機械生命体「俺ハ人間サ」 (鈴木颯手)
しおりを挟む

前章【原作前】
第一話「起動」


20話くらいで終わらして卒制と他の二次創作を完成させたい……


___ココハ、ドコダ?

 

___ゼンゼン、ワカラナイ

 

___カラダモ、ウゴカナイ

 

___マエガ、ミエナイ

 

___アア、ヒカリガミエル

 

___アレ?オレノカラダヘン

 

___マルデ、キカイミタイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金属同士のぶつかる音と共に目の前の機械生命体、小型短足と分類される機体が活動を停止する。振り上げた武器をただ振り下ろしただけの単調な一撃だが最も弱い小型短足相手ではその活動を停止させるには十分な一撃であった。

 

 活動を停止したのを確認した後、お目当ての部品を剥ぎ取る。とは言え別に確実に必要な物ではない。これも前世(・・)における癖の一つだ。

 

 おっと、言い忘れていたが俺は……、名前はないが見た目は中型二足の機械生命体だ。だが、他の個体との違いはたくさんあるぞ。先ず身体的特徴ではアンドロイドに近い事だ。むしろ傍目からはアンドロイドにすら見えるだろう。機械生命体特有の丸い顔とそれを支える太い胴さえなければ、ね。次に中身に関してだが俺は前世の記憶を持っている。それも2020年代まで生きていた大学生の記憶がね。勿論今俺がいる世界に関する情報も持っている。

 

 『NieR:Automata』と呼ばれるこの世界は地球を舞台に侵略してきたエイリアンの送り出す機械生命体と月に逃れた人類が地球奪還のために作り出したアンドロイドとの戦いを描いた作品だ。だが、エイリアンは遠い昔に絶滅し人類はエイリアンが地球にやってきた時には絶滅した後という何とも言えない状況になっている。しかもそれを両者隠して(若しくは知らずに)数千年も戦い続けている。

 

 現在は西暦10000年前後。まだエイリアンは絶滅してはおらずそれどころか物語の主人公2Bと9Sが所属するヨルハ部隊は影も形も無いうえにその協力者であるアネモネすら誕生していない。更に補足するならオートマタの世界で唯一と言っていい国家森の国も誕生していない。機械生命体側はアダムとイブを除き製造年数が分かっていないから除外する。

 

 つまり原作開始まで後2000年近くあるという事だ。……まぁ、俺は機械生命体の中では初期の者の為意識が誕生してから2000年くらいは経っている……と思う。カレンダーといった時間を確認できる物は皆無だから具体的には分からないけどね。

 

 そんな訳で俺が今やっているのは自分の改造だ。アンドロイド、機械生命体関わらず最大の利点とも言えるこの行為によってより動きやすく、より生前に近づけるようにしている。2000年も経っているから生前の姿なんてほとんど覚えてないがそこは機械の体。原作や必要な知識と共にデータとして保存済みだ。無論バックアップや紙への印刷なども行い最悪の事態に備えている。

 

 流石にヨルハ部隊のような強さはないしそれどころかアダムやイブにすら劣るだろう。とは言えそこら辺の量産型機械生命体には圧倒どころか圧勝できるくらいには強くなっているしアンドロイド相手にも優位に立てる自信がある。俺がいる場所で活動していないのか一度もあった事は無いけどね。

 

 材料が集まったらヨルハ部隊の様に替えのボディを作成する予定だ。ここは令和の日本とは違って死と隣り合わせの世界だ。同じ機械生命体だから攻撃してこないという事はなく何回か不意打ちで攻撃された事もある。全て返り討ちにしたとは言え何時までもそれで通用するという考えでいるのは危険だ。故に体のスペアは早急に必要だろう。スペアがあるというだけで精神的な疲労具合が違うだろうしな。問題はそれで慢心する事だが……、そこは気をしっかり持つしかないな。流石にスペアが無い状態で考えてもどうなるかなんてわからないんだからな。

 

 そう言う訳で小型短足を倒し部品を回収した俺はそれ以前の戦利品と共に拠点としている場所に帰還するのだった。

 




中型二足という事でM002さんの作品と被っちゃいますけどそこは大目に見て欲しいです。話とかは大分違うだろうし……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話「アンドロイド達へ~こんにちは~」

 俺の拠点は大分機能的だ。

 

 元は何かの施設だったらしいそこをリフォームという名の魔改造を施して自らの拠点へと変えた。地上二階、地下三階ほどの施設は今では部品の倉庫と俺の工房となっている。地上の施設は出入り出来る部分を塞いだだけで特に手は加えていない。これはボロボロの都市の残骸しかない周囲に合わせて擬態させるためだ。流石に綺麗に整えたら何かしら怪しく感じるからな。それで機械生命体はともかくアンドロイドに目を付けられるのは勘弁だ。今は出会った事は無いとは言え殺される可能性は少ないに越したことはない。

 

 地上とは打って変わり地下は大分手を加えてある。研究室のような白い壁にしたり工房で使う機械を置いたりな。そして地上含めいたるところに監視カメラがある。それらは俺以外の生命反応、無論機械も含めて感知したら俺にすぐに情報が送られるようになっている。リアルタイムで確認できるようにもなっており地下の最深部には制御装置がある。

 

 これだけの施設をつくるのは苦労した。何せ前世の俺はこんな事とは無縁の存在だったからな。500年くらいかけて扱い方を実践で学んだよ。おかげでこうした充実した施設や体を作る事が出来ている。

 

 そんなわけで原作が始まるまでは外で機械生命体から部品を頂戴しつつこの拠点で改造や改築を行って過ごしていこうと思っている。原作に出てきた素材は既に大量のストックがある。他にも改造に必要な部品もそろっている。……本来なら態々外に出る必要はない。それでも外に出るのは外の確認がある。何時までも籠っていたのでは気づいたら原作終わってましたと言う事態になりかねない。ただでさえ外はずっと日が差し、この体はメンテナンスを行えばほぼ永久に近い時間稼働出来る。ちょっと休むで百年くらい経過していても可笑しくはないのだ。

 

 そうして今日もデイリークエストの如く機械生命体を狩り、部品を集めた俺は拠点に向かっていた。その時、俺の頭にアラームが鳴り響く。これは、拠点に侵入者が現れた際になるアラームだ。初めてなったが同時に俺は警戒する。このアラーム音は地下に侵入された際になる物だ。地上ではなく地下。入念に偽装した地下への入り口が破られたという事だ。この時点でただの機械生命体の仕業ではない。自我を持っているのかさえ怪しい現状のあれらに偽装を見破って侵入する力はないしその意味がない。ならばエイリアンかとも思うがアンドロイドの可能性もあるだろう。とは言えアンドロイドの気配はない。索敵にも反応しないという事はこの辺には来ていないという事。それがいきなり敵の拠点に侵入などしないだろう。

 

 侵入者の目的がいまいち分かりかねた俺は直ぐに監視カメラと連動する。俺の視界は右を元々見えている風景を、左を監視カメラの映像が映る。監視カメラには人と変わらない、二人の女性がいた。ボロボロになった体を引きずりながら拠点の中を進む赤い髪の女性型アンドロイド。……ああ、そう言えばいたな。オートマタより7500年近く前、レプリカントとゲシュタルトという名前が付けられた前作の登場人物が。俺は部品を持って一気に拠点へと駆けた。

 

「ファーストコンタクトだ。相手の反応が楽しみだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 姉妹型アンドロイドであるデボルとポポルは動きが鈍い体を引きずりながら歩いていた。彼女たちはかつて人類を救うための任務についていたアンドロイドだが彼女たちの同型機の暴走により計画は頓挫。人類は滅亡する事となった。それを受けて彼女たち以外の同型機は全て破壊され彼女たちには罪の意識をインプットされ同じ暴走を起こさないようにテストモデルとして生きながらえていた。エイリアンとの戦いが始まると彼女たちも戦いに参加し事実を知るアンドロイドたちに邪険にされながらも必死に戦いや後方支援、治療やメンテナンスを行ってきた。エイリアンの優勢となりアンドロイドたちがレジスタンス組織として抵抗するようになると彼女たちは各地の拠点を転々と移動する事となる。

 

 彼女たちを受け入れてくれる場所はなく自分たちのメンテナンスを行うとすぐに移動するを繰り返していた。

 

 しかし、彼女たちは数日前に大量の機械生命体の攻撃を受けた。何とか退ける事は出来たが体中はボロボロでありデボルは右腕が動かず垂れ下がっておりポポルは左足がうまく動かなくなっていた。他にも体のあちこちに異常が発生し早く修理をしなければいけない状況になっていたがここはレジスタンスが活動していない地域でありそんな事が可能な施設はなかった。あったとしてもそれは機械生命体の施設であり攻撃を受ける可能性が高かった。

 

「デボル、頑張って」

「ポポル……」

 

 デボルの動かない右腕を自身の方にかけながら辛そうにしている彼女を必死に支えるポポル。一歩一歩ゆっくりと、だが着実に進んでいく二人。とは言えこのままでは機械生命体に襲われ命が費えるだろう。

 

「デボル、少し休憩しつつ応急措置をしましょう」

「……分かった」

 

 元気なく答えるデボルの体を引っ張りながら比較的頑丈そうな建物の中に入る。扉などは壊れていたが壁などは無事でありポポルはその中で外から見えない部屋に入りデボルを横にする。そして彼女の体を触りながら応急処置を施していく。

 

「ごめんな。もう、戦う力がないや」

「大丈夫よ。必ず、必ず治るわ」

「でも、このままじゃレジスタンスの拠点まで持たないだろ……」

「それは……」

 

 デボルの言うとおりであった。ポポルはともかくデボルは人間でいえば致命傷レベルの傷を負っていた。このままでは遠からぬうちに死に絶えるだろう事はポポルにも分かっていたがだからと言って見捨てる事は出来なかった。

 

 二人は二人だからこそこの状況を乗り越えて来れたのだ。どちらかが欠けては彼女たちの精神は持たないだろう。そして、それが同型機の暴走の原因でもあったが彼女たちは知らない事実である。

 

「何か、何か使えそうなものは……っ!?」

 

 何かしら部品でもないかと周囲を見回したポポルは気づいた。部屋の隅に扉らしきものがある事を。その扉を持ち上げてみれば地下へと続く階段があった。

 

「階段……?」

「何か見つけたのかポポル?」

「え、ええ。地下に向かう階段みたいだけど……」

「ならここにいるよりはマシだろうしそっちに移動しよう」

「……そうね」

 

 デボルの言葉にポポルは了承した。本来の二人ならこんな軽率な事はしなかっただろう。例え向かったとしても比較的軽傷のポポルが様子を見て安全だった場合にデボルを連れて降りたはずだ。決して偵察もしないで二人で降りたりはしなかったはずである。それだけ、二人はそんな事も考えられない程疲弊していたのだ。

 

 しかし、結果だけを見ればこの動きは二人に取って好機となる。

 

 そして、前世の記憶を持った元人間の機械生命体と人間の為に活動していたアンドロイドの出会いは近かった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話「アンドロイド達へ~はじめまして~」

「嘘……」

「これは……!」

 

 階段を降り切ったデボルとポポルの目の前には罅一つない白い壁と沢山の機械が並んだ工場のような施設だった。工場というよりは研究所といった感じのその施設に二人は茫然とする。今では見る事さえ少なくなった人類がいた頃の文明を示す施設。

 

 しかし、すぐにポポルはハッとする。そしてそこでようやくこの施設が現在進行形で起動している事を察する。アンドロイドがここまで活動しているとは聞いてはいない。つまりここは機械生命体の施設という事である。ここでようやくデボルを連れてきた事に対して後悔するが幸いなことに機械生命体の気配はなく無人のようであった。施設の持ち主が外に出ているのかすでに放棄されたのかはポポルには分からなかったが直ぐに修理をしてこの施設を出ようと決意する。

 

「デボル。直ぐに修理しましょう」

「ポポル?」

「多分ここは機械生命体の施設よ。今のところ気配はないけど何時までもそうである可能性は低いわ。さっさと治せるだけ治してここを離れましょう」

「……そうだな。頼む」

 

 ポポルの言葉にデボルは頷き歩き出す。施設はとても広く入口の部分からでは全容は分からないがそれでも修理に使えそうな機械は確認できていた。

 

 ポポルは近い場所にあった台の上にデボルを寝かせる。

 

「少しだけ待っていてね。修理に使えそうな部品と機械を持ってくるから」

「ああ、頼むよ」

 

 力なく微笑むデボルにポポルは優しく微笑み返す。そして痛む体を動かしながら施設の奥に向かう。そこでも機械生命体の姿はなく施設の大きさを見せつけるだけだった。

 

 ポポルは周囲を警戒しながら部屋の一つ一つを確認していく。部屋はたくさんあったが使われていると思われる部屋は少なく大抵が寝台とテーブル、椅子が置いてあるだけの簡素なものとなっていた。そんな用途の分からない部屋に首をかしげつつ部屋を見ていくと漸く倉庫と思われる部屋にたどり着いた。そこにはレジスタンス組織が見れば羨むほどのたくさんの素材が置いてあり中には機械生命体からしか確保できない貴重な物も置いてあった。

 

 とは言えポポルの目的はデボルの修理に必要な材料の確保である。ポポルは部屋の中から必要な素材のみを持って引き返す。あの倉庫を見た以上放棄されたという事はないと予想しており早くしないとこの施設の主に見つかる可能性があった。

 

 そして、若干の焦りを感じながらポポルが戻るとそこには目をつぶり微動だにしないデボルとそれを見下ろす機械生命体の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 拠点に駆け足で戻った俺は直ぐに地下に向かう。勿論、入り口の偽装はきちんとしてな。幸いそれ以外で動かした形跡はなく周囲に機械生命体の反応はない。これなら拠点がバレる心配はないだろう。

 

 それにしてもデボルとポポルか。まさかレプリカントの登場人物と出会うとはな。まぁ、同型機であって別の機体であるがそれでもレプリカントの世界から活動している数少ない名前持ちのキャラであることに変わりはない。とは言えどうしたものか。彼女たちを捕縛なり破壊するなりは可能だ。むしろ拠点がバレる可能性を考えればここから出す訳にはいかない。

 

 だが、彼女たちはオートマタでは重要な役割を果たす。アダムに捕らわれた9Sの救出のためのスキャナーの提供に9Sの義体の修理、塔に突入するための時間稼ぎと身を挺しての入り口を開けるなど……。彼女たちがいなければオートマタは進まないし勝利は出来ない。加えてどちらか一方だけ開放しても無理だ。彼女たちは二人でいるから現状を耐えられる。二人でいるから罪をかぶって生きていける。一方だけではメンタル的に呆気なく潰れるだろう。それでは開放しても意味がない。

 

 そんな風に二人について考えながら階段を降りていく。なるべく足音が響かないように気を付けながら。そうして階段を降り切るといつも帰投後にメンテナンスを行っている台にデボルが横になっている。眠っているのかこちらに気付いた様子はない。そしてポポルの姿はなかった。ボロボロだったし修理するための材料でも探しているのだろうと考えた俺はデボルに近づいた。そしてそこで初めて彼女の容体に気付く。彼女の体はまさに“死にかけ”と言う言葉がふさわしい程ボロボロだった。見た感じでも右腕は機能していないのが分かり、所々服は破けそこから皮膚の下の機械部分が露出している。心臓代わりのモーターは変な音を出している上に途中で止まりかけている。このままでは近いうちに機能を停止、死ぬという事が分かる程だ。

 

 はて?デボルにこんな場面はあっただろうか?まぁ、ゲシュタルト計画後もずっと稼働しているのだ。多少こういう事はあったのだろうけどこれ俺がいなければ確実に詰んでいたよね?これが俺がいる事で起きた歪みという奴なのだろうか?

 

「デボル!」

 

 そんな事を考えていたからだろう。俺は後方で声がするまで彼女、ポポルの接近に気付かなかった。俺が後ろを向くとポポルが材料を持って固まっている。彼女も戦う力がないのかただこちらを睨んだりデボルの方を心配そうに見ている事しか出来ずにいた。そして俺を睨みつけながらポポルが怒鳴った。

 

「貴方!デボルに何をしたの!?」

「……別ニ、何モシテイナイ。最初カラコウダッタ」

「……」

 

 俺がそう言いながらデボルから離れる。それを見てポポルはゆっくりとデボルの傍により彼女を確認する。しかし……、何故俺の拠点なのに侵入者に気を使わないといけないのか……。彼女たちが原作に必要なアンドロイドじゃなければここまではしなかったのに……。

 

「……貴方は、ここの主なの?」

「ソウダガ?修理位ナラ構ワンゾ」

「……何が目的?」

「ソレハ貴様トソノ相方ノ修理ガ終ワッタラ話ソウ」

「……こちらが約束を守らないといけない状況にならないと交渉はしないって事ね」

「ソウダ」

 

 流石にこの傷で動けるとは思えないがもしここの事を言わないと言っても修理しない場合はどうする事も出来ないからな。アンドロイドの襲撃を受ける前にここを放棄しないといけない。また、ここまでの施設をつくるのは骨が折れるからな。

 

「……分かったわ。修理をさせてちょうだい」

「イイゾ。素材ヤ機械ハ好キニ使ウトイイ」

「……随分と好待遇ね。何を企んでいるの?」

「言ウ必要ハナイ」

「……」

 

 ポポルはそれ以上何も言う事はなくデボルの修理を始めた。数十分ほどだろうか。俺から見ても手際よくデボルの修理を終わらせた。我流の俺としては十分に参考になる。どうしても自分だけだと上手く行かないところもあるからな。次に自身の修理を行っていくが随分と器用に修理をしていく。駆動炉は異常がなかったのか、デボルが起きていない状況で直すのは無理と判断したのかは分からないが四肢や胴の修理のみを行い完了させた。この間僅か一時間程だろう。俺がやろうとすれば三倍くらいはかかっていたはずだ。流石は治療とメンテナンスに特化したアンドロイドだ。これで戦闘も行え、しかもヨルハ部隊並みに強いのだから恐れ入る。……あれ?これなおしたら用済みとか言って破壊されたりしないよな?ちょっと不安になって来たぞ。

 

 俺が心の中でどう思っているのか知らないポポルはこちらを警戒しつつデボルに呼びかけている。

 

「ぅ、うん……。……ポポル?」

「デボル!良かった……!目が覚めたのね!」

「治った、のか……?っ!」

 

 デボルは治った体を見て呟いていたが俺の存在に気付き一気に警戒する。よくよく見れば二人とも武器らしきものは持っていない。ここまでの道のりで壊れてしまったのかねぇ?

