竜が辿り着いた幻想郷・後日談 (ベヘモス)
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後日談その一

本当はこの話だけで終わらせようかと思ったけど、短編ではなく連載にしました。……と言っても三話くらいで終わりですけど。


「これでよしっと。……如何ですか霊夢さん。袖を通してみた感想は」

「なんていうか……全体的に派手ね」

 

結婚式を数日後に控えた今日、私は式で着る事になる白無垢の衣装合わせを行っている。

リュウが告白してくれた翌日から挙式に向けての準備が始まり、彼方此方に振り回されていたら何時の間にか結婚式が数日にまで迫って来ていた。

式はウチの神社でやるから場所の確保に奔走しなくて済んだけど、必要な小道具を用意したり、知り合いに紹介状を書いたり、当日に振舞うお酒や料理をどうするかで揉めたり、引き出物の品をどうするかで頭を悩ませたりしていたら本当にあっという間だったな。

 

「派手なのは仕方のない事ですよ。一生に一度の花嫁衣装、多少派手なほうが思い出に残るものです」

「確かにそうかもしれないけど、私の知っている白無垢じゃないわよ、コレ」

 

出来たばかりの衣装に袖を通して、衣玖に着飾ってもらって改めて思う。私の知っている白無垢じゃない。

白無垢ってのは名前の通り白一色で仕立てられた和服の事だけど、コレは白を基調にしていながらも嫌味にならない程度に金の糸で刺繍が施されていて、この時点で既に白無垢じゃなくなっている。

まぁ金の刺繍はそれほど目立たないように作られているけど、問題なのは小物の方ね。

金の扇子はいい、コレはまだ分かるから。でも、懐剣(かいけん)筥迫(はこせこ)の飾りには文句を言いたい。

昔から剣は神に通じる物として神聖視されてきたのは知っているけど、懐剣の鞘と柄は派手すぎでしょ。黒の下地に金の飾りってそんな豪華なのは求めていない。てか、鞘に太陽の飾りがあるんだけど……これ作ったの天照じゃないでしょうね。

通常の筥迫も華やかな刺繍が施されているものだけど、なんで刺繍が月を象った物なのよ。普通は金襴(きんらん)緞子(どんす)羅紗(らしゃ)などでしょうが。

それに髪型だって文金高島田(ぶんきんたかしまだ)にしないってどういう事よ。頭に煌びやかな簪を挿してまとめるだけってどういう事よ!?

 

「……やっぱり天照が花嫁衣裳を用意するって言った時に止めるべきだったかなぁ」

「そ、その様な事を仰らないで下さい。太陽神が人間の為に花嫁衣裳を作るなど本来有り得ない事ですよ」

「それは分かってるんだけどさぁ~。私の知っている白無垢と此処まで違う物だと文句の一つや二つ言いたくなるわよ」

「普段から結果が同じなら過程なんて如何でもいいと仰っている言葉ですかソレ」

「アーアーキコエナーイ」

「やれやれ。……まぁ霊夢さんのお気持ちも分かりますが此度の衣装は色打掛も兼ねていますので、多少派手なのは仕方のない事ですよ」

「多少じゃないから文句を言ってるのよ。それにこう言う時くらい着替えがめんどくさいとか言わないって」

「霊夢さんはそうかもしれませんが、リュウ様は仰いましたよ。なんで着替えなくちゃいけないんだと」

「……つまり今回の原因はアイツにあるわけね。こんな時に物臭を発揮しないでよ」

「今更遅いですよ、霊夢さん。それとそろそろ脱いでください、折角の衣装に皺ができてしまいます」

「はいはい、分かりましたっと」

 

衣玖に手伝ってもらいながら白無垢を脱いで、普段の巫女服に着替える。

何時もの服に着替えたから分かる事だけど、天照が作ってくれた白無垢は生地からしてかなり上質な物みたい。

袖を通したときの肌触りが違うと言うか、普段の服の方がゴワゴワしているというか、着慣れている筈の服の方が落ち着かない感じ。

まぁ神様が作った服だし、素材からして人間が使う様なものじゃないんでしょうね。

 

「それで如何でした霊夢さん。白無垢を着てみて」

「ん~……派手なのを除けはコレと言って不憫な点はなかったかな。元々動き回るための服じゃないし、多少の動きづらさは眼を瞑るわ」

「さようですか。ではその様にお伝えしておきます」

「お願いね。……それじゃ私はダラダラさせてもらうから、後の事は宜しく」

「式が近いのですから余り葉目を外さないようにしてくださいね」

「分かってるって」

 

面倒な後片付けを衣玖に任せて、私は一人台所に向かってお茶の用意をする。

結婚式が間近に迫ってきているから最近はドタバタしていて、あまりのんびり出来ていなかったのよね。

それに今はリュウも出かけていて居ないし、衣玖が言っていたように式が近いし、外に出かけて妖怪に絡まれたくないし、今日は家にいるのが良さそう。

……ま、話す相手もいないから一人でお茶を飲んでいても楽しくないんだけどね。

 

「最近忙しかった反動か、こうして急にやる事がなくなると暇で仕方が無いわ」

 

台所で一人愚痴を零しながらお茶を淹れ、茶菓子を持って縁側に向かう。

今日は天気もいいし、日向ぼっこでもしながらお茶を飲んでのんびりしよう。

そう考えた私は、日当たりのいい場所に腰を下ろし、裏庭の風景を見ながらお茶を飲んで一息つく。

こうしていると普段は誰かがやって来るはずなのに、今日に限っては遊びに来るような暇人も居ない。

普段は呼んでなくても来るくせに、私が暇を持て余しているときに限って誰も来ないんだから。私がもうすぐ結婚するからなのか知らないけど、余計な気を遣ってるんじゃないわよ。

 

「……それにしても結婚か。改めて考えてみるといまいち実感が湧かないのよね」

 

五年もリュウと一緒に暮らしていた所為なのか、もうすぐ結婚するんだって実感が沸いてこない。

今までの準備も何かの模様しみたいで、自分がその中心にいるようには感じれない。

皆が盛り上がっているのに巻き込まれているだけな様な、何処か他人事の様に傍観している自分がいる。

当事者である筈なのに、自分には全く関係の無い様なひどく曖昧な感じ。

リュウは一緒に幸せになろうって言ってくれたけど、こんなんで本当に幸せになれるのか不安になってくる。

よくよく考えてみると私はリュウと結ばれたいとは考えていても、結婚する事なんか考えていなかった気がする。

リュウと恋仲になる事ばかり考えて、その先の事なんか全く考えてもいなかった。

アイツと結婚するのが嫌なわけじゃないけど、そこへ至るための過程が無いから結婚に実感が持てないんだ。

 

それに結婚するって事はリュウとの間に…その、子供を作らないといけないわけだけど、本当に子供を作れるのか凄く不安でもある。

私は人間でアイツは竜族。違う種族である私達の間に子供が出来るのかなんて考えたこともなかった。

霖之助さんみたいに人と妖怪の間に子供が出来るから、私達も出来ない事はないと思うけど……人と竜の間に子供が出来たなんて話聞いた事無いから、こうして考えてみると不安ばかりが募る。

永琳に協力してもらって妊娠を促す薬とか作ってもらうけど、もしそれでも出来なかったら私は何処の馬の骨とも知れない男の子を孕まないといけないのかな? それだけは絶対に嫌ッ。

家を継ぐ子を産まないといけないのは分かっているけど、私の後を継ぐ子はリュウとの間に出来た子がいい。他の男との間に出来た子なんて私が耐えられそうに無いもの。

 

「……はぁ。こんな事を考えても仕方が無いのは分かっているけど、独りになるとどうも駄目ね」

 

溜息を零しながらお茶請けの煎餅に手を伸ばし、口の中に放り込んで噛み砕く。

頭に浮んだくだらない悩みも一緒に噛み砕いて飲み込めたら良いんだけど、頭に浮んだ悩みは簡単に消えてはくれない。

誰かが傍に居てくれたらこんな事悩まなくて済むのに。心の中でそう思いながらお茶に手を伸ばすと、視界の隅で草むらが不自然に動くのが見えた。

今はそれほど強い風が吹いていないから風ではないだろうし、リュウがいる所為なのかこの辺りには野生の動物は余り住み着かない。里の人間が神社の裏庭に隠れる様な事はないし、妖怪か妖精が妥当な所かしらね。

私はお茶を一口飲みながら、掌に霊力弾を作り出して、今さっき揺れた草むらに向かって放った。

 

「ぎにゃッ!? いった~い、どこの誰! 今攻げきしてきたの!!」

 

草むらから出て来たのはこれまた随分と変わった子だった。

見た目は里の子達が良く着ている着流しをきた八歳くらいの少女だけど、私に凄くよく似ていた。

顔立ちや髪の色なんか私にそっくりだけど、瞳の色は黒ではなくリュウと同じ空色の瞳をしている。

世界には自分そっくりな子が三人はいるって聞いたことあるけど、この子もその類なのかしら? でも、只のそっくりさんで片付けるには……妙な親近感があるわね。

 

「ちょっとそこのアンタ、そんな所で何してるのよ。此処は博麗神社よ、幻想郷の住人なら知ってるでしょ」

「……もしかしてわたしのこと見えちゃってる?」

「えぇ、見えてるし聞こえてるわよ。だからそんな所で何してるのよ」

「ど、どうしよう、どうしようッ!? ぜったいに会っちゃいけないってきつく言われてるのにッ!?」

「誰にそんな事を言われたのよ。てか、私の話しをちゃんと聞きなさいッ!!」

「は、ハイッ! ごめんなさいッ!!」

「宜しい。…………ん?」

 

