潰えた守り人 (スタビ)
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その0 プロローグ

初めまして方は初めまして。そうじゃない方はお待たせしてすいません。スタビです
今回自分のメイン作品の「Aqoursとコート上の少年」が詰まってあまり進まなくなってしまったので、新しくシリーズを始めることにしました。
こっちはサブみたいな扱いになるので、更新は気まぐれです。
それではどうぞ


「何の用だ。菊岡」

 

一週間の最初の朝という憂鬱なパターンに加え、何かと面倒ごとを持ってくる政府の役人に呼び出され、普段より割増しで俺は不機嫌になる。

 

「そんなに不機嫌にならないてくれたまえよ。諒くん」

「誰のせいだと思ってんだ」

 

軽く睨みつけながら言う。

 

「まあまあ。落ち着いてくれよ」

「まったく…で?要件はなんだ?こっちは忙しいんだ」

 

そう俺が聞くと、菊岡は軽く咳ばらいをし、眼鏡を整え、さっきまでとは違う真剣な顔で俺を見てきた。

 

「君にはある町に行って、その町のネットワークを整備してもらいたい」

「…それだけ?」

「ああ、それだけだが」

 

案外拍子抜けだ。菊岡はかなり無理難題のお題を出してくることが多かった分。

 

「意外だな。お前の口からそんな普通のことが出てくるなんて」

「君は何を想像してたんだい…」

「新しいVRMMOを構築したから、テストダイブしてくれとか言われるかと思ったんだよ」

 

実際過去に何度がそれで誘われ、ひどいめに合っている。

 

「過去にそれは言ったことがあるが…テストダイブは君の役目じゃないだろう?君はどちらかと言うとシステムの構築だろう」

「まあ…確かに」

 

俺はある事情で実際にプレイできない。いや、プレイ自体は出来るのだが、それはある条件付きになってしまう。だからそこは俺ではなく、あいつの役目だ。まあ…それであいつもかなりヤバい目に会ったのだが。

 

「で、その町ってどこなんだ?」

「穂織という町だ。名前くらいは聞いたことあるだろう?」

 

穂織。確かに名前くらいは聞いたことがある。割と有名な町だ。

 

「名前は聞いたことあるが…穂織に行って何すればいいんだ?」

「穂織はネットワーク自体は何年か前から整備され始めたんだけど、周囲と隔絶しているせいか、最適化が出来ていないんだ」

「なるほど。俺は現地に行ってそれを最適化してこいと」

「そういうことだ」

 

なるほどな。ただ何故俺なんだ?政府にもそういう庁はあるし、企業だっていくつもあるはずなのに。

 

「なんで俺なんだ?って言いたそうな顔してるね」

 

読まれた。顔に出ていたか?

 

「顔に出てたよ。まあその疑問を持つのも無理はないだろうね」

「そりゃ、企業だってあるし、政府にもそれを対応する所はあるはずだろう?なら、なんで?」

 

菊岡の顔が苦虫を嚙み潰したような、苦しい表情に変わる。

 

「…上は誰も動こうとしなかったんだよ、誰一人として。ある噂を忌み嫌って」

「…噂?」

 

噂…なんとなくだが悪い噂だということは分かる。それは菊岡の表情が物語っている。

 

「犬神憑きの里。イヌツキだと忌み嫌われている。それを恐れているんだろう」

 

イヌツキ…いわゆる呪いの一種だ。ただ、俺は呪いというものは信じていない。この科学が発展した世にそんな摩訶不思議なものはないというのが俺の考えだからな。

 

「へえー…まあいいよ。俺でいいんなら穂織に行く。どうせ拒否権なんてないんだろうしな」

「いやいや、流石に本人の意思は尊重するよ。けど、助かった。ありがとう諒くん」

 

菊岡は綺麗にお辞儀をしつつ、感謝の言葉を言ってくる。なんか…

 

「お前に素直に礼を言われると、なんか気持ち悪いな」

「ひどくないかい!?君の中で私の評価はどうなってるんだよ」

 

そりゃあ、言うまでもない。

 

「いつも面倒ごとを持ってくるヤバい役人」

「君には遠慮というものがないのかい!?」

 

そんなもんとっくのとうに捨てたわ。あいつだって大体同じように言うだろう。

 

「まあ、それじゃ詳細は後で送るから。よろしく頼むね」

「あいよ。じゃあ帰るわ」

 

踵を返し、部屋のドアに手をかけた時、一つ言い忘れてたことを思い出した。

 

「報酬は弾ませろよ?」

「え?」

 

菊岡の困惑した顔を尻目に部屋から出て行った。

 

 

──────────────

 

 

その後、菊岡からメールが来た。それには仕事の詳細が書かれていた。まず期間はおよそ半年。進行具合によっては短くなったり、長くなったりするようだ。そして内容。ネットワークの最適化と発展情報技術、いわゆるVRやARかきちんと機能するかどうかの確認。出来ないのであればそれの構築。なんともまあ…

 

「ブラックというか、学生に頼むことではないだろ」

 

そういえば言ってなかったが俺はまだ学生だ。一応プログラミングとかが学べる情報系の学校に通っている。そこで1つのしがらみが発生する。向こうに仕事で行っても、家はどうする、食費などの雑費はどうする、そして単位はどうする。学生だからそういうところが気になってしまう。

 

「ん~…どうするかあ」

 

何案か思索しているときに、開いていたパソコンから、ポーンという新しいメールが入ったことを知らせる音がした。

 

「何が来たんだ?」

 

メールを確認する。送信主は菊岡。件名に追記と書かれている。住む場所は穂織の旅館に話をつけておくので心配しないくてもいい。その他の雑費についてもこちらから支給しよう。学校の単位は向こうの学校で通った分取れるようにと話をつけておくので安心してくれたまえと書かれている。意外と良い待遇だな。

 

「まあ、それなら心配はないか」

 

とりあえず気になることは全部消えた。

 

「しかし…なあ」

 

ここ数年で環境が一気に変わりすぎな気がする。今回は半年っていう期限付きではあるが穂織に居を移すし、少し前には菊岡のプロジェクトに参加させられるし、数年前はあの鋼鉄の城の最前戦で戦った。最後は離脱したけど。

 

「まあ退屈はしないな」

 

次はどんな物語を送るのだろうか。少し期待している俺がいる。ただ少し、ほんの少しだけど何か胸騒ぎがしていた。

 

 




いかがでしたでしょうか?読んで頂いて分かったと思いますが、SAOとのクロスになっています。それに伴って穂織の科学技術の発展度を少し上げてみました。原作もスマホ程度はあるようですが。
主人公の軽い設定を載せておきます。
では、次回もよければどうぞ
主人公:神谷諒(かみやりょう)
東京にある情報系の学校に通う現役学生。かの茅場晶彦に匹敵すると言われている天才プログラマー。プログラミングだけでなく、他の分野にも精通しており、依頼も多い。かつてSAO事件に巻き込まれ攻略組のプレイヤーとして最前線で戦っていたが、事件や仲間の不幸により終盤には離脱。そのトラウマを抱えている。


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その1 新たな船出

ここから原作突入です
では、どうぞ


「よし、準備OK」

 

仕事の依頼を受けた日から数日が経ち、今日は出発の日だ。いよいよ穂織に向かう。

 

「タクシー拾わなきゃか、めんどくせ」

 

菊岡から聞いたのだが、穂織は電車やバスなどの公共機関が通っていないため、最寄り駅まで行き、そこからはタクシーを使うしかないらしい。かなり不便な土地だ。

 

「まあしゃあないか。行ってきます」

 

ドアを開け、外に踏み出した。

 

 

──────────────

 

「ふうー…ここからはタクシーか」

 

無事最寄り駅まで着き、タクシーに乗り換える。そのためタクシー乗り場へ行く。そこで少し待っていると。

 

「あの…」

「ん?」

 

声をかけられそっちを見ると、そこには1人の男性が立っていた。

 

「どうかしましたか?」

「タクシー使うんですか?」

「そうですけど…」

 

そりゃタクシー乗り場にいたら使うだろうよ。

 

「行先はどこですか?」

「穂織ですけど」

「自分も一緒なんです!よければ一緒にいいですか?この時間あんまり本数無くて」

 

困ったような顔をしながらそう聞いてくる。

 

「ああ、いいですよ」

「ありがとうございます!」

 

お辞儀をしながら、礼を言ってくる。随分大げさだな。

 

「俺、有地将臣って言います」

「俺は神谷諒。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

お互いに挨拶を交わす。

 

「俺のことは諒でいいですよ。敬語もいらないですし」

「じゃあ俺は将臣で。敬語じゃなくていいよ。見た目は同年代くらいだし」

 

そういう将臣は俺と同じくらいの背丈だ。

 

「諒は何のようで穂織に行くんだ?」

「俺は仕事を頼まれてね」

「あー、だから割と大荷物なのか」

 

俺は服が入ってるスーツケースに加えて、パソコンとかの仕事道具が入ってるバックもあって、結構大荷物になっている。

 

「将臣は随分と荷物が少ないな。観光目的か?」

 

将臣は肩から下げるバックが1つと俺と比べるとかなり荷物が少ない。

 

「いや、向こうにある旅館の手伝いで行くんだ。そこまで期間は長くないからこのくらいで十分かなって」

 

なるほど。それならその荷物の量でも足りる。

 

「大丈夫だろ。俺は結構長くいるからこのくらいになっちゃったけどな」

「どのくらいいるんだ?」

「半年くらいかな。その都度変わるかもしれないけど」

「結構長いんだな…」

 

そこから少し世間話をしていると、やっとタクシーが来た。

 

「お待たせしました」

「お願いします」

「お客さんどこまで?」

「穂織までお願いします」

 

運転手に行先を伝え、タクシーに乗る。そのときルームミラーで見えたが一瞬運転手が嫌な顔をしているのを俺は見逃さなかった。

 

 

──────────────

 

「お客さん着きましたよ」

「あ、はい。おい、将臣起きろ」

「んあ?ああ…」

 

隣で寝ていた将臣を起こす。

 

「どこで止めますか?」

「どこで止める?」

「とりあえず志那津荘まで行ってほしいんですけど」

 

将臣が目的地を伝える。なんだ、俺と同じなのか。

 

「あー…すみません。自分ここら辺に詳しくないもので。ですから、奥の方まで行くのは勘弁してもらえませんか?」

「(なんとも、まあ…サービスが悪い)」

 

そう考えていると、それが顔に出ていたのか、運転手が言葉を続ける。

 

「すみませんね」

「…じゃあここでいいです。いいよな諒?」

「ああ、しょうがない」

 

そこでタクシーが止まり、清算を済ませ、俺と将臣はタクシーを降りる。

 

「まったく、イヌツキの土地に来るなんて、不心得者も増えたもんだよ」

 

降りるときに聞こえてきた呟き。菊岡の言う通りこの地は忌み嫌われている。ただ俺は嚙みつく気はなかったので、それをそのまま無視した。

 

 

「まだ距離があるけど、仕方ない少し歩こう。そういえば諒はどこに行くんだ?」

「俺は将臣と同じ、志那津荘だよ」

「そうか、じゃあ一緒か」

 

息を吐き、ずっと座って固まった体を伸ばしたりしながらほぐす。

 

「あ──!つっかれたー!」

「声がでかいわ」

 

まあそうなるのも無理はないか。電車だけで2時間。タクシーで30分。将臣も同じくらいかかっているだろう。青々とした木ばかりの代わり映えしない風景の峠を抜け、やっとたどり着いた穂織。

 

「噂通り不便なところだな、ここ」

 

公共交通機関は入っておらず、あったとしてもバスが1時間に一本。タクシーか自分の車が必要になる。ただそのタクシーもさっきのように煙たがられること必至だ。こんなにアクセスが悪い割には、賑わいのある町だ。周りにも観光客らしき人が何人もいる。ここまで人気なのは、いくつか理由がある。

まず、小京都とも呼ばれる街並みは日本古来の和の雰囲気を残している。いままで通ってきた山からは想像が出来ないほど綺麗な町になっている。

そしてもう1つの理由は温泉だ。なんでも、どんな病気でも治ったり、入ればお肌ツルツルなど様々な効能があるようだ。それらが今日のネット世界で口コミなどで広がり、国内外の観光客がたくさん入ってきているようだ。

 

「まあ、行こうぜ」

「そうだな」

 

こんなところで立ち尽くしていてもしょうがない。目的地に向かって歩き出そうとした瞬間。

 

「じー…」

 

誰かに見られている視線を感じた。そっちに目を向けると女性がこっちを見ていた。

 

「あのー…」

「はい?」

 

その人は将臣に声を掛けた。

 

「もしかして、まー坊?」

「え?…芦花姉?」

 

芦花姉と呼ばれた女性は将臣の言葉を聞くと、明るい笑顔を浮かべた。

 

「随分とお久しぶりだね」

「元気にしてた?」

「元気、元気。あれ?まー坊こっちの人は?友達?」

 

ここで俺に振ってくる。

 

「駅で偶然会って、穂織に行くっていうから一緒に来たんだ」

「へえー、私は馬庭芦花。よろしくね」

「神谷諒っていいます。よろしくお願いします」

 

しっかりとお辞儀をし、挨拶をする。

 

「敬語じゃなくて大丈夫だからね」

「わかった」

 

敬語は疲れるから、ありがたい。

 

「まー坊は久しぶりだね。最後に来たのはいつだっけ?」

「多分…4年ぶりくらい?」

「そっか、もうそのくらいになるんだ」

 

2人とも久しぶりの再会を懐かしんでいる。

 

「将臣、前にも来たことあったのか?」

「ああ、まだ子供の時に母さんによく連れられて穂織に来たんだよ」

 

初めてっていう訳ではなかったのか。

 

「しかし、まー坊背が伸びたね。私が見上げなきゃいけなくなる日が来るなんてね」

「去年くらいかな。一気に背が伸びたんだよ」

 

将臣の背は日本人男性の平均身長よりも少し大きいくらいだと思う。

 

「そっか…4年もあればここまで大きくなるか…」

「芦花姉は…もしかして縮んだ?」

 

煽りを含んだ言葉を掛ける。

 

「おやまあ!生意気な子に育っちゃって、この」

 

芦花さんは将臣の頭を軽くぺしっと叩く。

 

「頭を叩くのもギリギリかあ…身体もがっしりしてるし、男らしくなったねえ」

 

将臣は照れたような笑いをしている。

 

「諒くんはなんで穂織に?」

「俺は仕事で」

「仕事?」

 

機密事項も入っているから、全部は言えない。

 

「ああ、ネットワーク関連のね」

「へえー…そこら辺は私も分からないかなぁ」

 

やっぱり、穂織はそこら辺が乏しいようだ。芦花さんの反応だけじゃ断言できないが、その可能性は高いと言える。

 

「2人はこの後はどうするの?」

「とりあえず、志那津荘かな?流石に荷物も置きたいもんな」

「ああ、流石に疲れる」

 

将臣はともかく俺は荷物が多いからさっさと部屋に置きに行きたい。

 

「じゃあ一緒に行こうよ。まだ話したいこともあるし」

「俺は構わないよ。諒は?」

「俺も別にいいけど、芦花さん時間は大丈夫なのか?」

「平気だよ。じゃあ行こ」

 

そうして俺たちは町の中へと歩き始めた。




こっちの方がサクサク書けるのはなんでだろうか…
今後も気まぐれで更新していきます。
次回もよければどうぞ


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その2 宿へ

UAが100を突破しました。そしてぶらっくま様ともう一人、お気に入り登録ありがとうございます!
今後もゆっくり更新していきますのでよろしくお願いします!
では、その2どうぞ


芦花さんと会ってから3人で歩き、たくさんお店の並ぶ商店街のようなところまで来た。ただ、俺は1つ気になることがあった。

 

「なあ、将臣。さっきから芦花さんのことずっと見てないか?」

「え?」

「なになに、お姉さんに見惚れちゃった?」

 

芦花さんがかなりにやにやしながら、そう聞いてくる。

 

「…正直に言うと、見惚れてた」

「ッ!?」

 

うーわ…随分と正直に言ったなあ。そのせいで芦花さんの顔が真っ赤だ。

 

「じょ、冗談は良くないよ?」

「冗談じゃないよ。諒だってそう思うよな?」

 

そこで俺に振るんかい。

 

「まあ、確かにすごい美人だと思うけど」

「~~~ッ…ありがとう…」

 

芦花さんの顔はまるで蒸気でも出ているんじゃないかと思うくらい、真っ赤になった。

 

「それで何で将臣は芦花さんのことずっと見てたんだ?」

「そういう服着てたなーと思ってさ」

「どこか変かな?他の人みたいな感じではないけど…」

 

そういう芦花さんの表情は不思議そうで、俺や将臣が疑問を持つであろう服を気にしてる様子もない。

 

「なあ、将臣。穂織に住んでる人の服ってこんな感じなのか?」

「ああ、別に芦花姉の趣味ってわけじゃないよ。穂織で生まれ育った人なら全員だ」

 

なるほど、その地特有の。

 

「凄い似合ってるね」

 

他意やお世辞はなく、これは本音だ。

 

「ありがと。やっぱり穂織と外は違うんだね」

 

特に意に介した様子もなく答える。

 

