鬼滅の恋姫 (レイファルクス)
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第壱話

 

 

「さようなら……。愛していたよ……、華琳(かりん)

 

 

青年『北郷(ほんごう) 一刀(かずと)』はその言葉を最後に、目の前にいた小女『曹操(そうそう) 孟徳(もうとく)』、真名(まな)を華琳の前から消滅した。

 

 

「何よ……。一緒に…いるって、言ったじゃ…ない……」

 

 

「バカぁ…、バカぁ……」

 

 

うわああああぁぁぁぁ~~~っ、ああああぁぁぁ~~っ

 

 

華琳はその場で大粒の涙を流した。それも途切れること無く、次々に溢れ出た。

 

 

そして彼の物語はこれで終わる

 

 

はずだった

 

 

『どぅふふっ。ご主人様、申し訳ないけど貴方の物語はこことは違う世界でまた始まるわ。頑張って頂戴』

 

 

華琳の頭上を一筋の流星が流れた。

 

 

 

 

 

「ハッ❗」ガバッ

 

 

一刀はいきなり上半身を起こした。見回すと、彼は森の中にいた。

 

 

「あれっ❓俺、なんでこんな所で寝てたんだ❓確か俺はあの時に消滅したはず…」

 

 

一刀は何故森の中で寝ていたのか考えていると

 

 

バキンッ

 

 

"何か"が折れる音がした。一刀は立ち上がり、音がした方へ走った。

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 

「ぐひひっ、もう諦めて俺の餌になりなァ」

 

 

一刀が目にした光景、それは同い年と思われるツインテールの女性と頭に角を生やしている男が対峙している所だった。

 

 

だが、一刀は"違和感"を感じていた。

 

 

「(何故彼女は"折れた刀"を男に向けている❓ それにあの男の頭にあるのは角みたいだが、本物なのか❓)」

 

 

一刀は木の影に身を隠しながらその光景を見ていた。

 

 

通常ならここでパニックを起こすのだが、彼は元いた時代から約千八百年前の三國志の世界へとタイムスリップしてしまい、戦場(いくさば)に身を投じたり、時には自ら剣を取り戦ったりと、ちょっとやそっとでは驚かなくなっていた。

 

 

「誰が諦めるもんですか❗私はアンタなんかに負けはしない❗アンタに勝ってみせる❗」

 

 

「じゃあ聞くが、その"折れた刀"で、どうやって俺の頚を斬るんだ❓」

 

 

女性は悔しそうに唇を噛む。

 

 

「だから大人しく、俺に喰われな❗」

 

 

"鬼"が女性目掛けて飛び掛かる。

 

 

「"ライダーキック"❗」

 

 

しかし一刀が鬼に飛び蹴りを喰らわし、怯ませた。一刀はその一瞬の隙を突いて女性の腕を掴み、その場を駆け出した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ここまで…、来れば、大丈…夫だ…」

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 

二人は息を切らしながら木の影に隠れた。

 

 

「あの…、先程は助けてくれてありがとうございます」

 

 

「あ…、いや、気にしないで。あれは俺がしたくてしただけだから」

 

 

女性は息を整えながら一刀に礼を言い、一刀は素直に受け取った。

 

 

「それで、幾つか聞きたいことがあるんだけど、いいかな❓」

 

 

一刀は女性に質問があると言って、女性は頷いた。

 

 

彼女、『神崎アオイ』が言うには、

 

 

今の時代は『大正時代』であること。

 

 

襲って来たのは『人喰い鬼』であること。

 

 

その鬼を滅ぼすべく活動している『鬼殺隊』のこと。

 

 

そして今、その鬼殺隊の入隊試験『最終選別』をこの山『藤襲山(ふじかさねやま)』で行っていること。

 

 

「そして鬼は"太陽の光"に晒すか私たちが持っているこの"日輪刀"で頚を斬るしか倒す方法しかありません」

 

 

「ありがとう神崎さん。大体分かったよ」

 

 

一刀はアオイに礼を言った。

 

 

「では、次に北郷さんのことを教えて下さい」

 

 

アオイの質問に一刀は頷いた。

 

 

一刀が言うには、

 

 

『今から数百年後の"違う世界"』から来たこと。

 

 

『三國志の時代まで時を遡った』こと。

 

 

その時代の武将たちと戦場を駆け巡ったこと。

 

 

本来の歴史をねじ曲げてまで仲間を守ったこと。

 

 

その人の前から消滅したと思っていたら、いつの間にかこの山で寝ていたこと。

 

 

「そして何かが折れる音がしたからそこに向かったら、神崎さんたちがいたって訳」

 

 

一刀の説明にアオイは目が点になっていた。

 

 

「まぁ普通はこんな突拍子の無い話を信じる方が難しいけどね」

 

 

一刀は苦笑いを浮かべ、頭を掻きながらそっぽを向いた。

 

 

「いえ、信じます」

 

 

するとアオイが"信じる"と言って一刀は驚いていた。

 

 

「確かに信憑性が無く、作り話と思われるますが、貴方の目は嘘を言っているようには見えませんでした。むしろ、悲しい目をしていました」

 

 

「そんな目をしている人が嘘を言うはずありません。例え他の人たちが信じなくても、私は信じます」

 

 

アオイは一刀の目を見ながらはっきりと断言した。

 

 

「ありがとう、神崎さ「私のことは"アオイ"と呼んで下さい」…ありがとう、アオイさん。なら、俺のことは"一刀"でいいよ」

 

 

「分かりました"一刀さん"。さしあたってはこれから"七日間"、どう行動するかを決めたいのですが」

 

 

「分かった。とりあえず…、ん❓ "七日間"❓」

 

 

一刀はアオイの言葉に疑問を持った。

 

 

「あれ❓ 言いませんでしたか❓ 最終選別は『七日間行われる』と」

 

 

そう、今は最終選別の『初日』だったのだ。一刀は大袈裟に首を横に振った。

 

 

「そうでしたか…。すみません、肝心な所を抜かしてしまって…」シュン

 

 

「大丈夫だよ。とりあえず今後は一緒に行動しよう。それでいい❓」ナデナデ

 

 

落ち込んだアオイを一刀は頭を撫でながら許し、今後の行動を言った。

 

 

「は…、はい…」/////

 

 

アオイは顔を赤くしながら頷いた。

 

 

「よし、まず最初は武器を調達しないとな。今はお互い丸腰だからな」

 

 

一刀はそう言うと、アオイの腕を掴んで立ち上がらせ、その場を移動した。その理由は武器の調達もあるが、近くに先程の鬼の姿を視界に捉えたからだった。

 

 

その後、二人は運良く折れてない刀を見つけ、それを身に付ける。途中、アオイが『花摘み』に行った以外は極力一緒に行動していた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

最終選別が終わりに近づいた六日目の夜、二人は初日に出会った鬼と対峙していた。

 

 

「貴様ら、よくも俺を虚仮にしてくれたなぁ…。その礼も兼ねて、貴様らを喰ってやる❗」

 

 

鬼は二人に襲い掛かる。が、二人は左右に別れ難を逃れる。鬼はアオイに狙いを定め、腕を伸ばす。そこに

 

 

『全集中 水の呼吸 壱ノ型 水面斬り』

 

 

アオイは水面斬りで鬼の腕を斬り落とす。

 

 

「一刀さん、今です❗」

 

 

『全集中 "空の呼吸" 壱ノ型 燕返(つばめがえ)し』

 

 

一刀は見様見真似(みようみまね)で全集中の呼吸を使い、鬼の身体と頚を斬った。

 

 

「❗❓ 俺は…、ここで……、死ぬ…の…か……」

 

 

頚を斬られた鬼は灰になりながら、アオイに腕を伸ばそうとするが、

 

 

「その汚い腕で、彼女に触ろうとするな」

 

 

一刀がその腕を斬り、鬼は完全に消えた。すると、二人の勝利を祝福するかのように、朝日が登った。

 

 

「朝…だ…」

 

 

「朝…、ですね…」

 

 

「「つ…、疲れた~」」

 

 

二人はその場にへたり込んでしまった。

 

 

「まぁ何はともあれ、最終選別、合格おめでとう」

 

 

一刀はアオイに祝う一言を言い、手を伸ばした。

 

 

「はい。一刀さん、ありがとうございます」

 

 

アオイは伸ばされた手を握り、返事をした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後、アオイは数人の合格者と共に連絡用の"鎹鴉"と"隊服"、そして日輪刀の素材となる玉鋼を受け取り、下山した。

 

 

合格者の中には一刀の姿は無かった。彼は厳密には最終選別には参加して"いない扱い"になっているのだ。一刀は森の中からアオイの姿を見て微笑んでいた。

 

 

「元気でな…、アオイさん」

 

 

一刀は一言呟く。

 

 

「さて、俺はこれからどうしようかな~❓」

 

 

一刀は背伸びしながら今後のことを考えていた。

 

 

「そこの森にいる御方、此方にいらしてくれますか❓」

 

 

すると、合格者を見送っていた女性が森(正確には一刀)の方を向いて声をあげる。一刀は『隠れても無駄か…』と悟り、素直に姿を現す。

 

 

「貴方は一体誰なのですか❓鬼であれば、既に陽光に妬かれて灰になっているはず」

 

 

彼女『産屋敷あまね』は一刀の姿を見て警戒心を露にする。

 

 

「話します。話しますので、一度落ち着いてくれますでしょうか❓」

 

 

一刀はアオイにも話したことをあまねにも話した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「と、言うことです」

 

 

「にわかには信じられませんが、隊士を守ってくれたことには感謝します。ありがとうございます」

 

 

一刀の説明が終わると、あまねはアオイを守ったことに対してお礼を言った。

 

 

「つきましては、貴方を正式に鬼殺隊の入隊を認めたいと思います。連絡用の鴉は後日用意致しますので、まずは隊服の支給。次に階級の授与。それからご自身の刀の素材となる玉鋼を選んで貰います」

 

 

あまねは一刀を正式に鬼殺隊への入隊を認め、一刀の服の採寸、右手の甲に"藤花掘(とうかぼ)り"を施し、最後に玉鋼を選ばせた。

 

 

「これで終わりです。それと、これからの拠点に関しましては『蝶屋敷』でお世話になるとよろしいでしょう。あの子も蝶屋敷に住んでいるので、仲良くなれるかと」

 

 

あまねは一刀の事情を書いた手紙と、蝶屋敷までの地図を一刀に渡した。

 

 

「数々のご配慮、ありがとうございます。このご恩は忘れません」

 

 

「お礼は一体でも多く、鬼を狩ることで示して下さい」

 

 

一刀はあまねに頭を下げると、階段を下りた。すると、階段の一番下の段にアオイと狐の面を着けた少女が腰掛けていた。

 

 

「アオイさん、どうしたの❓」

 

 

一刀は思わずアオイに声をかける。

 

 

「❗❓ 一刀さんこそどうしてここに❗❓上にはまだ人がいるはずなのに…」

 

 

一刀は先程あったことを話した。

 

 

「そうだったんですか…。何はともあれ、鬼殺隊入隊おめでとうございます」

 

 

「ありがとうアオイさん。それでこの子は…」

 

 

一刀は隣にいた少女を見た。

 

 

「私は真菰(まこも)。"あの時"は助けてくれてありがとう」

 

 

少女『真菰』は一刀に礼を言った。

 

 

真菰が言う"あの時"とは、最終選別の最中、一刀とアオイ、真菰が倒した『異形の鬼(以後"手鬼"と表記)』のことだった。

 

 

「俺は北郷一刀、別に礼はいらないよ。あの時は俺も無我夢中だったから。それより、手鬼に握られた手足は大丈夫か❓」

 

 

一刀は真菰の礼を素直に受け取りつつも、真菰の心配をした。

 

 

「骨が折れてる可能性があるので、蝶屋敷に連れて行こうと思っていたんですが、何分、私も疲労困憊で、どう運んで良いか考えていたのですが…」

 

 

アオイは真菰の状態を説明し蝶屋敷に連れて行きたかったが、どう運んで行こうか悩んでいたようだ。

 

 

「だったら、俺が二人を運ぼうか❓」

 

 

一刀は二人を運ぶことを提案した。

 

 

「それは願ってもないことですが、大丈夫ですか❓一刀さんもかなり疲れているはずなのに…」

 

 

アオイは一刀の体調のことを気にしていた。

 

 

「これ位は問題無いよ。さぁ善は急げ、早速行こう」

 

 

一刀はアオイをおんぶし、真菰をお姫様抱っこすると

 

 

「アオイさん、疲れてる所申し訳ないけど、案内よろしく」

 

 

「ハアァッ、しょうがないですね」ギュッ

 

 

アオイは一刀にしっかりしがみつくと、ため息を一つ吐いた。

 

 

「真菰さん、後で交代して下さいね」

 

 

「え~っ、どうしよっかな~❓」

 

 

アオイは真菰に後で交代するように言うと、真菰は渋った声をあげる。

 

 

「真菰さん、からかうようなら無理矢理にでも歩かせるけど❓」

 

 

「ごめんなさい、それだけは許して」

 

 

「分かればよろしい」

 

 

一刀は真菰に注意をすると、彼女は大人しくなり一刀は蝶屋敷に向けて歩き出した。

 

 

 



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第弐話

 

 

藤襲山を朝に出発した一刀一行は、途中で休憩を取りながら蝶屋敷へと向かい、到着する頃には夕方になっていた。

 

 

「ここが蝶屋敷です」

 

 

一刀の背中から降りたアオイは蝶屋敷の門を潜り、一刀はその後を追った。

 

 

「神崎アオイ、ただいま戻りました❗」

 

 

ドタドタドタ

 

 

「アオイ、お帰りなさい」

 

 

出迎えたのは髪を左右で蝶の髪飾りで止め、蝶の羽根の模様を模した羽織を着た女性だった。

 

 

「カナエ様、ただいまです。紹介します、こちらは北郷一刀さんと真菰さんです」

 

 

アオイに紹介された一刀と真菰は頭を下げた。

 

 

「はじめまして。この蝶屋敷の主の『胡蝶カナエ』です。鬼殺隊の『花柱(はなばしら)』を勤めています」

 

 

「紹介に預かりました北郷一刀です、よろしくお願いします。抱えているのが真菰です」

 

 

「鱗滝真菰です。よろしくお願いします」

 

 

「カナエ様、真菰さんは最終選別で手足を負傷したので、蝶屋敷で療養させたいのですが…」

 

 

アオイは真菰の状態を伝える。

 

 

「あらあら~、それは大変ね~。それじゃ診察するからアオイ、案内よろしくね~」

 

 

カナエはそう言うと、屋敷の奥へ引っ込んだ。

 

 

「それじゃ一刀さん、案内しますので」

 

 

「ありがとう。あ、申し訳ないけど、少しの間真菰さんを支えてもらえるかな❓」

 

 

真菰を降ろした一刀はアオイに支えてもらうようお願いし、アオイは真菰を支える。そして一刀は靴を脱ぎ、揃えて"左端"に寄せた。

 

 

「ありがとうアオイさん。それじゃ案内よろしく」

 

 

一刀はアオイに礼を言って真菰を"おんぶ"した。一刀からは見えないが、真菰の顔は残念そうな表情をしていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

アオイに案内された部屋は蝶屋敷の病室の個室だった。

 

 

アオイ曰く

 

 

「診察の為に服を脱ぐことがあるかもしれません。大勢の方が特に異性の方がいるとできませんので」

 

 

と言うことだった。一刀は部屋に備え付けられているベッドに真菰を座らせる。

 

 

「とりあえずこの部屋で待とう。俺は部屋の外、扉の近くにいるから、用があるなら声をかけて」

 

 

一刀はそう言うと、扉を開けて退室した。

 

 

その後、アオイがカナエを連れて真菰がいる部屋へと来た。一刀は

 

 

「診察が終わるまで屋敷内を探索するよ」

 

 

と言って部屋から離れた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一刀は屋敷内をうろうろしていると、縁側に座っている一人の少女が目に入った。一刀は怖がらせないように少女から離れた所に座ると

 

 

「こんにちは」

 

 

少女に声をかけた。少女は一刀をじっと見つめているが、何も言わなかった。

 

 

「俺は北郷一刀。よろしく」

 

 

一刀は少女の顔を見ながら(てのひら)を上にして差し出す。少女は一刀の顔と掌を交互に見ながら、恐る恐る手を伸ばす。その間一刀は動かず、少女は手を出したり引っ込めたりしていた。

 

 

すると、少女は一刀の指を軽く握った。一刀は握られた指を軽く上下に動かすと

 

 

「改めてよろしく」ニコッ

 

 

「//////」コクコクッ

 

 

一刀が挨拶すると、少女は顔を赤くしながら頷いた。

 

 

「あらあら~、カナヲが懐いているわね~」

 

 

一刀は声がした方を振り向くと、そこにはカナエとアオイがいた。

 

 

「真菰さんの診察が終わりました。やはり手足の骨に罅が入っているようでした。なので、しばらくは蝶屋敷(ここ)に滞在することになりました」

 

 

アオイが真菰の診察結果を伝えると

 

 

「そうか。ありがとうアオイさん、カナエさん」

 

 

一刀は二人に向かって礼を言った。すると

 

 

『ただいま~』

 

 

玄関の方から声がした。そして

 

 

「姉さん、何か見たことが無い靴がありましたけ…ど…」

 

 

縁側に来た女性が一刀の姿を見た。

 

 

「貴方、誰ですか❓」

 

 

事情を知らない彼女は当然、一刀を警戒する。

 

 

「しのぶ様、お帰りなさい。こちらは北郷一刀さん。私同様、蝶屋敷でお世話になる方です」

 

 

「はじめまして、紹介に預かりました北郷一刀と言います。ここには産屋敷あまねさんより紹介を頂きました。疑うのであれば、こちらの手紙を読んで頂いて結構です」

 

 

一刀は制服の内ポケットから手紙を出し、しのぶの前に置いた。

 

 

「拝見します」

 

 

しのぶとカナエはその手紙を受け取り、読んだ。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「内容は分かりました。先程は失礼な態度を取ってしまい申し訳ありません。私は胡蝶カナエの妹で継子(つぐこ)の胡蝶しのぶと言います」

 

 

しのぶは先程の無礼の謝罪と自己紹介をする。

 

 

「いえ、知らない人がいきなり家にいると警戒するのは当然のこと。謝らなくて結構です」

 

 

一刀はしのぶの謝罪を受け取った。

 

 

「しかし、カナヲが見ず知らずの人に懐いているのに…」

 

 

カナエとしのぶが手紙を読んでいる間、一刀はカナヲの頭を撫で続けていた。カナヲも満更でも無く、素直に撫でられていた。

 

 

「構いません。それより、先程から言ってる"花柱"とか"継子"とかって、何ですか❓」

 

 

一刀は聞き慣れない単語について質問をする。

 

 

「"花柱"とは、姉さんが持つ"称号"のことです。十ある階級の一番上、甲の更に上に当たる"称号"が柱で、柱になるには"一定の条件"を満たす必要があります。柱の名前は各々の呼吸に合わせたものになっていて、姉さんの場合は"花の呼吸"を使うので花柱と言った感じです」

 

 

「次に継子のことですが、継子とは"次期柱"になるために柱が直々に育てている人、つまり"弟子"の総称のことです」

 

 

しのぶは姉のカナエを差し置いて丁寧に説明をした。

 

 

「ご丁寧な説明、ありがとうございます。お陰で納得しました」

 

 

一刀はしのぶに頭を下げる。

 

 

「因みに"柱は九人"と制限があります。これの由来は"柱の画数が九画だから"と言われています」

 

 

しのぶが柱に関しての捕捉を付け加えると、一刀は『成る程…』と頷いていた。

 

 

「それでは今度はこちらから質問します。『何故貴方は"全集中の呼吸"を使える』のですか❓しかも会得が難しい『常中』までも」

 

 

今度はしのぶが一刀に呼吸について質問をした。

 

 

「全集中の呼吸だったのかは知らなかったのですが、俺の家では剣術を教えていまして、その中に『疲れない呼吸の仕方』と言うものがあります。先ずはその呼吸を使える訓練、使えたらその呼吸を四六時中行う訓練をして、それができるようになって初めて剣術を教えてくれる、と言った感じです」

 

 

一刀は簡潔かつ丁寧に説明をした。

 

 

「成る程…、分かりました。因みに型はどれだけ使えますか❓」

 

 

「今の所は壱ノ型"だけ"ですね。それ以降は自由に型を作っていいと言われているので」

 

 

「でしたら、私たちが使う型を見て自分流にしてみては❓」

 

 

ここでアオイが口にしたことで一刀の新しい型を作ることが決定した。

 

 

「とりあえず、今日はもう遅いから明日以降にして、今からご飯にしない❓」

 

 

カナエの言葉に各々が移動し始めた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

そして翌日、一刀は蝶屋敷の道場に来ていた。そこには、見慣れない『三人の少女』がいた。

 

 

「紹介します。左から『高田なほ』、『寺内きよ』、『中原すみ』です。この子たちは親を鬼に喰い殺されてしまったので、蝶屋敷でお世話をしています」

 

 

「「「よろしくお願いします❗」」」

 

 

しのぶに紹介された三人は一刀に挨拶をした。

 

 

「よろしく。俺は北郷一刀、一緒に頑張ろう。俺のことは好きに呼んでいいよ」

 

 

「「「はい❗」」」

 

 

互いに自己紹介を終えると、一刀はしのぶと向き合った。

 

 

「しのぶさん、よろしくお願いします❗」

 

 

「ではよく見ていて下さい」

 

 

しのぶは木刀を構え

 

 

『蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ』

 

 

『蜂牙ノ舞 真靡き』

 

 

『蜻蛉ノ舞 複眼六角』

 

 

『蜈蚣ノ舞 百足蛇腹』

 

 

自分が使う呼吸『蟲の呼吸』の型を見せた。

 

 

「…どうでしたか❓」

 

 

全ての型を見せたしのぶは一刀に感想を聞いた。

 

 

「とても綺麗な型でしたよ」ニコッ

 

 

「そ…それは良かったです」/////

 

 

一刀の微笑みを見たしのぶは顔を赤くしながらそっぽを向いた。

 

 

「…って、そうでは無いです❗新しい型の参考になる型は在ったのかを聞いているんです❗」

 

 

しのぶは本来の目的を思い出し、一刀に詰め寄った。

 

 

「分かってますよ。先程の型の中では、三つ目の型が使えそうです」

 

 

「複眼六角が…ですか❓」

 

 

「見ていて下さい」

 

 

『全集中 空の呼吸 弐ノ型 鷹爪(たかつめ)

 

 

一刀は木刀を構えるとその場で勢いよくジャンプし、空中で四連続の突きを繰り出し、着地した。

 

 

「如何ですか❓」

 

 

「確かに私の型に似ていますけど…」

 

 

しのぶが考えていると、不意に袴を引っ張られた。しのぶが目を向けると、カナヲがしのぶの袴を掴んでいた。

 

 

「どうしたの❓カナヲ」

 

 

「しのぶ…姉さん…のは、六回。"お兄ちゃん"…のは…、四回」

 

 

しのぶはカナヲが何を言っているのか考えていると

 

 

「もしかして、しのぶさんの突きは六回で、俺の突きは四回って言いたいのか❓」

 

 

「コクコクッ」

 

 

一刀が言ったことにカナヲは肯定の意味を込めて頭を上下に振った。

 

 

「もしかしてカナヲ、貴女見えてたの❓」

 

 

通常、突きは剣速が速く目で捉えるのは至難の技である。なので、"どこに来るのか"を予測して避けるのが普通である。しかしカナヲは普通の人よりも視覚が発達しており、早い動きや遠いものをしっかりと見ることが出来るのだ。

 

 

「凄いじゃないかカナヲ。まさか俺たちの突きを目で捉えるなんて」

 

 

一刀はカナヲの頭を撫でると、カナヲは自分の頭を一刀に押し付けた。

 

 

「もしかして、おねだりか❓」

 

 

一刀はゆっくりと、何度もカナヲの頭を撫でる。カナヲは一刀に頭をくっ付けて表情は見えなかったが、耳まで赤くなっていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから数日後、療養していた真菰は私生活に支障が出ない程にまで回復した。だが、カナエとしのぶから『鍛練禁止』を言い渡されていた。

 

 

その理由はまだ回復しきっていないのに、『体を動かしたいから』と言う理由で鍛練をしようとしていたので、一刀経由で知ったカナエとしのぶが止めに入ったからだった。

 

 

そしてこの日は一刀、アオイ、真菰の隊服と日輪刀が届く日であった。

 

 

しのぶとアオイ、一刀の三人が蝶屋敷の前にいると、遠くに人影が"二つ"見えた。そして人影がくっきり判別できる距離まで来ると、一刀は驚いた。

 

 

人影の一人は黒子のような格好をしており、もう一人は火男(ひょっとこ)の面をしていたからだった。

 

 

「わざわざお越し頂きありがとうございます。どうぞ中へ」

 

 

しのぶが二人を屋敷へ案内し、二人は中へ入る。その後を一刀とアオイは追った。

 

 

「お初にお目にかかります。私この度北郷殿の刀を打たせてもらった鉄穴森(かなもり)と申します。それと神崎殿と鱗滝殿の刀もお持ちしました」

 

 

「私は事後処理部隊"(かくし)"の隊服縫製(ほうせい)係の『前田』と申します」

 

 

二人は縁側に通じる部屋に通されると、二人とも座り自己紹介をした。

 

 

「北郷一刀は俺です。刀と隊服の件、ありがとうございます」

 

 

一刀は二人に頭を下げる。

 

 

「さぁ先ずは刀をお持ち下さい。日輪刀は別名『色変わりの刀』。持った人によって刀身の色が変わります。さぁ手に取って鞘から抜いて下さい」

 

 

一刀は言われた通りにすると、徐々に刀身に色が付き、綺麗な"空色"になった。

 

 

「あぁ~、綺麗な空色だ。まるで雲一つ無い晴天のような色だ。こんな綺麗な色を見せていただき、ありがとうございます」

 

 

鉄穴森は一刀の刀の色を褒め、礼を言った。

 

 

「いえ此方こそありがとうございます。握り心地も申し分無い、まるで長年使って来た感触です」

 

 

一刀も納刀しながら鉄穴森に礼を言った。次に鉄穴森は真菰とアオイに刀を渡した。曰く、『この刀は刀鍛冶の長が打った特性』とのことだった。

 

 

最初に真菰が刀を持つと、水を思わせる青色が刀身を染めた。

 

 

次にアオイだが、刀を手にしたまでは良かったが、一向に抜こうとはしなかった。そして段々と脂汗が出て遂にはガタガタと震えだした。

 

 

この時アオイは最終選別の時を思い出していた。あの『鬼に敵わなかった』時を。

 

 

アオイの震える手を"誰か"が掴んだ。アオイは目線を上げると、一刀がアオイの手を掴んでいた。

 

 

「アオイさん、無理に刀を持たなくていい」

 

 

「この刀は俺が預かる。再び立ち上がれるその時まで」

 

 

一刀はそう言ってアオイから刀を奪い取った。

 

 

「鉄穴森さん、申し訳ありませんが…」

 

 

「事情は分かりました。長には私から言っときましょう」

 

 

鉄穴森は事情を察して何も言わなかった。

 

 

「では次に隊服をお渡しします。北郷殿はこちら、神崎殿と鱗滝殿のはこちらになります」

 

 

前田は三人に隊服を渡した。まず先に一刀が着替える為に退室。少しして一刀は皆がいる部屋に戻ってきた。

 

 

一刀に支給された服は一般的な男性用隊服だった。

 

 

「お兄ちゃん、格好いい」

 

 

「ありがとうカナヲ」ナデナデ

 

 

カナヲが一刀を褒めると、一刀はしゃがんでカナヲの頭を撫でた。カナヲは嬉しそうな笑顔を浮かべ、一刀に抱きついた。

 

 

次にアオイと真菰が着替える為に退室する。そして少したった後、二人が入室すると、一刀は驚いた。

 

 

何故なら、真菰の隊服は上は一刀と同じだが、下はスカートになっていた。しかも、長さが太ももの"半分も無かった"のだ。

 

 

アオイも同様でスカートの長さは太ももの半分も無く、上も胸元が開いている物であり、谷間が強調される代物だった。

 

 

「一刀さん、どう❓」

 

 

「一刀さん、あまりジロジロ見ないで下さい…」/////

 

 

真菰はその場でくるりと一回転し、アオイは恥ずかしさのあまり、モジモジしていた。これには一刀も黙ってはいなかった。

 

 

「アオイさん、真菰ちゃん。直ぐにさっき着ていた服に着替えて❗」

 

 

一刀は立ち上がると二人を先程入って来た部屋に押し込む。

 

 

「鉄穴森さん、ちょっと"試し斬り"をしてもいいですか❓」

 

 

一刀は鉄穴森の方を向いて試し斬りをしたいと言った。

 

 

「それは別に構いませんが…、何を斬られるのですか❓周辺には竹とかありませんが…」

 

 

鉄穴森は辺りをキョロキョロと見渡す。すると

 

 

「ここにいますよ❓」

 

 

一刀が指差した所を見ると、そこには前田がいた。そして鉄穴森は悟った。

 

 

「なるほど。でしたらどうぞ遠慮無く」

 

 

「ありがとうございます。さて前田(ゲスメガネ)、覚悟はいいか❓」

 

 

一刀は自分の刀を抜刀しながら前田に近づく。前田は一刀の気迫に圧倒され後退(あとずさ)るが、距離は一向に縮まらない。むしろ徐々に近づきつつある。

 

 

そして遂に前田は一刀の前から逃げ出した。

 

 

「待て貴様~❗この刀の切れ味、貴様の体で試させろ~❗(怒)」

 

 

一刀は逃げる前田を刀を振りながら追いかける。その光景を着替え終わった真菰とアオイはずっと見ていた。

 

 

そして一刀に捕まった前田は自分が用意した隊服をしのぶたちに目の前で油を浸され、燃やされた。その後ちゃんとした隊服を支給するように確約させられた。

 

 

 



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第参話

 

 

アオイと真菰の"異様な隊服"を支給されてから数日後、今度はちゃんとした隊服が支給された。しかし、真菰の隊服の下はスカートのままだった。しかも真菰の要望だったことが判明した。

 

 

けど、長さは太ももを隠すような長さだったので、一刀は文句を言わなかった。アオイは一刀と同じズボンで、胸元もしっかりと止められる服だった。

 

 

それから数日後、真菰は全快し鍛練もできるようになっていた。そして彼女は育手がいる狭霧山(さぎりやま)へと帰って行った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

真菰が帰ってから数日後、この日は半年に一度の柱合会議が開かれる日であった。そして柱であるカナエは産屋敷邸に向かうのだが、この日は何故か一刀も産屋敷邸に呼ばれたのだ。

 

 

その理由はあまねの旦那である耀哉がカナエに一刀も連れてくるように言っていたからだった。

 

 

一刀は蝶屋敷の前で隠の人に目隠しをされ、おんぶで産屋敷邸へ連れて行かれた。

 

 

産屋敷邸に到着し目隠しを外された一刀はカナエ案内の下、中庭に到着した。そこには既に数人の柱がいた。

 

 

「おい胡蝶、何で此処に柱でも無ぇ一般隊員がいんだよォ」

 

 

身体中に傷がある『風柱・不死川実弥』がカナエに声を掛けた。

 

 

「彼は本日の会議にお館様が直々に呼ばれたのです」

 

 

カナエが実弥の質問に答える。

 

 

「よもやそれは誠か❗❓」

 

 

「南無…。それが事実なら、実に異様なことだ…」

 

 

炎を模した羽織をマントのように着用している『炎柱・煉獄杏寿郎』と盲目で数珠をジャリジャリしている『岩柱・悲鳴嶼行冥』が声をあげる。

 

 

「私が言ったことは事実です。それとも、私が嘘を言ってるとでも❓」

 

 

カナエは溝尾を殴るジェスチャーをしながら顔に青筋を浮かべた。

 

 

「胡蝶地味に落ち着け。誰も派手に嘘つき呼ばわりはしていない」

 

 

「それにお館様が来られれば自ずと分かる。先ずは深呼吸をしろ」

 

 

隊服の上部をタンクトップ状にし、派手な装飾を着けている『音柱・宇随天元』と、左右の柄が違う羽織を着ている『水柱・冨岡義勇』がカナエを落ち着かせようとする。

 

 

「宇随さん、冨岡さん、ありがとうございます。貴方たちのお陰でだいぶ落ち着きました」

 

 

カナエは義勇に言われた通り深呼吸をして、落ち着きを取り戻した。そこに

 

 

「「お館様のお成りです」」

 

 

凛とした声が聞こえた。

 

 

「一刀君、私たちと同じ格好をして頭を下げて下さい」

 

 

カナエが一刀に声をかける。一刀が振り向くと柱一行が膝を付き頭を下げていた。一刀も慌てて同じポーズを取る。

 

 

「おはよう、私の可愛い剣士(こども)たち。今日はいい天気だね。空は青いのかな❓半年に一度の柱合会議を迎えられたこと、嬉しく思うよ」

 

 

「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」

 

 

「ありがとうカナエ」

 

 

屋敷の奥から現れた耀哉が挨拶をすると、それにカナエが答えた。

 

 

「今日は皆に紹介したい剣士がいてね。カナエ、"彼"は来ているかい❓」

 

 

「御意、私の隣におります。さぁ一刀君、お館様にご挨拶を」

 

 

カナエに促された一刀は、耀哉の前まで来ると、正座し平伏した。

 

 

「お初にお目に掛かります。階級・癸、北郷一刀と申します。この度はこのような席にお招きいただき、誠にありがとうございます」

 

 

「君があまねが言っていた一刀だね。私は鬼殺隊当主にして、"九十七代目"産屋敷家当主、産屋敷耀哉。鬼殺隊の剣士たちからはお館様と呼ばれているよ」

 

 

一刀と耀哉は互いに自己紹介をする。

 

 

「あまねから聞いたのだけど、君は"未来から"来たんだってね❓」

 

 

耀哉の質問にカナエ以外の柱が動揺した。

 

 

「正確には、この世界とは"違う世界"の未来からとなります。私は今から約百数年後の未来から、約千八百年前の時代へと時を遡り、当時の人々と共に暮らし、戦いました。そしてその時代の大戦(おおいくさ)が終わると同時に私は"消滅"しました」

 

 

「私が消滅した理由…、それは『歴史を変えてはいけない』と言う"禁忌"でした」

 

 

「私は本来死ぬはずだった仲間を助けたり、負けるはずだった戦を勝たせたり、と何度も歴史をねじ曲げました」

 

 

「歴史をねじ曲げた代償…、それは『身の消滅』。私は最愛の女性の前で消滅しました。そして気が付いた時には、最終選別が始まった藤襲山にいました」

 

 

一刀は自分に起きた出来事を包み隠さず伝えた。

 

 

「南無…。そのような悲しいことを経験していたとは…」

 

 

行冥は盲目から涙を大量に流していた。

 

 

「………」

 

 

杏寿郎は喧しい位の声量が鳴りを潜めていた。

 

 

「一刀君…」

 

 

カナエは事前に聞いていたのだが、改めて聞いて行冥ほどでは無かったが、涙を流していた。

 

 

「こんな地味な奴があんな派手派手な経験をしていたなんてな…」

 

 

天元は一刀が経験したことに驚き、思考が回らなかった。

 

 

「…ケッ」

 

 

実弥は唾を吐き出すような息をして、そのまま黙り込んだ。

 

 

「一刀」

 

 

一刀の横に移動した義勇が声をかける。

 

 

「俺はお前の言ってることを信じる。お前は俺の姉弟子の真菰を助けてくれた。人を助ける奴が嘘を言うはずが無い」

 

 

義勇は一刀の肩に手を置いて一刀の話を信じると言った。

 

 

「私も一刀の言うことを信じるよ」

 

 

耀哉も一刀の言うことを信じると言った。

 

 

「皆、これからは彼のことを気に掛けて欲しい。『自分は一人では無い』。それを教えてあげてくれないかい❓」

 

 

『御意❗』

 

 

「お館様、見ず知らずの私のことを気に掛けてくださり、ありがとうございます」

 

 

耀哉の言葉に柱は頷き、一刀は礼を言った。

 

 

「こちらこそ辛い話をさせてしまい、申し訳ない。カナエ共々、頑張ってくれることを願うよ」

 

 

「御意❗」

 

 

一刀は耀哉に礼を言った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

柱合会議から数日後、一刀は蝶屋敷の道場にいた。そこには音柱の天元と水柱の義勇もいた。

 

 

普段は一刀に頼まれ、それぞれの呼吸の型を見せ合った。

 

 

「どうだ俺の"音の呼吸"は❓俺にぴったりの派手派手な呼吸だろ❓こいつは"雷の呼吸"の派生なんだぜ❓」

 

 

「一刀、参考になる型は在ったか❓」

 

 

天元と義勇は交互に質問をする。

 

 

「えぇ幾つかありました。見て頂けますか❓」

 

 

『全集中 空の呼吸 参ノ型 隼一閃(はやぶさいっせん)

 

 

『全集中 空の呼吸 肆ノ型 雀ノ涙(すずめのなみだ)

 

 

一刀は二人の前で考えた型を披露する。

 

 

「成る程、参ノ型は雷の呼吸の壱ノ型を元にしたのか。速さが派手だったぜ」

 

 

「肆ノ型は水の呼吸の伍ノ型か。良く似ている」

 

 

二人は型の感想をそれぞれ言った。

 

 

「ありがとうございます。宇随さん、冨岡さん、稽古に付き合ってくれてありがとうございました」

 

 

一刀は二人に頭を下げる。

 

 

「そんな地味な言い方すんな。お前の力に派手になったんならそれで良いんだよ。それと俺のことは"天元"でいい」

 

 

「宇随の言う通りだ。お前の力になって嬉しく無いはずが無い。俺のことは"義勇"で構わない」

 

 

「…ありがとうございます。"天元"さん、"義勇"さん」

 

 

一刀は改めて二人に礼を言った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「一刀、起きろ」

 

 

天元と義勇の稽古から二日後の夜、一刀は"誰か"に呼ばれ目が覚めた。

 

 

「一刀、緊急指令だ」

 

 

「"イーグル"、どうした❓」

 

 

一刀を起こしたのは彼の『鎹鷲(かすがいわし)』の"イーグル"だった。イーグルは一刀が柱合会議に参加した後、耀哉から送られた連絡要員である。

 

 

「花柱胡蝶カナエが鬼殺に苦戦している。大至急身支度を整えて急行せよ。これが初任務だ、気を引き締めて掛かれ」

 

 

「分かった❗」

 

 

一刀は"一緒に寝ていたカナヲ"を起こさないよう細心の注意をしながら隊服を身に纏い、腰に自分の刀を差し、蝶屋敷を出た。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一刀が到着し辺りを見回すと、眼前に『蹲るカナエ』と、『鉄扇を振りかぶる男』がいた。

 

 

『全集中 空の呼吸 参ノ型 隼一閃』

 

 

「あれ❓」

 

 

鉄扇を振りかぶっていた男は目の前にいたカナエが"忽然と消えた"ことと、腕の"違和感"に頚を傾げた。

 

 

「カナエさん、大丈夫ですか❓」

 

 

「か…、一刀…くん」

 

 

一刀は男から離れた所に抱えていたカナエをそっと降ろした。

 

 

「貴様か、カナエさんをこんな格好にしたのは」

 

 

一刀は刀を男に向け、殺気を出す。

 

 

「君は男かい❓僕は男には興味は無いよ。僕はその子を救わないといけないんだ」

 

 

男は一刀に見向きもせず、"再生させた"腕で落とした鉄扇を拾った。

 

 

「"救う"❓鬼が人を救うなんて聞いたことが無い。大方、救うと称して喰っていたんじゃ無いのか❓」

 

 

一刀は溢れている殺気を更に放出する。

 

 

「怖い怖い。殺気が駄々漏れだよ❓そんなんじゃ女の子にモテないよ❓」

 

 

男はケラケラと笑い出す。

 

 

「貴様に言われたくは無い」

 

 

『全集中 空の呼吸 参ノ型 隼一閃』

 

 

一刀は先程使った型を使い、男の頚を狙い、斬る。しかし男は鉄扇を閉じ、一刀の居合いを受け止めた。

 

 

「駄目だよ。僕に二度も同じ手は通用しないよ」

 

 

「ならこれならどうだ❓」

 

 

『全集中 空の呼吸 壱ノ型 燕返し』

 

 

一刀は二連続の斬撃を男に振るう。斬撃は男の"片腕"を斬り落とし"腹"を少し斬った。

 

 

「凄い凄い❗瞬時に刀の軌道を変えるなんて❗お陰で僕の腕がまた斬られちゃったよ❗…でも、直ぐに再生できるけどね」

 

 

男は腕が再生し、斬られた腹の傷も塞がった。

 

 

「今度はこっちから行くよ」

 

 

『血鬼術 粉凍(こなごお)り』

 

 

男は鉄扇を広げ、無造作に振るう。

 

 

「気をつけて❗ソイツは扇から霧状の氷を撒き散らすわ❗吸ったら肺胞が壊死して…ゴホッゴホッ❗」

 

 

「❗❓ カナエさん❗」

 

 

一刀はその場から飛び退き、カナエの下まで下がる。そして自分の隊服の上着をカナエに渡す。

 

 

「これを口に当てて下さい。多少はマシになるはずです」

 

 

「でも…、貴方が…」

 

 

カナエは一刀の心配をする。

 

 

「大丈夫です。必ず『生きて帰って来ます』」

 

 

一刀はカナエと約束すると、男の前に立った。

 

 

「君、中々カッコいいね。僕は童磨(どうま)って言うんだ。十二鬼月の『上弦の弐』。君の名前は❓」

 

 

「俺は鬼殺隊、階級・癸、北郷一刀」

 

 

童磨と一刀は互いに自己紹介をする。

 

 

「北郷一刀…か、良い名前だね❗決めた、君も僕が救ってあげよう❗」

 

 

「要らぬお節介だ❗」

 

 

『全集中 空の呼吸 漆ノ型 漆黒鴉(しっこくがらす)

 

 

一刀は刀を十字に振るう。すると童磨の体に"十字の傷"が付いた。

 

 

「凄い❗ 離れているのに僕に傷を付けるなんて❗それじゃいくよ❗」

 

 

『血鬼術 冬ざれ氷柱』

 

 

童磨は傷を再生させながら一刀の頭上に大量の氷柱を作り出す。

 

 

「甘い❗」

 

 

『全集中 空の呼吸 陸ノ型 白鳥ノ舞(はくちょうのまい)

 

 

『全集中 空の呼吸 伍ノ型 荒鷲(あらわし)

 

 

一刀は落ちてくる氷柱を器用に避け、当たりそうな氷柱だけ砕いた。

 

 

「粘るねぇ~。なら、これはどうかな❓」

 

 

『血鬼術 蔓蓮華(つるれんげ)

 

 

童磨は鉄扇から氷の蓮華を作り出し、一刀に向かわせる。

 

 

『全集中 空の呼吸 弐ノ型 鷹爪』

 

 

しかし一刀は鷹爪で迎撃する。

 

 

「一刀❗ 夜明けまで後少しだ❗ 気張れ❗」

 

 

イーグルからの情報で一刀は気を引き締める。

 

 

『血鬼術 散り蓮華』

 

 

童磨は一刀を追い詰めるように氷の蓮華の花弁を撒き散らす。しかし一刀は白鳥ノ舞で避ける。

 

 

すると地平線から朝日が昇って来た。

 

 

「時間切れか。今日はここまでだね、楽しかったよ❗鳴女(なきめ)殿❗」

 

 

ベベンッ

 

 

琵琶の音がしたと思うと、童磨の足下に障子が現れ、勝手に開いた。そして童磨はその障子の向こうへ消えた。

 

 

「逃げた…か…」ガクッ

 

 

「❗❓ 一刀君❗」

 

 

倒れそうになった一刀をカナエが慌てて抱き止めた。

 

 

「スウ…スウ…スウ…」

 

 

「ありがとう。こんなになるまで私を守ってくれて…」

 

 

寝ている一刀をカナエは優しく抱き締めた。

 

 

「姉さん❗」

 

 

そこにしのぶが到着する。

 

 

「しのぶ、ここよ。私は肺をやられたけど大丈夫。一刀君も怪我を負っているけど無事よ」

 

 

カナエはしのぶに状況を説明した。

 

 

「良かった…。二人とも無事で…」

 

 

しのぶは安心したのか、その場にへたり込んだ。

 

 

「でも、私はこれ以上の鬼殺は無理ね。肺胞が壊死しているから常中はもちろん、全集中の呼吸も使えなくなったもの。柱も引退ね」

 

 

カナエはこれ以上の鬼殺は無理と言い、柱も引退することをしのぶに伝えた。

 

 

「しのぶ、これからは貴女が柱として頑張りなさい」

 

 

カナエはしのぶに柱になることを薦めた。

 

 

「本当は貴女には鬼殺隊を辞めて家庭を持って欲しかったけどね~」

 

 

「姉さん、こんな時にふざけた事言わないで」

 

 

「あら~、私は本気なんだけとな~」

 

 

「姉さん❗」

 

 

カナエとしのぶの二人は隠が来るまで言い争っていた。

 

 

「(頼むから…、少し…、寝かせて…、くれ…)」

 

 

その二人の様子を一刀は聞いていた。実は倒れた後、二人の声が煩くて目覚めてしまったのだった。

 

 

その後、緊急柱合会議が開かれ、カナエの柱引退、並びにしのぶの柱就任が行われた。しのぶは『蟲柱』の称号を与えられ、より一層悪鬼滅殺を誓った。

 

 

 



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第肆話

 

「あれから、もう四年になるのか……」

 

 

一刀がこの世界に来てから既に四年が経過していた。その間にも色々なことが在った。

 

 

まず、白蛇を連れた左右の瞳の色が違う青年『伊黒小芭内』と桃色の髪が特徴の『甘露寺蜜璃』、一刀とアオイの同期で入隊して僅か二ヶ月の『時透無一郎』が柱に就任した。小芭内が"蛇柱"、蜜璃が"恋柱"、無一郎が"霞柱"である。

 

 

一刀は"上弦の弐・童磨"との戦いの後、新しい型である『捌ノ型 火食鳥(ひくいどり)』、『玖ノ型 嘴広鸛(はしびろこう)』、『拾ノ型 鳳凰天舞(ほうおうてんぶ)』を作り出した。

 

 

(火食鳥は『炎の呼吸 壱ノ型 不知火』を、鳳凰天舞は『水の呼吸 拾ノ型 生生流転』をベースに作った型である。)

 

 

カナエを助けた後、しのぶを始めとした蝶屋敷のメンバーは、カナエを助けた一刀をこれでもかと称賛した。

 

 

カナエとしのぶは"お礼"と称して一刀の羽織を送った。一刀の羽織は白色に丸の中に"十"の文字が入っている杏寿郎と同じマント状の物だった。これは北郷家の家紋であり、三國志の時代では自分の旗印として使われていた。カナエとしのぶはその事を事前に聞いていたので、この羽織を送ったのだった。

 

 

アオイは一刀の好物をさりげなく聞き、時々その料理を振る舞っていた。

 

 

なほ、すみ、きよの三人娘は一刀のことを最初は『一刀さん』と呼んでいたが、その日を境に『兄様』と呼ぶようになった。

 

 

カナヲも普段から一刀に甘えていたが、より一層甘えるようになり、名字も『栗花落』から『北郷』に変えると自分から言った。これには一刀はもちろん、蝶屋敷のメンバー全員が驚いていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「年月が経つのは早いもんだ…」

 

 

一刀はこの四年で起きたことを思い出していた。

 

 

「華琳、俺は頑張っているよ…。そっちも、頑張っているか…❓」

 

 

一刀は縁側に座って空を見ながら返事が帰ってくることの無い質問をしていた。

 

 

「お兄ちゃん」

 

 

すると一刀の隣にカナヲが座った。彼女の身長はこの四年で高くなり、誰もが見惚れる"美少女"になっていた。因みに彼女の服は鬼殺隊の隊服を着用している。何故なら、彼女はついこの間行われた最終選別に"無断"で参加し、合格したからだった。

 

 

当然一刀を始め、蝶屋敷のメンバーは怒り、カナヲを叱った。だが、その後カナヲを抱き締めたことによってカナヲは泣きながら謝った。

 

 

「カナヲ、どうした❓」

 

 

一刀はカナヲの頭を撫でながら質問をする。しかしカナヲは黙って撫でられるだけで、何も言おうとはしなかった。

 

 

「もしかして、頭を撫でて欲しかったのか❓大きくなっても、甘えん坊な所は変わらないな」

 

 

「お兄ちゃんに甘えない妹は妹じゃ無い」

 

 

カナヲはそう言いながら一刀に抱きつく

 

 

「あ~❗カナヲちゃん、また一刀さんに頭撫でられてる~❗」

 

 

すると後ろから声がしたので振り返ると、真菰が一刀たちを指差しながら騒いでいた。真菰もこの四年の間に成長し、身長は愚か、胸もカナヲと並ぶ程になっていた。

 

 

「もぉ~カナヲちゃん、一刀さんを独占しすぎ❗私だって数回しか撫でられたこと無いのに~❗」

 

 

真菰はその場で地団駄を踏んだ。真菰はよくスカートを履いているのだが、何故か少しずつ裾が短くなっていた。なので、激しい動きをすれば、スカートの中が最悪見えてしまうのだった。

 

 

「"真菰"落ち着け、折角の美人が台無しになるぞ❓頭くらい幾らでも撫でてやるから。ほら、こっちおいで」

 

 

一刀に言われ、カナヲの反対側に座った真菰は一刀に頭を撫でられる。

 

 

「はにゃ~~ん。一刀さんの撫で撫で、癖になる~」

 

 

「分かります。一刀さんの撫で撫での力加減、絶妙ですからね」

 

 

一刀は背中に誰かが乗っかった感触があったので振り返ってみると、アオイが背中に引っ付いていた。

 

 

「"アオイ"、何で俺の背中に引っ付く❓それと背中に当たっているんだが…」

 

 

アオイも真菰同様、この四年で成長し、かなりグラマラスになっていた。しかも、胸の大きさはしのぶと同じ、いや若干アオイの方が大きくなっていた。

 

 

「カナヲと真菰さんが両側に引っ付いているので、私が引っ付く所は背中しか無かったので。それと、"何が当たっている"のですか❓言わないと分かりませんよ❓」

 

 

アオイは一刀の背中に"当てている"胸を更に押し付けた。

 

 

「押し付けないで❗分かっててやってるでしょ❗❓」

 

 

「エ~、ナンノコトカ、ワカリマセ~ン」

 

 

「わざとらしいカタコトはいりません❗」

 

 

一刀はおもむろに立ち上がる。しかしカナヲと真菰、アオイは一刀に引っ付いたままだった。

 

 

「急に立ち上がらないで下さい❗"先っぽ"が擦れてしまいます❗」

 

 

「やっぱり分かっててやってるんじゃないか❗」

 

 

一刀とアオイはギャーギャーと騒ぎ出す。

 

 

「随分とお楽しみですね(怒)」

 

 

ゾクッ

 

 

「「「「❗❓❗❓❗❓」」」」

 

 

背中に悪寒が走ったので振り返ると、そこには顔に青筋を浮かべたしのぶが笑いながら溝尾を殴るジェスチャーをして一刀たちを見ていた。

 

 

「「「「し、しのぶ(さん)(様)(姉さん)……」」」」

 

 

一刀たちはしのぶの顔を見て青ざめていた。

 

 

因みに一刀は蝶屋敷ではカナエと"同い年"なので、カナエ以外の皆を呼び捨てにしているのだ。

 

 

「私の前でイチャコライチャコラ…、私への"当て付け"ですか❓(怒)」

 

 

「「「「ごめんなさい(泣)」」」」

 

 

一刀たちはしのぶの前で土下座して謝った。

 

 

「全く、イチャコラするのは構いませんけど、時と場所を考えて下さい。それで真菰さん、一体何の用があってここに来たのですか❓」

 

 

しのぶは真菰に来訪の用件を聞くことにした。

 

 

「えっ❓特に用事は無いよ❓強いて言えば、『一刀分』の補充かな❓」

 

 

「俺を得体の知れない栄養にするな」

 

 

一刀は真菰に突っ込みを入れるが、

 

 

「「「分かる❗」」」

 

 

「え~っ❗❓」

 

 

しのぶ、アオイ、カナヲが真菰に同意した。

 

 

「一刀さんに引っ付いている"だけ"でも、何かこう、"癒される"んですよね~」

 

 

「撫で撫でされると、気持ちいい」

 

 

「笑顔を見せてくれると"やる気"が満ちて来ますよね❗」

 

 

「でも最近、一刀さんを狙う女が多くなっていますよね…」

 

 

「「「それ❗」」」ビシッ

 

 

「最近では、甘露寺さんが一刀さんの笑顔を見てキュンキュンしたとか…」

 

 

「え~っ、またなの❗❓また恋敵が増えちゃったじゃない❗」

 

 

「これは由々しき事態です。恋柱様の隊服は以前あのゲスメガネに渡された"あの隊服"を着ていると伺いました」

 

 

「お兄ちゃんを誑かす女…、敵❗」

 

 

「大丈夫ですよ。もし"何か"あれば、私が"何とか"しますので」

 

 

「「「よろしくお願いします❗」」」ガバッ

 

 

「………(汗)」

 

 

自分そっちのけで行われているガールズトークに一刀は冷や汗をかいていた。

 

 

バサッバサッ

 

 

「一刀、仕事だ。…❓ どうした❓そんなに汗を出して」

 

 

一刀の肩に彼の鎹鷲であるイーグルが降り立った。

 

 

「イーグル、どうした❓確か今日は休みだったはずだが…」

 

 

「急遽変更になった。今から案内するから準備をしてくれ」

 

 

「分かった」

 

 

一刀は自分の部屋に向かい、刀を腰に差し蝶屋敷の外へ出た。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

イーグルに案内された場所は森だった。到着した時は既に夜になっており、鬼が活動する時間帯となっていた。

 

 

「この森に鬼が潜んでいるとの情報だ。発見次第討伐せよとのことだ」

 

 

「……とりあえず、入ってみるか」

 

 

