高校生からの物語 2期 (月島柊)
しおりを挟む

第1話 お別れ会の終わり

2期の開始です!早速悲しい雰囲気……


 お別れ会が終わり、なぎを車に乗せ、計画通り自販機に連れていった。

 

「なぎ、奢り」

「ありがとう……」

 

俺は缶のカルピスを手渡した。なぎは泣き出しそうだったが、今泣いちゃ早いさ。

 

「なぎ、じゃあ、行こうか」

「うん……」

 

俺は車を走らせた。最初の人が見えてきたところで、俺はスピードを落とした。

 

「どうしたの?」

「なぎ、右見てろ」

 

俺は確認しながら車を進める。

 

「永……遠……の……」

 

なぎは一文字ずつ読んでいく。そして、最後の「だ」まで読み終わる。

 

「永遠の別れじゃない!大好きだ……」

「なぎ、撫でるからこっち向いて」

 

俺は違う理由でこっちを向かせた。俺はプラカード「よ」を持っていた。

 

「うん──え……?」

 

なぎは俺の持っているものに驚いた。気付いたらしい。さっきと繋がっていることに。

 

「あと、なぎ、最後の3曲。頭文字読んでみ」

「えっと……難聴系男子の『な』、銀河鉄道の『ぎ』、桜ノ雨の『さ』…、えっ、うそ……」

 

なぎは再び驚く。

 

「私の名前……」

「そう。そういう風に曲決めてた」

「柊くん……みんな……」

 

なぎは運転中の俺に向けて泣く。顔を俺の太ももに乗せる。泣いている涙を拭っているんだ。

 

「なぎ……」

「行きたくなくなっちゃったじゃん……」

「大丈夫だって。週一で誰か行くから」

 

なぎはうわーんと泣く。俺は車を運転しながら思った。

 

 偽名を使っていたときから、なぎは仲良くしてくれた。俺に唯一仲良くしてくれた親友だった。そう考えると、涙がじんわりと沸いてくる。

 

「なぎ……頑張れよ」

 

俺は泣いているなぎに向けて言った。

 

 いつもより早く深谷駅についてしまった気がした。10分はかかるし、途中で遅く走っている。さらに、自販機まで行っているから15分以上かかっているはずだった。それなのに、体感では5分くらいだった。

 

「なぎ……」

 

俺はリモートで、家にいるみんなと繋いだ。

 

「みんな……」

《凪沙ちゃん、頑張れ!》

《凪沙、行ってこいよ》

 

胡桃と蒼真が言った。そして、俺が「せーの」と合図して、リモートのみんなと俺が同時に言った。

 

()()()()()()()()()()

「みんな……」

 

そう言った瞬間、ホームから放送が鳴った。なぎは用意していた切符、俺は入場券を買ってホームに行った。

 

「まもなく、1番線に快速アーバン、上野行きがまいります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください」

 

俺はグリーン車の前に立つ。なぎはやってきた電車の1階席に座った。俺は画面を見せ、一緒に手を振った。

 

《行ってらっしゃい!》

《頑張れよ!》

《また行くからね!》

「頑張れ!」

 

聞こえるはずのない声だったが、みんな気持ちを込めていた。

なぎは手を振った。そのまま、惜しくも電車は行ってしまう。なぎは手を振ったままだった。

10号車が通りすぎても、俺とリモートの人たちは手を振っていた。暗闇のなかに車内の明かりとテールライトだけが光っている。

 

「行っちゃったな」

《うん……》

 

姿が見えなくなると、俺は車に戻った。入場券はずっと大事に持っていた。

 

【白雪凪沙視点】

 

 深知くんと思っていたときから、私は優しいと思っていた。そんな人と、今日、別々になった。悲しいとは思う。というか、泣いてしまいそう。だけど、私は泣かずにいた。

 

「永遠の別れじゃない、か」

 

私はふと呟いた。

 

「柊くん、最後までやるね」

 

 

 

 

 「深知くん!」

「……なに」

「今度、一緒に買い物行こ!」

「……あぁ……」

 

暗い深知くんだった。だけど、そんな深知くんもよかった。

柊くんだと分かったときは、心臓が止まるかと思った。しばらく何も考えられなかった。

柊くんが、途中から頼もしい存在になってた。でも、自立しないと。

 

「バイバイ、柊くん」

 

私は窓ガラスを指でなぞって言った。

 




永遠の別れじゃない!大好きだよ
いい言葉ですね……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 三者面談

今回の登場人物
月島柊
新井寛也
糸井陽南
以上3名


 4月の下旬から三者面談が始まった。この学校の三者面談は不思議で、1年前の生徒で行う。だから1年6組1番から。前半で男子、後半で女子がする。

 

「新井寛也君、時間だからいいよ」

 

出席番号1番の新井君は、今年2年3組の田島先生が担任だ。

 

「先生、お願いします」

「はい。まず、新井君、志望校はどこかな」

「宮之浜高校です」

 

宮之浜高校か。偏差値60の大体平均あたりの公立高校。

 

「今の新井君は、1年生学年末テストで合計430点。実力テストでは偏差値61だったね」

「寛也、行けますか?宮之浜」

「はい、今の状態では行けますね。新井君、学校でものすごい勉強してるんですよ。私も音楽、数学担当なので分かりますが、授業が終わると、すぐに授業準備をして、時間ギリギリまで前の授業の質問をしてくるんです」

 

新井君は勉強熱心で、休み時間で分からないと、放課後、教育相談室で教えている。他の先生も同様だ。

 

「ですから、学習面は心配しなくていいですよ。あとは、生活面ですね。ご家庭でのお手伝いとかどうですか?」

「週に4回は手伝いますね。寛也、家事とか得意なんですよ」

 

新井君が家事が得意なのは初めて知った。

 

「そうなんですね。新井君、先生の仕事とか、手伝ってくれてもいいんだよ」

「はい……」

「はは、冗談だよ。なにか頼むかもしれないが」

 

通知表の「奉仕」の欄にも◯がつくからおすすめ。俺はつけられたことないけど。

 

「じゃあ、お母様の方から何か聞きたいことはあります

か」

「いえ、もう十分分かりました」

「そうですか。それじゃあ、これで終わりにしますね」

 

俺はドアを開けて見送る。

 

 

 今日の最後は糸井陽南。お母さんが来ていた。俺は最後なのもあり、長めに取ろうとしていた。

 

「糸井さん、お願いします」

「はい」

 

三者面談の進行はほとんどの人が生徒。

 

「これから、三者面談を始めます。こちらは、私のお母さんです。掃除などを細かくしてくれます」

「お母様は掃除好きなんですか?」

「はい。キレイ好きなので」

「糸井さんはやられたりするんですか?お掃除」

 

こうやって家の生活に繋げる。

 

「しないことが多いですね……」

 

苦笑いしながら言う。

 

「手伝いは苦手かい?糸井さん」

「はい……ゲームとか……」

「ああ、よくあるパターンだ。今度、二者面談の時に話すとして、志望校はどこですか?」

 

2年生だったら志望校も重要になってくる。

 

「鴻巣南高校と言っているんですが……」

 

鴻巣南高校。偏差値68の公立高校。結構高めなのだが、今のままだと、とてもじゃないが無理かもしれない。

 

「偏差値は前回の実力テストで56だったね」

「はい。でも、勉強したんです」

「なるほどね……高校を目指して?」

「はい」

 

努力してるんだったらいいのかな。行けるかもしれない。

 

「あとは、学校の成績だね。成績は……数学だけ悪かったかな。それ以外は概ね取れてると思います」

「陽南、数学頑張りなさい」

「分かんないし……」

「だったら放課後、俺のところに来てもいい。空いてるから」

 

来るぶんには構わない。来てほしいぐらいだ。

 

「あと、委員会は生活委員会ですね。生活チェックは1年生の時やってたけど、2年生ではどう?」

「1年生と同じようにやってます」

 

委員会も問題ないね。じゃあ部活か。

 

「糸井さん、美術部なんだよね。ご両親と喧嘩したって聞いたけど、大丈夫?」

「あ、えっと──」

「本当はバスケ部に入らせたかったんですけどね」

「今は糸井さんの話すタイミングです。お母様はお静かに」

 

ぶっちゃけ言ったら、三者面談じゃなくてもいい。二者面談の方が効率はいい。

 

「運動、苦手で……」

「そうか、吹奏楽部はどうだった」

「走るって聞いたので…」

「そっか。部活は喧嘩収まったのかな」

 

喧嘩してるようには思えないけど。

 

「……今もたまに……」

「そっか。二者面談ではなそうね。それでは、今回は以上になります。お母様の方から聞きたいことはありますか?」

「ないです」

「分かりました。気を付けてかえってね」

 

俺はドアを開けて見送った。

明日は休みで、5時間授業だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 ぶんかさい

これから、奇数の話はもしもの世界になります。


 私は文化祭前日、適当に校舎の外を歩いていた。別に何もすることはないけど、気分転換に。

それに、少しでも歩かないとつっきーに「もっと運動しろ!」と怒られる。別に毎日じゃなくても……

私はもう文化祭で誰と一緒にいるかは決まっていて、絢梨と麗華と一緒にいることにした。時間があればつっきーも来るけど、つっきーは来られなさそう。

 

「ねぇそこのお嬢ちゃん」

 

男子3人組が来た。というか、誰だろう。キモい呼び方しないでもらいたい。

私はキツく睨む。

 

「そんな冷たい目しないでよ。名前で呼ぶから、ね?立川ちゃん」

 

まだキモいけど、さっきのよりかはいい。

 

「それでさぁ、文化祭、俺たちと一緒に行かない?」

「もう一緒に回る人決まってるから」

 

私はその場から離れようとする。すると、前から麗波がやってきた。

 

「絢香ちゃん!麗華ちゃんが探してたよ」

「ああ、じゃあ行くか」

「ちょっと待て!俺たちは今立川ちゃんと話してたんだ!どけよ!」

 

男子たちは麗波を蹴り飛ばす。

 

「きゃっ」

「ちょっ、麗波に何するんだよ」

「邪魔者は排除しなきゃね?」

 

男子たちは私に詰め寄る。ヤバい、誰か……

 

「絢香!」

「絢香!」

 

麗華と絢梨だった。2人は男子2人を反対方向に押し出す。

 

「2人とも。ありがと──」

「邪魔者は排除しなきゃ」

 

2人は男子1人に倒されてしまう。残りの1人、女子じゃあ到底相手ができない……

 

「さて、何しようかなぁ」

 

1人が詰め寄る。その内に、男子の仲間が次々と集まってくる。

 

「あ……」

 

もうダメだ。諦めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が目を瞑ろうとしたその時、目の前に男子が立った。その人は、こう言って男子10人ほどを蹴飛ばした。

 

「そうだな。邪魔者は排除しないと」

 

それは紛れもなくつっきーだった。つっきーは魔法を使って10人一斉に拘束した。

 

「なんだ貴様!」

「月島。邪魔だったから排除した」

 

私はつっきーにしがみついた。

 

「あの人たち、絢梨と麗華を蹴飛ばした……」

「あ?」

 

つっきーは拳を10人全員にぶつける。そして、2人のところに駆け寄る。

 

「大丈夫か、麗華、絢梨」

 

つっきーはちゃんと心配している。優男なんだなぁ。改めてそう感じた。つっきー、明日の文化祭一緒に来ないと思ってたけど、やっぱり来るかもしれない。

 

 「あーや」

「わっ!」

 

私の後ろでつっきーは立っていた。今日は文化祭当日。やっぱりつっきーは来てくれた。なんとなく来た理由は分かってたけど、やっぱり優しいな。

 

「どうした、もう4人揃ったんだ。さっさと行くぞ」

「はーい」

 

私はつっきーに付いていった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 受験

今回の登場人物
月島柊
月島胡桃
月島かりな
白雪凪沙
以上4名


 3月、受験の結果が公表される。

かりなが通う高校は、脳が擦りきれる程考えた。友達が多い高校を選ぶか、家から近いところを選ぶか、偏差値の高い高校に行くか。

結局かりな自身で、家から近い高校を選んだ。

 

「行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

 

俺はかりなを見送った。お願い、かりな。高校、受かれよ。

 

 

【月島かりな視点】

 

 高校に着くと、無数の数字が並べられていた。私はその数字を見る。私の番号は「1630」。お願い、あって……

 

1600

1601

1602

1603

1604

1605

1606

1607

1609

1614

1615

1618

1620

1623

1626

1629

 

前のやつが2ずつ増えてる。え、じゃあ私、受かんない確率の方が多い?私は声に出した。

 

「1629……1630……!」

 

私は受かっていた。そこら辺にいた女子とハイタッチ。私は飛び上がるほど嬉しかった。取りあえずもう嬉しかった。私はスキップして家に帰った。今日は学校ないし!

 

 

【月島柊視点】

 1時間後、かりなは帰ってきた。今までにないほど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!受かったよ!」

 

嬉しそうな表情だった。玄関でかりなはピョンピョン跳びはねて喜んでいた。そんなことをしていると、キッチンから胡桃が出てきた。

 

「どうしたの?」

「胡桃ちゃん!受かったよ!」

 

胡桃の表情はみるみる内に明るくなっていく。

 

「良かったね!じゃあ今日は合格パーティーだ」

 

そんなの聞いてないんだが?胡桃は俺たちの顔を見て言った。

 

「パジャマパーティーだよ!」

 

そういえばパジャマで全員揃ったことないっけ。じゃあなぎも呼ぼっかな。

 

「じゃあ、集合は19:30ね!」

 

胡桃はキッチンに戻った。俺はなぎに連絡をする。すぐに呼び出し音が鳴りやんだ。

 

「なぎ、今日空いてる?」

《空いてるにゃん。何かあるのかにゃ?》

 

語尾が気になるところだが一回スルーしよう。

 

「今日、こっちでパジャマパーティーしたい。19:30にこっち着けるかな」

《大丈夫にゃ!それより前に着いちゃうにゃ》

 

俺は語尾のことについて聞こうとする。

 

「なぎ、その語尾なんだ」

《にゃーっ。遊んでるだけ》

 

なんださっきのギャップは。さっきの一言だけでギャップがあったぞ!?

 

「そ、そうか。じゃあ、19:30な」

《オッケーにゃん》

 

そう言って俺は電話を切った。次は小雪をかりなに返しに行くか。かりなは受験勉強中、かりな自ら小雪と会わないことを選択した。久しぶりに会うことだろう。

 

「かりな、小雪だよ」

 

俺が言うと、かりなは思いっきりドアを開けた。小雪は驚いて俺の頭の上に跳ぶ。

 

「ごめん~、小雪ちゃん」

 

かりなは小雪を抱く。指の隙間から小雪の毛がはみ出る。

 

「待ってよ~」

 

小雪とかりなは楽しんでいた。俺は静かにドアを閉めた。

あ、そうだ。暇になっちゃったから胡桃のところ行こ。

 

「胡桃、暇?」

「ひーまー。なんかした~い」

 

そんなこと言われたってすることないし。

 

「背中乗る?」

「乗る~」

 

胡桃は俺の背中に乗る。胡桃って結構軽いんだよな。重力ホントにある?

 

「疲れた」

「早いよ~。じゃあ、一緒にゴロゴロする?」

「そうしようぜ」

 

俺と胡桃はリビングの床で、同じタイミングで左右に転がっていった。

 

 

 夜になり、19:30の少し前、なぎが家に入ってきた。一度住んでいたところだから何もなく入ってきたんだろう。

 

「柊くん、久しぶり」

「なぎ、久しぶりだね。取りあえずリビングにいて。すぐ行く」

「にゃ~」

 

俺はかりなを呼びに行った。小雪とずっと遊んでるのかな。

 

「かりな、パーティー始めるぞ」

「んぐ。小雪ちゃん、行くよ」

 

小雪も連れてくのか。だったらきなこも連れてこうかな。

 

「かりな、きなこのとこ一緒に行かないか」

「行く~」

 

俺はかりなと一緒にきなこがいる部屋にむかった。

 

「きなこ~、行くぞ」

 

俺がしゃがんで手を出すと、きなこは一回匂いを嗅いでから跳び乗った。

 

「かわいい……焼おにぎりだ」

「なにその例え」

 

かりなは笑いながら言った。

 

「でもたしかに焼おにぎりみたい……」

「きな粉じゃなかったな」

「うまいこと言ったね」

 

かりなは小雪を頭の上に乗せた。

 

「うまいこと言ったつもりはないけどな。ま、取りあえずリビング行くか」

 

俺はなぎがいるリビングに戻った。もうそろそろ着替えも終わっていることだろう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人物紹介(第一回)

14人の人物紹介です!























月島柊(27)

   誕生日:7/24

    職業:中学教諭、マネージャー

  得意教科:理科、数学、音楽

  苦手教科:国語、英語、歴史

    趣味:胡桃と話すこと

好きな食べ物:回鍋肉

嫌いな食べ物:ゴーヤ

    身長:177cm

   あだ名:つっきー

  カップ数:

 

 胡桃と結婚している。それ以外に特徴は全くなし。魔法科高校卒業で、魔法が使える。だが、攻撃系ばかり。それには理由があるのだが……

つっきーというあだ名は立川絢香が付けたもので、絢香以外はこういった呼び方をしていない。

 

 

月島胡桃(27)

   誕生日:12/20

    職業:中学教諭

  得意教科:国語、数学

  苦手教科:理科、英語

好きな食べ物:いちごアイス

嫌いな食べ物:抹茶

    身長:170cm

   あだ名:なし

  カップ数:C

 

 柊と結婚している。あだ名がない珍しい人物で、呼び名は「胡桃」か「胡桃ちゃん」のどちらか。魔法は柊には劣るが使える。

身長は女子メンバー内だと高め。だが、柊より7cm低い。胸は小さい気がするが。

 

 

月島かりな(15)

   誕生日:11/20

    職業:女子高生

  得意教科:理科、数学

  苦手教科:国語、英語

好きな食べ物:コーン

嫌いな食べ物:豆

    身長:157cn

   あだ名:かりちゃん

  カップ数:A

 

 先に言っておく。高校生だから胸が小さいのは仕方ない。

あだ名は中学の友達から呼ばれている。それ以外からは「かりな」や「かりなちゃん」と呼ばれている。中学校で「月島」と呼ぶと、柊と胡桃、かりなが反応して面白かった。

 

 

月島彩夏(15)

   誕生日:11/20

    職業:女子高生

  得意教科:理科、数学

  苦手教科:国語、英語

好きな食べ物:豆

嫌いな食べ物:コーン

    身長:157cm

   あだ名:さっちゃん

  カップ数:A

 

 かりなと双子のため、ほとんどがかりなと同じ。ただ、好物が違うため、協力して食べていた。

今は違う家に住んでいて、かりなとはあまり話せていない。会うとなると柊以外、違いが分からなくなる。

かりなと高校が同じで、先生にも間違われそう。

 

 

月島瑞浪(16)

   誕生日:5/1

    職業:女子高生

  得意教科:ない

  苦手教科:ほとんど全て

好きな食べ物:麻婆豆腐(辛め)

嫌いな食べ物:甘いもの

    身長:158cm

   あだ名:みっずー

  カップ数:まな板(Aはあるもんっ!)

 

 月島家で1番の変わり者。

ちなみに高校はかりなたちと同じ高校。かりなたちの高校だけで「月島」の苗字が3人いることになる。

あだ名は大宮で親友の友達から呼ばれているだけ。柊からしたら言いづらいらしい。

 

 

月島沙理華(17)

   誕生日:6/10

    職業:女子高生

  得意教科:数学

  苦手教科:国語

好きな食べ物:カレー

嫌いな食べ物:豆

    身長:156cm

   あだ名:さっちゃん

  カップ数:B

 

 柊の影響で数学は好きになったが、国語だけは好きになれず、古文は大嫌いらしい。

身長は結構低い。根拠として、1つ下の瑞浪と同じ身長。というか、2つ下の彩夏より1cm低い。

あだ名は中学の友達から呼ばれているだけ。

 

 

月島風那(19)

   誕生日:4/3

    職業:無職

  得意教科:体育

  苦手教科:保健(性知識に疎い)

好きな食べ物:パスタ

嫌いな食べ物:パン

    身長:158cm

   あだ名:ふうっち

  カップ数:C(ドヤッ)

 

 高校を卒業してしまったため無職。バイトもしていない。お金は柊や母さん、父さんからのおこづかい。母さんからは月100円、父さんからは月500円、柊からは月1000円。ただし、柊からのおこづかいは会う回数によって変動する。

好きな食べ物は麺類全般らしいが、特にパスタ。ラーメンも好き。

あだ名は高校時代の友達に呼ばれていた。また、柊から「月ふ」と呼ばれていた時期があるが、風那はいい思い出ではないらしい。

 

 

月島藤花(19)

   誕生日:4/3

    職業:無職

  得意教科:数学(計算)、理科(科学)

  苦手教科:数学(証明)、理科(物理)

好きな食べ物:お兄ちゃんのおにぎり

嫌いな食べ物:冬ねえの味噌汁

    身長:158cm

   あだ名:とうっち

  カップ数:E!

 

 高校を卒業してしまったため、無職になっている。

 冬ねえとは冬菜のことで、味噌汁はすごくまずいらしい。柊のおにぎりは愛情の影響でおいしいらしい。

胸は1番大きい。胡桃を超える大きさだ。

 

月島香奈(21)

   誕生日:12/3

    職業:大学生

  得意教科:国語

  苦手教科:社会

好きな食べ物:ごはん

嫌いな食べ物:パン

    身長:159cm

   あだ名:かーちー

  カップ数:A(ムッ!)

 

 特徴的な人物で、柊と性格はあまり似ていない。母さんに似た方だと思う。

胸が小さい。それもあってか、色っぽさが1番ない。

大学に進学していて、バイトを2つ掛け持ちしている。花屋と喫茶店の2つだ。

 

 

月島冬菜(22)

   誕生日:12/5

    職業:無職

  得意教科:数学、理科

  苦手教科:英語

好きな食べ物:回鍋肉

嫌いな食べ物:ゴーヤ

    身長:160cm

   あだ名:ふゆちゃん、冬ねえ

  カップ数:D

 

 柊とほとんど一緒で、柊のことが大好き。だけど直接言えない、いわゆるツンデレである。たまに当たりが強いのもそれが原因。

同級生からはふゆちゃん、妹からは冬ねえと呼ばれている。

上っぽい立場だが、なぜか暁依には弱い。暁依が注意すると、全部したがってしまう。

 

 

月島暁依(24)

   誕生日:8/9

    職業:マネージャー

  得意教科:体育

  苦手教科:社会

好きな食べ物:わたあめ

嫌いな食べ物:辛いもの

    身長:174cm

   あだ名:あきにい

 

 支配力は多分2番目。柊の次の立場だと思う。冬菜からは違うと思うが。

兄が2人いるため、妹たちはみんな「あきにい」と呼んでいる。

怖い顔をしているが、結構好物はかわいい。

 

 

立川絢香(27)

   誕生日:11/11

    職業:アイドル、漫画家

  得意教科:国語、美術

  苦手教科:数学、理科

好きな食べ物:inゼリー

    身長:167cm

   あだ名:あーや

  カップ数:Dカップ(推定)

 

 誕生日はぞろ目で分かりやすい。柊も真っ先に覚えた。アイドルなのに漫画家という、意外な一面を持つ女の子だが、アイドルの時はセクシーキャラとして演じる。ちゃんとしたアイドルだ。

あーやは、自分でも嫌じゃない呼び方らしい。柊もそれで呼んでいる。

 

 

立川絢梨(27)

   誕生日:11/8

    職業:無職

  得意教科:ない

  苦手教科:ない

好きな食べ物:絢香の作る食べ物

嫌いな食べ物:食べ物じゃないけど、雷

    身長:166cm

   あだ名:ない

  カップ数:えっ、Dだし……

 

 結構ないことだらけ。

カップ数、Dと言っているが、正しくは瑞浪と同じくまな板(付けるんだったらAマイナス)。

 

 

白雪凪沙(27)

   誕生日:2/5

    職業:マネージャー

  得意教科:音楽

  苦手教科:体育、数学

好きな食べ物:カレー

嫌いな食べ物:冷やしパスタ

    身長:163cm

   あだ名:なぎ

  カップ数:C

 

 柊からなぎと呼ばれていて、結構気に入ってるらしい。

柊から、「一人で旅立たないと」と言って本厚木に引っ越したが、実は深い理由が凪沙にはあった。

不思議な体質で、不安になると雪を降らせてしまう。

また、第2期の主役である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 受験祝い

今回の登場人物
月島柊
月島胡桃
白雪凪沙
月島かりな
月島彩夏
以上5名


 リビングに戻ると、なぎの着替えはとっくに終わっていた。あの時とは全く違う服装で、少し春になったからか露出が増した?肩が少し見えて、薄い長袖だった。

 

「なぎ、どうだい、久しぶりのここは」

「うん、なんか懐かしい」

 

なぎは小雪ときなこに囲まれていた。

 

「きっと小雪ときなこも会えてうれしいんだよ」

「そうだよねーっ」

 

小雪ときなこはなぎの周りを走り回る。なんか遊んでる気もするが?

 

「凪沙ちゃんっ!」

 

胡桃がパジャマに着替えて出てきた。なんか、いろんな輪郭が見える……胸の先っぽの出っ張りとか、そこ周りの膨らみとか。ハッキリとではないが、まぁまぁ見える。

 

「みんな来たかな」

「いや、彩夏が来るはず」

 

彩夏以外はもうみんないる。なんか膝枕してる人がいるけど気にしない。

 

「柊く~ん、なでてなでてー」

 

なぜ撫でなければいけないんだ。俺はそんなことを思いながらも撫でてあげた。

 

「やっほーっ!来たよ──」

 

彩夏が部屋の中に入ってくると、なんか気まずい空気になった。

 

「私も撫でてよーっ!」

 

ぷくーっと頬を膨らませて怒る。かわいい。俺は彩夏を手招きした。

 

「わーいっ」

 

なんだこいつら。高校生じゃないのかよ。凪に至っては俺と同い年だろ。

 

「えっと、とりあえずなんかしようか?」

「枕投げとか?」

 

そんな数の枕ねぇよ。まぁ、けど仮想世界に行けば、ぽいことはできるかな。

 

「んじゃ、仮想世界で待ってて」

 

俺は先に転移した。なんかあったはず。柔らかいものが。ぷよぷよしてて、水みたいなやつ。

 

 

 俺が仮想世界で使ったのは大量のスライム……の皮。経緯を説明すると残酷だが、スライムの中にあるものを全て取り出す(いらない場合は廃棄)。そして、残った皮を丸めてボールにすればできあがり。これでスライム何匹分だろう。

合計500個ほど。多い気もするが、この際どうでもいい。多分1000匹くらいのスライムが犠牲になってるけど。

 

「おっしゃ、やるぞ!」

 

俺は胡桃に向かって投げる。

 

「ふみっ!やったなっ!」

 

胡桃は近くのスライムボールを投げ返す。

 

「わっ」

「うりゃっ」

 

なぎからもスライムボールを浴びる。

 

「つっきーっ!」

 

あーやからもだ。

 

「よいしょっ」

『お兄ちゃんっ!』

 

かりな、彩夏、絢梨からも浴びせられた。これで6ヒットですか。

 

「いい加減にしろっ!」

 

俺は胡桃以外の5人に向けてスライムボールを投げる。

 

「りゃーっ」

 

俺以外にも標的ができたらしく、みんなで投げ合っていた。

 

 

 スライムボールは1つもなくなることなく投げ合った。みんな疲れ果て、最終的には自分で投げてはキャッチするということになっていた。

 

「かりな、合格おめでとう」

「ありがと、彩夏」

 

双子同士で祝っている。ああ、なんか平和だなぁ。

 

「えいっ」

「きゃっ」

 

またぶつけ合いかよ。

 

「よっと」

 

俺はかりなに投げた。かりなは後ろに倒れる。スライムボールがクッション代わりになってくれているが。

 

「あっはは、おもしろーいっ!」

 

かりなスライムボールのプールに飛び込む。一応仕切りを出しとこう。

俺は地形変化の魔法を使って仕切りを作り、スライムボールを全て中に入れた。

 

「ぷにぷに……」

 

胡桃がスライムボールをつつく。

 

「わーいっ!」

 

彩夏が飛び込んだ。飛び跳ねたスライムボールが胡桃となぎにかかる。

 

「きゃっ」

 

スライムボールが跳ね返る。胡桃はなぎの手をつかんでプールに飛び込む。

 

「わぁっ、胡桃ちゃん!」

 

俺もスライムボールのプールに入る。

 

「あ、なんか不思議な感触」

 

俺はスライムボールをつつく。それを胡桃がじっと見つめていたが、やがて胡桃は同じスライムボールをつつき始めた。

 

「なんか暇つぶしになるね」

「学校の職員室に置いとくか?」

「なんか上西先生に言われそうだよ?」

 

博也だからなぁ。きっと妥協するだろ。文句も言わないだろうし。

 

「大丈夫さ。2つ持ってくか?」

「じゃあそうする!」

 

じゃあ後に2つ取っておくか。

 

「えいっ!」

 

彩夏が俺にスライムボールを大量に投げてきた。ぷにぷに当たるから痛くはない。

 

「痛くないからいいね」

「りゃーっ」

 

かりなも投げ始める。わぁ、これは大変なことになるぞ。

 

「がっ……やめろよっ」

 

俺は豪速球でスライムボールを投げた。

 

「うぎゃ」

「にゃっ!?」

「きゃっ」

 

3個投げたから3人に当たった。

こうして俺たちは、受験祝いでスライムボールを投げ合った。これは2時間ほど続いたらしい……

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 学校

 翌日、俺は通常通り起きた。今日は学校があるし、行かないとまずい。

 

「俺もう行くけど、胡桃も行くか」

「行く!あ、そういえば、柊くん疲れたまってるから担当教科数学だけだって」

 

え、そうなの?そんなの俺知らないんだけど。

 

「数学が来年から図形担当と計算担当で分かれるらしくて、柊くんが計算担当なの」

 

計算担当か。別にいいけど。

 

「だから、今日から試験的に分けるんだって。しばらくは私が奇数クラス、柊くんが偶数クラス担当だからね」

 

偶数クラスだと俺が担任のクラスも見れるのか。結構いい分け方だな。

 

「オッケー。んじゃ、行こっか」

 

みんなまだ寝てるのかな。あーやたちに任せるけど、大丈夫だろ。

俺と胡桃は電車に乗り、クロスシートに2人ならんで座っていた。

 

「胡桃は担任持たないのか」

「持ちたいけどね」

 

持ちたいんだったら頼めばいいのに。副担任も楽しそうだけど。

 

「そうだ、今日の担任胡桃がやるか?」

「えっ、いいの?」

「やってみたいんだろ?」

 

胡桃は嬉しそうに喜んでいた。なんか担任やりたいなんて珍しいな。あれ、じゃあ副担任だから朝の時間廊下回ってるか?