「そういえば芦花姉って学生じゃなかったよね?就職先を外にしようとか思わなかったの?」

「こんな時代だから、なかなか就職先が見つからなくてね」

 

芦花さんは左手を軽く頬にあて、困ったような顔をして答える。

 

「じゃあ今は何してるの?」

「家がお店をやってたこと覚えてる?」

「うん、覚えてるよ。喫茶店だっけ?」

「正確には甘味処。今は実家の経営に関わってるの」

 

へえー…経営に。凄く若そうなのに凄いな。けど

 

「それってご両親に何かあったの?」

「んーん。何も。至って健康だよ」

 

首を軽く左右に振りながらそう答える。

 

「ただ最近は外国からのお客さんも増えてきてね。色々問題があるんだよ」

 

なるほど。確かに日本は外国人にも人気で、東京では電車に乗れば左右が外国人、レストランではカウンター全席外国人なんて場面にもたまに遭遇する。昔に比べ外国人が増えてきているのは事実だ。

 

「で、わかんないことも増えだしてきた矢先に、お前に任せるなんて押し付けられちゃって」

 

困った顔をして、そうに言う。

 

「へー…だったら、こんなところで俺たちと一緒に居ていいの?」

「身分を隠して、お客さんの意見を聞く。これも仕事のうちの1つ。スケルスマーケティングだよ!」

 

少し声を張り、自信たっぷりにそう言う。けど、ちゃんと間違ってる。

 

「…それを言うならステルスマーケティング」

「え?…そう、それ!」

 

絶対分かってなかっただろ。若干早口だったし。

 

「まあ、話し相手がいてくれる方がいいけどさ」

「ところでさ、芦花姉。なんか観光客が多くない?」

 

将臣が言う通り、道には人が溢れていて、将臣はともかく俺は荷物をずらしたりしながら他の人に当たらないように気を遣いながら歩いている。

 

「昔からこんなもんだっけ?俺が前来たときはもっと少なかったと思うけど…」

 

俺もここまで多いとは思っていなかった。さっきのタクシーの運転手の口ぶりから判断すると外部の人間はあまり寄り付かないと思ったけど。

 

「前よりお客さんが増えてるのは事実だよ。今はネットで色んな口コミが広まるからね。穴場の温泉地として、外国のサイトに載って広まっていってるんだって」

 

なるほど、現代らしい広まり方だ。

 

「あと、今日は春祭りだからじゃないかな?」

 

春祭り?初耳のワードが出てくる。

 

「ああ、春祭りか!俺、初めてかも」

 

将臣は言葉だけは知ってるみたいだ。

 

「春祭り?」

「そっか諒くんは知らないか。戦国時代の戦が祭りの始まりでね。こほん」

 

軽く咳ばらいをし、調子を整える。

 

「遡ること、数百年前。戦い巻き起こる戦乱の世に、1人ある女がいました」

 

なんか、始まった。

 

「その女は、権力者にすり寄り、寵愛を得て、男を狂わせ、戦を起こす妖怪だったのです。そしてそそのかされてしまったのが隣国の大名。野望のため、穂織に攻めてくるではありませんか!」

 

声が大きくなっていき、クライマックスにでも差し掛かっているのだろうか。

 

「妖術相手に大苦戦。落城寸前で藁にも縋る思いで祈祷を行うと、あら不思議!妖怪に対抗する力を持つ刀叢雨丸を授かったのです」

 

…なんじゃそりゃ?ありえなさすぎる気がするんだが。

 

「叢雨丸で蔓延る妖怪を退治すると、隣国の兵たちは敗走。こうして穂織に平和が訪れました。ちゃんちゃん」

 

ここで突然始まった劇場が終わった。

 

「その勝利を祝ったのが春祭りの元。戦から戻ってきた兵を模しての練り歩きが行われるの。そして最後に巫女姫様が舞を奉納するの」

 

なるほど。かなり古くからの言い伝えがあるのか。

 

「なんか、色々ぶっ飛んでんなその話。信じてる人いるの?」

「信じてる人はあんまりいないだろうね。でも海外の人にはこういう話って重要だったりするんだよ?」

 

うーん…まあ確かに。海外の人この手の話意外と好きな人多いからなあ

 

「そんなもん?」

「そんなもん。この世の中観光地はたくさんあるからね。どれだけしょっぱい逸話でもないよりはいいでしょ?」

「そうだけど、地元民がしょっぱいって言っちゃダメでしょ」

「重要なのはそれをどう生かすか、だよ」

 

それは重要だが、少なくとも地元の人は誇りみたいなものを持っといた方がいいんでは。

 

「とにかく、外から人を呼ぶことが重要なんだよ」

「ここら辺の人間は寄り付かないの?」

 

将臣の質問に芦花さんは首を横に振る。

 

「寄り付かないだけじゃなくて、タクシーに行先を伝えると嫌な顔をされるって言われるくらい」

 

さっきのタクシーの運転手のようにか。穂織は芦花さんがさっき説明した妖怪の話が先祖代々受け継がれ、周りから疎遠になってしまったのだろう。だから、こんなに不便で、同じ日本なのに外とはまったく違うように発展したのだろう、ここで生まれ育ったわけではない俺にもわかる。

 

「まあこの話はここまで、どうする?2人とも練り歩きみていく?」

「うーん…俺はいいかな。諒はどうする?」

「俺もいいよ。さっさと荷物置きたいし」

 

春祭りの練り歩きは見ないことを決め、そのまま3人で志那津荘に向け、歩き出した。

 

 

 

 

「ここか…」

 

歩くこと数10分。志那津荘に着いた。建物は大きくて、和の雰囲気を前面に出している古風な旅館だ。

 

「志那津荘は結構外国人のお客さんにも人気でね。いろんな人がこの宿を利用するんだ」

「へえー…」

 

宿自体があんまりないことももしかしたらあるんだろうけど、それ抜きで人気なのだろう。その時隣の将臣に目を向けると

 

「…」

 

なんか固まってた。何やってるんだ?店の目の前で。

 

「何固まってるんだ?将臣」

「あー、いや…」

 

なぜか歯切れが悪くなっている。ただすぐに何か意を決した顔に変わった。

 

「すみませーん!」

「ただ今参ります」

 

将臣が旅館の方に声を掛けると、中から女将さんが出てきた。

 

「お待たせいたしました。ご予約のお客様でしょうか?」

「客ではないんです、鞍馬玄十郎はいますか?」

 

女将さんは将臣の言葉に対して少し訝しくなる。

 

「失礼ですが…」

「玄十郎の孫なんですが、祖父に挨拶をしておきたくて」

 

怪しさが晴れ、合点がいった表情に変わる。

 

「大旦那さんのお孫さんでしたか、遠いところからありがとうございます。大旦那さんは建実神社にいるはずですよ」

 

建実神社?初耳のワードが出る。

 

「そっか、玄十郎さん春祭りの実行委員なんだ」

 

芦花さんも今気づいたような反応をしている。

 

「予定通りでしたら、練り歩きが神社に到着すると思いますよ」

「それじゃあ、神社から離れることはできないかな」

 

重要な役職についてるなら、迂闊に持ち場は離れられないだろう。

 

「そちらのお客様はどうなさいましたか?」

 

今度は俺に話を振ってくる。

 

「神谷諒と言うんですけど、菊岡誠二郎から話いってませんか?」

「神谷さんでしたか、確かに話は伺っております。長期の宿泊ですね」

「はい」

 

女将さんは旅館の方に戻り、何かを確認してくる。そしてすぐ戻ってきた。

 

「申し訳ありません。部屋の準備がまだ整っていなくて…」

「あー、そうですか」

「準備が整うまで、春祭りを楽しんではどうでしょうか?」

 

それはいいな。見てみたいと思っていた。

 

「そうします。将臣はどうする?」

「うーん…俺も見てみようかな」

「では荷物を預かりましょうか?」

「じゃあお願いします」

 

俺と将臣の荷物を手渡す。そうして身軽になった俺たちは、春祭りに行くためその道を通って行った。




読んで頂きありがとうございました。
次回もよければどうぞ。


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その3 春祭り

今回は少し短めです
その3どうぞ


宿から歩くこと数分。目的地である建実神社に着いた。

 

「ここか…」

 

規模的にはまあまあ大きく、境内には人、人、人。どこを見てもたくさんの人がいて、各々カメラやスマホをある場所に向けている。

 

「今、ちょうど巫女姫様が舞を奉納しているみたいだね」

「へえー…でも人がいて見えづらそうだな」

 

背丈の高い外国人もいて、場所によっては完全に見えなくなりそうだ。

 

「芦花姉、祖父ちゃんはどこに?」

「将臣も見ないのか?舞の奉納」

「そうだよ、興味なさげにしないで、観光のお客さんにも人気なくらい評判がいいんだよ」

 

そう芦花さんに言われた将臣は舞がやっている方向に目を向ける。俺も人と人の間に切れ目が生まれたので、そこから覗き込むようにして見た。

 

「…」

 

第一印象は綺麗だった。舞をしているのは俺と同じくらいの歳の女性だろうか。白を基調とし、肩に薄いピンク色が入っている巫女装束に身を包み、右手に鍔に鈴の付いた短剣を持ち、掲げている。舞の一動作に合わせ、巫女装束に袖は翻り、雪のように綺麗な白髪は広がり、なびいていく。その全てに俺は目を奪われていた。

 

「…」

 

それは隣の将臣も同じようで、さっきまで興味なさげだった奴とは思えないくらい真剣に見つめている。しかし、本当に綺麗だ。目を一時たりとも離せない。もっとよく見たいと思い、少し体を動かしていると

 

「…え?」

 

巫女さんの頭に何かが生えた。そこで目を凝らしてよく見ると、さながらALOのケットシーのような耳が生えていた。

 

「あ…え?」

 

見間違いかと思い、一度視線を外してから、また見ると今度は消えていた。

 

「?…?」

 

頭の中に?ばかり浮かぶ。

 

「なあ諒…」

「もしかして…将臣も見えたか?耳みたいなやつ…」

 

俺がそう将臣に尋ねると、将臣は首を縦に振った。超常現象の現場に立ち会ったみたいでかなり気持ち悪い。

 

「2人ともどうしたの?」

「いや…なんでもない」

 

芦花さんは見えなかったのだろうか。特に気にした様子もない。周りの観光客も目を奪われているくらいで誰一人として気にしてる風もない。

 

「(俺の見間違いか…?)」

 

疲れているのかな…そうだよな。ゲームの中ならともかく、現実世界で人間の頭に耳が生えてくるわけがない…宿に戻ったらしっかり休も。

 

 

 

 

「2人ともどうだった?」

「凄い綺麗だった」

「そうだな。最初から見たかったよ」

「舞は春祭りだけじゃなくて、他の時にもあるから、機会はいくらでもあるよ」

 

それならよかった。

 

「じゃあまー坊、玄十郎さんのところに行く?」

「うん、そうだね」

「俺も行った方がいいのか?」

 

玄十郎さんとやらを俺は知らないし、会ったこともない。

 

「いいんじゃない?結局一緒の宿に戻るんだし」

「そっか。じゃあ一緒に行くわ」

 

2人は境内の少し奥の方に行く。俺はそれについていく。

 

「ここら辺にいると思うんだけど…あっ、廉太郎!小春!」

 

芦花さんが少し先にいる。ある2人を呼ぶ。

 

「ん?なんだ芦花姉?」

「どうしたの?お姉ちゃん」

 

呼ばれた2人がこっちに振り返る。

 

「あれ、お前…将臣か?」

 

2人のうち、将臣と同じくらいの背の男性がそう聞く。

 

「本当だ!お兄ちゃん!」

 

もう1人の女の子の方が声を上げる。

 

「久しぶり、2人とも」

「本当に久しぶりだな!最近顔を見せなかったのに珍しいな」

「祖父ちゃんの宿の手伝いでさ。母さんにあんた行ってきなさいって言われてな」

「お兄ちゃん最近来てなかったもんね」

 

3人はどうも旧知の仲のようだ。会話内容から大体察することが出来る。

 

「なあ将臣。そっちの人は?」

 

俺に視線が集まる。

 

「駅で会ったんだ。神谷諒。俺と同い年だよ」

「神谷諒だ。よろしく」

 

初対面である2人に挨拶をする。

 

「将臣と同い年なら俺とも一緒か。よろしくな。俺、鞍馬廉太郎」

「私、鞍馬小春って言います。初めまして」

「2人は兄弟で、俺の従妹なんだ」

「そうだったのか」

 

なるほど、だからそんなに仲が良いのか。

 

「あのさ、玄十郎さんはどこにいるか分かる?」

「祖父ちゃんなら今中だよ」

「例のイベントが行われているから」

「あー、例の」

 

3人で、俺には何のことか分からないことを話している。

 

「例のって?」

「伝説の勇者イベント」

「何だそれ?」

 

昔のRPGとかであった岩とか台座に剣が刺さってるあれか?

 

「この建実神社にある御神刀だよ。まー坊だったら話くらいは聞いたことあるんじゃない?」

「うん、話は知ってるけど、実際には見たことないな」

「まあ百聞は一見に如かずとも言うし、実際に見てみようか。ついでに玄十郎さんのところにも行こっか」

 

芦花さんの先導の元、その伝説の勇者イベントがやってる建物まで移動することにした。




今後この「潰えた守り人」をメインにしようかなと考えております。もう一個の方がほんとに進まなくてですね…
次回もよければどうぞ


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その4 伝説の勇者イベント

その4です。どうぞ


御神刀が祭られているという本殿まで移動してきた。中には何かを待つ列があり、それはおよそ30人くらいだろうか。男性だけでなく女性の姿もある。そしてその列の先には大きな岩に刺さっている一本の刀がある。その刀は周囲の光を反射し、綺麗に輝いていた。

 

「2人とも神社に来るのは初めてだっけ?」

「俺は正月に来るくらい…だな」

「俺は穂織に来たこと自体が初めてだからもちろん初めてだ」

「そうか、じゃあ諒はともかく将臣も中までは入ったことはないか」

「じゃあ説明がいるね。あそこの岩に刺さってる刀こそ、伝承にある妖怪を退治した叢雨丸だよ」

 

芦花さんが刀を指さす。

 

「あれって実際抜けないもんなのか?」

 

俺の信じられないという気持ちを含んだ問いに対して小春ちゃんが首を振る。

 

「抜けない、抜けない。信じられないっていう気持ちも分からなくはないけど、どんなに力を入れても、一ミリも動かないんだもん」

 

マジか…そんなに思いっきり突き刺さってるのか?

 

「俺も諒と同じで信じられなくて、実際にやってみたんだよ」

「どうだった?」

 

廉太郎も首を振る。

 

「全然無理。押しても引いても全く動かない。で、なんか腹が立ったから、横に力いれてみたんだけど、結果は変わらず」

「おいおい、それで折れたらどうするんだよ」

「それで折れるくらいなら、今までのチャレンジのどっかで折れてるって、絶対」

 

そりゃそうかもしれないが…感情任せは危なすぎるだろ。

 

「今ではあんな感じで抽選でやってるけど、最初は誰でも挑戦できたんだ。ただ人数が増えてくるとそういう訳にはいかなくなってくるでしょ」

 

そりゃそうだな。変な暴動でも起こったら最悪だ。

 

「日本人よりも外国の人の方が多そうだね」

 

将臣の言う通り、30人ほど並んでる列は、7:3くらいの比率で外国人観光客の方が多い。その中の先頭の凄くガタイの良い男性が挑戦する。刀の前まで行き、握る。そして思いっきり引っ張り

 

「ンンンーーーーーーーーー!!」

 

変な声を上げているが、まったく抜けない。もう無理だと分かり、次の人に交代するが

 

「ンィィィィィッショーーー!!」

 

その人も抜けない。

 

「ンンンーーーゥワッショォォォォイ!」

 

次の人も無理。二の腕が俺や将臣の何倍もありそうな、マッチョの外国人が何人も挑戦しているが、刀は微動だにしない。というかなんだその掛け声。

 

「疑う気持ちも分からなくはないが、あれを見て、何かイカサマでもしてると思うか?」

「確かに、してないとは思ったけど…」

 

あんなガタイの良い外国人が必死で奇声を上げながらやってたら、イカサマなんて思えない。

 

「アタシたちでも、イカサマをしたなんて話は聞いたことないよ」

「それにお祖父ちゃん、そういうズルとかは嫌いだと思うな」

「確かに」

 

将臣がうんうんと頷いている。まあ…イベントの真実を知っていて黙っているとしても、協力する必要性はまるでないもんな。そんなことを考えていると、将臣が何かを探すように、視線を右に左にきょろきょろ動かしている。

 

「あ…いた」

 

探し物、というか探し人が見つかったみたいだ。将臣はその人のところまでゆっくり近づいていく。そして話しかけた。なんか若干びくついていないか?まあ会話の内容までは分からないが俺には関係ない。将臣が戻ってくるまで勇者イベントを見ているとしよう。

 

「セイッーーーーーーー!」

 

しかし、ほんとに抜けないな。抜けないだけでなくてちょっと動くとかそういう気配もない。力任せじゃないとなると、コツかなんかなのか?…ん?なんだ、誰かに見られてる?