なんか勢いで叱っちゃったけど、あの子随分と素直に私の言う事を聞いたわね。

あんな素直に言う事聞く奴なんて滅多に居ないのに、本当になんなのかしらこの子。

 

「えっと……あの、おか…じゃなくて、霊夢さん。話しはちゃんと聞くので、となりにいってもいいですか?」

「え、えぇ。それは別に構わないけど」

「ホントッ!? やった!!」

「そんなに大喜びする様な事じゃないでしょうに、変な子ね」

 

呆れ果てる私など気にも留めず、少女はコッチにやって来て私の隣に座る。

その顔は凄く嬉しそうで、とても上機嫌だった。

 

「……随分と嬉しそうね。さっきはあんなに慌ててたのに」

「たしかにこの時代のおか…じゃなくて、霊夢さんに会っちゃいけない言われてるけど、見つかっちゃったものはしかたがないかなって」

「つまりは開き直ったわけね。まったく調子のいい子なんだから」

「あははは。よくみんなに言われる」

「その性格直した方が良いわよ。……ところでアンタ名前はなんて言うの?」

「わたしはりゅ―――」

 

少女は自分の名前を言おうとして何故か言葉が詰まる。

私に会ってはいけないと言われていたみたいだし、此処で自分の名前を言うのを戸惑っているんでしょう。

別にそんなの気にしなくても良い様な気もするけど、深くは突っ込まないであげましょう。

 

「りゅ……りゅ……リュシカッ! そう、わたしリュシカって言います!」

「リュシカねぇ……ま、それで納得してあげるわ」

「あ、わたしのこと信じてない」

「じゃあ、今の名前は本名なの?」

「それは……その……」

「ま、私に会うなって言われてるのに本名が言えるとは思ってないから別に良いわよ」

「どうもです……」

「それで一体何しにきたのよ。アンタ、この辺りの子じゃないでしょ」

「えっとですね、霊夢さんが結婚すると聞いてお祝いしに着ちゃいました!」

「それはどうもありがとう。でも、挙式は今日じゃないわよ」

「え、違うのッ?!」

「違う違う、式は数日後よ。どうも嘘を吐けない性格みたいね、貴女」

「た、たはははは……」

 

私が指摘した事を笑って誤魔化そうとするリュシカ(偽名)。性格的に嘘を吐けないみたいだけど、そうやって笑って誤魔化そうとするところとか、なんだかリュウに似ているような……。

 

「それじゃ霊夢さん。思い切ってしつもんさせて下さい!」

「え、えぇ。別に構わないけど……何を思い切るのかしら」

「あのね、今霊夢さんは幸せなの?」

「……え?」

 

リュシカの予想外の質問に流石の私も戸惑ってしまう。まさか面と向かって幸せなのか聞かれるなんて思いもしなかった。

この子の質問の意図は分からないけど、今が幸せだと言う事ははっきりとしている。

もうすぐ結婚するって時にそんな当たり前な事を再認識させられるとは思わなかったな。

 

「ねぇどうなの? いま幸せ?」

「えぇ、凄く幸せよ。ずっとリュウと一緒に居たいって願っていたんだもの。それが確約されて幸せに決まっているわ」

「それじゃどうしてさっき暗い顔をしていたの?」

「別に大したことじゃないわ。ただの悩み事よ」

「なやみってなぁに?」

「……別に貴女に話す様な事でもないのだけどね」

 

首を傾げて不思議そうに尋ねてくる少女を見て、自分でも何を思ったのか胸の内に溜まっていた悩みを吐き出していた。

こんな話この子に聞かせる様な物でもない筈なのに、如何してか話してしまう。

 

「リュウと一緒にいられる、それは疑いようの無いくらいに幸せよ。でもね、如何してかそれを実感する事が出来ないでいるのよ。誰にも反対される事なく、気兼ねなくアイツと一緒に居られるのにそれを実感できない。矛盾してるわよね、幸せなのにそれを感じられないだなんて。それにアイツとの子供が出来るかも分からなくて、どうしても不安になっちゃうのよ」

「う~ん……むずかしくてよく分からないけど、霊夢さんは今まで不幸せだったの?」

「そんな事ないわよ。アイツと出会って色んな事があったけど、あの日々が不幸だと思ったことは一度も無いわ。確かに出会った頃のアイツには苦労させられたけど、今までの全てが幸せだった。喧嘩したり泣いた日もあったけど、それらも全部ひっくるめて幸せな毎日だった」

「……そっか。それなら幸せを感じられないのも仕方が無いんじゃないかな」

「仕方が無いってなんでよ」

「だって、今も昨日と同じ幸せの中に居るんだよ。きっと幸せ過ぎてそれが当たり前になっちゃってるんだよ」

「幸せが当たり前になっている?」

「うんッ。わたしも偶にあるもん。今が幸せ過ぎてそれが実感出来なくなること」

 

諭す様に話すリュシカの言葉を私は反発する事無く素直に受け入れていた。

昔の私なら生意気な子供だと一蹴していだろうし、この子の言葉に説得力なんて無いけど、でも不思議と納得することが出来る。

リュウとずっと一緒に居たいと願い、私はアイツから離れた日なんて今まで殆ど無かった。

傍に居なかった日なんてお互いになにか用があるときだけで、それ以外の日は常に一緒に居た。それが当たり前だったから。

その日々が幸福だった間違いないけど、その幸福が何時の間にか当たり前になっていたんだ。

あって当然なものを意識したりしないように、私もこの幸福があって当然なものだと思っていた。だから実感が持てなかったんだ、この幸せな毎日に慣れてしまっていたから。

 

「……そっか。私、幸せに慣れちゃってたのか。あの日々があって当然なものだったから」

「きっとそうだよ。でも心配しないで、その日々が当たり前になっちゃっても二人の幸せが終わったりしない」

「随分と嬉しい事をいってくれるけど、どうしてそんな事がいえるのよ」

「だって、わたしが知ってるから。たしかに偶に喧嘩したりもするけれど、二人が幸せなの知ってるもん」

「………………」

「それに子供の事も気にしなくて平気だよ。二人の間に子供は生まれる。それは絶対にたしかな事から、だから大丈夫」

「……そうね。貴女がいうならきっとそうなのよね」

 

そう言ってみせるリュシカの笑顔を見て、何時の間にか私の悩みは綺麗に消え去っていた。

初めて会う子に悩みを解決してもらうだなんて変な話だけど、でもこの子なら私の悩みを払ってくれても不思議じゃない。多分、この子は私の……。

 

「あ、やっとおか……じゃなくて、霊夢さん笑ってくれた。うんうん、そうやって笑っている方がいいよ。怒った顔や怖い顔だと幸せが逃げていくから」

「普通ならそうかもしれないけど、私の幸せはリュウが運んできてくれるから。だから逃げたりしないわよ」

「あははは。それもそうだね」

 

二人して笑い合っていると突然リュシカの身体が徐々に透け始めた。

余りにも突然の出来事に私が目を丸くして驚いていると、リュシカは透け始めた自分の身体を見て落胆の表情を浮かべる。

 

「ありゃ、もう時間か。ちょっと干渉し過ぎたかな」

「ちょっと身体が透けてきてるけど大丈夫なの?」

「うん、平気だよ。ただもう帰らないといけないみたい。……本当はもっとお話がしたかったけど、たっちゃんも余り長い事干渉する事は出来ないっていってたからしかたがないよ。」

「そうなの。……それじゃまた何時の日かお話をしましょう」

「……えっ?」

「流石に何年後になんて約束はできないけど、また必ず会えるわ。だからその時に今日の続きをしましょう」

「……もしかしてわたしの正体に気付いちゃってるの?」

「アレだけ何度もいい間違いをしていれば気づくわよ。素直ないい子に育ってくれているとは思うけど、もう少し上手く誤魔化せるようになりなさい」

「うぅ……。ちょっと前に同じ様なことを言われたばっかりなのにまた言われた」

「何度も言われたくなかったら精進すること。いいわね」

「は~い」

 

リュシカは若干拗ねたように返事をするけど、身体の大部分が既に透過してしまっていて、今では薄っすらと輪郭が見える程度。

こうなってしまっては私にはもう如何する事も出来ないけど、今の私がこの子に伝えて挙げられる事は何もない。

必要な事はきっと未来の私がこの子に伝える筈だから、きっと大丈夫よね。

 

「それじゃもう思い残すことは無いわね」

「うん、大丈夫。わたしが知りたかった事もちゃんと知れたから」

「貴女が知りたかった事? そういえば一体何を調べにきたのよ」

「二人の結婚が本当に幸せだったのかどうか。お父さんってば、部屋でお母さんを押し倒して毎晩何かしてるんだもん。だから二人の結婚は本当に良かったのかなって。……でも心配いらなかったみたい」

「そ、そうね。貴女が心配しなくても私達は幸せだから大丈夫よ」

「そうみたいだね。……それじゃわたしもう行くね」

「分かったわ。気をつけて帰って来なさいよ、未来で待ってるから」

「うん! それじゃまた後でね、お母さん!!」

 

その言葉を最後にリュシカの姿は完全に消え去り、この時代から姿を消した。

最後は顔を見る事が出来なかったけど、あの子はきっと笑顔を見せてくれていたと思う。だって、別れ際のあの子の声は凄く嬉しそうだったから。

……それにしてもあの子が言っていたリュウが私を押し倒しているのってアレよね。夜の営み的なやつ。なんで娘が覗いている事に気が付かないかな、私。

 

「……とりあえず、部屋に結界を張って覗かれないようにしよう」

 

覚えていられるか怪しい事を心に決めながら、私はすっかり温くなってしまったお茶を飲み一息ついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

