魔法少女があらわれた! (ミ゙ヅヅヅ)
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1話

ハーメルンは初めて。前書きに2万字書けることに驚き


 

 特撮ヒーローや魔法少女アニメを見ている時、ふと悪役側に感情移入してしまう事はあるだろうか。

 

 正義の味方に絶対的な力を以て対立し、時には共闘し、そして最期には華やかに散る。

 

 勿論、当時放送されていた特撮ヒーローの悪役がどのような立ち位置であったのかによるが、カッコいいと思っていた人は多いのではないか。

 

 

 やはり悪役には華がある。

 

 

 

 しかし、もう一度考えてみよう。

 

 

 皆が一度は憧憬(あこが)れた悪役というのは果たしてどのような存在だったのかと。

 

 その悪役は主人公(ヒーロー)を引き立てる為の、殴り一つで吹っ飛ぶような雑魚エネミーだったか。

 

 

 『そんな訳ない』

 

 

 誰も好き好んで下っ端の雑魚なんかに成りたくないだろう。特殊な性癖を持っていない限り、それはないだろう。

 

 

 

 そもそもの前提条件として、そんなアニメや特撮みたいな悪の組織なんて存在しないし、存在しても入りたくない。

 

 あれは、遊びとしての悪役への憧憬であって、悪と冠するだけにそれなりの報いがあるものだ。リアルでは近づきたくない。

 

 

 小中学に高校と、徳を積んだ……とは言えないが、悪いことを特にしていない自分には、(えん)所縁(ゆかり)もない話だと思っていた。

 

 

 

 何故俺がこのような話をしているかというと……

 

 

 

 

 

 今日就職した企業は悪の組織だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、ありえないだろ」

 

 

 俺こと井東(いとう)銃一(かねかず)はそう呟く。思い返すだけでも頭が痛い。荒唐無稽、自分で言っていて訳が分からなくなる。

 

 

「はぁ……とりあえず落ち着いて整理しよう」

 

 

 ため息を吐く。

 

 そこで俺は今日の自分の行動についてもう一度思い出し、整理してみる。

 

 

「うーん、やっぱり記憶の混濁が激しくて混乱してる」

 

 

 色々と衝撃的なことが多かった所為(せい)か未だに完全には把握しきれていない。いや、しっかりと分かっているのだが頭がそれを認めないのが正しいのだが。

 

 

「一から考え直すか……」

 

 

 仕方がない、と一息つくと今日一日の行動を詳しく思い返す。

 

 

 思い返すは今日の朝のこと。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 七月の初めの土曜日。

 

 天気の良い清々しい朝。窓から射し込む陽の光、窓の外から聞こえる小鳥が(さえず)る声が聞こえる中、俺は自室のベッドの上で仰向けに寝そべっていた。

 

 

 高校を卒業し、そのまま内定していた企業に入社したのも束の間、上層部が不祥事を起こし会社が傾きそのまま倒産した。本当に一瞬の出来事だった。

 

 そして現在は、次の仕事を探す合間の繋ぎでバイト状態だ。つい先日までの連続バイトの所為(せい)か、ここしばらくは仕事は無い。

 

 

 

「と言っても、そろそろ起きないとな」

 

 

 欠伸(あくび)を堪えて呟く。休みだからって、自堕落な生活を送るのはダメだろう。フリーターというのは基本的に家庭内ヒエラルキーが低い傾向にある。

 倒産というイレギュラーな出来事でのフリーターなので同情の余地はある……と思いたいが、自堕落に過ごすのは流石(さすが)にダメだろう。

 

 布団から出るのは辛い……というのが本音なのだが。

 

 

 変温動物は寒くなったら動きを止めるし、恒温動物の熊だって冬眠をする。なら人間の俺だって、何処かの時期で動きを止めたって良いのではないか。

 

 

 

 そんなことを考えるが、どうこう言ったって状況が変わる訳でもない。それに、ダラダラしていたら俺への評価が下がってしまうだろう。自宅内ヒエラルキーには代えられないのだ。

 

 仕方なく俺は布団から出る。

 

 

 時計を見る。

 

 時刻は午前9時半。いつもだったらとっくの前に起こされている時間だ。休みだから起こさないでくれたのだろうか。

 

 身支度を済ませ、洗面所まで直行する。階段は自室の側なので洗面所まですぐだ。寝惚(ねぼ)けた身体を引きずりながら歩く。

 

 

 わが家の構造としては、二階に子供部屋と書斎、そして物置部屋が設置されており、トイレやキッチン、風呂に洗面所などは一階に設置されている。両親の部屋もまた一階にある。住んでるところが田舎だからか家も広めだ。

 

 その分、家は古いのだが。

 

 

 そんなことを思いつつ、洗面所に辿り着く。

 

 身体を伸ばし、少し高めの棚に置かれている歯ブラシを(つか)む。そして、歯磨粉をつけて咥えた。

 

 歯を磨いて顔を洗ったところで、心做(こころな)しか、シャッキリとした気分になる。

 

 

 少し顔を上げて洗面所に設置された鏡を一瞥()る。

 

 

 茶髪(ちやぱつ)がかった髪に、鋭い目つき。そして仏頂面な表情。

 

 率直に言えば悪人ヅラだ。この面の所為で面接は数度落ちている。自分ではそこまで思わないのだが、そのような評価をよく頂くのである程度正しいのだろう。

 

 

 鏡を見ながら、ある程度髪を整える。寝癖が付きやすい髪だから丁重に。蛇口を捻る。水が溢れるように洗面器に放出するのが見えた。

 

 

 

 リビングへと続く廊下を進む。古い家だから、床がキイキイと(きし)む音が廊下中に響き渡る。

 

 

 リビングの扉を開く。普段なら母が挨拶の一つや二つかけてくるのだが、今日は挨拶どころか物音が少しもしなかった。リビングには妹が一人、黙々と食事を()ってるのが見えるだけだ。

 

 

(何だ、この空気は?)

 

 

 リビングに入るのが戸惑われる。このまま気づかれないように逃げようとしたが、妹はリビングの扉を開く音に少し反応して顔を上げた。仕方ないので俺は恐る恐る、彼女に声をかけた。

 

 

「……お、おはよう」

 

「おはよー。……かねかず今起きたんだ」

 

 

 口調は普通だ。この空気は気の所為だったのか。俺は応える。

 

 

「ついさっきな。……母さんはどこいんの?」

 

「いないよ」

 

 

 妹が朝食のトーストか何かを(くわ)えながら、首を傾げて即答した。目からハイライトが抜け落ちた気がした。

 

 少し怖い。

 

 空気を払拭するために今度は明るめに言う。

 

 

「……どっか出掛けるとか言ってたっけ?昨日帰るの遅かったから、何も聞いてないな」

 

 

 これは前述したバイトのことだ。昨日は結構長く働いていた。帰って来たときには当然のように親は寝ていた。

 

 そして、

 

 

「父さんも今日は休みのは「お父さんとお母さんはいないよ」……おう」

 

 

 妹は食い気味に言い切った。彼女の態度に俺は困惑しながらも返事を返す。

 

 彼女、井東(いとう)和水(なごみ)は俺と六つほど歳が離れた妹である。六つも離れていると喧嘩は少ないが、その分仲良しでもない。大きな歳の差は兄妹の関係性を稀薄にするのだ。

 

 彼女の外見は、俺と同じく茶髪気味の髪に小さな顔。目は凜々しく、そして鼻は筋が通っている。一応パーツパーツでは俺とほぼ同じなのだが、全体的にみると可愛らしい顔になっている。

 

 世界の不思議だ。

 

 ……今の彼女は可愛いと言うより怖いのだが。

 

 

「なあ、和水ちゃん。今回は何日ぐらいだと思う?」

 

 

 俺は彼女の態度から何となく、今の状況を察して声を出した。その声に、彼女はため息を吐いて答えた。

 

 

「……朝みた調子だったら二日。休みがどうのとか言ってたから、最悪四日」

 

「あの両親(バカ)が。もう少しぐらい落ち着けないのか」

 

 

 どうしようもないモノを語るような口調で呟く。

 

 

「私が朝起きた時、妙にウキウキしてた両親を見逃したのが悪かった。それで目を離した隙には裳抜(もぬ)けの殻で……」

 

「子供置いて二人旅行?」

 

「下の()連れて三人旅行。もち、私ら置いて」

 

「然るべきところに訴えたら勝てる奴だな」

 

 

 

 ネグレクト的な奴で。いや、まあ社会人になった俺を信頼して出て行ったと言う捉え方もあるか。多分何も考えずに旅行に行っているだけだが。

 

 スマホを取り出して何か連絡が来てなかったか確認する。メールに着信一件。父親からだ。文面は

 

 『旅行にいく。雫の登校日までには帰る。食費は立て替えといてくれ。では』

 

 と書いてある。文脈的に分かると思うが雫は一番下の妹の名前だ。三人兄弟だから妹などはこれ以上いない。雫は今小学四年生だ。

 

 彼女が通ってる小学校というと……と少し考えるとあることに思い当たった。

 

 

 月曜日は確か小学校の創立記念日だった。

 

 これで二泊の三日の旅と確定した訳だ。完全に()めてやがる。

 

 

「どうせなら妹ちゃんも置いてけっ感じだよ。贔屭(ひいき)を感じてつらい」

 

「もとはと言えば、俺たちが旅行嫌がったことから始まるんだけどな……」

 

 

 それを抜いても両親の下の妹への贔屭は強いのは確かなのだが。まだ小さい子と言うのはあるが、明確に下の子と、俺・和水との区別が激しい。もはや差別だ。

 

 俺たちの両親は旅行が大好きだ。二人のスケジュールが合えば、音も立てずに失踪(いな)くなる。

 

 そして、特筆すべきはその頻度の多さだ。少ない時でも一月(ひとつき)に一度はどこかへ観光に行っている。黄金週間(ゴールデンウイーク)のときは本当に酷かった。

 仕事はどうしたんだ。そんなに旅行に行って金はどうするんだ!……とツッコミどころを感じる。

 

 

 

「かねかず、こうなったら私たちも旅行いこう。きっと楽しい」

 

 

 和水は訳の分からないことを宣う始末だ。多分自棄(やけ)になってる。これは非道(ひど)い。一瞬一緒に行ってあげようかなと思ってしまったレベルだ。

 しかし、和水との二人旅行は色々と問題ある。

 

 

「何言ってんだ。行くわけないだろ。もし行くなら俺は下の妹と行く。その方がきっと楽しい」

 

 

 第一の理由としては多分下の妹と行った方が楽しいからだ。無邪気だから観光のし甲斐があると思う。和水は俺の言葉に愕然として突っかかる。

 

 

「それ、上の妹の前で断言しちゃう?!……妹をこんなにも()いが(しろ)にする兄まじか」

 

「妹を無いが代にする兄まじだ。それにしづなら後で両親に請求できるし」

 

「ちょっと、まって!もしかしなくても私と行ったらお金出ないの?そして雫と行けば旅費出んの?」

 

「まあ……」

 

 

 雫に甘いし出るよな……と俺は考える。彼女は叫ぶ。

 

 

「一体何がこの格差を生んでいるんだ!?」

 

「……人望の差?」

 

「的確にココロを(えぐ)るな。私をいぢめてそんなにも楽しいか!」

 

 

 和水の大きな声が部屋で木霊(こだま)する。彼女の質問は当然YESだ。彼女の反応はとても楽しい。

 

 人望の差とか言ったが、一応弁明の為言っておくと、決して和水の人格が酷い訳ではない。ただ、下の子と比べるには()が悪いだけだ。片や可愛く目立った子。片や影の薄い『残念』。本当に分が悪い。

 和水は(ほお)を膨らませる素振(そぶ)りを見せ、(いきどお)った口調でつづける。

 

「でも、人望だったらかねかずだって同じようなもんじゃん。いつものように置いてかれてるし」

 

「ぐうの音も……いやまあ、そりゃ和水だけ置いてくのは世間体的に、流石にまずいってのもあるだろうし。基本セットで置いてかれるからな」

 

 

 観覧車とか人数制限とかで家族を二つのグループに分ける時は真っ先に俺と和水は(まと)められる。一蓮托生(いちれんたくしよう)かな。同じ蓮の上で身を託して生まれる。想像したら少し吐き気がしてきた。

 

「そだ。どうせ皆んな家にいないんだったら、友達でも家に呼ぼうかな?呼んで大丈夫?」

 

「……見栄を張ることは」

 

「いるよ!私にも」

 

「人見知り拗らせて忍びを(きわ)めていたお前が?」

 

 

 俺の辛辣(しんらつ)な声に和水は目に見えてテンションを落としながらも

 

「〝忍び〟いうな!わたしだって存在感が薄いだけで好き好んで窮めてる訳ではないんじゃい」

 

 と何だか哀しい言葉を返す。

 

 本当にリアクション良いな。芸人にでも成れそうだ。

 

 

 まあ、事実はともあれ友達を呼ぶのは大歓迎である。赤飯炊かないと!

 

「昼辺りから友達ん()行く予定だから、それまでに赤飯用意しとくよ」

 

「赤飯って……いやそもそも、かねかず頻繁(ひんぱん)に友達の家行ってるよね。結構性格悪い癖に。なんなの?リア充なの?」

 

 

 和水は心底信じられないといった表情をしながらいう。

 

 

「何なのって、今でも交流あるのは両手で数えられる程度だぞ」

 

「どうやら下限(かげん)を知らないらしい」

 

「下限て……。何震えた声で言ってんだよ……」

 

 

 心做しか先ほどより目の色が暗くなり、声も少し震えて聞こえた。

 

 

「ともかく、友達の家に行くから留守番は頼んだ」

 

 

 俺は家を出るまで何しようかと考えながら部屋に戻ることにした。

 

 




名前が出た人

井東(いとう)銃一(かねかず)
 悪の組織に入社した人

井東和水(なごみ)
 月と(すつぽん)で言うと鼈の人

井東(しづく)
 下の妹。小学四年生


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2話

2話って実質初投稿


 

 伊波(いなみ)(あき)は俺の小、中学時代の友達である。

 

 

 高校を卒業してから早数ヶ月。

 

 

 数ヶ月ともなれば自然と同窓生との交流もなくなる時期である。少なくとも俺の場合はそうだった。

 メール・電話不精なのが原因なのか高校で仲がよかった友達とは連絡が途絶(とだ)え音信不通状態だ。

 

 

 兎に角、たった数ヶ月しか経ってない状態でこの(ざま)だ。いや俺自身、基本的には人付き合いが悪い方なのだが。

 

 そんな状況の中、中学から……もっと詳しく言えば小学時代からの付き合いの友人が残っているのは驚嘆の限りだ。

 

 高校受験時、県でも成績の上の方の高校に入学することとなった彼と、県内では中位から下位上部をさ迷う地元高へと通うことになった俺。

 

 

 ここで彼とは(たもと)を分かつこととなると思っていた。

 

 

 実際、彼の他にいた友達とは袂を分かっている。

 

 しかし彼だけは例外的に関係が続いていた。何の因果かは分からないが、事実関係は続いているのだ。もしかしたら、無意識の内に彼のことを気にかけていたのかもしれない。

 

 そう考える程のインパクトが彼にあるのは事実だ。

 

 

 彼の見た目は、低い背に太りも瘦やせもしていない筋肉質の身体。長い黒髪に丸っこい黒目、顔立ちが少し童顔(どうがん)

 外見に関しては、特に変わったところはない。

 

 しかし、彼の性格の話になると話は一変。変わってくる。

 

 

 一見すると、彼は人畜無害(じんちくむがい)な外見通り、ゆったりとした感じで穏やかな性格に見える。話し方から仕草までそういう風に振る舞っている。

 

 が、しかし。それだけ今話したのは一見の話。言うなれば外ヅラという奴だ。

 

 

 一応、おっとりと見えるのも優しくみえるのも彼の性格の一部であり、決して上辺のモノではないと思う。

 しかし、彼の根底の(さが)のことを説明をするに当たっては少し……どころか大幅に足りない。

 

 

 彼、伊波鏡は無鉄砲なのだ。

 

 

 無鉄砲というと俺は、夏目漱石を思い出してしまう。

 

 

 同級生に(はや)し立てられ二階から飛び降りたり、友人に西洋ナイフを自慢してみれば煽り返され指を切り落とそうとしたり。

 

 

 残念ながら、彼の根底の性格はあんな感じだ。

 

 『坊っちゃん』みたいに、煽られ結構な高さから地面にダイブすること三回。西洋ナイフ……ではないが、カッターナイフでの切り傷なら数十ヶ所。よくよく探せば今でも痕は残ってるだろう。

 中々ハードなことをやってのける奴だ。

 

 どの話も最初は、皮の性格、穏やかな……和やかなエピソードから始まる。そして中盤以降から急に一転。物語はハードなモノへと豹変(ひようへん)波瀾(はらん)が巻き起こる。

 

 

 起承転結ではあるが、そこに存在する転が強烈過ぎるのだ。

 

 そして、質が悪いのは彼自身、自分が難儀な性格を持っていることに気づいている素振(そぶ)りは見せないことだ。見た目で性格が判らない分、無鉄砲よりもう暴発銃のようなものだ。

 

 穏やかな性格と無鉄砲って共存するんだな、と幼心ながら感じたものだ。破綻(はたん)なく両極の性質が共存出来るものだなあ、と。

 

 しかしアレだ。『清純派グラドル』なんて言葉もあるぐらいだし、そこは問題ないだろう。

 

 

 

 そんな彼……伊波鏡のことを説明した理由は単純明快。今朝(けさ)遊びに行くと宣った友達の正体が彼であるからだ。

 

 

 

 

◆◆

 

 

「それで、一体どうしたんだ?家まで呼び出して。外でも良かっただろうに」

 

 

 鏡の家に着いてすぐ、開幕早々俺はそう言い放った。

 

 

 

 数週間ぶりに連絡があり、どうしたのだろうか……と思ってメールを確認したところ

 

『明日家にきてくれ』

 

 ……という内容のメールだったのだ。

 

 

 別に遊ぶだけなら良いのだが、何をするのか連絡しても頑なに答えてくれなかったのだ。

 

 その時点で何かあるな……と思ったのだが、どうせ家に居てもやることがないなと思い面白半分でやって来たのだ。

 

 

「理由明かせないとか言ってたけど、一体なにがあったんだ?」

 

 

 俺は少し口早に訊ねる。

 

 面倒な頼み事とか頼まれなければ良いなぁ、と思いながらも鏡を見る。

 

 鏡は俺の様子に苦笑しつつもソファに座るように促し、テーブルに並べられてた菓子類の袋を開ける。

 

 

「相談したいことがあってね」

 

「ふーん、相談ねえ……。まあ、そのぐらいなら。たまに俺の方からも頼りにさせて貰ってる訳だし」

 

「本当にいつもありがとう」

 

 

 鏡は俺の言葉にすかさず反応して応える。こういう相談事はお互い様だし、いくらでも乗っても良い。

 

 

「それで相談事なんだけど、ウチの妹のことなんだ」

 

「妹……れんちゃんのこと?」

 

 

 れんちゃんとは彼の妹の名前だ。

 

 

「いつぐらいから気になってるんだ?」

 

「えっと、四月中頃辺りからかな」

 

 

 入学シーズンの頃か。

 

 

「れんちゃんって、確か春に中学に入学したばっかだったよな。ただ中学生になって大人びただけ、とかじゃないよな」

 

 彼の妹である伊波れんの年齢的には丁度中学生になったばかりだと思い出しそう言った。

 

「それなら良いんだけど……いや、どうも気掛かりなことがあってね」

 

「気掛かり?」

 

「……うん。証拠とかなくて勘なんだけど、何かおっきい事隠してるような感じがするんだよねー、って」

 

 

 鏡は首を傾げながらそう言った。俺の家の妹の方もこの春から中学生になり、多分気の所為だが言動に落ち着きが見えてきた気がする。

 

 多分気の所為だが。

 

 

 しかし、伊波()では違うようだ。

 

 

「大きな事か……。隠し事の一つや二つぐらいあってもおかしくはないけど。具体的に何があったの?」

 

 

 俺がそう言うと、彼は少し考える素振りを見せたあと語り出した。

 

 

「最近帰りが遅いのと、電話か何か頻繁に話し声が聞こえるのと……他にはそれを聞くと何か言い(ども)る素振りを見せたことかな」

 

「帰りが遅い……、大体何時ぐらい?」

 

「五時終わりぐらいかな」

 

 

 物凄く遅い……とも言い切れないぐらいの時間帯。うーん、それなりの時間には帰ってくると。でも学校が終わる時間的にはもっと速くてもおかしくない。部活とかかな?