 

「ポポル!こいつは!?」

「……この施設の主よ」

「っ!」

 

 俺を警戒しながらデボルが尋ねるとポポルは小さく呟いた。それを聞きデボルは驚くと同時にこの状況をどうするか必死に考えている様子だった。とは言えこちらから特に何もしない。約束を守ってもらうけどね。

 

「ソンナニ警戒スルナ。此方ハココノ事ヲ誰ニモ言ワナケレバ何モシナイ」

「……それを信じろと?」

「機械生命体ダカラ信ジラレナイカ?俺ハコノママ平穏ニ暮ラシタイダケダ」

「……」

「マァ、俺ハ機械生命体ノ中デモ異端デアル事ハ自覚シテイル。オ前等モ俺ミタイナ機械生命体ハ初メテダロウ?」

「……そうだな。アンドロイドを修理して見逃すなんて奴は初めてだよ。しかもただの口約束のみで開放するなんてな」

「フム、ナラ何カ追加スルカ?俺ハ別ニ要求ハナイノダガ……」

「……デボル、ここは相手の言うとおりにしましょう?」

「ポポル!?良いのか?」

「私達は武器を持っていないしこの機械生命体が私達に危害を加えるならとっくにやっているだろうし……」

「確かにそうだけど……」

「……サッサト決メテクレナイカ?俺ハコウ見エテヤル事ガ多インダヨ」

「……分かった。今回は施設を借りた礼として約束を守る。だけど、もし私達に何かするなら……」

「安心シロ。俺ハ約束ヲ守ル律義ナ機械生命体ダ」

「……余計に信用できないけどな」

 

 俺のジョークにデボルが呆れたように突っ込みを入れる。

 

 こうして俺とアンドロイドの最初の出会いはなんとか流血沙汰にならずに済んだ。そして、彼女たちには言っていないが修理中に隙を見てスキャンさせてもらった。彼女たちはレプリカントの世界で暮らしていける位には人間に近い。食事も出来るし酒も飲める。酔うという事も出来る彼女たちは現状最も人間に近い存在と言っていい。そんな彼女たちをスキャンして構造を把握出来た事は大きい。少なくとも今後俺の体をより人間に近づけるように出来ることは確実だ。

 

 故に、彼女たちがここの事を言わないだけでも十分利益が出たのだ。騙したともとれるが彼女たちはあのままでは壊れていたのだ。その後にスキャンも出来たし彼女たちも修理が行えたのだ。感謝してほしいくらいだね。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話「西暦11000年代」

時よ流れろー


 今が西暦何年なのかを知るには情報が足りない。前にも言った通りアンドロイドがこの辺にはいないから情報を得られないし日がずっと昇ったままだから日の浮き沈みで判断も出来ない。故に俺は今何年なのかを知ることは出来ていなかった。

 

 薄々気付いている者もいるかもしれないが俺は機械生命体のネットワークから独立している。イヴの暴走やターミナルと呼ばれる赤い少女の干渉を受けないようにそれはもう厳重にしている。ダイヤモンドを手でこすって穴をあけようとするくらいには硬くしているつもりだ。尤も、これでも安心できないから最終目標は筆の先端でゆっくりと撫でて直径数キロのダイヤモンドに穴をあける位にするつもりだ。干渉されるなんて嫌だからな。

 

 話はそれたが今の俺でも自分がどの時代にいるかを正確に知る方法はある。それは原作の出来事を発見する事だ。オートマタはレプリカントの続編だがその間には8000年以上の時が流れている。機械生命体が誕生したのが5024年となっているからそれより後なのは確実だ。そして俺の製造年月日はおおよそ8000年より後だ。そして今は11627年だ。

 

 何故こんなに具体的に分かるかと言えば超々大型機械生命体グリューンが現れたからだ。グリューンとは原作では水没都市に出現したボスで救援要請を出していた空母を口で真っ二つにすると地上に向けて進みだして2Bと9Sを苦戦させた。更にEMPを放って2Bと9S以外のヨルハ部隊を殲滅。最後は空母に搭載予定だったミサイルを9Sが寸前まで軌道修正しながら口に突っ込み破壊された機械生命体だ。この機械生命体により空母(とそれに乗っていた乗員)を失い更に援軍として駆け付けたヨルハ部隊は全滅した。数人ほど助かったようだが全員満身創痍の状況に追い込まれていた。

 

 そしてこの機械生命体はかつて地上に現れアンドロイドと機械生命体の両方に甚大な被害を与えたため海の中に凍結されたのだ。そして、その被害を与えたのが11627年。そう、もし海に凍結されるのが遅ければ拠点にまで被害を与えていた可能性があったのだ。つまり、俺が今いる場所は原作の舞台の近くという事だ。

 

 加えて、今11627年という事は原作開始まで318年程なのだ。機械生命体の生みの親のエイリアンはいつの間にか絶滅していたのだ。本当にこいつがいてくれて助かった。俺の体感時間は10000年後半くらいだと思っていた。この調子なら原作が始まると思っていた時には終わっていた可能性が高かった。改めて周囲の情報の大切さを知ることが出来たよ。

 

 そんなわけで俺は周囲に偵察機を出している。偵察機と言っても人が乗るようなデカい飛行機ではない。虫に擬態する小型のものだ。虫の顔の部分にカメラが搭載されたもので俺に、というか拠点のメインサーバーに映像と情報を送っている。充電で動くタイプの為近くで活動する機体は拠点に戻って充電を、遠くで活動する機体は充電専用の機体と共に活動させる。これで大分遠くまで索敵が可能になった。

 

 それと、数年前?には自身を大きく改造した。最近になりアンドロイドがチラホラとやって来るようになったためその中から人型のアンドロイドを秘密裏にスキャンしては情報を集め漸く人型の義体にする事に成功したのだ。見た目だけなら完全なアンドロイドになれた俺は直ぐに予備の義体の製造も開始した。この体を手に入れた以上機械生命体の体を使うなんて嫌だからな。

 

 ついでに人類を作れないかも試している。とは言え周りには人類の祖先たる猿がいない。そもそもまだ生息しているのかさえ分からない。だからその辺によくいる鹿や猪を弄っているが遺伝子に関しては機械以上に分からない。何をどうすればいいのか分からないから今は鹿と猪で交配できるようにしている最中だ。まぁ、人類の祖先であるラミダス猿人が誕生したのは約500万年前だ。つまり500万年かけて人類が誕生したのだ。たかが数年でどうこうできる問題ではないことは分かっているため気長に行っていくつもりだ。

 

 遺伝子分野にまで手を出し始めたから最近では拠点が狭く感じるようになってきた。とは言え部屋はたくさんあるし歩くどころかダンス出来るくらいにはスペースがある。あくまで最初の頃に比べれば、というだけの話だ。

 

「なぁ、何してんだ?」

「……鹿の子宮で猪の精子が適合できるようにしている。邪魔するな」

 

 そして、最近はどういう訳かあの双子のアンドロイドが俺の下を訪ねてくる(特にデボル)。デボルによると「アンドロイドに危害を加えてないかを監視する為。後素材をもらうため」らしい。確かに俺はアンドロイドと戦闘したことはない。アンドロイドと出会った事が少ないのが原因だし俺自身拠点に籠っている事が多いのが原因でもある。

 

 態々遠い場所から来るときもあるし時には二人で訪れる事もある。

 

「あ、今日はバッテリーとケーブルを貰っていくぞ」

「勝手にしてくれ。……分かっていると思うが」

「ここの事は言わないだろ?安心しろって。お前がアンドロイドと敵対しない限り秘密にするよ」

「それならいい。それと別の場所に繋がる入り口を作成した。今後はそこから出入りしてくれ。ポポルにも伝えてくれよ」

「ん、分かった」

 

 そう言って俺の後ろから作業の様子を眺めていたデボルは去っていく。最近ではあまりにも多く現れるからアラームが玄関のチャイムみたいな状況になっていたから彼女たちも登録してアラームが鳴らないようにした。周囲には虫型カメラもあるしアンドロイドがここに気付いて攻めてきても十分に対処は可能だ。

 

 ああ、また駄目だった。どうも鹿と猪では上手くいかないのか俺が下手糞なのか失敗ばかりだ。別に失敗ばかりなのが嫌な訳ではないが熱中しすぎて時の流れを忘れてしまう時がある。なるべく自重しようにも気づいたら~、の状態になるから直しようがない。

 

 そう言う意味では定期的にやって来るデボル(とポポル)は時間を教えてくれるから助かっているのかもしれないな。今度来た時は少しくらい会話してやるか。

 




デボルとポポルは救いたい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話「赤髪の双子」

書き始め「よーし!書くぞー!」
書き終わり「ど う し て こ う な っ た 」


 私はデボル。かつて人類を救うための計画『ゲシュタルト計画』を円滑に遂行する為に作られたアンドロイドだ。でも、ゲシュタルト計画は失敗し私達はその原因の一端という事でアンドロイドから邪険に扱われた。そしてエイリアンが地球を占領し、機械生命体を生み出し続けている現在になってもそれらは変わる事はない。でも、それでも仕方ないと思っていた。同型機の事とは言え私達が人類を滅亡させたことに変わりはないのだから。

 

 そんな時だった。私達は不思議な機械生命体にであった。機械生命体の大軍によって風前の灯火だった私達をそいつは助けてくれた。私は最初こそなんで助けてくれたのかもわからず警戒したけど今なら分かる。そいつはアンドロイドと敵対するつもりがない機械生命体だった。ただ、それはあくまで今の状態が続いている限りだ。彼がもしアンドロイドに攻撃されれば容赦なく破壊するだろう。彼にとってアンドロイドとは「敵対するつもりはないけど攻撃されれば殺す程度」の存在なのだろう。

 

 彼の住む施設で治療を受けた私はポポルと一緒に各地を転々とした。何処に行っても邪険に扱われ罪悪感で心が張り裂けそうになる日々の中、ふとあの機械生命体の事を思いだした。あの機械生命体は今何をしているのか気になった私はポポルと一緒に再び訪れる事にした。一応機械生命体だし何か仕出かしていないか気になるのは当然だ。

 

 そして、私達があの施設に行き再会した時には驚いた。手足は何処かシュッとしていたけど丸い頭部にずんぐりとした胴を持っていたその機械生命体はまるでアンドロイドの様に人間に近い体になっていた。あの時は機械生命体を殺してこのアンドロイドが代わりに住み着いているのかと思ったけど違っていた。

 

 この時は本気で危険だと思ったよ。機械生命体がアンドロイドと見分けがつかなくなれば普通のアンドロイドでは区別できないだろう。そうなれば機械生命体との戦いはより混沌を極めると。でも、あの機械生命体は「こんな事を出来るのは機械生命体の中では俺くらいだ。そもそもコストをケチって機械生命体は作られている。その分雑魚だがな」と言っていた。同胞に対して雑魚とか酷い言い草だと思っていたけど此奴は同胞を仲間とすら思っていないんだろうな。ちょくちょく機械生命体を狩っているみたいだし。そのせいでここら辺の機械生命体は大分少なくなってアンドロイドが偶に調査に訪れる位には安全になりつつある。

 

 それでこいつが何もしていないことを確認したわけだけど、今回は偶々そう言う事をしていなかっただけでやってないとは言い切れなかった。だから私はポポルを説得して近くに来た時や必要な物を揃える時に出向く事にした。こいつは使わない物でもため込む習性がある。だから倉庫として使っている部屋には色んな素材が沢山ある。その中から貴重な物や足りない物資を貰っては各レジスタンス組織に取引として使っている。も、勿論倉庫に少ない素材やこいつが手に入り辛いだろう各地の情報を渡したりしてきちんと対価を払っているさ。

 

 最近だと超々大型機械生命体が此奴の近くまで襲来していた。姿を消してから暫くした後に訪れた際に無事な様子を見てホッとしたよ。……い、いやこれは取引相手がいなくなるのは困るし……!ん、んん!なんやかんやでこいつとは数百年の付き合いになっている。今ではアンドロイドと変わらない義体で最近は遺伝子分野に手を出している。なんでも鹿と猪の子供を作ろうとしてるんだと。……何でそんな事を始めたのかは知らないし聞く気もないけど個人的には成功してほしいなとは思ってるよ。べ、別にアイツの喜ぶ顔が見たい訳じゃないし……!

 

 そう言えばアイツいっつも「俺」しか言わないけど名前とかないのかな?アイツとか此奴とかばっかりじゃさびs……ふ、不便だからな!今度立ち寄った時に聞いてみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、デボルの様子が可笑しい。その理由は勿論知っている。けど、私はどうすればいいのか分からない。

 

 最初はデボルの言った言葉からだった。

 

「な、なぁ。あの機械生命体の所に行かないか?」

 

 「あの機械生命体」が何を差しているのかはすぐに分かったわ。何せ機械生命体はある一体を除いて出会ったら破壊してきたから。でもデボルがなんでそんな事を言ってきたのかはわからなかったわ。だから聞いてみたの。そしたら、

 

「一応アイツも機械生命体じゃないか?もしかしたらアンドロイドを襲っている可能性もあるし破壊しないなら定期的に監視する必要があると思うんだけど……」

 

 確かにデボルの言うとおり私達はあの機械生命体を壊さない事にした。恩があるのは勿論だけど私達では到底勝てない、若しくはこちらもそれ相応の被害を受ける可能性があったから。それにアンドロイドを襲わない機械生命体は珍しいという事もあったけどそれは別に重要ではない。最近ではそう言う個体が増えてきているから。

 

 だから私はデボルの監視という言葉で受け入れた。そしてあの施設に向かって私達は驚いたわ。そこには機械生命体じゃなくてアンドロイドがいたのだから。だけどすぐにあれが機械生命体だと気づいたわ。私とデボルはこの機械生命体を危険と判断した。でも、デボルはあの機械生命体が言った言葉を信じて破壊はしないって言ったわ。そこで疑惑が生まれたわ。もしかしたらデボルは気づかないうちにこの機械生命体にハッキングされてコントロールされているんじゃないかって。でも、そんなことはなくてデボルはそれ以外ではいつものデボルだった。

 

 そして、私達のおかしな活動が始まった。基本的にレジスタンス組織のキャンプを移動する際に立ち寄り怪しい行動はしていないかを確認するのと素材を分けてもらった。あの機械生命体は素材集めが趣味みたいで倉庫にはそれなりの規模のレジスタンス組織の装備をアップグレード出来るくらいには溜まっている。同じ仲間の機械生命体も狩っては素材を集めているみたい。そのせいか施設周辺から機械生命体はほとんど消えているわ。最近ではそれを怪しんだアンドロイドが調査に出向いているみたいだから私達が移動中に破壊していると言っておいたわ。何でこんなことを、と思っているけどデボルは彼の下に行くたびに元気になっている。勿論人類への罪の意識が消えたわけではないけど正面から毅然と受け止められるようになってきている。多分、デボルは気づいていないけど彼の事を……。

 

 だけど彼は機械生命体。どれだけ外側をアンドロイドに近づけようとその事実は変わらないわ。だからデボルには諦めて欲しいけど自覚がないのと曲がりなりにも心の支えとなっているせいで言いだし辛かった。今の私にはデボルが彼に依存しないように注意しつつ彼との時間を作ってあげる事しか出来ないわ。

 

 ……もし、アンドロイドと機械生命体が手を取り合う日が……いえ、そんな日は来ないわ。でも、その時が来たら……。私達は救われるのかしら?

 




そう言えば丁度二週間でレプリカントver1.22…が発売されますね。買う予定だけどお金が残っているか……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話「あるひと時」

最近色んなVtuberを見るんですよ。特にポルカが良くて歌なんてよく聞いてます


 西暦約11800年。遂にニーアオートマタまで後150年程となった。ここまでの間に森の国が建国され、後に2B達に協力してくれるレジスタンス組織のリーダーであるアネモネが誕生した。確かこの時に人類軍による第八次降下作戦が行われている。因みに11944年までに215次まで行われている。さらに言えばその一年後の原作開始時点で243次となっている。僅か一年足らずで人類軍(おそらくその大半がヨルハ部隊)によって28回も行われた事になる。大体二週間に一度のペースだ。

 

 原作に近づきつつあるとは言え俺のやる事は変わらない。……というよりは最近暇になってきた。遺伝子方面は全くと言っていい程進展はない、という訳ではないが変な生物が生まれる程度で進んだ気がしない。この施設だって地下に拡張したから地下5階まで広がった。更に義体は百近くまでつくっているし素材に関してはこれ持ってゲームやれば最初から最後まで素材集めなくていいくらいには存在する。体の方もデボルとポポルの様に酒を飲めるようになったり食べ物を食べて味覚を感じるようにはした。最近じゃデボルとかと一緒に酒を飲むようになったが……、もう二度とポポルには飲ませねぇ。マジで酒癖が酷すぎる。ストレスでも溜まっているのかもしれないが部屋一つを破壊するなんて思わなかったよ……。その一方でデボルは俺に抱き着いて甘えてくるし……。人間だった頃なら性欲が爆発していただろうが生憎この体は性欲はないし搭載予定もない。というかそこまで行けばもはや人間と変わりはないだろう。……あれ?一から人間作るよりもしかしてこっちの方が簡単だったりしないか?でも子供が具体的にどうやって作られるのかなんてわからないし……。やはり何百万年もかけて研究するしかないか。

 

「なぁ、お前に名前ってないのか?」

「名前か?特にないな。製造番号もあったと思うがとっくに忘れた。いきなりどうした?」

「いや、何時までもお前とか言うのってなんか、変じゃんか?だから名前で呼んだ方がいいなって思ってさ」

「成程な。……そうだな、レインとでも呼んでくれ」

「レイン?雨か?」

「まぁ、そんなところだ」

 

 ある日、上記の通りの会話をデボルとした。確かに彼女の言うとおり俺は名前なんてなかった。というより話し相手が基本的にデボルとポポルしかいないから今まで気にしていなかった。という訳で俺の名前はレインに決定した。……今後、名乗る機会があるかどうかはわからないがな。

 

「そう言えば二人は歌を歌えるのか?」

「?いきなりどうしたんだ?」

「いや、ただ気になっただけだ」

 

 珍しく二人で俺の下を訪れた彼女たちに俺は聞いてみた。レプリカントでは彼女たちの歌が印象的だったからな。デボルがいる近くに行くとBGMに合わせて彼女の歌声が聞こえてきて時間があるときは聞いていたりしたなぁ、というのを前世の記録を見ていて思い出した。もう、前世の記憶は残っていない。記録を見なければ俺がどんなことをして過ごしていたのか、自分が誰だったのかさえ分からなくなっている。とは言え何千年も生きていれば過去の記憶なんて忘れていくだろう。その為に前世で覚えている事は記録しているし何か感じた事も全て記録している。おかげでその容量だけで大分圧迫しつつあるけどな。

 

「歌、か……。確かに歌えるけど最近は歌っていないな……」

「そうね。歌うほどの余裕なんて今は無いし……」

 

 確かに機械生命体との戦争中の今は歌いづらいだろうし彼女たちなら余計そう思うだろう。とは言えここには俺たち以外には誰もいないんだ。彼女たちの歌声を生で聞いてみたいという思いはある。

 

「ならここで何か歌ってくれないか?ぜひとも聞いてみたい」

「そりゃ、構わないけど……」

 

 デボルは特に抵抗とかはなさそうだがちらりとポポルの方を見ている。そのポポルは多少いいのかな?といった感じではあるが別に嫌とか抵抗があるわけではなさそうだ。少し考えた彼女はデボルに頷く。そして二人はゆっくりと歌いだした。歌ってくれたのはレプリカントの「イニシエノウタ」。オートマタでも使用され彼女たちを代表する曲の一つだ。まさか生で聞ける機会が来るとは思わなかったな。……もし、俺が人間のままだったのなら感動のあまり涙を流して喜んだのかもしれない。

 

 3分ほどの曲ではあるがその時間はここ数百年の中で最も充実した時間だった。歌い終わるとデボルは恥ずかし気にうつむきつつ笑みを浮かべた。

 

「へへ、久しぶりに歌なんて歌ったよ。でも、やっぱり歌うのは良いな。なぁ、ポポル?」

「ええ、そうね。心がとても穏やかになれたわ」

 

 ポポルの方も満足げにしている。やはりインプットされた罪悪感は彼女たちの心を擦り減らしているのだろう。……どうにか出来ないか。確かに彼女達の暴走が原因の一つかもしれない。だが、元をただせば魔王と呼ばれたゲシュタルト・ニーアの要望を叶えられなかったのが原因であるし崩壊体の理由だって人為的なミスが原因とも言われているのだ。彼女達が悪いのではなく巡り巡っていきついた結果でしかないと思う。そもそも暴走したとは言えレプリカント・ニーアがゲシュタルト・ニーアを殺さなければこうはならなかったのだから。

 

 ……だが、他のアンドロイドからすれば守るべき人類が滅亡してしまったのだ。八つ当たりだってしたいはずだ。やはり、彼女達を根本的に救うには人類の復活が大前提だろうな。果たしてそれが出来るのかは分からないし作り出した人類を人類と呼べるのかさえ分からないがな。とにかく俺は俺に出来る事をしないとな。

 




主人公の名前は大分安直です。分かる人には簡単に分かるかも
イニシエノウタっていいですよね。カラオケでは歌うの難しいですけど。
それと次話より原作に突入します。この調子なら15話前後で終わりそう……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

中章【NieR:Automata】
第一話「第十四次機械兵器戦争」


 ついに原作が始まった。……訳ではない。今は11941年。そう、ヨルハ部隊最初の戦闘作戦である真珠湾降下作戦が行われる年だ。この作戦で「A2」を除く作戦に参加した隊員は全滅しA2はバンカーに脱走兵として命を狙われるようになる。A2が原作の4年間をどうしていたのかは分からない。だが多数の追っ手を退けてきた事は事実だ。

 

 そして原作では森の国の二代目国王を殺すという衝撃的なシーンで登場する。しかも国王の見た目は赤ん坊だ。それを殺すというヘイトが溜まりかねないことをしたA2の行動には前世の俺も大分怒ったけなー。特に9S操作後は舞台背景とか知る事となったから余計に。因みに森の国はその後訪れると仇と言って襲い掛かって来る。別に2Bや9Sがやったわけではないが国王の下まで向かっていたしA2が殺したシーンを見た者はあの二人以外にはいないから勘違いされても仕方ないが。……もしかしたらアンドロイドだから無差別に襲いかかってきているわけではないだろうけど。それと資源回収ユニットでもこの森の国の兵が襲ってくる。

 

 話を戻すが俺はいよいよ原作に介入しようと思う。勿論やる事はA2の確保だ。運が良ければ9Sが壊れないように出来るだろうしもしかしたら2Bを救う事だって出来るかもしれない。

 

 そう言う訳で俺は今真珠湾にいる。……本来は作戦前に協力したかったが今はバンカーやターミナルに俺の存在を知られる訳にはいかない。ターミナルは知っている可能性もあるが情報を与えるような真似はしたくないからな。

 

「機械生命体は、必ず殲滅してやる……!」

 

 オアフ島のサーバー跡地に向かうと再起動したA2がそう誓っていた。周りを確認するがA2以外に生体反応はない。……ターミナルの姿もない事を確認した俺はA2に近づく。

 

「っ!誰だ!?」

「落ち着け」

 

 ボロボロの武器をこちらに向けて警戒するA2に俺はそう声をかける。今の俺はどう見てもアンドロイドにしか見えない。アンドロイドというよりはデボルとポポルのような人間世界で生活できるアンドロイドだが。そして俺の事をアンドロイドだと認識したA2は少し安堵したように息をつくと武器を降ろした。それを確認した俺は彼女に近づき怪我の様子を見る。奇跡的に大きな傷は無いようだが戦闘では多少影響が出るかもしれないな。