 

「早めに行って仕事しとけよ。教室でやってもいいけど」

 

俺は別に職員室にいるしかないから。

 

「柊くんも来てよぉ」

「え?なんで。担任だろ?」

「柊くん居ないと不安」

 

なんだよそれ。絶対担任やれないじゃん。

 

「あのなぁ、担任なったら俺いないんだぞ」

「今は違うもん」

「今日はそうなんだろ?」

 

胡桃はぷっくりと頬を膨らませる。不貞腐れてるな、絶対。

 

「頑張れよ。少しくらい」

「はーい……」

 

胡桃はしゅんとしていた。悲しそう。

 

 学校に着くと、昇降口が開くのを待っている生徒に会った。

 

「開かねぇの」

「はい。なんか遅くて」

 

確かに今は7:55。開錠時刻は7:45なはず。もう10分過ぎてるからおかしい。

 

「結構来ちゃってるな。待ってて、開けれたら開ける」

 

俺は胡桃と一緒に学校内には入り、南京錠の鍵を探した。事務室にあるはずだが。

 

「お、あったあった」

「なんで開けてないんだろうね」

「忘れてるんかな」

 

俺は昇降口に戻る。内側から開けると、少しの隙間から生徒がなだれ込んでくる。結構溜まってたからな。

 

「ほら廊下走らないよー」

「おはよう」

 

俺と胡桃で生徒の誘導をしていた。

いなくなってくると、俺は職員室、胡桃は2年6組に向かった。今日は1時間目と4時間目だけだな。少ないっ。

 

「月島先生」

「どうしたんだ、上西先生」

「なんか勝島先生遅いんだけど」

「知らん。遅刻か?」

 

なんか遅い気がするけど、遅れることくらいあるだろ。

 

「まぁいい。それより、クラス大丈夫か」

「あ、やべっ!つーか、月島先生もだろ!?」

「俺は胡桃に任せた。やりたいって言ってたから」

「ずりーな」

 

上西先生はそう言いながら職員室から出て行った。すると、ノックする音が聞こえ、2年生が言った。

 

「失礼します、2年6組の浅雛由月ですが、吹奏楽部の件で、月島先生に用があってきました」

 

あ、俺なの?というか、由月ってそういえば吹奏楽部か。集金かな?

 

「はいはーい、ここだよ。来な」

「え、あ、しっ、失礼しますっ」

 

なんであたふたしてるんだよ。もうちょっと堂々と入ってきていいのに。

 

「集金か?」

「はい。コンクール、お母さんが来るので700円を」

「オッケー。700円ね。あ、胡桃どう?」

「え、あぁ、なんか焦ってますよ。みんなでフォローしてますけど」

 

なんだ、自分からやりたいって言ったのに……

 

「分かった。フォロー頑張って」

「はい。じゃあ、失礼しました」

 

胡桃だったら大丈夫だろ。そこまでやることないから。

 

 1時間目の準備で1回6組に向かうと、胡桃のところだけが朝の会を終えていなかった。おいおい、頼むぜ。

 

「胡桃、変わるよ」

「あ、ごめん……」

「慣れないもんな。大丈夫さ」

 

俺はいつも通りに進めようとする。

 

「どこまでいった」

「健康観察が終わりました」

 

じゃあ、俺の話まできてたのか。

 

「えっと、今日は特にないんだよなぁ。みんな元気で。終わり」

 

何にも話すことなかったし。

号令が終わると、一斉に準備を始めた。そうだ、由月に聞こっと。

 

「由月、1時間目なに?」

「社会っ!」

 

職員室だとさすがに敬語は外しずらかったか。

 

「オッケー。じゃあ後ろにいていい?」

「へっ!?後ろって、どこに!?」

「今日由月の隣休みだろ。だからそこにいようかと」

 

2時間目は俺の数学だし、いても問題ない。

 

「う、うん。いいけど……」

「決まりだな。じゃあ荷物持ってくるから待ってて」

 

俺は数学の用意を調整室から取ってきた。すぐに6組に戻り、PCを開く。授業中に仕事を進める。量はちょっとしか無いけど。

 

「先生、もうすぐ3年生の担任ですね」

「うん?あぁ、そうだな。由月はまた同じクラスにしようかなぁ」

 

もう3月上旬だし。クラス替えの時期だ。

 

「やったー!何組なの?」

「おいおい、まだ決めたわけじゃないぜ。来年は何組かなぁ。気分でね」

 

ずっと6組だったから5組とか1組とか7組とか?いろんなとこ行きたいなぁ。学年主任は嫌だけど。

 

「おはよう、社会係準備お願い。あと……月島先生、何でそこに」

「んあ?次俺の授業だからいいだろって思ってここにいる」

「あぁ、そうか。ってことは、次は計算系なのか」

 

そう言うことになるよな。

 

「普通に授業進めてくれ」

 

まずは授業を進めてくれないと俺もできない。社会は好きな方だし、結構わかるだろう。まぁ、聞くだけだが。少しくらい役に立てるかもしれないが。

チャイムが鳴り響き、1時間目が始まった。隣の由月も社会のノートを開く。

って、ん?1次関数?y=ax+bって……

 

「由月、それ数学のノート」

「えっ!?あ、じゃあ仕舞いにっ!」

「次数学なんだから机の中入れとけよ。社会ノートはこれか」

 

俺は「浅雛由月」と書かれたノートを見せた。

 

「それ!先生ありがとう!」

「おうよ。ほら、歴史始まってるぞ」

 

徳川家康かぁ。じゃあ参勤交代とかの時期かな。

 

 1時間目はほとんど小テストで、前回の地理の復習らしかった。俺は由月を応援するしかできないが、少しくらいは教えた。

1時間目が終わり、号令が終わると、すぐに前に行って勝島先生を追い出すように前に立つ。

 

「おいおい……」

「いいじゃんか、少しくらい。今日は定規必要だからなー」

 

1次関数のグラフだ。

 

「じゃあ、もうすぐ始めるぞ」

 

俺は準備をした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 大地震

 俺が数学の授業をやっている最中、10時15分。俺は挙手の発表を選んでいた。

 

「えっと、じゃあ大門2の(2)を横川さん、それで、(3)を……」

 

その瞬間だった。

俺のスマホが入ったバックから、ホワッ、ホワッっと、不吉な緊急地震速報の警報音が鳴った。俺は生徒全員に気付かせるため、スマホを高く上げた。

しばらく俺が黙っていると、ガタガタと音を立てながらも全員が素早く机の下に隠れた。黒板前に来ていた人は休みの人の机の下や、教卓の下に隠れた。

俺はドアを全開にし、窓も全て開けた。そして、カーテンがある窓はカーテンを閉め、ガラスが飛び散らないようにした。

俺が全てを終える頃、ガタガタッと激しい音が聞こえた。激しい地震だ。

最初は弱かったが、1秒もしないうちに強い揺れがガタガタ襲ってきた。

俺は一時的にヘルメットを被ってその場に伏せた。しかし、終わる気配はない。俺は廊下に出て、他のクラスを見に行った。

3組は先生がいなかったらしく、生徒が黙って机の下に隠れていた。

 

「みんな、静かに待てて偉いぞ。絶対みんな生きるからな!心配するなよ!」

 

俺は胡桃を職員室に呼びに行った。副担任を取りあえず向かわせないと。

 

「胡桃!3組にいって」

「分かった!」

 

俺は走って6組に戻った。6組の状況はもうすさまじい状態だった。しかし、そんなこと気にしてられない。すぐにしゃがみ込んだ。

 

 5分後、揺れは収まったが、ちょっとした揺れが長く続いている。気持ち悪い揺れだ。

 

「みんな、揺れが収まったから頭を守りながら立って」

 

俺は被害状況を確認する。

リュックが全て崩れ落ち、蛍光灯が一部落下している。休みだった人の机は倒れていて、無残な姿だった。

すると、放送が入った。

 

《先ほど、関東地方を震源とする、マグニチュード8.7の強い地震がありました。震度は震度7。生徒は引き取りとなります。担任の先生の指示に従い、校庭へ避難しなさい。先生方、校舎側から1年1組、反対側が3年6組になるようにお願いします》

 

8.7か。かなり大きいな。東日本大震災で9.0だから、それに近い。俺は生徒全員を廊下に並ばせた。

 

「素早く並びなさい。静かに。泣くな、生きるから」

 

俺は並び終わったのを確認すると、すぐに校庭へ行った。

 

 引き取りは10時58分に完了。先生たちもすぐに帰る準備をして、車で帰った。

しかし、なんということだ。今日に限って電車で来てしまった。もちろん、高崎線は動いていない。10時18分、一斉に運転を見合わせたのだ。

駅前には帰れなくなった人々が大量にいた。俺と胡桃もその内の1人だ。

電光掲示板は10時20分発籠原行きが表示されたままだった。

10時20分発籠原行きは、鴻巣駅直前で止まっていた。

 

「胡桃、困ったな」

「うん……絢香ちゃんたちに連絡する?」

「あいつら免許持ってない。無理だ」

 

俺はとりあえず道ばたに座った。幸い、水筒の水があるが、もう少しだ。

 

「歩きになっちゃう?」

「かもしれない」

 

俺はスマホで震度の情報を見てみた。

震源は東京都23区

最大震度7

マグニチュード8.7

 

震度7地域

東京都23区

東京都西部

千葉県西部

千葉県房総半島

千葉県東部

埼玉県南部

埼玉県鴻巣市

埼玉県北本市

埼玉県桶川市

埼玉県熊谷市

埼玉県蓮田市

埼玉県白岡市

埼玉県久喜市

埼玉県行田市

埼玉県羽生市

埼玉県加須市

茨城県南西部

茨城県東部

 

震度6強地域

埼玉県北西部

群馬県全域

栃木県全域

茨城県南西部を除く全域

福島県南部

新潟県南東部

 

震度6強で深谷市が入ってるかもしれないな。一応深谷市の震度も確かめておこう。

 

震度6強地域(埼玉県)

深谷市

寄居町

美里町

本庄市

上里町

神川町

皆野町

長瀞町

 

やっぱり入ってた。安否確認のためにも連絡しよう。

 

「……もしもし?」

《つっきー。今どこ?》

「鴻巣駅で足止め。君らは」

《家にいる》

「なんか被害は」

《停電とか。私たちの身体に異常は無い》

 

良かった。

 

「ブレーカー落としといて。あとガスは止めてあるな」

《全部できてる。心配しないで、つっきー》

 

あーやはなるべく俺を安心させていた。

 

「そうか。だったら良かった」

《帰ってこれないの?》

「あぁ。再開見込みが立ってないらしくて。もしかしたら歩くことになるかもだから、帰り遅くなる」

《分かった》

 

そして、脇の方から声が聞こえた。

 

《迎えに行く?》

 

なぎだろうか。帰れずにいたのか。

 

「これる?」

《道路の状況が良ければ》

「じゃあ調べてこれそうだったら来てくれるかな」

《分かった!》

 

俺は電話を切った。胡桃は心配そうに俺の服の袖をきゅっと掴んでいた。

 

「柊くん……」

 

そう言うと、また大きな地震が来た。

駅前は騒然としていたが、今回の地震は30秒ほどで終わった。

最大震度は震度6弱。マグニチュード6.1。埼玉県鴻巣市は震度5強だった。深谷市は震度5弱。

 

「わっ、なんか揺れてる」

 

そう、立て続けに地震が来ているのだ。今も震度3程度の地震が続いている。

 

「たまにでかいのがくるな。大丈夫かな」

 

俺が離している間にも地震は来た。緊急地震速報が鳴り、震度6強の地震があった。マグニチュード7.5、深谷市は震度6強。結構広い。

 

「胡桃、俺の下にいて」

 

俺は胡桃を覆うようにした。ここから離れることもできない。これしか無いんだ。俺が犠牲になってでも胡桃が生きる方法は。

 

「そこの男の人!街灯!」

 

ガッシャーン

 

砕ける音が辺り一面に響く。街灯が地面に倒れたのだ。それと同時に電線が切れ、停電が発生する。

電車は安全確認が済めば運転再開できる。なんてことは無くなってしまった。停電なのだから当分動かない。

 

「充電ないし!」

「やべーって、もう電池無い!」

 

スマホの充電がないんだろう。俺もない。あと5%。

 

「もう魔法使っちゃうか」

 

飛行魔法は危険だから使用しない。だが、発光魔法くらいはいいだろう。

 

「明るくなったな」

「うん。わっ、また地震。って、これおっきいよ!」

 

俺は下を向きながら震度を確認した。震度6強。強い揺れだ。

 

「まだ明るいからそこまでは役立ってないか」

 

くっそ、もう水筒がない。コンビニなんて行ける状態じゃないし。あぁ、どうすればいいんだよ!

 

「胡桃、俺、終わった」

「柊くん!?諦めないで!」

「無理だよ。知ってるか、人間は何も飲み食いしないと2日とか3日で死ぬんだよ。きっと、ここには1週間はいるだろう。無理だよ」

 

俺は自分を追い込み始める。

 

「苦しいなんてこれるはず無いだろ?だってどこもかしこも停電で渋滞が発生してる。飛行だって大地震で不可能。俺たちは何もできない」

「柊くん、違う。何かあったら私を食べていいからっ、だからっ、お願いっ、死なないでよ……」

 

胡桃は泣きながら言う。それで、俺は我に返る。俺は胡桃を追い詰めていた。胡桃が犠牲になることを考えていた。ダメだ。こんなんじゃ。

 

「ごめん。じゃあ、どこか行って道路に近づこうか」

「うん……」

 

胡桃は俺と一緒に大きな道路へと出て行く。

 

 大きな道路へと出ても、大渋滞はずっとあった。俺は道路脇に座った。もう体力の限界だ。もう13時を過ぎている。もう、体力が……

 

「胡桃、しばらくこのままでいさせて」

「うん。私、凪沙ちゃんの車見つける」

 

胡桃は道路に向かっていった。なんか不甲斐ないな。

 

 4時間くらい経っただろうか。停電も復旧せず、気温は夜になるにつれて下がっていく。今はもう15度。

なぎの車は来ないです、渋滞はまだ全然あった。

 

「柊くん、まずいよ……寒いし、お腹と喉が……」

 

そう、もう3時間近く何も飲み食いしていないのだ。腹を満たす物は何もなかった。

 

「ねぇ、柊くん。なんか話そ?あの、柊くんの従姉妹の紅葉ちゃんのこと」

 

なんか重い空気になってたからか。

 

「いや、実はさ、妹の方は紅葉なんだけど、姉もいるんだよ。年上の従姉妹」

「名前なんて言うの?」

「陽夏っていうんだけど、俺はいつも陽夏ねえって呼んでた」

 

なんか今考えたら恥ずかしいけど。

 

「それで、従姉妹って血繋がってるから好きになっちゃいけないんだけど、俺は好きになっちゃったんだよね」

「え?けど、それは気付かれなければ」

「気付かれたんだよ。それで、俺をキモいって思ったのか知らないけど、俺とは音信不通。連絡先もいつの間にか消えてた」

 

俺がそんな悲しげなことを話していると、クラクションを大きく鳴らす車がいた。

 

「ナンバー……俺のかよ」

 

俺はその車に手を振った。車は交差点で別の道路に行った後、別の道から来て、すぐ横に来た。

 

「乗ってく?」

 

なぎがキメながら言ってきた。

 

「乗ってく。つーか、自分の車にしろよ」

「すぐ近くにあったんだもん。キーも玄関に置いてあるし」

 

そうか、置きっぱだったか。

 

「まぁいいや。俺の家まで」

「私も」

「にゃ!」

 

なぎは来た道を引き返すように進む。反対側は渋滞が発生していないため、スムーズに進めた。

 

「地震おっきかったね」

「ホントだよ。あ、明日多分休み」

「え、私来てって言われたんだけど」

 

胡桃が怪しそうに言った。

 

「胡桃は会議室の火元管理者だろ、地震の時もいないと。音楽室は地震対策してたし」

 

俺は休めって言われたが……あ、事務所。

 

「やっぱ明日行く。事務所の方に行かないと」

「車どうする?」

 

なぎが運転しながら聞いてきた。

 

「胡桃が乗っていっていいよ。俺電車で行く」

 

多分混んでるだろうなぁ。大丈夫だろうか。

 

 家に着くと、あーやが駆けつけた。あーやは寂しそうな、多分泣きそうな顔をしていた。

 

「おかえり、つっきー」

「ただいま。かりなたちは帰ってるか?」

「丁度早帰りででかけっちゃったの。高崎とか言ってたからまだ帰ってこない」

 

しょうがないけど、運が悪かったな。こんな地震が来るなんて。

 

「かりなの帰りは待とう。今は電気通ってるか」

「いや、通ってない」

 

絢梨が言う。まだ停電中か。だったら、俺に良い考えがある。

 

「俺に付いてこい」

 

俺はみんなをつれて少し外に出た。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 地震でも

 俺は近くの電線へと上った。本来、電線に触ってはいけない。しかし、地面に触れて電気が流れるからいけないわけで、浮いていれば何の問題も無いわけだ。要するに、ジャンプして電線に捕まる。ということは感電しないのだ。

これを利用し、俺は浮遊魔法を使ってまずは電線と同じ高さへ行き、鉄の棒を電線に付ける。そして、逆流して変電所が爆発しないようにするために、鉄の棒のすぐ前にもう1本鉄の棒を付け、池の中に流す。まぁ、要するに漏電だが、災害時なんだから気にしない。

さて、前の鉄の棒には俺が電気魔法で電流を流す。家にだけ電気が供給される。

 

 なんて、ことをやろうとしたのだが、まず第一、鉄の棒を付けるだけでは電気は逃げない。さらに、危険。そのため、結局俺がやったのは、家に電気があればいいわけだから、変電所から電気を流せばいい。ということで。

 

「悪いね、ゆい」

 

月野ゆい。ハッカーだ。

 

「早速だけど、あの変電所に電気流して」

「え?送電元の東京電力停電してるよ?」

「俺の魔法で流す」

 

ゆいは納得してハッキングし始めた。うわぁ、一瞬だな。

一瞬にして電気がつく。俺はゆいも呼んで、災害の避難がてら家に呼んだ。

 

「先生、久しぶりだね」

「やめてくれ、もう先生じゃない。君の教育は終わった」

「そう言わずに~。人生の先生でしょ?」

 

なんだそれ。俺はそんな先生になった覚えはないが。

 

「ふふっ、ゆっち、一緒にお風呂入ろ?」

「うん。かりちゃん」

 

その「ゆっち」ってあだ名いつ付けたんだろう。

 

「柊くん、さむいーっ」

 

まぁ今年は異常気象続きだからな。8月は40度を超えたり、逆に3月は最高気温が5度だったり。今日は最高8度、最低ー6度だった。

 

「エアコンはまだ効かないからなぁ。おいで、胡桃」

 

胡桃は震えながら俺にしがみつく。お風呂、あったかそう……というか、俺寝るんじゃないか?

 

「あったかぁい……」

「眠い」

 

窓を開けてないと空気はこもるし、それにいつ地震が来るか分からない。

 

「あ、揺れてる」

 

俺は胡桃を抱いたまま簡単なプログラムを作った。Bluetoothでスマホに接続させて、その強震モニターで埼玉県内の震度を読み上げる。読む間隔は1秒開ける。また、最大震度、マグニチュード、震源も読み上げさせた。すると、早速来た。

 

《20:27頃の地震、マグニチュード5.4の最大震度4の地震。震源地は東京湾。埼玉県内、深谷市は震度3》

 

プログラム通りのアナウンスだ。

 

《20:30!地震発生!推定マグニチュード5.8、最大予測震度5弱、震源地千葉県北東部!深谷市予測震度4!》

 

俺は電気から離れ、胡桃を抱きかかえた。

アナウンスの約1秒後、地震が来た。カタカタと音を立てたが、倒れなかった。

 

《20:30頃に地震、マグニチュード5.9、最大震度5弱、震源地千葉県北東部、深谷市は震度4》

 

不安だ。これから地震が来ると思うと。

 

 しばらくして、かりなとゆいがあがってきた。ゆいだけなぜか裸なんだが。俺は焦って上を向く。

 

「あ、ごめん。着替えこっちに忘れちゃったの」

 

冷静だな!なんでそんな冷静なんだよ。

 

「いいよ、もう」

 

ゆいがそう言うと、俺は胡桃の方に視線を落とした。

 

「お風呂入ろ?」

「私も一緒がいいなぁ」

 

なぎがじーっとこっちを見てくる。やめてくれ、その目は。

 

「しょうがないな。じゃあ行こうぜ」

「にゃんっ」

「ぴょんっ」

 

なんだこいつら、かわいいな。

お風呂に入ると、3人だからか結構溢れた。あがったら追加しとこ。

 

「柊くん」

「なんだ」

 

胡桃が何を言い出すかと思ったら……

 

「おっぱいおっきくなってるかな」

「は?なんで」

「だって!もっとおっきくなりたいじゃん!」

「そうだよ!女は胸が武器なの!」

 

こいつら何を言ってるんだ。絶対違うって。胡桃も、それなりの……いや、俺も何言ってるんだ。

 

「いいから!そのままで!」

「柊くん!?」

 

もう吹っ切れよう。うん。それがいい。

 

「胡桃もそれくらいが俺は好きだし」

「私はどうなの!」

 

なぎは知らないんだよなぁ。

 

「それでいい!」

 

適当。

 

「わーっ!すきっ」

「きゃーっ、大好き!」

 

大好きっ子なんだよなぁ。胡桃となぎは。うさぎと猫だし。

 

「あ、ちょっ、風呂に!」

 

俺が言ったときには、もう時すでに遅し。俺は角に躓いて風呂に転びそうになっていた。というか、もう転んでいて、上から胡桃が覆い被さるように転んだ。

 

「きゃうっ」

「いって……胡桃、大丈夫か」

「柊くんが好きだから大丈夫」

 

なんだそれ。そういう自覚があったら大丈夫なのかな。

 

「それより、その、この格好……」

 

そう、全裸で男女が羽交い締めにされている格好。

 

「凪沙ちゃんに見られてるしぃ、ちょっと恥ずかしいなぁって」

「あ、ごめん……」

 

羽交い締めにしたままだった……危なかった。

 

「あ、あがろっか」

 

俺は焦りながらもそう言った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 地震の夜

 《20:58の地震、マグニチュード5.1、最大震度4。震源地東京湾、埼玉県深谷市は震度3。余震が続いています。ご注意下さい》

 

今日はずっとこのアナウンス。プログラムしたのはいいが、結構鳴っていた。

 

「今日はみんなでまとまって寝よう?不安だし」

「そうだな。あ、ゆいはどうする。家の人も心配するだろう?」

「あ、たしかに。けど、来る途中にも危険なところあったから、夜に帰ると……」

 

不安げな表情と声。そうだよな。不安なのは分かる。

 

「泊まってくか、安全とは限らんが」

「うん、泊まりたい」

 

ゆいは何でもすると言わんばかりに飛び跳ねる。

 

「ゆい、なんかするか」

「うん!」

 

じゃあなんか頼もうかな。って言っても、なにがあるか。

 

「布団の準備頼めるか。この部屋に人数分」

「分かった」

 

俺は自分の部屋に入って望に連絡を取る。スマホだと繋がらないため、魔術無線だ。

 

「望、無事か」

《無事。今は仮想世界への転移は中止してる。電気設備が追いついてない》

「分かった。地震に気をつけろよ」

《分かってる。じゃあね》

 

望は無事っぽいな。他のみんなにも連絡しないとかな。スマホ繋がるだろうか。俺は紅葉に電話をかけた。

呼び出し音だけが鳴り、繋がらない。

 

《やっほ!柊くん!》

「あれ、紅葉じゃないな。ユウキか?」

《そう!紅葉は今畑行ってるから》

 

そっちは平和そうだな。

 

「夜なのに大丈夫なのか。熊が出ねぇからって、危険だべ」

《んだども、紅葉が行くって言ってるから》

 

急に方言が出てくる。元はと言えば俺だけど。

 

「そっか。じゃあそっちは平和なんだな」

《うん!あ、地震か。気をつけてね》

「ありがとう。んじゃ」

 

紅葉たちも無事だった。あとは俺たちの心配をしないとな。

俺はリビングに戻った。俺がドアを開けると、すぐに胡桃が言った。

 

「柊くん!止まって!」

 

俺が止まったときは、もう前に倒れそうになっていた。俺は絢梨の体に飛び込むように倒れた。

 

「柊くん、何してるの」

「悪いな」

 

俺は冷静を貫き通した。あんまり言うと逆に疑われそう。

 

「そういうことしていいのは私だけだよ!」

「お前にもしない!」

 

胡桃は「ブーッ」と言いながらそっぽ向いた。なんでやらなきゃいけないんだよ。やるんだったら寝てるときにやる。……何言ってんだ、俺。

 

「それで、もう準備は終わったのか」

「結構ぎゅうぎゅうだけど。この部屋に6人が立ってるのは全然窮屈じゃないけど、寝るってなるとね」

 

体積が増えるからな。窮屈にはなるだろう。

 

「私柊くんと同じ布団に入りたーい!」

「え!?でも、柊くんが……」

「いいよ。それくらい」

 

俺が胡桃を布団の中に呼ぶと、胡桃は磁石のように過剰にくっついた。

 

「すりすり~」

「柔らかい……」

 

胡桃の頬が餅のように柔らかかった。擬音をつけるんだったら、「プニプニ」だろうか。とにかく柔らかい。

 

「早く寝よう、眠いし」

 

あーやが呆れたのか言いだした。

 

「あ、そうだな。寝よう」

 

俺はあーやに促されて、胡桃と同じ布団で寝た。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 疲労

 翌朝、俺の多忙の毎日が始まった。

 

3月26日 事務所復旧作業(6:30~14:00)

仮想世界復旧作業(北関東、14:45~23:45)

 

 電車は臨時ダイヤで動いていて、高崎線は本庄~高崎駅間で運転を見合わせていた。上野東京ラインは直通を中止し、上野~本庄で本数が大幅に減っていた。

俺は始発のグリーン車に乗り、なぎと一緒に事務所に向かった。

 

「どんなことやるんだろうね」

「多分瓦礫の撤去じゃないかな」

 

いろいろなものが倒れ、割れていることだろう。

 

 着いてすぐ、事務所の人たちが事務所に向かって走っている様子が見え、俺たちも走った。

事務所はまさしく地獄絵図で、ガラスは全部割れ、建物は倒壊していなかったが、中はほとんどの物が散乱していた。

 

「メンバーは怪我するといけないので、休暇にしてます」

「あぁ。正しい判断だ」

 

俺は会費室に入った。

パソコンは全員持ち帰っていて無事だったが、ホワイトボード、電気は床に落ち、最悪の状態だった。

 

「ここから始めようか」

「はい」

 

職員全員総出で撤去作業に取りかかった。

 

 14時に近くなると、俺はなぎに指揮を任せ、大宮に向かった。北関東仮想世界総合制御所、通称NVCでの作業がまだ残っているため、手伝いに行くためだ。

北関東仮想世界総合制御所以外にも、正式名称で言うと、以下のものがある。

 

南関東仮想世界総合制御所(SVC)横浜

千葉県仮想世界総合制御所(CVC)千葉

東京圏仮想世界総合制御所(TVC)新宿

北関東仮想世界総合制御所(NVC)大宮

信越地方仮想世界総合制御所(YVC)甲府

 

望はすごいことに全制御所を担当しているが、俺はこの中でもTVC、NVC、SVCの担当をしている。

大宮までは宇都宮線、高崎線、京浜東北線が動いているが、俺は高崎線にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北関東仮想世界総合制御所ではかなりの量をこなし、帰るのは最終だった。ここまではまだよかったのだが……

 

3月27日

北関東仮想世界総合制御所(6:00~21:00)

南関東仮想世界総合制御所電話会談(21:00~)

北関東仮想世界総合制御所(23:00~23:45)

 

3月28日

事務所(6:30~19:00)

北関東仮想世界総合制御所(20:00~23:45)

 

こんなことが2週間続いた。その間に大きな地震があると徹夜で働いたりして、2週間後の4月11日には俺の声は低く疲れ果てた声になり、思うように動くことができなくなっていた。疲労が溜まり、一回寝ると体が起き上がらず、誰かに手伝って貰っていた。

 

「柊くん、声良くなった?はちみつレモン飲む?」

 

喉が良くなるらしく、はちみつレモンを温めて俺に渡してくれていた。その効果は微々たるものだったが、徐々に良くなっていた。

 

「ありがとう、胡桃」

「いつものじゃない……」

 

胡桃は悲しそうにして部屋から出て行った。

 

(いつもの俺じゃない、か。そうだよな、こんな変わり果てた姿じゃ)

 

どういう顔をしてるんだろう。きっと醜い顔なんだろうな。胡桃もすぐ離れたし。

 

(つってもどうせ明日も1日仕事なんだけど。もういいや。諦めよう)

 

俺は眠りについた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 泥酔

 翌朝、俺が出勤しようとすると、胡桃となぎが必死で止めにかかってきた。抱きついたり押し返したりして、俺を動かさなかった。

 

「今日は一緒にイチャイチャしようよ!」

「私がいくからっ!休んで!」

「いや、今日は事務所に行かないと」

 

俺が押し切ろうとすると、あーやが言った。

 

「あ、そういえば今日、女子しか行っちゃダメだったはず。女子トイレの整備とかで」

「そうだったのか。じゃあ休まないとな……」

 

俺は再び自分の部屋にもどった。胡桃はジャンプしながら俺についてくる。

 

「柊くん、ごはんたべりゅ?」

「噛んだ?」

「うぅ……」

 

胡桃は恥ずかしそうにうつむいた。

 

「まぁ、なんか食べようかな」

「分かった!じゃあ、した行こっ」

 

俺は胡桃と手をつないで一階に降りた。

 

 胡桃が冷蔵庫を開け、何を持ってきたかと思うと、アルコール度数のかなり高い酒。水との比率が酒1、水9くらいでやらないと酔いすぎて話せないと思う。

 

「ちゃんと割れよ?」

「いいって。確か9:1だっけ」

 

1:9だよ!逆にすんな!