 

「何か部活とかやってないの?それか運動クラブに所属してるとか」

 

「文化部に入ったって言ってたよ。でも頻度は週二ってらしいし」

 

 

 部活なしでその時間帯……。確かにそれはおかしい……かな?友達と遊んでいると言えばそれまでにも思うが。電話に関しても電話好きで通せるし。怪しいと言えば、何かに言い吃る様子か。

 

 でも、彼女の性格からすると……。

 

 

「多分、何かはあるんだろうね」

 

「やっぱりそう思うでしょ。だから相談に乗って貰おうと思って。ほら、こういうの得意じゃん」

 

「……不本意ながらな」

 

 

 鏡が何かしでかした時にとばっちりを喰らうのは大抵周りの奴らだ。鏡の外ヅラからは、彼が騒ぎをしでかした張本人に見えなくいつも処罰を免れる。

 

 中学時代になってようやく、俺はそれに気づき、先回りして事態の収拾に努めるようになったのだ。だから、問題収拾能力は高い。

 

 ……言ってて、本当に不本意だ。

 

 

「まあ、心配しないで。悪いことをやってる素振りはないから」

 

「そりゃそうだと思うけど……れんちゃんかあ」

 

「うーん……でも今頼れるの銃一しかいないしね」

 

 

 鏡は言う。まあ、俺しかいないのだったら(やぶさ)かでもないのだが。そんなことを考えていると、玄関の扉から鍵穴を弄る音が聞こえた。

 

 丁度良いれんちゃんが帰ってきたところなのだろう。鏡曰く、商店街の文具店に行くと行っていたのでそろそろ帰ってくるかとは予測していた。

 

 

 しばらく経ってから、ガチャリと家のドアが開いた音が響く。

 

 

 

 

──ガタンッ、……とっとっとっ──

 

 

 

 その音はこちらに近づいてくる。

 

 そして、リビングの扉が開く。

 

 

 ピョコンと幼く邪気無(あどけな)い表情をした少女が顔を覗かせる。

 

 

 目をぱちぱちと(しばた)かせながら部屋を覗き込み、小さな口を開く。

 

 

「お兄ちゃん、ただいまー?誰か人呼んだの……?話し声少し聞こえたんだけど」

 

 

 可愛らしい声が部屋に響く。疑問符を付けたような高い声。彼女はそのままリビングに入ってこようとして……

 

 

「お邪魔してるよ?久しぶりだね、れんちゃん」

 

 

 ……俺の姿を見て、動きが止まった。ぴしりと彼女の身体が硬直する。

 

 その顔は啞然という言葉が似合う表情だった。目は大きく見開いて、小さな口は微妙に開いた状態で固まった。

 

 

「おかえり、れん……固まってるが大丈夫かー?銃一(じゆういち)くんだよー」

 

「……!こ……こん、こんにちは!おひさし振りです、どうも」

 

 

 鏡の声にピクッと身体を揺らして反応すると、硬直が少し解けたようにゆっくりと喋り出す。顔色が少し蒼い。

 お久し振り、という言葉の通り俺と彼女、伊波れんと会ったのは久し振りである。小学生の時から鏡と親睦があったのだが、彼女とは余り話をすることが出来ていない。

 

 彼女が幼稚園年中ぐらいのときに初めて会ったのだから、会った回数自体は多いのだが。

 

 

 しかしながら、何度話しても毎度彼女はこのような調子なのだ。

 

 

「まあ元より、れんは人見知りするタイプだからね。慣れて貰うしかどうしようもないけど」

 

 と、鏡は昔言っていたが慣れの兆しがまったく見えない。

 

 

 

「やっぱり銃一の顔が怖いからじゃない?悪人ヅラだし」

 

「悪人ヅラ言うな」

 

「彫ってない刺青を幻視出来るし」

 

「そこまで怖い?」

 

「うん。お化け屋敷みたいに、逆に病みつきになる感じ?」

 

「人の顔をお化け屋敷に例えるな」

 

 

 冗談だったのか鏡はすぐに、ゴメンゴメンと笑いながら謝る。俺としても元より怒ってなかったので、恨言(うらみごと)を少し吐いて機嫌を直す。

 

 それにしても、本当にれんちゃんは俺に慣れない。自分で言うのは辛いが、この悪人ヅラに対して警戒を抱いている……って言うのは、確かだと思う。思うが、手は打ってきているつもりなのだ。

 

 (はた)から見てお笑いな和水を見ならった方が良いかな。

 

 

「てか、相談って言っても、この調子じゃどうしようもないと思うけど」

 

「大丈夫だよ。家で話してる限りでは銃一のこと嫌ってはないみたいだし」

 

 

 本当か、と思う。

 

 鏡と小声で相談する。思うようにはならない。

 

 

 彼女は口を開けて小さく言う。

 

 

 

「ええと、銃一(かねかず)さん。……今日は、どうしたんですか」

 

「実は今日の朝、あきに呼ばれてね。ゲームでもしようって」

 

「ゲーム。そうなんですか」

 

 

 れんちゃんは上擦ったような声で応える。結構緊張しているようだ。

 

 

「うー、えっと。勉強があるから、わたしはこれで……部屋に戻り……ます」

 

「あ、うん。またね」

 

 

 れんちゃんは俺に軽く一礼してリビングの扉を開けると部屋を出て、そそくさと階段をのぼってゆく。

 

「……」

 

「……」

 

「なあ、あき……」

 

「大丈夫、言いたいことは何となくわかるから」

 

 

 これムリだよね……という疑念、いや確信で二人の頭の中はいっぱいだった。これは俺のことを嫌って……少なくとも苦手に思っている。

 

 

「……嫌われてはないんだよな」

 

「うん。多分、本人がそう言ってたし。照れ隠しの可能性も、1(パーミリアド)ぐらいの確率であると思うよ」

 

「万分率!照れ隠しだとしても、屈折しすぎだし」

 

 

 思い付いたように鏡が言った。

 

 しかし、万分率か。金利の変動ぐらいでしか見たことないな。

 

 

「あっ……ほら!階段のぼる前、顔少し赤くなってたよ」

 

「思い出したように虚言吐くんじゃねえ。話してる最中顔少し青かったんだが」

 

 

 好きな人の前だと私、顔蒼ざめちゃうんです。きゅるりん☆みたいなのは聞いたことがない。

 

 

 

「まあともかく、れんちゃんのことを調べれば良いんだや」

 

「なるべくれんを説得して、探れる場を設けさせようとは思うけどね」

 

「直接探れた方が楽だし頼むよ」

 

 

 でも、また尾行とか聞き込みとかするのか。何だかんだで騒動に巻き込まれるのは楽しく感じてくるようになったけど、やっぱり後始末は面倒くさい。

 

 どうせ鏡のことだ。厄介な案件になるに違いない。厄介の芽は早めに摘み取るべし。

 

 俺はそう決意して鏡の家を出た。

 




名前が出た人


伊波(いなみ)(あき)
 名前の読み方変な人

伊波(れん)
 何か隠し事をしている人


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3話

前書きって何をする所なんだろ


 

 

──見知らぬ部屋へと誘拐された

 

 

 

 

 (あき)の家から出て、商店街の方へと向かうこと十二、三分。長い道のりを歩いて行った。そして意識がプツリと途切れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで憑物が取れたような、清々しい感覚がした。そして俺は、スッキリとした表情をして瞳を開けた。

 

 

「……」

 

 

 そしてゆっくりと瞳を閉じた。心做なし表情も強張(こわば)ってしまう。何かおかしな光景が見えたような気がした。

 

 

 ……もう一度、もう一度目を開けてみるか?きっと寝惚けていたのだろう。そう頭の中で何度か唱えてもう一度目を開ける。

 

 

「……うわあ」

 

 

 間の抜けた変な声が口から漏れる。知らない天井が見える。いや、何だこれ。

 余りの吃驚(おどろ)きに、お決まりの『知らない天井だ』と呟くタイミングを逃した。

 

 瞳に映るのは灰色の天井。そして、そこに取り付けられた蛍光灯。何が何だかさっぱりだ。

 

 

 しばらく呆然とした侭天井を見つめていたが、だんだんとこの状況に危機感を感じてきた。

 

 何でこんなところに、と言った具合で。

 

 

 天井が見えるという事は現在、寝転んだ状態にある。それなら当然現状を確かめるためには起き上がるしかない、という感じで俺は上体を起こして立ち上がろうとする。

 

 しかし(つか)えた。下半身のところで何かに阻まれる。

 

 

(つう)っ……。(なん)……なんだこれは。腰に何かをぶつけた?」

 

 

 反射的に手を腰に持っていく。余り痛くはなかったが、何もないと思っていたところを阻まれたので少し惑乱(パニツク)になる。

 

 

「何か付いてる?……てか布団掛かってるじゃねえか。呆けてて気づかんかった」

 

 

 流石に布団掛かってたのぐらい気づけよとは思う。ボケたか?いやまあ、テンパっていただけだが。

 何奈(いかん)せん困惑状態にあるのだ。追加で大呆(おおぽ)けやらかしてそうで怖い。

 

 まあ、そんな不安になること考えるよりまず確認すべきことがあるだろう……と思い直し取りあえず身体の上に掛かっている布団を手で押し除ける。

 

 

 そこには、金属製の(かせ)のようなものがあった。俺の腰あたりと足くびのところ。そしてその枷はベッドに固定されていて動くのを阻害しているようだ。

 

 

 

「えっ、何コレやばいヤツだ……」

 

 

 身体に付けられている枷を見て(おのの)き呟く。うわあ、コレ案件じゃない?

 

 目が覚めるとそこは何処かの部屋の中で、ベッドに下半身を固定されて動けなくなっている。

 

 簡単に整理してみても、普通に警察案件だ。

 

 

 

 一先ず外せないか確かめる。引っぱったり叩いたり足を力ませてみたりしてみる。しかし枷は何ともなく、ビクともしなかった。

 何か外せるモノ、この状況を何とか出来るモノがないかと咄嗟(とつさ)にこの部屋の中を見渡す。

 

 

 

 

 大きな四角テーブルを中心に、部屋の奥の左側に俺が寝かされているベッド。反対の壁際に本棚、テーブルを越えた部屋の手前側に金属製のドアが見える。

 

 テーブルは木製で長年使われているのか、脚のところに傷がように見え、壁際の本棚は古びた本が結構な数保管されている。

 金属製のドアは、キッチリと扉は閉められている。一応、内側から開けられるタイプの鍵だが、下半身が拘束されている以上開けにもいけないしどうしようもない。

 

 

「これって……所謂(いわゆる)……誘拐ってやつだよな?」

 

 

 俺は今の状況を想像をして少し震える。

 

 誘拐とか何歳になって言ってんだよって感じだが、他に考えられるのは何かの事件に巻き込まれて口封じの為に……とかぐらいしか思い付かない。

 

 

 でも、もし口封じなら既に殺害()られていてもおかしくないだろう。わざわざ目覚めるまで待ってから殺害()るのは変だし、口封じはないか?

 

 どっきりカメラでした〜とかを(ねが)ってみたが、ああいうドッキリは事前に何らかの同意があってから行われるモノだ。おそらく。

 

 それだったら現実的な考えが思い浮かんだ。俺は頭を振って都合の良い考えを振り払う。やっぱり……誘拐……なのか。それもこの歳になって?

 

 

 どうやら、現実とした受け止めるしかないようだと俺は悟った。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 そんなこんなで、冒頭に誘拐宣言に戻るわけだ。

 

 

 

「そういえば、目覚めた時ヤケに清々しい感覚がしたよな。一体何だったんだろう」

 

 

 少し時間が経ち、今出来ることは何もない……と諦め悟り、今の状況などを考えることにした。実際問題身体を縛られている状態で動くこともできないし、拘束を外すこともできないお手上げ状態なのだ。

 後できることとなればこの状況への考察か現実逃避ぐらいだ。

 

 後、清々しい目覚めとか言ってた変態(オレ)について本気で考え直したい所存である。

 縛られて気持ち良いとかマジで変態だ。

 

 

 俺自身Mの気なんてない!……なんて絶対的な自信を持って言い切ることはできない。

 

 本当にできない。

 

 観る分にはSもMも好き、好物であるが。しかし、それとこれとは話が違うのだ。

 

 実際にするされるとなると、興奮より先に痛みがきて無理だ。痛いのが苦手って訳ではないが、当然の如く好きではないのだ。どれだけ考えなおしても苦手に分類される。

 では目覚めた瞬間のあの、爽快感は気の所為(せい)だったのか……と結論づけようとするも、事実身体の調子がすこぶる良い気がするのだ。

 

 眠気が取れてただ単純にスッキリしただけじゃないこの感覚。そもそも今日は朝起きたのが遅く、既にスッキリした状態ではあったのだから眠気ではないと思う。

 

 あれだけ起きるの辛いとか言っていたけど身体事態は万全であった。今はそれの比じゃないぐらい、過去一番に調子が良い気がする。中々判断がつかない。

 

 

 SMモノだとこの後、蝶の仮面を付けた嬢によって目隠しをされ、亀甲(きつこう)縛りで三角木馬(さんかくもくば)(ろう)を垂らされながら鞭打(むちう)ちされるのが定型(テンプレ)だ。身震(みぶる)いものだ。

 

 

「SMは冗談にしろマジでヤバい。亀甲三角木馬鞭打ちにしろ、何にしろ、この状態じゃ抵抗もあったもんじゃない」

 

 

 俺はボヤきながら考える。

 

 

「最後の記憶が商店街で裏路地方面に入った所まで……か」

 

 

 何とか頭から記憶を絞り出す。取りあえず拉致監禁拘束なんて人生で一度あるかのないかの強烈なイベントを忘れる……なんて普通じゃありえない。本当におかしい。とゆうか俺の人生において、そんなイベント起きるな!

 

 

 

 

 いや、こう言う時こそ前向きに考えるのもありかもしれない。

 

 今、現実的(リアル)脱出ゲームに参加しているとしよう。すると今の状況をポジティヴに捉えられるのでは。

 

 

 圧倒的リアルさ。他では味わえないスリル感。心臓がドクドクと鼓動を強める感覚。足に枷が付けられていて動けないのも難易度が高い(しるし)

 

 この昂揚感。緊迫感。圧倒的臨場感。

 

 

 これがワクワクという感情か (白目)

 

 

 

 

 

 と、今できることの一つとして、現実逃避をするもどうしようもない。

 

 

 ポケットに何か入ってないか探ってみた。太腿(ふともも)の感触から分かっていたが当然(から)であった。財布にスマホ、メモ(ちよう)まで全てなくなっていた。

 

 財布がなくなっていたので、現金目当てかと閃いたものの、七千円程度しか入っていないのでその線もないかと落ち着いた。

 

 

 依然として拘束された状況は続いていた。しかし変化した点もある。

 

 例えば、周囲の状況。起きたばかりの時は気が付かなかったが、この部屋の天井からの反響音的に地下や、それに類する位置にあるっぽいのだ。

 

 そこで、暫く音を聞いていたのだが段々と音が大きくなっていたのだ。取り敢えず、上に人がいるのでは?と言ったぐらいのことしか分からないが。

 

 

 

 

 そんなことを呟いていると、コツコツと降りてくるような音が聞こえてきた。

 

 

 目覚めてから今現在に至るまで、パトカーのサイレン音などはついぞ聞こえない侭であった。

 

 そうなると、降りてくる足音は俺を拘束した張本人、もしくは関係者の可能性が高いだろう。

 

 

 

 そうこう考えるうちに足音はこの部屋の前で止まった。

 

 

 

 

──ガチッ、ガッ──

 

 

 扉に鍵を差し込み部屋のロックを外す音が聞こえてくる。ガチャリとゆっくりとドアが開く開閉音がする。部屋の外から一人の男が入ってきた。

 



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4話

 

 

「おはよう。気がついたのかい」

 

 

 部屋に入ってきた男は、片手を少し挙げて俺に向かって笑顔で声をかけた。

 

 背は少し低めでぽっちゃりとした体型、茶色い眼鏡を掛け優しげな表情をしている。白いシャツに藍色のカーディガンを羽織りズボンは黒のチノを穿いている。

 いかにも人が良さそうな感じで、どうも悪い人には見えなかった。

 

 

 俺の予想ではこの状況で部屋に入ってくるのは警察、もしくは俺を拘束したものに関わる人物であると考えていた。見たところ警察ではないと思える。と、するならばこの男は……。

 

 

「……おはようございます?えと、ここは何処なんです?」

 

 

 鄭重(ていちよう)に今の状況を(たづ)ねる。相手はやばい奴の可能性が高いのだ。下手に捲し立てて怒らせるよりは下手に出ておいた方が良いに決まっている。

 

 取りあえず、男は『気がついたのかい』とか知ったようなこと言っていたので何らかのことを把握しているのだろう。そして、何らかというより全貌(ぜんぼう)を知っている可能性も結構高い。

 

 男は気まずげに笑って言う。

 

 

「ははは……取り敢えず自己紹介から。僕は松村、気軽に松村さんとでも呼んでくれ」

 

「はい。松村……さん?あの、一体何でおれ……ぼくは此処で拘束されているのですか?」

 

「説明か、そうだねえ。……と、その前に下半身の枷を外しておくよ」

 

「えっ?」

 

 男……松村と名乗るその人はそう言うと片手を前に突き出して何かを唱えた。すると、身体の自由を阻めていた枷が自然(・・)と割れた。金属の枷は粒子のように粒つぶに分解されて消えてゆく。

 

 何かのイリュージョンショーを体験しているような気分だ。

 彼は俺の驚いた顔に得意げな顔をして微笑(ほほえ)んだ。

 

 

「さて、井東くん。状況を話す前に今のキミの現状について教えて貰おう」

 

「は……、俺の名前をどこで」

 

「幾らでも調べられるからね。それでなくてもバイクの免許証入ってたし。……それより質問の答えの方が先だ。キミはどこまで覚えてる?」

 

「どこまで……?起きる前の最後の記憶ってことですか?」

 

 どこまで覚えているか……と突然言われても何を覚えているのかを聞いているのかが分からない。言葉をその侭受け取るならば此処で目覚める前の最後の記憶……?ってことになるのかな。

 

 

「最悪……記憶がパーにはなって無いって感じかな。でも少し抜けてる可能性もある。そして副作用も怖い。……あっ、そうだよ。その君が覚えている最後の記憶のことを訊ねているんだ」

 

 

 

 最初の方小さな声で呟いていたから余り聞き取れなかったが、何か記憶がパーとか怖いことが聞こえたし素直に従おう。

 

 

 彼、松村さんが悪い人でないにしても、現状従う他にない。今の状況すら把握できていないのだ。下手なことはできない。最後の記憶とやらがそんなに重要だとは思わないが、取りあえず言う他ない。

 

 取り敢えず、友達の家から出て商店街を散策していた旨を伝えた。

 

 彼は徐に言葉を発する。

 

 

「うーん。判断つかないな。もう少し詳細に頼むよ」

 

「え、はい。……ええと、商店街の入り口……南口の方ですかね。そこから商店街に入って、一先ず自宅に戻ろうと考えたんです。商店街通った先に自宅があるので」

 

 

 れんちゃんに関して調査をする……と言うのは取りあえず伏せておく。下手に話して巻き込むのはまずいかも知れないし。

 どっち(みち)自宅には帰ろうと思っていたので伏せても問題ないだろう。

 

 

「それで飲食店の方まで歩いて行ったんです。うどん屋とか焼鳥屋とかある辺りです」

 

 

 ウチの町の商店街は、田舎で大型のスーパーとかがない影響かそこそこの規模の商店街だ。商店街は田舎の癖して(にぎ)わい強く活気があるのだ。

 それゆえ、細かく言わない場所を勘違いするやも知れぬと俺は思い説明を付け加えておく。

 

 俺の言葉に男は、分かってるとばかりに項突(うなづ)くと俺に説明を()かす。

 

 

「そこ通り過ぎようとした時、妙に引っ掛かりを覚えて、少し道を戻ってみたんです」

 

 

 そう言えば、どうして引っかかりを覚えたのだろう。

 

 確か、戻ってみるとそこにポスター?……のようなものが貼ってあったような。

 

 

 ここら辺から俺の記憶が曖昧になって来ている。ポスターが裏路地のどの辺に貼ってあったかもあやふや、裏路地を結構進んだ気もするし、入ってすぐの所だった気もする。

 そもそもポスターであったかさえも不安だ。それぐらい記憶が混濁としている。

 

 

「とにかく、そのポスターに近づいたんです。そこには、何か文字が印刷されていて……ってポスターだから印刷されているか。と、それでポスターを読み進めた筈です」

 

「……うん。そのポスターに何書かれていたか覚えているかい?」

 

 

 男はゆっくりとした、重々しい口調でそう言った。

 

 うーん。ポスターの内容か。何か変なこと書いてあったような気はするのだが肝腎(かんじん)の中身はてんで覚えていない。

 それが本当にポスターであったのすら怪しいのだ。分かる筈もない。

 

 

「すみません。記憶がその辺りでプツリと切れてて曖昧です」

 

「なるほど、よく分かった。では、そこから先の内容を話そうか」

 

 

 男は首を縦に何度か振ってそう言った。やはり、俺がどうしてこのような状況にあるのか何らかの事情を知っている訳だ。

 俺は静かに男が話出すのを待つ。

 

 

「何となく察してるかもしれないけどね、現在この状況になったのは私たちが関係しているんだよ」

 

 

 それは……その通りだろう。警官でない時点で少し考えれば関係しているのぐらいは分かるし、それを踏まえてれんちゃんの名前を出すのも控えたのだし。

 

 

 それでも、松村さんの今話している表情を見れば何らかの事情があり、このような状況に陥っているのだとも察せられる。

 事情ありきで、やむを得ない事柄()為に仕様がなくやったかのようにも思える。

 

 それは……決して咎めないという理由になるものではないが、相手の話しはちゃんと聞かなければならないとも思う。

 

 

 

 松村さんは、申し訳なさそうに顔を暗くさせる。身体も心()しか(ちぢ)こめている。

 以為(おもえ)らく、私利私慾(しりしよく)のためにこのような状況を引き起こしたのではないだろう。

 

 

 

 

 そんなことを考えていると松村さんはおずおず言葉を出した。

 

 

 

 

「えっとねえ、落ち着いて聞いて欲しいんだよ」

 

「はい……」

 

 

 彼は言葉を発す。

 

 

 

「キミがポスターを見たあの後、気絶……キミを眠らせて私たちのアジト、つまり此処まで連れて来たんだよ。……そして改造手術を」

 

 

「おーけー、グーグ○、警察に通報!」

 

 

 男の言葉に、俺は即座に()から(・・)携帯を取り出してロックを解除し呟いた。

 

 不審者の通報は日本国民の義務だ!