 

 そんな風に俺がA2の損傷具合を見ているといぶかし気にA2がこちらを見てくるのに気付いた俺は笑みを浮かべて話しかけた。

 

「君はヨルハだろ?最新型のアンドロイドが作られたって聞いていたけどこんなに美人とはね」

「……なんのつもりだ?」

「いやいや、損傷はそこまで酷くはないだろうけどダメージはありそうだし手伝おうと思ってね」

「必要ない。放っておいてくれ」

 

 うーん、A2は既に素っ気ない態度になってしまっているな。とは言えここで彼女を見送ったら次に会える機会が何時になるか分からないし最悪森の国まで会えることはないだろう。それは困るな。少し早急かもしれないがカードを切るか。損傷しているし戦闘経験がそこまでない彼女相手なら何とかなるかもしれないしな。

 

「まて、アタッカー二号」

「……!」

「バンカーから見捨てられた貴様に行く場所なんてあるのか?」

 

 俺の言葉に驚き俺の方を見るA2。その目には俺への敵意と何者かを探ろうとしているのが見えた。俺は彼女が襲い掛かってきてもすぐに対処できるようにしつつさらにカードを切る。

 

「今回協力してくれたアネモネの下に行くか?脱走兵という事が知られれば最悪彼女も巻き込む事になるかもな」

「……貴様、何者だ?」

「それを知りたいのなら大人しくついてくるといいぞ。少なくともその体を治療するくらいなら可能だろうしな」

「……」

 

 俺が背を向けて歩き出すと警戒しつつA2がついてくるのが音から分かる。少なくとも彼女は俺を見極める行動を取ることに決めたようだ。後は拠点に戻り彼女を治療。運が良ければデボルとポポルにも診てもらおう。そして治療したことを借りとして彼女を保護できるようにする。最悪連絡路の作成だけでもいい。彼女をこちらの協力者に出来ればヨルハ全ては無理でも9Sや2Bを救う事が出来るかもしれないからな。

 

 はてさて、彼女はどういった行動を取るのかな。

 

 

 

 

 

 

 私はアタッカー二号。最新型のアンドロイド部隊「ヨルハ」に所属している……、いや所属していた(・・・・)。私は今回ヨルハ初の作戦で16機の仲間と共に参加したが敵の迎撃で地上にたどり着けたのは僅か4機しかいなかった。更に目的地であるサーバールームにたどり着くまでにさらに二機の仲間を失った。そしてサーバールームで敵である赤い少女から今回の作戦の真相を聞かされた。私達は捨て駒だったという事実に私は絶望した。ただ、四号によって私だけは助かったが機械生命体の殲滅を胸に誓いそれまでの自分を瓦礫で埋まった仲間の下に置いてきた。

 

 しかし、私はそこで不思議なアンドロイド(・・・・・・)と出会った。見た目は人間のような義体をしているが何処か気を抜けない、そう機械生命体のような雰囲気があった。そしてそのアンドロイドは知らないはずの私の名前やバンカーとの現状を言い当ててきた。最初こそ警戒していたが彼の提案にのる事にした。治療してくれるらしいし何より今の私は見た目以上に疲弊と消耗している。武器も耐久値が限界に近い為危険とは思うが彼の後をついて行った。

 

 彼の自作だという潜水艦に乗りそこで簡易的な応急措置を受けた。彼はレジスタンス組織には所属しておらずメンテナンスや修理を全て自分で行っているという。たまに治療型のアンドロイドが訪れることがあるが基本的に一人らしくそのアンドロイド以外とは初めて会話をしたという。

 

 単独行動という時点で脱走兵か何かと思ったがそう言う感じではなさそうだし最初から関りを持っていないように思えた。

 

 そして彼と会話していると漸く沿岸部についたらしく私は潜水艦から降りて彼と共に拠点へと向かった。廃墟となった都市を通りとある建物の中に入り巧妙に隠された地下に向かうエレベーターに乗った。バンカーのエレベーターの何倍も大きく彼によると物資を運ぶ時に使う場所らしい。その口ぶりから他にも入口があるのだろう。

 

 エレベーターが開くとそこには白い壁で覆われた施設があった。人類が様々な事を研究するのに使っていた研究室のような感じのする施設を彼は歩いていく。慌てて私も追いかけていくと二人のアンドロイドがいた。赤い髪の、おそらく双子と思われる珍しいアンドロイドは彼に気付くと笑みを浮かべていたけど私に気付くとすぐに真顔になった。……何故だろうか?片方のアンドロイドがこちらを睨みつけているように思えるのだが。

 

「レイン……。そいつは?」

「ああ、オワフ島で拾った元ヨルハ所属のアンドロイド」

「オワフ島!?ヨルハ!?お前何やってんだよ!?そんな落ちてた物を拾ってきたみたいな言い方で連れてきていい相手じゃないしまずオワフ島ってなんだよ!?」

「太平洋に浮かぶ島の一つだぞ」

「そんくらい知っているよ!そうじゃなくてなんでそんな所に行ってきたんだよ!大体どうやって……」

「数十年前に作った潜水艦で、な。まさか留守中に来ているとは思わなかったがな」

「……はぁ」

 

 私をにらんでいたアンドロイドがレインというらしい彼に食って掛かっていたが諦めたように息をついていた。ただ、どこかそのやり取りを楽しんでいるようにも見えたのは気のせいだろうか?ヨルハ部隊ではそこまで強制力はないとは言え感情を持つ事を禁止しているためどこか不思議に見えた。感情を持ったアンドロイドはこんな風に話すのだろうか?

 

「……貴方、名前は?」

「……アタッカー二号。A2と呼んでくれ」

「分かったわ。私はポポル。あっちがデボルよ」

 

 そう言ってレインと話していなかった方のアンドロイドが声をかけてきた。ポポルは落ち着いた雰囲気を持つアンドロイドでデボルと呼ばれるアンドロイドの方は強気という感じがする。

 

「……んで?このA2はどうしたんだ?」

「ああ、そうだった。彼女は損傷しているみたいでな。一応応急措置はしたが本格的な治療をするために連れてきたんだ」

「そうなのか?お前がこんな事をするなんて初めてじゃないか?」

「まぁ、そうかもな」

 

 その後、私はデボルとポポルの治療を受けた。おかげで私の体は完全に回復する事が出来た。バンカーから裏切られた以上この体が壊れればそれは死を意味するからな。死んでいった仲間たちの為にも私はまだ、死ぬ事は出来ない。

 




おまるんに似た機械生命体なりアンドロイドだして遊園地で絡ませたい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話「質疑応答」

大分ぐだってしまったけど許して


 さて、デボルとポポルがいた事でA2の体は完治する事が出来た。恐らく俺がやってもここまで完璧に治すことは出来なかっただろう。治療とメンテナンス型のアンドロイドというだけの事はあるか。そう言う訳で体を完全に治したA2と俺は寝室代わりにしている部屋で向かい合って座っている。因みにデボルとポポルは治療が終わった後は直ぐに出発した。元々俺が戻る少し前には出ているはずだったのだがデボルが「帰ってくるかもしれない」といいだして待っていたらしい。デボルにそんな未来予知みたいな機能でもついていたのだろうか?デボルは多少ごねていたけどポポルに引きずられるようにして出ていった。あれじゃ抵抗する大型犬と飼い主みたいだなと思ったのは秘密だ。本人に言えば拳が飛んできそうだからな。

 

「それで、何故私の事を知っていた?」

「……」

「答えろ!」

 

 詰め寄るA2に俺は思案する。実は協力者になってもらおうと考えたが説得をどうするかを決めていなかった。というか連れてくれば何とかなるかもと安易に考えたせいだな。そう言う訳でA2に切れるカードはあれどどうやって切るかを決めかねていたのだ。

 

 ……仕方ない。ここは彼女に選んでもらうか。

 

「必要最低限の情報か、全ての情報か。どちらがいい?」

「はぁっ?」

「前者はそのまんまだ。後者は……、多少荒唐無稽で信じられない事ばかりだが全て真実だ。どちらがいい?因みにどちらを選んでもいくつかの要求を呑んでもらうがな」

「……連れてきておいて随分と要求が多いな」

「それだけ重要な事という事だ」

「……後者はどれくらい荒唐無稽なんだ?」

「揶揄っていると言って激昂しかねないくらい、かな」

「……」

 

 俺の言葉を聞いて今度はA2が黙り込む。どちらにするかを悩んでいるのだろう。まぁ、俺はどちらでも構わない。どちらを選んでも共闘関係に持ち込むつもりだからな。

 

「……全てを教えろ。怒らないとは言えないが全否定はしないと約束する」

「その言葉が嘘ではないと信じているよ。そうだな……、先ずは何から話すか……」

「なら私が質問する。お前はそれに正直に答えろ」

 

 何から話すか悩んでいるとA2が提案してきた。こちらとしてもそうしてくれるなら助かるな。そして、A2の質問次第ではいろいろと話すことになるだろうな。デボルとポポルにすら言っていない重要な情報を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは何故私を知っていたのかだ」

「それは最初から知っていた。としか言いようがないな」

 

 目の前のアンドロイド、レインの言葉に私はいら立つ。それでは答えになっていない。はぐらかしているとも取れる言動に私の表情が険しくなっていくのが分かる。それは対面するレインも分かったようで肩を竦めて弁明する。

 

「これは仕方ないが真実だ。本当は俺の中身をスキャンするなりしてもらえればいいのかもしれないがな。お前は出来ないだろう?」

「……」

 

 確かに私はアタッカータイプで相手へのハッキングは専門外だ。

 

「……ならその情報はどうやって手に入れた?」

「ふむ、これは最初から持っていたと言った方がいいか」

「はぐらかすな。きちんと言え」

「……しょうがない。俺にはこの体になる前の記憶がある」

「?」

 

 突然言い始めた事に私は首をかしげる。彼が何を言いたのかは分からない。だが、少なくとも嘘をついていないのは分かった。私は黙って続きを待つ。

 

「俺が誕生したのは8000年前後だ。そして、俺の記憶にはそれより6000年前。人類が地球で繁栄していた頃の記憶がある」

「っ!?」

 

 突然の事に私は思わず立ち上がった。2000年。それはエイリアンが地球にやって来るよりだいぶ前だ。そしてそれは、こいつがアンドロイドではないと言っているに等しかった。そんな物は信じられなかった。何せ人類は月に避難している(・・・・・・・・)のだから。

 

「記憶は西暦2020年代のとある男の記憶だ」

「……」

「信じられないか?だから言っただろう?荒唐無稽ともとれる真実だと」

「つまりお前は……、人間なのか?」

「元、と言いたいが違うだろうな。体は弄ったが最初から機械の体だ。魂だけが人間といえるかもしれないがな」

「……」

 

 あまりの事実に私の頭は混乱する。それと同時に嘘だと叫びたい気持ちになるが嘘は言っていないのだろう。それが分かるからこそ私は混乱しているのだ。

 

「どうする?今からでもやめるか?」

「……いや、いい。続きを話してくれ」

「分かった。その男はあるゲームにはまっていた。……ゲームは分かるか?」

「知識ならある。問題ない」

「よし。そのゲームは『NieR:Automata』。機械生命体と戦うあるアンドロイドを描いたゲームだ」

「……」

 

 それはつまりこの世界はゲームだとでも言いたいのか?それこそ信じられない。だが、同時に私は納得もしていた。ゲームというからには私が参加した真珠湾降下作戦の詳細も知っていたのだろう。そして、私が……。

 

「つまり、お前は助けられたという事か?四号も、十六号も、二十一号も?」

「そうだな。もしかしたら助けられたかもな」

「っ!貴様ぁ!」

 

 私はレインに飛びかかるがレインはよどみない動作で私を受け流し地面にたたきつけた。そしてそのまま私の体を機械で拘束した。拘束から逃れようともがくがびくともしなかった。レインは私を地面に転がしたまま私の眼前に移動した。手が出せない私はレインを睨みつける事しか出来なかった。

 

「落ち着け。お前以外を助けなかったのは理由がある」

「どんな理由だろうと!」

「下手にあの場で動いていれば全滅していた可能性もある」

「っ!」

 

 私はその言葉に歯噛みした。確かに彼がいたところであの場では多勢に無勢だった。それに考えてみればあの場で真実を話されて逃げたとしても良い結果にはならなかったかもしれない。真実を知ったために粛清をされた可能性だってある。いや、確実にそうしただろう。

 それが分かった私は力を抜いた。レインは拘束を解くことはしなかったが多少緩めてくれた。私が落ち着いたと判断したレインが続きを話し始めた。

 

「俺はまだ機械生命体にもバンカーにも存在を知られる訳にはいかない。だからすべてが終わった時にお前を助けたんだ。お前の仲間には悪いがこれが今の俺に出来る最大限の事だ」

「……分かった。もういい。続きを言ってくれ」

「そうか……。なら言うぞ。このゲームを知っていたから俺はこの後何が起きるのかを知っている。そして、この物語にはA2。君が関わって来る」

「私が?」

「というより主役の一体だな。俺も前は何度もゲームの君を操作したもんさ」

「……」

 

 私を操作するという言葉になんとも言えなくなる。あまりいい感じの思いはしないが私とは違うと言い聞かせてその感情を振り払った。

 

「これで俺が君の情報を知っていた理由だ。分かってもらえたか?」

「……ああ、嫌というほどにな」

 

 彼の言った通り荒唐無稽な話だったな。とは言え理屈は通るし彼が真実しか言わないと言った事を信じるならこれも全て事実なのだろう。

 

「さて、他に何か聞きたい事はあるか?」

「沢山ある。全て話せ」

「ああ、勿論さ。君が知りたくないと耳を塞いでも全て答えるつもりさ」

 

 彼はそう言って不敵に笑うのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話「新たな目的」

二次創作の日間ランキングで21位になったしお気に入り登録もめっちゃ伸びてる……。なんか怖いわぁ


「これで全てだ。理解してもらえたか?」

「……ああ、少しだけ時間をくれ」

 

 俺は全てをA2に話した。ゲシュタルト計画から始まる人類の波乱の歴史にその滅亡。エイリアンの絶滅と機械生命体の現状。そしてヨルハ部隊の真実。A2は何度も驚くと同時に人類が既にいない話には涙を流していた。彼女とて人類の為に作られた存在だ。その事実はとても重かっただろう。だが、彼女は否定はしないで最後まで聞いていた。途中何度か質問したがこの世界の事は全て話せたと思う。

 

 とは言え全ての真実を聞いたA2は少し辛そうにしているため俺は彼女をとある部屋に案内する。そこも寝室のようなものになっており心の整理が出来たら言ってくれと言ってその部屋を出る。心を整理するのに俺がいては邪魔だろうからな。

 

 ……最近は、デボルとポポルにも真実を話すべきか悩んでいる。だが、彼女達はA2よりも重い過去を背負っている。人類を滅ぼした罪悪感がある以上話していいものか分からない。それに、彼女達との関係を壊したくないと思っている自分がいる。二千年近く関わっていれば情も生まれるという事か。デボルなんて会うたびにいろいろな場所の話をしてくれる。最近は俺が機械生命体という事を忘れているんじゃないかと思うくらいには。……まぁ、見た目アンドロイドの俺が機械生命体か?と言われれば微妙としか言いようがないけどな。アンドロイドと敵対したことはないが機械生命体は素材目当てで破壊しまくってるし、敵のはずのアンドロイドを匿い、素材を上げたりお話をしたりしているからな。

 

 さて、一回原作の流れを確認するか。確か翌年に9Sがやらかして破壊されるんだっけか?それでその次の年には序盤で戦うエンゲルスが完成する。あのロボットと言うには微妙な奴。メンテナンスの為なのかは知らないが昇れる場所とかあるし建築物がそのままロボットになったようなあの外見は凄く微妙だったな。まぁ、そのあとは廃墟都市に二体出現し一体は飛行ユニットに乗る前に破壊、もう一体は破壊寸前で自爆して運よくエイリアンのいる場所に繋がる道を作ってくれた。因みに最初に破壊した奴はその後情報を欲した2Bたちによって修復され機械生命体も考えるという事を教えたっけな。そして最後に登場する際はパスカルが操作する機体であのシーンは感動すら出来たよ。……そのあとは酷すぎたけどな。

 

 ……話を戻そう。11944年、原作の一年前に仲間の個体を取り込む機械生命体が発見されたと年表にはあるがいまいちわからない。ゲームの本筋に関わらない話はそこまで知らないからな。4年後には分かるのだろうか。

 

 そう言う経緯を挟んでようやく11945年に原作が開始される。第243次降下作戦で廃工場跡地のエンゲルス討伐を目的に行われるが2Bを残し全機撃墜され2Bも現地で合流した9Sと共に破壊に成功するがさらに三機のエンゲルスに囲まれてそれを打開するべくブラックボックスを使って自爆しエンゲルス諸共破壊したんだよな。

 

 因みにこの時に降下時に撃墜されたと思われていた11Bは脱走を目的に偽装していたが本当にダメージを受けてしまいウイルスに侵されながら2Bと9Sが出会った場所で力尽きる。そしてその11Bの捜索を16Dは脱走計画を伝える事で大きく対応を変える。伝えれば厳しくしていた事から嫌っていた事を言って死んで清々したという感じになるが伝えないと付き合っていて仇を取るためにB型になるという。付き合っていたけど心の底では嫌だったのか、それともこの二つは別々の世界と言う形になるのかは分からない。普通の作品なら前者の可能性があるのだろうがこれはニーアである。DODから続く多数に分岐する世界だ。その為後者の方が信ぴょう性はとても高い様に感じる。まぁ、そこは本人に聞けばいいだろう。数少ない機体番号が判明しているヨルハの隊員だ。助けられるのならぜひとも助けたいと思うのはゲームのファンとしては当然だろう。それに、こちらに協力してくれる者が多いに越したことはないからな。

 

 序盤のエンゲルスを倒したら再び地上に降下しレジスタンスのアネモネと合流、調査をする。そして砂漠に行きアダム、かイブと戦闘になる。そして……ああ!そうだよ!遊園地!遊園地だよ!あそこにはアンドロイドが行方不明になっている地域で調査に出た2Bと9Sが歌姫のボーヴォワールと戦うんだよ!その際に武器にされたヨルハ含むアンドロイドの義体を見るんだがあれは防げないだろうか?いや、でもパスカルの村に行くイベントを潰すことになるが……。因みにボーヴォワールのあれを見た時は羨ましいと感じたものだ。いくら名前が分からないとは言えヨルハ部隊員を好き勝手に出来るなんて……。デボルとポポルにあっていなかったら実行していただろし。意識を保たせたまま体の自由を奪って好きに操作したり壁に磔にしてコレクションしたり……。

 

 欲望が漏れてしまったがボーヴォワールは倒そう。というか全てが終わったら遊園地を改良して遊び尽くしたいな。でもそうなると資源回収ユニットが邪魔だな。あれのせいかは分からないがあそこの機械生命体が可笑しくなったし。サボっていたから難を逃れたらしい一体を除き全滅するからな。というかあの遊園地を仕切っていたのはボーヴォワールなのだろうか?そうでなくても主という感じなのは間違いないな。……まてよ?あいつを倒して遊園地を第二の拠点にするか?そして塔出現の前後にあそこの機械生命体を別の場所に移し資源回収ユニットは……配置前に撃墜かそれが出来なくても頑張って破壊するしかないか。何かの施設に出来ないかなとも思ったけど劇場に繋がる橋を壊して設置されているから凄く邪魔なんだよな。そう考えると破壊が手っ取り早いか。

 

 早速行動をするか。今ならボーヴォワールも小型の可能性もあるしあの形態だったとしても4年も前なんだ。あれほどの力は有していないだろう。

 

 そう思った俺は早速準備をする。その辺の雑魚以外では初の戦闘だ。今の俺の力が何処まで通じるのかは分からない。武器の開発は行ってきており原作武器並みの性能があると思っている。とは言え戦闘経験は大してない。小型は一撃。大型も遠方からの攻撃か奇襲を以っての一撃で仕留めるを繰り返してきたからな。

 

 そんな俺が持っていく武器は銃型の武器とロケラン風の武器、近接用の剣だ。グローブ系の武器は無い。流石に超至近距離でやりあう実力も覚悟も無い。それに俺の義体は日常での生活をするのに不便がない様にする事ばかりに改造しており戦闘面ではちょっとした耐久力と筋力しかない。戦闘のステータス面ではスキャナーよりちょっと強いといいかな程度の性能と言えば分かってもらえるかもしれない。

 

「……おい」

 

 準備を終えて入り口に向かっていると後ろから声をかけられた。後ろを向けば

険しい表情のA2がいた。

 

「何処に行く?」

「んー?ちょっと用事が出来てな。遊園地跡地まで」

「……そうか」

 

 A2は俺の言葉を聞いて黙り込んでしまった。まだ心の整理がついていないのだろうか?それとも俺が密かにバンカーに密告するとでも思ったのだろうか?流石にそれは無いと思うがな。

 