 

「…」

 

特段誰かに見られてはいない。

 

「どうしたの諒くん?」

「いや、なんでもない…」

 

気のせいか?確かにそんな感覚があったんだが…

 

「おーい!諒!こっち来てくれ!」

 

少し離れたところにいる将臣に呼ばれる。俺はそこまで移動する。

 

「どうした将臣」

「紹介するよ。俺の祖父ちゃんの鞍馬玄十郎」

「君が神谷諒くんか。話は聞いてる。わしは鞍馬玄十郎よろしく頼む」

 

なかなか威圧感のある人だ。

 

「初めまして神谷諒です。あの、話は聞いてるって誰からですか?」

「菊岡誠二郎君からだ。君を派遣すると聞いてな」

 

やっぱりあいつかい…

 

「依頼を出したのもわしだ」

「そうだったんですか?」

「穂織は他の地から隔絶しているとはいえ、今の時代ネット環境がないとどうしようもないからな。ただ穂織にはそれに詳しい人がいなくてな」

「そうだったんですか」

 

やっぱりか…半分予想通りではあったが。

 

「自分が出来ることであればやりますんで、なんでも言ってください」

「ああ、よろしく頼む」

 

腰を折り、礼をし、挨拶を終える。

 

「あのさ、祖父ちゃん話は変わるんだけど、あれ本当に岩に刺さってるの?」

「伝承を知らないのか?」

「それは知ってるけど…」

 

伝承…宿に行くときに芦花さんが言ってたやつか。

 

「神から託された伝説の刀…だよね?」

「そうだ」

 

うーん…流石にはい、そうですかと納得しにくいな。夢物語すぎる…

 

「お前らが疑う気持ちも分からなくはないが、ペテンではない、本物だ」

「なら、本当に抜くことも出来るの?」

「単純な力任せじゃ抜くことは出来ん」

「じゃあコツ?」

「コツ…ではないが…資格というべきものか…」

 

資格?…どういう意味だ?

 

「将臣と諒は参加したことあったか?」

「いや、ないけど」

「俺もないです」

「ならいい機会だ。参加してみるといい」

 

いいのか?

 

「え?事前に応募してないよ?諒は?」

「俺も応募してないですけど…いいんですか?」

「問題ない。ワシが話をつけてこよう。少し待っていろ」

 

玄十郎さんは、奥まで行き神主らしき人と話をしている。

 

「どうしたんだ2人とも?」

 

廉太郎がいつの間にか近くまで来ていた。

 

「なんか俺と諒もあれに挑戦しろってさ」

「抜けなかったらなんか言われたりしないよな?」

「流石にそれはないと思うよ」

 

芦花さんが笑いながら言ってくる。

 

「私も廉兄もお祖父ちゃんに言われたことあるから、別に深い意味はないと思うよ」

「そういやそうだったな。気構えなくてもいいと思うぞ。俺や小春が失敗しても何も言われなかったから」

「諒はともかく、将臣はなんでそんなに怖がってるんだよ」

 

将臣の表情は強張っている。

 

「いやー、たまにしか会ってないと、前の印象が更新されなくて」

「気持ちは分かるけどな。何回も怒られたもんな…」

「バカなことばっかりしてるからでしょ。私はそんなに怒られてないもん」

「まーねー…まー坊も廉太郎もかなりヤンチャだったもんね。廉太郎は子供の頃だけじゃなくて、今も…」

「どうせ今日だってナンパでもしてたんでしょ?」

「うっ!」

 

小春ちゃんの指摘に廉太郎はうめく。いい歳して何やってんだか。

 

「あ、図星ー。結果はどうだった?」

 

芦花さんがにやにやしながら廉太郎に聞く。

 

「…かすりもせず。全部空振り」

「何打数?」

「10…3打数?」

「打数多っ!くそ打率じゃねえか!」

 

どんだけ挑戦したんだよ。

 

「廉兄の実力だね」

「舐めんな!打率は悪くたって、ホームランもあるんだぞ!」

 

ただミートGのロマン砲だけどな。

 

「廉太郎がナンパねぇ…昔はむしろ逆だったくせに」

「今と昔は違うだろ」

「玄十郎さんに何回も怒られてるのに、ほんと懲りないよねー」

「今時このくらいが普通だろ。都会だってそういうことくらいやってたよな?」

 

廉太郎は都会にどういうイメージを持ってるんだよ。

 

「そんなことやってるのはごく少数だ。少なくとも俺はやったことないし、俺の周りもそんなことをしてる奴はいなかったよ」

 

和人はナンパするというか、半ばナンパされる側だし、遼太郎は…あいつは知らん。

 

「出会いは求めていかないとだぜ?穂織は変わり映えしないし」

 

穂織の女性を敵に回す発言だな、それ…

 

「将臣!諒!」

 

玄十郎さんに呼ばれる。廉太郎たちと話していたら、30人くらいいた列がいつの間にかいなくなっていた。部屋の中には俺たちと玄十郎さん、そして神主さんだけ。その全員が俺と将臣に視線を注いでいる。

 

「なあ諒、どっちが先にやる?」

「じゃあ俺がやるよ」

 

こういうのは先にやるに越したことはない。みんなの視線から逃れたいし。

 

「何か作法みたいなのはあるんですか?」

「特にはないが…挨拶くらいはしておいた方がいいだろう」

 

岩に刺さった刀の前まで移動し、その前に立ち軽くお辞儀する。

 

「ふうー…」

 

息を吐き、気持ちを落ち着ける。そして刀の柄の部分に手を伸ばし、握ったその瞬間。

 

「!?」

 

何か電流のものが走った。

 

「どうした諒?」

「いや…なんでもないです…」

 

何だったんだ?さっきのは…刀は若干ではあるが電気を通す。しかしさっきみたいな静電気は刀に電気が帯電してないと起こらない。ただこの状況だと帯電しそうにない。ならなんで?…刀自身が電気を発したっていうのか?いや…ありえない…

 

「…」

 

もう一度刀に対面し、思考を一度切る。息を吐き、柄を握り、力を込めて引き上げる。

 

「ふっ!」

 

少し持ち上がった感覚がしたが、その場所からは動かなくなる。

 

「…ダメだ。持ち上がらん」

「そうか。じゃあ交代だな。将臣、次だ」

 

将臣と交代する。

 

「どうだった諒?」

「確かに抜けないわ。でも少し持ち上がった気がするんだよなぁ」

「え!?マジか!?」

「あーいや。多分気のせいだと思うけどな」

 

あくまで、気だけだ。確信はない。そんなことを考えてるうちに将臣が刀の柄を握る。ただなんかめんどくさそうにやってるなぁ…早く済ませたいんだろうな。そして力を込め持ち上げると

 

パキッ

 

「…あっ」

「マジか…」

「やっちまったな…」

「…え?」

 

将臣が握っていた刀が呆気ないほど簡単に岩から離れた。しかし、刀の中心から折れた状態で。

 

「…は?折れ…た?」

 

どんどん将臣の顔が青ざめていく。将臣は刀に戻そうとするが、元の位置には戻るがくっついたりするわけはない。

 

「…あはは、ウケるー。なあ諒これ持ってみろって」

「やだよ」

「じゃあ廉太郎。持ってみろって」

「は!?やだよ!俺に押し付けようとするなよ!」

 

将臣は青ざめ、廉太郎は焦る。すげえ光景…

 

「言ったじゃないか!何をやっても全く動かないって言ったじゃないか!」

「いや、確かに言ったけど!普通は折るか!?」

「折るつもりはないし、そんなに力入れてないはずだぞ!?」

 

阿鼻叫喚、まさに地獄絵図。まあ2人だけだが。

 

「将臣、諦めろ」

「諦められるか!?」

「証拠がお前の手の中にある。もう無理だ」

 

現実を突きつける。

 

「嘘だ!なあ廉太郎、これドッキリだろ?なあ、そうだって言ってくれよ!?」

「知らん知らん。俺は何も知らん!」

 

どんなに叫び、懇願したところで、刀がぽっきり折れ、将臣の手の中にある事実は変わらない。

 

「あー…もう晩飯の時間かなー…」

「アタシもー…お店の手伝いしなくちゃー…」

「私も宿題が…」

 

3人ともこの場から逃げようとする。

 

「俺も、明日から仕事だし」

「諒、お前もここに残れ」

「え?」

 

なぜ!?

 

「さっき、何か違和感があっただろう?」

「あー…」

 

バレてたか、鋭いな…

 

「なんでお前はそんなに冷静なんだよ!?」

「まあ焦ったってしょうがないしな」

 

こういう時は冷静に、ステイクールだ。まあ…若干慣れてるっていうのもあるけど…

 

「将臣」

「ひいっ」

 

玄十郎さん目がこええ…俺でも気圧される。

 

「…」

「ひぃぃぃぃぃぃっ!」

 

将臣は情けない声を上げている。はてさて、これからどうなるのだろうか?




口調とかがちゃんと区別出来てるかな?読む分にはたぶん大丈夫だと思います。
次回もよければどうぞ


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その5 新たな邂逅

asta様、ハクシィー様、お気に入り登録ありがとうございます。
少し長めのその5
どうぞ


「なあ、諒。これからどうなるんだ?」

「さあな。なるようにしかならないだろ」

 

将臣が刀を折ってしまうというひと悶着があった昼間から時間は進み、今は夜。俺と未だ現実を受け止めきれてない将臣に玄十郎さんはここで待つようにと言い、どこかに行ってしまった。因みに芦花さんたちは玄十郎さんに言われて、先に帰らせられこの場には俺と将臣の2人のみ。

 

「なんで諒はそんなに冷静で居られるんだよ…」

「まあ焦ったって状況が良くなるわけじゃないしな。あと若干諦めてる」

「なんというか、慣れみたいなのもある気がするんだけど…」

「まあ…若干は…」

 

あの日は今まで経験のないことだった。これまでの日常は崩壊し、命を賭けるゲームへと発展してしまった。それのせいであんまり驚かないし、多少驚いたとしてもすぐ冷静になれるようになった。良いのか悪いのかは分かんないけどな…

 

「あ~…不安だ。どうしよう…」

 

まあ、不安はあるわな。伝説の勇者イベントは春祭りの目玉イベントだったんだろう。それを台無しにしてしまった。今後どんな展開になるかは想像つかない。

 

「ああああああ!やってしまった!非常にまずい!」

「落ち着けよ」

「だって一大イベントだぞ!?刀を折っちゃった責任とか取らされるのかな…」

「うーん…案外その可能性は低いかもしれないぞ?」

「え?なんで?」

「だってその責任が発生するんなら、その場で説教の1つくらいあったはずだろ?神主さんだって居たわけだし。でもここで待てって言われただけで、何も無かっただろ?」

 

一度外に出るのは、あまりにも非効率だ。

 

「それに将臣も聞こえなかったか?まさかこんなことが…とか、本当に現れるとは…って。それも怒りとか悲しみとかのマイナスじゃなくて、待望とかのプラスの声で」

「なら…大丈夫かな?」

「大丈夫だろ。損害賠償とかあるかもしれないけど」

「大丈夫じゃないじゃねえか!」

 

そう俺に叫ぶと、将臣は何かを想像し始めた。と思ったら、顔を青ざめ、頭を抱えだした。終いには

 

「ペリカは嫌だぁぁぁぁぁぁ!」

 

とか変なことを叫びだした。何を言ってるんだか、ほんと。

 

「しかし、本当にどうなるんだろうな」

 

今後の生活を揺るがすほどに変わっていくのだろうか。

 

「…お主が吾輩のご主人か?」

「え?」

 

どこからか声が聞こえる。ただ、ここには俺と将臣の2人しかいないはず。

 

「こっちじゃ」

 

上から声がする。そこを向くと、1人の女の子が浮いていた。

 

「うおっ!?」

「誰だ!?」

「ちゃんと見えておるし、聞こえてるようじゃな」

 

若緑色の髪を赤い紐でポニーテールで結い、紫色の着物を着ている。ぱっと見、俺や将臣よりもずっと幼く見える。

 

「浮いてる…」

「まさか、幽霊?」

「幽霊ではないわ!」

 

いや、浮いてるのに幽霊じゃないと言われても…

 

「吾輩はムラサメ。『叢雨丸』の管理者…まあ平たく言えば魂みたいなものだな」

「もしかして、俺に復讐するのか?刀を折った俺に…」

「吾輩は幽霊ではないと言ってるだろう!」

 

あ、幽霊って言われるのは嫌なんだな。

 

「まず刀が折れた程度で復讐する必要などない。叢雨丸ならばすぐに戻る」

「こんなにものの見事に折れてるのにか?」

 

将臣の手の中にある叢雨丸はガラスのようにどこか尖っているわけではなく、のこぎりで木を切ったみたいにきれいな断面で折れている。

 

「まあ百聞は一見に如かずとも言う。先に証明して見せた方がよかろう」

 

少女が目を閉じ、力を少し溜める。すると、将臣の手の中にあった叢雨丸がすぅっと浮き上がり、宙に浮いたままの少女の胸元の高さまで上がる。俺も将臣もその光景を口を開くこともなくじっと見つめていた。すると途端に

 

「うわっ!?」

「な…なんだ?」

 

視界が白く染まる。俺はすぐにこれは光だと認識した。目を開くことも出来ないくらい一瞬にして莫大な量の光が飛び込んできた。そしてその光は段々と収まっていき、視界が元に戻り始める。少女の姿もくっきりと映り始める。

 

「え…本当に?」

「刀が直ってる…?」

 

くっきりと映った少女の手の中にあった刀が完全に直っている。摩訶不思議、人智を超えた何かが目の前で起こっていた。

 

「本当に直ってる…」

 

目の前で刀が直ったのを目撃し、これ以上ない証拠を見たことで将臣も幾分か冷静になってきたみたいだ。

 

「やっと落ち着いたようだな。これで話を聞く気になったか?」

 

そう言いながら、頭上からゆっくり降りてきた。

 

「吾輩はムラサメ。『叢雨丸』の管理者であり、神力を司るものである」

「神…力…?」

「なんだそりゃ?」

「これからよろしく頼むぞ、ご主人」

「いや、急にご主人って言われても…」

 

よく分からない単語を連続で言われ困惑する。

 

「どうした?そんな間抜けな顔をして」

「この状況をどう飲み込めばいいのか分からなくて」

「まずなんで将臣のことを『ご主人』って呼んでるんだ?」

「?叢雨丸を抜いたのだろう?」

 

なんでそれを聞くのかというような表情で言ってくる。

 

「あれ抜いたって言っていいのか?」

「まあどちらでも構わぬ。あの岩から離したのはご主人で間違いないだろう?」

「それはそうだけど…」

「それは誰にでも出来ることじゃないのだ」

 

それは…そうか。それなら今までのどこかで抜けてるはずだ。

 

「使えぬ人間が抜こうとどれだけ力を込めても、叢雨丸は動きはせぬ。だがご主人はそこまで力を込めてなかっただろう?」

「確かに、全然力は入れてなかったけど」

 

そういう通り将臣は俺から見てもほとんど力を入れてなかったと思う。踏ん張ってる様子もなかったし、腕が震えてたりもしてなかった。

 

「それが使い手の証なのだ」

「急にそう言われても…」

 

何か気になっているようだ。

 

「何が気になるのだ?」

「いや、まあ…うん、わかった」

 

腑に落ちない表情をしているが、そのままでいいのだろうか。

 

「兎も角俺は選ばれたってことでいいんだよな?」

「うむ。その理解でよかろう」

「じゃあもう一個質問。折れた刀が一瞬で元の状態に戻った理由は?」

 

そこだ。そこが1番聞きたかった。

 

「叢雨丸は穂織の土地神様より授かった特別な神刀だ。錆びようが、欠けようが、折れようが、神力を借りれば元の万全の状態に戻すことが出来る」

 

なるほど…神力とやらが刀の根源であり、生命線なのか。

 

「で…その神力を使うことが出来るのが刀の管理者であるお前ってことか?」

「お前ではない、ムラサメだ。自己紹介はしたではないか」

 

口を尖らせてそう言う。

 

「えーと…ムラサメ」

「いきなり呼び捨てか」

 

なかなかめんどくさい奴だな…

 

「じゃあ…ムラサメちゃん?」

 

一気に行き過ぎじゃないか?急に親しくなったな。

 

「それはそれで威厳がない気もするが…ま、よかろう。吾輩のご主人だからな。それで、どうした?」

「さっき言ってた神力を司るというか、魂とかのところを詳しく聞きたい」

 

現代じゃありえないところの話だ。だったらもう一段階深く知っておいて損はないだろう。

 

「叢雨丸は神力をその身に宿らせ、妖力に対抗する刀だ。しかし、ただの金属の刀に神力を宿らせるのは難しい。それをするために必要になったのが″人の魂″だ。まず神力を魂に宿し、その魂を刀に宿らせ、神刀と成すのが叢雨丸。そしてその魂こそがこの吾輩なのであ~る」

 

人の魂を宿す特別な刀…その魂の元々の持ち主はムラサメ…ちょっと待て

 

「それだとムラサメは元からそんな感じで幽霊みたいな感じじゃなくて、ちゃんと身体を持った1人の人間だったってことになるぞ!?」

「うむ、そういうことになるな」

「じゃあムラサメちゃんは今はやっぱり…ゆ、幽霊!?」

「幽霊ではない!吾輩は神の使いなのだ!そ、そそそんなものと一緒にするな!」

 

ころころ表情が変わっていくし、言葉も震えている。怖がってるのか?

