【急募】女の子から変化した武器の手入れの方法【戻して】 (ぴんころ)
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1スレ

なんか掲示板形式やりてぇなぁ……
他にも色々と書きたいなぁ……
なんかやりたかったこと掲示板形式でやるか……

だいたいそんな感じの作品


1:名無しの転生者

 この掲示板は他の転生者の力を借りられる場所だと聞きました

 集合知の力(数の暴力)を貸してください

 

2:名無しの転生者

 お、見た感じ新人かな?

 

3:名無しの転生者

 集合知の力で数の暴力は笑う

 

4:名無しの転生者

 こういうのは初めてか? 

 もう少し肩の力を抜いていくといい

 

5:名無しの転生者

 とりあえず何が起きたのかの説明クレメンス

 

6:名無しの転生者

 今北産業

 

7:名無しの転生者

>>6

 ・まだ

 ・何も

 ・わかってない

 

8:名無しの転生者

 ぴったり三行

 

9:名無しの転生者

 三行でまとめられてるの初めて見た

 

10:名無しの転生者

 とりあえずイッチがまとめるのを待とう

 あ、7みたいに産業でまとめなくていいからな

 

11:名無しの転生者

 産業でまとめる

 

12:名無しの転生者

 誤字をスルーする優しさを見せてやれ

 

13:名無しの転生者

 ・転生先は現代

 ・十六年生きてきたけれど起きたファンタジーは別の世界の存在が去年発覚した程度の世界

 ・なんかファンタジーに巻き込まれた

 

 どうすればいいんでしょうか?

 

14:名無しの転生者

 マジで三行でまとめてきやがった……

 

15:名無しの転生者

 こいつ……できる……っ!

 

16:名無しの転生者

 でも中身はスカスカで何が起きてるのかまるでわからんぞ

 ファンタジーに巻き込まれた以外に何もわからん

 どんなファンタジーが発生したんだ

 

17:名無しの転生者

 巻き込まれたファンタジーはあれでしょ

 スレタイにもなってる武器が女の子になったってあれ

 

18:名無しの転生者

 いえ、違います

 武器が女の子になったんじゃなくて女の子が武器になったんです

 

19:名無しの転生者

 どう違うってんだ

 

20:名無しの転生者

 ファンタジーな世界なら武器が女の子になるのは普通のことでは……?

 

21:名無しの転生者

 世界観そのものは現代っぽいけど、ファンタジーが出てきたんならまあありえないことではないか

 

22:名無しの転生者

 武器が人型になるんじゃなくて、人が武器になったんです

 父親も母親もいる赤子だった頃からの成長記録も残ってるらしい子が武器に

 

23:名無しの転生者

 は?

 

24:名無しの転生者

 What?

 

25:名無しの転生者

 え、何それは……剣が人間から生まれてきたりしたの……?

 

26:名無しの転生者

 うーん、こういう場合に一番頼りになりそうなのはソシャゲ枠に転生した連中だろうか……武器の擬人化だから頼りにはならないか?

 

27:名無しの転生者

 なるほどこれが噂のTS(トランス・ソード)ですか……

 

28:名無しの転生者

 ついでに言えば当人も武器になったのは意味不明らしくパニック状態になっていますね

 

29:名無しの転生者

 うーん武器が人の姿になるのは元からの機能だったりで話が済むけれど逆はなあ……

 

30:名無しの転生者

 俺は初めて聞くパターンだし力になれんわ

 

31:名無しの転生者

 これ、イッチは何を聞きたいんだ?

 

32:名無しの転生者

 何がしたいとは……?

 

33:名無しの転生者

 女の子が武器になったのはわかった

 スレタイを見る限りだと「女の子に戻したい」ってのもわかった

 でも「女の子を戻す手段を聞きたい」なのか「これからの行動の指針が欲しい」のか

 

34:名無しの転生者

 後者なら安価の時間かな? かな?

 

35:名無しの転生者

 そもそも今のままだと女の子が一体何なのかわからんのだが

 そっちの説明と可愛いなら写真もプリーズ

 

36:名無しの転生者

 ・学校からの帰り道に女の子に道を聞かれる

 ・道案内中に最近騒ぎになってる野犬に襲われて挟み撃ちにされる

 ・野犬がフォームチェンジして女の子になった

 ・道案内してた女の子が戦おうとすると武器になって手の中に収まってた

 ・なので親御さんのところに元の姿で返してあげたい

 

 って感じで掲示板に来ました

 一番は戻す手段がわかるパターンですけどどう行動するか決まるだけでも話は変わるかなって

 

 女の子は可愛いですよ

 きっと大人になれば男が放っておかないんじゃないですかね

 

【画像】

 

 

37:名無しの転生者

 武器じゃねーか!

 

38:名無しの転生者

 女の子の写真が見たいの!

 

39:名無しの転生者

 開く前のワクワクした気持ちを返せ!

 

40:名無しの転生者

 しょうがないじゃないですか!

 俺だって手助けしてもらう以上はできる限り情報をあげたいですけど出会ったばかりの女の子の写真なんて撮ってませんよ!

 この武器は女の子が変身した後の姿なので実質女の子です!

 ……ですよね?

 

41:名無しの転生者

 確かに女の子なのかもしれないが俺たちの求めていた写真ではない

 

42:名無しの転生者

 はーつっかえ

 

43:名無しの転生者

 結局どうしたらいいでしょうかね?

 

44:名無しの転生者

 こういう場合は少女のいるファンタジー側の知識人を探してみるのが吉ぞ

 

45:名無しの転生者

 でも常識外のことが起きてるんだからファンタジーの方の常識には囚われない人を探した方が良くないか?

 

46:名無しの転生者

 イッチも含めて俺たちは常識も何もわからないからな

 まずは何が常識なのかを理解する必要があるんだ

 その上で情報を集めて推測していく以外の道はない

 というわけでイッチは可愛いという女の子の情報を俺たちに与える義務があるんだ

 

47:名無しの転生者

 な、なるほど……

 じゃあもう一つたった今入ったばかりの情報が

 

48:名無しの転生者

 ほほう

 

49:名無しの転生者

 可愛い女の子のことならなんでもいいぞ

 利き腕とかお手手にぎにぎの感触とかおみ足に踏まれる感触とか

 

50:名無しの転生者

 >>49

 幾ら何でも気持ち悪い……

 

51:名無しの転生者

 この掲示板、武器になった女の子にも見えてるらしいです

 あとさっきのパニックも武器になったのと掲示板で半々だって言ってます

 

52:名無しの転生者

 あ、あはは……お邪魔してまーす

 

53:名無しの転生者

 ファッ!?

 

54:名無しの転生者

 なん……だと……

55:名無しの転生者

 あーもう状況がめちゃくちゃだよ

 

 

 

 

 

96:名無しの転生者

 くぁwせdrftgyふじこp

 

97:名無しの転生者

 なんだなんだどうした新人

 

98:名無しの転生者

 思考で書き込まれる掲示板でこの焦り方をしてるやつ初めて見た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界は、一本の剣から始まったと言われている。

 

 時間も、空間も、生命も、無機物も、あらゆる全ての構成要素が詰まった剣。

 それが砕けたことが世界の始まりだった、と。誰が言い出したのかも、真偽もわからないまま、遥かな昔から伝わっている。

 本来なら一笑に付すべき戯言でしかない。けれど姿を変え、語る言葉を変え、伝承が残り続けているにはそれに値する理由があった。

 

 永遠神剣。

 

 それは契約した存在にマナと呼ばれる生命の源(エネルギー)を代価として力を与える意思を持つ超常の武器。

 剣の名を冠しながらも剣の形をしているとは限らない。与える力も十人十色。強力なものには共通して契約者から寿命を取り払う力さえある。

 彼らの共通事項は強弱の差はあれど意思を持つことと、かつての自分への回帰を望む本能のみ。

 世界の始まりたる”剣”の性質を色濃く受け継ぎ、他の永遠神剣を喰らうことでさらなる力を得る、あらゆる生命より上位に立つ存在。

 

 今、この場にも、彼らの戦いの痕跡があった。

 

「なんでっ! ドラゴンなんか飛んでんだよ!」

 

『多分、漏れてるマナが原因です!』

 

 そして、その痕跡に誘われるようにしてやってくるドラゴンの姿も。

 空から目撃すれば彼のいる場所が黄金の粒子に包まれていることははっきりと見えるだろう。そしてそれの発生源は今は地面に倒れ臥す先ほどまで野犬の姿だった少女たち。

 少女たちの肉体に刻まれた斬痕から立ち上る粒子(マナ)を餌とするのは、永遠神剣だけではなかったということだ。

 ならばこの領域から離れてしまえばいいと言われるかもしれないが、それをするにはもう遅い。

 

 見られている。

 

 偶然視界に入っている、そんなものではない。ドラゴンが思考を割くに値する敵として、その個体(しょうねん)に向けられているのは圧力すら宿した視線だ。

 大きさで言えば象と蟻ほどの差。上位存在に睨まれ、普段であれば恐怖に震えるはずなのだが、どちらかと言えばこんなところにいるなんて、という驚きの方が心を占めている。

 その理由は、手にした永遠神剣(ちから)の強大さ故か。あるいは他の何某かの理由があるのか。

 自分にもわからないまま、少年は迫るドラゴンに対して鞘に納められたままの剣を堂に入った構えで迎え撃つ。

 

「悪い。もう少しだけ力を貸してくれ」

 

『はい、もちろんです』

 

 鞘を一撫でして優しい声で頼めば、脳裏に響いたのは少女の声。

 同時に、ドラゴンの瞳に映る少年の肉体が、周囲を覆う黄金の霧よりもなお密度の濃いマナの塊と変貌する。

 

『あなたのことは、絶対に死なせません!』

 

 力強い宣言と共に、神剣(さや)から溢れ出すのは正面に迫るドラゴンすらも吞みこむ存在感。

 体内を循環するマナが永遠神剣を通り身体強化の礎となったところで、全力で一歩を踏み出し空のドラゴンへ向けて跳躍する。

 

 接敵したのは一秒にも満たない後のことだった。

 

 白い光を纏った空色の鞘と、紅蓮の龍頭。

 空中での激突に勝利したのは鞘。何の力も持たない人間をドラゴンにすら勝てる生命へと変える形であらゆる生命の上位存在としての貫禄を見せつけた鞘に流れ込むのは、自分で任せると言ったにもかかわらず、勝てるとは思ってなかったと驚きの感情。

 けれど体は止まらない。中空にマナで空気を固定して足場を生み出し、それを蹴って鞘で弾き飛ばしたドラゴンへ向けて加速する。

 

『舌、噛んじゃいますよ?』

 

「そういうのは先に言ってぇぇぇっ!」

 

 少しだけムッとしたような声で、遅すぎる忠告が少年の脳裏を過ぎ去った。

 声が後ろに置いていかれる中、吹き飛ぶドラゴンに追い縋りながら、白光を纏った鞘を振り抜く。

 振り抜いた軌跡の形にマナが凝縮され、光の刃として無数に飛ぶ。

 

 言動と肉体の動きがあっていない。

 戦いに慣れていない人間に扮装しているというわけではなく、慣れていない人間の体を他者が動かしていると言われた方が納得のいく様子。

 これも、永遠神剣の力。契約者の肉体を自らの自由に動かす強制力と呼ばれるものだった。

 

(っ……そうだ、掲示板を使えば!)

 

 声を出せば舌を噛むというのなら、声を出さない形で思考の伝達を行えばいい。

 そう思い至り掲示板をひらけば、今もまだ転生者以外に見られたということにお祭り騒ぎ。

 どう動けばいいのかの金言も、どんなことをされたいという妄言も等しく流れる板に書き込もうとしたところで、また少女の思念が流れ込む。

 

『その必要はないですよ。ちゃんと聞こえてます』

 

(は? え? 念話的な何か?)

 

『はい。契約してるってことなんでしょうね……やっぱり今のあたし、永遠神剣っぽくなってるみたいです』

 

(……とりあえず、そのことは生き残ってから考えようっ! 絶対どういうことなのか見つけるから!)

 

 だから死んでいられない。

 少しだけショックを受けたような声に覚悟を決め、今度は自分で体を動かす。

 先の光刃を生み出した感覚を頼りに同じことを行うが、生まれたのは脆弱な光。

 所詮は感覚。むしろここは感覚で生み出せたことを褒めるべきであろう。

 

 役に立たないことは変わりないのだが。

 

 先を飛翔する光刃に比べれば速度も威力もあまりにお粗末。

 翼を広げ空気抵抗で止まったドラゴンに襲いかかった第一刃は容易く翼を切り落とすが、次刃は肉体に触れた瞬間解けるように消え去った。

 

(ここはまだ市街地。もう一回吹き飛ばそうっ)

 

『はいっ』

 

 二度目の加速。今度は腕に光輝を纏わせ、腕よりも二回りは太い首を殴り飛ばす。

 見るからに硬そうな鱗に包まれた首を殴ったというのに痛みは全くない。むしろ殴られた鱗が凹んでいる。

 吹き飛んだドラゴンをさらに追いかけ、殴り飛ばしてを繰り返し、人気のない山中へと叩き落とした。

 

(このままとどめ!)

 

『最大の力を、最高の速度で叩き込みますっ』

 

(タイミングは!?)

 

『もちろん、最善の時を狙ってっ!』

 

(おっけーっ! 最善のタイミングも任せるよ!)

 

 夜の山に、一つの流星が顕現する。

 最大の力を、最高の速度で、最善のタイミングに。

 基本に忠実で、だからこそ完成させるのは難しい一撃。

 

『これで──』

 

 墜ちたドラゴンを追って地をめがけて駆ける少年は、これ以上ない最速。

 全力の身体強化は踏み込むだけで山にクレーターを作ることも容易いほどの力を生み出している。

 

「とどめだっ」

 

 そしてそれを、少女が示す最善のタイミングに叩き込む。

 

 土煙の中から姿を現したドラゴンはその口元にマナを用いて生成した火焔をブレスとして放とうと溜め込んでいるが、一撃分少年の方が早い。

 そして、その一撃で全ては終わる。光を纏った鞘を前にしては、竜の肉体は紙よりもなお軟い脆弱さしか有さない。

 すうっと一切の障害なく通り抜けた白の軌跡が竜の首を切り落とし、溜め込んだ火焔をマナに逆変換させ霧散させる。

 

「お疲れ……」

 

『はい、おにーさんの方こそお疲れ様です。とりあえず、まずは次が来る前にここから離れちゃいましょう』

 

「……ああ、そうだね。そういえばこのドラゴンも死骸を狙ってきたんだっけ」

 

 ゆるりと、先ほどの機敏な動きが嘘のようにゆったりとした歩みで繰り出す。

 ドラゴンの死骸が、首と胴体の別れた部分から黄金の霧を噴出しながら肉体を消滅させる最中のことだった。

 

「とりあえず、君のことを聞いてもいい? あの掲示板で相談するにしても情報が欲しいし」

 

『はい、もちろんですよ。あっ、あたしにもあの掲示板? のこと教えてくださいね』

 

「それこそもちろん。多分、しばらくの間は君も使うことになると思うし。あそこの人たちにも挨拶した方がいいだろうからね」

 

 これは一人で説明するよりも、掲示板の兄貴たちの力を借りた方がいいかも。

 そんな気持ちで掲示板を開き、少年は新しい書き込みを叩き込んだ。



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1スレその2

燃え尽き症候群なり〜


254:名無しの転生者

 気づかないうちにこんなに進んでたんですね……

 

255:名無しの転生者

 イッチ! 爆弾を置いて帰っていったイッチじゃないか!

 ……イッチだよな?

 

256:名無しの転生者

 同じIDだから可愛い女の子なのかイッチなのか判別つかん

 

257:名無しの転生者

 イッチのIDを間借りしてるからイッチと魂レベルの契約してるんだろうなってことまではわかったぞイッチ!

 

258:名無しの転生者

 >>257

 一つのレスでイッチって言いすぎじゃない?

 

259:名無しの転生者

 ところでイッチが叫んでたあれはなんだったの?

 

260:名無しの転生者

 今日の天気は晴れ時々ドラゴンになるでしょう、って感じでしたー

 

 >>257

 あの子が掲示板を見られる理由はそういうことでしたか……

 

261:名無しの転生者

 ドラゴンが降ってきちゃったかー

 

262:名無しの転生者

 たまにあるよねそういうのも……ねえよ

 

263:名無しの転生者

 ファンタジーならともかく普通の地球でそんなことになったら世界が滅ぶわ

 

264:名無しの転生者

 まあここにきてるってことはイッチもドラゴンを対処したんでしょ

 

265:名無しの転生者

 ドラゴンスレイヤーしてきました

 戦闘1日目に戦わせる相手ではないと思うんですけどね

 

266:名無しの転生者

 1日目でドラゴン撃破は強い

 

267:名無しの転生者

 イッチが天才的な才能の持ち主なのか武器になった女の子の力なのかはたまた厄ネタなのか

 

268:名無しの転生者

 どれもあり得そうなのが俺たち転生者だからな……

 

269:名無しの転生者

 たまに魂レベルの改造されて元の人格と引き換えに戦闘能力を与えられるやつとかもいるもんなぁ……

 

270:名無しの転生者

 可愛い女の子に負んぶに抱っこって男としては何かこう敗北感を感じますよね……

 

271:名無しの転生者

 あうぅ……ごめんなさい……

 

272:名無しの転生者

 いや別に君が悪いわけじゃないから……

 

273:名無しの転生者

 きた! 可愛い女の子きた!

 

274:名無しの転生者

 端から見ると同じIDだから一人二役してるだけに見えるな

 

275:名無しの転生者

 頼む……俺を踏んでくれ……

 

276:名無しの転生者

 ペシペシ叩かれたい

 

277:名無しの転生者

 色々と食べさせてあげたい

 

278:名無しの転生者

 なんでまだ見た目も年齢もわからない女の子相手にこんな変態的なことを言える奴らが多いのだ……

 

279:名無しの転生者

 ここは変態の多いインターネッツですね……

 

280:名無しの転生者

 話がどんどんそれていく……!

 

281:名無しの転生者

 で、結局イッチは女の子を連れて何をしにきたのさ

 

282:名無しの転生者

 女連れとはいい身分だなイッチ

 

283:名無しの転生者

 今回は挨拶とここの掲示板の紹介ですねー

 

 これからここの人たちに相談とかしたりすることもあるでしょうしどういう場所なのかを知って置いてもらったほうがいいかなって

 

284:名無しの転生者

 イッチがまともすぎる……

 

285:名無しの転生者

 まともな人間はそもそもこんな場所を頼らないぞ

 

286:名無しの転生者

 どう考えても掲示板とかまともじゃない連中の巣窟なんだよなぁ……

 

287:名無しの転生者

 女の子をこんな場所に連れ込むとか七つの大罪よりもなお重い罪だぞ

 まだラブホに連れ込むほうが正常や

 

288:名無しの転生者

 俺たちからすれば可愛い女の子との接触機会が増えるからいいけど

 

289:名無しの転生者

 うわ……そのレベルの場所なのか……

 じゃあ相談はやめといたほうがいいかな……

 

290:名無しの転生者

 お? 安価のお時間かな? かな?

 

291:名無しの転生者

 イッチから敬語消えて草

 

292:名無しの転生者

 とりあえず相談内容を聞くぜ!

 そっちの方が面白そうだからな!

 

293:名無しの転生者

 >>292

 ありがたやありがたや

 

 相談の方は永遠神剣っていうのを知ってる方はいませんかってことで

 

294:名無しの転生者

 ああ……他の転生者探しか

 

295:名無しの転生者

 その世界固有のワードが出れば同じ世界の転生者はきてくれるもんな

 

296:名無しの転生者

 イッチも多少はこの掲示板のあり方っていうのがわかってきたみたいやな

 

297:名無しの転生者

 残念だけど永遠神剣とかいうのは聞いたことないな

 

298:名無しの転生者

 というかこれまでのスレでそんなワード出たことなくね?

 俺は覚えないんだけど

 

299:名無しの転生者

 ってことは新規の世界かな

 

300:名無しの転生者

 そっかぁ……

 この世界の人がいれば何か分かるかとも思ったんだけど……

 

301:名無しの転生者

 いやまだわからんぞ

 もしかしたらいるけど永遠神剣を知らないだけかもしれん

 

302:名無しの転生者

 それはいないのと一緒だろ

 いまイッチに必要なのは永遠神剣とやらについて相談できる同じ世界のやつなわけだし

 

303:名無しの転生者

 永遠神剣のない世界っていうのもあるんですねー

 

304:名無しの転生者

 お、女の子の方かな?

 

305:名無しの転生者

 ……なんか区別する呼び方欲しいな

 

306:名無しの転生者

 イッチが敬語をやめたことで期せずして敬語か敬語でないかで判断できるようになったけどわかりづらいなこれ

 

307:名無しの転生者

 管理人さんに相談行ってくる?

 

308:名無しの転生者

 やめとけやめとけ

 これで不正アクセスってことになったらもう二度と会えんのだぞ

 

309:名無しの転生者

 厄ネタ出てくるまでは相談に行かないのが吉ぞ

 

310:名無しの転生者

 転生しようとも所詮俺たち程度には女の子との出会いはないんだからな!

 

311:名無しの転生者

 ぐわーっ!

 

312:名無しの転生者

 イヤーッ!

 

313:名無しの転生者

 まあ、だいたいこういう感じなので暇な時とか困ってる時は覗いてみるといいよ

 

314:名無しの転生者

 はーい

 

315:名無しの転生者

 イッチ! 女の子と会話をする機会をくれるイッチ! お前は神か!

 

316:名無しの転生者

 じゃあ、晩飯を買って帰ってから話し合いを始めるから一旦切るわ

 出会ったのが帰り道じゃなかったおかげで戦闘で飯が悲惨なことにならなかったことだけは感謝や

 

317:名無しの転生者

 そもそも襲われてる時点で悲惨な事態になってると思うんですがそれは

 

318:名無しの転生者

 あー! あー! 聞こえな──

 

319:名無しの転生者

 イッチ……? 

 おいイッチ! どうした応答しろ!

 

 

 

【実況モードに移行します】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは、今日はいい夜ですね」

 

 ドラゴンとの激闘からの帰り道。

 街灯の一つもない十字路の中央に、闇の中に浮かぶような少女の姿があった。

 長い髪を微風に揺らす、巫女装束に身を包んだ同年代と思しき可憐な女の子。

 あどけなさの残る顔に浮かべるのは、警戒心を持つことすら馬鹿らしいと感じてしまうような柔和な笑み。

 だというのに少年の足は一歩、当人が意識する間も無く後ろに一歩下がってしまっていた。

 

「……こんばんは」

 

 見た目だけで言うのなら、こちらを追い立てて来た野犬少女の方がはるかに恐ろしい。

 けれど、内包する力は比べることも馬鹿らしいほど。あれが人間であるならば、こちらは人型の惑星と呼ばれたら納得してしまいそうなほどだ。

 警戒を滲ませながら硬い声音で返答し、腰に差した鞘へと手をかける。

 

「そんなに警戒しなくても、とって食ったりはしませんよ」

 

「……信用できると思うか?」

 

 武器を手にしている人間を前に、一切の脅威を感じ取っていない様子の少女。

 鞘を手にしてから妙に敏感になった感覚が、この巫女からは逃げられれば御の字だと告げている。

 絶望的なまでに戦闘能力の差がある相手に、嫌な汗がつう、と流れるのを感じた。

 

『あ、時深(ときみ)さん!』

 

(……時深?)

 

 動こうとした次の瞬間、脳裏に響き渡る喜色に染まった少女の念。

 眼前の巫女のものと思しき名前からして、知り合いであると判断するには十分。

 そしてその名には、少年も聞き覚えがあった。

 

(それって確か……)

 

『はい、今日あたしを呼び出した人ですよ』

 

 知り合いであるというのなら、警戒する理由はない。

 鞘に触れていた手を離し、眼前の巫女の一挙手一投足への注視をやめる。

 

「理由はわかりませんが、どうやら信じてもらえたみたいですね」

 

「……なんで俺に声をかけたんです?」

 

 とはいえ、謎はまだ残っている。

 変化してから一度も名前を呼んでいない以上、手にしている鞘が彼女の知り合いであるということは、今現在彼以外に知るはずがない。

 ならばそれを理由に声をかけてくるということは変化したところを見て、その上で放置していたということになる。

 だが、それ以外だとするならば、何の接点もない彼に声をかけてくる理由もない。

 

「あら、自分のいる世界で突如としてエターナルが発生したなら、敵か味方かを確かめておきたいというのは当然のことでしょう?」

 

「……エターナル?」

 

「知らないままに契約をしていましたか。不親切な神剣もあったものですね」

 

『あー、そうなるとやっぱりあたし、第三位以上なんですね。……ごめんなさい、おにーさん。ちょっと巻き込んだ、じゃ済まなくなってきたみたいです』

 

(どういうこと?)

 

 エターナル。

 力の多寡の判断基準として最低を十位、最大を一位とする永遠神剣のうち、三位以上の永遠神剣と契約をしたもの。

 三位というのは一つの基準。契約者に永遠の命を与え、永遠の戦いを約束し、世界の外へと抜け出す力を与えることができるようになる、四位以下との大きな違いがある位階。

 そして、その契約者は二つの陣営に分かれて争っている。神剣の本能のままにかつて一本だった頃の秩序(ロウ)に戻ろうとするエターナルと、今命が溢れる混沌(カオス)を良しとする陣営。

 

「つまり、ロウかカオスのどっちにつくかってことですか?」

 

「ええ」

 

(ちなみに聞くけど、君たちは?)

 

『あたしも、時深さんもカオスですよ』

 

 聞いて、最初に浮かんだのは納得だった。

 まあ彼女ならそうだろうな、と。

 ただ、その言葉で答えも決まる。正確には、決まっていたけれど衒いなく言えるようになった。

 

「それならカオスですよ。一応、この世界には友人だっていますし」

 

「……なるほど」

 

 どこか痛ましいものを見るような目で見られ、一瞬で消える。

 

「聞きたいことは聞けました。私にも用事があるので、突然押しかけて申し訳ないですけれど、ここで失礼させてもらいます」

 

「あ、ちょっと」

 

 聞きたいことがあるのなら、神木神社に来なさい。

 そう言葉を残し帰ろうとする時深を呼び止める。

 

「なんですか?」

 

「えっと、その用事ってユーフォリアって女の子を待つやつです?」

 

「え、ええ。そうですけれど……一体なぜそれを?」

 

「この子です」

 

 鞘を手に取り、時深に見せる。

 何が言いたいのか、彼女はわかっていないようだ。

 なぜその永遠神剣が知っているのか、というような視線。

 

「俺が神木神社に案内してる最中、あの野犬に襲われた時にユーフォリアちゃんがこの鞘に変わりました」

 

「……はい?」



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1スレその3

俺のツイッター、なぜか高瀬先生(永遠のアセリア、聖なるかなの企画の人)にフォローされてしまったから永遠神剣系の更新報告はできなくなったって話はしたっけ?


327:名無しの転生者

 あのー実況モードってなんですか?

 

328:名無しの転生者

 ああそういえば来たばっかりだから知らないか

 

329:名無しの転生者

 まあ読んで字のごとく実況モードになった相手の現状が動画で見られるってシステムだね

 

330:名無しの転生者

 基本は自分でモードを変えるんだけど命の危険だったりすると勝手に変わって俺たちが助言しやすくなる

 

331:名無しの転生者

 今回は巫女さんが殺意ひしひしだったからみたいだね

 

332:名無しの転生者

 所詮イッチはドラゴンを倒せる程度の状況だからドラゴン以上の相手が来ればそりゃ発動する

 ドラゴン程度っておかしくないか?

 

333:名無しの転生者

 時深さんは強いんですよー

 

334:名無しの転生者

 イッチが一日で女の子(それも可愛い)二人と知り合いになるとか許せんわ……

 

335:名無しの転生者

 ほーん

 君はユーフォリアちゃんであの人は時深さんっていうのか……

 

336:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃん!

 

337:名無しの転生者

 は、はい! なんでしょうか!

 

338:名無しの転生者

 いや、ただ呼んだだけです

 

339:名無しの転生者

 多幸感、だっけか元の意味は

 俺たちにも女の子と話して幸せな気分にしてくれるから間違ってないわ

 

340:名無しの転生者

 親は絶対俺たちみたいな人間を幸せにするとか考えてないぞ

 

341:名無しの転生者

 戻ったぞー……ってどういう状況?

 

342:名無しの転生者

 実況モードになってるのに名前を出すなんてイッチは掲示板向いてないなって話をしてるんやで

 

343:名無しの転生者

 まあここで出してしまうとそっちの世界の掲示板でも名前だしてしまうかもしれないって言われると何も言えんわな……

 

344:名無しの転生者

 大丈夫

 もう掲示板はここ以外に使える機会はないから

 

345:名無しの転生者

 機会がないとはまた大げさな

 

346:名無しの転生者

 使おうと思えばいくらでも使えるでしょ

 

347:名無しの転生者

 いやあエターナルっていうのはそういうのできないらしい

 

348:名無しの転生者

 PC使う機会すらないのか……

 

349:名無しの転生者

 まあ別の世界に行くことになったらそっちの世界でPCあるかどうかわからんしな

 戸籍がないことだけは確定してるけど

 

350:名無しの転生者

 でも戻って来たら普通に使えるんじゃない?

 

351:名無しの転生者

 それがエターナルは一回世界を出るとその世界にいた痕跡が全部消えるらしい

 

352:名無しの転生者

 うわ……

 

353:名無しの転生者

 マジか……

 

354:名無しの転生者

 親もとっくにいないからそんなに悲観することでもない

 近く学園祭があるからそれが終わるまでは待ってもらえるしそれまでは鍛えてもらえるからな

 

355:名無しの転生者

 そっかぁ……

 

356:名無しの転生者

 そっちの世界の影響は受けないから俺たちとは問題なく会話できるだろうけど……

 

357:名無しの転生者

 忘れても新人がよく来るからまた新人として初めましてするだけだしな

 

358:名無しの転生者

 というわけで最後の学園祭になるのでパーっと派手にしたいところさん!? が今俺の頭の中に降臨してる

 

359:名無しの転生者

 ……ん?

 

360:名無しの転生者

 流れ変わったな

 

361:名無しの転生者

 これは……まさか……!

 

362:名無しの転生者

 安価……と行きたいところだけど参考にする程度に済ませるぜ

 

363:名無しの転生者

 やったぁ安価……ってしないんかい!

 

364:名無しの転生者

 ひゃあ! 安価のお時間……がこないのかよ!

 

365:名無しの転生者

 貴様……期待させおって……

 

366:名無しの転生者

 というわけで学園祭を盛り上げるための意見をくれ

 できるなら出店だといいぞ

 

367:名無しの転生者

 そもそもできる範囲がわからん

 

368:名無しの転生者

 お前の地球は俺たちの知ってる地球と同じなのだろうか……ファンタジーと混じったって言ってるし……

 

369:名無しの転生者

 ファンタジー的なサムシングは何ができるの?

 

370:名無しの転生者

 何もできん

 ファンタジーって言っても「異世界人の存在が発覚しましたー」って感じだからな

 去年は異世界人も混じった学園祭をしたらしいけどその時はまだ入学前だったし……

 

371:名無しの転生者

 懐かしいですねー

 あたしも去年はメイドさんで参加したんですよ

 写真とかは残ってないですけど

 

372:名無しの転生者

 がたっ!

 

373:名無しの転生者

 見たかった……

 

374:名無しの転生者

 俺はその気になれば見られます

 

375:名無しの転生者

 いや無理でしょ武器状態だし

 

376:名無しの転生者

 見られるようになったら写真撮って送ってね

 

377:名無しの転生者

 というかスレタイの手入れ方法からどんどん離れていってるな

 

378:名無しの転生者

 いやあ永遠神剣とかいう話を聞くに手入れ不要の魔法の武器だし問題ないんじゃない?

 

379:名無しの転生者

 鞘に納まった剣……女の子が変身した武器……つまり鞘から刀を抜くっていうのは真っ裸にするということでは……?

 

380:名無しの転生者

 >>379

 天才か

 

381:名無しの転生者

 >>379

 イッチは戦うたびにユーフォリアちゃんを裸にひん剥くのか……

 

382:名無しの転生者

 いや、鞘で殴り殺してる

 女の子を裸にひん剥くのはダメでしょ

 

383:名無しの転生者

 むぅ……ここは変態さんが多いんですね

 

384:名無しの転生者

 アッ(絶命)

 

385:名無しの転生者

 もっと罵って……

 

386:名無しの転生者

 変態どもが湧いて出て来た……

 

387:名無しの転生者

 はーい、ユーフィーの方は掲示板との繋がり寸断よー

 

388:名無しの転生者

 (´・ω・`)そんなー

 

389:名無しの転生者

 (´・ω・`)そんなー

 

390:名無しの転生者

 (´・ω・`)そんなー

 

391:名無しの転生者

 俺たちの楽しみを奪うなんて……せねぇ

 

392:名無しの転生者

 え、えっと、その

 (´・ω・`)そ、そんなー

 ……こんな感じでいいんですか?

 

393:名無しの転生者

 可愛い

 

394:名無しの転生者

 可愛い

 

395:名無しの転生者

 グフッ(心肺停止)

 

396:名無しの転生者

 また一人死んでる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、逢夢(あむ)! なんかいい案は浮かんだか?」

 

 物部学園は、今の地球で異世界との繋がりがもっとも濃い場所である。

 異世界に飛ばされ、異世界を巡り、地球に帰ってきたという話だが、その真偽はどうでもいい。

 異世界側から認知されているという事実があり、だからこそ地球もその学園に注目している。

 

「いやあ、そんな簡単には浮かばないよ」

 

「まあ、そりゃそうだよな。異世界人も参加してる、以上のインパクトとかどう出すんだって話だぜ」

 

 エターナルとなったばかりの少年は、声をかけてきたクラスメイトと並んで通学路を歩く。

 話の内容は、昨日のホームルームでは決まらなかった学園祭の出し物。

 去年の学園祭は異世界渡航とピンポイントに時期が重なったことで、異世界人も参加することになったという。創設以来類を見ないほどの盛り上がりを見せたその学園祭に、当時異世界渡航に参戦することができなかった先生たちが対抗心を燃やしているらしい。

 昨日のホームルームでも発言の節々からその意図を感じられ、結局は何も決まらなかった。

 

「犬カフェとかどうよ」

 

「猫喫茶の犬版? そんなのどこにでもあるし、そもそも学校でできるもんじゃねえだろ」

 

「だよなー」

 

「まあ学校でできないことをやる、くらいじゃないと意味ないっていうのはわかるけどよ。……って、なんか騒がしくね?」

 

「あ……」

 

 歩いている最中、前方に人集りが見えてくる。

 それを避けることは不可能ではないが、クラスメイトは年頃の高校生らしく興味津々にそちらに向かう。

 逢夢は、ここがどこだったのかを思い出して足が止まった。

 

「なんかあったんすか?」

 

「ああ。この辺りが災害にでもあったような状態になってるんだよ」

 

「うぇっ! マジっすか!?」

 

「本当本当。ほら、あそこだよ」

 

「うわ……すっげ……」

 

 彼の通学路は、昨日ユーフォリアと歩いた道とほとんど変わらない。

 彼女の目的地だった神木神社は学校に向かう道から少しずれるが、戦闘に陥った場所は通学路と共通の地点。

 故に、夜闇が覆い隠してくれた戦闘痕も、朝になった今ははっきりと見えている。

 

「これ、やっぱり異世界絡みっすかね」

 

「そうなんじゃないかって話だね」

 

 融けたコンクリート。破砕された外壁。

 なのに近くに住んでいる人間は誰もそれに気がつかなかったという事実。

 そんな異質な状況を、簡単に生み出せるはずもない。

 

「おい、そろそろ行かないと遅刻するぞ」

 

「あ、やっべ……」

 

 陽光の当たる、周囲の状況がはっきりと見える時間帯に、ようやく自分がとんでもないことに巻き込まれたと自覚する。

 とはいえ、もう巻き込まれてしまった以上、今更抜け出すことはできそうもない。

 あまり見ていたい景色ではないとクラスメイトに声をかけ、逢夢は学園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、そういうわけで今日もホームルームの時間がやってきたぞこんちくしょー」

 

 職員室に戻った教師に代わり教卓の前に立ったのは、第一回のホームルームで選出された実行委員。

 第三回ともなれば少しは慣れたのか、喧騒が収まり彼の元へと集まった視線も気にした様子がなく、平然としている。

 

「前回も言ったけど、今日のホームルームも学園祭で何をするのかってことだ。先生の無茶振りな『去年を超えろ』とかいう命令を達成できる案が出ればめっちゃ嬉しい。準備が楽だとさらに嬉しい。ついでに焼肉奢ってくれるらしいから皆ふるって意見を出していけ」

 

「いやあ、前も言ったけど無茶だろ……」

 

「俺たちだけで異世界人よりもインパクトのあるものを作る、かぁ……」

 

「そもそもインパクトってなんだよ。去年以上に盛り上がればいいのか?」

 

「でも去年って過去最高とか言われてなかったか」

 

「特に新しいことも何もないのに、俺たちだけで過去最高を更新しろって無茶だよなぁ……」

 

「だったら、俺たち全員の黒歴史でもまとめて、種別ごとに展示物にでもするか?」

 

「それでもらえるのは同情だけじゃないの?」

 

「同情でもないよかマシでしょ」

 

「誰もかれもがお前みたいに黒歴史を公開できるような鋼メンタルだと思うなよ」

 

 結局、一日では大した意見が出てこなかったらしい。

 昨日とそう大して変わらない会話が教室を満たし、わいわいがやがやと意味のない喧騒だけが膨らんでいく。

 無理だという理性と、やれるものならやってみたいという本心。教師の奢りという報酬も相まって、意見が出てはすぐに否定される現状はそんな二つが混じっているのが透けて見えた。

 

(なあ、一応聞くけど犬喫茶っていけると思う?)