 

「違っ、1:9──」

 

胡桃はもう9:1で入れていて、飲み始めていた。酔いやすい人が、なんでこんな……

 

「暑い……やけどしそう……」

「いわんこっちゃない。水飲め。少しでも多くな」

 

俺は水道から水を出し、胡桃に渡した。

 

「ふにゃぁ……」

「胡桃、酔うのが家でよかったな」

「よってりゃいもーん」

 

胡桃は俺に寄りかかった。これを酔ってるって言うんだよ。

 

「あのな、明日が大変なんだぞ。二日酔いで」

「いいもーん、よってにゃいしぃ」

 

発言が矛盾してるじゃないか。

 

「そうか。酔ってないか。じゃあ放っておいていいな」

「うん、ほっといていいよ~」

 

いや、さすがに放っておけないだろ。

 

「あのさ、甘えていいんだよ」

「じゃあまえりゅ」

 

胡桃は俺に飛びかかった。胡桃は俺にしがみつき、離れない。

 

「水飲むか」

「飲ませてぇ」

 

胡桃は口を開ける。俺はコップの水を口の中に注ぐ。それを胡桃は飲んだ。

 

「ちょっと寝たい……」

「いいよ。自分の部屋で寝るか?」

「柊くんのとにゃりがいぃ」

 

俺は胡桃をおぶり、俺の部屋に連れて行った。

 

「私の部屋でいいよぉ、寝るだけだし」

 

俺は胡桃の部屋に引き消した。

俺が胡桃の部屋に入るなんてかなり久しぶりだった。多分半年くらい入っていない。

 

「胡桃、おやすみ」

「柊くんもいっしょにねりゅのーっ」

「俺はなぎと連絡もとりたいし、一緒には……」

「浮気しちゃいやーっ」

 

浮気じゃないし。嫉妬深くなるんじゃないよ。

 

「浮気じゃない」

「じゃあ彼女にょ乗り換え?」

 

変わんないじゃん。

 

「じゃあ、一緒に寝てほしいのか」

「うにゅうにゅ」

 

なんだこれ。なんかの動物か?

 

「分かったよ。寝るよ。床でいいか」

「ふちゅうは同じ枕じゃにゃいにょ?」

 

一緒の枕で寝るの?まじかぁ……

 

「分かったよ。というか、胡桃のベットシングルだよな?」

「そうだよ?」

「2人寝れなくないか?」

「はぎゅして寝ればどうにかにゃりゅ」

 

ハグして寝ればどうにかなる?いや、スペース削減になるからそうか。嫌じゃないしそれでいっか。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 集合

 地震から1ヶ月、学校の由月たちは中学3年生。受験シーズンに入り、俺も力が入ってきた。

それとは逆に、杏たちの吹奏楽部引退があと3ヶ月に迫っていた。

そんな部活は、地震で大幅に減り、会う回数も少なかった。そんな俺は家で現実逃避。一気に仕事をやったせいか、もう仕事がなく、暇を持て余していた。学校もないし。

 

「そうだ、妹呼ぼっと」

 

俺は妹8人+暁依と俺のグループチャットで呼びかけた。

 

柊〈今から小山集合って可能?〉10:05

藤花〈可能!〉10:05

沙理華〈可能〉10:05

冬菜〈可能〉10:05

かりな〈可能(家にいるけど)!〉10:05

彩夏〈可能!〉10:05

瑞浪〈可能〉10:05

暁依〈可能だが〉10:06

風那〈可能〉10:06

香奈〈もう足利にいる。可能で〉10:06

 

一気に返信来たな。1分もしないうちに9人全員から返信が来た。俺は少し驚きながらも、続きを打った。

 

柊〈じゃあみんな何時の電車か送って〉10:07

 

最初は藤花から。藤花はこんな感じ。

 

10:57つばさ138号東京行き

12:57

13:21やまびこ212号東京行き

13:32

 

次は沙理華。かなり遠くから。

 

10:23エアポート新千歳空港行き

11:01

11:45JAL2902便仙台空港行き

12:50

13:08仙台行き

13:34

14:00やまびこ214号東京行き

15:32

 

瑞浪、暁依、かりな、彩夏、藤花、冬菜、香奈以外は全員この電車。

 

瑞浪は近かった。

 

11:08快速宇都宮行き

11:49

 

彩夏、暁依はこれに合わせるようだ。

一方、俺たちと冬菜はこれだ。

 

深谷10:23小田原行き

大宮11:12

大宮11:17小金井行き

小山12:09

 

香奈はこれ。

 

足利9:43

小山10:24

 

そして、俺は聞いた。

 

柊〈沙理華たち、もう切符買ったか?新幹線の〉

沙理華〈買ってないよ。どうかした?〉

柊〈沙理華たち、那須塩原で214号降りて〉

風那〈いいけど、なんで?〉

柊〈遠いから。こっちも小山からそっちの方向行くから。那須塩原で合流しよう〉

 

そして、俺は彩夏たちに言った。

 

柊〈それで、宇都宮14:44黒磯行きに乗るから、14:00までに小山に着いてて〉

かりな〈了解っ!〉

 

そのあと、本人登場。

 

「にゃんっ!」

 

彩夏〈はーい〉

暁依〈わーった〉

 

なんだその返事。

 

冬菜〈了解〉

 

かりなは俺の肩からスマホを覗き見る。

 

「なんかエッチなサイトとか見てるの?」

「見てねぇわ。つーか、そしたら胡桃でいい」

「胡桃ちゃん大変だねぇ」

「滅多にしないけど」

 

かりなは「私もーっ」と甘える。前から甘え上手なんだから……俺は保護者じゃないっての。

 

「お前はまだ高1だろ?」

「そうだけどー、まだ甘えてもいいじゃん」

「甘えるのは別にいいが、胡桃にすることをかりなにはできないだろ。未成年なんだから」

「JKだよ?」

「なったばっかりだろ」

 

俺はかりなと言い合うように話していた。

気付くと時間になっていて、俺は絢梨に留守番を頼み、家を出た。大宮では瑞浪たちの1本後の電車になる。

 

「2人で出かけるなんて久しぶりだね」

「かりながいると大体胡桃がいたからな」

 

胡桃は事務所にいるらしい。何でかは知らないけど。

 

 大宮に着いてから、9番線からの11:17発小金井行きに乗車。1本前が宇都宮行きだったため、この電車は小金井止まり。小山までだったらどっちでも変わらないが。

 

「みずねぇたちは前にいるの?」

「1本前の電車だな。小山で時間あるから話せる」

「みずねぇ、元気かな」

「来れるくらいだから元気だろ」

 

俺はかりなに言った。

 

「お兄ちゃんは瑞浪と会ってないの」

「会ってない。冬菜とも会ってないし」

 

冬菜は興味がなさそうにそっぽを向いた。

 

「ふゆねえ、性格変わった?」

「そう?普通でしょ」

「変わったんじゃないか。多分」

 

俺も変わった気はしてたし。

日差しがだんだんと昇ってきて、少し眩しい時間だった。

 

 小山につくと、香奈、瑞浪、暁依、彩夏が俺の降りた10番線で待っていた。俺たちは決まったとおり先頭に乗っているため、すぐ分かる。

 

「お兄ちゃん!久しぶり!」

「久しぶり。香奈も元気そうでよかった」

 

暁依は冬菜となんか話していたが、何かは分からなかった。

 

「次に着く人って誰?」

「13:32の藤花だな。新幹線の改札口は1つだけだからそこで待ってよう」

 

俺たちは新幹線改札口に全員で向かった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 合流

 新幹線改札口は宇都宮線の階段からまっすぐ行って、駅の改札口の反対側にある。改札口の横を過ぎると、両毛線の階段があり、少し不思議な構造をしている。

新幹線は2面4線で、2線は通過線になっていて、大半のやまびこ、なすのが通過待ちする。

 

「そうだ、かりな、彩夏。ヘアピンしとけ」

「ん?あ、分かんないから?」

「そう。俺しか分からないだろ」

「私だって分かるもん」

 

香奈が胸を張って言った。じゃあどっちか聞いてみようかな。

 

「香奈、じゃあどっちがかりな?」

「右がかりな!」

「違うっ!私彩夏!」

「嘘つくな。お前かりなだろ」

 

香奈、以外と合ってた。かりなが偽ってたけど。

 

「お兄ちゃん言わないでよぉ」

「あーはいはい、悪かったな」

 

高校生にまでなったのに、この甘えはどうにかならないかな。

俺が呆れていると、藤花が柱から、ひょこっ、とかわいく顔を出した。

 

「あきにい、お兄ちゃん、久しぶり」

 

あきにいは暁依、お兄ちゃんは俺だ。紛らわしいけど。

 

「久しぶり、藤花」

「いつからそういうキャラになったんだよ」

「ついさっき!」

 

自信満々で言う。なんで自信があるのか分からんが。

 

「お姉ちゃん、久しぶり!」

 

姉の場合はみんなお姉ちゃんって呼ぶから誰がなんなのか分からん。たまにかりなか彩夏が言うとみんなが反応することがある。

 

「久しぶり、かりな」

 

藤花はわしゃわしゃしてかりなの髪をぐちゃぐちゃにする。

 

「お姉ちゃん、激しいよぉ」

「久しぶりだからかなぁ。ほーれ、わしゃわしゃ!」

 

藤花は相変わらず続けている。

 

「そんで、もう1人の双子が来てないらしいが」

「暁依、言ったろ。那須塩原で合流だって」

「そうだっけっか。すっかり忘れてた」

「あきにい、ちゃんとして?」

 

香奈から言われる始末。本当に兄か?

 

「ほーら、そんなことどうでもいいから行こ」

 

瑞浪、合わない内にまとめられるようになったのか。関心だ。

 

 14:03発普通宇都宮行きに乗車。目安通り、宇都宮で44分発黒磯行きに乗り継げる。

 

「新幹線じゃないんだぁ」

「金の無駄遣いはしないさ。那須塩原までだったらそこまで遠くないだろ」

 

着くの15時半だけど、間に合うんだったらいいし。

 

「お兄ちゃんたちと電車に乗るの久しぶり~」

 

香奈が言った。中々会うことが無かったからな。

 

「香奈は今何してるんだ?」

「今はバイト掛け持ちしながら大学行ってるよ。週に3回だけど」

「3回しか行かなくていいのか?」

「うん。事情を説明してあるから」

 

だったらお金なんて貯まってくだろ。バイト掛け持ちしてるんだし。

 

「それで、なんで足利に居たんだ」

「在来線の旅してたっ」

「そうか、旅行好きだっけ」

「4月だから桜をね」

 

そうか、桜の時期か。

 

「お兄ちゃんと行けたらなー」

 

お花見なんてしばらく行ってないし、もうそろそろ行ってもいいかもしれない。

 

「お兄ちゃんが一緒にお花見行ったらついにパパじゃん」

「まだそんな年齢じゃない」

「そういう年齢じゃんか」

 

今年28……うん、父親になれる年だった。

 

「だったら冬菜だって母親じゃないか」

「まだ20代前半よ!」

「俺もそうだからな」

 

なんだよ、俺だけじゃないか。というか、高校1年生の兄が今年28って、普通に考えて滅多にないだろ。年の差12だぞ?

 

「パパーっ」

「や、やめろよ、その呼び方」

「なんで?パパ」

 

なんだよこの呼び方!

 

 

 那須塩原に着くまでずっと「パパ」呼びだった……もう疲れたよ、お兄ちゃんは。

 

「パパ、どこから降りてくるの?」

「もうやめてくれないか……」

「お兄ちゃんが困ってるわ。やめてあげよ」

 

冬菜がみんなに言った。こんな性格だったか?冬菜は。

 

「冬菜、性格変わったか」

 

暁依が先に言った。冬菜は否定するように言った。

 

「気のせいじゃないの。変わってないわ」

 

じゃあ俺たちが気付かなかっただけか、元からそうだったかのどちらかか。

 

 

【月島風那視点】

 

 新幹線に乗って、那須塩原に向かっていた。やまびこって新幹線らしいけど、結構速い。どのくらい出てるんだろ。

 

「お姉ちゃん、那須塩原何時?」

「15時くらいね」

 

14:59に到着する。

1駅通過した。スピードはさすが新幹線。かなり速かった。

 

「まもなく、福島です」

 

福島。地理的に見れば、隣の県が那須塩原。

 

「お姉ちゃん、眠くないの?」

 

沙理華が眠そうに私を見つめる。目が半開きだ。

 

「まだ、ね。けど、ここで寝ちゃうと危ないんじゃない?」

 

那須塩原までに起きれる自信が無い。

 

「じゃあ膝枕……」

「いいよっ」

 

沙理華は私の膝の上で眠った。

私が沙理華の寝顔を見ていると、車内放送でこんな放送が流れた。

 

「お客様に、ご案内いたします。ただいま、お隣郡山駅におきまして、線路内に人が立ち入ったとの情報が入りましたため、安全が取れるまでこの電車、当駅にて運転を見合わせます。運転再開までしばらくお待ち下さい」

 

運転見合わせか。10分くらいだったら問題ないと思うけど……

私は沙理華をよしよしと撫でながら運転再開を待った。

 

大体15分に1回くらい放送があった。そのため、もう40分は止まっている。

 

「お客様にご案内いたします。ただいま線路内に人が立ち入ったため、運転を見合わせています」

 

運転再開はまだっぽい。

すると、スマホのバイブがポケットの中で鳴った。それに沙理華が起きちゃったけど。電話をかけてきたのはお兄ちゃんだった。

 

「沙理華、ここで荷物見てて。私電話してくる」

「ふぁーい」

 

沙理華は眠そうに返事をした。

私はホームに出て、電話に出た。

 

「もしもし」

《風那?今福島で運転見合わせてる?》

「なんで知ってるの?」

《走行位置情報見てる》

 

そうだったんだ。

 

《それで、風那、今何時間ぐらい止まってる》

「大体50分くらい」

《ホームにいるのか》

「うん」

《そうか。安否確認だったんだが、沙理華もいるか》

「寝てるけどね」

《そうか》

 

お兄ちゃんは笑いながら言った。

 

《無事みたいだな。気をつけてこいよ》

「はーい」

 

電話が切れ、私は車内に戻った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 那須塩原へ

運転見合わせから1時間半、やまびこ214号は動く気配がなかった。すると

 

 

 

「お客様にご案内いたします。本日、線路内人立ち入りの影響で、仙台~郡山駅間、全ての電車運休となります。そのため、当列車、やまびこ214号は運休となります。切符につきましては、目的地の駅で清算ください。電車については駅の放送をご確認ください」

 

 

 

運休か。私は沙理華と一緒に、新幹線から降りて、次の在来線を確認した。

 

沙理華は私にてくてく可愛くついてくる。可愛い妹っ!

 

次は16:10発郡山行き。

 

「お姉ちゃん、座れそう?」

 

「無理っぽいかも」

 

案の定、電車に座れなかった。というか、混んでいて、ドアの前で進めなくなってしまった。

 

「お姉ちゃん、混んでるね」

 

「うん。沙理華のことガードするからね」

 

可愛い妹に触れさせはしない!

 

「お姉ちゃん、こっち」

 

沙理華が先頭に向けて歩き始めた。人をかき分けながら向かうが、先頭の溝のようなところは埋まっていた。

 

「あそこ、空いてるって聞いたのに……ごめん、お姉ちゃん」

 

はうっ!謝ってるけど可愛い!

 

「大丈夫だよ。頑張ったね」

 

私は沙理華を撫でた。

 

「んんっ、恥ずかしい……」

 

可愛い声出すなんて、もう可愛い妹(?)

 

「ひゃっ」

 

私は沙理華を抱きしめていた。まずい、なんか理由をつけないと……

 

 

 

「ぶつかっちゃと嫌でしょ?だからだよ」

 

「じゃあ私も!」

 

 

 

沙理華も私を抱きしめる。シスコンになっちゃうじゃん!お兄ちゃんはシスコンだけど。

 

 

 

【月島柊視点】

 

 

 

 なんか寒気するな……誰か噂でもしてるんか?

 

 

 

「どうしたの?お兄ちゃん」

 

「誰か俺のことを噂してた気が……」

 

「好きだから?」

 

 

 

瑞浪は可愛く笑って言った。かわいい。うん。かわいい。

 

 

 

「瑞浪っ」

 

 

 

俺は瑞浪を持ち上げた。

 

 

 

「わーっ、高い高い!」

 

 

 

なんだ、可愛いじゃないか。

 

それにしても、風那たち遅いな。新幹線は……あれ?

 

風那たちが乗っているはずの新幹線は福島駅、いや、全区間から姿を消していた。ということは、在来線に連絡したか。

 

 

 

「暁依、東北本線福島駅で、やまびこ214号から乗り換えられる電車は」

 

「16:10発郡山行き」

 

 

 

暁依は駅にある本の時刻表で瞬時に調べていた。

 

 

 

「じゃあ風那たちはその電車に乗ってる可能性が高いな。切符は那須塩原になってるはずだから、ここで待つしか無いな」

 

「はいっ」

 

 

 

 

 

【月島風那視点】

 

 

 

 「むぎゅぅ……」

 

 

 

電車は南福島、金谷川、松川、安達と停車し、次は二本松。

 

この電車には、やまびこ214号から郡山、また郡山より先に向かう乗客、東北本線の仙台方面から郡山方面への乗客、東北本線の福島~安達駅間の乗客が乗っている。それにもかかわらず、この電車は4両。北海道の札幌でもこんな混んでいたことはなかったと思う。福島県はこんな感じなんだなぁ。とつくづく思っていた。

 

 

 

「ぎゅう……」

 

 

 

苦しくて思わず声が出る。あと、沙理華とものすごい隅々まで密着している。

 

 

 

「お姉ちゃん……乳首、こしゅれる……」

 

「ごめん……押さえるね」

 

 

 

私は沙理華の乳首があるであろうところを手のひらで押さえた。

 

 

 

「んっ……ハグ、して」

 

「ハグも?」

 

 

 

沙理華、よっぽど不安なんだろうな。

 

 

 

 郡山には混雑の影響で5分遅れて到着した。つぎは17:05発新白河行きに乗車。乗り換えを待ち、混雑で15分に遅れて発車。

 

 

 

「よかったね。ボックス席座れた」

 

「うん。これで、蒸し暑いけど、新白河までは楽」

 

 

 

17:20に出発したため、乗り切れない乗客が大量にいた。もう手を動かせないほどの混雑。ちなみに、4両。

 

 

 

 

 

 新白河には13分遅れて到着。17:57に到着。次は18:32発黒磯行きで、幸い、1両長い5両編成で運転。乗客は1号車から5号車までびっしり待っていたが、少し並んでいる人は少ない気がした。多分、郡山からの新幹線に乗る人が居たんだろう。

 

 

 

「お姉ちゃん、今日、いっぱいくっついたね」

 

 

 

沙理華が私に抱きついて言った。

 

 

 

「そうだね。なかよしーっ」

 

 

 

私はぎゅっと抱いた。

 

 

 

 18:28到着の郡山始発新白河行きが10分遅れているらしく、18:32発黒磯行きはこの電車を待って出発するらしい。

出発したのは18:40。8分遅れて新白河を出発した。

車内は少し動けるくらい。

 

 

 

「ちゅっ」

 

 

 

沙理華が私にキスした。

 

 

 

「ここはダメだよ。おうちでねっ」

 

 

 

私もキスした。

 

 

 

 黒磯には5分遅れて到着。19時丁度に到着した。次は宇都宮線宇都宮行き。定員数が多いのか、座席に座れた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 着いて

 那須塩原に着くと、私は改札を出てお兄ちゃんを探した。改札から出てると思ったけど、出てないのかな。

私が改札内に戻ると、冬ねえが前を通り過ぎた。

 

「冬ねえ!」

「風那?それに沙理華も。遅かったね」

「電車運休で在来線できたもん」

「疲れたでしょ?お兄ちゃん、下にいるよ」

 

私と沙理華は下にいるお兄ちゃんのところに向かった。

お兄ちゃん♪お兄ちゃん♪

 

「ふっふふーん♪」

「お姉ちゃん、ご機嫌だね」

「そお?けどお兄ちゃんに会えるからね♪」

 

私は鼻歌を歌いながらお兄ちゃんの元に行った。スキップして行くと、お兄ちゃんはベンチに座っていた。

 

「お兄ちゃん♪」

「風那?着いたか。おはよう」

 

お兄ちゃんは笑顔で言ってくれた。

 

「お兄ちゃん、疲れたよぉ」

「そうか。じゃあ着いてからいっぱい撫でてやるからな」

「わーいっ」

 

私が戯れていると、沙理華と冬ねえがやっと追いついた。

 

「速いよ……」

「おっ!みんないる!」

 

奥の方からいなかった6人が駆け寄った。次は19:20発黒磯行き。

 

「もう暗くなっちゃったしな。早く行こう」

 

お兄ちゃんは私たちを連れて電車に乗った。

 

【月島柊視点】

 

 高久には19:34。ここから歩いて10分のところに今回の目的地がある。

真っ暗な中を歩いていく。新幹線の線路の下を通り、しばらく歩くと、かなり広い家があった。ここが目的地。

 

「ここ?」

 

かりなが俺に聞く。周りも俺を見つめていた。

 

「そう。ここに住みたい人は住んでいいぞ。住める人だけだが」

 

住めるっていうと、多分藤花と風那だけ。それ以外は高校だったり、俺と暁依は仕事、香奈は大学生だったりと、住めない理由がある。

 

「じゃあ、私来よっかな」

「私は沙理華がいるから」

 

風那は拒否した。ということは藤花で一人暮らしか。大変そうだけど大丈夫か。

 

「藤花、一人で平気か」

「多分?」

 

信用ならない。でも誰かと一緒にいれないし。

 

「たまに来てくれるでしょ?」

「あぁ。じゃあ大丈夫か」

 

俺はそれだけで済ませた。

 

 家に入ると、部屋の分担が始まった。俺は勝手に、ど真ん中の部屋に決まったが、それ以外はみんな争奪戦だった。

暁依は紳士的に譲り、暁依は壁際の部屋になった。

 

「お兄ちゃん~、撫でて~」

 

風那が部屋に入ってきた。確かに約束していた。

俺は風那の頭を撫でた。

 

「んんーっ、ここここ~」

 

風那は頭を動かして撫でるところを変えてくる。猫。

 

「お兄ちゃん何してるの?」

「なんか撫でてる」

 

かりなは俺の隣に座って言った。

 

「じゃあマッサージしてあげる」

 

かりなは俺の肩を揉んでマッサージしてくれる。

 

「ああ、気持ちいい……」

「よかった」

 

俺は気持ちよくなりながら、風那を撫でていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミニエピソード

6つのミニストーリーが入ってます。それでは本編へ!


 Story. 1 姉妹♪

 

「瑞浪~、お買い物行こ!」

 

風那が言った。すると、瑞浪が風那の後ろに行った。

 

「ふにゃ?」

「行く~」

「えヘヘ~、じゃあ行こ~」

 

瑞浪は風那の肩に掴まり、電車ごっこのようにして外に出ていく。それを見てるとすごいほっこりしてくる。

 

「かわいい……癒される~」

 

すると、俺にスリスリしてくるものがあった。うさぎの小雪だ。

 

「かりなが勉強中で暇だったか」

 

小雪は俺の周りを走り回る。すると、なんか薄茶色のものも見え始める。

止まると、きなこも一緒に走っていた。

 

「これも姉妹、かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Story. 2 勉強熱心

 

 かりなは受験勉強で、ずっと勉強している。入るとすごい空気だ。

 

「柊くん、かりなちゃんすごい勉強してるね」

「受験だからな。しょうがないよ」

 

かりなから少し離れると、沙理華が勉強していた。

 

「沙理華、なんの勉強だ」

「お兄ちゃんの勉強!」

「せんでいい!」

 

俺はその紙を取り上げる。そこには、たくさんの俺のことが……

 

お兄ちゃんは回鍋肉好き!

お兄ちゃん大好き!

お兄ちゃんかっこいい!

虜にできないかなぁ

 

「……」

 

何も言えない。見ちゃ行けないものを見てしまった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Story. 3 双子

 

 彩夏とかりなは双子なのだが、全く見分けが付かない。分かるのは俺ぐらいで、違いは声の声質、トーンの違い。それ以外は、細かいが、話すスピードが彩夏の方が若干遅い。かりなの方が速い。

すると、後ろから手で隠される。この手の感触は……彩夏か?

 

「だーれだっ」

 

彩夏、だと思ったが、よく考えると声質がかりなに似ている。トーンも彩夏と違う。

 

「2人いるだろ」

「んなっ!どうして分かったの!?」

「どうしてだろうね」

 

俺は双子の彩夏とかりなを見て言った。どうしてだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 story. 4 夫婦

 

 胡桃とは夫婦の関係であるが、今までけんかしたことがない。1度も。

 

「柊くん、てつだってぇ」

「いいよ」

 

困っているときは少し語尾を伸ばす。それが胡桃の癖だ。

 

「鍋落っこちる……」

 

俺は胡桃の後ろから鍋を押さえた。

 

「ありがとう、柊くん」

「お安いとこで」

 

俺がそう言うと、かりなと小雪が俺と胡桃をじっと見つめていた。何だと思うと、かりなは言った。

 

「私たちともそういう風にして!」

 

……そんなことなのかよ。じゃあ、かりなはハグでいいかな。俺はかりなにハグする。

 

「うん!良くなった!」

 

なんだそれ。いや、夫婦の関係を共有してほしかったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 story. 5 猫?

 

 ある日、雷雨だった。雷はなぎ以外みんな怖いらしく、かりなは隅で耳を塞いでいた。

雷鳴が鳴ると、かりなは急に飛び跳ねた。

 

「ふにゃっ!」

 

猫かよ。

再び雷鳴が鳴る。

 

「ふみゃぁっ!」

 

猫だな。隣にいたなぎも

 

「猫だね」

 

と言った。やっぱりそう考えるよな。

すると、俺の膝の上にもふもふしたものが乗ってきた。

 

「あれ、きなこ」

「……猫、じゃないよね?」

「どうだろう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 story. 6 顧問……?

 

 音楽室に行くと、いつも通り合奏の体型で待っていた。新1年と新2年で合計15人。

 

「ロングトーン、8,4で」

 

返事をすると、みんながロングトーンをし始める。

終わると、楽器を置いてみんなこっちに来た。

 

「せんせーっ、遊ぼーよ!」

 

なんだろう、遊び道具にされてる感覚……

 

「何するんだ」

「音当てクイズ!」

 

俺がピアノの音を弾いて、そのあと自分たちの楽器で同じ音を吹く。そんな遊び。

俺は「ファ」の音を弾いた。2秒後、一斉に聞こえた音を吹いた。ん、不協和音。

 

「テナーサックス、ファだよ?」

 

そう言うと、不協和音はなくなった。こう考えると顧問っぽいが、遊びに付き合わされる顧問……?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 勘違い

 私が起きると、下からおっきな声が聞こえた。なんか、いやらしい……エッチな声。

 

「らめぇ!外に出して!」

「いや!中に出す!」

 

え、待って……お兄ちゃんとかりな……?

 

「あっ、あぁっ、中に出ちゃってる!」

「いいだろ!間に合わなかったんだから」

 

やばいって!こんなこと……20代後半の人と女子高生が!破廉恥な……!

私は急いで、バタバタと音を立てて下に降りた。

 

「お兄ちゃん!」

 

私が叫ぶと、お兄ちゃんとかりなは普通にこっちを見た。

 

「沙理華?どうしたんだ、朝早くに」

「こっちのセリフ!」

 

私は言いづらかったが、頑張って言った。

 

「あ、あさから……せ、S○Xなんて……!」

 

そう言うと、お兄ちゃんたちは顔を赤くさせた。

 

「バカ!そんなことしてねぇよ!」

 

よく見ると、ケーキの中にクリームを入れるものが刺さっていた。

 

「クリームを外に出すか中に出すかを話してただけだよぉ」

 

かりなも少し恥ずかしそう。じゃあ……

 

「ああああぁぁ……」

 

私は顔を隠して声を上げた。恥ずかしすぎた。穴があったら入ってしまいたい。ないけど。

 

【月島柊視点】

 

 俺は風那への誕生日ケーキを、かりなと一緒に作っていた。途中で沙理華が意外な形で乱入してきたが、結局は一緒に作っていた。

 

「風那、ちゃんと食うかな」

「大丈夫。お姉ちゃんだったら食べる」

 

お姉ちゃんだったら、って、風那が何でも食うみたいじゃないか。

 

「そうか。じゃあ心配いらないな」

 

俺はみんなが起きてくる前に、氷結魔法で家の裏に作った氷の部屋にケーキを置いた。凍らない程度になっているはずだ。

 

「さて、裏には行かないようにして、みんな起きるまで待とうか」

「はーいっ」

「落ちてこないかな」

 

沙理華は笑いながら言った。

 

「いくら何でも階段から落ちたりは……」

「そうだよねーっ」

 

沙理華は俺に背後から抱きついた。

 

【月島彩夏視点】

 

 私は起きて、ちょっと気になってた錠剤を眺めていた。

 

「噛まないで飲める!胸が大きくなる薬!」

 

いかにも胡散臭い。だけど、ちょっとでもおっきくなれば、いいかな。

私はそんな軽い気持ちで錠剤を飲んだ。

そういえばこの薬、あきにいが恥ずかしがって見てたっけ。

 

「えっ、ちょっ、胸が熱い……っ」

 

私は自分のほとんど無い胸を強く掴んだ。

 

「なんだ、暑くなるだけか」

 

私はベットに横になった。なーんだ、おっきくなんないじゃん。

 

 しかし、立ち上がると、圧倒的な重みがやって来た。

 

「うっ、お、おもいっ」

 

私は自分の胸を見た。私の胸は、多分Fカップくらいかでおっきくなっていた。

 

「わああっ!」

 

私は自分の胸を揉んだ。柔らかい。手が埋まる!

 

「おっきくなった!」

 

私は大きくなった自分の胸に喜んでいた。

ついに!巨乳の仲間入り!