 

「なんかすげえブーメランな気がするんだが…」

「それは気にしたら負けじゃないか?…なんか、夢物語の話しかしてない気がするけど…まあ神様の使いとして魂の存在になったってことでいいんだよな?」

「まあ、簡単に言うとそういうことになる」

 

神の使いか…どっからどう見ても幽霊にしか見えないけどな。

 

「ただ、吾輩は現世(うつしよ)に干渉は出来ん。つまり吾輩では使い手になれないのだ。そこで必要となるのが吾輩、叢雨丸の使い手なのだ」

「そこに将臣が選ばれた」

「そうだ。叢雨丸は選ばれたものだけが使うことが出来る。吾輩も見えるようになり、会話も出来るようになるのだ」

 

待てよ。じゃあ俺はどうなるんだ?使い手に選ばれたわけではない。

 

「なんで俺は見えるし、話せるんだ?」

「まあ例外もあるから。そなたはそこに属するんだろう」

 

例外か…ほかにいるのか?

 

「そしてご主人でも吾輩に触れることは出来ないのだ」

「え?こんなにはっきり見えてるのにか?」

「触ろうとしてもすり抜ける。こんな感じにな」

 

ムラサメが実際に叢雨丸の柄に手を伸ばす。握ろうとするが、その手はするっとそのまま柄を通り抜けてしまった。

 

「ほんとにすり抜けた」

「そうであろう?2人も試してみるか?」

 

そう言ってムラサメは胸を張る。

 

「将臣やってみたら?」

「お、おう…」

 

緊張してるんだかなんだか分からないが、少し硬い。

 

「じゃあいくぞ?」

「うむ」

 

将臣の手が少しずつムラサメの方に向かう。そして手が体に当たり、そのまま止まった。すり抜けはしなかった。

 

「この感触は…硬い!?」

 

将臣の表情からは何がなんだか分からないといったことが読み取れる。ただ対照的にムラサメはというと

 

「ご…ごしゅ…な…な…」

 

顔を真っ赤にしながら目を回していた。

 

「これって…」

「きゃああああああ!」

 

そして強烈な悲鳴。そして将臣は思いっきり吹っ飛ばされる。

 

「いってえ!」

「あれ?突き飛ばせた?すり抜けない?」

 

ムラサメが信じられないというような表情をしている。すり抜けると思っていたのに将臣の方からもムラサメの方からもすり抜けなかった。前例の無かったことなんだろう。

 

「いきなり何をするんだ!?」

「いや、いきなり何をするって…自分が何やったか分かってるのか?」

「え?」

 

何で呆けてるんだ。自分で認識してないのか?

 

「え?じゃないわ!ご、ご主人は吾輩のむ、胸を触ったのだぞ!?」

 

そう。将臣は手とか頭とかを触ったのではなく、あろうことかムラサメの胸を触ったのだ。

 

「え!?あれが胸!?思ったより硬い…

 

こいつ…言ってはならないことを…

 

「なにおう!?ご主人…!」

「将臣、今のお前最低だぞ?」

「い、いや!今のは違くて!」

 

必死に取り繕うとしているが、焦っているのか言葉が続いてこない。

 

「お、乙女の胸を触りよって…ぐぬぬ…」

「本当にすみませんでした…」

 

将臣はおでこが床に付くほどの土下座をしている。

 

「まあまあ落ち着けって」

「わっ」

 

子供をあやすように、ムラサメの頭を撫でる。

 

「とりあえず冷静になろうぜ」

 

一先ずクールダウンだ。

 

「…あれ?なあ諒…」

「ん?どうした?」

「なんでお前もムラサメちゃんに触れてるんだ?」

 

あ、言われてみたら確かに…

 

「将臣は選ばれたからで、説明はつくかもしれないけど、俺は選ばれた人間じゃないはずじゃないのにな…」

「いや、選ばれた人間でも本来は触れないはずだ。ご主人が触れられた時点でまずおかしい…」

「叢雨丸の影響の可能性はないのか?」

「それはないはずなのだが…うーむ…」

 

だとすると説明がつかないな…

 

「…ダメだ。ご主人にむ、胸を揉まれたせいで考えられん」

「あらま…」

 

叢雨丸のことをよく知ってるムラサメが考えられないとなると、この問いに対する解が分からない。一旦手詰まりだな…

 

「…」

 

将臣も随分と考え込んで…いや、なんか別のこと考えてないか?

 

「ごーしゅーじーんー!」

「な、なんだよ。別に何も言ってないだろ?」

「言ってましたー『揉んだ感触が無かった』とか考えてましたー」

「べ、別に思ってないからな?」

 

嘘だな。めっちゃ声震えてるよ。…

 

「…なあ将臣」

「…どうだった?」

「なんか思ったより硬かった」

「へえー!将臣は触った上に硬いとか変なこと考えてたのか!」

 

わざと少し声を張る。

 

「やはり考えていたんかー!」

「あっ。くそ、諒お前どういうつもりだ!?」

「お前が悪いんだろうが」

 

俺は将臣にそう言うと1人、思考に耽っていった。

 

「(なぜ俺と将臣の両方がムラサメを視認できる?ムラサメが言うには本来はありえない話だ。何か別の要因が絡んでる?例えば、将臣はほんとに勇者に選ばれ、何か悪霊みたいなものを倒していく…とか。いや、ないな。ゲームじゃあるまいし、こんな現実で起こるはずもないしなー…だったら俺が見える意味はなんだ…)」

 

いくら考えても、分からない。情報も知識も無さすぎる…

 

「何騒いでおる」

「祖父ちゃん!」

 

玄十郎さんが戻ってきた。将臣を訝し気に見ている。

 

「誰かと話してたように見えたが…」

「き、気のせいなんじゃない?」

 

この反応、玄十郎さんはムラサメを見えていないようだ。

 

「あのさ、刀は…?」

「そのことか、それについてだが…む、刀身が」

 

折れていたはずなのに元通りに戻っている叢雨丸を見て玄十郎さんは目を見開く。

 

「これは一体何があった?」

「あー…なんて説明すればいいか、か、刀の霊が直してくれたって言ったら信じる…?」

「それはムラサメ様のことか?」

 

それを聞いて、将臣は少し驚く。

 

「知ってるの?」

「話だけだがな。ワシはムラサメ様のことを見えないから、見える方に話を聞いている」

「俺と将臣以外にもいるんですね」

 

ムラサメが「例外が居ると話したであろう」と言っているのが聞こえる。確かに言ってたな。

 

「それでだ、将臣。叢雨丸の担い手になった以上、お前には相応の責任をとってもらう」

 

責任という言葉を聞いた途端、将臣の表情が固まる。まあ穂織の一大イベントを図らずではあるが壊してしまったわけだし、何かはあるだろう。

 

「まずお前をウチで預かれなくなった」

「え!?じゃ、じゃあ刑務所!?」

「そういうことではない」

「じゃあ強制労働!?そして地下行き!?」

「将臣、いったん落ち着け。話が分からなくなるぞ」

 

将臣に声を掛ける。周りから見ても分かるくらいあたふたしてた。

 

「ああ、すまん…」

「まあとりあえず話を聞け。お前に紹介したい人がいる」

 

玄十郎さんが誰かを呼ぶ。その呼ばれた男性がこっちに歩いてきた。

 

「初めまして。有地将臣君。神谷諒君。僕はここ建実神社の神主をしている朝武安晴です。気軽に安晴と呼んでもらって構わないから、僕も2人のことを将臣君、諒君と呼ばせてもらうよ」

 

俺と将臣に挨拶をしてきたのは、何かの家紋か何かが入っている青い着物を着ている男性だった。

 

「よろしくお願いします」

「あー、初めまして。あのご迷惑をかけてすみませんでした」

「いや、むしろこれから将臣君には色々迷惑をかけてしまうことになると思うんだ」

 

「いえ、俺が事の発端ですし…出来る限りのことはします。それで、俺は何をすれば?」

「そのことなんだけどね将臣君」

「?はい」

「芳乃、入ってきなさい」

 

安晴さんが芳乃という名前の人を呼ぶ。部屋の扉が開き、入ってきたのは…

 

「あれ?」

「さっき舞をやってた…」

 

昼間、舞を踊っていた巫女さんだった。




若干日本語がおかしいところあるかも…
一気に原作主要キャラと接触させていきます。
次回もよければどうぞ


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その6 『結婚』

影図書様、蒼乃ツバサ様お気に入り登録ありがとうございます!
それではその6、どうぞ


「初めまして。朝武芳乃です」

「え、と、初めまして、有地将臣です」

「初めまして、神谷諒です」

 

お互いに挨拶をする。

 

「本当に叢雨丸を抜いたんですか?」

「まあ、うん。抜いたっていうか折ったに近いけど」

「間違いないんですか?」

「…?」

 

朝武さんは俺や将臣の方を見て問いかけるのではなく、俺たちの後ろを見て問いかけている。その場所にはうーんと唸りながら悩んでいるムラサメがいる。

 

「ムラサメ様、本当なんですか?」

「ん?ああ、間違いないぞ。将臣こそ吾輩のご主人だ」

「朝武さんも、ムラサメちゃんが見えるの?」

「…ムラサメちゃん?」

 

朝武さんが少し驚きながら将臣を見ている。

 

「吾輩のご主人だからな、呼び名は任せてある」

「会話してるし、朝武さんも見えてるんだね?」

「そうだ。芳乃は吾輩と会話できる数少ない人間の内の1人だ。ご主人のように叢雨丸の使い手に選ばれた人間ではないがな」

 

なるほど。叢雨丸の影響以外って、何が理由なんだろうか。

 

「じゃあ安晴さんは見えるのか?」

「いや、僕には見えないよ」

「それはなんでですか?」

「僕はあくまで入り婿だからね。朝武の直系じゃないと…」

「お父さんっ、言わなくてもいいことまで言わないでください」

 

朝武さんがすごい剣幕で止めた。ただ良いところまで聞けた。

 

「朝武家直系じゃないとおそらく見えないんですよね?だから安晴さんは見えない。なら、俺が見える理由は何なんですか?」

「え?諒君はムラサメ様が見えるのかい?」

「はい。しかも見えるだけじゃなくて、会話も出来て、ムラサメに触れることもできます」

 

こんな風にと言い、ムラサメの頭を触る。見えているものには実際にムラサメの頭に触れてるのが分かるし、見えないものには空中で不自然に俺の手が止まったように見えるだろう。

 

「因みに俺だけじゃなく、将臣も。これの理由は何なんですか?」

「…すまないが、そこまでは分からない。朝武の過去と接触があったのか…」

 

朝武の過去?神谷家の誰かが過去に穂織に居たのか?

 

「お父さん、神谷さん。そこまでです」

 

そこでまた朝武さんが止めた。

 

「お父さんは喋りすぎなんです」

「でも、諒君ももしかしたら関係があるかもしれないじゃないか?」

「どういうことですか?」

「神谷さんには関係ありません」

 

なんか余計に気になるな…まあ今は一先ず置いておこう。

 

「ねえ、ムラサメちゃん。朝武さんていつもあんな感じ?」

「まあ、結構頑固なところはあるな」

「とりあえず、いったん俺下がってますね」

 

後ろにいたムラサメのあたりまで下がり、将臣を出す。

 

「まあ、ともかく、これが僕の娘の芳乃だよ」

「こっちが叢雨丸を抜いた、有地将臣君」

「…よろしくお願いします」

「こちらこそ、お願いします」

 

改めて挨拶をする。

 

「それで、ここからが本題だよ。将臣君が叢雨丸を抜いてしまった以上、このまま帰すわけにはいかなくなった。芳乃も分かるよね?」

「…はい、分かります」

 

目を伏せ、どこか何かを憂うような顔をする。

 

「将臣君、君に責任を取る意思があるんだね?」

「は、はい。俺に出来ることであればなんでも」

「うん。じゃあ君には叢雨丸を抜いた責任として」

 

少し空気がピりつく。安晴さんの口から何が発せられるのだろうか。

 

「結婚してもらいたい」

 

…ん?結婚?…え?…ちょっと待て理解が追い付かない。

 

「…あの、結婚て、誰と?」

「僕の娘と、だよ」

「安晴さんの娘と…」

 

視線が朝武さんの方へと動く。

 

「結婚…ですか…」

「将臣と朝武さんが結婚…」

 

俺のその呟きの後、少しの沈黙が生まれ…

 

「「けっこんんんんんん!?」」

 

一気に2人が慌てる

 

「あの、結婚って、男側の権利は半分になり、義務が2倍に増える、あの結婚ですか!?」

「お前、結婚に対してどういうこと考えてるんだ…」

 

ひどい価値観だ。

 

「都子の家はそんなに不仲だったかの…」

「将臣君の結婚に対する価値観は分からないけど、その結婚だと思うよ」

「お、お父さん。一体どういうことなの?」

「芳乃もついさっき、将臣君をこのまま帰すことは出来ないって、分かってくれたじゃないか」

「それはそうだけど…でも…」

 

朝武さんの言葉がどんどん弱くなっていく。まあ突然結婚しろと言われても、混乱するよな。

 

「芳乃にとって、必要なことだと思うんだよ」

「どういうことっ?」

「親の心子知らずってやつかね」

「そういうことじゃないです。神谷さん」

 

バッサリ切られた。あながち間違ってないと思うんだけどなあ。

 

「じゃあ将臣君はそういうことで。あと諒君」

「何ですか?」

 

今度は俺に話が振られる。

 

「君は叢雨丸を抜こうとしたときどうだった?」

「どうって…言われても」

 

話が抽象的すぎて分からない。

 

「玄十郎さんから聞いたんだけど、刀と何かあったようじゃないか」

「…そうですね。刀に触れた瞬間に静電気が起きました。本来はありえないと思うんですけど。その後改めて抜こうとして、上に持ち上げたら、少し上がったんですけど、途中で動かなくなって」

 

あの時起こったことを隠さずに全て話す。

 

「神谷さんも抜けそうだったんですか?」

「どうだろうね。最後は止まっちゃったから抜けそうにはなかったと思う」

「けど、刀は動いたんだよね?」

「ええ、まあ」

 

そう答えると安晴さんは真剣な顔になる。

 

「それは特異だね…」

「特異…ですか?」

 

特異…他とは一線を画し変わっているということだが、どういうことだろうか?

 

「おそらく、諒君も使い手になれたかもしれないんじゃないかな?」

「俺が叢雨丸の使い手に…ですか?」

「うん。諒君はムラサメ様も見えているんだろう?」

「一応…」

「それなら。資格みたいなのが備わってると思うんだ」

「資格ですか」

「将臣君との共通点も多いようだしね」

 

資格…か。そんなものが俺にあるとは思えない。最後まで戦えなかった俺に。

 

「どうでしょうね…俺にはそんなのがあるとは思えないですけど」

「いやいや、何よりの証拠があるじゃないか」

 

そうは言われてもな…

 

「まあともかく、もしかしたら君にも関係があるかもしれない以上。玄十郎さんの宿では預かれなくなったんだ」

「あの、さっきから何に関係があるんですか?」

「申し訳ないが、そこは言えないんだ」

 

気になるな。そんなに言えないこととなると、かなり大きなことかもしれないな。

 

「分かりました。それで俺はどうすればいいんでしょう?」

「君も将臣君と同じように家に来てもらいたいんだ」

「…分かりました」

 

流石にここで断れないしな。

 

「じゃあよろしくね。あ、将臣君もそういうことで、芳乃をよろしくお願いするよ」

「待って!お父さん!」

「え、あの、えぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

俺は少し混乱しているがまだ冷静だ。ただ『結婚』という二文字を告げられた2人は簡単には吞み込めないだろう。一瞬にして、これまでの日常生活が方向を変えた。俺も将臣も、おそらく朝武さんも。そんな時にここにくる前にあった悪い予感が少し膨らんだ気がする。俺は気のせいだろうと深く考えなかった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~

side ムラサメ

 

ご主人が結婚を、諒が居候を告げられた時、吾輩はそれはそうだろうなと思っていた。2人とも使い手になるに相応しい資質を持っている。ただどちらかというと諒の方がそれが濃く見えた。…そこが問題だ。

 

「本当に妙じゃ…」

「ムラサメ様、妙ってなんですか?」

 

いつの間にか芳乃が近くまで来ておった。

 

「叢雨丸の使い手になるのは諒だと思ったんだがの」

「え?でも叢雨丸を抜いたのは有地さんじゃないですか?」

「あの瞬間を後ろから見ていたのだが、先に諒がやって、そこで抜かれると思ったのだ。叢雨丸の感覚は管理者である吾輩も分かる。ただ…」

「ただ?」

 

訝し気に見てくる。

 

「諒の方から拒絶されたような気がしてだな」

「拒絶…ですか。そんなことありえるんですか?」

「いや、まず拒絶の感情を持ってること自体おかしいのだ。普通の人間ならそんな感情何て持たないし、まず諒は初めて穂織に来たようなのじゃ」

「じゃあ何で?」

 