一刀はイーグルを自分の肩に止まらせ、森の中へと入っていった。もちろん、出口へのマーキングを忘れずに。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

森に入ってから数時間後、一刀は偶々あった切り株の上に座って休憩していた。すると、周辺の草むらが"ガサガサ"と騒ぎだした。一刀は立ち上がり刀に手を添える。この時は風が吹いていなかったので、何時でも迎撃できるようにしていたのだ。

 

 

そして月明かりが草むらを揺らしていた"犯人"を照らし出す。その姿を見た一刀は息を飲んだ。

 

 

「華琳…❓」

 

 

「一刀…❓」

 

 

月明かりが照らした犯人…、それは『あの戦』の後別れた『曹操孟徳』、真名は『華琳』であった。

 

 

「華琳…、何でここに…」

 

 

「一刀こそ、何でここにいるのよ❓」

 

 

華琳の服装は戦装束を着ていたが、肌が見えている箇所は傷が目立っており、血が流れていた。

 

 

「華琳、話したいことは色々あるが、とにかく傷の手当てをしたい」

 

 

「……お願いするわ」

 

 

華琳は一刀に近づき傷口を見せる。一刀はしばらく傷口を見ると

 

 

「……この傷は刃物で斬られた傷じゃ無いな。まるで"鋭い爪"で引っ掛かれたような…」

 

 

「……一刀❓」

 

 

華琳が心配して声を掛けると

 

 

ガサガサッ

 

 

「「❗❓」」

 

 

ガサガサッ

 

 

「まさか…、追い付かれた❗❓」

 

 

草むらが揺れ、華琳の顔が青ざめる。すると

 

 

「ギャヒヒッ、やっと追い付いたぜ❗」

 

 

月明かりが照らしたのは、鬼だった。

 

 

「ったく、大人しく喰われていれば痛い目を見ずに良かったものの」ジュルリッ

 

 

鬼は華琳を見ながら舌舐めずりをした。

 

 

「ヒィッ❗❓」

 

 

華琳は悲鳴を上げて後退る。その姿は以前のような勇ましい感じは無く、まるで一人の儚い少女のようだった。

 

 

スッ

 

 

「かずと❓」

 

 

その少女の前に一刀は進み出た。華琳は涙目で一刀を見上げる。

 

 

「あぁ~ん❓何だぁ貴様は❓俺の食事の邪魔するって言うんなら、貴様も喰ってやろうか❓」

 

 

鬼は一刀を見て威嚇する。

 

 

「喰えるモンなら喰ってみろ。ただし、この先彼女に指一本でも触れてみろ、その時は貴様の体をバラバラに斬り刻んでやる」

 

 

一刀は殺気を撒き散らしながら鬼を牽制する。

 

 

「やれるモンならやってみな❗」

 

 

鬼は一刀に襲い掛かる。

 

 

『全集中 空の呼吸 壱ノ型 燕返し』

 

 

しかし一刀は鬼の腕を斬り落とした。

 

 

「ギャアアアァァァ~~~❗❗❗」

 

 

鬼は斬られた痛みに悶絶する。

 

 

「(嘘っ❗❓これが"あの一刀"なの❗❓)」

 

 

華琳は一刀の"強さ"に驚いていた。無理も無い、華琳は三國志時代の"弱い一刀"しか知らなかったのだから。

 

 

「鬼も"痛み"というものを感じるんだな。てっきり血も涙も、痛みすら感じないと思っていたがな」

 

 

地面を転げ回る鬼を一刀は一瞥した。

 

 

「こうも容易く俺の腕を斬るなんて…、貴様は一体何者だ❗❓」

 

 

鬼は一刀に質問をする。

 

 

「俺は鬼殺隊、蟲柱・胡蝶しのぶの継子の一人、階級・(ひのと)、北郷一刀」

 

 

一刀は鬼に自己紹介をする。

 

 

「鬼殺隊…❗❓ "鬼狩り"のことか❗❓ クソッ、こうなったら貴様から殺してその後その女を喰ってやる❗」

 

 

鬼は腕を再生させながら一刀に再び襲い掛かる。

 

 

『全集中 空の呼吸 漆ノ型 漆黒鴉』

 

 

ズバッズバッ

 

 

「グギャッ❗❓」

 

 

一刀は漆黒鴉で鬼を十字に斬り、傷を付ける。

 

 

「貴様は俺の"逆鱗"に触れた。苦しんで地獄に落ちろ」

 

 

『全集中 空の呼吸 捌ノ型 火食鳥』

 

 

一刀は鬼に突進しながら頚を斬り落とした。

 

 

「俺は…、もっと…、人間を…、喰って…、"十二…鬼月"…、に…」

 

 

「なれずに地獄に落ちる。地獄で閻魔様の裁きを受けろ」

 

 

『全集中 空の呼吸 漆ノ型 漆黒鴉』

 

 

ズバッ

 

 

一刀は鬼の頚を更に十字に斬った。すると鬼は灰になり崩れ去った。

 

 

「……フゥッ」チンッ

 

 

一刀は周囲を警戒した後、増援が無いことを確認すると刀を納め一息吐いた。

 

 

「華琳、大丈夫か❓」

 

 

一刀は華琳の方を向く。

 

 

「~~~バカッ❗」

 

 

すると華琳は一刀に抱き付き泣き出した。

 

 

「バカバカバカッ❗何で、何であの時消えたのよっ❗❓何で私の前からいなくなったのよ❗❓何で…、何で…」

 

 

華琳は一刀の胸をポカポカ殴るが、徐々にその力が弱くなり、殴る回数も少なくなり、最後に一刀の隊服を掴んだ。

 

 

一刀は華琳をそっと抱き締めた。

 

 

「ごめん華琳、あの時消えて」

 

 

一刀は華琳の耳元で囁く。

 

 

「俺は皆を死なせたく無かった、例え"禁忌"に触れようとも。けど、最愛の人を泣かせた。その罪は今でも俺の心の奥深くに(くさび)のように突き刺さってる」

 

 

「絶対に消えない"枷"だ。でも俺はそれを背負って生きていく。"誰も死なせず、自分が生き残る"ために」

 

 

一刀は華琳を抱き締める力を強くした。

 

 

「だから、"許してくれ"とは言わない。俺は俺の罪を背負う。華琳たちの分も」

 

 

一刀は華琳を一度引き離し、唇を奪う。

 

 

「……また会えて嬉しいよ、『我が最愛の女性(ひと)』、華琳」

 

 

キスを終えた一刀は華琳に向けて涙を流しながら微笑む。

 

 

「……何よ」

 

 

「華琳❓」

 

 

華琳は俯いて呟くが、一刀には聞こえなかったのか、華琳に声をかける。

 

 

「何よ❗自分だけ達観して❗私がどれだけ泣いたと思ってるのよ❗私だけじゃ無いわよ、春蘭も、秋蘭も、季衣も、流琉も、凪も、沙和も、真桜も、霞も、桂花も、稟も、風も、天和も、地和も、人和も❗みん…な、皆貴方が消えて泣いたのよ❗❓」

 

 

「なのに何で一人で未だに背負うのよ❗もう十分背負ったじゃない❗罪を償ったじゃない❗これ以上背負う必要無いじゃない❗だから私が言うわ❗『貴方を許す』❗もうこれ以上…、苦しまないで…、お願い…」

 

 

華琳は顔を上げ、涙目で一刀に訴えた。

 

 

「華琳…、ありがとう。でも、ごめん…。俺は償わなくちゃいけないんだ、罪を背負わなくちゃいけないんだ」

 

 

一刀は華琳に許しをもらってもなお、罪を背負うと言った。

 

 

「でも、俺一人で背負うには重すぎる。…華琳、俺と一緒に背負ってくれないか❓頼む」

 

 

「……いいわ。けど、"一つだけ"約束して。『もう二度と私の前から消えないで』。もう…、愛する人を失うのは、いやなの…」

 

 

一刀は華琳に一緒に背負って欲しいとお願いし、華琳は"条件付き"で承諾した。

 

 

こうして一度欠けた月はこの時代で再び満ちた。

 

 

二人はもう二度と離れないように、長く、永く、口付けを交わした。

 

 

 



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第伍話

 

「そう言えば華琳はどうやって"この世界"に来たんだ❓」

 

 

一刀はかつての最愛の女性、『曹操孟徳』、真名を『華琳』との再開を果たした後、その帰り道で華琳がこの世界に来た経緯を聞いた。

 

 

「確かあれは、一刀が消えた四年後のことだったわ…」

 

 

華琳が言うには、一刀が消えてから四年後、一人で城壁で月見酒をしていると、『貂蝉』と名乗る紐パン一丁の筋肉達磨が目の前に現れたとのことだった。その達磨曰く、

 

 

『"奉山"と言う山の頂上にある神殿に向かいなさい。そこにある鏡を新月の夜に割れば、"あの人"に会えるわ』

 

 

と言われたそうだ。そして『誰にも言わず』奉山へ向かい、言われた通りにすると、光が華琳を包み、気が付いたらあの森の中におり、鬼に襲われたので応戦するも、愛用の鎌『絶』が折れてしまい、命からがら逃げていた所に一刀と出会ったそうだ。

 

 

「………」ポカーン

 

 

一刀は華琳の説明に呆然としていた。二人は喋りながら歩いていたので、話し終わって数分で蝶屋敷に着いた。

 

 

「華琳、ここが俺が今お世話になっている蝶屋敷だよ」

 

 

一刀は華琳に蝶屋敷を案内し、華琳と共に門を潜る。

 

 

「ただいま~」

 

 

ドタドタドタ

 

 

「「「兄様、お帰りなさ~い❗」」」

 

 

一刀の帰りをなほ、すみ、きよの三人娘が出迎えた。

 

 

「なほ、すみ、きよ、ただいま。カナエさんとしのぶはいるかい❓」

 

 

一刀はカナエとしのぶがいるか三人娘に聞く。

 

 

「申し訳ありません。カナエ様は現在買い出しに、しのぶ様は任務に行かれてまして…」

 

 

なほが申し訳なさそうに答える。一刀はアオイがどこにいるか聞こうとすると

 

 

「でも、アオイさんは今洗濯物を干しに中庭にいますよ❓」

 

 

きよが一刀が聞こうとしていたことを先に答える。

 

 

「ありがとう。それじゃ一緒に来てくれるかい❓」

 

 

「「「はい❗」」」

 

 

一刀は華琳と三人娘を引き連れて中庭に向けて移動した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

中庭に到着した一行は洗濯物を干しているアオイを見つけた。

 

 

「アオイ❗」

 

 

「…❓ 一刀さん❗」

 

 

一刀がアオイに声をかけると、アオイは振り返り、洗濯物を干していた手を止めて一刀に抱きつく。

 

 

「一刀さん、お帰りなさい」

 

 

「ただいま、アオイ。洗濯物、ありがとうね」

 

 

一刀はアオイの頭を撫でながらアオイを労う。

 

 

「いえ、これ位全然平気です。…❓ 一刀さん、そちらの方は誰ですか❓」

 

 

アオイは気持ち良さそうに顔を緩めていると、華琳に気が付いたようで、一刀に質問をする。

 

 

「あぁ、彼女は「待って一刀」…華琳❓」

 

 

一刀が華琳を紹介しようとすると、華琳がそれを遮る。

 

 

「自分のことは自分で言いたいの。…駄目❓」

 

 

華琳は上目遣い(若干涙目)で一刀を見る。

 

 

「まぁ…、華琳がしたいならいいけど…」

 

 

一刀は華琳の表情にタジタジになりながら自己紹介を譲る。

 

 

「はじめまして、私は一刀の『恋人』の、性は曹、名は操、(あざな)は孟徳、真名は華琳よ。よろしく」

 

 

華琳は"恋人"の部分を強調しながら自己紹介をしながら手を差し出す。

 

 

「ご丁寧にありがとうございます。私はこの蝶屋敷を任されている一刀さん『に助けられた同期』の神崎アオイと言います。こちらこそどうぞよろしく」

 

 

一刀から離れたアオイも負けじと一部分を強調しながら自己紹介をし、華琳の手を握る。二人の目から火花が散っているかのような感じがした。

 

 

「「(この人には絶対に負けない❗)」」

 

 

華琳とアオイは互いに対抗心を出していた。

 

 

バサッ バサッ

 

 

「一刀、疲れている所申し訳ないが、新しい任務だ」

 

 

するとそこに一刀の鎹鷲のイーグルが一刀の前に現れ、彼の腕に止まった。

 

 

「何だまたか。それで、どう言った内容だ❓」

 

 

一刀はこの忙しさの余りちゃんとした睡眠を取ってはいなかったのだ。前回の任務も、本当は丸一日休みのはずだったのに駆り出されたのだ。

 

 

「そうぼやくな、鬼殺隊も人手が足りなくて大変なんだ。それで任務の内容だが、"那田蜘蛛山"と呼ばれる山に"十二鬼月"がいると噂になっている。しかも調査に向かった隊士からの連絡も悉く途絶えてしまっている」

 

 

「そこで一刀は水柱、蟲柱の両名と共に調査、討伐に向かって欲しいとお館様は仰っておられた」

 

 

イーグルは任務の内容を一刀に伝える。

 

 

「委細承知した。因みにそこにはカナヲはいるのか❓」

 

 

「蟲柱と共に現在那田蜘蛛山に向かっている。今から出れば追い付くだろう」

 

 

一刀はカナヲのことをイーグルに聞くと、イーグルはすんなり答えた。

 

 

「分かった、今すぐ出立する。案内を頼む。アオイ、悪いが華琳のことを頼む」

 

 

一刀はイーグルを腕に乗せたまま屋敷の門まで向かう。

 

 

「分かりました。では門前で少々お待ち下さい、切り火をしますので」

 

 

アオイは華琳から手を離し、そそくさと切り火の準備を行うため中庭から離れた。

 

 

「なほ、すみ、きよ。悪いが洗濯物の残り、頼めるか❓」

 

 

「「「お任せ下さい❗」」」

 

 

三人娘は元気良く返事をする。そして門前でアオイに切り火をされた一刀はイーグルの案内で那田蜘蛛山へと走った。その様子をアオイと華琳はじっと見ていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

"???サイド"

 

 

私は竈門炭華(すみか)、炭焼きを営んでいた竈門家の"長女"❗よろしく❗

 

 

えっ❓"炭治郎"じゃ無いのかって❓炭治郎って誰❓"竈門家の長男"❓私の家族は死んだお父さん以外は皆"女性"だよ❓

 

 

まぁそんなことはさておき、私は今、絶体絶命の危機に瀕しています。何故なら、私の前に私の"兄弟子"の義勇さんと、もう一人の方が何故か戦っているんです❗怖いです❗

 

 

えっ❓何でこうなっているのか❓私は妹の禰豆子と同期の『我妻善逸』って人と同じく同期の『嘴平伊之助』って人と一緒にこの那田蜘蛛山に来たの。えっ❓"禰豆子は鬼じゃ無いのか"って❓確かに禰豆子は鬼よ。けど、義勇さんから聞いていたのとは違うみたい。

 

 

だって禰豆子は"太陽の下を平気で歩いて"いるもの。義勇さんたちの話では、『鬼は太陽の光を嫌う』って言ってたのに、禰豆子は全然へっちゃらだったもの。それで鬼であることを隠して最終選別に参加して見事合格したの❗凄いでしょ❗

 

 

話を戻すけど、私と禰豆子は我妻君と嘴平君と離れ離れになっちゃったんだけど、そこに"十二鬼月"がいたの❗私は禰豆子の血鬼術である『爆血』とお父さんから教わった『ヒノカミ神楽』を使ってその鬼を倒したんだけど、水の呼吸からヒノカミ神楽の呼吸に"急に"変えた反動で動けなくなっちゃったの。

 

 

しかもその鬼を倒せてはいなかったの❗そこに義勇さんが来て鬼を倒したのだけど、いきなり義勇さんはこっちを向いて刀を抜いて構えたの。そしたら蝶の髪飾りをしている女性と戦い始めちゃったの❗

 

 

"???→炭華サイド end"

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一刀が那田蜘蛛山に到着し散策をしていると、刀がぶつかり合う音がしたのでそこに向かうと、そこには義勇としのぶが戦っており、義勇の後ろには『二人の少女』が寝そべっていた。

 

 

「あの~…、これは一体」

 

 

一刀は義勇としのぶが離れた時を見計らい、二人に声をかける。

 

 

「これはこれは一刀さん、丁度良い所に。一刀さんも"私に"力を貸して下さいな」

 

 

「一刀、胡蝶では無く"俺に"力を貸してくれ」

 

 

一刀はしのぶと義勇に"力を貸せ"と言われ困惑していた。すると

 

 

「伝令、伝令❗竈門炭華並びに竈門禰豆子、この両名を拘束せよ❗繰り返す、竈門炭華、禰豆子両名を拘束せよ❗」

 

 

イーグルが一刀たちの頭上を飛び回りながら仲間の鴉からの連絡を伝えていた。

 

 

「え…っと、イーグル。その『炭華』と『禰豆子』って…、誰❓」

 

 

一刀はイーグルに質問をする。

 

 

「炭華と禰豆子は俺の後ろにいる二人のことだ」

 

 

イーグルの代わりに義勇が一刀の質問に答えた。

 

 

「成る程」

 

 

一刀は納得して義勇の後ろにいる炭華と禰豆子に歩み寄った。

 

 

「聞いていたと思うけど、今から君たちを拘束する。大人しくしていてくれるかい❓手荒な真似はしたくないからね」ニコッ

 

 

「「コクコク」」/////

 

 

一刀は微笑みながら二人に言うと、二人は顔を赤くしながら頷いた。

 

 

「(また恋敵が増えた❗)」

 

 

しのぶは仏頂面になりながら刀を鞘に納めた。それを見た義勇も自分の刀を鞘に納めた。そして炭華と禰豆子は刀を没収され、手に縄を縛られて隠に連行された。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

明くる日、産屋敷家の中庭に、炭華は腕を縛られた状態で寝かされていた。

 

 

そして無理矢理起こされると、"六人"の柱が炭華を見下ろしていた。

 

 

炭華は見下ろしている柱に怯え、少しずつ後退る。そこに

 

 

「炭華、安心しろ。お前は俺が守る」

 

 

義勇が禰豆子と一緒に現れ、炭華の前に立つ。

 

 

「冨岡さん、何故彼女を庇うのですか❓彼女は鬼を連れて鬼殺をしていたのですよ❓それにその鬼の少女も、自分を偽って最終選別に参加していたのですよ❓これは立派な"隊律違反"なのですよ❓」

 

 

しのぶが皆を代表して義勇を問い詰める。

 

 

「全て承知している。禰豆子が鬼であること、炭華が鬼を連れて鬼殺していること。それにこのことはお館様にも報告して承諾されている」

 

 

「禰豆子は今まで俺たちが出会った鬼とは違う。この"姉妹"は俺たち鬼殺隊に『新しい風』を吹かす。そう思っただけだ」

 

 

義勇は淡々と竈門姉妹について説明をする。

 

 

「おいおい、何だか面白ぇことになってんなぁ」

 

 

するとそこに実弥が義勇たちの後ろから現れた。

 

 

「いいかァ、鬼が鬼を殺すなんて…、あり得ねェんだよ❗」

 

 

実弥は刀を抜刀し、禰豆子の髪を掴んで刺そうとする。すると

 

 

「いや~❗変態❗痴漢❗女の敵❗触らないで~❗」

 

 

「んなっ❗❓」

 

 

禰豆子が涙目になって暴れ出した。しかし、腕を縛られているので思うように動けないでいた。実弥は禰豆子に言われたことが余程ショックだったのか、刀を落とし、髪を掴んでいた手を離す。

 

 

「お姉ちゃ~ん(泣)」

 

 

禰豆子は姉の炭華のそばに座る。

 

 

「不死川さん、最低です」

 

 

「不死川さん、女の子には優しくしないと駄目ですよ❓」

 

 

しのぶと蜜漓が実弥を冷たい目線で睨む。

 

 

「おい冨岡ァ、今のは俺が悪ィのかァ❓」

 

 

実弥は呆然としながら義勇に聞く。

 

 

「今のは十中八九不死川が悪い。俺でさえ会った当初はあそこまでの暴力はしなかったぞ❓」

 

 

義勇に正論を突き出され、実弥は膝から崩れ落ちた。

 

 

「「お館様のお成りです」」

 

 

すると耀哉の娘二人が耀哉が来たことを伝える。

 

 

「炭華、禰豆子。今からお前たちの縄を切る。じっとしていろ。その後は頭を下げて平伏するんだ」

 

 

義勇は自分の刀を鞘から少しだけ出して炭華と禰豆子の縄を切った。そして炭華と禰豆子は義勇の言う通りに平伏した。

 

 

「おはよう皆。今日もいい天気だね。空は青いのかな❓半年に一度の柱合会議を迎えられたこと、嬉しく思うよ」

 

 

「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます」

 

 

「ありがとう義勇」

 

 

耀哉が挨拶をし、それを義勇が返し、耀哉はそれに対して礼を言った。

 

 

「そう言えばさっき、何か騒がしかったようだけど…」

 

 

「そこにいる不死川が竈門禰豆子に粗相を行いまして…」

 

 

耀哉の質問に義勇が答えると、耀哉は"見えていない"目を細めた。

 

 

「実弥、鬼が赦せないのは分かるが、女の子に乱暴をしてはいけないよ❓」

 

 

「…御意」

 

 

耀哉に叱られた実弥はバツが悪そうな顔をしていた。

 

 

「さて、今回の会議の内容だけど、そこにいる炭華、禰豆子のことについてなんだ。普通、鬼は太陽の光を浴びると灰になる。けど禰豆子は鬼になってから陽光を浴びても灰にはならなかった。それはつまり、太陽を克服していると言うこと」

 

 

「これを無惨が知ったら、血眼になって禰豆子を吸収しようとするだろう。けど、無惨にそんなことはさせない。そこで皆には禰豆子のこと、強いては炭華のことを了承して欲しいんだ」

 

 

「禰豆子は"自分が人を喰わない"ことを証明するために鬼殺隊に入隊した。そして今まで一度も人を食べてはいない。けどこれから先、禰豆子が人を襲う保証が無い。そこで"ある実験"をしたい。実弥、こちらにおいで」

 

 

耀哉は実弥を呼び寄せると、耳元で囁く。すると実弥は耀哉から離れ、禰豆子の前に立つ。炭華と禰豆子は顔を上げると実弥がいたので思わず後退る。

 

 

実弥はお構い無しに自分の左腕を刀で斬りつける。そしてその切り口から血が滴り落ちる。

 

 

「ぐうぅっ❗❓」

 

 

すると禰豆子は口を押さえて苦しみ出す。

 

 

「猫にマタタビ、鬼には稀血。俺の血は稀血の中でも更に希少でな、"匂い"だけでも酔わせることができる。俺の血で酔いしれなァ❗」

 

 

実弥は血が落ちている腕を禰豆子に近づける。

 

 

「や…、止め…、気持ち…、悪い…」

 

 

禰豆子は口を押さえてその場に蹲る。思った行動とは違う行動を取った禰豆子を心配したのか、実弥は刀を手離し、傷口を布で押さえ、義勇と炭華は禰豆子のそばに寄る。

 

 

「お姉…ちゃん、吐きそう…」

 

 

禰豆子は顔を青ざめており、今にも吐きそうだった。

 

 

「お館様、失礼仕る❗」

 

 

ヒュバッ

 

 

義勇は禰豆子を連れてその場を離れた。

 

 

「どうしたのかな❓」

 

 

「禰豆子様は風柱様の血を嗅いだ瞬間気分を悪くされ、今しがた水柱様が何処かへお連れしました」

 

 

そのことを聞いた耀哉は驚いた表情をした。

 

 

「これは驚いた、稀血を欲しがるんじゃ無くて拒絶するとは」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

しばらくして、顔色が多少良くなった禰豆子を連れた義勇が戻ってきた。

 

 

「お館様、先程は失礼しました」

 

 

「禰豆子は大丈夫かい❓」

 

 

「まだ顔色は優れませんが、とりあえずは」

 

 

戻ってきた義勇に耀哉は禰豆子の容態を聞くと、義勇は完全では無いことを伝えた。

 

 

「そうか…、ならこれ以上の無理は禁物だね。けど、これで禰豆子は人を襲わないことが証明された。炭華、禰豆子。さっきは申し訳無かったね」

 

 

「君たちはこれから蝶屋敷で治療をしておいで」

 

 

耀哉は二人に謝罪をし、蝶屋敷に向かうことを提案した。

 

 

「お館様、少々失礼仕る」

 

 

実弥は耀哉に一言断りを言って禰豆子の前に座る。

 

 

「さっきは酷いことして、申し訳無かった。後で詫びの品を持っていく」

 

 

実弥は禰豆子の前で土下座をして謝罪した。

 

 

そして炭華と禰豆子の二人は女性の隠によって蝶屋敷へと運ばれた。

 

 

 



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第陸話

 

 

「ごめん下さいまし~」

 

 

炭華と禰豆子を連れた隠の一人が玄関で声をあげる。

 

 

ドタドタドタ

 

 

「はいはい」

 

 

「あ、一刀様。お館様のご命令により竈門姉妹をお連れしました」

 

 

隠の一人が来訪の理由を述べる。

 

 

「詳細はイーグルから聞いてるよ。部屋に案内するから」

 

 

一刀は全員を用意した部屋へと案内する。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

程無くして一刀は部屋の前に到着する。

 

 

「ここが二人に用意した部屋だよ」

 

 

一刀は部屋の扉を開ける。

 

 

「お帰りなさい。ご飯にします❓お風呂にします❓それとも…、華琳にします❓」

 

 

部屋の中には、裸エプロンで三つ指を付いてお辞儀をしている華琳がいた。

 

 

ギィ~、バタン

 

 

一刀は静かに扉を閉める。

 

 

「すまない、部屋を間違えたようだ」

 

 

「「「「いやいや、無かったことにしないで下さい❗ってか、今の誰ですか❗❓」」」」

 

 

四人は一斉に突っ込みを入れる。

 

 

「すまないが、少しだけ待っていてくれ」

 

 

一刀は一言断りを入れて再び部屋の中に入る。

 

 

ゴチンッ❗

 

 

部屋の中から何かぶつかる音がした後

 

 

ガチャ

 

 

「申し訳無かった、やはり部屋はここで合ってたようだ。さぁどうぞ」

 

 

一刀は四人を部屋に招き入れる。部屋の中はベッドが二つあるだけのシンプルな物だった。ベッドの上には二人の病院服が畳まれた状態でそれぞれ置かれており、部屋の片隅には、華琳が一刀の羽織を着た状態で正座していた。しかも頭頂部に漫画のような"コブ"まであった。

 

 

「先程は"知人"が失礼をして申し訳無かった。この部屋は君たち"専用"の部屋だ。好きに使って構わない」

 

 

一刀は華琳の無礼を謝罪し、部屋の説明をする。

 

 

「後でこの屋敷の者が説明に『コンコンッ』…来たようだ」

 

 

一刀はノックされた扉を開ける。

 

 

「一刀さん、お待たせしました」

 

 

開けた先にいたのはアオイだった。

 

 

「忙しいのに無理言って申し訳無かったね。今丁度説明を終える所だったんだ」

 

 

一刀はアオイを部屋に招き入れる。

 

 

「…❓ あの、華琳さんは何で"あんな所"で正座をしているのですか❓」

 

 

アオイは部屋の片隅で正座をしている華琳を指差しながら一刀に問い掛ける。

 

 

「ちょっとした『お仕置き』だよ」

 

 

一刀は目を反らしながら言うと、アオイは全てを察した。

 

 

「華琳さんが"何か"やらかしたようですね」

 

 

「察しが早くて助かる」

 

 

一刀とアオイはため息を一つ吐く。

 

 

因みにアオイが華琳のことを真名で呼んでいるのは、一刀が真名に付いて説明をしていたからであった。つまり、華琳が自己紹介で真名を言えば、それは『今後は真名で呼んで欲しい』との意思表示であることだった。

 

 

「とりあえず、華琳はこっちで何とかするから、アオイは二人のことをお願い」

 

 

一刀は華琳の首根っこを掴み、持ち上げて退室した。その間、華琳は"借りてきた猫"のように大人しかった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後炭華と禰豆子はアオイに蝶屋敷の説明と病院服に着替えるのを手伝ってもらい、ベッドに横たわる。炭華は前の任務で全身筋肉痛と肉離れを患い、痛みに悶える。禰豆子は稀血を嗅いで気持ち悪くなっていたのもあってか、横になって直ぐ寝息を立てた。

 

 

……その間、善逸が苦い薬を飲まないで騒いでいたのを一刀が拳骨で大人しくさせていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

炭華と禰豆子が蝶屋敷に運ばれてから数日後、炭華と禰豆子に見舞い客が訪れていた。柱合会議で禰豆子に"酷いこと"をしようとしていた実弥だった。

 

 

彼は詫びの品『おはぎ』を持って二人がいる部屋の前に着いた。

 

 

コンコンコンコンッ

 

 

「鬼殺隊風柱、不死川実弥だ。入ってもいいかァ❓」

 

 

実弥は扉をノックして入室してもいいか質問をする。

 

 

『少々お待ち下さ~い❗』

 

 

部屋の中から声がすると、実弥は扉から少し離れ、待つ。

 

 

ガチャ

 

 

「お待たせしました。どうぞ」

 

 

扉からアオイが現れ、実弥を中へ呼び込む。

 

 

「失礼する」

 

 

実弥は一言入れて入室する。部屋の中には炭華と禰豆子、そしてお湯が入っているであろう桶と体を拭いていたであろう手拭いがあった。桶からは湯気がユラユラと上っていた。

 

 

「急な訪問、申し訳無かった。それと、"これ"はこの前の会議の時に言った詫びの品だ。受け取って欲しい」

 

 

実弥は手にしていた包みを差し出す。アオイはそれを受け取り、包みを開けると中からおはぎが"大量"に入っていた。

 

 

「おはぎ…、ですか❓」

 

 

「俺の大好物でな。大量にあるのは皆と分けて食って欲しかったからだ」

 

 

アオイは『成る程…』と納得して実弥のおはぎを受け取った。

 

 

「んじゃあそろそろお暇するわ。何か間が悪い時に来ちまったみたいだしなァ」

 

 

実弥は桶と手拭いを一瞥した後、部屋から退室した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「それではお二人には『機能回復訓練』について説明します」

 

 

実弥が竈門姉妹の見舞いに来てから更に数日後、炭華と禰豆子は蝶屋敷の道場に来ていた。これから機能回復訓練を行うための説明をアオイから受ける所だった。

 

 

「まず最初に"柔軟"。寝たきりで固まった体をあちらにいる三人がほぐします」

 

 

アオイが指差した所に布団が敷かれており、そこになほ、すみ、きよの三人娘がいた。

 

 

「次に"反射訓練"。あちらにあるちゃぶ台に置かれてある湯飲みの中には"薬湯"が入っています。あれを相手より先にかけて下さい。ただし、持ち上げる時に湯飲みを押さえられたら持ち上がりません」

 

 

次に指差した所には、ちゃぶ台の上に湯飲みが幾つも置かれており、前にカナヲが座っていた。

 

 

「最後に"全身訓練"。端的に言えば"鬼ごっこ"です。制限時間内に相手を捕まえるか、逃げ切って下さい。反射訓練とこの全身訓練はあちらにいるカナヲか、私アオイが相手となります」

 

 

「ここまでの説明に分からない所はありますか❓」

 

 

「「ありません」」フルフル

 

 

アオイは説明に分からない所があるか聞いてみると、二人は"無い"と首を横に振って答えた。

 

 

「では、始めて下さい」

 

 

こうして、竈門姉妹の機能回復訓練が始まった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

機能回復訓練が始まって数日後、竈門姉妹の様子を一刀は見ていた。

 

 

柔軟に関しては女性特有の柔らかさで、難なくクリアしていた。もちろん始まった当初は相当カチコチであったため、ほぐす度に悲鳴を上げる始末であった。

 

 

そして反射訓練では、最初はアオイVS炭華であり、一進一退の攻防が繰り広げられ、アオイの一瞬の隙を突いた炭華に軍配が上がった。続いてアオイVS禰豆子の時は、若干禰豆子が押されつつも勝利を収めた。

 

 

全身訓練でも、炭華と禰豆子は時間ギリギリでアオイに勝った。

 

 

だが、相手がカナヲになると禰豆子は愚か炭華も勝てなかった。しかもこの日は一刀が見ていることもあり、カナヲは少しだけ本気を出していたのだった。

 

 

「「ありがとうございました……」」ズーン

 

 

炭華と禰豆子は疲労困憊となり、体を引き摺って道場を後にした。

 

 

「お兄ちゃん、頭撫でて」

 

 

カナヲは一刀に抱きついて撫で撫でを要求する。

 

 

「カナヲ、少し大人げなかったぞ❓あそこまでする必要はあったか❓」

 

 

しかし一刀はカナヲの頭を撫でずに叱る。当然カナヲはこの世の終わりと言わんばかりの顔をした。

 

 

その頃炭華と禰豆子は部屋に帰りながら反省会を開いていた。あーでもない、こーでもない。話に夢中になってしまい、三人娘と華琳の呼び掛けに気づかない程だった。

 

 

「貴女たち、ちょっと待ちなさい❗」ガシッ

 

 

「「えっ❗❓」」

 

 

見かねた華琳が二人の肩を掴み、ようやく二人は呼ばれていることに気づいた。

 

 

「え…っと、何か❓」

 

 

「あの…これ…」

 

 

炭華が質問をすると、なほが二人に手拭いを渡す。

 

 

「わぁ~、ありがとう❗丁度欲しかったんだ❗」

 

 

禰豆子が手拭いを受け取り、顔を拭きながらお礼を言う。すると三人娘は笑顔になった。

 

 

「それから、アオイさんにお願いしてお風呂を用意してもらったわ。手拭いで薄めているとは言え、ちょっと匂うもの。しっかりさっぱりして来なさい」

 

 

華琳は二人のために風呂を用意したことを伝えた。

 

 

「何から何まで、ありがとうございます」

 

 

炭華が四人にお礼を言う。

 

 

「あの、お二人は全集中の呼吸を常に行っていますか❓」

 

 

すみに聞かれ、炭華と禰豆子は目が点になった。

 

 

「「えっ…、してない。やってないです…。…っと言うか、できるの❓」」

 

 

二人はそろって四人に質問で返す。

 

 

「はい。全集中の呼吸を四六時中、寝る時も行えば、身体能力が天地程の差が出ます」

 

 

二人の質問にきよが答える。

 

 

「これは柱の皆様やカナヲさん、更には兄様も行っていますよ」

 

 

「因みにこの子たちが言ってる『兄様』と言うのは、一刀のことよ。この蝶屋敷に来た時に貴女たちを部屋に案内した男性がその彼よ」

 

 

きよの説明になほと華琳が補足を加える。

 

 

「「ありがとう❗やってみるよ❗」」

 

 

二人は意気揚々に鍛練に行こうとする。

 

 

「ちょっと待ちなさい。貴女たち、その臭い体で鍛練するつもり❓まずは風呂に浸かって匂いを落として、鍛練は明日からになさい」

 

 

そこに華琳が待ったをかける。二人は顔を赤くしながら振り向いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから数日後、炭華と禰豆子は『全集中・常中』を会得するために鍛練をしていたが、かなりへばっていた。無理も無い。只でさえ全集中の呼吸は肺に負担が掛かる代物であり、それを四六時中行うには相当な鍛練が必要であり、直ぐに会得できるものでは無いからだ。

 

 

しかし二人はめげずに常中会得の鍛練を続ける。その様子を三人娘は物陰で、一刀は屋根の上から見ていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから十五日後、炭華と禰豆子は蝶屋敷の屋根の上で座禅を組んで瞑想をしていた。二人は昼は走り回ったりして肺を酷使し、夜は肺を落ち着かせるためにゆっくり深呼吸をしていた。

 

 

「二人共、頑張っているな」

 

 

そこに一刀が二人から離れた場所に現れ、声を掛けた。

 

 

「「一刀さん」」

 

 

二人は一刀に気づいて座禅を解こうとする。

 

 

「あぁそのままでいいよ」

 

 

一刀は手を出して座禅を解こうとするのを止める。

 

 

「二人は偉いな、機能回復訓練を逃げずに行っている。あの我妻って奴と嘴平って奴とは大違いだ」

 

 

一刀はケラケラ笑いながら二人の頭を撫でる。二人は顔を赤くしながらも、気持ち良さそうな顔をしていた。

 

 

「あの二人は駄目だ、女の子に負けた位ですぐ根を上げる。あれじゃあ何時まで経っても刀を握れやしない。何か取っ掛かりが有ればいいんだが…」

 

 

一刀は炭華と禰豆子の頭を撫でながら愚痴を溢す。

 

 

「我妻君と嘴平君も、機能回復訓練をしているのですか❓」

 

 

炭華は一刀の手を掴み、自分の頬に当てながら質問をする。

 

 

「ん❓ あぁ、二人が訓練を開始してから二~三日後に始めたよ。けど、数日で来なくなったがな」

 

 

一刀は指を動かし、炭華の頬を擽る。炭華は一刀の思わぬ行動にびっくりして固まってしまった。それを見ていた禰豆子は自分の頭の上に置かれている一刀の手を掴み、自分の"胸"に持って行こうとする。

 

 

「女の子がそんなことしてはいけません」

 

 

しかしいち早く察知した一刀はその手を退ける。

 

 

「とにかく、二人には頑張ってもらわないとな。しっかり励めよ」

 

 

一刀は最後に二人の頭を軽く撫でると、屋根から飛び降りた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから十日後、炭華と禰豆子はなほ、すみ、きよの三人娘に鍛練を手伝ってもらいながら、遂に目標である『特殊加工された瓢箪』を息"だけ"で破裂させることができた。因みにこの瓢箪割りは、二人が休憩中の時にしのぶがカナヲにさせていた訓練であることを話していた。

 

 

そして全身訓練では、時間ギリギリではあったが、遂にカナヲに勝利した。続く反射訓練でも、炭華はカナヲと一進一退の攻防を繰り広げ、遂に湯飲みを"持ち上げた"。

 

 

 

『その薬湯、臭いよ❓かけたら可哀想だよ❓』

 

 

しかしそこで理性が語りかけ、炭華は湯飲みを"カナヲの頭の上"に置いた。

 

 

そして禰豆子も炭華同様、カナヲに勝利した。

 

 

「二人は最後まで諦めずにあそこまでやり遂げた。このままじゃ、二人に置いてきぼりにされるぜ❓」

 

 

二人の訓練を一刀と『一刀に無理矢理連行された』善逸と伊之助は見ており、一刀は二人に話しかける。

 

 

「「あっ❗一刀さん❗」」

 

 

炭華と禰豆子は一刀に気が付くと、一刀に抱きつく。

 

 

「二人とも、良く頑張ったな。偉いぞ」ナデナデ

 

 

「「えへへ~」」

 

 

一刀は姉妹の頭を撫でると、姉妹は笑顔になり、『もっともっと』と催促する。

 

 

「さて残りはお前たちの番だ。気ィ引き締めて逝けよ❓」ニヤッ

 

 

「あの北郷さん、『いけよ』の字が違うように聞こえたんですが…。後、笑顔が恐いんですけど…」ガタガタ

 

 

善逸は震えながら一刀に質問をする。

 

 

「気のせいだ」プイッ

 

 

一刀は顔を反らす。

 

 

「いぃぃぃ~~~、やああぁぁぁ~~~❗❗❗恐い、恐すぎるよ❗何、何なの❓死ぬの❓俺死んじゃうの❗❓」

 

 

善逸がギャーギャーと騒ぎ出す。

 

 

「我妻君五月蝿い❗静かにしてよ❗折角この余韻を楽しんでいたのに…

 

 

見かねた炭華が善逸に注意する。

 

 

「そんな~。炭華ちゃ~ん、俺を守ってくれよ~(泣)」

 

 

善逸は泣きながら炭華に助けを求める。

 

 

「私、誰かに頼ったり、騒いだり、すぐ泣く人は嫌いなの❗プイッ」

 

 

炭華はそっぽを向く。

 

 

「そんな~、禰豆子ちゃ~ん(泣)」

 

 

炭華にそっぽを向かれた善逸は今度は禰豆子に助けを求める。

 

 

「お姉ちゃんに同意❗プイッ」

 

 

禰豆子は炭華に同意し、同じくそっぽを向く。

 

 

「………」チーン

 

 

善逸は真っ白になり、膝から崩れ落ちる。

 

 

「何だか分からねぇが、"山の王"である俺様にできねぇ筈が無ぇ❗」

 

 

伊之助は善逸とは逆にやる気に満ちていた。

 

 

「その心意気や良し❗では早速『全集中・常中』取得の訓練を始めるぞ❗」

 

 

一刀は炭華と禰豆子を優しく引き離し、善逸を引き摺って伊之助と共に道場を後にした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一刀の過酷な訓練によって、善逸と伊之助は九日かけて『全集中・常中』を会得した。

 

 

 



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第漆話

 

 

「禰豆子、嘴平君❗もうすぐ私たちの刀が届くって❗今鴉から連絡が来たよ❗」

 

 

禰豆子に自分の体の柔らかさを自慢していた伊之助の下に炭華がやって来た。

 

 

「「本当(か)❗❓お姉ちゃん(炭子)❗」」

 

 

炭華の情報に二人は喜んでいた。炭華たちの刀は那田蜘蛛山での任務で折れてしまったので、鴉経由で打ち直してもらっていたのだった。

 

 

「うん❗それと嘴平君、私は"炭子"じゃ無くて"炭華"だよ❗」

 

 

三人は意気揚々と蝶屋敷の門へと向かう。

 

 

「こらこら、廊下は走るモンじゃ無ぇぞ」

 

 

そこに一刀が現れ、注意を促す。

 

 

「ごめんなさい。でも、折れた刀が直って、今刀を持ってこちらに来ていると鴉から言われたので、いてもたってもいられず…」

 

 

炭華が申し訳無さそうに謝罪する。

 

 

「別に怒って無いから安心しな。俺だって自分の刀が来た時は今のお前たちと同じだったからな」ナデナデ

 

 

一刀は炭華の頭を撫でながら話す。炭華は頭を撫でられて嬉しそうに笑っていた。

 

 

そして炭華たちは一刀を連れて屋敷の門まで来ると、"三つの人影"が見えた。その内の一人は、笠に等間隔で風鈴が幾つも付いていた。

 

 

「あの風鈴は鋼錢塚(はがねづか)さんだ❗」

 

 

「後二人は誰だろう❓」

 

 

炭華は知り合いが来たことに喜び、禰豆子は残りの二人が分からず首を傾げていた。

 

 

「あの二人は…」

 

 

一刀は蝶屋敷に来る二人に心当たりがあった。

 

 

「おい肝臓、あいつらと知り合いか❓」

 

 

一刀の側にいる伊之助が一刀に質問をする。

 

 

「きっとな。それと、俺の名前は"肝臓"じゃ無くて"一刀"だ」

 

 

一刀は伊之助の頭を軽く叩きながら訂正する。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「俺は鋼錢塚(ほたる)と言う者。竈門炭華と竈門禰豆子の刀を持って来た」

 

 

「北郷さん、お久しぶりです。あ、お三方は初めまして。私は鉄穴森と申します。此度、伊之助殿の刀を打たせてもらいました」

 

 

鋼錢塚と鉄穴森はそれぞれ自己紹介をする。

 

 

「まずは竈門炭華、お前からだ」

 

 

「はい❗」

 

 

鋼錢塚に呼ばれた炭華は刀を受け取り、鞘から抜く。すると刀身が漆黒に染まる。

 

 

「相変わらずの漆黒だな。次に竈門禰豆子、お前だ」

 

 

「はい❗」

 

 

次に禰豆子が呼ばれ、刀を抜刀する。すると刀身が朱色に染まる。

 

 

「お前さんもその色か。まぁ期待はしていなかったがな」

 

 

鋼錢塚は『予想通り』と言わんばかりの顔(お面で見えないが)をしていた。

 

 

「では最後に伊之助殿、お願いします」

 

 

最後に鉄穴森は伊之助に二振りの刀を渡す。すると刀身が藍鼠色に染まる。

 

 

「あぁ綺麗な色だ、藍鼠色が鈍く光る。渋くて刀らしい良い色だ」

 

 

「握り心地はどうでしょう❓北郷殿の要望で刃は獣の犬歯と同じ構造にしてみましたが…」

 

 

実は一刀は刀を打ち直してもらう際、各々の要望を聞いていたのだ。炭華と禰豆子は要望は無かったが、伊之助は『獣の牙のような刀』と言っていたので、それを書き記したのだった。

 

 

「とても良いぜ❗ありがとよおっさん❗」

 

 

伊之助は鉄穴森にお礼を言った。

 

 

「さて次は、お二人の隊服をお渡しします」

 

 

今度は『ゲスメガネ』こと前田が炭華と禰豆子に隊服を渡す。炭華と禰豆子は隊服を受け取り、着替えるために一度退室する。

 

 

「おいゲスメガネ、二人の隊服は"まともなやつ"だろうな❓」

 

 

一刀は二人がいなくなったのを見計らって前田に質問をする。

 

 

「大丈夫です。ちゃんとまともな服をお持ちしました」

 

 

前田は一刀の質問に答える。すると

 

 

「あの~、私たちの隊服ですが、何か"胸"の辺りが閉まらないのですが…」

 

 

炭華が襖の向こうから顔だけを出す。

 

 

「……おいゲスメガネ」

 

 

一刀は刀を抜刀しながら前田に問い掛ける。

 

 

「ちょっとお待ち下さい。お二人の服は最初の採寸の時に計ったのと"同じ"のはずですが…」

 

 

前田は寸法は前に計ったものと同じだと言う。

 

 

「……もしかして、『大きくなった』❓」

 

 

一刀は服のサイズが合わない理由を述べた。

 

 

「……恐らくは」

 

 

一刀が考えた可能性に前田が同意した。

 

 

「とりあえずアオイを呼んでくる。ちょっと待っててくれ」

 

 

一刀はアオイを呼びに退室する。そしてアオイによって計ってもらうと、案の定以前より"大きくなっていた"。前田は密かに二人の採寸を聞き、後日新しい隊服を持ってくることになった。因みに先程の服は前田が回収していたが、回収したのは"上だけ"であり、下は回収しなかった。隊服の下は炭華がズボンであり、禰豆子がスカートである。

 

 

「さてそれじゃ、ここいらでお茶にするか。お二人も如何ですか❓お茶請けにみたらし団子もありますが」

 

 

「頂こう」

 

 

一刀の『みたらし団子』の言葉に鋼錢塚は真っ先に即答した。

 

 

「鋼錢塚さんはみたらし団子に目が無いですからねぇ。折角なので、お呼ばれしましょう」

 

 

鉄穴森もお茶を飲むことに賛成したため、一刀はアオイを連れて台所へと向かった。

 

 

その後、一刀たちの他に蝶屋敷の女性メンバー、そして善逸と一緒にお茶を楽しんだ。何故善逸を呼んだのか、それは『呼ばれなかったことを後でネチネチ言われないため』であった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……はい、服を着ていいですよ」

 

 

炭華たちの刀が届いてから数日後、炭華はしのぶの診察を受けていた。

 

 

「体力も十分戻って、刀も打ち直してもらって、隊服も綺麗なのが届きました。いつでも任務に出れますね」

 

 

しのぶは炭華の任務復帰を言い渡す。隊服に関しては、刀を受け取った二日後にサイズがピッタリの服が届いていた。

 

 

「あの、ちょっとお尋ねしたいのですが…」

 

 

炭華はしのぶに聞きたいことがあったので口を開く。

 

 

「はい、何でしょうか❓」

 

 

「『ヒノカミ神楽』と言うのを聞いたことはありませんか❓」

 

 

炭華は自分の家に伝わっている神楽のことについて聞いてみた。

 

 

「『ヒノカミ神楽』…ですか❓ごめんなさい、聞いたことはありませんね。一体どういうものなのですか❓」

 

 

しのぶは聞いたことが無いことを謝罪し、炭華に質問をする。

 

 

「実は…」

 

 

炭華は丁寧に説明をする。

 

 

原作の炭治郎は説明が爆発的に下手なのだが、炭華はその逆で、説明をするのがとても上手なのだ。

 

 

「ふむふむ…、成る程。貴女たちの家に代々伝わっていた神楽が剣技として使えた…と。申し訳ありません、やはり聞いたことはありませんね」

 

 

炭華の説明を受けてもしのぶは聞いたことが無かった。

 

 

「では、『火の呼吸』はありますか❓」

 

 

「『火』では無く、『炎』の呼吸ならあります。これは炎柱の煉獄さんが使っている呼吸ですね。あの柱合会議の時の目がギョロっとした方がそうです」

 

 

炭華の質問にしのぶが丁寧に捕捉を加えて答える。

 

 

「そうでしたか…、ありがとうございました」

 

 

炭華はお礼を言って診察室から退室する。そして部屋の外で待っていた禰豆子と一緒に移動する。

 

 

すると廊下の向こう側から誰かが現れた。

 

 

「あっ❗あなたは…」

 

 

現れたのはモヒカンヘアの鼻から右頬にかけて一文字に傷がある男性だった。

 

 

「ん❓よぅ」

 

 

男性も炭華たちに気づいたようで、素っ気無く挨拶をする。

 

 

玄弥(げんや)、ちょっと待てやァ。一人で先に行くなやァ」

 

 

すると玄弥と呼ばれた男性の後ろから実弥が現れた。禰豆子は柱合会議の時のことを思い出し、炭華の後ろに隠れる。

 

 

「兄貴、彼女に何かしたのか❓」

 

 

「あぁ、会議の時に…、ちょっと…な」

 

 

実弥はバツが悪そうな顔をしていた。

 

 

「っと、そう言えば自己紹介がまだだったなァ。俺は風柱の不死川実弥。こいつは俺の弟で"継子"の玄弥だ」

 

 

「改めてよろしく」

 

 

実弥は自己紹介と玄弥を紹介する。

 

 

「私は竈門炭華、後ろに隠れているのは妹の禰豆子です」

 

 

禰豆子は炭華の後ろから顔を少しだけ出して頭を下げると、すぐにまた炭華の後ろに隠れた。

 

 

「完全に嫌われちゃってるね、兄貴」

 

 

玄弥が少し寂しそうに言う。

 

 

「そう言う玄弥だって、他人のこと言えないでしょ❓最終選別の後、何をやったのか忘れた訳じゃ無いでしょ❓」

 

 

炭華が意味深なことを言う。そしてその言葉に反応したのは、玄弥では無く、実弥だった。

 

 

「竈門姉妹は玄弥と同期なのかァ。ところで、玄弥が何をやったのか聞かせて貰えないかァ❓」

 

 

実弥が炭華に玄弥が何をやったのか聞こうとする。玄弥は知られては不味いと思ったのか、炭華を止めようとする。

 

 

「玄弥は隊律の説明を無視して『早く刀を寄越せ❗』と言いながら説明していた人の髪を鷲掴みにしていました」

 

 

それを聞いた瞬間、実弥は玄弥の方を向いた。

 

 

「げェ~~~ん~~~やァ~~~。後で、『お仕置き』だァ~~~(怒)」

 

 

実弥は明らかに怒った顔で玄弥を睨み付けた。

 

 

「でも風柱様も、私の髪を鷲掴みにしましたよね❓」

 

 

禰豆子の言葉に実弥の怒りは鎮火し、玄弥は冷めた眼差しを実弥に向ける。

 

 

「血が繋がっているせいか、二人共似てますね❗」グサッ

 

 

「「グハァッ❗」」

 

 

炭華の言葉の刃に貫かれた不死川兄弟は胸を押さえてその場に踞った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

不死川兄弟をその場に『放置』した竈門姉妹は、一刀の下へ来ていた。

 

 

「一刀さん、色々とありがとうございました」

 

 

「別に気にすること無いよ。俺は俺がしたいことをしたまでさ」

 

 

一刀は縁側で日向ぼっこをしており、炭華は右側、禰豆子は左側に陣取っていた。

 

 

「それでも、お礼を言いたいんです。ありがとうございます」

 

 

「なら、素直に受け取っておこうかな」

 

 

一刀は炭華と禰豆子の頭を優しく撫でる。炭華と禰豆子は心地好いのか、目を伏せて一刀にされるがままになっていた。

 

 

「あら一刀、ここにいたの❓」

 

 

そこに華琳がやって来た。

 

 

「華琳、お疲れ様」

 

 

一刀は華琳に労いの言葉をかける。

 

 

「別に疲れてはいないわ。アオイさんたちのおかげで、色々勉強させてもらっているもの」

 

 

華琳はそう言いながら一刀の背中に抱きつく。

 

 

「そう言えば、華琳は鬼殺隊に入隊しないのか❓」

 

 

一刀は再会してから思っていたことを口にする。

 

 

「流石に入隊はしないわ。もう戦うのはこりごり。これからは一刀を支える立場として動くつもりよ」

 

 

華琳は一刀の質問に答える。

 

 

「そうか…」

 

 

一刀はそう言って、黙ってしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「あ、伊之助、丁度良かった」

 

 

日向ぼっこをしていて居眠りをしてしまった一刀は伊之助を探していたらしく、前方にいた伊之助を呼び止める。因みに炭華、禰豆子、華琳の三人も一刀の後に眠ってしまい、一刀を枕代わりにしていた。

 

 

「んぁ❓何だよ❓」

 

 

呼び止められた伊之助は後ろを振り返る。

 

 

「今後、刀を隠さなくてはいけないかも知れないからな。鬼殺隊の隊服と同じ素材で作ったこの羽織をやろう」

 

 

一刀は持っていた布を広げる。それは伊之助用にゲスメガネに『作らせた』一刀とお揃いの羽織だった。だが、この羽織は唯一違う点があった。それは、一刀の羽織には北郷家の家紋があるが、伊之助に渡す羽織には家紋が無いのだった。

 

 

「こ…、これを、くれるのか…❓」プルプル

 

 

伊之助は震えながら羽織を指差す。

 

 

「あぁ。ここ最近、ずっと俺の羽織を見ていただろ❓それに、炭華たちと同じ羽織だと、お前の長所である感覚が鈍ってしまうかもしれないからな」

 

 