あの子が帰ってから数日が経ち、今日はいよいよ挙式当日となった。

事前に招待状を送っていたりした為、境内には普段では考えられないほどの人数が集っている。

普段からコレくらいの参拝客が来ていれば母さんに文句を言われなくて済むのになぁ。境内に人が集るたびに心の中でそんな事を思ってしまう。

 

「はぁ……。どうして私の周りってお祭り好きしか居ないんだろ。普段からこのくらい参拝客が来て欲しいもんだわ」

「その様な事を言っても仕方がありませんよ。それよりも今日は結婚式なのですから、しゃんとして下さい」

「はいはい、分かってるわよ」

 

天照が作った白無垢に身を包んだ私は、衣玖に先導されてリュウが待っている母屋の裏庭に向かう。

ウチの神社の広さでは室内で式を行う事ができないから、今回は特別に野外で行う事になっている。

階段を昇って会場である境内に入る事は出来ないから、裏庭をぐるりと回って入場する手筈になっている。

この手の祭事にトコトン縁のない家だったから仕方のない事だけど、流石にコレは不便よね。……あの子が結婚する前に神社の敷地を何とか広く出来ないかしら。

衣玖の後を付いていきながらそんな事を考えていると、待ち合わせの裏庭には既にリュウの姿が会った。

裏庭で佇むリュウの姿は普段の格好とは違い、黒の上着に灰色のズボンを履いて、白金色の具足と篭手を身に着けていた。

この結婚式に合わせてリュウもたっちゃんから衣装を貰ったとは聞いていたけど、何処からどう見ても結婚式で着るような服装じゃない。

物凄く似合っているし、端から見ても超一流の戦士だって分かるんだけど、絶対に結婚式で着るような服装じゃない。天照もそうだけど、たっちゃんも何を考えてるんだかさっぱりだわ。

 

「お、やっと来たのか。待ちくたびれたぞ」

「ごめん、リュウ。それによりアンタのその格好……」

「ん? なんか変か?」

「いや、似合ってはいるけど……新郎が着る服じゃないわよね」

「俺はあんまりそう言うのは分からないんだが、コレを作った龍神曰く「お主に袴は似合わん」だそうだ」

「あ~確かにリュウの袴姿って変かも。ねぇ衣玖」

 

隣りに居る衣玖に声を掛けてみたけど、彼女からの返事が無い。

なんとなく不思議に思った私は衣玖の顔を覗き込んでみると、彼女は顔を赤らめてウットリとしている。恐らくは格好良く決めたリュウに見惚れているんでしょう。

衣玖の気持ちはなんとなく分からなくも無いけど、なんとなくムカつくから彼女の脇腹を肘で小突いておく。

 

「あうッ。……霊夢さん、痛いです」

「ふんッ! 呆けている衣玖が悪いのよ」

「それはそうかもしれませんが……」

「……お前等、こんな時に喧嘩するなよ」

「分かってるわよ」

「はい。…それではそろそろ会場へと向かいましょうか」

 

話を上手く切り上げた衣玖が先導し、私とリュウは並んでその後を付いていく。

裏庭を抜けて母屋の玄関前へと回ると境内には紅白の垂れ幕と、そこへと通じる道に紅い絨毯が敷かれていた。

本殿の脇には母さんが控えていて、私達が来るのを待ちわびているのか、珍しくソワソワしている。

あんな母さんを見られる日が来るなんて思わなかったな。流石の母さんでもこういうのは慣れてないか。

思わず出てしまいそうになる笑いを堪えながら、私達は紅い絨毯の上を歩き、皆が待っている会場へと足を踏み入れる。

境内の中は既に沢山の参列者で溢れており、私達が会場に入ると拍手で迎えてくれた。

私とリュウは本殿前に設置された椅子に座り、衣玖は参列者に向かって一礼した後、席を離れて脇に控える。

そして衣玖と入れ替わる形で母さんが私達の前に立ち、皆に向かって一礼をする。

 

「……それでは只今よりリュウと我が娘霊夢の婚儀を執り行います」

 

今回の式を取り仕切る斎主(さいしゅ)である母さんが挨拶をすると、突然辺りが暗くなり始める。

何事かと空を見上げてみると、蒼天の空を覆うように深緑色の鱗を持つ巨大な龍が私達の頭上に現れた。

龍は自身の巨体が神社に影を落としてしまうことを嫌ったのか、身体をよじり会場の日の光が差し込むように自身の位置を調整する。

龍神が姿を現し、場が整ったのを見計らって母さんはお祓い棒を手に修祓(しゅばつ)の儀を執り行う。

儀を行い私達と参列者を心身を清めた後、母さんは龍神の顔が見える位置に座り、祝詞奏上(のりとそうじょう)を読み始めた。

幻想郷の最高神に私達の結婚を報告する大切な祝詞だけど、隣に居るリュウは凄く暇そうな顔をしている。

 

「……ちょっとリュウ。大切な儀なんだからちゃんとしてよ」

「そうは言うけどこうして座ってるだけってのも結構暇で」

「気持ちは分かるけどまだ続くんだから頑張って。三献(さんこん)の儀が終わったら誓詞奉読(せいしほうどく)があるんだから」

「あ~……そういえばそんなのも有ったな。アイツ等の前で誓いの言葉を読み上げるんだったか」

「そうよ。大事な事なんだからしっかり決めてよね」

「……分かりやすく一言で纏めるか」

「それはそれでどうなのよ……」

 

こんな時でも相変わらずなリュウに呆れながらもホッとしてしまう。

ガチガチに緊張してヘマをやらかすよりもずっと良いし、リュウが何時も通りで居てくれるから私も緊張せずに普段通りで居られる。

こう言う所がリュウの魅力の一つなんだと再認識するけど、誓詞奉読を簡素に済ませようとするのは止めてもらいたいわね。折角の結婚式なんだし、此処は一つかっこよく決めてもらいたいけど……リュウだし無理か。

自分の中でそう結論付けると思わず笑みが零れてしまう。

 

「ふふっ」

「ん? どうかしたか?」

「うんん、なんでもない。……ねぇリュウ。今幸せ?」

「突然どうしたんだよ。お前ならそんなの聞かなくても分かるだろ」

「確かにそうだけどちゃんとリュウの言葉で聞きたいのよ」

「変な奴だな。そんなの幸せに決まってるだろ」

「うん。……私も凄く幸せよ」

 

リュウの方を振り向いて微笑むと彼は一瞬不思議そうな顔をするけど、直ぐに微笑み返してくれた。

二人で話している間に祝詞奏上が終わり、三献の儀へと入る。

脇に控えていた衣玖が私達の前に小・中・大の三つ重ねの盃を持って来てくれる。

コレを飲み交わすことで私達は永遠の契りを結ぶことになる。

人間である私がどれだけリュウと一緒に居られるのかは分からないけど、この命が有る限りリュウと共に歩いていこう。

心の中でそう誓いながら私はリュウから渡された盃を口にする。……この幸せがずっと続く事を願って。

 




今回の二人が着た服装を一言で表すと、霊夢のは荘厳な巫女服で、リュウのは戦神の礼装って感じです。本編でも言ってるけど結婚式で新郎新婦が着るような服装じゃないな。



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後日談その二

前回の結婚式から五年くらい時間が跳んでます。
言いたい事は色々と出てくると思いますが、多少の事は大目に見てください。


霊夢と結婚して五年くらいが経っただろうか。俺達もそろそろ子供が欲しいと思っているんだが、未だに妊娠の兆候が無い。

俺と霊夢は元々違う種族なんだから懐妊率は高くないだろうと思っていたが、五年経っても妊娠の兆候がないと言うのは流石に不安になってくる。

霊夢の奴は「その内、授かる」と言って楽観視しているし、俺もそれほど焦っているわけじゃないけど、周りの連中が子供はまだかと急かしてくるのが非常に鬱陶しい。特に先代と八雲の奴が煩くて……。

まぁあの二人は早く子供の顔が見たいというよりも、跡継ぎを早く生んで欲しいというのが本音だろう。

幻想郷を維持するためにも博霊の巫女は大事だってのは分かるんだが、この手のお家問題はぶっちゃけ面倒くさい。

第一、急かされても簡単に出来るもんじゃないんだから、もう少し気長に待てと言いたいところだが、流石にこのまま何もせずにいる訳にもいかないし、永琳の奴に相談してみるか。

 

「―――と言う訳でやって来たわけだ」

「……事情は大体分かったけど、異種族の間に子供なんてそう簡単に出来るものでも無いわよ」

「そんなの分かってるわよ。でもいい加減、お母さんと紫の奴が鬱陶しくて堪らないのよ」

「それは大変ね。……まぁ、相談された以上は検査してみるけど、その前に一つ聞いておくわ」

「あ、なんだよ?」

「リュウ、貴方まさか不能じゃないでしょうね」

 

永琳の予想外の質問に流石の俺と霊夢も絶句する。診察なんだから込み入った事まで聞かれるとは思ってたが、まさかいきなり不能か如何かなんて聞かれるとは思わなかったな。

 

「……聞く必要あるのかそれ」

「あるから聞いてるのよ。……それで如何なの霊夢」

「いや~……アレで不能とか流石にないわ。コイツの体力、精力ともに底なしだし」

「なるほど。そうなると二人の身体の方に異常があるのかしら」

「私達の身体に?」

「えぇ。様々な原因から不妊症になっている可能性も有るのよ。これは女性だけではなく男性の方が原因の場合も有るから、リュウも色々と採取させてもらうわよ」

「色々って何だよ。……いや、なんとなく予想は付いてるけど」

「それは勿論、血液と精液に決まってるでしょ。あ、霊夢は女性生殖器の診断もあるから覚悟してちょうだい」

 