その問いに対して、吾輩は首を横に振る。

 

「分からん。こんなこと前にはなかったからの」

「…何かあったんでしょうか」

 

芳乃は心配そうにしている。芳乃は少し頑固で融通の利かないところがあるかもしれぬが、優しい心を持った人間だ。吾輩も頼りにしておる。

 

「…本当に諒は何かあったのかもしれぬな」

 

もしかしたら諒自身の過去に何かあったのかもしれない。もしくは安晴の言う通り、本当に朝武家と何か繋がりがあるのかもしれぬ。ただ今は初めて会った上に何も分からない。吾輩はこの問題を一旦頭の隅に追いやることにした。




諒の過去に何があったんでしょうかね~、まあ想像つく可能性はあるかもしれませんが
次回もよければどうぞ


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その7 新生活

500UA突破しました。見てくださりありがとうございます!
それではその7、どうぞ


「んぅ…」

 

窓から季節柄暖かい光が差し込んでくる。俺はその光で目を覚ました。

 

「朝か…」

 

結局昨日のひと悶着は夢ではなく、紛れもない現実だった。その証拠に俺は今志那津荘にいるわけではなく、朝武家にいる。部屋は1人だと持て余してしまうほどに広く、奥の方に、箪笥や掛け軸などが飾ってある。いわゆる書院造のような部屋になっている。

ただそんな和風建築に似合わないくらい、現代技術の塊が机に置いてある。家から持ってきたパソコンや外付けメモリ、各種コードなど仕事に必要な周辺機器がそれだ。

 

「一先ず着替えるか」

 

因みに昨日のことは菊岡に報告済みだ。こういうのは早く連絡するに限る、報連相だ。その報告というのは…

 

 

──────────

 

「電話で報告するか」

 

環境が一気に変わったため、仕事に影響が出るかもしれない。とりあえず菊岡に報告して、助言を仰ぐことにした。

プルルッと電話のコール音が一回なった後、菊岡に繋がった。

 

『もしもし』

「菊岡、俺だ」

『珍しいね。諒君の方から電話を掛けてくるなんて。どうしたんだい?』

「ちょっと厄介なことになってな」

 

事の顛末を菊岡に話した。これを話すことは安晴さんや玄十郎さんから了承をもらっている。まあ菊岡は勝手に他人にバラしたりしないと思うから平気だとは思うが。

 

「…ということなんだ」

『なるほどね。はは』

「何笑ってるんだよ」

『いや、君も和人君に負けず劣らず巻き込まれ体質だと思ってね』

 

失礼な奴だな。

 

「俺だって巻き込まれたくて巻き込まれてる訳じゃねえよ」

 

出来ることなら平凡に過ごしたい。

 

「で、どうすればいい?」

『そうだね…仕事の方には影響出そうかい?』

「若干スピードが落ちるくらいで多分大丈夫だと思う」

『分かった。じゃあそのまま続けてくれ』

「了解」

『宿には私から連絡しておく。学校にもそのまま通ってくれ』

「分かった。頼む」

 

それじゃと言い電話を切る。とりあえずこのまま続行と。

 

「ふうー…なんか疲れたな。今日は早く寝よう」

 

明日から早速仕事があるし、それに備えて早めに寝ることにした。

 

 

──────────

 

「納期は延びるかもなぁ…」

 

そんなことを考えながら着替えを終える。ああ、そう。将臣とは別々の部屋だ。将臣は朝武さんの許嫁みたいな立ち位置になり、将臣自身もかなり渋ってはいた。その時に彼女もいなければ好きな人もいないという悲しき事実が出てきたが。…まあ、かくいう俺もいないけど、な、泣いてなんかないわいっ。…まあともかく、その後は玄十郎さんが将臣に頭を下げ、流石に将臣もこれを無下にできなかったのか、了承したという訳だ。なかなか大変なことになったなぁ…

 

「まあ、リビングに行くか」

 

軽く身支度を整え、リビングに移動した。

 

 

 

 

「おはようございます」

「あ、おはよう」

「おはよう」

 

そこに居たのは、将臣とムラサメの2人だけ。時間は7時を回っており、もう少し誰かいるかと思ったけど、何かやってるのかな。

 

「2人だけ?」

「ああ、朝武さんはまだ起きてきてなくて、安晴さんは朝の仕事をしてるみたい」

「こんな朝早くから?」

「神主だからな。いろんな準備があるのだ」

 

なるほど。忙しそうだ。

 

「手伝いに行っても邪魔になりそうだな」

 

何も知識を持たないやつが行ったところで出来るのは掃除くらいだろう。逆に邪魔になりそうだ。

 

「そう思って俺も行かなかったんだけど、なかなか手持無沙汰なんだよね」

「だったらムラサメと話してればよかったじゃないか」

「いや~、なんかね?」

「なんかってなんだよ」

 

そんな感じで将臣と話していると、部屋の襖が開き

 

「ふぁ~…おはよ~…」

 

まだ眠そうな朝武さんが入ってきた。

 

「ども、おはようございます」

「朝武さん、おはよう」

「…」

「どうしたの?」

 

こっちを見るなり、その場で固まってしまった。

 

「ッ!」

 

そして動いたと思ったら、痕がつくくらい、思いっきり自分の頬を叩いた。

 

「…い、痛い…」

 

自分で思ったよりも痛かったのか、少し涙目になっている。

 

「大丈…夫?」

「これくらい…大丈夫です…」

 

とてもそうは見えないけど。

 

「涙目になっておるではないか」

「そんな思いっきり叩かなくても…」

「これは…さっきの欠伸のせいです。別に痛くて泣いてる訳じゃないですよ」

「それは無理がある気が…」

「何か言いましたか神谷さん?」

 

怖ッ!そんなに睨まなくても。

 

「ともかく、コホンッ!…おはようございます」

「うん。おはようございます」

「おはよう」

 

やっと落ち着いて挨拶が出来た。涙目ではあるが。

 

「今更取り繕っても手遅れだと思うのだがの」

「取り繕ってないです。これが普通です。ムラサメ様も変なこと言わないでください」

「吾輩は事実を言っただけなのだがな。大体、芳乃とご主人は結婚するのであろう?朝が苦手なのも知っておくべきなのではないのか?」

「結婚はしません」

 

ズバッっと言い切った。哀れ将臣。

 

「なら許嫁?」

「そういう問題じゃありません!神谷さんわざと言ってませんか?」

「まさか。そんなことないよ」

 

まあ若干煽りも入ってなくはないけど。そこ言ったら普通に怒られそうだから言わないでおく。

 

「わはは、芳乃は律儀に反応してくれるのう」

「とにかく!結婚はしませんから。お父さんが勝手に言ってるだけです」

 

随分と結婚を嫌ってるようだ。まあ無理もないか、突然押し付けられたに近いからな。

 

「有地さん」

「は、はい」

 

今度は将臣の方を割と真剣な顔で見る。

 

「さっきは気を抜いていただけで、違いますから。本当に違いますからね!へ、変な期待とかしないでくださいね!」

 

結構気にしてるんだな…

 

「私はお父さんに、有地さんは玄十郎さんに言われて、押し付けられただけなんですから、お互い上手くやり過ごしましょう」

「あ、あぁ…」

 

将臣が朝武さんに若干気圧されている。

 

「寝間着のまま、頬を赤くさせた状態で言われてもしまらんなぁ」

「あ、それは言わない方が…」

 

結構気にしてるみたいだし、さっきから何回も言ってたから…

 

「ムラサメ様!話があるので来てくださいませんか!?」

 

やっぱり…

 

「そこまで怖い顔せんでも…わかった、行く」

 

やれやれといった様子でムラサメが答える。

 

「それと有地さん、神谷さん体調は大丈夫ですか?どこか違和感はありませんか?」

「いや、変わったところはないけど」

「俺も大丈夫」

 

慣れない生活をしてる俺ら2人を心配してくれる。優しい人だな…

 

「心配するな。吾輩のご主人になったからって身体に影響は出ない」

「なに!?不穏すぎるんだけど!?」

 

流石に生身の人間の体に影響が出たりはしないだろ。

 

「そういうことではなく、慣れない生活ですから体調に変化はないか気になっただけです。でも何もないのならいいんです。失礼します」

 

そう淡々と言うと、朝武さんはリビングから出て行ってしまった。

 

「将臣を心配してくれてるから、優しい子なんだろうけど…」

「なかなか棘が」

 

きつい言い方で拒絶しようとしているが、慣れない生活を強いられている俺と将臣のことを心配してくれてるように本心が隠しきれてない。無理をしてるように見える。

 

「ふぁ~…」

「まだ眠いのか諒?」

「そうだな…ちょっと軽くシャワー浴びてくる。朝武さんと安晴さんが先に戻ってきたら伝えといてくれ」

「OK。わかった」

 

将臣に伝え、リビングから出て、風呂場に向かった。

 

 

 

 

「ふう~…」

 

自分で思ったよりも疲労が溜まっていたのか、起きてもまだ眠気が残っていた。その眠気を醒ますのであれば顔を洗うだけでもいいかもしれないけど、なんとなくシャワーが浴びたくなった。

 

「よいしょ」

 

風呂場のドアを開けると、ゴトッという音がした。その音がしたところを向くと

 

「…丸太?」

 

丸太が落ちていた。

 

「なんでここに丸太が…」

 

普通の家の風呂場の脱衣所に絶対ないであろう物が落ちている。いまいち状況が掴めない。そんな時、背中に嫌な感覚を覚えた。ただ周りを索敵する前に首元に何かが突きつけられる。

 

「動かないでください」

 

鋭い声で制される。そして背中にも何かが押し付けられる。

 

「(これはまさか…あれか!)」

 

男では絶対に持ちえないものが押し付けられている。ここまで言ったら分かるだろう、まあ…あれである。男だからしょうがないだろう…こんな状況なのに若干楽しんでいる。

 

「え、あ、ええ…」

「動かないでください。動くと刺します」

 

底冷えするような冷たい声で言われる。結構やばい…かも…

 

「あ、あの決して怪しいものじゃ…」

「この状況で怪しくないと言い張りますか?」

 

逆に他の人に見られたら、変な勘違いされそうな場面なんですけどね!

 

「ワタシの質問にだけ答えてください」

「…はい」

 

何これ尋問?

 

「何の目的に侵入してきたんですか?」

「いや、侵入したわけじゃ…」

「じゃあ暗殺ですか?」

「暗殺ってそんな昔の話じゃ…あーもう」

 

このまま行っても平行線だ。素直に訳を話した方が納得してくれる気がする。

 

「俺は無断で侵入したわけじゃないんです。安晴さんに叢雨丸の使い手になれたかもしれないって言われて、玄十郎さんの志那津荘では預かれないってことになって昨日からここにお世話になってるんです」

「本当ですか?」

「ええ、なら安晴さんとなんならムラサメに確認してもらえれば」

 

どうだ?信じてくれるか?

 

「ムラサメ様を知ってるんですか?」

「?ええ、知ってますし、見えますし」

 

それを言うと、僅かだが驚きを感じさせる。

 

「…あのお名前は?」

「神谷諒です」

 

俺の名前を聞いた途端、合点が行ったようで少し慌て始めた。

 

「あ、神谷諒様でしたか、も、申し訳ありません!失礼なことを!」

 

首に突きつけられていた何かが離れる。冷静になった俺はそれを視認すると

 

「ッ!?」

 

全身の毛が総毛だつ感覚を覚えた。

 

「その御神刀を抜かれた方とは別にいると聞いてはいたんですがまさか住んでるとは思ってなくて」

 

女性が何かを言っているが、俺の頭に入ってこなかった。俺の首に突きつけられていたのは“クナイ”。忍者が使ったとされる両刃の道具で、その使用用途は多岐にわたる。後ろにある穴に縄を通し、木や壁に刺すことで登りやすくしたり、水を張り、鏡のように用いるのもあったようだが、主な用途は殺人。

 

「──ぁっ」

 

喉からしゃがれた声が出る。殺人という忌々しい二文字を考えた途端、ある光景がフラッシュバックし、体が一気に硬直する。

 

「あの、どうかなさいましたか?」

 

声を掛けてくれるが、返事も出来ない。やがて呼吸が荒くなり、その場に立っていられなくなる。落ち着けようとしてもあの光景が、殺人(レッド)の狂気が邪魔をし、落ち着けられない。

 

「大丈夫ですか!?」

 

心臓の鼓動は早くなり、それに伴いさらに呼吸が荒くなる。そして脳に十分な酸素が行き届いていないのか、段々頭がぼおっとしてくる。

 

「しっかりしてください!」

 

俺の体を支えてくれるが、力が一切入らない。そしてここまで俺の意識を保ってくれた何かが切れ、一気に視界が暗転し、俺は意識を失った。




GWに入りましたねー。まあ今年のコロナのせいでどこにも行けないので執筆が捗りそうです。
次回もよければどうぞ


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その8 朝

熊人6様、お気に入り登録ありがとうございます!
それではその8、どうぞ


「ん…」

 

意識が戻り、目が覚める。

 

「ここは…」

 

周りを見回してみると、まだ馴染み切ってない新たな俺の部屋だった。

 

「何があったんだっけ…」

 

まだ少しぼーっとする頭をなんとか稼働させ、意識が途切れる前の記憶を探す。

 

「え~と…朝起きて、リビングに行って将臣たちと会話して…」

 

思考が加速し、段々頭がはっきりとしてくる。

 

「シャワー浴びたくて、風呂場に行ったら…誰かいたんだっけか」

 

記憶の中からその人が誰だったか思いだそうとするが、そういえば顔は見れなかったのを思い出した。

 

「誰だったんだろうな。え~と…その後なんか首元にクナイ…が…」

 

それを思い出した瞬間、汗がどっと吹き出る。

 

「はぁっ、はぁっ…」

 

呼吸が少し荒くなる。それをなんとか落ち着かせ、呼吸を安定させる。

 

「大丈夫…大丈夫…」

 

大丈夫と自分に言い聞かせる。今実物がここにあるわけじゃないし、自分は生きている。

 

「くそっ…ほんとにいやになるな…」

 

弱すぎる自分に嫌になる。一度引き金を引いて仕舞えば、鼓動は早くなり、呼吸は乱れ、体が動かなくなる。以前の事件後、体に刻み込まれた”死”への恐怖。どんなに抗おうとも抗うことは出来なかった。

 

「くそっ」

 

ここでもそれが邪魔をするとは…何が使い手になれる資格があるだ。そんなもの備わってなどいない。

 

「はあ…」

 

起き上がっていた体をバタッと倒し、自己嫌悪に陥っていた思考を停止させる。その時

 

「あ、起きたみたいだね」

 

部屋の襖が開き、そこから1人の女性が入ってきた。

 

「って、すごい汗だね。どうかしたかい?」

「あ、いえ。何でもないです」

 

言われた通り、体に服が張り付くくらいの量の汗をかいている。それよりも俺はこの人が誰なのか気になった。

 

「あの、あなたは?」

「私は駒川みづは。この町で医者をやってるんだ。よろしく神谷諒君」

「俺を知ってるんですか?」

「まあ叢雨丸の使い手が2人も現れたって、一部の人間の間で囁かれててね。それで私も知ったんだよ」

 

どうやら当事者の俺たちが知らないところで密かに盛り上がっていたらしい。なんとも居心地の悪い。

 

「それでどこか体に痛いところとか出ていないかい?」

「え~と…」

 

言われたように自分の体の状態を確認する。汗が凄い以外には呼吸の乱れとか、頭がぼーっとするとか、体の異常はない。

 

「大丈夫です」

「そうか。私の方でも軽く診たんだけど、多分問題ないと思う」

 

医者の人に言われ、安心する。

 

「それで、何があったんだい?突然倒れたとは聞いているんだけど」

「その、シャワー浴びたくて風呂場に行ったんですけど、そしたらこの家の人かは分からないんですけど、いきなり首にクナイ…を当てられて、バタッと」

 

あの場面で起こったことを全て話す。駒川さんは「ふむ」と言い何かを考えている。

 

「状況は分かったけど…恐怖とかで倒れたわけではないだろう?」

 

やはり医者は鋭い。俺が何を抱えているか大体わかってるのだろう。

 

「…俺、数年前からPTSDっていうのになってしまって」

「なっ!?」

 

PTSD、正式名称はPost Traumatic Stress Disorder。日本語で言うと心的外傷後ストレス障害。簡単に言えばトラウマのことだ。俺は事件後からそれを抱えている。

 

「…なぜそれになったか教えてもらうことって出来るかな?」

「すみません…それは」

 

出来ない。俺の勝手なわがままかもしれないけど、言いたくなかった。言ったら、その記憶が鮮明に思い出されそうで。

 

「そうか。まあ話せるようになったら話してくれればいいよ」

「すみません」

「大丈夫だ。じゃあ私は安晴さんを呼んでくるから」

 

そう言い、駒川さんは部屋を出て行った。ちょっと経った後、今度は安晴さんが入ってきた。

 

「諒君!大丈夫かい?」

「はい。心配をお掛けしました」

「いや、大丈夫だよ。それより、朝ごはんが出来たけど、食欲はあるかい?」

 

そう言われ、確認する。普通に腹が減っている。

 