 

 

 

「ちょっと、待ってくれないかな!!?まだ早い。早まらないで!最後まで聞いてから判断しようよ!!?ねえ!」

 

「いえ、既に警察案件かと!改造手術て何ですか!」

 

「正論だけども。それでも最後まで話を聞くべきだと僕は思うよ」

 

 

 此処から挽回できるものは既にないと思う。そして男の印象が少し崩れた気もする。リアクション芸とかうまそうだと暢気(のんき)に感じてしまった。

 

 いやでも、此方から抵抗する事も難しいのは確かだ。相手に対してのプレッシャーをしっかりと感じよう。最後のどんでん返しがあるかもしれない。最後まで聞こう。

 

 息を呑んで呟く。

 

 

「では、最後までお願いします」

 

 

 決心して俺は言う。どうせ駄目だろうが、ほんの少し挽回の期待を込めて呟いた。

 

 多分、無理だろうけど。

 

 

 松村さんは、息を大きく吐くと俺に向かって大きな声で言った。

 

 

「じゃあ一気にいくよ……。改造した理由は世界征服を達成せしめんとする為、悪の怪人となり敵と戦って貰う為なのだ!」

 

「すみません!俺の判断は何一つ間違ってなかったです!グー○ル先生、警察追加で」

 

「その気持ち分かるけどちょっと待って!?色々理由があるんだ!?」

 

「世界征服を達成せしめん為……って完全にアウトじゃないですか。せしめん、て」

 

 

 

 いや、これ完全に警察沙汰な内容じゃないか。一応我が国の刑法を出す。

 

 

 

──刑法

 

第七章 犯罪ノ不成立及ヒ刑ノ減免

 

 第三十五條 法令又ハ正當ノ業務ニ因リ為シタル行為ハ之ヲ罰セス

 

第三十三章 略取及ヒ誘拐ノ罪

 

 第二百二十四條 未成年者ヲ略取又ハ誘拐シタル者ハ三月以上五年以下ノ懲役ニ処ス──

 

 

 

 うん。普通に警察沙汰だ。改造は『正当ノ業務』に当たらないだろうし、俺は一応十八歳。未成年誘拐にも当てはまる。

 

 

 と、言うか悪の怪人とか改造とか言ってる時点でヤバい空気がビンビンにする。

 

 

「うわ、法()されたらぐうの音も出ないんだけど……」

 

「法以前のヤバさを感ぜざるを得ませんが」

 

「う、……い、いや。しかし僕たちにも言い分があるんだよ。見返りも結構出すし。だからさ、もう少しぼくの弁明を聞いて欲しいんだよ」

 

「見返り?」

 

 

 よく分からかいが俺に取って都合の良い話しだったら犯罪的な改造手術も致し方無い気もする。

 

 改造された側は被害者的立ち位置だし、悪の怪人とか言ってたけど美味しい話なら悪事でも(やぶさ)かではないような気がする……。

 

 

 ……。

 

 

 

 

「何ですか見返りって?まずは詳細とかをお願いします!」

 

「キミ変わり身早いね?!何その手の平返し!!」

 

「手の平タービンってよく言われます」

 

「何で誇った顔してんの!蔑称っぽいよ」

 

 

 さっきまで下手したら殺されるとも思っていたのに、美味い話があるとなれば俄然(がぜん)テンションが上がるってものよ。

 実はお金とか良い話とか大好きなのだ。

 

 低俗な男、井東銃一(かねかず)(ここ)に見参!!

 

 

 とまあ、若干冗談だが本当に美味しい話なら全力で乗っかろう。しっかりと話は吟味するけど。

 

 

 

 

「堅苦しいよりかはマシと捉えておくよ」

 

「ありがとうございます!それで良い話とは?」

 

「手を擦って近寄らないで。顔に対してのイメージ壊れるから」

 

「冗談ですよ。何か思ってたより面白そうだと思ってノっただけですし。あっ、犯罪行為とかなら流石に乗り気ではないのですが」

 

 

 既に未成年誘拐と改造という犯罪っぽいのを犯しているのは置いておく。

 

 乗り気でないだけで今の状況的に逆らえそうもないだろうけど。

 

 

 松村さんは俺の言葉に軽い感じで応えた。

 

 

「大丈夫。今の法では裁けないから」

 

 衝撃発言。

 

 

「やっぱり法引っ掛かるんですか?!いや、裁けないから引っ掛かってない?それでもスレスレなのは確か?」

 

 

 松村さんの発言に声を荒らげる。え、法引っ掛かんの?()、今の法じゃ引っ掛かんないの?グレーじゃないですかやだ。

 

 どんな事やらされんの?

 

 

 アレかな。この成分はまだ法で禁止されてないから合法なヤクだよ。ハイになれるヤクだよ。ヤセルクスリアルヨ、みたいな奴。

 

 

 

「大丈夫だって。心配しなくていいよ。ちゃんと日本の法律は知ってるから」

 

「未成年誘拐に不当手術」

 

「ぼそぼそと耳に痛い言葉を呟かないで!一応記憶にないみたいだけど了承して貰ってるから。録音機に録ってるから」

 

「まじですか!そんなとち狂った手術に了承するなんて……」

 

 

 驚きだ。

 

「……って、ポスターの後気絶させてその侭手術したって言ってたじゃないですか。それじゃあいつ了承したんすか」

 

「それはまぁ……いや、実際録ってる言ったんだよ。それより良い話を聞きたくないか?」

 

「聞きたいです!」

 

 

 松村さんは小さく『ちょろいな』と呟くと一息つく。ちなみにその声は俺の耳に普通に届いた。ちょろいって酷いな。聞こえてないと思ってるのだろうか?スルーするけど。

 

 

 

「それじゃあ話を進めるよ。まずキミは僕達の組織によって改造された訳だ。理由は……まあ素質があったからみたいな感じだよ」

 

「改造……悪の怪人でしたっけ?」

 

「ああそうだよ。でもその段階ではまだ戦闘員ってやつにしようと考えてたんだよ。でね、キミに張紙のさいみ……善意的に了承して貰ってね」

 

「今、催眠って……」

 

「で、改造しようとした時に少し問題が起きて。キミなんか筋肉になんらかのチカラが溜まっててね。パーになる寸前だったんだ」

 

「無視っスか……って、ちょっと待って下さい。パー、てなんすか!抽象的なんですが!」

 

 

 筋肉パーって、何!筋肉破裂とかすんの?こう……パンッ、って。え、怖。

 

 

「大丈夫、大丈夫。怪人手術によって何とかなったから」

 

「手術……」

 

「それで、君は改造人間となって生き永らえた訳だよ!」

 

「……。どう転んでも改造と言う言葉の時点で何か素直に感謝出来ないのですが」

 

 

 うん。改造人間かあ……。言葉をそっくりその侭受け取った場合感謝すべきなのか?いや、多分違う気がする。そして改造と言う言葉が引っ掛かりまくる。

 

 

「燃費が悪いって言ったって怪人一号だからね。初号機だよ。戦闘員よりパワーは劣るけど怪人特有のチカラなんてのもあるし」

 

 

 素質……か。でも戦闘員より劣るパワーなのか。パワーが何かよく分からないけど。

 

 

「それに特有のチカラって何ですか?今のところ本当に力とかあるのかも分からないですし。客観的にみると松村さん痛い人みたいな感じですよ。信じる根拠とかはないんですか?」

 

 

 枷が粒子のように消えていった奴を除く。アレは超常現象っぽかった

 

 取りあえずなんらかの力を見せて貰えるならこの話の信憑性が少しは上がる。今のところ、松村さんは電波なことを口走ってるよくわからないおじさんぐらいの状態だし。

 

 

「そもそも見せるって言っても、キミは既にその力を使っているんだけどね」

 

「えっ?」

 

「分からない?……さっき警察に連絡しようとしてたじゃないか。一体何を使って連絡を取ろうとしてたの?」

 

「えっ、そりゃ携帯を使って通報しようとしたんですけど」

 

 

 俺が持っている携帯はごく普通のものだ。携帯電話なのに電話機能が存在しない……なんて特異なものではない。普通の携帯だ。

 

 

 そしてその携帯のロックを外して検索エンジンを起動させて音声入力ボタンを押した。(なん)らおかしな点は見当たらない。

 

 

 俺は(いぶか)しげに思いながらもその(むね)を男に伝える。すると松村さんはじゃあ、と言って言葉を続ける。

 

 

「キミ、その携帯一体どこから取り出したんだい?」

 

「そりゃあズボンのポケットから……って、へ?!」

 

 

 確か、松村さんがここに来るまでの間にポケットの中を探った覚えがあるな。探った結果ポケットには何も入ってなかった……筈。

 

 しかしながら、俺は当然の(ごと)く携帯をどこからともなく取り出し、グー○ルの音声入力を起動させ通報をしようとしていた。では、携帯は一体どこから現れた?

 

 

「無意識のうちに使うなんて凄いよ。第一号だからどこまで凄いのかは分からないけど。……さあ、携帯は一体どこから出てきたんだろう」

 

 

 携帯が何処にあったか。携帯は何処からともなく現れた。そして何処かに消えた。

 

 いや、片づけた。それは何か自分が知らない力が作用してその様な現象が発生した。

 

 

 うーん、それじゃあ一度不成(ならず)二度までも何も無い状態からスマホを取り出す事が出来たのだ。

 

 分からん!取りあえず携帯を出そうと試みる。

 

 携帯よ、出て来い……と強く念じてみる。すると俺の手の皮膚が盛り上がり携帯がピきピきと浮かび上が……え、グロっ!!

 

 腕から携帯が浮かび上がる。驚いてもう一度よく見てみると腕には何の痕も残っていないかった。

 

 

 うわ、グロいグロいグロい!!

 

 

 俺は手に持った携帯を真自々々(まじまじ)と見つめる。特に変わった様子は無い。ええ……。

 

 

 

「あの、すみません。これは一体なんですか?」

 

 

 俺は松村さんに質問をする。何か英語の教科書の最初の方にありそうな文章だな。松村さんは暫くして答えた。

 

 

「君の携帯だよ」

 

「……」

 

「……」

 

「えと、質問を少し変えます。何で俺の手から携帯が浮き出て来たんですか?」

 

「君が念じたからじゃない?」

 

 

 は な し にならねぇ!!もっとこう根本的な事が聞きたいんだよ!!

 

 そうだよね、これ俺の携帯だし念じたから現れたんだろうね!!?だが聞きたいのはそれじゃあ無い。

 

 何故俺の腕に携帯が入り、浮かび上がらせることができるのかだよ。

 

 

「何故腕に携帯埋まってるんですか!」

 

 

 俺は知りたい事を簡潔に言った。すると男は合点がいった様に答える。

 

 

「携帯って、手で操作するモノだからだよ」

 

「成る程。これは伝わってないな」

 

 

 男の返答に思わず声に出したリアクションを取ってしまう。

 

 

「俺が聞きたいのは、何故腕にスマホを埋める……?という暴挙に出たのかを聞きたいんです」

 

「別に携帯を埋め込んでる訳ではないよ。ただ携帯を収納しただけだよ。他のものも入る」

 

「他のも……うーん。それならまあ」

 

「今の法では裁けないってのもこのチカラが関係しててね」

 

「え……は、はい」

 

「現在の科学では解明されてないものでね。手術を施したって言っても一体何を手術したのか。この手術をしたからこのような超常的な現象が起こっているのだ……という因果関係を証明できないっていうか」

 

「よく分かりませんね」

 

「藁人形に五寸釘刺し込んで人呪い殺しても逮捕されないようなもんだよ。因果関係証明できないし」

 

 

 あっ、分かり易い。

 

 

「質問いいですか?」

 

「ああ、良いよ」

 

「改造の件は千歩譲ってまあ良いです。改造されたからにはそれ相応の理由がある筈です。その理由として最初に松村さん敵を倒すためって言ってましたよね。……その敵って一体なんですか?」

 

 

 一番大事であるだろう質問をする。最初に想像するのは国。日本政府に武力をもって立ち向かうみたいな奴。そして次に思い浮かぶのは世界と戦うこと。世界征服なんて言ってたから最終的には世界と戦うのだろうか。

 

 松村さんの返答を待つ。

 

 

「うーん。そうだね。実際に会わせてみるのが早いか」

 

「えっ?!」

 

 

 敵に会わせる?!ちょっと待って、何も準備できてないんですけど。

 

 俺の反応に構わず松村さんは片手を上に上げると何かを唱えた。すると周りの風景が変わった。

 

 

 




出てきた人

松村了五(りようご)

 悪の組織の人。9月13日生まれの乙女座。


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5話

ストックないのに何で投稿してるんだろ


 松村さんが何かを唱えると、眼の前の風景がグニャリと歪んだ。

 

 例えるなら、立ち眩みが起きたときのような感覚。それに伴って空間が歪んで風景が変わる。

 場所は地下室のような部屋から一変して、何処かの草原のような所に来ていた。

 

 いや、恐らくここは……近所にある公園の広場だ。普段は居るはずの公園利用者が居なくて勘違いした。

 

 そうだ、いつも居るはずの大勢の人が居ない。

 

 

 そして、代わりと言って良いのだろうか。煌びやかなドレスのようなものを着た二人の少女と、如何にも悪そうな服装の男が、全身黒タイツの人たちを連れて立っていた。

 ええ、何この状況。

 

 

『この星の平和はわたし達が守る!』

 

 ドレスを着た二人の少女がそう言い放っているのが見えるが、全く状況が見えない。

 

 今、俺たちが立っているのは、公園に植えられた木の後ろ。ちょうど木の影で向こうにいる集団には姿は見えていないと思う。

 

「おのれ、また邪魔をしにきたのか魔法少女!」

 

 

 遠くから聞こえる声。二人の少女に全身黒タイツの人達を連れた如何にも悪そうな服を着たイケメン。一体何の茶番なんだ。

 

 

「えと、松村さん。何ですか?あの煌びやかな服着た少女と全身黒タイツの変態連れたイケメンは」

 

「ああ、あの変態引き連れたイケメンが我が組織の幹部、変態は戦闘員だよ。そしてあの少女が僕達の敵だね」

 

「ええ……」

 

 

 物凄く関わりたくなくなってきた。と言うか、松村さんも普通に変態言ってる。

 

 そして、極め付けは敵が少女な点だ。少女相手に大人が戦うって倫理的に大丈夫なのか?

 

 少女たちの姿を見る。一人はピンク髪に赤を基調としたドレスみたいなのを着て、もう一人は水色の髪に青を基調としたドレスを着ている。

 それぞれ、よく髪飾りのようなものを付けており、ピンク髪の方は円……太陽?をモチーフにした飾り。水色の髪の方は三日月?をモチーフにした飾りを付けている。

 

 そして、ピンク髪の子は杖のようなものを持っていて、水色髪の子は玩具銃(トイガン)のようなものを持っている。

 

 

 日曜朝の女児向けアニメでこんな光景を見たことがある。あのアニメ、普通に面白いから毎週見ていて知っているぞ。その少女と敵対する松村さん達も世界征服目論んでるって、設定もまんまだし。

 

「……ああ、キミも何とか察したみたいだね。相手はキミが思ってるように女児向けアニメのアレだよ」

 

「何か、女児向けアニメって実在したのか……みたいな感覚ですけど!」

 

 

 あっ、こんなこと話している間に、魔法少女的な子達が黒タイツの人達をバッタバッタ倒していってる。凄い。黒タイツも人間離れした動きしてんのに、女の子達は赤子の手を捻るように倒していってる。強い。

 

 

 おお、赤髪のイケメンが何か唱え出した。地面から黒いもやのようなものが出てきた。そして近くにあった自販機にもやを纏わり付かせた。

 

 

 自販機が怪物みたいなのに変化した。でもすぐに女の子達が想いやら気持ちやらと言ってぶっ飛ばした。強い。

 

 

「ああ、強いね。良い線いってると思ったんだけど。ボスになんて言おう」

 

「ちょっと待って下さい。アレと戦うんですか?軽く死にますよ」

 

 

 俺に付けられた能力は物の出し入れだろ。

 いや、使いようによってはまだ何とかなるか?

 

 トラックを十数台取り込んで一気に落とすとか。それで何とかなりそうなタマでは無さそうだが。

 

「いやいや、井東くん少し勘違いしているよ」

 

 俺の心を読んだのか松村さんは口を挟む。

 

 

「あれ?能力の詳細違いましたっけ?」

 

 

 もしかしたら、隠された能力があるのかもしれない。もっと戦闘的な能力が。

 

 

「トラックなんて大きいもの収容できる訳ないだろ?容量はキミの身体の体積分だけだよ。重さも収容したら突然減るなんてことあり得ないし、トラックなんてもの持って動けないだろう?」

 

 

 想定以上にダメだった。魔法みたいな世界観なのにどうしてダメなんだ。もう少し融通利かせろよ。

 

 

「井東くん現実的に考えて。自分の体積以上のものをどうやって身体の内部に収容するんだ。重さだって質量保存則があるんだから。あの法則を無視できるの、今のところ核反応だけだよ」

 

 

 魔法少女がいる世界なのに?

 

 

 松村さんは更に続けて能力の詳細を伝えてくれる。軽く嚙み砕いて解釈する。

 

 曰く、

 

 身体を特殊な膜で包む改造をして、膜の内部に収納するらしい。でも収納した膜を持ち歩くことに変わりはないから重さは当然あると言うこと。

 

 そして、普通の戦闘員とちがって怪人は特殊能力に特化したものだから、身体強化は少ないと。

 

 あれ?黒タイツの人たちより弱くない?

 

 

 

「それ無理ゲーじゃないですか?」

 

「……まあ、実験品だし」

 

 

 人を実験品呼ばわりしてくる所に、悪の組織味を感じる。そう言えば、怪人一号って言っていたな。

 

 

「これ、相当危険じゃないですか?魔法少女とかというのと戦うんですよね……。冗談抜きで死ぬと思うのですが」 

 

 

 当然の疑問だ。魔法少女、普通に怖いのだ。アレと戦闘するとか正気の沙汰ではない。さっき見ただけでその力は十分に分かる。

 

 しかし、松村さんはなんてことない風に答えた。

 

 

「キミが思ってる程危険は無いよ」

 

 

 その言葉にハッとする。

 敵と言っても少女。少女というと大体小中学生ぐらいだ。

 

 そのぐらいの年齢の少女が人殺しみたいなことをするだろうか。恐らく手加減ぐらいはしてくれるのかも知れない。油断はしなくても、そこまで警戒しなくてもいいかも知れない。

 

 

 

「そんなことで死ぬ程やわな改造はしてないから」

 

「死ぬ程の攻撃される前提?!」

 

 

 酷い前提だ。確かにアレに生身でぶつかったら簡単に死ぬる自信はあるが。触れただけでミンチになりそうだもん。

 

 

 まだ遠くで(たむ)ろしている彼女達をみる。一見するとあどけない少女に見えるが、その内に秘めたる力は恐ろしいほどに強い。

 

 

 

 ピンク髪の方は、何というか勝気で明るい子みたいな感じがする。ピンク髪なんて街に居たら普通気づきそうなものだけどな。変身したら姿が変わる……なんてのもよくあるか。

 

 水色髪の子は、ニコニコとしていて穏やかな感じに見える。戦い振りから絶対に穏やかではないと思うが。何というか幼い感じに見える。

 

 うーん?