一刀は炭華たちから伊之助が感覚が鋭いことを聞いており、伊之助の長所を遮らない羽織を考えていた所、伊之助が洗濯された自分の羽織を凝視しているのを見て、『これだ❗』と閃いたのだった。

 

 

「ほら、今着せてやるからじっとしていろ」

 

 

一刀は伊之助に羽織を着せる。

 

 

「中々様になっているじゃないか。カッコいいぞ」

 

 

伊之助に羽織を着せた一刀は伊之助を褒める。褒められた伊之助は『ホワホワ』した気持ちになっていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

そして炭華、禰豆子、善逸、伊之助の四名は杏寿郎に会うためにしのぶから聞いていた『無限列車』の駅に向かった。

 

 

「……また、少しだけ静かになるな」

 

 

一刀は感傷に浸っていた。

 

 

「一刀、感傷に浸っている所申し訳無いが任務だ」

 

 

そこにイーグルが一刀の肩に降り立つ。

 

 

「『無限列車』で四十人以上の人が行方不明になっている。調査に向かった鬼殺隊員も消息を断った。これより、『炎柱・煉獄杏寿郎』と共に調査せよ」

 

 

一刀に新たな任務が下される。

 

 

「『無限列車』って炭華たちが向かった所じゃないか。しかも柱である杏寿郎さんと合同の任務って、明らかに『十二鬼月』絡みじゃねぇか」

 

 

イーグルから渡された指令に一刀は愚痴を溢す。

 

 

「俺に言われても仕方がない。早く出立の準備を整えろ」

 

 

イーグルは一刀の愚痴を交わしながら準備を急かす。

 

 

「分かった分かった、愚痴愚痴言っても仕方がねぇ。いっちょやりますか❗」

 

 

一刀は頬を叩いて気合いを入れ、蝶屋敷に戻って準備を整え始めた。

 

 

 



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第捌話


誰だ~

アンケートの『させない❗』に

票を入れた奴は~


 

 

「何じゃこりゃ~~~❗❓」

 

 

駅に着いた炭華一行は杏寿郎を探すため列車を探していると、伊之助が列車を見つけたが、列車を見た瞬間、伊之助が騒ぎだした。

 

 

「この威圧感…、長さ…。間違いねぇ、この土地を統べる者、この土地の"主"だ❗」

 

 

「違うよ嘴平君。一刀さんから貰ったこの絵と比較したけど、間違いなくしのぶさんと一刀さんが言ってた"列車"って乗り物だよ」

 

 

炭華は事前に一刀から列車の絵を貰っており、その絵と見比べてみると、その絵はまるで写真で撮ったかのような精巧さだった。

 

 

「ちょっと見せて。……うわぁ❗本物そっくりじゃん❗まるで写真みたいじゃない❗」

 

 

善逸が炭華が持っている絵を見ると、その精巧さに驚いていた。

 

 

「私もびっくり。こんな上手な絵を描けるなんて、一刀さんは凄いよ❗」

 

 

禰豆子も一刀の絵を見ていたので、善逸に同意する。

 

 

「そんなに褒めても、頭撫でるくらいしか褒美は出ないぞ❓」

 

 

聞いたことがある声がしたので振り返ると、そこには一刀がいた。

 

 

「「一刀さん❗」」ダキッ

 

 

「よっ。さっきぶりだな」ナデナデ

 

 

「「はにゃ~ん」」トロ~ン

 

 

炭華と禰豆子は一目散に一刀に抱きつく。一刀は二人の頭を撫でながら挨拶をする。撫でられている二人は顔が蕩けていた。

 

 

「北郷さん、どうしてここに❓」

 

 

伊之助を押さえていた善逸が一刀に質問をする。

 

 

「お前たちが出立した後、指令が来てな。『列車で柱と合流しろ』ってな」

 

 

一刀は善逸に聞かれたことに答える。

 

 

「えっ❓柱❓柱がいるんですか❗❓」

 

 

善逸は伊之助を掴んでいた手を離してしまった。

 

 

「あぁ、いるぞ。それよりお前たち、そろそろ刀を隠せ。俺たち鬼殺隊は"政府非公認"の組織だ、刀が見つかれば問答無用でお縄を頂戴することになるぜ❓」

 

 

一刀は駅に到着する前に刀を隠しており、炭華たちにも刀を隠すよう促す。そして全員が隊服と羽織の間に刀を隠した。

 

 

「それでいい。ほら、列車に乗るのに必要な切符だ。一人一枚ずつ取りな」

 

 

一刀は合流する前に人数分の切符を買っており、それを炭華たちに渡そうとした。

 

 

「皆、ちょっと待って」

 

 

切符を取ろうとした炭華たちを禰豆子が止める。

 

 

「これ、何か"嫌な感じ"がする…」

 

 

禰豆子は切符を一枚取ると、何かを感じた。

 

 

「もしかして、鬼の血鬼術❓」

 

 

炭華は思い当たる節があるのか、禰豆子に質問をする。

 

 

「…たぶん」

 

 

禰豆子は頷いて肯定する。

 

 

「…どういうことだ❓」

 

 

「禰豆子は"第六感"が鋭いので、鬼の力とかを感じ取ることができるんです」

 

 

一刀の質問に炭華が答える。

 

 

「もし血鬼術なら、きっとこれを使って何か仕掛けるかも…」

 

 

「禰豆子、血鬼術でどうにかならない❓」

 

 

「やってみる」

 

 

炭華は禰豆子の血鬼術でどうにかならないか聞いてみる。そして人の目が無い所まで行くと

 

 

『血鬼術 爆血』

 

 

ボワッ

 

 

禰豆子が自分の血鬼術である"爆血"を使い、切符の一枚を燃やす。しかし切符"自体は燃えていなかった"。

 

 

「よし❗さっきの嫌な感じは無くなったよ❗」

 

 

爆血の火が消え、禰豆子が確認すると嫌な感じが無くなったと言う。そして残りの切符も禰豆子が爆血で燃やした。

 

 

「それじゃ、改めて列車に乗り込むとするか❗」

 

 

『オォ~❗』

 

 

一刀が拳を上に振り上げると、炭華たちも拳を上に振り上げた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「あの、煉獄さんってもう既に乗っているんですか❓」

 

 

一刀の手を握っている炭華が一刀に質問をする。

 

 

「確かそうイーグルから聞いているんだが…」

 

 

一刀は杏寿郎を探しているため視線をあちこち巡らす。すると

 

 

「旨い❗旨い❗旨い❗旨い❗」

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

「旨い❗旨い❗旨い❗旨い❗」

 

 

『旨い❗』と大声で連呼しながら駅弁を食べている杏寿郎を発見した。

 

 

「あの…北郷さん」

 

 

「皆まで言うな。あれが炎柱・煉獄杏寿郎だ」

 

 

「ただの食いしん坊じゃ無くて❓」

 

 

善逸と炭華とは反対の手を握っている禰豆子が杏寿郎を指差しながら一刀に質問をしようとするが、する前に一刀が肯定した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「うむ、そう言うことか。だが生憎『ヒノカミ神楽』と言う言葉すら初耳だ。申し訳無い」

 

 

「あ…、いえ、知らないなら謝らなくて結構です。こちらこそ変な質問をして申し訳無いです。それと…、頭のコブ、大丈夫ですか❓」

 

 

『無限列車』が出発してから数分後、杏寿郎は炭華からヒノカミ神楽のことについて質問をされるが、杏寿郎は"知らない"と答えた。因みに頭のコブは余りにも杏寿郎が五月蝿かったので、杏寿郎の隣に座った一刀がお見舞いした拳骨の怪我だった。

 

 

「自業自得だ。もう少し自重しろ」

 

 

一刀は相手が柱でも容赦はしない男であった。

 

 

「切符…、拝見…致します…」

 

 

そこに車掌が訪れた。

 

 

「皆、さっき渡した切符を車掌さんに渡すんだ」

 

 

一刀は車掌に切符を渡す。それに習って炭華たちも車掌に切符を渡す。

 

 

そして切符に切り込みを入れ終えた車掌は前の車両に移動する。

 

 

「……どう思う❓」

 

 

一刀が炭華と禰豆子に質問する。

 

 

「車掌さん、目の下に隈がありました。まるで"何日も寝ていない"みたいでした…」

 

 

「私もお姉ちゃんと同じです。車掌ってそんなに忙しい仕事なんですか❓」

 

 

炭華と禰豆子は一刀と同じ"違和感"を感じており、禰豆子は一刀に質問をする。

 

 

「いや、どこもそうとは限らないが、大抵運転手や車掌は終着駅に到着するとそこで交代し、次の交代が来るまで待機するはずだ。それにもし人手不足だとしても、終着駅から出発するまで相当な時間が余る。"自分から仕事量を増やさない"限りは、眠る時間くらいあるはずだ」

 

 

一刀は列車関係、特に運転手や車掌の仕事について説明をする。

 

 

「ほわぁ~、一刀さんって物知りですね~。感心しちゃうな~」

 

 

炭華は一刀の博識に感銘を受けていた。

 

 

「因みにこの列車、『蒸気機関車』を動かす大元は、水だ。先頭車両で水を沸騰させて、その蒸気で駆動部を動かしているんだ。そしてその水を沸騰させるのに石炭を使っているんだ」

 

 

炭華の感銘に調子に乗った一刀は更に列車についての"うんちく"を喋る。それに乗じて杏寿郎や善逸までもが色々と質問をする。

 

 

"近くに鬼が迫っていることに気付かずに…"

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

『あれぇ❓君たちは寝ていないのかい❓』

 

 

「「「「「「❗❓❗❓❗❓」」」」」」

 

 

突如響いた声に一刀たちは警戒する。

 

 

『俺の名は"魘夢"。十二鬼月、"最後の下弦の鬼"さ』

 

 

『…ふむ、俺の血鬼術が"効かなかった"のかい❓…まぁいい、君たちがベラベラ喋っている間に、俺はこの汽車と"融合"したんだよ』

 

 

「なんだって❗❓」

 

 

魘夢の言葉に一刀が驚く。

 

 

『この列車の全てが俺の"血"であり、"肉"であり、"骨"でもある。俺に"おあずけ"させられるかな❓早くしないと、一人残らず喰っちゃうよ❓』

 

 

それを皮切りに魘夢の声は聞こえなくなった。

 

 

「よもやよもやだ❗談笑している間に鬼に先手を取られるとは❗」

 

 

「杏寿郎さんのせいでは無いですよ。元はと言えば、俺がうんちくを言っていたから…」

 

 

「嘆いている場合では無いですよ❗今はとにかく、人を喰われないようにしないと❗」

 

 

一刀と杏寿郎が落ち込んでいる所を炭華が励ます。

 

 

「そうだな❗俺は後ろ"四両"を守る❗一刀と黄色い少年、溝口妹は残りの四両を守れ❗そして溝口姉と猪頭の少年は鬼の頚を探せ❗どんな形であろうとも、鬼である限り急所は必ずある❗」

 

 

杏寿郎は次々に一刀たちに指示を出す。

 

 

「杏寿郎さん、名前くらいちゃんと覚えましょうよ…。"溝口"じゃ無くて"竈門"ですよ…」

 

 

一刀は額に手を当てながら訂正をする。

 

 

「む❓それはすまなかった❗とにかく、死者を一人も出さずに鬼を狩るぞ❗」

 

 

『了解❗』

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

後方四両を杏寿郎に任せ、一刀と禰豆子、善逸は前方四両の二両目と三両目の連結部に到着する。

 

 

「禰豆子、我妻❗俺はここから後ろ二両を守る❗二人はそれぞれ一両ずつ頼む❗」

 

 

「分かりました❗我妻君、一両目をお願い❗私は二両目を担当するわ❗」

 

 

一刀と少しでも近くにいたい禰豆子は、勝手に担当車両を決める。

 

 

「何とかやってみるよ~(泣)」

 

 

善逸は泣きながら一両目に向かう。

 

 

「炭華と嘴平は上に登れ❗俺が道を斬り開く❗」

 

 

『全集中 空の呼吸 捌ノ型 火食鳥』

 

 

一刀は屋根に向けて技を放つ。そして開いた所から炭華と伊之助が飛び出した。

 

 

『我流 獣の呼吸 漆ノ型 空間識覚』

 

 

伊之助は両手を広げ、居場所を探る技を使う。すると

 

 

「見つけたぜ❗一番前❗そこから鬼の気配をビンビン感じるぜ❗」

 

 

鬼の居所を見つけた。

 

 

「一刀さん❗」

 

 

「聞こえていた❗二人はそこへ向かえ❗後ろのことは気にするな❗」

 

 

「「はい(おう)❗」」

 

 

炭華と伊之助は先頭へ向かった。

 

 

『全集中 空の呼吸 伍ノ型 荒鷲』

 

 

一刀は次々に肉塊を斬り刻む。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「くそっ❗これじゃキリがない❗このままじゃ…」

 

 

肉塊を斬り刻んでから数十分後、一刀は肉塊を斬りながら愚痴を溢す。すると

 

 

ギャアアァァアァァ~~~❗❗❗

 

 

ドドンッ

 

 

「うわっ❗」

 

 

突如断末魔が聞こえたと思ったら、急に車両が揺れだした。

 

 

「この揺れ…、さっきの断末魔…。二人がやったのか❗」

 

 

一刀は炭華と伊之助が鬼を倒したことに歓喜に震える。しかし

 

 

「しかし…っと❗この揺れ…、下手した…ら❗脱線す…るぞ❗」

 

 

一刀はバランスを取りながら何とか持ち堪える。しかし

 

 

ガタンッ

 

 

「のわっ❗❓とうとう脱線しやがったか❗」

 

 

車両が脱線し、一刀はゴロゴロと転がり、頭を打ち気絶してしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

ドオンッ

 

 

「ハッ❗❓」

 

 

何かが衝突した音がしたと同時に一刀は覚醒する。辺りを見回すと、自分は車両の外の地面に寝転がっており、先頭に近い所には杏寿郎と炭華、そして土埃が舞っていた。

 

 

土埃の中に人のシルエットが見え、土埃が消えると、そこには人では無く、鬼がいた。しかも右目に"上弦"、左目に"参"の文字が刻まれていた。

 

 

「(おいおい、マジかよ…。あれは明らかに鬼、しかも上弦の鬼じゃねーか❗❓)」

 

 

一刀は起き上がりながら鬼を一瞥していた。すると、鬼は寝ている炭華に襲い掛かった。

 

 

『炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天』

 

 

しかしそれを杏寿郎が腕を斬って阻止する。鬼は杏寿郎から離れると、斬られた腕を瞬時に再生させた。

 

 

「杏寿郎…さん」

 

 

「一刀か。奴の目は見たな❓」

 

 

「えぇ。奴は十二鬼月、上弦の参」

 

 

一刀は杏寿郎の側に来ると、杏寿郎と話す。

 

 

「俺の名は猗窩座。お前たち、鬼にならないか❓」

 

 

上弦の参・猗窩座は杏寿郎と一刀に鬼にならないか聞く。

 

 

「俺は炎柱、煉獄杏寿郎。俺は鬼にはならない」

 

 

「俺は北郷一刀。杏寿郎さん同様、鬼にはならない」

 

 

だが、杏寿郎と一刀は猗窩座の誘いを断った。

 

 

「……そうか」

 

 

『術式展開 破壊殺・羅針』

 

 

「鬼に、俺の仲間にならないなら殺す」

 

 

「一刀、竈門姉のこと、頼んだぞ❗」

 

 

『炎の呼吸 壱ノ型 不知火』

 

 

ドゴォォォン…

 

 

『破壊殺・空式』

 

 

『炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり』

 

 

『破壊殺・乱式』

 

 

『炎の呼吸 伍ノ型 炎虎』

 

 

猗窩座と杏寿郎は一進一退の攻防を繰り広げる。

 

 

「一刀さん…、助太刀は、されないの…ですか❓」

 

 

炭華が一刀に質問をしながら無理に起き上がろうとする。

 

 

「炭華、寝ていろ。見たところ全集中の呼吸で止血をしているようだが、動いたら傷口が開いて致命傷になるぞ❓それに、こんな激しい攻防の、どこに助太刀する隙があると思う❓」

 

 

一刀の正論に炭華はぐぅの音も出ず、大人しくなった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ハァッ…、ハァッ…、ハァッ…」

 

 

各々の技を繰り出し、戦っている杏寿郎と猗窩座。しかし、杏寿郎の左目は潰れ、肋骨も折れ、その骨が内臓を傷つけており、満身創痍だが、猗窩座には傷一つ無かった。

 

 

「どうだ杏寿郎。お前が負わせた傷はもう塞がったぞ❓」

 

 

猗窩座は不敵に笑う。そこに

 

 

「杏寿郎さん、交代します」

 

 

一刀が前に出て杏寿郎と入れ替わる。

 

 

「今度はお前が相手か、北郷一刀」

 

 

「柱と戦ったお前では役不足かもしれないがな」

 

 

『全集中 空の呼吸 参ノ型 隼一閃』

 

 

一刀は素早い居合い斬りで猗窩座に斬りかかる。

 

 

『破壊殺・脚式』

 

 

しかし猗窩座はそれを"脚"で止める。

 

 

『破壊殺・乱式』

 

 

『全集中 空の呼吸 伍ノ型 荒鷲』

 

 

『破壊殺・空式』

 

 

『全集中 空の呼吸 漆ノ型 漆黒鴉』

 

 

猗窩座は次々に技を繰り出すが、一刀も負けじと技を繰り出す。

 

 

しかし、『疲れを知らない鬼』と『疲れを感じる人間』。どちらに軍配が上がるのかは一目瞭然である。

 

 

「グハァッ❗」

 

 

「「一刀(さん)❗」」

 

 

一刀が疲れを見せた一瞬の隙を突き、猗窩座が腹に蹴りを入れ一刀は胃の中(胃液)をブチ撒ける。

 

 

「ガハッ、ゴホッ、ゴフッ」

 

 

一刀はその場に踞り、咳き込む。

 

 

「一刀よ、どうしてお前が弱いのか分かるか❓人間だからだ。人間はすぐ疲れ、老い、死ぬ。しかし鬼はどうだ❓疲れず、老いず、滅多なことでは死なない。鬼になれば、理想の強さを手に入れられる。どうだ❓鬼になる気になったか❓」

 

 

猗窩座は踞る一刀に問い掛ける。

 

 

「俺の…、答え…は、決まっている❗」

 

 

『全集中 空の呼吸 壱ノ型 燕返し』

 

 

一刀は刀を振るい、猗窩座の脚と腕を斬る。

 

 

「俺は、鬼にならない❗人間のまま強くなり、人間のまま死ぬ❗」

 

 

「命を冒涜する鬼に、死んでもなるものか❗」

 

 

全集中 空の呼吸 (つい)ノ型 紅蓮朱雀(ぐれんすざく)

 

 

一刀は自分の呼吸の"最強にして最後の型"を使用する。一刀の刀と身体に炎を纏うと

 

 

『全集中 空の呼吸 漆ノ型 漆黒鴉』

 

 

炎を纏った斬擊を放つ。猗窩座は避けようとする。しかし

 

 

ザシュッ

 

 

「❗❓」

 

 

猗窩座が避ける前に斬擊が届き、猗窩座の胸にバツの字に傷を着ける。

 

 

「ふんっ、こんな傷すぐに…、再生しないだと❗❓」

 

 

猗窩座は傷が塞がらないことに驚く。すると

 

 

「❗❓ 一刀はどこに行った❗❓」

 

 

猗窩座は周辺を見渡す。しかし、一刀の姿は無かった。猗窩座はもしやと思い上を見上げるが、そこにも一刀の姿は無かった。

 

 

『全集中 空の呼吸 拾ノ型 鳳凰天舞』

 

 

すると一刀が"猗窩座の後ろ"から現れ、猗窩座を斬り刻む。斬られた感触と体が焼ける痛みで猗窩座は自分が斬られたことを察した。

 

 

猗窩座は体を再生させようとするが、体は再生せず、更に追い打ちのように東から朝日が昇る。体を動かせない猗窩座は陽光に焼かれ、灰となった。そして一刀が纏っていた炎が消えると、一刀はその場にうつ伏せで倒れた。

 

 

その後、隠の人たちが到着するまで誰一人として動かなかった。

 

 

 



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第玖話

 

 

「………」

 

 

ここは蝶屋敷。その一室のベッドに一刀は寝ていた。彼は無限列車での任務で襲撃してきた上弦の参・猗窩座を終ノ型・紅蓮朱雀を使用して討伐した。

 

 

しかし、終ノ型は己の"命を削る"型であり、その反動も尋常では無い。使用時間が長ければ長いほど、使用回数が多ければ多いほど命の灯火を燃やす。正に『諸刃の剣』である。

 

 

「………」

 

 

ベッドの側には、カナヲ、炭華、禰豆子、そして華琳が一刀を見ていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……ん」

 

 

「❗❓ 一刀❗」

 

 

「……華琳❓」

 

 

一刀が蝶屋敷に運ばれてから約二週間後、一刀が目を覚ました。そこには偶然にも華琳がおり、彼女は部屋の花瓶に生けてある花を取り替えており、一刀が目を覚ましたのは華琳が花瓶を部屋に置いた直後のことだった。

 

 

「一刀、目が覚めたのね❗」

 

 

華琳が一刀に近寄る。

 

 

「華琳…、俺は…」

 

 

「貴方は約二週間もの間、ずっと眠っていたのよ❗❓私がどれだけ心配したのか分かってんの❗❓」

 

 

「すまない…」

 

 

一刀は申し訳無さそうに顔を背ける。

 

 

「全くもうっ…、本当に分かっているのかしら❓あなたは誰にも言わずに苦労を背負い込む癖があるから…」

 

 

「私は皆にあなたが目を覚ましたことを伝えに行くから、大人しくしていなさい」カチャ バタン

 

 

華琳が部屋を出ると、一刀は右腕を目隠しのように目を覆う。

 

 

「(あの時は玖ノ型である嘴広鸛を使って不意を突けたから上弦の参を倒せた。しかし今後、同じ手が通用するとは思えない)」

 

 

一刀は考えていた。猗窩座の時は相手が油断していた"おかげ"で倒すことは出来た。だが、もし『今後の任務では通用しないのでは❓』と考えていた。

 

 

すると

 

 

ドタドタドタドタ…バァンッ

 

 

「「「「「「「「一刀(さん)(兄様)❗」」」」」」」」

 

 

炭華、禰豆子、しのぶ、アオイ、真菰、なほ、すみ、きよの八人が廊下を走って一刀の部屋へと雪崩れ込んだ。更に

 

 

「よもやよもや、胡蝶妹までも廊下を走るとは…」

 

 

「うふふ、それだけ一刀君のことが心配だったのよ」

 

 

皆より遅れて杏寿郎とカナエが入室した。

 

 

「みん…、ゴホッゴホッ❗」

 

 

喉が渇いているせいか、一刀は咳き込んだ。

 

 

「兄様、まずはこちらを飲んで下さい❗」

 

 

なほは、サイドテーブルに置かれてある水差しの水をコップに入れ、一刀に手渡す。一刀はしのぶの手を借りながら起き上がりそれを受け取ると、一気に煽った。そして水を飲み干し、一刀はコップを差し出す。なほは再びコップに水を注ぐ。そしてまた一気に飲み干す。因みに水差しの中に入っている水には、柑橘類の輪切りが入れられている『果実水』である。

 

 

「……プハァ❗」

 

 

四杯目あたりでようやく喉が潤った一刀は、一息ついてコップをサイドテーブルに置いた。

 

 

「一刀さん、落ち着きましたか❓」

 

 

しのぶは一刀の背中を擦りながら聞く。

 

 

「えぇやっと。皆、心配させてすまない」

 

 

一刀はベッドの上で頭を下げる。

 

 

「本当ですよ❗無限列車の任務から二週間もの間、ずっと寝ていたんですから❗」

 

 

「お姉ちゃんの言う通りですよ❗私たち、このまま一刀さんが…、死んじゃう…かも…、しれない…と…、思って…」

 

 

「禰豆子さんの言う通りですよ。心配させたと思うなら、今後こう言った無茶はしないで下さい、約束ですよ❓」

 

 

炭華と禰豆子は一刀に抱きついた。しかも禰豆子は泣きながら。しのぶは禰豆子の頭を撫でながら一刀に今後の無茶はしないように約束させようとする。

 

 

「ごめん、無茶をしない約束はできそうに無い」

 

 

だが、一刀は約束はできないと言った。

 

 

「無限列車と融合していた下弦の壱は、『最後の下弦の鬼』と言っていた。それはつまり、『十二鬼月の下弦は自分以外いない』と言うことだ」

 

 

「即ち、『十二鬼月はもう"上弦"しかいない』と言うことになる。今後の任務は過激さが増すだろう。十二鬼月が上弦しかいない今、無事でいられる"保証"が無い」

 

 

一刀は列車の中で聞いた魘夢の言葉を伝えた。

 

 

「確かにこれから鬼の動きは活発化するだろう。鬼が活発になれば、それだけ悲しむ人が増える。だが我々は例えどんなに傷ついても刃を振らなければならない。一人でも多く"明日"を向かえるために」

 

 

杏寿郎が一刀を嗜めるように言葉を紡ぐ。

 

 

「とかカッコいいこと言って、煉獄さんはこの前の会議で『柱を引退する』って言ってたじゃないですか」

 

 

そこにしのぶが口を挟む。

 

 

「一刀さん、貴方が目覚める三日ほど前に緊急柱合会議が開かれました。そこで煉獄さんは柱を引退することを表明しました。ですが、柱を引退する"だけ"で、鬼殺隊そのものは辞めないと言っておりました」

 

 

しのぶが急遽開かれた柱合会議について話をした。

 

 

「そして上弦の参を倒した一刀さんの階級を"甲"にすることが決まりました」

 

 

しのぶが一刀の昇級を伝えると、杏寿郎とカナエ以外の者が騒ぎだした。

 

 

「凄いです一刀さん❗階級が一番上の甲になるなんて❗」

 

 

「お姉ちゃんの言う通りですよ❗ひょっとしたら、このまま柱になっちゃうかも❗」

 

 

「そうなったら兄様、一気に大出世です❗」

 

 

「「凄い凄い❗」」

 

 

一刀はちやほやされて満更でも無かった。

 

 

「とにかく、今は体を休ませるのが貴方の"任務"よ。ゆっくりしておきなさい」

 

 

カナエは一刀の額に口付けをすると、そのまま退室し他の皆もぞろぞろ連れ立って退室した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから数日後、一刀は機能回復訓練の一つ、柔軟をしていた。そこには三人娘の他、アオイとカナヲの姿もあった。因みに一刀が目を覚ました日は、カナヲは偶々任務で蝶屋敷にいなかったのである。

 

 

「う~ん、やはり三週間もの間寝たきりだったから体が硬い」

 

 

一刀は体からバキバキと音を鳴らしながら愚痴る。

 

 

「仕方が無いわよ。起きてしばらくは"歩くための訓練"をしなくてはいけなかったんだから。ほら、もう一本いくわよ❗」

 

 

華琳は一刀の背中を押しながら一刀の柔軟を手伝う。

 

 

「イデデデデデッ。華琳、もうちょっと優しくしてくれ❗背骨が折れたらどうすんだよ❗❓」

 

 

「アンタはそんな柔な体してないでしょ❓ほら、ゆっくり息を吐いて❗」

 

 

グイッ

 

 

「ちょっと❗本当に痛いんだって❗こっちは病み上がりなんだよ❗❓」

 

 

「いいからさっさとやる❗」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「………」チーン

 

 

華琳の"地獄の柔軟"を終えた一刀は真っ白になって倒れていた。

 

 

「全く、これくらいで根を上げるなんて。アンタ、前より弱くなったんじゃない❓」

 

 

「「「「「今のは華琳さんが悪い❗」」」」」

 

 

「えぇっ❗❓」ガーン

 

 

アオイたちに指摘された華琳はガックリと肩を落とす。

 

 

「さっさ一刀さんが言ってた通り、病み上がりの人にあんな柔軟をさせては復帰できなくなりますよ❗」

 

 

アオイに指摘されたことを華琳は落ち込みながら聞いていた。

 

 

「お兄ちゃん、大丈夫❓」

 

 

カナヲは上から一刀を覗き込む。

 

 

「カナヲ…。何とか…」

 

 

一刀はかろうじて返事をする。

 

 

「とにかくこれでは、反射訓練と全身訓練は無理そうですね。残りは明日にして、今日はこれで終わりにしましょう」

 

 

アオイは一刀の様子を見て、訓練の終わりを告げる。一刀はカナヲの手を借りながら立ち上がり、道場を後にした。

 

 

その翌日、一刀は"軽い柔軟"をし、ちゃぶ台を挟んでアオイと向き合う。

 

 

「それでは…、始め❗」

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダッ

 

 

まず華琳の号令でアオイと反射訓練を行うが、一刀は思うように体が動かなかったので、アオイと互角の勝負となる。

 

 

そして

 

 

バシャッ

 

 

「そこまで❗」

 

 

一刀はアオイに"敗北"した。因みに湯飲みの中は薬湯では無く、ぬるま湯である。

 

 

「……うそ」

 

 

一刀にぬるま湯をかけたアオイはその姿勢で呆然となる。何故なら、今迄アオイは一刀に『一度も勝てなかった』からである。

 

 

「あちゃ~、負けたか」

 

 

一刀はずぶ濡れ状態になりながら、一言洩らす。

 

 

「一刀、アオイ。呆けてないで、次は全身訓練よ」

 

 

華琳に促されて全身訓練の準備をする。

 

 

「それでは…、始め❗」

 

 

全身訓練も華琳の号令で始まる。今はアオイが逃げる方で、一刀が追いかける方である。しかし

 

 

「そこまで❗」

 

 

時間いっぱいとなり、アオイは一刀から逃げ切った。

 

 

「それじゃ今度はアオイが追いかける方で、一刀が逃げる方ね。それでは…、始め❗」

 

 

今度は一刀が逃げ、アオイが追いかける。しかし

 

 

ガシッ

 

 

「そこまで❗」

 

 

これでも、一刀はアオイに捕まった。

 

 

「お兄ちゃん、大分衰えてる」

 

 

今まではアオイは愚か、カナヲですら一刀には一度も勝てなかったのに、今はアオイに負けている始末である。

 

 

「一刀さん、諦めずに頑張りましょう❗何時でもお相手します❗」

 

 

アオイは一刀を励まそうとする。

 

 

「ありがとうアオイ。けど、今はちょっと休ませて欲しいかな…」

 

 

一刀はそう言って、道場を後にする。

 

 

「兄様、落ち込んでましたね…」

 

 

「無理も無いです。兄様、今まではしのぶ様と互角の勝負をされていたのに…」

 

 

すみときよが一刀の心配をする。

 

 

「大丈夫よ」

 

 

そこに華琳が口を挟む。

 

 

「一刀は今体力が無くて調子が出ないだけ。体力が戻ればいつもの調子に戻るわよ」

 

 

「「……はい❗」」

 

 

すみときよは元気よく返事をする。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……ふぅ」

 

 

一刀は道場を出た後、縁側に座りため息を一つ吐く。

 

 

「一刀さん」

 

 

そこにしのぶがやって来て一刀の隣に座る。

 

 

「大丈夫ですか❓背中から哀愁を漂らせていましたけど…」

 

 

「うん…、ちょっと…ね」

 

 

一刀は口数少なく返事をする。

 

 

「もしかして…、訓練でアオイに負けたから…、ですか❓」

 

 

「❗❓」ビクッ

 

 

図星を言い当てられ、一刀は肩を震わせる。

 

 

「大丈夫ですよ。今の貴方は体力が落ちているだけです。頑張って体力を取り戻しましょう❗」

 

 

しのぶは一刀の肩を軽く叩きながら励ます。

 

 

「ありがとう、しのぶ」

 

 

一刀は笑顔で答える。

 

 

「よし❗こんな所で黄昏てなんかいられないな❗早速走り込みだ❗」

 

 

一刀は立ち上がると、そのまま走り去って行った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「それでは…、始め❗」

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダッ

 

 

一刀が励まされてから数日後、一刀はカナヲと反射訓練をしていた。一進一退の攻防が続く中

 

 

バシャッ

 

 

「そこまで❗」

 

 

一刀がカナヲにぬるま湯をかけた所でアオイが終了のかけ声を出す。

 

 

続く全身訓練でも一刀はカナヲから逃げ切り、カナヲを捕まえることができた。

 

 

「もうすっかり元通りね」

 

 

華琳は一刀に手拭いを渡しながら労う。

 

 

「華琳たちのおかげだよ。ありがとう」

 

 

一刀は汗を拭きながらお礼を言う。

 

 

「別にこれくらいで礼を言われるほどじゃ無いわよ」

 

 

華琳は顔を赤くしながらそっぽを向く。

 

 

「でも、まだ本調子じゃ無いから無茶はできなさそうだけどね」

 

 

一刀はケラケラ笑いながら言う。

 

 

「私たち的には、これ以上一刀さんに無茶をして欲しく無いですけどね」

 

 

アオイは一刀の背中に抱きつきながら言う。

 

 

「毎度のことながら、どうして俺の背中に抱きつく❓」

 

 

「だって、ここ最近『一刀さん分』を補充できていなかったんですから我慢して下さい❗それに、役得じゃありませんか❓」

 

 

アオイは背中に押し付けている胸を更に押し付ける。

 

 

「アオイ、これ以上押し付けるなら俺に『近づくこと自体』止めさせるぞ❓」

 

 

一刀がそう言うとアオイは即座に背中から離れた。

 

 

「全く、どうしてこうも俺に引っ付きたがるかねぇ」

 

 

一刀は後頭部を掻きながら愚痴る。

 

 

「あら、あれは彼女なりの"愛情表現"よ❓そんな露骨に嫌がったら可哀想じゃない」

 

 

今度は華琳が一刀の腕に抱きつきながら言う。

 

 

「つまりこれも、華琳の愛情表現って訳か❓」

 

 

「そう言うこと。アオイさん、これからは遠慮無く引っ付いていいわよ。私が許すわ」

 

 

華琳がそう言った瞬間、アオイは背中に、カナヲが華琳とは反対の腕に抱きついた。

 

 

「あらあら~。女の子に抱きつかれて、まるで『両手に花』って感じね~」

 

 

そこにカナエが一刀たちの状況を分析する。

 

 

「カナエさん、そんなこと言わずに助けて下さい❗こっちは引っ付かれて身動き取れないんですが❗❓」

 

 

「ダメよ~❓女の子を無理矢理引き剥がしたりしたら」

 

 

カナエは手を振って道場を後にする。

 

 

「一刀、もし"理性"が振り切れそうなら、無理しなくてもいいわよ❓ちゃんと受け止めてあげるから❤️ねっ❓」

 

 

「「はい❤️」」

 

 

「………」ガックシ

 

 

華琳たちの言葉に項垂れる一刀であった……。

 

 

 



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第拾話

アンケートの結果、

1位・曹魏三軍師

2位・三羽烏

3位・夏侯姉妹

となりました。


よってこの上位三組を順番に出します。

まずは曹魏三軍師から


 

 

無限列車の任務から一ヶ月後、一刀は蝶屋敷の中庭に立っていた。一刀は深呼吸を一つし、抜刀すると

 

 

『全集中 空の呼吸 壱ノ型 燕返し』

 

 

『弐ノ型 鷹爪』

 

 

『参ノ型 隼一閃』

 

 

『肆ノ型 雀ノ涙』

 

 

『伍ノ型 荒鷲』

 

 

『陸ノ型 白鳥ノ舞』

 

 

『漆ノ型 漆黒鴉』

 

 

『捌ノ型 火食鳥』

 

 

『玖ノ型 嘴広鸛』

 

 

『拾ノ型 鳳凰天舞』

 

 

自分の型を次々に繰り出す。そして刀を納刀し、深呼吸を一つする。

 

 

パチパチパチパチ

 

 

「とても素晴らしい剣技だったわ。見てて惚れ惚れしちゃったわよ」

 

 

一刀の剣技を見ていた華琳が縁側に座った状態で拍手を送る。

 

 

「華琳さんの言う通りですよ❗私の『ヒノカミ神楽』よりも凄かったです❗」

 

 

華琳と同じく一刀の剣技を見ていた炭華が立ち上がりながら絶賛する。

 

 

「あれ❓でも、"あの時"に見た型がありませんけど❓」

 

 

炭華の隣に座っていた禰豆子が一刀に質問をする。

 

 

「あれは『終ノ型 紅蓮朱雀』って言って、自分の"寿命"を燃料にする型で、多様すると死んじゃうから"ここぞ"と言う時にしか使わないようにしているんだ」

 

 

一刀は終ノ型について説明をする。

 

 

「それじゃ、あの時は…」

 

 

「そう、あの時は"使わざるを得ない"状況だったから使ったんだ」

 

 

一刀は終ノ型の紅蓮朱雀と玖ノ型の嘴広鸛を使い、猗窩座の不意を突いて倒したのである。

 

 

「なら、その型を使わないようにするために、更なる精進を積むことね」

 

 

「努力するよ」

 

 

華琳の言葉に一刀は笑いながら答える。すると

 

 

「一刀、指令を伝えに来た」

 

 

一刀の肩にイーグルが止まった。

 

 

「任務も久々だな。それで、どんな任務だ❓」

 

 

「以前訪れた"那田蜘蛛山"で再び鬼が目撃された。"鬼を発見次第討伐せよ"とのことだ。それと、この任務は竈門姉妹を連れての任務となる」

 

 

「炭華と禰豆子を❓」

 

 

イーグルが指令を伝えると、一刀は炭華と禰豆子を見る。どうやら三人での任務のようだ。

 

 

「了解した。こちらはいつでも出立できる。炭華、禰豆子。準備を「「できました❗」」…終えているようだから、すぐ出立するぞ」

 

 

一刀、炭華、禰豆子の三名は門前まで向かう。そして華琳に切り火をしてもらい、那田蜘蛛山へと向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

途中休憩を挟みながら一刀たちは那田蜘蛛山へと到着した。到着した時は既に夜になっていた。

 

 

「炭華、"匂い"で鬼がいるか分かるか❓」

 

 

スンスン

 

 

「鬼の匂いは確かにします。それと、鬼の他にも人がいます」

 

 

炭華は那田蜘蛛山から漂う匂いを嗅ぎ、一刀に伝える。

 

 

「その人が鬼に襲われる前に狩るぞ」

 

 

「「了解❗」」

 

 

一刀たちは那田蜘蛛山へと入った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「炭華、鬼の居所は分かるか❓」

 

 

一刀が炭華に質問をすると、炭華は首を横に振る。

 

 

「ごめんなさい。この周辺の匂いが強くて、正確な場所までは…」

 

 

「いや、大丈夫だ。いざとなれば、人海戦術を取るさ」ナデナデ

 

 

「……はにゃ~ん❤️」

 

 

一刀に頭を撫でられ、炭華は顔を蕩けさせていた。

 

 

「(お姉ちゃん、羨ましい)あの…、向こうから"何か"来る気がするんですが…」

 

 

その時、禰豆子がとある方向を指差した。

 

 

「人なら良し、鬼なら…斬る」チャキッ

 

 

一刀はいつでも刀を抜けるように手を添える。すると

 

 

ガサガサッ

 

 

突如草むらが揺れだした。炭華と禰豆子は刀を抜刀する。すると

 

 

「ハアッ…、ハアッ…、ハアッ…」

 

 

草むらから現れたのは、眼鏡をかけた"女性"だった。

 

 

「大丈夫ですか❗❓」

 

 

炭華と禰豆子は納刀しながらその女性に近寄る。

 

 

「はい…、大丈…夫、です…」

 

 

女性は息を切らしながら応対する。

 

 

「それより、私よりも『二人』を助けて下さい❗鬼に急に襲われて…」

 

 

「その人たちの性別や特徴、いる場所とかは❓」

 

 

「性別は二人とも私と同じ女性で、方向は向こう、特徴は『猫耳の頭巾』と『頭に人形を乗せた飴を咥えている』…」

 

 

一刀はそこまで聞くと、女性が指差した方向へ駆け出した。

 

 

「「一刀さん❗❓」」

 

 

「えっ❓あの、今『一刀』って…」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「((りん)の情報だとこの辺りのはず…、何処だ、何処にいる❓)」

 

 

一刀は周囲を注視しながら探す。すると

 

 

「(❗❓ この先に鬼の気配を感じる❗無事でいてくれ❗)」

 

 

鬼の気配を感じ、スピードを上げる。

 

 

「(いた❗)」

 

 

気配を感じた所から少し離れた場所に今にも襲い掛かかりそうな鬼と、地面に尻餅を突いている二人の女性を見つけた。

 

 

「(ヤバい❗間に合え❗)」

 

 

『全集中 空の呼吸 参ノ型 隼一閃』

 

 

ズバッ

 

 

「グギャッ❗❓」

 

 

「「…えっ❓」」

 

 

一刀は鬼の両腕を斬り落とす。

 

 

「大丈夫か❓…二人とも」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

時は一刀たちが那田蜘蛛山に到着する『数分前』に遡る…。

 

 

「全くもぅ❗あの『貂蝉』とか言う化け物、今度会ったらタダじゃ置かないから❗」

 

 

「まぁまぁ桂花(けいふぁ)殿、そう愚痴を溢しても仕方がないではありませんか」

 

 

「そうですよ~。あの人も『何処に出るか分からない』と言っていたではないですか~」

 

 

(ふう)の言う通りですよ。それよりも、早くこの森から出ないと。あの人も言ってましたよ❓『この世界には人を喰らう鬼が出る』と」

 

 

「分かってるわよ❗私もこんな陰気臭い所、早くおさらばしたいもの❗」

 

 

三人は森の中を宛ても無くさ迷う。これが後の悲劇を呼ぶことになることも知らず…。

 

 

ガサガサッ

 

 

「「「❗❓」」」

 

 

突如進路の先にある茂みが揺れ出す。

 

 

「…何でしょうか❓」

 

 

稟が二人に質問する。

 

 

「たぶん、獣じゃ無い❓こう言った森には獣とかいても可笑しくは無いし」

 

 

稟の質問に桂花が答える。

 

 

ガサガサッ

 

 

「…どんどん近づいて来てますね~」

 

 

ガサガサッ ニュッ

 

 

茂みの向こうから現れたのは、獣では無く、鬼だった。

 

 

「おっ❓旨そうな人間の女じゃ無ぇか。へへっ、久しぶりのご馳走だぜ」

 

 

鬼は桂花たちの前で舌舐めずりをする。

 

 

「ヒィッ❗❓"ご馳走"って…、まさか、私たちを犯すつもりじゃ❗❓」

 

 

桂花は自分の体を抱き締めながら後退る。

 

 

「桂花ちゃん、恐らくあれが『人を喰らう鬼』だと思うのですよ~」

 

 

風は鬼を指差しながら呑気に分析する。

 

 

「風❗呑気に分析しないで下さい❗とにかく逃げますよ❗」

 

 

稟は桂花と風の手を掴み、その場から逃げ出す。

 

 

「折角のご馳走を逃がしてたまるか❗」

 

 

その後ろを鬼が追いかける。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「「「ハアッ…、ハアッ…、ハアッ…」」」

 

 

三人は茂みに隠れながら上がった息を整えていた。

 

 

「二人は…、このまま…、隠れて…、下さい…。私は今から助けを呼びに行きます」

 

 

何とか息を整えた稟が助けを呼びに向かった。

 

 

稟が助けを呼びに行って数分後、そこに

 

 

「み~つけた」

 

 

鬼が姿を現した。

 

 

「一人見当たらねぇがまぁいい。さぁ、大人しく俺に喰われな❗」

 

 

鬼が二人に襲い掛かる。二人は恐怖のあまり目を瞑る。そこに

 

 

ズバッ

 

 

「グギャッ❗❓」

 

 

鬼の悲鳴が聞こえてきた。二人は恐る恐る目を開けると

 

 

「「えっ❓」」

 

 

「大丈夫か❓二人とも」

 

 

目の前にいなくなったはずの一刀がいた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「間に合ったようだな。二人とも、怪我は無いか❓」

 

 

一刀は鬼に警戒しながらも、二人の容態を確認する。

 

 

「お兄さん❓」

 

 

風が一刀に質問をする。

 

 

「あぁそうだ。風のお兄さんの北郷一刀だ」ナデナデ

 

 

一刀はしゃがんで風の頭を優しく撫でる。

 

 

「……この手の感触、間違い無くお兄さんなのです…」

 

 

風は目に涙を溜める。

 

 

「風、桂花。積もる話は後にしよう。まずは、お前たちを恐がらせたあの鬼を殺す」

 

 

一刀は立ち上がると、刀を鬼に向ける。

 

 

「貴様、鬼狩りか❗折角のご馳走を前にして、無様にやられてたまるか❗」

 

 

鬼は斬られた腕を再生させ、一刀に襲い掛かる。

 

 

「貴様こそ、"俺の女"に手を出したこと、地獄で後悔しな」

 

 

『全集中 空の呼吸 拾ノ型 鳳凰天舞』

 

 

一刀は鬼をサイコロステーキ状に斬り刻む。鬼は悲鳴を上げる暇無く、討伐された。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「「稟(ちゃん)❗」」

 

 

「風❗桂花殿❗」

 

 

一刀が鬼を討伐してから数分後、稟を連れた炭華と禰豆子が合流した。

 

 

「お二人とも、ご無事で何よりです」

 

 

「鬼に襲われそうになった所に、お兄さんが助けに入ってくれましたので~」

 

 

「やはり一刀殿でしたか…」

 

 

稟は二人の後ろに立つ一刀を見る。

 

 

「一刀殿、お久しぶりです。しばらく見ない間に随分と身長が伸びましたね」

 

 

稟は一刀を見上げる。

 

 

「おいおい、あれから何年経過していると思うんだよ❓」

 

 

一刀は呆れながら稟の頭を撫でる。

 

 

「この撫で心地…、間違い無く私たちの好きな一刀殿です」

 

 

稟は一刀と再会したことに涙を流す。

 

 

「桂花…、久しぶりだな」

 

 

一刀は稟から手を離し、桂花を優しく抱き締める。

 

 

「離しなさいよ…、バカ」

 

 

桂花は文句を言うが、行動はその逆で一刀に抱きつく。

 

 

「あの~、一刀さん。そろそろ紹介して欲しいのですが~」

 

 

そこに炭華が声をかける。

 

 

「あぁ悪い悪い。彼女たちは華琳の下にいた軍師だよ」

 

 

一刀は桂花から離れ、自己紹介を促す。その時、桂花の顔は若干淋しそうな顔をしていた。

 

 

荀彧文若(じゅんいくぶんじゃく)、真名を桂花」

 

 

程昱仲徳(ていいくちゅうとく)、真名を風と言います~」

 

 

郭嘉奉孝(かくかほうこう)、真名を稟と申します」

 

 

三軍師はそれぞれ自己紹介をする。

 

 

「はじめまして、竈門炭華と言います」ペコッ

 

 

「竈門炭華の妹、竈門禰豆子です。よろしくお願いします」ペコッ

 

 

竈門姉妹も自己紹介をして頭を下げる。

 

 

「ところでお兄さん、華琳様はこの世界にいらっしゃるのですか~❓」

 

 

風はしゃがんでいる一刀の背中にしがみつきながら質問をする。

 

 

「ちょっと風❗何"一刀"の背中にしがみついているのよ❗そこは私の特等席なのよ❗さっさと降りなさい❗」

 

 

すると桂花が風を指差しながら降りるよう怒鳴る。

 

 

「桂花ちゃん、いきなりお兄さんのことを名前で呼びましたね~。風はこれ以上怒られないために退散するのですよ~」

 

 

風は一刀の背中から降りながら、桂花の言葉を聞き逃さなかった。

 

 

「確かに今、桂花殿は一刀殿のことを『一刀』…と」

 

 

「…悪い❓」ジロッ

 

 

桂花は稟を睨む。

 

 

「こら桂花、睨むな睨むな。可愛い顔が台無しになるぞ❓」ナデナデ

 

 

「はにゃ~ん❤️もっと撫でて~❤️」

 

 

一刀が桂花の頭を撫でると、炭華同様に顔を蕩けさせて、催促までした。

 

 

「さっきの風の質問だけど、確かに華琳はこの世界に居るよ。しかも"王"としてでは無く、"一人の女の子"としてね。今は俺が世話になっている屋敷に住んでいるんだ」

 

 

一刀は桂花の頭を撫で続けながら、風の質問に答える。

 

 

「では早速移動しましょう。途中で馬を仕入れなくてはなりませんし…」

 

 

「稟、別に馬は必要無いぞ❓」

 

 

一刀は桂花の頭から手を離し、稟の腰に回す。

 

 

「あの、一刀殿❓」

 

 

「桂花、俺の背中にしがみついてくれ」

 

 

一刀は風を稟とは反対の腕で抱き、桂花を背負うと、一気に立ち上がる。

 

 

「よし三人とも、しっかりしがみついていてくれよ❗炭華、禰豆子。これも鍛練の一環だ、休憩無しで蝶屋敷まで走り抜けるぞ❗」

 

 

「「了解❗しっかりと追い付きます❗」」

 

 

「では…、出発❗」バヒュンッ

 

 

「「「ひゃあああぁぁぁ~~~❗❓❗❓❗❓」」」

 

 

この時一刀にしがみついていた三人は風になった。

 

 

 



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第拾壱話

今回は三羽烏の登場回となります。


 

 

ズザザ~~~~~ッ

 

 

「よし、到着だ。ん?三人ともどうした?」

 

 

物凄い勢いのブレーキを足で掛け、蝶屋敷の門に到着した一刀は、自分にしがみつかせていた三人を見ると

 

 

「「「キュ~~~」」」メガグルグル

 

 

三人は器用に一刀にしがみつきながら目を回してした。

 

 

「「一刀さ~ん、待って下さ~い…」」

 

 

一刀が到着した十数秒後、炭華と禰豆子がヘトヘトの状態で追い付いた。

 

 

「お前ら情けないぞ…、これ位でヘバりやがって。…っと言いたい所だが、よくついてこれたな。偉いぞ、後で頭撫でてやるぞ」

 

 

一刀は今、稟と風を抱えており、両手が塞がっている状態なので後で頭を撫でる約束をする。それを聞いた二人は

 

 

「「はい❤️」」

 

 

撫でられてもいないのに、顔を蕩けさせていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ちょっと一刀!あんた、走るの速すぎよ!お陰で気絶しちゃったじゃない!」

 

 

一刀は桂花たち三人を自分の部屋に連れ、ベッドに横たえた瞬間に三人が覚醒し、開口一番に桂花が罵声を浴びせる。

 

 

「それは済まなかったと思っている、申し訳ない。一刻でも早く、華琳に会わせたかったからな」

 

 

一刀は桂花に謝りながら早く駆けた理由を述べた。

 

 

「ほうほう、と言うことは、華琳様がこの屋敷におられるのですか」

 

 

「えぇそうよ。今は『居候』と言う立場だけどね」

 

 

風の疑問に答えるかのように華琳が入室した。しかもカナエやしのぶたちと言った蝶屋敷のメンバー"全員"を引き連れて。

 

 

「「「華琳様!」」」

 

 

「久しぶりね貴女たち。黙っていなくなって、ごめんなさい」

 

 

華琳が桂花たちに近づいて頭を下げる。桂花たちは『とんでもないです!』と言いながら華琳の謝罪を受け入れていた。

 

 

「あらあら~、華琳ちゃんってかなり人望があるわね~」

 

 

「姉さん、華琳さんは以前いた所では一国の王様だったのよ?人望があって当然よ」

 

 

「あの、貴女たちはもしかして、華琳様から真名を…?」

 

 

カナエとしのぶが華琳の真名を口にしていたことを聞き逃さなかった稟は質問をする。

 

 

「えぇ、華琳ちゃんから『華琳と呼んで』って言ってくれたから。それから、私やしのぶの他にも今後ろにいるこの子たち皆、華琳ちゃんのことを真名で呼んでいるわよ」

 

 

稟の質問にカナエが答える。

 

 

「華琳様?」

 

 

「カナエさんの言ってることは本当よ。私自身助けてもらったことがあるし、何より"一刀が信頼している"のが一目で分かるから、真名を預けたのよ」

 

 

風が目線で質問し、華琳はそれに答える。

 

 

「だから貴女たちも、もし良かったら真名を預けてもいいんじゃないかしら?これに関しては私は命令や強調はしないわ。だって、今は"王様"では無くて"一人の女の子"なのだから…ね」

 

 

華琳は『真名を預けるかは自分たちで決めて欲しい』と言う意味合いを込めて言った。桂花、稟、風の三人は互いに顔を見て頷き、カナエたちに自己紹介と真名を預けた。カナエたちも自己紹介をし、『仲良くやって行けそうだ』と一刀はそう思っていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一刀が桂花たちを保護してから三日後、一刀は蝶屋敷の中庭でアオイたちと一緒に洗濯物を干していた。そこには桂花の姿もあった。桂花たちも華琳同様、蝶屋敷の家事を手伝いながら一刀のサポートをする立場に自ら志願し、華琳と共に色々学んでいた。

 

 

バサッ バサッ

 

 

「一刀、指令だ」

 

 

物干し竿の一つにイーグルが止まり、一刀に声をかける。

 

 

「イーグルか。今度は何処だ?」

 

 

「ここより南南西の所に鬼の出現情報があった。そこで…」

 

 

「『調査し、発見次第討伐せよ』…だろ?」

 

 

一刀は任務を理解していたのか、イーグルが言う前に言った。

 

 

「その通りだ。場所はいつも通り俺が案内する。行けるか?」

 

 

「無論!」

 

 

一刀は縁側に立て掛けてあった刀を腰に差し、意気揚々と屋敷を出る。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

イーグルの案内で到着した所は以前訪れた森だった。

 

 

「あれ?確かここは…」

 

 

「そうだ。以前華琳を助けた森だ」

 

 

そう、その森は以前華琳を助けた森だった。因みにイーグルは華琳から真名を預かっており、以降華琳のことを真名で呼んでいるのだった。

 

 

「とにかく、中に入って調査しないとな」

 

 

一刀はイーグルを自分の肩に止まらせ、森の中へと向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

森の中は以前よりも陽光は射してはいるが、西日であるせいもあるのか、周辺は薄暗かった。一刀は以前座っていた切り株を見つけ、そこに腰を降ろし夜を待った。

 