「そうですね。いただきます」

「じゃあ行こうか」

 

布団から出て、安晴さんの後に続き、リビングに向かった。

 

 

 

 

 

「申し訳ございませんでした!」

 

リビングに着くなり、女の子に土下座されるこの突然の状況に俺は面食らう。

 

「あ、あのそこまでやんなくてもいいですから」

「いえ、気を失わせてしまったのは私ですから」

 

この女性はそう言ってるが、気を失った本当の原因は俺にあるからな…だからこの女性のせいだとは一概には言えない。

 

「あの、体に異常もありませんから、本当に大丈夫ですよ。顔を上げてください」

 

そう俺が促すと、その女性はずっと伏していた顔をようやく上げた。

 

「本当に申し訳ありませんでした。ワタシは常陸茉子と申します」

「神谷諒です。よろしく」

 

ようやくまともな挨拶が出来た。常陸さんは浅緑色の瞳を持ち、髪型はショートボブでまとめているが、横髪は胸のあたりまでくる長さになっている。というか、朝武さんもそうだったけど、常陸さんもお世辞抜きでかわいい部類に入る。穂織の女性はみんなこんな感じなのだろうか。…なんか俺凄い失礼なこと考えてるような…まあいいか。そんなことを考えていたら、安晴さんがパンパンと手を叩き

 

「さあ、朝ごはんにしようか」

 

そう促す。将臣と、朝武さんはすでに座っていたが、俺と常陸さんは机から少し離れた位置にいたので、移動し、座る。机の上にはご飯、みそ汁、焼き魚とメニュー的には普通の一般家庭の朝ごはんと変わりないが、見た目が違う。とても美味しそうに見え、食欲がそそられる。

 

「それじゃ、いただきます」

「「「いただきます」」」

 

まず、魚から手をつける。身を切ると、そこから湯気がのぼってくる。そして口に入れる。

 

「美味しい…」

 

身はふっくらしており、どこかに苦みもない。上手く出来ている。

 

「よかった。お口に合いましたね」

「え?これ常陸さんが作ったの?」

「はい。料理以外にも色々できますよ」

 

すごい器用なんだな。俺も一通りは出来るけど、ここまで上手く出来るかは分からんな。

 

「本当は私が家事全般をやるべきなんだろうけど、家事は苦手でね。妻にも先立たれてしまったから茉子君に頼りきりになってしまってるんだ」

「お気になさらないでください。楽しんでやってることですから」

 

なかなか安晴さんも大変なんだな。

 

「茉子君の家は昔からずっと朝武家に仕えていてくれてるんだ。本来の仕事は家事じゃなくて護衛なんだけどね」

「護衛…?」

 

普通に生活していれば出てこない単語を聞き、困惑する。

 

「常陸家は代々、忍として巫女姫様をお守りしてきたんです。とはいっても、日頃から護衛が必要な世の中じゃありませんから、普段は家事をしているんです」

「だから、クナイを。…納得しにくいけど」

「まあ、それは外とは違いますから。こちらからすれば神谷さんと有地さんが住んでいた世界の方が異質ではありますよ」

 

確かに。それは一理あるな。穂織と俺が住んでた──例えば東京──はかなり違う。VRやARの発展度もそうだが、基礎ネットワークの発展度もまるで違う。それに東京ではコンビニとかの会計は人を介さずにでき始めている。機械で商品を自動で読み取り、計算までする優れものだ。それに現金も使わなくなっている。そりゃ穂織から見れば、異質に感じるか。

 

「そういえば諒は料理出来るのか?」

「ああ、向こうでは一人暮らしだったから、料理を含めて家事全般は出来るぞ」

「神谷さんはこっちに来るとき、お家はどうなされたんですか?」

「穂織に居るのは半年っていう期限付きだから、東京の家は引き払ってないよ。そこは管理人さんが上手くやってくれてると思う」

 

こっちに来る時管理人さんに仕事のことを説明したら「あら〜学生なのに大変ねぇ〜。じゃあ部屋はそのままでしっかり守っておくよ!」と言ってくれた。すごい良い人で俺も何度も助けてもらっている。

 

「期限付きなのかい?それはなんで?」

「元々仕事で来たんですよ。今日もその仕事がありますけど」

「なら、なおさらワタシやっちゃいましたね…」

「だから気にしなくっていいって」

 

とまぁ、こんな感じで安晴さん、常陸さん、将臣とは楽しく会話出来てるけど、朝武さんだけが会話に入ってきてない。それに将臣も気づいているのか、何度か話しかけているけど

 

「巫女の仕事ってどんなのがあるの?」

「掃除や他の事務作業など色々です」

「そうなんだ…」

 

と、こんな感じでまったく会話にならない。というか会話をしたくないように見える。今朝将臣に言ったあの言葉をまさに現実にしている。これには安晴さんも頭を抱えるくらいで、「はぁ…」というため息をついてしまうほどだ。正直俺もこれには何も出来ないなぁ…

 

「ごちそうさまでした」

 

話していた俺たちと比べ、早く朝武さんの方が食べ終わった。朝武さんは食器を、流しに手早く運ぶと

 

「私は舞の練習をしてますので、何か用があれば呼んでください」

 

そう言うと部屋から出て行ってしまった。俺は頑固だなくらいにしか思わないけど、将臣にとっては居心地が悪いだろう。まあ朝武家に来てからの最初の朝ごはんは一方団らん、一方険悪となんだか大変なものになってしまった。ただ、干渉しすぎても、意味はないだろうし。

 

「(朝武さんの方から心を開いてくれるのを待つ以外はないか)」

 

そう結論づけた。

 

「ごちそうさまでした。俺も準備が出来次第、仕事に行きます」

「うん。がんばって」

 

そう安晴さんから言葉を掛けてもらいながら、食器を片付ける。そして自分の部屋に戻り、バックに必要な荷物を詰める。そこで机に置いてある時計を確認する。

 

「うん。良い時間だな」

 

朝ごはんを食べたり、談笑してたりしてたら丁度いい時間になっていた。

 

「それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃいませ!」

「行ってらっしゃい」

 

朝武さんを除く3人から見送りの言葉を掛けてもらい、玄関から外に出る。いつか朝武さんにも言ってもらえたらいいなと考えながら、そう遠くない目的の場所へ歩いていった。




今回PTSDっていう単語をそのまま出すか、若干濁すか悩みましたが、トラウマの内、1か月以上続いているものをPTSDと呼ぶようなのでそのまま出すことにしました。
不快に感じていなければ幸いです。
次回もよければご覧ください。


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その9 顔合わせ

その9どうぞ


「ここか…」

 

家から歩くこと数分、目的の建物に着いた。建物は木造建築の二階建てで、屋根には瓦が使われている。やはり和だ。

 

「こんにちは~」

 

建物の引き戸を開け、挨拶しながら中に入る。

 

「おお、来たか。諒」

 

中には玄十郎さんと、もう一人男性がいた。

 

「生活の方は大丈夫か?」

「はい。みんな良い人で良くしてもらっています」

 

まあ、前途多難な部分もあるにはあるけど、それは伏せておこう。

 

「そうか。何かあったら遠慮なく相談してくれて構わないぞ」

「ありがとうございます」

「でだ。仕事の内容を説明する前に先に穂織の情報整備部の方を紹介する」

 

玄十郎さんよりも後ろにいたその人が、前に出てくる。

 

「初めまして。大矢俊樹と申します」

 

眼鏡を掛け、髪は短めだがパーマがかかっている。体は細身で、背が高い。とても優しそうな人だ。

 

「こちらこそ初めまして、神谷諒です」

 

大矢さんと握手を交わす。

 

「他にも何人か僕の同僚がいるんだけど、それはその都度でよろしく」

「分かりました」

「それで、穂織に諒を呼んだ訳だが…最近外国からの観光客も増えてきていての。それで今は色んな所の環境を整備する必要があるのだ。店の回線も強いところ、弱いところとまちまちでな」

 

なるほどな。出先で急に通信遅くなったらイラつくからな…それは俺も経験がある。せめてお店に強度の強いwifiはいるな。

 

「でも、それだと元々の基地局か、提供事業者に依頼しないと、回線強度は上がりませんよ?」

「そうなんだよね。だから重要なところの回線強度を優先的に上げて、他は出来たらっていう感じになると思う。穂織は資金が潤沢とも言えないからね…」

 

大矢さんは少し目を伏せがちに言う。

こんなくらい周囲と隔絶していたら、自分たちの力でなんとかする必要は出てくる。おそらく穂織は、観光事業が主な収入源になっていて、温泉が特に有名だからそれを目玉にしているだろう。ただそれを永続できるかと言われれば、厳しいだろうな。お金は有限。だからこそ上手く使わないといけない。

 

「まあそこら辺はお昼でも食べながら考えようか。鞍馬さんと神谷君はどうされます?」

「わしはこの後やることがあるから、申し訳ないが遠慮させてもらう」

「俺はご一緒します」

 

そうして、俺と大矢さん、玄十郎さんに別れ、俺は大矢さんについていった。

 

 

 

 

 

「ここだよ」

「寿司屋…ですか」

 

大矢さんに連れてこられたのは寿司屋。さっきの事務所みたいな二階建てじゃなく、一階建ての平屋だ。

 

「寿司は嫌いかい?」

「いえ、好きなんですけど。なんか高そうなお店だなぁって」

 

寿司の値段が時価みたいなそういうお店のように見える。

 

「大丈夫だよ。結構リーズナブルでね、地元の人にも観光客の人にも人気なんだ。だからお金の方は気にしなくていいよ」

「そうなんですか。ありがとうございます」

 

ならたくさん食べようかな。…少しは遠慮するよ?何を食べようかなと考えつつ、寿司屋の扉を開け、中に入る。

 

「いらっしゃい!お、俊樹じゃないか!」

 

大将さんが声を掛ける。知り合いなのか?

 

「どうも。今日はもう一人いるんですけど」

「そっちの若いのか?」

 

今度は俺に視線が来る。

 

「神谷諒と言います。初めまして」

「俺はこの店の大将をやっている小林雅也だ!よろしく!」

 

坊主でかなりガタイが良い。威圧感あるなぁ…

 

「それで注文は何にする?」

「僕はいつもので」

「俺は…にぎりのセットで」

「はいよ!」

 

そう言うと、小林さんは寿司を作っていく。

 

「大矢さんは結構ここを利用してるんですか?」

「そうだね。いつもの仕事のお昼とか終わりとかに結構使うね」

「じゃあ常連ですか」

「まあ"いつもの"で通じるくらいだから」

 

少し笑いながら言う。なんかこういう"いつもの"で頼むのは少しあこがれるんだよな。なんか子供っぽいかもしれないけど。

 

「それで、今後なんだけど。さっき言った通り、優先度を決めて、やっていこうと思うんだ」

「優先度が高いのは、人が多く集まるところが比較的高いと思うんですけど」

 

俺が思うに、宿とか人気のお店はそれに該当すると思う。

 

「そうだね。だからそこは町のデータと照らし合わせながらやるかな。で、そこは事業者に依頼して、必要な道具は送ってもらう」

「今は置くだけでwifiが開通するのもありますしね」

 

それも昔と比べ回線速度も向上してる。

 

「種類はどうするんですか?新しくするのなら置くだけのとか、別途インターネット回線が必要なのもありませけど。それともルーターだけ変えますか?」

「それは場所にもよってくるかな。古いルーターだったら替えるだけで、結構変わると思うし」

「じゃあそこの調査をやらないとですね」

「今後はまずその調査からやろう。それで調査に基づいて、今後はやろう」

「分かりました」

 

今後のことが決まった。そして会話が一段落したとき

 

「へい、お待ち!」

 

寿司が届いた。まぐろや海老、サーモンや玉子などの定番のネタが乗っている。とても美味しそうだ。

 

「じゃあ食べようか」

「そうですね」

 

大矢さんに合わせ、いただきますを言う。まず、まぐろを食べよう。とても新鮮そうで、銀座の高級店の寿司のように見える。口に入れる。まぐろのほんのりとした甘みとシャリの酸味がよく合っていて、わさびがさらにそれを引き立てる。すごく美味しい。

 

「どうだい?兄さん」

「凄く美味しいです!高級店にも負けないくらい」

「へへ、そいつはよかった。さあ、どんどん食べていってくれよ!」

 

それを皮切りにどんどん食べていく。サーモン、海老、玉子、1つ1つを味わって食べていく。どれも新鮮でとても美味しい。あっという間に食べてしまった。

 

「あの、大矢さん。もう一皿頼んでもいいですかね?」

「ああ、いいよ。じゃんじゃん頼んでくれて」

「じゃあ、もう一皿お願いします」

「あいよ!」

 

手早く小林さんは寿司を作っていく。そして俺の前に出てくる。

 

「いただきます」

 

そしてまた食べていく。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

寿司を食べきり、今はお茶を飲んでいる。

 

「どうだったかい?」

「このリーズナブルな値段で、あのクオリティは凄いです。また来たいです」

 

お世辞じゃなく本当だ。凄く美味しかったし、量も割とあったから、満足度は高い。

 

「じゃあお会計は僕が払うよ」

「え?いいですよ。自分の分くらい自分で払います」

 

そんなやりとりを何回も続けていたが、最後には押し切られてしまい、奢りというようになった。

 

「そういえば穂織はVRとかARはやらないんですか?」

「まあ、やりたいのは山々なんだけど、やっぱりそこの整備が難しくてね」

 

確かにVRをやるのであれば、まずアミュスフィアなどのデバイスを買って、WANで接続。そして脳に直接仮想の五感情報を与え、仮想の体を形作るため、それに耐えうるだけのサーバーが必要になる。そしてARであれば、ただショッピングや空間情報が欲しいのであれば特に整備する必要もないが、ゲーム…例えばOSをやろうとすると、他のことも必要になってくる。

 

「モバイルバッテリーみたいに持ち運び可能のがあればいいんだけどね」

「それは難しいですね…」

 

今のところそれらしきものは聞いたことがない。技術的にもかなり難しいだろうし。

 

「まあそれは今後に期待ってやつだね。ともかく各お店とかを調査するから、データを僕は確認しておく。それがまとまったら連絡するよ」

「分かりました。お願いします」

 

そして連絡先を交換し、俺も大矢さんもそこで別れ帰路に就いた。




原作にいなかったキャラは多々出てきますが、まあストーリー上名前があった方がいいということで、結構増やすかも。
次回もよければご覧ください。


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その10 修正

煉獄万花様、お気に入り登録ありがとうございます!
それではその10、どうぞ


「うーん…」

 

今は家までの道を歩いているのだが、少し考え事をしながら帰ってきている。帰りの道中、何軒かお店に入り、実際にネットに接続してみたのだが、遅いところ、十分な速度のところとまちまちだった。

 

「ルーター替えるだけで対処できればいいけど」

 

正直それが一番楽だ。別に新回線を開通させる必要がない方がいい。

 

「あ、もう着いた」

 

そんなことを考えながら歩いていたら、神社に着いた。

 

「あ、おかえり諒」

 

将臣が神社の境内を掃除しながら、挨拶してくれる。

 

「ただいま」

「随分と早いな」

 

将臣のそばからムラサメが出てくる。凄いふわっと出てきたな。

 

「まあ顔合わせだけだったから。あと昼飯も奢ってもらった」

「何食べたんだ?」

「寿司。結構美味しかったぜ」

「いいな~、俺も食いたい」

「まあ、今度暇なときにでも行こうぜ。そういえば将臣はもう昼飯食べたのか?」

「まあ、食べたけど…」

 

どんどん言葉が弱くなっていく。何かがあったのか?

 

「なかなか…ね?」

 

なんだか少し疲れているように見える。まだ起きてから半日しか経っていない。どちらかというと体力的な疲れよりも精神的な疲れか?

