GODEATER EVOLVE (マルハン)
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第1話 キッカケ

時々どこかで見たなというシーンがあるかもしれませんがそこはご容赦ください。


「やったぜ、じいさん!」

 

巨大な装甲壁に囲まれた第8ハイブの一角にあるバラック小屋に着いた途端、オレンジの髪を揺らして伊吹ハヤトは大声で告げた。

 

「どうした。騒々しいな。」

 

しばらくして小屋の中から伊吹リョウマがひょっこりと顔を出す。こちらは肩まで届く白髪に適当に伸ばした髭、肌には長年の刻苦を滲ませており、この時代どこにでも居るような年寄りだ。

 

「…いいことがあったようだな。」

 

「あ、分かる?」

 

ハヤト自身、嬉しさのあまり勝手ににやけてしまっているのは知っていた。ずっと待ち焦がれていたものがついさっき届いたからだ。走って帰ってきたことと興奮がない交ぜになっている全身を落ち着かせ中に入り、椅子に腰掛け、差し出された水を一気に飲み干す。

 

「で、何があった。新しい働き口でも見つかったか?」

 

「まあな。」

 

そう言うとハヤトは得意げな顔で懐から一枚の紙切れを差し出した。リョウマはそれを手に取ると黙り込み、しばらくして搾り取るような声を発した。

 

「…何だ、これは。」

 

「見ての通りだよ。神機使いの召集状。」

 

はやは答えながらもリョウマの反応を不服に思っていた。もっと喜ぶかと思ったのに。そんな視線を気にも留めず、リョウマは再び黙り込んだかと思うと唐突に紙を破り捨てた。

 

「何すんだよ!」

 

リョウマの突拍子のない行為に驚き、慌てて散らばった紙片をかき集める。

 

「ハヤト、言ったはずだぞ。どんな仕事をしても構わんが、ゴッドイーターだけは認めないと。」

 

「何年前の話しだよ!大体、じいさんだっていつも言ってたじゃんか。人様の役に立てるような職を身に着けろって。」

 

常に柔和な笑みを浮かべていた目が般若の如く釣りあがっている事に少し怯えたもののハヤトも負けじと言い返す。アラガミという脅威から人々を守るために戦うゴッドイーター。幼い頃から何度となくその姿を目にしてきたせいか憧れを持つのに時間はかからなかった。当時はまだ無理があったが、16歳を迎えた今ならと思っていた矢先に向こうから誘いが来たのだ。

 

「常に死が付き纏うような危険な仕事だ。どんな理由があるにせよ、お前が関わるべきことではない。」

 

心なしか陰のある表情を浮かべたが、リョウマは硬い口調のまま譲ることはなかった。

 

「…通知は来たんだ。義務だから行くしかないよ。」

 

半ば強引に理屈をつけ、荷造りをして家を飛び出す。極東支部に着くまでの間、ハヤトの目には居住区の町並みがいつもより殺風景に見えた。

 

 

アナグラに到着して数時間後、無事に適合試験を通過したハヤトはロビーに居た。腕にはゴッドイーターの証である腕輪が鈍い光沢を放っている。試験を受けたときはハゲるんじゃないかと思わせるほどだった激痛も今では嘘のように治まっていた。終了した後、次の指示が出るまで待機するよう言われたのだがこれといってすることがなかったため、潰しようのない時間を相手にしていたハヤトはこちらに一人の少年が近づいてくるのが目に入った。腕輪をつけているにも関わらず、御のぼりさんよろしく周りをキョロキョロしているところからすると恐らく自分と同じ新人だろう。ハヤトの予想は的中し、少年は目の前に腰を降ろす。しばらく横目でこちらを見ていたかと思うとおもむろに

 

「あんたも適合者?」

 

と尋ねてきた。

 

「ああ、さっき検査が終わったところだよ。」

 

「じゃ同期ってことだな、オレは藤木コウタ、歳は15。アンタは?少し年上っぽいけど…」

 

「伊吹ハヤト、16歳。正解っちゃあ正解だよ。よく分かったな。」

 

「いや、オレより身長高いしさ。それに何となく大人っぽい気がするんだよな。」

 

人懐っこい笑みを浮かべながらコウタはケースを差し出した。

 

「ガム食べる?ひとつ余ってるからさ。」

 

「貰っとくよ。ありがとな。」

 

ちょうど白い服に身を包んだ女性が二人の前に現れたのはそのときだった。

 

「立て。」

 

「へ?」

 

「立てと言っているんだ。立たんか!」

 

フロア中に響き渡るほどの怒声に一喝されハヤトたちは素早く文字通り直立不動の姿勢をとった。女性は二人を厳しい目つきのまま見つめ言葉を続ける。

 

「私は雨宮ツバキ。お前たちの教練担当者だ。先ほど試験が終わったばかりだが生憎予定が詰まっていてな。まずはメディカルチェックを受けてもらう。最初は伊吹ハヤトだな。一五〇〇までにペイラー榊博士の研究室に行ってくれ。チェックが終わったらカリキュラムに則った訓練を行う。それまでにアナグラの中を見回っておけ。メンバーへの挨拶を忘れるなよ。」

 

「…」

 

「分かったら返事をしろ。」

 

「ハイ!」

 

仲良くそろって唱和したあとハヤトは半分逃げるようにロビーを後にした。

 

最前線基地と言うだけあって極東支部はとてつもなく広かった。何とか目的の研究室に向かおうとしたのだが通路案内の表示を『1』を『I』と見間違え、予定よりかなり遅く着いてしまった。これからは建物の構造把握も必要事項になるなと思いながら部屋に入る。

 

「ふむ、予定より726秒遅い。よく来たね、『新型』君。」

 

そう言って機械をいじりながら出迎えたのは今時珍しい和服を着た人物だった。狐目に微笑を浮かべたその顔は年齢不詳の表現がぴったりと当てはまる。

 

「私はペイラー榊。アラガミ技術開発の統括責任者だ。さて、見ての通り準備が終わってなくてね。ヨハン、先に用を済ませたらどうだい?」

 

榊が隣に佇む長身の男性に話しかける。

 

「博士、そろそろ公私のケジメを覚えていただきたい。」

 

そう言って返した声には聞き覚えがあった。確か適合試験でスピーカーから流れてきた声だ。男性はハヤトの視線に気づくとまっすぐ見返した。

 

「試験ではご苦労だった。私は極東支部の支部長を務めるヨハネス・フォン・シックザール。改めて適合おめでとう。君には期待しているよ。ではわれわれの目的を説明しよう。君の主な仕事はアラガミの討伐と物資の回収だ。そしてそれは支部の維持と来るエイジス計画の資源となる。エイジス計画については知っているかな?」

 

「はい。昔一緒に住んでいるじいさんから聞かされたことがあります。」

 

「…そうか。じゃあ私は仕事が残っているので失礼するよ。ペイラー、後でデータを送っておいてくれ。」

 

シックザールは言い残すとゆったりとした足取りで去っていった。さすがは支部長と言ったところだろうか、優しげな目つきをしながらも奥には鋭い光を宿しており、彼の周りだけ空気の密度が違っていた。慣れているのか榊は笑い顔のまま手早く操作をこなしながらハヤトに告げる。