 

そして辺りは暗くなり、鬼が活動する時間となる夜になると、一刀は切り株から立ち上がり、周辺を見渡す。

 

 

「……いるな」

 

 

一刀は一言呟くと、鬼の気配がする方へ歩き出した。

 

 

一刀が歩き出してから数分後、鬼の気配が強くなり、刀に手を添える。すると、

 

 

ギュイイイィィィーーーン

 

 

"何か"が動いている音がして、茂みに身を隠す。そしてその茂みからそっと様子を伺う。

 

 

「くそっ!鬼っちゅーのはホンマ戦い難いで!ウチらの攻撃が全然効かへん!」

 

 

真桜(まおう)、喋っている暇があるならもっと()を練り込め!」

 

 

「せやこと言うても、ウチの螺旋槍(らせんそう)はもう限界や!これ以上氣ぃ送り込んだら爆発してまうで!」

 

 

(なぎ)ちゃん!真桜ちゃんが戦え無くなっちゃったら、沙和(さわ)たち隊長に会える確率が低くなっちゃうの~!」

 

 

「くそっ!」

 

 

そこには、『全身傷だらけの銀髪の女の子』と、『眼鏡が掛けた金髪のお洒落な服を着た女の子』と、『薄紫色の髪に腰に工具入れを着けた巨乳の女の子』が鬼と戦っていた。

 

 

そうこうしている内に鬼が凪と呼ばれた女の子に向かって腕を振り上げた。

 

 

「させるかっ!『猛虎蹴撃(もうこしゅうげき)』!」

 

 

凪は瞬時に片足に氣を纏い、それを蹴り出す。蹴り出された氣は球体となって鬼に当たる。

 

 

「ハアッ…、ハアッ…、ハアッ…」

 

 

凪も限界なのか、肩で息をしながら立ち上る煙を見据える。

 

 

「ギヒヒッ、最初の時より威力が落ちてるなぁ。そろそろ限界かぁ?」

 

 

しかし、鬼は何事も無かったかのように、五体満足の状態でいた。

 

 

「そ…、そんな…」ガクッ

 

 

凪はその場に膝立ちになる。

 

 

「どうやら諦めたようだな。大人しく三人とも俺の餌になれ!」

 

 

鬼は凪に近づいて腕を振り上げる。

 

 

「「凪(ちゃん)!」」

 

 

真桜と沙和は凪に声をかけるも、凪は一歩も動かなかった。そこに

 

 

『全集中 空の呼吸 参ノ型 隼一閃』

 

 

ズバッ

 

 

「ゲヒッ!?」

 

 

「「「…え?」」」

 

 

その鬼の腕を一刀は斬り捨てた。

 

 

「グゥゥ…、俺の腕をこうも容易く斬るとは…。貴様、何者だ!」

 

 

鬼は振り向きながら一刀を見る。

 

 

「俺は"元曹魏北郷警備隊隊長"にして、"鬼殺隊 階級・甲"、北郷一刀。貴様ら鬼が嫌う"鬼狩り"さ」

 

 

一刀は納刀し、振り向きながら口上を述べる。

 

 

「「「た…、隊長…」」」

 

 

「凪、沙和、真桜。良く頑張ったな。後は俺に任せておけ」

 

 

一刀は凪たちに声をかけながら鬼との距離をジリジリと詰める。

 

 

「そうか、貴様が『あの御方』が言っていた『十文字の鬼狩り』か。貴様を倒せば、俺は『あの御方』から血を頂けて、『十二鬼月』になれる!俺の"野望"のために、今ここで死ねぇ!」

 

 

鬼は無くした腕を再生させ、一刀に襲い掛かる。

 

 

『全集中 空の呼吸 陸ノ型 白鳥ノ舞』

 

 

『壱ノ型 燕返し』

 

 

しかし一刀は鬼の攻撃を陸ノ型で避け、壱ノ型で再び腕を斬る。

 

 

「す…、凄い…」

 

 

凪が一刀の戦いを見て呟く。

 

 

「本当なの~。隊長、戦い方が綺麗なの~」

 

 

沙和は凪に同意しながら一刀の型に見惚れる。

 

 

「隊長って…、あんなに強かったんやな…」

 

 

真桜も一刀に見惚れていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ゲヒッ…、ゲヒッ…、ゲヒッ…」

 

 

一刀が鬼と戦い始めてから数十分後、鬼はすっかり息が上がっていた。

 

 

「おかしいな?鬼は"疲れを知らない"はずだろ?なのに何で息が上がっている?」

 

 

一刀は息を切らしている鬼に疑問を持つ。実はこの鬼は『鬼になって間もない』状態であり、人を"数人喰った"だけだったのだ。鬼は再生や解毒に体に貯蓄した"栄養"を使用する。だがこの鬼は喰った人間が少ない、即ち栄養が足りないのである。それ故疲れを知らない鬼が息が上がっていたのだった。

 

 

「こうなったら…、先にアイツらから喰ってやる!」

 

 

鬼は標的を一刀から凪たちに変え、襲い掛かろうとした。

 

 

「そんなこと、させる訳ねーだろ!」

 

 

『全集中 空の呼吸 漆ノ型 漆黒鴉』

 

 

一刀は刀を十字に振り、鬼の背中に傷を着ける。

 

 

「これで終わりだ!」

 

 

『全集中 空の呼吸 捌ノ型 火食鳥』

 

 

一刀は突進しながら鬼の頚を斬る。

 

 

「そ…、そん…な…、馬鹿…な……」

 

 

鬼は灰となり、崩れ去った。

 

 

「……ふぅ」チンッ

 

 

一刀は納刀しながら息を一つ吐く。

 

 

「「「隊長!」」」

 

 

凪たちは一刀の下へ駆け寄る。

 

 

「凪、沙和、真桜。心配かけたな」ナデナデ

 

 

一刀は凪たちの頭をゆっくり、一人ずつ撫でる。

 

 

「「「……隊長!」」」ガバッ

 

 

余りの嬉しさに、一刀に抱きつく。一刀は凪たち三人を抱き締める。

 

 

「ごめんなぁ…。いきなりいなくなって、ごめんなぁ…(泣)」

 

 

一刀は泣きながら凪たちを抱き締め、謝る。すると

 

 

「隊長は悪くないです!隊長の行動は、我々のことを思ってのこと!感謝こそすれ、貶すことなどありません!」

 

 

「せやで隊長!隊長は自分のこと過小評価しすぎやで!」

 

 

「そうなの!いつも沙和たちのこと一番に考えていてくれたの、嬉しかったの!」

 

 

凪、真桜、沙和は次々に一刀を慰める。

 

 

「「「だから、『ごめん』じゃ無くて、『ありがとう』と言って下さい(や)(なの)!」」」

 

 

凪たちが求めた言葉は"ごめん"では無く、"ありがとう"だった。

 

 

「お前ら…、ありがとう。こんな俺についてきてくれて、ありがとう…!」

 

 

一刀は凪たちを抱き締める力を強めて、感謝の言葉を贈った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後、落ち着いた四人は森の外へと向かっていた。

 

 

「それにしても隊長、何で強かったのを隠してたん?」

 

 

真桜が一刀に何故強いのを隠していたのか質問をした。

 

 

「俺のこの力は、この世界に来て得た力だからな。当時の俺は、皆が知ってる位の力しか無かったからな」

 

 

一刀は笑顔で答える。

 

 

「でもでも!隊長の動き、とても素敵だったの!まるで鳥のようだったの!」

 

 

沙和は興奮気味に言う。

 

 

「それはそうだろう。なんせ、一刀の型は鳥の名前が付いているくらいだからな」

 

 

すると、戦闘中は離れていたイーグルが一刀の肩に止まる。

 

 

「隊長、それは…、鷲…ですか?」

 

 

凪がイーグルを指差しながら質問をする。

 

 

「紹介しよう。俺の仲間、『鎹鷲』のイーグルだ」

 

 

「俺はイーグル。一刀の仲間であり、相棒だ。主に連絡や案内をしている。よろしくな。因みに俺の名は一刀が名付けてくれたものだ」

 

 

「「「よろしく(なの)(や)!」」」

 

 

イーグルは自己紹介をする。

 

 

「因みにだが、桂花たちもこの世界に来ているぞ。お前たちより先にな」

 

 

「後、俺を含め皆真名を預かっているぞ」

 

 

一刀とイーグルは桂花たちが来ていること、真名を預かっていることを話した。

 

 

「なら、私たちも真名を預けなくてはいけませんね。私は楽進(がくしん)、字は文謙(ぶんけん)。真名は凪」

 

 

「沙和は于禁(うきん)、字は文則(ぶんそく)。真名は沙和なの」

 

 

「ウチは李典(りてん)、字は曼成(まんせい)。真名は真桜や。イーグルはん、よろしゅう」

 

 

凪たちもまた、イーグルに自己紹介をする。

 

 

「それじゃ互いに自己紹介が終わった所で、俺が今世話になっている屋敷まで走り込みだ!お前ら、しっかりついて来いよ!」

 

 

「了解です!」

 

 

「「えぇ~!?」」

 

 

一刀の言葉に凪は了解したが、沙和と真桜は顔をしかめる。

 

 

「お前らが鈍っていないか確認するためだ!愚痴は聞かん!行くぞ!」

 

 

一刀と凪は走りだし、沙和と真桜ははぐれないように駆け出した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後、二日掛けて一刀たちは蝶屋敷へ到着した。そして凪たちは華琳たちと再会し、カナエたちに自己紹介をし、真名を預けた。

 

 

 



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第拾弐話


今回はアンケートの最後、夏侯姉妹が登場します。



 

 

凪たち三羽烏が華琳たちと再会してから一週間、この日はお館様こと産屋敷耀哉にしのぶと一刀が呼ばれた。そして中庭で待っていると二人を呼んだ耀哉が現れた。

 

 

「おはよう、しのぶ。一刀」

 

 

「「おはようございます、お館様」」

 

 

しのぶと一刀は挨拶をする。

 

 

「お館様、早速で申し訳ないのですが、我々二人を召喚した理由をお教え頂けますでしょうか?」

 

 

一刀は耀哉に呼ばれた理由を質問する。

 

 

「今日君たちを呼んだ理由は、『一刀を柱に任命する』ためだよ」

 

 

「一刀を…、柱に…ですか?」

 

 

一刀を柱に任命することにしのぶは首をかしげる。

 

 

「一刀はこの前の任務で五十体目の鬼を討伐したんだ。それにここ百余年近く倒せなかった十二鬼月の上弦の鬼を無限列車の任務で討伐、そして階級もその時に甲になっている。これで柱にならない方がおかしいよね」

 

 

耀哉はクスクスと笑いながら理由を述べる。

 

 

「一刀さん…」

 

 

理由を聞いたしのぶは不安そうな顔をしながら一刀を見る。柱となれば任務量は通常の隊士よりも多くなる。即ち命を落とす危険が高まるのだ。だがしのぶは"別のこと"を心配していた。

 

 

「(一刀さんが柱になれば、一刀さんと過ごす時間が極端に減ってしまう!只でさえ私は一刀さんと過ごす時間が少ないと言うのに!)」

 

 

しのぶは一刀と過ごす時間が無くなるのを懸念していた。

 

 

「………」

 

 

一刀はその間、ずっと考え込んでいた。そして

 

 

「お館様、柱任命の件、お引き受け致します」

 

 

一刀は柱になることを決めた。

 

 

「ありがとう、一刀。柱の名前は『空柱(そらばしら)』にしよう。それと柱になるについて、何か要望はあるかい?」

 

 

耀哉は一刀に要望があるか聞く。

 

 

「でしたら一点。『屋敷を設ける際は、蝶屋敷の近くに建てる』。これだけです」

 

 

一刀は人差し指を立て、要望を伝える。

 

 

「それだけかい?それは屋敷を建てる時にそう考えていたけど、他には無かったのかい?」

 

 

耀哉は他に要望があるか聞く。

 

 

「いえ、私の要望は先程の一つのみです」

 

 

一刀は首を横に振り、無いことを伝える。

 

 

「分かった。もし他に要望があれば教えて欲しい。出来る限りの力添えはしよう」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

耀哉の言葉に一刀は頭を下げる。

 

 

「今日はこれで終わりだよ。二人とも、ありがとう」

 

 

「「失礼しました」」

 

 

耀哉の終了の言葉にしのぶと一刀は頭を下げ、中庭から退場する。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

しのぶと一刀は蝶屋敷に戻ると、屋敷にいるカナエ、カナヲ、アオイ、なほ、すみ、きよ、華琳、桂花、稟、風、凪、沙和、真桜の十三人が一斉に出迎えた。

 

 

「お疲れ様しのぶ、一刀君。お帰りなさい」

 

 

「ただいま、姉さん」

 

 

「ただいま戻りました」

 

 

カナエの労いにしのぶと一刀は返事をする。

 

 

「お兄ちゃん、呼ばれた理由って何だったの?」

 

 

カナヲが一刀に呼ばれた理由を聞く。

 

 

「一刀さんは、柱になることを決められました。お館様に呼ばれた理由は、一刀さんに柱になって欲しいとのことでした」

 

 

一刀の代わりにしのぶが答える。

 

 

「あら一刀、いきなり大出世じゃない。良かったわね」

 

 

華琳が一刀を褒める。

 

 

「正直言って、まだ実感が湧かないんだよな。俺が柱…、なんてね」

 

 

一刀は後頭部を掻きながら言う。

 

 

「あの~、"柱"って何ですの?」

 

 

いまいち状況が飲み込めていない沙和が挙手をして質問をする。

 

 

「"柱"と言うのは、階級の一番上、"甲"の更に上の階級のことよ。階級は十段階有って、一番下が"癸"、一番上がさっき言った"甲"。そして"特別な条件"を満たした九人が柱に任命されるのよ」

 

 

沙和の質問にカナエが答える。

 

 

「因みに、私も"元柱"だったのよ。でも、鬼との戦いで肺をやられてしまって引退せざるを得なかったのよ。あの時、一刀君が助けに来てくれていなかったら、今頃私はこの場にいなかったわね」

 

 

カナエはその時のことをしみじみと思い出していた。

 

 

「柱になると、自分の屋敷を設けることができます。そして柱は主にその屋敷を拠点とします」

 

 

しのぶがカナエが言わなかったことを述べる。

 

 

「えっ!?それじゃ、一刀さんは蝶屋敷を出て行かれるのですか!?」

 

 

それにアオイが反応する。

 

 

「そうなりますね。でも大丈夫ですよ、一刀さんは屋敷をこの蝶屋敷の近くに建てて欲しいとお館様にお願いしておりましたし、お館様も蝶屋敷の近くに一刀さんの屋敷を建てようとしておりましたから」

 

 

『近くに一刀の屋敷が建つ』と言うしのぶの言葉にアオイたちが胸を撫で下ろす。

 

 

「一刀、すまないが任務が入った」

 

 

そこにイーグルが任務を伝えに来た。

 

 

「またか…、ここ最近多くないか?」

 

 

一刀はここ最近任務が続いていることを愚痴る。

 

 

「俺に言うな。俺は言われたことを伝えているだけだ。それと、出立は今日じゃ無い。今日一日休んで出立は明日にせよ、とお館様は仰られていたぞ」

 

 

イーグルは一刀に愚痴で返しながら任務内容を伝える。

 

 

「了解した。今日一日はゆっくり羽を伸ばすことにするか」

 

 

一刀はそう言いながら背伸びをし、蝶屋敷の中へと入っていった。その後ろをしのぶたちが追いかけて行ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一刀が任務を受けてから三日後、鬼が潜む山へと到着した一刀は、気を引き締めて入山した。

 

 

一刀が入山してから約一時間が経過しようとしていた。入山したのが夕暮れ時だったこともあり、辺り一帯はすっかり暗くなっていた。一刀が息を潜めながら進んでいると、鬼の気配を感じたのでそこに向かう。すると

 

 

「チェストー!」ブォンッ

 

 

「ギャッハッハッ!貴様の刀など、鬼狩りの刀で無ければ恐れることは無い!」

 

 

「くそっ、秋蘭(しゅうらん)!」

 

 

「任せろ姉者!」

 

 

ギリギリ…、バシュッ

 

 

「おおっと!?いい連携じゃねぇか。だが、まだまだだな」

 

 

『黒の長髪の女性』と『水色の短髪の女性』が鬼と戦っていた。戦況は女性たちが不利だと分かった一刀は直ぐ様飛び出し

 

 

『全集中 空の呼吸 捌ノ型 火食鳥』

 

 

ズバッ

 

 

「ギャッ!?」

 

 

「「!?!?!?」」

 

 

捌ノ型で鬼の腹を斬った。

 

 

春蘭(しゅんらん)、秋蘭!大丈夫か!?」

 

 

一刀は春蘭たちに近づく。すると

 

 

「北郷ォォォーーーッ!」ブォンッ

 

 

「どわっと!?」

 

 

春蘭が自分の武器『太刀・七星餓狼(しちせいがろう)』で一刀を斬ろうとした。だが一刀はギリギリの所で避ける。

 

 

「避けるな貴様!」

 

 

「避けるに決まってるじゃねぇか!感動の再会が血祭りって、洒落にならねぇぞ!?」

 

 

「五月蝿い!大人しく私に斬られろ!」ブォンッ

 

 

「御免被る!俺が死んだら華琳や桂花たちに顔向け出来んだろうが!」

 

 

「何?」ピタッ

 

 

喋りながら七星餓狼を振り回していた春蘭が突然動きを止める。

 

 

「今、華琳様の名を…」

 

 

「華琳だけじゃ無い。桂花、稟、風、凪、沙和、真桜がこの世界にいる」

 

 

一刀は鬼を警戒しながら春蘭にこの世界に来た仲間の名を言う。

 

 

「桂花たちがこの世界にいるのか、北郷?」

 

 

秋蘭が一刀の隣に移動し、質問をする。

 

 

「あぁいる。今は俺が世話になっている屋敷で暮らしているぞ。しかも"一国の王"や"軍師"としてでは無く、"一人の女の子"としてな」

 

 

一刀は秋蘭の問いに答える。

 

 

「なら、早くコイツを倒して華琳様たちと合流しなくてはな」

 

 

秋蘭が自身の武器『餓狼爪(がろうそう)』を構える。

 

 

「そうしたいのは山々だが、奴さん、かなりご立腹のようだぜ?ここは俺一人に任せときな」

 

 

一刀は秋蘭の腕をやんわりと降ろし、前に出る。

 

 

「止めとけ北郷。お前では奴を倒すことなど出来ん!ここは華琳様の剣であるこの夏侯元譲(かこうげんじょう)に任せろ!」

 

 

それを見た春蘭が一刀より前に出る。

 

 

「春蘭こそ止めておけ。奴は俺が持つこの日輪刀で頚を斬るか、陽光に晒さないと倒せん。ここは素直に待っていてくれ」ナデナデ

 

 

一刀は春蘭の頭を撫でる。すると険しい表情をしていた春蘭の顔が一瞬で蕩けた表情になった。

 

 

「秋蘭、春蘭のこと頼むぜ」

 

 

「うむ、任された。…"一刀"、死ぬなよ?」

 

 

秋蘭は春蘭を引き取り、後ろに下がる。

 

 

「どいつもこいつも、俺を舐めくさりおって!喰らえ!『血鬼術・樹木縛(じゅもくしば)り』!」

 

 

怒りが頂点に達した鬼は、掌を地面に着ける。すると一刀たちの足下から樹木が伸び、一刀たちを拘束しようとする。だが一刀と秋蘭はその場から飛び退けた。

 

 

「どうだ!?俺の血鬼術は樹木を思いのままに操る!これで貴様らを捕まえて血の一滴残らず喰ってやる!」

 

 

「んなことさせるか!」

 

 

『全集中 空の呼吸 陸ノ型 白鳥ノ舞』

 

 

鬼は次々に樹木を伸ばし一刀を捕まえようとする。だが一刀は陸ノ型を使い、余裕でかわす。

 

 

「えぇい、大人しく捕まりやがれ!」

 

 

鬼は操る樹木を増やす。しかしこれでも一刀を捕らえることはできなかった。

 

 

「くそっ、なら先にアイツらから喰ってやる!」

 

 

鬼は樹木を秋蘭の方に向ける。春蘭と秋蘭は反対方向に逃げたため、捕まることは無かった。だが、その時足を挫いたのか、秋蘭の動きが若干遅れる。それを見逃さなかった鬼は樹木を秋蘭の方に集める。

 

 

『全集中 空の呼吸 伍ノ型 荒鷲』

 

 

しかしそこに一刀が間に割り込み、秋蘭を庇いながら伍ノ型で樹木を斬る。

 

 

「貴様~っ、よくも秋蘭を!」

 

 

妹の秋蘭を狙ったことに怒った春蘭は鬼に向かって剣を振るう。

 

 

バキンッ

 

 

しかし鬼の頚に当たった瞬間、春蘭の七星餓狼が"折れた"。

 

 

『全集中 空の呼吸 参ノ型 隼一閃』

 

 

一刀は春蘭を助けるべく自分の型の中でも一番速い型を使い春蘭を横抱きにして助け、秋蘭の下へ戻った。

 

 

「春蘭、大丈夫か?」

 

 

一刀が春蘭の顔を覗き込むと、顔を赤くしながら何度も頷いた。

 

 

「二人とも、この場でじっとしていて」

 

 

一刀は秋蘭の側に春蘭を降ろす。そして

 

 

『全集中 空の呼吸 漆ノ型 漆黒鴉』

 

 

一刀は鬼に十字の斬撃を飛ばす。その斬撃は鬼の胸に十字の傷を付ける。

 

 

『全集中 空の呼吸 参ノ型 隼一閃』

 

 

漆ノ型で怯んだ隙に参ノ型で鬼の頚を斬り落とす。すると鬼は灰となり崩壊した。

 

 

「北郷、あの鬼は何故崩壊しているのだ?」

 

 

春蘭は鬼を指差しながら一刀に近づき質問をする。

 

 

「鬼はこの日輪刀で頚を斬り落とされるとあぁなるんだ」

 

 

一刀は自分の刀を見せながら答える。

 

 

「北郷、先程は助かった。礼を言う」

 

 

秋蘭が足を引き摺りながら一刀に近づき、頭を下げる。

 

 

「秋蘭、無理するな。治るものが治らなくなるぞ?それと、礼はいらないさ。俺は助けたい女を助けただけだからさ」

 

 

一刀は秋蘭に肩を貸しながら言った。すると秋蘭は顔を赤くし、そっぽを向いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

秋蘭を横抱きにした一刀は春蘭を連れて下山していた。秋蘭を横抱きにしているのは、足の怪我を悪化させないためだった。

 

 

「ごめん下さい!」

 

 

一刀たちは近くにある『藤の花の家紋の家』の前におり、一刀が声を上げる。

 

 

「はい…。鬼狩り様でございましたか」

 

 

少しして門が開き、家の者が姿を現す。

 

 

「夜分遅くに申し訳ありません。こちらの女性は鬼狩りではありませんが、足を怪我してしまいまして。それでこちらで療養させたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 

一刀は秋蘭の怪我を考えて藤の花の家紋の家で療養させたいことを伝える。

 

 

「えぇ構いませんよ。どうぞお入り下さいませ」

 

 

家の者は一刀たちを招き入れる。

 

 

「お布団でございます」

 

 

部屋に案内された一刀たちはその部屋に敷かれていた布団の一つに秋蘭を降ろし、別の布団に横たわる。

 

 

「鬼狩り様、お食事は如何なさいますでしょうか?」

 

 

「今はいりません。朝食の時にこの部屋に運んで頂けると有り難いです」

 

 

家の者が入室し食事をどうするか質問をすると、一刀は『いらない』と答えた。その理由は今の時間帯が深夜だからだった。家の者は『畏まりました』と言って退室した。

 

 

「……北郷、かなり手馴れているな」

 

 

一刀の行動に春蘭が驚いていた。

 

 

「この『藤の花の家紋の家』は、俺たち鬼殺隊に助けられた人たちが始めたものでさ、鬼殺隊の人間なら"無償"で色々施してくれるんだ。俺も何回か世話になっているから手馴れているのはそれが原因さ」

 

 

一刀は『藤の花の家紋の家』について説明をする。

 

 

「鬼狩り様、失礼致します。お医者様をお呼び致しました。それとお召し物もお持ち致しました」

 

 

一刀が説明を終えた瞬間を見計らっていたのか、家の者が入室し、医者を連れて来た。

 

 

「ありがとうございます。お医者様、患者はあちらの女性です。足を捻挫していまして、応急措置は済ませてあります」

 

 

一刀が医者に秋蘭の診察をお願いする。因みに応急措置は一刀たちが下山する前に施していた。

 

 

医者は秋蘭の怪我を診察し、塗り薬を処方し退室した。その後一刀たちは着替え始めるが、一刀は服を持って隣の部屋に移動した。

 

 

そして着替え終わった一刀たちはそれぞれの布団で就寝した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

翌日、朝食を終えた一刀はイーグルに頼んで手紙を送ってもらった。

 

 

「北郷、今のは何だ?」

 

 

春蘭は飛んで行ったイーグルを指差して質問をする。

 

 

「あいつは俺の仲間で、今手紙を届けに行った所なんだ。後で紹介するよ」

 

 

一刀はそう言いながら秋蘭の下へ行き、秋蘭を介護し始めた。そしてその日はのびのびと過ごした。

 

 

「鬼狩り様、お客様がお見えですが…」

 

 

そのまた翌日、一刀は藤の花の家紋の家の日当たりが良い縁側で春蘭と秋蘭と一緒に寛いでいると、家の者が入室し一刀に客が来たことを伝える。

 

 

「おっ、来たか。ここにお通しして下さい」

 

 

一刀はここに連れて来て欲しいと頼むと家の者は『畏まりました』と言って退室した。

 

 

「北郷、誰かを呼んだのか?」

 

 

「あぁ。俺が知ってる中で一番の"医者"さ」

 

 

秋蘭の質問に答える一刀。そして

 

 

「お連れしました」

 

 

「お邪魔します」

 

 

家の者と一緒に入室したのはしのぶだった。そして家の者は静かに退室した。

 

 

「しのぶ、来てくれてありがとう」

 

 

「いきなりイーグルさんが手紙を届けに来て、『怪我人がいるから治療を頼む』なんて書かれていたので、慌てて支度をして飛び出しちゃいましたよ」ダキッ

 

 

一刀は来てくれたことに礼を言うと、しのぶが一刀に抱きついて来た。

 

 

「怪我をしたのが貴方じゃ無くて良かった」

 

 

しのぶは顔を上げてつま先立ちになって顔を近づける。一刀はしのぶの口に指を当て、接近を阻止した。

 

 

「今はそれをする時じゃ無い」

 

 

「……そうでした」////

 

 

しのぶは顔を赤くして一刀から離れる。そして

 

 

「はじめまして。私は胡蝶しのぶと申します」

 

 

春蘭たちの前で座り、自己紹介をした。

 

 

「これはご丁寧に感謝します。このような格好で申し訳ありません。私は性は夏侯、名は(えん)、字は妙才(みょうさい)と申します」

 

 

「私は夏侯淵の姉、性は夏侯、名は(とん)、字は元譲」

 

 

「春蘭、秋蘭。しのぶは華琳から真名を預かっているんだ。それも桂花たち皆から…ね」

 

 

春蘭たちも自己紹介をし、一刀はしのぶが華琳たちから真名を預かっていることを伝える。

 

 

「それよりも一刀さん、怪我人は夏侯淵さんでよろしいですか?」

 

 

「えっ?あ、あぁそうだよ。足を捻挫していてね、とりあえず応急措置と医者からもらった塗り薬を着けているけど…」

 

 

一刀がそう言った瞬間、しのぶが秋蘭の足下に近づき診察をする。そして足に巻かれた包帯を解き患部に自分が持ってきた薬を塗る。そして再び包帯を巻き、しっかりと固定させた。

 

 

「これで大丈夫だと思いますよ。明日になれば、痛みは引いているかと。とりあえず私もここに残って観察しますね」

 

 

しのぶは秋蘭の治療を終え、念の為に残ることを提案する。一刀は願ってもないことだったのでそれを承諾した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

しのぶが藤の花の家紋の家に来た翌日、しのぶは秋蘭を診察し、捻挫が治ったことを伝える。春蘭は我がことのように喜ぶ。

 

 

「ですが、痛みと腫れが引いているだけですので、激しい運動などをすると痛みがぶり返しますので注意して下さい。歩くことに関しては問題はありません」

 

 

しのぶは秋蘭に注意事項を述べる。

 

 

「ありがとうございます。ここまでしてくれたこと、感謝致します」

 

 

秋蘭はしのぶに礼を言う。

 

 

そしてそれぞれ着替え、全員藤の花の家紋の家を後にし、蝶屋敷へと向かった。しかしそのスピードは秋蘭の足に負担を掛けないようにゆっくりとしたもので、蝶屋敷に到着するのに更に丸二日掛かった。

 

 

 



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第拾参話

 

 

藤の花の家紋の家を出た一刀、しのぶ、春蘭、秋蘭の四名は、やっとの思いで蝶屋敷に到着した。蝶屋敷の門にはカナエとアオイ、そして華琳がいた。春蘭は華琳の姿を見つけた瞬間、脱兎のように駆け出し、まるで"迷子になってやっと親に再会した子供"のように華琳にしがみつき泣きじゃくった。

 

 

「もぅ…、春蘭ったら…」

 

 

華琳は呆れながらも春蘭の頭をゆっくりと撫で続けた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「少しは落ち着いたかしら?」

 

 

「はいぃぃ~」

 

 

華琳は未だにしがみついている春蘭を何とか引き剥がし、顔を覗く。春蘭はまだ涙目ではあるが、落ち着きを取り戻していた。

 

 

「秋蘭も、久しぶりね」

 

 

「…はい、華琳様」

 

 

秋蘭も春蘭ほどでは無かったが、声を震わせていた。

 

 

「しのぶ、お帰りなさい」

 

 

「お疲れ様です、一刀さん」

 

 

カナエはしのぶを、アオイは一刀を労った。

 

 

「「ただいま、姉さん(カナエさん)、アオイ」」

 

 

しのぶと一刀はそれぞれ返事をする。

 

 

「さて、それじゃ中に入りましょう。皆首を長くして待っているわよ」

 

 

カナエに促され、一刀たちは屋敷へと入った。そして桂花、稟、風。道場で稽古していたカナヲ、凪、沙和、真桜と再会した。その際、桂花が一刀にダイブし唇を奪い一悶着あったが、概ね和やかな再会となった。その数日後、一刀の柱任命の儀が執り行われ、一刀は晴れて柱となった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一刀はアオイたちから自分が任務に行っていた間のことを自室で茶を飲みながら聞いていた。

 

 

何でも、炭華と禰豆子が杏寿郎の実家でもある『炎屋敷』に訪れ、杏寿郎の父である『元炎柱・煉獄槇寿郎』に門前払いを言い渡されるが、炭華の耳飾りを見て『日の呼吸の使い手か!』と言っていきなり殴り掛かった。そして炭華は自分の長所である母親譲りの石頭で頭突きをし、喧嘩沙汰になったとか。

 

 

その後杏寿郎と彼の弟でもある『千寿郎』と共に『歴代炎柱の書』を見ると、ズタズタに破かれていた。杏寿郎と千寿郎は炭華と禰豆子に謝ったが、二人は煉獄兄弟を赦したとか。

 

 

「そんなことが合ったのか…」ズズッ

 

 

一刀は残っていた茶を飲み干しながら呟いた。

 

 

「炭華さんは、"杏寿郎"様のお父上に頭突きをしたことをえらく後悔されていました」

 

 

アオイは杏寿郎のことを様付けで呼んでいた。アオイは普段はしのぶ以外の柱をそれぞれの柱の名に様を付けて呼んでいるが、柱では無くなった杏寿郎は『これからは名で呼んで欲しい!』と療養中に言われたのでそう呼んでいるのである。

 

 

「後で炭華の所に行かなくてはな」

 

 

一刀がそう呟くと、アオイは頷いていた。その後一刀は炭華の下を訪れ、『気にすることは無い』と言いながら頭を撫でる。炭華は泣きながら一刀に甘えていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから一週間後、蝶屋敷の近くに一刀の屋敷である『空屋敷(そらやしき)』を建設するために大工が蝶屋敷の前を頻繁に通るようになっていた。

 

 

「そう言えば、凪たちは今後どうするのかしら?」

 

 

建設現場を見に行っている一刀に同行している華琳は徐に一刀に聞いた。

 

 

「凪、沙和、真桜、春蘭の四人は鬼殺隊に入隊することを決めたよ。特に春蘭が張り切っていたね。『華琳様のために鬼殺隊に入隊し、鬼の頚を献上するのだ!』ってね」

 

 

一刀は苦笑いをしながら華琳の質問に答える。

 

 

「春蘭らしいわね。あれ?でも、鬼は頚を日輪刀で斬られると、灰になって崩れるんじゃ無かったかしら?」

 

 

華琳は素朴な疑問を浮かべた。

 

 

「その通り。けど、あの春蘭のことだからきっと忘れているだろうな」

 

 

「確かに」

 

 

一刀と華琳はお互いの顔を見ながら失笑していた。

 

 

そして建設現場から蝶屋敷に戻っていると、何やら門の所が騒がしかった。一刀と華琳はお互いの顔を見て頷き、急いで門まで来ると

 

 

「ちょっと、離して下さい!」

 

 

「うるせぇな、地味に黙っとけ」

 

 

『音柱・宇随天元』がアオイとなほを担いでいる所だった。アオイとなほはカナヲに助けを求めるように手を伸ばす。するとカナヲは"コインを投げず"に二人の手を掴んだ。

 

 

「地味に引っ張るんじゃねぇよ。お前は先刻、指令がきてるんだろうがよ」

 

 

掴まれたことに気付いた天元がカナヲに離すよう言い放つ。しかしカナヲは離す処か、更に二人の手を引っ張り出した。

 

 

「何とか言えよ!!地味な奴だな!!」

 

 

「キャーッ!と、突撃ー!」

 

 

「とつげきー!」

 

 

何も言わないカナヲに天元は怒りだし、カナヲを叱る。その声にびっくりしたすみときよが天元にしがみつく。

 

 

「一刀…、私そろそろ限界なんだけど…(怒)」ゴゴゴ

 

 

天元の醜態に華琳の怒りが爆発しそうだった。

 

 

「天元さ~ん、一体何をしているんですか~?(怒)」ニコニコ

 

 

「あれっ!?」

 

 

しかし華琳が振り向いた所には一刀は居らず、一刀の声がした方を振り向くと、一刀がなほを奪還しており、天元に声を掛けている所だった。

 

 

「んっ?よぅ一刀。どうした?そんな派手な笑顔で」

 

 

天元は気さくに声を掛ける。

 

 

「いやなに、何か騒がしかったので覗いてみたら、丁度『派手な格好をした人』が"誘拐をしている"現場を目撃しましてね~。それで、一体何をしているんですか?(怒)」

 

 

一刀は笑顔のまま殺気を全開し、天元に問い掛ける。

 

 

「いや、あの~。これから向かう任務で、女性の隊員が必要なので、継子じゃ無いコイツらなら胡蝶妹の許可を取らなくてもいいかな~、何て…」

 

 

天元はしどろもどろになりながら青筋を浮かべている一刀の質問に答える。

 

 

「へぇ~そうですか~(怒)でしたら、貴方の目は節穴ですね。まずなほちゃんは隊服を着ていないので隊員ではありません。次にアオイですが、彼女は鬼と戦うことにトラウマを抱えているんですよ?そう言った"事情"を連れて行く"前に"確認とかされないんですか?(怒)」

 

 

「アオイはもちろん、なほちゃん、すみちゃん、きよちゃんは蝶屋敷には欠かせない人たちなんですよ?(怒)彼女たちがいなくなれば、蝶屋敷は機能しないんですよ?そんなことも分からないんですか?(怒)」

 

 

一刀の怒涛の"言葉攻め"に天元はたじたじになっていた。

 

 

「なので、アオイたちは返してもらいます(怒)」

 

 

一刀はなほをゆっくりと降ろし、天元からアオイを取り返した。

 

 

「一刀さん!」ダキッ

 

 

アオイは一刀に思い切り抱き着く。一刀もアオイを抱き締め、頭を撫でる。

 

 

「もう大丈夫だから」ナデナデ

 

 

頭を撫でられて安心したのか、アオイは一刀の胸の中で泣き出した。一刀はアオイを支えながら蝶屋敷へと入っていった。もちろん、カナヲ、なほ、すみ、きよ、華琳も二人の後を追って中に入っていった。

 

 

一人取り残された天元はその場に立ったまま、周辺を木枯らしが吹いていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

『蝶屋敷誘拐未遂事件』から数日後、一刀たちは縁側でのんびりしていた。あれからアオイは仕事が無い時は一刀に引っ付くようになり、一刀もアオイたちがまた誘拐されないか警戒をしていた。

 

 

しのぶたちも最初はアオイに嫉妬をしていたが、なほたち三人娘から事情を聞いてからは嫉妬することも無くなり、当然のように受け入れていた。

 

 

「カアァ!北郷一刀、オマエニ手紙ヲ届ケニ来タゾ!」

 

 

そこに炭華の鎹鴉(かすがいがらす)である松右衛門(まつえもん)が一刀に手紙を届けに来た。

 

 

「お前は炭華の鴉の松右衛門じゃねぇか。俺に手紙って、何だ?」

 

 

一刀は松右衛門から手紙を受け取り、内容を読む。すると

 

 

グシャ

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

突如一刀はその手紙を握り潰した。

 

 

「あの…、一刀さん?」

 

 

アオイが恐る恐る一刀に質問をしようとする。

 

 

「……炭華たちが遊郭に売り飛ばされる(怒)」

 

 

「「「「えぇ!?」」」」

 

 

一刀の呟きにアオイたちは驚く。

 

 

「あんの人拐いめ…。アオイたちを誘拐しようとしていたのはこの為か!?」

 

 

手紙には平仮名でこう書かれていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

『ゆうかく』

 

 

『うられる』

 

 

『たすけて』

 

 

………

 

 

……

 

 

 

 

一刀は天元が任務に炭華たちを連れて行ったことをこの手紙に綴られた言葉だけで悟った。

 

 

「松右衛門、遊郭までの道のりを教えてくれるか?」

 

 

一刀が松右衛門にお願いすると、松右衛門は『マカセロ!』と言って空を飛ぶ。一刀も松右衛門の後を追って屋敷を飛び出した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

此処は吉原遊郭。借金を背負った女性が自らの身体を売り、借金を返すために働いている所。その家屋の屋根の上に鬼殺隊の隊服(アレンジ)を着ている男性がいた。アオイたちを誘拐しようとした張本人、『音柱・宇随天元』である。

 

 

「(今日も異常無し。やっぱり尻尾を出さねぇ。この気配の隠し方…地味さ、もしやここに巣食っている鬼は上弦の鬼か?そういや、一刀たちが言ってたな。無限列車に現れたのは"最後の下弦の鬼と上弦の参"って。だとしたら、ド派手な殺り合いになるかもな)」

 

 

天元は遊郭の道を見ながら考えていた。そこに

 

 

「こ~んに~ちは~」ニコニコ

 

 

「!?」ビクッ

 

 

突然声を掛けられて思わず条件反射で刀の柄を握る。そして振り向くと、そこにいたのは新しく柱に就任した一刀だった。しかも顔は笑顔なのに、青筋が幾つも浮かんでおり、目が笑っていない状態だった。

 

 

「よ、よぅ一刀。どうした?そんなド派手な殺気を出してよぅ…」

 

 

天元は刀から手を離し、口元をヒク付かせながら質問をする。

 

 

「俺は今、怒っているんですよ?(怒)何故炭華と禰豆子を遊郭に売ったんですか?(怒)」

 

 

一刀は天元の質問を無視し、天元に質問をする。

 

 

「そ…、そのことか。実はこの遊郭に鬼が潜んでいてな、先に俺の妻たちが潜入して調査をしていたんだが、ここ最近音信不通になっちまってな」

 

 

「それで様子見がてら調査しようと女性隊員を探していたら丁度竈門姉妹が来て、途中にある藤の花の家紋の家まで派手に連れて来たのよ。おまけに我妻って奴と嘴平って奴も一緒に来てな、それでそこで事情を説明して潜入してもらったって訳よ」

 

 

天元は炭華たちを遊郭に連れて来た理由を述べる。

 

 

「そうでしたか。でも、何故藤の花の家紋の家に着く"前に説明をしなかった"んですか?(怒)炭華から手紙が来ましたよ?『ゆうかく』、『うられる』、『たすけて』って(怒)」

 

 

一刀は青筋を更に浮かべ、天元の頭を鷲掴みにした。

 

 

「な…、なぁ一刀。お前さんは何故俺の頭を掴んでいるんだ?しかもミシミシと派手な音が地味に聞こえてくるんだが…」

 

 

「そりゃあ力、込めてますからねぇ。さて天元さん、貴方に二択を差し上げます。一つ目は『今ここで頭を握り潰される』。二つ目は『柱の名前を"幼女趣味の人拐い地味柱"に改名する』。さぁ、どちらをご所望ですか?(怒)」

 

 

一刀が上げた二択はどちらも天元にはデメリット"しか"無い物だった。

 

 

「どちらもごめん被る!それなら三つ目の『ド派手に謝る』を選択する!」

 

 

「三つ目などありません。では、天元さん。逝ってらっしゃい(怒)」ミシミシ

 

 

一刀は天元の頭を鷲掴みにしている手に力を込めて頭を握り潰そうとする。

 

 

「イデデデデデッ!おい一刀、お前本気で俺の頭をド派手に潰す気か!?」

 

 

天元は何とか逃げようともがくが、一刀の力が強すぎるのか、ビクともしなかった。

 

 

その後、天元の悲鳴が遊郭中に響き渡り、それを聞いた炭華と禰豆子は密かにハイタッチをしていた。

 

 

 



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第拾肆話

 

 

ここは吉原遊郭にある『ときと屋』の一室。そこには綺麗な服を着ている炭華と禰豆子の竈門姉妹がいた。

 

 

「あれ?何か聞こえた?」

 

 

禰豆子が耳に手を当てて音を拾おうとする。

 

 

「きっと一刀さんがあの『筋肉馬鹿』を制裁したんだよ!」

 

 

炭華は一刀が天元に制裁を与えたんだと言った。

 

 

「!?それじゃ、お姉ちゃんの手紙が届いたんだ!」

 

 

炭華が書いた手紙とは、平仮名で綴られた一刀宛ての手紙である。炭華と禰豆子はそれぞれの任務が無い日などは、一刀に勉学を教えてもらって(自分たちから志願)おり、平仮名の他にも漢字や片仮名、英語のアルファベットまでも教わっていた。

 

 

「それじゃ今頃…」

 

 

「私たちを売った"報い"を受けているんだよ!」

 

 

「「イエーイ!」」パチンッ

 

 

二人は一刀に教わった『ハイタッチ』をして、喜びを分かち合った。因みに天元の悲鳴は善逸にも聞こえており、『筋肉柱、ザマァ』と笑っていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

天元の悲鳴が響いてから数日後、この日は定期連絡のため集まる日であり、家屋の屋根の上には炭華と禰豆子、伊之助がいた。伊之助は自分が潜入していた荻本屋(おぎもとや)に鬼がいると言っているが、炭華と禰豆子は半信半疑の表情をしていた。そして『善逸が来るのを待とう』と言った瞬間

 

 

「善逸は来ない」

 

 

音も無く天元が現れた。しかも一刀の脳天締め(アイアンクロー)を受けた跡がくっきりと残っていた。

 

 

「善逸は昨夜から連絡が途絶えて行方知れずだ。俺は嫁を助けるために幾つもの判断を間違えた。先刻応援を頼んだから直に増援が来る。階級の低いお前たちは遊郭から出ろ。いいか?機会を見誤るな。生きている奴が勝ちなんだ」

 

 

天元はそれだけ言って姿を消した。炭華と禰豆子は自分が"一番下の階級"だからと落ち込んでいたが、伊之助が『俺たちの階級は下から四番目の"庚"だぞ?』と言って実際に藤花彫りで付けられた階級を見せた。

 

 

その後炭華と禰豆子、伊之助の三人はそれぞれの潜入先を調べた後、荻本屋で合流することになった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

炭華と禰豆子は隊服に着替え、ときと屋で世話になった鯉夏花魁の下を訪れた。そして幾度か話をした後、二人は頭を下げて部屋を出た。しかし、その部屋に鯉夏花魁を狙っていた上弦の鬼が現れ、彼女を襲った。

 

 

その鬼には左目に"上弦"、右目に"伍"の文字が刻まれていた。

 

 

ときと屋に鬼が現れたことを炭華は匂いで、禰豆子は直感で感じ取り、ときと屋へ引き返す。そして二人が目にした光景は、女の鬼が鯉夏花魁を『帯に取り込んでいる』所だった。

 

 

炭華は上弦の伍『堕姫(だき)』に鯉夏を放すよう叫ぶと、堕姫はそれに怒り、帯で炭華を吹き飛ばす。吹き飛ばされた炭華は家屋に激突しながらも受け身を取り重症を免れた。

 

 

堕姫は追撃のために炭華に襲い掛かる。炭華は堕姫を追いかけた禰豆子と一緒に『水の呼吸 肆ノ型 打ち潮・乱』を繰り出し、帯を斬り鯉夏を救出する。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その頃荻本屋の伊之助は炭華たちを待っていたが待ちきれず、天井に頭を突っ込み鼠を呼ぶ。すると天元と"同じ装飾"を着けたムキムキの鼠が二匹伊之助の刀を持って現れた。伊之助はムキムキ鼠から刀を受け取り、"いつもの格好"になると、荻本屋の壁や床を破壊しまくった。そして通路の行き止まりの床下から穴がぽっかりと顔を覗かせた。

 

 

伊之助はその穴に入ろうとするも、"頭しか"入らなかった。だが伊之助は腕の関節を"全て外して"再び穴へと突撃した。すると今度はすんなりと穴に入り、そのまま蛇のような動きで穴の奥へと進み、そしてとある空洞に辿り着いた。

 

 

その空洞には帯が掛かっており、その帯の中には人が入っていた。その中には天元の妻である須磨とまきをの姿もあった。伊之助は腕の関節を戻しながら見渡すと、帯の一つに善逸の姿を見つけた。『何してんだ、こいつ…?』と伊之助が呆れながら言うと、何処からともなく声が聞こえたので振り返ると、そこには先端に目と口が付いた蚯蚓帯がいた。

 

 

蚯蚓帯は伊之助に攻撃を仕掛けるが、伊之助は攻撃を避けながら取り込まれていた人たちを救出する。蚯蚓帯は再び人を吸収しようとすると、助け出された須磨とまきをがクナイを投げて帯を固定する。そしてムキムキ鼠から刀を受け取った善逸がすかさず帯を切り刻む。

 

 

その直後、空洞の天井が崩壊しそこから善逸が潜入していた京極屋の旦那から、雛鶴の居場所を聞き救出した天元が姿を現す。そして天元は帯を更に切り刻んだ。

 

 

しかし蚯蚓帯は天元が開けた穴から逃げ出し、天元たちも後を追った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

蚯蚓帯は炭華と禰豆子が戦っていた堕姫に入り込む。実はこの蚯蚓帯は堕姫の"分裂した一部"だったのだ。分裂していた一部を取り込んだ堕姫は"本来の姿"となったが、ここで運悪く外の騒がしさにクレームを言おうと人々が出始めた。堕姫はその人たちを殺そうと帯を振るう。しかし炭華と禰豆子が間に割り込み人々は重傷を負うが奇跡的にも死者は出なかった。

 

 

だが炭華と禰豆子は人を庇った性で堕姫の帯に斬られ、重傷を負ってしまった。そして堕姫は取り込んだ蚯蚓帯から得た情報を頼りに柱のいる方へ行こうとすると"誰か"に足を掴まれた。堕姫は振り返ると自分の足を掴んでいたのは一刀だった。

 

 

一刀は堕姫の頚目掛けて刀を振るう。しかし堕姫は自分の足を"引き千切り"難を逃れる。そして引き千切った足を再生させ一刀を一瞥する。

 

 

「お前は命を何だと思っている?人間はお前たち鬼とは違い、手足などを失ったら再生しない。何故それが分からない?何故命を踏みつけにする?」

 

 

一刀は怒りに染まった目で堕姫を睨む。すると堕姫は瓦を拳で殴り砕くと

 

 

「ごちゃごちゃ五月蝿いわよ!"命を何だと思っている?"だから何?鬼になればね、老いないし、食うための金も必要無い。病気になって死ぬことも無い。そして強く美しい鬼は、何をしても許されるのよ!」

 

 

堕姫がそこまで言った瞬間、一刀は堕姫を地面に向けて蹴落とした。堕姫は地面に激突するが、瞬時に自分が巻き上げた土埃から脱出する。

 

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

 

一刀のやり取りを見ていた炭華の側に禰豆子が苦しそうに体を引き摺って近寄る。

 

 

「"強く美しい鬼は何をしても許される"?ハンッ、馬鹿を言え。貴様は美しくない。寧ろ醜い分類だ」

 

 

一刀は屋根から飛び降り、堕姫を鼻で笑いながら炭華たちの側に降り立つ。

 

 

「貴様は自分の顔を鏡で見たことがあるか?随分と醜い顔をしているぜ?それに美しいのはお前じゃ無くてそこにいる禰豆子の方が美しい」

 

 

一刀は後ろにいる禰豆子に向かって親指で指差す。禰豆子は一刀に言われ顔を赤くしていた。

 

 

「彼女はお前と同じ鬼だが、人を一度も喰ってはいない。寧ろ人を守ろうとしている。その姿は正に"女神"と言っても過言ではない。それに引き換え、貴様はどうだ?命を何とも思わず、人を食糧としか見ず、挙げ句の果てに命を粗末にしている。貴様は美人では無く、"醜女"だ」

 

 

一刀は堕姫に刀を向ける。

 

 

「俺は貴様のような醜女鬼は嫌いだ、反吐が出る。覚悟しろ、今から貴様を滅する」

 

 

「やれるものならやってみなさいよ!」

 

 

『血鬼術 八重帯斬り』

 

 

堕姫は自分に向かって来る一刀に帯を差し向ける。

 

 

『全集中 空の呼吸 伍ノ型 荒鷲』

 

 

しかし一刀は伍ノ型を使い帯を斬る。その刀は柄を強く握り締めていたのか、若干赫色になっていた。

 

 

「(馬鹿な!?帯が斬られた!それに斬られた所が焼けるように痛い!しかも再生ができない!何なの?コイツは一体何なの!?)」

 

 

堕姫は動揺しながら帯を振るうが、悉く一刀に斬られる。そして一刀の刀が堕姫の頚を捉えた。しかし堕姫は頚を帯状にし威力を拡散させ斬れなくした。

 

 

一刀は堕姫から瞬時に離れ、目を瞑り深呼吸を一つする。そして目を見開くと、まだ怒りの色に染まってはいるが、若干落ち着いてはいた。

 

 

「貴様の"異能"は帯…か。その体から生えている帯で斬るだけでは無く、自分の体も帯状に出来るのか。…厄介だな」

 

 

一刀は後頭部を掻きながら愚痴を溢す。

 

 

「今度は斬らせたりなんかしないわよ?私の頚に刃を当てたなんて、そんな"偶然"、二度も有りはしないわよ!」

 

 

堕姫は帯を一刀に向けて放つ。しかし一刀は帯を今度は細切れにする。更には

 

 

「一刀さん、助太刀します!『血鬼術 爆血』!」

 

 

堕姫がいた所は丁度禰豆子の血が流れていた場所であり、禰豆子は自分の血鬼術である爆血を使いその上にいた堕姫を燃やす。一刀は禰豆子の血が流れている場所まで誘導していたのだ。

 

 

「禰豆子、感謝する!」

 

 

『全集中 空の呼吸 拾ノ型 鳳凰天舞』

 

 

そこに一刀が追い討ちを掛けるように拾ノ型を繰り出す。そこに

 

 

「おいおい、随分と派手にやってんなこりゃ」

 

 

蚯蚓帯を追いかけていた天元が姿を現した。

 

 

「「宇随さん!」」

 

 

突然現れた天元に炭華と禰豆子は驚く。

 

 

「あの、一刀さんの助太刀に行かなくてもいいんですか?」

 

 

炭華は禰豆子に手を貸してもらいながら立ち上がり、天元に質問をする。

 

 

「そこん所は派手に大丈夫だ。ついさっき、"あの鬼の頚を斬った"からな」

 

 

天元は堕姫を指差すと、戦っている堕姫の頚が落ちた。これには一刀はもちろん、斬られた堕姫自身も驚いていた。

 

 

「天元さん、頚を斬ったなら早く言って下さい。危うく空振りする所だったじゃないですか」

 

 

堕姫から離れた一刀は天元に愚痴る。

 

 

「悪ぃ悪ぃ。でも、そのお陰で手間を掛けずに済んだじゃねぇか?」

 

 

天元は一刀の頭を軽く叩きながらゲラゲラと笑う。

 

 

「アンタたち…、よくも私の頚を斬ったわね…!」

 

 

すると堕姫の声がしたので振り返ると、自分の頚を抱えた堕姫が地面に座り込んでいた。堕姫の顔、特に右半分は禰豆子の爆血で燃やされ爛れていた。

 

 

「絶対…、ぜったい…、ゆるさないんだからぁ~!(泣)」

 

 

堕姫はギャンギャン泣き出す。天元、炭華、禰豆子の三人は泣き出した堕姫にドン引きしたが、一刀だけは堕姫に違和感を感じていた。

 

 

「……妙だな」

 

 

「何が妙なんですか?」

 

 

一刀の呟きにいち早く反応した禰豆子が一刀に質問をする。

 

 

「あの醜女鬼は頚を日輪刀で斬られているのに、未だに崩壊していない…」

 

 

「「「!?!?!?」」」

 

 

一刀の言葉に三人はハッとなり堕姫の方を見る。確かに堕姫はギャンギャン泣いてはいるが、崩壊の兆しすら見えなかった。

 

 

「斬られたぁ、頚斬られたぁ~!お兄ちゃん、お兄ちゃ~ん!」

 

 