 

「何があったんだ?」

「芳乃がなかなか頑固でな…」

「あー、なるほど…」

 

朝の態度が思い出される。確かにあんなピリピリした中じゃ落ち着いては食べられない。

 

「まあいきなり結婚って言われて、すぐに納得できないもんだろ。そこは待つしかないよ」

「確かにそうだな。あ、あと諒」

「どうした?」

「朝から動画とかネットとか見てるんだけど、カクついたりして重いんだよね。接続しなおしてみたりしても変わんないからさ。後で直せたら直してくれない?」

「分かった。確認してくる」

 

原因をいくつか考えながら、将臣と別れ、家に戻る。

 

「ただいま~」

 

そう言いながら、扉を開け、中に入る。

 

「おかえり、諒君」

 

安晴さんが出迎えに来てくれた。あ、ちょうどいい、ルーターの場所を聞こう。

 

「安晴さん、ルーターってどこにあります?」

「ルーターかい?どうして?」

「将臣が回線が遅いって言ってるんで確認をしたいんです」

「なるほどね。それならリビングにあるよ」

 

安晴さんに案内してもらい、ルーターを見つける。

 

「じゃあ確認します」

 

まず回線速度の確認から。パソコンを立ち上げ、検索に回線速度測定のサイト名を入力し、検索。そしてそのサイトでテストする。スタートのボタンをクリックすると、いくつかメモリが出てくる。それが少しの間勝手に上下するが、止まる。これで測定完了だ。

 

「どうだい?」

「多分これは遅いですね…」

 

別タブでルーターの製品ページを開き、そこにある理論値を見る。

 

「やっぱり遅いですね。理論値からだいぶ落ちてます」

「直せるのかい?」

「原因が何か分からないんで…もしかしたらファームウェアが古いかもですね」

「ファームウェア?」

「いわゆるバージョンのことです。それが古いままだとダメなんですよね」

 

販売サイトにアクセスする。そしてかなり下までスクロールし、製品ぺージを開く。そしてファームウェアバージョンを確認する。

 

「やっぱり古いかもですね」

 

最新バージョンが出ているところを見るに、多分古いな。アップデートしよう。サイトからアップデートファイルをダウンロードし、専用ソフトを開く。ルーターを識別するコードを入力し、専用画面を開く。そしてアップデート画面を開き、ファイルを選択。更新実行をクリックする。するとアップデートの進み方を示すバーが出現し、その上に180秒と出る。

 

「少し待ちですね」

「これで変わらなかったらどうするんだい?」

「多分ルーター自体に問題があるかもですね。それはもう替えるしかないです」

 

規格が古いと当然新しいのに比べると速度は劣る。もしかしたらそれかもしれん。

 

「しかし凄いね。僕は全然分からないから」

「学校では情報系を専攻してましたから。あとゲームとかが好きなんで、その周辺機器も知っておこうと思って」

 

そんな感じで話していたらアップデートが終わった。これで改善していればいいけど。

 

「じゃあもう一回確認してみます」

 

さっき使った回線診断サイトをまた使う。さっきよりは早くなっているが、理論値からは遠い。

 

「マシになったんですけど、まだ遅いですね」

 

やっぱり規格が古いのか?それを思った俺は規格を確認する。

 

「やっぱりそうか…」

「何がだい?」

「これ規格自体が古いんです。今の主流の大体3世代くらい前の奴なんで、最大回線速度も低いですし、実測値も低くなっていたんでしょうね」

 

これじゃカクついたりするわけだ。

 

「じゃあ新しくしないとかい?」

「まあ、そうですね。それが1番いいんですけど、今回は俺が持ってきてあるのがあるんで、部屋から取ってきます」

 

そう言ってパソコンを閉じて立ち上がり、自分の部屋に行く。バックからそれを取り出す。穂織に来るときにネットがどこまで繋がっているのか分からなかったから、一応持ってきてよかった。俺が持ってきたのは小さめだが高性能な奴で、今の一番新しい規格を使っているから回線速度も速い。それを持ってリビングに戻り、元々あったルーターを外して、持ってきたのをつける。

 

「これでよしと。じゃあ将臣に伝えてきます」

 

また立ち上がり今度は部屋ではなく、玄関に行く。外に出て、まだ境内にいる将臣のところに向かうと、血相を変え明らかに焦った様子の女性が居た。




ネット関連は自分も調べながら書いてるので、もしかしたらところどころ間違っているのがあるかもしれませんがお許しください。
次回もよければご覧ください


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その11 人探し

それではその11、どうぞ


「将臣、どうした?」

 

俺は状況を確認するために将臣に近づく。

 

「この人のお子さんが迷子になったって」

「迷子?このあたりでですか?」

 

向かいにいるお母さんと思われる女性に聞く。

 

「はい。ここに来るまで一緒に居たんですけど、途中で急に走り出してしまって」

「それではぐれたと…」

「そうなんです」

 

はぐれたか…この親は何をやっているんだ?小さい子供は好奇心の塊だ。目に映るもの全てに興味を示す。手を繋ぐなりしないと、そりゃはぐれるだろうな。

 

「お昼過ぎから境内に居ましたけど、小さい子供は見ていないですね」

「そうですか…イヌツキなんてところに連れてくるんじゃなかった」

 

小さく言ったその呟き。俺は聞き漏らすことなく聞こえ、少しだがイラっとした。自分の不手際の棚に上げ、環境のせいにしていることに。しかしそれを今言っても意味はないので、グッとこらえ、努めて冷静に切り返した。

 

「そんなものありませんから、ただ単に迷子になっているだけですよ」

「でも探したんですよ!?」

「不十分な可能性もありますし、お子さんと入れ違いになってる場合もあります。自分たちも手伝いますから、特徴を教えてください」

「いいんですか?」

「ええ、遅くなる前に見つけてあげないとまずいですし」

「警察には連絡しましたか?」

 

そう将臣が聞くと、女性は首を横に振った。

 

「すぐに見つかると思ったので連絡していないです。でも、連絡した方がいいですね」

「すぐに連絡してください。その間に探してみます」

 

警察に連絡してもらう前に名前と特徴を教えてもらい、写真ももらう。

 

「名前は龍成君。歳は5歳。髪は短めで、青いシャツとハーフパンツか」

「警察に任せた方が早いのではないか?」

「広範囲ならな。近辺だったり、ピンポイントで探すのなら自分たちで探した方が早い」

 

警察は人手がどうしても多くなり、細かいところを見落とす可能性がある。狭い範囲なら自分たちで探した方がいい。

 

「ムラサメちゃんも手伝ってくれるよな?」

「そりゃもちろん手伝うが、吾輩が見つけられても、ご主人か諒に伝えることしかできないぞ?」

「大丈夫。それで構わない」

「ならムラサメは俺たちが探せない、狭いところとか探してくれないか?好奇心に任せて隠れちゃったっていう可能性もあるかもしれないから」

 

子供は小さいから、考えつかないところに入り込んじゃうこともあるからな。

 

「じゃあ見つけたら、ここでまた合流か、大声を出してもらうってことでいいか?」

「それについては気にしなくてもよい。ご主人の場所はご主人の魂を通じて分かる。だから合流に関しては問題ない」

 

なんとも不思議なものだな。魂と直結してるってことなのか?

 

「俺監視されてる?」

「そういう訳ではない。あくまで”大体の居場所がわかる”だけだ。明確には分からぬ」

 

それでもかなり凄い力だ。何かあった時は頼りになりそうだ。

 

「それでもすれ違いの心配はない」

「なら合流方法は任せる。俺と諒は神社とその周辺を探してみる」

「了解」

「承知した」

 

そう言うと、ムラサメがその場からスーッと消えていった。

 

「現実離れしてるよな…」

「ほんとそうだな。まあ探そうぜ」

 

そうして、俺たちは神社とその周辺を探していった。

 

 

 

 

「将臣どうだった?」

「いや、いなかった」

 

あれから境内全体を探していたが、龍星君は見つからなかった。

 

「どうする?少し範囲広げるか?」

「そうだな。ムラサメは将臣の場所は分かるって言ってたから移動しても大丈夫だろ」

 

そうして俺たちは街の方へ向かっていった。

 

 

 

 

「やっぱりいないな…」

 

街もできるかぎりの範囲を探していたが、まったく見つかる気配がない。もう空もオレンジに染まってきている。

 

「神社に来るときに道に迷ったのかな?」

「うーん…待てよ?もしかして山に入ったっていう可能性はないか?」

「でも、一人で入るか?」

「可能性だけならあるだろ。男の子だぜ?冒険したいっていうのもあるかもしれない」

 

男の子はそういうのにかなり興味を示すからな。それに建実神社は少し高い位置にあって周りが山に囲まれている立地だからすぐに山に入れる。

 

「それなら早く見つけてあげないとまずいんじゃないのか?」

「まさしくその通りだ。急ごう」

 

そして今度は街から山へ移動していった。

 

 

 

 

「ここもか…」

 

山に移動して将臣と2人で歩きながら探しているが見つからない。もう空も暗くなってきている。

 

「かなり日が落ちてきたな…」

 

早く見つけてあげないとまずい。

 

「龍星くーん!」

 

将臣が思いっきり叫ぶ。しかし返事はなく、聞こえるのは風の音と葉が揺れ、こすれる音くらい。人の気配は全く感じられない。

 

「流石に山の中に入るのは考えすぎだったかな…」

 

いくら男の子と言っても勝手に一人で山に入ったりはしないか。

 

「戻ろうか」

「そうだな」

 

だいぶ暗くなってきていて、夜目が利かなくなってきている。この中で探すのは流石に危ない。来た道を戻ろうと向きを変えたときに

 

カサッ

 

「ん?」

 

後ろの茂みから音がした。龍星君が隠れているのか?

 

「龍星君?」

 

将臣が声を掛けるが返事はない。しかし

 

ガサ…ガサ…ガサと確実に何かがこっちに近づいてきている。

 

「龍星君じゃないとなると、何が来てる?」

 

人じゃないとなると、野生の動物か?ただそれにしては規則的に音がしすぎている。得体のしれない何かに少し恐怖する。

 

「…走るか?」

「いや、危なすぎる」

 

暗い山道を全力疾走したら、けがをする可能性もあるし、斜面を転げ下りれば最悪の可能性もある。

 

「来たっ…!?」

 

音がすぐ近くまで迫ってきている。そしてガサっと揺らしながら茂みからそれが出てくる。それは…生き物と形容できない、ただ泥を練り上げたような塊だった。しかしそれは少しずつ俺たちの方に寄って来る。

 

「将臣、少しづつ下がれ。いつでも逃げられるように」

 

将臣にそう伝える。俺の勘がこいつはやばいと言っている。ゆっくり下がっていると、パキッと乾いた音が響く。それを合図に

 

「ッ!?」

 

目の前を何かが通りすぎていった。これはまずい!

 

「走れ!」

 

そう叫び、一気に走る。あの攻撃には明確な殺意があった。どっと汗が吹き出る。呼吸が乱れる。しかし走るのは止めない。止めたら、その時に俺はどうなっているか分からない。その時、ゾクッとした感覚を覚える。直感に身を任せ、前に跳ぶ。俺が居た場所にさっきの触手のようなものが叩きつけられる。

 

「やばい…」

 

確実に俺を殺しに来ていた。その恐怖に足が竦み、動けなくなる。逃げなきゃと分かっているのに動けない。

 

「大丈夫か諒!?」

「いいから、早く逃げろ!」

 

2人同時は一番最悪だ。そう思い、なんとか将臣だけでも逃がそうとする。

 

「でも…」

「いいからっ!行けっつってんだよ!」

 

思いっきり叫ぶ。それを聞いた将臣は少し苦しい顔をしたが、すぐに走って行った。

 

「(これで将臣は大丈夫…俺は相変わらずやばいな…)」

 

冷静を装っているが、考えられたのはここまでで、他のことは考えられない。頭の中には逃げなきゃということだけで埋まっている。

 

「(くそっ!早く立てよ!)」

 

自分の体が動かせない。意思を込め、力を入れても、恐怖が体を縛り付け言うことを聞かない。しかしその時一瞬体が動かせた。ゆっくり立ち上がり、逃げようと足に力を込めた瞬間

 

「がっ!?」

 

脇腹を殴られた。俺の体が飛ぶ。飛んだ先は危険だと言っていた斜面方向。そのまま斜面を落ちていく。

 

「ぐ…あっ!」

 

肩や足を地面や木に打ち付けながら、落ちていく。そして徐々にスピードが落ちていく。完全に落ちきり、止まった。一番下に着いた。足に冷たい感覚を覚える。

 

「(川…か…?)」

 

冷たい感覚と、殴られた脇腹は焼けるような鈍い痛みが走り、足や肩は鋭い痛みが走る。

 

「(ああー…声が出ねぇ…)」

 

助けを呼ぼうにも痛みのせいで大きな声が出せない。幸いにもさっきの塊が追ってきてないから、すぐに命の心配はしなくていいだろう。だが、どうするか。俺はもう動けないし、将臣も恐らく山から下りただろう。

 

「(このまま…かな)」

 

ネガティブな方向に思考が走り出した瞬間。

 

「諒!」

 

山を下りたと思った将臣が来た。

 

「大丈夫か!?」

「大…丈夫…じゃ…ない」

 

将臣の問いに途切れ途切れになりながら答える。

 

「くそっ!ムラサメちゃん!」

 

将臣が呼ぶと、どこからともなくムラサメが現れた。

 

「どうしたご主人?…って諒!?何があった!?」

 

俺の今の姿を見て、ムラサメは驚き、詰め寄ってくる。

 

「ちょっとな…」

「ちょっとどころじゃないだろう!?」

 

おっしゃる通りである。正直大事故レベルだ。

 

「諒動けるか?」

「…無理」

「くそ。ムラサメちゃん誰か助けを呼んでくれ!」

「分かった!」

 

そう言うとムラサメはまたその場から消え、どこかに行った。

 

「すぐ呼んできてくれるからそれまで耐えろよ!」

「あー…すまん。無理だ…あとは頼ん…だ」

 

そこで俺は意識を手放した。




ここら辺から結構ストーリー組むのが難しくなってきますね。原作主人公とオリ主をうまく噛み合わせないとなので、まあがんばります。
次回もよければご覧ください。


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その12 真実

1000UA突破しました。見てくださりありがとうございます!
ナギンヌ様お気に入り登録ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!
アンケートを追加しました。答えていただけると嬉しいです。
それではその12、どうぞ


「ん…」

 

意識が覚める。

 

「ここは…」

 

首を動かし、見える範囲で周りを見渡す。

 

「俺の部屋…?」

 

何でここにいるんだ?昨日風呂に入ったり、歯を磨いたりしたっけ…?いや、してないな。というか最後何やったっけ?ダメだ…全然思い出せない。

 

「誰かに聞けば思い出せるかな」

 

そう思い体を起き上がらせた瞬間

 

「ぐぁっ!?」

 

鋭い痛みが体中を駆け巡った。場所は主に脇腹。脇腹を怪我するようなことあったっけ…?

 

「あ…」

 

そうだ、昨日山の中で泥の塊みたいなやつに襲われて、吹っ飛ばされたんだ。で転がり落ちてその後…あれ、何があったんだっけ…よく思い出せない。思い出そうと格闘していたら

 

「すー…すー…」

 

ん?何か聞こえる。それは俺の傍らから規則的に聞こえてくる。その方向に目を向けると

 

「んぅ…」

 

目を閉じ眠っている朝武さんが居た。

 

「なんで俺の部屋に朝武さんが…」

 

本来はありえないだろうこの状況に俺は戸惑う。いつも会う時に纏っているようなピリピリとした雰囲気は鳴りを潜め、今はどぎまぎさせるようなあどけなさがある。

 

「しかし綺麗だな…」

 

整った顔立ちに雪のように白く綺麗な髪を持つ朝武さんは、俺が今まで出会った女性の中でも1、2を争うくらいに綺麗な人だろう。俺は無意識に朝武さんの髪に手を伸ばしていた。絹のように滑らかな髪だ。

 

「…あ!起きたか!?」

「!?」

 

突然将臣が部屋に入ってきた。急いで手を離す。

 

「どうした?」

「いや?なんでもないぞ」

「…まあ、いいか。身体は大丈夫か?」

「うーん…」

 

自分の体を確かめる。

 

「ちょっと痛むけど、動かせないことはないから、割と大丈夫だと思う」

「そうか。ああー、よかった…」

 

将臣が安堵の表情をする。随分と心配を掛けたみたいだ。

 

「しかし、よく生きてたな諒」

 

そう将臣が言う通り、体中には包帯が巻かれておりケガの度合いを物語っている。

 

「医者が言うには擦り傷、裂傷、打撲と色々あるが骨折まではしておらんそうだ」

 

ムラサメが将臣の後ろからふわっと出てくる。

 

「そうか。まだよかった」

「よくはないのだがな。みんな心配しておったのだぞ」

 

ムラサメは安心したような表情で見てくる。

 

「そうか…本当に心配かけたな」

 

そう言い、ムラサメの頭を撫でる。ムラサメは最初こそ戸惑っていたが、すぐに受け入れてくれた。その時また部屋の扉が開き

 

「神谷様…?」

 

ゆっくり常陸さんが入ってきた。

 

「常陸さん、どうも」

「神谷様!」

 

俺が挨拶したら、常陸さんは驚いた表情で一気に近づいてきた。

 

「お身体は大丈夫ですか?」

「ちょっと痛むけど、大丈夫」

「診察は後でちゃんと受けてください。先生も何あればすぐに連絡をと仰っていましたから」

「分かりました」

 

そして常陸さんの緊張した顔がようやく緩んだ。

 

「でも本当によかった。けがはしてたとはいえ、ちゃんと意識を取り戻されて。これで一安心ですね」

「そうだな。血だらけで横になっている諒を見たときは本当に肝を冷やしたぞ」

 

血だらけの俺…想像したくないな。というか常陸さんとムラサメが普通に会話してる?

