滑り込んですれ違い様に錫音から元に戻したダガーで女王を斬りつけた。

 

「このまま一気に……!!」

 

サリーは何かを感じ取ったのか頭を下げるとそこに眷属からの攻撃が飛んできた。どうやら【影分身】での足止めも限界であり分身は全て倒されてフリーになった眷属が主を庇うためにサリーへと攻撃してきたのだ。

 

「もう!良い所だったのに!」

 

サリーはやむを得ず眷属を相手すると1体を巧みな体捌きで葬り、もう一体も攻撃が届かない距離からの魔法攻撃で仕留めていく。その間に女王はサリーから離れると再度遠くからの射撃でサリーを追い詰めにかかった。

 

「くっ……何とか眷属は倒せたけど、また再召喚されると厄介ね。朧、【瞬影】!【超加速】!」

 

サリーは朧のスキルで姿が消えるとその間に超スピードで接近。そのままダガーを【変幻自在】で大斧に変化させてそれによる一撃を叩き込んだ。女王はそれを受けて一瞬怯むがすぐに体勢を立て直すと火炎弾での反撃に移る。

 

「【ウォーターボール】!」

 

サリーが水弾で火炎弾を相殺するとすかさず朧にスキルを使わせていく。

 

「朧、【幻惑の炎】!」

 

サリーの指示で朧が幾つもの火の玉を出現させるとそれがフワフワと浮かびながら女王の周りに展開していく。それを見た女王はその炎を相殺しようとエネルギー弾で攻撃するが、その炎は消える様子は無く攻撃がすり抜けていった。

 

それからサリーが指を鳴らすとその炎は実体化。そしてその炎は女王を襲うとダメージを与え、HPを残り6割にした。

 

「どう?【幻惑の炎】の力は」

 

【幻惑の炎】の効果、最初はエフェクトのみの幻の炎を召喚するが、それを指定した動作を行うことで本物へと変化させることが出来る。今回はサリーが指を鳴らす時と設定したのでその動作をした瞬間に変化したのだ。

 

「これでHPは6割。けどそろそろ次の変化が来そうね」

 

サリーの考えていた通りに変化は起き始めた。女王の体がみるみる内に巨大化していくのだ。そして、その姿は人型からもかけ離れていき、最終的には一体の巨大なドラゴンへと変わった。

 

「ようやく真の力を発揮したね。でも、図体が大きくなったんじゃ良い的だよ?」

 

サリーはこの状態になった女王相手に臆するどころか倒す気マンマンだった。その証拠にサリーは笑みを浮かべると嬉々として敵へと挑んでいくのであった。

 

一方で、同じく炎と雷の国の王の間で戦闘を繰り広げている烈火のセイバーとキャロルの戦いも白熱したものへと変わっていった。

 

「【フレイムテンペスト】!」

 

キャロルから撃ち出された炎の竜巻が烈火のセイバーへと迫っていくが、烈火のセイバーはそれを受けてノーダメージだった。

 

「効かないなぁ」

 

「チッ、確かお前は火属性は無効だったか」

 

「ご名答!【爆炎紅蓮斬】!」

 

セイバーはお返しとばかりに紅蓮の斬撃で反撃する。キャロルは当然それを躱すもののその間にセイバーは接近。烈火での接近戦を挑む。それを見たキャロルは接近されると不利なので距離を取っていく。

 

「流石にこれじゃ近づけないか」

 

「俺としてはお前の間合いで戦いたくないからな。このくらいはやらせてもらうぞ!【アクアウェーブ】!」

 

「そのスキルは前に見たぞ!【エレメンタル化】!」

 

セイバーはキャロルから撃ち出された水圧を風となって跳ね返す。キャロルはそれを受けてすぐに魔力の障壁で防ぐが、不利と言えるのはキャロルの方だった。

 

キャロルはダウルダブラに蓄えられた大量のMPを使用しながらセイバーへと飛び道具を次々に放っていく。しかし、セイバーにはそれらを全て防ぐか、躱すだけの力がある。加えて火属性の魔法は無効スキルに弾かれて効果が無いので有効打を得られなかった。このままセイバーが有利な状況が続けばいずれは以前のようにダウルダブラに蓄えられたMPを枯らされて負けるだろう。

 

「そろそろMPも節約するか」

 

キャロルはそう言うとダウルダブラの弦が大量に出てくるとそれがキャロルの腕に巻き付いていきドリルを形成。そのまま高速回転しながらセイバーへと突き出してきた。

 

「おっと!近接戦はしないんじゃなかったっけ?」

 

「ふん。事情が変わった。お前を相手にMPを無駄遣いをしたく無いからな」

 

キャロルはそう言いながらドリルのように高速回転させた右腕の武装でセイバーを攻撃していく。しかし、近接戦こそがセイバーの十八番、得意分野である。その影響もあってセイバーが有利な展開は揺るがなかった。

 

「ホラホラ、キャロルどうした?今のままだと前のお前の方が強かったぞ」

 

「舐めやがって……だが……」

 

実はキャロルにはセイバーを相手に手を抜いていた……と言うより本気で相手できていなかった。何故キャロルは本気を出せないのか。それは彼女の心境に理由があった。

 

「(やりづらい……セイバーを、大好きな人をあまり傷つけたくない……でもこのままじゃ負ける。それじゃあ今まで勝つために頑張ってくれた皆の想いを無駄にしてしまう。僕はどうしたら……)」

 

キャロルの心にはセイバーを痛めつけることに躊躇いを感じていた。以前に決闘をしたときは何とも感じなかったのだが、その後にデートをした事で彼女に深いセイバーへの愛情が芽生えていた。その愛情が邪魔してセイバーを本気で倒しに行けないのだ。そしてその感情を感じ取ったのかセイバーはキャロルへの攻撃を止めると剣を納刀した。

 

「おいキャロル、ふざけてるのか?」

 

そのセイバーの表情は……怒っていた。当然である。純粋に決闘を楽しんでいるセイバーから言わせれば相手に手を抜かれるという行為自体が自分への侮りのようなものなので本気で戦いたいセイバーの気持ちには反しているからである。

 

「お前、俺への攻撃を躊躇ってるだろ。そんな相手と戦うのは勘弁だ。そこをどけ。玉座に触れてこの戦いを終わらせてやる。そうすればお前はもう俺を傷つけずに済むぞ」

 

セイバーのあまりの気迫にキャロルはたじろぐとその場で立ち尽くしてしまった。セイバーはゆっくりと彼女へと近づいていくと小声で彼女にだけ聞こえるように話した。

 

「ガッカリだよキャロル……俺への気持ちってそんな程度だったのか」

 

その言葉を聞いたキャロルは目を見開くとセイバーに背を向けたまま拳を強く握りしめた。

 

「違う!!俺の……僕の気持ちはそんなに安くなんか無い!!」

 

キャロルはセイバーに言われてようやく気づいた。セイバーの事を本気で好きならばできることは攻撃を躊躇う事なんかでは無い。全身全霊、本気で相手する事だ。そしてそれに辿り着けたのはセイバーからの言葉だった。

 

「すまなかったセイバー。俺が間違っていたよ……セイバーは手を抜かれて喜ぶわけないよね」

 

キャロルのその言葉を聞いてセイバーは振り返った。そして笑みを浮かべると納刀した烈火を抜いてキャロルへと向けた。

 

「だったら証明して見せろよ。お前の気持ちを全部ぶつけて来い!!」

 

「当たり前だ!」

 

セイバーはそう言うとキャロルへと走っていく。キャロルもそれを受けて本気で受けて立つ。キャロルの生成したエネルギー弾が次々とセイバーへと襲いかかっていく。しかもその密度やタイミングは先程までよりも更に躱す難易度を上げておりセイバーもこれに数発被弾した。

 

「やればできるじゃねーかよ。もっともっと俺を楽しませろ!」

 

「うん!」

 

2人はそれから戦いの熱を更に上げていくことになる。そして、同時刻、キラーとカリスの戦いへと戻る。そちらではカリスがパワーアップしたワイルドカリスの力を前にオーラでの強化状態のキラーでも歯が立たなかった。

 

カリスが両腕に武装した鎌でキラーの魔剣を受け止めるとそれを弾いてそのまま連続で斬りつけた。キラーはそれになす術なく切り刻まれてダメージを負ってしまう。更に魔剣を弾かれた事で武器も失ってしまい素手になってしまった。

 

「くっ……」

 

「どうした?そんな程度か!」

 

カリスは得物を失った無防備なキラーを再び斬りつけ、痛めつけていく。ただし、キラーもただ黙ってやられる訳がない。カリスの攻撃の隙を突いて距離を取るとレーヴァテインからダインスレイヴに装備を変更する事で何とか素手状態を終わらせた。しかし、それと同時にオーラの時間切れとなりオーラが引っ込むと上がっていたステータスも元に戻り、反動でステータスがダウンしてしまった。

 

「く……やはり急場凌ぎの力ではこれが限界か」

 

「どうやらパワーアップタイムは終了のようだな」

 

これによりキラーはカリスを相手に絶望的なステータス差を相手にすることになり更に追い込まれていく。

 

「はあっ!」

 

カリスが距離を詰めてくると鎌を振るう。キラーがカリスに大きなダメージを与えようとすると魔剣での近接戦闘が主であるためにどうしても彼へと接近しなければならない。しかしそれは同時にカリスのスピードやパワーに対抗しなければならず、今のキラーではそれに着いていくので精一杯だった。

 

「チッ、何かのスキルで能力差を埋めないとな……【ドラゴンラッシュ】!」

 

キラーが魔剣を振るうとどこからともなくエネルギーの龍が飛んできてカリスへと連撃を仕掛ける。しかし、カリスはそれをものともせずに簡単に粉砕するとそのまま弓でキラーを狙い、彼を撃ち抜いた。

 

「ぐあっ……」

 

その威力にキラーが怯むとその間にカリスがカードを取り出すとそれをスキャンさせた。

 

「【フロート】、【ドリル】、【トルネード】!」

 

カリスは竜巻を纏って空中に浮くとそのままドリルのように回転しながらキラーへと突っ込んでいく。

 

「【スピニングダンス】!」

 

今までよりも更に威力が上がったその一撃をキラーはギリギリで回避するもののそれが地面に直撃した瞬間、衝撃で地面にクレーターのようなものができた。

 

「馬鹿な……何という火力だ」

 

「もう今のお前では俺の相手にならないな。ワイルド状態から戻っても良いんだが折角切り札を引き出したんだ。それを後悔しながらやられてもらおう」

 

「【ブラックアウト】、【呪血狼砲】!」

 

キラーがカリスの目の前を一時的に真っ暗にすると狼の爪を模した斬撃をレールガンの部分から飛ばしていく。

 

「無意味な事を【リフレクト】!」

 

キラーの狙いはカリスの視界を奪ってどこから来るかわからない攻撃を仕掛ける事だったが、受けた攻撃を反射するカリスの前にそれは通用せず、斬撃は全て跳ね返されてキラーがまともにそのダメージを受けて倒れてしまう。

 

「ぐ……うぅ……」

 

その間に【ブラックアウト】の効果も終わり、カリスの視界が元に戻った。そして、すぐにキラーへと詰め寄っていくと彼を掴んで無理矢理立たせてから鎌での攻撃を加えた。

 

「【呪いの一撃】!」

 

キラーはカリスが自分から近づいた瞬間を狙って相手のステータスを下げるスキルで攻撃。カリスはそれをまともに受けるがこの一撃程度ではステータスの差は埋まらない。すぐに蹴り飛ばされるとキラーは弓で射抜かれて地面に倒れ伏した。

 

「何でだ……何故ここまでの差がある!!俺の力が全く効かないとは……」

 

「そろそろお前との無意味な勝負を終わらせよう。

 

カリスはそう言うと2本の鎌を閉じるとそのまま合体。それから弓に連結させると体から13枚のカードが飛び出す。そしてそれが光りながら1枚に集まっていく。そうやって形成されたカリスの14枚目のカード……ワイルドカードをカリスは手にする。

 

「トドメだ。【ワイルド】!」

 

するとワイルドからマークが出てくるとそれがエネルギーとして強化された弓へと集約。そのまま弓を引き絞ると必殺のスキルを言い放つ。

 

「【ワイルドサイクロン】」

 

カリスが引き絞った弓から手を離すと緑のエネルギー波が発射。そしてそれがキラーへと向かっていく。そしてそれがキラーへと直撃すると彼を吹き飛ばしながら致命傷を負わせた。

 

「ぐあああああああ!!」

 

何とかHPを残す生存スキルの効果で一命を取り留めるものの、次にあのスキルを喰らえばやられるのは目に見えている。もう勝負は着いたかに思えた。

 

「……俺は……また負けるのか?同じ相手に2度も……」

 

「何も悔いることは無い。今回も俺が上手だった。ただそれだけの事」

 

カリスの言葉にキラーの心は折れかけていた。かつて、第4回イベントの直前まではセイバーのライバル及び天敵としてその名を馳せていたキラー。あの頃、その時はセイバーに並ぶ実力者は少なく、それこそキラーもトップクラスの実力を有していた。

 

しかし、今はそうではない。新たなギルド【BOARD】の出現や【thunder storm】、【ラピッドファイア】などに存在する強力なプレイヤーを相手にする際、セイバーは以前よりも苦戦することが増えていった。加えて、かつてから存在する巨大ギルド、【炎帝ノ国】や、自分の所在するギルド、【集う聖剣】のプレイヤーも確実に強くなって彼へと並ぼうとしている。

 

翻って自分はどうか。今までセイバーを倒すために強くなってきたのに第4回イベントの雪辱を果たすどころかセイバー以外のプレイヤーに2度も敗北するという辱めを受けそうになっている。そのような事を彼のプライドが許すはずもなかった。

 

「俺は……セイバーの1番のライバルであり奴の天敵だ……そんな俺が……他の奴に何度も負けてたまるか!!」

 

キラーは気合いで立ち上がると手にしていたHPを回復させるポーションを一気飲みした。

 

「ほう。ならばまずは俺を倒してみろ。セイバーに勝つのなら俺ぐらい倒せるよな?」

 

カリスは敢えてキラーを挑発すると本気を出させるように仕向けた。カリスもキラー相手に負けるつもりは無い。しかし、それは彼の本気を倒してこそ意味がある。

 

「行くぞ、魔剣使いの底力を見せてやる。亡、【覚醒】!」

 

キラーは相棒との連携で仕留めるために亡を呼び出した。すると、亡は一回り大きく、今までよりも更に強い野生の狼のような強靭な肉体を手にしていた。

 

「前とは姿が違う……まさか」

 

「そのまさかだ。亡も進化してパワーが上がったんだよ」

 

キラーの言葉にカリスは身構えると突如として亡がカリスへと突撃してきた。

 

「ただ突っ込んでくるだけか?」

 

「いいや、違うな。【一匹狼】!」

 

すると亡がスキルを使うとその身に白いオーラを纏いステータスが上昇した。カリスはそれに怯む事なく両手に再武装した鎌を振り下ろす。

 

「続けていくぞ。亡、【氷ノ残像】!」

 

それが亡に当たる瞬間、亡は氷の狼に置き換わるとそれが代わりに砕かれた。

 

「な!!」

 

その隙にキラーもカリスへと接近していくとダインスレイヴで斬りつける。それと同時に亡が後ろから氷の爪でカリスを引き裂き、前後からの挟撃にカリスは対応しきれずにダメージを負う。

 

「チッ、亡と一緒に攻撃する事で実質的に2対1の状況を使っているのか。しかも亡の力もかなり上がってる……」

 

「おいおい、こんなじゃねーよな。お前の力はよ!」

 

キラーはカリスを挑発しつつダインスレイヴに輝きを纏わせて力を引き出していく。

 

「当たり前だ。そう簡単に俺が負けるか!」

 

カリスはそう言いながらカードを取り出してそれをスキャン。必殺のスキルを発動していく。

 

「【チョップ】、【トルネード】!【スピニングウェーブ】!」

 

カリスが竜巻を纏わせた左手でキラーにチョップを繰り出そうとしていく。キラーはそれをダインスレイヴで受け止めるとそのパワーに押されるが、足腰に力を入れて踏ん張って持ち堪える。

 

「亡、【凍結の息】!」

 

キラーの指示を受けて亡が口から強力な氷のブレスを放ちカリスの足元を凍らせていく。

 

「【魔狼烈斬】、【煉獄魔狼・ディストピア】!」

 

キラーが足が凍らされて一瞬動揺が広がるカリスへと赤黒い斬撃を放ち斬り裂く。加えて赤黒い氷を纏わせた連続キックでカリスへとダメージを蓄積させていく。

 

「ぐうう……まさかここまで俺がやられるとはな」

 

キラーの猛攻撃を前に流石のカリスにも焦りが表れているのか冷や汗が流れている。

 

「亡、【オルトロスモード】!」

 

キラーのその言葉と共に亡の体に変化が現れる。何と亡の頭が2つに増えたのだ。その姿はまるでオルトロスのようだった。

 

「一気に決めるぞ。亡、【ツインアイスファング】!」

 

亡は先程以上のスピードでカリスへと突っ込んでいくと2つの顔による連続攻撃を喰らわせた。しかし、流石に今回はその行動を読んでいたのかカリスはそれを弓で受け止めるとそのままエネルギーの矢を放って亡を貫く。【オルトロスモード】でHPが増えていたおかげで即死は避けたがそれでも亡が受けたダメージ量はかなりのものであった。

 

「くっ……流石の亡でもあまり沢山は耐えられないか」

 

「お前達の連携をこれ以上受けるわけにはいかない」

 

カリスが確実にキラーを葬るために最強のカード、ワイルドを生成するとそれを手にし、弓に鎌を合体させて強化していく。

 

「そっちがそう来るなら俺も覚悟を決めないとな。レーヴァテイン!亡、【巨大化】!」

 

キラーは右手にダインスレイヴ、左手にレーヴァテインを構えると亡を大きくさせて上に跨った。

 

「これで終わらせよう。【ワイルド】!」

 

カリスがワイルドカードを読み込ませるとワイルドサイクロンの体勢に入りカードのエネルギーが弓へと高められていった。それを見たキラーも一撃で仕留めるべくスキルを重ねがけしていく。

 

「【魔芥氷狼・ユートピア】、【煉獄獄炎・ディストピア】!亡、【氷狼ノ加護】!」

 

キラーは魔剣の力を全て引き出し、フルパワーにまで高めたのちに亡にも支援をさせて次の一撃に全てを込める気でいた。それを見たカリスもキラーの覚悟を感じて身構える。

 

「はぁあああああああああああああ!!」

 

「【ワイルドサイクロン】!」

 

 

それから2人は突撃していくとすれ違い様に相手を両断。2人は大爆発を起こすとまず亡が倒されてキラーは地面に着地した。すると一瞬キラーが揺らぎ、自分のHPを見るとそこには0と書いてあった。

 

「……負けたか……俺が2度も負けるとはな」

 

キラーがそう言っているとカリスもジョーカーとの融合が解けておりそのHPは0となっていた。

 

「いや、今回は相討ち……引き分けだ。次こそはお前を仕留めてやる」

 

「それは俺の台詞だ。……セイバー、俺の宿敵……後は任せるぞ」

 

そう言うと2人は消滅していき、その場には戦いの爪痕であるクレーターのみが残るのであった。

 

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イベント3日目、現在の戦況

 

ブレイド対セイバー(本体)

 

セイバー(分身)×5(水と氷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

キャロル対セイバー(分身)

 

炎と雷の国の女王対サリー

 

マリア対ヒビキ

 

セイバー(分身)×4(炎と雷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        カリス 脱落

ヒビキ        キャロル

キラー 脱落     マリア




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと奇跡の拳

キラーとカリスが相討ちになって倒された頃、炎と雷の国の王城にて、サリーが竜属の女王を圧倒していた。そもそも、サリーの真骨頂は高いAGIを利用した機動戦でありそうなった場合、女王が変化した巨大な竜の状態では小回りが効かず、サリーの攻撃の良い的と化していた。

 

「ホラホラ、私はこっちだよ!悔しかったら攻撃を当ててみなさい!!」

 

サリーは【蜃気楼】や【影分身】等を利用した幻惑戦術で女王を翻弄。一方の女王はどうにかしてサリーにダメージを与えようと巨大な体で薙ぎ払い、切り裂こうとするがサリーには全く当たらずに躱されてしまう。

 

『小癪な!攻撃さえ当たれば……』

 

「私としては当たった瞬間負けるようなものだからね。そう簡単には当てさせないよ【クイックチェンジ】!」

 

サリーは大海の衣等の以前から使っている装備から第八層で手に入れた装備へと変更。今まで隠していた新たな装備で対応する。

 

「【サンドボール】!」

 

サリーが土属性のエネルギー弾を発射するとそれが女王に命中。その瞬間突如として女王は炎に包まれた。実はサリーが八層で手にした装備に付与されているスキル、【偽装】の効果で見た目と中身、スキル名をバラバラにして放つ事ができる。モンスターやNPC相手に意表を突くのは厳しいが、それでも見た目で騙されてくれるモンスターもいるので一概に無駄では無い。

 

「やっぱりプレイヤー相手にした方が効果はありそうね。けど、こっちはそうでも無いわよ。【変幻自在】!」

 

するとサリーのダガーが変化して大剣へと変化すると左手のダガーを投げつける。投げられたダガーは女王に弾かれるものの巨大な剣が女王の体を両断してダメージを与えていった。

 

「どんどんいくよ!」

 

そのままサリーは大剣を弓に変化させて引き絞るとその隙を突いて女王が火炎弾を放ってくる。

 

「かかった!」

 

サリーはニッと笑うと後ろに跳びながら弓を放ち見事に女王の翼へと命中。更に【偽装】の効果で矢には何も付与されてないように見せつつ、イズ特製の氷の属性を付けた矢でのショットだった。そのために女王の翼が凍らされていき動きが鈍った。

 

「今だ。【超加速】!」

 

そのままサリーが加速すると先ほど弾かれて近くに落ちていたダガーを拾いながら女王の背中に登る。女王がそれを受けて怒りサリーを振り落とそうとするがそれもサリーは予測済みだった。

 

「【クイックチェンジ】、【大海】!」

 

再び装備を変更したサリーが変更した装備でのみ使えるスキルで女王のAGIを低下させると動きを鈍らせていく。そこにサリーからの攻撃が入った。

 

「セイバー、借りるよ。【流水ノ連撃・水流斬】!」

 

サリーが2本のダガーに水流を纏わせるとそのまま連続で女王を斬りつけていく。一撃のダメージは高く無いがこのスキルも連撃タイプのスキルのために【追刃】の対象になる。そのため、かなりの量のダメージが入った。これにより、女王のHPが減少した事で女王は新たな姿へと変化を遂げていく。その瞬間は女王が光に包まれていくと共に女王の体が小さくなっていき光が消えると同時にその姿を露わにした。

 

『さっきの体は少し動き辛かったからな。これなら対等に動ける』

 

女王が変化したのはプレイヤーと同じ大きさの人型だった。ただし、今まではまだ人間の特徴が残っていたのだが、今回は違う。竜の鱗を身に纏い、背中から翼を生やし、腕は竜の爪を小型化したようなものを武装していた。

 

「竜の力を持った状態での人型?まさかと思うけどスピードとかはそのままじゃないよね?」

 

サリーはそれを見て身構えるが次の瞬間、女王の姿が揺らいだかと思うとサリーの目の前に移動しており爪で彼女の姿を引き裂く。その瞬間、サリーの姿が薄く溶けて消えた。

 

「危なっ……朧に【蜃気楼】を使わせて正解だった」

 

サリーの本体は右手から糸を発射すると天井に張り付いて難を逃れていた。しかし、それもすぐに見つかると女王は超人的なジャンプ力で跳び上がりキックを繰り出してくる。

 

「【幻影世界】!」

 

サリーは咄嗟に自身の分身を作り出して4人へと増加する。しかし、その中の1体は女王のキックを受けて一撃で消滅。分身したとしてもサリーの耐久力の無さはそのまま引き継がれているのでこのままではダメージを与える前に叩きのめされてしまう。少し前にブレイドが1人で水と氷の国の王を仕留めているのだが、元々この王や今サリーが戦っている女王は複数人での撃破を前提として作られているので1人で撃破できるブレイドが異常と言えるだろう。

 

だが、サリーも常人では無い。今までの攻撃で女王のスピードに慣れると少しずつ反応できるようになっていた。

 

『馬鹿な、私のこの速度を追えるだと?』

 

「私の対応力を舐めてもらっては困りますよ。普段からあの化け物を相手にしてますしね」

 

サリーの言う化け物とはセイバーの事である。セイバーは個人としての戦闘力の高さに加えて装備がチート級の強さを誇るためサリーが化け物扱いするのも無理はない。実際彼女でなければ【楓の木】内のメンバーではセイバーの動きには対応できないだろう。

 

「さてと、そろそろあなたの動きにも慣れてきたし反撃開始と行きましょうか!」

 

『ならば見せてもらおう。この私の力に対応できるという事を!』

 

2人はそれから戦いを続けていく。そして、炎と雷の国の王城の城門近くではヒビキとマリアの戦闘が続いていた。

 

「セレナ、ツキミに攻撃よ。【ダンシングソード】!」

 

セレナは自身の周囲に剣を召喚するとそれを回転させながら物理的なバリアフィールドを展開、そのままツキミへと向かっていく。それを見たヒビキもすぐに対処方を取る。

 

「ツキミ、【逆鱗】!」

 

ヒビキの指示でツキミは近づいてくる剣を全て粉砕していきそのままセレナへと爪による一撃を加えた。

 

「おいで、ツキミ!」

 

ヒビキはツキミを呼び寄せるとその背中に跨りマリアへと突っ込んでいく。ヒビキはツキミの機動力でマリアとの距離を詰めつつ攻撃を当てるつもりだ。

 

「させないわよ。【ホライゾン・スピア】!」

 

マリアはエネルギー砲を放つとヒビキは敢えてツキミにその中を突っ込ませていった。当然ツキミのHPはゴリゴリと消えていきマリアの元に到達する頃にはHPが0になって消滅してしまった。

 

「これでツキミは仕留め……!?」

 

次の瞬間、マリアの腹に衝撃と共にダメージが入った。ヒビキはツキミにマリアの気を引かせている間に既に空中へと跳び上がっており、そのまま【飛拳】を放ったのだ。

 

「私もいっくよー!【我流・爆雷撃槍】!」

 

再びヒビキは雷の槍となるとマリアへと突っ込んでいく。それに対して、マリアは相棒のセレナにバリアフィールドを張らせて対抗しようとする。

 

「セレナ、【精霊の守り】!」

 

しかし、ヒビキの一撃はバリアを上回るとバリアを粉砕してそのまま突っ込んでいきセレナを貫いた。

 

「セレナ!!」

 

セレナは今のでかなりのダメージを負ったのか飛び方が揺らいでいた。そこにヒビキからの容赦のない追撃が襲い掛かる。

 

「【我流・電撃ノ拳】!」

 

ヒビキが腕に電撃を纏わせたパンチがセレナへとクリーンヒット。セレナはそのHPを全て失う事になり消滅していった。

 

「これでおあいこですよ。一気に倒します!」

 

続けてヒビキはマリアへと近づくと突き出される槍を両手で掴みそのまま自分ごと回転させる事で槍を手放させるとそのまま弾き飛ばす。

 

「なっ!?」

 

「槍が無ければマリアさんに対抗する手段は無い!」

 

マリアはそれを見てマントでの時間稼ぎをしようと考えるがそれをする直前にヒビキが肉薄。ガラ空きの脇腹へと蹴りを入れてから腹への肘打ちでマリアを吹き飛ばした。

 

「がっ!!」

 

「決めます!【我流・稲妻回転脚】!」

 

ヒビキがマリアへとトドメを刺すために電撃を纏わせた蹴りを放とうと近づいていくとマリアは仕方なく別の装備を使う事にした。

 

「銀腕!」

 

するとマリアの装備が銀の左腕、アガートラームへと変化していき響の回し蹴りを短剣を変化させた蛇腹剣で受け止める事になった。

 

「アガートラーム……マリアさんのもう1つの装備……」

 

「ここからは私の番よ」

 

マリアがそう言うと短剣を左腕のアーマーに合体させてそのまま突進。ヒビキの間合いに入ると左フックを喰らわせた。

 

「くっ……でもこの距離は……私の攻撃が決められる!」

 

ヒビキがマリアへとカウンターのパンチを顔にぶつけてマリアを仰け反らせる。そのままヒビキが飛び上がっての踵落としでマリアを頭から地面へと叩きつけさせた。ヒビキはそのままマリアを上から踏みつけようとするとマリアは地面を転がって回避。すぐさまに立ち上がると左腕からエネルギー砲を発射した。

 

「【ホライゾン・キャノン】!」

 

「【翠風ノ型・暴風拳】!」

 

ヒビキが竜巻を纏わせた拳を突き出すとそこから緑の竜巻が飛んでいきマリアのエネルギー砲とぶつかって大爆発を起こしていく。

 

「やるわね。それでこそヒビキよ!」

 

「マリアさんも私の動きについてくるなんてやっぱり凄い!」

 

「続きをしましょうか」

 

「はい!」

 

それから2人は走っていくと肉弾戦を開始。2人は激しく殴り合った。アガートラームの状態のマリアの武器は本来であれば短剣なのだが、敢えてそれを使わずにヒビキと同じ拳で戦っていた。しかもそれでも尚2人の力は互角と言えるのに相応しく、ヒビキの攻撃が決まったかと思えばマリアの攻撃が決まり、2人共一歩も引かないぶつかり合いとなっていく。

 

「「はあっ!」」

 

2人の拳がぶつかり合って2人が距離を取ると2人共息を乱していた。すぐに2人共ポーションで回復すると構えをとった。

 

「そろそろ終わらせます」

 

「良いわ。全力で来なさい」

 

「【我流・火炎龍撃拳】!」

 

「【セレナーデ】!」

 

2人の拳がクロスするとそれぞれ相手の顔面に突き刺さりその衝撃で2人は後ろへと吹き飛ばされていった。だが、それでも決着は付かずに2人共構え直し息を整えていた。

 

「これでも倒せないなんて……」

 

「私も驚きよ。ここまで私を相手に善戦するとは……けど、そろそろ切り札で終わりにさせてもらうわ」

 

「え?」

 

マリアはそう言うと胸についているマイクユニットに手を触れた。そしてその動作にヒビキは見覚えがあった。

 

「その動き……まさか!」

 

「刮目しなさい。これが私の切り札!【イグナイトモジュール・抜剣】!」

 

マリアがスキルを発動するとヒビキの時と同様にマイクユニットが胸に突き刺さりその瞬間禍々しいエネルギーがマリアへと流れ込んでいった。

 

「私は……弱い。けど、今の私のままで良い。今の私のままで、この呪いに反逆して見せる!」

 

マリアがそう言うと白銀の装備が黒く染まっていきステータス値が上昇。マリアはその高まりを感じながらヒビキへと手にした短剣を構えた。

 

「マリアさんの……イグナイト」

 

「そうよ。これが私の奥の手。これを使ったからには後には引かない。全力であなたを叩き潰す!」

 

マリアは先程までとは比べ物にならない程の速度でヒビキへと接近すると手にした短剣でヒビキを斬りつける。ヒビキはそれを腕のガントレットで受け止めるがあまりのパワー差に押し込まれていく。

 

「なんてパワー……さっきまでとはまるで違う」

 

「ヒビキ、あなたもイグナイトを使いなさい。でないと、負けるわよ」

 

マリアはそう言うとヒビキの腹を蹴り飛ばし、そのまま空中へと跳ぶと手にした短剣を蛇腹剣へ変化させ、ヒビキを薙ぎ払う。

 

「ぐうっ……」

 

その威力にヒビキはかなりのダメージを負っておりこのままでは負けるのも時間の問題だろう。だがそれでもヒビキはイグナイトを使おうとしなかった。

 

「……どういうつもり?前にも言ったわよね。手を抜いているのなら相手に失礼だと」

 

「ちゃんと覚えてますよ……でも今イグナイトを使うわけにはいかないんです」

 

「ならあなたはもう終わりね。力の差を見せてあげるわ」

 

ヒビキが何とか立ち上がって構えを取っている間にマリアがすかさず距離を詰めてくるとそのまま彼女を殴り、そのまま短剣で下から上へと切り上げて上空へとヒビキを飛ばす。そして空中へと跳び上がってボレーキックを叩き込みヒビキは地面へと叩きつけられた。

 

「がはっ……ゲホッ、ゲホッ……」

 

ヒビキは腹をやられた影響でむせるがその時にはもうマリアからのエネルギー砲が迫っていた。

 

「【翠風ノ型・暴風拳】!」

 

咄嗟にヒビキは竜巻を纏わせた拳でそのエネルギー砲を迎撃するが、威力は先程までよりも格段に上がっているのでそのまま押し切られてヒビキの体は飲み込まれた。

 

そしてエネルギー砲が過ぎ去るとヒビキは傷だらけで倒れていた。

 

「はぁ……はぁ……私は……私は……まだ負けて……」

 

ヒビキが倒れて息切れを起こしていると突然髪の毛を掴まれて無理矢理上へと引っ張られて立たされた。

 

「あうっ……」

 

「イグナイト無しだとこれが限界みたいね。イグナイトを使いなさい」

 

「だから……使わないって言いましたよね……」

 

次の瞬間、ヒビキはマリアから腹に膝蹴りを喰らってから今度は胸ぐらを掴まれた。

 

「舐めてるの?それとも私を怒らせるための自演?どっちにしても良い気はしないわね」

 

ヒビキはマリアからの強烈な攻撃を受け続けて意識が朦朧としておりマリアの姿もぼやけて見えるようになっていた。

 

「舐めてなんかいませんし、怒らせる気もありません……私は私の考えでイグナイトを使わないんです……」

 

「そう。なら、無理矢理にでも使う気にさせてあげるわ」

 

マリアはそう言ってヒビキの胸ぐらを掴む手を離すと短剣でヒビキの体を切り刻んでいく。ヒビキは最初は抵抗していたが、力が尽きかけているのか途中から動きが鈍っていき、マリアの攻撃をただ受けるだけのサンドバッグと化した。

 

「つまらない……つまらないわ。何で私はあなたのような人と戦っているのか。まぁ良いわ。【インフィニティクライム】!」

 

すると上空に光の短剣が大量に並びそれがヒビキへと降り注ぐ。ヒビキはそれに体を何箇所も貫かれて声にもならない悲鳴を上げた。

 

「私のイグナイトも時間制限がある。終わりにしましょう。こんなつまらない戦いなんてやるだけ無駄ね。【ホライゾン・キャノン】!」

 

マリアがヒビキにトドメを刺すために左腕のアーマーの形を変化させて銃口を向けた。そしてエネルギーがチャージされていく中、ヒビキは朦朧とする意識の中で考えていた。

 

「(……どうしたらマリアさんに勝てる?イグナイトはダメだ……マリアさんが使えるとなるとその性能の内は知られている。そんな状態で使っても勝てない……でも、そうしたらどうやって勝つ?もう体が動かないのに……また負けるの?そんなの……私は嫌だ!)」

 

するとヒビキの頭の中に何かが浮かんだ。そしてそれは一か八かの賭け。失敗すると確実に負ける。しかし、この状況から勝つにはそれに賭けるしか無かった。

 

ヒビキが痛む体を無理に動かして立ち上がるとマリアからのエネルギー砲が放たれた。そしてそれがヒビキを飲み込む瞬間、ヒビキの体から光が発せられていった。

 

「何だと!!?」

 

そしてその光が晴れるとそこに立っていたのは黄金のバリアに包まれたヒビキがアーマーが解除されてアンダースーツのみを着た姿で現れた。

 

「だとしても!!」

 

「馬鹿な……ヒビキはもう限界のはずなのに……あれだけイグナイトの攻撃をまともに受けて立てるどころか……何、あのバリアは!?」

 

「サンジェルマンさん……あなたから受け継いだ力、使わせてもらいます。一緒に手を伸ばしましょう!【アマルガム・イマージュ】!」

 

ヒビキが右手を掲げるとそこに黄金のエネルギーが形成。それがヒビキの両肩から生える巨大な黄金の2つの腕へと変化した。

 

「まさか、ヒビキがイグナイトを使わなかったのはイグナイトでは同じ力を持つ私に対応される可能性があったから……だから敢えて使わずにこの新スキルを使う機会を探っていたのか」

 

「ここからは……私の番です!」

 

ヒビキはマリアへと突っ込んでいくと右肩の拳でマリアを殴りつける。マリアはそれを両腕をクロスさせて受け止めるがその質量を前にパワー負けして吹き飛ばされていく。

 

「ぐあっ!?」

 

「次、行きます!」

 

そのままヒビキが逆の腕を前に突き出すと拳が分離してロケットパンチの如く飛んでいきマリアへと激突。彼女へとダメージを与えていく。

 

「うぉりゃああ!」

 

今度はヒビキ自ら跳びあがるとマリアへとドロップキックを放つ。マリアはそれを躱してヒビキへと短剣を振るうとヒビキは先程以上にダメージを負った。

 

「ぐうっ……」

 

「(どういうこと?同じ攻撃だったのにさっきよりもダメージを受けた。もしかして攻撃力を上げる代わりに防御力を下げている?)」

 

ヒビキのアマルガムには2つの形態がある。1つが最初に変化した形態で自身の周囲に黄金のバリアフィールドを展開するコクーン。それは防御重視の形態であるので攻撃力はほぼゼロに等しくなるが防御力はそれまでの姿よりも飛躍的に上昇する。もう1つが両肩に黄金の腕を展開した形態、イマージュ。これはコクーンとは逆で装甲を全て攻撃のアーマーへと転換し、防御力を下げる代わりに高い攻撃力を持ってして敵を制圧する事ができる。

 

「こうなったら攻撃の瞬間を狙って無防備な体へとダメージを与える方が有効そうね」

 

マリアは高い洞察力でもうアマルガムの弱点を看破。対応するための準備を整えていた。一方のヒビキはフラフラだった。

 

「はぁ、はぁ……アマルガムを使ったからって体へのダメージや疲労が消えたわけじゃない……長くは保たないかも」

 

ヒビキも限界が近い状態での長時間の戦闘は不利と判断。マリアに素早く攻撃を決めなければならないと考えている。しかし、焦った攻撃は逆に利用される可能性があるので中々深く踏み込めないのも彼女の悩みの種であった。

 

「向こうは疲労困憊でかなり消耗している。ここは長期戦に持ち込むのが良い……と言いたいけど、こっちのイグナイトも時間制限がそろそろ来る。ここは、相打ち覚悟で行くべきね」

 

マリアとしては長期戦にしてしまえばヒビキが勝手に自滅する可能性が高かったのだがそれを選ぶ事ができなかった。イグナイトは時間超過のペナルティとして30分間のステータスダウンが入ってしまう。ヒビキ相手にそれは危険だと考え、マリアは短期決戦に決めた。

 

「【イグナイトモジュール・ダブル抜剣】!」

 

マリアがイグナイトの2段目を使用すると白いオーラに包まれて更にステータスが上昇した。そして一気にヒビキへと接近していく。ヒビキはそれに合わせてアマルガムの拳を突き出すが、それを躱されるとマリアから蛇腹剣での攻撃が迫った。

 

「【アマルガム・コクーン】!」

 

ヒビキの言葉と共にアマルガムのアーマーがバリアフィールドとして転換。今回はギリギリの所で防御形態になって耐え凌いだ。しかし、防御形態になるということは攻撃力を捨てるという事でありマリアもそれを狙っていた。

 

「かかった!」

 

そのままマリアはヒビキへと反撃の隙を与えないぐらいの猛攻撃を開始。バリアフィールドへと攻撃を何度も何度も繰り返しぶつけていく。

このままではバリアフィールドも破られてアマルガムを強制解除させられてしまうだろう。打開するにはどこかでマリアから離れる必要があったがマリアが易々とそれをさせてくれるわけがない。

 

「【ホライゾン・キャノン】!」

 

マリアからのゼロ距離砲撃を受けてアマルガムのバリアフィールドにはヒビが入り今にも割れてしまいそうだった。

 

「これで終わりよ。【セレナーデ】!」

 

マリアがバリアを粉砕するために左手を後ろへと引く。ヒビキの目はその一瞬の攻撃の穴を逃さなかった。

 

「【アマルガム・イマージュ】!」

 

すかさずヒビキがアマルガムのイマージュを再展開。黄金の拳でマリアの【セレナーデ】を防御。そのままヒビキは後ろへと飛ばされるが、それも想定内だった。

 

「今度はこっちから行きます!【我流・金剛撃槍】!」

 

ヒビキが金の右手を高速回転させるとそのまま突撃し、マリアへと貫通力を増した一撃を叩き込んだ。マリアはそれをモロに受けると後ろへと大きく吹き飛ばされた。

 

「ぐあぁああ!!」

 

そして近くの壁に叩きつけられるとそのままHPを全て失う事になり彼女は敗北した。

 

「まさか……ヒビキに負けるだなんて……」

 

ヒビキもその場に膝をつくとアマルガムが解除されて通常の装備へと戻った。どうやらアマルガムも時間制限があるらしく、それはイグナイトよりも短かった。

 

「今回はアマルガムの解除まで持ち込めなかった私の負けね……ヒビキ、さっきは冷たい言葉をかけてごめんなさい」

 

「大丈夫……ですよ。私は平気、へっちゃらですから」

 

「そう。なら憂なく負けられるわ。またやりましょう」

 

そう言ってマリアは消滅していき、ヒビキは疲労でその場にうつ伏せに倒れ込んだ。

 

「勝った……私、マリアさんに初めて勝てたよ……セイバーお兄……ちゃん」

 

そのままヒビキは気を失ってしまいヒビキとマリアの戦いは半ば相打ちという形で決着が付くことになった。残す戦闘は玉座を賭けた戦いと王城の城下町での戦いのみである。第10回イベントの決着の時は近い。

 

 

———————————————————————

イベント3日目、現在の戦況

 

ブレイド対セイバー(本体)

 

セイバー(分身)×5(水と氷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

キャロル対セイバー(分身)

 

炎と雷の国の女王対サリー

 

セイバー(分身)×4(炎と雷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        キャロル

ヒビキ        マリア 脱落




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと決戦

ヒビキがマリアを撃破した頃、水と氷の国の玉座付近の戦いは虚無のセイバーとキングフォームのブレイドの一騎打ちとなった。しかし、戦闘の内容はイベント2日目と相変わらずブレイドが有利なまま進んでいった。

 

「【フレイムダンス】!」

 

セイバーが炎のリングを幾重にも展開するとそれがブレイドを襲っていく。しかし、それらはブレイドの装甲の前にそう大したダメージにはならずにいた。

 

「どうした?その程度の炎では俺には傷一つ付かんぞ!【スラッシュ】!」

 

ブレイドは炎の中をゆっくりと歩いてくるとセイバーへと近づきその体を切り裂いた。セイバーはそれをまともに受けるとダメージを負う。HPはすぐに回復していくもののこれではサンドバッグも同然である。

 

「まだだ!【マグナブレイズ】!」

 

「無意味なことを。【メタル】!」

 

セイバーが今度は自分を炎の不死鳥へと変えると炎のエネルギー波を放つ。ブレイドは自分を鋼鉄化する事で防御。全くのノーダメージだった。このままではセイバーの攻撃はブレイド相手に無力化されていく上に一方的にダメージだけ受けていくだろう。

 

「スキルがダメなら次は直接斬るまで!」

 

続けてセイバーは走っていくとブレイドへと虚無で斬りつけるがブレイドに虚無を掴まれるとそのまま圧倒的なパワーで引き離された。

 

「弱い。弱すぎるぞ!【ビート】!」

 

ブレイドから放たれた強力なパンチがセイバーの鳩尾に命中するとセイバーは後ろへと飛ばされつつ意識が一瞬消えかけた。何とか近くの壁に叩きつけられた事で意識は戻ったもののこの圧倒的な力の差を埋める方法が今のセイバーには無かった。

 

「……虚無の力でもダメかよ……今までの聖剣じゃあ対応されるだろうし、このイベントで初お披露目の界時や虚無が通用しないとなるとこれじゃあ打つ手無しにも程がある」

 

実際問題、現状ではセイバーが勝つ確率は壊滅的に低かった。ほぼ全ての聖剣が水と氷の国及び炎と雷の国の城下町での戦闘で使われているので他の聖剣を組み合わせた技や変化球を使う事ができない。更に、切り札としてこのイベントまで他の人に見られていないだろう時国剣界時や無銘剣虚無も歯が立たないとなってはセイバーに勝ち目は無いだろう。

 

「諦めて玉座を明け渡せ。そうすれば俺に2度も倒されたという辱めは回避できるぞ」

 

「玉座に触れられたら俺達の負けなのでそんな事はさせられませんよ……」

 

「そうか。ならもうお前に残されたのは死あるのみだ。【スラッシュ】、【サンダー】!」

 

ブレイドは手にした大剣の切れ味を増しつつ電撃を纏わせた。そのままセイバーを両断するつもりである。

 

「させねーよ。【無限一突】!」

 

セイバーもオレンジに輝かせた虚無で薙ぎ払うとブレイドへと斬撃を飛ばしていく。ブレイドがそれを大剣で受け止めるとそれが爆発を起こして煙幕を展開した。

 

「無駄な事を……」

 

「無駄かどうかはやってみないとわかりませんよ!」

 

次の瞬間、煙幕が晴れると同時にブレイドの眼前にセイバーが炎を纏わせたドロップキックの体勢に入っていた。これがセイバーができる唯一の策、ブレイドの意識の外から攻めることである。煙幕を張ることでセイバーの動きを隠しつつブレイドの注意を正面だけから周囲全てに向けさせるのが目的だった。そうすれば正面への注意力は落ちて攻撃を決めやすくなる。セイバーはそれに賭けたのであった。

 

「【プロミネンスドロップ】!」

 

セイバーのドロップキックがブレイドに迫る中、ブレイドはそれを大剣で防御した。セイバーはこれに驚きを隠せなかった。まさか不意をついて攻撃をし、眼前にまで迫ったのにそこから防御が間に合うとは思ってなかったからである。ブレイドの見事な反射神経によって大剣による防御が間に合いセイバーはそのまま弾き飛ばされてしまった。

 

「煙幕を張って俺に攻撃を仕掛けるまでは良かったが、正面からやったのは失敗だったな」

 

「くっ……裏の裏をかいたつもりが見事に防がれた」

 

「【マッハ】!」

 

今度はブレイドからの攻撃が来る番である。ブレイドはその姿を一瞬揺らがせるとセイバーが気づいた頃にはブレイドはセイバーの背後におり大剣で背中を両断された。

 

「あ……が……」

 

セイバーはそのダメージに思考が一瞬止まりそれがブレイドの追撃を許すことになる。

 

「【マグネット】!」

 

セイバーがブレイドのスキルによって引き寄せられるとそのままブレイドはセイバーにトドメを刺すためにスキルを発動する。

 

「スペード10、J、Q、K、A!【ロイヤルストレートフラッシュ】!」

 

ブレイドからの必殺の一撃。セイバーはそれを受けて物凄い量のダメージエフェクトと共にスキル、【不屈の竜騎士】の効果でHPが1残るがブレイドはそれを発動した瞬間に二撃目を叩き込みHPをすかさず0にした。

 

「しまっ……」

 

セイバーはその時炎のエフェクトと共に【不死の体】の効果でHPを最大値にして復活するが折角の【不屈の竜騎士】を無駄にしてしまう形になった。

 

「詰めが甘い。【不屈の竜騎士】と同じスキル系統のスキルはメイプルを相手にした時見ている。それにその対処法なら既にできているからな」

 

「ぐ……」

 

セイバーはもうブレイド相手に生き残る系のスキルを全て使い切ってしまい2度と瀕死間際からの復活ができない。この状態でブレイドを相手するのは危険と言えるだろう。

 

「このままじゃ、本当にまた負ける。何か、何か手は無いのか……」

 

「お前に打つ手が残されてないのなら遠慮なく俺が仕留めてやる。そして勝つのは俺達だ」

 

「こうなったら【炎の翼】!【バーストフレイム】!」

 

セイバーは背中に炎で生成された翼を展開すると空中へ飛び上がるとそのまま空中から炎を放ってブレイドを遠距離から攻撃していく。

 

「今までのカード使用を観察しているとブレイドさんからの遠距離系の攻撃は無い。だったらその装甲を破るまで遠距離から攻撃を放ち続けてやる!」

 

実はセイバーの言う通りブレイドの持つカードはAのチェンジ、2のスラッシュ、3のビート、4のタックル、5のキック、6のサンダー、7のメタル、8のマグネット、9のマッハ、10のタイム、Jのフュージョン、Qのアブゾーブ、Kのエボリューションと飛び道具がほぼ無い。唯一サンダーが攻撃用に使えるが殆どが近接攻撃かそれをサポートするもののみである。ブレイドのカード構成は近距離戦用なので中々遠距離からの攻撃手段が乏しいのも仕方ないだろう。

 

「【バーニングレイン】!」

 

セイバーが赤黒い炎の斬撃波を連続でブレイドへと飛ばすとブレイドはそれをノーガードで受け止める。すると流石に強攻撃だったからかブレイドにダメージが入った。

 

「よし、効いてる。このまま一気に……」

 

「ちょっとダメージを入れたからって調子に乗るなよ【タイム】、【キック】!」

 

ブレイドはそう言うと【タイム】で時間を停止。それから【キック】で地面を強く蹴って空へと跳び上がりセイバーへと接近。そのまま【タイム】を解除するとセイバーへと剣を振り翳した。

 

「な!?」

 

セイバーはそれを虚無で受け止めるが、あまりのパワーにバランスを崩してそのまま地面へと落下。【炎の翼】も消えてしまった。

 

「クソッ……何をしても封殺される。どうやったらブレイドさんに勝てる?」

 

「残念だがセイバー、お前に勝ち目は無い。諦めろ」

 

「まだだ。万策尽きても……どこかに攻略する方法がきっとあるはずだ」

 

「奇跡など起きない。それに、仮に起きても俺には勝てない。それが現実だ」

 

セイバーに突きつけられるブレイドの剣。遠距離からの攻略も失敗し、もうブレイドに勝つ方法は存在しないのか。セイバーは必死に考えを巡らせるのだった。

 

その頃、炎と雷の国の玉座付近での戦闘も更に激化。サリーと分身セイバーは女王とキャロルを相手に良い勝負を続けていた。

 

「【ゴールドインパクト】!」

 

キャロルの魔法陣から次々と黄金の光弾を発射するとセイバーはそれを紙一重で躱しながらキャロルへと近づいていく。

 

「【火炎十字斬】!」

 

セイバーからの斬撃はキャロルが魔力の障壁で防御するもののその威力までは殺しきれずに余波でダメージを負う。キャロルがダメージに顔を顰めた瞬間にセイバーは更に距離を詰めて自らの間合いに入った。

 

「うおらっ!」

 

セイバーが炎を纏わせた烈火でキャロルを斬りつけるとキャロルも手にダウルダブラの弦によるドリルで迎え撃つ。2人が激しく打ち合うがセイバーにはまだ余裕があるのに対してキャロルはこの時点で既に息を切らせていた。

 

「はぁ、はぁ……このままでは不味いな」

 

「どうした?それで終わりかよ」

 

「お前の本体はブレイドに追い詰められているのに随分と余裕じゃないか」

 

「確かに本体の状況は良くない。けど、それならそれより前にお前を倒して玉座に触れれば良い。俺は負けるつもりは無いからな!」

 

セイバーはそう言いながらキャロルへと張り付くように攻撃を加えていく。キャロルは飛び道具主体のスキル構成のために中々セイバーを引き離すことができない。

 

「この……」

 

「主力プレイヤーの対策はバッチリしてあるからね。キャロル、当然お前のもな」

 

セイバーは笑みを浮かべながらキャロルを上段から斬りつけ、横に薙ぎ払い、そのまま後ろ回し蹴りで吹き飛ばす。

 

「が……」

 

キャロルは何もできずにただ蹂躙されていく。このまま行けばセイバーが勝つのは時間の問題かに思えた。しかし、キャロルも敵の主力の1人、何も対策をしないはずが無かった。

 

「一気に……!?」

 

セイバーが再びキャロルとの距離を詰めようとすると何かに気づいて止まった。そこにはセイバーの動きを封殺するように置かれたエネルギーの球が幾つもありセイバーは迂闊に動けば球に触れてダメージを負うだろう。

 

「まさか、今の攻撃の間に仕込んだのか?」

 

「俺がただ黙ってやられるわけがないだろう?それに今は俺の距離だ!【エレメンタルノヴァ】!」

 

キャロルが四大元素の力を一点に集めた強力なエネルギー波を発射。そしてそれはセイバーへと迫っていく。

 

「こうなったら【エレメンタル化】で……え?」

 

セイバーが【エレメンタル化】を使おうとするものの何故かそれが発動する事は無く代わりに自分の足が何かに縛られているのを感じて下を見るとそこには魔法陣から鎖が出てセイバーを拘束していた。

 

「嘘ぉ!!」

 

「この俺を甘く見たのを後悔しろ!」

 

そのままセイバーはエネルギー波に飲み込まれて大ダメージを負いHPの殆どを消し飛ばされた。加えて近くに設置されていたエネルギーの球が爆発してセイバーへと追撃。彼はHPを1だけ残して耐えたもののかなりの損害を負うことになった。

 

「痛てて……【不屈の竜騎士】無かったら死んでたんだけど……」

 

「わかったか。俺を甘く見たら手痛いダメージを受ける事を」

 

「ああ、俺もちょっと油断してたぜ。けど、もうそんなのは無しだ。【紅蓮爆龍剣】!」

 

セイバーが先程のお返しとばかりに紅蓮の龍を模したエネルギー斬をキャロルへと放つ。そしてそれがキャロルへと命中すると大爆発を起こす。キャロルは咄嗟に障壁を展開して凌ぐがこれでセイバーを完全に見失った。すると目の前に緑の竜巻が現れた。

 

「煙幕を隠れ蓑にして【エレメンタル化】を使ったか。だが甘い!」

 

キャロルがその竜巻に向かって先程【エレメンタル化】を封じる鎖を使うと動きを止めようとした。しかし、それは不発に終わり竜巻を突き抜けた。

 

「!?」

 

するとキャロルの真後ろの地面からセイバーが飛び出すとそのまま烈火を振り下ろす。キャロルは完全に背後を取られる形となりダメージを受け、セイバーからすぐに離れた。

 

「馬鹿な」

 

「残念。惜しい所まで行ったけど俺にダメージを与えるには一手足りなかったな」

 

キャロルを相手に見事なフェイントを決めたセイバーは油断する事なく烈火を構える。キャロルも次は喰らわないとばかりに魔法陣を展開して低威力かつMP消費が小さい範囲攻撃のエネルギー弾を撃ち始める。

 

「そっちが弾幕ならこっちはそれごと薙ぎ払ってやる!【森羅万象斬】!」

 

セイバーが虹色の斬撃で展開された弾幕を全て撃ち落としその間にセイバーがキャロルへと近づこうとするがすぐにキャロルから第二波が撃ち出されて近づけない。セイバーはその攻撃を弾幕と弾幕の隙間を縫うように躱し続けながらキャロルへと話しかける。

 

「どうしたどうした?大技は使わないのか?」

 

「さっきみたいな大技なんてそうそう撃てるか!そんな事したらMPが幾らあっても足りないぞ!」

 

どうやらここまで長時間戦っている影響か、キャロルのMPも少しずつ限られてきているようだった。セイバーの狙い通りに……。

 

「(良いぞ。このままいけばキャロルのMPを枯らせられる。そうすれば俺が倒せなくてもサリーが倒しやすくなる。俺の役割はアイツの負担を少しでも減らす事。このままキャロルのMPを減らさせる!)」

 

セイバーが内心狙い通りとばかりに笑みを浮かべている一方、キャロルもセイバー相手に狙い通りと考えていた。

 

「(良し、このまま長期戦にしてセイバーに玉座を触れさせないようにすればブレイドがセイバーの本体を倒してくれる。今の俺にできるのはMPを全て使ってでもセイバーの分身をここで足止めさせる事だからな)」

 

このように2人共がそれぞれの目的を果たしており勝負の決着は敢えて引き伸ばされていた。しかし、双方共に最終的には相手を倒すつもりなのでその均衡はすぐに崩れた。

 

「【アクアウェーブ】!」

 

キャロルが烈火の火属性を相手に有利を取れる水属性の攻撃でセイバーを仕留めようとする。セイバーはこれを烈火で真っ二つに切り裂きながらキャロルへと走っていく。それを見たキャロルはすかさずセイバーの走ってくる両側からダウルダブラの弦でセイバーを絡め取り拘束する。

 

「チッ……こんな程度で!」

 

セイバーが気合いでそれを粉砕するとその瞬間、キャロルが大技を放つ準備を終了させて解き放った。

 

「【グラビトンエンド】!」

 

キャロルは紫の巨大なエネルギーの球体を生成しておりそれをセイバーめがけて撃ち出す。セイバーがそれを赤く輝かせた烈火で受け止めるがそのあまりの威力に吹き飛ばされるとHPをかなり削られた。そこにキャロルからの追撃が放たれる。

 

「このまま仕留める!【グランドバースト】!」

 

キャロルがセイバーが吹っ飛んだ先の地面に魔法陣を展開してそこからの巨大な大地のエネルギー波でセイバーを倒すつもりだった。

 

「待っていたぜ。キャロル、お前が俺を仕留めるために大技を使う事を!【精霊の光】!」

 

セイバーは10秒間のみ無敵となると攻撃を無力化。そのまま城の壁を蹴ってキャロルへと再接近するとそのままキックの体勢に入った。

 

「【元素必殺撃】!」

 

「【トリスメギストス】!」

 

セイバーが四大元素の力を集約させた虹色のキックをキャロルへと放ち、キャロルもそれを防ぐべく3枚の魔力の障壁で防ごうとする。

 

「うぉらぁああああああ!!」

 

セイバーの一撃は凄まじくキャロルの展開した障壁を1枚ずつ粉砕していき3枚共破壊した。だが、3枚目を破壊した瞬間にキャロルがカウンターの魔法陣を展開して攻撃を仕掛けにきた。

 

「【ウインドストーム】!」

 

キャロルから撃ち出された緑の竜巻がセイバーのキックと威力を殺し合い2人共に後ろへと飛ばされて地面に叩きつけられた。

 

「く……」

 

「まさか防がれた上にカウンターまでもらうとは。やるな、キャロル!」

 

「当たり前だ。このまま易々と負ける俺ではない!」

 

2人は笑みを浮かべると戦いを楽しむ戦士の顔となった。

 

「続けるか?」

 

「当然!」

 

2人はそれから再び激突を続けていく。そして、激突を続けているといえばサリーと女王の戦いも終わりが近づいていた。

 

「【糸使い】!【右手:糸】!」

 

サリーが跳び上がりながら右手から糸を射出すると天井に糸を付けてそのまま上へと昇っていく。それに対して女王はたった一回のジャンプでそこに追いついてくる。

 

「今だ!【糸使い】!」

 

サリーはそれを待っていたのように糸使いを解除して手から糸を切り離すとそのまま落下を開始。一方の女王はまだ最高到達点に達していないからか未だに上に行っていた。そしてサリーはすれ違い様にダガーで女王を斬りつけていく。

 

『チッ!だったらこれはどうだ!』

 

女王がダメージを負いつつジャンプの最高到達点に達するとそのまま翼を広げて空中で停滞。その位置から魔法陣を呼び出して炎の雨を降らせていった。

 

「【変幻自在】!」

 

サリーは形を変えられるダガーを大盾に変化させると炎の雨を凌いでいく。だが、大盾にした影響で動きは若干遅くなってしまった。そこに女王が猛スピードで突撃するとドロップキックを叩き込む。サリーはその威力に吹き飛ばされるものの、ダガーを地面に突き刺すことで壁への激突は避けて即死を免れた。

 

「危っぶな。けど、のんびりしているとヤバそうね。なら!【黄泉への一歩】!」

 

サリーが空中に足場を作ってそこを伝いながら女王のいる場所へと向かっていく。そして女王とある程度距離を詰めると今度はダガーを弓へと変化させてイズに作ってもらった矢をつがえると引き絞り放った。

 

『小賢しい!』

 

女王はそれを見切ると手で棒の部分を掴んで防いだ。そしてサリーへと超スピードで接近すると殴り飛ばす。しかし、その姿は薄く溶けて消え、女王はまたもや幻のサリーを殴っていた事になる。その間にサリーは女王の後ろから女王の翼に向かってダガーを変化させた斧で斬りつける。

 

「うおりゃ!」

 

その一撃で翼に傷をつけられた影響か、女王はバランスを崩すとそのまま落下。サリーは着地と同時にすかさず距離を詰めて二刀流のダガーを振るう。

 

「【クインタプルスラッシュ】!」

 

サリーから繰り出させる連撃が女王の体に細かい傷をつけていきそのHPを少しずつ減らしていく。

 

『調子に乗るな!』

 

女王が振り返りながらサリーへ蹴りを繰り出すものの既にサリーはその場におらず、代わりにダガーによるダメージが女王に入った。サリーの戦術としては女王が超スピードを使ってくるのは自分との距離が離れた時であり、距離が始めから近ければ普通に拳や蹴りを主体にしてくるのでそれを利用して女王との距離を離さずに女王の動きの隙を突く事にしたのだ。

 

「(このまま広範囲技が来ない限りは今の攻撃を続けよう。もし範囲攻撃が来たらその時は……)」

 

サリーが考えを巡らせていると流石の女王もサリーの動きを学習してきたのかサリーのカウンターに合わせられるようになってきていた。

 

「(もう対応してきた。けど、このまま押し通す!)」

 

それから似たような光景が繰り返されていき数分が経つと女王のHPが2割となって最後の変化が起きようとしていた。

 

『私の逆鱗に触れた事、後悔すると良い!!』

 

女王が目を光らせるとその瞬間、全方位へと衝撃波が発動し、サリーはそれをダガーで受け止める。その直後、空から小型の隕石が大量に降り注ぎ始めた。

 

「え!?ちょっとここ室内なんですけど!!」

 

サリーは王城の部屋の中なのに何故隕石が降り注ぐのか疑問に思ったがそんな事を考えている場合ではない。このままでは隕石に押し潰されてただでさえ少ないHPを消されてしまうだろう。それを避けるためにもサリーの集中力は高められていき隕石を回避する事に専念する。

 

「集中、ここさえ乗り切れば勝てる」

 

サリーは走りながら隕石を紙一重で回避していく。そこに女王からの火炎弾が正面から迫ってきた。

 

「上と前からの挟み撃ち。普通の人なら即アウト。だけど私を普通と一緒にされたら困る!」

 

サリーの動体視力と反射神経によって2方向から飛んでくる攻撃を難なく回避。そのまま女王に近づくとダガーで斬りつけていく。

 

女王もゼロ距離に近づいたサリーへと拳を繰り出すが、それは簡単にいなされるとまたサリーの一撃が決められる。サリーは既に女王の攻撃パターンを見抜いていた。加えて、ゼロ距離にまで迫ってしまえば隕石攻撃が来ないことも想定済みである。そうなるともうサリーの独壇場というわけだ。

 

『馬鹿な……この私がこんな奴に……』

 

女王のHPが1割になると再び衝撃波でサリーとの距離を離すと隕石攻撃で今度こそ仕留めにかかった。今回は先程よりも更に隕石の密度が増加している。それでもサリーの動きは止まらない。極限まで高められたサリーの目には隕石など止まって見えているぐらいだった。サリーが隕石の雨を抜けたその瞬間、サリーの勝利は決まっていた。

 

「これで終わり!【流水ノ連撃・水流斬】!」

 

サリーから繰り出された水の連撃が女王を両断するととうとう女王のHPを完全に消し、勝利を収めるのであった。

 

『まさか、この私が負けるなんてな。お前、名前は?』

 

「サリー」

 

『そうか。覚えておこう』

 

女王はそう言うと消滅し、残す玉座への障害はキャロルのみとなった。だが、勝利の代償は大きかった。サリーは両手を膝に付くと息を荒くしていた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……嘘、もう限界なの?」

 

サリーにとって女王の圧倒的な強さは誤算だった。長時間、集中モードに入っていたサリーは知らず知らずの内に己の肉体の限界を超えておりその反動が今になって襲いかかってきた。不運はそれだけでは済まなかった。

 

「どうしたキャロル!!そんなものか?」

 

「くっ……やはりセイバーは強い。しかもサリーがこっちの王を倒したか……ん?サリーが手を膝に付いている?しめた!今ならサリーを倒せる!!【ダブルサンダー】!」

 

セイバーと交戦していたキャロルにサリーが疲労で動けない所に2発分の大技を撃ち込んだのだ。サリーにはスキル【空蝉】があり一撃までなら耐えられるが2発は防げない。しかも、今のサリーは疲労で動けないのだ。これでは躱す事もできない。

 

「ッ!」

 

サリーは衝撃に備えて目を瞑った。しかし、いつまで経ってもその衝撃は自分に来なかった。サリーが目を開くとそこにはセイバーがサリーを庇うように両手を広げてサリーが受けるダメージを肩代わりしていた。

 

「サリー、大丈夫か?」

 

「うん……でも……セイバーが」

 

「俺ならこれを耐え切れる……」

 

「無駄だ!【グラビトンエンド】!」

 

キャロルからトドメとして放たれた超火力のエネルギー弾がセイバーを襲うと大爆発を起こして烈火のセイバーのHPを0へと変えた。

 

「すまんサリー俺はここまでみたいだ。……後は……頼むぜ……」

 

そう言うと烈火の分身セイバーは消え、サリーは絶望でその場に膝をついた。

 

「そんな……セイバー?嘘だよね……嘘だって言ってよ。私のせいで、私のせいで!」

 

項垂れるサリーの前にキャロルが降り立つと魔法陣を展開した。

 

「セイバー、サリーを守って代わりに散るか。その優しさが命取りだったがそれこそ俺が好いた男だ。さて、サリー。気の毒だがこれも勝負だ。お前にも消えてもらう」

 

「ここまでやったのに負け?……そんなの……嫌だ……」

 

今のサリーにはセイバーが身代わりとしてやられた事で動揺が走っておりいつも通りの動きができなかった。今キャロルの攻撃が飛んできたらひとたまりも無いだろう。

 

「引導を渡してやる」

 

キャロルの魔法陣から攻撃が放たれようとした瞬間、突如として轟音が聞こえてきた。

 

「何だ?」

 

「ちょっと待ったぁあああああ!!」

 

叫び声と共に立っていたのは先程の戦闘で気を失いながらも気合いと根性で復活し、ここまで駆けつけた水と氷の国側の最後の援軍にして最強の格闘戦士。

 

「ヒビキ!!」

 

「ここで私が大登場!お待たせしました、サリーお姉さん!」

 

ヒビキはキャロルへと殴りかかるもキャロルはそれを後ろに飛んで躱し、ヒビキがサリーへと手を伸ばすとサリーもそれを取って立ち上がった。

 

「まさか、お前が追いつくとはな。だが丁度良い。ここでお前らを纏めて倒す!」

 

「サリーお姉さん、まだやれますね?2人でキャロルちゃんを倒しましょう」

 

「……そうね。これが本当に最後。行こうヒビキ!」

 

サリーとヒビキは2人は構えると敵の最後の砦、キャロルを倒すべく向かっていくのだった。

 

———————————————————————

イベント3日目、現在の戦況

 

ブレイド対セイバー(本体)

 

セイバー(分身)×5(水と氷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

キャロル対サリー、ヒビキ

 

セイバー(分身)×4(炎と雷の国側でプレイヤーと戦闘中)

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド

サリー        キャロル

ヒビキ        




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと佳境

第10回イベントの3日目の終盤。少しずつ戦いは終戦へと近づいていた。水と氷の国の王城内ではセイバーがブレイド相手に必死の抵抗をしているものの、圧倒的なブレイドの力を前に敗北は濃厚かに思えた。

 

「うぉりゃあああ!!」

 

「はっ!」

 

ブレイドがセイバーの攻撃を難なく受け止めるとそのままカウンターの一撃を叩き込み、その体を痛めつけていく。虚無の効果でHPは自動回復するものの、今のままではいずれはセイバーの回復を上回るダメージを与えられて負けるのは目に見えていた。実際、【不屈の竜騎士】と【不死の体】は使用済みであり次に大技を喰らえば生き残ることはできないだろう。そうなれば今までの苦労も水の泡となってしまう。

 

「負けるかよ……負けてたまるか!」

 

「無駄だ。お前では俺には勝てない!」

 

セイバーが虚無でブレイドを斬りつけようとするがセイバーの太刀筋は全て見切られておりブレイドには何もかも防がれてしまう。決してセイバーの攻撃が弱いとかセイバーの戦闘力が低いわけでは無い。ブレイドがそれだけセイバーの動きを研究してきている証拠である。

 

「俺の切り札を喰らえ!【不死鳥無双斬り】!」

 

セイバーが空へと跳びあがるとそのまま不死鳥を模したエネルギーの斬撃を放ちブレイドへと攻撃を仕掛ける。因みにこのスキルが虚無のセイバーの持つ最大打点でありこれが効かなければブレイドに勝つのは絶望的である。

 

「いっけぇえええ!!」

 

セイバーの全てを賭けた渾身の一撃がブレイドへと飛んでいく。ブレイドはそれを敢えて正面からノーガードで受け、大爆発を起こした。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、やったか?」

 

セイバーがそう言っているとそこにはブレイドがHPを半分程残して耐えていた。セイバーはそれを見て冷や汗が止まらなかった。自分の切り札とも呼べるスキルを余裕で耐えたのだ。これには驚くのも無理ないだろう。そして、ブレイドはポーションで回復してセイバーへとゆっくりと迫ってくる。

 

「これでもダメかよ……もうこうなったらブレイドが知らない攻撃方法をするしか……でも今の状態じゃそれは厳し……え?」

 

セイバーはこの時ある事に気づいた。そしてそれはこの絶望的な戦況を唯一変える可能性がある物であるが同時に大きな賭けでもあった。

 

「……くくく……あははははは!!」

 

セイバーが突如として笑い始めた事にブレイドは疑問を浮かべる。今のセイバーは絶望的な状況を前にしており普通であれば笑うなどあり得ない。しかしそれでも彼は笑った。その意味とは何なのか。

 

「何がおかしい。今のお前は絶望的状況に置かれていることを忘れたのか?」

 

「いや、覚えてるよ。でも来たんだよ。逆転につながるチャンスが」

 

「何だと?」

 

セイバーはそう言うと虚無を地面に突き刺してそのまま構えを解いた。

 

「ブレイドさんだから言いますが俺はババ抜きが苦手です。いつもいつもジョーカーが最後に自分の手元に残るので負けちゃいます」

 

「……いきなり何の話だ」

 

当然ブレイドはこんな話をするセイバーを相手に困惑を隠しきれない。しかし、セイバーの目は本気だった。

 

「でも逆に考えてみてくださいよ。ジョーカーが毎回俺の手元に残るってことは……切り札は常に俺の所に来てくれるって事じゃないですか?」

 

セイバーはそう言うと対ブレイドに対抗できる最後の切り札にして最も付き合いの古い最初の剣を呼び出した。

 

「烈火抜刀!【神獣合併】!」

 

するとセイバーの付けている指輪から3体の龍が出現。セイバーの中にいるエレメンタルドラゴンとプリミティブドラゴンの2体と入れ替わりそのままセイバーの体へと融合していくとセイバーが纏う装備を情龍の装備へと変化させていった。

 

「まさか、こんな手が残っているなんてな」

 

「最初に言っておく。この状態の俺はかーなーり、強い!!」

 

セイバーはそう言ってブレイドへと向かっていく。そして、手にした烈火を赤く輝かせて攻撃を仕掛けていくのであった。

 

その頃、サリーとヒビキはキャロル相手に2人がかりとは言えかなり優勢に戦っていた。

 

「【フレイムテンペスト】!」

 

「【翠風ノ型・暴風拳】!」

 

 

キャロルから撃ち出された炎の竜巻が2人へと襲いかかっていく。しかし、ヒビキはこれを真っ向から緑の竜巻で迎え撃って相殺し、サリーは軽々と躱してみせた。そのまま2人は両サイドからキャロルへと走っていく。

 

「【自在弦】!」

 

キャロルは装着しているダウルダブラから弦を展開するとそれを自在に操って2人を攻撃させる。

 

「【糸使い】、【左手:糸】!」

 

サリーが天井へと糸を伸ばすとそのまま空中へと上がっていき弦の射程外へと逃れるとダガーを【変幻自在】で変化させて音銃剣錫音の銃モードで遠くから射撃を仕掛ける。対してヒビキは空中へと跳び上がりつつ攻撃を躱すがそこを狙っていたとばかりにキャロルから追尾弾が放たれてヒビキは集中砲火を喰らった。

 

「く……」

 

「ヒビキ!」

 

「まだまだ、一気に行きます!【イグナイトモジュール・ダブル抜剣】!」

 

「何だと!?」

 

ここに来てヒビキはイグナイトを使用。マリア戦でイグナイトを使わなかったのはマリアに読まれているからという理由だけでなく、マリアを倒したその先にいるキャロルとの戦いも見据えた作戦だったのだ。

 

「はあっ!」

 

ヒビキがキャロルの弾幕を無理矢理押し退けながらキャロルへと近づいていく。キャロルはヒビキだけに集中するとサリーにやられるので意識を割かざるを得ず、ヒビキを得意の近接戦の間合いにまで近づかせてしまった。

 

「【我流・火炎龍撃拳】!」

 

「【トリスメギストス】!」

 

「知るもんかぁあああ!!」

 

ヒビキはキャロルが展開した三重の障壁を次々に破っていき強烈な一撃を腹へと叩き込んだ。

 

「調子に……乗るな!【ゴールドインパクト】!」

 

キャロルが魔法陣から黄金のエネルギー弾を至近距離からヒビキへと放ちヒビキはこれをまともに喰らってダメージを負った。そこにサリーがキャロルへと背後から強襲。

 

「【流水ノ連撃・氷結斬】!」

 

サリーが氷を纏わせた連続斬撃を放つとキャロルの背中を切り裂き彼女を怯ませて動きを一瞬鈍らせた。そこに攻撃のダメージを耐え切ったヒビキが蹴りで攻撃していく。

 

「コイツら、何という連携力だ……」

 

「ここまで何百回と練習してきたからね」

 

「この連携力は私達の努力の結晶ですから!」

 

キャロルは2人に近づかせては危険と考えて遠距離から潰すべく魔法陣から弾幕を張って2人との距離を取った。

 

「2人に連携されたら俺は勝てないな……だったら1人ずつ倒すまで!!」

 

「ヒビキ、朧にサポートさせるからあなただけでも近づいて」

 

「え?でもサリーお姉さんは……」

 

「考えがある。でも説明している時間は無い」

 

「わかりました!」

 

サリーは朧を呼び出すとヒビキの肩に飛び移らせて2人は別方向に分かれていった。

 

「しめた。1人ずつ分断して倒す!【ロックレイン】!」

 

すると突如としてサリーの周囲に岩が落下。彼女に直接当てるというよりは行手を妨げるように落としていく。サリーの動きが足止めさせられている間にヒビキが自らの間合いへと接近。キャロルへとパンチを繰り出すとキャロルはそれを見切ってその腕を躱しつつ掴み背負い投げを仕掛ける。

 

「うえっ!?」

 

そのまま地面に叩きつけられたヒビキは息つく暇も無くキャロルからの追撃を受けるとそのまま消えてしまった。

 

「……やったか?いや、今のでやられるなら俺はここまで苦戦しない。なら、これはフェイク!」

 

キャロルは今攻撃を仕掛けてきたヒビキは朧の【蜃気楼】によって生み出された幻だと考えてすぐに当たりを見回すと近くにヒビキを見つけた。

 

「やばっ……もうバレた」

 

「甘いな。その程度では俺の目は誤魔化せない!【グランドバースト】!」

 

続けてヒビキが立っている場所が隆起すると大地のエネルギー波が彼女を襲ってその体を吹き飛ばした……かに思えたが、その姿は再び揺らぐと先程とは違うように消滅していった。

 

「まさか、これは二重の罠?」

 

「大正解!【クイックチェンジ】、【ホログラム】!」

 

サリーは岩で囲まれた場所から脱出しつつ装備を第八層で手にした物へと変更すると【ホログラム】を使用した。キャロルはそれを受けて何かが来ると構えるが何も発生しない。

 

「こけおどしか。【エレメンタルノヴァ】!」

 

キャロルが大技でサリーを潰そうとするが今回はそれが失敗だった。サリーの【ホログラム】の効果は一定時間の間に使われたスキルを実体無しで真似して撃つスキルであるがあるスキルを使う事でそれを実体有りに出来る。

 

「【虚実反転】!【エレメンタルノヴァ】!」

 

サリーはキャロルのスキルをコピーして放つと【虚実反転】の効果で全く同じように解き放った。

 

同じスキルがぶつかり合うとそのまま押し合うがそれはキャロルに隙を作る事に繋がっていく。

 

「ヒビキ!」

 

「しまった!!」

 

「【我流・鳳凰無双撃】!」

 

ヒビキが鳳凰のエフェクトを纏いながらキャロルの背中に攻撃を当て、彼女を吹き飛ばした。更に、【エレメンタルノヴァ】を使用した事でキャロルのダウルダブラの中に蓄えられている内蔵MPがごく僅かとなりもうスキルもまともに撃てなくなってしまった。

 

「もうダウルダブラのMP切れ……」

 

「勝負は付いたね。私達の勝ちだよ」

 

ヒビキがキャロルへと勝利宣言をする中、まだキャロルの目は死んでなかった。

 

「……まだだ。まだ俺は……終わってないぞ!!」

 

キャロルはそう言いながら彼女の持つ最後の奥の手を使用する事になった。そしてそれは2人に絶望感を与えていく事になる。

 

「【碧の獅子機】!」

 

キャロルの叫びと共にその姿を機械仕掛けの巨大な緑の獅子へと変えていく。それこそがキャロルの最終決戦形態。【碧の獅子機】である。碧の獅子は咆哮するとエネルギー砲を2人に向けて放った。

 

「「くっ!」」

 

「全てを無に返す……勝つのは俺だ!!」

 

「メイプルの【暴虐】やベルベットの【雷獣】に似たスキルか」

 

「ふん。その2つと一緒にしてもらっては困るなぁ。俺のこの姿は文字通りの最終兵器。俺の全てが込もっている。お前らなどに止められると思うなよ」

 

キャロルの言葉と共に獅子は動き出すと2人に襲い掛かる。2人はこのキャロルの最終手段を前に気を引き締めつつ対処していくのであった。

 

その頃、双方の城下町では分身セイバーが敵のプレイヤーやNPC、更にはモンスターのヘイトを全て受け持ちながらも圧倒的な強さで蹂躙。そして残すは僅かとなっていた。

 

「ようやく終わりが見えてきたな」

 

「ま、かと言って油断するつもりは無いけどね!」

 

それから計9人のセイバーは次々とスキルを放っていく。

 

「【タテガミ氷牙斬り】!」

 

「【稲妻放電波】!」

 

「【大断断斬】!」

 

「【疾風剣舞】!」

 

「【スナックチョッパー】!」

 

「【月闇居合】!」

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

「【昆虫煙舞】!」

 

「【一時一閃】!」

 

9人のセイバーが最後のスキルを使うと残されていたプレイヤーは全て消し飛ばされる事になった。これによりイベントフィールドに残されているプレイヤーはセイバー、サリー、ヒビキ、ブレイド、キャロルの5人だけであり他のプレイヤーは敵も味方も全滅していた。つまり、この戦いの行方は王城内にて玉座を巡る戦い次第という事になる。

 

そして、分身セイバー達は自分達の役目を終えたという事で全て消えていきフィールドには静けさのみが残る事になった。何故ここで分身セイバーを維持しないのかというと、今現在、虚無のセイバーが出ていないので疲労だけが本体に共有されて本体がブレイドが原因ではなく疲労で倒れかねないので負担がかかる分身を解除したのだ。

 

その頃、ブレイドとの決戦に挑んでいるセイバーの本体は誰にも見せていない新装備と今までとは違う剣捌きをすることによってようやくブレイド相手に互角の勝負にまで持ち込んでいた。

 

「はぁっ!!」

 

「うおらっ!」

 

2つの剣がぶつかり合う度に火花が散っていきその激しさを物語っていく。セイバーが剣を烈火にしてからはセイバーもブレイドもスキルを使わずに斬り合いを続けていた。2人はお互いにノーダメージでありそれぞれの純粋な力比べと言った所だった。

 

「やはりブレイドさん相手にスキル無しだとダメージ入らないな……」

 

「セイバーも中々やる。まさか今までと剣捌きのパターンを変えるだけでこの俺にここまで対抗できるとは」

 

2人は相手を認め合うといよいよ本格的にスキルを解禁しての戦いへと発展していった。

 

「【ラブキャノン】!」

 

セイバーが胸の白い龍の口から白いエネルギー砲が放たれるとブレイドへと襲い掛かる。ブレイドはこれを大剣で受け止めるがその威力の高さに後ろへと下がった。

 

「【スラッシュ】、【サンダー】!【ライトニングスラッシュ】!」

 

お返しとばかりにブレイドが電気を纏わせた大剣でセイバーを斬り裂こうと走って来るがセイバーはこれを左腕に装備した盾で防いでいく。

 

「何だと?」

 

「この盾の固さを甘く見てもらっては困りますよ!」

 

セイバーはそのまま盾で押し返しつつ烈火に炎を纏わせて斬撃を繰り出した。

 

「ぐうっ……」

 

「【ブレイブスラッシュ】!」

 

更にセイバーは烈火に赤い輝きを纏わせてブレイドをすれ違い様に斬り裂くとブレイドはダメージを負うことになりHPを4分の1程度だったが削り取った。

 

「チッ」

 

「おいおい。スキル込みでもそれだけかよ。ブレイドさん固すぎません?」

 

「調子に乗るなよセイバー。【マッハ】!」

 

ブレイドは超スピードを発揮するとセイバーの周囲を走り回って撹乱させ、そのまま後ろから剣を振り下ろす。しかし、セイバーはそれを読んでいたかのようにすぐさま振り向いて剣で受け止めた。

 

「な!」

 

「あなたが俺の動きを読めるように俺もあなたの動きがわかるようになってきましたよ」

 

セイバーはここまでの戦いの中でブレイドの攻撃を受け続けた影響でようやくだが彼の動きの先を読めるようになってきたのだ。加えて、ブレイドの使うスキルはいつも同じなので対応方法も確立しており、最早ブレイドか有利なのはキングフォームが誇るスペックのみとなっていた。

 

「まさかもうここまで対応されるとは……」

 

「流石に俺も対応はしますからね。さぁ、戦いを続けましょう」

 

それから2人は笑みを浮かべながら楽しそうに戦いを続けていく。一方、炎と雷の国でも碧の獅子となったキャロルがサリーとヒビキを火力差で圧倒し続けていた。その理由はキャロルの口から放たれるエネルギー砲で2人を攻撃し、獅子の周囲に張り巡らされた弦がワイヤーの役割を果たし、それらが蜘蛛の巣のように張り巡らされる事で2人を近づけなくしていた。これによって2人はかなりの苦戦を強いられることになる。

 

「これじゃあイグナイトでも近づけない……」

 

「見える分だけでも弦を切ってるけどキリがない……このままじゃ」

 

「2人共、さっきまでの威勢はどうした?」

 

しかもかなり厄介な事に今のキャロルはMPを消費する事なく攻撃してきているためにMP切れでダウルダブラが消えることが無い。更に、ヒビキのイグナイトには時間制限がある。このまま行けば2人が負けるのも時間の問題だろう。

 

「こうなったら私が突貫しますのでサリーお姉さん、フォローをお願いします!」

 

「え?」

 

「【イグナイトモジュール・オールセーフティ・リリース】!」

 

ヒビキはイグナイトの最大出力を発動するとその効果が切れる前に決着を付けるべくキャロルへと突撃。キャロルに到達する前にワイヤー代わりに展開された弦がヒビキの動きを押しとどめるがヒビキは腰のブースターをフルパワーで放出する事で無理矢理引きちぎっていく。

 

「ふん!そんな無理筋が通ると思うなよ!」

 

キャロルが迫って来るヒビキを叩き落とすために獅子の足を動かすとそのままヒビキへと振り下ろす。

 

「はぁあああ!【我流・特大撃槍】!」

 

ヒビキの拳とキャロルの獅子の足が激突。力と力のぶつかり合いとなるが、ヒビキはその質量差に押し切られて地面へと叩きつけられた。

 

「あ……ぐ……うぅ……」

 

ヒビキはマリアとの戦いでも蓄積した疲労と痛みのせいでうめき声を上げており限界が近かった。そしてそれはサリーも同様であり女王との戦闘の疲れがまだ残っている状態で対峙している。先程まで有利な戦況だったために2人は痛みなどを感じる事なく勢いのままに戦うことができたが、キャロルの本気によってそれは簡単にひっくり返されて2人が不利になった影響で2人へとどっと疲労などが襲い掛かったのである。

 

「イグナイトの力の底は見た。そしてその力は恐るるに足りない。今の俺の力はただの1人で数百の敵に匹敵する戦闘力だ!!」

 

「こんなの……どうしたら……」

 

サリーはキャロルとの戦力差に一瞬たじろぐがそれでも自分達の勝利のために引くわけにはいかない。頬を両手で叩いて気合いを入れ直すとキャロルへと走っていく。

 

「来るか。ならば跡形も無く消し飛ばしてやる!!」

 

キャロルが獅子の体の周囲に大量の魔法陣を展開するとそこから無数の弾幕をサリーへと放っていく。サリーはこれを再び入った限界突破の集中モードで弾と弾の隙間を縫うように躱していく。

 

「(弾は躱せる。けど、あの弦をどうすれば……そうだ!弦を壊すんじゃなくて……利用すれば良い!)」

 

サリーは蜘蛛の巣のように展開された弦を足場として利用したり弦を掴んで方向転換するなど弦を巧みに使って立体機動を実現。変幻自在な動きで弾を躱しつつキャロルへと近づいていく。

 

「まさか俺の弦を利用して……」

 

「【オクタプルスラッシュ】!」

 

サリーから繰り出された連続の斬撃。それがスキル【追刃】などの倍増スキルによって更に増加して獅子を切り刻んでいく。流石にダメージ量は微々たる物だがそれでもダメージを与えている事には変わりないのでキャロルはそれを放っておくわけにはいかなかった。

 

「この程度で俺がやられるか!」

 

キャロルの操作する獅子が咆哮を上げるとそのままサリーは衝撃で周囲の弦ごと吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。幸いにも受け身は取れたのでダメージは無かったが両手足が束縛されたかのように地面から動かせなかった。

 

「もしかして麻痺?しまった……動きが」

 

「遅い!」

 

キャロルがエネルギー砲をサリーに放つと彼女はそれに飲み込まれて【空蝉】を使わざるを得なかった。これでサリーは生き残ったものの次に喰らったら終わりの状況だった。

 

「うぉおお!!」

 

そこに先程のダメージを根性で抑え込んだヒビキが飛び出すと獅子を横から殴り体勢を崩させた。しかし、それと同時にイグナイトがタイムオーバーで強制解除されヒビキにはその激痛が襲いかかった。

 

「ぐぁああああああああああ!!!」

 

ヒビキが歯を食いしばってそれに耐えている間にキャロルは体勢を立て直すと激痛で苦しむヒビキにエネルギー砲を放った。

 

「これで終わりだ!」

 

ヒビキはそれをまともに受けるとHPをゴリゴリと減らされていく。

 

「ヒビキ!!」

 

サリーがヒビキを心配するが、キャロルの目は既に地面に拘束されているサリーの元へと向いていた。

 

「後はお前だけだ。お前を倒して俺はここを守り切る!」

 

だが、キャロルが目線をサリーに向けた瞬間、エネルギー砲に飲み込まれたヒビキから光が放たれ始め、その輝きは光の柱を生み出した。

 

「はぁあああああ!!【エクスドライブ】!!」

 

ヒビキが今現在発動できる最後の切り札。【エクスドライブ】を解放すると背中に翼を生やし、体の装甲の黄色いラインは金に輝き、失われたステータスを補った。

 

「馬鹿な……あれだけの攻撃を受ければ体は保たないはず……なのに何故立ち上がれる!?」

 

「セイバーお兄ちゃんが、チームの皆が繋いでくれたチャンスを……無駄にしたくない!そのためなら奇跡さえも起こしてみせる!」

 

「奇跡だと?だとすれば俺はその奇跡ごと踏み潰す!俺は奇跡の殺戮者だ!!」

 

サリーも2人がやり取りしている間に拘束を気合いで引き剥がすと立ち上がる。更にダガーを構えて臨戦体勢を整えた。

 

2人は最後の力を振り絞ってキャロルへと向かっていった。同時刻、セイバー対ブレイドの戦いも佳境へと差し掛かっていた。長時間に渡る激しい戦闘によって2人の疲労は限界値に近くなっており、相手へと隙を見せてしまう前に決着を付けるつもりだった。

 

「そろそろ決めさせてもらいますよ」

 

「いいや、決めるのは俺だ」

 

ブレイドはそう言うとカードを5枚取り出して大剣へと読み込ませていく。即ちそれはブレイドの最大火力を使うことに他ならなかった。

 

「スペード10、J、Q、K、A!【ロイヤルストレートフラッシュ】!

 

「だったらこっちも超絶奥義!ドドドドドドドドドドド【紅蓮爆龍剣】!」

 

ブレイドは黄金に輝く5枚のカードを目の前に呼び出すとそれを潜らせるように斬撃を発射。セイバーもそれに対抗するように炎の龍を模した攻撃を撃ち出す。2つの攻撃はぶつかり合うとそのまま押し合うが互角の威力だったからか大爆発を起こして相殺。その場に煙が発生した。

 

「互角か……だが、これで俺の……」

 

ブレイドは煙に乗じてカードを使っての必殺キックを放とうとするが、それは煙を突き破って現れたセイバーも同じ事を考えていた。

 

「奇遇ですね。俺も考えは一緒です。だから、先にスキルが決まるのは俺ですよ!【情龍神撃破】!」

 

セイバーとブレイド、同じことを考えた者同士の勝敗の決め手はスキルの発動スピードにあった。ブレイドはスキルを使うためにわざわざカードを読み込ませる必要があるが、セイバーにはそれが必要なくノータイムでスキルを放てる。その差が2人のスキル発動までにタイムラグを発生させてセイバーに先手を取らせることができた。

 

「うぉりゃああああああ!!」

 

セイバーから繰り出された赤、白、黒の3匹の龍の力を纏わせたキックはカードを読み込ませようとしていたブレイドの不意を突き、すれ違い様に攻撃は命中。セイバーはブレイドのすぐ近くに着地するとすかさず腰に納刀していた烈火を抜き放ってブレイドへとトドメを放つ。

 

「【感情爆炎斬】!」

 

セイバーの渾身の一撃はブレイドの体を両断するとそのHPを全て消滅させた。それは即ち、セイバーがブレイドに勝利を収めたという事を示していた。

 

「……まさか、俺が負ける日が来るとは……」

 

「俺もまだ実感が湧いてませんよ。あなたに勝てたのは奇跡みたいなものですし」

 

「いや、今回は君が1枚上手だった。……それだけの話だ。また戦ってくれるか?」

 

「勿論です」

 

ブレイドはセイバーからの言葉を聞いて安心したのか眠るように消滅していき、セイバーもブレイドとの戦いの疲れが回ってきたのかその場に仰向けに倒れ込んだ。

 

「勝った……あとはサリー、ヒビキ……お前達次第だ」

 

そう言ってセイバーは王の間の天井を見上げながら暫くの間感傷に浸るのであった。

 

 

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イベント3日目、現在の戦況

 

キャロル対サリー、ヒビキ

 

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残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー       ブレイド 脱落

サリー        キャロル

ヒビキ        




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第10回イベント決着

セイバーとブレイドの激闘に決着が付いた頃、サリーと【エクスドライブ】を解放したヒビキ対【碧の獅子機】となったキャロルの戦いにも幕引きが近づいていた。

 

「うおおおお!!」

 

ヒビキは右腕のガントレットを変形させるとキャロルへとそれをぶつける。キャロルも負けじとそれを押しとどめ、純粋な力比べを始めた。

 

「獅子のパワーを……舐めるな!」

 

キャロルがヒビキのパワーを上回るとそのまま押し返し、ヒビキは後ろへと吹き飛ばされるが翼のお陰で見事に空中で踏みとどまる。そこにサリーからのダガーによる斬撃がキャロルの操る獅子に僅かながらもダメージを蓄積させていった。

 

「ほらほら、ヒビキにだけに気を取られていると私を見落とすよ!」

 

「チッ、2人共限界は近いはずだ……このまま長期戦にすれば……ッ!?」

 

キャロルはこの時、ヒビキよりもサリーを先に仕留めるつもりでいた。何故ならヒビキは正面からぶつかって来るのに対してサリーは搦手を多く用いたり、攻撃のほぼ全てを躱してくるので先に仕留めないと後でMP切れ等の不測の事態が起きた際に対処するのが難しいからである。

 

「だが、ヒビキを無視すると隙を突かれて大技を決められる……どうしたものか」

 

キャロルが考えている間にもサリーからの攻撃は続いていく。更にヒビキも再びキャロルへと向かってきては蹴りを繰り出してきた。

 

「はあっ!」

 

「しつこい!」

 

キャロルは咆哮する際に発生する衝撃波でサリーをまたもや引き剥がすとヒビキを足で叩き落とす。

 

「このっ!【我流・超龍撃槍烈破】!」

 

ヒビキがすぐに持ち直すと右腕のガントレットに力を集めると黄金の龍となりそのままヒビキはキャロルへと突っ込んでいく。キャロルはそれを真正面から受け止めると獅子の防御力で受け切り、逆に獅子の咆哮で弾き飛ばした。

 

「うわっ!?」

 

「鉄壁の守りね……ならこれならどう?【鉄砲水】!」

 

サリーがキャロルの真下に潜り込むとそこから大量の水で打ち上げて体勢を崩させた。更にサリーが跳び上がると【変幻自在】の効果でダガーをガントレットに変化させて右腕に装着。そのままキャロルへとパンチを繰り出してダメージを与えた。

 

「お前も拳を使った攻撃か。だが甘いぞ!」

 

キャロルがカウンターとばかりにエネルギー砲を放つとサリーは咄嗟に【糸使い】で手から糸を出して地面に付けるとそのままその糸を手繰り寄せながら地面へと向かっていき間一髪で攻撃を躱した。

 

「【ウォーターボール】!」

 

サリーがそうスキル名を叫びながら火球を手に呼び出した。

 

「今ウォーターボールと言ったのに何故ファイアボール?だが炎が相手なら……」

 

キャロルは炎に相性が良い水の魔法陣を展開するとサリーの放った火球を消し飛ばそうとした。しかし、それはキャロルの水弾にぶつかった瞬間、弾けると風の刃となってキャロルを襲った。

 

「何!?」

 

流石のキャロルも二重のフェイクに初見で対応するのは難しかったのかその攻撃をまともに受けた。

 

「この程度、大した物じゃ……ぐっ!?」

 

突如としてキャロルは苦しみ始めると体中に痛みが走り始めた。何故こうなったのか。それは【碧の獅子機】を使用する際に発生するデメリットが原因だった。

 

【碧の獅子機】は使用時にHPを1000、MPを2000、STR、VIT、DEX、INTを150、AGIを100にするというステータスを大幅上昇させる効果を持っておりこれだけを見れば破格の性能に思われるが、デメリットとしてスキルが一部を除いて使用不可となるのに加えて時間経過に応じてキャロルの体に大きな負荷をかけるという諸刃の剣を体現したかのようなものだった。

 

「もう反動が来たのか……もう少し保ってくれ……」

 

一方でサリーとヒビキも高いHPとVITを前にキャロルへと有効打を与えることができていなかった。しかも、2人の体は限界に近く、いつ倒れてもおかしくなかった。

 

「ぐ……どうすればキャロルちゃんを倒せる……」

 

「ヒビキ、私に考えがある。私の攻撃だとキャロルにあまりダメージを与えられない。だから私がキャロルの注意を引きつけるからその間に一撃必殺のスキルでキャロルを倒して」

 

「でもサリーお姉さんが……」

 

「最悪どっちかがやられても最終的に1人が生き残って玉座に触ればこっちの勝ちだから。それにセイバーの方がどうなっているかわからない以上、ここは短期決戦で倒すのが良い」

 

サリーはそう言うとキャロルに向かって走っていき、そのまま跳び上がると【黄泉への一歩】を使って空中に足場を作りキャロルの周囲を動き回る。

 

「お前が囮になったか。だが俺にとっても好都合。当てさえすれば一撃のお前から倒してやる!」

 

キャロルは周囲に魔法陣を大量展開するとそこからエネルギーの弾幕を放っていく。サリーはこれに捕まると一瞬でやられるので必死に躱し続ける。その間、ヒビキは右手を掲げると神経を研ぎ澄まし力を集約させていった。

 

「【影分身】!」

 

サリーは分身を発動するとキャロルの周りを鬱陶しく飛び回って撹乱していく。キャロルは魔法の弾丸でサリーを倒そうと撃ちまくる。サリーはこれを躱していくが影分身は瞬く間に消し飛ばされた。

 

「朧、【覚醒】!【幻惑の炎】!」

 

サリーは朧に炎を作り出させるとキャロルへと投げつける。キャロルはそれを魔法で迎え撃つがそれはすり抜けてしまい炎はまだ浮かび続けていた。

 

キャロルはそれを見て僅かながら動揺を見せた。その瞬間をサリーは逃さない。

 

「今!」

 

サリーが指を鳴らすと炎が実体化。キャロルは炎に触れるとエフェクトと共にダメージを受けていく。キャロルはそれを受けてカウンターの攻撃を仕掛けようとするも【碧の獅子機】の反動ダメージで思うように動けずサリーはすぐに追撃を仕掛ける。

 

「朧、【炎童子】!」

 

サリーがダガーに炎を纏わせるとリーチを伸ばしてキャロルへと接近。顔面を斬りつけていく。

 

「ちょっと隙を見せたからって調子に乗るな!!」

 

キャロルはここに来て新たな攻撃方法を使用。サリーの真下の地面から棘のような物を迫り出させるとサリーを串刺しにしようとする。

 

「【氷柱】!」

 

サリーが空中に氷の柱を出現させるとそれを踏み台にして跳び上がり棘を回避する。しかし、それも読んでいたのかキャロルの操る獅子の目から放たれたビームが朧を貫き朧のHPを一撃で0にさせた。

 

「朧!!」

 

「後はお前だけだ。失せろ!」

 

キャロルが口にエネルギー砲をチャージするとそれを放たれてサリーはそれを回避するために考えを巡らせるがもう彼女の体はまともに動かすことができず、躱す事もできなかった。だが、それがサリーに命中することは無かった。ヒビキが間に入ってエネルギーバリアを展開したからだ。

 

「ヒビキ?」

 

「お待たせ。サリーお姉さん!」

 

「奇跡は殺す……皆殺す!」

 

キャロルがバリアごとヒビキを葬るために炎を発射するがヒビキは虹に輝くエネルギーをヒビキの右腕に集めていき、それが巨大な機械仕掛けの右腕を形成。そしてそれがキャロルからの一撃を押し留めた。

 

「当たると痛いこの拳。だけどこの拳こそが、誰かと繋がるためのこの腕が、私の最大にして最高の武器だ!!」

 

ヒビキの叫びにキャロルは狼狽えると同時に反動が襲いかかってきた。だが、キャロルとしてももう後が無い。【碧の獅子機】を使った以上今更退くという選択肢は彼女に残っていない。何より、触れられれば負けとなる玉座を背にしている今、彼女には逃げ場すらも無かった。

 

「俺の全てをこの一撃に賭ける!俺に残る全ての力よ、全て燃やし尽くして力に変われ!!」

 

キャロルの言葉と共に自分の中に残っている全MPを口に収束。今までの数倍の大きさのエネルギー砲が生成された。その威力で2人纏めて消し去るつもりだった。2人には確定で生き残るスキルが残ってないのでこれを受ければ敗北は免れないだろう。だからこそヒビキもこの一撃に全てを込めるつもりだった。

 

「はあっ!」

 

すると巨大な右腕は一旦分解。そしてそれは更に巨大になって再生成される事になる。

 

「はぁああああああああ!!」

 

「消え去れぇええええ!!」

 

獅子の口から最大火力のエネルギー砲が放たれる。その中にヒビキは真正面から突っ込んでいくと拳をエネルギー砲にぶつけて押し進んでいく。

 

「「うぉおおおおおお!!!」」

 

激突する巨大な拳とエネルギー砲。だが、エネルギー砲の方が圧倒的にパワーが上のためヒビキの拳は少しずつだが確実に押し返されていた。

 

「ぐううう……このままじゃ……押し切られる……」

 

すると突如として11の輝きがヒビキの周囲に集約。それと同時にヒビキの拳の威力が更にパワーアップしてキャロルの攻撃の威力を上回っていった。

 

「これってもしかして……」

 

「馬鹿な!?」

 

「どうして急にヒビキの攻撃の威力が……」

 

キャロルとサリーが状況を理解できていない中、ヒビキだけは何故自分の拳の威力が上がったのかを感じ取っていた。

 

「これが私達の絆、受け止めてみろ!【Glorious Break(グロリアスブレイク)】!!」

 

その一撃が獅子機のエネルギー砲を蹴散らして獅子機に命中するとその耐久値を全て削り取りHPを0にした。そしてそれと同時に役目を終えたヒビキの生成した巨大な機械仕掛けの腕にヒビが入っていくとバラバラに粉砕し、キャロルは僅かなHPとMPを残すのみとなった。しかし、これだけでは終わらない。突如として碧の獅子機から眩い光が放出されるとそのエネルギーが膨張を始めた。

 

「何!?」

 

「これって……うわっ!?」

 

するとヒビキにダウルダブラの弦が巻き付いていくとその体を拘束。更にその弦はサリーの元へも伸びていった。

 

「くっ!!」

 

サリーはこれを何とか躱すものの第二、第三波が迫っておりこのままでは捕まるのも時間の問題である。

 

「キャロル……ちゃん?」

 

「悔しいが俺の負けか……だが、タダでは終わらせない!!【碧の獅子機】はHPを0にされてから30秒後、強制的に周囲を巻き込んで自爆する!!その威力はこの城ぐらいなら軽く吹き飛ばすほどだ!!」

 

しかもキャロルは2人を確実に巻き込むためにダウルダブラの弦を使って2人を拘束。爆発に巻き込むつもりだ。

 

「このままじゃ……」

 

ヒビキは悔しがり、サリーも絶望の中、弦に捕らえられそうになっていた。

 

「諦めるなよ!もう少しじゃねーか!」

 

「え?」

 

その声が聞こえた直後。ヒビキはキャロルの方へと引き摺られそうになったが、次の瞬間にはヒビキを拘束していた弦が焼き切られるとヒビキは解放され、サリーの方に迫っていた弦も何かに切り刻まれるとサリーはお姫様抱っこされていた。

 

そこにいたのは1匹の龍を連れ、炎と共に現れたNWO最強の剣士。烈火を手にして絆龍の装備を着たセイバーだった。

 

「やっぱり来てくれてたんだ……セイバーお兄ちゃん!」

 

「何故だ……お前はブレイドと戦って……まさか」

 

「そのまさかだ。後はお前だけだ。キャロル!!」

 

セイバーはサリーを降ろしてから跳び上がるとそのまま足に虹色の輝きを纏わせると共に隣にはブレイブも従えた。

 

「行くぜ。ブレイブ、【絆龍ノ舞】!」

 

するとブレイブが四大元素の力を最大限にまで引き出すとそれをセイバーに集約させてセイバーの攻撃をサポート。そして繰り出されるのはセイバーの最大の一撃。

 

「【元素必殺撃】!」

 

セイバーから繰り出された必殺キックは崩壊しかけている獅子機に命中するとそれを城の壁を粉砕させながら外へと押し出していった。

 

「俺ごと押し出して道連れを免れる気か。だがお前だけではこの質量の獅子機を十分に引き離せまい!!」

 

「誰がセイバーお兄ちゃん1人だって?」

 

そこにヒビキも駆けつけると両手に炎の龍を纏わせた拳を構えて突き出した。

 

「【我流・火炎双龍撃拳】!」

 

セイバーとヒビキ。2人分のスキルのパワーでキャロルの乗る獅子機を城の外に押し出して更に城から距離を離していく。そして、獅子機の撃破から30秒が経過する事になった。

 

「俺の完敗だ……次こそは勝つ」

 

「ありがとう、セイバーお兄ちゃん」

 

「最後まで楽しかったぜ。またやろーな」

 

3人の言葉と共にセイバー、ヒビキ、キャロルの3人は獅子機の大爆発に巻き込まれるとそれぞれに残されたHPを全て失い消滅。そして、戦いの果てに最後まで残されたサリーは王城内でその様子を見つめていた。

 

「セイバー……ヒビキ……ありがとう」

 

サリーはフラフラになった体を動かして玉座の元に歩いていくとゆっくりとそれに手を触れた。それと同時に水と氷の国側の勝利が確定し、サリーはイベントフィールドから元の第九層のフィールドに戻ることになった。

 

〜運営視点〜

 

同時刻、運営ではサリーが玉座に触れてイベントが終了した事を最後にモニターを切るとイベントの感想を言い合っていた。

 

「いや〜まさかの大どんでん返しだったな」

 

「というよりセイバー強すぎだろ!?」

 

「ま、まぁ、まさかアイツ1人で敵の主力を含めた敵方のプレイヤーの3分の1近くを潰すとは思わなかったしなぁ」

 

「これは【分身】のスキルに制限をかけた方が良さそうだな」

 

実際の所、セイバーのプレイヤーキル数は2日目と3日目に丸々ずっと分身を使い続けていた事もあって他のプレイヤーと比べてもずば抜けており、彼無くして水と氷の国が勝つことはまずあり得なかっただろう。

 

「俺達も個別で勝敗とその勝ち方の予想はしてたけどこれがもう当たらん当たらん」

 

「ひとまずはイベントが無事に終了にまで漕ぎ着けることができて一安心だ」

 

「まだここからイベントのハイライトの編集作業があるけどな」

 

運営達としても久しぶりに大規模な対人戦要素を組み込んだこのイベントについては不安もあったのだが、最後まで無事に終了した事に安堵を浮かべていた。

 

「これでもう暫くは胃が痛くなるような事は発生しないよな?もうしないよな?」

 

「……待って、セイバーってもう11本聖剣があるんだろ?最後の1本の出現条件って聖剣を11本集めた状態であるクエストをクリアする事じゃなかったか」

 

「「「「「あ………」」」」」

 

運営達はその事を指摘されて我に返るがもうセイバーが11本集めている事に変わりは無いのでどうすることもできなかった。運営達に出来る事はセイバーがクエストをクリアしない事を祈ることぐらいである。

 

「だがあのクエストは確か難易度超激ムズにしてあるから大丈夫だろ……多分」

 

「そのパターンで何回裏切られたと思ってるんだよ。多分はアテにならないだろ」

 

運営達は一度溜息を吐いたが弱音ばかりは言っていられない。セイバーが最強にして最大の戦力を手にする前に打てる対策を考えていくことになる。

 

「まぁ今はゆっくりと休もうぜ?折角イベントが終わったんだ。今日は俺の奢りで何か美味しい物を食べに行こうか」

 

「え、良いんですか?」

 

「勿論だ!」

 

「「「やったぁ!!」」」

 

それから運営達はイベントのハイライトの編集作業に勤しみつつも、久しぶりのお疲れ様の意味を込めた食事会に心を躍らせるのであった。

 

その後、イベントの日から数日が経過した。その間にイベントの勝利陣営である水と氷の国のプレイヤー達には勝利報酬が、負けた炎と雷の陣営のプレイヤー達にも参加報酬が配られる事になった。

 

勝利報酬は金のメダルが1枚と所持ゴールドの追加。更にギルドマスターにのみギルドメンバー全員の全ステータスを10%上昇させるギルド設置アイテムが贈呈された。

 

「ふう。今回も何とか勝てたな」

 

セイバーがそう言っているとメイプルが申し訳なさそうに俯いていた。

 

「メイプル、どうしたの?」

 

「私、今回はあまり活躍できなかったから……本当にごめん」

 

「そんな事を言ったら私達も……」

 

「早々に退場してしまって……」

 

メイプル、マイ、ユイの極振り組は今回、1日目に早期敗北を喫してしまったために他の皆に迷惑をかけたと落ち込んでいたのだ。

 

「何言ってるんだよ。寧ろ、大事に扱うべきだった3人を守りに行けなかった俺達の責任でもあるんだからそんなに落ち込まなくても大丈夫だよ」

 

「え……」

 

セイバーのその言葉にメイプルは先程まで下に向けていた顔を上げた。それに付け加えるようにサリーも話す。

 

「それにさ、メイプルは今回初めて負けたでしょ?この悔しい気持ちを次に活かせば良いんだよ。だからこれからも一緒に頑張ろう!」

 

「うん!」

 

「それにマイちゃんとユイちゃんも負ける時まで必死に頑張ってたからそれを責める人なんていないよ!」

 

ヒビキも落ち込んだマイとユイを元気付けるように励ましていく。そしてその様子を他のギルドメンバーは温かく見守っていた。

 

「メイプルちゃん、観戦席に行ってからかなり落ち込んでいたけど」

 

「これなら大丈夫そうだな」

 

「えぇ、それに今回はセイバー君が頑張ってくれたし」

 

「僕達も負けていられないね」

 

更に数日後、【楓の木】のギルドマスターであるメイプルは【集う聖剣】の主力メンバーを呼んでイベントの祝勝会を開く事にした。

 

「という訳で、第10回イベント勝利おめでとうございまーす!!乾杯!!」

 

「「「「「「乾杯!!」」」」」」

 

メイプルはすっかり元気を取り戻していつも通りの調子となり、今回も想定外を引き起こしていた。

 

「なぁメイプル。俺達とペインさん達【集う聖剣】の皆さんがいるのは納得できるんだけどさ、何で【炎帝ノ国】と【thunder storm】と【ラピッドファイア】と【BOARD】の主力メンバーの皆さんもいるの?」

 

「え?その辺を歩いていたら偶然見かけたから?」

 

「だから何でそれだけの理由で連れてくるの?別に文句を言うわけじゃないけどさ」

 

「まぁまぁセイバーさん」

 

「メイプルさんのいつものことじゃないですか」

 

セイバーのツッコミにマイとユイが宥める中、いつもの3人であるサリー、ヒビキ、キャロルは火花を散らしながら睨みあっていた。そんな中、セイバーの元にミィが歩いてくると彼へと耳打ちした。

 

セイバー、何でかわからないんだけど私が素を曝け出すようになってからギルドに入りたいって人が倍増しているんだけどどうしてかな?

 

「あぁ……多分ですけどミィさんのギャップに惚れたんじゃないんですかね。ホラ、ミィさんって前までは近寄りがたかったんですけど素が可愛いのでそれに惹かれたんだと思います」

 

「か……可愛い?」

 

その言葉にミィは顔を赤くして恥ずかしがった。そしてその様子を見ていた3人が黙っているわけがない。

 

「ちょっとセイバーお兄ちゃん?」

 

「俺達がいながらまだ女を惚れされるつもりか?」

 

「取り敢えずシバくからこっちに来なさい」

 

3人の圧力にセイバーは口笛を吹きながら逃げようとするがサリーが一瞬にして回り込み挟まれたセイバーは3人に引き摺られながらギルドホームの訓練室でボコボコにされるのであった。

 

「……セイバーって女を惚れされる何かでもあるのか?」

 

「あの優しさが原因だろうけど、流石にあのミィまで惚れさせるとは思わなかったな」

 

「こっちから見てたら面白いから良いでしょ」

 

「その辺にしておきなさいって前も言ったでしょ?何されても知らないわよ」

 

「マリアって偶に母親っぽいこと言いますね」

 

「それがマリアの性分だからな」

 

【集う聖剣】と【ラピッドファイア】の面々が話している間にギルドホームの画面が切り替わると今回のイベントのハイライト映像が流れ始めた。まずは1日目の激戦からセイバー対ベルベットのシーンとメイプル対ブレイドのシーンが抜粋されていた。

 

「ああ、あの悔しい思い出が思いっきり抜き出されてるっす!!」

 

「仕方ないよ。初日の中ではかなり有力な対戦カードだったし」

 

「まさかメイプルが初日で負けるとは誰が予想したんだろうな」

 

「この辺はブレイドの考え通りに進んだって感じだね」

 

続けて2日目の上位ランカー同士の激突が映されて【楓の木】や【集う聖剣】の面々が倒されていく中、セイバーが奮戦し、不利な状況ながらもランカーを倒していく。

 

「2日目が終わるぐらいまでは俺達有利に進んでたんだけどなぁ」

 

「強力な機械兵を出すリリィを2日目で倒したのが大きく戦況を分けましたね」

 

「だが、次は勝ってみせるさ。セイバーの強さはある程度わかってきたしな」

 

更に3日目の映像が流れるとそこでは城内での激闘が描かれてセイバー対ランカー達の戦いやペイン、キラー、カリス、ミィ等が映し出されていく。

 

「あの時は無様に負けたけど今度こそは俺が勝つぜセイバー」

 

「はぁ、でも僕じゃもうセイバーには勝てないかも……」

 

「罠だとセイバー相手に相性が悪すぎるのかもな」

 

そして最後にセイバー対ブレイド、サリーとヒビキ対キャロルが映されてセイバー達が勝利する場面まで流れた所で映像は終わった。

 

「悔しいが今回は俺達の負けだな」

 

「だがこれからも俺達は強くなれる」

 

「セイバーの成長が俺達のやる気を刺激してくれたしな」

 

「次こそは俺達が勝つ!」

 

「俺は勝つ方にいたがそれはセイバーの活躍があってこそだ。今度は俺があの映像で一番に目立つ活躍をする。そしてセイバーのライバルは俺だけって事を証明してやる」

 

「奇遇だね。俺もだよ」

 

それぞれがセイバーに対抗心を燃やす中、セイバー本人はと言うとサリー、ヒビキ、キャロルにボロボロにされており3人に頭を下げていた。

 

「本人がこれじゃあ強いのか弱いのかわからないなぁ」

 

「そうですね。でもやる時はやる人ですから」

 

「私達も次は活躍できるように頑張ります」

 

「俺もギャレンにこっ酷くやられたし、今度は勝てるように強いスキルを探さないとな」

 

「私も新しいアイテム作りに精が出るわね」

 

「私の剣術ももっと上を目指さなければな」

 

「私ももっともっと強くなるよ!」

 

【楓の木】の面々が意気込みを言っていく中、ようやくセイバーも復活して見逃した映像を一気に身終えると元気良さそうに声を上げた。

 

「よっしゃあ!これからもこのゲームの1番目指して頑張るぜ!!」

 

「「「「「「もう名実共に1番だろーが!!」」」」」」

 

「あれ!?」

 

セイバーが意気込んだ所に全員からのツッコミが決まって祝勝会はまだまだ続くのであった。

 

〜祝勝会後、いつものスレにて〜

 

951名前:名無しの大剣使い

イベントお疲れ様

 

952名前:名無しの大盾使い

まぁ今回もセイバー君が大暴れしてくれたよ

 

953名前:名無しの槍使い

アレはもう強いなんてレベルを超越してる。だって分身してるのにHPは勝手に回復するわ、疲れも全く見せないわで勝てる気がしないんですが?

 

954名前:名無しの魔法使い

途中まで完全にセイバー君達が負けるコースだったのにどこでひっくり返したんだろ

 

955名前:名無しの大剣使い

今度彼1人対このゲームをやってる全プレイヤーってのが見てみたい

 

956名前:名無しの弓使い

流石にそれはセイバーが可哀想……でもないか

 

957名前:名無しの槍使い

彼だったらメイプルちゃんやサリーちゃんも倒しかねないしな

 

958名前:名無しの魔法使い

メイプルちゃんと言えば今回のイベントでようやく1デスだろ?ここまでノーデスだったのは大記録なのでは?

 

959名前:名無しの大盾使い

うちにはイベント含めてもまだ一回も死亡していないサリーちゃんがいるしなぁ

 

960名前:名無しの槍使い

あの子も化け物だけどな。キャロルの魔法を全部躱してたし

 

961名前:名無しの大盾使い

俺もアレは見てたけど俺の場合はあんな事をするくらいなら防御した方が早いしな。受け切れるかは別の話だが

 

962名前:名無しの魔法使い

話を戻すがセイバー君が強すぎてフィールドがほぼ全て死地になってるんだよなぁ

 

963名前:名無しの弓使い

相対したら逃げるが勝ちだろ。今回の場合はそうはいかなかったから攻めるしか無かったけど

 

964名前:名無しの大剣使い

さて、問題です。セイバー君がこれ以上パワーアップするでしょうか

 

865名前:名無しの槍使い

もうしなくて良くね?暫くはパワーアップしなくても十分ナンバーワンは維持できそうだしな

 

966名前:名無しの大盾使い

いや、セイバー君のことだからまだまだパワーアップすると思うぞ

 

967名前:名無しの魔法使い

俺達が知らない間にセイバー君がどんどん遠くに行くなぁ

 

968名前:名無しの大盾使い

俺たちにとってはギルドの強化だから良いけど他の人にとったらなぁ

 

969名前:名無しの大剣使い

メイプルちゃんを含めこれ以上の強化は無しでお願いします

 

970名前:名無しの槍使い

それは厳しいと思うな。あの2人は好奇心とかでパワーアップしてくるし

 

971名前:名無しの弓使い

言ってても仕方ないし、俺達も同じくらい強くなれるように頑張るしかないな

 

972名前:名無しの魔法使い

何はともあれイベントも無事に終わることができたしな

 

この後現在のセイバーやメイプルの強さについての考察や取れる対処法についてで盛り上がる事になるのだがそれはここでは割愛しておこう。

 

———————————————————————

 

残り主力メンバー

 

水と氷の国側     炎と雷の国側

セイバー 脱落    キャロル 脱落

サリー        

ヒビキ 脱落      

 

最終結果

水と氷の国側の勝利




お知らせです。ここまで第10回イベントをやってきましたが、それ以降の展開を考えるのに苦戦しています。また作者のモチベーションがここ最近低下してきているのもあって話が殆ど書けていません。ですので丁度第10回イベントが終わったこのタイミングにガス抜きとしてこの作品の更新を一時的にですが止めようと思います。しかしご安心ください。今すぐに更新する事ができないだけで必ず続きの話を投稿します。その時まで気長に待っていただければ幸いです。本来なら最終話まで駆け抜けるはずでしたが、このような所で更新を止める事にしてしまい本当に申し訳ありません。この作品を読んでいただいている読者の方々のためにも1日でも早く再開しますのでその時を楽しみにしていただければと思います。それではまた次回もお楽しみに。


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聖剣使いと魔物討伐

第10回イベントが終わり再び自由な期間となったセイバー達。彼らは再び九層の街で受けることができるクエスト攻略に勤しむ事になった。

 

因みに、イベントが終わってから行われたメンテナンスでセイバーの持つ【分身】のスキルの効果が修正対象になった。今までは数と使用回数は無制限であったものの分身が1体増えるごとに本体への負担が大きくなるといった形だったが、これからは数は無制限のままだが、使用回数と制限時間が設けられ、1日1回、制限時間は僅か10分にまで減らされた。その代わりに体への負担を無くして何体でも気兼ねなく増やせるようになった。しかし、第10回イベントで発揮した長時間の分身と虚無による無限HP回復戦術による分身の維持ができなくなったのでこれは大幅な弱体化と言えるだろう。

 

それはさておき、セイバーは今回ある人物達と共にそのクエスト攻略を行おうとしていた。

 

「今回はお手伝いしていただきありがとうございます」

 

「まさかイベントでボロボロに負けた敵に手伝って欲しいと頼む事になるとは思わなかったけど」

 

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」

 

セイバーと一緒にいるのは【炎帝ノ国】の主力メンバー、ミザリーとマルクスである。何故このような事になったかと言うとセイバーが炎と雷の国でクエストを進めようとカウンターに行くとそこに丁度ミザリーとマルクスがおり偶々同じクエストを受けようとしていたので3人はチームを組んでクエストを行う事になったのだ。

 

「そういえば最近ミィがセイバーの事を特別な目で見るようになっているのはご存知ですよね?」

 

「あぁ……そういえばミィさんも俺を見る目が変わりましたね……」

 

「ほんと、ミィもちょっと前まで近づき難いカリスマの塊だったのに今では恋する1人の乙女だよ」

 

そう、察している読者の方々も多いと思うがミィもすっかりセイバーの虜になっており今までのカッコイイという表現が似合っていた彼女から1人の可愛らしい女性に一転してしまったのだ。セイバーはその事についても色々と思う所があり、自分の影響で彼女を変えたことが結果的に周囲の困惑を招いてしまったので少し申し訳ない気持ちにもなっていた。

 

「しかもセイバー、この前ミィの事を可愛いって言ったでしょ?それ以降ミィはオシャレにも目覚めちゃったのかゲーム内で自分に似合う可愛い服を探すようにもなったんだよ」

 

「………絶対俺へのアピール目的ですよね?それ」

 

「だと思います」

 

「……これサリー達3人が聞いたら絶対俺をボコボコにしそうなんだが?」

 

「そこは自業自得という事で」

 

ミザリーの言葉にマルクスも頷いた事でセイバーは軽く絶望した。この2人は自分を助けてくれそうに無いという事に。その事はさておき、ひとまず3人は依頼のあった家にまで到着すると中に入った。するとそこには病床に伏せった少女とそれを必死に看病する母親がいたのだ。

 

「えっと、助けを求めていたのはあなたですか?」

 

『はい!この子が数日前から急に倒れるとうなされるようになって……それで医者にも診てもらったのですがこれを治すにはこの街の外にある聖水を取ってこないといけないと言われました。ただ、その聖水が湧き出てくる泉を守る魔物がとても恐ろしくて……』

 

「つまり、私達が魔物を退治して聖水を持って来れば良いという事ですね」

 

『はい!お願いできますか?』

 

「勿論です!」

 

その言葉に母親は安心したのか3人の前に聖水がある場所までの地図を持ってくるとそれを預けた。

 

『この印がある場所に聖水が湧き出ています。どうかお気をつけて』

 

3人はそれから家から出発すると街の外にまでやってきていた。するとイベントの仕様だからか出てくるモンスターがいつもよりも強力になっていた。

 

「なんかモンスターがパワーアップしてるなぁ」

 

「支援は私達が行いますのでセイバーは思いっきり戦ってください」

 

「勿論、そうさせてもらいます!虚無抜刀!」

 

セイバーは虚無を抜くとまず初めに現れたハイエナ型のモンスター達は口から炎を放射。セイバーへと集中攻撃を仕掛けるが虚無のスキルで火属性を無効化するとただのダメージ判定が出る炎を受け止めた。更にそれを斬り裂き打ち消すとそのまま踏み込んでハイエナのモンスターを次々と倒していった。

 

「……これ、僕達いるかな?」

 

「もしかするとセイバーだけでも良かったかもしれませんね」

 

2人の言葉を他所にセイバーはマルクスとミザリーの支援が無くとも普通に無双することができている。そもそも虚無のセイバーには自動回復能力が付いているのでHPのこまめな回復も要らないのと属性攻撃を無力化するので属性攻撃による追加効果を受けにくいというのもあるだろう。

 

それはさておき、このまま行けばセイバー1人でも攻略できそうなのだがそう簡単にはいかないのが今回のイベントで指定されたダンジョンである。

 

3人が聖水があると言われている洞窟の近くに到着したのは良かったのだがそこに3人が足を踏み入れた瞬間、突如として辺りに深い霧が立ち込めていき3人の視界を奪っていく。加えて、その霧の中を歩いているとマルクスは何かの異変を感じていた。

 

「あれ?ここってさっきも来なかったっけ?」

 

「そういえば通ったような気もしますが……」

 

「もしかしてこれ、俺達はずっと同じ場所を歩かされている感じですかね」

 

マルクスの指摘に他の2人も同意すると一旦足を止めて辺りを見渡す事にした。この霧を突破する方法を考えるためである。

 

「……ここは僕に任せてもらっても良い?」

 

マルクスの言葉に2人は同意するとマルクスは遠隔設置用のアイテムを取り出して近くに投げつける。そしてそのスキルを発動させて行く事になる。

 

「【遠隔設置・爆風】、【自動起動】!」

 

するとマルクスの設置した罠が設置された瞬間に発動して周囲に爆風が駆け抜けていく。これによって周囲を覆っていた霧が吹き飛ばされていくとそこには普通の森が広がるのみだった。3人は更に歩いて行くがまたもや同じ道を何度も通らされるのみだった。

 

「ふうん。どうやら霧を吹き飛ばした程度じゃここは突破できないってことか」

 

しかし、マルクスが霧を払ったのにはちゃんと理由が存在する。それはこの森のカラクリを露わにする事と閉ざされた視界を開けさせることだった。そして、セイバーの無銘剣虚無は全てを無力化する能力も付いている。

 

「さて、そろそろ迷路遊びは終わりにしようか!」

 

セイバーが虚無を振るうと空間にヒビが入っていき、切り裂かれて結界が無力化。そのまま3人の目の前に洞窟が出現する事になった。

 

「ここがあの母親が話していた洞窟でしょうか?」

 

「多分な。良し、さっさと攻略してクエストクリアといこう」

 

セイバーが先頭で入っていくとミザリーとマルクスもその後を追っていく。暫く歩いていると洞窟の中に潜んでいた蝙蝠が3人へと襲いかかってきた。

 

「蝙蝠か。だったら翠風抜刀!」

 

セイバーは洞窟内で自由に活動してくる蝙蝠を相手にするには機動力の高い翠風の装備の方がやりやすいと考えて翠風を抜刀。蝙蝠を斬りつけて倒していった。

 

「流石はセイバー、対応が早いね。僕達も援護するよ」

 

「ええ。【ファイアボール】!」

 

「【遠隔設置・氷柱針】!」

 

ミザリーとマルクスもそれぞれのやり方でセイバーを援護する形を取り、3人は圧倒的な強さを見せていた。

 

「できればあまり長々と移動するのはやりたくないなぁ」

 

「仕方ないですよ。洞窟内の地図は無いのでここはしらみ潰しに行くしかありません」

 

マルクスは元々罠を張って待ち構える戦法を得意としているのであまり歩き回るというのは得意では無い。だが、こればかりは仕方ないと言えるだろう。それから3人が洞窟の中の入り組んだ道を1つずつ丁寧に調べているととある1つの空間に出てきた。するとそこには1体の怪物がおり、その姿は黒い毛皮を着ており、背中には翼を生やし、顔つきは狐に似ているが口からは牙を覗かせていた。

 

「……見るからに中ボスって感じですね」

 

「ここは私に任せてください。【ホーリーウイング】!」

 

ミザリーが白い翼に包まれると以前セイバーと対峙した際に使用した武装へと変化し、今までの支援寄りの戦い方から一転、攻撃力を高めた形態へと自身を強化した。

 

「いきます!」

 

ミザリーが真っ白な翼を生やして飛び上がるとそれを見た怪物も空中へと飛び上がる。怪物はミザリーを撃ち落とそうと口から黒いエネルギー波を放っていくがミザリーは空中を身軽に動いて躱し続ける。

 

「その程度では当たりませんよ。【ウイングフェザー】!」

 

ミザリーは背中に生やした真っ白な翼の周囲に白い羽状のエネルギー弾を展開。それを飛ばして怪物に命中させていく。更にミザリーが白い魔法陣を作り出してそこから光弾を放ち羽攻撃に怯んだ怪物へと猛攻を加えていった。怪物もただやられっぱなしにはならないつもりなのか両手の強靭な爪でミザリーを引き裂こうと近づいていく。

 

「無駄です!【ホーリーフィニッシュ】!」

 

怪物の攻撃が命中する瞬間、ミザリーの体が白い羽を散りばめながら消え、怪物の背後からキックを打ち込み怪物はあまりのダメージに下へと落下していく。そこにミザリーはトドメとなるスキルを使用した。

 

「【シャイニングレイン】!」

 

すると空中に大量の光弾が出てくるとそれが怪物へと降り注ぎ怪物はひとたまりもなく倒されてポリゴンとして消えた。

 

ミザリーは着地すると一旦ここで【ホーリーウイング】の力を終了していつもの聖女としての姿に戻った。

 

「圧勝でしたね」

 

「久しぶりに1人で暴れましたけど案外気持ち良いです」

 

「その気持ち、僕にはずっとわからないだろうね……」

 

3人が話していると奥にある扉が開いて先に進めるようになった。それから3人がまた歩いていくと今度は道に3つの分岐が出てきた。3人はそれを見て話し合う事にした。

 

「どうします?このままどれか1つを行きますか?それとも別れますか?」

 

セイバーの提案に2人は少し考えたがすぐに3人で同じ方へと進むという結論へと至った。理由としては効率よりも3人で固まっていた方が罠等に対応しやすくなるという事が第一に挙げられるだろう。

 

「それじゃあ左から順番に行きましょう」

 

セイバーがそう言うと3人で左の道へと歩いていく。すると次の瞬間、3人の真下に穴が空いて3人は急に空中へと投げ出される事になった。

 

「「「え?」」」

 

流石のセイバーでも不意を突かれた影響かすぐに反応することができず、3人は揃って落下を開始する。

 

「やっべ。虚無抜刀!【炎の翼】!」

 

セイバーは咄嗟に虚無に持ち替えると背中から炎の翼を生やして空中に浮けるようにしつつ落下していく2人の手を握りそのままゆっくりと降りていった。暫くすると地面が見え、そこには鋭い棘が大量に敷き詰めてあった。

 

「うーわ。これって」

 

「セイバーがすぐに対応してくれなかったら僕達纏めて串刺しだったってこと?」

 

「おかげで助かりました」

 

セイバーは頷くと着地できないのでそのまま2人を連れて上へと戻っていき地面に空いた穴から元の道へと復帰した。再び3人が先へと進むと次々に侵入者を排除するためのトラップが3人へと襲いかかるが、ある時はセイバーの対応力で、ある時は咄嗟にミザリーだけ生き残るように庇ってミザリーが死にかけの2人を蘇生させることで、ある時はマルクスが設置した障壁で凌ぎ、何とか困難を乗り越えていく。

 

そうして1番奥の部屋に到達するとそこには宝箱が置いてあるのみであった。

 

「あれ、ここで終わり?」

 

「別の道だったみたいですね」

 

「辛いなぁ……かなり面倒な道のりだったのにお宝部屋だったなんて」

 

「仕方ないですよ。取り敢えず、この箱を開けて……何これ?」

 

セイバーが宝箱を開けるとそこにあったのは古びた剣だった。錆び付いているために剣であっても剣としての役割を果たすのは難しいだろう。だがセイバーはこれも何かに使えるかもしれないとインベントリにしまった。するといつの間にか宝箱の裏に転移の魔法陣が浮かび上がっており3人が乗ると先程の分かれ道の所にまで戻ってきた。

 

「来た道を戻らなくて良かったのは幸いでしたけどここからまた真ん中と右の道のどちらかを選んで進む感じですかね」

 

3人は暫く話し合ってから今回は真ん中の道を進む事に決めた。3人が進んでいくと先程の左側の道とは違ってトラップが殆ど無い代わりにモンスター達が道の奥からゾロゾロと出てきた。

 

「お、随分と大群でお出ましですね」

 

「ここは僕のトラップで仕留めるから任せてもらっても良いかな?」

 

「わかりました」

 

マルクスはそう言うと矢継ぎ早にトラップを道に仕掛けていくと自分達に向かってくるモンスター達を引っ掛けて倒しまくる。モンスター達にとって不安だったのはトラップを避けるための道幅が殆ど無かった事であるだろう。そのためにトラップがあるとわかっていても自分からトラップに突進せざるを得なかった。こうして、マルクスがモンスターを退けると3人は先に進んでいく。

 

「案外楽に突破できましたね」

 

「今回は場所が良かっただけだよ。あの狭い場所だとモンスターとしては僕のトラップを躱したくとも躱せないからね」

 

「それもそうですね。……っと、今度は何もない空間?」

 

3人がとある部屋に辿り着くとそこには何も無いただ広いだけの部屋であり、奥の方にはたった1つだけ扉があるのみだった。恐らくこの先がボス部屋である可能性は高かった。ただ、3人はただ扉があるだけなら突破が簡単すぎると考えて警戒を怠らなかった。

 

「狼煙抜刀!【透視の目】!」

 

セイバーが狼煙を抜くと透明な状態になっている物を見抜ける目を使って辺りを見渡すとそこには触れたら即ダメージを受けるレーザーが幾重にも張り巡らされており、セイバーはそれを見てどうするか考えていた。

 

「どうしました?」

 

「……この部屋にはレーザーが張り巡らされてます。下手に前に進めばレーザーに当たりますので2人共前には行かない方が良いです」

 

「わかった。下手に触れると痛そうだしね」

 

「どうにかしてレーザーの射線が切れれば良いんですけど」

 

それから3人はどうやってレーザーを突破するのかを思考していった。最初はマルクスが障壁を出して射線を遮断しようとしたがレーザーが障壁を透過してしまい失敗。次にミザリーの回復スキルでダメージを受けながらゴリ押ししようとするがこの部屋では回復禁止なのかHPが回復させられずに失敗。更にセイバーが煙化して突破しようとするが思いっきり煙がプレイヤー判定になってダメージを受ける事になり失敗。

 

「ヤバイ……突破方法がわからない」

 

「どうしましょう」

 

「何か手は無いのか」

 

3人は他にも色々と試したがそれでも突破する事が出来ずに3人は詰みかけていた。

 

「これ、もしかしてさっきの分かれ道で右にも行く必要があるとかですかね?」

 

「それはあるかも。ギミック解除のために必ずここも通らないとダメみたいな道だったかもね」

 

「それでは一旦戻りますか?」

 

「そうですね。一度戻って右の道を確かめてからここを調べましょうか」

 

3人は満場一致で分かれ道のある部屋にまで戻ると右の道を進み始めた。すると今度は左の道と同様に道に仕掛けられたトラップが次々と3人へと襲い掛かっていく。だが、トラップだらけの道であれば先程も通ってきたので対処法はある程度わかってきていた。そのために3人はトラップを物ともせずに進んでいった。それから3人が大きな部屋に出ると左の道の時と同様に中ボスキャラの怪物が待ち構えていた。

 

「さっきの敵と同じっぽいので俺がさっさと倒して良いですか?」

 

「お願いします」

 

「任せるよ」

 

セイバーは2人の許可を得ると激土を抜刀して必殺のエネルギーをチャージ。フルパワーになった所で巨大なエネルギーの斬撃を解き放った。

 

「【大断断斬】!」

 

セイバーから放たれたその一撃によって怪物は両断されて爆散。そのまま宝箱と転移の魔法陣が出てきた。3人が宝箱を開けると中身は何かのボタンでありセイバーはそれを躊躇なく押した。するとカチッという音と共にボタンが押し込まれるとそのまま消えていき、何かのギミックが動いたことが示された。

 

「これであそこのギミックが消えてると良いんだけど……」

 

「もうここで出来ることは無さそうですし、魔法陣に乗って戻りましょう」

 

3人は一通り部屋を調べてから魔法陣に乗ると転移していき分かれ道の部屋にまで戻ってきた。3人はすぐに真ん中の道を進んでいくと先程通れなかったレーザーの部屋にまで戻ってきた。

 

「さて、今回はどうかな?狼煙、抜刀!【透視の目】!」

 

セイバーが再び【透視の目】で中の様子を伺うと先程は存在したレーザーが全て消えており、先程のボタンを押したことでレーザーが消えた事がわかった。

 

「どうやらこれが正規ルートみたいですね。レーザーが消えてます」

 

「……こうなると最初の道で手にした古い剣がどこで役立つかが気になるけど……」

 

「とにかく今は進むしかありませんね」

 

3人は扉を開けると目の前に透き通った泉が広がっておりそこには泉の底から水が湧き出ていた。そして、奥に何も無い所を見るとここが最奥の部屋である事がわかった。

 

「ここが聖水のある場所っぽいですね」

 

「はい。後は聖水を持ち帰るだけですが……」

 

ミザリーがそう言っていると突如として3人の目の前に禍々しい魔法陣が出現すると巨大な悪魔のような魔物が出現。3人と聖水が湧き出ている泉の間に立ちはだかった。

 

「やっぱボスキャラは出るよね!」

 

「面倒だけどやるしか無いか。【遠隔設置・蔦鎖】!」

 

「【ホーリージャベリン】!」

 

マルクスは先制攻撃とばかりに蔦で悪魔を拘束するとミザリーからの射撃が魔物を襲っていく。しかし、なんと悪魔の体にミザリーの光弾が命中した瞬間、攻撃は魔物の体をすり抜けてしまった。

 

「え?」

 

「だったら俺が!流水抜刀!【氷塊飛ばし】!」

 

続けてセイバーが氷塊を飛ばして攻撃を仕掛けるがこれもまた魔物の体をすり抜けていく。

 

「は?これもダメかよ」

 

それからセイバーは全ての聖剣で様々な攻撃を試していくが、どれも通用する事なくすり抜けていった。このままではこの魔物を倒すことができないので聖水を獲得する事もできない。

 

「こっちの攻撃が通用しない……」

 

「しかも相手からの攻撃は効くとかもう意味わからない」

 

「どうしましょうか」

 

3人が困り果てているとセイバーは何か策は無いか考えていた。すると何かを思いついたのかセイバーはインベントリから先程手に入れた古びた剣を取り出した。

 

「これって」

 

「先程分かれ道で手にした剣です。これならダメージが通るかもしれないと思いました」

 

「でも、錆び付いているのにどうやって」

 

「それについても考えがあります。まずマルクスさんはクリアに【透明化】を使わせてステルス状態になってください。それからミザリーさんと自分で魔物を引きつけます。それから……」

 

セイバーは2人に自分の考えついた作戦を伝えると2人は頷きそれを行動に移す事にした。まずセイバーは錫音を抜刀するとお菓子の壁を展開して魔物の視界から3人を隠した。その後、予定通りマルクスはテイムモンスターであるクリアのスキルで透明になって行動を開始。そしてセイバーとミザリーは魔物の注意を引くために目立つ場所へと飛び出していく。

 

「【ロック弾幕】!」

 

「【ホーリーウイング】!」

 

セイバーが銃撃で魔物を牽制している間にミザリーは装備を変化させて攻撃用の姿に変化。そのまま空へと飛ぶとこちらも魔法を放って魔物の気を引いた。

 

「よし、今のうちに!」

 

魔物の注意が2人に釘付けになった瞬間、マルクスが走っていくと魔物の下を潜り抜けて聖水の湧き出る泉に到着。そしてそれを見たセイバーはインベントリから出した古びた剣をマルクスへと投げた。

 

「受け取ってください!」

 

マルクスはなんとか剣を掴むとそれを急いで聖水に触れさせた。するとその瞬間、古びた剣の錆が消えていき元の剣へと戻った。マルクスはそれを振り翳すと魔物目がけて走っていき跳びあがるとそれを魔物へと突き立てた。

 

『ぐぁああああああああ!!』

 

すると漸くダメージが通ったのか魔物はダメージエフェクトと共に叫び声を上げながら魔物が苦しんでいった。

 

「良し、一気に決めます!」

 

セイバーは魔物が体勢を立て直す前に追い討ちを仕掛けるために錫音から機動力の高い翠風へと変化。そのまま跳ぶと翠風を一刀流にして必殺の攻撃を放つ。

 

「【トルネードスラッシュ】!」

 

セイバーが放った竜巻の斬撃は魔物に唯一有効だった剣を後ろから押し込むように命中し、更に深々と魔物に突き刺さった剣は魔物に聖なる力を流し込んでいき、とうとう魔物は爆散して消滅するのであった。そして、魔物を貫いた剣は役目を終えたのか消えていくことになり、その場には戦いの後の静けさが残るのみだった。

 

「よっしゃあ!」

 

「何とか勝てましたね」

 

「早く聖水を取って依頼を達成しよう」

 

3人は人を待たせているという事を思い出すと勝利の余韻に浸る間も無く急いで聖水を汲んで町への帰路に着いた。それから3人が依頼主の家に戻ると聖水を寝込んだ少女の口へと流し込み、少女は無事に目を覚ました。

 

『ありがとうございます。お陰でこの子は助かりました』

 

依頼主からのお礼の言葉と共にクエストクリアとなって報酬がそれぞれに支払われる事になった。

 

「これでクエストも終わりですね」

 

「はい。今回はご協力ありがとうございました」

 

「いえいえ、お二人の力もあってこそのクリアですよ」

 

「僕達としても凄く助かったからまた困った時は頼んでも良いかな?」

 

「勿論です!」

 

それからクエストクリアの報告を済ませるとその場は解散という事になり、セイバーは2人と別れて自分のギルドへと歩いていくのであった。




お久しぶりです。今回から投稿は再開しますが、現状はどうにか少しずつ話を書いている感じです。何とか僅かに書き溜めが出来ましたがそれが無くなるのも時間の問題なので書き溜めが無くなってからは不定期投稿になると思います。

何故書き溜めが心もとないのにここで投稿を再開したのかについてです。これは単純に投稿を停止して作者が感じたのですが、防振りの原作が少しずつ進んでいるのを見てこの調子だと暫くすれば原作も第10回イベントが終わっていずれは第九層、第十層の話になると思います。そうなると自分よりも先に原作オリジナルの話が出て自分の作品の方が後追いになりこの作品のオリジナル要素が原作と被る可能性が出てきてしまいます。自分が先に出して後から原作と被るならまだ仕方ありませんが、もうこれ以上自分が後追いで原作と要素を被らせたくない気持ちが勝ったので投稿を再開する事にしました。

自分の作品よりも原作やハーメルンに投稿されている他の防振りの小説の方が格段に面白い、とても読みやすい、作品としてのできは遥かに上だというのは承知の上です。それでも自分のオリジナリティを殺したく無いのでこういった形を取らせてもらいます。これからは投稿までに期間を空ける事はあっても投稿を一時停止にする事はほぼ無いのでご安心ください。それではこれからもこの作品をよろしくお願いします。長文失礼しました。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと恋愛事情

セイバーがミザリー、マルクスと共にクエストに挑戦した日から数日が経った。この日、セイバーはギルドホーム内には居らず、町の方でクエストのクリアを目指して頑張っていた。そんな中、【楓の木】のギルドホームには来客が来ていた。

 

ギルドホーム内に響くインターホン。その音に反応して丁度このゲームにログインしたばかりのヒビキが対応しようとギルドホームの玄関に行った。

 

「はーい、どうしましたー?」

 

ヒビキがギルドホームの扉を元気良く開けるとそこには赤い長髪を靡かせた【炎帝ノ国】を率いるギルドマスター、ミィだった。

 

「……あの、急にすみません。セイバーは居ませんか?」

 

ミィの目的はセイバーだったようであり、ミィは緊張しているのか恐る恐るヒビキへと話しかけていた。

 

「えっと、セイバーお兄ちゃんでしたら今はクエストをクリアするために出かけていていないんです」

 

「え……」

 

その事を聞いた瞬間、ミィは落ち込んでしまったのか残念そうな表情になった。そしてそんなミィを見ていられなかったのかヒビキはミィを一旦ギルドホームの中へと案内する事にした。

 

「ヒビキ、これをミィに出してあげて」

 

「うん!」

 

「ごめんね、わざわざお茶まで出してもらって……」

 

「いえいえ、このくらい当たり前だよ」

 

ギルドホームの来客用のテーブルと椅子にはミィが座っており、そこに元からいたイズがお茶を出し、ミィの話し相手としてヒビキとミィが来た直後にログインしてきたカスミ、そしてマイとユイの双子の姉妹も揃っていた。

 

「それで、どうしてミィはセイバーを呼び出そうとしたんだ?」

 

早速カスミがミィがやってきた理由を聞くとミィは未だに落ち込んだ様子で理由を話す事にした。

 

「セイバーと今よりもっと仲良くなりたくて一緒にクエスト攻略をしようって誘うつもりだったんだ。でも、まさかもういなかったなんて……」

 

これが第10回イベントが始まる前までのミィだったらポーカーフェイスで何事もなかった様に振る舞うことができただろう。しかし、今はセイバーの影響でなるべく素の自分でいるように努力しているので常に本音が出ているような状態なのだ。

 

「……あの、イベントが終わった後から思っていたんですけど」

 

「もしかしてミィさん、セイバーさんの事を……」

 

マイとユイの言葉にミィは一度ため息を吐くと観念したかのように自分の本心を話す事にした。

 