 

『朝も言ってたあれですか? わんちゃんは可愛いからいいと思いますけど』

 

 そんな中、体内に収納されている永遠神剣(ユーフォリア)と会話する。

 ぼんやりと浮かんでいるのは、昨晩のこと。野犬……ミニオンというらしい怪物に襲われたインパクトが強すぎて、何かを考えようとしてもそちらが鮮明すぎるイメージとして蘇ってくる。

 

(なるほど。あのミニオンとかいうのをとっ捕まえてきて犬として使うのはあり、と)

 

『ミニオンを使うんですか!?』

 

(いやあ、異世界由来だし、インパクトとしては十分じゃないかなって)

 

『危険すぎるからダメです!』

 

(……だよなぁ)

 

 思考を、頭の中での会話から教室へと戻す。

 喧騒は収まる気配はなく、まとまりそうにもない。

 余裕をもたせる意味で最長一ヶ月ほどの間はホームルームを全て決めるのに使えるらしいが、この調子だと一ヶ月経っても決まるかどうか。

 最初で最後の学園祭が、少しだけ不安になった。




書いてると、掲示板じゃなくて普通に書き直したくなる不思議。R-18で書きたいぜ。


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1スレその4

582:名無しのエターナル

 はい、そういうわけで今日から時深さんときゃっきゃうふふの訓練の開始だぜー

 

583:名無しのユーフォリア

 わーぱちぱち

 

584:名無しの転生者

 いやどういうことだよ

 

585:名無しの転生者

 巫女さんと二人きりで訓練(意味深)とかずるいぞイッチ

 

586:名無しの転生者

 普通に訓練なんだよなぁ……

 

587:名無しの転生者

 イッチに巫女さんに見初められるような何かがあるとは思えない

 

588:名無しの転生者

 所詮イッチも俺たちと同じ穴の狢

 

589:名無しの転生者

 ところでなんでユーフォリアちゃんは名無しになったんだ……?

 

590:名無しの転生者

 名無しのユーフォリア(名有り)

 

591:名無しの転生者

 すげぇ……一行で矛盾してやがる

 

592:名無しのユーフォリア

 う、うぅぅ〜〜〜!

 

593:名無しの転生者

 可愛い

 

594:名無しの転生者

 唸ってるの想像したら可愛すぎて死にそう

 

595:名無しの転生者

 これはイッチに写真を見せてもらわなくてもわかるわ

 可愛い

 

596:名無しのエターナル

 あっ、じゃあ見せなくてもいいな

 

597:名無しの転生者

 は?

 何ふざけたこと言ってんの?

 早く見せて役目でしょ

 

598:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんが武器から戻り次第すぐにでも写真を送れ

 

599:名無しの転生者

 お前が一人で出会いを独占するとは許されるわけないだろ

 

600:名無しのエターナル

 えへ顔ダブルピース写真撮って送るわ

 

601:名無しの転生者

 貴様ぁっ!

 

602:名無しの転生者

 俺たちを殺す気か貴様ぁ!

 

603:名無しの転生者

 スクショ撮ったから言い逃れはさせんぞ貴様ぁ!

 

604:名無しのユーフォリア

 え、ええっ!? 死んじゃダメですよ!

 

605:名無しの転生者

 あっ……(絶命)

 

606:名無しの転生者

 心配してくれる……優しい……優しい……

 

607:名無しの転生者

 優しさが身に染みる……

 

608:名無しの転生者

 ここの連中は優しさに飢えてる連中しかいないのか

 

609:名無しの転生者

 たかだか転生した程度でモテたりするようになるならこんな掲示板に屯しているはずないんだよなぁ

 

610:名無しの転生者

 ところで駄弁っているけどイッチは訓練に集中しなくていいの?

 

611:名無しのエターナル

 現在ユーフィーが俺の体を動かしています

 

612:名無しの転生者

 は?

 

613:名無しの転生者

 女の子に戦わせて自分は戦わないとか人間のクズでは?

 

614:名無しの転生者

 この訓練はお前が戦えるようになるための訓練だろ?

 自分より小さな女の子に任せて生きてて恥ずかしくないの?

 

615:名無しのエターナル

 俺だって戦えるものなら戦いたいんだよなぁ……

 そもそも永遠神剣を使っての戦い方を知らないんだから、せめて感覚くらいは覚えろってことでまずはユーフィーが俺の体を動かしてます

 

616:名無しの転生者

 お前のそれに突っ込みたいところは多々あるが、とりあえずまずは一つ

 

 ユーフォリアちゃんを愛称で呼ぶとはどういうことだ

 

617:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんに戦いを任せるだけには飽き足らず、愛称で呼ぶなんて許されんぞ

 

618:名無しの転生者

 そもそもお前は昨晩永遠神剣を使って戦ってるんだよなぁ……

 戦い方を知らないとか言い訳は効かん

 

619:名無しのユーフォリア

 昨晩もあたしが体を動かしてたんですよー

 

620:名無しの転生者

 一回増えた程度で覚えられるかって思ったけど、昨日は突然の戦闘だったんだっけか

 

621:名無しの転生者

 ならしっかり体で覚えてユーフォリアちゃんに迷惑をかけんなやイッチ

 

622:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんに手取り足取り戦い方を教えられる……閃いた

 

623:名無しの転生者

 >>622

 通報した

 

624:名無しの転生者

 というかそれならそれでこんなところで駄弁ってないで全神経を集中させろよ

 

625:名無しの転生者

 これからのイッチの生死以外もかかっとるんやぞ

 

626:名無しの転生者

 イッチの生死以外かかっとるか?

 

627:名無しの転生者

 そりゃお前、イッチが弱くて殺されてしまうようなことがあれば、ユーフォリアちゃんがどこぞの誰ともしれん輩に使われるかもしれんやろ

 

628:名無しのエターナル

 は?

 ちょっと本気でやってくるわ

 

629:名無しの転生者

 イッチ、ちょっとユーフォリアちゃんのこと好きすぎなーい?

 

630:名無しの転生者

 いやまあ気持ちはわかるが

 

631:名無しの転生者

 そりゃこんな可愛い女の子がどこぞの男の手垢に塗れるとか考えるとブチギレるわ

 よくやったぞ>>627

 

632:名無しの転生者

 イッチもこれでやる気出すやろ

 

633:名無しの転生者

 これでユーフォリアちゃんの将来もまあまあ安泰になることが決まったな

 

634:名無しの転生者

 いやなんでそんなに信頼厚いの……?

 

635:名無しの転生者

 そりゃ転生者は基本外付けで戦闘への嗅覚が地味に付け加えられてるから

 

636:名無しの転生者

 え、なにそれ

 

637:名無しの転生者

 このスレの前の方で戦闘関係の才能について言及されてるけど、そこで言われてる改造とはまた別に最低限戦えるように精神性とかいじられてるって話やで

 

638:名無しの転生者

 うぇ……マジっすか

 

639:名無しの転生者

 まあそれがなかったら異世界だと戦えるようになる前に死んじゃうからね

 

640:名無しの転生者

 戦闘への怯えを少しばかり緩めてくれるって程度らしいけど、やっぱり精神いじられてるのは怖いな

 

641:名無しの転生者

 とにかく、そういうことがあるから一応一般人に比べれば戦闘の道に生きるには少しばかり入り口が広くなってるんや

 それこそ逸般人とか達人とか出てこない限りはイッチでも戦えるはずやで

 

642:名無しの転生者

 でもイッチの敵ってエターナルとかいう万年生きて戦い続けてきた連中なんじゃないの……?

 

643:名無しの転生者

 あ……

 

644:名無しの転生者

 イッチ、終わったな……

 

645:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんをひどい目に合わせないように戦い方をしっかり学ぶとええで

 

646:名無しのエターナル

 言われなくても

 要するに敵は全員粉微塵に粉砕してやればいいだけやろ?

 

647:名無しのユーフォリア

 あうあうあうあう……

 

648:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんがショートしてる……

 

649:名無しの転生者

 ガチ目の思念が届いてるだろうからな……そりゃアウトだわ

 

650:名無しの転生者

 せんせーい

 イッチくんが可愛い女の子をナンパしてまーす

 

651:名無しの転生者

 まずは時深さんをぶっ飛ばすところからだな

 実況モード使うからお前らもなんかあったら言ってくれよな

 

652:名無しの転生者

 おっ

 

653:名無しの転生者

 俺たちの出番か

 

654:名無しの転生者

 いやあ、いつの頃からか大事な戦いには掲示板から手伝うのも様式美になったもんだ……

 初参加だから全力で援護してやらぁ!

 

655:名無しの転生者

 (掲示板の)仲間の力を借りて敵を破るとか王道の物語っぽいもんな

 

656:名無しの転生者

 いつもはバカやってる掲示板の連中が一つの目的のために一致団結するとかとても絵になる光景だからね

 

657:名無しの転生者

 でもそれってイッチの人柄とか、イッチの負けられない戦いにしょうがないなあって力を貸すから絵になるんじゃ……

 この戦いはただの訓練で戦い方を学ぶだけなわけだし……

 

658:名無しの転生者

 しっ! そんな本当のこと言っちゃアカんぞ!

 

659:名無しの転生者

 ……これ、本当に掲示板見て勝てるんかイッチ?

 

660:名無しのエターナル

 知らん、勝つ

 

661:名無しの転生者

 きゅん

 

662:名無しの転生者

 かっこいー

 

663:名無しの転生者

 こんなこと言ったのに負けるのもそれはそれで面白そう

 

 

【実況モードに移行します】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、待ってくださいっ』

 

 掲示板を閉じ、概念情報となり肉体に溶けている永遠神剣を、肉体という鞘から取り出す。

 エターナルとしての少年の肉体を構成する情報が一部抜け落ち生まれる虚脱感は、感じるよりも早く永遠神剣の超強化が体を覆い、気づきもしない。

 時間にして瞬きほど。掲示板の書き込みが彼の集中力を極限まで高め、過去最速の抜刀を可能とする。ユーフォリアの声も、動き出してしまってはもう遅かった。

 狙いは眼前に立つ時深。すでに彼女は己が契約している三本の永遠神剣のうちの一つ、両刃の短剣たる永遠神剣第三位『時詠』を握った臨戦態勢。訓練とはいえ襲いかかる本物の圧力を振り払うように、砲弾を思わせる速度で一気に距離を詰める。

 

「遅い」

 

 流れるように周囲のマナの励起。エターナルとなる以前は感じ取ることすらできなかった情報を視覚で捉え警戒を顕にしたところで、それに意味がないということを知った。

 彼の一撃が届くまでに数秒。常人であれば回避も迎撃も不可能な時間であれど、時を操る永遠神剣にとってはその数秒は無限に等しい時間。

 

『時深さんは、時を加速させたり戻したりできるんです!』

 

(……時を操るとか強すぎない?)

 

『だから前から時深さんは強いって言ってたじゃないですかぁっ』

 

 何が起きた、と思うよりも早くユーフォリアの声で状況を理解し、ついで時深の声が届く。

 時の加速(タイムアクセラレイト)を経て超加速を実行した時深は音よりも素早く動き、声が届くまでには数度、踊るような斬撃を敢行している。

 警告の声も切り裂いた後に聞こえてしまうのならば、したところで何も問題はない。その事実を理解しながら、さらなる斬撃を見舞おうとする時深に少年も能力を解き放つ。

 

「どれだけ優れた技でも、永遠神剣由来なら……!」

 

 鞘がマナを帯びる。供給されたマナを原動力に”力”が周囲を覆い尽くし、一帯に働いていたマナが急速に鎮静された。

 結果、解除される神剣魔法。自らを違う時間流に置いての攻撃は強制的に引き戻される。

 慣性が暴風を巻き起こし、それによって現在いる方向を把握した少年は振り向きざまに片手で鞘に納められた状態の剣を振るった。

 

「そこっ!」

 

「他の永遠神剣の力を抑える能力……!」

 

「正解っ」

 

 一瞬で理屈を看破した時深の動きは流麗なまま。驚きが動きに反映されず、思考と動きが完璧に分けられている。

 そんな彼女に向けて剣に触れていない手でマナを練り上げ、オーラフォトンと呼ばれる威力を伴った光を生み出す。

 体表を覆う燐光も、鞘に纏った白も、全てが等しくオーラフォトン。鋼鉄よりもなお硬い鎧であり、銃弾よりも貫通力のある武器である。

 永遠神剣の力が生み出す光は、最低限永遠神剣でなければ超えることは不可能だ。

 踏み込み、激突すると同時に衝撃で砕け散るコンクリート。散乱する瓦礫は光が蒸発させて、動きに澱みが生まれる余地を残さない。

 

「シュート!」

 

 手の中に生成したオーラフォトンを光弾として撃ち放つ。

 音を超えて衝撃波を生みだしながら迫る残光しか見えない一撃は、蚊を潰すように容易く蹴散らされた。

 けれどその一瞬、一手分は確実に踏み込める時間に変わる。

 

(ユーフィー!)

 

『はい、任されました!』

 

 マナが捻出される側からユーフォリアによって最大効率で変換されていく。

 先ほどまでの比ではない身体強化が体を満たし、性能に任せて突貫する。

 契約により魂間の同調がなされている二人は、出会ったばかりだというのに阿吽の呼吸。

 誰であろうと一瞬は一流に見紛う程度には、洗練された動きだった。

 

「ブレード!」

 

「無駄ですよ」

 

 迫るオーラフォトンの剣を受け止めながら、時深が断言する。

 その瞳に映っているのは未来の可能性(ヴィジョン)。いくつもの可能性を見通した彼女は、瞳に映る景色を未来から現在へと切り替えて、自らの望む未来へと舗装された道をなぞった。

 

「私には未来が見えているんですから。あなたに対してもっとも致命的な一撃だってわかっちゃうんですよ」

 

 それは、逢夢にとって衝撃的な一撃だった。

 見えている。わかっている。なのに防御も回避もできない。

 強化された身体能力を扱うため、同様に強化をされている五感ははっきりと何が起きているのか捉えていて、体だって動くのに最初からわかっていると言わんばかりにその回避も防御もすり抜けてくる。

 

『ごめんなさい、おにーさん!』

 

 防ぐ手立ては、表皮を覆うオーラフォトンの防御能力のみ。

 理解したユーフォリアは身体能力を強化していたマナをオーラフォトンの生成へと切り替える。説明している暇はない。

 突如下がった身体能力に防御は間に合わず、間に合ったとしてもすり抜けていく一撃はオーラフォトンに阻まれ、けれど衝撃に弾き飛ばされる。

 

(いや、助かった。でも……)

 

 地面に倒れこみながら、そこで理解する。これがなければきっと寸断されていたかもしれない。

 普通であればここから反撃に転じたりするのだろうが、それも今回は不可能。

 身体能力はガタ落ちしているし、それでなくとも訓練の勝敗条件がある。

 

 一撃当てる。それで終了。あとはそこに至るまでで悪い動き、良い動きをおさらいしましょう。

 そう言われて始まった訓練だから、一回目の戦闘はここで終わりだった。

 

「私の勝ち、ですね」

 

「……いくらなんでも大人気なくないですか? 成り立て相手に」

 

「こういうのは学べるうちに学んでおくのがいいんですよ。絶対必中、防御不可、なんて突然使われたりしたら困るでしょう?」

 

「そりゃそうですけど……」

 

「でもまあ、ユーフィーがいるからそれも必要なかったかもしれませんね」

 

「……やっぱわかりますか」

 

「これが永遠神剣を使って長いこと戦ってる人ならともかく、成り立てがあそこまできっちり防御を固めればわかりますよ」

 

 もう一度、少年は地面に頭を預けた。

 その瞳には悔しさが浮かんでいる。

 

(一人でも勝つつもりだったんだけどなぁ……)

 

 終わって振り返る余裕ができたことで、身体能力強化など、普通にユーフォリアに頼ってしまっていたことにようやく気がつく。

 時深からのアドバイスを聴きながら、もうちょっと強くならないと、そう決意した。

 

(あ、掲示板放置してたな)

 

『おにーさん!?』

 

 意識を向けたら怒りのレスが大量に流れてた。




 まあ、初めての戦闘中に掲示板に意識を向ける余裕があるかっていうとね……


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2スレ

1:名無しのエターナル

 そういうわけで新しいスレを建てたぜ

 

2:名無しの転生者

 あれから1スレの残り全部使ってイッチの戦闘を矯正することになるとは思わなかったわ

 

3:名無しの転生者

 でもその甲斐あってイッチもようやく戦闘スタイルが成り立ってきたな

 

4:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんを守るつもりなのにユーフォリアちゃん頼ること前提のスタイルだがな!

 

5:名無しの転生者

 でもおかげで時深さんとやら相手にも勝率0.1%くらいまで上がってきたやろ?

 

6:名無しの転生者

 そこまでしても1%に満たないイッチを笑えばいいのか、時深さんの戦闘能力の高さに笑えばいいのか

 

7:名無しの転生者

 まあ不老不死で時を巻き戻したりできるらしいから万年以上は戦ってるだろうし、千年に一度の才能の持ち主だろうと10回は戦える計算になるから多少はね

 

8:名無しの転生者

 イッチはそこまで才能ないだろうからまあ勝てない方が基本か

 

9:名無しの転生者

 イッチが勝てたのもうまいことユーフォリアちゃんと噛み合った時だっけ?

 

10:名無しの転生者

 そうそう

 側から見ると動きは変わってないのに二人の動きが同調してるから威力が上昇するとかなんとか

 いつもは同じIDで名前切り替えて書き込んでるのにその時だけ名前混じるからすっげーわかりやすかったな

 

11:名無しの転生者

 なりたての子犬が噛み付いてきたと思ったら狼が噛み砕きにきたとか、時深さんかわいそう……

 

12:名無しの転生者

 いやでもだからってあの魔法の連発は大人気ないと思う

 

13:名無しの転生者

 自分は別の時間流に身を置いて加速

 相手は防御行動取らせないために防御に必要な時間を削りとばす(意味不明)

 その上で動きを止めてボコボコにする

 

14:名無しの転生者

 防御を抜けてくるんじゃなくて防御をさせないのはひどい

 

15:名無しの転生者

 力量差でどうにかできる攻撃じゃないのがずるい

 

16:名無しの転生者

 でもイッチ最後の方対応できそうだったのが頭おかしい

 

17:名無しの転生者

 いくらこの掲示板の特性があるからって言ってもなぁ……

 

18:名無しの転生者

 確か時間の流れが違うから、時間関係の魔法の影響を受けないんだっけ

 

19:名無しのユーフォリア

 おかげでこっちに集中してたあたしは魔法を使われたことに気がつけました

 ……何もできませんでしたけど

 

20:名無しの転生者

 まあそりゃ仕方ない

 

21:名無しの転生者

 普通に魔法の影響下にあるわけだしね

 

22:名無しの転生者

 で、今イッチは何してんの?

 

23:名無しの転生者

 そういや前スレは戦闘訓練で終わりましたね……

 

24:名無しのエターナル

 今は帰宅中

 なんかエターナルになると食欲も睡眠欲も満たさなくて良くなるらしいし、やることないから帰ったら安価するわ

 

25:名無しの転生者

 >>24

 え、マジで?

 

26:名無しの転生者

 >>24

 なんかさらっととんでもない情報が出た

 

27:名無しの転生者

 >>24

 イッチ、人間じゃないんか……

 

28:名無しのユーフォリア

 あうあう……ごめんなさい……

 

29:名無しの転生者

 いや、ユーフォリアちゃんは悪くないやろ

 

30:名無しの転生者

 実力差もわからず助けようとしたイッチが悪い

 

31:名無しの転生者

 イッチが下手なことしようとしなければユーフォリアちゃんは今も一人でぶいぶい言わせてたんだよなぁ……

 

32:名無しのエターナル

 >>25 >>26 >>27

 マジマジ

 今から安価するっていうのはガチの情報よー

 これも人間じゃないからできることだな

 

33:名無しの転生者

 いや草

 

34:名無しの転生者

 イッチが人間やめたことよりも安価することの方が驚きの情報だと思われてて草生えるんだが

 

35:名無しの転生者

 とりあえず帰ってから何をするのか決めるで

 安価は>>45や

 

36:名無しの転生者

 ちょっと近すぎんか……?

 

37:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんとお風呂

 

38:名無しの転生者

 >>37

 風呂場に武器を持ち込む奴がいるか

 

39:名無しの転生者

 反省会

 

40:名無しの転生者

 時深さんへの嫌がらせトラップ作り

 

41:名無しの転生者

 訓練

 

42:名無しの転生者

 就寝

 

43:名無しの転生者

 空腹がやってこないことを不眠で確認

 

44:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんを持ってお隣さんへ強襲

 

45:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんといちゃいちゃ

 

46:名無しの転生者

 瞑想

 

47:名無しのエターナル

 >>45

 これだな

 

48:名無しのユーフォリア

 え、えええええっ!?

 

49:名無しの転生者

 いちゃこら見せつけられるんか……

 

50:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃん大丈夫? ショートしてない?

 

51:名無しの転生者

 そもそも掲示板に本人いるのに出すかねこんなの……上のお風呂のやつもそうだけど

 

52:名無しのエターナル

 やれっていうならやるけどさぁ……

 

53:名無しの転生者

 お、なんか文句でもあるんか?

 

54:名無しの転生者

 安価は絶対やぞ

 

55:名無しのエターナル

 いや、ユーフィーはいちゃつくんじゃなくて甘やかすべき相手ではないだろうかと

 

56:名無しの転生者

 どういうことやイッチ

 

57:名無しの転生者

 いきなり何を言い出すんや

 

58:名無しのエターナル

 いやだってほら

 ユーフィーは小学生か中学生くらいの見た目だったし

 俺ら、一応これでも転生者だから見た目と年齢は別じゃん?

 それくらいの年頃の女の子とガチでいちゃつくのって二次元でもないときつくない?

 

59:名無しの転生者

 あー……

 

60:名無しの転生者

 イッチ、いいことを教えてやる

 

61:名無しのエターナル

 ……?

 

62:名無しの転生者

 今の俺たちはあくまでその世界の人間だから、別に前世の年齢を加算する必要はないんやで

 

63:名無しのエターナル

 いやそれでも普通に見た目は高校生と小学生くらいなんだが

 

64:名無しの転生者

 はい事案

 

65:名無しの転生者

 お疲れ様でしたー

 

66:名無しのエターナル

 貴様らぁっ!

 

67:名無しの転生者

 とりあえず実況モードでいちゃこらは見せてくれな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふにゃ〜』

 

「気持ち良さそうだね」

 

『はい、気持ちいいですよ〜。でも、掲示板の方に書かれてることは無視していいんですか?』

 

「気にしちゃダメだよ」

 

 出会ってから二日目の夜のこと。

 いちゃつくことを至上の命題(あんか)として与えられた二人は、掲示板に出てくる過激な発言を無視してとりあえず手入れという形で交流を図っている。

 何をすればいいのかわからないまま行なっている、マナを宿した布巾で撫でるというのはユーフォリアのお気に召したようだ。

 どことなく間延びした、眠気を誘う音が話題をあちらこちらに散らし始める。

 

『今日の時深さん、すごかったですねー』

 

「ああ、うん。本当にすごかった。俺、どれだけ時間が経ってもあれくらい戦えるようになる気はしないなぁ……」

 

『二人でなら大丈夫ですよ。あたしたちにはあたしたちの戦いかたがあるんですから』

 

「まあ、そうなんだろうね。ユーフィーにはユーフィーの力があるもんな」

 

 会話の中心に躍り出るのは、話せる内容が多く、かつ鮮烈に心に残った時深との模擬戦について。

 模擬戦もそうだが、模擬戦に至るまでの方が彼女の実力というものを強く思い知らされたと、終わってみてそう思う。

 

「でもやっぱりあれは便利だと思うよ。時間がない中でも無限に時間を作れるんだから」

 

『ですよね〜』

 

 時深が何をしたのかといえば、一定の範囲内に対するタイムアクセラレイト。

 外の一分が中の十分、一時間になればいくらでも訓練時間を捻出することができる。

 結界の維持に常にマナを消費しながら、さらには普通に戦闘行為を行い、その上で一切の疲労を見せない。

 見た目は同年代の少女であろうと歴戦の戦士なのだということをはっきりと見せつけられる訓練だった。

 

『でも、本当に今のあたしどうなってるんでしょう。時深さんも元に戻す手段を知らなかったみたいですしね。たぶん、本当に世界初なんだと思います』

 

「絶対元に戻す手段を見つけるよ。戻れたら一緒に、美味しいご飯でも食べよう」

 

『あっ、いいですねそれ。その時は、知ってる世界はあたしも色々と案内しますよ』

 

 倉橋時深……時詠のトキミという人物への評価は、今日だけでもうなぎのぼり。

 彼女の情報蒐集能力が低いなどという可能性はない。なぜなら極まった戦闘能力を支える柱には、永遠神剣による時の操作、生まれつきの未来視能力などがある。

 歴史の闇に消えてしまった様々な情報、これから先に生まれる可能性のある情報が、彼女は確認することが可能なのだ。ある意味、誰よりも情報蒐集能力は高いだろう。精査できるかは別として。

 

 だから、そんな時深が知らないと言ったのはかなりショックだった。

 ユーフォリアが鞘になったことを知らないのだから未来視も完璧ではないのだろうが、それでも一番可能性が高かったのだから。

 二人が少し考えたところで見つかるようなら、今も悩んでいたりしないだろう。そう思いながらも、だからと言って探すことを諦めるつもりはない。

 

『あっ、だからって別に、今もあたしのことは気にせずに食べていいんですよ?』

 

「いやあ、さすがに食べたくても食べられない子の前で食べるのはなぁ……」

 

『むぅ……気にしなくていいのに』

 

「カレーの鍋に突っ込んだら味とかわかったりする? それなら俺も普通に大鍋にご飯を用意するだけなんだけど」

 

『し、しないと思いますよ?』

 

「だよねぇ……」

 

 少しだけ恐れたような声。逢夢としても女の子を熱々のカレーまみれにしたいわけではないのであっさりと引き下がる。

 生まれたのはわずかな静寂。さて、後は何を話しておかないといけなかったかと考えたところで、ユーフォリアがそういえばと口にした。

 

『わからないって言ったら、あのミニオンもなんでいたのかわかりませんよね』

 

「ああ……ミニオンは作った相手の命令を聞くってやつだっけ。あそこにいたってのはつまり」

 

『はい、誰かがこの近所にミニオンを命令を与えて放り出してるってことです』

 

「そっちもどうにかしないといけないんだよなぁ」

 

 一年前も似たような、野犬に変化しているミニオンによる騒ぎがあったらしいが、それを作っていた連中はもうこの世界にはいないと聞いている。

 ではいったい誰が何の目的でしているのか。そこまではさすがにわからない。

 出て行くとはいえ自分の生まれ育った世界。友人もいるので、彼らの安全は確保してから出て行きたいところではある。

 

「やっぱり情報がないのは辛いね。かと言って情報を収集しようにも」

 

『時深さんから、今日は休むように言われちゃいましたしね』

 

「だから、今の俺たちができるのは掲示板でした安価通り、いちゃつくってことに戻ってくるんだろうけど」

 

 言葉の区切りと同時に、布巾に宿したマナが一滴残らず鞘に吸収された。

 空色の鞘も、心なしか先ほどまでよりも綺麗になったように見える。

 

「手入れも終わっちゃったしどうしようか?」

 

『えっと……あっ、掲示板! 掲示板の皆さんの意見を聞いてみましょう!』

 

「……それがあったか!」

 

 名案だと開こうとしたところで、インターホンが鳴った。

 こんな時間に、という思いはある。かと言って無視するわけにもいかない。

 

『……敵、じゃないみたいですね』

 

「ああ、そっか。もしかしたら殺されてたかもしれないのか。うん、ありがとう。ちょっと行って来る」

 

『はーい』

 

 立ち上がったところで、響いたのはユーフォリアの思念。

 その可能性には思い至ってなかった逢夢は感謝を告げて、玄関へと向かった。

 

「こんばんは」

 

「ああ、お隣さんじゃないですか。どうかしたんですか?」

 

 玄関の扉を開けると、そこに立っていたのは、赤く長い髪を微風に揺らす美人な女性。

 一年ほど前、どうやら異世界から引っ越してきたらしいお隣さんだった。




 例えば、この時間樹(せかい)のルールから逃れるために、ルールの影響を受けないくらいに自分を細分化したエターナルがいたとして。
 そいつらの中には公式でも言われてるように自らの規模の縮小に伴って記憶を失ってるような分体もいるんですよね。そいつらは自分が何者なのかわからないから変な行動を起こすわけもない。
 そんな中、記憶を取り戻した本体が理由はどうあれこの世界から出て行ったとしたら、エターナルじゃない連中はそいつのことを忘れるわけで、でも、いつ記憶を取り戻すのかわからない分体は大量に世界の中に残されてるわけなんですよね。

 で、そんな記憶喪失の近所のお姉さんじみた美人な分体に惹かれるヒーローに憧れる子供がいて、お姉さんと仲良くなったけど、記憶を取り戻したお姉さんが衝動的に自分のアイデンティティに従ってその男の子を食ってしまって後悔するんですね。
 後悔したお姉さんはその罪を忘れるわけにはいかない、他の人たちが似たような思いをしてはならないと、いつも通り自分を食らって力を取り戻していくんだけど、最後の最後、他人を食おうとしたところで男の子を食ったことを思い出して止まるんですよ。
 男の子は、自分の命を犠牲にしたことで大好きなお姉さんを殺すチャンスを作って、ヒーローになるんです。

 地獄か。

 つまり何が言いたいかっていうとイャガヒロインの聖なるかなとか出てきてもいいんじゃないかなってことです。


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2スレその2

123:名無しのエターナル

 お隣からお裾分けをもらいました美味しい

124:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんが戻るまでは飯を食わないという誓いはどうした

 

125:名無しの転生者

 すげぇ……舌の根も乾かぬうちに……

 

126:名無しのエターナル

 ならもらったものを腐るまで放置しろと?

 

127:名無しの転生者

 は? そんなの許されるわけないだろ?

 

128:名無しの転生者

 イッチはギリギリまでユーフォリアちゃんを元に戻す方法を探すべきなんだよなぁ……

 

129:名無しの転生者

 賞味期限、消費期限、ついでにいつ出会ったかわかったものではないお隣さんからの「どうでしたか?」の文言の攻撃を避けねばならないイッチ

 

130:名無しの転生者

 で、もしも返答ミスするとお隣さんが鬼神になって攻撃(物理)してくるんだよね……

 

131:名無しのユーフォリア

 あたしも食べてますよ?

 

132:名無しの転生者

 !?

 

133:名無しの転生者

 え、戻れたの!?

 

134:名無しの転生者

 やったぁ! ほら、イッチ! 早くユーフォリアちゃんの食事シーンの写真を送るんだ!

 

135:名無しの転生者

 口いっぱいにものを頬張ってるといいぞ!

 

136:名無しの転生者

 笑顔だとさらにいいぞ!

 

137:名無しのエターナル

 しょうがにゃいなぁ……

 

 はい

 

【画像】

 

138:名無しの転生者

 やったぁ……え、何これ?

 

139:名無しの転生者

 これ、何が起きてるの……?

 

140:名無しの転生者

 鞘を鍋に突っ込んだ画像って……

 

141:名無しの転生者

 これ、ユーフォリアちゃんが鍋で半身浴してるって画像……?

 

142:名無しの転生者

 そう言われるとえっちに見えてくる不思議

 

143:名無しのユーフォリア

 ここの人たち、皆えっちです

 

144:名無しの転生者

 うっ

 

145:名無しの転生者

 ちょうだいもっとそういう罵倒ちょうだい

 

146:名無しの転生者

 小さい女の子にジト目で罵倒される……いいですねこれ……

 

147:名無しのエターナル

 いや、普通に食べてるんだ

 どっちかっていうと動けない子にあーんをしているに近い

 

148:名無しの転生者

 可愛い女の子にあーんするとか羨ましいぞお前っ!

 

149:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんにあーんされている?(乱視)

 

150:名無しの転生者

 どうやって食べてんのさ

 

151:名無しの転生者

 鞘の中に剣の代わりに食べ物突っ込めば食えるのかと思ったけど普通に納刀してるな

 

152:名無しのエターナル

 世界はもともと一本の神剣から始まったから食物も人間も無機物も神剣も同じもんでマナに分解できるんだ

 同じものを取り込むのは神剣同士の戦いの結果としてはよくあるから食べられるのはおかしなことじゃないぞ

 え、これ食べてるって言わない? そうだね……

 

153:名無しの転生者

 どっちかっていうと吸収だもんな

 

154:名無しの転生者

 マナ、いくらなんでも便利物質すぎない?

 

155:名無しの転生者

 一回、マナを使うと何ができるのかをリストアップして起きたいところ

 

156:名無しの転生者

 俺らからの助言も、踏み込んだところまでするとなると何ができるのか知っておいたほうがいいもんな

 

157:名無しの転生者

 というわけで暇であろうイッチはマナでできることを報告しなさい

 

158:名無しのエターナル

 ユーフィーと姉妹になれます

 

159:名無しの転生者

 !?

 

160:名無しの転生者

 なんかいきなりとんでもない情報が出てきた……!

 

161:名無しの転生者

 TS! TS!

 転生時に性転換するのはままあるけど、生まれ変わった後の性別からさらにTSするのはなかなかないぞ!

 

162:名無しの転生者

 一応聞くけどどういう理屈で……?

 

163:名無しのユーフォリア

 それ、マナじゃなくてエターナルとしての特性なんじゃ……?

 

164:名無しの転生者

 なんだ、ユーフォリアちゃんと契約したから性転換できるようになったのか……

 

165:名無しのエターナル

 難しいらしいけど、エターナルになると自分の概念情報の書き換えとかできるらしいんだよね

 それをうまいこと利用すれば性転換も、成長も、流れる血をユーフィーと全く同じにすることも不可能ではないはず

 やる気はないけど

 

166:名無しの転生者

 やれよ!

 

167:名無しの転生者

 どうしてやろうとしないんだ?

 

168:名無しの転生者

 やらないならなんでそんなことを口にしたんだ!!

 

169:名無しのエターナル

 やれることを言えってお前らが言ったからだよ!

 あとはユーフィーのお手入れとか戦闘に使える魔法の燃料だったり

 

170:名無しの転生者

 お手入れできるんかい!

 

171:名無しの転生者

 このスレのスレタイに対する回答が出ましたね……

 Q.武器の手入れ方法

 A.万能物質マナを信じろ

 

172:名無しの転生者

 これだけ万能だとマナさえあれば永遠神剣の契約者を一般人が倒せる、なんてこともありそう

 

173:名無しの転生者

 さすがにそれはないでしょ

 

174:名無しの転生者

 誰も敵う相手がいない(一般人が倒せる)はさすがにね……

 

175:名無しの転生者

 でも、イッチが弱いままだと(一般人でも倒せる)が事実になりそう……

 

176:名無しの転生者

 マナの操作くらいは訓練できるのでは……?

 

177:名無しのエターナル

 はい……ん?

 

178:名無しの転生者

 お、どうしたイッチ?

 

179:名無しの転生者

 なんかあったんか?

 

180:名無しの転生者

 修行から逃げるな

 

181:名無しの転生者

 実戦になりそうなので許して

 

182:名無しの転生者

 あちゃー……実戦かぁ……

 

183:名無しの転生者

 イッチ、疲れ切った状態で実戦とか大丈夫なんか?

 

184:名無しの転生者

 時深さん相手に使った遠距離攻撃で不意打ちして、あとはユーフォリアちゃんに任せる形で行けば……いけるかな?

 

185:名無しのユーフォリア

 はいっ、任せてください! 絶対に守りますよ!

 

186:名無しの転生者

 これは信頼できる

 

187:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんも歴戦の戦士なんやなって……

 

188:名無しの転生者

 手を出そうとする不埒な連中ぼこぼこにされそう

 

189:名無しのエターナル

 は? ユーフィー相手にそんな不埒なことする奴はまず俺が殺すが?