 

「彼も昔は技術屋だったんだよ。本当は新型のメディカルチェックに興味津々なんだ。…よし、ではそこのベッドに寝てくれるかい。少し眠くなると思うけど心配ないよ。」

 

手術台を想起させる台に横たわったハヤトはぼんやりとした視界にリョウマの像を捉え、一瞬罪悪感に似た感覚を覚えたが意地で打ち消して目を閉じた。



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第2話 初陣

メディカルチェックが終了したハヤトはコウタとともにツバキ主導の凄絶とも言える訓練を耐えて晴れて実戦の参加を認められた。周囲の人間からは異例の早さということらしいが背景にこれから増加するであろう新型のデータを得たい上層部の指示が働いたのは間違いない。そして出撃当日、ハヤトは整備場でメカニックの楠リッカからアドバイスを受けていた。

 

「もう実戦かあ。流石は新型ってとこかな?」

 

「よしてくれよリッカさん。たまたま日程が早まっただけだって。それにこれもテストみたいなもんだろ?」

 

「けど初陣で帰らなかった人もいるからね。油断は禁物。ま、調整は万全だから思う存分やってきていいよ。」

 

油まみれの顔をほころばせリッカは自信たっぷりに宣言する。苦笑したハヤトは初めての任務が迫る不安を無理に押し殺しながら神機を担いでゲートをくぐった。

 

 

 

荒涼とした風が吹きすさび、大穴が空けられたビル郡の隙間から夕日が顔を覗かせる中、二人のゴッドイーターが神機を片手に任務の開始を待っていた。

 

「ここもすっかり荒れちまったな。」

 

くわえていたタバコを地面に落とし揉み消した長髪の男が呟く。男は雨宮リンドウと言った。極東支部の第一部隊を務め、この道10年の肩書きを持つ大先輩だ。今日はハヤトの教官として同行しているはずだが、

 

「ハヤトって言ったな。今回の任務はお前一人でやれ。」

 

「はい…えっ!?」

 

「そろそろ時間だな。行くぞ。」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。リンドウさん何て言いました?一人?」

 

「大丈夫だよ。何かあったらヘルプしてやっから。それに横でとやかく言われるより自分で身に付けるほうが早いだろ。」

 

「それはそうッスけど…」

 

「じゃあこれから命令する3つのことは必ず守れ。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ。運が良ければ不意を突いてぶっ殺せ。あ、これじゃ4つか。」

 

イカンイカン、と頭を掻くリンドウ。とても10年生き残った威厳が見当たらないがそれは返ってハヤトに不思議な安心感をもたらした。さっきまでの緊張も緩み、いいコンディションで戦えそうだ。ハヤトは軽く息を吐いて初めての戦場に飛び降りた。

 

 

 

「気をつけろ!針が飛んでくるぞ!」

 

リンドウの声が鼓膜を震わせる。ハヤトはオウガテイルの正面から外れ、オラクル細胞を凝縮した弾丸を浴びせた。苦しいのかオウガテイルが怯んだ瞬間に懐に飛び込み立て続けに刃を振るい、血を飛び散らせる。そして離脱際に神機から黒い顎のようなものを引き出し、噛み付かせると敵から奪ったオラクル細胞がハヤトのそれを活性化させる。より素早く動きオウガテイルを翻弄するハヤトにリンドウは観察の目を注いでいた。どうやらセンスは悪くないようだ。体捌きや神機の扱いはまだ荒いものの、物怖じせず適度なタイミングで痛撃を加えている。こいつは手伝わずに済みそうだな。

帰投の連絡をするために通信機を取り出したそのとき、リンドウは目を疑うものを見た。尻尾を叩きつけようとするオウガテイルに対し、ハヤトは真っ向から直進したのだ。

 

「バカ、やられるぞ!」

 

しかしハヤトは止まらず相手の射程に突っ込む。そして尻尾が激突する直前に刀身を反らせていなし、中の肉をさらけ出した箇所に深々と突き刺した。オウガテイルは少しばかり身を捩ったが食い込んだ神機から抜けるのは叶わず絶命した。

 

「フウッ。」

 

ハヤトは大きな息を吐きながら、痙攣している死体から臓物がこびりついた神機を引き抜く。もちろんコアの回収は忘れない。リンドウが呆れたような顔で近づいてきた。

 

「無茶するなあ。久しぶりに見たぞ、お前みたいな新人。」

 

「そうスか?行けると思ったから行ったんですけど。」

 

「機会を逃さずってのはいい心掛けだけどな。普通ならもっと…まあいい。結果としては上々だ。」

 

曖昧に打ち切ったがリンドウの内心は疑問と驚愕に渦巻いていた。敵の攻撃を見切り、更にはそれを受け流し即座にカウンターをかますなど新兵の技術ではない。訓練の評価でも覚えは早いようだったが期待の新人で済ませるわけにはいかない話だった。新型の導入に関わっている支部長ならば何か知っているのだろうか。どちらにせよ、ゴッドイーターの運用に関係するのだから調べるに越したことはない。面倒な仕事が増えたことに落胆した第一部隊隊長は空に向かって一筋の煙を吐いた。




主人公の神機はレーヴァテインです。
今後の展開では変えることも予定しています。てか、します。


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第3話 悪夢

かなり長めの構成で投稿してますのでよろしくお願いします。


そこはひどく気分を悪くするところだった。息苦しく、体が重油に漬け込まれたかのように重く、鈍い。周りは不気味な光が瞬きあちこちから流れる騒音がハヤトの耳を苛む。すぐにでも出たいのに見えない壁が張り巡らされてるせいで逃げようにも逃げられない。もう何時間も同じ状態が続き気力が果てそうになったとき、隔たりの向こうから手が差し出されるのが見えた。思わず握ると優しいが頼もしい力で軽々と引っ張り抱き寄せてくれた。柔らかな温もりに安堵し、恩人の顔を見ようとするとそこにはリョウマの悲しみに満ちた表情があった。

 

「お前が関わるべきことではない。」

 

その顔を溶かし崩されながらリョウマが告げる。しまいには腕も発火し、ハヤトを押し包み---

 

 

耳に入り込んだチャイムで眠りの薄皮が破れた。もそもそとベッドから這い出し、インターホンに見入るとニット帽が映り込んでいる。

 

「どうかしたか、コウタ。」

 

ハヤトはいつの間にか寝汗をかいたアンダーシャツに内心舌打ちしながら来客に尋ねた。

 

「どうしたじゃねーって。いつまで経っても来ないから呼んでこいってツバキさんに言われたんだよ。相当おかんむりだぜ。」

 

「っマジか!?すぐ出るから待ってくれ。」

 

散乱した部屋の中から服を引っ張り出し電光石化で身支度を整える。完了するやいなや部屋を飛び出しロビーに全力疾走した。が、ツバキの姿はなく代わりに驚いたオペレーターの竹田ヒバリが目を丸くしていた。

 

「ハヤトさん、どうかされましたか?」

 

「あ、ヒバリさん、ここにツバキさん来なかったか?今めっちゃヤバくてさ。」

 

「えーと…状況がよく分からないんですけど、まだいらしてませんね。」

 

「は?」

 