「ううぅ~ん」ズズズ

 

 

堕姫が『お兄ちゃん』と叫ぶと、堕姫の体、特に背中から痩せこけた男の鬼が現れた。天元はすかさず二体の鬼の頚を斬ろうとする。だが天元の攻撃は空振りに終わり、そこから少し離れた所に鬼たちはいた。

 

 

「全く、泣いたってしょうがないだろぅ?頚くらい自分でくっ付けろよなぁ。顔は火傷かぁ?顔は大事にしろよなぁ、折角綺麗な顔に生まれたんだからなぁ」

 

 

男の鬼は堕姫の頚をくっ付けながら火傷を拭う。すると爛れていた顔が元に戻った。

 

 

「お前らかぁ?俺の妹を虐めた奴はぁ?」

 

 

男の鬼は両手に鎌を生成しながら振り返る。

 

 

「お兄ちゃん、アイツらだよ!アタシを虐めた奴らは!」

 

 

堕姫は泣きながら一刀たちを指差す。

 

 

「そうかぁ、なら俺は取り立てるぜぇ。やられた分は必ず取り立てる」

 

 

「死ぬときグルグル巡らせろ、俺の名は妓夫太郎(ぎゅうたろう)だからなぁ!」

 

 

『血鬼術 飛び血鎌』

 

 

男の鬼『妓夫太郎』は両手の鎌から無数の"血色の斬擊"を繰り出す。

 

 

『全集中 空の呼吸 陸ノ型 白鳥ノ舞』

 

 

一刀は炭華と禰豆子を両脇に抱え陸ノ型を使い回避する。天元も一刀たちとは反対方向に避ける。

 

 

「逃がさねぇぜ。『曲がれ、飛び血鎌』」

 

 

すると血色の斬擊は方向を変え、全て"一刀たち"の方へ向かって来た。一人の天元を狙うより、『炭華と禰豆子』と言う"荷物"を持った一刀の方が狙いやすいと判断したようだ。

 

 

「一刀!」

 

 

そこに天元が割り込み自分の刀で斬擊を斬った。

 

 

「天元さん、助かりました!」

 

 

「礼なんて地味に後回しだ。今はアイツらを倒すぞ!」

 

 

「了解です!炭華、禰豆子。もう大丈夫か?」

 

 

「「はい!」」

 

 

二人の返事を聞いた一刀は二人を降ろし、刀を構える。炭華と禰豆子も一刀に習い抜刀する。

 

 

「さぁ、ド派手に鬼を倒すぜぇ!」

 

 

「「「了解!」」」

 

 

天元たちは堕姫&妓夫太郎兄妹鬼に睨みを効かす。

 

 

「やれるものならやってみなぁ、俺たちは『二人で一つ』だからなぁ」

 

 

堕姫は妓夫太郎の肩に乗り、妓夫太郎は両手の鎌を天元たちに向ける。その空気は正に『一触即発』だった。

 

 

 



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第拾伍話

 

 

『上弦の伍・妓夫太郎、堕姫兄妹』VS『鬼殺隊・音柱、宇随天元&空柱、北郷一刀&竈門姉妹』の戦いは熾烈を極めた。

 

 

まず堕姫が帯を使って攻撃をするが、その攻撃は既に見切られており、全て回避される。しかし回避した所に妓夫太郎の飛び血鎌が迫っていた。堕姫は"わざと"避けられる攻撃をしていたのだ。

 

 

妓夫太郎の攻撃に気づいた鬼殺隊の面々は斬撃を斬ったり、型を使った足さばきで避けたりした。

 

 

「ちぃっ、アンタたち、いい加減に死になさいよ!」

 

 

「そう言われて『はい分かりました』なんて答える奴はいねぇよ!」

 

 

イラついた堕姫の文句に天元が軽口を叩く。そしてそこから天元たちの反撃が始まる。堕姫の方には天元が、妓夫太郎の方には一刀、炭華、禰豆子の三名が集まった。

 

 

「ってうぉい!?派手に偏り過ぎだろ!?誰か一人こっちに来いよ!」

 

 

天元に言われ一刀が応援に向かおうとすると、炭華と禰豆子も一刀の後を追った。

 

 

「だから、派手に固まり過ぎなんだよ!竈門炭華か竈門禰豆子の"どちらか"が来れば良いんだよ!」

 

 

天元は二人に注意をすると

 

 

「「私は一刀さんの側を離れたくはありません!」」

 

 

とキッパリと言った。

 

 

「だぁ~もう、分かったよ派手に理解した!竈門姉妹は一刀と一緒にあそこの鬼を頼んだ!こっちの鬼は俺が何とかする!」

 

 

天元はそう言いながら堕姫の頚を斬る。そして一刀も妓夫太郎の頚を斬ろうと型を使うが、鎌によって防がれる。

 

 

「……天元さん」

 

 

「あぁ、地味に見てたぜ。そして奴らの"攻略法"が見えたぜ」

 

 

一刀と天元のやり取りを見ていた炭華と禰豆子は同時に首を傾げる。

 

 

「『奴らは何故二体に分離した』のか?俺と天元さんはその事にずっと疑問を感じていたんだ。醜女鬼は頚を斬られても崩壊はしなかった。なら『後から現れたガリガリの鬼が本体なのか?』と思っていたが、奴が言っていた『俺たちは二人で一つ』と言う言葉が引っ掛かっていた」

 

 

「そして奴らの行動で"予想"が"確信"に変わった。もしあの女の鬼が"隠れ蓑"なら、バレた瞬間に棄てればいい。だが奴はそうはしなかった。それはつまり、奴らは『二体で一体の鬼』である証明なんだよ」

 

 

一刀と天元は二人に説明をするが、二人はいまいち分かっていないのか、更に首を傾げる。

 

 

「つまりあの二体は『同じ存在』って意味だ。どちらか一方の頚を斬っても完全には死なない、つまり倒すには『二体の頚を同時に斬る』しか無いんだ」

 

 

一刀の追加の説明で漸く納得したのか、二人は手を"ポンッ"と叩く。

 

 

「フンッ、例え私たちの倒し方が分かっても、それが出来なければ意味は無いわよ?」

 

 

堕姫は鼻で笑いながら不敵に笑う。

 

 

「やってみせるぜ!この"山の王"である伊之助様とその子分が"ド派手"にな!」

 

 

そこに(天元の影響を受けた)伊之助と(眠っている)善逸が到着した。

 

 

「おめぇら遅ぇぞ!?何処で道草食ってやがったんだ!?」

 

 

「うるせぇ!お前が俺たちを置いてスタコラサッサと行くのが悪ぃんじゃねぇか!」

 

 

天元と伊之助は互いに刀を突き付け合いながらギャーギャーと騒ぐ。

 

 

「お前らァ、俺たちを無視するなんて、いい度胸しているなァ?『血鬼術 円斬旋回・飛び血鎌』!」

 

 

すると痺れを切らした妓夫太郎が自身の腕から鎌から出す斬撃と同じ斬撃を天元たちに向けて繰り出した。

 

 

『全集中 空の呼吸 伍ノ型 荒鷲』

 

 

しかしそこに一刀が射線上に割り込み、荒鷲を使い斬撃を全て斬り伏せる。

 

 

「天元さん、言い争っている暇があるなら、早くあの鬼たちを滅殺したらどうですか?伊之助も、いちいち突っ掛かるんじゃねぇよ」

 

 

一刀は若干キレながら『喧嘩両成敗』と言わんばかりに二人を注意した。すると少し落ち着きを取り戻したのか、意識を上弦の鬼の方に向けた。

 

 

「それじゃこっからド派手に行くぜ!」

 

 

『音の呼吸 伍ノ型 鳴弦奏々』

 

 

天元が宣言した瞬間、刀を振り回し触れた所から次々に爆発する。堕姫は帯で天元を狙うが、それを炭華がまとめて串刺しにする。

 

 

炭華が天元のサポートをしている理由は一刀から頼まれたからであって、任務完了後に『抱き締める約束』を条件に禰豆子と一緒にサポートをしていたのだった。

 

 

すると屋根の上に天元の妻の一人である雛鶴が現れ、弓状の絡繰を使いクナイを打ち出す。

 

 

『血鬼術 跋弧跳梁』

 

 

しかし妓夫太郎は堕姫を自分の後ろに隠し斬撃の天蓋を作りクナイを防ぐ。そこに天元が突撃する。彼は自分の体にクナイが刺さりながらも突撃を止めない。

 

 

妓夫太郎は天元の頚目掛けて鎌を振るう。しかし天元は鎌の刃が当たる寸前で屈み、妓夫太郎の両足を切断する。

 

 

更に妓夫太郎の頚にクナイが刺さる。妓夫太郎は足を再生させようとするが、クナイに塗られた『藤の花の毒』によって体が痺れ上手く再生できなかった。そこに天元と炭華が妓夫太郎の頚を狙って刀を振るう。しかし刀は鎌によって防がれた。

 

 

そして今度は禰豆子が妓夫太郎の頚目掛けて刀を振るう。天元ももう一本の刀を使い頚を狙う。しかし"狙いが同じ箇所"だったことが災いし、妓夫太郎は『頚を百八十度』回転させ、何と"歯"で刀を受け止めた。

 

 

しかも最悪なことに毒を分解した妓夫太郎は足を再生させ、再び円斬旋回・飛び血鎌を使い三人を堕姫諸とも吹き飛ばす。だが吹き飛ばされる寸前に天元が炭華を蹴り飛ばし、禰豆子の首を掴み後ろに放り投げた甲斐もあってか、斬撃を受け止めたのは"天元一人"だけだった。

 

 

堕姫は自分と妓夫太郎の間に帯を入れて防御していたので、斬撃を喰らわなかった。

 

 

妓夫太郎は天元を吹き飛ばした後、クナイを打ち出した雛鶴の下へ向かい、口を掴んだ。雛鶴を殺すつもりだ。その理由は『自分に手を出した』からだった。

 

 

天元は雛鶴を助けに向かおうとするが、それを邪魔するかのように堕姫の帯が天元の眼前に拡がる。

 

 

『音の呼吸 肆ノ型 響斬無間』

 

 

天元は帯を悉く斬るが、それでも先に進むことができなかった。"雛鶴が妓夫太郎に殺される"。そう思われた時、妓夫太郎の腕が斬られた。妓夫太郎の腕を斬ったのは天元に蹴り飛ばされた炭華だった。

 

 

彼女は『ヒノカミ神楽』と『水の呼吸』を混ぜた呼吸を使い、妓夫太郎の腕を斬り雛鶴を助けたのだった。妓夫太郎は斬られた腕を直ぐ様再生させ二人に襲い掛かる。

 

 

「竈門炭華!お前に感謝する!」

 

 

しかしその後ろに天元が現れ、妓夫太郎の頚目掛けて刀を振るう。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「んなっ!?あっちはもう頚を斬りそうだぞ!?こっちも早く頚を斬りてぇのに、帯が邪魔で全然近づけねぇ!」

 

 

天元たちの戦いを見ていた伊之助が焦り出していた。

 

 

「落ち着け伊之助!頚は同時に斬らなくていい!要はコイツらの頚が繋がっていなければいいんだ!」

 

 

そこに一刀が伊之助を落ち着かせようと声を出す。

 

 

「嘴平君、向こうはお姉ちゃんに任せて私たちはあの『薄汚い醜女鬼』を倒そう!」

 

 

更に一刀たちに加勢した禰豆子が伊之助にお願いをする。

 

 

「分かった!山の王であるこの嘴平伊之助様にド派手に任せな!」

 

 

天元の"悪影響"を受けている伊之助が意気揚々と突撃する。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

天元の刃が妓夫太郎の頚に当たる瞬間、妓夫太郎はまた円斬旋回・飛び血鎌を使い、天元たちを攻撃しようとする。しかし、天元は妓夫太郎を蹴り飛ばし、自分もその後を追う。

 

 

「雛鶴さん、炭華!離れろ!巻き込まれるぞ!」

 

 

そこに堕姫と戦っていた一刀たちが炭華たちの所まで下がって来た。

 

 

「炭華!向こうは天元さんに任せて俺たちはこの『薄汚い醜女鬼』の頚を落とすぞ!雛鶴さんはどこかに隠れていて下さい!」

 

 

炭華と雛鶴は一刀の言葉に頷いて、雛鶴はその場から離脱し、炭華は一刀の加勢に向かう。

 

 

『全集中 空の呼吸 陸ノ型 白鳥ノ舞』

 

 

『伍ノ型 荒鷲』

 

 

『『水の呼吸 参ノ型 流流舞い』』

 

 

『雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 八連』

 

 

『我流 獣の呼吸 捌ノ型 爆裂猛進』

 

 

『陸ノ牙 乱杭噛み』

 

 

一刀は攻防一体の荒鷲を華麗な足さばきをする白鳥ノ舞と一緒に使用、炭華と禰豆子は一緒に流流舞いを使い、善逸は霹靂一閃を八連続で使用し堕姫の帯を片っ端から斬る。

 

 

そうして開けた道を伊之助が自身の口癖の象徴とも言える突進を使い堕姫に迫る。そして二本の刀を鋸のように使い堕姫の頚を斬った。更に伊之助は堕姫の頚を掴むと

 

 

「ぬおおおぉぉぉ~~!この鬼の頚はくっつけられねぇように俺が持って逃げ回る!お前らは音のおっさんに加勢しろ!」

 

 

その場から逃げ出した。堕姫は自分の髪を使って伊之助を攻撃しようとするが、伊之助は刀で堕姫の髪を斬った。

 

 

「ハッハ~ッ、攻撃にキレが無いぜぇ~!死なねぇとは言え、頚を斬られてちゃあ弱体化するようだな!」

 

 

堕姫の攻撃を凌いだ伊之助は尚も走る。しかし後ろから妓夫太郎が迫っていた。妓夫太郎は伊之助の心臓目掛けて鎌を突き刺そうとする。だがそこに一刀が割り込み、鎌は一刀の左腕に刺さった。

 

 

「「一刀さん!」」

 

 

炭華と禰豆子は顔を青ざめて叫ぶ。炭華は天元のことが気になり路地を見る。すると天元は左腕を斬られた状態で横たわっていた。

 

 

「邪魔すんじゃ無ぇよ」

 

 

「貴様らのような『醜い鬼』を倒すのが俺たちの"仕事"なんでね。伊之助!こいつは俺が抑えておく!お前はなるべく逃げ回れ!」

 

 

一刀が伊之助に叫ぶと、伊之助はサムズアップをしてどんどん一刀から離れる。

 

 

何故伊之助がサムズアップを知っているのか?それはこの任務が始まる数週間前、一刀がサムズアップを伊之助に教えていたからだった。

 

 

「このクソガキ~!」

 

 

妓夫太郎は一刀の腕に刺さった鎌を引き抜き、一刀に振るう。しかし"そこには一刀の姿は無かった"。

 

 

全集中 空の呼吸 終ノ型 紅蓮朱雀

 

 

一刀は自分の"切り札"とも呼べる紅蓮朱雀を使用し妓夫太郎の攻撃を避けたのだ。

 

 

「あれって…」

 

 

「一刀さんの"紅蓮朱雀"!」

 

 

炭華と禰豆子は炎を纏っているような姿の一刀を見て、驚いていた。

 

 

「お姉ちゃん大変だよ!紅蓮朱雀って確か…」

 

 

「うん!一刀さんの"命"を糧にする一刀さんの"奥義"!でもあのままじゃ、一刀が死んじゃう!」

 

 

紅蓮朱雀のデメリットを聞いていた二人は直ぐ様一刀の加勢に向かう。すると二人の前に躍り出る影があった。

 

 

「一刀…、随分とド派手な、気配に…なったな」

 

 

その影は腕を斬られた天元だった。

 

 

「天元さん…、大丈夫ですか?随分と顔色が悪いですけど?」

 

 

「問題無ぇよ…。それよりも、やっと『譜面』が完成したぜ」

 

 

『譜面』とは、宇随天元独自の戦闘計算式である。分析に時間が掛かるものの、敵の攻撃動作の律動を読み音に変換する。これによって相手の癖や死角もわかる。

 

 

唄に合いの手を入れるが如く、音の隙間を攻撃すれば敵に打撃を与えられる。

 

 

「一刀…、勝ちに行くぜ!」

 

 

「はい!」

 

 

天元と一刀の反撃が始まった。妓夫太郎は円斬旋回・飛び血鎌を繰り出すが、天元がそれを全て斬り伏せる。しかし天元も妓夫太郎の鎌が当たり、左目を失明する。

 

 

「跳べェェ、一刀ォォ!」

 

 

天元に言われ一刀は天元を飛び越える。

 

 

全集中 空の呼吸 捌ノ型 火食鳥

 

 

落下の勢いを利用した火食鳥を妓夫太郎に向けて繰り出した。更に紅蓮朱雀の力も加わっているのもあり、妓夫太郎の頚は一刀の手によって切断された。

 

 

飛んでいる妓夫太郎の頚が見た光景は、堕姫の頚を持って逃げ回っている伊之助と、それを追う堕姫の体。そして伊之助を助ける善逸、炭華、禰豆子だった。

 

 

炭華と禰豆子は一刀が反撃する前に一刀が二人に背中越しにハンドサインを送っていた。

 

 

『二人は伊之助たちの援護を頼む』

 

 

ハンドサインを読み取った二人は善逸たちの下へ駆け寄り、頚を取り返そうとする堕姫の体を妨害していた。

 

 

こうして、『上弦の伍・妓夫太郎&堕姫兄妹』は鬼殺隊に敗れた。

 

 

しかし、妓夫太郎は『最後の悪あがき』として四肢から円斬旋回・飛び血鎌を繰り出そうとする。

 

 

「逃げろーーーッ!!!」

 

 

天元の叫びも虚しく、一刀は妓夫太郎の円斬旋回・飛び血鎌を喰らってしまった。

 

 

 



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第拾陸話

 

 

「う…、く……」

 

 

「「一刀さん!」」

 

 

妓夫太郎の最後の抵抗である『円斬旋回・飛び血鎌』を喰らった一刀は気を失っていた。そして数十分後、呻き声を上げ覚醒した。

 

 

「ここは…」

 

 

体を起こそうとする一刀を顔を覗いていた炭華と禰豆子がやんわりと抑えた。

 

 

「一刀さん、まだ無理しないで下さい」

 

 

「一刀さんは紅蓮朱雀の代償もあって起き上がれる程体力が残っていないんですよ」

 

 

二人は一刀に自身の状態を伝える。

 

 

「そうだったのか…、ありがとう二人とも。こんなにも柔らかい枕まで用意してくれて…」

 

 

「実は、一刀さんが乗せている枕は私の膝ですよ」

 

 

一刀の頭を乗せている枕は何と、"禰豆子の膝枕"だった。

 

 

「ウェイ!?」ガバッ

 

 

一刀は頭を乗せている枕が禰豆子の膝枕だと分かると、オンドゥル語を口にしながら飛び起き上がる。怪我をしている者がいきなり激しい運動をすると、傷口が開く恐れがある。無論一刀も例外では無く、起き上がった瞬間に体中が痛み、再び禰豆子の膝枕に倒れた。

 

 

「私の膝枕…、そんなに嫌でしたか…?」

 

 

禰豆子が一刀の顔を覗きながら涙目で訴える。

 

 

「嫌では無いが…、余りにも衝撃的な事実だったから、びっくりしただけだ。膝を貸してくれてありがとう」

 

 

一刀が禰豆子を労うと、禰豆子はにっこり笑って一刀の頭をゆっくり撫でた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一刀が禰豆子の膝枕を借りてから数分後、漸く立ち上がれるまでに回復した一刀は起き上がった。

 

 

「……随分とまぁ、手酷くやられたなぁ…」

 

 

一刀が周囲を見渡すと、そこには倒壊した遊郭の家屋が散乱していた。これは妓夫太郎の"最後の攻撃"によるものだった。

 

 

炭華ちゃ~ん、禰豆子ちゃ~ん…

 

 

すると何処からか声が聞こえた。三人は聞き耳を立てる。

 

 

炭華ちゃ~ん、禰豆子ちゃ~ん

 

 

今度ははっきり聞こえ、声がした方へ向かう。すると瓦礫に足を挟まれた善逸がいた。

 

 

「「我妻君!」」

 

 

「我妻、良く無事だったなぁ…」

 

 

「無事じゃ無いですよ?!起きたら体中痛いし、両足も骨が折れてるし、一体何がどうなっているんですか~!?」

 

 

「いや、そんだけ騒げたら大丈夫だろ…」

 

 

一刀たちは善逸が無事であることに安堵するが、騒いでいる姿を見て何故か少しがっかりしていた。

 

 

「それよりも、伊之助がヤバいよぉ~!心臓の音が段々小さくなっているんだよぉ~」

 

 

善逸が指を指した場所に伊之助が横たわっていた。一刀は直ぐ様近づき胸に手を当てる。

 

 

トクン…、トクン…トクン…

 

 

善逸が言った通り、伊之助の心音が徐々に小さくなっていた。

 

 

「私に任せて下さい!『血鬼術 爆血』!」

 

 

すると禰豆子が自分の血鬼術を使い伊之助の体を燃やす。すると伊之助の爛れていた体が徐々に治っていき

 

 

「腹減った!何か食わせろ!」

 

 

伊之助が覚醒した。一刀は驚いていると

 

 

「お忘れですか?これは『無限列車』の時と"同じ"ですよ?」

 

 

禰豆子に言われ、一刀は思い出したのか、手を軽く叩く。

 

 

「そうか!禰豆子の血鬼術は『鬼に対してのみ』効果を発揮するんだ!」

 

 

「その通りです。後、一刀さんも嘴平君同様、毒が回っていましたので燃やしておきました」

 

 

禰豆子は笑いながら一刀に言う。

 

 

「ありがとう禰豆子」ナデナデ

 

 

「はにゃ~ん❤️」

 

 

一刀が禰豆子の頭を撫でると、禰豆子は顔を蕩けさせた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「いやぁ~!天元様、死なないで下さい~!」

 

 

天元の妻の一人である須磨が天元に向かって泣き叫んでいた。

 

 

「最後に言い残すことがある…。俺は今までの人生「天元様死なせたらあたしもう神様に手を合わせません!」…」

 

 

天元が何かを言おうとするが、それを須磨が遮る。それにキレたまきをが須磨を黙らせようと石を掴み須磨の口に入れる。それを雛鶴が止めようとする。天元は呆然としていると

 

 

「宇随さん、お待たせしました!今から『鬼の毒』を焼き飛ばします!『血鬼術 爆血』!」

 

 

ボウッ

 

 

駆けつけた禰豆子が爆血で天元を燃やす。

 

 

「きゃああぁぁ!?何をしているんですかあなたは!?天元様はまだ生きているのに火葬なんて酷すぎますよ!?お姉さんは怒りました!お尻ペンペンします!」

 

 

禰豆子が天元を燃やす所"しか"見ていなかった須磨が禰豆子のお尻を叩こうと手を上げる。

 

 

「ちょっと待て。こりゃ一体どういうことだ?俺の体から毒が派手になくなった」

 

 

すると天元が不思議そうに毒が消えたことを言った。それを聞いた雛鶴たちは泣きながら天元に抱きついた。

 

 

「私の血鬼術は『鬼に対してのみ』効果を発揮します。なので宇随さんの体にあった毒"だけ"を燃やしたんです」

 

 

禰豆子は胸を張りながら説明をする。

 

 

「そんなことあり得るのかよ…?地味に混乱するぜ…」

 

 

「まぁ誰しも最初は納得しませんよ。現に俺だって疑いましたから。それに言うでしょ?『百聞は一見にしかず』と」

 

 

そこに炭華におんぶされている一刀が現れた。

 

 

「随分とやられましたね」

 

 

「そう言うお前だって最後の攻撃を派手に喰らっていたじゃねぇか。毒は大丈夫なのか?」

 

 

「えぇ、禰豆子のおかげで綺麗さっぱり無くなりました。でもまだふらつきますね。炭華、ここで下ろしてくれ」

 

 

一刀は炭華にお願いして下ろして貰い、腰を落ち着けた。

 

 

「一刀さん、私たちは鬼の頚を探しに行きます。確認するまでは安心できませんので」

 

 

炭華と禰豆子は一礼をしてその場を去った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後炭華と禰豆子が一刀たちの所へ戻ると、そこには"先客"がいた。

 

 

「ふぅんそうかふぅん。伍ね下から二番目だ上弦の。伍とはいえ上弦を倒したわけだ、実にめでたいことだな。伍だがな。褒めてやってもいい」ネチネチ

 

 

その先客とは、応援に来た『蛇柱・伊黒小芭内』だった。小芭内は天元たちを見下しながらネチネチ言っていた。

 

 

「左目と左手を失ってどうするつもりだ?たかが上弦(・・・・・)の伍との戦いで復帰までどれだけかかる?その間の穴埋めは誰がするんだ?」ネチネチ

 

 

小芭内なネチネチと天元に質問をする。

 

 

「悪いが俺は"柱を引退"する。流石にもう柱として戦えねぇ。お館様も許して下さるだろう」

 

 

何と天元は"柱を引退する"と言ったのだ。

 

 

「ふざけるな俺は許さない。ただでさえ若手が育たず死んでいるんだ。柱は煉獄が抜けた後そこの北郷が柱になったが、お前が抜けたら空席が出る。お前程度でもいないよりはマシだ、死ぬまで戦え」ネチネチ

 

 

だが小芭内はそれを許さず戦えと言う。

 

 

「お言葉ですが、若手は育っていますよ?」

 

 

そこに一刀が口を挟む。

 

 

「あぁ一刀の言う通りだ。育ってるぜ?"お前の大嫌いな若手"がな」

 

 

天元も一刀の口に乗っかる形で言った。そして小芭内は"それだけ"で"誰のこと"か分かってしまった。

 

 

「…まさか、生き残ったのか?この戦いで。竈門炭華と竈門禰豆子が」

 

 

「「はい、生き残りました」」

 

 

「!?」バッ

 

 

小芭内は声がした後ろの方を振り向くと、そこには炭華と禰豆子がいた。因みに一刀と天元は"見えていた"のだが、小芭内と彼の首に巻き付いている相棒の鏑丸(かぶらまる)は話に集中していた性か、気配を感じるのが疎かになっていた。

 

 

「お帰り、二人とも。鬼はどうなっていた?」

 

 

「上弦の伍は完全に崩壊しました」

 

 

「私とお姉ちゃんが確かに確認しました」

 

 

一刀の質問に二人は答えた。

 

 

「そうか、ご苦労様。頭撫でてあげるからこっちにおいで」

 

 

「「は~い❤️」」

 

 

一刀に言われ二人は一刀の側まで向かう。そして一刀が二人の頭を優しく撫でると

 

 

「「はにゃ~ん❤️」」

 

 

幸せそうな表情で蕩けてしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

ここは人喰い鬼の始祖『鬼舞辻無惨』の根城である『無限城』。そこに"虹色な瞳"に"上弦"、"弐"と刻まれている『上弦の弐・童磨』が現れた。

 

 

「ヒョヒョヒョ、これはこれは童磨殿。お久しぶりですなぁ、かれこれ九十年ぶりですかな?」

 

 

すると"壺"から現れたのは小さい無数の手と、魚のヒレのような耳、そして"目"がある所に"口"があり、"口"がある所と額に"目" がある異形の鬼『上弦の肆・玉壺』だった。

 

 

「やぁ玉壺、久しぶり!お前がくれた壺、女性の生首を生けて俺の部屋に飾ってあるよ~!」

 

 

童磨は"笑いながら"玉壺に話す。

 

 

「怖ろしい怖ろしい。暫く会わぬ内に玉壺は数も数えられなくなっておる。呼ばれたのは百十三年振りじゃ。割り切れぬ数字…、不吉な丁、奇数!怖ろしい怖ろしい…」

 

 

その近くには頭の(コブ)が異様にデカい小型の鬼『上弦の参・半天狗』が玉壺を貶していた。

 

 

「あれは首を生ける物では無い…、だがそれもまたいい」

 

 

童磨の『壺の間違った使い方』をされて玉壺は少し引いていた。

 

 

「鳴女殿、『黒死牟』殿はもうお見えかな?」

 

 

童磨は自分たちを呼んだ琵琶を持った女の鬼『鳴女』に質問をする。

 

 

「『上弦の壱』様は最初にお呼びしました。ずっとそこの座敷にいらっしゃいますよ」

 

 

鳴女が言った場所に童磨が目を向けると、そこには座敷に座っている侍の鬼『上弦の壱・黒死牟』がいた。

 

 

「私は…ここにいる……、無惨様が…御見えだ…」

 

 

すると童磨たちの頭上、天井の所に無惨が"逆さま"の状態で薬を調合していた。

 

 

「妓夫太郎が死んだ。上弦の月がまた欠けた」

 

 

「誠に御座いますか!それは申し訳ありませぬ!妓夫太郎は俺が紹介した者故…、どのように御詫び致しましょう?目玉をほじくり出しましょうか?それとも…」

 

 

「貴様の目玉など必要無い。妓夫太郎は負けると思っていた。案の定堕姫が足手纏いだった」

 

 

童磨の言葉を無惨は一蹴した。

 

 

「始めから妓夫太郎が戦っていれば…いや、もうどうでもいい。私はもうお前たちに期待しない」

 

 

「産屋敷一族を未だに葬っていない。"青い彼岸花"も見つけていない。私は…貴様らの存在理由がわからなくなってきた」

 

 

無惨は怒りを露にする。その怒りに黒死牟、童磨、半天狗はうちひしがれる。

 

 

無惨様!私は違います!貴方様の望みに一歩近づくための情報を私は掴みました!ほんの今しがた……

 

 

そこで玉壺の言葉が切れる。その理由は

 

 

「私が嫌いなものは"変化"だ。状況の変化、肉体の変化、感情の変化。(あら)ゆる変化は殆んどの場合"劣化"だ。衰えなのだ」

 

 

無惨が玉壺の頚を持っていたからだった。

 

 

「私が好きなものは"不変"。完璧な状態で永遠に変わらないこと」

 

 

「百十三年振りに上弦を、それもこの半年の内に"二体"も殺されて私は不快の絶頂だ。まだ確定していない(・・・・・・・・・)情報を嬉々として伝えようとするな」

 

 

無惨は掴んでいた玉壺の頚を無造作に放り投げた。

 

 

「私は"上弦だから"という理由でお前たちを甘やかしすぎたようだ。これからは死に物狂いでやった方がいい。玉壺、情報が確定したら(・・・・・・・・)半天狗と共に其処へ向かえ」

 

 

ベベンッ

 

 

無惨はそこまで言うと、鳴女の血鬼術で姿を消した。

 

 

鳴女殿、私と半天狗を同じ場所へ飛ばして下され!

 

 

ベベンッ

 

 

鳴女は玉壺に言われた通り、半天狗と玉壺を同じ場所に飛ばした。

 

 

「童磨よ…、私も居ぬ……。鳴女よ…頼む……」

 

 

ベベンッ

 

 

鳴女は黒死牟を飛ばし、無限城に残ったのは童磨と鳴女だけとなった。

 

 

「お~い鳴女殿!もし良かったらこの後俺と「お断りします」…」

 

 

ベベンッ

 

 

童磨は鳴女をデートに誘おうとした時に童磨の心情を察した鳴女は即座に断り、童磨を飛ばした。

 

 

「失礼します。教祖様、信者の方がお見えです」

 

 

「ああ本当かい?待たせてすまないね。じゃあちょっとこれかぶってから。どうぞどうぞ、入って貰っておくれ」

 

 

童磨は懐に入れていた帽子を被って信者の入室を促した。

 

 

 



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第拾漆話

 

 

吉原遊郭の任務が無事?に終わった途端、一刀は意識を手放した。その理由は終ノ型である『紅蓮朱雀』のデメリットによるものだった。そして隠によって蝶屋敷へと運ばれた。

 

 

「う…ん…」

 

 

一刀が蝶屋敷に運ばれてから二ヶ月後、一刀は目覚めた。

 

 

「ここは…」

 

 

一刀が目覚めた場所は蝶屋敷の自分の部屋だった。

 

 

ガシャン

 

 

「一刀…?」

 

 

そこに花瓶を持った華琳が入室し、一刀が目覚めたことに驚いて持っていた花瓶を落としてしまった。

 

 

「か…りん……?」

 

 

「一刀!」

 

 

華琳は思わず寝ている一刀に抱きついた。

 

 

「バカ…、バカぁ…。あなた、二ヶ月もの間、ずっと寝たきりだったのよ!?私たちがどれだけ心配したか分かってるの!?また…、"あの時"……のように、ウクッ、いなくなっ…ちゃうんじゃ…、グスッ、ないかって…(泣)」

 

 

華琳は嗚咽を洩らしながら一刀に強く抱きついた。まるで『もう二度と離さない』ように。華琳のその姿を見た一刀は腕を少しずつ動かし、そして華琳の頭に手を置いた。

 

 

「大丈夫だ…。『俺はここにいる』……。もう二度と、華琳たちを置いて…いなくなったりは、しないさ……」ナデナデ

 

 

一刀は華琳の頭を撫でながら慰める。

 

 

「グスッ…、絶対よ?」

 

 

華琳は涙目で一刀を見て、一刀は頷いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから数分後、一刀から離れた華琳は割れた花瓶を片付けて退室した。そして更に数分後、廊下を走る音がしたと思うと、アオイ、なほ、すみ、きよの四人が慌てて入室した。

 

 

四人が言うには、華琳から一刀が目覚めたことを聞き、急いで来たようだった。

 

 

「皆、心配掛けて……、すまない…」

 

 

一刀は寝た状態で謝る。

 

 

「全くですよ!悪いと思っているなら"貴方の人生"を持って償って下さい!」

 

 

アオイが腰に手を当てて『ビシリッ』と人差し指で一刀を指す。

 

 

「???」

 

 

一刀は訳が分からず頭に"?"を浮かべる。

 

 

「つ、つまり!これからは『私と一緒に居て下さい!』と言うことです!は、恥ずかしいので何度も言わせないで下さい!」

 

 

アオイの突然のプロポーズに一刀は思考が追い付かなかった。

 

 

「「「「ちょっと待った!」」」」

 

 

アオイのプロポーズに待ったを掛けた人たちがいた。アオイたちは声がした方を振り向くと、炭華、禰豆子、しのぶ、真菰の四人が入室していた。

 

 

「アオイ、何勝手に一刀さんに求婚しているんですか?(怒)」

 

 

しのぶは『笑っていない笑顔』で鳩尾を殴るジェスチャーをしながらアオイに質問をしていた。

 

 

「そうですよ!一刀さんと結婚するなら一刀さんに『美しい』と言われた私が相応しいです!」

 

 

ここぞとばかりに禰豆子が遊郭で一刀に言われたことを言った。

 

 

「私も同じです!私と禰豆子は遊郭で『男の喜ばせ方』を教わったので、一刀さんを満足させられるのは、私たち竈門姉妹です!」

 

 

炭華も禰豆子に乗っかりアピールする。

 

 

「それだったら、いつも一刀さんと『一緒に寝ている』私の方が軍配は上がるわね!だって一刀さんの弱い所、知ってるもん!」

 

 

真菰も負けじと一刀にアピールをする。

 

 

「しのぶ様はともかく、貴女たちの"貧相な胸"では一刀さんを満足させられません!」フフンッ

 

 

アオイは自分の胸を持ち上げながら鼻で笑う。

 

 

「「「言ったな~!(怒)」」」

 

 

胸が大きくない三人はアオイの挑発に乗ってしまう。

 

 

ギャ~ギャ~ギャ~

 

 

遂には取っ組み合いの喧嘩にまで発展しそうになる。

 

 

パンパンッ!

 

 

「はいはい、そこまでにしなさい!あんまり騒がしくすると、一刀に"嫌われる"わよ?」

 

 

そこに華琳が手を叩きながら喧嘩を静める。"嫌われる"というフレーズを聞いた面々は黙ってしまった。

 

 

「ごめんなさいね一刀。騒がしかったでしょう?」ナデナデ

 

 

華琳は一刀の頭を撫でながら謝る。

 

 

「別に気にすること無いのに…」

 

 

一刀は気にして無いと言って皆を許した。

 

 

「そう言えば、春蘭たちは?あいつらならいの一番に騒ぐのに…」

 

 

一刀は春蘭たちが来ていないことに疑問を浮かべる。

 

 

「お生憎様、春蘭、凪、沙和、真桜は『最終選別』を受けに藤襲山へ昨日出立したわよ。貴方が手配した刀を持ってね。桂花、稟、風の三人はカナエさんと一緒に買い出しに行っているわよ?」

 

 

華琳が春蘭たちが来ない理由を述べた。

 

 

一刀は遊郭に向かう前に四人に合わせた刀を自分の担当刀鍛冶である鉄穴森に頼んでいたのだ。そして鉄穴森は一刀が寝ている間に蝶屋敷を訪れ、参加者の四人に刀を渡していたのだった。その際、遊郭の戦いで刃零れしてしまった一刀の刀も回収していたのだ。

 

 

「あの子たちの実力なら合格出来るでしょう。今のあなたの仕事は元気になって笑顔を向けてあげることよ」ポンポン

 

 

華琳は一刀の頭を軽く叩きながら眠りを誘う。

 

 

「子供…扱い……する…な…」zzz

 

 

まだ体に疲れが残っていたのか、一刀は再び眠りについた。

 

 

さぁ貴女たち、一刀を起こさないように静かに退室しましょう

 

 

は~い

 

 

女性陣は華琳に促され一刀の部屋を退室する。

 

 

お休みなさい、一刀

 

 

チュッ❤️

 

 

華琳はさりげなく一刀の頬に口づけし、部屋を後にした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一刀が目覚めて一週間後、一刀は自力で歩けるまでに回復した。そして更に春蘭、凪、沙和、真桜の四人も最終選別に合格し、晴れて鬼殺隊の仲間入りを果たした。

 

 

一刀は四人が合格したことを我がことのように喜び、四人もまた、一刀が目を覚ましたことに喜んだ。

 

 

そしてこの日は一刀の屋敷『空屋敷』が完成する日でもあった。一刀は華琳、桂花、稟、風、凪、沙和、真桜、春蘭、秋蘭の九名を連れて空屋敷へと訪れていた。

 

 

「へぇ~、これが空屋敷か~」

 

 

「前来た時はまだ柱だけだったものね」

 

 

一刀と華琳は感傷深くなっていた。

 

 

「華琳様は一度一刀と共に此方に?」

 

 

「えぇ、視察も兼ねて…ね」

 

 

秋蘭の問いに答える華琳は、どこか嬉しそうだった。

 

 

「ここなら蝶屋敷が近いからまた皆と集まれるの~」

 

 

「せやな。しのぶさんたちはホンマ優しい人たちやったで」

 

 

沙和と真桜はここから蝶屋敷に通うつもりなのか、そんな話をしていた。

 

 

「沙和と真桜は直接的な鬼殺はしないんだっけ?」

 

 

一刀はふと思い出したことを二人に質問する。

 

 

「そうなの!沙和は隠の"縫製係"に入るの~!」

 

 

「ウチは鉄穴森はんがいる『刀鍛冶の里』に行ってその技術を会得するつもりや」

 

 

沙和は隠の縫製係に入ることを、真桜は刀鍛冶の里に行くことを一刀に言う。

 

 

「そうか、正に"適材適所"だな。サボったりせず頑張れよ」

 

 

「「了解なの(や)!」」

 

 

一刀の激励に二人は元気よく答える。

 

 

「そう言えば、秋蘭は最終選別に"行かなかった"んだよな。何でだ?桂花たち軍師ならともかく…」

 

 

「鬼殺隊の殆んどが剣を持って戦うだろ?接近戦が得意な姉者とは違って、私は弓、つまり遠距離戦が得意なんだ。鉄穴森殿に尋ねてみたが、やはり弓矢となると勝手が違うそうでな。断念したという訳だ」

 

 

一刀は秋蘭が最終選別を受けなかったことに疑問を感じ、質問をすると、秋蘭は他者が納得するような返答をした。

 

 

「と言う訳で、これからは華琳様たち同様、お前を支える立場に回るつもりだ。嫌と言う訳ではあるまい?」

 

 

秋蘭は一刀の顔を見ながら微笑む。

 

 

「誰が嫌なんて言うもんか。俺は向こうの世界では、ずっと皆の背中を見ている"だけ"だった。けど、この世界では俺が皆を守ってやれるんだ。自分を支えてくれる女を棄てる男には、俺は成りたくない」

 

 

一刀は皆の顔を見ながらそう言うと、皆は顔を赤くした。

 

 

「全く、そう言うタラシな所は相変わらずね」

 

 

「タラシで悪いか。こんなこと言うのはお前たち"だけ"だ」

 

 

一刀も照れ臭いのか、華琳たち同様、顔を赤くしていた。

 

 

「さ、さぁさぁ。こんな所に突っ立ってないで中を見ましょう!」

 

 

場の空気を和ませようと、華琳が話を反らし、皆は空屋敷へと入って行った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

空屋敷が完成してから数日後、一刀の拠点は蝶屋敷から空屋敷へと変わり、一刀たち三國志組は引っ越し作業に追われていた。そして今日、蝶屋敷の面々の力を借りてやっと引っ越しが終わったのだった。

 

 

「やれやれ、やっと終わったか~」

 

 

一刀は空屋敷の縁側に座り一息着いていた。

 

 

「お疲れさま、一刀」

 

 

そこに華琳が現れ、一刀の左側に座った。

 

 

「華琳こそお疲れさま。まさかアオイたちがあそこまで駄々を捏ねるとは思わなかった…」

 

 

実は一刀が空屋敷に引っ越しする際、アオイと真菰は密かに一刀の私物を"隠していた"のだった。しかも隠し場所は自分の部屋の"下着を入れている箪笥の中"だったこともあり、引っ越し作業が中々進まなかったのだ。

 

 

しかし桂花たち軍師組が一刀の私物の隠し場所を推理し、悉く見つけてしまい、最終的には一刀にしがみつく始末になっていたのだった。

 

 

「まぁそれだけ貴方が慕われている証拠よ。全く、あの子たちまで堕とすなんて、『魏の種馬』は健在ね」

 

 

「不名誉な称号をありがとう。でも、慕われているのは嬉しいな」

 

 

一刀は頬を掻きながら照れていた。

 

 

「あのねぇ、どこに皮肉に礼を言う人がいるのよ!?」

 

 

華琳は一刀の左頬を摘まむと、そのまま横に引っ張った。

 

 

いふぁふぁふぁふぁふぁっ(いたたたたたっ)いふぁいよ(痛いよ)ふぁひぃん(華琳)

 

 

頬を引っ張られている性か、一刀は上手く発音出来ないでいた。

 

 

「ふんっ、自業自得よ!」

 

 

一刀の頬を離した華琳は自分の頬を膨らませてそっぽを向いた。

 

 

「痛てててて。華琳、もしかして、嫉妬しているのか?可愛い所あるじゃないか」ナデナデ

 

 

一刀は引っ張られていた頬を右手で摩りながら左手で華琳の頭を撫でる。

 

 

「にゃっ!?にゃににゃで(なに撫で)てるにょ()よ!?」

 

 

華琳は撫でられて動揺したのか、猫のような喋り方になっていた。

 

 

「なに動揺してんだよ?これくらいいつものことじゃないか」

 

 

一刀は華琳の頭を撫でるのを止めて立ち上がる。

 

 

「あら一刀、どこ行くの?」

 

 

「道場だよ。ちょっと体を動かしてくる」

 

 

そう言って一刀は道場へ向かった。

 

 

「…何よ。頭、もっと撫でてもいいのに…」

 

 

縁側に残った華琳は一人呟いていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「チェスト~!」

 

 

「ハアァアァ!」

 

 

一刀が道場に到着すると、そこには既に先客がいた。その先客とは、春蘭と凪だった。二人は各々の得物を使い、稽古をしていた。

 

 

「二人とも、稽古に精が出るな」

 

 

「「一刀(隊長)」」

 

 

稽古が一段落着いた所で一刀が二人に声を掛け、二人は一刀の方に振り向く。

 

 

「何だ一刀、お前も訓練か?」

 

 

「しようと思って此処に来たら、二人が先に稽古していたからね。少々見物させて貰ったよ。凪、強くなったな」ナデナデ

 

 

「あ、ありがとうございます…(照)」

 

 

凪は一刀に頭を撫でられて嬉しそうに照れていた。

 

 

「一刀、もし良かったら私と稽古しないか?」

 

 

そこに春蘭が一刀に稽古の提案をした。

 

 

「構わないぞ。それじゃ準備するからちょっと待ってて」

 

 

一刀は春蘭に断りを入れて木刀を置いているスペースに行き、そこから一本の木刀を手にする。

 

 

「お待たせ、先手は春蘭に譲るよ。どこからでも掛かって来な」

 

 

一刀は木刀を正眼に構え、春蘭に先手を譲った。

 

 

「それでは僭越(せんえつ)ながら私『楽進文謙』が審判を勤めます。それでは、始め!」

 

 

「なら遠慮無く行くぞ!チェスト~!」

 

 

ブォンッ

 

 

凪が審判を買って出て、号令をする。春蘭は木刀を振りかぶり一刀に突進する。そして木刀をそのまま振り下ろし一刀は当たりそうになる。

 

 

『全集中 空の呼吸 陸ノ型 白鳥ノ舞』

 

 

が、一刀は正眼の構えのまま陸ノ型を使い、春蘭の攻撃を避けた。

 

 

『全集中 空の呼吸 壱ノ型 燕返し』

 

 

バシッ バシッ バキッ

 

 

そして春蘭の木刀目掛けて壱ノ型を繰り出し、春蘭の木刀をへし折った。

 

 

「そこまで!この稽古は隊長の勝ちです」

 

 

凪の号令で二人は構えを解き、木刀を下げた。

 

 

「"今回"は、正式に私に勝ったな」

 

 

「あぁ、"前回"は俺が逃げ回ったり、俺に有利な決まりを決めたり、最終的には搦め手を使って勝ったり。華琳にも言われたけど、『搦め手も一つの策だから恥じることは無い』って」

 

 

「フフッ、そうか」

 

 

一刀と春蘭は、互いを見ながら笑い合った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから一刀は凪とも稽古をし、汗を流すために風呂に入った。しかもどこから嗅ぎ付けたのか、一刀の背中を流そうと桂花が乱入し、一悶着あった。

 

 

そして風呂から上がった一刀は、縁側で火照った体を冷やしていた。

 

 

「一刀、刀鍛冶の里にいる鉄穴森殿から手紙を預かって来たぞ」

 

 

そこに一刀の鎹鷲の『イーグル』が飛んで来て、一刀の左肩に止まった。その足には、手紙が括り付けられていた。

 

 

一刀はその手紙を受け取り、その場で読む。すると一刀の表情が険しくなった。一刀は立ち上がり、自分の部屋に来ると、着ていた浴衣を脱ぎ、隊服に着替える。そしていつもの格好になると、凪と真桜から返された刀を腰に差す。

 

 

「イーグル、刀鍛冶の里まで案内出来るか?」

 

 

「無論だ」

 

 

一刀はイーグルに道案内を頼み、空屋敷を出る。そしてイーグルの案内の下、刀鍛冶の里へ急いだ。

 

 

 



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第拾捌話

 

 

イーグルの案内の下、一刀は刀鍛冶の里へ急いでいた。その理由は自分の担当刀鍛冶である鉄穴森からの手紙であった。

 

 

内容は『一刀の刀の修復が終わったので、受け取りに来てほしい』と言う内容だった。

 

 

しかし通常では急ぐ必要は無い。だが一刀は急いでいた。何故なら、手紙を読んだ瞬間、何か言葉に出来ないような気持ちが沸いたからだった。

 

 

まるで『刀鍛冶の里が鬼に襲われる』かも…と。

 

 

「(俺の取り越し苦労ならいいけど、拭いようの無いこの気持ち…。何かあるのか?)」

 

 

一刀は走るスピードを速め、刀鍛冶の里に向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「これは…!俺の嫌な予感が当たっちまったか…!」

 

 

一刀が見た光景は、刀鍛冶の里が金魚のような怪物に襲われている光景だった。

 

 

「皆を守らないと!『全集中 空の呼吸 参ノ型 隼一閃』!」

 

 

一刀は念のために持っていた刀で怪物たちの頚を斬る。しかし怪物たちは切断箇所から"頚を再生"させ、標的を一刀に定めた。

 

 

「んなっ!?こいつら頚を斬っても崩壊しねぇ!?鬼じゃねぇのか!?」

 

 

一刀は怪物の『ひっかく』攻撃や『かみつく』攻撃を避けながら怪物の倒し方を模索する。しかし刀鍛冶の里まで休み無しで、しかも全力疾走をした一刀の体は既に限界を迎えており、避けて着地した瞬間、足が縺れて転倒してしまった。

 

 

ガクッ「しまっ…!?」ドサッ

 

 

一刀は起き上がろうとするが、手足に力が入らず、起き上がれなかった。そして怪物の爪がうつ伏せになっている一刀の背中を引っ掻こうとして一刀が目を瞑った時

 

 

『恋の呼吸 壱ノ型 初恋のわななき』

 

 

ズバッ

 

 

怪物は突如斬り刻まれ、崩壊した。一刀は未だに来ない痛みに不審を感じ、恐る恐る目を開ける。

 

 

「一刀君、大丈夫!?」

 

 

一刀の視界に入ったのは、『恋柱・甘露寺蜜璃』だった。

 

 

「か…、甘露寺…さん」

 

 

一刀はお礼を言うために起き上がろうとするが

 

 

「一刀君、動かないで!イーグルさんから事情は聞いたわ。貴方の体は休憩無しの全力疾走で悲鳴を上げているわよ?暫くはここで休んでいてちょうだい。里の人たちは私が守るから」

 

 

蜜璃はそう言って襲撃を受けている所へ向かった。一刀はうつ伏せの状態から仰向けの状態になると、天を仰いだ。

 

 

「俺…、何やってんだろうな…」

 

 

一刀は今、自分の無力さに嘆いていた。

 

 

「無理も無い。お前は今まで休み無しで走り続けたのだからな」

 

 

すると側にイーグルが降り、一刀を励ました。

 

 

「今お前がすべきことは、"鬼を狩る"ことでも"刀を受け取る"ことでも無い。"体を休める"ことだ」

 

 

イーグルはそう言って一刀の側から飛び立った。

 

 

「イーグル…、ありがとう」

 

 

一刀は相棒に礼を言いながら体を休めた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから約二時間後、一刀の体から疲れが殆ど抜け、鬼狩りに支障が出ない程にまで回復した一刀は里を蜜璃に任せて鬼の気配がする方へ向かっていた。

 

 

「(鬼の気配を"複数感じる"。一番近いのは…)こっちか!」

 

 

一刀は鬼の気配を察知し、その場所へ向かう。そして到着した場所は一軒の小屋だった。だが、"何かがおかしい"。そう、"巨大な水の鉢"に『霞柱 時透無一郎』が逆さまに閉じ込められていたのだった。

 

 

『全集中 空の呼吸 弐ノ型 鷹爪』

 

 

一刀は抜刀し、無一郎を傷付けないようにしながら四連続の突きを鉢に打ち込む。すると鉢は割れ無一郎は無事救出された。

 

 

「ゴホッ、ゴホッ、ガハッ」

 

 

肺に水が入ったのか、無一郎はその場に踞り咳き込む。一刀は納刀しながら無一郎に近づき、背中を擦る。

 

 

「大丈夫か?無一郎」

 

 

「ありがとう。大丈夫です、"北郷さん"」

 

 

無一郎は顔や体に刺さっている針を抜きながら一刀に礼を言う。

 

 

「俺のことは"一刀"でいい。同じ"柱"で"同期"だろう?」ナデナデ

 

 

一刀は無一郎の頭を無意識に撫でる。すると無一郎は少しだけ頬を染めた。

 

 

だがそこに鰭が刃物になっている金魚の怪物が襲い掛かる。

 

 

『全集中 空の呼吸 伍ノ型 荒鷲』

 

 

けれどその怪物は一刀の手によってバラバラにされた。

 

 

そして一刀は無一郎と共に小屋に入る。するとそこには、血塗れになりながらも刀を研いでいる男と壺から出ている異形の鬼・玉壺がいた。

 

 

無一郎はその鬼の頚に向かって刀を振るう。しかし玉壺は無一郎たちの存在に気付き、刀から逃れる。

 

 

「ヒョヒョ、私の『水獄鉢』から出られるとは、流石は柱と言うべきか。ヒョ?そちらの方は初めて見る顔ですな、では自己紹介をば。私は『十二鬼月 上弦の肆・玉壺』と申します。以後お見知り置きを」

 

 

「俺は貴様のような『魚と油が腐敗し混ざり合った匂い』がする鬼とは仲良くはしない。大人しくその頚を差し出せ」チャキッ

 

 

玉壺の自己紹介を一蹴した一刀は切っ先を向ける。

 

 

「折角の人の行為を無下にするとは…、美に欠けますなぁ」

 

 

玉壺は『やれやれ』といった感じで頚を横に振る。

 

 

「貴様のような醜い鬼が"人"を語るな」

 

 

「そうだよ。分かったならさっさと斬られてくんない?」

 

 

「…貴方がたはつくづく私の神経を逆撫でしますねぇ…」

 

 

二人の態度に玉壺は青筋を浮かべながら『プルプル』と震えていた。

 

 

「そこまで言うなら、私の力見せて差し上げましょう!」

 

 

『蛸壺地獄』

 

 

玉壺が一刀たちに壺を向けると、そこから蛸の足か幾つも生え、一刀たちをも飲み込み、小屋が破壊された。小屋にいた男、『鋼錢塚蛍』は何とか逃げ延びたが、刀と砥石は手放さず、着地した瞬間、再び刀を研ぎ始めた。

 

 

「(あの男、まだ刀を研いでいる…。馬鹿か?真面(まとも)では無い…)それもまたよし…。あの刀鍛冶より柱だ」

 

 

玉壺が視線を向けた先には、蛸足に捕まった無一郎と鉄穴森がいた。一刀は蛸足に捕まる直前に『陸ノ型 白鳥ノ舞』と『玖ノ型 嘴広鸛』を使い、難を逃れた。

 

 

「先程は少々手を抜き過ぎた。今度は確実に潰して吸収するとしよう」

 

 

玉壺が言い終わると、突如無一郎と鉄穴森を捕まえていた蛸足が斬り刻まれた。無一郎は着地すると

 

 

「俺のために刀を作ってくれてありがとう、鉄穴森さん(・・・・・)

 

 

刀身がまるで霞のような白色の刀を持って鉄穴森に礼を言った。

 

 

「…いえ、私はただ貴方の最初の刀鍛冶の書きつけの通りに作っただけで……」

 

 

「そうだったね。鉄井戸(てついど)さんが最初に俺の刀を作ってくれた。あの優しい人は心臓の病気で死んでしまった……」

 

 

無一郎と鉄穴森が話している間、玉壺は蛸足の攻撃のタイミングを探していた。そして二人の話が終わったのを見計らって蛸足の攻撃を繰り出す。

 

 

『霞の呼吸 伍ノ型 霞雲の海』

 

 

しかし無一郎も玉壺同様、攻撃のタイミングを鉄穴森と話している間に見計らっていた。そして蛸足が攻撃するのと"同時"に蛸足を切り刻み、頚を斬ろうとする。

 

 

だが玉壺は即座に壺の中に引っ込み、木の上にある壺から出てくる。しかし完全に回避していた訳でも無く、玉壺の頚が若干斬られていた。

 

 

「……舐めるなよ?小僧…!」

 

 

「舐める?舐める訳無いじゃん。だって舐めたら汚いもん。舌が汚れるもん」

 

 

「そう言う意味では無いのだが…、それもまたいい」

 

 

売り言葉に買い言葉。玉壺と無一郎は互いに嫌味を言う。すると無一郎が不意に首を傾げた。

 

 

「ずっと気になっていたんだけど…、その壺、何か歪んでない?左右対称に見えないよ?」

 

 

無一郎の言葉は玉壺にとっては"禁句"だった。

 

 

それは貴様の目が腐っているからだろうがアアアア!!!