 

190:名無しの転生者

 一番する可能性が高いのはお前だと思うんだが

 

191:名無しの転生者

 まあ、一番ユーフォリアちゃんと近いからな

 

192:名無しのエターナル

 >>190 >>191

 お前ら許さねえからなぁ……!

 実況モードで俺の今の戦闘能力を見て震えて過ごせ……

 

193:名無しの転生者

 ひぇっ

 

194:名無しの転生者

 戦闘経験数回の素人に負けるほど弱くはねえんだよなぁ……!

 

195:名無しの転生者

 闘志に溢れてて草

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋根の上に乗った逢夢は意識を集中させ、発露されるマナの根源を探りにかかる。

 家の中でもマナの脈動それ自体は感じ取れたが、それはあくまで方向のみ。

 正確な場所を把握するため、今度は能動的に感知の網を広げていく。

 

(見つけた)

 

 ゆるりと広がったマナの流れ。大気の流れに混じった、少年の放ったマナが物質ではなくマナの塊に触れる。

 確信を持って目を見開き、視線を向けた先にあるのは物部学園。

 手にした鞘を一撫でして、いつものようにマナを操り人間からエターナルへと身体能力を切り替えた。

 

「行こうユーフィー」

 

『はいっ、任せてくださいね!』

 

 色よい返事が届いたのと、身体が充足したのは同時だった。

 みなぎる力を頼りに、屋根の瓦を軽く蹴って跳躍。満天の星空へと身を投げ出す。

 学園にある人型を模ったマナは感じ取れる範囲では三つ。

 

『多分、連携をとってきますよ』

 

(そうでもないと一緒にいる意味がないだろうしね)

 

 攻撃、防御、支援魔法。大まかに分けて三つに区分される永遠神剣を用いての戦闘での行動。

 一人一人がそれぞれの行動に特化した三人一組の部隊がいるのだろう、とユーフォリアは告げる。

 ただ、そうであるならやるべきことはわかりやすい。

 

『周囲にはあの時みたいなドラゴンも、他のミニオンもいません。全力で行って大丈夫です!』

 

(おっけー、そういうことなら!)

 

 ユーフォリアの精査の言葉を聞き、隠匿に意識を割く必要がないと知り、オーラフォトンを練り上げることに集中する。

 手の中に納まる輝く光球。訓練前とはまるで比べ物にならない密度のマナで構成されたその弾丸は、感知できるのであれば誰であろうとつい意識を取られてしまうだろう。

 学校との距離はおよそ一キロ。実弾ならばともかく、マナを用いた狙撃であれば当てることは不可能ではない。

 

『マナよ、オーラの輝きと変われ』

 

 ユーフォリアの詠唱とともに逢夢の前に浮かび上がる魔法陣。起点となるのは鞘。

 回転する魔法陣を構成するのは鞘の空色とオーラの白。

 

「魔法、かぁ。ちょっとワクワクしてきたかも」

 

『そういえば、今の今まで一度も使ってませんでしたもんね。きっと、これから何度も使うことになりますよ』

 

(そいつは楽しみだな……!)

 

 ファンタジーの象徴とも言える魔法という概念。

 わかりやすい魔法陣という起点を用いて放つそれは、今の自分がそちら側の住人であるということをはっきりと示している。

 掲示板内にファンタジー世界の人間はたくさんいるだろうが、自分が使うのは一味違う。

 喜色の乗った声にユーフォリアも嬉しくなりながら、魔法陣に練り上げたオーラフォトンを注ぎ回転を加速させ始めた。

 

(これで確保すれば犬としてカフェに……)

 

『もうっ! まだ言ってるんですか! 他の人が作ったのは使えません!』

 

(ちぇっ)

 

 純白の輝きが最高潮に達した瞬間、魔法陣からはオーラフォトンが放たれる。

 それを追うのは魔法陣を構成するもう一色。青空色の輝きが宿している冷気が、物部学園の上空目指して進む光球の後を突き進んで行く。

 夜の学園を包む星光を塗りつぶすように光を放つオーラフォトン。その内側に含まれるマナが、冷気を生み出す青の幾何学模様に触れた瞬間、その魔法陣の効果が発現する。

 

『行きますよー! アイシクルシャワー!』

 

 降り注ぐ光が、次の瞬間絶対零度の凍気と変わった。

 

 魔法の属性は五つ。色の名前を冠するそれらのうち、”青”の魔法は氷を想起させるものが多い。

 凍らせて敵の魔法を止める。マナの運動を鎮静させて力を発揮させない。

 敵、あるいは味方全体に働く”白”の属性に乗せたその”青”は、結果として単体に作用するのではなく場全体を支配する。

 氷塊じみた雨粒となり、グラウンドに突き刺さるオーラフォトン。

 

「ふっとべ」

 

 それらを遠隔爆発させる。

 

『倒せたのは一体だけです!』

 

(なら、あとは近くに行って斬るしかないか……!)

 

 一度も制御を手放していないからできる曲芸じみた技。その戦果は悪くはないと言ったところ。

 最良とは言えないが最悪とも言えない程度の結果を聞き、マナを固めて足場とする。

 一歩の踏み込みで砕け散る程度の足場を蹴って、空中から落ちる目的地は物部学園。

 破砕音を響かせながら、グラウンドの中心へと降り立った。

 

「さて、と。それじゃ時深さんにバレて怒られることになる前に倒させてもらお──」

 

 う、と言い切る前にミニオンが消滅する。

 何が起きたか、なんて明らかだった。

 屹立する光の柱。逢夢が放ったオーラフォトンなどとは比べ物にならないほどの高密度の永遠神剣を用いた魔法。

 

(勝ち目、あると思う?)

 

『逃げきれるかどうかも怪しいと思います……でも、絶対死なせません!』

 

(あはは……頼りにしてる)

 

 それは、勝てないと認識するには十分だった。

 別に、これほどの神剣魔法でなくともミニオン二体を消滅させるのは二人にだってできる。

 けれど、その時に使った魔法の練度はエターナルクラスだと、時深を見ていた彼らは判断できた。

 鞘に手をかけ、現れるであろう人影の一挙手一投足に注視する。

 

 こつ、こつと光の奥から人影が迫ってくる。

 姿を見せるまでに数秒。光のベールを背景と変えたその人物を見た瞬間、ユーフォリアは声をあげた。

 

『パパ!?』

 

「……!?」



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2スレその3

パパ登場すると感想一気に増えたね


250:名無しの転生者

 それにしてもイッチ、実況モードにしたのはいいけどまるで会話が出てこんな

 

251:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんの父親だとわかった瞬間、流れるように実況モードを展開したのは笑った

 

252:名無しの転生者

 でもまあ気持ちはわかる

 

253:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんみたいないい子の父親だったら、絶対親バカでしょ

 

254:名無しの転生者

 俺たちも絶対親バカになるもん

 

255:名無しの転生者

 つまりイッチは親バカに殺されるってわけやな

 

256:名無しの転生者

 お、会話が始まるっぽいぞ

 呼ばれた時深さんがどんな仲裁をしてくれるのか楽しみだな

 

257:名無しのエターナル

 

『まず最初に言っておくと、俺は別にあんたを殺しに来たわけじゃない』

 

258:名無しの転生者

 ……!?

 

259:名無しの転生者

 俺たちの心を読めるのか!? まずい……!

 

260:名無しの転生者

 何がまずい? 言ってみろ

 

261:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃん相手にすこすこやってたのがバレるのがまずいんだよ!

 

262:名無しの転生者

 ファンクラブができたことも許されんかもしれん

 

263:名無しの転生者

 ファンクラブスレってあれだろ? まだ異世界系の可能性のある奴ら集まれってスレでユーフォリアちゃんの可愛さに虜になった奴らの作った……

 

264:名無しの転生者

 あのスレって確か、「今のところは現代日本に近いけど、まだ原作わかってないから異世界転移系だったりするかもしれない」って連中の集まるスレじゃなかった?

 ファンタジー混じりの現代日本な永遠神剣をなんでそこに突入させたのさ

 

265:名無しの転生者

 お、新入りか? 説明するとイッチの種族の特性として「世界を移動できる」があるんやで

 つまり、別の世界の存在は発覚してる

 

266:名無しの転生者

 実況モードになるとユーフォリアちゃんが沈黙するの悲しい……

 

267:名無しの転生者

 まあ実況モードになると基本実況中のやつは常に起動中になってるようなもんだからな

 イッチとIDを共有してるユーフォリアちゃんに切り替えることができないんやろ

 

268:名無しの転生者

 切り替えで思い出したけど、ユーフォリアちゃん皮切りに転生者と魂に関わる契約をしてて思考が共有できる現地人が結構転生者掲示板に進出して来たな

 

269:名無しの転生者

 毎回、それに初めて出会った連中が阿鼻叫喚の図になるの笑える

 

270:名無しの転生者

 俺たちも最初はそうやったんやで……

 

271:名無しの転生者

 おい待て、まだ会ってから二日目だぞ

 いくらなんでも懐かしむの早すぎないか!?

 

272:名無しの転生者

 とりあえず、殺されないなら安価してもいいのでは?

 

273:名無しの転生者

 安価で変なの出たらイッチが死ぬぞ

 

274:名無しの転生者

 たとえお父さんだろうとユーフォリアちゃんを渡さないくらいは言ってみろイッチ

 

275:名無しの転生者

 

『あんたを殺した結果、ユーフィーが元に戻らなくなりました、は困るからな』

 

「なるほど。確かにただ殺されないって言われるよりはよほど信用できますね」

 

276:名無しの転生者

 なるほど

 

277:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんが元に戻らないと困る(元に戻せるなら殺す)

 

278:名無しの転生者

 つまりそういうことだよなぁ……

 

279:名無しの転生者

 元に戻す手段がわかる前にイッチはめちゃくちゃ鍛えないといけなくなったな

 

280:名無しの転生者

 鍛えないといけないのは元からでしょ

 

281:名無しの転生者

 聖賢者、とか名乗ってたっけお義父さん

 賢者とか名乗ってるのにこの辺りの現象に検討ついてないのか

 

282:名無しの転生者

 聖なる知識しかないんでしょ

 邪法相手には無力なのかもしれない

 

283:名無しの転生者

 人間を武器に変えてしまえるって、相手の無力化方法としては邪道だけど強いもんな

 

284:名無しの転生者

 武器は使う相手がいないと無力だからな

 

285:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃん……というか人間が永遠神剣になるのは初めてだ、ってことはこれでもう確定だな

 賢者が何も知らないなら、誰も知らないでしょ

 

286:名無しの転生者

 いやでもこの場合、ユーフォリアちゃんがもともと永遠神剣だったって可能性もあるんだよなぁ……

 前例がないっていうのが「人型として生まれた永遠神剣」の可能性を消しきれない

 

287:名無しの転生者

 でも、生まれた時に『悠久』っていう永遠神剣と契約してたって話じゃなかった?

 永遠神剣が永遠神剣と契約できるもんなの?

 

288:名無しの転生者

 前例がないって言えば、エターナルは永遠神剣と契約してなるはずなのに生まれつき、っていうのも前例がないよね

 

289:名無しの転生者

 それはあれでしょ

 聖賢者じゃなくて性賢者なんでしょ

 性賢者だから、エターナル間でも子供を産むための知識とかは蓄積されてるってパターン

 

290:名無しの転生者

 いや草

 

291:名無しの転生者

 とんでもない罵倒で草

 

292:名無しの転生者

 これはユーフォリアちゃんに怒られても仕方ない……まさか、ユーフォリアちゃんに怒られることが目的で!?

 

293:名無しの転生者

 ただの条件反射な発言でしょ

 

294:名無しの転生者

 

『まずは、ユーフィーの状態を見せてもらってもいいか?』

 

「え、あ、はい」

 

295:名無しの転生者

 イッチ、めっちゃキョドッてる

 

296:名無しの転生者

 そりゃ、突然の父親との邂逅だもの

 

297:名無しの転生者

 これはユーフォリアちゃんをさらって帰っていく流れですね

 

298:名無しの転生者

 賢者さんのお手並み拝見ですね……

 

299:名無しのエターナル

 

『……なるほど』

 

「何かわかりましたか?」

 

『うちの剣曰く、これは永遠神剣同士の吸収に似てるってさ』

 

300:名無しの転生者

 ……は?

 

301:名無しの転生者

 え、マジでなんかわかったの

 

302:名無しの転生者

 これは性賢者じゃなくて聖賢者ですわ

 

303:名無しのエターナル

 

『多分、”悠久”がユーフィーを構成するマナ全てを取り込んでいるっていうのが一番言葉にした時に近しい、らしい』

 

「……永遠神剣に取り込まれて意識って残るものなんです?」

 

『普通はないだろうな。永遠神剣同士でも、取り込まれた側は”負けた”側だ。当然、意識は消える』

 

304:名無しの転生者

 なら、なんでユーフォリアちゃんは残ってるんだろうな

 

305:名無しの転生者

 近いってだけだから根本的に違うんでしょ

 

306:名無しの転生者

 永遠神剣の吸収……やっぱりユーフォリアちゃんは永遠神剣なんだ!

 

307:名無しの転生者

 お前、真上のレス見ろよ

 近いってだけだって言ってるだろうが

 

308:名無しの転生者

 まあ武器だろうと可愛い女の子なら恋愛対象でしょ

 

309:名無しの転生者

 意思を持って人の形にもなれる相手を武器としてだけ扱うのはただの鬼畜の所業

 

310:名無しのエターナル

 

『ただ基本的に永遠神剣は、一度吸収されると次に砕いても、また別の永遠神剣になる』

 

「分離は簡単じゃないってことですね」

 

311:名無しの転生者

 うーん、やっぱそう簡単にはいかないかぁ

 

312:名無しの転生者

 でも、やるべきことは見つかってきたな

 

313:名無しの転生者

 さすが賢者というべきか

 

314:名無しの転生者

 パパさんの本気はすごい

 

315:名無しの転生者

 でもイッチ、学園祭終わるまでその手段を探しにいく気がないんですけどね

 

316:名無しの転生者

 知られたらキレてしまうかもしれん

 

317:名無しの転生者

 名前と顔立ち、髪色的に日本人の可能性もあるから、もしかしたら少しくらいは同情してくれるかもしれない

 

318:名無しの転生者

 でもユーフォリアちゃんに比べればゴミ程度の優先度

 

319:名無しの転生者

 そりゃ当然でしょ

 むしろ娘よりもどこの誰ともしれない男を優先したらそっちの方がやばい

 

320:名無しの転生者

 というか時深さん、ニコニコ見守ってるだけで全く喋らないな

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、一位の永遠神剣が人の姿を取ることができた、とか言ってたのって本当なんですか?」

 

 ユーフォリアの父親が帰った直後、逢夢が時深に問いかけたのは、彼が言い残した言葉だった。

 どこか忌々しいものを思い出したかのような顔。それは、聞いてはいけないと察するには十分すぎる判断材料。

 だから、その問いかけを口にしたのは翌日のこと。

 

「そうですね。カオスとはまた別の、私が所属している組織は人型の永遠神剣を祀っていました」

 

「なら、アポとか取れます? その人に話を聞いてみるのが一番手っ取り早そうですけど」

 

 別に、それでユーフォリアが元どおり、エターナルに戻るわけではない。

 あくまで、永遠神剣になってしまったユーフォリアが永遠神剣のまま人の形に変わるだけ。

 けれど、形だけでも人に戻れるかもしれない、というのは十分以上にやる気を出す理由になった。

 

「いえ、無理でしょうね」

 

「えっと、それはなぜっていうのは聞いても?」

 

「単純に、もう私たちではあの方がどこをうろついているのかわからない、というのが大きな理由ですね。一応、こちらでも探してみますが、そこまで期待をされない方がいいかと」

 

「なるほど……じゃあ、俺たちが自分で探すしかないわけですね。一応、名前とか見た目とか教えてもらってもいいですか」

 

「ええ、それはもちろん」

 

 聞いた話では、かつてユーフォリアがこの世界に閉じ込められていたその神剣を解き放ったらしい。

 黒い髪の女性だという。見た目で一番近いのは、去年の物部学園異世界旅行事件の際、学園に協力してくれたルプトナという女性。

 

「写真とかは特にないので、そちらの方にあって確認しておくのがいいかと。確かあの方はナルカナ様の関係者……とは言っても契約している神剣は第三位以上ではないので覚えていないのでしょうが」

 

「コピーでも、エターナルじゃないと記憶が消えるんですね……」

 

「ええ、そうです。エターナルであるかどうかは血よりも重要なんですよ」

 

 その神剣の名前は『叢雲』。人型の時の名前は、ナルカナというらしい。

 ユーフォリアを元に戻すため、何をすればいいのかわからない状況から一歩前に進んだ。その実感に思わず笑みがこぼれる。

 

「まあ、もしも見つかるようなことがあったら連絡しますよ」

 

「お願いします」

 

 そう言って去っていった時深を見送り、ぎゅっと強く拳を握った。

 思い返すのは、ユーフォリアの父親が現れた時のこと。

 

『どうかしたんですか……?』

 

 そこに、何か不穏なものを感じ取ったのか、脳裏に響く困惑の声。

 

「ユーフィーの親父さん、すごかったな」

 

『……? はい、そうですね』

 

「あれがエターナルの本気ってやつなのかね?」

 

『パパの本気はもっとすごいですけど……』

 

「……そっか。じゃあ、もうちょい俺も頑張らないとな」

 

『頑張るのはいいことですよー。でも、まずは休みましょう。明日も学校なんでしょう?』

 

「気合い入れ直したところに現実見せるのやめて」




・ユウト
 今回、ユーフィーの話を聞いた直後は割とガチで殺す気だったことは間違いない。
 殺されなかったのは、時深と妻にユーフィーを元に戻す手段がまだ見つかってないと説得されたことが理由。別に鞘に変わってまおうと愛する娘に変わりないが、それはそれとして声を聞きたい気持ちはある。
 無論、主人公が悪人だったらユーフィーを置いておくわけにはいかないと即殺されてた。初見が学校を守ろうとしてるところだったこと、ユーフォリアと契約するに至った状況が状況だったので殺されなかった。契約した状況はまた後で出てくる。
 なお、同じ日本人かつ永遠神剣をまつわる事象に巻き込まれてしまったということでちょっとだけ親近感がある。ユーフォリアのことがなければ、日本関係でお話しして仲良くなれた可能性がある。


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2スレその4

600:名無しのエターナル

 いえーい、みんな見てるー?

 今、みんなの大好きなユーフォリアちゃんは俺の隣でー

 

 異世界に来てまーす!

 

601:名無しの転生者

 おい

 おい!

 

602:名無しの転生者

 お前、学園祭までは世界を移動しないって言ってただろ!

 

603:名無しの転生者

 学園祭に参加するっていう目的はどうした!

 

604:名無しの転生者

 チャラ男……許せねえ……俺の彼女を寝取ったあいつだけは……!

 

605:名無しの転生者

 前世で寝取られた挙句に元カノに殺された兄貴が来た

 

606:名無しの転生者

 え、何その兄貴……

 

607:名無しの転生者

 名前の通りでしょ……悲惨すぎる……

 

608:名無しの転生者

 イッチ、これはさすがに……

 

609:名無しのエターナル

 あ、うん……すまん……さすがに不躾だったか……

 

610:名無しのユーフォリア

 寝取りって何ですか?

 

611:名無しの転生者

 あー、その、なんて言ったらいいのか……

 

612:名無しの転生者

 愛し合ってる恋人が他の男に取られるってことかな……

 

613:名無しの転生者

 でも、恋人が寝取られるっていうけど、だいたい女性だよな

 男が寝取られた場合、だいたい浮気って言われる謎

 

614:名無しの転生者

 で、結局イッチは学園祭を放置してなんで別の世界に行ったの?

 またなんか起きたわけ?

 

615:名無しの転生者

 ガチギレお父さんがイッチを殺しにきたから逃げ始めた説

 

616:名無しの転生者

 イッチ、ユーフォリアちゃんに手を出したのか……

 

617:名無しのエターナル

 あ、ごめん

 ぷんぷん怒ってるユーフィーが可愛くて聞いてなかった

 

618:名無しの転生者

 は? 惚気か?

 

619:名無しの転生者

 お父さんに密告するぞ?

 

620:名無しの転生者

 イッチのおふざけに対する究極のカウンターきたな

 

621:名無しの転生者

 で、なんで学園祭放置したんだ?

 

622:名無しの転生者

 別の世界に移動したわけだし、もう学園祭にこだわる必要はないな

 

623:名無しのエターナル

 いや、それがそうでもないらしい

 

624:名無しの転生者

 は?

 

625:名無しの転生者

 別の世界に移動したらいたって証拠がなくなるんだから、こだわる理由ないでしょ

 

626:名無しの転生者

 まさかと思うけど異世界(地球)とか言い出すわけじゃないだろうな

 

627:名無しのエターナル

 いや、なんか世界って言葉が指し示してるのが違うって話

 俺がいた地球とか、いろんな世界をひとまとめにして世界って言ってるらしい

 

628:名無しの転生者

 意味わからん

 

629:名無しの転生者

 どういうこっちゃ

 

630:名無しの転生者

 ……なるほど?

 

631:名無しの転生者

 お、なんかわかった兄貴がいるっぽい

 

632:名無しの転生者

 つまりあれだな?

 動物園で例えると、イッチが出たのは地球って檻で、別の檻に移っただけ

 で、別の動物園に移ったわけじゃないから別の世界判定は食らってない、と

 

633:名無しの転生者

 なるほどー……でもなんで動物園?

 

634:名無しの転生者

 ケモナーなんでしょ

 

635:名無しの転生者

 わかりやすい説明なんだけど、何か腑に落ちない

 

636:名無しの転生者

 とりあえずケモナー説明兄貴ありがと〜

 

637:名無しの転生者

 で、イッチは何しに別世界に飛んだんや

 

638:名無しの転生者

 学園祭の準備面倒くさくなって逃げたんでしょ

 

639:名無しの転生者

 最後の学園祭の思い出(別世界渡航)

 

640:名無しの転生者

 イッチのクラスの出店は別の世界を体験(ガチ)させてもらえるってマジですか!?

 

641:名無しのユーフォリア

 >>640

 その案、いいかもしれない

 

642:名無しの転生者

 落ち着けイッチ、それはどうあがいてもクラスの出し物じゃない

 

643:名無しの転生者

 ほ、ほらイッチ!

 早くなんでそんなところにいるのか説明を!

 

644:名無しのエターナル

 いや、ほら

 時深さんが人型になれる永遠神剣について説明してくれたでしょ

 とりあえずその人に似てるっていうルプトナさんを探しに来たのよ

 

645:名無しのユーフォリア

 ルプトナさんはいい人ですよー

 こんな世界に住んでたのは初めて知りましたけど

 

 えっと、画像はこう、ですか?

 

【画像】

 

646:名無しの転生者

 わあお、超大森林

 

647:名無しの転生者

 これはあれだな、精霊とか住んでそう

 精霊とかいるのか知らないけど

 

648:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃん、ルプトナさんとやらを知ってるのね

 

649:名無しの転生者

 まあ長いこと生きてるらしいし、それくらいは知ってても不思議じゃない

 

650:名無しの転生者

 でもこれ、どうやって探すの?

 どう見ても周囲一帯全部森じゃん

 

651:名無しの転生者

 そこはほら、フィーリング?

 

652:名無しのエターナル

 無茶言うな

 とりあえず、一旦飛んで人の多そうなところを探してみるわ

 

653:名無しの転生者

 てらー

 

654:名無しの転生者

 がんばえー

 

655:名無しの転生者

 にしても、森の中に住んでると思しき人を空から探して見つかるものなんか?

 

656:名無しの転生者

 さあ?

 

657:名無しの転生者

 おま、俺たちが思っても言わなかったことを!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よい、しょおっ!」

 

 掲示板に浮かんだどう探すのかという困惑とは裏腹に、逢夢には探す手段のあてがあった。

 地を蹴り、大森林の上空にたどり着いた彼は、ミニオンを探り当てる時と同じようにマナを感知する第六の感覚を広げる。

 第一位の神剣の縁者であり、永遠神剣の契約者であるという事実。神剣と契約している以上はその肉体は物質ではなくマナで構成されているため、理論上はミニオンを探す時と同じようにして見つけられる。

 そう判断して、逢夢は探していたのだが。

 

(まさかミニオンが先に見つかるなんてなぁ……)

 

『でも、運が良かったです』

 

 ミニオンの残滓、黄金の粒子を振り払いながらユーフォリアの言に頷く。

 背後に意識を向ければ、唖然とした様子のおそらくは現地人と思しき存在。

 動かないならやりやすい。ミニオンと、それに襲われそうになっていた現地人の間に降り立った新米エターナルは、ミニオンにのみ意識を集中させる。

 

(ユーフィー、後ろの人たちを任せてもいいか?)

 

『いいですけど……それだと、あたしはほとんど手出しできなくなりますよ?』

 

(わかってるけど、俺の感知能力から漏れた相手がいるかもしれないし。あ、でも一人で戦うのはちょっと怖いし口出しはしてくれると嬉しい)

 

『はいっ。そういうことなら任せてください!』

 

 手中の相棒を媒介に、流し込んだマナをオーラフォトンに練り上げて刃と変えた。

 ユーフォリアが手を加えたオーラフォトンに比べればあまりにも雑な刀身。

 ミニオンと戦うなら問題はないが、エターナルと戦えば一瞬で砕ける程度の練度。

 

(要練習だな)

 

『帰ったらオーラフォトンで色々とやってみましょうね』

 

 頷き、もう一つ別口でオーラフォトンを活性化。

 身体中に沁み渡ったマナが永遠神剣により強化された基礎能力をさらに強化する。

 神剣魔法、インスパイア。オーラフォトンの配分の入れ替わりが身体強度(防御力)の低下と、身体能力の上昇を引き起こす。

 地に亀裂を生み出しながら飛び出した先にいるのは、赤、黒、緑の三体のミニオン。

 

『防御は物理(マテリアル)じゃないとダメです!』

 

(攻撃は!?)

 

『魔法ならなんでも! 物理なら強めのじゃないと防がれます!』

 

(わかった!)

 

 迎撃するように飛び出してきた緑の少女を見て、ユーフォリアが叫ぶ。

 大自然を具現する属性たる緑のミニオンが振るう槍には、稲妻が迸っている。

 常人であれば槍を受け流す技量があれど雷に焼かれ死ぬ一撃。

 それを前にして、刃を構築するオーラフォトンの密度を高めて刃を合わせる。

 

 やられる前にやればいい。

 そんな思考が透けて見える一撃の結果は──槍を弾くだけに終わった。

 

(っ……!)

 

『大丈夫ですか!?』

 

(武器ごと切り裂くつもり、だったんだけどなぁっ!)

 

 顔をしかめた原因はわずかに走った痛み。体表に纏ったオーラフォトンを突き抜けてきたわずかな雷。

 攻撃偏重で防御がおろそかになった状況で、なおその程度のダメージしか食らっていないというべきか。

 あるいは、エターナルとミニオンという差がありながら、攻撃に傾倒してなお倒しきれていないというべきか。

 

 態勢を立て直したのは逢夢が先。

 振るった剣は圧縮された空気の壁が間に挟まったことで防がれ、形を持たないオーラのダメージのみを与えて相手を弾き飛ばす。

 

「マナよ、オーラの嗎と変われ。全てを威圧する咆哮を轟かせろ」

 

『オーラフォトンハウリング!』

 

 開いた距離が埋められるよりも早く、展開したのは白の魔法陣。

 マナを薪として焚べ、駆動させた幾何学模様から放たれたのはオーラを宿した振動。

 それを一身に受けたのは、魔法陣を見た瞬間に緑と入れ替わるように前に出た赤のミニオン。

 

『赤は魔法特化です!』

 

(なら、攻撃は物理かな!)

 

『はい!』

 

 緑とは逆にオーラの一撃は防いだが、物理的な振動には耐えきれず吹き飛ばされた赤に向かって走る。

 迎撃のために振るわれるのは、二本の剣の柄を連結させたかのような双刃。

 先の経験か、オーラフォトンの濃度は気持ち程度ではあるが防御が強めの感覚で。

 

「うぉ、っとぉ!?」

 

『ガードです!』

 

「無茶言うなぁ!」

 

 柄の部分で回転させながらの連撃。戦闘経験が非常に少ない逢夢ではその動きにしっかりと対処できるはずもなく。

 片手で数えられる程度の回数を弾いたところで、ついに間に合わず胴体に向けて薙ぎ払いがやってくる。

 体表を覆うオーラとミニオンが持つ下位の永遠神剣が接触し、わずかに火花を散らす。

 

(ユーフィー、ありがとう)

 

『え、あたし何もしてませんよ? おにーさんが自分で防いだんだと思いますけど……』

 

(マジか。防御の方が得意なのかね俺は)

 

 一切のダメージを受けなかったことに驚きながら、それならばと一気に踏み込む。

 その足元で弾けたのは、黒属性の衝撃。

 態勢を崩したところに迫る赤の剣はまたもやオーラが防ぐが、その距離のまま魔法によって具現された炎が爆発する。

 

「熱、いんだよっ」

 

『気をつけてください。黒属性はこっちの動きを阻害してきます』

 

(それはもうちょっと早く聞きたかったかなぁ!)

 

『ご、ごめんなさーい!』

 

 爆風に押される形で後ろに下がり、軽口を叩きながら三体のミニオンをもう一度魔法陣の展開。

 動かれれば阻害されると言うなら、動かさなければいい。

 集中、構築。再度の振動。範囲は三体全員を包み込むように。

 腐ってもエターナル。力任せに雑な構築で撃っても何も手を打たなければ数秒後にはマナとなって消滅する程度には威力を内包している。

 

(このまま磨り潰してやる……!)

 

 オーラフォトンを射出する程度の簡易な魔法ならばともかく、複雑な魔法陣を展開して、となると逢夢は維持するのに精一杯。

 けれどミニオンもまた、死なないように防御する以上の行動は不可能。

 もはやあとは我慢比べ。

 

『……! おにーさん、誰か来ます!』

 

(このタイミングでかよ!)

 

 そのはずだったのだが、ユーフォリアの言葉で我慢比べをしている余裕はなくなった。

 感知できるということはマナを宿す存在であり、どちらに対する増援なのかわかったものではない。魔法を維持している現状、オーラフォトンバリア以外の防御はない。

 一体でも減らさねばと即座に魔法を解除し、一気に駆け出す。

 

『……来ます!』

 

 けれどそれも間に合わない。

 空から降って来た何者かは、ミニオンへと着弾する。

 駆け出した足を止め、敵の一体と入れ替わるようにして戦場に現れた少女は、ミニオンの一種ではなかった。

 では一体何者なのか。その疑問の答えは、ユーフォリアと後ろの一般人が持っていた。

 

「ルプトナさん!」

 

(えーっと、あの子が探してた……?)

 

『そうですよ。向こうはもうあたしのことは覚えてませんけど』

 

 永遠神剣の気配は、その靴から。当然、攻撃方法も足技。

 素早く残りのミニオンを蹴り飛ばし、逢夢と後ろの一般人がその瞳に映した。

 

「もしかして、君が守ってくれてたの?」

 

「そうだけど……」

 

「なら、多分味方だね。話はあいつらを倒した後でしよっか!」

 

「えぇ……それでいいのか?」

 

「いいのいいの。僕のいないところで勝手に森に入った彼らにお説教するにしても、命あっての話だからね。守ってくれてたってだけで十分信じる理由になるよ!」

 

 じゃ、片方お願いね。

 そんな言葉を残して、緑のミニオンに狙いを定めている。

 消えた一体は黒。残る赤は逢夢が相手をするようだ。

 

(……とりあえず、やろっか)

 

『はい! パパッと片付けちゃいましょう!』



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3スレ

これを更新するときにはどうなってるのかわかりませんが、昨日の夜の段階でランキングに載ってたのが嬉しいのでストックを使用しての更新です。
毎話書き終えた後に次の話が更新されるまでにその次の話書いてるので実質これでストックゼロ。

原作後にすると敵にできるネームドが非常に少ない


1:名無しのエターナル

 ようやくルプトナさんの勘違いが解けた……

 

2:名無しの転生者

 スレ建て含めておつおつー

 ルプトナさんとやらに一目惚れしたと勘違いされるイッチは笑えたぜ

 

3:名無しの転生者

 勘違い解けるまで結構かかったな

 

4:名無しの転生者

 でもなんでイッチ勘違いされてしまったのん?

 

5:名無しの転生者

 ルプトナさんの名前を呆然と呟いたからでしょ

 まるで美人が目の前に出てきてつい見惚れた挙句聞いた名前を口にするシーンそのものだったぞ

 

6:名無しのエターナル

 告白もしてないのに振られる経験とかもう二度としたくないわ

 

7:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんにも勘違いされてたな

 

8:名無しの転生者

 告白そのものは否定されず、けどエターナルだから報われないよって止めるユーフォリアちゃんには年上の貫禄を感じた

 

9:名無しの転生者

 >>8

 は? ユーフォリアちゃんは俺たちよりも年下だが?

 皆の妹だが?

 

10:名無しの転生者

 でもイッチ、確かにもう普通の恋愛するのは無理なんだよな……

 

11:名無しの転生者

 どれだけ恋愛したくても最後には忘れ去られることが決まってるからね

 

12:名無しの転生者

 イッチの恋愛対象になれる相手

 ルプトナさんとよく似てるから超美人であることが確定しているナルカナ様

 いつもお世話になってる時深さん

 一心同体の相棒なユーフォリアちゃん

 

13:名無しの転生者

 でもナルカナ様、自分で「この世界で全ての命の頂点に君臨する超絶美少女」だとか、「美貌と美しく高潔な心を持っている」とか言ってるんでしょ?

 もうこの時点でやばい感じがひしひしと

 

14:名無しの転生者

 挙げ句の果てには「あらゆる生命は自分に敬意を払い、不遜な輩は大罪人として処罰されるべきである」とか言ってるあたり傲慢よな……

 

15:名無しの転生者

 一番まともなのは時深さんかな?

 

16:名無しの転生者

 でもあの人、聖賢者に恋慕光線発射してたよ

 

17:名無しの転生者

 え、うっそだろお前

 

18:名無しの転生者

 あの人、ずっと笑顔だっただけじゃん

 

19:名無しの転生者

 あー、でもなんか笑顔が綺麗だった気がする

 

20:名無しの転生者

 じゃあ、イッチの恋愛は相手がいないわけだ

 

21:名無しの転生者

 ……ユーフォリアちゃんは!?

 

22:名無しの転生者

 イッチが前にユーフォリアちゃんは甘やかす対象だって言ってた

 

23:名無しの転生者

 妹みたいな感じなんでしょ

 

24:名無しのエターナル

 お前ら……俺が魔法使い確定なのはともかく面白がるのもいい加減にしろよ

 いい加減にしないと……

 

25:名無しの転生者

 お? しないとどうするんだ?

 イッチは俺たちに何かできるわけじゃないだろ?

 

26:名無しの転生者

 何かやれるもんならやってみやがれ!

 

27:名無しのエターナル

 次のユーフィーの手入れででろでろになるまで甘やかす

 

28:名無しのユーフォリア

 え、えええええっ!?

 や、やめてくださいよー!

 

29:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんが全力の拒否反応を示している

 

30:名無しの転生者

 これは逆に気になってくるぞ

 

31:名無しの転生者

 でろでろに甘やかすなら、その時の写真もくれ

 

32:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんが嫌がってるのに見ようとするとか、なかなかの勇者だな

 

33:名無しのユーフォリア

 あたし、この人たち嫌いです!

 

34:名無しの転生者

 がーん!

 

35:名無しの転生者

 しょ、ショック……

 

36:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんに嫌われたとかもう生きていけねえ……

 

37:名無しの転生者

 お前ら、自分の世界に楽しみねえの?

 

38:名無しの転生者

 この掲示板に一日中張り付いてイッチの動向を見守れるような奴らがリア充してると思うか?

 

39:名無しの転生者

 ……思いません

 

40:名無しの転生者

 >>38

 言ってはならんことを言ったな

 法廷で会おう!

 

41:名無しのエターナル

 というわけでユーフィーを甘やかします

 

42:名無しの転生者

 俺たちはユーフォリアちゃんってわかってるからいいけど、端から見たら鞘を愛でる異常性癖者よなイッチ

 

43:名無しの転生者

 突如目の前で武器を愛で始めるイッチを見せつけられるルプトナさんの心情や如何に!

 

44:名無しの転生者

 もうルプトナさんから逃げ切ったって言ってるだろ!

 

45:名無しの転生者

 でも、ルプトナさん以外でも倒錯してるように見えるんじゃ……

 

46:名無しの転生者

 剣にしか欲情できないイッチ……?

 

47:名無しのエターナル

 ユーフィー相手に欲情はしないが?

 前にも言ったがこの子は甘やかすべき国宝であってそういう対象として見るのは世界が殺しにかかってもおかしくないんだが???

 

48:名無しの転生者

 前よりも過激になってて草

 

49:名無しの転生者

 前は甘やかしたいって言ってただけでしょ! なんで国宝になってんの!