 

 と思ったのもつかの間、ずっと続くわけがなく、15分だけで普段の胸に戻った。

 

「ちぇっ」

 

私は1階に降りた。

 

【月島柊視点】

 

 ケーキは夜にした。ろうそくをつけるときに、ろうそくが見やすいから。

 

「おはよー……」

 

眠そうに6人が降りてきた。そのあと、はしごから暁依が降りてきた。

 

「おはよ。眠そうだな」

「あきにいこそ眠くないの?」

「起きてから30分経ってれば」

 

だったら降りて来いよ。そう思ってしまう。

 

「みんなは起きたばっかり?」

「うん……ふわぁ……」

 

風那があくびをしながら言った。

 

「あ、もう9時か。ちょっと外で胡桃にテレビ通話してくる」

「私も行く~」

 

かりながとことこと付いてくる。俺はスマホを持って外に出る。

胡桃はもう来ていて、俺を待っていた。

 

「ごめん、遅れた」

《許す!》

 

胡桃はピースして言った。

 

「今日の夜に帰るから、待ってる?」

《待ってる!柊くん、早く帰ってきてね?》

「わかってるさ。家に帰ったら胡桃といちゃつこうかな」

「私も居るからね」

《かりなちゃんも一緒にいちゃつく?》

「それは遠慮しとく……」

 

胡桃はかわいく笑って言った。

 

《何時に着く?》

「ちょっと待って」

 

俺はその場から離れ、彩夏に頼んだ。

 

「彩夏、ここから深谷までの最終って何時だ」

「調べるね」

 

彩夏はしばらく調べていた。

 

「20:46発で宇都宮まで出て、新幹線に乗るか、小山から両毛線か」

「新幹線でいいや。ありがと」

「深谷に23:05だよ」

 

彩夏はそう言った。俺は親指を立てて、その場をあとにした。

俺は伝えられたことを胡桃に話した。

 

「23:05に深谷着く」

《23:05ね、分かった》

 

胡桃は天使のような笑顔で言った。あぁ、ハグしたい。

 

「じゃ、楽しみに待ってて」

「じゃあね、胡桃ちゃん!」

《うん。じゃあね》

 

胡桃はテレビ通話を終えた。俺はスマホの電源を消し、彩夏たちのところに戻った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 誕生日パーティー

 俺たちは沙理華と風那が帰る17時より少し前の15時半から、風那と藤花の誕生日パーティーを始めた。家のカーテンを全て閉め、電気も全て消した。俺は裏からケーキを持ってきて、見えないところでろうそくを刺した。

 

「風那、藤花」

 

俺は風那と藤花を振り向かせた。そして、みんなで

 

『誕生日おめでとう!』

 

と言った。風那と藤花は何が起きたのか分からない様子で、置かれたケーキを見ていた。

 

「なに?何が起きたの?」

「誕生日パーティーさ。ほら、ろうそく消して」

 

風那はろうそくの火を半分消した。藤花が残りを消すと、冬菜がケーキを10等分し、俺たちに分けた。

 

「風那と藤花ももう二十歳だもんな。お前が生まれたときが懐かしいよ」

「え、見てたの?」

「みんな見てたよ。な」

 

風那よりある程度年上である、俺と暁依、冬菜は、風那と藤花が生まれた時に俺たちは病院にいた。当時、俺は8歳、暁依が5歳、風那が3歳だった。双子が生まれたときは驚いたなぁ。

 

「覚えてるか?風那が小6の時の授業参観、俺が行ったんだぞ」

「藤花の授業参観は俺が行ってた」

 

風那たちが小6の時、俺は20歳で、暁依は17歳。暁依に至っては、高校を休んで来ていた。

 

「中学の授業参観は私が行ってたもん」

「よく言うよ。藤花の授業参観はずっと俺が行ってただろ」

 

それからすぐに関東に来たけど。

 

「授業参観のは覚えてるよぉ。あ、4歳の時にかりなたちの産まれたとこ見に行ったなー」

「私も行ってたもん。けど、お兄ちゃん居なかったよね?」

 

いや、居たんだけど。

 

「バッチリ居たぞ」

「嘘!?」

「君らが俺に甘えてくるから。まだ小6だったのにさ」

「居たっけ?」

 

酷くない?俺ってそんなに印象なかったかな?

 

「君ら、物心ついた時から俺に甘えてばっかりでさ。おかげで母さんたちは苦労しなかったって言ってたけど」

「へぇ、そうだったんだ」

 

香奈は俺の横に座って言った。

 

「私も産まれたところ居たらしいけどね」

「流石に2歳だった香奈を置いてく訳にはいかないだろ」

 

懐かしいな、こうやって話してると。

 

「私は誰の産まれるところも見れてないけど」

 

かりなが言った。1番年下なんだから見れないだろ。

 

「大丈夫だよぉ、気にしないでぇ」

 

風那がかりなを、藤花が彩夏を撫でた。

 

「かわいいっ」

「お前が言うか」

 

俺は沙理華に突っ込んだ。

 

「みんな、食べよう」

 

俺たちは誕生日パーティーをすっかり楽しんでいた。ここだけの話、沙理華と風那は明日の朝の電車に変更していた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 帰宅

 俺とかりなは胡桃に約束していたため、18:50発黒磯行きで宇都宮へ向かった。宇都宮で深谷までのグリーン券を買う予定だ。

18:55に黒磯に着くと、一旦改札から出て、Suicaで入り、19:00発宇都宮行きに乗り換えた。オールロングシートで、俺はかなりの隣に座った。

 

「お兄ちゃん、もっと近づいちゃダメ?」

「いいけど」

 

かりなは俺にぴったりくっついた。かりなは俺に頬ずりしようとするが、俺は手で防いだ。

 

「人居るから。ね」

「むーっ、くっつくーっ!」

「少しは我慢しろ」

 

かりなはぶーぶー言いながら前を向いた。

 

 19:51、宇都宮に到着すると、俺はグリーン券情報をSuicaに読み込ませ、かりなの分も2つ行うと、5号車のグリーン車に乗車した。グリーン券の区間は宇都宮から深谷。大宮で高崎線に乗り換える。

 

「お兄ちゃん、どっちにする?」

 

窓側か通路側か。

 

「かりなが窓側に行っていいよ。俺通路側でいいから」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 

かりなは窓側に座った。

 

「19:59発、上野東京ライン東海道線直通、熱海行きです」

 

車掌からのアナウンスが入った。時刻は19:56。あと3分で発車だ。

19:59、時刻通り出発した。宇都宮線内、途中駅の通過待ち等はなく、宇都宮線内は東京まで先行する。やけに眠気が襲ってきて、俺は雀宮を出発した時にはもう寝ていた。

 

 20:40過ぎ、鉄橋を渡る音で俺は目を覚ました。かりなは俺のことをじーっと見つめていて、起きたのに気付くと、目をそらした。寝顔見てただろ。

 

「かりな、バレてるよ」

「んにゃっ!」

 

かりなは「えへへー」とにっこりと笑った。

 

 21:16、大宮に到着すると、8番線に向けて歩き始めた。次の高崎線は21:30発高崎行き。結構早すぎているため、俺とかりなは大宮のそば屋さんで夜食を済ませた。

 

「今度の電車っていつ?」

「22:15発高崎行きかな」

 

今は21:50。53分発もあるが、籠原行きで、籠原で乗り換えるのは22:15発の電車と同じ。

 

「家に着いたら何する──」

「胡桃にハグする」

 

俺は即答した。胡桃、抱き心地いいんだよなぁ。

 

「おっ、胡桃から電話」

 

俺は胡桃からかかってきた電話に出た。

 

「どした」

《何時着だったっけ~》

「23:07?」

《5分じゃなくて?》

「休日だから多分7分」

《分かった~》

 

胡桃は電話を切った。胡桃に早く会いたいなぁ。

 

「お兄ちゃん、電車来るよ」

「あぁ」

 

俺とかりなは11番線へ移動した。

 

 22:15、時刻通り出発した。この電車は、東海道線の平塚から新宿を経由して大宮まで来ている。11番線からは宇都宮線も出発するが、この電車は大宮で分岐し、高崎線に直通する。

大宮を出ると、宮原、上尾、北上尾、桶川、北本、鴻巣の順に進んでいった。最近起きた地震で、駅の構内は未だに立ち入り禁止のところもあった。

鴻巣の近くにある、俺が先生をやっている学校もしばらく休校。再開はいつなのか判明していない。

そんな感じだが、JRの在来線は通常通り運転していた。そのおかげで帰れている訳だが。

 

「お兄ちゃん、学校、まだ休みなの?」

「あぁ。安全確認で」

 

まだ確認できていないらしく、再開の目処はたっていない。

 

「じゃあ、今は暇なの?」

「まぁ、そんなとこかな。一応事務所の方もあるけど、そんなにないし」

 

だから胡桃といちゃついてるわけだが。

 

 23:07、深谷駅に着くと、俺が乗っている4号車のグリーン車の乗車口に胡桃が立っていた。胡桃だ、飛びついてしまいそうだ。

俺は「開」と書かれたボタンを長押しした。こうすると、車掌が押しボタン式にした瞬間にドアが開く。なるべく早く胡桃に会いたい。

ただ、飛びつくのは我慢した方が良いだろう。俺が飛びつくと、胡桃が倒れてしまう。

 

「お兄ちゃん、ボタン押すの早いよ」

「早く胡桃に会いたいんだ」

 

俺はドアが開いた瞬間にホームに出た。俺がホームの真ん中に行ったところで、胡桃は飛びついてきた。飛びつくのは胡桃だったか。

 

「柊くん!」

「胡桃!」

 

俺と胡桃はホームでくるくる回りながら抱き合っていた。

 

「寂しかったんだよ、柊くん」

「ごめん。もう一緒に居よう?」

「うんっ!」

 

俺と胡桃は手をつないで階段を上がった。かりなは後ろをついてくる。

 

「歩いてきた?」

「ううん。車」

 

意外。ゆっくり手繋いでいたいのかと思ったのに。

 

「早く帰って、柊くんとくっつきたい」

「胡桃……かわいいっ」

 

俺は胡桃に抱きついた。

 

「もうっ、しょうがないなぁ」

 

胡桃は俺のことを優しくハグした。

 

「胡桃、早く帰ろう」

「うんっ」

 

俺は胡桃の車に乗って家まで帰った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 ひなたぼっこ

 「ふああぁぁ……」

 

朝早く起きて、少し眠い。といっても、もう8時半。そんなに早くはないんだろう。

 

「柊くん、おはよ」

「おはよ」

 

俺は窓際に座った。日差しが当たってきてぽかぽかする。ゆっくり寝られそう。

 

「柊くん、あったかそうだね」

「最近寒いからね」

 

4月のくせに最高10℃なんてふざけてる。北海道じゃないんだから。異常気象でこうなってるんだろうけど。

 

「私もそこ行く~」

 

胡桃が俺のすぐ横に来る。

 

「あったかーい」

 

かりなはうつ伏せで、手の上に顔を乗せながら足を振っていた。

 

「平和だねー」

 

なんか久しぶりにほのぼのしていた。

 

「屋根の上に椅子建てる?」

「おっ、ひなたぼっこ?」

「そ。みんな呼ぼうぜ」

 

俺は屋根のうえに上がり、かりなと胡桃はあーやたちを呼びに行った。

屋根の上に上ったのなんて久しぶりだったが、日差しは結構当たっていた。

 

「あったかい……」

 

俺は椅子を5個置き終わると、家の中に戻ってみんなを呼び、屋根の上に連れてきた。

 

「あったかい」

 

絢梨は目を瞑って言った。

 

「ほのぼのしたいじゃん?」

「つっきーもそういうの考えるんだね」

「少しくらいは、ね」

 

俺は仰向けになった。日差しが当たってあったかい。寝れちゃいそうだ。

 

「寝ようかな」

「かりなちゃんはもう寝てるよ」

 

早すぎるだろ……と思いながらも、俺は結局寝ることにした。

 

 

 

 俺は不自然な世界にいた。

重力がふわふわとしているような、しかし無重力ではないような不思議な感じだ。少しジャンプすると、70cmくらいは普通に飛んでいる。

周りに人はいない。おかしいな、屋根の上にいたはずなのに。しかも、ぬくもりが無い。というか、寒い。

ここまできて、ここは夢の世界だろうと感じた。目を開ければ済むんだろうが、少し探索してみたくなった。

どこまで進んでも、水色の半透明な世界が広がっている。雲に乗っているみたいだ。

 

「誰もいないのか……」

 

そろそろ飽きてくる。なにもないし。

俺が目を開けようとすると、なぜか文字が視界に映った。

 

「OYU■▲%●?×▲%MOMI■▲%×IENI.FUB■▲%×A.」

 

所々文字化けしている。ただ、恐らくローマ字だろう。

 

 

「おゆき……もみ……いえに……ふB……」

 

分からない。多分「いえに」は「家に」でいいとは思うが、それ以外が……

 

「Oって、伸ばしたりするか……」

 

おおゆき。大雪でいいだろう。大雪、家に?俺の家は晴れてる。あり得ない。

 

 俺は屋根の上にやはり寝ていた。さっきの文字列が気になったため、俺は家の中に戻り、紙にメモをとった。

 

「大雪、もみ、家に、ふ」

 

全く分からん。とりあえず大雪ってことは、天気でも見てみるか。

テレビをつけると、枠の近くに気象情報などがかかれた速報があった。題名が、秋田県内で大雪。ということだった。

 

「秋田か。大変だな」

 

俺がそう呟くと、あることが頭の中をよぎった。

 

「紅葉……あっ」

 

さっきの文字列。OYUKI NINARU MOMIJI NO IENIで当てはまる。ということは……

 

「胡桃!秋田まで行く準備してくれ!」

「あ、うん!」

 

俺は胡桃を動かした。俺は運行情報を見ながら秋田までのルートを調べた。

今の時間だと14:42発特快小田原行きの後、大宮で15:45発こまち31号がいいだろう。飛行機を使ったって羽田までの時間がかかる。

 

「こまち31号で5人分か」

 

37600円になる。これはスマホで買うとして、空いてるのは17号車だけか。17号車8番A~Dと7番Aでいいか。

 

「柊くん!終わったよ!」

「分かった。今すぐ秋田に行く」

 

俺は全員を呼び出し、ある2人も呼んでおいた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 向かう

 「確かに龍夜となぎには来いって言った。なのに……」

 

俺はもう1人の方を向いた。

 

「なんで蒼真がいるんだよ。暇か?暇なのか!」

「あのなぁ、俺だってやりたくないときくらいあるんだ」

「そんな問題じゃねぇよ」

 

なんでいるんだ……まぁ、除雪で力仕事だから男手があるのはいいが。

 

「君らはもう席取ってあるんだよな」

 

もう大宮にいるんだから、取ってあるはずだ。

 

「もちろん!」

「席はバラバラだがな」

 

一緒にする必要はないし、大丈夫だ。

 

【白雪凪沙視点】

 

 私は柊くんから電話が来てすぐ、本厚木駅へ走った。席はどこ取ってるか分からないから、適当に14号車3番D席。本厚木から急いで大宮に行く場合、14:21発はこね18号新宿行きで新宿まで行った後、15:19発特別快速高崎行きで大宮。大宮には15:50。5分間に合っていない。新宿の乗り換えを2分でして、15:09発快速宇都宮行きに乗れば、15:41着で、4分間に合う。ただ、2分なんて無理。そこで私が取った方法が……

 

「飛んでく!」

 

本厚木から大宮までは約58km。単純に60km/hで飛んでいけば、大体15:30には着ける。

 

 大宮には15:32。柊くんたちがもう着いていた。というか、龍夜くんと蒼真くんも。

 

「遅かったな」

「龍夜、お前も3分くらい前に着いたばっかりだろ」

「言うなって」

 

いつも通り、楽しそうだった。

 

【月島柊視点】

 

 17号車8番A~Dと7番Aで、俺は8番C、胡桃が8番D、あーやが8番B、絢梨が7番A、かりなが1番Aだった。2番Bは大宮の時点では空席。ただ、予約自体はあったから、仙台以降で乗ってくるんだろう。

この電車は、今日の終電から2本目。次のこまち35号が終電。大雪で東京16:20発以降のこまち号が運休になった。秋田発は秋田16:12発以降が運休。

 

「柊くん、他のみんなはどこに座ってるの?」

「バラバラ。14号車が2席だけ空きがあった」

 

多分14号車に乗ってるんだろう。

 

 仙台は16:51。絢梨の隣はまだ乗ってこなかった。16:53、時刻通り出発し、次は盛岡。17:32に到着する。

 

「柊くん、トイレ……」

「俺はトイレじゃない」

 

学校みたいなことを言うと、胡桃は顔を赤くして言った。

 

「ねぇ……漏れる……」

「分かった」

 

俺はテーブルを畳んで言った。

 

「俺の上通って」

「うん……」

 

胡桃は俺の膝に乗って通路側に出た。なんか胡桃がいなくなると寂しい。

5分くらいで戻ってきた胡桃は、俺の膝の上に座って黙っていた。

 

「きもちい」

 

なんだそれ。

 

「どのくらいいる?」

「あと10分」

 

長い。けど、嫌じゃないからいいや。

 

 盛岡、雫石、田沢湖、角館の順に止まり、大曲に到着した頃、車掌からアナウンスがあった。

 

「ただいま、奥羽本線内、大張野~羽後境駅間大雪の影響で、対向電車が遅れております。そのため、この電車につきましても、当駅にて一旦運転を見合わせます」

 

対向電車の東京行きはもう終わっているはず。なぜかと思い、俺はTwitterを見た。

すると、どうやら、秋田車両センターが積雪で使えなくなるかもしれないため、秋田車両センターにいた車両を、仙台の車両センターまで回送しているそうだった。

その回送が、大張野~羽後境の間で大雪で止まり、この電車が遅れるそうだ。

 

「ちょっとなぎに会ってくる。胡桃もいくか」

「行くっ!」

 

胡桃と一緒に、俺はいるであろう14号車に向かった。14号車には、やはりなぎがいた。

 

「なぎ」

「柊くん?」

「凪沙ちゃん、随分ぐったりだね」

「隣いないからねーっ」

 

隣は途中で起きたんだろうか。そう思っていると、足音が近づいてきた。

 

「凪沙、なんで俺のところを塞いでるんだ」

 

龍夜だった。そうか、ここは龍夜の席だったか。

 

「いいじゃん、いなかったし」

「はぁ……」

 

龍夜はずっと立っていた。

 

「しょうがないなー」

「普通そうするだろ」

 

なぎは自分の席に座った。

 

「なんもなかったな」

「龍夜くんに襲われたー」

 

感情がこもってないし、嘘だろ。

 

「襲ってない」

「知ってた」

 

なぎはぶーぶー言ってたけど、襲ったら襲ったで、大事件だけど。

 

「じゃ、俺たち戻るからな。なんかあったら17号車まで来て」

「はーい」

 

俺と胡桃は17号車の自分たちの席に戻った。すると、放送が入った。

 

「お客様にご案内いたします。対向電車が羽後境駅でこの電車の待ち合わせを行うため、まもなく運転を再開いたします。ご利用のお客様はご乗車のままでお待ちください」

 

もうすぐ運転再開だ。

18:42、8分遅れて大曲を出発した。

 

 途中徐行区間があったりして、秋田に到着したのは19:23。17分遅れて到着した。

 

「しゅうくーん」

 

なぎがこっちに走ってきた。

 

「なぎ。走っちゃダメだぞ」

「はーいっ」

 

なぎは俺の片腕にしがみつく。胡桃も負けじとしがみついた。おっと、それより重要なことがあった。

 

「それより、これからユウキの車に乗せて貰うんだけど、車5人乗りなんだよ」

 

今の人数は8人。ユウキが運転で、助手席1人、後ろ3人で、4人余る。とりあえず1人は膝の上に乗るとして、後ろを4人だとすると、2人余るか。

 

「あっ、いいこと考えた!」

 

胡桃が言った。

 

「とりあえず、車のとこいこっ!」

 

胡桃は先に早足で改札に向かった。

 

 車に着くと、胡桃はどんどん乗せていった。

 

「龍夜くんの上に凪沙ちゃん乗って、かりなちゃんがその隣、綾香ちゃんが助手席、絢梨ちゃんがかりなちゃんのとなりっ!」

 

そのままだと俺と胡桃が余る。まさか、歩いていこうとか?

 

「それで、柊くんと私がトランク!」

 

おい、トランクって、荷物もあるんだぜ?いや、けど2人が横になるスペースはギリギリある……しかも、胡桃とだ。いいかもしれない。

 

「あ、あぁ……」

 

この後のことは……まぁ、ご想像にお任せする。ただ、良くも悪くもなかった。

 

 

 家の前に着くと、玄関が雪で埋もれていた。裏口も見たが、やはり埋まっている。この中にいるらしく、そこから連絡を取っているらしい。

 

「裏口の雪が大したことないから、そこをどかそう」

「柊くん、雪掻きとってくる」

「ありがとう。ユウキ」

 

ユウキは雪掻きを取りに行った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 除雪

 雪掻きを持ち、俺は裏口の雪をどかした。ここはそんなに広くどかす必要がなく、家の中に早く進入できる。

 

「柊くん、スノーダンプ」

「おっ、ありがと」

 

俺はスノーダンプを持ってどかした。

 

「ドア、内開きだよな」

「うん。だからちょっとどかして、ドアノブ捻って押せば開く」

 

そうか。じゃあ上だけ退かそう。

 

「意外とあるな」

「湿り気あるから堅いね」

 

俺と胡桃は2人で掘っていた。

10分ほどで、ドアノブより上がみえてきた。

 

「ドアノブいけるか」

 

胡桃はドアノブを捻る。

ガチャッ

 

「開いた!」

「入るぞ」

 

俺はドアを押して、中に入った。

 

「紅葉!どこだ!」

 

俺は紅葉を探した。というか、家の中がかなり寒い。ここら辺は停電も起きてるらしいし、電気ストーブも効かない。

 

「柊くん……柊くん……」

 

奥の方から声が聞こえた。俺はその声の方向へ走った。

 

「紅葉!」

 

紅葉がうずくまっていた。

 

「柊くん……来たんだ……」

「あぁ、もちろんだ。早く出よう、外の方が暖かい」

 

俺は紅葉の手を掴んだ。

 

「冷たっ!」

 

俺は反射的に手を離す。手袋をしてからもう一回握る。

 

「とりあえず、ユウキの車のとこ行こう。暖まった方が良い」

「うん……」

 

俺は裏口から外に出て、ユウキの車の中へ入った。

 

「ユウキ、暖房効かせて」

「うん」

 

ユウキは暖房をつけた。車を車庫に入れた方が良いため、車庫まで少し除雪したあと、車庫に入れた。

 

「とりあえず除雪しよう」

「うん」

 

俺たちは地面の除雪を始めた。

 

 家の近くにあった雪を溶かしたところで、再び猛吹雪になった。もう23時近く、車中泊になるつもりでいた。

 

「つっきー、終わりにしよ」

「あぁ」

 

俺は全員を連れて車庫に向かった。

 

が、来たのは7人。8人いるはずだから、1人足りない。誰が足りないんだ。

胡桃は俺と手繋いでるからいる。さっきあーやと話して、あーやが前を歩いてたから、あーやもいる。絢梨はその隣にいたし、龍夜と蒼真は話し声が聞こえた。あと、なぎ……

 

「なぎ!」

「嘘だろ……凪沙、こんな天気で……」

 

23時で真っ暗。さらに、懐中電灯が効かない猛吹雪。さらには山奥。熊はまだ冬眠中。ただ、遭難したなんていったら……

そう思っていると、吹雪の中からクラクションが聞こえた。少し離れた集落に住んでいる、仲の良い男友達、海斗だった。

 

「柊、帰ったって聞いたから来たんだが、空気が重そうだな」

「あぁ。友達がどこか行っちゃってな……」

 

海斗は車を空いているスペースに入れた。

 

「もしかして、この子かな」

 

海斗は後部座席に寝ている子を見せた。間違いなく、なぎだった。

 

「どうして海斗が」

「さっき、俺の方に走ってきててね。乗せたら、はぐれたって言ってたから、とりあえず乗せてたんだ」

 

そうか。きっと視界に入らなくなってはぐれたんだろう。

 

「海斗、着いたかしら」

 

助手席の女の人がむくっと起きた。あれ、見た覚えが……髪型に、胸……いや、見たことがある。

 

「鳴子、やっとおきたのかい」

 

やっぱり、鳴子だ。

 

「あら、柊くん。久しぶりね」

「久しぶり。鳴子も元気だったか」

 

海斗のガールフレンド。みんながポカーンとしてる。そろそろ言ってあげよう。

 

「ボーイフレンドとガールフレンド」

 

みんなは一礼した。

 

「柊くん、最後の会ったのいつだったかしら」

「さあ。けど、俺が事務所の仕事始める前だな」

 

もうかなり前になる。

 

「おっと、そうだ。ここから結構行ったところに、停電してない地域があってね。そこのホテルにみんなで泊まろうって」

 

ナイスタイミング。流石だ。

 

「あぁ、そうするよ。車は3台行けるかな」

「2台じゃない?」

 

胡桃が横から言った。

 

「海斗の車、ユウキの車、紅葉の車で3台」

「私運転できないよ?こんな手じゃ」

 

凍傷になってて、まだ手は赤くなっていた。

 

「元は俺が秋田で運転してた車だから。できるさ」

 

俺は早速車の分担を始めた。海斗の車は「アルファード」、紅葉の車は「プリウス」、ユウキの車は「アクア」。俺が紅葉に「プリウス」をあげたから、プリウスは運転できるはず。聞いたところ、もうスタッドレスタイヤにしてるらしく、ユウキはチェーンだった。アルファードはスタッドレスタイヤ。

 

「じゃあ、胡桃はプリウス。鳴子はアルファードだな」

「じゃあ、人数で分けよう」

 

龍夜が言った。残りは7人。3台で分けると、2~3人がいい。

 

「アルファードは3人でいいよ」

「じゃあ、あーやと絢梨、蒼真がアルファード行って。かりなはこっち来よう。それで、龍夜もこっち。残りはアクア乗せて」

 

なぎと紅葉になる。なぎが寝るスペースもあるし。

 

「じゃあ、鍵取ってくるね」

 

紅葉が家に向かった。

家の鍵を閉め、車の鍵を開けてくれた。鍵を俺に渡し、紅葉はアクアへ。

 

「さーて、アルファードについてくからな。シートベルトいいか」

「いいよ!」

「オッケー!」

「安全運転で頼むぜ」

 

安全運転はするさ。ゴールド免許なんだから無事故無違反。流石俺。

 

「多分土崎とか行くんじゃないかな。とりあえずついてこう」

 

俺は車を走らせた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 旅館

 深夜の真っ暗な中を車で走っている。高速道路が通行止めのため、全て一般道で走行する。

 

「柊くん、あとどのくらい?」

「さあ。どこ行くか分からないし」

 

ひたすら運転してるだけ。もう飽きてきた。

 

「ぐがっ!」

 

かりなが運転席にぶつかった。寝てたのか。

 

「大丈夫かー」

「いたい……」

 

かりなは「うぅ」と言っていたが、そこまで痛くなさそう。痛かったら胡桃が心配するし。

 

「おっと、ここに入るのか」

 

そこはホテルというよりは旅館みたいな感じ。なかなかいい旅館っぽいが。

 

「着くぞ」

「やっと寝れる!」

 

そこかよ。

 

「そこなの」

 

胡桃がかりなに突っ込んだ。気持ちを読んだのかな?

車から降りると、雪は降っていなかったが、かなり寒かった。他の車からもみんな降りてきて、旅館に入った。

 

「いらっしゃい。12人ね。大部屋1つ取ってあるわ。これ鍵。ゆっくりどうぞ」

 

俺たちは案内された部屋に向かった。

敷き布団が敷かれていて、その数は12。12人分が用意されていた。

 

「お風呂入ってくる~」

「じゃあ俺も」

「みんなで行くか」

 

俺たちは鍵を閉め、風呂に向かった。

男湯、女湯と書かれているところの内、男湯の方に入り、服を脱ぐと、なぜか扉が2つ。

 

「なんで2つもあるんだ」

 

龍夜も気付いたようだった。

 

「従業員専用とかか?」

 

蒼真が言う。そういう感じに思える。

 

「わあ、広い──」

 

胡桃が出てきた。

 

『あ』

 

全員同じことをいった。

 

「なんでいるの!」

 

胡桃が俺にくっつく。見られないようにか?

 

「混浴なんだろうね」

「えぇ。早く入りましょ」

 

鳴子と海斗は冷静に状況を飲み込んだ。

 

「そうだな、もう入ろうか」

「じゃあ柊くんにくっついて入る!」

「私もお兄ちゃんと一緒に入る!」

「私も柊くんと!」

 

みんな俺と入ろうとする。龍夜と蒼真が慰め合っている。かわいそうに。紅葉とユウキもこっちに来ちゃったから。

 

「柊くん、ぎゅってしよ!」

 

紅葉が言った。俺は紅葉にハグした。

 

「むーっ」

 

胡桃が俺を見つめた。

 

「手握っとくか」

「うん!」

 

胡桃は俺の手を握った。

 

「寒ーい」

「肩まで入っとけばいいだろ」

 

俺はなぎの肩をお湯の中に入れた。

 

「柊くん、みてみてーっ!浮いてるよーっ」

「温泉で泳ぐな。子どもじゃないんだから」

「じゃあ私もー」

 

胡桃までし始めた。こいつら、なんなんだ。

 

「髪洗ってくるから、ここで待ってろ」

「私も行くーっ」

「男の話をするからな。鳴子と一緒にいろ」

 

俺は髪を洗いに行った。龍夜の隣に座り、湯船から遠くの場所にいた。周りに海斗と蒼真もいるし。

 

「おうおう、ハーレムさんが来たか」

「そもそも蒼真がモテないからじゃないのか」

「ちげぇよ!俺には……ジュンがいるだろ!」

 

いや待て、矛盾してないか?だってハーレムが来たっていっておきながら、お前もハーレムしてるじゃねぇか。ジュンがいるってことは桜なんてよく来るし。

 

「俺はつぼみが居るから。問題ない」

「俺はまだいないかな」

 

海斗が言う。いや、絶対居る。特に鳴子。

 

「鳴子さんは違うんすか」

 

龍夜が聞いた。一応年上なんだ、そういえば。

 

「鳴子はガールフレンドだから」

「ガールフレンドに囲まれてればハーレムですよ」

「そうなのかい?まぁ、鳴子以外にいないから」

 

鳴子と海斗、友達同士には見えないが。

 

「鳴子と付き合ったりとかは考えてないのか」

「ないかな。だって、向こうもそんな感じじゃないしね」

 

海斗ってそういう感じなのか。

 

 

 部屋に戻った俺たちは、すぐに寝る支度をした。各自違う布団で寝ることにして、明日は9時に出発する。

 

「おやすみ」

「おやすみー」

 

俺は電気を消した。

 

 しかし、起きたときには俺の周りに女の子たちがくっついていた。というより、巻き付いてる。

 

「え、なぎ……あ、柔らかい……鳴子か……」

 

大変だ。動けるはずがない。

 

「柊くん……にゅぅっ」

 

結局疲れそうだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 暖

方言を多用しますが、「」の下に《》があるときは、それが標準語の翻訳です。

例)
「んだ」
《そうだよ》


 車を運転していると、今度後ろに座っていた紅葉が言った。

 

「お兄さん、カイロ買いたい」

「寒いからだろ」

「うん」

 

すると、かりなが言った。

 

「紅葉ちゃん、“お兄さん”じゃなくて“お兄ちゃん”だよ」

「そうなの?おべねがった」

《そうなの?知らなかった》

 

おい、秋田弁使っても分からねぇぞ、かりなは。

 

「お、おべね、がった?」

「んだ、おべねがった」

《そう、知らなかった》

 

少しくらいのってやるか。

 

「おめはおべねがったか」

《お前は知らなかったか》

「かりなぢゃん、おべねがったんだね」

《かりなちゃん、知らなかったんだね》

「かりなぢゃん、知らねがったんだね」

《かりなちゃん、知らなかったんだね》

 

胡桃のそれ、たしか山形弁じゃなかったっけ?しゃべれるんだ。

 

「おめ、山形弁さしゃべれるんだね」

《お前、山形弁しゃべれるんだね》

「んだ。なすてが話しぇですまうの」

《うん。なぜか話せちゃうの》

「な、何を話してるの?」

 

かりなが完全に置いてけぼり。

 

「悪かったな、方言を話してたんだ。それで、カイロだっけ」

「んだ」

《そう》

 

俺は近くのコンビニに車を止め、店員さんに言った。店員さんは地元が秋田のおじさん。ここに俺が居たときからずっと続けている。

 

「カイロ買でえんだども、どさある」

《カイロ買いたいんだけど、どこにある》

「奥の棚さ入ってら」

《奥の棚に入ってる》

 

俺は奥の棚に向かった。カイロがいくつも置いてあって俺はそれを手に取り、会計を済ませた。

 

「久しぶり、元気だったが」

《久しぶり、元気だったか》

「元気だった。暇だったげど」

《元気だった、暇だったけど》

「まだ来るがもしれねぁ。そん時はよろしくな」

《また来るかもしれない。その時はよろしく》

「分がった、いづでもこい」

《わかった。いつでも来い》

 

俺は車の中に戻ると、すぐに紅葉にカイロを渡した。

 

「ほら、カイロ」

「あったかいやつ~」

 

紅葉はカイロを握った。俺はあと少しで着く家に向かって車を走らせた。

 

「今日はどこの除雪しようか」

「道路とか?」

「車庫の前ってこと?」

「そう」

 

車庫の前は確かに除雪しておいた方がいいな。

 

「いいんじゃないか。そうしようか」

 

俺は家に向かって走り続ける。

 

 家に着くと、除雪を開始した。停電が解消され、もう電気ストーブなどを使えるようになっていた。外にいる限りは関係ないが。

 

「柊くん、あげる♡」

 

なぎが白い物を投げてきた。俺は咄嗟に手でそれをはらった。

 

「すご……」

 

あ、雪玉だった。やっただけ損したか?