 

 

「まだ、何か悩んでる感じ?大丈夫だよ。今のところは死者ゼロだよ仮に死んでも遺体さえ爆散しなければ何とかなるし」

 

「物凄く気になる話ですが、別のことです。……えと、魔法少女の正体って判明しているんですか?」

 

 仮に死んでもと言う話が物凄く引っかかるのだが、一先ず置いて……置いておこう。その前に魔法少女の正体について気になるのだ。

 

 松村さんは悩ましげに話す。

 

 

「正体か。それが分かってるなら苦労はしないんだけどね。ピンク髪とかすぐ見つかりそうなもんだけど」

 

「そりゃそうですが」

 

 

 俺としてはピンク髪より、水色の髪の子が気になる。アレ、何処かで見た顔なんだよ。……って言うより、思い出せないが、本当に見たことがある顔だ。

 

 

「はは、そんなに怯えなくていいよ。普通の戦闘員だと……6階建ての建物から飛び降りても擦かすり傷一つ付かないぐらい凄い強化だよ。問題ないって」

 

「……いや、例えが微妙でよく分かりませんが」

 

 多分凄いのだと思うが。

 

 

「6階から飛び降りても無事って、破格だけどね……副作用も特に無いし」

 

「6階って言っても建物によって変わりそうですが……。それに俺の場合はどうなるんですか?身体強化は中途半端って言ってましたけど」

 

「……大体3階ぐらいからでも大丈夫じゃない?4階になってくると結構痛むかな。5階だったら骨折するね」

 

「身体強化の単位が階なのが気になります」

 

 

 戦闘力の単位『階』の所為であんまり話が入ってこない。いや、凄いのは分かるんだけど。

 

 

 アレ?さっきまで何考えてたか。まあ良いや。

 

 

「高さは学校を想像して貰うと良いよ。ともかく、身体が頑丈なんだよ。それに、敵は僕たちを殺したくないみたいだし」

 

 

 僕たちも流石に殺すのはヤバいと思ってるから殺さないし、相手も殺さない。

 

 案外緩いな。世界征服を企んでいる癖に。

 

 

「女児アニメみたいに、平和な世界な感じですか?」

 

「死にはしないけど怪我はちょくちょくする……って状態を、平和と定義するならね。まあ、怪我をしても治療はうちの十八番(おはこ)だから問題ないけど」

 

「治療が十八番ってまず怪我させないのが一番な気がしますが。十八番ってことはこの組織、元は病院かなんかですか」

 

「それに近しいとこだよ。研究とか販売とかがメインだけど。改造なんかも手を出したから、迷走してる気がしなくもないが」

 

「迷走って……。いや、まあ、最低限死にはしないってことだけ分かったし良いか」

 

 

 最低限死にはしないとか言う過去一不安な言葉を口にする時が来ようとは。

 

 

「危険承知で考えたら、結構割りの良い仕事だよ。それで井東くん、悪の怪人する気になったかな?……その気がなくてもやらせるけど」

 

「選択肢なしだ!」

 

 

 はいorイエスの質問だ。多分この人やらないって言っても洗脳でも何でもして入れているタイプの人だ。

 

 

「いえ、まあ、そうでなくてもやりますが」

 

 

 まあ、しょうがない。やるしかない。下手に洗脳されてやるよりマシだろう。

 

 決して、今松村さんがひらひらとはためかしている、契約書に書かれている金額に目が眩んだ訳ではない。洗脳を言い訳に使う訳がない。決してない。

 

 しかし、倫理的なところに目を(つむ)れば楽でお金が凄いな……とかそんなことは考えてない。取りあえず血眼(ちまなこ)になって契約書や規約みたいな書類を読み進める。

 

 

「そうだ。叛逆行為とかは、洗脳措置になるからしないでね」

 

「やっぱり俺が手術了承したのってその洗脳措置が……ってまあひとまず置いときますよ」

 

「洗脳は流石にしてないよ」

 

 小さく『暗示だし』という松村さん。昔から耳は良いから普通に聞こえる。暗示は洗脳に含まれると思うのですが。

 

 

「じゃあ、戦闘も一通り終わったみたいだし帰るよ」

 

 彼はまたもや何かを唱えた。すると先ほどと同じように空間が歪む。元の地下室に戻って来たのだ。

 

 

 恐らくこのときは意識が昂揚していたのだろう。もしくは判断力を停止させる暗示をかけられていたか。

 

 

 その後、色々面倒臭い契約書の数々を読み進めてサイン、印鑑を押すという作業に入ることになった。契約書を読んで押印。印鑑に関しては、何故か松村さんから手渡されたのでそれを使った。

 相手の印鑑持ってるとか偽装簡単にできるじゃないですか、やだ。

 

 

 ともかく、普通なら金に目が眩んだとしてもこのような行動を取らなかっただろう。ホントだよ。そこまで金に汚れてないから。

 

 

 選択肢がなかったとは言え、この行動が俺の運命を狂わせることとなる。

 

 




出てきた人


ピンク髪の魔法少女
 たぶん主人公的立ち位置。

水色髪の少女
 誰かに似てる。皆目見当がつかない。

イケメン
 幹部の人。

黒いタイツを着た変態
 変態。


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6話

朝起きたら石油王になってないかな


「ああ、どうしてこうなったんだ」

 

 

 思わず声が出る。

 

 理由は単純。何か色々流されて悪の組織に入団してしまったからだ。

 

 色々話を聞いて、あの時の自分はこれが最善だと思って入社した……訳だが、取りあえず嘆させてくれ。

 

 改造されたけど、多分そこまで強くないから死ぬ気しかしない。収納能力、家で試してみたけどまじ使えない。

 

 しっかりと収納したものの質量加算してやがる。重過ぎるやつ収納したら動けなくなった。

 

 重い物を収納してから体重計に乗って太ったー!!とかして遊ぶぐらいしか能力の使い方思いつかない。

 

 

「どうせ他にも、制約とかもあるんだろうな」

 

 

 俺はそう呟く。

 

 今、一番賢い選択は悪の組織を何とかして辞めることだろう。しかし、それは契約書に書かれた叛逆行為にあたり、処罰が下される。

 

 いや、それよりも魔法少女に力を貸している、精霊の存在だ。ぶっちゃけ組織側の説明で信憑性はアレだが、その話が本当だと(いささ)か厄介なことになる。

 

 組織と魔法少女……精霊の争いはつまるところ、魔石……組織側では虹透石(こうとうせき)と呼ばれてる石の取り合い合戦みたいなものだ。

 

 

 精霊は正義を謳って魔法少女に戦わせている。しかし、俺が松村さんから説明を受けた限りだと、それは少し違うようにも思える。

 

 だからって組織こそが正義だ、なんて言ってる訳じゃない。あの組織は悪は悪だ。俺を誘拐して許可なく改造とか行ってる時点で世間一般で言う正義の部類では断じてない。

 

 恐らく、話はもう少し複雑で悪と正義を名乗った何かの争いだ。俺はそのように感じた。

 

 あの説明は、一方からの贔屭(ひいき)ありの説明だろうが、それを抜いても、やはり思うところがない訳ではない。

 

 

「……辞めるのはもう少し考えてからの方が良いだろうな」

 

 

 やっぱりそんな結論に至ってしまう。やはり、関与しない訳にはいかない。

 

 今の俺の気持ちは

 

 関与しなければ……というのが三割、悪の組織は危ない……というのが三割、そして給金が高いというのが四割といったところだ。

 

 ヤバい。俺、金にがめつ過ぎない?

 

 うだうだ考えるのは自分らしくない、と気持ちを奮い立たせ気休めだが自分を励ます。(しばら)く悪の組織で働くと決めたのだ。とりあえず、目的を達するまではあの組織で頑張ろう。

 

 

 それにしても……

 

 

「普通の改造で建物6階からの高さでも余裕。俺の場合でも4階ぐらいだったら痛む程度……かあ」

 

 

 身体強化手術で唯一今分かっていることだ。

 

 ……そう言えば、俺の部屋って二階にあるんだよなあ。今の時間は5時ちょっと。この辺だと丁度人が余り通りかからない時間帯だなあ……なんて。

 

 手術に関しては収納能力自体はしっかりと成功していてるし、身体強化に関しても成功しているのだと信用はしている。

 

 3階からでも無傷、4階ぐらいだと痛む程度かあ。

 

 

「自分の限界を知るって大切だよね」

 

 

 ぶっつけ本番で魔法少女と戦うことはないと思うが、念には念を入れておいた方が良いだろう。そう!あれだ。自分の限界を知ることって大切だしね。

 

 窓を見る。()はまだ没しておらず青々としている。

 

 今のところ足が早くなった、重いものを持つのが多少は楽になった、というのは分かっている。身体強化はある程度成功していることを確認できているのだ。

 

 

 

 俺はベランダへと出る。

 

 

 部屋の窓を出たところに少し長いベランダ。角を曲がると、妹の和水の部屋の窓あたりまで繋がっている。細長いと表現すべきベランダだ。

 

 ちゃんと出入り口は存在している。しかし構造上、俺の部屋からでも和水の部屋からでも窓から出入りすることができるのだ。出入りできた時点で使い道はないが。

 

 

 普通に出入り口から出れば良いだけだし、そもそも出たところですることがない。洗濯物とかは庭で事足りるしガチで使い余してる。

 

 

 ベランダに出てみる。高さは少し高い。目測だから細かい数字とかは分からないが充分に跳べそう。下手したら改造前の状態でも跳べるかもしれない。

 

 

「気持ち高めにジャンプをして跳んだ方が良いか」

 

 

 どれくらい丈夫なのかと言う実験なのだ。改造前でも無事かもしれない程度の高さでビビり散らしゆっくりと降りたところで高が知れてる。

 

 

 足を若干曲げ力を入れる。手を少し振ってジャンプする。立ち幅跳びの要領だろうか。全力で地面を蹴りベランダを面を踏みしめ気持ち高めにジャンプして跳ぶ。

 すると、視界が一気に高くなる。大きな浮遊感に包まれる。

 

 

「は……?」

 

 

 風を切る勢いでグンと跳躍する。そして、最高高度……ベランダのジャンプ面からだいたい5、6メートルほどまで上昇すると。合計8、9メートルぐらい。学校の階の高さで言うと3、4階程の高さ。

 

 後は当然のように落下していく。小さく叫び声を上げながら落ちる。

 俺は重力の通り落ち、顔面から地面へダイブした。

 

 

 

「ヘグッッ……!!イ…痛っ……あんま痛くない」

 

 

 凄く上空まで跳んだのは予想外だったが、身体が頑丈になっているのは確かなようだ。4階で痛い程度だから3、4階程の高さでは……少し痛いぐらいか。

 

 

「それにしてもここまでの身体能力で少女相手にボロ負けするって、相手どれほど化けもんなんだよ」

 

 

 吐き捨てるように俺は言った。

 

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「ただいまー」

 

 検証が終わり一先ず自宅に戻る。

 

 

「おかえりー!ってさっきも一回家に戻ってなかった?すぐ部屋に行ったみたいだけど」

 

「少し忘れもんがあってな」

 

 簡単に言い訳する。実は……って言っても普通に考えれば分かる通り一度玄関を通って自宅に戻っている。少し焦っていたから和水にバレないようにこっそりと家に入ったつもりだったが、見事にバレていた。

 

 コイツの気配察知能力は(あなど)れない。気がついたら背後を取られてるレベルで気配消したり、察知したりする。気配が消えてるのはデフォだが。

 

 忍びになれるのではないだろうか。

 

 

「何か食べるの買ってきてる?さっき冷蔵庫確認したんだけど、碌なものも入ってなかったよ」

 

「あー、そう言えば両親旅行に行ってたな。どうする?今から何か買いにく?それとも出前でも取るか」

 

「めんどいし出前で良いんじゃない?どうせ後からお父さん立て替えてくれるんだろうし。頻繁に旅行行けるぐらいだから、お金は大丈夫そうだし」

 

「じゃあ、弁当でも取るか」

 

 

 出前を頼むことにした。俺と和水は余り料理が得意でない。料理サイトとか見ながらだったら少しぐらいはできるが、普通に素人並みだ。後、なんか肉々しかったり濃い味すぎたりするし、碌なの作れん。

 

 

「そう言えば、かねかず。帰ってくるの思ったより遅かったよね。何かあったの?」

 

「ああ、色々あったな。まあ説明すんのめんどいし後で話すよ」

 

「ういー。分かった。あっ、そだそだ。今日友達呼んだって言ったじゃん。その話聞く?」

 

「聞かない」

 

「まさかの選択!」

 

 

 顔が自慢げで、何となく腹がたったので拒否をする。別に和水が通ってる学校の子の話を聞いたって特に益になることもないし。

 

 登校区域とかが俺が通ってた時から変わっていた筈だから母校ですらない。特に思い入れもないしどうでも良い。

 

 

「そんなこと言わずに聞けよ、私の話を」

 

「ええ、毛ほども興味ないんだけど……。今日家に友達呼んだっけ?」

 

「その通り、テレビゲームの対戦とかしたんだよー。……この前、一緒にやった協力プレイゲーム。かねかずにめちゃくちゃ妨害されたアレ」

 

「ああ、あれか」

 

「既にパワーアップしてるのに、木ノ子取るなんて外道だよ。血も涙もない」

 

 

 和水はプンスカと怒り口調でそう言う。弱いのが悪いのだ。俺は怒り気味の和水の気を逸らすべく話題を変えた。

 

 

「はは、……あっ、そう言えば、和水。お前の学校にれんちゃんって子いる?井波れんちゃん」

 

 

 どうせなら聞こうと思ってたことを今言っておく。確か彼女と和水は同じ中学であったはずだ。

 

 調査をするとき一番有効なのは身近な人に聞くことだ。多分身近じゃないと思うけど同じ学校ならある程度のことは知っているかもしれないから一応聞く。

 

 

「れんちゃんって青髪の子のこと?同じクラスにいるよ」

 

「知ってたのか。聞いても無駄かと思ってたけど知ってたか」

 

「まあ、苗字近いからね。出席番号順では私の後ろだし。……話したことないけど」

 

 

 やはり話したことがなかったのか。期待はしてなかったし別に良いけど。

 

 

「それで、伊波ちゃんがどうしたの?ストーカーしてるの?」

 

「してないわい!」

 

 

 そう突っ込むと和水は不思議そうな顔をした。俺って、ストーカーしそうな人に見えてんのか?それだったら少し落ち込む。

 

 

「実は彼女の兄に普段の素行について調べるように頼まれてまして」

 

「何で、うちの兄探偵紛いのことしてるの!」

 

「それで、れんちゃんに何か変わったことないか?」

 

「さっき言いそびれたけど、れんちゃん呼び凄いっすね、お兄さん。……えと、伊波ちゃんだよね。うー、特に変わったことはないと思うけど」

 

「そうか。だったられんちゃんと仲の良い子とか分かるか?」

 

「仲の良い子か……。結構友達いるからなあ、あの子。一番仲良さそうな子だと……弥永(やなが)ちゃんとかかな」

 

「どんな子なんだ」

 

「何か元気が有り余ってて明るく朗らかぁー、な子だよ」

 

「お前と真逆か」

 

「誰が暗くて陰鬱じゃ!!ほれ、見ろ。この可憐な美少女を!」

 

 

 辺りを見渡して見ても可憐な美少女は見当たらない。

 

 

「……で、弥永って子が最近仲良いのか」

 

「貶めるね、この兄は。数年後(あたし)の圧倒的美に平伏せ」

 

「それでその弥永って子が一番仲良いんだな」

 

「はい。……最近突然仲良くなり始めてね。性格結構違うから何があったんだろうって皆んなして噂になってて」

 

「それを(かげ)から覗く和水」

 

「ぶち殺す。……ええと、それでね。伊波ちゃんと弥永ちゃんの二人で遊びに行ったりと仲良しになっててね」

 

「ふーん。写真とかある?」

 

「クラス写真ならある」

 

 

 和水は携帯を開いて俺に写真を見せてくる。

 

 

「見せて見せて……ってお前写ってなくね?」

 

「トイレ行ってる間に撮られてて、先生も気づかなかったみたいで」

 

「いつも思ってんだけどそれ、呪われてたりしてるんじゃない?それか特殊能力とか」

 

「一度(みそぎ)にいったんだけどねえ。祓えもしたし……じゃあ残るは特殊能力かな」

 

 

 素で特殊能力持ちってヤバいな。何かの主人公なんじゃねえの?影の薄いウザキャラ。需要はないか。

 

 

 よくよく考えりゃ、特殊能力並みの影の薄さを突破して友達やってる、今日家来た子凄いな。俺も偶に見失うが、その子はどうやって和水を見つけているんだろう。

 

 

「しかし伊波ちゃんの兄に頼まれたかあ。それじゃあ、今日遊びに行ってた友達ってのがその兄って訳か」

 

「何度かウチに来たことあるけどお前、総じて居合わせなかったもんな」

 

「面倒なことに巻き込まれるような予感がしたからね。かねかずいつも何かに巻き込まれてたし」

 

「本当に危機察知能力高いな」

 

 それとも野生の勘だろうか。

 

「私が高いんじゃなくて、兄が低いだけだよ」

 

 

 和水は呆れながら呟いた。

 

 

 

◆◆

 

 

 弁当が届いた。俺は天婦羅《てんぷら》弁当。そした和水は

 

「私カツ弁。カロリー高め」

 

 

 重たいのによく食べられるな。

 

 

「それでいて、よく肥ふとらんよな。お前」

 

「へっ、まあね」

 

「根っからのインドアの癖に運動神経は良いもんな。それでいて代謝良いって、ゴリラみたく凄まじくエネルギー変換効率良いってことかな」

 

「口を開けばすぐに墓穴掘るね、この兄は。妹をゴリラで例えるなクソが。普段の筋トレ様々よ。褒め称たたえよ」

 

 筋肉至上主義者が何やら宣っている。

 

 

「凄い凄い。……んで、早く食べようぜ」

 

「賛成。忘れてたけど私あたし特番のクイズ番組みたかったんだ」

 

 和水はテレビのリモコンを手に取るとテレビの電源を起動させた。

 

 

 

「しかし、安かったね、弁当。何かあったのかな?」

 

「さあ、お金は後で立て替えて貰う訳だからどうでも良いけど」

 

 

 もっと言えばこの浮いたお金分あの両親は旅行する金に消えるのだが。

 

 

「天婦羅美味い?カツ一つあげるから天婦羅一個ちょーだい」

 

「カツは弁当内に何個か入ってるみたいだが天婦羅弁当には天婦羅が二つしか入ってないんだよ。価値が釣り合ってねえよ」

 

「こう言う時こそ優しさをアピールするんだよ。お兄ちゃんは大好きな和水ちゃんの為なら……って」

 

「大好きな和水ちゃんを甘やかすことはできないから、やらない」

 

「兄貴はいっぺん甘やかすという言葉を調べた方が良いよ」

 

「和水こそ等価という言葉を調べるべきだと思う」

 

「等価交換?…… ポラーニ・カーロイ。人間経済は交換・互恵・市場の三要素に類例できる。その内の交換に値する言葉である」

 

「何で何も見ずに、そんな詳《つまびら》かに説明できんだよ」

 

 俺の経済学の知識は『神の見えざる手』で止まっている。経済学は管轄外だ。

 

 

「まあ、天婦羅は良いよ。今日はそこそこ機嫌良いし」

 

「機嫌悪いときのお前は見たことないがな」

 

「良いんだよ。こう言うのは言ってなんぼなよ。機嫌なんて曖昧なもん言い切りゃ。言ったもん勝ちなんだし」

 

「そんなもんかね」

 

「そんなもんだよ。そだ、さっきも聞いたけど、今日何をしてたの?」

 

 

 これに関して、既に誤魔化しの言い訳は考えてある。しかし、誤魔化したところで勘の鋭い妹だ。後々絶対にバレるだろう。

 しかし正直に話すのも憚はばかられる。上手いこと、和水には言って良いこと不味いことの見極めをしなければならない。

 

「商店街の行きしな少しだけ話したけどれんちゃんの兄に頼まれごとされてね。それの相談。後は……」

 

「あとは?」

 

 可愛らしく首を傾げて訊ねてくる。

 

 絶対に言っちゃいけないのは悪の組織だと言うこと、魔法少女の存在、魔法的な石、組織の目的……とかだろうな。

 

 

 そう考えると俺は言葉をよく吟味してから選んび紡いだ。

 

「そう……だな、ちょっと改造手術受けて怪人として組織に入団?したかな」

 

「れっ……何か無視しちゃいけない単語がちらほら聞こえた気がするんだけど?!」

 

「驚く顔が見たくて」

 

「ああ、そうだよね。何か顔と口調がマジっぽくて」

 

「話しちゃいけないかも知れないこと言っちゃったよ」

 

「ジョークじゃない?!」

 

 やっぱり良いリアクションするな……。まあこの辺は別に問題ないレベルだろう。和水には少し手を貸して貰いたかったからっていう考えがあってのことだけど。

 どうせ勘が鋭くてバレるんだしある程度言っておいて協力して貰うのが一番だろう。和水には大抵のことは言っても良いとも思う。

 て言うか和水相手に隠しごとを隠し通せた記憶もない。なら危険じゃない程度に巻き込んどいた方が、下手に首を突っ込むより良いんじゃないか的な思考だ。

 

 我ながら頭が悪い考えだ。

 

 頭が悪く柔軟なことが出来ず、パニックに陥ったら自分でも何やってるか分からなくなることに定評のある俺ならではの発想だ……。取りあえず、自分を酷評しておいて気持ちを鎮める。

 

 決して、ただただ和水を驚かせていぢりたいみたいな思考ではないことを誓おう。そんなこと三割程度しか思ってない。

 

 

「改造ってマジ?かねかず。何一人でファンタジーの世界に飛び込んでんの。後入団!入社すぐの倒産からの得体の知れぬ組織への入団。待って全然追いつかない」

 

「和水を吃驚させたくてね、聞かれるまで黙ってたんだよ。サプラーイズ」

 

「嫌なサプライズなんてものが、リアルにあるなんて初めて知ったよ!何なの?サプライズに命かけてるの?驚かせたくて改造されたの。てか改造って具体的に何なの?」

 

 怒濤の勢いで和水が聞いてくる。何か焦ってる顔って唆そそるよね。何か良いよね。

 

 

「おい、勝手に満足するな、ごら。こちとら全く把握できてないんだよ。まだ一番気になる単語の怪人とやらが聞けてないんだよ」

 

「和水ちゃんよく口調荒げるよね。これが若いってことなのかな」

 

「私あたしが口調荒げるの大体兄の所為せいだと思うんだよ」

 

「そんなことより、詳細聞きたくないの」

 

「聞きたいよ!」

 

 組織の目的、魔法少女、魔法的な石、後は悪の組織であること以外を話してみた。

 

 

「うわー。じゃあ一回帰って来てから二階から飛び降りたんだ。てか、怪人ってマジ。今のかねかずって人権とかあんの?人間から逸脱してそうじゃん怪人て。日本国憲法は人間に適用される憲法だよ」

 

「俺人間じゃないの?……そう言えばアニメてかで見る怪人って怪物みたいだし。いや、と言っても人型だし誤魔化せるだろ」

 

「あと改造施した組織何もんなの?無理矢理改造した感否めないし。普通に悪だよ。その組織」

 

 悪の組織ということ説明してないけど普通にバレてる。そりゃあバレるだろうけど。俺が自ら改造する動機なんてない訳だし、気がついたら改造されてたとしか言えないからなんだけども。

 

 

「随分と面白い状況になったもんだねー。かねかずが何かやらかすことには慣れたつもりではあったんだけど、思い直した方が良いな」

 

「今までのは、俺がやらかしたんじゃなくて、大体は周りが引き起こしたことなんだけどな」

 

「やらかしたことに乗っかったのはかねかず自身なんだけどね」

 

「面白いことに乗っからないのは俺の礼儀上違反することになるからな」

 

「あれ?!そんな厄介な性格してたっけか。うちの兄は」

 

「そして今回の組織の件を無事乗り切る為には和水の協力が不可欠だ」

 

「私あたし巻き込まれんの!?」

 

 主に両親への言い訳等だけどな。と言う訳で協力者ゲットだぜ!!