 

50:名無しの転生者

 ナルカナ様と同レベルのこと言い出してる……

 

51:名無しの転生者

 自分じゃなくてユーフォリアちゃん相手なのはまだまと……まとも……?

 

52:名無しの転生者

 イッチ、一週間後にはユーフォリアちゃん第一に動き出しそう

 

53:名無しの転生者

 何かしらの能力を使ってるって言われた方が納得いくレベルの入れ込み

 

54:名無しのユーフォリア

 ふにゃぁ〜

 

55:名無しの転生者

 なんか腑抜けた声が出てる

 

56:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんは可愛いなぁ!

 

57:名無しの転生者

 にしても、イッチはこんなにのほほんとしてて大丈夫なの?

 

58:名無しの転生者

 あーミニオンのこととかあるもんな

 

59:名無しの転生者

 人工的に作らないと発生しないのに、なぜかいろんな世界に大量にいるあれかぁ……

 

60:名無しの転生者

 確か、自分の世界を守るために防衛用に作ってるところもあるんだっけ?

 

61:名無しのエターナル

 ユーフィーが言うにはそうらしいぞ

 でもそれがどうかしたのか?

 

62:名無しの転生者

 ほら、ルプトナさんが昔戦ってたミニオンを作ってたっていう集団

 そいつらが動いてないってなったら、どっかの世界から偶然流れ着いたパターンとかあるかなって

 

63:名無しの転生者

 あー、イッチがルプトナさんに会いに行った世界にもいたってなると地球以外にも手を伸ばしてるって考えるよりもそれぞれの世界にミニオンを作ってる奴がいるって考える方が普通か

 

64:名無しの転生者

 まあ、イッチはそこまで関わらんって言ってしまえばそうなんだけどな……

 

65:名無しの転生者

 学園祭終わったら出ていくわけだしな

 その世界のことはその世界の連中に任せるのが基本や

 

66:名無しの転生者

 そういや、今更だけどイッチがかばった一般人だけどさ

 

67:名無しのエターナル

 ……? あの人たちなら終わった後に村の人たちに怒られてたぞ

 なんか木々の伐採を勝手にやろうとしてたらしいな

 それがどうかしたのか?

 

68:名無しの転生者

 いや、気のせいだったらいいんだけど

 怒ってる人の中にイッチのお隣さんにめっちゃ似てる人いなかった……?

 

 

 

 

 

78:名無しのエターナル

 帰ろうと思ったけどなんかミニオン出たみたいだし行ってくるわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミニオン、と一口に言ってもその種類は多種多様。名前が違うから別の存在だと思ったら、実は世界が違ったから名前が違うだけで普通のミニオン、なんてこともある。

 ミニオンなのか、ミニオンではないのか、名前が違うだけで実際はミニオンなのか。見た目が同じである以上、その区別はそう簡単にはつけられない。

 今、逢夢の目の前にいるのは、彼からしてみればミニオンの姿をした怪物だった。

 

「こいつら強くないかっ!?」

 

 体を覆っているのは、以前ミニオンと戦った時と同様練り上げられたオーラフォトン。

 それが、接触と同時に砕かれるのは初めての経験。ユーフォリアのインターセプトにより密度の上がったバリアには弾かれたが、ただの雑兵ではないと驚愕する。

 口をついて出た疑問への回答は、相棒たる少女の知識の中にあった。

 

『この子達……もしかしてエターナルミニオン? でもなんでこんなところに?』

 

(なにか知ってるのか?)

 

『名前の通り、エターナルの作ったミニオンです。エターナルが放置していったのか、近くに作った張本人がいるのかはわかりませんけど……』

 

(ってことは普通のミニオンよりも強いのかな。俺じゃ勝てない?)

 

『……多分』

 

 それを言ってしまえば永遠神剣(ユーフォリア)なし、自分一人でどうにかなる相手などいたことないのだが。

 彼女の力を借りても勝てないのであればしょうがない。脱力すると同時に、肉体の支配権が入れ替わる。今や逢夢の体で彼の自由になる部分などない。

 永遠神剣による強制力。つい数日前、契約したばかりの時にも行われたというのに感じたのは懐かしさ。

 ここ数日色々とあったしなぁ、という思いを振り払い、体の動きに意識を集中させる。

 

(うん、なら任せてもいいかな?)

 

『はいっ』

 

 マナの捻出、オーラフォトンへの変換、身体への浸透。

 身体強化に関わる全ての過程を桁違いの練度で行ったユーフォリアは、逢夢の体を操作して走り出す。

 接敵するのに必要な距離は、強化された脚力で二歩分。一歩目を埋めた瞬間、ミニオンもまた前に出た。

 

『どいてください!』

 

 大気を圧縮しながら身に纏い、進路を防ぐ壁となった緑属性のミニオン。 

 それを前に足を止めることもなく、放たれたのは威力を伴った(オーラ)。膨大な熱量を宿した光は物理的な壁では防ぎきれず、森林に溶け込む緑色を一瞬で黄金へと還元する。

 緑のミニオンが稼いだ時間は一手にも満たない時間。けれど、視界一面に広がった黄金を抜けた途端、眼前に広がっていたのは赤の魔法陣。

 

『ちょっと気合入れてくださいね。結構動きますからっ』

 

(ああ、存分に動いてくれていいよ。死ななきゃ安いもんだ)

 

 ユーフォリアの言葉の直後、魔法陣が起動する。

 展開された魔法は正面ではなく頭上。範囲内全てを焼き尽くす雨のような炎(フレイムシャワー)が咄嗟のタイミングで放ててしまう。

 エターナルが生み出したという経歴に違わず、魔法一つ取ってもこれまでの雑兵とは戦闘能力を比べることすら烏滸がましい。

 

 けれど、あくまでエターナルが生み出す戦闘員。本物のエターナルに敵う道理もない。

 

 炎を構築するマナを把握し、遠回りながらも炎を一切浴びることのない、小さな隙間を通り抜けながらミニオンへと迫る。

 地上に激突、粉砕された炎塊が飛び散り、火の粉として降りかかるが、そちらは体表を覆う光輝が弾く。

 動きを封殺するように周囲に落ちた炎が壁となれば、鞘を振り抜き光の刃を飛ばして壁を切り裂いた。

 

『うぅ……こういうの、ママなら青属性の魔法で止められるんですけど……』

 

(青属性の魔法……?)

 

『はい、青属性は赤と緑の属性の魔法を妨害できるんですよ』

 

(なるほど、ちょっと試してみようか)

 

『えっ』

 

 感覚としては、以前時深に対して行った神剣魔法の解除をイメージ。

 鞘を通して周囲のマナに働きかけ、その制御を奪い取り、魔法に消費される動きを沈静化。

 

「こう、かな?」

 

『おおー!』

 

 ユーフォリアが両親から受け継いだ二つの属性。そのうち、普段使用する白ではなく青の力に接続する。

 青の力を乗せて、以前のように行われたマナの鎮静化を実行すれば、周囲の温度が下がり青々とした樹木が氷樹に変貌を遂げた。

 

『おにーさんの方があたしよりも青属性の使い方うまいですねー』

 

(それなら良かった。全部任せるだけよりは何かできるところがあった方が気が楽だ)

 

 魔法が止められたことを理解し、再度魔法を放とうとする赤の腕が凍りつく。

 行動阻害もできないのであれば、ミニオンたちに為す術などあるはずもない。

 

 数分後、そこにミニオンのいた痕跡は消えゆく最中の黄金のみだった。




ようやく主人公の戦闘スタイル出せた。
主人公が青属性を使ってインタラプトタイミングに相手の魔法を封殺し、その間にユーフォリアがバッタバッタとなぎ倒す。
ダストトゥダスト? あのぶっ壊れ、守護神獣のブレスっぽいのに、守護神獣出せない世界でどうやって使うんだろうね?


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3スレその2

ランキングから消えたのでちょっとホッとしたような残念なような


120:名無しの転生者

 イッチ、いつになったら家に帰れるんだろうな

 

121:名無しの転生者

 もうエターナルになってしまったから家はないと行っても過言ではないのでは?

 

122:名無しの転生者

 いやあ、さすがにまだ家はあるでしょ

 痕跡消える移動はまだ行ってないって言ってたし

 

123:名無しの転生者

 エターナルミニオンとやらの残りを探してるんだったか

 

124:名無しの転生者

 ルプトナさん一人でどうにかなったりしないの?

 

125:名無しの転生者

 どうにかなるんだったらユーフォリアちゃんもそこまで探さないとってならないでしょ

 

126:名無しの転生者

 イッチ、これもう学園祭の準備に参戦できないのでは……?

 

127:名無しの転生者

 まだ学園祭で何をやるのかすら決まってないから、早めにこの案件を済ませれば普通に間に合うと思うぞ

 

128:名無しの転生者

 そもそもこの案件ってどうやったら解決なの?

 

129:名無しの転生者

 ……さあ?

 

130:名無しの転生者

 一番わかりやすいのはミニオンを作ったやつをぶっ飛ばしてしまうことだな

 

131:名無しの転生者

 でも、エターナルミニオンとやらがいるってことはエターナルもいるってことだろ?

 イッチ、勝てる要素なくない?

 

132:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんがイッチを使えばどうにかってところだろうな

 

133:名無しの転生者

 まあ結局、イッチは学園祭が終わるとその世界を出て行くんだから気にする必要はないっちゃないんだが

 

134:名無しの転生者

 ついでに言えば時深さんもいるからな

 イッチが一人で何かしようとするよりもあの人に任せる方が安心できる

 

135:名無しの転生者

 異世界渡航も、無事に帰ってきてることを考えると永遠神剣持ってる奴いそうだから気にする必要は本当にないんだよな……

 

136:名無しのエターナル

 そうなんだけどなぁ……

 一応友人もいるので見捨てるのはちょっと

 

137:名無しの転生者

 まあ、イッチの人生はイッチのものだからな

 イッチが見捨てたくないっていうなら好きにすればいいし、イッチがエターナルミニオン探すの面倒だからやめたいっていうなら帰ってもいい

 俺たちはそれに何か言うつもりはあっても行動を変える権利はない

 

138:名無しの転生者

 俺たちは許そう……というか許すことしかできないけど

 だが、ユーフォリアちゃんが許すかな!!

 

139:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんとの付き合いは長くなるんだからな

 できる限り機嫌をとっておくのは悪いことではないぞ

 

140:名無しの転生者

 何せ付き合いはイッチかユーフォリアちゃんが死ぬまでになるからね

 

141:名無しの転生者

 イッチは早く契約解除の方法を見つけてユーフォリアちゃんを解放しろ

 

142:名無しのエターナル

 契約解除の方法はあるぞ

 ユーフィーが砕けると契約してない状況になる

 

143:名無しの転生者

 許されるわけないだろ!

 

144:名無しの転生者

 死ぬならイッチだけで行け!

 

145:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんを生から解放しようとするな!

 

146:名無しの転生者

 イッチがそんなこと許すわけないだろ!

 こいつユーフォリアちゃんを国宝呼ばわりしてるんだぞ!

 

147:名無しのエターナル

 そろそろユーフィーが死んだら世界の損失なんじゃないかなって思い始めてる

 

148:名無しの転生者

 どんどん過激になってる

 

149:名無しの転生者

 でも気持ちはわかってしまうのが悔しい(ビクンビクン)

 

150:名無しの転生者

 ところでこれを見てるだろうユーフォリアちゃんの反応は?

 

151:名無しの転生者

 今、ユーフィーはエターナルミニオンを探すのに集中してて俺は暇なので……

 

152:名無しの転生者

 お前も探せよ!

 

153:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんにばっかり負担をかけるな

 

154:名無しの転生者

 イッチ、そろそろ本当に鍛えないといけない時期じゃないんか?

 

155:名無しの転生者

 これからもずっと戦闘をユーフォリアちゃんに任せるんか……

 

156:名無しの転生者

 というか、他の永遠神剣の契約者って戦闘はどうしてるんだろうな……

 イッチはユーフォリアちゃんが手を貸してくれてるけど、永遠神剣って皆こんな感じなのか?

 

157:名無しの転生者

 前どっかで永遠神剣は本能のために洗脳して乗っ取るとかなんとか言ってなかった?

 

158:名無しの転生者

 スレ住民が知ってるってことはどこかで言われてたんやろな

 

159:名無しの転生者

 でも、そう聞くと確かに誰も何も教えてくれないのにどうやって戦うんやろうなぁ……

 

160:名無しのエターナル

 ユーフィーのパパさんは訓練してくれる人がいたらしいぞ

 この世界の住人は、前世の記憶が勝手に動かしてくれるらしい

 

161:名無しの転生者

 前世

 

162:名無しの転生者

 つまりこの掲示板内にイッチ世界の住人がいる可能性……?

 

163:名無しの転生者

 前世での戦いの記憶かぁ

 

164:名無しの転生者

 イッチだけハードモードすぎんか?

 前世が勝手に体を動かしてくれる連中とか、訓練積んでから戦いに出る連中と違って

 

165:名無しの転生者

 でも初回はユーフォリアちゃんが動かしてくれたし……

 

166:名無しの転生者

 というかユーフォリアちゃんがいるだけで最高難易度にしても全く足りんわ

 

167:名無しの転生者

 初手エターナルじゃないだけマシだろ

 

168:名無しの転生者

 イッチへのあたりが強い

 

169:名無しの転生者

 一生涯のパートナーで超良い子いるし、多少はね

 

170:名無しの転生者

 出会ったばかりの女の子と結婚よりも強い契約を結ぶって言われるとイッチが尻軽に思えてくるな

 

171:名無しの転生者

で、結局イッチは帰れそうなの?

 

172:名無しのユーフォリア

 探せる範囲では見つからなかったので、また今度探しに来ようかなって

 

173:名無しのエターナル

 あいあい

 ユーフィーがそうしたいのなら付き合うだけですよ

 

174:名無しの転生者

 イッチとユーフォリアちゃんはここで会話しなくても普通に会話できるでしょ!

 そっちでしなさい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古今東西、物語では地球と別の世界の交流が描かれることがある。

 では、それが現実となった時、一体どんな壁が立ちふさがっているのか。

 常識、言語。そういった生活に関わるものから、気にしなければわからないような小さなものまで。

 それらは、個々人の努力によって歩み寄ることができる程度の差異。違う国の人間と接するのと何も変わらない。

 

 世界が違うということは、人間ではどうしようもない断絶だって当然ある。

 

「……なんか学校行くのもすごく久しぶりな気がする」

 

 地球と異世界の間に広がる、時間の流れの差というのは、そういったどうしようもない断絶の一つだった。

 

 異世界で何日も過ごしていたのに、地球では数分しか過ぎていない。

 逆に地球で一週間過ごしていたら、異世界で子供だった人間が親になっている。

 そういった事例だって、今はまだ見つかっていないだけで当然あって然るべきだろう。

 

 逢夢も、すでに数日異世界で過ごしたのに、地球時間では翌日にすらなっていなかった。

 

「そして時間はあったのに学園祭で何をするのかの案が全くねえ……」

 

『しょうがないですよ。やることはたくさんだったんですから』

 

(いや、でもなぁ。最後の方はユーフィー任せで考える時間もあったのに何も思い浮かんでないっていうのは……)

 

『もうっ! そういうのは禁止です!』

 

 ユーフォリアが珍しく怒り、それ以上の思考の余裕を奪う。

 キィン、と頭の中に響いたのは強制力の本来の仕様。肉体の操作を奪い、精神を侵食する力。

 けれどそれらの使用は故意ではなかったのか、すぐに消失する。

 

『あっ……ごめんなさい……』

 

(いいよ、別に気にしなくて。むしろ、ちょっとぐるぐるしてた思考も解けたし助かった)

 

『その……本当にもう少しくらいは気楽に考えてもいいと思いますよ? どうしても思いつかないなら、あたしも考えるのは手伝いますから』

 

(うん、ありがとう。その時はよろしく)

 

『えへへ。あたしも今は一心同体なんですから。学園祭を全力で楽しむ為にも、お手伝いしますよ!』

 

 学園祭の楽しみとは、当日だけではない。

 事前の準備期間。何をするのかと話し合い、どうやって用意するのかと騒ぎ、そうして決まったものを作り出す過程。

 最後の学園祭なのだから、そんなどんちゃん騒ぎも楽しみたい、という気持ちは当然ユーフォリアにも伝わっている。

 

 だからその為にも、ミニオンを生み出してるやつをどうにかしないと。

 そんな決意を固めたところで、後ろから声がかけられた。

 

「おーっす」

 

「うーっす」

 

 声をかけてきたのはクラスメイト。追いついてきたタイミングでユーフォリアも察したのか無言になった。

 親友、というわけではないが友人という程度の立ち位置であるクラスメイト。

 

「なあ、逢夢。聞いたか? 最近、このあたりでドラゴンが見つかったらしいぜ」

 

「ドラゴン……」

 

「あ、信じてねえな」

 

「いや、異世界あるんだしドラゴンいてもおかしくねえだろ。むしろ、ドラゴン見つかったのに特に壊れてる場所ねえなって思っただけだよ」

 

「ほら、昨日だか一昨日だか立ち入り禁止になってた場所。あの辺りでドラゴン見つかったんだと」

 

「……あー」

 

 そのドラゴンを倒したのは逢夢……の肉体を使ったユーフォリア。

 なのでそういう意味ではよく知っているのだが、かと言ってそんなことを口にするわけにもいかない。

 

「んだよ、反応悪いな」

 

「いや、ドラゴンって食ったらうまいのかなって思ってな。うまいなら、ドラゴンの串焼きでも売れば学園祭で絶対目立てるぞ」

 

「いやいや、無理に決まってるだろ。まずドラゴン狩れねえよ」

 

「……だよなー」

 

「できたとしてもせいぜい、死んでるドラゴンを剥製にして展示するくらいじゃね? それも見つかるかどうかわかんねえし」

 

 ドラゴンと聞いて、想像する姿はだいたい一致するだろう。

 四つ足。鱗に覆われた身体。翼を持ち、炎を吐く。人類よりも強大かつ巨大な存在。

 逢夢が出会ったのだって、そんな想像に近しい個体。

 そんな巨体が死んでるというなら、絶対にすでに見つかっているはずだという確信がクラスメイトにはあった。

 

 逢夢は逆に、見つからないだろうという確信がある。

 目の前でドラゴンがマナとなって消滅するのを目撃していたから。

 自分たちが思い描くドラゴンというのは、結局マナで形作られただけの同類だということを知っている。

 だから、学園祭に使うという発想がなかった。

 

(なあ、ドラゴンもやっぱり生み出した相手の命令を聞いたりするのかな?)

 

『ダメですからね!?』

 

(そっかぁ……)

 

 ユーフォリアがダメだというのでダメらしい。

 




なんかこの主人公、今までの部分は結構RTAじみてるなと思う今日この頃

・まずユーフォリアと出会う!
・ユーフォリアと会う予定だった時深からの接触
・時深からの情報でユウトが接触し、ナルカナの存在を知る
・ナルカナを探すためにルプトナに会う


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3スレその3

日常回だったりを書きたい


280:名無しのエターナル

 ふと閃いたんだが

 

281:名無しの転生者

 お、どうしたどうした?

 

282:名無しの転生者

 まさかと思うけど学園祭での出し物なんかいいの思いついたとかいうんじゃないだろうな?

 

283:名無しの転生者

 まあ、今更言っても平々凡々な出店に決まってしまった以上はどうしようもないんだけど

 

284:名無しの転生者

 とりあえず、イッチの考えた最高の妙案とやらを聞かせてもらおうぜ

 

285:名無しの転生者

 正座待機

 

286:名無しの転生者

 (その後に訪れるであろうユーフォリアちゃんによるお説教(ご褒美)を)正座待機

 

287:名無しの転生者

 どうせ大したことではないんじゃろうけど

 

288:名無しのエターナル

 前に言ったけど、エターナルって概念情報の変化で自分の姿変えられるだろ?

 

289:名無しの転生者

 そういや言ってたな

 イッチはやらないとも言ってたけど

 

290:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんの成長も実際はそれでやってるんだっけ?

 

291:名無しの転生者

 イッチがユーフォリアちゃんの成長記録をつけるつもりなのは笑ったな

 

292:名無しの転生者

 でもユーフォリアちゃんの成長は百年単位で見た方がいいって話じゃなかった?

 

293:名無しの転生者

 俺たちをはるかに超える年齢な、俺たち皆のアイドル

 

294:名無しの転生者

 皆のいもう──

 

295:名無しの転生者

 >>294

 それは思っても口にしちゃダメなやーつ

 イッチとユウトさんが協力するんだぞ

 

296:名無しの転生者

 イッチはともかく、ユウトさんが出て来るとどうしようもなさそう

 

297:名無しのエターナル

 で、自由に姿を変えられるんだったら、ユーフィーの姿になって俺の肉体の操作を全部ユーフィーに預けてしまえば実質ユーフィーが復活するようなものでは……?

 

298:名無しの転生者

 いや草

 

299:名無しの転生者

 やるんだったら身長体重までしっかりと再現しろ

 

300:名無しの転生者

 それをガチでやると気持ち悪いことになるからやめよう

 

301:名無しの転生者

 女の子の身長体重スリーサイズまではっきりと再現できるとそれはもはや変態の域だからやめなされ……

 

302:名無しの転生者

 イッチなりにユーフォリアちゃんの肉体を戻そうと考えた結果なんだろうけど、流石に自分の肉体を差し出されてもユーフォリアちゃんが困惑するだけだからやめてやれ

 

303:名無しの転生者

 むしろユーフォリアちゃんの性格的に気に病みそうなんだよなぁ……

 

304:名無しのユーフォリア

 そういうのはダメですからね!

 

305:名無しの転生者

 でも、一日くらいユーフォリアちゃんに体を明け渡すくらいなら許されてもいいような……

 

306:名無しの転生者

 それ、時深さんに見つかったら即殺されるだろ

 

307:名無しの転生者

 イッチの気持ち悪い意見は没シュートー

 

308:名無しの転生者

 これならイッチがユーフォリアちゃんで性欲発散してたって言われた方がマシだったかもしれない

 

309:名無しの転生者

 それはそれでユーフォリアちゃんにイッチが嫌われるだけで、イッチの自業自得が原因になるから問題はなかった

 

310:名無しのエターナル

 てめえら……余計なことを……

 ユーフィーが性欲発散って何ですかって聞いてきたんだが

 

311:名無しの転生者

 草

 

312:名無しの転生者

 頑張れイッチ

 ユーフォリアちゃんの一生涯の相棒になるんだからその辺りの教育もちゃんとしてやれ

 

313:名無しの転生者

 年齢的にはイッチの方が下なのに、イッチの方がマナ関係ない常識はユーフォリアちゃんよりも上なのはちょっと笑えて来るな

 

314:名無しの転生者

 お父さんがユーフォリアちゃんの耳に入る情報を涙ぐましく制御してただろうに……

 

315:名無しの転生者

 こんな掲示板……というかイッチに関わってしまったばっかりに余計な情報が大量に入ってしまう

 

316:名無しの転生者

 純粋なユーフォリアちゃんを俗な子にするイッチは許されざる大罪を犯しているのでは……?

 

317:名無しのエターナル

 俺よりもここの掲示板の人たちに聞いた方がいいよって言っておいたから、多分もうそろそろ来るよ

 

318:名無しの転生者

 ……!?

 

319:名無しの転生者

 ぎゃああああっ!?

 

320:名無しの転生者

 おまっ……お前ぇっ! なんて惨いことをしでかしてくれるんじゃぁっ!

 

321:名無しの転生者

 これが天罰ちゃんですか……

 

322:名無しの転生者

 下手な情報を入れると、これから先にもしもイッチが死んでユーフォリアちゃんが一人になった時に恥をかくかもしれんぞ……

 

323:名無しの転生者

 イッチはともかくユーフォリアちゃんがこれから先困るのはダメだな……

 

324:名無しの転生者

 俺は今から戻ってきた時深さんとドキドキ個人レッスンのお時間だから一旦落ちるわ

 ユーフィーの疑問に掲示板の叡智で答えてやってくれ

 

325:名無しの転生者

 おまっ、逃げるな!

 逃げるなこの卑怯者ぉっ!

 

326:名無しの転生者

 俺たちに無理難題押し付けて逃げようとか許さんぞ貴様ぁっ!

 

327:名無しの転生者

 お前なんか時深さんにボコられてしまえばいいんじゃ!

 

328:名無しの転生者

 イッチの体を操って女性への禁句を口にさせることができればとこれ以上望んだことはない

 

329:名無しの転生者

 くそっ……俺たちは無力だ……

 

330:名無しの転生者

 イッチにどうにかして時深さんをおばさんとかおばあさんと呼ばせることができれば……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永遠神剣の契約者の実力差というのは、大体が永遠神剣自体の位階の差によって生み出される。

 無論、お互いに永遠神剣の力を百パーセント引き出している、という大前提があってこその話になるが。

 位階が上がれば彼らの持つ力の総量が上昇するのだから、当然といえば当然のこと。

 

 ただそれは、あくまで普通の神剣使い。第四位以下の永遠神剣と契約している面々の話。エターナルは少し違う。

 エターナルとなると、純粋な戦闘能力だけではなく、様々なしがらみが生まれる。

 世界の保有するマナ。世界特有のルール。出力できる限界。能力と世界の相性。

 極論、マナのない世界であっては神剣の力を引き出すことはできず、剣技の技量によって勝敗が決まってしまう。

 

 だから、大半のエターナルの戦闘能力は、永遠神剣の能力を除いても非常に高い水準でまとまっている。

 時深も当然、未だわからないユーフォリアの永遠神剣としての位階はともかくとして、それ以外の全ての能力で逢夢を上回っていた。

 

「遅く、温い」

 

 振るわれるのは短剣による四連撃。時の操作を抜きにしてもなお神速と呼ぶにふさわしい斬撃。

 逢夢の振るった一発を最初の一撃で弾き、残りの三がオーラの上から胴体を打ち付ける。

 呼気が漏れ、見えた隙に打ち込まれるのは一撃で全てを粉砕するような強力な一閃。

 それを弾くのは少年ではなくユーフォリア。未熟な彼を補佐する少女が、決定的な一撃を通さない。

 

「ユーフィー、あなたが手を貸しては彼の訓練にならないでしょう」

 

 言葉に、体が一瞬硬直する。

 肉体を支配したままの少女がその言葉の正当性を認め、肉体操作にまで思考が回らない。

 時間にして一秒未満。けれど時間が存在するならいくらでも時深はねじ込める。

 巫女装束に包まれた細い足から繰り出されたとは思えないほどの威力が乗った蹴りが距離を生み出し、それが仕切り直しとなった。

 

『うぅ……おにーさん、一人で大丈夫ですか?』

 

(大丈夫じゃないけど、これはそういう訓練だからね。対処できない攻撃以外はどうにかするよ)

 

『さっきのも対処できない攻撃だと思うんですけど……』

 

(ほら、オーラで防げる範囲だったから)

 

 いつものごとく身体能力強化を施し、生まれた距離を一気に詰めながら片手で鞘を振るう。

 それ自体は『時詠』によって止められるが、本命はもう一本。

 普段は鞘に纏わせ刀身としているオーラに覆われた手刀を放つが──

 

「うっそだろ……」

 

 時深は、鞘を受け止めたままに腕に乗った。

 腕を止められることまでは想定内だが、さすがにこの回避方法は想定外。

 唖然とする彼の顔面に蹴撃が突き刺さり、緩んだ隙に鍔迫り合いから解放された『時詠』が迫る。

 瞬間的に爆発するオーラフォトン。威力としてはさほどではないが、剣と肉体の間で爆発した光は剣速を緩め、少年をのけぞらせて回避成功の助けとなった。

 再度の爆発。爆心地は少年の背面。仰け反り、地と平行になった少年の上半身を一気に起き上がらせて、そのままの勢いで拳を叩きつける。

 

「機転は聞いていますが、それだけですね。威力も、速度も足りていません」

 

「知って、ますよっ」

 

 放った拳は腕を捕まれて届くことはなかった。

 そのままでは『時詠』によって嬲られるだけ。よって、握り拳を解き、手のひらに生み出した光球を爆発させる。

 

「凍てつけっ」

 

 二人を巻き込むように咲き誇る氷の結晶華。

 ユーフォリアが不得手とする青属性の魔法は、時深に対しては初公開。

 彼女のことをよく知るからこそ、そんなものを使ってくるとは思わなかった時深は対応に一手遅れ、氷を粉砕し自由を取り戻すまでに逢夢は動いていた。

 

「見事」

 

 迫る鞘を見て微笑んだ時深。

 けれど次の瞬間には顔を険しくして、マナを爆発させる。

 

「ですが、まだ甘いっ!」

 

 全力の一撃。先ほどまでの力では確実に返せなかった一閃も、本気になれば不可能ではない。

 弾き、逢夢の首元に突きつけられた刀身。誰がどう見ても彼の負けだった。

 逢夢にだってそれはちゃんとわかっている。だから体から力を抜き負けを認め、それを理解した時深もまた剣を引く。

 

「まさか、少しとはいえ本気を出す必要があるとは……」

 

「これならいけるんじゃないかなって思ったんですけどねー」

 

「その辺りは戦闘経験の差というやつですよ。相手が自分の想定を上回ってくるのはよくあることですから。咄嗟に対応できないととっくに死んでます」

 

「そりゃそうなんですけど……」

 

「悔しいなら、次に私が戻ってくるまでに最初から本気を出させる程度には強くなってくださいね」

 

 その言い方に彼は違和感を覚えた。

 現在、地球時間での話にはなるが毎日訓練をしているというのに、今の言い方ではまるで明日以降は訓練をできないというような。

 疑問が顔に出ていたのか、時深はその答えを提示してくれた。

 

「ええ。明日からまた任務があるようなので、しばらくの間は訓練はお休みです」

 

「今度はこっちの時間でも長くなるんですか?」

 

「さあ、さすがにそこまでは。とはいえ、サボっていたらそれくらいはわかるので、次の時に勢い余ってしまう可能性がありますけど」

 

「恐ろしいこと言いますね……」

 

 気持ちがわからないというわけではないが。

 つい思わず逢夢も頷きそうになったが、今回ばかりは頷けない。殺されるのは自分なのだ。

 

「では、しばらくの間はこの世界の諸々、任せますね」

 

「任されるのもちょっと怖いんですけど」

 

「まあ、この世界の人たちは、様々な条件が重なった状況とはいえ全員揃えばエターナルを一旦は撃退できる程度の力はありますから、そう気負わなくていいかと」

 

「うへぇ……それ、俺だとすぐにやられるってことじゃ……」

 

「ですね」

 

 少し気が楽になったような、動きを慎重にしないといけなくなったような。

 どうしたらいいだろうかと悩む逢夢に届いたのはユーフォリアの言葉。

 

『大丈夫ですよ。あの人たち、悪い人じゃないですから』

 

(あ、そうなんだ。なら、そんなに気にしなくても良さそうだね)

 

 以前にもこの世界で活動し、その人たちを知っているらしい彼女の発言にほっと胸を撫でおろした。




時深さんの出番は一旦終了〜


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3スレその4

うごご……文章が納得いかない……日常ものとか書いてる人への尊敬が高まる……

ランキングまた載ってたらしいですね、ありがとうございます(20日21:00時点)。
乗るしかない、このビッグウェーブに!(2回目、瀕死、書き溜め0です)



530:名無しのエターナル

 緊急事態! 緊急事態はっせーい!!

 

531:名無しの転生者

 どうしたイッチ

 

532:名無しの転生者

 エターナルでも出てきたんか?

 

533:名無しの転生者

 エターナル出てきたならこっち見てる余裕ないだろ

 そういう時こそ掲示板で助言をもらうべきなんだけどな

 

534:名無しの転生者

 で、今度は何をしてユーフォリアちゃんを怒らせたん?

 

535:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんを怒らせたって決めつけてて草

 

536:名無しの転生者

 でもイッチのいう緊急事態ってだいたいユーフォリアちゃんとのすれ違いとかそんな感じでは……?

 

537:名無しのユーフォリア

 おにーさんがお風呂に入れてくれないんです!

 

538:名無しの転生者

 あ、ユーフォリアちゃん

 

539:名無しの転生者

 女の子にとっては緊急事態で間違い無いけど……なぜそんなことに……?

 

540:名無しの転生者

 イッチがユーフォリアちゃんをお風呂に入れてあげればそれで済むことでは?

 

541:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんがイッチにお願いをできるようになって俺も嬉しいよ

 

542:名無しの転生者

 後方謎面やめろ

 お前は一体どういう立ち位置なんだ

 

543:名無しの転生者

 あ、でもユーフォリアちゃんって今鞘なんだっけ

 あまりにもいつものことだから忘れてたわ

 

544:名無しの転生者

 なるほど、一人では入れないからイッチが入れるしか無いわけだな

 そりゃ緊急事態だわ

 

545:名無しの転生者

 イッチ、よくユーフォリアちゃんをそのまま入れずにこっちに相談に来たな

 ユーフォリアちゃんが入ってる映像をこっちにも送るんだ

 

546:名無しの転生者

 だから鞘だって言ってるだろ

 >>545は武器に欲情できるのか

 

547:名無しの転生者

 それがユーフォリアちゃんだってわかってるなら武器でもできるわ

 

548:名無しの転生者

 うわ……

 

549:名無しの転生者

 まじかこいつ……

 

550:名無しの転生者

 でも、鞘状態のまま入れるとユーフォリアちゃんが服を着たままお風呂に入っているような状況になるぞ

 

551:名無しの転生者

 本体、鞘なのか剣なのか未だに謎

 中の剣が本体なら鞘から抜かないと服を脱いで無い状態で逆だと剣はなんなんだよって話になる

 

552:名無しの転生者

 鞘から抜くとイッチは手を間違えて斬ったりしないようにしないとな

 

553:名無しの転生者

 鞘か剣を問わず、浴槽に武器が沈んでるのってちょっとシュールな光景すぎない?

 

554:名無しの転生者

 まあそりゃそうだけど……そこはもう諦めるしか無いでしょ

 

555:名無しの転生者

 イッチがユーフォリアちゃんを戻せないのが悪い

 

556:名無しの転生者

 時深さんが任務ついでにナルカナさんとやらを見つけてくれてることを祈ろう

 

557:名無しの転生者

 できることないイッチは、今はとりあえず俺たちにユーフォリアちゃんのあられもない姿送って

 

558:名無しの転生者

 イッチ、ユーフォリアちゃんを洗うのを躊躇ってるならいい手段があるぞ

 

559:名無しの転生者

 有能

 

560:名無しの転生者

 有能

 

561:名無しの転生者

 俺たちもユーフォリアちゃんの入浴を見られるんですね!

 

562:名無しの転生者

 誰が見せるか阿呆!

 で、>>558は一体何を思いついたんだ?

 

563:名無しの転生者

 いや女の子を入浴させるのが嫌なら、前言ってた概念情報をいじるやつで女の子になってから入浴させればいいのでは……?

 

564:名無しの転生者

 なるほど!

 

565:名無しの転生者

 天才現る

 

566:名無しの転生者

 これからイッチには男としての肉体を捨ててもろて、女として生きてもらおうか?

 

567:名無しの転生者

 がたっ!

 

568:名無しの転生者

 中身がイッチだってわかってても外見がユーフォリアちゃんなら多分ヌける

 

569:名無しの転生者

 しかもユーフォリアちゃんがその肉体を完全支配してしまえば実質ユーフォリアちゃんやろ?

 やらない理由がない

 

570:名無しのエターナル

 ユーフィーが怒るのでやりません

 

571:名無しの転生者

 怒ってくれるとかご褒美や!

 

572:名無しの転生者

 むしろなんでそれを聞いてやらないという選択肢が出てくるのか、それが謎

 

573:名無しの転生者

 お前、いずれはユーフォリアちゃんときゃっきゃうふふしながら裸の付き合いができるようになるんだぞ!

 しかも百合の花が周囲に幻視できるような! 怒られることも含めてやらない理由がないぞ!

 

574:名無しの転生者

 男がユーフォリアちゃんと一緒にいるとか解釈違いなのでまずは女になってもらってから話をしましょう?

 

575:名無しのエターナル

 まあ怒られるのがご褒美っていうのは言いたいことはわからんわけではない

 泣かれると罪悪感半端ないけど怒ってる姿は可愛くてしょうがないので

 

576:名無しの転生者

 ……イッチが俺たちに同意する?

 

577:名無しの転生者

 やべえ……このイッチ偽物だ!

 

578:名無しの転生者

 どうやって潜り込みやがった!

 

579:名無しの転生者

 この掲示板は俺たちみたいな転生者以外には使えないはずだぞ!

 

580:名無しの転生者

 あ、待て……まさかこいつ!

 

581:名無しのエターナル

 いえーす

 実は既に怒られてまーす!