そう来るだろうとはなんとなく予想が付いていたが、実際に言われると嫌なもんだな。

 

「……アンタ、それ本気で言ってるの?」

「当たり前でしょ。大体不妊の診断なんだからその辺りを調べないで如何するの」

「それは……確かにそうかもしれないけど」

「分かったのなら文句を言わない。先に霊夢の方を調べるからリュウは一度退室しなさい。終わったらウドンゲに呼びに行かせるから」

「わーったよ。……霊夢、その、大変だと思うが頑張れよ」

「嬉しくない励ましをありがとう」

 

嫌味がたっぷり込められた〝ありがとう〟に苦笑いを浮かべながら、俺は一先ず先に診察室を後にする。

診察にどのくらい時間が掛かるのか分からないが、色々と採取すると言っていたからそう簡単に終わりはしないだろう。

思わぬところで暇になってしまったが、このまま待合室で待っていても暇だし、暇潰しがてら輝夜にでも顔を出すとしよう。

そう考えた俺は待合室を出て、輝夜を探しに永遠亭の奥へと足を踏み入れる。

屋敷の中は綺麗に掃除されていて、塵一つ落ちてはいないが相変わらずウサギ達が走り回っている。

ここまで多いと病院なのかウサギ小屋なのか分からなくなってくるが、もっと分からないのはコイツ等が何処からやって来ているのかだ。

なんか前に来た時よりも数が増えている様な気がするんだが、多分気のせいだろう。アイツ等の正確な数なんて一々把握してられないし、俺が気にする様な事じゃない。

 

数多く居るウサギ達を出来るだけ見ないようにしながら廊下を歩いていると、中庭の方からなにやら乾いた音が聞こえてくる。

その音が何となく気になり、音のするほうへと向かってみると中庭の縁側で輝夜と月夜見が将棋を指していた。

二人とも集中しているのか俺が近付いても気付かず、盤の上に並べられた駒を凝視している。

いや、凝視しているのは輝夜だけで、月夜見は輝夜がどんな手を打ってくるのか注視している感じか。

盤の状況から見て月夜見の方が押しているらしく、輝夜はかなり押し込まれている。

下手な手を打てば押し切られ、そのまま負けてしまうのは本人も分かっているだろうが、手の内ようがなく挽回できずにいるようだ。

 

「……これで如何かしら」

 

輝夜本人も自身がないのか、訝しみながら駒を動かすが……その一手は間違いなく悪手だ。

 

「ふむ。では私はこうしましょう」

「ま、待ったッ!」

「待ったなしです。というか、もう五度目ですよそれ」

 

玉の周りの駒を動かすことが出来ず、仕方がなく歩を動かしたようだがその隙間は角にとって絶好に道だ。

その隙間を通って銀の斜め後ろにつければ取られる心配もないし、馬になってしまえば機動力は更に増す。

直ぐに角を取れる駒は無いし、後二、三手もすれば詰みだな。

 

「五回も六回も大して変わらないじゃない! だから待って!」

「駄目です。大人しく負けを認めなさい」

「ま、まだ詰んでないから負けた訳じゃないわ!」

「今はそうかもしれないが、あと二、三手もすれば詰むぞこれ」

「うっさいわね。外野が横から口出ししないで……って、あらリュウ。来てたの」

「まぁな。……しかし酷いやられ様だな」

 

対局が終わって改めて盤上を見てみると輝夜がいかに追い詰められていたのかが分かる。

輝夜の持ち駒は少なく、月夜見に大部分を取られてしまっている。

飛車と角は盤上に一枚ずつしか存在していないが、月夜見の手元にはその二枚の駒がない。

恐らく最初から月夜見が飛車と角を抜いた状態で始めたんだろうが、この負け方は酷いな。

 

「うるさいわね。お父様が強すぎるのが悪いのよ」

「輝夜が弱すぎるだけだろ」

「なんですって?!」

「これこれ、落ち着きなさい輝夜。……ところでリュウ、今日は何用で来られたのですか?」

「遊びに来た……と言いたいところだが、今日は永琳の診察を受けにきた。霊夢が中々懐妊しないからその相談にな」

「あ~そういえば、貴方達の間に子供が出来たなんて話全然聞いてないわね。やっぱりまだだったの」

「残念ながらまだなんだよ」

 

おどけた風に言いながら俺はその場に腰を下ろし、輝夜が用意したと思われる茶菓子に手を伸ばす。

 

「って、こら。勝手にわたしのお菓子を食べないでよ」

「また買えばいいだろ。ケチケチするな」

「簡単に買えないから言ってるのよ。……今月のお小遣い結構やばくて、お菓子を買う余裕すらない」

「どんだけ切羽詰ってるんだよ、お前」

「わたしは悪くないわよ。全てはあの竹林ホームレスがわたしの盆栽たちを壊したのが悪い」

「……お前ら相変わらずだな」

 

じゃれ付いてるのか、殺し合ってるのか分からない戦いを何百年も続けているコイツ等に妙な感心をしてしまう。

そんだけ長い間いがみ合っていれば熱も冷めてくると思うんだが、蓬莱人になって時間の感覚も変わっちまったから、簡単に熱が冷めなくなっているのかねぇ。

 

「……ふむ、確かに盆栽を壊したのは彼女ですが、その原因を作ったのは輝夜でしょう。彼女一人を悪者したてるのはやめなさい。コレも一つの自業自得ですよ」

「うっ……」

「なんだ、結局はお前が悪いんじゃねぇか」

「彼女に突っ掛からなくてもよき友人になれると思うのですが、どちらも素直では無いのが玉に瑕ですね」

「いや……コイツ等はそう言う関係じゃないと思うぞ」

「おや、違うのですか? 私はてっきり喧嘩友達なのだとばかり」

「顔を合わせれば殺し合う友なんて嫌だなぁ~……」

 

月夜見の感性は若干ずれている様な気もするが、深くは突っ込まないでおこう。

 

「なによ、二人して。そんなに私が悪いって言いたいの!?」

「誰もそんな事いってねぇだろうが」

「そうですよ。貴女達が仲良くしてくれれば屋敷の修繕費などが掛からなくて済むのにと思っているだけです」

「なんだ? そんなに修繕費が家計を圧迫しているのか?」

「いえ、そう言うわけではないのですが、掛からなくてもいい出費なら削減したと思いません?」

「……すまん、その感覚は分からねぇわ」

「おやそうですか。……無駄遣いも度を過ぎればただの浪費ですよ」

「その二つは同じ物だと思うがな」

「ふん! 無駄な出費ばかり出してすみませんね!」

「分かっているのなら減らしてもらいたいですが、これは今の輝夜なのでしょう。ならばそれはそれで良しとしましょう」

「……いや、意味が分からないんだが」

 

月夜見の良く分からない感性に若干呆れながら、輝夜の茶菓子に手を伸ばして口の中に放り込む。

俺達に好き放題言われて輝夜はすっかり不貞腐れてしまうが、月夜見は穏やかな笑顔を浮かべたまま輝夜を慰めようとする。

そう簡単に輝夜の機嫌が直るとは思えないし、放っておけばその内勝手に直っているだろうから気にしない。

月夜見も放っておけば良いものを、下手に慰めようとするから返って駄目になるんだが……分かっててやってるのかコイツ?

イマイチ掴みどころの無い月夜見に頭を悩ませていると、コッチへと近づいてくる誰かの足音が聞こえてきた。

振り返って廊下の方を振り返ると、辺りをキョロキョロを見渡しながらうどんの奴がやって来るのが見えた。

 

「あ、こんな所に居た。師匠が呼んでましたよ、リュウさん」

「そうなのか。ってことは、霊夢の診断が終わったのか。……行きたくねぇ」

「リュウが診断如きに臆するなんて珍しいわね。一体何があるのかしら」

「……不妊症の診断らしいんだが、なんか血液とか精液を採取するんだってよ」

「あ~……それは、その……頑張ってとしか」

「受けたかねぇけどしゃーねぇか」

 

俺は深い溜息を吐きながら席を立ち上がり、二人に別れを告げて診察室へと向かって歩き始める。

健康診断を受けたり、血を採取されるだけならまだいいが、精液まで採取されるのは流石に気が重い。

正直な話かなり気が進まないが、コレも仕方のない事だと割り切るしかないか。

 

「……でもやっぱり気が進まないな」

 

愚痴ばかり出てきてしまうが、なんとか頑張って乗り切ろう。

もう一度深い溜息を吐きながら俺は重い足取りのまま診察室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

診査を受けて約一ヵ月後。うどんの奴から不妊症の診断結果が出たと報告を受け、永遠亭へとやって来た。

あの検査を受けてからだいぶ時間が掛かったが、調べるのに時間が掛かるといわれていたし、永琳の奴をとやかく言うつもりはない。

これで不妊の原因が分かれば良いと二人で話しながら診察室に入るが、永琳の表情は浮かない物だった。

 

「来たわね、二人共。流石に早かったわね」

「そりゃ診査結果を待っていたんだから直ぐに来るわよ。……それで結果は如何だったの?」

「……結果だけを言えば二人とも何の異常も無いわ。健康そのものよ」

「それは嬉しい事だが、ならなんで俺達に子供が出来ないんだ?」

「その事を説明する前に一つ聞かせて。……リュウ、貴方は確か以前の肉体から抜け出た力で今の肉体を再構成したのよね」

「あ、あぁ。俺の根源であるアンフィニには再生能力があるから、それで今の肉体を作ったんだと思う。肉体としては蓬莱人のそれに近いんじゃないか? 力を核に肉体(うつわ)を作ってるんだろ」