 

「あのなぁ、なぎ。可愛く言って雪玉投げるの、普通に怖い」

「あげる♡ってやつ?」

「それ」

 

可愛かったけど、怖い。

 

「えいっ」

 

かりなが雪玉を投げた。俺はよけられずにぶつかった。

 

「がっ」

「やった!当たった!」

「当たった」

「私も当てるっ」

 

胡桃が投げた。流石によけられる。

 

「龍夜くんもっ!」

 

なぎが龍夜に投げた。そして、当たった。

 

「柊、男と女で分かれて勝負しよう」

「あぁ、いいぜ」

 

みんなやる気だった。

 

「僕は強いぞ」

 

海斗は雪玉を持って言った。

 

「んじゃ、スタート!」

 

本気の雪合戦が始まった。

 

 雪合戦が終わったときには、みんな寒くて、家の中に入っていた。みんなでくっついて、暖を取っていた。まるで動物みたい。

 

「寒い」

「ぎゅっぎゅっ」

 

みんなで暖まっていたが、たまに遊んでいることもある。もちろん寒くはなるが。そういえば、寒いんだったら布団を何枚か持ってきて、みんなでかければいいと思うだろう。みんな離れたくないから誰も持ってこないんだ。俺だって離れて寒くなりたくない。

 

「絢梨、さむくない?」

「大丈夫じゃない」

 

あーやが絢梨のことをハグして暖めた。

 

「あったかい」

「そう?なら良かった」

 

あーやは絢梨のことをかわいがっていた。よっぽど好きなんだろう。

 

「胡桃も来るか」

「うんっ!」

 

胡桃も俺に飛び込んできた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 動物園

別の視点になります。久しぶりですかね。


 私は関東の方に旅行しに行った。暁依と一緒に旅行に行ったけど、時間を間違えた。

5時半前に黒磯を出たが、ラッシュ時間帯真っ只中で、7:50に大宮を出発した。遅れてないはずなのに、なぜか身動きがとれないほど混んでいた。

 

「どうしてこんなに……」

「なんかあったんだろ」

 

さいたま新都心を過ぎても空かなかった。というか、ますます混んでくる。

 

「あのさ、結構混んできたけど」

「黒磯発の始発乗ってきたのに」

 

私はスマホをギリギリで出し、お兄ちゃんにチャットを送った。

 

藤花〈黒磯の始発乗ってるのにすごい混んでる〉7:54

柊〈そりゃそうだ。上野行きなんだから〉7:54

柊〈でも先頭が1番混んでるはずだよ〉7:55

藤花〈11号車は?〉7:55

柊〈空いてる方だろ。特に後ろ5両なんだから〉7:56

藤花〈混んでるよ〉7:56

柊〈逆にラッシュで混んでない方がおかしい〉7:57

藤花〈上野から東京ってどこ空いてる?〉7:57

柊〈上野東京ラインよりかだったら山手線が空いてるだろ〉7:57

藤花〈分かったー〉7:58

 

いつもよりお兄ちゃん打つのが遅い?まぁいっか。

 

「空いてる方だって」

「まぁ、1号車が混んでるだろうな」

 

あきにいが言った。知ってたの?

 

「なんで知ってるの?」

「上野駅って、地上と高架で分かれてるじゃん」

「うん」

「それで、高架だと6、7号車、11~13号車が階段に近いから混んでて、グリーン車周辺の3号車も混んでる」

 

地上だと何か違うのかな。

 

「地上だとどうなの?」

「中央改札が1号車の前にあるんだ。あとは9号車らへんに階段があるけど、これは乗り換える人しか通らないから、1号車、3号車、6号車、9号車が混んで、どこからも遠い15号車は空く」

 

それだから、11号車はあんまり混んでないんだ。

けど、結構混んでる。あきにいと密着しちゃってるし。

 

「あきにい……苦しくない?」

「大丈夫」

 

すごい。男の人ってこんな感じなのかな。

 

「ホントに?」

「あぁ」

 

あきにいは冷静に言った。慣れちゃってるのかな。けど、私がくっついてるからいつもと違うだろうし。

 

「それより、藤花。お前、服キツいんじゃないか」

「ほえ?」

 

急にそんなことを言われて少し驚いた。どうして急に。

 

「だって、前のボタンとれてるぞ」

「……えぇっ!?」

 

確かに、ボタンがとれて谷間が見えていた。見えちゃうっ!

 

「あきにい!しばらくこのままでいさせて!」

 

私はあきにいに抱きついた。うぅ……なんでこんなことにぃ……

 

 災難なめに遭ったが、私は替えの服を着て引き続き上野東京ラインに乗った。空いてる15号車にちゃんと乗って、東京で踊り子3号に乗り換えた。

 

「今日はどこに行くんだ」

「むふふーっ、熱川にいくんだーっ!」

 

ほとんど私がしたいからだけど。

 

「熱川か。レッサーパンダだろ」

「うん!可愛いもん」

 

あの尻尾とか、毛並みがたまらない!絶対もふもふしてるし、顔がかわいい。

 

「そのために特急か」

「だって、早く着きたいじゃん」

 

帰りはずっと普通電車っていうのは内緒だけど。

私は熱川の動物園を楽しみにしていた。

 




今のところ、
5月 4回
6月 2回
7月 3回
8月 5回
9月 6回
10月 7回
となってます。だんだん増えてますが、11月は8回も投稿しません。平均して、1ヶ月あたり4.5回です。
最低でも4回~5回ぐらいは投稿できたらって思ってます。それではっ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ハロウィン

 10月31日。ハロウィンだ。

俺はドラキュラの仮装をして、椅子に座った。

 

「ドラキュラがいるーっ」

 

吸血鬼(かりな)が出てきた。なんで吸血鬼なんだよ。かわいいけど。

 

「血吸われる」

「がうーっ」

 

そんなことをしていると、廊下から魔女(胡桃)が出てきた。

 

「かわいいんだけど」

「うん。女神がいる」

「やだなぁ、そんなことないよぉ」

 

俺たちが褒めているところに、あーやと絢梨が入ってきた。仮装は……え?

 

「アイドルの仮装」

「仮装じゃねぇじゃん」

 

ライブ衣装着てるし。

どうしてこんなことをしているか。それは、仮想世界にいる湊翔と琴葉と一緒に仮装パーティーをするためだ。

 

「じゃあ、行くか」

「うん!」

 

俺たちは一斉に仮想世界へ入った。

 

「おっ、久しぶりだな」

「よう、湊翔」

「胡桃ちゃんたちも久しぶりだね」

「久しぶりーっ」

 

みんなが歓迎してくれた。湊翔はドラキュラ、琴葉は猫耳だった。

 

「ドラキュラが2人も居る~」

「こわーい」

 

あーやと胡桃がこっちを見て言った。

 

「怖いって何だよ」

「たまたま被ったんだけどな」

 

そう言うんだったら、琴葉の仮装も比較的おかしいだろ。

 

「にゃんにゃんだーっ」

 

かりなが琴葉に寄った。

 

「にゃんちゃんだよー」

 

楽しそうだからいいか。

 

「freezing!」

 

胡桃が氷結魔法を放った。魔女のコスプレしてるやつが魔法使うともう本物なんだよな。

 

「かぷっ」

 

首に何かが噛みついた。さっきまで琴葉に甘えてたかりなだった。もう飽きたか。

 

「血吸っちゃうよ」

「吸わないでくれ」

 

かりながなめようとすると、急に退いていった。

 

「お兄ちゃん!何そのコスプレ!」

「何って、ドラキュラだが」

「なんか赤いの垂れてるよね」

「本物の血だったり?」

 

冗談っぽく言ってるけど、

 

「本物だよ?」

 

本物の血を使っている。もちろん自分のだが。

 

「なんで血使ってるの!?」

「リアルになるかなって」

 

俺は血を拭き取った。

 

「静脈血だけど」

「動脈血採るわけないでしょ!」

 

琴葉が俺の顔を拭く。

すぐに血が全て落ちてしまい、牙とマントだけになった。

 

「柊くん、高校のときにしてた陰キャコスプレでいいじゃん」

「コスプレじゃないけどな、あの時のは」

「真っ黒なズボンに、真っ黒なパーカー着てパーカーで目を隠してるやつ」

「そうだったの?」

 

私服は確かにそうだった。真っ黒なやつしか無かったし。

 

「まぁいいじゃん、ドラキュラで」

「うんっ!」

 

俺たちはみんなの仮装を楽しんで、お菓子などを食べてハロウィンの1日を過ごした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 ぽかぽか~

 「ふみゃーっ!寒いーっ」

 

胡桃が俺に抱きついて言った。胡桃だから許すけど、猫みたいに見える。たまにあることだが。

 

「大丈夫か?もっとくっついていいぞ」

「じゃあくっつくー」

 

胡桃はギュッとくっついた。

 

「除雪どうするの」

「まだいいだろ。面倒」

「車庫の前雪だらけだよ?」

 

そう言われたらするしかないじゃないか。しょうがない、外出るか。

俺は面倒だと思いながらも、渋々外に出た。

 

「さみぃ……」

「早くやって戻ろっ」

 

元気でいいなぁ、かりなは。お兄ちゃん、もう寒くて限界だよ。

 

「また雪合戦する?」

「しない。もう限界」

 

俺はダンプを持って雪掻きを始めた。

 

 「さみぃ……」

「つっきーが死んでる」

 

不吉な言い方するな。確かに、床にうつ伏せになってるけど。

 

「薪ストーブつけよ」

 

俺は乾燥室から薪を持ってきた。冬はここで乾燥させてるらしい。

薪を持ってくると、ストーブの中に木くずと薪を入れてチャッカマンで火をつけた。

 

「つっきー、怖くないの」

「慣れたからな」

 

薪ストーブの中に手を入れているからだろう。

 

「ついた」

 

俺は薪ストーブの横に座った。

 

「あったけー……」

「胡桃たちは」

「外で遊んでる」

 

家の中にいるのはあーやと絢梨、俺だけだった。

 

「あーや」

「ん」

「寒くないか」

「寒いから絢梨に抱きついてるんだ」

 

ストーブに近づけばいいのに。あったかいし。

 

「あぁ、寝よっかな」

「胡桃が上に乗ってるんでしょ」

「そんなことないと思いたいが」

 

俺はストーブの横で寝た。

 

 起きると、案の定胡桃が上で眠っていた。けど、そんな重くない。というか、冷たい。

 

「胡桃」

「ど、どうしたの」

 

凍えてるけど、大丈夫なのか?

 

「大丈夫か」

「寒い」

「ストーブに薪入れるか」

 

俺は胡桃を隣に座らせ、薪を取りに行った。

 

「あっ、柊くん」

 

紅葉が薪を持ってこっちに来ていた。

 

「薪、あと4本」

「分かった」

 

俺は乾燥室から薪を4本取り、居間に向かった。

 

「あっ、はいらにゃい」

「割れ」

「無理」

「だったらこっち入れる」

 

小さい方だったらギリギリ入るはずだ。

 

「はいったぁ」

「ライター」

 

チャッカマンどっかいった。さがすの面倒くさいからいいや。

 

「はい」

 

俺はライターで火をつけた。

 

「あったかーい。柊くんも来てぇ」

 

胡桃に呼ばれ、俺は胡桃のところに行った。

 

「足の間にいて」

「なんでここに?」

「だって足寒くなるじゃん」

 

俺は胡桃の太ももに挟まれた。絶対おかしい。

 

「ふわぁっ」

 

胡桃があくびをしてから顔を揉んでいるのを見て、なんか柔らかそうに見えた。

 

「胡桃っ」

 

俺は胡桃の頬をぷにぷにした。

 

「ひゃいすりゅの(何するの)」

「柔らかそうだったからさ」

 

実際、すごい柔らかかった。ぷにぷにしたかいがあった。

 

「みゅぅ……」

「かわいい」

「みゃう!」

 

胡桃は俺にハグした。

 

「やっぱこれがいいっ!」

「そうだろうな」

 

俺は胡桃のことを撫でた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 かえり

 なぎ、龍夜、蒼真を残し、俺たちは帰ることにした。新幹線は動いていないため、仕方なく在来線で帰った。

最寄り(といっても車で30分)の羽後境まで車で行き、奥羽本線で新庄、乗り換えて羽前千歳、仙山線で仙台まで行き、常磐線でひたすら南下、水戸まで行ったら特急、上野から快速。20時近くに着く長旅だ。

羽後境に着くと、俺たちはホームに向かった。送ってくれた紅葉は「泣いちゃうからっ」と言って先に帰った。

 

「6:19発新庄行きだな」

「まだ着かないけどね」

 

胡桃は笑って言った。確かに、あと13時間半ある。

6:19、定刻通り出発すると、あーやが言った。

 

「あと何時間?」

「2時間35分」

「遠い」

 

仕方ないだろう。これしか無かったんだから。

 

「柊くん、眠い」

「寝たらいいじゃん」

「冷たくない?」

「ハグしよっか?」

「そういうことじゃないけどいい」

 

変なやりとりだな。と思いながら、俺は胡桃をハグ。すると、胡桃は寝息を立てて眠った。

 

「寝ちゃった」

「かわいい……」

 

 

 新庄に着くと、山形行きの奥羽本線に乗り換えた。新庄で線路幅が変わっていて、新庄以北は1067mm、新庄以南は1435mm。368mmの差があり、36.8cmの差だ。ざっくり理由を説明すると、新幹線が同じ線路を使うためなのだが、乗り換えは電車の目の前。楽な乗り換えだ。

新幹線でもよかったのだが、同じ電車になるため、節約で普通電車にした。

 

「胡桃ちゃんはまだ寝てる?」

「おんぶしてるんだけど」

 

寝てる。おんぶまでしてるのに起きないのはもう病気じゃないだろうか。

 

「30近い男性が同い年の女性をおぶってる……」

 

絢梨がそんなことを言った。

 

「うっ、確かに」

 

そう考えるととんでもない違和感。よくあるのだったら、「幼児を大人の男性がおぶってる」だったら分かる。

しかし、今回は、「今年28歳になる女性を同い年の男性がおぶっている」ということになる。俺の力もよく耐えられるものだ。女性だからといって、体重が30kg以下な訳がない。少なくとも50kgはある。

そんな力あったのか。と自分に驚き、俺は電車に乗った。

 

 

 

 

 

 ようやく家に着くと、みんなは疲れ果て、自分の部屋でごろごろした。俺は久しぶりにきなこに会いに行った。

 

「きなこ、ただいま」

 

きなこはぴょんぴょん跳びはねながらこっちに来た。

 

「寂しかったか?」

 

きなこはぴょんぴょん周りを飛び跳ねる。

 

「なんだなんだ、嬉しいか」

 

飛び跳ねるのを一切止めず、なついてくる。

 

「餌やるからな」

 

俺は餌を開け、きなこにあげた。

 

「食べな。少しだけど」

 

きなこはもぐもぐと、可愛く鼻を動かして食べている。

 

「食べ終わったら撫でてあげるからな」

 

きなこは少しずつ食べていた。かわいい。

 

「撫でたくなるじゃん」

 

俺は思わず撫でた。もふもふだ。

 

「かわいいなぁ」

 

俺はきなこと戯れていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 家庭で

 学校が6月から再開ということが分かってから、俺と胡桃は今年度のクラス決めを始めた。リモートで話し合うことになった。

 

「今年の2年生は転校生が出たので6クラスになります」

〈1クラス35人前後で決めていきます〉

 

まずは俺たちがどのクラスに入るか。

 

〈俺5組でいいですか〉

「あ、じゃあ俺4組」

「私2組で」

〈俺3組いきます〉

〈じゃあ6組で〉

〈じゃあ1組ですね〉

 

35人は結構多い分類。普段は30人前後のため、計算もしづらくなってくる。が、俺たちは4時間ほどでクラス分担を終わらせた。

 

 「えっと、4組35人終わりました」

「2組も35人終わりました」

〈6組あと1人です〉

〈1組1人多いんでそっちにまわします〉

〈5組は終わりました〉

 

こういう感じで、クラス決めが終了した。6月から、遅れて授業が再開される。1学期中間テストが無くなり、期末テストから始まる。

 

「じゃあ、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした~」

 

俺と胡桃はすぐに会議から抜けた。8時半から始めたのに、もう午後になっていた。

 

「昼飯どうする」

「絢香ちゃんたちがいるんだったら」

 

胡桃は2階に上がっていった。一方、俺はリビングに戻ってテレビを点けた。

ニュースが流れていて、内容は「浦和連続障害事件」だった。

 

(物騒だな)

 

浦和で起きてるんだから、深谷までは来ないだろうと思ってはいるが、少し不安。

 

「警察は、吉川市内の高校に通っている少女の犯行であるとし、捜査しています。つづいての──」

 

高校の少女?

違和感がある。なぜ女子高生が連続障害なんかする必要があるんだ。しかも、吉川市内って、浦和から結構離れている。なぜだろう……

 

「柊くん、不思議そうな顔して、どうしたの?」

「ん?あぁ、ちょっとテレビのニュースを見ててね」

「連続障害事件?」

「そう」

 

胡桃も知っていたらしい。

 

「女子高生の犯行って、なんでだろうね。しかも、吉川って」

 

俺と同じことを不思議に思っているらしい

 

「そうなんだよ。本当にその女子高生がやったとは思えない」

「けど、私たちが悩んでも仕方ないからね」

 

その通りだ。俺たちは警察に何も関わっていない人間だ。口を挟んだりはできない。

 

「それで、胡桃はどうしたんだ」

「お昼食べるって」

「わかった」

 

俺が立ち上がると、少し開いていた足をきなこと小雪が走り回る。

 

「おっと」

「小雪~、待ってよぉ」

 

かりなが疲れ果てた様子でこっちに走ってきた。

 

「かりな、小雪になんかしたのか」

「してないよぉ。でも、なんか急に走り出して」

 

小雪ときなこは、走り回るのをやめ、2匹同時に玄関へ跳んでいった。

 

「お、おい!」

 

小雪ときなこは玄関の前で止まった。すると、小雪ときなこは再び玄関に戻った。

 

「なんだ、あの2匹」

「さあ」

 

俺は再びリビングに戻った。多分何もないだろうから。

かりなは俺より先に入ると、テーブルの横にちょこんと座った。

 

「ごーはーんー!」

「白いごはんだけでいいなら」

「俺はいいぜ」

 

というか、秋田の実家にいたことがある妹だったらみんな食える。かりなは札幌に行ってからだったが。

 

「じゃあ柊くんにはごはん」

「ありがと」

 

俺は米だけで食べ始める。

 

「かりなちゃんは醤油?」

「うみゅ」

 

かりなには醤油がほどよくかかったご飯が来た。

 

「じゃあ私たちは余り物でたべよっか」

 

あーやと絢梨、胡桃は余り物を出し、胡桃は俺の隣にくっついて食べた。

 

 食べ終わり、台所に食器を片付けると、俺はテレビの前に座った。

 

「柊くん、何してるの?」

「ん?暇だからさ」

 

胡桃は俺の隣に座った。

 

「暇じゃない?こうしてるの」

「することないし」

 

すると、またあのニュースが流れた。

 

「速報が入ってきました。連続傷害事件の容疑をかけられていた女子高生の両親が、先ほど傷害容疑で逮捕されました」

 

両親が逮捕?しかも傷害って?

 

「傷害事件と今回の傷害容疑については関係がないとしております」

 

無関係って、じゃあ虐待ってことか。ただ、それだとその女子高生はどこに……

 

「思ったより大きい事件だね」

「あぁ」

 

物騒な事件で、かつ複雑な事件だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Happy new year!

 12月31日。というより、1月1日と言った方が正しいだろうか。

今の時刻は午前1:15。大宮駅にいる。このあと、俺と胡桃は1:15発埼京線各駅停車新宿行きに乗り、原宿の明治神宮へ向かう。

行きたい人と過ごせと言ったため、かりなは彩夏と、あーやは絢梨と、そして、俺は胡桃と行動した。

普段、この時間帯は電車なんて動いていないが、今日は終夜運転。終電という概念がなくなる。

 

「柊くん、初詣なんて久しぶりなんだけど、これでいいんだよね」

 

もふっとした服を着た胡桃が言った。

 

「いいんだよ。俺も真っ黒なんだから」

 

ほとんど私服に近い。というか、私服だ。

 

「じゃあいっか」

 

俺に合わせる、という感じだろう。

深夜に電車に乗るなんて、久しぶりだ。

武蔵浦和には1:25、赤羽1:40、池袋1:49、新宿には1:57に到着した。

新宿からは2:14発山手線内回りで原宿。2:18に到着した。

 

「うわっ、すごい人」

 

境内は人でごった返していたが、俺たちは空いているところを進み、賽銭のところにきた。

 

「願い事か……」

「私は決めた」

「じゃあ俺もあれにしようかな」

 

俺は、願い事を決めると、賽銭に5円を入れた。

 

(来年は、もっと胡桃と幸せになれますように)

 

【月島胡桃視点】

 

柊くんが願い事を決めるより先に、私はもう決まっていた。というか、来たときからもう決まっていた。

 

「願い事か……」

「私は決めた」

「じゃあ俺もあれにしようかな」

 

柊くんはそう言うと、お賽銭に向かって5円玉を投げ入れた。私も、5円玉を投げ入れた。

そして、願い事を思い浮かべる。

 

(来年は、もっと柊くんと幸せになれますように)

 

【月島柊視点】

 

 2:27発の外回りで新宿へ戻り、2:46発千葉行きで秋葉原、3:08発大宮行きで上野。そして、4:01発籠原行きで籠原へ。

 

「楽しかったね」

「胡桃はもみくちゃだったけどね」

「柊くんにくっついていたもん」

 

電車は5時台に入り、籠原には5:32に到着した。

5:35発高崎行きも終夜運転……と言いたいところだが、この電車は定期電車。5:35に毎日出発する、籠原始発の1日1本ある電車だ。

 

「もう帰ってきちゃった」

「いいんじゃないか?」

「手繋いで帰ろ?せっかくだし」

 

胡桃は俺と手をつなぎ、歩いて深谷から帰った。きっとまだみんな帰ってないだろう。と思いながら、俺たちは幸せな気持ちで家路を歩いた。

 

「明日は2人でごろごろしようね」

「そうだな。新年1日目だし。ってか、今日じゃん」

「あ、たしかに」

 

 




どうも、2021年も今日で終わりですね。
2022年はどんな年になるか楽しみです。
そうだ、皆さん知ってますか?
2020年と2021年の累計投稿小説数。
実は、2020年は170話、2021年は64話でした!
半分以下ですね。しかし、2022年はもっと少なくなる予定です。ちょっと私用がありまして。
週1回や、少ないと月1回になるかもしれません。
2022年の累計投稿小説数は48話いけば良い方だと思います。
それでは、2022年も、よろしくお願いします。
Happy new year!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

元旦

 1月1日。なんの変わりもない新年。俺たちはただゴロゴロするだけなのに、仮想世界に行って、大勢でゴロゴロ。

 

「湊翔、こんなことしてていいのか」

「大丈夫っしょ。な、琴葉」

「うん。もう動きたくなーい。ね、冬菜」

「うん。どうせお兄ちゃんもでしょ」

「当たり前だ。かりなと彩夏もだろうし」

「うにゅ。あきにいの隣だからもう動かない」

「俺も動かないぞ。な、藤花」

「ね、風那」

「私に振らないでよ。ま、そうだけど」

「沙理華は」

「え、そこにいるけど」

「ゴロゴロ~」

「瑞浪も近くでゴロゴロしてるな」

「もうここにいるー」

「あーや、おいで」

「いや」

「じゃあ絢梨」

「や」

「なんだよ……」

「じゃあこの胡桃ちゃんが行ってあげよう」

「ありがとう女神様」

 

うん。多い。

合計15人いる。大勢でゴロゴロ。1月1日なのに。

 

「敵来ないな」

「来たら攻撃できるの俺と柊、胡桃、琴葉しかいないだろ」

「私も!」

 

かりなが勢いよく言った。

 

「まぁ、来ないだろ」

「とりあえずゴロゴロしようぜ」

 

俺はみんなと一緒にゴロゴロした。もうみんな動く気なんてさらさら無い。

 

「今日元日なんだけどな」

「私が柊くんの隣にいる日?」

 

何言ってるんだ、藤花。

 

「隣にいるのは胡桃で結構」

「大きいの持ってるよ」

 

胸を押し付けてくる。色仕掛けするな。

 

「頭は小さいか」

「酷っ!」

「冗談だ。ただ、ホントにやめろ」

 

俺は一応藤花に警告した。すると、藤花は暁依の方に寄っていった。あいつは懲りないな。

 

「柊くん、膝枕してー」

 

胡桃はあぐらをかいていた俺の膝に寝た。

 

「いいよ」

「魔法使い様~」

 

胡桃は横になった。胡桃はその場からずっと動かずにいたが、たまに俺に話しかけることがあった。

 

「柊くんは楽しい?」

「楽しいとかは無いと思うんだが」

 

俺は胡桃に対して少し冷たいと思ったが、すぐに話した。

 

「いや、楽しいかも」

「でしょでしょ?」

 

俺は胡桃の頭を撫でた。こうすると、胡桃が可愛い声を出すから癒やされる。

 

「くぅん……」

 

胡桃は可愛い声を出しながら、俺の方を向いた。

 

「可愛いね」

「どうもー」

 

胡桃はにこにこ笑って言った。

 

「みんな、もうのんびりだね」

「新年から休みたいから」

 

湊翔が代わりに返信してくれた。

 

「新年1日目からね」

「疲れてるんだろ、きっと」

 

俺だって疲れてるし、きっとみんな同じなんだろう。

 

「あ、胡桃寝た」

「早いね」

「あったかいし。少しだけど」

 

数人寝てる人はいる。起きてる人も横になっているが。

 

「今何時?」

「現実世界だと9時半くらい」

「あ、じゃあ朝ご飯か」

「そうするか」

 

俺は琴葉に朝ご飯を頼んだ。作ってくれるし、結構おいしくできそう。俺も手伝いたいけど、胡桃が上にいてできないし。

 

「みんなもうのんびりだから、動かないでしょ」

「そうだな。ま、新年1発目だし、いいだろ」

 

俺は琴葉にそう言った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話 不安と安心

 無事夏休みに入り、学校閉庁期間にあたる、8月10日から20日の10日間、俺は秋田と札幌に帰省したりしていた。

そんな夏休みも終わろうとしている、8月16日。この日は今年最高の気温を更新し、最低気温は30℃、最高気温は深谷で39℃まで上がった。今日は250地点で35℃を超えているらしい。実に「異常気象」ということがよく分かる。

室内は当たり前のように冷房をつけていて、普段は26℃や25℃設定の冷房も、今日だけは23.5℃まで下げた。暑すぎる。

 

「廊下があついぃ……」

 

自分の部屋に冷房はついているのだが、1回リビングに来るとみんな戻ろうとしない。暑いのだ。いや、熱いのだ。

 

《東京都心は35℃を超え、猛烈な暑さとなっています》

 

ニュースキャスターも暑そうだ。

 

 12時を少し過ぎた頃、急に空が曇り始めた。気温も急激に下がり、11時半で38℃だった気温は、12時半ではもう30℃まで下がっていた。

 

「柊くん!外が!」

 

そう、急激なスピードで気温が下がっている影響で、胡桃が興味津々になっている。子どもかな?