 

582:名無しの転生者

 草

 

583:名無しの転生者

 は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、逢夢の家を包んだのは重苦しいほどの沈黙だった。

 リビングには二人、あるいは一人と一本。会話を行うための最小単位が揃っていながらも、会話の一切がない。

 一度空間を包んだ静寂はある種の神聖さすら宿していて、言の葉を発することを躊躇われる。

 普段二人が行う余人には聞き取れない形での会話も含めて、口を開くには覚悟が必要だった。

 

「ユーフィーがお風呂に入りたいっていうのはわかるけどなぁ……」

 

『やっぱりダメですか?』

 

「そりゃ、まあね。さすがに俺が君をお風呂に入れるのはちょっとどうかと思うんだよ」

 

 沈黙を切り裂いたのは逢夢の困ったような声。心なしか眼前に鎮座する鞘も悲しそうに見える。

 地球の時間で四日間、彼らの体感時間でだいたい一週間。ユーフォリアが鞘になってから既にそれだけの時間が経った。

 鞘ゆえに仕方がないといえば仕方ないのだが、さすがにそれだけの期間風呂に入れていないというのは女の子として思うところがあるのだろう。

 

「ユーフィーがお嫁にいけない体になっちゃうのはダメだと思います」

 

『お嫁さんに行く予定はないですよ? 掲示板の方でも、あたしたちが一生涯一緒なパートナーだって言ってたじゃないですか』

 

「そりゃ俺が死ぬかユーフィーが死ぬまでは契約が解除されないんだからそうだろうけどさ」

 

 ユーフォリアが死んでも少年は死ぬが、少年は死んでもユーフォリアが死ぬとは限らない。

 エターナルと永遠神剣の契約関係というのはそういうこと。

 自分が弱く、殺されやすいことを自覚している少年としては、どうしても死んだ後に遺されるユーフォリアのことを考えたくなくても考えざるを得ない。

 

『むぅ……おにーさんが死んだ後に誰かと契約するつもりなんてないですよ。エターナルとしてのあたしのパートナーはゆーくんですけど、永遠神剣としてのパートナーはおにーさんです!』

 

「あはは……うん、ありがとう。そう思ってくれるのはありがたいよ、本当に」

 

『というわけで、おにーさんはパートナーをもうちょっと大事にしてもいいと思いますよ!』

 

「だからお風呂に入れてって?」

 

『はいっ。おにーさんが毎日お手入れしてくれるのは嬉しいですけど、ちょっとだけお風呂も恋しいです』

 

「うん、気持ちはわかる」

 

 やっぱりそこに帰結するんだ、と苦笑しながら、それでも願いを叶えるために真っ先に頼ったのは掲示板の叡智。

 並んでいるのは変態的なコメントばかりではあるが、逢夢にもユーフォリアにも思いつけないような発想が大量に眠っているのもまた事実。

 目をつけたのは、その中の一つだった。

 

「俺が女になればユーフィーのお嫁に行ける体は保たれるのでは……?」

 

『もうっ! そんなことのために概念情報を書き換えようとしないでください!』

 

「いや、でもやれることは一旦試しておいたほうがいいかなって」

 

『そういうのは時深さんがいるときにしましょう。もしも何かあってもすぐに対処してくれますから』

 

「……はい」

 

 そして、結局話は戻ってくる。

 ユーフォリアのお風呂問題は何一つとして解決していない。

 さてどうしたものかと考えたところで、もう一つ掲示板のとあるコメント群が目に止まった。

 

「そういえばさ。お風呂に入れて欲しいっていうけど」

 

『はい、どうかしたんですか?』

 

「浴槽に鞘ごと入れちゃってもいいの? ユーフィー、服ごと永遠神剣になってるわけだけど」

 

『あー、どうなんでしょう? 多分本体が鞘だと思うので問題はない気がしますけど……』

 

「これで万が一にもお風呂に入れると戻りました、なんてパターンだったりすると、戻ったときに服がびしょびしょになるのか……。とりあえず、俺の服を用意しておくよ」

 

『ありがとうございますっ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふにゅぅ……生き返ります〜』

 

「うーん、日本人的な言動」

 

 袖をまくり、お風呂に鞘を突っ込むと脳裏に響いた言葉はあまりにも日本人的だった。

 こういうところ父親譲りなのかな、などとどうでもいいことを考えながら、ちゃぷちゃぷとお湯を弾ませる。

 浴槽に立てかけ、滑って全体が湯船に沈まないように見守りながら、時折湯に浸かっていない部分も沈めたり。

 

『おにーさんは入らなくていいんですか?』

 

「これは介護と割り切ったけど、一緒に入るのはまた話が別。俺はまた後で入るよ」

 

『えー』

 

 いくら鞘だとは言っても、女の子であることは変わりない。

 この状況ですら彼女の父親に知られればギルティ判定が出ることはまず間違い無いだろう。

 けれど、少女も思うところがあるのか不満そうな声音を醸し出す。

 

「その間一人にしちゃうのは悪いと思うけど、さすがにそれはね」

 

『こうなってから、ゆーくんの声も聞こえないんですよね。パパの言ってた、あたしとゆーくんが融合してるっていうのが本当ならしょうがないって言えばしょうがないんですけど』

 

「こう聞くと、あの時俺がユーフィーを連れて逃げようとしたのは全部裏目に出てるんだなぁ……」

 

『おにーさんは悪くないですよ。あたしのことを助けようとしてくれただけじゃないですか。この事態はともかく、おにーさんと会えたのは良かったことだ思ってます』

 

「そう言ってくれるのは嬉し──」

 

 つるっ。

 

 音にすればそんな表現が似合う形で、鞘が滑り落ちた。

 

『わぷっ』

 

「うぉぉっ!? 大丈夫!?」

 

『は、はい。びっくりしました……』

 

「そろそろ上がらないと危険かも……?」

 

 すぐに救出したけれど、少々の冷や汗が浮かんでいる。

 ユーフォリアの方も表面を流れ落ちるお湯が汗に見えなくもない。

 

『ですね。楽しむのはまた今度にしましょう』

 

「じゃ、俺もパパッとお風呂に入ってしまおうかな」

 

『上がったらお話ししましょうねー』

 

「はいはい」

 

 ユーフォリアをお風呂から取り出し、きゅっきゅとタオルで水滴を払う。

 彼女が零す気持ち良さそうな声を聞いて、一人で何もできないという今のユーフォリアの状況を早くなんとかしたいな、と逢夢は強く思った。



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4スレ

本当なんです! 完結までの道は見えてるんです! 信じてください! 書けてないけどプロットはあるんです!


1:名無しのエターナル

 さすがにそろそろこのスレタイも変えたほうがいいかなって気がしてきた

 

2:名無しの転生者

 まあ、もう手入れの方法とか関係なくなってきたもんな……

 

3:名無しの転生者

 キリよく学園祭まではこのタイトルでいいんじゃない?

 

4:名無しの転生者

 あと一週間ほどだっけ

 

5:名無しの転生者

 確か前スレの最後の方でそんなこと言ってたな

 時折、掲示板の時間は一致してるのに世界ごとの時間の流れが違うせいで、イッチがいつの話してるのかわからなくなるのはこの掲示板の数少ない不満だな

 

6:名無しの転生者

 学園祭の準備してるのに、イッチはこんなところでワイワイやってていいんか?

 最後の学園祭なんだからもうちょいそっちに集中してもええんやで

 

7:名無しのエターナル

 っても、スレッドを立てないわけにはいかないだろ

 最低限それくらいはやっておかないと

 

8:名無しの転生者

 ほほう、それはいい心意気だなイッチ

 

9:名無しの転生者

 ところでイッチ、学園祭で何やるん?

 わい、その時のスレッドリアルタイムで追ってなかったから何をやるのかだけちょうど知らんのや

 

10:名無しの転生者

 あー、当時実況モードだったから何をやるのかだけは誰も書き込んでなかったな

 

11:名無しの転生者

 イッチのクラスは男装女装喫茶だよ

 

12:名無しの転生者

 男装女装喫茶!?

 

13:名無しの転生者

 うわ、漫画でしか見ないようなものを現実にやるクラスあるんだな

 

14:名無しの転生者

 いや、でも去年の学園祭の準備の話を聞くに六法全書が飛び交ってたらしいし……まだ普通なんじゃない?

 

15:名無しの転生者

 なんで六法全書!?

 

16:名無しの転生者

 六法全書が標準装備な時点でそのクラスは間違っている

 

17:名無しのエターナル

 確か窓から花火飛ばそうとして法律上で問題ないかを確かめるため、とか聞いたな

 

18:名無しの転生者

 えぇ……(困惑)

 

19:名無しの転生者

 そんなことをするクラスが現実に存在するのか……

 

20:名無しの転生者

 >>19

 そんなこと言ったら、俺たちの使ってる掲示板もファンタジーの代物だからね

 ちょっとおかしなことをする程度のクラスならまああってもおかしくはないでしょ

 

21:名無しの転生者

 そうかな……そうかも?

 

22:名無しの転生者

 そうだよ

 

23:名無しの転生者

 でも正直、女装男装するならイッチの女装じゃなくてユーフォリアちゃんの男装見たかった

 

24:名無しの転生者

 わかる

 

25:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんなら男装しても絶対可愛い

 

26:名無しのユーフォリア

 あはは……ありがとうございまーす

 男装するときはおにーさんに見せることになってるので、またその時にですね

 

27:名無しの転生者

 ぐぬぬ……ユーフォリアちゃんの初めてを見られるイッチが憎い……!

 

28:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんの初めて、ってなんかえっちな言い方ですね

 

29:名無しの転生者

 ここがユウトさんが見た瞬間抹殺にかかるスレですか

 

30:名無しの転生者

 ちなみにイッチはどんな女装をする予定なの?

 

31:名無しのエターナル

 俺?

 俺はあれだよ

 概念情報の変化で女性に変化して接客する予定

 

32:名無しの転生者

 ファッ!?

 

33:名無しの転生者

 お前、まだそんなことのために概念情報変化しようしてんのかよ!

 

34:名無しの転生者

 いい加減概念情報の変化をしようとするの諦めろよ!

 

35:名無しの転生者

 それを失敗したら最後の学園祭が台無しになるってことを自覚しろ!

 

36:名無しの転生者

 イッチは最後の学園祭を記憶に残したいんじゃなかったんですか……?

 

37:名無しの転生者

 別の意味で記憶に残ってしまうし、記憶から消したい学園祭になってしまうぞ

 

38:名無しのユーフォリア

 そうですそうです!

 皆さんももっと言ってやってください!

 

39:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんからも援護射撃をもらったので今の俺たちは無敵だぞ

 

40:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんから見捨てられたイッチのことを哀れんであげますね

 

41:名無しの転生者

 は? ユーフィーが多少雑に扱っても問題ないと判断してくれたのは俺だけだからオンリーワンだぞ

 それだけ仲良くなったって証だから問題はない

 

42:名無しの転生者

 こいつ……無敵か?

 

43:名無しの転生者

 とんでもないポジティブで草

 

44:名無しの転生者

 イッチを殺すにはユーフォリアちゃんが見捨てるレベルじゃないとまずダメージを与えることすらできそうにない

 

45:名無しのユーフォリア

 そんなことはしませんよ? おにーさんとはずっと一緒にいる予定なので

 

46:名無しの転生者

 かーっ、ぺっ

 

47:名無しの転生者

 なんか惚気られたような気がしないでもない

 

48:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんも徐々にこっちに染まってきたような感が出てきましたね……

 

49:名無しの転生者

 イッチは本当に永遠神剣ガチャでSSR引いたんじゃなかろうか?

 

50:名無しの転生者

 人格はSSRだけど同時に持ってる厄ネタも世界初の異常事態なのでSSR級だよ

 

51:名無しのエターナル

 は? ユーフィーを厄ネタと言ったのか>>50は?

 許さんぞ、法廷で会おう!

 

52:名無しの転生者

 その法廷、裁判官も裁判長もイッチが兼任してそうなんですが

 

53:名無しの転生者

 じゃけん、厄ネタから解放してあげるためにもイッチはエターナルとして強くなりましょうね〜

 

54:名無しの転生者

 イッチが強くなって全部ぶっ飛ばせるようになれば厄ネタとしても機能しないはずだぞ

 

55:名無しの転生者

 あくまで「何かあっても殴り飛ばせる」だけだから根本的な解決になるのかと言われると困るけど

 

56:名無しの転生者

 とりあえず、イッチの肉体改造計画を始めようぜー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永遠神剣と契約しても、それは別に常の身体能力が強化されるということではない。

 あくまで人外の身体能力を引き出せるのは永遠神剣の力を引き出しているときのみ。

 そして何よりも、変化するのはわかりやすい身体能力だけだ。

 

 脚力は上がり、地面を砕きながら走ることだってできるだろう。

 腕力は上がり、果物も人体も鉄塊だって、何ら区別なく粉砕することだってできるだろう。

 だが、精神力が上がるわけでもなく、そして持久力だって上がらない。

 永遠神剣の強化はマナによる強化であって、元の身体能力にマナによる能力値を追加するようなものなのだ。

 精神という形のないものに強化は施せないし、持久力なんて上げようものなら強化を解除した瞬間に流れる血流に耐えきれずに肉体が破裂することになってもおかしくはない。

 

 なので、元の身体を鍛えようというのは、決して無駄ではないのだ。

 

「じゃ、行こうかユーフィー」

 

『はーい』

 

 ということで逢夢はユーフォリアと契約してからの一ヶ月ほど、スレッド民に指摘されてからは持久力を上げるための日課としてランニングを行なっていた。

 

「こういうの、俺もできるといいんだけど」

 

『マナ操作の訓練にもなりますからね。でも、見られたら困るんですし、もうしばらくの間はあたしがやっておきますよ』

 

「うん、お願い」

 

 時刻は午前五時。学校に向かうならば七時半を目処にしておきたい彼は、ちょっとの余裕を持つためにもこの時間から走り込みを始める。

 運動を行うのだからもちろん姿は高校体育用のジャージ。ただ、少し違う点といえばベルトの存在と、そこに差した鞘だろうか。

 無論、人に見られてしまえば通報されて一貫の終わりだろうが、それはそれ。ユーフォリアがマナを用いて生み出した光が周囲の風景に同化させている。

 

「あら」

 

「あ、どうも。おはようございます」

 

「ええ、おはよう」

 

 鍵を開けて玄関を出た瞬間、届いた声の方を振り向けば、そこにいたのは名前も知らないお隣さん。

 ぺこりと頭を下げると相手も嫋やかな笑みを浮かべている。

 

「……?」

 

 一瞬、お隣さんの視線が鞘の元に止まったような。そんな疑問が浮かんだが、実際に口にすることはない。

 

 会話が止まってしまった。ご飯を分けてもらったり、向こうから気にかけてもらっていると自覚している逢夢だが、その理由に踏み込めるほどの仲なのかと言われると首をかしげる。

 何を聞いていいのか、何を聞いてはダメなのか、それを判別できるほど会話をしたことはないのだ。

 

「こんな時間からランニング?」

 

「この時間じゃないとランニングできるほどの時間的余裕がないんですよ。ここからだと学校は遠いですし、今は学園祭の準備期間なので帰りも遅くなるから」

 

「ああ、学園祭。もうそんな時期なのね。いつなのかしら?」

 

「えっと、来週ですね。来週の金、土曜日の二日間。……お隣さんも来るんですか?」

 

「ええ、面白そうなんだもの。ああいう雰囲気で食べるご飯は美味しいものよ」

 

「それはわかります」

 

 だから手探りでの会話だったが、思いの外学園祭という話題は話を弾ませてくれている。

 日常の中でのちょっとした非日常は話の題材としては十分すぎる内容だった。

 

『おにーさん、そろそろ行かないと』

 

(っと、もうそんな時間だったのか)

 

 そんな話を遮ったのはユーフォリアの忠告。彼女が口にするまで、時間のことを完璧に忘れていた。

 じゃあそろそろ、と断りを入れて少年は元の目的のために走り出す。

 

「ええ、頑張ってらっしゃい」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 見送られ、数十秒もすれば背後からお隣さんの気配は消える。

 呼吸のリズムは整った状態。一ヶ月という短い期間で最低限は仕上がった逢夢は、並行してマナの操作にも手を出す。

 今はまだ拙いもので高位の神剣を手にしながらミニオンと同程度の出力にしかならないが、だからこそ極限状態ではない今、平時から鍛えておいて損はない。

 彼がエターナルとしての戦いに身を置くまでの残り期間は一週間。できることはやっておいたほうがいいという点で二人の意見は一致している。

 

『……あの人?』

 

(どうかしたの、ユーフィー?)

 

『いえ、ちょっとどこかで見覚えがあるような……』

 

(まあ、ユーフィーと契約してからも何回か会ってるから……って、そういうことじゃないよね?)

 

『はい。前に来た時に会ったのかなぁ?』

 

(あー、そういえば掲示板の人たちも似てる人がルプトナさんのいた世界で見かけたって言ってたね。もしかしたら、また別の世界で見たのかも)

 

『……うーん、ちょっと気をつけた方がいいかもしれません』

 

(学園祭に来てくれるって言ってたから、特に何もないといいんだけど)

 

 体から立ち上った不可視のマナが会話の最中も姿を変幻自在に変えていく。

 動き回りながらの制御訓練をユーフォリアの援護なしで行うのは、この時間程度しかない。

 

『おにーさん! 家を通り過ぎちゃいますよー!』

 

「え、うわ、本当だ。もう終わったのか……」

 

 集中しながら走っていると、気づかぬ間に家を通り過ぎてしまいそうになり、ユーフォリアの言葉でそれに気がついた。

 時間にして四十五分ほど。予定よりもかなり早く終わってしまったようだ。

 

『一ヶ月も走っていれば、まあ同じコースだと早く終わるようにもなりますよ』

 

「まあ、そりゃそうだけど。さすがにここまで早くなるとは思わなかったかな。……一応聞くけど、俺間違えて自分の強化とかしてなかったよね?」

 

『さすがにそんなズルしてたらあたしが言います!』

 

「だよねー。でも、そうなるとどうしようか。もう少し走る?」

 

 二人に提示されている選択肢は二つ。

 もう少し走るか、あるいは家に帰ってマナの操作か。

 どちらの方がいいか、なんて少年にはわからない。

 

『うーん、今日はマナの操作にしません?』

 

「別にいいけど、なんでまた」

 

『そっちならお話もできるじゃないですか』

 

「なるほど、それは重要だ」

 

 なので、ユーフォリアの発言に任せた。

 実際、家の中でならいくらでも話ができるが、走っている最中だと声を出せない。

 念話による会話はできるが、さすがにマナ操作とランニングと念話を同時に行うにはまだ未熟。

 どれか一つをユーフォリアが維持してくれるなら話は別だが、それだと彼の訓練にはならない。

 

「とりあえず、エターナルとしてのあれこれも教えてね、先輩」

 

『……! はいっ! 任せてください!』

 

 ダイレクトに伝わるユーフォリアの歓喜ににこにこしながら、逢夢は玄関に入っていった。

 

 

 

 

 

 

「ええ、雰囲気はとても大事よ。ご飯の美味しさは場所や一緒に食べる人でも決まるものね?」

 

 それを見られているなんて全く思わずに。



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4スレその2

340:名無しの転生者

 そろそろイッチの学園祭も始まる頃かね?

 

341:名無しの転生者

 どうだろ?

 イッチの世界との時間の流れのズレは早くなったり遅くなったりするからなぁ

 

342:名無しの転生者

 時深さんの時間操作の影響かねえ

 

343:名無しの転生者

 あの人の能力、この掲示板には通用しないがFAになったんじゃなかったっけ?

 

344:名無しの転生者

 いや、でもクロノス……クロノスでいいのかこれ? 他のスレッドだとほとんど発生しないじゃん

 時間のズレってなるとやっぱり時深さんが可能性として高いよな

 

345:名無しの転生者

 イッチのIDにユーフォリアちゃんが間借りしてるからって可能性は?

 

346:名無しの転生者

 他のスレッドだとほとんど発生しないって言ってるでしょ

 可能性としてないわけではないけど、ユーフォリアちゃんみたいに現地人がIDを間借りしてるのはままあるし、そっちで起きてないから気にしなくていいレベル

 

347:名無しのエターナル

 えー、みなさまお待たせしました

 そろそろ学園祭の時間がやってまいります

 今は前日の夜、あと何レスくらいでスタートになるかな……?

 

348:名無しの転生者

 まだ前日の夜なのかよ!

 

349:名無しの転生者

 そろそろ学園祭の時間って言われたからもう始まるものかと

 

350:名無しの転生者

 イッチの心配はあと何レスでスタートするかじゃなくて、このスレで学園祭まで終わってくれるかどうかじゃないの?

 

351:名無しの転生者

 あー、そういえばイッチ言ってたな学園祭まで終わったらスレタイ変えるって

 

352:名無しの転生者

 うーん……終わるかどうかギリギリ?

 

353:名無しの転生者

 クロノス次第かなこれは……

 

354:名無しのユーフォリア

 クロノスってなんですか?

 

355:名無しの転生者

 お、ユーフォリアちゃん

 

356:名無しの転生者

 クロノスっていうのは、一気に大量に書き込んだせいで書き込みの順番が入れ替わってしまうことやで

 

357:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんよりも後の時間に書き込んだ人がユーフォリアちゃんよりも先にここに書き込まれてる、って感じやな

 

358:名無しの転生者

 まあそういうわけで今言ってる「時間の流れが違うせいで一秒後に書き込んだら数十レス後だった」とか「翌朝に書き込んだら1レスしか進んでなかった」とかは正しい意味でのクロノスではないのだ

 

359:名無しの転生者

 まあイッチがいる間にはそんなことはなかなか発生しないみたいだけどな

 

360:名無しの転生者

 おかげで結構なレスが前後の繋がりなくて見辛いよね

 

361:名無しの転生者

 で、最後の学園祭前日にイッチはこんな掲示板を見て何をしてるわけ?

 

362:名無しの転生者

 イッチは早く寝て明日の学園祭の準備をしてくれ

 

363:名無しのエターナル

 いやあそれが……

 

 楽しみすぎて眠れないんだわ

 

364:名無しの転生者

 子供かっ!

 

365:名無しの転生者

 遠足前の小学生みたいなこと言ってるんじゃない!

 

366:名無しの転生者

 イッチ……気持ちはわからんでもないが、最後の最後なんだからマジで楽しめるように休んどけ……

 

367:名無しの転生者

 まあ、イッチが楽しめるようにユーフォリアちゃんがサポートしてくれるだろうけど

 

368:名無しの転生者

 おはようからおやすみまで

 ずっとユーフォリアちゃんがそばにいてくれるとかイッチやっぱり殺されても文句言えないくらい勝ち組では?

 

369:名無しの転生者

 そうだよ

 

370:名無しの転生者

 俺たちもユーフォリアちゃんみたいに可愛くて優しくてずっと隣にいたくなるような相棒が欲しい

 

371:名無しの転生者

 イッチが羨ましいぜ……

 

372:名無しのエターナル

 俺の人生、前世と今世合わせても多分ユーフィーと出会えたのが一番の幸福だわ

 

373:名無しのユーフォリア

 えへへ……ありがとうございます!

 

374:名無しの転生者

 だーかーらーここでいちゃつくなよー!

 

375:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんが可愛いのはいいが、その対象がイッチだというのが俺たちの心を削っている

 

376:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんと一緒に居られるんだから、これから先イッチの望みが全部叶わなくても許されるんじゃないかなって思い始めている

 

377:名無しの転生者

 イッチがこんな幸福なことは許されていいのか

 

378:名無しの転生者

 ぶっちゃけ彼女を連れて掲示板にやってきたようなものだからなこいつ

 

379:名無しの転生者

 唯一の救いはイッチとユーフォリアちゃんが付き合うことだけはないってことだ

 過去に甘やかす対象って言ってるからな

 

380:名無しの転生者

 まあ代わりと言ってはなんだがすでに結婚相手よりも濃い絆で結ばれてるんですけどね初見さん

 

381:名無しの転生者

 おかげで俺たちが愛称で呼ぼうものなら天罰を受けてしまう

 

382:名無しの転生者

 あの天罰、どういう理屈で放たれてるんだろうな?

 

383:名無しの転生者

 割とマジでイッチも驚いてたからただの偶然説が今のところ一番根強いけど……

 

384:名無しの転生者

 イッチにそんなことをできる力があるなら普通にマナ操作とかもうちょい上手くてもおかしくないだろうしね

 

385:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃん関係でだけ能力値が一気に上昇するユーフォリアちゃん大好きマンの可能性

 

386:名無しの転生者

 割とガチでありえそうな可能性やめろ

 

387:名無しのエターナル

 ユーフィーのためなら火の中水の中なんのそのな気合いはあ──

 

388:名無しの転生者

 ……イッチ?

 

389:名無しの転生者

 おいおい、なんか怖いから沈黙やめろ

 

390:名無しの転生者

 イッチ、学園祭前日なのにミニオン案件なのか……

 

391:名無しの転生者

 ミニオンも少しは事情を考えてくれてもいいんじゃないかな?

 

392:名無しの転生者

 でも、体を動かせるならイッチも疲れるだろうから眠れないってこともないでしょ

 

393:名無しの転生者

 そういう意味ではイッチのことを考えて出てきてくれたね

 

394:名無しの転生者

 ……結局、誰がミニオンを生み出してるのかわからないままだったな

 

395:名無しの転生者

 まあそこはその世界を生きる人がどうにかすべき領分だから……

 

396:名無しの転生者

 イッチはもう、本当にその世界の住人じゃなくなっちまったんだなぁ……

 

397:名無しのエターナル

 やべえ、ミニオンじゃなくてエターナルだ

 

 【画像】

 

398:名無しの転生者

 えっ、お隣さん!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おにーさん! これ、多分誘導されてます!』

 

(わかってる! でも、だからってここで戦ったら被害がめちゃくちゃでかくなる! とにかく、住宅街を抜けないと話にならない!)

 

 夜の住宅街を疾走する影が一つ。それを追うように単色の影が複数。

 先頭を走る逢夢が引き連れているのか。あるいは五つ存在する神剣の属性を一人一色ずつ担当する五体のミニオンが彼を追い立てているのか。

 わかっているのはたった一つ。お互い、この場所を戦場にするつもりはないということだけ。

 

(ユーフィーっ!)

 

『はい、任せてください!』

 

 以心伝心。少年の言いたいことを理解し、肉体の操作を入れ替える。

 ユーフォリアが強制力で体を動かし、少年はフリーに。直後、肉体の周辺にわずかな冷気が纏わりつく。

 マナの掌握、変換。いつものように永遠神剣を通して濾過した青属性のマナを行使する。

 

 目的は当然、彼らを追いかける五体のミニオン。

 

「咲き誇れ、結氷華」

 

 詠唱とともに、少女たちを中心として氷の花が五つ、彫像のごとく屹立する。

 突如として発生した魔法に、自我が薄く主人の命令を忠実に遂行するミニオンが対処できるはずもない。

 あるいは、対処できたのかもしれないが、青属性の魔法は基本妨害することは不可能。

 魔法の妨害は青属性にのみ許された技であり、通用するのは赤属性と緑属性だけなのだ。

 

『マナよ、オーラの光と変われ。宇宙(そら)より来たる力に居場所を示せ』

 

 仕込みが終わったと同時に、ユーフォリアの詠唱が脳裏に響き渡る。

 動きは封じた。詠唱の時間は十分。つまりは最大火力を確実に当てる準備が整った。

 生まれたのはオーラフォトンで形成された巨大な球体。高密度、高火力の殺意の塊。

 

「吹っ飛ばせ、オーラフォトンメテオ!」

 

 その球体から放たれたオーラで構成された流星雨が超速度で氷華に叩きつけられ、氷だけではなくミニオンまで蒸発させていく。

 相手の目的がどこにあるのかは知らないが、誘導する以上はそこに行き着けば必ず勝てるということなのだろう。

 ならば、そこにたどり着く前に消滅させてしまえばいい。その際に生まれる相手との攻防で街が壊れるというのなら、そもそも相手に行動させなければいい。

 そんな思考で放たれた範囲攻撃は、果たして彼の想定通りにミニオンを消滅させた。

 

「ふぅ……」

 

『どうします、おにーさん?』

 

「どうするって……」

 

『ここでミニオンがあたしたちを連れて行こうとした場所まで行けば、多分ミニオンを作ってた相手に近づけます。でも……』

 

「相手が表に出てくるってことは、確実にこっちをどうにかできる、かな?」

 

『はい』

 

 今の彼には、ここでエターナルを放置するという選択肢だって当然ある。

 むしろ、向こうから動き始めたという事実を考えればそちらの方が賢い。

 

「……遠距離から仕掛けてみようか。勝てなさそうなら逃げることも視野に入れて」

 

『はい、わかりま──おにーさん!』

 

「っ……!?」

 

 どうするのかを決めたところで、鋭い声を発したユーフォリアが体を動かしなりふり構わずその場を飛び退く。

 ぎょっとしながら逢夢が元いた場所を見ればそこには何もない。

 まるで空間ごと抉り取られたかのように、全てがその座標から消失している。

 喰らえば、確実に彼も死んでいただろう。

 

(ユーフィー。これを撃ってる場所に向かおう。そうじゃないとジリ貧だ)

 

『……わかりました。行きましょう!』

 

 当たれば殺せる。当たらなくても対処のしようがないから追い立てることができる。

 ミニオンよりも優秀な猟犬を解き放った何者か。この連弾が彼らに居場所を知らせるためのものなのか、あるいはミニオンが追い立てようとした場所まで連れていくためのものなのかはわからない。

 けれど、生き残れる可能性が高いのは、襲撃者の元へと向かう選択肢だということだけはわかる。

 

 そうと決まれば話は早い。

 

『次の攻撃の後、一気に走ります!』

 

(わかった!)

 

 着弾する空間消失攻撃を飛び退いて避けた直後、足元に一度で砕ける強度なマナの足場を展開。

 敢行するのは足場を砕きながらの連続跳躍。時折飛んでくる空間を抉る不可視の弾丸に合わせて方向を変えながら、発射地点を目指す。

 ユーフォリアの操作に合わせ、逢夢も初めて使った時とは比べ物にならないほど練り上げられた光刃を連射する。

 それ自体は不可視の攻撃に打ち負け、当たった瞬間に粉砕されるのだが、ぶつかり消失するというだけで十分。

 見えなくてもそこにあるとさえわかれば、ユーフォリアが避けられる。

 

「……いない?」

 

 直線距離にしておよそ三百メートル。

 消失弾を避けるためその三倍ほどの距離を動き、たどり着いた場所は無人。

 人の気配はなく、されど濃密なマナの残り香がそこにはあるゆえ、この場が目的地であることは間違いない。

 感知能力を最大限に発露し周囲を探り──最初の焼き直しのようにまた背後へと全力で跳んだ。

 

「あら、避けるなんてすごいのね」

 

「あな、たは……」

 

 上から、潰すように落ちてきた一撃。

 それは彼を捉えることなく、逢夢の前に敵の正体のみを明らかにするものだった。

 

 そこにいるのは、白いヴェールのみに身を包んだ、痴女と呼ばれても仕方がないような女性。

 長く綺麗な赤い髪と、どこかで見たことのあるような顔立ち。

 

「お隣さん……?」

 

 永遠神剣第二位『赦し』の契約者、”最後の聖母”イャガ。

 それが彼女の名前で、彼のご近所さんだった。




そろそろ終わりも見えてきた。


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最後の聖母

原作別総合評価が二位になった! ありがとう!


「本当はもうちょっと待つつもりだったのよ? でも、どうしても我慢できなくって……」

 

 そう口にした次の瞬間、女の姿はその場から消えていた。

 

 永遠神剣第二位『赦し』。その能力は、至極単純。名は体を表すを体現したかのような存在である。

 短刀型の神剣は空間ごと全てを切り取るが故に、相手の内に存在する罪過を相手の肉体から切り離し、文字通り『赦す』のだ。

 ただし切り離すのは相手の命ごと、の話ではあるが。

 

「あら……? 珍しいこともあるのね」

 

 本来ならば、誰も打ち合うことができない永遠神剣。けれど多種多様に存在する永遠神剣の固有の能力には当然相性のいいものだってあるだろう。

 普段、青属性の魔法として使われるユーフォリアの固有能力、永遠神剣の力を打ち消す能力もその一つだった。

 

「まさか、食べられるのを拒否するなんて」

 

 空間転移により逢夢の眼前に出現したイャガは受け止められた短刀に少し首を傾げながらも、試してみましょうと一度二度、連続して武器を振るう。

 そこに技量と呼べるものはない。ユーフォリアの手を借りずとも十分弾ける程度の攻撃。

 一撃を奇襲で当てさえすればその瞬間に抹殺……彼女の言葉に従うならば捕食できるのだから、必要なのは剣士ではなく暗殺者としての技量だ。

 

「いや、そりゃいきなり言われて『はい、食べられます』なんて答える食材なんていないと思いますけど」

 

「そうかしら? 結構いるものよ。辛い思いをしてきた子とか、罪の意識に耐えられない子とか。もうこれ以上生きていたくない子は、最後に人のためになれるなら、って言って差し出してくれるわ」

 

「ならそういう奴らだけ食っててくれます? 俺、まだ食べられたくないんですよ」

 

 だからこそ、予兆だけは見逃さないように。

 軽口を叩きながらもマナの感知能力は最大限。空間跳躍の前兆たる揺らぎは確実に捉える。

 鞘を握る力も強く、流し込むマナは一切の加減がない。

 

「ふふ……これでも私、グルメだと思ってるの。たまには美味しいものも食べたいのよ」

 

「それで食われるこっちとしてはたまったものじゃないですけど」

 

「大丈夫よ。食べられる時の痛みも不安も、全て私が引き受けるわ。そのために私はここにいるの。だから、安心してちょうだい?」

 

 だからこそ、対応が間に合った。

 空間跳躍ではなく、口上。マナを宿した言葉が起動させたのは、神剣魔法に連なる金色の魔法陣。

 出現した赤い光は彼女が引き受けるべき『痛み』そのもの。ダメージではなく痛みを与える光球に世界が悲鳴をあげ、その対象を叩きつけられた白い光に移して消滅する。

 それを見届けることもなく、背後へ向けて鞘を一閃。

 

「あら、バレちゃったわ」

 

 空を切るはずだったそれは、転移により背後に回ったイャガの短刀と激突して火花を散らす。

 膂力は逢夢が上。拮抗は生まれずイャガは吹き飛び、その勢いのまま空間を超えて天より落ちる。

 吹き飛んだ勢いを乗せての一撃は、ユーフォリアが体を動かしたことで彼に届くことはなく。

 返礼とばかりに放たれた精霊光(オーラフォトン)が、彼女の肉体を覆う同質の聖衣によって弾かれた。

 

(ユーフィー。あの防御、どうやったら抜ける?)

 

『今のは咄嗟だったからダメだっただけですよ。おにーさんの最大出力なら全然問題ないです』

 

(なるほど)

 

 鞘に纏った光がより高密度になる。

 鞘に紡がれた刃はミニオン数百体分のマナを内包した代物。生半可な存在では見ただけで戦意を喪失しそうな武装を前に、イャガはどこか楽しそうな様子。

 

「本当に美味しそう。あなたも、あなたの永遠神剣も。きっと、とても美味しいのでしょうね」

 

「は?」

 

 そうして呟いた言葉の返答は、音速を超えて迫る刃だった。

 永遠神剣が生み出す精霊光の衣を貫き、物質的な白い衣を引き裂き、女の腕を切り裂く一撃。

 それを放った逢夢は、自らの攻撃が生み出した成果に頓着することなくさらに殺すための斬撃を繰り出す。

 

「お前、今、なんて言った? ユーフィーを食うとかほざいたか?」

 

「ええ、そう言ったわ。その()、とっても美味しそうなんだもの」

 

 イャガのそれが空間を削り取るのであれば、彼の攻撃は空間を強引に引き裂くもの。

 紙一重で躱そうとすれば、まず確実に衝撃に飲まれて裂傷を負うことになる。

 だというのに、女は避けるそぶりすら見せない。当然、イャガの肉体を千切るはずだった一閃は、けれどまるで透過するように彼女の肉体を通り抜けていった。

 

「怒らなくていいの、悩まなくていいの。私に身を委ねて……」

 

 直後、剣を振り抜いた姿勢の逢夢の眼前に空間跳躍で出現するイャガ。

 紡ぐ声音には慈悲の色。食べようなどと言いながら、本心から敵を慮る声で苦悩を取り払おうとしている。

 他者を苛む罪を赦す『禊』を思わせる攻撃は、無造作な振り下ろし。

 

「そして、終わりなさい」

 

「ふざけんな」

 

 そんな全てを削ぎ落とさんとする一撃を受け止めたのは、刀身の側面を叩くように速射で食らいついた白い光弾。

 強烈な音を生み出しながら、逢夢を斬り裂く軌道からそれてしまった一撃。

 今度は逆に、逢夢の前にイャガが無防備な姿をさらしている。それを視認した瞬間、一切の躊躇なくその胴体を切り裂くための横薙ぎ。

 

「……!?」

 

 炸裂するのは金属音。上半身と下半身を両断するはずだった一撃を防いだのは転移してきた短刀。

 周囲のマナを固め、その場に固定された短刀が盾となって火花を散らす。

 その隙にイャガは新たな魔法の用意をしている。突き出した手のひらの前に浮かんだ魔法陣。

 

「そんなに暴れちゃうと食べ残しが出ちゃいそう」

 

 それは『禁句』だった。

 口にすることすら許されない言の葉には、当然ふさわしい罰がある。

 

「それはもったいないもの。ぜーんぶ、燃やしてからちゃんといただくわ」

 

「グルメを名乗ってるのに焼くんじゃなくて燃やすのかよ」

 

 天罰。励起したマナが形を変えて空間を焼却する炎となった。

 魔法陣の破壊……不可能。属性としては白属性。青属性(バニッシュ)は通用しない。

 ならばと、永遠神剣の能力を行使する。魔法陣に訴えかけるのではなく、魔法陣によって励起するマナそれ自体を鎮静させ、魔法の効果を消失させた。

 

『おにーさん』

 

(どうしたの、ユーフィー)

 

『この人、ロウ・エターナルです』

 

(なるほど、殺すのに躊躇しなくてもいいってことね。……する気もなかったけど)

 

『ええっ!?』

 

 する余裕もなかった、とまでは思考しない。

 もしも味方だったらどうするつもりだったんですか、というユーフォリアの驚きが伝わってくる。

 

(いや、ユーフィーを食べるとか言ってたし。その時点で敵でしょ。ユウトさんも同意してくれると思う)

 

 全力の加速で踏み込んで──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

700:名無しの転生者

 いけー! イッチー! そこだーっ!