「そう。……それじゃやっぱりこの原因はリュウにある訳か。全くどうなってるのかしらね、貴方達の体は」

「貴方達って一体如何言う事よ。濁してないでさっさと言いなさい」

 

急かす霊夢に永琳は視線を逸らし、よほど言い辛い事もであるのか口を閉ざしてしまう。

俺は急かす霊夢を宥めつつ、永琳が口を開いてくれるのを辛抱強くまつ。

永琳の沈黙は少しの間だけ続いたが漸く話す気になってくれたのか、永琳は真っ直ぐ俺達の方を向き口を開く。

 

「検査結果から言えば貴方達の身体に異常はなかった。でも、リュウに問題があったのよ」

「異常が無いのに問題が有るって矛盾してるわよ、それ」

「医学的に見れば異常は無いのよ。ただ、リュウから採取した体液から膨大なエネルギーが検知されたわ」

「膨大なエネルギー?」

「竜神の力の欠片とも言うべきかしら。普通だったら体液には存在しえないその欠片は当然精子にも含まれていて、その欠片の所為で卵子が受精する前に死んでしまっているのよ。つまり貴方達の不妊はその力の欠片が原因でしょう」

「………………」

 

永琳の信じがたい話に流石の俺も言葉を失ってしまう。

俺達のどちらかが病気ならまだ救いはあった。俺が不能だっていうならまだ許せた……でも、これはそう言う事じゃない。俺の力が強大すぎる所為で受精できていないんだ。

理解しがたい理由だが、まさか不妊の原因が自分の力の所為だなんて夢にも思わなかった。

 

「驚いているようだけどまだ話は終わっていないわ」

「……まだ有るのかよ」

「えぇ。こっちは霊夢の身体の方ね。今回の検査で分かった事だけど、霊夢の身体は少しずつ人の物ではなくなってきているわ。恐らく竜の力が体外に排出されずに取り込んでしまった結果ね。あれ程のエネルギーを取り込めるだなんて流石に信じがたいけど」

「ちょっと待ってくれ。それは……つまりアレか、霊夢が徐々に竜族になって来ているって事か?」

「竜族というよりも魔法使いの肉体と同じ様になっていると言った方が正しいわね。アレは肉体の原動力が魔力となっているけど、それと同じで霊夢もいずれは自身の力だけで永く生きられるようになる。……でもそれはもう人間のあり方ではないわ」

 

永琳から告げられたもう一つの事は先ほどの物よりも俺に衝撃を与えた。

霊夢が人間の理から外れ、妖怪の様に長寿となる。彼女とはずっと一緒に居ると約束しているし、本当にそうなれば良いと思った事がない訳じゃない。……でも、実際にそうなってしまうと喜びよりもショックの方が大きかった。

意図的にした訳じゃないとは言え、俺はこうなって欲しくて霊夢と一緒になった訳じゃない。

予想だにしていない事態に霊夢も言葉を失ってしまっている。今の彼女になんて声を掛けてやればいいんだ……。

 

「……大体の事は理解したわ。で、一つ聞きたいんだけどいいかしら」

「えぇ、私で答えられる範囲なら」

「肉体が人外になっているは分かったけど、私ってちゃんと妊娠できるの?」

「「……………はい?」」

 

霊夢の突拍子もない質問に永琳だけでなく俺も変な声を出してしまった。

人間じゃなくなるって言われて意気消沈してるかと思えば、いきなり何聞いてるんだコイツ。

 

「……ごめんなさい、霊夢。もう一度質問して」

「だから、人外になっても妊娠できるのかって聞いてるのよ。神社の跡取りが出来ないと母さん達が煩いし」

「あ、貴女、自分が人ではなくなって来ていると言うのに他に心配することは無いの?」

「別に無いわよ。私とリュウが結婚した時点で次代の巫女が普通の人間ではない事が決まっているもの。なら、私が人間をやめた所で何の問題も無いわ。それでちゃんと懐妊できるの?」

「……現状で言えば無理ね。さっきも言った通り今の貴女の卵子ではリュウの力を宿せないわ。だけど、貴女の身体がリュウの力に完全に馴染んでしまえば問題なく受精できる筈よ。最初に言ったけど貴女達の身体は健康だもの」

「そっか。出来るだけ早いほうが嬉しかったんだけど、こればっかりは仕方が無いか。ま、妊娠できると分かっただけ良しとしますか。……ところで話はもう終わりかしら?」

「えぇ。……というか、呆れてしまってもう何もいえないわよ」

「あっそう。なら、私達はもう帰らせてもらうわ」

 

平然としている霊夢に呆れる中、俺は霊夢に腕を引っ張られ、そのまま診察室を後にする。

そして霊夢に連れられるがままに永遠亭を後にするが、やっぱり霊夢のあの態度が信じられなかった。

自分が人間ではなくなってしまうと言うのに、それを気にしている様な素振りをまったく見せない。

現に今だって鼻歌交じりで歩いていて、無理して明るく振舞っているようには見えなかった。

問題なく妊娠できると知って嬉しいんだろうが、自分が人間でなくなる事が怖くないのだろうか?

如何してもその事が気になってしまい、俺はつい足を止めてしまう。

 

「ん? 如何したのよ、リュウ」

「いや……霊夢は自分が人間じゃなくなるのが怖くないのかなって思って」

「あぁ、さっきの話の事? それだったら別に怖くない訳じゃないわよ」

「そ、そうなのか? その割には鼻歌交じりで喜んでいるように見えたんだが……」

「だって喜んでる物。そう見えるのは当然じゃない」

「……流石に訳が分からなくなって来たぞ。怖くない訳じゃないが喜んでるのか?」

「そういう言い方されると私としても反応に困るんだけど……」

「だってそう言う事じゃないのか? 人外になるのが怖いのに喜ぶって」

 

俺が疑問をぶつけると霊夢は呆れたように笑う。

 

「いやいや、私が喜んでいるのはそこじゃないわよ」

「じゃあ何で喜んでるんだよ」

「私が喜んでいるのはリュウとの子供がちゃんと出来るんだって事。子供が出来るのは分かっていたけど、中々妊娠の兆候がこないから結構心配だったのよね」

「そ、それを喜んでいたのか? 自分が人でなくなるってのに?」

「その事については確かに驚いているし、自分が人でなくなる事が怖くないわけじゃない。ただ、それ以上にリュウとの間に子供が出来るのが嬉しいのよ。ずっと欲しいって思っていたんだもの、妊娠できると聞いて喜ばないわけないじゃない」

「…………………」

「それに私は人外になるのが嫌じゃないわよ」

「そ、そうなのか?」

「えぇ。……だって、人間の理から外れるってことは人間の寿命に縛られなくなるって事でしょ? なら、その延びた寿命の分だけリュウと一緒に居られるじゃない」

 

そう言って笑う霊夢の顔には人の理から外れることへの恐怖は微塵も感じられなかった。

変わってしまう自分への恐れも、未来への不安もなく俺と一緒に居られる時間が延びたと笑っている。

俺は自分の所為で霊夢が変わってしまう事に申し訳なく思っていたが、彼女はそんな事は微塵も気にしていないようだ。ただ一緒に居られる時間が延びた事と、家族が増えることを素直に喜んでいる。

そんな霊夢の前向きな姿勢に申し訳なさが募っていた俺の心が少しだけ軽くなるように感じた。

 

「肉体的には魔法使いのようになるって言っていたし、きっと千年単位で寿命が延びるのよね。とんでもなく長生きになりそうだわ」

「……とんでもなくなんてレベルじゃないだろう、それ」

「でも間違いなくそのぐらいは延びるわよ。千年後の自分なんてどうなっているのか想像も出来ないけど」

「そんなもん俺だって想像も出来ねぇよ。……だけど、コレだけは分かる。千年後の今もきっと隣りには霊夢が居るんだって」

「えぇ、それだけは間違いないわね」

 

そう言って俺達は笑い合い、再び歩き始めて帰路へとつく。

今回の件で先代たちに何て言われるか分かったもんじゃないが、今だけはコレから先も霊夢と一緒に居られる事を喜ぼう。

先代たちから物凄く怒られそうな気もするが、隣に霊夢が居てくれるなら何とかなるだろう。

コレから先も隣に最愛の人が居てくれる事を喜びながら、俺達は竹林の中をのんびりと歩いて帰った。

……そしてこの一年後、霊夢は無事俺の子を身篭った。

 




後日談は次回で最終回です。あくまでも〝後日談〟なので元々長く書く予定はありません。


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後日談その三

竜幻の後日談は今回で最終回となります。元々オマケで書き始めたものですし、三話もあれば十分ですよね。
今回は霊夢が妊娠してから約十ヵ月後。つまりは臨月を迎えている状態で始まります。


霊夢の妊娠が発覚してから数えて十ヶ月が経った。予定ではそろそろらしいんだが、俺は医者じゃないし、詳しい事はよく分からん。

家では霊夢の出産に備えて色々と小物が増えてきてはいるから、もうじき自分の子供が生まれて来るんだなぁ~と頭の片隅では思うものの、未だに父親になるんだという自覚が湧いてこない。

そもそも俺に親なんてものは居ないから、父親と言う物が一体如何言うものなのか掴めずにいる。

参考になればと人里で親子の姿を眺めたりもしたが、所詮は他人。ただ眺めていても何も感じられなかった。

 

「―――と言う訳で、お前等の両親の話を聞かせて欲しい」

「唐突じゃな。妾の宮殿に遊びに来て何事かと思えばコレか……」

《まぁいいではないですか。珍しく竜が頭を下げているのですから》

「いや、頭は下げておらんじゃろ」

 