 

 

私の壺のオオオオ、どこが歪んでいるんだアアア!!!

 

 

『血鬼術 一万滑空粘魚』

 

 

案の定ブチ切れた玉壺は自分の手に壺を出し、そこから一万匹の魚を無一郎に向けて放つ。

 

 

「一万匹の刺客がお前を骨まで喰いつくす!!」

 

 

『霞の呼吸 陸ノ型 月の霞消』

 

 

『霞の呼吸 参ノ型 霞散の飛沫』

 

 

しかし無一郎は陸ノ型で魚を全て斬り、参ノ型で全てを弾き飛ばした。そして無一郎の刀が玉壺の頚を捉え、斬った。

 

 

はずだった。

 

 

無一郎が斬ったのは脱皮した玉壺の皮だった。

 

 

「お前には私の"真の姿"を見せてやる「はいはい」この姿を見せるのはお前で三人目「結構いるね」黙れ、私が本気を出した時生きていられた者はいない「すごいねー」口を閉じてろ馬鹿餓鬼が!!

 

 

「この透き通るような鱗は金剛石よりも尚硬く強い。私が壺の中で練り上げたこの完全なる美しき姿に平伏すがいい」

 

 

脱皮した玉壺の姿は下半身が海蛇のような形をしており、指には鋭利な爪と間に水掻きがあり、手から肩にかけて鱗がびっしり着いていた。

 

 

「………」

 

 

「何とか言ったらどうなんだこの木偶の坊が!!!本当に人の神経を逆撫でする餓鬼だな!!!」

 

 

「いやだってさっき『黙ってろ』って言われたし…、それにそんな吃驚しなかった…」

 

 

『し…』と言おうとした無一郎に玉壺が拳を振り上げ、そのままラッシュをする。すると殴られた所が魚になっていた。

 

 

「木の上に逃げるとは…、面倒なことだのう…」

 

 

無一郎は殴られる寸前に木の上に退避していた。が、玉壺の拳が擦っていたのか、無一郎の隊服の一部が魚になっていた。

 

 

「いや単純に生臭かったから。鼻が曲がりそうだよ」

 

 

無一郎は魚に変えられた隊服を払いながら退避した理由を言った。

 

 

「どうだね私のこの"神の手"の威力は?拳で触れたものは全て愛くるしい鮮魚となる。そしてこの速さ!!この体の柔らかさも強靭なバネとなり、さらには鱗の波打ちにより縦横無尽自由自在よ」

 

 

玉壺は自分の力を自慢する。

 

 

「ふぅん。でも、どんな凄い攻撃でも、当たらなかったら意味無いでしょ?」ニマー

 

 

無一郎は笑いながら玉壺を貶す。

 

 

「それに、忘れてない(・・・・・)?」

 

 

『全集中 空の呼吸 肆ノ型 雀ノ涙(すずめのなみだ)

 

 

ザシュ

 

 

「ヒョ?」

 

 

「俺の他に誰かいた(・・・・)ことを」

 

 

ゴトリ

 

 

玉壺の頚が地面を転がる。玉壺の視界に入ったのは刀を振り抜いた一刀だった。

 

 

「(しまった!もう一人(・・・・)いたのを忘れてた!まさか今まで"気配を消していた"なんて…)」ボロボロ

 

 

玉壺は崩れ逝く中、一刀の存在を忘れていたことを後悔していた。

 

 

「貴様の壺の"色彩"と絵柄"は美しかった。だが…」

 

 

一刀は玉壺の作った壺の色彩と柄を褒め、一度口を閉ざす。

 

 

「あの壺の形にあの絵柄は無いわァ。今度生まれ変わる時には、もう少し勉強をした方が良いぞ?」

 

 

そして口を開いた一刀の言葉は、玉壺の壺を"否定する"言葉だった。

 

 

「この…蛆虫…共…が……」

 

 

玉壺はそれだけ言って崩壊した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「時透殿、北郷殿!大丈夫ですか!?」

 

 

「あ、鉄穴森さん。俺は大丈夫ですよ」

 

 

木の上から降りた無一郎とその側にいた一刀の下へ鉄穴森がやって来た。

 

 

僕も大丈夫。今すごく気分がいいんだ。それにすぐ炭華たちの所へ行かないと

 

 

一刀は大丈夫そうだったが、無一郎は明らかに無理している感じだった。

 

 

「顔色がものすごく悪いんですが、本当に大丈夫ですか?」

 

 

鉄穴森も無一郎を心配しているのか、無一郎に質問をする。

 

 

僕のことはいいから、こてつくんのところへいってくれないか…

 

 

ガスッ

 

 

ドサッ

 

 

そこに一刀が無一郎の首に手刀を当てて気絶させ、横向きに寝かせた。

 

 

「明らかに大丈夫では無さそうだったから、気絶させた」

 

 

一刀は悪びれる様子も無く淡々と言った。

 

 

「そ…、そうでしたか…。あ、いけない!崩壊した小屋にお預かりしていた北郷殿の刀もあったんだ!」

 

 

鉄穴森は急いで崩壊した小屋に向かおうとすると

 

 

「その刀って、これですか?」

 

 

そこに鉄穴森と同じ火男(ひょっとこ)のお面をした少年が一刀の刀を持って現れた。

 

 

「おぉ小鉄少年!無事だったか!怪我は大丈夫なのかい!?腕やら腹やら斬られていたけれど!」

 

 

鉄穴森は小鉄と呼ばれた少年の周りをぐるぐると回る。

 

 

「大丈夫じゃ無いです。腕の傷はわりと深くて今でも押さえていないと血が止まんないんです。あと腹の方は…」

 

 

小鉄は腕の傷を体で押さえつけながら懐を探る。

 

 

「炭華さんから預かってたこの"鍔"を入れていたので助かりました。もしこれが無かったら今頃内臓を撒き散らして死んでいたでしょうね」

 

 

小鉄が懐から出したのは、『元炎柱・煉獄杏寿郎』が使っていた刀の鍔だった。

 

 

実は炭華は無限列車の任務の後、杏寿郎の生家である『炎屋敷』に禰豆子と一緒にお邪魔しており、帰り際に杏寿郎"本人"から受け取っていたのだった。そしてその鍔を"お守り"のように大切に持っており、今回、小鉄に預けていたのだった。

 

 

「きっと杏寿郎さんや炭華ちゃんが君を守ってくれたんだろう」ナデナデ

 

 

一刀はしゃがんで小鉄の頭を撫でる。小鉄はお面で顔が分からないが、嬉しそうにしていた。

 

 

「今から君の腕を止血する。じっとしていてくれ」

 

 

ビリビリッ

 

 

一刀は羽織っていた自分の羽織を外し、それを引き裂いて包帯状にする。そして引き裂いた羽織で出来た包帯を小鉄の傷口と上腕部(脇の付け根)に巻き付けた。

 

 

「これで…、良しっ!」

 

 

最後に腕を固定させて一刀の応急措置は完了した。

 

 

「これはあくまでも"応急措置"だ。後日、鬼殺隊の"蝶屋敷"に来るといい。俺の名を出せば大丈夫だ」

 

 

一刀は小鉄に蝶屋敷に向かうことを勧めた。

 

 

「ありがとうございます。それとこれを…」

 

 

小鉄は治療中、一刀の刀を地面に置いており、それを拾い上げて一刀に差し出した。

 

 

「ありがとう」

 

 

一刀は小鉄にお礼を言って刀を受け取った。

 

 

「北郷殿、どうでしょうか?刀がかなり刃零れや磨耗が激しかったので、改めて打ち直したのですが…」

 

 

彼の担当刀鍛冶である鉄穴森は内心ドキドキしながら一刀に聞く。

 

 

「えぇ握り心地や使い勝手はいつも通り最高です。鉄穴森さん、わざわざ打ち直してくれて、ありがとうございました」

 

 

一刀は鉄穴森に向かって頭を下げる。

 

 

「いえいえ!私の方こそありがとうございます。刀がこんなになるまで使って頂いて!貴方の担当刀鍛冶として誇らしく思いますよ!」

 

 

鉄穴森も一刀に向かって慌てて頭を下げる。

 

 

「俺たち鬼殺隊は貴方たち刀鍛冶の方がいなければ鬼を倒すことができない。これからも、よろしくお願いします」

 

 

一刀は頭を下げたまま鉄穴森に礼を言った。そしてその言葉は二人の会話の途中から目を覚ましていた無一郎も聞いていた。

 

 

 



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第拾玖話

 

 

『十二鬼月 上弦の肆・玉壺』との戦いに勝利した一刀たちは束の間の休息を取っていた。

 

 

ドゴンッ

 

 

「な…、何だ今の音は!?」

 

 

休憩のために座っていた一刀が立ち上がり、刀に手を掛けて周囲を探る。

 

 

「きっと炭華たちだ。音がした方角で多分戦っているんだよ」

 

 

無一郎も起き上がり、一刀に事情を説明する。

 

 

「んなっ、炭華ちゃんたちもこの里に来ているのか!?」

 

 

「あれ?僕言って無かったっけ?」コテンッ

 

 

驚く一刀に無一郎は首を横に傾けながら質問をする。

 

 

「いや、確かにそんなことを言っていた気が…」

 

 

一刀は朧気ではあるが、無一郎がそう言っていたことを思い出していた。

 

 

「とにかく、炭華"たち"が戦っているなら、早く助太刀に行かないと!鋼錢塚さん、失礼します!」

 

 

一刀は鋼錢塚がまだ研いでいる刀を奪い取り、音がした方へ走って行った。

 

 

「おい待て!その刀はまだ第一段階までしか研いでいないんだ!返せ!」

 

 

鋼錢塚が一刀が後を追い掛ける。無一郎と小鉄、鉄穴森は互いの顔を見た後、二人の後を追うように走った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ハァッ…、ハァッ…、ハァッ…。…!、見つけた!」

 

 

一刀は息を切らしながら森を出ると、そこには頚に刀を食い込ませた鬼と、その後を追う炭華の姿があった。

 

 

「間に合え…!オリャアッ!」

 

 

ブオンッ

 

 

一刀は力一杯刀を炭華に向けて投げる。すると刀はまるで"投げられた槍"の如く飛んで行き、炭華の目の前に刺さった。炭華が目の前に刀が現れたことに驚いていると

 

 

炭華~!

 

 

叫び声が聞こえたのでそちらを振り向くと、一刀が崖の上におり、炭華を見ながら頷く。そして炭華が目の前の刀を引き抜き、物凄い速さで鬼に近づくと

 

 

『円舞一閃』

 

 

一気に鬼の頚目掛けて刀を振り、頚を斬った。

 

 

炭華は禰豆子の方を向くと

 

 

「お姉ちゃん気を抜かないで!"鬼はまだ死んでない"!」

 

 

禰豆子は炭華の"向こう側"を指差して近づきながら叫んだ。炭華は禰豆子 が指差した方を向くと、頚を斬られた鬼がその先にいる刀鍛冶の人の方へ向かっているのが見えた。

 

 

炭華は斬った鬼の頚を見ると、その頚の舌には"恨み"の文字が書かれていた。

 

 

「("恨み"!?本体は"怯え"だったはず!?舌の文字が違う!)しくじっちゃった!早く止めを刺さないと!」

 

 

しかし炭華たちから鬼までの距離は開いており、今の炭華の体力では追い付く前に刀鍛冶の人が襲われてしまう。更に崖を降りている玄弥はともかく、一刀や追い付いた無一郎たちでさえも追い付くのは不可能であった。

 

 

「お姉ちゃん、行って!」

 

 

ブオンッ

 

 

「ッ!?、禰豆子!?」

 

 

すると禰豆子が炭華を鬼の方へ"投げ飛ばした"。炭華は着地すると同時に再び跳躍し、"匂い"で本体がいる箇所を見極める。彼女は段々と嗅覚を鋭敏にすると、何故か"見えている所"が透明になり、本体が隠れている箇所が明らかになった。

 

 

「(見つけた!心臓の中!)」

 

 

炭華は刀鍛冶の人を掴んでいる腕を斬ると

 

 

「その命をもって罪を償え!!!」

 

 

ザシュッ

 

 

鬼の体を袈裟斬りにし、心臓に隠れている本体の頚を斬った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「お姉ちゃん!」

 

 

「禰豆子!」

 

 

ダキッ!

 

 

鬼を倒した炭華は後から追い掛けて来た禰豆子と抱き合った。

 

 

「炭華ちゃん、禰豆子ちゃん!」

 

 

そこに一刀たちが崖から降り、炭華たちの所まで辿り着く。炭華と禰豆子は一刀の顔を見た瞬間、目尻に涙が溜まり、一刀に一直線に突進。そのまま抱きつき転倒した。

 

 

背中を地面に打ち付けた一刀は起き上がろうとすると、炭華と禰豆子は一刀の胸の上で泣きながらしがみついていた。一刀は二人の頭に手を乗せてゆっくりと撫でた。

 

 

「良かったな、炭華。禰豆子」

 

 

やっとの思いで崖から降りた玄弥はその光景を見て微笑んでいた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

炭華が討伐した鬼『十二鬼月 上弦の参・半天狗』が倒された時と同じ時、とある屋敷の一室、その部屋にいた"少年"は本棚にある本を散らかしていた。

 

 

「ついに…、ついに太陽を克服している者が現れた…!!でかした…、よくやったぞ半天狗!!」

 

 

"少年"は余りにも嬉しかったのか、その部屋に入室していた女性の首を"刎ねた"。女性と一緒に入室していたメイドが驚いていると

 

 

「これでもう"青い彼岸花"を探す必要も無い。クククッ、永かった…、しかしこの為…、この為に千年増やしたくも無い同類を増やし続けたのだ…!十二鬼月の中にすら現れなかった稀有な体質、選ばれし鬼…!"あの娘"を喰って取り込めば私も太陽を克服できる!」

 

 

"少年"は徐々に姿を歪め、二十代後半の青年の姿となった。だがその瞳は猫のように縦長で、指から伸びる爪は長く鋭く、口から見える歯も鋭くなり牙となっていた。

 

 

そう、この"少年"こそ鬼殺隊の怨敵、『鬼の始祖・鬼舞辻 無惨』だったのだ。

 

 

無惨は騒いでいたメイドの首も刎ね殺し、姿を消した。その後騒ぎを聞き付けた屋敷の者が部屋に雪崩れ込むと、首が無い女性とメイドの死体があるだけで、無惨はいなかった。屋敷の者は警察を呼び、殺人事件として捜査するが、犯人(無惨)は見つからなかった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

炭華たちは『刀鍛冶の里防衛戦』の後、傷ついた体を癒すために蝶屋敷で療養していた。

 

 

「そうなんですか…、もう拠点を移されるんですね…」

 

 

「"空里"って言うのが幾つも合ってな。こう言った襲撃に備えて作ってあるんだとよ」

 

 

炭華は見舞いに来ていた仲良しの隠の『後藤』から話を聞いていた。

 

 

「そう言えば、空柱様の知り合いの一人が移転に同行するって言ってたな、確か名前は…"李典"って言ってたかな?」

 

 

「あ、その人なら知ってますよ!」

 

 

炭華と後藤は様々な会話に花を咲かせていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

この日産屋敷邸では、『緊急柱合会議』が開かれていた。招かれた柱は風、蛇、恋、霞、岩、蟲、水、そして空である。一同は会議が開かれるまでの間を部屋で待っていた。

 

 

「あーあァ、羨ましいことだぜェ。なんで俺は上弦に遭遇しねぇのかねぇ」

 

 

実弥は未だに上弦に遭遇していなかったので、羨ましがっていた。

 

 

「こればかりはな、遭わない者はとんとない。甘露寺と時透、その後体の方はどうだ?」

 

 

小芭内が実弥を慰めつつ、二人の容態を聞いた。

 

 

「あっ、うん。ありがとう、随分よくなったよ!(伊黒さんが心配してくれてる!キュンキュンしちゃう!)」

 

 

「僕も…、まだ本調子じゃないですけど…」

 

 

蜜璃と無一郎は小芭内の質問にそれぞれ答える。

 

 

「これ以上柱が欠ければ鬼殺隊が危うい…。死なずに上弦二体を倒したのは尊いことだ」

 

 

行冥が涙を流しながら蜜璃と無一郎を褒める。

 

 

「今回のお二人ですが、傷の治りが異常に早いです。何があったんですか?」

 

 

しのぶが蜜璃と無一郎に傷の異様な治りについて質問をする。

 

 

「胡蝶、その件も含めてお館様からお話があるだろう。その後からでも遅くはないと思うが?」

 

 

義勇がしのぶに話し掛ける。

 

 

「………」

 

 

新しく柱となった一刀は緊急とは言え、柱合会議に参加するのが今回が初めてだったので、相当緊張していた。

 

 

「大変お待たせ致しました。本日の柱合会議、産屋敷耀哉の代理を産屋敷あまねが務めさせていただきます。そして当主の耀哉が病状の悪化により、今後皆様の前へ出ることが不可能となった旨、心よりお詫び申し上げます」

 

 

そこに耀哉の妻のあまねが入室し、会議の進行の代理や耀哉が床に伏せたことなどを説明しながら謝った。

 

 

ババッ

 

 

するとその部屋にいた柱全員が平伏した。この時、一刀は他の皆より若干、遅れて平伏した。

 

 

「承知…、お館様が一日でも長くその命の灯火燃やしてくださることを祈り申し上げる…。あまね様も御心強く持たれますよう…」

 

 

柱の代表として行冥が挨拶を返した。

 

 

「柱の皆様には心より感謝申し上げます。すでにお聞き及びとは思いますが、日の光を克服した鬼、竈門禰豆子様の存在を鬼側に感づかれました。鬼舞辻無惨は己も太陽を克服する為に目の色を変えて狙ってくるでしょう。大規模な総力戦が近づいています」

 

 

あまねは行冥の返事に感謝し、会議の議題を伝えた。

 

 

「上弦の参・肆との戦いで甘露寺様と時透様の御二人に独特な紋様の痣が発現したという報告が上がっております。御二人には痣の発現の条件を御教示願いたく存じます」

 

 

「痣…ですか?」

 

 

あまねの言葉に蜜璃が疑問を浮かべる。

 

 

「戦国の時代、鬼舞辻無惨をあと一歩という所まで追い詰めた始まりの呼吸の剣士たち(・・・・)。彼らには鬼の紋様と似た痣が発現していたそうです。伝え聞くなどして御存じの方は御存じです」

 

 

あまねの言葉に皆が驚いていた。

 

 

「ですので、何卒御教示願います。甘露寺様、時透様」

 

 

あまねは二人に対して頭を下げる。

 

 

「(あまね様素敵…!)はっはい!あの時はですね、確かに凄く体が軽かったです!えーっとえーっと…」

 

 

「"ぐあああ~"ってきました!"グッ"てしてぐぁーって心臓とかが"ばくんばくん"して耳が"キーン"てして"メキメキメキィ"って!!」

 

 

蜜璃の擬音だらけの説明に皆の目が点になっていた。実は甘露寺蜜璃は原作の炭治郎同様、『説明がド下手』だったのだ。

 

 

「甘露寺さん、それじゃ説明になりませんよ…」ボソッ

 

 

一刀は小声で呆れ、小芭内は自分の額に手を当てていた。

 

 

「申し訳ありません…、穴があったら入りたいです…」

 

 

蜜璃は余りもの恥ずかしさからか、その場に踞ってしまった。しのぶはさりげなく蜜璃にハンカチを手渡していた。

 

 

「痣というものに自覚はありませんでしたが、あの時の戦闘を思い返してみた時に思い当たること、いつもと違うことがいくつかありました。その"条件"を満たせば恐らくみんな痣が浮き出すと思います。今からその方法を御伝えします」

 

 

今度は無一郎が説明を始めた。

 

 

「前回の戦いで僕は毒を喰らい動けなくなりました。呼吸で血の巡りを抑えて毒が回るのを遅らせようとしましたが、僕を助けようとしてくれた少年が殺されかけ、以前の記憶が戻り強すぎる怒りで感情の収拾がつかなくなりました」

 

 

「その時の心拍数は"二百を越えていた"と思います。さらに体は燃えるように熱く、体温計の数字は"三十九度以上"になっていたはずです」

 

 

無一郎の丁寧な説明に皆が呆然としていた。

 

 

「ちょっと待ってください。そんな状態で動けますか?最悪命にも関わりますよ?」

 

 

そこに医術の知識があるしのぶが疑問を口にする。

 

 

「そうですね。だからそこが(ふるい)に掛けられる所だと思う。そこで"死ぬ"か"死なない"かが恐らく痣が出る者と出ない者の"分かれ道"です」

 

 

しのぶの疑問に無一郎は淡々と答えた。

 

 

「心拍数を二百以上に…、体温の方は何故三十九度なのですか?」

 

 

無一郎の説明にあまねが質問をする。

 

 

「はい。胡蝶さんの所で治療を受けていた際に僕は熱を出したんですが、その時に体温計なるもので計ってもらった温度三十九度が痣が出ていたとされる間の体の熱さと同じでした」

 

 

無一郎はあまねの質問に淡々と、分かりやすく答えた。

 

 

「チッ、そんな"簡単なこと"でいいのかよォ」

 

 

実弥は舌打ちしながら"痣の条件"を"簡単なこと"と言った。

 

 

「まて不死川、これは簡単なことでは無い。心拍数を二百以上、さらに体温を三十九度以上に保つ。これがどんなに難しいのか分かって言っているのか?」

 

 

そこに義勇が実弥の言葉を撤回させる。

 

 

「確かに。もし途中で体力などが尽きてしまったりしたら…」

 

 

「最悪、動けなくなり鬼の餌になる」

 

 

しのぶの懸念を一刀が口にする。それを聞いた柱は閉口した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

そして幾つかの話をして、会議は終わりあまねは退室した。

 

 

「皆に言っておきたいことがある」

 

 

すると不意に義勇が皆の方を向き、話し始めた。

 

 

「俺は今、水柱としてここにいるが、俺は正式に最終選別に合格してはいない」

 

 

「俺は同じ育手の下にいた"錆兎(さびと)"と一緒に受けたが、俺は初日に鬼の攻撃を受けて気絶してしまった。目が覚めたのは最終選別が終わった後だった。錆兎は一人で山にいる殆んどの鬼を斬ったんだ」

 

 

義勇は自分の過去の話を始めた。

 

 

「そう言えば聞いたことがあります。その最終選別では、『死者が一人"だけ"』だったとか…。でもその殆どが隊員では無く、隱になったり、辞退したりとか…」

 

 

しのぶは思い出したのか、その最終選別の死者の数を言った。

 

 

「最終選別で鬼を一体も斬っていない俺が柱…、いや、鬼殺隊に席を置くこと自体が烏滸がましいと思っている。だから…」

 

 

義勇が何かを言おうとした瞬間

 

 

バキィッ

 

 

「!!?」

 

 

『!!?』

 

 

一刀が義勇を"殴った"。

 

 

「な…、何を…」

 

 

義勇が殴られた頬を押さえながら一刀を見る。

 

 

「『何を』だと…?不座虚んな!アンタはそうやって"逃げてる"だけだ!アンタは…、錆兎って人から『何も託されずに繋いでいかないのかよ!』」

 

 

一刀は頭に血が昇っているのか、いきなり義勇の胸ぐらを掴んで叫ぶ。

 

 

『何も託されずに繋いでいかないのかよ!』その言葉に義勇はかつて錆兎に頬を叩かれた記憶が甦った。

 

 

「一刀…、すまなかった。お前のお陰で大事なことを思い出した」

 

 

義勇は一刀に向かって頭を下げる。

 

 

「いえ、俺の方こそいきなり殴って申し訳ありませんでした」

 

 

一刀も頭に昇っていた血が下がったのか、掴んでいた手を離し義勇に謝る。

 

 

「皆、こんな弱い俺ではあるが、これからもよろしく頼む」

 

 

義勇は柱の面々に向かって頭を下げる。

 

 

「何言ってんだァ?んなもん頼まれなくたってよろしくするわァ」

 

 

「不死川の言う通りだ。そもそも貴様は柱としての自覚が足りなかったんだ。これからは柱として、強いては鬼殺隊の一員として頑張ってもらわないと困る」

 

 

実弥と小芭内が他の柱の気持ちを察したのか、代表としてその思いを口にする。義勇は頭を上げて柱の顔を見渡すと、皆頷いた。

 

 

「皆、ありがとう!」

 

 

義勇は涙を浮かべて微笑んだ。

 

 

その後行冥が『一つ提案がある』と言って内容を話した。そしてその話も終わり、緊急柱合会議は幕を閉じた。

 

 

 



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第弐拾話

 

 

緊急柱合会議が終わり、自分の過去の暴露、そして居場所を見つけた義勇も屋敷を去り、一刀も屋敷を去ろうとすると、その腕を誰かが掴んだ。

 

 

「うふふ~、一刀さん、どこに行こうというんですか~?」

 

 

一刀の腕を掴んだのはしのぶだった。

 

 

「し…、しのぶ…?」

 

 

「一刀さん、あなたは"怪我人"であることを自覚してますか~?まだ機能回復訓練も"受けず"に引っ越したり、そのまま全力疾走したり、挙げ句の果てには万全の状態でも無いのに鬼と戦ったり」

 

 

しのぶは思い付く限りのことを一刀に言う。その笑顔は冷や汗が止まらなくなる程の暗い笑みだった。

 

 

「一体どれだけ私を心配させれば気が済むんですかね~?」

 

 

しのぶは一刀の腕にしがみつき、その豊満な胸を一刀の腕で押し潰して変形させた。一刀はその"柔らかさ"に悶絶寸前となっていた。

 

 

「なので、一刀さんはこれから蝶屋敷で回復訓練をしてもらいます。拒否権はありませんのであしからず。"あんなこと"や"こんなこと"もし放題ですよ?

 

 

しのぶの囁きに遂に我慢の限界が来たのか、一刀は鼻血を吹き出し、顔を真っ赤にして気絶してしまった。

 

 

しのぶは近くにいた隠の人に頼んで一刀を蝶屋敷へと運んでいった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その頃、蝶屋敷では刀を研ぎ終わった鋼錢塚が件の刀を持って炭華の下を訪れていた。

 

 

「あ、鋼錢塚さん!怪我は大丈夫だったんですね!良かったです!」

 

 

炭華の下を訪れた鋼錢塚は息を荒くしており、無言で刀を差し出した。そして刀を受け取った炭華はゆっくりと刀を鞘から引き抜いた。

 

 

「ほわぁ~…」

 

 

刀身は漆黒に燃え盛るような赫色。そして杏寿郎が愛用していた鍔。更に刀身には『滅』の"一文字"が刻まれていた。

 

 

「鉄の質がいい。前の持ち主が相当強い剣士だったんだろう。これを打った刀鍛冶が全ての鬼を滅する為に作った刀だ。作者名も何も刻まずただこの文字"だけ"を刻んだ。この刀の後から階級制度が始まり、柱だけが"悪鬼滅殺"の文字を刻むようになったんだ」

 

 

後藤に促されて椅子に座った鋼錢塚の説明に炭華は驚いていた。

 

 

「あれ?でも前の戦いの時は文字が無かったような…?」

 

 

炭華は半天狗との戦いで使用した時は『滅』の文字は無かったことに気づく。

 

 

だからそれは第一段階までしか研ぎ終えてないのにお前らが持ってって使ったからだろうが!錆が落としきれてなかったんだよ!研ぎの途中で邪魔されまくったせいで最初から研ぎ直しになったんだからな!(怒)」

 

 

鋼錢塚は相当ご立腹で炭華を責め立てた。そして鋼錢塚はそのまま去っていった。

 

 

「ウリィィィィィ!」バリーン

 

 

すると間髪入れずに伊之助が窓を破って入室した。

 

 

「強化強化強化!!合同強化訓練が始まるぞ!!」

 

 

伊之助はえらく興奮した感じで『訓練が始まる』と言った。

 

 

「強い奴らが集まって稽古つけて…何たらかんたら言ってたぜ!」

 

 

伊之助の説明に疑問を持った炭華が訪ねるが、伊之助は威張りながら『わっかんねぇ!』と胸を張った。

 

 

その後、伊之助は会議から帰って来たしのぶにこってり怒られたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

柱稽古

 

 

その名の通り、柱より下の階級の者が柱を順番に巡り稽古をつける。

 

 

通常柱は自分の継子"以外"には稽古をつけない。その理由は『忙しい』。只これだけである。

 

 

柱は警備担当地区が広大な上に鬼の情報収集や自身のさらなる剣技向上の為の訓練、その他にもやることが多かったので、継子"以外"の隊員に割く時間が無かったのだ。

 

 

しかし鬼であり鬼殺隊員でもある『太陽を克服した鬼』、竈門禰豆子の存在が無惨側にバレて以来、鬼の出没がピタリと止んだ現在、"嵐の前の静けさ"とも言える状況であったが、そのお陰で柱は"夜の警備"と"日中の訓練"にのみ焦点を絞ることができた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…と言うのが今回の経緯と言う訳なんだよ」

 

 

一刀はなほと一緒に炭華に柱稽古の経緯を話していた。一刀は蝶屋敷で機能回復訓練を受けており、『監視役』と言う理由でなほが付き添っている状態だった。

 

 

「そうだったんですね…」

 

 

説明を受けた炭華は少し落胆していた。無理も無い。禰豆子は鬼の中でもたった一体しかいない『太陽を克服した鬼』なのである。しかしそのことを"隠すため"に鬼殺隊に入隊したのに、今までの苦労が水の泡になってしまったのだから。

 

 

「そう落ち込むなよ。逆に考えるんだ。『禰豆子の存在がバレたから、柱の人に稽古をしてもらえる』って」

 

 

「そう…ですね」

 

 

一刀は炭華を励まそうとするが、炭華は落ち込んだままだった。

 

 

「と…、とにかくこの柱稽古で頑張れば、禰豆子を狙う悪い男から守れるぞ?」

 

 

一刀は炭華に元気になってもらいたく色々と声を掛けるが、炭華は『心ここにあらず』な状態だった。

 

 

「兄様、そろそろ…」クイクイ

 

 

そこに一刀に付き添っていたなほが一刀の袖を引っ張る。

 

 

「分かった。炭華ちゃん、元気だしてくれよ?俺は炭華ちゃんの元気な笑顔が好きだから」ナデナデ

 

 

一刀は最後に炭華の頭を軽く撫でてなほと一緒に退室した。

 

 

「……狡いですよ……」

 

 

炭華は一刀の優しさが嬉しくてこっそり泣いていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「オラオラァ!遅い、遅すぎるぞ!何ちんたら走ってんだ!?もっと気合い入れろ!」

 

 

柱稽古 第一の試練

 

 

元音柱・宇随天元の基礎体力向上訓練

 

 

柱稽古は天元のしごき、"基礎体力向上"から始まり、蜜璃の"地獄の柔軟"、無一郎の"高速移動"、小芭内の"太刀筋矯正"、杏寿郎の"模擬戦"、実弥の"無限打ち込み"、行冥の"筋肉強化"、義勇の"技の見極め"、一刀の"強靭な心の会得"で終わる。

 

 

そして柱の者に関しても次から次へかかってくる隊士を延々と相手することで、さらなる体力向上が見込められる。そこから心拍数と体温を高め痣が出せるようになれば、ぼろ儲けである。

 

 

因みに蟲柱のしのぶは柱稽古には参加"しない"と事前に他の柱に伝えていた。

 

 

「もし稽古で怪我人が出れば私たちが請け負いますので」

 

 

と言う理由で参加を辞退したのだが、それは単なる建前で本当は一分一秒でも一刀を独り占めしたいがためだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「宇随さん、お久しぶりです!」

 

 

天元の訓練を受けている隊員の中に禰豆子の姿があった。

 

 

「おぉ竈門禰豆子じゃねぇか!久しぶりだな!また上弦に出会(でくわ)したらしいじゃねぇか?よく派手に生き延びたな!」

 

 

天元と禰豆子は互いに挨拶を交わす。

 

 

「私だけの力ではきっと鬼を倒せずに無惨の所に連れて行かれたでしょうね。私が生き残ったのはお姉ちゃんたちのお陰です」

 

 

禰豆子は自分が生き延びたのは自分だけでは無く、姉の炭華たちのお陰と言った。

 

 

「そっかそっか、いい絆を繋いだな。ところで話は地味に変わるが、お前は何で稽古に参加してんだ?お館様からは"稽古に参加しなくてもいい"って言われて無かったか?」

 

 

そう、今の禰豆子は鬼に、特に無惨に狙われている立場なので耀哉から『柱稽古は参加しなくてもいい』と鴉経由で通達されていたのだ。

 

 

「確かに言われました。でも、何かじっとしているのも退屈なんで…」ポリポリ

 

 

禰豆子は照れ臭そうに頬を指でポリポリ掻いた。

 

 

「……後でバレても知らねぇぞ?」

 

 

天元はため息を吐きながら"見て見ぬフリ"を決めた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

禰豆子が柱稽古への参加がバレてから数日後、炭華の怪我も完治し、柱稽古への参加が許可された。

 

 

「よォよォ!久しいな、また上弦と戦ったんだってな?よく五体満足で生き残ったなァ!ここでなまった体を存分に叩き起こしな!」

 

 

炭華を見つけた天元は炭華に声をかける。

 

 

「ありがとうございます。あの…、ここに禰豆子は来ませんでしたか?ここ数日、姿が見えなかったのでもしかしたらと思って…」

 

 

炭華は天元に禰豆子が来てないか質問をする。

 

 

「竈門禰豆子…か?確かにここに来てたぜ?でも、三日ほど前に次の柱の所に向かったな」

 

 

天元は禰豆子が既に次の柱の下へ向かったことを伝えた。

 

 

「そうでしたか…」

 

 

「なんだ?竈門禰豆子に何か用があったのか?」

 

 

禰豆子がいないことに落ち込んだ炭華に天元が質問をする。

 

 

「あの子、私に相談もしないで稽古に参加しちゃったんです。確かに私よりも軽傷でしたし、隊員だから稽古に参加はできますけど、狙われてる立場だから稽古に参加しなくてもいいって言われたのに…」ブツブツ

 

 

瞳のハイライトが消え何やらブツブツ呟きながら俯いた炭華を見た天元は

 

 

「(恐っっっわっっっ!!!?)」

 

 

かなりドン引きしていた。

 

 

「ま…、まぁとにかく。柱稽古の試練に合格していけば、自ずと竈門禰豆子の所に追い付くんじゃねーか?」

 

 

天元はとりあえず炭華を落ち着かせるために話を振った。

 

 

「そう……ですね…」

 

 

炭華は顔を上げると

 

 

「なら早く試練に合格して禰豆子に追い付いて、そして禰豆子に一言文句言ってやる!」メラメラ

 

 

ハイライトが戻った瞳と自分の体に闘志の炎を燃やしていた。

 

 

「お…、おうその意気だ竈門炭華!」

 

 

「宇随さんありがとうございます!この勢いで走って来ます!オリャァァァアアァァァ…

 

 

炭華は天元にお礼を言って走って行った。"先に走っている隊員を吹き飛ばしながら"。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

炭華が天元の下を訪れて十日後、炭華は次の柱稽古を受けるために天元の下を去った。

 

 

「そうそう、いい感じだよ!今のように筋肉の緊張と弛緩の切り替えを滑らかにするんだ!そうすれば体力も長く保つから!」

 

 

柱稽古 第二の試練

 

 

霞柱・時透無一郎の高速移動訓練

 

 

「足腰の動きも連動しててバッチリだね!次の柱の所に行っていいよ!」

 

 

「えっ、いいの?ここに来てまだ五日しか経っていないのに?」

 

 

そう、炭華が無一郎の所で稽古を開始したのはこの日から五日ほど前だったのだ。そして炭華は余りにも早い合格だったので、思わず無一郎に確認していた。

 

 

「うん行っていいよ。だって僕が言ったことをちゃんと出来てるじゃない」

 

 

無一郎は炭華に次の柱に向かう許可を出した理由を述べる。炭華は無一郎に言われたことに対して若干照れていた。そこに炭華より前に来ていた隊員が『俺たちも…』と言うが、無一郎は冷たい目であしらう。炭華以外の隊員は炭華との扱いの落差に肩を落としていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「あっ、炭華ちゃん!久しぶり~!」フリフリ

 

 

「甘露寺さん、お久しぶりです!」ペコリ

 

 

柱稽古 第三の試練

 

 

恋柱・甘露寺蜜璃の地獄の柔軟

 

 

蜜璃は屋敷の前で炭華を出迎え、炭華は出迎えてくれたお礼に頭を下げた。

 

 

クンクン「あの、蜂蜜の匂いがしますけど、養蜂でもされているんですか?」

 

 

炭華は持ち前の嗅覚で蜂蜜の匂いを嗅ぎ取り、蜜璃に質問をした。

 

 

「そうなのよ!巣蜜をね、パンの上に乗っけて食べるととっても甘くて美味しいのよ~!」

 

 

蜜璃はその味を思い出したのか、頬を押さえていた。

 

 

「その上にバターもたっぷり塗ると更に美味しくなるのよ?三時には紅茶も淹れてパンケーキ作るからお楽しみに!」

 

 

「はい!(紅茶かぁ~。珠世さんと愈史郎さん、元気でいるかな?)」

 

 

"紅茶"のフレーズを聞いた炭華は以前浅草での任務で出会った『医者の鬼』である珠世と愈史郎のことを思い出していた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「くしっ」

 

 

「ハクシュッ」

 

 

その頃、無惨から逃げ隠れている珠世と愈史郎は揃ってくしゃみをしていた。

 

 

ズズッ「くしゃみが出るなんて、何時ぶりかしら?」

 

 

珠世は鼻水を啜りながらくしゃみが出たことに少し驚いていた。

 

チーン「珠世様、ちり紙です。…しかし変だな?埃一つ残らず掃除はしていたはずなのに…」

 

 

愈史郎はちり紙で鼻をかみ、未使用の物を珠世に渡す。そしてくしゃみが出た原因を探し始めた。

 

 

「くしゃみの原因は幾つかあるわよ?一つ目が『風邪の初期症状』、二つ目が『埃などの"異物"を追い出す』。でも一つ目は無いわね、私たちは"鬼"だから病気にはならない。そして二つ目も無い。愈史郎、貴方の掃除には助けられていますから。いつも清潔にしてくれてありがとう」

 

 

珠世は愈史郎に微笑みながら彼の頭を撫でる。すると愈史郎は顔を真っ赤にしながら撫でられていた。

 

 

「残るは三つ目の『誰かが噂をしている』かしら。迷信ですけどね」クスクス

 

 

愈史郎から手を離した珠世はクスクスと静かに笑う。

 

 

「(ああ、静かに笑う珠世様は素敵だ!)しかし、一体誰が俺たちの噂を?」

 

 

愈史郎は珠世の笑顔に見惚れながら珠世に質問をする。

 

 

「さぁ?案外私たちの知る人かもしれませんよ?」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「クシッ」

 

 

「あら炭華ちゃん風邪?」

 

 

くしゃみをした炭華を蜜璃が顔を覗きながら心配する。

 

 

「大丈夫です。誰がが噂でもしてるのかな?」ズズッ

 

 

炭華は鼻を啜りながら蜜璃に礼を言った。

 

 

「それじゃはいこれ!まずはこれに着替えてね!」

 

 

蜜璃に案内された部屋で炭華に渡された服は『レオタード』と呼ばれる服だった。炭華はいそいそと隊服を脱ぎ、レオタードを着る。

 

 

そして次に案内されたのは道場だった。そこには同じレオタードに身を包んだ男性隊員がおり、全員が炭華を見ていた。

 

 

「あの、何か凄い見られているんですが…」

 

 

炭華は恥ずかしいのか、自分の体を抱き締めていた。だがその行動は自分のプロポーションを更に引き立させる行為だったのか、胸が寄せられて"谷間"がくっきり分かってしまい、男性隊員たちは"前屈み"になってしまった。

 

 

「お前ら、一体何を見ているんだ…?」

 

 

しかしそこに炭華にとっての"救世主"が現れた。

 

 

「「一刀さん!」」

 

 

そう、空柱の北郷一刀であった。

 

 

「炭華ちゃんのことが心配で天元さんや無一郎君に聞いて恋屋敷(ここ)に来てみれば…。全く性懲りも無く発情しやがって…」

 

 

一刀は前屈みになっている男性隊員の一人の頭を掴むと

 

 

「選べ。『稽古に全集中する』か『ぶら下がっている(○○○)を斬り落とされる』か」

 

 

まるで『仇を見つけた復讐者』のような怒り狂った顔で隊員を見る。

 

 

『稽古に全集中します!』

 

 

すると男性隊員"全員"が涙目で唯一助かる道を選んだ。それを聞いた一刀はにっこりと笑い、頭を掴んだ男性隊員の頭を撫で

 

 

「ならちゃんと有言実行するんだね」

 

 

と言った。

 

 

「一刀さん、遅くなりましたが柱就任おめでとうございます!」ダキッ

 

 

炭華はレオタード姿のまま、一刀に抱きつく。

 

 

「ありがとう炭華ちゃん」ナデナデ

 

 

「はにゃ~ん❤️」

 

 

一刀は抱きついた炭華の頭を優しく撫でると、炭華の顔が嬉しそうに蕩けさせていた。

 

 

「(いいなぁ~、私も伊黒さんにお願いしたらやってくれるかな?)」

 

 

蜜璃は二人のやり取りを見て羨ましそうにしていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「さぁそれじゃ稽古を始めましょう!」

 

 

先程のトラブルを"無かった"ことにした蜜璃は元気よく声を上げる。そして炭華は一刀が見守る中、訓練を開始した。

 

 

蜜璃の訓練は最初音楽に合わせて踊ったりする。時々リボンやボール、バトンと言った小道具を使ったりしていた。それを見ていた一刀は『まるで新体操みたいだな』と思っていた。

 

 

しかしここからが地獄だった。蜜璃は手本として男性隊員の一人を呼び、その場に座らせ自分の足を使って無理矢理股割りをした。しかも逃げられないように相手の手首を掴みながら。

 

 

これには流石に炭華は愚か一刀も顔を青ざめる。そして遂に炭華の番となった。

 

 

蜜璃ほ炭華の手首を掴み、その場に座らせ少しずつ開脚させていった。

 

 

「あの、蜜璃さん!もうこれ以上開かないんですけど!」

 

 

「大丈夫!これを乗り越えれば柔軟な体を手に入れられるから!」グググッ

 

 

もう十分に足を開いた炭華は『これ以上は無理』とギブアップ宣言をするが、蜜璃は笑顔でそれをはね除けた。

 

 

「ですから!もうこれ以上は無理…っていやああぁぁぁ~~!!?」

 

 

炭華は相当の痛みに我慢出来ずとうとう悲鳴を上げ出した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「………」チーン

 

 

地獄の柔軟を終えた炭華は真っ白に燃え尽きて床にうつ伏せで寝そべっていた。

 

 

「は~いそれじゃ、三時になったからおやつの時間で~す!」スタスタ

 

 

蜜璃が道場を後にすると、男性隊員はゾロゾロと蜜璃の後を追う。しかし炭華だけはうつ伏せで寝そべったまま動かず、一刀は心配になり炭華に声をかける。

 

 

「炭華ちゃん、大丈夫?」

 

 

「大丈夫じゃないです。破れました。絶対破れました。一刀さんに捧げるために残しておいたのが…」シクシク

 

 

炭華はうつ伏せで泣きじゃくってしまった。

 

 

 



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第弐拾壱話

 

 

蜜璃の地獄の柔軟を受けた炭華は燃え尽きた状態で一刀に支えられながらパンケーキを頬張り、ある程度元気を取り戻した。

 

 

「そういえば、一刀さんはなぜここに?」

 

 

恋屋敷に一刀がいることに疑問を感じた炭華は質問をする。

 

 

「ん?いやなに、ちょいとお前さんの様子を見に来ただけさ」

 

 

口元を蜂蜜でベタベタにした炭華の口を一刀は手拭いで綺麗にしながら答える。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「竈門炭華、俺はお前を待っていた」

 

 

柱稽古 第四の試練

 

 

蛇柱・伊黒小芭内の太刀筋矯正

 

 

蜜璃の稽古をクリアした炭華は次の柱の下へと訪れていた。そして訪れた所は小芭内の所だった。小芭内は屋敷の前で炭華を待っていたのだった。因みに一刀は恋屋敷に訪れたその日に蝶屋敷へと帰っていた。

 

 

「先に言っておく。俺は甘露寺のように甘くはない。だが、無理強いもしない。分からん所はなるべく簡潔に答えてやる」

 

 

小芭内は移動しながら注意事項を述べる。

 

 

「はい、よろしくお願いします!」ペコリ

 

 

炭華は小芭内の後を追いながら返事をする。

 

 

「お前にはこの"障害物"を避けつつ太刀を振るってもらう。此処での稽古は"太刀筋矯正"だ。障害物を避けて俺の羽織の裾を切れば合格とする」

 

 

道場に到着し、その中を見せた小芭内は訓練の内容を説明する。炭華が見た光景は、『隊員が角材に括りつけられている』ものだった。

 

 

「あの…、この括りつけられている人たちは何か罪を犯しましたか?」

 

 

道場の光景に唖然とした炭華は小芭内に質問をする。

 

 

「…まあそうだな。"弱い罪"、"覚えない罪"、後これは個人的だが"手間を取らせる罪"と"イラつかせる罪"だ。因みにこいつらは甘露寺を卑猥な目で見ていた奴らだ」

 

 

「納得です。甘露寺さんは幸せですね、伊黒さんのような男性に愛されて

 

 

炭華は納得した感じだった。

 

 

「だからと言って無闇に攻撃をするなよ?俺の手間が増える」

 

 

小芭内は炭華の肩を軽く叩きながら注意をする。それを聞いた炭華は若干ふてくされていた。

 

 

そして炭華の太刀筋矯正訓練が始まった。しかし思うようにいかず何度か障害物(隊員)に木刀が当たってしまう。更には小芭内の攻撃が障害物の間を"すり抜けて"くるので始末が悪い。

 

 

「遅い。竈門炭華、もっと"手首"に意識を集中しろ。ただ単に木刀を振るっても意味が無いぞ。時透の訓練を思い出せ、それを手首で行えばいいだけだ」

 

 

小芭内のアドバイスを受けながら炭華は木刀を振るう。しかし言われてそうすんなりとはいかなかった。

 

 

だけど四日も経てば小芭内の攻撃を避けつつ自分からも攻撃ができるようになっていった。そして遂に炭華の攻撃が小芭内の羽織の裾を切った。

 

 

「そこまでだ。訓練は合格だ。次の柱、煉獄の所へ向かうといい。場所は鴉が教えてくれる」

 

 

「はい、ありがとうございました!」

 

 

炭華は小芭内にお礼を言って蛇柱の稽古は終わりを迎えた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「おぉ竈門姉よ!よくぞ来られた!ようこそ炎屋敷へ!」

 

 

柱稽古 第五の試練

 

 

元炎柱・煉獄杏寿郎の模擬戦

 

 

「元炎柱である俺の稽古は"隊員同士による一対一の模擬戦"だ!互いに試合い、先に十勝したら合格となる!」

 

 

杏寿郎は炭華に稽古の内容を説明する。

 

 

「ただし、型を使用した場合はその場で失格と見なし、また一からやり直しとなる!気をつけるように!」

 

 

「はい!」

 

 

「うむ!良い返事だ!では早速稽古を開始してくれ!」

 

 

杏寿郎は稽古における注意事項を述べると、炭華は元気良く返事をした。そして炭華の炎屋敷での稽古が開始された。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「よもやよもや…、これ程とは…」

 

 

炭華が炎屋敷での稽古を初めてから七日後、炭華は目標である十勝を勝ち取った。

 

 

「竈門姉よ、炎屋敷での稽古はこれで終わりだ。疲れているだろうから、今日はその疲れを癒すことに専念し、次の柱へ向かうのは明日にしなさい」

 

 

炭華は杏寿郎に言われた事に頷き、疲れが溜まった体を引き摺りながらその場を後にした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「え~っと、松衛門、不死川さんの屋敷はそこの角を右だっけ?」

 

 

炎屋敷を出立した炭華は自分の頭に鴉の松衛門を乗せて次に曲がる箇所を指差す。

 

 

「ソウダ!ソウダ!ソコノ角ヲ右ダ!」

 

 

松衛門も肯定し、角を曲がろうとする。しかし突如"視界の下"から"何か"が現れた。

 

 

「!? キャアアアァァァアアァァァ~~~!?!?!?」

 

 

バキッ

 

 

「ゴファッ!?」

 

 

ドサッ ズザザ~~

 

 

突如視界に入った何かに驚いた炭華は思わず殴り飛ばしてしまった。

 

 

「グフッ 酷いよ、炭華ちゃん…」シクシク

 

 

「あ…、我妻君!?」

 

 

何と炭華が殴り飛ばしてしまったのは善逸だった。

 

 

「折角気配を消してまでここまで逃げて来たのに…、この仕打ちはあんまりだぁ…」シクシク

 

 

殴り飛ばされた善逸は泣きべそをかいていた。

 

 

「ご…、ごめんなさい!いきなり現れたからびっくりしちゃって…。大丈夫?」

 

 

炭華は善逸に駆け寄り状態を確認する。

 

 

「炭華ちゃんが膝枕してくれたら大丈夫…」

 

 

あろうことか善逸は炭華に膝枕を要求した。

 

 

「そんなこと言えるなら大丈夫そうね。さぁ、早く不死川さんの所へ行きましょう」ガシッ ズルズル

 

 

もちろん炭華は善逸の要求に応えるはずも無く、善逸の襟首を掴んで引き摺り始めた。

 

 

「ん?よゥ竈門炭華じゃねェか」

 

 

さらにそこに実弥が現れた。

 

 

「あ、不死川さん。お久しぶりです」ペコリ

 

 

炭華は実弥に向かって頭を下げる。

 

 

「おゥ久しぶりだな。ん?引き摺っているのは我妻かァ?」

 

 

実弥は炭華の挨拶に返事をした後、善逸を指差す。

 

 

「えぇ。そうですけど?」

 

 

炭華はキョトンとした感じで実弥の質問に答える。

 

 

「こいつは助かるぜェ。我妻(ソイツ)は"脱走の常習犯"でなァ、目を放すとすぐ逃げ出すんだァ。捕まえてくれて有難いぜェ」

 

 

「いえいえ、これくらいお安い御用です」

 

 

実弥と炭華は和気藹々と話ながら風屋敷へと歩いていった。尚、善逸は炭華に襟首を掴まれたまま引き摺られていたので、気絶してしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

柱稽古 第六の試練

 

 

風柱・不死川実弥の無限打ち込み稽古

 

 

実弥の稽古は文字通り、実弥の下にたどり着いた隊員"全員"VS実弥"一人"の打ち込み稽古だった。しかも反吐を吐いて失神するまで"休憩無し"だったのだ。しかしそこに"女性隊員"である炭華が来たことによって"失神するまで休憩無し"だったのが"二時間毎に十分"に変わった。これは実弥なりの配慮である。

 

 

「竈門、踏み込みが甘めェ!そんなんじゃ鬼の頚は斬れねェぞ!俺を鬼だと思って打ち込んで来やがれェ!」

 

 

「はい!」

 

 

「我妻ァ!逃げてばっかいねェで打ち込んで来やがれェ!」

 

 

「ヒイィィィッ、すみませんすみませんすみません!」

 

 

「玄弥ァ!踏み込みが強くても狙ってる所がバレバレだと意味無ェぞ!」

 

 

「分かった!」

 

 

実弥は打ち込みながら各々の悪い所を指摘する。指摘された人たちはそれを修正しながら実弥に打ち込んでいった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

炭華が実弥の下で稽古を開始してから八日後、炭華、善逸、玄弥の"三人"は実弥の稽古が終了し、次の柱である行冥の修行場である山を訪れていた。

 

 

山道を歩いていると、滝が視界に入ってきた。すると

 

 

如是我聞(にょぜがもん) 一時仏在(いちじぶつざい) 舎衞国(しゃえこく) 祇樹給(ぎじゅぎっ) 孤独園(こどくおん)

 

 

伊之助を含む隊員が念仏を唱えながら滝に打たれていた。

 

 

「心頭…滅却すれば……、火もまた涼し……」

 

 

後ろから行冥の声が聞こえたので振り返ると、そこには"三本の丸太の端に岩を二つずつ括り付け、足下を火で炙っている"行冥がいた。

 

 

「ようこそ…、我が修行場へ……」

 

 

その姿に炭華と善逸は絶句していた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

柱稽古 第七の試練

 

 

岩柱・悲鳴嶼行冥の筋力強化訓練

 

 

「最も重要なのは体の中心…、足腰である。強靭な足腰で体を安定させることは"正確な攻撃"と"崩れぬ防御"へと繋がる」

 

 

「まず滝に打たれる修行をしてもらい……、丸太を三本担ぐ修行…、最後にこの岩を一町先まで押して運ぶ修行…」

 

 

「私の修行はこの三つのみの簡単なもの…、下から火で炙るのは危険な為……無しとする…」

 

 

行冥が稽古の内容を説明している途中で善逸は相当な過酷な試練に驚いて気絶してしまっていた。

 

 

「あの…、我妻君が気絶してしまったんですが…」

 

 

「川につけなさい…」

 

 

炭華が善逸が気絶したことを行冥に伝えると、行冥は川につけることを薦める。そして炭華は善逸の隊服の上着を脱がし、言われた通りに善逸を川につける。

 

 

ギャアアアッ、つべてぇええええ!!