 

701:名無しの転生者

 殺せー! ユーフォリアちゃんを食べようとかいう不届き者はぶっとばせー!

 

702:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんを食べる(物理)

 

703:名無しの転生者

 これが性的な話なら俺たちは百合の間から放逐されるイッチを笑って見ていられたんだがな

 

704:名無しの転生者

 でもイッチごと食べるつもりらしいから、百合と同時にノンケな矢印もできてしまうことになるんだよね……

 

705:名無しの転生者

 いや待て、双方向の関係性じゃないからただのレズだぞ

 

706:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃん相手に無理やりとか許されざるよ

 

707:名無しの転生者

 イッチ、この掲示板見てる余裕ないでしょ

 

708:名無しの転生者

 俺たちは一応実況モードでイッチの活躍見れてるけど、何やってるのかまるでわからん

 わかるニキ助けて

 

709:名無しの転生者

 あ、おいバカ

 あいつを呼ぼうとするんじゃない

 

710:名無しの転生者

 ……?

 どこの掲示板にも一人はいる戦闘系に強い有識者を呼ぼうとしただけだけど、ここのそいつはなんかやべえやつだったりするの?

 

711:ユーフォリアちゃんすこすこ侍、義によって助太刀いたす

 呼んだでござる?

 

712:名無しの転生者

 うわぁぁぁぁぁっ!?

 

713:名無しの転生者

 出やがった……この掲示板でも弩級にやべえやつだ……!

 

714:名無しの転生者

 (名前を見て)……あ、こりゃどう見てもやべえやつですわ

 

715:名無しの転生者

 むしろなんでこんな名前にしたんだよ

 許されてもユーフォリアちゃんすこすこ侍までだろ

 

716:ユーフォリアちゃんすこすこ侍、義によって助太刀いたす

 いや、拙者も自分でこんな名前にしたんじゃないでござる!

 この喋り方も掲示板側で勝手に変換されてるんでござるよ!

 

717:名無しの転生者

 掲示板のせいにしようとするな

 

718:名無しの転生者

 掲示板が変えたんだとしてもお前が変えられるような言動をしていたことは忘れてないからな

 

719:名無しの転生者

 しかも聞いた話では、お前ユーフォリアちゃんの言動を把握するために動体視力鍛えたとかなんとか

 

720:名無しの転生者

 イャガとかいう言いづらそうな名前のお隣さんよりもこいつを消した方がこの世のためなのでは……?

 

721:名無しの転生者

 こいつ絶対ユーフォリアちゃんが元に戻ったらパンツ覗くぞ

 

722:名無しの転生者

 無駄に鍛え上げた動体視力で確かに見そうだな

 

723:名無しの転生者

 ま、すこ侍はイッチに報告しておくとしてとりあえず説明よろ

 

724:名無しの転生者

 (なんでこんなボロクソに言ってるのに説明してもらえると思ってるんだろう?)

 

725:名無しの転生者

 (あ、ちくわ大明神先輩ちーっす)

 

726:名無しの転生者

 (ちくわ大明神の先行入力やめろ)

 

727:名無しの転生者

 (ちくわ)

 

728:名無しの転生者

 (大明神)

 

729:名無しの転生者

 誰だ今の

 

730:名無しの転生者

 まさかの二段構え

 

731:ユーフォリアちゃんすこすこ侍(最後まで表記するの面倒臭くなりました)

 しょうがないでござるなぁ

 とは言っても今のところは特に説明しないといけない部分はないでござるよ?

 連続しての空間跳躍を相手に……あの動きはユーフォリアちゃんでござるな

 ユーフォリアちゃんが迎撃をしているだけでござる

 

732:名無しの転生者

 名前が変わってる!?

 

733:名無しの転生者

 その名前で真面目な説明されるとなんともシュールだな

 

734:名無しの転生者

 というか後ろの括弧内、一体誰の発言だよ

 

735:ユーフォリアちゃんすこすこ侍(あ、管理人ですよろしく)

 本当でござる!? 名前が変わってるでござるよ!

 使ってる魔法はよくわからないでござるね

 攻撃だということはイッチが迎撃していることからも明らかでござるが、その種類がわからないからイッチも当たらないように迎撃しているのでござろう

 

736:名無しの転生者

 名前変えてるのやっぱり管理人かよww

 

737:名無しの転生者

 管理人のせいですこすこの発言が頭に入ってこないぞ

 

738:名無しの転生者

 普通にレスしろよ管理人

 

739:ユーフォリアちゃんすこすこ侍

 それにしてもこうして見るとユーフォリアちゃんの能力はチートでござるな

 あの永遠神剣が通った空間が斬り裂かれているというのにユーフォリアちゃんは普通に打ち合えているでござる

 能力を打ち消し純粋な技量に持ち込めるというのは、使用者がイッチではなく歴戦のエターナルであればかなりの脅威でござろう

 何せ能力を起点とした戦術を全て叩き潰すことができるのでござるからな

 

 というか説明を求めるであればちゃんと聞くでござる!

 

740:名無しの転生者

 いや、すまん……

 

741:名無しの転生者

 さすがに管理人が出て来るとは思ってなかったから

 

742:名無しの転生者

 エターナルが本気で動くと普通の行動もまともに見えなくなるんだな……

 

743:名無しの転生者

 その場に留まって尋常な斬り合いを始めたら腕だけ見えなくなりそう

 

744:名無しの転生者

 説明を聞くにイッチはやっぱり未熟なんだな

 

745:名無しの転生者

 ま、イッチはあくまでただの人間だからね

 選ばれた主人公様だったりすれば、あるいはなりたてで勝てるのかもしれないけどそういうのもないし

 

746:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんのお父さんは成り立てでエターナル撃破したらしいけど、それだって周囲には仲間がいて、エターナルになる前から永遠神剣とは契約していたって話だしね

 

747:名無しの転生者

 やっぱり、まともな師匠のいないイッチは大変だな

 

748:名無しの転生者

 でもエターナルだから、いずれはこの掲示板でもかなりの歴戦個体になるんだろうね……

 

749:名無しの転生者

 イッチが歴戦の転生者になるって全く想像つかんのだが

 

750:名無しの転生者

 まあ今の、相手の能力を制限してもかなりボロボロにされてる現状だとね……

 

751:名無しの転生者

 ……あ!? イッチが吹っ飛ばされた!?

 

 

【実況モードを終了します】

 

752:名無しの転生者

 ……イッチ、気絶した?

 

753:名無しの転生者

 死んではない、よな?

 

754:名無しの転生者

 でも戦闘中に気絶したって……もう……

 

755:名無しの転生者

 いや、イッチが死んだらこのスレッドも消えるはずだ

 

756:名無しの転生者

 多分、最後に誰か永遠神剣の契約者っぽいのが見えたから死んではない……はず……

 

757:名無しの転生者

 味方なのか敵なのか……

 

758:名無しの転生者

 消えてしまうんじゃないかとめちゃくちゃハラハラしてきた

 

759:名無しの転生者

 あの永遠神剣、時深さんのじゃないのか?

 

760:名無しの転生者

 分かんね……一瞬だったから

 

761:名無しの転生者

 イッチ……

 




負けるシーン何回書いても納得いかなくて掲示板に頼ってしまった……無念


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6スレ

実はこの回の前に時深さんとイャガの戦闘とか色々と入れるつもりだったけど、書いてる最中に「これ書いてたら確実にエタるな」と悟ったのですっ飛ばした。
気になる方は原作かPSP版やってね(なお今の時代のPCだと仮想環境入れないとできない模様)

あ、ちなみに最終話まで予約投稿完了しました。


「ここは……?」

 

 逢夢が意識を取り戻した時、最初に視界に捉えたのは謎の空間だった。

 上下左右が真っ白でどこが地面なのかも見た目にはわからない。その割には平衡感覚はしっかりとしていて、はっきりとここが地面だと宣言できる。

 夢か、幻覚か。どちらにせよ、ここが地球でないこと以外はわからない。

 

「おっと」

 

 一歩を踏み出そうとして、永遠神剣(ユーフォリア)の姿がないことを思い出す。

 呼び出そうと意識を集中させて、何の反応もなくただ時間だけが無為に過ぎていった。

 

「ってことはこれは夢なのかな?」

 

 幻覚ならば、いるのは現実だ。あくまで現実の上に被せてあるだけの幻覚ならば、別に世界から切り離されたわけでもなく、ユーフォリアの存在を感じ取れないなんてことはないはず。

 で、あるならばここはおそらく夢の中。それも、ユーフォリアとの接触が絶たれている以上は彼女でも触れることができない程度には深層なのだろう。そう判断して少しばかりの心細さを抱きながら逢夢は歩き出す。

 

「で、どこに行けばいいのかな」

 

 今は、正しく独り言。

 普段であれば反応してくれるユーフォリアもこの場にはいない。

 前に進めばいいのか、それとも左右。あるいは後方に向かって歩くのか。

 正解も、正解を導き出すための方程式も、判断するための基準が真っ新なこの空間には存在していないが故に、彼の歩みは非常に緩慢だった。

 

「……ああ、夢じゃなくて敵の罠にはまった可能性もありえるのか」

 

 その最中、思い出したのはイャガの顔。

 彼らを食べると称したあの女に敗北したというのなら、彼女の胃の中という可能性もあるだろう。

 思考が見出した可能性が、彼の足に速度を与えてくれる。

 胃の中だというのなら、そこには胃酸があるはずだ。体内に取り込まれた食物がいつ溶かされてもおかしくはない。

 

「……っ」

 

 そんな未来を想起して、歯軋りした彼の徒歩が焦りから疾走に変ずる。

 永遠神剣の力がない状況での走りは戦闘時に比べれば赤子と同じようなもの。

 走っても走っても前に進んでいるような感覚はなく、ただいたずらに体力を消耗している気分にすらなってくる。

 それがきついのは、肉体的な消耗よりも精神的な部分。体力が保とうと心が保たない。

 

 心の奥底に澱みとなって積もった早く変化が見つかって欲しいという半ば懇願じみた願い。

 それが言葉となって口から発せられそうになった、そんな瞬間のことだった。

 

「こんにちは」

 

 この空間に入ってから初めての他者の存在。

 その姿は、彼もよく知るもの。

 

「ユー……いや、違う。誰だお前」

 

 一瞬、間違えそうになったがすぐに違うと断じる。

 他者を見つけたことへの喜びと安堵はすぐに消え、代わりに燃料を投与され燃え上がるのは怒りの炎。

 ミニオンの単色とは似て非なる、青と白の混じった空色に近い髪を揺らしながら、小学生、あるいは中学生ほどの体格の少女がそれを受けて微笑む。

 それはあまりにも異質だったが、けれど妖精のような容貌の彼女が微笑むのは非常に絵になる光景。

 

「ユーフィーの姿を真似るとか、ふざけたことをしやがって」

 

 出現を隠すことができる障害物など何もない空間に、突如として現れた少女。

 どうあがいても普通ではない彼女に向けて、けれど武器も何もないままに殺意にも近しい激情を向ける。

 ふざけた理由だったら殺してやる、と全身にて語りながら、その一挙手一投足から目を離さない。

 

「少しは落ち着いてください」

 

「お前がユーフィーの姿を取るのやめたら考えてやるよ」

 

「それができるんだったら私だってやっています」

 

「あ? どういう意味だよ」

 

 発露されている敵意が揺れる。

 問いかけに、まだ気がつかないんですかと呆れた様子。幾度となく聞いたユーフォリアの呆れた声も、きっと形があったならばこのような表情で発せられたのだろう。

 そう思うと、彼女の姿を騙っているその存在への敵意がユーフォリアはそんなこともできないのに、という八つ当たりじみたものへと変わっていき。

 

「では、ユーフォリアの代わりに改めて名乗りましょうか」

 

「ユーフィーの、代わりに……? まさか」

 

 その言葉に何かを察し、敵意が一瞬完全に喪失する。

 彼の頭に浮かんだ仮説を読み取ったのか、もう一度微笑み、その女は名乗った。

 

「私は、永遠神剣。永遠神剣”鞘”『調律』。それが、あなたが契約した、『悠久のユーフォリア』というエターナルが永遠神剣になった存在の真の名です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永遠神剣の区別の仕方というのは一種類だけではない。

 神剣使いであれば誰もが知る永遠神剣の位階。出力とその力の規模。それ以外の区分は、あまり知られていないだけで当然存在する。

 

 その区分の名前は”系統”。位階が十の分け方であるならば、系統は三種類。

 マナに属する『天位』と呼ばれる神剣と、それが生み出した十位から一位までの無数の神剣。

 マナの天敵たるナルによって構成される『地位』と呼ばれる神剣と、それが生み出した十の位階に分けられる無数の神剣。

 

 そして、その二つのバランスをとる”鞘”と呼ばれる永遠神剣。

 天位、地位、鞘。一位よりも上位に立つ三種の永遠神剣の総称をコズミックバランサーと呼ぶ。

 

「それがあんただと?」

 

「はい。そして、私の転生体が『悠久のユーフォリア』(あたし)ってことです。本当なら、力を取り戻すまでは眠ってる予定だったんですけどね」

 

 あなたが掴んじゃったせいで台無しです、と苦笑する少女……いや『調律』。

 ユーフォリアがあの姿になった理由はわかった。彼女がもとより永遠神剣であり、いずれは目覚めるはずの存在だったから。もとよりそう目覚める可能性があったというだけのこと。

 あるいは、ユーフォリアが己が内に眠る鞘の力を引き出すという形だったのかもしれないが、少なくとも彼女に付随する力だということには間違いはない。

 

 けれど同時に、『調律』の発言からするならば、鞘『調律』という武器に変わったのは彼女ではなく彼にあるようだ。

 

「私の意識と力が目覚めるほどの回復をしていなかったから、あたしが自分のマナを無意識に使って鞘の形に変わった」

 

「その変化を起こしたのが、俺があの子の手を引っ張って逃げようとしたこと」

 

「はい」

 

 あの時、ユーフォリアと初めて出会った日。

 まだ彼女がミニオンを倒せるなんてことを知らなかった彼は、彼女の手を引きミニオンから逃げようとして。

 その瞬間に、ユーフォリアは永遠神剣に変わった。

 

「でもなんでまた」

 

「当然のことですよ。あなたの中身は違うかもしれませんが、肉体は私の契約者の転生体なんですから。ついつい嬉しくなって契約しちゃってもおかしくありません」

 

「……おい、それ、あんたのミスってだけなんじゃ」

 

 ジト目で見れば、すいっと顔をそらす『調律』。そこに威厳はなく、まるでただの少女を相手にしているようだ。

 超常の存在とは思い難く、敵意がどんどん消えていく。

 

「いや、でもしょうがないじゃないですか。人体を構成するマナなんて無数の配列方法があるんですよ。それなのに、その配列が私の元契約者と全く同じなんですから、ついつい勘違いしてもおかしくないです」

 

「まあ、それのおかげで助かってるから文句を言うつもりはないけどさ。……契約してなかったら、知らないうちにイャガに食われてたかもしれないし。あんたがこのタイミングで出てきたのも、その辺りに理由があるのか?」

 

 彼女が何者なのかは教えてもらった。ここがどこなのか……はまだわからなくても契約している相手と真正面から向かい合えるのだから大体の想像はつく。

 けれど、なぜこのタイミングで彼を呼んだのかはまだ教えてもらってない。

 

「ええ、そうです。まだあなたは食べられてませんから。ここから一発逆転、やっちゃいましょう」

 

 そう言って、その女はくすりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

200:名無しのエターナル

 あー、くっそ。ようやく目が覚めたわ

 スレ立ててくれたのユーフィー? ありがとね

 

201:名無しの転生者

 イッチのご帰還だ!

 ユーフォリアちゃんへの感謝は現実で言おうな!

 

202:名無しの転生者

 イッチ、気絶してから一ヶ月くらい経つんだっけ?

 

203:名無しの転生者

 実はなイッチ、もう五つ目のスレは終わってたりするんや

 

204:名無しの転生者

 イッチの帰還が久しぶりすぎてスレそのものが歓喜に沸いてるような気すらしてくるや

 

205:名無しの転生者

 ついでにこの後イッチの激怒でスレが熱くなるぞ

 

206:名無しの転生者

 この一ヶ月、イッチの心配とユーフォリアちゃんへのセクハラしかなかったもんな……

 

207:名無しのエターナル

 ぶっ殺すわ

 今の俺はユーフォリアに対する穏やかな愛情とイャガに対する激しい怒りで目覚めたハイ・エターナルだぞ

 これまでに比べて非常に強くなった自覚がある

 

208:名無しの転生者

 イッチ、そんなに強くなったんか

 

209:名無しの転生者

 こりゃイャガもけちょんけちょんだな

 

210:すこすこ侍

 うぎゃああああああっ!?

 

211:名無しの転生者

 す、すこすこ侍ーっ!

 

212:名無しの転生者

 一体何があった侍!

 

213:名無しのエターナル

 イャガをけちょんけちょんにできる証明として、まずはユーフィー相手にセクハラしようとしてた侍からボッコボコにした

 今まではユーフィーの中の永遠神剣が勝手にやってたけど、俺もできるようになったぞ!

 

214:名無しのユーフォリア

 え、なんですそれ……ゆーくんそんなことしてたんですか? もうっ

 

215:名無しの転生者

 三位の永遠神剣でも世界観全く違う世界にまで影響を及ぼせるのか……

 

216:名無しの転生者

 世界移動って、永遠神剣のルールが存在する世界の間だけかと思ってたけど違ったんだな

 

217:名無しの転生者

 でもイッチはそんな力に目覚めようと学園祭にはもう参加できないんだよなぁ……

 

218:名無しの転生者

 イッチが眠ってる間に終わっちゃったもんな

 

219:名無しの転生者

 イャガの方もなんかスーパーパワーアップしたらしいぞ

 

220:名無しの転生者

 なんだっけ? マナを一方的にボコれるナルとか言うのを吸収して取り込んだとか言ってたね

 

221:名無しの転生者

 そのレベルの相手にいくら時深さんたちが手を貸してるとは言ってもただの神剣使いが勝負の均衡を保たせてるってかなりやばいよね

 

222:名無しの転生者

 と言うかエターナルのくせにイッチが貧弱すぎる

 

223:名無しのエターナル

 まあ、今まではね

 

224:名無しの転生者

 なんかイッチが余裕すぎて不気味なんだけど

 イッチはもっとこう……雑魚と同じ目線の高さで争ってて?

 

225:名無しの転生者

 ハイ・エターナルとか言う謎の存在になったって言ってるけど、イッチただ一ヶ月寝てただけじゃん?

 

226:名無しの転生者

 むしろ体鈍ってるのではないか?

 

227:名無しの転生者

 時深さんに手取り足取り鍛え直してもらおう

 

228:名無しの転生者

 テンションだけがハイになったエターナルかな?

 

229:名無しのエターナル

 ハイ・エターナルになってできるようになったこと?

 

 

 まあ、ユーフィーを人型に戻せるようになりましたね

 

230:名無しの転生者

 イッチ! めっちゃ重要じゃんそれ!

 

231:名無しの転生者

 イッチの目的達成! 勝った! 第三部完!

 

232:名無しの転生者

 むしろ第一と第二はどこだよ

 

233:名無しの転生者

 でも、イッチいくらなんでも急激に強くなりすぎじゃない?

 

234:名無しのエターナル

 いやあ、ちょっと眠り姫と会ってきてな

 

235:名無しの転生者

 わけわからん

 

236:名無しの転生者

 むしろ今回の眠り姫枠はイッチで王子様枠がユーフォリアちゃんだろ

 

237:名無しの転生者

 別に王子様のキスで目覚めたわけでもないけど

 

238:名無しのユーフォリア

 むぅ……女の人と会ってたんですか? あんなに皆に心配かけてたのに……

 

239:名無しの転生者

 ほら、イッチ

 ユーフォリアちゃんが激おこだぞ

 

240:名無しの転生者

 まあそりゃ目の前で浮気宣言されればね

 

241:名無しの転生者

 自分がどれだけ教えても強くなれなかったのに、ちょっと寝てる間に別の女に育てられていたイッチを見たらそりゃ怒るわ

 

242:名無しのエターナル

 寝てる間もユーフィーといちゃいちゃしてただけなんだよなぁ……

 

243:名無しの転生者

 草

 

244:名無しの転生者

 ついにイッチもいちゃつく側に回ってしまったか……

 

245:名無しの転生者

 それは夢の中で好き放題されてたユーフォリアちゃんが怒るだけなのでは……?

 

246:名無しの転生者

 夢の中でも自分が出てくる +1ポイント

 夢の中の自分といちゃつく −100000ポイント

 

247:名無しの転生者

 ポイント下がりすぎぃ!

 

248:名無しの転生者

 でもユーフォリアちゃんめっちゃ心配してたしね

 そりゃこんなことを堂々と言われたらキレるわ

 

249:名無しの転生者

 イッチが目覚めるまで、だいたい10レスに一回は心配の発言でてきたからなぁ……

 

250:名無しのエターナル

 心配かけてごめんね、ユーフィー

 もうこんなことにならないようにするよ

 

251:名無しのユーフォリア

 うぅ……約束、ですよ?

 

252:名無しの転生者

 いちゃつくな

 

253:名無しの転生者

 イチャつきは俺たちの見えないところでだけやってくれ頼むから

 

254:名無しの転生者

 あ、そうだイッチ

 時深さんが目覚めたらくるように言ってたってこの間ユーフォリアちゃんが言ってたぞ

 

255:名無しのエターナル

 あいあいー

 じゃ、また後でー

 

256:名無しの転生者

 おつおつー

 

257:名無しの転生者

 おつおつー

 

258:名無しの転生者

 おつ

 

259:名無しの転生者 

 ……イッチ、なんか変わったような?

 

 



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6スレその2

ほのぼのって……何なんだろうね……


340:名無しのエターナル

 というわけで過去に行くことになったぞ!

 

341:名無しの転生者

 ごめん、どういうことなのか全くわからない

 

342:名無しの転生者

 かろうじて時深さんとの会話でそうなったってことだけはわかるけど、それ以外はまるでわからんから説明プリーズ

 

343:名無しの転生者

 それを説明するにはまず銀河の成り立ちから説明する必要がある

 長くなるぞ

 

344:名無しの転生者

 おじいちゃん、今のイッチの世界の成り立ちはもうとっくに説明されてるでしょ

 

345:名無しの転生者

 お前たちは結論を急ぎすぎる

 

346:名無しの転生者

 急ぎすぎるというか結論しか言わないだけでしょイッチは

 

347:名無しの転生者

 掲示板を語録で埋め尽くす気かこいつら……

 

348:名無しの転生者

 え、なんですこれ?

 

349:名無しの転生者

 知らないなら知らない方がいいよ

 

350:名無しの転生者

 イッチ! とりあえずこれ以上掲示板が混沌とする前に何があってそうなったのかを教えてくれ!

 

351:名無しの転生者

 久しぶりの今北産業さんのお仕事タイムだな!

 

352:名無しの転生者

 ほいほい、ちょっと待ってな

 

353:名無しの転生者

 ……そういえば、イッチはユーフォリアちゃんが人の姿に戻れるようになったって言ってたけど、それってもうお父さんがイッチを生かしておく必要がなくなったってことでは?

 

354:名無しの転生者

 ……あっ

 

355:名無しの転生者

 イッチ……強く生きろ……

 

356:名無しの転生者

 いや、でもイッチも強くなったみたいだしワンチャン生き残れる可能性はある……はず

 

357:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんを使ってお父さんを殺すわけにもいかないしね

 

358:名無しの転生者

 それも重要なことだけど、もう一つ重要なことがあるぞ

 

359:名無しの転生者

 ……?

 

360:名無しの転生者

 え、イッチの命以上に重要なことあるか?

 

361:名無しの転生者

 こういうところ、掲示板で何言ってても実際は善良なんだろうなって思える部分が滲み出てて好きだよ

 

362:名無しの転生者

 照れるぜ

 

363:名無しの転生者

 いいか? イッチはユーフォリアちゃんを人型に戻せたと言っていた

 

 つまり、イッチは以前言ってた通りにユーフォリアちゃんの画像を送る義務がある

 

364:名無しの転生者

 イッチの命以上に重要だわ

 

365:名無しの転生者

 早く! 早くプリーズ!

 

366:名無しの転生者

 イッチの命が尽きるよりも早く画像をおくれー!

 

367:名無しの転生者

 >>361

 イッチの命が尽きたらユーフォリアちゃんがこの掲示板に来られなくなる可能性があるからね

 死んでもらったら困るんだよ

 

368:名無しのユーフォリア

 おにーさんが写真写りのいいこれにしなさいってー

 

 【画像】

 

369:名無しの転生者

 ぐわーっ!

 

370:名無しの転生者

 めちゃくちゃ可愛いー!

 

371:名無しの転生者

 え、イッチこんな可愛い子をお風呂に入れたりしてたわけ……?

 

372:名無しの転生者

 許されざる大罪

 

373:名無しの転生者

 ……待て、イッチの大罪はそれだけでは済みそうにないぞ

 

374:名無しの転生者

 前言ってた通りにえへ顔ダブルピースの写真送りつけてきた以上の大罪が……?

 

375:名無しの転生者

 あっ

 

376:名無しの転生者

 この画像、よく見るとイッチはユーフォリアちゃんを膝の上に乗せてないか……?

 

377:名無しの転生者

 下に見える足っぽいの、腹に回された腕と思しき物体、背もたれ

 ……隠そうとした努力は認めてやるが俺たちの目は誤魔化せん

 

378:名無しの転生者

 ……せねえ

 

379:名無しの転生者

 よし、まとまった

 というわけでドン

 

 ・イャガがナルを飲み込んで完璧に吸収し自分のものにした(自称)らしいけれど、実際は暴走していたらしい

 ・暴走してるせいで操作もできず歩くマナ侵食機になってしまったとのこと

 ・そのせいで世界が滅んでしまったので過去に戻って世界が滅びるよりも前にイャガをボコってしまおう!

 ・じゃ、お前が行ってこい

 

380:名無しの転生者

 四行目を無理やり付け足した感

 

381:名無しの転生者

 んなことはどうでもいい

 ユーフォリアちゃんといちゃいちゃしてやがったなイッチ……!

 

382:名無しの転生者

 女性との縁が生まれない俺たちへの当てつけのような画像は許されんぞ!

 

383:名無しのエターナル

 は? 俺が今までどれだけユーフィーを愛でたかったと思ってるんだ?

 お前ら相手に見せつけた程度じゃ全然足りんのだが?

 

384:名無しの転生者

 謎のキレ方やめろ

 

385:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃん……こいつが嫌になったらすぐに契約解除して逃げてもいいんだからね?

 

386:名無しのユーフォリア

 もーっ! そんなことにはなりませんから心配しないでください!

 

387:名無しの転生者

 ぐぬぬぬ……

 

388:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんとイッチの仲がいいのは喜ばしいことだ

 喜ばしいことなんだけど……どうしても祝福できないぃっ!

 

389:名無しのエターナル

 はっはっはっ!

 永遠神剣との契約は俺とユーフィーだけの関係じゃないからな

 実は簡単には切れたりしないのだ

 

390:名無しのユーフォリア

 むぅ……おにーさんが夢の中で会ったって人のことですか

 

391:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんがお怒りだ

 

392:名無しの転生者

 一瞬で仲を悪くする魔法のワード、”夢の中の人”

 

393:名無しの転生者

 イッチからすれば恩人、ユーフォリアちゃんからすればなんとも言えない立ち位置の人

 

394:名無しの転生者

 ここがイッチとユーフォリアちゃんの仲を崩す一手になりそうだな

 

395:名無しの転生者

 一瞬でクズみたいなこと言い始めるスレ民……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おにーさん、もしかしてまだ調子が悪かったりするんですか?」

 

 ぼうっとしていたところにかけられた声に意識を取り戻すと、目の前に広がっていたのは夜の暗闇。

 心配そうな声が発せられたのは彼の隣。イャガに敗れ、目覚めてからついに人型に戻れるようになったユーフォリア。

 とは言ってもそれはエターナルに戻ったというわけではない。結局、世界の外へ永遠神剣から戻るための手段を探す旅を始めることに変わりはなかった。

 

 だがそれも、イャガを倒してからの話だ。

 

 彼らが歩くのはゴーストタウンと呼んでも差し支えのない街並み。

 人の気配はなく、生命(マナ)の気配もなく、ただあるのはそこに人がいたという証明だけ。

 エターナルの戦場としては最悪に近い環境を二人は今歩いている。

 

「いや、そういうわけじゃないよ。ただ、人がいない街を歩くのはちょっと気味が悪いなってだけで」

 

 けれど、ここが戦場になることはない。

 なぜならこの場所はもう戦場となった後、滅んでしまった世界。 

 そう遠くない未来、一面が砂漠と化して命の痕跡も枯れ果てるだけの末路が待っている。

 

 いや、そちらの方がまだマシだったかもしれない。

 

「イャガを倒せないとこうなるんだよね」

 

「……はい」

 

 この空間に満ちているのはマナではなくナル。天位ではなく地位の力。ただあるだけでマナを侵食していく物質。

 そんな場所を二人が歩けているのは、”鞘”の理がそこにあるから。

 天位と地位のバランスをとり諍いを抑える鞘に、そこに属する力が通用する道理はない。

 マナに親しんだ肌には少しばかりの違和感のある空気をくぐり抜け、向かった場所は高台に存在する公園。

 

 そこが、時深に指定された待ち合わせ場所だった。

 

「ここからだと色々と見えますねー」

 

「見えるなー。どっか行きたいところとかあったりする? イャガを倒したら明日……明日? とりあえず、学園祭の後に世界を出るよりも先に行ってみてもいいかも」

 

「あ、だったら……!」

 

 その会話に意味はない。

 どこに興味を持とうと、もうすでに滅んでしまった世界の生命は今この場にいる二人だけ。

 あるいはすでに時深がいるかもしれないが、行きたいと思った場所には人はおらず、翌日に学園祭が行われることもない。

 というよりも、学園祭は日付的にもすでに一ヶ月前の話である。

 

 だから、本来ならばもうどうしようもない話だった。

 

 

 

 思い出したのは、そんな一時間ほど前までの詰んでいた状況のこと。

 

「人がいると、ああいう風な明かりがつくんですね」

 

 けれど今、二人の眼下には人の息吹が根付いた、人工の明かりが灯っている。

 場所は変わっていない。変わったのは時間だけ。

 世界が滅ぶ少し前、学園祭の前日まで、逢夢とユーフォリアは戻って来たのだ。

 そこに、少しばかりの感慨があった。

 

「うん、そうだよ。この時はまだ世界が滅んでないからね」

 

 理屈はとても単純なこと。時深による時間操作で過去に戻って来た。たったそれだけ。

 時間を遡る前、つい数瞬前までの未来(かこ)のような世界にさせないために二人はここにいる。

 

「あたしたちからイャガに接触……はできないことはないですけど」

 

「時深さんは相手が動き出すのを待ってろって言ってたよね。向こうを下手に追い詰めて変なことをさせない方がいいって」

 

「なら、動き出すまではどうしましょう?」

 

「……どうしようかね。こういう時の時間の潰し方も聞いておけばよかったかな」

 

 ここに来る前の時深が言うには、送り込んだ時間はイャガが動き始める前でしかない、とのこと。

 正確にその時間帯を狙うと、多少の誤差によってあるいは全てが終わった後の時間軸に飛ぶ可能性もあったので、かなり余裕を持って飛ばしたらしい。

 何も決まらないまま、ただ事が起こる時を待つ二人の元へ人の気配が近づいて来る。

 

「成功したようですね」

 

「……え、時深さん?」

 

 何が起きたのかを知っているような言動とともに姿を見せたのは、この時代の倉橋時深。

 逢夢は、彼女は今回の時間遡行にはついてこなかったはずだと困惑を顕にする。

 

「私は、未来視ができますから。あなたが未来から送られるところを見てしまえば、大体察することはできますよ」

 

「うわ、そんなことまでできるんですか……めちゃくちゃ便利」

 

 ついでに言えば、彼女の未来視能力は永遠神剣とは一切関係のない、生来の能力なので鞘の力による封印は通用しない。

 

 驚いている彼を横目に、時深が視線を向けたのは逢夢の横に連れ添うユーフォリア。

 自分にとっても大切な、恋する人の娘に向けるのは優しい顔。

 

「久しぶりですね、ユーフィー。仲良くやっているようで何よりです」

 

「はい、お久しぶりです時深さん!」

 

「その手を離してはいけませんよ」

 

「……? はい、そのつもりはないですけど」

 

 ユーフォリアにとっては謎の言葉。

 けれど彼女の瞳には何かが見えていたのか、少女の頷きに少し頭を撫でて。

 

「今からあなたたちが戦った場所に向かえば、ちょうどいいくらいのタイミングでたどり着けるはずですよ」

 

「時深さんは来てくれないんですか?」

 

 告げられた言葉に、疑問を口にしたのはユーフォリア。

 それに困ったようにこちらもまだやらないと行けないことは終わっていないのだ、と時深は告げた。

 

「わかりました! こっちはあたしたちに任せてください!」

 

「ええ、後でいい報告をお願いしますね二人とも」

 

 そう告げて時深はこの世界を去る。

 それを見送って、二人は自分たちの感覚では一ヶ月ほど前、今の時代から見れば少し後の時間で戦うことになる場所へ向けて歩き出した。




後ちょっとで完結するんだ……あとはイャガとの戦いだけなんだよ……


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最後の聖母-2

最終決戦だから後一、二話で完結までたどり着くんじゃないかな〜


 ミニオンを片手間に薙ぎ倒し黄金の粒子に変えながら、逢夢が思い出しているのは今から少し後に行われるはずだった、もう二度と行われることのない一度目のイャガとの戦いだった。

 今やミニオンには意識を向ける価値もない。それがエターナルミニオンであろうと何だろうと、彼にとっては等しく雑兵。

 己が永遠神剣の銘を知った彼は未熟なまま、されど出力という一点では他のエターナルを圧倒している。

 それこそ、ミニオン程度では何をしようと彼に傷をつけられぬほどに。

 

 永遠神剣の位階差による戦闘能力の違いが、それこそ神剣使いと一般人程に隔絶してしまった光景がここにはあった。

 

 故に、考えるべきは彼を傷つけられるイャガについてだけでいい。

 花を手折るように首の骨をねじ切りながら、ミニオンだったマナを吸い尽くす。

 それを繰り返し、自らの相棒が保有する量とは比べることすら烏滸がましい程度のマナを吸収していると、彼の視界に目的地である山が鮮明に見えてくる。

 

「さて、と」

 

 だから、そこで一旦足を止めた。

 ここから先に進めば、きっとすぐにバレてしまうだろう。止まる余裕なんて存在しない。

 いつものように、これまでとはまるで違う存在感を宿す鞘へと視線を向ける。

 

「ユーフィー、準備はできてる?」

 

『はい、もちろんです! おにーさんの方こそ、準備はいいんですか』

 

「ダメかもしれない」

 

『ええっ!?』

 

「いや、ほら。なんかめっちゃ強くなってるけど、どれくらい強くなったのかよくわからないし、わかってるのは今まで以上に動けるってことだけだから。それをぶっつけ本番で試すって考えるとちょっと怖くなってきた」

 

『もーっ! 大丈夫です。そのためにあたしはきっといるんですから』

 

「そうかなぁ……いや、そうかも」

 