 

 ……テンション上げても危機的状況は変わらなかった。

 




新たに名前が出てきた人


彌永(やなが)五夢(いつむ)
 青髪少女の友達。赤っぽい髪をしている。


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7話

書き置きないのにどうして投稿しているのか。それは後のことを考えていないからだ。


「それじゃあ対策をはじめよう!」

 

 

「じゃあ先ず、かねかずの改造された現在の力について(まと)めていこうと思います」

 

 

 和水が司会者気取りで俺に言い放つ。実際司会を任せたので気取りでも問題無いが、普段の駄目人間ぶりから考えると凄く腹立たしい。

 いざというときに頼りになる女、それが『井東和水』だよ、と(のたま)っていたが本当にうざかった。

 

 現在地はリビングから移って俺の部屋。こういう作戦会議的なものは雰囲気が大切だと、満場一致の意見で場所が移されたのだ。満場って言っても二人だけなんだが。

 

 改造された現在の力……、そのことについては松村さんからある程度の情報は貰っていた。勿論、中途半端な身体強化手術になったのは初めての例なので多少臆測(おくそく)も混ざるが、と前置きされたが。

 

 自分的には、体力テストとかだったら余裕でA取れるぐらいには強化されているように思う。

 

 強化はおそらく足の筋肉を中心に施したと思われる。足が速くなったりジャンプ力が大幅に上がったりしているのでそれは明白だと思う。

 反対に腕や胸とかの筋肉は余り強化されていないように思える。元からそこそこ鍛えていたっていうのもあるのだろうが、変化が少ししか感じられないのだ。

 

 松村さん曰く、『足の強化を優先した方が実戦では役に立つ』とかなんとか言っていたので意図的にそういう風に改造したのだろう。攻撃を避けたり先手を取ることが出来たりと色々考えがあるのだと思う。

 

 

「私から見て左手にあるリビングから飛び降りて無傷でいられた。その際上方に5、6メートル程上昇して計8、9メートルで無事だったってことだね。私がその距離下方へ落下したとすると……まあ無事では無いよね。最悪南無(なむ)るよ」

 

「まあ、そうだよな。上方に跳ばなかったとしても頭から行ったら普通に危険だしな」

 

「身体が物凄く頑丈になってて、足の強化で逃げるのも容易くなった。守りに力でも入れてんのかね。その改造ってのは」

 

「腕の力自体も強化されてるみたいだけど……例えば片手で勉強机を持ち上げろ……と、なってくると無理があるかな、ぐらいの強化だしな。それでも十分凄いんだけど」

 

「その組織の科学力パないね。組織の敵と戦う為にそこまでの力注ぐかってぐらいの力だよ。ガチめの怪物と戦うんじゃないの?」

 

「怪物とは言い難いけど……説明通りなら似たようなものかもしれない」

 

「うわー、絶対危険じゃないですかやだ。今から辞めても遅くないんじゃないの」

 

 

 組織の目的と相手の目的とを考えてみたらそれもできない。知ってしまった以上、辞めるという選択肢はなくなっているようなものだ。

 

「辞めないってならせめて、危険を少し減らす為の手伝いをさせて貰うしかないんだけどね」

 

 和水は俺の態度に諦めたように呟く。それにしても、と彼女は付け加えて言う。

 

 

「何度見てもグロいねえ。身体から物体が浮かび上がるの」

 

 

 現在、和水の指示で身体への物体の収納を実演しているところだ。具体的にどんな改造されたのか訊ねられた際にこのことを言って見たところ、イメージが湧かなかったらしく実演してくれとせがまれた訳だ。

 しかし、実演してくれと言ったのはそっちなのにグロいとか言うのはなしだと思う。少し傷つく。

 

「収納できるのは身体の体積分だけらしいよ。あと、今気づいたけど入れた物の重さを感じる気がする」

 

「へえ、それじゃあそこにあるダンベルでも収納してみて」

 

「ああ、分かった。……って、おお。体重が一気に増したような感覚。物凄く重い」

 

「持ち運べるのは自分の体積分で重さは当然感じると。……えっ、漫画とかでよく見る収納魔法と比べて使い勝手悪くない?」

 

「そりゃしょうがないだろ。身体に覆った膜みたいなもんの内側に入れれるんだったら。現実的に膜の覆った分しか入らないだろうし、膜自体持ち運んでるんだからそこに入ってる物体の質量分も持ち運ぶことになるだろうか」

 

「ファンタジー的な膜の前にそんなこと言われた?!」

 

 

 衝撃的な顔をする和水。

 

 しかしねえ……。現実的に考えると質量保存則があってどうしようもないし。核反応でも起こせない限り質量保存則は乗り切れない訳で。身体に収納したところで重さが軽くなる筈がなく。

 

 和水の方を見る。

 

 

「……」

 

「現実的に考えろ、このクソ妹みたいな顔で見られた!?」

 

「現実的に考え」

 

「口に出さなくて良いよ!」

 

 止められた。少し残念だ。

 

「まあ現実的、に考えると変わる訳ないんだね。それだったらエネルギー保存則とかはどうなってるの。例えば、勢い良く収納したものは勢い良く飛び出したりすんの?」

 

 現実的を偉く強調して和水が訊ねる。

 

 

「うーん。どうだろ。一旦そこのテニスボール俺に向かって投げてみてくれ」

 

 和水は『わかったー』と答えると机の上に置いてあったテニスボールを(つか)む。

 昔無性にテニスをやりたくなり買うだけ買って使わなくなったボールが役に立つとは。

 

 

「いくよー。……せいっ!」

 

 和水が手からテニスボールが放たれる。ボールはふわふわと弧を描きながら俺の身体へと飛んでゆく。そのまま飛んでいくと丁度俺の首辺りにぶつかるのだろうか。

 身体に当たる少し前の位置に手を出す。間違ってキャッチしないようにボールを取り込むイメージを少しする。

 

 何も意識しないで取り込めたらそれこそ日常生活が大変だろうから、当然の手間だ。最初の時、意識しないで出来ていたのは何だったんだ……といった感じだがよくよく考えると何らかの切っ掛けがあって発動していた。

 

 何かやばいこと言ってる人がいる!通報しなくちゃ……的な切っ掛けで発動したんだろう。ただの推測でしかないが。

 

 

 俺がボールを取り込もうと意識したお陰かどうか分からないが、テニスボールは俺の手の平に触れるとするりと身体の中に吸い込まれた。

 

 これで勢いよく吸い込まれたことになる。若干頼りない速さの球であったが、一応運動エネルギー的にはまあ良いだろうと言える程度の速さだった。

 

 何とはなしにそのまま前に向かってボールを出してみる。

 

「うわー、ホント凄いね。身体の中にボールが吸い込まれ、ヘウッ!」

 

 何かふむふむ考えてた和水の脳天にボールが着弾した。

 

 あー、……取りあえずエネルギーは保存されるのか。先に試しといてよかったな。使いようによっては結構危険そうだ。

 

 なる程なる程。

 

 

「頭をおさえて(うずくま)ってる私に何か言うことはないのか!この畜生が!」

 

「あぁ、和水さんきゅーな」

 

「私が求めているのは感謝ではなく謝罪だ!勢いないとは言え、突然飛んできたから結構なショックだったんだぞ」

 

「ごめんごめん。頭、大丈夫?」

 

「煽りにしか聞こえん!」

 

 

 ぴーぴーと(わめ)く和水。しかし、ホントにツッコミ上手くなってきたな。早めにコンビ組んだ方が得策かな。

 

「感心すんな。早く謝れ」

 

「すみませんでした」

 

 ガチ謝りを一つ入れる。まさか、エネルギーが保存されてるとは思っていなかった。

 

「まあ、私からやろうって言い出したことだしね。別に良いよ。……それよりエネルギー保存されるってことは色々できることが広がるね」

 

 

 出来ることが大幅に広がりそうな発見だ。和水は少し考える素振りを見せると大袈裟に手をポンと叩くと言った。

 

「ナイフとか思いっ切り刺してみるのはどう?失敗すれば憂さ晴らしになるし、成功したら飛びナイフみたいになるし」

 

「本当に申し訳ありませんでしたぁッッ!!」

 

 

 床に穴を開ける勢いで誠心誠意、本気で謝る。やばいこの妹。()る気だ。ガチでやばい。

 それに成功したとしても危険過ぎる。それ、下手しなくても人死ぬ奴だ。やばい。語彙がやばいしかなくなるレベルでやばい。

 

 

「うおっ。冗談だったのにこれ程までの効果があるとは」

 

 こんなこと言ってるがアテにはなるまい。許して貰えたーと思って顔を上げた途端、『だが赦したとは言ってない』とナイフ片手に言われるような気がする。

 

「言わないよ?!私を何だと思ってるの!」

 

「気の所為じゃなかったら和水、今心読まなかったか?!」

 

 

 そう言って俺は和水の顔を見る。和水は、勘で言ったんだけど当たった?!私の読心の才能怖ぁ!みたいな顔をしていた。

 

 うわ、案外読心って出来るもんなんだな。

 

 しみじみと思った。

 

 

「ナイフは冗談にしても、例えばさっきみたいにボールを取り込んで『ガトリング砲だぁぁ!!』みたいなことも出来そうだねえ」

 

「普通に凶器だぞ、それ。うーん……やるとしても水鉄砲ぐらいじゃないか?」

 

「そんでもって、その水圧を以て人体をスライスすると?」

 

「すると?……じゃねえよ!それただの殺人鬼じゃねえか。他人事だと思って適当になりやがって……それやって捕まるのは俺だぞ」

 

「あくまで驚かせたり怯ませたりとサポート用に回す訳か。その能力と身体能力で何とか乗り切ろうと言う訳でよろしい?」

 

「よろしい」

 

「……まあ、アレだよ。やばくなったら命乞いすれば良いんだよ。何とか詭弁に詭弁を重ねて乗り切れば。正直それぐらいしか思い浮かばないよ」

 

「それだけ聞くともの凄く雑魚キャラ感があるな」

 

「大丈夫。それで何か功績あげても私の中では永久に雑魚キャラ扱いしてあげるからね」

 

「フォローのフの字も聞こえないな!」

 

 別に期待してなかったけど。

 

 

「正直言って対策とかってこれくらいじゃない?詳しい経緯(いきさつ)とかは知らないけど、今の能力で出来ることっていったらこんなもんでしょ」

 

「でもなー、このままじゃ瞬殺されそうだしなあ。瞬ころだよ。何とか自衛だけでと出来れば良いんだけど」

 

「カー○ィみたいに取り込んだものの能力コピーしたり出来ない訳?」

 

「出来ないよ。出来たとしてもそんな伏字含むような芸当はしない」

 

「んーーそうかあ……うん。自衛かあ……」

 

 俺の言葉に思案する様子を見せる和水。と、言っても自衛となると厳しいものがあると思う。

 

「んっ?少し思い付いたんだけど……例えば、収納したものって中でどれくらい自由に扱える?」

 

「えっと……ある程度は自由に動かせるよ。中で納豆かき混ぜれるぐらいには」

 

「例えが何か引っ掛かるけど、……それは置いておこう。それなら一つ、案を思い付いたんだよ」

 

「出来るかどうかは置いて話してみてよ」

 

「さっき見せて貰った感じなんだけどね……」

 

 

 和水はこれが出来たら面白いことになる、と言った感じで話し出す。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

「と、いう訳で、今日は魔法少女との戦いの見学をして貰います」

 

 

 組織に着くや否や俺に向かって松村さんがそう言い放った。

 

 

「いやいやいや、唐突じゃないですか!なんか、こう……、説明的な何かがあっても良いと思うんですけど!」

 

 

 松村さんの言葉に少し反論してみる。

 

 昨日、入団の契約書を書いた翌日だ。もう少し心を定める時間が欲しい。

 そのときにはテンションがこう……ハイになっていた影響でイエスと応えてしまったけれど少しは反論はしたい。

 

 正直に何が起こるか分からない事柄は怖く、恐ろしい。

 

「なんか文句を言ったって問答無用なんだよ。今回ただ見て貰うんだけだし大丈夫だよ。ウチの数少ない戦闘員たちもそうやって成長していったんだからね」

 

「戦闘員って確か、俺の身体能力改造を数倍ぐらい強化したバケモンでしたっけ」

 

「強化って言ってもただただパワーがあるだけで特殊能力も何もない、一般の戦闘員だよ。その点キミは怪人だ。区別して扱われるから」

 

 

 (ただ)しその分どちらの力も半端なんだよな。普通に戦うと戦闘員には負けそうだ。

 昨日、和水と喋ったナイフライフルやガトリング砲は戦闘員の命の方を奪いかねないので何をしようにも使い勝手が悪い。

 

「ほら、そう悲観しないで。まだ怪人の実験段階でキミはプロトタイプ、初号機みたいなもんだし多少失敗しても問題ないよ。それに手術を耐え切っただけでもう十分凄いしね」

 

「耐え切った?」

 

「普通に考えて、身体能力を著しく上昇させる手術なんてその分負担が重くなるに決まってるんだ」

 

 

 その手術さえキツいのにまだ実験段階の怪人手術をも耐え切ったんだ。感嘆に(あたい)するよ、と松村さんは続けた。

 

 うーん、そう考えたら凄いのか?そう言えば、身体に集まってる謎パワーでこの収納能力を維持してるとか言ってた。それも怪人としての資格の一つかも知れない。

 

 結局、今まで謎パワーが過充電気味に筋肉に集まっていたのに (松村さん曰く)パーになっていない理由なんかも不明な侭だ。

 

 だから、不明瞭な点をもう少し減らしたかった。考える時間が欲しかった。今の自分の能力を確認、練習する期間がもう少し欲しかった。

 

 そんなことを思ってしまう。まあ、どれだけ準備したところで不安は拭えないのだから変わりはないのだが。

 

 

「魔法少女なんて自称してる集団なんて碌なもんじゃないと思うんすよ。もう少し期間空けましょう」

 

「その言い分だと、悪の組織自称してるウチも同じだよ。さっ、準備しようよ準備」

 

 

 そう言って、松村さんは先程の如く(かご)を俺の前に持ち出す。…………。

 

「……本当にこんな服着るんですか」

 

「……こうやって、戦闘員たちは成長して来たんだよ」

 

「その口上二度目ですよ!」

 

 

 準備不足とか情報不足とか色々理由はある。それは確かだ。しかし一番の理由は他にある。

 

 

「今どき、戦隊ヒーローものでも見ませんよ!こんな全身黒タイツの奴なんて!!」

 

「ボスの趣味を侮辱するなあぁぁ!!ボスと幹部たちの会議で数時間考えた末に完成した代物なんだぞ!!」

 

「デザイナーを通して考えろ!何で全身黒タイツなんだよ。圧倒的、不審者の鑑ですよ!!鏡見ろ!」

 

 

 口調が荒くなる。しかし、これはしょうがないとしか言いようがない。だって、これはないだろう。

 

 全身黒タイツに目と鼻と口の部分が赤くくり抜かれた仕様のもの。いや、これはない。ダサいなんてレベルではない。潰滅(かいめつ)的だ。

 今世紀にこんなものお目にかかれるとは思わなかった。

 

 

「ははは……乾いた声しか出ないな。アレだよ。ボスから見せられたときコレやばいなーとは思っていたよ。でも逆らえないしなぁって」

 

「そういう社会の不条理を押し返してこそ、反社会なんじゃないですか!松村さんだってやばいと思ってますし」

 

「ボスが突然戦闘員用の制服をつくると言った時点で何か不吉な予感はしたんだよ。でもまさかこんなのが出来上がる何て予想だにしなくて」

 

「……着るんですか」

 

 

 タイムマシンがあれば、戦闘員用の制服つくるなんて言い出した頃のボスを一発殴りに行きたい。

 

 ……ん、まてよ?戦闘員用の制服?

 

 

「さっき、俺のことを戦闘員とは区別して扱うって言ってましたよね。戦闘員と怪人は別の存在であると。これは何の服ですか」

 

「戦闘員用の服……」

 

「つまりは、それを着なくても良い……と」

 

「いやいやいや、流石にそれはアレかなぁーって。何というかズルいというか。ぶっちゃけ昔の僕の屈辱をキミにも味わって欲しいとかじゃなくて」

 

「……」

 

「ほら、一蓮托生とか。一心同体……とか。死なば諸共とか言うじゃない。ここは一つ、ねえ」

 

「……」

 

「分かった。装飾ありにしよう!それで区分は出来ることになる」

 

「……」

 

「えっ、結構妥協と思うんですけど……。装飾ありだよ。カッコいいじゃん。……決して僕が怒られるのが怖いから許してないとか、そんなんじゃないんだけど」

 

「……」

 

「……もう大丈夫です。後で一度ボスに掛け合ってみるよ。取りあえず私服で良いよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 井東くん怖い……と小さく呟く松村さんの声が聞こえる。ぼくにはなんのことだかさっぱりわからなかったです。

 

 平仮名だけの文ってもの凄く頭悪そうに見えるね。今気づいた。

 

 

「あっ、怪人用のコスチューム案出来たら一度見せて下さい。流石にあの衣装つくった人たちに任せっきりは絶対ヤバいと思います。ホント真面目に」

 

「それでもある程度はダサくなるとは思うけどね。やっぱり顔は隠さないとまずいしね」

 

 ──全身黒タイツの話は顔の時点ではないです。もう全てがやばいです──

 

 そんな言葉が脳裏に浮かんだが敢えて口にはしなかった。ちゃんとチェックすれば問題ないのだし。

 

「衣装の件は取りあえず解決したってことで……お待ちかねの魔法少女との対面といこうか」

 

「見学だけなら別に良いんですけど、こう……会おうと思って会える相手なんすか?何か拠点とか構えてたりするとか」

 

「いや、決まった拠点があるという情報はないね」

 

「魔法少女が活動する時間がある程度決まっていて予想できるとか?」

 

「そりゃあ、相手は見たところ成人しているようには見えないし学校とかがある時間……とか深夜とかは流石に現れないみたいだけど、いつ現れるかって言うのは予想出来ないね」

 

「それじゃあ、どうやって対面するんですか?これじゃあ打つ手がないように思えますが」

 

「相手もウチも狙っているものは同じだって話は昨日したよね」

 

「魔法石みたいな奴ですよね」

 

 

 ウチ側からの呼称は虹透石なんだけどね……と、松村さんは付け足す。

 

「つまりだね。良い感じの時間に虹透石を持って良い感じの場所で(たむろ)ってたら現れるわけだよ」

 

「そんな釣り針に魚がかかるみたいな方法で現れるんすか。早速馬鹿みたいにな感じがしてきましたよ」

 

「どうやら、相手は虹透石を探し出す高度な電探(レーダー)を所有しているみたいでね」

 

「へえ、凄いですね」

 

「ウチも頑張って、虹透石から出る何らかのエネルギーに反応する電探は開発したんだけどねえ。いかんせん精度が低くてね。金ばっかりはあるから反応したとこ総当たりみたいな感じで集めているけどね」

 

 

 なるほど。そのレーダーは電気じゃなくて俗に言う魔力的な奴を目印に探し出す感じか。レーダーの訳語の電探は電波探知機と言う。

 

 それなら魔力波探知機で、魔探と漢字当てる感じかな。

 

「それでその電探を奪い取るのも戦闘員の役目だったりするんですか?」

 

「いや、まだ研究が進んでないだけでウチもいずれその電探より高度なものを開発出来そうなんだ。確かに欲しいと言えば欲しいけど、優先順位としては低いかな」

 

 

 どうやら、魔法少女に変身するための何らかを無効化させる。それと、組織が石探すのを邪魔されないようにする陽動が一番の目的らしい。

 そもそも、石が色々なところに存在するなら良かったのだが生憎石が発見されているのは此処の地域だけらしい。だからこそ魔法少女はこの地域において存在し、ウチの戦闘員もこの地域に存在する。