「私、セイバーの事は前々から気になっていたんだ……それでこの前のイベントの時に素の自分で他人と向き合うように言われたあの時、本当はすごく怖かった。セイバーに素の自分が見られる事が」

 

ミィの話をその場の全員が真剣に聞いていた。ミィはそんな【楓の木】の女性陣に自分の本当の気持ちを少しずつ吐き出していく。

 

「でも、セイバーは私の全てを受け入れてくれた。しかも、私の事を可愛いとまで言ってくれた。私、とても嬉しかったんだ。ちゃんと私の事を見てくれた上でそんな事を言ってくれる人なんて初めてだったから。そうこうしているうちに私はセイバーの事をどんどん意識するようになって……セイバーが好きになったんだ」

 

その言葉を聞いたヒビキは思わず息を呑んでいた。ここに来て自分以外にセイバーが好きな人が増えた事に。しかも今度はセイバーとは直接的な接点をあまり持っていない人がである。このまま行けばセイバーはどんどん他の女性を虜にするかもしれない。そう思うとヒビキは胸の奥がズキっとした。

 

「ねぇ、ヒビキ」

 

そんな中、ミィはヒビキへと話しかける。ヒビキは考え込んでいた所に話しかけられて一瞬固まってしまい急いでミィの方を向くがミィは既にヒビキの複雑な気持ちを見抜いていた。

 

「あなたやサリーちゃん、キャロルちゃんもセイバーの事が好き……なんだよね?」

 

「……はい」

 

ヒビキは素直に認める事にした。元々気持ちが周りにバレている事もあったが、ここでミィに嘘をつくのが嫌だったからでもある。それを聞いたミィは安心したかのように微笑んだ。

 

「そっか。それじゃあ、これからはライバルだね」

 

「え?」

 

ミィの言葉にヒビキは驚いていた。ヒビキとしてはミィから何か言われると思っていたからである。

 

「そんなにビビらなくても大丈夫だよ。同じセイバーに惚れた人同士なんだからこういう時ぐらい仲良くしよう」

 

「……良いんですか?私、サリーお姉ちゃんやキャロルちゃんとも偶にセイバーお兄ちゃんの事で喧嘩するのに……ミィさんはこんな私と仲良くしたいだなんて……」

 

ヒビキがミィからの提案に戸惑っているとそこにギルドホームの扉が開け放たれる音がしてサリーとキャロルが入ってきた。

 

「帰ったよー!」

 

「邪魔するぞ」

 

「ってあれ?誰もいない……でも声は聞こえる」

 

「先客でも居るのか?」

 

2人が誰も出迎えなかった事に疑問を持って来客用の部屋まで行くと他の面々と合流する事になり、2人も事情を知る事になった。

 

「そっか。ミィさんも」

 

「これで4人目か。セイバーの競争倍率がどんどん上がっているな」

 

サリーとキャロルがそれぞれの反応を示しているとヒビキは恐る恐るだったがサリーとキャロルにとある提案をする事にした。

 

「あの、サリーお姉ちゃん、キャロルちゃん」

 

「「何?」」

 

「今までセイバーお兄ちゃんの事になると目の色が変わっていた私が言うのもいけない事だと思うけど、1つ提案があるんだ」

 

「セイバーの事で喧嘩するのを止めよう……だろ?」

 

「そうそう……って、え?」

 

キャロルからの発言はヒビキが今言いたかった事だったのでヒビキは面喰らった。

 

「なんで私の言いたい事が」

 

「ここに来るまでにサリーと同じ事を話していたからな」

 

「サリーお姉ちゃん、今の話……」

 

「本当だよ。ミィさんもセイバーが好きになったのは何となく察していたし、それにもうこれ以上私達が喧嘩していたらセイバーに嫌な思いをさせるんじゃないかなって思ったんだ」

 

ヒビキと同じでサリーやキャロルも彼女達なりに他の恋敵との付き合い方をそろそろ改めなければならない。そう考えるようになっていたのだ。

 

「私達はセイバーの事になるとどうしても取り合いみたいな事をしちゃうじゃん。セイバーもああ見えて多分私達の事を真剣に考えてくれてる。だからさ、これからは私達も喧嘩するんじゃなくてもっと仲良くなりたいんだ」

 

「選ばれるのは4人の中のたった1人。それでもセイバーはちゃんと答えを出してくれる。俺はそう信じてるからな」

 

2人の言葉に先程まで2人に受け入れられるか不安だったヒビキも元気を取り戻していた。

 

「そっか、そうだよね。セイバーお兄ちゃんが私達を裏切るはずなんて無いよね!」

 

これによりようやくサリー、ヒビキ、キャロルの3人はセイバーが目の前にいても取り合いなどの喧嘩をしない約束を交わす事にし、ミィもこれに参加する事になった。

 

「それじゃあ、私達セイバーの事が好きな4人の中での約束事の確認ね」

 

サリー達4人はセイバーにアプローチをする上での決め事を行う事にした。これをする理由としてはセイバーを困らせないことと、互いにアプローチを妨害をしないようにするためである。そして決められた内容というのは次の通りである。

 

1、セイバーと2人きりで遊びに誘う場合は必ず4人で決めた順番に従う事。順番はミィ→キャロル→ヒビキ→サリーで一巡したらまたミィからに戻る。そして約束する際は約束した日付を全員に共有する事。

 

2、2人きりで遊ぶ日は遊んでいる人の邪魔をしないようにする事。偶然出会った場合も同じである。

 

3、セイバーを遊びに誘う時は必ずゲーム内にログインしてから行う事。つまり、現実世界で2人きりでの遊びに誘うのは禁止。

 

このように4人は様々な事を決めた。破った場合は他3人からのお仕置き付きの条件である。因みに、このように約束で色々と縛っているが、意外と抜け穴も存在する。例えばメイプル、サリー、セイバーでダンジョンに行ったとしよう。その時にダンジョンのギミックでメイプルだけが分断されてセイバーとサリーが2人きりになる場面ができる事がある。その場合は特に回数にはカウントしないのでギミックを知っていれば意図的に2人きりを作り出す事が可能だったりする。

 

流石にそこまで縛ると個人個人の戦略性が無くなってしまうので敢えてそこは緩い設定にした。後は4人の打つ手次第である。

 

それから4人はセイバーの事で話を始める事になり、盛り上がる事になる。そして、その様子を見ていたイズ、カスミ、マイ、ユイの4人はそれを温かい目で見ていた。

 

「恋する乙女って良いよね」

 

「セイバーはこんな美少女達に惚れられて幸せ者だな」

 

「私達にもそういう相手ができると良いね」

 

「皆さんがとても羨ましいです」

 

それから4人はサリー達のガールズトークを邪魔しないようにゆっくりと解散する事になり、4人は気の済むまでセイバーの事について語り合うのであった。

 

その頃、話の中心となっているセイバーはと言うとクエスト攻略を終了させており、今は【集う聖剣】のギルドホームの訓練場を借りてペイン、ドラグ、ドレッドを相手に修行に励んでいた。

 

「はあっ!」

 

「甘い!」

 

今回セイバーがここに来た理由は【集う聖剣】の面々と第10回イベントで戦わなかった事もあり、お互いの腕試しも兼ねていた。因みに今はセイバーとペインが戦っている。

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

「【感情爆炎斬】!」

 

セイバーの炎の斬撃とペインの光の奔流が激突するとパワーは拮抗し、大爆発を起こす。その圧倒的な火力同士のぶつかり合いに観戦しているドラグとドレッドは感嘆していた。

 

「さっすがペイン。良い火力をしてるぜ」

 

「セイバーもあのペイン相手に互角に立ち回るとかもう人間業じゃねーな」

 

それから暫く2人の模擬戦は続いていたが、結局セイバーがペインの剣を弾いて彼に剣を突き付けた所で勝負アリとなりセイバーの勝利で幕を閉じた。

 

「やはり強いな。セイバー」

 

「お互い様ですよ。俺にも危ない場面が沢山ありました」

 

それからセイバーはペインからの誘いで【集う聖剣】のギルドホームでゆっくりする事になり、ペイン、ドラグ、ドレッド、そして丁度良くギルドホームに帰ってきたフレデリカとキラーを交えて話をする事になった。

 

「それで、セイバーは4人のうちの誰にするつもりなの?」

 

話を始めると早速フレデリカがセイバーの恋愛事情を聞きに来た。セイバーはそれを聞くと考え込み始めた。

 

「……その感じだとまだ決めてないな」

 

「いや、これでも7割ぐらいは確定していますよ?でも、他の3人を傷つける事を考えると誰か1人に決めきれなくて……」

 

「そういうのを決まってないって言うんじゃないのか?」

 

「うぐっ……」

 

ドレッドからの言葉にセイバーは言葉を詰まらせ、ドレッドは溜息を吐いた。

 

「しっかし、お前も大変だな。何せサリーもヒビキもキャロルもミィも可愛いだろ?そんな美少女達に囲まれてハーレム状態になるなんてな」

 

「そうですけど……俺は後悔なんてしたくないんです。皆俺に真剣にアプローチしてくれてるのに俺はまだ答えを出せてない。こんな自分が嫌になりますよ」

 

セイバーは自虐するように自分への悪態をついた。その様子を見兼ねたのか【集う聖剣】の面々がセイバーをフォローしようとすると突如としてセイバーの影からデザストが出てきた。

 

『おいおいお前、まさかと思うがこのまま4人の気持ちが自然消滅するまで放っておくつもりじゃねーよな?』

 

「びっくりしたぁ!えっと確かデザストだっけ?」

 

『あ?今はセイバーに説教する時間だ。横槍は入れないでもらえるか?』

 

そのデザストの挑発的な態度にフレデリカは苛立ちを覚えるが話が進まなくなるので一旦置いておく事にした。そして、セイバーはデザストに押し倒されると睨まれた。

 

『お前、アイツらがどんな気持ちでお前の事を見てるかわかってんだろーな』

 

「お前に言われなくてもわかってるし!」

 

『だったらテメー、迷ってんじゃねーよ』

 

デザストは声を荒げてセイバーへと詰め寄るが、セイバーはその態度に腹を立てたのか彼へと言い返した。

 

「だったらお前は決められるのかよ……お前だったらあの4人を誰一人傷つける事なく納得させられるのかよ!!」

 

『まさかお前そんな事で悩んでたのか?良いか、お前が悩むべきはそこじゃない。決める基準は誰と付き合えば寂しくないか。そいつの事を幸せにしてやれるかだろ!!』

 

「ッ……」

 

セイバーはデザストからの言葉に心の中が抉られた。今までセイバーは4人にどう返事すれば彼女らを傷つけず済むかという事ばかりを考えていた。だがそれでは結論次第ではセイバー自身に後悔を生むかもしれない。何故なら相手の事ばかりを考えて自分が本当に好きな人と結ばれてない可能性があるからだ。

 

『ったく、お前は相手の事ばかり考えすぎだ。そもそもお前はさっき言ってた7割方確定している人の事が好きなのか?』

 

「……そうだよ」

 

『だったらいつまでもウジウジしてるんじゃねーよ。そいつにとっとと告白して付き合え!』

 

「でもそれじゃあ他の3人の気持ちはどうなるんだよ……」

 

セイバーはデザストの圧力に珍しく狼狽えていた。そんなセイバーへと【集う聖剣】のフレデリカとドラグも声をかけていく。

 

「あのさー、女子の私としてはもう既に好きな人が確定しているなら早い内に他の3人をハッキリと振った方が良いと思うよ。失恋のショックで立ち直るまでの時間を考えたら長引かせれば長引かせるほど他の3人が次の恋を見つけるまでに時間がかかっちゃうし、他の3人のためにもならないよ」

 

「俺は難しい事はよくわからないけどフレデリカと概ね同じ意見だな。両想いなら尚更さっさと付き合った方が良いと思うぜ」

 

「……でも俺にはまだ覚悟がありません。できる事なら3人を傷つけるなんて事は」

 

『まだそんな事を言うのかテメェは!』

 

「落ち着けデザスト。セイバーにもセイバーなりの気持ちがあるんだ。今はセイバーの覚悟が決まるまで待つべきじゃないのか?」

 

ドレッドに宥められてようやくデザストは落ち着くが内心はまだ覚悟が決まってないセイバーに不満を抱いている様子だった。デザストとしては下手をすればこのままセイバーの覚悟が決まらないままズルズル先延ばし先延ばしになるという事態に陥りかねないと思っているからである。

 

「……はぁ。どうしてこんな事になったんだろ」

 

セイバーが溜息を吐くとそれに合わせてその場の全員がこう思った。“それはこっちの言いたい事だ”と。

 

「セイバー、俺と戦え。今は一旦この事を忘れて他の事に集中すべきだ」

 

セイバーはキラーからの戦いの誘いに乗ると再び訓練場に行く事にした。それから2人は激しい戦いを始めるが、セイバーには気持ちに迷いが生じているせいか終始キラーに圧倒されていった。

 

「お前、余所事を考えている暇があったら俺との戦いに集中しろ!」

 

「わかってるよ!」

 

しかしそれでもセイバーの心のどこかで4人の事を考えてしまっているのかキラーが優勢なのは変わらず、結果的に模擬戦とは言えセイバーはキラーに圧倒的な敗北を喫した。

 

「……今回は俺が勝てたがそれはあくまでお前が本調子じゃないからな。次はもっと本気で来い」

 

「わかってるよ……今回に関しては俺が悪い。次までにはちゃんと吹っ切れるから今回だけは許してくれ」

 

「ふん、許すかどうかは次に戦った時に考えてやる」

 

セイバーはその後、【集う聖剣】のギルドホームを後にしてギルドホームまでの道のりを歩いていった。

 

「はぁ……俺は一体どうすれば良いんだろう……。アイツらの気持ちにどう答えれば良いんだろ」

 

セイバーは悩みながら歩いていると無意識のうちにギルドホームとは違う方向へと歩いて行き、水と氷の国の城の中に入っていた。そしてその図書館に着くとようやく気がついたのか我に返った。

 

「あれ!?ボーッとしてたらいつの間にか変な所に来たんだけど!?」

 

セイバーは来てしまったついでに何か有益な情報が無いか調べる事にした。しかし、流石は城の図書館と言うべきか、本が大量に並べられすぎてどこに有益な情報があるかサッパリわからなかった。

 

「もう!何でこんなに本が多いんだよ!!これじゃあどれが有益なのかまったくわからん!クソッ、せっかくならカナデを連れてくれば良かった!」

 

カナデがここにいれば記憶力の面でどこにどのような本があるか整理するのも可能だろう。だが、いないプレイヤーを言っていても仕方ないので地道に探索する事にした。

 

 

〜1時間後〜

 

「はぁ……はぁ……ダメだ。利益になりそうな物はどこにも無い……いっその事こと誰かここに呼ぼうかな……」

 

セイバーが困っているとそこに救いの神が微笑んだのか2人のプレイヤーが入ってきた。

 

「まったく、何でこんな所を探したいなんて言うのかしら」

 

「セイバーに勝つためなら手段は選んでられないだろ」

 

「はぁ、仕方ないわね。今回だけよ」

 

「パラド?マリアさん?」

 

「「……え?」」

 

そこで出会ったのは【炎帝ノ国】に所属するパラドクスと【ラピッドファイア】に所属するマリアだった。どうやら2人もこの図書館に有益な情報が無いか探しに来たらしい。もっとも、1番の理由はセイバーを超えるためだったが。

 

「マジかよ。セイバーが探しても収穫ゼロ?」

 

「これは中々面倒ね」

 

セイバーが2人に1時間以上探しても有益な情報を得られなかった事を話すと2人はかなり精神を削られた様子だった。

 

「こうなったらパラドクス、セイバーと協力するわよ」

 

「えぇー、セイバーに勝つためにここに来たのにそのセイバーに協力するのか?」

 

「この際仕方ないでしょ。3人で探した方が効率的だし。それと、私のツテであと4人ぐらいは呼べるからその人達にも手伝ってもらうわ」

 

「4人?それってもしかしてギルドメンバーですか?」

 

「違うわ。その4人は【BOARD】の主力メンバー。生憎うちのメンバーの殆どがリリィとウィルバートと一緒にクエストに挑戦中よ」

 

「そういえばマリアさんって【BOARD】のギルドホームに行った事あったんでしたよね。

 

「はいはい。なら俺もシン辺りに応援を頼むとするか」

 

パラドクスとマリアの2人は人数を増やして効率を上げようと考えているとセイバーは2人に歩み寄ろうとした。その時、何故か足がもつれると後ろへと倒れかかった。

 

「うわっ!!」

 

そのまま壁に手をつくと何かのスイッチが押されたのかギミックが作動して図書館の本棚が動き始めた。そして本棚が動き終わると壁の先に道が続いており奥へと入る事が可能になった。

 

「「「はぁあああ!!?」」」

 

3人は驚きの声を上げると気を取り直してその中へと入っていく。すると隠し部屋の入り口のような古びた扉があり、3人がそれを開けると中には部屋の中央の台座に一冊の本が置かれていて、その周囲を囲むように本棚が存在し、本が並べられてあった。

 

「隠し部屋があるなんて心が躍るな!」

 

「それにしても随分と埃っぽいわね。かなり長い間使われて無かったっぽいし」

 

マリアとパラドクスがそれぞれ感想を言い合っているとセイバーが何かに取り憑かれたかのように部屋の中央にある本を手に取った。そこには“異世界ノ剣士伝”と書かれていた。

 

「この本は……」

 

「ちょっとセイバー?それって……」

 

マリアが言い終わらない内に本が開き、眩い光がそこから溢れ出ていくとセイバーはその中へと吸い込まれていった。その後本が閉じて勝手に台座へと戻るとその周囲が青いバリアに包まれた。パラドクスとマリアが異変に気づいて本の元に駆け寄ろうとするが、もう既に遅くバリアに阻まれて近づく事すらできなかった。するとそこにこの国の王が現れた。

 

『図書館の近くを通った時に騒がしいと思ったらどうやらその本に選ばれし者が現れる時が来るとはな』

 

「何か知ってるんですか?」

 

『この本は遥か昔から存在していてな、その伝承では選ばれた1人の勇者をとある世界に連れて行き、そこである力を与えるに相応しいか見極める。そして選ばれればその力を手にして戻って来れるんじゃが……』

 

「もし選ばれなければ?」

 

『そこまではわからない。なにしろこの本に選ばれたのは彼が初めてだからな』

 

2人は王の言葉に一瞬息を詰まらせた。もしセイバーが更に進化するのであれば大変な事態になり、セイバーが帰ってこれなくても心中穏やかではいられないだろう。

 

「ひとまず、セイバーが戻ってくるまでここを調べましょう。他にも何かあるかもしれないし」

 

「そうだな」

 

2人はそのまま探索を続ける事になり、王はそれを見届けると去って行った。果たして、セイバーが飛ばされた世界とは果たしてどのような世界なのだろうか。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと異世界

前回、水と氷の国にある城の図書館で見つけた“異世界ノ剣士伝”という本に吸い込まれたセイバー。彼は吸い込まれた直後、空の雲海のような場所にいて自由落下を始めていた。

 

「ちょっ!?なんでこんな所に俺が……」

 

すると突如として触れてもいないのにインベントリが開くと中から火炎剣烈火を除く10本の聖剣が飛び出ててどこかへと散り散りに消えていき、更に烈火からも大小様々な大きさの本が7冊出てきてそれがセイバーのインベントリに入っていった。そして聖剣以外の剣であるキングエクスカリバーは剣そのものが本に変わってセイバーのインベントリに入った。

 

「嘘だろおい、せっかく集めた聖剣が……って、そんな事言ってる場合じゃ無い!!このままじゃ間違いなく死ぬ!!」

 

セイバーはどうにかして空を飛ぶ方法が無いか探す。するとある物が無いことに気がついた。

 

「こうなったらブレイブを……は?【絆の架け橋】が無い!これじゃあブレイブも呼び出せない!デザストじゃ空を飛べないから無理だし」

 

セイバーが慌てている間にも地面は近づいていきそのまま無慈悲にもセイバーは地面に叩きつけられて意識を失ってしまった。そしてセイバーが次に目覚めるとそこはとある建物の中だった。

 

「痛てて……あれ?何で?あの高さから落ちたら絶対死ぬと思ってたのに」

 

セイバーが起き上がろうとすると突如としてセイバーの顔の真上にセイバーにとってよく見覚えのある顔が映った。

 

『あの……大丈夫ですか?』

 

「……サリー?」

 

セイバーが見たのはサリーと瓜二つの顔をした人物であった。しかし、当の本人は驚いており何故自分の名前がわかったのか困惑した様子だった。

 

『え!?何で私の名前を知ってるんですか!?』

 

「は?何言ってんだよ。いつも一緒にいるじゃねーか」

 

『いやいやいや、私はあなたの事を初めて見ましたよ?』

 

「待って、そういうの良いから。てか本当に冗談抜きで」

 

セイバーはそういうものの、当のサリーと同名の人物はまだ混乱していた。そこに2人の人間が扉を開けて入ってきた。

 

『サリー、戻ったぞ』

 

『今の所町に異変は無かったわ』

 

「え?クロムさん、イズさん!!」

 

そこに来たのはサリーと同様に顔付きがクロムとイズにそっくりな2人組だった。しかし、セイバーが2人の名前を呼んでから返ってきた返事は先程のサリーと同名の人物と全く同じだった。

 

『サリー、なんでこの人は俺達の名前を知ってるんだ?』

 

『この人とは初めて会ったよね?』

 

「はぁ……ダメだこりゃ」

 

セイバーは流石に諦めたのかこの3人はいつも会っているギルドメンバーとは全くの別人だということがわかった。すると奥の部屋からまた2人の人間が入ってきた。

 

『どうしましたか?ブレイズ、バスター、スラッシュ』

 

『……騒がしいな。一体何事……』

 

2人が入ってきた所でセイバーはまた固まった。この2人も見た事のある人物だからである。

 

「カナデ!?カスミさん!?」

 

するとセイバーはサリーと同名の人物に頭を掴まれると無理矢理下げさせられた。それを受けてセイバーは訳が分からずに混乱するばかりだった。

 

「ちょっ、何するんだよサリー」

 

『新参者がそんな口の利き方、カスミ様に失礼ですよ!申し訳ありませんカスミ様』

 

「カスミ様!?」

 

セイバーはサリーと同名の人物の手から解放されるとカスミと同名の人物を見た。すると彼女はいつものユニーク装備では無く、白いドレス姿であり見るからに高貴な立場の人であった。

 

『それで、サリー。こいつは何でここにいる。そもそも普通の人間をここに入れるのはダメじゃなかったか?』

 

クロムはセイバーに対して警戒心を露わにしており、それはイズも同じであった。

 

『実は街の偵察をしている間にこの人が倒れているのを見つけたのですが、その時に火炎剣烈火も持っていたんですよ』

 

『何だと!?あの失われた火炎剣をか?』

 

『これは驚いたわね。まさかこの人が新たに火炎剣から選ばれし者なの?』

 

セイバーがそれを聞いてインベントリを開くがいつの間にか火炎剣烈火が無くなっておりセイバーがサリーと同名の人物の方を見るとそこには火炎剣烈火を大事そうに持っていた。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ。それは俺の持ち物で……」

 

『誰があなたの物だと決めたんですか。元々聖剣は神聖な物です。あなたのような普通のホモ・サピエンスが持つような物じゃないんですよ』

 

「は?そんなのそちらの都合ですよね。そもそもそれは俺が実力で勝ち取った物なんです。それを神聖な物だからって没収される筋合いはないんですけど」

 

セイバーとサリーと同名の人物は一触即発の雰囲気を出し始め、それを見かねたカスミと同名の人物は2人の間に入って引き離した。

 

『2人共落ち着いてください。ブレイズ、この人はあくまで客人です。喧嘩をしてどうするんですか。それと……あなたは……』

 

「そういえば名前がまだでしたね。俺はセイバーって言います」

 

『セイバー!?』

 

『セイバーだと?』

 

「え、なにか不味いことを言いました?」

 

『……セイバーというのは火炎剣烈火を持つ者がその力を引き出して変身した姿を指す名前です。偶然だとは思いますが現にあなたは火炎剣烈火に選ばれている。これも何かの縁かもしれません』

 

「そうですか……それで、えっとカスミ様……で大丈夫ですか?」

 

『大丈夫ですよ』

 

「ここはどこなんですか?火炎剣烈火に選ばれし者って一体」

 

『それについては俺達が説明しよう。だがその前に俺の名前はクロム。土豪剣激土の使い手だ』

 

『イズよ。音銃剣錫音を使うわ』

 

『サリーです。水勢剣流水を扱います』

 

『カナデだ。僕自身が光剛剣最光になる』

 

「……はい?もしかして皆さんは聖剣の使い手だったりしますか?」

 

『よくわかったな。その通りだ』

 

セイバーはその言葉を聞いてある仮説が浮かび上がった。もしかすると自分が持っていた聖剣が無くなったのは既にこの世界に同じ物が存在するからであり、失われたらしい火炎剣烈火だけは同じ物が存在しないがために自分の元に残ったと。

 

「それで、質問に答えていただけますか?」

 

『だがその前にお前は過程はどうあれ火炎剣烈火に選ばれた人間だ。今から話す事はとても重大な事であることを理解すると共にその事に関わる覚悟が必要だ。お前にそれはあるか?』

 

「……覚悟ならできてますよ。あなた達のその雰囲気からして只事では無い事は理解できます。それにこの剣を最初に手に入れたのはある意味運命だった。なら、それに乗ってやりますよ」

 

『良いだろう。まずこの場所はノーザンベース。北極に存在する俺達の拠点だ』

 

「北極!?って、マジじゃん」

 

セイバーが窓から外を眺めると本当に北極にいるという事を実感した。それからクロムは話を続ける。

 

『そして俺達が所属している組織の名はソードオブロゴス。俺達剣士達が主力としてこの世界の平和を守るために日々尽力している』

 

「世界の平和……って事はそれを脅かす敵がいるって事ですか?」

 

『そうなるわ。その名前はメギドと呼ばれる怪人達。彼等はこの世界を自らの手で支配するために黒い本、通称アルターライドブックを使うことで怪人を作り出し、世界を意のままに操ろうとしている』

 

『私達はそれを阻止するためにメギドの壊滅を目指しています。ただ、今の所彼等のアジトがわかっていないから相手が出てくるのを待つしか無いのが現状ですけど』

 

「それで、皆さんの他には剣士はいないんですか?人手は多いに越した事は無いと思いますけど」

 

『……一応ここにいる僕達4人に加えて南極に存在する我々のもう1つの基地、サウザンベースに2人、そして修行の旅に出かけている1人を合わせて7人になるがサウザンベースの2人はこの組織を束ねるマスターロゴスを守る務めがある。更に修行中の1人は今どこにいるかもわからない。連絡手段を全てここに置いていったからね』

 

セイバーはそれを聞くと少しの思考の後にとある矛盾点に気がついた。それは今現在使い手がいる聖剣の数である。自分を含めて聖剣の使い手は8人だけなのに対してセイバーの知る聖剣の総数は12本。つまり1人で複数本扱わない限りは何本かの聖剣は使い手がいない事になるのだ。

 

「ちょっと待ってください。俺が知っている限りだと聖剣は12本あるんですよね?何人か使い手がいないことになりませんか?」

 

『……それも知っているのか。なら話は早い。今現在この世界に存在するとされているのは11本。その内使い手がいるのは今カナデが話した7人に加えてセイバーを入れると8人。そしてもう1人いる。それは……』

 

クロムが話を続けようとするとカスミが何かの異変を察知したのか急に話に割り込んできた。

 

『メギドが出現しました!場所は……』

 

カスミの言葉にクロム達は話を一時的に中断するとブックゲートと呼ばれる本から展開されるゲートを使ってその場所へと急行する。そしてセイバーもその後に続いた。ただし、カナデはこの場所を守るようにカスミからの指示で待機する事になった。

 

セイバー、サリー、クロム、イズの4人が現場へと到着するとそこには鉄仮面を被り、首には襟巻をヒラヒラとさせたミイラ男のような弱そうな戦士が大量に発生していた。

 

『今の所シミーだけね』

 

『さっさと倒しましょう』

 

するとサリー、クロム、イズはそれぞれ流水、激土、錫音を取り出すともう片方の手にはそれぞれ青、灰色、ピンクの本を持っておりそれを開いた。

 

《ライオン戦記!》

 

《玄武神話!》

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!》

 

「……はい?」

 

セイバーはいきなり3人が始めた行動に混乱し、棒立ちになっていた。それもそのはず、いつもであればセイバーの掛け声1つで姿が変わるからである。

 

そんなセイバーを他所に3人はそれぞれ本を剣に読み込ませると本が光の粒子となって吸い込まれ、サリーはいつの間にか腰に巻かれたベルトに本が移動。クロムとイズは剣にそれぞれ装填されて構えを取った。

 

『『『変身!』』』

 

《流水抜刀!ライオン戦記!》

 

《玄武神話!一刀両断!ブッた斬れ!ドゴ!ドゴ!土豪剣激土! 》

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!銃剣撃弾!銃でGO!GO!否!剣でいくぞ!音銃剣錫音!》

 

3人の後ろに本が降りてくると本が開き戦士の姿が描かれた絵が露わになった。その後、3人をそれぞれエフェクトがその体を包んでいく。

 

サリーの方は本から青いライオンが出現。それがサリーの周りを回りながら水に包まれていき、その姿を胸にライオンの装甲を付与した仮面の戦士、ブレイズへと変化した。

 

クロムの方は大量の岩が周囲を飛び回るとそれが目の前で亀の甲羅のような物を生成。それをクロムが両断するとそれが装甲となってクロムへと纏われていき、仮面の戦士、バスターへと変化した。

 

イズの方は本からお菓子が飛び出していきそれが纏われていくとピンクの竜巻のような物と共に装甲へと変化していき仮面の戦士、スラッシュへと変化した。

 

3人は変身を完了するとそれぞれシミーを倒すために向かっていく。セイバーはそれを見て気を取り直すといつものように烈火を構えて掛け声を言い放つ。

 

「烈火抜刀!」

 

だが、その掛け声を言ってもセイバーの姿は変化する事なくいつも通りの弱い装備のままであった。それを見たサリーことブレイズは半ば呆れた様子でセイバーへと叫んだ。

 

『何やってるんですか!早く変身してくださいよ!』

 

「変身って言われても……あ、もしかしてインベントリの中のアレを使うの?」

 

セイバーは咄嗟にインベントリを開くとそこに入っていた本を取り出した。そして3人がそうしていたようにセイバーも同じ事をする。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

「変身!」

 

《烈火抜刀!ブレイブドラゴン!》

 

セイバーは他の3人と同様に剣に本を読み込ませると本はセイバーのベルトに装填された。その後、セイバーの後ろに本が出てくるとその中から赤いドラゴンが出現し、それがセイバーの周りを回りながら炎でセイバーを包んでいく。そして、セイバーは右肩にドラゴンの装甲を付与した仮面の戦士となった。

 

「なるほど、この世界ではこうやって強化されるって訳か」

 

セイバーはこの世界での戦うための条件を満たすと烈火を構えてシミーへと向かっていく。そこからは正に一方的な蹂躙劇だった。そもそもシミー自体の戦闘力がそう高く無いこともあり、今まで歴戦を潜り抜けてきたセイバーの敵にはならず、圧倒的な力でねじ伏せていった。

 

「やっぱコイツらはあまり強く無いな。いわゆる雑魚敵って所か。なら、一気に倒させてもらうぜ」

 

そしてその様子を戦いながら見ていたブレイズ、バスター、スラッシュはセイバーの無双ぶりに驚いていた。

 

『このセイバー、既に戦い慣れしてやがるな』

 

『はい、とてもじゃありませんが初めて変身したとは思えない強さです』

 

『……でもどこか引っ掛かるのよね。どうして火炎剣烈火がいきなり復活したのか。あの剣は私達の目の前で粉々に砕け散ったはずなのに……』

 

3人はセイバーの様子を見るのをそこそこにシミーとの戦いを進めていき、必殺技を発動した。

 

《必殺読破!流水抜刀!》

 

《玄武神話!ドゴーン!》

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!イェーイ!》

 

ブレイズは剣をベルトに納刀してトリガーを引き、剣をベルトから抜刀して水の力を剣に高めていく。それに対してバスターとスラッシュはそれぞれ剣に装填されている本を外すとそれを剣に読み込ませる。するとバスターの方は激土に大量の岩が集まっていくとそれが巨大な激土を形成する。また、スラッシュの方はお菓子のエネルギーが剣に集約するとピンクの光となって剣の鋭さが増した。

 

『ハイドロストリーム!』

 

《ライオン一冊斬り!ウォーター!》

 

ブレイズは走りながらシミーをすれ違い様に斬りつけていき、シミー達を次々と倒していく。

 

『大断断!』

 

《激土乱読撃!ドゴーン!》

 

バスターは巨大化させた激土を横一閃に薙ぎ払い、シミー達を真っ二つに両断すると両断されたシミーは爆散していった。

 

『スナック・音・ザ・チョッパー!』

 

《錫音音読撃!イェーイ!》

 

スラッシュは遠距離から斬撃を放ちその斬撃が命中するとシミーは斬られて倒されていった。

 

「おお、なら俺も【紅蓮爆龍剣】!」

 

セイバーはまたいつものノリでスキルを発動し、一気にシミーを薙ぎ払おうとするが、またもや何も起きずにその場には静寂が流れるのみだった。

 

「は?なんでスキルが出ないんだ?」

 

セイバーが疑問に思ってステータスを開くと自分の持つスキル全てが薄暗くなっており、スキルが全く使い物にならなくなっていた。

 

「嘘だろ?もしかしてここのルールではスキルも禁止?ふざけんなよ!」

 

セイバーは仕方なく他の3人のやり方を真似する事になり、セイバーはブレイズの技と同じように剣をベルトに納刀し、トリガーを引いて抜刀。そのまま炎を纏った剣を構えた。

 

《必殺読破!烈火抜刀!》

 

「火炎十字斬!」

 

《ドラゴン一冊斬り!ファイヤー!》

 

セイバーが十文字に剣を振るうとそれがそのまま炎の斬撃波となりシミー達を焼き払っていく。そして、そのままシミー達は全滅する事になり4人がホッとしたのも束の間、今度は爆発音と共に5体の怪物が現れた。

 

《見えにくいアヒルの子!》

 

その怪物はベースは同じアヒルのような姿だが、武装が違っており、1体目は頭部の耳の部分に金の翼の装飾が付いており、2体目は右腕に、3体目は左腕に鋭い爪が存在する。4体目と5体目はそれぞれ背中に赤い翼を片翼ずつ装備していた。

 

「ここで援軍かよ」

 

『メギドもやって来たか』

 

『手分けして倒しましょう』

 

『えぇ、それが良さそうね……ッ!セイバー、伏せて!』

 

セイバーがスラッシュの言葉を聞いて反射的に頭を下げると背後から空気が動くような音がして何かが後ろから攻撃を仕掛けたのが見えた。するとその物体は姿を現した。それは6体目のアヒルのメギドでありその特性は透明化であると言えるだろう。

 

「6体目……これで全部かな?」

 

『いずれにしろ、全て倒す!』

 

4人はアヒルメギドを殲滅するために走っていき交戦を開始する。だが、その強さは先程のシミー達とはまるで格が違うと思える程に強く、4人は数の上で不利という事もあり苦戦を強いられていた。

 

『中々に厄介だな』

 

『でも私達は負ける訳にはいかない!』

 

「そういえばこれ、納刀したまま技って繰り出せるのかな?」

 

セイバーは烈火をベルトに納刀するとそのまま2回トリガーを引いた。すると紅蓮の炎が足へと集まっていき、力が高められた。

 

《必殺読破!》

 

「おお、これならいける!火龍蹴撃破!」

 

セイバーが跳びあがるとそのままライダーキックを繰り出してアヒルメギドの内の1体に命中させると撃破した。

 

「撃破1番乗り!」

 

『負けていられませんね。ここは2冊で一気に倒します!』

 

するとブレイズは本をもう1冊取り出すと剣に読み込ませ、それに加えて先程読み込ませたライオン戦記ももう一回読み込ませた。

 

《ライオン戦記!》

 

《ピーターファンタジスタ!》

 

本がベルトに移動したのを見届けたブレイズはそのまま剣をベルトに納刀してから抜刀し、その姿を変化させていった。

 

《流水抜刀!輝くライオンファンタジスタ!》

 

ブレイズの周囲をピーターパンのお供である妖精、ティンカーベルのようなものが飛び回るとそれが左腕に集約していき左肩から左腕までにピーターパンとフック船長が睨み合うような形のアーマーを装着。水の力を更に増幅させた。

 

『はあっ!』

 

ブレイズは左腕に装着したフックを鎖で射出してアヒルメギドを拘束。そのまま引き寄せると流水で斬りつけてダメージを与えた。それを見たセイバーもインベントリから2冊目の本を取り出してそれを使おうとした。

 

「よーし、俺も2冊目の本で……」

 

『あ、待ってください!あなたに2冊はまだ早いですって!』

 

セイバーはブレイズからのその言葉を聞くと思い止まろうとするが、それでもやってみたいという好奇心が勝ち、2冊目を使う事にした。

 

「赤い本は2種類あるけど、今回はこっちかな!」

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ストームイーグル!》

 

セイバーはブレイズと同じ手順を踏みながら本を剣に読み込ませ、烈火をベルトに納刀してから抜刀していく。

 

《烈火抜刀!竜巻ドラゴンイーグル!》

 

今回はセイバーの周りを炎の大鷲が回っていくとそれが胸部装甲となって付与され、炎の力を高める事になった。

 

「よっしゃ出来た!」

 

『初心者の割にはやるじゃねーか』

 

「初心者じゃないし、このゲームでなら寧ろ上級者だし!」

 

セイバーは鷲の力を得た事によって生えた翼を広げると空へと飛び上がり、空中からアヒルメギド達を次々と攻撃してダメージを与えていった。

 

『これで決めます!』

 

《必殺読破!》

 

ブレイズもベルトに流水を納刀するとトリガーを2回引いて必殺技を発動。手から水を発射するとアヒルメギドの中の1体を水の中に閉じ込めた。それから跳び上がりライダーキックを放つ。

 

《ライオン!ピーターファン!二冊撃!ウォ・ウォ・ウォーター!》

 

ブレイズのキックに貫かれたアヒルメギドは当然のように爆散し、これで残すはあと4体。数の上で互角となった。更にセイバー達の猛攻は止まらない。

 

「このまま続けて倒す!火炎竜巻斬!」

 

《必殺読破!》

 

セイバーは烈火をベルトに納刀してからトリガーを引いて抜刀。炎の竜巻を剣に高め、それをアヒルメギドへと放った。

 

《烈火抜刀!ドラゴン!イーグル!二冊撃!ファ・ファ・ファイヤー!》

 

アヒルメギドの1体はその竜巻の中に囚われると炎に包まれていき風で吹き飛ばされ、空中で大爆発を起こした。

 

「良し、これで数的有利に……」

 

セイバーがそう言っていると足音と共に何者かが歩いて来た。その人間の方をその場の全員が見るとセイバーは思わず息を呑んだ。その人間もセイバーがよく知っている人物に瓜二つだった。その名も……

 

「……メイプル?」

 

『やはり現れたか。1人知らない人がいるけどこれで私の目的が果たせる』

 

「メイプルだよな。もしかしてお前も剣士なのか?」

 

『あなた誰?未来予知に出て来たから驚きはしないけどあなたも剣士みたいね。消すべきターゲットが1人増えたわ』

 

「何言ってるんだよメイプル。俺達と一緒に……」

 

『待ってくださいセイバー。彼女は……メイプルは私達が戦わないといけない敵なんです!』

 

「……え?」

 

セイバーが呆気に取られているとメイプルは闇黒剣月闇と1冊の本を取り出してそれを剣に読み込ませた。

 

《ジャアクドラゴン!ジャアクリード!》

 

すると本は光の粒子となってメイプルの腰にいつの間にか巻かれたバックルに装填され、メイプルが月闇の柄でバックルの上部に存在するボタンを押すと本が開いた。

 

《闇黒剣月闇!》

 

『……変身!』

 

《Get go under conquer than get keen.(月光!暗黒!斬撃!)ジャアクドラゴン!》

 

メイプルの後ろに本が展開して中から紫の龍が出てくるとそれがメイプルを包み込んでいきメイプルの姿は右肩に紫の龍の装甲が付与された仮面の戦士、カリバーへと変化する事になった。

 

『誰にも私の邪魔はさせない。私が世界を救う』

 

そう言いながらメイプルことカリバーは容赦なくセイバー達へと襲いかかっていく。果たして、彼女がここに現れた理由とは一体なんなのか?




今回から異世界編に入ります。果たしてセイバーはこの世界でのクエストをクリアして新たな力を手にできるのか?また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと闇堕ち剣士

アヒルメギド達との戦いの最中突如として現れたメイプルが変身した戦士、カリバー。彼女はセイバー達へと襲い掛かると攻撃を開始した。

 

「ちょっと待てメイプル!なんでこっちに攻撃するんだよ!敵はあっちにいるだろ!」

 

『何も知らないお前は下がってろ!カリバーは俺が止めてやる!』

 

そう言いながらバスターがカリバーへと1人立ち向かっていく。ブレイズとスラッシュはそんなバスターの意を汲んで残る3体のアヒルメギドを討伐しにかかった。

 

「クソッ!なんでこうなるんだよ……」

 

セイバーは全くの別人とはいえいつも見ているメイプルとは違う彼女の行動に迷いが出て来てしまい、それがセイバーの動きを鈍らせて隙を生み出してしまった。

 

『セイバー、行ったわよ!』

 

スラッシュの言葉を聞いたセイバーだったがメイプルの事を考えていたために行動がワンテンポ遅れてしまった。そのせいでアヒルメギドの攻撃をまともに受けてセイバーは吹き飛ばされてしまった。

 

「あ……ぐ……この世界でもダメージの概念は同じか……」

 

セイバーがステータスを見るとHPが減少しており、ダメージを受けた事を実感した。一応ポーションなどの一部のアイテムは使用可能だが、それでも殆どのアイテムは暗くなっていて使えないので状況を打開するには自分の力に頼るしかないだろう。

 

『何やってるんですか!戦いの最中ですよ!』

 

「ごめん……ちょっと油断してた。ここからは本気で行く!」

 

セイバーは気を取り直すとアヒルメギドへと向かっていき、戦いを再開する事になる。それを見たスラッシュはセイバーに何かを思ったがそれを口には出さずに別の本を取り出した。

 

『ここからはこれで行くわ』

 

《ブレーメンのロックバンド!》

 

《銃奏!》

 

スラッシュは錫音に装填されている本を抜くと剣から銃へと形を変化させて、今抜いた本の代わりに取り出した本を読み込ませてからトリガーを引いた。

 

《銃剣撃弾!剣で行くぜ!NO!NO!銃でGO!GO!BANG!BANG!音銃剣錫音!》

 

するとスラッシュの左肩から左腕にかけてスピーカーや動物達を模した装甲が装着されていった。それと同時にスラッシュのテンションが急上昇。それはまるで人が変わったかのようだった。

 

『イェーイ!ここからは私の最高のサウンドで行くわよ!!』

 

「……これって俺が使っている【ロックモード】に似た変化?」

 

『イズさんはブレーメンのロックバンドを使うとああなるんですよ』

 

ブレイズの解説の後、スラッシュは銃モードにした錫音でアヒルメギドを撃ちまくり、あっという間に追い込んでいく。

 

『決めるわよ!』

 

《ブレーメンのロックバンド!イェーイ!》

 

『ガンズ・アンド・ミュージック!』

 

そしてスラッシュが錫音に装填された本を抜くと再び読み込ませて必殺技を発動。すると錫音に音のエネルギーが集約していき、それがエネルギー弾として高められていく。そのままスラッシュはリズミカルにステップを踏みながらトリガーを引いてアヒルメギドへと弾丸を放っていった。

 

《錫音音読撃!イェーイ!》

 

『私の音は響きが違うわ!エクスプロージョン!!』

 

「……なんか男性の俺がやる時と比べて女性のイズさんがやるとなんか違和感が出るなぁ……」

 

セイバーがハイテンションになったイズを見て呆れていたが、いつまでもそうしている訳にはいかないので戦いに集中する事になる。

 

「取り敢えず、透明化するアヒルは後回しだ。今は見えてる奴だけでも倒す!」

 

セイバーはまた新しい本を取り出すとそれを試しに使うべくブレイブドラゴンと合わせて読み込ませていった。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《西遊ジャーニー!》

 

セイバーが烈火をベルトに納刀してから抜刀すると胸の部分にあった鷲の装甲が外れ、代わりに左肩や左腕に赤い雲が纏わりつくとそれが装甲へと変化し、左腕には如意棒が武装されていた。

 

《烈火抜刀!奇跡の西遊ドラゴン!》

 

「今度は西遊記をモチーフにした装甲か。ってことは觔斗雲も出せたりする?」

 

セイバーが試しにベルトに装填されている西遊ジャーニーの本を1回押し込むとそこから音声と共に赤い色をした觔斗雲が出現した。

 

《西遊ジャーニー!》

 

「なるほど、本を押し込むとその本の特性に合った技が出せる感じか」

 

その様子を見ていたブレイズ達はセイバーの成長のスピードに驚きを隠せなかった。

 

『もしかしてこの人、戦いの中で成長してる?』

 

セイバーは觔斗雲に乗るとそのまま高速で飛び回り、すれ違い様にアヒルメギドを連続で切り裂いた。加えて左腕を突き出して武装されてある如意棒を使用。アヒルメギドを押し込むとそのまま壁に叩きつけさせた。アヒルメギドが怯んでいる隙を突いてセイバーは更なる攻撃の準備に入る。

 

「そういえばイズさんが本を読み込ませて必殺技を使ってたっけ?俺にも出来るかな」

 

セイバーはそう言ってベルトからブレイブドラゴンを抜くとそれを烈火にリードさせた。

 

《ドラゴン!ふむふむ……》

 

すると剣に炎が高まっていき必殺のエネルギーがチャージされた事がわかった。それを見たセイバーはトリガーを引いて剣を振るう。

 

《習得一閃!》

 

「はあっ!」

 

セイバーから繰り出された炎の斬撃はアヒルメギドを斬り裂くとそのまま爆散させ、これで残るのは透明化するアヒルメギドの1体のみである。

 

『よくも仲間を……許さない!』

 

仲間を全滅させられてアヒルメギドは怒ったのか自らのストーリーが描かれたアルターライドブックを取り出すとそれが進化し、新しいページが増えた。

 

『兄弟全ての力でお前達を潰す』

 

透明化するアヒルメギドの周囲に先程倒された他のアヒルメギドの武装が集まっていき、透明化するアヒルメギドは両手に強靭な爪を、背中には翼を生やし、頭も金の翼の装飾が合わさって新たなるメギド、ハクチョウメギドへとパワーアップした。

 

「アヒルがハクチョウに進化した……」

 

セイバーが驚いているとそこにブレーメンのロックバンドを解除して元のテンションに戻ったスラッシュが合流し、更にブレイズも加わった。

 

『これはますます油断できないわね』

 

『3人がかりで一気に倒しましょう!』

 

「ああ。俺達の力を見せてやろう!」

 

セイバー達3人はハクチョウメギドへと向かっていく。その一方で、カリバーと相対しているバスターは苦戦を強いられていた。バスターはカリバーよりも動きが遅い代わりにパワーがあるのでそれが活かせれば強かったのだが、カリバーはそれを見越して一撃当ててすぐに離れるといった戦法で戦っていた。

 

『クロムさん……あなたも私の邪魔をするんですか?』

 

『お前に何があったか俺は知らない。だが、今のお前は間違っている』

 

『……今のままだと世界は滅びる。それを防ぐにはこの方法しか無いのよ』

 

カリバーがバスターと鍔迫り合いをするとバスターを蹴って後ろへと跳び、剣にブックを読み込ませる。

 

《必殺リード!ジャアクドラゴン!》

 

すると剣に闇の力が集約されていき、それを見たバスターはその攻撃を受け止めるために剣を盾のようにしてガードを固める。

 

『はあっ!』

 

《習得一閃!》

 

カリバーからの斬撃はカリバーを襲うと大爆発と共に彼にダメージを与えた。バスターは防御重視にすることでこれを何とか耐えたものの、かなりダメージを受けた様子でその場へと崩れ落ちた。

 

『クソッ……アイツ、前に戦った時よりもかなり強くなってやがる』

 

『これも私の目的を果たすため。……終わりにしましょう』

 

カリバーがバスターへとゆっくり迫っていくとそこにハクチョウメギドと戦っているはずのスラッシュが割って入るとカリバーの攻撃を受け止めた。

 

『イズ!』

 

『……クロムをやらせるわけにはいかないから、加勢させてもらうわよ!』

 

スラッシュとバスターは協力してカリバーへと向かっていき、カリバーはそんな2人を相手にして戦っていく。セイバーとブレイズの方は決着が近づいていた。急造のコンビであるセイバーとブレイズだったが、プレイヤーとしてセイバーが元々戦い慣れしている事もあって上手く連携する事ができており、ハクチョウメギドはそんな2人の連携を前に追い詰められていた。

 

『そんな馬鹿な……』

 

「出会って間もない俺達だけど、力を合わせればお前を倒すことなんて容易いんだよ!」

 

セイバーはそう言いながら烈火でハクチョウメギドの爪を弾くと突きを繰り出してハクチョウメギドを吹き飛ばす。そしてブレイズもそれに刺激されて手から水を放出し、ハクチョウメギドの足を止めた。

 

「ナイスだぜ!」

 

そこにセイバーが西遊ジャーニーの本を押し込んで再び觔斗雲に乗って空を飛ぶとそのまま炎を纏っての体当たりを仕掛けた。

 

「うおりゃっ!」

 

これにはハクチョウメギドも堪らずダメージを負い、地面を転がっていった。

 

「そういえば、その姿になってから透明化を使わないな。……もしかして進化の代償でもう透明化できないとか?」

 

『ギクッ!?』

 

「……図星だな」

 

セイバーに透明化できないことを見抜かれたハクチョウメギドは空へと飛び立って逃走を図るがそれもブレイズから伸ばされた鎖付きのフックに捕まってそのまま叩きつけられた。

 

『ワンダーコンボで決めさせてもらいます!』

 

「え、ワンダーコンボ?」

 

セイバーはブレイズの言ったことの意味が分からずに首を傾げるが、ブレイズは三冊の本を流水に読み込ませていった。

 

《ライオン戦記!》

 

《ピーターファンタジスタ!》

 

《天空のペガサス!》

 

そしてその本が粒子となってベルトに装填されるとブレイズは流水を納刀し、抜刀した。

 

《流水抜刀!蒼き野獣の鬣が空に靡く!ファンタスティックライオン!》

 

するとブレイズの後ろに降りてきた本からペガサスが飛び出してブレイズの右肩に融合すると右肩から右腕にかけてペガサスの装甲が付与される事になり、加えてブレイズの全身が青一色へと染まる事になった。

 

「なるほど、同じ属性を司る本を3冊使うとワンダーコンボになるのか。だったら俺にも出来るのかな?」

 

セイバーがそんなことを言っている間にブレイズはハクチョウメギドを1人で圧倒していく。どうやらワンダーコンボは先程までの二冊よりも飛躍的に戦闘力が強化されるらしく、剣に秘められた属性の力も最大限に引き出されるようだ。

 

「なるほど、これはかなり強そうだな。……ただ、これだけパワーが一度に上がるのに反動は大丈夫なのかな?」

 

セイバーの不安を他所にブレイズはハクチョウメギドの爪を弾き、連続で斬りつけていく。そして跳びあがると水を纏わせた蹴りでハクチョウメギドを後ろへと下がらせた。

 

『このっ!』

 

ハクチョウメギドが負けじと反撃するとブレイズはゲル化して攻撃を回避。ハクチョウメギドの後ろに回り込んでから斬撃で吹き飛ばした。

 

『馬鹿な……』

 

『これで決めます!』

 

ブレイズが剣をベルトに納刀してからトリガーを1回引いて抜刀。そのまま水の力を剣に纏わせていった。

 

《必殺読破!流水抜刀!》

 

『負けて……たまるかぁ!』

 

《ペガサス!ライオン!ピーターファン!三冊斬り!》

 

『ハイドロボルテックス!』

 

《ウォ・ウォ・ウォ・ウォーター!》

 

ブレイズがハクチョウメギドとすれ違い様に斬り裂きつつそのまま振り返って斬り下ろし、ハクチョウメギドを両断するとハクチョウメギドは爆散して消滅した。

 

「凄い……」

 

するとハクチョウメギドを倒したブレイズは先程と比べて少しだけ息が荒くなっていた。それを見たセイバーはやはりワンダーコンボには反動があるという事を実感した。

 

それはともかく、ハクチョウメギドが撃破された事により戦う相手がいなくなったので2人はバスターとスラッシュの加勢へと行った。

 

その頃、バスターとスラッシュは2人がかりでようやくカリバーと互角になっていた。何故こうなったのか。それはカリバーの基礎スペックの高さにメイプルの素の戦闘力が合わさってかなりの強敵と化していたのだ。だからと言ってクロムとイズが弱いという訳ではない。寧ろ剣士としての経験では2人に分があるくらいである。それでもその経験の高さを上回る圧倒的戦闘力によるゴリ押しでカリバーは押しているのだった。

 

『大丈夫ですか?』

 

『なんとかな』

 

『……流石に4人相手は厳しい。今回はここまでね。……そこの異世界人』

 

メイプルことカリバーはセイバーへと話しかけ、セイバーはそれに応えるように前に出た。

 

「何だよ?」

 

『異世界から飛ばされたあなたが何故失われた火炎剣を持っているかは知らないけど、このまま首を突っ込むならいずれ死ぬわよ』

 

「それってどういう……」

 

カリバーは4人相手は無理と判断したのかセイバーに言葉を残すとそのまま無言で空間に闇の歪みを生成してからその中に消えていった。そして4人もノーザンベースに帰還する事になり、セイバーはメイプルのことについて改めて聞く事にした。

 

「あの、メイプルは最初から敵だったんですか?あの様子だと元々は味方だったっぽいですけど」

 

『……アイツは元々うちの剣士の1人だった。ただし、使う聖剣は闇黒剣月闇じゃなくて雷鳴剣黄雷だったけどな』

 

セイバーはそれを聞いてメイプルには何かあったということを察するとそれを剣士達に問う事にした。

 

「皆さんはメイプルがああなった原因に心当たりはあるんですか?」

 

するとカナデとカスミを含めた5人は少し話し合った後にセイバーへと逆に質問した。

 

『その質問に答える前にこちらから質問があります。まずあなたは何者ですか?メイプルは異世界人と言っていたんですけど、本当にこの世界の人間ではないのですか?』

 

「……俺はここで目が覚める前までとある国の図書館で本を探していた。その時にとある本を見つけるとその中にいきなり吸い込まれたんだ。それからいきなり空中を落下していって地面にぶつかって死んだと思ったらここで目が覚めた。だから多分ここは俺の世界じゃないと思う」

 

セイバーのその言葉に合点がいったのか、剣士達は納得がいった様子だった。

 

『……なるほど。それならあの時砕け散った火炎剣が復活したのにも説明がつきそうだね』

 

「火炎剣が復活……ってことはやっぱり烈火は一度失われたんですか?」

 

『ああ』

 

「教えてください。どうしてメイプルが敵になっているのか……どうしてメギドとかいう怪物が出るようになったのか……」

 

『それはできない』

 

セイバーはクロムからの返事に困惑していた。先程まではちゃんと話をしていたのに突然の冷たい態度に混乱するなと言う方が難しいだろう。

 

「どうして……」

 

『あなたはこの世界の人間では無い。異世界の人間がこの世界に干渉するなどあってはならないんです』

 

「さっきは認めてもらえたじゃないですか」

 

『あなたが異世界人なら話は別よ』

 

『異世界の人間が関われば必ずこの世界に歪みが生まれる。そもそも、この世界の出来事はこの世界の人間が解決するべきなんだ』

 

サリーに続いてイズもセイバーの存在を認めない宣言をしてしまい、クロムもそれに頷いた。ただ1人カナデは黙っていたが意見は3人と同じと言わんばかりである。

 

「それは正論かもしれませんけど……もうここまで事情を知ってしまった以上、俺も関わらずにはいられませんよ。それに……」

 

『『『それに?』』』

 

「向こうの世界にどうやって帰れば良いのかもわからないんです……突然本の中に吸い込まれてこの世界にやってきたので」

 

『だがな、それでもお前は……』

 

『私はセイバーが関わることについては賛成です』

 

クロムがセイバーの意見を否定しようとするとカスミが間に入って仲裁。クロムの意見を押しとどめた。

 

『カスミ様……どうしてですか?』

 

『剣士の皆さんの言うことは正しいですが、セイバーの言うことも正しいです。異世界人であるセイバーが関わればこの世界の秩序が乱れる危険もあるのは確か。ですが、セイバーが異世界人だからと言って掌を返して良い理由にはなりませんよ』

 

カスミの言葉に剣士達は黙り込んでしまった。実際の所セイバーが初めてここに来てメギドとの戦いをした時は好意的に接していたのに素性が異世界人だとわかった途端、悪意的になるのは筋が通らない。素性によって掌を返すくらいであるならば最初から頼まなければ良い話である。

 

『ブレイズ、バスター、スラッシュ、最光。あなた達の言いたい事はよくわかります。ですがどのような理由があっても異世界人を差別してはいけません。セイバーに謝ってください』

 

カスミに叱られた4人はセイバーに1人ずつ頭を下げて謝罪していった。セイバーも最初は怒りを隠せなかったが、4人の潔さにその怒りも収まり、ようやくまともに話をする事ができるようになった。

 

「改めて聞きます。どうしてこの世界のメイプルは組織の敵になっているんですか?それに、メギドが暴れるようになった原因は……」

 

『実は、メイプルが敵になった理由については私達にもわからないんです』

 

「え?」

 

『彼女は元々雷鳴剣の使い手でこちらの味方だと言う事はさっきもクロムさんから聞きましたよね?』

 

「はい」

 

『彼女はある戦いを境に闇の中に姿を消した……いえ、消されたと言う方が正しいですね。』

 

『その戦いから2年半後、メイプルは再び私達の前に姿を見せたんだけど、その時点で既に闇黒剣の使い手に変わっていたの』

 

「それなら、その間に何かあったんですね」

 

『でもそれを僕達は知らない。いわゆる謎の部分になる』

 

「メイプル……。一体お前に何があったんだ……」

 

『次にメギドや失われた火炎剣についてだが、この話をする場合、一緒に俺達の過去についても話した方が良いだろうな』

 

クロムの言葉に賛成とばかりにセイバーを除く他の4人も順番に頷いていく。

 

「皆さんの過去の話……この世界で何が起きたんだろう?」

 

セイバーはこの世界で何が起きたのか。その出来事について聞き逃すまいと真剣な表情に変わり、他の5人もそれを見て覚悟を固めていく。

 

それからセイバーを除く5人は自分達の過去の話を始めた。時は3年前にまで遡る事になる。




この作品を面白いと思った方は高評価や感想を書いていただければ作者のやる気に繋がります。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと剣士達の過去

3年前、ノーザンベースに所属する戦士は合計7人いた。水の剣士サリー、土の剣士クロム、風の剣士ヒビキ、音の剣士イズ、光の剣士カナデ、炎の剣士トウマ、そして雷の剣士、メイプル。この7人に加えてサウザンベースにいる2人の剣士にノーザンベースの管理者カスミ。そして組織全体を束ねるマスターロゴスによって構成される組織、ソードオブロゴスによって世界にはここ暫くの間平和が続いていた。

 

そんな中、突如として危険な存在として初代のマスターロゴスによって封印されていたメギドが復活。世界中に混乱が走った。剣士達はそれに対応するために世界各地に散ってメギドに対処するという事になった。

 

『これはどう言うことだ?』

 

『何故封印されていたメギドが勝手に……』

 

ノーザンベースの面々がモニターに表示された画面を見るとそこには黒いフードのついた上着を着た男がメギドを封印していた本を封印の間から持ち出しており、その男の片手には保有者が決まっておらず、サウザンベースに保管されていた闇黒剣月闇が握られていた。

 

『どうやら侵入者が入ったらしいな』

 

『どうやって警備を突破したのか知らないけど面倒な事になりそうね』

 

ノーザンベースの剣士達が慌ただしくする中、サウザンベースにいる彼らの主、マスターロゴスことイザクからの通信が入った。

 

『皆さん、この異変を起こした犯人が特定されました』

 

『マスター』

 

『それで、犯人とは一体』

 

『それはそこにいるメイプルの父、ハヤトです』

 

『……え?』

 

イザクからの言葉にその場にいる全員が驚きを隠せなかった。ハヤトとは誰なのか。それは先程イザクの言葉の通り、雷の剣士であるメイプルの実の父親であり、剣士を引退してメイプルに家督を譲った先代の雷の剣士でもあった。そんな彼が何故このような事をしたのか。それがわからずに剣士達は混乱していた。特に、彼の娘であるメイプルの動揺は計り知れなかった。

 

『そんな……父さんがどうして……』

 

メイプルが動揺する中、一番の年長者であるクロムが矢継ぎ早に指示を出していく。

 

『一先ずは手分けしてメギドを倒すしかない。各地のメギドは基本的に2人1組で対処する。カスミ様はここの守りを固めてください。カナデには調べて欲しい場所がある』

 

『それって何?』

 

『今回の異変には何か裏がある予感がするんだ。だからカナデだけは別行動を頼みたいんだ』

 

『わかったよ』

 

『カスミ様、よろしいですか?』

 

『わかりました。皆さん、どうかご無事で』

 

カスミのその言葉に剣士達は頷くとクロムとイズ、サリーとヒビキ、トウマとメイプルに別れるとそれぞれ変身して順調にメギドの討伐を成功させていった。そんな中、クロムとイズのペアとサリーとヒビキのペアの前にそれぞれ幹部クラスの実力を持つ強力なメギドが姿を現した。

 

クロム、イズside

 

『お前は……レジエル!』

 

『伝説によると神獣を司るメギドでかなり強力な存在』

 

『久しぶりだな剣士共。とは言っても俺が封印されたのはかなり前だから俺の知ってる剣士達はもう全員この世にはいないか』

 

レジエルは久しぶりの外の空気に浸ってからバスターとスラッシュに変身している2人を見据えるとそのまま襲い掛かった。

 

『伝説の魔法でも喰らえ!』

 

レジエルは魔法陣を展開するとそこから氷の柱や炎の岩石、雷を纏わせたエネルギー波を続け様に放っていった。

 

『はあっ!』

 

それに対応するようにスラッシュが音で生成した壁で攻撃を防御しつつ様子を伺い、バスターと共に近づいて数の有利を活かそうと考えた。

 

『ほう。この俺の攻撃を凌ぐとはやるじゃないか。なら、今度はこれでどうだ!』

 

レジエルが2人の狙い通りに2人へと近づいていくと手にした剣を振るっていく。2人はそれに対抗して一斉に攻撃を仕掛けるが、今度はレジエルの方が上手だった。突如としてレジエルの周囲にエネルギーのバリアが生成されると2人の一斉攻撃を防いでしまったのだ。

 

『『な!?』』

 

『残念だったな!』

 

するとレジエルの体が炎に包まれていくとそれが全方位へと放出されてその攻撃に2人は飲み込まれていった。

 

『『うわぁあああああ!!』』

 

『昔に比べれば今の剣士は大した事ないな』

 

レジエルがそう言っていると2人は何とかダメージを押し殺して立ち上がり、まだまだやれると言う姿勢を示した。

 

『ほう』

 

『勝手に終わらせるなよ』

 

『私達を甘く見ない事ね』

 

2人はまだまだやる気でありレジエルはそれを見て満足したのか笑い声を上げるとそのままアルターライドブックを手にしてそれを開いた。

 

『どうやらこれから面白くなりそうだな。今回はここまでにしてやる。ここから先はコイツの相手でもしていろ』

 

《白雪イエティ!》

 

すると雪男ことイエティを模した怪物、イエティメギドが出現。そしてそれと入れ替わるようにレジエルは去っていきバスターとスラッシュはイエティメギドと交戦を開始する。

 

その頃、サリーとヒビキの方にはズオスと呼ばれる生物を司るメギドが現れて2人はその対応に追われていた。因みに、サリーはブレイズに、そしてヒビキは緑の忍者の姿をした仮面の戦士、剣斬になっていた。

 

サリー、ヒビキside

 

『く……やはり伝承通りに強いわね。ズオス』

 

『強い敵なら尚更燃えるわ!』

 

『へっ、そんな事を言う余裕がまだあるのか。だったらその余裕を無くしてやるよ』

 

ズオスは2本の蛮刀を荒々しく振り翳して2人をパワーと手数で圧倒していく。それに対してブレイズは辛うじて攻撃を受け流すことで、剣斬は自慢のスピードで攻撃を回避する事でなんとか対応していた。

 

『うぉおおおお!!』

 

それに対してズオスが取った手とは咆哮による衝撃波で受け流しや回避を無意味にしつつ怯んだ2人に超スピードでの体当たりを仕掛けた。

 

『がっ!?』

 

『ぐうっ!!』

 

『オラオラどうした!そんな程度か?』

 

『このっ!』

 

剣斬はスピードで撹乱してくるズオスを相手に自分もスピードで対抗するべく剣に装填した変身用の本を読み込ませて必殺のエネルギーを高めた。

 

《猿飛忍者伝!翠風速読撃!ニンニン!》

 

『疾風剣舞・二連!』

 

剣斬が風と共に超スピードを発動するとズオスを相手に真っ向から勝負し、お互いの攻撃をぶつけ合う。そのぶつかり合いは剣斬の方が身軽でスピードが上だった事が有利に働いて剣斬が勝つ事になりズオスは弾き飛ばされていった。

 

『今だ!』

 

それを見たブレイズはすかさずベルトに装填されている本のページを押し込んでエネルギーを高めていった。

 

《ライオン戦記!》

 

『ライオンワンダー!』

 

するとブレイズの剣から青いライオンが召喚されてそれはズオスへと襲いかかるとズオスに噛みつき、爪で引き裂いた。

 

『チッ!』

 

『よし、このまま一気に……』

 

『どうやら今回はここまでにした方が良さそうだ。またな』

 

《ピラニアのランチ!》

 

そう言ってズオスはアルターライドブックを開いて怪人、ピラニアメギドを呼び出すと自身は撤退していった。どうやらこちらも今回は挨拶代わりの戦闘だったようだ。

 

最後にトウマとメイプルの方では2人の前に闇黒剣を持ったハヤトが現れていた。更に服装もモニターで見せられた侵入者の物と一致しており、それが決定的な証拠となり得た。

 

トウマ、メイプルside

 

『まさか、ハヤトさんは本当に……』

 

『父さん、どうして裏切ったんですか?』

 

『………』

 

ハヤトは無言で闇黒剣月闇にジャアクドラゴンの本を使用するとカリバーへと変身し2人へと襲い掛かった。

 

『どうして……私です!メイプルです!』

 

『そんな事はわかっている。だが、剣士達は俺の計画を邪魔する存在。よって全員排除する』

 

『やるぞ、メイプル。もうこうなったら戦うしかない』

 

『う、うん!』

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ランプドアランジーナ!》

 

『『変身!』』

 

《烈火抜刀!ブレイブドラゴン!》

 

《黄雷抜刀!ランプドアランジーナ!》

 

トウマは炎と共に仮面の戦士セイバーへ、メイプルは雷と共に左肩にランプの装甲が付与されて仮面の戦士エスパーダへと変身した。それから2人はカリバーとの戦いを開始するが、カリバーの強さは圧倒的だった。当時、先代セイバーとエスパーダの2人は代替わりをしたばかりなこともあって長年剣士としての経験があったハヤトのカリバーを相手にするには経験値がまるで足りていなかった。

 

『はあっ!』

 

カリバーが闇の斬撃を放つと2人はそれをまともに受けて大爆発と共に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

『『うわぁああ!!』』

 

『……お前達では俺には勝てない』

 

『父さん……父さんに何があったのか私にはわからないけど……父さんの裏切りは娘の私の責任。だからこそ私があなたを倒す!』

 

《ランプドアランジーナ!》

 

《ニードルヘッジホッグ!》

 

エスパーダが二冊目の本を出すとそれを剣に読み込ませてから黄雷を納刀して抜刀。自身の周りに大量の棘が回ると胸にハリネズミの装甲が付与されていった。

 

《黄雷抜刀!トゲ!トゲ!ランプドヘッジホッグ!》

 

『ふん。その程度で俺に届くと思うなよ』

 

エスパーダは黄雷で斬りかかるが、カリバーは簡単にいなすと逆にエスパーダを斬りつけた。

 

『あがっ!!』

 

そのままエスパーダはカリバーによって痛めつけられていき、エスパーダはかなりのダメージを負っていた。

 

『はぁ……はぁ……』

 

『お前の剣は俺が1番知っている。それに何より、俺との手合わせで一度でもお前が勝ったことがあったか?』

 

『ぐ……だとしても負けるわけにはいかない!』

 

《必殺読破!黄雷抜刀!》

 

『トルエノ……ミル・ランザ!』

 

《ヘッジホッグ!アランジーナ!二冊斬り!サ・サ・サンダー!》

 

エスパーダが剣に大量の黄色い棘を生やすとそれを正面に向かって放つ。そしてそれは空中で一時停止するとそれが全てカリバーの方に針が向き、そのまま飛んでいく。それから雷の速度で移動するとカリバーを斬り裂こうと剣を振り抜いた。

 

『無駄だ』

 

カリバーはそう呟くと先に飛んできた針を闇の中に吸収。それをそっくりそのまま紫の針として反射した。当然自分から突っ込んでいく動きをしているエスパーダに躱す事ができるはずもなくまともに受けてしまった。

 

『きゃあああああ!!』

 

『メイプル!』

 

エスパーダは変身解除するとボロボロになったメイプルの姿で倒れ伏し、そこにトウマこと先代セイバーが駆け寄った。

 

『ふん。所詮二冊の力しかまだ扱えないメイプルなど敵では無い』

 

『く……だったら俺が三冊で……』

 

先代セイバーが赤い本三冊によるワンダーコンボでカリバーに対抗しようとするが、それをメイプルが肩に手を置いて止めさせた。

 

『駄目……トウマさんに……そんな事させられない』

 

メイプルはトウマにワンダーコンボを使って欲しくなかった。そもそも、ワンダーコンボには体への大きな負担が代償としてかかってしまう。メイプルはトウマが無理するのを止めたかったのである。

 

『トウマさんがやるくらいなら私が』

 

『だったら尚更駄目だ。メイプルの体はただでさえボロボロなのに』

 

『これは私の問題なんです……だからお願いします。私にやらせてください』

 

メイプルはトウマの静止を振り切ると本を取り出してそれを読み込ませていった。

 

《ランプドアランジーナ!》

 

『変身!』

 

《黄雷抜刀!ランプドアランジーナ!》

 

メイプルが再びエスパーダに変身するとカリバーへと走っていき剣をぶつけ合わせる。

 

『父さん……あなたを止めるためだったら私は命だって賭ける!』

 

『そうか。それがお前の覚悟であるなら俺も応えなければな』

 

カリバーはエスパーダの剣を押し返すと剣を腰のホルダーに納刀。そのままトリガーを引いて闇の力を高めていった。

 

《月闇居合!》

 

『私は私の……想いを貫く!』

 

それを見たエスパーダも黄雷を腰のベルトに納刀してからトリガーを引き、抜刀。必殺技の体勢に入った。

 

《必殺読破!黄雷抜刀!》

 

『トルエノ・デストローダ!』

 

2人は剣を構えるとお互いに必殺の一撃を叩き込むべく走っていく。この一撃を決めた方が勝者となり得るだろう。そして2人は剣の間合いに入るとそのまま剣を振り抜いた。

 

《読後一閃!》

 

《アランジーナ!一冊斬り!サンダー!》

 

2人はすれ違い様にそれぞれ雷と闇の斬撃を相手へと叩き込んだ。そして暫く2人が攻撃後に動きを止めているとカリバーの姿が一瞬揺らいだ。

 

『ぐ……』

 

それを見た先代セイバーはエスパーダの勝ちを確信するが、次の瞬間にはエスパーダはその場に倒れ伏し、変身が解けて体が闇に包まれ始めた。

 

『あ……うぅ……』

 

苦しむメイプルに駆け寄る先代セイバー。そしてそれをダメージに耐え切ったカリバーは見下ろしていた。

 

『ハヤトさん……一体何を……』

 

『闇黒剣の能力でメイプルの体に闇を流し込み存在そのものを消し去った。じきにこの世界から消え去るだろう』

 

『あんた……それでもメイプルの父親か!!』

 

『俺の目的を邪魔するのであれば誰であろうと容赦しない』

 

『トウマ……私、もうダメみたい』

 

メイプルは涙を流しながら先代セイバーへと話しかけていた。少しずつ闇に侵食されていく自分の体をさすりながら先代セイバーへと訴えるように言葉を紡いだ。

 

『父さんを止めてください。私は父さんを止められなかった。だから……お願いします』

 

『何言ってるんだよ……お前も生きるのを諦めるなよ!』

 

『私にはもう時間が無い。どうあがいても消える運命なの……。トウマ、あなただけでも生きて欲しい』

 

『そんな……』

 

『トウマ……最期にこれだけ話しておきます。私は……あなたの事が好きです』

 

『俺もだよ……メイプル』

 

メイプルはトウマの返事に優しい笑みを浮かべてから力尽きて闇の中に消滅。そして、トウマはそれを目の当たりにして怒りに震えていた。トウマはメイプルに生きていて欲しかったのだ。それなのに目の前で消えゆく彼女に何もしてあげられなかった。その怒りが先代セイバーを、トウマを突き動かした。

 

『許さない……』

 

『許さない?だとすればお前はどうする?』

 

『俺はお前を……倒す!』

 

先代セイバーは赤い本を二冊出すと元々ベルトに装填されていた一冊を含めた三冊でワンダーコンボを使用することにした。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ストームイーグル!》

 

《西遊ジャーニー!》

 

そしてそれを連続でスキャンしていくとそれが粒子となってベルトに装填。そのままベルトに烈火を納刀してから抜刀した。

 

《烈火抜刀!語り継がれし神獣のその名は!クリムゾンドラゴン!》

 

すると先代セイバーの胸に大鷲の、左肩に西遊記の装甲が付与されて炎の力が急激に高められていった。これこそが火属性のワンダーコンボ。クリムゾンドラゴンである。

 

『メイプルの仇だ。覚悟しろ!!』

 

『ふん。ワンダーコンボを使っても俺には勝てない!』

 

2人はそれから再度激突を開始していく。2人の剣は互いに相手を傷つけていきダメージを蓄積させていった。戦況は互角でありこの事にカリバーは驚いていた。

 

『馬鹿な。ワンダーコンボでここまでの力を引き出すとは……』

 

『あんたは俺の前で大切な人を殺した!その罪は計り知れないぞ!!』

 

今の先代セイバーはワンダーコンボによるパワーアップに加えて、感情による強化が加わっておりそれは格上のカリバーをも僅かながらに上回っていた。もしもメイプルが生きている状態でワンダーコンボになっていてもカリバーには勝てなかっただろう。そのため、メイプルを闇と共に消し去ってしまったのはカリバーの失態と言える。

 

『組織を裏切り、大切な家族を、俺の恋人を殺したお前に俺が倒せると思うなよ!!』

 

『馬鹿な……お前がこれほどまでの力を使えるわけがない!!』

 

そしてとうとう先代セイバーは炎と共にカリバーの体を斬りつけ、蹴り飛ばし、彼を大きくのけぞらせた。

 

『物語の結末は、俺が決める!』

 

《必殺読破!烈火抜刀!》

 

先代セイバーが剣を納刀してトリガーを引き、抜刀。最大出力まで高められた炎が解き放たれる。

 

《ドラゴン!イーグル!西遊ジャー!三冊斬り!》

 

『爆炎紅蓮斬!』

 

《ファ・ファ・ファ・ファイヤー!》

 

先代セイバーが烈火を一振りすると火球が大量に飛び出していきそれが集まって巨大な火球となりカリバーを襲っていく。カリバーはそれを必死に受け止めて闇の力で跳ね返そうとするが、そのあまりの火力に少しずつ押し込まれていった。

 

『これしきの炎で……』

 

『はあっ!』

 

そこにダメ押しとばかりに先代セイバーが突進しながら巨大な火球ごとカリバーを斬り裂き、それと同時に火球も爆発してカリバーを撃破。そしてハヤトの姿に戻させるに至った。

 

『クソッ……まさかこの俺が負けるとは』

 

『はぁ……はぁ……』

 

先代セイバーも力を使い果たしたのか変身が解除され、その場に膝をついた。

 

『どうしてこんな事をしたんですか。ハヤトさん』

 

『……ふん。どうせ話しても信じてもらえない。だから実力行使を行った。ただそれだけだ』

 

ハヤトのその言葉にトウマは苛立ちを募らせると彼の胸ぐらを掴み怒りをぶつけた。

 

『そんな事のためにあなたは娘の命を奪ったんですか?ふざけるなよ……話しても信じられないだなんて最初から決めつけるなよ!!』

 

『なら仮にお前はこの異変を起こした元凶は俺じゃないと言っても信じるか?』

 

『え?』

 

トウマがそれを聞いて一瞬動揺した次の瞬間、ハヤトがトウマを突き飛ばすと背中から黒いエネルギーの刃で突き刺された。

 

『がはっ!』

 

『ハヤト……さん?』

 

その後ろに立っていたのはストリウスと呼ばれる物語を司るメギドだった。

 

『あなたに生きていられては困ると主人に言われたのでね、ここで用済みです。騒ぎを起こしていただきありがとうございました』

 

ストリウスはそう言うとそのままハヤトに何も言わせないまま殺害し、次にトウマの方を向いた。

 

『く……』

 

『ハヤトの話を聞いていたあなたにも生きていられては困りますね。殺させてもらいましょうか』

 

そう言いながらストリウスは少しずつ歩み寄っていく。そこにメギドを討伐し終えた他の4人が走ってきた。

 

『トウマ!!大丈夫か?』

 

『邪魔ですよ』

 

次の瞬間、ストリウスが手を振ると4人とトウマの間に大量のシミーが生み出されていき4人は足止めを喰う事になってしまった。

 

『そう簡単に殺されてたまるかよ……俺はメイプルの分も生きるって決めたんだ!一生を賭けて彼女を弔うんだ……だからここで死ねるかよ!!』

 

トウマが再度変身するために剣に本を読み込ませようとしたその時、既に目の前にストリウスは迫っていた。

 

『残念です。あなたもそのメイプルという女の元に送ってあげますよ』

 

ストリウスが何かの呪文を唱えるとトウマが手にしていた火炎剣にヒビが入ると共にトウマが本を読み込ませても全くの無反応になってしまった。

 

『そんな』

 

『これでもうあなたは変身できません。一度きりの呪文をここで使うのはあまりよくありませんがこれであなたを始末できます』

 

『うぁああああ!!』

 

トウマは変身できなくなっても尚、ストリウスへと立ち向かっていき、ヒビが入ってボロボロの烈火を突き出した。だがそれはストリウスによって簡単に掴まれると力を込められて粉々に粉砕されてしまった。即ち、火炎剣烈火が跡形も無く消えてしまったのだ。

 

『終わりです』

 

そして、4人の剣士達はシミーを倒したものの、その頃にはストリウスの掌底がトウマの腹を打ち抜いており、トウマは声も上げる事無く倒れて死亡した。

 

ストリウスはそれを見て目的を果たしたからかすぐにその場から消え、残されたのは4人の剣士と地面に突き刺さった闇黒剣、そしてトウマの遺体だけだった。

 

それから4人の剣士達はノーザンベースに帰還するとその場で何があったのか近くのカメラの映像を見て確認した。それと同時にカナデが調査していた件も終わって彼からの報告によると闇黒剣の保管されていた場所とメギドが封印されていた場所にハヤトが侵入していたとの事だった。

 

これにより、剣士達は裏切り者のハヤトではなく信頼できるマスターロゴスの意見を肯定。事件は一応の終着を見せたのだった。しかし、今回の事件によってソードオブロゴスは剣士2人に火炎剣を失った挙句、封印していた危険な存在であるメギドが解放された事で警戒を高める他なかった。

 

そして残されていた闇黒剣は再び厳重に保管される事に決められ、この戦いの中で自らの実力が不足していると痛感したヒビキはメギド討伐を兼ねての修行に出る事になった。

 

(現在)

 

『それから2年半後、突如として闇黒剣が保管場所から消えたかと思うと殺されたはずのメイプルが復活して、俺達に向かって攻撃を始めた』

 

『ただ、メギドの仲間ではないのは確かだね。メギドが乱入した時は一緒に討伐していたし』

 

セイバーは話を聞いているうちにある疑問が浮かんできていた。それは何故ストリウスというメギドがハヤトと先代のセイバー、トウマを葬ったのか。そして、何故ハヤトはメイプルを殺したと言ったのにも関わらずメイプルが生きているのか。

 

『ここまでで何か質問はありますか?』

 

「えっと、どうしてハヤトさんは俺が裏切り者じゃないって言ったんですかね?」

 

『……恐らくだけど私達を混乱させるために敢えてそう言ったのだと当時は解釈したわ』

 

「それでしたらどうして復活したてのストリウスがハヤトさんとかトウマさんの名前を知ってるんですか?普通長い眠りについていたのなら復活してすぐの状態にその場の情勢には疎いはずです」

 

セイバーの言葉にその場の全員が納得したように頷いていった。そしてセイバーは最後にダメ押しとばかりにある言葉を口にする。

 

「例えばこの組織の人間の中にハヤトさんとは別の裏切り者がいて、メギドは現れた日よりももっと前に復活させられていたとしたら?」

 

『なるほど。だとすればその裏切り者が私達の情報を吹き込んだと言うのも辻褄が合いますね』

 

「そう思いますよね。でしたら早速裏切り者を探しに……」

 

『ちょっと待て』

 

「クロムさん?」

 

クロムに呼び止められたセイバーは振り返るとクロムはセイバーをジッと見つめていた。そしてそれはイズも同じだった。

 

『……すまないがまだ俺達はお前の事を信じきれていない』

 

『覚悟があることは認めているんだけど、この先の戦いについて来れるか試す必要があるわ』

 

「え?」

 

『そうですね。お二人の話す通り、ここから先の戦いは熾烈を極めると思います。ですのでその前にあなたの本当の実力を見せてもらいます』

 

クロムとイズ、サリーの言葉にセイバーは頷くとやる気を見せた。そしてそれを見た5人は安心するとセイバーへと課題を出した。

 

『これからイズ、俺、サリーの順でお前と一対一の模擬戦を行う。その戦いの中で俺達に認められるだけの実力を見せてくれ』

 

クロムがその言葉を話した直後、通知音と共にクエストの画面が表示された。そこには“剣士達との模擬戦”と書かれており、クリア条件に3人の剣士達を倒すとあった。

 

「なるほど、こんな感じでクエストが出るのか……面白い!やってやろうじゃないか!」

 

セイバーはすぐにクエストを続行し、剣士達との模擬戦を承諾するのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと三連戦

セイバーが模擬戦を承諾すると一同は模擬戦を行うために訓練室へと移動。そして最初に戦うイズがセイバーの前に立った。

 

『まずは私からよ』

 

「はい。俺の力を存分に見せてあげます!」

 

2人は早速自らの剣と本を取り出して構える。そしてそれぞれが変身するための手順を踏んでいった。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!》

 

「『変身!」』

 

《烈火抜刀!ブレイブドラゴン!》

 

《銃剣撃弾!銃でGO!GO!否!剣でいくぞ!音銃剣錫音!》

 

2人はそれぞれ炎とお菓子を纏いながらセイバーはバトルフォームに、イズはスラッシュへと変身。それから2人の間に緊張感が走った。

 

『開始の合図はこちらから出します』

 

「わかった」

 

『ええ』

 

『3・2・1・始め!!』

 

その始まりの掛け声と同時に2人は飛び出すと剣をぶつけ合わせ、戦闘を開始した。まずは小手調べとばかりにセイバーは炎を纏わせた剣で攻めを仕掛けていく。それに対してスラッシュは防戦一方だったものの、セイバーの攻撃を全て防いでいた。

 

「この動き……初対戦の割には随分と俺の動きがわかるんですね」

 

『えぇ。この荒々しい剣捌き。あなたの剣は先代のセイバーにそっくりだわ。だから対応するのも早いわよ』

 

「だったらこれならどうですか?」

 

セイバーはベルトの本を押し込むと炎の力を左手に集約していく。そしてそれを見たスラッシュもすぐに対応してきた。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

「ドラゴンワンダー!」

 

セイバーが左手から火炎放射を放つとスラッシュは剣を振るって音の壁を作り出し、完全に攻撃を防御してしまった。それを見たセイバーは何か違和感を覚えた。しかし、その正体はまだわからなかったが。

 

「必殺技で一気に勝つ!」

 

《必殺読破!烈火抜刀!》

 

「火炎十字斬!」

 

《ドラゴン一冊斬り!ファイヤー!》

 

セイバーから放たれた斬撃はスラッシュへと飛んでいくものの、すぐにスラッシュも対抗し、本を剣から取り外してスキャンさせた。

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!イェーイ!》

 

『スナック・音・ザ・チョッパー!』

 

《錫音音読撃!イェーイ!》

 

スラッシュの剣から繰り出された斬撃がセイバーの斬撃とぶつかり合うと完全にその威力を相殺してしまい、セイバーはその対応力に驚いた。

 

「NPCの割には対応が早いな。こうなったら二冊で!」

 

セイバーは先程の戦いで見せていない本を取り出すとそれを剣に読み込ませていった。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《キングオブアーサー!》

 

セイバーは敢えて炎の力を宿した赤い本では無く、スラッシュが対応しにくいだろうと考えたキングエクスカリバーが変化したアーサー王の力を使う事にしたのだ。

 

《烈火抜刀!》

 

すると後ろに本が降りてきて中から巨大な剣が出現するとセイバーの手にキングエクスカリバーが握られてそれと同時にセイバーの左肩から左腕にかけて騎士王の顔や水色の装甲が付与されて強化。セイバーのパワーが大幅に上昇した。

 

《二冊の本を重ねし時、聖なる剣に力が宿る!ワンダーライダー!》

 

『まさかあなたがアーサー王の力も手にしていたなんてね』

 

「反撃開始です!」

 

セイバーはスラッシュへと近づくと二刀流で剣を振り下ろすが、スラッシュはそれをいとも簡単に受け止めると押し上げてセイバーを斬り裂いた。

 

「がっ!?」

 

『甘い。甘すぎるわ!!』

 

更にセイバーがのけぞった隙を突いて更にスラッシュは追撃。セイバーは後ろに押し戻された。

 

「く……イズさんの……一撃一撃が重い。決してパワータイプの相手じゃないのにどうして……」

 

セイバーが考えているとスラッシュはその隙を与えないとばかりにダメ押しを仕掛けてくる。

 

『あなたの力はその程度?』

 

「この俺を舐めるな!どれだけの時間をこのゲームに費やしたと思ってる!」

 

セイバーは更に動きの鋭さを増していく。どうやら、隠していた実力を少しずつ解放し始めたのだ。しかし、それでもスラッシュはセイバーの動きに難なく対応。攻撃を全て防御するか受け流して逆にセイバーへとダメージを与えていく。

 

『やはりイズの技術を前にセイバーも歯が立たないか』

 

『イズさんは普段聖剣の刀鍛冶として僕達の剣を最高の状態に仕上げてくれます。聖剣を見ただけで聖剣の特徴やその使い手の癖を見抜く目にそれに対応する力。剣を振るう技術だけならノーザンベースの中で1、2を争います』

 

『セイバーもよく戦ってはいるけど、技術で言えば彼女の方が上だね』

 

スラッシュはセイバーを剣で退け、更に近接戦が不利だと悟ったセイバーが遠距離から炎の斬撃で対応するものの、それは全て音の壁によって防がれていく。

 

「しょっぱなから強すぎでしょ。……というか、イズさんのこの動き。完全に俺の動きを研究して……まさか運営さん、俺の動きを研究してそれを対処するプログラム組んだ感じ?」

 

どうやらこのクエストを作った運営の面々はセイバーでもクリアするのが難しいように設定したようだ。セイバーの強みであるスキルや高いステータス、さらにはプレイヤーのイズから貰ったアイテムを使えなくした上でセイバーをメタる動きを組み込むという完全なセイバーだけを狙い撃ちしたような構成でセイバーを倒そうと考えていた。その代わりにこのクエストを全てクリアした時の報酬はそれ相応に豪華なものになっているが。

 

「俺の動きを読むなら、相手の対応力を上回る攻撃を仕掛けるまで!」

 

セイバーはベルトに付いているキングオブアーサーの本を取り外すとそれをキングエクスカリバーにスキャン。すると巨大なキングエクスカリバーが変形して巨人へと変わった。

 

《キングオブアーサー!からの〜!剣が変形!巨大な剣士が目を覚ます!キングオブアーサー!》

 

「このサイズの攻撃を防げるかな?」

 

セイバーがキングエクスカリバーを振り下ろすと巨大なキングオブアーサーも手にした剣を振り下ろしてスラッシュを叩き潰そうとした。だが、それさえもスラッシュには通用しなかった。

 

『無駄よ』

 

スラッシュは振り下ろされた剣を受け流してから跳び上がり、すれ違い様にその巨体を斬り裂いて後ろへと下がらせた。

 

「嘘だろ?これも通じないのかよ」

 

『……それでネタ切れ?拍子抜けも良いところね。それに本の力に頼っているあなたの剣からは何も響かないわ』

 

「何も響かない……それって」

 

スラッシュは無言でセイバーへと詰め寄ってくるとピンクに輝かせた錫音をぶつけてくる。するとセイバーはその一撃で何かを感じ取った。セイバーはその一撃で吹き飛ばされるものの、イズの剣に込められた力の根本に気が付いた。

 

「これは……そうか。どうしてこっちの世界の彼女の剣が重いのかわかった。それは今まで世界を、人々を守ってきた重みなんだ」

 

セイバーはその事を理解するとスラッシュへの攻撃を中断して彼女の太刀筋を見極める事にした。当然の事ながらスラッシュはセイバーへと猛攻撃を開始する。それを見ていた他の剣士はセイバーのこの変化に疑問を抱いていた。

 

『どうしてアイツは急に……』

 

『イズを前に攻撃をしないとは自殺行為にも等しいんだがな』

 

クロムの言葉の通り、セイバーはスラッシュへと攻撃を仕掛けていた時よりもスラッシュからの攻撃に晒されるが、それでもセイバーは神経を集中させる事をやめない。

 

だが、とうとうスラッシュの攻撃でセイバーはダメージを受けるとHPが残り僅かとなっていた。そして、それを見たスラッシュはため息を吐いてセイバーへと言葉をぶつけた。

 

『やっぱりあなたじゃ火炎剣の真の力を引き出すのは無理そうね』

 

「火炎剣の真の力……そうか。そう言うことか!」

 

セイバーは敢えてベルトに装填されていたキングオブアーサーの本を抜いてただのブレイブドラゴンに戻ると目を閉じて更に意識を体全体から剣へと集中させ始めた。

 

『あれは……』

 

「心研ぎ澄まし……聖剣と1つに!!」

 

するとセイバーの想いに聖剣が応えたのか剣が赤く輝くと炎の力が最大限にまで引き出された。

 

『!?』

 

『どういう事だ?さっきまでとはまるで違う』

 

「残念だけど、俺にはまだまだ上があるんですよ。まぁ、俺にここまで出させただけでもイズさんは十分強いですけどね!」

 

セイバーはそう言いながら烈火をスラッシュへと振り翳す。勿論スラッシュはセイバーの動きに対応して防御するが、一撃の威力が今までよりも更に重くなり、その衝撃でスラッシュは手にしていた錫音を弾き飛ばされた。

 

『!!』

 

「俺にも捨てられない大事な想いはあるんですよ!!」

 

セイバーが剣に込めたのは今までのゲームの中での出会い、戦い、そして冒険の全てである。その重さはこの世界の剣士達にも引けを取らないぐらいの大きな力だった。

 

そしてその想いを感じ取り、満足したのか武器を失って丸腰となったスラッシュは変身を解除し、両手を広げた。

 

『あなたの勝ちよ。セイバー』

 

セイバーはそれを聞いて構えを解いて烈火を納刀した。そしてイズに近づいていくとセイバーは手を差し出した。

 

「対戦、ありがとうございました」

 

『まさか、既に火炎剣の力を完全に引き出していたなんてね』

 

「俺もこれが効かなかったらどうしようかと思ってましたよ」

 

『……もしかしたらあなたならあの言い伝えの剣を手にできるかもね』

 

「言い伝えの剣?」

 

セイバーが疑問に思っているとそこにクロムがやってきて激土を取り出した。

 

『次は俺だ』

 

「クロムさん」

 

『さっきの話はまた後で話すわ。まずはこの連戦に勝ち抜きなさい』

 

イズからそう言われてセイバーは頷くとクロムに向き合った。そしてクロムはそれを見て本を取り出すと変身するためのシークエンスを始めた。

 

《玄武神話!》

 

クロムが本を剣に読み込ませると本が粒子となって激土に装填。そのまま剣を振り上げて静止させる。

 

『変身!』

 

《一刀両断!ブッた斬れ!ドゴ!ドゴ!土豪剣激土!》

 

するとクロムはバスターへと変身。セイバーの方はクロムからの指示で勝負を公平にするためにカナデの持つ光の力で体力を回復し、万全な状態に戻った。

 

『連戦とは言っても俺は全力のお前が見たいからな。そこは公平にさせてもらう』

 

「なるほど。けど、それが後悔に繋がることになっても知りませんよ?」

 

『できるものならな!』

 

それから再び合図と共にセイバーとバスターは戦闘を開始。セイバーは先程から続けてブレイブドラゴンの状態で継続。対してバスターは玄武神話の能力をフルに活かしてセイバーと互角以上に渡り合っていた。

 

「流石の強さですね。これなら俺ももっと力を振えそうだ!」

 

『なら出してみろよ。お前の全てを叩き潰す!』

 

バスターはそういうと更にパワーを解放。その力でセイバーを押し始めた。

 

「くうっ……このパワーに耐久性。俺が激土を手にした時に戦った玄武を思い出すなぁ」

 

バスターの強み、それは高い防御力を活かした鉄壁の守りと土豪剣激土の攻撃力による強烈な攻めである。セイバーは赤く輝かせて出力を増した烈火を用いても中々その守りを崩せないのに加えて、バスターの持つ攻撃力をまともに受けて苦戦させられていた。

 

『どうした?それで終わりか!!』

 

バスターは重い大剣である激土を軽々振り回してセイバーへと攻撃を仕掛けていく。セイバーは鍔迫り合いになれば相手の方が有利になると考えてバスターの攻撃を全力で見切る事に神経を注いでいた。

 

『どうした!逃げてばかりじゃ勝てないぞ!』

 

「俺にも考えはあるんですよ。それに、そろそろ躱してばかりもお終いです」

 

セイバーのその言葉と共に剣を構えるとそこには先程までとは比べ物にならない程の炎が迸っており、文字通り今のセイバーの全てが凝縮されていた。

 

『まさか、今までのはこれを貯めるための時間稼ぎ……』

 

「そういうことですよ。この力を一気に解放してクロムさん、あなたに勝ちます!」

 

『く……だが、それだけでは俺には勝てない』

 

セイバーはバスターへと極限まで高められた烈火による一撃を解き放ち、繰り出した。そしてそれはバスターに命中するとバスターの装甲をも打ち砕き、バスターへとかなりのダメージを与えることになった。

 

『ぐうう……』

 

「はぁ……はぁ……マジで?今ので倒れないとか耐久力ヤバすぎ」

 

なんとバスターはセイバーの全力の一撃を受けながらもそれを受け切って見せたのだ。流石にバスターもかなり疲労したものの、それでもまだ戦うだけの力は残っていた。

 

『危なかった。俺の装甲を真正面から打ち破ったのは剣士の中ではお前が2人目だ』

 

「2人目……1人目は闇黒剣を使ったメイプルですか?」

 

『ああ。だが彼女の場合は闇の力込みだったからな。だがお前は剣本来の力だけで打ち破った。賞賛に値するぜ。だからこそ、俺も本気で相手してやる』

 

バスターはそう言うと一冊の本を取り出してそれを剣に読み込ませた。

 

《ジャッ君と土豆の木!》

 

するとその本が激土に装填されている玄武神話と入れ替わるように装填され、そのままバスターが剣のトリガーを引くと左腕が変化していった。

 

《ジャッ君と土豆の木!一刀両断!ブッた斬れ!ドゴ!ドゴ!土豪剣激土!》

 

音声と共にバスターの左腕には灰色の装甲に緑の種を模した緑の丸が3つ縦に連なり、蔦のような緑の蔓が腕から生えている。これにより、バスターは2つの本の力を同時に扱えるようになった。

 

「ここに来て相手のパワーアップか……中々キツイな」

 

セイバーのその言葉を他所にバスターが左手を翳すと左手から土豆を模した弾丸が高速で射出されていき、セイバーの体を撃ち抜いていく。これにはセイバーも溜まらず遮蔽物の裏に隠れて様子を伺った。

 

「ぐっ……まさか、遠距離戦もできるようになるとは。こうなったら体への負担とか考えてられない。アレでこの勝負を決める」

 

セイバーは意を決するとバスターの前に出てきた。それを見たバスターは左腕から植物の蔓を伸ばしてセイバーを絡め取ろうとしてきた。

 

「そんなの喰らうか!」

 

セイバーは炎の壁を作り出すことでその蔓を焼き切りつつバスターを足止め。そのまま新たな力を使うために赤い本を二冊取り出した。

 

『それは!』

 

『赤い本が三冊。ワンダーコンボに……』

 

『無茶ですよ。私でさえ使えるようになるまでに時間がかかったのに』

 

セイバーがやろうとしている事がわかったサリーやイズ、カナデが驚く中、バスターはどっしりと構えていた。

 

『良いぜ。やってみろよ』

 

「言われなくてもやってやるさ」

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ストームイーグル!》

 

《西遊ジャーニー!》

 

セイバーは三冊の本を順に読み込ませていくと剣を納刀してから抜刀。そのまま炎に包まれると自分の周囲を大鷲と赤い雲が飛び回り、それぞれが胸と左腕や左肩に装甲として装着。

 

《烈火抜刀!語り継がれし神獣のその名は!クリムゾンドラゴン!》

 

セイバーはクリムゾンドラゴンとなり炎の力を先程以上に発動させるとその力を持ってしてバスターへと挑む。

 

「はあっ!」

 

『だあっ!』

 

2人の剣がぶつかり合うたびに火花が散り、それが戦いの激しさを物語っていた。セイバーはこの時、短期決戦で仕留めるつもりでこの形態を使用した。理由は今までも言及してきたが、ワンダーコンボには体への負担が発生する。一応今までのゲーム内での戦闘経験やそれに伴う体の慣れは入っているのだが、それでもこの世界でワンダーコンボになるのは今回が初なのでどのくらい負担が来るのか読めなかった。なので早めに決着を付けるべきと考えているのである。

 

「こっちのサリーが使っていたワンダーコンボには負担がある様子だった。だからこのまま一気に倒す!」

 

『なるほど、確かにワンダーコンボを無理に長時間使うよりは賢い選択だ。だが!』

 

バスターは土の力を剣に集約すると先程よりも切れ味が増した激土でセイバーを攻撃するべく薙ぎ払いを仕掛けた。それを見たセイバーは背中に付いている翼で空へと飛び上がった。

 

『なっ!!』

 

セイバーはそのまま左腕から如意棒を伸ばすと遠距離から突きを放ち、そのまま剣から炎弾を発射して牽制。更に飛行しながらバスターへと突撃し、すれ違い様にバスターを斬り裂いた。

 

『く……』

 

『あの戦いぶり……とてもじゃないけど初めてワンダーコンボを使った人間とは思えない』

 

『しかも、扱いに関しては先代のセイバー以上です!』

 

バスターもこのままやられっぱなしではいないのか、土豆を地面に撃ち込むと地面から土豆が芽を出すとそのまま太い蔓として成長。セイバーの動きを阻害するように伸びていった。

 

「うおっ!?動きが制限されて……」

 

バスターが手を振ると蔓が更に伸び、セイバーを拘束。バスターはその隙を逃す事なく必殺技を発動して決めにかかる。

 

『ここまでよく戦ったが、これで終わりだ!』

 

《ジャッ君と土豆の木!ドゴーン!》

 

バスターが本を読み込ませると刀身に蔓のエネルギーが集約されていき、巨大な緑の鞭のようになった。

 

『大旋断!』

 

《激土乱読撃!ドゴーン!》

 

巨大な蔓の鞭がセイバーに叩きつけられるとセイバーは大きなダメージを受けて勝負は決まったかに思えた。しかし、セイバーはまだ立ち上がるだけの気力を残していた。

 

「はぁ、はぁ、まだ終わりませんよ」

 

セイバーは立ち上がると戦う意志を見せるが、もう限界も近かった。その証拠にワンダーコンボの負担もあって体がガクガクと震えていた。このままでは体力切れで負けてしまうだろう。

 

「流石にこれ以上はヤバイか……これで決めさせてもらいます!」

 

《必殺読破!烈火抜刀!》

 

セイバーは剣を納刀してから抜刀すると赤く輝かせた烈火を構えてその刃に紅蓮の炎が高められていく。そしてバスターはそれを受け切るつもりで構えていた。

 

《ドラゴン!イーグル!西遊ジャー!三冊斬り!》

 

「爆炎紅蓮斬!」

 

セイバーが烈火を振るい、炎の斬撃を飛ばすとバスターはそれを激土で受け止めてその威力に耐え忍ぶ。バスターの特性上、攻撃を躱すのには向いておらず、普通なら防御の選択肢は間違ってないだろう。だが、今のセイバーの火力はバスターの想定を遥かに超えていた。

 

『ぐうう……馬鹿な。幾らワンダーコンボでもここまでの威力は出ないはず』

 

「残念ですが、これで終わりですよ。今の俺の火力は必殺技だけのものじゃない。この形態になる事で高められた炎も全部乗っけてるんですよ!」

 

するといきなり炎の威力が強くなり、バスターはそれに押し切られると爆発と共に変身解除されて二戦目もセイバーが勝利した事が示された。

 

『見事だ……お前の勝ちだぜ』

 

セイバーはワンダーコンボによる負担で膝をついたものの、既に勝負は決まっているので安心した表情だった。

 

「良い勝負でした。クロムさんもイズさんと同じで強かったですよ」

 

それからクロムはサリーと交代すると彼女は最初は様子見するのか本を一冊使うのみだった。

 

《ライオン戦記!》

 

『変身!』

 

《流水抜刀!ライオン戦記!》

 

セイバーはサリーが変身した戦士、ブレイズと向かい合うと先程同様にカナデに回復してもらってから剣を構えた。それから合図と共に戦闘を開始。セイバーはブレイズと剣をぶつけ合わせると灼熱の炎でブレイズの水を蒸発させていった。

 

「おいおい、まさか舐めプで勝てると思ってないよな?」

 

『それは無いですよ。けど、まだ奥の手を使うには早いだけなので!』

 

するとサリーは剣が青く輝き始め、水の力を増幅させていった。

 

「その力……こっちのサリーも俺と同じようにできるのか」

 

『私達の中ではサリーが1番の実力を持ってるからね。彼女が剣士となってから努力し続けてきた。若さもあって今や私達をも十分に超えている』

 

『アイツの力は誰もが認めてるんだ。そう簡単には負けないぞ』

 

クロムとイズの言う通り先程戦った2人よりも彼女は強く、本気の一端を見せているセイバーでさえも攻めあぐねていた。

 

「強いな。流石は大将を任されるだけの事はある。けど、ワンダーコンボ相手にいつまでも保つと思わない事だな」

 

『そうですね。だから、私もワンダーコンボで対抗します』

 

《ライオン戦記!》

 

《ピーターファンタジスタ!》

 

《天空のペガサス!》

 

ブレイズが二冊の青い本を出すとそれを読み込ませていき、本が粒子となってベルトに装填されると流水を納刀してから抜刀した。

 

《流水抜刀!蒼き野獣の鬣が空に靡く!ファンタスティックライオン!》

 

ブレイズが水の力を最大限引き出す三冊変身。ファンタスティックライオンへとパワーアップした。セイバーはそれを見て警戒心を高めていく。それから2人は再度激突し、剣をぶつけていく。2人の戦いは互角に思えたが、実は決定的な差が存在する。それは2人の持つ聖剣の属性の相性である。セイバーが炎に対してブレイズは水であるので、属性の相性ではブレイズが有利であるだろう。それでも互角なのはセイバーのプレイヤースキルでカバーしているからである。

 

「やっぱ水を相手に炎は不利か。でも、このまま負ける訳にはいかない!」

 

『セイバーの力が剣越しにビリビリと伝わってきます。しかし、私にも意地はあるんです!』

 

それから2人はそれぞれ剣を納刀してトリガーを2回引き、必殺技を発動していく。

 

「喰らえ!」

 

『負けません!』

 

《必殺読破!》

 

《ドラゴン!イーグル!西遊ジャー!》

 

《ペガサス!ライオン!ピーターファン!》

 

「轟龍蹴烈破!」

 

『ファンタスティック・ブレイザー!』

 

《三冊撃!》

 

《ファ・ファ・ファ・ファイヤー!》

 

《ウォ・ウォ・ウォ・ウォーター!》

 

2人が跳びあがるとそれぞれ炎の龍と水の獅子の力が幻影として重なり、相手に向けてキックを放つ。そしてそれは空中でぶつかり合うと拮抗し、爆発を起こしてお互いにダメージを負って吹き飛ばされた。

 

「く……これでもダメか」

 

『やりますね……でしたら、私のもう1段階上の力を見せましょう』

 

「もう1段階上だと!?」

 

セイバーはブレイズのその宣言に驚くとその形態への警戒を強める。するとブレイズはいつもより大きめな本を取り出すとそれを剣に読み込ませた。

 

《キングライオン大戦記!》

 

するとそれが粒子となってベルトに装填。ブレイズが流水を納刀してから抜刀すると後ろに巨大な本が現れて開いた。その中から機械仕掛けのライオンが現れた。

 

《流水抜刀!Rhyming! Riding! Rider!獣王来迎!Rising! Lifull!キングライオン大戦記!》

 

機械仕掛けのライオンがブレイズの周りを走り回るとブレイズの体が変化していき、両肩には砲台が装着。胸には機械仕掛けのライオンの顔が、両腕と両足にはライオンの脚を模した装甲が付与。そして左腕にはライオンの顔を模した武器が装備されている。

 

「マジかよ。てかこれ百獣王の装備にそっくりだな」

 

ブレイズはセイバーへと攻撃を再開。セイバーはその高い戦闘能力を前に押されていた。

 

「く……さっきとはまるで別人だな。これはワンダーコンボでも太刀打ちできなさそうだ」

 

セイバーの予想通り、パワーアップしたブレイズにセイバーはかなり苦戦を強いられており、このままでは負けるのは時間の問題だろう。

 

「どうにかして逆転の一手を打たないと……そうだ」

 

セイバーがインベントリを探るとそこにはブレイズが今使用している本と同じようなサイズの大きめな本が四冊存在しており、セイバーはその中で銀色の本を取り出すとそれを使うべく烈火に本を読み込ませた。

 

《ドラゴニックナイト!》

 

『なんだろ?あの本は』

 

『先代のセイバーはあんなの持っていなかったぞ』

 

『もしかしてこのセイバーは新しい力を使えるのかしら?』

 

観戦しているクロム達が驚きの言葉を発する中、セイバーはいつもと同じ手順で本を読み込ませてから烈火をベルトに納刀してから抜刀。するとセイバーの後ろに巨大な本が降りてくるとそれが開き、中から赤い龍と銀の騎士の鎧が現れた。

 

《Don`t miss it!(The knight appears.When you side,)ドメタリックアーマー!(you have no grief and the flame is bright.)ドハデニックブースター!(Ride on the dragon, fight.)ドハクリョックライダー! (Dragonic knight.)ドラゴニックナイト!》

 

セイバーは音声と共に銀の鎧を体に纏う事になり、赤と銀の装甲に身を包んだ。それは中世の騎士のようであり、セイバーが以前烈火を抜刀した時に装備していた竜騎士の装備とそっくりだった。唯一違う点を挙げるとすれば左腕に付いている赤い龍の顔を模した武器だろう。

 

「おお。この力を使うのも久しぶりだな。それじゃあ、久々に頼むぜ」

 

セイバーが炎を剣に纏わせるとブレイズと斬り結ぶ。その力はブレイズのパワーアップした姿にひけを取らないぐらいであり、再び2人の力は拮抗した形となった。

 

「この姿でも有利を取れないか。だったらこの武器を試してみよう」

 

セイバーはそう言うと左腕に装着されている武器、ドラゴニックブースターを使うべく右手でドラゴニックブースターの口を開いた。

 

《ドラゴニックブースター!》

 

セイバーがドラゴニックブースターに手を置くと使い方が頭に流れ込み、理解すると本を三冊取り出した。それを見てブレイズも左腕に付いている武器、キングライオンブースターを使った。

 

《キングライオンブースター!》

 

2人はそれぞれ本を手にすると口を開いたブースターに本を読み込ませた。

 

《ワン!リーディング!》

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ライオン戦記!》

 

《ツー!リーディング!》

 

《ストームイーグル!》

 

《ピーターファンタジスタ!》

 

《スリー!リーディング!》

 

《西遊ジャーニー!》

 

《天空のペガサス!》

 

2人が三冊の本を読み込ませ終えるとそれぞれのブースターにエネルギーが充填されていき、炎と水のエネルギー弾が生成された。

 

《ドラゴニックスパイシー!》

 

《ライオニックバースト!》

 

2人が放ったエネルギー弾はぶつかり合うとそのまま爆発し、周囲にはその余波が駆け抜けていく。それから2人は走っていき、三度剣をぶつけていく。

 

「しぶとい……これだけやってもまだ倒れないのかよ」

 

『それは私の台詞ですよ』

 

2人はそう言いつつも、どこか楽しそうだった。それは互いに自分を高め合う事ができるライバルとして認識したからだろう。その戦いは数十分続き、その間一進一退の攻防だった。だが、始まりがあれば終わりも必ず来る。その時は突然やってきた。

 

「はぁ……はぁ……これで、終わりだ!」

 

《スペシャル!ふむふむふーむふむ……》

 

セイバーが烈火をドラゴニックブースターに読み込ませて炎の力を急激に高めていった。そして、それと共に烈火が赤く輝いてその力を最大にまで引き出した。

 

『私も、これで決めます!』

 

《必殺読破!流水抜刀!》

 

ブレイズは流水をベルトに納刀してから本のページを押し込み、流水を抜刀。激流が流水に纏われると流水が青く輝いていった。

 

「豪火大革命!」

 

『ライオネル・ハイドロ・ストリーム!』

 

《完全読破一閃!》

 

《キングライオン必殺斬り!》

 

2人がすれ違い様に相手を斬り裂くとそのまま暫く静寂が流れた。その直後、ブレイズの変身が解除されて倒れ込んだ。対して、セイバーは立ち続けた。そしてブレイズの変身が解けたことによりセイバーの勝利が確定するのだった。




お知らせです。今現在、異世界編をやっていますが異世界編が終わってからの展開をどうするか悩んでいます。具体的には3つ候補があり、それを書き出すと

1、間の話を数話入れてからすぐに新たな層、第十層が解禁されて十層に行ってから次のイベントや新たな冒険を行う。

2、九層での冒険を暫く続けてから新たなイベントを行い、その後第十層が解禁されてそちらに行く。

3、数話間の話を入れてから新たなイベントを行い、その後九層での探索をまた数話の間してから第十層を解禁する。

4、九層で冒険を暫く続けてから十層に行き、その後イベントを行う。

これらの中から読者の皆様が1番読みたいと思った番号を選んでいただきたいと思います。因みに展開の内容についての質問は今後のネタバレに繋がるのでご遠慮いただきたいです。期間はこの話が投稿された11月15日から11月25日までの10日間です。沢山の投票をお待ちしております。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと聖剣封印

セイバーとノーザンベースに所属する剣士達の戦いはセイバーの勝利となり、セイバーは正式にノーザンベースの所属剣士として認められた。ただし、条件としてセイバーが戻るべき世界の扉が開いた時はセイバーが元の世界に戻る権利を得るという事が決められた。

 

因みに、セイバーは剣士達との戦いの後にログアウトをするとちゃんと現実世界に戻る事ができたが、次にログインすると今度もまた異世界の中にいた。ログアウトする際にログアウトボタンの隣にギブアップボタンもあったのを確認でき、これを押すとイベントを強制終了する事ができるようだ。

 

要するにこのイベントは完全に達成するか自分からギブアップしない限り終わらないという事である。セイバーにギブアップという頭は最初から無いので完全攻略による突破を狙うつもりである。そして次のイベントミッションは“襲撃を耐え抜け”であった。

 

「襲撃を耐え抜けって言ってもなぁ。俺含めて味方は5人いるし、ここにはいない仲間が1人いるらしいからこれは簡単なミッションに見えるけど……」

 

セイバーが寝泊まり用に与えられた個室でそれを見ているとそこにイズが入ってきた。

 

『入るわよセイバー』

 

「どうぞ」

 

『それで、話って何?』

 

「この前決闘の後に言い伝えの剣を手にするとか話してましたよね?それってどういう事ですか?」

 

セイバーがイズに聞いたのは前に話していた剣についてである。セイバーの持つこの世界の情報があまりにも少ないので例え僅かでもこの世界の情報が欲しかった。

 

『ああ、その事ね。私の一族に伝わる伝説なのだけど、かつてメギドよりも遥かに巨大な敵がこの世界を支配するために動いていたのだけど、火炎剣に選ばれた者が11の聖剣の力を束ねて物語を終焉へと導く聖剣を手にしたという事があったのよ』

 

「え、それって前に俺が本で見た内容と同じ……」

 

『その時はその聖剣の力で邪悪を制して世界を守ったのだけど、それと同時に力を使い果たしたのかその聖剣も消えてしまったのよね』

 

「………」

 

『それ以来、この話は伝説となって今に伝わるわ。まぁ、この時以降、その伝説の聖剣を手にした者はいなかったし、そもそもその剣が必要になる程の敵が現れなかったという事もあるけど、私は今でもその剣を手にする者が現れると信じているわ』

 

セイバーはこの話を聞いて考え込んでいた。もしかすると、この世界に引き寄せられたのは自分が11本の聖剣を持っており、この話に出てきた伝説の聖剣に近い力を持っていたから。あるいは自分がこの世界に必要な存在になっていたからなのではないかと。

 

「ま、考えても仕方ない。今できるのはこの世界にいるメギドを倒してメイプルをこっち側に連れ戻す事だ」

 

セイバーがそう決意を固めているとそこにカスミからの緊急招集がかかり、メギドとメイプルの姿を確認したとの話だった。それを聞いてセイバーはイズと共に大広間へと移動し、他の剣士と共に集まった。

 

『メギドが現れたのは2カ所。その内、片方ではカリバーが交戦しているので二手に分かれての対処をお願いします』

 

それからノーザンベースの剣士達はカスミの指示通り二手に分かれることにした。メイプルのいる方はセイバー、イズ、クロムの3人。もう片方にサリー、カナデの2人が割り振られてそれぞれ対処することになった。

 

『皆さん、どうかご無事で』

 

カスミに見送られて剣士達はそれぞれの持ち場へとブックゲートを使って移動する。まずはセイバー達3人の方から見ていくことにしよう。

 

「このゲート便利だな。行きたい所にすぐに行ける!っと、早速相手の登場か」

 

セイバー達3人はカリバーとなって戦っているメイプルとピラニアメギドと対峙した。

 

『メイプル!俺達と敵対して何が目的なんだ?』

 

『メギドとも戦ってるのにどうして私達の味方になれないの?』

 

クロムとイズがメイプルが変身したカリバーに呼びかけるが、当の本人はまるで聞く耳を持たないとばかりにピラニアメギドと交戦を続けていく。

 

「メイプル……俺達がお前をこっち側に連れ戻す!」

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《玄武神話!》

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!》

 

3人がそれぞれ本を取り出すと剣に読み込ませてポーズを取り、掛け声を叫ぶ。

 

「『『変身!」』』

 

《烈火抜刀!ブレイブドラゴン!》

 

《一刀両断!土豪剣激土!》

 

《銃剣撃弾!音銃剣錫音!》

 

3人が変身するとセイバーはピラニアメギドに、バスターとスラッシュがカリバーへと向かっていく。それを見たカリバーは敢えてその分断に乗って2人を相手に戦闘を開始した。

 

『……クロムさん、イズさん。あなた達も私の邪魔をするんですか?』

 

『お前が何を考えているのかは知らない。だが、この状況をトウマが知ったら悲しむぞ』

 

『思い出して。優しい心を持っていたあなたならきっと……』

 

『うるさい!!あなた達に何がわかるんですか?闇の中にいる間に最愛の人を失った悲しさを……闇の中で何度も見たこの世界の終わりを。最悪の未来を変えるには……もうこうするしか無いんですよ!』

 

『何!?この世界の終わりだと?』

 

『それってどういうこと?詳しく教えて。メイプル』

 

『あなた達が知る必要は無い!』

 

《月闇居合!読後一閃!》

 

カリバーは振り向き様に月闇を腰のホルダーに差してからトリガーを引いて引き抜き、闇のエネルギーで2人を斬ると2人はダメージと共に吹き飛ばされた。

 

『ぐ……』

 

『やっぱりやりづらいわね』

 

カリバーは2人の戦い方を完璧に熟知しており、その対策も完璧に取っていた。また、カリバー自体のスペックの高さが2人の経験による対処を上回っており、2人がかりでもカリバーの独壇場だった。一方で、セイバーはピラニアメギドを相手に圧倒していた。

 

「オラオラどうした?そんな程度か!これならクロムさんやイズさん達の方が何倍も強かったぞ!」

 

セイバーはピラニアメギドの動きを見切っており、その高い戦闘能力で押していた。だが、ピラニアメギドもただ黙ってやられる訳がない。ピラニアメギドは大量のピラニアを召喚し、群れによる数の暴力でセイバーを攻撃していった。

 

「そう来たか。なら!」

 

《ドラゴニックナイト!》

 

セイバーは数で攻めてくるピラニアメギドを相手に自分は質で対抗するべく大きめな本を使用。本を読み込ませて烈火を納刀し、抜刀した。

 

《烈火抜刀!ドラゴニックナイト!》

 

セイバーが竜騎士のような姿となるとドラゴニックブースターの口を開いて大きめな本を読み込ませた。

 

《ハバネロ!リーディング!》

 

「これでも喰らっとけ!」

 

《ドラゴニックホットスパイシー!》

 

セイバーが放った火球は炎のドラゴンの姿となり、それが立ちはだかるピラニアメギドを焼き尽くしていく。そして仲間を全て倒された影響か、これまで押されていたという事もあって形勢不利と考えたピラニアメギドはセイバーを目の前にして逃走を図り始めた。

 

「おいおい、そう簡単に逃すとでも思ったか?」

 

セイバーが剣を納刀するとそのまま2回本を押し込み、跳び上がった。

 

《ドラゴニック必殺読破!》

 

「トドメ!龍神鉄鋼弾!」

 

《ドラゴニック必殺撃!》

 

セイバーが炎を纏ったキックを放つとピラニアメギドはそれを受けて爆散。消滅する事になった。

 

「よっしゃ!次はメイプルを……」

 

セイバーがカリバーの元に向かおうとしたその瞬間、突如として3体の新たなメギドに囲まれた。

 

「うおっ!?」

 

《いたずらゴブリンズ!》

 

ゴブリンを模した怪物、ゴブリンメギドはそれぞれが武器である棍棒を持っており、セイバーへと敵対心を剥き出しにしていた。

 

「く……何でこのタイミングで追加されるかな」

 

セイバーが突然の敵の援軍に苦しい表情をしていると緑の疾風がその場に駆け巡ると共に手裏剣のような武器が3体のメギドを蹴散らした。

 

『ふっふっふー、どうやら私の出番みたいだね』

 

そこに現れたのは1人の少女であり、少女は先程メギドを蹴散らした手裏剣をキャッチすると満面の笑みを浮かべた。そして、その顔はセイバーがとってもよく知る顔だった。

 

「ヒビキ?ヒビキなのか?」

 

『え?何で私の事を知ってるの?』

 

どうやら現れたのはこの世界にいるヒビキのようだった。彼女はセイバーに名前を当てられた事に一時混乱していたが、すぐに気を取り直して一冊の本を開いた。

 

《猿飛忍者伝!》

 

ヒビキはそのまま本を手にした風双剣翠風に読み込ませるといつものごとく本が粒子となって剣に装填。そのまま剣を2つに分断してからポーズを取った。

 

《双刀分断!》

 

『変身!』

 

《壱の手、手裏剣!弐の手、二刀流!風双剣翠風!》

 

ヒビキは2本の剣で正面の空間に緑の斬撃を打ち出すとそれがクロスして手裏剣へと代わり、それが風のエフェクトと共にヒビキへと纏われるとその姿を緑の忍者のような戦士、剣斬へと変えた。

 

「話に聞いてた通り、ヒビキも変身したか」

 

『こんな奴等さっさと片付けるよ〜!』

 

3体のゴブリンメギドは剣斬にターゲットを絞って攻撃を仕掛けるべく向かっていくが、剣斬の素早い動きによる連続攻撃によって一方的にダメージを負っていった。ゴブリンメギドがただやられるつもりは無いのか、3体の内1体が剣斬の攻撃を何とか受け止めて剣を握り捕まえると動けない剣斬へと群がって棍棒で殴りまくった。

 

『今君達が殴っているのはただのカカシだよ?』

 

すると突如として剣斬の声がゴブリンメギドの後ろから聞こえると共にゴブリンメギドが殴っていた剣斬がただのカカシへと変わっていた。

 

『忍法、変わり身の術ってね』

 

そのまま剣斬は再び高い機動力を活かした戦法で3体を纏めて相手にしていた。その様子を見ていたセイバーは剣斬の強さに感服する事になる。

 

「まさかここまでの強さとはね。流石に修行に出ていただけの事はある。他の剣士と比べてパワーや火力が足りていないけど、それをスピードや手数でカバーしてる感じかな」

 

セイバーが見ている間にも剣斬の猛攻は止まらない。一気にトドメを刺すべく剣斬は翠風を合体させて手裏剣のような形に変えると翠風に装填された本を取り外すとそれを読み込ませて必殺技を発動した。

 

《猿飛忍者伝!ニンニン!》

 

『疾風剣舞!回転!!』

 

《翠風速読撃!ニンニン!》

 

剣斬が手裏剣の形にした翠風を投げつけると翠風が緑の風のエネルギーを纏うと4つの翠風の分身を生成。それが次々と1体のゴブリンメギドを襲っていき、最後に翠風の本体が命中すると3体いたゴブリンメギドの内の1体が爆散し、剣斬は戻ってきた翠風をキャッチした。

 

『これが特訓の成果だよ!』

 

「やっぱこの世界のヒビキは強いな。俺も負けてられねーわ」

 

セイバーは剣斬の強さに触発されると残ったゴブリンメギドの内の1体に烈火で攻撃を仕掛けていく。

 

『何でいなくなったはずのセイバーがいるかはわからないけど、私の相手を取らないでよ!』

 

剣斬ももう1体のゴブリンメギドへと向かっていき、2対2の構図となった。それからセイバーが炎を纏わせた烈火でゴブリンメギドを斬りつけるとゴブリンメギドは燃え上がり、火だるまとなってダメージを受けていく。セイバーは自分が相手しているゴブリンメギドが怯んでいる隙に剣斬と戦っているゴブリンメギドを倒すために剣斬の元へと走った。

 

「ヒビキ、同時攻撃でコイツを倒そう」

 

『良いよ!それじゃあ、早速いっくよー!』

 

《猿飛忍者伝!ニンニン!》

 

《ドラゴニック必殺読破!烈火抜刀!》

 

セイバーと剣斬はそれぞれ炎と風の力を剣に高め、2人同時に自分達へと向かってくるゴブリンメギドへと斬撃を繰り出した。

 

『疾風剣舞!一連!』

 

「神火龍破斬!」

 

《翠風速読撃!ニンニン!》

 

《ドラゴニック必殺斬り!》

 

2人の斬撃はクロスするようにゴブリンメギドを深々と斬り裂き、僅か一撃でゴブリンメギドを撃破するとその衝撃が周囲を駆け巡った。

 

『イェーイ!』

 

剣斬はハイテンションでセイバーとハイタッチしたが、セイバーは内心では驚いていた。何故なら、この世界のヒビキとは初めて出会うはずなのに自分とフレンドリーに接してきたからである。

 

「そうだ、ヒビキ。もう一体を任せて良いか?」

 

『なんで?』

 

「今近くでカリバーになったメイプルがクロムさんとイズさん相手に戦っているんだ。そっちに加勢したいんだけど……」

 

『そっか……わかった。じゃあメイプルさんをお願いします!』

 

何と剣斬は初対面のセイバーを信頼して任せたのだ。セイバーはこっちのヒビキがあまりにも簡単に人を信用しているので少し不安を覚えつつもこの場を剣斬ことヒビキに任せて自分はカリバーの方へと向かうのだった。

 

時はセイバー達が交戦を開始した頃に遡る。サリーとカナデの方はと言うと、王様のように王冠を被ってマントを付けたメギド、王様メギドとシミーの軍団を目の前にしていた。

 

『どうやら熱烈歓迎のようだね』

 

『すぐに倒して向こうの加勢に行きましょう』

 

《ライオン戦記!》

 

《天空のペガサス!》

 

《金の武器!銀の武器!》

 

サリーはいつも通り剣に本を読み込ませると本がベルトに装填され、そのまま流水を持って構える。カナデの方は本が体の中に取り込まれるとそれが腰のバックルに装填された。その後、バックルの持ち手を掴みそのまま持ち上げるとそれがそのまま剣となり光り輝いた。

 

《流水抜刀!》

 

《最光発光!》

 

『『変身!』』

 

《聖なるライオンペガサス!》

 

《Who is the shining sword?》

 

サリーはブレイズへと変身すると右肩にペガサスのアーマーを装備したライオンペガサスとなり、カナデは自分が剣の中に吸い込まれていき、自らが光剛剣最光そのものとなった。その後、ブレイズが最光を掴み、流水との二刀流となると敵へと向かっていった。

 

『はあっ!』

 

ブレイズが水を纏わせた流水と光輝く最光を振るう度にシミーの軍団は蹴散らされ、一瞬の内に倒されていく。

 

『このまま一気にメギドまで突き進む!』

 

《天空のペガサス!》

 

ブレイズがペガサスの本を押し込むとその能力が発動。背中に青い翼が生えて空へと飛び上がり、そのまま激流を纏ってシミー軍団へと突撃するとシミー軍団は溜まらず吹き飛ばされていった。

 

『中々気合い入ってるね。それじゃあ僕も暴れようかな』

 

《最光発光!》

 

最光の言葉を聞いたブレイズが最光から手を離すと強制的に剣のボタンが押し込まれて必殺技が発動。光輝いた最光は高速回転しながらシミー軍団を斬り刻んでいく。

 

『そろそろ影の出番だ』

 

最光がそう言うと剣から光が放たれて地面に存在する影を濃くすると影が起き上がり、人の形をして自由自在に動き始めた。

 

《Who is this?》

 

最光の影こと最光シャドーは最光を掴むとそのままシミー軍団を相手にし始める。そして、ブレイズは王様メギドの元に到達するとそのまま戦いを始め、王様メギドを流水で斬り裂いていった。しかし、王様メギドもただやられるだけでは無い。杖から光弾を放ってブレイズを潰そうとしてきた。

 

『くっ……』

 

ブレイズはそれをまともに受けると後ろに下がった。それを好機と見た王様メギドは次々に光弾を放ってブレイズを牽制。ブレイズもこのままでは不利と判断したのかキングライオン大戦記となるための本を取り出すとそれを使用した。

 

《キングライオン大戦記!》

 

《流水抜刀!キングライオン大戦記!》

 

ブレイズは強化された姿となるとその防御力で王様メギドの光弾を喰らいながらも前進していった。王様メギドは今度は自身の周囲に城壁を作り出した上で、自身を守らせるための兵士を召喚して対応。守りを固めた。

 

『そっちが守りを固めるならそれごと打ち崩すだけ!』

 

《キングライオンブースター!》

 

ブレイズはキングライオンブースターを使うとキングライオンの本を読み込ませて超必殺技を発動。一撃で城壁を粉砕しにかかる。

 

《スプラッシュリーディング!》

 

《ライオニックフルバースト!》

 

ブースターから撃ち出された巨大な機械仕掛けのライオンを模したエネルギー弾は城壁へと飛んでいくとそれを打ち崩そうとする。しかし、それは王様メギドが召喚した兵士が受け止めたために城壁まで攻撃は届かなかった。

 

『く……だったら、私が直接打ち破る!』

 

するとブレイズはキングライオンの本を操作するとページが移行。それは即ち、新たな力を開放することになる。

 

《流水咆哮!キングライオン大チェンジ!》

 

ブレイズが跳び上がって空中で一回転すると機械仕掛けのライオンへと変化。そして咆哮を上げると城壁を破壊するために突撃していく。王様メギドがそれを押し留めるために光弾を放つが、ブレイズが止まる事は無い。その勢いのまま空中を駆けていくと青いエネルギーに包まれていった。

 

《スペシャル!》

 

『ぶち抜け!キングライオングレネイチャー!』

 

《完全読破一閃!》

 

極限まで高められた一撃は城壁に激突すると城壁を瞬く間に粉砕。その上に立っていた王様メギドは堪らずに落下。その隙をブレイズが見逃す筈がない。

 

《スペシャル!ふむふむふーむ……》

 

『ライオネル・ソウル・スプラッシュ!』

 

《完全読破一閃!》

 

ブレイズがブースターに流水を読み込ませ、発動した必殺技を放つと王様メギドはあえなく両断されて爆散。それと同時に最光の方もシミー軍団を倒し終えてこちら側の戦いは決着が付くことになった。

 

『何とか倒せたわね』

 

『少し休んだらセイバー達の元に向かおう』

 

『そうね』

 

場所は移り変わりセイバー達の方に戻る。セイバーにゴブリンメギドを任された剣斬は1対1になったことから更に有利に立ち回っていた。

 

『もう少し強いと思ってたけど、この程度じゃあ面白くないよ!』

 

剣斬が余裕そうに構えているとゴブリンメギドは油断を突くために不意打ちを仕掛けるが、剣斬はそれを簡単に見切って回避。すれ違い様に斬りつけて逆にダメージを与えた。

 

『はぁ……あなたにはガッカリね。このままつまらない戦いをするのは御免だし、この力で決めるよ』

 

《こぶた3兄弟!》

 

剣斬が新たな本を開き、翠風に読み込ませると背後に巨大な本が現れてページが開く。すると中から3匹の子豚が出てきた。

 

《こぶた3兄弟!双刀分断!壱の手、手裏剣!弐の手、二刀流!風双剣翠風!》

 

3匹の子豚が左腕に密着すると装甲へと変化し、腕には藁の家を模した盾のような物が装着されていた。

 

『一気に決めるよ!』

 

《こぶた3兄弟!ニンニン!》

 

剣斬が本を再び読み込ませると本の能力で剣斬が3人に分身。ただし、左腕の盾を模した武装が変化しており藁の家、木の家、煉瓦の家で見分けることが可能である。そんな3人の剣斬はゴブリンメギドを取り囲むと3方向から回し蹴りを喰らわせた後に一刀流、二刀流、手裏剣の形にした翠風で斬りつけた。ゴブリンメギドは反撃するために棍棒を無差別に振り回すがその程度では剣斬を捉えられない。

 

『『『疾風剣舞・三豚!』』』

 

3人の内、手裏剣モードの翠風を持った剣斬が翠風を投げつけてゴブリンメギドにダメージを与えた後に残る2人が翠風から斬撃を繰り出してゴブリンメギドを両断。ゴブリンメギドは爆散して消え、剣斬は元の1人の剣斬へと戻った。

 

『やっぱり私の方が強かったね。それじゃあ、私は修行の方に戻ろうかな』

 

剣斬が変身を解くとヒビキへと戻りそのまま歩き去っていった。その後を1人の影が着いていくのに気付くことなく。

 

その頃カリバーと交戦している2人の方は2人がかりとはいえ何とかカリバーに喰らい付いており、互角の勝負にまで持ち込んでいた。だが、カリバーの取ったある手によって形成は再びカリバーへと傾こうとしていた。

 

『やはり今のままではこれが限界ね。もう少し隠しているつもりだったけど、そろそろ開放するべきかしら』

 

『気をつけてクロム』

 

『ああ。何か来る』

 

カリバーは月闇を地面に突き立てるとドラゴニックナイトと同じくらいの大きさである一冊の本を取り出した。

 

『あなた達の力は尊敬に値します。なので、私も目的を果たすために真の力でお相手しましょう』

 

カリバーはそう言うと本を開いてから月闇を抜き、巨大な本を読み込ませた。

 

《ジャオウドラゴン!》

 

《ジャオウリード!》

 

すると本は闇の粒子となるとそれがバックルに装填。バックル上部にあるスイッチをカリバーは剣の柄で押し込んだ。

 

《闇黒剣月闇!Jump out the book.Open it and burst.The fear of the darkness.You make right a just,no matter dark joke.Fury in the dark. ジャオウドラゴン!》

 

カリバーが闇に包まれると共に巨大な闇の龍と小さな金の龍が4匹現れて飛び回り、それがカリバーの周囲を回ると金の装甲として胸、肩、両腕に付与される事になり、背中には紫のマントが出現。これによりカリバーがパワーアップを遂げる事となった。

 

『何……この禍々しい姿は』

 

『これは、かなりヤバそうだ』

 

2人がその力に驚いているとそこにセイバーが駆けつけた。

 

「カリバーのあの姿……俺がブレイブと邪龍融合した姿に似ている。確かあの姿の能力は……!!」

 

セイバーは何かに気付くと2人の元へと走っていった。手遅れの事態に陥ってしまう前に……。

 

《必殺リード!ジャオウドラゴン!》

 

だが無情にもセイバーが追いつく直前、カリバーが必殺技を発動。本を剣に読み込ませた瞬間に闇のエネルギーが月闇へと高められていった。バスターとスラッシュはそれぞれ激土と錫音からの斬撃波で対抗するが、カリバーはそれを簡単に受け止めてしまった。

 

《月闇必殺撃!習得一閃!》

 

その後、カリバーの肩から金の龍が4匹飛び出してバスターとスラッシュの斬撃波を押し返すと最後にカリバーが振るった月闇から闇の龍が出てきて斬撃波を完全に打ち消すとそのまま2人へと襲いかかってダメージを与え、2人を変身解除させた。

 

『ぐうっ…….』

 

『きゃっ!!』

 

その衝撃でヘンゼルナッツとグレーテルの本が飛ばされ、錫音がカリバーのすぐ近くに落ちてしまいカリバーはそれを見ると錫音の元に歩み寄った。セイバーはカリバーが何をするのかを察して烈火に炎を宿すとそのまま振り抜いた。

 

「やめろー!!」

 

『邪魔よ』

 

《月闇居合!読後一閃!》

 

カリバーはセイバーが振り抜いた剣を紙一重で躱すとすれ違い様に居合斬りを仕掛けて吹き飛ばし、変身解除させた。更にその衝撃でキングオブアーサーの本が飛ばされる事になり、近くに落下した。

 

「うぐあっ……」

 

『……言ったはずよ。この戦いに首を突っ込んだらあなたは死ぬと』

 

カリバーは倒れ込んだセイバーを見てからすぐにバックルに装填された本を閉じ、上部のスイッチを月闇の柄で押し込んで必殺技を発動した。

 

《ジャオウ必殺読破!》

 

『一本目!』

 

《ジャオウ必殺撃!》

 

カリバーが闇を纏わせた月闇を錫音に振り下ろすと錫音に鎖のエフェクトが現れると錫音は全ての力が停止し、封印される事になった。

 

『お前……何をした』

 

『見ての通り聖剣を封印した。私は闇黒剣の力でありとあらゆる未来を見た。その中で何度も世界が滅亡する様を見てきた。そしてそこに共通するのは聖剣が全て集まっているという事。つまり聖剣を封印すればその未来には到達しなくなる』

 

「それがメイプルの目的か……」

 

『次はあなた達よ』

 

カリバーはセイバーやクロムの持つ烈火と激土を封印するべく歩み寄るが、そこに光の剣、最光が乱入。更にブレイズに変身したサリーも加わった。

 

『……ここが潮時かしら。次は封印するわ』

 

形勢不利と悟ったカリバーはそう言い残し、闇の中へと消えていった。そして、それと同時に辺りに煙が発生すると落ちていたヘンゼルナッツとグレーテル及びキングオブアーサーの本が消失。

 

完全にその場が収束した直後、イズは絶望した顔付きで錫音の元に駆け寄ると悔しそうに涙を流しながら剣の声を聴くが、機能を停止された錫音からは何も聴こえなかった。

 

『……音銃剣錫音ぇえええ!!!』

 

イズの悲痛な叫びがその場にこだまし、この戦いは幕を下ろす事になった。そしてその様子を建物の影から見守る者がいた。

 

『……マスターとお姉様の指示で本は無事に二冊回収。ですが、カリバーのあの力は厄介ですね。しかし、例の彼女にはマスターの刻印を刻みました。本格的に私も動くとしましょう』

 

彼女の手には煙の剣……狼煙が握られていた。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと姉妹剣士

音銃剣錫音がカリバーことメイプルによって封印されてから数日。イズは生気を失ったような顔付きになっていた。彼女は自らが手塩にかけて磨いてきた愛剣、錫音を封印されてしまったのだ。無理も無いだろう。しかも、聖剣が封印された上に変身するための本も奪われたのでスラッシュは実質的に戦闘不能に陥っており、動ける剣士は4人となっていた。

 

「そういえば、このまえの戦いでヒビキに会ったんですよ」

 

『何だと!?それは本当か?』

 

「はい。風双剣翠風を扱って緑の忍びの戦士、剣斬に変身していました」

 

『確かにそれなら間違いはありませんね』

 

『それで、彼女は今どこに?』

 

セイバーはそれを聞いて記憶を遡ると自分が彼女を1人残してしまうという失態を犯した事に気がついた。

 

「ああ!!連れてくれば良かったですよね?」

 

『その様子だと戦場で別れたといった所ですね』

 

セイバーのやらかしに溜息を吐くサリー。今この状況では1人でも剣士が増える方が良いのは当然の考えであった。しかも、ヒビキは今連絡手段を全て置いていっているのでどうすることもできなかった。すると、そこにカスミが入ってきた。

 

『皆さん、揃っていますか?』

 

「えっと、イズさんがまだショックから立ち直れないみたいですけど、全員揃っています」

 

『過去に起きたメギドが復活した事件の犯人について、私なりに調べていたのですが、気になる点がでました。何故犯人はメギドを封印していた部屋にかけられていたセキュリティを1つも発動させずに突破したのか。そして、メギドの本が盗られたにも関わらず、セキュリティがなんの反応も示さなかったのか』

 

カスミが疑問に思った点を次々に挙げていくとセイバー達も一緒に考えを巡らせる。暫くの静寂の後にセイバーはある結論に辿り着いた。

 

「メギドの本を守るように展開されていたセキュリティを強制解除できる人……もしくはそもそも部屋に自由に出入りできる人が犯人だとすれば?」

 

『そんな事言っても該当する人間なんて数える程しか……』

 

セイバーのクロムはある人物が当てはまる事を思い出した。ほぼ同じタイミングでセイバー以外のその場の全員がその意見に到達。その当てはまる人物とは……。

 

『……マスターロゴスか』

 

「その人って……確か、この組織のリーダー的存在でしたよね?」

 

『はい。この組織、ソードオブロゴスを率いる人間で基本はサウザンベースに拠点を構えています。ですが、まさかあのお方が犯人だなんて……』

 

『まだそうとは決まってないけど、それならあの時メイプルの父親、ハヤトさんに罪を被せたのにも説明が付く』

 

ノーザンベースの剣士達がそう結論付けているとそこに噂されていた本人、マスターロゴスことイザクが画面越しに表示された。

 

『マスターロゴス』

 

「この人が……」

 

『皆さん、ご苦労様です。メギドが使っている拠点の位置が判明しました』

 

『本当ですか?』

 

『早速ですがそこの襲撃を命じます』

 

マスターの命令に他の剣士達が従う様子を示す中、セイバーは敵意剥き出しだった。以前に起きた事件にマスターが関係しているとセイバーは何となく察しており、その真意を正すことにした。

 

「マスターロゴス、無礼を承知で聞きたいことがあります」

 

『セイバー、口を慎みなさい』

 

『良いですよカスミ。それで、セイバー……でしたか。質問とは?』

 

「単刀直入にお聞きします。3年前に起きた事件、マスターが犯人なのですか?」

 

『……何の事でしょう?』

 

「マスターロゴス。あなたがどうしてそこまでしてメギドを復活させたのかは知らないが、何の目的があってそんな事をしたんだ?」

 

『ほう。では私がやったという確固たる証拠を見せてもらいましょう』

 

「く……」

 

『まさかとは思いますが証拠も無しにこの私を疑ったとは言わせませんよ?』

 

セイバーはソードオブロゴスの事件の話を聞いて感情的になっていた。そこにマスターロゴスがやった可能性が高いと考えたのは良いのだが証拠が不十分な状態でマスターに噛み付いてしまったのだ。

 

『……セイバー。あなたはここに来たばかりで知らない事ばかりなのは仕方がありません。ですが、その血気盛んな所が思わぬ落とし穴を踏むことになるという事を理解しておきなさい。あなたには任務から外れてもらいます』

 

「な!?」

 

『そうですね。これから私が指定する場所に1人で行きなさい。もしそこに行ってから生きてここに帰って来られれば今回の無礼を許しましょう。ではこれで』

 

そう言い、マスターロゴスの映った画面は消えた。その直後、セイバーはカスミの前に正座させられるとカスミからの説教が入った。

 

『どうして無理に本人に聞いたのですか?』

 

「それは……」

 

セイバーは焦っていた。自分の予想が正しければマスターロゴスが何かしらの行動を起こす。その前に追い詰めてマスターの座から追い落とした方が良いと考えていた。だが、詰めが甘すぎた。感情で動いたがために早すぎる攻勢を仕掛けて返り討ちに遭ったのだ。これでもう暫くはノーザンベース側からマスターロゴスを問い詰めることはできないだろう。

 

『まったく。お前、この程度の条件で済んで良かったな。下手をすれば消されても文句が言えないんだぞ』

 

『マスターロゴスが怪しいとわかっても下手に手を出すことは難しいんですよ。彼がその気になれば簡単にこのノーザンベースごと私達を倒せるんですから。マスターロゴスの力はそれほどまでに強いんですよ』

 

『一先ず、今はマスターロゴスの指示に従いましょう。マスターロゴスに反旗を翻すのはもう少し準備が整ってからです』

 

「それじゃ……それじゃあ遅いんだよ……マスターロゴスの力が巨大ならそれ以上力をつける前に倒さないといけないのに」

 

セイバーは未だに焦りの気持ちが止まらなかった。このままでは正常な判断をすることは難しい。下手をすれば1人でマスターロゴスを相手にしかねないだろう。それをカナデが頭を殴ってからセイバーに言い聞かせた。

 

『焦ったら負けだよ。セイバー』

 

「カナデ……」

 

『今マスターロゴスと勝負しても勝てないのはセイバーだってわかってるんじゃないの?』

 

「そうだけど……」

 

『だったらまずは今やるべき事をやるんだ』

 

カナデに諌められてようやくセイバーは落ち着きを取り戻し、マスターロゴスから出された課題をクリアするために指定された場所へと行くのであった。そして、それと同時にメギドのアジト攻略のための編成も行われた。まず、出撃するのはサリー、カナデの2人。そしてクロムはマスターロゴスの指示が何かの罠であった時のための後詰めの部隊として残る事になった。聖剣が封印されているイズは当然残る方である。

 

それからノーザンベースの剣士達はそれぞれの行き先へと出撃していった。その頃、先にマスターからの指定場所に到達していたセイバーはと言うと……

 

「……やっぱり罠だったか」

 

『どうやら獲物が来てくれたみたいですねぇ』

 

『1人だけなのは少し物足りないが』

 

『暴れさせてもらおう』

 