「何だ?お前も一緒に行くか?」

「……部屋で悩んでいるよりはマシだ」

「そうか。ならそこの部屋に武器とか防具とかいろいろあるからしっくり来るのを選ぶといい。流石にヨルハ部隊の装備は無いけどな」

「……」

 

 俺がそう言うとA2は部屋に入っていく。部屋には大型剣もある。A2の気に入る武器があるかは分からないが選べるくらいにはそろっている。

 

 暫く待っていると漸く選び終えたA2が出てきた。A2はボロボロのヨルハ部隊の戦闘服のままだが肘や膝用のサポーターを付け背中には大型剣と小型剣を背負っている。小型剣は連撃に、大型剣は威力に定評がある。俺もゲームをやっていた頃はこの二つをセットにして遊んでいたなぁ。懐かしい懐かしい。

 

「それじゃ準備も出来たようだし行こうか。道中の機械生命体は頼むぞ。後、くれぐれも他のアンドロイドやいるか分からないがヨルハ部隊に見つからないようにステルスで行くからな」

「分かった。そちらの指示に従おう」

 

 A2はそう言ってくれた。とは言え基本的に戦闘は好きにさせるがな。俺がいちいち指示を出すより大雑把に指示して好きにさせた方が両方共に楽だろうし連携もくそもない現状ではそれが一番の良策だろうからな。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話「歌姫になる筈だった機械生命体」

今日から本格的に講義始まるのでもしかしたら毎日の更新が難しくなるかも……


 うへぇ、流石は最新型のアンドロイドであるヨルハだ。小型は一撃、中型もほぼ一撃、大型も数回で破壊している……。

 

 遊園地に向かう道中だが俺は何もしていない。というよりする事がない。精々が破壊した機械生命体から部品を回収するくらいだ。戦闘においては全く何もしていない。何もする必要がないくらいA2は強かった。初めて使う俺手製の武器を一戦、二戦と戦闘を重ねるに連れて使い慣れていき今ではヨルハ部隊で使っていた頃の武器と大差なく使いこなしている。こういうところが最新型のアンドロイドと言った所なのだろうな。

 

 そんな訳で俺とA2は予定よりだいぶ早いペースで遊園地に到着する事が出来た。お互いアンドロイドであるためメンテナンス以外での休息が一切必要なかったのも要因だろう。

 

 遊園地はゲームで見慣れた姿のままだった。これが何時から存在するのかは分からないが原作の4年前である今ですら変わらないのか。

 

「……それで?用事とはなんだ?」

「ここにいるとある機械生命体を見つける事だ。一応言っておくが攻撃してこない奴は放置しろよ。下手に騒ぎを起こして隠れられでもしたら面倒だからな」

「善処する」

 

 実際はここの機械生命体を取り込むつもりでいるため下手に数を減らされたくないというのが真相だけどな。さて、原作においてボーヴォワールは三つの姿を見せた。一つは戦闘する際の歌姫の姿。残り二つは回想でのみ見せた小型の姿と中型二足を超える身長を見せる姿だ。時期的に回想で出てきたこの二つの形態のどちらかだろう。もしかしたらこの間の形態かもしれないがそれはそれで簡単に分かる。遊園地には普通の機械生命体しかいないから普通から外れた姿なら簡単に見分けられるからな。

 

「まずはあの建物を見るぞ」

 

 見慣れた紙吹雪をまき散らす機械生命体の脇を通過しながらボーヴォワールと戦った劇場を指さす。ボーヴォワールといったらあそこが一番考えられる。因みにあの劇場はサブクエストでロミオとジュリエットをやっていたけど大分カオスな内容だった。何で計六体いるのかとか殺しあうのかとか突っ込みどころが満載だったのが記録に残っている。

 

 そうして原作同様にゲートが閉じているがここはゲームではないのだ。俺とA2は飛び越えて突破するとそのまま劇場に向かって進む。原作におけるイベントを一つ潰すのだ。それを補う出来事を用意するべきなのだろうな。まぁ、パスカルはアネモネと交易を行っていたしそう遠くないうちに接触する事にはなるだろうし問題はないか。

 

 分厚い劇場の扉を開けて中に入ると機械生命体の気配はなかった。……が、奥の方に機械生命体の反応をキャッチした。これまでに俺が出会った機械生命体のデータを入力したセンサーは「アンノウン」を示しており新種と言える機械生命体の反応をしていた。それはつまり、俺の目的の機械生命体を見つけたという事だ。

 

「機械生命体の反応があった。恐らく俺の目的のやつだ」

「……そいつは破壊するのか?」

「まぁ、相手次第だがな。俺の指示があるまでは手を出すなよ?」

「分かっている」

 

 俺はA2に確認を取ってから最奥のステージに入る。ステージの幕は開いておりそこには回想で見たドレスのような姿、ではなくその前身と言える姿のボーヴォワールがいた。

 

「……誰?」

「俺はレイン。君に話があって来た」

「……アンドロイド?」

「まぁ、そうだと言っておくよ」

 

 ボーヴォワールは俺を見て質問してくるが最後の俺の答えでそれまでの興味なさげな様子から一気に獲物を狙う肉食動物のような雰囲気を見せる。やはり、話し合いは無理か。

 

「……何が目的か知らないけどアンドロイドなら殺す!そしてタベル!」

「はは、そんな事をしても愛しの彼は振り向いてくれないぞ」

「っ!?ダマレェッ!!!」

 

 俺の言葉に怒り、飛びかかって来る。ゲームの時よりも素早い動きだ。あの飾りつけのせいで動きが鈍くなっていたのかもしれないな。まぁ、普通の機械生命体より速い程度でヨルハの速度には全く追いつけていないがな。

 

「A2。やれ」

「分かった」

 

 勝負は一瞬だった。俺に向かって飛びかかったボーヴォワールの前にA2が飛び出すと小型剣で一閃した。A2の剣の軌道はボーヴォワールの左肩から右側の腰にかけて通りたったそれだけでボーヴォワールの体は二つに割かれることとなった。上半身は俺の左側に倒れ下半身はその場に落ちた。下半身はそのまま動かなくなり上半身の方は何が起きたのか分かっていないようで残った右手で必死に体を起こそうとしている。

 

「な、ナニガ……!?」

「やはりボスというにはまだまだ弱かったな」

「……前に話していたゲームの敵か?」

「ああ、4年後に君の後輩達が戦う事になる相手だ。流石に4年前の現在の時点でそこまでの実力はなかったようだ」

「クッ!ワタシハ!キレイにナラナイとイケナイのに……!」

 

 俺とA2が話している間必死に生き残ろうともがくボーヴォワールの体を右足で押さえつけ頭部に銃口を向ける。

 

「はっきり言おう。基本的に機械生命体はネットワークから分離しない限り自我は形成されない。君の愛しの彼はおそらくネットワークに繋がったままの機体なんだろう。つまり、君はそもそもやるべきことが間違っていたという事だ」

「ワタシハ……。ワタシハ……」

「……せめて安らかに眠れ。次があるのかは分からないが愛する者と添い遂げられることを祈っているよ」

 

 俺はそう言うと引き金を引いた。機械生命体の体を貫通できるように作った銃と銃弾はかなりの反動を俺に与えつつ放たれボーヴォワールの頭を貫通した。ぶつかった頭部の周りを巻き込むように抉りボーヴォワールの頭を破壊し尽くし、その下の地面に大きくめり込んだ。本来ならそれなりの距離から使う銃であるため予想以上の破壊を招いたようだ。

 

 動かなくなったボーヴォワールから足をどけた俺は戦闘の可能性を考えて次弾を装填する。これは威力がある代わりにいちいち弾を込めないといけないのが欠点だな。

 

「……壊れればそれまでだろう」

「ん?……ああ、そうか。お前らには来世の概念がないのか。人間は死んだ後、次の人生があると信じていたよ。若しくは死後、人々が行く場所があるとかな。だから死んだ人には来世やその場所で幸せになるように祈ったりするんだ」

「……人間は、変な事を考えるんだな」

「お?その様子だと少しは信じてくれたのかな?」

「信じてはいる。だが、情報の整理に時間を有しただけだ」

 

 そう言うとA2は俺の瞳をジッと見てくる。その瞳には今までにない真剣な感情が籠っており俺も自然とそう言う表情になり見つめ返した。

 

「……お前は私に何をさせたい?」

「戦闘面における俺の補助。それと簡単な手伝いだな」

「つまり今回のような事をさせると?」

「そうだな。別にガチガチに縛り付けるつもりはない。自由はあるが他のアンドロイドに見つからないようにする前提だな」

「……分かった。お前の提案を受けよう」

「そうか。それは良かった」

 

 A2の了承を受けて俺は右手を差し出す。A2は一瞬困惑したが直ぐに意味を察して俺の手を握り返した。

 

「これからよろしく頼むぞ。A2」

「任せろ。レイン」

 

 こうして俺は頼もしい味方を得る事に成功したのだった。

 




昨日二次創作のランキング見たら4位、加点式の方で9位になっていました。凄くうれしいけど1位から3位と5、6位がウマ娘の二次創作しかなかったのがいかにブームになっているのかが分かったな(賭け事苦手なので見てもプレイもしてない)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話「遊園地」

 A2を味方にする事が出来たわけだが正直に言って突発的な事でも起きない限り彼女の出番はない。というのも原作まで時間はあるし他に原作の内容を変えるつもりはないからだ。エンゲルスはどうしようもないしアダムとイブは原作が始まらないと対処のしようがない。森の国はA2がいない以上国王が死ぬ事はないがそれだけだ。グリューンに関しては……、下手に接触して被害が出るのを避けたい。グリューンを破壊したミサイルもダメージを与えた迎撃砲も無いからな。それ以後の展開は介入の余地が現段階ではない。つまり原作が始まらないとやる事がないのだ。

 まぁ、やる事はないがやる事を作る事は出来る。その一つが遊園地の魔改造だ。ボーヴォワールを倒してからはこの遊園地一帯の掌握を開始した。遊園地にいる機械生命体をこちら側につかせたのだ。ネットワークから切り離し俺ほどではないが高性能の防御プログラムを用いて第三者の介入を防ぐ。元々彼らとしては今までと大してやる事が変わらないため、抵抗はほとんどなく掌握出来た。

次に劇場の下に拠点を建設する。これは地下にあった施設を再利用していく。まだゲームクリエイターはいないようで無人のここを改造していく。骨組みも少し心配だったのでそちらの方も手を入れていく。

 

「A2。次はケーブルを取ってくれ」

「分かった」

 

 A2には悪いが当分の間はこうして雑用をこなしてもらう事になる。A2は名前の通り戦闘特化のアンドロイドだからな。それ以外だとこういう事しか出来ない。とは言え工作が得意なヨルハの機体がいたかは分からないがな。

 ここの拠点は三か月ほどで完了させ一年かけて遊園地全体を手直ししていく予定だ。急がないとアネモネがこの近くに拠点を構えるからな。流石にそうなれば怪しむ可能性があるからな。

 それとずっと使っていた拠点には最近デボルとポポルが住み着くようになった。なんでもここから行ける場所にあるレジスタンスの拠点は行ったためどこにも行きづらくなったらしい。その為気兼ねなく入れる俺の拠点に居座るようになったのだ。デボルが遊園地の件を聞いてこちらに来ようとしたがさすがに止めた。デボルたちが見てくれているおかげで拠点を離れてこっちに集中できるわけだし、ポポル一人だけだと何かが起きた時に対処できない事もあるだろうし……。というか二人で乗り越えてきたのに今更離れるなんて出来るわけないだろうからな。

 そう言った事を伝えたらボソボソと何かを呟いて諦めてくれたが一体何を言っていたんだ?ポポルは若干あきれ顔でこちらを見てくるし……。まぁ、デボルの顔がにやついていたから大丈夫だとは思うけど……。

 

「A2」

「何だ?」

「そろそろ遊園地内の巡回を頼む。ないとは思うがアンドロイドが様子を見に来る可能性や機械生命体同士の争いとかあるかもしれないからな」

「わかった」

 

 A2はかなり不服そうだが頷いて上に行った。やはり機械生命体を倒したいという思いはあるのだろう。若しくは完全に雑用しかしてない現状への苛立ちか。ボーヴォワールも予想に反して瞬殺だったからな。せめて数回はA2の攻撃に耐えてほしかったよ。

 さて、A2が巡回を終えて戻ってくるまでに今やっている区画は終わらせたいな。もう少し本気を出してちゃちゃっと終わらせるか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近デボルの強い要望でレインの拠点に住み着く事になった。でも、デボルの言っていた通りこの拠点から行けるレジスタンスの拠点には全て行ったと思うわ。だからそれ以上の場所に行くとなるとこの拠点にはこれなくなる。デボルはそれを嫌がっていたし私もその気持ちを汲んで行動していたわ。

 最初こそここに住み着く事に躊躇いはあったわ。レインは既にアンドロイドと区別がつかないようになっているけど機械生命体である事に変わりはないわ。だから何かあったら真っ先に狙われる事になる……のだけど私も彼が何かをするとは思えないわ。数か月前に最新型のアンドロイドを連れてきた時は驚いたけど結局彼がなんでそう言った行動を取っていたのかはわからなかったわ。いつの間にか潜水艦までつくっていたし、態々オワフ島に行って保護なんてあまりにも可笑しすぎるわ。でも彼は問い詰めても教えてはくれないと思う。デボルは気づいていないけど彼は私達との間に壁を作って接してきている感じがする。多分余計な事を言わないようにするためだと思うけど壁を感じるのは少し悲しく感じるわ。

 それとデボルは最初ここに住むという事で喜んでいたけど肝心の彼は少し離れた場所にある遊園地に拠点を作るとかでここにはいなかった。しかもA2という保護したアンドロイドを連れて。彼女と彼が二人きりになるのを防ぐ目的もあったのにそれが失敗したことでデボルは最初そっちに行こうとしていたわ。でも、彼にここを守ってほしいと言われてからは大人しくなったわ。「家を守る……。こ、これは主婦?」とか「信頼してくれている……。えへへ」と言っていたけど。確かこういうのをチョロインっていうのだったかしら?意味は忘れてしまったけど人類が良く使っていたのが記録にあるわ。

 そう言う訳で私とデボルは彼のいない拠点で日々を過ごしている。……でも、彼のいないここはある意味新鮮だけど少し物足りなさを感じるわね。私も彼に心を開いているという事なのかしら?

 

 

 

 

 

 

 レインと共に行動するようになってから私は不満しかなかった。毎日毎日レインの雑用と遊園地のステルス巡回しかやらないのだ。機械生命体を殲滅する為に作られたヨルハの機体としてはその本領を発揮できない現状に不満しかない。

 この遊園地で唯一起きた戦闘、確かボーヴォワールという個体名の機械生命体も一撃で決着がついた。止めは彼が差したがそれが無くても遠くないうちに機能を停止していただろう。周辺の機械生命体でも殲滅できれば気も晴れるのかもしれないがそれは禁止されている。なんでもこの辺はレインの拠点と違いアンドロイドが良くくる場所らしく知られる訳にはいかない私では出歩くのは危険だった。ならば遊園地内の機械生命体は、と考えたがボーヴォワールを破壊してからここの機械生命体を全て支配下に置き完全に制御している状態にある。だから私を見ても襲ってくる機体は皆無だ。むしろ構って欲しいとばかりに引っ付いてきて鬱陶しい事この上ない。だから最近の巡回では機械生命体にも見つからないようにステルスを心掛けている。……アタッカーとしては優先順位の低い能力ばかりが強化されている現状にさらに腹が立つ。

 ヨルハにいた頃は感情を表に出すことを禁止されていたがここではそう言う事は必要ない。むしろ感情をドンドン面に出していいと言われているがそういう気分にはなれない。もし、感情を出せば八つ当たりや怒りをレインにぶつけてしまう気がするからな。

 だから私は感情を押し殺しつつレインの言っていた原作が始まる約4年後を今か今かと待っている。そうすれば今よりも動く事が出来るようになるのだから。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話「迫る原作」

 西暦11944年。遂に原作まで一年……、いや恐らく半年ほどになった。このころになるとアネモネをリーダーとしたレジスタンス組織がゲーム通りの場所にキャンプを置く様になった。パスカルの村も存在を確認しておりいよいよ原作が近いという事を嫌というほど感じさせている。

 

 この3年程で拠点はほぼ完成に至った。地下は元々あった施設を修理、改造し罠を大量に配置した基地に変貌した。残念ながら外側はアンドロイドやヨルハの機体がよく偵察に来るようになった為機械生命体を用いて手を施すしかなかった。とは言えゲームにあったどこかおどろおどろしい雰囲気は減り楽しめる遊園地に近づいて行った。地面に散らばっていた破片や瓦礫を撤去し、地面の間から生えてきた雑草を取り除くだけでも見違えたけどな。

 

 最近では一定の行動しか取らなかった配下の機械生命体たちも感情を持ち始めている。紙吹雪を派手にばら撒くもの、配分を考えずに一回目、二回目でほぼ使い切ってしまうものなどがおり、中には自らを座長と呼びサーカス団を勝手に作る変な機械生命体まで現れるようになった。何で遊園地なのにサーカス?と思ったが原型がほぼないロミオとジュリエットをやるような機械生命体だ。その辺には突っ込まないことにした。ジェットコースター前にいた戦車もパレード用の武装を持たない……ように見せかけたものになっているしジェットコースターやそこに向かうための足場にしかなっていなかったアトラクションもきちんと稼働するようにして骨組みの錆を落とし補強をがっちりとしてある。

 

 そんな遊園地を不審に思ってかアンドロイドを良く見かけるが攻撃してこないという事と、近づくと何か起きるのではないか?という疑惑からか遊園地の敷地には全く入ってこない。ゲートには飛行型の機械生命体を店員代わりに配置し遊園地の説明と入場料を徴収するように言ってある。金をとると言った時にアンドロイドがどんな反応をするのか楽しみではあるが怒って攻撃してきたりしないよな?少し不安だ。

まぁ、いざとなったらゲートをくぐってすぐにいる関西弁の機械生命体が対応してくれるだろう。ゲームだと80レベル以上でようやくダメージを与えられるくらいに硬く、何故か関西弁を喋るあの機械生命体は改造済みだ。攻撃力はそこまでではないが防御力を上げてあれ以上に装甲を厚くした。あれなら2B達がカンストでもしてない限りダメージを与えるのは厳しいだろう。入場料を払わない客には関西弁で圧をかけながら体を拘束してお金を徴収してくれるだろう。お金がなかったら……その時は楽しい遊園地で強制労働だな。

 

 この時期になるとヨルハの機体をよく見かけるようになった。流石に2Bも9Sもみてはいない。というかゲームだとこの辺は初めて来たみたいな反応だったし彼女達を見るには原作を待たないといけないか。……ああ、それと原作であった遊園地でアンドロイドが行方不明になる件は発生していない。というか俺の支配下にあるわけだし起きようがない。そんな訳でアンドロイドの被害は原作より少なくはなっているだろう。少なくともボーヴォワール戦で見た何十ものアンドロイド達は無事なはずだ。……物語の強制力で別の場所でやられている可能性はあるけどな。

 

「A2。いよいよ始まるぞ」

「……そうか」

「何時でも戦闘できるように準備は欠かすなよ」

「勿論だ」

 

 A2の素っ気ない態度は変わらないが少なくとも信頼は築けていると思う。最初の頃は俺に少し警戒をしていたが今ではそんな様子は一切ない。完全に、とはいかなくても大分信頼してくれているようだ。人類がいないという事で一時期はどうなるかとも思ったが今ではきちんと受け入れているようだ。バンカーを信用していないのは今でも変わらないようだけどな。

 

「とは言えA2の出番はまだまだ先になりそうだがな」

「……」

 

 俺がそう言うとA2の表情が険しいものになる。あれからA2の不満を減らすべく潜水艦を用いて別の場所に向かわせて機械生命体を殲滅させていた。これはA2の活動場所をごまかす目的もある。A2は未だに単独の行動と思われている。故に海を越えてまで移動は難しいだろうと予測しているだろう。それを用いて別大陸に行く事でヨルハの目をそこに集中させた。そしてつい最近まで活動させて回収していた。原作が近づく以上不測の事態に備えてだがあくまで不測の事態に備えてだ。その為A2はまだ大人しく待機するしか出来なくなっていた。

 

 こればっかりはどうしようもない。半年から一年の辛抱だと俺は言うがあまり効果はなさそうだな。俺はどうしようかと思いながら椅子に深く腰掛ける。ここは遊園地ではないもう一つの拠点だ。遊園地は機械生命体たちに任せて最近はこっちで過ごすようにしている。気軽に移動は出来ないし地下を掘ろうにも地下水路などが入り組んでいる。下手に掘り進めれば崩落する可能性もあった。その為ほぼ資材置き場と化しているこの拠点に籠るようになっていた。

 

「デボル達は原作通り、とはいかなかったがアネモネの下にいった。A2はこちらで確保して9Sの発狂の要因を潰した」

 