すると、疑問形のハヤトにコウタが息を切らせながら走り寄ってきた。

 

「ちょ、ハヤト足速すぎだって。置いていかれちまうかと思ったよ。」

 

「…オイ、どういうことだこれは。」

 

「だからちょっとした冗談だって。ああ言わないと起きないかと思ったからさ。」

 

にこやかに答えたコウタをハヤトは素早く絞め上げた。

 

「勘弁してくれよコウタ君。オレ昨日からほとんど寝てないんだよ。詫びとしてお前を一生の眠りにつかせてやろうか。」

 

「悪かった、悪かったって!」

 

 

「で?寝てないってどういうこと?」

 

食堂でコウタがでかいトウモロコシにかぶりつきながら聞いてきた。

 

「戦闘後の新型のデータを採りたいって榊博士やリッカさんに一日中付き合わされたんだよ。オマケにツバキさんもくっついてきて訓練でみっちりしごかれた。」

 

「へー大変だったな。」

 

「それに変な夢も見るし、朝から体力使うし…」

 

「夢ってどんな?」

 

そういえば、どんな夢だったんだろう。咄嗟に記憶を探ったが答えられなかった。しかしあの光景には奇妙な既視感が残っていた。どこかで見たことがあるのだろうか。そんなときだった。

 

「よお、新入りども。」

 

リンドウが片手を挙げて話しかけてきた。

 

「おはようございます。」

 

「二人とも初の任務おめでとさん。まずは第一関門突破だな。」

 

「いや、まだまだッスよ。もっと経験積まないと。」

 

「そんなことないわよ。初陣で無傷で帰ってくる人なんてそういないわ。」

 

突然知らない声がリンドウの後ろから割り込んできた。そこにいたのは大胆な服装の女性だった。

 

「オウ、サクヤ。早かったな。準備は済んだのか?」

 

リンドウが挨拶したサクヤという女性は答える代わりに彼の口からタバコを抜き取った。

 

「そりゃ誰かさんと違ってルーズじゃありませんから。」

 

『食堂は禁煙』のポスターを指差しながらタバコをゴミ箱に放り投げる。やられたな、とリンドウが頭に手を当てる間にサクヤはハヤトの席に回りこんでいた。

 

「初めまして。私は橘サクヤ、今日はよろしくね。」

 

「え?今日はって…」

 

「あら、リンドウから何も聞いてないの、任務のこと。」

 

「今からするとこだったんだよ。」

 

と、リンドウが横合いから説明しだした。

 

「今回のお仕事はお前さんが遠距離の神機使いをパートナーとしたときの戦術を覚えてもらうことだ。互いの特徴をうまく活用すればアラガミに対して優位に動けるようになる。これは非常に大切なので真面目に取り組むように…っと、オレは用事があるから失礼するわ。」

 

いまいち締まりのない言葉で打ち切るとリンドウは階段の向こうへ姿を消した。それにサクヤも続き、

 

「じゃ、私も任務の手続きをしてくるからハヤト君は神機の調整済ませといてね。」

 

「討伐対象は何です?」

 

「着いてからのお楽しみ。コウタ君は彼に戦術を教えておいて。現地で二度手間はゴメンだからね。」

 

「了解ッス!」

 

コウタは勢いよく立ち上がりサクヤに熱い視線を送りながら敬礼した。軽く手を振りながら去るサクヤを見えなくなるまでそのままだったコウタにハヤトは疑問を投げた。

 

「えらく張り切ってるみてえだけど熱でもあるのか?」

 

「バカ、お前サクヤさんを知らないのか。アナグラでも抜群の狙撃手だぜ。オレ、この前あの人と一緒だったんだけどもう戦うお姉さんって感じだったよ。美人だし強いし優しいしその上…」

 

そこから何故か話はバガラリーまで及びハヤトは2時間も足止めされる羽目になった。



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第4話 腕試し

平原エリアに到着したハヤトはサクヤと作戦会議を開いていた。

 

「今回の相手はコクーンメイデンだから練習台としてはちょうどいいわ。私は後方から攻撃するから君は奴らの注意を引き付けて。」

 

「他に気をつけておくことは?」

 

「調査書によると未確認のアラガミが辺りに居るかもしれないから出くわしたら私の指示に従って。」

 

「未確認?ひょっとしてお楽しみってそいつですか?」

 

「そ。けど君の実力なら大丈夫じゃないかな。何といっても新型だし。」

 

イタズラっぽく笑いながらサクヤが背中を叩いてくれたことにハヤトも苦笑を隠さなかった。

 

「責任重大ッスね。こりゃ後で追加報酬の申請しとかなきゃな。」

 

「どの道やる気なんだ…。けど得点稼げるいいチャンスよ。頼りにしてるわ。」

 

中央にそびえる竜巻が一際唸ったのが開始の合図だった。

 

 

まずは先手を取ることだ。ハヤトはコクーンの群れが無警戒なのを確認すると打ち合わせ通りに陽動を仕掛けた。足音に気づいたのか、コクーンたちが頭部をこちらに向け光球を発射する。ハヤトは立て続けに回避行動をとり盾で弾きつつ前進し、すれ違いざまに剣を一閃した。コクーンの表皮が破れ、体液が噴き出る。その直後、ハヤトが斬りつけた部分に数発の弾丸が命中し、コクーンは大きく仰け反った。サクヤが敵の射程外からスナイパー型神機で狂いなく同じ軌道の砲撃を放ったのだ。身動きがとれないコクーンはさらに背後からハヤトの連撃を受け、二度と動かなくなった。

 

「やるじゃない。これなら早く終わりそうね。」

 

「サクヤさんの援護があったからッスよ。やっぱりベテランの人と組むとやりやすいですね。」

 

「もう、おだてても何も出ないわよ。さて…そろそろかしら。」

 

と、サクヤが空を見上げるとその方向から黒い卵のようなものが飛んできた。よく見ると左右に羽が生え、真ん中には白い彫像に似たものが張り付いている。

 

「ザイゴートよ。戦闘音を探知して集まってきたみたい。では新人君、あれを叩いて…」

 

「援護頼みます!」

 

サクヤが言い終らないうちにハヤトは神機を変形させ、アラガミの一団に引き金を引いた。放たれた火線は先鋒を素通りし、後続を掠めるのに留まったが注意を引かせるには十分だった。計4匹のザイゴートがエサに群がる魚の如くハヤトに接近する。が、目の前をサクヤが放った火線に遮られ一瞬硬直し、そのうちの1匹をハヤトは逃さず袈裟斬りにした。

 

「急に飛び出さないでよ、ビックリしちゃうじゃない!」

 

「すいません!」

 

サクヤの怒声に負けないぐらいの声を張りながらエネルギー弾の合間を縫ってきたザイゴートを捉える。巨大な牙を露にしたザイゴートを横っ飛びでかわし再び迫ってきたところに渾身の一撃を食らわせた。

 

「いただき!」

 

クリティカルだったのかうめき声をあげて落下したザイゴートをすかさず捕食しようとした瞬間、頭上から紫の粉が降ってきた。同時に胸に焼けるような痛みが走る。

 

「それは毒よ。早く離れなさい!」

 