そこにいたのはレジエル、ズオス、ストリウスの3人だった。そして、この場所にこの3人がいるという事はメギドのアジトと言われた場所には誰もいない事になる。よって、マスターロゴスの指示は何かの罠だという事がセイバーの頭の中で完成した。

 

「さーて、3人が相手だけどどうするかな……」

 

セイバーが考えているとインベントリの中から突如として何かが飛び出すとセイバーの手に握られた。

 

「これって……もしかしてプリミティブドラゴン?」

 

セイバーがそれを見るとそこにはドラゴニックナイトと同じような大きめの本であるが中身がスカスカで本として完成していない感じであった。

 

『セイバー、力を貸すよ。僕と一緒に戦おう』

 

すると本からプリミティブドラゴンの声がしてそれがセイバーの頭の中に響き渡った。

 

「……オッケー。それじゃあ、周りに巻き込んで困る奴は誰もいないわけだし久々にこれで暴れるか!」

 

セイバーは本を開くと目が青く染まり、プリミティブドラゴンに意識を委ねた。するとセイバーは低く唸り声を上げながらブレイブドラゴンの本を取り出した。

 

《プリミティブドラゴン!》

 

セイバーがブレイブドラゴンをプリミティブドラゴンの欠けたページ部分に装填すると本の足りない部分が補われてプリミティブドラゴンが完成した。

 

《ブレイブドラゴン!ゲット!》

 

セイバーが烈火にプリミティブドラゴンを読み込ませるとそのままそれを自分でベルトに装填。それから右手で烈火を逆手に持つと構えた。

 

「……変身」

 

《烈火抜刀!バキッ!ボキッ!ボーン!ガキッ!ゴキッ!ボーン!プーリーミーティーブ!ドラゴーン!》

 

するとセイバーの後ろに巨大な本が現れるとそこから水色の龍、プリミティブドラゴンが出現すると後ろからセイバーに抱きつくようにしてそのまま装甲として纏われるとセイバーは骨龍の装備に似た姿へと変化。セイバーは体の操作権を手放してプリミティブドラゴンに委ねる事にした。これはつまり、プリミティブドラゴンの思うがままに暴れさせる事になる。セイバーはそれだけの信頼をプリミティブドラゴンに持っている事の証明でもあった。

 

「ヴァアアアアアア!!」

 

『何?』

 

『まさか、獣と堕ちただと?』

 

『馬鹿な。しかも自らの意思で……』

 

セイバーがプリミティブドラゴンに意識を乗っ取られた状態になるとセイバーを乗っ取ったプリミティブドラゴンは本能が赴くままにに暴れ始めた。

 

「ガアッ!」

 

セイバーが3人のメギド幹部の元へと突っ込んでいくと1番手前にいたレジエルを斬りつけ、続けてストリウスを回し蹴りして吹き飛ばした。ズオスが反撃とばかりに蛮刀でセイバーを薙ぎ払うものの、そのダメージを全く気にかける事なくセイバーは突進して斬り上げた。

 

『強い……人間の身でここまでの力を使うとは』

 

『野郎……それでも俺達を相手に好き放題できると思うなよ』

 

『3人で同時攻撃だ!』

 

するとメギド幹部の3人は手にしている剣を頭上で突き合わせると空中に巨大なエネルギー砲が生成。それがセイバーに向かって放たれた。しかし、セイバーはそれをベルトに装填されている本から生やした伸縮自在の骨の腕によって打ち消すとそのまま3人を薙ぎ払った。

 

こうなってしまうともう手が付けられない。セイバーが大暴れする中、メギド幹部の3人は防戦一方となるのであった。

 

その頃、メギドのアジト攻略に向かった2人はと言うと、メギドのアジトの入り口で様子を伺っていた。

 

『ここがマスターロゴスが言っておられた拠点ですか』

 

『その割には随分と古びた場所だね』

 

セイバーがメギド幹部の3人と戦っているとは知らない2人はその拠点に突入しようとしていたものの、様子がおかしい事に気づき始めていた。

 

『おかしい。普通今までアジトの場所を僕達に勘づかれなかったメギドがこんなにも簡単にアジトの場所を割らせるか?』

 

『そうですね。だとすると、これは何かの罠!?』

 

サリーがそう言っていると通信機から連絡が入り、ノーザンベースの保管庫に侵入者が入ったという事が伝えられた。

 

『これはやはり……』

 

『うん。マスターロゴスの仕業の可能性が高い。一先ずブックゲートでノーザンベースに帰還を……』

 

カナデがブックゲートを使おうとすると突如として目の前にブックゲートが開き、中から1人の女性が現れた。

 

『あなたは……』

 

そこにいたのは身長こそ大きくなっていたものの、緑のメッシュが入った黒髪ロングの女性……その名は

 

『私はマスターロゴスに仕える直属の剣士、マイ』

 

『あなたがサウザンベースの剣士』

 

『話は聞いていたけど会うのは初めてだね』

 

『あなた達にはマスターロゴスに逆らった重罪がある。その罪は万死に値します』

 

『どうして……私達はまだ叛逆すらしてないのに……』

 

『あなた達の行動はマスターロゴスには筒抜けだという事です。そちらのセイバーが表立って叛逆してくれたおかげで大義名分も立ちました。よってマスターロゴスの命によりあなた達を始末。聖剣と本を回収する』

 

マイはそう言うと自らの持つ聖剣である時国剣界時及び、本を取り出して本を開いた。

 

《オーシャンヒストリー!》

 

マイが本を閉じるとそのまま剣に読み込ませ、粒子となった本が剣に装填。そのまま刀身を引き抜いて持ち手と分割すると刀身を反転させて持ち手部分に合体させた。

 

《界時逆回!》

 

『変身!』

 

《時は、時は、時は時は時は時は!我なり!オーシャンヒストリー!》

 

マイの後ろに巨大な本が降りてくると中から大量の魚が出現。その後、マイが槍状態にした界時を振るうと魚達がマイへと纏われていき姿が変化。仮面の戦士、デュランダルへと変身した。

 

『カナデ、ここは私が……』

 

『いや、僕も戦うよ。コイツ、只者じゃない』

 

《ライオン戦記!》

 

《金の武器!銀の武器!》

 

《エックスソードマン!》

 

《流水抜刀!》

 

サリーとカナデはそれぞれを本を出して変身の手順を踏むとカナデが最後に使ったエックスソードマンの本が剣として抜刀した最光が元々装填されていたバックルの部分に入り、カナデは上から最光で押し込んだ。

 

《最光発光!》

 

『『変身!』』

 

《ライオン戦記!》

 

《Get all Colors!エックスソードマン!》

 

するとカナデの後ろに本が降りてくるとそれが開き、中から漫画のコマのような物が出てくるとカナデの姿が光の粒子となって剣に吸い込まれ、代わりにカナデの影が人型となって最光を掴み、その影に漫画のコマが装甲として纏われてカラフルな戦士、エックスソードマンとなった。

 

2人がブレイズと最光となってデュランダルと相対すると後ろからいきなり音がすると2人が振り返った。そこには白く、全身にジッパーを纏って巨大な鉈を持った怪人、カリュブディスメギドが立っていた。

 

『何故メギドがここに……まぁ良い。私は私の使命を果たすまで』

 

『……?どうしてマイさんは驚いているのでしょうか?』

 

『マスターロゴスの配下なら知っていてもおかしく無いとは思ったが、これはまさか……』

 

2人が話しているとカリュブディスは最光をターゲットにすると攻撃を仕掛け、2人は分断されてしまった。

 

『しまった!!』

 

《界時抹消!》

 

ブレイズが最光に気を取られた一瞬の隙に界時抹消を発動させたデュランダル。その姿が消えるとブレイズの目の前へと移動して斬撃を仕掛けた。

 

《再界時!》

 

『がっ!?』

 

『……余所見している場合ですか?』

 

『く……今の技……瞬間移動?』

 

『これが時国剣の力。あなたに勝ち目は無い。大人しく消えた方が良いわよ』

 

『誰がそんな事するんですか』

 

ブレイズは通常形態では勝てないと考えて強化形態であるキングライオンの本を取り出して使用した。

 

《キングライオン大戦記!》

 

《流水抜刀!キングライオン大戦記!》

 

同時刻、ノーザンベースではクロムとイズ、カスミの手によってノーザンベースに侵入した黒いローブに身を包んだ人物が追い詰められていた。

 

『誰の手引きでここまで入ったのかは知らないが、大人しく盗んだ物を返すんだな』

 

侵入者はその手に保管されていた雷鳴剣と変身に使うランプドアランジーナを手にしており、ローブ越しにクロム達を見ていたが、もう逃げられないと観念し、ローブに付いているフードを外すとローブを脱ぎ捨てた。

 

『あなたは……どうして!?』

 

そこにいたのはマイと姿が瓜二つでピンクのメッシュが入った白いロングヘアーの女性だった。

 

『カスミ様、知っている人ですか?』

 

『えぇ、名前はユイ。マスターロゴスに仕える剣士で双子の姉妹の妹です』

 

『マスターロゴスがどうしてこんなことを』

 

『バレては仕方ありませんわ。私はマスターロゴスの命によりここに保管されている黄雷とその本の回収。そしてあなた達の粛清を行います』

 

どうやらユイもマスターロゴスの指示でここにいるようだが、クロム達は剣と本を集めている事に違和感を覚えた。何故なら粛清するだけなら剣と本の回収は必要ないはずだからである。

 

その事はさておき、ユイが手を翳すと煙と共に聖剣、煙叡剣狼煙が現れた。

 

『煙の剣……もしかしてあの時の煙は』

 

『そう。私が起こした物です』

 

ユイが本を取り出すとそれを吐息で開き、その直後には巨大な本が降りてきた。

 

《昆虫大百科!》

 

ユイが本を剣に読み込ませると本が粒子となって剣に装填。そのままトリガーを引くと本が開いて煙が彼女を包んでいった。

 

『変身!』

 

《狼煙開戦!FLYING!SMOG!STING!STEAM!昆虫CHU大百科!》

 

するとユイの服が煙の中で脱ぎ捨てられるとその上から煙によって装甲が纏われていき所々に昆虫の要素が取り入れられている姿へと変化。仮面の戦士、サーベラに変身した。

 

『平伏しなさい』

 

『……どうやら、俺がやるしか無さそうだな』

 

《玄武神話!》

 

『変身!』

 

《ドゴ!ドゴ!土豪剣激土!》

 

クロムがバスターとなるとサーベラとの戦闘を開始し、それを見たイズはカスミを守るようにしながら後ろへと下がろうとした。すると次の瞬間、サーベラが煙となるとイズの鳩尾を殴り、音銃剣錫音を奪い取った。

 

『しまった……』

 

『これで音銃剣を回収。次はあなたです。クロムさん』

 

サーベラに一瞬の隙を突かれて錫音を奪われたのを見たバスターはすぐにサーベラへと攻撃を開始する。

 

『このっ!』

 

バスターはサーベラに一撃を入れようと攻撃を仕掛けるが、それは全てサーベラの能力、煙化によって無効化。全くと言って良いほどダメージにならないのだ。

 

『その程度?やはりマスターの言う通りあなたでは相手にもなりませんね』

 

『舐めるな!』

 

バスターが続けて突きを繰り出すものの、サーベラは再び煙化によって回避。そのままバスターに纏わりつくと煙化を解除して斬り裂いた。

 

『がっ……』

 

『……このまま終わらせるのは惜しいですね。チャンスを上げましょう。あなたの持つ剣と本を全て差し出してマスターに平伏すというのであればあなた1人だけは助けます』

 

『……そんな事、誰が聞くと思ったか?』

 

バスターがサーベラの提案を拒否するとサーベラは舌打ちしてから容赦なくバスターを蹴って跳び上がり、そのまま落下の勢いを利用した強撃を叩き込んだ。

 

『クソッ……やり辛いな……』

 

『終わりにしましょう』

 

サーベラがそう言うと狼煙に付いているボタンを長押し。必殺技で決めにかかった。

 

《超狼煙霧虫!》

 

『昆虫黙々斬り!』

 

《昆虫煙舞一閃!》

 

サーベラが狼煙を翳すと煙によって生成された縄でバスターを拘束。そのまま縄に電流が流れるとバスターの動きが制限され、その上でサーベラの背中に生えた先端が鋭くなった虫の足がバスターを貫き、バスターは吹き飛ばされて変身解除した。

 

『ぐ……』

 

『土豪剣と玄武神話の本も回収させてもらいます』

 

サーベラが剣と本を拾うとそのまま煙となって消えてしまい、ノーザンベースは剣士をまた1人失う事になってしまった。

 

一方でカリュブディスメギドと戦っている最光は高い戦闘能力でカリュブディスを圧倒。光輝く最光を振るいながらカリュブディスを斬り裂いていく。カリュブディスも鉈で反撃するが、それは最光に軽々と見切られて躱されてしまう。

 

『光あれ!』

 

最光が剣を発光させると次の瞬間にはカリュブディスの後ろに光の速さで瞬間移動しており、突きを喰らわせた。

 

『サリーの方が心配だからね。決めさせてもらうよ』

 

最光がバックルの本を閉じてから一枚だけページを手でめくり、それから剣の柄でバックルを押してページをめくらせると必殺技を発動。

 

《フィニッシュリーディング!サイコーカラフル!》

 

『エックスソードブレイク!』

 

最光の必殺技のコールと共にカリュブディスの両脇を漫画のページのような物が流れていき逃げ道を封殺。そのまま最光が突撃するとすれ違い様にカリュブディスを斬りつけ、そのまま振り返りつつ2発目の斬撃を放ちXのような斬撃の後を残しながらカリュブディスは爆散。

 

最光はそれを見届けるとすぐにブレイズの加勢へと向かっていった。しかし、既にブレイズは満身創痍で地面に倒れ伏していた。

 

『あ……ぐぅ……』

 

『サリー!大丈夫?今治すよ』

 

最光が光の力でブレイズの傷と体力を回復させるとブレイズは立ち上がった。

 

『カナデ、ありがとう』

 

『チッ。もう少しで倒せたのに余計な事をしてくれたわね』

 

一方でその様子を見ていたデュランダルはほぼ無傷であった。それもそのはず。ブレイズはデュランダルの繰り出す界時抹消に手も足も出なかったからである。

 

ブレイズがやられたのはこのようなサイクルを繰り返したからである。

 

ブレイズが攻撃→デュランダルが界時抹消をする→デュランダルがブレイズの背後に回る→デュランダルが再界時する→デュランダルがブレイズを攻撃

 

『このまま戦っても勝てないわ。何か作戦があれば……』

 

『……1つだけ手段はある。けど、それにはアイツに界時抹消を使わせないといけない。できる?』

 

『勿論よ』

 

2人は小声で作戦を話し合うとデュランダルへと飛び掛かっていった。

 

『無駄よ』

 

デュランダルは向かってくる2人へとカイジスピアで薙ぎ払う。2人はそれをバックステップでギリギリ回避すると隙ができたデュランダルへと剣を振るう。しかし、デュランダルもただ闇雲に槍を振った訳ではない。すぐにカイジスピアを引き戻して剣だった時の刀身部分を引き抜き、界時抹消を発動した。

 

《界時抹消!》

 

『『来た!』』

 

次の瞬間にはデュランダルは2人の背後におり、カイジスピアで攻撃を仕掛ける。

 

『今だ!』

 

《最光発光!》

 

最光が剣から眩い光を放出させると後ろに翳した。デュランダルはそれを受けて目が眩み、攻撃は空を切る。その瞬間、ブレイズは跳びあがるとベルトの本を2回押し込んだ。

 

《キングライオン必殺読破!》

 

『ライオネル・グランド・カスケード!』

 

水流を纏ったその一撃はデュランダルに命中して彼女を後ろへと下がらせた。流石に倒すまでには至らないものの、ダメージはかなり大きいだろう。

 

『く……2人相手でも勝てると思ったけど、この手があったとはね』

 

デュランダルが更に攻撃を継続しようとすると次の瞬間、デュランダルの脳内に念話が響き渡った。

 

“そこまでです。デュランダル、サーベラは目的を果たしました。退きなさい”

 

デュランダルはまだやる気だったが、マスターロゴスからの命令には逆らえないので撤退を決断。界時抹消を発動するとその場から離脱していった。

 

『退いたの?』

 

『そのようだね。けど……今回は僕達の敗北かな』

 

変身を解いた2人の内、カナデはカスミからの連絡を受けてサーベラことユイに土豪剣と雷鳴剣、音銃剣を奪われた事を知った。サリーもカナデからそれを聞き、一度ノーザンベースへと移動する事になった。

 

最後に、メギドの幹部3人と戦っていたセイバーはプリミティブドラゴンの力をフルに活かして3人を撤退寸前にまで追い込んでいた。

 

「ガアアアア!!」

 

セイバーは剣を納刀するとベルトの本を押し込み、剣を抜刀して水色のエネルギーを剣に高めていった。

 

《グラップ必殺読破!烈火抜刀!》

 

『退きますよ!』

 

『舐めるな!3人がかりでこんな奴に勝てないなんてあるはずが無い!!』

 

『俺達を甘く見るなよ!!』

 

ストリウスが撤退を口にする中、レジエルとズオスはそれぞれエネルギー弾と斬撃波で対抗しようとする。だが、突如として本から伸びてきたプリミティブドラゴンの腕がそれを全て掻き消してしまい、そのままレジエルを捕縛。そのまま自分へと引き寄せていった。

 

《クラッシュ必殺斬り!》

 

「ヴァアアアアアア!!」

 

セイバーから繰り出された水色の斬撃がレジエルを斬り裂くと彼に大ダメージを与え、ついでに発生した三本の斬撃波が近くにいたズオスを襲い彼も大きく吹き飛ばした。

 

『く……』

 

《グラップ必殺読破!》

 

セイバーは再びベルトに烈火を納刀してから本を2回押し込んで必殺技を更に発動。今度のターゲットは先程の攻撃でダメージを受けなかったストリウスである。

 

《クラッシュ必殺撃!》

 

セイバーが跳びあがると骨の龍の顔を模したエネルギーと共にキックを放ち、ストリウスを蹴りつけるとそのまま押し込んで近くの壁へと叩きつけさせた。

 

メギド幹部達はセイバーからの攻撃を受けて満身創痍となり、そのまま逃げるように撤退。セイバーはそれを追跡しようとするがその瞬間、セイバーの体が悲鳴を上げると共に変身が強制解除。その場に膝をついた。

 

「く……流石にプリミティブドラゴンの力を長時間使うと体に負担が来るか。けど、これでやっとノーザンベースに戻れ……ん?」

 

セイバーが何かを感じて振り向くとそこにどこからともなくヒビキが歩いてきた。

 

「ヒビキ!!丁度良い。ついて来てくれ。剣士の皆が待ってるぞ」

 

セイバーは疲労で疲れ切った体を立ち上がらせるとヒビキの元に駆け寄るが、彼女は無言だった。

 

『………』

 

「どうしたんだよヒビキ。そんな黙り込んでさ、何かあったのなら相談に乗るよ」

 

そう言ってヒビキへと手を伸ばすセイバー。だが、ヒビキはその手を弾くといきなり翠風を振り翳した。

 

「……え?」

 

『マスターロゴスの命によりセイバー、あなたの命を頂戴します』

 

ヒビキから放たれたのは死刑宣告だった。セイバーが混乱する中、冷静な考えに至る前にヒビキは翠風でセイバーへと斬りかかってくるのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと復活する不死鳥

セイバーがメギド幹部3人を撃破した直後、疲労しきった彼の元に現れたヒビキ。セイバーはヒビキにノーザンベースへとついてくるように頼むが彼女は突如としてセイバーに襲い掛かるのであった。

 

「どうしたんだよヒビキ!この前は一緒に戦ってくれただろ!」

 

『マスターの敵は排除する。ただそれだけだよ』

 

セイバーが何とか体を動かして躱しているが、それでも少しずつ攻撃が掠っているのでまともに喰らうのも時間の問題だろう。

 

「前に会ったときはフレンドリーだったのにどうしていきなりこんな……」

 

セイバーがヒビキを観察していると何かに気がつき、ヒビキの攻撃を受け止めると彼女の目を見た。するとそこには以前は無かった赤いリングのような模様が付いており、それはヒビキが何者かによって洗脳されているという事を示していた。

 

「これは、まさかマスターロゴスに操られてる?」

 

『私は操られてなんかいない。私の意思でここにいる』

 

「そうかよ。だったら無理矢理洗脳解除させるまで!」

 

セイバーが本を出そうとすると体から上がる悲鳴によってその場に膝をついた。

 

「チッ……プリミティブドラゴンさんよ、俺の体を使って暴れるのは良いけどあんまり俺の体に負荷をかけないで欲しかったなぁ」

 

『何を1人で話している!』

 

そこにヒビキからの素早い突きが迫り、セイバーはこれを躱す事ができずに目を瞑った。すると鈍い音と共に攻撃はセイバーにまで届かなかった。セイバーが目を開くと視界には闇黒剣が映っていた。

 

『ッ!!』

 

『……闇黒剣の未来予知通り、ここに剣士が2人もいる。丁度良いわ。まずはピンピンしている風双剣の使い手から仕留める。火炎剣の方は暫くは動けないだろうしね』

 

するとゆっくりとメイプルが歩いて来てセイバーの前に立つと近くに刺さっている月闇を抜き、変身するために本を取り出した。

 

《ジャオウドラゴン!》

 

『……あなたもマスターから討伐命令を受けている。従ってまずはあなたから剣を奪い、目的を達成する』

 

《猿飛忍者伝!》

 

『それは無理よ。未来予知にはあなたの聖剣が封印される未来しか無い』

 

《ジャオウリード!》

 

『『変身!』』

 

《双刀分断!壱の手、手裏剣!弐の手、二刀流!風双剣翠風!》

 

《闇黒剣月闇!ジャオウドラゴン!》

 

「メイプル、最初からジャオウドラゴンとか翠風を封印する気だって事が凄い伝わるな」

 

2人は構えると走っていき激突。戦いはまず剣斬が自慢のスピードでカリバーを撹乱する所から始まった。

 

『影分身の術よ』

 

剣斬の言葉と共に剣斬が突如として10人近くに増加。カリバーの周りを取り囲んだ。そこから剣斬が何人か突撃していくものの、その攻撃は全てカリバーに見切られて紙一重で躱された。

 

『私の攻撃を見切るなんてやるわね』

 

『本気で当てる気が無いくせによく言えるわ』

 

剣斬は能力で勝るカリバーを相手に真っ向から挑むのではなく搦手を使ってジワリジワリとダメージを与えていくことにした。

 

『さぁ、本物の私を見分けられるかしら?』

 

『……見分けるまでも無い』

 

カリバーがそう言い放つと月闇に紫の輝きを付与した状態で周囲を薙ぎ払うように斬撃を繰り出した。その際に発生した衝撃波によって剣斬の分身は消失していくがそこに剣斬の本体はいなかった。

 

『……隠れても無駄よ』

 

カリバーが仮面の裏で目を閉じると周囲の気配を感じ取りながら僅かな空気の流れで剣斬の動きを察知しようと考えた。次の瞬間、カリバーの後ろから不意打ちを仕掛けるために出てきた。

 

『はあっ!』

 

『甘い』

 

《月闇居合!読後一閃!》

 

カリバーは剣斬の動きを完全に読み切り、振り向き様に一閃。剣斬は堪らず吹き飛ばされると地面に叩きつけられた。

 

『あなたの持つ風双剣。封印させてもらうわ』

 

カリバーはそういうと剣斬へと反撃を開始。その攻撃は鋭く、激しく、剣斬の対応力を遥かに上回り、ダメージを与えていった。

 

『そんな馬鹿な……』

 

『あなたと私とでは必死さが違うのよ』

 

『そんな事は無い!』

 

剣斬が立ち上がってカリバーへと二刀流にした翠風て斬りかかっていく。しかし、カリバーはそれにしっかりと対応。月闇を使って翠風を受け止めてから剣斬を蹴り飛ばし、その後剣斬へと詰め寄ってから剣斬の持つ2本の翠風の内、剣にエンブレムが付いている黄緑の方の翠風、通称……裏を叩き落とした。

 

『くっ』

 

剣斬はカリバーから聖剣を封印されないように急いで翠風の裏を拾おうとするが、カリバーがそれを許すはずが無い。翠風へと駆け寄る剣斬を捕まえると膝で何度も腹を蹴ってから月闇での突きを放って剣斬を吹っ飛ばして剣斬を怯ませた。

 

『あ……が……』

 

カリバーがこの隙を逃すはずが無い。翠風の裏の元に歩いていくと封印するための必殺技を発動する。

 

《ジャオウ必殺読破!ジャオウ必殺撃!》

 

月闇の先端が翠風に命中すると翠風の裏は鎖のエフェクトと共に封印される事となり風の力が封じ込められた。しかし、それでも剣斬の変身は解除されない。実は剣斬の聖剣である風双剣翠風は風の力を司る裏、変身能力を使える表と役割が分けられている。そして今は2つが物理的に分けられているので風の力は封印されたが変身能力は封印されていない事になる。

 

という理由から変身は維持できているのだ。

 

『私の風双剣が……』

 

『これであなたの力は無力化したも同然。次はあなたよ、セイバー』

 

カリバーの矛先が剣斬からセイバーへと向けられた瞬間、剣斬は翠風の裏を拾って撤退。セイバーは未だに体への負荷が抜けきっていないのでカリバーから攻撃される前に咄嗟に烈火をインベントリにしまって物理的に封印できなくした。

 

『烈火を出しなさい』

 

「出したら封印するだろ?出すわけねーじゃん」

 

『……なら無理矢理にでも奪って封印する』

 

カリバーがセイバーに迫っていく中、セイバーのインベントリからプリミティブドラゴンの本が飛び出すと骨の腕を伸ばしてカリバーを不意打ち。カリバーはそれに一瞬怯んでいるとプリミティブドラゴンがセイバーを乗っ取って変身させた。

 

《烈火抜刀!プーリーミーティーブ!ドラゴーン!》

 

セイバーがプリミティブドラゴンへと変身するとプリミティブドラゴンの本から骨の腕が伸びて地面を抉ると発生した衝撃波でカリバーの目を眩ませてその間にセイバーは撤退。カリバーは次こそはと考えつつその場から去っていった。

 

セイバーは暫くプリミティブドラゴンに変身していたが、体力が限界に達して変身解除。何とかブックゲートを使ってノーザンベースに逃げ込み事なきを得た。それからセイバーは疲れで暫く眠り、次に起きた時に待っていたのは沈んだ表情の剣士達だった。

 

『気がつきましたか?』

 

「カスミ様。……はい。何とか無事です。それで、皆さんは?」

 

セイバーが剣士達の元に行くとクロムが怒りの感情を露わにしている所だった。

 

『クソッ!まさかマスターが俺達の動きに気づいていたとは』

 

『しかも激土と錫音も回収されたからこれで戦えるのは僕とサリー、セイバーの3人だけ』

 

『この状況でどうやって立ち向かえと?』

 

「……え?黄雷と激土と錫音が取られたんですか?」

 

セイバーはカスミ達から何が起こったのかを聞いた。サウザンベースの剣士が襲って来たという事、黄雷、激土、錫音が敵の手に渡った事、マスターにノーザンベースの動きがバレていた事を知った。そして逆にセイバーも剣斬が敵になった事と風双剣が封印された事を報告した。

 

「これで剣士の人数は互角。しかもサウザンベースの剣士の聖剣は厄介なものが多いからなぁ」

 

セイバーがこの世界に来る前に使っていた狼煙、界時とこちらの世界の狼煙、界時が似たような性能だったので圧倒的にセイバー達ノーザンベースが不利だろう。

 

『カスミ様、私に提案があります』

 

ノーザンベースの剣士達が次の対策を考えているとサリーが何かを思いついたのか声を上げた。

 

『提案とは?』

 

『このノーザンベースに伝承されている全知全能の書の一部の力を私に貸していただけませんか?』

 

「全知全能の書?」

 

セイバーが初めて出てくる単語に首を傾げる中、カスミはその力を与えるべきか悩んでいた。

 

『あの力なら確かに対抗できるかもしれませんが、アレは歴代の剣士達が何度使おうとしても使えなかった代物ですからね』

 

「あの、すみません。全知全能の書というのは一体どういう物なのでしょうか?」

 

『全知全能の書というのは、遥か昔に世界を創造し森羅万象を司ってきたという書物の事を指す。そしてそれが復活すれば世界が作り替えられて破滅への道を進む事になってしまう。本来絶対に復活させてはいけない本だね』

 

「え?まさかと思うけどメイプルが言っていた世界が滅亡するというのは」

 

『!!もしかすると全知全能の書が復活するからなのかもしれないわね』

 

セイバー達がその事に気づいた頃、サウザンベースではマスターロゴスが密かにその様子を見ていた。

 

『馬鹿な剣士達ですねぇ。あなた達の行動は筒抜けだという事を言われたのにこうも簡単に切り札の存在を明かすとは』

 

マスターがニヤニヤしているとそこにマイとユイ、ヒビキの3人がやってきた。

 

『マスター、次の指示を』

 

『ノーザンベースに存在する全知全能の書の一部。アレを彼らに持たせているのは危険ですからね。回収を任せます。あと、あなた達の仕事がやり易くなるように猟犬を放っておきます』

 

『『『承知しました』』』

 

3人がマスターからの指示を受けて外へと出ていくとマスターは未だに笑っていた。それからマスターはどこからか本を取り出すとそれを開いた。すると突如として本の中から不死鳥が飛び出し、それがマスターへと攻撃を放ってきた。

 

『無駄です』

 

マスターがバリアを張るとその一撃は防がれる事になり不死鳥は人の形を成すとマスターロゴスの前に降り立った。

 

『まさかこの俺を復活させる奴がいるとはな』

 

男は片手に聖剣、無銘剣虚無を持っておりマスター相手でも不敵な表情を浮かべていた。

 

『確かバハトでしたね。この私の目的を果たすためにはあなたの力も必要不可欠なのですよ。早速ですが剣士達を憎むあなたに素晴らしい使命を与えてあげましょう』

 

『ほう。そいつは嬉しいが、この俺を従わせられるとでも?』

 

バハトは再び不死鳥へと変化するとマスターロゴスへと襲いかかる。マスターはそれを防御してから剣斬ことヒビキを操るために使用した刻印を使いバハトを強制的に服従させようとする。しかし、その瞬間無銘剣が光るとそれを無効化。その後、バハトはマスターに弾かれて近くに着地した。

 

『やはり無銘剣の影響で刻印は通じませんか』

 

『お前も中々の力の持ち主か。良いだろう、お前が世界を終わらせるつもりなら俺はそれを手伝ってやる。ただし、少しでも隙を見せてみろ。その瞬間にお前を潰してやる』

 

バハトはそういうと不死鳥となって空へと飛び立ちマスターロゴスから与えられた使命を全うするべく移動していった。

 

場面は戻りノーザンベースへ。そこではカスミからサリーへと一時的に全知全能の書の一部を渡してサリーがその力を使いこなすための訓練を積んでいた。

 

『はぁ……はぁ……これだけやってもまだ扱えないなんて……一体何が足りないの?』

 

サリーは既に数時間もの間トレーニングルームで全知全能の書の一部の力を扱おうとしていたが未だに力に振り回されている状況だった。そこにセイバーが入ってくる。

 

「邪魔するよ。サリー」

 

『セイバー……あなた、どうして?』

 

「1人で訓練するより相手がいた方が訓練も捗るでしょ。それに、新たなミッション、“目覚める氷獣”ってのも出たしね」

 

『……はい?』

 

「多分これはサリーがパワーアップするためのステップだと考えてる。だからその手伝いって訳」

 

『結局は自分のためですか』

 

「そう言うなって」

 

サリーが呆れているとセイバーは剣を構えていた。サリーはそれを見て剣を構え、2人はそのまま激突。2人の剣はそれぞれ赤と青に輝きを放ち、斬り結ぶ。それから数十分の間戦い、2人は疲れで仰向けに倒れるまでやり合った。

 

「やっぱサリーは強いな」

 

『そういえば初めて私達と出会ったあの日、私の名前を知っているようでしたけど、あなたの世界のサリーはどんな人なのですか?』

 

「んー、一言で言うならライバルかな」

 

『ライバル……』

 

「彼女とは色んなゲームで対戦してきたど、その度に俺の前に立ち塞がる強敵だった。このゲームでは一応仲間としてやってるけど、最終的には彼女と戦って勝つつもりだよ。寧ろそのために仲間として互いを高め合ってるぐらいだしね」

 

『……羨ましいです。私にはライバルなんていませんでした。幼い頃に親を事故で失った私は師匠である先代の水の剣士に拾われてただひたすらに鍛えられてきただけだったので』

 

サリーは寂しそうに呟く。もしも彼女の親が事故に遭わなければ彼女は普通の女の子として生活できたのかもしれない。だがそれはあくまでも可能性の話だ。今更そんな事を言っても仕方ないのかもしれない。

 

『それこそ、クロムさんとイズさん、カナデとヒビキ、トウマとメイプルみたいに同期の仲間がいて高め合えているような人が私にもいれば……』

 

「だったらさ、俺がライバルになってやるよ」

 

『え……』

 

「なんかほっとけないんだよね。俺の世界のサリーと同じで偶に無理しそうでさ。よく心配されるでしょ?」

 

『確かにワンダーコンボを使えるようになるために特訓した時は心配されましたけど……』

 

サリーは若干顔を赤くしながらそっぽを向いた。どうやら彼女の反応を見るにワンダーコンボを使えるようにするための特訓では周りに相当心配をかけさせたようだ。

 

「やっぱ変わらないな。どっちのサリーも。もしかしてこういう所も似せて制作したのかな?運営さん」

 

セイバーがそう言った次の瞬間、サリーはセイバーに抱きついていた。それを受けたセイバーは一瞬頭の中が真っ白になると困惑し、驚きを隠せなかった。

 

「へ!?え、ちょっとサリー!?」

 

『私は親の温もりを殆ど知らない。だから大切な人にはもうこれ以上いなくなってほしくない。私にとってこの組織は家族みたいなもの。だから一緒に守ってほしい』

 

サリーは今にも泣き出しそうな表情であった。普段は凛とした態度の彼女がここまで弱い所を曝け出したのだ。セイバーがそれを受けて応えないわけがない。

 

「わかった。一緒に守ろう」

 

2人が暫くそうしているとカスミからの連絡が入った。どうやらサウザンベースの剣士達が決闘を挑んできたのだ。それを受けてセイバーはサリーを特訓のために残してカナデと共に出撃。指定された場所にまで行くとそこにはヒビキとマイ、ユイの3人がいた。

 

『来たようですね』

 

『マスターの命によりあなた達を始末します』

 

『僕達だって負けるつもりは無いよ』

 

『ん?サリーさんがいないようですけど彼女はどこで何をしてるんですか?』

 

「サリーなら今は取り込み中だ。もう少ししたら来るからそれまでは俺達と遊んでくれ」

 

セイバーの言葉に3人は何かの罠を警戒したが、それでも構う事なく2人を倒そうと考えて本を取り出した。

 

『セイバー、何か策はあるの?』

 

「特にはねーよ。けど、あの姉妹の相手は俺がする」

 

『わかった。ヒビキは僕が洗脳を解く』

 

「おう。そのために俺が2人を引きつけるんだからな」

 

セイバーが本を出そうとするとインベントリからプリミティブドラゴンが飛び出して光り始めた。

 

「今回も使ってくれって?我儘な奴だなぁ。ただ、今回は暴走したからって勝てる相手じゃねーのがな……ん?」

 

するとインベントリからもう一冊本が飛び出すとそこにはエレメンタルドラゴンと描かれていた。

 

「お。コイツもここに来てたのか。これなら暴走を制御できる!」

 

『何を1人でブツブツと……』

 

『あんなの放っておいて早い所倒しましょうお姉様』

 

『あなた達を排除する』

 

《オーシャンヒストリー!》

 

《昆虫大百科!》

 

《猿飛忍者伝!》

 

『『『変身!』』』

 

《界時逆回!我なり!オーシャンヒストリー!》

 

《狼煙開戦!昆虫CHU大百科!》

 

《双刀分断!風双剣翠風!》

 

3人はそれぞれ剣斬、サーベラ、デュランダルへと変身するとそれに応じるようにカナデとセイバーも本を変身するためのシークエンスを進めていく。

 

『行こうセイバー』

 

『ああ』

 

《エックスソードマン!》

 

《プリミティブドラゴン!》

 

《エレメンタルドラゴン!ゲット!》

 

セイバーは今回、プリミティブドラゴンの本とエレメンタルドラゴンの本を合体させて一つにするとそれを烈火に読み込ませた。そしていつものように光の粒子としてそれがベルトに装填されると剣を構える。

 

「『変身!」』

 

《最光発光!エックスソードマン!》

 

《烈火抜刀!バキッ!ボキッ!ボーン!メラ!メラ!バーン!シェイクハンズ!エレメンタルドラゴン!》

 

セイバーは絆龍の装備を模した姿へと変化。右肩には水色のプリミティブドラゴンが、左肩には黄色と赤のエレメンタルドラゴンがそれぞれ装甲として装着されて2匹の龍が胸の辺りで手を握り力を合わせているような形になっている。

 

『何!?』

 

『あの姿のセイバーは初めてですね』

 

「言っておくがこの力はかなり強いぞ。ここまでのプレイで手にしてきた中では最強クラスだからな!」

 

セイバーが走っていくとサーベラ、デュランダルの2人を相手に戦闘を開始する事になりカナデが変身した最光も剣斬を相手に戦いを始めた。

 

サーベラとデュランダルは2人がかりでセイバーを攻撃するが、その連携をもってしてもセイバーに中々有効打を与えることができなかった。2人でなら幾らセイバーが強くても圧倒できると考えていた2人にとってこれはかなりの誤算だった。

 

『何故攻撃が決まらない!2人がかりなのに』

 

『ユイ、乱れてはダメよ。ここは私が切り崩す』

 

《界時抹消!》

 

デュランダルが界時抹消を発動すると1人だけ別空間に潜航。サーベラと戦っているセイバーの背後を取った。これならセイバーは対抗する事ができない。そう考えての一手だったがセイバーの対応力はその想定を超えてきた。

 

《再界時!》

 

デュランダルが再界時してセイバーへと攻撃を仕掛けた瞬間、セイバーはサーベラを強引に吹き飛ばすとすかさず後ろにいるデュランダルの攻撃に難なく対応。攻撃を受け止めつつ左手で槍の柄を掴んで引き寄せ、烈火での斬撃でデュランダルにダメージを与えた。

 

『馬鹿な……初見で界時抹消には対応できないはず』

 

「残念ながらその界時抹消、どうやら原理は俺がこの世界に来る前に使っていた【界時抹消】と全く同じみたいなんだよね。そのスキルを使えるようになるまでの努力が無ければ俺もやられてたと思うよ。けど残念!それは俺には通用しない!!」

 

『だったらこれはどうかしら?』

 

《狼煙霧虫!》

 

今度はサーベラの能力、煙化による撹乱攻撃が展開されるとセイバーの周りを5つに分裂した煙の群れが周回。どれが本物なのかわからずに混乱している所を不意打ちする考えである。

 

「それも初見じゃ躱せないだろーなぁ。けど……ここ!!」

 

セイバーが烈火を振り抜いた瞬間にサーベラが実体化し、攻撃はサーベラに命中して吹き飛ばした。まさかの煙化にも対応されてサーベラは狼狽えていた。

 

『ぐ……まさか煙化も通用しないのか?』

 

「これじゃあ【エレメンタル化】の能力を使うまでも無いぜ」

 

セイバーが2人を挑発して攻撃を誘う。2人はそれを受けて再びセイバーへと連続攻撃を開始。2人がかりで追い詰めようとした。

 

一方で最光と剣斬の戦いは始めから最光が有利に立ち回っていた。それもそのはず、剣斬はカリバーによって風の力を司る裏の方の翠風を封印されており、圧倒的に不利な状態での戦いを強いられているからである。加えて、裏が封印されている事によって剣を物理的に分断する事ができずに一刀流になっているのも押されている要因だろう。

 

『やはりカリバーに剣を封印された影響かいつもの戦闘スタイルができてないなヒビキ』

 

『だからって調子に乗ってると痛い目を見るわよ』

 

『調子に乗ってるねぇ……そっくりそのままお返しするよ』

 

次の瞬間、最光は光のスピードで剣斬の後ろに瞬間移動すると剣を振り抜き剣斬を斬りつけ、更に怯んだ所に二段蹴りを喰らわせて装甲が薄めな剣斬にダメージを蓄積させた。

 

『く……私が今までに強くなるためにどれだけの努力をしたと思ってるの……そう簡単に超えられるなんて思わないで!』

 

剣斬がそう言いながら高速で最光へと接近。その勢いを利用して加速していき風を纏っていく。そしてその力を翠風へと伝播。翠風が一時的に風を纏った。

 

『風の力を封印されてもその方法があったか』

 

『修行の成果を見せてあげる!』

 

剣斬が跳びあがると翠風を上から振り下ろす。最光はそれを剣で受け止めるが剣斬の力は最光の想定を超えており瞬間的とはいえかなりのパワーを出していた。

 

『はぁあああああああ!!』

 

『く……やはり修行によるパワーアップは伊達じゃ無いね。尚更これ以上洗脳させたままにはしておけない!光の力で切り開く!』

 

最光は剣斬を何とか押し返してから剣の柄でバックルのボタンを押し、本のページを次の物へと変えた。

 

《移動最光!腕最高!Fullcolor goes to arm!》

 

すると最光の身に纏われた漫画のコマを模した装甲が左腕へと集約されていき顔も左腕に移動。2本目の剣を生成した。これにより最光はエックスソードマンパワフルというパワーに優れた形態へと変わる事になった。

 

『この形態で一気に決めさせてもらうよ』

 

『私を相手に二刀流だなんて挑発のつもり?』

 

剣斬が最光へと突撃していくと最光は左腕の剣でそれを防いでから右腕の剣で斬り裂きダメージを与える。更に左腕の剣で追撃を加えて手数による攻撃で剣斬を追い込んでいった。

 

『馬鹿にして……』

 

『馬鹿になんてしてないよ。僕は君を救いたい。ただそれだけさ』

 

最光はそう言いつつバックルに装填された本を閉じてからページを1枚めくり、それから剣の柄でバックルのボタンを2回押してページを開いて必殺技を発動した。

 

《フィニッシュリーディング!サイコーパワフル!》

 

『エックスソードブレイク!』

 

最光が光の速さで剣斬へと突撃すると二刀流の剣で剣斬をX字に斬り裂いた。すると剣斬から赤黒い光が霧散すると共に目に刻印されていたリングが砕け散った。そして変身が解除されてヒビキがその場に倒れ伏した。

 

『う……く……』

 

『大丈夫かヒビキ?』

 

『カナデ……私は一体何を……』

 

何故剣斬の洗脳を最光が解く事ができたのか。それは最光には特殊能力として聖と邪を分断する能力が有り、剣斬に掛けられた洗脳は邪悪な能力なので最光の力であればそれを解く事ができるのである。セイバーはこれまでのゲームの経験でそれがある程度わかっていたからこそ最光に剣斬を相手するように伝えたのだ。

 

『皆お前の事を心配していたよ』

 

『ごめんなさい……私、いきなり目の前に煙が出てきたかと思ったらローブを纏った男の人に攻撃されてその時にきっと……』

 

『……恐らくそれはマスターロゴスだ』

 

『え!?』

 

ヒビキがカナデこと最光から事の真相を聞き、いかに自分が酷いことをしてしまっていたのかを知った。ヒビキがその場に崩れて自分のやってしまったことを悔いているとそこに不死鳥ことバハトが飛んできて2人の前に降り立った。

 

『!!あれは……』

 

『……どうやらここに剣士がいるらしいな』

 

バハトが2人を見据えると虚無を構えた。既に2人を攻撃する対象であると捉えて……。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと目覚める氷獣

最光ことカナデが剣斬ことヒビキの洗脳を解く事に成功したものの、今度はそこに無の剣士バハトが出現。2人をターゲットとして狙い定めていた。

 

『ヒビキ、これを使って一旦退いてくれ』

 

『え、でもカナデが……』

 

『今のヒビキは風の力を使えない。そんな状態で戦っても勝てるとは思えない』

 

『ッ……わかった』

 

 

ヒビキは悔しそうに拳を握りしめながら最光から受け取ったブックゲートでその場から撤退。ノーザンベースへと戻っていった。それを見たバハトは少し残念そうな表情を見せたがすぐに気を取り直して最光を狙おうとする。

 

『この俺を相手に1人で勝てるとでも?』

 

『勝てずともお前の力ぐらいは全部暴いてやるよ』

 

『そうか。やれるものならやってみろ』

 

《エターナルフェニックス!》

 

バハトが本を取り出すとすぐに開いて本を剣に読み込ませると本が赤黒い粒子となってベルトに装填された。それからバハトは燃え盛る虚無の刀身を左手で持つと右手の人差し指を口に当てた。

 

《抜刀!》

 

『シーッ……変身!』

 

次の瞬間、バハトの後ろに巨大な本が降りてくると中から不死鳥が現れて周囲を飛び回ってからバハトを包み込みその姿を一体の不死鳥が装甲となった仮面の戦士、ファルシオンへと変化した。

 

『虚無の特性的に聖剣の属性を無効化する可能性が高い。こうなるといつもの僕の戦い方では不利か』

 

最光は一旦姿を全身に装甲を纏うエックスソードマンカラフルへと戻るとファルシオンはそんなのお構い無しとばかりに最光へと襲い掛かる。最光は敢えて光の力を使わずに純粋な剣の実力でファルシオン相手に勝負を挑むのであった。

 

その頃、サーベラ、デュランダルを相手にしていたセイバーはというと、長時間戦闘を続けていた影響か流石のセイバーにも疲労の色が見て取れるようになった。

 

「く……この2人の能力は防げるけど、能力抜きにした純粋な戦闘力で考えても強いな。しかも2人が双子の姉妹って事もあって連携力が半端じゃない。どう見ても俺が不利だな」

 

『偉そうな口を叩いていた割には大した事なかったですね』

 

『油断してはダメよユイ、この者は異世界人。どんな手を隠しているかわからないわ』

 

この2人が油断していればまだセイバーにもチャンスはあったかもしれない。しかし無情にもこの2人に油断も隙も無かった。

 

「こうなったらアレを解禁するか」

 

セイバーは2人が自分へと攻撃を仕掛けるタイミングに合わせて炎へと変化した。

 

『『!!』』

 

更にその炎の状態で2人の背後に移動しつつ人間へと戻って一撃を加えた。これには流石の2人も反応すらできずに攻撃を受ける事になりダメージを受けた。

 

『何……今のは』

 

『見た感じ、私達の使う界時抹消や狼煙霧虫と原理は違うけど特性は似てるわね』

 

「へぇ。やっぱ【エレメンタル化】の力もここから来てるわけだ。いや、ここでは逆移入と言った方が正しいのかな?」

 

セイバーが能力がちゃんと発動してくれた事に関心していると2人は間髪入れずに襲いかかってきた。セイバーは今度は攻撃を受ける瞬間に土に変化すると距離を取るのみにした。2度目は対応される可能性を考えた上での行動である。

 

『く……やはり危険予知もしっかりしてくるわね』

 

「俺としても2度目でもう対応できるとか反応良すぎでしょ」

 

セイバーとしてはここで無理に2人を倒すつもりは無かった。そもそも今回の目的はヒビキを洗脳から解除する事であってこの2人を撃破する事ではない。なので戦力で劣っている自分がやるべき事は自分が倒されないように粘りつつできる限り時間を稼ぐ事だ。そうすれば後は仲間がやってくれると考えている。現にこの狙いは成功しており、既にヒビキの洗脳は最光ことカナデによって解かれたので後はセイバーへの連絡が行くのみであった。

 

「さーてと、そろそろカナデが目的を達成してくれる頃かな」

 

『目的……まさか』

 

『私達をヒビキから遠ざけたのは……』

 

「やっと気づいたみたいだな。でももう遅いよ。今本部からの連絡が入ってヒビキの洗脳は解除されたらしいな。もうこれ以上は俺は戦う必要が無くなったわけだ」

 

セイバーはさっさと撤退するために烈火で地面を攻撃して煙幕を張ろうとした瞬間、デュランダルがカイジスピアを突き出して攻撃を仕掛けてきた。

 

『あなたに戦う理由が無くなっても私達にはあるんですよ?』

 

『こうなればあなたの聖剣だけでも回収します』

 

《狼煙霧虫!》

 

するとサーベラが煙へと変化するとセイバーの周囲を囲むように煙でサーベラの分身を生成。セイバーを逃さないようにした。

 

「……やれやれ。それは効かないって言ったよね」

 

セイバーが烈火で薙ぎ払うと煙で生成されたサーベラの分身は消え去り、セイバーが後ろを振り向きながら剣を突き出す。その先にはサーベラの本体がセイバーへと走ってきていた。

 

「タイミング完璧。もらった!!」

 

《界時抹消!》

 

《再界時!》

 

次の瞬間、突如として目の前にいたはずのサーベラがいなくなっていた。その代わりにデュランダルがカイジスピアを振り抜いてセイバーを攻撃。加えて、セイバーの死角に位置する真後ろにサーベラが狼煙での振り下ろしを行っていてセイバーは前後からの攻撃をまともに喰らってしまった。

 

「うぐっ!?」

 

セイバーはまさか自分が界時抹消と狼煙霧虫を同時に喰らう事になるとは思っていなかった。しかもこれで片方ずつならばセイバーは対応できるが、両方同時には対処できない事が2人に露見。ここから先は2人同時に技を繰り出す回数が増えていくだろう。

 

「く……流石にこれ以上は本当に厳しそうか。こうなったら一旦退いて体勢を立て直すか」

 

セイバーが撤退するために剣を振り抜こうとした瞬間、突如としてセイバーが羽交締めされて動きが封じ込められた。セイバーが何とか後ろを向くとそこには煙化を解除したサーベラがセイバーを捕まえていた。

 

『あら。どこに行こうとしたのかしら?』

 

「しまった……考えるのに必死でサーベラが煙化したのを見逃していた……なーんてね」

 

セイバーはサーベラによって拘束されているのを緑の竜巻に変化する事で抜け出し、デュランダルへと突っ込んでいった。

 

『無駄よ!』

 

デュランダルがカイジスピアでその竜巻を両断するが、セイバーはそれも予想していたとばかりにその両断のタイミングで2つ目の竜巻を生成して本体がどちらかわからないようにした上で距離を取って元の姿に戻り、もう片方の竜巻はデュランダルに纏わりつかせると界時抹消ができないように幻惑した。

 

『く……』

 

『逃さない!』

 

サーベラがセイバーを追撃しようと走ろうとすると突如としてサーベラの前に水流が飛んできてサーベラの動きを一時的に止めさせた。

 

『!!』

 

『セイバー、待たせました』

 

「サリー」

 

そこに来たのは水勢剣流水を片手に持った水の剣士、サリーだった。彼女のもう片手には一冊の大きめな本が握られており、セイバーはそれが何なのか理解していた。

 

「どうやら、ちゃんと使いこなせたみたいだな」

 

『ええ。この本を使うのに私に足りなかった物。それは、大切な人達をこの手で守る覚悟でした』

 

「……それじゃあ反撃開始と行きますか」

 

『はい!水勢剣流水に誓う!大切な人達は……私が守ります!』

 

《タテガミ氷獣戦記!》

 

サリーはそう言うと手にしていた本を開き、それを剣に読み込ませるとその本は粒子となってベルトに装填。するとサリーの後ろに巨大な本が降りてきてそれが開いた。

 

《流水抜刀!タテガミ展開!》

 

『変身!』

 

《全てを率いし、タテガミ!》

 

その瞬間、サリーの後ろの本から氷の獅子が飛び出すとサリーの周囲を氷で埋め尽くしながら周回。それからサリーへと背後から飛びつくようにサリーに重なってその姿を変化させていった。

 

《氷獣戦記!ガオーッ!》

 

サリーの姿はまるでセイバーの氷獣の装備に酷似しており、氷の獅子が全身の装甲へと変化していた。胸には氷漬けにされた陸、海、空の動物の絵が描かれており、頭には白いタテガミが伸びていた。

 

『馬鹿な……ブレイズの更なる形態ですって?』

 

『こんな形態、今まで無かったのに……』

 

サーベラとデュランダルは仮面の内側に狼狽えの表情を見せていた。何故なら、ブレイズのこの形態は歴代の剣士の中でも初めて見せる姿であり、全く情報が無い力だった。しかもその源は全知全能の書の力の一部である。どれほどの可能性を秘めているか2人にも計り知れなかったのだ。

 

「さぁ、行こうか!」

 

セイバーの言葉と共にセイバーはデュランダルへ、ブレイズはサーベラへと向かっていき2対2の戦闘が開始された。まずは挨拶代わりにセイバーからの炎の斬撃波がデュランダルへと向かっていく。当然デュランダルはそれをカイジスピアで防ぐが、その間にセイバーは水へと変化するとそのままデュランダルの目の前に移動。そのまま突きを繰り出してデュランダルへと攻撃。

 

『調子に乗らないことね』

 

《界時抹消!》

 

界時抹消によってデュランダルはセイバーから距離を取りつつ体勢を立て直し、すぐに再界時。そのまま界時の刀身を外して反転させてから持ち手部分に合体させた。

 

《剣刻!》

 

デュランダルはカイジスピアの状態ではセイバーに対応された事から考えて敢えて剣状態のカイジソードでの運用に切り替えた。そのまま2人は剣の間合いで斬り結ぶ。

 

「へぇ。槍を扱うから少しは剣の腕も鈍くなってるかなって思ったけどそんな事無くて安心したよ」

 

『やはり単純な剣の腕でもあなたが上……でもこの力を私がモノにするまでにどれだけの時間を掛けたと思っている!そう簡単にやられるつもりは無いわ』

 

《必殺時刻!》

 

デュランダルがカイジソードの刀身を引き抜いてから再度連結して必殺技を発動。剣の刀身に大海のエネルギーが込められていった。

 

「成程、それにも俺が使っていた剣と同じ技があるのか。だったら!」

 

《必殺読破!マシマシ!》

 

セイバーもそれに対抗するように烈火をベルトに納刀してから本のページを押し込み、それから烈火を抜刀。虹色のエネルギーを高めた。

 

《烈火抜刀!》

 

『オーシャン一刻斬り!』

 

「森羅万象斬!」

 

《オーシャン一刻斬り!》

 

《エレメンタル合冊斬り!》

 

2つの攻撃がぶつかり合うと互角のパワーであり、中心で爆発を起こすとその余波で2人は少し後ろへと下がった。一方でブレイズとサーベラの方ではブレイズがサーベラを圧倒。氷の力でサーベラの動きを封殺しながらブレイズは攻めていた。

 

『強い……これがサリーの新たな力』

 

《狼煙霧虫!》

 

サーベラが煙化を発動してブレイズの周りを飛び回りつつ隙を見て攻撃を仕掛けようと接近した。その瞬間、ブレイズは地面に流水を突き立てると周囲に冷気を発生させて煙を凍らせていった。

 

『!!』

 

その影響でサーベラの煙化が強制解除。姿を晒した瞬間にブレイズからの斬撃を受けてダメージを負った。

 

『私の新たな力はあなたの煙の能力に相性抜群です。降参して聖剣を私達に返してください』

 

『……聖剣を集めるのは私達に課せられた使命……それに、マスターの意思は私の意思。あのお方の理想を実現させるのはこの私!!』

 

《狼煙霧虫!》

 

サーベラは懲りずに狼煙のボタンを2回押して再び煙の能力を発動すると今度は自分を煙化させるのではなく、煙の力で発生させたエネルギーを斬撃として高めた。

 

『永煙の一刺し!』

 

《煙幕幻想撃!》

 

サーベラが放った一撃はブレイズへと飛んでいくものの、ブレイズが手を翳した瞬間、地面から氷の壁が出現して攻撃を防御した。更にサーベラが動揺している間にすかさずベルトに装填されている本のクリスタと呼ばれる部分を押し込んだ。すると本に付いている獅子の顔の周りに展開されたタテガミ部分に描かれている絵が回転。ブレイズは黄色い部分を選択してその能力を発動した。

 

《大地の氷獣!タテガミ大地撃!》

 

『レオ・ブリザード・グランド!』

 

ブレイズの髪が氷によって更に腰にまで伸びると手にした流水を地面に突き立て、辺り一面の地面を凍結。サーベラは足を凍らされるとブレイズが迫っていき、白く輝いた流水でサーベラを斬り裂いた。

 

『はあっ!』

 

『うぁあああああ!』

 

サーベラはそのダメージに耐えきれずに変身解除するとユイの姿でボロボロになって倒れた。

 

『あ……ぐ……』

 

『ユイ!』

 

そこに妹を心配してデュランダルが駆け寄るとユイが傷ついて悶えているのを見て怒りを露わにしていた。

 

『よくもユイを……許さない。私を……怒らせるな!!』

 

デュランダルは今ので完全に怒ったのか先程までとは比べ物にならないぐらいの力でブレイズへと襲いかかった。ブレイズはこれを何とか押しとどめるものの、デュランダルの怒りの力は更に高まっていく一方だった。

 

『セイバー、ここは私に任せてカナデの元に!』

 

「え……でもサリーが……」

 

『私の事は良いから!それよりもカナデは今、無の剣士であるバハトと交戦してるらしいの!』

 

「無の剣士……まさか、無銘剣か。確かにアレは危険だな。わかった!この場は任せるぞ」

 

セイバーはすぐに頷くとその場から離れていき、残されたブレイズとデュランダルは一騎打ちに突入していった。

 

『よくもよくも私の可愛いユイを虐めてくれたわね!』

 

『このシスコンめ……でも、今の私の敵じゃない』

 

ブレイズは怒り狂うデュランダルとは対照的に冷静であり、その冷静さがこの戦いの差を分けた。それを裏付けるように少しずつブレイズが優勢になっていった。

 

『この!』

 

《界時抹消!》

 

デュランダルがお得意の界時抹消を使うとブレイズの背後に回り込んで一気に決着をつけようとした。

 

《再界時!》

 

『無駄です!』

 

ブレイズは咄嗟に自分を氷漬けにしてデュランダルの不意打ちを防御するとカウンターとして氷を解除して流水を振るいデュランダルにダメージを与えた。更に追撃として必殺技を発動する。

 

《必冊凍結!流水抜刀!》

 

ブレイズが流水をベルトに納刀してから本のスイッチを押し込み、抜刀。氷の力を高めていき、そこから繰り出される斬撃波……

 

『ブリザード・ブレイズ!』

 

《タテガミ氷牙斬り!》

 

ブレイズからの斬撃波がデュランダルへと襲い掛かるとデュランダルは吹き飛ばされて変身解除するとユイ同様にマイも傷だらけで倒れ込んだ。

 

『くうう……まだ……終わってないわよ……ユイの仇を』

 

マイは変身解除しても尚、ユイを傷つけたブレイズを許すつもりはないらしく戦う意思を示していたが、何とか立ち上がったユイがそれを止めた。

 

『お姉さま、退きましょう』

 

『でもアイツはあなたを……』

 

『これ以上は無理です。マスターには2人でちゃんと謝りましょう。これ以上はお姉さまの体が保ちません』

 

妹の必死の説得が届いたのかマイは歯軋りしつつも諦め、ユイもそれを見て狼煙の力で煙を発生させつつ撤退していった。

 

『ふう……何とか勝てましたね。けど、セイバーがあの2人を消耗させてくれなかったら大変だったかもしれません』

 

それからブレイズは変身解除してからその場から立ち去るとセイバーの後を追うのだった。

 

その頃、ファルシオン相手に戦いを挑んだ最光はかなり苦戦を強いられていた。そもそもファルシオン自体の戦闘能力が高いのに加えて、ファルシオンの持つ無銘剣虚無の特性である聖剣の属性を無力化する能力が強力である事から最光は普段通りの実力を発揮できずにいた。

 

『どうした?その程度が限界か?』

 

『く……光の力を使えない分かなり不利だね。けど、ここで負けるわけには……』

 

最光がそう考えているとファルシオンはそんなのお構い無しとばかりに最光への攻撃を継続。無の力によって最光の光の速さでの瞬間移動を封じていることもファルシオンが有利に立ち回っている要因だろう。

 

『せめてここに闇黒剣があれば』

 

光剛剣と闇黒剣の2本が揃っていれば、巨大な力を持つ無銘剣を封じ込めることが可能だということを最光は本で読み、知っていた。しかし現状ではカリバーことメイプルが敵であるためにその組み合わせが実現する事は無い。

 

『終わりにしてやる』

 

《永遠の不死鳥!》

 

ファルシオンがベルトの本を抜くとそれを剣に読み込ませた。その瞬間、炎に包まれた不死鳥が現れた。

 

『消えろ』

 

《無限一突!》

 

ファルシオンから放たれた不死鳥のエネルギー斬は最光に命中すると彼に大きなダメージを与えつつ後ろへと吹き飛ばした。

 

『ぐ……うう……』

 

『耐えたか。だが、もう立ってるのも精一杯だろ?』

 

最光の受けたダメージは深く、これ以上の戦闘は危険と言えるほどだった。しかし、彼がその程度で諦めるわけがない。バックルの上部のボタンを剣の柄で2回押し込んでページをめくった。

 

《移動最光!脚最高!Fullcolor goes to leg!》

 

すると最光の纏う装甲が脚へと集約されてキック力が強化されたエックスソードマンワンダフルへと変化した。

 

『こっちが決めるよ』

 

最光が本を閉じてからページを1枚めくり、そのまま剣の柄でバックルのボタンを3回押して必殺技を発動。

 

《フィニッシュリーディング!サイコーワンダフル!》

 

『エックスソードブレイク!』

 

最光が両足を揃えて跳躍するとファルシオンの両サイドに漫画のコマが流れて逃げ道を封殺。そのまま右足で延髄蹴りを放ち、全身に装甲を纏わせたエックスソードマンカラフルに戻るとファルシオンは火花を散らしながら爆散。最光はファルシオン相手に勝利を収めることになった。

 

『はぁ……はぁ……何とか倒せたね』

 

そこにセイバーが駆けつけるとその様子を目の当たりにしたが、仮面の裏にある顔は晴れていなかった。最光はそれを見てセイバーの様子がおかしいことに疑問に思った。

 

『セイバー、何でそんなに嬉しそうじゃないの?』

 

「……無銘剣の使い手がそう簡単に死ぬわけがない。……俺の予想通りなら……」

 

すると突如としてファルシオンが爆散した後にできた炎から1枚の不死鳥の羽が落ちるとそれを元にファルシオンが再生、復活した。

 

『やられたとでも思ったか?俺は不死身なんだ。そう簡単に死ぬと思うなよ』

 

『馬鹿な……』

 

すると無造作にファルシオンは剣を納刀してからトリガーを引いて剣を抜刀し、炎の力を剣に集約させた。

 

《必殺黙読!抜刀!》

 

『死ね』

 

《不死鳥無双斬り!》

 

『セイバー!』

 

ファルシオンから放たれた不死鳥の力を込められた斬撃が最光を貫く瞬間、最光は近くにいたセイバーを突き飛ばして代わりに自分が全てのダメージを受け持ち、爆散。最光はカナデの姿に戻るとそのまま倒れ伏した。

 

「カナデ!大丈夫か?カナデ!!」

 

『セイバー……済まない。僕はここまでみたいだ。後は……頼むよ』

 

カナデはその言葉を言い残すと力尽きて光の粒子となって消え去り、その場には光剛剣最光と2冊の変身用の本が残されたのみだった。

 

「ちく……しょう。お前、よくもカナデを!!」

 

『ふはははははははは!アイツも俺には勝てなかったようだなぁ。それに、お前も剣士か。ならばお前も殺してやる』

 

「俺を怒らせたこと、後悔させてやる」

 

セイバーがファルシオンへと向かおうとするとそこに闇黒剣の使い手、カリバーがジャオウドラゴンとなって現れた。

 

『……どうやらカナデさんも散ったみたいね。そして、無銘剣の使い手も現れた。こうなるといよいよ急がないと間に合わないわ』

 

カリバーはセイバーへと自然に近寄っていくとセイバーを突き飛ばし、そのままバックルの本を閉じてから月闇の柄で押して封印の技を発動。狙いは当然光剛剣である。

 

《ジャオウ必殺撃!》

 

『3本目!』

 

カリバーが無慈悲に剣を突き立てると光剛剣は封印されてしまい、完全にカナデが復活する事は無くなってしまった。そして、それを見たファルシオンは興醒めしたのかその場から飛び去っていき残されたセイバーとカリバーが向き合っていた。

 

「メイプル……何でお前はそこまで聖剣の封印に拘るんだよ。聖剣を封印したら、マスターロゴスを止められないだろ!」

 

『なら尚更封印するべきよ。マスターロゴスの狙いは全知全能の書の復活。そしてそのためにはワンダーライドブックと11本の聖剣が必要なの。だからそれを止めるためにこうして剣を封印しているわけ』

 

「……メイプル、お前は未来が見えるんだよな」

 

『それが何か?』

 

「その未来を詳しく教えてくれ。そうすれば対策の1つや2つ……」

 

『無理よ。その未来も全て見た。対策しようが関係ない』

 

セイバーは何とかカリバーを説得しようとするが、まるで聞く耳を持たない。それどころか、セイバーへと剣を突きつけた。

 

『決闘を申し込むわ。三日後の正午、この場所で私とあなた、2人だけで戦いましょう』

 

「!!」

 

『もしあなたが私を言いくるめるつもりならその時に聞くわ。それに、その時間までならギリギリ間に合うしね』

 

「ちょっと待てよ。間に合うってどういう……」

 

次の瞬間、カリバーは闇の中へと消えていくことになりセイバーはその場へと残されることになった。それからセイバーは光剛剣を持ち帰ろうとカリバーの居た場所を見ると既にそこには光剛剣は残っていなかった。

 

〜近くの物陰にて〜

 

『く……何とか光剛剣の回収に成功しました』

 

そこにはユイが体の傷を引きずりながらも光剛剣と2冊の本を回収する事に成功しており、その事をマスターへと報告した。それから彼女は近くで待機していたマイと合流してサウザンベースに戻っていくのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとぶつかる想い

最光の訃報を持ったセイバーと、デュランダル達を退けたサリーがノーザンベースに帰投するとそこには一部始終を見ていたクロム、イズ、ヒビキ、カスミの4人が揃っていた。

 

『まさかカナデまでやられるとは』

 

『すみません。私がマスターロゴスに洗脳されていなければ……』

 

『あなたが気に病む事では無いわ。それよりも、これで聖剣は全て出揃ったわ。しかも、その殆どがマスターロゴスの手の内』

 

『かなり危険な状態ですね。こちらの戦力はセイバー、ブレイズ、剣斬の3人。ただ、剣斬は風の力を封印されている以上、無理はできません』

 

4人が次々と意見を言っていく中、セイバーは先程のメイプルが言い放った言葉が引っかかっていた。

 

「間に合うと言ったあの言葉。一体どういう事だ?」

 

セイバーがその事を考えていると突然剣士達の前に映像が表示されるとそこにはマスターロゴスが映った。

 

『剣士の皆さん。私からのお知らせです』

 

『マスターロゴス。お知らせとは?』

 

『三日後の正午に全知全能の書を降臨させるための儀式を行います。つきましてはあなた達の持つ聖剣と本を全て没収する事になりました』

 

『『『『『な!?』』』』』

 

「……チッ」

 

その事を聞いた剣士達は驚きを隠せなかった。聖剣を没収されてしまえば剣士達は戦う力を失ってしまう。更に、全知全能の書が降臨すればそれこそマスターロゴスへの叛逆はできなくなるだろう。

 

「マスターロゴスさんよ、流石に我儘がすぎるんじゃないんですかね?聖剣も無しにどうやってメギドを倒せと?」

 

『……ふふふ。もうその必要はありません。今後は私が神となり、メギドには私の代わりにあなた達を支配してもらう』

 

「おいおい、勝手が過ぎるだろ」

 

『そうですよマスター!マイとユイは、他の同僚達はその事を知っているのですか?』

 

『知っているわけ無いでしょう?仮に彼女達が反抗しても私が返り討ちにするのは簡単ですが、念には念を入れてと言ったところです』

 

剣士達はマスターロゴスのこの言葉で遂に全知全能の書を降臨させるのはマスターロゴスが独断でやっている事であると確信し、それと同時にハヤトの裏切りはマスターロゴスが仕組んだ事であるという事も確定した。

 

『ただ、このまま聖剣を没収するのも味気ない。そうですねぇ、試しに三日後の正午に実際に私を相手に挑んでみますか?もしかすると止められるかもしれませんよ』

 

マスターロゴスは余裕たっぷりに言葉を口にする。この様子だとセイバー達が邪魔しても確実に儀式を成功できると考えているようである。

 

『そんな無茶苦茶な……』

 

「……その言葉、確かに聞いたからな。後で後悔するなよ」

 

剣士達が困惑の表情を浮かべる中、セイバーは依然やる気だった。彼もまた介入する事ができるのであれば確実に止められる自信があるという事である。マスターロゴスはそれを聞いてニヤリと笑うとそのまま映像は消えた。

 

『まさか、ここまでおおやけにして動くとは何かの罠じゃないのか?』

 

『その可能性は高いわね』

 

『でも、こうなった以上は止めるしか無いですよ』

 

『私達の力を見せつけてあげます』

 

「良し、早速作戦会議を……」

 

『その前にセイバー。あなたは今回の任務から外れてもらいます』

 

「……へ?」

 

カスミの言葉にセイバーは唖然とした。マスターロゴスの野望を食い止めるために1番やる気があった彼だがある事を失念していた。それは……

 

『あなたにはメイプルとの約束があるでしょう?』

 

「……あ」

 

セイバーはメイプルとの約束を思い出すと頭を抱えた。これではマスターロゴスの野望を食い止める事ができないので当然ではあるが……。

 

するとセイバーに通知が鳴り、2つのミッションが同時に提示された。題名は“闇の剣士との決闘”と“全知全能の書、降臨の儀式”だった。クリア条件はそれぞれカリバーを撃破すると全知全能の書の降臨を阻止するである。これはつまり、2つのミッションを立て続けにクリアしなければならないという事だろう。

 

「これはキツイな。多分これ、両方をクリアしないと次のミッションに行けないってことだろ?」

 

セイバーはまさかミッションが同時に発生するとは思っていなかったので驚いていた。そんなセイバーを尻目にカスミは他の面々にも指示を出していく。とは言っても戦闘要員はサリーとヒビキだけなのでカスミ、クロム、イズの3人は見ているだけしかできないが。

 

「こんな大事な時に……ごめん」

 

セイバーは他の剣士達に謝るが、剣士達は特に気にしていない様子で、逆にセイバーへと応援の言葉を送った。

 

『大丈夫ですよセイバー。私達が代わりにマスターの野望を阻止してみせますから』

 

『私もマスターに操られた汚名は晴らさないと。例え聖剣の力の半分を封印されてもやれるってこと、見せてあげるわ』

 

『セイバー、お前はメイプルに自分の全てをぶつけて来い』

 

『あなたならきっとメイプルを説得できる』

 

『私からもお願いします。本当なら異世界人のあなたに頼らなくてはならないのは恥ずべき事。ですが、異世界人だからこそ言える言葉があると思います。どうか、カリバーを救ってください』

 

セイバーは剣士達からの言葉に励まされ、気合いを入れ直すと翌日の決戦に備えて力を蓄えるのであった。

 

その頃、マスターロゴスのいるサウザンベースではマイとユイの姉妹がマスターの前に呼び出されていた。

 

『お呼びでしょうか?』

 

『サーベラ、デュランダル。2人には三日後に行う全知全能の書、降臨の儀式の警護任務を与えます』

 

『……もしや、ノーザンベースの剣士達に知られたのですか?』

 

『えぇ。まさか私とした事が話を盗み聞きされるとは思いもよりませんでしたよ』

 

マスターロゴスはそれらしい事を言って2人を騙しており、2人はそんなマスターロゴスの言葉を信じきっていた。更に、マスターがメギドと手を組んでいることも2人は知らないのでこの降臨の儀式の後に自分達がどのような仕打ちを受けるのかもわからなかった。

 

『承知しました。明日の儀式を確実に成功させてみせましょう』

 

『私達の一族の名にかけて』

 

マイとユイはまだ先程の戦闘のダメージが抜けきっていなかったが、マスターからの直々の命であるために全力をもってして成功させるつもりであった。その後、2人がマスターのいる部屋を後にするとマスターは1人ほくそ笑んでいた。

 

『本当に馬鹿な一族ですね。サーベラもデュランダルもこの私の思い通りに動いてくれる。最高の駒ですよ。では、あの男にも指示を出しましょうか』

 

マスターは続けてバハトを呼ぶとバハトにとある事を要請した。果たして、マスターはバハトに何を指示したのか。それは三日後の決戦にて明らかとなるだろう。

 

そして、セイバーに決闘を挑んだメイプルはと言うと、1人高台から街を眺めていた。

 

『……予知によると三日後の正午から儀式が始まる未来が見えた。ここから分岐は細かくあるけど結末は全てマスターロゴスが全知全能の書を手にして世界を終わらせる物になってる』

 

因みに、何故メイプルが未来を見る事ができるのかについてだが、彼女が所持する闇黒剣月闇の能力として剣の所持者に災いの未来を見せる事ができる。そして彼女が見ているその未来は多少の誤差はあるものの、最終的には全て世界が破滅して終わっているのだ。一応それを救う方法が無いわけではない。方法としては2つの候補があった。1つは今彼女が行なっている聖剣を封印する方法である。そしてもう1つは……

 

『やはりこの未来にしてはいけない。なにせ、その未来での犠牲者は彼だから……』

 

メイプルはその場から立ち去ると闇の中に入って眠りについた。三日後の決戦に備えるためである。そして、三日後の正午。セイバーとメイプルが約束した時間が迫っていた。

 

〜ノーザンベース〜

 

「それじゃあ皆、行ってくるよ」

 

『武運を祈っています』

 

カスミの言葉にセイバーは頷いて歩いて行こうとすると突然サリーがセイバーの手を握った。

 

「サリー?」

 

『必ず生きて戻ってきてください。お願いします』

 

サリーの手は震えており、剣士とは思えないほどに心配そうな表情だった。それを見たセイバーはサリーの頭に手を置くと優しく撫でた。

 

「大丈夫。必ず生きて戻ってくるからな」

 

セイバーはサリーに優しくそう言うとブックゲートを使ってメイプルとの決戦場に向かっていった。そしてセイバーがいなくなってからすぐにサリー達も全知全能の書降臨の儀式を阻止するための行動を開始するのであった。

 

〜セイバーとメイプルの決戦場にて〜

 

セイバーが他の剣士達に見送られてから決闘の場所に移動するとそこには既にメイプルが待っていた。しかも、今回はメイプルの剣も封印。無力化するつもりでセイバーは戦う事を選んだ。

 

「やはり先に来ていたか、メイプル」

 

『相手を待たせるつもりは少しもなかったからね』

 

「そっか。それじゃあ早速やろうか」

 

『……意外ね。あなたの事だから最初は私の事を説得すると思ってた』

 

メイプルも流石にセイバーが説得する事なくいきなり戦おうと言い出したのは予想外だったのか面喰らっていた。

 

「できることなら最初から説得したいさ。けどな、俺的には普通に話すより戦いながらの方がお互い本音で語り合えると思ったからな」

 

『それなら良いわ。剣で語り合いましょう』

 

メイプルもセイバーの言い分に納得すると月闇を取り出し、2人はそれぞれ変身のための手順を踏み、お互いにいつもの掛け声を放つ。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ジャアクドラゴン!ジャアクリード!》

 

「『変身!」』

 

《烈火抜刀!ブレイブドラゴン!》

 

《闇黒剣月闇!Get go under conquer than get keen.ジャアクドラゴン!》

 

『……何のつもり?基本形態のブレイブドラゴンって舐めてるの?』

 

カリバーはセイバーがいきなり全力を出さない事に不満を抱いている様子だった。しかし、セイバーは油断や慢心など微塵も感じていなかった。

 

「いやいや、寧ろお前だからこそ俺の全てをぶつけるんだよ。それに、お前こそ封印するつもりならジャオウドラゴンで良いのに何でジャアクドラゴンなんだ?それこそ舐めプだろ」

 

『あなたが話をするって言うから合わせただけよ。ジャオウドラゴンだと咄嗟の時にうっかり封印しかねないからね』

 

メイプルの言葉にセイバーも納得して2人の一騎打ちの戦いは幕を開けた。まず仕掛けたのはセイバーである。烈火に炎を纏わせた状態でカリバーへと攻撃。カリバーはそれを闇を纏わせた月闇で受け止めつつ反撃とばかりに切り返す。

 

セイバーはそれを見切って回避しつつ足払いでカリバーの体勢を崩そうとするが、流石に読まれていたのかカリバーには回避される事になった。

 

「どうしてお前はそこまでして聖剣を封印する道を選ぶ!」

 

『それしか世界を救えないからよ』

 

「違うな。本当は他にも選択肢はあるんだろ?」

 

『何の事だかさっぱりよ』

 

2人は激しく斬り合いながら話を進める。セイバーの言葉はカリバーの核心に迫ってはいた。しかし、カリバーは頑なにセイバーの言葉を否定する。まるで、その未来を選ぶつもりは無いように。そうこうしている内にセイバーはカリバーを押し倒すと馬乗りとなって烈火を振り下ろす。カリバーは負けじとそれを剣で止めつつ押し返してセイバーの背中を蹴り、なんとか窮地を脱した。

 

『ジャアクドラゴンにただのブレイブドラゴンで迫る実力。やはり異世界人の強さは伊達じゃ無い』

 

「メイプル。向こうの世界の彼女とは大違いだな。性格は闇落ちしてるから似ないとしても、向こうのメイプルはスキルと防御力頼りの強さなのに対してこっちのメイプルはプレイヤースキルの高さによる強さか」

 

セイバーはこのままでは不利と即判断すると赤い本を二冊取り出してブレイブドラゴンと共に読み込ませた。所謂ワンダーコンボで対抗するつもりである。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ストームイーグル!》

 

《西遊ジャーニー!》

 

《烈火抜刀!クリムゾンドラゴン!》

 

セイバーが炎のワンダーコンボ、クリムゾンドラゴンにパワーアップすると炎を纏いながら突進。カリバーを近くの壁にまで押し込むとそのまま鍔迫り合いに入った。

 

「さっきの続きだが、言いたく無い理由があるのなら俺は無理には聞かない。けど、今のメイプルは俺に何か隠してるだろ。そんなに俺にとって不都合な未来ならお前はそれを選べば自分は助かるんじゃないのか?」

 

『………』

 

「それでも俺が不利になる未来を選ばない辺り、お前は優しいんだろうな」

 

『それは……』

 

セイバーはカリバーを蹴りながらバク転しつつ空中へと飛び上がり、そのまま剣を納刀。トリガーを引きつつ抜刀した。

 

《必殺読破!烈火抜刀!ドラゴン!イーグル!西遊ジャー!三冊斬り!》

 

「爆炎紅蓮斬!」

 

《ファ・ファ・ファ・ファイヤー!》

 

セイバーが放った炎の斬撃をカリバーは月闇で受け止め、そのまま弾き飛ばす。更にセイバーは空から連続で急襲をかけつつ牽制。空を飛べないカリバーは不利に見えたが、カリバーもすぐに対処してきた。

 

《必殺リード!ジャアクドラゴン!月闇必殺撃!習得一閃!》

 

カリバーから撃ち出された闇の龍はセイバーへと向かっていくと彼に激突してその余波でセイバーを地面へと叩き落とす。セイバーもすぐさま本を使っての必殺技で返した。

 

《ブレイブドラゴン!ふむふむ》

 

《ストームイーグル!ふむふむ》

 

《西遊ジャーニー!なるほどなるほど》

 

《習得三閃!》

 

セイバーは最大にまで高められた炎の斬撃を繰り出し、カリバーもそれに闇の斬撃で対応。2つの斬撃はぶつかると爆発し、セイバーがその中を潜り抜けつつ更なる強化形態を使用していく。

 

《ドラゴニックナイト!》

 

《烈火抜刀!ドラゴニックナイト!》

 

『チッ……更に出力を上げてきたわね』

 

流石にドラゴニックナイトになるとジャアクドラゴンでは力負けする事をカリバーは最初の斬り合いで痛感。すぐにジャオウドラゴンになろうとするが、セイバーがそれを許すはずが無い。可能ならばこのまま決める気である。

 

「なぁメイプル、そこまでして自分が犠牲になる未来を選ぶ理由ってなんだ?そもそも、どうしてお前は闇から戻ってきた時にそんな考えに至ったんだよ」

 

カリバーはセイバーの気迫に押されており、一旦距離を取るとセイバーの問いに答えるために話し始めた。

 

『……私は父さんに負けて闇の中に消えたあの時、確かに殺されて死んだと思っていた。でも、目が覚めるとそこにあったのは見渡す限りの闇だった。その時気づいたのよ。私は父さんに殺されたんじゃない。生かされたんだって』

 

カリバーことメイプルは3年前のあの日、先代のカリバーであるハヤトにやられて闇の中に閉じ込められた。その後彼女は自分の父親であるハヤトと恋人であるトウマがメギドの手によって殺された事を知って闇の中で泣き叫んだ。でも闇の中にいる自分にはどうする事もできなかった。

 

それから彼女に待っていたのは生きているのが辛いと思えるほどの地獄だった。それは、闇黒剣の能力によって絶望の未来を見せ続けられるというものである。

 

『私は闇の中でいくつものヴィジョンを見せられた。その結末は全てこの世界が滅びるというもの。ただ、2つだけ世界を救える未来があったわ』

 

「やっぱり世界を救える未来は1つじゃなかったんだな」

 

『……そうよ。1つは聖剣を封印して私が最後に犠牲になって死ぬルート。そしてもう1つはセイバー、あなたが犠牲になって世界が救われるルートよ。これを聞いてもあなたは自分を犠牲にできる?』

 

カリバーの問いにセイバーは一瞬混乱したが、すぐにそれを振り払って答えを出した。

 

「できるよ」

 

『あなたならそう言うと思ったわ。でも、だからこそ私はあなたを犠牲にさせたりはしない』

 

「はぁ……そのためなら自分は犠牲になっても構わないと?……ふざけんな」

 

セイバーはカリバーの言葉に久しぶりにキレていた。例え世界が救われる未来になったとしても今のメイプルの選択を良しとしなかったからである。

 

「お前は自分を犠牲にしてそれで喜ぶ奴がいると思ってんの?」

 

『じゃあ何?あなただって同じでしょ。世界を救うために犠牲になると言う点ならあなたも私のことは……』

 

「人の事は言えないってか?違うな。俺は最後まで生きるのを諦めるつもりはない。犠牲になるとは言ったけど、それが最善だとは思ってないから」

 

セイバーの言葉にカリバーはたじろぐが、すぐに正気に戻るとジャオウドラゴンの本を取り出した。それを見たセイバーもプリミティブドラゴンとエレメンタルドラゴンを使用する。

 

《ジャオウドラゴン!》

 

《プリミティブドラゴン!》

 

《エレメンタルドラゴン!ゲット!》

 

《闇黒剣月闇!ジャオウドラゴン!》

 

《烈火抜刀!エレメンタルドラゴン!》

 

2人はそれぞれ最強の姿に変化するとそれぞれ龍を呼び出して空へと飛び上がり、空中で更に激しく剣を交えていく。その中でそれぞれの思いを吐き出していった。

 

『あなたを見ていると失った恋人……トウマを思い出すの。トウマは優しくて、人見知りだった私を導いてくれた。私の初恋の人……でも私はトウマが死ぬ姿をただ見ているだけしかできなかった』

 

カリバーは仮面の裏で今にも泣き出しそうだった。セイバーはその様子を見つめながら彼女の気持ちを必死で理解しようとしていた。きっと今のメイプルを救う鍵はそこにあると信じて。

 

『私はもう大切な人が目の前で消えていくのを見たくないの……だから、もうただ見ているだけなんてできないし、したくない』

 

「だから自分が犠牲になると。……メイプル、お前のその気持ち。俺にはまだ完全には理解できないな。でも、メイプルは自分が犠牲になれば全て解決すると思ってるでしょ。そうとは限らないんだぜ?」

 

カリバーはその言葉に困惑した。何故なら世界を救う道には自分の犠牲が必ず必要だと思っているからである。

 

「メイプルが仮に犠牲になったとして、後に残される人の気持ちは考えたことあるか?そもそも、一度自分が同じ目に遭った事を忘れたのか?トウマさんが犠牲になった時にメイプルはとても苦しかったんじゃないのかよ!!」

 

『それは……』

 

メイプルは言葉を詰まらせると剣の鋭さが一時的に鈍った。その瞬間をセイバーは逃さない。セイバーは畳み掛けるように連続攻撃を仕掛けつつカリバーを追い詰めていった。

 

「メイプル、過去に起きた出来事はもう取り返しはつかない。でも、未来は幾らでも変えられる。今のメイプルは周りの未来を守るために自分の未来を諦めてる。そんな奴に……俺が負けるかよ!!」

 

《必殺読破マシマシ!》

 

セイバーは烈火を納刀、本を2回押し込んで虹色のエネルギーを足へと集約していった。

 

「五大元素蹴撃破(エレメントしゅうげきは)!」

 

それを見たカリバーもバックルの本を閉じてから月闇の柄でバックル上部のボタンを押して本を開き、闇のエネルギーを足に高めた。

 

《ジャオウ必殺読破!》

 

『ジャオウ必殺撃!』

 

《エレメンタル合冊撃!》

 

《ジャオウ必殺撃!》

 

2人は同時に跳びあがるとそのままキックを放ち、それは空中で激突すると拮抗。エネルギーが中間点で増幅していく。しかし、少しずつセイバーの方がカリバーを押し込んで行った。

 

『ッ!?どうして……』

 

「言ったはずだ。俺は自分の未来を諦めていないと。対して、メイプルは既に自分が生きる未来を捨てている。自分が生きる事を諦めている人間に……俺が倒せると思うな!!」

 

セイバーはそう言い放ち、パワーを更に上げていくとカリバーの一撃を押し切り、カリバーは大爆発と共に変身解除。メイプルの姿となると落下していった。

 

『私が……負ける?』

 

敗北を悟ったメイプルは絶望のままに地面へと落下していった。このまま生身で地面に体を打ち付ければタダでは済まないだろう。しかし、セイバーはメイプルを見捨てなかった。

 

「手を伸ばせ!!」

 

セイバーは落下するメイプルへと手を伸ばした。しかし彼女はその手を取る権利が自分にあるのかと迷い、躊躇していた。すると突然世界がゆっくり動くようになるとメイプルの視界にある人が映った。そこにいたのはメイプルの父親、ハヤトだった。

 

『父……さん』

 

『メイプル、本当に済まなかった……』

 

『何で……謝るの?父さんは私の事を救ってくれたのに……』

 

『俺はあの時、未来とお前を守るためにお前にあんな酷い事をしてしまった……今更許して欲しいとは思わない』

 

『違う……私が父さんの事をちゃんと理解してなかったから。私が父さんの気持ちを、目的をわかっていたらあんな事には』

 

頑なに自分を責め続けるメイプルに対して、ハヤトは優しく彼女を抱きしめると心を込めて言葉を放った。

 

『お願いだ。そう自分を責めないでくれ。そして、生きるのを諦めないで欲しい。これは父さんからの最後の願いだ』

 

『最後だなんて……そんな』

 

『これで本当にさようなら。次に会う日時はメイプルがちゃんと生き抜いて天命を全うしてからだ。また会えたその時は父さんとゆっくり話し合おう』

 

そう言い残してハヤトは光と共に消えていった。そして、メイプルの周りの世界が元の速さで動き始めるとセイバーはまだ手を伸ばし続けていた。

 

『そうだ……私にはまだやるべき事がある。生き続ける必要がある!』

 

メイプルは今度こそセイバーから差し伸べられた手を取り、セイバーはそれを見ると本からブレイブドラゴンを呼び出して2人をその上に乗せさせるとそのままゆっくりと地面に降りた。

 

それからセイバーはメイプルとちゃんと向かい合うと改めて彼女を説得しようとするとその前にメイプルが話し始めた。

 

『私、ずっと自分が犠牲になるのは義務だと思ってた。世界を救うための必要な犠牲だって……でも、本当はわかってた。そんな事をしても皆は悲しむだけだって』

 

「メイプル」

 

『あなたなら未来を変えられるかもしれない』

 

「それならまずは皆と仲直りしないとな」

 

セイバーはメイプルへと歩み寄ると手を差し伸べた。メイプルはそれを最初は遠慮していたが、それでも皆の元に戻りたいという気持ちが勝ち、セイバーのその手を取った。するとその瞬間、通知音が鳴ってそこにはシークレットルートクリアと書いてあった。そのシークレットルートの条件はメイプルを絶望から救う事だった。

 

セイバーはそれを見て心の中で喜び、メイプルはそれを見て怪訝な顔をするが、セイバーはすぐに何でもないと言って安心させた。

 

「ねぇメイプル。仲直りして早速だけど、一緒に来て欲しいんだ」

 

『良いよ。寧ろ、私が必要なんでしょ?』

 

「ああ」

 

2人はそれからもう1つの決戦場へ、マスターロゴスの野望を食い止めるための戦いへと向かうのであった。




アンケートの結果、2番のルートになりました。投票していただいた読者の皆様ありがとうございました。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと降臨の儀式

セイバーはメイプルを救い、仲間に戻す事に成功した。そして、マスターロゴスが行なっている全知全能の書、降臨の儀式の場所へと向かっていく。

 

その場所では激しい戦いの最中だった。しかし、途中からでは何がなんだかわからないのでこの話はセイバーとメイプルの戦いが始まる頃まで時間を遡るとする。

 

セイバーがメイプルとの戦いを始めた頃、とある開けた野原にて儀式は行われようとしていた。そこにはマスターロゴスと彼が座る玉座、マスターロゴスを守るために配置されたマイとユイ、マスターロゴスの座る玉座の隣には今まで回収してきた本と聖剣が刺さった十数メートルの塔のようなものがあり、マスターの手には一冊の本が握られていた。

 

『いよいよです。私は今日この時を持ってして神の力を得る!!』

 

マスターロゴスはいよいよ念願が叶うと考えて笑みを浮かべていた。そこにノーザンベースの剣士と管理者であるサリー、ヒビキ、イズ、クロム、カスミが到着。その中で戦う事ができるサリーとヒビキが前に出た。

 

『そこまでです!マスターロゴス』

 

『全知全能の書は復活させない!』

 

『私達から奪った聖剣を返してもらうよ』

 

『中々威勢が良いですねぇ。では任せますよ。サーベラ、デュランダル』

 

マスターロゴスの命令でマイとユイがサリー、ヒビキに対応するために狼煙と界時を構える。そして、4人はそれぞれ変身の為のシークエンスを始めた。

 

《タテガミ氷獣戦記!》

 

《猿飛忍者伝!》

 

《昆虫大百科!》

 

《オーシャンヒストリー!》

 

『『『『変身!』』』』

 

《流水抜刀!タテガミ展開!氷獣戦記!ガオーッ!》

 

《風双剣翠風!》

 

《狼煙開戦!昆虫CHU大百科!》

 

《界時逆回!オーシャンヒストリー!》

 

4人はブレイズ、剣斬、サーベラ、デュランダルへと変身するとブレイズ対デュランダル、剣斬対サーベラの構図で戦闘が開始された。まずは剣斬とサーベラが走っていき剣を交える。それから激しく打ち合うが、この戦いは剣斬が不利であった。

 

『風の力は未だに封印中。そんなあなたが私に勝てるとでも?』

 

『だからって負けるわけにはいかない!』

 

サーベラが煙の力を使えるのに対して剣斬は風の力を月闇によって封印されている。普通であれば煙を風で吹き飛ばせるので剣斬が有利になるはずだが、その重要な風の力が封じられている今では剣斬が不利になるのは当然だろう。

 

『では、これを封じられるかしら?』

 

《狼煙霧虫!》

 

サーベラが早速煙化を発動すると剣斬の周囲を煙の状態で自在に飛び回る。それに対して剣斬は目を閉じて風の流れを感じる事だった。

 

『………』

 

『あら?打つ手無しだからって自暴自棄?それなら容赦しないわよ』

 

何故剣斬がこのような事をするのか。それはもうご存知の通りサーベラは攻撃する際には煙化を解除する。その瞬間に発生する空気の流れの変化を感じ取って剣斬は対応するつもりだ。ちなみに、以前セイバーが狼煙霧虫を破った時も同じような方法だったりする。

 

『ここ!』

 

剣斬が攻撃を仕掛けるために剣を振り抜くとその一撃はサーベラが狼煙を防御に使ったことによって防がれた。しかし、それは同時にサーベラの攻撃も見切った事を意味する。

 

『く……流石は風の剣士。空気の流れを掴むのは朝飯前って事ね』

 

『次は私が行くよ!』

 

次は剣斬の番である。彼女はサーベラに迫っていくと何かをする暇も与えないぐらいの連続攻撃を仕掛けた。普通に勝負をしていては属性の力を持たない剣斬が敗北するのは必至。よってそれを回避するために激しい攻撃でサーベラの煙化及び煙の力を利用した技を繰り出させないようにしていた。

 

『スピードを上げての連続攻撃……攻撃は防げるけどその間は反撃できない。煙化も見切られる事を考えたら乱発できないわ』

 

先程の狼煙霧虫破りも実は煙化をいつでも破れるという威嚇の意味も込めた布石だった。これをする事でサーベラの煙化を抑制しているのである。当然剣斬も全ての攻撃を防げるわけでは無いのでサーベラが落ち着きを取り戻せば連撃によって生まれる隙を突かれてやられるだろう。

 

『(今の私にできるのはこのくらい。だからあとはお願い。サリー!!)』

 

その頃ブレイズとデュランダルの戦いはブレイズが界時抹消を既に攻略しているために彼女が有利に戦いを進めていた。

 

『一気に倒します!』

 

『調子に乗らない事ね』

 

デュランダルは敢えて攻略されている界時抹消を使う事なく戦いをしていた。だが、自分の能力を使わずに戦っている事で戦闘力は半減。加えてブレイズの剣撃を前に押されている始末だった。何とか界時スピアと流水に存在するリーチの差で中距離からブレイズをなるべく近づけさせないようにしていた。

 

『やはりそう来ますよね。でも、私は絶対に負けられない!ここにはいないセイバーのためにもあなた達に絶対勝ちます!』

 

ブレイズはそういうと地面に流水を突き立てるとそこから周囲の地面が凍りついていき、それはそのままデュランダルの足も凍結させた。

 

『なっ!!』

 

そのままブレイズがベルトの本についているクリスタと呼ばれる部分を押し込んだ。すると本に付いている獅子の顔の周りに展開されたタテガミ部分に描かれている絵が回転。ブレイズは青い部分を下にしてその能力を発動した。

 

《大海の氷獣!》

 

するとブレイズのタテガミが鮫のような形に変化して海の力を剣に集約していった。

 

『海の戦士には海の力です!レオ・ブリザード・シー!』

 

《タテガミ大海撃!》

 

ブレイズが剣を振り抜くと鮫の歯のような形の氷塊が飛んでいき、デュランダルへと噛み付くと彼女にダメージを与えた。それによってデュランダルは吹き飛ばされると彼女を拘束していた足元の氷も消えた。

 

『くうう……』

 

デュランダルがダメージに耐えているとそこにブレイズが剣を突きつけていた。しかし、次の瞬間背中に何かが激突するとブレイズはそれを受け止めた。そこには傷だらけで意識が朦朧としているヒビキだった。

 

『ヒビキ!大丈夫ですか?』

 

『……ごめんサリー……負けちゃった……』

 

するとサリーの前にはヒビキを倒したサーベラが立っており彼女がヒビキをここまで痛めつけた元凶だということはハッキリとわかった。

 

『く……よくもヒビキを』

 

『私ばかり気にしても良いのかしら?後ろをよく見てみなさい』

 

ブレイズがハッとして後ろを振り向くとそこにはブレイズがヒビキとサーベラに気を取られている間にデュランダルは体勢を立て直しており界時スピアの持ち手から刃の部分を分離させると再度持ち手部分に結合。必殺技を発動させた。

 

《必殺時国!》

 

『オーシャン三刻突き!』

 

《オーシャン三刻突き!》

 

デュランダルが大海の力を集約させた突きを放つとブレイズは生身であるヒビキを庇って背中で攻撃を受け、その後吹き飛ばされると変身解除することになった。そして変身解除した影響か、流水と翠風が飛んでいくと塔に突き刺さり、サリーの持つライオン戦記とタテガミ氷獣戦記、ヒビキの持つ猿飛忍者伝の三冊の本がマスターロゴスの元に集められた。

 

『サリー、ヒビキ!』

 

『卑怯よ!あなた達も剣士でしょ!』

 

ダメージの大きさに悶えるサリーとヒビキを心配しながらクロムやイズはサーベラ及びデュランダルの戦い方に怒りを感じていたが、それを嘲笑うかのようにマスターロゴスはノーザンベースの剣士達とカスミを煽った。

 

『負け犬の遠吠えなんて聞きたくありませんねぇ。悔しければ取り返せば良いじゃないですか。……まぁ、もうあなた達に戦う術はありませんけどね』

 

『これもマスターのためよ』

 

『マスターの目的を邪魔する者は例えどんな手を使ってでも排除します』

 

それを聞いたサリーは痛みを堪えながら地面を殴り、涙を流していた。それほどまでに何もできない自分が悔しかったのだ。

 

『これで残る剣士はあと5人。サーベラとデュランダル、ファルシオンは味方なので良いですが問題は……』

 

マスターがそう呟いているとそこに2人の影が現れた。それを見たノーザンベースの者達は喜びの表情だった。それは彼等ならきっとどうにかしてくれるという期待の表れだろう。遂にセイバーとメイプルが到着したのだ。

 

「お待たせ。皆」

 

『セイバー……それにカリバーも。よく来てくれました』

 

『カスミ様、皆さん、今まで本当にすみませんでした』

 

メイプルは5人に頭を下げて謝罪すると5人は別段気にしていない様子だった。むしろ、メイプルが戻ってきてくれたことに歓喜しているぐらいである。

 

「反省は後だメイプル。やるぞ」

 

『うん!』

 

2人は烈火と月闇を出すとそれぞれ本を読み込ませてお決まりの言葉を叫ぶ。

 

《プリミティブドラゴン!》

 

《ジャオウドラゴン!》

 

《エレメンタルドラゴン!ゲット!》

 

《ジャオウリード!》

 

《烈火抜刀!》

 

《闇黒剣月闇!》

 

「『変身!」』

 

《バキッ!ボキッ!ボーン!メラ!メラ!バーン!シェイクハンズ!エレメンタルドラゴン!》

 

《Jump out the book.Open it and burst.The fear of the darkness.You make right a just,no matter dark joke.Fury in the dark. ジャオウドラゴン!》

 

セイバーはエレメンタルプリミティブドラゴンに、メイプルはジャオウドラゴンにそれぞれ変身。

 

そしてそれを見たサーベラ、デュランダルの2人はその2人の攻撃に備えて臨戦態勢を整える。それからセイバーはデュランダルに、カリバーはサーベラへと向かっていった。先程は不意を突いた攻撃でサーベラ、デュランダルが勝利したが今回はそうはいかない。何せセイバーもカリバーもサーベラ、デュランダルとは互角以上に戦うことができるからだ。

 

『今度は煙化を使っても大丈夫ですね』

 

《狼煙霧虫!》

 

サーベラは先程までのように煙化が全く通用しなくなった訳では無いので今度はしっかりと煙化を使いつつカリバーへと仕掛けていく。そしてカリバーもそれはわかっているので敢えて煙化を封じるのでは無く使わせる前提で戦闘を進めた。

 

サーベラは早速煙で5体の分身を作り出すと自分も含めた6人でカリバーを取り囲み、一斉に突撃した。カリバーはそれを見るとすぐに月闇で周囲を薙ぎ払うがどれも手応えは無く煙が打ち払われるのみだった。そしてサーベラの本体は一度カリバーの薙ぎ払いを煙化で防いでからすぐに背後で実体化。そのままカリバーへと一撃を放つ。

 

『もらったわ!』

 

『無駄よ』

 

次の瞬間、サーベラの横から闇の龍が噛み付くと彼女を地面に叩きつけ、そのまま半透明のエネルギーフィールドの中に閉じ込めた。サーベラはすかさず煙化で脱出しようとするが、エネルギーフィールドがそれを許すはずもなくサーベラの煙をブロックすると中で出られない事を悟ったサーベラは再び実体化した。

 

『残念だけどこれで終わりよ』

 

カリバーは剣を腰のホルダーに納刀してからトリガーを引いて闇の力を集約。必殺技を放った。

 

『月闇居合!』

 

《月闇居合!読後一閃!》

 

カリバーの放った闇の斬撃はエネルギーフィールドごとサーベラを斬り裂いて彼女を吹き飛ばすとダメージを与えた。それを見たデュランダルはサーベラの身を案ずるがそんな事させないとばかりにセイバーが追い討ちをかけていた。

 

「妹の心配なんてさせねーよ。お前の相手はこの俺だからな」

 

『く……異世界人の分際でマスターに楯突くなどなんたる無礼』

 

「やっぱお前も知らねーよな」

 

『何の事よ』

 

「お前ら2人共マスターに騙されているってことさ」

 

『あなた、マスターをも侮辱するの?許せないわ』

 

セイバーは敢えてマスターが怪しい事を言う事でデュランダルの猜疑心を煽るついでに彼女を逆上させて戦いやすくする狙いがあった。だが、流石に2度は通用しないのかデュランダルは最低限の怒りに収まり、いつも通りの戦いをしてきた。

 

「お、少しは成長したみたいだな。それでも勝つのは俺だけどな!」

 

デュランダルの中距離からの槍による攻撃をセイバーは物ともせずに防ぎ、躱し、反撃の剣撃で着々とダメージを蓄積させる。

 

『チッ……コイツ、どんどん私の動きに順応して……』

 

「残念だけど、お前の力はもう見切った。能力、防御のタイミング、体の動かし方のパターンもね」

 

『だったらこれで!』

 

《界時抹消!》

 

デュランダルはセイバー相手に破られた界時抹消を使用するとセイバーの背後に回って再界時。そのまま攻撃を繰り出そうとした。

 

「だーかーら、それはもう効かないって言ったでしょ!」

 

セイバーは難なくそれに対応するために剣を振り抜くとデュランダルに命中する瞬間、デュランダルは再度界時抹消を発動。そのまま今度は跳び上がって空中から槍を振り下ろす際に再界時した。

 

『これで!』

 

セイバーは2度目の界時抹消に驚く様子も無くそのまま水となって攻撃を受け流すと槍を振り下ろして隙だらけのデュランダルに赤く輝かせた烈火での攻撃を命中させた。

 

『がっ……』

 

それと同時にサーベラもカリバーに押されてデュランダルの元にまで飛ばされていた。セイバーとカリバーは2人を挟むように立っておりこのまま一気にトドメを刺そうとした。

 

「メイプル、決めるよ」

 

『うん!』

 

2人が必殺技を使おうとした瞬間、突如として上空からバハトが変身した不死鳥が飛んでくるとセイバーとカリバーには目もくれずにサーベラ、デュランダルを攻撃。そのまま2人は度重なるダメージで変身解除。狼煙と界時、昆虫大百科とオーシャンヒストリーはそれぞれマスターロゴスと塔へと飛んでいった。

 

マイとユイの姉妹は仲間であったはずのバハトの突然の裏切りに驚くと傷ついた体を引きずりながらマスターロゴスへと詰め寄った。

 

『マスター、これは一体どういう……』

 

『あなた達の役目はここまでです。あとはあの男に任せなさい』

 

2人が困惑した表情を浮かべる中マスターロゴスはあくまでも余裕そうな笑みを浮かべたままだった。それを見たユイは何かを言いたそうだったが、それをマイは押しとどめて2人はマスターロゴスの傍に立った。

 

『これで残すは3本。さぁ、見せてもらいましょう。2人がバハトをどう崩すのかを』

 

『お前達も剣士か。剣士は全て皆殺す』

 

《エターナルフェニックス!》

 

《抜刀!》

 

『シーッ。変身!』

 

《エターナルフェニックス!》

 

バハトがファルシオンに変身するとセイバーとカリバーの2人は協力して彼に立ち向かっていった。

 

セイバーとカリバーが炎と闇の力でファルシオンへと攻撃していくが、炎と闇を纏わせた烈火と月闇がファルシオンの持つ虚無に触れると炎と闇は急に喪失。ただの剣による一撃になってしまった。

 

『俺に属性攻撃は効かないぞ』

 

「なるほどねぇ。やっぱ無銘剣虚無の力は強大だな。それに俺の予想通りなら復活能力もあるだろ?」

 

それを聞いたファルシオンは狂ったように笑い出すとセイバーの仮説を肯定するように頷いた。

 

「だろうな。けど、それは俺達には想定内だぜ?」

 

セイバーとカリバーはここに来るまでの間、ただ歩いてきたわけではない。無銘剣の使い手であるファルシオンが敵として現れた場合の対処法も相談していたのだ。

 

「オラオラオラ!!」

 

まずはセイバーがファルシオンへと距離を詰めて攻撃を仕掛けていく。ファルシオンは難なくそれに対応するとすかさず反撃を仕掛けてセイバーを後ろへと下がらせた。その瞬間、カリバーがバックルに装填した本を月闇に読み込ませて必殺技を発動する。

 

《必殺リード!ジャオウドラゴン!》

 

『月闇必殺撃!』

 

《月闇必殺撃!習得一閃!》

 

カリバーが放った闇の龍を模した斬撃がファルシオンへと襲い掛かるとファルシオンはそれを剣で受け止めた。その瞬間、闇の龍は無の力によって強制的に消失。しかしその時には目の前にセイバーの姿は無かった。

 

『火炎剣の使い手がいないだと?』

 

「ここだよ」

 

ファルシオンが後ろを向いた瞬間、そこにはセイバーが烈火を腰のホルダーに納刀してからトリガーを引いて抜刀していた。セイバーは既にファルシオンの目の前にまで迫っていたため、もう虚無で防御する事は不可能だった。

 

《烈火居合!読後一閃!》

 

「うおらっ!」

 

セイバーの攻撃にファルシオンは両断されるとそのまま爆散し、その場には無銘剣虚無と地面に爆発によって発生した炎が残るのみだった。

 

「メイプル、今だ!剣を封印してくれ!!」

 

『勿論!』

 

セイバーとカリバーが狙っていたのはこの瞬間だった。セイバーはファルシオンが倒しても復活してくるのは以前に受けた無銘剣虚無獲得クエストで出てきた不死鳥が倒しても即復活したことから予想できていた。そのためにセイバーが立てた作戦はまず自分がファルシオンの不意を突いて一度倒し、その後復活するまでの間の僅かな時間ですかさず剣を封印して能力を無効にすることだった。

 

《ジャオウ必殺読破!ジャオウ必殺撃!》

 

『これで決まりよ!』

 

カリバーが無銘剣へと封印の力を込めた月闇を振り下ろすとセイバーは攻略する事に成功したと考えて余裕の表情でマスターロゴスを見据えた。

 

「マスターロゴスさんよ、マイとユイを騙して片付けたのは良かったけど俺達2人の連携は誤算だったな」

 

『えぇそうですとも。ただ、月闇だけで虚無が封印できると考えているあなた達の思慮の浅さに笑いが止まりませんがね』

 

「何?」

 

セイバーが振り向くとそこには虚無を包み込むように発生した小さなバリアフィールドが月闇から放たれる封印の力を無効化していた。

 

『なんで封印が効かないの?』

 

「馬鹿な……そもそも封印自体が通用しないのか?」

 

『あなた達は勘違いをしていますよ。無銘剣を封印するには光の剣、光剛剣最光もいるんですよ』

 

セイバーとカリバーはまさかの事実に唖然とした。虚無は月闇だけでは封印できないのだ。しかも肝心の最光はマスターの手にある上に封印されている。それはつまり、カリバーはだいぶ前から聖剣を封印する順番を間違えたということなのだ。そして、そうこうしている間にファルシオンが復活。セイバー達を嘲笑っていた。

 

『馬鹿な奴らだな。まさかこの剣の特殊性を見極められずに自ら敗北の道を進むとはなぁ!』

 

《必殺黙読!抜刀!不死鳥無双斬り!》

 

ファルシオンは自らが不死鳥へと変化するとセイバーへと突っ込んでいった。セイバーはなんとか耐え忍ぶために剣を構えるが、いきなりセイバーが押し倒されるとカリバーが代わりにファルシオンからの攻撃を受けて吹き飛ばされた。

 

『ぐああああああああああああ!!』

 

カリバーはファルシオンからの攻撃で変身解除すると月闇及びジャアクドラゴンの本がマスターロゴスの元に飛んでいき、それと同時に全ての聖剣の封印が解除されることとなった。

 

『聖剣の封印が解けた?』

 

『く……月闇の特性で一度所有者の手から聖剣が離れればこれまでやってきた封印が全て解除されるの』

 

「な!?」

 

メイプルが傷だらけになりながらもなんとか言葉を紡ぐが、力尽きて気を失ってしまった。セイバーはそれを見て怒りに震えていた。

 

『あははははははははは!!親と言い娘と言い本当に馬鹿な親子ですねぇ。親は私のメギド復活の計画に利用され、娘はここまで折角封印してきた苦労をたった一回の負けで水の泡にした。こんな滑稽な事がありますか?』

 

「……ふざけんな」

 

高笑いしているマスターロゴスをセイバーは睨みつけると彼へと突っ込もうとするが、そこにファルシオンが横槍を入れてセイバーを押し留めた。

 

『おいおい、俺を忘れたとは言わせないぞ?』

 

「わかってるよ……だからそこをどけ」

 

『あん?剣士は俺の獲物だ。獲物が勝手にどこかへ行くなよ』

 

ファルシオンがそう言うとセイバーへとオレンジに輝かせた虚無を振るいセイバーを斬り裂いた。しかし、セイバーはそれを片手で受け止めるとファルシオンを殴り飛ばした。そして、セイバーの感情の高まりに反応したのかインベントリから大きめな本が飛び出した。

 

「お前ら、もう許さないぞ。まずはバハト、お前からだ!感情の力を宿した龍の咆哮を聞け!」

 

《エモーショナルドラゴン!》

 

セイバーがそれを剣に読み込ませると粒子となってベルトへと装填。そのまま烈火を納刀してから抜刀。すると巨大な本がセイバーの後ろに降りてきた。

 

《烈火抜刀!愛情のドラゴン!勇気のドラゴン!誇り高きドラゴン!エモーショナルドラゴン!》

 

本が開くと中から赤、白、黒の龍が飛び出してセイバーの右腕、左腕、胸に重なっていくと装甲を形成。最後に仮面の部分にXの形をした炎が纏わり付き新たな仮面へと変化。セイバーは情龍の装備をそのまま纏ったような姿、エモーショナルドラゴンになった。

 

『ほう。まさかあなたがその力を手にしているとは』

 

『貴様……よりにもよってこの俺を破滅の書に封印した力を使うか』

 

「うるせぇよ……お前がどんな経緯で封印されたとか今はそんなのどうでも良い。今はお前達を倒す事で頭がいっぱいだからな」

 

セイバーがそう言うとファルシオンへと攻撃を開始。それを受けてファルシオンもセイバーの攻撃に対応していく。だが、感情の力が最大限にまで高まったセイバーの猛攻を前にファルシオンはただ押されるのみだった。

 

『何だと……聖剣の力は無効化してるのに何故これほどまでの力が』

 

「知らないのか?感情の力は人を強くする。先代のセイバーがそうだったようにな」

 

セイバーはそう言いながらファルシオンの斬撃をことごとく左腕に武装された盾で防ぎつつ烈火を振るいファルシオンを斬りつけていった。ファルシオンも辛うじてセイバーの攻撃を何回かは防げてはいるものの、それでもセイバーは止まらない。

 

『貴様、調子に乗るのもいい加減にしろ!』

 

ファルシオンはベルトの本を抜くとそれを剣へと読み込ませて不死鳥の力を剣に付与させた。

 

《永遠の不死鳥!無限一突!》

 

ファルシオンが虚無を振ると不死鳥のエネルギーがセイバーへと襲いかかり、セイバーはこれをまともに受けて爆炎に包まれた。

 

『セイバー……そんな』

 

『いや、待て!まだだ!!』

 

サリーが心配そうにする中、クロムが何かを見たのか叫んだ。するとそこにはダメージを負いつつも攻撃を受け切ったセイバーがゆっくりと歩いてくる姿だった。

 

『あれだけの攻撃を受けたのに何故……』

 

「残念だけど、俺はまだ終わらねーよ。未来を変えるまではな!!」

 

セイバーが走っていくとファルシオンへと突きを放ち、ファルシオンの持つ虚無を弾き飛ばした。そこからはセイバーの独壇場だった。セイバーから繰り出される斬撃がファルシオンの体を何度も斬りつけていき、その度にファルシオンは再生能力を使おうとしたが、それは発揮されなかった。

 

『馬鹿な……何故再生しない』

 

「悪いけど、この姿になると光と闇の力を両方扱える。つまり、お前の能力を一時的だけど封じれるってわけ」

 

セイバーはそれを言い終わると同時にファルシオンを両断して大きく怯ませるとその瞬間に生じた隙を使って後ろ回し蹴りを叩き込んだ。

 

「これで終わらせる!」

 

セイバーは烈火をベルトに納刀してから本を閉じ、そのまま抜刀して必殺技を発動。

 

《必殺読破!烈火抜刀!エモーショナル必殺撃!》

 

「うぉりゃああああ!!」

 

セイバーが赤く輝かせた烈火を振り抜き、ファルシオンをすれ違い様に両断した。ファルシオンはダメージに暫く耐えていたものの、炎、光、闇の三属性の力が込められた一撃がファルシオンの特性である再生能力を上回り、ファルシオンは爆散すると変身解除されて虚無とエターナルフェニックスの本がマスターロゴスの元へと飛んでいった。

 

『!?』

 

『ご苦労様ですバハト。あなたの役目はここまでですよ』

 

マスターロゴスは平気な顔をしてバハトを切り捨てるとバハトはそれを受けて不気味な笑いを浮かべながら消滅。彼の立っていたその場には何も残らなかった。

 

「お前……バハトさえも自分の駒ってわけか」

 

『その通りですよ。そしてあなたもです、セイバー』

 

マスターロゴスが手を翳すと衝撃波がセイバーへと飛んでいった。セイバーは突然の事に防御が間に合わず、その衝撃波をまともに喰らうと変身解除してしまった。

 

「がっ!?」

 

『なんで!?あの程度の衝撃波ならセイバーだって耐えられるはずなのに』

 

『まさか……今までのダメージが原因で……』

 

実はここまでの連戦でセイバーの体も限界が近くなっていた。そこにマスターロゴスからの強烈な不意打ち。万全な状態であれば耐えられただろうが、今は疲労とダメージで消耗している状態である。そんな状態での不意打ちは流石に耐えられなかった。

 

『あはははははは!!これで全て揃いました。11本の聖剣に19冊のワンダーライドブック。この条件を揃えるためにわざわざノーザンベースの剣士どもを釣り出した甲斐があったものです』

 

『もしかして、私達に儀式のことを伝えたのは……』

 

『全て私の計画の内ですよ。後はそこで這いつくばりながら見ていなさい。この私が神の力を得る瞬間をね!!』

 

マスターロゴスの思惑通り、この場には11本の聖剣全てとセイバー達が変身に使う本が19冊揃っていた。これらを使う事で初めて全知全能の書を復活させるための儀式を行える。もうセイバー達には戦う術は無い。このままでは全知全能の書が復活するのをただ黙って見ているだけになるだろう。

 

『それでは始めましょうか。今日この時を持って、全知全能の書を甦らせます!』

 

マスターロゴスが手にしている本を翳すと本はゆっくりと空中へと浮かんでいき、それと同時に11本の聖剣はセフィロトを描くように配置され、19冊の本もその周囲に円を描くように浮かび上がった。

 

すると11本の聖剣と19冊の本から発生するエネルギーがマスターロゴスが持っていた一冊の本に集約していき、少しずつだが本に力が蓄えられていった。

 

『ははははははは!!これで私は……神になる!!』

 

勝ち誇った笑顔を見せるマスターロゴスに対してセイバーはまだ諦めるつもりは無かった。しかし今の現状では烈火も無いので変身できず、全知全能の書が完成するのをただ黙って見ているしか無かった。

 

「儀式は始まったけど何か、何かまだ手はあるはずだ。考えろ。考えるんだ……」

 

『無駄ですよ。もうあなた方に止める手立ては……』

 

マスターロゴスがセイバーを煽るように話していると突如として空中へと伸びていく光の坂が出現した。

 

『セイバー!この道を駆け上がってください!』

 

セイバーが驚いて声のした方を向くとそこにはカスミが両手を翳して自身の力を解放。どうにかしてセイバーを儀式を行っている空中へと行かせるための道を切り拓いた。

 

『行ってくださいセイバー!』

 

『私達の分まで!』

 

『お前ならできる!』

 

『マスターロゴスの野望を打ち砕いて!』

 

「うぉおおお!!」

 

ノーザンベースの剣士達からのエールを受け、セイバーはカスミが作り出した光の坂を駆け上がっていく。それを見たマスターロゴスは驚きの顔だった。まさか変身する事ができないセイバー達には儀式を行なっている空中にまで手を出しにいく手段が無いと思っていたからである。そして、その慢心が隙を生んでしまった。セイバーが駆け上がる瞬間を狙えば撃ち落とせた可能性もあったが、そのチャンスを見逃してしまったのである。

 

『やめろ……神聖な儀式を邪魔するな!!』

 

マスターロゴスがセイバーに儀式への妨害を止めるように叫ぶが、マスターロゴスの言うことを今更セイバーが聞くわけがない。

 

「はぁああああ!!」

 

セイバーが走っていった勢いを利用して思いっきりセフィロトを殴るとそれに共鳴した火炎剣烈火がセイバーの元へと戻り、セイバーは烈火を手にするとそのまま烈火に赤い輝きを纏わせての斬撃を放ち、全知全能の書復活の儀式を強制中断させた。

 

『馬鹿な……あんな異世界人風情に……この私の計画が』

 

そして復活の儀式が中断された事でその生成に使われていた本と剣はそれぞれの持ち主の元へと戻っていった。その後、儀式の中心部にあり、全知全能の書となるはずだった一冊の本はその姿を変化させ、セイバー達が使う変身用の本へと変わり、マスターロゴスの手に収まった。

 

『これは……』

 

その瞬間、マスターロゴスの脳内に本の情報が流れ込んだ。その本が不完全ながらも全知全能の書であるということ、この本を使えば世界を意のままに作り変える事ができるということ、そしてこの本を使えばセイバー達同様に変身する事ができるということ。

 

『ククク……儀式は失敗。完全なる全知全能の書はまた次の機会にお預けですね。ですが、これさえあればもう剣士達など敵ですら無い』

 

その言葉を聞いた剣士達は驚きの表情を浮かべた。あの本にそれほどまでの力があるということを知らされたからである。セイバーは儀式を止められたことは素直に喜んでいたが、マスターロゴスが余裕そうな口ぶりを見るにまだ油断できないと感じ取っていた。

 

『ノーザンベースの剣士共、次に会うときは本当の絶望というものを見せてあげましょう。ではこれで』

 

マスターロゴスが手を翳すとそこに赤黒いエネルギーと共に一本の剣、カラドボルグが生成。それを振ると周囲に衝撃波が発生して剣士達がその衝撃波を受け切っている間にマスターロゴス及びマイとユイは姿を消し、その場は収められる事になるのであった。

 

 

おまけ

 

〜楓の木のギルドメンバーが剣士達に出会った時の反応〜

 

メイプル「私そっくりだ……私の名前はあなたと同じでメイプルです!よろしくね。もう1人の私!」

 

サリー「口調が違うのはちょっと調子狂うけどそれでも私は私ね。早速だけど、試しに自分を相手に勝負してみる?」

 

ヒビキ「私が目の前にいる……あ、こっちの私も鍛錬が好きなんだ。それじゃあこれから一緒に修行しに行こう!」

 

カナデ「僕があの剣そのものになる聖剣の役なんだね。僕だから頭良さそうだし僕とオセロで勝負してみようよ」

 

イズ「あなたがもう1人の私ね。えっと、刀鍛冶が専門なの?だったら同じ生産職どうし、語り合いましょう」

 

カスミ「わ、私がドレスを……可愛いが、もっとカッコイイ役は無かったのか?」

 

クロム「これが異世界の俺か……2人で組んだら強力な矛と盾になりそうだ」

 

マイ「本当に私なの?背も高いし、私も大きくなったらこうなるのかな?」

 

ユイ「お姉ちゃんの方もそうだけど私とそっくり。あっちの世界でも双子なんだ……」




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと神の力

マスターロゴスが行った全知全能の書降臨の儀式はセイバーの活躍によってギリギリの所で中断する事になり、完全な全知全能の書は生成されなかった。これにより、セイバーに出されていたミッションは一応クリアとなって次のミッションに進む事になった。

 

「何とか全知全能の書降臨は防げたけど……次のミッションは“神の攻略”で内容がマスターロゴスを一回撃破する……か。これ、今の状況的に絶対クリアさせる気ゼロのミッションじゃんかよ」

 

セイバーがそう嘆いているがそれも最もであった。何故なら全知全能の書の一部の力を使っているタテガミ氷獣戦記になったブレイズがあの実力なのに不完全とはいえ全知全能の書の力の殆どが集約されている本を持つマスターロゴスがどれほどの力を持つのか。考えただけでも恐ろしさを感じていた。

 

「ま、考えても仕方ない。それに今は煙の剣、時の剣、無の剣以外の全ての剣をこっちが所持している。戦いようはあるはずだ」

 

ちなみに、闇の剣を使っていたメイプルは儀式を巡る戦いが終わった後にノーザンベースへと戻ってきた。その際に今までの独断及び聖剣を勝手に封印したことを全員へと誠心誠意謝った。剣士達はそれを笑って許し、快く受け入れた。それからメイプルは闇黒剣をノーザンベースへと返上する事になり、カスミはそれを認め代わりにかつてメイプルが所持していた雷鳴剣を渡した。

 

『カスミ様、宜しいのですか?私は皆さんに酷く迷惑をかけて……』

 

『だからこそです。今まで犯した過ちは覆せませんがこれからの事は幾らでも変えられます。これはあなたの罪滅ぼしと思って世界のために戦ってください』

 

『カスミ様……ありがとうございます』

 

メイプルの復帰と聖剣の復活により剣士はセイバー、サリー、メイプル、クロム、ヒビキ、イズ、そして光の剣である光剛剣が戻った事でカナデも復活して合計7人となった。それから数日後、突然ヒビキがセイバーのいる部屋を訪ねた。

 

『セイバー、いる?』

 

「ヒビキ。どうしたんだ?」

 

『……マスターロゴスに操られて思ったんだ。私、強くなるために修行しに行ったのにまだまだ全然弱いんだなって』

 

「いやいや、ヒビキは今のままでも十分強いだろ。聞いた話だとサーベラともちゃんと戦えていたらしいし、カリバーともある程度は互角だったじゃん」

 

『でも結局は勝てなかった。私は2年以上も修行していたのにそれでも弱いままだった。それが悔しくて仕方ないの』

 

ヒビキは悔しそうに握り拳を強く握りしめていた。それを見たセイバーはある提案をする事に決めた。

 

「なら、俺と戦ってみるか?」

 

『え?』

 

「ヒビキの気持ちはよくわかった。それほどまでにヒビキが今すぐ強くなりたいというのなら対人戦で経験を積んだ方が良い。イメージトレーニングや体を鍛えるのも大事だけど実践での訓練も必要だからな。それに俺も本気のヒビキと戦ってみたかったし」

 

セイバーの提案にヒビキは頷くと早速訓練室へと移動。セイバーとヒビキはお互いに全力で戦うということを約束して向かい合った。

 

『手加減は無しよ』

 

《猿飛忍者伝!》

 

「俺もそのつもりだ!」

 

《プリミティブドラゴン!》

 

《エレメンタルドラゴン!ゲット!》

 

2人は本を剣に読み込ませてから構えを取り、掛け声を叫びその姿を変化させる。

 

《烈火抜刀!》

 

《双刀分断!》

 

「『変身!」』

 

《エレメンタルドラゴン!》

 

《風双剣翠風!》

 

2人はバトルフォームと剣斬へと変身すると烈火と翠風を構えた。剣斬は聖剣の封印が解除された事に伴って二刀流に戻っていた。2人は早速戦いを開始するとまずは先制攻撃とばかりに剣斬からの二刀流の斬撃を放つ。セイバーは最初の一撃を見切って回避すると烈火で攻撃を受け止めた。

 

「速い太刀筋に二刀流による手数の多さ。流石に修行を積んできただけの事はある。けど、それだけなら俺には届かないぜ」

 

『勿論これだけじゃないよ!』

 

剣斬が一旦セイバーから距離を取ると二刀流の翠風を合体させて手裏剣モードに変え、セイバーへと投擲。セイバーはそれを弾くとその瞬間、剣斬がセイバーの目の前にまで迫っていた。

 

「!!」

 

『やあっ!』

 

剣斬から繰り出されたのは何と跳び上がりつつの回し蹴り。セイバーは剣士でありながら格闘技を使ってくる剣斬に一時的に意表を突かれ、ガードの上からだが攻撃を喰らい後ろへと下がった。

 

「なるほど、この辺は俺達の世界のヒビキと同じか。あくまでこっちのヒビキは剣術がベースだけど格闘戦もいける辺りアイツらしいと言えばらしいな」

 

セイバーが剣斬の力を冷静に分析していると何かの気配を感じて咄嗟に剣を後ろへと振り抜いた。すると金属音と共に手裏剣モードの翠風が弾かれて飛ばされた。

 

「危なっ!!」

 

セイバーが弾き飛ばした翠風をよく見ると回転しながら再びセイバーの元へと迫ってきていた。これこそが剣斬ことヒビキが修行で獲得した力の1つであり、手裏剣モードの翠風が攻撃対象へと追尾するようにしてあるのだ。これならば仮に剣斬が格闘戦を仕掛けた際に生まれる隙をカバーする事や、敵の意識を翠風に散らせる事ができるだろう。

 

そうこうしている内にまた剣斬が拳や蹴りを仕掛けてくる。セイバーはそれを飛んでくる翠風共々烈火で捌きながらどう対処するか考えていた。

 

「中々やるな。ヒビキ、やっぱお前は強えーよ」

 

『これでもまだ足りないの!もっと強くならなきゃ何も守れないし救えない』

 

剣斬が跳びあがると空中で翠風をキャッチしてすぐさま二刀流に分割。そのまま剣に装填されている本を取り外してリードさせた。

 

《猿飛忍者伝!ニンニン!》

 

『疾風剣舞!二連!!』

 

《翠風速読撃!ニンニン!》

 

剣斬から繰り出された二連続の斬撃はセイバーに命中すると爆発を起こした。しかし、そこにあったのは土で自身の周囲を固めたセイバーだった。

 

『……え?』

 

その後土が砕けると中からセイバーが出てきて剣斬の胸を蹴り上げると剣斬は空中へと飛ばされ、その後セイバーは風に変化して剣斬の背後に回り込み、烈火を振り下ろした。

 

『がっ!!』

 

「詰めが甘いな。それに……何で翠風の一刀流モードを使わない?」

 

『それは……』

 

「さっきの斬撃、二刀流にしたおかげで手数は増えたけど一発辺りの威力が足りなかったから俺の土による防御を崩せなかった。違う?」

 

剣斬は痛い所を突かれたせいか俯いてしまった。セイバーはゆっくりと歩み寄るとある事を口にした。

 

「剣斬のスタイル的には二刀流の手数を利用するのもアリだけど、一刀流モードには一刀流モードの長所がある。例えば自分1人しかいない状況で守りが固くて中々崩せない相手が現れた時に火力を束ねた一刀流で一撃を重くすれば崩せる場合もあるからね」

 

セイバーのアドバイスに剣斬はなるほどと考えて頷いた。セイバーはそれを見てから勝負を再開。それからセイバーと剣斬の特訓は数十分程にわたって続くのであった。

 

その頃、サウザンベースの王の間ではマスターロゴスがメギドの幹部達と密かに密会を進めていた。

 

『ククク……この本さえあれば世界を統べる事など容易いですよ』

 

『そいつはよかったじゃねーか。これで俺達も好き放題できるわけだ』

 

『それで次は剣士達を潰すのでしょう?』

 

『勿論です。剣士共は私の理想の世界を叶えるためには邪魔な存在ですからねぇ』

 

『なら早い内にとっとと攻め込んで叩き潰そうぜ』

 

そう言って戦いたがるズオスやそれに同調するように頷くレジエルを見てマスターロゴスは首を横に振った。

 

『いえ、まだです。物事には順番があるんですよ。まずは剣士共を絶望の淵に叩き落とすのです。それから人々が泣き叫び、恐怖している様を見物してから一気に滅ぼす』

 

マスターロゴスが今後の方針についてメギド達と話しているとそこに2人の剣士が入ってきた。マイとユイの姉妹である。

 

『マスター、その話は本当なのですか?』

 

『私達剣士を排除するという今の話は……』

 

マイとユイは偶々マスターロゴスに伝えることがあり、王の間へと移動していたのだが王の間から何やら話し声が聞こえてきたので聞き耳を立てていたのだ。

 

『やっと私の真の目的を知りましたか。愚かな姉妹ですよ』

 

『それじゃあマスターは私達を』

 

『えぇ、騙していたんですよ。そもそも、全知全能の書を甦らせようとしている時点で気づくべきだったのに何の疑いもなく私に従うあなた達は実に滑稽でした』

 

その言葉を聞いた2人は驚きを隠せなかった。そして、マスターロゴスが真実を知ってしまった2人を生かして帰す訳がない。マスターロゴスが手を挙げると何かのエネルギーがレジエル、ズオス、ストリウスの3人へと入っていき3人はマイとユイを包囲すると攻撃する姿勢をとっていた。

 

『く……こうなったら……ユイ!』

 

『はい、お姉様。私達でマスターを……いえ、この下郎を倒します』

 

マイとユイは逃げられないと悟り、一矢報いるためにそれぞれの剣と本を出すのであった。

 

《昆虫大百科!》

 

《オーシャンヒストリー!》

 

《狼煙開戦!》

 

《界時逆回!》

 

『『変身!』』

 

《昆虫CHU大百科!》

 

《我なり!オーシャンヒストリー!》

 

2人がそれぞれサーベラとデュランダルに変身するとマスターロゴスへと剣と槍の先端を向けた。それはつまりマスターロゴスへの宣戦布告といって差し支えなかった。

 

『うらあっ!』

 

最初に仕掛けたのはズオスだった。ズオスが突進するとサーベラとデュランダルはそれを回避する。しかし、それに気を取られた事でレジエルとストリウスが2人へと襲いかかる。何とかサーベラとデュランダルはレジエルとストリウスが持つ剣の一撃を狼煙と界時で受け止めるがあまりのパワーに押し切られて斬撃を喰らった。

 

『どうして……前に戦った時はここまで強くなかったのに』

 

『さっきマスターから何かのエネルギーが入っていたけどそれはまさか……』

 

『やっと気づきましたか?それは私がメギド達をパワーアップさせるために投入したものですよ』

 

『どうした?俺達にすら勝てないんじゃマスターロゴスには勝てないぜ』

 

パワーアップした事で勢いづくメギドの3人の幹部に対してサーベラとデュランダルは劣勢に立たされていた。しかも、今のサウザンベースのこの状況で他の者から見た自分達はマスターに盾つく叛逆者として見なされるだろう。

 

『お姉様、このままここで戦うのは危険です』

 

『そうね、可能なら場所を変えたいけど……』

 

2人は何とか敵が圧倒的に有利なこの状況から抜け出すために撤退を考えていたが、3人の幹部達がそれを許すはずも無い。2人はメギド幹部達の連携を前に徐々に追い詰められていっていた。

 

『これでどうです?』

 

ストリウスが力を発動させると触手を伸ばして2人を滅多打ちにした。続けてレジエルが発生させた岩石による雪崩が2人を襲い、2人が何とかそれから抜け出すと今度はズオスの蛮刀による連撃を受けて2人は大ダメージを受けてしまった。

 

『あ……ぐう……』

 

『強すぎます……このままじゃ……』

 

疲労困憊の2人をメギド幹部が取り囲むとそれぞれがエネルギーの斬撃波を放ち2人をそのエネルギーで押し潰した。

 

『『きゃあああああああ!!』』

 

2人はあまりのダメージにその場に倒れ伏すと満身創痍となってしまった。3人の幹部の内、レジエルとズオスが2人の頭を掴んで無理矢理立たせると連続でガラ空きの腹にパンチをぶつけて怯ませるとそのまま2人は投げ捨てられて転がった。

 

『はぁ……はぁ……』

 

『おいおい、もう終わりかよ』

 

『不意を突いて精神が整ってない内に攻撃したとはいえこれは脆すぎますねぇ』

 

『所詮はこの程度って事かよ』

 

3人はサーベラとデュランダルが倒れているのを良いことに好き放題煽ると2人は立ちあがろうとするが、あまりのダメージに崩れ落ち悶えていた。

 

『3人共、そこまでですよ』

 

マスターロゴスはこれ以上はやる必要が無いとばかりに言い放つと3人はそれを聞いて下がっていった。

 

『あなた達はもう用済みです。どこにでも好きに行ってください。ただ、これ以上私に楯突いたら容赦はしませんが』

 

マスターロゴスが2人を煽るように言葉を言い放つと2人は悔しそうな顔をしながら何とか立ち上がってフラフラとその場を後にしていった。それを見届けるとマスターロゴスは後ろを振り返りつつ部屋の柱の内の一本を見ていた。

 

『あなたもコソコソと隠れていないで出てきたらどうです?無銘剣が戻った事で復活したのでしょう?バハト』

 

マスターロゴスがそう言うと柱の影からバハトが出てくるとマスターロゴスの元へと歩いていった。

 

『お前、神の力を手にしたらしいな』

 

『おや、てっきり私を攻撃するのかと思っていましたが随分と大人しいですね』

 

『ふん。俺としては世界を潰して剣士達を皆殺しにできるのなら誰でも良い。むしろお前の存在とその力は俺にとって必要だからな』

 

どうやらバハトはマスターロゴスへと敵対するつもりは無いらしくマスターロゴスはそれが本当だということを感じるとある提案をした。

 

『でしたら私と正式に組みませんか?私としてもあなたの存在は必要ですからね』

 

『好きにしろ』

 

バハトが了承した事で事実上契約が成立し、2人は協力者となるとマスターロゴスはバハトを伴ってサウザンベースから出発。街中に出現した。そしてマスターロゴス達が街に出てきたことに気づいたカスミは剣士達を招集。そこには特訓を終えたセイバーとヒビキもいた。

 

『マスターロゴスがバハトを連れて街に出現しました』

 

『バハトもだと?』

 

『彼は確かにあの時……』

 

セイバー達はバハトが消滅した所をちゃんと目撃していたために突然の復活には驚いていた。しかも、自分を駒として利用していたマスターロゴスに従っている事も理解できなかった。

 

「ようやくマスターロゴスとの直接対決の時が来たのか」

 

『はい。皆さん、マスターロゴスの力は強大です。どうか十分に注意してください』

 

『勿論、マスターロゴスが持ってるあの本の力がどれくらいのものかはわからないけど』

 

『私達なら絶対に勝てます』

 

それからノーザンベースに所属する剣士7人はマスターロゴスのいる場所に向かうとそこはとあるビルの屋上だった。マスターロゴスは剣士達が駆けつけたのを見ると不敵な笑みを浮かべていた。

 

『来ましたか』

 

「マスターロゴス!今日ここでお前を倒させてもらう」

 

『あなた達がこの私を?』

 

マスターロゴスはセイバーの言葉に狼狽えるどころか高笑いを始めると余裕たっぷりに言い放った。

 

『そんな事できるわけないでしょう。この私は神の力を得たのですから』

 

『やってみないとわからないわ。それに人数ではこっちが有利よ』

 

『聖剣を奪われて暫く暴れられなかったが、これでようやく戦える』

 

今まで聖剣を取られたり、封印されたりしていて戦えなかったイズやクロムはやる気が更に膨れ上がっていた。その一方で、バハトに質問を投げかける者もいた。

 

『バハトもどうして自分を見捨てたマスターロゴスについてるの?』

 

『そうだよ。マスターロゴスは世界を壊そうとしている。そんな人にどうして……』

 

『俺がそれを望んでいるからだ。確かに俺を切り捨てたコイツは許せない……が、それ以上にお前ら剣士達を俺は許すことができない』

 

するとバハトは脳裏にとある光景を浮かべるとそこには見るも無惨に殺されていく女性と子供がいた。バハトは一筋の涙を流して剣士達に向き合うと本を開いた。

 

《エターナルフェニックス!抜刀!》

 

『シーッ!変身』

 

《エターナルフェニックス!》

 

バハトがファルシオンに変身するとそれと同時に7人の剣士達は変身するために本を取り出した。

 

《プリミティブドラゴン!エレメンタルドラゴン!》

 

《タテガミ氷獣戦記!》

 

《ランプドアランジーナ!》

 

《玄武神話!》

 

《猿飛忍者伝!》

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!》

 

《エックスソードマン!》

 

7人がそれぞれ本を剣に読み込ませると本が剣やベルト、バックルに装填。そのまま7人はポーズをとって叫ぶ。

 

《烈火》

 

《流水》

 

《黄雷》

 

《抜刀!》

 

《タテガミ展開!》

 

《一刀両断!》

 

《双刀分断!》

 

《銃剣撃弾!》

 

《最光発光!》

 

「『『『『『『変身!」』』』』』』

 

《音銃剣錫音!》

 

《風双剣翠風!》

 

《ランプドアランジーナ!》

 

《エレメンタルドラゴン!》

 

《氷獣戦記!ガオーッ!》

 

《エックスソードマン!》

 

《ドゴ!ドゴ!土豪剣激土!》

 

7人が変身を完了するとそれを見ていたマスターロゴスは手を翳し、カラドボルグを呼び出すともう片手には不完全だが全知全能の書の力を宿した本を持っておりそれを開いた。

 

《オムニフォース!》

 

『何とも愚かな剣士達ですよ。勝てない勝負を私に挑むとは。……よろしい。愚かな人類への見せしめです』

 

マスターロゴスが本をカラドボルグに読み込ませると禍々しいエネルギー粒子と共に腰のバックルに装填され、マスターロゴスが上部のボタンを押すとページが更にめくられた。

 

『変身!』

 

するとマスターロゴスの背後に巨大な本が降りてくるとそれが開き、中から黄金の粒子と赤いガスが出てきてマスターロゴスを包み込んだ。

 

《OPEN THE OMNIBUS FORCE OF THE GOD!KAMEN RIDER SOLOMON!》

 

その姿は金と銀をメインにした鎧のような装甲に背中には赤黒いマントをして仮面は龍の顔を模したような形になっており、仮面の戦士ソロモンになっていた。

 

「おいおい、マスターロゴスも変身すんのかよ」

 

『神の力を手にした以上、私はもうマスターロゴスでは無い。これからは全知全能の神、イザク様と呼びなさい』

 

「へっ、誰がそんな呼び方するかよ!」

 

セイバーの言葉を皮切りに7人の剣士とソロモン、ファルシオンの2人が入り乱れての戦闘を開始。剣士達はセイバー、ブレイズ、バスター、スラッシュ、最光の5人がソロモンへと、エスパーダと剣斬の2人がファルシオンをそれぞれ受け持ち、数の有利を活かして戦闘を進めようとした。

 

だが、ソロモンの力は圧倒的だった。5人の剣士が繰り出す連続攻撃を物ともしないどころか、全てカラドボルグで捌きつつ左手から放出した衝撃波でセイバー達を怯ませてからカラドボルグでの斬撃波で全員を吹き飛ばした。

 

「こいつ、強い」

 

『でも、負けるわけにはいかねーんだよ!』

 

《激土乱読撃!》

 

バスターがエネルギーによって巨大化させた激土をソロモンへと振り下ろすとその質量で押し潰そうとするが、ソロモンはそれを左腕の装甲のみで受け止めるとそのまま激土を打ち破り、カウンターの斬撃波でバスターへとダメージを与えた。

 

『ならこれで!』

 

『はあっ!』

 

《錫音音読撃!》

 

《フィニッシュリーディング!サイコーカラフル!》

 

今度は最光とスラッシュがソロモンを同時に攻撃するが、ソロモンはそれを紙一重で体を逸らして回避。そのまま横に薙ぎ払って攻撃を命中させ、2人を退けた。

 

『このっ!』

 

「うらっ!」

 

《必冊凍結!流水抜刀!タテガミ氷牙斬り!》

 

最光とスラッシュへの攻撃で隙が出来たところにブレイズがソロモンの足元を凍結させて動きを封じ、それに合わせたセイバーと共に斬撃を繰り出す。

 

《必殺読破マシマシ!エレメンタル合冊斬り!》

 

『無駄です』

 

《OMNIBUS LOADING!SOLOMON BREAK!》

 

ソロモンがバックルの本を押し込んでから本を閉じ、バックル上部のボタンを一回押して必殺技を発動。手から放った強力な衝撃波がセイバーとブレイズを一瞬にして吹き飛ばし、2人の攻撃を阻止しつつダメージを与えた。そして、ブレイズがダメージを受けた事で足元の凍結も解除されてソロモンは自由に動けるようになった。

 

セイバー達がソロモンに圧倒されているようにエスパーダと剣斬もファルシオンに押されていた。

 

エスパーダと剣斬の連携をファルシオンは軽くあしらっており、2人はそれを崩すために必殺技を発動させていく。

 

《必殺読破!黄雷抜刀!》

 

《猿飛忍者伝!ニンニン!》

 

『トルエノ・デストローダ!』

 

『疾風剣舞・回転!』

 

《アランジーナ一冊斬り!サンダー!》

 

《翠風速読撃!ニンニン!》

 

剣斬が投擲した翠風が5つに分裂するとファルシオンがそれに気を取られている間にエスパーダが雷を纏いながら接近。すれ違い様にファルシオンを斬り裂いた。その後、5つの翠風がファルシオンを貫いていき、ファルシオンは爆散した。

 

『やった!』

 

『ッ!?待って、まだ……』

 

『やられたぁ……ふはっ!オラあっ!』

 

ファルシオンはすぐさま復活すると炎を纏わせた斬撃で2人をいとも簡単に吹き飛ばして他の5人の元へと叩き出した。

 

『不死身の体に聖剣の属性を無に返す能力……強い』

 

『こんなのどうやって勝てば……』

 

2人が考えているとエスパーダは何かに気がついた。そう、今ここには味方である7人が上手く固まっている。その状況で範囲攻撃を喰らえばどうなるのか。すぐにエスパーダは離れるように声を上げるがもう遅かった。

 

『待って皆、離れ……』

 

《OMNIBUS LOADING!SOLOMON STLASH!》

 

その間にソロモンが本を閉じてからページを1枚めくり、それから上部のボタンを2回押すとソロモンの真上に巨大なカラドボルグが現れ、セイバー達へと横一閃に薙ぎ払われた。セイバー達はそれをまともに喰らい全員変身解除されてしまった。

 

「く……まさかここまでの力を持っているなんて……」

 

『ククククク……不完全にも関わらずこの力を出せるとは。この力を持ってして私はこの世界を作り変える!』

 

ソロモンはそう言うとカラドボルグを掲げた。するとそこから大量の巨大な本が飛び出すと世界各地の空へと散らばっていった。

 

『あれは一体……』

 

『不味い、あの本は確か“終末の書”!あの本が開けば周囲の街は消滅してしまうと本に書いてあった!』

 

『よく知ってますねぇ。まぁあなた達にアレを止める方法なんてありませんが。それにしても実に滑稽ですよ。あれだけ私を止めると息巻いておきながらこのザマ、これ以上は見てられませんね』

 

ソロモンは倒れ伏す7人を見下すように一瞥するとファルシオンを連れてその場を去っていき、その場に残されたセイバーは悔しさのあまり地面へと思い切り拳を叩きつけるのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと逆転の策

元マスターロゴスことイザク及びバハトに大敗を喫したセイバー達。彼等は失意のままノーザンベースに帰還すると残っていたカスミと共にイザクとバハトを止めるための作戦を練ることにした。

 

『あの野郎、まさかあそこまでの力を持っているなんてな』

 

『私達とはまるで強さの次元が違う』

 

『どうにかできるの?あんな化け物』

 