 

「そうだな。急激に下がってる」

 

それからも気温は下がり続けたが、17時頃になって、気温は維持し始めた。17時半で24℃まで下がっていた。

 

 翌日、8月17日。

予想最高気温は23℃、予想最低気温は17℃。天気は曇り。気温はかなり低い。

 

 さらに翌日、8月18日。

予想最高気温は15℃、予想最低気温は8℃。天気は曇り。冬と同じくらいに下がった。

 

 そして、8月19日。衝撃的なことが起こった。

予想最高気温は、なんと3℃。予想最低気温は-4℃。天気は雪。予想積雪量は、多いところで10cmと、結構積もる。

 

「柊くん、雪だよ」

「あぁ……不思議な雪だ」

 

つい3日前までは冷房をつけていたのに、今日はすっかり暖房だ。

 

「お兄ちゃん、もしかして……」

 

かりなが言い出したことは、十分にあり得ることだった。

というわけで、かりなの言葉が本当か確かめるため、俺とかりなは電車に乗った。

7:34発特別快速小田原行きに乗車。

今回の話は、「なぎが不安でいるかもしれない」ということだった。

 

「かりな、よく分かったな」

「前からそういう感じだったじゃん?」

 

そういうことだったか。

俺はなるべく急ぐため、新宿に到着したあと、すぐに小田急に乗り換えた。

 

 9:01発快速急行片瀬江ノ島行きで相模大野まで行き、そのあと、向かい側の9:37発各駅停車新松田行きに乗った。各駅停車新松田行きでは、相武台前でメトロはこね91号に追い越されるが、これは本厚木に止まらないため、本厚木までの最速はこの各駅停車になる。

 

 9:57、本厚木に着くと、かりなはすぐに走り出した。

 

「かりな!」

「付いてきて!」

 

かりなが向かった先は駅の少し遠くにあった廃ビル。その最上階へ向けて、かりなは全速力で走る。

 

「かりな、疲れてないか」

「うん。大丈夫」

 

かりなは階段を駆け上がる。錆び付いていて、今にも崩れ落ちそうだ。

階段は1歩進むごとに揺れ、茶色い粉が後ろに舞い上がった。錆の粉だろう。

 

「かりな、揺れてないか」

「早く行っちゃえば──」

 

そう言った瞬間、かりなの足下にあった階段が崩れ落ちた。俺は咄嗟にかりなの手を掴み、壁に片手を掛けた。

 

「大丈夫か、かりな」

「大丈夫じゃない……」

 

俺は飛行魔法でかりなを引き上げた。それと同時に、俺たちは飛行魔法で最上階まで上がることにした。

 

 最上階では、なぎが縄で縛られ、声だけが出せるようになっていた。

 

「柊くん!」

「なぎ!」

「凪沙ちゃん!」

 

俺たちがなぎのところの向かうと、何か嫌なにおいがした。

 

「凪沙ちゃん、今助けるから」

「かりな、3秒でやれ」

「ふぇ?う、うん」

 

かりなは言ったとおり、2秒と少しで終わらせた。

 

「よし、降りるぞ」

 

俺は割れていた窓から飛び降りた。

 

「きゃあぁっ!」

 

叫ぶのも無理はない。何せ、6階から飛び降りたのだから。

 

「よっと」

 

俺は軽々降りた。なぎとかりなを覆うようにすると、後ろのビルの最上階は大きな音を立てて爆発した。

 

「うわっ」

 

かりなは俺の身体に自分の体を押し付けた。

 

「大丈夫か?」

「うん……」

 

雪はどんどん強くなり、俺たちの体を覆っていく。

 

「なぎ、何か不安か」

「え?あ、えっと、柊くん大丈夫かなぁ、なんて」

 

不安さが少しずつ大きくなっているようだった。

 

「大丈夫だよ。ありがとう、心配してくれて」

「えへへー……」

 

なぎは少し頬を紅くして言った。

 

 そのあとは、なぎの家にお邪魔させてもらうことにした。というか、あがるように言われた。

今から帰ると、昼食を食べる時間が遅くなる。と言って、なぎは料理を作ってくれた。

 

「帰りはどのくらいがいい?」

「18時までに深谷に着けば何でもいいかな」

「分かった!」

 

一応俺の方でも調べておこうと思い、俺は乗り換え案内で本厚木から深谷の時間を調べた。

 

(そういえば、今出てったら何時に着くだろう)

 

俺は10:48発の電車で調べた。

すると、結果として出てきたものが13:20頃に着く電車だった。俺はかりなの肩をたたき、俺のスマホを見せた。

 

「13:20前着くぜ、今出たら」

「ふふっ、きっと一緒にいたかったんだよ。雪も止んできてるし」

 

確かに、雪も止んできて、なぎもご機嫌になってきていた。

 

「柊くん、かりなちゃんっ、どーぞ!」

 

元気よく料理を出してきた。本当に元気なんだな。さっきまで縛られてたのに。

 

「凪沙ちゃん、一緒に食べよっ」

「おっ、いいねぇ」

 

なぎとかりなは隣り合わせで楽しそうに食べている。俺の話も出てきたため、たまに話すことはあったが、ほとんど話しかけなかった。

 

 なぎが調べてくれた、18時頃に着く電車は、本厚木15:15発快速急行新宿行きだった。

 

「じゃあ、そろそろ帰るよ。ありがと、今日は」

「ううん、こっちこそありがとう。助けてくれて」

 

そうして、お別れの挨拶をしていると、かりなが言った。運行情報の読み上げだ。

 

「小田急線は、伊勢原~愛甲石田駅間の車両故障の影響で、新松田~新宿駅間の上下線で運転を見合わせてるって」

 

伊勢原~愛甲石田駅間とは、本厚木駅の2つ前の区間。しかも、時間的に乗る電車だろう。

案の定、15:15の電車は到着の目処が立たず、俺たちは帰れなくなっていた。

 

「厚木まで歩くか?」

「この積雪だから危ないんじゃない?」

 

かりなが言った。それもそうだ。滑りやすいし、怪我もしやすい。

 

「なぎ、運転再開まで待たせてくれないか」

「もちろんいいよ。ゆっくりしてって」

 

なぎは俺たちのことを歓迎していた。

 

「どうせ混んでるんだろうなぁ、再開後」

「しょうがないでしょ。あ、小田原経由してく?」

「いや、遠いからな……各駅停車だと空いてるか……?」

「厚木で相模線に乗り換えるってことね」

「海老名まで行っちゃった方がよかったりするのかな」

「相鉄もあるし、帰りやすいよね」

 

帰るルートを模索していると、なぎが横から言った。

 

「多分各駅停車も結構混んでるよ?先に動くの各駅停車だから。だから、海老名までもしんどいんじゃないかな」

 

なるほど、一理ある。そう考えると、やはり運転再開してから少し待った方が良いだろう。

 

「なぎ、隣にいて」

「となりの“なぎさ”だね」

 

となりのト○ロみたいに言うな。というか、ただただなぎと久しぶりに近くに入れるから。

 

「はいはい、なぎだよー」

 

なぎは俺にくっつく。肩をこすりつけ、密着している。

 

「むーっ、凪沙ちゃんばっかりずるいーっ」

「おっ、お兄ちゃんに対してのやきもちかな?」

「かわいい妹だ」

「からかわないでーっ」

 

かりなは俺の膝の上に乗る。なぎに取られたくないのか、自分も甘えたいのか。よく分からないが、とりあえずかわいかった。

 

 運転再開は17:30。俺たちがなぎの家を出たのは18時過ぎ……というのが普通だが、今日はなぎの家に泊まることにした。

 

「明日は直接鴻巣に行くから、5:24の快速急行で代々木上原まで行って、6:06取手行きで大手町、東京から6:48発籠原行きにしよう」

「朝早いじゃん」

 

かりなが困ったように言った。

 

「早起きの練習だな」

「うぅ……」

「早起きは苦手なんだ」

「7時に起きていいじゃん」

 

7時だと俺が間に合わん。

 

「俺が間に合わないから」

「じゃあしょうがないかぁ」

 

なぎは俺たちのやりとりを楽しげに見ていた。

 

「あー、はいはい。ほら、寝るよ」

「はーい」

「隣で寝るか?」

「さすがにそこまでは……」

 

俺はかりなと同じ部屋で寝たが、なぎとは違う部屋で寝た。

 

【白雪凪沙視点】

 

 柊くんが泊まっている。こうなるとは思ってなかったけど、これはチャンス。どんなチャンスかって?そんなの、添い寝に決まってるじゃん。柊くんが寝てるときに、布団に潜り込めば、成功!

1回断ったけど、そうした方が反応が面白そう。

 午前1時半、もう流石に寝てるだろうと思い、私は柊くんのいる部屋に向かった。

案の定、柊くんはぐっすり寝ていた。

 

(むっふふ、作戦通り)

 

私はそっと布団をめくった。すると、かりなちゃんが柊くんに丸くなってくっついていた。

 

(ふえ?)

 

かりなちゃんは寒くなったのか、ゆっくり起きた。

 

「起きてたんだけど、もしかして、夜這いしにきた?」

「そんなわけ……ない……よ?」

「図星か」

 

かりなちゃんは小悪魔のように笑った。

 

「じゃあ凪沙ちゃんは反対側ねっ」

「え?」

「一緒に寝るの」

「あ、うん」

 

私はかりなちゃんの反対側に入った。

 

「おやすみ~」

 

かりなちゃんは一瞬で寝た。

 

「おやすみ、2人とも」

 

私も寝ることにした。

 

【月島柊視点】

 

 翌朝、5時頃に起きると、俺の左にかりな、右になぎがいた。両者ともに猫のように丸まっていた。

 

「なんでこんなことになってるんだ」

「うにゅ?おはよ」

 

ちょうどなぎが起きた。

 

「なんでここにいるんだ」

「うーん……添い寝?」

「そうですか……」

 

そんなやりとりをしていると、かりながくるくると回り始め、1回転すると起きた。

 

「ふにゅーっ」

 

かりなが起きた。

 

「おはよ」

「うにゅ。おはよ~」

 

かりなは寝ぼけながら着替えた。俺は昨日のうちに着替えて寝たから、着替える必要はない。

 

「よく着替え持ってきてたね」

「なぎが泊まれって言うと思ったから」

「なーんだ、予想してたか」

 

俺は着替え終わると、かりなと一緒に駅へ向かった。なぎも一緒で、見送りたいそうだ。

 

「じゃ、帰るよ。ありがとな」

「うん。また遊びに来てね」

 

なぎは笑顔で見送ってくれた。

昨日とは異なり、ちゃんと5:24に快速急行は出発した。本厚木から、海老名、相模大野、町田、新百合ヶ丘、登戸、下北沢、代々木上原、新宿に停車する。

 

「代々木上原で降りるんだっけ」

「あぁ。東京始発で座りたいから」

 

かりなは俺の隣で聞いた。早朝だったが、さすが快速急行。本厚木の時点でもう座れなかった。というか、新松田~愛甲石田駅間の始発も兼ねているからだろう。

 

 代々木上原に6:05に着くと、俺たちはすぐに向かい側に停車している、千代田線取手行きに乗車。6:06に出発。

 

「お兄ちゃん、電車混まないよね?」

「多分ね。大手町で降りるし」

 

千代田線は7時頃から混み始めるが、今は結構空いている。代々木公園出発時で、座席が若干埋まるくらい。まだ立ち客はいない。

 

 大手町には6:26。ここから歩いて東京駅に向かい、6:48発当駅始発の籠原行きで鴻巣に向かう。

籠原行きは東京出発時点で座席が埋まる程度だったが、赤羽あたりから徐々に空き始め、大宮出発時では、座席の一部が埋まる程度まで空いていた。

鴻巣に着く頃には、もうガラガラで、やはりラッシュの逆方向は空いていた。

 

「結構ギリギリだな」

「あと15分で部活始まっちゃうね」

 

かりなもついてくることになり、2人で学校を目指した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話 家に帰って……

 学校が本格的に始まりだした、9月1日。残暑の影響で、未だに関東や東海地方では35℃を超える日が続いていた。

このまま進むと、冬の気温は低いんじゃないかと思っている、柊だった。

さて、木曜日という平日。満員電車で暑苦しいのも嫌だから、胡桃と2人で車で学校に向かった。

 

「今日は暑いね~」

「最近暑いよな」

 

車の中だから涼しいが、外は灼熱の暑さだ。

 

「早く帰ろうね」

「暑いからな」

 

俺は学校を目指して車を走らせた。

 

 帰り、胡桃を家まで送ったあと、俺は飛鳥山公園まで車を走らせた。飛鳥山公園である人と待ち合わせしているためだ。

20時になろうとしているとき、やっと俺が飛鳥山公園に着いた。

 

「悪い、遅くなった」

「ホント、遅かったね」

「車だったからさ」

「電車の方が早かったんじゃないの」

 

それは一理ある。いや、普通そうだ。

 

「ま、いいじゃん、着いたんだしさ」

「まぁいいけど」

 

今会っている人とは、蘭のことだ。もうしばらく会ってなかったが、話がしたいと言われ、久しぶりに会った。

 

「蘭は最近どうだ。モカたちとは仲良くしてるか?」

「もちろん。柊くんこそどうなの」

「俺は相変わらずさ。それより、どこか座らないか」

 

ずっと立ち話なのも疲れるからな。俺と蘭は近くのベンチに座った。

 

「柊くんのこと、一時期取り合ってたのにね」

「懐かしいな。もうそんなことないけど」

「柊くんが結婚したんでしょ」

 

それもそうだった。

 

「まぁ、会いたくなったら来いよ。家知ってるだろ?」

「先生をやってる人が昼間に家にいるとは思えないんだけど?」

「まぁ、たまにはいるさ」

 

蘭は微笑んだ。クールに笑ってる蘭が、俺は好きだ。

 

「じゃあ、もう帰ろっかな」

「え、これだけから」

「顔見たかっただけだし。じゃ」

 

蘭は飛鳥山公園の頂上から降りていった。その姿を見ていると、ふと昔のことを思い出した。高校生のときだ。

 

(みんな、俺から離れて行ってたな……ああいう風に)

 

俺は寂しくなりながらも、堪えて車に戻った。

 

(まぁ、今は胡桃がいるし。大丈夫さ)

 

俺は車を走らせた。胡桃が待ってる。

 

 22時半頃、俺は家に着いた。そんなに遅くない時間だったが、規則正しいかりなとあーやはもう寝ていた。

 

「ただいま」

 

俺がそう言うと、いつも飛びかかってくる胡桃が、今日は飛びかかってこないどころか、俺の前に姿を現さない。

 

「おかえり」

 

絢梨だった。

 

「胡桃は?」

「寝た」

 

そうか……待ってたんだろうな。

 

「夕飯、食べる?」

 

絢梨が俺に聞いた。

 

「食おうかな。なんかあるか」

「ない」

 

……外食か。

 

「外食にするか」

「やってないのに」

 

そうだった。もう22時半なんだ。

 

「じゃあ風呂だけ入って寝る」

「シャワーだよ」

「……シャワーでいい」

 

俺はシャワーを浴びに浴室に向かった。

シャワーを浴びているとき、俺は不思議に思った。

 

(胡桃、寝るの早いな。しかも、いつもしてくれてることをしてない……)

 

その時、外からドタバタと足音が聞こえ、徐々に近づいてきた。

 

「柊くん!ごめん!寝落ちしちゃってた」

「おう、大丈夫。不安だったけど」

「夕飯どうしたい?」

 

胡桃が聞いてくる。もう結構経ってることもあるし、いらないかな……いやけど、胡桃の夕飯ただ単に食べたい。

 

「どうしよっかな」

 

曖昧な答えだった。

 

「じゃあもう寝ちゃう?」

 

胡桃が聞いた。意見に反するわけにもいかない。という謎の考えがあるからか、俺は賛成した。

 

「そうする。もう少しで上がるから」

「みゅっ!」

 

通訳しよう。胡桃語で「うん」という意味だ。ちなみに、家ではたまに柊語で「うぃー」と怠そうな答え方をするが、これも「うん」という意味だ。言うのが面倒だから俺はこう言っているが、胡桃は可愛いのもあるだろう。

 

「上がるかなー」

 

俺は結局予定より早く上がることにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話 被害

 夏の盛り。

 この言葉が恐らく1番合っている。

 8月1日、俺は新宿にいた。どうしてここにいるか?そんなの、自分の趣味で来るはずがない。こいつに呼ばれたからだ。

 

「よ、柊」

「暑いんだが」

 

龍夜だ。

 

「そんなこと言うなって。どうせこの後涼しいとこ行くんだから」

「電車の中だろ?」

 

なんでこんなに元気でいられるんだ。

 

「というか、よく来れたな」

「学校を胡桃に任せたからな」

 

だから今日は俺1人で来た。

 

「そうか。そんじゃ、行くぞ」

 

俺たちはある場所に向かい始めた。今日は忙しい1日になりそうだ。

こんな呑気にしている場合ではないのだが、昨日、なぎから「また追われている」と連絡があった。鍵を閉めて閉じこもっているらしいが、時間の問題だった。

俺たちは12時丁度発、はこね15号箱根湯本行きに乗った。

 

「それで、なんか持ってきてないのか」

「ん?ナイフとかか」

 

そんな物騒な物じゃなくて良かったんだが。

 

「そういう感じじゃなくていいけど」

「実際持ってきてないけどな。ノートパソコンくらいだ」

 

そんな量でもなかった。俺はほとんど何も持ってきてないし。万が一のためにノートパソコンは持ってるが、それ以外は何も持ってきてない。

 

「じゃあ、何する」

「そうだな……凪沙と連絡とってもいいんじゃないか」

 

そうするか。安心できるだろうし。俺はなぎに連絡を送った。

 

〈なーぎー〉12:03

〈なーにー〉12:03

 

なぎから返信が来た。いつも通りのなぎだ。とは言っても、何の話題がいいかな。

 

〈ニャー〉12:04

 

なんとなく時間を稼ぐ。

 

〈にゃう?〉12:05

 

このネタで行くか。猫の会話してるし。

 

〈ニャンニャン〉12:05

〈かわいいね〉12:06

〈ドーモ〉12:06

〈ニャウニャー〉12:07

〈楽しいかい?〉12:08

〈楽しいよ!来てる?こっち〉12:08

〈向かってる〉12:09

〈いっぱい話したいからはやくねー〉12:10

〈オッケー〉12:10

 

なぎのところは安全そうだ。近くに脅威となる人がいないんだろう。

 

「凪沙どうだ」

「元気そうだ」

 

龍夜もほっと安心していた。なぎも俺らのこと待ってるんだから、早く行ってあげよう。

 

 本厚木に着くと、俺はすぐに改札へ向かい、なぎの家に向かった。周囲の警戒もしていたが、問題は無かった。無事になぎの家まで来ると、俺はインターホンを押してなぎを呼んだ。

 

「なーぎー」

 

俺がそう言うと、なぎは走ってきた。

 

「柊くん!」

 

俺に飛びかかってくる。俺は少しバランスを崩したが、すぐに取り戻した。

 

「ストーカーは」

 

龍夜が聞いた。そうだ、本題はそれだった。

 

「それがね、仮想世界で待ってるとか言うの」

「不思議な奴だな」

「確かにな」

 

殺される覚悟でいるんだろうか。琴葉と湊翔を呼んでしまえば恐らく5分かからず終わるが。

 

「自称仮想ワールドNO1らしいんだよね」

 

お、嘘だ。これくらい、なぎにも見せてあげよう。

俺はノートパソコンに「仮想ワールド内役職別順位表」を見せた。

 

「なぎ、これが順位表だ」

「公式のものだね」

 

剣術・剣士の1位はミナト、遠距離使いの1位はイザナミ、琴葉のことだ。魔術師・魔法使いの1位はシュウ。俺だ。そして、総合順位。1位が同率で3人。31450Pでミナト、イザナミ、シュウ。2位は29450Pと、かなりの差がある。

 

「え、柊くんじゃん」

「そう。そいつの言ってることは真っ赤な嘘だ」

 

俺が1位なのに。嘘もほどほどにしろよ。

 

「取りあえず、その約束はこっちから一方的に凍結させよう。こっちでどうにか対処する」

「あ、ありがとう……」

 

俺は望にリモートをつなげた。今回の仮想世界の管理についてだ。

 

《ん?久しぶりだね》

「そうだな。えっと、仮想世界で1位を名乗ってる人物っているか?」

《自称ってことでいい?》

「あぁ」

 

望はしらべたあと、俺に言った。

 

「プレイヤーID5640、剣士、ランキング56位。プレイヤー名『Death sword』」

「なんだその厨二病だらけの名前は」

「実際この名前なんだもん」

 

ランキング56位か。中の上くらいだな。

 

「中の上か」

「普通に考えたら上の中だけどね」

「え?」

「柊くんが異常なの」

 

そんなに異常かな?

 

「まぁ、それはいいとして、位置情報公開できるか?」

「できるけど、なに、この人追放しようとしてる?」

「もちろん」

「1対1は無理だよ。デスソードの剣に触れたら即死なんだから」

「じゃあ3人だったら?」

 

望はしばらく悩んで言った。

 

「まぁいけるかな」

「じゃあそれでいく」

「はぁ……分かった」

 

望は位置情報を俺に公開した。

 

「あとは全部任せる」

「ありがと。じゃ」

 

よし、全部俺が主体でできる。

 

「柊、暴れんなよ」

「どうしよっかなー」

 

龍夜は「ホントにやめてくれ……」と言っていたが、なぎは笑っていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話 避難

 俺は早速家に帰ることにした。16:15発快速急行新宿行きに乗った。龍夜は家に置いてきたが、俺は急いで帰ることにした。

17:09に新宿につくと、17:23発湘南新宿ライン高崎線直通特別快速高崎行きに乗車した。深谷まで向かう最速達だ。

18:39、深谷に着くと、なんとなくで胡桃を呼んだ。すぐに胡桃は来て、俺は助手席に座った。

 

「柊くん、帰ってくるの早かったね」

「まぁ、安全そうだったからな」

 

俺は胡桃と楽しく話した。

 

 俺から1週間経っただろうか。俺はいつも通り学校に行って授業を始めていた。

 

「もうすぐ後期の時間割が始まって、俺の授業が増えるけど、今まで通りだからな」

「数学1分野増えるんですか!」

 

生徒が元気よく聞いてきた。

 

「いや、理科2分野が俺の担当になるだけだ」

 

周りは一気に静かになった。理科は人気がないらしい。

 

「なんだ、この空気?」

 

そう言うと、みんなは笑った。

 

「さて、じゃあ──」

 

俺が始めようとすると、廊下を全速力で走る音が聞こえた。

 

「ん?」

「爆発だ!けが人がいる!」

「え?」

 

俺は咄嗟に教室を飛び出した。

 

「自習だ!」

 

俺は勝山先生と一緒に爆発が起きたところに向かった。

 

「どこですか」

「体育館です!」

 

体育館。爆発物は取り扱わないはずだが。理科室だったら危険性はあるが、体育館でなぜ爆発したのだろう。

そう思っていると、遠くに俺を見ている人影を感じた。俺はすぐにそのところへ飛んでいった。

 

「誰だ」

「デスソードですよ。要件がありましてね」

「今回の爆発はお前の仕業か」

「小さな爆発ですよ。運悪く当たった人がいるらしいですが。目的はあなたを呼び込むためですが」

 

呼び込むためって……

 

「何だ」

「今夜、19時半頃に凪沙さんの家に私の仲間を行かせます。ある意味誘拐です。予告しておくので、行動はあなたに任せます」

 

そう言うと、気味の悪い笑いをした後にこう付け足した。

 

「仮想世界でお待ちしていますよ。見せてください、腕前とやらを」

 

そう言って、デスソードは消えていった。

なんだったんだ。とにかく、19時半になぎの家に行かないとってことか。

 

 学校が終わり、俺は胡桃と今日のことを話した。

 

「じゃあ、どうする?」

「19時半になぎの家に行って、こっちに避難させる。誘拐犯に会わないように迂回して帰ってくるから、熊谷駅に俺の車を置いといてくれ」

 

そう胡桃に指示した。

 

「私は?」

「車の中で待っててもいいし、先に電車で帰っててもいい」

「じゃあ車の中にいるね」

「じゃあ、俺が見えたらライトを3回点滅させてくれ」

「分かった」

 

そう言って、俺は円盤に乗って飛行した。

 

19時過ぎに俺はなぎの家に着いた。俺はすぐになぎに支度をさせた。俺も手伝い、10分ほどで終わった。

 

「どうして避難なんか」

「誘拐犯が来るって聞いた。一応避難しよう」

「分かった」

 

飛行が危険な可能性があるし、なるべく本厚木まで最短で結べてしまうルートは通らない方が良い。とにかく、海老名までは移動してしまおう。

 

「19時31分の各駅停車で厚木まで行っちゃう?」

 

なぎが聞いた。

 

「いや、19時29分発の快速急行で海老名まで行っちゃおう」

 

多分相模線に厚木で乗り換えるより早く乗り継げるはずだ。

19時29分、快速急行新宿行きは出発した。次がもう海老名で、19時32分に海老名に到着した。

約5分かかる乗換をしてから、19時38分発橋本行きに乗った。

 

「もうどう帰るかは決まってるか」

「あぁ。北から抜けていこう」

 

結構夜遅くなってしまいそうだが、仕方ない。

20時10分、橋本に着き、すぐに20時12分発八王子行きに乗り換えた。20時23分、八王子に着くと、八高線に乗車。20時31分発の川越行きだ。

21時6分、東飯能に着いたが、9分間停車する。対向電車待ちだ。

 

「うぅ……この隙に追いつかれちゃいそう……」

「車とか魔法を使ってない限り追いつかれないと思うが……」

「無いわけじゃないからな」

 

それが不安要素だった。

21分15分、不安になりながらも電車は出発した。21時20分、高麗川に着くと、階段を通り、21時24分発高崎行きに乗車。

ちなみに、これで高崎まで行っても、23時5分発籠原行き最終電車に乗り継げるが、高崎線で待ち伏せをされる可能性が高い。そのため、寄居で秩父鉄道に乗り換え、熊谷を目指す。

 

「取りあえず一安心だな」

「そうだな。眠くないか」

「眠いかも……」

 

なぎが小さくあくびをした。

 

「じゃあ寝ていいぞ。寄居まで時間あるから」

 

約35分。寝れるくらいの時間はある。

 

「じゃあ、おやすみ」

 

なぎは俺の隣で寝た。

 

 22時3分、寄居に着くと、そのあとは22時24分発羽生行き最終電車に乗った。羽生まで行く最終だが、熊谷までだったらこのあと23時7分発熊谷行きがある。

なぎは秩父鉄道でも寝ていた。32分と、そこまで長くはないが。

 

「柊、なぎのこと、頼んでもいいか」

「あぁ、いいけど、どうした」

「俺、明後日会社の出張あってさ、明日のうちに家に帰っておきたいんだ」

「ああ、いいよ」

 

龍夜も会社に入ってたんだな。

 

「ありがとう、じゃあ頼む」

「分かった」

 

 

 電車が熊谷に近づくと、俺はなぎをそっと起こした。

 

「なぎ、着くよ」

「ん?んん……」

 

まだ寝ぼけてる。寝起きだもんな。

 

「着いたから。降りるぞ」

 

龍夜がなぎを撫でて起こした。

 

「んん。起きる……」

 

なぎが起きて降りると、俺たちは胡桃のところに行った。ライトを3回点滅させるはずだ。

俺が駐車場に行くと、胡桃の車のライトが3回点滅した。

 

「胡桃か」

 

俺たち3人は胡桃の車に乗った。

 

「自分の車で来たんだな」

「うん。柊くんはゆっくり休んで」

 

胡桃が運転してくれた。結構眠かったし、助かる。

明日からは戦闘やなぎを守ることが多くなりそうだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話 戦闘

 仮想世界サンドスペニア。

俺はここで湊翔と琴葉を待っていた。もちろん用があるわけだが、厳しいものだ。

 

「あ、もういたのか」

「君らが遅いんじゃないか」

「えへへ」

 

2人が来ると、俺は映し出して説明した。

 

「早速だけど、家の特定から進めたい。10分間この位置から移動してないんだったら家とみていい」

「あぁ、特定したあとはどうする」

「外出を待って人質を救出しよう」

 

人質はいるだろうし。

 

「結構時間かかりそうだね」

「そもそもとして、家に帰るかが分からないが」

 

なんとかなる。多分。

 

「じゃあ、ゆっくり見てるか」

「はーい」

 

俺たちは永遠に位置情報を見ていた。

 

 3時間経過。何も進展はない。

 

 4時間経過。またまた進展はない。

 

 5時間経過。もう暗くなってきたが、ようやく進展があった。

 

「もう10分止まってるな」

「じゃあここに向かうか」

 

俺たちはこの場所に向かい始めた。5時間も待ってようやくだ。

 

「結構近い?」

「隣のエリアだな。遠くはない」

 

遠くないだけいいんだが、人質の状態が心配になってくる。

その場所に着くと、家、というより洞窟だった。岩を掘って作られている。

 

「出てきてから突入しようか」

「また待つのかぁ」

「早くしないかね」

「そんなこと言ったって……」

 

俺がそう言った瞬間、暗闇の中から1人の男が出てきた。

 

「あ、出てきた」

「え!?」

 

そんなことあるのかよ。

 

「じゃあ突入しよっ」

「人質の身柄どうする」

「身柄って言い方……」

 

俺の言い方に湊翔が突っ込んだ。

 

「私がやろっか?」

「あ、じゃあ頼む」

 

湊翔が言った。遠距離がいなくなるのは心許ないが、大丈夫か。

俺たちは家の中に入って人質を捜した。もちろん琴葉が最初に見つけたのだが、男子だと思った人質は女子だった。しかも少女。

 

「大丈夫?」

「え、あ、えっと……」

「俺たちは味方だよ」

「ひっ……」

 

少女は少し怯えた。

 

「湊翔、怖いぞ」

「怖いか……?」

「ごめん、ホントに味方だよ」

 

少女は小さくお辞儀をすると、琴葉の服の袖をきゅっと掴んだ。

 

「あはは、怖い?」

 

少女はこくりと頷く。

 

「俺はどうかな」

 

少女は首を傾げると、こう言った。

 

「怖くない、です」

「お、よかった」

 

俺が嫌われてなくてよかった。

 

「じゃあ、琴葉。頼んだ」

「うん」

 

俺と湊翔がデスソードを倒しに行こうとすると、少女が呼び止めた。

 

「待って下さい」

「ん?」

「デスソード倒しに行くんですよね」

 

俺は頷いた。

 

「デスソードさん、背後が弱いんです。ただ、正面からくらうと多分HPの8割はもってかれます」

 

弱点の説明か。

 

「人数って分かる?」

「少ないですよ。少なくてソロです」

 

人質になってただけあって、結構知っていることがあるな。

俺は目線を少女に合わせて言った。

 

「ありがとう。絶対倒してくるからね」

 

俺は湊翔と一緒にデスソードの向かった方角に行った。恐らくそこまで離れていないはずだ。

 

 しばらく移動すると、デスソードの背中が見えてきた。

 

「湊翔、投げナイフで奇襲かけよう」

「分かった」

 

湊翔はナイフを投げ、デスソードに当てた。こっちの存在に気付いて貰うためだ。

 

「気付いたな」

「取りあえず、背後から徐々に削ってくか」

 

俺は頷いた。湊翔はデスソードの背後に行き、剣を振る。湊翔も強力な剣を持ってきているが、全く歯が立っていない。背中に堅い装備があるのだ。

湊翔は一旦こっちに戻ってきた。

 

「どうする」

「俺が正面から突っ込んでみる」

 

俺はデスソードに正面から突っ込んだ。防護魔法を使いながら、俺は数少ない攻撃魔法、火炎魔法を使った。

案の定、デスソードは俺に剣を振ってくる。

 

「ぐがっ!」

 

一気にHPが削られる。防護魔法で40%軽減されるのにも関わらず、8割以上削られた。俺は僅かな体力で後ろに下がった。

 

「どうしたんです?早く来てみなさい。ホンモノのナンバー1」

 

デスソードは煽るように言ってくる。

 

「正面突破は無理だ」

「だったら背後から徐々に削るしかないか」

 

徐々に削ったってきりがない。ただ、正面から突っ込むと即死の可能性だってある。

 

「遠距離がいないからな……」

「柊!前!」

 

デスソードが俺に突進してきた。咄嗟に避けたことで、ギリギリ避けられた。

 

「もう少しずつ削るしかないか」

「分かった。行こう」

 

俺が引きつけ、湊翔が背後から攻撃する。これを何回も繰り返した。

しかし、装備も相まってデスソードのHPは全く減らない。

 

「まずい……」

 

俺がそう思っていると、デスソードの突進に気付かず、まともにくらってしまった。

 

「っ……」

 

HPが残り僅か。最初は30000以上あったHPも、もう100を切っていた。

 

「お兄ちゃん!」

 

その声とともに、俺のHPは急激に回復した。瞬く間にMAXまで回復した。

 

「お兄ちゃん、私がいるから」

 

かりなだった。こんな時に来てくれるなんて、救世主だ。

 

「ありがとう。回復頼んだよ」

「うん。頑張れっ」

 

俺は今までできなかった正面突破をし始めた。回復するんだったら怖いものはない。俺はナイフを持ち、魔法を込めてデスソードに刺す。

 

「なんだ……」

 

デスソードが言葉を発せていない間に、俺はもう1発刺す。

 

「死ねぇ!」

 

デスソードがそう叫ぶ。剣を振るが、当たってもすぐにフル回復。

 

「これで終わりだ」

 

俺は最後に傷口に氷結魔法を放った。

 

「くそ……」

 

デスソードは光と共に消えていった。現実世界の転移先は警察署だろう。そう望が設定した。

 

「ふぅ……」

「お兄ちゃんっ♪」

 

かりなが寄ってきた。

 

「どうしてここに」

「なんとなーく」

 

なんとなくでここを通ったのか。運が良いな。

 

「それで、このあとは」

「お兄ちゃんについてこっかな」

 

決めていなかったらしいが、俺に着いてくるんだったらいいだろう。

 

「んじゃ、行くぞ」

 

俺は3人で琴葉のところへ戻った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話 戦闘の終了?