霊夢の出産予定日が目前にまで迫ったある日、俺は竜宮で龍神と天照と茶を飲んでいる。

まぁ正確に言えば、龍神と天照が茶を飲んでいるところに俺が押し掛けたんだがな。

 

「頭を下げて話が聞けるなら幾らでも下げるが、別にそんな事をしなくてもお前等なら話してくれるだろ?」

「まぁのぉ。お主と妾達の仲じゃし、そんな事せんでも話してやるが……何の参考にもならんぞ? 妾も物心ついた時から一人じゃったし」

《私の父はまだ存命だと思いますが、生まれて間もなくの私に高天原を任せて行方を眩ました方ですから、コレと言って何かをして頂いた記憶は有りませんね》

「……人の事は言えないがお前等も大概だな」

「いや、こんなもんじゃろ」

 

シレっと龍神は言うが、確かにコレじゃ何の参考にもならないな。

天照のやつは生まれる前から母親が死んでるのは知ってたが、龍神のやつがずっと一人だったってのは初耳だな。もしかしたら昔聞いていたのかもしれないけど、コイツと旅をしていた頃の記憶なんて忘れてるから仕方が無いな。

 

《それにしても竜と霊夢の子供ですか……。お二人の事を知っている身としてはなんだか感慨深いです》

「確か子供は双子と言う話じゃったな」

「永琳の話だとそうらしい」

《あらあら、双子ですか。それは賑やかになりそうですね》

「子供が居なくても賑やかな家が更に賑やかになるのか……。頭が痛くなりそうだな」

「今からそんな事を言ってどうするんじゃ」

 

龍神は呆れたようにいうが、個人的には本気で頭の痛くなりそうな話だ。

子供が元気なのは良いんだが、問題なのは周りの連中なんだよな……。一癖も二癖も有る奴しかいないから、子供達がそいつ等の影響を受けそうで凄く怖い。……いっその事、子供達が成長するまで奴等の出入りを禁止にするか?

 

「……物凄く下らない事を考えておる様な気がするが、気のせいか?」

「気のせい気のせい」

《まぁ竜が何を懸念しているのか何となく分かります。幻想郷の住人は癖の強い方が多いですし》

「特に八雲とか八雲とか八雲とかな。胡散臭いという言葉が服を着て歩いているような奴だし」

「お主達の仲は相変わらずじゃな。少しは仲良くできんのか」

「いや無理。アイツとは千年かかっても分かり合える気がしない」

《……よほどお嫌いなのですね》

「嫌いというよりもお互いの性格の問題じゃと思うがのぉ」

「俺はあのババァよりましな性格だろ」

「五十歩百歩じゃな」

《どちらかと言えばどんぐりの背比べかと》

「お前等なぁ……」

 

二人に好き勝手な事を言われて思わず拳を力一杯握ってしまう。

この拳を二人にぶつける訳には行かないが、アレと同列に見られるのはかなりムカつく。

あんな胡散臭いババァと大差ないとか、そんなに性格悪くないと思うぞ俺。

 

「まぁお主と八雲の性格については如何でもいいとして―――」

「いや、良くねぇよ」

「―――生まれて来る子供が双子となると、霊夢の後継をどちらにするかが問題になってくるのぉ」

《そうですね。流石に二人を後継に指名するわけにも行きませんし、やはりどちらの力が優れているのかを見なければならないでしょう》

「うむ。博麗の巫女は一人と決まっておるし、選ばれなかった方は別の名を与えねばなるまい」

「俺はその手のお家問題は嫌いなんだがな。俺にとってはどちらも大切な子供だ、片方だけを贔屓するような育て方はしたくない」

「育て方についてまで口を出すつもりは無いが、霊夢を何時までも巫女として据えておく訳にもいかない以上、何時の日か選ばねばならぬ日が来るとだけ覚えておけばよい」

「さよけ。……どうにも面白くない話だな」

《竜の気持ちも分からない訳ではありませんが、そう言うものだと割り切ることも肝心かと》

「簡単に割り切れるなら苦労はしないっての」

《……それもそうですね》

 

悪態をつきながら出されていたお茶に手を伸ばし、一口飲んで気分を変える。

二人だってこんな話をしたいわけではないだろうが、何時の日か選ばなければならない日が来る事を教えたかったのだろう。

なんだかんだでコイツ等との付き合いも長いし、その辺りの事は口に出さなくても伝えたい意図はなんとなく伝わってくる。……でも、もうちょい言葉を選んで欲しいところだけどな。

 

《ところで話は変わるのですが、竜と霊夢はこれから如何するのですか? ずっとあの神社に居るのですか?》

「……あんまり考えてなかったな。別に問題はないと思うが、何かあるなら別宅でも建ててそこで暮らすさ」

「簡単に言うが別宅を建てる当てはあるのか? お主達が別の場所で暮らすとなると妖怪や神々が良い顔せんのじゃが……」

「よく宴会を開いてる天界の僻地があるだろ。あそこなら土地の面積も十分にあるし平屋の一戸建てを建てるのも余裕だろ」

《なるほど、確かにあそこならば誰も文句は言えませんね》

「ほぅ……お主にしては考えておるのぉ。よし、それならばあの地にでっかい屋敷でも建てるか!」

《それは名案ですね。あの地にはよく皆が集りますし、全員が入ることの出来る屋敷を建てましょう。竜の屋敷ならば仕事を怠けてもも誰も文句は言えないでしょうし》

「何勝手に話を進めてんだ。てか、仕事を怠けるなよ太陽神」

《別に良いではないですか。私は年中無休で働いているのですから、偶には休みをいただきませんと》

「そのダシに使われる俺の身にもなりやがれってんだ」

《過去に散々迷惑を掛けてきた貴方がソレを言える立場にいるとでも?》

「ぐッ。……それを言われると返す言葉が出ないんだが」

《それでしたら文句はありませんね?》

「………………もう勝手にしろ。どうせ別宅で暮らすのは先の話だしな」

 

若干不貞腐れながら茶菓子に手を伸ばしながら、これ以上は何を言っても無駄だと悟る。

天照に文句が言えない以上、あーだこーだと喚いても結果は何も変わらん。

龍神の奴は俺が何を言っても聞く耳なんて持たないだろうし、言うだけ無駄と分かっているから最初から相手にしない。

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、二人は楽しげに屋敷の構想を練っている。

庭に大きな桜の木が有るとよいかもしれんとか、それよりも日本庭園を造った方が風情があるとか言っているが、俺の意見は聞く気なしですかそうですか。

まったく、その屋敷で暮らすことになる俺達の意見を聞かずに話を進めるなよ。

 

「……やれやれ、付き合いきれないな」

「ん? なんじゃ、もう帰るのか?」

「あぁ。何の参考にならなかったわけだし、長居する理由も無い」

《そうですか。でしたら彼女たちに宜しくお伝え下さい。子供が生まれましたら顔を見に行きますので》

「わーったよ。それじゃまたな」

 

二人に別れを告げて俺は転移魔法を使って竜宮を後にする。

足元から立ち上った光に視界を遮られ、再び視界が開けると俺は神社の境内に立っていた。

龍神の所に行ったのに土産を貰わずに帰ってきた事に今気付いたが、態々土産を貰いに買えるのも格好悪いので今回は仕方が無いと割り切ろう。

折角遊びに行ったんだし、お茶が菓子でも持って返って来ればよかったと思いつつ、本殿を回り込んで裏庭に出ると霊夢と鉢合わせになる。

丁度トイレから出て来た所なのか、霊夢は大きくなったお腹を擦りながらしかめっ面をしている。

 

「う~ん……。一体なんなのかしらね」

「よう、霊夢。どうかしたのか?」

「あらリュウ。お帰りなさい。別に如何かしたって訳じゃないけど、ちょっとお腹の調子が悪くて」

「おいおい大丈夫なのか? もし酷いようなら永遠亭に連れて行くぞ?」

「このくらい大丈夫よ。間隔は短くなってきてるけど、別に耐えられない痛みじゃないわ」

「いや、無理に耐えようとするなよ。身重なんだからあまり心配掛けさせないでくれ」

「だから大丈夫だって。まったく、心配性なんだから」

 

そう言って霊夢は明るく振舞ってはいるが、さっきのしかめっ面を見るとどうも気になってしまう。

本人が大丈夫だと言っているし、あまり問い詰めるような真似はしたくないが、一応注意だけはしておくか。

 

「それはそうとリュウ。子供の名前は考えてくれた?」

「あ~……幾つか候補はあるぞ。女の子のは竜華か麗奈で、男の子の方は竜夜か零児ってのはどうだ?」

「……その名前、私達の名前から取ったでしょ」

「すまん。他に思いつかなかったんだ」

「まぁいいわ。そこまで変な名前でもないし」

 

もし変な名前だったら考え直させられていたんだろうか。

思わずそんな言葉が出掛かったが、十中八九考え直させられていただろうから口には出さずに飲み込む。

一応の合格に内心ホッとしながら母屋の縁側に腰を下ろす。

霊夢も縁側に腰を下ろして隣りに座るが、近くで見れば見るほどでかくなったと感心させられる。

このお腹に赤子が二人も入っているのかと思うと、女性の身体ってのは本当に不思議だと思ってしまう。

 

「ん? 私のお腹をジッと見て如何したの」

「いや、本当にでかくなったなぁ~と感心してな。そのお腹に赤子が二人も居るのか」

「そうよ。まさか子供が双子だなんて思いもしなかったけど、ちゃんとお腹の中に居るわよ」

「俺達の子か……。予定日までもうすぐだってのに、未だに実感が湧かないんだよな」

「ちょっとしっかりしてよ。アンタがそんなんで如何するのよ」

「そう言われても俺は他の生物とは生まれ方が根本的に違う。アンフィニが使命を果すために必要な肉体を創り上げ、邪神を滅ぼす為にずっと戦い続けてきたんだ。そんな俺に子供が出来るって言われてもいまいちピンとこなくてな。数多の敵を滅ぼしてきた俺が子供を育てるなんて事が出来るのかねぇ……」