「できます……探せばきっと何か手が……」

 

セイバーはそう言ったものの、今の戦力から考えて有効な作戦は考えられなかった。それほどまでにイザクの力は圧倒的なのである。そんな中、カナデが何かを思いついたのか手を上げた。

 

『一つ良い?』

 

「カナデ、何か思いついたのか?」

 

『うん。でもこれは直接イザクをどうにかする方法じゃない。仮にこれが上手くいっても戦局が好転するかはわからないよ』

 

カナデは自分の考えの不安要素を話すが、セイバー達はそれでも聞きたいと言い、カナデは考えを話すことになった。

 

『現状、敵と仮定できる存在は3つ。1つ、敵の大将であるイザク及び配下の剣士2人。2つ、イザクの配下の怪人達メギド。3つ、イザクと同盟を組む無の剣士バハト』

 

カナデはオセロの黒い面を使って敵を示し、もう片方の白い面を使って味方を表していた。そしてカナデは7枚の白いオセロの駒を置いた。

 

『これは味方として数えられる僕達の戦力。それで、ここからどうするかだけど』

 

『こうして見ると敵の戦力は圧倒的ですね』

 

そう、今現在味方である剣士は僅か7人なのに対して敵はその7人を圧倒したイザクとバハト、更に配下の剣士マイとユイにメギドの軍団も敵となれば戦力差はかなりのものだろう。

 

『だから僕の考えは敵にいる剣士、マイとユイを説得してこちらに引き抜く事。更にバハトを引き抜くか、無銘剣を奪ってこちらで使う事。メギドに関してはイザクが復活させた上に彼に従順だから絶対に寝返ることは無いからね』

 

『なるほど、確かにその2人と無銘剣を引き抜ければ聖剣がこちらで全て揃う』

 

『それならあの伝説の聖剣が使えるかもしれないわね』

 

カナデが描いているのは聖剣を全て揃えて伝説の聖剣を降臨させる儀式を行い、伝説の聖剣を持ってしてイザクに対抗する事であった。しかし、この作戦にはいくつか懸念点が存在する。まずはマイとユイである。

 

『でもマイとユイが素直にこちらに付くでしょうか?彼女達はイザクに心から従っていますしどうやっても引き抜ける気がしないんですけど……』

 

『その必要は無いわ』

 

サリーが考えていると突如としてブックゲートが開き、その中から傷だらけの体を引き摺り、互いに支えながらやっと立てているマイとユイの姉妹がいた。それを見た剣士達は何かの罠と考えて身構えるがセイバーはゆっくりと2人に近寄った。

 

「その傷、イザクが原因だな」

 

『えぇ、あのお方は……いえ、あいつは私達を不要と切り捨てました』

 

『もう私達はあいつに仕えていないただの野良剣士の身です』

 

『だからって俺達から聖剣を奪った事を忘れてないぞ』

 

『そうよ。いくらイザクからの命令だからって私を洗脳したりしたくせに』

 

ノーザンベースの剣士達は彼女達にやられた事を根に持っており、カナデはこのままでは受け入れるのは無理だと思っていた頃、セイバーは2人へと手を差し伸べた。

 

「……一緒に戦えませんか?俺達が今ここでいがみ合っても埒があきません。お互いに恨みはあると思いますがここは協力するべきです」

 

セイバーの言葉にマイとユイは驚いて顔を見合わせると2人でセイバーの手を取り優しく笑みを浮かべた。

 

『ありがとうセイバー……そしてごめんなさい』

 

『あれだけ敵対していた私達を許してとは言わない。けど、私達は私達が抱えた罪を償うためにあなた達に協力させてください』

 

セイバーはマイとユイを心から歓迎し、その様子を見ていたノーザンベースの剣士達に誰も文句を言う人はいなかった。こうして、最初の不安要素、マイとユイの問題は解決したのである。しかし、不安要素はこれだけでは無い。

 

『あの……喜んでいる所を申し訳ないのですが、バハトはどうするつもりなのでしょうか?』

 

カスミの問いに一同は頷いた。バハトの目的は剣士達を潰して世界を滅ぼす事。説得が通じるような相手では無いのは全員がよくわかっていた。そこでカナデが考えた案は次のようである。

 

『バハトについては最初は説得をするけど、どうしても無理な場合はセイバーが持っているエモーショナルドラゴンの力で彼を封印して無力化した方が良い』

 

『え、ちょっと待って。確かバハトは無銘剣と連動しているからそうしたら無銘剣ごと封印されちゃうんじゃ……』

 

『そこで僕の持つ光の剣の特性、聖と邪を分断する能力を使ってバハトと無銘剣を無理矢理引き剥がしてバハトだけを封印する』

 

バハトは無銘剣と一心同体のためにバハトを封印すれば無銘剣も同時に使えなくなる。そこでカナデはセイバーのエモーショナルドラゴンに目をつけた。それは唯一聖剣を使わずとも単独で光と闇の力を扱えるのでまず光の剣の力で邪悪な存在バハトと聖なる存在無銘剣を分断。それから光の力の補助を得た闇の力でバハトを再び破滅の書に封印する事である。

 

『それならどうにかなりそうかな』

 

『けど問題は今のエモーショナルドラゴンにそれだけの力が無いって事だよね』

 

第三の不安点、それはカナデの作戦を実行するにはエモーショナルドラゴンの力がまだ不足しているという点である。そもそもエモーショナルドラゴンの力でなら封印を扱えるが、光の剣そのものでは無いので聖と邪を分断する能力までは備わっていない。よって、この作戦自体をやることができないのだ。

 

『僕なら光と闇の聖剣を知り尽くしているし、僕がセイバーに指導するよ』

 

『じゃあカナデがセイバーを指導している間に襲撃を受けたら私達で何とか抑えないとね』

 

「………」

 

トントンと話が進んでいく中、セイバーは乗り気では無かった。何故ならバハトを無理に封印しなくても何か彼も救う手立てがあると思っているからである。しかし、その具体的な救う方法が浮かばずに悩んでいる所だった。

 

『セイバー、どうしたの?』

 

「いや、今はこの作戦が1番妥当なのかもしれないけどさ、どうにかしてバハトさんを救う方法が無いのかなって。そりゃあそんな事ができるのならとっくにやってるとは思うけど……それでもどうにかできないのかなって……」

 

セイバーの言葉に他の皆も共感はしているようだったが、それでも彼の存在は危険だという気持ちが勝っているのかその場に気まずい雰囲気が流れた。

 

『僕もバハトを説得した方が良いに越したことは無い。けど、どうしても説得が不可能だという事がわかった時に何の策も無しだと勝てなくなる。だからセイバー、今回は受け入れてくれるかな』

 

カナデがそう言うとセイバーは観念したかのように溜息を吐いてからカナデの提案を受け入れることにした。しかしここで四つ目の不安点が浮かび上がる。伝説の聖剣を呼び出す方法がわからない事に加えてそもそも伝説の聖剣を使えば必ず勝てるというわけはない点である。

 

しかし、その点に関してはやってみない事には何も始まらないという事でひとまず置いておき、伝説の聖剣を呼び出す事に賭けてみる事にした。

 

「それなら早速特訓を始めよう」

 

『うん。カスミ様、闇黒剣を僕に』

 

『わかりました』

 

カスミは闇黒剣が保管されている部屋へと入っていくと闇黒剣を持って戻り、それをカナデへと手渡した。すると闇黒剣はカナデそのものが光剛剣だからか共鳴を始めた。

 

「カナデ、指導をお願いします」

 

『わかった。それじゃあ訓練場に行こう』

 

そう言ってセイバーとカナデは訓練室の中へと入っていく。そして残された面々はイザク達が現れるのを警戒しつつセイバー達の特訓が終わるその時まで時間が過ぎるのを待つのであった。

 

その頃、サウザンベースではメギドの3人の幹部が暇を持て余しており、イザクが帰還すると珍しく文句を言い始めた。

 

『おい、いつになったら俺達を暴れさせてくれるんだ?』

 

『そろそろ我慢も限界だぜ』

 

『私としても良い加減外の世界で暴れてみたいのですが』

 

3人の意見にイザクは首を横に振るとまだその時では無いとばかりに話を始めた。

 

『あと少しだけ待ちなさい。今世界各地に“終末の本”を展開しました。その本は少しずつですが開いています。それが完全に開いた時があなた達が暴れる時です』

 

『具体的にはあと何日だ』

 

『そうですねぇ。自然解放になればあと1日といった所です』

 

それを聞いたメギド達はあと1日程度なら何とか我慢できると思いその場は引き下がる事になった。するとそこに王の間の扉が開いて多くの衛兵がやってきた。

 

『何事ですか?』

 

イザクの問いにむしろ聞きたいのはこっちの方だと言わんばかりに衛兵達は抗議をし始めた。

 

『マスターロゴス、これは一体どういう事ですか?』

 

『何故敵であるはずのメギドがここに……』

 

『しかもマイさんとユイさんを追い出して何をなさるおつもりで……』

 

次の瞬間、イザクを問い詰めていた衛兵はイザクが手を翳した瞬間に吹き飛ばされて一撃で絶命した。

 

『うるさい虫共ですねぇ。もはやあなた達など必要ない。メギドの皆さん、丁度いい遊び相手ができたので遊んできなさい』

 

イザクの言葉にレジエル、ズオス、ストリウスは喜んで衛兵達の殺戮を開始した。衛兵達はイザクに見捨てられてただメギド達に殺されていくのみだった。これにより、サウザンベースは完全にメギドの手に落ちてしまうこととなった。

 

『では私は愚かな人類に終焉の宣伝をするとしましょう』

 

イザクはオムニフォースの力で世界中の上空に自身の姿を投影すると高らかに宣言を始めた。

 

『この世界に生きる人類の皆さん、こんにちは。私の名は絶対の神イザク。明日の正午、この世界を創り変えます。それに先駆けてあなた達の泣き叫ぶ顔をたっぷりと堪能させていただきますのでよろしくお願いしますね』

 

イザクはそう言うとオムニフォースの力で世界中に散らばった終末の本の内の1冊を強制的に解放させると街一つが一瞬にして消滅してしまった。そしてそれを見た人々は恐怖に慄きその場から逃げ始めた。

 

『あはははははははははは!!これで人類の皆さんも少しは理解したでしょう?逃げ場なんて無いのでそのつもりで』

 

イザクはそう言い残すと上空から姿を消し、満足そうにしていた。そんな中、バハトはメギドの方に加勢に行くわけでもなくのんびりとしていた。ようやく自身の望む世界の崩壊が迫っているので当然と言えば当然なのだが。

 

そして、それを阻止するためにセイバーとカナデはノーザンベースの訓練室で特訓を始めようとしていた。

 

「こうして一対一でやり合うのはこれが初めてだな」

 

『もう一刻の猶予もない。始めるよ』

 

「ああ」

 

《エモーショナルドラゴン!》

 

《エックスソードマン!》

 

「『変身!」』

 

《烈火抜刀!エモーショナルドラゴン!》

 

《最光発光!エックスソードマン!》

 

セイバーとカナデは変身するとそれぞれ剣を構えてから走っていき、激突を開始する。最光が言うには聖と邪を分断する力を得るには自分で感覚を掴むしか無い。元々最光もこの能力が最初から使えたわけでは無く、厳しい鍛錬を積む内に自然の身についたので今回も地道にやっていくしかないのだ。しかし今回は時間がない。僅か1日という猶予しか無い中で身につけるしか無いのだ。

 

『僕がまず見本を見せるからやってみて!』

 

最光が光剛剣の力を解き放つと聖と邪を分断するエネルギーを生成。そのまま金の光と共にセイバーを斬りつけた。セイバーはそれを盾で受け止めるもののその威力に後ろへと下がり、バランスを崩しかけた。

 

「なるほど、そんな感じね」

 

今度はセイバーが最光の動きを真似て力を集約させるが突然その力は集まるどころか逆に消えてしまった。

 

「あれ?」

 

『それじゃダメだよ。セイバーは力が入り過ぎてる。もっと自然にだよ』

 

セイバーは深呼吸すると最光の指示通りに力を抜いた状態で力を集約させていくと今度は成功するかに見えたが、またもや力が消えてしまった。どうやら最光とは別の手順を踏まないと上手く力が集まらないようだ。そもそも烈火は火の聖剣なのに光の力を引き出そうとしている時点で中々上手くいかないのは当然と言えるだろう。

 

『もう一回だよ』

 

最光が再び光の力でセイバーに聖と邪を分断する斬撃を見せてからセイバーはまたそれをやろうとするが、何度やっても同じなのか失敗してしまった。

 

「クソッ……なんで上手くいかないんだ……」

 

それから何度も何度もセイバーは挑戦と失敗を重ねるが、それでもまだ上手くいかなかった。特訓開始から3時間が経過したがそれでも一回も成功せず、セイバーはどうすれば良いのかわからずに考え込んでしまった。

 

「何回やっても失敗ばかり……時間も無いってのにこんなのどうしたら……」

 

『何で上手くいかないんだろう……セイバーの力が足りないんじゃない。むしろエネルギーは十分高められているのにそれが集中させられていない』

 

それからセイバーと最光は試行錯誤を繰り返しながら聖と邪を分断する斬撃を特訓していくのであった。それから半日が経過。イザクが予告した世界滅亡のタイムリミットが迫る中、イザクはいつでも世界を滅ぼせるように街に繰り出していた。

 

『もうすぐ時間です。私の力でこの世界を新たに創造し、私が思うがままに世界をまわす。今日はその第一歩ですよ』

 

イザクが余裕を見せる中、そこにノーザンベースから出撃した剣士達7人が集まった。

 

『そこまでです!イザク』

 

『あなたの野望を今ここで打ち砕きます』

 

『剣士共ですか。あなた達は昨日の経験を全く活かせないようですねぇ。何度私に挑んでも結果は同じですよ』

 

《オムニフォース!》

 

イザクがそう言って本を取り出すとそれをカラドボルグに読み込ませてバックルに本が移行。そのまま上部のボタンを押した。

 

『変身!』

 

《OPEN THE OMNIBUS FORCE OF THE GOD!KAMEN RIDER SOLOMON!》

 

イザクがソロモンへと変身するとそれを見た7人もそれぞれ本を取り出して変身していくためのシークエンスを進める。

 

《タテガミ氷獣戦記!》

 

《ランプドアランジーナ!》

 

《ニードルヘッジホッグ!》

 

《玄武神話!》

 

《猿飛忍者伝!》

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!》

 

《昆虫大百科!》

 

《オーシャンヒストリー!》

 

《流水》

 

《黄雷》

 

《抜刀!》

 

《タテガミ展開!》

 

《一刀両断!》

 

《双刀分断!》

 

《銃剣撃弾!》

 

《狼煙開戦!》

 

《界時逆回!》

 

『『『『『『『変身!』』』』』』』

 

《氷獣戦記!ガオーッ!》

 

《ランプドヘッジホッグ!》

 

《土豪剣激土!》

 

《風双剣翠風!》

 

《音銃剣錫音!》

 

《昆虫CHU大百科!》

 

《オーシャンヒストリー!》

 

7人の剣士達は変身を完了すると早速ソロモンへと向かっていく。ソロモンはそれを余裕たっぷりに相手する事になる。剣士7人による共闘でソロモンを追い詰めようとしたが、それでもソロモンを突き崩す事ができない。剣士達の中で一番の戦力であるセイバーがいないのが響いているのかソロモンは7人を相手にしてもまだ余裕そうだった。

 

『クソッ、7人でかかってるのにこれでも勝てないなんて』

 

『逆に7人程度でこの神に勝てると思っているのは心外ですねぇ』

 

『皆、一斉に攻撃をぶつけるんだ!』

 

《必冊凍結!流水抜刀!タテガミ氷牙斬り!》

 

《必殺読破!黄雷抜刀!ヘッジホッグ!アランジーナ!二冊斬り!サ・サ・サンダー!》

 

《玄武神話!ドゴーン!激土乱読撃!ドゴーン!》

 

《猿飛忍者伝!ニンニン!翠風速読撃!ニンニン!》

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!イェーイ!錫音音読撃!イェーイ!》

 

《狼煙霧虫!煙幕幻想撃!》

 

《必殺時国!オーシャン三刻突き!》

 

7人は同時に必殺技を発動。ソロモンを取り囲んで斬撃波を四方八方から浴びせるがソロモンはそれを自身の周囲に展開したエネルギーのバリアで全て防ぎつつカラドボルグで逆に薙ぎ払い全員にダメージを与えて吹き飛ばした。それからソロモンがバックル上部のボタンを2回押すと本のページがめくられてソロモンの更なる力が発動された。

 

『エビルゴッドゾーン!』

 

《EVIL GOD ZONE!》

 

するとソロモンを中心に8人が亜空間へと強制転送され、そこには仮想現実の空間が広がっていた。ソロモン以外の7人が混乱している間にソロモンがカラドボルグを掲げると上から流星群が降り注ぎ、7人はそれをまともに受けてたった一撃で大きなダメージを負わされる事になった。

 

『あぐぅ……やっぱり強い』

 

更に7人に襲いかかったのは重力の増加による圧力だった。これにより動きが鈍った所にソロモンは容赦なくカラドボルグで斬りつけていく。唯一界時抹消による負荷に慣れているデュランダルだけは普通に動けたが、7人でさえ苦戦するのにたった1人では対応できるわけがなく圧倒されていった。

 

『クソッ、このままだと昨日と全く同じじゃねーかよ』

 

『どうにかしてソロモンの隙を付かないといけないのに』

 

するとソロモンはエビルゾーンを解除して元の空間に戻ると両手を広げてノーガードの姿勢を取った。

 

『何のつもり?』

 

『見ての通りですよ。あなた達が弱すぎて相手にすらならないのでこうやってチャンスをあげてるんじゃないですか』

 

『馬鹿にして……』

 

7人はダメージを負った体を何とか立ち上がらせるとソロモンへと走っていくが突如として降り注いだ炎の不死鳥が7人を吹き飛ばして再び地面へと倒れさせた。

 

『おい、そろそろ俺にも暴れさせろ。剣士はこの手で皆殺す』

 

とうとうソロモン側にも加勢としてファルシオンが加わってしまった。7人の時でさえソロモンに負けていたのにそこに相手側の戦力増加ではもう勝ち目は万に一つも無いだろう。それでも7人は諦めるつもりはなく、立ち上がると全員で鼓舞し合いながらこの絶望的な戦いに身を投じていくのであった。

 

同時刻、セイバーと最光はもう何度目かわからないほどに練習した聖と邪を分断する斬撃をやろうとするがまたもやエネルギーを集約できずに失敗。セイバーはとうとう疲れからかその場にへたり込んでしまい消耗しきった様子だった。

 

『セイバー大丈夫?今回復を……』

 

「いや、しなくて良い。回復なんかに甘えてたら僅かな突破口も見えなくなる」

 

セイバーは最光の回復を拒否するとまた斬撃の練習をし始めた。するとセイバーの剣が赤く輝き始め、そこにエネルギーが集中していくと烈火が更なる光に包まれていく。

 

『これは……』

 

「うぉりゃあああ!!」

 

その状態でセイバーが斬撃を繰り出すと最光と全く同じ斬撃へと昇華され、ようやく成功したのであった。

 

「できた……のか?」

 

『うん。成功だよ』

 

「良し!これでやっと皆の元に加勢に行ける!……あれ、でも何で今回は成功したんだろ?」

 

『多分原理はこうだと思う。今までは集約させるエネルギーは十分だったけどそのエネルギーが定着するための土台が無かったんだ。だから技を撃つまでエネルギーが維持できずに消えてしまった。けど今回は烈火に赤い輝きが纏われた事でエネルギーがいつもより定着するようになったんだ』

 

「なるほどね。それじゃあ、原理もわかったところで皆の所に……」

 

『ストップ。流石に今はセイバーの疲労が半端ないでしょ。先に回復だけするよ』

 

最光が光を照射するとセイバーの体の疲労が取れていき、万全な状態へと戻った。

 

「体が……軽い!ありがとうカナデ」

 

それから2人は変身を解いてから他の7人の元へと急ぐのであった。そして、その7人はソロモン達を相手に絶望的な戦いをしており、蹂躙されていた。

 

『終わりです。エビルゴッドスラッシュ!』

 

『不死無双斬り!』

 

《EVIL GOD SLASH!》

 

《必殺黙読!抜刀!不死鳥無双斬り!》

 

ソロモンがバックル上部のボタンを1回押してページをめくるとカラドボルグに赤黒いエネルギーが高められていく。ファルシオンの方も虚無を納刀してから抜刀し、そのまま斬撃を繰り出した。その斬撃が7人を襲うとここまでの戦いで深い傷を負っていた7人は堪らず吹き飛ばされて変身解除されてしまった。

 

『『『『『『『うわぁああああああああ!!』』』』』』』

 

『無様ですねぇ。やはりこの私に敵う者など存在しないという事ですよ』

 

『まだです……まだ私達は負けてない』

 

『ふん。そんなボロボロな体で何ができる?』

 

『諦めなければ……私達は何度だって立ち上がれる!』

 

7人の中で他の5人よりダメージが僅かに浅かったサリーとメイプルが立つとそれぞれ本を取り出して再び変身した。

 

《ライオン戦記!》

 

《ランプドアランジーナ!》

 

『『変身!』』

 

《流水》

 

《黄雷》

 

《抜刀!》

 

《ライオン戦記!》

 

《ランプドアランジーナ!》

 

『基本フォームごときでどうにかなるとでも?』

 

『私達を侮らない事ね……』

 

『舐めてると痛い目を見ますよ。……セイバー、私に力をください!』

 

ブレイズはそう言うとセイバーが特訓に入る前に彼女に渡したある本を取り出した。それは……

 

《エレメンタルドラゴン!》

 

ブレイズが本を読み込ませると本がベルトに移行してブレイズは剣を納刀してから抜刀。その力を解き放った。

 

《マシマシ抜刀!》

 

《エレメンタルマシマシ!乗せメンタルマシマシ!増しメンタルマシマシ!エレマシ!》

 

するとブレイズの体が水流へと変化し、ソロモンへと近づいていくと彼に纏わりついて羽交締めにした。

『ほう。やりますねぇ』

 

『今です!』

 

『ありがとうサリー!』

 

ブレイズが作った一瞬の隙を逃さずにエスパーダは跳びあがると黄雷を納刀してトリガーを2回引き、必殺技を発動した。

 

《必殺読破!》

 

『アランジーナ・ディアブロー!』

 

《アランジーナ一冊撃!サンダー!》

 

エスパーダが雷を纏わせたキックを放ちソロモンを仕留めようとするが、それをファルシオンが許すはずも無くソロモンを拘束しているブレイズの背中をファルシオンが斬りつけると無銘剣の能力で水流化していたブレイズは強制的に元に戻されて拘束を解いてしまい、それによって自由になったソロモンがエスパーダのキックを紙一重で躱すと足を片手で掴みそのまま振り回して地面へと叩きつけてエスパーダは変身が解けてしまった。

 

『あ……うぅ……』

 

更にフラフラと足元がおぼつかないブレイズにもソロモンからの衝撃波を受けて吹き飛ばされる事になり変身が解除される事になった。

 

『きゃあああああ!!』

 

2人はタダでさえ深いダメージを受けていたのにそこに更なるダメージを受けて2人は意識が朦朧としておりそんな2人へとソロモンはトドメを刺すために剣を振り上げた。

 

『まずはあなた達です。失せなさい』

 

それを見た他の剣士達はそれをただ這いつくばって見ているしかできなかった。その場の誰もが2人を殺されると思ったその瞬間、いきなり光剛剣が飛来するとソロモンが振り下ろした剣を受け止めた。

 

《最光発光!Who is the shining sword?》

 

『何だと!?』

 

『はあっ!』

 

最光はそのままカラドボルグを押し切ると再度斬りつけるが、今度はソロモンが最光を弾き飛ばし、最光は吹っ飛ぶ衝撃を活かしてエックスソードマンに変化して剣を構えた。そこにセイバーが烈火と月闇を持って走ってくる。

 

「お待たせ!」

 

『遅いのよ……セイバー』

 

到着したセイバーの前にソロモンとファルシオンが立ちはだかる中、セイバーの目は勝つ気だった。

 

『あなた1人が来たところで無駄ですよ。形勢は覆らない』

 

「かもね。けど、だからってここで逃げるわけにはいかないんだ!」

 

セイバーはそう言って月闇を最光に手渡してからエモーショナルドラゴンの本を使用すると烈火を構えた。

 

《エモーショナルドラゴン!》

 

《烈火抜刀!》

 

「変身!」

 

《烈火抜刀!愛情のドラゴン!勇気のドラゴン!誇り高きドラゴン!エモーショナルドラゴン!》

 

セイバーはエモーショナルドラゴンへと変身するとソロモンでは無くファルシオンを見据えた。そして、彼へと向かっていくのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと創世する未来

セイバーは危機的状況に陥っていた7人の剣士達の元に着くと当初の予定通りエモーショナルドラゴンへと変身を果たした。

 

《烈火抜刀!》

 

「変身!」

 

《愛情のドラゴン!勇気のドラゴン!誇り高きドラゴン!エモーショナルドラゴン!》

 

セイバーはエモーショナルドラゴンへと変身するとソロモンでは無くファルシオンを見据えた。そして、彼へと向かっていくのであった。ただ、それをソロモンが見逃すはずがない。ファルシオンへと向かっていくセイバーを横から攻撃しようとするとそこには光剛剣と闇黒剣の二刀流となった最光がソロモンの剣、カラドボルグを受け止めていた。

 

『む……』

 

『お前の相手は僕だよ』

 

『貴様程度で止められるとでも?5人がかりどころか7人がかりでも止められなかったのになぁ!』

 

ソロモンが容赦なくカラドボルグを振るい最光を攻撃するが最光はそれを二刀流の聖剣で上手くいなし、捌くことで攻撃を凌ぎつつ月闇の力で闇の鎖を発生させるとソロモンを拘束。ソロモンはそれを破壊しようと力を込めるがそれは中々外れなかった。

 

『なんだと!?聖剣の力ごときでこの私が……』

 

『僕の力を侮っているのなら痛い目を見るよ』

 

ソロモンが全ての力を出し切っていないとはいえ、最光はたった1人でソロモンに対応する事ができていた。これにはある理由が存在する。光の剣である光剛剣と闇の剣である闇黒剣の2つを揃えた上で使いこなすと2本の剣が共鳴し、持ち主に更なる力を引き出させる事ができるのだ。

 

そして、2つの聖剣の力をフルに引き出す事ができた者にのみ使う事ができるとっておきの技がある。それは……

 

『セイバーの邪魔はさせないよ。イザク、君には一旦退場してもらう!』

 

最光が光剛剣と闇黒剣を光り輝かせると2つの剣の力は最大限にまで高まっていきそこから繰り出された斬撃はソロモンの後ろでブラックホールとホワイトホールへと変化。そのまま2つの穴は合体するとソロモンを吸い込んでいく。

 

『こんな物にこの私が……ちくしょおおおおお!!』

 

ソロモンが吸い込まれると穴は閉じ、一時的にソロモンを封じ込める事に成功した。だが、最光は今の攻撃で力を使い切ってしまったのかその場に膝を着いてしまった。

 

『セイバー、あとはお願い。今のうちにバハトを』

 

その頃、セイバーとファルシオンの戦いは一進一退の互角の攻防になっていた。

 

「お前、前よりも更にパワーアップしてるな。カナデとの修行が無かったらやられてたのは俺だったぞ!」

 

『セイバー、お前に問う。何故世界を救おうとする。こんな世界など消してしまうべきだというのに!』

 

「そうかもな。俺だってこの世界が憎いって思う事が無いわけじゃない。けどな、だからってお前みたいに世界を滅ぼすなんて事はしない。そんなのは世界が自分に課してくる不条理から逃げているだけだ」

 

セイバーの言葉の後、ファルシオンは突如として怒り狂ったようにエネルギーを放出。その衝撃波でセイバーは数歩押し戻された。

 

「ぐ……なんつーエネルギーだよ」

 

『貴様、よりにもよってこの俺を侮辱したな』

 

「はぁ?何でそうなるんだよ。何か後ろめたいことでもあったのかよ」

 

セイバーがそう聞くとファルシオンはゆっくりと話し始めた。己が何故世界を滅ぼすべきだと言っているのかを……。

 

〜回想〜

 

時は2000年前にまで遡る。当時バハトが生まれて育ったその時代、その時のバハトはまだ普通のどこにでもいる人間だった。彼は王族を守る聖騎士団の1人であり、団の中で彼は一番の力を持った男であった。そんな彼の側には妻や子供もいて幸せな家庭も築いていた。

 

そんな彼をある日、悲劇が襲った。その国の王の死により幼い王の息子と王の弟のどちらが国を受け継ぐのか、その問題で国は真っ二つに割れて戦争を始めたのだ。

 

聖騎士団の面々は王の弟について戦争を有利に進めていたのだが、敵方の調略により聖騎士団の中でバハトが気に入らないと思っていた仲間が次々と寝返り、それをきっかけに弟の軍は総崩れとなったのだ。

 

『何故だ……何故お前は俺達を裏切ったんだ!!』

 

『何故?そんなのお前が気に入らないからに決まってるだろ?一番の実力を持っているからって調子に乗りやがって。そもそもお前と同列に数えられること自体が不服なのにお前だけ持ち上げられていくのはもう我慢ならん』

 

それから戦争には息子の軍が勝利。バハトは負傷すると家族を連れて隣国へと亡命しようとした。だが、そう簡単に事は進まなかった。

 

バハトとその家族は指名手配されて瞬く間に見つかり、元々仲間だった聖騎士団の面々に取り囲まれるとバハトは負傷した体を何とか動かしながら戦った。しかし、それで家族を守り切れるわけがなく家族はバハトの目の前で無惨に殺されてしまった。

 

『うぁああああああああ!!』

 

バハトはその場から何とか1人で逃げ出すと悲しみに暮れてた。そこにどこからともなく一本の剣が飛んできた。それが無銘剣虚無だったのだ。虚無はバハトの前に突き刺さるとその隣にエターナルフェニックスの本が置かれ、バハトがそれを手に取ると炎と共にファルシオンへと変身。

 

『うぉおおお!!俺は力を手に入れた……全てを滅ぼす破滅の力を!!』

 

ファルシオンとなったバハトは荒れると近くにあった街を壊滅。彼の本能が思うがままに暴れ回った。そして、自分の家族を惨殺した聖騎士団の仲間を皆殺しにし、国すらも滅ぼした。

 

誰も暴走したバハトを止められる者はいなかったのだ。ただ1人の勇者を除いて……。

 

『……お前がバハトか』

 

『あん?貴様は誰だ?』

 

『俺の名はダイチ。バハト、お前の横暴は目に余る。そしてこの世界の秩序を乱すとマスターの指示だ。お前を封印する』

 

その男は強かった。バハトが変身したファルシオンを相手に彼は火炎剣烈火を使ってセイバーエモーショナルドラゴンへと変身するとただの一撃も喰らう事なくファルシオンを封殺。そのままファルシオンを一冊の本に封印してしまった。

 

〜現在〜

 

『こうして俺はあの男に封印されてから1人でずっと考えていた。世界を滅ぼすべきだと。人間は愚かで生きている価値すらないとな』

 

「………お前が悲しい過去を背負っているのはよくわかった。けど、だからこそこの世界で生きていかないといけない。お前が見たのは人間のごく一部に過ぎないんだ!」

 

セイバーは何としてでもバハトを救うために説得しようとするが、当のバハトにはその気は無いとばかりに攻撃を続けられる。

 

「お前は目を背けているだけだ。人の醜い部分だけを見て決めつけて、人の美しい部分を見ていないんだ」

 

『黙れ。家族を殺されてその報復をしただけなのに理不尽に俺は封印された。このような世の中は消し去るべきなんだよ』

 

ファルシオンがセイバーを蹴り飛ばすとそのまま無の力を高めたエネルギー斬を放ちセイバーを斬り裂くと彼を怯ませてからすぐに必殺技を発動。

 

《必殺黙読!》

 

ファルシオンは虚無をベルトに納刀。その後トリガーを2回引いて背中に不死鳥の翼を生やすと空へと飛び立ち、そのまま足に炎を纏わせていく。

 

「バハト……頼むから話を聞いてくれ!人には可能性がある。過ちを犯してもそれを糧に変わる事だってできるんだ」

 

『だったら何故争いは無くならない。現に今ここでも俺とお前は争ってるじゃないか』

 

《不死鳥無双撃!》

 

ファルシオンがキックの体勢に入ってセイバーへと突撃。セイバーはそれを滅壊の盾で防御するとファルシオンがそのまま押し込んでいった。しかし、セイバーは足を踏ん張って耐えきり、押しとどめた。

 

「人と人は互いに意見がぶつかり、争い合う。だけどそれでもいつかは分かり合える。そう信じている!バハト、一度だけでも良い。人の事を信じてくれ!」

 

セイバーが片手でファルシオンのキックを抑えている間に烈火を納刀してからトリガーを2回引いた。

 

《必殺読破!》

 

「うぉおお!」

 

するとセイバーのベルトから赤、白、黒の3匹の龍が飛び出してファルシオンを弾き飛ばすとそのままセイバーの周囲を飛び回り、逆にセイバーが空中へと浮かんだ。

 

《伝説の神獣!一冊撃!ファイヤー!》

 

「情龍蹴撃破!」

 

セイバーの周囲を飛び回る3匹の龍と共にセイバーはキックを繰り出し、ファルシオンへと命中させるとファルシオンは光に包まれてスパークが走っていた。

 

『馬鹿な……こんな男に……2度も』

 

「これが人の想いの力。俺達人間の美しい部分だ!」

 

『……ククク……だが気をつけろよ。俺は何度でも蘇る!』

 

「そうだな……だからこれで終わりにしよう」

 

セイバーは剣を赤く輝かせると光の力を集約。そのままファルシオンを両断した。するとファルシオンは変身解除して無銘剣が分離し、最光達の近くに突き刺さった。それから変身解除したバハトから赤黒い粒子が抜け始めていた。

 

『貴様……どういう事だ?何をした……』

 

「お前と無銘剣を繋いでいた破滅の書の力を分離した。これでお前はもうただの人間だ。死んでも復活できないし、永遠を生きる事もできない。だけど、もう一度ただの人間としてこの世界を生きて欲しい……守って欲しいんだ」

 

セイバーはそう言って変身解除するとバハトへと手を差し伸べた。それを見たバハトは目を見開くと驚いた。つい先程まで敵だった存在に手を差し伸べる人を初めて見たからである。

 

『どこまでも甘い奴だな……だがお前の言う通り俺はずっと決めつけていただけかもしれない。だから俺はこれから……』

 

そう言いかけた瞬間、バハトの体はカラドボルグに貫かれた。

 

「………え?」

 

『お遊びはそこまでです』

 

すると空間を引き裂いて一時的に封じ込められていたソロモンことイザクが出て来たのだ。

 

『不味い!セイバー、ここは僕が時間を稼ぐからその隙にバハトを……』

 

そう言ってその場で唯一戦える最光がソロモンへと向かっていき、セイバーはバハトを抱き抱えた。

 

『済まないなセイバー……俺はここまでみたいだ』

 

「おい!しっかりしろ!お前、せっかく人を信じて生きてくれるって言ってくれたのに……」

 

『これも過去に犯した罪の反動か……因果とは巡ってくるものだ』

 

「そんな事言うなよ……ようやくただの人間に戻ってくれたのに」

 

血を流し、今にも消えてしまいそうなバハトの目に宿った光をセイバーは何とかしようとするが、傷を回復できる最光が戦っているせいでそれもできなかった。

 

「クソッ……どうにかする方法がきっと……」

 

『もう良い。セイバー、あとはお前に託す』

 

バハトはそう言うと灰となって消えていった。そして僅かに彼の体があった場所から光の粒子が出てくるとどこかへと飛んでいきその場には何も残らなかった。それを見たセイバーは悲しみに暮れ、泣き叫んだ。

 

「ゔぁああああああああ!!」

 

『バハト……』

 

『余所見するな!』

 

ソロモンは敢えて最光では無く変身していない他の剣士達へと目を向けると必殺技を発動。そのまま皆殺しにかかる。

 

《OMNIBUS LOADING!》

 

『ソロモンストラッシュ!』

 

《SOLOMON STLASH!》

 

ソロモンが剣を振ると巨大な剣が無防備な剣士達へと飛んでいき、それを守るために最光はその間に割って入ると攻撃をまともに喰らって変身解除してしまった。

 

『カナデ!!』

 

『ごめんなさい……私達のせいで……』

 

『僕は大丈夫……でも』

 

「バハト……やっと分かり合えたのにこんなのって……」

 

『あなたには感謝しませんとねぇ、バハトをただの人間に戻してくれたおかげで楽に始末できました。あの男は生きていると色々と面倒ですから』

 

ソロモンが高らかに笑っているとセイバーは怒りを露わにしていた。そして立ち上がると無言でソロモンへと歩いて行った。

 

『あなたも死にたいみたいですねぇ。お望み通り殺してあげますよ!』

 

『ッ!セイバー、これを使ってください!!』

 

咄嗟にセイバーが何をするか理解したサリーが自分が持っていたエレメンタルドラゴンの本を投げるとそれに反応したプリミティブドラゴンがセイバーのインベントリから飛び出してセイバーへと吸い込まれた。

 

「変身!」

 

《烈火抜刀!エレメンタルドラゴン!》

 

セイバーが変身するとソロモンは攻撃を放つがセイバーはそれを何と剣で楽々と弾き飛ばした。

 

『何!?馬鹿な、この前はやられていたのに何故いきなり……』

 

「お前はやってはいけない事をした。それは……俺を本気にさせた事だ!!」

 

セイバーは今までの戦いで100%の本気になった事は少ない。それこそボス戦や対人戦でここぞと言う時に入る事はあるものの、それでも出しているのは実力の9割前後が殆どである。

 

だが、ある一定の条件の中だと100%のマジモードで戦う時がある。その一つがセイバーを完全に怒らせる事であった。普通なら人は怒れば冷静さを失い、パフォーマンスがある程度落ちてしまうのだがセイバーは怒っている時にも頭のどこかでは冷静さを保っている。そしてそれが100%モードに入る時も例外では無い。

 

「はあっ!」

 

そこからは凄まじかったステータスの上で圧倒的にセイバーを上回っているはずのソロモンが押されていた。しかも、反撃すらできないレベルでである。

 

『コイツ……どんどん一撃が重く、鋭くなって……』

 

セイバーは今、無言でただソロモンを蹂躙することのみに力を費やしていた。それこそ極限の集中状態、ゾーンを発揮する程に……こうなったセイバーを止めるのは容易では無いだろう。

 

『すごい……セイバーが押してる!』

 

『これなら行けるぞ』

 

『あのイザクを倒せる!!』

 

剣士達が喜ぶ中、ただ1人不味いという目で見る者がいた。……メイプルである。彼女はこの状況に見覚えがあった。それは、闇黒剣を使っていた時に見たヴィジョンである。彼女の予知だと彼はこの後、全ての力を使い尽くした後にソロモンと相討ちになって共に死ぬのである。そしてそれが彼女の知るもう一つの未来の形だった。

 

『カナデ……闇黒剣を貸して……』

 

『でもメイプル今戦ったら……』

 

『良いから早く!!』

 

メイプルの気迫に押されたカナデは闇黒剣をメイプルに渡すとメイプルはジャアクドラゴンの本を取り出した。

 

『変身!』

 

《闇黒剣月闇!ジャアクドラゴン!》

 

メイプルが即興でカリバーへと変身すると地面へと剣を突き立てて闇を放出。そしてそれはソロモンの真下にまで迫るとソロモンの下半身にまとわりついてガッチリと完全拘束した。

 

『なんだと?』

 

「メイプル……」

 

その瞬間、メイプルの存在によりゾーン状態が一時的に解除されてセイバーの攻撃が一瞬緩んだ。その緩みをソロモンが逃すはずがない。

 

《OMNIBUS LOADING!》

 

『ソロモンブレイク!』

 

《SOLOMON BREAK!》

 

ソロモンから繰り出された衝撃波がセイバーを吹き飛ばすとそのままの勢いでカリバーにも命中。2人揃ってダメージを負うとカリバーが変身解除してしまい、せっかくソロモンを追い詰めていたセイバーもかなり消耗する事になった。

 

「ぐ……」

 

『馬鹿な女ですねぇ。せっかくこの私を追い詰めていたセイバーの気を散らすとは中々の暴挙ですよ』

 

「メイプル……なんで」

 

『……私はセイバーに死んでほしくなかったからそれで……』

 

「この際だ。お前の行動に責任とかは問い詰めない。だから下がってて」

 

『でも……』

 

セイバーとメイプルが揉めているとそこにソロモンが割って入りセイバーの剣、烈火を弾き飛ばすとそのまま連続でセイバーの体を切り刻んでいき、セイバーはかなりのダメージを負ってしまった。

 

「このっ!」

 

セイバーは一旦炎へと変化して弾き飛ばされた烈火を拾うと反撃のチャンスを伺うが、ソロモンにそんな隙は無かった。

 

『無駄です』

 

ソロモンは禍々しいエネルギーでセイバーを包み込ませると彼を上空へと吹き飛ばしてから地面へと思い切り叩きつけさせてしまい、セイバーはその衝撃で変身解除してしまった。

 

「がっ……」

 

『この私に逆らった事、万死に値します。あなた方を1人ずつ痛めつけて絶望の中で殺してやる』

 

「……まだだ」

 

『何だと?』

 

セイバーの言葉にソロモンは反応するとセイバーはフラフラになりながらも立ち上がった。その目はまだまだ死んでいなかったのだ。それを見たソロモンもセイバーを絶望に叩き落とすためにある事を始めた。

 

『でしたらこれでどうでしょう?』

 

その間にソロモンが本を閉じてからページを1枚めくり、それから上部のボタンを3回押した。

 

《OMNIBUS LOADING!SOLOMON ZONE!》

 

それからソロモンが上空に存在する全てを終わらせる本、終末の書の開く速度を更に早め、その本が完全に開くと少しずつ世界を崩壊させ始めた。

 

『そんな……世界が終わる……』

 

『どうすれば……』

 

『あはははははははは!!これこそ絶望。この世界は今こそ滅びるのです。そして私の手で新たな世界が創世される』

 

ソロモンは勝ち誇るとセイバーの元に歩み寄って行った。そしてセイバーの胸ぐらを掴むとカラドボルグを振り上げた。

 

『これであなたはお終いです。この崩壊する世界を見ながら消えるが良い』

 

ソロモンがセイバーへとカラドボルグを振り下ろした瞬間、セイバー以外の全員が目を閉じ、セイバーはその攻撃をまともに受けそうになった。その瞬間、突如として地面に刺さっていた無銘剣が飛んでいくとカラドボルグによる一撃を受け止めた。

 

『なっ!?』

 

剣士達がそれを見て目を見開くと驚きを隠せなかった。まさか無銘剣が勝手にセイバーを守るとは思えなかったからである。セイバーが無銘剣をよく見ると光の粒子が集まっていた。そしてそれにセイバーは見覚えがあった。

 

「まさか……バハトが俺を守ってくれた?」

 

するとバハトからのテレパシーがセイバーだけに聞こえるように伝わってきた。

 

“俺を助けようとした礼だ。だが、守ってやるのはこれきりだ。未来は自分の手で切り開け”

 

「へっ……言われなくてもそのつもりだぜ」

 

セイバーは立ち上がると虚無を左手で掴んだ。そして、他の剣士達もセイバーの後ろに集結。ソロモンに対抗するために9人の剣士が並んだ。

 

『悪運の強い奴め……だが、もう遅い。世界はもう終わる。お前達にできる事は何も無い』

 

「どうかな?確かに状況は絶望的だけど、お前は俺達と比べて決定的に違うものがある」

 

『ほう。それはなんだ?』

 

「想いだ。俺達は人の想いを剣に乗せて戦う。だがお前にはそれが無い!だからお前の剣は軽いんだよ!!」

 

ソロモンはそれを聞いて苛立ち、他の剣士達もセイバーの言葉に続くようにソロモンへと想いをぶつける。

 

『だから私達はあなたには絶対に負けない』

 

『今こそ父さんの、お前のせいで犠牲になった人達の仇を討つ』

 

『お前は剣士であって剣士ではない』

 

『力に溺れたただのクズよ』

 

『剣の声が聴こえるわ。一緒にアイツを倒すわよ』

 

『僕達が揃えばアイツに勝てる。僕達は最高のチームだからね』

 

『お姉様、皆、剣士達の力を今一つに』

 

『剣士の誇りに賭けて全ての悪を撃滅する』

 

剣士達の言葉にソロモンは動揺。だがそれを周囲に悟らせない辺りは彼が優秀な者であるという事が伺えるだろう。

 

『想いだと?そんなものは絶対的な力の前には何の意味も持たない』

 

「俺達の想いが……未来を創るんだ!」

 

その時、光の粒子が集まっていくとイザクに殺されたハヤトとバハトの2人が具現化。セイバーとメイプルが月闇と虚無を2人へと渡すとセイバー達が持つ11本の聖剣が光輝いていく。

 

《烈火!》

 

《流水!》

 

《黄雷!》

 

《激土!》

 

《翠風!》

 

《錫音!》

 

《月闇!》

 

《最光!》

 

《狼煙!》

 

《界時!》

 

《虚無!》

 

11人の剣士が11本の聖剣を天に掲げると剣が空中へと飛んでいき、同時にハヤトとバハトも光の粒子となって飛び立った。そしてそれは宇宙空間に到達するとそこでセフィロトの形を描き、力が高まっていく。

 

『一体何が起きている……』

 

『これはまさか……あの伝説の……』

 

『ええ、人が鍛えし始まりの聖剣に、火を灯さんとする者現れし時』

 

『星を結びて力を束ね、物語を終焉へと導く聖剣が生まれる !』

 

そして生み出された剣士達の切り札にして12本目の聖剣、その剣が生成されると他の11本の聖剣と共に流星の如く降り注ぎ、セイバーはそれを手にした。その聖剣は青い刀身に縦に3つの円が描かれており根元には太陽の造形をしたパーツが合体。その聖剣の名は……

 

《刃王剣十聖刃!》

 

「これが最後の一本にしてこの戦況を覆す力だ!」

 

『全知を司る聖剣が生まれましたか。ですが、さっきも言ったでしょう?もう世界は終わるんですよ』

 

ソロモンの言う通り、世界各地に展開されている終末の書は完全に開いており、それが世界を終焉へと導き始めていたのだ。このままでは世界が終わるのは時間の問題だろう。

 

「……物語の結末は……俺が決める!!」

 

《ブレイブドラゴン!》

 

セイバーはそう言うと本を取り出して聖刃へと読み込ませるとそれは蒼い粒子となってベルトへと装填された。そのまま構えを取るといつもの台詞を口にする。

 

《聖刃抜刀!》

 

「変身!」

 

するとセイバーの後ろに本が降りると同時にセイバーの周りに虚無を除く10本の聖剣が現れて回転。それと同時に本からブレイブドラゴンが呼び出された。

 

《刃王剣クロスセイバー!創世の十字!煌めく星たちの奇跡とともに!気高き力よ勇気の炎!クロスセイバー!クロスセイバー!クロスセイバー!》

 

ブレイブドラゴンは蒼く染まるとセイバーへと纏わりつき装甲を形成。その直後に10本の聖剣がセイバーへと取り込まれていく。それから顔にX字のパーツが合体し、変身を完了。

 

その姿はセイバーのブレイブドラゴンに酷似しているものの、相違点としてその周囲には銀河の輝きが纏われており、体の色も紅蓮の赤から更に高熱の蒼い炎になっていた。体のあちこちには銀河を模した星の模様が入っているのでその姿は宇宙そのものとも言えるだろう。これにより、セイバーは更なるパワーアップ、クロスセイバーへと進化するのだった。

 

「ソロモン……この力でお前を倒す!」

 

クロスセイバーはそう言うと崩壊する世界を、イザクの野望を止めるために行動を開始するのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと銀河の剣

クロスセイバーへとパワーアップしたセイバー。彼はソロモンを倒す前に滅びゆく世界をどうにかするべく行動を開始した。

 

「創造するのは俺だ!」

 

そう言ってクロスセイバーは聖刃の太陽のパーツを押し込むとそれを1番上にスライド。10本の聖剣の力を一度に開放した。

 

《刃王必殺リード!既読十聖剣!》

 

それから太陽のパーツを戻してトリガーを引くとクロスセイバーの周囲に10本の聖剣が召喚された。

 

《刃王必殺読破!刃王クロス星烈斬!》

 

「はあっ!」

 

クロスセイバーが聖刃を振るうと10本の聖剣は宇宙空間にまで到達するとセフィロトの位置についてから世界各地へと散らばっていき世界各地に配置された終末の書に到達すると剣士達の幻影と共に本を両断。僅か一撃で消滅させた。そして、それと同時にクロスセイバーやソロモンの近くに存在する終末の書も火炎剣が破壊し、これでこれ以上の世界の崩壊は一時的に押しとどめられた。

 

『馬鹿な!?』

 

「俺が今を創る!」

 

クロスセイバーは聖刃をベルトに納刀。その後トリガーを引き抜刀して刀身に創世の力を集約するとその力を周囲に解き放った。

 

《刃王必殺読破!聖刃抜刀!》

 

「刃王創星斬!」

 

《刃王一冊斬り!セイバー!》

 

すると刃王剣から発せられた虹色のエネルギーが崩壊していた街を復活させていきその力の強さを知らしめさせた。

 

『見ろ!消えた街が戻っていく!』

 

『この力、刀鍛冶としての血が滾るわね!』

 

『創造する力を持つ聖剣、実に素晴らしい。その聖剣もこの世界も……全て私の物です!』

 

《OMNIBUS LOADING!SOLOMON STLASH!》

 

ソロモンが必殺技を発動してカラドボルグを掲げると上空に本が出現。それが開くと巨大なカラドボルグ……キングオブソロモンが大量に飛び出すと巨大な剣から変形、キングエクスカリバーと同じように巨大な機械仕掛けのロボになった。それからキングオブソロモン達はクロスセイバーを倒すべき敵として攻撃を開始。しかしこのロボット達はクロスセイバーの敵にすらなり得なかった。

 

「10本の聖剣の力……纏めてくらえ!」

 

クロスセイバーが聖刃の太陽のパーツをスライドさせて円の部分に合わせるとそこからトリガーを引いていって使う聖剣の力を選択。それから太陽のパーツを戻してからトリガーを引き、力を発動させた。

 

《黄雷!既読!激土!既読!黄雷!激土!クロス斬り!》

 

クロスセイバーが今回選んだのは黄雷と激土の力。まずは巨大な激土を召喚すると目の前にいる一体のキングオブソロモンを真っ二つに両断し破壊。その後、空中に大量の黄雷を呼び出してそれを雨のように降らせていき、二体目のキングオブソロモンも粉砕した。続けてクロスセイバーは空中に存在するキングオブソロモンの軍団を対処する。

 

《翠風!既読!錫音!既読!翠風!錫音!クロス斬り!》

 

クロスセイバーは空中へと飛び上がると翠風を手裏剣モードで呼び出してからキングオブソロモンへと投擲。それは数体のキングオブソロモンを貫いてから二つに分裂。ニ本の翠風がニ体のキングオブソロモンを破壊してから消滅。

 

それを見たキングオブソロモンの一体はクロスセイバーの背後から不意打ちを仕掛けるものの、クロスセイバーもそれは読んでいたとばかりに回避してキングオブソロモンの剣の上に乗るとそのままジャンプして銃奏状態の錫音を呼び出して極太のエネルギービームを発射。不意打ちを仕掛けたキングオブソロモンを撃破した。

 

『なんだと!?私の兵士達が通じない……』

 

「今まで調子に乗った分、きっちりやられてもらうぞ」

 

クロスセイバーが地面に着地するとそれと同時に6体のキングオブソロモンが地面に降り立ちクロスセイバーを囲んだ。

 

「無駄だよ!」

 

《烈火!既読!烈火クロス斬り!》

 

クロスセイバーの言葉通り、クロスセイバーの周りに展開されるように烈火が複数本出現するとそれが回転していく。そしてそれがキングオブソロモンの攻撃を全て防御し、弾き返していく。その間にクロスセイバーは再び聖刃をベルトに納刀してからトリガーを引いて抜刀。必殺技で殲滅しにかかる。

 

《刃王必殺読破!聖刃抜刀!刃王必殺斬り!セイバー!》

 

「うぉりゃああああ!」

 

クロスセイバーが全方位に斬撃を放つと烈火の対処に躍起になっていたキングオブソロモンを纏めて破壊。一瞬にして塵となった。その斬撃はまるで銀河の輝きを見るようであり、その余波がソロモンを襲うと彼にダメージを与え、膝をつかせた。

 

『クソッ……全知全能の書の力を手にしたこの私が押され……』

 

「違うね。押されているんじゃない。負けるんだ!」

 

クロスセイバーが聖刃を納刀し、トリガーを2回引くと銀河の力が足に集約していく。

 

《刃王必殺読破!》

 

「銀河大爆発!」

 

《刃王必殺撃!セイバー!》

 

クロスセイバーが跳びあがるとソロモンに向けてキックを放つ。そしてそれはソロモンに命中すると彼を一撃で変身解除させ、撃破に成功するのだった。

 

『この……異世界人がぁあああ!!』

 

イザクは怒り狂い、再びソロモンに変身しようとするが、そこにストリウスが登場すると彼を強制的に撤収させた。

 

『見苦しい所を申し訳ありません。ですが、これ以上の戦いは無用。ここは退かせていただきます』

 

そしてその場が完全に収まったことを確認するとクロスセイバーは変身解除してセイバーに戻った。

 

「何とか一回倒せた……」

 

そして通知を見るとそこにはミッションクリアとあり、次の段階へとクエストが進むと今度は“ソロモンの逆襲”とミッションが表示され、今度はソロモン及びメギドの三幹部であるレジエル、ズオス、ストリウスをそれぞれ1回ずつ撃破せよ。ただし、この撃破は他の剣士達によるものでも可とあった。つまり、わざわざセイバーが自ら倒さずとも良いとあったのだった。

 

「げっ、まだこのクエスト続くのかよ……」

 

セイバーが頭を悩ませているとそこに剣士達が集まってきて今回の勝ちを分かち合った。その後、剣士達は一旦ノーザンベースに戻ると今後の行動について話し合うことにした。

 

『ひとまずイザクを退けられたけど、今度はメギドと組んでくるよな』

 

『ええ、間違いなくそうなりそうね』

 

「あの、皆さんに提案なのですが」

 

セイバーはクエストをクリアするためにもある提案をする事にした。その提案というのは……

 

『何ですか?セイバー』

 

「俺達で先手を打ってサウザンベースを取り返しません?」

 

『サウザンベースをですか?』

 

「はい。今俺達はイザクを倒して勢いに乗っています。ここで手を止めればその勢いを手放すことになるかもしれません。ですので、まずは敵の根城と断定できて、尚且つ奪い返す必要のある拠点であるサウザンベースを落とすべきだと思います」

 

『なるほど……ただ一つ問題なのが私達はあまりサウザンベースに詳しく無いのよね……』

 

『カスミ様でしたらご存知でしょうけど、非戦闘員であるカスミ様が自ら行くのは危険すぎますし……』

 

ノーザンベースの剣士達が悩んでいるとセイバーは問題無いとばかりに自信満々だった。何故ならここにはサウザンベースをよく知る者が2人存在するからである。

 

「大丈夫ですよ。こっちにはマイとユイがいますので」

 

『えぇ、あそこの構造なら私達に案内を任せてくれれば良いわ』

 

『構造を大幅に変えられていないのなら十分案内可能よ』

 

それからノーザンベースでの話し合いにより一旦剣士達の傷を考慮して3日間だけ待ち、比較的ダメージの少ないセイバーと案内役のマイとユイが行くことになった。大人数で入る事も考えたが、そうなると今度はノーザンベースが手薄になるのと世界にメギドが出現した際に対応するのが難しくなるので今回は少数精鋭といった形を取った。

 

ちなみに、今現在動ける剣士は全部で9人。そして所持者がいない月闇と虚無については月闇は護身用としてカスミが所持することになり、虚無はそのままでは危険なので厳重に管理することとなった。また、新しく誕生した聖刃についてはそのままセイバーが烈火と共に持つことになった。

 

今勢いはセイバー達にあり、このまま行けばいずれはイザク達を倒すことが可能だろう。しかし、それはこのまま行けばの話である。当然イザク達も対策は取ってくるだろう。

 

〜サウザンベース〜

 

その頃王の間ではイザクが苛立ちを募らせていた。あれだけ有利な状況からたった1本の聖剣の力で瞬く間に逆転されたのだ。焦るなという方が無理な話なのかもしれない。そして、イザクの敗北によりメギド達を抑えられなくなっていた。

 

『おいおい、あんなにあっさりやられやがって。おかげで暴れ損なったじゃねーかよ』

 

『八つ当たりですか?この神である私に向かって』

 

メギド達がイザクに対して少しずつだが反抗的な態度を取るようになっていた。これもセイバーに敗北した影響だろう。だが、この程度で諦めるつもりは無いイザクである。メギド達へと次の指示を出した。

 

『あなた方の望み通り、次はあなた達に暴れてもらいます。これから指示する場所に向かい人間達を襲いなさい。そうすれば敵は分散します。そこを私が各個撃破して差し上げましょう』

 

イザクは得意げにそう言うが、メギド達にも意思はある。いつまでもイザクに従うのは嫌なのかその指示を断った。

 

『もうお前の指示は聞かねーよ。俺達の好きにやらせてもらう』

 

『何だと?私は神ですよ。あなた達眷属は神の指示に従うのが道理ではないのですか?』

 

『誰が眷属だ。俺達を侮るな。俺達メギドはあくまでもお前とは対等な立場だ。そう簡単に従うと思うなよ』

 

そう言ってレジエルとズオスは出ていった。その場にはイザクとストリウスのみが残った。反抗的なレジエルとズオスの2人とは対照的にストリウスはイザクに従順だった。

 

『私の同胞が無礼な態度を……申し訳ありません』

 

『チッ……それもこれもあの忌々しい異世界人のせいだ。この恨み、いつか晴らしてくれる』

 

イザクはそう言い、セイバーへの復讐心を高めていくのだった。そして3日という時はあっという間に過ぎ去り、セイバー達が作戦を開始しようとするとメギド側にも動きがあった。イザクの言うことを聞かなくなったレジエルとズオスが街で勝手に暴れ始めたのだ。

 

これにより、ノーザンベース側はセイバー、マイ、ユイ以外の面々の中でレジエルの方にクロム、イズ、サリーが向かい、ズオスの方にメイプル、ヒビキが対応していく事になる。そして、セイバー達3人はそのままサウザンベースへの奇襲を続行。ブックゲートでサウザンベースに侵入するとそのまま王の間を目指して移動を開始した。

 

「思ったよりもすんなり入れたな」

 

『油断しないで。まだ見張りの敵がいないとは限らないから』

 

『ッ!』

 

ユイが何かに気づくとセイバーとマイの手を引いた。その瞬間、2人の足元にエネルギーの棘が出現した。これに触れれば足を貫かれた事は容易に想像できるだろう。

 

「危っぶね」

 

『助かったわユイ』

 

『今のようなトラップがもう無いとは限らないわ。もう少し注意しながら行きましょう』

 

「ああ」

 

それから3人は道中に仕掛けられたトラップや定期的に見回りをしている洗脳されたサウザンベースの兵士達を回避しつつどんどん先に進んでいく。そして、何とか一番奥に存在するイザクがいる部屋である王の間に到達した。

 

「ここが王の間か」

 

『えぇ、でも妙ね』

 

『私達がいた時はもっと見張りが存在したのに……何でこんなに少ないのかしら』

 

「できれば当たってほしく無い予想だが待ち構えている可能性が高いな」

 

『私達が来ている事は最初から知られていたって事?』

 

「じゃないと警備が薄すぎるからね」

 

3人がそう話しているとそこには多くの兵士が待ち構えており、今まで無かった分を取り返すように3人へと一斉に攻撃を開始。それを皮切りにセイバー達3人も生身で戦闘に入った。

 

『やはり待ち構えていたわね』

 

『コイツらは弱いけど数がいると厄介よ』

 

「さっさと倒してイザクの元に……!!」

 

セイバーが何かに気がつくとマイとユイの2人を押し倒した。すると周囲にいる兵士達ごと薙ぎ払うように巨大な斬撃が飛んできた。倒れ込んだセイバー達の真上を通過するように繰り出されたそれはセイバー達が咄嗟に回避できなければまず間違いなくやられていただろう。

 

「この斬撃、イザクか……」

 

斬撃に巻き込まれて倒れていく兵士達の後ろからイザクがゆっくりと現れた。

 

『そうですよ。あなた達がここに来ることは予想済みでした。何故この私の創る世界を受け入れられない』

 

「世界はお前1人だけの物じゃない。多くの人間が集まって創られる。それが世界だ。お前の都合で勝手に作り替えて良い物じゃない」

 

セイバーの言葉にイザクは更に苛立ちを募らせる。そして、交渉は決裂したと言わんばかりにオムニフォースを取り出した。

 

《オムニフォース!》

 

イザクはそれを読み込ませてからすかさずバックルのボタンを押し込んだ。そして金色の粒子と赤黒いガスに包まれていく。

 

『変身』

 

《OPEN THE OMNIBUS FORCE OF THE GOD!KAMEN RIDER SOLOMON!》

 

イザクはソロモンに変身するといつもの衝撃波で3人を排除しようとするが、それは読めていたとばかりに3人共回避する。

 

「熱烈歓迎か。しかも、話し合いの余地は無いらしい」

 

『セイバー、ユイ、私達でアイツを倒しましょう』

 

『はい、お姉様!』

 

「ああ、一気に倒すぜ!」

 

《昆虫大百科!》

 

《オーシャンヒストリー!》

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《狼煙開戦!》

 

《界時逆回!》

 

『『変身!』』

 

《聖刃抜刀!》

 

「変身!」

 

《昆虫CHU大百科!》

 

《オーシャンヒストリー!》

 

《クロスセイバー!クロスセイバー!クロスセイバー!》

 

3人が変身するとソロモンの後ろからストリウスが現れてある本を手にしていた。それを開くとカリュブディスメギドが登場。ソロモンの護衛につき、自らはその場を後にしていった。

 

「ソロモンの相手は俺に任せろ!2人はあっちのメギドを!」

 

『わかっているわ』

 

『絶対勝ちなさいよ!』

 

クロスセイバーの指示によりクロスセイバーがソロモンを、サーベラとデュランダルがカリュブディスメギドを相手にすることになった。現状では戦闘能力から考えてもクロスセイバーが直接ソロモンを相手にした方が良いからである。

 

クロスセイバーとソロモンの直接対決では今まではセイバーが全力を出してやっとソロモンとまともに戦えるレベルだったのに対し、クロスセイバーへと進化した事で逆に余裕ができるようになっていた。

 

「ほらほらどうした!今まで散々煽ってた割にはこの程度が限界か!」

 

『ゴミの分際で調子に乗るのも良い加減にしろ!』

 

ソロモンは苛立ちながら斬撃波を放つが、クロスセイバーはそれを簡単に弾き飛ばすとそのまま突きを放ちソロモンを一撃で怯ませると跳び上がってからの銀河の力を纏わせての斬撃でソロモンを切り裂いた。

 

『ぐっ……コイツ、力が前までとはまるで……』

 

「おいおい、もう打つ手無しとは言わせないぜ」

 

クロスセイバーはソロモンを煽りつつも気を抜く事はしなかった。どんなに強い力を手にしても必ず勝てる保証はどこにも無いからである。だからこそクロスセイバーは本気でソロモンを倒しにかかっていた。

 

『こんな奴に何度も負けてたまるか!私は私の思うがままの世界を創るんだぁ!!』

 

ソロモンがカラドボルグを掲げると上空に大量の隕石が出現。クロスセイバーへと降り注ぐがクロスセイバーはすかさず聖刃の力で対抗した。

 

《流水!既読!流水!クロス斬り!》

 

クロスセイバーが聖刃を振るうと水のエネルギーが聖刃に纏われて、ソロモンが降らせた隕石を全て受け流していく。

 

「そういえば聞いてなかったけどお前の理想の世界って具体的には何なんだ?」

 

『そんなものは決まっている。まずは私が神として全てを司り、新たな人類を生み出す。それから今いる人類と新たな人類が争い、生き残った者達を私の世界の住人として私が支配する。なんて刺激に満ちた世界だ!!』

 

「へっ、そんな世界は御免だね。だからこそ、お前は俺が倒すわけだけど!」

 

クロスセイバーはそう言いつつ、ソロモンと剣を交えていく。一方でカリュブディスメギドと戦うサーベラとデュランダルはカリュブディスメギドを押していた。

 

『喰らいなさい』

 

サーベラは自らが発生させた煙を使ってカリュブディスメギドの周りに分身を生成するとカリュブディスメギドがどれが本物か迷っている隙にデュランダルが接近してカイジスピアでの薙ぎ払いを命中させた。カリュブディスメギドは反撃として鉈を振り回すが既にデュランダルはそこにはいなかった。

 

『こっちよ』

 

デュランダルがそう言うとカリュブディスメギドがデュランダルの方を向くが、そこにサーベラが背後からの不意打ちを仕掛けてダメージを与える。流石は双子の姉妹と言うべきか、コンビの連携力では剣士達の中でも1、2を争うだろう。

 

『決めるわよ!』

 

サーベラが引き付けている間にデュランダルが界時抹消でカリュブディスの背後に回ると再界時。後ろから突きを放った。

 

しかし、今度はカリュブディスメギドも対応するとデュランダルが突き出したカイジスピアを掴むとそのまま腹に付いているもう一つの口を大きく開くとデュランダルを喰らい尽くそうとしてきた。

 

『!!』

 

『お姉様!!』

 

それを見たクロスセイバーはソロモンを回し蹴りで怯ませてからすぐにデュランダルを助けに向かう。だがその位置は離れており、普通なら対応できないはずだった。それでも今のセイバーにはあの力も使うことができる。

 

《界時!既読!界時!クロス斬り!》

 

《界時抹消!》

 

クロスセイバーは界時を召喚すると界時抹消で移動してから一旦再界時してすかさずデュランダルを巻き込んで界時抹消。デュランダルを移動させてからカリュブディスメギドの真後ろに回り込む。

 

《再界時!》

 

「うおらぁ!」

 

これにはカリュブディスメギドも堪らず大ダメージを負うことになり、クロスセイバーはホッとするが、次の瞬間サーベラに殴られた。

 

「痛てっ!?何するんだよ……」

 

クロスセイバーはサーベラへと抗議するが、サーベラは有無を言わさないとばかりに怒りのオーラでクロスセイバーは思わず圧倒された。

 

『お姉様を利用するなんて……死にたいのかしら?』

 

「え、これ俺が悪いの?痛い痛い痛い……ごめんなさいって……」

 

サーベラにヘッドロックされてクロスセイバーは平謝りする事になり、それを見ていたソロモンは怒りを露わにしていた。

 

『この私を無視するとはふざけるなよ』

 

《EVIL GOD SLASH!》

 

「やっべ!」

 

《狼煙!既読!狼煙!クロス斬り!》

 

《狼煙霧虫!》

 

ソロモンから繰り出された赤黒い斬撃波は2人を襲うが、その瞬間2人はそれぞれ煙化して回避していた。

 

2人は元に戻るとクロスセイバーはソロモンへ、サーベラは体勢を立て直したデュランダルへと向かっていく。そして、ソロモンはクロスセイバーからの連続攻撃を前に大ダメージを負っていた。

 

『何故だ……何故この私が……神が押される』

 

「お前のような独裁者が神になれると思わないことだな!」

 

『黙れ!』

 

ソロモンが手を翳すと衝撃波が発生。クロスセイバーへと向かっていくが、クロスセイバーは冷静に対処していく。

 

《刃王必殺リード!既読!六聖剣!刃王必殺読破!刃王星烈斬!》

 

クロスセイバーが剣を振るとどこからともなく烈火、流水、黄雷、激土、翠風、錫音の六聖剣が召喚され、6つの属性によるバリアが展開されると攻撃を防御しつつ逆に斬撃波でソロモンが吹き飛ばされた。

 

「よっしゃ!これで決めてやるよ!」

 

クロスセイバーはインベントリから赤い本を2冊取り出すとブレイブドラゴンと合わせてワンダーコンボに当たる形態を発動した。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ストームイーグル!》

 

《西遊ジャーニー!》

 

《聖刃抜刀!クリムゾンセイバー!銀河の果てに放つ!広がれ上がれコスモ!甦れ world once more!光 真実(まこと) 愛 希望 時空はとっくにRock on!クロスセイバースリー!》

 

するとクロスセイバーの後ろに三冊の本が現れ、中からブレイブドラゴン、炎を纏った大鷲、赤い雲が出てきた。そしてそれらは蒼く変化するとクロスセイバーへと纏われていき、胸には大鷲の、左腕には西遊記を彷彿とさせる装甲が纏われ、クロスセイバースリーへとパワーアップした。

 

『更なるパワーアップだと!?』

 

「さぁ、決めようか!」

 

《OMNIBUS LOADING!SOLOMON STLASH! 》

 

ソロモンはクロスセイバーの出鼻を挫くために必殺技を発動させるとX字の斬撃を放つがクロスセイバーにそんなものは通用するはずが無かった。

 

《刃王必殺読破!刃王三冊撃!セ———セイバー!》

 

「銀河轟龍蹴烈破!」

 

クロスセイバーがベルトに聖刃を納刀してトリガーを2回引き、跳びあがると青い炎を纏わせたキックを放った。それによってソロモンの斬撃は砕かれ、クロスセイバーのキックが命中した。ソロモンはそれをカラドボルグで止めたが勢いまでは殺しきれずに後ろに下がった。そして、サーベラとデュランダルの戦いも決着が着こうとしていた。

 

サーベラとデュランダルは頷きだけでコンタクトを取るとサーベラが突撃。カリュブディスメギドはそれに合わせて腹の方の口を開けるがサーベラはそれに飲み込まれる直前に煙化を発動。それと同時にデュランダルもカイジスピアをカイジソードへと変更する。

 

《狼煙霧虫!》

 

《剣刻!》

 

『オーシャン一刻斬り!はあっ!』

 

《必殺時国!オーシャン一刻斬り!》

 

デュランダルが海の力を高めた斬撃波を繰り出すとカリュブディスメギドはそれを打ち消すべく鉈を取り出すが攻撃を打ち消す事はできなかった。何故なら、煙化によって背後に出てきたサーベラからの攻撃が決まったからである。

 

『ショットインセクト!』

 

《インセクトショット!》

 

サーベラがカリュブディスメギドへと背後からの後ろ回し蹴りを叩き込み、カリュブディスメギドが怯んだ所にデュランダルからの斬撃が命中し、カリュブディスメギドは堪らず爆散。撃破されることになった。それを見たソロモンは3人で同時に攻撃されないように動きを再現する領域を展開した。

 

『ソロモンゾーン!』

 

《OMNIBUS LOADING!SOLOMON ZONE!》

 

それから隕石を幾つも召喚すると動きが鈍っているであろうクロスセイバーへと投げつけた。他の2人では無くクロスセイバーを狙う辺り、2人同時にかかってきても勝てると見ているのだろう。しかし、クロスセイバーは普通に動くと背中の翼で飛び上がった。それを見たソロモンも空中へと浮かび、隕石を飛ばし続ける。

 

「そんなの効かねーよ。この物語の結末は……俺が決める!」

 

《刃王必殺読破!聖刃抜刀!》

 

クロスセイバーが聖刃をベルトに納刀するとトリガーを引いて抜刀し、必殺技を発動。聖刃は青い炎に包まれていきクロスセイバーはそれを振り抜く。

 

「刃王爆炎紅蓮斬!」

 

《刃王三冊斬り!セ———セイバー!》

 

ソロモンが巨大なカラドボルグでクロスセイバーが放った斬撃を防ごうとするが、クロスセイバーの斬撃を止める事はできず、逆にカラドボルグが真っ二つに両断され、そのままソロモンが斬撃を喰らい地面に落下。変身解除する事になった。

 

「よっと」

 

クロスセイバーが着地するとサーベラとデュランダルも集まり、3人はイザクを見据えた。

 

「これでお前は完全敗北したわけだ。だからもう大人しくしてくれないかな?」

 

『ふざけるな……誰が貴様等なんかにこの神である私が!!』

 

イザクは地面に衝撃波をぶつけるとそれによって煙幕を張り、その隙に撤退していった。これによりサウザンベースは取り返され、北と南の2つの拠点がソードオブロゴス側の手中に収まったのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとメギドとの決戦

セイバー達3人がサウザンベースを陥落させた頃、街で暴れていたメギド達も追い詰められた影響か、撤退する事になり剣士達もノーザンベースへと帰還する事になった。そして、サウザンベースには内部構造に詳しいマイとユイが管理者として残る事になり、セイバーはノーザンベースへと戻った。

 

「何とかイザクを倒してサウザンベースを取り返したけどアイツには逃げられちゃったなぁ」

 

『それでもサウザンベースを奪還できただけで十分です』

 

『おそらくイザクがこれから向かうとすればメギド達が拠点にしていた場所でしょうね』

 

だが、メギドが拠点にしている場所は未だに特定できていないために強襲を仕掛ける事は不可能に等しかった。加えて、早いうちにイザクを捕捉できないとそこに逃げ込まれれば見つけ出すことすら至難の技になるだろう。

 

「どうにかしてアジトの場所を割り出せられれば……ってん?そういえば、以前メギドのアジトとイザクから言われた場所を見にいきましたよね?」

 

『確かにそうですけど、あそこはイザクが私達を釣り出すためのブラフでしたよ』

 

「もう一度あの場所を調べても良いですか?もしかすると本当にそこがアジトかもしれません」

 

セイバーの提案に剣士達は疑問を抱く。普通なら一度捜索した場所には新たな物は残りにくい。一度目の探索で大体は発見できてしまうからである。その事を考慮し、剣士達はその場所はもう無いと考えていた。しかし、セイバーの考えは逆である。

 

「皆さんの気持ちもわかります。あそこは罠で使ったからそこには何も無い可能性が高いと。でも俺は逆に敢えてアジトの近くに俺達を誘導してそこを罠に使う事でもうそこはただの廃墟であると示す狙いがあると思うんです」

 

『なるほど、僕達の心理の逆を突く考えだね。決して悪くない考えだと思う。けど……』

 

「わかってます。これはある意味分の悪い賭けです。外せば大きな時間のロスになるでしょう。それでも闇雲に探すよりは敢えて場所を絞った方が良いと俺は思います」

 

この発言を聞いて他の剣士達は頷くとそれを見たカスミもその提案に了承。ただし、その場所の捜索に全員を動かすわけにはいかないので捜索にはセイバー、クロム、イズ、メイプルの4人で、サリー、カナデ、ヒビキの3人にはイザクの行方の捜索や別の場所を調べてもらう事になった。

 

これにより剣士達はそれぞれの目的を果たすためにブックゲートを使ってノーザンベースの外へと出発していくのであった。

 

その一方、メギドの拠点では3人の幹部メギドが今後の方針をどうするのか考えていた。今現在、イザクがいない現状で彼らを縛る者は何もいないとは言ってもこのままではセイバー達ノーザンベースとの戦力差は明らか。それにセイバー達がいつこの場所を特定するかわからない。そんな中でのメギド幹部の3人はいたって冷静だった。

 

『あの野郎また負けたってよ』

 

『もう俺達はあんな野郎の言いなりは御免だからな』

 

レジエルとズオスは完全にイザクを見捨てており、ここにはいないが、表面上は従順に見えたストリウスも内心はもう彼に従うつもりは毛ほども無かったので思っていたよりもかなりすんなりと彼等の思惑が達成された事になる。

 

だが、クロスセイバーが相手では今の自分達では勝てないのが必然。なのでセイバー達がイザクを見つける前に自分達が見つけてイザクを騙し、オムニフォースの本を奪うしかないと考えていた。そこで3人はそれぞれ手下のメギドを呼び出してイザクを捜索させていた。

 

『しっかし、ストリウスの奴も策士だな。俺達とは逆の態度を取っているように見せる事でアイツの油断を誘うとは』

 

『俺達にはできない芸当ってわけだ』

 

2人がストリウスの帰りを待ちつつ適当に時間を潰していると手下のメギドからの念話による定期報告があった。どうやら彼等はまだイザクを見つけられていないらしく、引き続き捜索を続けるとの事だ。2人がそれを受けているとそこにストリウスが戻ってくる。

 

『戻りましたよ』

 

『ストリウス、あの野郎は見つかったか?』

 

『いえ、サウザンベースでコテンパンにやられたのは見ましたが撤退する際に煙幕を張られたのでどこに逃げたのかもさっぱりです』

 

『クソッ……あの異世界人や剣士達よりも先に見つけなければならないってのに……』

 

3人の幹部が情報を共有していると突如として3人の近くにワームホールが開いた。普通であればこんなタイミングで開くはずがない。なにしろこの場所への入り方を知っている者はメギド幹部である3人だけだからである。だからこそ今まで剣士達が見つけられなかったのだが。しかし、今この瞬間に道は開かれてしまっていた。中から出てきたのはセイバー、メイプル、クロム、イズの4人だった。

 

「よっと!やっぱここにあったな」

 

『馬鹿な……どうしてこの場所が……』

 

『私達が捜索していたのはあなた達とは違ってイザクだけじゃない。あなた達のいるこの場所も捜索の場所の内なのよ』

 

『俺達がここへの入り口を探っていた時に偶々ストリウスが入っていく所を影から見ていてな。場所の特定に成功したわけだ』

 

セイバー達はストリウスが入る瞬間を目撃する事で場所を確定させる事に成功。あとはどうやって入るかだが、入る場所に強力な結界が張られているのならそれを無理矢理こじ開ければ良いと言わんばかりにクロスセイバーの力で扉を開けさせたのだ。その場にセイバーがいたからこそできた事であるだろう。

 

『あとはあなた達を倒すだけね。覚悟してもらうわ』

 

セイバー達4人がメギド三幹部と睨み合っているとメギド達は笑い始めた。まるで、セイバー達は自分達の掌の上と言わんばかりに。

 

『悪いが俺達だってパワーアップしているんだ。そう簡単にやられんぞ。それに、ここにはコイツらもいるって事を忘れるな』

 

3人がそれぞれ本を開くと中からメデューサメギド、ネコメギド、アリメギドが出現した。

 

《メデューサ蛇伝!》

 

《猫にアクセサリー!》

 

《アリかキリギリス!》

 

それを見たセイバー達はそれぞれ本を開き剣に読み込ませ、構えを取る。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ランプドアランジーナ!》

 

《トライケルベロス!》

 

《玄武神話!》

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!》

 

《聖刃》

 

《黄雷》

 

《抜刀!》

 

《一刀両断!》

 

《銃剣撃弾!》

 

「『『『変身!」』』』

 

《音銃剣錫音!》

 

《土豪剣激土!》

 

《三つ叉ランプドケルベロス!》

 

《クロスセイバー!クロスセイバー!クロスセイバー!》

 

4人がそれぞれ変身するとその中でエスパーダはいつものランプドアランジーナに加えて右肩や右腕にケルベロスを模した装甲を見に纏っており、ランプドヘッジホッグとは異なる形態、ランプドケルベロスに変身していた。

 

『お、今日はそれで行くのか』

 

『と言うよりそれを使うのは珍しいわね』

 

『えっと、今回はこっちの方が良いと思ったので……』

 

「そんな事は置いておいて、さっさと倒しますよ!」

 

4人がそんなやり取りを交わしている中、メギド三幹部側も念話で話し合っていた。

 

『(おい、これでどうにかなると思うか?)』

 

『(少し厳しいかもですね。念の為に外にいるメギドを戻しましょうか?)』

 

『(そうだな……その方が……これは!?)』

 

3人が配下のメギドを戻そうと念話を送ったその瞬間、配下のメギド達もブレイズ、剣斬、最光と出会ってしまい戦闘に突入した影響で戻れなくなってしまったのだ。これはメギド達にとって誤算と言えるだろう。3人は現状の戦力だけで戦わなくてはいけなくなってしまったのだから。

 

「俺が雑魚の方を三体纏めて止めます。3人は幹部を1人ずつ相手にしてください」

 

『わかった。お前が戻るまで俺達だけで耐えてみせるよ』

 

『だからさっさと片付けてきてよね』

 

『やるわよ!』

 

4人は瞬時に行動を開始するとエスパーダがストリウス、スラッシュがズオス、バスターがレジエルの元へと向かい、相手にしていく。その隙にクロスセイバーは三体のメギドを纏めて相手にしていた。

 

「やっぱコイツら程度なら全然余裕だな」

 

流石に雑魚のメギドではクロスセイバーの敵にすらならないのかクロスセイバーが雑魚メギドを圧倒。雑魚メギド三体はクロスセイバーを取り囲んで同時攻撃を仕掛けるが、クロスセイバーにはそんなものは通用しなかった。

 

《月闇!既読!最光!既読!月闇!最光!クロス斬り!》

 

まずはアリメギドが分身を生み出すとそれがクロスセイバーを取り囲みつつその後ろで動くネコメギドの姿を隠した。そして、クロスセイバーの背後に回り込むとネコメギドはクロスセイバーへと飛びかかってきた。

 

「やっぱそう来るよね〜」

 

クロスセイバーは予想通りとばかりに召喚した最光を飛来させると空中で身動きが取れないネコメギドを斬り刻ませた。それから月闇を左手に持つとそれを地面に突き立てて闇を地面に侵食させていく。その闇はアリメギドの足元を覆うと動きを完全に封殺してしまい身動きを取れなくした。そして、足を奪われた敵はクロスセイバーの格好の的である。

 

「纏めて蹴散らしてやる!」

 

《烈火!既読!烈火!クロス斬り!》

 

クロスセイバーが烈火の力を引き出すと右手で烈火の力を使った聖刃を、左手で烈火を持って実質的な2本分の烈火の炎で周囲を薙ぎ払いアリメギドを本体ごと焼き尽くした。これにより、残されたのはネコメギドとメデューサメギドの2体である。

 

レジエル対バスターの方ではバスターが今まで以上の力を発揮しており、それはパワーアップしたレジエルをも上回っていた。

 

『うおらっ!』

 

『な!?貴様……前まで煙の剣士にすら勝てなかったのにどこからこんな力が……』

 

バスターの豪快な振り下ろしがレジエルの剣を叩き折りつつ決まり、レジエルは火花を散らしながらダメージを負っていた。

 

『知らないのか?俺達だって日々進化する。それに、化け物級の力だったソロモンやファルシオンに比べたらお前らなんて大した事無いんだよ』

 

実は今現在の剣士達は圧倒的に格上だったソロモンや不死身なファルシオンとの戦いで意図せずに鍛えられており、全員のスペックが向上していたのだ。

 

『クソッ……この俺を舐めるなよ!』

 

レジエルがそう言うと地面から超能力で岩石を切り離すとそれを複数個投げつけた。バスターはそれを見て地面へと剣を叩きつけると地面から土の壁を生やして防御。そのままレジエルをすれ違い様に斬りつけた。

 

『おらあっ!』

 

『ぐはあっ!!』

 

バスターが続けて本を取り出すとそれを剣に読み込ませて能力を発動させた。

 

『セイバー、力を借りるぞ』

 

《西遊ジャーニー!》

 

すると赤い雲が召喚されてバスターはそれに飛び乗り、雲が自由自在に飛行しながらレジエルへと接近しつつバスターの一撃がレジエルを襲った。しかも、西遊ジャーニーの能力で左腕に土で生成された如意棒を使い中距離から容赦なく突きや薙ぎ払いでのダメージを与えていく。

 

『次だ!』

 

《ジャッ君と土豆の木!》

 

バスターが次の本を読ませると今度は地面から蔦が生えていき、それが鞭のような動きでレジエルを叩きのめしていく。レジエルはバスターの休む事のない連続攻撃を前に追い詰められていた。

 

ズオスと戦っているスラッシュの方は二刀流の蛮刀での素早い動きをしてくるズオスに対して、スラッシュの対応策は技による華麗な剣捌きで2本の蛮刀による剣撃を弾いていた。

 

『甘いわね』

 

『調子に乗るなよ』

 

ズオスが口を開くとエネルギーがチャージされていき、口から光弾を放っていく。スラッシュはそれを当然のように見切ると音の障壁で攻撃をシャットアウト。それから近づいての斬撃でズオスの動きの隙を突いた攻撃を仕掛けていきダメージを蓄積させた。

 

『馬鹿な……1発の攻撃はそこまでの威力じゃねーのに何故ここまで攻撃を喰らう』

 

『それはあなたが私を見くびっているからよ。そんなあなたでは私には勝てないわ』

 

ズオスがその言葉に苛立ち、飛び掛かるもののそれを利用したスラッシュがカウンターとして銃奏の錫音によるゼロ距離射撃で撃ち抜いた。

 

『がふっ!?』

 

『甘い、甘過ぎるわ!!』

 

続けてスラッシュはセイバーから借りた本を取り出すとそれを錫音へと読み込ませる。

 

《ストームイーグル!》

 

スラッシュが弾丸を発射するとそれは赤い竜巻の弾丸となり、向かってくるズオスを押し戻しつつ迎撃。そのまま近くの壁へと叩きつけさせた。

 

『次はこれよ!』

 

《ブレーメンのロックバンド!》

 

スラッシュは錫音を剣盤モードにした上で本を読み込ませると今度は音のエネルギーがチャージされ、それがズオスへと斬撃として飛ばされていく。そして斬撃がズオスに命中するとそれが爆音となってズオスの耳に響いた。

 

『があっ!?何だこの爆音は……』

 

『これもあなたが甘く見たこの本の力よ』

 

それからスラッシュはズオスと再度ぶつかっていき、流れるような見事な動きでズオスを押していった。

 

最後にエスパーダとストリウスの戦いは他2人ほどでは無いもののエスパーダが有利に戦いを進めていった。

 

『はあっ!』

 

『やはりあなた、カリバーの時と比べてパワーが落ちてますよ』

 

『ッ……』

 

エスパーダは痛い所を突かれたのか一瞬の狼狽えを見せた。その瞬間、ストリウスは幻術で巨大な腕を呼び出すとエスパーダの上から拳として振り下ろした。

 

『くっ……』

 

エスパーダはそれを辛うじて躱すものの体勢が崩れた所にストリウスからの斬撃が迫っていた。それをエスパーダが黄雷で受け、後ろへと下がっていく。すかさずストリウスが手を翳し、魔法陣を呼び出すとそこから赤黒い槍が飛び出してエスパーダを狙っていく。

 

《ランプドアランジーナ!》

 

エスパーダはその槍をベルトに装填されているランプドアランジーナの本を押し込む事で魔神を呼び出して防御させた。

 

『これならカリバーでいたままの方が強かったんじゃないんですかねぇ』

 

『確かに私は弱いわ……闇黒剣の災いの未来にすぐに絶望して皆には沢山の迷惑をかけた。でも、だからこそ今の私がある!今度こそ、未来を私の手で守ってみせる!』

 

《トライケルベロス!》

 

すると今度は電気を纏った黄色いケルベロスが現れるとストリウスへと突撃。何度も体当たりをぶつけて怯ませていった。

 

『チッ……』

 

《黄雷居合!読後一閃!》

 

そこにエスパーダの居合斬りがストリウスを切り裂いた。

 

『もう今までの私じゃない。自分の限界ぐらい超えて見せるわ!』

 

エスパーダはそう言うと3年前までできなかった黄色い本三冊によるワンダーコンボを使うためにニードルヘッジホッグの本を取り出した。

 

《ランプドアランジーナ!》

 

《ニードルヘッジホッグ!》

 

《トライケルベロス!》

 

エスパーダが剣を納刀してから抜刀すると後ろに三冊の本が降り、それが開くと中からランプの魔神、大量の針、黄色いケルベロスが出現。それらがエスパーダの周りを周回するとそれが装甲として纏われていき、右腕や右肩にケルベロス、胸にヘッジホッグ、左腕や左肩にランプの装甲を付与したエスパーダのワンダーコンボ……

 

《黄雷抜刀!ランプの魔神が真の力を発揮する!ゴールデンアランジーナ!》

 

ゴールデンアランジーナとなったエスパーダは雷を纏いながら突進。ストリウスはそれを受け止めるが、その勢いの強さに押し戻されていく。それからエスパーダはストリウスの体を駆け上がるようにして跳び上がり、そのまま空中から黄雷を振り下ろす。

 

『何だと!?』

 

『はあっ!』

 

エスパーダの一撃がストリウスを斬り裂くと彼へと大きなダメージを与え、地面へと転がさせた。その頃、クロスセイバーは二対一でも有利に立ち回っており、メデューサメギドは奥の手を解禁することにした。メデューサメギドが力を高めていくと突如として巨大化したのだ。その質量でクロスセイバーを叩き潰すつもりなのだろう。

 

「三人共やるな。俺も負けられない!巨大な敵にはこれが有利でしょ!」

 

クロスセイバーはブレイブドラゴンに加えてキングオブアーサーの本を取り出してその二冊によるフォームチェンジを行った。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《キングオブアーサー!》

 

《聖刃抜刀!ワンダー!クロス!ワンダー!掛け合わせ!高まる二冊の超パワー!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイブリッド!セイバー!セイバー!》

 

するとクロスセイバーの後ろに二冊の本が並ぶと開き、中からブレイブドラゴンと巨大な剣が呼び出され、クロスセイバーの左腕や左肩に騎士王の装甲が付与されたハイブリッドセイバーへとパワーアップした。

 

「この姿ならアレが使えるはず!」

 

クロスセイバーが手を掲げるとそこにキングエクスカリバーが召喚され、手にする。それからキングエクスカリバーの力を解放すると空中に浮かんでいる巨大なキングエクスカリバーが変形し、巨大な巨人が立った。そしてその巨人はクロスセイバーが操作せずとも自律し、メデューサメギドと戦闘を開始していく。クロスセイバー本人は地上にいるネコメギドを相手に戦った。

 

「うおらっ!」

 

クロスセイバーはネコメギドとの一対一となった影響か更に有利に戦いを進められるようになり、二刀流でネコメギドの持つ熊手を弾きつつ攻撃を当てていく。

 

「オラオラ!そんな程度か!」

 

クロスセイバーはキングオブアーサーの力を纏ったことによる重量増加で機敏な動きはできないものの、その分ネコメギドからの攻撃に耐えやすくなっていた。ネコメギドは負けじとクロスセイバーへと熊手を突き立てるがクロスセイバーはそれを易々と受け止めて逆にキングエクスカリバーで斬りつける。

 

それからクロスセイバーが聖刃を腰のホルダーに納刀してトリガーを引き、刀身に銀河のエネルギーを高めていった。

 

《刃王居合!》

 

「これで終わりだ」

 

《刃王超一閃!》

 

クロスセイバーが聖刃を振り抜くとネコメギドは真っ二つに斬り裂かれて爆散。それと同時に巨人、キングオブアーサーもメデューサメギドを両断して撃破してクロスセイバーの戦いは決着が付いた。そして、3人の剣士達もメギドの三幹部を追い込んでいた。

 

《玄武神話!ドゴーン!》

 

バスターが激土に本を読み込ませると剣を地面に突き立ててから足に大地の力を集約。そのまま跳び上がるとキックを放つ。

 

「玄武爆砕!」

 

《激土乱読撃!ドゴーン!》

 

その一撃がレジエルへと命中するとその威力を前に吹き飛ばされ、地面を転がっていく。更にスラッシュも錫音を銃奏モードにして構えていた。

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!イェーイ!》

 

スラッシュが本を読み込ませると銃口にお菓子のエネルギーが充填されていき、貫通力を増加させた。

 

「ビート・ロリポッパー!」

 

《錫音音読撃!イェーイ!》

 

スラッシュが放った銃弾はズオスを貫通すると彼へと大きなダメージを与えて後ろへと後ずさらせていく。最後にエスパーダが黄雷を納刀してからトリガーを引き、抜刀する。

 

《必殺読破!黄雷抜刀!》

 

すると黄雷に黄金の電気が纏われていき力を増幅。そのままその力を解放する。

 

『トルエノ・デル・ソル!』

 

《ケルベロス!ヘッジホッグ!アランジーナ!三冊斬り!サ・サ・サ・サンダー!》

 

エスパーダが走り出すとそれは電光の速さとなってストリウスへと突貫。ストリウスは対抗するように斬撃波を放つがエスパーダはそれをスレスレで回避し、逆に電撃を纏わせた斬撃を叩き込んだ。これを受けてストリウスはその場に膝をつき、そこにレジエルとズオスも飛ばされたり後退りで三人が集まった所にクロスセイバーからの追い討ちが叩き込まれる。

 

《刃王必殺読破!聖刃抜刀!》

 

「刃王巨人斬!」

 

《刃王二冊斬り!セ・セ・セイバー!》

 

クロスセイバーがキングエクスカリバーを上段から斬りつけると巨大な剣に戻ったキングオブアーサーが振り下ろされ3人のメギドを圧殺。完全に爆散させた。

 

『やった!』

 

『これでメギドを殲滅できたぞ』

 

すると条件を満たした影響か、クロスセイバーの画面にミッションクリアと表示されてクエストが次に進むことになった。そしてメギドの三幹部が跡形も無く消えたのを見てクロスセイバー達剣士は変身を解くとその場に何か残ってないか見ようとするが、そこにはどこかに姿を消していたイザクが立っていた。

 

「イザク!?どうしてここに……」

 

『ククク……決まっているでしょう?私の僕を蘇らせに来たんですよ。ただ、そうですねぇ。コイツらをただ復活させても反旗を翻すのは明らか。でしたら……こうしましょうか」

 

「何をするつもりで……」

 

イザクが手を翳すと爆散したメギドの三幹部、レジエル、ズオス、ストリウスが復活すると3人の体が赤黒く染まっていった。そして唸り声を上げてから咆哮し、更にパワーが上がったことが目に見えてわかった。

 

『イザク、お前はコイツらに何を……』

 

『見ての通りパワーを上げたんですよ。ただし、自分でも正気を保てない程度にね。しかもこの状態にしてしまえば私の命令を断ることができません。完璧な操り人形って奴ですよ』

 

イザクはそれから本を取り出すとそれを使い変身のための手順を踏んでいく。

 

《オムニフォース!》

 

『あなた達は調子に乗りすぎた。もう容赦や手加減はしません。私の全力を持ってして叩き潰す。変身!』

 

《OPEN THE OMNIBUS FORCE OF THE GOD!KAMEN RIDER SOLOMON!》

 

イザクはソロモンに変身すると大量のシミーを呼び出した。それと同時にセイバーの元に最後のクエストのミッション、“ソロモンとの最終決戦”と出てきて“ソロモンを撃破する”がクリア条件となっている。

 

「いよいよラストか……ただ、このまま4人のままだと不味いな。ただでさえソロモンが本気な上にメギド達も超強化されているんじゃ……」

 

セイバーが困っているとそこに他の地域でメギドと戦っていたサリー、カナデ、ヒビキの3人とサウザンベースにいたマイとユイが合流。剣士が9人へと増加した。

 

「皆……来てくれたんですね」

 

『いよいよこれで最後です。私達総出で倒しましょう』

 

サリーがそう言っているとそこに月闇を持ったカスミが歩いてきた。それを見た剣士達は皆驚いた。まさか非戦闘員であるカスミまで出てくるとは思わなかったからである。

 

『カスミ様!?どうして……』

 

『私も戦います。……剣士として、この世界を守らせてください』

 

『わかりました……俺達と一緒に戦いましょう』

 

カスミの参戦に勢いづくセイバー達。そこにセイバーの影から今までなりを潜めていたデザストが出現するとセイバーの隣に立った。

 

『おうおう、面白そうな場面だなぁ。俺も混ぜろよ』

 

『えぇ!!メギドがどうしてセイバーから!?』

 

「待ってください。コイツはあなた達が言うメギドかもしれませんが、人に害を加えるような奴じゃないんですって!」

 

『本当か?』

 

『セイバーが言うなら良いんでしょうけど……』

 

『よろしく頼むぜ。この世界の剣士達』

 

デザストが剣士達への挨拶を済ませると突如としてノーザンベースに保管されていた持ち主の不在で大人しくしていた虚無がデザストと引き合うようにノーザンベースを飛び出すと戦いの場に飛来してデザストの手に収まった。

 

『無銘剣がどうして』

 

『はっ、この剣も中々見どころがあるじゃねーか。この俺を使い手として選ぶとはよ』

 

それからセイバーは何かを思いついたのか聖刃を取り出すとその力を引き出して自分の近くにある人物を呼び出した。その人物とは……

 

『トウ……マ?』

 

『久しぶり、メイプル。皆さん』

 

『トウマ!!』

 

そこにはストリウスによって死んだはずのトウマが立っており、メイプルはトウマへと抱きついた。

 

『メイプル……1人にさせてしまって本当にすまなかった』

 

『トウマがどうしてここに?』

 

「俺が刃王剣の創世の力で一時的に復活させました。これで12人の剣士が揃いましたよ」

 

そう言ってセイバーは自分が持っていた烈火とエモーショナルドラゴンの本をトウマへと差し出した。

 

『これは……』

 

「トウマさんなら、感情の力を引き出してパワーアップできたあなたならこれを使えるはずです」

 

『わかった。俺も一緒に戦おう』

 

12人の剣士達は横に並ぶとそれぞれ本を取り出して変身のための行動を開始した。

 

《エモーショナルドラゴン!》

 

《タテガミ氷獣戦記!》

 

《ランプドアランジーナ!》

 

《ニードルヘッジホッグ!》

 

《トライケルベロス!》

 

《玄武神話!》

 

《猿飛忍者伝!》

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!》

 

《ジャオウドラゴン!ジャオウリード!》

 

《エックスソードマン!》

 

《昆虫大百科!》

 

《オーシャンヒストリー!》

 

《エターナルフェニックス!》

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《烈火》

 

《流水》

 

《黄雷》

 

《抜刀!》

 

《タテガミ展開!》

 

《一刀両断!》

 

《双刀分断!》

 

《銃剣撃弾!》

 

《闇黒剣月闇!》

 

《最光発光!》

 

《狼煙開戦!》

 

《界時逆回!》

 

《抜刀!》

 

《聖刃抜刀!》

 

12人はそれぞれ構えると後ろに合計14冊の本が降りてきてそれら全てが開き、12人がいつもの台詞を口にする。

 

「『『『『『『『『『『『変身!」』』』』』』』』』』』

 

《愛情のドラゴン!勇気のドラゴン!誇り高きドラゴン!エモーショナルドラゴン!》

 

《全てを率いし、タテガミ!氷獣戦記!ガオーッ!》

 

《ランプの魔神が真の力を発揮する!ゴールデンアランジーナ!》

 

《ブッた斬れ!ドゴ!ドゴ!土豪剣激土!》

 

《壱の手、手裏剣!弐の手、二刀流!風双剣翠風!》

 

《銃でGO!GO!否!剣でいくぞ!音銃剣錫音!》

 

《Jump out the book.Open it and burst.The fear of the darkness.You make right a just,no matter dark joke.Fury in the dark. ジャオウドラゴン!》

 

《Get all Colors!エックスソードマン!》

 

《FLYING! SMOG! STING! STEAM! 昆虫CHU大百科!》

 

《時は、時は、時は時は時は時は!我なり! オーシャンヒストリー!》

 

《エターナルフェニックス!》

 

《刃王剣クロスセイバー!創世の十字!煌めく星たちの奇跡とともに!気高き力よ勇気の炎!クロスセイバー!クロスセイバー!クロスセイバー!》

 

12人の変身が完了すると後ろの本が消え、集いし12剣士がその姿を露わにした。

 

『炎の剣士!仮面ライダーセイバー!』

 

『水改め氷の剣士!仮面ライダーブレイズ!』

 

『雷の剣士!仮面ライダーエスパーダ!』

 

『土の剣士!仮面ライダーバスター!』

 

『風の剣士!仮面ライダー剣斬!』

 

『音の剣士!仮面ライダースラッシュ!』

 

『闇の剣士!仮面ライダーカリバー!』

 

『光の剣士!仮面ライダー最光!』

 

『煙の剣士!仮面ライダーサーベラ!』

 

『時の剣士!仮面ライダーデュランダル!』

 

『無の剣士!仮面ライダーファルシオン!』

 

「銀河の剣士!仮面ライダークロスセイバー!」

 

「『『『『『『『『『『『我ら、集いし12剣士!!」』』』』』』』』』』』

 

『いちいちうるさい!お前ら纏めて叩きのめしてやる!』

 

あまりの待ち時間の長さに苛立ちを示すソロモンだったが、律儀に待っている辺りまだ良識がある方なのだろう。

 

「この物語の結末は……」

 

「『『『『『『『『『『『俺(僕)(私)達が決める!!」』』』』』』』』』』』

 

12人でそう叫ぶとソロモンを討伐するために全員で向かうべき敵に向かって突撃していくのであった。




評価をしていただけると作者としても今の作品が他人から見てどれくらいの面白さなのか参考になるので入れていただけると嬉しいです。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと集いし12剣士

セイバー達9人の剣士にカスミ、デザスト、トウマも加わり、12人が揃ったソードオブロゴスは大量のシミー軍団及び最強状態のソロモン、レジエル、ズオス、ストリウスを相手に戦闘を開始する。まずは目の前にいるシミー軍団を殲滅するべく剣士達は剣を振るっていった。

 

「皆さん、使ってください!」

 

《刃王必殺リード!既読十聖剣!刃王必殺読破!刃王クロス星烈斬!》

 

クロスセイバーが10本の聖剣を召喚するとそれぞれに対応する剣士達へと飛ばしていき、クロスセイバーとファルシオン以外の10人は二刀流となった。そしてファルシオンは得物である自分の剣を持ち、クロスセイバーも二刀流となるべくキングオブアーサーの本を取り出す。

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《キングオブアーサー!》

 

《聖刃抜刀!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイブリッド!セイバー!セイバー!》

 

これにより、剣士達全員が二刀流となってメギドを殲滅していく。

 

《玄武神話!》

 

《ジャッ君と土豆の木!》

 

《ドゴーン!会心の激土乱読撃!ドゴーン!》

 

『うおおおお!!』

 

バスターが2本の巨大化させた激土を振り下ろし、直線上の敵を粉砕するとそれを見たブレイズは片方の剣をベルトに納刀。もう片方を腰のホルダーに入れてから2本共抜刀する。

 

《必冊凍結!流水抜刀!タテガミ氷牙斬り!》

 

《流水居合!読後一閃!》

 

『これでどうです!』

 

水と氷、2つの属性の斬撃はまず敵を倒しつつ水で地面を満たした後にそれを丸ごと凍結させる事でシミー軍団の動きを封じていく。

 

『今がチャンス!』

 

『私達の連携を喰らってみる?』

 

エスパーダと剣斬はランプドアランジーナと猿飛忍者伝の本を取り外すとそれを交換。それぞれ必殺技を発動する事で体に黄色い風と緑の雷を纏った。

 

《猿飛忍者伝!》

 

《ランプドアランジーナ!》

 

《こぶた三兄弟!》

 

《必殺読破!黄雷抜刀!ケルベロス!ヘッジホッグ!猿飛佐助!三冊斬り!サ・サ・サ・サンダー!》

 

《翠風速読撃!ニンニン!》

 

『疾風剣舞!来豚!』

 

『トルエノ・デル・ヴィエント!』

 

『疾風剣舞!雷二連!』

 

剣斬が持つ2本の翠風の内、投擲した手裏剣モードの翠風が3つに分身。それらが動けないシミー軍団を一網打尽にした後にエスパーダと剣斬が高速での連続斬撃を放った。

 

2人はシミー軍団を倒すと本を持ち主へと返し、次の敵へと向かっていく。

 

サーベラとデュランダルは2人で背中を守り合いながら敵を確実に倒していった。

 

『行きましょう、お姉様!』

 

『勿論よユイ』

 

《狼煙霧虫!》

 

《必殺時国!》

 

《インセクトショット!》

 

《オーシャン一刻斬り!》

 

《煙幕幻想撃!》

 

《オーシャン三刻突き!》

 

2人で放った四つの必殺技がシミー軍団を薙ぎ払い、蹴り飛ばし、斬り裂いていく。最光とカリバーも負けじと光の速度での高速斬撃やカリバーの居合斬りによって蹴散した。

 

『カナデ、お願いします!』

 

『これだね!』

 

《最光発光!》

 

最光が2本ある光剛剣の内の片方から眩い光を放たせるとそれによってシミー軍団の目を潰している間に最光とカリバーで必殺技を発動していく。

 

《必殺リード!ジャオウドラゴン!》

 

《月闇居合!読後一閃!》

 

《フィニッシュリーディング!サイコーカラフル!》

 

《習得一閃!》

 

『『はあっ!!』』

 

一方でスラッシュは銃と剣の2つのモードの錫音を使う事で中〜近距離の敵を一掃し撃破し続けていた。

 

《ヘンゼルナッツとグレーテル!》

 

《ブレーメンのロックバンド!》

 

《イェーイ!錫音音読撃!イェーイ!》

 

『上げていくわよ!』

 

スラッシュは近い敵はお菓子の力を高めた剣で斬り刻み、遠くの敵は音の弾丸を込めた銃で狙い撃っていく。セイバーも炎を纏わせた烈火の二刀流ですれ違い様に斬っていき、敵からの攻撃は滅壊の盾で防いでいった。

 

『これでどうだ!』

 

《烈火居合!》

 

《エモーショナル必殺読破!エモーショナル必殺撃!》

 

『うおらあっ!!』

 

セイバーが剣を振るうと炎の斬撃と赤、白、黒の3匹の龍による攻撃が飛んでいき、シミーを叩きのめした。

 

『決めるぜ、相棒』

 

「ああ、雑魚掃除もさっさと終わらせてやるか!」

 

《必殺読破!キングスラッシュ!》

 

《必殺黙読!不死鳥無双撃!》

 

ファルシオンが跳びあがるとキックを放ち、クロスセイバーは巨大な剣で周囲にいるシミーを全て薙ぎ払う。これにより剣士達はシミー軍団を全滅させる事に成功。それと同時にクロスセイバーが創り出した聖剣が消え、クロスセイバーも通常のブレイブドラゴンに戻りいよいよソロモンやメギドの三幹部との戦いになった。

 

まずはクロスセイバーの前にレジエルが立ちはだかるがそれに対応するようにセイバー、カリバー、最光の3人が彼と剣をぶつけて押し留める。

 

『先に行ってください』

 

『僕達の分も頼むよ』

 

『ここは俺達が引き受けた』

 

それを受けて残りの9人がソロモンを倒しに走っていく。するとそこにズオスが出てくると2本の蛮刀を振り上げるがそれを真っ先にファルシオンが受け止めた。

 

『お前の相手はこの俺だ』

 

《界時抹消!》

 

《再界時!》

 

「!!」

 

更に界時抹消でサーベラとデュランダルを除く6人が前に移動し、その場に残ったサーベラとデュランダルがファルシオンと共にズオスへと立ち向かう。

 

『ここは私達に』

 

『任せてよね!』

 

「頼んだ!」

 

更に進むクロスセイバー達。そこに最後の一体であるストリウスが立つものの、今度はバスター、剣斬、スラッシュが出て3人でストリウスの動きを止めさせた。

 

『行け、セイバー!』

 

『私達が足止めするわ。あ、あとそれとこれをあなたに返すわね!』

 

そう言ってスラッシュとバスターはクロスセイバーから受け取っていたストームイーグルと西遊ジャーニーの本をクロスセイバーに投げ渡して返した。

 

『サリー、メイプル、セイバーをお願いします!』

 

『『勿論!』』

 

そしてとうとうソロモンの前にクロスセイバー、ブレイズ、エスパーダの3人が到達。3対1の構図が四つ生成されるとそれぞれが倒すべき敵との戦いを始めるのだった。

 

「今日この時を持って俺はお前を倒す!」

 

『できるものならやってみろ!』

 

まずはクロスセイバーが走っていき、ソロモンと剣を交える。そこにブレイズとエスパーダが加わると3人同時にソロモンへと剣を振り下ろし、その圧力に耐えきれなくなったソロモンは攻撃をまともに受けた。

 

『チッ……』

 

続けてクロスセイバーが跳びあがるとソロモンの気が空中へと向いた。その瞬間にエスパーダは高速で接近すると電撃を纏わせた斬撃でダメージを与えていく。

 

『卑怯な……』

 

『散々卑怯な行為をしておいて今更何を言ってるのかしら』

 

ブレイズがベルトの本についているクリスタと呼ばれる部分を押し込んだ。すると本に付いている獅子の顔の周りに展開されたタテガミ部分に描かれている絵が回転。ブレイズは赤い部分を下にしてその能力を発動した。

 

《大空の氷獣!タテガミ大空撃!》

 

するとブレイズのタテガミが氷の翼へと変化し、空に羽ばたくと空中から氷塊を飛ばしてソロモンを牽制しつつキックを叩き込んでいった。

 

『ぐはあっ!!』

 

「次はこれだぜ!」

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ストームイーグル!》

 

《西遊ジャーニー!》

 

《聖刃抜刀!クリムゾンセイバー!クロスセイバースリー!》

 

クロスセイバーは赤い本三冊でパワーアップすると炎の力を最大限まで高めてすれ違い様にソロモンを斬りつけた。

 

『調子に……乗るなぁ!!』

 

《OMNIBUS LOADING!SOLOMON STLASH!》

 

ソロモンが剣を振るうと赤黒い斬撃が飛んでいき3人を襲うが、それは巨大な剣、キングオブアーサーによって防がれた。その剣を召喚したのは当然クロスセイバーが変化したハイブリッドセイバーである。

 

《キングオブアーサー!》

 

《聖刃抜刀!ハイブリッドセイバー!》

 

『貴様ぁああ!』

 

ソロモンは巨人兵士、キングオブソロモンを召喚して3人を潰そうと目論むがそれに対抗するようにクロスセイバーもキングオブアーサーを人形に変形させて応戦させた。

 

「一気に決めるぞ」

 

『うん!』

 

『ええ!』

 

3人はソロモンへと決定的な一撃を入れるためにクロスセイバーとエスパーダは剣を納刀してからトリガーを2回引き、ブレイズはクリスタを回転させて水色のパーツを下にしてその能力を発動。

 

《刃王必殺読破!》

 

《必殺読破!》

 

《百大氷獣!》

 

《ケルベロス!ヘッジホッグ!アランジーナ!三冊撃!》

 

《タテガミ大氷獣撃!》

 

《刃王二冊撃!》

 

『オーロ・ボンバルデーロ!』

 

『レオ・ブリザード・カスケード!』

 

「銀河騎士王蹴烈破!」

 

《セ・セ・セイバー!》

 

《サ・サ・サ・サンダー!》

 

3人はソロモンへとキックを放つとソロモンが赤黒い斬撃波で押し留めようとするが、ぶつかり合った瞬間に斬撃波は打ち破られてキックが叩き込まれるとソロモンは火花を散らしながら大ダメージを受けていた。そして、巨大な巨人同士の戦いもキングオブアーサーの見事な勝利により幕を閉じる。

 

「っしゃ!これで決まりだな」

 

クロスセイバーが勝ちを確信しているとソロモンは赤黒いエネルギーを高めていた。

 

『言ったはずですよ……今度は手加減などしないと!!』

 

その瞬間、ソロモンの体がメギドと同様に赤と黒に染まっていくとソロモンの限界を超えた状態へとパワーアップしてしまった。

 

『なっ!!』

 

『まだ上があるの!?』

 

「おいおい、冗談はよしてくれよ……」

 

しかし、クロスセイバー達も負けるわけにはいかない。ここからが本番だと3人は気を引き締めつつソロモンへと向かっていくのだった。

 

その頃、レジエルと戦っているセイバー、カリバー、最光の3人はレジエルから繰り出される強力な魔法攻撃を前に苦戦を強いられている。

 

『喰らえ雑魚ども!』

 

レジエルが剣を空へと掲げると空から雷や岩石が落ち、正面からは激流や爆炎のエネルギー弾が3人を襲っており3人はそれぞれ光と闇の障壁及び滅壊の盾を使い何とか凌いでいた。

 

『コイツ、今までとは次元が違う』

 

『けど、このまま負けるわけにはいかない!』

 

『勿論です!』

 

すると最光がこの状況を打開するために行動を起こす。最光は全身の装甲を腕へと集約させて2本目の剣を作り出した。

 

《移動最光!腕最高!Fullcolor goes to arm!》

 

『行くよ』

 

《最光発光!》

 

最光の特性として光速での移動が挙げられる。そしてその範囲は自身の光が届く範囲ならどこへでも可能なのだ。最光は光剛剣から光を放つ事で周囲を照らし、移動範囲を拡大。レジエルの真横に瞬間移動すると横から2本の剣で斬りつけた。

 

『ぐあっ!!』

 

『今だよカスミ様、トウマ!』

 

2人は最光からの合図を受けて突撃するとカリバーは本を畳んでから月闇の柄で押し込み必殺技を発動。そのまま闇のエネルギーを高めて斬り裂く。

 

《ジャオウ必殺読破!ジャオウ必殺撃!》

 

『はあっ!』

 

レジエルがダメージによろめいている間にセイバーが跳び上がりつつキックの体勢に入ると烈火を納刀してからトリガーを2回引いて赤、白、黒の3匹の龍の力を纏わせたキックを放つ。

 

《必殺読破!伝説の神獣!一冊撃!ファイヤー!》

 

『情龍蹴撃破!』

 

レジエルはその威力に対抗するべく赤黒い力を集約して迎え撃つと2つの力はぶつかり合い互角の勝負に思えた。しかし、まだセイバー達にはもう1人剣士が残っている。

 

《移動最光!脚最高!Fullcolor goes to leg!》

 

最光が脚に装甲を移動させると空中へと跳び上がり引き上げられた脚力を活かしたキックを放った。そしてそれに合わせるようにカリバーが地面に月闇を突き立てると闇がレジエルの足元に広がって付着し動きを封じる。

 

《フィニッシュリーディング!サイコーワンダフル!》

 

『エックスソードブレイク!』

 

『舐めるな!そんなもの打ち消してやる』

 

だが3人の連携はもうレジエル1人で止め切れるような威力では無くなっていたためにレジエルは押し切られると攻撃をまともに喰らって爆散。撃破されることになった。

 

最光は元のカラフルに戻り3人はレジエルの撃破をひとまず喜ぶ事になる。

 

次はズオス対サーベラ、デュランダル、ファルシオンの局面へと移り、こちらでは今までよりも更に速度に磨きがかかったズオスが3人を押していた。

 

『おいおい、まさか3人がかりでかかっておいてその程度か?』

 

『ふん。お前だけがその速度で動けると思うなよ』

 

ファルシオンはそう言うと突如としてスピードを上げ、ズオスと互角に打ち合った。それを見たサーベラとデュランダルはファルシオンをサポートするために行動を開始する。

 

『まずはズオスの動きを止めます』

 

《界時抹消!》

 

デュランダルが界時抹消で特殊空間に入るとズオスの行動を予測してその通り道にカイジスピアの先端を置いた。

 

《再界時!》

 

時間の流れが元に戻った瞬間、ズオスはカイジスピアの先端に斬り裂かれて思わず減速してしまう。そこにサーベラがズオスを取り囲むように煙で分身を作るとズオスはすかさずそれを斬り裂くがその煙が煙幕となりズオスの視界を封じる。

 

『小癪な……』

 

『デザスト……でしたね。今です!』

 

『オラアッ!』

 

そこに煙の中でも鼻が効き、匂いで対象を見分けられるデザストが変身したファルシオンが虚無でズオスを斬り、ズオスはそのダメージで吹き飛ばされた。

 

『コイツら、凄まじい連携力してきやがって……』

 

『次はこれよ!』

 

《界時抹消!》

 

ここで再びデュランダルが界時抹消。ズオスの背後へと動いていく。そして特殊空間から浮上した。

 

《再界時!》

 

『はあっ!』

 

ズオスはそれを予測していたかのようにすぐに振り返ると蛮刀での攻撃を仕掛ける。だが、それこそがデュランダルの狙っていたことだった。ズオスが振り返った瞬間、サーベラは必殺の一撃を放つ準備を終えていたのだ。

 

《超狼煙霧虫!昆虫煙舞一閃!》

 

サーベラが煙で生成された縄でズオスを縛り、電撃で怯ませている間に背中から鋭利に尖った昆虫の足で滅多刺しにした。そこにデュランダルからも追撃の攻撃を放たれる。

 

《一時一閃!》

 

デュランダルが3回トリガーを引くと水のリングが生成され、それがズオスへと命中すると彼を水の中へと閉じ込めた。煙の縄と水の檻による二重の拘束にズオスは対応できず、動きが封じられたところに締めの攻撃が迫っていく。

 

《必殺黙読!抜刀!不死鳥無双斬り!》

 

『カラミティストライク!』

 

ファルシオンが頭から突っ込みつつ、ドリルのように回転しながらの炎を纏った斬撃を放ちズオスを押し込んでいくとその体を貫通。ズオスは大量のダメージエフェクトと共に爆散し、ズオスとの戦いも剣士達の勝利となった。

 

最後にストリウスとバスター、剣斬、スラッシュの戦いではストリウスが自身の能力で3人に分身し、剣士達の持つ数の優位を消失させた上で強化された戦闘力で3人を圧倒していく。

 

『コイツ、さっきとは動きがまるで違う』

 

『でも、負けるわけにはいかないよ!』

 

《こぶた三兄弟!》

 

剣斬が失われた数の優位を取り戻すべく本の力を使用。その姿を変化させた。

 

《双刀分断!風双剣翠風!》

 

剣斬がこぶた三兄弟の能力で3人へと分身するとストリウスの分身の内、1体を集中攻撃。しかしそれでも残る2体はバスターとスラッシュに任せるしか無かった。それほどまでにストリウスの力が上がっているのである。

 

『どうしました?そんな程度では私は崩せませんよ』

 

『言われずともわかってるぜ。お前は1つ計算ちがいをしている』

 

『ほう、それは?』

 

『私達になら勝てると考えている事よ!』

 

《ジャッ君と土豆の木!》

 

《ブレーメンのロックバンド!》

 

《一刀両断!土豪剣激土!》

 

《銃剣撃弾!剣で行くぜ!NO!NO!銃でGO!GO!BANG!BANG!音銃剣錫音!》

 

バスターとスラッシュが姿を変化させるとスラッシュは久々にハイテンションになり、ノリノリで銃を撃ちまくる。

 

『ヘイヘーイ!私のリズムについて来なさーい!』

 

スラッシュは先程までの剣での戦い方から銃をメインにした戦いへとスタイルチェンジする事でストリウスの意表を突く手に出た。しかも、ただ銃と剣を切り替えるのみに留まらず、ハイテンションモードに入る事で攻撃のリズムやタイミングをずらして相手を混乱させるという狙いもある。

 

『チッ……やはりそのテンションになると厄介ですね』

 

ストリウスはいきなり人が変わったかのようなスラッシュの戦い方の豹変ぶりに苦戦を強いられていた。だが、それも慣れてしまえば効果は薄くなる。そこでスラッシュは速攻で決めるためにストリウスへと畳み掛ける。

 

『相変わらずのハイテンションだな。俺も負けてられないぜ』

 

バスターは地面に土豆を打ち込んでいくとそのままストリウスと剣を打ち合っていく。

 

『あなたは他2人とは違ってやりやすいですねぇ』

 

『本当にそうかな?』

 

バスターがニヤリと笑うと地面から突然生えてきた蔓がストリウスを捕らえた。

 

『む……これは』

 

『ようやく気づいたか。さっきとは違って蔓を攻撃手段じゃなくて拘束のために使わせてもらったぞ』

 

ストリウスは蔓を引きちぎろうとするものの、周囲の地面から次々と蔓が生えてきてはストリウスの動きを封じていき、動きを抑えてしまった。

 

《剣盤!》

 

《一刀流!》

 

スラッシュは銃から剣に、剣斬も一撃の火力を上げられる一刀流モードに変えて3人はそれぞれ本を読み込ませる。

 

《天空のペガサス!》

 

《ジャアクドラゴン!》

 

《ピーターファンタジスタ!》

 

3人は敢えてサリーやカスミから予め受け取っていた本を使いいつもとは違う技でトドメの一撃を放つ。

 

『大断断!』

 

『アイアンシャウト!』

 

『疾風剣舞!一豚!』

 

バスターが激流を纏わせた巨大な激土での一撃をぶつけ、剣斬が一刀流の翠風から鎖付きのフックを伸ばすと鞭のように連続で叩きつけていく。最後にスラッシュが闇と音の斬撃をすれ違い様に命中させ、ストリウスを分身ごと全て倒した。これによってストリウスは爆発し、完全に撃破されることになる。

 

最後に残されたソロモンは更なる力の解放によってクロスセイバー、ブレイズ、エスパーダを追い詰めていた。

 

「く……まさかクロスセイバーでも苦戦するのかよ」

 

『この私をコケにしたんだ。もうお前らを生かしはしないぞ』

 

《OMNIBUS LOADING!SOLOMON ZONE!》

 

するとソロモンは自らに有利になるフィールドを展開し、3人の動きを鈍らせようとする。

 

「その技は対応可能だぜ!」

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ストームイーグル!》

 

《西遊ジャーニー!》

 

《聖刃抜刀!クロスセイバースリー!》

 

クロスセイバーは機動力に優れた形態に変化して対抗するが、今回のソロモンゾーンの力は以前とは比べ物にはならなかった。そのためにその姿でも動きはかなり制限されてしまう。

 

『もうその力は通用しないんだよ!!』

 

《OMNIBUS LOADING!SOLOMON BREAK!》

 

ソロモンから放たれた衝撃波は動きが鈍ったクロスセイバーを襲い彼を吹き飛ばしてしまった。

 

「がっ……」

 

『貴様を潰してこの世界をこの私が支配してやる!』

 

「そんな事……させるかよ。世界は誰かが支配して良いものじゃない。お前のような独裁者に支配される事を望む人間なんてここにはいないんだよ」

 

『大切な人達は私が、いえ……私達が守ってみせます!』

 

『あなたの野望を止めようとして死んだ父さんやあなたの独裁のせいで亡くなった全ての人を弔うためにも私達はあなたを倒す!』

 

「俺達人間の力を……侮るなよ!」

 

クロスセイバー達3人がそう言うとブレイズの持つライオン戦記、エスパーダの持つランプドアランジーナがクロスセイバーの手に飛んでいき、その影響か2人は変身が解除された。

 

『セイバー、あなたに全て託すわ』

 

『だから絶対に勝って!』

 

「勿論だ!物語を、世界を創造するのは……」

 

「『『俺(私)達だ!」』』

 

《ブレイブドラゴン!》

 

《ライオン戦記!》

 

《ランプドアランジーナ!》

 

クロスセイバーが三冊の本を読み込ませるとそれは赤、青、黄の粒子となってベルトに装填。クロスセイバーが聖刃を納刀してからそれを抜刀するとクロスセイバーの後ろに巨大な三冊の本が降りて来てそれが1つの絵となった。

 

《聖刃抜刀!ドラ!ドラゴン!ライオン!戦記!アー!アランジーナ!絆が導く勝利の約束!合併出版!フィーチャリングセイバー!》

 

すると本の中から赤い龍、青いライオン、黄色い魔神が出現。それらが蒼く染まるとクロスセイバーの周囲を周回しながら装甲として合体。クロスセイバーの右腕や右肩にはドラゴン、胸にはライオン、左腕や左肩にはランプの装甲が装備されたクロスセイバーの最強形態、フィーチャリングセイバーが誕生したのだった。

 

「行くぞ、サリー、メイプル!」

 

『私に勝てる者などいないと……何故わからない!!』

 

ソロモンはそう言いながら空中に大量の赤黒い剣を召喚するとクロスセイバーはそれに対抗するように聖刃の太陽のパーツを1つ上にスライドさせて力を発動した。

 

《刃王必殺リード!既読三聖剣!刃王必殺読破!星烈斬!》

 

すると空中に烈火、流水、黄雷が大量に出現する。それらが向かってくるソロモンの赤黒い剣と激突すると相殺され、強化されたソロモンと互角のパワーにまで上がった事が示された。しかも、変身しているクロスセイバーのみならず、生身であるサリーとメイプルもソロモンゾーンの中にも関わらずクロスセイバーと同じように動けている。

 

『馬鹿な、強化されたソロモンゾーンをも超える力だと言うのか』

 

クロスセイバーはそんなのお構いなしとばかりに聖刃を納刀してトリガーを引き抜刀。炎、水、雷の力を刀身に集約させた。

 

《刃王必殺読破!聖刃抜刀!》

 

「刃王友情斬!」

 

《刃王三冊斬り!セ———セイバー!》

 

「はあっ!」

 

クロスセイバーが聖刃でひと薙ぎするとソロモンゾーンが一撃で粉砕。元の空間へと戻った。

 

『セイバー、私の力を使って!』

 

「ああ!」

 

メイプルの言葉にクロスセイバーは頷くと魔法の絨毯を呼び出して飛び乗り、空中へと浮かぶとソロモンをすれ違い様に斬りつけていく。

 

『ぐ……この私が貴様等如きに……』

 

ソロモンが怒り狂うとカラドボルグに赤黒いエネルギーを纏わせて斬撃を放った。これをまともに喰らえばいくらクロスセイバーでもタダでは済まないだろう。だが、今の彼にはそんなものは通用しなかった。

 

『今よ、私の力で!』

 

「おう!」

 

クロスセイバーが胸のライオンを光らせると中から青いライオンが飛び出して斬撃を相殺するばかりか逆にソロモンへと何度も噛みついて彼を怯ませる。

 

「『『これが俺(私)達3人の未来の物語を紡ぐ力だ(よ)!」』』

 

クロスセイバーはサリーやメイプルの想いも束ねて聖刃を納刀。そのままトリガーを2回引いて必殺技を発動させた。

 

《刃王必殺読破!》

 

「銀河友情蹴烈破!」

 

《刃王三冊撃!》

 

クロスセイバーが跳び上がるとそのままソロモンへとキックを放つ。それを見たソロモンも対抗するように飛び上がってキックの体勢に入った。

 

《OMNIBUS LOADING!SOLOMON BREAK!》

 

『はぁあああ!』

 

「うぉりゃああああ!」

 

2つのキックは空中でぶつかり合うとクロスセイバーからは炎、水、雷の三属性の力が、ソロモンからは赤黒く禍々しい力が溢れていく。クロスセイバーはここに追い打ちをかけるように一旦聖刃を抜刀すると十聖剣の力を一度に解放した。

 

《刃王必殺リード既読十聖剣!刃王クロス星烈斬!》

 

『何だと!?』

 

『『いっけぇええ!!』』

 

「終わりだ!イザク!!」

 

その瞬間、クロスセイバーの周りに聖刃を構成する11本の聖剣が現れてからその持ち主である剣士達の幻影が出てくるとそれらがクロスセイバーへと重なっていきその一撃はソロモンのキックを打ち破って空中で火花を散らさせる。

 

《セ———セイバー!》

 

『馬鹿な、この私が……人間如きにぃいいい!!』

 

クロスセイバーが着地するとソロモンは爆散して変身解除。その直後にソロモンの力を無理矢理解放させた反動かイザクの体は塵となって消滅。これにより、クエストは完全にクリアとなってクロスセイバーの元に完全達成の報酬が入ることになった。

 

クロスセイバーはその報酬を見る間も無いままに変身解除すると変身解除して駆け寄って来た剣士達と喜びを分かち合う。そんな中、セイバーが変身解除したトウマの体が透けていくと消滅を始めた。刃王剣の力でもこれ以上の維持は限界のようなのだ。

 

『どうやらここまでみたいだね。セイバー、これは君に返すよ』

 

そう言ってトウマはセイバーへと烈火及びエモーショナルドラゴンの本を返した。それからメイプルの元に歩いていく。

 

『メイプル、これからは皆と幸せな世界で生きていくんだよ』

 

『わかってる……皆と守ったこの世界を私は精一杯生きてみせるよ』

 

『最後に、皆と戦えて良かった。ありがとう』

 

トウマはそう言い残して粒子となり消滅。この場から完全に消えることになった。そして、この場にいる事ができない人間がもう1人……。

 

『あれは……』

 

カスミが空を指さすとそこにはワームホールが開いており、セイバーが元いたゲームの世界へと戻る道が開かれていた。

 

『もう行ってしまうんですね』

 

『これから祝勝会だってのにその立役者無しとはな』

 

『でもこれは最初に決めた約束だから』

 

『僕達は笑って君を見送るよ』

 

「そっか……それじゃあ、これは皆さんにお返ししますね」

 

セイバーはそう言うと刃王剣とデザストが持っていた無銘剣をカスミへと渡す。

 

『どうして返すの?それはセイバーの物じゃ……』

 

「いや、これは元々は俺の物じゃない。この世界を守るために一時的にこの世界の物を借りただけさ。だから返さないとね。それに、もしこの剣が無かったらこの先この世界がピンチな時に困るでしょ」

 

セイバーの言葉にその場の全員は納得するとセイバーの提案を受け入れた。それを終えるとデザストがセイバーの中へと強制的に戻されてその体はワームホールに吸い込まれるように宙へと浮き始める。

 

『これからはこの世界は私達が守るわ』

 

『だから安心して戻ってください!』

 

『ありがとうセイバー、またいつか会えると良いね!』

 

「勿論さ。今度は俺達のいる世界でまた会おうぜ!」

 

セイバーがそう言うと剣士達へと手を振って別れを告げた。その時、サリーがジャンプすると浮かぶ途中のセイバーの元に到達。そして彼女はセイバーの頬に自分の口を優しく付けた。

 

「え……」

 

『好きよ……セイバー』

 

最後に小声で言われたその言葉にセイバーは顔を一瞬赤くし、そのままサリーは地面へと降りていくとセイバーはワームホールに吸い込まれて穴は閉じるのだった。

 

それからセイバーはワームホールを通りながらデザストに揶揄われていた。

 

『おうおう、良いよなぁ元の世界と異世界、2人のサリーに好かれてよ』

 

「お前マジで黙ってろ。さっきからそればっかだろうが」

 

『そういや、良かったのかお前。刃王剣手放して。最後の聖剣だろ?』

 

「良いよ。さっきも言ったけどアレはあの世界の刃王剣。俺達がやってるゲームの物じゃない」

 

『いやいや、この出来事自体ゲームの物なんだから良いだろ』

 

「メタイ話をするなし」

 

セイバーがツッコミを入れるとどこからともなく失われていた烈火以外の10本の聖剣が帰ってくる。それと同時に装備も烈火を装備している時の絆龍の装備へと戻り、【絆の架け橋】も復活してブレイブが呼び出せるようになった。

 

「あ、そういえばお前ずっと出て来れるのになんで出てこなかったんだ?」

 

『そんなのお前1人の実力でクエストクリアしないといけないのに俺が出るわけにはいかないだろ?』

 

「それもそうか。お前なりの配慮をありがとうな」

 

『良いって事よ。お、そろそろ出口みたいだ』

 

するとセイバーの視界が光に包まれていき、その外へと飛び出すとセイバーは元いた図書館に仰向けに倒れていた。セイバーが起きると両手に何かを手にしてる事に気づく。片手には返したはずの刃王剣十聖刃が……そしてもう片方の手には見たことの無い新しい本が。どうやら聖剣関連のイベントはこれでは終わりでは無いらしい。

 

セイバーは起きると新しく手にしていた2つの物に驚くが、すぐに気を取り直して立ち上がった。

 

「さてと、さっさとアイツらの元に帰るか。どうせ俺がいなくて心配しているだろうしな……」

 

セイバーが後ろを向くと異世界剣士伝と書かれていた本は少しずつ消滅を始めており、セイバーはその事実にもう二度と会えないという悲しさを感じつつもその場を後にし、元のゲームの世界へと戻っていくのだった。




今回でようやく異世界編終了となります。何とか異世界編を年内に終わらせることができました。今年も一年この作品を読んでいただきありがとうございました。来年もよろしくお願いします。それでは良いお年をお過ごしください。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと新情報

少し遅いですが新年明けましておめでとうございます。今年もこの作品をよろしくお願いします。


異世界でのクエストを完全にクリアし、元の九層へと戻って来たセイバー。激戦続きで疲れたセイバーは久しぶりにギルドホームでゆっくりしようとした。だが彼に待ち受けていたのは穏やかな物では無くサリーからのお説教だった。

 

「セイバー、あんたねぇ!!」

 

「待って待ってマジでわざとじゃ無いから本当に許してくださいサリーさん」

 

今現在【楓の木】のギルドホームではセイバーがサリーの前に正座させられており、その周囲をメイプル、カスミ、クロム、イズ、カナデの5人が囲んでいる状態だった。そこにログインしたヒビキがやってくる。

 

「あ、セイバーお兄ちゃん久しぶ……へ?これどう言う状況ですか!?」

 

ゲームの中に入ったらいきなりセイバーがサリーに叱られているという光景に驚くヒビキ。彼女の問いに答えたのはメイプルだった。

 

「えっとねぇ、何があったかと言うと……」

 

〜回想〜

 

セイバーは目覚めてからすぐにギルドホームへと戻るとそこにはメイプルやサリー達がログインしておりセイバーの帰還を聞いてセイバーの元にやってきた。

 

「ただいま!」

 

「セイバー、久しぶりね!」

 

「やっと帰ってきたな。それでその手に持ってる剣はもしかして……」

 

「はい!新しい聖剣を手に入れました」

 

「マジか。これで12本目…‥ってことはこれで聖剣集めは終わりなのか?」

 

「多分そうだとは思うんですけど、まだ何かはあるみたいなので聖剣以外でのクエストがいくつかあるかもです」

 

それからセイバーは異世界でどんな冒険をしたのか、どんなクエストをやってきたのかについて色々と聞かれることになりセイバーはその質問に答えようとすると足元に偶々落ちていたネジを踏んづけてしまい足を滑らせた。

 

「へ?」

 

「え、待ってこれってま……」

 

次の瞬間、セイバーが前に倒れ込むと目の前にいたサリーを巻き込んで倒れてしまいそのままセイバーはサリーのある場所を触ってしまった。

 

「痛てて……なんか手に柔らかい感触が……」

 

セイバーがそう言いながら自分の手が置かれている場所を見ると手はサリーの胸にあった。そのため自分が今何をしているのかを一瞬で理解。その後どうなるかも予想がついてセイバーはゆっくりとその場に正座した。

 

「サリーさんマジですみませんでし……」

 

「このドスケベがぁああああ!!」

 

「この光景にデジャブを感じるがマジでごめんなさぁあああい!」

 

セイバーは謝るがもう時既に遅し。サリーから放たれたビンタからの回し蹴りがセイバーに炸裂した。

 

〜現在〜

 

「と言う事があってね……」

 

「それはセイバーお兄ちゃんが悪いですね……」

 

「私達としてはセイバーも悪気があってやったわけじゃないから擁護してあげたいんだが」

 

「あの状態のサリーちゃんはもう何を聞いても収まらないでしょうね」

 

怒り狂うサリーに反省するセイバー、そしてセイバーをフォローしたくともサリーの無言の圧力で何もいえない周囲の人間といった状態になっていた。

 

それから小一時間後、ようやくサリーはセイバーへの説教を終えるとセイバーは既に疲れで倒れ伏していた。

 

「はぁ、もう良いわ。あんたから受けるスケベ行為には嫌気がさすけど今回はこのくらいにしといてあげる」

 

「うぅ……何で疲れてるのにこうなるんだよ……そんなんだからお前はガサツなんだよ。もっと女子らしくお淑やかになりやがれ……

 

「今なんて?」

 

「ヴェッ、マリモ!」

 

セイバーはサリーには聞こえないように小声で悪口を言ったのだが、バッチリ聞かれてしまっていたのですぐに訂正する羽目になった。しかもその時“いえ、何も”と言ったはずなのにあまりにも滑舌が悪く、そのせいで変な言葉になっていた。

 

「まぁ良いわ」

 

「ふう。でも良かったよサリーの心はいつも通り狭くて」

 

「……は?」

 

「何しろ異世界のサリーの心が広すぎたせいでこっちのサリーの心が狭く感じたみたいだね。それに向こうのほうが胸もあったしな。こっちのサリーなんて胸は絶壁……」

 

「ふん!!」

 

「ぐはっ!!」

 

次の瞬間、セイバーの腹はサリーからの強烈な殴打を受けてセイバーはあまりの痛みにその場に崩れ落ちた。

 

「うわぁ痛そう……」

 

「でも今のは完全にセイバーが悪い」

 

「女の子にあんな事言うとかサイテーですね」

 

それからセイバーはサリーに引きずられると訓練室でみっちり“お話”した後に無事にシバかれた。

 

その後、虫の息となったセイバーは再びサリーに引きずられて大広間にまで出てくるといつの間にかやってきたマイとユイも含めた全員の前に突き出された。

 

「な、何でこんな目に」

 

「前半のは不可抗力だけど後半のはセイバー、あなたが悪いわ」

 

「下手したら通報ものだし、サリーが優しくて良かったな」

 

「いやいや、暴力を振ってくる時点で優しくなんか……」

 

「あ?」

 

「すみません本当に許してください何でもしますから」

 

「なら今から新しい聖剣について説明して」

 

セイバーはその言葉に気が遠くなるような感じがした。何故なら今自分はサリーによってボロボロにされたばかりである。その状態で説明しろと言われてもどうしようもできないだろう。

 

「待って、もう少しだけ休ませて」

 

「え、今何でもするって言ったじゃん」

 

「あ」

 

「セイバーさん、約束は守らないといけませんよ」

 

「じゃないと私達もセイバーさんのこと嫌いになっちゃいますよ?」

 

事情を聞いたマイとユイもセイバーの事を軽蔑するような目で見つめ始め、セイバーは他のギルドメンバーに助けを求めるが全員揃って“今回はセイバーが悪い”と言ったがためにセイバーはもう抵抗は無駄だと悟って大人しく全員を連れて訓練室へと移動した。

 

「それじゃあ始めますよ。聖刃抜刀!」

 

セイバーが新しく手に入れた剣、刃王剣十聖刃を抜刀すると体に纏った鎧などが眩い光と共に変化を始めた。そうして光が収まるとそこには青がベースで所々に夜空に浮かぶ星のような物が描かれていた。更に右肩にはドラゴンの頭を模した装飾が付いており、頭には刃王剣の刀身を模したものがツノのように伸びていた。

 

『刃王のヘッドギア』

【MP+50】【VIT+50】【HP+100】

【破壊不可】

【宇宙の加護】【創世の力】【流星弾】

 

『刃王の鎧』

【VIT+50】【INT+100】【STR+30】【DEX+100】

【破壊不可】

【装甲変化】【星々の守り】【星龍咆哮波】

【刃王砲】【星の刃(スターブレード)】

 

『刃王の靴』

【AGI+100】【MP+50】

【破壊不可】

【銀河大爆発】【聖剣強化】

【空中歩行(エアーウォーク)】

 

『刃王剣十聖刃(はおうけんくろすせいばー)』

【STR+70】【破壊不可】

【刃王創星斬】【刃王クロス星烈斬】

【クロス斬り】【刃王超一閃】

 

「嘘、全てのステータスに補正値プラス100!?」

 

「ぶっ壊れにも程があるなぁ」

 

「それに加えてスキルもとか。この装備を得るためのクエスト、運営側としてはセイバーに取らせる気無かったでしょ」

 

「まぁそうだな。実際あのクエストの難易度はこれまでの中で一番だったし」

 

9人がそれぞれの反応を示す中、セイバーは1つずつスキルを使ってのデモンストレーションを行なっていく。

 

「えっと、どれからやろうかな……良し、じゃあまずは【宇宙の加護】!」

 

セイバーがそう言うとセイバーの周囲の空が暗くなっていくと星空へと変化していき、セイバーの体からオーラが湧き上がってきた。

 

「えっと、これは?」

 

「効果は最初にMPを最大値の半分持っていく事で一定時間の間展開されるこの星空の中にいる自身を含んだ味方プレイヤーのステータスを1.2倍にする。加えて予め指定した状態異常1つを無力化、更に時間経過と共に最大MPの中の5%ずつを回復させていく」

 

「もうセイバーのスキルは何でもアリだから多少の物なら驚かないつもりだったけど」

 

「これメイプルとかマイ、ユイみたいな元々のステータスが振り切れている人達よりも僕達のような普通のプレイヤーが入ったほうが強いよね?」

 

「しかも味方全員かぁ……」

 

セイバー以外の面々はもうセイバーの規格外さにはツッコむだけ野暮だということがわかっており、半ば諦めている状態だった。

 

「それじゃあ次に行きますよ。烈火【クロス斬り】!」

 

セイバーがそう言うとセイバーの手に火炎剣烈火が召喚されてセイバーは烈火を手にした。

 

「ああ、それは分かりやすく聖剣を召喚して使える能力ね」

 

「それだけじゃないんだよなぁ。これに常時発動スキル、【聖剣強化】が入ると更に聖剣に内包されたスキルの効果が1.2倍に向上する。更にホラ!」

 

セイバーが烈火を投げるとサリーがそれを掴むが、烈火は消滅しなかった。

 

「あれ、そういえばユニークシリーズって譲渡不可じゃなかったっけ?」

 

「そう。このスキルで召喚された聖剣は他のプレイヤーが自由に扱えるってわけ」

 

それからセイバーはユニーク装備に付いているスキルを1つずつ見せていき、それらを全て終えると烈火の装備へと戻った。

 

「ふう。それじゃあ頼み事も終わったので今日はもうログアウトさせてもらおうかな」

 

「はい?誰がその程度で許したって言った?」

 

セイバーはサリーからの言葉を聞いて急いでログアウトボタンを押そうとするが、その瞬間、マイとユイがセイバーを強制的に拘束。STRがとんでもなく高い2人に拘束されてセイバーは逃げるに逃げられなかった。

 

「セイバー、覚悟は良いかしら?」

 

「え、お仕置きはもう終わったんじゃねーのか?」

 

「第二ラウンド、始めるわよ」

 

サリーの目はまだ許していないと言わんばかりであり、セイバーはそれに観念するとそのままサリーからの問答無用のシバきがセイバーを襲った。

 

「マジで許して反省はしてるからぁ!」

 

「今回は徹底的にやるって決めてるから。許すわけないでしょうが!」

 

「ギャアアアアアアアア!!」

 

 

〜運営視点〜

 

その頃、ゲームの運営では予想通りセイバーが最強の力を手にした事を知り、手にするまでの過程を見ていた。

 

「やれやれ、予想通りセイバーは刃王剣を手に入れたわけだが」

 

「誰だ今回こそは大丈夫とか言った奴!」

 

「いつも通りセイバーの力は俺達が作るクエスト以上だな」

 

運営達はいつもの事だとは思ってこそいたが、それでもいざセイバーが更なる力を手にするとなると意識が持っていかれるのである。

 

「ま、まぁ元々セイバーの性能はぶっ壊れだったしこれ以上壊れても同じかと」

 

「そうかもしれないがなぁ」

 

「逆に考えよう。よくここまで聖剣を集めて強くなったと」

 

「発言が子供を見守る親そのものなんだよなぁ」

 

それから運営はセイバーの攻略映像を横にスライドさせて新たな映像を映し出した。

 

「それはそうとセイバーへの対抗策……というより新しい要素の追加の準備はできているか?」

 

「ああ、これを使えば実質的にプレイヤー全員が公平に強化される事になる。更にセイバーやメイプル、マイやユイ等のぶっ壊れステータスプレイヤーに対抗するための新たなユニーク装備の実施も控えているよ」

 

そこに映されていたのは今までに無い新たな装備や武器、装飾品などであり、これらがセイバー達との差を埋めるために作り出した新しいユニークシリーズだった。

 

「でもこのクエストをクリアできる奴なんているのか?」

 

「確かにこのクエストの攻略難易度は他のユニークシリーズを獲得するためのクエストよりは難しくなっている。ただ、プレイヤー達がその装備の先駆けとなる装備を使っての戦闘データを残してくれたお陰でこの装備達が出回るための準備は整った」

 

運営の中の開発陣のリーダー格の人間が誇らしげに頷いている中、不安の声を上げる者もいた。確かにこの新しいユニークシリーズがあれば開いてしまった戦闘能力の差を埋められるかもしれない。ただ、このユニークシリーズが強いプレイヤーの手に渡ってしまい、強いプレイヤーが更に強くなるという事態も十分にあり得るからである。

 

「ただ、このままよりもある程度の対抗馬も必要だ。必要な措置は取らせてもらう」

 

「これ以上言っても無駄みたいだな。よし、俺達も腹は括った」

 

こうして、運営達によって新たな力を秘めたユニークシリーズはそれを獲得するためのダンジョンと共にNWOのフィールドにばら撒かれていくのであった。

 