 琴葉のところに帰ってきて、俺は少女にデスソードを追放したことを伝えた。

 

「デスソード、倒したよ」

「ホントですか!良かった……」

 

安堵の表情を浮かべた。脅威となる存在がいなくなったからだろうか。

 

「それで、君をこのあとどうするかなんだけど」

「お母さんとか、いる?」

「デスソードが殺しました……」

 

両親がいない状況か。だったら誰かが親権を持って、引き取ることが必要になるか。

 

「桃奈ちゃん、誰がいい?」

 

桃奈っていうのか、この子は。

 

「琴葉ちゃんがいい……あの人、怖いし……」

「だとさ、湊翔」

「うっ……」

 

湊翔がショックで俯いた。

そんなことより、琴葉が引き取れるかどうかだ。

 

「じゃあ、私の家に来よっか」

「いいのか?」

「一人だし。あ、転移先ってどうするの?」

 

転移先か。どこ分からないんだったら、俺が一緒に転移した方が良いだろう。2人以上の同時転移は魔法使いしかできないし。

 

「琴葉、家の最寄り駅どこ」

「えっとね、北本なんだけど」

 

なんだ、結構近いな。

 

「俺がこの子を送るからさ、駅で待ってて」

「うん。桃奈ちゃん、しばらく柊くんと一緒だけどいい?」

「うん。平気」

 

この2人は結構仲良くなったみたいだ。

 

「じゃあ、お願い」

「あぁ。んじゃ、みんな帰るぞ」

 

俺は桃奈の近くに行って、転移魔法を使おうとした。

 

「おっと、桃奈ちゃん、手繋ごうか」

 

こうしないと一緒に転移ができないんだった。

 

「あ、はい」

「敬語じゃなくていいからね。柔らかくさ」

 

俺は桃奈と手をつないで現実世界に転移した。

現実世界に転移すると、俺は桃奈を琴葉のところに送るため、深谷駅に向かった。

 

「桃奈ちゃん、現実世界久しぶりだよね」

「あ、うん。多分2年くらい来てない」

 

そんなに来てなかったか。だったら授業とかもあるだろう。

 

「学校、俺の学校に来るといい」

「どこなの」

「鴻巣なんだ。近いんだから、来るといい」

 

俺は桃奈に言った。

 

「ん。行く」

「待ってるよ」

 

深谷駅に着くと、すぐに来た高崎線で北本に向かった。14:17発熱海行きだ。

 

「琴葉とは仲良くしてるのか」

「うん。楽しい」

「そうか。きっと琴葉も嬉しいだろうね」

 

琴葉ってそんなに好かれるんだな。湊翔や俺とは違うな。

 

「おっ、そろそろ北本だぞ」

「また遊びにいっていい?」

「もちろん。いつでも仮想世界に来るといい」

 

桃奈はドアが開くと素早く降りた。俺もそれに続いて降りる。こうしていると、親になった気分になる。娘を見てる親、みたいな。

 

「早く行こ」

 

桃奈は俺を手招きする。

 

「あぁ」

 

俺は急いで桃奈についていく。

改札から出ると、琴葉が待っていた。迎えに来てるからだ。

 

「じゃ、琴葉。頼むよ」

「うん。安心して」

 

桃奈は俺と琴葉の間に立って俺たちを交互にみた。

 

「じゃあな、桃奈」

「うん」

「行こっ、桃奈ちゃん」

 

桃奈は琴葉と手をつないで歩いていった。桃奈が手を振っていたから、俺も手を振り返した。

なんか寂しい気もしたが、俺には胡桃がいる。寂しくないはずだ。

 

 家に着くと、いつも通り胡桃が出迎えてくれた。

 

「おかえり、ダーリンっ」

「ただいま」

 

胡桃は俺にハグする。

 

「むぎゅーっ」

「元気だね」

「えへへー」

 

俺は胡桃の頭を撫でた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話 地震

 

 学校に行っていた。なぜかって?部活だ。冬休みなのに。

12月28日。12時頃にいつも通り部活が終わると、俺は普通に帰らせようとした。

 

「次は年明けの4日からだからな。明日間違って来るなよ」

「来ないですよー、先生」

 

部員とそんなやりとりをしていると、俺のスマホがポケットの中で鳴った。

不吉な音で、聴くだけで心臓に悪い。

 

「地震か!」

 

緊急地震速報。

 

「校庭に避難しよう。校庭の中心に行って」

 

俺は部員に指示した。強い揺れの中、部員たちは冷静に対応していた。

 

「しゃがんで。大丈夫、安心して」

 

立っていることが困難になるほどの強い揺れ。

 

「うぅ……怖い……」

「大丈夫。落ち着いて」

 

俺はみんなの近くに居た。

震源は茨城県中央部。海底が震源じゃなかったため、津波はなかった。最大震度は6強、マグニチュードは7.0。鴻巣市は震度5強だった。

 

「収まったからこれからの対処聞いてくるね。みんな落ち着いて待ってて」

 

俺は急いで職員玄関へ行き、部活担当の博也に聞きに行った。

 

「博也、部活の対処は」

「吹奏楽部は校庭にいるよな。今から保護者の迎えができるか聞くから待ってて。準備できたら伝えに行く」

「分かった」

 

俺は部員のところに急いだ。

 

 それから数分、博也が上から降りてきた。

 

「部員のうち、今から名前を呼ぶ生徒は俺のところに来て。まず──」

 

博也が言い終わると、俺は来れない生徒を集めた。

 

「じゃあ、呼んだ生徒はこっちに来て」

 

迎えが来れる生徒が博也についていく。

 

「先生、私たちは……」

「なんかあったら俺が送るよ」

 

俺は残った部員を安心させていた。

 

 14時過ぎ、残りの生徒の迎えも来て、吹奏楽部員は全員帰宅した。胡桃が担当している女子バスケットボール部も全員帰宅したらしく、俺と胡桃は正門の近くで合流した。

 

「やっほ、柊くん」

「ん。無事だったか」

 

俺と胡桃は手をつないだ。

 

「無事だったよ。帰る?」

「そうするか」

 

俺と胡桃は車に向かい、帰路についた。

 

 家に帰ると、予備電源が作動していて、停電の影響は受けていなかった。

彩夏がこっちに来ていて、暁依はすぐに帰ったらしい。俺が帰るなり、怖かったのか、かりなと彩夏は抱きついてきた。

 

「あぁ、怖かったのか?」

「違うもん」

 

じゃあなんだ。

 

「帰ってきたからなんとなくだもん」

「そうか」

 

俺は2人を撫でた。

 

「むふー」

「にゅふー」

 

2人はかわいい声を出した。

次の瞬間、再びふらつくほどの余震があった。

 

「きゃっ」

「おっと」

 

この余震はすぐに収まり、体勢も取り戻せた。震源は茨城県中央部、最大震度は6弱、マグニチュードは6.1。深谷市は5弱だった。

 

「余震には気をつけた方が良いな」

「うん」

 

俺がかりなたちに言っていると、あーやがこっちに来た。

 

「つっきー、ちょっといい?」

「ん?あぁ。いいけど」

 

あーやが真剣な声で聞いてきた。俺はあーやのところについていった。

 

「どうした、あーや」

「絢梨が怪我した。さっきの余震で」

 

確かに、身体が持って行かれるくらいの揺れだった。

 

「どこにいる」

「階段の下」

 

俺はあーやより先に階段の下に着いた。絢梨が落ちたのか、肩を押さえてうずくまっている。

 

「絢梨、大丈夫か」

「痛い……」

 

ずっと左肩を押さえている。

 

「絢梨、ちょっといい?」

「……ん」

 

絢梨は肩から手を離した。俺は少し触れた。触れただけで痛くないんだったら骨折ではないだろう。恐らく強く打っただけだろう。あっても脱臼か。

 

「絢梨、ありがとう。もう大丈夫だよ」

「絢梨、大丈夫なの」

 

あーやがようやく着いた。

 

「絢梨、取りあえずリビングに行こうか」

「うん」

 

絢梨はゆっくり立ち上がろうとした。

 

「いぎっ……」

 

絢梨はバランスを崩して倒れ込んだ。足も痛めていたんだろう。

 

「大丈夫かよ。ほら、俺が抱えるから」

 

俺は絢梨を抱きかかえてリビングに向かった。

 

「うぅ……」

「痛いんだろ?」

「そりゃあ……」

「そういうときは甘えろって。誰でもいいから」

 

そう言って、俺は絢梨をおろした。

 

「みんな心配してるからさ。痛かったら甘えろ」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話 冬菜

 

 「だーかーら、なんで無いんだって聞いてるんだよ!」

「申し訳ございません。当店では取り扱わない商品でして……」

「んだよ、そのくらい倉庫にでもあんだろ!とってこいよ!」

 

うっ……胃が痛い……

たまにいるクレーマーだ。地震で店員の数も少なくなっていて、クレーマーの対処も私だけだ。

 

「ですから、本当にないので……」

「チッ、つっかえねぇなぁ」

 

クレーマーは店を出て行った。

はぁ、もう胃が痛い。毎日毎日クレーマーの対処。もう嫌だ。

 

 なんとなく、私はお兄ちゃんの家に行った。なんか相談したら乗ってくれそうだから。

 

「お兄ちゃん」

「ん?冬菜。どうした」

「ちょっと話したいことがあって」

 

私はさっきのことを話した。

 

「なるほどねぇ、よく頑張ってるね」

 

お兄ちゃんは優しく撫でてくれた。

 

「妹はこうされると落ち着くんだよ」

 

お兄ちゃんは私にくっついて撫でてくれた。本当に気持ちが楽になってくる。

 

「もっと、撫でて……」

「いいよ。よしよし」

 

私はお兄ちゃんにすっかり甘えていた。1番年の差が小さい妹だけど、小さい頃はよく甘えていた。

 

【回想】

 

 お兄ちゃんが5歳の時に私は産まれた。お兄ちゃんの方が何でも上で、お兄ちゃんが中学校に入って、私が8歳。お兄ちゃんが高校生になってから、数回授業参観に来てくれた。

 

「お兄ちゃん!」

「よっ、冬菜」

 

お兄ちゃんは小学校まで来ると、毎回私の後ろにいた。

授業参観が終わって家に帰ると、お兄ちゃんは私のことを撫でていた。

 

「今日もたくさん発表してたね。偉いぞ」

「えへへー」

 

だけど、こういう日々も長くは続かなかった。

お兄ちゃんが大学に入ると同時に、北海道に引っ越すことになった。中学校の参観日は毎回来てて、嬉しかった。だけど、お兄ちゃんは卒業してすぐ関東に行ってしまった。

お兄ちゃんが関東に言ったときには私ももう高校2年生。兄弟で甘えるのを避け始めた。

しばらくして、私も関東に引っ越してバイトを始めた。

 

【現在】

 

 こうして今に至るわけだけど、お兄ちゃんはずっと抱きしめてくれていた。

 

「お兄ちゃん、長くない?」

「長くない」

 

お兄ちゃんはそのあとすぐにこう言った。

 

「思ったこと言っていいんだよ。クレーマーでも。マニュアル通りに全部やらなくたっていい。臨機応変に対処した方がいい」

 

そして、最後にこう言った。

 

「俺は妹みんなを救うから」

 

 

 そしてその翌日、同じクレーマーがまた来た。

 

「もう売ってんだろ!出せや」

「先日申し上げました通り、売っておりません」

 

私がそう言うと、クレーマーはさらに怒り始めた。

 

「んだと!俺の言うことが聞けないのか!」

 

私はお兄ちゃんに言われたことを実行した。

 

「お客様は神様じゃないんです。無いんだったら諦めて他店に行って下さい。迷惑です」

「は?っざけんなよ!」

 

店長が来た。怒りに来たんだろう。

 

「ちょっ、月島!」

 

クレーマーは私に殴りかかってきた。私は咄嗟に手を出してガードする。

しかし、当たらなかった。なんでだろう、と思い、私が前を恐る恐る見てみると、そこには

 

「お客さん、何やってんですか」

 

お兄ちゃんだった。

 

「さっきからずっと聞いてましたよ。店員さんの言うとおりです」

 

きっと妹だと知られたくないんだろう。

 

「逆ギレして、殴りかかるのは違うんじゃないですか」

「なんだ貴様!」

「おっと、あまり大きな声を出さないで下さい。俺は魔法使いです。こう言えば分かりますね」

 

クレーマーは「あ?」と煽るような態度をとった。

 

「いいですか、無いんだったら諦めるのも大切です。そっちの方が楽で簡単ですよ」

 

お兄ちゃんは至って冷静。

 

「お前もこんな奴に同情しやがって!」

 

クレーマーがお兄ちゃんを殴ろうとした。

しかし、お兄ちゃんは冷静に魔法を発動。相手の手を凍らせた。

 

「言ったじゃないですか。魔法使いだって」

 

お兄ちゃんは外に行き、待機していた魔法警察に預けた。すぐに連れて行かれたが、お兄ちゃんは戻ってきた。

 

「店長も店長ですよ。臨機応変に対応しないと。マニュアル通りに動いてたら、所謂ロボットじゃないですか」

「し、しかし、お客様にご迷惑をおかけしてしまう恐れが」

「クレーマーをお客様扱いしなくていいと思いますよ?人の心を持っていないんですから。動物園の猿と同じですよ」

 

店長は「た、確かに……」と言葉が詰まった。

 

「暴行を加えるようでしたら警察を呼ぶなり対応すればいいんです」

 

お兄ちゃんはおにぎりを持ってきた。

 

「これ、お願いします」

 

お兄ちゃんは笑顔で言った。

 

「あ、えっと、110円になります」

 

お兄ちゃんは110円をICカードで払い、コンビニから出て行った。

 

「な、なんだったんだ、あの人は……」

「けど、助かりましたね」

「あぁ……よし、マニュアルの基準を変更しよう」

 

店長は裏に入っていった。

 

 お兄ちゃんの家にまた来た。撫でて貰いたかったから。

 

「どうだった、昨日は」

「助かった。ありがとう」

 

お兄ちゃんは撫でるだけでなく、ほっぺをむにむにしてくれた。

 

「どういたしまして~」

 

お兄ちゃんは「ほれほれ」と言いながらほっぺたをむにむにした。

 

「おにいひゃん、やめへ~」

「柔らかいな、冬菜のほっぺ」

「わたしもーっ」

 

入ってきたのは家から避難してきていた彩夏。家で地震の片付けをしているから預けられているらしい。

 

「彩夏も柔らかいのか?」

「うん!」

 

お兄ちゃんは彩夏のほっぺをむにむに。

 

「みゅふー」

 

なんだろう、なんか足りない。

 

「ん?冬菜、おいで?」

 

お兄ちゃんは私を呼んだ。

 

「くっつかないと寒いぞ」

「分かった……」

 

私はお兄ちゃんにくっついた。やっぱり、安心する。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人物紹介(第二回)

 月島紅葉(25)

    職業:温泉

   誕生日:11/26

  得意教科:体育

  苦手教科:社会

好きな食べ物:米

嫌いな食べ物:パン

    趣味:畑作業

    身長:163cm

   あだ名:もみじっち

  カップ数:D

 

柊の従妹。秋田に住んでいるからか、米は大好き。畑作業が趣味で、暇なときは大体畑にいる。

小柄な体型で、身長も低い。高校生より低いのは内緒。

ユウキと親友で、よく一緒に畑仕事をしている。

あだ名はユウキにつけられた。

 

 

 

 時沢ユウキ(25)

    職業:コンビニ

   誕生日:6/18

  得意教科:国語

  苦手教科:理科、数学

好きな食べ物:カレー

嫌いな食べ物:

    趣味:映画鑑賞、畑作業

    身長:166cm

   あだ名:

  カップ数:A

 

柊とは直接的な関係はない。しかし、紅葉と仲がいいため、柊とも話したりする。僕っこで、一人称は「僕」。僕と名乗る人物はユウキ1人だけ。

カップ数は見て分かるとおりで、身長は紅葉より若干高い。ちなみに、あだ名はない。

 

 

 

 姫川杏(18)

    学年:高校3年生

   誕生日:5/5

  得意教科:音楽

  苦手教科:体育

好きな食べ物:カレー

嫌いな食べ物:にんじん

    趣味:音楽鑑賞

    身長:157cm

   あだ名:

  カップ数:B

 

部活の勧誘を頑張ったおかげで、杏の次の部員数は前回より50%増加した。

普段は大人っぽいが、好物と嫌いな食べ物を見ると、少し子どもっぽいところがある。にんじんはカレーに混ざってるといいらしいが、普通にサラダに入ってるにんじんはダメらしい。

 

 

 

 桃瀬小春(18)

    学年:高校3年生

   誕生日:7/5

  得意教科:国語

  苦手教科:数学

好きな食べ物:そば

嫌いな食べ物:みょうが

    趣味:読書

    身長:156cm

   あだ名:はる

  カップ数:D

 

身長は平均あたり。そばが好きなだけあって、トッピングの好き嫌いがある。読書が趣味で、得意教科はやはり国語。数学は嫌いだが、柊が担任にならないかずっと楽しみにしていた。

 

 

 

 立山湊翔(26)

    職業:スーパー店員

   誕生日:12/7

  得意教科:技術

  苦手教科:国語

好きな食べ物:ハンバーグ

嫌いな食べ物:麺類

    趣味:仮想世界

    身長:174cm

   あだ名:ミナト

 

柊が仮想世界で出会った仲間。現実世界では数回しか会ったことが無いため、仮想世界での方が多く会っている。

工業高校に通っていたため、技術は得意だったが、文系は全般的にできなかった。

あだ名がそのままだが、湊翔も分かっているらしい。

 

 

 空井桃奈(??)

    職業:

   誕生日:

  得意教科:

  苦手教科:

好きな食べ物:

嫌いな食べ物:

    趣味:

    身長:159cm(推定)

   あだ名:

  カップ数:AA(推定)

 

謎に満ちあふれた人物。身長は推定値であり、カップ数も同じく推定である。

 

 佐々木雀(16)

    学年:高校1年生

   誕生日:11/5

  得意教科:家庭科

  苦手教科:国語

好きな食べ物:パプリカ

嫌いな食べ物:ナス

    趣味:人間観察

    身長:155cm

   あだ名:

  カップ数:C

 

料理が得意な高校1年生。かりなと親友で、中学の頃はよく一緒に居た。ただ、高校はそれぞれ別になった。

人の考えていることを考えるのが趣味らしく、よく人のことを見ている。

 

 氷河刹那(16)

    学年:高校1年生

   誕生日:9/15

  得意教科:英語

  苦手教科:実技教科全般

好きな食べ物:アイス

嫌いな食べ物:肉

    趣味:ゆいについてく

    身長:158cm

   あだ名:せっちー

  カップ数:E

 

雀とゆい、かりな、そして刹那の4人で行動することが多い。高校はかりなとゆいが別になったが、よく会っているらしい。

1番勉強熱心で、英語が得意。ただ、実技教科は苦手らしく、実技のテストは自信がないらしい。

 

 月野ゆい(16)

    学年:高校1年生

   誕生日:12/20

  得意教科:技術

  苦手教科:社会

好きな食べ物:アイス

嫌いな食べ物:牛肉

    趣味:4人と一緒に居ること

    身長:152cm

   あだ名:ゆっち

  カップ数:B

 

小柄な体型で、4人の中で1番小さい。中学2年生の平均身長より低く、電車のつり革に手が届かない。本人が言う限り、「新型車両はつり革の位置が低いから届く」らしいが、高崎線を走る大半の電車で届かない。

刹那がついてきてるのにも小さいところがあるのだろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話 胡桃たちの苦労

 

 地震は首都直下地震の前兆だ、という報道がなされ、学校は大事をとって休校になった。

JR東日本は首都圏から郊外へ運行する路線を減便

西武・東武鉄道は郊外を運行する路線で減便

東急・京王・京急・京成は一部優等種別を運休

地下鉄は8割程度の運転本数で運転

ということになった。

高崎線も例外ではなく、通常平日9時台上りは籠原駅基準で8分、21分、25分、42分、51分発が運転されているが、この内、21分、51分発が運休。籠原駅基準では8分、25分、42分発の3本になった。

深谷駅でも18分、37分、44分、58分発が運転されていたものが、18分、37分の2本。58分発は籠原10:04発で運転取りやめになった。

理由として、高崎や新前橋、籠原などに置く電車を増やすためだそうだ。

その影響を受け、深谷10:23発は約50分ぶりの電車のため、激しい混雑になった。籠原からも10両で運転のため、終点上野まで大混雑だったらしい。

ちなみに、なぜ知っているかというと、胡桃が乗っていたからだ。胡桃から連絡が来て、苦しいほどだったらしい。

 

「胡桃大変だな」

 

俺とかりな、彩夏が家に居た。

 

「私たちはのんびりだもんねー、お兄ちゃん」

「ぎゅうぎゅうの車内なんて、かわいそう……」

 

彩夏が心配そうに言った。たしかに心配だ。

痴漢、窒息、疲労、怪我……

考えるだけで鳥肌が立つ。

 

「胡桃……」

 

無事だろうか。怪我はないだろうか。痴漢されてないだろうか。

 

「胡桃ちゃん、帰ってこれるといいね」

「あぁ……」

 

 

 胡桃は23時過ぎに帰ってきた。

 

「胡桃!」

「柊くん!」

 

胡桃は優しくハグした。

 

「大丈夫だったか、無事か」

「大丈夫。帰りは座れはしなかったけど空いてたし、行きも鴻巣あたりまでは空いてたよ。大宮から先が身動き取れないほどだったけど」

「今度は俺も行くからな。胡桃に何かあったら嫌だから」

 

胡桃は耳元で「ありがと」と囁いた。

 

「じゃあ、柊くん。明日は朝早く出るよ!」

「あぁ、分かった」

 

俺は胡桃にくっついたまま言った。

 

 翌日からは混雑状況を踏まえ、毎日休日ダイヤで運転になった。もちろん籠原駅留置線に置く電車を増やすため、高崎行き終電は籠原行きに変更、朝始発の高崎発は籠原発に変更になる。

俺たちが乗ったのは深谷6:49発。上野東京ライン直通中止のため、上野行き。籠原で15両になり、上野へ。

周辺の電車は7分前に上野行き、7分後に湘南新宿ライン国府津行きがあったため、混雑は激しくはなかった。

 

「昨日よりかは空いてるよな?」

「うん。昨日はホントに身動き取れなかったから」

 

大宮7:45、赤羽8:01、上野には先行電車の詰まりで2分遅れた8:16。

 

「胡桃はこれからどうするんだ」

「ナナニジの事務所の手伝い」

「俺は魔法の上野支部行ってくる。終わったら連絡して」

「りょーかーい」

 

俺は早速上野支部に向かった。

 

 疲れた。かなり疲れた。支部に行っただけなのに。胡桃からはもう連絡が来てるし、俺が遅れていた。

胡桃からの連絡から1時間が経ち、ようやく俺は上野駅に向かい始めた。時間はもう20時を過ぎていて、もう胡桃も待ちくたびれていることだろう。

 

「あれ、柊くんじゃない?」

 

俺が振り返ると、そこには猫塚がいた。

 

「あ、美紗」

「久しぶり!元気だった?」

「あぁ。今は何してるんだ」

「仕事!」

 

美紗に会ってしまった。

 

「あ、じゃあ私もう帰るね。まだ仕事残ってるんだ」

「あぁ。じゃあな」

 

美紗は手を振って歩いていった。これで胡桃に会える。

20時半になりそうな時間になり、ようやく胡桃のところに着いた。

 

「ごめん、胡桃」

「遅い~」

 

胡桃は俺にハグしてきた。胡桃はハグしたまま頭を動かして、やがて俺から離れた。

 

「次は20:44発か」

「始発なのはいいよね」

 

俺たちは44分発で帰った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話 ピンチ?

 

 秋になり、涼しくなってきた。

衣替えも近づいてきて、季節が変わるのを実感する。

他にも、秋といったらやはり体育祭だろうか。俺が務めている学校も来週体育祭だ。

 

「今日も練習はあるか?」

「はい。2時間目と学年練習が」

 

そうか。2限から体育なのか。俺の2限は……3年1組の数学か。

 

 家に帰ると、かりなが飛び跳ねてこっちに来た。

 

「ねね、お兄ちゃん」

「なんだ?嬉しいことでもあったか」

「体育祭、再来週の土曜なんだけどさ、来れそう?」

 

再来週か。土曜日だったら暇だし行けるか。

 

「あぁ。もちろん」

「やった!あのね、高校の体育祭すごくてね!あ、明日の9時くらいから私走るんだけど!」

 

かりなは楽しげに言う。親ではないが、なんか嬉しい。

かりなは楽しそうでよかった。俺みたいな学生時代じゃなくて。

 

「ね、お兄ちゃん?」

「なんだ?かりな」

「絶対来てね!お兄ちゃんのために頑張るから」

「分かった。頑張れ」

 

俺はかりなの頭を撫でた。

 

 

 「月島さん!エラーが!」

「月島さん!こっちもです!」

 

金曜日。仮想世界のシステムウェアがハッキングされ、日本全国の仮想世界のシステムが停止。仮想世界に取り残される被害が1万人に、仮想世界へ入れない人が3万人に被害が出た。

 

「どこからハッキングしてるんだ……」

 

俺はハッキング元を調べ始めた。何時間も捜索を続けているが、手がかりすらない。

 

「柊くん、九州の方無事だって」

「だったら九州から動かし始めろ」

 

俺は止まっている根元にようやく辿り着いた。捜索をしてから10時間、ようやくだ。

 

「なんだ、保護されてないじゃん」

 

俺は根元から捜査している端末に入った。ようやくだったが、何重にもパスワードがかけられ、解除に時間がかかる。

 

「保護されてなかったのに、そういうことか」

 

保護できないからパスワードを何重にもかけた。そういうことだろう。

 

「月島さん、もう日付変わりますよ!」

「あと少しなんだ。やってやる」

 

俺は再びやり始めた。

 

 土曜日午前8時、俺はようやく終了した。

 

「終わったー!」

「月島さん、お疲れ様です!」

 

俺は最後の復旧に入った。

 

「月島さん、今日妹さんの体育祭ですよね。やっときますよ」

「いいのか?」

「急いでください。妹さん、待ってますよ」

「……ありがとう。行ってくる!」

 

俺は外に出てすぐに駅まで走った。早くしないと、かりなの最初の競技が始まる。確か9時だったか。

駅まで走っても、次は8:14発高崎行きで変わらない。これが深谷まで行く最速ルート。

俺は胡桃に連絡を取った。昼ご飯を作ってるはずだから、無理を言えば来てくれずはずだ。

 

柊〈胡桃、悪い。深谷まで迎えに来てくれるか?〉8:09

胡桃〈8:14発?〉8:11

柊〈そう〉8:11

胡桃〈分かった。お仕事お疲れ様〉8:12

柊〈ごめん、ありがとう〉8:12

胡桃〈大丈夫。待ってるね〉8:12

 

胡桃は快く待ってくれるらしい。

熊谷8:30、籠原8:36着、8:45発、深谷8:49着。

 

 8:49、定刻通り深谷に着くと、胡桃が駅前のロータリーにいた。かりなの高校までは深谷駅歩いて20分。走ったって15分が限界。10分以内で着くなんて不可能だ。だから車を呼んだ。

 

「もうっ、お弁当作ってたんだよ?」

「悪かったな。急いでたから」

「ふふっ、かりなちゃん喜ぶね」

 

胡桃は車をすぐに発進させた。

9:01、少し遅れてしまったが高校に着いた。

 

「よかった。まだ始まってないな」

「柊くん、スーツで行くの?」

「まぁ、そうだろ」

 

普段着だって今無いんだから。

 

「じゃあこれに着替えればっ」

 

胡桃はトランクから俺の普段着を出した。

 

「柊くん、着替えるかなって」

「ありがとう。助かるよ」

 

俺は素早く車の中で着替えた。

着替え終わると、胡桃は俺のスーツを持って車で帰った。弁当がまだ作り終わってないらしい。

俺はグラウンドに出てかりなを探した。

 

「あ、いた」

 

かりなは丁度リレーの種目で出ていた。

 

「がんばれ、かりな!」

 

俺が手を振ったのにかりなは気づき、笑顔で俺の前を走り抜けた。

 

「ってか、遠目だと彩夏とかりなの区別つかねぇな」

 

俺はかりなが走り終わったところまで見ていた。

 

「あっ、柊くんだ」

 

後ろを向くと、彩と春菜が立っていた。

 

「久しぶりだね。彩夏の体育祭だろ」

「うん。暁依はもう応援席にいるらしいけどね」

 

早いな、あいつ。

 

「私たちも応援席行こうよ」

「柊くんも行こっ」

「分かった」

 

俺は3人で応援席に向かった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話 体育祭

明けましておめでとうございます。
2023年はちょっと少ないかもしれないですが、よろしくお願いします。


 

 かりなは競技が終わるたびに児童席ではなく、観覧エリアに来た。

 

「お兄ちゃん、わざわざ来てくれたの?」

「あぁ。我が妹の体育祭だからな」

 

忙しかったが、かりなの体育祭はかなり重要だった。

 

「ありがとう、お兄ちゃんっ」

 

かりなは俺のすぐ横に立つ。彩夏も彩たちのところに行って、暁依に甘えている。

 

「お兄ちゃん、胡桃ちゃん来たよ」

 

かりながそう言って、俺はかりなが向いた方向を見た。見てみると、確かに胡桃がこっちに来ていた。いつもより一回り大きいバッグを持っている。弁当かな。

 

「ごめん、遅れちゃった」

「いいよ。次の競技まで時間あるから」

 

俺は胡桃の持っているバッグを持った。

 

「重いな、これ」

「お弁当だけど、張り切っちゃった」

 

胡桃は「てへっ」と舌を出した。

 

「全く……可愛いから許すけどさ」

「ありがとっ」

 

かりなは俺たちの様子を見て笑っていた。

 

「仲良いねー、お兄ちゃんたち」

「当然だろ?」

 

かりなは「そっか」と言って、プログラムを見た。

 

「あ、あと5分で始まっちゃう」

「頑張っておいで。俺もここにいるから」

「ありがとっ!大縄頑張ってくるね」

「がんばれ!かりなちゃん!」

 

かりなは手を振ってグラウンドに出て行く。

かりなのやっている大縄はクラス対抗らしかった。かりなのクラスは一度に120回跳んで引っかかってしまった。俺もかりなに手を振って応援する。

かりなに伝わったのか、かりなのクラスは次に150回跳んだ。合計270回。ダントツの1位だ。

かりなのクラスが退場し、俺と胡桃は退場門に行った。

 

「やった!1位取れたよ!」

「やったな、かりな」

「おつかれさま」

 

俺と胡桃でかりなを褒める。彩と春菜、暁依も来て、彩夏もいる。

 

「おつかれさま、かりなちゃん」

「彩夏ちゃんも、おつかれさま」

 

かりなと彩夏はハグして励まし合った。

 

「柊の応援あったからなぁ」

「なんだ、気付いてたか」

「だって目立ってたもん」

 

暁依と春菜が言う。そんなに目立ってたかな、俺。

 

「次、借り物競走だってよ」

「へぇ。どんな借り物だろ」

「最初3年生だからさ。1年生最後なの」

 

3年生がグラウンドに出て行く。

内容は至って平和なもの。お題となるものがグラウンドのどこかに置かれていて、それを取りに行く感じ。メモ用紙にはちゃんと書いてあるっぽい。

 

「面白そうだね」

「借り物競走、あんな感じなんだ」

 

暁依が言った。

 

「お前はやったことないか」

「あぁ」

 

借り物競走、恋愛とか色んなのありそうだけど、実際ないんだよなぁ。

 

 やがて1年生の出番になった。全員参加で、1年生の児童席はすっからかん。

お題の乗っているテーブルはもうない。借り物ないじゃん。徒競走と化してないか?