 

 電探の方もこの地域を中心に反応を見せいてるらしく、此処には何らかの基点があると考えられている。

 

 

「兎も角、石で少女を釣るんですね」

 

「言い方が微妙に危ないけど……そう言うことだよ」

 

 ……ああ、変装とかして行った方が良いかな。今回観戦するだけだし目立たないように。

 

「ええと、幹部の強い人一人と戦闘員十五名で行くんでしたっけ。戦闘員一人だけでも凄そうなのに十五名も……。凄いですね」

 

「本当にやばい相手だからね。だからこそ、奇策としてキミを投入することにしたんだ。キミを普通に戦闘員にした方がキミのスペック的には効率良かったのかも知れないけどね」

 

 圧倒的劣勢なのはウチだからね。大きな賭けをしないと埋められる差じゃないんだよ。松村さんは続けた。

 

 

「まあ、行けば分かるよ。彼らはすでに魔法少女を待ち伏せしている。彼女たちの傾向的にはそろそろ始まる頃だよ」

 

 

 場所を教えて貰い俺は目的地に向かうことにした。

 

 

 

◆◆

 

 

 山を少し登ったところにある第四公園。大きなグラウンドだけで遊具がなく閑散とした公園。前回は町外れにあった公園で戦っていたのだが……。もしかして、公園で戦うのがデフォなのかな。

 

 着くとそこではフリフリの服を着た二人の少女が仮面を付けた男率いる黒タイツ怪人たちが対立して立っている光景が見られた。

 

 

 何とか間に合ったか。まさかすでに待ち伏せ作戦が実施されているなんて思わなかった。俺が服装のことであーだこーだやっている間に事態は進展していたようである。

 

 

 

 

 

「やっぱり、見覚えのある顔だな」

 

 

 公園のグラウンドの中心あたりで何かを言い合っている集団に目を向ける。

 

 

 一方は、黒のタイツ姿の怪しい男たちの集まりで、もう一方は、煌びやかなドレスのようなものを着た幼気な少女二人だ。

 

 魔法少女と言うぐらいなのだから、あの二人の少女のことなのだろう。

 

 

「しかし、随分と派手だな。昨日は遠目だったから分からなかったが、ピンク髪に赤を基調としたドレス。水色の髪に青を基調としたドレス……ゴスロリって奴かな」

 

 

 俺はそう呟く。

 

 

「そうだ。一応携帯で動画でも撮ろうかな。この際、盗撮とかは考えないで」

 

 そう呟くと体内で携帯を操作する。事前に体内に携帯を入れておいて良かった。画面は見えないが録画モードになっていることだろう。昨日の作戦会議で思いついた能力の使い方だ。

 問題は取り込んだ後でもちゃんと撮影出来るのかだが、それは確認済みだ。結構クリアに撮影できる。

 

 

 それと、魔法少女との戦いは割愛させて頂く。流れは昨日と殆ど同じで魔法少女の勝利。しかし、今回の目的は魔法少女を倒すことではなく、魔法少女を消耗させることだったよう。俺へのお膳立てのようなものだ。

 

 連日で力は弱らせたから、怪人一号、やってくれよ……みたいな。

 

 今日の戦い振りを見るに守り中心だったから、そう言うことだろう。それか、巨大な魔石を発見して小さな魔石を囮に陽動しているか。ともかく、組織側も何らかを考えてのこの行動なのだろう。

 

 ともかく、俺に命令されたことは魔法少女の無力化だ。弱っている今日明日の間に何か行動を取ることにしよう。

 

 俺はそう考えた。

 

 

 そして、その行動を取るタイミングは意外と早く訪れることとなった。



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8話

クソダサTシャツでパリコレ歩きたい。


「あっ、……えと、こんにちは。銃一さん」

 

 

 魔法少女の戦いを見た後、一度自宅へと帰る途中の所で、後ろから声を掛けられた。振り返ってみると一人の少女が立っていた。(あき)の妹、伊波れんだ。

 

 俺は、少なからず動揺する。向こうから話し掛けてくるなんて、今までなかったからだ。

 

 何か心情の変化でもあったのだろうか。

 

 

 

「こんにちは、れんちゃん。何処かからの帰り道?」

 

 俺は平静を保ちながらそう尋ねる。

 

 

「は、はい。友達と遊んだ、帰りなんです」

 

「……うん。そうなんだ」

 

 

 先程から何故か、彼女の顔を見ていると何かを思い出しそうになる。

 

 

 でも、そのことを考えようとすると頭の中で、何かがその思考を妨げてくるような感覚がする。昨日会ったときには感じられなかった感覚だ。

 

 違和感を覚えながらも、今はそれを気にしないでおく。深く考える意味もないし、それについて考えると何だか、頭が痛くなってきたからだ。

 

 そんなことを考えている間に、彼女は一度深呼吸をする。

 

 

 

「じ、実は昨日。兄に注意させられまして。あ、あんな対応を取ったら失礼だ、と」

 

 彼女の言葉に、む……と考えさせられる。

 

 

 なるほど。鏡が、俺と彼女の話す機会を設けようと工作してくれたのだと悟った。

 

 彼女の件は、悪の組織の件で一杯一杯になっていたため、すっかり忘れて仕舞っていた。

 

 そうか。フォローをしてくれたのか。話を聞き出すにしても、直接話す方が遙かに簡単だし助かった。ん

 

 

「大丈夫、気にしてないよ。でも、折角だかられんちゃんとはゆっくり話して見たいね」

 

 取り敢えず二人きりで話す場を作ることに尽力する。

 

「え、あ。私とですか?……は、はい」

 

 語調が弱くなる。しかし、その言葉はハッキリと聞こえた。このあと、連絡先を交換するなり、悩み事を聞くなりどうとでもなるだろう。一先ず、連絡先でも渡そうか。

 

 そう思うと俺は、メモ帳に連絡先を書きその(ページ)を破って彼女に差し出す。

 

「これ連絡先。俺の連絡先知らなかったよね」

 

「え、ええ?!」

 

 ここまで来たら、多少強引にいってもいけるハズだ。

 

 と、言うか強引に言わないと受け取って貰えないかも知れないし。

 

 

 とかく、今は彼女が以前言った、嫌っていないという発言を信じてアタックあるのみである。

 

 

「え、いめ……。いぁなんで」

 

 彼女は小さな言葉で呟く。聞こえているには聞こえているが、早口で舌が回っていないため上手く聞き取れない。

 

 

「そ、それじゃあ。取り敢えず、一緒に、歩きましょう。それが、いいです」

 

 彼女は顔を赤くして答える。……赤く?先ほどまで蒼かったのに何で。急速に血流が戻って赤くなったって所か。

 

 いや、そんなことより彼女の発言だ。これは俺に取っても都合が良い。

 

 

 

 俺は彼女の言葉に項突(うなづ)くと、彼女の家の方角へと歩き出した。

 

 

「銃一さん、さ、行きましょ。え、ね」

 

 

 彼女はそう言うと積極的に俺の手を引いて前へと進む。今までの行動が噓みたいだ。

 

 彼女は俺の手の先だけを引っ張る。彼女の手は妙に汗ばんでいて少し滑る。いや、もしかしたら俺の手が汗ばんでいるのかも知れない。

 嫌われているかも知れない彼女と話すのに、多少なりとも緊張していたのだ。

 

 

 でも今は、彼女が手を引いてくれているのもあり、そこまで嫌われてはいないというのが分かる。少し安心だ。

 

 だが、なぜ今は普通に話せているのだろうか。

 

 

 

「それにしても、偶然ですね。どうしてこんな所へ?」

 

 彼女は今までの吃りっぷりが噓のようにスラスラと喋る。表情も明るめで楽しそうだ。一体全体どうしたの言うのか。皆目見当がつかない。

 

 しかし好都合だ。それに無理に聞いて又ぎこちなくなるのも遣る瀬ない。

 

 彼女の質問に答える。

 

 

「バイト帰りだよ。れんちゃんは友達と遊んでたんだっけ」

 

 噓を吐く。悪の組織の仕事の帰り……なんて言える訳がないのでしょうがない。書類上はあの組織の表向きの会社に雇われたことになっているが、昨日の今日で就職したと言うのも怪しい。

 結果、アルバイトを続けていると言うしかない。

 

 彼女はへえー、と相槌を打つと俺の質問に答える。

 

 

「友達……。そうですそうです。友達の家この近くにあるんですよ」

 

「へえ。友達ってどんな子なのかな」

 

 

 自然に聞けた。俺は心の中で満足気に呟く。

 

 (あき)の相談の中に部屋の中で、長時間友達と電話をしていると言うのかあった。ただ電話しているだけなら良いが、それに関して何か隠していることがあるとも、彼は言っていた。

 

 妹の話だと彼女と仲の良い友達が一人居たはずだ。妹自身は話し掛けれてないが。

 

 

「どんな子、ですか。彼女、いつむちゃんと言うのですが、中々に可愛い子ですよ」

 

 

 

 後ろからバタンと大きな音が聞こえる。何だと振り返ると何も居ない。

 

 何の音だったのか。

 

 

「人のことを思って行動する、何か善性の固まりみたいな子で」

 

 

 又もや後ろから、音が鳴る。先程より小さな音。それは小刻みに震えているような音で。

 

 どうせ、ネコか何かだろう。深く考えないことにする。それより彼女の友達の話だ。

 

 

「彼女と、仲良くなった切っ掛けとかって?」

 

 追求する。万一、不良仲間とかだったら目も当てられないからだ。聞いてる限りだとそれはなさそうだが。

 

「ん、そうだね。ちょっとしたチームの仲間かな」

 

 チーム。少しボカされた感覚だ。学校の班が一緒とかならボカす必要がないだろうし、何のチームなのか。

 

 

 

「れんちゃんは最近、悩みとかない?」

 

 

 この攻め方では何も聞き出せないと悟り、直接悩みを聞くことにした。

 このぐらいの質問なら日常会話のウチだろう。彼女も特段疑問に思わず答えようとしている。

 

 しかし、

 

 

「悩みですか。今は全くないですよ」

 

 

 彼女はきっぱりとそう言う。見たところ噓は吐いてなさそうだ。ここで、追求するのは怪しすぎる。悪手だ。

 

 俺はどうしようかと悩んで彼女を見つめる。

 

 

 

 大きな瞳に童顔で、小さな背に青っぽい髪。

 

 

 ジッと、その特徴的な青っぽい髪を眺める。髪は背中まで届くぐらいの長さに切られており、前髪はキチンと整えられている。

 

 

(どうも、この髪を見ると何かを思い出しそうになる)

 

 

 ふと、彼女の髪をもう一度見ると、三日月をモチーフにした髪飾りを付けているのに気がついた。

 

「あっ」

 

 

 ちょっと待てよと思う。

 

 あの髪飾り何処かで見たことがある。それは何処か、答えは魔法少女の髪に……だ。

 

 アレは確かに、魔法少女が付けていた物だった。そんな思考が頭を(よぎ)る。

 

 俺は彼女にことわりを入れて携帯を開く。先程撮った動画を開くためだ。彼女に見られないように慎重に……だ。

 

 

 魔法少女の水色の方の姿を見る。何だか雰囲気が違うが、顔がとても似ている。いや、似ているどころではなくそのままだ。そして、極めつけは髪飾り。今、彼女が付けているものと全く同じである。

 

 彼女を見る。確かに似ている。どうしてこんなに似ているのに、気が付かなかったのだろうか。

 

 彼女は十中八九、魔法少女だ。

 

 

 ゴクリと唾を呑み込む。よもやこんな事態になろうとは。そもそも、何故今の今まで気が付かなかったのだろう。魔法的な力が掛かっているのだろうか。

 

 

「ど、どうしたのですか、銃一さん。何か気になることでも、あるんですか」

 

 長く見つめていたからだろうか。彼女の吃りが少し戻ってきている。

 

 しかし、気になることか。

 

 

 俺は彼女の手首を摑んで言った。

 

 

「キミのことが気になっているんだよ」

 

 

 ここで彼女を逃してはならないと思った。




コイツ、言葉選び最悪では。


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9話

タグに勘違い入れた方が良いかな。例の如く書き置きはない。

伊波恋視点


 私は井東銃一が好きだ。

 

 

 いや、好きどころじゃない。大好きだ。馴付(なつ)くとかそう言う意味での好きではない。恋愛的のものだ。恋して愛す。恋ひしく愛しい。

 

 

 彼と初めて対面したのは幼稚園年中あたりだ。丁度彼が小学五年生の時だろうか。

 

 幼児の時の記憶なんて殆ど覚えていないが、不思議と彼に関する出来事なら鮮明に思い出せるのだ。

 

 その日は土曜日で幼稚園も休み、リビングでお兄ちゃんと遊んでいた。

 

 遊んでいた、と言っても私が思い出せる限りでは会話をしていただけだが。所謂マセた子供だった。テレビで動漫(アニメ)を観たり、オママゴトをするより大人みたいに会話をしていたかったのだろうと推測する。

 

 今思い返しても割と大人っぽく話せていたと思う。少なくとも園児らしからぬ会話能力であった。別に天才とかそういうのではない。けれど、しっかりとした思考能力は持っていたぐらいには大人らしかった。

 

 

 

 そうして過ごしていると、突然家のインターホンが鳴った。家への来客を示す音だ。幼ながらに玄関のベルが鳴るとお客さんが来る!と理解していたのか私は玄関へと駆けて行った。

 流石に小学生の兄より早く移動することは出来ず先に兄が扉を開けた。

 

 

 開いたドアから現れた少年に私の心臓はドクリと鼓動した。

 

 

 

 軽くパニック状態に陥った。身体の動きを止め考えることを拋棄(ほうき)し、 固まった。

 

 心臓の鼓動がドクンドクンと速まるのが感じ取れた。額には汗をかき、目頭には水滴が溜まるのを感じ取れた。

 呼吸をするのが難しい感じる。

 

 まるで……全力で外を走り回った後のような感覚だった。

 

 

銃一(じゆういち)くん、よく来たね。今日は親が居ないからゆっくりしてってよ」

 

 

 兄が何かを言う。

 

「ああ、そうさせて貰うよ。……って、もしかしてそこに居る子って前に言ってた妹?」

 

「うん、そうだよ。ほら、れん挨拶を」

 

「……ひゃ、はい。れん……です」

 

「アキの友達の井東(いとう)銃一(かねかず)だよー。宜しくね」

 

 

 何とか言葉を返すことに成功した。しかし少し(ども)ってしまう。それが堪らなく悔しくも思えた。

 

 

「あれ?れん……顔色少し悪くない?若干蒼く」

 

「い、いや。何でもないの。気にしないで」

 

「そう?それなら良いけど」

 

 

 見栄を張る。少しでも大人で居たいという心理ゆえだろう。幼い子は変なことに意地を張るものなのだ。

 

 しかし、蒼くなってた?あの後確認した時には……いや、聞き間違えだろう。もしくは覚え違い。一先ず置いておこう。

 

 私は彼、銃一さんが玄関を上がってリビングに行くのに着いて行く。心臓はドクドクと鼓動を速める。

 胃がギュルりとした感覚がした。思わず腹に手を当てる。何事もない。

 

 

 リビングに着いて銃一さんとお兄ちゃんが話しているのを聞いて、彼がよくこの家に遊びに来ていたということが判明した。

 

 私が寝てたとか、幼稚園に行っていたとか、部屋で本を読んでいたとか、偶然鉢合わせて居なかっただけなのが分かった。彼が来ていたのは、頻度的に月二のぐらいのペースだけど。

 

 私はこの場において、どうしたら良いのか分からなくなり子供部屋に戻った。玩具やら本やらが置いてある遊び部屋。

 ママの化粧台とかも置いてあるから私だけの部屋という訳ではないが、ほぼほぼ私の部屋と言っても過言ではなかった。

 

 彼の顔を見ていると何やら体感したことのない、未知の感情になったのだ。顔が何かヒュッとして、心臓がドクドクと動き、汗が少し流れる。震えも少しした。まるで、夜トイレに行く時のような?

 何だかドッとしたのだ。上手く言葉に言い表せない。

 

 ふと、ママの化粧台が目に入り見つめる。そのときの私の顔は赤く紅潮していたのだ。

 

 

「──ッッ?!」

 

 えっ?どういうこと?何で顔が火照って赤いの?

 

 大いに動揺した。

 

 顔が赤く紅潮するなんて、まるで絵本に出てきた王子と話してるときの女の子、小説で読んだ恋する少女のようではないか。

 相手が好きで恋しくて愛おしくて……愛している状況だ。

 

 絵本のお姫様の言葉。気がついたら貴方のことを考えている、貴方を想うだけでわたしの心臓はドキドキと鼓動する。

 

 

 相手のことを四六時中考えている……相手のことが好きだという感情の条件である。今の私の頭の中から彼の顔が離れない。……と言うことは私は好きなのか?

 

 

 いやいや、短絡的すぎるだろう。ただただ頭から離れないだけだ。しかし、今の状況に合う表現がそれしか思い浮かばない。

 

 胸に手を当てて考える。ドクドクドクと心臓は速く鼓動しているのが感ぜられる。これはドキドキという感情、感覚なのか?

 

 再び鏡を見る。相変わらず赤く、そして紅く紅潮している。

 

 

 私は……、彼のことが……好き、なのか?

 

 ココロにしっくりとくるような感覚がする。そうだ。これが一目惚れという奴ではないだろうか。いやはや、好きという感覚を経験したことがなかったから焦ってしまった。

 そうか、私は彼が好きなのだ。

 

 兄がよく話してた友達って言うのが彼だとしたら、お兄ちゃんの話してる感じ優しくて、良い人なのは確実だ。

 

 そ、それに……、よくよく思い返してみると、彼の私に掛けてくれた言葉は柔らかくて好ましいかった気がする。

 

 発汗や震えは緊張から来ていると考えると矛盾はない……筈?

 

 

 兎に角、これが私の銃一さんとの初めての邂逅、幼い恋心の誕生であった。

 

 その時の感情は恋に恋する何とやら……ぐらいの感情だったのかも知れないが、その後も出逢う度に、私の銃一さんへの想いは強くなっていった。

 

 何もないときにふと思い浮かんではによによと口をだらけさせてしまうぐらいに。

 

 

 そんな、私の初めての恋……初恋にして今も想い続けている彼が……。

 

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

「れんちゃん昨日から元気ないね」

 

 

 友達のいつむちゃんが私にそう言った。そう、確かに昨日から私に元気はない。しかし(はた)から見ても分かるぐらいの落込みようだったとは気がつかなかった。

 

 

「あー、気づいてた?ハハ、実は気が落込むことがあってね」

 

 

 気が落込むこと。即ち彼との会話で思いっ切り逃げてしまったことだ。いつもなら事前に来ることが分かっていたから心の準備を整えてから対応なり、なんなり出来るのだが今日は突然だったのだ。

 

 お兄ちゃんに後で聞いたら凄い落込みようだった。謝りに行ってきた方が良いよと言われた。何やら兄の言葉が少し道化じみていたが、逃げた私に非があるのは勿論である。

 逃げた、というより心臓がドキドキし過ぎて耐えられなくなって離れただけなんだ。しかし、それも相手に伝わらなかったら、客観的に失礼過ぎる。彼の気を悪くしてしまった。

 

 そんなこんなで少し落込み気味なのだ。

 

 

「ま、失敗することだってあるし元気出して行こうよ。魔法少女なんだしさ」

 

 

 そうなのだ。私の特徴として挙げられることがある。それはテレビでよくあるような魔法少女という存在に選ばれたことだ。昨日だって魔法的パワーで戦ってきた後だ。

 

 精霊に助けを求められて、そして窮地に追いやられた友達と救うために魔法少女になってからどれくらい経ったのだろうか。言っても余り時間は経ってないけど、私の周りでは様々なことが起きた。

 

 その一つとして魔法少女仲間というものが出来た。それが彼女、いつむちゃんで私より数週間ぐらい早く精霊に選ばれたらしい。意見が合わないこともあるけど、今ではすっかり仲良しだ。

 

 彼女は言う。

 

 

「それにどうせれんちゃんが落込むって言えば恋愛話のことなんだろうし、わたしからは言えることないし」

 

「え!何で分かったの?!」

 

 

 驚く程の洞察力を持っていつむちゃんが言い当ててきた。

 

 

「いや、何でって好きな人いるぐらい皆んな知ってるよ。誰か……となると分からないけど、アレだけ分かり易ければ普通見当がつくよ」

 

「そう……なのかな。……うん。恋愛のことだよ。好きな人が、居るの」

 

「それで何か失敗した訳ね」

 

「う……うん」

 

「でも私は色恋とかまだ経験したことないしなあ。仲の良い友達レベルで収まってるし」

 

 

 いつむちゃんはボーイッシュでかっこよくて、オマケにかわいい。でも、恋愛となると途端に頼りなくなる。頼りないと言えば私も同類だけど。

 

「ともかく、何か失敗して謝りたいと思ってるんだろ。なら当たって砕けろだ。勇気出して謝るしかない」

 

「その勇気が出なくて困ってるんだよ」

 

「とにかくやるっきゃない。何か面白い展開になるかも知れないし。私も後ろから見守ってあげるから」

 

「ほんと?本当に。私のために。本当にありがとう」

 

「友達が困ってるのに何もしてられないのはアレだからね。後ろからでも付添いがいるって思えば勇気も少しぐらいは出るだろ」

 

 

 

 何だか勇気が少し出てきた。お兄ちゃんが銃一さんと会えるようにセッティングもしてくれているのだここは一つ頑張って話をしてみよう。

 

 

 

 

  ◆   ◆   ◆

 

 

 

「もう一度言う。れんちゃんのことが気になるんだ」

 

 

 と、言うことで話していたのだが。途中から訳の分からない展開となった。あれ?夢じゃなかったの?どういうことだ。

 

 心拍数が一気に上がる。

 

 

 は、え……ちょっと、待って。

 

 

 何が起こっているのだ。彼が私のことが気になる。私が気になるのではなくて、彼が?