セイバーがこの世界へと戻ってきてから数日が経った。その間に運営から新たな通知が来た。1つ目は数日後にメンテナンスを行い、新たな要素が追加されるという事。2つ目は全ての層に新しいダンジョンが追加され、シークレットアイテムなどが投入されたとの事だった。

 

「運営さんも大変な事だなぁ」

 

「……何でナチュラルに俺達のギルドに入ってきている……セイバー」

 

今現在、セイバーは【集う聖剣】のギルドにお邪魔しており、丁度ログインしていたキラーと会っていた。

 

「別に良いだろ。2週間ぶりぐらいだし」

 

「お前、いきなりこのフィールドからいなくなったと思ったらどこで何をしていた?」

 

「なーんでそれをライバルのキラーに教えないといけないんだ?」

 

「やっぱりガードは固いか。だが、いずれはおおやけの場で披露するつもりだろ?」

 

「まぁね」

 

それからセイバーはいつものようにキラーと決闘をして鍛えようとするとその決闘の直前にフレデリカが入ってきた。

 

「キラー、いる?」

 

「何だよフレデリカ」

 

「フレデリカさん、お久しぶりです」

 

「あ、セイバーヤッホー。って、それよりもキラーこっちに来なさい。今日はペイン達とあのダンジョン攻略でしょ」

 

セイバーはフレデリカが発した言葉に疑問を浮かべると首を傾げた。彼女が言う“あのダンジョン”とは何なのか。問わずにはいられなかった。

 

「あの、フレデリカさん。あのダンジョンというのは?」

 

「んー?あのダンジョンって、セイバーもしかして知らないの?1週間前には運営から通知が来たこの層にいる裏ボスに挑戦するために必要なアイテムをドロップするボスが出るアレよ」

 

「は?は?え、本当に何のことかわからないんですが」

 

「えぇ……何で知らないのよ」

 

困惑するフレデリカを他所にセイバーは疑問を浮かべ続けるが、キラーはため息を吐いて説明をする事にした。

 

「えっとな、お前がいない2週間の間にこっちではあるダンジョンが話題になってるんだ。ダンジョンの数は合計で7個。それぞれのダンジョンで登場するボスを倒した際にドロップするアイテムを集めるとこの層の裏ボスに挑戦できるようになるって話だ」

 

「へぇ。四層で戦った鬼を彷彿とさせるんだな。それで、そのボスが出現する場所は?」

 

「ふん。既に攻略サイトに上げている奴がいるからそれを見れば良い」

 

「えぇー、ケチだなぁ」

 

「なんとでも言え」

 

そんなやりとりもあってキラーはフレデリカに無理矢理連れられてダンジョンの場所へと歩いていく。ちなみに、セイバーはついていかなかった。これ以上化け物人員が増えると相手するボスが可哀想になってくるのと、できる限り少人数で戦いたいとセイバーが言ったからである。

 

「しっかしそうなると暇だな……何を攻略したものか」

 

セイバーが悩みながら自分のギルドホームへの道を歩いていると目の前に1人の青年が現れた。どうやらNPCらしくセイバーへと困ったような表情で話しかけてきた。

 

『あの……すみません』

 

「どうしました?」

 

『あなたに頼みがあってここに来ました。私の友人を助けてあげてもらえませんか?』

 

「……話を詳しく聞かせていただけませんか?」

 

どうやら男の話だと数日前男の友人は森の奥にある廃墟を調べるために出かけたのだが、いつまで経っても帰ってくることは無く男が後から様子を見に行くと鎧を纏った戦士が現れて男はその戦士に攻撃されて命からがらに帰ってきたとの事だった。

 

「わかりました。俺がその戦士を倒してあなたの友人を助け出します」

 

『ありがとうございます。こんな私のために……早速その廃墟までご案内します』

 

セイバーは男に連れられると森の中へと入っていった。すると今回はすんなりと廃墟内へと入る事に成功。そのままセイバーと男は中へと進んでいくとそこにいたのは男の友人と思わしき人間だった。

 

「あの人って……」

 

『そうです!私の友人です。無事で良かった』

 

男はそう言って友人の元に駆け寄ろうとするがセイバーは何かに気がついたのか男の手を引くと後ろへと無理矢理下がらせた。その瞬間、友人の目が赤く光ると手から衝撃波を放ち前にいたセイバーを吹き飛ばした。

 

「ぐ……」

 

『大丈夫ですか!?私を庇って……』

 

「俺は平気です。それよりもあの人……何者かに操られています」

 

セイバーの言葉に図星だったのか男の友人はニヤリと笑うと話し始めた。

 

『……ほう。よく気づいたな』

 

「お前、人間じゃねーだろ。何者だ?」

 

『フフフフ。俺、悪魔。名前はベイル』

 

「ベイル?」

 

ベイルは手に赤がメインで中央に液晶の付いたベルトを持つとそれを腰に付けた。するとベルトが巻かれるとベイルと名乗った友人は手にカブトムシの意匠が入ったスタンプを持った。

 

《カブト!Deal!》

 

ベイルがスタンプを上部の朱肉の部分に付けてから液晶画面へと押印した。

 

『変身!』

 

《Bane Up!》

 

するとベイルの周囲にオレンジのカブト虫が飛び回ると自身を覆うように黒いガスに包まれていった。

 

《破壊!(Break)世界!(Broke)奇々怪々!(Broken)仮面ライダーベイル!》

 

ガスが晴れるとそこには軍服のような見た目をしたライダーが登場し、最後にカブト虫が右肩側から突っ込むと右肩から胸部にかけてカブト虫の装甲が合体。そして顔の左側にカブト虫のツノが張り付いて仮面ライダーベイルに変身完了した。

 

「なるほど、要するにお前がこの人の友人を乗っ取っているわけか。だったら話は早い。お前を倒して友人を解放する。聖刃抜刀!」

 

セイバーは試し斬りとばかりに聖刃を抜刀するとその姿を変化させた。そしてセイバーが男に隠れるように言って逃してから2人による戦闘が開始された。

 

「まずは挨拶代わりだ。既読三聖剣【星烈斬】!」

 

セイバーが最初に使ったのは【刃王クロス星烈斬】に付属している【星烈斬】である。効果は烈火、流水、黄雷の3本の聖剣を召喚して相手を攻撃する事ができる。威力的には【刃王クロス星烈斬】の方が上なのだが、小手調べのためにセイバーは先にこちらを使う事にした。

 

『小賢しい』

 

ベイルは飛んでくる3本の聖剣をエネルギーバリアでガードするとそのまま打ち消してしまった。

 

「マジか。しっかり防御するなぁ」

 

『次はどうする?』

 

「【星の刃】!」

 

セイバーがそういうと自身の周囲に白い円の形をした道と黄色い刃が5本出現。刃は円の上を走るように移動しており、触れば当然のように切断されるだろう。

 

『ほう。面白い技を使うな』

 

「それだけじゃねーよ」

 

セイバーがベイルへと近づくとそれに合わせて円も移動し、円の上を走る刃がベイルへと迫った。

 

『チッ!』

 

ベイルは刃を破壊するために殴るが、刃は壊れる事なくベイルへとダメージを与えた。更に刃は高速で回転しているためにすぐに次の刃がベイルへとダメージを与え、ベイルは堪らず後ろに下がった。

 

「あら、逃げられたな」

 

セイバーがそう言っていると刃と線が消えてしまい、効果時間切れとなった。ベイルはそれをチャンスと見て高速で接近するとセイバーへとパンチを繰り出した。

 

「激土【クロス斬り】!」

 

セイバーがすかさず【クロス斬り】の力で激土を召喚するとベイルからの攻撃を受け止めさせて自分に当たるのを阻止。すぐさま聖刃での斬撃を放ちベイルを斬り裂いた。

 

「どうした?そんな程度じゃねーだろ」

 

『当然だ。この俺がそんな簡単にやられると思ったら大間違いだ」

 

「そうだよね。だったらこれで一気に終わらせてやるよ。【刃王砲】。【チャージ開始】!」

 

するとセイバーの刃王剣にエネルギーが集まり始めた。【刃王砲】は他のスキルと比べて一撃の威力が高い代わりにエネルギーチャージの時間がかかる。その時間は2分半、5分、10分ごとで区切られており長ければ長いほどに威力が増す。

 

「さーて、これをチャージし始めた以上は相手の攻めを凌がないとな」

 

『何を始めるかと思えば、ただのこけおどしか』

 

ベイルは今がチャンスとばかりに超スピードで接近するとセイバーへと圧倒的な破壊力を誇るパンチを繰り出した。セイバーはそれを聖刃を使って防御するが、その威力の高さに後ろへと下がった。

 

「痛って……ただのパンチなのに強すぎるだろ」

 

ベイルはそんなのお構い無しとばかりに超高速のパンチを連続で繰り出すとそれによって発生した衝撃波がセイバーを襲いセイバーは4分の一のダメージを負った。

 

「くぅう。【刃王砲】の効果でチャージ中はスキルが使えないんだよなぁ」

 

【刃王砲】のデメリット、チャージ中はスキルが使用不可となるのでその影響を受けてセイバーは攻撃の手段が限られてしまっていた。

 

『何を企んでいるのか知らないが、これで終わりにしてやる』

 

ベイルはそう言うとスタンプをベルトの液晶部に押印。それからベルトの両側を中心へと押し込んで必殺技を発動した。

 

《Charge》

 

『失せろ』

 

《ベイリングインパクト!》

 

どこからともなくカブト虫が飛んでくるとそのツノでの攻撃に合わせてベイルからの回し蹴りが放たれてセイバーは深いダメージを負うと残りHPは僅かになってしまった。

 

「が……」

 

『しぶといな。だが次で終わりだ』

 

ベイルがセイバーへとトドメを刺すべくゆっくりと近づくとパンチを繰り出すために構えた。そしてそれが繰り出されるその瞬間、セイバーは手にした刃王剣をベイルの腹に向けた。

 

「この距離なら……躱せないだろ!【刃王砲】【発射(ファイア)!】

 

聖刃から放たれた青いエネルギー砲がベイルを飲み込むとHPをたった一撃で半分近く削っていき、ベイルがダメージに怯んでいるとセイバーは跳び上がり、追い討ちをかけていった。

 

「【銀河大爆発】!」

 

セイバーが放ったキックはベイルに叩き込まれてベイルはあまりのダメージに変身解除した。するとベイルはいきなり体に異変を感じると赤黒いエネルギーが体から出ていった。

 

「これは……」

 

赤黒いエネルギーが出ていった友人は正気に戻り、赤黒いエネルギーは集まって人魂のような物が生成された。

 

『貴様、何をした』

 

「俺にもわからねーよ」

 

『ふん。まぁ良い。次こそは貴様を潰してやる』

 

そう言ってベイルは消え去り、その後セイバーは男の元へと友人を送り届けた。

 

『本当にありがとうございます。あの、お礼と言ってはなんですがこれをあなたに差し上げます』

 

そう言ってセイバーは男からオレンジの石と青い石を受け取った。それは共鳴するように一瞬光るがそれ以外には何も起きなかった。

 

『共鳴の石』

2つの石の力を合わせる事で強大な力を引き出すことができる。

 

だが、今現状セイバーにこの石を使うことはできないらしくユニークシリーズでは無いので譲渡も可能に見えた。そのために一度持ち帰ってから相談する事にし、セイバーはその日はリアルで予定があるのでログアウトする事になった。




186話時点のセイバーのステータス

セイバー 
*補正値は刃王剣十聖刃を装備時
Lv80
HP 275/275〈+100〉
MP 280/280〈+100〉
 
【STR 65〈+100〉】
【VIT 65〈+100〉】
【AGI 65〈+100〉】
【DEX 60〈+100〉】
【INT 60〈+100〉】

装備
頭 【刃王のヘッドギア】
体 【刃王の鎧】
右手【刃王剣十聖刃】
左手【空欄】
足 【刃王の鎧】
靴 【刃王の靴】
 
 
 
装飾品 
【絆の架け橋】
【感情の架け橋】
【空欄】
 
 
 
 
スキル
 
【剣の心得Ⅹ】【気配斬りⅩ】【気配察知Ⅹ】【火魔法Ⅹ】【水魔法Ⅹ】【風魔法Ⅹ】【土魔法Ⅹ】【光魔法Ⅹ】【闇魔法Ⅹ】【筋力強化大】【疾風斬り】【スラッシュ】【パワーアタック】【火炎斬り】【抜刀】【ヒール】【潜水Ⅹ】【水泳Ⅹ】【ディフェンスブレイク】【MP強化大】【MP回復速度強化大】【状態異常Ⅹ】【毒刃】【毒耐性大】【不屈の竜騎士】【メタルアーマー】【大抜刀】【シャットアウト】【古代の海】【無限刃】【精霊の光】【分身】【体術Ⅹ】【死霊の泥】【深緑の加護】【繋いだ手】【冥界の縁】【ドラゴンラッシュ】【神獣招来】【大噴火】【猛吹雪】【火炎ノ舞】【デビルスラッシュ】【デビルインパクト】【ゲノミクス】【火炎ノ咆哮】【魔の頂点】【神獣合併】

*刃王剣十聖刃を装備時

【宇宙の加護】【創世の力】【流星弾】【装甲変化】【星々の守り】【星龍咆哮波】【刃王砲】【星の刃】【銀河大爆発】【聖剣強化】【空中歩行】【刃王創星斬】【刃王クロス星烈斬】【クロス斬り】【刃王超一閃】

また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと試練1

セイバーがベイルとの戦いを終えてから数日、その間にかねてより通知されていたメンテナンスが入った。そこで全プレイヤーに新しいスキルが追加された。その名も【ブーストタイム】。1日1回限り、僅か5分間のみだが自身のステータスを2倍にすることができる。これを使えばある程度は低レベルのプレイヤーが戦いやすくなるという物である。更に上手く使えれば強敵相手に勝つことも可能なので一発逆転を狙うタイプのスキルだろう。

 

メンテナンスが終わった後にセイバーがギルドホームにログインするとイズを探した。理由はベイルとの戦いの後に手にした石について聞くためである。セイバーはその石がなんなのかわからなかったが、生産職で素材に詳しいイズなら何かを知っていると思ったので彼女を頼ることにした。

 

「あの、イズさん。昨日受けたクエストの報酬として2色の石を貰ったんですけど、これって何に使えるかわかりますか?」

 

「うーん。ごめんね、私もこんな石は初めて見たわ。でもこれは素材として使えるのかしら?」

 

「見たところ、2つの石が共鳴し合っている事ぐらいしか情報が無いんですよね。だから何に使えるか聞くために来たんですけど……やっぱりわからないですよね」

 

セイバーとイズが考え込んでいるとその石が光り始めると勝手に浮かび上がり、イズの工房へと飛んで行き始めた。

 

「え!?ちょっと待って!」

 

「そっちは私の工房だけど、何に引き寄せられてるのかしら」

 

セイバーとイズが走っていくと工房の中に入った石はとある物の前で降り立った。そこにあったのは第三層にいた頃にイズが作っていた試作品の鎧装備一式だった。

 

「これって……」

 

「実は皆には内緒だったけど第三層が解放されてすぐに作った試作品よ。第三層で集めた素材をふんだんに使ったのだけど納得のいく物にまではならなくて結局完成できずに終わっちゃったのよね」

 

セイバーがその話を聞いていると何かに気がついた。なんとイズが作った試作品と瓜二つの作品が勝手に生成されたのだ。

 

「あれ!?さっきまで1つだけだったのに」

 

「おかしいわね。二つ目なんて作ってないわよ……」

 

セイバーとイズ、2人が顔を見合わせて驚いていると今度はオレンジと青の石がそれぞれ2つの装備の中に吸い込まれていき、2つの装備はその形を変えていって2つのペンダントに変わった。そしてその2つのペンダントが融合すると1つのペンダントとなり、その隣にはオレンジと青の剣が突き刺さる。

 

「嘘だろおい、どこをどうやったらこうなるんだよ」

 

「それにしてもこの剣、一体どこから」

 

セイバーが剣を抜くと強制的にペンダントがセイバーの首にかけられる事になった。

 

「え、もしかしてこれこの剣とペンダントは連動している感じなのか?」

 

『コマンドペンダント』

【破壊不可】

普段はただのペンダントだが、レイジングソードから送られるエネルギーを貯める事で内包された装備を使えるようになる。

 

『レイジングソード』

【破壊不可】

【STR+40】

【タクティカルレイジング】

この剣を使うとコマンドペンダントにエネルギーがチャージされていき、フルパワーとなるとペンダントに内包された装備を使用可能になる。

 

「なるほどなるほど、要するにこの剣を使えば真の力を使えるってわけか。ちょっとトレーニングルームでこのアイテムについて色々と試してきます」

 

「私も一緒に見ても良いかしら?」

 

それからセイバーとイズはレイジングソードでの試し斬りの後に新たな装備の効果を一通り試してから訓練室を出た。

 

「刃王剣に比べるとやっぱり色々と見劣りはしちゃうけど、それでも普通のユニーク装備よりは高性能だったわね」

 

「まぁ、アレは刃王剣の能力が強すぎるだけですよ。ただ、俺がこれを持っていても腐らせそうな気がするんですよね。大体のことなら聖剣を使えば何とかなりますし……そうだ。イズさん」

 

「何?」

 

「イズさんがこの装備一式を使っていただけませんか?」

 

「え?いいの?だって元々はセイバー君が手に入れた装備なのよ」

 

セイバーからの突然の提案に戸惑うイズ。だがセイバーにはある考えがあっての譲渡だった。その考えというのが……

 

「大丈夫です。寧ろ、この装備は元々イズさんが作った試作品がベースになったんです。それが無ければこの装備は完成しませんでした。それに、自分は聖剣とそれに付属する装備があれば大体の事はできます。なのでもしこの装備があってもすぐに使わなくなるかもしれません」

 

実際の所、セイバーは聖剣12本を手にしているので聖剣の装備よりも若干性能が下回る新装備を使用しない可能性が高いのだ。そこでセイバーは自分の強化では無く周りのプレイヤーを強化させる道を選んだのだ。

 

「幸いにもこれはユニーク装備じゃないので譲渡できます。ですのでイズさん、この装備を使ってください」

 

「セイバーが良いなら私は大丈夫だけど……わかったわ。これはありがたく使わせてもらうわね」

 

それからイズがペンダントと剣を受け取ると剣がペンダントに吸い込まれてただのペンダントに戻った。

 

「あ、そうだイズさん。もし良かったら新しく増えたダンジョンを一緒に攻略しませんか?その装備の力試しも兼ねてです」

 

「そうね、今日はもう予定も無いし、良いわよ」

 

2人で話が進んでいくとちょうどギルドホームの扉が開いてカスミが入ってきた。

 

「珍しい組み合わせだな。セイバー、イズ」

 

「カスミさん」

 

「これから7つのダンジョン攻略に乗り出そうとしていた所なのだが、丁度セイバー達が行くという話が聞こえてな。私も一緒に行っても大丈夫だろうか?」

 

このカスミの提案を2人は快く受け入れた。カスミが入れば更なる戦力増強に繋がるからである。3人は早速ギルドホームを出ると目的地のダンジョンへと向かった。ちなみに、今回攻略するのはカスミの進捗状況を考慮して同じ場所を二度もやらないようにまだカスミが攻略していない場所を選択した。

 

「私としては同じ所をやらずに済めば二度手間にならないが、2人はそれでも良いのか?」

 

「私は元々攻略するつもりは無かったけど、今回は新しい装備の試しだし」

 

「俺としてはどこから攻略しても大丈夫だったので」

 

2人の言葉にカスミは安心すると攻略予定のダンジョンへと到着した。そこにあったのは転移の魔法陣であり、ここからダンジョンへと突入できることが予想できた。

 

セイバーがその魔法陣を調べるとそこには突入人数を選択できるらしく、人数に応じて難易度が変化するとの事だった。これは大人数で突入されても同じような難易度にするための措置だろう。

 

「それじゃあ、3人に設定してと」

 

セイバーが入力を終えると3人は一斉に魔法陣へと乗り、ダンジョンへと転移した。するとそこはサバンナの草原の真っ只中であり、3人はすぐに構えるとどこからともなくから黄色い服を着た青年が現れた。

 

「ん?何だアイツ」

 

『へぇ。どうやら僕に挑む奴らが来たらしい』

 

「もしかしていきなりボス戦?」

 

『あー、勘違いしている所悪いけど僕はいきなり君達と戦ったりはしないよ。まずはコイツらの相手でもしてな』

 

青年がそう言って手を振るとそこには猫、ライオン、ジャガー、トラ等の猫科の生物をモチーフにした怪物が合計20体出現。3人はその相手をする事になった。

 

「まずは雑魚掃除って所か」

 

「行くぞセイバー、イズ」

 

「えぇ、セイバーから貰ったこの力も試させてもらうわ」

 

「翠風抜刀!」

 

3人はそれぞれ翠風、妖刀、レイジングソードを構えるとカスミがイズの武器を見て驚いた。普段の彼女はアイテムを駆使した支援攻撃が得意だからである。

 

「イズ、その剣は……」

 

「セイバーから貰ったの。いつも通り爆弾とかでの支援はするけど今回はこっち優先でも良いかしら?」

 

「それは構わないが」

 

「俺も意義無し」

 

イズは2人に確認を取ってから剣主体で行くことを決め、3人はそれぞれ目の前にいる怪物へと突撃していく。まず最初に攻撃したのはAGIが一番高いセイバーだった。

 

「【超速連撃】!」

 

急にセイバーの姿が揺らいだかと思うと超スピードでの行動を開始。そこから連続で繰り出す斬撃は怪物達を容赦なく斬りつけていく。

 

「【手裏剣刃】!」

 

更にエネルギーの手裏剣を飛ばして遠距離からエネルギー砲を放とうとしていた怪物を怯ませて攻撃を中断させる。

 

そこにイズとカスミが剣を振るいながら怪物達にダメージを与えていった。

 

「【血刀】!」

 

「爆弾も一緒にプレゼントするわよ!」

 

カスミがHPを対価に範囲攻撃を可能とするスキルで敵を薙ぎ払い、そこにイズが爆弾を投げ込んでダメージを与えていく。だが、イズがどれだけ爆弾を使ってダメージを与えてもペンダントにエネルギーはチャージされなかった。

 

「もしかしてレイジングソードを使わないとエネルギーがチャージされない感じ?」

 

実はコマンドペンダントにエネルギーを貯めるにはレイジングソードで直接相手を斬り裂くしかチャージすることができない。そのためにイズが得意とするアイテムを使った攻撃とは相性が悪い事になるだろう。

 

「私、剣とかあまり使った事無いのよね……」

 

イズが困っていると何かを思いついたのかレイジングソードの柄にチェーンを巻きつけて固定するとそのままチェーンを持って剣ごと振り回した。これにより、中距離からでもレイジングソードで攻撃できる上に近づかれたらレイジングソードで直接斬りつけていく方法に切り替えられる。

 

すると猫の怪物が自慢の跳躍力で跳びあがると怪物達に一番ダメージを与えていたイズへと飛びかかる。イズは咄嗟の事で反応できずにそのまままともにダメージを受けるかに思えた。

 

「【三ノ太刀・孤月】!」

 

「【疾風剣舞】!」

 

そこにセイバーとカスミがイズをフォローするように立ち回る。あまり剣を使ったことが無く、不慣れなイズをカバーする動きでセイバーとカスミはイズを守りつつ戦っていた。

 

「【影分身】!」

 

「【一ノ太刀・陽炎】!」

 

セイバーが分身してカスミの構えるモーションを一瞬だけ隠し、誰を狙うかわからないようにした状態でカスミが超高速の斬撃を喰らわせる。更にセイバーが走りながら怪物達の攻撃を捌き、それによってできた隙にイズがレイジングソードで斬りつけていった。

 

このように、3人は見事な連携で怪物達を全員撃破する事に成功。そこに青年は笑みを浮かべながら3人の前に出てきた。

 

『へぇ。僕のヤミーを倒すなんてやるじゃん。ただ、ここからは僕も入らせてもらうよ』

 

すると青年はその姿を変えていき、猫のような顔にライオンのタテガミを模したドレッドヘア。胸や肩にはスパイクの付いた装甲を纏っており、両腕には鋭い爪が伸びていた。ただ、下半身に関しては腰にバックルをし、体は茶色い色をしているだけで装甲のような物は無かった。

 

「なるほど、わかりやすい弱点だな」

 

「だが、その分上半身は固そうだ」

 

「まだペンダントへのチャージは終わってないわ。このまま行く?」

 

「いや、無理にチャージを狙うと逆に不利になりそうなので、隙を見つけてやっていきましょう」

 

「わかったわ」

 

『そういえば名前を言い忘れていたね。僕はカザリ。見ての通り君達が倒すボスさ』

 

そう言うとカザリは3人へと飛び掛かると先程よりも長く伸びた爪で一番近かったカスミへと爪での攻撃を放つ。

 

「く……」

 

カスミが咄嗟に爪を刀で受け止めるとそれによってできた隙にイズがレイジングソードで斬りかかる。しかしそれは読まれていたのかカザリが後ろへと飛び退く事で躱された。

 

「速い!」

 

『それを喰らうと不味そうだからね。最優先で……ッ!?』

 

カザリが次の行動を起こそうとするが、その瞬間カザリの体は何かに縫い付けられたかのように動かなくなった。カザリが何とか頭だけ動かして後ろを振り向くとそこにはたった一本の剣が影に刺さっているだけだった。

 

「スキル【影縫い】、久々に役に立ったね」

 

セイバーがしてやったりの表情でカザリを見るとその瞬間、イズが目の前にまで迫っていた。

 

「ごめんなさいね。リンチするつもりは無かったんだけど!」

 

イズが防御どころか躱す事すらできないカザリへとレイジングソードによる斬撃でダメージを与えていき、エネルギーをペンダントへと送り込んでいった。カザリはその間、動くことができないために一方的にダメージを与えられていく。

 

しかし、2割程彼のHPを削った所でカザリは咆哮を上げる事でその衝撃波を使い無理矢理拘束から脱出。更にどこからとも無く飛んできた黄色いメダルを吸収するとカザリのエネルギーが高まるのを感じ取れた。

 

「なるほど、拘束を強制解除する能力もあるのか。まぁ流石にこの層の相手だし弱いわけ無いよな」

 

セイバーが影から抜けて地面に落ちた翠風の片側を拾うとすぐに合体させて一刀流モードにする。

 

「【トルネードスラッシュ】!」

 

『竜巻には竜巻だよ』

 

セイバーが放った緑色の竜巻に対抗するようにカザリも黄色い竜巻を発生させて相殺。2人はその衝撃で後ろに下がった。そこにカスミが接近する。

 

「【六ノ太刀・焔】!」

 

カスミが炎を纏わせた刀でカザリへと斬りかかるとカザリもすぐに風を纏わせた爪で迎え撃ち、カスミの炎を飛ばしながら受け止めた。

 

「ッ!」

 

「フェイ、【覚醒】!【アイテム強化】!」

 

イズがカスミをフォローするためにテイムモンスターを呼び出すとアイテムをパワーアップさせていく。その状態で投げつけられる爆弾はカザリに命中するとそのタイミングで爆発し、ダメージを与えた。

 

「【クナイの雨】!」

 

更にセイバーが空中からのクナイの雨を降らせることでカザリに防御体勢を取らせる。その隙にイズが近づいてレイジングソードでカザリを斬り裂いた。

 

『……中々やるね。でも!』

 

するとカザリは黄色い竜巻を飛ばすとイズを吹き飛ばし、近づいてきたカスミの刀を弾いてから回し蹴りでカスミにダメージを与えた。

 

「うおらっ!」

 

最後にセイバーから繰り出された斬撃を爪で受け流してからガラ空きの腹に膝蹴りを命中させてその場に膝を突かせた。

 

「まだこんな力を隠してたのかよ」

 

『悪いね。僕もそう簡単にやられる訳にはいかないからさ』

 

カザリのHPは残り6割。このタイミングで再びメダルが体の中に入ってカザリのオーラは更に増していった。

 

『ふふっ。あと一枚で完全な姿になる。けど君達はそれを見ることができないね』

 

カザリはそう言うと先程とは比べ物にならないスピードで3人へと接近すると爪での攻撃を放つ。それはセイバーが翠風を使って防御するとカスミが妖刀で薙ぎ払い、カザリを怯ませていく。

 

「今だ、イズ」

 

カスミの言葉にイズがレイジングソードをカザリの腹に突き刺すとそのままスキルを発動する。

 

「【タクティカルレイジング】!」

 

レイジングソードが光り輝くと強力なエネルギーが放出。それによってカザリのHPがガリガリと削れていき、残り4割に減った所でカザリへとメダルが取り込まれてその衝撃で3人は後ろに飛ばされてしまう。

 

「く……あとちょっとだったのに」

 

「来るぞ、ここからが本番だ」

 

「え?」

 

既に他のダンジョンに突入しているカスミが同じ変化を見たことがあるので彼女だけはこの後起きることの予想ができた。すると無防備そうだったカザリの下半身に白と黒を基調とした装甲が付与されていき、ドレッドヘアが伸びていくと触手のように操って全体攻撃を仕掛けていく。

 

「うげっ!?」

 

「フェイ、【アイテム強化】!」

 

咄嗟にイズがフェイにアイテムを強化させてスキル【新境地】の効果で製作した壁を目の前に配置。壁はアイテム扱いのために耐久性が強化されていたものの、それすらもまるで意味がないと言わんばかりにカザリの攻撃で一撃粉砕。それを見たカスミとイズはデスを覚悟したがセイバーがすかさず2人を突き飛ばしてその身に攻撃を受け止めた。

 

「!?」

 

「セイバー、大丈夫か」

 

「大丈夫です。【不屈の竜騎士】の効果で耐えられてます」

 

セイバーは攻撃が止んだのを見てすぐにポーションでHPを回復するが、状況は最悪に近かった。カザリの纏う力はそれまでの数倍であり普通に挑んでも勝ち目は薄いだろう。

 

「勘弁してくれよ。これ、どうやって勝てば……」

 

3人が頭を悩ませているとイズの持つレイジングソードが光り始めた。ここに来てようやくエネルギーのチャージが完了したのだ。

 

「やっと溜まった!」

 

「ならそれを使って逆転と行きましょう」

 

セイバーの言葉にイズが頷くとペンダントを握りしめ、そこから画面を開く。するとそこにはジェットとキャノンの文字があり、どちらかを選択できるようだった。

 

「今回はキャノンよ。一撃の火力で制圧するわ」

 

イズがキャノンをタッチするとイズの右側に上半身の、左側に下半身の装甲が現れてそれがイズに重なると上半身は水色で両肩に大砲を装備したアーマーが、下半身はオレンジのアーマーがそれぞれイズの服の上から装備される。顔にはゴーグルがされておりまるでメイプルの【機械神】を彷彿とさせているようだ。

 

『コマンドゴーグル』

【HP+50】

【破壊不可】

【ロックオン】

 

『キャノンズアーマー(上半身)』

【STR+50】【VIT+20】

【破壊不可】

【キャノンブレイク】【ツインズビクトリー】【メテオシャワー】

 

『ジェットアーマー(下半身)』

【AGI+10】【DEX+20】

【破壊不可】

【ロケットジャンプ】

 

この装備の利点はユニーク装備ではない事による他人への譲渡が可能な事だけには止まらない。プレイヤーが装備している装備の上からアーマーが装着されているので装備のスキルや補正値はそのまま引き継ぐことができるのだ。これはつまり、装備などに付いている強力なスキルを手放すことなく新たなスキルを得られるということになる。

 

「イズ、まさかと思うがこれが新装備?」

 

「中々かっこいいでしょ?」

 

「初めて使ってみるけどこれは中々の重装備ね」

 

3人が感想を言い合っている間にもカザリは問答無用とばかりに髪を触手のように伸ばして全体攻撃を仕掛ける。しかし、今回はイズによってそれは止められることになった。

 

「【メテオシャワー】!」

 

イズが両肩の砲台からエネルギー砲を発射するとそれが細かく分かれてカザリの髪を一つずつ潰していく。これによってカザリに隙が生まれることになりそのタイミングでセイバーとカスミは突撃していった。

 

「【七ノ太刀・破砕】!」

 

「【手裏剣刃】!」

 

「【ロケットジャンプ】!」

 

 

2人が中距離からでも放てるスキルでカザリを牽制するとイズが両脚に装備されているジェットからエネルギーを噴射して見た目の重装備に反する速度を確保。その勢いのままにカザリへと接近するとレイジングソードでの接近戦を挑んだ。

 

『その重装備で僕のスピードに対抗できるとでも?』

 

「できるわよ」

 

イズがそう言うとカザリが踏んだ地面が突然爆発。近くにいたイズも巻き込むが、イズの方は全くの無傷だった。何故ならこの爆発はイズが仕掛けた物だからである。

 

「さっき接近した際にフェイの【妖精の守り】を使って爆発のダメージを軽減。更に【精霊のいたずら】の効果で爆弾を見えないようにした上であなたの足元に設置させてもらったわ」

 

『やるね。けどそれだけじゃあ倒せないよ』

 

カザリが動きが遅いイズに爪を立てようとした瞬間、イズの両肩の砲台が火を吹いた。

 

「【キャノンブレイク】!」

 

ゼロ距離からの砲弾を喰らったカザリはHPを更に減らしていく。そこにセイバーがイズを援護するように【クナイの雨】で牽制。カザリに反撃する隙を与えなかった。

 

「そろそろ決めさせてもらうぜ。カスミさん、行きますよ!」

 

「ああ。【超加速】!」

 

「【烈神速】!」

 

2人の姿が一瞬揺らいで消えるとカザリも同様にチーターの速度を開放してその場から消え、高速の世界に突入していく。3人は剣と爪をぶつけ合い、周りにはその音だけが聴こえている。高速の世界に入ってないイズの目には見えてないものの、彼女にはカザリを捉えるためのある手段があった。

 

「【ロックオン】!」

 

イズが『コマンドゴーグル』についているスキルを使うとイズの視界に水色とオレンジのマーカーが出現し、高速で移動するカザリの位置を特定。そのまま砲台を構えるとエネルギーをチャージしていった。

 

「【月闇ノ太刀・月光】!」

 

「【疾風剣舞】!」

 

セイバーとカスミもカザリを仕留めるためにスキルを発動すると風を纏わせた翠風と闇を纏わせた妖刀を構え、カザリの攻撃に合わせてカウンターとして放つ。

 

『なっ!?』

 

2人の攻撃がカザリを斬り裂くとカザリが地面へと叩きつけられてイズにも目視できるようになる。その瞬間を狙っていたイズは必殺のスキルを解き放つ。

 

「【ツインズビクトリー】!」

 

イズがチャージしたエネルギーを開放するとエネルギー波がカザリを襲い、その体をレーザーで焼き尽くしていく。

 

『そんな、この僕がやられるなんて……うわぁあああ!!』

 

カザリのHPが0になるとそのまま爆散。その爆発が収まるとそこには宝箱がありダンジョンクリアだということが見てとれた。すると最後のスキルで残存エネルギーを使い尽くしたのかイズの装備が元に戻り、3人は宝箱を開けてみる。

 

「これは……」

 

そこにあったのは3枚の黄色いメダルでライオン、トラ、チーターの絵が描かれていおり、それをセイバーが手に取るとメダルは人数分に増えて自動的に1人につきライオン、トラ、チーターが1枚ずつ分配された。

 

「これが今回の報酬ね」

 

「なるほど、これが裏ボスに挑戦するための鍵になるわけか」

 

「私は既に1体攻略しているからな。その分メダルは多く持っているぞ」

 

それから3人は元のフィールドに転移するとその場は解散となり、分かれていくのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと炎の少女

セイバーがカザリを討伐した次の日、ギルドホームでセイバーがダラダラしているとギルドホームのインターホンが鳴った。

 

「んぁ?おかしいな。イズさんは工房の方に出てるし、メイプルとサリーはダンジョンに行ってる。クロムさんカスミさんはレベル上げ中だ。カナデとマイ、ユイ、ヒビキの4人なんて現実の都合で今日は来ないと言ってたよな。それになによりギルドメンバーならわざわざインターホンなんて押さないし」

 

セイバーが不審に思ってギルドホームの扉を開けるとそこに立っていたのは炎を操る【炎帝】、ミィだった。

 

「こんにちはミィさん。うちのギルドに何か用ですか?」

 

「えっと……」

 

ミィは突然顔を赤くするとモジモジとし始める。彼女は今回ある人物に用事があってきたのだがそんな事つゆ知らずのセイバーは勝手に1人で話を進めた。

 

「とは言っても今うちのギルドには俺以外誰もいませんよ?取り敢えずお茶とお菓子を出すので中に」

 

「セイバー、あなたに用があるの……」

 

ミィの言葉にセイバーがキョトンとする。まさか自分に用事があるとは思っていなかったからだ。

 

「え?それってどういう……」

 

セイバーがそう言った次の瞬間、ミィがセイバーへと抱きついてきた。いきなり抱きつかれたセイバーは少しの間今自分がどういう状況か考えてからそれを理解。顔を真っ赤に染める。

 

「え?え?待って待って待って何で?は?は?」

 

セイバーが混乱している間にもミィはセイバーを抱きしめ続ける。そうしているとようやく落ち着きを取り戻したセイバーがミィへと語りかけた。

 

「ミィさん、いきなりどうしたんですか?これは一体」

 

「見ての通り、スキンシップだよ」

 

「それにしては最初から随分と踏み込んでくるんですね」

 

「私がちょっと前にセイバーの事を遊びに誘った時はセイバーいなかったでしょ。それ以降何度か来たんだけどセイバーは異世界でクエストを受けてるって話だったし」

 

セイバーはそれを聞いて何故ミィがこんな事をしてくるのかという理由を理解した。要するにセイバーと2人きりで遊びたかったのにセイバーを訪ねても不在が多く、ようやく今日会えてその嬉しさでセイバーへのスキンシップをしたのだ。

 

「あの……ミィさん」

 

「ミィ」

 

「へ」

 

「……呼び捨てで良い。サリーもキャロルもヒビキも呼び捨てなのに私にだけ“さん”付けするの?」

 

「いや、でもミィさんは年上ですし呼び捨てには……」

 

「年上じゃないよ。前に確認したけどサリーと同い年だからセイバーとも同い年。だから呼び捨てにして」

 

「わかったよミィさ……」

 

セイバーがそう言いかけるとミィはぷくっと頬を膨らませる。セイバーはそれを見て慌てて修正した。

 

「ミィ」

 

「それで良いよ。というかその呼び方以外は許さないから」

 

「えぇ……」

 

それからミィはセイバーから離れるとギルドホームに入って画面を出すとそこに何やらメッセージを打ち込んでいく。これはセイバーが異世界に行く前にサリー、ヒビキ、キャロルの3人と一緒に交わした約束に基づいての行動である。4人はセイバーと遊ぶ順番を決めて互いにそれを邪魔しないようにする事を決めているので遊ぶ日付を入力してそれを3人に送信。あとは3人がそれぞれメッセージを見るだけだ。

 

「それでミィ、結局俺に何の用?」

 

セイバーの言葉にミィが再び顔を赤らめながらゆっくりと言葉を紡ぐ。その言葉はとても恥ずかしいのか小さかったがセイバーにはちゃんと聴こえていた。

 

「デート……して」

 

「え」

 

「だから……その、私とデートして」

 

セイバーはミィからの話に驚いてしばらく固まってしまった。まさかいきなりやってきてデートしてくれという話になるとは思わなかったからだ。

 

「私とのデートは嫌……?」

 

そうミィから潤む目と上目遣いで言われてはセイバーに断る事はできなかった。だがセイバー自身、ミィとデートする事自体が嫌と言うわけではない。寧ろその逆だった。セイバーとしてはこんな自分が誘われて良いのか。しかも大規模ギルドのギルドマスターで名の知れた女性であるミィにである。

 

「大丈夫。プランは私が考えたから」

 

「それなら良いですけど」

 

それからセイバーとミィはギルドホームを出ると街へと繰り出していった。まず最初にミィが寄ったのは猫と触れ合える店である。

 

「ここって」

 

「うん。私の行きつけだよ」

 

ミィがそういうと中に入りセイバーの分も含めた2人分の代金を払った。

 

「え、ちょっと待って俺の分も払っちゃったの」

 

「良いよ。私が誘ったんだしこのくらいさせて」

 

「でも」

 

「あ、ほらほら可愛い猫ちゃんに癒されよう」

 

ミィは早速店内の猫を抱くとモフモフに癒され始め、セイバーもゆっくりと歩み寄ると寄ってきた猫を抱く。

 

「そういえば、ミィが素を見せてからメイプルが言ってたっけ。ギルドマスターになってから偶にこういう店で息抜きしてるって」

 

「そうだよ。私ってほら、身の丈に合わないようなキャラを作ったからどうしてもこういう場所で癒されたくて」

 

「やっぱり可愛いな、ミィは」

 

「そうだね、この猫も可愛……え、私?」

 

いきなり可愛いと褒められて顔を真っ赤にして恥ずかしがるミィ。セイバーはそれを見ても何事も無いように話を続ける。

 

「だってそうでしょ。あんなカッコイイキャラを作ったのにも関わらずこんな可愛い一面なんて見せられたら誰だって可愛いって思うよ」

 

すると“ボンッ”という効果音が鳴りそうなくらいにミィは褒められて恥ずかしさのメーターが振り切れ始めた。それでもセイバーの褒めは止まらない。

 

「ミィが素を見せても人気な理由がよく分かるなぁ。まぁ、素のミィが良いって言ったのは俺だし俺の予想通りだっただろ」

 

「う、うん。そうだね」

 

ミィの羞恥心はもう既に限界を超えており顔から体から湯気が出そうな程に恥ずかしがっていた。周囲の店員からも良い恋人同士に見えていたのか微笑ましい目線を向けられているだろう。

 

2人がそれから世間話に花を咲かせていると部屋の隅で縮こまっている1匹の黒猫を見つけた。黒猫は首からチェーン付きで指輪をぶら下げており、セイバーはそれを見て何かを感じたのか

 

「あれ、あの子……」

 

セイバーがその猫に手を伸ばそうとすると黒猫は怯えるように更に体を縮こませる。

 

「ミィ、あの子って」

 

「うん。私がここに初めて来た日にはあんな感じでずっとあんな風に怯えて変わらないの。多分、人が苦手なんだと思う」

 

「……」

 

セイバーはそれを聞いて無言で優しく黒猫に与えても大丈夫な餌を差し出すと黒猫はおっかなびっくりで震えた様子でセイバーを見つめていた。

 

「大丈夫、俺は……ここに来る人達は敵じゃない」

 

セイバーが優しく黒猫へと語りかけると黒猫は恐る恐るセイバーが差し出した餌に手を付けるとそのままありついた。その間にセイバーはもう片方の手でゆっくりと黒猫の頭を撫でると黒猫は少しセイバーの事を信用したのか先程まで緊張していた黒猫はリラックスしたかのように尻尾をゆっくりと上げ始める。

 

「凄い。その子はいくら私達が歩み寄ろうとしてもダメだったのにもう仲良くなるなんて」

 

「偶々だよ。ちょっと前に猫の気持ちについて調べた程度の付け焼き刃だからね」

 

「それでもセイバー以外の誰にも懐かなかったのに」

 

「それは多分この猫が酷い捨てられ方をしたからだよ。よく見てみて黒猫の首に掛けられている指輪」

 

ミィがその指輪をよく見るとテイムモンスターの証である【絆の架け橋】であることがわかった。

 

「この子は元々誰かにテイムされていたけど弱いとか使えないとかの理由で捨てられたんだろ。可哀想に……」

 

セイバーとミィが店員に確認を取るとこの黒猫は傷だらけの状態で雨の中ずぶ濡れになって歩いていた所を保護されたらしい。今はもうテイム状態を解除させられているらしいのか誰でも引き取ることができるそうだ。

 

「うーんでも困ったな。引き取ろうにも【絆の架け橋】は1人1つまでだからな。ウチのギルドメンバーも俺も既にパートナーがいるし」

 

「そうだ。ウチのギルドメンバーの新入りの中に猫好きのプレイヤーがいたはず。しかもまだテイムモンスターも持っていないからその人に頼んでテイムして貰えば……」

 

ミィが早速メッセージをそのギルドメンバーに送ると喜んでそのプレイヤーは店にまで駆けつけると黒猫をテイムする事になった。最初は黒猫も警戒していたが、そのプレイヤーはセイバー以上に猫についての知識が豊富でありすぐに打ち解けると黒猫は幸せそうに鳴き声をあげる。

 

それからセイバー達は触れ合いの時間が切れて終了すると店から出て次の目的地へと向う。

 

「ミィ、ありがとう。あの子を救ってくれて」

 

「礼を言うのは私の方よ。セイバーがあの子に手を差し伸べたから私のギルドメンバーに早く懐くようになったわ」

 

2人はそれから次の目的地へと行くとそこは歌を選曲してリズムに合わせて流れてくる球を叩いたりして得点を競うという所謂音ゲーのような場所だった。

 

「へぇ〜このゲームにもミニゲームとして音ゲーが実装されていたなんて」

 

「私も見つけたのはつい最近だけどね」

 

「でも意外だったな。ミィって音ゲーが好きなんだ」

 

「VRの次に好きなゲームだから。音楽として好きなのはボカロとか歌ってみたとかだけど」

 

「なるほど。それで、ただここに来たわけじゃないでしょ?」

 

セイバーの言葉にミィもニッコリと笑って頷く。ミィが何の思惑も無しに行き先を選ぶわけが無い。

 

「セイバー、私と音ゲーで勝負しよ?それで勝った方が相手に1つだけ言う事を聞かせられるって事で。あ、でもギルドを抜けてとかはダメだからね。相手が可能な範囲での願いに限るよ」

 

「ふうーん。この俺にゲームで勝負を挑むんだ。負けて後悔しても知らないよ」

 

「じゃあ決まりだね。まずは私から行くよ」

 

ミィはそう言って曲の選択画面へと移行する。それからミィが選んだのはその手のゲームの中で最難関とも言われる最高難易度の曲であった。

 

「じゃあ始めるよ」

 

ミィがそう言うと彼女の纏う空気が変わり、それは1人の音ゲーを楽しむ少女であった。動きは洗練されて次々に流れてくる球を叩き、スコアを稼いでいく。しかも叩きながらリズムに乗って体を揺らしているのだ。

 

「すっげ……」

 

近くでその様子を見ていたセイバーは感嘆の声を漏らしていた。それ程までにミィが音ゲーをする様はゲーマーである彼の目にも素晴らしいと見えていたのだ。

 

ミィがやり終わるとミィが叩き出した得点を見てセイバーは凍りついていた。そのスコアは前に音ゲーをやっていた時の自分が出したベストスコアを超えていたからである。

 

「次はセイバーだよ」

 

だがセイバーはミィの顔を見て笑みを浮かべた。何故ならミィが純粋にゲームを楽しんでいて全力の姿を見せたのだ。相手が全力を見せたのに自分が見せないわけにはいかないだろう。

 

「久しぶりに俺も本気でやってみるか!」

 

セイバーは集中力を高めてある条件下でしか出さない全力モードを解放。自分の持てる全ての力を持ってして音ゲーに臨んだ。曲はミィと同じ物にして純粋な実力勝負を始める。その結果は僅かな差でミィが勝ち、ミィの願いが1つ叶えられることになった。

 

「はぁ……全力出して負けるとか恥ずかしいにも程があるぜ」

 

「でもあとちょっとスコアが高かったら私が負けてたし良い勝負だったと思う」

 

「まぁ、一先ずミィが勝ったんだ。好きな願いを話してくれ。できる限りの事はする」

 

セイバーは潔くミィの願いを可能な限り叶えるつもりであり、そんなセイバーに対してミィが口にしたその願いはセイバーにとって驚きの内容だった。

 

「じゃ、じゃあセイバー……今日私といる間は手を繋いで」

 

「……え?」

 

ミィが顔を赤くしながら願いを言うとセイバーは思わず息を呑んだ。セイバーとしてはもっと別の内容が来ると思っていたからである。

 

「でもミィはそれで良いの?だってもっと良い願いがあるはずなのに」

 

「私はこれで良いよ。寧ろ、私としては好きな人と手を繋げられるだけでも満足だから」

 

「ミィが良いならそれでも良い……って今なんて」

 

「え、私はこの願いで良いだけど」

 

「いや、その後。好きな人って言わなかった?」

 

「そ、そんな恥ずかしい事を何度も言わせないで……って、セイバーはもう気づいてるよね。……私はあなたの事が好き。だから本当は付き合って欲しいって言おうと思ってた」

 

ミィからの言葉にセイバーは真剣に耳を傾ける。セイバーとしても遂に自分に好意を向けている相手から直接言葉にして好意を伝えられたのでちゃんと受け止めないといけないとわかっているからだ。

 

「でもそれはセイバーを困らせる事になる。だから今回は手を繋ぐだけ。私は少しでもあなたとの距離を縮めたい。もう我慢なんてしない。したくない」

 

「……ミィの気持ちはよくわかった。……俺の意見を言っても良い?」

 

「良いよ」

 

セイバーはそれから一度深呼吸をして息を吐いた。それだけ覚悟が必要な事を話そうとしているからである。

 

「ミィが俺の事を好きな事はよくわかった。勿論今回の願いは受け入れるし、それが勝負する時に決めた約束だから否定もしない。でも答えを出すのはもう少しだけ待って欲しい」

 

ミィはその言葉を聞いて俯く。心の中もグチャグチャして中々落ち着かなかった。それでもセイバーからの言葉は受け止めないとという思いで彼の話をしっかりと聞く。

 

「自分の勘違いなら恥ずかしいけど多分俺の事を好きな人は他にも3人いる。その3人とも皆俺にとっては大事な人だ。勿論ミィもそう。そして今の俺には4人の気持ちを受け止められるだけの覚悟がない。皆俺の事を好いてくれてるからこそ1人に決める事ができないんだ。……最低だよな。普通は1人にちゃんと決めないといけないのにそんな簡単なこともできないなんて」

 

その瞬間、ミィはセイバーへと抱きついていた。そんな状態でミィはポロポロと涙を流してセイバーを見つめる。

 

「私はそれでも良いよ。私だって逆の立場なら凄く悩むから。セイバーの考えてる事は何一つ間違ってない。でも、私だって怖いんだよ。セイバーにフラれたら。セイバーに拒否されたらどうしようって」

 

そこにあったのは【炎帝】のミィでは無く、1人の少女としてのミィだった。ミィは泣きじゃくりながらセイバーへと気持ちをぶつける。

 

「でも私はあなたの事がそれでも好きなの。愛してる。無理に私の気持ちを汲んで欲しいとは思わない。だからこそちゃんと答えは出して欲しい。今すぐじゃなくてもいい。どれだけかかっても良い。ただ、答えを有耶無耶にするのだけはやめてほしい。これが私が本当にしたかった願いだから」

 

その気持ちを聞いてセイバーはミィを優しく抱くと頭をゆっくり撫でてから彼女の気持ちを落ち着かせた。それから自分の答えを話す。

 

「わかった。……あと1ヶ月。1ヶ月だけ待って欲しい。少し長いかもしれないけど絶対に答えを出すって約束する。もし俺が約束を破って答えを有耶無耶にしたらその時は俺の事を引っ叩いてくれても良い。最低野郎って罵っても良い。だから1ヶ月だけ我慢してくれ」

 

セイバーの言葉にミィは涙を拭いてからゆっくりと頷く。彼女も覚悟は決まっているようでセイバーの願いを真っ直ぐに受け入れた。

 

「ごめん。せっかくのデートなのに重たい話をしちゃったね。続きをしよ」

 

「うん。じゃあ今度は気分を変えて私のお気に入りの場所に行こう」

 

ミィがセイバーの手を握るとセイバーもそれに応えるように握り返し、2人で目的地まで歩いて行った。セイバーとミィが手を繋いでいるところは勿論周囲からも見られるわけで色々と小声で話す噂も聞こえたが、2人にはそんな物関係ない。そのまま2人揃って街を出ると歩いて行った先には時間帯指定でしか入れない場所があり、そこはまだ開いていた。

 

「良かった。時間内に間に合って」

 

2人が転移した先、そこには入る前まで昼間だったにも関わらず、目の前に広がっているのはどこまでも続く草原と満点の星空であり幻想的な空間だった。そしてミィが望んでいた光景はこれだけでは無い。その星空の中にオーロラが浮かび始め空の模様をより鮮やかに彩っていった。

 

「これって」

 

「少し前にギルドメンバーに勧められてね。1人で行った時にこの星空に心奪われたの。そしてこの星空には男女2人で入る事で発生するイベントがあるわ」

 

草原で2人揃って横たわると星空が光り輝いたと思えば無数の流れ星が流れ始める。そしてセイバーがその光景に目を奪われていると隣でミィが願い事を呟いていた。

 

これからも皆とゲームを楽しめますように

 

その様子をセイバーは隣で微笑ましく見つつ空に広がる星空を見つめ、彼も心の中で願いを言った。何故ここで口にして願わないのか……それは誰にも言えない願いだったからである。その願いが何なのか。それを他の人達が知る事は無い。

 

それから永遠にも思える時間の間、星空を楽しむと2人は外に出る事になり、今回のデートはお開きになるのだった。

 

「セイバー」

 

「何?」

 

セイバーがミィの方を振り向いた瞬間、ミィの唇がセイバーの唇に重なっていた。その意味を知らないセイバーでは無い。ミィの覚悟もちゃんと受け止めた彼は彼女の想いを受け入れるのか、それとも断るのか。それがわかるのはまだ先の話になるだろう。

 

そしてその様子をコッソリと影から見つめている人達が4人いた。【炎帝の国】に所属するミザリー、マルクス、シン、パラドクスである。

 

「ミィも大胆だなぁ」

 

「もう隠す様子もありませんね」

 

「これはセイバー、安易な答えを出すとミィに焼かれるだろ」

 

「だが、ミィの想いが叶うのは4分の1。たった25パーセントだ。それでもミィはそのわずかな確率に賭けたいんだろうな」

 

「そろそろ戻ろう。こんな所をあの2人に見られたら次にミィと会った時にどんな顔をされるかわからないからね」

 

そう言ってセイバーとミィのデートの様子をコッソリ観察していた4人は撤収していった。4人はミィを応援しており、彼女の願いが叶って欲しいと思っている。しかしそれが現実となるかはまだまだわからない。

 

〜閑話休題 極振り組対カザリ〜

 

セイバーとミィのデートの翌日、メイプルとマイ、ユイの3人組がカザリへと挑んでいた。理由は勿論裏ボスへと挑戦するために必要なアイテムゲットのためである。

 

ちなみにカザリと戦う前にあった怪物との戦闘はSTRが圧倒的に高いマイとユイが【ウェポンスロー】で16本の大槌を投げつけたのみで怪物が倒されたために省略し、いきなりカザリとの戦闘を描く事にする。

 

「マイちゃん、ユイちゃん!3人で倒すよ!【身捧ぐ慈愛】!」

 

早速メイプルが範囲防御を展開するとその範囲内でマイとユイが走っていき大槌を振るが、カザリのスピードを前に攻撃が空を切ってしまう。更にカザリが黄色い竜巻を飛ばして2人に命中させると【ノックバック】効果でメイプルを後ろへと吹き飛ばさせた。

 

「うわっ!!」

 

しかもそれによってメイプルの【身捧ぐ慈愛】の効果範囲から2人が離れてしまい動きが遅い2人の目の前にカザリは迫っていた。

 

『貰ったよ』

 

カザリの爪が迫る中、マイとユイは咄嗟に上体を逸らす事で爪を紙一重で回避。だがその状態からでは反撃できず、カザリの追撃が2人を襲おうとした。

 

「【機械神】、【全武装展開】【攻撃開始】!」

 

そこにメイプルからぶっ放された大量の弾幕がマイとユイの横をすり抜けてカザリへと命中。以前までならただ弾幕を張るのみだったメイプルだが、その射撃技術は向上しており、今では狙った場所にある程度軌道を揃える事もできるようになっている。

 

「マイちゃん、ユイちゃん!今のうちに」

 

「「【飛撃】!」」

 

マイとユイから繰り出される計16の衝撃波がカザリを飲み込むとたったそれだけでHPを4割にまで減らした。しかしこの4割残しというのは確定で残るHPであり、それが無ければおそらくこの攻撃で決まっていただろう。するとカザリの体に3枚のメダルが一気に投入。その姿を完全な物に変えた。

 

『中々やるね。けどもう僕には勝てないよ』

 

「ッ!【カバームーブ】、【ピアースガード】!」

 

カザリが髪を触手のように伸ばすと範囲攻撃を仕掛けた。それをメイプルが咄嗟にマイとユイを庇いつつダメージ無効化のスキルで防御。すぐに戦線を立て直す。それを見たカザリも超スピードでの動きで3人の目を眩ませにかかる。

 

「どうしましょう、これじゃあ捕まえられません」

 

「私達の速度じゃ、絶対に追いつけませんし……」

 

「うーん……あ、そうだ!」

 

メイプルは何かを思いつくと【挑発】を使ってカザリからの攻撃を自分へと向けさせた。そして、カザリの動きを読む事に全力で意識を集中させる。

 

「今!【水底への誘い】!」

 

メイプルがスキルを発動させるとメイプルの左腕と大盾が触手に変化して爪による直接攻撃を仕掛けたカザリの上半身を飲み込んだ。これによってカザリの動きは封じ込まれ、数回分残っていた【悪食】の効果でカザリへとダメージが入る。しかし、カザリの動きを封じた理由はまた別にあった。

 

「今だよ、マイちゃんユイちゃん!」

 

「「せーのっ!」」

 

2人合わせての大槌による一撃が身動きの取れないカザリを襲いその体を粉砕する。これにより3人はカザリの攻略を完了してアイテムをゲットしたのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと縮む命

ミィとのデートを終えて数日が経ったセイバー。彼は今、いつものスレの方でセイバーとミィが手を繋いでいたという情報を見たクロムから質問されていた。

 

「一応確認だけどまだ付き合って無いんだよな?」

 

「はい。告白はされましたけど返事は保留にしてもらいました」

 

「ま、今はそれが無難って所か?何にしろこれで他の3人は黙っていないだろうな」

 

そう、ミィが一歩踏み出してセイバーに告白したのだ。こうなるとサリー、ヒビキ、キャロルもミィに負けじとセイバーとの関係を縮めに踏み込んでくる可能性が高いだろう。しかも、他の3人もミィと同じようにデートをすると言い出しかねない上に周囲からは嫉妬の目線を向けられる。そう言ったところでセイバーは困っていた。

 

「セイバーも大変だな」

 

「いや、別に良いんですよ?俺と関係を縮めようとする分には。ただ、そうなると俺が節操なしだとかハーレム野郎だとか変な噂が立ちかねないですから」

 

「確かにそれはキツイよな。……わかった。その辺は俺がどうにかしておく」

 

「クロムさんが?」

 

セイバーはクロムにどうにかできるのか疑問を持った。しかし、忘れてはいけない。クロムには“名無しの大盾使い”というもう一つの顔がある。つまり、スレを使って上手く噂を操作するつもりなのだ。クロムもとい名無しの大盾使いはそれなりにスレでも名の通った人物である。それを活かしてセイバーの悪い噂を良い噂で上書きするつもりなのだ。

 

悪い噂は一度出ると無制限に広がり、相手の印象に残りやすい。だから下手に消そうとせずにその噂以上にインパクトのある別の噂で上塗りするなどの対策をしなければならない。クロムはそれをちゃんとわかっていたからこそそのような対策を取るのだ。

 

「クロムさん、よろしくお願いします」

 

セイバーがクロムに頭を下げて頼み込むとクロムも笑って頷き、了承した。

 

『……ったくよぉ。お前がさっさと4人の中から選べば済んだのにわざわざ面倒ごとにまでしやがって』

 

そう言ってセイバーの影から出てきたのはデザストである。相変わらずのいきなりの登場にクロムは一瞬ビビるがすぐに落ち着きを取り戻した。

 

「その件については前に話がついただろ。変に蒸し返すなって」

 

『ふん。その代わり、しっかりと約束は守れよ。……それはそうと、近くに何か嫌な匂いがするな』

 

「へ?俺達は何も感じないけど」

 

そう言ってデザストは勝手にギルドホームから出ようと歩き始め、セイバーが慌ててそれを止める。

 

「待て待て、今お前が出たら目立つだろうが。案内してくれたら俺が歩くからお前は影に戻ってくれ」

 

セイバーの言葉にデザストは仕方ないとばかりにため息を吐いてからセイバーの影へと戻っていった。

 

「という事なのでクロムさん、俺はデザストの嫌な匂いってのが気になるので出ますね」

 

「あ、あぁ。こっちは俺に任せてくれ」

 

セイバーはお願いしますの意味を込めて一礼し、そのままデザストの念話に従いながら移動を開始する。セイバーが街中を移動していると前から【BOARD】の主力の1人でギルドマスターのブレイドが歩いてきた。

 

「久しぶりだなセイバー」

 

「ブレイドさん」

 

「今、時間はあるか?ギルドホームにまで来て欲しいんだが」

 

「あ、ごめんなさい。今ちょっと急いでいるんで。この用事が終わってからでも大丈夫ですか?」

 

「む、急ぎの用事なら仕方ない。まだ暫くはログインしているから終わったら連絡をしてくれ」

 

「はい!」

 

セイバーはブレイドとの会話を早めに切り上げてからすぐにデザストの言う通りに街を駆け回る。しかし、その嫌な匂いの持ち主もセイバーの動きを読みながら動いているのか、中々尻尾を掴ませてくれなかった。

 

『この匂い……どこかで同じ匂いを嗅いだことがある気がする』

 

「そんなのどうでも良いからその匂いを出す犯人は見つかりそう?」

 

『む?どうやら犯人は街の外に出るようだ』

 

デザストの言葉を聞いてセイバーも街から出るとデザストの指示通りに動いて匂いの犯人を追跡していく。勿論追跡の途中でモンスターも襲ってきたが、セイバーは難なく返り討ちにして奥へと進んでいった。

 

「随分と奥まで逃げるんだな……もうここ、街から15分以上はかかる場所だぞ」

 

セイバーが追跡を続けているとようやく犯人の背中を視界に捉えた。それと同時にデザストはセイバーへと叫んだ。

 

『下がれ!』

 

その瞬間、突如としてセイバーの横から巨大な鉈が振り下ろされることになりセイバーは咄嗟に後ろに跳んだために事なきを得た。しかし、あと一歩遅ければ鉈に真っ二つにされていただろう。

 

「ッ!?」

 

『……ほう。躱しましたか』

 

犯人は最初からセイバーが付いて来ていることを見透かしていたのか、敢えて無防備な姿を晒してセイバーを誘い込んだのだろう。その犯人がセイバーの方を向くとただの青年であり、一見すると悪い人間には思えなかった。だが、デザストはその顔に見覚えがあったのか小さく呟いた。

 

『ストリウス……』

 

「コイツが、こっちの世界のストリウスなのかよ」

 

以前異世界に入った際にストリウスとは対決したものの、その時とは顔つきや纏う雰囲気がまるで違ったがためにセイバーもデザストに言われるまでわからなかった。

 

するとストリウスの横に手に巨大な鉈を持った怪人が現れるとセイバーを見据えた。セイバーはその顔に見覚えがあり、しかも異世界でも見知っている。

 

「お前はカリュブディス!?確か前に倒しただろ」

 

『私は自分の核となる本が無事なら何度でも再生、復活が可能だ』

 

「なんか前は片言だったのに流暢に喋るようになったなぁ」

 

『これも復活した影響だ。お前を今度こそ倒させてもらう。我が主人、ストリウス様と2人がかりでな』

 

カリュブディスのその発言にセイバーはやる気を見せつつ烈火を構えた。その一方で、ストリウスは戦う前にやる事があると言わんばかりにカリュブディスの前に手を出して攻撃態勢を止めさせてから口を開く。

 

『デザスト、いつまで隠れているのですか?出てきなさい』

 

ストリウスがそういうとデザストがダルそうにしながらも影から出てくる。セイバーは何故デザストが渋々ながらも出てきたのか気になったが、その答えはすぐにわかった。

 

『ふん。俺はお前の操り人形じゃねーんだよ』

 

『それが生みの親に対する態度かな』

 

「生みの親だと?」

 

セイバーが困惑する中、デザストはため息を吐いてからセイバーへと自分が誕生した経緯を話す事にした。

 

『俺は元々コイツの従順な部下となるためにフェンリル、ハンミョウ、歌う骨の三つのジャンルの力を持ってして作られた』

 

『ですが生成する際に何を間違えたのかこのような自由気ままの性格になってしまってですねぇ。見事に部下にすることを失敗したんですよ。しかも誕生直後に核となる本を奪われてしまった影響で始末もできず。その結果がこのザマ』

 

要するにデザストはストリウスにとってはただの失敗作という事になる。そしてその反省を活かして生まれた成功作が今ストリウスに従っているカリュブディスなのだ。

 

「なるほど、デザストも大変だったんだな。それで、お前はどうするんだ?」

 

『どうするというのは?』

 

「決まってるだろ。お前はこの戦いに参加するのか?それとも自分を生んでくれた主人が相手だから参加しないのか?」

 

『そんなの決まっているだろ。俺の自由を手にするためにもお前と組んでコイツらを倒す』

 

デザストの意思を確認した所でセイバーはストリウスとカリュブディスを倒すためにいつもの掛け声を言い放つ。

 

「聖刃抜刀!」

 

セイバーは新しく手に入れた刃王剣を抜刀すると最強の装備でいきなり全開モードで行くつもりのようだ。それを見たデザストがセイバーへと手を出すと要望を口にした。

 

『セイバー、無銘剣を貸せ。俺もフルパワーで行く』

 

「わかった。ホラよ」

 

セイバーがデザストへと無銘剣を手渡すとデザストの腰に剣を納刀するためのドライバーが出現。更にその手にはエターナルフェニックスの本が握られる。デザストが剣をドライバーに納刀してから本を開き、本をベルトに装填する。

 

《エターナルフェニックス!》

 

その場に待機音が鳴り響き、デザストが納刀してある虚無を掴んで抜刀するとデザストの体が炎に包まれていった。

 

《抜刀!》

 

『変身』

 

するとデザストの背中から不死鳥の翼が生えてそれがデザストを包み込むとデザストはその姿を変えていき、異世界に行った時に変身した戦士、ファルシオンに変身する。

 

《エターナルフェニックス!》

 

「それじゃあ一緒にいこうか!」

 

『ああ、コイツらを叩きのめしてやる』

 

セイバーとデザストが構えるとセイバーがストリウスに、デザストがカリュブディスに向かっていった。

 

「先手必勝、【星龍咆哮波】!」

 

セイバーが初手で繰り出したのは青い龍を模したエネルギー波を相手へと放つスキル。まずはスキルでストリウスの反応を見る事にしたのである。

 

ストリウスは手を翳すと魔法による障壁を作り出して防御。その硬度は並大抵のものではなく、セイバーの攻撃を軽々と凌いだ。

 

「なるほど。あの障壁……【刃王砲】でも突破は簡単じゃ無さそうだな。ならそれの使用は控えよう」

 

今の一撃で障壁の耐久力を見たセイバーは【刃王砲】のチャージ時に発生する貯めの時間でスキルが使えないというリスクを考えて【刃王砲】の使用はしない事に決めた。

 

『それで終わりですか?』

 

ストリウスの挑発にセイバーは乗る事なくそのまま2人は剣を交えていく。

 

「【星の刃】!」

 

続けて繰り出したのが自身の周囲にリング状の軌道に乗せた刃による斬撃攻撃である。ストリウスはこれを得物の剣で防御するものの、次々と迫る刃の斬撃に剣を叩き落とされて斬撃をまともに受けた。

 

『それならばこれでどうです?』

 

【星の刃】の効果時間が終わって刃が消滅すると今度はストリウスからの反撃が始まる。最初にやってきたのは幻術による巨大化であった。

 

『さぁ、これにはどうしますか?』

 

「それならこっちも巨大な物で対抗と行こうか!【装甲変化】、【推薦図書】!」

 

セイバーがそういうとインベントリからキングエクスカリバーが飛び出して左腕に装備され、それと同時に左肩にアーサー王を模した装甲が付与されていった。そして空中に巨大なキングエクスカリバーが浮かび、巨大な敵への対処も可能となる。

 

セイバーが使った【装甲変化】のスキル。これは1日に1回だけ【推薦図書】、【豪華三冊】、【三冊特装版】の三つから好きな物を選ぶ事ができる。そして選んだ変化パターンによって体の装甲が変化し、攻撃と防御に特化した形態、機動力に特化した形態、バランスよく強化される形態の三種類を使い分けられる。今回は攻撃と防御に特化した形態になった。

 

「それじゃあ早速やろうか!」

 

セイバーがキングエクスカリバーのスイッチを押すと空中に浮かんだ巨大なキングエクスカリバーが変形。巨人剣士、キングオブアーサーを召喚した。

 

『!?』

 

「どーやら俺が巨人に対抗できることを想定してないみたいだな。まぁ、レジエルやズオスとやった時は見せてないしね」

 

セイバーが手を振るとキングオブアーサーは敵であるストリウスへと自動で攻撃を開始。その実力は拮抗していたものの、その間セイバーがフリーになるのでストリウスの内心に余裕が無いのであればセイバーが有利に戦いを進められるだろう。

 

「じゃあ俺はブレイブ、【覚醒】!」

 

セイバーがブレイブを呼び出すと久しぶりの出番に嬉しそうに一声鳴いてからセイバーの元へと飛来。セイバーがそのままブレイブの上に乗るとブレイブは空へと飛翔した。

 

「さぁ、蹂躙の時間だ!」

 

そう言いながらセイバーはストリウスへと突撃していく。その頃、ファルシオンの方はカリュブディスと互角に渡り合っていた。理由として変身しているデザストの元々の戦闘能力が高いのに加えてファルシオンに変身する事による単純なステータスアップ。これらを総合してデザストよりも新型の怪人であるカリュブディスの戦闘力に追いついていた。

 

『私の力と互角ですか』

 

『本当に互角かな?』

 

ファルシオンがそう言うと背中に翼を生やして空へと飛び上がり空中を自在に移動しながらカリュブディスに接近しつつ虚無と元々持っている剣で斬撃を仕掛ける。

 

『チッ……確かにそれなら空を飛べない私が不利。だが!』

 

カリュブディスが突然腹に付いているもう1つの口を大きく開くと空間を喰らって無理矢理ファルシオンを自分の近くへと引き寄せた。

 

『オラッ!』

 

しかしファルシオンもこれを読んでいたのか引き寄せられた勢いを利用してカリュブディスへと虚無を突き立てる。

 

『ぐっ!!』

 

『前に戦った時の事はしっかりと覚えている。お前のそれは一番に警戒しているに決まってるだろ』

 

ファルシオンはそのまま剣を引き抜くと大量のダメージエフェクトと共にカリュブディスはかなりのダメージを負っていた。更にそこにファルシオンが追撃を加える。

 

ファルシオンが虚無をベルトに納刀してから抜刀すると力が剣に集約していき、そのままファルシオンは炎を纏いながら回転しつつ頭から突撃。更に二刀流の剣から連続で斬撃を繰り出す。

 

《必殺黙読!抜刀!》

 

『カラミティストライク!』

 

『馬鹿な……旧型ごときに!!』

 

ファルシオンからの攻撃がカリュブディスを貫くと腹に大穴を開けてカリュブディスは爆散、撃破された。

 

それと同時にセイバーと彼が呼び出した巨人は巨大化したストリウスを撃破してHPを2割程削っており、ストリウスが元のサイズに戻るとHPが8割前後になっていた。

 

「さーて、次はどう来るかな?」

 

『セイバー、こっちは片付いたぜ』

 

「お、随分と早かったね。ま、聖剣の力を使っているから当然か」

 

『ふん。これは俺の実力だ』

 

2人は拳を合わせてから敵であるストリウスを見据える。ストリウスはそれを見て笑みを浮かべていた。

 

『ふふふふ……』

 

『あん?』

 

「何がおかしい」

 

『いえね、あなた達がここまで詰めが甘いとは思っていなかったもので』

 

2人が頭にハテナマークを浮かべているとファルシオンが何かの匂いを感じ取りセイバーを突き飛ばした。

 

「え?」

 

次の瞬間ファルシオンは体の右半分を巨大な口に齧り取られて変身解除してしまうのだった。

 

『ぐあっ!!』

 

「デザスト!?」

 

デザストを齧った主の心当たりは1人しか存在しない。先程倒されたはずのカリュブディスである。デザストは失念していたのだ。カリュブディスは倒しても核の本さえ無事なら何度でも再生できる事に。

 

『ご馳走様でした』

 

「テメェ……。さっきデザストに……まさか、カリュブディスの核となる本はカリュブディスの中には無い?」

 

『その通り。彼の本は私が持っています』

 

これはつまりストリウスを倒さない限り眷属であるカリュブディスはいつまでも復活を続けるということを意味していた。

 

セイバーとストリウスが話している間にデザストは持ち前の再生力で復活し、失われた右半身を取り戻すが何故かいきなりその場に膝をついた。

 

『チッ……少し不味いかもなぁ』

 

「デザスト、大丈夫か?」

 

『ああ。だが少し消耗しすぎた。一旦休ませてもらう』

 

そう言ってデザストはセイバーの影の中に戻っていく。これで形勢は逆転し、セイバーが2対1を強いられる事になってしまった。

 

『これで数では我々が有利です。更に……』

 

ストリウスが再度幻術を使うと3体に分身。セイバー1人に対して4人がかりで倒しに行くつもりらしい。

 

「おいおい、その程度の数でどうにかできるとでも?」

 

セイバーがそう言った瞬間、3体のストリウスとカリュブディスが同時に襲いかかる。だが、今まで死戦を何度も乗り越えてきたセイバーにとってその程度の窮地など想定の内だった。

 

「最光【クロス斬り】!」

 

セイバーが最光の力を発動させると剣に光を纏わせて周囲に眩い光を放った。これによってストリウスとカリュブディスの目が眩み4人の足を止めさせる事に成功。

 

「【創世の力】!」

 

今度はセイバーの攻撃である。すると【創世の力】の効果でMPが最初に一定値消費されるとセイバーの目の前にメイプルが使っている『闇夜の写』が出現。左手にそれを装備するとそのままストリウスへと突進。刃王剣で斬撃を放ちストリウスの分身を1体破壊した。

 

「この【創世の力】はMPを使って1日1回まで好きなユニークシリーズを1つ召喚できる。まぁ、体につける装備は自分では使えないから実質武器しか出せないけどな」

 

カリュブディスが鉈を振り回しながらセイバーへと鉈での攻撃を放つ。しかしセイバーはこれを闇夜の写で防御してから刃王剣で斬り裂く。そこに2体のストリウスがセイバーの両サイドから拘束。セイバーの動きを封じたかに思えた。

 

「この程度で拘束したつもりかよ。【流星弾】!」

 

すると上空から隕石が降り注ぎ、セイバーへと攻撃を仕掛けようとしていたストリウス及びカリュブディスへと直撃し、3人を吹き飛ばした。その衝撃でストリウスの本体からカリュブディスの核となる本が飛び出して地面に転がる。それを見逃すセイバーでは無い。

 

「錫音【クロス斬り】!」

 

今度は錫音を召喚すると銃モードで射撃を放ち本を粉砕。するとカリュブディスに電流が流れて残っているHPから更に半分減少させた。

 

「これでカリュブディスも倒せるぜ。【銀河騎士王撃】!」

 

セイバーが今使ったスキルは本来は存在しない。しかし、【装甲変化】の追加効果によって一部のスキルがパワーアップを遂げているためにスキルを発動できるのだ。セイバーが跳びあがるとそのままカリュブディスへとキックを放ち、カリュブディスへと一撃与えるとカリュブディスは吹っ飛ばされて地面に叩きつけられると爆散。今度こそ完全に撃破される事になった。

 

『…………』

 

「次はお前を始末してやるよ。ストリウス!」

 

セイバーが左手の大盾を投げつけるとストリウスはそれを弾くがそれが視界を奪った影響でセイバーの動きを一瞬隠した。その間にセイバーがキングエクスカリバーを持って巨大な剣を召喚する。

 

「【巨剣両断】!」

 

セイバーが振り下ろした剣がストリウスの分身を真っ二つに両断し、一撃で撃破する。更にセイバーは【装甲変化】を解除して身軽になるとストリウスの本体へと走っていく。

 

『無駄です。はあっ!』

 

ストリウスが消された分身を再び再生させようとするがそのような隙をセイバーが与えるわけがない。

 

「【星龍咆哮波】!」

 

セイバーが青い龍を模したエネルギー波を放ちストリウスはそれに飲み込まれて大ダメージを負わせる事に成功する。これでストリウスのHPは残り6割でまだまだ先は長い。ストリウスは続けて頭のツノのような物から触手が伸びるとセイバーを捕えようとしてきた。

 

「させるか!【刃王星烈斬】!」

 

セイバーが烈火、流水、黄雷、激土、翠風、錫音の6本の力を使いストリウスの触手を斬り刻んでからストリウスの本体へとダメージを与えていく。だがこれでもまだHPは半分以上残っている。このままでは長期戦は避けられないかに思えた。だが、ストリウスの戦意はもう無いのか剣をしまうと構えを解く。

 

「何のつもりだ?」

 

『今日はここまでです。これ以上やっても今の私ではあなたを倒せそうにありませんし』

 

「だからって逃げるのかよ」

 

『残念ながら私はレジエルやズオスとは違って死にたがりでは無いのでね』

 

ストリウスはそう言いながらセイバーへと背を向けてその場から消えるように去っていった。その様子をセイバーは無言で見つめていたが、あまり良い気持ちでは無い。

 

「あの野郎、部下であるカリュブディスがやられても何も言わなかった。アイツには同胞を思いやる心は無いのかよ」

 

セイバーは興が削がれたとばかりに烈火へと装備を戻してからギルドホームへと帰っていった。一方のストリウスは物陰から1人笑みを浮かべてその様子を見送る。

 

『カリュブディスが犠牲になったのは痛いですが、私の目的は達成した。デザスト……あなたの物語はもう終わる。次は勝ちますよ、刃王剣の使い手』

 

ストリウスは影からほくそ笑んでから今度こそその場を後にしていくことになり、森の奥へと消えていった。

 

〜デザスト視点〜

 

同時刻、セイバーの影の中にいるデザストは自分の体に起きていた異変に気がついておりその場に座り込む。

 

「……カリュブディスの野郎……俺の命を削りやがって……もう長くは保たないのかもな」

 

そう言うデザストの体の中にある核となる本には亀裂が入っており、彼の限界の近さを示していた。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと試練2

セイバーがストリウスとの戦いを終えた直後、ブレイドからの呼び出しによって【BOARD】のギルドホームにやってきていた。セイバーが【BOARD】のギルドホームに入ると早速ブレイドのいる部屋に通される。そこには【BOARD】の主力メンバーであるブレイド、ギャレン、カリス、レンゲルの4人が勢揃いしていた。

 

「あの……俺を呼び出して何の用でしょうか?」

 

セイバーが尋ねると最初に行動を起こしたのはブレイドだった。彼はいきなりセイバーへと頭を下げるとセイバーへと頼み込んだ。

 

「セイバー、俺達と共に例のダンジョン攻略をしてくれないか?」

 

「え……」

 

セイバーはいきなりの誘いに困惑するが、すぐに冷静さを取り戻して言葉を返す。

 

「あの……それは大丈夫なのですが、頭を上げていただけません?」

 

それを聞いてブレイドは再び頭を上げると自分の願いが叶って喜んだような顔つきだった。

 

「ありがとうセイバー。俺はいつかセイバーと一緒にダンジョンを攻略したいと思っていたからさ」

 

「そうなんですね。えっと、なんか第10回イベントで戦った時とは雰囲気違いません?」

 

セイバーの疑問にブレイド以外の3人が事情を説明する事になるのだった。

 

「ブレイドは元々こういう性格なのだが、強敵と戦う時はバトルジャンキーに変貌する」

 

「つまり、セイバーと戦った時のアレは所謂ロールプレイングといった物だ」

 

「【炎帝ノ国】のギルドマスター、ミィがそうだったようにね」

 

「は、はぁ……」

 

「それなら早速行こうか。セイバー、今回はよろしく頼むよ」

 

ブレイドは興奮気味にセイバーの手を握ると握手し、セイバーは再び混乱した様子でそれを受けていた。それから【BOARD】の主力メンバー4人プラスセイバーの5人パーティは街から出るとダンジョンを目指して進んでいく。

 

「そういえば、今回はどこのダンジョンをやるつもりですか?」

 

「できればまだ俺達が攻略していない所をやりたいけど、セイバーがやった所はどこかな?」

 

セイバーがやったのはカザリが出現するダンジョンのみであり、まだ6つも攻略箇所がある。もし同じ場所をやるのなら二度手間だが今回もラッキーな事に【BOARD】の面々はカザリのダンジョンをクリアしており二度手間にはならないことが確定した。

 

「被りのダンジョンが無くて良かったです。これならブレイドさんが好きな場所をやれますね」

 

「なら今回はあそこをやろうか」

 

「ああ、あそこだな」

 

「あそこだね」

 

「あそこか」

 

「え、あそこってどこですか?」

 

「それは着いてからのお楽しみ」

 

【BOARD】の4人は場所を事前に話し合っていた影響か分かっていたがセイバーは何も知らないのでただ混乱するのみである。そうこうしている内に目的地に到着したのか4人は足を止めた。5人がダンジョンへと突入する。

 

5人がダンジョンの内部へと入るとそこは海の中であった。しかし、息はできるのか酸素ゲージがある様子も無いので時間制限も特に無いのだろう。そうこうしているといきなりピラニアの怪物の大群に周囲を囲まれた。

 

「熱烈大歓迎って所か」

 

「早速だけど暴れさせてもらうよ」

 

まずは4人がそれぞれカードを正面に投げるとレンゲルが1枚のカードを杖に読み込ませてモンスターをカードから解放する力を使用する。

 

「【リモート】!」

 

するとブレイドが投げたカードからは三葉虫が、ギャレンからはクジラが、カリスからはハンマーヘッドシャークとアンモナイトが、レンゲルからはクラゲとイカを模したモンスターが飛び出して水中を自在に泳ぎながら小型であるピラニアの怪物と戦い始める。

 

「やっぱり便利ですね。そのカード」

 

「上手く使えば数多くのバリエーションが生まれるからな」

 

「ただデメリットとしてはセイバーも知ってる通り俺達の攻撃のバリエーションが減る事だけどな」

 

「一先ずはこの雑魚集団をどうにかするぞ」

 

「あのモンスター達だって無敵じゃないからね」

 

「海には海の力で対抗するか。界時抜刀!」

 

セイバーが時国剣界時を抜刀すると中距離までカバーできる界時を振り回しつつ敵を薙ぎ払っていく。

 

「【魚群】!」

 

続けてセイバーが大量の魚を展開するとピラニア達に攻撃しているモンスター達の支援をしていった。魚の戦闘能力ではピラニアの怪物に対応するのは難しいのでこういったサポートに回した方が使いやすかったりするのだ。

 

「助かるぜこの魚、1匹1匹は雑魚だけど上手い事俺達の攻撃の隙をカバーしてくれる」

 

「いつもよりやりやすいぜ」

 

「【ラピッド】!」

 

ギャレンが連射を可能とするカードを使って弾丸を連続で発射。ただ、得意な炎のカードを用いたコンボは海の中ということもあって威力が低下するので中々使えないがために普段よりはやりづらい状況となっている。

 

「海の中ならこっちの方が使えるはずだ。【サンダー】!」

 

ブレイドが電撃を周囲へと放出すると海の中だからか電気がよく伝わっていき周囲に存在するピラニアの怪物は大ダメージを受けて次々と倒されていく。しかしこれは下手をすると近くのプレイヤーも巻き込みかねないのであまり多用はできないが。

 

「それ、俺達が近くにいる時はやるなよ?やったら皆電撃を喰らう事になるからな」

 

「あー、確か直接の電流はパーティに入っているおかげで防げるけど残留した電気に触れるとダメージが入るあの原理と一緒ですからね」

 

「そういう事だ。【バイオ】!」

 

カリスは左手から蔦を生やすとそれでピラニアの怪物を絡め取って引き寄せると右手の弓に付いている刃で斬り刻む。

 

このように暫くの間迫りくるピラニアの怪物軍団を殲滅し続けているとセイバー達は何かに気がついた。

 

「あれ、コイツらいつまで湧いてくるんだ?」

 

「さっきから倒し続けているのに減る気配がありませんね」

 

「倒す度に後続がどんどん追加されている感じだな」

 

そうこうしている内にレンゲルが呼び出したモンスター達がダメージの受け過ぎで次々と消滅し、カードに戻っていく。ブレイド達は急いでそのカードを回収し、紛失を防ぐがそれでも手数が減る事によりピラニアの怪物達を抑えられなくなってしまうだろう。

 

「おいおい、どうするんだ?このままだとジリ貧だぞ」

 

「今【気配察知】のスキルを使ってこの怪物がどこから来ているのか見たんですけど、コイツらの来る方向はずっと同じ方向で変わらない。つまり、コイツらには湧き場所がある!」

 

「カリス、レンゲル!」

 

「「わかった。ここは任せろ」」

 

「「【アブゾーブ】、【フュージョン】!」」

 

2人が鷲とクジャクの力で背中に翼を展開すると水の中を飛ぶように移動し始める。つまりこれは機動力を底上げしてピラニアの怪物軍団の湧き場所を叩くつもりだ。

 

「なら俺も行くぜ【界時抹消】!」

 

セイバーも特殊空間内に入る事でピラニア軍団の隙間を縫うように移動していくとピラニア軍団の湧き場所の近くにまで肉薄する。

 

「【再界時】!」

 

セイバーが元の空間に戻ると丁度湧き出ていたピラニア軍団が打ち止めとなり一旦クールタイムらしき時間に入った。その瞬間を逃すほど3人は甘く無い。

 

「【ビート】!」

 

「【オーシャンカッター】【一時一閃】!」

 

「【スコープ】!」

 

ブレイドがピラニアの怪物の軍団の内の1体を殴るとそれによって発生した衝撃波が周囲にいたピラニアの怪物達を吹き飛ばす。更にセイバーも界時スピアで薙ぎ払いつつ水の斬撃波を放ちピラニアの怪物を寄せ付けない。最後にギャレンが湧き場所を狙い撃つ事でピラニアの怪物を生成していた核を粉砕し、完全にピラニアの怪物の生成をストップさせる事に成功した。

 

「これで終わったか?」

 

「ああ、もう追加投入は無いはずだ」

 

そこに元々いた場所に残っていたピラニアの怪物を殲滅したカリスとレンゲルも合流すると勝ちを確信するが、まだそれは早かった。今度は巨大なエイの怪物が出てきたからである。

 

「まーた敵が来るのかよ」

 

「今度は俺達に任せてくれ」

 

「【アブゾーブ】、【フュージョン】!」

 

「【フュージョン】!」

 

今度はカリスとレンゲルがそれぞれ狼と像の力でパワーアップした姿に変化すると2人はエイの怪物へと突撃。機動力の関係でカリスの方が先にエイの方に到達すると手に生やしたクローで切り裂きつつ注意を引きつける。

 

「【ブリザード】、【バイト】!」

 

その間に水中でキックの体勢に入ったレンゲルがエイの怪物へと挟み蹴りを放つ。

 

「【ブリザードクラッシュ】!」

 

レンゲルの挟み蹴りがエイの怪物に命中するとその体を強制的に凍らせていく。しかし、エイも負けじと抵抗したために氷は半分ぐらいで止まってしまった。

 

「く……」

 

「【オーシャンファング】!」

 

そこにセイバーからの攻撃が命中してエイの凍っていない部分に攻撃が命中し、エイはバランスを崩す。そこに他の4人が追撃をかけていく。

 

「【ポイズン】!」

 

「【キック】!」

 

「【ドロップ】!」

 

「【ドリル】!」

 

まずはレンゲルが自慢の装甲を活かしてエイからのエネルギー弾を凌ぎつつ懐に飛びつき杖での突きでエイの体へと毒を流し込む。これによりエイが定数ダメージを受ける事になりエイの動きが一時的に鈍る。そのタイミングでブレイド、ギャレン、カリスの3人が同時にキックを放ちエイに命中させる。

 

「これで決めるぜ。【大海一刻斬り】!」

 

最後にセイバーからの斬撃がエイを襲い、そのダメージがきっかけとなってエイの怪物はHPを削り切られて爆散。これで敵の襲来は終わったかに思えた。

 

「なんとか倒せましたね」

 

「ああ、危なかったがこれでようやく折り返しか」

 

「こんな程度では終わらないでしょ」

 

「まぁ、人数が多いほど難易度も上がるって話だしな」

 

「さて、今回は何が来るか……」

 

5人でそんな話をしているといきなり水流が渦巻いていき、5人はその中央に存在する魔法陣へと強制的に移動させられるとそのまま転移し、5人が移動した先は水底に生成されたドームの中である。ここも息ができる場所である上に今度は地上扱いなので普通に立つことができた。

 

「ここは……」

 

『坊や達。ようこそ、私のテリトリーに』

 

「お前がここのボスというわけか」

 

『私の名前はメズール。さっきは私が生み出した坊やを可愛がってくれたわね』

 

現れたのは青い服に身を纏った黒髪ロングの女性であり、普通の人から見ればその容姿はとても美しいと思えるほどだった。

 

「で、今度はお前が相手になると?」

 

『そうなるわね。まぁ、私の相手になればの話だけど!』

 

メズールはその姿を変えていくと下半身がタコの吸盤のような模様の足に、頭部はシャチの全身のような形に変わる。背中には水色のマントをしているが、上半身はカザリの下半身と同様に茶色い無防備な状態だった。

 

『さぁ坊や達、遊んであげるわよ』

 

「遊ぶのは俺達だ!」

 

ブレイドとギャレンが空中に飛び上がり、カリスは素早い動きでメズールへと接近。そしてレンゲルが巨大な鉄球を投げつけてメズールを攻撃する。

 

『無駄よ』

 

メズールが手から高圧の水を噴射するとそれが鉄球を押し返してレンゲルに命中させていきレンゲルは逆にダメージを受け、更に地面に水がぶちまけられた事で滑りやすくなりカリスも滑る事を警戒して動きづらくなる。

 

「この!」

 

「【スラッシュ】、【サンダー】!【ライトニングスラッシュ】!」

 

セイバーとブレイドの近接組が空中と地上から突撃し、ブレイドの剣とセイバーの界時ソードでの同時刺突を放つ。だがメズールは回転しながら斜め上に跳ぶことで見事にそれを躱す。

 

「「!?」」

 

「【スコープ】!」

 

そこにギャレンからのスナイプショットが撃ち出される。そのタイミングは完璧であり、普通なら絶対に反応できないだろう。しかしメズールはボスモンスター。普通ではあり得ない事を可能とする。

 

『はあっ!』

 

メズールは回転しながらその勢いを利用して水を高速噴射。水のベールを纏い弾丸を相殺してしまった。

 

「馬鹿な」

 

「【フロート】【ドリル】【トルネード】!【スピニングダンス】!」

 

カリスが跳びあがるとドリルのように回転しながらメズールへと突進。水を纏って回転するメズールと激突するとパワーの差で押し切りメズールを吹き飛ばした。

 

「む、高い機動力の割にパワーはあまり無いな」

 

「レンゲル、パワー勝負に持ち込められれば必ず勝てる」

 

「そう簡単に行けば苦労はしませんけどね」

 

『く……でもそう簡単にはやらせないわよ』

 

今度はメズールから接近してくると回し蹴りをセイバーへと放つ。しかしセイバーは界時ソードを界時スピアへと変化させて対応。柄の部分で蹴りを防いでからタックルで押し返し、界時スピアを振り上げてダメージを与えた。

 

「【バレット】【ラピッド】【ファイア】!【バーニングショット】!」

 

ギャレンが炎の弾丸を連続発射してメズールへと追撃をかけるとメズールはこれに対して水を射出する事で防ごうとするが、弾丸と水が衝突した瞬間に水蒸気が発生してドーム内に水蒸気による煙幕が広がった。そのタイミングでセイバーの【ヘッドソナー】の効果が発揮し、メズールの居場所を捉えるとレンゲルへと突撃指示を出す。

 

「レンゲルさん、右斜め前です。ただ、鉄球は飛ばさないでください。また水で跳ね返されます」

 

「わかっているよ!」

 

レンゲルはセイバーの指示通り突進するとメズールの近くにまで肉薄。至近距離から杖に付与された刃でメズールを斬り裂くとHPを残り8割にまで減らした。

 

「やっぱり装甲はそこまで固くない。回避に優れている分耐久は脆いぞ」

 

『調子に乗らない事ね!』

 

するとメズールの体の中に青いメダルが1枚取り込まれてメズールの力が増幅。今度はメズールが常に水のベールに包まれるようになった。

 

「これは……ギャレンさん」

 

「ああ、飛び道具は跳ね返される可能性が高そうだな」

 

「あの水のベールの効果が気になるな。下手に攻撃して不利益になるのは避けたいけど……」

 

そんな風にセイバー達が話しているのはお構いなしにメズールはその場で高速回転。すると水が周囲にバリアフィールドのように飛んでいき、セイバー達はそれを受けるとダメージとして喰らっていた。

 

「【ロック】!」

 

ギャレンが地面に岩の壁を展開するとメズールからの水を防ぐがそれだけでは状況が変わることは無い。だからこそ次の手を打つ必要があるだろう。

 

「こうなったら、一気に接近して倒すしか無いですよ」

 

「【タックル】!」

 

「【ラッシュ】!」

 

ブレイドとレンゲルが突進力を高めるスキルを使用してメズールへと突撃。しかしただ突撃するだけではメズールのバリアフィールドは破れない。

 

「【界時抹消】!」

 

そこでセイバーが特殊空間に潜航しつつ水のバリアフィールドを躱しつつメズールの背後に回り込み停止を解除。すぐさま界時スピアで薙ぎ払う。

 

メズールが衝撃で弾き飛ばされると水のバリアフィールドも消失する事になり、そこに突進攻撃を仕掛けた2人の攻撃が命中してメズールはHPを一気に減らされる事になる。

 

「【シーフ】!」

 

そこでギャレンが【シーフ】の効果で透明化を発動。その場から消滅するとゆっくりとメズールへと近づいていく。しかし、それはメズールに見破られるとギャレンのいる場所に水圧弾を発射されてギャレンは吹き飛ばされてしまう。

 

「な!?」

 

「透明化も見破るとはな」

 

『舐めてもらっては困るのよ』

 

「【トルネード】!」

 

カリスが竜巻を纏わせた弓による射撃を放ちメズールを射抜くとこれでメズールのHPは丁度6割。これによって2枚目が追加されてメズールが追加強化され、今度はドームの外に出ると外の海から水を噴射して攻撃を仕掛けてきた。

 

「ッ!?」

 

「面倒な真似を……」

 

「俺が行く!」

 

セイバーがドームの外に出ると海の中を泳ぎつつ【ヘッドソナー】の力でメズールの場所を特定。しかし、海の中では彼女の方が素早いのかセイバーでさえもメズールの機動力に翻弄されてしまう。

 

「【魚群】!」

 

セイバーはメズールの動きを制限するように魚を展開するとメズールを取り囲ませつつ一斉攻撃を仕掛けていく。

 

『はあっ!』

 

メズールもただリンチにされるわけがない。水の中でも回転しながら水を噴射してその水圧で魚を押し流していき逃げ道を確保する。

 

「これを待っていた!【大海三刻突き】!」

 

しかしセイバーはメズールのこの技を待っていたかのように界時スピアによる突きをぶっ放し、メズールの体を穿つとメズールは大きなダメージと共にドームの中へと叩きつけられた。そこに待ってましたとばかりに4人による集中攻撃がメズールを襲う。

 

「【スラッシュ】!」

 

「【バレット】!」

 

「【バイオ】!」

 

「【スタッブ】!」

 

カリスが蔦でメズールの動きを捉えたのちに3人による追撃がメズールを襲いメズールのHPは4割に減った。そしてそれはメズールの真の力を解放する事に繋がる。メズールの中に最後の1枚が投入されてメズールの上半身が強化されて完全な姿にパワーアップした。

 

『これが私の本気よ。受けてみるかしら?』

 

メズールはそう言うと次の瞬間には液状化して突撃。5人は攻撃を仕掛けるものの液状化している今の状態では全くダメージを与えられずに逆にメズールの突撃に生じる当たり判定でダメージを受ける始末だった。

 

「仕方ない。【リカバー】!」

 

カリスがHPを回復させるスキルで全員を回復させると態勢を立て直して全員で攻撃を仕掛けるが、メズールは攻撃が命中する直前で液状化を使ったために全員の攻撃が空を切ってしまう。

 

「おいおい、こんなのどうすれば」

 

「だったらこっちも【液状化】で!」

 

セイバーが液体へと変化するとメズールと激突しながら互いにダメージを与えていくが、メズールは時間制限が無いのに対してセイバーの方は制限時間があるので【液状化】が解除された所にメズールの回し蹴りを叩き込まれてセイバーはダメージを負ってしまう。

 

「【サンダー】!」

 

ブレイドが液状化した相手にも通用するであろうと考えた電撃攻撃を放ちメズールへと命中させると流石にこれはメズールにも通用したのかメズールのHPバーが少し削られた。しかし、これだけでは決定打に欠けるためにセイバー達は液状化そのものをどうにかする必要が出てくる。

 

「液状化に勝つには液体を全部蒸発させるか、逆に凍らせ……あ!」

 

「なるほど、ここは僕の出番ですね」

 

セイバーの言いたい事を理解したレンゲルがカードを取り出すとそれを読み込ませてスキルを発動させた。

 

「【スクリュー】、【ブリザード】!【ブリザードゲイル】!」

 

レンゲルが液状化したメズールへと果敢に突撃するとメズールと激突する寸前に氷を纏わせたスクリューパンチを繰り出す。それがメズールに命中するとメズールの体が凍りついていき、完全に液体が凍結してメズールは氷漬けになってしまった。

 

『しまった!?』

 

「今だ!【アブゾーブ】【エボリューション】!」

 

ブレイドが一撃でトドメを刺すためにキングフォームを解禁して13枚のカードと融合。フルパワーを持ってしてメズールを見据える。

 

「「「ブレイド、俺達のカードを使ってくれ!」」」

 

ギャレン、カリス、レンゲルがそれぞれ6のカードをブレイドへと投げ渡すとブレイドも6とKのカードを出して3人のカードと合わせた5枚を読み込ませる。

 

それと同時にセイバーも界時スピアを界時ソードに変えて大海のエネルギーを高めていった。

 

「スペード、ハート、ダイヤモンド、クラブ6!スペードK!」

 

「【大海一刻斬り】!」

 

「【フォーカード】!」

 

するとブレイドの前にスペードのKのカードが出現するとその四隅に4つの6のカードが並びそれがKのカードに吸い込まれるとKのカードが黄金に輝いてブレイドと一体化する。

 

セイバーは大海の力を、ブレイドは雷、炎、風、氷の四属性の力を集約したその一撃は圧倒的な出力を誇り、氷漬けとなって動くことができないメズールを一撃で粉砕するべく走っていく。

 

「「うぉりゃあああああああ!!」」

 

2人の攻撃がメズールをクロス字に斬り裂くとメズールの体は両断されて火花を散らしていった。

 

『うぁああああああああああ!!』

 

メズールが断末魔を上げるとともにHPを0にされ、爆散。セイバー達は試練を突破する事ができた。

 

「何とか倒せた……」

 

「ああ、俺達の絆の勝利だ」

 

5人は勝利を分かち合うと置かれてあった宝箱を開いて中身を確認した。そこにはシャチ、ウナギ、タコのメダルで1セットの物が5人分あり、裏ボスに挑むための鍵として使えるだろう。

 

「今日はありがとうございました。今回のMVPはレンゲルさんですね。レンゲルさんのおかげでボスを凍らせることができて勝てたので」

 

「当然……と言いたい所ですけど、そんな事を言ったらセイバーがいなければ水中戦が中々やりづらい僕達の装備だと勝てなかったかもしれません」

 

「いずれにせよ、俺達が1人でも欠けていれば勝てない勝負だった」

 

「感謝しているぞ」

 

「また一緒に戦おう。セイバー」

 

「勿論です!」

 

セイバーとブレイド達はダンジョンから出るとまた共闘する約束を取り付けてそれぞれのギルドへと帰っていくのであった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと魔法少女

今回の話の都合上、一部過去の話の内容を変更しました。ただ、本当に細かい部分を変えただけで大筋には関係ないのでご安心ください。


セイバーが2つ目のボスを攻略した日からまた時間が経ったある日、ギルドホームではカナデが新たな装備を手に入れていた。

 

「……カナデ、いつの間にそんな装備を手にしたんだ?」

 

「これのこと?えっとね、つい昨日の話なんだけど、またいつものように城の図書館に行ったら見たことの無い本を見つけてね、多分メンテナンスで追加された新しい装備に関係するのかなって調べたらいきなりクエストが始まって……」

 

「それをクリアした時に手に入れたのがこれと」

 

カナデの姿はいつもと全く同じに見えたが、新しくカナデの近くにフワフワと球体が浮いているような状態だった。

 

『十五偉人ノ魂』

宮本武蔵、エジソン、ロビンフッド、ニュートン、ビリーザキッド、ベートーベン、武蔵坊弁慶、石川五右衛門、坂本龍馬、卑弥呼、ツタンカーメン、織田信長、フーディーニ、グリム、三蔵法師の計15人の力が凝縮されており、1人につき1日1回まで能力を使用可能。尚、一度に召喚できるのは1人まで。

 

「ただ、この球に偉人達の力が入っているとはあるんだけど、どんな能力かは使ってみないとわからないんだよね。一応これから試してみるつもりだけど」

 

「じゃあ俺が実験台になろうか?」

 

「ごめんセイバー、助かるよ」

 

そう言ってセイバーはカナデと共にギルドホームの訓練室へと入っていく。セイバーとカナデは訓練室内で向き合うと早速能力を試す事にした。

 

「まずは【宮本武蔵】!」

 

するとフワフワと浮かぶ球体から人魂のような物が出てカナデの近くに魂が降りてくると魂が人の形として顕現。両手に刀を持って二刀流となった剣士、宮本武蔵が召喚された。しかし、宮本武蔵は全く動きを見せずに止まっている。まるで何かの指示を待っているかのように。

 

「あれ?動かないね」

 

「指示したら動いたりして」

 

「えっと、じゃあセイバーを攻撃してみて」

 

カナデがそう言うとその指示通りに武蔵はセイバーへと刀を振るってきた。勿論セイバーはそれに対抗して烈火で防御し、それから武蔵を斬りつけると武蔵はダメージエフェクトと共にHPバーが減少する。

 

「む、流石に無限HPとかでは無いみたいだな」

 

「そうだね。HPバーが0になったら消滅する感じかな」

 

「取り敢えず色々と試してみようぜ」

 

それからカナデは15人の英雄を次々と召喚し、能力を試していく。そうして見られた能力は次の通りである。

 

武蔵……二刀流で戦う

 

エジソン……電撃放出

 

ロビンフッド……ダメージ高めの弓による狙撃

 

ニュートン……引力と斥力で敵や物体を引きつけたり離したりできる

 

ビリーザキッド……銃での連続射撃

 

ベートーベン……音によるバフ及びデバフ

 

武蔵坊弁慶……ハンマーを使った防御貫通攻撃。

 

石川五右衛門……素早い動きからの斬撃攻撃。

 

坂本龍馬……銃による属性付与の射撃

 

卑弥呼……浄化の光

 

ツタンカーメン……鎌での攻撃

 

織田信長……銃を周囲に複製しての一斉斉射。

 

フーディーニ……鎖による拘束

 

グリム……万年筆の先端を模した部分を触手として伸ばしての攻撃

 

三蔵法師……3人のお供を召喚してから連続攻撃

 

「待って待ってこれ強すぎない?」

 

「確かに状況に合わせた使い分けはできそうだけどこれは正直想定以上だね」

 

そんな風にセイバーとカナデが話していると訓練室の扉が開いてヒビキが若干不機嫌そうに入ってきた。

 

「セイバーお兄ちゃん……お客さんだよ」

 

「ヒビキ、何でそんなに不機嫌なんだ?」

 

「僕何となく誰が来たか察しがついたんだけど」

 

カナデにそう言われてセイバーも思い当たる節があったのかポンと手を叩き出入り口の方に急ぐ。何故なら待たせると碌なことにならないと思ったからである。

 

「セイバー、来たぞ」

 

そこで待っていたのは【thunder storm】のエースクラス、キャロルであった。普段なら来ないはずの彼女が来た理由、それは最早1つである。そしてセイバーもそれを勘付いているのかすぐに対応した。

 

「キャロル、一応聞くけど今日は何の用?」

 

「そんな事、お前が一番よくわかっているだろ?ミィにやって良いと言ったんだ。俺がダメだとは言わせないぞ」

 

「ですよね」

 

セイバーは観念するとキャロルに引っ張られて外に出ていく。勿論その様子を見たヒビキは不機嫌だったが、約束は約束なので我慢してその様子を見る事になった。

 

「キャロル、デートって言うけどキャロルはどこに行くつもりなんだ?」

 

「それは着いてからのお楽しみだ」

 

そう言ってセイバーは無理矢理目隠しをさせられるとキャロルに連れられていく。その様子を見ていた周囲のプレイヤーからヒソヒソと話し声が聞こえてきたが、目隠しさせられているためにセイバーにはどうしようもできなかった。

 

「あの、キャロルさん。俺をどうするつもりなんですか?というより、どこまで引っ張るの?まさかと思うけどまた前みたいにダンジョンの前じゃないよね」

 

セイバーが危惧するのも当然だった。今セイバーは目隠ししているために無防備な状態だ。そんな中で敵のモンスターに襲われればひとたまりも無いだろう。

 

「心配無い。俺の頼もしい騎士4人組が護衛に当たっているからな」

 

「それってもしかして」

 

『マスター、ご報告です。近くに【炎帝ノ国】のマスター、ミィが接近中。いかがしますか?』

 

「問題ない。無視して進む」

 

『マスター!魔力が足りないぞ。補給をして欲しいんだぞ』

 

「ガリィから分けてもらえ。今は取り込み中だ」

 

セイバーからは見えないが恐らくキャロルのテイムモンスター枠のオートスコアラーの4体が邪魔が入らないように守っているのだろう。そうしてキャロルに連れられて到着した場所に入っていくと扉が開く音がした。

 

「帰ったぞ」

 

「キャロル……と、セイバーっすか?」

 

「本当に連れてきたんですね」

 

「その声……ベルベットとヒナタか」

 

キャロルが連れてきた場所。そこは【thunder storm】のギルドホームである。ちなみに他のプレイヤー達は全員外に出しているためこの場にはいない。

 

「それで、私達も出た方が良いっすか?」

 

「そうしてくれると助かる。できれば2人きりにして欲しいからな」

 

「わかりました。キャロル、頑張ってくださいね」

 

そうやって3人が話す間もセイバーの目には目隠しをさせられているためにセイバーにはどうすることもできなかった。暫くするとベルベットとヒナタが出ていったのか2人の足音と扉の音がして2人もいなくなる。そして、キャロルはセイバーの目隠しをしたまま更にある部屋の中にセイバーを入れてようやく目隠しを解いた。

 

「やっと前が見え……って、は?」

 

セイバーは目の前の光景に思わず固まった。そこには綺麗に整理整頓された家具に可愛らしいカーペット、更に部屋の所々に置いてあるぬいぐるみなどいかにも女子の部屋と言える空間が広がっていた。

 

「キャロル、もしかしてここって」

 

「ああ、俺の部屋だ」

 

「キャロルが……あのカッコイイ系女子を演じているキャロルの部屋がこんなに可愛い物ばかりで驚かれないのか?」

 

「問題ない。ベルベットとヒナタは事情を知っているし、他のギルドメンバーにもそのまま2人経由で話してある。皆快く受け入れているぞ」

 

キャロルが提案したデート。それは所謂お家デートだった。キャロルとしては無理に外に連れ回すよりも自分のフィールドである部屋に連れ込む事で有利を取ろうという考えだ。

 

「なぁ、俺がこんな所にいても良いのか?勘違いされるぞ」

 

「何を言ってるんだ。お前はもうとっくに知ってるだろ?俺がお前に向けた好意を。今更何を言われても問題はない」

 

キャロルの目は真剣だった。そして今のセイバーに逃げるつもりなど毛頭なく、キャロルからの気持ちをちゃんと受け止めるつもりだ。

 

「まずはそうだな……これでもやってみるか」

 

そう言ってキャロルが出したのは将棋だった。セイバーは出したゲームの渋さに驚く。

 

「へ?将棋するの?」

 

「どうした?負けるのが怖いのか」

 

「誰が負けるのが怖いって?」

 

セイバーはキャロルの挑発を受けると2人で将棋を開始する。数十分の後に勝負はつき、結果はキャロルの勝ちに終わった。

 

「キャロル強くない?」

 

「これでも将棋に関してはかなりの腕だからな。大会にも出て優勝はできずとも好成績は残せるくらいには強いぞ」

 

セイバーの本領はデジタルのゲームであり、このようなアナログのゲームだと実力者相手には勝てないのだ。そんなことはさておき、セイバーに勝ったキャロルは続けてカラオケのセットを取り出した。

 

「はい?このゲームの世界にはカラオケもあるのかよ」

 

「俺と歌で勝負だ。罰ゲームはそうだなぁ……相手の言うことを1つ聞くというのはどうだ?」

 

「え、この流れ前にも無かったか?」

 

その言葉を聞いた瞬間キャロルの顔が曇った。恐らくセイバーの言う前にもという言葉がミィの事を指しているという事を一瞬で察知したからである。

 

「とにかく、やるものはやるんだ。今日はとことん付き合ってもらうぞ」

 

「はいはい。どうせ拒否権は無さそうだしね」

 

セイバーが観念するとキャロルは早速カラオケの機械を接続してマイクをセイバーに手渡した。

 

「勝負は5曲で決める。互いに好きな曲を選んで歌い、合計点数が高い方が勝ちだ」

 

「わかった」

 

「まずはセイバーから」

 

まずセイバーが選んだのは龍のモンスターと契約した仮面の戦士が他の戦士との戦いに身を投じる物語の主題歌である。そこからは熱戦だった。

 

1曲目はキャロルが優位に立つが、2曲目でセイバーが巻き返し、3曲目でセイバーがほんの少し突き放して4曲目でキャロルが追いつく。そして運命の5曲目でセイバーは剣士達が世界を救う物語の中で挿入歌として流れた3人の剣士達の絆の歌を歌い、出てきたセイバーの点数は99点。つまりキャロルが勝つには満点を取るしか無かった。

 

「ふふっ。流石はセイバー。最後まで面白くしてくれる。だからこそ、俺が勝たせてもらう」

 

キャロルはそういうと歌を選曲。選んだのは歌を唄いながら戦う歌姫達が世界を救う物語の挿入歌で一度主人公達の手によって倒されたラスボスが味方側として復活した際に歌った曲である。

 

「〜腹立たしい不変の世を踏み躙る〜戦鬼は要らぬか答えよ〜」

 

キャロルの歌声はその場にいるセイバーを魅了し、感動させるほどに美しかった。そして曲もラストスパートに入る頃にはキャロル本人も勝負を忘れるほどにノリノリで歌っていた。

 

「〜地にひれ伏せ……高くつくぞ〜オレノ歌ハ〜愛を抱こう……愛ニ終ワROU〜」

 

キャロルが歌い終わるとセイバーは曲が終わってしまうのが惜しいと思えるほどにキャロルの歌を欲してしまっていた。できることならアンコールしても良いぐらいである。そしてセイバーは結果を薄々と知っていた。それが当たるかのように点数は100点を表示し、キャロルの勝利が決まった。

 

「キャロル……こんなに歌が上手かったんだ」

 

「ふん。今更知ったのか。まぁ、セイバーが感動してくれたのなら俺も歌った甲斐があったものだ」

 

セイバーが何かに気づいて手を顔に当てると無意識に出した涙が流れており、セイバーはそれを急いで拭ってキャロルから目を逸らした。

 

「さーて、セイバーに何をお願いしようか」

 

キャロルはそう言ってセイバーにゆっくりと抱きつくとそのまま押し倒した。

 

「待って待ってキャロルさん……早いというか近いって、それに当たってるから」

 

「んー?それがどうしたんだ?俺のお願いは俺のスキンシップから逃げない事。勿論この行為も含まれる。だから逃げたら許さないからな」

 

キャロルはそのままセイバーの上に乗るとそのまま顔を近づけてセイバーの唇に唇を重ねる。

 

「!?」

 

「好きだよ……セイバー」

 

そう言った時の口調はキャロルでは無くリアルの方の口調だった……つまり、エルフナインとしての感情を押し出して彼女はセイバーに迫っている。更にセイバーの体に自分の育ち盛りで成長している胸を優しく押し付けながらセイバーを強く抱きしめる。

 

「キャロル……あ、あの、本当にこんな事して良いのか?通報ものギリギリだぞ……てか、これ以上は本気で理性が飛ぶ」

 

「……良いよ、僕は。そうなっても……」

 

セイバーは頭の中でブレーキを踏み、舌を噛む事でギリギリキャロルを犯したいという欲を抑え込む。今のキャロルならもし仮に自分がキャロルの事が好きだから犯したいと言っても了承しかねないからだ。

 

「キャロル……一応言っておくけど付き合ってない男女で、ましてやゲームの中でこんな事しても……」

 

「わかってる……」

 

キャロルの目には涙が浮かんでいた。セイバーの言う通り、付き合ってないただの男女がこんな行為をしても虚しいだけだ。ハッキリ言って無駄に等しい。それどころか下手をすれば訴えられてもおかしくない。そんな事にキャロルが気づかないわけがないのだ。それをわかっていてもキャロルの意思は変わらなかった。

 

「僕だってそんなことぐらいわかってる。でも……我慢してる僕の、僕達の身にもなってよ……。本当はこんなゲームの中じゃ無くて現実世界でこれを2人きりでしたい。僕はそのくらいセイバーの事が好きなの。でも、そんなことは他の皆だって同じ。だから選べないんでしょ?」

 

「………」

 

「僕もセイバーの特別になりたい……他の誰かにセイバーが取られるのは嫌。それは幼馴染だろうと妹分だろうと最近セイバーの事が好きになったばかりの女にだって負けたくない。でも僕なんかじゃセイバーは振り向いてくれないことも薄々わかってる」

 

キャロルはセイバーの前で泣きじゃくりながら想いを吐露し、ぶつけていく。セイバーはキャロルの言葉をしっかりと受け止めて理解するつもりだ。それが彼にできる精一杯だから。

 

「馬鹿だよね。セイバーを困らせて、こんな事しても虚しいだけだってわかってるのに。僕は弱い女だから虚勢を張って自分を大きく見せないと誰かと向き合うことすらできないクズだから……」

 

キャロルはいつもの強気なキャラを捨てて弱いエルフナインとしての自分を見せる。セイバーに泣き落としなんて事が通じるなんて思っていない。それでもキャロルはセイバーと付き合いたいという気持ちでいっぱいなのだ。セイバーはそんなキャロルを優しく抱き返すと背中をさすり安心させた。

 

「そんな事言ったら俺も弱い人間だよ。キャロルは知らないかもしれないけど、俺も元々は弱い人間だ。人ってのは虚勢を張らないと自分をアピールできない。ゲームを始めたばかりの俺も虚勢なんて張りまくってたから。だからキャロルがそこまで気に病む必要は無いよ」

 

「セイバーは……やっぱり優しいね……だからこそ僕が好きになったんだけど」

 

キャロルはそれから気が済むまでセイバーの胸に顔を埋めていた。彼女はそうしている時間を幸せに感じていたから。セイバーはそれを黙って見守り、甘やかしていた。

 

「セイバー、ちゃんと答えは出してくれるよね?」

 

「……当たり前だ。約束する」

 

「嘘ついたら……絶対に許さないから」

 

キャロルはそう言ってセイバーを抱く手を離すと顔を赤らめてセイバーを見つめていた。セイバーもそれを温かい目で見ていたが突如として扉が開きキャロルのテイムモンスター枠のオートスコアラー達が入ってきた。

 

「マスター、もうすぐギルドメンバーの何人かが帰ってくるという情報が……」

 

最初に入ってきたファラがそう言うが、部屋の中の状態を見て凍りついた。今キャロルはセイバー以外の他人に見られたく無い顔をしてしまっている。それはテイムモンスター相手でも同じだろう。そして、後から入ってきた他のオートスコアラー達もその様子を見て察したのか後退りをしていた。

 

「これは派手にやらかしたな」

 

「だから今は止めとこうって言ったのに」

 

「性根の腐ったガリィが珍しくまともだぞ」

 

セイバーはそれを見てオートスコアラー達に“タイミングが悪い”と心の中でツッコんでオートスコアラー達も主人が顔を赤くしている所を見てオートスコアラー達は自分達が何をしでかしたのかを理解するとサッとそこから逃げようとする。

 

「おい……お前ら、逃げたらスクラップにする。これは命令だ。全員正座しろ!!」

 

キャロルは恥ずかしさのあまりに全員を強制的に目の前で並べて正座させると真っ赤にした顔を更に怒りで赤く染めて説教を開始した。

 

「……キャロルが怒るとサリーそっくりだなぁ」

 

セイバーが遠い目で見ている間もキャロルの説教は続く。加えて説教が終わる頃には他のギルドメンバーが戻ってきてしまったため、今日のデートはお開きとなった。

 

「すまないな、ウチの馬鹿人形共が邪魔をしてしまって。次はこんな事は無いようにするから……」

 

「キャロル、俺の選択次第ではキャロルを泣かせる事になるかもしれない。それでも俺の事を好きでいてくれる?」

 

「あ、当たり前だろ。それにそんなことは覚悟の上だ」

 

「そっか。キャロルは自分で思っているよりも強いよ」

 

「別にそんなことは……」

 

セイバーはキャロルに微笑んでから【thunder storm】のギルドホームを出て自分のギルドにまで帰っていくのであった。

 

〜閑話休題 【集う聖剣】対メズール〜

 

セイバーが初めて裏ボスの存在を知った日に【集う聖剣】の主力メンバー5人はメズールの攻略に来ていた。今回も雑魚戦は省略してメズールとの対決のみに絞って見ていく事にする。

 

『坊や達。ようこそ、私のテリトリーに。私の名前はメズール。さっきは私が生み出した坊やを可愛がってくれたわね』

 

「ボスの登場か。だが、俺達の前には無駄な事だ」

 

「まずは【多重風刃】!」

 

早速フレデリカが風の刃を大量に飛ばしてメズールの周囲を囲うように攻撃。勿論これはメズールの動きを制限するための囮だ。本命は火力を出せるドラグからの攻撃である。

 

「オラァ!【重突進】!」

 

フレデリカによって逃げ場を失ったメズールはドラグからの突進でダメージを負い、1割削られた。これは以前にもあったメズールのVITが他のボスよりも低めだからである。

 

「【超加速】!」

 

そこに追撃をかけるべくドレッドがAGIを倍にしてメズールへと接近し、短剣を振るう。しかしメズールは持ち前の回避力で攻撃を全て見切っており、躱されてしまった。

 

「マジか。俺の速度でも対応されるのか」

 

「パワー主体で行こう。【破砕ノ聖剣】!」

 

ペインがそう言いつつ高威力の斬撃を放つ。メズールはそれを紙一重で回避するものの、次の攻撃が迫っていた。

 

「【呪いの一撃】!」

 

キラーからの斬撃を喰らったメズールはダメージを負うと残り8.5割となり続けてフレデリカからの石弾をぶつけられてHPが一定値を下回り、1枚目のメダルが投入された。

 

「できればマイやユイみたいに一気に削りたいんだが流石にそうはいかねーよな」

 

メズールが水のベールを纏うと集う聖剣の面々に突撃。更に回転しながら高圧の水を撒き散らしていく。

 

「【多重炎弾】!」

 

フレデリカは敢えて水相手に相性の悪い炎の弾丸で水を蒸発させると水蒸気で視界を奪う。そこにドレッドが接近するとメズールの死角から斬りつけて注意を引いているうちにドラグが突進する。

 

「【ギガントアックス】!」

 

するとドラグの大斧が巨大化して、当たり判定が広くなるとそれを振り下ろしてメズールを両断。一気にHPを1割飛ばす。

 

「【神速】!」

 

「【バーサーク】!」

 

「【呪力解放】!」

 

「【多重全転移】!」

 

更にメズールが怯んでいる間を使ってドレッドが一定時間姿を消すバフを、ドラグがスキルの硬直を無くすバフを、更にキラーがMPを全て使って次の一撃の威力を何倍にも引き上げる。仕上げに3人の切り札スキルをフレデリカがペインへと移動させてペインのステータスを超強化させた。

 

「【超加速】、【断罪ノ聖剣】!」

 

超スピードでメズールへと接近したペインから振り下ろされた必殺の一撃はメズールのHPをたった一撃で残り4割に減らす。本来ならもう少し入っていたのだが、ここはメズールが持ち堪える確定ラインのためにダメージは押し留められた。

 

するとメズールはメダルを投入されて完全な姿にパワーアップ。そのまま体が液状化して攻撃を開始した。

 

『これが私の本気よ。受けてみるかしら?』

 

フレデリカ以外の4人はメズールに攻撃を当てるために剣や短剣、大斧を振るうが液状化に物理攻撃は通る事なく突き抜けてしまう。

 

「【多重光弾】!」

 

フレデリカが光のエネルギー弾をメズールに命中させると今度こそ僅かだがダメージが入る。どうやらエネルギーの弾丸等ならダメージとして通るようだ。

 

「なるほど、だったら【ホーリーレイン】!」

 

「【呪血狼砲】!」

 

「【バーンアックス】!」

 

「【シャドーレイン】!」

 

4人はフレデリカと同様に物理攻撃では無く属性を付与しての攻撃にシフトチェンジして対応。こうなってくるとメズールが受けるダメージ自体は少ないものの、数で押される形となり少しずつ押し切られていく。しかも相手が【集う聖剣】の最精鋭である事も相まってメズールに勝ちの目は無くなっていき、最終的には5人からリンチにされて【集う聖剣】の勝利となるのだった。




評価が欲しい(切実)……。今の自分の作品がどのくらい面白いのかが知れるだけでも作者としては助かるので評価をよろしくお願いします。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとミニゲーム

キャロルとのデートを終えてまた暫く経ち、セイバーは今、【楓の木】のサリー、メイプル、マイ、ユイ【集う聖剣】の主力であるペイン、ドラグ、フレデリカ、ドレッド、キラーの9人と共にあるゲームに挑もうとしていた。そのゲームというのが、名前そのままに攻城戦ゲームである。プレイヤー10人以上で参加が可能であり、攻城側と守備側で別れてシュミレーションができるとの事だ。

 

ちなみに、同じギルドのメンバーのみでチームを組むのは禁止であり、あくまで他のギルドメンバーとの連合チームでのみやる事ができる。そして、使うのはプレイヤー自身では無くプレイヤーに見立てた駒であり、これをマップの上で動かしながら戦闘を行うことになる。

 

「メイプルが見つけてきたゲームだから何が出てくるか心配したけど……」

 

「これは面白そうなゲームね」

 

「ただ、使う駒はプレイヤー準拠の戦闘能力だけど、流石にメイプルのぶっ壊れVITは再現しないんだ」

 

「それをやったらバランスが崩壊するだろ」

 

そう言い合っているのはゲームで使う駒についてである。ゲームの駒はプレイヤーのステータスが元になっているが、ステータスの最高値が100で決められており、それ以上のステータス値にはならないようになっていた。例えば、メイプルの場合は高いVITは100として扱われるが、他のステータスは0や5になる等極端に低くなっている。

 

マイやユイも同様でSTRは100だが、それ以外はメイプルと似たり寄ったりの数値に抑えられていた。

 

「ただ、AGIが0だと行動自体ができないのかメイプルもマイ、ユイもAGIの数値が5あるんだな」

 

「必要最低限の数値は残して後は0みたいだけどね」

 

「うう……極振りだとやっぱり偏りが出ちゃいますね」

 

「でも俺のスペックも60前後にまで抑えられてるけどな」

 

セイバーのステータスはバランスタイプで全てのステータスにバランス良く振っているので低めなステータスは無いが逆に突出したステータスも無いような状態だった。

 

「セイバーのステータスもあまり高くしすぎるとバランス崩壊させるからね〜」

 

それからセイバー達がステータス画面をスライドさせると保持スキルという物になる。そこには駒の持っているスキルが4つ表示されており、例えばメイプルには【毒竜】や【身捧ぐ慈愛】。サリーには【超加速】等、そのプレイヤーを象徴するスキルが4つに限定して抜き出されていた。

 

「スキルの効果範囲とかもあるなこれ。しかもこのゲームでは全てのスキルにクールタイムがあるからどこでどのスキルを使うかで色々と変わってきそう」

 

参加する面々が色々と意見を交流させてからチーム分けをすることになった。今回は機械によってランダムで決められるチームとしてわけられたチーム分けが次の通りである。

 

Aチーム……サリー、マイ、フレデリカ、ペイン、メイプル

 

Bチーム……ドラグ、ユイ、ドレッド、セイバー、キラー

 

そしてチームリーダーとして選ばれたのがサリーとドラグでありこのチームのリーダーがやられるとそのチームは即敗北となるのでいかにリーダーを守りつつ相手のリーダーを倒せるかと言ったところだろう。

 

「それでどっちが攻撃をやるかだけど、これもランダムで良い?」

 

「良いんじゃないか?下手にこっちで決めようとして揉めるのもアレだろ」

 

「じゃあランダムっと」

 

すると今回はAチームが守備、Bチームが攻撃に決まった。ちなみに、攻撃側と守備側での違いを挙げるとすれば攻撃側は全てのステータスが1.2倍となる。ただし、1.2倍して100を超える場合は100で止まる。逆に守備側の利点は守備用の兵器や施設を自由に使えると言ったところだ。

 

「決めることは終わったし、そろそろ始める?」

 

「良いともー!」

 

「楽しみです」

 

「負けないよー」

 

それからセイバー達はゲームをスタートさせてそれぞれが専用の部屋に入るとプレイヤーの操る駒がステージへと転移することになった。

 

両チーム共にゲームフィールドに転移するとセイバー達攻撃側は攻撃側の本陣に、サリー達は城の中にある玉座の前に転移した。

 

ここで出てきた玉座というのが、前のイベントでもあったように相手チームに触られるとその瞬間敗北する。つまり、守備側はこの玉座を守る必要もある。幸いにも玉座の近くに守備側のみが使えるショートワープ地点があるのでこのショートワープ地点に乗って移動することも可能だ。

 

ゲームはターン性であり1ターンに付き2分の行動設定時間が設けられる。その後行動時間となり、行動時間の間はプレイヤーが設定した動きの通りに駒が動いていく。ちなみにHPが0になって倒されたプレイヤーはもう行動する事ができないのでこのターンには何もする事ができなくなってしまう。

 

ゲーム内の総ターン数は参加人数によって異なり、今回の人数だと10ターンとなる。勝利条件についてだが、攻撃側は相手を全滅させる、チームリーダーを倒す、玉座に触れるの三つ。守備側が相手を全滅させる、チームリーダーを倒す、制限ターン数まで玉座を守り切るの三つ。これらをどれか1つでも満たせば良い。

 

〜Bチーム視点〜

 

Bチームの面々が部屋に入るとゴーグルのようなものを付けさせられる。その中にはマップが映し出され、自身の周囲の様子が見てとれた。

 

「さーて、早速だが、城を攻めようぜ。ターン数制限もあるしな」

 

「待ってください。闇雲に攻めても対応されます。まずは耐久力のある俺とキラーが威力偵察に出るのでドラグさんはユイと一緒に少しずつ来てください」

 

このゲームは1ターンごとに移動と攻撃などの選択が可能であり、ターンごとに行動力を消費して駒を動かすことになる。ちなみに、この行動力はプレイヤーのAGIに左右され、最低で5、最大で15ある。このメンバーの中だとサリーやドレッドは行動力が高く設定されているが、メイプルやマイ、ユイは最低の数値のために5しか無い。

 

「攻撃にも行動力を消費するからあまり前に出すぎると相手が待ち構えていた時に攻撃ができなくなるかもな」

 

「でも、私達はステータスが1.2倍ですし、まともに当たれれば有利かもしれません」

 

しかし、セイバーの答えは思わしくなかった。ステータスは自分達の方が上でも相手には守備用の施設や兵器を自由に扱う事ができる。その中にステータスダウンのデバフをかけるものに加え、守備側のみにバフをかけるものがあれば簡単にステータスなんて逆転できてしまう。

 

更に回復手段についても限られている。普段はダメージを受ければ回復スキルを使ったりポーションを飲めば回復ができる。だがその回復スキルは持っているプレイヤー自体が希少であり、ポーションに関してもどれだけ所持してようが持ち込むことができないのでHPを削られた際に攻撃側も守備側も互いに回復させる事ができないというリスクが常につきまとう。

 

「うーん、俺は頭を使うのがあんまり得意じゃないからなぁ」

 

チームリーダーのドラグが頭を悩ませているとそうこうしているうちに行動設定の制限時間が迫ってきた。

 

「ひとまず今回は初めてだから自由に動いてみよう。話はそれからだ」

 

キラーの言葉に全員が頷くとそれぞれが動きたいように駒を前進させ、最終的には機動力の高めなドレッドが最初に本陣から城の城門の近くに到達し、その後にセイバーとキラーが同じくらい、最後にドラグとユイがゆっくりと移動していた。最初のターンでの敵との接触は距離の関係上ほぼ無いので安心して前進することに集中できる。

 

「取り敢えず2ターン目ですけど、ドラグさん何か指示はありますか?」

 

「ひとまずドレッドは紙耐久だからあまり突出しないのと俺達は到着が遅いからそれまで上手いこと凌いでくれぐらいか」

 

「大雑把だなぁ」

 

「仕方ねーだろ。初めてだし使い勝手がわからねーよ」

 

その後、2ターン目にドレッドはスキル【神速】でこのターンの間のみ姿を消すと敵から視認されない状態で城内に侵入。最短距離で玉座を目指す。

 

「ドレッドさんがそう行くなら俺は……」

 

セイバーは今回虚無の装備をしており、スキルは生き残る系の物が充実している感じである。なので今回は正面から堂々と突入……するといきなり横からサリーが現れてセイバーへと強襲を仕掛けてきた。

 

「へ!?大将がいきなり来る?」

 

ちなみに今回はサリーがチームリーダーなのでサリーが倒されればAチームの敗北となる。そのためにサリーは温存すると考えていたのだが見事にセイバーは裏をかかれてしまった。

 

「危ない……【神速】で隠れておいて正解だったな」

 

ドレッドが安心するものの束の間、ドレッドのいる部屋にペインが待ち構えておりターン終了時点でペインに捕捉されてしまう。

 

「うわっ!マジ?」

 

そしてキラーはと言うと今回は運良く誰にも会わなかったが、周囲にいる味方のセイバーとドレッドが同時に敵と会敵したために次にどうするか悩む事になる。最後にドラグとユイはようやく門の近くに到着する事ができた。

 

「どうしましょう、セイバーさんのカバーに行きますか?」

 

「いや、俺達だと機動力が足りなくてサリーに逃げられる可能性が高いからここは警戒しながら前進だ。特にユイは1発貰えば死亡なんだから注意してくれ」

 

「はい!」

 

ユイはVITとHPが極端に低いので一撃貰えば確定で死亡となり脱落してしまう。それは相手のマイにも言えることなのだが、相手にはメイプルがいるので【身捧ぐ慈愛】である程度カバーができる。逆にこちらは範囲防御スキルの持ち主がいないので不利だろう。

 

3ターン目、セイバーがサリーに対して反撃し、スキル【不死鳥無双斬り】を放つが、サリーは攻撃を回避してからドラグの予想通り【超加速】で離脱。ちなみにこのゲームでの回避率は自身のAGIと相手のDEXを参照して弾き出される感じである。

 

ドレッドはペインから逃げるようにその場から離れるがペインは追わずに防御に専念した。その場所を抜かれると危険だからだろう。キラーの方はメイプルと相対し、メイプルからはスキル【機械神】でレーザーが発射されて周囲を縦横無尽に飛び回る。キラーはそれをまともに受けるものの、メイプルの攻撃力の低さからかあまりダメージにならなかった。逆にキラーからも攻撃が飛ぶが、メイプルのVITが高いのでそう大したダメージにならない。

 

「メイプルか、どうやって突破をするか……な!?」

 

キラーが思案した瞬間HPが一瞬で半分以上刈り取られた。こんな事ができるプレイヤーは1人しかいない。

 

キラーの近くにマイが潜んでおり、手にした大槌でキラーを殴ったのだ。何故マイがキラーに気づかれずにいる事ができたのか。それはこの部屋の仕掛けである。

 

「前のターンにこの部屋にいたプレイヤー1人を1ターン透明化させられる。相手にダメージを与えた瞬間に透明化は解除されますけど、一撃入れるには十分な効果です」

 

「やるな。だが、HPは残ってる。まだまだやれるぜ」

 

一方でドラグとユイが進行を進めているとその先にフレデリカが現れ、牽制として攻撃を放ち、2人はそれを運良く回避に成功するが、それでもAGIが低いので次は無いだろう。

 

「あら、外すなんてついてないわー。けど、ユイは一撃当てれば勝てるし、サリー程の機動力は無い。ここで倒しちゃおっと!」

 

フレデリカは2人の内、高威力の攻撃を放てるユイにターゲットを定めるとユイへと攻撃を放つ。ユイは予め防御に重きを置いた行動をしていたためガードすることに成功。何とかターンを凌ぎ、4ターン目に移る。

 

「どうする?こっちはフレデリカに捕まったぞ」

 

「俺が奇襲する。注意を引いておいてくれ」

 

今現在フリーになったドレッドがフレデリカの背後を突くために移動を開始。それに合わせてセイバーはペインのいた位置に向かう。先程もあったが、ペインはドレッドが逃走しても追わなかったのでこれはペインの立つ奥の道に守備側にとって不利な物があるからだろう。だからそれが何なのかを確認するといった意味でもペインとまともにやり合えるセイバーが行くことにしたのだ。

 

「なら俺はここでメイプルとマイを相手にする。2人を倒せれば相手の矛と盾を同時に崩せるからな」

 

キラーはメイプルとマイが好きに動かないように牽制……或いは倒すつもりで2人と向き合う。

 

未だに脱落者がいない今回の勝負。いつまでも脱落者が出ないのはお互いの実力が拮抗しているからだろう。逆に言えば1人落ちると一気に形成が傾くということにもなるのでここが早くも正念場と言っても過言では無い。

 

「いなくなったサリーの行方が気になるけど、いちいち気にしていたら倒せる敵も倒せない。ここはリスクを背負ってでも相手を削らないと」

 

それから4ターン目の行動フェーズが開始される。

 

メイプル、マイ対キラーはまず初手でメイプルが【身捧ぐ慈愛】を発動し、HPを4分の1失う代わりに2ターンの間範囲内の味方にカバーを働かせる領域を展開した。

 

キラーはそうなることも予想していたのか、まずはマイでは無くメイプルを狙って【呪いの鎖】を使用。これは縛った対象の使っているバフスキルの効果時間を短縮する物である。つまり、メイプルの【身捧ぐ慈愛】の効果時間を1ターンに減らし、このターンさえ凌げばマイを倒しやすくなるだろう。

 

「【ダブルスタンプ】!」

 

そこにマイからの8本の大槌が迫るが、マイのDEXが0なこともあって攻撃は全て命中せず、キラーがターンを潰すためにマイを攻撃する。

 

セイバーの方はペインと接敵し、2人は激しい斬り合いを始める。お互いの力は拮抗しているからか双方ダメージをそれぞれ与えてターンは終わった。

 

そして一番激戦となったのはドラグ、ユイ対フレデリカである。フレデリカがスキル【多重光弾】を使って紙耐久のユイを狙う中、ドラグがスキル【グランドランス】で攻撃を相殺し、ユイを守ることに重きを置く。ここでユイを失えばチームの火力が落ちてしまうからである。

 

「【オクタプルスラッシュ】!」

 

「【シャドースラッシュ】!」

 

次の瞬間、攻撃を放っていたフレデリカのHPが半分近く減るのと同時にドラグの後ろで防御を固めていたユイが対応しきれない程の連続斬撃を喰らって消滅。負けてしまった。

 

「ごめんなさい……皆さん」

 

「ありがとうフレデリカ。注意を引いておいてくれて」

 

「こっちはダメージもらったんですけどー?」

 

「チッ、やっぱ不意打ちだけでは倒しきれないよな……」

 

フレデリカを攻撃したのはドレッド、ユイを倒したのは先程姿を消したサリーである。2人共機動力が高いためにここまで来る事ができたのだ。

 

「ユイが負けたか……やっぱり強い」

 

4ターン目が終わり、戦況はAチームが5人、Bチームが4人となり遂に脱落者が出てしまった。ここからは人数差が大きく響くことになるだろう。このゲームの本質として数と機動力が重要視されるからである。

 

「どうする?ユイがやられて人数はこっちが不利だぞ」

 

「わかってます。ですので、一旦ドラグさんとドレッドさんは引いてください。数で劣るならこっちの戦力は集中させて突破します」

 

セイバーがそう言うと作戦について話し、Bチームの4人はその通りに行動する。5ターン目の行動フェーズ、まずはドラグとドレッド、キラーの3人が戦場から離脱。そしてセイバーはペインの元に向かっていく。まずはペインを集中攻撃で倒すようだ。

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

セイバーはそれを敢えてまともに喰らうとHPを0にされるが、スキル【不死の体】の効果で一回のゲーム内で一度だけHPを全回復状態で復活してスキルの反動で動けないペインのHPを半分近く削り返す。

 

「やるな……」

 

「俺も命を賭けた甲斐がありましたよ」

 

すると次の瞬間にはドレッドからの奇襲が入りペインは更にHPを削られた。この時ペインはセイバー達の狙いが自分だと気づくがセイバー達はそれに対応させるつもりはない。次のターンでペインを倒すつもりだ。

 

続く6ターン目、ペインの元にドラグも到着して三人がかりでペインを集中攻撃する。

 

「1人で3人を足止めできれば上出来かな……だが、無念だ」

 

「やっとペインさんを倒せた」

 

「けどこっちもかなり削られたな」

 

ペインが落ちたそのタイミングでセイバー達と合流するために動いていた最後尾のキラーがサリーとフレデリカに捕まり戦闘に入る。

 

「俺に構うな。先に行け!」

 

「足止めなんてさせないよ。メイプル、マイ!」

 

7ターン目、セイバー、ドラグ、ドレッドの前に施設の効果で低い機動力をカバーするためにショートワープを使ったメイプルとマイが立ちはだかった。

 

「ここは俺達が止める」

 

そこにドラグとセイバーの2人がメイプルとマイを止めている間にドレッドが【超加速】でショートワープしたばかりですぐに対応できない2人の横を駆け抜けていく。狙いは当然ガラ空きの玉座だ。

 

「不味いです。今玉座には誰も……」

 

「大丈夫、サリーがきっとどうにかしてくれる」

 

同時刻、キラーがサリーとフレデリカによって撃破されると2人は急いでショートワープ地点に移動する。移動先は当然玉座のある王の間だ。この勝負はどうやらドレッドが先に玉座に触れるかサリーとフレデリカが先回りできるかの戦いになった。

 

「急いでフレデリカ、ドレッドさんが玉座に着く前に!」

 

「わかってる!私だって全速力よ」

 

それからターンは8ターン目に移る。このターンではマイがドラグとセイバーから集中攻撃で倒される事になり、その代わりにセイバーもメイプルからの【毒竜】でHP1にまで追い詰められ、【不屈の竜騎士】を使わされた。

 

「やばいな。もう俺も落ちかけです」

 

「後はドレッドが上手くやるかだが……」

 

ドレッドはとうとう玉座のある王の間に到達すると玉座に触れるべく移動する。その瞬間、ドレッドの横から攻撃が飛んできてドレッドはHPを大きく失ってしまった。

 

「ぐ……面倒なタイミングで」

 

そこにいたのはギリギリの所でドレッドに追いついたサリーである。ドレッドは玉座に触れる前にサリーと戦わなければならなくなってしまう。だが、サリーを倒せれば自分達の勝ちなのでドレッドとしては一騎打ちでも望む所だ。

 

「絶対に勝つ!」

 

「負けねーよ」

 

その頃、セイバー、ドラグ対メイプルはメイプルの高い防御力を前に中々有効なダメージをあたえられていなかった。それでも何とかダメージを稼いでメイプルのHPを3割にまで減らすことに成功する。

 

「うぅ……2人相手だと不利かも」

 

「さっさと倒させてもらうぜ」

 

「【地割り】!」

 

ドラグが地面にクレーターを形成させるほどの一撃をメイプルに放つとメイプルはそれに足を取られてバランスを崩してしまう。そこにセイバーからのトドメが迫った。

 

「【プロミネンスドロップ】!」

 

セイバーから繰り出された炎を纏ったドロップキックがメイプルを貫こうとしたその瞬間、後ろから大量の弾幕が飛んでくるとセイバーとドラグを貫き、メイプルからの【毒竜】によって疲弊していた2人を纏めて撃破してしまった。

 

「嘘だろ?」

 

「まさか……フレデリカさん」

 

「やっほー。美味しいところは取らさせてもらったよ〜」

 

そうにっこりと笑うフレデリカは勝ち誇ったような顔だ。セイバーとドラグは完全に油断してしまっていた。何故ならドレッドの方にサリーがいたのでフレデリカもチームリーダーの護衛としてそっち側に行くと思っていたからである。

 

「ドラグを倒したし私達の勝ちだね」

 

「やったぁ!」

 

「負けたぁ……」

 

「クッソ、次は勝つからな」

 

そう言って2人は消滅していき、この勝負はチームリーダーのドラグの敗北によってAチームの勝利によって幕を閉じるのだった。それから全員がゴーグルを外して部屋の外に出ると感想を交流し始める。

 

「勝ったぁああ!!」

 

「喜ぶのは良いけど最後のは私の作戦だからね」

 

「あと一歩で勝てたんだけどなぁ」

 

「サリーさんが追いつくのが一歩早かったって感じですね」

 

「勝負には負けたけど楽しかったな」

 

「このゲームはやっぱりAGIが高い方が有利だな。AGIが低いと行動回数が少なくなるし、それを考慮すると機動力の大切さがよくわかる」

 

「それじゃあメンバーを入れ替えて第二回戦……やる?」

 

「やろうやろう!」

 

それからセイバー達は何回かチームメンバーを入れ替えてこの攻城戦ゲームを思う存分楽しむのであった。

 

 

 




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと試練3

攻城戦ゲームを楽しんだ翌日、セイバーはギルドホームで唖然とした顔になっていた。それはクロムが新たな装備を手に入れていた事にである。

 

「クロムさん……これって」

 

「ん?ああこれか。つい昨日の事なんだが俺もようやく2つ目のユニーク装備を手に入れてな。スタイルの使い分けが必要になるが、この装備普通に強いぞ」

 

そう言って見せたのが赤と黒を基調とした蝙蝠の王の力を宿す鎧であり、その硬度は他のユニーク装備と比べて一線を画する程の力だった。

 

『闇王ノ鎧』

【VIT+60】【STR+40】

【破壊不可】

【封殺ノ紋章】

 

『闇王ノレギンス』

【HP+300】【STR+30】

【破壊不可】

【超絶対防御】

 

 

『闇王ノ靴』

【VIT+40】

【破壊不可】

【闇王破壊撃】

 

『闇王ノ大盾』

【VIT+40】

【破壊不可】

【封印ノ鎖】

 

『闇王ノ短剣』

【STR+20】

【破壊不可】

【宵闇解放】

 

「これもこれでぶっ壊れてるなぁ」

 

【封殺ノ紋章】

紋章を地面に召喚してそれを相手にぶつける事で相手を10秒間行動不能にしつつ固定ダメージを与える。尚、この固定ダメージはダメージ減衰系の効果を受けない。

 

【超絶対防御】

常時自身のVITのステータスを3倍にする

 

【闇王破壊撃】

自身の周囲に赤い霧を出して相手の視界を奪いつつ自身は両足に緑色をした棘が生えた状態で跳び上がって相手へとドロップキックを放つ。尚、命中した相手には足に生えている緑の棘が突き刺さり、爆破される。

 

【封印ノ鎖】

1日に1回のみ使用可能。相手の足元に鎖を召喚し、相手を拘束。その後、相手の持つスキルを3つランダムで使用不可にする。この効果は1日経つまでいかなる手段を用いても消滅しない。