 ……全てを救う事は出来ない。A2にデボルとポポル、2Bと9S。後は11B等の一部のヨルハのみだ。衛星軌道上のバンカーにいるホワイト司令を救う事は出来ないしパスカルの村に関しては原因がわからない。もしかしたら遊園地の機械生命体の様に何重にもプロテクトをかければいいのかもしれないがそれを実行するには時間が足りないし下手に接触して俺が行っている事をターミナルが嗅ぎつけるかもしれない。まぁ、それ以上に下手に手を加えて原作を崩したくはないという思いもある。確かに彼らとて大事な『NieR:Automata』の登場人物だが2Bや9Sに比べれば優先順位はどうしても低くなってしまう。

 

「もうすぐだ。もうすぐで始まる……」

 

 いよいよ俺の約3000年に渡る集大成が試されるときだ。この世界に誕生してから待ち遠しくも来てほしくなかった原作が、『NieR:Automata』の世界が、遂に始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回、最終章「YoRHa」始動

 




次回こそ原作に入ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

後章(最終章)【YoRHa】
第一話「第243次降下作戦」


 ついに、遂に始まった!NieR:Automataが!場所は廃工場跡地。俺はその外側部分にて様子を伺っている。隣にはA2もおりひたすら上空を見る俺とは違い周囲を警戒していた。ここは普通に襲い掛かって来る機械生命体しかいない。宗教団体がこの場所にあったときは最初は平和だったけどな。それ以外では戦闘ばかりの場所だ。

 

「お、ヨルハ部隊の降下作戦が始まったな」

 

 俺はこの日の為だけに用意した双眼鏡を使って確認する。遥か遠くの方からこちらに向かってやって来る6つの機影。1Dをリーダーとした6機のヨルハ部隊だ。彼女達は第243次降下作戦を実行中であり工場跡地の超大型機械生命体エンゲルスの破壊を目的としている。そして廃工場跡地にはそのサポートを行う9Sが既にいる。先程遠くから確認済みで同時に動かない兄にガソリンをかける弟の機械生命体も確認した。あれは本当に泣けるシーンだったな。最初こそアダムとイブか!?とも思ったが結局違っていたし何なら持ってきた燃料をかける寸前に9Sが兄の方を踏み抜いて壊すんじゃないかとすら思ったからな。実際はそんな事なかったけどね。

 

 さて、そろそろ機械生命体側の防空網によって2B以外のヨルハ部隊は全滅する。しかし、2Bと9Sの活躍でエンゲルスは破壊されその後すぐに出てきた3体のエンゲルスもブラックボックスを用いた自爆により破壊される。とは言えその流れを変える事など実質不可能だし無理に変える必要もない為俺は観戦に甘んじる。そして俺の目的はその後だ。

 

 ヨルハ部隊11号B型。通称11B。彼女はこの降下作戦で撃墜されたと偽装して脱走しようとするが本当に撃墜されてしまい重傷となり最初のボスである丸ノコギリのアームと戦った場所で力尽きる。俺はその11Bの救出を目的としてこの場にいるのだ。

 

「A2、後数時間もしないうちに出番だ」

「……ああ」

 

 俺は双眼鏡を離し周囲を警戒するA2に声をかける。A2はこちらに顔を向ける事はしなかったがしっかりと返事だけはした。それを確認した俺は撃墜され黒煙を上げながら落下するヨルハ部隊を見る。気づけば残りは2Bのみであり既に廃工場跡地まで迫っていた。そして、廃工場跡地の中に入っていくのを確認した。この後はシューティングゲームさながらの状況をクリアして壁に激突と同時に飛行ユニットから飛び出た2Bがかっこよく登場する。そしてそのまま囲んでくる機械生命体を倒していくことになる。

 ……そろそろ時間かな。

 

「A2、移動するぞ」

「分かった」

 

 俺とA2は一気に駆けだす。途中で遭遇する機械生命体はA2が一撃で葬り去っていく。俺は先行するA2にナビゲートをしながら後をついていく。これじゃ9Sの役割りをこなしている気分になるが戦闘は得意じゃない俺には向いているのかもしれないな。

 

 そんな感じで進んでいくと爆音が響く。廃工場跡地の機械が作動する音ではなくきちんとした爆音だ。恐らく9Sが飛行ユニットで2Bの窮地を救ったのだろう。それなら2Bと9Sはもうあの場所を移動しているだろう。ここはゲームとは違う。2Bが態々Uターンしてまで戻って来る心配はないだろう。

 

 そう思いながら俺はゲームでは移動できなかった通路を使って進む。そこは機械生命体が多くいるがA2の前では壁にすらなれていない。A2は一歩前進するごとに機械生命体が両断されていく。A2の使っている武器は鋭さをMaxにしつつ耐久性もある自慢の一品だ。そして、A2の実力と組み合わせる事で爆発的な威力となっている。大型二足も今のA2の前では一撃だろう。そう思わせるだけの実力を今のA2は持ち合わせていた。やはり機械生命体との戦闘は経験させておいて損はないか。今のA2は元々のスペックに加えて機械生命体との戦闘の経験がある。原作よりも大分強くなっているだろう。

 

 そうしてA2の無双を後方から見ながら進んでいくと漸くあの場所に到着した。さて、どうするか。ここに来るまでに大体40分程か?恐らく11Bは俺たちを警戒するだろうし抵抗もするだろうからA2に無力化してもらう。俺は2Bが破壊した機械生命体の残骸に座って11Bが来るのを待つ。遠くの方で戦闘音や大規模な爆音が響いたりしていたが特に反応せずに待ち続けた。

 

 やがて、カツカツとヒールの音が聞こえてきた。「来たか……」と呟き俺は音のする方を見るとボロボロになった女性型のアンドロイド、ヨルハ部隊11Bがゆっくりとした足取りでこちらに向かってきていた。そして、俺とA2を確認するとゴーグルが取れて露になった11Bの瞳が大きく見開かれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛みとウイルスに耐えながら私は必死に体を動かしていた。脱走計画は途中までは上手く行っていた。第243次降下作戦時に敵に撃墜されたと思わせて逃げるはずだったのに実際に被弾して無視できないダメージを負ってしまった。応急措置だけでもしたかったけど周りには機械生命体がいて出来なかった。それに、ここに居続けては追っ手が来るかもしれない。そういう思いと状況が私から修理する時間を奪っタ。

 

 私は必死ニ逃げた。けど、体は段々言う事を聞いてくれなくて視界にはノイズガ混ざり始めている。ウイルスが体を侵しているのが分かるけド私には何も出来ない。今になって脱走に対して後悔が出テきたけど今更だ。通信機能は破壊したからもう使えない。修理モ自分じャどうしようもなイ所まで来テいる。ソれに、体がオカシイ。

 

 確かコノ先に広間があっタハず……。そこで少シ休もう。ツイでに応急措置を施ソう。そうすれバ、少シは、ヨクナルかもしれなikら。

 

 そうしテ、広間にデタラ、アンドrイドがいる……。片方はワカラナイけど、もう一体ハヨルハだ……!追ってガもう来タ!?iそいでニゲないt……。mダしnたくナ、iよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シニタク……、なiよォ……」

「安心しろ。俺が助けてやる」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話「11B」

 11Bを台に置いてすぐに修理を開始する。幸か不幸か11Bは抵抗することはなく終始運ぶ俺に体を預けていた。俺はそれだけ11Bがやばい状況にあると感じ急いで拠点に戻ってきた。廃工場跡地からだとアネモネのキャンプより遠い俺の拠点は急がないと手遅れになる可能性があった。A2もそれを察してくれたのか道中の機械生命体を全て排除してくれた。流れ弾すら当てさせないとばかりに大分先を行って道を作るA2に頼もしさを感じつつ拠点に滑り込むように入った。

 

 義体の修理と並行して内部のウイルス除去も行っていく。11Bの体内は7割近くが汚染されており中にはこのまま使っては危険という部品まであったが拠点内のサーバーも用いてウイルスを除去していく。義体もブラックボックスを中心に治していく。ブラックボックスはA2のをスキャンしたものを参考に慎重に直していく。ヨルハにとってここは心臓部でありこれが壊れればいくらウイルスを除去し、義体を直そうと11Bが死ぬ。故に俺はこれまでの生活の中で一番集中して取り組む。

 

そうして修理を開始して数時間程が経過しただろうか?ようやくブラックボックスの修理が終わった。義体も使えない物は交換したりまだ使えるものは修理をしたりしてほぼ完了している。ウイルスの方は少し手間取っているが順調に除去が進んでいる。所々ウイルスごと除去しないといけないデータや記録などがあったが見逃すことは出来ない為それごと除去する場面もあった。

 

 そうしてさらに一時間程経過して漸く11Bの修理が完了した。大分時間が掛かってしまったが無事に直すことが出来て本当に良かった。最悪の想定すらしていたからな。

 

 11Bの再起動までには少し時間が掛かるだろう。それまでの間に俺は一息つく事にした。体は機械の為汗をかく事も体に疲労が溜まる事も無いが精神的な疲労は普通に感じる。俺は自分の部屋に戻るとそのまま愛用する椅子に座り体を預けた。肉体的にはなんともないが精神的にはかなり楽に感じた。

 

「……無事に修理出来たようだな」

「A2。ああ、何とかなったよ」

 

 俺が修理を終わらせたことに気付いたのかA2が俺の部屋に入って来た。流石に数時間放置していたから何か言われるかなとも思ったけどA2は何も言わずにベッドに腰を下ろした。ベッドを置いたはいいけど全く使っていない為専ら俺以外、A2やデボルとポポルが椅子代わりにしていた。

 

「知っての通り11BはA2よりも後の機体だ。ポッドを用いた戦闘に慣れてしまっているだろうからポッドなしの状態で戦えるように教えてやってくれ」

「お前が教えればいいのではないか?」

「冗談を言うな。戦闘に関しては同型機のお前の方がより良く教えられるだろ?それに俺はものづくりや改良は得意だが戦闘は苦手なんだ」

「未だに白兵戦が苦手だからな」

「それは言わないでくれよ。結構気にしているんだから」

 

 そんな風にたわいのない話をしていると拠点内部のセンサーに反応があった。モニターに切り替えると上半身だけを起こして辺りを見回しながら困惑する11Bの姿が映っていた。それを見た俺はにやりと笑みを浮かべるとA2に言った。

 

「11Bが目覚めたようだ。俺が対応するからA2は悪いけどここにいてくれ。今君が行けばヨルハの追っ手と間違われかねない」

「分かった」

 

 俺はA2に指示を出すと椅子から立ち上がり部屋を出る。そしてすぐに11Bと視線があった。

 

「やぁ、アンドロイド。目覚めの気分は良いか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?どうした?喋れるはずだが……」

 

 私が黙ったままでいると目の前のアンドロイドはそう言って首をかしげた。彼は私に異常があると思っているようだけど実際には違う……、と思う。

 

 何せ最後の記憶ではウイルスに汚染され義体はボロボロだったのに再起動したら私の体は直っているし先ほどまでいた廃工場跡地ではない白い空間だったのだから。だから喋れないのではなくて今の状況に理解が追い付いていなくて言葉にならないんだと思う。

 

 私は混乱する頭を必死に回転させて答える。

 

「……だい、じょうぶ」

「うん、特に問題はなさそうだな。……ああ、言い忘れていたな。俺はレイン。廃工場跡地でボロボロだったお前を修理した者だ。お前は?」

「……11B」

「11B?名前の響きからして噂のヨルハ部隊のアンドロイドか?」

 

 彼、レインは私の名前からヨルハにたどり着いた。確かにヨルハ以前のアンドロイドはきちんと名前があるけど私達は番号で呼ばれている。正式に稼働してからそれほど時が経ってないからだと思うし特に気にした事は無いけどやっぱり目立つのかな?

 

 私は彼の言葉に頷いて返答した。そして改めて周囲を見る。部屋は白い空間だけど機材は普通の物と大差ない様に思える。今私が横になっていた台も違和感はない。すると察したのかレインが言った。

 

「ここは俺の拠点だ。訳あってレジスタンス組織とは別行動を取っているんだ。あの廃工場跡地には偵察に出ていたんだけどそこで君を見つけてね。かなり危険な状況だったから君をここに運んで修理をしたんだ」

「そう、だったんですか。ありがとうございます。……あの、バンカーに連絡はしていたりしますか?」

「ん?いや連絡はしてないよ」

 

 レインの言葉にひとまず安堵する。バンカーに報告されていれば私は直ぐに逃げ出さないといけなかった。レインをどれだけ信じていいのかは分からないけど修理してくれたし少しは信じてもいいのかな?

 

「……何やら訳アリのようだな。もしよければ聞かせてくれないか?」

「え、でも……」

「勿論、君さえよければ。だけどね」

「……」

 

 レインの言葉に私は悩んだ末にポツリポツリと話し始めた。機械生命体と戦い続ける事に疑問を感じた事。日に日にその疑問が大きくなって戦う事が嫌になった事。降下作戦で撃墜されたように見せかけて脱走した事などをゆっくりと話した。その間レインはただ黙って聞いていてくれた。そして、私が話を終えるとそっと言った。

 

「そうか……。機械生命体との戦いが……」

「私は、私達は何時までこんな事を続ければいいんでしょうか……。もう、私にはわからなくて」

「……ふむ」

 

 レインは顎に手を当てて何かを悩んでいるけど私はそれどころではなかった。今まで誰にも言ったことが無い本心をさらけ出したことでいろいろな感情が沸き出てきた。機械生命体と戦う事への疑問、ウイルスに侵されて死にかけた時の恐怖、脱走したことによって追われる立場になった事への恐怖。一人だけ逃げ出した事への罪悪感が私の心を押しつぶすように吹き出てくる。

 

 するといつの間に私の頭に手が置かれていた。そしてそのまま頭を撫でてくる。何処かぎこちないけど優しい手つきに自然と私の中の負の感情が消えていった。

 

「……君には話しておこう。来年、機械生命体とアンドロイド。その両者に取って記念すべき日が訪れる。両者の長年の対立関係に終止符を打つ出来事だ」

「……そんなの」

「起きるさ。だが、具体的には言えない。今の君にはね。さて、突然だが11B。俺と取引をしないか?」

「取引?」

「ああ、君の義体のメンテナンスを含むバックアップをこちらが受け持とう。代わりに俺の協力者になってくれ」

「……」

「すぐに決める必要はない。ここには俺の他に数名しかいないが全員バンカーへの通信機能は持っていないしここにもそんなものはない。バンカーは君が撃墜されたままだと思っているから追っ手の心配もない。ゆっくりと決めるといいさ」

「……ありがとう、ございます」

 

 私は自然とそう言っていた。まだ彼の事を信用したわけじゃないけど彼の言葉は自然と信じられるような気がした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話「束の間の一時」

 11946年、機械生命体と人類軍は正式に休戦協定を結ぶ。これは塔によって機械生命体のデータが宇宙に打ち上げられた事やネットワークを管理していたアダムとイブ、ターミナルの消失が大きいだろう。加えてヨルハ部隊の壊滅もあると予測している。どちらにしろ一年もしないうちにこの戦争は終結する。とは言えそこまでの間にやる事は多い。

 

 考えの纏まらない11Bに部屋を与えた俺は自分の部屋に戻ってきた。部屋には相変わらずベッドに腰かけるA2がいた。どうやら律義に守っていてくれたようだ。

 

「……あの機体には随分と甘いのだな」

「ああ、彼女は別に必ず必要という訳ではない。このままフェードアウトしても問題はないからな。半年もすればバンカーは消える。バックアップをしていない彼女ならウイルスにやられる心配もない」

 

 そう、11Bは救えたから救ったが別に必ず必要ではない。勿論協力者は多いに越したことはないが彼女がそれを望まないのなら無理強いはしない。A2とは違い彼女は本来なら既に死んでいる存在なのだから。

 

「それよりA2。漸く原作が始まった訳だがこの後は機械生命体を束ねるようになるアダムとイブが誕生する。とは言えこいつらの誕生を邪魔するつもりはない。後は遊園地……は、確認の為に来るかもしれないがこれは放置で良いだろう。そしてエンゲルスと戦闘後、エイリアンの墓場に続き、森の国だ」

「……貴様のいう世界では私がその国の王を殺すのだったか?」

「そうだ。まぁ、これはゲームのプレイヤーにA2という存在を教えるのが目的だったからな。態々出向く必要はない」

「……」

「俺たちが活動を開始するのはアダムとイブが倒された後、総攻撃後だ」

「……バンカーを助ける事は出来ないのか?」

「無理だ」

 

 A2の言葉に俺は即答する。バンカーを救出する事は何度も考えたがそもそもヨルハのネットワークに侵入する事は難しい。それに侵入がバレたら俺たちは敵として認識される。そうなればその後の行動に大きく支障をきたす。

 

「ヨルハの司令官であるホワイトを始めオペレーターの大半は救う事は出来ない。地上にいるヨルハは論理ウイルスを除去できれば助かるかもしれないが途方もなく時間が掛かる」

「……」

「A2。今の俺じゃこれが限界だよ」

 

 全てを救う事は出来ない。いくら自分を改造しようとも、拠点を拡張しようとも、原作の流れを変えようとも、俺では出来ないことが多すぎる。だから俺に出来るのは数少ない俺の手で救える者たちを確実に救う事だけだ。

 

「もし俺がアンドロイドとして生きていたのなら、また違っていたのかもしれないな……」

「……分かった。余計な事を聞いたな」

「いや、いいさ」

 

 A2に俺はそう返答した。

 

 今頃2B達は何をしているのだろうか?もう廃墟都市に来ているのかな?それとも空中で機械生命体と戦っているのかな?

 

 デボルとポポルは元気だろうか?アネモネがレジスタンスのキャンプを作った際にそちらに移るように言って以来だからな。久しぶりに会いたいもんだな。

 

 ……そうだな。さっさと原作を終わらせて皆で一緒に過ごそう。デボルやポポル、それに遊園地の機械生命体も合わせて皆で宴会を開くんだ。デボルとポポルに酒を飲ませてどんちゃん騒ぎをしよう。その時はA2の体を弄って酒を飲めるようにして酔わせたりして見たいな。いや、A2と2B、9Sが一緒に吞んでいる所が先かもな。どちらにしろ、あと少しだ。後一年で全てが決まる。それまではしっかりとやらないとな。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 今日何度目とも知れないため息が出て私の心は更に憂鬱になった。私とポポルはアネモネというアンドロイドがリーダーをしているレジスタンス組織のキャンプで生活している。そう、レインの拠点ではないのだ。ある日レインにいきなり「この近くにレジスタンス組織のキャンプが出来たからそちらに行ってくれ」と言われたんだよ。私は最初捨てられるのかと思って軽く絶望したけど今までの中で一番拠点に近いから様子を見て欲しいという事だった。

 

 レインと離れるのは凄く嫌だけどそう言う事ならとポポルと一緒にそこに向かったよ。アネモネは私達の事は知っていたけど特に気にした様子も見せずに受け入れてくれた。正直、追い返されてまたレインの元で過ごすのを期待した自分がいたよ。結局そんな事は無くて半年近くここで過ごしている。レインの下にいた頃が凄く懐かしく感じるけど正直に言ってここでの生活は結構驚きがあった。アネモネが近くに村を構える機械生命体と取引を始めた事だ。まさか人類軍にとって倒すべき機械生命体と取引をするなんて思わなかったけどよくよく考えたら私達も同じような事をしていたなと思い直したよ。レインは今でこそアンドロイドと大差ないけど機械生命体だし、レインの拠点に住む前は拠点から色々と素材を貰ってレジスタンスに上げたり物々交換をしていたからな。

 

 そう言った事をレインにこっそり報告したりしているけど何時まで続ければ良いのか正直分からない。最近ようやく自分の気持ちに気付いたばっかりなのにその思い人と会えない状況が凄く辛い。ポポルに相談したりレインと直接連絡を取ったりしているけど会えないこの状況自体が嫌だった。昔人類が愛に狂ったという記録を見た時は何を馬鹿なって思ったけど自分がそうなると何も言えなくなってしまったよ。

 

 レインは私の事をどう思っているのだろう。少なくとも嫌われてはいない、と信じたい。少なくとも拠点の出入りを許してくれているし遊園地に拠点を作ると言った時は拠点を守って欲しいと言われたし……。

 

 よし!次に時間が取れた時に好きだと言ってみよう!断られたら……、その時はポポルを巻き込んでやけ酒をしよう。ポポルもその時くらいは付き合ってもらって飲み明かすぞー!