だが経験したことのない痛みに戸惑うハヤトに次々と空気砲が当たり、体をいたぶる。仕方なくサクヤがスタングレネードを投げ何とか離脱できたハヤトは手渡された解毒剤を打ち込んだ。

 

「落ち着いて。戦術通りにやれば勝てるわ。」

 

言わんこっちゃない。ジロ、と向けられた視線が痛かったもののすぐに思考を切り替える。どうにかして接近戦に持ち込みたいがもう一度毒を浴びるのはゴメンだ。かと言って自分に射撃の腕がないことは分かりきっていた。あの粉さえ防げれば…。そこまで考えたとき不意に思いつくことがあった。出来ないわけではない。そう結論付けるとハヤトは先程と同じように敵陣に入り込んでいった。当然ザイゴートも毒を溜め込み放出する。そしてそれが届く直前、ハヤトは神機を垂直に構え銃口を格納したままで引き金を引いた。瞬間、銃口にエネルギーが収束し眩い閃光を放ちながら発射された。その爆発は粉を吹き飛ばしザイゴートをまとめて貫通させ、ハヤトも思わずよろめいてしまった。

 

「すげえ…!」

 

これが新型のロング使いだけが扱える新機能『インパルスエッジ』。想像外の威力に目を見張る一方、使いこなせるか?という思いが今更ながら浮かび、ハヤトは生唾を呑み込んだ。

 

 

「リンドウも言ってたけどなかなかのやんちゃさんみたいね。人の話をまったく聞かないんだから。」

 

帰りのトレーラーの中、サクヤはため息混じりに呟きハヤトの頭を小突いた。

 

「けどこれで少しは戦い方を分かる様になってきたんスよ。あとちょっとしたらモノに出来るかもしれないんだ。」

 

豆が浮き出た手を見下ろしたハヤトが自信の表情を浮かべる。

 

「その戦い方には上官の命令を無視することも含まれた?」

 

「あ、いや、その…」

 

一転しどろもどろになったハヤトは弁明の言葉が言えない自分に恨めしさを覚えた。

 

「冗談よ。今回は見逃してあげるけど次からは注意してね。」

 

そう言うとサクヤは作戦前と同じように顔にイタズラっぽい笑みを広げた。




戦闘描写が下手ですいません。なるべくイメージを基に書いているので…


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第5話 不協和音

「ハヤトさん、ツバキさんが探していましたよ。整備室に来いとのことです。」

 

ヒバリの伝言を聞いたとき、悪い予感が確信に変わった。先日の任務での違反をサクヤが知らせたに違いない。恐らく訓練場20周は堅いな、と観念して整備室に出向くとツバキがいつものしかめ面で待っていた。

 

「急な呼び出しですまない。お前に伝えることがあってな。」

 

「すいません。今度からちゃんと指示に従いますから10周で勘弁してください。」

 

ツバキが口を閉じる前に釈明したハヤトは最敬礼の姿勢で微動だにしなかった。だが、

 

「何のことだ?私は今回の任務の話をしているのだが。」

 

「え?あ、そうですか…」

 

どうやら勘違いだったらしい。ひとまず安堵し胸を撫で下ろした。

 

「…よく分からんがいいだろう。今回は私の判断でお前とコウタでペアを組んでもらうことにした。しかし新米同士でお前たちも不安だろうからな。味方が二人先発しているので支援するのが仕事となる。よろしく頼むぞ。」

 

 

そして廃工場エリア-

ハヤトとコウタは合流地点に到着した。

 

「それにしても汚ねえ場所だな。何か嫌な臭いがすんだけど。」

 

ハヤトが鼻をつまみながら足元の濁った水溜りを避ける。一方コウタは辺りに散らばるガラクタを物色していた。

 

「お前何してんだ?ゴミばっか集めやがって。」

 

「ゴミじゃねえよ。こういうものの中にお宝が眠っているもんなの。後でよこせたって聞かないからな。」

 

「一生やってろ。…お、あそこだな。」

 

コウタを置いて進むとミーティングの通り二人の人影が立っており、そのうちの一人が近づいてきた。

 

「やあ、君が例の新人君かい?噂は聞いてるよ。僕はエリック・デア・フォーゲルバイデ。君もせいぜい僕を見習って人類のため華麗に戦ってくれたまえよ。」

 

近づいてきたのはグラサンをかけた青年だった。少し風変わりな喋り方だが柔らかな物腰に好感を抱いたハヤトは手を握り自己紹介する。

 

「伊吹ハヤトです。今日はよろしくおねが-」

 

「エリック、上だ!」

 

唐突に響いた警報にハヤトは反射的に退いていた。しかしエリックはその意味を理解できずに身をすくませるばかりだった。直後、さっきまでエリックが立っていた場所にオウガテイルが飛び降り、同時に血雨が降り注いだ。何が起こったのかわからなかった。

 

「ボーっとするな!」

 

突然の事態に体が麻痺してしまったハヤトを尻目にもう一人の男が助走の勢いを借りてオウガテイルを切り捨てる。オウガテイルは倒れたが、横たわっていたのはそれだけではなかった。

 

「どうして…」

 

悲鳴は聞こえなかった。四肢を力なく伸ばした遺体は首から上が繋がっていなかったからだ。さっきまでエリックだったそれは今は何の返答もよこさない屍となってしまった。

 

「言っておくがここではこんなことは日常茶飯事だ。気にする必要はない。」

 

どれくらいそうしていたのかフード姿の男が口を開いた。まるで仲間の死を肯定するかのような物言いにハヤトは反感が湧いた。

 

「待てよ、そんな言い方ねえだろ。人が死んだんだぞ。早くアナグラに伝えねえと…」

 

「やめろ、時間の無駄だ。獲物が逃げちまう。」

 

「てめえ…」

 

空気が爆発寸前になりかけたときコウタが駆けつけた。

 

「おーい、何か声が聞こえたんだけどどうかした…うわ!?どうしたんだよこれ!?」

 

場違いな呑気さを振りまいたのも一瞬、口元を手で押さえ吐き気をこらえる素振りを見せるがナハトは答える気にはなれなかった。

 

「よくある事故だ。大したことじゃない。」

 

代わりにフードの男が事の顛末を説明した。

 

「ハヤトの言うとおりだろ。アンタだってマニュアルで戦死者の扱いについては…」

 

「じゃあお前は敵が目の前にいるのに死体を背負って逃げ切れるのか?」

 

もっともな意見に封殺されコウタが押し黙る。

 

「それとオレはアンタじゃなくてソーマだ。別に覚えなくていい。とにかく死にたくなければオレには関わるな。」

 

一方的に打ち切り、ソーマは索敵に向かった。

 

「何なんだよアイツ…」

 

静まり返った殺人現場でコウタの弱々しい文句がこだました。

 

あとから聞いたのだがソーマにはいくつかの特徴があった。第一に単独行動を好む。第二に人と群れない。そして第三に恐ろしく--強かった。

 

「そっちに行ったぞ!」

 