 

【宵闇解放】

周囲を闇で包み込み5分間範囲内の相手のAGI、STRを30%減少させる。クールタイム1時間。

 

明らかに前まで着ていた装備とは違うコンセプトの物である。クロムが前まで装備していた方はHPを回復したり一度やられても確率で復活可能にするゾンビ系のスキルが多かった。それに対して今回は【超絶対防御】による高いVITで受けきりつつ高火力のスキルを発動させる正面戦闘が得意な装備だ。

 

「この紋章とか強すぎじゃ無いですか」

 

「まぁな。ただ、ちょっと困ったことにこの装備に切り替えるとその瞬間HPを4分の1持っていかれるんだ。これはメイプルの【身捧ぐ慈愛】に似た効果だな」

 

「それでも強いものは強いです。クロムさんもようやくパワーインフレについてきたって感じですよ」

 

「そうか?」

 

セイバーとクロムが話している所にカナデがやってくると以前入手した球体をフワフワと浮かばせながら話しかけてきた。

 

「ねぇ、クロムさんも新しい装備を手に入れたことだし今から裏ボスに挑戦するためのクエストをやらない?」

 

「おお。それならちょうど良いな。クロムさんの新しい力、生で拝見させてもらいましょう」

 

「わかった。それじゃあ、どこを攻略する?ちなみに今俺は4つ攻略して今回で5つ目だから被らない場所が限られてくるが、2人はいくつ攻略した?」

 

「僕はまだ1つも攻略してないよ」

 

「俺はこれで3つ目ですけど……あ、被らない場所がもうここしかありませんね」

 

そんな話をしてから今回の目的地を確定させ、3人はすぐに出発することになる。3人がダンジョンに向かって歩いていると前方から【集う聖剣】のメンバーであるドラグとフレデリカがやってきた。

 

「ドラグさん、フレデリカさん」

 

「セイバーか」

 

「やっほー」

 

「お二人はどちらに?」

 

「新しい装備やスキルを探しつつ移動中だ」

 

「新しいユニークシリーズがあるだけでも戦力大幅アップだからね」

 

それからクロム、カナデの方を2人が見ると2人の目の色が変わった。何故なら2人が今探していたものを既に持っているからである。

 

「うぅー、クロムとカナデに先を越されたぁ……」

 

「ここに来てパワーアップか。これは俺達も早い所装備を見つけないとな」

 

ドラグとフレデリカは羨ましそうにクロムとカナデの強化装備を見てから自分達も適した装備を手に入れるために気合を入れ直す。

 

「あ、そうだ。お二人はこの場所の攻略ってされました?」

 

セイバーがそう言ってマップのある地点を指さすと2人は揃ってまだだと言う。クロムとカナデはそれを聞いてこれからセイバーが何を言うのか何となく察した。

 

「それじゃあ今から皆さんで攻略しませんか?5人で行った方が攻略は楽ですよ」

 

「良いのか?手の内を晒すような真似をして」

 

「俺は構わないぞ」

 

「僕もだよ」

 

「ふーん。2人の新装備の弱点を見つけても文句は言わないでよね」

 

セイバーの提案によって2人の参加も決まり、5人は裏ボス攻略のために必要なアイテムを手に入れるべくダンジョンへと向かっていく。そして、途中に現れたモンスター達を難なく倒すとボスの待つダンジョン前にまで到達した。

 

「ここが今回の目的地か」

 

「早速突入しようぜ」

 

「そうだね」

 

5人は突入人数を設定してから転移の魔法陣に乗るとワープしていった。5人が到着した先は岩が所々にある山岳地帯である。

 

「広いな」

 

「今回もまず雑魚戦をしてからボスがでる感じか?」

 

『なんだ?俺のフィールドに入ってきた侵入者は』

 

そこに出てきたのは背の高い灰色の服を着た青年であるがその口調は幼くまるで母親と遊びたがる子供のようだった。

 

『俺、ガメル。お前ら、敵だな。やっつけてやる』

 

そう言うとガメルと名乗った男はその姿を変えていき、下半身がゾウのような頑丈そうな装甲になり、上半身はメズール同様に無防備そうで、顔はサイのツノを生やしたゾウのような形をしている。

 

「見るからに固そうな奴だな。激土抜刀!」

 

セイバーが激土を使うと他の面々も構えを取る。ただ、クロムは新しい装備ではなくいつものゾンビのような装備を使うことにした。奥の手を使わずに勝てるのならそれに越したことは無いからである。

 

『でも5人かー。なら呼ぼう』

 

そう言うとガメルが銀色のメダルを2枚取り出して自分の頭に投入口が出現。その中に入れると自身の体からバイソンの怪物とリクガメの怪物を呼び出した。

 

「は?もしかして雑魚とボス、同時に相手しないといけない系?」

 

「取り敢えず、あっちのバイソンは俺が受け持つ」

 

「なら俺はリクガメの方をやるぜ」

 

「フレデリカさん、カナデ、俺達はガメルを倒そう」

 

セイバー達は即座に自分達の相手を決めて突撃を開始。戦闘が始まった。

 

「オラッ!」

 

セイバーがガメルへと激土を振り下ろすとガメルはそれを真正面から受け止める。

 

「良し!ダメージが……え?」

 

セイバーの装備の中で一番装甲が固い相手に火力が出る激土を使ったのにも関わらず、HPが僅か0.3割しか減らなかった。この固さは異常である。

 

「固っ……」

 

「だったら、【武蔵坊弁慶】!頼むよ!」

 

カナデが弁慶を召喚すると手にしたハンマーでガメルを後ろから殴るが、それでもダメージはあまり入らない。そこにフレデリカからの魔法攻撃も加わる。

 

『痛い……ぬん!』

 

ガメルが地面を殴るとその勢いで衝撃波が発生。それによって3人と弁慶は纏めてダメージを受けてしまう。

 

「なんてパワーだよ」

 

「こうなったらソウ、【覚醒】、【アタックオーラ】!」

 

「【多重障壁】!」

 

フレデリカとカナデの2人がそれぞれセイバーをサポートするスキルを使用してセイバーの攻撃力と防御力を強化。そのままセイバーがガメルと正面からぶつかり合う。

 

「【ドリルストライク】!」

 

セイバーが跳び上がると体をドリルのように回転させつつ突撃し、ガメルの体を貫いてダメージを与えた。

 

「【パワーウィップ】!」

 

続けて地面から太い蔦を生やしてガメルへと鞭のように叩きつける。更に追い討ちとばかりにガメルに激土を振り下ろしてダメージを蓄積させた。

 

その頃、怪人と戦うクロムとドラグは2人共堅実な戦いぶりで着実にダメージを稼いでいく。

 

「はあっ!」

 

「オラアッ!【地割り】!」

 

クロムはダメージを受けてもスキルの効果でHPを回復しつつしぶとく戦い怪物を削り続ける。対してドラグは一撃の火力で怪物のパワーを押し込んでいく。

 

「クロム、交代だ!」

 

ある程度ダメージを与えた所で2人は入れ替わりクロムはリクガメの怪物を、ドラグがバイソンの怪物を相手にする。しかし、2体共このまま黙ってやられるつもりは無いのかバイソンは蹄を地面に叩きつけると周囲に落ちていた岩が重力を無視して浮かび上がり、2人へと降り注ぐ。それからリクガメの怪物が手にした鉄球を投げつけて2人へと命中させて2人はそれに怯んでしまう。

 

「コイツら、中々侮れないな」

 

「だが、安易にアレは使えないしなぁ」

 

クロムは新しい装備のデメリットであるHPが一時的に減少するというデメリットをドラグに見せたくなかった。見せると弱味を一つ知られてしまうからである。しかし、こちらの怪物達は兎も角、この後に控えているガメルは新装備を使わずに勝てるほど甘い相手では無い事も理解していた。

 

「仕方ない……【クイックチェンジ】!」

 

クロムがそう言うと装備が一瞬にして入れ替わり、新たな闇王ノ装備へと変化。その瞬間にクロムのHPが減少し、その減少分をすぐにポーションで回復させる。

 

「【封殺ノ紋章】!」

 

クロムが速攻で決めるべく足元に緑の紋章を出現させると相手へと飛ばし、2体纏めて紋章に激突させるとダメージを与えていく。そのダメージ量は固定ダメージで防御力を無視して与えるために怪物達のHPを効果時間の10秒間ゴリゴリと削っていった。

 

「チャンス!【バーンアックス】!」

 

そこにドラグからの炎を纏わせた大斧による一撃が叩き込まれて敵は大ダメージを受けて吹き飛ばされる。

 

「【宵闇解放】!」

 

更に敵にデバフをかけるスキルで2体の動きを鈍くし、AGIが低めのドラグでも簡単に捉えられるぐらいになる。

 

「【重突進】!」

 

トドメとしてドラグの突進が敵に命中し、2体の怪物は撃破される事になった。

 

「良し。あとはガメルって奴を倒せば……」

 

2人はそう言って次の敵であるガメルに向かおうとすると突然ガメルを相手していた3人が飛んできて地面に叩きつけられた。

 

「もう!何よコイツ」

 

「いきなりパワーの桁が違う」

 

「これが完全な実力の解放。カザリはスピード、メズールは液状化だったけど、ガメルは純粋な力と耐久力の強化かよ」

 

実は2人が怪物達を倒している間にセイバー達の方はガメルを残り4割のHPまで追い詰めていた。まずはその過程を説明しよう。

 

〜十数分前〜

 

「【岩石砲】!オラッ!!」

 

セイバーが岩によるエネルギー砲を生成するとガメルへと照準を定める。ガメルはそれを受け止めようとするが、いきなり動きが停止させられた。

 

「ソウ、【金縛り】!」

 

カナデがソウに命じて相手の動きを数秒停止させる効果を持つスキルを使用させてガメルを強制的に停止させると【岩石砲】が命中。そのままガメルはダメージを負って残り8割となる。するとメダルが1枚入りパワーアップした。

 

『負けない!お前ら、倒す』

 

ガメルが地面を殴るとバイソンの怪物がやっていたように周囲の障害物を強制的に浮かせると3人へと飛ばす。

 

「【多重水弾】!」

 

フレデリカが大量の水弾を飛ばして飛んでくる障害物を撃ち抜き、破壊していく。

 

その間にガメルは3人へと突進。セイバーがそれを受け止めるがあまりのパワーに押し込まれていった。

 

「コイツ、強い……」

 

「だったら、ソウ【発光】!」

 

ソウが眩い光をガメルへと放つとガメルはいきなり来たその眩しさのあまりに目を抑え始めた。そしてそれはガメルが光を苦手としているということを暗に示している。

 

「カナデ、光だ。アイツは眩しいのが苦手なんだ」

 

「わかった。ソウ、【光の体】!」

 

するとカナデはソウの力でセイバーの体を光らせるとガメルの目を更に眩ませる。更にセイバーが激土による直接攻撃、フレデリカが魔法による遠距離射撃で次々とダメージを稼いでいく。

 

『ま、眩しい……卑怯だぞ!』

 

ガメルは目を潰されながらもがむしゃらに突進し、セイバーはそれを回避して更に激土でガラ空きの背中に激土を叩きつける。それを何回か繰り返すとガメルのHPが6割となって2枚目のメダルが投入されるとガメルの力が引き上げられた。

 

『もう目眩しは通用しない』

 

するとガメルにはもう目眩しが効かないのかカナデが光を放つスキルを使用してもセイバー達の動きを見切って自慢のパワーで殴ってくる。

 

「流石にずっとは効かないよな……」

 

「ここからは力技で崩せって事よね。ノーツ、【覚醒】、【輪唱】!【多重風刃】!」

 

フレデリカがノーツを呼び出すと魔法で大量の風の刃を展開。そのまま飛ばしてガメルの体を切り刻む。それからセイバーが激土で斬り裂き、カナデが召喚した弁慶による攻撃とソウによる魔法攻撃がガメルを集中攻撃していく。

 

『ぬん!』

 

しかし、攻撃を喰らいつつもガメルはそれを跳ね除けながら突進し、ダメージを負いながらも構わず近づいてくる。どうやら今のガメルはスーパーアーマー状態であり、セイバー達の攻撃でダメージは受けても攻撃が中断されなくなっていた。

 

「待って待ってスーパーアーマーは聞いてない」

 

『お前、倒す!』

 

ガメルは続けて顔に付いているゾウの鼻の部分を思いっきり伸ばすと周囲を薙ぎ払う。

 

「それ伸ばせるの!?」

 

「何でもアリだね」

 

「チッ……【大地貫通】!」

 

セイバーが直線に衝撃波を飛ばすスキルを使用するとガメルはそれでダメージを受けるが、それで動きが止まるはずもなく逆に地面を思いっきり踏みつけた際に発生する衝撃波でカナデとフレデリカが吹き飛ばされた。

 

「強すぎない?これが5人で挑んだ時のレベルなの」

 

「そんな事言っても仕方ないよ。ソウ、【グランドウェーブ】!」

 

カナデがソウに指示するとソウが地面を思い切り踏みつけ、その衝撃で発生した土の波がガメルに命中するとガメルはダメージを負うがスーパーアーマーなので動きは止まらない。しかしそれこそがカナデが狙っていた瞬間だった。

 

「【ドリルストライク】!」

 

既にガメルの目の前には両足を揃えて跳び上がりドロップキックを放ちながら、ドリルのように回転し突進するセイバーがいた。先程の土の波はそれを隠すための布石である。

 

『痛い……お前、許さない!』

 

するとガメルの中に3枚目のメダルが投入された。そしてそれはガメルのHPが4割となった瞬間を示しており、更にガメルの真の力を発揮させる事に繋がる。

 

『うぁあああああ!!』

 

ガメルの咆哮と共に上半身が変化。その姿は強固な装甲を纏った戦士であり、両腕にはゴリラの腕のようなガントレットを装備している。そのガントレットの右腕には棘が、左腕には二門の砲台のような物が武装されていた。

 

「いよいよ本気モードか」

 

セイバー達が構えるとガメルが突進し、セイバーにぶつかった瞬間彼を大きく後ろに吹き飛ばした。

 

「え?」

 

「嘘でしょ」

 

『お前も邪魔!』

 

ガメルが左腕の砲門から二連続の砲弾を発射し、それはカナデとフレデリカに大きなダメージを与えるのだった。そうして、場面はドラグとクロムの元に吹き飛ばされた所に戻る。

 

〜現在〜

 

3人を軽々と吹き飛ばしたガメルは更に近くにいた弁慶の頭を掴むとそのまま握りつぶし、弁慶は頭をやられた影響で消滅。これによりセイバー達は数を1人減らしてしまう。

 

「おいおい、アイツのパワー半端なさすぎだろ」

 

「恐らく耐久力も強化されているね」

 

「まだ俺のスキルは使えないから固定ダメージも狙えないぞ」

 

「ひとまず接近戦は避けて遠距離から少しずつダメージを稼ぎましょう。相手の遠距離攻撃はあの大砲と衝撃波ぐらいなので」

 

「なら私の出番ね」

 

フレデリカはそう言ってスキルで大量の弾幕を展開するとガメルへと一斉に浴びせていく。それに合わせてカナデもソウを使って遠距離からの攻撃を仕掛けていく。

 

「【織田信長】!」

 

更にカナデは英雄、織田信長を召喚して信長の能力、大量の火縄銃と共に一斉斉射する力でガメルを遠距離からダメージを与えていく。しかし、それだけの一斉攻撃でもHPの減りは遅い上にスーパーアーマーがまだ適応されているのかガメルは平気な顔をして近づいてくる。

 

「これはもう近距離からも攻撃するしか無いぞ」

 

「でも近づいたらあの腕に殴られて大ダメージは必須だ」

 

「だったら、超防御力で防ぐしか無い。フレデリカさん!」

 

「はいはい。ノーツ、【増幅】!【超多種障壁】!」

 

フレデリカがセイバー、ドラグ、クロムの前衛組に防御力強化のバフをかけて3人のVITを限界まで引き出す。それから3人はガメルへと肉薄して近接戦を仕掛けた。

 

「【バーンアックス】!」

 

「【刺突】!」

 

「【リーフブレード】!」

 

3人がそれぞれ近接戦用のスキルを次々と使用してガメルにダメージを与えるがガメルのHPはまだ3割以上ある。更に3人も全くダメージを受けないわけじゃ無い。このままでは先に前線が崩壊してしまうだろう。

 

「クソッ……このままじゃあ押し切られるぞ」

 

「仕方ない……こうなったら」

 

セイバーはそう言うと戦線から離脱してエネルギーを激土に集約し始めた。それを見た2人はセイバーのやることを理解し、ガメルの注意を引くことにした。

 

「【グランドランス】!」

 

「ネクロ、【覚醒】!【幽鎧装着】!」

 

2人はそれぞれ火力と耐久力で時間を稼ぎ、セイバーの一撃に賭けるつもりだ。そしてそれはカナデとフレデリカにも伝わったのか2人を強化するバフを使って耐久力と火力を補助する。

 

『鬱陶しい。邪魔だ』

 

ガメルがエネルギーを右腕に集約。その一撃はプレイヤー1人ならば軽く葬れる程の火力だった。そしてその攻撃を放つ。

 

「ヤバイ!」

 

咄嗟にクロムがドラグを押し退けるとそれをまともに受けて大きなダメージを負い、HPが1となる。

 

「ぐ……【カウンター】!!」

 

そこでクロムが先程受けたダメージを次の攻撃に上乗せするスキルを使いガメルのHPを1発で1割減らし、残るはあと2割。そこにセイバーのエネルギーがチャージ完了した。

 

「お待たせしました!【マキシマムボディ】、【大断断斬】!」

 

セイバーが巨大化した激土を振り下ろすとガメルは両断され倒された……はずだった。何とガメルは今の一撃をHP0.5割残して耐えたのだ。

 

「嘘だろ……今のも耐えるのかよ」

 

セイバーは今の一撃に全てを賭けていたために絶望感は大きかった。しかも、次は同じ火力で撃つには貯めがいる。それだけでなくドラグもHPは残り僅か、フレデリカとカナデも限界が近い。クロムに至ってはHP1。万事休すかに思えた。

 

「ヤバイ、負ける……」

 

「まだだ!【闇王破壊撃】!」

 

クロムが跳び上がるとガメルへと特攻し、両足でのドロップキックを放つ。それを見たガメルも反撃のために構えた。このままでは自爆特攻になる。それを察知したカナデとフレデリカは最後に使えるスキルを使用する。

 

「【多重炎弾】!」

 

「ソウ、【影縫い】!」

 

その瞬間、フレデリカの炎弾が地面に着弾して煙幕を張り、ガメルの視界を奪うとカナデがガメルの動きを一瞬停止させる。

 

「【精霊の光】!」

 

そこに10秒間だけダメージを無効化させるスキルを使用したクロムからの一撃がガメルに命中し、そのHPを0にするとガメルは爆散した。

 

「やった……」

 

「何とか倒せたな」

 

「ふぅ……クロムさん、ありがとうございます」

 

それから5人は近くに落ちていた宝箱を開くとそこにはサイ、ゴリラ、ゾウのメダルが置かれており、今回の達成報酬であるということが容易に察しがついた。

 

「これで残り4つかぁ……まだ半分以上ある」

 

「私達はあと2つね。この層の裏ボスなんだからかなりの強敵なんでしょうね」

 

「前に出た四層の裏ボスの鬼以上の強さなんだろうな」

 

5人はダンジョンを出るとセイバーが感謝の意を込めて2人に頭を下げた。

 

「お二人とも、今日はありがとうございました。おかげで突破することができました」

 

「いや、セイバーの力もあってこそだ」

 

「私もセイバーがいてくれて助かったわよ」

 

それからセイバー、カナデ、クロムはドラグ、フレデリカとその場で分かれて今回の戦いの反省をするために3人で話し合いながらギルドホームへの帰路に着くのであった。

 

デザスト視点

 

セイバーの影の中、デザストの体は少しずつ死へと向かっていた。その証拠に以前カリュブディスによってつけられた傷がまだ完全回復していない。

 

「うぐ……これは、いよいよヤバイかもな。あと少し保つか?できればアイツの決意の日まで生き残っていたい……この俺がこんな事を考えるような日が来るなんてな……」

 

そう言うデザストの目は何かの覚悟が決まったようであり、その覚悟がセイバーに伝わるのはそう遠い日の話では無い。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと格闘少女

セイバーが3つ目の試練をクリアした翌日、彼の背中には1人の少女が抱きつき、甘えていた。少女の名はヒビキ。彼女はようやく自分の番だと言わんばかりの甘えようである。

 

「ヒビキ……何でこんなに抱きついてくるの?流石にサリーの嫉妬の目線が怖いんだけど……」

 

「えぇー?私だっていつも甘えたいんだよ。約束があるから我慢しているだけであってさ」

 

ヒビキがドロドロに甘えてくる中、ギルドホームで一緒にいるサリーは“ゴゴゴゴゴ”という効果音が付くのではないのかといえるぐらいには嫉妬の目を向けていた。

 

「許さない許さない許さない許さない」

 

「あの……なんでサリーは呪詛を呟いているの?」

 

サリーの嫉妬は周囲にわかりやすく伝わるほどであり、ヒビキはそんなサリーの様子を知りながら更にセイバーに甘え続ける。

 

「ヒビキ、せめてサリーのいない所にしないか?流石にサリーの嫉妬の目に耐えられない」

 

「良いよ。元々2人きりになるつもりだったし」

 

セイバーの提案にヒビキは乗ると立ち上がったセイバーの腕に抱きつく。

 

「ヒビキ……マジで?」

 

「私がやるのはダメとは言わせないよ。キャロルちゃんもミィさんもやってるんだから。あ、でもボディタッチ程度であんなに怒るサリーさんには無理そうだけど」

 

ヒビキのその言葉にサリーはとうとう堪忍袋の緒が切れたのか2人へと飛びかかろうとするが、何とかそれをメイプル、マイ、ユイの3人がかりで押さえ込む。最早ギルドホームはヒビキの挑発とサリーの怒りで修羅場になっていた。

 

「それじゃあ行こ、セイバーお兄ちゃん」

 

それからセイバーはヒビキに連れられるままにギルドホームを後にすると街に出た。セイバーとヒビキが恋人のように親しくする姿は街に出ているプレイヤー達にガッツリ見られているわけでヒソヒソと言葉が聞こえて来た。しかも、前にミィと似たようなことをしていたためにその噂の内のいくつかはセイバーへの嫉妬の声になっている。

 

「ねぇセイバーお兄ちゃん。私ね、行きたいところがあるんだ。行っても良い?」

 

そうやってヒビキに上目遣いで妹のように頼まれてはセイバーも断れない。それ以前にミィやキャロルの願いを聞いているのだから応えて当然の願いだった。

 

「わかった。今日はヒビキの好きな所に行こうか」

 

セイバーとしても今日はヒビキに合わせるつもりであり、ちゃんと彼女の願いを聞いて応える覚悟だった。そしてセイバーのその答えにヒビキも納得したのかセイバーの手を引いてある場所に連れて行かれた。その場所と言うのが……

 

「……ヒビキ、本当にここで良いのか?」

 

「そうだよ。私ね、セイバーお兄ちゃん……いえ、セイバーと2人きりでダンジョン攻略とかをしてみたかったんだよね」

 

ヒビキはいきなりセイバーの呼び方を変えるとお兄ちゃんとは付けずに呼び捨てにした。ヒビキはセイバーを兄分としてではなく1人の好意を寄せてる相手として呼び捨てにする事にしたのだ。

 

「それじゃあ早速入ろうか」

 

セイバーとヒビキがダンジョンである館の中に入っていくと館の扉が強制的に閉められて2人は閉じ込められた。そして2人の画面に1時間のタイマーが表示されるとそれがカウントダウンが始まる。これはつまり、この館は1時間の間は閉じ込められてしまう事を意味する。

 

「……ヒビキ、まさかと思うけどこれを狙ってた?」

 

「そんなのどうだって良いじゃん。これでセイバーと私の2人きりだよ?」

 

ヒビキは更にセイバーの腕を強く抱きしめつつセイバーへと甘い目線を向ける。ヒビキの顔面は完全に雌の顔になっていた。要するにセイバーと色々としたいのである。

 

「ヒビキ、頼むからここでそれはやめてくれ。モンスターが来たらどうす……」

 

セイバーが言い終わらないうちに館に出没する氷の体をした人間が歩いて来て2人へと攻撃を仕掛けて来た。

 

「邪魔しないで!」

 

その瞬間、ヒビキが氷の人間の腹に掌底を打ち込んで粉砕。それからすぐにセイバーに抱きついて幸せに浸る。

 

「えへへ……セイバー、大好き」

 

「………」

 

この様子を見たセイバーはこう思った。“ヤバイ、ヒビキが完全に自分への愛で性格さえも歪んでしまった”と。

 

セイバーとしてもヒビキがこうなってしまったのは自分の責任だと考えている。ヒビキが自分の妹分だからと言って甘やかしすぎた為に、ヒビキの愛が目覚めて重い人間になってしまった。これ以上甘やかすのは彼女のためにならないかもしれない。しかし、今更冷たい態度を取れば間違いなくヒビキは自分に嫌われたと思って塞ぎ込み、病むだろう。

 

「これ……詰んでない?」

 

セイバーのボソッと言った声も今のヒビキには届いていない。だがセイバーは今疑問に感じていた。“何故今まで普通に接して来た彼女がこうもいきなり変わってしまったのだろうか”と。

 

「ヒビキ、今日何か特別な事をしてない?例えば薬を飲んだとか」

 

「んー?それならイズさんに頼んでいた錠剤を飲んだけど。アレを使えばもっと色気が出せるって。私、サリーお姉ちゃんと同じでボーイッシュ系の女子だからもっと女の子らしくなりたいな〜って」

 

それを聞いたセイバーの頭の中に湧いて出たのはイズに対する怒りだった。所謂“後で覚えておけよ”状態である。とにかく、薬の効き目が切れるまでは仕方ないと考えを放棄する事に決めた。

 

「取り敢えず、今は一緒に回るか」

 

「そう言ってくれると嬉しいな」

 

それから2人でくっつきながら館の奥へと進んでいく。すると早速罠が発動したのか足元でカチッと音がするといきなり天井から棘付きの鉄の板が落ちてきた。

 

「ヤバっ!」

 

セイバーが咄嗟にヒビキを抱えて前に跳ぶとギリギリの所で躱す事ができた。

 

「危ねぇ……初見から棘付きの鉄板とか殺意高すぎだろ。大丈夫か、ヒビキ」

 

「ふぇ……」

 

ヒビキは突然のことに何が起きたのかわかっていなかったのか驚いたような顔をしていたが、今の状況を理解して我に帰ると顔を真っ赤にしてときめいていた。

 

「あ、ありがとう。えと……今の状態を人に見られたら……恥ずかしい」

 

ヒビキがそう言うとセイバーも今の状態をふと見た。するとセイバーはヒビキを抱えており、周囲から見ると仲の良いカップルがイチャイチャしているようだった。

 

「ご、ごめんヒビキ。つい咄嗟に……」

 

これにはセイバーもすぐにヒビキを下ろすと2人とも気まずい雰囲気になった。しかし、館のトラップはそんなのを気にしてくれない。今度は2人の横にある扉が強制的に開いて中から氷を纏ったアンデットが飛び出した。

 

「うげっ!?虚無抜刀!【バーニングレイン】!」

 

セイバーはすかさずアンデットを斬り刻み、ヒビキを守る。ヒビキはセイバーに守られたのを不服そうに見つめながらその場をやり過ごした。

 

「ヒビキ、大丈……」

 

「……私だってセイバーを守りたい」

 

「え?」

 

「私さ、思えばいつもセイバーに助けられてばかりだよね。初めて会った時も迷子の私を助けてくれて、それから私が【楓の木】として参加した初めてのイベント、第4回イベントでも【集う聖剣】に対してうまく立ち回っていたし、サンジェルマンさん達と戦った時も私は最後に助けてもらった……私ってセイバーがいないと何もできないのかな」

 

するとヒビキの頭に手が置かれて優しく撫でられた。ヒビキがセイバーを見上げるとセイバーは優しくヒビキを見つめて話を始める。

 

「そんな事無いよ。俺だって万能じゃないからヒビキに助けられた時もある。それにさ、ヒビキの存在に救われた人達は沢山いると思うぜ。だからそんなに悲観するなよ」

 

「……でも」

 

「そんなに妹のように見られるのが嫌か?」

 

「ッ……」

 

ヒビキはそれを聞いて心がモヤモヤし始めるとセイバーに抱きついた手を離してセイバーにビンタをした。セイバーはヒビキのいきなりの行動を咎める事なく、彼女を見つめる。

 

「私だって……私だってセイバーから対等に見られたい。妹のような扱いばかりで……そりゃあ、私の方が年下だから妹なのかもしれないけど……でも、私はセイバーの事が好きだから」

 

セイバーはヒビキの言葉にハッとした。今までずっとヒビキを妹のように見てきたからだ。これでは彼女が怒ってしまうのも無理はない。恋人になりたいと思うなら対等な立場でいたいと思うのも当然と言える。

 

「ごめんヒビキ……俺は」

 

その瞬間、突如として足元に魔法陣が展開されるといきなり2人は転移させられて2人は離れ離れになるのだった。

 

「は?嘘だろオイ。ここで分断か……」

 

セイバーは慌ててヒビキの位置を確認しようとするとマップは真っ黒に染まっており自分の位置の確認すらもできなかった。仕方なく自ら動いてヒビキを探すことに決める。

 

「……うぅ。せっかく良い所だったのにこの仕掛けかぁ。そりゃあネットでも調べてはいたけど、まさかこのタイミングで来るなんて……。イズさんの薬の効果も切れちゃったし」

 

ヒビキの方も転移させられており、その影響か、はたまた普通に効果時間超過なのか普通の状態に戻ってしまっていた。

 

「これじゃあセイバーに会えても女の子らしくできない……それどころか私、セイバーに八つ当たりして……もう嫌われたかも」

 

ヒビキは落ち込んだような顔になり、ため息を吐く。しかし、モンスター達はそんな事関係無いとばかりにヒビキを狙っていた。まずは物陰から氷のアンデットが攻撃を仕掛けてくる。

 

「やらせないよ!【飛拳】!」

 

それをヒビキは拳を突き出す際に発生する衝撃波で吹き飛ばす。更にそれを見た他のアンデット達も一斉に飛び出すとヒビキへと襲いかかってきた。

 

「く……数が多い。でも、セイバーに認められるためにも私1人で凌いでみせる」

 

ヒビキは氷のアンデット達に突撃すると得意の格闘技で一体ずつ確実に倒していく。相手が氷という事で格闘技が通用しやすいのも幸いだった。もしこれが炎や水ならあまりダメージにならない可能性が高かっただろう。

 

「やあっ!せいっ!」

 

ヒビキとアンデット達では戦闘能力が違いすぎるのか全くと言って良いほど相手になっておらず、簡単に粉砕されていく。だが、先程から倒しても倒してもアンデット達は次々とヒビキの元へとやってきて彼女を攻撃しようとする。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……なんで?なんで止まらないの?」

 

戦闘開始から約10分。ヒビキの体は徐々に疲れ始めていた。だが、今までのプレイの中でヒビキに長時間戦闘経験が無かったわけではない。むしろ、まだ疲れるにしては早すぎなのだ。その理由はこの館にあった。館の特性として時間経過と共にステータスにデバフがかかっていたのだ。加えて、敵モンスターにはステータス上昇のバフがかかっており、その結果ヒビキが攻撃しても攻撃してもモンスターが倒れなくなりモンスターの追加だけされていくので彼女への精神的な負担が大きくなっていた。

 

「どうして?私1人じゃダメなの?結局私はセイバーがいないと……何もできないの?嫌だ……私1人でもセイバーを助けられるぐらいに強くなれないと……セイバーの足手纏いになんかなりたく無い」

 

ヒビキは必死に戦い続けるもののアンデット達は徐々に彼女に迫っていく。30分もする頃にはヒビキの体は疲れでガクガクと震え始め意識も朦朧になってきていた。

 

「私は……なんでここをデート場所にしたんだろ……ちゃんと情報は見て大丈夫だと思っていたのに……完全にここの仕様を舐めていた」

 

次の瞬間、ヒビキは後ろからアンデットの中の一体に拘束されてしまい、そのまま締め上げられた。

 

「ぁ……ぐあ……」

 

更にその様子を見て他のアンデット達もヒビキへと飛びつき、体をズタズタにしようと引っ張り始める。

 

「ゔぁあああ……」

 

ヒビキの体が悲鳴を上げる中、彼女はあまりの痛みに意識は暗転しかけてHPも徐々に減っていく。残りHPもあと僅か。このままでは死亡となり脱出も失敗となる。

 

「(ごめんなさい……セイバー。私がちゃんとしてないばかりに……セイバーとの幸せな時間を過ごしたかったのにこんな事になって……私、完全に浮かれてた。ダンジョンの情報ももっとしっかり見ておけば良かったのに……)」

 

ヒビキがとうとう意識を手放すと気を失い、気絶の状態異常に陥ってしまう。そうして、アンデット達がヒビキにトドメを刺そうとした瞬間、突如としてアンデットの軍団は一瞬にして焼き尽くされ、ヒビキがお姫様抱っこされた。

 

「ったく……手間取らせやがって。虚無の力で敵にかかったバフと自分にかかったデバフを消せなければどうなっていたか」

 

セイバーの持つ無銘剣のスキル、【無の大地】の効果によってセイバーは自身の周囲にあるギミックを無効化できるそしてそれはプレイヤー、モブにかかるバフやデバフも例外では無い。

 

「さてと、ヒビキの救出に成功したし、取り敢えず彼女を回復させて」

 

セイバーがポーションを取り出すとヒビキに使用してHPを回復。更にイズに作ってもらった気絶時間短縮のポーションも使ってヒビキの気絶時間を減らす。するとヒビキの目が一瞬動き、ゆっくりと開いた。

 

「セイバー……なんで……」

 

「チームメイトなんだ。それに今俺達はデート中。助けるのは当たり前だろ?」

 

「だって私、セイバーの事を叩いたんだよ?最低な事も言ったのに……」

 

「関係無い。ヒビキを見捨てる理由にはならない。それと悪かった。俺はお前の事をただの妹分としてしか見てこなかった。だから怒ってたんだよな?」

 

「……そうだよ」

 

「俺の配慮が足りなかった。もし俺の事が許せないのなら何回でも叩いてくれ」

 

セイバーの言葉にヒビキは安心したのか首を横に振るとセイバーの提案を否定する。それからセイバーがヒビキを下ろすとヒビキは頭を下げた。

 

「私こそごめんなさい。私、1人じゃ何もできないのに自惚れて……」

 

ヒビキが下を向いていると頭をセイバーに撫でられる。セイバーの顔は笑顔だった。

 

「大丈夫。さっきも言ったけど俺自身にだってできる事に限りがある。それでも輝けるのは皆がいてくれるからだ。勿論ヒビキもだよ」

 

「セイバー……」

 

「それじゃあ、残りあと20分間。耐え凌いで2人で脱出するよ」

 

「うん!」

 

それからセイバーとヒビキは2人で館の中を探索しつつ時間が経過するのを待った。そうして20分後、タイマーが0になり、転移の魔法陣が出現すると外へとワープ。1時間生存を達成する事ができた。

 

「なんとかなったな、ヒビキ」

 

「うん……そうだね」

 

そう言うヒビキの顔は赤く、セイバーの顔を直視できないのか別の方向を向いていた。そんな彼女を見てセイバーは優しく接する。

 

「ヒビキ、大丈夫か?顔赤いけど熱でもある?」

 

「わかってるくせに……さっきも話したけど私はセイバーの事が好き。ギルドメンバーとしてじゃなくて1人の女性として私を見て欲しい。勿論、セイバーが他の女を選ぶのならそれを止めるつもりはないよ。けど、答えを有耶無耶にしたら絶対に許さないから」

 

「わかってるよ。俺はちゃんと答えを出すって約束するから。その時に誰を選んでもヒビキが文句を言わないってだけでも凄い助かる」

 

「そっか……じゃあ、私が選ばれるように……」

 

するとヒビキはセイバーの正面に回ると身長差があるので少し背伸びをしてセイバーの唇に自分の唇を合わせる。それから離すとニコッと笑った。

 

「大好き。セイバー」

 

ヒビキはそう言って1人で歩き始めるとセイバーは置いてかれないように慌ててその後を追う。セイバーが答えを出す期限まで残りあと半月ほど。その間におそらく残った彼女もデートをすると言うだろう。セイバーはそれをしてからちゃんと考えて決めるつもりだ。誰を選んだとしてもその選択に後悔が残らないように。

 

〜閑話休題 炎帝ノ国対ガメル〜

 

今回はガメルに挑む炎帝ノ国の主力、ミィ、ミザリー、マルクス、シン、パラドクスの5人がどのような戦いをしたのかを描いていく。

 

『俺、ガメル。お前ら、敵だな。やっつけてやる!でも5人かー。なら呼ぼう』

 

ガメルはメダルを2枚投入してリクガメとバイソンの怪物を呼び出すと襲い掛からせる。

 

「マルクス、ミザリー、それぞれ引きつけてくれるか?」

 

「わかったよ。足止めは任せて」

 

「可能なら倒します。【ホーリーウイング】!」

 

ミザリーはその姿を天使のような姿に変化。攻撃型のスタイルにチェンジする。そしてマルクスも罠を使って2体を足止めする。その間にミィ、シン、パラドクスの3人が戦闘を開始する。

 

「【崩剣】!」

 

「【マックス大変身】!」

 

「【クイックチェンジ】!」

 

まずはシンが剣を分割させてガメルを牽制する間にパラドクスとミィが火力重視のスタイルに変化。それからマグマの力とパラブレイガンの斧モードでの一撃でガメルに接近しつつ攻撃。

 

『効かないぞ!』

 

しかしガメルの装甲によって大したダメージを与える事ができず、逆にガメルのパワーによって2人は弾き飛ばされてしまった。

 

「強いな。だが、だからこそ心が躍る!」

 

「何としてでもクリアする!【マグマナックル】!」

 

ミィが両腕にマグマを纏わせてガントレットを生成するとガメルへと接近して連続で殴りつける。流石のガメルも連続でぶつけられるマグマには弱いのかダメージを負い、HPが1割程削られる。

 

「【風刃剣】!」

 

更にシンからの追撃でガメルは反撃する間もなく後退させられ、最後にパラドクスからの銃撃でHPを全体の中の2割失った。

 

『ぬん!』

 

ガメルはメダルを投入されてパワーアップすると周囲の障害物を飛ばしてくる。それはシンが崩剣で受け持ち、その間にミィとパラドクスが猛攻を仕掛ける。

 

「【マッスル化】【マッスル化】【マッスル化】!」

 

パラドクスが火力増強のメダル3枚積みでパンチの威力を最大級に強化。そのまま強烈な拳を突き出すとガメルはそれをまともに喰らって吹き飛ばされて一撃でHPを1.5割持っていかれる。そこにミィからマグマの龍が迫り、ガメルを焼き尽くしてHPを残り6割にまで減らす。

 

「まだまだ、次が来る」

 

するとガメルはメダルで強化されるとスーパーアーマーを獲得。そのタイミングで怪物を撃退したマルクス、ミザリーも加わって5人がかりで戦闘する。ミザリーは回復を重視させるために装備を元に戻し、マルクスは罠を設置して少しでもダメージを稼ぐ。

 

「【伸縮化】、【鋼鉄化】!」

 

パラドクスが拳をどこかのゴム人間のように伸ばすと拳を【鋼鉄化】させて威力を底上げ。そのままガメルを殴ってから腕で体を絡め取り拘束。

 

「今だ!」

 

「【ホーリージャベリン】!」

 

「【ギガントインフェルノ】!」

 

「【旋風刃】!」

 

3人がそれぞれ繰り出したスキルによって拘束されたガメルは大きなダメージを負い、トドメにマルクスの爆弾が起爆して遂にガメルの本気モードが始動する。

 

「ここからが本気のようだな」

 

「ひとまず罠で足止めするよ。【遠隔設置:拘束蔦】!」

 

マルクスが投げた罠をガメルはすかさず踏んで地面から蔦が出てガメルを拘束するがそれは一瞬にして引きちぎられてしまう。

 

「【弾丸強化】、【鋼鉄化】!」

 

パラドクスが鋼鉄にした弾丸を発射してガメルを撃ち抜くがそれでもダメージはごく僅かであり全く通用しない。

 

「固すぎるだろ……」

 

「クソッ、【崩剣】!」

 

シンが更に剣を分裂させて手数による面攻撃を喰らわせるものの、逆に1発の威力が落ちた影響か全くダメージにならずにガメルからの砲撃を許す。

 

「【リザレクト】!」

 

その砲撃をシンがまともに受けて死亡するが、ミザリーが蘇生スキルで復活させる。しかし、このままでは火力不足で押し負けてしまうだろう。

 

「かくなる上は、【黎明】!」

 

ミィが切り札の1つを使用すると次の攻撃を如何なる手段を持ってしても無効にできなくする。更にパラドクスがそこにバフをかけていく。

 

「【威力強化】、【威力強化】、【威力強化】!」

 

「【侵略の炎】、【蒼炎帝】!」

 

加えてミィが【侵略の炎】で貫通効果を付与。そうして繰り出されたのは蒼い炎。全てを焼き尽くす業火の炎弾だ。ガメルはそれを見て受けるのは不味いと取ったのか回避しようとする。

 

「【遠隔設置:砂地獄】!」

 

「【ホーリーシャワー】!」

 

「【崩剣】!」

 

そこに3人がガメルを一瞬でも足止めするためにスキルを使ってガメルの身動きを封じ、そこにミィからの最強の一撃が叩き込まれる。するとそのあまりの威力に周囲にもその余波が発生する。その直後、ガメルのHPは全て削り切られたのか残り0となっており、ミィ達はガメル相手に勝利を収める事になるのだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと試練4

ヒビキとのデートの翌日、セイバーはとある場所に来ていた。その場所と言うのが……。

 

「おーい、ベルベット、ヒナタ、キャロルはいるかー?」

 

セイバーがインターホンを押して【thunder storm】のギルドホームの前からそう呼びかける。その声に反応したのか扉が開いて出てきたのは【thunder storm】のプレイヤーだったのだが、セイバーの姿を見てすぐに中に入れると3人が来るまで待つように言われる。

 

「ふう。この前来た時は目隠し有りだったからな。実際にギルドホームの中を見るのは初めてだけど、規模が広い所以外は【楓の木】のギルドホームとほぼ変わらないなぁ」

 

セイバーがそれから数分間待っていると奥の扉が開いてベルベットとヒナタがやってきた。

 

「セイバー!よく来てくれたっすね」

 

「この前はうちのキャロルがすみません」

 

「えっと、ベルベットにヒナタ、その肝心のキャロルは何で来ないの?」

 

セイバーは不審に思った。キャロルはセイバーがいると聞けばすぐに飛んでくると思ったからである。するとヒナタが申し訳なさそうに首を横に振った。

 

「すみません。キャロルは今日、リアルで用事があるとの事で……」

 

「って、そういえばセイバーはキャロルのリア友なのに直接聞かなかったっすか?」

 

「あー、それが今日日曜日じゃん?平日の間に聞ければ良かったんだけど聞くのを完全に失念してな」

 

2人はそれなら納得と頷くとセイバーからの用件を聞く事にした。

 

「それで、私達に用事というのは?」

 

「これから裏ボスに挑戦するためのダンジョン攻略をするからその手伝いをしてくれないかなって」

 

「ああ、最近プレイヤー達の間で話題になっているアレっすね」

 

「今日攻略しようと思っている場所はここなんだけど2人はもう攻略した?」

 

セイバーが地図を見せて2人へと問い、2人は揃ってそこの攻略はまだだと返す。

 

「それじゃあ、2人共手伝ってくれるって事で良いかな」

 

「勿論っすよ」

 

「ベルベットがやる気だし私も参加します」

 

そうして、2人の了承を得てセイバーは2人と共に【thunder storm】のギルドホームを出るとセイバーが攻略しようと決めた場所に向かい始める。するとその道の途中で【集う聖剣】のギルドマスター、ペインと神速の暗殺者、ドレッドと出会った。

 

「ペインさん、ドレッドさん!」

 

「セイバーか」

 

「後ろにいるのは……【thunder storm】のベルベットとヒナタか」

 

「こんにちは。お二人はどちらに行かれる所だったのですか?」

 

「ああ、今から新しいスキルか何か見つからないかとフィールドの中を探索しようとね」

 

ペインの言葉にセイバーは2人がこれといった特定の行動をしない事を察してすぐにある提案をする事にした。

 

「ペインさん、ドレッドさん、今から裏ボスに挑戦するために必要なアイテムを手にするためのダンジョン攻略をしようと思っているのですが、お二人がこの場所を攻略していないのでしたら一緒に攻略しませんか?」

 

セイバーの提案に2人はその場所がまだ未攻略であるということを確認してから頷いた。これにより、セイバー、ベルベット、ヒナタ、ペイン、ドレッドという5人組が結成されるとダンジョンのある場所に向かっていく。

 

「ここが今回の場所……かな?」

 

セイバーがマップを開いてその場所が正しいことを確認するとそのまま攻略人数を5人に設定し、そのままダンジョンの中へと突入する。5人が場所を確認するとそこは鬱蒼とした木々が並び立つ森の中であり、全員が周囲を警戒する。

 

「さて、何が来るのやら……」

 

「油断しないで行きましょう」

 

「この緊張感、ワクワクするっすね」

 

ベルベットがそう言っていると周囲から気配がしたのと共に足音が聞こえてきた。全員がそれに警戒心を高めていると出てきたのは全身に包帯を巻かれたゾンビのような怪物だった。

 

「な、何っすかあれ!?」

 

「俺に任せろ」

 

そう言ってドレッドが先陣を切って斬撃攻撃をするものの、それは全く通用していないのかダメージエフェクトが舞った直後にまるでゾンビのように起き上がる。

 

「おいおい、ダルい相手だな」

 

「ここは私が制圧するっす。【雷神再誕】!」

 

その瞬間、ベルベットの周囲に雷が落下して怪物達に電流を流すと怪物達はたった一撃で粉砕される。

 

「……へ?」

 

「もしかして斬撃よりも電撃の方が有効なのかもしれませんね」

 

「ベルベットの火力が高いのも原因の1つなのかもな」

 

「ひとまず退けられたって事で良いっすか」

 

ベルベットが一旦雷を降らせるのを止めるとセイバーが何かに気がつく。

 

「あれ?これは何だ」

 

全員がセイバーの元に行くとそこには半分になった銀のメダルが落ちていた。

 

「これがさっきの怪物を構成していた物なのでしょうか」

 

「メダルの怪物……という事は今回も」

 

『やはり屑では勝てないか』

 

突如として知らない声が森の中に鳴り響くと森の奥から緑の服を着た不良のような青年が歩いてきた。

 

『まぁこのくらい倒してもらえないと俺が直接出るまでもないがな』

 

「一応他のボス達が名前アリだったから君にも名前があると思うんだけど」

 

『既にアイツらとも戦った後か。俺の名はウヴァ。知っての通りここのボスだ。せいぜい楽しませてくれよ』

 

ウヴァがそう言うとその姿を変化させていきクワガタのような2本のツノを生やしている頭、昆虫の複眼のような目、そして甲虫のような固い装甲をした上半身を持つ怪物となる。右腕には2本の鉤爪があり、まるで昆虫の王のような姿をしていた。

 

「なるほど、それが今回のボスの姿か」

 

「てか、まだ下半身が変化してない。これはフルパワーになった時に強化されそうだなぁ」

 

『さて、このまま勝負したいが流石に5対1は卑怯だろ』

 

その時ウヴァ以外のこの場にいる全員が思った。“いや、さっき大量の怪物に襲わせただろ!”と。完全なブーメラン発言をしたウヴァだが彼は特に気にしていないのかそのまま話を続ける。

 

『俺の下僕を出すとしよう』

 

ウヴァが銀のメダルを取り出して空中に投げるとそのメダルからバッタ、カブト、クワガタの怪物が呼び出されて降り立つ。

 

「やっぱこのボスも部下を出すよな」

 

『お前ら、コイツらと戦え』

 

「行くか。黄雷抜刀!」

 

そう言うと三体の怪物達が一斉にペイン、ベルベット、ドレッドへと襲いかかる。ターゲットにされなかったセイバーはウヴァの元に行き黄雷で斬りかかる。そして、ヒナタの役割は全体のサポートだ。

 

 

「支援します。【コキュートス】、【星の鎖】、【災厄伝播】【脆き氷像】、【重力の軋み】!」

 

ヒナタがいつも使うスキルを次々と発動するとウヴァと三体の怪物達が凍りつき、動きを制限され始めたが次の瞬間には氷は無情にも粉砕されて動きも元に戻っていた。

 

「そんな、私のスキルが効かないなんて……」

 

「おいおい、そんなのアリかよ。まさかコイツら」

 

『悪いが、俺達にデバフと氷は通用しない』

 

ウヴァのその言葉にヒナタは狼狽えた。これはつまり、ヒナタの長所がことごとく潰されるという事である。

 

「まさかヒナタをここまでメタってくるとは……」

 

実は今まで戦ってきたボス達も何かしらの耐性があったのだが、セイバー達はそれに対応する攻撃をして来なかったので発覚しなかっただけである。

 

「ヒナタ、何か攻撃スキルは無いのか?」

 

「え、えっとドールを使えば攻撃できますけど私単体では殆ど無くて……」

 

「だったら……これを使って!」

 

セイバーがインベントリを開いてアイテムを取り出すとそれをヒナタに渡した。それは第二回イベントで手に入れた『ゴブリンキングサーベル』である。

 

「え!?でもこれ私は……」

 

「それがあれば多少は戦えると思う。ただ、それ壊れやすいから戦う時は耐久値に気をつけながら戦って。ちなみにSTRがプラス75されるからある程度の火力は確保できるよ」

 

ヒナタは戸惑いつつセイバーから受け取った武器を構える。その頃、ペイン、ベルベット、ドレッドの3人はそれぞれ怪物達を倒すべく速攻戦を仕掛けていた。3人共早めに怪物を倒してからセイバー達の方に合流したいからである。

 

「ペイン、ドレッド、一旦離れるっす。この辺一帯に雷を落として制圧するっすよ」

 

「わかった!」

 

「頼むぞ」

 

「【落雷の原野】【稲妻の雨】!」

 

ベルベットがスキルを発動するとベルベットを中心とした広範囲に雷が落ちていき、三体の怪物に直撃。HPをゴリゴリと減らしていく。しかし、怪物達のHPが一定値を割るといきなり雷によるダメージを負わなくなってしまう。

 

「マジっすか?」

 

「やはり一筋縄では行かないみたいだね」

 

「ここからは俺達でやる。【超加速】【ブーストタイム】!」

 

するとドレッドのAGIが一定時間2倍となりそこに重ねがけをするように運営から全プレイヤーに与えられたパワーアップ手段の【ブーストタイム】を使用。特大にまで膨れ上がったAGIを使い移動すると姿が消えたと思えるほどの速度にまで上昇し、モンスターへと肉薄。そのままモンスターを連続で斬りつけていく。

 

「【オクタプルスラッシュ】!」

 

ドレッドからの連撃がモンスター達の体を切り裂いている間に ペインは大技の準備を始める。

 

「レイ【覚醒】、【集約の光】【聖竜の加護】!」

 

ペインがテイムモンスターのレイを呼び出して自身にバフをかけさせると力を手にしている剣に光のエネルギーを集めていく。彼自身の高ステータスを活かして一気に倒すつもりのようだ。

 

「この一撃で決める!【ブーストタイム】、【退魔ノ聖剣】!」

 

ペインの繰り出した斬撃に合わせてドレッドは離脱するとペインも出力を上げてから最高クラスの一撃を放ち怪物三体を一撃で両断し、粉砕してしまった。

 

「やった!」

 

「良し。このままセイバー達の加勢に行くぞ」

 

「ああ」

 

3人が怪物達を倒した頃セイバーは黄色く輝かせた黄雷を振るい、ウヴァの爪と打ち合っている。

 

「どうした?ボスの力ってのはそれで終わりか!」

 

セイバーは剣に電撃を迸らせつつ、ウヴァの体を深々と斬り裂きダメージを与えていく。

 

「【雷鳴一閃】!」

 

セイバーはゼロ距離から電撃を纏った一撃を放ちウヴァを両断するがそれでもまだウヴァは余裕そうだった。

 

『こんなもんか?』

 

「そう思うのならまた喰らってみる?【稲妻放電波】!」

 

セイバーが範囲へと電撃を放電し、ウヴァへとダメージを与える。これによりHPが8割に到達し、1枚目のメダルが投入された。

 

するとウヴァはバッタのような跳躍力を発揮し、そこそこ離れていた距離から一気に詰め寄りつつセイバーへと鉤爪による攻撃を当てた。

 

「チッ……速いな。カザリが平面の速さならウヴァは跳躍による速さか」

 

「やぁあああ!!」

 

そこに隙ができたと考えたヒナタがセイバーから受け取ったサーベルを振り抜くがウヴァは身軽でありそれを躱して逆に鉤爪が迫った。

 

「ヤバっ……」

 

ヒナタは普段後方からデバフをかける役なのでこういった近接戦闘は得意では無い。そのため咄嗟の回避ができずにウヴァからの攻撃が彼女に迫る。

 

「【重双撃】!」

 

そこにベルベットからの二連撃が叩き込まれてウヴァはその威力に吹き飛ばされた。

 

「大丈夫っすか?」

 

「ごめんベルベット……」

 

そこにペインとドレッドも合流して再び5対1となる。流石に次に部下を出しても蹴散らされると思ったのかウヴァは自分達の頭数を増やす事なく突撃してきた。

 

「突っ込んでくるなら好都合だな。一気に倒す!」

 

ペインもウヴァの跳躍からの突撃に対応するように剣で攻撃を受け流してからタックルを当てて吹っ飛ばし、逆に目の前に迫って一撃を入れる。

 

「流石ペインさん。動きに無駄がないですね」

 

「私もやるっすよ。【雷撃拳】!」

 

ベルベットが拳に電気のエネルギーを高めるとウヴァに近づいてワンツーを繰り出す。ウヴァはこれを受けて態勢を立て直そうとするが、足がいきなり凍りつく。

 

『無駄だ。俺に氷は通用しない』

 

その直後に氷は壊れたが、その間にセイバーとドレッドが目の前に迫っていた。

 

「足引っ張るなよ【神速】!」

 

「わかってますって。【サンダーブースト】!」

 

その瞬間、2人は超スピードと透明化を使用してウヴァの視界から消えるとウヴァの反撃を見事に回避し、そのまま前後から挟んで斬撃を叩き込んだ。するとウヴァのHPが6割となってメダルが1枚投入。更にウヴァのパワーが引き上げられると今度はウヴァの頭にあるツノに電流が溜まっていき、緑の雷が放出されて全方位に攻撃を仕掛けた。

 

「電気攻撃……でも無駄だよ。【蓄電】があるから通用しな……痛ってぇ!?」

 

セイバーにはスキル【蓄電】があるので電気攻撃は効かないはずなのだが、ウヴァの雷はそんなものお構いなしとばかりにセイバーにダメージを与える。

 

「油断大敵だな。耐性持ちだからってそれに頼るとそうなるね」

 

「く……やられたぜ。けどもう喰らわねーよ」

 

セイバーは今度こそウヴァの雷攻撃を見事に回避しながら接近。そのまま黄雷で接近戦を仕掛ける。

 

「はあっ!」

 

『来い!』

 

その瞬間、セイバーの後ろからペインが出てくると2人同時に剣を振るいウヴァが困惑している間をついてウヴァを斬りつける。

 

「【疾駆】、【嵐の中心】!」

 

そこにベルベットが接近しての拳でウヴァを殴ってから雷の範囲攻撃でウヴァを集中砲火。更にドレッドが不意打ちで足払いをかけつつ斬り裂く。

 

4人による連携は完璧には程遠く、隙ができるのでここは敢えて各々が戦いたいようにやる事で結果的にそれが上手く噛み合うような状況となっていた。どうしても4人の間にできる隙はヒナタが慣れない近接戦で上手く凌ぐ。

 

『おのれ、数に頼る戦術とは卑怯な……』

 

「えいっ!」

 

『がっ!?』

 

ウヴァが悪態をつきながら雷攻撃をしようとした瞬間を狙ってヒナタがゴブリンキングサーベルを振り下ろす。

 

「ナイスっすヒナタ!」

 

そこにベルベットからのボレーキックが決まりウヴァが吹き飛ばされる。これでウヴァのHPが残り4割となり3枚目が投入。これにより下半身に黒と黄緑、緑色の装甲を纏い更にパワーアップ。加えて先程までよりも更に太く強力な電撃を使用してセイバー達を葬らんとしてくる。

 

「おいおいマジか。これは余計に当たれなくなったぞ」

 

「それなら攻撃範囲の外から攻撃するっすよ」

 

「ああ。【ホーリーレイン】!」

 

ペインが剣を空に掲げると上空から光のエネルギーが降り注ぎウヴァを攻撃する……が、そう大したダメージにならない。

 

「【エレキブレイク】!」

 

ベルベットが電撃を一点集中させて生み出した電撃のレーザーを発射するとウヴァを貫こうとするが、その電撃がウヴァに命中した瞬間に突如として電撃が吸収されてウヴァの放つ雷がより一層強くなった。

 

「え!?私の電撃が効かないっすか?」

 

「これはまさか、アイツの能力の一つで電撃を吸収できるのか」

 

こうなるとセイバーとベルベットの雷を主力攻撃手段にしている2人は大幅不利だ。何しろ主力の攻撃手段を失うからである。

 

「く……だったら【魔神召喚】!魔神攻撃!」

 

セイバーが電撃の魔神を呼び出すと魔神にパンチを繰り出させてウヴァを殴り飛ばす。するとウヴァはダメージを受けて下がった。

 

「なるほど、物理攻撃なら電気を纏わせていてもダメージが入るのか」

 

「だったら、ライデン【覚醒】、【雷神融合】!」

 

ベルベットがテイムモンスターのライデンと合体して基礎ステータスを大幅に上昇させるとその上がったSTRと AGIで猛攻撃を開始。ウヴァと格闘戦に入る。

 

「俺達はベルベットのフォローだ。彼女の隙をカバーしよう」

 

「それが良さそうだな」

 

「黄雷のメイン攻撃である電気が効かなくなったしその方が良いかも」

 

ペインの提案にセイバー、ドレッドが了承して3人でベルベットのフォローにまわる。

 

「【重双撃】!」

 

ベルベットが続け様に高速の連撃を放ち、ウヴァは高い防御力で受け切る。それでもウヴァの方にダメージは入り、彼のHPは削られていく。

 

「【破砕ノ聖剣】!」

 

ペインから繰り出される強攻撃にもウヴァは耐え凌ぎつつ逆に強化された雷でダメージを与える。

 

「だったらこれだ。【火炎ノ咆哮】!」

 

セイバーが炎弾を生成するとそれをウヴァへと投げつける。それをウヴァがモロに受けると先程までよりも大きなダメージが入った。

 

「………え?」

 

「まさかコイツ……炎に弱いのか?」

 

「何かの間違いかもしれないからもう1発やるか。【火炎ノ舞】からの【火炎ノ咆哮】!」

 

今度は火属性のスキルの威力を【火炎ノ舞】によって上乗せした状態でウヴァへと火炎弾を放つ。するとウヴァはそれを何度も受ける事を嫌って避けることに専念し、炎弾はウヴァに掠ったのみに留まった。

 

「やっぱりか。アイツ、火属性の攻撃をこれみよがしに避けている。火が苦手なんだ」

 

「だったらこっちの姿で相手しよう。【クイックチェンジ】!」

 

ペインが姿を変化させると第10回イベントでミィと激戦を繰り広げた白銀の鎧に水色の髪となり、ペインの持つ二つ目の形態に変わる。

 

「【火炎ノ剣】!」

 

ペインが炎を纏わせた剣でウヴァへと突っ込み斬撃を仕掛けようとする。当然ウヴァはそれを高い脚力で躱そうとするが、その足はいきなり止めさせられた。

 

『何だと!?』

 

「【サンダーブランチ】……ダメージは無くても拘束効果は健在だぜ?」

 

セイバーのスキル【サンダーブランチ】によってウヴァの動きは止めさせられて隙が作られる。そこにペインからの攻撃が決まり、ウヴァの体は炎上するとかなりのダメージを受けていた。

 

『虫ケラの分際で……』

 

「いや、虫のお前に言われてもな……」

 

セイバーが困惑している間にウヴァは自慢の跳躍力で接近しつつ鉤爪で突きを放つがそれはヒナタが使った氷の壁によって防がれる。

 

「【アイスウォール】です」

 

「【アクセルスマッシュ】!」

 

すかさずベルベットが高速化させた拳をウヴァに叩きつけてダメージを稼ぐ。ウヴァのHPは度重なる攻撃によって削られていき、残り1割となっていた。

 

『この俺が……負けるかぁあ!!』

 

ウヴァは更にパワーアップした雷を放出して全員を一気に叩きのめそうとしてくる。

 

ドレッド、ペイン、ベルベットの3人は機敏な動きで見事に回避するが、ヒナタが逃げ遅れてしまい雷の餌食となる……その瞬間、セイバーが雷を代わりに受けてダメージを負ってしまう。

 

「ぐ……」

 

「セイバー!?ごめんなさい……私のせいで……」

 

「大丈夫。それに……」

 

セイバーがMPを見ると先程よりも増加していた。どうやら【蓄電】のスキルによって電気の無効化はできないが、MPを増加させる効果の方はちゃんと作用しているらしかった。

 

「MP復活……この場面で使えるのは……ベルベット、ペインさん、ドレッドさん!1発大技使うのでウヴァを5秒間止めてください!」

 

「「「ええ!?」」」

 

セイバーのいきなりの言葉に3人は困惑するがそれでもセイバーを信じる心は変わらずに全員が動き出す。それをセイバーは見届けてから体からエネルギーを高めていく。しかしその間は動けないのかセイバーの動きが止まる。

 

「仕方ない。【光剣ノ雨】!」

 

ペインが剣を掲げると空中から光の剣が降り注ぎ、ウヴァを足止め。更にベルベットとドレッドがそれぞれスキルを発動させる。

 

「【影縫い】!」

 

「【ハートストップ】!」

 

ベルベットがウヴァを殴ってから麻痺を入れ、高速で離脱するとドレッドが数秒間動きを止めさせるスキルで足止めをする。

 

「【大噴火】!」

 

そこに3秒間の硬直を終えたセイバーが自身の持つ最高クラスの炎のスキルを使用し、セイバーの直線上に強力な溶岩を放出した。すると炎に弱いウヴァがそれをまともに受けて大ダメージを負うとその場に倒れ込む。だが、この攻撃で仕留めきれなかったのかウヴァはHPが僅かに残っていた。

 

「マジかよ……」

 

『これで終わりだ!!』

 

そう言ってウヴァがセイバー達へと反撃しようとした瞬間、後ろから深々とサーベルが突き刺されてウヴァの残されたHPが0となる。

 

『な……ん……だと?』

 

「ヒナタ!!」

 

そこにはゴブリンキングサーベルを手にしてウヴァを突き刺したヒナタが立っていた。これによりウヴァは消滅し、セイバー達は勝利を収める事となる。

 

「よっしゃあ!!」

 

「ナイスだヒナタ」

 

「でも私はトドメを刺しただけですよ。それに……」

 

ヒナタが手元を見ると手にしていたゴブリンキングサーベルが跡形も無く崩れ落ち、耐久値が0になった事を示していた。

 

「セイバーがいなければ私はただのお荷物になっていましたから」

 

それから5人がアイテムを確認するとそれはクワガタ、カマキリ、バッタのメダルでありそれをインベントリの中に仕舞ってダンジョンから出るとその場は解散となり全員が別れて戻っていくのだった。




お知らせです。この作品ももうすぐ200話目に到達します。そこで200話記念としてプリンは固め派さんの作品である“破壊王の双子には兄が居るらしい。”とのコラボ回を描く事になりました!既にプリンは固め派さんからキャラの使用についての許可は得ていますし、200話目も執筆中です。果たしてどのような話になるのか。200話目を楽しみにしていてください。また、プリンは固め派さんの作品、“破壊王の双子には兄が居るらしい。”も面白い作品なのでこの機会にぜひ読んでいただけると作者としても嬉しいです。
下記のURLからプリンは固め派さんの作品に飛べます。また次回もお楽しみに。
https://syosetu.org/novel/301510/




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聖剣使いと短剣少女

セイバーが4つ目の試練を攻略してから数日後、ギルドホームでは何故かサリーが上機嫌だった。その一方でヒビキが膨れっ面をしている。理由はサリーがセイバーと2人きりで遊ぶ順番になったからである。

 

「ヒビキ、今日は私の番だから……邪魔したらわかってるよね?」

 

「う……わかってるよ……羨ましいけど約束だし」

 

「………完全に立場逆転だな」

 

「ヒビキさん凄い羨ましそうな顔をしてますね」

 

サリーとヒビキのやり取りを影からカスミ、マイ、ユイの3人が見ていたがあまり見ていると見つかった時に何をされるかわからなかったのですぐに離れる事にした。そのタイミングで丁度セイバーがログイン。それを見たサリーはセイバーの元に寄っていく。

 

「セイバー、今回は私に付き合ってもらうわよ」

 

「………はい?」

 

セイバーとしては今日は1人で裏ボスに挑戦するために必要なアイテムを集めるためのボス戦に挑もうとしていた所なのだ。しかし、サリーは今日じゃないと嫌と言わんばかりにセイバーの腕をガッチリホールドするとそのまま引きずり始める。

 

「待って待ってサリー、わかったから引きずるのだけは勘弁して!!」

 

セイバーがそう言って納得したのか引きずるのを止めるとセイバーの腕に抱きついてそのまま2人でギルドホームを出る事にした。

 

「あの……サリー、いつものサリーならボディタッチをした時点でスケベとか変態とか言ってくるのに……今日は違うね」

 

「アレは私が許可してないのに触るからダメなの。私自身がちゃんと受け入れていればボディタッチぐらい幾らでも良いわよ」

 

セイバーはこの時“無茶苦茶な理論だなぁ”と思ったがそれを言ったらまたサリーに怒られそうな気がしたのでツッコミはしないようにした。それから2人が向かったのは街の中にある衣装とかを売っている売店だった。

 

「え、サリー。こういう所で良いのか?てっきり俺は戦闘の方に興味があると思ったけど……」

 

「私が好きな服とかを選ぶのは変?」

 

「え、でも意外というか何というか……サリーってゲーム一筋でオシャレとかにはあまり興味無いものと……」

 

「んー、確かにそうかもね。……ちょっと前までの私なら多分今日もダンジョン攻略に連れ出したと思う」

 

セイバーはその言葉に驚きを隠せなかった。何しろ今まで幼馴染として誰よりも彼女を一番近くで見てきたセイバーだからこそいつもゲームばかりで他人から可愛いと思われるような服装とかには注意してこなかったサリーがいきなり変わった事について驚いていたのだ。

 

「サリー……もしかして俺のせい?お前が変わってしまったのって、俺が関係してる?」

 

「それはね……ナイショだよ」

 

セイバーが恐る恐る聞くとサリーはニコッと笑って答えを濁す。セイバーはその言葉にこれ以上聞いても無理だと考えて一旦置いておく事にした。つまり、まずはサリーとのデートを楽しむ事に決めたのである。

 

「あ、これとか可愛くない?」

 

サリーが手に取ったのは上下一体化しているワンピースであり、上が白、下が黒のスカートで試しにそれを試着するとサリーが若干恥じらいで赤くなりながらセイバーを見つめ、セイバーはそんなサリーに見惚れていた。

 

「どう?……私、可愛いかな」

 

「え?あ、ああ、可愛い……と思うよ」

 

「本当?セイバーはこれが似合うと思う?」

 

サリーがセイバーを真っ直ぐ見ながら問いかけてくる。セイバーはそれにしっかりと答えた。

 

「うん。可愛いよ」

 

それを聞いてサリーの顔は一層赤くなる。可愛いと言われて嬉しかったらしい。それから何度かサリーは着替えをしてセイバーへと可愛くなった自分を見せた。

 

「どう?私も頑張れば可愛くなれるんだよ?」

 

「そうだな、でも俺はいつものサリーも可愛いと思うよ」

 

「そうかな……」

 

サリーは幸せそうな顔であり顔を赤くしながらも笑顔を浮かべている。そんな中、セイバーの心境は複雑だった。

 

「(……サリーも、キャロルも、ヒビキも、ミィも、皆俺の事を取り合ってる……いつまでも俺が答えを出さないせいで……。俺がもっとちゃんとしていれば、もっと早く答えを出していれば)」

 

セイバーが考えている間にサリーは着替え終わりまた新しい格好を見せてきた。セイバーはサリーから声を何度かかけられてようやく我に帰り、返事をしたがサリーはセイバーの対応に先程まで赤かった顔が元に戻ってどこか悲しそうな顔をセイバーに向けた。

 

「ごめん……俺……」

 

セイバーは咄嗟に謝るが、それでもサリーの曇り顔は晴れない。これは完全にサリーに嫌な思いをさせてしまったようだ。

 

「良いよ。……セイバーにとって私がオシャレなんてしても眼中にすら無いってよくわかったから……」

 

「違っ……そういうつもりじゃ……」

 

「良いよ。無理に否定しなくても。どうせ私なんて……オシャレしても可愛くなんか無いから」

 

サリーの目から光が少しずつ消え始めるのを見てセイバーはやってしまったと思った。今のデートの相手はサリー。間違ってでも他の女子の事なんて考えるべきでは無かったのだ。サリーは服を元に戻すと沈んだ顔でセイバーの横を通り過ぎて出ていってしまう。

 

「サリー!待ってよ、俺は……」

 

「私の事なんて何とも思ってないでしょ。どうせ他の3人の事を頭に入れて私とのデートを濁そうとした。違う?」

 

セイバーはサリーからの言葉に否定しようとするが、サリーの顔はもうセイバーという人間に全く期待していなかった。

 

「……お開きにしよっか。どうせ私とのデートなんて楽しく無いでしょ。私もセイバーの事を忘れるから。私の事なんて捨てていいよ」

 

サリーはセイバーに背中を向けているのでその顔は見えないが、俯いており涙を流しているのか両手で顔を時折拭っていた。

 

「そんな一方的に……。俺はサリーとのデートを楽しみたくて……」

 

「もう良いって言ってるでしょ!!」

 

サリーが突然声を荒げてセイバーの方を振り向くと目には大粒の涙が浮かんでおり、絶望したようなサリーの顔だった。セイバーは今の彼女にはもう何を言っても受け入れられる気がしなかった。

 

「私のようなガサツで可愛げが無い女なんて嫌でしょ。私は昔からずっとセイバーの事が好きだった。それなのに……いつまでもそれを伝えられなくて、そんなはず無いと自分の気持ちに蓋をしてきた。その結果が今の現状。こうなるなら、さっさと告白して振られれば良かった……。こんな自暴自棄になる私の事なんて嫌いでしょ……」

 

セイバーはサリーの言葉に胸に手を当てるととても苦しかった。サリーはセイバーにとって大切な幼馴染だ。そんな幼馴染からそんな風に言われれば嫌でも辛い気持ちになってしまうだろう。

 

「ほら、早く言ってよ。私の事なんて嫌いだからもう近寄らないでって……そうしたら私は……セイバーを諦めるから」

 

半ば無理矢理セイバーの事を諦めようとするサリー、しかし彼女からはずっと涙が落ち続け、更に胸の辺りを苦しそうに押さえている。本当は諦めたくない。こんな事言いたいんじゃないという事がセイバーにもとても伝わってきた。

 

「サリー、俺はサリーの事を嫌いになんて……」

 

「嘘つかないでよ!!」

 

流石に何度もこだますサリーの叫び声に周囲のプレイヤー達も何事かとセイバーとサリーの方に注目する。セイバーはそれを見て不味いと思いつつここでこのまま彼女の心が壊れていくのを見るだけなのは危険だと感じたが、今自分がそれを言っても逆効果なので言い出す事ができない。セイバーはどうすることもできない自分に怒りが高まっていた。

 

「無理に私に合わせないでよ……私の事が嫌いなら嫌いって素直に言いなさいよ……」

 

セイバーにその気が無くても今のサリーはセイバーの言葉に全く耳を傾けようとしない。そんな中、メイプルが近くを通りかかると血相を変えて走ってきた。

 

「サリー、セイバー!?何でこうなってるの!?」

 

「メイプル……私……」

 

「セイバー、流石にこれは私も擁護が……」

 

「待ってメイプル勘違いしないで、事情だけでも聞いてくれ」

 

「取り敢えずギルドホームに戻るよ。話はそこで聞くから!」

 

メイプルは【機械神】を展開するとサリーを無理矢理乗せて飛び去り、ギルドホームに戻っていく。セイバーもそれを見て慌ててブレイブを呼ぶと同じくギルドホームへと移動した。それからセイバーがギルドホームに戻るとメイプルとサリー以外のギルドメンバーから疑惑の視線を向けられる。当然だ。サリーとデートしに行ったはずなのに彼女を泣かせる形で戻ってきたからである。

 

「ねぇセイバー、サリーに何をしたの?」

 

「返答次第では私でも許さないぞ」

 

そう言って冷たい目で見るのはカナデとカスミ。更にマイとユイもセイバーを睨んでいた。

 

「こんなつもりじゃ無かったんだ……。サリーが試着室の中で服を着替えている間に色々と考え事をして……」

 

「それでサリーを怒らせたのか」

 

「その考え事の内容は?」

 

「……自分が4人の中からちゃんと選べないことに不甲斐なさを感じていた」

 

セイバーの言葉にひとまずその場の全員はセイバーを疑う目を緩めた。これはセイバーだけが悪いわけでは無くなったからである。

 

「それならまだマシな方か」

 

「でもデート中に他の女の子の事を考えるのは確かに良く無い事だけどね」

 

「多分これはサリーの勘違いが大きいか」

 

「……でも俺がデートに身を入れなかったせいでサリーを悲しませたのならちゃんと謝りたい」

 

「今メイプルさんが慰めている所ですからそれが終わってからの方が良いと思います」

 

「すぐに行ってもサリーさんは耳を貸してくれないと思いますし」

 

セイバーはそれを聞いて拳を握りしめると何もできない自分に憤りを感じるのだった。

 

一方で泣きじゃくるサリーとそれを慰めるメイプルの方ではようやくサリーが落ち着いてまともに話ができるようになっていたのでメイプルが色々と聞いていく。

 

「ねぇサリー、本当にセイバーはサリーの事を嫌いなんて言ったの?」

 

「言っては無いけど……私が服を見せた時に全然反応してくれなかったし、何か考え事をしてるから私の事なんて眼中にすらないのかなって」

 

「………待って。それでセイバーの事を責めたの?」

 

「うん」

 

「それは……多分サリーの思い違いだよ?」

 

メイプルから言われてサリーは驚きを隠す事ができない。何しろデートの途中からずっとセイバーから嫌われてると思っていたからである。

 

「でも、セイバーは私なんかの事より他の事を考えていたから」

 

「それはもしかするとセイバーにしかわからない悩みだったのかもしれないよ?」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「あの時はサリーが泣いていたからセイバーには特に質問しなかったけど、本当はサリーの事も考えてくれてたと思う」

 

「でも……でも……」

 

するとメイプルがサリーの頭を叩き、サリーの曇った目を覚まさせようとする。

 

「メイプル……」

 

「私はちょっと怒ってるよ。サリーはそんなに自分の好きな人の事を信じる事ができない?サリーが好きになった人なんだからそう簡単にサリーの事を捨てたりはしないと私は思うな」

 

サリーはメイプルのおかげでようやく正気に戻ると同時に顔を真っ青にした。もし自分の勘違いならそのせいでセイバーをどれだけ傷つけてしまったのだと思ったからである。

 

「私……最低な女だ。ちょっと考えればわかる事なのに、セイバーの周りの女達が距離を詰めたぐらいで焦って……どうしてセイバーにあんなに酷い言葉をかけたんだろう……。これじゃあ本当にセイバーは私の事を嫌いになるだけなのに」

 

サリーは嗚咽を漏らし始めるとズキンズキンと痛む胸を押さえて下を向く。もうどうする事もできないと考えてネガティブな思考に陥ってしまったのだ。

 

「落ち着いてサリー、セイバーの事だから多分大丈夫だよ。サリーの勘違いもちゃんと受け止めてくれるから……ね、一緒に謝ろう?」

 

「無理よ、もう私の言うことなんて聞いてくれない……。私の事なんて嫌いになったに決まってる」

 

「………それじゃあさ、実際に本人に確かめてみる?」

 

「え……」

 

メイプルが何かのメッセージを受け取ると部屋の扉を開ける。するとそこに立っていたのは我慢しきれずにサリーの元にやってきたセイバーだった。

 

「セイバー……」

 

サリーが気まずそうにセイバーの方を向くとセイバーはいきなり頭を下げて謝った。

 

「ごめんサリー。せっかくサリーが2人きりのデートに誘ってくれたのにサリーの気持ちをちゃんと考えずに他の女子の事を考えていた。……普通に考えて最低だよな。サリーが怒るのも無理はない。俺が悪いから自分を責めないで欲しい」

 

セイバーがそう言うとサリーは目を見開く。まさかここまで言われるとは思わなかったからだ。しかもセイバーは一度もサリーを責めなかった。サリーも慌てて答えを返す。

 

「何言ってるの?顔を上げてよセイバー。私が、私が勘違いしたばかりにこんな事になったのに。セイバーには沢山酷い言葉を投げかけた。セイバーは自分を責めないでって言うけど、私には無理だよ……ちょっと勘違いしたぐらいでセイバーに八つ当たりして……私ってば最低よね」

 

「サリー……」

 

セイバーはサリーに言われて顔を上げるとサリーの目には再び涙が浮かんでおり、再びパニックになりかけていた。もう自分なんてセイバーの相手には相応しくないとかまで言い出す始末である。このままでは話にならない。そう思ったセイバーはある行動をする事にした。

 

「私は、私はセイバーの気持ちもわかっていたのに、セイバーが私達との関係で悩んでいる事は前々から知ってた。セイバーが悩むことぐらい想像できるのに……ふぇ!?」

 

 

サリーが謝る途中でいきなりセイバーはサリーを抱きしめると優しく背中をさすった。

 

「ちょっ、え、セイバー……何で?私、まだ心の準備が……」

 

「サリー、言っただろ?自分を責めないでくれって。正直あんな事言われて俺が怒ってないかと言われたら嘘になるかもしれない。ただ、それでもサリーには笑顔でいて欲しい。だってサリーは大切な幼馴染だから」

 

「セイバー……でも私にはもうセイバーの恋人候補の資格なんて……」

 

「資格があるとか無いとか誰が決めたの?勝手にサリーが思い込んでるだけじゃん。とは言ってもさっさと決めなかった俺にも責任はあるからあんまり言えないんだけどな」

 

「それでも私はセイバーを傷つけた。しかも公衆の面前で。その償いをしないと気が済まないよ……」

 

「じゃあ償いをしたいと思ってるのなら……もう一度デートをやり直そう」

 

「え?」

 

セイバーからの思わぬ提案にサリーは驚く。そんなサリーの事をセイバーは優しく笑って見つめた。

 

「今度は俺もちゃんとサリーの事だけを見るって約束する。だってさ、他の3人がちゃんとデートをやり遂げたのにサリー1人だけが途中中断だなんて不公平だろ」

 

「そうだけど……」

 

「不安?また俺の事を傷つけたりしないかとか考えてる?」

 

セイバーの問いにサリーは無言で頷く。サリーはお化けの次にセイバーに嫌われる事が怖かったから。

 

「安心して。俺はそんな簡単にサリーの事を嫌いになんかなったりしないから」

 

「ごめんセイバー……ありがとう」

 

サリーはそう言うとセイバーへと抱きつき返すとそのままセイバーの唇に自分の唇を重ねる。

 

「セイバー、あなたの事が好き。私はあなたを愛してます」

 

サリーはようやく自分の口から告白の言葉を言う事ができた。セイバーはそれにニコッと笑って頷く。

 

「知ってるよ……ずっと前から」

 

セイバーはそれからサリーを連れて部屋から出るとギルドメンバーに迷惑をかけた事を2人で謝ってからサリーが完全に落ち着くのを待って再び2人で外に出る。

 

「サリー、どこか行きたい所はある?」

 

「私は……」

 

サリーはセイバーに答えを返そうとするがその口を閉じてしまう。まだ怖がっているのだ。セイバーの機嫌を損ねたら自分は嫌われるんじゃないかと。

 

「サリー、大丈夫だよ。サリーが行きたい所に俺はちゃんと着いていくから」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

サリーはセイバーを連れて九層から久しぶりに一層にまで移動するとずっと前に行ったカフェに足を運ぶ。

 

「サリー、ここで良かったの?」

 

「うん……九層には知り合いとかが結構いるから今はあまり他の皆にはこんな私は見られたく無い」

 

セイバーはサリーの気持ちを汲むと食べたい物を注文してそれが来るのを待ちながら話をする事にした。

 

「ねぇ、サリー。俺達さ、このゲームを始めてからいろんな事をしたよね」

 

「そうだけど……」

 

「最初はサリーが無理矢理勧めてきて始めてさ。俺も正直な所、最初の方はやらされた感があったんだけど強い装備を手に入れてそれから第1回イベントで2位を取ってそこからは楽しくなってこのゲームにハマっていったんだ」

 

「そう、だったんだ」

 

「だからこのゲームに出会えたのはサリーのおかげでもある。もしサリーがいなければすぐにこのゲームはやらなかっただろうしやってももう少し遅かったと思う」

 

サリーはセイバーの話を聞きつつ自身も言いたい事を口にし始める。

 

「私が合流した頃にはメイプルやセイバーとの差が開きすぎて追いつくのに苦労したなぁ」

 

「何言ってんだよ。まだ追いついてねーだろ。偽物の俺達にしか勝ってないのに」

 

「あー、第2回イベントで出たドッペルゲンガーね。アレは正直倒すのに苦労した」

 

それから2人はギルド結成、第3回イベント、ヒビキとマイ、ユイの加入、第4回イベントとこれまでの軌跡を語っていく。

 

「第4回イベントではサリーが物凄い無茶するから俺達は皆心配してたんだぞ」

 

「それでセイバーが疲れて弱った私を守ろうとして怒ってくれて……嬉しかったな」

 

サリーは若干顔を赤くしながらそう言う。サリーにとってあの時自分を助けてくれたセイバーの行動は彼女の心を撃ち抜くには十分だった。更に2人は順を追いながらこの世界でやってきた事を一つずつ話していく。

 

「……こうして振り返るといろんな事をしてきたよな。勿論これからもいろんな事をするつもりだけどさ」

 

「そうだね。私だってもっとこの世界で楽しみたいもの」

 

「でもさ、その前に俺はちゃんと答えを出さないといけない。サリーもそれを待っているんだろ?」

 

「うん」

 

「……俺の選択次第ではサリーの事を選ばないかもしれない。それでもサリーは俺の友達でいてくれる?今までと変わらずに接してくれる?」

 

サリーはそれを聞いて考え込んだ。やはり選ばれないというのはどうしても心苦しいのだ。だがそれはキャロル、ヒビキ、ミィも同じなのだ。誰が選ばれたとしてもセイバーを責めることはできない。責めてはならないのだ。

 

「私も覚悟はできてる。もしもセイバーが私の事を振っても私はセイバーの側にいるよ……友達として、幼馴染として……」

 

そう言う彼女の目からは今日何度目かわからないほどに涙が溢れていた。やはり彼女としても選ばれないのは苦しく、辛く、悲しいのだ。セイバーはサリーの流すその涙を止めさせる資格は無い。何故なら彼女を振れば彼女と付き合う可能性は殆ど無いからだ。むしろ前よりも関係が遠のくだろう。そしてそれは他の3人も同じ。

 

「ミィとの約束の日まで……いや、俺が4人への答えを出す日まであと少し。俺がどんな答えを出してもちゃんと受け止めて前を向いてくれるって約束してくれる?」

 

「うん……」

 

サリーは涙を拭いてから頷く。サリーも完全に覚悟を決め、もうセイバーの前ではこのようなみっともない姿を見せないようにするつもりだ。

 

「それじゃあデートの続きをしようか」

 

「良いよ。私が次に行きたいのは……」

 

それからセイバーとサリーは2人でサリーの行きたい場所を巡るのだった。その頃、セイバーの影の中ではデザストがその様子をセイバーの影の中で文字通り陰ながら見届けていた。

 

『ったく、セイバーの野郎勿体振りやがって……ぐ!?』

 

デザストが体を見ると少しずつ薄れ始めており、いよいよ寿命が迫っている様子だった。しかし、セイバーはまだこの異変に気づいていない。デザストの命は保ってあと数日。そしてそのデザストの命の期限はセイバーがミィと約束した日よりも早い。これはつまり、彼の望みであるセイバーの決意を自分の目で見る事ができないのだ。

 

『もう本格的にヤバイかもな。だが、まだ死ぬ訳にはいかねぇ。まだ俺はやり残した事がある……。それを成し遂げるまでは……死ねないんだよ』

 

デザストの目はまだ死んでいない。むしろこれからが本番とばかりの顔つきだ。果たして彼が何をするのか。それを知るものは誰もいなかった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと試練5

サリーとのデートから数日。セイバーはギルドホームでマイ、ユイの攻撃特化の極振り組が悩むのを見ていた。

 

「うぅ………どうしよう」

 

「やっぱり私達だけだと無理なのかな……」

 

2人が悩んでいるのはセイバーも挑戦している裏ボスへ挑戦するための試練についてである。マイとユイは裏ボスに挑戦するつもりはあまり無いが、少しでもレベルアップとプレイヤースキルを磨くためにアイテムを手にするためのクエストには挑戦している。しかし、今までそれをクリアできたのはメイプルがいるからであり、彼女がいなければ勝つことができない自分達の弱さに頭を悩ませていた。

 

「どうしようユイ」

 

「メイプルさんは今日は来れないって言ってるし」

 

「あの……2人共大丈夫?」

 

「「セイバーさん」」

 

「俺で良かったら手伝おうか?」

 

「良いんですか?」

 

「でもお姉ちゃん、セイバーさんに手伝ってもらったらせっかく2人だけで挑戦するつもりだったのに……」

 

「そうだよね……どうしよう」

 

2人はセイバーに手伝ってもらうのを躊躇していた。2人としてはセイバーに手伝ってもらう事には彼に悪いと思って躊躇を感じており、なかなか踏み出せずにいる。

 

「俺は別に悪いとは思ってないからさ、2人が攻略したい場所を教えて」

 

「それじゃあ……」

 

「すみません、お願いします」

 

2人はセイバーに頭を下げるとセイバーは笑って了承し、2人を連れてギルドホームを出てブレイブに乗り、空を飛ぶ。マイとユイのAGIが低いので3人揃って手っ取り早く移動するにはこれが一番なのだ。

 

「それで、2人が攻略失敗した場所は?」

 

「えっと、ここです」

 

マイがマップの一点を指さすとセイバーはそれを見て自分が攻略していない場所だという事を確認、快く了承する。もっとも、自分が一度攻略した場所だとしても2人のために攻略するつもりだったが。

 

「良し、到着だな」

 

セイバーがブレイブを下ろすと3人も地面に降り立ち、早速挑戦しようとする。すると丁度タイミング良くもう一つの手が伸びてきた。

 

「「え?」」

 

セイバーともう1人の声が重なる。セイバーがその方を向くとそこにいたのは【炎帝ノ国】のメンバーであるパラドクスとシンだった。

 

「パラド、シンさん」

 

「偶然だなぁ……君達もここの攻略に?」

 

「そんな感じです」

 

「それなら一緒に攻略しようぜ。セイバーと久々の共同戦線だ。それに、マイとユイもいるしな」

 

「2人はそれでも良い?」

 

「「はい!!」」

 

こうしてパラドクス、シン、マイ、ユイの4人と共にセイバーはダンジョンの中へと突入するとそこには1人の青年が立っていた。

 

「お、いきなりボス戦か?」

 

『お、どうやら挑戦者が来てくれたみたいだな。俺としては挑戦を拒むつもりは無いが……まずはお前らがどのくらいできるかテストしてやるよ』

 

NPCと思わしき人物がそう言うとどこからともなく銀のメダルとベルトを取り出してベルトを腰にセットする。

 

『俺の名はアキラ。ま、よろしくな』

 

そう名乗った人物が銀のメダルをコイントスの要領で弾くとそれを掴みメダルをベルトに入れ、ガチャポンのような部分を回すと中央のカプセルが開く。

 

『変身!』

 

するとアキラが緑のエネルギーフィールドに包まれ、その体の至る箇所に球体がくっ付き、そこから装甲が生成される。そうして体を機械仕掛けの鎧姿に変化させ、戦闘態勢を整えた。

 

「姿が変わった……」

 

『こっちの姿の名前はバース。それじゃあ、お仕事開始だ!」

 

早速バースが走ってくるとセイバーへと攻撃を繰り出す。

 

「錫音抜刀!」

 

それに対してセイバーは錫音を抜刀して攻撃を錫音で防御。すかさず攻撃に移ろうとするが、バースはもうすでに回し蹴りの態勢に入っており、セイバーはそれをまともに喰らった。

 

「攻撃から次の攻撃までの速度が早い。これがコイツの能力か」

 

「いえ、これはあくまで前座です」

 

「……は?」

 

ユイからの言葉にセイバーは疑問符を浮かべる。何故ならこのままでもボスとしては十分強いからだ。この上何があると言うのか。

 

「戦えばわかります。私達が負けてしまった理由が……」

 

『まずはこれで行くか』

 

【ドリルアーム!】

 

バースがメダルをベルトに入れてガチャポンを回すと右腕にドリルを模した武器が生成されて武装。そのままドリルで攻撃を仕掛けてきた。

 

「く!?」

 

そのドリルの威力は強力でターゲットにされたシンが盾で受け止めるが、たった一撃で盾の耐久値をそれなりに削るほどだった。

 

「嘘ぉ!?」

 

「だったら俺が!【マックス大変身】!」

 

パラドクスがパズルとファイターの力を同時に発動させると右手にパラブレイガンを手にする。

 

「行くぜ。【マッスル化】、【鋼鉄化】!」

 

パラドクスが斧の刃を鋼鉄にし、自身の筋力を上げて一気に攻撃しようとするが、バースはそれを簡単に躱し、ドリルアームを解除すると次の武装を使用した。

 

【キャタピラレッグ!】

 

今度はバースの両足にキャタピラの力を使った武装が展開。そのままマイとユイへと蹴りを繰り出す。

 

「【スナックウォール】!」

 

セイバーが咄嗟にマイとユイの目の前にお菓子の壁を出現させて攻撃を辛うじて凌ぐ。

 

「今だ!」

 

「「はい!【ダブルストライク】!」」

 

2人による一撃必殺の大槌による一撃はバースに命中……する事なく回避されてしまう。

 

「嘘だろオイ。あのタイミングでも当たらねーのかよ」

 

「だったら、【崩剣】!」

 

今度はシンが【崩剣】を使うことによる範囲攻撃を仕掛ける。今度こそバースは攻撃を受けてダメージを負った。しかし、あまり大したダメージにはならなかったが。

 

「これは、アイツには恐らく範囲攻撃が有効だ。逆に近接攻撃は効かないと思った方が良い!」

 

「だったら、【範囲拡大】、【爆風付与】!」

 

【カッターウイング!】

 

パラドクスはパラブレイガンを銃モードにして連射攻撃をする。するとバースは直撃を嫌がって空へとジャンプしつつ機械仕掛けの翼を背中に付けて空へと飛ぶ。

 

『ここまで来れるかな?』

 

「舐めるな!ブレイブ、【覚醒】!」

 

セイバーはブレイブに乗ると空へと飛ぶ。更にシンも崩剣を数個合体させてできた足場に乗ると空中へと浮かぶ。

 

「ブレイブ、【火炎弾】!」

 

「【風刃剣】!」

 

セイバー、シンがバースと壮絶な空中戦を繰り広げる。この戦いはセイバーとシンが手数でバースを圧倒し、一気に攻め立てる。

 

そうしているとバースのHPが8割となり、一度目のパターン変化を行う。

 

『やるね。だったら!』

 

【ブレストキャノン!クレーンアーム!カッターウイング!キャタピラレッグ!ショベルアーム、ドリルアーム!】

 

するとバースは胸に固定砲台、右肩から右腕にクレーンの武器、右腕の先端にドリルの武装、左腕にショベルを模したアーム、両足に先程のキャタピラの装甲、背中に引き続き武装した翼の6個の武装を付与して強化された形態、バースディにパワーアップ。

 

『これならどうだ!』

 

バースは固定砲台にエネルギーを高めると連射式のエネルギー弾を連発発射。セイバー達は何とか躱すとセイバーは銃にした錫音を撃ちまくる。しかし、先程よりも防御力が上がっているのか全く通用していない。

 

「マイ、ユイ!」

 

「「【飛撃】!」」

 

そこでマイとユイの高威力の衝撃波で攻撃するものの、バースはそれを徹底して避けてしまう。どうやら確実に耐えられる攻撃は受け止め、オーバーダメージになる攻撃は回避するAIのようだ。

 

「マジかよ……」

 

「どうしましょう」

 

「攻撃を続けてくれ。マイ、ユイ。フォローは俺とシンさんがやる」

 

「ちょっ!?」

 

「マイとユイが攻撃している間は向こうもロクに反撃して来ない。なら、2人は敢えて攻撃を続けてバースの動きを制限する。その隙にパラド、お前が決めてくれ」

 

「わかった」

 

「しょうがねーな」

 

シンとパラドクスはやれやれと言わんばかりに自分の役割を果たしていく。

 

「【マッスル化】、【高速化】、【ノックアウトスマッシュ】!」

 

パラドクスは超スピードでバースに接近すると火力の上がった拳を叩きつけてバースに大きなダメージを与える。しかし、セイバーの予測通りまだ耐えていた。

 

「やはり耐えられる攻撃を受ける感じだな。こうなると、耐えられなくなった時は回避に専念するのかな?」

 

『だったらこれだ!』

 

バースが右腕のクレーンを伸ばし、先端のドリルでセイバーを貫こうとしてくる。

 

「【シャウトスラッシュ】!」

 

セイバーがドリルをエネルギーの斬撃で押し留めるとそこにマイとユイの【飛撃】が飛んでいく。

 

それを見たバースが胸の砲台を最大出力でエネルギー砲を放つとマイとユイの【飛撃】を相手に拮抗。互角にまで持ち込んだ。

 

「アレを相手に互角とか」

 

「いや、だが今がチャンスだ」

 

「【パーフェクトノックアウトボンバー】!」

 

パラドクスが今出せる最大火力によるドロップキックを放つとそれはバースに命中HPが6割となり次のパターンへと変化する。

 

「ここまでは私達でも来れました……」

 

「けど、ここからは何度やっても無理だったんです」

 

次の瞬間、バースへと大量の銀メダルが投入されると体に付いていた武装が分離してそれが合体。機械仕掛けの巨大なサソリを形成した。

 

「何じゃこりゃ!?」

 

『これがバースのとっておきだ。行くぜ!』

 

バースが拳を繰り出すとサソリはそれに呼応して攻撃を繰り出してくる。

 

「【音弾ランチャー】!」

 

セイバーがサソリの攻撃を押し留めつつマイとユイにサソリの破壊を指示。それと並行してシンとパラドクスがバースを直接攻撃する。

 

「流石に同時の対処は無理なはず……」

 

『オートモード、オン』

 

その瞬間、サソリは自動でマイとユイの大槌を躱しつつドリルの付いた尻尾による刺突を放つ。それはセイバーが受け止めるが、そのパワーは高くセイバーは吹き飛ばされてしまった。

 

「が……」

 

「セイバーさん!」

 

「【救いの手】!」

 

そこでユイは装飾品枠をチェンジし、8本の大槌を装備する最強状態に変化。それに倣ってマイも同じようにし、サソリを合計16本の大槌による一斉攻撃で粉砕する。

 

「「やった!」」

 

「……ッ!?待て、まだだ!」

 

セイバーがそう言うと粉々にされたはずのサソリが一瞬にして復活してしまう。

 

「何で……」

 

「まさか、バースを倒さない限りコイツは不死身か」

 

「そう言うことだ!」

 

バースはその間も容赦なくパラドクスとシンを相手に戦っている。しかも、武装を分離したことで防御面は低下したがまた機動力が上がり2人がかりでも対応は難しいだろう。

 

「こうなったら、マイ、ユイ、2人はバースの方に行ってくれ」

 

「でもそれじゃあセイバーさんが」

 

「今は素早くバースを倒す事が先だ」

 

「わかりました!」

 

マイとユイはセイバーがサソリを相手している間に急いで移動し、セイバーはただ1人でサソリの注意を引きつける。

 

「行かせねーよ【ロック弾幕】!」

 

「シン、バースの動きを止めるぞ」

 

「おう!【崩剣】!」

 

シンが再度【崩剣】によって剣の絶対数を増やしてバースの動きを封殺。そのままパラドクスが1対1で激しく攻め立てる。

 

「【大変身】!」

 

パラドクスは敢えて出力を落とした姿である魔王の姿となると魔法を使いつつ剣での攻撃にシフトチェンジ。

 

「【封殺の鎖】!」

 

パラドクスが手を翳すとバースの周囲に鎖が出現して両手両足を鎖で暫り動きを止めさせた。

 

『やべっ』

 

「【タドルスラッシュ】!」

 

パラドクスが紫の竜巻にバースを閉じ込めてから彼を切り裂く。更にシンからの【崩剣】での攻撃がバースの体を切り刻みHPを僅かだが減らす。

 

「マイ、ユイ、今だ!」

 

「「はい。【ダブルスタンプ】!」」

 

そこにマイとユイによる16連撃がバースへと叩きつけられる。これによりバースのHPは残り4割にまで減ったが、そこでHP減少は止まってしまう。

 

「嘘!?」

 

「形態変更のためにHP減少も強制停止か」

 

その瞬間、セイバーが相手にしていたサソリの動きが停止し、バラバラに分解される。それを見たセイバーは4人の方に寄っていく。

 

『あははっ……やるな。だが、これはどうかな?』

 

バースは手に拡張パーツのような物を手にするとそれをベルトの左側に合体させる。そして、3枚の色付きのメダルを取り出す。

 

『遊びは終わりだ。これで決めてやるよ』

 

バースはそう言ってメダルを一枚ずつ拡張パーツのスロットに入れていく。

 

【エビ!カニ!サソリ!】

 

バースが3枚のメダルを入れてから再び右側のガチャポンを回してカプセルを開けると今度は青いエネルギーフィールドに包まれていく。

 

【ババーバ・バースゥ!バーバーバーバース!エ———ックス!ソカビ! 】

 

するとバースの前に先程入れたエビ、カニ、サソリのメダルが出てくるとそれが体の装甲に入っていく。そうして形成された新たな装甲はバースの装甲を遥かに上回る性能でバースの更なる形態として降臨したのだった。

 

『コイツはバースX。さて、ここからが本番だ』

 

バースがそう言うと手にバースバスターと呼ばれる銃を持ち、5人を相手に戦いを始めた。

 

「コイツ、さっきまでとはまるで力が違う」

 

「しかも、防御面も向上してるのかあんまりダメージにならない」

 

「私達の攻撃なら!」

 

そう言ってマイとユイが16本の大槌を振りかぶるが、すぐにバースは距離を取って回避。先程よりも機敏な動きで5人と渡り合っていた。

 

「やはりボスの中の一体。手強いな」

 

「【超音波】!」

 

セイバーが【超音波】でバースの動きを抑えようとするが、それもまるで効いていない。

 

『これで一気に倒してやるよ』

 

バースはそう言うとベルトに入れた3枚のメダルを一度抜くと順番を変えて3枚装填。再びガチャポンを回した。

 

【カニアーム!】

 

するとバースの右腕にカニのハサミを模したキャノン砲を展開し、そこにエネルギーをチャージする。

 

『喰らえ』

 

【カニ!コアバースト!】

 

するとカニアームからエネルギー弾を連射。セイバー達はセイバー、シン、パラドクスがマイとユイの盾になってダメージを受ける事で何とか凌ぐが、あまり何度も凌げる物ではないことは全員がわかっていた。

 

「どうする?このままだと間違いなく負けるぞ」

 

「……こうなったらマイとユイに何としてでも攻撃を当ててもらいます」

 

「それができたら苦労しねーよ」

 

「パラド、シンさん、戦艦の装備と崩剣で逃げ道を制限してください。俺がその瞬間にバースを羽交締めにします。そこでマイとユイは一気にトドメを」

 

「わかった」

 

「「お願いします」」

 

「おう」

 

5人は作戦を決めるとまずはそれに持っていくために行動を開始。

 

「【大変身】!」

 

まずはパラドクスが戦艦の装備に変化するとバースと撃ち合いを始める。更にシンは崩剣を飛ばしてバースの気をできる限り散らしていく。

 

「【飴玉シュート】!」

 

そこでセイバーがバースの足元に粘着する弾丸を放ちバースの足を停止させる。

 

『無駄だ!』

 

【エビレッグ!】

 

するとバースの足にエビの尻尾を模した砲台が設置され、その余波で粘着液は吹き飛ばされてしまう。

 

「想定通り!」

 

「【バンバンファイア】!」

 

【サソリキャノン!】

 

【ソカビ!コアバースト!】

 

バースはパラドクスの一斉斉射に対応するために胸にもサソリを模した大砲を装備し、こちらもエネルギー砲の一斉発射で対抗する。2つのエネルギー波や砲弾はぶつかり合い大爆発を起こすと周囲に煙を発生させる。

 

「はあっ!」

 

そこに【崩剣】によるシンからの手数攻撃がバースを切り刻み、ダメージを与える。バースはこれにすかさず反撃しようとするが、そこにセイバーからの羽交締めが決まりバースの動きを封じ込んだ。

 

『!?』

 

「今だ。マイ、ユイ!決めてくれ!!」

 

それと同時に煙を突き破ってマイとユイの姉妹が肉薄。そのまま16本の大槌による連続攻撃がバースへと思い切り叩きつけられるとバースは堪らずHPが一瞬にして消し飛ばされた。

 

「やったか?」

 

「まだだ!コイツ、耐えているぞ!」

 

セイバーがそう叫ぶとバースはHPを僅かに残して耐えていた。普通ならばマイとユイの攻撃を耐えるのはほぼ不可能。しかし、バースはまたもや確定生存効果で耐えてきたのだ。

 

『甘いな』

 

バースはセイバーを強制的に振り解くと一番ダメージを与えた事でターゲットがマイとユイへと向き、彼女達は狙われてしまう。

 

「く、間に合え!【ビートブラスト】!」

 

セイバーは体勢を崩しながらも極太のエネルギービームを放ちバースを貫いてダメージを与える。しかし、それでも倒し切るには至らない。マイとユイに目掛けてバースからの拳が迫る。

 

「仕方ない。エム、【覚醒】、【擬人化】、【マックス大変身】!」

 

パラドクスはエムを呼び出すとその姿を人間の形に変えさせてマイとユイの間に割って入らせる。

 

次の瞬間、エムに拳が命中するが変身の瞬間に発動する無敵時間で防ぎ、カウンターとしてエムの拳が叩き込まれる。そこにセイバーからの斬撃によってようやくバースにトドメが刺され、ようやく勝利する事ができた。

 

『見事だぜ。じゃあな』

 

バースは爆散すると宝箱が置かれて消滅。宝箱を開けるとそこにはコブラ、カメ、ワニの3種類のメダルが人数分あった。

 

「……あれ?ここだけは倒した奴が使ってたメダルじゃねーんだな」

 

「まぁ良いんじゃね?勝てたんだからさ」

 

「「セイバーさん、パラドクスさん、シンさん、手伝っていただきありがとうございました」」

 

双子は綺麗なお辞儀で感謝の意を示すと3人はそれぞれ頷く。それから5人は元のフィールドに戻るとパラドクスとシンはギルドホームに戻ると言い、その場を後にしていく。

 

 

〜運営視点〜

 

「俺達が作ったボス達相手にも次々にクリア者が出てくるなぁ」

 

「まぁ良いんじゃないか?今回の目玉はどちらかといえば裏ボスの方だし」

 

そう話すのは今回のボスを作った面々だ。どうやら今回特に力を入れたのはセイバー達が次々と攻略していくボスでは無く本命の裏ボスの方のようである。

 

「取り敢えず、ここは成り行きを見守るしか無いだろう。それはそうと、次のイベントの準備はできたか?」

 

「すみません。まだボスの調整に難航していまして……」

 

「今回のイベントは以前やった第7回イベントと同じで塔攻略にさせる予定だが……仕様は一部変えてある」

 

「でも良いんですか?最高難易度についてはプレイヤーから文句が出ても知りませんよ?何しろ、過去最高難易度でプレイヤーにクリアさせるつもりはほぼ無いレベルですから」

 

そう話す1人の運営陣のメンバーはイベント用のボス作りに携わった者である。次のイベントの難易度は過去最高と言える程の出来なのだ。

 

「そのくらいはしてもらわないと【楓の木】や【集う聖剣】、【炎帝ノ国】を筆頭にした強ギルド達に最高難易度を簡単にクリアされてしまうだろ」

 

今回は運営陣も本気の本気でボスを作り、並のプレイヤーは絶対クリアできない程の力を持ったボスを生み出している。

 

「まぁ今回は保険として難易度は後からでも変えられるようにしたしな」

 

「文句は多少出るかもしれないが……見てみたいと思わないか?我々が作る最凶クラスのボスと最高レベルのプレイヤー達が凌ぎを削って戦う姿を……」

 

「それもそうだな」

 

「良し、これから暫くは残業続きだが、このボスを完成させてイベントを成功させるまで頑張ろうぜ!」

 

「「「「「おーう!!」」」」」

 

こうして本日もブラックな運営達の仕事は続き、今後出されるイベントの日まで彼等の頑張りは続くのであった。

 

〜セイバー視点〜

 

セイバーとマイとユイの3人はシンやパラドクスと別れた後、マイとユイがこの後家の用事があるという理由でゲームから離脱。やる事が無くなったセイバーはどうしようかと悩んでいた。

 

「さてと、どうしようかな……とは言ってもまだ時間はあるし、このままもう一体攻略するのもアリかな……」

 

セイバーがそう言っていると彼の影からデザストが出現。セイバーの前に立ち塞がると剣をセイバーの喉元に突きつけた。

 

「デザスト……何のつもり?」

 

『俺と戦え、セイバー。俺とお前の決着をつけよう』

 

突如として現れたデザストにいきなり言われた決闘の申し込み。果たして、デザストの心中は如何に……。

 

 

デザストの命のタイムリミットまであと………。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと友との別れ

セイバーが5つ目の試練を終えた直後、突如としてデザストが出てくるとセイバーの喉元に剣を突きつけて彼はセイバーへと決闘の申し込みをした。

 

「デザスト……何のつもり?」

 

『俺と戦え、セイバー。俺とお前の決着をつけよう』

 

「……デザスト、俺とお前は今までずっと一緒に戦ってきた。それなのに何でこんないきなり決闘なんだ?どうしてそこまで焦る」

 

セイバーは冷静に返すが、デザストの方は苛立ちを募らせていた。何しろセイバーは知らないが、デザストには時間が無いのである。やりたい事は早くやらなければもうすぐ自分の命の限界が来てしまうからだ。

 

『お前、わかってるんだろうな?アイツらに答えを返す日が明後日にまで迫ってる事を』

 

この時点でミィとの……いや、4人の女子との約束の日である答えを出す日は明後日にまで近づいている。つまり、もう答えが出ていないといけない時間なのだ。

 

「わかってるよ。けど、俺はまだ……」

 

『チッ……このヘタレが!』

 

次の瞬間、セイバーはデザストに組み伏せられる。セイバーはそれを抵抗もせずにまともに喰らった。

 

『お前、良い加減にしろよ!何がちゃんと答えを出すだ!そんなんで良いと思ってるのか!』

 

「く……でも俺はアイツらの幸せを考えてどう答えを出すのが正解か考えているんだ!お前も誰かに告白されればわかるよ!」

 

『言うに事欠いて言い訳か!』

 

セイバーとデザストの空気は少しずつ険悪になっていく。セイバーはデザストが思っている以上に悩み、考えていた。どうすれば彼女達が納得のいく答えになるのか。それを考えるのに精一杯なのだ。

 

『ッ……俺は、俺にはもう……』

 

「……時間が無いってか?」

 

セイバーの問いにデザストの答えは詰まった。セイバーに見抜かれているとは思っていなかったからである。

 

「何で相談しなかった……」

 

『俺はお前に要らない気を使わせたくねぇんだよ!』

 

デザストとしては今一番悩んでいるセイバーに心配をさせないために黙っていたのだが、セイバーはその事に関して憤りを感じていた。もっと早く自分に相談していれば何か解決策を見出せたかもしれなかったからだ。

 

「ふざけんなよ。お前、勝手に死にかけてそれを誰にも相談しないとか有り得ないんだけど!」

 

『あぁ!?それをお前に言われたくねーよ!』

 

「……決闘は受けてやる。死にかけのお前で俺を楽しませられるかわからねーが、そんなに死に急ぐなら俺が引導を渡してやる」

 

セイバーの目は本気だった。それを見たデザストも満足そうな表情で頷くと一旦場所を移すことにし、ギルドホームへと戻っていく。それからギルドホームの訓練場に入るとそのまま入り口に“立ち入り禁止”という紙を貼った。

 

「これで邪魔は入らない。思う存分やり合おう」

 

『ああ……』

 

「が、その前に……」

 

セイバーはインベントリから無銘剣虚無を取り出すとデザストへと投げ渡した。

 

『あ?何のつもりだよ』

 

「お前の本気を出してもらうために渡したんだ。それがあれば変身できるんだろ?本気になれよ」

 

『チッ……俺の体はもう変身に耐えられるほど万全じゃねーんだ。だが、折角お前に貰った力だ。俺が勝ってもこの力のせいにするなよ』

 

「わかってる……翠風抜刀!」

 

セイバーは翠風を抜刀すると風双剣翠風を二刀流では無く一刀流の状態で構えた。

 

『おいおい、お前こそ翠風でやるのか?聖刃を使えよ。俺を舐めてるのか?』

 

「お前相手だからこそだ」

 

『そうかよ』

 

2人はそれぞれ剣を構えると相手へと剣先を向けて威嚇し合う。それから一呼吸置いて、2人の剣は激突するのだった。

 

その頃、丁度ギルドホームにログインをしたサリーとヒビキ。2人はこの日、一緒に裏ボス攻略のためのボス戦を協力してやろうとの事でタイミングを合わせて入ってきたのだ。

 

「タイミングバッチリだね、ヒビキ」

 

「サリーお姉さんも。それじゃあ早速行こう!」

 

2人がギルドホームを出ようとするとそこにギルドホームのインターホンが鳴り響き、不思議に思ったサリーとヒビキが出ていくとそこにはキャロルとミィが揃っていた。

 

「サリーにヒビキか」

 

「今、セイバーはいる?」

 

「セイバー?見てないけど……」

 

「本当か?ついさっきギルドホームへと入る所を見て、それから出てきていないんだが……」

 

「「え?」」

 

どうやら2人はセイバーに用事があって来たらしい。しかし、肝心のセイバーがいないのでは意味が無い。サリーとヒビキは一旦2人の要件を聞くために中に入れる。

 

「セイバーかぁ……私達が来た時にはいなかったけど」

 

「でも、おかしいですよね?多分ミィさんとキャロルさんが見たのは私達が入る直前ですから入れ違いでログアウトしたのならわかりますけど、今フレンド機能で見るとログイン中なんですよね」

 

「そうだな。それならこのギルドホームのどこかにいると思うのだが」

 

4人が心当たりが何か無いか考えているとすぐにある答えに辿り着いた。

 

「「「「訓練場とか!」」」」

 

4人は見事に声を揃え、それからすぐに全員で移動するとそこには入り口に“立ち入り禁止”と書かれた紙が貼ってあり、誰かが使っている事を示していた。

 

「これ、絶対セイバーだろ」

 

「他の皆は出かけているかログインしてないからね」

 

「ひとまず、入ってみます?」

 

「待って、“立ち入り禁止”ってあるのなら取り込み中なのかも。もし入って邪魔をしたらどうなるかわからないよ」

 

「今はセイバーが出てくるのを待つしか無いと思う」

 

「そうね……」

 

それから4人はそれぞれの予定を変更してセイバーがいるであろう訓練場から離れてゆっくりとセイバーが出てくるのを待つことにした。

 

サリー達4人が外で自分を待っている事など梅雨知らずのセイバーはデザストと激しい斬り合いを繰り広げている。

 

「おらっ!だあっ!」

 

『喰らうか!』

 

セイバーからの振り下ろしをデザストは虚無で受け止めつつ蹴り上げてセイバーを退け、そのまま突っ込んで突きを放つ。

 

「今!」

 

それに合わせるようにセイバーもカウンターの突きを繰り出してお互いの突きはクロスカウンターし、ダメージを与え合う。

 

『へっ、やるじゃねーか』

 

「お前もな!」

 

それから2人はノーガードで激しく斬り合いを続ける。勿論セイバーとデザストでは最大HPが違うので普通に殴り合えばセイバーの方が大幅に不利だ。

 

『言っておくがポーションを飲ませる時間は与えねーよ』

 

「わかってるさ。……宣言してやる。俺はこの戦いの中ではポーションを飲まない」

 

『ほう。大きく出たな』

 

セイバーの言葉にデザストはニヤリと笑う。セイバーは勝負を対等な物にするためにこのような提案をしたのだ。

 

『その言葉、後悔するなよ』

 

デザストがそう言うと今まで以上に素早い動きからの斬撃を放ちセイバーを仕留めようとしてくる。それに対して、セイバーは今度はサリーがやるような見事な回避術でそれを回避しつつカウンターを仕掛ける。

 

『あ?』

 

しかしデザストはそれが気に入らないのか苛立ちを募らせる。それに対してセイバーは今度は翠風を手裏剣モードにしてデザストに投げつけるとデザストはそれを弾く。

 

『こんな程度で効くか!』

 

「だりゃあ!」

 

今度はヒビキがよくやる打撃攻撃をデザストに仕掛ける。セイバーが肘打ちからの回し蹴りをデザストに命中させ、デザストを後ろへと後退させた。

 

『この野郎……』

 

セイバーはデザストが怯んでいる間に翠風を拾うとそれからすぐに走っていき、翠風から風のエネルギーを高めるとキャロルの使う風の魔法のように突風を巻き起こしてデザストを吹き飛ばす。

 

『チィッ!』

 

「まだまだ!【火炎ノ咆哮】!」

 

最後にミィお得意の炎属性による炎弾でデザストを集中攻撃。だが、これはデザストも対応して防御を固めていたために大したダメージにはならなかった。

 

『ふざけてるのか?お前、他人の技ばかり使いやがって……』

 

「ふざけてなんかねーよ。お前に勝つためにそうしているだけだ!」

 

『だったら……自分の技だけで勝負しやがれ!!』

 

デザストはなかなかセイバー自身の技を使わずに戦っていることに対して怒ったように猛攻撃を開始。セイバーは防戦一方で防御のみにかかりきりになると足払いをかけられてバランスを崩し、倒れ込んでしまう。

 

『オラあっ!』

 

「ぐ……」

 

デザストから振り下ろされた虚無をセイバーは翠風を使い紙一重で受け止めるが、デザストのパワーはセイバーの力を上回り、少しずつ押し込まれる。

 

『お前は俺がこの戦いに賭けている想いがわからんらしいな!』

 

「わかってるよ!この勝負で俺とお前の決着を付けるんだろ?」

 

セイバーはデザストの問いにそう答えるが、デザストは的外れの回答だと言わんばかりに更に力を強めていった。

 

『違げぇよ!!このバカが。お前は何もわかってない。俺は……お前のおかげでこのゲームの中で生まれた命として生きる事ができたんだ!ただ倒されるのみで終わっちまうボスモンスターが……お前の仲間として沢山の戦場を駆け抜けて楽しい戦いの毎日を過ごす事ができたんだ……』

 

「デザスト……」

 

『今日は俺の命を全て燃やしてお前に勝つ……そうして、最後に満足する戦いをして死ぬために……』

 

「だったら、バカはお前だよ……何勝手に死のうとしてるんだ!まだこれからも俺達は一緒に歩むんだろ!仲間として……友達として……だ!!」

 

セイバーからそう言われてデザストは一瞬笑ったかのように振る舞うが、すぐに本気の目に戻りセイバーを倒そうと仕掛けてくる。セイバーの攻撃はことごとくデザストに防がれ、弾かれる一方でデザストからの攻撃は何度もセイバーの体を斬り裂き、ダメージを蓄積させていってしまう。

 

「デザスト……お前はもうただのモンスターじゃない。俺の大切な相棒だ。いなくなってもらったら困るんだよ」

 

『そいつは光栄だなぁ。だが、モンスターはモンスターだ。最後にはプレイヤーに倒されるのがお決まりなんだよ!』

 

どうしてもこの戦いで死のうとするデザストにセイバーは攻撃を躊躇してしまう。それを見たデザストは怒りの声を上げて向かってきた。

 

『どうした!手を抜くなら俺がお前を倒してやる!!』

 

「く……」

 

セイバーはデザストの気迫に押されて再度防御で手一杯となりこのままではセイバーがやられるのは時間の問題だった。

 

『どうしたぁ?それで終わりか!俺が見込んだ男の力は……そんな物かよ!!』

 

「言ってくれるぜ……俺の力がこんな程度?そんなわけあってたまるかよ!!」

 

セイバーも必死に戦うが、戦力の差は歴然。そもそも気持ちが違うのだ。デザストは今日この瞬間に死に花を咲かせるつもりで本気でぶつかるのに対し、セイバーはどうにかしてデザストが死ぬのを止められないかと心のどこかで思ってしまいその迷いのせいで剣が鈍っている。

 

セイバーはデザストに吹っ飛ばされると地面に叩きつけられ、HPが危険域に到達していた。

 

『……何だよ……何が最強のプレイヤーだ、何が強さの極みを目指すだ……俺を馬鹿にするのも良い加減にしやがれ!!』

 

デザストは立ちあがろうとするセイバーを蹴って地面に落とすとそのまま剣を突きつける。

 

『……今のお前に、あの4人の気持ちに応える資格もプレイヤーとして俺の前に立ちはだかれる程の価値も無い』

 

デザストが無情に言い放つ言葉をセイバーは放心状態で聞くとそのままデザストは剣を振り上げる。その時、走馬灯のように聞こえてきたのは以前デザストに言われたあの言葉だった。

 

“お前なら強さの果てに辿り着けるかもな?”

 

「強さの果て……」

 

セイバーは次の瞬間に振り下ろされるデザストの刃をギリギリの所で躱し、デザストから距離を取った。

 

『しぶといな……だが、今のお前では俺には勝てない!』

 

「いいや……勝つ。俺はもう、手を抜かない……本気でお前を倒す。それに、前に言われた強さの果てってやつを俺は見てみたい」

 

『そうか……ならその覚悟を俺を相手に示してみろ!』

 

「俺の名はセイバー……強さの果てを追い求める男だ!」

 

『ハハッ……やっと良い目になったじゃねーかよ。……俺はデザスト、このゲームに生み出された一つの命だ!』

 

2人はそれから走っていくと再度剣をぶつけ合う。今度はセイバーも本気モードという事もあって死に物狂いのデザストと互角の勝負を繰り広げる。2人の力は拮抗し、激しい激戦の中でセイバーもデザストも笑いながら戦う。

 

『生と死が混じり合い、刃と刃が交じり合う……ハハハハッ……最低で最高の匂いだ!』

 

「ああ、お前の覚悟も俺の弱い部分も全部纏めて受け止めてやる。だから、もっと調子を上げて来いよ。デザスト!!」

 

 

2人はこの戦いの時間を楽しみながら死闘を続けていく。しかし、楽しい時間は長くは続かない物だ。セイバーが翠風を二分割し、いよいよ二刀流での戦いに入ろうとした瞬間にそれは起きた。

 

『あぐあっ……』

 

いきなりデザストがダメージに苦しむとその場に膝をついたのだ。セイバーはそれを見て攻撃を止めてしまう。

 

「デザスト……」

 

『余所見すんな!!』

 

デザストが剣を横に薙ぐ攻撃をセイバーは後ろに飛び退いて躱し、事なきを得る。だが、デザストの方は見るからに苦しそうな声を上げていた。

 

「お前……」

 

『まだだ!まだ終わったなんて言わせねーよ……まだ勝負はここからじゃねーか』

 

デザストの浮かべた笑みにセイバーは頷くと容赦なく翠風の二刀流による素早い連撃でデザストにダメージを与えていく。

 

ここに来て攻守が逆転。手負いでダメージを引き摺るデザストをセイバーが一方的に攻撃していた。

 

「うおらあっ!」

 

『甘ぇよ!!』

 

2人の攻撃が相手に命中し、ダメージを与え合う。だが、与えたダメージの大きさはセイバーが上だった。デザストの体に残された力が限界になってきたからだ。

 

「だっ!うらっ!」

 

セイバーはデザストからの剣を躱しつつ飛び上がると剣に風のエネルギーを溜めて斬波として繰り出し、デザストを二度、三度切り裂いていく。

 

『負けるか!』

 

デザストも無銘剣で斬撃を繰り出すが、セイバーの機動力と反射神経を前にことごとく躱されてしまう。

 

「俺はお前を倒して……先に進む。俺の覚悟を示すために!」

 

『できる物ならやってみやがれ!!』

 

そのまま2人は何度も打ち合い、斬り合いを続ける。次第に戦況はセイバーが有利になり、デザストに攻撃を命中させていく。デザストは体から火花を散らして傷ついていくが、それでも戦うことを止めようとはしない。セイバーもそれを承知で戦いを続ける。

 

「はあっ!」

 

『うらあっ!』

 

セイバーとデザストが翠風と虚無をぶつけて鍔迫り合いをし、2人はありったけの力を込めていく。それでもやはりデザストの方が若干弱いのかセイバーが押し込み始めた。

 

『……へっ、あの時にお前なんかに声をかけてついて行ったから、俺はこうなっちまったんだ。ったく、お前になんか声かけるんじゃなかったぜ』

 

「ああ……お前となんか出会わなきゃよかった……」

 

『もう会わねえよ……』

 

それからセイバーがデザストを押し切るとそのまま剣を振り下ろし、デザストの体を深々と斬り裂く。そうして、デザストのHPは残り一割を切ってデザストの動きは更に鈍くなった。

 

「デザスト、お前は俺にとって最高の相棒だ……だから最期は俺の手で終わらせる」

 

『ふふっ……良いぜ。来いよ!!』

 

「うおらぁあああ!!」

 

セイバーが最後の追い込みをかけていき、デザストの体を何度も何度も斬りつけ、貫き、ダメージを与えていく。これにより、デザストのHPは目に見えて少なくなっていった。

 

「だあっ!」

 

セイバーが跳びあがると空中から剣を振り下ろし、その勢いでデザストを両断。とうとう彼のHPをミリにまで追い込む。それからセイバーはデザストへと最後の一撃を放つ構えに入った。

 

セイバーが翠風を緑に輝かせるとそのまま振りかぶる。それを見たデザストは防御する事も、逃げる事も無く立っていた。

 

「ッ……」

 

セイバーはそんなデザストへの攻撃を一瞬だが躊躇する。しかし、デザストの目は本気であった。セイバーはそのまま剣をクロスさせるように振り下ろし、デザストの体を両断するとデザストのHPが0となり、とうとうデザストの体は消滅を始める。

 

『ああ、つまんねえな……もう終わりか……』

 

デザストはセイバーとの時間が終わることを惜しむかのように話すが、その気持ちに後悔の二文字は全くと言って良いほど無かった。

 

「デザスト……俺は……」

 

『皆まで言うな。お前の覚悟が決まって、誰にその気持ちをぶつけるか決められれば後は俺ならその相手が理解できる』

 

デザストは満足気に笑いながら言葉を放つ。そんなデザストをセイバーは真っ直ぐに見つめていた。

 

「デザスト、お前はこれで良かったのか?」

 

『はっ……ただの討伐されるのみのモンスターがこうやって命として認められて死ぬ所まで来たんだ……こんな満足な事があるかよ』

 

「そうか……。俺はこれからも変わっていく。俺なりのやり方で強くなるために……」

 

セイバーがそう言うもののデザストは首を横に振り、否定の言葉を口にした。

 

『その必要はねぇ……お前はそのままで良いんだよ……』

 

デザストの言葉にセイバーは驚き、小さく頷く。それからデザストは最期の言葉を、遺言を口にした。

 

『ああ、そうそう。セイバー、最後に俺と戦ってくれて……ありがとよ』

 

その瞬間、デザストの姿は普段モンスターが消える時のポリゴンでは無く、光の粒子と化して消えていった。その場に残ったのはデザストが付けていたマフラーとデザストの核となる小さな本が一冊、傷だらけで残るのみであり、セイバーはそれを拾って無銘剣を回収すると訓練室の空を見上げた。

 

「……楽しかったよ……ありがとう」

 

セイバーはそれから訓練室の扉を開けて外に出るとそこに先程からずっとセイバーを待っていたサリー、ヒビキ、キャロル、ミィの4人が揃っていた。

 

「セイバー、やっと出て……え?」

 

「どうしたの?」

 

「その手に持ってる物……まさか」

 

サリーとヒビキはデザストの事を知っているのでセイバーが何故彼の所持している物を持っているのかの察しもすぐつき、絶句した。

 

「セイバー、今から時間ある?」

 

「俺達と一緒に……」

 

ミィとキャロルがセイバーを何かに誘おうとするが、セイバーは首を横に振るとそれを拒否する事になる。

 

「ごめん、サリー、ヒビキ、キャロル、ミィ。皆との約束は明後日必ず果たす。それに、俺も覚悟は決まった。でも、今はそれを話すことができる気分じゃない。……今は1人にさせてくれ」

 

セイバーが淡々と呟くその言葉を4人は黙って聞き、受け止めた。そのままセイバーは4人とすれ違うとギルドホーム内での自室へと歩んでいく。4人がその後ろ姿を見た時、一緒に隣を歩く影が居たとか居なかったとか。

 

セイバーが自室に入ると何かをしようとするが、何も手につかない。それどころか、何かを考える事自体が苦に思えてさえきた。

 

「……ダメだ。もう何もやる気が起きない。今日はもう出るか」

 

セイバーはそう考えて即ログアウト。現実世界へと戻っていった。それから彼は時間を見るともう遅い時間になっている。

 

「……小腹が空いたな……。何か食べるか」

 

セイバーこと剣崎海斗が台所で何か無いか漁るとそこから一つのカップラーメンを取り出した。

 

「……せっかくだしアレも添えてみるか」

 

そう言って海斗が出したのは紅しょうがだ。何故自分がそれを出してかけようと思ったのかはわからない。ただ、今この瞬間に紅しょうがを欲したから使っただけだろう。それからカップラーメンが完成してから海斗はそれをすする。

 

「……しょっぺ……」

 

海斗はそう言うが、恐らく味をしょっぱく感じたのはゲーム内で彼の側にずっといた、相棒がいなくなってしまったのも一つの要因と言えるたろう。それから海斗は食べ終わるとそのままベッドに寝転ぶとゲーム内でずっと一緒に戦ってきた相棒の事を想う。

 

「……アイツは見事な死に花を咲かせたんだ。俺もしっかりしないとな」

 

それから海斗は眠りにつき、その日の夜は更けていった。サリー、ヒビキ、キャロル、ミィとの約束の日まであと、2日。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと試練6

デザストの死の翌日。悲しみもそこそこにセイバーは現実を見つめなければならない。何故なら彼は明日、四人に自分の気持ちを伝えると約束したからである。

 

「……俺の覚悟を示さなきゃ……ちゃんと四人に気持ちを伝えるんだ」

 

セイバーは今日もゲームにログインすると精神を整えるためにまだ未攻略のボスを攻略する事に決めた。ただし、今回については一緒に攻略するメンバーとしてメイプルを選んだ。

 

「えっと、私で良かったの?セイバー」

 

「……寧ろメイプル以外じゃダメ」

 

他の【楓の木】のギルドメンバーもセイバーに手伝おうか?と聞いたのだが、セイバーはこう言って聞かない。

 

「そっか……それで、誰にするか決めたの?」

 

「ああ」

 

メイプルはその人を聞こうと考えたが、すぐにそれを止めた。これは聞いて良い事では無い気がしたからである。セイバーと二人での移動は機動力の関係でブレイブに乗っての移動になる。

 

「セイバー、本当に覚悟はできてるの?まず間違いなく他の三人を傷つける事になるのに」

 

「わかってる。でもそのくらいできないのなら告白する資格は無い」

 

セイバーは覚悟を決めた様子だが、心のどこかで苦しそうにしているのをメイプルは見逃さなかった。

 

「セイバー、無理してるよね……何でそこまでして覚悟を決めたの?」

 

「アイツと約束したんだ。ここで俺の覚悟を示せないのならアイツの想いを無駄にする事になる」

 

セイバーの顔は少しずつ曇っているようで声もそんなセイバーの心境を映しているのか声色が少しずつ変わっていった。

 

「セイバー……」

 

「ほら、着いたよ」

 

セイバーはブレイブを地面に降ろすとそのまま降り立つ。するとその瞬間、いきなりモンスターに囲まれた。

 

「うえっ!?」

 

「ついてないな……ブレイブ、【サンダーボール】!」

 

セイバーがブレイブに電撃のエネルギー弾を生成させるとモンスターにぶつけさせ、更には自身も剣を振るいあっという間に制圧した。

 

「大丈夫か、メイプル」

 

「え?あ、うん。ダメージは無いよ」

 

「って、メイプル相手にダメージの有無を聞くだけ野暮か」

 

セイバーはすぐに開き直ると別の方向を向く。しかし、メイプルは複雑な心境を抱えていた。

 

「(セイバー、やっぱり無理してる。どうしてそんなに辛そうにしてるの?覚悟を決めたのに、これじゃあ覚悟を決める前の方が活き活きしてたよ)」

 

「……どうやら困ってるようね、メイプル」

 

するとそこに【ラピッドファイア】のプレイヤー、マリアが登場。メイプルの元に来ると事情を聞いた。

 

「……それで、セイバーはなんて言ってるの?」

 

「それが、気にするなって……」

 

「ふーん」

 

マリアは少し考えた後にセイバーの元に詰め寄るといきなりビンタをした。

 

「ッ……何をするんですか?」

 

「情けないわね。セイバー。己の覚悟一つ決めるために周りに迷惑をかけて」

 

「あなたに何がわかるんですか?俺は四人の中の三人を傷つけないといけないのにどうやって平静でいろと?」

 

「わからないわね。でも少なくとも今のあなたに告白されても四人とも苦しむと思うけどね」

 

その言葉にセイバーの顔は更に曇る。それを見てメイプルはオロオロするが、彼女にはどうしようもないことがわかっているのか何も言い出せない。

 

「……今から俺とメイプルでボス攻略です。邪魔しないでくれません?」

 

「それなら私も参加するわ。今のあなたを放ってはおけない」

 

「勝手にしてください」

 

その険悪な空気のまま、三人はダンジョンに繋がる魔法陣に乗るとそのまま挑戦人数を設定して転移する。転移したその先は何も無い荒れ果てた野原……所謂荒野だった。

 

「ここが今回のフィールド」

 

「さてと、今回は何が出るか……」

 

「来るわよ。構えて」

 

「虚無抜刀!」

 

「烈槍!」

 

マリアのその言葉と共に三人は構える。どうやら今回、セイバーは虚無を使いマリアは黒い槍を持った黒い装備に身を固めていた。すると三人の元に現れたのは空中を飛行する二匹のプテラノドンの怪物と地上を歩くアンキロサウルスの怪物だった。

 

「早速現れたな」

 

「防御は任せて!【身捧ぐ慈愛】!」

 

早速メイプルが【身捧ぐ慈愛】で防御を固めるとセイバーとマリアはその範囲の中に陣取る。

 

「【ホライゾン・スピア】!」

 

「【毒竜】!」

 

「【火炎ノ咆哮】!」

 

三人が先制攻撃としてそれぞれ攻撃を放つ。それが怪物に着弾するとダメージを与えるが、そのダメージ量は普段よりも低かった。

 

「うぇっ!?あんまり効いてない」

 

「チッ、ダメージ量減衰か」

 

「でも突破できないレベルじゃない!」

 

そう言ってマリアが駆け出すとそのまま槍でアンキロサウルスの怪物の体を貫く。しかしそれもあまりダメージにはならずに逆に攻撃を受けてしまう。するとマリアはメイプルの【身捧ぐ慈愛】の効果でダメージ無しだったが、いきなりその効果は消失し、メイプルの姿が元に戻ってしまった。

 

「何だと?」

 

「元に戻っちゃった!?」

 

「メイプル、もう一度!」

 

「うん!【身捧ぐ慈愛】!」

 

メイプルがHPを回復させつつ再度スキルを発動させるが、今度はプテラノドンの怪物から放たれたエネルギー弾を喰らうと1発で消滅してしまう。

 

「一部の相手のスキルの無効化にダメージの減衰……厄介な能力ね」

 

「虚無にしといて正解だったな。これならダメージの減衰は無力化できる!」

 

セイバーが虚無を使って怪物達を次々斬り裂いていき、三体の怪物達を削っていく。

 

「私も支援するよ。【滲み出る混沌】!」

 

「【メテオスピア】!」

 

メイプルとマリアもダメージを減衰される事を承知の上で攻撃を放ちダメージを稼いでいった。

 

「これで……トドメ!【不死鳥無双斬り】!」

 

セイバーからの不死鳥の力を模した斬撃波によって三体の怪物達はあっという間に撃退されると爆散し、消滅する。

 

「手間取らせやがって……」

 

すると今度は眼鏡かけて黒い服を着た科学者のような人間が一人歩いてきた。

 

『やはりこの程度の敵では相手になりませんか』

 

「来たか。このダンジョンのボス」

 

『……あなた方には一度退場してもらいましょう』

 

男がそう言うと体が変化していく。その体は恐竜の力を模しており、両肩にはプテラノドン。胸にはトリケラトプスの頭のような装甲を纏い、顔はティラノサウルスの頭部に酷似した物になっている。

 

『私の名はドクター真木。さてと、早速ですが消えてもらいましょう』

 

真木は問答無用で紫のエネルギー弾を放つとそれをメイプルが受け止めるが、大盾にあるスキル、【悪食】が発動する事なく押し込まれ、メイプルは吹き飛ばされてしまった。

 

「うわっ!!」

 

「メイプル!ダメージは……無いか」

 

『これは驚きました。私の攻撃でノーダメージのプレイヤーもいるのですね』

 

「アイツの防御力を舐めるなよ。それと、お前は俺が切り刻んでやる!」

 

セイバーが真木へと向かっていくと虚無を突き出す。真木はそれを何と片手で受け止めた。

 

『この程度ですか?』

 

「何!?」

 

『ふん!』

 

真木がセイバーの体に掌底を放つとセイバーはダメージを受けて吹き飛ばされる。しかも普通ならセイバー自身の持つスキルによってHPは回復されるはずなのだが、それが無力化されてHPは一向に回復しなかった。

 

「嘘だろ?何で回復しないんだ……」

 

「セイバー、恐らく奴の力はスキルの無効化。このまま下手に戦えばこちらが不利……」

 

「それがどうした!!ビビってんじゃねーよ。【無の一閃】!」

 

セイバーから繰り出された斬撃が真木から繰り出されるパンチとぶつかり合うとそのエネルギーはぶつかり合い拮抗する。しかし、真木に少しダメージが入った程度で攻撃は相殺されてしまう。

 

「チッ……」

 

「セイバー、今は相手の動きを見て……」

 

「そんな必要は無い!」

 

「今のセイバー、ちょっと変だよ!?」

 

いつものセイバーなら冷静に分析するはずなのに感情に任せたかのような振る舞いにメイプルも困惑を隠せない。

 

「攻撃が無力化されるのなら、それ以上の火力で押し切るのみ!【バーストフレイム】!」

 

セイバーの手から火炎放射が放たれてそれが真木が発した氷のエネルギーと拮抗させると攻撃の属性の相性の差で何とか押し込む。

 

「ちょっとセイバー、強引すぎるよ!」

 

「うるさい!俺がやらないとダメなんだ……俺が一人でもコイツらを倒せないのならアイツらの恋人になる資格はない!」

 

セイバーは完全に暴走状態に突入。覚悟を示すために一人で戦おうとする彼に二人は困惑する一方だった。

 

「今日のセイバー、ちょっとおかしいよ!」

 

「無理な背伸びなんてしないで私達とも連携を……」

 

「黙れ!俺の力ならこんな奴……」

 

その瞬間、セイバーはマリアに胸ぐらを掴まれて背負い投げをされた。地面に叩きつけられたセイバーは痛みに顔を歪ませる。

 

「テメェ、何を……」

 

「ふざけないでよ!何が一人で攻略よ、いきなり乱入した私はともかく、メイプルはセイバーが誘ったんでしょ。彼女の気持ちも考えなさい!」

 

「こんな程度の奴、俺一人で攻略できないのなら……」

 

「良い加減気づけこの馬鹿男!そんな事してあの子達が喜ぶと思ってるの?」

 

『何とも醜い……』

 

「ッ!【カバームーブ】、【カバー】!」

 

マリアとセイバーの喧嘩を見ていた真木はそう呟いてエネルギー弾を放つ。それをメイプルはとっさに二人を庇うとダメージを負ってしまう。

 

「うぅ……」

 

「メイプル…なんで……」

 

「当然でしょ?私もセイバーの友達なんだから」

 

セイバーはそれを聞いてハッとする。自分がいかにくだらないプライドを持っていたせいで彼女を傷つけたのか。セイバーは自分の握り拳を強く握りしめると二人に頭を下げた。

 

「ごめんなさい……俺が間違ってた。一人で戦っても虚しいだけなのに……俺の考えが足りなかった」

 

「はぁ……これだからセイバーは」

 

「え?」

 

マリアに呆れられたような声を上げられ、困惑するセイバー。その一方でメイプルの方はニコニコと笑顔だった。

 

「そんなの許すに決まってるよ」

 

「良いのか?」

 

「良いも何も私はセイバーが元に戻りさえすれば大丈夫だから。それに、今はこのボスを倒すんでしょ?一緒に頑張ろう」

 

「ああ!」

 

メイプルは真木からの攻撃を耐えつつ話しているのでセイバーに背を向けているが、マリアの方はセイバーを見据えながら話していた。

 

「今度こそ大丈夫でしょうね?」

 

「はい……大丈夫です!」

 

「なら、戦いで示してもらおうかしら」

 

「言われずともそのつもりです」

 

セイバーはそう言うとマリアと共に立つ。それから二人で飛び出すと真木のターゲットがメイプルから二人へと変更される。

 

『無駄です!』

 

真木から放たれる紫のエネルギー弾が二人に襲いかかるが、マリアがマントを盾がわりに使用して防ぐ。そのまま二人が槍と虚無で近接戦を仕掛け、少しずつだが真木にダメージを与えていく。

 

『先程よりも手強いですね……』

 

「やればできるじゃない」

 

「当たり前ですよ!」

 

『調子に乗らない事です』

 

すると真木が紫の衝撃波で二人は後ろへと強制的に下がらせる。そこにメイプルからの追撃が放たれる。

 

「【機械神】、【全武装展開】、【攻撃開始】!」

 

メイプルからの連続射撃が真木へと飛んでいくとその攻撃が全弾命中。HPを確実に削り、残り8割となる。

 

「良し、まずは一段階目」

 

すると真木の中にメダルが入り、パワーアップ。そのまま真木は両手に紫のエネルギーを高めて近接戦を仕掛けてくる。

 

「【ドリルクラッシャー】!」

 

マリアが槍をドリルのように回転させながら突撃。真木が繰り出した拳とぶつかるとエネルギーが拮抗する。しかし、スキルの無効化の力によってマリアの槍が止まってしまい勢いを失うとそのまま押し返されてしまう。

 

「く……」

 

「【マグナブレイズ】!」

 

セイバーは空に跳ぶとそのまま不死鳥のエネルギーを纏い突っ込む。真木はそれを両手で受け止めると不死鳥のエネルギーを打ち消す。

 

『甘いですね』

 

「そっちがな!」

 

不死鳥のエネルギーが消えたその瞬間、セイバーは真木へと迫ると虚無を振り下ろしてダメージを与える。更に連続で斬りつけて更にHPを減らした。

 

「次はこれで!」

 

最後にセイバーが突きを放ち、真木を吹っ飛ばす。そこにメイプルからの射撃が命中してダメ押しのダメージを稼いだ。

 

「やはりスキルを使わない方が有利ね」

 

マリアはセイバーと同様にスキルを使わずに真木へと近づくと槍を振るい真木の攻撃が届かない場所からの攻撃で安全にダメージを与えた。

 

「私も行くよ。【捕食者】!」

 

メイプルが両脇に怪物を出現させるとそのまま真木へと向かって行き、真木を噛み砕こうとするが、それは真木の手によってたった一撃で粉砕されてしまった。

 

「効かないの!?」

 

「メイプル、多分コイツはスキルによる直接的な攻撃は効果が薄いんだ!」

 

「それって私は殆ど攻撃手段が無いって事?」

 

「だろうね」

 

「だからアイテムでの攻撃にシフトして!」

 

「わかった。イズさんお手製の爆弾だよ!」

 

メイプルがインベントリから爆弾を取り出すと次々に真木へと投げていく。STRがほぼ無いのでそこまで飛距離は飛ばないが、それでも当たりさえすれば確実にダメージを稼げる。

 

『鬱陶しい!』

 

「マリアさん!」

 

「えぇ、行くわよ」

 

二人は跳びあがると同時に剣と槍を叩きつける。これによって真木のHPが6割となり二枚目が投入される。すると今度は真木は空を飛ぶとエネルギー弾を飛ばしてくる。

 

「空から来るなら……ブレイブ、【覚醒】!【炎の翼】!」

 

「シロップ、【覚醒】、【巨大化】!【念力】!」

 

セイバー自身は【炎の翼】で空を飛び、ブレイブはマリアを乗せる。更にメイプルもシロップに乗って空に浮く。

 

「一気に倒す!」

 

セイバーは炎の翼に真木からの攻撃を喰らわないように立ち回りつつ剣を振るう。マリアはブレイブを操り空を飛行しつつ槍を叩きつける。

 

『そう簡単に勝てるとは思っていませんよね?』

 

「「当たり前だ(よ)!」」

 

「シロップ、【精霊砲】!」

 

ここでメイプルがあまり効果が無いとわかっていながらもエネルギー砲を放つ。これは真木の気を散らしつつセイバー達による本命の攻撃を当てやすくするための牽制だ。

 

「セイバー、二人で仕掛けるわよ」

 

「はい!」

 

セイバーとマリアが空を飛行しつつ二人揃って斬撃を喰らわせる。更に真木を空中から叩き落とすためにセイバーは真木の背後から羽交締めにするとそのまま空に飛び上がり、錐揉み回転をしながら落下。そして、車田落ちを強制的にさせた。

 

「ぐ……やったか?」

 

この技は自らもダメージを負うためにあまり使いたくは無かったが、それでもずっと空中にいられるよりはマシなのでセイバーもリスクを背負いつつやった。

 

『今のは効きましたよ……』

 

しかし、それでもまだ形態変更のHPにはならない。真木が再び飛び上がろうとすると、今度は地面から太い蔓が生えて真木を拘束する。

 

「シロップの【大自然】だよ!」

 

「【メテオスピア】!」

 

そこにマリアからの攻撃が入って真木は再びダメージを負う。これでもHPは5割残っている。

 

「ブレイブ、【爆炎放射】!」

 

「【シールドアタック】!」

 

そこにブレイブからの炎による攻撃とメイプル自身が盾を構えて突っ込んできたために真木はそれをまともに喰らう。

 

「【悪食】、からの【水底への誘い】!」

 

メイプルは盾に付与されたスキルを連続使用して真木にダメージを与えつつ拘束。これによる急激なダメージ付与で流石の真木もHPをかなり減らされた様子であった。

 

「これでも4割行かないか」

 

「嫌になる固さね」

 

「じゃあ私が一気に……って、うわっ!」

 

すると真木がいきなりエネルギーを放出して拘束を無理矢理解くとそのままメイプルに紫のエネルギーを纏ったパンチを叩きつける。

 

「喰らえ!」

 