 

「徒競走じゃん」

「だよな」

 

俺と胡桃が話していた。

すると、先頭で来たランナーがメモ用紙をめくると、すぐにあたりを見渡した。

 

「これさ、『好きな人』とか書かれてるんじゃない?」

「あぁ、ロマンチックだな」

 

俺は少しかりなの引くお題が気になりながら見ていた。

かりながお題を引いた。すると、かりなはすぐに俺のところに走ってきた。

 

「お兄ちゃんっ」

「なーに」

「おんぶしてっ」

「は?」

 

かりながお題を見せる。書かれていたのは

 

『女子:好きな人におんぶして

 男子:好きな人をおんぶしてゴール』

 

好きな人を俺にするあたり、かりならしい。

 

「ほら、乗って」

「わーいっ!」

 

かりなは俺の背中に乗る。

 

「じゃ、行ってくる」

「いってらっしゃい」

 

胡桃に見送られて俺はトラックへ。誰が兄を連れて来るなんて思っただろう。

 

「お兄ちゃんはやーい!」

「かりなが来るの早かったんだよ」

 

俺は早歩きで行ったが、他の人たちが来ないままゴールした。そりゃあ戸惑うよな。急に好きな人とか書かれて。しかも1年からすると年上しかいないんだから。

 

「お兄ちゃん、すきー」

「ありがとう」

 

俺はそう言ってかりなを下ろした。

彩夏がどんなお題を引いたか気になったが、彩を連れていたあたり、なんとなく予想はつく。

 

「彩夏、どんなお題だったんだ」

「1番可愛いと思う人を連れてゴール」

 

これも男子からしたら大変だろうな。

 

「かりなちゃんどんなお題?」

「好きな人のおんぶされてゴール。だからお兄ちゃん」

「かりなちゃんらしいね」

「えへへ~」

 

アナウンスが入り、全員が退場した。今日1番疲れたかもしれない。

 

「次の競技は、保護者参加の借り物競走です!」

 

保護者参加なんてあるのかよ。

 

「胡桃、いっといで」

「はーい」

 

胡桃に行かせた。

 

「あ」

 

待って、胡桃に行かせたらお題によってはまた俺が行くことになる。変わらないじゃないか。

スタートしてしまった。胡桃が最初のお題につく。最初のお題は隣の人とじゃんけんで勝つとかかな。勝ったら進んだし。

ラストのお題で胡桃がこっちに来た。やっぱり来るよな。

 

「どうした、胡桃」

「来てきて!あ、かりなちゃんも」

「私も?」

 

俺とかりなは一緒にトラックに行った。

 

「お題なんなの?」

「家族と一緒にゴール!」

 

俺とかりなを家族として見てたってことか。嬉しいだろうな、かりなからしたら。

 

「やったー!」

 

胡桃がゴールする。こういうお題入れてたんだな。

そのあとは昼休憩。彩たちと合流し、6人で食べた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話 新メンバー

 

 体育祭は、かりなのクラスが1位になって終わった。かりなは彩夏と話して帰ってくるらしく、俺と胡桃で先に帰った。家にはあーやと絢梨が2人仲良く座っていた。気楽そうでいいな、こいつらは。

 

「おかえり、つっきー、胡桃」

「ただいま」

 

俺は荷物を置いて絢梨の隣に座った。

 

「あーや、明日事務所行かないとだぞ?」

「いつ行ってもいいから。2期生の子らも慣れてきてるし」

 

そうか、2期生の子たちも来たんだった。なんかキャラ濃い人たちばっかりらしいんだよなぁ。大丈夫だろうか。

 

 翌日は休日。体育祭が土曜日だったため、今日は日曜日。朝からあーやと絢梨と一緒に上野まで行った。2期生と会うのは初めてだな。

朝からといっても、いつもより朝は遅い。休日運転の7:34発特別快速小田原行きで大宮、大宮で宇都宮線からの上野東京ラインに乗り換えて上野まで。

 

「つっきー、みず姫のこと好きそ」

「なんだ、もう俺の好きそうな子みつけたのか」

「だって、キャラがなんとなく、ね」

 

あーやはにやっと笑った。なんだ、この人は。

 

 事務所に着いた俺は、新メンバーがいる部屋に向かった。新メンバーがどんな人かも知りたいし。

新メンバーは8人。まだ名前は一致しない。それもあってやっぱり違和感がある。

 

「はじめまして。一応君らのマネージャーをやってる、月島だ。たまにしか来れないけど、よろしく」

 

新メンバーは礼儀正しくみんなお辞儀をした。なんだ、キャラ濃くないな。

 

「じゃあ、マネージャー!私から自己紹介いい?」

 

元気よく立ち上がった。黒髪の子だけど、元気がいいな。

 

「いいよ」

「八神叶愛です!えっと、あ、っと」

 

話すことを決めてないのか。

 

「話すことは決めておけよ。じゃあ、隣の……ごめん、髪色で言っちゃうけど、オレンジの髪の子」

 

オレンジの髪の子は静かに立ち上がった。

 

「氷室みず姫です。よろしくお願いします、マネージャー」

 

ああ、あーやが言ってた、俺が好きそうな子か。落ち着きがないって訳じゃないな。多分。

自己紹介が全員分終わると、俺は1期生と合流した。5人が引退したが、俺も忘れていない。1期生はあーやはもちろん、みうや桜、ニコルも残っていた。

 

「みんな揃ったね。2期生のみんなにも自己紹介はしたし、これからみんなで頑張っていこうね」

 

俺も毎日来れるわけではないし、少なくなりそう。実際、俺は今3つの仕事を掛け持ちしてるし。月曜~金曜は基本的に先生として、日曜は事務所、臨時で仮想世界の運営もやっている。

 

「じゃあ、なんかあったら聞いてね」

 

俺はパソコンを開いて作業を始めた。次のライブの計画だ。まだエクセルにデータをまとめられていない。

30分くらい経っただろうか、作業中にさっきの2期生の子、みず姫が肩を叩いた。

 

「あ、氷室みず姫ちゃんだっけ」

「はい。何してるんですか?」

「次のライブのデータをまとめてるんだ。君たちのライブはこうやって決まってるんだよ」

 

みず姫は俺の隣に立つ。

 

「すごいですね、この量」

「そんなでもないよ。まだ少ない方だから」

 

俺は立ち上がってみず姫の横に立つ。

 

「君たちのためだからさ」

 

俺がそう言うと、緑の髪の子がこっちに来た。

 

「塔子ちゃん。まだいたんだ」

「まぁね。マネージャー、今何してるの?」

 

新メンバーの桐生塔子だ。まだ覚えられていないが、少しずつかな。

 

「ライブの準備だよ。君らは練習してていいよ?」

「ちょっと休憩で来たから。もう少しいる」

 

なんかいるとやりづらいんだけど。見られてる感じあって。

 

 俺は胡桃の迎えで帰った。胡桃がわざわざ来てくれたのだ。俺の自慢の妻だ。かわいい、優しい、甘え上手。最高じゃないか。

 

「柊くん、明日も仕事でしょ?」

「明日は胡桃と一緒だし、先生楽しいから」

 

明日も仕事で、次の休みは土曜日。週一で休みがある。

 

「忙しそうだから膝枕くらいしてもいいよ?」

「じゃあ家に帰ってからしてくれ」

 

胡桃は俺の腕に抱きつき、肩に顔を乗っけた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話 旅行

 

 夏休み。

俺と胡桃、かりなの3人は夏の旅行に行っていた。2泊3日の旅行で、行き先は奈良、京都。足りるかは分からないが、3日間で全力で楽しんでくる。

5:37発上野東京ライン東海道線直通熱海行きで東京まで行き、7:09発のぞみ291号新大阪行きで京都へ向かう。

どんなに早くしても、この電車が最速。

京都には9:21。先に荷物をおくため、京都から9:35発京都市営地下鉄烏丸線、国際会館行きで烏丸御池へ。烏丸御池近くのホテルを取ってある。

俺の服装は夏なのにも関わらず黒が基調。黒の半袖に、黒に濃いめのグレーが入った半ズボン。ゆとりのある大きさで、涼しい。

 

「ねーねー、最初どこ行く?」

 

かりながピョンピョン跳びはねて言った。

かりなの服装はレースのついた半袖にひらひらしたスカート。夏っぽい服装だ。

 

「そうだな……どこ行きたい?」

「鹿さんに会いたい!」

 

胡桃が言う。なんか子どもっぽかったなぁ。気のせいかな。

胡桃の服装はミニスカートにゆとりのある白のTシャツ。涼しげな服装だ。

 

「じゃあ奈良公園行こうか」

「うん!」

 

俺たちはホテルに荷物を置くと、また烏丸御池駅に戻った。

11:08発竹田行きで竹田まで。胡桃は俺の隣に抱きついて周りから離れているようだった。

 

「胡桃?」

「柊くん以外にくっつきたくないもん」

「私も?」

 

胡桃は「そんなことないよぉ」と言ってかりなに頬を擦りつけた。

 

「あのな……電車の中でそんなことするな」

「むぅ……」

 

胡桃は俺とかりなを抱き寄せた。少し恥ずかしいが、内心嬉しかったりもする。

竹田11:25発近鉄京都線急行、橿原神宮前行きで大和西大寺まで。電車は大和西大寺から近鉄橿原線に入るため、大和西大寺で大阪難波からの近鉄奈良線に乗り換える。烏丸線であんな抱きついた分、近鉄京都線は静かだった。

12:01に大和西大寺に到着。12:04発近鉄奈良線、特急近鉄奈良行きで近鉄奈良へ。

 

「鹿さん鹿さん♪」

「もうすぐだからな」

 

胡桃がスキップしながら言う。奈良公園の鹿は人懐っこい。胡桃もきっと好きになれるはずだ。

 

 奈良公園に着くと、すぐに鹿に会いに行った。胡桃は乗り気で鹿せんべいも買っていたが、かりなは少し怖そうだった。俺の後ろに隠れ、ひょこっと顔を出すだけ。

 

「かりな、鹿苦手か?」

「うん……なんか、おっきい……」

 

確かに鹿は思っているより大きい。小動物に慣れていたかりなからしたら怖いのかもしれない。

 

「大丈夫だよ、かりなちゃん」

 

胡桃が餌をあげながら言う。他の鹿が寄ってきても知らないぞ。そんな呑気にあげてると……

 

「あ、いっぱいきた……」

 

かりなは俺に抱き付く。俺はかりなのためにも少しその場から離れる。

 

「あ、待って!そんなにないってば!」

 

胡桃は餌があった手を高く上げる。

 

「胡桃!そんなことしたら!」

 

胡桃の足下に鹿がよる。そのまま鹿が上を向く。

 

「ふぇっ!」

 

胡桃のミニスカートがめくられる。俺は胡桃の近くに寄って鹿を離す。俺もそんなに鹿は得意じゃないのだが、胡桃のためだ。

 

「スカート!」

「直せるんだったら直してくれ。俺は鹿で手一杯だ」

 

鹿は離れようとしない。仕方ないと思い、半分力技で離した。

胡桃の近くに防護結界を張り、その結界を少しずつ広げていく。若干強引だった。

 

「ほっ……」

 

胡桃はスカートを直せた。危うく胡桃の下着が公に晒されるところだった。ロクな下着着てないだろうし。

かりなの近くに戻り、3人で近鉄奈良駅まで歩いた。鹿はもう満足だったらしい。

 

「あの鹿さんエッチだった……」

「パンツ見ようとしたもんね」

 

胡桃とかりなが話している。その会話には入りづらいんだよ。

 

「お兄ちゃん、この電車どこ行き?」

「え?あぁ、えっと……」

 

俺は車内の電光掲示板を確認する。

 

「神戸三宮行きだね」

「神戸まで行くんだぁ」

 

かりなが俺に話を振ってくれた。流石俺の妹だ。

 

 14:26に出発。胡桃はお尻のあたりをずっと触っていた。不自然だった。

 

「胡桃、なんかあったか?」

「……悔しい……」

 

俺は胡桃の背中をポンポンとたたく。

 

「悔しい!だって柊くん以外に触られたんだよ!?」

「俺だったらいいのかよ!?」

 

俺たち以外に人がいないからよかったものの、他の号車でやってたら冷たい視線を向けられたことだろう。

 

「柊くん以外に触られたのが嫌だったの!柊くん以外はダメ!」

「いやだから俺はいいのかよ!」

 

かりなは間に割って入ってくる。

 

「はいはーい、結局胡桃ちゃんは悔しいんだから、それでいいのっ」

「はい……」

 

妹には絶対服従、という感じなのだろうか。

俺たちは電車の中でそんなことで騒ぎながらも移動した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話 ホテルの夜

 

 14:31、大和西大寺に到着。このままホテルに戻る。次は14:37発普通新田辺行きだが、大和西大寺から14:45発の急特急に乗っていく。

特急は、途中、近鉄丹波橋と京都の2駅のみに停車する。近鉄丹波橋で後続の普通に乗り換え、竹田を目指す。

 

「ねぇ、ホテル行ったら何する?」

「とりあえず寝たい」

 

俺がそう言うと、かりなは俺の肩にくっついて言った。

 

「じゃあ膝枕してあげよっか」

「ホテル着いたら頼もうかな」

 

胡桃は俺とかりなのことをじっと見つめている。別に知らない女といるわけじゃないんだからいいだろ……

 

 近鉄丹波橋には14:08。3分続行で来る14:11発普通京都行きに乗り換え、竹田へ向かう。

竹田から14:16発京都市営地下鉄烏丸線、国際会館行きで烏丸御池へ。

 

 ホテルに着き、部屋に3人で向かう。部屋は3人同じ部屋だ。

 

「お兄ちゃん、膝空いてるよ」

「じゃあ、いいかな」

「おいでっ」

 

俺はかりなの膝に頭を乗っける。かりなの太ももの感触が伝わってくる。ただ、炎天下の中から戻ってきたばかりで暑いのに平気なのだろうか。

 

「かりな、暑くないのか」

「ん?エアコンついてるからあんまり」

 

かりなは俺の頭を撫でる。少し恥ずかしいが、かりなはやめようとしない。

 

「かりな、お前も膝枕してやろうか?」

「ん。じゃあこれ終わったらして?」

 

かりなは俺の頭を撫で続ける。う、お兄ちゃんの威厳が……

 

「柊くん、楽しい?」

「まぁ、うん」

「妹にそうされてるなんてね」

 

俺って3人の中で1番下なの?

 

「お兄ちゃん、膝枕して~」

「仕方ないな」

 

俺とかりなの場所を交代する。かりなは俺の太ももに頭を乗せ、目を瞑る。

 

「よしよし」

「んぐ……高校生なのに……」

「お兄ちゃんなのに撫でられてた身にもなれ」

 

でもかりなは嫌そうじゃない。なんというか、少し嬉しそう?

 

「妹っていいな」

「ねー。かわいい」

 

俺と胡桃でそんなことを話していた。妹って結局可愛いんだな、と感じた。

 

 それからしばらくして、俺のスマホに電話がかかってきた。相手は大人しく留守番をしているであろう絢梨からだ。

 

「お、絢梨か」

《ん。旅行はどう》

「楽しんでるぞ。明後日には帰るからな」

《分かってる。それで、言いたいことある》

 

絢梨の言いたいことか。珍しいな。なんか頼み事する子じゃないのに。

 

「なんだ」

《京都のお土産、お願いね》

 

可愛い頼みだった。絢梨もそういうの欲しいんだな。

 

「あぁ。任せとけ」

《絢香がほしがってる。私は別に……》

「じゃああーやの分だけでいいんだな」

《2人分買ってきて。じゃ》

 

絢梨は電話を切る。自分も欲しいんじゃないか。

 

「なんだって?」

 

胡桃が俺のことを覗き込む。

 

「絢梨がお土産お願いだってさ」

「ふふ、絢梨ちゃんもほしいんだ」

 

胡桃も俺と思っていることは同じだったらしい。

かりなは俺の膝の上ですーすー寝息をたてて気持ちよさそうに寝ている。

 

「……いいな」

「最近気持ちよさそうに寝てないもんね、柊くん」

「なんで知ってんの?」

 

俺がそう言うと、胡桃が「あ」と言って明後日の方を向く。

 

「胡桃?」

「うっ……」

 

俺がじっと見つめると、胡桃はため息をついて行った。

 

「夜中に見に行ってたんだもん……寝てるかなーって」

 

勝手に人の寝顔見に来てたのか。

 

「それで、気持ちよさそうに寝てなかったと」

「うん……」

 

胡桃だったら言えば一緒に寝るのに。

 

「言えば一緒に寝るのに」

「ホント!?」

 

食い気味に来たな。

胡桃は俺の肩を掴んで近づいた。

 

「あぁ。胡桃だったら」

「じゃあ毎日そうしたい!」

 

毎日か。中々頻度が増えたものだ。

 

 その日の夕飯はかりなが起きてからにした。気持ちよさそうに寝てるのを起こすのはなんか申し訳なかったし。

夕飯は京都駅近くで済ませ、食べ終わったらすぐにホテルに戻った。今度が胡桃の体力が限界らしい。そうみえた。

 

「胡桃ちゃん、疲れた?」

「うん。流石に」

 

俺は部屋の冷房をつけ、胡桃をベッドの上に寝かせた。

 

「胡桃って軽いよな」

 

胡桃を持ってベッドの上に寝かせたのだが、軽く感じた。

 

「そお?」

「そんな力いらない。ほら、胡桃ってこうされたらすぐ寝るだろ」

 

胡桃を寝かせると、俺の言ったとおり1分経たないうちに眠った。ほら見ろ、すぐ寝た。

 

「一緒に寝てあげないの?」

 

かりなが聞いてくる。

 

「歯だけ磨いて一緒に寝るよ」

 

俺は歯を磨きに行く。胡桃の横は無防備にもがら空きだ。

 

 俺は胡桃の横に寝てあげた。胡桃の寝息が聞こえてくる。これは可愛すぎて寝れないやつだ。

 

「お兄ちゃん、横失礼しまーす」

 

かりなが横に寝にくる。まだ19時くらいだが、胡桃はもうぐっすり。かりなと俺も邪魔にならないように寝る。

 

「知ってる?お兄ちゃんと胡桃ちゃん、寝顔すっごく似てるんだよ」

「そうなのか?全然知らなかった」

 

かりなはスマホをいじって俺に画面を見せる。

 

「ほら」

 

そこには俺と胡桃の笑顔があった。確かに似ている気がする。

……ってそうじゃない

 

「なんで盗撮してんだ」

「!……てへっ」

 

頬に拳を当てて言った。

 

「こら」

 

俺はかりなの頭にチョップする。

 

「いてっ」

「盗撮はダメだからな、かりな」

「気をつけます……」

 

気をつけるんじゃなくてやめろよ。と思ったが、妹なのもあって許してやった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話 旅行2日目

 

 翌日は前日動いたため、ホテルの周りを回るだけにした。昨日は移動したり、鹿に振り回されたりして胡桃もつかれただろう。

 

「ねぇねぇ、手繋ご」

 

胡桃は俺の腕を揺らして言う。かりなも服の袖を引っ張る。

 

「そんなことして暑くないのか」

「ん?暑くないよ」

 

かりなが不思議そうに言う。おかしいのは俺なのか?

 

「早く手繋ごうよ~」

「ああ、はいはい」

 

俺は胡桃とかりなの手をつなぐ。こうやって甘えてくれるのは嬉しい。

 

「最初どこ行く?」

 

かりなが聞く。俺も胡桃も行きたいところはなかった。

 

「とりあえず、じゃあお土産見に行こっか」

 

かりなが提案する。

 

「絢梨とあーやにも買わないとだからな」

「うん。何がいいかな」

 

俺たちはお土産を探しに行った。

 

 「なんか京都っぽいのあったか」

 

俺が胡桃とかりなに聞くと、胡桃が1つ俺のところに持ってきた。

 

「扇子あったよ」

「扇子か。たしかに和風だな」

「お兄ちゃん、ネクタイ!」

 

明らかにあーやと絢梨のためのものではないな。

 

「誰にあげるんだ、それ」

「ん?お兄ちゃんにあげるんだよ?」

 

いい子だ。めっちゃいい妹だ。

 

「ありがとう、天使さん」

「ふふーん」

 

かりなという名の天使は胸を張って俺の前に立つ。

 

「じゃあ、あーやたちには扇子でいいか」

「うん。実用性もあるし」

 

みんなであーやたちのお土産も買い、俺たちは近くの駅に戻った。

 

バスで来たため、最寄りは烏丸御池や京都駅ではない。近鉄の上鳥羽駅から俺たちは胡桃の要望で行きたかった場所に向かった。

14:29発普通京都行きで京都へ向かい、京都から14:45発新快速姫路行きで大阪、15:19発大阪環状線内回りで天王寺へ。

 

わざわざ京都から大阪の天王寺へ行くのは少し不思議だったが、行くとすぐに分かった。

 

「胡桃、このためか」

「うん。あ、苦手?」

「いや、俺は大丈夫なんだが、かりなが……」

 

かりなの方を見ると、かりなは俺の服の裾を引っ張って駅に戻ろうとしていた。

 

「や!」

「こどもか!」

 

子ども並みに語彙力を失ったかりなは泣き出しそうだった。

 

「胡桃、お前だけで上っていいぞ」

「でも、柊くんは……」

「かりながいるからな。行ってこい」

 

胡桃は頷いてあべのハルカスに上りにいった。かりなはそんなに高所恐怖症だったか。

 

「かりな、何か食べるか」

「うん。食べる」

 

やっぱり精神年齢下がったか?

俺は駅前の店でかりなの好きそうな物を買って来た。かりなは立ったまま俺のことを待っていた。

 

「ほら、これ好きそうだったから」

「合ってる」

 

俺はかりなにワッフルを渡す。かりなはワッフルを口にくわえて頬張る。

 

「おいしいか」

「んぐ」

 

咥えたまましゃべったせいで籠もったような声になった。

 

「お兄ちゃんもいるー?」

「ん、いいのか?」

「いいよ。はむっ」

 

かりなはワッフルを咥えて俺の口に近づける。

 

「それは、ちょっとな……」

「なんれ。ん」

 

かりなは食べて欲しそうだった。仕方ない、食べてやるか。

 

「分かったよ。ん」

 

俺はかりなが咥えていたワッフルを食べる。兄妹でこんなことしてるの恐らく俺ぐらいだろうな。

 

「ふふー」

「満足か」

「うん。満足」

 

いつもかりなが可愛いから許してしまう。だからエスカレートするんだろうが。

そうしていると、俺のスマホが鳴った。彩夏からの電話だ。

 

「どうした、彩夏」

《お、出た》

「出ないとでも思ってたのか」

《まーね。そうだ、お兄ちゃん。今度家行っていい?》

「え?いいけど。暁依はどうした」

《いるよー?なんかイチャイチャしてて居づらいの》

 

そんなにイチャついてるのか。妹を追い出すんじゃないよ。

 

「いいけど。いつ来るんだ」

《明後日かな。いい?》

「いいよ。待ってる」

《じゃあよろしく~》

 

そう言って彩夏は電話を切った。

 

「誰から?」

「彩夏だよ。明後日来るって」

「じゃあいっぱい話せるね!」

 

この2人、双子なのもあって仲良いんだよな。そう考えると来てくれて嬉しいかもしれない。

 

「早く帰ろうな」

「うん!楽しみ」

 

かりなはぴょんっと飛び跳ねて喜んだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43話 帰宅

 

 旅行最終日、俺たちは午後になって帰ることにした。明日凪紗が来るため、なるべく早く帰って疲れを取らないといけない。

京都を16:01に出発するのぞみ32号東京行きの自由席で帰る。お盆休みのUターンラッシュなのもあり、指定席は取れなかった。

 

「うわぁ……わわっ、すごい人……」

 

スーツケースを持った人、子ども連れの人など大量にいる。改札内もすごい人だった。

 

「これ、自由席座れるかな」

「さぁな。座れないかもしれない」

 

俺たちは改札に入り、のぞみ32号の到着するホームに向かう。

発車15分前、自由席の列に並んだ。列の真ん中あたりで、かなり混んでいそうだ。

のぞみ32号東京行きが入線してきた。案の定立ち客がデッキに多数いるほどの混雑で、京都で降りるのは数人だけだった。

 

「の、乗れる……?」

「分からない」

 

俺たち3人は車内に乗り込む。通勤ラッシュの満員電車よりは空いている気がするが、スーツケースを持っている分空間が空いている。

 

「柊くん……もうちょっと奥に……」

「お、おう……っと、かりな、ごめん」

 

かりなをつぶすような形でぶつかってしまう。

 

「う、ううん……平気……」

 

かりなは人混みの中から顔をひょこっと出して俺に言う。周りの人たちより身長が若干低いかりなは埋もれていて、ほとんど同じくらいの胡桃は胸の辺りを圧迫されて苦しそうに、俺は若干高いため、2人を少しでも楽にしようとしていた。

 

 17:56、新横浜に到着。名古屋でさらに限界まで乗ってきてぎゅうぎゅう詰めになった車内は、やがてグリーン車デッキも解放して名古屋を出発。新横浜に着くと奥の方にいた乗客が降りたりしたため、出発は3分ほど遅れて18:00に出発。

品川には3分遅れて18:11。小田原で追い越したこだま734号に追いつかれながらも、品川は5分遅れて18:17に出発。

東京到着前に折り返し作業の遅れで一旦停止し、東京には7分遅れの18:25に到着。品川~東京8分走破は東海道線普通電車より1分遅い。

 

「次はどの電車……?」

「限界……」

 

2人とも限界だったらしい。いつもの通勤電車より混んでたからな。無理はない。

 

「18:41発普通宇都宮行きで帰ろう。もう疲れてるから、特急使おうか」

「やったー!」

 

かりなが喜んだ。京都からずっと立ってたんだし、よっぽど嬉しいんだろう。俺も楽がしたい。

 

「胡桃も、ゆっくりしたいだろ」

「うん。ありがとう、柊くん」

 

俺たちは宇都宮行きに乗り、上野で乗り換えることにした。

 

  上野19:30発あかぎ7号本庄行きで深谷まで帰ることにした。あかぎは深谷に停車する。

熊谷までは快速アーバンと同じ停車駅で、熊谷からは、深谷と本庄に停車する。

 

「ふぅ……久しぶりに座った~」

「すぐ寝れそう……」

「ゆっくり休んでいいからな。深谷で起こしてやるから」

 

2人は座るとすぐに目を瞑って寝てしまった。

席はL字型になるように座った。俺が前に1人で、後ろにかりなと胡桃がいた。

 

 大宮には19:54、上尾20:02、桶川20:06、鴻巣20:14、熊谷20:25、深谷には20:33に到着。快速アーバンが67分で深谷まで行き、あかぎ7号は63分。快速アーバンとは4分しか変わらないが、確実に座れて、空いている分特急の方が快適だった。

胡桃たちは熊谷を出発して4分後に起こし、深谷は全員でちゃんと降りた。

 

「んん……よく寝た~」

 

かりなが伸びた。

 

「柊くん大丈夫なの?」

「あぁ、家で寝るからいいよ」

 

胡桃も上野からぐっすりだったからな。疲れてたんだから仕方ないが。

 

 家に着くと、あーやと絢梨が俺たちを迎えてくれた。まぁ、あーやの視線はある一点を見ているのだが。

 

「はい、お土産」

「ありがと、つっきー」

 

全く……俺が帰ってきても目当てはこれか。

 

「私の目的は柊くんだけど」

 

絢梨は俺にぴとっとくっつく。

 

「そうか。それが本来あるべきものなんだけどな」

 

お土産を持ってすぐに部屋に行ったあーやとは違う。

 

「ただあんまりべったりすると胡桃ちゃんがヤキモチ妬いちゃうよ~」

「そっか。柊くんは胡桃のだから」

「う、うぅ……2人とも……」

 

帰ってきてもいじられるのは胡桃だったか。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 20~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。