 

 ……あ、でもレジスタンスのキャンプではできないか。ポポルのせいでキャンプが壊滅しかねないからな。

 




話詰まった……。もしかしたら明日投稿できないかもしれないです……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話「絡マル世界」

か、書けた……


「おー、揺れるな」

 

 自分の部屋で武器のメンテナンスを行っていると拠点が揺れた。時期的に廃墟都市でエンゲルスが暴れているのだろう。若しくは自爆したか。どちらにしろ順調に原作は流れているようだ。俺は揺れが収まるのを待ってメンテナンスをいったん中断する。この拠点は幾度となく改修を行っているため耐震補強はばっちりだがやはり大規模な震動という事もあってか天井からパラパラと破片が落ちてくる。最初の頃なら呆気なく崩落していただろう揺れは直ぐに収まった。

 

「レイン、今のは……?」

「ああ、おそらくエンゲルスの自爆、かな?」

 

 部屋に入って来たA2に俺はそう答える。その後ろには不安そうにしている11Bがいる。

 

 11Bはあの後取引をすると言った。それを聞いて俺は11Bに全てを話した。人間がいない事、この世界がゲームの世界で俺はその流れを知っている事など。最初は信じてはくれなかったが懇切丁寧に説明しきちんと理解してもらった。そのうえで11Bは俺に協力すると言ってくれたよ。なんでも治してくれたお礼もあるかららしいがそれ以上に真実を知ったせいで吹っ切れたような感じだ。

 

 そんな訳で11Bにはポッドがいない状況での戦闘に慣れてもらうためにA2と模擬戦を行ってもらっていた。流石にポッドみたいなものを作るには技術が足らなかったからな。11Bは大変かもしれないが頑張って欲しいものだ。まぁ、彼女も戦闘タイプのアンドロイドだ。直ぐに慣れてくれるだろう。

 

「俺たちが動く時は近いぞ。11B、せかして悪いがポッドなしでの戦闘には慣れたか?」

「うーん、ちょっと微妙かな。ポッドって射撃とかの直接支援もしてくれていたから遠距離攻撃が出来なくなるのが少し痛いかも」

「ふむ、最悪銃を使用するか?G型(ガンナータイプ)A型(アタッカータイプ)と統合されてB型(バトラータイプ)になったらしいし使えるかもしれないしな」

「え、でも銃なんて使ったことないよ?」

「それを主力に使うならまだしも牽制目的なら簡単だろう。マシンガンタイプの銃だってあるし多少手間が増える位で大丈夫だ。きっと」

「……そう、かなぁ?」

 

 11Bは不安そうだがポッドが無い以上遠距離攻撃を諦めるか別の手段で補うしかない。俺が戦闘で遠距離攻撃を担当するという手もあるが俺はそこまで戦闘が得意じゃないし何より11B単体になった時がそれでは不安だからな。

 

「持ち運びは大変だがバズーカタイプもあるし一通り使えるようにして置いても損はないんじゃないか?まぁ、その前に今のを終わらせる必要があるけどな」

「うっ……」

 

 俺の言葉に11Bはどもる。ポッドなしでの戦闘に慣れてもらわないと遠距離攻撃とかそう言う事を言っていられないからな。俺は再びメンテナンス作業に戻る。A2も聞きたい事を終えたのか11Bを促して訓練に戻っていった。

 

 いよいよ次はエイリアンの墓場だ。その次が森の国になり、それが終わればグリューン戦に突入し白一色の街でアダムと戦う事になる。まだまだNieRAutomataは始まったばかりだ。だが、確実に時は流れている。俺達が本格的に動くのはアダムとイブが倒れ、ヨルハ部隊による総攻撃が始まってからだ。それまではこの焦る気持ちを抑えていないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 ヨルハ部隊に所属する9Sはとても好奇心の強い機体だった。彼は任務の合間をぬってはいろいろな事に興味を持ち調べたりしておりその事から彼を担当するオペレーターである21Oからは小言を言われる事が多かった。

 

 そんな彼は廃工場跡地での戦闘をきっかけに共に行動するようになった2Bと共に地上の調査を行っていた。アネモネをリーダーとするレジスタンス組織の支援を受けながら任務をこなしていく彼はふと、思いだしたように隣にいる2Bに話しかけた。

 

「それにしても、あの遊園地はなんだったんですかね?」

「……」

 

 9Sの言葉に2Bは答えないがゴーグルの上からでも分かる程顔をしかめていた。

 

 9Sは砂漠に埋もれた団地で出会ったアンドロイドのような姿をした機械生命体との戦闘後に遊園地を見ていた。これはアネモネからおかしな行動を取る機械生命体がいるという情報をもらったため、念のために見に行ったのだ。

 

 その結果、9S達はこちらを襲って来ない機械生命体たちと出会った。紙吹雪をまき散らしたりゴミや瓦礫を片付ける彼らは明らかに9Sたちが知る機械生命体からはかけ離れていた。

 

 そして、遊園地に入ろうとするとゲート前にいる飛行型の機械生命体が入場料を請求してきた。2Bも9Sも払う気などなかったがその瞬間、ゲートの奥にある広場の中心で動かなかった機械生命体が突如動き出すと見た目とは裏腹な華麗なジャンプを決めて9S達をゲートと挟み込むように着地したのだ。

 

 そして、

 

「金も払わずに何入ろうとしてんねん!」

 

 とその可愛らしい姿からは想像も出来ない関西弁を繰り出し無理やり9S達から金を徴収した。9S達は当初こそ抵抗するがポッドの攻撃も2Bの斬撃も効かず、9Sのハッキングすらはじき返す機械生命体に成すすべなく金を巻き上げられ猫を掴むように首根っこを持つとそのままゲートを越えて広場へと放り投げた。

 

 空中で体勢を整えて綺麗に着地した二人に用は済んだとばかりに再び華麗なジャンプで元いた位置に戻るとそのまま動かなくなった機械生命体に二人は顔を見合わせるしかなかった。

 

「結局あの遊園地の機械生命体は襲ってきませんでしたし何なら普通に楽しかったですし……」

「……楽しくなんか、ない」

 

 9Sの好奇心に振り回されるように遊園地内を巡らされた2Bはむすっとした表情でそう呟いた。実際は楽しいと思っていたがそれを口に出すのが恥ずかしいという思いもありその様に言ってしまっていた。9Sもそれを理解したためハハハ、と苦笑いを浮かべていた。

 

 金を巻き上げられたとは言えあの遊園地での体験を考えれば安いと9Sは感じていた。

 ジェットコースターというスリルを楽しむものにコーヒーカップというただぐるぐる回るだけの遊具、ゴーカートと呼ばれる車に乗って楽しむものなど9Sの好奇心をそそるものばかりだった。

 

 ほかにも戦車のような見た目の機械が一列で行進するパレードに野生の鹿や猪を調教して様々な芸を披露したサーカスなど9Sは任務も忘れて没頭した。

 

 暫く遊んでいたがさすがにこれ以上は見逃せないと彼を支援するポッド153と2Bを支援するポッド042の二機に任務に戻るように言われて渋々遊園地を後にしていた。

 

「機械生命体との戦争が終わったらもう一度行きたいですね。……あ、そうなるとあそこの機械生命体も破壊しないといけないのか……」

「……」

 

 すっかり遊園地を気に入った9Sはそう言うが、関西弁の機械生命体の事もありいまいち乗り気にはなれない2B。そんな二人は水没都市にやって来る空母を支援する為に歩き続けるのだった。

 




始めて2Bと9Sを出しました。ぜひとも主人公には二人を救って遊園地を満喫させてほしいですね。どう見ても始めてくる遊園地に大はしゃぎの弟とそれに振り回される保護者役の姉にしか見えないけど


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話「結ビツク世界」

 アダムが死んだ。

 

 なぜ分かったのかというとそこらへんにいる機械生命体が口のような割け口を作ってアネモネのレジスタンスキャンプの方に向かっていたからだ。これはイヴの暴走で間違いないだろう。というかアレ普通に恐ろしいな。だって大人しかった機械生命体がいきなり目を赤く光らせて一斉に同じ方向に向かって走り出したんだぜ?排泄機能がない事を今は本当に良かったと思うよ。

 

 そんな訳でようやくA、Bエンドが終わる。後は鬱展開のCDEルートに入る。だが、CDEルートは大きく姿を変えるだろう。何せそもそもの原因である2B死亡は簡単に防げる状態にある。後は9Sを回収すれば完璧だ。9Sの回収に失敗しても基本的に9Sはレジスタンスキャンプにお世話になる事が多い。デボルとポポルに連絡を取れば簡単だ。そうすれば資源回収ユニットを速攻で終わらせる。その後は俺のハッキングを生かして塔を開かせる。その後はターミナルに……、なんかでっかい丸い機械生命体を破壊。塔の機能を停止させ機械生命体のネットワークをズタズタにする。後はヨルハ部隊という切り札を失った人類軍とアダムやイヴ、ターミナルという存在を失った機械生命体を停戦させれば完了だ。そもそも地球に侵略してきたエイリアンはいないし人類軍も守護すべき人類はとっくにいない。戦争を続ける意味なんてないのだ。

 

 問題は人類が既に絶滅しているという事だが、俺の遺伝子研究と月面にある人類の遺伝子データを合わせればまた復活させることが可能になるかもしれない。とは言えそれがうまくいく保証なんてないし人類とは違った生物に生まれ変わるかもしれない。それでも実行するには充分だ。

 

「A2、11B、良いか?」

「どうした?」

「どうしたの?」

 

 模擬戦をしていた二人を呼ぶ。大分11Bもポッドなしでの戦闘に慣れてきた。最近ではリボルバータイプの銃も使用している。装填や連射は死んでいるが代わりに貫通力と破壊力に特化した銃で有効射程もそれなりに広い。何より銃弾によっては周囲にも被害を与えることが出来る破裂型やホーミング性能を付与した高コストの追尾型と言った物が使用できる。小型剣を中心に使う11Bには合っていると思う。

 

 A2の方は相変わらずだが最近では足を改造して大分素早い動きが出来るようになった。というか早すぎて遠距離攻撃が却って邪魔になる程だ。今ならA2が砂漠で戦った丸いロボットすらジャンプして同じ高度まで行き地面にたたきつける事さえ出来そうだ。というか今も近接戦闘を強化しているからその辺の機械生命体は一撃どころか数体まとめて倒せそうだ……。これでB(バーサーカー)モードなんて使用したらどれだけの力になるんだ……?

 

「いよいよ動く時が来る。ヨルハ部隊の総攻撃だ」

「総攻撃……!」

「ついにですか……」

 

 総攻撃の言葉に二人も息を呑む。それだけヨルハ部隊が今回の事を重く見ているという事だ。とは言えこれによりヨルハの大半は論理ウイルスに侵され、バンカーも2Bたちによって破壊されヨルハ部隊は文字通り壊滅する。生き残った機体は森の国の最上階にいるスキャナーモデルを除けば登場していない事からも論理ウイルスの力を思い知らされる。

 

「総攻撃と言っても今はそれを決定させる出来事の真っ最中だ。だが、確実に行動するときは近づいている。二人とも、準備は欠かさないようにな」

「ああ」

「分かったわ」

 

 俺に返事をすると再び模擬戦に戻る二人。近接化け物のA2を相手に11Bは善戦している。それだけで11Bの実力をうかがわせるな。そう言えば11Bに16Dの事を聞いたがどうやら二人は付き合っていたらしい。そして16Dとの関係は良好だったらしいが脱走計画前には辛く当たり別れていた。どうやら辛く当たった事に11Bが耐え切れなかったようだ。……本来なら彼女も助けたいがこのサブクエスト以外では登場しない。だから助けようがなかった。11Bには悪いが諦めてもらうしかないな。

 

 さて、俺は遊園地の方に行くかな。そろそろあそこの機械生命体を地下のシェルターに避難させないといけないからな。ネットワークに繋がれてはいないからイヴの影響はないと思うが暴走した機械生命体が襲っていないとは限らないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 そして数時間後、イヴは破壊され機械生命体は一時的とは言え混乱状態に陥った。それと前後するように遊園地からは機械生命体が一切消えそれを不審に思ったレジスタンスのアンドロイドが調べたが原因は分からなかったという。

 

 その一方でヨルハ部隊の司令官ホワイトはこの好機を逃さないとばかりに総攻撃を決定するのだった。

 




次回から遂に動き出します


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話「総攻撃」

今回は少し短いです。


「A2、装備は問題ないな?」

「ああ、全て万全だ」

「11B、銃弾はばっちり持ったな?」

「ええ、勿論よ」

「よし、行くぞ」

 

 俺はA2と11Bと共に拠点を出発する。拠点を出てすぐに各地から爆音交じりの戦闘音が響いてくる。ヨルハ部隊による総攻撃が始まっているのだ。

 

 9S含むスキャナーモデルの活躍により機械生命体の防空システムは一時的な麻痺状態にあり次々と地上にヨルハ部隊が降下していた。2Bも既に地上に降り立ち廃墟都市で激戦を繰り広げているだろう。

 

 予め確認済みではあるが拠点周囲に機械生命体はいなかった。どうやら少ないながらいた個体は戦闘が起きている方に向かったらしくここからは戦闘の音は聞こえてきても比較的平和な場所だった。

 

「よし、俺達は機械生命体、レジスタンス、ヨルハ部隊に見つからないようにステルス行動を行い2Bと9Sの自爆を確認後、水没都市に向かう。良いな?」

「勿論だ」

「分かったわ」

 

 ようやく本格的に動けるためかA2の表情は少し嬉しそうだ。一方の11Bは俺の所に来てからは初めてとも言える機械生命体との実戦だ。目を隠しているゴーグルの上からでも緊張しているのが分かった。

 

 とは言え11Bの気持ちはわかる。後半年くらい時間があれば実戦も積ませてより完璧になるのかもしれないが時間が足りなかった。むしろ半年にも満たない期間でここまで仕上がったと褒めるべきかもしれないな。

 

 都市の内部をくぐりながら廃墟都市の中央、正確には大きく陥没した位置を目指す。廃墟都市に現れたエンゲルスの自爆で開いた穴でここからエイリアンの墓場や水没都市に行くことが出来る。そして、2Bと9Sがブラックボックスを接触させて自爆する場所でもある。

 

「ん?EMP攻撃か?」

 

 ビル内を歩いていると一部の小型カメラから反応が消えた。場所的に2Bと9Sとその他ヨルハ部隊がEMP攻撃を喰らったあたりだろう。自分の現在地と今後の展開から予測すると……、十分に間に合うか。

 

「どうした?」

「どうやらEMP攻撃を仕掛けてくる機械生命体が出たようだ。一部の小型カメラ搭載のロボットがやられた」

「っ!?機械生命体はそこまで進化を……」

 

 A2が苦々しげにつぶやく。機械生命体を憎むA2としてはこれ以上の進化は好ましくないのだろう。実際敵が強くなることは面倒くさいからな。

 

 そんな事を考えていると漸く廃墟都市の中央付近、ゲーム内ではマップの端っこまで到達した。そこの窓枠部分から外を見れば丁度2Bと9Sが妨害電波を出す大型二足を破壊するところだった。

 

 しかし、あれが2Bと9Sか……。原作では何度も見たがこの世界では初めて見るな。襲い掛かって来るヨルハ部隊員を退けながらログデータをアップロードしているのだろう。2Bと9Sは原作よりも華麗な動きを見せながらヨルハ部隊員を返り討ちにしている。ふむ、あの様子じゃオートプログラムは無いみたいだな。まぁ、あれがゲームはともかく現実にあったら最強すぎるからな。相手の攻撃はほぼ当たらないのだから。

 

 そしてついにアップロードが終了したらしく9Sが2Bに駆け寄っていくがヨルハ部隊に取り押さえられている。2Bも9Sに気を取られた隙に態勢を崩して倒れ込んだ。それでもお互いに手を伸ばしたことでブラックボックスを接触させ周囲ごとヨルハ部隊員を吹き飛ばすことに成功した。

 

「よし、終わったようだ。水没都市に向かうぞ」

「ああ」

「分かったわ」

 

 2Bと9Sの活躍を見ていた二人に俺はそう声をかける。……ようやくだ。ここから俺の出番だ。準備は万端、一人では難しいこともA2と11Bがいる。原作通りに事が進んでくれれば2Bも9Sも救う事は出来る。失敗した時を考えるな。成功すると考えろ。

 

「ここからはステルスもへったくれも無い。機械生命体もヨルハ部隊もここからは敵だ。ウイルスに汚染されてなければ攻撃は躊躇するなり何か話したりするはずだ。そうしない、奇声や雄たけびしか上げない奴は確実に壊すんだ。それじゃ、行くぞ」

 

 俺はそう言うと窓枠から飛び出した。この高さなら俺の自信作の義体はびくともしない。それはA2と11Bも同じことで、地面に多少の凹みと大きな音を立てて着地する。すると音に気付いた機械生命体が赤い目を光らせながらこちらを向く。俺達はそれぞれの武器を手に持つと一斉に駆けだすのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話「想定外」

「11B!しゃがめ!」

「っ!」

 

 俺の言葉に反応し11Bがとっさにしゃがむ。それを確認することなく俺は11Bに向けて銃弾を、というよりもその後ろから迫る機械生命体に放つ。銃弾は機械生命体の丸い頭部に着弾し大きな穴をあけて後ろから飛び出しその後ろにいた機械生命体に命中した。銃弾を受けた二体の機械生命体は機能を停止してその場に崩れ落ちた。

 

「レイン、ありがとう……」

「礼はいい。それよりも気を付けろ。まだまだいるぞ」

 

 俺と11Bは背中を互いに預けて目の前の敵に集中する。そんな俺たちの周りには360度全てを取り囲む機械生命体の姿があった。

 

 機械生命体を破壊しながら下水道を通り水没都市にやってきた俺たちだがここで予想外の事態に遭遇した。なんと水没都市にはありえないくらいの数の機械生命体がいたのである。しかも破壊するたびに何処からか補充されていき数は一向に減っていない。そんな戦闘を既に一時間は行っているだろうか?

 

 A2は一人無双を続けており補充されるよりも多く破壊しているが俺と11Bはそうはいかずにお互いを助け合いながら戦っていた。幸いなのはEMP攻撃を行う機械生命体がいない事だ。もしいれば撤退する事も出来ずに全滅していたかもしれない。とは言えこのままではジリ貧である事に代わりは無い。2Bはまだ来ないのだろうか!?

 

 そう思った時だった。俺のセンサーに高速でこちらに向かってくる何かの反応を検知した。

 

「A2!11B!ようやく来たぞ!」

「っ!A2さん!お願いします!」

「任せろ!」

 

 やがて肉眼でも確認できる炎上するヨルハの飛行ユニット。そしてその飛行ユニットはある程度近づくと爆発しそこから一体のアンドロイドが出てきた。2Bだ。それを見たA2は小型二足を踏み台にして跳躍すると空中で2Bを確保しそのままお姫様抱っこの状態で着地する。踏み台にされた小型二足は顔が半分くらい陥没しているがどれだけの脚力で蹴り上げたんだ……?

 

 ともあれ見事目的を果たすことが出来た。ここからは時間との勝負だ。現時点で2Bはウイルスにやられている。本来は2Bが来る前に水没都市の機械生命体を全て破壊して安全を確保したうえで治療するつもりだったが現状はそんな事が出来ない程機械生命体で溢れている。ここは直ぐにでも離脱した方が良いだろうな。

 

「A2!そのまま2Bを連れて離脱しろ!俺と11Bが殿を務める!行け!」

「分かった!」

 

 両手がふさがっているA2は蹴りのみで機械生命体相手に無双しているが俺の指示に従い水没都市を離れ始める。A2によってお姫様だっこをされている2Bは意識はきちんとしているようだが現状に理解が追い付いていないようだ。だが少なくとも敵ではないという事が伝わったのか義体に損傷でもあるのかA2の腕の中で大人しくしている。そんな二人を後からついてくるポッド042。

 

 俺と11Bは銃による乱射で弾幕を張り時間を稼ぐ。しかし、今度は盾を装備した機械生命体が前方に出てきた。貫通力の高い俺の弾丸をはじく事は無いが盾以外は無傷で近づいてくる機械生命体達。すると11Bが前に出て小型剣で敵を薙ぎ払った。

 

「今です!」

「ああ!」

 

 11Bの薙ぎ払いで一時的に敵の足を止めたのを確認し俺と11Bは下水道に向かって走り出す。コンクリートの足場から土の足場に代わるのを足から感じつつ走りぬける。

 そして下水道に入ってくると機械生命体達は追撃を諦めたのか追ってくることはなかった。俺は安堵の息を吐くとそのまま下水道を進み始める。A2が何処まで先に行ったのかは分からないが早く合流しないとな。

 

 下水道を進み続けると廃墟都市の陥没部分に出る出口に到達する。どうやらA2と2Bは既に下水道を出た後らしい。そう思った俺が下水道を出てみた光景はA2に剣を向けて警戒する2Bとそんな2Bをただ見るだけのA2の姿だった。

 

 ……まって、何なのこの状況?