「はあっ!」

 

そこにセイバーとマリアが同時に飛び掛かると二人同時に攻撃を繰り出す。これを受けてようやく真木のHPが4割を下回った。すると3枚目が投入されて更に真木の力が増大すると真木の周囲に包帯を巻いたミイラ人間のような怪物が大量に出現。三人を物量で押し込む作戦だ。

 

「く……面倒ね」

 

「こうなったら怪物には怪物をぶつけよう。セイバー、アレを使うよ」

 

「アレって……アレ!?」

 

セイバーはメイプルが二人だけが知るスキルを使うことを提案し、驚く。何故ならアレを使う場合、大量の生贄が必要だからだ。そしてそれになれるのは現状でセイバーしかいない。

 

「待て待て、マジでアレやるの?」

 

「でもこの数を相手にするの?しかもあっちのボスは最強状態だし」

 

「いや、そうなんだけど……アレかぁ」

 

セイバーは悩んだが、すぐに覚悟を決めるとやる事に賛同した。そうして、ただ一人アレの中身を知らないマリアが質問する。

 

「アレって何なの?そんなにヤバいスキルなのかしら?」

 

「……見ればわかります。えっと、まずは【分身】!」

 

するとセイバーが一気に50人近くに増えるとセイバーの本体はマリアの後ろに立つ。

 

「取り敢えず、避難するので捕まっててください。【炎の翼】!」

 

セイバーはそういうと翼を展開して空へと飛び上がる。そうしているとメイプルがあるスキルを言い放つ。

 

「【再誕の闇】!」

 

すると地面に広がるのは泥のようなベタベタとした黒い何か。それがメイプルの周囲に広がっていく。このスキルの効果は味方となる存在を無差別に飲み込み化物に生まれ変わらせる物だ。その範囲はスキルで召喚するようなモンスターにテイムモンスター、果てはプレイヤーすら対象となる。そう、このプレイヤーも対象という言葉がミソなのである。

 

「うぅ……何で俺の分身があんな目に遭わないとならないんだ……」

 

そう、セイバーのスキルである【分身】を使えばあのスキルに使える生贄の数は一気に増えるからである。セイバーは次々と飲み込まれては化け物に変わる自分の分身を見て少し気分が悪くなっていた。

 

「………メイプルの能力は常軌を逸しているのはわかっていたけど、とうとう味方さえも彼女がパワーアップするための生贄になるのね」

 

マリアも流石にこれにはドン引きであり、セイバーの分身に同情していた。しかし、この作戦によって化け物だが味方に大人数の仲間を確保。化け物達は真木が召喚した怪物達と戦う。

 

「セイバー、第二陣出して!」

 

「へいへい……ホント、人使いが荒いんだから……」

 

セイバーはまだ【分身】の効果時間のため再度50人増えてそれらは全員メイプルの生贄になる。これはつまり、セイバーが分身を使える間は永遠にメイプルの生み出す化け物の追加は終わらないということだ。

 

「取り敢えず、このくらいいれば良いかな」

 

そう言ってメイプルは【再誕の闇】を解除。ただし、化け物はそのまま残るので100体近くの化け物軍団は真木の召喚した雑魚兵を蹴散らして真木に襲いかかる。勿論最終強化された真木を相手にした場合は化け物達では太刀打ちできないが、ごく僅かずつのダメージを稼ぎ総合的に真木のHPを合計0.5割削った。

 

「そろそろ俺達も行こうか」

 

「……そうね」

 

マリアは先程から起きた事の凄惨さを未だに信じられず、現実逃避している。

 

「メイプル、援護射撃よろしく!」

 

「任せて!【機械神】、【全武装展開】、【攻撃開始】!」

 

再度メイプルは【機械神】での射撃を放ち真木に先制攻撃を当てるとそこにセイバーとマリアによる挟撃をぶつける。しかし、真木の強さは先程までとは桁が違い、HPをそこまで削る事なくあっという間に二人は吹き飛ばされてしまう。

 

「く……やはり強い」

 

「こうなったら、私も切り札を切るわ。【エクスドライブ】!」

 

マリアが光に包まれると背中から翼が生え、体の装甲は白に黒いラインが入り、背中の翼が黒と容姿だけ見れば堕天使のような感じだが、マリア自身はそんな堕天するような事は無いので問題は無い。

 

「それって」

 

「そうよ。私のパワーアップした姿。ヒビキに使えるならと思って私も手に入れたわ」

 

マリアは空を飛行しながら真木に接近すると攻撃を仕掛ける。セイバーも負けじと【炎の翼】で空を飛び、マリアのタイミングに合わせた。

 

「「はあっ!」」

 

それから二人の見事な連携によって真木は徐々に押されていく。真木の弱点として、3枚目の強化がされた際に他のボスとは違って真木自身のステータスアップはあっても何かしらの特殊能力の獲得が無いのである。元々の強さとしてスキルへの耐性の高さや触れたスキルの強制解除があるのだが、その効果が強すぎる分他の面で差別化するために敢えてその面で弱体化されたのだ。

 

「コイツの特殊能力は無い。これなら、少しずつ削れば決められる!」

 

「ええ、私達の力で……勝ち抜く!」

 

「大技で決めるよ!【毒竜】!セイバー、使って!」

 

メイプルがセイバーへと【毒竜】を飛ばすとセイバーは虚無……では無く、別の剣を取り出した。

 

「烈火、【大抜刀】!」

 

セイバーは二刀流となれるスキルで烈火も持つと烈火に【毒竜】を纏わせる。

 

「【毒刃】!」

 

更に烈火に毒の力を追加する事で毒同士が混ざり更に強化。猛毒は激毒に進化し、その剣で真木を貫くとそのHPは一気に削れていく。

 

「今だ!【不死鳥無双撃】!」

 

「【デストロイスピア!】!」

 

二人による本日何度目かわからない同時攻撃を前に真木はとうとうそのHPを0にする。

 

『ああ、私の終末が完成する……』

 

真木はそれを断末魔の代わりにし、爆散。その場にはプテラ、トリケラ、ティラノのメダルがそれぞれ人数分落ちていた。三人はそれらを回収するとダンジョンの外に出る。

 

「それで、セイバー。ちゃんと無理しない程度に覚悟は決まった?」

 

「はい!もう無理してませんよ。でも、やっぱり三人を傷つけるのは心苦しいですけどね」

 

「良かった。セイバー、今度からはもっとしっかりしてよ」

 

そういうメイプルにセイバーは笑って頷くと三人はその場から歩いていく。四人への答えを出すその日まであと半日。その時は着実に迫っていた。




次回はいよいよ200話記念のコラボ回です。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとコラボ

この話を読む前に注意です。この話はコラボ回なのですが、プリンは固め派さんの破壊王シリーズの進捗度に合わせるために時系列としては第四回イベント終了後にある打ち上げの直後辺りの話だと思ってください。そして、この話は今回文字数にして四万字を超えているので一気に読みたいと思う方は時間を作ってから読む事を推奨します。


第4回イベントが終了してから数日後、セイバー達は次の層の解放を待ちつつ、三層の探索に励んでいる。今回はギルドメンバーであるマイ、ユイ、ヒビキの三人に加えて最近フレンド登録をしたばかりのセイバーの天敵、キラーの五人でダンジョン攻略をする事になった。

 

「よーし、それじゃあ全員揃ったし、行くぞー!」

 

「「はーい!」」

 

「何でこの俺まで……」

 

「まぁまぁキラーさん」

 

何故この五人なのかと言うと、第四回イベント及び、その打ち上げを経て【楓の木】のギルドマスター、メイプルはイベントで激戦を繰り広げた【集う聖剣】、【炎帝ノ国】の両ギルドマスターであるペインとミィとフレンドになった。そんな彼女からの提案でギルドメンバー同士での交流会がやりたいとの事だ。ただ、この日タイミングが合ったのがこの五人だけだった。結局メイプル達はまた別日にやる事になったのだが、せっかく集まったのでこの日もこのままダンジョンに行くという事になったのだ。

 

「このメンバーで行けるなんて楽しみです」

 

「特にキラーさん、今日はよろしくお願いしますね」

 

「……俺の場違い感が凄いんだが……」

 

キラーがこう思うのも無理はない。何しろ周りは全員【楓の木】であり、ただ一人【集う聖剣】のメンバーだからである。

 

「大丈夫ですよ。キラーさん、私達すっごく頼りにしてるんですから!」

 

元々あまり人と話さないキラーもコミュ力の高いヒビキがいれば周囲から浮いてしまう問題も解決するのである。それから五人で移動を続け、街から抜けるとキラーが口を開く。

 

「それで、場所はどこに行くんだ?」

 

「それは……」

 

セイバーが場所について説明しようとすると突如として目の前の空間が歪み始める。それを見たセイバー達は何が何だかわからずに立ち尽くしてしまう。その瞬間、その光が強くなり、五人の姿を包み込むとそのまま全員がその歪みに引き摺り込まれ始めた。

 

「何これ!?」

 

「引き込まれ……」

 

「ユイ!」

 

「お姉ちゃん、助け……」

 

「ぐ……このままだと……」

 

そのまま五人は吸い込まれると歪みが消えて元の空間に戻った。

 

「……く……う……」

 

次にセイバーが目覚めたのは全く知らない森の中だった。ゲームの世界の中で間違いは無いのだが、セイバーの勘がNWOでは無いNWOの世界に酷似した全く別の世界へと飛ばされたんだと察知した。しかも、最悪だったのが……。

 

「皆がいない……逸れたか……」

 

どうやらこの世界に飛ばされた際に、一緒にいたヒビキ、マイ、ユイ、キラーとはバラバラになったようだ。

 

「く、キラーとヒビキはともかく、マイとユイは一撃喰らえば即死。しかも身知らない土地なら色々不自由なはず。すぐに探し出さないと」

 

セイバーがマップを開くものの、表示されたのは真っ黒な地図で、マップ機能が完全に息をしていなかった。更に連絡も取る事ができず、ひとまず木に登って周囲の地形を確認すると、マップの端であるボーダーのようなエネルギーバリアに、自分から見て南東、北、南西の方向に三つの光が昇っていたのと、エリアの中心付近に存在する広場が見えた。

 

「良し、まずはあっちの広場から見ていくか。広場でなら集合しやすそうだしな」

 

セイバーは木から降りると中央に存在する広場へと移動を開始する。セイバーが暫く歩いているとどこからともなく二人分の足音が聞こえてきた。

 

「二人か。マイとユイなら助かるけど……」

 

セイバーがその足音がする方へとゆっくりと歩く。向こうもそれに気づいたのか、ゆっくりとした足音に変わった。

 

「一応モンスターかもだから構えておくか」

 

セイバーが手にした烈火を構えて相手の様子を伺う。それからセイバーとその二人が出会った。それを見てセイバーは驚く。その顔ぶれはマイとユイでは無かったが、知っている顔だからだ。

 

「メイプル、サリー!」

 

セイバーはこの二人なら大丈夫と考えて近づこうとすると二人は突然後ろに後ずさった。

 

「ちょっ、メイプル、サリー。何で逃げようとするんだよ。俺だって、セイバー。あ、もしかして偽物だとか思ってる?ほら、証拠にブレイブ、【覚醒】!」

 

セイバーはブレイブを呼び出すとブレイブはメイプルとサリーを見て飛びつこうとする。その瞬間、メイプルとサリーはとんでも無いことを言い出した。

 

「あなた……誰?」

 

「私達の事を知ってるようだけど……何者?」

 

「え……」

 

何とリアルでの友達からそんな言葉が飛び出した事にセイバーは驚きを隠せない。

 

「待て待て、冗談はやめてくれって。メイプル、サリー」

 

セイバーが更に近づこうとすると二人は大盾と短剣を構えてセイバーを攻撃しようと睨む。

 

「嘘……だろ?まさか、この世界に来た時に記憶喪失したのか?」

 

「記憶喪失も何も私達はあなたの事を知らない。ただそれだけなんだけど」

 

普段ならセイバーと喧嘩しながらも仲が良いサリーの目つきが相手を倒す時の目になっていたのだ。

 

「メイプル、もしもの時はカバーをお願い。できる限りは私で倒すから」

 

サリーのその言葉にセイバーは驚きつつも急いで烈火を構え直す。その瞬間、サリーがセイバーへと攻撃を開始するのであった。

 

一方その頃、マイとユイの方では……

 

「痛たたた……」

 

「お姉ちゃん大丈夫?」

 

「大丈夫だけど……ここは一体」

 

双子の姉妹は見たことの無い景色に不安を覚える。それと同時に、周りにセイバー達がいない事に気づいて三人を探す事に決めた。

 

「行こう、ユイ」

 

「うん。皆もきっとどこかにいるはずだから」

 

二人が歩き始めようとするとそこに一人の少年が飛び出してきた。その容姿は鈍色の髪をなびかせており、その目つきはマイとユイにそっくりで、中性のような見た目をした男だった。更に着ていた装備は目一杯の装飾が施された黒のスーツに、両肩から片手までを包み込むマント。中には白シャツと、首元にはそれとコントラストがとれた黒のネクタイを付けている。下はスタイリッシュなズボンであった。金色と青系統のものでまとめられた装飾の数々は、美しさだけでなく力強さまでもをあらわしており、U字に垂れた金のロープの先のサファイアのブローチが強く主張する。

 

「マイ!?ユイ!?」

 

「「……え?」」

 

その男はいきなりマイとユイの名前を呼ぶと近寄ろうとする。勿論二人は知らない人なのでびっくりして逃げようと後ずさった。

 

「だ、誰ですか!?」

 

「私達、あなたの事なんて知りませんよ!」

 

そう二人が言うとその男はかなり精神ダメージを受けたのかその場に崩れ落ちた。

 

「マイ、ユイ、本当に俺の事知らない?カイだよ?」

 

「カイ……?し、知りませんそんな人!」

 

「これ以上近づいたら通報しますよ」

 

それを聞いたカイと名乗った男は絶句する。まさか彼にとって大切な存在(色んな意味で)にいきなり拒絶されたどころか通報までされそうになっているのである。

 

「嘘だろ……マイとユイが記憶を無くして……」

 

カイが項垂れているとマイとユイの後ろからいきなり骸骨の兵士のようなモンスターが出てきて二人を襲おうとする。二人はカイへの対応で反応が遅れてしまう。その瞬間、カイが二人を守るようにモンスターを斬り裂くとカイは安堵の表情を浮かべる。

 

「どうして?」

 

「何で私達を守るの?」

 

「知らないのなら教えるよ。何しろ、俺は二人のリアルでの兄だからな。妹達を守るのは当然だ」

 

「「………はい?」」

 

カイの口から出たのはとんでもない発言だった。マイとユイからすれば自分の記憶に覚えのない男に馴れ馴れしくされた上に勝手に兄発言までされたのである。双子の頭の回線がショートするのは想像に難く無かった。しかもカイはかなりのシスコンで、ショートする二人を見て心の中で狂喜乱舞する程のヤバイ奴であるとだけ言っておこう。

 

その頃、キラーとヒビキの二人はと言うと、こちらでも二人のプレイヤーと出会っていた。

 

「えっと……フレデリカさんにペインさん」

 

「こんな所で何をしてる?」

 

「あなた達……誰?ペイン、知ってる?」

 

「すまないが俺も知らないな」

 

ヒビキとキラーはペインとフレデリカを知っているが、どうやら向こうは知らないとの事だ。そこで、二人はペインとフレデリカにある質問をする事に決めた。

 

「えっと、お二人はどうしてここにいるのですか?」

 

「私達が答える前に先にあなた達が何でいるか教えてもらおうかしら」

 

「それなら、俺とヒビキ、マイとユイの双子、そしてセイバーの五人で三層を探索しようとしたらいきなり次元の穴が空いてここに飛ばされた。ただそれだけだ」

 

ペインとフレデリカはそれを聞いて顔を見合わせる。どうやら二人も……いや、正確にはこの二人だけでは無いのだが同じ理由でここまで来たらしい。

 

「で、お前達は誰とここに来た?その擦り合わせをしたい」

 

「カイ、メイプル、サリー、俺、フレデリカの五人だな」

 

「……カイ?聞き慣れない名前だな。俺達のプレイヤーにそんな奴居たか?」

 

「いえ、初めて聞きました」

 

ヒビキとキラーはカイという初めて聞く名前に首を傾げる。他の四人は知っているので問題は無いが、この四人と一緒にいるほどの有名プレイヤーなら二人のどちらかは絶対知っていると思ったのだがどちらも知らないので困惑するばかりだ。

 

「そっちこそ、セイバーって誰よ」

 

「何?セイバーを知らない……変だな。俺達のいた世界のペインとフレデリカは奴の事を知っている。そもそも、俺はお前らとは同ギルドのはずだ」

 

「キラーさん、これってもしかして……」

 

ヒビキの言葉を聞いてキラーは納得すると二人はペインとフレデリカに自分達が思ったある仮説を話す事にした。そしてそれを聞くと二人は納得し、ひとまず共闘する所にまで至る。

 

「【超加速】!朧、【影分身】!」

 

ヒビキ、キラー、ペイン、フレデリカの四人が共同戦線を張った頃、セイバーは絶賛サリーからの攻撃を受けていた。

 

「待って、話だけでも聞いてくれ!」

 

セイバーはスピード重視の形態、翠風に持ち替えてサリーの攻撃を凌ぐ。ただ、反撃はする事なく説得しようとしていた。

 

「不審者みたいにいきなり話しかけてきて。しかもさも私達と友達みたいな距離感で。気持ち悪いのよ」

 

サリーから飛んでくる罵倒にセイバーは心を削られつつも考えを巡らせていた。何故自分を知っているはずの人間が自分を知らないのか。そうしてセイバーが辿り着いた結論は……。

 

「もしかしてお前ら、俺達の世界のサリーとメイプルじゃないな」

 

「ッ!?」

 

「そこ!」

 

セイバーはサリーの攻撃が止まった瞬間に回し蹴りを叩き込む。勿論サリーなので短剣で防ぐがそれでもSTRの高さから無理矢理サリーは後ろへと飛ばされる。

 

「言うに事欠いて出まかせを……」

 

「ちょっと待ってサリー。この人が私達を知ってるのならそれが正しいのかも。それにサリーだって薄々気づいてるでしょ?」

 

「そうだけど……じゃあ、カイは……他の皆はどこなのよ」

 

「カイ?俺はそいつを知らない。やっぱりお前らは別世界のサリーとメイプルか」

 

セイバーの言葉にようやくサリーは矛を収めるとここにはいない他の面々を心配する。

 

「……一回攻撃された後にこれを言うのも何だが、ここは一度共闘しよう。お互いに探し人をしている者どうしな」

 

「……わかった」

 

「私も良いよ!」

 

二人から了承を得ると三人はセイバーが向かっていた広場へと移動を開始。まずはそこで他の情報を集めるつもりだ。すると突如として三人の周囲を上半身が骸骨で下半身が黒いゾンビのような怪物が取り囲んだ。

 

「敵か……」

 

「行くよ、メイプルと……えっと」

 

「セイバーだ。烈火抜刀!」

 

セイバーか烈火に持ち替えると怪物達へと突っ込んでいく。それを見たサリーとメイプルも戦闘を開始した。

 

セイバー達とキラー達が共闘を始めたのに対し、いまいちカイを相手に心を開けないマイとユイはカイをまだ警戒していた。

 

「私達、あなたの事なんて知りませんよ?」

 

「そもそも私達に兄なんていません」

 

「うぐっ……」

 

カイは別世界から来たのだから本人達が知らないのも当たり前だ。それにカイが気付けないので彼は心に深い傷を負い続けていた。何しろ最愛の妹達からドン引きされているのだ。このシスコンにとってこれ以上無いほどのダメージ量だろう。

 

「ちょっと俺の仲間を探すのを手伝ってくれないか?」

 

「それくらいなら……」

 

「私達もセイバーさん達を探さないといけませんし」

 

「セイバー?誰それ。ま、まさかマイかユイの彼氏か!?」

 

完全な勘違いである。この男、まだ二人が別世界の人間だと察しが付いてない。妹達からの多大なダメージで冷静な判断ができないのだ。

 

「「違うから!」」

 

二人に言われてカイは安心する。自分の知らぬ間に二人が彼氏と付き合ったとなればこれもまた彼へのダメージになるからだ。

 

「もう、皆を探すんですよね?」

 

「もし私達狙いだったらその時は……」

 

「「許しませんよ?」」

 

「……はい」

 

カイの目は完全に生気を失っており、それだけ二人に心をズタボロにされたということだ。

 

それから数十分の時が経ち、三つのグループはそれぞれ移動を続けた。勿論途中出てできた怪物達は全員倒しながらである。そうして、三つのグループの内、まずはセイバー達とカイ達のグループが中央の広場に辿り着いた。

 

「あ、カイ!」

 

「「セイバーさん!」」

 

「心配したわよ」

 

「マイ、ユイ!」

 

「メイプル、サリー!」

 

「「……ん?」」

 

するとセイバーとカイが顔を見合わせる。それから数秒後、カイがいきなりレイピアをセイバーへと向けた。

 

「セイバーってのはお前だよな?」

 

「……そうだけど?」

 

「マイとユイをどうやって口説き落とした!」

 

それを聞いた全員が呆れてしまう。まだカイはセイバーがマイとユイの姉妹を口説いて恋人になったと思い込んでおり、そのせいで二人が自分の記憶を忘れたと考えたのだ。当然身に覚えのないセイバーは抗議する。

 

「待て待て、は?初対面の相手にやる事?これ」

 

「うるさい!マイとユイは俺の可愛い妹達なんだ。お前のような奴の嫁にはやらん!」

 

「お前は父親か!」

 

一同これにはドン引きである。そもそもカイの世界にいるマイとユイの前でこんな事を言えばいくら自分達の兄でも確実に引く。その事はカイ自身もわかっているのだが……今の彼はセイバーの事で頭がいっぱいであり、そんな当たり前の事を考える余裕も無かったのだ。

 

「はぁ……ねぇ、そっちのサリーかメイプル。このシスコンの頭をどうにかしてくれ」

 

「「無理」」

 

「ですよねー」

 

唯一カイをどうにかできると思ったカイの世界のメイプルとサリーにセイバーは助けを求めるが、二人ではどうしようも無いのか秒で拒否された。

 

その間にもカイからの疑惑の目線は続く。マイとユイはそんなカイの事を不審者の目で見ており、怖がってセイバーの後ろに隠れていたので尚更勘違いされていた。そこにキラー、ヒビキ、フレデリカ、ペインも到着する。

 

「あ、やっほーカイ……って」

 

「これ、どういう状況?」

 

「セイバーお兄ちゃん、この人に怒られるような事なんかした?」

 

「「えっとですね」」

 

ヒビキ達もメイプルやサリー達から説明を受けるとカイのその言動に白い目を向け始めた。そうして、サリーが痺れを切らしたのかカイの頭を思いっきり殴る。

 

「痛っ!?サリー、何する……」

 

「これ以上は恥ずかしいからそのシスコンをどうにかして」

 

「だからコイツは……」

 

「待ってカイ、そもそもこの二人は私達とは違う世界のマイちゃん、ユイちゃんなの」

 

「……へ?」

 

それを聞いたカイは双子を見るとセイバーの後ろに隠れながらブンブンと頷く。

 

「え、じゃあ俺は……」

 

「そういうことね」

 

「盛大すぎる勘違いだな」

 

それを聞いたカイは驚きのあまり口をパクパクさせると崩れ落ちてからようやく冷静になり、安堵の気持ちを浮かべた。

 

「良かった……マイとユイが変な男と付き合ったかと思った……」

 

「その前にセイバーに謝る!!」

 

サリーからの怒りの声でカイはすぐに動くとセイバーの前に土下座した。

 

「この度は誠に申し訳ありませんでした」

 

「いや、急に謝られてもな……」

 

その場に微妙な雰囲気が流れているとどこからともなく爆発音が聞こえるとともにその場の全員が驚く。それと同時に十人の前に一人の男が現れた。その男は黒いスーツ姿で腰には何かのベルトが巻かれていた。

 

「お前は……」

 

『この世界に誘われし者達か。私の名はアヅマ。お前達はこの世界の礎になってもらう。そのために二つの世界から十人の戦士を選抜してこの空間に飛ばしたのだ』

 

「なるほど。それで俺達が選ばれた十人と」

 

『今からお前達にジャッジを下す!Game On!』

 

アヅマが手にオレンジの素体に紫でサイ、オクトパス、ムカデの三種の生物の描かれたスタンプを出すとそれを押す。

 

《トライキメラ!》

 

それをベルトに装填し、ポーズを取ると彼の後ろに描かれた三匹の生物が出現する。

 

《オク!サイ!ムカ! Come on! キメラ!キメラ!キメラ!》

 

『変身!』

 

アヅマがベルトに装填したスタンプを倒すと三匹の生物はバラバラになり、アヅマの体に纏わりついていく。

 

《スクランブル!》

 

《オクトパス!クロサイ!オオムカデ!仮面ライダーダイモン!ダイモン!ダイモン!》

 

アヅマはその姿をオレンジや銀の装甲に紫の複眼。左側頭部から肩にかけてオクトパスとムカデの足を合わせたような赤いパーツがあり、サイの角のような銀のパーツがある。また背中にはマントが垂れており、アヅマは仮面ライダーダイモンへと変わり、その力はまるで王者の風貌だった。

 

「変身した……」

 

「全員気をつけろ。何をしてくるかわからないぞ!」

 

『気をつけようとも意味はない。たった一撃で決まるのだから』

 

メイプルを相手にそんな馬鹿なとその場の全員が思う。しかし、アヅマことダイモンはメイプルを撃破することなど考えていなかった。

 

ダイモンがベルトに手をかけるとスタンプを五回連続で倒した。

 

《トライキメラエッジ!》

 

その瞬間、周囲に衝撃波が飛んでいくと十人に降り注ぐ。しかし、それは誰一人にもダメージを与えない。だが、次の瞬間にその技は効力を発揮する。

 

「何だ!?」

 

「体が吸い込まれ……」

 

「空間に穴が」

 

十人の後ろに存在する空間にヒビが入って合計三つの穴が開くと全員がその中に吸い込まれ始めた。

 

「く……こうなったら、激土抜刀!【ヘビィレッグ】!」

 

次々と他の面々が穴に吸い込まれていく中、セイバーは咄嗟に激土に内包されたスキルで足の重量を増加。その場に踏みとどまるとカイへと手を伸ばした。

 

「カイ!掴め!!」

 

「でも……」

 

「良いから早く!」

 

カイは一瞬の躊躇の後にセイバーの手を掴み、二人は吸い込まれることなく残る。だが、それは同時に二人以外は穴の中に吸い込まれてしまった事を示していた。そうして、穴も閉じて再び十人は分断されてしまったのである。

 

「皆……」

 

「セイバー、どうして俺を」

 

「アイツに勝つために俺一人だと勝てるかわからなかったからだ。だから勝てる確率を上げるためにカイにも残ってもらった。それだけさ」

 

「そっか。……俺達で皆を助け出そう」

 

「当たり前だろ」

 

『んー、それは無理だと思うよ』

 

そう言って出てきたのは一人の科学者のような人物だった。その男はニヤニヤと笑いながら登場し、二人を見据える。

 

「お前は?」

 

『ボクはある人物の悪魔で名前はシック。君達をここに呼んだ元凶の一人さ』

 

「なるほど。それでさっきの無理という言葉の意味は?」

 

カイの質問にシックは教えても問題無いと考えたのか律儀にちゃんと答えてくれた。

 

『アイツらが飛ばされた先はここからも見える光の柱の近く。あれはこの世界の力を維持するために必要でね。それには強大なエネルギーがいる。そのエネルギーを確保するためには高いステータスのプレイヤーが必要なのさ。つまり、君達のようなプレイヤーは極上の獲物ってわけ』

 

「つまり、俺達は文字通りこの世界を維持する礎として呼ばれたのか」

 

『ビンゴ。それで、この最強の戦士、ダイモンの力で奴等を光の柱の近くにまでワープさせた。そこには我々の忠実な僕がそれぞれの柱にいて送ったプレイヤー達を痛めつけ、強制的に光の柱の中に繋いでもらうために働いているのさ』

 

二人はそれを聞くと笑みを浮かべて笑い始めた。それを見たシックは疑問を感じる。

 

『聞いてなかったの?結局アイツらは捕まって……』

 

「なんだ。てっきり強制的に力を奪って捕獲したのかと思えば……」

 

「向こうにいる僕に痛めつけるのを委任ねぇ……」

 

「「甘いな」」

 

『なっ!?』

 

「お生憎様、俺達の仲間はお前らの僕にやられるほどヤワじゃない」

 

「こっちもさっさとお前ら倒して……元の世界に帰らせてもらおうか」

 

二人のその言葉にダイモンは仮面の下で苦い顔をする。しかしそれもほんの一瞬。すぐに持ち直すとセイバーとカイを睨む。

 

「カイ、足を引っ張るなよ」

 

「セイバーこそ、俺のバトルスタイルとかを言う必要……無いよな?」

 

「当たり前だ。烈火抜刀!」

 

それから二人は烈火とレイピアを構えるとダイモンの方へと突撃を開始し、過去一レベルの強い敵へと向かっていくのであった。

 

その頃、ダイモンによって飛ばされた面々達は三つの光の柱の近くにまでやってきていた。

 

「うぅ……また分断されちゃった……」

 

「大丈夫ですか?メイプルさん」

 

「私は大丈夫。マイちゃん、ユイちゃんも平気?」

 

「「大丈夫です」」

 

三人は中心から見て南東の柱に来ていた。三人がこの場所から再び中央を目指そうとすると何かの不思議な力によって押し戻されてしまう。要するに、歩いてでは戻る事ができないのだ。

 

「どうしよう……」

 

「もういっそのことこの柱を壊しちゃいます?」

 

「でも、それが原因で状況が悪化したら……」

 

三人が悩んでいると光の柱の麓に一人の女性が捕まっているのが見えた。三人が急いで駆け寄ろうとするといきなり目の前にゆるキャラのようなヘビ人間でカラーは青と黄色だ。可愛らしいヘビの目の下にある口の中に黄色く鋭い本来の目が存在する。

 

『ラブラブ〜』

 

「可愛い!!」

 

「何この生物」

 

「抱いてみたい〜!」

 

三人が黄色い声を上げる中、女性が囚われている事をすぐに思い出すとすぐに向かおうとするが、それをしようとするとヘビのゆるキャラが立ちはだかる。

 

「ごめんね、今は相手にしてられないんだ」

 

「私達行かないと」

 

『ラブ、それ、無理!』

 

「「「え?」」」

 

三人が疑問に思っている間にヘビのゆるキャラは禍々しいオーラを立ち上らせていく。

 

『アタイ、ラブコフ。美味しそうな人間、アタイが食べるコブ!』

 

そう言うとそのオーラは大きくなっていきラブコフはその姿をゆるキャラのような物から人間の形に変えていき顔だけ先程の顔の被り物をしているような感じである。

 

『これがアタイの真の姿。蛇女ラブコフ』

 

「嘘……」

 

「これって戦わないとダメ?」

 

「多分……」

 

『サクッと殺すコブ』

 

ラブコフが三人を敵として見定めると攻撃するために走ってくる。その速度は先程までゆるキャラだったとは思えない程に速く、メイプルが盾を構えた瞬間にはもう攻撃がメイプルの体に命中していた。

 

「うぐっ……【身捧ぐ慈愛】!」

 

メイプルが低耐久のマイとユイを庇うためにフィールドを展開した直後にはマイとユイにも攻撃が当たっており、メイプルによってギリギリ防げたものの、ノックバック攻撃があればすぐにやられてしまうだろう。

 

『ラブラブ〜雑魚〜!』

 

同時刻、ヒビキ、サリー、フレデリカの三人は中央から見て南西の方向の柱に来ていた。

 

「どうやら、かなり遠くにまで飛ばされちゃったみたいね」

 

「どうします?」

 

「ひとまず戻りたいけど、その前にあの柱を壊してから行こう。何かの鍵だろうし」

 

「それもそうですね」

 

三人が移動すると柱の麓に一人の男が捕まっており、そこから光の柱が伸びていた。それを見た三人は少し話し合ってからその男を助けるために行こうとするといきなり目の前にその男とは別の男が現れる。

 

『おいおい、お前ら何をしようとしてたんだ?』

 

「どいてください」

 

「私達、カイ達の元に戻らないといけないので」

 

「って、その顔どこかで……」

 

三人が捕まっている男と立ちはだかる男の顔を見比べるとその顔が全く同じだということに気がついた。

 

「え!?何で……」

 

「あなた、あそこに捕まっている人と……」

 

『ああ。確かに顔は同じだ。だが、中身は別人だぜ!』

 

男はそう言ってブレードの付いた物体を取り出すと緑のエネルギーの衝撃波を放つ。

 

「うわっ!」

 

三人はそれを躱すと男を見据える。男はニヤリと笑ってそのブレードを畳んでから腰のバックルに合体させる。

 

『自己紹介が済んでなかったなぁ。俺の名はカゲロウ。あそこに捕まってる男の悪魔だ』

 

「だから姿が似てたんですね」

 

カゲロウは手にスタンプを持つと上のボタンを押した。

 

《バット!》

 

それからベルトに描かれた2人の戦士が背を向けているような絵にスタンプを押す。

 

《Confirmed!》

 

するとカゲロウの影が伸びて中から大量の黒い蝙蝠が飛び出し、カゲロウの周囲を飛び回る。

 

『変身』

 

カゲロウがそう言うとスタンプをベルトにセットし、それと同時に音声が流れ始めた。

 

《Eeny, meeny, miny, moe…! Eeny, meeny, miny, moe…! 》

 

音声が鳴り響く中、カゲロウがベルトに付いている取っ手を握り、ブレードのような物をベルトから取り外すとトリガーを引いた。

 

《バーサスアップ! 》

 

《Madness!Hopeless!Darkness!バット!(Hehe!) 仮面ライダーエビル!(Yeah!Haha!) 》

 

カゲロウから出てきた蝙蝠は群れをなすとカゲロウの真上で黒い巨大なスタンプとなり、カゲロウへと覆い被さるとその体を変化させ、緑と黒を基調として胸にジッパーと蝙蝠の紋章が描かれた仮面の戦士に変化した。

 

『この姿の名前は仮面ライダーエビル。さぁ、大事に決めてやるよ』

 

エビルはそのまま三人への攻撃を開始。手にした武器、エビルブレードで三人を切り裂こうとしてくる。それをサリーは躱し、ヒビキが代わりに拳で受け止める。その際にエネルギーの衝撃が周囲に駆け抜けた。

 

三つの柱の最後の一本、中央から見て北側の柱にはキラーとペインの二人が揃っている。

 

「……どうやら二人だけのようだな」

 

「他の皆は別の場所に飛ばされたと見るべきだろう」

 

「これからどうする?」

 

「まずはあの光の柱の元に行こう。何かわかるかもしれない」

 

「そうだな」

 

二人がその場に歩いていくと他の二箇所と同様に男が柱の麓に囚われており、その近くに人型だが黒い体に尖った耳、長い尻尾に青い複眼、更には口元をマスクで覆い、マスクに口の模様をしたいかにも怪物のような者がいた。

 

「あれは……」

 

『よう、俺っちはバイス。お前ら、コイツを助けてこの柱を調べに来たんだろ?』

 

「え、まぁそうだが」

 

「お前、バイスと言ったか。色々と怪しいな」

 

『そんな事言うなって。俺っちが手伝ってやるからよ!』

 

その瞬間、バイスは手に真っ黒なエネルギーを高めて二人へと不意打ちをかます。しかし、それはペインもキラーも見切っており剣で防いでいた。

 

『へぇ』

 

「お前は嘘が下手くそか」

 

「人が囚われていて近くにモンスターがいれば警戒するのも当たり前だ」

 

『そうかよ。なら!』

 

その瞬間、バイスの目が赤く変化し、周囲を爆破する。二人はそれに巻き込まれて後ろへと吹っ飛ばされた。

 

「コイツ、不意打ち抜きでも強いぞ」

 

「ああ」

 

『俺っちを舐めてもらっちゃあ困るぜ』

 

バイスはそう言うと手に持ち手があるローラーのついた黒いスタンプを取り出す。それから持ち手のトリガーを引くと目のようなものが発光した。

 

《俺っち!スイッチ!ワンパンチ!》

 

それからローラーの部分を体に滑らせるといつの間にか腰に巻いたベルトにスタンプの部分を押印し、それをベルトに装填する。

 

《Come on!バ!バ!バ!バイス!Rollng!バイ!バイ!バイ!バイス!》

 

するとバイスの後ろに黒いチャットが現れ、バイス一人の言葉が流れていく。それからバイスが構えるとお決まりのセリフを言うことになる。

 

『変身!』

 

《バイスアップ!》

 

それと同時に地面から黒い液体がバイスの体に纏わりついていくと装甲を形成。体に青白いスパークを走らせつつ強力な強化体を生成させた。

 

《ガッツリ!ノットリ!クロヌリ!仮面ライダーリバイス!バイス!バイス!バイス!》

 

これによりその体は全体的に黒く、左半身はバイスの体にあった棘のような物が多く出て刺々しくなっている。また、複眼は青くいかにも暴走形態と言ったような雰囲気を出していた。

 

『ふへへへ。俺っちのこの姿の名はジャックリバイス……やっぱこの形態最高だぜぇ』

 

「変身した……」

 

「ちっ、さっきまでよりも凄まじいパワーを感じるな」

 

バイス改めジャックリバイスは二人へと向かっていくとパンチを繰り出す。勿論これは二人とも回避するが、その拳が行き場を失って地面に叩きつけられるとその威力で地面がへこむぐらいの威力だった。

 

「これは、まともに喰らえば大ダメージは免れないぞ」

 

「わかっている。魔剣の力は聖なる力に強いが……アレはどう見ても聖なる力じゃ無さそうだ」

 

「キラー、俺の動きに合わせられるか?」

 

「俺達の世界のペインと同じ動きをしてくれればな」

 

「なら問題無い」

 

こうして、三つの光の柱の麓に拘束された人間の救出及び柱の破壊のための戦いが始まるのであった。それと同時刻、広場の方でもセイバーとカイがダイモンと激戦を繰り広げている。

 

「黄雷抜刀!」

 

「【ウォーターボール】!」

 

カイが水の魔法弾を放ちダイモンがそれを弾いたことで戦いは始まった。己の拳で戦うダイモンに対し、セイバーとカイは黄雷とレイピアでの斬撃で戦う。二人はリーチの長さを生かして拳が届かない範囲からの攻撃を仕掛けるが、それでもダイモンは強く二人がかりでも対応するのは難しかった。

 

「コイツ、強いぞ」

 

「言われなくてもわかってる」

 

「【稲妻放電波】!」

 

セイバーが全方位への範囲攻撃でダイモンへのダメージを狙う。カイは自分の方にも飛んできた電撃を紙一重で回避し、ダイモンはそれを手で受け止めると微ダメージが入った。

 

「危ねーな。全方位攻撃するなら言えよ」

 

「仕方ないだろ。タイミングの問題で……」

 

二人が揉めてるとその間にダイモンが距離を詰めて殴りにくる。二人はそれを下がって回避する。

 

「電撃は効果が薄いか」

 

「さぁな。もしかすると全部の攻撃が効きにくいかもだし断言はできないな」

 

「なら超火力で試すか。激土抜刀!」

 

するとセイバーは激土の姿に変わる。それを見たカイはパワーファイターになったと感じると同時にある事も思った。

 

「お前幾つの姿に変身できるんだよ」

 

「えっと合計六形態だな!」

 

「それ、メイプルの変身の数より多いだろ」

 

二人はそんな会話をしながらもダイモンとの戦いを進めていく。戦いの中で二人が気付いたのがダイモン自身にダメージ減衰の効果が付いているのか自分達の攻撃がいつもより入らなくなっていた。加えて、相手からのデバフ効果を無効化しており、二人がスキルの追加効果でどれだけデバフを入れても全く能力が衰える様子が無い。

 

「ダメージが減衰されるなら、それよりも大きな火力をぶつけるだけだ。カイ!」

 

「ああ、【獅子の矜持】!」

 

セイバーにSTR強化のバフをカイがかけると今度はセイバーが大技を使うための溜め時間に入る。その間に敵からの攻撃を引きつけるのはカイの仕事だ。

 

『はあっ!』

 

「だっ!」

 

二人のレイピアと拳がぶつかる度に火花が散って衝撃波が駆け抜ける。そんな圧倒的火力と火力のぶつかり合いだが、押されているのはカイだった。カイはVITの数値が0なので必ず攻撃を躱すか防御しなければならない。対してダイモンは元々のHPが高く、尚且つダメージ減衰バフもあるのでカイの通常攻撃なら何発受けても問題無いだろう。

 

「セイバー、まだか!」

 

「あと少しだ」

 

「仕方ない。【ウォーターボール】、【ファイアボール】!」

 

カイが炎と水の魔法弾を放つとそれがダイモンに命中する寸前で激突し、蒸発する。その瞬間煙幕が発生してダイモンの視界を奪った。

 

『小賢しい……』

 

「今だ!【跳躍】!」

 

「チャージ完了。【大断断斬】!」

 

セイバーが巨大化させた激土を横一閃に振り抜くとカイは跳んで躱し、躱す事ができなかったダイモンを両断するとダイモンは大量のダメージエフェクトを散らせる。

 

「良し、決まった!」

 

「時間を稼がせて悪かったな」

 

「いや、決まればオッケーさ」

 

二人はダメージを負ったダイモンを見据えるとそのダメージ量を見た。しかし、それは二人が思っていたものより少なく、まだ八割分HPが残っていた。

 

「マジか。激土の瞬間最大火力にカイからのバフを上乗せしたのに……」

 

「化け物かよ」

 

『今のは少し効いた。だが、それだけだ』

 

ダイモンが無慈悲にそう宣言すると腰のベルトに装填されたスタンプを二回倒す。

 

《オクトパスエッジ!》

 

するとダイモンの拳や蹴りにオクトパスの足が付与されて更に出力が増した。その影響か、セイバーが攻撃を受け止めると一番耐久力のある激土でさえHPを3割持っていかれるほどだ。

 

「この火力、必殺技を常時使っているようなものか。なら、翠風抜刀!」

 

セイバーはこの攻撃を激土で受け止めるよりも翠風で躱した方がマシと判断して剣を二刀流にできる翠風に変えた。

 

「その感じだと耐久力はほぼ無いな」

 

「ああ。と言うより、今のアイツの形態は火力重視で激土の防御で防げないのならいっそ躱した方が早い」

 

「なるほど」

 

二人はそれから機動力重視のスタイルに切り替える。二人の内、片方が一撃入れたらすぐ離脱し、少し間を置いてからもう一人が攻撃すると言った戦法で勝負する。

 

「カイ、間違ってでも同時に行くなよ。対応された終わるからな」

 

「言われずともわかってるよ!そっちこそ攻撃する瞬間に油断してカウンターもらうなよ!」

 

『く……コイツら、俺の攻撃のタイミングがわかっているかのように避けていくな』

 

二人は今回が初対面。であるなら高度な連携はまず期待できない。だからこそ同時攻撃を避けてバラバラのタイミングで攻撃し、相手の注意を散らさせるのが狙いだ。

 

「スピード上げるぞ。【烈神速】!」

 

「ああ、【天秤の釣り合い】!」

 

セイバーが【烈神速】でAGIを一気に引き上げ、それに合わせてカイも【天秤の釣り合い】でセイバーと自身を指定し、ステータスを高い方に合わせた。これにより、二人のAGIが爆発的に増加。目に見えない速度での連続攻撃にダイモンは対応できずに何度も切り裂かれる。それから時間経過で【烈神速】は終わったが、それでも暫くは二人のステータスは全く同じなので、今度はカイがスキルを使用する。

 

「【超加速】!」

 

再度増加する二人のAGI。先程の【烈神速】程では無いがこれでも十分なスピードにはなるのでダイモンのHPを残り六割にまで削ることができた。それと同時に【天秤の釣り合い】も終わって二人のステータスがバラバラに戻る。

 

「ナイス連携」

 

「だが、そろそろ次の変化だな」

 

『なかなかやるな。ならこれはどうだ!」

 

ダイモンがベルトのスタンプを三回倒す。するとダイモンの腕にサイの角を模したエネルギーが集約。更にそれを突き出すと衝撃波が発生して二人を攻撃した。

 

《クロサイエッジ!》

 

「うわっ!」

 

「今度は衝撃波を含めた範囲攻撃……こうなると今までのやり方は厳しいな」

 

今の二人の攻撃は接近する事を前提にしており、これでは接近しても衝撃波ですぐに後ろに飛ばされてしまう。

 

「だったら、遠距離から攻めよう。錫音抜刀!」

 

セイバーが錫音を抜くといきなり銃モードで構えて中距離からダイモンを撃ち抜く。

 

「ならこっちも【ウインドカッター】!」

 

カイもそれに合わせてダイモンの攻撃が届かない範囲からの連続射撃で対応する。勿論カイはMPポーションを使いながら回復しつつ戦う。本来なら敵を倒す度にMPが手に入る【賢者の秘法】の効果でMPは無尽蔵のはずが、今回は敵を倒せないのでMPも入ってこない。なので、カイのMPは珍しく途切れ途切れになっていた。

 

「【ロック弾幕】!」

 

セイバーが弾幕を張りつつ攻撃を仕掛ける。勿論ダイモンにはその程度の火力では致命傷とはなり得ない。

 

「く、やっぱり固いな」

 

「セイバー、今度はお前がアイツの動きを抑えてくれ」

 

「え?ま、まぁ良いけど」

 

セイバーはカイに言われるがままにダイモンからの攻撃をカイの代わりに引きつけるためにまずはダイモンからのヘイトを買う。

 

「こっちだ!【シャウトスラッシュ】!」

 

セイバーが一人でダイモンに単独でダメージを与え続ける。ヘイトを買うにはまず自分が与えるダメージ量を大きくしなければならない。

 

「【撃手の器量】!」

 

「【音弾ランチャー】、【ビートブラスト】!」

 

カイからかけられた自身の攻撃に追尾効果を持たせる能力によって本来なら面で制圧する【音弾ランチャー】が相手を追尾するようになり、ダイモンに全て命中。更に極太のエネルギー波がダイモンを飲み込むと一気にダメージを与えていく。

 

『面倒な。まずはお前から始末してやる』

 

ダイモンはそう言ってターゲットをカイからセイバーに変えるとサイの力を込めた突き攻撃を放ってくる。

 

「【スナックウォール】!」

 

セイバーがお菓子の壁によってそれを防ぐと壁は一撃で砕け散るが、それでもセイバーの動きを隠すには十分でありその間にセイバーはそこから移動。別の場所に出てきて時間を稼ぐ。それによってできる時間にカイも準備を進めていた。

 

「クロ、【覚醒】、【大海原】!」

 

するとカイは一角を模したテイムモンスター、クロを召喚。更にスキルの効果でセイバーとダイモンを巻き込むようにいきなり半径20メートル。高さ15メートルに及ぶ円柱形の水塊を生成。そして、それほどまでに巨大な水の領域を生成するとその中をカイは自在に泳ぎつつ移動する。セイバーも【水泳】と【潜水】はあるので問題無い。

 

「【幻魚の尾鰭】!」

 

「流水抜刀!」

 

セイバーは咄嗟に水中戦に向いた流水を抜刀すると同時にカイもスキルを使用。水中での機動力を確保するとそのままダイモンへと接近しつつ連続で斬りつける。水中で身動きが取りづらいダイモンはこれをただ黙って受け続けるのみだ。

 

「【キングキャノン】!」

 

そこにセイバーからの追撃の砲撃。その出力でダイモンを撃ち抜くと残すHPはあと四割。更なる形態変化の時間だ。

 

『お前達の敗北は絶対だ。それを示してやる』

 

ダイモンはベルトのスタンプを合計四回倒すとダイモンの周囲に巨大な二匹のオオムカデのエフェクトが現れた。

 

《オオムカデエッジ!》

 

「はぁ?」

 

「今度はそれかよ」

 

ダイモンが手を翳すとオオムカデのエフェクトは二人へと襲いかかる。しかも水中でも問題無く稼働できるのか、オオムカデのエフェクトは全く躊躇無く突っ込んでくる。

 

「マジで?」

 

「お構いなしか」

 

二人はそのままオオムカデのエフェクトの攻撃を流水とレイピアで防御するが、水中では踏ん張りが効かないのでそのまま勢いで後ろに飛ばされる。

 

「対処する奴らが増えるのか……」

 

「こうなったら電撃で」

 

「待てよ。水の中で電気なんて使ったら俺まで巻き添えだ」

 

「く……」

 

「仕方ない。クロ、解除してくれ」

 

カイの指示にクロは【大海原】を解除。そのまま水の中にいた三人は地面に降り立つとオオムカデも同時に降りてくる。

 

「ここだ!【群羊の王】!」

 

「え?」

 

カイがそう言うとオオムカデはいきなりセイバーとカイへの攻撃を止める。ダイモンがそれを見て疑問に思うがその瞬間、オオムカデ達はダイモンへと攻撃を開始する。

 

「えぇ?」

 

セイバーがポカンとする中、カイは効果を説明する。【群羊の王】は自身に最も近い敵十体を操れる。効果持続時間は3分と短いがこれで二人に僅かな休憩時間ができた。

 

「でもこれだけでHP二割は……」

 

「多分消えないと思う」

 

「ならば……」

 

それから三分の時間が経ち、オオムカデ達の洗脳が解けて二人に向かってくる。

 

「ちゃんと引きつけている間に決めろよ」

 

「わかってる」

 

「【神託の代行者】!」

 

カイがそう言うと自身と全く同じ姿をした分身体を生成。そのままオオムカデ達を引きつける。その間にセイバーが突撃。

 

『無駄な足掻きだ』

 

「そうかな?【キンググレネード】!」

 

セイバーが水の砲弾を生成し、発射するとダイモンへとそれは命中し、ダイモンの体が一瞬止まった。その隙にセイバーは更に近づいて流水に水を纏わせる。

 

「【ウォータースラッシュ】!」

 

その一撃がダイモンの体を斬り裂き、ダメージを与えつつ下がらせる。更に水を纏わせた突きでダイモンのHPを素早く削っていった。

 

「まだかよ!こっちも割とギリギリなんだ。早く決めてくれ!」

 

カイもカイで一撃喰らえば致命傷或いは即死なので必死でオオムカデの攻撃を避け続ける。

 

「わかってる!【グランドレオブレイク】!」

 

セイバーが水の獅子の力を纏い突進。そのまま再度突きを放つ。それをダイモンはダメージを負いつつも何と片手で受け止めてしまった。

 

『捕まえたぞ』

 

すかさずダイモンは反撃のために拳を引く。しかし、その瞬間セイバーはニヤリと笑った。

 

「黄雷抜刀!」

 

セイバーは右手に持っていた流水を手放すとすぐに左手で黄雷を抜刀。そのタイミングでダイモンが持っていた流水が消失し、ダイモンはバランスを崩してしまう。

 

「【雷鳴一閃】!」

 

セイバーはそのまま電撃を纏いダイモンをすれ違い様に斬り裂くと残りHPを二割にした。

 

「よっしゃ!」

 

その時カイの方を狙っていたオオムカデも消滅し、カイは分身体と共にセイバーの元に来る。

 

「遅せーよ、セイバー」

 

「仕方ないだろ。アイツを油断させるならわざと捕まるしか無かったし」

 

二人でそう言い合っているとダイモンはいきなりオーラを放ち始めるといきなりHPが半分まで回復する。

 

「はぁ!?ふざけんな!」

 

「ラスボスが回復とか無しだろ!」

 

二人が抗議する中、ダイモンはそんなのお構い無しとばかりに手を翳すと三体の怪人が出現。それらはダイオウイカ、クイーンビー、ウルフの力を宿しており、それぞれが強大なエネルギーを纏っていた。

 

《ダイオウイカ!》

 

《ウルフ!》

 

《クイーンビー!》

 

「しかも敵も増えるのか」

 

『はぁーい、僕も加わりますよ!』

 

そこに来たのは先程まで戦いを傍観していたはずのシックであり、シックもその姿を変化させる。その容姿は白を基調としており同色のマントと頭部にはメッシュのような金色の装飾が存在している。身体の至るところに縫い目のようなものがあり、嘲笑っているようにも見える笑顔からマッドサイエンティストを思わせた。

 

「五人がかりで俺達を倒すつもりか」

 

「どうする、カイ。一旦逃げに徹して皆を待つか、それとも」

 

「そんなの決まってるだろ。アイツら纏めてぶっ倒す」

 

「そう言うと思ったよ」

 

セイバーはカイと共に逃げずに戦う姿勢を示す。しかし、既に疲労が溜まりつつあるセイバーとカイに対して相手の五人のうち四人は万全な状態なのだ。これほどまでに絶望感のある戦いは無いだろう。

 

「行くぜ!」

 

「ああ!」

 

それでも二人は戦うことから逃げない。この勝負に勝つために……。

 

その頃、北の柱ではリバイスとペイン、キラーが戦っていたがそのパワーを前に二人がかりでも押されていた。

 

『俺っちにはやっぱり勝てないだろ?諦めて降参しな』

 

「誰が?」

 

「悪いけど降参するつもりは無いよ」

 

ペインの聖剣とキラーの魔剣がそれぞれ力を集約し、リバイスの持つ力に対抗しようとする。

 

それから二人はパワーでとにかく攻めてくるリバイスに対してスピードで撹乱しつつ連続攻撃を仕掛けることにした。別世界でだが、ペインと同じギルドであるキラーがこちらのペインの動きを見切り、上手く合わせることで連携を成立させる。

 

「【ブラックアウト】!」

 

『な!?』

 

「ペイン!」

 

「わかっている!【破砕ノ聖剣】!」

 

キラーが一瞬だけリバイスの視界を奪ってからペインがすかさずスキルで斬り裂きかなりのダメージを与える。

 

『今のは……効いたぜ』

 

リバイスはベルトに装填してあるスタンプを取り外すと手に持ち、ローラー部分をナックル型の武器として扱う。

 

「チッ、第二形態のようなものか」

 

『一気に行くぜ……』

 

リバイスはそう言ってローラーの部分を三回手で回転させるとエネルギーが集約していく。

 

《ナックルアップ!》

 

《バ!バ!バ!バイス!ババババババ!バイス!》

 

待機音が鳴り響く中、バイスは二人を仕留めるために走っていく。そうして、右手に持ったローラー付きスタンプを突き出した。それに合わせてペインとキラーも渾身の一撃を解き放つ。

 

「【聖断ノ剣】!」

 

「【退魔の聖剣】!」

 

《ローリングライダーパンチ!》

 

二人の斬撃とリバイスのパンチがぶつかり合うと中央で拮抗するが、その押し合いはリバイスが押し切り、二人はかなりのダメージを受けると吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐう……」

 

「強いな……」

 

『俺っちに勝つなんて百年早ぇーよ』

 

「キラー、何か策はあるか?」

 

「……あったらとっくに伝えてる」

 

二人が話し合う間にもリバイスは二人へと近づいて攻撃を仕掛けてくる。二人はこの時、強力な飛び道具があればと思った。リバイスの攻撃は主に近接戦。二人に遠距離から戦況をひっくり返すスキルがあれば良かったのだが生憎二人の武器は近接向きだ。

 

「こうなったら、二人で速度を上げて連続攻撃だ。行けるな?」

 

「勿論さ」

 

二人はそれからリバイスへと向かっていくと二人で同時に連続攻撃を仕掛けてリバイスのHPをじわじわと削っていく。

 

「もう少しで倒せる!」

 

「油断するなよ」

 

その瞬間、リバイスは衝撃波を発生させると二人を無理矢理後ろへと下がらせる。

 

「く……」

 

「まだあと二割程か」

 

『よくここまで追い詰めたなぁ……だが』

 

リバイスはそう言うと突如としてHPを半分近くにまで回復。更に体からオーラを発して更にステータスが上昇した。これでは折角削った努力が無駄である。しかも、二人も限界が近い。そんな中での仕切り直しだ。

 

「クソッ」

 

「この俺が本気で不味いと思える状況が来るなんてな……」

 

二人はそれでも戦う姿勢を崩さない。勝つためにはここで退くわけにはいかないからだ。

 

「……こうなったら、一か八かやるしか無いぞ」

 

「わかってる、最後まで付き合ってもらうぞ」

 

 

二人はそう言って構えると突然近くから足音が聞こえてきた。二人がそちらを振り向くと一人の男性が歩いてくる。

 

「……何?」

 

「あなたは」

 

『はーん。誰かと思えば……ゲンタじゃないか』

 

『バイス……俺の息子、イッキの元に戻れ』

 

『嫌なこった』

 

『ならば、俺がお前を止める』

 

そう言ってゲンタと呼ばれた人物は赤と青を基調とし、中央に液晶の付いたドライバーを出すとそれを巻いた。

 

《デストリームドライバー!》

 

『行くぞ。バイス!』

 

《ヘラクレス!》

 

ゲンタがスタンプを押すとそれをベルト上部の朱肉部分に付ける。

 

《Contract!》

 

『変身!』

 

ゲンタが切腹のようなポーズを取ってからスタンプを液晶部に押印。すると背中から六枚の翼が出てきた。

 

《Spirit up!》

 

《Slash! Sting!Spiral! Strong!仮面ライダーデストリーム!》

 

するとゲンタの体が蛹のような装甲に包まれてから背中から出てきた6本の足のような物が蛹を破りその姿が露わになると背中から出た足が定位置に付き、変身完了した。

 

その姿はヘラクレスを踏襲しつつも近未来の戦士を模しており、白いスーツに青く尖ったアーマーを着たような物になっていた。

 

「援軍……で良いのか?」

 

『ああ、一緒にバイスを倒してイッキを救うぞ』

 

「わかった」

 

三人はリバイスへと向かっていくとそのまま三人でリバイスに連続攻撃を仕掛ける。流石に三人が相手になるとリバイスも分が悪く、少しずつ三人が有利になっていく。

 

『俺っちが負けるわけが無い!』

 

「俺達の力で……お前を倒す!」

 

「【呪魔狼刃剣】!」

 

「【破砕ノ聖剣】!」

 

二人から繰り出された攻撃はリバイスのHPを削り、そのままデストリームに繋ぐ。

 

『決めてやる。バイス!』

 

《ヘラクレス!Charge!》

 

デストリームがスタンプを押印すると同時にリバイスも手にしていたスタンプを再度ベルトに装填。そのまま二回スタンプを倒す。

 

《ローリングスタンピングフィニッシュ!》

 

更にデストリームもベルトを両サイドから押し込んで必殺技を発動する。

 

《デストリームフィニッシュ!》

 

リバイスは真っ黒なペイントのエネルギーを使い飛び蹴りを、デストリームは青いエネルギーを纏った回し蹴りを放つ。二つのキックが拮抗するが、リバイスの動きはそこで止まるため、その間にペインとキラーが自由に動くのを許してしまう。

 

「キラー!」

 

「わかってる!」

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

「【魔芥氷狼・ユートピア】!」

 

足が止まっている間に二人からの同時斬りを喰らったリバイスのHPは0になり、爆散すると何かの光が光の柱の麓に囚われているイッキと呼ばれた青年の元に入っていく。

 

「勝てたのか?」

 

「ああ、これでようやく戻ることが出来そうだな」

 

二人はそれからデストリームに礼を言い、すぐに中央の広場に戻ろうとするが、その行手を森の中で出てきた兵士、ギフジュニアの群れが塞いでしまう。

 

「ここでまた足止めか」

 

「素早く倒して戻ろう」

 

二人はそれからデストリームと共にギフジュニアの群れへと突撃していくのであった。

 

その頃、南西の柱ではエビルの速度を相手にサリー、ヒビキ、フレデリカの三人は不利な戦いを強いられていた。そもそもサリーは一撃喰らえば終わるHPとVITなので相手の方が速ければ尚更攻撃の回避は全力でやらなければならない。エビルの速度は三人の誰よりも速かったのである。

 

「くっ、攻撃を躱す事に専念するとなかなか攻撃できないわね」

 

「でも、攻撃しないと負けるわよ?」

 

「どうにかして近づけられれば」

 

「仕方ないわね。【多重炎弾】!」

 

フレデリカが得意とするスキルで普段なら1発限りの炎弾だが、彼女の使う多重魔法によってそれは多くの数を召喚する。それを放つ事によりエビルの動きを制限させる事に成功。

 

「今!【ダブルスラッシュ】!」

 

「【我流・特大撃槍】!」

 

二人の攻撃がエビルを襲い、彼へとダメージを与える。するとエビルは速度が速い分、耐久性に難があるのかHPの減り方が早かった。

 

「なるほど、やっぱり高いAGIの代わりに防御力が紙か」

 

「でも同じ手は二度と効かないわよ」

 

「だったら今度は……」

 

「【グランドスタンプ】!」

 

ヒビキが地面を踏みつける事で発生させた衝撃波を飛ばすとそれはエビルへと飛んでいく。勿論エビルにそれは躱されるが、その着地点を狩るようにフレデリカが構えていた。

 

「【多重石弾】!」

 

しかしエビルはこれにも対応。飛んでくる石弾を全部エビルブレードで切り裂くと破壊してしまう。それでもフレデリカはニッと笑う。真打ちは私じゃないと言わんばかりに。

 

「はあっ!」

 

そこにサリーからのダガーが迫る。エビルは体勢を崩しながらもエビルブレードでのカウンターを決めてサリーを斬り裂くが、その姿は薄く消える。

 

「残念。それは【蜃気楼】だよ?」

 

エビルの体勢を三人がかりで少しずつ崩し、最後はしっかりと攻撃を決める三人の連携によってエビルは数の差を前に追い詰められる。

 

『やるじゃねーか。だが、俺の本気はこんなものじゃないぜ!』

 

エビルは更に速度を上げると三人へと突っ込み、比較的に近接戦が苦手であろうフレデリカへとエビルブレードを振るう。

 

「【多重障壁】!」

 

フレデリカの出した障壁が見事にエビルブレードによる斬撃を押し留めている間にサリーとヒビキが近づいて拳とダガーによる攻撃を仕掛ける。

 

「【飛拳】!」

 

「【パワーアタック】!」

 

二人による攻撃で更にエビルは追い詰められるが、リバイスと同じようにいきなりHPが半分まで回復すると更に速度が上昇する。

 

「【超加速】!」

 

サリーは急に上がった速度に対抗するために仕方なく【超加速】を使わされる事になり、エビルと斬り合う。しかしエビルのスピードは今のサリーでさえもギリギリの戦いになり、何とか躱すか受け止めるので手一杯だった。

 

そうしているうちに【超加速】の時間切れとなりエビルも超スピードの時間オーバーとなったのか二人同時に元の速度に戻る。

 

「サリーお姉さんが押されてる?」

 

「とんでもない化け物ね……」

 

「次にあのスピードを出されたらもう対応できないかも……」

 

サリーでさえも躱すのが厳しいのであれば他の面々には躱すことは不可能だ。こうなると次以降あの速度を使わせないのが最善だがそれも難しい。

 

「く……」

 

サリーが自分でも届かない悔しさに打ちひしがれているとそこに足音が聞こえてくる。

 

「誰?」

 

「まさか、また敵なの……」

 

『こんな所にまでやって来るとはな……ヒロミ』

 

そこに来たのはヒロミと呼ばれた青年で手には黒と赤を基調とし、液晶の付いたベルトだった。

 

『カゲロウ、ダイジの元に戻れ』

 

『嫌だと言ったら?』

 

エビルの反応を聞いてヒロミは手にしたベルトを腰に巻き、スタンプを取り出す。

 

《デモンズドライバー!》

 

『我が全身全霊を賭けて……お前を止める』

 

《スパイダー!Deal…》

 

『変身!』

 

ヒロミはスタンプのボタンを押してそれをベルトの朱肉部分に押し込み、そのまま液晶に押印する。

 

《Decide up!》

 

するとヒロミのすぐそばに小さな蜘蛛が降りて来るとそれが糸を出しながらグルグルとヒロミの周りを周回。そのままその姿を変化させると右肩から顔、胸辺りにかけて蜘蛛の巣が張り付く。

 

《Deep.(深く) Drop.(落ちる) Danger…(危機)》

 

《(仮面)rider Demons!》

 

ヒロミはその体を赤のアンダースーツに青や灰色のアーマー、右肩や胸には蜘蛛の巣を模した装甲、顔も右側から蜘蛛の巣が張り付き、幾つもの青い複眼が発光する仮面ライダーデモンズに変身した。

 

「何あれ……」

 

「ひとまず味方なのよね?」

 

『ああ。行くぞ。カゲロウ!』

 

『来いよ』

 

まずはデモンズがエビルに近づくとパンチを繰り出す。それに対してエビルもエビルブレードで迎え撃つが、単純なパワーはデモンズが上なのかエビルはすぐに押し込まれる。

 

「私達も行くよ!」

 

「はい!」

 

「しょうがないなぁ。【多重風刃】!」

 

フレデリカはそこに風の刃を飛ばして追撃。更にサリーとヒビキが近づいての近接戦を仕掛ける。そこにデモンズが加わって三人がかりでエビルが超スピードを発揮しないように連続攻撃を喰らわせていく。

 

『チッ、面倒なやり方しやがって』

 

「そう思うのならどうにかしてみなさいよ」

 

「【インファイト】!」

 

ヒビキが拳のラッシュでエビルを追い詰める中、デモンズはある仕掛けを発動させる。

 

『鬱陶しい!』

 

《必殺承認!》

 

《バットダークネスフィニッシュ!》

 

エビルが足りない火力を補うために必殺技でヒビキと互角に押し合うが、いきなりエビルの足がガクリとなる。

 

『何!?』

 

エビルが足元を見るとそこにはデモンズが展開したであろう蜘蛛の巣がエビルの足を捉えており、これで彼の持つ機動力を完全に奪い取った。

 

『決めるぞ、三人共!』

 

《スパイダー!Charge…》

 

デモンズがスタンプを液晶に押印し、ベルトを両側から押し込むと背中から八本の蜘蛛の足が出て来る。

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

「【我流・特大撃槍】!」

 

「【多重水弾】!」

 

それから動けないエビルにサリーからの連撃、ヒビキからの一発、フレデリカからの水弾が命中した後にデモンズが跳び上がってキックを繰り出す。

 

《デモンズフィニッシュ!》

 

その一撃がエビルに命中するとエビルのHPは0となり爆散。そのままバイス同様にエビルのいた場所から何かの光が光の柱にいるダイジの元に入った。

 

「何とか倒せたぁ……」

 

「助けていただきありがとうございました」

 

『いや、俺の方こそ駆けつけるのが遅くなってすまない』

 

「ひとまずあの塔を破壊してから急いで戻ろう」

 

「うん!」

 

しかし、事はそう上手く運ばない。ペイン達の所と同じでギフジュニアの群れが出てきたのだ。

 

「うぇっ……ゾンビ……骸骨……」

 

それを見たサリーは怖がるが、そんな事を言ってる場合ではないので我慢して戦う気持ちを高める。

 

『やるぞ』

 

それから四人は急いでその場を収めるべくギフジュニアとの戦闘を開始するのであった。

 

 

最後の光の柱である南東の柱ではラブコフを相手にメイプル、マイ、ユイは極振りの弱点である機動力の無さを突かれていた。

 

「【身捧ぐ慈愛】でダメージは無いけど……」

 

「私達の攻撃が当たりません!!」

 

「どうしたら……もしサリーさん達なら……」

 

この場にいないサリーやヒビキ達の事を考えるが、そんな事を言っていても仕方ない。もう自分達で戦うしか無いのだ。

 

「「【飛撃】!」」

 

一発当たれば致命傷にできる威力があっても当たらなければ意味が無い。

 

『ラブラブ、どこ狙ってるコブ』

 

「うぅー、ちょこちょこと動くから全然当たらないしどうしよう……」

 

「毒による範囲攻撃だと私達が毒を踏んでしまいますし……」

 

「どうしましょう……」

 

「だったら……【機械神】!」

 

メイプルはマイとユイに万が一命中してもフレンドファイア判定にならない【機械神】を選択し、射撃をばら撒く。

 

『効かないわねぇ』

 

ラブコフは軽快なステップで【機械神】からの一斉射撃をものの見事に回避してしまう。

 

「これもダメ!?」

 

「「だったら近づいて直接です!」」

 

マイとユイがそう言って走っていく。しかし、その距離は二人にとってもデットゾーンだった。

 

『ラブ!!』

 

ラブコフが振り下ろされる大槌を喰らいつつも、カウンターの回し蹴りが二人に炸裂。それによってメイプルにノックバックが付与されてしまう。

 

「ええ!?」

 

「不味いです!」

 

「早く戻らないと……」

 

しかしその時間をラブコフが待つわけが無い。動きの遅い二人へとすぐに足技を使って来る。

 

「【カバームーブ】、【カバー】!」

 

仕方なくダメージ覚悟でメイプルが瞬間で近づき、ラブコフの足を大盾で受け止める。【悪食】の追加効果でラブコフはダメージを負い、先程の一撃と合わせてダメージはかなり大きく、もう少しで倒せるというところにまで来ていた。

 

「マイちゃんユイちゃん、あと一発決めるよ」

 

「「はい!」」

 

『もう決まらないコブ』

 

その瞬間、ラブコフのHPが回復すると確定ラインがズレてマイとユイでもあと一発では仕留められなくなってしまう。更にバイスやカゲロウ同様にステータスも上がり、厳しい状況に早変わりだ。

 

「どうしよう……」

 

「このままじゃ……」

 

「負けないよ、こうなったら」

 

メイプルは一か八か【機械神】に秘められた奥の手である【ブレイク・コア】を初めて使い、自分を道連れに倒そうと考えた。しかし、その直前に近くから誰かが歩く音がしてそれを中断する。

 

『ラブ?』

 

『……ラブコフ、あなたサクラから離れて何をしてるの?』

 

そこに来たのは女性であり、黒いワンピースを着ていた。そして彼女はハナと名乗る。

 

『ハナ、何しに来た』

 

『勿論、本来のラブコフを取り戻しに来たのよ』

 

《ウィークエンドライバー!》

 

ハナはそう言って赤とオレンジがベースのベルトを取り出すとそれを腰に巻く。

 

『これが、私の覚悟よ』

 

《クイーンビー!》

 

ハナがスタンプを押してベルトに装填。するとベルトの中心の蜂蜜を模した部分から巨大な赤と白の女王蜂が出て来る。

 

『変身!』

 

それからハナはポーズをとってから手でスタンプごとベルトの回転部分を横に倒し、蜂蜜の部分が下に垂れるようになる。

 

《Subvert up!》

 

すると足の部分から蜂蜜で体に装甲が纏われていくとその中に先程の巨大な女王蜂が飛び込む。

 

《Wow!Just believe in myself!仮面ライダー Ah!アギレラ!》

 

それにより装甲が完成し、白のアンダースーツに黒や赤のラインが入った装甲を着て、頭部には蜂の羽を思わせるアンテナが2本あり、蜂の毒針が正面を向くような仮面になっている。

 

『仮面ライダーアギレラ……行くわよ。ラブコフ』

 

アギレラは両手にクナイを構えるとラブコフに向かっていく。それを見た三人もアギレラを援護するために攻撃を再開した。

 

『はあっ!』

 

アギレラが高い機動力でラブコフの速度について行く中、三人は普通にやってもアギレラの速度には絶対追いつけない。そこである方法を取ることにした。

 

『コブ!』

 

ラブコフがアギレラを踵落としで下がらせた瞬間、そこを狙ってマイとユイが同時に出る。

 

「「【ダブルスタンプ】!」」

 

『ラブ!?』

 

踵落としの直後で反応できない瞬間。この隙を突いた事で二人の一撃が決まり、ラブコフは大きなダメージを負う。

 

「行っくよ!【捕食者】、【機械神】、【全武装展開】、【攻撃開始】!」

 

そこにメイプルからの手数による攻撃だ。ラブコフはそれに対処するために手一杯となる。それによって生まれる隙をアギレラは逃さずにクナイでラブコフを切り裂いた。

 

『卑怯コブ!』

 

「仕方ないでしょ。勝つためだもん」

 

『サクラ、今助けるから!』

 

《クイーンビー!スタンピングブレイク!》

 

アギレラはベルトのスタンプを四十五度上に上げてから倒す。すると赤いエネルギーが左足に纏われていき、ラブコフもそれに合わせて回し蹴りで対抗するもののアギレラのスピードがラブコフの回し蹴りを放つまでの速度を上回り、ラブコフの攻撃は空を切る。

 

「【毒竜】!」

 

そこに温存していたメイプルからの毒攻撃でラブコフは毒まみれになると継続ダメージを受ける。

 

『ラ……ブ……』

 

「「【飛撃】!」」

 

トドメにマイとユイから四つの衝撃波が放たれてそれがラブコフに命中するとラブコフはHPを0にされて爆散し、何かの光がサクラと呼ばれた柱に囚われし女性へと飛んでいった。

 

「「やりました!」」

 

「これで皆の元に行けるね!」

 

「あ、助けていただきありがとうございました」

 

『礼は要らないわ。私ももう少し早く来るべきだったから』

 

そのような会話をしていると他の二箇所と同様にギフジュニアの群れが出現。四人を足止めするために立ち塞がった。

 

「うえっ!?」

 

「そんな……」

 

「こんなにも敵が……」

 

『やるしか無いわね』

 

四人はギフジュニアと戦いを始める。三箇所の光の柱での戦闘が一度仕切り直しになった頃、セイバーとカイは着実に追い詰められていた。

 

「あっちのダイモンって奴だけでも手一杯なのに」

 

「三体も怪物を出されちゃ今の俺達でもキツすぎる」

 

セイバーはHPを半分以下に減らされ、カイも分身を破壊された上に自身も数回攻撃を掠ってHPが残り僅かになっていた。

 

「くっ、ここで切るのは辛いけど、【乙女の祈り】、【泡沫の水盤】!」

 

カイはやむを得ず自身に【乙女の祈り】を使いHPを全回復。更に相手が水に触れるとAGIが下がるフィールドを展開して数の不利を覆そうと考える。

 

「烈火抜刀!黄雷、【大抜刀】!」

 

セイバーも烈火と黄雷による二刀流で両手に剣を持ち、戦術のバリエーションを増やす。

 

「【火炎十字斬】、【落雷】!」

 

セイバーも正面の敵には烈火と黄雷の二刀流で対抗し、側面や背面を突こうとする怪物には牽制のスキルで足止めするがそれでも手数の差は埋まらない。

 

「こうなったら、疲れるけどアレをするしかないか……」

 

『しぶとい奴等だ。今度はお前達を別の場所に送りそこに閉じ込めて痛めつけてやる』

 

ダイモンはそう言うとベルトに手をかけて技を使おうとする。それを見たセイバーとカイは絶望感を浮かばせる。今度別空間に飛ばされる技を使われれば、もう対応はできない。しかも、味方との合流も叶わなくなる。

 

『終わりだ』

 

ダイモンがスタンプを倒そうとするが、その瞬間突如として爆発音と共に遠くに見えていた光の柱が次々と消失していった。

 

『何?ど、どういうことだ』

 

いきなりの光の柱、崩壊により狼狽えるシック。その時三つの魔法陣が出て来ると中から離れ離れになっていたセイバーの世界のマイ、ユイ、ヒビキ、キラー。カイの世界のメイプル、サリー、ペイン、フレデリカの合計八人と見知らぬ二人の青年と一人の女性が現れた。

 

「皆!」

 

「お待たせ、セイバーお兄ちゃん」

 

「「遅くなってすみません!」」

 

「マイ、ユイ、良かったぁ……無事か?怪我は無い?」

 

「「あなたに心配されても嬉しくありません!」」

 

「ぐはっ……」

 

シスコン(カイ)の心を思いっきり粉砕するセイバーの世界のマイとユイ。それを見たメイプルやサリーは苦笑いをする。

 

「そう言えば、そちらの三人は?」

 

「えっとねー、さっきまで光の柱に捕まってた人」

 

「どうやらお礼がしたいってついて来たみたいだ」

 

『馬鹿な、どうやってあの悪魔達とギフジュニアを……』

 

「助っ人さん達に相手してもらってるよ」

 

皆が戻って来られた実態はこうである。三つの柱に囚われた三人に悪魔達が戻ったタイミングに悪魔の力の影響で力の均衡を保てなくなった柱が崩壊。そのエネルギーが魔法陣となってその場に召喚される。その後、デストリーム、デモンズ、アギレラの三人にギフジュニアの相手を受け持ってもらい解放された三人と共に魔法陣に乗ってここに戻る。

 

『ぐ……』

 

「皆、手分けしてアイツら四人を受け持ってくれるか?」

 

「勿論」

 

「私達もまだまだ暴れ足りなかったからね」

 

「なら、俺の方からも大盤振る舞いだ。【分身】!」

 

そう言ってセイバーは六人に【分身】。当然これを見たカイは驚く。

 

「はぁ?セイバー、お前六人にまで増えられるのかよ」

 

「え?これで終わりだと思った?」

 

「烈火」

 

「流水」

 

「黄雷」

 

「激土」

 

「翠風」

 

「錫音」

 

「「「「「「抜刀!」」」」」」

 

セイバーは現時点で所持する聖剣6本を全員でそれぞれ持つとその姿は圧倒的強者の貫禄だった。

 

「分身しただけでなく六形態全披露か……」

 

「カッコイイ!!」

 

「あれ、セイバーって今のメイプルより強くない?」

 

「アレを初見で見た時の圧力は半端無かったな」

 

『やるな。俺達も負けてられないぜ。ダイジ、サクラ!』

 

『勿論。お礼もちゃんとしないとな』

 

『私達の強さを見せてあげる!』

 

三人はそれぞれベルトを取り出すとそれを腰にセットする。イッキとダイジはそれぞれバイスやカゲロウが使っていたベルトを、サクラはアギレラことハナが持っていたベルトの色違いで青とオレンジのベルトである。

 

『一気に行くぜ!』

 

『大事に決めようか!』

 

『サクッと倒すよ!』

 

《レックス!》

 

《バット!》

 

《コブラ!》

 

《Confirmed!》

 

三人がそれぞれスタンプを起動させるとイッキは自分の後ろにスマホのLINEの画面が出てバイスと会話し、スタンプを台に押印。ダイジはスタンプをライダーズクレストがある場所に押印してからベルトに装填。サクラもベルトの倒すべき部分に付ける。

 

するとイッキの体から半透明なバイスが登場するとその手には巨大なスタンプを持っていた。

 

《Come on!レ・レ・レ・レックス!》

 

続けてダイジからは大量の蝙蝠が湧き出てその周りを飛び回り、ダイジがベルトのブレード部分の位置を変えて銃にすると蝙蝠達が白く染まる。

 

《Eeny, meeny, miny, moe!》

 

更にサクラの周囲に太い檻のようなものが落ちて来ると一度閉じ込められてからその檻が吹っ飛ぶ。

 

《What's Coming up!? What's Coming up!?》

 

『『『変身!』』』

 

それから三人同時に叫ぶとイッキはスタンプをベルトに装填して倒し、ダイジは銃を引き抜いてトリガーを引く。サクラもベルトのスタンプを四十五度倒す。

 

《バディアップ!》

 

《バーサスアップ!》

 

《リベラルアップ!》

 

まずはバイスがイッキへとスタンプを下ろしてその中に浸された液体が装甲として纏われていきその姿を変えていく。更にバイスの半透明だった体に装甲を纏い実体化する。

 

《オーイング!ショーニング!ローリング!ゴーイング!仮面ライダー!リバイ!バイス!リバイス!》

 

次にダイジの真上に蝙蝠が集まると巨大な翼付きのスタンプとなり、それがダイジに覆い被さるとその中が液体で満たされて装甲に変化。そのままスタンプを突き破って変身を完了する。

 

《Precious!Trust us!Justis!バット!仮面ライダーライブ!》

 

最後にサクラはベルトから巨大な青いコブラが開放されるとそれが体の周りを周回し、その中で青い液体が彼女を包み込みその姿を変えていく。そうして、青いコブラは近くでマスコットのラブコフの姿となり、サクラも変身完了した。

 

《Ah Going my way!仮面ライダー!蛇!蛇!蛇!ジャンヌ!》

 

イッキはそれぞれピンクや水色を基調としてティラノをモチーフとした姿となり、バイスもピンクと黒のティラノを模している。二人は仮面ライダーリバイと仮面ライダーバイスとなり二人同じモチーフのバディライダーである。

 

ダイジはエビルと同じアンダースーツに白と黄色を基調としたライダーとなり、腰には三枚のローブが垂れている。また、顔は翼を広げた蝙蝠のような形であり、その色はオレンジだった。ダイジが変身したのは仮面ライダーライブである。

 

サクラは青とメインとして黄色いラインが入り、後頭部には蛇の尻尾のような物も伸びている。彼女が変身したのはその名も仮面ライダージャンヌだ。

 

「なるほど、あれが三人が変身した……って、あれ?三人で変身したはずなのに一人と一匹増えてるんだけど」

 

『ああ、コイツは俺の悪魔バイスと』

 

『私の悪魔、ラブコフよ』

 

「流石に今度は襲ってこないよな?」

 

「また変身したりしませんよね?」

 

バイスとラブコフを相手に戦った面々は襲って来るのを心配するがそれは杞憂とばかりにリバイとジャンヌが大丈夫と返す。

 

『ラブラブ、平気!』

 

『あの時はアイツに操られていたからな。もう襲ったりはしないぜ』

 

「だと良いけどな」

 

「よーし、最終決戦だ。テンション上げてくぜ!」

 

それからセイバーの世界とカイの世界、更にリバイ達ライダー組の連合軍対ダイモン達との最後の戦いが始まった。

 

「カイ、防御力を上げるスキルはある?」

 

「あるぜ。【雄牛の守り】!」

 

すると烈火のセイバーの防御力が向上する代わりに機動力が低下。防御重視のバフがかかる。

 

「ブレイブ、【覚醒】!【騎乗】!」

 

セイバー本体である烈火のセイバーは自らのテイムモンスター、ブレイブを呼ぶとその上に乗って低下した機動力を補う。

 

「カイ、お前も俺に乗ってみたいか?」

 

「………は?」

 

セイバーのいきなりの提案にカイは驚く。勿論セイバーに乗るという発想自体カイにそれが理解されるまで数秒の時を有した。

 

「いやいや、そうは……」

 

「【ライオン変形】!」

 

すると流水のセイバーが機械仕掛けのライオンへと変形するとカイに背中に乗るように首を振った。

 

「ならんだろ……」

 

カイは完全に呆気に取られてしまう。まさか自分が他人の背中に乗ることになるとは思わなかったからだ。

 

「もうなるようになれだ!」

 

カイは諦めてセイバーに乗るとセイバーは走り出す。ダイモンはそれに対抗するように必殺技を発動した。

 

《マッドリミックス!》

 

《必殺!カオス!トライキメラチャージ!!》

 

するとダイモンは先程まで使っていたオクトパス、クロサイ、オオムカデのエフェクトを纏い、完全なフルパワー状態となる。

 

「「無駄だぜ!」」

 

セイバーとカイはそれぞれ騎乗した状態で烈火とレイピアを振るいダイモンから繰り出させる攻撃を相殺しつつ近づいていく。

 

「【潮招きの刃】、【蠍毒の一突き】!」

 

カイがスキルでセイバーと自身にそれぞれ通常攻撃に追加効果を与えるスキルを使いセイバーと自身の通常攻撃を強化。そのまま突進を続ける。

 

「【キングドライブ】!」

 

「ブレイブ、【フレアドライブ】!」

 

流水のセイバーが水を、ブレイブが炎を纏うと更に加速してダイモンに突撃。これでダイモンのパワーを押し切ってダメージを与えた。

 

「っしゃ!」

 

「まだまだ行くぜ!」

 

その頃、他の面々達はシックやその仲間の怪物達を相手に戦闘を続けていた。その内訳は以下の通りである。

 

セイバー(黄雷)、リバイ、ヒビキ、ペイン対シック

 

セイバー(激土)、バイス、ユイ、フレデリカ対ウルフデッドマン

 

セイバー(翠風)、ジャンヌ、キラー、メイプル対クイーンビーデッドマン

 

セイバー(錫音)、ライブ、マイ、サリー対ダイオウイカデッドマン

 

 

まずは対ダイオウイカデッドマンから見ていこう。

 

『はあっ!』

 

「【ロック弾幕】!」

 

セイバーとライブが銃撃でダイオウイカデッドマンの注意を引き、そこに一発の火力が高いマイが飛び掛かる。

 

『甘い!』

 

それはダイオウイカデッドマンが触手で貫くものの、それは薄く溶けて消えた。

 

『何!?』

 

「スキル、【蜃気楼】。どう?騙されたよね!【ウインドカッター】!」

 

「本物はこっちです!【ダブルスタンプ】!」

 

そこにサリーからの風の刃とマイからの大槌が決まりダメージを稼ぐ。更に錫音のセイバーが走り込んで剣モードにした錫音ですれ違い様に斬りつけた。

 

『小癪な……』

 

「朧、【覚醒】!【影分身】!」

 

サリーは自らの相棒、朧を呼ぶと自身の数を三人に増やして接近する。

 

「【飛撃】!」

 

「【サンドボール】!」

 

サリーが近距離から、マイが中距離から衝撃波と土属性の魔弾で攻撃し、それはダイオウイカデッドマンが触手で魔弾を打ち消すが、衝撃波は威力が高すぎて防ぎきれずにダメージを負う。

 

「【スナックチョッパー】!」

 

《必殺承認!バットジャスティスフィニッシュ!》

 

そこにセイバーの斬撃とライブからの射撃が決まってダイオウイカデッドマンを怯ませる。更にそこにサリーからの連撃。即席のチームにしては見事な連携だった。

 

「サリーさんにセイバーさん、凄いです。初めて会ったのにあそこまで連携できるなんて」

 

「まぁ、こっちの世界のサリーとスタイルは一緒だから合わせやすいってだけかな」

 

「私も合わせてもらってるおかげでやりやすいし、流石はカイと合わせていただけの事はあるかな」

 

続けてクイーンビーデッドマンとの戦いに移るとクイーンビーデッドマンから繰り出される働き蜂型のエネルギー弾幕を前に翠風のセイバーは自慢のスピードで全部躱し、メイプルは超防御力で全くダメージにならず、キラーとジャンヌも攻撃を上手く捌いていた。

 

「【手裏剣刃】!」

 

セイバーが手裏剣型のエネルギー斬を放つとそれがクイーンビーデッドマンに向かって飛んでいく。

 

『ふん!』

 

クイーンビーデッドマンはそれをエネルギー弾で相殺するが、その瞬間にはジャンヌとキラーが飛び込んでおり、ジャンヌは回し蹴りを、キラーは魔剣による斬撃を繰り出す。

 

「【呪いの一撃】!」

 

クイーンビーデッドマンはそれを喰らってスキルの効果によりステータスが一時的にダウン。そこにセイバーが二刀流の翠風で切り裂いていく。

 

「オラオラ!」

 

「【機械神】、【展開・左手】!」

 

そこにメイプルからの砲撃が決まり、セイバーはそれをなんとか避けるが、セイバーの体で弾道が読めなかったクイーンビーデッドマンはそれをまともに喰らう。

 

「メイプル、もう少しタイミングを考えてくれないか?」

 

「ごめんごめん。でも避けれたし……」

 

「そういう問題か!」

 

「やれやれ……」

 

セイバーとメイプルのやり取りを聞きつつキラーは呆れ、その瞬間を隙ありと見たのかクイーンビーデッドマンが毒針を発射してくる。

 

『やらせない!』

 

ジャンヌが地面を殴って発生させた衝撃波で毒針を押し留めてそのまま回し蹴りで粉砕した。

 

「決めてやるよ。【超速連撃】!」

 

「【滲み出る混沌】!」

 

「【呪血狼砲】!」

 

セイバー、メイプル、キラーの三人が次々と連続攻撃を仕掛ける。セイバーが連続で切り裂き、メイプルは怪物に喰らい付かせた。最後にキラーが斬撃波をぶつけてクイーンビーデッドマンを大きく怯ませる。

 

『大技は任せて!行くよ、ラブちゃん!』

 

『ラブ!』

 

ジャンヌはベルトを一回起こしてからスタンプ上部のボタンを押し、必殺技を発動準備を完了させる。

 

《必殺承認!必殺!必殺!》

 

《コブラ!リベラルスマッシュ!》

 

ジャンヌが跳びあがるとキックの体勢に入り、その足に青いコブラとなったラブコフが合体。そのままエネルギーが上昇したキックでクイーンビーデッドマンを吹っ飛ばした。

 

更にウルフデットマンとの戦いでは手にした銃を撃ってくるウルフデットマンに対して、セイバーがユイの盾となりつつ攻撃をしっかり防御し、その間にバイスやフレデリカがきっちり攻撃を当てていた。

 

『ふへへへ。このオーインバスター50があればこんな奴ら屁でも無いね!』

 

「ごちゃごちゃ言ってないで戦う!【多重光弾】!」

 

フレデリカは接近戦を仕掛けるバイスとセイバーがやりやすいようにしっかりとダメージを稼ぎつつ相手の動きを制限する。

 

「サンキュー、フレデリカさん!」

 

「このくらい当たり前よ」

 

「【大地貫通】!」

 

「【飛撃】!」

 

そこにセイバーとユイの超火力コンビが自身の正面に高い威力を誇る攻撃を放つ。ただし、ユイに関してはただの通常攻撃だが。ウルフデットマンはそれをギリギリで躱すがそこにフレデリカからの追撃が決まりダメージを負う。

 

「ちょっと、私が決めるよりあなた達がやったほうが火力出るんだからちゃんと決めてよね」

 

「すまん。次はちゃんと当てるさ。【激土爆砕】!」

 

今度は確実に攻撃を当てるために地面に激土を突き立てるとウルフデットマンの足元から岩の棘を生やしてウルフデッドマンを貫く。

 

「【ダブルスタンプ】!」

 

そこにユイからの高威力の攻撃が叩き込まれ、ウルフデットマンは大ダメージを負う。

 

『やるじゃねーか』

 

ウルフデットマンは負けじと攻撃を放ったユイへと銃を撃つ。まだユイは回避にあまり慣れてない事もあってそれは頬に擦り傷を負ってしまう。

 

「きゃっ!?」

 

その瞬間、いきなり物凄い怒りのオーラと共に何かの影が飛んできた。

 

「オイ、ウチの妹に何手ぇ出してんだこのボケが!」

 

そこにいたのは怒り心頭のカイである。彼はつい先程までダイモンと戦っていたのだが、ユイの悲鳴が聞こえて本気の速度で跳んできたのだ。

 

『あ?』

 

「【崖の王者】、【鎧砕き】!」

 

本気モードのカイはいつもの倍はあるであろう速度でウルフデットマンを切り刻む。ウルフデットマンはそれを受けてダメージを負い、その間にフレデリカがユイを回復させると烈火と流水のセイバーの叫び声が聞こえてきた。

 

「「ちょっとカイ!いきなり抜けられたら困る。俺達だけでコイツを倒すのキツイんだって!」」

 

「カイ、今の所はこれで勘弁してあげて」

 

「チッ、わかった。ユイ……無事で良かった」

 

それを見たユイは世界線は違うものの、確かにカイは自分達の兄として生まれてきたんだなという事を実感した。

 

『一気に決めるぜ!って、うわあ!!』

 

バイスはそう言った瞬間、いきなり姿を消してしまう。その理由はリバイにあるのだがそれはまた後で描こう。

 

「って、いきなり消えんな!まぁ、俺達だけでも火力は足りるけどさ!【グランドウェーブ】!」

 

セイバーが地面を踏みつけると衝撃波で地面が揺れ、ウルフデットマンの動きが鈍る。そこにユイがウルフデットマンを大槌で上に打ち上げ、更にフレデリカが追撃をかける。

 

「【多重石弾】!」

 

これでウルフデットマンも大きなダメージを受けていき、三人は更にウルフデットマンを追い詰めることになる。

 

その少し前、シックとの戦闘では四人がかりでもシックと互角ぐらいだった。

 

「コイツ、強い!」

 

『僕を舐めてもらっては困るんでね!』

 

「俺でも苦戦する相手がいるなんてな」

 

「でも、負けるわけにはいきません!」

 

『ああ!』

 

セイバー、リバイ、ヒビキ、ペインの近接戦闘が得意な四人組が同時にシックへと攻撃を仕掛けても全く動じる様子すら感じない。

 

「【落雷】!」

 

「【退魔ノ聖剣】!」

 

セイバーが雷を落としてシックの移動先を制限し、そこにペインが剣を叩き込むが、シックはそれをダメージを負いつつも受け止めてしまう。

 

「何!?」

 

『甘いんだよ!』

 

ペインはシックから強烈なデコピンを喰らい頭を抑える。それと入れ替わるようにヒビキが前に出ると得意の格闘技で拳や蹴りを繰り出すがそれさえもまるで通用しない。

 

「そんな、私の攻撃でもダメだなんて……」

 

「化け物かよ」

 

『こうなったら……』

 

リバイはそういうと別のスタンプを取り出すと一度装填しているスタンプを取り外した。その瞬間、いきなりバイスが飛んでくるとその姿が消えてしまう。

 

「「「え?」」」

 

《サンダーゲイル!》

 

《Come on!サンダーゲイル GO!》

 

リバイは別のスタンプをベルトに押印し、それを装填してボタンを押すと再び倒した。

 

《一心同体!居心地どうだい?超ヤバいっす!豪雷と嵐でニュースタイル!仮面ライダー!リバイス!》

 

するとリバイの中にバイスが入り、一度ジャックリバイスとなるとそれの殻を破るように青、マゼンタ、黄色と色とりどりのカラフルな装甲が露わになると仮面ライダーリバイスとなる。その姿は先程までの姿を思わせながらバイスの特徴である顔に体の装甲に棘が見られるような雰囲気だった。

 

『『一気に……いや、一緒に行くぜ!』』

 

リバイスになった事で一気にスペックが膨れ上がりシックを相手に一人で互角にまで持ち込めるようになる。

 

「悪魔と一体化するだけであそこまで強くなるのかよ」

 

「私達も負けてられない!」

 

「ああ!」

 

三人もそれに合わせてシックを集中攻撃。こうなるとリバイス相手でも手一杯となっていた所に三人が入るのでシックでも攻撃を捌くのに手こずり、被弾するようになる。

 

「【サンダーブランチ】!」

 

セイバーが電撃の鞭を召喚するとシックの動きを拘束し、制限する。そこに叩き込まれるのはヒビキとペインの高威力のスキルだ。

 

「【破砕ノ聖剣】!」

 

「【我流・特大撃槍】!」

 

二人の攻撃がシックを穿つと大量のダメージエフェクトが散る。更にリバイスも必殺技で一気に決めにきた。リバイスがドライバーを操作して必殺のエネルギーを足に高める。

 

《爆風爆雷GO!》

 

そのまま超スピードでシックに接近すると赤黒い風を纏ったパンチで打ち上げてそのまま跳び上がり、電撃を纏ったキックを繰り出す。

 

《爆爆リバイストライク!》

 

その一撃がシックを地面に叩き落とすとシックはかなりのダメージを負った様子だった。

 

『この僕がこんな奴らに……』

 

「【稲妻放電波】!」

 

そこにセイバーからの電撃でシックはまたダメージを負わされる。そうして、リバイスは再びリバイとバイスのレックスゲノムに戻り、今度は恐竜の顔を模したスタンプを二人で分割。それぞれスイッチを押す。

 

《ギファードレックス!》

 

《ギファードレックス!》

 

それを見たライブは自身にバットのスタンプを押印すると自身の中に秘めていた悪魔、カゲロウを召喚。更に白と黒の鳥を模したスタンプを取り出す。

 

《パーフェクトウイング!》

 

《Confirmed!》

 

続けてジャンヌもコブラのスタンプを取り外すとそれが光を帯びて新たなスタンプへと変化し、それを構える。

 

《キングコブラ!》

 

それから三人はそれぞれスタンプを装填。するとそれぞれに待機音が流れていく。

 

《ビッグバン!Come on!ギファードレックス!》

 

《Wings for the Future》

 

《Come with me!Go with me!》

 

それから三人とその悪魔達を合わせた六つの声が重なり、掛け声を言い放つ。

 

『『『『『『変身!』』』』』』

 

《アルティメットアップ!》

 

《FlyHigh!パーフェクトアップ!》

 

《ハイパー!リベラルアップ!》

 

まずはカゲロウがエビルへと変身し、その体が黒い羽となってライブに融合。ライブから白と黒の翼が展開し、それが体に重なるとその姿を変化。

 

《仮面ライダーエビリティライブ!I’m perfect!》

 

続けてラブコフの体が剥けて中から黄金のキングコブラが現れるとそれがジャンヌの体の周りを周回し、ジャンヌの体の上からラブコフを模した装甲が合体してパワーアップする。

 

《We are!We are!仮面ライダー!インビンシブル!蛇!蛇!蛇!蛇!蛇!蛇!ジャンヌ!ハァー!ハーッ!》

 

最後にリバイとバイスが一度磁石の力で融合するとその後ろに現れた巨大なティラノがその頭を二人に被せるように思い切り地面に叩きつけ、それから再び二人に戻るとその体に強化スーツが装着。そのままメットを被り、レックスゲノムの姿を装甲の中に保ちつつ新たな装甲が被せられる事で強化された。

 

《あふれ出す熱き情熱!Overflowing Hot passion!一体全体!表裏一体!宇宙の力は無限大!仮面ライダー!リバイ!バイス!Let's go!Come on!ギファー!ギファー!ギファードレックス!》

 

リバイとバイスはメタリックブルーを主軸にレックスゲノムより濃いピンクのラインが走った装甲を纏いシンプルだが、先程までとは違い二人の装甲が殆ど同じになっている。

 

ライブはアンダースーツはそのままだが、白いマントを垂れ下げ、白カラスをモチーフとした装甲、カラーはメタリックホワイトに黒いラインが入っている。更にマントの上には翼があり、さながら天使のようだった。

 

ジャンヌは今までの装甲にラブコフの顔のような胸部装甲、背中には5本の尻尾のようなものが垂れて顔にはコブラの顔のような物が二つ付与されている。

 

これにより、三人もとい四人はアルティメットリバイ、アルティメットバイス、エビリティライブ、インビンシブルジャンヌに強化変身した。

 

「おお!」

 

「まだ上があったのかよ……」

 

セイバーとカイも負けてられないとばかりにダイモンとの戦闘を激化させていく。

 

「そろそろあのスキルを解放するか。【十二星座の加護】!」

 

カイがスキルを使うと自身の周囲に自身にはステータス強化、相手には好ステータス弱体化の効果を持つドームを設置。周囲が暗闇に包まれると空に星が展開される。

 

「お、力が漲ってくるぜ」

 

「これ、一分しか保たないからさっさとダメージ与えるよ!」

 

「わかった!」

 

烈火のセイバーはブレイブから降り、流水のセイバーも【ライオン変形】を解除。三人がかりでダイモンを攻撃する。

 

「【炎弾】、【水弾】!」

 

「【紅蓮爆龍剣】!」

 

「【アクアトルネード】!」

 

カイが炎と水の弾丸をセイバーに向けて放つとそれをセイバーは剣で受け止めつつその威力を自身が使うスキルに上乗せ。更にパワーアップさせた状態で放つ。

 

『チッ、だったらこれでどうだ!』

 

ダイモンは攻撃を受けつつも逆に禍々しいエネルギー弾を紙耐久のカイに放つ。しかしそれもカイにとっては無駄な攻撃だった。

 

「それ喰らうの勘弁だから返すわ。【リフレクト】!」

 

カイがそのエネルギー弾を思い切り蹴り返すとダイモンに命中。更に烈火のセイバーは跳び上がってキックの体勢に入った。

 

「【龍神鉄鋼弾】!」

 

セイバーからのキックが決まり、ダイモンはそのHPを残り二割にまで減らす。しかし、残り二割という事はダイモンも本気の力を見せてくるという事だ。

 

『私が負けるなどあり得ない!!』

 

《マッドリミックス!必殺!カオス!トライキメラチャージ!!》

 

再度マッドリミックスを使うとダイモンは更にエネルギーを放出。完全状態でセイバーとカイを潰しにかかる。しかもこのタイミングでカイのスキルも終了し、バフとデバフも消えてしまった。

 

「こうなったら……」

 

「真っ向勝負するしか無い!」

 

「どっちが勝つか勝負だ!」

 

セイバー二人とカイは総力を振り絞りダイモンに向かっていく。その一方で、他の面々の戦いも決着が近づいていた。

 

『喰らえ!』

 

「効くかよ!」

 

『俺っちの出番だぜ!』

 

ウルフデットマンが銃を乱射する中、バイスとセイバーが強力な装甲を盾に突撃。ウルフデットマンの弾丸を物ともせずに攻撃を仕掛ける。

 

「【リーフブレード】!」

 

『おらよ!』

 

二人の拳と斬撃が命中し、それぞれダメージを与える。そこにフレデリカとユイからの追撃が加わった。

 

「【多重水弾】!」

 

「【飛撃】!」

 

ユイの高火力な一発と水の魔法弾の連射はウルフデットマンを撹乱しつつダメージを与え、彼を粉砕する。

 

「やった!」

 

「私達だってやる時はやるのよ」

 

『ふへへ、それじゃあ俺達も』

 

「決めてやるとするか」

 

それからセイバーはバイスに攻撃を任せて大技の溜めの時間に入る。その間はバイスとフレデリカが中心になって攻撃を凌ぐ。

 

「【多重障壁】!」

 

「【ダブルスタンプ】!」

 

 

バイスがウルフデットマンのヘイトを引き付けてユイとフレデリカがそれをサポートしつつ攻撃の手を緩めない。

 

「良し、チャージ完了。【マキシマムボディ】、【大断断斬】!」

 

セイバーが巨大化させた激土を振り下ろす。それを見たバイスもベルトのスタンプを二度倒して必殺技の体勢に入った。

 

《バイス!ギファードフィニッシュ!》

 

するとバイスの足に磁力のエネルギーが発生し、ウルフデットマンを強制的に引き寄せるとそのままキックを放つ。

 

『はぁあああ!』

 

バイスのキックが決まり、ウルフデットマンは吹っ飛ばされるとその先にはセイバーの激土が振り抜かれて連撃が叩き込まれる。

 

「【ダブルスタンプ】!」

 

「【多重風刃】!」

 

そこにフレデリカとユイの追撃も入ってウルフデットマンはオーバーキル気味に空中でHPが0になると爆散した。

 

『決まったぜ』

 

続けてダイオウイカデッドマンと戦う面々はダイオウイカデッドマンから繰り出される触手を上手く捌きつつ戦っていた。

 

「【飛撃】!」

 

マイは機動力が無いのでとにかく触手の射程圏内には入らないようにその外から衝撃波等での攻撃を仕掛ける。

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

サリーはダイオウイカデッドマンの触手を並外れた動体視力と反射神経で回避しつつ接近し、斬撃で体を切り裂く。

 

「【音弾ランチャー】!」

 

『はあっ!』

 

セイバーが音弾のミサイルを放つとそれが次々に触手を破壊し、道を切り開くとそこをライブが進み、ライブガンからエビルブレードにチェンジするとエビルブレードでダイオウイカデッドマンを両断する。

 

『ぐ……調子に乗るな!』

 

ダイオウイカデッドマンは触手では無く触れた瞬間に爆発するエネルギー弾を放ち撃退しようとする。セイバー、サリー、ライブはそれを巧みに躱すがマイは躱しきれずにダメージを負いそうになる。

 

「やばっ、間に合え!【スナックウォール】!」

 

咄嗟にセイバーはマイの周囲を囲むようにお菓子の壁を召喚して防御する事に成功。何とかマイがやられるのを阻止した。

 

「よくもまぁやってくれたな!【飴玉シュート】!」

 

セイバーから蹴られた飴玉を模したボールがダイオウイカデッドマンに命中するとその動きを強制的に停止させる。

 

『なっ!?』

 

「サリー、マイ!」

 

「【ウインドカッター】!」

 

「【飛撃】!」

 

ライブの弾丸も含めた三人から繰り出される飛び道具は見事にダイオウイカデッドマンを撃ち抜くと主にマイの攻撃によって大きなダメージを負う。

 

『おのれ……』

 

「決めるぞ!」

 

セイバーの言葉と共にマイが走って前線に飛び出す。しかし、それを読んでいたかのようにダイオウイカデッドマンは触手を伸ばした。

 

「【ウォーターボール】!」

 

サリーはマイを庇うように水弾を飛ばすが触手はそれだけでは止まらずにマイの体を貫く……が、そのマイは薄く溶けて消える。

 

「【蜃気楼】。上手くかかってくれて助かったわ」

 

「【ダブルストライク】!」

 

サリーの陽動で上手く接近できたマイは大槌による二連撃を叩き込む。これでダイオウイカデッドマンは上空へと吹き飛ばされた。

 

「【ビートブラスト】!」

 

そこにセイバーからの極太のレーザーが放たれてダイオウイカデッドマンはそれに貫かれる。締めはライブがライブガンをベルトにセットしてスタンプの翼を畳み再展開すると必殺技発動の準備に入る。

 

《エビルライブチャージ!》

 

《Wings for the Future!》

 

ライブが翼を広げて跳び上がるとそのまま落下してくるダイオウイカデッドマンへとエビルの幻影と共にキックを放った。

 

《エビリティパーフェクトフィナーレ!!》

 

ダイオウイカデッドマンにキックが命中するとダイオウイカデッドマンは火花を散らしながらダメージを負い、爆散する。

 

更にクイーンビーデッドマンとの戦いでは大量の毒針を放ってくるクイーンビーデッドマンを相手にセイバー、ジャンヌ、キラーの三人はそれぞれ毒針を躱し続け、メイプルはそれをまるで何も無いように平然と歩き、全くダメージを受けない。

 

「【トルネードスラッシュ】!」

 

セイバーが翠風を一刀流にして竜巻を纏わせた翠風を振り下ろすとクイーンビーデッドマンはその中に閉じ込められる。

 

「ジャンヌ、キラー、メイプル!」

 

動きを封じている今なら更なるダメージも期待できる。しかし、そう簡単にはいかないのかすぐにクイーンビーデッドマンは竜巻を打ち破って出てきた。

 

「【聖断ノ剣】!」

 

「【パラライズシャウト】!」

 

そこにメイプルから麻痺の効果を与える衝撃波が駆け抜けてクイーンビーデッドマンは一瞬にして動きが鈍る。更にそこにキラーからの一撃でクイーンビーデッドマンはダメージを負った。

 

『サクラを守るで!』

 

更にジャンヌの背中に装備されている5本の尻尾のような物がいきなり伸びると中距離からクイーンビーデッドマンを滅多撃ちにする。

 

「そろそろ終わりにしようか!【疾風剣舞】!」

 

セイバーは翠風を二刀流モードにするとそれを振るい斬撃を放つ。クイーンビーデッドマンはそれを受け止めるが、その威力と麻痺の影響で少しずつ押し込まれていく。

 

「ダメ押しだよ!【毒竜】!」

 

「【魔芥氷狼・ユートピア】!」

 

キラーが赤黒くなった刃から吹雪を纏った狼のエフェクトと共に斬撃を繰り出し、メイプルもいつも使う三つ首の竜を召喚して毒のブレスを放つ。それに合わせてジャンヌもベルトのスタンプを起こして上部のボタンを押し、元に戻す。

 

《必殺承認!超必殺!》

 

《キングコブラ!インビンシブルクラッシュ!》

 

ジャンヌが跳び上がるとキックの体勢に入り、クイーンビーデッドマンへと強烈な蹴りを叩き込むとクイーンビーデッドマンのHPを全て削りきってクイーンビーデッドマンは爆発。撃破された事になる。

 

それを見たシックは自ら生み出した怪物達の敗北に動揺する。

 

『馬鹿な、僕の部下達が……』

 

「余所見している余裕があるとはな!」

 

狼狽えるシックを他所にセイバー、ヒビキ、ペインの三人がかりで一気に畳み掛ける。可能ならこのまま倒してしまうつもりだ。

 

『この僕が負けるか!』

 

シックは衝撃波で三人を退けるものの、今度はリバイからのボレーキックが決まり吹っ飛ばされる。

 

「【飛拳】!」

 

ヒビキから繰り出された拳の衝撃波がシックの腹を撃ち抜き、更にペインとセイバーからの斬撃でシックは体を両断される。

 

「【サンダーブースト】!」

 

「【超加速】!」

 

セイバーとペインは同時にAGIを強化すると超スピードで連続して斬りつけていく。

 

「【雷鳴一閃】!」

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

それから二人の持つ最高威力のスキルでシックの体をクロス字に切り裂き、シックのHPに致命的なダメージを与える。

 

「【我流・火炎龍撃拳】!」

 

そこにヒビキが新技を披露して炎の龍を纏った拳によるパンチでシックを空中に叩き出す。仕上げはリバイによる必殺技だ。

 

《リバイ!ギファードフィニッシュ!》

 

『はぁあああ!!』

 

リバイから磁力のエネルギーが放出されるとバイスの時と同様にシックがリバイの方に引き寄せられ、そのままキックが命中。シックは体から火花を散らしていた。

 

『この僕が……負けるなんて!!』

 

その言葉を最後にシックは爆散。これにより、四つの方面全てで勝利する事になった。

 

「よし、皆倒したな」

 

「俺達もさっさと決めようぜ」

 

セイバー二人とカイの三人はラストスパートと言わんばかりにダイモンへと猛攻撃を仕掛ける。ダイモンも負けじとフルパワーで対抗するが、それでも押しているのは三人だった。

 

「【神火龍破斬】!」

 

「【ハイドロスクリュー】!」

 

二人のセイバーがフルパワーの一撃をダイモンへと叩き込み、更にカイの魔法による追撃が決まっていく。ダイモンはそれに負けじと反撃すると流水のセイバーが代わりにダメージとして受ける。

 

「【サンドカッター】!」

 

「【爆炎紅蓮斬】!」

 

そのお返しとしてセイバーとカイの連撃も入り、とうとうダイモンのHPは残り一割。するとダイモンは限界突破とばかりに更なるパワーアップを果たすと巨大なエネルギーボールを発射する。

 

「やっべ」

 

「カイ、【リフレクト】は……」

 

「さっき使ったばかりだから無理!」

 

「く、どうすれば……」

 

《ファイナルリミックス!》

 

《超必殺!バリ!ボル!ローリング!サンダーゲイル!ギファードレックス!ファイナルスタンピング!》

 

その音声が聞こえるといきなり後ろからボールの形になったバイスが氷・炎・黒いインク状の液体・稲妻と旋風を纏いながら突撃。ダイモンが生成したエネルギーボールとぶつかると大爆発を起こして相殺した。

 

「!!」

 

『大丈夫?』

 

「ありがとうございます!」

 

セイバー達がそう言っているとダイモンはスタンプを五回倒して再度必殺技を発動。

 

《トライキメラエッジ!》

 

『失せろ!!』

 

ダイモンの体にオクトパス、クロサイ、オオムカデのエネルギーが足に集約されるとそのままキックを繰り出す。

 

「くっ!」

 

『バイス!』

 

『あいよ!』

 

すると分身セイバー五人とリバイ、バイスの7人がそのキックを防ぐ盾となり、五人の分身セイバーはダメージの受け過ぎで消滅。リバイとバイスもアルティメットリバイとアルティメットバイスの装甲が破壊されてしまいただのレックスゲノムに戻ってしまう。

 

「あがああ!!」

 

「セイバー、大丈夫か!?」

 

すると突然苦しむセイバー、それをカイが心配するとセイバーはギリギリ意識は保ったのか何とか立ち上がる。

 

「大丈夫……実はさっきの【分身】の効果は自分の分身を生成できる代わりに増えた分だけダメージ感覚と疲労を共有する。だから分身達がダメージを負うとその負担が全部本体に来るんだ」

 

「マジかよ、そんなリスクがあったのか……」

 

『まだやれるか?』

 

「当然です!」

 

「一気に、いや……一緒に決めましょう」

 

『あ、それイッキの台詞!!』

 

『つべこべ言わずにやるぞ、バイス!』

 

リバイはそう言ってベルトのスタンプを二回倒すとそのまま跳びあがる。

 

「カイ、俺達も行くぞ」

 

「おう、決めてやろうぜ」

 

セイバーとカイもそれと同時に跳び上がる。そうしてセイバーはあるスキルを使用した。

 

「【神火龍破斬】【龍神鉄鋼弾】!」

 

 

セイバーがスキルを使うとその斬撃にキックを合わせて威力を底上げする。それに合わせてカイも装備を追加し、その装備品のスキルを使用する。

 

「【ファイアボール】、【螺蠃の猛毒】!」

 

カイはファイアボールを前に射出するとそれを後ろから押すようにキックを当てて更に装飾品である『蠱毒の指輪』の装備効果として蠍の尻尾が生えるとそれが両足に巻きつき、キックの威力を上げる。

 

《レックス!スタンピングフィニッシュ!》

 

四人によって繰り出されたキックはダイモン目掛けて飛んでいく。勿論ダイモンはそれを迎え撃つために必殺技を使おうとするがその動きはいきなり止めさせられた。

 

「ミク、【電磁波】!」

 

「シロップ、【大自然】!」

 

ヒビキのテイムモンスターのミクがダイモンに一定時間の麻痺を入れた後にメイプルのテイムモンスター、シロップが地面から生やした蔓で強制的にダイモンの動きを拘束したからだ。

 

その直後に四人のキックは命中。そのままダイモンの体は貫かれ、そのHPが0となる。

 

『それじゃあ皆さんご一緒に!3・2・1……はい、ドッカーン!!』

 

バイスの言葉と共にダイモンは爆散すると完全に消滅。これによって世界そのものにヒビが入ると三つの空間の裂け目が現れた。これはつまり、それぞれの世界に帰るための物である。しかも、この世界自体が不安定なのか世界の空間に少しずつヒビが入っていった。

 

『どうやらこの世界も長くは保たないみたいだ』

 

『助けてくれてありがとう』

 

『私達はもう元の世界に戻るわ』

 

『君達も元気でいてくれよ。じゃあな!』

 

そう言ってリバイ達四人は亀裂の中の一つに入るとその亀裂は消滅。それと同時にデストリーム、デモンズ、アギレラの三人も元の世界に戻ったのか3本の光の柱が一瞬だけ昇ってから消滅した。

 

「……お別れだね」

 

「本当はもっと話していたかったけどな」

 

一緒になったのは戦っていたごく僅かな時間の間だけ。それでもセイバーとカイの間には確かな絆が生まれていた。そしてそれは世界を跨いで共闘した他の八人も同様である。

 

「今度会うときは俺と本気で戦ってくれるか?」

 

「勿論。返り討ちにしてやるよ!」

 

セイバーとカイはそう言って拳を合わせる。それと同時にセイバーとカイ以外の八人もそれぞれ別れの言葉を言う。

 

「短い間でしたけど、ありがとうございました!」

 

「そっちの世界でも元気にしろよ」

 

「わかってるわよ!」

 

「君達と一緒に戦えたのは俺にとって大切な思い出だ」

 

ヒビキ、キラー、フレデリカ、ペインの四人はそう言って一人ずつ亀裂の中に消えていく。

 

「カイさん……そっちの世界の私達をよろしくお願いします」

 

「お兄ちゃんとして……私達が困ったときは助けてあげてください」

 

「ああ、勿論だよ」

 

マイとユイも別の世界で自分達の兄であるカイに言葉をかけて消えていった。

 

「メイプル、サリー。そっちの世界に俺はいないけど、ゲームを楽しめよ」

 

「言われずともそのつもりよ」

 

「またいつか会おうね!」

 

カイの世界のメイプルとサリーもセイバーと話して消滅。最後に残ったセイバーとカイは顔を見合わせると最後に言いたいことを口にした。

 

「例え世界が違っても」

 

「俺達はゲームで繋がってる」

 

「「……またね!!」」

 

セイバーとカイはそれぞれの世界の亀裂に吸い込まれ、その世界は完全に崩壊。消失してしまった。

 

元の世界に戻ったセイバー、マイ、ユイ、ヒビキ、キラーの五人はその日の探索を中断して別世界の人との共闘について他の皆に話す事にした。

 

「まさか私達にお兄ちゃんがいる世界があったなんて……」

 

「びっくりだよね」

 

「私は自分達のいる場所とは別の世界があった事に驚きかな」

 

「……右に同じだ」

 

「何にせよ、俺達がゲームをやっていたらまたいつか会える日が来る。その時に弱くなってないようにこれからもまた強くならないとな」

 

それから五人はこの日起きた出来事を他の面々に伝えると共にこの一生に一度の奇跡を忘れないようにゲームの世界の本に記すのであった。




コラボ回、いかがでしたか?この小説も遂に200話目を超えていよいよ終盤戦に突入です。まだまだこの小説は続きますが、ひとまずここまで読んでいただきありがとうございます。そして、今回コラボをしていただいたプリンは固め派さんには感謝してもしきれません。コラボをしていただきありがとうございました。これからもどうか、この小説をよろしくお願いします。それではまた次回もお楽しみに。


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聖剣使いと告白

とうとうこの日がやってきた。サリー、ヒビキ、キャロル、ミィ。彼女達と本気で向き合って一ヶ月。彼女達とセイバーは予め決めておいた約束の時間までにログインして【楓の木】のギルドホームにあるセイバーの部屋に集まっていた。

 

「サリー、ヒビキ、キャロル、ミィ、ごめんね。こんなギリギリになって」

 

「良いよ。それだけ真剣に向き合ってくれたって事だから」

 

「まぁ、これだけの美少女に囲まれれば誰にするかも悩むよな」

 

「セイバーも本当は辛いんだよね」

 

「私達の中の三人を振るのは」

 

「……勿論、振るのは辛いよ。けど、いつまでも我が儘は言ってられない。言い訳もしていられない」

 

セイバーとしても四人の中の三人を振るのは辛く、傷つけたく無い気持ちはまだ残っている。しかし、覚悟は既に決まっておりもう彼に三人を傷つける罪を受け止める準備はできていた。

 

「……正直この場で告白しても良いけど、それだと選ばれた人以外に見せつける形になってしまう。だから、一人ずつ話をする」

 

セイバーが選んだ告白の方法というのが最初はバラバラの部屋に一人ずつ入ってもらい、セイバーが直接彼女達の元に歩いて行って話す事にした。

 

「約束として、俺に告白を受けられても断られても全員が終わるまでは騒がない、周りに聞こえるような声で言わない。それが皆に告白する条件」

 

それを聞いた四人は小さく頷く。何故セイバーがこんな条件を付けたのか。それは一人に答えを言った後にそれを周囲に大きな声で言いふらせば他の面々に安心感又は絶望感を与えてしまうと思ったからだ。それに、答えはちゃんと直接伝えたいとセイバーも考えているからである。

 

「今日は他のギルドメンバーには外に出るように頼んである。だからどの部屋の中で待っていても良いよ。ただし、部屋に入った後にどの部屋にいるかだけ伝えてくれ。そうしたらそこに行くから」

 

それから四人はそれぞれの部屋に分かれていく。それを見届けてからセイバーは深呼吸をした。

 

「覚悟はできてる……あとは一歩踏み出す勇気があれば」

 

セイバーはこれから三人もの女性を傷つける。それでも彼は自分で選び、決めた。その選択に後悔をするつもりはもう無い。セイバーは四人からのメッセージを受け取るとそれから最初に向かった部屋をノックする。

 

「どうぞ」

 

そう言われてセイバーは中に入るとそこには赤い髪に赤い目、【炎帝の国】のギルドマスター、ミィの前に立った。

 

「……最初は私なんだね」

 

「うん。順番については最初からもう決めてたからね」

 

「そっか……セイバーの性格から考えて、私の元に最初に来たって事は」

 

ミィはそう言ったところで言葉を詰まらせた。セイバーがこれから言わんとしている事を薄々勘付いたからである。

 

「……ごめん。俺はミィとは付き合えない」

 

気持ちがわかっているのならと単刀直入にセイバーは言って“ごめんなさい”と頭を下げる。それを聞いてミィは俯いた。自分が選ばれなかった悔しさ、それと同時に仕方ないという諦めの表情を浮かべながら。

 

「そう……だよね。元々私は他の三人に比べて出遅れていたもの。こうなるのも当然だよ」

 

「すまない。俺もミィとデートした時、ミィと付き合えたらきっと楽しいんだろうなとも思った。でも、好きだという気持ちにはどうしてもなれなくて……結局友達止まりになるぐらいなら……」

 

「それ以上……言わないで」

 

既にミィの目には涙が溢れていた。当然である。好きになったタイミングこそ四人の中では遅かったのだが、それでも彼女なりに必死に足掻き、セイバーの心を射止めようとしたのだ。しかし、セイバーの気持ちは異性としての好きにはならなかった。その事実を受け止めるので手一杯。彼女の素が気弱なので余計にセイバーからの続く言葉を受け止めることもできずにその場にうずくまる。

 

「嫌だよ……私も私で精一杯頑張ったのに……それでも好きにすらなってくれなかった」

 

「ごめん……キツイ言い方になって。俺には好きな子が別でいるから」

 

「……じゃあ、その子の名前だけ聞いても良い?」

 

「ミィがメッセージ機能で他の三人や外部の人間には漏らさないって約束するなら」

 

「良いよ。私だってその子の事を応援ぐらいはしたいから」

 

「俺が好きなのは……」

 

「そっか。その子が好きだったんだね」

 

「うん。だから俺から言えるのは、もう俺の事を好きだなんて気持ちは忘れて欲しい。難しい事を言ってるのはわかってる。でも、俺としての願いはミィに新しい出会いを見つけて、その人と幸せになって欲しい。俺じゃあミィの気持ちを受け止められなかったから……」

 

「うん……セイバー!」

 

「?」

 

「その子と幸せになってよね。私達を振るんだから……」

 

ミィは無理矢理に笑顔を作るとセイバーを送り出した。セイバーに少しでも嫌な思いを、苦しい思いをさせないようにするために。それからセイバーはミィのいる部屋を出るとその場で小声で呟いた。

 

「……やっぱり、人を振るのは辛いな」

 

その声が聞こえたのか聞こえなかったのか、ミィの啜り泣く声が小さく聞こえたような気がした。

 

それからセイバーは次の部屋へと歩みを進めていく。その部屋をノックすると元気な声が聞こえてくる。

 

「入るよ」

 

「いいよー!」

 

中で待っていたのはヒビキだ。セイバーは彼女と向き合うと早速答えを告げる。

 

「ヒビキ、俺はヒビキとは付き合うことはできない。だから……ごめんなさい」

 

そう言ってセイバーはミィにそうしたようにヒビキにも頭を下げる。ヒビキはそれを聞いて先程までの明るさが消えていくと同時に落ち込んだような顔になった。

 

「正直、ヒビキは活発で元気で明るいから俺も迷った。ヒビキと毎日が明るい生活をする自分も悪く無いと思った。でも、それでも俺はヒビキよりも他の人が好きになってしまった。だからヒビキとは付き合えない」

 

セイバーがその言葉を言い終わる頃にはヒビキの目にはミィの時と同じで涙で溢れ返っていた。

 

「……あれ?……私、断られても泣かないつもりだったのに……何で……私は、何で泣いてるの?」

 

ヒビキのその言葉にセイバーも苦しい思いになっている。ミィの時も同じだが、やはり振るという行為をするのは辛いのだ。勿論振られた側はその比では無いぐらい辛い思いをする。だが今のセイバーにヒビキを慰める事はできない。してはならないのだ。

 

「ヒビキ、俺もちゃんと考えてヒビキを振る事にしたんだ。だから……」

 

「良いよ。私だってそのくらいの区切りはつけられる。いつまでも妹分じゃないから……。でも、セイバーに助けてもらったあの日からずっと抱えていた気持ちが実らないって……辛いんだね」

 

「本当にすまない」

 

「謝らないでよ……私がもっと辛くなるから」

 

いつも明るく笑顔が絶えなかった彼女の顔はどんどん暗くなり涙で溢れていく。そんな顔をセイバーは苦しい思いを押し殺しながら見ていた。

 

「セイバー……私、セイバーの一番になれなくて悔しいよ……」

 

「ヒビキ……」

 

ヒビキはひとしきり泣いてから涙を拭き、作り笑顔を見せる。その笑顔はちょっと触るだけでも崩れそうなぐらいに脆かったが、それでも今の彼女にできる精一杯の笑顔だった。

 

「今の私にできるのは笑って送り出すくらいだから……セイバー、好きな人と幸せになってよね」

 

「勿論……そうするよ」

 

それからセイバーはヒビキの元に長居してもヒビキを苦しませるだけだと考えて部屋を出ていく。ヒビキはそれを見送ると崩れ落ちて顔もグチャグチャになるほどに崩して声を上げずに大泣きした。

 

その様子をセイバーは何となく感じ取っており、拳を強く握り締める。

 

「ごめんよ……ヒビキ……ごめんよ、ミィ……」

 

セイバーの心は少しずつ揺らいでいく。彼女達が悲しみ、泣き叫ぶ姿など見たくは無いのだ。それでもセイバーはあと一人振らなければならない。今日この時、ケジメを付けなければならないのだ。

 

三番目にセイバーが部屋の扉をノックすると中からいつも聞く幼馴染の声が聞こえた。

 

「良いよ、セイバー。入って」

 

セイバーは昔からずっと一緒だった幼馴染と向き合う。彼女にもちゃんと答えを伝えなければならない。それが例え……彼女の気持ちにそぐわない物だとしても……。

 

「なぁ、サリー……俺は……」

 

「言わなくて良いよ」

 

「え?」

 

「私は何となくセイバーの答えを知ってる。……キャロルを選んだんでしょ」

 

「………」

 

「やっぱり。そうだと思ったわ」

 

「いつから気がついたんだ?」

 

「……キャロルとデートしたあの日にね、帰ってきたセイバーを見て……あんなに幸せそうな顔をしていたあなたを見ていたら、あなたを振り向かせるのは私じゃ無いって思っちゃったんだ」

 

少しずつ嗚咽を漏らしながらサリーの目に涙が溜まっていく。他の三人と同じだ。サリーは薄々勘付いていたのだ。選ばれるのは自分では無いと。

 

「……ごめんサリー。俺は昔から向けられていたお前の気持ちに応えられない……」

 

「良いよ。それがセイバーにとっての幸せなら……私は黙ってそれを受け入れるから……」

 

セイバーとサリー。昔からゲームを楽しんできた幼馴染同士。サリーはずっとセイバーに好意を向けてきた。それでもセイバーはサリーの気持ちに応えられない。それだけ彼女の事が……キャロルの事が好きになってしまったのだ。

 

「サリー、俺は……」

 

セイバーはそこまで言いかけて詰まってしまう。どうしても、どうしてもセイバー自身の心のどこかで幼馴染を傷つけてしまう事に躊躇いを感じていたのだ。

 

「大丈夫。セイバー、私は平気だから……」

 

涙を流しながらそう言う幼馴染。しかし、その顔に秘められた感情には全く平気では無い事ぐらいセイバーにはわかっていた。

 

「ごめんよ、サリー……俺は、サリーとは付き合えない。それだけ……それだけ彼女の事が好きになったから」

 

「うん……セイバー。セイバーが幸せなら、本当に好きな人と付き合えるのなら私はそれを応援する……私の事は良いよ。心配しなくてもちゃんと幸せになれる人とまた出会うから」

 

サリーは無理しながらもセイバーを彼女の元に笑顔で送ろうと必死に笑顔を作る。ヒビキと、ミィと同じように。しかし、サリーの顔は涙がとめどなく溢れ、ポタポタと雫のように地面に垂れている。

 

「サリー……ありがとう。ごめん……」

 

セイバーはサリーにこれ以上無理させないために部屋を出ると彼女の元に向かった。自分が好意を断る選択をしなければならなかった他の三人の無念を、悔しさを胸に秘めて。

 

「悔しいなぁ……私、ずっと好意を向けていた人に振られるなんて……」

 

サリーもセイバーを送った後に一人泣き続けた。自分が選ばれなかった悲しさ、悔しさをあの時告白しておけば振り向いてくれたのかなというどこまで行っても想像にしかならない事を考えながら押し殺した。

 

「ずっと私の事だけを見てくれれば良かったのに……セイバーの馬鹿」

 

最後に呟いた言葉はセイバーの心どころか耳にすら届く事は無い。何故ならもうセイバーの目には彼女しか映っていなかったからである。

 

四人目の部屋、セイバーはその部屋をノックするとセイバーの好きな人が、付き合いたいと思って選んだ人がそこにはいた。

 

「セイバー……随分遅かったな。もしかして俺が最後?」

 

「ああ。キャロルが最後だよ」

 

「……それで、セイバーは誰を選んだんだ?」

 

キャロルは自分が選ばれているとは勿論知らないのでセイバーに質問する。セイバーはそれに答えようとしたが、その前に聞きたい事を聞く事にした。

 

「その質問に答える前に、キャロルは……こんな俺の事を好きになってくれてる?」

 

「……俺は……セイバーが好き。前にも言ったけど、愛してる。その気持ちはずっと変わらない。……まぁ、振られてしまえば俺の気持ちなんて儚く消え……」

 

「俺もキャロルが好きだよ」

 

「……え?」

 

思いがけないセイバーからの言葉にキャロルは驚く。まさか自分が選ばれるなんて思わないからだ。

 

「もしかするとキャロルとゲームで初めて会ったあの時にはもう、運命を感じていたのかもしれない」

 

「運命だなんて……大げさすぎるよ」

 

キャロルはいつの間にかいつもの口調からリアルでの口調に変わっていた。それだけいつものロールプレイを維持できないほどに動揺したのだ。

 

「だって僕だよ?口調に女の子っぽさなんて無いし、すぐ上から目線の言葉で虚勢を張るし、弱いし、虐められていたし……僕なんかよりももっと相応しい人がセイバーには」

 

「キャロルだから俺は良いんだ。それと、俺の事を好きだと思っているのならこれから“僕なんか”とか自分を卑下する言葉を使うの禁止」

 

「でも……でも……」

 

「そんなに自分に自信を持てない?俺と付き合えるという事を信じられない?」

 

セイバーの言葉にキャロルは言葉を詰まらせてようやく実感が湧いてきたのかポロポロと嬉し涙が溢れ始めてきた。

 

「キャロルがリアルの方で転校してきて初めて学校で会えた時、実は俺、“よっしゃ”って思ったんだよね。その時からかな。キャロルの事を個別で意識し始めたの」

 

セイバーはそれからキャロルが好きになった理由、好きな所をつらつらと語っていく。

 

「その金髪の髪の纏め方が可愛くて、女の子らしくて好き。歌を歌う時の幸せそうな顔が好き。本当は弱いのにそれを押し殺してでも自分を強いと相手に思わせる演技力が好き。数えたらキリが無いかも」

 

セイバーからの褒めのラッシュにキャロルのキャパはオーバー。顔は真っ赤に染まっていく。勿論恥ずかしさもあるがそれ以上に彼女の心は嬉しさでいっぱいだ。当然だろう。好きな人にここまで言ってもらえるのだ。

 

「本当の事を言うとさ……この前のお家デートした時にキャロルが俺を押し倒しただろ?その時、できる事ならキャロルとこの先もやりたいなんて魔がさしたんだ」

 

「……え?」

 

「あぁ、ごめん。変だったよね……俺の性癖とか聞いても気持ち悪いって思うだけだよね」

 

キャロルはあの時そこまで思われていたとは考えずに凄い顔が熱くなっていく。それと同時にそこまで考えてくれたセイバーに対して嬉しい気持ちも湧いてきていた。

 

「まだまだキャロルと色々とやりたい事は沢山ある。今度はリアルでデートがしたい。手も繋ぎたいし、キスもしたい。勿論今度は俺がキャロルの唇を奪うよ。もうキャロル相手にセーブはしない。あ、だからってキャロルが嫌だと思ったらすぐに言って。俺も無理強いはしないから」

 

セイバーから飛び出す発言の数々にキャロルは思わず吹き出すと笑い始める。

 

「ぷっ……セイバーって意外と攻めてくるんだな」

 

「勿論。今までは隠してただけだしな。キャロルも遠慮しなくて良いよ。俺はキャロルの事を全部受け止めるから」

 

「遠慮?するわけないだろ!」

 

そう言ってキャロルはセイバーに抱きついて押し倒す。それから自分の大きな二つの胸にある物をセイバーに押し付ける。

 

「俺は守りより攻めが得意だからな。覚悟するんだな」

 

キャロルの言葉は聞き方によっては宣戦布告にも聞こえた。それだけキャロルもセイバー相手に攻めるつもりなのだ。ゲーム内でも、恋人としての関係でも最強クラスの矛と矛。つまり純粋な実力比べ。相手に負けるつもりなどない。攻めて攻めて攻め抜く覚悟だ。

 

「じゃあ、もう形だけにはなるけど、あの言葉を言っても良い?」

 

「……良いよ」

 

「キャロル……いや、エルフナイン。俺はあなたの事が好きです。俺の一生を賭けてても幸せにします。俺と付き合ってください」

 

「……僕も、セイバー……いえ、剣崎君。あなたの事が好きです。こんな僕でもあなたの特別になれるのならどうかよろしくお願いします」

 

そう言って二人は唇と唇を重ねて数秒間キスをする。それから二人は唇を離すと他の三人を呼んで大広間に移動した。

 

勿論、三人も涙でグチャグチャになった顔を何とか整えてセイバー達の元に来る。

 

「ミィ、ヒビキ、サリー。俺はキャロルと付き合う事にしたよ。だからもう一度改めて、ごめんなさい!」

 

セイバーはそう言って申し訳なさそうに頭を下げる。それを三人は温かく受け入れた。

 

「セイバー、キャロルと幸せにね」

 

「キャロルちゃん、私達の分までセイバーに幸せにしてもらってよ」

 

「キャロル、もしセイバーに何か変なことされたら私がセイバーをシバくからいつでも言いなさいよ」

 

「……その流れはいつも通りかよ」

 

セイバーのツッコミに四人は笑う。サリー、ミィ、ヒビキの三人は暫く失恋のショックが残り続けるだろう。そのため、最初はキャロルとの恋愛は一旦自粛しようと二人で決めた。特にリアルでも同じ学校に通うサリーの事も考えてリアルでも少しセーブしようとしたが、サリーは別に構わないよと快く二人へと言う。

 

勿論彼女にも悔しい気持ちや辛い気持ちが無いわけではない。目の前で二人のイチャイチャを見たら泣きたくなるかもしれない。それでも自分のせいで二人が満足に関係性を深められないのは申し訳ないと二人にそう言って二人が関係性を深めるのを後押しした。

 

ゲームの方でもヒビキ、ミィはキャロルともっと恋人としての行動をして良いよと言い、完全にセイバーから身を引く事を表明。こうして、セイバーとキャロルの新たな関係性によるゲームが始まった。

 

それと同時期、運営から新たな通知がやってきた。第11回イベントの通知である。まだ詳細は不明だが、第7回イベント同様に幾つもの階層に分かれた塔を攻略するものらしい。しかも今回は難易度が全部で五つあり、初級、中級、上級、超級、絶級とある。報酬は銀のメダルで獲得枚数は下から2、3、4、5、10と報酬の量から絶級が明らかに難易度が高い事を示唆していた。

 

「さてと、今日もレベル上げを頑張るかな……っとそういえば今日は一緒に来てくれるんだったな」

 

「セイバー、待ったか?」

 

「キャロル……大丈夫。俺も今から行く所だったからさ」

 

「なら話は早いな」

 

「一緒に行こうか」

 

「ああ」

 

そう言って歩くセイバーとキャロル。できたてホヤホヤのカップルである二人の距離は近く、その手と手はしっかりと繋がっていた。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと試練7

キャロルと付き合い始めて、彼女と新たな関係をスタートさせたセイバー。そんなある日、セイバーは遂に最後の試練に挑もうとしていた。

 

「最後の試練の場所は……ここだな。ここまで六体攻略してきたけど、最後は何が出るんだろ」

 

セイバーは今現在、ブレイブに乗って試練のある地点にまで来ており、するとそこに先客が二人揃っていた。

 

「ん、あれは……ウィルバートさん!リリィさん!」

 

「あの龍は……セイバーか」

 

「お久しぶりです」

 

「お二人もここの攻略を?」

 

「そんな所だな」

 

「あ、それと噂で聞いたのですがキャロルとお付き合いを始めたと言うのは本当ですか?」

 

ウィルバートからの問いにセイバーは隠す必要も無い情報なので普通に頷いた。

 

「はい。今は二人共公認で付き合ってますが」

 

「マリアの言っていた通りですね」

 

「アイツ、セイバーに発破をかけたとは言っていたが、ちゃんと効果が出たようで何よりだ」

 

二人の言葉をセイバーは聞いてからいつもの通り一緒に試練を攻略する事を提案。二人もそれを受けて三人での攻略に入る。

 

三人が魔法陣に乗ってそのフィールドに行くとそこには一人の金髪の青年が立っていた。

 

「お、いつも通りボスがいたな」

 

『挑戦者か。俺の名はアンク。面倒だが……相手してやる』

 

アンクがそう言うと背中に二枚の赤い翼を広げてその姿を変えていく。するとその体は鷹のような頭部、孔雀のような派手な胴体、コンドルの爪の脚部となっており、腕には鳥の翼のような装飾が付いている。今回は他のボス達とは違い、最初から完全な姿に見えた。

 

「あれ?いきなりフルパワー?」

 

『これがフルパワー?笑わせるな』

 

アンクの口ぶりを見るに彼はまだ本気では無いとの事だ。それが実際現実となるかはすぐにわかるだろう。

 

「早速やろうか。烈火抜刀!」

 

セイバーが烈火を抜くと絆龍の装備となる。それからウィルバートとリリィの方はまずは小手調べとして数で押すリリィ主軸で攻めるようだ。

 

「【命なき軍団】【玩具の兵隊】【砂の群れ】【賢王の指揮】」

 

「【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】」

 

二人が次々とスキルを使っていき、リリィが機械兵を生産。小型の銃を持った兵士達はアンクに総攻撃を開始する。

 

『その程度か』

 

アンクは背中に生やした翼をはためかせると赤い竜巻を発生させて銃弾を全て弾き飛ばす。その銃弾は流れ弾として三人と機械兵の元に降り注いだ。

 

「やるね。【エレメンタル化】!」

 

セイバーがそれに対応して水に変化すると銃弾を全部透かす。それと同時にウィルバートとリリィも機械兵を盾にする事でダメージをゼロに抑えた。

 

「これは下手に一斉攻撃はさせられませんね」

 

「私がメインの攻撃パターンにシフトしましょう」

 

「そうだな。私は相性が悪そうだ」

 

そう言ってリリィとウィルバートはすぐにスタイルをチェンジ。ウィルバートが撃ち出す必殺の一撃に賭ける事にした。

 

「セイバー、何とかして奴に隙を作らせてください。私が射抜きます」

 

「簡単に言ってくれるなぁ……ま、やってみるけどね。【フレアジェット】!」

 

セイバーは足から炎のジェットを噴射。一時的に空に飛ぶとアンクへと肉薄して攻撃を仕掛ける。

 

「【爆炎紅蓮斬】!」

 

セイバーからの斬撃がアンクを襲うとアンクはダメージを負うが決定打とはなり得ない。

 

「【火炎十字斬】!」

 

セイバーから十字型の斬撃が飛び、アンクを攻撃するが今度は炎弾で凌がれてしまう。

 

「今だ!」

 

「【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】【賢王の指揮】!」

 

「【引き絞り】【渾身の一射】」

 

ウィルバートの弓が赤い光を纏い、限界まで引き絞られた弓から目にも留まらぬ速度で放たれた矢はセイバーの顔の横を掠めてアンクを貫くと大量のダメージエフェクトを散らして大きなダメージを負わせた。しかし、ウィルバートの誇る瞬間最大火力を持ってしてでもまだアンクのHPは8割近く残している。

 

『少しはマシな奴らか。なら!』

 

するとアンクに一枚目のメダルが投入されるとアンクの体に炎が纏われていき、そのまま三人へと突進してくる。

 

「うわっ!」

 

「く、近づかれると流石に狙いにくいですね」

 

「かと言って私のスキルでは相性が悪い……」

 

「なら俺が行くしかありませんね!」

 

セイバーは前に出るとウィルバートに射撃での援護を頼み、自らは前に出て斬撃を繰り出す。アンクはそれを体に纏った炎を右手に集約させてエネルギーでコーティングした状態で受け止める。

 

「く……」

 

『なんだ?これで終わりか!』

 

アンクが炎の力を高めるとセイバーの持つ【火属性無効】を貫通してダメージを与える。

 

「うぐ……ちょっと最近【火属性無効】を貫通しすぎじゃね?」

 

セイバーが悪態をつく中、リリィとウィルバートもセイバーが稼いだ時間で弓を引き絞って矢を放つ。

 

「【この身を糧に】、【アドバイス】!」

 

「【範囲拡大】、【矢の雨】!」

 

ウィルバートが放った矢が雨のように降り注ぎ、アンクの体を貫いていく。しかし、ウィルバートの強みである一発目で仕留められなかったためにそのダメージは先程までよりも下がってしまっている。

 

「やはり二発目以降ではダメージ量が下がりますか……」

 

「こればかりは仕方ない」

 

「その分は俺が行きます。【紅蓮爆龍剣】!」

 

セイバーが解き放った紅蓮の龍を模したエネルギー斬が飛んでいくとアンクに確かなダメージを与えた。ただし、炎と炎では相性が悪いのか、ダメージ量については最初のウィルバートの火力と比べると大きく劣るが。

 

「やっぱウィルバートさんの一発目の方が火力としては強いな」

 

「そのようですね。けど、もうあの火力は出ません」

 

「俺が少しずつ削るしか……あ。リリィさん、あなたがメインになってもらえますか?前に俺と戦った時に使った強化機械兵を使えばまだ対抗できたりしません?」

 

「それができれば良いんだが……アレもアレで実はリスクがあってな」

 

「えぇ……」

 

リリィはリスクの内容についてまでは言えなそうだったが、その感じを見るに本当に何かしらのリスクがあるようだ。

 

「ならどうする……」

 

「仕方ありません。できれば温存するつもりでしたが」

 

「ここは私達が足りない火力を補うとしよう」

 

「……え?」

 

セイバーが頭にハテナを浮かべる中、リリィとウィルバートは前のイベントでは無かった新たな力を使うとの事だった。

 

「「【ダブルドライブ】!」」

 

するとウィルバートとリリィの装備が光り輝き、その姿を二人共にメインの装備に変化。そして、体から溢れんばかりのオーラを見に纏った。

 

「へ?二人共攻撃特化……というよりバフ無しで大丈夫なんですか?」

 

「これを使うとお互いの火力をフルに引き出した上にバフが上乗せされた状態で戦える」

 

「ただし、時間制限があるのでずっとは使えません」

 

それから二人はスキルの詠唱をする事なく機械兵の召喚や弓による高火力の射撃を開始する。

 

「これはヤバいだろ。ただでさえどっちか片方だけでも強力なのに両方とか」

 

セイバーはいきなりのフルパワーに戦慄する。流石のアンクもこの制圧力には押される一方だった。

 

『チッ、そう来るか。なら』

 

するとアンクは炎を纏った状態で再び突進すると先程まで受けていたダメージが0となり、そのまま突っ込んでくる。

 

「やべっ!」

 

セイバー達はそれを間一髪で躱すと反撃として攻撃を仕掛ける。その時先程よりもアンクがダメージを受けており、無敵時間の後にできる隙のような物が垣間見えた。

 

「ウィルバートさん、リリィさん!」

 

「ああ」

 

「わかっています」

 

今度はセイバー自身も炎を纏うとそのまま跳び上がり、再度炎を纏って激突してくるアンクに対抗した。

 

「【爆炎激突】!」

 

セイバーとアンクがぶつかり合うとそのままお互いに後ろに飛ばされてセイバーは着地し、アンクも踏み止まる。そのタイミングを見逃す二人では無い。

 

「【貫徹の矢】!」

 

「【一斉攻撃】!」

 

それぞれ機械兵による射撃と一撃必殺の矢を撃ち出して無敵状態が解けてその反動である被ダメージ量増加の効果が付いたアンクを狙い撃ちする。そうして、アンクに二枚目のメダルが追加されると更に炎は強さを増してアンクが空を飛ぶ。そのまま空中からの射撃で地上の三人を倒しにかかった。

 

「く、機械兵の射程外からの攻撃か」

 

「私なら届きますが手数が足りませんし……」

 

するとウィルバートとリリィの強化状態が解除されて元に戻ってしまうと二人にデバフが数多く付与されていた。

 

「なるほど、流石にタダであの超火力は出ませんよね」

 

「ああ、そういう事だ。だから」

 