 彼にできない部分をユーフォリアが動かして戦闘を成り立たせる。それが彼らの基本形。

 今までは思うように体がついて来なくてユーフォリアが動かしていたが、今回は思っていた以上に体が動き過ぎてしまうから彼女に任せる。

 戦闘能力自体は変わったけれどやることは何も変わっていない。

 

「うん、それなら気持ちは楽だ。いつも通り、任せてもいいかな」

 

『はいっ』

 

 その事実に安心しながら、ユーフォリアの強化に伴い向上したマナの知覚能力を行使すれば、今までは捉えることができなかった箇所からイャガの気配を感じ取れる。

 少女の肯定に肩の力を抜き、次の瞬間、一気に肉体の強化を全身全霊で掛け直す。

 爆発する身体能力。この距離ならば車で、あるいは四位の永遠神剣と契約した神剣使いが一時間もあれば十分到達できる距離。

 それを、ただの一歩で詰めにかかる。

 

 地より空に向けて飛ぶ流星となった逢夢の着弾地点は、当然イャガの反応が存在する場所。

 ユーフォリアのマナ操作により作った足場で向きに補正をかけて、逐一方向を調整しながら、空間そのものをただの踏み込みで粉砕して突き進む。

 

 それが始まりの合図。

 

 最初の一手は、今のイャガが知ることのできない、一度目の意趣返しのような奇襲による一撃。

 超超遠距離からソニックブームを撒き散らしながら砲弾のように迫る逢夢。

 エターナルとしても類を見ないマナの爆発により強化を施された身体能力に、イャガが気づいた次の瞬間にはもう瞬きする時間すら残されていなかった。

 だから、それは半ば奇跡のような産物であり、同時に彼女にとっては当然のこと。

 

「くぅ──っ!」

 

 もはや条件反射の域に達した永遠神剣の呼び出し。

 差し込まれた短刀『赦し』が彼女を撃滅する一撃を防ぎ、けれど衝撃までは殺せない。

 あらゆる苦難を受け入れるイャガだからこそ、一度目は浮かべることのなかった苦悶の顔。

 吹き飛ぶ彼女にそれを見た逢夢は追いかけることはせず、開いた距離でイャガに襲撃者としての面を見せる。

 

「こんばんは、お隣さん。今日はいい夜ですね」

 

「ええ、こんばんは。まさかあなたからこんなことをしてくるなんて」

 

 突然の襲撃者、それもつい少し前までは彼女の正体に気づいていなかった逢夢がその正体であることに驚いた様子の最後の聖母。

 けれど、これも幾年月の経験の賜物か。すぐに驚きは消え、いつも通り聖母の微笑みが表情に浮かぶ。

 

「確か明日は学園祭と言っていなかったかしら? それなのに夜に出歩くなんて悪い子ね」

 

「あはは……そっちが動かないでくれるなら俺も夜に出歩く必要なんてないんですけど」

 

「あら、それ以外にもあると思うわ。私に食べられることを選んでしまえば歩く必要なんてないと思うのは間違いかしら?」

 

「それは俺が受け入れられることじゃないですね」

 

 お互い、手にした武器へとマナを通し始める。

 放たれる圧力は鞘の方が上。短刀は確かに一歩存在感では劣っているが、それは別に世界からしてみれば関係のないこと。

 その気配がぶつかる前から空間は悲鳴をあげ、激突した箇所に至ってはもはや世界(おり)の外、時間樹(どうぶつえん)がわずかに見え隠れしている。

 

「ああ、そういえば」

 

 口を開いたのはイャガ。

 彼女は戦場にありながら、いつもと何も変わらぬ様子で一つ、問いかけを口にした。

 

「あなたの名前、聞いたことがなかったわね」

 

「それを言ったら、俺だってあなたの名前を聞いたのは別の人からですよ」

 

「なら、最後に自己紹介?」

 

 その言葉と同時に、圧力が最大限に高まった。

 瞬間、世界に満ちるのは静寂。高まりすぎた力はもはや誰かが感知できる程度の次元にはなく、世界の悲鳴も消し飛んだ。

 

「永遠神剣第二位、『赦し』の契約者。”最後の聖母”イャガ」

 

「永遠神剣”鞘”、『調律』の契約者。調律のアム」

 

 その声を邪魔するものは何もない。

 名乗りは済んだ。武器も構えた。もう止まる必要は消し飛んだ。

 

 では、いざ殺し合おう。

 その決意とともに、逢夢は剣を抜き放つ。

 右手に刀、左手に鞘の変則二刀流。

 それが、彼の鞘の使い方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エターナルは、その本来の戦闘能力を発揮することは少ない。

 様々な要因によってその本気を出すことは許されず、だからこそ制限の中でそれに即した戦い方を身につけている。

 そういう意味では、この二人の戦いは異常なほどに本来の戦闘能力に近かった。

 

「吹っ飛べっ!」

 

 逢夢が初手で解き放ったのはオーラでできた無数の散弾。

 その一発にすらマナが欠乏した世界一つを10年は賄える程度のマナが込められていて、撃った本人すらちょっと引いている。

 それを前にイャガのとった行動はゆるりと短刀で横に線を滑らせただけ。けれどそれだけで空間は開かれ、繋がれた先は彼女の中に存在する胃界とでも呼ぶべき世界。

 殺意にみなぎるマナを平らげ、半ばショートした胃界から伝わる反動(フィードバック)。眼前に現れた苦難をそれも良しと受け入れるイャガ。彼女が伸ばした手と逢夢の間に現れたのは、『痛み』を生み出す魔法陣。

 

「あなたがくれたマナの分、しっかりこちらもお返しさせてもらうわ」

 

 彼女の中でスパークする大量のマナを燃料に、生みだした光は過去最多。

 一切の逃げ場を奪うように包囲するその赤光に、逢夢がとった行動はその場で刀の切っ先を向ける、たったそれだけ。

 それだけの行動で、透き通るような空色の刀身にマナが満ち、周囲を埋め尽くした『痛み』が何もなかったかのように霧散する。

 

「あら?」

 

「そんなもの、今の名前を取り戻したユーフィーに効くかっ!」

 

 それを成すに当たって、最も大きな比率を占めているのが、ユーフォリアが永遠神剣としての名を取り戻したということ。

 より正確に言うのならば、この世界には名前に関するルールが存在するという事実が、名前を取り戻したという事象と噛み合ったのが理由。

 

 世界の中で生まれた神剣使いには、神々という前世(なまえ)を与えることで力を上乗せし。

 世界の外からやってきたエターナルには、制限(なまえ)を与えることで力を縛る。

 ゆえにこそ、永遠神剣の銘という力ある名前を与えられたことで、それにふさわしい出力を今現在ユーフォリアは発揮することを許されていた。

 

「どうしてそんなに苦しもうとするの?」

 

 それが、イャガには意味不明だった。

 自らに全てを委ねれば、これ以上の苦しみを与えないというのに。

 与える痛みは死の瞬間に恐怖を感じさせないため。食らうというのも、それ以上相手が自らの犯す罪に苦しまないようにするため。

 だから、自分が与える赦しを拒むというのは、自分から苦しもうとしているようにしか見えない。

 

「あなたたちの終わりはここにあるんだから。ちゃんと、全ての罪を赦されて行きなさい」

 

「悪いけど、あんたのいうところの罪はまだまだこれからもある予定なんでね。ここで赦されても意味がない」

 

 赦す存在を拒む『禁句』を口にしながら、迫るマナを消失させて突っ込んでいく。

 イャガも神剣魔法が次々と無効化されるのを視認して、一度目と同じように短刀へとマナを収束させる。

 それは、ある意味一番の正答。永遠神剣の能力ではなく技量で戦うというのは、ユーフォリアの能力でもどうしようもないもの。

 そして、イャガには空間跳躍がある以上、避ける時間を与えてしまう遠距離攻撃というのは逢夢としても好ましくはない。

 

 結局、二人とも肉体にオーラフォトンを這わせながら、永遠神剣という武器を用いた剣術に回帰している。

 短刀と空色の刀がぶつかって火花を散らし、一瞬で空色が押し切った。位階差による身体能力の差は、もう覆せないほどに明白。

 

(ユーフィー、一気に決めにいくよ!)

 

『はいっ! 任せてください!』

 

 オーラフォトンを光弾の形に練り上げながら、肉体の操作を放棄。

 一瞬の脱力を無造作に狙うイャガの一撃は、即座に切り替わったユーフォリアが迎撃する。

 そのまま射出された弾丸を、彼女は尋常な手段では躱せない。

 空間を開くには短刀を振るう一工程が必ず必要であり、それも空色の刀身と打ち合う今は使用不可。

 ならばと空間跳躍は能力を封じるユーフォリアの力が邪魔をする。

 

 ゆえに、ただの神剣使いのように障壁となる魔法陣を展開。

 身に纏う聖衣の形に編んだ精霊光が刀傷を軽減。痛みを無視しながら放ったオーラフォトンを逢夢が迎撃している間に距離を取る。

 

 そして、戦場には似つかわしくないほどに、突如として戦闘の雰囲気が聖母から霧散した。

 

「……一応聞くけど、諦めて出て行ってくれたりするつもりになったんですか?」

 

「そんな聞き方をするってことは、そう思ってないんじゃないかしら」

 

 そして、当然彼女が去るはずもない。

 言葉とともに雰囲気に怪しいものが混じり始める。

 

「一応と思って用意しておいた切り札が、こんな形で役に立つなんてね」

 

 もしも、これがただのエターナルだったなら、彼らもそれが何かをすぐに気づいたかもしれない。

 本能が忌避し、怖気が走り、その力から離れようとする。

 けれど現実にはここにいるエターナルは鞘の属性の神剣を持つエターナル。

 

「……! あんた、それをどこでっ」

 

「さあ、どこでもいいんじゃないかしら。ここであなたは死ぬのだし。ああ、でも、せっかくだから私が制御したナルの力をちゃんと味わってね」

 

 だから、彼女がナルを使用しても、その事実に気がつくのに一拍遅れることになった。

 

「破壊と禁理の源よ……全てを犯せ」

 

 そして、その一拍があれば神剣魔法の一つは使用が可能。

 これまで燃料としていたマナと相克する力を凝縮させ、彼女は神剣魔法の起爆剤と変える。

 発動する魔法の威力は同じであれど、内包する脅威度は比べ物にならない。

 

「そして、原初に!」

 

 世界一つをまるごと『焦土』へと書き換えてしまうような一撃が、ナル存在となったイャガより放たれた。



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最終話

これにて本編は完結です。実は途中からもうエタりそうでしたが「お前、永遠神剣シリーズ沢山書いてはエタったんだから一作くらいは完結させろよ!」って、皆様の感想を受け取った頭の中の天使がペシペシ叩いてくれたおかげで、失速しながらも完結できました。ありがとうございます。


『さあ、行きましょうおにーさん』

 

 マナで構築された世界を侵食し、『焦土』へと書き換えるナルでできた津波が視界を覆い尽くす。

 エターナルであっても絶望的な光景。触れてしまっては一貫の終わりな一撃を前に、けれどユーフォリアの声は平時と何も変わらない。

 いつもと同じように鞘にマナを通し、納刀。そしてもう一度刀を引き抜いた。

 空色の刀身に収束する力がユーフォリアによって整えられ、新たな武装の形を形成する。

 

『イャガが全てを原初に還すのなら──』

 

 構成されたのは、特殊な形状の槍剣とでも呼ぶべきもの。

 知る者からは永遠神剣第三位『悠久』と呼ばれるその武器を正面に掲げ、起爆剤としてマナを打ち込む。

 

『原初から終焉まで、悠久の時の全てをあたしたちで貫いて、縫い止めます!』

 

 槍からこぼれ落ちるマナの粒子は、もはや全身を覆い隠すほど。

 そのまま全力での突進を行い、ナルの津波へと切り込んだ。

 鞘の力で変換、消失するナル。操ることはできずとも、マナ(天位)ナル(地位)のバランスを取る役割を持つ鞘に、ナルによる侵食が通用するはずもない。

 

「貫け」

 

『ドゥームジャッジメント!』

 

 無害な力の塊と変わったナルが魔法という形を保てずに霧散する。

 津波が塞いだ視界も開かれ、逢夢が捉えたイャガの姿は、どう見てもナルを取り込んだという様子ではない。

 ナルをただ放射するだけの機械。あるいは、ナルに振り回されているというべきか。

 マナと同じように力の制御ができているなら、こんな無様なものになるはずがない。

 

 そして、どうやら本人もそれに気がついていなかったようだ。

 

 切り開かれた波の奥、絶大な力を手にしたはずのイャガは驚きに目を見開いている。

 

『おにーさん、早く終わらせてあげましょう。あの人、多分ナルですっごく痛いはずです』

 

(そうだね。そうじゃないと、お隣から毎日ナルの痛みで叫ぶ声が響いてきそうだ)

 

 いや、鞘の能力であればナルの消失自体は不可能ではない。

 けれど、エターナルを構成するマナが全てナルと移り変わったイャガを相手にそれをするとなると、時間がかかる。

 ただの一刀でナルを消滅させられるけれど、その一刀が両断するまでに削り切られるという可能性がないとは言えない。

 

 ただ、それと入れ替わるように、エターナルであった頃のイャガと比べて負ける可能性は格段に下がった。

 今のイャガは手にしたばかりの玩具で遊んでいる子供のようなもの。これまで練り上げたマナの技量の全てを投げ捨てているような状態。

 普通のエターナルであればナルというだけでお釣りがくるような交換だが、今必要なのは彼女が投げ捨てたもの。

 マナであろうとナルであろうと相性関係を無効化できる彼に対抗するには、力の種類ではなく質の方が重要だった。

 

(ユーフィー、出力全開。この世界からナルを消し飛ばす勢いでいこう)

 

『はいっ! いっきますよー!』

 

 ユーフォリアが声に応え、少年を中心にマナの嵐が吹き荒れる。

 中心に近いマナを感覚で従え、行使するのは白属性の身体強化系神剣魔法。

 高まる力を感じ取り、イャガもまた己の中から限界まで力を汲みあげるのだが、その途中で首をかしげるのがはっきりと見えた。

 

「あら、腕の感覚が……」

 

 引き出せば引き出すほど、元がマナ存在だったイャガの肉体には反動がはっきりと現れる。

 腕の感覚が鈍くなったのか、あるいはなくなってしまったのか。

 けれどそれも困ったの一言で済ませ、最後の聖母は赦されざる罪に対する罰を繰り出す。

 

「それじゃあ、消えて……!」

 

 構築された形は暴風。

 津波と同じく、広い範囲を覆い尽くす技であり、自らよりも格上に対する攻撃としては収束させて、技量で叩きつける方が効率的なのだが、もうそれすらできないらしい。

 そんな、罰の暴風が迫る中、逢夢がユーフォリア(永遠神剣)の力を引き出し、ユーフォリアが逢夢(契約者)の身体能力を引き出す。

 少女が引き出しきれない域の鞘としての力が殺戮の突風をただの暴風へと変換し、少年が持ち得ない技量が強大な身体能力から繰り出される。

 

(ユーフィー、タイミングは全部任せるよ。君のやりやすいタイミングで言ってくれればその通りに使うから)

 

『お願いしますっ』

 

 暴風に切れ目が生まれ、そこから形を保てなくなっていく。

 同時に、イャガも転移を敢行。ナルの体を一度霧散させ、切れ目の目前で収束。ナルが集まったことで残っていたマナが全てナルへと書き換えらえ、自らの内に増えた毒に世界が悲鳴をあげる。

 自浄作用が働き、どうにかして体内に生まれた世界を殺す毒を抹消しようと空間圧殺に近い現象が発生するが、エターナルにとってはちょっとした阻害にしかならない。

 多少緩慢になった動作で振るわれた『赦し』が、切れ目からその姿を見せた空色の刀身と激突。弾かれたのはイャガの短刀、それに逆らうことなく二撃目の鞘に合わせる。

 

『ここですっ』

 

(任された!)

 

 ユーフォリアの指示に従い、解放する氷華がナルを氷結地獄に閉じ込める。

 内側を吹き荒れながら、決して侵食することができないその氷もまた鞘謹製。

 イャガも、手にしたほとんどの存在に対して有利を取れる力が、けれど彼らに対してだけは有効に働かないということを、何度も繰り返したことで理屈を知らぬままに理解する。

 

 膂力では敵わぬ。ナルもなぜか消し飛ばされる。

 ならば、必要なのは必殺の一撃。

 

「これで終わらせましょう」

 

 『赦し』がイャガの手から消え失せる。

 虚空の彼方に消え去ったその武器の、視覚ではなくマナを感知する力で探り当てた現在地は遥か彼方。

 疾駆するその一刀は一太刀にて広範囲に存在する生命、その全てが纏った穢れを命ごと消し飛ばす『大祓』。

 

「総ての罪を浄化する……これが、断罪よ」

 

「赦すんじゃなかったのかよ」

 

 で、あるならば彼もやるべきことはわかりやすい。

 いつものように、ユーフォリアの肉体操作の最中、彼はマナを練り上げる。

 マナの凍結にて『大祓』を減速させながら、ユーフォリアがその間に切り裂く。

 

『いつもと何も変わりませんよ。最大の力を、最高の速度で』

 

(最善のタイミングに叩き込む!)

 

 ユーフォリアから最初に習った、ユーフォリアもまた父親から習ったその極意に則って。

 絶対に避けられないタイミングで、その一撃が叩き込まれる。

 

『これで──』

 

「終わりだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

700:名無しのエターナル

 というわけで学園祭の時間だオラァっ!

 

701:名無しの転生者

 おらぁ!

 じゃ、ねーんだよ! イッチ!

 

702:名無しの転生者

 イャガ倒した直後に「疲れた、寝る」だけ言い残して放置するとはいい度胸だなおらぁ!

 

703:名無しの転生者

 神と仏が許してもここの掲示板民は赦すつもりはねえぞオラァ!

 

704:名無しの転生者

 >>703はイャガに食われた食品民かな?

 許すじゃなくて赦すだし

 

705:名無しの転生者

 イャガのせいでその二つ誤字る人このスレには多そうだけど

 

706:名無しの転生者

 >>703

 でもユーフォリアちゃんが許したら?

 

707:名無しの転生者

 許しちゃう(はあと)

 

708:名無しの転生者

 うわ、気持ち悪っ

 

709:名無しの転生者

 >>708

 ユーフォリアちゃん以外に言われても別になぁ……

 

710:名無しの転生者

 なんか皆ユーフォリアちゃんへの気持ち悪い感情むき出しになってない?

 

711:名無しの転生者

 だってほら、イッチをお義父さんが生かしておく理由がなくなったわけで

 運が良ければ俺たちも永遠神剣の世界に行った時にユーフォリアちゃんとお近づきになれる可能性が出てきたわけじゃないか

 

712:名無しの転生者

 イッチガードがなくなるとか考えてここでむき出しにしてる変態が出てきてるんだよ

 

713:名無しの転生者

 別にイッチが死ぬのはともかくとして、イッチが死んだところで結局お義父さんガードがあるから無意味なんだよなぁ

 

714:名無しの転生者

 ま、人としてのイッチはここで死ぬんや

 最後の学園祭の間くらい、ここは見ないでユーフォリアちゃんと二人で楽しんでくるとええ

 

715:名無しの転生者

 ついでにユーフォリアちゃんと一緒に回ってるせいでクラスメイトにとっつかまって色々と根掘り葉掘り聞かれるといい

 

716:名無しのエターナル

 残念だったな、実はもうとっつかまってる

 

717:名無しの転生者

 草

 

718:名無しの転生者

 イッチ、ユーフォリアちゃんをなんて紹介するつもりなんや……

 

719:名無しの転生者

 そりゃ、お嫁さんでしょ

 

720:名無しの転生者

 それをクラスメイトの前で宣言するとかかなり度胸あるだろ

 

721:名無しのユーフォリア

 あはは……流石にそんなことはないですよー

 

722:名無しの転生者

 じゃああれかな、生涯を共にするパートナー

 

723:名無しの転生者

 間違ってないけどどう聞いても誤解されるな

 

724:名無しの転生者

 それ、お嫁さんと何が違うんですか……?

 

725:名無しの転生者

 じゃあ、武器と主人?

 

726:名無しの転生者

 それ、普通に倒錯的な間柄だと勘違いされそうですね

 

727:名無しの転生者

 イッチ! 正解はなんなんだイッチ!

 

728:名無しのエターナル

 A.縄を引きちぎって逃走した

 

729:名無しの転生者

 草生える

 

730:名無しの転生者

 最後の最後でこいつ人外の力を見せつけながら逃げ出したぞ

 

731:名無しの転生者

 むしろ最後の最後だからなんの衒いもなく使えたのかも?

 

732:名無しの転生者

 いやあ、どっちにせよ一般人にそれをむけちゃあかんよ

 

733:名無しの転生者

 大丈夫大丈夫、屋上まで逃げてきてから入り口を凍らせたから

 

734:名無しの転生者

 イッチ……いくらなんでもエンジョイしすぎでは?

 

735:名無しの転生者

 でも、それならイッチはしばらくは時間の余裕があるってこっちゃな?

 

736:名無しの転生者

 まあ、そうだろうな……でも、それがどうかしたんか?

 

737:名無しの転生者

 いやイッチがイャガとの戦いで鞘から刀を抜いたわけじゃん

 

738:名無しの転生者

 せやね

 

739:名無しの転生者

 あっ……

 

740:名無しの転生者

 なんか察してる奴もいる……

 

741:名無しの転生者

 前、何個目のスレか忘れたけどユーフォリアちゃんの本体が鞘なのか剣なのかって話があったわけで

 

742:名無しの転生者

 ……イッチを殺せぇ!

 

743:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんを裸にひん剥いた可能性があるイッチを許すなぁ!

 

744:名無しの転生者

 おい、イッチ! 早く出てこい!

 

745:名無しの転生者

 逃げるなぁ! イッチ!

 

746:名無しの転生者

 (でもこれ、ユーフォリアちゃんに答えを言ってもらえばそれで済む話なのでは……?)

 

747:名無しのユーフォリア

 えへへ……内緒です

 

748:名無しの転生者

 うっ

 

749:名無しの転生者

 まだだ……まだ死ねんよ……

 

750:名無しの転生者

 でもユーフォリアちゃんが可愛いので全部許したくなっちゃう

 

751:名無しの転生者

 お義父さん! イッチを早く処して!

 

752:名無しの転生者

 ……あいつ、ガチで逃げやがった

 

753:名無しの転生者

 まあ今のところは倒さないといけない敵もいないから、後でまた来るでしょ

 尋問はその時にでいいんじゃない?

 

754:名無しの転生者

 そうだな……時間だけはイッチにも無限にあるんだからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物部学園の屋上。

 かつての異世界渡航では、たどり着いた世界を一望できるという意味でかなりの人気スポットだった場所。

 けれど今となってはいつも通りの光景が広がるばかりのその空間に、逢夢とユーフォリアの姿はあった。

 

「いやー、完全に忘れてた。ごめんな、ユーフィー。あんなことに巻き込んで」

 

「まさかあんなに興味を示されるなんて思いませんでしたねー」

 

 二人がここにいる理由はたった一つ。ユーフォリアが逢夢と知り合いだということに彼のクラスメイトが興味を異常なほどに示したから。

 逃げるだけならば簡単だが、ただの人間を傷つけるわけにも行かなかったので肉体よりも精神的な部分での疲労が二人の中には積もっている。

 

「でも、ここならしばらくは追ってこられないはずだから、少し休もうか」

 

「あはは……でも、良かったんですか?」

 

 ちらり、と視線を向けたのは屋上と学内をつなぐ唯一のドア。そこは今、絶対零度に近しい温度の氷で覆われている。

 誰であろうと開けることのできない扉。永遠神剣の力であろうと、鞘の出力で行使された氷を簡単に溶かすことはできないだろう。

 無論、凍らせた当人であればすぐに解けるのだが。

 

「いいんだよ。学園祭が終わったらそのまま出て行くんだから」

 

「だから、なんですけど。あたしを呼んで時間を使うなら、その時間を他の人たちと遊んでも文句は言いませんでしたよ?」

 

「俺が放置したくなかったからいいの」

 

「むぅ……そういうならお言葉に甘えますけど」

 

「そうそう。甘えちゃって甘えちゃって。二人でここで学園祭の雰囲気を感じてよう」

 

 寝転んだ逢夢の隣にユーフォリアが座る。

 屋上から校庭を見下ろせば、そこには校庭での出店が生み出す喧騒があった。

 

「……これじゃあ寝られそうにない、かな」

 

「寝て過ごすつもりだったんですか?」

 

「いや、そのつもりはなかったけど、思ってた以上にイャガとの戦いの疲れが……」

 

「だったら……」

 

 てしてし、とユーフォリアが叩いたのは彼女の膝。

 疲労が蓄積している頭でも、その行為の意味はわかる。

 

「使いますか?」

 

「使わせてもらう」

 

 推奨される行為に身を委ね、瞳を閉じて騒めきの中に身を浸す。

 思考は朧げになり、近くにいるユーフォリアの声も遠くなる。

 

「おやすみなさい、おにーさん」

 

「うん、おやすみ……」

 

 最後の学園祭、もう二度と訪れない人間だった頃の日常。

 彼が本当の意味でエターナルになるまでのわずかな時間は、特別なことをするわけでもなく過ぎ去るのだった。




ぶっちゃけ、最終話書き終えて最初に思ったのは「エタらなくて良かった……」でした。

読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
……最終話だし、高評価、催促してもええやろか?


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おまけ
【手土産】お義母さんに会いにいくことになった【どうする】


おまけである。ネタをもらったので頑張って書いてみた。



1:名無しのエターナル

 はい、というわけでどうしたらいいか意見をくれ

 

2:名無しの転生者

 は? イッチいきなり何を言いだすんや?

 

3:名無しの転生者

 いつのまに結婚の挨拶をするようなことになったんだよお前

 

4:名無しの転生者

 そもそも、イッチはエターナルになったから誰とも結婚できんだろ

 したとしても、相手に置いていかれること確定済みだ

 

5:名無しの転生者

 お前ら……現実を見ろ……

 イッチが結婚するんだったらユーフォリアちゃん以外に相手はいない……

 

6:名無しの転生者

 うわぁぁぁぁっ!

 

7:名無しの転生者

 なんでそんな本当のことを書いた! 言え!

 

8:名無しの転生者

 俺たちが必死に目をそらしていたというのに!

 

9:名無しの転生者

 でもよぉ……どうせ少しくらいは気づいていない連中もいたはずだろ?

 イッチが話し始めたせいで死ぬくらいなら、先に覚悟を決めさせるのもいいと思うぜ……

 

10:名無しのユーフォリア

 ……?

 

11:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんが「何言ってるんだこいつら?」みたいな顔をしているのが見える……

 

12:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんにそんな顔で見られたら生きていけねえ……

 

13:名無しの転生者

 いや、でもちょっと蔑まれるのもいい気がしてきたぞ?

 

14:名無しの転生者

 可愛い女の子に蔑まれるのはご褒美だからな

 

15:名無しのユーフォリア

 もう、何言ってるんですかみなさん

 おにーさんが結婚なんてするはずないじゃないですか

 

16:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんによる結婚できない宣言

 

17:名無しの転生者

 イッチ……泣くなよ……

 

18:名無しの転生者

 イッチがエターナルだってことを考えると普通の言葉のはずなのに、どこかイッチを離すつもりがなさそうな発言に聞こえるのはなぜだろうか

 

19:名無しの転生者

 そりゃあれでしょ

 「おにーさんとあたしが結婚なんて」系の言葉じゃなくて「おにーさんが結婚なんて」だからでしょ

 

20:名無しの転生者

 ああ、なるほど

 そう言われると確かにそんな気がするな

 

21:名無しの転生者

 で、それならイッチはなんでお義母さんに挨拶なんてすることになったんだ?

 

22:名無しの転生者

 イッチが結婚するわけじゃない以上、お義母さんはあれか

 ユウトさんの奥さんでユーフォリアちゃんのお母さん

 

23:名無しの転生者

 まあそうだろうねぇ……

 

24:名無しの転生者

 確か今までのスレでも一度も出てきてないだろユーフォリアちゃんのお母さん

 

25:名無しのエターナル

 ちょっとユーフィーのパパさんと偶然遭遇してな

 ユーフィーが元気にやってるのかちょっと心配してたから顔を見せてあげてほしいと言われたのだ

 

26:名無しの転生者

 イッチいらねえ!

 

27:名無しの転生者

 家族団欒の時間を邪魔しようとするとかイッチは大罪人なのでは……?

 

28:名無しの転生者

 なんでイッチは当然の権利のようについていこうとしているのだ

 

29:名無しの転生者

 イッチの命とユーフォリアちゃんの家族団欒ならどう考えても後者の方が重いぞ

 

30:名無しのユーフォリア

 もー! おにーさんにひどいこと言うのは許しませんよー!

 あたしがママに紹介したくてついてきてほしいって言ったんですからね!

 

31:名無しの転生者

 け、結婚の挨拶だ……

 

32:名無しの転生者

 どう聞いても「娘さんを俺にください」って言うやつ

 ここはちょっとひねってあなたの娘さんは俺がもらった、って言えばいいのでは……?

 

33:名無しの転生者

 ぐぬぬ……ユーフォリアちゃんの言葉だからイッチを許さねば……許さねば……

 

34:名無しの転生者

 別に無理に許そうとしなくてもいいんやで(優しさ)

 ただちょっとユーフォリアちゃんに嫌われる覚悟を決めればいいんや

 俺は嫌だけど

 

35:名無しの転生者

 多分ここにいる皆嫌だよ!

 

36:名無しの転生者

 で、なんだっけ? お義母さんへのご挨拶のための手土産だっけ?

 イッチの首でも差し出しとけ

 

37:名無しの転生者

 >>32

 それ、どう聞いても誘拐犯のセリフ

 

38:名無しの転生者

 むしろ、お義母さんたちのあずかり知らぬところでユーフォリアちゃんと一緒になったんだから、そりゃ誘拐したようなものでしょ

 

39:名無しの転生者

 言い方ぁ!

 

40:名無しの転生者

 間違ってないけど言い方ぁ!

 

41:名無しのエターナル

 お前らなぁ……俺とユーフィーをそんな間柄でくくろうとするんじゃないよ

 俺たちはこう……なんと言うか……唯一無二の関係的なサムシングなんだよ!

 

42:名無しの転生者

 唯一無二(担い手と武器)

 

43:名無しの転生者

 唯一無二(女の子に頼りきりの男)

 

44:名無しの転生者

 ぶっちゃけヒモでは……?

 

45:名無しの転生者

 イッチはユーフォリアちゃんに頼りきりのヒモか……

 

46:名無しの転生者

 そんなに可愛くて純粋な女の子のヒモになるとか、生きてて恥ずかしくないのか!

 

47:名無しのユーフォリア

 ヒモ……? なんでこのタイミングでそんな言葉が?

 

48:名無しの転生者

 あっ

 

49:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんは知らなんだか……

 

50:名無しのエターナル

 お前ら……ユーフィーに変な言葉を教えるんじゃない!

 

51:名無しの転生者

 はーい

 

52:名無しの転生者

 いや、これはすまなんだ……俺らが悪い……

 

53:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんはもっと純粋でいてほしい

 

54:名無しの転生者

 あとでイッチが聞かれることになるって考えたら、別に言ってもいい気がするけどユーフォリアちゃんにはそういう単語を知らないでいてほしいって気持ちが強い

 

55:名無しの転生者

 こうやってユーフォリアちゃんはイッチの色に染められていくことになるんやなって……

 

56:名無しの転生者

 無垢な女の子を自分好みに育てようなんて……イッチ許せねえ……

 

57:名無しの転生者

 こいつ光源氏みたいなことやってますけど許されていいんですかね?

 

58:名無しの転生者

 イッチのロリコーン

 

59:名無しのエターナル

 は? 俺とユーフィーの仲を邪推する輩は許さんが?

 クソがっ、結局手土産に関しちゃ時間切れかよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”調律”のアムというエターナルは、その本体性能に関していえばそれほど高くはない。

 通常の位階には囚われない高位の永遠神剣、”鞘”『調律』。そして、その主人格としてある”悠久”のユーフォリアの戦闘経験。

 そこにおまけで、未熟ゆえにほとんど使えない、かつての『調律』から色々と教わった技術、というのが加わって、今の彼の戦闘スタイルは完成している。

 もはや一人でもたかだかエターナルミニオン程度に負けるほど弱くはないが、かといってユーフォリアの力を借りないのならばエターナル相手に勝利をもぎ取れる可能性は限りなく低い。

 カタログスペックを活かしきれるだけの技量がないエターナル。それが自他共に認める彼という存在に対する評価だった。

 

「なあ、ちょっと二人とも近すぎじゃないか?」

 

 なので、奇襲が行われた際に対抗できるように彼のそばにユーフォリアが控えるのは当然のことなのだが、どうやらユウトはそれに疑問を抱いた様子。

 肩が近い。距離が近い。そして二人揃ってそのことについては全くと言っていいほど疑問を抱いていない。もはや見た目はバカップル。

 だというのに二人からはそういった恋愛ごとの雰囲気を読み取れない。自分がそういうのに鈍感だということはエターナルになる少し前にたっぷりと思い知らされたユウトだが、これに関してはそう間違っていないだろう。

 それでも親バカなことには変わりなく、ちょっとでも動けば触れてしまいそうだ、と彼は思っていて、ユウトの相棒たる『聖賢』はテーブルに立てかけられている関係で二人の手が両親から隠れるようにたまに触れ合って絡み合うところも目撃していたが、言ったら面倒だろうなと黙っている。

 

「そう、ですかね?」

 

「え、これくらい普通だと思いますよー?」

 

 とはいえユウトも親バカで、恋愛関係の察しは悪くとも馬鹿ではない。

 彼の脳裏をよぎったのは最初の相棒、かつてアセリアと結ばれるまでの戦いにて握った『求め』という名の永遠神剣。

 マナを求め、自らを乗っ取ろうと強制力を働かせ、しまいにはユウトに友人を斬り殺させようとさえしたその永遠神剣が相手となってなお、年単位の戦いの中でなんともいえない奇妙な相棒関係を築いたのだ。

 それがユーフォリアという性格に特に問題もない目に入れても痛くないような子であれば、そりゃ仲良くなっても仕方がない、というのはわかる。

 

「ん……ユウト、そんなに気にしなくても大丈夫だと思う」

 

 ただ、父親ゆえの心配は理屈で消えるようなものではない。 

 何かを言おうとしたユウトを諌めたのは彼の隣、テーブルを挟んで逢夢の眼前にいる女性。

 

「アセリア……」

 

「ユーフィーが選んだ相手。悪い子じゃないのはユウトも確かめたはず」

 

「それはそうなんだけどなぁ……」

 

 逢夢には無表情にしか見えないが、ユーフォリアいわく今は優しい表情をしているらしい。

 目に見えてはっきりと分かるほど、外見という意味ではユーフォリアと似通っている、この女性は永遠神剣第三位『永遠』の契約者、アセリア。

 学園祭を終えて、つまり逢夢とユーフォリアがあの世界を旅立ってから数年、それだけの時間が経って初めて出会った、ユーフォリアの母親である。

 

「……もうちょっと距離取った方がいいのかな?」

 

「えー、でもそうしたら、不意打ちの時にどうしようもないですよ?」

 

「いや、でもさすがにこの家の中なら……ユウトさんに殴られたりする以外は大丈夫だと思うけど……」

 

「パパは理由もないのにそんなことしませんよ」

 

「いやぁ……ここまで遅れたのは殴られても仕方ないかなって」

 

 今回の目的は顔合わせと、ユーフォリアと一緒に旅をしていることへの挨拶程度。

 娘さんを預かっているのだから、本来ならば一番最初にやるべきだったのだが、旅立った直後に時深経由で任務のお知らせがやってきたこともあって、ここまで時間がかかってしまった。

 つまり、殴られる理由は十分存在するのだ。まあ、そんなものがなくても娘を連れて行っただけで十分すぎる理由ではあるのだが。

 

「そ、そういえば。二人はこれからどうする予定なんだ?」

 

 そんなことを話していたとはつゆ知らず、分が悪いと感じたのか話を振ってくるユウト。

 エターナルは、永遠の命を持つ存在。故に当然、何かしらの目的はあった方がいい。否が応にもカオス陣営に属している以上は任務を与えられることになるのだが、任務と任務の隙間にはやはり個人の時間がある。その時、やることがあった方がいいだろう。

 ユウトの言葉に、顔を見合わせる二人。目的は、あるといえばある。一生涯を共にする覚悟はしたので、ユーフォリアとの契約解除法を探す必要はもうないが、代わりとなる新しい目的が。

 

「ええ、ちょっと人探しをしようかなって。ユーフィーが探したい人がいるっていうんで」

 

「おにーさん!」

 

「え、これ言っちゃダメなやつだった?」

 

「うぅ……そういうわけじゃないですけど……」

 

 探したい人、という言葉に驚いた様子のユーフォリアの両親。どうやら、その尋ね人の存在そのものを知らなかったらしい。

 

「そうか……ユーフィー。その人っていうのはすぐに探さないといけないのか?」

 

「どう、なんでしょう?」

 

「特に何もないっていうなら、今日くらいは泊まって、その人のことを聞かせてくれないか? ユーフィーのお友達だっていうなら、俺たちとしても一回くらいお礼を言っておきたいから。なあ、アセリア」

 

「ん……それに、そういうことならアムも泊まっていくといい」

 

「えぇ……こういうのって、普通親子水入らずなものじゃないんですか?」

 

 結局断りきれず泊まることになったのだが、その時いつもと同じようにユーフォリアと同じ部屋、同じベッドで眠ろうとした結果、親バカが一名覚醒することとなった。



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【誰殺か】なん殺か呪殺いの剣が離殺れて殺くれ殺ない【助け殺て】

評価感想もらえると作者は喜びます


1:蜷咲┌縺励?霆「逕溯?