ハヤトが叫ぶ。状況は面白くなかった。対象のアラガミを討伐した途端、2体のコンゴウが出現したのだ。戦闘中の神経に原因を考察する余裕はなく、ハヤトはとりあえず現実を認めたがそれで対処しきれるわけではなかった。片方のコンゴウがコウタ目掛けて空気弾を発射する。コウタは辛うじて回避し牽制の弾幕を張る。一方、ソーマはもう片方を一人で相手取り荒々しい攻撃を加えていた。単独で任務をこなすだけあって、黒い神機を軽々と持ち上げ振り下ろす姿は巨大な鎌を携える死神のようだった。こちらはと言えばハヤトが前衛、コウタが後衛の二人がかりで何とか持ちこたえている有様で、改めて経験の差を思い知らされる。しばらくコウタの銃撃に気をとられていたコンゴウが突如標的をこっちに変えて突進してきた。咄嗟に方向転換したが腕を引っかけられて無様にひっくり返り尻餅をついてしまった。

 

「くっそ…!」

 

悪態をつきながら立ち上がってお返しとばかりに尻尾を切り落とす。痛みに耐え切れなかったのかコンゴウが地面に倒れたのでそのまま噛み付き神機を解放させた。

 

「コウタ、渡すぞ!」

 

そして神機で生成されたアラガミバレットを味方に撃ち込む。するとコウタの神機が黒いオーラに包まれ、リンクバーストに成功したことを伝えた。

 

「おっしゃあ!」

 

体のオラクル反応が高まったことでコウタがさらに激しく連射する。その隙に再度捕食しエネルギーを確保したハヤトは次のバレットをソーマに与えた。

 

「…!?」

 

突然の援護に困惑したソーマは一度振り返り、きつく睨み付けてきたがすぐに敵に向き直った。ハヤトも満足げにほくそ笑むと起き上がったコンゴウに再び剣を構えて突っ込んだ。振りかぶった拳を屈んでかわし、腕に神機を突き立て振り払う。腱が断裂したのかコンゴウは垂れ下がった片腕を庇い後退した。すかさず反転し追撃しようと追いすがったがくるりと正対したコンゴウのパイプは何かを溜め込んだかのように膨らんでいた。誘い出されたと分かったときにはもう遅く、ハヤトの体はザイゴートの倍近い威力の空気の塊を正面から浴びて宙を舞っていた。このままうまく着地できなければコンクリの地面に叩きつけられるはずだったが幸か不幸か池の中に落ち、ダメージを増やすことは回避された。が、代わりに汚染水をたっぷりとかぶり何とか体を引き上げたハヤトに表情はなかった。

 

「コウタ、少し下がってくれ。コイツはオレが仕留める。」

 

そこからのハヤトの暴れぶりは凄まじかった。コンゴウの傷ついた腕をちぎれるまで執拗に狙い、うずくまった体を動けなくなるまで切りつけた。あまりの猛攻にコウタは銃撃をやめ、ソーマも思わず見入ってしまった。そして1体目が力尽きるともう1体に向かい--

 

 

「やあ、調子はどうかな。と言ってもいいわけはないか。散々な目にあったようだからね。」

 

執務室の椅子に座るシックザールが困った笑いを浮かべていた。あの後、迎えが来るまで怒り狂ったハヤトはこのときの不機嫌そのもので眉間の皺が緩む気配はなく、

 

「いえ。」

 

と、ぶっきらぼうに返した。

 

「そうか。まああえて聞かずに置こう。さて、疲れているところ申し訳ないんだが聞きたいことがあってね。確か君には保護者の方がいたはずだが写真とかは持ってないかな?住民の登録データが一部紛失してしまい大至急修正しなければならないんだ。」

 

データが登録されてないと配給や支援が受けられなくなる恐れがある。現在極東支部には多くの住民が移り住んでおり、不法居住者の犯罪防止が急務となっていた。

 

「今取ってきます。」

 

自室に戻りターミナルに保存したアルバムから適当なものを見繕いシックザールに手渡す。ハヤトが退室するとシックザールはそれを端末に読み込ませひとつの写真と照合した。結果は思ったとおりだった。

 

「やはり貴方だったか。」

 

シックザールの口が吊り上がり冷ややかな笑いが部屋の中を漂った。

 

 

執務室を後にしたハヤトは何となくロビーに足が動いた。昇降台から降りるとリンドウが手招きするのが見えた。

 

「よう、お疲れさん。今日は大変だったらしいな。まあ座れよ。」

 

テーブルにはビール缶が並べられているところからすると彼も仕事明けらしくだらしなく椅子にもたれかかっていた。

 

「本当ッスよ。あのフードの奴なんか『あんな助けは必要なかった。余計なことをするな。』ですよ。自分を何だと思ってやがんだ。」

 

愚痴りながら買ってきたジュースを飲み干す。帰りの途中でも一悶着あったせいか、水浸しになった怒りは消え去っていた。

 

「ソーマか。アイツは昔から取っ付きにくいところがあるからな。そのせいで誤解されることもあるがオレはアイツほど優しい奴はいないと思っている。まあ気長にやればいいさ。」

 

苦笑しながらタバコをふかすリンドウはアルコールで上気した顔をどこか別の場所を眺めるように目を細めていた。あんな奴の一体どこが優しいのだろうか。ますますわけが分からずリンドウと同じ方向に首を巡らすと同僚の女性職員と目が合った。池の噂はすぐに広まったらしく女性職人はクスリと笑って踵を返した。

 




コウタとの共闘を書くまでが面倒で無理やり組み込みました。すいません…。


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第6話 死別

極東支部に来てから驚くことは度々あったが中でも一番は殉死者への弔いがなかったことだった。エリックの死後、ツバキにより訃報とともに通例の2階級特進をとられたあとはしばらく重苦しいムードだったもののエリックの名を口にする者はいなくなった。理由としてはゴッドイーターの高い戦死率のせいで金も時間もかかる葬式を頻繁に行う余裕がないこととなってしまったことは仕方がないという一種の諦観が根付いているからであった。薄情とは言えない。自分に降りかかった火の粉は自分で払うしかない。分かってはいるものの納得しきれないハヤトは任務から帰還し食事までの他愛ない空白を過ごしていた。

 

「それでさ~妹が言うんだよ。『お兄ちゃんのお仕事見てみたい』って。」

 

コウタがいつもの身の上話を繰り広げていた。すっかり先日の事故を払拭したようだ。

 

「母さんもオレが帰ってくるだびにご馳走作ってるんだよ。大げさなんだよね、うちの家族って。」

 

「お前ってマジで家族LOVEだよな。もう5回は聞いたよ、その話。」

 

ドリンクで飢えをしのぎながら嘆息する。

 

「あれ、そうだっけ?まあいいじゃん、悪いわけじゃないんだし。ハヤトだって家族はいるんだろ?」

 

「いるにはいるんだけどなぁ…。」

 

リョウマとは家出したきり会ってなかった。何度か行こうとしたがいざとなると変に緊張してしまうのだ。結局それに甘んじて戻ることはしなかった。そういえば何でじいさんはフェンリルに対してあんなに頑固なんだろう。それに抗議デモに参加するところを見た覚えがないので原因も分からない。思わず思索にふけっているとサクヤがロビーに現れた。

 

「サクヤさん、お疲れ様です!」

 

コウタが間髪入れず席を譲る。相変わらずの早さだ。

 