「ここからは俺が気張りますよ!ブレイブ、【覚醒】!」

 

セイバーがブレイブを呼んでその上に乗ると空に向かっていく。ブレイブが炎の弾を飛ばしながらアンクを牽制し、可能なら撃墜を狙う。

 

「【火炎砲】!」

 

セイバーの手から魔法陣が展開すると火炎の弾丸が射出されて更に手数を増やす。しかし、やはり炎同士では相性の問題でダメージもそこまでにならない。

 

「ブレイブ、【アクアボルテックス】!」

 

今度は炎に対して有利に出られるであろう水属性の攻撃を使い、アンクに突撃。アンクはそれを喰らうと先程よりも多くのダメージが入っていた。

 

『……お前の持ってるメダルを寄越せ!』

 

するとセイバーのインベントリが強制的に開き、中から青い三枚のメダルが飛び出すとそれがアンクの中に強制吸収される。

 

「はぁ!?てか、人の物盗ってんじゃねーよ!」

 

セイバーは再び水属性の力を纏わせてアンクに突撃するが、今度はアンクに命中してもダメージは小さくなっていた。

 

「嘘だろ?」

 

「多分アレはメダルの力で水属性攻撃への耐性を得たのだと思う」

 

「おそらくはそうでしょうね」

 

「えぇ、だったら!ブレイブ、【サンダーボール】!」

 

今度はセイバーがブレイブに水に強く出られる電撃の弾をアンクの翼めがけて撃ち込む。それと同時にアンクも炎と水の弾を出現させてそれをセイバーへと叩き込んだ。

 

「ぐう……って、水のエネルギー弾?」

 

セイバーも火属性のアンクがいきなり水属性の攻撃を仕掛けてきたので驚いて攻撃をまともに受けてしまう。しかし、アンクの方も翼に電撃のエネルギー弾が命中したのでそのまま落下し、地面に叩きつけられるとHPが四割となる。これによって三枚目が投入されるとアンクはようやく完全な力を取り戻したのか圧倒的なエネルギーのオーラを放ち、セイバー達を叩きのめさんとしていた。

 

『ようやく俺の真の力だ。受けてみろ!』

 

アンクが手を掲げると空から炎の雨が降り注ぎ、三人はそれを回避するので手一杯となる。更にアンクは足に炎を纏わせるとそのまま地上にいるウィルバートとリリィへと蹴りを繰り出した。

 

「く……」

 

二人はそれぞれ弓とモップを使ってガードするものの、やはりそれだけでは相殺できずにダメージを負ってしまう。そこにセイバーが降りてきて烈火を振るうがそれでもアンクの戦闘能力の方が上であり、右手に炎を纏わせてのパンチがセイバーの腹に決まってセイバーもダメージを負った。

 

『俺に勝てる奴などいない』

 

「まだだ!【ゲノミクス】!」

 

《コモドドラゴンゲノミクス!》

 

するとセイバーの左腕にドラゴンの頭を模したガントレットが付与されるとそれでアンクを殴る。火属性をかまさない普通の攻撃ならダメージも多少は大きくなる訳だ。

 

「次はこれ!【神獣招来】!」

 

続けてセイバーが神獣を呼び出すと出てきたのは四神の一角を成す巨大な亀こと玄武だった。玄武は巨大な岩石砲を生成するとそれをアンクに向けて放つ。アンクはこれを水を噴射する事で破壊するが、その時にはセイバーがガントレットをアンクの顔面に叩きつける。

 

「おらぁっ!」

 

更に炎を纏わせずに烈火で斬り裂くとアンクもダメージを負う。

 

『お前のメダル……寄越せ!』

 

アンクが手を翳すとまた強制的にインベントリが開き、その中からセイバーの持つメダルが次々と飛び出してアンクの中に入っていく。唯一紫のプテラ、トリケラ、ティラノの三枚は取られずに済んだが、残りは全て吸収されてアンクの纏う力が更に高まった。

 

「もしかして、ラストのボスは更に強化される系?」

 

元々この裏ボスに挑戦するためのボス戦はどこから挑んでも大丈夫な設計になっている。そのため、アンクを最初に倒したプレイヤーも勿論いるだろう。その場合、そのプレイヤーがラストに挑むボスが強化されるようになっているのだ。ちなみに、ウィルバートとリリィも実はアンクがラストのため、三人の中で一番アンクからのヘイトを買っていたセイバーがメダルを奪われる役になった。

 

するとアンクは更に高まった炎を放出するとそれでセイバーを焼き消そうとしてくる。勿論セイバーもタダでやられるつもりはない。

 

「【爆炎放射】!」

 

セイバーも炎を発射する事で対抗すると二つの炎はぶつかり合うが、その火力差は大きかった。

 

「チッ、【エレメンタル化】!」

 

セイバーは水に変化して炎を透かすとそのまま元の姿に戻る。そこにアンクは超スピードで接近すると重いパンチを放ちセイバーを吹き飛ばした。

 

「【矢の雨】!」

 

ウィルバートがリリィからの支援無しでの射撃を行い、アンクの注意を少しでも自分達に向けようとする。

 

『面倒だな。なら!』

 

そしてアンクは狙い通りに二人の方へと方向転換する。それと同時にウィルバートとリリィも対抗策を言い放つ。

 

「「【クイックチェンジ】!」」

 

再度二人の装備が入れ替わり、リリィがメインに変わる。それから二人は再度機械兵を展開。

 

「仕方ない。アイ、【覚醒】【進化する知能】【機械戦車】【鋼の装甲】!」

 

するとアイの力で機械兵達が強化合体し、戦車型に変化。先程よりも威力の上がった砲撃で倒しに行くつもりだ。

 

「【神獣合併】!」

 

更にセイバーも情龍の装備に切り替えると盾でアンクの攻撃を封じつつ斬撃で対応する事にした。

 

『はあっ!』

 

アンクは先程と同様に赤い竜巻を発生させると戦車からの攻撃を押し留めて相殺する。しかし、セイバーの方はそうはいかないので近接戦で戦うしかない。

 

「【ラブキャノン】!」

 

セイバーが胸の龍の武装から白いエネルギー弾を近距離から発射してアンクを吹き飛ばす。

 

それからセイバーとアンクは激しい肉弾戦を繰り広げる。遠距離に離れればすぐさま炎弾が飛んでくるのでそれを避けつつ盾を使えばある程度は戦えると踏んで敢えて近接戦を展開。

 

「リリィさん、ウィルバートさん、隙があったら一発お願いします!」

 

その言葉にセイバーが何を言わんとしているか理解した二人は今回何度目かわからないスタイルチェンジを発動するとウィルバートメインに切り替える。

 

「【ブレイブスラッシュ】!」

 

セイバーが赤く輝かせた烈火でアンクを両断すると蹴り飛ばしてアンクを怯ませつつ距離を空けさせる。

 

「【王佐の才】【戦術指南】【理外の力】【賢王の指揮】!」

 

『同じ手は……』

 

このパターンは先程と同じ。セイバーが体勢を崩した隙にウィルバートが矢を放つもの。流石に何度も同じ手は効かないとばかりにアンクはすぐに炎弾を構えるが、ウィルバートの射撃はその上を行った。

 

「【急速の矢】!」

 

ウィルバートが放った矢は今までのどの攻撃よりも速く、更には彼自身のプレイヤースキルによって正確であり、アンクの炎弾が放たれるよりも速くアンクの体を撃ち抜いた。

 

「今!【情龍神撃破】!」

 

セイバーがそこに三匹の龍の力を纏わせたキックをアンクに叩き込み、アンクの残りHPは僅かとなる。

 

「一気に畳み掛ける!【ドラゴンラッシュ】!」

 

セイバーが龍を呼び出すとそれがアンクを次々に攻撃。残された僅かなHPを更に削っていく。

 

「【連続撃ち】!」

 

「アイ、【弾道支援】!」

 

ウィルバートとリリィもそれぞれスキルを使ってアンクを追い詰めるセイバーをサポート。次々と攻撃が決まり、最後の締めはセイバーが接近して繰り出す斬撃だ。

 

「【感情爆炎斬】!」

 

セイバーからの斬撃をアンクが受けるとHPが0となり、爆散。これにより、とうとうセイバーは7つの試練を全てクリアする事となった。

 

「やった……」

 

「何とかなりましたね」

 

するとアンクの中に取り込まれていた黄、青、緑、オレンジ、白のメダルがセイバーのインベントリに戻る。それと同時にアンクを撃破した際に得られる報酬が出てきてその中には赤いタカ、クジャク、コンドルのメダルが揃っていた。

 

「これで所持メダルは21枚……これを裏ボスのいる場所で使えば入れるのかな?」

 

「ただ、裏ボスはとんでもない強さだとギルドメンバーから聞いた」

 

「マリアも挑戦したらしいのですが、彼女でさえも攻略できなかったとの事です」

 

「そんなに強いんですか?なら、ますます燃えてきましたね」

 

それからセイバーは二人と別れるとギルドホームに向かっていく。まずはボスの情報を集めておくべきだと考えたからだ。何しろ、あのマリアを倒せるほどの強敵である。準備は万全にしておきたい。

 

「攻略サイトを覗いても良いけど、できればボスの行動パターンは知りたくないからな……楽しみが薄れちゃう」

 

セイバーがそんな事を小声で口ずさみながらギルドホームに戻るとそこには何故かキャロルが居座っていた。

 

「キャロル、急にどうしたんだ?今日はデートの日じゃないだろ」

 

「……サリーに」

 

「え?」

 

「サリーに勝てる方法を教えてくれ。セイバー」

 

「……はい?」

 

いきなりのキャロルの質問に驚くセイバー。どうやら先程サリーとキャロルは決闘を行ったらしいのだが、キャロルの攻撃はサリーにものの見事に躱された挙句、今度は【碧の獅子機】も通用しなかったとか。

 

「まあ、できる事ならサリーの知らない手を使うとかしないと同じ手ばかりでは通用しなくなるのは皆一緒だしな、それで、どのくらいボコボコにされたんだ?」

 

「……この前は【空蝉】を使わせたのに今回はそれすらも発動する前に倒された」

 

キャロルの顔は凄い悔しそうであり、サリーへのリベンジに燃えている様子だ。

 

「んー、教えたいのはやまやまだけどなぁ、ギルドメンバーの弱点を他ギルドに漏らすのもなんかなあ……」

 

セイバーとしては彼女であるキャロルに手を貸したい所だったが、キャロルはライバルギルドの主力。本人の許可無しにあまりこちらの情報を渡すのは気が引けた。その板挟みに悩んでいるのを察したのかキャロルはセイバーに声をかけた。

 

「すまない。セイバーにとっては難しい頼みをしてしまった。解決法は自分で探すよ」

 

「こっちこそごめん。仲間の情報をライバルギルドには教えられない」

 

「だが、いつかアイツを負かしてみたいものだ」

 

「彼女に攻撃を当てられればの話だけどな」

 

それからセイバーとキャロルはセイバーの部屋に案内されるとそのまま談笑する事になり、恋人同士である二人が仲良くイチャイチャしているようであった。

 

〜運営視点〜

 

「第11回イベント、さらにはその後に第十層の実装を控えて作業は進んでいるか?」

 

「何とか予定には間に合いそうです」

 

「十層はかなりの大規模な層になる予定だからな、見落としがないかこまめにチェックして調整をしてくれたまえ」

 

「勿論です。ただ、本当に良いんですか?イベントのボスはクレームが出ても知りませんよ」

 

第11回イベントに出てくるボスはかなりの難易度となっており、更に絶級となるともうプレイヤーにクリアさせるつもりは無い程のレベルだということは以前の話で描いた通りである。

 

「それでもだ。それでもそのボスに挑むプレイヤー達を見てみたくてな」

 

「いやー、これセイバーでもかなりキツイですよ?他のプレイヤー達にはクリアするのはほぼ無理かと」

 

「だからこそ今回は絶級に挑む際は最低人数を設定したんだよ。加えてちゃんと通知の方に注意事項も添えてある」

 

「これはもうどう頑張っても止められませんね……。まぁ、ダメだったらその時はその時か」

 

「ホント、今回ボスを作った奴はスキルに頼るプレイヤー殺しの設定付けやがったからなぁ」

 

運営達はイベントに出るボスモンスターの設定をしつつも、最終調整がこれで大丈夫なのか。ちゃんと機能するかどうかのデバッグ等に明け暮れる。果たして、運営が作った最強のモンスターとは。それがプレイヤー達の前に姿を現す日はそう遠くは無い。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと裏ボス降臨

7つの試練を全てクリアしたセイバー。彼は今、運営からの通知を見ている所であった。

 

「ふむふむ……第11回イベントか」

 

とうとう運営からの通知で第11回イベントの詳しい内容が解禁される事になったのだ。内容は第7回イベントと似ており、6つの階層に別れた塔を攻略する物だ。ただし、第7回イベントと違う点が幾つか存在しする。まず一つ目がイベント開催期間は僅か一日のみである点。二つ目が必ずしも途中にある階層のボスを討伐せずとも良いという点。三つ目は級ごとで攻略に必要な最低人数が決まっている点。四つ目が攻略が無理だと感じたら途中でリタイアし、級を変えることができる点だ。

 

「色々と仕様が変更されてるね」

 

「このボスを必ず倒さなくても良いって何だろ?もしかして最初から次に進むための魔法陣があるとかかな?」

 

「あ、でも注意事項としてボスを倒さずにラスボスを攻略した場合は最後にもらえる報酬の量が下がるみたい」

 

「倒したボスの数で報酬が決まるのならラスボスを倒すより前にボスを攻略すれば良いんでしょ?だったら数人ずつ残りながら攻略とかもアリって訳か」

 

「中々自由度の高いイベントだなぁ」

 

そうやって【楓の木】の面々はイベントの告知を見て話を進めていく。すると興味深い文に目が止まった。

 

「え、級ごとで攻略に入れる最低人数が決まってる?」

 

「私達が挑戦しようと思っていた絶級に挑戦できる最低人数は最低五人……」

 

「あちゃ……できれば今回も少人数で行きたかったけど」

 

それでも最低人数が決まっている辺り、それなりに強いボスが相手なのだろうと全員が気を引き締める。

 

「今回はどうします?」

 

「メイプルの意見は?」

 

全員がメイプルに注目する中、メイプルはいつも通りのテンションで考えを述べた。

 

「それじゃあ今回は皆で行こう!」

 

今回はパーティに編成可能人数ギリギリの全員で行動する事に決定。この決定が後に正解だったと知るのはもう少し先のことである。

 

それはさておき、セイバーは今回一人で攻略サイトに載っていた九層の裏ボスが存在する場所に行ける遺跡に来ていた。セイバーがその中に入っていくと魔法陣がポツンと一つあるのみで特に何かがあるというわけでもない。

 

「……入るか」

 

セイバーが意を決してその魔法陣に乗るとすぐにセイバーはそこから転移。転移した先は先程までいた部屋とほぼ同じだったが、そこには巨大な箱のような物に箱の所々にメダルをセットする場所があった。

 

「これは、メダルをはめろって事か」

 

セイバーは持っていた21枚のメダルをインベントリから取り出すと一枚手に取る。するとはめる場所の中の一つが光り輝き、ここにはめろとばかりに指示していた。

 

「なら早速」

 

セイバーは手にしたメダルを一枚ずつ指定された場所にはめていく。そうして21枚はめ終わると箱が光り輝き中から大量の銀のメダルが飛び出すとそれが体を形成。一人の男が蘇った。

 

『私は800年前にこの王国を一つに束ねていた王。私の力を持ってして再びこの世界を一つに束ねる』

 

王はそう言って腰に三枚のメダルを装填するベルトを装着。更に体の中からタカ、トラ、バッタのメダルが飛び出してそれがベルトに装填されると腰に付いていたスキャナーが勝手に動き出し、三枚のメダルがベルトに入るとそれをスキャン。赤、黄、緑のリングが浮かび上がった。

 

『変身……』

 

《タカ!トラ!バッタ! タ・ト・バ!タトバ タ・ト・バ!》

 

すると王の体の周りにメダルが回転するとそのメダルが頭、体、足の前で止まり、タカ、トラ、バッタが選択される。それが一つに重なると胸で一つの絵になり、頭部は錆びた赤色で胸や腕は黄色ベースに腕に折り畳まれた爪、背中には金色のローブを羽織り、脚には緑ベースのバッタの足を折りたたんだような装甲が付与。

 

今ここに古代オーズ、タトバコンボが降臨するのであった。

 

「お前が裏ボスか。早速楽しませてもらうぜ!」

 

セイバーが烈火を構えるとそのまま走っていく。すると古代オーズは片手を翳すのみで衝撃波を発生させてセイバーを吹き飛ばす。

 

「な!?」

 

『その程度か』

 

「チッ、なら【火炎十字斬】!」

 

セイバーが炎を纏わせたクロス斬りを放つと古代オーズはバッタの足にエネルギーを溜めると跳躍。そのままセイバーに接近してどこからともなく出した剣を振り下ろした。

 

「マジ?」

 

セイバーはすかさずそれに対応して受け止めるが、古代オーズの力は強く、セイバーでさえも押し込まれる。

 

「だったら……狼煙抜刀!【狼煙霧中】!」

 

セイバーは自身を煙へと変化させて攻撃を回避しつつ古代オーズの背後に回って狼煙による突きを叩き込む。

 

『小賢しい』

 

古代オーズはそれを喰らいつつもカウンター気味に回し蹴りでセイバーにもダメージを与える。

 

「この強さ、四層の裏ボスの鬼やジャアクドラゴンの比じゃない」

 

セイバーが改めて相手の強さを認識するとすぐに対応するための動きを開始する。

 

「烈火抜刀!【紅蓮爆龍剣】!」

 

セイバーが放った紅蓮の龍を模した斬撃が古代オーズに飛んでいくと古代オーズはそれを片手で受け止める。そのタイミングを狙ってセイバーが跳び上がるとキックを放つ。

 

「【元素必殺撃】!」

 

セイバーが虹色のエネルギーを模したキックを古代オーズに命中させるとようやくダメージが入るが、それは大した物ではなく簡単に凌がれていた。

 

「固い……スキル使ってもこれか」

 

『キックはこのくらいの威力でやってみろ』

 

《スキャニングチャージ!》

 

古代オーズがバッタの脚力で跳び上がるとセイバーに向かって赤、黄、緑のリングが出現し、それを潜りながらエネルギーを増幅。そのままセイバーへとキックを叩き込もうとする。

 

「【エレメンタル化】!」

 

その瞬間にセイバーは風に変化して何とか攻撃を透かすとそのキックは地面に命中して地面にクレーターができてしまう。

 

「強っ!!」

 

そのあまりの火力に驚くセイバー。古代オーズはすぐに反応してキックを打ち終わったばかりとは思えない速度でセイバーへと迫ってくる。

 

「く!【森羅万象斬】!」

 

セイバーもこれに対抗して剣を構えると突進し、二人の刃と刃がぶつかり合う。その後、拮抗は崩れて二人がそれぞれダメージを与えあう。

 

「まだまだ!」

 

セイバーは負けじと古代オーズを倒そうと彼に突撃していく。古代オーズも負けじと剣を片手にセイバーに対抗。激しい斬り合いに発展する。

 

「お前の動きは凄いけど……慣れれば楽なんだよ!」

 

斬り合いの行方はセイバーに分があった。古代オーズはある程度のパターンが決められているのに対して、セイバーはそれに合わせて対応ができる。これにより少しずつセイバーが押し始めていた。

 

『調子に乗るなよ』

 

すると古代オーズは体から緑のメダルを二枚出すと赤と黄のメダルを交換し、スキャンする。

 

《クワガタ!カマキリ!バッタ!ガ~タガタガタ・キリッバ・ガタキリバッ!》

 

オーズは緑のメダル三枚によるコンボ、ガタキリバコンボとなるといきなり体を分身させていきその数は五十体にまで膨れ上がる。

 

「分身か。……なら、付き合ってやるよ。【分身】!」

 

セイバーは烈火を持ったまま分身し、同じく五十人に増えた。

 

それから数対数、軍団レベルの戦闘に発展。セイバーはスペックで上回る古代オーズを相手に互角の戦いを演じ、力尽きた分身から次々と脱落、消滅していく。

 

「やっぱり強い……」

 

しかし、スペックで劣るセイバーの方が少しずつだが劣勢になってきていた。しかもセイバーの【分身】には時間制限がある。このハンデは覆し難い。

 

「一気に倒す!【爆炎紅蓮斬】!」

 

セイバーは分身達と共に古代オーズの軍団へと炎の斬撃を放ち古代オーズの軍団を次々と倒していく。ここでようやく形勢が元に戻ったかに見えた。

 

『無駄な足掻きだ』

 

《スキャニングチャージ!》

 

古代オーズも分身体を含めた全員が跳び上がり、そのままセイバー達を面で制圧するが如くキックを放ってくる。その一体一体の威力は凄まじく、セイバーの分身達はことごとく倒されてしまう。そして、セイバー本体もかなりのダメージを負い、確定耐えスキル発動までとはいかずとも致命傷に近い傷を負った。

 

「あ……ぐ……何だよアレ。一発で分身体が全滅とか強すぎ」

 

するとセイバーを見下ろした古代オーズも一人に戻り頭のクワガタのツノのような物から電撃を発射する。

 

「く!」

 

セイバーは咄嗟にそれを回避するが、その先に古代オーズが回り込み、両腕のカマキリの鎌を模した武器でセイバーを斬りつける。

 

「やばっ!狼煙抜刀!」

 

セイバーが咄嗟に狼煙を抜いて瞬間的に身軽になり、紙一重で回避する。

 

「真正面からやり合ってもこれは勝てないな」

 

セイバーは狼煙を使う事で正面戦闘を避けつつ搦め手での戦いにシフトする。

 

「【有毒の煙】、【スパイダーアーム】!」

 

セイバーは周囲に煙を展開するとそれに付与されている毒で古代オーズに定数ダメージを与えていく。更に背中から出した八本の足で古代オーズを手数で攻める。

 

『小癪な』

 

古代オーズはすぐに攻撃に対応すると足による連続攻撃を全てカマキリの鎌で切り裂いて破壊していく。

 

「【インセクトショット】!」

 

しかし、足への対応に夢中になったがためにセイバー本体からの突きを喰らってダメージを負い、後ろに下がる。

 

「【ビーニードル】、【電撃の糸】!」

 

今度は当たった相手に麻痺の追加効果を受けさせる糸を古代オーズに巻き付かせるとその体を痺れさせて動きを一瞬でも鈍くし、そこに狼煙と蜂の針による二刀流での斬撃でダメージを蓄積させた。

 

『相性が悪いか。ならば!』

 

古代オーズはそう言うと今度は体から黄色いメダルを取り出してメダルをチェンジ。そのままスキャンする。

 

《ライオン!トラ!チーター!ラタ・ラタ・ラトラァータァー!》

 

すると黄色いメダルによるコンボ、ラトラーターコンボに変化。頭はライオン、体はトラ、足はチーターを模した姿となり、いきなり頭から超高熱の熱戦を放出する。

 

「眩しい!?やべっ、これを喰らったら……」

 

セイバーはいきなり目の前が眩い光に包まれたがために視界を奪われてしまう。更に古代オーズは超スピードで動くと目が眩んで身動きが取れないセイバーを両腕のトラの爪を使い連続で切りつける。

 

「がっ!?速い、まさかスピード型の形態か」

 

ラトラーターの最大の特徴は機動力を活かした速攻戦。このままでは相手の有利から抜け出すことはおろか、何かをする前に倒されてしまう。

 

「だったら光には光だ!最光抜刀!」

 

セイバーは一時的に攻撃を無力化できる最光の剣状態に変化すると的を小さくして何とか古代オーズからの攻撃を凌ぐ。そうしている間に目の眩みも元に戻る。

 

「ふう。危なかった。すぐにポーションで回復」

 

セイバーは急いでポーションを使い確定耐えするスキルを使う前にHPを全回復させると反撃とばかりに空中を飛びながら古代オーズを斬り裂いていく。

 

『貴様、卑怯だぞ』

 

「いきなり不意打ちで熱線と光放ってきた奴に言われたくねーよ」

 

今のセイバーは実質無敵状態。勿論ずっとでは無いのだがそれでも無敵でいることで攻撃を喰らってもダメージは入らない。

 

「【閃光斬】!」

 

セイバーが眩い光を放ちながら斬撃を放つ。だが、古代オーズも光にある程度の耐性があるのかセイバーの動きを見切りながら斬撃を爪で受け止めてくる。

 

「【シャイニングブラスト】!」

 

更にセイバーは追撃として光のエネルギー弾を放ちつつ撹乱。古代オーズを牽制して距離を取る。力勝負になれば不利だからだ。

 

「【シャドーボディ】!」

 

加えてセイバーの今の姿には時間制限がある。そこで【シャドーボディ】を使う事で時間切れを防ぎつつ攻撃パターンを変化させて古代オーズを惑わせる手に出た。

 

「【影移動】!」

 

セイバーはスキルで影の中に潜むと剣だけ飛ばし、すぐさま古代オーズの背後を取ると斬撃を繰り出す。

 

『む!?』

 

流石のスピード特化型の形態でも一瞬にして背後を取られるのには慣れてないのか攻撃をまともに喰らう。

 

「はあっ!」

 

続けて対応できない古代オーズに畳み掛けるように連続で斬撃を仕掛けて何度も斬りつけていく。

 

『貴様!』

 

《スキャニングチャージ!》

 

「【シャドースラッシュ】!」

 

セイバーは剣を中心に影の竜巻となって古代オーズに突撃。古代オーズも黄色い三つのリングを発生させてその中を駆け抜けつつ両手をクロスさせるような斬撃を放つ。二つの大技はぶつかると大爆発を起こして二人共後ろに吹き飛ばした。

 

「これでもダメか」

 

『ぬう……』

 

セイバーは手応えは感じつつもそれでも決定打になっていない事に残念そうにする。

 

『私をコケにした事後悔させてやる』

 

古代オーズが今度は灰色のメダルを三枚出すとそれをベルトに入れてスキャンする。

 

《サイ!ゴリラ!ゾウ!サ・ゴーゾ……サ・ゴーゾォッ!》

 

古代オーズは灰色のメダルによるコンボ、サゴーゾコンボになると頭はサイ体はゴリラ、足はゾウの能力を活かしたパワータイプだという事が見てとれた。

 

「パワーで来たか。なら【カラフルボディ】!」

 

セイバーは時間制限も考慮してダメージこそ負うが力を増幅させられる【カラフルボディ】で体に装甲を纏い強化した。

 

「さぁ来い、何が来ても……」

 

セイバーがそう言った瞬間、古代オーズは突然ドラミングを始めるといきなりセイバーの体が浮き始める。

 

「え!?ちょ、待っ……」

 

そのまま壁に思い切り叩きつけられるとダメージを負ってしまう。更に古代オーズはそのドラミングを再度やるとセイバーの体にかかる重力が倍増した。

 

「が!?体が重い」

 

セイバーの動きが鈍った瞬間を古代オーズが逃すはずがない。ゆっくりとした足取りながらも古代オーズはセイバーに近づいて殴りつける。

 

「ぐ……」

 

セイバーは防御反応を取ることすらできずにダメージを受けてしまう。このままでは何もできずに負けてしまうだろう。

 

「というか、重力増加ってデバフじゃねーのかよ」

 

セイバーの持つスキルによってデバフの効果は本来効かないはずなのだが、思いっきり動きが鈍らされてしまっているのでデバフ無効が貫通されてしまっているのかもしれない。

 

「仕方ない。【シャットアウト】、【光速移動】!」

 

セイバーは一時的にデバフを無効化。更に瞬間移動に相当する速度で古代オーズの背後を取ると最光を振り下ろす。

 

『無駄だ』

 

だが、同じ手は二度通用しないのかすぐに対応されると攻撃は防がれてしまう。

 

「そうかな?」

 

その瞬間、古代オーズの背後から光弾が命中。ダメージはあまり入らなかったが、それでも牽制には十分なので古代オーズの動きが一瞬硬直した隙にセイバーは最光による斬撃を喰らわせる。

 

「【足最光】!」

 

セイバーは体の装甲を足に集約すると脚力を強化して瞬間的な火力を増幅。そのタイミングで【シャットアウト】の効果切れとなるが、古代オーズが怯んだことでセイバーにかかっていた重力増加も一時的に落ち着く。そこを逃すセイバーでは無い。

 

「【エックスソードブレイク】!」

 

セイバーが跳び上がってキックを繰り出すと古代オーズはそれを受け止める構えを見せる。

 

「なんてね。最光抜刀!」

 

『何だと!?』

 

「【カラフルボディ】!」

 

その瞬間セイバーは剣だけの状態に戻り古代オーズの虚を突いて再度【カラフルボディ】による人型への再変化により古代オーズを撹乱していった。

 

『貴様の力は本物か。ならば!』

 

《スキャニングチャージ!》

 

いきなり古代オーズは空中に跳ぶと着地の威力でセイバーを地面に拘束。そのまま古代オーズへと引き摺り寄せる。

 

「ッ!?」

 

それから古代オーズはセイバーが自身の目の前に来るまでの時間に両腕と頭にエネルギーを集約していく。

 

「仕方ない……【イージスフィールド】!」

 

『ぬん!』

 

セイバーは咄嗟に自身の周囲に防御フィールドを展開すると古代オーズの攻撃をギリギリの所で相殺。何とか事なきを得た。

 

「痛てて……何とか凌げた」

 

『雑魚の分際でしぶといな』

 

「しぶとい…か。そうかもな」

 

古代オーズはセイバーの返しに無言で体からメダルをまた呼び出すと今度は青のメダルを揃える。

 

《シャチ!ウナギ!タコ!シャ・シャ・シャウタ!シャ・シャ・シャウタ!》

 

古代オーズは頭にシャチ、体にウナギ、足にタコの力を宿したシャウタコンボに変化すると突如としてその体を液状化。セイバーへと纏わりついてきた。

 

「な!?お前も無敵時間あるのかよ!」

 

最光のセイバーでも液状化には対応できない。このままではダメージすら与えられないだろう。

 

「こうなったら!流水抜刀!」

 

セイバーは対応するために氷の力を使える流水を抜刀すると構える。

 

「液状化には、凍結が有効でしょ!【氷塊飛ばし】!」

 

セイバーが文字通り氷塊を飛ばすと古代オーズはそれを液状化した体で透かす。しかし、セイバーの狙いはダメージを通す事では無い。

 

「【タテガミ氷牙斬り】!」

 

 

セイバーから放たれた氷の斬撃は液状化している古代オーズの体に命中すると液体ごと凍らせていく。

 

『何!?』

 

「はっ、やっぱ液状化していてもその液体ごと凍らされるのには弱いよな」

 

 

セイバーは完全に古代オーズの弱点を看破しているために対応策もしっかりと取る事ができる。

 

「このまま一気に倒してやるよ!」

 

更にセイバーは古代オーズを何度も斬りつけ、体を凍結させると完全に動きを封じた。

 

「終わりだ!【ブリザードレオブレイク】!」

 

セイバーが跳びあがると氷の獅子を模したキックを放ち、氷の塊と化した古代オーズを蹴りで吹き飛ばし大きなダメージを与える事に成功。

 

「良し、今のは良いダメージになっただろ」

 

『ああ、確かに今のは効いた』

 

しかし、古代オーズのHPはまだ六割も残っているのを見てセイバーは軽く絶望感に包まれた。ここまでやってもまだ半分にすら届かないダメージ量なのだ。

 

「やばすぎんだろコイツ、耐久力は勿論だけど、戦闘能力も高いからプレイヤーからしたらボスモンスターの更に格上のレイドボスでも相手にしてる感じじゃねーか」

 

セイバーは何とか残っている闘志を燃やして戦いを続けようとすると古代オーズは更にその力を解放し、手から激流を発射してきた。

 

「マジか!【氷結化】!」

 

セイバーは咄嗟に自身を氷漬けにして地面に氷で体を固定すると流される事を阻止するが、その激流の中に古代オーズは突入して必殺技を放ってくる。

 

《スキャニングチャージ!》

 

氷漬けとなって身動きができないセイバーへとウナギの鞭を伸ばして絡め取ると体に電撃が流れて動きを鈍らされる。更に思い切り引き寄せてから足が八本のタコの足に変化。それがドリルのように回転しながら氷ごとセイバーを貫く。

 

「ぐあっ!」

 

セイバーは今の一撃でHPをかなり失ってしまい、倒れ込む。それを古代オーズは一蹴し、見下ろす。

 

『これで終わりか?』

 

「ぐ………この化け物が」

 

セイバーは悪態を吐くがそれでも相手の強さは並のボスよりも遥かに格上なのだ。セイバーは何とか立つとHPを回復。古代オーズは再度鞭を伸ばして再びセイバーを捕まえようとしてくる。

 

「二度も三度も喰らうか!【ブリザードラッシュ】!」

 

セイバーが流水に氷の力を纏わせると斬撃を放ち鞭を弾きつつ攻撃を凌ぐ。

 

「【氷獣大地撃】!」

 

更にセイバーが流水を地面に突き立てると地面が凍結していき、動きを封じ込める。

 

「うらあっ!」

 

更にその上を走っていくとすれ違い様に斬り裂く……その瞬間、古代オーズは体からオレンジのメダルを出すとそれをスキャンする。

 

《コブラ!カメ!ワニ!ブラカ~ワニ!》

 

古代オーズはその姿をコブラの頭、亀の体、ワニの足となるブラカワニコンボに変わると両腕の盾でセイバーの攻撃を防いでしまう。

 

「嘘だろ!?」

 

セイバーはすぐに離れようとするが、古代オーズはすかさず足の氷を砕きセイバーへと回し蹴りをぶつけた。

 

『甘いな』

 

続けて古代オーズはメダルをスキャンして走り込み、地面を両足蹴りの体勢で滑りながら必殺の一撃を放つ。

 

《スキャニングチャージ!》

 

「月闇抜刀!【闇の障壁】!」

 

セイバーが咄嗟に闇で生成された障壁を作り出すとそれで古代オーズの攻撃を何とか防ぎ、耐え凌ぐがそれでも威力までは相殺しきれずに後ろへと強制的に下がる。

 

「危ね……」

 

それから再び二人は接近するとセイバーの月闇と古代オーズの足技による乱打戦に入る。

 

「おらっ!」

 

セイバーが闇の力を纏わせた月闇を振るい、古代オーズは亀の力を模した盾でセイバーの攻撃を防ぎつつワニの力を模した強靭な蹴りで対抗していく。

 

「【月闇居合】!」

 

セイバーが居合斬りの構えに入ると当然古代オーズは盾を合わせて防御姿勢に入る。

 

「そこ!」

 

そのタイミングでセイバーは古代オーズに足払いをかけてバランスを崩し、そこに合わせて居合斬りを叩き込んだ。

 

『馬鹿な!』

 

「足がガラ空きだったぜ。【暗黒闇龍剣】!」

 

そこに追撃とばかりに闇の龍を模したエネルギー斬で古代オーズを狙う。その瞬間、古代オーズは縦笛を出すとそれを吹き、頭からコブラを召喚。セイバーの斬撃とぶつけ合わせるとそれによって大爆発が起きた。

 

「く……」

 

《タカ!クジャク!コンドル!タ~ジャ~ドルゥ~~!》

 

爆発が晴れて視界が戻るとそこにいたのは赤いメダル三枚によるコンボ、タジャドルコンボに変化した古代オーズであった。古代オーズの残りHPはあと五割。ここからが本当の戦いである。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと裏ボス戦決着

セイバーの攻撃と古代オーズの攻撃が激突し、爆炎が上がるとそれが晴れていく。その時、古代オーズから三枚の赤いメダルがベルトに装填されたのをセイバーは見逃さなかった。

 

《タカ!クジャク!コンドル!タ~ジャ~ドルゥ~~!》

 

爆発が晴れて視界が戻るとそこにいたのは赤いメダル三枚によるコンボ、タジャドルコンボに変化した古代オーズであった。その姿は不死鳥と言うのが相応しく、進化したタカの頭、クジャクのボディ、コンドルの足の力を引き出した炎のコンボである。古代オーズの残りHPはあと五割、ここからが真の勝負だった。

 

「お前幾つ姿があるんだよ」

 

『これは私のお気に入りのコンボだ。その力の一端を受けてみるが良い』

 

古代オーズが両手を広げると背中に鮮やかなクジャクの翼が出現。その羽の一枚一枚がエネルギー弾になるとそれがセイバーへと降り注いだ。

 

「ブレイブ、【邪悪化】、【邪龍融合】!」

 

セイバーは咄嗟にブレイブと合体してその時に生じる無敵時間で攻撃を凌ぐとすぐに突進するが、そのタイミングに合わせて古代オーズは左腕に装着した武器から炎弾を飛ばしてくる。

 

「く!?」

 

『貴様如き等この程度で十分と知れ』

 

「そうかな?【金龍ノ舞】!」

 

セイバーは四匹の小さな金の龍を召喚するとその龍達は古代オーズの攻撃を防御しつつセイバーを守る。

 

「【月闇居合】!」

 

先程よりも出力の上がった居合斬りによって古代オーズを斬りつける。しかし、古代オーズもそれに対応して攻撃を左腕の手甲で防ぎつつ右腕でパンチを叩き込む。

 

「ぐぅ……」

 

『ついて来てみろ』

 

そう言うと古代オーズは背中に翼を生やして空に飛翔する。セイバーはそれを見てすぐに対応策を取った。

 

「【暗黒闇龍剣】!」

 

セイバーは攻撃に使うスキルを移動手段として利用。闇の龍の背中に乗って空へと飛び上がる。

 

「【ダークスピア】!」

 

セイバーが左腕に闇の槍を召喚するとそれを古代オーズに投げつける。勿論古代オーズはそれを躱すが、セイバーはそれを見てすぐに距離を詰めて斬撃を繰り出す。

 

「【邪悪砲】!」

 

セイバーの左手に魔法陣が展開。そこから闇のエネルギー弾が次々と飛んでいくと古代オーズもそれに対抗するように炎のエネルギー弾をぶつけていく。

 

「【漆黒の霧】!」

 

セイバーが古代オーズの視界を奪いつつ自身の有利な条件にするためのスキルで周囲に真っ黒な霧を展開してオーズの視界を奪い、自身は【暗視】のスキルでオーズの動きを捉えて攻撃を仕掛ける。

 

「オラっ!」

 

流石に不意をついた影響で攻撃は命中し、ダメージを与える事に成功。更に連続で斬撃を当ててダメージを稼いでいく。

 

『調子に乗るな!』

 

《スキャニングチャージ!》

 

オーズはセイバーに炎弾を放って距離を取ってから両足を猛禽類の足のように変形させるとそのまま炎のドロップキックを放つ。

 

「【邪王龍神撃】!」

 

セイバーもそれに対抗するように足に闇のエネルギーを集約した状態で古代オーズへと蹴りを繰り出す。二つの蹴りがぶつかり合うとその衝撃で二人とも後ろに吹き飛ばされる事になり互いにダメージを負う。

 

「チッ、これでも押し切れないか」

 

『貴様……』

 

古代オーズは更に戦闘を継続しようとする。それに対してセイバーも立ち上がり、闘志を燃やす。

 

「【ゲノミクス】!」

 

《イーグル!ゲノミクス!》

 

セイバーが【ゲノミクス】を使うと背中に翼が生えて空への飛翔を可能にする。古代オーズが空を飛ぶのに合わせて自身も空へと飛び上がり、月闇を振るう。

 

「【ムーンブレイク】!」

 

『はあっ!』

 

激しく空中でぶつかり合う二人。その威力で衝撃波が発生し、二人の戦いの激しさを物語る。

 

「オラァッ!」

 

セイバーが月闇に紫の輝きを纏わせた状態で古代オーズの翼を斬り裂くと古代オーズは翼をやられた影響か落下を始め、それと同時にセイバーの【ゲノミクス】も終わり地上に落ちる。

 

「やべっ、このタイミングでかよ!」

 

セイバーは何とか着地に成功するが、古代オーズもバランスを崩しつつも着地はちゃんとしていた。

 

「化け物かよ」

 

『許さん……許さんぞ!』

 

古代オーズが怒ると更に新たなメダルを取り出そうとする。

 

「今だ!」

 

セイバーがメダルチェンジの際に生じる隙を突いてメダルを奪おうと考える。セイバーが突進して手を古代オーズの体に突っ込むと三枚のメダルを奪い取る事に成功した。

 

「プテラ、トリケラ、ティラノ……って、これ全部恐竜のメダルかよ!」

 

『ぬう……』

 

するとそこに一人の青年が走ってくると手を差し伸べていた。

 

『そのメダルを俺に!』

 

「へ?でも……」

 

『大丈夫、俺を信じてくれ』

 

「わかった!」

 

セイバーがメダルを投げるとその青年がメダルを掴み、それを腰に巻いたベルトに装填。スキャンした。

 

『変身!』

 

《プテラ!トリケラ!ティラノ!プ・ト・ティラーノ・ザウルーゥス!》

 

すると青年はプテラの頭、トリケラの体、ティラノの足の力を合わせたコンボ、プトティラコンボになる。

 

「って、オーズが二人!?」

 

流石のセイバーもこの事態には驚く。今、目の前にいるのは間違いなくオーズ。そして、後からやって来た青年が変身したのもオーズだからだ。

 

『ぐ、よくも私のメダルを……』

 

《タ・ト・バ、タトバ、タ・ト・バ!》

 

それを見た古代オーズもタトバコンボに戻るとセイバー、オーズと向かい合う。ちなみに本来ならばこの場面でもう一人オーズは登場しない。そもそも古代オーズからコアを奪う事事態特殊ルートになる。そして古代オーズからメダルを奪いつつ尚且つプトティラとなるコアを奪った場合のみ発生する分岐なのだ。

 

「えっと、名前を聞いても良いですか?」

 

『映司。俺は火野映司だよ』

 

「映司さん、お願いします!」

 

『ああ』

 

オーズは地面に手を突っ込むと中からティラノの頭を模した斧型の武器、メダガブリューを手にするとそのまま古代オーズに向かっていく。

 

「聖刃抜刀!」

 

それに合わせてセイバーも本気モードである聖刃を抜刀し、古代オーズを攻撃する。

 

「はあっ!」

 

セイバーが聖刃を振るうと同時にオーズもメダガブリューを古代オーズに叩きつける。二人の連携は即興でできたコンビにも関わらず見事で、古代オーズへと確実なダメージを与えたいった。

 

「狼煙、界時【クロス斬り】!」

 

セイバーが狼煙の力を引き出すとそれの効果で周囲に煙幕が展開。

 

古代オーズの視界を奪い、突撃する。ただし、ここまでは先程とさほど変わらない。なので古代オーズも対応してきた。

 

『ぬん!』

 

しかし、先程との相違点。それは界時の力も使っている事だ。古代オーズの攻撃が命中する瞬間、セイバーの姿は一瞬にして消えて古代オーズの背後に現れる。

 

「オラっ!」

 

古代オーズはその一撃を受けてダメージを負う。更にそこにオーズが追撃を加えてメダガブリューで切り裂いた。

 

「【聖烈斬】!」

 

ここでセイバーは烈火、流水、黄雷の三聖剣の力を使用すると烈火、流水、黄雷が召喚されて古代オーズへと飛んでいき、彼を斬りつける。

 

『はあっ!』

 

更にオーズもプトティラの力による圧倒的パワーで攻撃し、着実にダメージを与えていった。

 

「映司さん、一気に決めましょう!」

 

「ああ!」

 

『貴様等……ただで済むと思うな!』

 

すると古代オーズから禍々しいオーラが出てくると胸の絵柄が変化し、カザリ、メズール、ガメル、ウヴァの絵が描かれた物になる。更に肩には巨大な棘のような物が生成。両腕や両足はトラとカマキリの腕、ゾウやタコの足と四人のグリードの力を模したアーマーにパワーアップする。

 

「あれは……」

 

『他のグリードの力を使っているのか』

 

二人はそれを見てより一層気を引き締める。すると古代オーズは手に大剣を持つとゆっくりと二人へと歩き、その大剣を振るう。

 

「烈火【クロス斬り】!」

 

セイバーは剣に烈火の力である炎を纏わせて攻撃を受け止めるが、先程までの古代オーズとはまるで別人のような力の前にセイバーは後ろへと吹き飛ばされてしまう。

 

「強っ……」

 

『らあっ!』

 

今度はオーズがメダガブリューを叩きつけるが、まるで応えてないのか仰け反りすらせずに仁王立ちで受け切られる。

 

「【流星弾】!」

 

セイバーが聖刃を天に掲げると空から小さな隕石が降り注ぐ。古代オーズはオーズを相手しているがために躱す時間も無い……のだが、【流星弾】を簡単に耐え忍んでしまう。

 

「うーん、固すぎ」

 

『だったら!』

 

《ガブッ! ゴックン…!!》

 

オーズが銀のメダルを取り出すとそれをメダガブリューに装填。そのままティラノの口の部分を閉じるようにメダルを飲み込ませるとエネルギーが高まっていきそのままメダガブリューをバズーカの形に変形させる。

 

《プットッティラ〜ノヒッサーツ!!》

 

『セイヤー!』

 

オーズが紫の力を込めたエネルギー砲を発射すると古代オーズに直撃。そのまま古代オーズにダメージを与えるが、それでもまだ古代オーズには余裕があるのか普通に耐えてきた。

 

『そんな……』

 

『その程度の出力で私を倒せると思うな』

 

古代オーズはそう言うと手から竜巻を発生させ、セイバーとオーズを強制的に吹き飛ばす。

 

「ぐ……ならこっちも火力をぶつけるか。【刃王クロス星烈斬】!」

 

セイバーは一度に十本の聖剣の力を全て起動するとその力を持ってして古代オーズにエネルギーを集約した斬撃を放つ。

 

「うおらっ!」

 

その一撃は古代オーズに命中するとその体を深々と切り裂き、体の中に眠っていた大量の銀のメダルを排出させた。

 

『何を……』

 

「オーズ!」

 

『わかった!』

 

セイバーのやりたい事を理解したオーズは古代オーズから出させた銀のメダルをメダガブリューに取り込ませるとそのエネルギーを極限まで高めていく。

 

『貴様……これを狙って……』

 

「オーズ、決めろ」

 

《スキャニングチャージ!》

 

『はぁあああああああ!!セイヤー!!』

 

オーズの手にしたメダガブリューでの巨大な紫の斬撃は古代オーズのHPを一気に削り取り、残り二割にまで減らすと古代オーズの体をとうとう地面に叩きつけさせた。

 

「おいおい、これでもまだ耐えてくるの?」

 

セイバーは流石に今ので決まったと思っていたのだが、見立てが甘く割と余裕を持って持ち堪えられてしまう。しかも、オーズの方も巨大なエネルギーを扱った影響かその場に倒れて変身解除してしまった。

 

「チッ、これはかなりヤバいかも……」

 

二割のHP。その値というのはボスが最後の形態変化をするようなHPだ。そして、その時はすぐに来る。

 

『よくも……よくもこの私に泥を付けさせたな。貴様の所業は万死に値する。このコアの力は使いたくは無かったが……』

 

そう言って古代オーズは見たことの無いメダルを体から出すとそれをベルトに装填。そのままスキャンする。

 

《ムカデ!ハチ!アリ!ゴーダ!ゴーダ!ゴー・オー・ダー!》

 

すると古代オーズはゴーダと呼ばれる怪人の力が入った三枚のメダルによって変身する古代オーズ最強にして最悪の姿に変貌するのだった。その姿は頭部、腕、脚が紫を基調とした物に変わっており、両腕のクローは巨大化し、強靭になっている。

 

「ははっ、まだ上があんのかよ……」

 

セイバーは古代オーズの真の力に怖さを感じていたが、それとは別でワクワクもしていた。これほどまでの強さを誇る敵を相手にできるといく事実に。

 

「何とかまたアイツからメダルを取るしか無いな。多分、メダルの数イコール強さだろうし……。良し、リスクはあるけど【刃王砲】、【チャージ開始】!」

 

セイバーは一か八かの賭けして【刃王砲】を使用。このスキルは必殺の一撃で強力な分、溜めの時間はスキルを使うことができない。つまり、ここからスキル無しでどうにか戦い抜くしか無いのだ。

 

「だっ!」

 

まずはセイバーが先手を取って攻撃を仕掛ける。守りに入ればスキルが使えないので防御の厚みが足りなくなり、押し負ける危険があるからだ。古代オーズは両腕のクローを展開してそれを迎え撃つ。

 

二人の戦いは拮抗し、やってやられの勝負になっていた。しかし、元のステータスでは突然古代オーズに分があるのでセイバーは隙を見つけて古代オーズの体に手を突っ込んだ。

 

「そこだ!」

 

『ぬぐっ!?』

 

それから適当にメダルを掴んで抜くとその手にはタカ、トラ、バッタ、クジャク、コンドルのメダルがあった。

 

「五枚いただき!」

 

『私のメダルを……』

 

「映司さん!」

 

セイバーがメダルを投げると映司は何とかそれを掴み、タカ、トラ、バッタのメダルを使用して変身する。

 

『変身!』

 

《タカ!トラ!バッタ!タ・ト・バ!タトバ タ・ト・バ!》

 

映司はオーズタトバコンボに変身。古代オーズとの違いは錆色だった頭部が鮮やかな赤になっている点だろう。

 

『はっ!』

 

セイバーとオーズは再び二人がかりで古代オーズとの戦闘に入る。しかし、流石は裏ボス。メダルを何枚か取られても強さは圧倒的なのか二人がかりでもやっとまともな勝負になる程度で少しでも気を抜けばあっという間に押し負けるだろう。

 

「あと少しで【刃王砲】が溜まる……けど、相手が何もして来ないとは思えない」

 

古代オーズはバッタの脚力で一気に距離を詰めるとそのまま強靭なクローを振るってくる。

 

「ぐ!?」

 

セイバーは咄嗟に聖刃で攻撃を受け止めるが、その火力を前にダメージを受けてしまう。

 

『大丈夫!?』

 

「ああ。それに今ので時間稼ぎは終わりだ。【刃王砲】……」

 

『させるか!』

 

《スキャニングチャージ!》

 

古代オーズはセイバーから何が来るか何となく察知し、それを阻止するために突っ込んでくる。

 

『セイバー!!』

 

「引っかかったな!」

 

セイバーは古代オーズが大技を使う瞬間にできる隙を突いてくるとわかっていた。だからこそ隙だらけの瞬間を晒して誘い出したのだ。

 

セイバーは古代オーズからの斬撃を紙一重で回避しつつカウンターの一撃を叩き込む。

 

『がっ!?』

 

「もらった!【刃王砲】、【発射】!」

 

そして今度こそ古代オーズに確実に命中させられるタイミングにしてゼロ距離という最高の瞬間にエネルギー砲を発射。そしてそれは古代オーズを飲み込むと大爆発と共に古代オーズのHPを残り一割にまで減らす。

 

「決まったね」

 

『馬鹿な、この私が負けるだと?そんな事があるか!!』

 

『不味い、セイバー!』

 

古代オーズは怒り狂うとエネルギーを放出。するとオーズがセイバーを庇って前に出て代わりにダメージを負うとタカ、トラ、バッタ、プテラ、トリケラ、ティラノのメダルを奪い返されてしまう。

 

『返してもらったぞ』

 

これによりオーズは変身解除して映司の姿に戻り、尚且つ映司の持つメダルが二枚以下になったので変身すらできなくなってしまった。

 

「マジか。もう後は一騎打ちをしろって事なのか?」

 

セイバーは冷や汗をかきつつも、闘志を高める。絶対に勝つという気持ちで構えていると映司の方から光が溢れ出ていた。

 

『……やれやれ、俺の出番か』

 

映司の中から別の声が聞こえると映司が割れたタカメダルを取り出す。するとそれは一つになりメダルとして復活。更に映司の手元にあるクジャクとコンドル共々その色が変化し、映司の髪にいきなり赤や金の部分が出来て何かが取り憑いたような状態となる。

 

『アンク……』

 

『何やってんだ映司』

 

「え?アンクって、この前倒したボスだろ?何で……」

 

セイバーが疑問に思っているとアンクが憑依した映司はセイバーを見つめた。

 

『はっ、確かに俺はお前に倒された……が、アレは俺であって俺では無い。簡単に言うなら……あの俺は別の世界の俺だ』

 

「……はい?」

 

セイバーは訳の分からない単語に頭をショートさせる。いや、異世界のアンクという事は納得がいくのだがそれを理解するのに時間がかかっているだけだ。

 

「色々とご都合主義な気がするけど、俺にとっては得だし別に良いか」

 

セイバーは無理矢理自分を納得させるとこの心強い味方の参戦に心を昂らせる。

 

それから映司は三枚のメダルを順番に入れていく。そうして、装填を終えるとスキャナーを手に持ち構えた。

 

『『変身!』』

 

《タカ!クジャク!コンドル!タ~ジャ~ドル~!エーターニティー!!》

 

映司の周りに赤、黄、緑のグラデーションが入った三枚のメダルが出てくるとそれが合わさって金の不死鳥の絵を形成。更に背中から炎の不死鳥の翼が映司を包み込むとその姿をタジャドルコンボに似ているが、頭部にアンクの顔を模したパーツが付与され、体には赤に加えて黄や緑、紫のグラデーションが入ったカラーリングになっている。更に背中には五枚の不死鳥の翼のような物が垂れ下がり、左腕にも手甲型の武器であるタジャニティスピナーが合体。メインの武器として扱われるだろう。

 

これにより、映司はタジャドルコンボエタニティに変身するとセイバーもそれに合わせてパワーアップのスキルを使う。

 

「【装甲変化】、【豪華三冊】!」

 

するとセイバーの周囲に青い炎に包まれた鳥と青い雲が出現。それがそれぞれ胸と左肩にアーマーとして装着されるとセイバーの機動力が一気に跳ね上がる。

 

「今回は機動重視の形態で勝負だ」

 

セイバーは背中の翼を広げると空に飛び上がる。そして、それを見たオーズも背中に翼を生やして空を飛ぶ。

 

「連続攻撃、行けますよね?」

 

『『ああ!』』

 

映司とアンクの声が重なったオーズはセイバーと共に空中から古代オーズに接近しつつ連続で攻撃を当て続ける。

 

「【刃王爆炎紅蓮斬】!」

 

《エタニティスキャン!》

 

それからセイバーは青い炎を纏わせた聖刃による一撃。【刃王爆炎紅蓮斬】を放ち、オーズも鳥系のメダル7枚によるスキャン技、エタニティブレイザーで赤、黄、緑の炎を集約した不死鳥による攻撃で古代オーズをとうとう追い詰める。

 

『馬鹿な、この私が負けるなど……あり得ない!!』

 

「そろそろ終わりだ。良い加減眠っとけ!」

 

《スキャニングチャージ!》

 

「【銀河轟龍蹴烈破】!」

 

二人は空中で体勢を整えるとそのままセイバーは青い炎を見に纏った龍と一体化したキックを、オーズも両足を巨大なコンドルの爪足のような物に変化させつつ赤い炎のリングを三つ潜りながらドロップキックをそれぞれ放ち二人の攻撃は古代オーズに命中するととうとうそのHPを0に変えた。

 

『ぐあああああああああ!!』

 

古代オーズは倒れるとそのままエネルギーを放出しながら爆散。そのまま中のメダルはバラバラに飛び散り、その場には報酬の宝箱と一本の巻き物のみが残った。

 

「か、勝てたぁ……」

 

セイバーは何とか勝つ事ができたことの喜びと達成感に浸っているとオーズは変身解除し、人間態のアンクと二人で立っていた。

 

「え、えっと」

 

『ありがとう』

 

『お前のおかげで厄介な王を倒せたんだ。これで気兼ねなく映司と楽しい日々を過ごせる』

 

「こちらこそ、むしろあなた達がいなければ勝てたかどうか……」

 

『あ、そうだ。これ』

 

そう言って映司からも一本の巻き物を渡された。これは映司達を出した上でのクリアという隠し条件を満たしたからである。

 

それから映司とアンクは光となって消えていき、セイバーは宝箱の中身と共に報酬を確認した。

 

「えっと、中身はゴールドとこれは……王の称号。記念品みたいなものか」

 

セイバーが手にしたのは一枚の金に輝くタカのメダルであり、これは何にも使えないが王を討伐した証として持っておける。

 

「それで、スキルは……」

 

【奇跡の力】

 

一度のみ発動。タイミングはある条件を満たした際のみ。その時に適したスキルを一度きりのみ使用可能となる。このスキルを使用後は所持スキル群から消失。

 

【王者の風貌】

 

王としての力を解放し、10%の確率でクールタイムのあるスキルをクールタイム無しで即使用可能になる。クールタイム無効の効果が発動するのは一日一回のみ。

 

上が映司からの、下が討伐報酬である。セイバーはそれを確認すると元の九層に戻り、ギルドホームに帰る事にした。古代王を討伐したという輝かしい実績を持って……。

 

セイバーが古代王を討伐したその日、セイバーが攻略一番乗りの通知がプレイヤー内に飛び回った。その影響で大きな反響を呼ぶ事になるのだが、その話は省略する事にする。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いと第11回イベント

セイバーが裏ボス攻略をして更に時間が経ち、とうとう第11回イベントの日がやってきた。この日は【楓の木】のメンバーが全員揃っており、全員で最高難易度である絶級のクリアを目指す。

 

「皆、絶対にクリアして戻ろうね!目指すは全ボス討伐した上でのクリアだよ!」

 

「勿論!」

 

「「私達も頑張ります!」」

 

「準備は万端だ」

 

「ああ、腕が鳴る」

 

「僕も出し惜しみは無しで行くよ」

 

「どんなボスが出てきてもこのメンバーなら行けます!」

 

「私達の力を見せてあげよう」

 

「さぁ、行こうか!」

 

全員がそれぞれ意気込みを言った所でイベントが開始。まずはセイバー達10人全員が攻略目標の塔の前に転送される。それから早速塔を攻略しようとすると中からいきなり兵隊達が召喚されて10人の前に勢ぞろいした。

 

「えぇ!?」

 

「まさかの塔攻略はもう始まってる的なやつ?」

 

「取り敢えず倒すしか無いな。じゃないとあの中に入れない」

 

「【身捧ぐ慈愛】!」

 

「ソウ、【覚醒】【擬態】【パラライズレーザー】!」

 

「【最光抜刀】、【閃光斬】!」

 

「オラッ!」

 

「【クインタプルスラッシュ】!」

 

「「【ダブルスタンプ】!」」

 

「【飛拳】!」

 

「それっ!」

 

「【一ノ太刀・陽炎】!」

 

まずはメイプルが【身捧ぐ慈愛】でいつも通りの範囲防御を展開。それからカナデがテイムモンスター、ソウを使い兵士達に麻痺をかけていく。更にセイバーが光り輝く最光を使って麻痺していない兵士の目眩しをする。カスミ、クロム、サリー、ヒビキ、イズがダメージを与え、マイとユイに至っては兵士を一撃粉砕。10人がそれぞれの方法で出てきた兵士達を削っていく中、セイバーはある事を考えついた。

 

「ここは俺に任せてあとの全員で先に行ってください!」

 

それを聞いた全員が疑問を持つ。このまま攻略した方が良いのではないかと。

 

「セイバー、理由を聞いても良い?」

 

「ああ、今現在俺達はコイツらの相手をしているがコイツらはあくまで塔に入る前の敵。ここで足止めなんてされていたら消耗させられてしまうのがオチだ」

 

セイバーが言いたいのはこのまま塔の外での消耗戦だといつまで経っても先に進めない上にイベント期間はこの日のみなのでクールタイムが日を跨ぐ物だと一度きりしか使えないからだ。ちなみに、この塔の外での戦闘は六つの階層の中の一つ目である。

 

「むう……仕方ない」

 

「最大戦力のセイバーに任せるのも良くないかもしれないけど……」

 

「その代わり、絶対追いついてよセイバー」

 

「わかってる」

 

それからセイバーに兵士達の討伐を任せて残りの九人は先に進んでいく。その場に残されたセイバーは一気に敵の兵士達を倒すべく手数を増やすスキルを使う。

 

「【分身】!」

 

「烈火」

 

「流水」

 

「黄雷」

 

「激土」

 

「翠風」

 

「錫音」

 

「月闇」

 

「最光」

 

「狼煙」

 

「界時」

 

「虚無」

 

「「「「「「「「「「「抜刀!」」」」」」」」」」」

 

セイバーは聖刃以外の11本の聖剣の力を宿した戦士を召喚するとそれを構える。それからセイバーは兵士達を圧倒し、蹂躙していく。一人でさえも最強クラスの力を持つセイバーが11人もいるのだ。弱いわけがない。

 

「さてと、任された以上はさっさとこの雑魚連中を殲滅しないとな……だが、これ絶級だろ?何でこんな雑魚敵配置したんだろ」

 

セイバーは一層目から弱い敵が出てきた事に疑問を持つ。セイバーの言う通り最高難易度ならもっと強い敵が出てもおかしくないのだ。しかし、セイバーはすぐに思い知る事になる。この敵は過去最高難易度の敵の序章でしか無いと。

 

その頃、メイプル達九人は二層目である塔の中に入っており、そこは遺跡のような場所だった。九人は遺跡の中を歩くものの、一向に敵は出てこない。

 

「これ、本当に絶級なのか?敵が全く出てこないんだけど」

 

「でもメイプルちゃんはちゃんと最高難易度を選んでたわよ」

 

「流石にここまですんなり進めると違和感を感じるね」

 

九人が警戒しつつ進んでいると広場に出ることになる。すると前からコツコツと何かが歩く音が聞こえてきた。

 

「何の音でしょうか?」

 

「気をつけて。何か来る」

 

サリーが注意したのと同時に前の通路から背中に六枚の黒い羽の様な装飾を持ち、黄金の模様が入った黒光りの戦士の姿であった。両手には斧と大剣をそれぞれ持っており、強者の風貌であった。

 

「何?あれ……」

 

「アレがボスと見て良さそうね」

 

『我が名はスパルタン。ロード・オブ・ワイズの四賢神の一柱なり』

 

そう言った怪物ことスパルタンは九人を敵として見定め、いきなり襲いかかってきた。

 

「来る」

 

「でも、こっちにはメイプルさんが……」

 

先程から展開中の【身捧ぐ慈愛】の効果で他の八人には範囲防御がかかっている。普通に考えてこの防御は抜けられない。そう全員が思っていた。

 

「「【飛撃】!!」」

 

『ぬん!』

 

その瞬間、先頭にいたマイとユイが十六連撃の衝撃波を放つ。しかしスパルタンは何とそれを斧と大剣を振るうのみで消滅、相殺してしまう。

 

「何!?」

 

「マイちゃんとユイちゃんの攻撃を」

 

「打ち消した!?」

 

更に二人へとスパルタンからの攻撃が命中し、そのダメージがメイプルへといきなり入った。加えて、メイプルにノックバックが発動して後ろに吹き飛ばされる。

 

「うっ!?」

 

「嘘、普通なら始めからこんな対処はされないはずなのに」

 

これはつまり、本来なら相手は初見ではわからないはずの【身捧ぐ慈愛】への完璧な対処法を取っている事になる。

 

「だったら、【クインタプルスラッシュ】!」

 

そこにサリーが接近して連撃を放つが、今度はそれを全て完璧に回避。純粋な反射神経による回避をAIがしている事になる。

 

「サリーお姉さんの攻撃を全部躱した!?」

 

「こいつ、さっきの兵士達とは訳が違う!!」

 

「だったらこれで!」

 

イズが再度爆弾を投げるとそれはスパルタンの周囲で爆発し、スパルタンはようやく僅かだがダメージを負う。

 

「イズさんの爆弾は通る……」

 

「【我流・雷電撃槍】!」

 

ダメ押しとばかりにヒビキがスキルを使って突っ込み攻撃を繰り出す。するとスパルタンはそれを受ける直前に隙だらけのヒビキにカウンターを叩き込んだ。

 

「がっ!?」

 

「もしかしてアイツ、スキルの対処法を全部知ってるの?」

 

そう、今回登場したボス達の特徴としてNWOに存在するほぼ全てのスキルに対応。それに対する対抗策を持っている。何故ならこのボスのコンセプトは……このゲーム内でのスキルを編み出した賢者達だからだ。

 

「これ、かなり不味いかも」

 

「そうだよね。コイツは……」

 

「いや、さっきの言葉を思い出してみて。四賢神って言ってたからあと三人はコイツと同格の敵がいると思った方がいいよ」

 

それを聞いた八人は体中に悪寒を走らせる。目の前のスパルタンだけでもかなり厄介なのにこのレベルの敵がまだあと三人はいるという事だ。

 

「……セイバーを置いてきたのは失敗だったわね」

 

「てかこれ運営は絶対コイツらを攻略させる気無いだろ。スキルが全部通用しないのはかなりキツイ」

 

一応ごく僅かの数のスキルについては知らないので対処できないが、それでもほぼ全てのスキルへの対処法を知っていて実行されるというのはかなり厳しい。何しろ、この辺りの層になると敵も相応に強くなる。となるとスキルを使わない通常攻撃では倒すのに時間がかかるので基本的にはスキルに頼りがちとなるのだ。

 

「どうしよう……このままじゃ」

 

「……私がこの場を引き受けるわ」

 

「イズさん!?」

 

「この塔のルールは最悪ボスを倒さなくても良いから最後のラスボスを攻略する事が達成条件。ここで一体に苦戦して時間が過ぎるのを待つのは勿体無いし、さっきセイバー君が言ったみたいに回数制限のあるスキルは次の相手に使えなくなるわ。だから一番戦闘が苦手な私が残って対処するわね」

 

「でも……」

 

「わかりました」

 

「サリーお姉さん!?」

 

サリーはイズの意見に納得すると残りのメンバーで行こうとするが、その中でカスミもその場に留まる。

 

「私も残ろう。私達の目標の中には全ボスを討伐するもあるからな。それに、イズだけに貧乏くじは引かせない」

 

「カスミさん……」

 

「私が時間を稼ぐ。その隙に前に進んでくれ!」

 

そう言ってカスミは単身スパルタンに突撃すると【妖刀】を使い姿を変えて戦う。

 

「イズさん、カスミ、ごめん……」

 

そう言ってサリー達七人は先へと進む。それを見たスパルタンはすぐに斧を投げて対応しようとするがそこにカスミとは別の刃が迫り、スパルタンはそちらの対処をする。

 

「一応私も近接戦用の武器はあるのよね」

 

イズが手にしているのは前に使っていた『レイジングソード』であり、これで2人がかりでの攻撃を仕掛けていた。

 

「そういえばそんな装備もあったな。行くぞ、イズ」

 

「ええ」

 

基本はカスミが前に出て攻撃し、イズはカスミがどうしても対処できない場合に爆弾や『レイジングソード』での対応をしつつエネルギーをチャージする戦術にした。

 

そして、サリー達七人は三層目に到達すると、またもや道中には敵が現れる事無く最奥部で先程のスパルタンと瓜二つの姿に手には大鎌を持った賢神が出てきた。

 

『我が名はハイランダー。四賢神の1人』

 

「やっぱり四賢神の中の一人だったね」

 

「って事はコイツにもスキルは効かないと思った方が良いのかな?」

 

「「それなら私達の一撃で倒します!」」

 

そう言ってマイとユイが飛び出すとハイランダーに向かっていく。二人の一撃は当たりさえすれば相手に大ダメージを期待できる。その大槌による攻撃で一気に倒すつもりだ。

 

するとハイランダーは地面に大鎌を叩きつけるとその瞬間地面から土の壁が出てくる。しかし、マイとユイにとってそんな壁など意味を成さない。高いSTRで一撃粉砕してしまえるからだ。

 

「「えいっ!」」

 

二人が息を合わせてそれを粉砕すると既にそこにはハイランダーの姿は無く、大鎌を振りかぶって攻撃体勢に入っていた。マイとユイの二人は大槌を再度戻す余裕も無い。

 

「【カバームーブ】、【カバー】!」

 

そのタイミングでメイプルが一気に移動して二人を庇う。しかし、防御貫通とノックバックが入っているのかその一撃でメイプルは吹き飛ばされてHPを三分の一程消し飛ばされてしまう。

 

「メイプル!」

 

「【刺突】!」

 

そこにクロムが代わりに出て攻撃直後で反応できないであろうハイランダーに突きを繰り出す。

 

『無駄だ』

 

ハイランダーはそれを何と素手で掴むとダメージを僅かに負いつつカウンターとばかりに大鎌での一撃をクロムへと入れる。

 

「ぐ……スキルに対応するのはそうだが、ここまで対人相手を想定するなんて……」

 

「運営もとんでもないボスを用意したものだよ」

 

「流石にメダル十枚を狙うのは厳しくするわよね」

 

「でも何とかしてみせましょう」

 

するとマイとユイが二人で前に出ると他の五人はそれを止めようとするが、二人は必要無いとばかりに首を振る。

 

「ここは私達が引き受けます」

 

「メイプルさん達は先に行ってください」

 

「でもマイちゃんとユイちゃんは一撃貰ったら終わりなんだよ?それでも二人でやるの?」

 

「私達だって前までの私達じゃ無いんです」

 

「成長した私達ならきっと……」

 

「ダメだ」

 

そう言うのはこの場の中で一番の年長者であるクロム。彼はマイとユイの二人の隣に並んだ。

 

「俺も一緒に残る。二人を守る役が必要だからな」

 

「「クロムさん……」」

 

「クロムさんがいるなら安心して任せられます」

 

「この場をお願いしますね」

 

それからサリー達四人はクロム、マイ、ユイにハイランダーの相手を任せて先へと進んでいく。

 

「マイ、ユイ、カバーは俺がやる。だから思いっきり暴れて来い!」

 

「「わかりました!」」

 

それから三人はハイランダーを倒すべく突撃していくのであった。そしてその間に三層目を抜けた四人は四層目に入る。ここでもボスが出てくるまで他のモンスターは現れなかった。

 

「もしかして、今回のイベント。雑魚モンスターがいない代わりにあの強さのボスがいるのかも」

 

「ここまで殆どモンスターが出てこないしね」

 

「一番厄介なボスモンスターは健在ですけど」

 

「ッ!伏せて!!」

 

サリーが全員にそう言うと急いで伏せる。その直後、四人の上を何かが駆け抜けたかと思うと四人の前に四賢神と思われる戦士が両手にレイピアを持って立っていた。

 

「今度はスピードタイプかぁ……」

 

『私の名はディアゴ。四賢神の一員である。覚悟してもらおう』

 

ディアゴは再度スピードを増すと四人を切り刻む。サリーはギリギリで躱すが、他の三人にはそれは厳しくダメージエフェクトが散る。幸いにもメイプルの【身捧ぐ慈愛】の効果で何とか全員無事だが、これでは躱す事もままならない。

 

「仕方ない……【ウォーターボール】!」

 

サリーが水の魔法弾を放つとそれをディアゴの体にぶつける。その瞬間、ディアゴは全く同じ技をコピーして返してきた。

 

「スキルのコピー!?」

 

「もう何でもアリね……」

 

「けど、だとしたらカナデとは相性最悪じゃん」

 

カナデの戦術は予め溜めておいた魔導書を使った魔法による攻撃とサポート。その戦略の幅は広く並大抵の敵なら対応できる。しかし今回はその対応力がコピーされてしまうリスクを考えると迂闊な魔法攻撃は使えないだろう。

 

「……それなら尚更僕が行くよ」

 

そう言うカナデに他の三人は驚く。今さっきカナデの戦うには相性が悪いという話をしたばかりなのだ。

 

「僕の魔法に対処してくるならそれ以上の対応力をぶつければ良い」

 

「理論上はそうだけど……」

 

「寧ろ、この先に待つボスに僕の力が相性が良いとは限らないしね」

 

カナデの決意に対して、それならとばかりにサリーも一緒に並ぶ。

 

「だったら私も行くわ。私ならカナデがもし対処されるような時でも対応はできるから」

 

「サリー」

 

「大丈夫。私は一撃当たれば終わりなのはどんな攻撃でも変わらない。今回も全部避けるから」

 

「わかった。任せるよ、サリー、カナデ」

 

「「任された!」」

 

「朧、【覚醒】【影分身】!【糸使い】!」

 

サリーが三人に分身すると三人のサリーは糸を飛ばしてディアゴの体を拘束。その間にヒビキが装備を脱いだメイプルを担いで脇を通り抜ける。その時ディアゴは一瞬にして糸を引きちぎるとヒビキに襲いかかるが、ヒビキの姿は薄く溶けて消えた。

 

「【蜃気楼】。コイツにも効いて良かった」

 

「【巨人の鉄槌】!」

 

更にカナデが巨大な腕による鉄槌攻撃でディアゴの気を引き、ヒビキとメイプルの二人が突破するのを手伝った。

 

「何とか先には行かせられたけど……」

 

その瞬間、二人の真上に影がかかる。先程カナデが使った【巨人の鉄槌】と同じスキルが二人を潰そうと襲いかかったのだ。

 

「【超加速】!」

 

サリーはカナデを抱えてすぐにその範囲から脱出し、事なきを得る。ディアゴはそれを見てすぐに二人へと接近してレイピアを振るう。サリーはこれをダガーで受け止め、カナデはそのタイミングでカウンターのスキルを使う。

 

「【鉄砲水】!」

 

サリーも使うそのスキルでディアゴは空中に打ち上げられるとそこにサリーからのスキルを使わない通常の攻撃が入る。

 

「初撃は入った。でも油断はできないね」

 

「ここからが本番みたいだし!」

 

ディアゴはそれを受けて二人に攻撃を仕掛けるべくすぐに突撃する。二人はそれを迎え撃つのだった。そして、三層目から四層目に移ったメイプルとヒビキ。二人は四層目のボスである最後の賢神と向き合っていた。

 

「ここまでは何とか皆さんのおかげで来れましたが……」

 

「あともう私達だけ。皆のためにも突破しないと!」

 

『俺は四賢神の一人にして最強の剣士。名をクオンと言う者。標的を確認、排除する』

 

クオンは両手に剣を持っておりその自己紹介にもあった通り四賢神の中では最強の力を持つ。しかも厄介なのはこれを倒してもまだラスボスが残っているという事だ。二人はその事を頭に入れつつクオンと対峙する。

 

「どうします?どちらかなら抜けられますけど……」

 

「うーん、ここは一緒にやろう。皆ならきっと勝って来てくれるだろうし、皆が来るまでは守り優先で!」

 

「わかりました!」

 

メイプルとヒビキはクオンを相手に守り重視の戦法を取るつもりだ。無理に一人でここを突破してもクオン以上に強いであろうラスボスは倒せないと考えたのだ。

 

「【身捧ぐじあ……」

 

「待ってください。多分、コイツも対策はしてくると思います。私の防御はいらないので自分の身を守る事を優先してください」

 

「わかった。絶対死なないでよね」

 

「勿論です」

 

二人はそれぞれ構えるとクオンは二人が攻撃してこないのを見て持久戦狙いと勘付き、それに合わせるようにゆっくりと近づいてくる。

 

「【機械神】、【展開・左手】【攻撃開始】!」

 

まずは様子見の部分展開による射撃だ。メイプルから放たれたエネルギー砲はクオンに命中する……その寸前にクオンが構えを取るといきなりエネルギー砲はその中に吸い込まれ、クオンに命中する事は無かった。

 

「うぇっ!?」

 

「まさか……」

 

その時、先程放ったエネルギー砲が更に威力を増した状態で二人に跳ね返ってくる。

 

「シロップ、【覚醒】【城壁】!」

 

メイプルが急いでシロップに防御壁を展開させるとエネルギー砲はその防御壁をいとも容易く貫通し、二人を飲み込む。何とか耐え切ったものの、二人はそのあまりの威力に怯んでいた。

 

「嘘、攻撃を跳ね返したどころかそれ以上の威力で来るなんて……」

 

「強すぎますね。本当に運営は私達にクリアさせる気無いですよ。こんなボス配置して……」

 

メイプルとヒビキはポーションでHPを回復させるとその間にクオンは二人の前に接近。手にした二本の剣を振るってくる。

 

「【カバー】!」

 

メイプルが咄嗟にヒビキの前に立ち防御するとクオンはそのままメイプルを斬るが、やはり貫通無しだとメイプルにはダメージすら入らない。しかし、これでクオンも貫通攻撃主体に切り替えてくるだろう。

 

「私が前に出ますのでカバーをお願いします!」

 

「わかったよ!」

 

そう言ってヒビキが出るとクオンとの戦闘に入るのであった。同時刻、一番下の塔の外ではセイバーが11人だった数も【分身】の効果時間切れで一人に戻っており、今は月闇を手にしている。

 

「【ムーンブレイク】!」

 

セイバーが次々と兵士達を両断しているともうすぐその追加も終わりなのか、兵士達もまばらになってきていた。

 

「そろそろ終わりにさせてもらうぜ!【月闇居合】!」

 

セイバーが闇の力を纏わせた居合斬りで一振りすると敵は一掃され、ようやくセイバーが先に進めると思ったその瞬間。

 

「ッ!?」

 

セイバーが何かの影に気がついて飛び退くとそこに拳が振り下ろされる。

 

「は?」

 

セイバーがその影を見上げるとそこには先程の兵士が巨人の姿でおり、セイバーを踏み潰そうと足を振り上げていた。

 

「仕方ない。最光抜刀!【シャドーボディ】!」

 

セイバーはやむを得ずに影の中に入ることができる最光を使い、一時的に攻撃を回避。更に最光の剣を飛ばして巨人の顔面に持ってくるとある作戦を決行する。

 

「【発光】!」

 

最光から眩い光が溢れ出すと巨人の目を眩ませて動きを鈍らせる。更に連続で斬りつけてから【カラフルボディ】を使い人型に変化して距離を取る。

 

「【シャイニングブラスト】!」

 

セイバーが光のエネルギー弾を放ち、ダメージを加速させると巨人は流石に反撃の拳を放ってくる。

 

「だったらこれでも喰らってみる?月闇【大抜刀】!」

 

セイバーは右手に最光、左手に月闇を持つと二つの剣にエネルギーを高めていく。

 

「【ツインホールブレイク】!」

 

セイバーが放った二つの斬撃は巨人の後ろでブラックホールとホワイトホールになり、それが重なると巨人を吸い込んでいく。それから巨人は爆発し、再度出てきた時はHPがごく僅かにまで減っていた。

 

「これで終わりだよ。【エックスソードブレイク】、【暗黒闇龍剣】!」

 

セイバーが最光と月闇を振るって二つの斬撃波を放ち、それは巨人を両断すると巨人はHPを削り切られて爆散。セイバーはあまりの手応えの無さに違和感を感じていた。

 

「これが絶級?幾ら何でも簡単すぎる……」

 

セイバーが考え込んでいたが、あまり考えてばかりでも何も出てこないのですぐに次の層へと向かう。セイバーはまだ四賢神の存在を、その恐ろしさを知らない。果たして、セイバーの強さがどこまで四賢神に通用するのか。セイバー達【楓の木】は四賢神相手に勝利することが出来るのか。

 

「待ってろよ、皆。すぐに助けに行くからな」

 

セイバーは走って塔の中に入ると塔の一層目に突入していくのであった。




お知らせです。今まで長い間投稿してきました剣士シリーズですが、この第11回イベントで最後のイベントとなります。以前に十層についてやる可能性を匂わせていましたが、諸事情でやらない事にしました。その代わりですが、近いうちに剣士シリーズのリメイクをコンセプトにした新シリーズを始めるつもりです。ひとまずはこの小説を完結させるのでどうか残り少ない話数ですが応援をよろしくお願いします。また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとスパルタン

第11回イベントの塔攻略。セイバー達【楓の木】の面々はそれぞれ2〜3人ずつで一つの階層を攻略中だ。立ちはだかるは四賢神。全員がほぼ全てのスキルへの対処法を持っており、スキルはほぼ通用しないと考えた方が良いと言っても過言では無い。そのため、普段の戦闘をスキル頼りにしている者程苦戦を強いられる。

 

「私は基本的に爆弾とかばかりだから何とか対抗できるけど、メイプルちゃん辺りは厳しそうね」

 

「ああ。私もなかなかキツイが、それでもスキルを封印されたと思えば何とか戦える」

 

イズとカスミが戦う相手は防御力とパワーが高いスパルタン。二人のSTRではスパルタン相手にまともに斬り合えばやられるのは目に見えている。

 

「【三ノ太刀・孤月】!」

 

カスミがスキルを使う瞬間、スパルタンはそちらの方の対処するための態勢に入る。その瞬間、イズからのレイジングソードによる斬撃がスパルタンを切り裂いた。そのタイミングでカスミの【三ノ太刀・孤月】が発動して空中に跳び上がる。

 

「はあっ!」

 

そこからスキルを使用せずに手にした刀、妖刀で切り裂いた。

 

「ありがとうイズ。タイミングピッタリだ」

 

「カスミちゃんのおかげで私もこの剣にエネルギーをチャージできたわ」

 

「私の方こそ、チャージのための隙を作ってくれてありがとう」

 

イズの持っているレイジングソードは相手にダメージを与える事でエネルギーをチャージ。ペンダントにある装備の力を引き出す事ができるようになる。

 

「これ、他の武器とかでもチャージできるようになれば楽なのだけど……」

 

「ひとまずは私が壁になって隙を作り続けるからイズはダメージを与えつつエネルギーチャージしてくれ」

 

「わかってるわ!」

 

二人はそれからスパルタンと互角に渡り合う。幸いだったのはスパルタン自身、スキルを使わなければ四賢神の中では弱い部類に入っていた事だろう。それでも強敵な事に変わりは無いが。

 

「行くぞ!【一ノ太刀・」

 

カスミがそこまで詠唱したタイミングでスパルタンも迎撃体勢に入る。しかし、まだカスミのスキルの詠唱は終わってないためすぐにキャンセルして別のスキルを使う?

 

「【武者の腕】!」

 

スキルによるフェイント。相手がスキルに対応する事に長けているのならスキルを使うと見せかけて相手の迎撃を誘い、別のスキルを使って相手の迎撃体勢を透かしつつ一撃入れるものだ。

 

『ぬん!』

 

だが、スパルタンは一瞬にして対応。カスミが召喚した巨大な腕を簡単に弾き飛ばし、カスミを斬りつけた。

 

「がっ!?」

 

「カスミちゃん!フェイ、【覚醒】【アイテム強化】!」

 

イズはスキルによって爆弾を強化し、それを投げつける。こちらはスキルを直接ぶつけるのではなく、スキルによって強化を付与したアイテムによる攻撃。それによって相手の対応の穴を突こうとした。

 

『効かん!』

 

その瞬間、スパルタンは斧を投擲。爆弾にそれが命中すると爆弾がスパルタンに届く前に爆発。更に投げられた斧がイズの体に命中してしまう。

 

「もしかして……間接的にスキルを使っての攻撃でも対応されるの?」

 

「だったら!【六ノ太刀・焔】!」

 

カスミが炎を纏わせた斬撃を放つ。しかし、スキルは通用しない。スパルタンは残された大剣に水の力を込めて防御してしまう。

 

「く……」

 

更に先程投げた斧がブーメランのように戻ってきているのに二人は気が付かず、カスミが背後から体を斬り裂かれてダメージを負ってしまう。

 

「そんな……」

 

カスミは斧を失ったタイミングでならスキルへの対応もし辛くなると踏んでの行為だったが、あえなく対応されてしまった。

 

「はあっ!」

 

そこにイズがレイジングソードでスパルタンを斬りつけるものの見事に耐えられてカウンターの剣が迫る。このタイミングではイズは躱わせない。

 

「不味い。【一ノ太刀・陽炎】!」

 

仕方なくカスミはスキルを使いカバー。当然の如くスパルタンはそれを受け止めてしまう。カスミとイズは二人がかりで押し込もうとするが、腕一本ずつでもスパルタンは全く動じない。どころか、すぐさま眼力での衝撃波を打ち出されて二人は後ろに下がってしまう。

 

「こうなれば、効くスキルが出るまで片っ端から試すしか無いのか?」

 

「無理よ。その前に私達のHPが尽きてしまうわ」

 

「ならどうすれば……」

 

二人はスパルタンのあまりの強さに考え込む。このままでは勝つどころかHPを半分すら削れない。

 

「地道に少しずつ削るしか無い」

 

カスミはそう言って走っていくとスパルタンと剣を交える。勿論STR勝負になれば負けるのは自分なので太刀を振るうスピードで勝負する事になる。

 

「イズ、まだエネルギーチャージは終わらないか?」

 

「ええ、あと半分ぐらいは残ってるわ」

 

イズの剣、レイジングソードのエネルギーチャージメーターは半分近くで止まっておりまだまだチャージには時間がかかるようだ。

 

「なら、この剣で相手するか。『黒刀』!」

 

そう言うとカスミは手に新しい刀を取り出すとそれは柄の色から剣先まで全てが黒く、まるで剣そのものが黒く染まったような見た目の刀を手に取る。更にそこから黒い光のエネルギーの帯が5本伸びていた。

 

「だっ!」

 

カスミが黒刀を片手にスパルタンに突撃すると黒刀を振り抜く。スパルタンは当然それをガードするが、その瞬間にスパルタンの足元から黒い光の刃が伸びてスパルタンの体を切り刻む。

 

『!?』

 

「これって……」

 

「黒刀の真価。黒刀から伸びている光のエネルギーの帯を消費する事で目に見える範囲ならどこにでも斬撃を生やせる。そしてこの技はスキルでは無い。だから、有効打になるわけだな」

 

「面白いわね。けど、帯を消費するって事は……」

 

「ああ、リロードには時間がかかる。それに今のは不意打ちだから決まったのだ。次はこうはいかない」

 

カスミはもう片方の手に妖刀を取り出すと二刀流となる。イズは手に爆弾を出してスパルタンに投げつけつつ、チャージするための攻撃の機会を伺った。

 

「隙が見えたら一気に畳むぞ」

 

「ええ」

 

まずはイズが爆弾を投げつけたタイミングでカスミと共に前に出る。スパルタンは爆弾を斧で叩き割るが、その瞬間にAGIが高いカスミはスパルタンの前で攻撃の体勢に入っていた。

 

「【黒閃】!」

 

カスミがスキルを使うと黒刀が黒いエネルギーを纏い、それが妖刀の方にも伝播。妖刀も黒く染まって二本の黒刀に変化するとそれでスパルタンを連続で斬りつける。勿論スキルによる攻撃なのでスパルタンは斧と大剣で対応。二人は激しい斬り合いを続ける。しかし、忘れてはいけないのがここにはカスミの他にプレイヤーがいる。

 

「やあっ!」

 

イズが背後からスパルタンの体を斬るとエネルギーを更にチャージ。スパルタンがそれに気を取られた瞬間にはカスミからの斬撃も決まる。

 

スパルタンは二人同時に相手するのは不利と感じて衝撃波で二人を吹き飛ばそうとするものの、すぐにカスミは防御体勢に入り、イズもレイジングソードを地面に突き立てる。それにより、二人は衝撃波を耐え凌ぎ、すぐに二人がかりで連続攻撃を仕掛けた。

 

「このまま一気に……」

 

「待って!」

 

『はあっ!』

 

イズがそう言った瞬間にはスパルタンが大剣に禍々しいエネルギーを込めており、そのまま斬撃波として二人へと飛ばすと二人は一発でかなりのダメージを負ってしまう。

 

「がっ……」

 

「きゃっ!!」

 

二人は地面に叩きつけられるといきなり入った痛みに悶える。しかし、スパルタンは待ってはくれない。二人にトドメを刺そうと近づいてくる。

 

「こうなったら……」

 

イズはポーションを飲むと自分で自分を斬りつけた。流石にこの行為にはカスミも驚く。

 

「なっ!?」

 

するとレイジングソードにエネルギーがチャージされ、充填完了となる。イズはペンダントを握りしめ、そこから画面を開く。するとそこにはジェットとキャノンの文字があり、どちらかを選択できるようだった。

 

「今回はジェットで行くわ」

 

イズがジェットをタッチするとイズの右側に上半身の、左側に下半身の装甲が現れてそれがイズに重なると上半身はオレンジで両肩にジェット機のような翼を装備したアーマーが、下半身は水色で腰にブースターのようアーマーがそれぞれイズの服の上から装備される。顔にはゴーグルがされて、まるでイズの体そのものがジェットになったような装甲となる。

 

『コマンドゴーグル』

【HP+50】

【破壊不可】

【ロックオン】

 

『ジェットアーマー(上半身)』

【AGI+50】【DEX+20】

【破壊不可】

【ジェットブレイク】【ツインズビクトリー】【メテオインパクト】

 

『キャノンズアーマー(下半身)』

【STR+10】【VIT+20】

【破壊不可】

【ブースターフライ】

 

「行くわよ!」

 

イズがジャンプすると腰のブースターからエネルギーが噴射されて加速力の付いた突撃を敢行する。更に手にしたレイジングソードで近接戦もバッチリだ。そのスピードでスパルタンの対応よりも速く剣を振るいダメージを与える。

 

「これなら行ける!」

 

「私もリロード完了。イズ、撹乱してくれるか?」

 

「わかったわ」

 

ジェットモードの利点はキャノンモードに比べて機動力が大幅に上がっている点だ。その速度を持ってすれば防御重視で機動力がそこまで無いスパルタンの隙を作るのは容易い。

 

「はっ!」

 

更にイズがスパルタンの注意を自分に向けさせることで今度はカスミからの高威力の攻撃が通りやすくなる。イズの撹乱からのカスミの漆黒の斬波が決まり、スパルタンのHPは減る。するとスパルタンの体からオーラが放出されるとステータスが上昇。第二段階に移行した。

 

「まだ相手のHPは半分以上残っているのに」

 

「これ以上強化されるとスキル無しでは凌げないぞ……」

 

スキルはそれほどまでにプレイヤー達にとって無くてはならない存在なのだ。そもそも、サリーのようなプレイヤースキルが高いプレイヤーを除き、スキル無しの通常攻撃だけで戦えるプレイヤーが一体このゲームに幾らいるだろう。

 

二人はそれでも退くわけにはいかない。玉砕覚悟で突撃しようとしたその時、二人とスパルタンの間にいきなり緑の竜巻が発生した。

 

「これは……」

 

「もしかして」

 

「お待たせしました。お二人共」

 

そこに外にいる兵士達を一掃し、翠風を両手に持ったセイバーが合流する。

 

「コイツの相手は、錫音抜刀!」

 

セイバーが錫音を抜くと錫音を銃モードにして遠距離から射撃を仕掛ける。

 

「フルバーストだ。【音弾ランチャー】【ロック弾幕】【ビートブラスト】!」

 

「「え?」」

 

セイバーはスキルが対応されてカウンターにまで至ってしまう事を知らないので二人はそれを見た瞬間不味いと感じるが、もう遅い。

 

スパルタンは自身に向かってくるランチャー、弾幕、レーザービームを全て受け止めると逆にセイバーへと跳ね返した。

 

「はぁ!?」

 

流石に攻撃自体は躱したが、それでも自慢の全弾攻撃を全て防がれたどころか、跳ね返しまでされると動揺を隠せない。

 

「だったら次のスキルで……」

 

「ストップだセイバー!」

 

「え?」

 

これ以上スキルを使って跳ね返されると自分達にも被害が及ぶと考えてカスミがストップをかけてイズと共に敵の特性を説明する。

 

「えぇ……ほぼ全部のスキルを防げるんですか?」

 

「そうよ。だから無闇にスキルを使わないでほしい」

 

「ちょっと運営も悪ふざけのやり過ぎじゃない?」

 

セイバーはその事実を何とか受け止めるが、なかなか厳しい戦いを強いられるのは変わらない。

 

「どうしよう。もうこうなったら近づいてのゴリ押しで行ってみます?」

 

「それってどういう……」

 

するとセイバーはスパルタンへと向かっていきながら銃を連射。スパルタンはそれを簡単に斧と大剣で弾き飛ばす。そして、セイバーが近距離まで近づくと剣モードに錫音を切り替えて剣をピンクに光輝かせるとそのまま斬撃を繰り出す。勿論これだけでは勝てないので細工は施したが。

 

「【スナックウォール】!」

 

「だからスキルは効かないって……え?」

 

セイバーは自身とスパルタンを包むようにお菓子の壁を展開すると完全に外部をシャットアウトする。

 

「この距離ならカウンターはできないよな?【スナックチョッパー】!」

 

その瞬間衝撃波と共にお菓子の壁が弾け飛び、セイバーがダメージを負いながら吹き飛ばされてくる。それと同時にスパルタンも多少ダメージを受けているようだったが、まだHPは半分残っていた。

 

「これでもダメかよ。しかもアイツ、ゼロ距離でも対応しやがったし」

 

実はセイバーが錫音を振り抜く瞬間に合わせてスパルタンも禍々しいエネルギーの斬撃をカウンター。双方の刃が激突して大爆発を起こしたのだ。

 

「こんなのどうやって勝てと?」

 

「だったら私が!」

 

イズはジェットの能力で飛ぶと空中から何度も攻撃しては逃げるといったヒットアンドアウェイの戦術を仕掛ける。それと同時にカスミとセイバーも一緒に距離を詰めてスパルタンに連続攻撃を仕掛けていく。

 

三人による攻撃の圧力でスパルタンの対応力をようやく上回り、スパルタンにダメージを少しずつ蓄積させていく。しかし、それでもまだ気は抜けない。何故ならスパルタンの対応速度も少しずつ早まっているからだ。

 

「コイツ、三人相手でも普通に対応できんのかよ」

 

「とんでもない化け物ね」

 

「だが、同時に対応する余裕も無くなっているはずだ。このまま押し切るぞ」

 

三人の連携は見事なものでそれこそ普段の練習で合わせてきた三人だからこそできるような物だ。

 

「イズ!」

 

「ええ!【ジェットフライ】!」

 

イズは空中に舞うと空中から爆弾の雨を降らせる。そのタイミングでセイバーとカスミはしっかり距離を取っておりイズの攻撃に間違っても被弾しないようにする。

 

「やっぱイズさんのアイテムによる攻撃なら……」

 

「上手くダメージが通るな」

 

単調な攻撃パターンではスパルタンも対応してくるのでイズは一旦爆弾の雨を止めるとその直後に息つく暇無く二人が突撃する。

 

「はあっ!」

 

「うらっ!」

 

そこに空中から降りてくる勢いを利用してレイジングソードによる一撃をイズは決め、更にダメージを蓄積させた。その時、スパルタンから更にオーラが溢れ出るとステータスが再度上昇。

 

「ここに来てパワーアップ……」

 

すると先程までとは比べ物にならない程のパワーで攻撃を仕掛けてくる。三人はその圧力を前に押される一方だ。

 

「さっきまでとはまるで別人じゃない」

 

「ああ、これが本当の力とでも言うのか……」

 

「手数で押しても圧倒的出力を前に叩きのめされる」

 

セイバー達三人は必死に戦うが、相手の力は圧倒的であり三人はあっという間に吹き飛ばされると地面に叩きつけられてしまう。

 

「強い……」

 

するとその瞬間エネルギー切れなのかイズの装備の装甲が消えてしまうと元に戻ってしまった。

 

「ここに来て時間切れ」

 

三人はかなり不味い状況に陥っていると考えていた。このままでは負けてしまう。勝つ見込みはゼロに等しい。この絶望的状況でもセイバーの目は死んでいなかった。

 

「まだだ……終わってなんか、いねーよ!翠風抜刀!」

 

セイバーはスピード重視の形態である翠風を抜くとそのまま走って接近。【烈神速】で近づく手もあったが、スキルなので対応される可能性が高い。そのため普通に走って近づくことにしたのだ。

 

「はあっ!」

 

セイバーが二刀流にした翠風を繰り出すとスパルタンも同じ二本の武器で対応する。だが、パワーがスパルタンならスピードはセイバーだ。セイバーは打ち合う時間をできるだけ少なくして少しずつダメージを与える戦法に持ち込む。

 

「サリー程には無理だけど、見切って躱すくらいならできる!」

 

当然躱せる斬撃は全て躱す事前提なのでセイバーもかなり集中力を費やしている。

 

「私達も呆けてられないな」

 

「セイバーは戦ってるのに私達がやらないわけにはいかないものね」

 

イズはレイジングソードをしまい、いつも通りに爆弾による後方支援を開始。更にカスミは二刀流でセイバーの加勢に入る。

 

「【クナイの雨】!」

 

セイバーが空からエネルギーで生成したクナイの雨を喰らわせる。スキルによる攻撃は効果が薄いのは承知の上だ。それでも今は攻撃に手数を入れる事を優先する。相手がスキルを見てカウンターを合わせてくるならカウンターをさせないほどにスキルによる手数を作れば良い。

 

「なるほど。カウンターさえされなければスキルを使っても良いって事か。【血刀】!」

 

カスミもセイバーの意図を理解して相手への負担を増やすような広範囲攻撃スキルで相手に対応させる。

 

「良し、【超速連撃】!」

 

更にセイバーが超スピードでの連続攻撃を仕掛けてスパルタンの負担をもっと増やしていく。こうなるとスパルタンも全ての攻撃を捌くのは厳しく、被弾が増えてHPも減っていく。ステータスが上昇してもダメージまでは0にならないので少しずつでもダメージを負えばそれはセイバー達の勝利に確実に近づく事になる。

 

「このまま押し切れば……」

 

その時、スパルタンはいきなり咆哮を上げると更に防御力とパワーが増し、加えて攻撃を受けても怯まないスーパーアーマー状態に変化。これにより、カウンターする必要が無くなったので攻撃主体に手を切り替えてくる。

 

「これはやば過ぎだろ!」

 

スパルタンが渾身の一撃を放つための溜めに入るとイズとカスミは好機とばかりに攻撃を続けるが、今のスパルタンはスーパーアーマー状態。殴ってもまるで怯むことはない。

 

「不味い!」

 

セイバーがカスミを突き飛ばすと代わりに自分がその渾身の一撃を受けてHPが1残って消し飛ばされる。するとセイバーの体からオーラが出てAGIが上昇した。

 

「スキル【空蝉】。何とか防げたけど次は【不屈の竜騎士】になるからな……」

 

セイバーが急いでHPをポーションを使い回復させるが、カスミとイズはセイバーに守られた分その間にダメージを稼ごうと二人で向かっていく。

 

「【終ワリノ太刀・朧月】、【黒刀・乱舞】!」

 

カスミが切り札となるスキルを使用してスパルタンと正面から斬り合う。更にガラ空きのスパルタンの体にイズが爆弾をぶつけ続けてスーパーアーマー状態でもダメージを入れていく。

 

「ぐあっ!」

 

しかし、スキルの効果時間が切れてステータスダウンしてしまえばスパルタン相手に成す術はなく、カスミはスパルタンによって致命傷を負うとそのまま近くの壁に激突して気を失ってしまう。

 

「カスミちゃん!」

 

加えて相手がいなくなったことで一番遠くにいたイズにもターゲットが向き、一瞬で移動するとイズの腹に肘打ちを叩きつける。するとイズもダメージの受け過ぎで叩きつけられて気絶し、残されたのはセイバーのみとなってしまう。

 

「く、一瞬の間に二人ともほぼ戦闘不能にされるなんて……」

 

セイバーは立ち上がるが、かなり消耗しておりこのまままともになんてやり合えないような程であった。

 

「こうなったら……スキル使って一気にカタをつけるか?いや、今のままだとそれは厳しい。なら……【影分身】!」

 

セイバーが三人に増えると本体がスパルタンと斬り合い、残る二人がイズとカスミを回復させる。セイバーの力で何とか窮地を脱した二人だが、まともにやりあえば厳しい状況には変わらない。

 

「何か勝てるきっかけがあれば……」

 

セイバーがそう考えているとセイバーのインベントリが開き、小さな傷だらけの一冊の本がオーラを放ち、セイバーの目の前に幻影として現れた。

 

『よう、セイバー。苦戦しているようだな』

 

「デザスト……お前」

 

そこに出てきたのは確かに自身との戦いに負けて消滅したはずの戦士、デザストだったのだ。

 

『なーに苦戦していやがるんだ。俺がいなくなって弱くなったか?』

 

「アイツかなり強くてな。ちょっとこのままだとキツイ」

 

『ふん。だったら今回だけ力貸してやるよ』

 

そう言ってデザストの体が薄く溶けるとセイバーと重なり、新たなスキルを入手した。

 

「イズさん、カスミさん……行けますね?」

 

「勿論よ」

 

「ああ!」

 

そう言ってまずイズが駆け出すと手にした爆弾を次々投げつける。スパルタンはその爆弾を全て弾き飛ばし、粉砕。そこにセイバーが手裏剣モードにした翠風を投擲した。

 

「【疾風剣舞】!」

 

そのタイミングでイズが跳び上がり、セイバーの翠風の射線を通しつつ煙幕弾を投げつける。それはスパルタンの前で起動して周囲に煙幕が張られた。

 

『ぬん!』

 

「【手裏剣刃】!」

 

スパルタンは攻撃のエフェクトから翠風の位置を弾き出し、それに自身の持つ斧を投擲して弾き飛ばす。そこに入れ替わるようにエネルギー状の手裏剣が激突してスパルタンの大剣を使わせる。

 

「【黒ノ太刀・漆黒剣】!」

 

そこにカスミがエネルギーを集約させた黒刀による一撃を叩き込みスパルタンの手から大剣をも叩き落とさせた。

 

「やあっ!」

 

その瞬間イズがレイジングソードを手にするとカスミと共に攻撃を叩き込もうとする。しかし、スパルタンは二人の攻撃が決まる直前にガラ空きの腹にエネルギーを纏わせた拳をぶつけて二人は吹き飛ばされるとHPが一撃で残り僅かにまで減らされる。

 

「あぐっ!?」

 

「ぎゃっ!」

 

悲鳴を上げる二人だったがその顔は満足気だった。何故なら真打はこの後にあるからだ。その直後、セイバーが横から回り込むように走ってくる。

 

「虚無、【大抜刀】……【カラミティストライク】!」

 

セイバーが虚無を抜くとその横にデザストの幻影を出現させ、二人で一緒に一度きりの必殺スキルを使用する。その瞬間、スパルタンの周囲にデザストが使っていた剣、グラッジデントが突き刺さるとセイバーがスパルタンに攻撃を仕掛ける。

 

「だあっ!」

 

虚無による攻撃は躱されてしまうが、虚無を捨ててグラッジデントを抜きつつ超スピードでの連続攻撃を仕掛けていく。更にデザストの幻影もセイバーと共に攻撃に加わり、次々とスパルタンは切り裂かれてダメージを負っていく。

 

いくらスパルタン……というよりスキルの対処法を知っている者でもいきなり生み出された対応不可能なスキルが相手では対処する事は難しいのだ。

 

「ああああああ!!」

 

『オラァアア!!』

 

最後はセイバーとデザストが前後から挟み撃ちするように竜巻を纏いながらの斬撃を繰り出してスパルタンを切り裂くとスパルタンのHPがとうとう0となり火花を散らすと大爆発を起こして消滅。それと同時にデザストの核となっていた傷だらけの小さな本も消失していく。まるで、役目を終えたかのように。

 

「……デザスト」

 

セイバーはそれから二人を見ると疲れからか膝から崩れ落ちて気を失っており、それを見たセイバーは二人にメッセージを送り一言だけ伝えた。“先に行く”と。

 

それからセイバーは次の層に駆け出していき、その場には戦いの後の静寂が残るのみだった。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとハイランダー

セイバー達がスパルタンを撃破する少し前、二層目でハイランダーと戦っているマイ、ユイ、クロムの三人は【楓の木】……いや、このゲーム内の全てのプレイヤーの中で一番の火力を持つマイとユイの攻撃を前に楽に勝てるかに思われた。だが、ハイランダーはマイとユイの攻撃だけは喰らってはいけないと知っているかのように攻撃を全て回避してくる。

 

「そんな……」

 

「何回やっても当たりません……」

 

マイとユイの実力は決して低くない。それどころか、もう【楓の木】に合流したての頃とは違って、トップクラスとも言える力を持っている。それでもハイランダーの対処能力の方が上なのだ。

 

「だったら、数を増やして倒そう!」

 

「うん!」

 

二人は装備を付け替えて大槌を8本装備すると二人合わせて16本の大槌をハイランダーに向けて振るう。

 

「「やあっ!」」

 

『ぬん!』

 

するとハイランダーが体に薄いエネルギーを纏うと二人の大槌をまともに受ける。その時、二人は勝ちを確信した。これで倒せない敵はもうレイドボスレベルだからである。だからこそ、その攻撃が殆どダメージになってない事を知ると二人の顔は絶望に染まった。

 

「「なんで……」」

 

「不味い!」

 

今現在、二人はハイランダーに攻撃を叩き込むためにハイランダーの攻撃範囲のすぐ目の前にいる。そして二人の耐久力は紙そのもの。一撃喰らえば即死なのだ。

 

「【カバームーブ】【カバー】!」

 

咄嗟にクロムがダメだとわかっていてもスキルを使い二人の近くに移動すると二人を突き飛ばす。その瞬間、クロムの体が斬りつけられて大きなダメージを負ってしまう。更にハイランダーの二撃目が入り、クロムはそのHPを1にまで減らされてしまうのだった。

 

「が……何とか【デッド・オア・アライブ】で耐えられたな」

 

それを見た二人は責任感を感じ、クロムを心配する。だが、ハイランダーはそれを待ってはくれない。すぐに二人へとターゲットを変えると攻撃しようとする。

 

「「【ウエポンスロー】!」」

 

二人は咄嗟に丸腰となる代わりに大槌を投げつけるスキル、【ウエポンスロー】で防御反応を取る。それが例えスキルによる物だとしても今はこの場を凌ぐ事が大切だと感じ、やったのだ。

 

『ぬ!?』

 

その瞬間、ハイランダーは動きを止めると先程と同様に体に薄いエネルギーを張るが二人の攻撃速度がそれを上回り、ハイランダーは一番最初に飛んできた大槌一発分のダメージを負ってHPを削られた。そのダメージは先程の十六連撃よりも大きく、二人はそれを見て疑問に感じた。

 

「どうして、さっきよりもダメージを受けてるの?」

 

「もしかしてエネルギーを纏わないとダメージが入るのかな?」

 

「それだ!二人共。アイツの弱点は防御反応を取る前に攻撃を当てることだ」

 

幾らハイランダーと言えどもずっと先程のエネルギーバリアと呼ぶべきオーラを纏うことはできない。つまり、エネルギーバリアが張られていない間はマイとユイの攻撃が致命傷となり得ると言うことでもある。その証拠にエネルギーバリアを纏ってない時は二人の攻撃を回避する事に専念している事が殆どだ。

 

「二人を庇いながらだと多分俺の体が保たないな……どうすれば……」

 

一番なのはクロムがハイランダーからの攻撃を守る二人の盾となり、その後二人が時間差で攻撃すれば何とかなる可能性は高い。だがそれではクロムのHPや耐久力がどれだけあっても足りないのが現状だろう。

 

「せめて飛び道具があればなぁ……」

 

三人共遠距離から攻撃するにはスキルを使う必要があるのでやっても対応される可能性が高いのだ。スキルの対処法を知っていてそれをしてくる相手がどれだけ厄介なのかがよくわかる相手である。

 

「ここは二人別れて同時に……」

 

「でもそれだとまたバリアを張られるよ?」

 

更にマイとユイは機動力もほぼ無いので近づく前に攻撃を受けてやられるのが関の山だ。この絶望的状況をどう打開するのか。三人はハイランダーの攻撃を凌ぎつつそれを考える。

 

「そうだ!ユイ、テイムモンスターを使おう」

 

「でもスキル使ったら……」

 

「それで良いの!」

 

マイとユイは装備を入れ替えてからテイムモンスターであるツキミとユキミを呼び出すとその背中にまたがる。それから二匹の熊は動き始め、敵であるハイランダー目掛けて走り始める。

 

「「【パワーシェア】【突進】!」」

 

パワーシェアの効果でツキミとユキミのSTRのステータスが大幅上昇。その分マイとユイの火力は落ちるがその時、装備品を一つ変更した都合で一人辺り大槌六本分の装備で二人で十二本の大槌を構える。

 

『無駄だ』

 

ハイランダーはすぐにオーラを纏って防御の構えを取る。その瞬間、マイとユイは跳び上がりツキミとユキミだけが激突。その攻撃はハイランダーのオーラによって防御されるが、そのオーラの効果時間が切れてハイランダーは無防備な姿を晒す。

 

「行くよユイ!」

 

「うん、お姉ちゃん!」

 

二人から大槌が振り下ろされる。このタイミングなら絶対に防げない。今度こそ攻撃が決まる。そしてそれはこの戦いにおいて大きな影響を与える……はずだった。

 

「待て!二人共、これは……罠だ!」

 

その瞬間、ハイランダーが数歩後ろに下がるとそれだけで二人の攻撃箇所から外れてしまう。

 

「「そんな……何で?」」

 

つい先程までは攻撃を受ける動きだったはずなのに突如として回避する動きに切り替えてきたのだ。オーラ抜きではマイとユイの火力には耐えられないと考えたのだろう。その効果は絶大でマイとユイは今攻撃のモーションから抜けられない。つまり、完全に無防備な状態だ。このパターンは先程と同じ。クロムがカバーしなければ二人がやられてしまうだろう。

 

「マイ!ユイ!」

 

二人へと振り下ろされる大鎌。この一撃を受ければまず間違い無く敗北だ。その一撃をマイとユイは振り下ろした大槌を手放して大鎌の動きを見切る事だけに専念。ギリギリの所で回避に成功する。

 

「「やった!」」

 

初期の頃の彼女達ではこのタイミングの反撃は絶対に躱せなかった。マイとユイも確実に成長している。それが現れた回避であった。そこにクロムが走ってくるとポーションでHPを回復させてネクロを呼び出す。

 

「【幽鎧装着】!」

 

クロムはそのままネクロを身に纏い、防御力を強化してからハイランダーに立ち向かう。例え戦力差があったとしても今はマイとユイからハイランダーを引き剥がすのが先決だ。

 

「【炎斬】!」

 

クロムは対応される事がわかっていた上でスキルを使い炎の斬撃を放つ。それを見たハイランダーはそれを大鎌で受け止めるとそのエネルギーを竜巻に変換。クロムを吹き飛ばそうとした。

 

「【ヘビィボディ】!」

 

クロムはそれが来るのを予想して吹き飛ばされないように一定時間ノックバックを受けないスキルで対応する。

 

「へっ、効かないなぁ!」

 

しかしハイランダーもそれを見てすぐに対応を変えて大鎌による攻撃に切り替えてくる。クロムはそれを盾で凌ぎつつ攻撃するがハイランダー自身、マイとユイの攻撃と違って大きなダメージを負わないとわかっているようで攻撃をある程度は受けていた。

 

「厄介だな。ダメージ量が見えているかのような動き、この感じだとプレイヤーのデータも入ってる感じか?」

 

クロムの考察は正しく、ここまで言及してこなかったが確かに今回のボス達にはプレイヤーの今までのデータが全て入っている。なので何かしら新しい戦法を使わないと意表を突くことができないのだ。だからこそ先程セイバーがデザストの【カラミティストライク】を使った時にスパルタンは上手く対応出来なかったわけだが。

 

「ユイ、アレを使う?」

 

「でも、アレは……」

 

どうやら二人には隠し球があるようだが、マイはそれを使うのを躊躇っていた。それほどリスクがあるものらしい。しかし、今はそんな事を言ってる場合では無い。二人はわかっていた。【楓の木】のメンバーの中では自分達が一番の足手纏いだと。この場でも下手をすれば自分達を守るためにクロムが犠牲になるかもしれない。そんな事になれば彼女達はもっと責任を感じるだろう。

 

「やろうよお姉ちゃん」

 

「うぅ……でもアレもスキルだよ?もし通用しなかったら……」

 

四賢神にスキルはほぼ通用しない。明らかにリスクの高い賭けだ。ただ、無数にあるスキルの中のほんの一握りの穴を突けられればそれが突破口となる。

 

「どうしよう」

 

「迷ってたら手遅れになるよ。最悪私一人でも……」

 

「それじゃあもっと出力が落ちちゃうよ」

 

「じゃあお姉ちゃんもやって!」

 

「ッ……」

 

それでも気弱な性格のマイはどうしても決心がつかなかった。そしてその迷いは大きな隙となる。

 

「ッ!二人共、行ったぞ!」

 

そこにクロムを振り切ったハイランダーがマイとユイを先に倒すために突撃してくる。もう迷っている時間なんて無かった。

 

「……やろう。ユイ!」

 

「わかったよ、お姉ちゃん!」

 

「「【決戦仕様】、【ギガントハンマー】!」」

 

すると【決戦仕様】の効果で二人の攻撃判定が広くなり、逆にダメージを受けた時にその受けるダメージが二倍となる。ここまではいつもの流れだ。その後使ったスキル、【ギガントハンマー】。それは今現在装備している大槌を一つに束ねて巨大化させた大槌を相手に叩きつける物である。このスキルの利点は普段なら二人がそれぞれ持つ八本の大槌を同時に叩きつける動作がいるが、それを一発分で済ませる事ができる。更に【決戦仕様】の効果でその範囲が拡大されたとなればこれを躱すのは容易では無い。

 

「このスキルは発動までに十秒の溜めがある……だから普通にやったら当てられない」

 

「でも今ここにいるのは私達だけじゃない!」

 

スキル発動までの十秒間。それは二人にとっては短いようで長い十秒。それだけの時間があれば接近されるか射撃をされて倒されてしまうだろう。

 

「そういう事かよ。【カバームーブ】、【カバー】!」

 

ハイランダーは無防備な二人を狙うがそこにクロムが割って入り、盾を構える。ここは是が非でも二人を守らなくてはならないからだ。そしてそれは今のクロムにはかなり厳しい。ハイランダーが振りかぶった大鎌がクロムを穿つとそのHPを1にまで減らす。【デッド・オア・アライブ】は発動せず、【不屈の守護者】を使わざるを得なかったがギリギリ耐えられた。

 

「やれ!マイ、ユイ!」

 

クロムはハイランダーを羽交締めにすると動きを封じ、そこに二人からの巨大な大槌が振り下ろされる。これなら二人の最大火力が叩き込まれる。ハイランダーは咄嗟にオーラを纏うが、そのオーラは完全には張り切れずに二人の大槌をまともに喰らった。

 

「「やった!!」」

 

今度こそ二人の高火力が命中。これでようやくトドメ……になるはずだった。

 

その時、衝撃が晴れてそこにいたのはHPを三分の一残したハイランダーだ。ハイランダーの耐久力によって彼自身はフラフラながらも耐え切っていた。

 

「馬鹿な……アレを喰らっても平気なのかよ」

 

するとマイとユイに異変が起きた。【ギガントハンマー】の反動で十秒の間動けないのだ。これでは逃げる事ができない。このままではハイランダーに仕留められてしまう。その時、ハイランダーの周囲に岩の壁が出るとその上から巨大な激土による一撃が叩き込まれる。

 

「すみません……待たせました!」

 

そこにいたのは激土を装備してハイランダーの注意を引き、十秒という時間を稼いだセイバーであった。

 

「セイバーさん!」

 

「追いついて来たんですね!」

 

「だが、その様子だとカスミとイズは……」

 

「二人はちょっと休憩中ですので俺だけ先に来ました。ひとまず、コイツを倒しましょう」

 

「ああ。心強い援軍の到着だな」

 

三人が話しているとハイランダーの大鎌が光り輝いており、エネルギーを纏っている状態なのがわかった。

 

「は?なんだよアレ……」

 

「ッ、来るぞ!」

 

ハイランダーが大鎌を振り抜きエネルギーを解放するとその斬撃波が三人に飛んでくる。それをセイバーが前に出て受け止めるとその威力を前に後ずさった。

 

「コイツ、強い!」

 

「セイバー!」

 

「大丈夫です。それよりもマイ、ユイ、隠し球その2を使うぞ」

 

「「でも、アレは……」」

 

「未完成でも何でもいい。今は確かなダメージソースが必要だ。アイツの残り体力だと二人の攻撃には耐えられない。当てさえすればこっちの勝ちだからな」

 

セイバーはオーラの事は知らないが二人相手にここまで残っているので何かしらのダメージ減衰効果は持っているのだろうと感じていた。なら、二人の持つ隠し球をぶつける必要があると踏んだのである。

 

「【パワーウィップ】!」

 

今度はセイバーが極太の蔓を伸ばすとそれでハイランダーを牽制しようとするが、その攻撃が大鎌に当たった瞬間に蔓が消えて逆にハイランダーの大鎌にエネルギーが高まった。

 

「やっぱスキルは無力化されるなぁ。でも、退くわけにはいかない!【大地貫通】!」

 

セイバーがハイランダーの攻撃に合わせてスキルを使い攻撃を相殺する。その間にハイランダーはマイとユイへと突っ込んでくると二人を仕留めようとした。

 

「おおらっ!」

 

そこにクロムが壁役として入り、攻撃を食い止める。クロムもここで全ての力を使うつもりなのだ。

 

「ぐ……マイ、ユイ、頼むぜ。二人の力なら絶対に届く!だから!」

 

「「わかりました!」」

マイとユイは二人合わせて十六本の大槌を構えると再度その力を一本に集約していく。しかし今度は大槌が巨大化する事は無く、その大槌から黒と白のオーラが溢れ出ていった。

 

「【ブラックハンマー】!」

 

「【ホワイトハンマー】!」

 

二人はスキルの名を言い放つと更にエネルギーが収束していき、攻撃までの溜めに入る。このスキルも発動までに時間がかかるので安易には使う事ができない。

 

「オラっ!」

 

そこにセイバーが突撃して激土を振るいダメージを与えていく。勿論スキルを使うと跳ね返されるのでスキルを使わずに激土で物理的にである。

 

「クロムさん!」

 

「わかってるよ!」

 

セイバーが激土を振り抜いてダメージを与えてからその勢いで後ろにまで激土を回すとクロムがそれを踏み台にして跳び上がり鉈を振り下ろす。

 

そこからは二人がかりで斬りつけていく。ハイランダーだって無反撃にはならない。なので二人を大鎌で攻撃し、着実に追い詰める。それから二人はマイとユイのエネルギーチャージが終わったタイミングでハイランダーから離れて二人の攻撃の射線を通す。

 

「「【ブーストタイム】!」」

 

更に【ブーストタイム】によるステータスの倍化で火力を跳ね上げる。そうして二人は黒と白の大槌を叩き込む。

 

「「やあっ!!」」

 

二人の可愛らしい声とは裏腹に殺意の塊となった大槌による一撃は雷を纏いながらハイランダーに炸裂。とうとうそのHPを刈り取れる……かに思えた。何とハイランダーはマイとユイの桁外れの攻撃を大鎌で受け止めると【破壊不可】の効果で壊れる事なく残った大鎌によりそのエネルギーを吸収していき、二人の攻撃を一割ほどのダメージで抑えて逆にカウンターの準備まで完了してしまう。

 

「やばい!虚無抜刀!」

 

セイバーが急いで虚無を抜くとそのまま二人とハイランダーの間に入り大鎌による一撃を受け止めるとHPが一回蒸発するように消えてからスキル【不死の体】によって耐え切った。

 

「がっ……」

 

「「セイバーさん……」」

 

「だっ!」

 

セイバーは不死鳥の炎を纏わせた攻撃で一時的にハイランダーを遠ざけてから持ち直す。

 

「二人共大丈夫?」

 

「私達は平気です」

 

「でもセイバーさんが」

 

「俺の事を気にする時間があったら相手に集中して。流石に次は庇えないから」

 

セイバーが言うのはスキル、【不屈の竜騎士】をここで使うわけにはいかないからだ。もし使う事になれば今後、他の階層を攻略する際に大きく不利になってしまうだろう。

 

「仕方ない。【聖なる歌声】!」

 

セイバーがスキルを使うとその姿が白い炎に染まっていきその姿は白と黒を基調とした物に変化。

 

「このスキルは十分の間しか発動できない……だから速攻で決める!【虚無の世界】!」

 

セイバーが指を鳴らすとその瞬間、セイバーを中心としてドームが形成されるとその中に大量のゾンビ集団が湧き始めた。

 

「何これ……」

 

「セイバーさんの新しいスキル?」

 

するとハイランダーは向かってくるゾンビ集団を斬りつけるが、その攻撃は全て透かされる事になりゾンビ達には全く届かない。流石のハイランダーもこれには困惑するばかりである。

 

「攻撃しなければカウンターできないだろ?次はこれだよ。【不死鳥無双斬り】!」

 

セイバーが接近しての不死鳥による斬撃を放つ。勿論ハイランダーはそれに対応して大鎌を振るうがその一撃は大鎌を避けてハイランダーに命中する。

 

「そう何度も返せると思ったら大間違いだぜ」

 

「マイ、ユイ、これを使え!」

 

クロムは大盾を地面に置くと二人をその上に乗らせてから蹴り飛ばす。すると二人の乗った大盾は地面を滑っていきそのまま二人からの大槌が叩きつけられる。ハイランダーは咄嗟にオーラを纏ってダメージを最小限に抑えるが、それでも押しているのはセイバー達だ。

 

「反撃の隙は与えない!【魅了の旋律】!」

 

セイバーのスキルによっていきなりハイランダーの動きが停止する。攻撃スキルで無ければ、ハイランダーはカウンターを放つ事ができない。それどころかセイバーのスキルの効果を受けて動きを止めさせられる始末である。

 

「良し、動きが止まった!」

 

「「【ダブルストライク】!」」

 

そこに双子の一撃がそれぞれ決まって残りHPは一割を切る。更に追い討ちとばかりにクロムも接近して鉈を叩きつけた。

 

「激土抜刀!【マキシマムボディ】、【大断断斬】!」

 

セイバーが火力を強化した上で巨大化させた激土を振り下ろすとハイランダーはそれを受け止める。ハイランダーはそのまま激土のエネルギーをカウンターにしようとエネルギーを吸収し始めた。

 

「……かかったな!」

 

「ネクロ【ゴーストチャージ】!」

 

クロムが自らが纏っているネクロに指示を出すとエネルギーのチャージを開始しつつハイランダーへと突撃、懐にまで入り込む。加えてマイとユイも合わせて十六本の大槌を手にしてハイランダーを挟み込む。

 

「「決めます!えぇい!!」」

 

「ネクロ【バーストフレイム】!」

 

流石に攻撃を吸収しながらではハイランダーもカウンターや防御できない。三人による同時攻撃が決まってハイランダーのHPはミリ単位となる。そこにセイバーが激土の叩きつけを決めてとうとうハイランダーのHPは0となりハイランダーの体は爆散。倒される事になった。

 

「何とか勝てました……」

 

「セイバーさん、ありがとうございま……」

 

そのままマイとユイは疲れで倒れ込み気を失ってしまう。クロムも度重なるカバーで疲れ切っておりその場に膝をついた。

 

「クロムさん……」

 

「大丈夫だ。それよりもセイバー、まだ余力があるなら先に進んでくれ。この先で他の四人も戦ってる。アイツらの加勢をしてやって欲しいんだ」

 

「……わかりました。クロムさんもしっかり休んでから来てくださいね」

 

「わかってる。無理はしないさ」

 

それからクロムも眠るように気を失い、セイバーはそれを見届けてからすぐに前を向いて走り出す。目指すは三層目でディアゴと戦う二人の元だ。果たして次々と倒れていく仲間達の想いを背負ったセイバーはこの先に待つスピードタイプのディアゴに勝つ事ができるのか。そして、最後のラスボスとは一体誰なのか。セイバー達の戦いはまだまだ終わる事は無い。




また次回もお楽しみに。


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聖剣使いとディアゴ

セイバー達がハイランダーを撃破する少し前、サリーとカナデが超速の戦士であるディアゴとの戦闘を進めていた。

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

サリーが挨拶代わりの連撃を放つとディアゴは割と簡単そうに躱し、全く怯む様子も無い。

 

「【重力の枷】!」

 

カナデがディアゴのスピードを少しでも下げるためにスキルを使い妨害するが、それすらも上回る加速力でディアゴは攻撃を仕掛けてきた。

 

「速すぎるわ。コイツはそこらのモンスターなんかのスピードと一緒にしたら対処不能になる」

 

「何とかするしか無いけどね。【フーディーニ】!」

 

カナデがスキルを使うと脱出王であるフーディーニが召喚されてディアゴの体を鎖で拘束する。しかし、ディアゴはその拘束を最も簡単に破壊してまた動き始めた。これでは物理的な拘束は殆ど意味を成さないだろう。

 

「ソウ、【覚醒】!【擬態】!」

 

カナデはソウを呼び出すとサリーに擬態させ、その姿をサリーに変える。それと同時にカナデ自身は二人のサリーにバフを上乗せしていく事になった。

 

「【アクセルドライブ】【激励】【ブーストアップ】」

 

カナデから次々と付与されるスキルに確かな手応えをサリーは感じるとそのままソウと共に二人で仕掛ける。ディアゴはそれを見てすぐに対応。二人からの連撃を見事なレイピア捌きで防いでしまう。

 

「嘘、私の攻めでも一発すらもらわないなんて」

 

「だったら、【落雷】【稲妻放電波】!」

 

更にセイバーが使うスキルも駆使してカナデが範囲攻撃を仕掛ける。範囲攻撃であればどれだけ回避に優れていても躱す事ができない。そう考えていた。

 

しかし、ディアゴはこの攻撃をスレスレで躱し全く意に返さない。このままではカナデの負担が大きくなってしまう。

 

「セイバー達が来てくれれば……いえ、そんなのは甘えね……」

 

「今は僕達にできる事をやるしか無いよ。【煙幕】!」

 

するとディアゴの周囲に文字通りの煙幕が発生。視界を奪い取り多少だが時間を稼ぐ。しかし、ディアゴはすぐにそれを薙ぎ払って相殺し、超スピードで動いてくる。

 

「【ブーストタイム】!」

 

そこでサリーは一度きりの【ブーストタイム】を使用してスピードに対抗。ディアゴの速度に追いつくと激しい斬り合いを始める。勿論サリーは一撃貰えば即死亡なので神経を研ぎ澄ませて回避しつつの攻撃だ。

 

「【ウォーターボール】!」

 

サリーが地面に【ウォーターボール】を放つとディアゴはそれを見て再度煙幕を張ると踏みすぐに構えを取る。その瞬間、サリーは朧による【影分身】で数を増やし、一斉に襲いかかった。

 

次の瞬間、サリーの分身達は一体すら残る事なく瞬殺されていった。その理由は単純明快。ディアゴの超スピードによる制圧力だ。ディアゴの速度を甘く見てしまうと訳の分からないうちに秒殺されてしまうだろう。

 

「【クイックチェンジ】!」

 

その時ディアゴの後ろに出てきたサリーが装備を入れ替えてバトルスタイルを変更。そのまま【変幻自在】の効果でダガーから槍に変化させてレイピアの攻撃範囲の外から仕掛ける。

 

「そういえば、これは効くのかな?【ウインドカッター】!」

 

サリーが【ウインドカッター】の見た目をした【ファイアボール】を放つとディアゴはレイピアに水を纏わせてそれを迎え撃つ。どうやら【偽装】によって見た目を変えても賢神には通用しないようだ。

 

「【ソードダンス】!」

 

そこにカナデからのスキルが使われると剣の形をしたエフェクトが次々とディアゴに襲いかかる。しかし、それはディアゴには通用せず、それどころか全く同じエフェクトでコピーされた上に返されてしまう。

 

「【魔力障壁】!」

 

カナデが障壁を展開するものの、ディアゴはそれを見た途端サリーをそっちのけでカナデの元に移動するとレイピアを振るい一瞬にして障壁を無力化してしまう。

 

「く……」

 

ディアゴからのレイピアがカナデへと迫る中、彼はまだ平気そうな顔をしていた。その理由は簡単……。

 

「【糸使い】!」

 

サリーが糸使いによってディアゴの体に糸を巻くとそのまま後ろへと引っ張ったからである。とうとうディアゴは体勢を崩してそこにサリーが槍を弓に変化させてそこに矢が突き刺さる。とうとうディアゴにまともなダメージを入れる事に成功したのだ。更にそのダメージ量は他の二人と比べて僅かだが大きく、ディアゴの耐久力が他の賢神よりも弱い事が示唆された。

 

「このままダメージを与えていくよ」

 

「【爆炎】、【火炎弾】!」

 

カナデからの追撃が飛び、ディアゴの体を火だるまにするとダメージを与えていった。しかし、これ以上はやらせないとばかりにディアゴの体はすぐに水を纏い炎を消すとダメージをストップ。更に今度はお返しとばかりに魔法陣から炎と糸を射出する。

 

「【フレアアクセル】!」

 

「【黄泉への一歩】!」

 

二人はそれぞれ機動力を上げて攻撃をそれぞれ躱す。ディアゴの厄介な点は高いスピードによる高速斬撃と相手の攻撃をコピーして返してくる点である。反射に関してはまだ回避できる分マシだが超スピードを連発されるとサリー達の加速スキルにはクールタイムがある影響で動きが止まってしまった所を切り刻まれる。

 

「どうする……アイツの速度を落とすには……そうだ。カナデ、ドームか何か作れる?」

 

「そうか!【マジックドーム】!」

 

するとカナデは自分とサリー、更にディアゴを包むように小型のドームを展開。これによりディアゴは広い場所を自由に行き来できない分移動範囲を狭められる事になり必然的に速度が落ちる事になる。

 

「私達も動きが制限されるけど、これならさっきまでの超スピードは使えないでしょ!」

 

「【電撃波】!」

 

「朧、【火童子】!」

 

サリーがダガーに炎を纏わせると突撃し、それに合わせてカナデも電撃を放つ。ちなみにソウの【擬態】は効果時間超過で元に戻り、今は【休眠】している状態だ。

 

二人の連携に対してディアゴはサリーの攻撃をレイピアで受け止めつつすぐにサリーを弾き飛ばし、続けてきた電撃は自身のエネルギーを注入しつつ方向を変えて自分に当てないようにした。

 

「……?」

 

「【破壊砲】!」

 

「待ってカナデ、それを撃ったら……」

 

サリーが何かに気がついてそれを静止するがカナデはもうスキルを使ってしまいエネルギー波がディアゴに向かう。そしてそれもディアゴはエネルギーを上乗せしつつ向きを変えて先程の電撃波が当たった箇所と全く同じ箇所に命中させ、その圧力でエネルギードームを破壊し、脱出されてしまう。

 

「しまった……そんな方法で脱出されるなんて」

 

「思考能力も高い……これが絶級のレベル……」

 

二人はあまりの難易度の高さに唸るがそれでも負けるつもりは無い。寧ろ、相手が強い方が燃えるのだ。

 

「カナデ、相手の足をできる限りで良いから鈍らせて」

 

「わかった。【重き枷】【魔弾の雨】【パラライズシャウト】!」

 

カナデが次々にスキルを使いディアゴの速度を鈍らせようと仕掛けていく。勿論全てが有効打にはならない。何しろ相手はほぼ全てのスキルについての知識と対応策を持つ賢神なのだ。だが、その中の一発や二発でも作戦がはまりさえすれば勝てると二人はそう信じている。

 

「【クイックチェンジ】……集中!」

 

サリーは再度装備を青を基調とした物に戻すと集中力を高めてディアゴへと突撃。動き回って撹乱する。ディアゴもサリーのスピードは見切っているのかサリーの動く先をことごとく読んで目で追う事ができていた。

 

「やっぱり着いてくる……でも、この場にいるのは私だけじゃない!」

 

「【ウインドカッター】【追尾弾】!」

 

カナデが使ったスキルによって【ウインドカッター】が相手を追尾する弾丸に変化。そのまま攻撃はディアゴに飛んでいく。ディアゴは躱しても追尾してくるとわかっているので【ウインドカッター】を簡単に弾き飛ばす。しかし、その瞬間こそがサリーの狙っていた隙である。

 

「【大海】!」

 

サリーがディアゴの目の前に着地するとAGIを少しでも低下させるためにスキルを使いAGIを20%落とす。この数値は決して低い数では無い。むしろ、AGIのステータスが高いディアゴにとっては致命的な速度ダウンだ。低いステータスの対象から20%落とすのと高いステータスの対象から20%落とすのでは意味合いが違いすぎる。その影響でディアゴの速度は著しく下がり、サリーでも追い切れるようになった。

 

「【クインタプルスラッシュ】!」

 

そのタイミングですかさずサリーはディアゴへとすれ違い様に切り裂きダメージを蓄積させていった。

 

『無駄だ』

 

その時ディアゴもその攻撃をコピーしてサリーへと攻撃を仕掛ける。だがサリーが自分の持つスキルでやられる程弱くは無い。

 

「私のスキルをコピーしたって無意味だよ!」

 

サリーはディアゴの行動パターンをこの時点で見切っており、体のどこを狙ってくるのか。どのタイミングで斬撃が来るのか。それらをちゃんとわかった上で正確無比に躱していくのだ。

 

「【絶対の雷】【双頭ノ龍】【タイフーン】!」

 

カナデも高火力の魔法を解禁してディアゴの注意を少しでもサリーから自分へと向けさせる。こうする事でディアゴの意識をサリーから離して彼女の戦いをやりやすくしようと考えた。その作戦は上手くいき、ディアゴはカナデの魔法に気を割く必要が出てサリーからの攻撃が決まるようになっている。

 

「良し、良いよカナデ。このまま続けて!」

 

「でも、相手だってこのまま素直にやらせてくれるとは……」

 

するとディアゴの体が二人に増え、一人がサリーの相手を始めるともう一人はカナデの元に向かった。

 

「分身!?」

 

「向こうもできるのね……」

 

「そんな事言ってる場合じゃない!」

 

カナデに近接戦ができないわけではない。それでも後衛の役職が前衛の役職を相手するにはとにかく近づけさせないのが鉄則だ。しかし、相手は四賢神。普通にやれば大きく不利な事に変わりはない。

 

「【大地の怒り】【疾風烈斬】【光の剣】」

 

カナデがディアゴを迎撃するべくスキルを使っていくが、ディアゴ相手に後手に回るのはかなり厳しい。ディアゴはカナデの使った魔法をことごとく回避し、カナデへの肉薄するとレイピアでその体を切り裂こうとした。その瞬間、ディアゴの腹に蹴りが叩き込まれると思い切り吹き飛ばされてその分身は消失する。

 

「え……」

 

「お待たせ……待たせたな」

 

「「セイバー!」」

 

そこに来たのはここまでスパルタン、ハイランダーと二体を相手に激戦を演じた戦士、セイバーであった。その姿は身軽な狼煙でありディアゴの特徴をすでに見分けている様子だ。

 

「コイツ、さっきの奴らよりもダメージが入るな。やっぱスピードタイプか」

 

セイバーは準備運動とばかりにその場でピョンピョンと跳ねてからディアゴへと突撃。狼煙での攻撃を開始する。それを見たサリーもセイバーの元に加わり、二人がかりで総攻撃をかけた。

 

「セイバー、コイツはスキルをコピーしてくるわ。でも相手が対応してくる前に攻撃すればどうにかなるから」

 

「なるほど。つまり、高威力のスキルでドカドカやっても返されるような状態にしなければ良いんだろ」

 

二人は話しながらも見事な連携でディアゴを防戦一方に追い込む。そして、ここまで戦ってサリーは気がついていた。ディアゴが使う超スピードは相手が張り付いている状況だと上手く使うことができない事に。

 

「【スパイダーアーム】!」

 

セイバーが背中から蜘蛛の足のような物を出すとそれでディアゴの体を滅多刺しにしようとするがディアゴも全く同じ物を出して互角の勝負に持ち込む。

 

「【狼煙霧中】!」

 

セイバーは体を煙化させるとそのままディアゴに接近して組み付く。セイバーもディアゴに負荷をかける事はディアゴの動きを封殺する事に繋がる事に気がつき、そのまま負荷をかけ続ける。

 

「ほらほら、どうした?反撃してみろよ」

 

「セイバー、あんまり煽ると……」

 

カナデがそう言い終わらない内にディアゴは一旦セイバーを引き剥がしてからすぐに超スピードを使いセイバーを撹乱する。

 

「ここは僕に任せて。【バキュームホール】!」

 

するとカナデの近くに敵だけを吸い込む小さな空間の穴が空きそれがディアゴの体を吸い込み始めた。ディアゴはそれによって動きを制限される事になり、その隙をセイバーは逃すことなく攻撃に転ずる。

 

「【ビーニードル】!」

 

セイバーが左手に針の武装を展開するとそのままディアゴへと攻撃話仕掛ける。ディアゴは今現在、その体を吸い込まれており動きを制限されている。この好機をセイバーは逃さない。確実にディアゴを攻撃してダメージを蓄積させていく。

 

「【煙幕幻想撃】!」

 

セイバーが突撃して強攻撃を叩き込むとようやくディアゴは【バキュームホール】から解放された。その瞬間、先程までよりも速いスピードでセイバーへと接近しつつ攻撃を仕掛けてくる。これはHPが減った事によるスピードアップだと三人は考えて動く。

 

「カナデ、さっきみたいに動きを封じられる?」

 

「少し厳しいね。完全に相手の動きを止めようとすると今のスキルぐらいの大技スキルがいるし、先を考えたら乱発できないよ」

 

「だったら俺達が直接削るしか無いか。界時抜刀!」

 

セイバーが界時を抜刀するとディアゴのスピードに対抗できる唯一のスキルを使う。

 

「【界時抹消】!」

 

セイバーが特殊空間に潜航するとディアゴの動きがゆっくりに変化する。ここならディアゴの動きを見切ることが可能だ。

 

「【再開時】!」

 

セイバーはディアゴの攻撃の軌道を予測してそれに合わせた位置に界時スピアを置く。しかしその瞬間にセイバーへとダメージが入りセイバーは吹き飛ばされてしまう。

 

「がっ!?」

 

「嘘、なんでセイバーのあのスキルに対応が……」

 

するとセイバーは目を見開いた。何故ならディアゴの立っている位置が先程立てた行動予測に比べて全く違う場所だったからだ。これはつまり、ディアゴがセイバーの持つ【界時抹消】をコピーして使った事になる。

 

「マジで?これもコピーするの?」

 

これでは幾ら【界時抹消】を使ってもコピーされて逆利用されるだけである。セイバーは仕方なく【界時抹消】を封印して戦わざるを得なかった。

 

「【オーシャンカッター】!」

 

セイバーが水の刃を飛ばし、ディアゴはそれを簡単に弾く。そこにサリーが飛びつくとそれに合わせてもう一体影が出てくる。

 

「【宮本武蔵】!」

 

カナデが召喚した英雄、【宮本武蔵】がサリーとの連携に参加。二人はそのまま連続で攻撃を仕掛けていく。しかし、ディアゴの対応速度は更に上がっておりこれさえも通用しない。

 

「こんなの……どうしたら……」

 

「諦めたらダメだ。何か手はある!」

 

「【大海一刻斬り】!」

 

セイバーが大海の力を込めた斬撃を放つとそれがディアゴに命中。その瞬間ディアゴはそれをコピーして跳ね返す。しかしセイバーがその攻撃を喰らった直後、その体は薄く溶けて消えた。その理由はサリーのスキル、【蜃気楼】による物である。

 

「引っかかったな!狼煙抜刀!」

 

更にセイバーが界時から狼煙に持ち替えて剣による攻撃を仕掛けるとディアゴはそれに一瞬にして対応してくる。その時セイバーの体は煙化するのその周囲に煙の体をした五人の分身として再構築された。

 

「【狼煙霧中】【昆虫煙舞】!」

 

それから五人のセイバーは突撃するとディアゴはそれを薙ぎ払う。その時セイバーの本体はその五体の中にはおらず、空中からエネルギーを纏わせた突きを放つ。

 

「なっ!?」

 

だが、それさえもディアゴは対応してカウンターのレイピアによる刺突がセイバーの体に刺さり、セイバーは大量のダメージエフェクトと共に致命傷を負ってしまう。

 

「が……」

 

「セイバー!」

 

「よくも!」

 

サリーはすかさずディアゴを攻撃して注意を引き、その間にカナデがセイバーのHPを回復させる事でなんとかセイバーを保たせる事になる。

 

「すまんカナデ……」

 

「大丈夫。それよりもサリーを助けてあげて」

 

「ああ!」

 

セイバーはすぐにサリーの元に向かうとサリーはディアゴから吹き飛ばされてセイバーが後ろから受け止める。

 

「セイバー……」

 

「ごめん、今度は同じミスはしない」

 

「なら一緒に行くわよ」

 

「ああ。界時抜刀!」

 

セイバーはサリーと共に二人で突撃し、ディアゴとの乱戦を再開した。それをカナデが後方から支援する。

 

「【ウインドリング】!」

 

カナデがリング状のエネルギー斬を放ちディアゴはそれを弾くがそのタイミングでセイバーとサリーが界時ソードとダガーによる攻撃がディアゴへと命中。ディアゴにもHPがしっかりとある。そのHPの値は残りニ割。そしてそれはディアゴの更なるスピードアップに繋がることになり得た。

 

「更に速くなった……」

 

「サリー、見切れる?」

 

「何とかね……」

 

セイバーはサリーの事を気遣っていた。サリーの方は一発当たれば即死のHPにVITだ。それは最初からずっと変わらない。そのために相手の攻撃は躱すか受け止めるしか無い。そんな中で相手の動きが見切れないのでは話にすらならないのだ。

 

「【魚群】!」

 

セイバーは小型の魚を大量に召喚して手数による相手の動きを再現する手に出た。動きを制限できれば相手の速度を落とせる。仮に全部躱す事ができても躱した数だけ速度は落ちる……そう思った。だがディアゴが魚の横を通った瞬間には魚は一瞬にしてやられてしまい真っ二つに切られていた。

 

「嘘だろ……これ、どうすれば……」

 

「だったら……【ウッドウォール】!」

 

すると三人の近くに幾つもの木の壁が出てきてそれが物理的に動きを制限した。流石にディアゴでも本来であれば防御壁となり得る出力を持つ壁が相手では破壊するのに時間がかかるようだ。

 

「良し、上手く動きを抑えられてる」

 

「次は……【氷柱】!」

 

今度はサリーから破壊不可の氷の柱が召喚されてスピードが緩んだディアゴの動きを封殺するように氷の柱を落としてその中に閉じ込める。勿論これだけではすぐに上に逃げられる。なのですぐにセイバーは対応される事前提であのスキルを使う。

 

「【界時抹消】!」

 

セイバーは界時ソードを界時スピアに変えてディアゴの目の前にまで移動すると【再開時】する。

 

「この距離なら!」

 

セイバーは敢えて槍の有利である中距離からの攻撃を捨てた。その代わりとしてディアゴのレイピアの距離での近接戦を挑む。

 

そのため当然のようにディアゴに界時スピアを弾かれるとレイピアでセイバーは体を滅多刺しにされてしまう。

 

「うぐあああ!!」

 

「セイバー!!」

 

「問題無い……むしろ、これを待っていた!」

 

セイバーは痛みにギリギリ耐えると両手でディアゴのレイピアを掴み動きを静止させる。そしてサリーはその瞬間を待っていたとばかりに一気に接近するとダガーですれ違い様にディアゴの体を斬り裂く。

 

「カナデ!」

 

「【大地の鎖】!」

 

ディアゴが怯んだ一瞬。セイバーがディアゴからレイピアを引き抜いて取り上げる。そこにカナデが召喚した鎖がディアゴの体に巻き付いて動きを完全封殺。

 

「虚無抜刀!」

 

セイバーは界時から虚無に聖剣を切り替えるとそのまま虚無にエネルギーを纏わせてディアゴの体を穿つ。それから跳び上がり体に炎を纏った不死鳥となって突撃していく。

 

「【マグナブレイズ】!」

 

そのままセイバーはディアゴの体を貫くと虚無を手にしてトドメの一撃を放った。

 

「【不死鳥無双斬り】!」

 

セイバーがディアゴの体を両断するとディアゴの体から火花が散っていき、そのHPがとうとう0へと変化。三人目の賢神、ディアゴさえも撃破される事になる。

 

「やった……」

 

「何とか倒せたね」

 

サリーもカナデも疲労困憊でありその場に倒れ込む。セイバーもここまで連戦だった事から体力も少なくなってきており、ギリギリになっていた。しかし、セイバーはフラフラながらも立ち上がり先に進もうとする。

 

「セイバー……まだ動けるの?」

 

「ギリギリだけどな……でも、この先でメイプルとヒビキが待ってるんだ。だから行くよ」

 

「……わかった。セイバー、二人を絶対に死なせたらダメだからね」

 

「わかってる」

 

セイバーはサリーから見送られると先へと進んでいき、その場に残されたサリー、カナデは気を失う。セイバーは更に先に進む。残る層は二つ。その内一つは賢神の中で最強の戦士、クオン。更にラスボスも残っている。果たしてセイバーは勝てるのか。その時が来るのはそう遠い話では無い。




また次回もお楽しみに。


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