 

 

 

 

 

 

 

 

 2Bは現在の状況に混乱していた。通信が出来ない状態のバンカーに何かあったのでは?と考えた2Bと9Sはブラックボックスを接触させ自爆した後バンカー内の義体を用いて戻ってきた。そして、ホワイト指令に状況を説明するが聞き入れてもらえず脱走兵と判断されかけるがバンカー内のヨルハ部隊員が一斉にウイルスに感染し乗っ取られた事で事態は急変、ホワイト指令と共にバンカーから逃げようと飛行ユニットのある格納庫に向かった。

 

 しかし、データ同期を行っていたホワイト指令もウイルスに感染しておりホワイト指令はバンカーの基地司令として残ることを伝え2Bと9Sには脱出するように言った。そして、二人の手によってバンカーは破壊されホワイト指令以下基地内のヨルハ部隊員諸共破壊されヨルハ部隊は事実上壊滅した。

 

 その後地上に逃れてきた二人だったが飛行ユニットを使って攻撃を仕掛けてくるヨルハ部隊と交戦、幾度となく退けていくもジリ貧となっていった。その状況に2Bは自らを囮にして9Sを逃がし自らは戦闘を継続した。しかし、元々二機でも劣勢だったのにそれが一機になった事で次第にダメージを受けていき遂に水没都市に到着すると同時に飛行ユニットは爆発し2Bは空中に投げ出された。そのままであれば2Bは地面に衝突するはずだったがここで予想外の出来事に合う。なんと2Bを待ち構えていたかのように一体のアンドロイドが2Bをキャッチしてそのまま地面に着地したのである。

 

 まさかの事態に驚くが直ぐに自らを抱きかかえるアンドロイドの他にもう二体いる事に気が付く。それと、異様ともとれる機械生命体の数にも。2Bを抱きかかえるアンドロイドは何処か自らと似た容姿を持つヨルハの機体で本来いるはずのポッドの姿はなかったがそれすらいらないと思わせる実力を持っていた。流石の2Bもポッドなしで、ましてやアンドロイドを一体抱きかかえている状態で足だけでここまで戦う事は出来ない。

 

「A2!そのまま2Bを連れて離脱しろ!俺と11Bが殿を務める!行け!」

「分かった!」

 

 ふと、三体の中で唯一の男性型、ヨルハにはいないが支援系と思われるアンドロイドがそう言った。ヨルハ部隊の特徴的なアルファベットと数字のみの個体名で呼ばれたアンドロイドが返事をして走り始めた。この機体はA2というのかと思うと同時にその後に聞こえた11Bという名前に驚く。何せ廃工場跡地で撃墜され死んだと思われていた名前なのだから。彼女と恋人関係にあった16Dに頼まれて捜索した事もあったが飛行ユニットも見つからなかったことからてっきり死んだと思われていた。まさかここで聞くとは思っておらず2BはただA2と呼ばれたアンドロイドにお姫様抱っこの状態で運ばれることしか出来なかった。

 

 そして、下水道を通り廃墟都市についたことでようやく2Bは降ろしてもらう事が出来た。多少体の損傷とウイルス汚染が検知出来たがそれ以上に目の前のヨルハの機体に対する警戒心が勝った。

 

 そんな状況の中、A2の後をついてきたポッドによって驚愕の事実が知らされる。

 

『ヨルハ特殊指定機体を確認。破壊を推奨』

「破壊?どうして!?」

『機体名A2は指名手配中である。任務放棄及び脱走の疑いで捜索されていた』

 

 まさかの脱走兵に2Bは思わず小型剣をA2に向ける。一方のA2はただ2Bを見るだけで警戒する様子は見えなかった。その事に2Bは更に困惑するが警戒は解かずに剣を向けたままにしていた。

 

 そうしていると下水道の方から二つの足音が聞こえてくる。2Bは先ほど戦闘を行っていた男性型のアンドロイドと11Bと予測した。そしてそれは的中したが男性型アンドロイドが二人の様子を見て困惑した。

 

「……なんだこの状況?」

 

 警戒を解かない2Bの様子に男性型アンドロイド、レインは思わずと言った風に呟くのだった。

 




報告
詰まりました。明日投稿できるか分かりません……。他の作品書いたり、スケッチしたりして捻り出します


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話「合流」

な、なんとか書けたぁ……


「えっと……。取り敢えず剣を下ろしてくれないか?」

「……」

 

 俺の言葉を聞いているのか聞いていないのか2Bはこちらの提案を無視してA2の方を見ている。A2はただ2Bを見ているのみで11Bはどうすればいいのか分からずに俺の後ろでオロオロしている。

 はてさて、どうすればいいのやら。2BとA2が会ったのはこれが初め……のはず。細かいところまでは覚えていなかったから記録にはないしそうでなくてもA2関連は大分変化している。もしかしたらバンカーで知らされていたのかもしれないがどちらにしろ今は2Bの修理が最優先だな。

 

「……貴方達は誰?」

「俺たちか?俺たちは……何だろうな?」

「え!?私に聞くんですか!?」

 

 突然話を振られた11Bはびっくりして声を上げる。改めて考えてみると俺たちはなんだろうな。レジスタンスどころか人類軍ではない。……むしろ、アンドロイドみたいな機械生命体、バンカーに裏切られ機械生命体絶対殺すウーマン、戦いに疲れて逃げ出したらマジで死にかけたヨルハ部隊員。見事に敵としか言いようがない者達の集まりだな。

 取り敢えずここは偽ってでも話が出来る状態にするか。

 

「俺たちはレジスタンスとは別に行動する特殊部隊だ。こいつらは任務中に拾った」

『その様な部隊の存在は記録にない』

 

 口から出た嘘をポッドが一蹴する。ポッド042。こいつと153は意外と厄介だ。何せ2Bや9Sが知らないことを説明するのは大体こいつらがやっていた。つまりそれだけ様々な事を知っている、記録しているという事だ。

 それにアンドロイド以上に機械なこいつらは淡々と話すからやり辛い。

 

「そりゃそうだろう。何せ通常のレジスタンスにすら知られていないからな」

『要求:具体的な任務内容の提示』

「うーん、そうだな……。機械生命体の動向の観察、と言った所かな」

『疑問:徹底的な情報統制を行ってまで観察する意味』

 

 ……。正直に言おう。めんどくさい。こいつ凄くめんどくさい!なんだよ!?疑っているのは分かるけど納得してくれよ!そこまで掘り下げてくるなよ!

 

「……さあな。上の指示だしな」

『……会話の内容を精査した結果、嘘の可能性が高いと判断。要求:真実の提示』

「……」

 

 俺の表情が堅くなるのが分かる。このポッド、意外と鋭いが今このタイミングはまずいな。どうにかしてごまかせないかな。横目で見る限り2Bの体に異変が起こりつつあるし。水没都市で戦闘をしなかったから多少は余裕があるようだが。

 ……そう思った時だった。上空から一体の男性型アンドロイドが降りてきた。9Sだ。確か飛行ユニットから降り立ったのは橋がある前の広場だったはずだが2Bの反応を追いかけてきたようだ。

 

「2B!大丈夫か!?」

「9S……」

 

 2Bに駆け寄り安否を確認する9Sに2Bは短く名前を呼んだ。大丈夫そうだと安堵した9Sはそのまま俺たちの方を向き彼女を庇うように剣をこちらに向けてくる。ああ、なんかまたややこしくなった気がする。

 

「貴方達は誰ですか?」

「俺はレイン。お前が後ろで庇っているアンドロイドを助けた者さ」

「助けた?あなたたちはレジスタンスのアンドロイドですか?」

「似たような者さ。それより、お前の後ろのアンドロイド。見たところウイルスに汚染されていないか?それに義体の調子も悪そうだしな」

「っ!」

 

 俺の言葉を聞いて2Bを調べる9Sは俺の言葉が真実だと分かったようだ。少し焦っている様子の9Sに俺は畳みかける。

 

「俺の拠点に来るか?そこならウイルスの完全除去に義体の修理も出来るぞ」

「……貴方達を信じる事は出来ないですよ」

「怪しい動きをしたと思ったら殺してくれて構わないぞ。どちらにしろ早く決めた方が良い。先程から地鳴りがしている。巨大な熱源反応も地下から確認している。このままここにいるのは危険だ」

「……」

 

 俺の言葉に9Sは考え込む。後数分もしないうちに塔が出現し森の国、遊園地、水没都市に資源回収ユニットを射出する。遊園地の機械生命体は安全な場所に避難済みだから問題ないがそれ以外は機械生命体が襲ってくるようになる。ゲームだと塔の出現から二週間後からプレイする為詳細な事はわからないがグダグダしている訳にはいかないだろう。

 9Sも考えが纏まったのか警戒は解いていないが剣を下ろした。

 

「……分かりました。今は2Bの修理を優先しますがもし何か不審な事をしたら……」

「容赦なく殺してくれて構わないぞ。それとこいつらにも邪魔はさせない」

「今はその言葉を信じます」

 

 9Sは2Bの修理を優先したようだな。だが、今はそれで十分だ。2Bが生存しているというだけで物語は大きく変わる。少なくとも9Sの心が壊れる事は無いはずだ。

 俺はA2に2Bを背負わせると俺とA2を先頭にその後ろから9Sと11Bが並んでついてくることになった。

 その数分後、塔が地面より現れ廃墟都市より塔が出現した。そして塔より資源回収ユニットが三つ打ち上げられ原作通りに遊園地、森の国、水没都市に落ちていくのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話「ハッピーエンドを目指して」

皆さんお久しぶりです。就活が本格的に始まりほとんど執筆活動が出来ませんでした。一応企業との面談待ちの今のうちに投稿しちゃおうと思って書き上げました。大分無理があるかもしれませんが温かい目で見てくれると嬉しいです


 拠点へと戻ってきた俺たちは直ぐに2Bの修理に取り掛かった。そして邪魔にならない程度に離れつつもこちらを監視する9S。A2と11Bは修理に関する事は全く出来ない為別の部屋で待機してもらっている。

 

「……結局、貴方は何者なんですか?」

「あ、やっぱり聞きたい?」

 

 スリープモードになった2Bの体を修復しながら同時にネットワークに入りウイルスの除去を行っていく俺に9Sが声をかけてきた。ここにはA2と11Bはいない。9Sからしたら確認するチャンスと思ったのだろう。

 

「ポッド042から聞きました。2Bが不時着した場所で機械生命体と戦闘していたと。それだけなら別に可笑しいところはありません。ですが、2Bが来た瞬間。まるで到着を待っていたとばかりに2Bを保護、撤退をしたことはあまりにも可笑しいです」

「まぁ、そりゃそうだろうな」

 

 機械生命体のせいで大分想定外の事態となり強引にならざるを得なかったが仕方ないだろうな。とは言え9Sに何処まで話せばいいのか……。この時期の9Sは人類がいないことを知っている。ヨルハの秘密を知るのは塔へ突入した後だけどそこはどうでもいい。

ブラックボックスが機械生命体のコアを流用しているならそれに代わる物を……、作れるかどうかはわからないが作成すればいい。別に俺は自分の体が敵のものでも一向にかまわないからな。大体俺は元々中型二足だったことを考えれば今の俺は(人類軍)の姿を模倣している事になるからな。

 

「確かに俺はあそこでお前たち、というか2Bの確保する予定だった。まぁ、機械生命体の数は想定外だったけどな」

「……何故、2Bがあそこに来ると分かったのですか?」

「それを伝えるとなると全てを話す必要がある。お前は、自分を保っていられるか?」

「……どういう意味だ?」

「人類がいないことを知ったお前は更なる絶望に耐えられるのか?と聞いているんだ」

「っ!?何故それを!?」

「それも言えないな。少なくとも俺たちはお前らの敵ではない。敵なら2Bの体を修理したり9S、お前をこの拠点に連れてくることもなかった」

「……」

「2Bの修理はもう少しかかる。だが、修理が完了したら二人で……いや、ポッドも含めれば二体と二人か。考えるといい。その時は2Bに真実を話せよ。それが俺の話を聞く前提条件だ」

「……」

 

 四肢の修理を終え、下腹部の修理を行いつつ論理ウイルスの除去を完了させる。もう一度全体を確認したらネットワークの方は終了だ。

 

 俺は黙ってしまった9Sを後ろで感じつつ2Bへの修理に専念するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は一人悩む。僕の目の前には台の上に横になっている2Bがいる。彼、レインの修理は無事に完了し2Bの再起動を待っている状態になっている。

 

 正直に言ってレインはとても怪しい。なぜ僕たちの事を知っているのか?何故2Bがくる場所が分かったのか?何故、何故、何故何故何故……。疑問ばかりが増えて一向に解決しない。助言を求めようにもレインは論外だしA2と11Bは元ヨルハ部隊だけど脱走兵という事とレインの仲間という事から信用しきれない。ポッド042と153にも聞いてみたけど「それは2Bと話すべき」といって取り合ってもらえなかった。

 

 だから僕は2Bが目覚めるのをこうして待っていた。でも、そうしている間にも考えてしまって疑問はどんどん大きくなってくる。

 

「2B、僕は一体どうすれば……」

 

 僕たちアンドロイドが守るべき人間は既に存在しない。その事を2Bに伝える事が出来ずにここまで来た。2Bがこの事実を知った時、どういう行動に出るのか分からなかったから。

 

 僕は2Bの右手を両手で握り締める。女性アンドロイド特有の柔らかい感触が伝わって来る。

 

 

「……9S?」

「っ!2B!?」

 

 スリープ状態から覚醒したのか2Bがタイミングよく声をかけてきた。本当に、良かった。2Bが治ったというのもあるけどあのまま一人でいたら僕はとんでもない事を仕出かしていたかもしれない……。そうなったら、僕は壊れていただろう。

 

「9S、ここは……?」

「レインと名乗っていたアンドロイドの拠点です」

「……そう」

 

 記憶は残っている様で意識を失う前の状況をきちんと理解していた。それと同時に両腕を握ったり広げたりして義体の様子を確認している。バンカーを破壊してしまった以上僕たちの義体はこれしかないので修理出来なければそのまま死を迎えてしまいます。

 

 2Bは暫くそうしていたけどやがて上半身を起こして僕を見る。ゴーグルは外され2Bの綺麗な瞳が僕を見つめてくる……。

 

「体の調子はどうですか?」

「うん、問題ない。むしろ、今までで一番義体の調子が良いかも」

 

 寝かされていた台を降りて立ち上がった2Bは体を軽く動かしている。確かに、これまでの中で一番軽やかな動きをしていますね。それだけ彼の腕がいいのでしょう。

 

「……9S。何を悩んでいるの?」

「っ!な、なんの事ですか?」

 

 動きを止めてこちらに向き直った2Bが唐突にそう言ってきた。いきなりの事で動揺してしまった僕はドモリ気味に言ったせいで全く隠せていない。ずっと一緒に行動した2Bなら直ぐに分かるだろう。

 

「9S、動揺しすぎ」

「うっ、自分でもそう思います……」

 

 案の定2Bは僕にそう指摘してきたけど僕は何も言い返せなかった。それより、彼女に隠し事をしている事が呆気なくバレてしまった。彼女に、2Bに真実を伝えるべきなのだろうか……?

 

 そんな風に迷っていると2Bが突然抱きしめてきた。いきなりの事で動揺する。

 

「つ、2B!?」

「9S、いやナインズ。正直に言って。私は、貴方が何を隠しているのかを知りたい」

「……」

「お願い。ナインズ」

 

 はは、やっぱり2Bには敵いそうにないな。僕は、話した。ホワイト司令から聞かされた全てを。人類はもういないことを。そして、それをレインが知っていてそれ以上の真実がまだある事を。洗いざらい喋る。一つ話すごとに体が軽くなるのが分かる。肉体的なものではなく精神的なものだ。

 

 2Bは最後まで口を挟むことなく聞いてくれた。2Bだって驚いているはずなのに僕にはそんな様子を見せてくれない。

 

「……以上です。僕は、どうすればいいのか分からなくて……」

「……9S」

 

 打ち明けた僕に2Bが呼びかけてくれる。何時もの9S呼びに戻っているけど今はそんな事を気にしてなんていられなかった。

 

「……私は、貴方の希望が知りたい」

「僕は、知りたいと思っています。ですが、もし知った時に僕が僕でいられるのか「9S」?」

「ならば私が傍にいる。逃げたいのなら一緒に逃げるし真実を聞きたいなら一緒に聞く」

「2B……」

「だから言って?あなたはどうしたい?」

「僕は、僕は真実を知りたいです。例えどんな酷いものでも、知りたいです。だから2B。傍にいて、支えてください」

「うん、勿論だよナインズ」

 

 僕と2Bはもう一度抱きしめ合う。先程とは違って彼女のぬくもりが全身を、僕の心を優しく包み込んでいった。

 




そう言えばまだプレイはしてませんがレプリカントver1.22を買いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話「ココロの中」

公務員志望だけど受からねぇと思っているのにそれ以外の一般企業への就活を忘れていた。……働きたくねぇ


 自分の部屋で義体のメンテナンスを行っていると扉の前に設置したセンサーに反応があった。感知したのはアンノウンのヨルハ部隊の機体、11BやA2は登録しているからアンノウンとは出て来ない。つまり2Bと9Sで間違いないだろう。俺は扉を開けるとメンテナンスを一時中断して扉の方を向く。そこにはやはり2Bと9Sがいた。

 

「その様子だと覚悟は決まったようだな。2Bには真実を伝えたのか?」

「ええ、彼女には知っている事を全て話しました」

「そのうえでここに来たという事はそれだけ聞きたいという事で良いな?」

 

 俺の言葉に二人は頷く。何処か二人の距離が近くなった気がする。と言うよりも2Bの態度が柔らかくなった感じか。互いに意識しているが告白はしていない両想いの男女の様な感じを受ける。ニーアファンだった俺としてはニヤけてしまいそうになるが雰囲気的にそんな事は出来ない。やったら間違いなくこれからの話の信ぴょう性が薄れる。

 

「さて、何から話すか……」

「なら先ずは貴方の正体から聞かせてもらえますか」

「ふむ、そうだな。そこから話すとしよう。……いや、もっといい方法があるな。9S、俺をハッキングしろ」

「は?」

「俺の記録を直接見せる。この方が手っ取り早いからな。2Bには9Sが見たものを共有すればいいだろうしな」

「確かにそうですが、良いのですか?」

「問題ない。流石に危害を加えるような事をしようとすれば抵抗するがな」

 

 機械にとって自分を司る領域へのハッキングは自殺行為に等しい。何せゲームでは9Sのハッキングで破壊や操作される機械生命体がいたからな。その辺の対策はきっちりしているから余程の事がない限り問題ないと思うが。

 

「早くしろ。時間はまだ大丈夫だがこれからは無駄な時間はないからな」

「……どうなっても知りませんよ?」

「構わないとも」

 

 俺の言葉に9Sは少し戸惑い気味ながらも俺へのハッキングを開始した。成程、これがハッキングされるという事か……。あまりいい感じはしないな。

 

「これは……!」

 

 俺の記憶を読み取ったらしい9Sが驚いている。ヨルハ部隊の特徴の目を覆うゴーグルの上からでも目を見開いているのが分かる。9Sは信じられないようで固まっているがやがて回復したようで俺に向き合った。

 

「これが事実なら、僕たちの存在は一体……」

「それを決めるのはお前自身だ。取り敢えず2Bにも情報を上げたらどうだ?」

「っ!そ、そうですね。ですが……」

「9S、私は大丈夫だから」

 

 少し渋っている9Sに2Bが優しく話す。それにしてもマジで石川由依の声だな。これだけでもこの世界に転生してよかったと思えるかもしれない。と言うかやっぱり2Bと9Sの距離が近いな。最終的にはくっついて初々しい姿を見せて欲しいな。

 そんな事を考えていると漸く決心したらしい9Sがデータを渡し2Bも真実を知る事となった。

 

「……成程。貴方が色々と詳しい理由について、理解できた」

「まさか、空想上の世界だったなんて……」

「とは言えここは紛れもない現実だと思うぞ。お前らはきちんと自分の意志で動き、戦い、悩み、苦悩している。これが現実でないと疑うのならそう言った事も全て疑うという事だ。そうなれば何も信じる事なんて出来ないさ」

「確かにそうですね」

「……」

 

 俺の言葉に二人は納得したようだ。

 さて、そろそろ二人に提案するとしよう。この後の流れを知った二人なら問題ないとは思うがな。

 

「これで真実を知った訳だが二人はどうしたい?俺としては協力関係を築きたいと思っている」

「“塔”への対処の為ですね」

「そうだ。他にも事前に知っているからこそ出来る対応策もある。だが、それには人手が欠かせない。A2や11Bだけではどうしても足りないが二人が入れば選択出来る事が増える」

「……2Bはどう思いますか?僕としては受けても良いと思うのですが」

「私も問題はない。だけど、一つだけ聞きたいことがある」

「ん?なんだ?」

 

 2Bからの質問なんて珍しいな。そう言うのは9Sの方が積極的に行っている気がするが。

 

「データを見たけど一応貴方は機械生命体でしょう?」

「そうだが、まさか同胞を殺す事に躊躇しないのかとか聞きたいのか?俺に取っちゃ機械生命体に対して同族意識はないぞ」

「そうじゃない。貴方にとって人間はどういう存在?」

 

 2Bの質問の意図が分からない。俺に取って人間は転生前の種族だ。それ以外の何物でもないだろう。

 

「貴方のデータには人間を一から作り出そうとする研究データもあった。だけど、どう見ても非効率すぎる。本気で人間を作りたいのならもっと効率よくやっている

貴方に取って、人間はどうしても復興させたい種ではないの?」

 

 ……ああ、成程。確かに2Bに言われて納得したよ。俺の研究はあまり進んでいない。もしも本気なのなら月面サーバーへのアクセスなり直接侵入なりでデータを集めるべきだった。それを俺はなんだかんだ言ってやらなかった。それはつまり人間をそこまでして(・・・・・・・・・)復活させようとは(・・・・・・・・)思っていない(・・・・・・)と言う事だ。