「お疲れ様、何を話してたの?」

 

サクヤの質問に乗じてハヤトは仲直りの方法を尋ねてみた。

 

「なるほどね。そうだなあ、やっぱりプレゼントがいいと思うわよ。」

 

「プレゼントッスか…。」

 

意外と簡単な答えに苦笑してしまう。

 

「あら、効果抜群なのよ。人の好みにもよるけど。」

 

好みといわれてもリョウマはあまり物を欲しがるタイプではない。たまに菓子を買ってくる程度だ。

 

「それに買うなら今のうちね。私も新しい服が欲しいんだけど最近は物価が再上昇してきたみたいだから。」

 

ここでコウタが口を挟む。

 

「そういやハヤトっていつも制服だよな。ポリシーでもあんの?」

 

「いや、仕事するときは何となくこれかなと思ってさ。」

 

半分は嘘だった。適合試験の際に係員に服がボロいからと着替えさせられたのをそのままにしたまでだ。サクヤがまじまじと顔を覗き込み告げる。

 

「ハヤトもたまにはオシャレしてみたら?素材は悪くないんだけどなあ。」

 

返答に困っているとコウタが腕をつかんでどこかに連れて行こうと引っ張った。

 

「何だよ?」

 

「善は急げって言うだろ。ついでにおじいさんのプレゼントも買えば安上がりだよ。」

 

「だけど今は金が…」

 

『緊急警報、緊急警報!アラガミが装甲壁を突破、D-13地区に侵入しました。至急迎撃してください。繰り返します。アラガミが…』

 

唐突に鳴り響いたサイレンがアナグラを伝播した。だがそれ以上にハヤトの意識を捉えたのは別のことだった。腕を振り払い、一目散に扉をくぐる。後ろからコウタの声が聞こえたが貸す耳は持たずハヤトは整備場に急いだ。

 

 

リョウマは波のようになだれ込む避難民を掻き分け管制塔に向かっていた。アラガミが侵入してきた?有り得ない。この辺りの壁は自分のプログラムで構成した最新の情報をハッキングで書き換えたはずだ。しかし現状は同時に3箇所に襲撃があったことを如実に伝えていた。さらに自宅のハッキング装置が何者かに破壊され、残された手段は直接壁にソースを入力するしかない。密かに合成した偽装フェロモンを服用し壁の一端にそびえる鉄塔を見据えたリョウマに目の前で1台のジープが止まった。不審に思いながら通り過ぎようとしたが、ドアが開き一人の人物が進路を塞いだ。目と目が合った瞬間、こうなるまでの経緯がすべて明らかとなりリョウマは前に進むことを忘れた。

 

「君か…。」

 

返事はなかった。今までのツケの清算に現れた人物は黙ってリョウマを見つめ続けた。

 

 

ハヤトはアクセルを目一杯踏み込みジープを走らせていた。現場に近づくに連れて残骸も増えてくる。その中に焼け焦げたベビーカーを見たハヤトはゾッとした気持ちを紛らわして通信機を取り出した。リョウマは常にお手製のトランシーバーを持ち歩いていたからそれにかければ安否を確認できるはずだ。

 

「じいさん!」

 

大声で呼びかけるが返ってくるのは雑音ばかりでほとんど役に立たず、つい投げ出しそうになったときに微妙な音の変化を聞いた。音量を上げ耳をそばだててみる。

 

『だから…っている…だ。君は昔から…断が性急過ぎ…と。人類が絶滅に瀕して…る現在、我々にで…るのは今の状況を守…ことだ。それを君は…』

 

会話をしているのか言葉が途切れる。その後通信機から乾いた笑いが発した。

 

『残念だがそれは…理だ。あの子は君の…い通りにはならない。理屈ではなく…情で動く奴だ。私さえ測りかねているよ。得体の知れ…奴さ。』

 

再び沈黙が訪れ少しの間を挟み、

 

『やめておけ。後悔するぞ。』

 

と続いた声にハヤトはヒヤリとした。リョウマの息が激しくなりノイズに混じって冷たい空気が滲み出る。誰かは分からないが相手が決定的な何かを仕出かすのを感じられた。

 

『誰もそんなことは…んでいない。アイーシャだって…』

 

そこまで言いかけたとき火薬の破裂音が弾けた。銃声だ、と直感したハヤトは緩めかけたアクセルを全開にして居住区を駆け抜けた。

 

 

虚ろな様子で歩く足取りは端からすれば酔っ払いに見えたかもしれない。リョウマ自身それを望んだが腹から這い上がる激痛は現実を忘れさせてくれなかった。力を振り絞り何とか自宅までたどり着きはしたが残された時間は少ない。そもそも腹に銃弾をめり込ませた老人がこんなところにいること自体が間違いだ。それでも自分にはやることがある。可能な限り保存した研究データを破壊し、然るべき人間に望みを託さなければならない。霞みかけた意識に克をいれ、足がもつれて倒れこみながら地下室に入ったリョウマは悲鳴を上げる体に鞭を打ち端末に震える指でひとつのアドレスを打ち込み、送信ボタンを押した。後はメモリーを破壊したら終わりだ。転がっていたハンマーを引き寄せ叩き付けた瞬間、轟音とともに天井が崩れ落ちた。咄嗟に出ようとしたが傷ついた体では叶わず上半身を残して瓦礫に埋もれてしまった。あまりにもあっけない死に自嘲の笑みがこぼれる。これが結末か。これが裏切り者にふさわしい最期か。衝撃でバカになった目が頭上に降り注ぐ破片をぼんやりと見つめ、閉じる。直後リョウマに突き刺さるはずだったそれは硬い音を立てて地面に転がった。再び目を開けると神機の盾を拡げたハヤトが驚きを含んだ目でこちらを見返していた。

 

「ハヤト…。」

 

周りのことなどどうでも良かった。死に際にこんな夢を見られるなら命も捨てたものではない。奇跡の如く再会した家族を守るかのように炎が周囲を取り囲んだ。

 

 

爆発音がした方向に到着すると家はすでに燃えていた。まさかと思い意を決して入るとリョウマは半分土砂に埋もれた形で横たわっていた。煤で汚れた顔は青黒く変色し、苦しげに上下する腹からは血が滲み出ていたが、目だけは笑っていた。何故だ?何故こんなときに笑っている?訳が分からず見つめていると、

 

「久しぶりだな。少しはマシな顔になったじゃないか。」

 

笑ったままリョウマが呟いた。

 

「んなこと言ってる場合じゃねえだろ。今出してやっから…」

 

神機を地面に突き刺し瓦礫をどけようと力をこめる。

 

「無駄だ。もう間に合わん。足も潰れているようだ。」

 

「だから言うなって!怪我人は大人しくしてろ!」

 

「ハヤト、聞け。」

 

不意に澄んだ声が伝わり持ち上がった手がやんわりとハヤトの腕を払った。

 

「お前に謝らなければならない。やはりお前の中から忌まわしい因果を消し去ることはできなかった。すまないと思っている。」

 

「急に何言ってんだ。いいから黙って…」

 