「むぅ……」

 

隣りで溜息を吐く俺を見て何を思ったのか、霊夢は俺の手を掴んで自分のお腹に触れさせる。

俺が驚いているのを他所に、霊夢が掴んだ手を離さずにお腹に触れさせていると、掌から霊夢の体温とは別に二つの小さな鼓動が伝わってきた。

とても小さな鼓動だが、それは確かに霊夢のお腹の中で力強く生きている。

 

「……どう、伝わってる? これが私達の子供よ」

「……あぁ、ちゃんと伝わってる。随分と小さい鼓動だな」

「小さくてもこの子たちはちゃんと生きているわ。私達の血を受け継いでここでしっかりと生きているの。もうすぐこの子達は生まれて来るんだから、そんな弱気なこと言わないでよ。そんなんじゃこの子たちに笑われるわよ」

「悪い。でも、今まで経験した事の無いことだからどうしてもな」

「私だって初めてよ。母親としてこの子たちに何をしてあげられるのか分からないし、不安な事だらけだけど……二人ならどんな事だって乗り越えられるわ。今までだってそうだったじゃない」

「……あぁ、その通りだな。そうやって色んな事を乗り越えてきたんだもんな」

「そうよ。だから、そんなに抱え込まなくたって大丈夫よ。きっとなんとかなるわ」

「ああ。……ありがとうな、霊夢」

「馬鹿ね、別に礼を言う様な事じゃないわよ」

 

そういって霊夢は笑って俺を励ましてくれた。不安なのは自分も一緒のはずなのに、俺はその事をすっかり忘れていた。

今までに色んな事件や異変に立ち向かってきたけど、隣には何時も霊夢が居てくれた。

父親の自覚なんて湧いてこないし、不安な事や分からない事は山積みだけど、霊夢が傍に居てくれるならきっと何とかなるだろう。今までがそうだったようにコレからもそうやって乗り越えていけるはずだ。

これから生まれて来る子供に大切な事を、伝えなきゃいけない事をしっかりと伝えていこう。

掌から伝わる小さな鼓動に感じながら決意を固めていると、微笑んでいた霊夢の顔が急変し、急に顔を顰めてお腹を押さえ始める。

 

「ッ!? な、なによこのいたみ……ッ」

「お、おい如何したんだ霊夢? やっぱり何処か具合でも悪いのか?」

「よく、わかんないけど……きゅうにおなかがいたくなって……」

「は、はぁ?! お腹が痛いってなんか変な物でも食ったのか!?」

「そんなのたべてないわよ。でも、これはけっこうつらい…かも……」

 

お腹を押さえる霊夢の額には脂汗が滲んでいて、素人目から見てもかなり大変な状態だと言う事が分かる。

一体如何してこうなったのかと言う疑問をかなぐり捨て、俺はお腹を抑えて痛がる霊夢を抱きかかえた。

 

「衣玖! おい、衣玖ッ!!」

「は、はい! なんでしょうリュウ様!?」

「俺は霊夢を永遠亭に連れて行く。悪いが霊夢の荷物を纏めて永遠亭に持って来てくれ。頼むぞ」

「はい、承知いたしました」

 

呼びつけた衣玖に指示を出した後、俺は直ぐに転移魔法を使って永遠亭に跳ぶ。

永遠亭の中庭に転移した俺は靴を脱がずに屋敷へと上がりこんで、永琳を探し始める。

途中でウサギ達に引き止められるがそんなの無視し、診療室の扉を蹴破って中に押し入る。

 

「キャアッ!? い、一体何事!?」

「すまん。壊した扉は後で弁償する。それよりも急患だ」

「ふむ……如何やらそうみたいね。ところで霊夢、痛いのはお腹よね? その痛みは何時頃から来てるの?」

「け、けさから……。だんだんかんかくがみじかくなってきてて……」

「なるほど、どうやら陣痛みたいね。予定日よりちょっと早いけど、有り得ない事じゃないか」

「いや、一人で納得してないで何とかしてくれ」

「分かっているわ。とりあえずこの部屋では処置できないから別の部屋に行きましょう。……うどんげッ! ちょっと来なさいッ!」

「はい、なんですか師匠……って、うわッ!? リュウと霊夢、何時の間に」

「その話は後にしなさい。それよりもうどんげ、二人を分娩室に案内して。それが終わったら今日の診察は終了したと張り紙を出しておいて。それも終わったら他にもやって貰う事があるから直ぐに私のところにきなさい」

「分かりました……って、あれ? 霊夢の予定日って確か明後日の筈じゃ」

「予定は飽く迄も予定よ。そんな話をしている暇があったらさっさと言われた仕事をしなさいッ!」

「は、はいッ!! そ、それじゃリュウは私の後についてきて」

「……なんでもいいから早くしてくれ」

 

能天気なうどんに呆れながらも、二人のやり取りを見て若干だが冷静さを取り戻せた。

俺が慌てた所で出来る事なんて何も無いし、今は大人しく永琳の指示に従っておこう。

落ち着きを取り戻した俺は、先導するうどんの後をついて行き、永琳が言っていた分娩室とやらに入る。

部屋の中には変わった台座が置いてあり、うどんの指示で霊夢をその台座の上に寝かせる。

うどんはそれを見届けた後、次の仕事の為にそそくさと部屋から出て行ってしまう

痛がる霊夢の手をしっかりと握り締めて励ましていると、部屋の戸が開き永琳が部屋に入って来た。

 

「あら、うどんげは居ないのね。これから忙しくなるって言うのにあの子ときたら」

「居ないのはアンタがさっき張り紙を出しておいてくれと頼んだからだろ」

「それは分かっているわ。それよりもリュウ、これから色々と処置しないといけないから貴方は出て行って」

「出て行ってって……俺に何か出来る事は無いのか?」

「何も無いわ。それどころか処置の邪魔になる。……まったく、予定日より早いとは言え、こうなる前に霊夢を連れてきて欲しかったわね」

「………………」

 

こんな時にお叱りの言葉を貰うとは思いもしなかった。

医者としてはやらなきゃいけない事が多々あるから、文句を言いたくなるのかもしれないが、こっちは見ただけで陣痛が始まってるのか分からないんだから無理を言わないで欲しい。

それに処置の邪魔になるって言われても痛がっている霊夢を残して退室する訳には―――

 

「り、りゅう……。わたしならだいじょうぶだから」

「霊夢。本当に一人で大丈夫なのか?」

「このくらいだいじょうぶよ。だから、アンタはそとでまってて。すぐにおわるから」

「…………分かった。それじゃ永琳、後の事は頼む」

「えぇ、任せておきなさい」

 

俺は霊夢の言葉を信じ、永琳に後を託してから部屋を退室すると、入れ替わりでうどんが部屋に入る。

遅れてきたうどんに永琳が叱り付けているのを尻目に、最後に霊夢の方に眼を向けると彼女は微笑んでいた。

陣痛の痛みが続いていながらも微笑む霊夢に、俺も笑顔で答え、分娩室の扉を静かに閉めた。

廊下の壁にもたれ掛かり、霊夢と子供たちの無事を祈っていると流石に周りが慌しくなってくる。

騒ぎを聞きつけた輝夜たちが分娩室の前に集り、荷物を抱えた衣玖と先代がやって来た。

 

「お待たせしました、リュウ様。霊夢さんはどちらに?」

「部屋の中だ。あとは永琳に任せるしかない」

「ちょっとリュウ。この家は土足禁止よ。靴くらい脱ぎなさい」

「あぁ悪い」

「……これは駄目みたいね」

 

周りが話しかけてくるのを聞き流し、俺は霊夢達の無事を祈って部屋の前に立ち尽くす。

俺が部屋から退室してどのくらい経っただろうか。こうしてただ待っているだけなのに今は一分一秒が非常に長く感じられる。

分娩室の扉は硬く閉ざされていて中の様子を窺うことはできない。

俺はただ、扉の前で立ち尽くすこととしか出来ず、祈っている事しかできない自分がとても歯がゆかった。

ただ只管に霊夢と子供達の無事を祈り続けていると―――

 

「おぎゃあ、おぎゃあッ」

 

―――分娩実の中から赤子の鳴き声が聞こえてきた。

その泣き声に周りは色めき立つが、分娩室の扉は閉ざされたまま。

逸る気持ちを必至に抑えながら扉が開くのを待ち続けていると、部屋の中から第二子の泣き声が聞こえてきた。

そしてその数分後、漸く分娩室の扉が開かれ中から疲れ切った様子のうどんが出て来た。

 

「り、リュウ。待望のお子さんが生まれたわよ。母子ともに異常はなし」

「そうか」

「……え? 労いの言葉もなし?」

 

何やら不満そうにするうどんを無視し、俺は分娩室に入り霊夢の傍へと歩み寄る。

霊夢の腕には生まれたばかりの二人の赤子がおり、とても安らかな顔で眠っていた。

永琳は気を利かせてくれたのか、何も言わず退室し、分娩室の中は俺達だけになる。

傍に近付く俺に霊夢は何も言わず、眠っている赤子の片方を俺に差し出してくる。

俺はそんな霊夢の行動の意図が読めず、ただ呆然と霊夢と赤子を交互に見返すだけしかできなかった。

それでも霊夢は微笑みながら赤子を差し出し、俺が受け取るのをジッと待っている。

俺は恐る恐る差し出された赤子を受け取り、そのまま抱きかかえると思った以上の重さを感じた。

剣や米俵に比べれば全然軽い筈なのに、俺の腕の中で眠るこの子はとても重く感じた。

命の重さとでも言えば良いのだろうか。俺は今まで感じたことの無い重さを前に、気が付けば自然と涙を流していた。

 