 

 

川の水の余りにもの"冷たさ"に善逸は覚醒するが、すぐに川から出る。しかし体の震えは川から上がっても止まらなかった。

 

 

岩に…、くっつけ……。あったかいぞ…

 

 

すると岩に引っ付いていた隊員の一人が善逸に言う。善逸は早速岩に引っ付くと、その暖かさに涙を流した。

 

 

「よ~し、私もするぞ!」

 

 

炭華は隊服の上着を脱ごうとする。

 

 

「竈門炭華、ちょっと待ちなさい」

 

 

それを行冥が肩を掴んで止めた。

 

 

「君は女性だ。無闇矢鱈に柔肌を晒すものでは無い。ついて来なさい」

 

 

行冥は炭華の肩から手を離し、森へと入っていった。その後を炭華が追いかけると

 

 

「ここは女性隊員用の修行場だ。君はこれからはここで修行しなさい」

 

 

先ほどとはまるで雲泥の差のような小規模の滝が目の前にあった。

 

 

「男性隊員には二時間(一刻)滝に打たれるよう言ってあるが、君はその半分の一時間(半刻)打たれなさい。そして丸太も岩も、男性隊員用の物よりも小さめの物を用意してある。岩も一町では無く、半町動かしなさい」

 

 

行冥が指を指した方を見ると、確かに最初見た物よりも小さめの丸太と岩があった。

 

 

「女性の筋力は男性に比べると心許ないのが現状だ。しかし鍛えても筋力が上がらない訳では無い。そこで北郷一刀に相談をして"これ"を用意したのだ」

 

 

行冥は淡々と盲目から涙を流しながら説明をする。

 

 

「力の限界を感じたら無理に修行しなくても良い。その時はこの山を降りれば良い」

 

 

行冥はそう言った後、女性隊員用の修行場から去った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

炭華が行冥の所で修行を初めてから四日後、炭華は善逸たちの所にいた。その理由は彼等に"食事"を用意したからであった。

 

 

「いつもありがとう。ここ最近まで録な物食って無かったから助かったよ」モグモグ

 

 

「いえいえ」テキパキ

 

 

炭華は川で取れた魚を木の枝で作った串に刺しながら焚き火の近くに刺す。

 

 

「しかしびっくりしちゃったよ。まさか嘴平君が"死にかけていた"なんて」

 

 

そう、伊之助は炭華たちが到着していた時に滝に打たれていたのだが、余程の冷たさだったのか、心肺停止"寸前"だったのだ。そのことに一早く気づいたのはまさかの善逸であり、滝から上げて心臓マッサージを施していたのだった。

 

 

モグモグ「アイツすげぇよ玉ジャリジャリ男。初めて会った時にビビっと来たぜ。間違いねぇアイツ、"鬼殺隊最強"だ」ボリボリ

 

 

炭華が焼いた魚を"骨まで"食う伊之助は行冥が鬼殺隊最強と言った。

 

 

「あ、嘴平君もそう思う?私も同感。悲鳴嶼さん"だけ"他の柱の人とは"違う匂い"がするもの」

 

 

炭華は頷きながら伊之助に魚(十匹目)を差し出し、伊之助はそれにかぶりついた。

 

 

「俺は信じないぞ、あのオッサンはきっと自分もあんな岩一町も動かせねぇんだ。俺たち若手をいびって楽しんでんだ」

 

 

善逸は魚を食いながら修行について文句を言っていた。

 

 

「我妻君、そんなこと言っちゃメッ!」

 

 

「そうだぞ?それに行冥さんは俺たちが押そうとしている岩よりもふた回り大きい岩を一町以上押してんだぞ?」

 

 

そこに炭華が注意をし、さらに玄弥が驚くことを言った。

 

 

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…」ズズズ

 

 

すると丁度そこに行冥が通りかかった。玄弥が言った通りの巨大な岩を押しながら。

 

 

「よし!腹も膨れたし、今から丸太担いで岩押してくるわ」

 

 

満腹になった伊之助はいつもの猪頭を被り、その場を去った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「俺分かったわ。柱たちに継子がいない理由」

 

 

その夜、宿泊小屋で炭華のおにぎりを食べていた隊員の一人が口を開いた。

 

 

「今回のような修行がしんどすぎて逃げちゃうんだ。それと昼間の時の金髪みたいに力量の差に劣等感を感じたりな」

 

 

彼は今の柱に継子がいない理由を言った。

 

 

「でも、継子がいる柱はいますよ?しのぶさんの所のカナヲちゃんとか、不死川さん(実弥のこと)の所の不死川君(玄弥のこと)とか。後一刀さんの所にも」

 

 

炭華は継子がいる柱の名前を次々に上げた。

 

 

「それは継子が柱の"身内"だからじゃね?カナヲちゃんは名字は違うけどしのぶさんの"妹"だし、玄弥は傷の人の"弟"だし、それに北郷さんの所は継子は"恋人"って聞いたぞ?」

 

 

小屋にいた善逸が最もなことを言う。

 

 

「え~!?一刀さんと一刀さんの継子ってそんな関係なの!?」

 

 

衝撃の事実に炭華が驚いた。

 

 

「みたいだよ?"当人"がそう言ってたから」

 

 

善逸は柱稽古が始まる前に一刀から華琳たちのことを聞いていたのだ。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから六日後、炭華は滝の修行、丸太を担ぐ修行をクリアし、岩を押す修行に取り組んでいたが、未だに動かせないでいた。炭華は地面に寝転がりながらどうしたら岩を動かせるのか考えいると

 

 

「大丈夫か?」

 

 

そこに玄弥が現れ、炭華の顔を覗き込んで来た。

 

 

「あ、不死川君。私は大丈夫だよ?ちょっと考え事していて寝転がってただけ」ガバッ

 

 

炭華は心配させまいと地面から起き上がる。

 

 

「竈門も岩を押す訓練をしているんだな。俺もやってるよ」

 

 

「でも全然動かなくて…、考え事ってそれなんだ」ポリポリ

 

 

炭華は頬を掻きながら苦笑いを浮かべていた。

 

 

「コイツを動かすにはコツがいるんだ、"反復動作"って奴」

 

 

"反復動作"、通称"プリショット・ルーティーン"。ある一定の動作をすることで集中力を高め、成功のビジョンを"イメージ"するものである。元野球選手の『イチロー』やラグビーの『五郎丸』がやっていたのも"これ"である。

 

 

「予め決めておいた動作をして集中を極限まで高めるんだ。俺や悲鳴嶼さんの場合は『念仏を唱える』とかな」

 

 

「なるほど…」

 

 

炭華は何で"玄弥や行冥が念仏を唱えている"のか疑問に思っていたのだが、玄弥の説明で納得がいった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

玄弥が炭華に助言をしたその数日後、炭華は岩に手を当てていた。

 

 

「(不死川君が言っていた"反復動作"は人それぞれ違うって言ってた。私はまず"大切な人の笑顔"を浮かべる。そして煉獄さんが励ましで送ってくれた言葉、"心を燃やせ")」

 

 

炭華は無限列車の任務の後、煉獄邸に訪れていた際、杏寿郎の父『煉獄槇寿郎』に頭突きをしてしまったのだ。そして帰り際に杏寿郎から『いつでも心を燃やせ!』と励ましてくれたのだった。

 

 

「ふんっ、やああぁぁぁ……」ググッ

 

 

炭華は岩を押すために力を込める。最初の内はびくともしなかったが、徐々に動き始め

 

 

「あああぁぁぁ……!」ズズズ

 

 

遂に岩を押し進めることに成功した。そのことに彼女の様子を見に来ていた善逸と伊之助は驚いた。

 

 

「(気を抜いちゃ駄目!一瞬でも気を抜くと一気に脱力して動かせなくなっちゃう!今の状態を維持しつつ、少しでも押し続ける!岩を押すコツは腕じゃ無くて足腰で押す!)」

 

 

そして遂に炭華は目標の半町先まで岩を押したのだった。

 

 

 



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第弐拾弐話

 

 

「炭華、よくここまで来てくれた」

 

 

「炭華ちゃ~ん、久しぶり~!」

 

 

柱稽古 第八の試練

 

 

水柱・冨岡義勇の技の見極め技術

 

 

炭華は行冥が課した修行を全てこなし、義勇の下へ行く許可が降りたため、修行を終えた翌日に山を降りた。

 

 

「義勇さん、真菰さん、お久しぶりです!」ペコリ

 

 

炭華は二人に対して頭を下げた。すると

 

 

「あ、お姉ちゃん!やっと追い付いたの?」

 

 

二人の後ろから禰豆子が顔を出した。

 

 

「禰豆子!?」

 

 

炭華は禰豆子がいることに驚き、俯く。

 

 

「ね~~ず~~こ~~?」

 

 

「あ、ヤバ…」

 

「「あ…っ(察し)」」

 

 

そして顔を上げた炭華の顔はまるで般若のような表情をしていた。

 

 

「アンタ、自分が狙われている立場だって分かってんの!?いつ鬼が襲って来るか分からないのよ!?ちゃんと自覚しなさい!」

 

 

炭華は禰豆子にお仕置きを始めた。

 

 

(どんなお仕置きかは皆さん各自の脳内変換でお楽しみ下さい)by作者

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「………」チーン

 

 

「まったく…」プンプン

 

 

お仕置きが終了した禰豆子は力尽きていた。

 

 

「炭華、もうそれくらいにしてやりなさい」

 

 

「そうだよ?禰豆子ちゃんだって炭華ちゃんを守りたくて柱稽古に参加したんだから」

 

 

まだ怒っている炭華に義勇と真菰が落ち着かせようとする。

 

 

「……分かりました。禰豆子、ごめんね」

 

 

「お姉ちゃん…、私も勝手に参加してごめんなさい」

 

 

落ち着いた炭華は禰豆子に謝罪し、禰豆子もまた、炭華に謝罪した。

 

 

「仲良きことは美しきかな」ウンウン

 

 

「本当にねぇ」ウンウン

 

 

仲直りした二人を見ていた義勇と真菰は互いに頷いていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「では炭華、この俺『水柱・冨岡義勇』の稽古の内容を説明する」

 

 

炭華と禰豆子が仲直りして数分後、道場に案内された二人は義勇の説明を聞いていた。

 

 

「俺が課す稽古は『技の見極め』。それは即ち、"如何なる状況でも繰り出す技"を知ることだ」

 

 

「例えば、"自分たちの周囲を()に囲まれた"場合だが、仲間の繰り出す技を見極めることで自分が繰り出す技を知ることができる」

 

 

義勇の説明に炭華と禰豆子は『成る程…』と頷いていた。

 

 

「それでは早速実戦しよう。丁度『水の呼吸』を使えるのが俺を含めて四人いる。まずは俺と真菰の組、炭華と禰豆子の組で打ち込みをする。いいな?」

 

 

「「「はい!」」」

 

 

説明を終えた義勇は組を決めて打ち込み稽古を始める。しかし義勇と真菰の連携に炭華と禰豆子は手も足も出なかった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

ピチョーン

 

 

「はぁ~、今日も勝てなかったなぁ~」

 

 

義勇の下で稽古を始めてから三日、炭華は水屋敷の風呂に浸かっていた。

 

 

「私たちと義勇さんたち、何が違うのかな~?」

 

 

炭華は義勇たちと稽古をしている際、模擬戦を行っていたが、炭華は禰豆子とペアになっている時"だけ"負けているのだ。そして考えている間に長湯してしまって逆上せてしまったのは言うまでもない。

 

 

それから翌日、いつものように炭華と禰豆子、義勇と真菰のペアで稽古をしていると、ふと炭華は疑問を感じた。

 

 

「(あれ?義勇さんは何で真菰さんの後ろにいるんだろう?)」

 

 

すると真菰が攻撃したと"同時"に義勇が攻撃を仕掛けた。

 

 

「(そうか!義勇さんは真菰さんの僅かな動きで何の技を出すのか把握しているんだ!そして邪魔にならない技を出してお互いを斬り合わないようにしているんだ!)」

 

 

炭華はこの稽古の"本質"をやっと把握した。

 

 

『水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦』

 

 

『水の呼吸 参ノ型 流流舞い』

 

 

禰豆子がねじれ渦を出すと"同時"に炭華は流流舞いを出し、義勇と真菰に一撃を入れた。

 

 

「やっと把握できたようだな」

 

 

「その感覚を忘れないでね」

 

 

義勇と真菰は構えを解き、二人を労った。

 

 

「「はい!」」

 

 

「では俺の稽古はこれで終了だ。最後の柱、一刀の下へ行くがいい」

 

 

「でも、向かうのは明日にしようね?今は疲れを癒さないと。よ~し、今日はご馳走作るぞ~!義勇の好物の"鮭大根"も作るから楽しみに待っててね~!」ピューン

 

 

真菰は言い終わると同時に道場から走り去った。義勇もそれを追う形で道場を後にし、炭華と禰豆子は二人、道場に取り残された。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「あら炭華に禰豆子じゃない!久しぶりね!」

 

 

「「お久しぶりです華琳さん!」」

 

 

真菰の料理を堪能した炭華と禰豆子は、翌日に義勇の下を去り、一刀の家である"空屋敷"に来ていた。そして二人を出迎えたのは華琳だった。

 

 

「あの、一刀さんはいらっしゃいますか?」

 

 

「私たち、柱稽古を受けるために来たのですが…」

 

 

炭華と禰豆子は華琳に一刀がいるか質問をする。

 

 

「あ~、それが…」

 

 

華琳はバツが悪そうな顔をして目を背ける。

 

 

「実は…、一刀、まだ蝶屋敷から帰ってないのよ」

 

 

華琳は一刀がまだ帰ってきてないことを二人に伝えた。

 

 

「「えぇ~!?」」

 

 

二人は一刀がいないことに驚いた。

 

 

「今秋蘭たちが呼びに行っているんだけど…」

 

 

「「……コクッ」」

 

 

炭華と禰豆子は互いに頷いて華琳の方を見た。

 

 

「私たちも一刀さんを"取り戻し"に行ってきます!」

 

 

「華琳さんはここで待っていて下さい!」

 

 

二人はそう言った途端、蝶屋敷に向かって走り出した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…と言う訳でお願いだ、一刀を帰して欲しい」

 

 

「ですから、一刀さんはまだ訓練できる体調では無いと何度も言ってるではありませんか」

 

 

「嘘言わないでよ!一刀の体調はもうとっくに戻っていることは分かってんのよ!?早く一刀を帰しなさいよ!」

 

 

炭華と禰豆子が蝶屋敷に到着すると、門前で言い争っている人影があった。それは蝶屋敷の主であるしのぶと、桂花と秋蘭だった。

 

 

「「秋蘭さん、桂花さん!」」タタタッ

 

 

そこに炭華と禰豆子が合流した。

 

 

「ん?おお炭華に禰豆子か」

 

 

「あ!あんたたち、一刀の所まで着いたのね!だったら丁度良いわ、一緒に一刀を取り返すのを手伝って頂戴!」

 

 

桂花は二人に加勢を求めた。

 

 

「「喜んで!」」

 

 

二人は桂花の要請に応じる。すると

 

 

「あれ?桂花に秋蘭、炭華に禰豆子じゃないか。どうしたんだ?」

 

 

蝶屋敷から一刀が出てきた。

 

 

「「「一刀(さん)!」」」ダキッ

 

 

一刀を見つけた桂花、炭華、禰豆子の三人は一刀に抱きついた。

 

 

「うぉっと!?どうした?」

 

 

「あんたが中々帰って来てこないから心配したんじゃない!」

 

 

「「コクコク」」

 

 

いきなり三人に抱きつかれた一刀は驚いて質問をする。それに桂花が答え、二人が頷く。

 

 

「あぁ~、そうだったか。すまん、『もう大丈夫』って言ってるのにしのぶが中々帰してくれなくてな…」ポリポリ

 

 

一刀は気まずそうに頬を掻く。

 

 

「んじゃ、迎えが来たから俺は空屋敷に帰るな」

 

 

一刀はしのぶにそう言って桂花たちを連れて蝶屋敷から去った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「それじゃあ、俺の柱稽古を始める」

 

 

柱稽古 第九の試練

 

 

空柱・北郷一刀の精神訓練

 

 

空屋敷に戻った一刀は華琳たちに中々帰って来れなかったことを謝罪し、そのまま道場へ移動。稽古を開始した。因みに恋屋敷で炭華が一刀に出会った理由は、『蝶屋敷に戻ること』を条件にしのぶが外出許可を出したからであった。

 

 

「俺の稽古では、"強靭な精神"を身に付けて貰う。今までの稽古で"体力"や"技術"を身に付けても目の前の"恐怖"に負けていては宝の持ち腐れになってしまう」

 

 

「そこで、これから俺の継子である春蘭と凪の二人に殺気を出してもらい、それに耐えれば合格とする」

 

 

一刀は稽古の内容を説明し、春蘭と凪に目配せをした。

 

 

「言っておくが、二人の殺気は尋常じゃ無いぞ?それじゃ、まずは凪からだな」

 

 

「はい隊長!では…、行きます!」ギロッ

 

 

「「!?!?!?」」ビクッ

 

 

一刀に言われ、凪は炭華と禰豆子に殺気を放つ。その殺気に煽られた二人は震え出し、最終的に"漏らして"しまった。

 

 

「そこまでだ。凪、ちょっとやり過ぎだぞ?見ろ」クイッ

 

 

一刀に言われ二人を見ると、涙目で震えていた。

 

 

「俺は風呂を沸かしてくる。稟、手伝ってくれ。他の皆は後片付けを頼む」

 

 

一刀はそう言って稟を連れて道場を後にする。桂花と風は二人の着替えを取りに屋敷内へ、華琳、春蘭、秋蘭、凪の四人は道場の後片付けと炭華と禰豆子のフォローに入った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

翌日、凪は昨日の失敗を反省し、殺気を抑えて放つ。炭華と禰豆子は任務で幾度と鬼と対峙していたため、この程度の殺気にはケロッとしていた。そこで凪は少しずつ殺気を強くした。しかしある程度強くすると二人は再び震え始めた。

 

 

「凪、その強さの殺気を維持するんだ。炭華、禰豆子、その殺気に耐えるんだ。その殺気に耐え抜けば、更に殺気を強くさせる。そしていずれは春蘭の本気の殺気に耐え抜けば、鬼舞辻にも怯まずに挑める」

 

 

一刀はそう言いながら見守り続けていると、少しずつではあるが二人の震えが収まってきた。

 

 

「いいぞ、その調子だ」

 

 

一刀が炭華と禰豆子を褒める。そして二人は凪の殺気に耐え抜いた。

 

 

「よし良くやった。今日はここまでにしよう。炭華、禰豆子、風呂を沸かしてあるから、さっぱりしてきなさい」

 

 

一刀の合図でその日の稽古は終了となり、各々後片付けをして湯浴みへと向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから五日後、炭華と禰豆子の二人は春蘭の本気の殺気にも余裕で耐えられるようになっていた。

 

 

「よしそこまで。二人とも、春蘭の殺気にだいぶ慣れたようだな。それでは最後の訓練だ、『春蘭と凪、二人と模擬戦』をしてもらう」

 

 

「ただし、春蘭と凪は"本気の殺気"を出しながら戦う。二人を"倒す"ことが出来れば稽古は終了となる。しっかりやれよ?」

 

 

一刀が課した最後の訓練は『春蘭、凪の二人との模擬戦』だった。そして春蘭は木刀を持ち、凪は手甲を取り付けて構えた。それに習って炭華と禰豆子は木刀を持って構え

 

 

「それでは…、始め!」

 

 

華琳の掛け声と同時に始まった。

 

 

「では行くぞ!チェスト~!」ブォン

 

 

「行きます!ハアアァァ!」ブォン

 

 

華琳の掛け声と同時に春蘭と凪は殺気を全開にし、攻撃を放つ。炭華と禰豆子は今まで浴びていたのとは違う殺気に身震いしてしまい、二人の攻撃を諸に喰らって倒れてしまった。

 

 

「どうだ?攻撃の有無の違いだけで殺気の"濃度"が変わっただろ?さぁ休んでいる時間は無いぞ?どんどん行くぞ!」

 

 

一刀は炭華と禰豆子を起こし、再び訓練を再開した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

最終訓練が始まってから十日後、春蘭と凪の殺気に慣れた炭華と禰豆子は今までとは段違いの成果を見せ、遂に二人を倒したのだった。

 

 

「よし!これで俺の稽古は全て終了だ。よく頑張ったな」ナデナデ

 

 

「「はい!ありがとうございますぅ❤️」」トローン

 

 

一刀は炭華と禰豆子を労うために二人の頭を撫でる。二人は久々の感触に既に蕩けていた。

 

 

「一刀、大変だ!」

 

 

そこにイーグルが慌てた様子で飛び込んで来た。

 

 

「仲間の鴉から聞いたんだが、今お館様の屋敷に"鬼舞辻無惨"が…!」

 

 

無惨の名前を聞いた瞬間、一刀は驚愕していた。

 

 

「イーグル、それは本当か!?」

 

 

「間違い無い!今鴉たちが柱を呼びに飛び回っている!一刀も早く合流するんだ!」

 

 

一刀は慌てて身支度を整える。

 

 

「春蘭、凪、炭華!三人は俺に続け!イーグルは刀鍛冶の里に行き、真桜を呼んで来てくれ!」

 

 

「「「「了解(した)!」」」」

 

 

三人と一羽は返事をし、イーグルはそのまま刀鍛冶の里へと向かった。

 

 

「一刀さん、私も行きます!」

 

 

そこに禰豆子が同行することを表明する。

 

 

「駄目だ!無惨の狙いは禰豆子、お前だ!恐らく無惨は禰豆子を取り込んで太陽を克服する算段だろう。そんな所にお前を連れて行く訳には行かない!」

 

 

しかし一刀はそれを拒否した。

 

 

「でも!「禰豆子、今は我慢しなさい。今の貴女にできることは『人間に戻って一刀たちの帰りを待つ』ことよ」…華琳さん」

 

 

それでも行こうとする禰豆子に華琳が割って入って禰豆子を大人しくさせた。

 

 

「…分かりました。でも、これだけは約束して下さい。『必ず生きて帰ってくる』と」

 

 

禰豆子は一刀を見ながら約束をお願いする。

 

 

「……分かった。約束しよう、必ず生きて帰ると」

 

 

一刀は禰豆子を抱き締め、約束した。

 

 

「一刀、こちらの準備はもう整っているぞ」

 

 

「何時でも出立できます!」

 

 

「行きましょう!一刀さん!」

 

 

三人は身支度を終えて一刀を待った。

 

 

「……よし!皆、最終決戦だ!気を引き締めて挑め!」

 

 

「応!」「御意!」「はい!」

 

 

「華琳、行ってくる」

 

 

三人の返事を聞いた一刀は華琳の方を向く。

 

 

「ちょっと待って。今切り火をするから」

 

 

カッ カッ

 

 

華琳は一刀たちに切り火をする。

 

 

「行ってらっしゃい。一刀」

 

 

コクッ「よし、いざ出陣!」

 

 

一刀は道場を飛び出し、産屋敷邸へと急いだ。そしてその後を追うように、春蘭、凪、炭華の順番で産屋敷邸へ向かった。

 

 

 



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第弐拾参話

アンケート結果は

『させる!』が48票

『させない!』が1票

よって『させる!』に決定しました。

アンケートにご協力して下さった皆さん、ありがとうございましたm(__)m


 

 

一刀たちに召集が掛かる十数分前、産屋敷邸の中庭に一人の男が現れた。

 

 

「……やあ、来たのかい」

 

 

中庭が見渡せる部屋に全身と顔に包帯を巻いた耀哉が不意に声を上げる。

 

 

「…初めましてだね、鬼舞辻……、無惨…」

 

 

「…何とも醜悪な姿だな、産屋敷」

 

 

何と産屋敷邸に現れたのは『人喰い鬼の始祖』である鬼舞辻無惨だったのだ。

 

 

「ついに…私の…、元へ来た…。今…目の前に…、鬼舞辻…無惨…。我が一族が…、鬼殺隊が…、千年…追い続けた…鬼…」

 

 

耀哉は息も絶え絶えになりながらも声を振り絞る。

 

 

「あまね…、彼は…、どのような…、姿形を…、している…?」

 

 

「二十代半ばから後半あたりの男性に見えます。ただし瞳は紅梅色(こうばいしょく)、そして瞳孔が猫のように縦長です」

 

 

耀哉は側にいる妻のあまねに質問をし、あまねは無惨の情報をこと細かく伝えた。

 

 

「そうか…、そう…、君は…、来ると…、思っていた…、必ず…」

 

 

「君は私に…、産屋敷一族に酷く腹を立てていただろうから…。私だけは…、君が…、君自身が殺しに来ると…、思っていた…」

 

 

耀哉は心の内を語った。

 

 

「私は心底興醒めしたよ産屋敷。身の程も弁えず千年にも渡り、私の邪魔ばかりしてきた一族の長がこのようなザマで」

 

 

「醜い、何とも醜い。お前からはすでに屍の匂いがするぞ産屋敷」

 

 

しかし無惨は耀哉の心の内を一蹴し、罵詈雑言を浴びせた。耀哉は既に起き上がることができないにも関わらず、体に力を込め、上半身を"起き上がらせようとした"。

 

 

「そうだろうね……。私は…、半年も前には…、医者から…、数日で死ぬと言われていた…。それでもまだ…、私は生きている…。医者も…、言葉を…、失っていた」

 

 

「それもひとえに…、君を倒したいという一心ゆえだ…、無惨…」

 

 

耀哉は目や口から血を流しながら上半身を"起き上がらせ"、既に"見えていない目"で無惨を睨んだ。

 

 

「その儚い夢も今宵潰えたな。お前はこれから私が殺す」

 

 

無惨は耀哉の睨みを"何処吹く風"のような感じで流した。

 

 

「君は…、知らないかもしれないが…」

 

 

耀哉はあまねに支えられながら話を続ける。

 

 

「君と私は…、同じ血筋なんだよ…。君が生まれたのは…、千年以上前のことだろうから…、私と君の血はもう…、近くないけれど……」

 

 

何と驚いたことに、産屋敷一族と無惨は"親族"であることが判明した。

 

 

「何の感情も湧かないな。お前は何が言いたいのだ?」

 

 

しかし無惨は何の興味も湧かず、ただ淡々に切り捨てた。

 

 

「君のような怪物を…、一族から出してしまったせいで…、私の一族は…、呪われていた…」

 

 

「生まれてくる子供たちは皆病弱ですぐに死んでしまう…。一族がいよいよ絶えかけた時、神主から助言を受けた……」

 

 

『同じ血筋から鬼が出ている…、その者を倒す為に心血を注ぎなさい…。そうすれば一族は絶えない』

 

 

「代々神職の一族から妻をもらい…、子供も死にづらくなったが…、それでも我が一族の誰も……、三十年と生きられない…」

 

 

「迷言もここに極まれりだな、反吐が出る。お前の病は頭にまで回るのか?」

 

 

耀哉が過去に起こった産屋敷一族の悲劇を語るが、無惨はそれを"反吐が出る"の一言で片付けてしまった。

 

 

「そんな事柄には何の因果関係もなし。なぜなら私には何の天罰も下っていない。何百何千という人間を殺しても私は許されている。この千年神も仏も見たことがない」

 

 

更には"自分は神に許されている存在"とまで言い出す始末であった。

 

 

「君はそのようにものを考えるんだね…、ゴホッ だが私には私の…、考え方がある…」

 

 

耀哉は咳き込み、血を吐きながらも"人の考えは千差万別"と説く。

 

 

「無惨…、君の夢は何だい?」

 

 

耀哉が無惨に夢のことを質問する。しかし無惨は黙ったまま答えようとはしなかった。

 

 

「この千年間…、君は一体…どんな夢を見ているのかな……」

 

 

「(……奇妙な感覚だ。あれ程目障りだった鬼殺隊の元凶を目の前にして憎しみが湧かない。むしろ)」

 

 

「ひとつや一夜(ひとよ)明くれば賑やかで賑やかで。お飾り立てたり松飾り松飾り。二つとや二葉の松は色ようて色ようて。三蓋松は上総山(かずさやま)上総山」

 

 

無惨が考え事をしているその横で耀哉の娘である長女の"にちか"と次女の"くいな"が紙風船で遊んでいた。

 

 

「(……この奇妙な懐かしさ。安堵感…気色が悪い。そしてこの屋敷には四人しか人間はいない。産屋敷とその妻、子供二人だけ。護衛も何もない…)」

 

 

「当てようか…無惨」

 

 

考え事に没頭していたのか、耀哉の一言で無惨は我に返った。

 

 

「君の心が私にはわかるよ。君は"永遠"を夢見ている…。"不滅"を夢見ている…」

 

 

「……その通りだ。そしたらそれは間もなく叶う。竈門禰豆子を手に入れさえすれば」

 

 

耀哉の推察に無惨は肯定した。

 

 

「君の夢は叶わないよ、無惨」

 

 

「竈門禰豆子の隠し場所に随分と自信があるようだな。しかしお前と違い、私にはたっぷりと時間がある」

 

 

無惨は耀哉たちや鬼殺隊を殺した後、時間を掛けてでも禰豆子を探しだそうとしていた。

 

 

「君は…、思い違いをしている」

 

 

「何だと?」

 

 

「私は"永遠"が何か…、知っている。永遠というのは人の"想い"だ。人の想いこそが"永遠"であり、"不滅"なんだよ」

 

 

耀哉は"人の想い"こそが"永遠"であり"不滅"であると説いた。

 

 

「下らぬ…。お前の話には辟易する」

 

 

しかし無惨はそれを"下らない"と言った。

 

 

「この千年間、鬼殺隊は無くならなかった。可哀想な子供たちは大勢死んだが、決して無くならなかった。その事実は今君が……下らないと言った人の想いが不滅であることを証明している」

 

 

「大切な人の命を理不尽に奪った者を許さないという想いは永遠だ。君は誰にも許されていない、この千年間一度も」

 

 

「そして君はね無惨、何度も何度も"虎の尾"を踏み、"龍の逆鱗"に触れている。本来ならば一生眠っていたはずの、虎や龍を君は起こした。彼らはずっと君を睨んでいるよ。"絶対に逃がすまい"と」

 

 

それでも耀哉は無惨の言葉を無視して喋り続ける。

 

 

「私を殺した所で鬼殺隊は痛くも痒くもない。私自身はそれ程重要じゃないんだ。この…、人の想いや繋がりが君には理解できないだろうね無惨。なぜなら君は…、君たちは」

 

 

「"君が死ねば全ての鬼が滅ぶ"んだろう?」

 

 

確信めいた耀哉の一言に、無惨はほんの僅かではあるが動揺してしまった。

 

 

「空気が揺らいだね…、当たりかな?」

 

 

「黙れ」

 

 

動揺したことを耀哉に指摘され、無惨は殺気を放つ。

 

 

「うんもういいよ。ずっと君に言いたかったことは言えた。最後に…、ひとつだけいいかい?『私自身はそれ程重要ではない』と言ったが…、私の死が無意味なわけではない」

 

 

「私は幸運なことに鬼殺隊…、特に柱の子たちに慕ってもらっている。つまり私が死ねば今まで以上に鬼殺隊の士気が上がる…」

 

 

耀哉は無惨の殺気を浴びても平然としていた。

 

 

「話は終わりだな?」

 

 

無惨は耀哉を殺そうと畳の上に土足で上がり、手を伸ばす。

 

 

「ああ…、こんなにも話を聞いてくれるとは思わなかったな…。ありがとう、無惨」

 

 

耀哉が無惨に礼を言ったその時

 

 

「うっふぅぅぅ~~~ん!!!」

 

 

「むっふぅぅぅ~~~ん!!!」

 

 

ズドンッ×2

 

 

突如叫び声が聞こえ、無惨の後ろから地響きが鳴った。

 

 

「!?!?!?」バッ

 

 

無惨は中庭の方を向く。すると

 

 

「悪いけど、耀哉ちゃんたちを殺させはしないわよ~ん♪」

 

 

「うむ!このような若い(おのこ)が死ぬのは非常に勿体無い!故に、救出させてもらうぞ!」

 

 

現れたのは、『ピンクの紐パン一丁の筋肉達磨』と『白のビキニトップと褌をした筋肉達磨』の"二体"だった。

 

 

「あまね、一体何が起きたんだい?」

 

 

耀哉は何が起きたのかあまねに質問をする。が、あまねは二体の姿を見た瞬間、『目を開いたまま気絶』してしまったため、耀哉の質問に答えることができなかった。

 

 

……貴様ら、何者だ?

 

 

無惨は自身に襲い掛かる"寒気(おぞけ)"と戦いながら、声を振り絞る。

 

 

「私は絶世の漢女(おとめ)貂蝉(ちょうせん)よ~ん♪」クネッ

 

 

「儂の名は卑弥呼(ひみこ)。漢女道亜細亜(アジア)方面"前"継承者よ!」クネッ

 

 

二体はクネクネと"しな"を作りながら自己紹介をする。

 

 

「(コイツらは私以上のバケモノか!?)」

 

 

それを見た無惨は冷や汗をダラダラと流しながらそう思った。

 

 

「「誰が一度見たら夢まで追いかけて生気を吸い尽くす筋肉達磨ですって(じゃと)~!?」」(怒)

 

 

二体は無惨の心の内を読んだのか、怒声を上げる。

 

 

「誰もそこまでは言っていない!と言うか、私の心の内を読むな!」

 

 

無惨は慌てた様子で叫んだ。

 

 

「ふんっ、まあ良い。儂らの目的はお主では無く、そちらの男なのだからな」

 

 

卑弥呼は無惨の後ろにいる耀哉たちを指差した。

 

 

「卑弥呼~、こっちは何時でもOKよ~ん♪」

 

 

すると貂蝉の声がしたので無惨がそちらを振り向くと、いつの間に移動していたのか、にちかとくいなを抱き抱えていた。

 

 

「流石は貂蝉、漢女道亜細亜方面現継承者よ。じゃが、儂も既に準備万端よ」

 

 

卑弥呼もまた、いつの間に移動したのか、耀哉とあまねを抱き抱えていた。

 

 

「産屋敷耀哉殿、そなた達を安全な所へ今から護送致します故、無礼をお許し頂きたい」

 

 

「構わないよ。私たちを助けてくれて、ありがとう」

 

 

卑弥呼は耀哉に無礼の謝罪をし、耀哉は助けてくれたことに感謝し、お礼を言った。

 

 

「それじゃ、飛ぶわよ~ん!!うっふぅぅぅ~~~ん!!!」

 

 

「むっふぅぅぅ~~~ん!!!」

 

 

ドンッ

 

 

四人を抱き抱えた二体はそのまま人間とは思えない脚力で瞬く間に夜空へと消えていった。そしてその場には、呆気に取られた無惨が一人、取り残されていた。しかし次の瞬間

 

 

ドド~~~ンッ!!!

 

 

耀哉が屋敷に仕込んでいた爆薬が爆発し、無惨はその爆発に"巻き込まれた"。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

産屋敷邸が爆発する少し前、鴉の案内によって鬼殺隊が続々と集まりだしていた。その中には、実弥、小芭内、蜜璃、無一郎、しのぶ、義勇、一刀と言った柱や、炭華、春蘭、凪、カナヲ、善逸、伊之助、玄弥と言った継子の姿もあった。

 

 

ドド~~~ンッ!!

 

 

そして屋敷が爆発する所を目撃してしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ぐっ、産ッ屋敷ィィッ!!」

 

 

爆発に巻き込まれた無惨は上半身裸になり、頭や体に裂傷を負いながらも生きていた。

 

「(何か仕掛けてくるとは思っていたが、これ程とはな。産屋敷の奴、私諸共妻と子供を爆薬で消し飛ばそうとするとは!爆薬の中にも細かい撒菱(まきびし)のような物が入っていて殺傷力が上げられている。一秒でも私の再生を遅らせる為に)」

 

 

無惨は傷を再生させながら耀哉の魂胆を読み解こうと考えていた。

 

 

「(つまりまだ何かある。産屋敷はこの後まだ何かするつもりだ。人の気配が集結しつつある。恐らくは柱。だがこれではないもっと別の何か。自分自身を囮に使ったのだあの腹黒は)」

 

 

「(私への怒りと憎しみが(まむし)のように真っ黒な腹の中でトグロを巻いていた。あれだけの殺意をあの若さで隠し抜いたことは驚嘆に値する。妻と子供は承知の上だったのか?)」

 

 

「(よせ、今考えることではない。動じるな、間もなく体も再生する)」

 

 

無惨は考えることを放棄し、再生に集中しようとする。するといつの間にか無惨の周りに"不気味な球体"が集まっていた。

 

 

「(肉の種子…、血鬼術!!)」

 

 

無惨が"それ"を認識した瞬間、種子は"無数の棘"となり無惨に刺さった。

 

 

「(固定された!?誰の血鬼術だこれは?体内でも棘が無数に枝分かれして抜けない!)」

 

 

「(いや問題ない、大した量じゃない。吸収すればいい)」ドクンッ

 

 

無惨は体内の棘を吸収し始めた。

 

 

ズグッ

 

 

すると腹に"違和感"を感じた無惨はそこに目を向ける。そこには"人の拳程大きさの穴"が空いていた。

 

 

「よお、気分はどうだい?鬼舞辻無惨」

 

 

「!?」バッ

 

 

前から声がしたので顔を上げると、そこには"全身白色の導師のような格好"をした青年がいた。

 

 

「貴様…、何者だ?」

 

 

「俺の名は左慈(さじ)。『外史管理局否定派』の人間だ」

 

 

無惨が青年に質問をすると、青年、『左慈』は自己紹介をした。

 

 

「今貴様は自分の体に刺さった棘を吸収したが、それと同時に俺が打ち込んだ"薬"も吸収したんだよ。"珠世"と言う鬼と"しのぶ"と言う柱が製薬した『鬼を人間に戻す薬』をな。後、于吉(ホモメガネ)が作った『薬の効果を倍増する薬』も一緒にブチ込んでやったぜ」

 

 

「何だと!?そんな薬、できる筈が…」

 

 

左慈の説明に無惨は驚いた。

 

 

「無いってか?だが違和感は感じてはいるんだろ?その違和感が動かぬ証拠って奴さ」シュボッ

 

 

左慈は懐から煙草を一本取り出し、先端に火を点けた。

 

 

フゥー「本来ならここまでお膳立てはしないんだが、まあ今回だけは"アイツ"に手を貸してやるさ」シュバッ

 

 

左慈はそう言って無惨の前から姿を消した。

 

 

「鬼舞辻無惨、覚悟!南無阿弥陀仏!」ブオンッ

 

 

するとそこに行冥が現れ、鉄球を投げ無惨の頭を潰した。

 

 

 



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第弐拾肆話

 

 

「(この音…やはり、御館様の懸念通り。この男無惨は『頚を斬っても死なない』!)」

 

 

行冥に頚を潰された無惨は即座に頚を再生させた。

 

 

「(さらにこの肉体の再生速度、今まで対峙した鬼の比ではない。やはり夜明けまでの"持久戦"にて作戦を行わなければならないか…)」

 

 

行冥が無惨の再生速度について考えていると、無惨は行冥に掌を向ける。

 

 

黒血枳棘(こっけつききょく)

 

 

すると無惨の掌から『黒色の有刺鉄線』が幾重にも伸び、行冥に襲い掛かった。

 

 

『岩の呼吸 参ノ型 岩躯の(はだえ)

 

 

しかし行冥は鎖に繋いだ"手斧"と"鉄球"を振り回し、無効化した。

 

 

「テメェかァアア、御館様にィイ何しやがったァアー!!」

 

 

「御館様ァ!」

 

 

「御館様」

 

 

そこに行冥以外の柱や炭華たちが続々と集結し始めた。

 

 

「(柱たちが集結…、御館様の采配、見事…。)無惨だ!!鬼舞辻無惨だ!!奴は頚を斬っても死なない!!」

 

 

声や足音で柱が集結しているのが分かった行冥は今戦っているのが無惨であることを告げた。そして実弥たちは初めて見る無惨の姿に驚いていた。

 

 

「無惨!!」

 

 

ただ一人、浅草で出会っていた炭華を除いて。

 

 

『霞の呼吸 肆ノ型』

 

 

『蟲の呼吸 蝶ノ舞』

 

 

『蛇の呼吸 壱ノ型』

 

 

『恋の呼吸 伍ノ型』

 

 

『水の呼吸 参ノ型』

 

 

『風の呼吸 漆ノ型』

 

 

『空の呼吸 捌ノ型』

 

 

『ヒノカミ神楽 陽華突…』

 

 

各々が技を無惨に向けて放とうとする。しかし無惨は顔に笑みを浮かべると

 

 

べべンッ

 

 

突如、琵琶の音が鳴り響き無惨の周辺に障子が"足下"に現れ、開いたと同時に落ちた。

 

 

「これで私を追い詰めたつもりか?貴様らがこれから行くのは地獄だ!目障りな鬼狩り共、今宵皆殺しにしてやろう!そして竈門炭華、貴様の妹を取り込みお前を私の"妻"にしてやる!」

 

 

無惨は落ちながら炭華に求婚をする。

 

 

「地獄に行くのはお前だ無惨!!絶対に逃がさない、必ず倒す!!そして絶対にアンタの妻になんかならない!禰豆子も取り込ませない!」

 

 

炭華は落ちながらも無惨の求婚を突っぱねる。

 

 

「私は諦めない、絶対にお前を嫁にする!竈門炭華!」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

此処は『鬼の始祖・鬼舞辻無惨』の根城、"無限城"。この城は『鳴女(なきめ)』と呼ばれる鬼の"血鬼術"で造られた城である。城内は(いびつ)で上下左右滅茶苦茶に壁や天井、(ふすま)がある。

 

 

そこに炭華は背中を下にして落ちていた。炭華は技を使って体勢を整えようとするが、落下の圧で踏ん張りがきかなかった。そこにいち早く助かっていた義勇が炭華の羽織を掴み、下の空間に放り投げた。

 

 

炭華は助けてくれた義勇にお礼を言おうとすると、後ろに鬼が現れた。

 

 

『水の呼吸 壱ノ型 水面斬り』

 

 

しかし炭華は"既に分かっていた"ため、振り向き様にその鬼を一刀両断した。しかしその鬼の奥にある襖から更に大量に鬼が現れた。

 

 

『水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦』

 

 

『水の呼吸 参ノ型 流流舞い』

 

 

そこに義勇が上から飛び降り合流し、二人で鬼を葬った。

 

 

「稽古していて良かったですね、義勇さん」

 

 

「あぁ。しかしここで稽古の成果が出るとは思わなかった。まあこういった時の為に、稽古をしていたのだがな」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

同じ頃、小芭内は鬼と戦っていた。

 

 

『蛇の呼吸 伍ノ型 蜿蜿長蛇(えんえんちょうだ)

 

 

小芭内は自身の蛇のような波打つ曲剣でこれもまた蛇のような太刀筋で鬼の頚を悉く斬っていった。

 

 

「甘露寺に近づくな塵共」

 

 

「(キャー、伊黒さん素敵!!)」キュン

 

 

蜜璃は自分を守ってくれた小芭内にキュンキュンしていた。

 

 

「怪我は?」

 

 

「無いです!」

 

 

「行くぞ」

 

 

「はい!」

 

 

二人はそんなやり取りをしてその場を移動した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

また同じ頃、行冥は無一郎と共に走りながら鬼を殲滅していた。

 

 

「凄い量の鬼ですね」

 

 

「下弦程度の力を持たされて(・・・・・)いるようだな。これで私たちの体力を消耗させるつもりなのか…」

 

 

「……御館様は?」

 

 

「一足先に黄泉路へと逝かれる筈だったのだが、何者かが御館様たちを何処かへと連れ去ってしまったのだ。奴らの目的は依然として分からないが、御館様に危害を加えるつもりは無いようだった。恐らくは御館様は御存命だろう」

 

 

無一郎は行冥に耀哉の安否を質問する。行冥は自分の耳から得た情報を無一郎に伝えた。

 

 

「良かった…。無惨の奴、僕たちの父まで奪おうとした…。徹底的に痛めつけて地獄を見せてやる!」

 

 

無一郎は涙目になりながら無惨に憎しみを募らせる。

 

 

「安心しろ…、皆同じ思いだ」

 

 

行冥もまた、顔に青筋を浮かべ怒っていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「(御館様…、守れなかった…)」

 

 

実弥は無限城の一角の畳の上で正座をし、耀哉を守れなかったことを悔やんでいた。そこに鬼が現れ、実弥に襲い掛かる。しかし実弥はその鬼をサイコロステーキのように細切れにした。

 

 

しかし自身の稀血(特別な血)のせいか、鬼が次々に現れた。

 

 

「次から次に湧く。塵共…かかって来いやァ、皆殺しにしてやる!」

 

 

実弥は涙を流していた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

はたまた同じ頃、無限城に落とされた伊之助は次々に鬼を倒し、玄弥と善逸とカナヲはそれぞれ違う所を走っていた。

 

 

しのぶは血の匂いを嗅ぎ取り、派手な装飾が施された扉をゆっくりと開ける。したし見た光景は、床一面に水が張られてまるで池のような部屋だった。

 

 

そしてその部屋の桟橋の上には同じ服を着た血まみれの女性の死体が幾つも転がっており、一体の男の鬼がボリボリと人骨を噛み砕いていた。

 

 

「ん? あれぇ、来たの? わあ、女の子だね!若くて美味しそうだなあ、後で鳴女ちゃんに『ありがとう』って言わなくちゃ」

 

 

しのぶの気配を感じた鬼『童磨(どうま)』は振り返り、口を人の血まみれにした状態でニコニコと屈託なく笑っていた。

 

 

「(コイツが姉さんと一刀さんが言っていた上弦の弐…)」

 

 

しかししのぶは笑うどころか逆に怒りが沸々と沸き上がっていた。なぜなら、童磨こそ姉のカナエを重症に追いやった鬼だったからである。

 

 

「やあやあ初めまして。俺の名前は童磨。いい夜だねぇ」

 

 

「た…、たす、助けて。助けて……!!」

 

 

童磨が自己紹介をしていると、まだ喰われていなかった女性がしのぶに助けを求めた。

 

 

「しー!今話してるだろうに…」ヒュガッ

 

 

童磨は女性に向かって氷を飛ばした。だがそこに女性はおらず、しのぶがその女性を抱えて近くの桟橋の上に降り立った。

 

 

「大丈夫ですか?安心して下さい、あなたを恐がらせたあの鬼を倒しますので」

 

 

「はっ…、はっ…」

 

 

しのぶは助けた女性に優しく声をかける。女性は息を荒くしていた。が、次の瞬間、女性の体が斬られ、口から血を吐いて絶命した。

 

 

「あ、大丈夫!そこにそのまま置いといて。後でちゃんと喰べるから」

 

 

童磨は立ち上がりながら己の武器である鉄扇を拡げた。

 

 

「俺は"万世極楽教(ばんせごくらくきょう)"の教祖なんだ。信者の皆と幸せになるのが俺の務め。その子も綺麗に喰べるよ」

 

 

「……皆の幸せ?惚けたことを。この人は嫌がって助けを求めていた」

 

 

「だから救ってあげただろ? その子はもう苦しくないし、つらくもないし、怯えることもない。誰もが皆死ぬのを怖がるから。だから俺が喰べてあげてる(・・・・・・・)。俺と共に生きていくんだ、永遠の時を」

 

 

「俺は信者たちの想いを、血を、肉を、しっかりと受け止めて救済し高みへと導いている」

 

 

童磨が自身の宗教の教えを唱えていると

 

 

「確かに死ねばもう苦しくもないし、辛くもない。怯えることもなくなる。しかし、死んでしまったら"喜ぶこと"も"楽しむこと"もできなくなってしまう。お前はそれを分かって言っているのか?」

 

 

しのぶが入って来た扉から声がしたので振り向くと、そこには扉を足で押さえている一刀の姿があった。

 

 

「一刀さん!」

 

 

「君は誰だい?」

 

 

しのぶは一刀に寄り添うように近づき、童磨は一刀に質問をする。

 

 

「俺は鬼殺隊、柱の一人・空柱。北郷一刀だ。貴様とは一度会っているんだがな?もしかして何百年と生きているせいで脳みそに(うじ)でも湧いているんじゃねぇのか?」

 

 

一刀は既に怒っているのか、口調が荒々しいものになっていた。

 

 

「ん? 『一度会ってる』? 何処かで会ったっけ?」キョトン

 

 

童磨は覚えが無いのか、頚を傾げる。

 

 

「だったら思い出させてやるよ、この技でな!!」

 

 

『空の呼吸 壱ノ型 燕返し』

 

 

一刀は童磨の腕目掛けて刀を振るう。

 

 

ズバッ ズバッ

 

 

「!?」

 

 

童磨は咄嗟に鉄扇でガードしようとするが、一刀の斬撃が速く、両腕を落とされてしまった。

 

 

「凄い凄い!!一瞬で俺の腕を斬り落とすなんて!"前より速くなってる"じゃない!でも、どうせ狙うなら頚のほうが良かったんじゃない?だって、すぐに再生しちゃうから」

 

 

童磨はそう言いながら斬られた両腕を瞬時に再生させた。

 

 

「再生されるのは承知の上だ。それで、思い出したか?」

 

 

「それはもう。君はあの時の少年だったよね?花の呼吸を使う女の子を救済しようとした時に邪魔をした」

 

 

童磨は当日のことを思い出したようだった。

 

 

「そうだ。そして俺の名をしっかりと覚えておくんだな、貴様を地獄に送る男の名を!!」

 

 

『空の呼吸 漆ノ型 漆黒鴉』

 

 

一刀はその場で刀を十字に振り、斬撃を童磨に向けて放つ。

 

 

「残念だなあ前にも言ったと思うけど、俺に"一度見せた"技は通用しないよ?」

 

 

ガキンッ ガキンッ

 

 

しかし童磨は拾った鉄扇を拡げて防御した。そして鉄扇を閉じた童磨の視界には"刀を振り上げた一刀"の姿があった。

 

 

『空の呼吸 捌ノ型 火食鳥』

 

 

ザシュッ

 

 

一刀の刀は童磨の頚を捉えたが、童磨は当たる寸前で後退していたため、頚の全体の三分の一程度しか斬れなかった。

 

 

「(チィッ、切り口が浅い!コイツ、俺が刀を振るうと同時に後退して致命傷を免れやがったか!)」

 

 

「うひゃ~、危ない危ない。下がってなかったら今ごろ死んでたね」

 

 

童磨は斬られた頚を撫でると、傷口は塞がっていた。

 

 

「でしたら、"毒"は如何ですか?」

 

 

『蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡(まなび)き』

 

 

しのぶの声が"後ろ"から聞こえた瞬間、童磨の額からしのぶの刀が突き出た。

 

 

ドクンッ

 

 

「ぐっ、ガハッ」ビチャビチャ

 

 

毒に侵された童磨は口から血を吐く。しのぶは刀を童磨から引き抜き、一刀の側まで下がった。童磨は踞り血を吐き続けるが

 

 

「あれぇ?毒、分解できちゃったみたいだなあ。ごめんねえ折角使ってくれたのに」

 

 

童磨は顔を上げ、解毒したことを言った。

 

 

「問題ありませんよ。上弦に毒が"効かない"のは想定内でしたし。それよりも、私"ばかり"に気を取られていいのですか?」

 

 

『空の呼吸 玖ノ型 嘴広鸛』

 

 

『空の呼吸 陸ノ型 白鳥ノ舞』

 

 

『空の呼吸 参ノ型 隼一閃』

 

 

一刀は『嘴広鸛』で気配を消し、『白鳥ノ舞』で童磨の後ろを陣取ると、『隼一閃』で童磨の頚目掛けて刀を振るった。

 

 

『血鬼術 蓮葉氷(はすはごおり)

 

 

しかし童磨は氷で生成した花を使い、一刀を牽制した。

 

 

「危ねぇな、凍っちまったらどうすんだよ?」

 

 

「そのつもりだったんだけどなぁ。けど、二対一じゃ俺に勝ち目はないから、"これ"を使わせてもらうよ」

 

 

『血鬼術 結晶ノ御子』シャリン

 

 

童磨は二つの鉄扇を拡げ、重ねた。そして鉄扇を上下に開けると、そこには『氷で生成された小さな童磨』が現れた。

 

 

「この子は俺と"同じ血鬼術"を使うから。これで二対二になったね」

 

 

「悪いが、二対一に戻させてもらう」

 

 

『空の呼吸 捌ノ型 火食鳥』

 

 

ズバンッ

 

 

「え?」

 

 

一刀はいち早く氷の童磨を斬り裂き、破壊した。

 

 

「俺たちに小細工は通用しない。いいからさっさと掛かってこい悪趣味耄碌(もうろく)野郎」

 

 

一刀は刀の切っ先を童磨に向ける。

 

 

「……君みたいな意地の悪い子は初めてだよ。何でそんな酷いこと言うのかな?」バチンッ

 

 

童磨は鉄扇を閉じながら殺気を放つ。通常なら殺気に当てられた者は怯んだりする。しかしながら一刀はこれ"以上"の殺気を三國志時代の時に受けていたので、さほど脅威とは感じなかった。

 

 

「(童磨(コイツ)の殺気…、凄まじいが"あの時"に感じた殺気(もの)よりはマシだな)テメェのことが嫌いに決まってるからだろうが。"救済"と称して人を喰う奴を、どうやったら好きになれるんだ?」

 

 

一刀は童磨を煽る。

 

 

「……よく分かったよ。君は俺の一番嫌いな性格の人だ」

 

 

童磨は鉄扇を一刀に向ける。

 

 

「それは奇遇だな、俺もお前みたいな性格の奴は大嫌いでな」

 

 

一刀と童磨は一触即発の空気を出す。そして童磨が一瞬で一刀に迫り、首目掛けて鉄扇を振るう。しかし一刀は屈んでそれを避け、お返しとばかりに童磨の頚目掛けて刀を振るう。だが童磨はもう一つの鉄扇でそれを受け止めた。

 

 

童磨が鉄扇を振るう。一刀は避けて刀を振るう。童磨は鉄扇で受け止め、また鉄扇を振るう。

 

 

一進一退の攻防を一人と一体は繰り広げていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「(凄い…、動きが速すぎて目で追えない!)」

 

 

しのぶは今目の前で繰り広げられている攻防に翻弄されていた。しのぶは童磨の隙有らば毒を打ち込む算段だったのだが、童磨にはそんな隙は無く、手をこまねいていた。

 

 

しかし、しのぶが待ち望んでいた時間がやってくる。童磨の攻撃を凌いだ一刀が一旦離れ、童磨が一刀を追いかけた。

 

 

「(隙を見せた!今が好機!)」

 

 

『蟲の呼吸 蜻蛉(せいれい)ノ舞 複眼六角』

 

 

しのぶは童磨に向けて六連の突きを放つ。童磨はそれに真っ正面から突っ込む形となり、しのぶの攻撃を諸に喰らってしまった。

 

 

『空の呼吸 参ノ型 隼一閃』

 

 

そこに一刀がすかさず童磨の動きを止めるために攻撃を仕掛ける。童磨はしのぶの攻撃を諸に喰らってしまった上に、一刀の斬撃をも喰らってしまった。

 

 

「ぐうっ、中々の連携だね……。反撃が出来なかったよ…」

 

 

童磨は未だ出血している胸の傷を押さえていた。

 

 

「(妙だな…?今は紅蓮朱雀を"使ってはいない"。なのに何故瞬時に再生させないんだ?)」

 

 

一刀は傷を再生させない童磨に違和感を感じていた。童磨が押さえていた傷を付けたのは、一刀である。一刀は紅蓮朱雀の効果によって傷の再生速度が落ちていることはかつての上弦との戦いで分かっていた。

 

 

では何故童磨の傷の再生速度が落ちているのか?その答えは簡単である。

 

 

一刀は"痣"を発現させていたからである。そして一瞬ではあったが、刀身が"赫色"になっていたのだった。

 

 

「俺をここまで追い詰めたのは君たちが初めてだよ。けど、これは防げるかな?」

 

 

『血鬼術 冬ざれ氷柱』

 

 

『血鬼術 蔓蓮華』

 

 

童磨は鉄扇を何度も振り、血鬼術を連発。童磨の周りに大量の氷の蓮花が、一刀たちの頭上に大量の氷柱が現れ、その全てが一刀たちに襲い掛かった。

 

 

『空の呼吸 伍ノ型 荒鷲』

 

 

一刀はしのぶを庇いながらそれを迎撃する。だが全てを迎撃しきれず、一刀の服はボロボロになってしまった。一刀はボロボロになった隊服の上着を脱ぎ捨て、上半身裸となった。

 

 

しのぶは一刀の怪我の具合を見ようと一刀の前に出ると、一刀の左胸に『鳥が羽ばたいているような痣』を見てしまったのだった。

 

 

 



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第弐拾伍話

 

 

か…、一刀さん…。その胸の痣……

 

 

しのぶは一刀の胸に現れた痣を見て震えていた。

 

 

「……そうか、納得がいった。『何故紅蓮朱雀を使ってもいないのに、童磨()に有効打を喰らわせることができたのか?』至極簡単なことだったな。俺に痣が浮かんでいたら、そら有効打を喰らわせることができた訳だ」

 

 

一刀は納得したように何度も"ウンウン"と頷いていた。

 

 

「納得している場合では無いですよ!?貴方は只でさえ歳が二十五に近いというのに、紅蓮朱雀を使って寿命が縮まっているんですよ!?なのに、痣まで浮かんでしまったら、死んでしまう…かも……しれないんですよ…」

 

 

しのぶは一刀の胸に凭れながら怒り、最終的には泣いてしまっていた。

 

 

「……ごめん。でも、こうでもしないとあのクソ野郎に、無惨には勝てないだろうから」

 

 

一刀はしのぶを自分から離れさせると、童磨に向けて刀を構えた。

 

 

「…行くぞ。空の呼吸 終ノ型 紅蓮朱雀!