 

 

 なにこの状況は。え、私が銃一さんに気になるんじゃなくて……いや、気に、へぇ?!

 

 

 れんちゃんのことが気になる、そうはっきりと聞こえた。魔法少女の強化された聴力をしてはっきりと聞こえた。

 

 魔法少女になったとき様々な能力を得た。

 

 この聴力もその一つ。集中していれば結構遠くの音さえも明瞭に聞き取れる。そして、このチカラの本領の一つにリピート機能というのがあるのだ。

 

 脳内で過去に聞いた言葉を再生出来るのだ。

 

 何か間違いがないか、もう一度リフレインしてみる。

 

 

『れんちゃんのことが気になるんだ』

 

 ……もう一度

 

『れんちゃんのことが気になるんだ』

 

 

  ……後一回

 

 

『れんちゃんのことが気になるんだ』

 

 

  ……

 

 

『気になるんだ』

 

 顔が一気に紅潮するのが感じられる。

 

 鼻に血液が集中して鼻血が出そうだ。

 

 

 

 いや、ちょっと待つのだ、井波れん。相手はただ(・・)気になると言っただけなのだ。例えば、私の頭に寝癖がついていてそれが気になっただけ……なんてオチも考えられる。落ち着くのだ、井波れん。

 

 彼の表情を見た限り真剣そのものでそんな軽い話しではないように思えるが……が、しっかりと訊ねてから判断するべきだろう。

 

 私は意を決して、銃一さんに言う。

 

 

「それは……、一体どういう……い、みで言ったのです、か?」

 

 緊張からか吃る。いや、普段からだ。先ほどまでは自分の都合の良い展開に夢だと思って喋れていただけだ。

 

 彼を前にすると上手く言葉が出ないのは何時も通りだ。息がキュッとしまり、胃がキュルキュルと痛くなり心拍数が上がる。震えがでて汗が落ちる。これは恋だ。

 

 彼の返答を待つ。

 

 彼は暫く言葉を詰まらせてから漸く、言葉を出した。

 

 

「今、れんちゃんが想っていることで合ってるよ」

 

「えぇ?!」

 

 

 まさかの返答。想っていること。私が銃一さんが好きなことはとっくにバレていた?確かに彼とだけ上手く話せてなかったりと露骨に好きなんじゃないかと思わせるパーツは有ったように思える。しかし、バレていたとは。

 

 ……いや、バレていたのだろう。

 

 彼女、いつむちゃんにもバレていたではないか。彼ぐらいになるとそのぐらい分かるものなのだろう。だが、一応確認をしておく。

 

 

「そ、そ……それはす、好きってことで……意味のアレです、か」

 

 

 なけなしの勇気を振り絞って訊ねる。消え入りそうなか細い声。でも、何とか出せた声だ。

 

 そんなことを考えていたら、彼はそっと私の方へと近寄ってきた。

 

 

(って、ええ?!何でこの人、私の頭に顔寄せてるの?!)

 

 

 

 驚きの声が心の中に響く。

 

 

 心拍数が上がるのが感じられる。心臓ヤバいんじゃないか、と思えてくるぐらいの心拍数だ。魔法少女って心臓とかも強化されているのだろうか。

 

 

 そんなことを考えていると、銃一さんは少し具合の悪そうな表情をして私に言う。

 

 

 「少し、ええと……れんちゃん、付き合ってくれないかな?……あっ、返事はメールとかでも良いから」

 

 

 交際の申込みかな?

 

 ……

 

 いや、いや。

 

 よく考えなくてもこれって交際の申込みだよね。『付き合って』これが交際の申込みじゃなければ何と言うのか。

 

 付添いのお願いなんてものでは流石にないだろう。創作物の読み過ぎだ。そんな紛らわしいことはない筈。

 

 でも、私は石橋を叩いて渡る派だ。いや、寧ろ叩いて壊す派だ。ここはしっかりと訊ねて置くべきだ。

 

 

「銃一さん、それって、アレですか?さっきも言った……通りの意味ですか」

 

 

 好きという意味なのかもう一度訊ねる。

 

 

「ん?……うん、そうだよ」

 

 

 当たってた!もしかして……やはり、交際、の申入れであっているのか。それならば私の答えは一つしかない。

 

「お、お……お願いします。付き合わせて、くださぃ。ください」

 

「じゃあ、宜しくね」

 

 

 銃一さんはそう言うとこの場を立ち去って行く。

 

 

「……」

 

 

 言いたいことは本当に色々あるんだけど……やばい倒れそうだ。

 

 

 後ろから『やばい、物凄い恋愛話だ。付き合うってえ?え?』とか聞こえてくる。取りあえず何が起きたか、珍紛漢(ちんぷんかん)で分からない。後でいつむちゃんに何が起こったのか詳細に話し合おう。




(れん)ちゃん、それ多分恋じゃない。


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10話

タラバガニ食べたい


「まさか、れんちゃんが魔法少女だったなんて……」

 

 俺は家への帰り道に呟いた。彼女とは又今度落ち着いて話そうと言って別れてきたばかりだ。

 

 しかし、同時に大きな失敗をしたのだ。

 

 それは彼女のことを魔法少女だと知ったことが、バレてしまったことだ。

 

 少し先走り過ぎた。彼女のことが気になるなんて露骨なことを言わなければ良かったかも知れない。あの時の彼女の表情は、俺のことを相当に怪しんでいた表情だった。

 

 

『れんちゃんのことが気になる』といった発言をした後、俺に俺に向かってなのか、露骨に魔法のようなものを発している姿が見えた。

 

 怪人になったからだろうか、そう言うスピチュアルなものが見えるようになっていたのだ。

 

 時間が経つにつれてその力は強くなる。

 

 

 恐らくあの時、解析魔法とかでも使われたのだろう。

 

 

 だから、どう言う意味だ、との質問に対して

 

『今、れんちゃんが想っていることで合ってるよ』

 

 となんて言ったのだ。正直アレは命乞いのようなものだ。素直にゲロった方が扱いが良くなるかなといった。

 

 一応確認のために、近くによって彼女の髪飾りを確認したが、確かにあの髪飾りだった。何か魔力のようなものも通っているのが確認出来た。

 

 

 

 つまり、今の状況はこうだ。

 

 

 俺は彼女が魔法少女だと気づいた。そして、彼女は俺がそれを知ったことに気づく。ついでに言うと、俺が戦闘員……もしくは怪人であると気づいた可能性もある、と言ったところだ。

 

 彼女が魔法少女なのは間違いない。青い方の魔法少女だろう。

 

 そうなると、魔法少女の赤い方は彼女の友達の弥永って子の可能性が高い。

 

 

 彼女が何かを隠しているとは相談されていたが、これは相当なことを隠していた。(あき)にどう説明したら良いのか。

 

 

 あの組織に言うか?いや、あの組織に言うと恐らく彼女が裏から消されそうだ。

 

 どうしたものか。俺は悩み続けた。

 

 

 

 

◆◆

 

 

「ただいま」

 

「おかえり、兄貴。大丈夫だった」

 

 

 玄関で和水が出迎えてくれる。見たところ相当心配を掛けていたようだ。まあ、それはそうか。突然兄が怪人にされ、何か訳の分からない相手と戦いに行くと言えば。

 

 だから俺は安心させるためにも明るめの声で言う。

 

 

「ああ、問題ない。何とかなったよ」

 

 

 彼女は「良かった」と言い、あからさまにホッとした表情を取る。そうだ。

 

「昨日話してたビデオのヤツ試してみたんだけど、見る?」

 

 この撮影方法は彼女が収納した物体を体内で自由に動かせるか……という疑問で思いついた方法だ。これを思いついたとき彼女は盗撮に使えんじゃんとか、最低なことを宣っていたのが印象的だった。

 

「昨日の……。ああ、体内で操作して撮影するヤツ?折角だし見るよ」

 

 昨日は詳細とか聞いてなかったから、一体どんな相手と戦ったのか、少し楽しみだったんだよ……と彼女は明るめな口調で言う。

 

 確かに、昨日の時点でどんな相手と戦うか言ってなかったような……。冷や汗が首筋を伝う。

 

 

「……」

 

「和水ちゃん?」

 

 和水は画面を見た途端黙りこける。彼女の視線の先にはやはり、魔法少女の姿があって。

 

「これ、相手?」

 

 

 彼女は起伏のない平坦な声で魔法少女を指差して言う。

 

 少し、言い訳をしたい。でも完全に事実だから何とも言えない。取り敢えず肯定の返事をする。

 

「うん。そこに映っている女の子がそうだよ」

 

「バカじゃないの?!」

 

 目をクワッと開いて叫ぶ。本当に何も言えない。(やま)しいことが多すぎる。

 

「相手どんな怪物かと思ったら幼気な少女じゃん。しかも私と同い年ぐらいの」

 

「同い年だよ」

 

「まじでバカが!昨日私が提案したあの作戦やってないよね。もしやってたら事案だよ事案」

 

 彼女の提案した作戦。それは収納した道具を体内で操って攻撃する方法。そしてその中でも非道な攻撃方法があって。

 

 俺は全力で否定をする

 

 

「や、やってない。本当にやってない」

 

「ホントだよね。ついでにウォータージェット作戦も、飛び散るナイフ作戦もやってないよね」

 

「やってな……何で作戦名付いてんの?」

 

 ウォータージェット作戦はたぶん凄い水圧で敵を攻撃するやつ、飛び散るナイフ作戦は全身に運動エネルギーごとナイフを収納して放出するやつ。当然するはずがない。しても多分、効かないし。

 

 

「まあ、良いよ。それは。取り敢えず再生して」

 

 和水に言われる通り、俺は動画を再生する。魔法少女が戦闘員相手に無双するシーンだ。

 

 

「……」

 

「……」

 

「ゲボほど強くない?この少女」

 

 

 物凄く焦った表情で彼女は問う。魔法少女たちの恰好に目がいったのかとても泳いだ目だ。正直に話す。

 

「……それ魔法少女だしな」

 

「ちょっと待ってかねかず。お前魔法少女の敵やってんの?世界に絶望とか与えようとしてんの?」

 

 思っていたことが正しいと判明したからか彼女は凄く慌てる。俺と同じく、彼女も日曜女児向けアニメが好きだ。二人で並んで一緒に見ている。両親が、俺たちのことを可哀想な目で見てきたのを、とても覚えている。

 

 因みに、一番下の妹は見ていない。

 

 

 

「絶望って。大丈夫、世界征服だけだから」

 

「何、妥協してやったぞって顔してんの!それでも十分酷いんだよ!!」

 

 

 そんな妥協顔をしていたのか。

 

 

「や、でもな魔法少女側の言い分も結構怪しくてな」

 

「普通に、問答無用でアウトだと思うんだけど……」

 

 

◆◆

 

 

 

「む、確かに。私からは何とも言えんわ」

 

 彼女はそう呟く。そうだろう。俺もこの話はとても悩んでいる所だ。

 

 

「しかし、そうだとしても、どっちも悪ってことになるだけだよ。黒とグレーの戦いみたいに」

 

 それもそうだ。組織側は明らかに悪の立場だし。でも精霊は精霊で歪んでいるから何とも言えない。質が悪いのは自覚がないことだ。本気で正義を目指している。

 

 

「まだ、自分が悪だと言ってるだけマシじゃない?野望があるだけで。世界征服ってのも誇張で、経済世界を征服するって感じだし」

 

「そうなの?えっと魔石だっけ。アレの経済的価値は凄そうだけど」

 

 

 魔石。あれは相当な価値を持つものだ。そもそもこの戦いは石取り合戦であるし。

 

「争ってる時点でどっちもどっちだしな」

 

 組織側が勝つとあの組織は、より強大になる。でも、それと同時に一般人も大きな恩恵を得る。精霊側は精霊本意でしか活動しない。精霊の一人勝ちになる。それだけは阻止したい。

 

 

 

「しかし、こんな相手と戦うとはねえ」

 

 

 和水は歎息しながら呟く。

 

 

「映像見たから分かるだろうが、本気で化け物なんだよ」

 

「うわあ、ヤバいよね。能力を使った防御方法とか考える?」

 

「そんな都合良くあの能力が使えるのか?」

 

 

 俺は疑問に思う。確かにあったら便利ぐらいには良い力だが、魔法少女と比べれば雀の涙程度だ。

 

 和水はうーんと唸ると話し出した。

 

 

「例えば、物凄く硬いものを取り入れた後とかって防御力上がったりするのかな?」

 

「硬さか。重量はあるが重さまでは……ちょっと試してみるか」

 

 

 目から鱗だ。そんな発想はなかった。和水はキッチンへ行くと何かを持って来た。

 

「取り敢えず、はい、フライパン。腹の辺りに取り込んで。一発殴るから」

 

 そして、和水はバイオレンスなことを言い出した。いや、手をグーパーして構えるなよ。

 

「それ、本当に硬くなってたらお前が苦しむだけだぞ?」

 

「む、確かに。……まあ、軽く触ってみるだけでも硬さは分かるだろうし、殴るのは良いよ」

 

 俺は彼女からフライパンを受け取ると、早速お腹にそれを当てて取り込む。

 

 

「よし、取り込んだ」

 

「……これ、ただの筋肉だ」

 

「硬さは反映なしと。一体どう言う仕組みになってるのやら」

 

 

 フライパンを取り出す。

 

「おお、真顔でお腹からフライパン出さないでよ。普通にグロいから」

 

「ああ、悪い。……そうだ。硬いもの取り込むとき、表面だけそのまま残しておくのはどう?」

 

「取り敢えず、やってみて」

 

「ほい」

 

 

 今度はフライパンを少しだけ浮かせる感じで取り込む。すると、腹の中央辺りだけがフライパンになり、それ以外は普通の肌色になる。

 

 

「うわ、腹の一部がフライパンになってる。キモっ……」

 

 

 和水はドン引きする。明らかに半歩ほど後ろに後ずさる。何だか結構なショックを受ける。

 

「普通に傷つくぞ、それ。まあ良い、早く殴れ」

 

「殴らないよ?!それ痛いの分かってんじゃん。触るだけにするよ」

 

 和水は驚いたように突っ込む。何だ殴らないのか。きっと痛いのに。そんなことを考えていると、彼女は恐る恐る、近寄って来る。そして、お腹のフライパンが浮き上がっている辺りの所に触れる。

 

「おお、硬い。実験は成功だ。これを駆使すれば防御力は安心だね」

 

「それは全身金属男になれと」

 

「アイア○マンみたいで格好良くない?」

 

「格好いいけど、リアルではちょっと……」

 

 

 俺は全身フライパン男を想像する。思っていた以上に不審人物であった。何かの雑魚キャラに居そうだ。和水はそれだったらと別の提案をする。

 

「じゃあ、逃げるのに特化する?……こう、煙幕みたいなの取り込んで、攪乱するとか」

 

「逃げようとする前に、殺されそうだけどな」

 

 

 寧ろ、そうなる未来が見える見える。

 

 

「そうだ、いっそパンチとかしてきたら、魔法少女ごと取り込めば良いじゃん」

 

 

 彼女の提案に少し考え込む。これは普通に名案かも知れない。

 

「体積的には俺の方が普通に大きいし、それなら出来るかもな」

 

「でしょでしょ」

 

 

 彼女は満足気に項突(うなづ)く。これは一度試してみるしかない。

 

「じゃあ、和水ちゃん。俺の身体の中に入ってきてみて?」

 

「下ネタかな」

 

 

 彼女は即答する。仕方がない、言い方を変えよう。

 

 

「一緒に交わり合おう」

 

「より、酷くなったよ?!」

 

 

 彼女は先程よりも大きな声を出して反応する。途轍もなく驚いた表情だ。何だか彼女のその表情を見ていると(そそ)るものがあるなと思った。話し合いはもう少し続けて終わることとなった。




精霊は別に、キュ○べぇみたいな感じではなく、ただただ、本来の意味での確信犯をしているだけです。

私、バッドエンドは余り好きじゃないんですよ。(昔メモ帳に書いた、救いようのないループモノから目逸らし)


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11話


今更だけど、これってSFだよね。

和水視点


 私の名前は井東(いとう)和水(なごみ)、ちょっと影の薄い普通の中学一年生です。ちょっとどころではない?そんな訳ない。

 病は気から。影の薄さも気から。絶対に認められない。

 

 

 ともかく、私は、羽根尾町立朱鷺中学校、略して朱中に中学一年生として通っている。

 

 

 

 幸か不幸か、その中学には、小学校からの知り合いは居ない。小学生時代に友達が居なかったというのもあるが、そもそもこの中学に同じ小学校出身の人は一人も居ない。

 

 まあ、それは少し前にあった大規模な市町村の廃置分合によって校区変更が起きたと、そんな理由だから深く考えなくて良いが。ともかく、中学生になり私の環境はガラリと変わったのだ。

 

 そんな私に、この中学で初めて、友達というのが出来た。これを兄に話したところ全力で噓吐けと言われたが、本当に出来たのだ。そして、一昨日まで私の生活は順風満帆だった。

 

 ことの発端は私の兄、井東銃一だった。あの兄は家に帰ってくると衝撃の発言をしたのだ。

 

『改造手術を受けて怪人になったんだ』

 

 本当に意味が分からない。まず、怪人に改造出来る組織があったことに驚きだし、ウチの兄が改造されたことにも驚きだ。

 

 おまけに、そんな状況でも割りと平気そうだった、かねかずにも驚いた。

 

 さらに続けてあのバカは驚くことを言う。

 

 悪の組織に加入した……と。

 

 本当に訳が分からない。本人は洗脳されたとか言っていたが、恐らく金に目が行った、の間違いであろう。見せて貰った契約書、賃金凄かったし。

 

 

 そして昨日、さらに驚いたのは敵対勢力が魔法少女だと聞いたことだ。

 

 

 

 私は魔法少女が好きだ。どれくらい好きかと言うと、毎週正座しながらソレを見ているほどだ。

 

 この歳になって、テレビの前で『ぷいきゅあがんばえー』と応援しないでと母に泣かれた。

 

 店頭で合言葉を言うキャンペーンのときに、『ラブリー♡キャッチ』と合言葉を言って、限定商品貰ってくるのやめてくれとも、泣かれた。

 

 魔法少女が、それぐらい好きだと言う話だ。

 

 

 

 そんな私にその言葉は余りに衝撃的だった。まあ、結局魔法少女側も怪しく感じたので、そこは許してやろう。

 

 

 

 と言うか、このようなことを一般人の私に告げられても、お手上げの情報なのだ。なぜ私を巻き込むのだろうか。

 

 それを聞いたら、愛だと言われた。

 

 問答無用で、弁慶の泣き所を蹴った。

 

 

 

 しかし、知ってしまった以上はどうしようもない。協力するしかないのだが。

 

 

 

(私は一体何をすれば良いのか)

 

 

 

 

 

 

 

 私はコミュ症だ。唯一の友達は前の席の子ぐらいだし。誰かに話し掛けるという積極性がないのだ。そんな私に、彼女は話し掛けに来てくれたのだが。はあ。一生好き。

 

 と、まあ私はこんな感じの人物なのだ。如何(いかん)ともし難い。兄貴の話を聞いても、私に出来ることなど本当に少ない。

 

 時計を見る。八時十五分。私は何をしてるかって?

 

 机に突っ伏して寝ているよ。友達が学校につくのは、本鈴(ほんれい)直前なのだ。時間にルーズなのだろう。

 

 いや、でも、遅刻はしないので、逆にきっちりしているのかも知れない。

 

 

 彼女が来るまで私が何をしてると思っているのか。することがないのだよ。なら結論、寝るのだよ。

 

 

 

 

──ガラっ

 

 

 教室の扉が開く。普段より大きな音。それに少しだけ驚いて、丁度目が覚めたように装い、扉を見る。

 

 

 クラスメイトの伊波恋が教室に入ってくるのが見えた。何やら顔が物凄くにやけていてだらしない表情をしている。一体何があったと言うのか。

 

 そして、彼女は自席まで歩いて行くと、荷物を置いて私の肩を3度ほど叩いた。

 

 ……って、私の肩を?

 

 

 はぁ?!

 

 

 

「ちょっと、話を聞いてくれない?」

 

「え、は。はい」

 

 すぐさま項突く。こう言うとき、頼みを断れないのがコミュ症だ。彼女は、私が項突くのを見ると、すぐさまこう言った。

 

「恋愛相談に乗って欲しい」

 

 

 

 よく分からないけど、相談相手間違っているのではないでしょうか。

 

◆◆

 

 

「えっと、それで、私に恋愛相談……ですか?そもそも、何でそれを私に?」

 

「何でって……何かどことなく彼に似ているような感じがしたので?」

 

 

 可愛くコテンと首を傾げる。か、可愛い。何だ、この破壊力は。

 

 恋愛相談。それは又親しそうな人にしかしないリア充染みたイベントだ。それに今、巻き込まれている。凄く吐きそうな気分だ。

 

 それに、気になっている人の雰囲気が、どことなく私と似ている?