 つまり俺は、心の底では人間をどうでもいいと思っていたという事だ。ああ、そう思えばここに転生したのは必然だったのかもな。何せ、人間はいないんだから。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話「“自分ノ心”そして“これから”」

新年あけましておめでとうございます。そしてお待たせしました


「そうだな。そうかもしれないな」

「……」

「俺は人間が嫌いなんだろうな。だから俺はこの世界に来た。人間が一人もいない世界だから」

 

 俺は元人間だ。だからこそ人間がどんな奴らなのかを知っている。転生した当初はこんな事は思わなかったかもしれない。純粋に人間を復活させたいと願ったかもしれない。でも、俺は拠点を整え素材を集め、武器を作ったがそれ以上の事はしなかった。何千年とあった時間を俺は身の回りの事と快適に過ごせる空間づくりにのみ費やした。

 俺が動き始めたのも原作が始まってからだ。ポポルとデボル、A2に2B、9Sと様々なアンドロイドと接触したがそれ以上の事はしていない。

 

「俺はこの世界を快適と思っていた。人間が一人もいないのに。もしかしたら俺の様に機械生命体やアンドロイドとして転生している者もいたかもしれない。だが、俺は探そうとも見つけようとも思わなかった」

「……あなたは人間の事を嫌っているの?」

「そう。いや、違うな。多分、どうでもいいんだ」

 

 遠くの方で人間が何をしていようと、俺の邪魔をしなければ気にも留めない。死にかけて居ようとも遠くで死んでくれと思うだけだろう。

 2Bたちを気に入るのも分かる気がする。だって彼女達はアンドロイドだ。人間じゃないんだから。もしかしたら、生物としてすら見ず、()()()()()()()としてすら見ているのかもしれない。それかこの世界の主役とも言える人物だから特別という思いもあるのかもしれない。

 いずれにしろ、俺が人間の復活を望んでいない事は理解できた。2B達には悪いけど俺が本気で挑む事は二度とないだろうな。

 

「ち、ちょっと待ってください。レイン、貴方は人間だったのでしょう? なのに何故……」

「それだけ人間という存在が酷いという事さ」

 

 9Sには悪いけど人間はそこまで良い生物ではないだろう。人間は長い歴史の中で争いを繰り返してきた。その大半が富を得るために。貧しいものが明日を生きる為に、裕福な物がより裕福になるために。理由は様々あれど争いと共に歩んできたことは事実だ。

 そしてその因果応報とも言える結末がレプリカントだ。あれで人間は人間として生きる事は出来なくなり、その千年後には存続さえ出来なくなった。

 そして人間がいなくなった後にエイリアンが襲来し現在に至っている。

 

「9S、人間はもしかしたら機械生命体やエイリアンよりも醜く、おぞましい存在かもしれない」

「……確かに人間は戦争で技術力を高めていたと記録にありますが、だからと言って」

「いや、別に良いんだ。どちらにしろ、人間は滅びていて今の段階では復活する事は出来ないしそれよりも先にやるべきことがある」

 

 そう言って俺は無理やり話題を変える。人間をどうでもいいと思っている事が分かったが別に嫌っている訳ではない。2Bや9Sが人間の復興を望むのなら手を貸すことだってやぶさかでない。だが、それをするには目下の課題を何とかしないといけない。

 

「2B。良いな? “塔”の対処の話に行くぞ?」

「構わない。貴方の気持ちは理解できた」

 

 2Bはそれ以上話す事は無いのか何も言って来なくなった。俺としても掘り返すつもりはないので今後の予定を話し始める。

 

「“塔”は3ヶ所に“資源回収ユニット”と言う物体を投下する。森の国、遊園地そして水没エリアだ。この資源回収ユニットは“塔”に入るための認証キーが最上階に置いてある。つまり、“塔”に入るためには必ず必要になる物だ」

 

 この資源回収ユニットで9Sはどんどん壊れ始めていくんだよな。とは言え今は2Bもいる。原因のA2もこちら側だ。暴走する事は無いと言っていいだろう。

 

「本来はA2と11Bで資源回収ユニットを回っていく予定だったがお前達が協力してくれるのなら直ぐに入手できるだろう」

「分担して手に入れるという事ですね?」

「そうだ。2Bと9Sには水没都市の資源回収ユニットを担当してほしい」

「他はどうするんですか?」

「一応A2と11B、俺で森の国に行く予定だ。遊園地は最後だな」

 

 遊園地は後回しだ。ゲームのあそこにはオペレーター21Oがいる。だがあの時は数週間が経過していた。今すぐ行ってはまだいない可能性が高い。

 

「因みにだが今すぐに向かう訳ではない。2Bは修理を終えたばかりだし9Sだってメンテナンスを行っておくべきだろう」

「確かにそうですね。……分かりました。貴方に協力すると言った以上僕たちも貴方達と動きを合わせます」

「すまないな。あ、それとお前達のポッドを少し貸してくれ。メンテナンスをしながら話したい事があるからな」

「ポッドをですか? 一応言っておきますがバンカーが無くなった以上ポッドを失う事は避けたいのですが」

「勿論分かっている。本当にただのメンテナンスさ」

「……わかりました。大切に扱ってくださいね?」

 

 信用しきれていないからかポッドのメンテナンスを申し出ると難色を示したがやや強引に了承させポッドを2機、預かる。A2を殺すように提案していこう全く喋らないこの2機が今何を思っているのかは分からないが話す必要はあるだろう。それも個別にな。

 

「それとA2と11Bと話して来たらどうだ? どうせ動くのにまだまだ準備がいるんだ。コミュニケーションを取っていざという時に共闘出来るようにして置く必要はあると思うぞ」

「……そうだね。9S、行こう」

「え、2B。手を引っ張らないで……!」

 

 2Bは何かを察したのか9Sの手を取り部屋を出ていった。とは言え明らかに手を出せば容赦しないという瞳をしていたけどな。慌てる9Sを引きずる2Bを見送った俺は改めてポッドと向き合った。

 

「さて、改めて自己紹介を。俺はレイン。アンドロイドっぽい機械生命体だ。ああ、別に自己紹介はいらないよ。ポッド042に153」

「疑問。我々との会話を何故望む?」

「ヨルハ計画の破棄。俺はお前達ポッド、いや、人類軍司令部に要求する」

 

 ヨルハ計画。これがある限り2Bや9S、A2と11Bは破棄される事になってしまう。それだけは避けたい。せっかく彼女達と触れ合ったんだ。ここでお別れなんてさせてたまるか。

 

「お前達がヨルハ計画に沿ってヨルハ部隊を監視している事は知っている」

「驚愕。それも転生前の知識か?」

「そうだな。で? どうする? 俺の要求を断るか? それとも受け入れるか?」

「回答。私としては受け入れても良いと思っている」

「ポッド042。それは明確な反乱行為である」

 

 ポッド042の言葉にポッド153は強い口調でそう言った。確かにヨルハ機体の廃棄を最終的に行おうとしているのにそれに真っ向から反抗する俺の提案に賛成したのだからな。

 とは言え俺としては今ここで回答をもらえるとは思っていなかったがな。何だったかで見た記憶があるがポッドは製造された順に自我を得やすいと言っていた。だが、ポッド042が自我を表に出すのはEエンドの時、つまりエピローグの時だ。にもかかわらずポッド042は今こう答えていた。これは思ったよりもいい方向に行きそうだな。

 そう思った俺はポッド042と更に話をするべく口を開いた。

 




気付いたらお気に入り数5000ちかくまで……。こんな作品をありがとうございます。次の投稿が何時になるかは分かりませんが完結まで何とか頑張っていこうと思っています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話「提案と共闘。決戦に向けて」

すまねぇ。グダっているとはわかっているが許してくれ……。頑張って完結まで書きます


「ヨルハ計画で最後に廃棄されるのは要は敵に情報が行くのを防ぐためだろう?」

「肯定。故にあなたの提案は私は好ましいと思うが止める事は不可能」

「なら、敵が()()()()()()問題はないだろう?」

「疑問。機械生命体を根絶する事は現状では難しいと言わざるを得ない」

 

 ポッド042は機械的にそう返してくる。だが、別に機械生命体を全て破壊する必要はない。

 

「機械生命体と和平を結べるかもしれない。それでも難しいか?」

「驚愕。その様な事は不可能である」

「パスカル。知っているだろう?」

「肯定。機械生命体の中で友好的な関係の構築に成功した個体の名である。しかし、あれは特殊な個体である」

 

 パスカル。機械生命体でありながら自我を持ち、アンドロイドとの融和を解く平和主義者。人類と機械生命体の歴史に興味を持ち色々と調べている学者と呼べる個体だ。ゲームだと自分が村長を務める村の機械生命体が暴走してしまい生き残った子供たちと逃げ出すが最終的には彼を残して村人は全滅。深い絶望を味わった彼に対してプレイヤーは3つの選択肢を選ぶ事になる。多分どの選択肢も辛い結果となっていたのだろうな。俺は公式でも正史として扱われているっぽい選択肢を取ったが滅茶苦茶トラウマを植え付けられたからな。

 

「パスカルは()()()()()特殊な個体だが今後は違う。機械生命体では自我を持つ者が続出している。近い将来自我を持つ個体が数の上では上回るだろう。そうなれば彼らの中にもパスカルのように平和を望む者も出てくるはずだ」

「否定。その様な可能性はない」

「そうとも言い切れないさ。何しろ遠い未来にはなるが機械生命体も同士討ちを行う。人間のようにな」

 

 約100年後に機械生命体は内部分裂を起す。原因としてはその前に起こる貴族の誕生だろう。格差は貧富の差を生み出し、負の感情を誕生させる。他人よりも上に立ちたい、良い思いがしたい。そう言う気持ちが爆発すれば武力による直接的行動に出る。それが個ではなく群として起こればどうか? それはもう戦争だ。人間が何千年と繰り返しし続けた愚かな歴史にそっくりだ。彼らが人間と同じ道を歩くのか、それとも別の道を模索するのかは分からないが始まりは皆同じって事だろう。

 

「内部分裂を起すようになる。それは利害の不一致が起こるという事だ。つまり、彼らは自我に目覚めるという事だ。同じ機械生命体同士で内部分裂できるほどの自我をな」

「回答。つまり機械生命体との和平は可能であると?」

「思考。その通りであるならば和平は理論上可能である」

「俺としては出来るうちに和平をしておきたい。機械生命体が内部分裂を起してからでは和平なんて出来ない。と言うかその時まで和平が出来ないのならいつまでたっても出来ないだろう。どちらかを滅ぼすまで戦争を続けることになる」

 

 その前に地球が持たない可能性もあるがな。今でさえ昼と夜に分かれる程自転が傾いているんだ。これ以上何かあれば崩壊しかねないだろう。それは俺としては困るからな。

 

「それに一度は試すのも悪くはないだろう? 駄目なら駄目で戦争を継続すればいいだけの話だ。少なくとも前例を作る事は出来る。アンドロイド達が戦争を止めたいときに道を示す事が出来るだろう」

「……」

「……」

 

 ポッドは情報を共有しつつ考えているのか無言になった。きっと全体で考えているのだろうな。人類軍司令部と言う名のポッドの集まり。ヨルハを殲滅できる力を持った彼らがどう出るかによって敵対するのか逃亡するのかが決まる。流石にこの戦力差を相手に複数存在すると思われるポッドを相手に出来るとは思えないからな。

 

「……確認。機械生命体との和平で生まれるメリットは?」

「メリット? ……まぁ、利益を得たいという気持ちは当たり前か。最大のメリットはもう戦う必要がなくなる事だな」

 

 そもそも現状のアンドロイドでは一部の地域の奪還や略奪、破壊が限界だ。機械生命体の生産を止める事も完全に殲滅する事も出来ない。このまま戦争を続けてもアンドロイドが機械生命体を全滅させる事は出来ないだろう。それが出来ているのなら5000年近くも争う事なんてなかっただろう。

 

「多少の小競り合いは今後も起こるだろうが少なくとも大規模な戦闘は起こらなくなる。更に和平に成功すれば話し合いが可能だろう。場合によっては住み分けを行う事も出来る。そうすればアンドロイドの悲願である地球の奪還を多少形は違えど達成できるんじゃないか?」

「……」

「……」

「まぁ、あくまでこれは機械生命体が全体の総意として和平を結べるのなら、って話だがな。だが、アンドロイド側だけでも和平を結べる体制を整えておいたからと言って何か問題が起こるわけでもないだろう? 必要なのは心構えなんだから」

 

 5000年に渡り戦い続けてきたのだ。直ぐに和平を結んで攻撃をしなくなるかと問われれば否だろう。必ず武器を構え警戒をする。そうならないための心構えだ。

 

「別に今すぐとは言わないが早い方が良い。俺はこれから機械生命体側の最大の障害を排除する。アイツを排除できれば機械生命体は弱体化するだろうしネットワークからハッキングされる可能性も低くなるだろう」

「確認。つまり返事はそれを見届けてからでも構わないと?」

「そうだな。どうせ今の段階で返事を出す事なんて無理だろうからな」

 

 ヨルハは暴走し拠点たるバンカーは破壊された。まともに残っているのはA2に11B、2Bと9Sくらいだろう。俺としてはこれだけ手元で保護できているのなら拠点で永遠に引きこもってもいいんだけどな。今の俺にはそれが可能な資材に技術、人員があるからな。

 だが、それでは駄目だ。せっかくこの世界に来たんだ。悲しい結末を少しでも変えてハッピーエンドにしてみたい。デボルとポポルと色々な場所を旅したいししっかりと対策をしたうえでアジを食べてみたい。残っているかは分からないがレプリカントの場所を訪れるのもよさそうだ。……ああ、そういやエミールもいたっけな。エンドを迎えた後に生きているのなら尋ねてみるのもよさそうだな。

 人間のいない無機質で無音な地球。引きこもるには惜しい魅力的な所だ。

 

「そんな訳で暫くは俺達の行動を見ていると良い。それを基に和平を結ぶのか否か、決めるのも悪くはないだろう?」

「了承。我々は貴殿の事を監視し機械生命体との和平が可能かの情報とさせてもらう」

「確認。たった今決断を下した。レイン、貴方が敵対行動を取らない限り我々は貴方の邪魔をしない」

 

 これでポッド側からの邪魔が入る事はないし和平を結ぶ一歩を踏み出させる事が出来た。後は塔と資源回収ユニットの対処だ。そしてそれらを攻略すれば残るのは最大の難関。

 

「(赤い少女。最悪な事に転生前の記憶でもあまり期待できる情報はない。不安が残るがA2や2Bに対処を任せてゲーム通りの結末を迎えさせるのが一番だろうな)」

 

 若干の不安を残しつつ、いよいよニーアオートマタも最後の時を迎えようとしていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話「決戦の前に……」

あれ……。可笑しいな。話が全然進まない……


「レイン!」

「デボル……。久しぶり。それとポポルも」

「何かついでみたいな言い方ね……」

 

 資源回収ユニットにカチコミ、襲撃をかける準備を整えている間にデボルとポポルが久しぶりに拠点にやってきた。ゲーム開始前にアネモネの拠点に移ってもらっていたせいで会う事は出来ていなかった。その為か、デボルは俺の顔を見るなり俺に突っ込んできて抱きしめてきた。きっと人間だったら瀕死の重傷を負っていただろう威力だが今の俺はアンドロイド風の超魔改造機械生命体だ。この程度ではダメージすら入らない。むしろデボルから感じる二つの柔らかい感触が心地よくさえ感じるが今はそれどころではないな。

 

「デボル。そろそろ離してくれ」

「むぅ……。せっかく久しぶりに会えたのに……」

「すまんすまん。レジスタンスの拠点に移動してもらって以来放ったらかしだったからな」

 

 デボルとポポル。二人にも真実を話す必要がある。俺は二人に対して真実を伝えて来なかった。予想外の出会いだったという事や話す必要が当時はなかったという理由もあるが今の関係を壊したくなかったからかもしれない。なんだかんだ言ってデボル達との日々は楽しかった。隣にいて、会話が出来るというものが素晴らしいと思いだした瞬間でもあった。デボル達と出会っていなければ俺は心を壊してヨルハ達を人形のようにコレクションにして展示していたかもしれない。生きた状態で。

 

「……ていうかお前の拠点にいっぱいいるな」

「ああ、皆俺が助けた者達だ。11Bはともかく2Bと9Sは知っているだろう?」

「一応、な」

 

 デボルは俺の後ろにいる2Bと9Sに何処か睨みつけるような視線を向けているが頭を撫でてやればふにゃりと笑みを浮かべて表情を柔らかくした。まるで猫みたいだと思いつつ二人を拠点内に案内する。

 最近はゲーム通り問答無用で襲い掛かって来る機械生命体が増えた。気軽に外を出歩こうものなら周辺の機械生命体の熱烈な歓迎を受ける事になるだろう。今の時期は9Sが目を覚ます前、A2が動き出したころだ。ゲームなら最終的に対立する二人も俺の介入によって仲良く談笑する事が出来る仲になっている。何なら昨日はA2と2Bが訓練を行っていたくらいだ。ゲームをプレイした俺にとってその光景は達成したかった目標の一つだった。

 

「それで? 態々私達を呼び出した理由って何かしら? こう見えても私達は忙しいのよ?」

「何を言っているんだポポル。時間なんていくらでも作れるだろう?」

「……」

 

 デボルの発言にポポルは頭を押さえてしまう。確かに今の発言は少しあれだな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()二人にもレジスタンス内での立場があるだろうしもっとあちらを優先に……、って。そもそも俺が頼んで二人をあのキャンプに向かわせたわけだしポポルはともかくデボルは嫌がっていた事を考えると仕方ない事かもしれないな。

 

「まぁ、今回は結構重要な話だ。キャンプの近くに建った塔は分かるだろう?」

「ああ、あれが出来てから機械生命体が凶暴になったな」

「その原因たる塔の破壊をする事にした。その為に協力してほしいんだ」

「……いきなりだな」

 

 想像以上の重要な話だったのか、二人の表情は真剣なものになる。少なくとも普段浮かべる温和な表情とは違う、どちらかと言えばレプリカントで戦った時のものに近いだろう。

 

「人員は見ての通りこのメンバーで行う。二人にはそのサポートを頼みたい」

「任せろ! って言いたいがレインはどうするんだ? まさかこいつらと一緒に戦闘に参加するなんて、言わないよな?」

「貴方は戦闘は苦手だって言ってなかったかしら?」

「確かに戦闘は苦手だが別に出来ない訳じゃない。それに直接的な戦闘は他の者に任せるさ」

「つまり戦場に立つって事か? なら……!」

「いや、デボルとポポルにはここで全体の指揮及び支援をしてほしい。俺が出る以上そう言った事を出来るのは二人以外にいないからな」

 

 そもそも9Sを除けば誰もが戦闘職だ。A2、11Bを始め2Bだって本当はE型と言うB型を超える戦闘能力を有している。その分バックアップは誰もが苦手としていて任せるのは不安だ。そうなると9Sに任せるという手もあるが彼はスキャン出来る人材として前線に出てもらわないといけない。2Bをサポートさせるという理由もある。同じ理由でA2と11Bにもサポートがいるだろう。11BはともかくA2なら問題なさそうだが念には念で、な。

 

「そんな訳で二人には司令塔となって俺たちをサポートしてほしい。安心しろ。俺達は死ぬつもりはないし生き残るために戦うんだからな」

「……勝算はあるのね?」

「そもそもこれだけの戦力があって敗北する可能性の方が低いだろう?」

 

 慢心している訳ではないがゲームの時を軽く超える戦力が集まっていると思っている。これなら怪我は有れど全員生還する事も可能だ。いや、そうでないといけない。せっかく救える命を救ってきたんだ。このままハッピーエンドまで持っていきたい。

 

「私は了承してもいいけどデボルは……」

「……」

「ダメか?」

 

 懸念はデボルか。俺に抱き着き顔を下げる彼女が今どんな様子なのかを知る事は出来ない。だが、葛藤はしているんだろうな。俺に抱き着く手が震えている。

 

「……分かった。どうせお前の事だ。きちんと生き残る術はあるんだろう? ならばこっちはそれを高められるようにサポートするだけだ」

「……ありがとう」

 

 デボルの言葉に自然と笑みを浮かべる。信頼されるというのは心が温かくなるな。だが、その前に……。

 

「それと二人には話しておきたい事があるんだ」

「何だ? まだ何かしてほしい事でもあるのか?」

「そうじゃないよ。ただ……」

 

 そこで一旦話を途切り、心を落ち着かせてから話す。

 

「俺の出生について、二人には話しておきたい」

 

 自らの過ちではないが同型機の暴走により人類の滅亡が確定し、記憶を消され罪の意識を刷り込まれた被害者とも被疑者とも言える古いアンドロイド。二人は転生者(元人間)である俺をどう思うのか? これまで意図的に且つ無意識に避けていた本当の事を話す。まるで鉛の如く俺の動きを阻害する緊張感を感じながら俺は二人を奥へと誘導した。心のどこかでこの関係が続いてくれる事を、願いながら……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。