「お前のことはいつも聞いていた。お前が信頼している仲間のことも。皆いい人たちばかりだ。これからお前にはたくさんの味方ができるだろう。敵もできる。何事も成し遂げられるのが当たり前となり、失敗したらここぞとばかりに責め立てられるかもしれない。だがそれは力を与えられた者の責務だ。その力は時にその者自身を苦しめる。だが、お前には果たさなければならない責任がある。お前は私を恨むだろうな。何もしてやれず、こんな重荷まで…。だから生きろ。理不尽に逆らえ。絶望に潰されるな。それが人が人たる証だ。」

 

突然、獣のうめきが聞こえ、いつの間にか聞き入っていたハヤトは頭をそらした瞬間、外に突き飛ばされた。すぐに駆け寄ろうとしたがリョウマの鋭い眼光がそれを許さない。だがその顔はこれ以上ないほど優しく微笑んでいた。

 

「お前は私を許さなくていい。だがこれからどうなろうと私はお前をー」

 

「じいさんっ!」

 

刹那、形を保つのに限界を迎えた家屋が崩れ残骸がリョウマに落下し、さらに舞った炎がそれを押し包んだ。あっという間の出来事にハヤトは呆然と立ち尽くしていた。涙は流れなかった。流すには思い出が足りなかったからだ。お前をー何だ?まだアンタのことを何も聞いていない。一緒に酒を飲んでもいない。いくら悔やんでも次の機会は永遠に来ず、捌け口の見当たらない激情だけが募っていく。二度目のうめきが聞こえ、周りを見渡すと似たような光景が映った。足を失ってうずくまる者、胎児のように縮こまる者。無数の死体が軒を連ね文字通り地獄絵図を描いていた。こんな死は認められない。こんなのは人の死に方じゃない。ふと視界の隅に巨大な影が入り込んできた。翼の生えた虎と形容すべきそれは逃げ遅れた住民を捜しては喰らい、己の腹を満たしている。途端、奥底から未知の物質が湧き出しハヤトの頭を支配した。排除しなければ。ただ一つの思いを胸に神機を引き抜き、ハヤトは地を蹴った。

 

 

次に目覚めたのは簡易ベッドの上だった。まだ朦朧とした意識のまま上体を起こすと包帯に覆われた部分が痛みを訴え肉の感覚を蘇らせる。

 

「お目覚めかい?」

 

傍らに座って本を読んでいた榊が気づき、嬉しそうに微笑んだ。

 

「博士、ここは?オレ、どうなって…」

 

「心配しなくていい。アナグラの医務室だよ。君は丸一日眠ってたんだ。」

 

質問に一つずつ答えながら榊は水を差し出した。

 

「ほんと、驚いたよ。君が急に飛び出したって聞いてリンドウ君を向かわせたら辺り一面血の海だったそうじゃないか。」

 

その中に倒れていた自分を見つけたリンドウは救護が来るまでアラガミから守ってくれたらしい。

 

「君は優秀な人材だが、貴重な新型ということを忘れてもらっては困る。今回は大目に見るけど次からは自重するように。あ、そうそう。」

 

退室仕掛けた榊がベッドの下から一つの段ボール箱を取り出した。

 

「君が出た後届けられたものだ。差出人は不明。気が向いたら開けてみてくれ。」

 

そう言い残すと榊は今度こそ部屋を出た。早速開いてみると中身は石灰色のジャケットだった。昔ある店を通りかかったとき目に付いた服だ。あのときはリョウマにせがんだが高価だったので買ってもらえなかったのを思い出す。不器用め。どうして早く出さなかったんだ。リョウマの困った表情が浮かんだ途端、抑え切れないうねりが生まれハヤトは声を殺して泣いた。

 

 

同時刻、リンドウは支部長室に来ていた。机には肘を突いたシックザールがこちらを見据えている。

 

「珍しいじゃないか。急に話がしたいだなんて。」

 

「単刀直入に聞きたいんですよ。例の新入りのことです。」

 

「ほう、ハヤト君か。中々優秀らしいじゃないか。」

 

「自分もこの前まではそう思ってたんですがね。今回の防衛任務、アイツ一人でヴァジュラを一体、シユウを二体討伐したなんて聞いたら優秀だけで済む話とは考えられないんですよ。支部長、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか?」

 

シックザールはわずかに眉をひそめると

 

「君の推測は正しい。彼は特別なんだよ。」

 

「そりゃ新型ですから…」

 

「違う。」

 

リンドウの言葉を語意を強めて遮る。

 

「才能や資質の話をしているのではない。彼は生まれ持っての戦士なんだ。」

 

そう言うとシックザールは手元の端末を操作し、スクロールした画面をリンドウに向けた。

 

「これは…!」

 

「救世主だよ、彼は。あるいは怪物…。」

 

このときリンドウは真実を見た。




なんだかオリジナル展開が多くなってきたような…(汗)
時々見たことあるなと思うシーンがあるかもしれませんが目をつぶっていただければ幸いです。


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第7話 赤の新型

リョウマの死から2週間、初の四人一組の任務や仲間からの慰めによってハヤトはようやく本来の調子を取り戻すことができた矢先、第一部隊全員が集められた。どうやら噂の補充要員が来たらしくツバキのそばには一人の少女が控えていた。赤い帽子に銀色の髪、整った顔立ちが印象的だ。

 

「紹介するぞ。今日から仲間になる新型の適合者だ。」

 

ツバキの前振りに少女が名乗る。

 

「アリサ・イリーニチナ・アミエーラと申します。本日よりロシア支部からこちらに配属となりました。よろしくお願いします。」

 

「女の子ならいつでも大歓迎だよ。」

 

アリサの挨拶が済むやいなや、美少女に目がないコウタがすかさずアピールしたが、

 

「よくそんな浮ついた考えでここまで生き永らえてきましたね。」

 

と、冷たい一言で一蹴され顔を引きつらせた。

 

「彼女は実戦経験は少ないが演習成績は抜群だ。追い抜かれたくなければ精進するんだな。」

 

ツバキが苦笑しコウタも

 

「…了解です。」

 

と返す。

 

「ではアリサはリンドウに付いて行動するように。リンドウ、資料の引継ぎがあるので私と来てくれ。」

 

「はいよ。」

 

「了解しました。」

 

二人の返事が区切りとなりブリーフィングが終わるとコウタはめげずに再アタックした。

 

「ねえ君、ロシアってとても寒いんでしょ。あ、でも最近はー」

 

「あなたですか?私と同じ新型は。」

 

コウタを無視してアリサが話しかけてきた。心なしか挑戦的な眼差しを向けられた気がしたハヤトは慎重に切り出す。

 

「ああ、伊吹ハヤトってんだ。まだアンタと一緒のルーキーだよ。」

 

軽い感じで握手をするとアリサはコウタと見比べ

 

「ふうん、どうやらあっちの人よりはマシみたいですね。近いうちにアナタの実力を見させてもらいますから覚えておいてください。」

 

と言ってほかのメンバーを一瞥し、ロビーを去っていった。コウタがその背中をジト目でにらみ続ける。

 

「何だよ、偉そうにしちゃってさ。オレ、ああいう奴苦手なんだよな。…あれ、ハヤトどうかした?」

 

「え?ああ、いや、何でもねえよ。」

 