 

 

 両親から魔法少女アニメを引退しろとせがまれている私と似ている人か。

 

 

 自分を悪く言いたくないけど、地雷だね。

 

 まあ、雰囲気が似てるだけだし、ミステリアスみたいな感じか。普段喋らないから謎に満ちている。自虐かな。

 

 ともかく、私は彼女に質問をする。

 

 

「それで、その好きな相手は、どんな人なんですか?」

 

「校外の人で、歳上ですね」

 

「へえ、歳上ですか。性格はどんな感じですか」

 

「優しい感じで、大人な性格かな」

 

 

 優しい感じで大人な人。そしてそれが、私に似ている人。

 

 つまり、彼女は私のことをそう言う印象で見ていたという訳だ。優しくて大人。なんだか甘美な響きに聞こえる。

 

 今後二つ名が必要になったときには『優しき大人』を名乗ることとしようか。適度にダサいな。

 

 

「伊波ちゃん。その人とは一体どんな関係なの?」

 

「兄の友人で昔からよく家に遊びに来ていて」

 

「ほう」

 

 

 昔から交流を重ねていたな……

 

 ……何だか似たようなことを最近聞いたことがある。何かが引っ掛かる。

 

 そう言えば、ウチの兄も伊波ちゃんと面識あったよね。家でれんちゃんとか呼んでたし。

 

 それで、兄と伊波ちゃんの関係は確か、友人の妹とか言って。

 

「んん?」

 

「え、どうしたの?急に」

 

 ……アレ?もしかして今、物凄く場面に出会(でくわ)しているのでは?

 

「伊波ちゃん、伊波ちゃん。その人の名前って分かったりする?」

 

「え、銃一さん……井東銃一さんですね」

 

 

 おう、これは。何たることだろうか。これって、直接兄に報告した方が良いのか。

 

 いや、でも人の恋心を勝手に伝えるのは絶対ダメだし。好きな相手に恋心がバレるのは普通に地獄だ。そんなことは出来ない。

 

 

「へー、かねかずさんねー」

 

 

 しかし、面白い場面に出会したな。かねかずが優しい性格の人ね。

 それは、もしかしなくても、彼女の目は節穴なのだろう。

 

 兄はナチュラルに人のことを(けな)せるクヅだしね。

 

 私以外を貶している所は見たことはないけど。あれ、私がただナチュラルに貶されてるだけなのでは?

 

 

「なるほどねー」

 

 そうなると、あれ?私がかねかずと兄妹なのも気づいてないんじゃないか?相談してきた理由って、雰囲気が似てるからって言ってたはず。

 名字一緒なのになぜ兄妹と気づかないのか。伊藤じゃなくて井東だし、何か勘づいてもおかしくないだろうに。

 もしかして、彼女、私の名前知らないのではないだろうか。

 

 

……藪蛇っぽいから絶対に突付かないでいよう。

 

 

 恋愛相談は続く。

 

 

◆◆

 

 

「連絡先が増えた」

 

 私は満足気な表情をしてそう呟く。鼻息をフンスと鳴らせ、目を閉じ、腰に手を当てる。とても幸せな気分だ。

 

「よ、良かったね?」

 

 前の席から、友達である彼女、いづちゃんは私にそう言った。

 

「いやあ。良い人だね。伊波ちゃんって。これからも相談したいから連絡先欲しいって」

 

 あー、上手いですわ。兄を出しにして手に入れた連絡先、上手いですわあ。

 

「しかし、和水(なごみ)が伊波さんとねえ……」

 

「もう、携帯の容量が軽い和水さんは終わったんだよ」

 

「一件増えただけで容量は変わらないと思うんだけど」

 

「それは言っちゃダメな奴だよ」

 

 

 いづちゃんは、えぇ……と微妙な顔をする。彼女は連絡先一件の重みを知らないようだ。

 

「まあ、それだけ喜んでいたら、伊波さんも本望だろうし」

 

 

 いづちゃんはそう言うと、微笑むように笑った。話がそれで終われば良かったのだが、一つ伊波ちゃんの恋愛相談をする際に問題になることがある。

 

「それで、いづちゃん。一つ、相談があるのだけど」

 

「なに?」

 

「拗らせた男女仲の直し方ってどうすれば良いの?」

 

「和水は、一体何に突っ込んでるの?!」

 

 彼女は大きな声をあげる。傍からみても分かるほど困惑している。

 

 

「ええ、そんな実践的な話私には出来ないんだけど」

 

「いづちゃんって確か、好きな人居たよね」

 

「一応、地元に居るね」

 

「それじゃあ多分大丈夫!」

 

「何が大丈夫なのか」

 

 彼女はそう言い放つ。いや、まあ、好きな人が居るんだしねえ。そう言う拗れたときにアドバイスも出来るかと期待していたのだが。

 

 彼女は悩みながら答えようとする。

 

 

 

「拗らせた男女仲ね」

 

「うん」

 

「うーん、(かたみ)に話し合うしかないと思うけど」

 

「やっぱりそうなるか」

 

 

 伊波ちゃんの話を纏めると、好きな相手から告白された。それについて後日話し合うことになった。と言うこと。

 

 しかし、実の妹だから分かる。兄がそんなことをするはずがないだろうと。兄はこう、受け身な感じで行動するタイプだと私は思っている。

 

 もしそんな大それたことを成し遂げたなら、絶対私に自慢するだろうし。それはもう、ウザいほど自慢してくるだろう。うわ、想像するだけで吐き気がしてきた。

 

 どうせ、アン○ャッシュ的な何かが起こったのだ。そして、そうなった主な原因は恐らく、兄の最悪な言葉選びだと思う。

 

 いや、伊波ちゃんも伊波ちゃんでやらかしている感じもする。

 

 どうするか。詰まるところウチの兄と伊波ちゃんが会うまでに、ウチの兄が伊波ちゃんに惚れれば冇問題(もうまんたい)なのだが。

 

 面倒臭い事態になったことを悟り、私は思考を抛棄(ほうき)した。




出てきた人

いづちゃん
 友達の子。


次の話、まだ600字しか書けてない。ウケる


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12話

大学一回生やから舐めてたけど、忙しい

今までの話でコミュ障のことを、コミュ症って打ってた気がする。訂正しないけど。

短め


「ただいまー」

 

 

 両親と下の妹が旅行から帰ってきた。実に3日ぶりの帰宅だった。見ると、彼らは凄くホクホク顔であった。両親は俺たちに満面の笑みで笑いかける。

 

 

「おかえり。雫ちゃん。楽しかったか?」

 

「しづくー、おかえり。旅行どうだった?」

 

 

 当然のように俺と和水は、それをスルーする。当然だ。あの両親(ばか)にかまける時間など無駄だ。俺たちは気にせず下の妹に話し掛ける。

 

 

「旅行楽しかったよ!大仏、デカかった!」

 

 下の妹……雫は手を大きく開けて大仏の大きさを伝えようとする。そうか奈良か。

 

 

「うんうん。良かったな」

 

「楽しかったのなら、私たちもそれで良いよ」

 

 そうなると、あそこに置いてあるお土産は鹿せんべいかな。いや、柿の葉寿司かも。

 

「うあ、奈良漬けだってよ、兄。寿司が良かったな」

 

「俺としては漬物、結構好きだし、当たりだな」

 

 漬物はご飯にあうからよく食べる。

 

 

「ちょっと、何で無視するのさ」

 

 

 父が何やら騒ぎ出す。

 

 

「胸に手を当てて考えてみて。父さん」

 

 和水の言葉に父親は胸に手を当てる。数秒して、再び首を傾げた。ああ、何も伝わらなかったか。そう悟り俺たちは肩を落とす。

 

 

「流石にねえ。中学生の娘を置いて……いや、それより頻度が多すぎるんだよ」

 

「そもそも、奈良だって過去に何度も訪れてるし」

 

 

 勿論、大阪も京都も、何なら和歌山も行ったことがある。海外旅行も親たちは行ったことあるが、着いていったことはない。

 

 外国語が話せないんだよ。一生鎖国していたいレベル。

 

 

「お姉ちゃん、根っからのインドアだもんね」

 

「アウトドアでも、もう少しは頻度を考えるとお姉ちゃんは愚考するんだけど」

 

 

 インドアなのは否定しないんだな。そう思うが口には出さない。俺もバイトない日は、大抵家でダラケているし。

 

「かねかず君もインドア趣味だしね」

 

「まあ、不精だし。家で済むならそれが一番楽だしな」

 

 

 と言うか、俺たちのインドア趣味は昔からの度重なる旅行の反動みたいなものだろうし。結果、下の妹だけがアウトドア趣味に目覚めたのだが。

 

「それで、銃一。私たちが居ない間に何かあった?」

 

「……いや、何も」

 

「何もないよね。兄貴」

 

 怪人のことは隠すことにした。これは、この前の話し合いで決めたことだ。本来ならば和水にも言わない方が良かったのだが、それはもう遅いので諦めた。

 

 

◆◆

 

 

「それで、兄。伊波ちゃんと二人で話するってホント?」

 

 食事が終わり、自室で携帯を弄っていたところ、和水が部屋に入って来てそう言った。

 

「何処から聞いたんだ、その話は」

 

「今日、学校で伊波ちゃんから聞いたんだ」

 

 

 まさか、和水にそんなことを話すとは思って居なかった。と言うか、俺のことを妹に相談するってどうなんだろうか。いや、もしや……

 

 

「お前、れんちゃんに名前覚えられてないんじゃ」

 

「そんな訳ないよ!……たぶん」

 

 

 そんな訳ありそうだ。妹だとは思わず、俺のことを相談してしまったと言うことか。相談と言っても、ありのまま話すことはしていないだろう。

 

 和水は言う。

 

 

「それで、伊波ちゃんとの逢い引きだって?」

 

 

 思わず、心臓が跳ね上がりそうだった。なるほど。二人で会うと言うのをカムフラージュするためには、逢い引きは丁度良い。恋愛相談にでも見立てて、和水に相談したのだろう。と言うか、何故和水にしたのだろうか。席が前とか言っていたし、丁度良かっただけだろう。

 

 何を相談したのか。それは全然解らない。意図が見えないのだ。

 

「一体どんな話をしたんだ。取りあえず、聞いた話を全て聞かせてくれ」

 

「ええ、流石にそんな野暮なこと出来ないんだけど……。いや、ここで勘違いを糺すのも良いかも知れない」

 

 

 和水は小さな声で呟く。勘違いとは何だろうか。

 

 

「取りあえず、伊波ちゃん側は兄貴のことを悪くは思って居ない……とだけ伝えておくよ」

 

 怪人なのにか?……いや、ちょっと待て。悪く思われてないと言うことは、つまり俺が怪人なのはバレていないと言うことなのでは?

 

 ただただ、知り合いに魔法少女なのがバレた……みたいな状況と思っているのか。そうなると、状況は幾許か楽なのだが。

 

 

「ねえねえ、かねかずってさ、伊波ちゃんのことどう思ってる?」

 

 

 そんなことを考えていると、彼女は急に訊ねてきた。何だろうか、藪から棒に。

 

 

「えっと、……いやさ、私も彼女とは今日初めて喋ったんだよ。どんな人かくらい知っておきたくて」

 

 なるほど。それらしい理由だ。

 

「そうだね。一応良い子だとは思うよ」

 

 

 だから、俺は正直に答える。俺のことを避けたことにも罪悪感は持っていたし、根は良い子なのだと思う。実際、魔法少女に選ばれるくらいには良い子だし。

 

「うんうん。なるほど。一応聞いとくけど、伊波ちゃんのこと好きだったりする?」

 

「いや?彼女と余り喋ったことがないから何とも言えないな」

 

 そうじゃないにしても、歳の差的にちょっとアレだろう。何故、和水がこんなことを聞いてきたのか。

 

 

 れんちゃんの相談の名目が、恋愛相談だったからだろうか。それなら、余り深く考えなくて良いかな。

 

 

 俺の答えに、和水はふーん、とだけ呟くと俺に問いかける。

 

 

「ねえ、かねかず。伊波ちゃんとは、何処で会うことになってるの?」

 

 

 そう言って、彼女は顔をニヤけさせる。下卑た顔だ。恋愛話だと、彼女は思っているので、尾行しようと考えているのだろうか。それは何としてでも阻止しないと。

 

 しかし、会う場所ねえ。

 

 

「町の外れにある廃工場かな」

 

「何でそんな所に集まるのさ!」

 

 

 和水は愕然とした表情でそう叫ぶ。何でって、俺が怪人だとバレてたと思ってたからだ。

 

 だから、なるべく戦闘のしやすい場所を選んだだけなのだが。

 

 廃工場って、物が雑多だし多分俺の能力的に有利そうだしね。こう、収容物の入れ替えとか容易そうだし。

 

 後、拓けた場所だと瞬殺されそうな気もしたし。

 

 

 俺のことを怪人、もしくは組織関連のものであると、気づいていなければ良いな……と思った。

 

 




和「あれ、何だか泥沼化している気がする?」


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12.5話

十三話、全く書けてないので、お茶濁しにプロト版の流用。

モブA視点


 私がこの学校がおかしいと悟ったのは、入学式の日だった。私は、もともとは岩本小──伊参(いさま)町立岩本小学校に通っていた。

 

 そして、中学校もそのまま、地元の中学に通うのだと思っていた。

 

 しかし、市町村の廃置分合により私は、羽根尾町立朱鷺中学校に通うこととなった。

 

 

 町が違う。

 

 

 それはとても大きな問題だ。知り合いなんて当然居ない。どんな所かも知らない町に組み込まれたのだ。私は不安と、少しの期待とで心がこんがらがった。

 

 

 そして、いざ入学式の日。教室に入ると私は愕然とした。

 

 

 髪がカラフルなのだ。

 

 

 もう一度言う。

 

 

 

 髪がカラフルなのだ。

 

 

 訳が分からなかった。見たところ、赤系統の髪の生徒が4割、青系統の髪の生徒が3割、緑やら黄色やらの髪の毛の生徒が3割ほど。何処かの物語でしか見たことのないような光景だったのだ。

 

 勿論、大抵は薄く色づいているので余り目立ってはいない。私はカルチャーショックを受けたような感覚だった。

 

 先に言っておく。私の髪の色は黒で、目の色も当然のように黒だ。まさかこんな私が髪の色でクラスのマイノリティになるとは思っても居なかった。

 

 そうだ。彼ら彼女らは髪の色だけでなく、目の色までカラフルなのだ。流石にオッドアイは居なかったが、軽く外国に来ているような感覚に襲われた。いや、顔自体は日本人顔なのだが。日本人顔でその髪色が自然ってどう言う訳だよ。

 

 私は目を凝らす。私と同じように髪色などで困惑している生徒を探して。そこで分かった事実が一つ。誰もがこの髪色に対して当然だと思っていることだった。

 

 この町はどうなっているのか。それしか頭に浮かばない。

 

 少し気を抜くと、この光景が当然のように思えてしまう。毒されている。感覚が麻痺しているのだ。

 

 

 教師が教室に入ってきた。予想していたことだが、彼も髪色は銀色と色がついていた。

 

 彼はちょっとした自己紹介をすると、入学式の流れについて説明をする。

 

 

 ……。

 

 普通に有能そうな担任で何とも言えない。何でヤンキーっぽい見た目してそんなに真面目なのか。

 

 ここで私はハッとした。

 

 もしかして、ここ。キャラクターの濃い人たちが集まっているのでは?天啓のような発想だった。

 

 

◆◆

 

「それでねー。私は兄貴に言ってやったんだよ」

 

 この中学に入学してから数週間。私は情報収集に励んだ。一先ず過去数年、十数年の中学のデータを調べあげた。

 

 この学校がこのようなことになった、一つの起点は十八年前だということが分かった。正確には二十五年から数人居たらしいが。

 

 だから何だ、と言われたら何とも言えないが、その時期に何かが起こったと推察出来る。

 

「あれ、聞こえてる?大丈夫?」

 

「へ……あー、うん。ちょっとボーっとしていた」

 

 彼女と話していたのにボーっとしていた。

 

 彼女の名前は井東和水と言うらしく、この学校でも珍しい普通の髪の持ち主だ。普通の髪と言っても茶髪気味だが、このぐらいなら前の小学校でもよく見かける色だ。

 

 どうやら、他の生徒もみんな地毛らしいのだ。校則にも、

 

髪を染めるべからず

 

 と、記されている。普通の校則なのだが、この学校でそれを掲げられても違和感しか抱かない。みんな平然としているけど。

 

 

 もしこのクラスに不良が居たとするならば何色に染めるのだろうか。黒になるのかな。それだと白髪染めにしか感じないが。

 

「それでお兄さんだっけ?仲良いよね」

 

「喧嘩しかしてないけどね。いや、喧嘩と言ってもそこまで大掛かりなことはしないけど」

 

 彼女、井東和水には特徴が一つある。それは影の薄さだ。入学式の日、このクラスの人はキャラが濃いという推論を立てた。それはある程度は正しかった。彼女も影が薄いと言うキャラであるのだろう。

 

 他の人も同じような感じだった。その中でも、クラスの中で一番キャラが濃いのは誰かとなると、彌永五夢と伊波恋だろう。髪の濃さからして他のクラスメイトとは一線を画している。

 

 そんな、彼女たちの正体は魔法少女だ。いや、魔法少女の正体と言った方が良い。

 

 正体を知った理由は単純明快。変身シーンを見たからだ。ついでにそのとき初めて魔法少女の存在も知った。

 

 現状、このクラスで一番の濃い人物だと思う。

 

 

「でさ、巨大状態なのに木の子取って来た兄貴にリアルパンチかました訳よ」

 

 話を聞いていないウチにバイオレンスな話になっていた。

 

「木の子程度で!」

 

「積年の怨みだよ。天誅って感じ」

 

 どうやら兄と仲が良いのは間違いだった気がする。

 

「ねえ、和水。この学校って派手な人多くない?」

 

「派手……言われて見ると、多い気がするかも。私みたいな茶髪もあんまり居ないし、ましてや黒髪なんて殆ど居ないしね」

 

 殆ど。一応、私以外にも黒髪は居るには居る。但し、瞳の色が赤色と、何やら嫌な予感がしたので話し掛けていないが。

 

 B組だったら、まだ普通っぽい見た目の生徒は居るのだが、A組は私と彼女ぐらいだ。まあ、彼女は彼女でキャラ立ちはしていると思うが。本当に意識しないと直ぐに消えるし。

 

「ねえ、和水。もしかして忍者修行とか昔したことある?」

 

「ないよ?!」

 

「それか、認識阻害の特殊能力持ちとか」

 

「何で私をファンタジーな存在にしたがるのかな?!」

 

 噓だ。

 

 魔法少女なんてものが存在しているのだから、そのぐらいあってもおかしくないのに。私自身感覚が鋭い方だ。魔法少女の変身シーンを見れたのだって、私の勘が異様に鋭いからだし。

 

 しかし、そんな私でも彼女が存在が、結構な頻度で稀薄にうつる。

 

 コイツ絶対、主要人物やぞ。

 

 

◆◆

 

「アナタ達の好きにはさせない!」

 

「出たな、魔法少女。この攻撃を喰らえ」

 

 

 また、戦ってる……。何でこうも遭遇率が高いのか。

 

 今、私の目の前には綺羅びやかなドレスを着た二人の少女と、赤髪のイケメンが対峙している姿がある。何で、私の目の前で戦うのかなあ。

 

 いや、それはまあ良いのだ。私は現在、物陰に上手く隠れられているから、気づかれていないし。

 

 一番の問題は、頭に付けてる髪飾りがピカリと光っていることだ。

 

 噓だろ、お前。それ、魔法少女に変身するためのアイテムやん。気軽にモブ少女の元に現れんなよ。私は、即座に髪飾りを取って、ポケットに仕舞った。ソレが変身アイテムなのは、あの二人の変身シーンで知ってるんだよ。

 

 それにしても、いやな事実を知って仕舞った。

 

 平凡詐欺のモブじゃなくて、マジでモブ顔してるのに、あんな魔法少女に混ざれるか。心もそこまで清くないし。

 

 

「あっ、魔法少女の無双すげえ」

 

 目を離している内に魔法少女の無双が始まった。……と言うか、相手側が弱いのか?いや、相手側も相手側で、何か虹色の水晶のようなものを回収して逃げてった。赤髪凄い。

 

 

「と言うか、早くここから離れてくれないかな」

 

 

 ポケットの中の髪留めが物凄く輝いているのですが。って、うえ。頭の中に、変身しなさいって響いてくる。こいつ、直接脳内に……。

 

 私と髪留めの攻防をしている間に、魔法少女たちは離れていった。

 

 

 取りあえず、家に帰ろう。そう思い、私は物陰から出て帰路へ就いた。




出てきた人

モブA
 危うく魔法少女にされそうだった人。髪留めはあの後、直ぐに棄てました。

赤髪のイケメン
 魔法少女に負けまくっている人。


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