 

 

一刀は終ノ型を使い、全身や刀に炎を纏わせた。

 

 

「うわぁ~、凄いね!全身や刀に炎を纏わせるなんて!でも、それで俺"たち"に勝てるかな?」シャリン

 

 

童磨は結晶ノ御子を二体造りだし、一刀に攻撃を仕掛けようとする。

 

 

空の呼吸 漆ノ型 漆黒鴉

 

 

しかし一刀は"炎の斬撃"を飛ばし、結晶ノ御子を全て砕いた。

 

 

「今の俺にそんな小細工は通用しない。俺の炎は命の炎、その炎は万物を全て焼き焦がす。たとえ貴様の最大の血鬼術を使っても俺には無意味だ」

 

 

「覚悟しろ、これから貴様を完膚なきまでに叩きのめす」

 

 

一刀は刀の切っ先を童磨に向ける。

 

 

「だったら、やってもらおうかな?」

 

 

『血鬼術 霧氷(むひょう)睡蓮菩薩(すいれんぼさつ)

 

 

童磨は自身の最大の血鬼術である"氷の菩薩"を造りだした。

 

 

空の呼吸 壱ノ型 燕返し

 

 

しかし、痣と紅蓮朱雀を使用している一刀の敵では無かった。一刀は燕返しを使い、菩薩を簡単に一刀両断してしまった。

 

 

な…

 

 

この結果には流石の童磨も驚きを隠せなかった。

 

 

「言ったはずだ、"俺には無意味だ"と。さあどうする?お前の切り札が効かないと分かった今、素直に頚を差し出すか?それとも、無様に無駄な抵抗を続けるか?」

 

 

「俺の答えは…、決まってるよ!」

 

 

童磨は血鬼術を連発し、一刀に襲い掛かる。

 

 

「無駄な抵抗を続ける…か。無様で醜い。素直に頚を差し出すなら、痛みを感じずに葬ったものを…」

 

 

童磨の血鬼術は一刀に届く寸前で悉くその炎によって蒸発してしまった。

 

 

「何故だ…、何故だ何故だ何故だ、何故だーーー!!」

 

 

ヤケになった童磨はいつもの冷静さは何処に行ったのか、鉄扇を振りかぶり、一刀に肉薄しようとする。

 

 

「これで終わらせる。空の呼吸 拾ノ型 鳳凰天舞!

 

 

一刀は接近する童磨に向かって鳳凰天舞を繰り出す。そして一刀の攻撃は童磨の鉄扇を斬り裂き、身体をサイコロステーキ状に斬り刻んだ。

 

 

「そんな…、俺は…ただ…、みんなを…、幸せに…、したかった…だけ…、なのに……」ボロボロ

 

 

童磨は崩壊しながら泣いていた。

 

 

「下手な芝居はよせ。どうせ感情すら無くなっているんだろ?そんな三文芝居でお涙頂戴できると思うな」

 

 

紅蓮朱雀を解除した一刀は崩壊する童磨を一瞥しながら冷たくあしらう。そして童磨に背を向けしのぶの下へ歩くと、童磨は完全に崩壊した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「一刀さん!」ダッ ガシッ

 

 

「お…っと。しのぶ、どうした?」

 

 

しのぶの側まで来た一刀は駆け寄ったしのぶに抱きつかれた。そして一刀はしのぶに声をかける。

 

 

「………」

 

しかし、しのぶは一刀に抱きついたまま何も言わなかった。一刀はしのぶの気持ちを察したのか、無言のまましのぶを抱き締めた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「お見苦しい所をお見せしました……//////」

 

 

正気に戻ったしのぶは顔を赤くして手で覆っていた。一刀はそんなしのぶを苦笑しながら頭を撫でていた。

 

 

「「じぃ~~~っ」」

 

 

「のわっ!?」

 

 

「はぅあっ!?」

 

 

その様子をカナヲと伊之助が扉の陰から見ており、それに気づいた二人がびっくりして変な声を出してしまった。

 

 

「はわわ、あわわ、はわわ、あわわ」

 

 

「しのぶ、落ち着け」

 

 

恥ずかしい所を見られたしのぶはパニックを起こし、それを一刀が宥めていた。

 

 

「はわわ、はわ、はわわわ、はわー!?」

 

 

「……えっと…、しのぶ姉さん、何て言ってるの?」

 

 

「『一体何時から見ていたの!?』…って言ってる」

 

 

パニックを起こしたしのぶが何かを言っており、内容が分からなかったカナヲが一刀に通訳をお願いすると、一刀はあっさりと通訳してしまった。

 

 

「えっと…、お兄ちゃんが鬼が造った菩薩を斬った辺り…、かな?此処に来る途中で彼と会ったから、一緒にお兄ちゃんたちを助けに行こうとして…」

 

 

「さっきの場面に出会したって訳か…」

 

 

一刀とカナヲが視線を向けた先には、しゃがんで顔を隠しているしのぶの背中を伊之助が撫でている光景だった。

 

 

「カナヲ、このことについては他言無用だ。しのぶを更に傷つけることになりかねないからな。伊之助にも言っとく」

 

 

「分かった」

 

 

一刀はカナヲにしのぶの羞恥を誰にも話さないことを約束させた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後、パニックに陥っていたしのぶが復活し、四人は無限城の童磨の部屋を後にした。

 

 

「よし、それじゃあ鬼を倒しつつ、はぐれた仲間を探しに行くとするか!」

 

 

一刀は右にカナヲ、左にしのぶをくっ付けた状態で通路を歩き、その後ろを伊之助が追いかける形となっていた。

 

 

何故カナヲとしのぶが一刀にくっ付いた状態でいるのか?それは二人共『ただ一刀にくっ付いていたいから』という何とも乙女らしい理由であった。

 

 

「カアァ!岩柱・悲鳴嶼行冥、風柱・不死川実弥、霞柱・時透無一郎、並ビニ不死川玄弥!苦戦ノ末上弦ノ壱ヲ討伐!討伐!ナオ、時透無一郎、不死川玄弥、重症ノタメ戦線離脱!戦線離脱!」

 

 

「我妻善逸、上弦ノ陸ト遭遇!討伐!討伐!」

 

 

「蛇柱・伊黒小芭内、恋柱・甘露寺蜜璃、水柱・冨岡義勇、並ビニ竈門炭華!鳴女(上弦ノ参)ト遭遇!血鬼術ニ苦シミナガラモ討伐!討伐!」

 

 

「並ビニ蟲柱・胡蝶シノブヲ除ク柱全員痣ヲ発現!痣ヲ発現!」

 

 

すると胸の辺りに札を着けた鴉が別の場所で戦っていた隊員の情報を言いながら飛んでいた。

 

 

「どうやら、助けはいらなかったようだな」

 

 

一刀は鴉からの情報を聞き、一安心していた。

 

 

「一刀、ここにいたか!」

 

 

するとそこにイーグルが目の前に現れた。

 

 

「無惨を見つけた!今一般隊員が取り囲んでいるが、奴らでは餌になるのが関の山だ!一刻も早く来てくれ!場所は俺が案内する!」

 

 

イーグルは口早に言うと、何処かへと飛び立った。一刀はしのぶたちに視線で合図を送ると、全員が頷きイーグルの後を追った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

イーグルに案内されてたどり着いた場所は、吹き抜けになっている一角で、そこには"肉の繭"があった。しかし肉の繭は既に破れており、周辺には無惨に殺された隊員の亡骸が転がっていた。

 

 

すると無限城が揺れだした。無限城は新たに上弦の参となった鳴女の血鬼術によって建築された城であって、鳴女が死んだ今、無限城は崩壊の一路を辿っていた。

 

 

一刀たちが慌てているその時、一刀の後ろに突如"黒い穴"が現れ、そこから腕が伸びたと思うと、一刀の肩を掴み、そのまま穴の中へと引き摺り込んでしまった。

 

 

しのぶたちは急なことで思考が追い付いていかなかったが、その黒い穴から先程とは違う野太い腕がしのぶたちを掴み、黒い穴へと引き摺り込んでいった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「よいしょ…っと!これで全員ね」

 

 

「ひい…、ふう…、みい…。うむ!全員のようだな!」

 

 

一刀たちが黒い穴に引き摺り込まれてから間も無く、一刀たちは引き摺り込まれた穴とは"違う穴"から引っ張りだされた。

 

 

あなたたちは…、一体…、誰…ですか…?

 

 

しのぶは自分たちを引っ張った者たちに震えながら質問をする。

 

 

「うふふ、子犬みたいに震えちゃって。まあ私たちの美貌に当てられて震えるのは当然ね。私たちってなんて罪なお・ん・な❤️」

 

 

「私は絶世の漢女、貂蝉よん❤️」

 

 

「儂は卑弥呼。漢女道亜細亜方面前継承者よ」

 

 

一刀たちを引っ張った張本人、貂蝉と卑弥呼はクネクネしながら自己紹介をした。

 

 

「………」

 

 

「「………」」

 

 

「あら?この子たち、目を開けたまま気絶しちゃったわよ?」

 

 

「儂らの美貌に耐えられなかったと見える。正に罪な美貌よの。そうは思わんか、貂蝉よ?」

 

 

「そうねぇん。確かに同性をも気絶させる程の美貌を持つ私たちって、罪な女ねぇ」

 

 

「(そいつらはお前らの(おぞ)ましさで気絶したんだと思うぞ?)」

 

 

その様子を見ていた左慈はそう心の中で呟いていた。

 

 

「「何か?」」クルリ

 

 

「何でも」プイ

 

 

左慈の心の中を読み取ったのか、貂蝉と卑弥呼が左慈の方を振り向き、左慈は思わず顔を背けた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「さてまずは自己紹介させて頂く。俺の名は左慈。あそこでクネクネしているのが認めたくは無いが仲間の貂蝉と卑弥呼。見た目(なり)はああだが、頼りには一応なる。それと、お前たちを治療したのは仲間の于吉(うきつ)だ」

 

 

左慈の前には、一刀を始めとして、しのぶ、カナヲ、伊之助、義勇、炭華、小芭内、蜜璃、行冥、実弥、玄弥、無一郎、善逸の十三名がいた。

 

 

「于吉、無惨の様子は分かるか?」

 

 

「えぇ。無惨は今、産屋敷邸があった場所で自暴自棄になって暴れていますね」

 

 

左慈は于吉に無惨の様子を聞き、于吉は手に持っている水晶を覗きながら情報を伝えた。

 

 

「聞いた通りだ。奴は今、産屋敷邸跡地にいる。あそこは開けた場所だから陽光も入りやすい。ならば、あの場所に縛り付けるのが最善の策だ。これからお前たちを産屋敷邸跡地(そこ)へ送る。ここが正念場だ、気合い入れていけよ?後で"協力者"を向かわせるからな」

 

 

左慈はおもむろに手を自分の横に向ける。するとそこには先程一刀たちを引き摺り込んだ黒い穴が現れた。

 

 

「そうそう、不死川玄弥と時透無一郎は行くなよ?お前たちはまだ怪我が治っていないんだからな?」

 

 

行こうとしていた玄弥と無一郎にさりげなく釘を刺す左慈であった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

そして一刀たちは左慈が作り出した黒い穴を通り、無惨の前までやって来た。

 

 

貴様ら…、一体、どれだけ私を怒らせれば気が済むんだ…

 

 

一刀たちが見た無惨は、まるで"怒りの炎"に包まれているような感じだった。

 

 

「それはこちらの台詞だ。貴様こそ、一体どれだけの人間を喰ったり鬼に変えた?罪無き人々の命を弄んだその愚かな行い、貴様の命をもって償え」

 

 

一刀は刀を抜刀し、切っ先を無惨に向ける。するとそれが合図だったのか、次々に柱たちが抜刀する。

 

 

「御託はいい、掛かって来い。ここで貴様ら全員喰らってやる」

 

 

無惨は自分の腕を横に振るう。すると腕が鞭状になり、一刀たちに襲い掛かった。

 

 

「散開!」

 

 

一刀が号令を発すると、柱たちはバラバラに逃げ、無惨の攻撃を避けた。

 

 

そして鞭の軌道上にあった木々が根元から"切り倒された"。

 

 

「おいおい、冗談じゃねぇぞ!あんなの喰らったら一瞬で御陀仏じゃねぇか!」

 

 

一刀は切り倒された木々を見て肝を冷やしていた。

 

 

「何だ?威勢の良いことを言ったくせに、これしきのことで根を上げるのか?」

 

 

「抜かせ!俺たちはまだまだやれるぜ!」

 

 

一刀は紅蓮朱雀を使用し、己の力を強化させる。そして柱も次々に痣を浮かばせた。その中には痣が浮かばなかったしのぶも額に蝶の痣が浮かんでいた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その様子を左慈たちは于吉の水晶を介して見ていた。

 

 

「……どう見る?」

 

 

左慈は視線を外さずに于吉に声をかける。

 

 

「どうでしょうか?こればかりは何とも言えませんね」

 

 

于吉もまた、水晶から視線を外さずに左慈の質問に答えていた。その時、左慈たちの後ろに"誰か"が到着した。その気配を感じた二人は振り向くと

 

 

「ようやく到着したか…っと、まさか、"お前たち"まで来るとはな。これは良い意味で予想を裏切ったな」

 

 

後ろの者たちに声をかけた。

 

 

「時間が惜しい。早速だが向かって欲しい。この決闘の勝利はお前たちに掛かっていると言っても過言では無いからな」

 

 

左慈の言葉に"協力者たち"は頷いた。その様子を見ていた玄弥と無一郎は口をパクパクさせていた。

 

 

それはまるで、『もう一人の自分』を見ているような感じだった。

 

 



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第弐拾陸話

 

 

「くそっ、奴の出鱈目な攻撃、どうにかできないのか!?」

 

 

一刀たちは無惨の攻撃に頭を悩ませていた。それもそのはず、無惨の再生力は他の鬼に比べて極端に"早い"のだ。そのため、幾ら攻撃を見切って腕を斬り落としても、即座に再生されてしまうため、完全に"いたちごっこ"になっていたのだ。

 

 

「どうした鬼狩り共?動きがさっきよりも遅くなっているぞ?」

 

 

鬼である無惨は一刀たち人間とは違い、"疲れない"のであるが、一刀たちは無惨の攻撃を避けたりしていたため、通常よりも疲れが早く出てしまったのだ。つまり、疲れ(それ)によって動きが幾分か遅くなってしまっていた。

 

 

「(くそっ、疲れのせいで皆の動きが鈍くなっていやがる!無惨もそれに気づいているはず。これを打開する方法を見つけなくては…)」

 

 

一刀は皆が疲れで動きが鈍くなっていることへの打開策を考えているが、無惨の攻撃が鋭いせいで悠長に考える時間が無かったのだ。

 

 

「……興冷めだ」

 

 

無惨はそう呟くと、不意に攻撃を止めた。その行動に一刀たちが警戒していると

 

 

「"次の一撃"で、貴様らの息の根を止めてやる」

 

 

無惨はそう言って鞭状の腕を振りかぶった。

 

 

「!!?、全員伏せろ~!!!」

 

 

ヒュガッ

 

 

一刀が叫んだ瞬間に全員が伏せ、その頭上を無惨の腕が通過した。

 

 

ズズン…ッ

 

 

後ろから何かが倒れる音がしたので振り返ると、一刀たちの周辺にあった木々が悉く倒れていた。

 

 

「ほう…?動きが鈍くなっていても、避ける力だけはあるようだな」

 

 

無惨は感心したように言うと、今度は両腕を振りかぶった。

 

 

「だが…、これは避けられるか?」

 

 

全員が死を覚悟した。その時

 

 

ガオンッ ガオンッ ガオンッ ガオンッ ガオンッ ガオンッ ガオンッ

 

 

突如銃声が"七度"響いた。

 

 

「!?!?!?」

 

 

そして銃弾は無惨の片腕を吹き飛ばし、人間の急所とも言える箇所を貫いた。

 

 

「ほう…?、まだこの私に歯向かう者がいたか…」

 

 

無惨は腕を再生させながら銃声がした方を向いた。

 

 

そこには一人の青年が右手に赤と黒で装飾された『自動装填拳銃(オートマチック)』を、左手に銀一色の『回転式拳銃(リボルバー)』を持っていた。銃弾は彼が撃ったのか、銃口から煙が上っていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「兄貴、手応えは?」

 

 

「あったはあったが、奴さんには効果は薄いようだ。すぐに再生されてしまった」

 

 

兄貴と呼ばれた青年は質問にすぐ答えていた。

 

 

「だが注意をこちらに反らすことには成功した。見てみろ、奴さん俺たちを物凄い形相で睨んでいるぜ?」

 

 

彼の視線の先には、彼らを物凄い形相で睨んでいる無惨の姿があった。

 

 

「とりあえず、向こうが痺れを切らす前に出向くとしますか」

 

 

青年はそう言って無惨の所まで軽い足取りで歩いて行き、他のメンバーも彼を追いかける形で歩いていった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ほう…、自らこちらに出向くか。余程の馬鹿と見る…」

 

 

「馬鹿とは失礼な挨拶だな。あんたのような耄碌した爺さんに言われたくはねえよ」

 

 

無惨の言葉が癪に触ったのか、無惨に敗けず劣らずの罵声を青年が浴びせた。

 

 

「……余程死にたいようだな。殺す前に貴様らの名前を聞いておこう」

 

 

青年の挑発に乗ってしまった無惨は名前を聞こうとする。

 

 

「俺の名はレオン、"レオン・グランフィールド"だ。そして俺の隣にいるのは、弟の"イチカ・グランフィールド"。そしてこいつらはそこにいる人たちと同じ鬼殺隊だ。もっとも、『違う世界の』が入るけどな」

 

 

レオンと名乗った青年は自分の横にいる者を親指で差す。

 

 

「俺は"元"鬼殺隊・"鬼柱"、竈門炭治郎だ!鬼舞辻無惨、今からお前を狩る!」

 

 

炭治郎と名乗った青年は懐から音叉のような物を取り出し、鳴らした。すると音叉から波紋が広がり、それを炭治郎は自分の額に近づけた。

 

 

すると炭治郎の額に"鬼の顔"が現れ、炭治郎の体が発光する。そして光が止むと、炭治郎は"銀色の装飾を着けた白色の鬼"になっていた。

 

 

「貴様…、その姿、私と同じ鬼か!?」

 

 

「貴様のような外道と一緒にするな!この姿は己を極限を越えて鍛え抜いた者がなる姿だ!"玄弥"、"善逸"、師匠の皆さん!俺たち"猛士"の力をあの外道に骨の髄まで教え込むぞ!」

 

 

「「「「「了解(おう)!」」」」」

 

 

炭治郎の言葉に玄弥(別)と善逸(別)、その師匠である"響鬼"、"風鬼"、"雷鬼"が返事をし、変身した。

 

 

「彼らもやる気だねぇ。それじゃイチカ、俺たちもやるぞ!」

 

 

「OK、兄貴!来い、『ストライクフリーダムガンダム』!」

 

 

イチカが右手を上に上げると、彼の手首にある手甲(ガントレット)が光り、イチカを包み込む。そして光が止むと、彼は"関節が金色に施された白色のロボット"になっていた。

 

 

『憎悪の空より来たりて、正しき怒りを胸に、我等は魔を断つ剣を執る。汝、無垢なる刃 《デモンベイン》!』

 

 

レオンは胸から下げていた星形のペンダントを取り外し、頭上に掲げた。そして起動コードを音声入力すると、掲げた手を下に振り下ろした。

 

 

すると彼の足下にペンダントと"同じ形"の魔方陣が現れ、発光する。そして光が止むと、そこには『両足首に巨大なシールドを付け、背中に鉄板が幾重にも重なった翼を持ち、頭部の角から緑色に発光する髪を靡かせた銀色一色のロボット』が佇んでいた。

 

 

「貴様ら…、その姿はなんだ!?」

 

 

レオンとイチカの姿に驚いた無惨はレオン達に質問を投げ掛ける。

 

 

「こいつは無限の成層圏(インフィニット・ストラトス)と言って簡単に言えば俺たち"専用の鎧"みたいな物さ」

 

 

レオンは無惨の質問に簡潔に答えた。

 

 

「……そのような鎧で私に勝てる…とでも?」

 

 

レオンの返答を聞いた無惨は相手を馬鹿にするような眼差しでレオン達を睨む。

 

 

「勝てるさ。何なら証明して見せようか?」クイクイ

 

 

レオンは中指を立て、何度も曲げた。無惨はレオンの挑発にとうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。

 

 

「貴様ら…、全員今ここで息の根を止めてやる!」ヒュガッ

 

 

無惨は鞭状の腕を振り、レオン達に攻撃を仕掛ける。

 

 

だが

 

 

パシッ パシッ

 

 

「んなっ!?」

 

 

レオンとイチカが無惨の腕を"受け止めた"。これには流石の無惨も驚きを隠せなかった。

 

 

「言っただろ?"証明して見せようか?"って。人の話はちゃんと聞いておかないとな?お前ら、やるぞ!」

 

 

「「「「「「「おう(了解)!!」」」」」」」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

無惨の注意がレオン達に向いたこともあってか、一刀たちは無惨から離れ、合流していた。

 

 

「一刀さん、あの方々は一体…」

 

 

「恐らくは、左慈が言っていた"協力者"だと思う。思いたいが…」

 

 

「言いたいことは分かります。あれでは"協力者"と言うよりも"切り札"ですよ…」

 

 

一刀と炭華の会話に合流したこの世界の鬼殺隊のメンバー全員が"うんうん"と頷いていた。それもそのはず、レオン達協力者は無惨を圧倒していたからだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ほらほら、俺たちの息の根を止めるんじゃ無かったのか?」

 

 

レオンは背中にある翼『飛行ユニット《シャンタク》』を駆使しながら空を飛び、無惨をおちょくっていた。またイチカも背部ブースターを使用し、空から《高エネルギービームライフル》を使い狙撃していた。

 

 

更には音撃の戦士に変身した炭治郎たちも、各々の武器を使用し、無惨を翻弄していた。

 

 

そして一刀たちが待ちに待った時が訪れた。

 

 

「ハァ…、ハァ…、ハァ…」

 

 

そう、左慈が無惨の体に打ち込んだ薬が効果を発揮し始めたのだ。

 

 

「どうやら、左慈と言う者が投与した薬が効き始めたようだな。息が上がってるぜ?」

 

 

「……黙れ」

 

 

レオンに指摘されて悔しかったのか、無惨はぶっきらぼうにあしらう。

 

 

「お前ら、奴さんは弱ってきている!もう一息だ、頑張れよ!」

 

 

「「「「「「「おう!」」」」」」」

 

 

レオンは皆に激を飛ばし、皆はそれに答える。

 

 

「お先に行くぜ!『断鎖術式《ティマイオス》、《クリティウス》』、発動!」

 

 

レオンは自身の足首に接続されているシールドに搭載されている術式を解放し、無惨へと文字通り"一瞬"で移動した。

 

 

「少しばかり空中遊泳を楽しみな!《アトランティス・ストライク》!」

 

 

ドゴンッ

 

 

「グハッ!?」

 

 

レオンは無惨を上空へと"蹴り上げた"。

 

 

「次は俺の番だ!《スーパードラグーン》射出!全砲門展開!喰らえ!《ドラグーン・フルバースト》!」

 

 

イチカはバックパックに搭載されている《スーパードラグーン》を射出し、サイドアーマーに接続されている《クスィフィアス3レール砲》、腹部にある《カリドゥス複相ビーム砲》、更には両手に《高エネルギービームライフル》を構え、全ての射撃武器を一斉に照射する《ドラグーン・フルバースト》を無惨に放った。

 

 

「グアアァァァッッッ!!」

 

 

これには流石の無惨も為す術が無かったのか、それともレオンの攻撃が効いていたのか、イチカの射撃を全て喰らってしまった。

 

 

「威吹鬼、斬鬼、次は俺たちの番だ!師匠たちもお願いします!」

 

 

「「了解!」」

 

 

「「「心得た!」」」

 

 

無惨の落下地点に先回りしていた炭治郎たちは攻撃の準備を整える。

 

 

まずは風鬼と威吹鬼が《音撃管 烈風》のパルブを操作し鬼石を無惨の背中に撃ち込む。そして地面に激突し、よろよろと立ち上がった無惨に炭治郎と響鬼がベルトに取り付けられている《音撃鼓 輝光》と《音撃鼓 火炎鼓》を無惨に設置。更には雷鬼と斬鬼が《音撃弦 烈雷》を突き刺し、音撃モードにした。

 

 

「行くぞ!《音撃打 閃光連打》!」

 

 

「《音撃打 火炎連打》!」

 

 

「「《音撃斬 雷電激震》!」」

 

 

「「《音撃射 疾風一閃》!」」

 

 

風鬼と威吹鬼も各々の武器を音撃モードに変形させ、音撃の戦士全員が無惨に向けて音撃を放つ。

 

 

通常ならば音撃の戦士の音撃は《魔化魍(まかもう)》と呼ばれる(あやかし)にしか効果は得られない。しかし炭治郎が変身した輝鬼だけは違う。彼は"無意識"の内に陽光と"同じ力"を音撃に混ぜているため、無惨が造った鬼を倒すことができるのだ。

 

 

そして輝鬼は戦いに赴く前に于吉の力を借りて仲間に自分の力を分けていたのだ。

 

 

それが何を意味するのか?それは

 

 

「グオオオォォォォ……」

 

 

輝鬼"以外"の音撃も無惨に通用するという意味である。陽光と同じ力を受けている無惨は明らかに苦しんでいた。そして輝鬼たちの合体技《六鬼合奏音撃》が決まり、爆発した。そして爆風が収まると、ボロボロの無惨がそこにいた。

 

 

「あれまぁ随分と似合う格好になっちまったじゃねぇか」

 

 

「……五月蝿い」

 

 

レオンの口撃に無惨は息も絶え絶えの様子で返した。

 

 

「おいお前ら、もう十分体力は回復しただろう?止めは任せるぜ」

 

 

レオンは一刀たちに一声掛け、後ろに下がった。

 

 

『蟲の呼吸 蜈蛟ノ舞 百足蛇腹』

 

 

『水の呼吸 拾ノ型 生生流転』

 

 

『風の呼吸 玖ノ型 韋駄天台風』

 

 

『蛇の呼吸 伍ノ型 蜿蜿長蛇』

 

 

『恋の呼吸 陸ノ型 猫足恋風』

 

 

『岩の呼吸 肆ノ型 流紋岩・速征』

 

 

『雷の呼吸 漆ノ型 火雷神(ほのいかずちのかみ)

 

 

『獣の呼吸 玖ノ型 伸・うねり裂き』

 

 

『花の呼吸 陸ノ型 渦桃』

 

 

『ヒノカミ神楽 日暈の龍・頭舞い』

 

 

『空の呼吸 拾ノ型 鳳凰天舞』

 

 

レオンに促された一刀たちは各々の技を無惨に向けて放った。

 

 

しかし

 

 

「貴様ら…、頭に乗るんじゃ…、無いわああぁぁぁああぁぁ~~~!!」

 

 

ヒュガッ

 

 

無惨は腕を鞭状にし、一刀たちに向けて振るった。攻撃に集中していた一刀たちは無惨のその攻撃に対処できずに吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

 

はずだった。

 

 

「今よ!総員直ちに柱たちを助ける"壁"になりなさい!」

 

 

『了解!』

 

 

一刀たちは突如現れた一般隊員たちが自らの体をクッションの代わりになってくれたお陰で大怪我を負わずに済んだ。一刀は一般隊員に目を向けると、全員が"眼"のような物が書かれている"札"を着けていることに気づいた。

 

 

「あれ?それは愈史郎さんの"紙眼"?」

 

 

炭華も一刀同様札に気づいたのか、その札の正体を見破った。

 

 

「炭華、もしかしてその札のこと知ってるのか?」

 

 

札の正体を見破った炭華に一刀か疑問を投げ掛ける。

 

 

「あ、はい。この札は"紙眼"と言って愈史郎って言う人を喰わない男性の鬼の血鬼術で生成された(もの)で、これを着けた対象を"見えなくする"効果があるそうです。しかも、これを額に着ければ通常見えない血鬼術なども"見る"ことが出来ます。実際に私はこれを額に着けて鬼の血鬼術を見破って倒したことがあります」

 

 

炭華の説明に一刀は目が点になった。

 

 

「そんなことより、今曹操さんの声が聞こえていた気がするんだけど」

 

 

善逸の指摘にハッとした一刀が空を見上げると、上空に胸の辺りに"紙眼"を着けた鴉が旋回していた。それも1羽だけでは無く、4羽も飛んでいた。

 

 

「荀彧隊前へ!敵の攻撃を防ぎなさい!」

 

 

「郭嘉隊は荀彧隊が防いでいる間に負傷者の手当てを!」

 

 

「程昱隊は治療中の皆さんの護衛をお願いします~」

 

 

すると旋回している4羽の鴉の内3羽から桂花たちの声がして、一般隊員に指示を出していた。その声色はまるで『かつての決戦を決めた時』のような凛々しい声だった。

 

 

「もしかして、あの鴉たちが着けている紙眼()を華琳たちも着けていて、視覚を共用しているのか!?」

 

 

一刀は紙眼の能力の一つである『視覚同調(しかくどうちょう)』を見ただけで看破した。

 

 

「それだけじゃ無いの~」

 

 

「えっ、沙和!?何でここに!?しかも真桜まで!?」

 

 

一刀の前に沙和と真桜が凪に連れられてやって来た。

 

 

「隊長ボケるにはまだ早いで。隊長がウチを呼んだんやないか。ついでに言うとくけど、あの隊員たちが使うとる盾はウチが日輪刀と同じ素材で試行錯誤の末、完成させた一品や。並の攻撃では傷一つ着かへんで」

 

 

一刀は真桜が絡繰(からく)りに強いことは知ってはいたが、ここまでとは思わず、口をパクパクさせていた。

 

 

「それから、隊員たちを指揮しているのは春蘭様たちなの~」

 

 

沙和に言われて指揮者を探してみると、確かに指揮をしているのは春蘭と秋蘭だった。

 

 

「何か…、改めて見ると、春蘭たちの凄さに驚かされるな…」

 

 

一刀の呟きを聞いた柱たちは『うんうん』と頷いていた。

 

 

 



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第弐拾漆話

 

 

「夏候淵隊撃ち方用意!」

 

 

秋蘭が率いている部隊は"火縄銃"を携えた『射撃隊』だった。

 

 

盾を装備している『防護隊』の隙間から隊員たちは銃口を無惨に向ける。

 

 

「火蓋を切れ!狙い、構え…、放て!」

 

 

パンッ パンッ パンッ パンッ パンッ

 

 

射撃隊が放った『猩々緋砂鉄(しょうじょうひさてつ)』と『猩々緋鉱石(しょうじょうひこうせき)』を混ぜた弾が無惨に着弾する。

 

 

「???、蚊が喰いついてきたか?」

 

 

が、無惨には効果が無かった。隊員たちは弾が効かなかったことに狼狽える。

 

 

「これしきのことで狼狽えるな!弾が効かないのは承知の上。さあ次だ!第二列目前へ!構え…、放て!」

 

 

それを秋蘭は一喝して狼狽を納め、次々に無惨に向けて弾を撃ち続けた。

 

 

すると

 

 

「ぐっ…、ハァ…、ハァ…」

 

 

無惨が先程よりも疲れが明白に現れ始めた。

 

 

「"毒"が効き始めたぞ!休むこと無く撃ち続けろ!」

 

 

実は射撃隊が放った弾には"藤の花の毒"が中に仕込まれており、その弾を吸収した無惨はその毒に犯されていたのだ。しかし、無惨は"鬼の始祖"であるがため、毒を分解する"速度"が上弦の鬼に比べて遥かに高いのだ。

 

 

だが、しのぶと珠世が作成した『鬼を人間に戻す薬』と『老化薬』、更には于吉の『薬の効果を倍増させる薬』の性で解毒する速度が落ちてしまい、体内に藤の花の毒が滞留する結果となってしまった。

 

 

「(おのれ…、小賢しい鬼狩り共め。こうなれば、"奥の手"を使うしか!)」

 

 

ボゴンッ

 

 

無惨は奥の手とも呼べる『肉体分裂』を行おうと自分の体を盛り上がらせる。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「まずい!無惨の奴、自分の体を分裂させて逃げるつもりだ!」

 

 

その様子を偶然見ていたイチカが声を荒げる。それを聞いた一刀たちが刀を持って突撃しようとする。

 

 

「安心しろ。奴は体を分裂"できない"。その答えは直に分かる」

 

 

しかしそれをレオンが制止させ、ことを見守り続けた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

無惨は体を盛り上がらせ、後はその体を爆発させるだけだった。しかし、盛り上がった体はまるで空気が抜けた風船のように萎み、元の体に戻ってしまった。

 

 

「(体が分裂できない!?吸収してしまった薬は『人間に戻す薬』と『老化薬』だけでは無く、『分裂を阻害する薬』までも吸収してしまったのか!?)」

 

 

無惨は左慈によって吸収してしまった薬が"三つ"では無く、"四つ"であることを悟った。

 

 

「カアァ!夜明ケマデアト三十分、三十分!」

 

 

その時、空を旋回している鴉が夜明けまでの残り時間を告げた。無惨は陽光が当たるこの場所から逃げようとする。

 

 

「逃がさねぇよ。『捕縛結界呪法 アトラック・ナチャ』展開!」

 

 

だがレオンがデモンベインの頭部から伸びている髪を緑から赤に変えると、髪が"蜘蛛の巣"状に拡がり、無惨を拘束した。

 

 

「おのれ鬼狩り共!何処まで私の邪魔をすれば気が済むのだ!」

 

 

無惨は拘束されながらも自由を得ようともがく。しかし無惨を拘束している髪はもがけばもがく程、その拘束を強めていった。

 

 

更には復活した一刀たちが無惨に攻撃を仕掛け、無惨の命は『風前の灯』になっていた。

 

 

「北郷一刀!止めはお前が決めろ!この悲しみの連鎖に終止符を打つんだ!」

 

 

「了解!」

 

 

無惨は夜明けが近づく毎に暴れるが、それに比例するが如く拘束する力も強くなっていく。そしてレオンに言われ一刀が無惨に止めを指すために抜刀する。

 

 

「行くぞ!空の呼吸 終ノ型 紅蓮朱雀!拾ノ型 鳳凰天舞!

 

 

ゴウッ

 

 

一刀は自身の呼吸の中で最強の型を使用する。

 

 

そして

 

 

ザシュッ ザシュッ ザシュッ ザシュッ ザシュッ……

 

 

一刀は赫色になった刀を"何度も"無惨に向けて振るった。まるで『何処を斬れば良いのか分かっている』かのように……。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

そして三十分にも及ぶ一刀の斬撃を受けた無惨は血みどろになりながらも原形を保っていた。しかし、一刀の斬撃が終わったと同時に夜明けが訪れ、無惨は抵抗できずに陽光を浴び、崩壊した。

 

 

「終わった……」

 

 

誰かが不意にそう呟く。

 

 

ウオオォォォ~~!!

 

 

そしてそれを皮切りに隊員たちが両腕を上に高々と上げて喜んだ。

 

 

「秋蘭やったぞ!我々の勝利だ!」

 

 

「そうだな、姉者!」

 

 

春蘭と秋蘭は互いを抱き合い、感傷に浸っていた。

 

 

「一刀さん、終わりましたね」

 

 

刀を振り下ろした状態で固まっている一刀に炭華がそっと寄り添い、彼の背中に触る。

 

 

ドサッ

 

 

しかし一刀は答えず、炭華が触れた瞬間に刀を手離し、前のめりに倒れてしまった。

 

 

「一刀さん?一刀さん!?一刀さん!!?」

 

 

炭華は倒れた一刀を仰向けにして抱き寄せ、何度も揺すった。

 

 

「………」

 

 

しかし一刀は目を閉じたまま、動かなかった。

 

 

「北郷!」

 

 

「北郷さん!」

 

 

そこに左慈と于吉、更には貂蝉と卑弥呼に連れて来られた華琳たちの姿もあった。そして騒ぎを聞きつけた柱や隊員、隠の者たちも集まって来た。

 

 

「左慈さん…、一刀さんが…、一刀さんが…」

 

 

炭華は目に涙を溜めながら左慈の方を向いた。

 

 

「やはり、恐れていたことが起きたか!」

 

 

左慈は一刀の側まで近づくと、袖口から一本の瓶を取り出した。中には液体が入っており、淡く光っていた。

 

 

「ねえ左慈、その瓶の中身は何なの?」

 

 

華琳はその液体が気になったのか、左慈に質問をする。

 

 

「コイツは『北郷一刀の思念』だ。俺と于吉が様々な外史に行って集めてきたんだ。今からコイツを北郷に飲ませる」

 

 

「待て左慈!その方法は…!」

 

 

「言われなくても分かっている!しかし、今コイツを助けるには、この方法しか無いんだ!」

 

 

一刀を助けようとした左慈を卑弥呼が止める。その光景に皆が首を傾げると

 

 

「まぁ無理も無いわよねぇ。だってあの方法は助かる"確率が低い"のだから」

 

 

『えぇ!!?』

 

 

華琳たちの側にいた貂蝉が言った言葉に、全員が驚いていた。

 

 

「しかも、この方法は我々"導師"が扱う術の中でも『禁術中の禁術』とまで呼ばれている代物ですからね」

 

 

『えぇ!!?』

 

 

更に于吉が言った言葉に、また全員が驚いた。

 

 

「それで…、もしその術を使ってしまったら…?」

 

 

皆が懸念していたことを、しのぶが勇気を振り絞って聞いてきた。

 

 

「術を使用した者は例外無く、『存在が抹消』されます。文字通り、綺麗さっぱり…ね。それも成功・失敗関係無く」

 

 

「しかもこの術は、失敗したらその術を掛けられた者も消滅しちゃうのよ」

 

 

『………』

 

 

しのぶの質問に于吉と貂蝉が答えたが、その返答が自分たちの想像を遥かに越えていたので、誰も喋ることができなかった。

 

 

「……その術のやり方、教えてくれない?」

 

 

「「「「「「「「華琳様!?」」」」」」」」

 

 

そんな中、不意に華琳が声を上げた。しかもその言葉が『術のやり方を教えて欲しい』と言うものだったので、彼女の家臣である春蘭たちが驚いていた。

 

 

「曹操ちゃん、今の話聞いての発言なの?失敗は勿論、例え成功したとしても貴女は消滅してしまうのよ?」

 

 

貂蝉は華琳にまるで確認するかのように話す。

 

 

「えぇ勿論聞いて、理解しているわ。でもね、私は一刀がいない世界なんてまっぴら御免よ!」

 

 

「四年間…、私は一刀がいなくなって心にぽっかり穴が空いてしまったのよ。四年もの間待ち続けて、やっと最愛の人との幸せを手に入れることができたのに、ここで一刀が消滅してしまうのを見るのはもう沢山なの!」ポロポロ

 

 

華琳はこの世界に来る前に、自分がいた世界で、自分の目の前で一刀が消滅してしまった時のことを思い出してしまい、涙が溢れていた。

 

 

『………』

 

 

一刀との別れを知っている者たちは勿論だが、この話を聞いていた鬼殺隊のメンバーは口を開くことは無かった。その中には、言い争っていた左慈と卑弥呼の姿もあった。

 

 

「……後悔は、ありませんか?」

 

 

その様子を静観していた于吉は、華琳にそう問いただす。

 

 

「愚問よ」

 

 

華琳は于吉の目を睨み付ける。

 

 

「……どうやら、覚悟は本物の様ですね。分かりました。お教えしましょう」

 

 

于吉は華琳の目に宿った頑なな意志を感じ取り、術のやり方を教えることにした。

 

 

「とは言ってもやり方は至極簡単です。今左慈が持っている瓶の中身、あれを対象者に飲ませる。それだけです」

 

 

それを聞いた華琳は、左慈の下へと歩き、手を差し出す。左慈は華琳の意図を汲んだのか、黙って瓶を華琳に差し出した。

 

 

そして華琳は何を思ったのか、『瓶の中身を一気に煽った』。

 

 

「(一刀…、お願い。戻って来て…)」

 

 

中身を口に含んだ華琳は、一刀の頭を持ち上げ、人工呼吸の要領で中身を一刀に"飲ませた"。

 

 

「……ん」

 

 

すると一刀の体が淡く光り、光が収まると、一刀の瞼がゆっくりと開いた。

 

 

『一刀(さん)(君)(隊長)!』

 

 

それを見た者たちは一斉に一刀へと寄り添った。

 

 

「……信じられません。まさか、失敗する確率が高いこの術を成功させるとは」

 

 

「どぅふふ。これが、愛の成せる業よ于吉ちゃん」

 

 

于吉は術が成功したことに驚き、貂蝉は何故か勝ち誇っていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「みんな、心配掛けて済まなかった」

 

 

一刀は心配を掛けさせたことに関して謝罪をしていた。

 

 

無問題(モーマンタイ)よ。貴方が生きてさえいれは…ね」

 

 

華琳は問題無いと言っていた。その時、華琳の体が淡く光り始めた。

 

 

「華琳…、体が!」

 

 

「…どうやら、"術の代償"が来たみたいね」

 

 

華琳は淡く光る中、一刀に術の代償のことを話す。

 

 

「何だよそれ!どうして華琳が消滅しなくちゃいけないんだ!おいお前ら!華琳の消滅を阻止する方法とか知らねぇか?!」

 

 

一刀は藁にもすがる思いで左慈たち管理者に質問をするが

 

 

「ごめんなさい。こればかりは私たちには…」

 

 

「曹操ちゃんもこうなることは覚悟の上でしたことよん」

 

 

于吉と貂蝉は打つ術無しと言わんばかりの雰囲気で答えた。

 

 

「そ…、そんな……」

 

 

一刀はその答えに絶望の色を隠せなかった。

 

 

「大丈夫よ」

 

 

そんな一刀に、消えかかっている華琳が声をかける。

 

 

「例え私が消えても、私の"心"は貴方と一緒に生きるわ。だから…泣かないで、お願い…」

 

 

一刀は華琳の顔を見ると、淡く光る彼女の瞳には涙が溜まっていた。

 

 

そう、華琳もまた一刀との別れに納得はしていなかったのだ。しかし華琳は自分の全てを投げ捨てても一刀を助けたかった。だから自分の性で泣き喚く一刀の姿を見たくは無かったのだ。

 

 

「……分かった。それじゃ、何かして欲しいことはあるか?」

 

 

華琳の意図を汲み取ったのか、一刀は華琳にして欲しいことを聞く。

 

 

「それじゃ、私を抱き締めてキスして欲しい」

 

 

「分かった」

 

 

華琳の願いを聞き入れた一刀は、華琳の側まで寄ると、彼女を優しく抱き締め

 

 

「華琳、愛してる」

 

 

「一刀、私もよ」

 

 

華琳とキスをする。

 

 

その時、不思議なことが起こった。

 

 

一刀が華琳にキスをした瞬間、華琳の体が勢いよく発光した。その光はとても眩しく、全員の視界を白く塗り潰す程だった。そして光が止むと、全員が我が目を疑った。

 

 

何故なら、『消えている筈の華琳が未だに一刀とキスしている』からだった。

 

 

そして二人はキスを終えて互いの顔を離す。

 

 

「これでもう思い残すものは無いわ」

 

 

「そうか…」

 

 

二人はこれから来る別れに浸っていた。

 

 

「ちょっとお二人さん、よろしいかしら?」

 

 

そこに貂蝉が声をかける。

 

 

「もしかしたらだけど、曹操ちゃん、もう消えることは無いんじゃないかしら?」

 

 

「えぇ恐らく。きっと北郷さんの想いが外史の影響力を打ち破ったのでしょう」

 

 

貂蝉の推察に于吉が同意の言葉を述べる。二人は状況が読み取れず、キョトンとする。

 

 

「つまり、貴方たちの愛が消える運命を無くしたってことよ」

 

 

貂蝉が分かりやすく言うと、二人も状況を読み取れたのか、再び抱き締め合った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

ここに、鬼殺隊の長きに渡る戦いに終止符が打たれた。

 

 

ここまでにたどり着くまでに多くの犠牲が出たであろう。

 

 

だからこそ、我々はそれを決して忘れてはいけない。

 

 

『忘れる』と言うことは『そのものの"本当の死"』を意味するものだから。

 

 

だが、この物語は忘れることは出来ないであろう。

 

 

何故なら、ずっと語り続ける者たちがいるのだから…。

 

 

………

 

 

……

 

 

 

 

「「「「お館様のお成りです」」」」

 

 

ここは産屋敷邸の別邸。その中庭には今まで鬼殺隊として戦っていた柱が"全員"揃っていた。

 

 

『水柱・冨岡義勇』

 

 

『風柱・不死川実弥』

 

 

『蛇柱・伊黒小芭内』

 

 

『恋柱・甘露寺蜜璃』

 

 

『岩柱・悲鳴嶼行冥』

 

 

『霞柱・時透無一郎』

 

 

『蟲柱・胡蝶しのぶ』

 

 

『元炎柱・煉獄杏寿郎』

 

 

『元音柱・宇随天元』

 

 

『空柱・北郷一刀』

 

 

『元花柱・胡蝶カナエ』

 

 

『元炎柱・煉獄槇寿郎』

 

 

更には竈門炭華・禰豆子姉妹、我妻善逸、北郷カナヲ、嘴平伊之助、不死川玄弥、華琳、春蘭・秋蘭姉妹、桂花、稟、風、凪、沙和、真桜の姿が見られた。

 

 

そして部屋の奥から現れたのは、右に妻のあまね、左に息子の輝利哉を連れた耀哉であった。

 

 

耀哉は無惨が倒された時と同じく、一族に掛かっていた"呪い"が解け、久方ぶりに家族の顔を見ることができたのだ。

 

 

「おはようみんな。今日はいい天気だね。空はいつものように青いね。こうして皆の顔を見れることを嬉しく思うよ」

 

 

『お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切に願います』

 

 

この時だけは耀哉に対しての挨拶は『早い者勝ち』では無く、全員で言った。これは耀哉が来る前に柱全員が話し合い、決めたことだった。

 

 

「ありがとう皆。ではこれより、"最後"の柱合会議を始める」

 

 

耀哉の一言で柱合会議が始まった。

 

 

「この度は皆の力添えのお陰で鬼舞辻無惨を倒すことができた。鬼殺隊を代表として、そして産屋敷一族を代表として心より感謝を申し上げます」

 

 

耀哉を筆頭に産屋敷一家が皆に頭を下げる。

 

 

「お館様、頭をお上げ下さい。無惨討伐は俺たちだけでは成し遂げることはできませんでした。これはお館様たち産屋敷一族のお力添えの賜物でございます」

 

 

頭を下げた耀哉一家に一刀は声をかける。

 

 

「ありがとう一刀。皆も知っていると思うが、無惨を倒したことによって我々産屋敷一族の悲願を達成することができた。鬼殺隊は本日を持って解散する。君たちの屋敷はせめてもの餞別として君たちが好きに使ってくれて構わない」

 

 

『御意』

 

 

そして人喰い鬼との長きに渡る戦いをしてきた鬼殺隊は解散した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

数ヶ月後…

 

 

ここは北郷一刀の屋敷『空屋敷』。その縁側で日向ぼっこをしているのは、この屋敷の主『北郷一刀』である。

 

 

「あら一刀、ここにいたの?」

 

 

そこに華琳が現れ、一刀に声をかける。

 

 

「んぁ?あぁ華琳か」

 

 

寝そべっていた一刀は起き上がり、その横に華琳が座る。

 

 

「そうそう、伊黒さんと甘露寺さん、結婚の話を進めているそうよ」

 

 

「そうか。きっと実弥さんとカナエさんの式を見て、焦ったんだろうな」

 

 

そう、この数ヶ月の内に不死川実弥と胡蝶カナエは結婚式を挙げたのだ。招待されたメンバーは全員"元鬼殺隊"のメンバーだった。しかも式費用諸々は全て産屋敷一家がスポンサーとして出していた。

 

 

「きっとその内、呼ばれるかもしれないわね」

 

 

「鴉が招待状を持って来たりしてな」

 

 

そう言って二人は笑い出す。因みに鬼殺隊が育てていた鎹鴉は、本来のお役目を満了したことにより、自由となっているのだが、長年に渡り鬼殺隊員の側にいた性か、その人と行動を共にしていた。

 

 

近頃では、義勇の鴉が老衰で亡くなり、義勇が落ち込んでいる所を真菰が慰め、それを切っ掛けに二人が恋仲となり、結婚も間近とまで噂されていることを、真菰の鴉が持って来た手紙に書かれていた。

 

 

「でも、きっと赤子を産むのは私が最初のようね」

 

 

華琳はゆっくりとお腹を擦る。華琳の体は細身に対して、お腹だけは肥満体のように出ていた。

 

 

そう、華琳は今『一刀の子供を妊娠している』のだ。

 

 

「于吉は『きっと腹の中の赤子が切っ掛けでしょう』って言ってたな」

 

 

一刀もまた、華琳のお腹を擦る。

 

 

「元気に産まれてくれよ?」

 

 

「あら、誰に言ってるのかしら?私が産むんだから、元気に決まっているじゃない」

 

 

「それもそうか」

 

 

二人はまた笑いながら寄り添う。

 

 

「…幸せだな」

 

 

「…幸せね」

 

 

一刀と華琳は寄り添った状態で互いの手の指を絡め、握った。

 

 

華琳の左手の薬指には、指輪がされており、陽光を受けてキラリと光った。

 

 

 



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