気のせいだろうか。なぜかアリサからは張り詰めた空気を感じた。まるでつつけば崩れてしまいそうな…。

 

 

市街地エリアで待機していたハヤトは憂鬱な気分を味わっていた。理由は簡単、隣のいけ好かない同行者だ。コミュニケーションをとろうとあれこれ話しかけたのだが、ええ、まあ、ぐらいの返ししかしないので次第に口数が減ってしまい任務が開始されるのを渋々待っていた。

 

「お、今日は新型二人とお仕事だな。足を引っ張らないように気をつけるんでよろしく頼むわ。」

 

リンドウがいつもの軽口を叩きながら到着する。だがアリサは

 

「旧型は旧型なりの仕事をしていただければいいと思います。」

 

と、差別じみた言葉を発した。まただ。この少女の言動はいちいち突っかかる。しかしリンドウは少しも怒る様子を見せずアリサの肩に手を置いた。

 

「ハハッ、せいぜい頑張ってみるさ。」

 

「キャア!?」

 

何に驚いたのかアリサが飛び退く。これにはリンドウも呆気にとられ、しばし固まった。

 

「あ~あ、こりゃずいぶんな嫌われようだな。」

 

「い、いえ。何でもありません。大丈夫です。」

 

アリサは慌てて否定したが明らかに戸惑っていた。

 

「冗談だよ。ん~そうだなあ。」

 

少し考え込んだ後、リンドウはアリサに耳打ちすると、アリサは顔を紅潮させ

 

「な、何で私がそんなこと…」

 

「いいから黙って探せ。な?」

 

それでも反対したアリサだったが結局言いくるめられて遅れてくることになった。

 

「アイツのことなんだがな、色々とわけありらしい。」

 

歩きながらリンドウはぼそりと呟いた。

 

「おかげで危ない面もあるみたいなんだが同じ新型のよしみだ。お前ならあの子の力になってやれる。頼んだぞ。」

 

ちらとハヤトに含んだ視線を向けたが気がつくとリンドウは既に獲物を探して前を向いていた。

 

 

目標のシユウの滑空をかわすと猛烈な風が髪をなびかせる。神機使いの隠語で師匠とあだ名されるこのアラガミは人型のせいか拳法に似た動きで距離を詰めてきた。リンドウによると自分はコイツに勝ったらしいが記憶にない経験は当てにしないほうがいい。まずは飛行手段を奪うためにハヤトは硬い表皮に火花の散るレーヴァテインの刃を無理やり押し込んでいた。

 

「硬えっ!オレ本当にコイツを倒したんですか?」

 

「先輩の目を疑うのか?じゃなきゃお前を前に出すわけないだろう!」

 

それも道理だ。内心で呟き腕力を総動員させて振りぬき翼を両断する。付け根から盛大に血が噴出しよろめくシユウをさらにアリサが狙撃し頭部を削ぎ取った。たまらず倒れたシユウにリンドウが神機を流れるように斬りつけるのを確認したハヤトも続こうと踏み込んだとき、背後から銃声が響きすぐ横を薙いだ。アリサが味方がいるにも関わらず撃ったのだ。

 

「どいてください。死にたいんですか?」

 

「そりゃこっちのセリフだ!味方が見えねえのか!?」

 

詫びもしない態度にハヤトも怒鳴り返す。しかしアリサは反省する様子もなく、

 

「ちょうど撃つタイミングでアナタが出てきたんです。そっちこそ周りが見えているんですか?」

 

「お前ー」

 

「よそ見をするな。来るぞ!」

 

リンドウの注意にはっとしたがそれはシユウの拳を顔面にくらった後だった。衝撃で視界が歪み世界が爆発する。そのまま宙を舞ったハヤトは壁に背中を打ちつけ動かなくなった。障害を一つ排除したシユウはもう一つの標的に叫びながら駆け出した。リンドウは無駄のない動きで飛んでくる火球をかわし脆くなった頭に神機を一閃した。分断した頭が地面を転がるがシユウは止まらない。勝てる相手ではないと判断したのか今度はアリサに狙いを定めてきた。

 

「まったく見境がないですね!」

 

アリサも同時に走り深紅の大剣を脚部に振り下ろす。しかしどこかに引っかかったのか神機が抜けなくなってしまった。

 

「そんな…!」

 

いくら引っ張っても神機はビクともしない。そして敵もその隙を見逃してくれるはずがなかった。

 

「逃げろ、アリサ!」

 

リンドウが警告するが間に合わない。シユウの拳は真っ直ぐアリサに吸い込まれる。思わず顔を背けたが予期していた衝撃は来なかった。恐る恐る目を開くを目の前を踏ん張る白い背中があった。

 

「よう、怪我はねえかよ?」

 

オレンジの頭が振り返り不敵に笑う。その顔は左半分を血で濡らしていた。

 

「アナタ、まともに攻撃を受けたはずじゃ…」

 

「受けたさ。おかげでまだ頭がグラついてるよ。分かってんならさっさとどいてくんねーかな。パンツ見えてるぞ。」

 

いつの間にか尻餅をついていたアリサは慌てて体勢を立て直す。その隙にハヤトがスタングレネードを投げシユウを後退させた。

 

「何で…」

 

「ん?」

 

「何で助けたんですか。あの場合は個人の対処に任せたほうがいいに決まってるじゃないですか。」

 

まったくもってナンセンスだ。みっともない姿を見られたことが恥ずかしくてつい言い返してしまう。するとハヤトはきょとんとした顔を急に吹き出させた。

 

「な、何がおかしいんですか!」

 

「だって対処たってアリサコケてただろ。あれじゃフォローするしかねえって。それに…仲間を助けるのに理由が必要なのか?」

 

そう言い残すとハヤトは応戦するリンドウの加勢に向かった。アリサは自分の耳を疑った。今までそんな言葉をかけてくれた人はいなかったからだ。仲間という取り留めのない言葉にアリサはしばらく動けなかった。

 

 

翌日、アリサはハヤトの部屋の前で立ち往生していた。先日の礼をするためなのだが性格上中々素直になれず、10分行ったり来たりを経てようやくベルを鳴らす決心がついたときエレベーターから本人がコウタと談笑しながら降りてきた。

 

「ん?アリサじゃんか。オレの部屋がどうかしたか?」

 

「い、いえ。アナタに用があって…その、怪我はどうなんですか?」

 

「見りゃ分かるだろ。顎にヒビが入っちまった。」

 

ハヤトが赤く腫れた口を指差す。隣でコウタが苦笑して診断結果を話した。

 

「全治2日だってさ。物は噛めないからその間はかわいそうだけど飲料パックだけなんだよな。」

 

「ホント、勘弁してくれよ。こうやって喋るのもキツイってのに。」

 

ハヤトがうんざりした面持ちでため息をつくとアリサは持っていた物をぎこちなく差し出した。

 

「何だこれ?」

 

「…ロシア製の湿布です。特殊なジェルを含んでいるから早く治ります。…昨日はすいませんでした。」

 

最後は小声で喋り半ば押し付けるようにしてアリサはうつむきながらさっさと退散した。よく分からずにいるとコウタがにやけ顔でハヤトを見ていた。

 

「何見てんだ?気持ち悪いな。」

 

「別に。気にすんな。」



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