 スレ殺タイ通殺りで……殺せ……殺すのだ契約者よ……ミューギィを殺し尽くし……なんだこれは?

 ……どうやら契約者はとても便利なものを持っているようだな

 

2:名無しの転生者

 お、新しいスレだ……って、げっ

 

3:名無しの転生者

 しょ、招集ー! 頭のいい連中集まれー!

 

4:名無しの転生者

 イッチ! いいかイッチ! 心を強く持て! ここの連中はだいたいこの分野のエキスパートだからな!

 

5:名無しの転生者

 え、え? 何これ……どういうこと???

 

6:名無しの転生者

 ええい、もう一人新入りがいたのか!

 人が集まるまで説明してやるから、まずはイッチに呼びかけを続けろ! 

 イッチが死ぬぞ!

 

7:名無しの転生者

 ……!?

 わ、わかりました! イッチさん! 掲示板パワーで蘇ってー!

 

8:名無しの転生者

 ネタに走る余裕があるなら大丈夫そうだな……

 

9:名無しの転生者

 人が来るまでどうしようもないから説明しておくけど、名前のところが文字化けしてるのは「掲示板民の意思にそぐわない形で他者に掲示板を利用されている」場合に出て来るパターンだな

 以前新入り掲示板民を騙って世界を滅ぼす手助けをさせるなんてことがあったから、その時から対策をとってるんだわ

 

10:名無しの転生者

 で、これが発動した場合はイッチを騙ってるやつはもうこの掲示板から脱出は不可能や

 どの世界に転生したかだけわかれば、その世界の転生者が向かってくれることになってる

 

11:名無しの転生者

 そうそう、というわけでイッチ……あ、イッチを乗っ取ってるどこぞの誰かさんではないぞ

 なんかそれっぽい、今いる世界の特定に繋がりそうな特殊な単語とかないか?

 

12:蜷咲┌縺励?霆「逕溯?

 ぐぬっ……ほ、本当に抜けられん

 貴様ら、いったいどのような理屈でこんな面妖なものを……

 

13:名無しの転生者

 うっせーばーか! お前なんかこっちは眼中にないんじゃい!

 とっとと死ぬか! とっとと死ぬか! とっとと消滅するかを好きに選べ!

 

14:名無しの転生者

 俺たちの新入りを殺そうとした罪は重いぞ

 

15:名無しの転生者

 転生者は一度死んでいるからこそ、表面上は軽くとも殺そうとする連中には容赦ないからな

 

16:名無しの転生者

 お前の間違いは転生者を狙ったことだ……地獄の底で悔いるといいぞ

 地獄があるならの話だがなぁっ!

 

17:蜷咲┌縺励?霆「逕溯?

 ええいっ! 我とてできることならこんな小娘の体なんぞ嫌に決まっておろうが!

 生まれた時から一緒だったのだ……うぐっ……

 

 アガ、アガスティアっていう、らし、です……この世界……うぅっ

 

18:名無しの転生者

 イッチ! アガスティアだな、転生先の世界の名前!

 

19:名無しの転生者

 よし! これで格段にイッチと同じ世界の連中を探しやすくなった

 

20:名無しの転生者

 イッチの体を乗っ取ってるやつ、「こんな小娘の体は嫌」「生まれた時から一緒」って発言の時点で、「今の今まで乗っ取ろうとはしていなかった」ってはっきりとわかってるんだぞ!

 乗っ取らなくても問題なかったっていうのに乗っ取ろうとしている時点でお前はアウトだ!

 

21:名無しの転生者

 ここの転生者たちはこういう乗っ取り系に対してはエキスパートと呼んでも過言ではないからね

 そこのなんかよくわからんやつ相手でもまあどうにかなるでしょ

 

22:蜷咲┌縺励?霆「逕溯?

 きさ、貴様らぁっ!

 我を永遠神剣第三位『審判』と知っての言葉かそれはっ!

 

23:名無しの転生者

 あー、はいはい永遠神剣ね永遠神剣

 わざわざ自分がどこの世界の住人なのかを教えてくれてありがと

 

24:名無しの転生者

 だいたいこういう連中って尊大だからな

 こうやって馬鹿にされるとすぐにキレてなんか重要な情報をポロポロ出してくれるのは助かるぜ

 

25:名無しの転生者

 ほいほい、じゃエターナルニキ呼んでくるな

 確か今はユーフォリアちゃんのご両親との歓談中なんだっけ?

 

26:名無しの転生者

 じゃ、別に邪魔しても問題ないな

 問題があるとすればユーフォリアちゃんがショックを受けるかもしれないってことだろうけど……

 

27:名無しの転生者

 まあ、さすがに人命には変えられん

 

28:名無しの転生者

 お、エターナルニキにも連絡ついたみたいだな

 

29:名無しの転生者

 イッチは歓喜に震えて、審判とかいうゴミ武器は恐怖に震えて待っているといい

 

 

 

 

 

 

【実況モードを開始します】
【実況モードを開始します】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”宿命に全てを奪われた少女”ミューギィ。

 

 指輪型の永遠神剣、永遠神剣第一位『宿命』の契約者にして、ロウ・エターナルの首魁。

 思考を実現させる力を持ち、世界の崩壊も、エターナルの存在抹消も、彼女にかかれば非常に容易い。

 悲しみ、怒り、嫌悪。そういった負の感情が対象の消失に繋がるゆえに、何かを感じることを禁じ、己の心を壊した、まさしく『宿命』の手によってあらゆる自由を奪われた少女。

 ロウ・エターナルの首魁という立場だって彼女が望んだものではなく、『宿命』による世界抹消の効率の良さが『一つの神剣に戻す』という目的に近かったがゆえに人が魅せられたというだけに過ぎない。

 

 ユーフォリアが幼い頃から幾度も夢を通して出会った友達は、つまりはそういう人物だった。

 

『ミューギィさん?』

 

(確か、ミューギィってユーフィーの友達の?)

 

 そして同時に、掲示板で救援を求めてきた相手が小さいながらも宿している気配の名前でもある。

 逢夢に気がつき振り向いた少女は、希望と不安が混じり泣きそうな顔をしたかと思えば、直後に表情が抜け落ち、代わりに彩ったのは憤怒一色。

 永遠神剣の気配もまた表出し、ミューギィの気配を持つ少女の人格が食い潰されていくというのがはっきりとわかる。

 

(……俺、相棒がユーフィーで本当に良かった)

 

『えへへ……ありがとうございます。それじゃあ!』

 

(ああ……永遠神剣ガチャに失敗しちゃったあの子を助けよっか!)

 

 詳しいことは何一つとしてわかっていない。

 なぜミューギィという少女と同じ気配を持っているのか。掲示板曰く、ユーフォリアと同じように生まれた時から上位の永遠神剣と契約しているそうだが、それはなぜなのか。

 ミューギィだというのならば、なぜ『宿命』ではない永遠神剣を持ち、さらには今更になって転生者になったのか。

 それらは全て、助けてしまえばいくらでも聞く機会はやってくると今は頭の中から追い出す。

 

「貴様らごときが我に逆らおうというか」

 

 ユーフォリアが変化した鞘へ触れると同時、少女の声音で告げられる苛立ち混じりの尊大な言葉。

 まず間違いなく、少女ではなく永遠神剣の声。聞いてやる義理もなく、そのままするりと空色の刀を引き抜く。

 

「うるせえ。お前と話すことなんて何もない。その体を持ち主に返してやれ」

 

「はっ、そんな言葉を聞いてやる必要がどこにある。契約者が貴様を頼りにするというのなら、この場で貴様を殺してしまうだけのことよ。そうすれば、契約者の心も折れるであろうな」

 

「やれるもんならやってみろ」

 

『絶対に負けません! その子の体で好き勝手なんてさせないんだから!』

 

 一瞬で両者の肉体にマナが巡り、身体能力が人外の領域にまで到達する。

 神剣の位階差により逢夢の方がより強く、効率的に強化され、身体能力に差が生まれた瞬間のこと。

 戦士に変わった二人はエターナルとして名乗ると同時に飛び出し、音を置き去りにして激突する。

 

「永遠神剣”鞘”『調律』の契約者、エターナル”調律のアム”」

 

「永遠神剣第三位『審判』、エターナル”審判を下す者”ミューギィ・アイン」

 

 刃がぶつかり、鋼の衝突音が響く中、けれど遅れて届く言葉ははっきりと。

 少女は、相手が鞘であることに。逢夢は、その少女がミューギィであることに。

 それぞれ驚きを抱きながら、現地の力を借り受ける転生者と転生者の肉体を強奪した現地存在の戦闘は始まった。

 

(ユーフィー、何か手はある!?)

 

『パパが、永遠神剣に乗っ取られた友達を助けたことがあるって言ってました!』

 

(よしっ!)

 

 数度斬り結びながら、ユーフォリアからの言葉を受けて、さらに加速する。

 実例があると言うなら話は簡単だ。友人というからには、きっとエターナルになる前のことだろう。ならば、当時のユウトの相棒よりも位の高いユーフォリアを握る逢夢にできないはずもない。

 何をやればいいのかを聞いた少年は、上位の永遠神剣三本と契約している時深によって鍛え上げられた鞘と刀の変則二刀流にて眼前の少女を痛めつけるように刃の軌跡を描く。

 無論、少女の体を操る永遠神剣とて無能ではない。少女の体躯にあった、もはや短剣と呼んだ方が良い双刀型の永遠神剣たる自分を迎撃に当てるが、それが追いつかない。

 

「ちぃっ……やはり生まれたての我ではきついかっ」

 

「生まれたて……?」

 

『おにーさん、今は!』

 

(わかってる!)

 

 徐々に鞘と刀を受け止めるのは永遠神剣本体から表皮を覆うオーラフォトンに移り変わり、ついに三度、連続して防ぎきれなかったミューギィがその勢いに任せて後ろに飛ぶ。

 その最中にこぼした言葉は確かに逢夢の耳に届き、彼の胸中に疑問を呼び起こすが、ユーフォリアの呼びかけにそれを振り払い、さらに踏み込む。

 才能に肉体が追いついていない、あるいは才能を完璧に発揮しきれていない。ミューギィという少女の性能を引き出しきれないのならば、今がチャンスだと刀を振るう。

 

「逃すか!」

 

 目的は、永遠神剣を砕く。あるいは永遠神剣の意志だけを切り裂くこと。

 どちらであっても不可能ではない。特別な神剣である『調律』(ユーフォリア)に位階で敵う相手はそうはおらず、永遠神剣の力を鎮める力を持つユーフォリアならば、永遠神剣に干渉することも容易い。

 展開された実況モード。それ故に互いの手の内が詳らかになった状態での戦闘。当然、逢夢の目的はわかっているのだが、『審判』はわかっていても逃げる余裕も場所もない。

 そもそも掲示板から逃げられないので、どこに逃げようとスレにミューギィが書き込んでしまえばすぐにバレてしまう。

 

 つまり、『審判』はここで逢夢を完全消滅させるしか、逃げ道はない。

 

「負けてなるものかぁっ!」

 

 叫びとともに爆発するマナの奔流。

 顕現したのは『宿命』による世界破壊の超小規模版。双剣に炎が宿り、周囲の空間とそこにある事象の全てを焼き尽くす。

 そこに何かがあったという記録(ログ)を焼失させる炎は、けれど永遠神剣の力を削ぐ空間の前ではただの炎以上の価値を発揮することはできず、容易く受け止められてしまう。

 

(ここ、かな?)

 

『はい、やりましょう!』

 

 ユーフォリアの言葉を受け、さらに一歩。鋼をかちあげて踏み込みながら鞘を振るった。

 逢夢が起動させるのは『調律』の固有能力。同時、永遠神剣の意志たる少女がマナを手繰り魔法を行使、炎をかき消す冷気を生みだしながら『審判』に操られた少女に迫る。

 封じられる神剣の(ほのお)意志(からだ)。動きは止まり、無防備に鞘を受けるしかない少女の肉体を鞘が透過し──

 

「成功、でいいのかな?」

 

『た、多分?』

 

 少女の肉体が崩れ落ちた。




ミューギィとかいう公式チート
三章で仲間になるファナンはファイ分離体って言及されてるから、多分普通にアルファからオメガまでいそう。なのでアインちゃんなのだ。
まあ、こんな切り方になったんで、この子との会話もあるからもうちょい続くんじゃい。


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ミューギィ編その2

感想評価くれると作者が喜ぶのだ


200:名無しのミューギィ

 その……みなさんおさわがせしました……エターナルニキのおかげで助かりましたことをここにご報告させて頂きます

 

201:名無しの転生者

 かたーい!

 

202:名無しの転生者

 イッチとの戦闘で可愛いことはわかってるので、硬い対応よりもフランクに対応してくれる方が嬉しいのだ

 

203:名無しの転生者

 これでユーフォリアちゃんとのコンビも誕生だな……え? エターナルニキ? 百合の間に挟まるのはダメだよ?

 

204:名無しのエターナル

 俺がミューギィとユーフィーの間に挟まろうとしてるんじゃなくてミューギィが挟まって来たんだよなぁ……

 

205:名無しの転生者

 でも女の子の間に挟まるのはダメだぞ

 

206:名無しの転生者

 まーた百合厨が湧いて出てるよ

 別に出会ったばかりで特に何の関係もないっていうのに……

 

207:名無しの転生者

 いや、でもミューギィちゃんとは知り合いって話じゃなかったか?

 

208:名無しの転生者

 え、でもこのミューギィちゃんは転生したての初心者でユーフォリアちゃんのこともよく知らないっぽいぞ?

 

209:名無しの転生者

 同じ世界で同じ名前を持ってるだけの女の子?

 

210:名無しの転生者

 の割にはユーフォリアちゃんが知ってるミューギィさんとやらと同じ気配を持ってるんだよな

 

211:名無しの転生者

 ……ちょっとこんがらがって来たな

 

212:名無しの転生者

 ミューギィちゃーん

 その辺りの説明お願いできる? いや、わかってたらでいいんだけど

 

213:名無しの転生者

 あまりにも謎が多すぎる

 永遠神剣世界のことはまるでわからん

 

214:名無しの転生者

 ……ところでこれ、エターナルニキは幼女二人を連れ歩いている事案なのでは?

 

215:名無しのミューギィ

 あ、はーい!

 えっとですねー、私はユーフォリアちゃんの知り合いのミューギィさんの分身? 分御霊? まあ、なんかそんな感じの存在みたいです

 

216:名無しの転生者

 ああ、なるほど

 だからミューギィさんに比べるとミューギィさんの気配は小さいし、持ってる永遠神剣も一位じゃないのね

 

217:名無しの転生者

 そういえばエターナルニキはあの永遠神剣結局どうしたの?

 

218:名無しのエターナル

 とりあえず精神だけ消し飛ばした

 この世界、一体何があるのかわからん以上は自衛手段を持ってた方がいいのはまず間違い無いからな

 

219:名無しの転生者

 ……こいつ、本当にエターナルニキか?

 なんか妙に頼りがいあるせいで偽物に見えて来たんだけど

 

220:名無しの転生者

 わかる

 本物ならユーフォリアちゃんを出せ、偽物ならユーフォリアちゃんを置いて帰……アバーっ!?

 

221:名無しの転生者

 あ、死んだ

 

222:名無しの転生者

 エターナルニキ相手にそんなことを言えば掲示板経由でぶっ放されるなんてことはわかりきっていたことであろうに……

 

223:名無しのユーフォリア

 もーっ! 仲良くしないとダメですよー!

 

224:名無しの転生者

 はーい

 

225:名無しの転生者

 ユーフォリアちゃんがそういうなら……

 

226:名無しの転生者

 イッチ、ユーフォリアちゃんに怒られてるんだろ……羨ましい……

 

227:名無しの転生者

 でも、期待の新人がやって来たからな

 ユーフォリアちゃんと同じくらいの見た目の美少女だ!

 ユーフォリアちゃん→見た目よりも年齢が超上

 ミューギィちゃん→見た目少女の0歳

 

 ……イッチの周りには肉体年齢と実年齢の合わない幼女しかこないのかな???

 

228:名無しの転生者

 >>214も言ってたから一応答えると、割とマジで地球でその二人とエターナルニキが歩くと事案で通報されてもおかしく無いぞ

 エターナルニキとユーフォリアちゃんの場合、特にこう……普段の言動が……

 

229:名無しのミューギィ

 あ、わかります

 なんだかこの二人、熟年の間柄な感じしますよね

 

230:名無しの転生者

 草

 出会ったばかりの女の子にすら言われてんぞエターナルニキ

 

231:名無しの転生者

 俺たちはニキとユーフォリアちゃんの言動で推し量ることしかできない……

 

232:名無しの転生者

 そういう意味でも二人の生態を暴く上で期待の新人ですな

 

233:名無しの転生者

 でも、バラしてしまうと俺たちが砂糖を吐いてしまいそうな気配もあるんだよなこの二人……

 

234:名無しの転生者

 まあ、分御霊として生まれた理由を阻害しない程度に教えてくれるとありがたいぜ

 

235:名無しの転生者

 でもまあ、まずしばらくは永遠神剣を使っての戦いに慣れるところからなんじゃない?

 そこにニキっていう先輩もいるし、ニキの成長を常に見守って来たはずの掲示板民も多分可愛い女の子相手ってことなら協力してくれるよ

 

236:名無しの転生者

 エターナルニキも可愛い女の子になって(懇願) なれ(豹変)

 

237:名無しのエターナル

 前に一回1000のお願いでそれは叶えたでしょおじいさん

 

238:名無しの転生者

 え、マジで

 

239:名無しの転生者

 当時世界救ってたから見てなかったんだが

 

240:名無しの転生者

 かわいそうかわいそうかわいそうかわいそうかわかわかわかわわかばそそそう

 

241:名無しの転生者

 突然の山の神やめろ

 

242:名無しの転生者

 若葉マークつけんぞオラァ

 

243:名無しの転生者

 なぜに若葉マーク……???

 

244:名無しの転生者

 さあ?

 

245:名無しの転生者

 にしてもエターナルニキ、可愛い女の子との出会いありすぎじゃない?

 いや、まあ永遠に近い時間を生きることになるんだからそりゃそうなっってもおかしく無いっていうのはわかってるけど、俺たちの一生よりも短い期間に出会いすぎだよ

 

246:名無しの転生者

 女の子との出会いを不当に独占するニキを許すなー!

 

247:名無しの転生者

 ニキを殺してしまえば俺たちにも出会いがやってくる可能性……?

 

248:名無しのミューギィ

 さ、さすがにそれは見過ごせませんよ?

 

249:名無しの転生者

 だいじょーぶだいじょーぶじょーだんじょーだん

 

250:名無しの転生者

 ワタシ、ニキ、ナカヨシ

 

251:名無しの転生者

 出会ったこともないのに仲良しと言い切る精神性

……見習いたいような……見習いたくないような……

 

252:名無しの転生者

 そういえばまだ聞いてなかったけど、結局ミューギィちゃんの体はなんのための分御霊なん?

 

253:名無しのミューギィ

 あ、ミューギィ(本体)の自殺のためみたいですね

 

254:名無しの転生者

 は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミューギィ・アインという少女は、ミューギィの分離体の内の一体である。

 無数に生まれた分離体を全て殺し、そのマナと永遠神剣を取り込むことで己を強化し、そして最後にはミューギィを殺す。そういう役割を持って生まれてきた少女。

 宿命に全てを奪われた少女による盛大な自殺の一パーツ。それが、アインという少女の存在理由。

 

「え、私そういう生まれなのっ!?」

 

「……らしいね、今の君の発言からするに」

 

「ミューギィさん……どうして」

 

 被造物として定められた製造理由。転生者の意識が組み込まれたがために素面では取り出せず、忘我の境地から出力されたそれは、三人の雰囲気を暗くさせるには十分なものだった。

 驚く本人、同意する逢夢、そして自分の知るミューギィという少女がなぜそんなことをしたのかわからないユーフォリア。けれど三人が何を考えようと、事実としてミューギィ・アインという少女はいつ死んでもおかしくない状態。飲み物を噴き出さなかったことが奇跡だった。

 あくまで本体あってこその分離体。それゆえに彼女は、自分で死ぬために生まれてきたような存在と言われても否定はできない。

 戦場から一両日ほど歩いた場所にある街のカフェでアインが知ったのは、自らが詰んでしまっているという状況だった。

 

 だから当然、転生者としての先輩に向ける引きつった笑みには縋るような色がある。

 

「これ、どうにかなったりしません……かね?」

 

「さっきの永遠神剣の時みたいに、本体との繋がりを切ることができたら可能性はあると思うけど……」

 

「……そんな簡単に出てくるものなの?」

 

「いや、まあ実現可能かどうかは別としてだけどね? 考えられる手段は一応あるよ」

 

 なのであっさりと、できるかどうかは別ではあっても可能性が出てきたことには驚きを隠せなかったのは仕方ないことだろう。

 ぱちぱちと目を見開く動作でさえも、美少女がやれば絵になる光景。街中という人通りの多い場所でのそれは、周囲の一目を引きつける。

 

「永遠神剣は生まれた時から一緒って言っても外付けだし、そもそもユーフィーの力でどうにかできたけど、これに関してはミューギィ……ちゃん? さん? いや、それともアインって呼んだ方がいいのか?」

 

「あ、呼びやすいように呼んでくれればいいよ。同郷……かはともかく、同類なんだから」

 

「そう? なら普通にミューギィって呼ばせてもらうけど……ミューギィの生体機能だから、下手に切り離して人格を保てませんでした、とか。そもそも本体とのラインを切ったから本体が死んだと錯覚して体が勝手に死滅する可能性だって捨てられないわけで」

 

「結局、難しいことには変わりないかぁ……」

 

「大丈夫ですっ」

 

 少しだけ上向いた雰囲気がまた沈み始めたその瞬間、テーブルを叩きながら立ち上がったのはユーフォリア。

 二人どころか周囲の目を集めながら少女が浮かべる満面の笑みは、何も根拠がないというのに彼女の言う通り何も問題ないのではないかと思わせるような説得力に満ちている。

 

「きっとミューちゃんを助けられますよ! ううん、助けるんです!」

 

「ミューちゃん?」

 

「はい、ミューギィさんと区別することもあって……あ、でもダメって言うなら……」

 

「別にそんなこと言ってないよ、よろしくねユーフォリアちゃん」

 

「ユーフィーでいいですよー。ミューギィさんもそう呼んでましたし、おにーさんもそう呼んでくれますし」

 

「そう? じゃあ、そう呼ばせてもらうわユーフィー」

 

 やることは決まった。

 いつの間にかミューギィも一緒に行動することになってしまっているが、逢夢としても初めての同類かつ後輩。見捨てるつもりはない。

 

「ってことは、しばらくの間はミューギィと本体の切り離しの方法を探すってことでいいのかな?」

 

「……流石にそこまでしてもらうのは心苦しいんだけど」

 

「もー、そんなこと言わなくていいじゃないですか」

 

「……本当にいいの?」

 

「いいんです!」

 

 そっとミューギィが逢夢を見上げれば、そちらも頷く。

 それを了承ととったミューギィは一つため息。

 

「そう、そういうことなら……よろしくね、先輩」

 

「うん、こっちこそ」

 

 逢夢が、ミューギィと握手を交わす。

 絶対に死なせるつもりはないと心の中で宣誓し、二人旅が三人旅に変わることになった。




あとはネタとしてあるのはそれこそ過去に飛ぶ系列と、アインちゃん加わっての日常くらい。
せっかく加わったんだから、アインちゃんのこのパーティでの役割がどういうところなのかの雰囲気を日常で見せてあげたいところ。
まあ、前者をやるとなるとアセリアを一からプレイする必要があるので、時間はかかりそう。


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ミューギィ編その3

聖なるかな原作での総合評価一位になりました
評価、お気に入り、感想ありがとうございますありがとうございます。


500:名無しのミューギィ

 ……誰か、助けて

 

501:名無しの転生者

 ミューギィネキ!? 一体どうしたんや……?

 エターナルニキがいるんだから大抵のことは問題ないはずなんやけど……

 

502:名無しの転生者

 まあ、エターナルニキでもわからんことはあるし……というか頼りになるようなならないような、なんとも言えない状態だからなニキは

 

503:名無しの転生者

 ぶっちゃけエターナルとしてはこの掲示板にいる誰よりも先輩でも、転生者としてはまだまだひよっこだからね

 

504:名無しの転生者

 そもそもエターナルどころか永遠神剣世界に転生した人間自体初めてだったからな

 

505:名無しの転生者

 いずれニキやミューギィネキ、ユーフォリアちゃんがこの掲示板の最古参になってしまうんやな……

 

506:名無しの転生者

 寿命のある連中とない連中だと、どうしてもその辺りはなぁ……

 

507:名無しの転生者

 で、結局ミューギィネキはどうしたんや?

 まさかまた永遠神剣が……とも思ったけどそれならこんなにのんびりしとらんか

 

508:名無しの転生者

 ニキも対応手段を持ってない案件ってことなんだろうけど、そうなると俺たちでどうにかなるか……?

 

509:名無しの転生者

 永遠神剣世界のことはそこに転生した二人と、あとは一緒にいるユーフォリアちゃん以上に知ってる人いないだろうしな

 

510:名無しのエターナル

 おろ? なんかあったのミューギィ?

 

511:名無しの転生者

 お、ニキも来たか

 

512:名無しの転生者

 ニキにも相談しなかった内容……ちょっとヤバい匂いがプンプンするぜ……

 

513:名無しのミューギィ

 今回の相談はそこの自覚無しの先輩とユーフィーについてです

 

514:名無しの転生者

 ニキ……何をやらかしたんや……

 

515:名無しのエターナル

 え、いや、割とマジで何もわからん……

 俺は一体何をやらかしたんだ……?

 

516:名無しの転生者

 ガチの困惑してて草

 

517:名無しの転生者

 こういう、自覚のないやらかしが一番やばいんだよな

 自覚がないから言及してもらえないと直せない

 

518:名無しの転生者

 で、気づいた時には周囲から人が消えてるんや……

 

519:名無しのミューギィ

 いえ、今の所は生存のためにも離れる未来はないんでそこは別にいいんですけど

 

520:名無しの転生者

 草

 

521:名無しの転生者

 これ、内容知らなかったら命を預けてるようにしか聞こえないのがちょっと笑える

 

522:名無しの転生者

 ニキはロリキラーになってしまったんやなって……

 

523:名無しのエターナル

 いや、そういうつもりは全くないけど……

 

524:名無しのミューギィ

 そう! そこですよ、問題は!

 

525:名無しの転生者

 ……?

 

526:名無しの転生者

 え、何……ミューギィネキ、エターナルニキに恋愛感情でも持って欲しかったの……?

 

527:名無しの転生者

 ええ……いくらなんでも出会って数日でしょまだ? チョロインすぎない?

 

528:名無しのミューギィ

 ちーがーいーまーすー!

 

 私が言いたいのは、先輩とユーフィーがいちゃついてないとかほざいていることに対する文句ですよ!!

 あれを見てロリコンじゃないとか、別にユーフィーと付き合ってないとか、そういうことを言われるとムカつくんですが???

 無駄に気を使わないで欲しいんですけど???

 

529:名無しの転生者

 別に関係ないはずなのに妙に?の数が怒りの度合いを示してるように見えて震えてる……

 

530:名無しの転生者

 ニキ、何をやらかしたんやお前……

 

531:名無しの転生者

 お前、ユーフォリアちゃんはいちゃつく対象じゃなくて甘やかす対象だって言ってただろ……何いちゃついてるんだよ……

 

532:名無しのエターナル

 え、いやいやいや! 別にいちゃついてないが!?

 

533:名無しの転生者

 火の無い所に煙は立たないって言ってな……

 

534:名無しの転生者

 少なくともミューギィネキがそう判断するに足る行動があったってことでしょ

 

535:名無しの転生者

 ネキの話を聞いて俺たちがいちゃついているのかどうか判断してやるよ

 

536:名無しの転生者

 本音は?

 

537:名無しの転生者

 ニキだけ可愛い女の子とイチャコラしてるのムカつくから全世界に向けて発信して欲し……あばーっ!?

 

538:名無しの転生者

 なむなむ

 

539:名無しのミューギィ

 言ってもいいのね? じゃあいうけれどまずその1

 

 常に手が触れ合うような距離にあって、何かあれば、何は無くとも指が触れ合って時折絡めあっています

 ユーフィーはくすぐったそうにしてたり、お返しと言わんばかりに指で手のひらをなぞったりすることも数回見ました

 

540:名無しの転生者

 アウトー

 

541:名無しの転生者

 これをいちゃついてないというつもりだったのか……(戦慄)

 

542:名無しのエターナル

 いやいやいや

 奇襲を受けるようなことがあったらすぐに武器を握って迎撃する必要があるでしょ

 俺の武器はユーフィーだけなんだから、そりゃすぐに握れないとダメだよ

 

543:名無しの転生者

 えぇ……いや、さすがにその言い訳はきついと思うんだけど……

 

544:名無しの転生者

 ニキ……それはいちゃついてるって言うんだよ?

 

545:名無しのミューギィ

 それじゃあ二つ目に行くけど

 

 一緒に寝てる

 

546:名無しの転生者

 うーん……アウト

 

547:名無しの転生者

 鞘から戻れなかった時代も一緒の部屋で寝てたから、それの延長としてみれば……まあ?

 

548:名無しの転生者

 一緒に寝れば奇襲を受けた時に、「ユーフォリアちゃんを呼ぶ」っていうワンアクションが消えるからな

 合理的だと言えるだろう

 

549:名無しの転生者

 ニキに同意するのか……

 

550:名無しのエターナル

 わかってくれる人がいて俺も嬉しいよ

 ユーフィーは寝てるからここの住民だけが俺の味方だ

 

551:名無しの転生者

 隣で寝てるのかぁ……

 

552:名無しの転生者

 よくもまあこのタイミングでユーフォリアちゃんが寝てるとか言えるな……俺だったら絶対に言えないわ……

 

553:名無しのミューギィ

 大きいのはこれが最後かしら?

 

 一緒にお風呂はいってる

 

554:名無しの転生者

 はいスリーアウトー! ニキは監獄暮らしにチェーンジ!

 

555:名無しの転生者

 ニキ! お前、これは言い逃れできんぞ!

 

556:名無しの転生者

 お前、前に安価でいちゃつけって言われた時に一緒にお風呂はいったんじゃなかったか!

 

557:名無しの転生者

 あ、いや違うぞ

 いちゃつけって言われた時には手入れしてただけだ

 

558:名無しの転生者

 風呂場とか、特に狙われた時にどうしようもないからな

 ちゃんと武器を手放すことないのは偉いぞー

 

559:名無しの転生者

 このニキ、ユーフォリアちゃんを膝の上に乗せたりしてても驚かねえぞ……

 

560:名無しの転生者

 は? そんなことしたら奇襲の時にユーフィーを膝の上から下ろすワンアクションが必要になるからするわけないんだが???

 

561:名無しの転生者

 あ、いちゃついてないって冗談じゃなくてマジで言ってたのか……

 

562:名無しの転生者

 マジでそれをいついかなる時も、戦いにその場で陥っても問題ないようにしてるだけなのかこいつ……

 

563:名無しの転生者

 でもニキだって絶対ユーフォリアちゃんと触れ合えるのは役得だと思ってるぞ

 

564:名無しのミューギィ

 あー、もう! 私もユーフィーといちゃつきたーい!

 可愛い女の子からしか摂取できない栄養素を摂取したーい!

 

565:名無しの転生者

 草、それが本音か

 

566:名無しの転生者

 本音があまりにも俺たちじみてて草生える

 俺もソーナノ

 

567:名無しのミューギィ

 あーもう! 先輩! 明日の訓練で私が勝ったらそのイチャイチャの頻度減らしてもらってもいいですか!?

 命の危険を排除するためだからやるのはしょうがないけど、私の前ではやらないでくださいよ!

 

568:名無しの転生者

 そういえばいつの間にか先輩呼びしてる……

 

569:名無しの転生者

 ニキの周りには妹系のユーフォリアちゃんと後輩系のミューギィネキか……

 

570:名無しの転生者

 は? こいつギャルゲーみたいなことしてんな???

 

571:名無しの転生者

 ……せねえ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミューギィの本体による思ったことを実現する力というのは、概念領域と呼ぶべき場所への干渉である。

 概念そのものを抹消することで事象すらも消滅させる力。

 故に、彼女と戦うにはまず自らも概念領域に干渉し、その攻撃を防ぐ術を持っている必要があった。

 

 当然、ミューギィを殺すために生まれた、ミューギィ・ミニオンとでも呼ぶべき分離体はその全てが、本体に比べれば規模を縮小(ダウンスケール)しながらも、概念領域に干渉する術を持っている。

 それはつまり、彼女たちの戦術もまた、概念領域への干渉を大前提とした戦い方であるということ。

 

「はぁ──っ!」

 

 アインが領域より引き出すのは双剣術にまつわる概念。相棒になるはずだった永遠神剣の意志は消滅済。ストッパーも補助具もない状況での行使は、他のミューギィに比べれば非常に遅く、かつとっ散らかったもの。

 故に、多量の情報に痛む頭で考えることはせずに、分離体に与えられた才覚に任せ無心で技として組み立てる。

 『審判』が彼女の体を扱った時とは比べることも烏滸がましいような拙さの技術。けれど、気迫だけはこれまで逢夢が出会った誰よりも激しく、ミューギィは一気に駆け抜ける。

 

「さすがに訓練を始めて数日の後輩に負けるわけにはいかないかなぁっ!」

 

「先輩は契約初日にドラゴンを倒したって聞きました、けどっ!」

 

「あれは例外だっての! ユーフィーいなきゃ絶対死んでたわ!」

 

『えへー。まだまだ負けませんよー!』

 

 逆に、迎え撃つ逢夢は完全に役割分担している。逢夢がマナを操作し作り出す光壁が彼女の動きを逐一遮り、そうして生まれた隙を逃さぬようにユーフォリアの強制力が体を動かし、振るわれる鞘と剣。

 砕かねば確実にダメージを負い、かと言って砕くには一手強制的に消費させられるマナの壁。肉体を覆う障壁があれば性能任せに突破すればいいのだが、さすがに永遠神剣側からのアクションが望めない彼女にそこまで求めるのは酷なもの。

 ユーフォリアが武器を振るうよりもなお早く、壁への迎撃に振るわれる双剣。前世がある故の死から逃れんとする本能は強く、だからこそ命を削らんとする攻撃への対処は早い。

 とはいえそれにも限度はある。対応能力は永遠神剣に体を奪われていた時よりもあるが、技術、判断能力が追いついていない以上は、操られていた時よりも限界の訪れが早いのは当然のことだった。

 

「あいたっ!」

 

「はい、俺たちの勝ち」

 

「ぐぬぬ……」

 

 頭を鞘で叩かれ、それで勝敗が決する。彼女の言うところのイチャイチャを減らさせようという目論見は果たせない形。

 ぺたんと尻餅をついた少女は睨みつけるように自らの先輩を見上げる。

 

「やっぱり、鞘への反応が少し遅れてるなぁ」

 

「いや、だってしょうがないでしょ。剣とか魔法とか、そっちの方が絶対に殺しにきてるじゃない」

 

「まあ、それはわかる……わかるけど……」

 

「何よ」

 

「永遠神剣って別に武器の形してるものだけじゃないから、それを直しとかないと戦うのは大変だと思うぞ」

 

「剣なのに?」

 

「剣なのに」

 

「ミューギィさん……あ、ミューちゃんじゃない方だけど、あの人も指輪だったはずだよ」

 

「へぇ……」

 

 元の姿に戻ったユーフォリアがミューギィを引っ張って立たせる。

 その時には、もうミューギィの顔は深刻そうになっていた。

 

「武器っぽくないものも、割と殺意増し増しなのね……」

 

「面倒だよなぁ……」

 

「面倒ねぇ……」

 

 それはつまり、永遠神剣は見た目で判断ができないということで。

 もちろん、『宿命』が一位だからこそそんな能力を持っているという前提はあれど、別個の永遠神剣であろうと見た目が武器ではないからといって安心できそうにないのだと知って、ミューギィはため息を吐いた。




日常書きたかったはずなのになんで戦ってるんだこいつら……


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