「ちょっと何泣いてるのよ。リュウにしては珍しい」

「さぁなんでだろうな。如何して泣いてるのか俺にも良く分からない」

「ふ~ん……。ま、私も何となく分かるけどね。私もこの子たちが生まれたとき泣いちゃったし」

「あまりの痛さでか」

「馬鹿、そんなんじゃないわよ」

 

子供が生まれたばかりだと言うにも拘らず、俺達は何時もの様に軽口をたたき合い、笑い合う。

出産を終えたばかりで疲れているはずなのに、霊夢はそんなのおくびにも出さず、何時もと同じ笑顔を見せてくれる。

 

「……霊夢」

「ん? なに?」

「お疲れ様。それとありがとう」

「労いの言葉は分かるけど、別にお礼を言われる様な事はしてないわよ」

「さて、なんでだろうな。ただ自然と言葉が出て来たんだ」

「そうなの。だったら今回は素直に受け取ってあげるわ」

 

憎まれ口を叩きながらも、霊夢は本当に嬉しそうな笑顔を見せる。

その笑顔に釣られて俺も顔が緩んでしまい、二人してまた笑い合う。腕の中で眠る小さな命とこの幸せを感じながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

そして時は流れ、現在―――

 

「……どうした零児。もう終わりか」

「ぐっ。まだまだァッ!!」

 

―――小さな木刀を握り締め、負けん気だけで必至に喰らい付いて来る我が子に剣の稽古をしていた。

まだまだ未熟で拙い剣なれど、俺に挑んでくる以上はわざと負けてやるような事はしない。

猪の様に真っ直ぐ突っ込んでくる我が子を前に、俺は受け止める事もせず半身を逸らし、攻撃を流してそのまま木刀を振り下ろし頭に一撃叩き込む。

 

「あいっだッ!?」

「この未熟者が。猪みたいに突っ込んでくるのは止めろと前にも言っただろ」

「でも、それくらいしか父さんに攻げきを当てる方法が思いつかないんだもん」

「だからって何度も失敗してる方法を愚直に繰り返すな。もう少し頭を使え」

「ぐちょくって?」

「あ~……愚直ってのはだな―――」

 

頭を抑え、涙目になっている我が子に言葉の意味を説明しようとした時―――

 

「あーッ! お父さん、零ちゃんいじめちゃだめーッ!!」

「……うるさいのが帰ってきたか」

 

―――朝から出かけていた愛娘の竜華が何故か龍神の奴と一緒に帰ってきた。

なんで龍神の奴と一緒なのかは知らないが、竜華がいると零児に剣の稽古が出来なくなるんだよな。

 

「零ちゃん大丈夫? 頭いたくなぁい?」

「このくらい大丈夫だって。大げさだな、まったく」

「だってわたしお姉ちゃんだもん! かわいい弟のことが心ばいなのです!」

「よけいなお世話だ! 姉ちゃんに心ばいなんてされたくない!」

「そんなひどい……ッ。お母さ~ん、零ちゃんがいじめる~ッ!!」

「別にいじめてなんかないだろ。……って、母さんによけいなことを言おうとするなッ!!」

 

霊夢に泣きつきに行った竜華を追いかけて、零児が剣の稽古を放り出してしまう。

この光景が我が家の日常となりつつあるが、あの子には色々と教えないといけない事があるし、毎日稽古が中断されるってのも考え物だな。……いっその事、竜華がやって来れない場所で零児を鍛えるか。

 

「やれやれ、此処は何時でも賑やかじゃのぉ」

「龍神、お前あの子と何してた。まさか変な事を教えてたんじゃないだろうな」

「なんも教えとらんわ! ただあの子に頼まれて、ちぃ~とばかし過去に介入をな」

「……ホントに何してんだよ、お前」

「じゃから大した事はしておらん。過去に介入したといっても歴史を変えられるほど長くは無い」

「……それだったら別にいいが」

「やれやれ、お主は本当に疑り深くなったのぉ。そんなに妾のことが信じられんのか」

「お前の事は信頼してるさ。……ただちょっと前に魔理沙の奴が竜華に余計な事を吹き込んでやがってな」

「あぁ、うん。霧雨の奴の後では疑われても仕方が無いか」

 

龍神が頷いている横で俺は深い溜息を吐き出す。

竜華は素直な子に育ってくれてはいるが、人を疑う事を知らなさ過ぎるから、周りの連中にある事ない事吹き込まれて頭の痛い日々が続いている。

この前も魔理沙の奴が竜華に俺なら湖の水を飲み干せるとか、訳の分からん事を言ったお陰でどれだけ苦労した事か。……まぁその後キッチリと報復はさせてもらったがな。

 

「何はともあれ、あの子達が順調に育っているようで妾は一安心じゃ」

「なに年寄り臭い事いってるんだよ。口調と相まって余計にそうみえるぞ」

「はっはっはっはッ。妾と同年代かそれ以上の癖に何言っておるんじゃ。下手な若作りは止めた方が良いぞ?」

「あははははははッ。面白い冗談だな。あまり勝手な事を言うとバラバラに切り刻むぞ」

「ぐぬぬ……。いや、戯れるのはここまでにしておこう。今日はその様な話をしにきたのではない。竜よ、お主も分かっておるとは思うが霊夢の後を継ぐのは―――」

「竜華だって言いたいんだろ。その位分かってる」

 

八年間ほどあの子達を育ててきて達した結論。それは零児に術を操る才能がないと言うこと。

性別が如何こうだとか、力の量が如何こうではなく純粋に零児に博麗の術を扱う事ができない。それが先代を交えて話し合った俺達の結論だった。

どうしてあの子に術を操る才がないのかは俺達には分からない。けど、博麗の秘術が扱えなければ、結界を管理しなければならない博麗の巫女は務まらない。

 

「うむ。……あの子の力は歴代の巫女の中でも最高峰に位置する。恐らくあれ程の力を持つ巫女はもう出てこぬかも知れぬほどにな。じゃから……その、零児を鍛える必要は―――」

「鍛える必要は無いとでも言いたいのか? それを決めるのはお前じゃないだろ」

「しかしじゃな、零児を鍛える暇があるなら竜華に力の使い方を教えてやった方が……」

「龍神。お前は俺のなんだ」

「な、なんじゃ突然? 妾はお主の最も古い友じゃ。そんなの今更聞くまでもあるまい」

「あぁ、その通りだ。俺もお前の事は親友だと思ってる。……でもな、それ以上余計な事を口にするようなら幾らお前でもただじゃ済まないぞ」

 

余計な事を言いかけている龍神を怒気を滲ませながら思いとどまらせる。

零児にその手の才能がない事は重々承知しているが、竜華だけを特別扱いになんてしたくはない。

竜華も零児も俺たちの大切な子だ。どちらかだけを贔屓するのではなく、分け隔てなく育てていきたい。それが俺たちの願いだ。

 

「何時かこの事を言わなくちゃならない日が来ても、俺達はこれまでと変わらずにあの子たちと接していく。お前や八雲からしたらそれがもどかしく思うのかもしれないが、それだけは絶対に曲げるつもりは無い。……だから龍神、それ以上は何も言わないでくれ」

「……分かった。お主がそう言うのであれば妾から何も言わない。じゃがな、何時までも黙っておることも出来ぬし、時間が経てば経つほど零児の心に大きな傷が出来る。出来るだけ早く告げた方がいい」

「それは分かっているさ。時機を見てちゃんと話す。……でもな、龍神。一つだけ思い違いをしているぞ」

「ん? なんじゃ?」

「零児は間違いなく俺の子だ。それだけは確かな事だ」

「そんなの当たり前じゃろが。一体何を言っておるんじゃ?」

「分かってないならそれでいいよ。説明するのも面倒くさい」

「その位面倒臭がらずに話しても良いじゃろが。……まぁよい、妾は伝える事は伝えた。後はお主達に任せる」

「へいへいっと」

 

悪態を付きながら追い払うと、龍神は呆れた様な顔をするが何も言わず黙ってこの場から消え去った。

龍神が居なくなった事で神社に静けさが戻るかと思いきや、今度は母屋の方が何やら騒がしくなって来た。

俺が龍神と話している間にあの二人が喧嘩でも始めたのかもしれないが、何はともあれ面倒な事が起こっている事に代わりは無い。

何やら騒がしくなって来た神社をみて溜息を吐きながら、騒動を収める為に俺も母屋へと向かう。

なんだかんだで毎日騒がしい日々を送っているが、これはこれで幸せな事なのかもしれない。そう思うと若干にやけてしまうが、子供達にあまりだらしない所を見せるわけにも行かない。

にやけそうになる顔を押し殺して、俺は今回の騒動の中心へと向かう。この胸にある幸せをしっかりと噛み締めながら……。

 




……はい、と言う事で如何だったでしょうか。【竜が辿り着いた幻想郷・後日談】これにて閉幕となります。
リュウと霊夢の間に生まれた双子の姉弟【竜華】と【零児】。姉の竜華は博麗の家系でも歴代最高峰のスペックを持っていますが、弟の零児は博麗の秘術を扱う才は欠片も御座いません。
そんな無才の彼ですが、なんと次回作の主人公に決定しました。
この先はそんな次回作の予告となっています。宜しければ次回作も読んでください。それではまた何時の日か……。



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