 

「常陸さんもムラサメが見えるのか?」

「ええ、見えますよ」

「ムラサメが見える人って結構多いのか?」

「そうでもないな。身近で見えるのは使い手であるご主人を除けば、諒と芳乃と茉子だけだ」

 

結構身近な人ばっかだな。

 

「昨日は大変だったのだぞ。ご主人が運んできてくれたとはいえ、吾輩が状況を伝えられるのは、芳乃か茉子でなければいけないし」

 

もし芳乃か茉子がいなかったらダメだった訳か…怖いな。そこで俺はふと1つ気になった。

 

「そういえば昨日龍星君は見つかったのか?」

 

まず山に入ったのは元々龍星君を見つけるためだったわけで、本来の目的はどうなったのか気になる。

 

「そこは安心してください。警察が見つけて、お母さんのもとに帰りましたよ」

「そうか。よかった」

 

目的は色々あったが達成されたわけだ。これで一安心。

 

「みんな迷惑かけたな。すまなかった」

 

色々身の回りのこともやってくれただろうし、本当に迷惑を掛けたと思う。

 

「いや、こちらこそすまぬ。むしろ迷惑をかけたのは吾輩の方なのだ!」

「え?」

 

なんでムラサメが謝るんだ?何か悪いことをしたわけじゃないのに。

 

「夜に山に入るなと先に忠告するべきだった」

「勝手に入ったのは俺たちだから、責任はムラサメにないとは思うんだけど」

 

むしろ危険性を理解しないまま俺たちは入ってしまったんだから、俺たちの方が悪い。

 

「でもさ、あの泥みたいな塊は何なんだ?」

「それは俺も気になってた。少なくとも生き物じゃないとは思うんだけど…」

「…それなのだが」

 

渋っているけど、言いにくいことなのか?ムラサメが少し悩み、ようやく何かを言おうと口を開いた瞬間

 

「ん…んぅ…」

 

朝武さんが動き、目を開けた。

 

「んー…おはようございます…」

 

寝ぼけ眼でゆっくり体を起き上がらせた。

 

「おはよう朝武さん。随分眠そうだね」

「…神谷さん…?…神谷さん!?」

 

俺を認識した瞬間、今までの眠気が吹っ飛んだようにすごい勢いで詰め寄ってくる。

 

「大丈夫ですか?ケガは痛みませんか?包帯ゆるんだりしてませんか?」

 

凄い勢いでまくし立ててくる朝武さん。俺はそれに驚き、思わず体をのけ反らせる。

 

「っ!?」

 

急に身体を動かしたから、痛みが…

 

「まだ痛むんですか!?あの、見せてください!」

「さっきのは急に身体動かしたからだから大丈夫!」

 

今の俺の体勢を早く楽にしたいと思って、詰め寄ってきている朝武さんをなんとか離そうとするが、今以上にどんどん詰め寄ってくる。そして俺の体の状態を確かめるためか、俺の脇腹に朝武さんの手が触れた瞬間

 

「…ん?」

 

朝武さんの頭の上に獣耳が生えた。…何言ってんだろ俺。人間に獣耳は生える訳がないだろ。頭強く打っておかしくなったかな。そう思い、一度視線を外し、気持ちを落ち着かせて、また見るが

 

「(うん。やっぱりあるね)」

 

俺別にそういう性癖は持ち合わせてないんだけどなあ。

 

「あの、神谷さん。大丈夫ですか?」

「なんか本来見えないものまで見えてて大丈夫じゃないかも」

「本来見えないもの?何ですかそれは?」

「それ」

 

変にリアルで、実際に犬にあるような質感の大きな耳を指さす。朝武さんは俺の指の先に視線を動かし、ある場所に向いたところで

 

「ッ!?」

 

目を見開き、慌てて頭から生えているそれを手で隠す。しかしそれは隠しきれず、朝武さんの手からはみ出していた。

 

「いや、ここここれは違うんです!幻覚です!神谷さんが頭を強く打って見えてる幻覚です!」

 

幻覚と言われても、ちゃんと朝武さんの手に接触して折れてるから、実体をしっかり持ってる。そういえばこれ将臣は見えてるの?気になった俺は聞くことにした。

 

「なあ将臣はこれ見えるか?」

 

そう聞くと、朝武さんがさっと将臣の方を見る。将臣は若干渋い顔をしているが

 

「…うん。見える」

 

そう答えた。俺以外にも見えるとなると幻覚の可能性は限りなく低くなった。

 

「本当に幻覚?」

「…違い、ます」

 

朝武さんが弱弱しく答える。

 

「諒に触れたことが原因だろう。祟り神の穢れの影響を受けた部分だからな」

「祟り神、穢れ、しかもその耳は…」

 

よく分からない単語を連続で言われ、混乱する。

 

「ご主人だけじゃなく、諒にも見えるか」

「将臣もか?じゃあ常陸さんにも?」

「ああ。吾輩のことを見える人間ならばこの耳も見える」

「…他の人には?」

「今は見えないが、いずれは…」

 

状況がいまいちよく分からないが、なんとなく重大なことが起こっていることは分かる。

 

「朝武さんの頭の上にある耳とあの塊は関係があって、叢雨丸もそれに無関係ではないってことか」

「でも俺はともかく、諒は使い手じゃないからほぼ無関係じゃないのか?」

 

俺や将臣の疑問に場は少し重くなる。

 

「芳乃様、2人にちゃんと説明するべきではないでしょうか?」

「でも…」

 

朝武さんは何かを迷っているようだ。その時、部屋の扉が開き

 

「僕も説明した方がいいと思うよ」

 

安晴さんが入ってきた。

 

「お父さん…」

「将臣君だけじゃなくて諒君にも影響があるなら尚更説明が必要だよ」

 

安晴さんの説得を聞き、朝武さんは何かを決めた表情になる。

 

「…分かりました。でも必要なことだけですから。それ以外のことは何も話さないでください」

「うん、約束する」

 

そうして俺たちは場所を移動する。

 

 

 

 

「まず、今回の件は事態を甘く見ていた僕たちの責任だ。申し訳ない」

「いえ、勝手に入ったのは俺たちですし」

「でも忠告はちゃんとしておくべきだった。日が暮れたら山には決して入らないようにと」

 

安晴さんの言葉が強くなり、事の重大さを感じられる。

 

「あの、あれは…何なんですか?動物ではないとは思うんですけど…」

 

将臣がそう質問する。

 

「うん。その前に2人は穂織に伝わる伝承を知っているかな?」

 

伝承…前に芦花さんが話してたやつか。

 

「妖怪にそそのかされた隣国の大名が攻め込んできたけど、最終的には返り討ちになったという話ですよね?」

「そう。そしてそれを退治したのが将臣君が抜いた叢雨丸。アレはなまくらでも偽物でもない、紛れもなく本物の特別な刀なんだ。わかるかな?」

「それは、ムラサメちゃんが見えるくらいですから」

 

確かに刀の精霊っていう割と大きな証拠があるから、信じるなっていう方が無理だ。…待てよ。叢雨丸は本物の特別な刀。で、叢雨丸は妖怪を退治した刀…もしかして

 

「あの、叢雨丸が本物なら、妖怪も本当に存在したんですか?」

「あっ…」

 

将臣も気づいたようだ。

 

「伝承は本当なんですか?」

「少し盛ったりして事実と違う部分もあるけど…今はその認識で十分だろう」

 

マジか…あんな夢物語の話が本当だなんて。

 

「とにかく叢雨丸の力で妖怪に打ち勝ったものの、今際の際に妖怪は呪詛を残した」

「呪詛…あの塊がそれですか?」

「そう。僕らはそれを祟り神と呼んでいる」

「そんなのがいたら危ないじゃないですか。ここは観光地なのに」

 

将臣の言うとおりだ。今でこそ賑わっているが、観光客に危害が出たら、悪い評判が立ち込め、間違いなく穂織は廃れる。

 

「無差別に襲い掛かるわけではないんだ。襲われるのは妖怪に強く憎まれているものだけだ。芳乃のその耳は妖怪に憎まれている証明。呪詛の現れだと言われてるんだ。その耳が残っている限り、祟り神に襲われる」

「なっ…!?」

 

あまりにも辛く、悲しい事実を言われ絶句する。

 

「朝武の家は、伝承にある戦に勝利した家の直系なんだ」

 

だから、憎まれているのか…厄介だ。

 

「で、将臣が襲われたのは叢雨丸の使い手に選ばれたから…ですか?」

「おそらく、そうだと思う」

「じゃあ俺は何故なんですか?使い手には選ばれていませんし、穂織に来たこと自体初めてですよ?」

「申し訳ないが、それについては分からない。無差別に狙ってきたのかもしれないけど、分からないことが多すぎてね」

 

無差別に襲うのなら観光客を襲うことだってあるはず。でも観光客は襲わないとなると、俺が襲われた理由は他にあるはず…うーん…考えても分からん。知らないことが多すぎる。

 

「俺にはあの耳が生えたりするんですか?」

 

将臣がそう聞くが、流石にそれはないだろ。

 

「いや、耳は朝武の直系だけのはずだから、将臣君には出ないと思うよ」

「そうですか、よかった」

 

本当に生えると思ったのかよ。しかし、祟り神や呪詛、そして朝武さんに生えている耳…

 

「穂織がイヌツキと呼ばれる原因は本当にあったんですか…」

「そうだね」

「発端はなんなんですか?」

「僕もそれついてはあんまり知らないんだよね…」

「なら吾輩がそれについては説明しよう」

 

ムラサメがここで出てくる。

 

「当時の朝武の姫に耳が生えたときは吾輩くらいにしか見えなかったのだが、時間が経つと誰にでも見えるようになってしまった。そして噂は広まって行ってしまった。朝武の姫には獣の耳が生える、呪われた姫だと」

 

空気が重くなっていく。昔も今も噂の広まり方は変わらないのか

 

「それが原因?」

「それだけではない。祟り神も放置しておくと、穢れをどんどん溜め込んでより強力になってしまう。そして強力になった祟り神が穂織で暴れ、山が崩れ、死者も大勢出て、大被害を出した。それが祟りだという噂が広まり、呪われた姫を奉る呪われた土地、それがイヌツキという名を生んだのだ」

「呪われた…か」

 

過去に起こった、まさに事実を聞く。

 

「その様子だとムラサメ様から説明があったみたいだね」

「そういえば安晴さんはムラサメのことが」

「見えないよ。僕は入り婿だから、呪詛の影響を受けていないんだ。受けてるのは…芳乃だけ、なんだ」

 

安晴さんは苦しい表情になり、朝武さんは辛そうで悲しそうな表情になった。俺もほとんど関係ないのに胸が苦しくなる。

 

「祟り神は基本的に山に入らなければ襲ってこないし、夜に入らなければ大丈夫。昼なら山に入れるよ」

「でも…夜に出てしまったらどうするんですか?放置して溜め込んだら、どんどん強力になってしまうし」

「まずなんだけど、そうなる前に朝武家は代々姫が穢れを祓っているんだ。芳乃の神楽舞がそれだよ」

 

春祭りの時に踊っていたやつか。

 

「あの穢れ祓いの儀式をすることで、土地全体の穢れを祓っているんだ。ただ舞の奉納だけでは全てを祓いきるのは無理なんだ。さっき諒君が言った通り、出てしまうこともある。そういう時は直接祓う必要がある」

 

直接…あれとか…いくらなんでも危険すぎじゃないのか?

 

「有地さんと神谷さんはあまり気にしないでください。これは…私の問題ですから。夜の間に山に入らなければ危害は出ないはずです」

「いや、でも…」

「祟りは私が何とかします」

 

朝武さんはやっぱり俺たちを巻き込ませないようにわざと突き放した言い方をしている。

 

「本当になんとか出来るのか?」

「…分かりません。けど何とかします。解決するまでは迷惑をお掛けすると思います。ですが、絶対に何とかしますから」

 

そう言い、朝武さんは立ち上がりどこかに行ってしまった。朝武さんはその運命を全て一人で背負い込もうとしている気がする。俺にはそれが、あの世界で散っていった人間のそれと酷似しているような気がして、変な胸騒ぎを覚えた。

 

 

~~~~~~~~~~

side芳乃

 

リビングから離れたところに今はいる。有地さんと神谷さんの2人に秘密がバレてしまった。でもそれに2人を巻き込むわけにはいかない。これは朝武家の、私の問題だから。

 

「あ、いた。朝武さーん!」

 

声をした方を振り返ると、神谷さんがこっちに走ってきていた。

 

「どうかしましたか?」

「さっきさ、朝武さんだけで何とかするって言ってたけど、何かあれば相談してよ。将臣は叢雨丸の使い手だし、俺は何もないけどアイデアくらいなら出せるかもしれないからさ」

 

そう言ってくれる。ありがたいけど、本当のことを知らないのに言ってほしくない。

 

「ありがとうございます。でも大丈夫ですから」

「でも、1人でなんでもやろうとしたらいつか潰れるよ」

 

潰れる…。そんなのは覚悟の上です。

 

「それを言ったら神谷さんも無理をしないでください。あの時だって有地さんだけゃなくて、神谷さんだって逃げ切れたんじゃないんですか?」

 

そう聞くと、神谷さんはバツが悪そうにし、頭を触りながら答えた。

 

「いやー…たぶん無理だったと思う。触手があったからかなり攻撃範囲は広かったから、走ってても後ろから殴られたと思うし、狙いは将臣だ、って感覚で分かったから将臣を優先して逃がした方がいいかと思ったんだよ。それに…」

 

そこで神谷さんの顔が曇り、凄く辛そうな顔をした。

 

「俺に近しい人がいなくなるのはもう、嫌だから」

 

近しい人…?いなくなる?誰かを失ったことがあるってこと?神谷さんの過去に何が…そんなことを考えていたら

 

「ごめん、なんか変な空気になっちゃったね」

 

いつの間にかさっきの曇った表情からいつも通りの神谷さんに戻っていた。

 

「あの、神谷さ」

「おーい!諒!」

 

神谷さんにさっきのことを聞こうとした瞬間に、有地さんが来てしまった。タイミングが悪い…

 

「どうした?」

「ちょっと頼みたいことがあって」

「分かった、すぐ行く。何かあったら頼ってくれていいから。それじゃ」

 

そう言い、神谷さんは有地さんと一緒に行ってしまった。

 

「やっぱり、神谷さんも何か抱えている…?」

 

さっきの曇った顔と言葉。神谷さんが抱えているもの、過去の一端を見たような気がする。私はしばらくさっきの神谷さんの顔が忘れられなかった。




今回は若干長くなりました。アンケートを終了しました。


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その13 電話

アンケートに答えてくださった方ありがとうございました。参考にしつつ話を進めていきます。
それではその13、どうぞ


「…まあ、そうもいかないけど、俺たちが出来ることは少ないんじゃないか?」

「そうなんだけどさぁ…」

 

将臣がうーんと悩む。因みに今は朝武さんの負担は軽く出来ないかと話し合っているところだ。けど現実問題無理だろうなぁ…2人ともただの一般人だし、特殊な力を持ってる訳じゃないし。

 

「でも黙って見てろっていうのもなんかな…叢雨丸もあるし」

 

将臣は普通じゃなかったな。将臣が持ってる特別な刀”叢雨丸”かつて妖怪を本当に倒したという刀で穢れを祓える唯一の刀。

 

「けどあれを正面切って祓えると思うか?」

「正直無理…だな」

 

あんな怪物みたいなのと戦うんだ、生半可な技量じゃまったく太刀打ちできないだろうし、最悪こっちが命を落とす。今は朝武さんの言う通り、任せるしかないな。

 

「あの…」

「あ、常陸さん」

 

いつの間にか常陸さんが来ていた。

 

「何を話されてたんですか?」

「将臣の相談に乗っててね」

「有地様の?何なんですか?」

「さっきのことなんだけど…」

「さっき…なるほど」

 

察しが良い。何のことかすぐ分かったみたいだ。

 

「何か出来ることはないかなぁ…って思ってたんだけど」

「ただ嫌いで突き放してるわけではありませんし」

 

それはなんとなくわかる。優しさゆえに俺たちを巻き込まないようにしてると思う。

 

「それに有地様と神谷様が危険にあったら、そっちの方が嫌ですから」

「そっか。あのさ…」

「どうなさいましたか?」

 

将臣の疑問に常陸さんはきょとんとした顔をしている。

 

「その”様”っていうのは止めてもらえないかな?なんか変な感じがしてさ」

 

それは分かる。俺にも付いてるしな。

 

「もう少しフランクでいいよ」

「ですが有地様は芳乃様の婚約者ですから」

「それ言ったら、俺ただの一般人だよ?こんな奴に様って付いてたら何事かって思わるかもしれないし」

 

それで俺だけじゃなくて常陸さんにも変な噂が立ったら嫌だしね。

 

「俺も婚約の話は決定じゃないし、公表もしてないから。普通にお願いできないかな?」

「…分かりました。では有地さん、神谷さんとお呼びしますね」

「うん、よろしく」

 

やっぱりさん付けの方がむず痒さはないね。そっちの方がいい。

 

「あ、あと…」

「なんでしょう?」

「いや、何でもないです…」

 

やっぱり気にしてるんだな。でも一般人である俺たちには何も出来ない。俺は特別な力は持っていないし、将臣はおそらく命を賭ける戦いなんて経験したことがないだろう。命を賭ける戦いは普通はないんだけどな…ともかくこの件は一時的に預けておくしかない。

 

「有地さん、神谷さん突然ですが私とお出かけでもしませんか?」

「はい?」

 

本当に突然だな。全く予期していなかったようで将臣はかなり驚いている。

 

「いいんじゃない?良い気分転換になるだろうし」

「…そうだな。たまにはいいか」

「じゃあ決まりですね。少し待っていてください」

 

そう言うと常陸さんは家の方まで戻り、少ししたら鞄を持って出てきた。

 

「お待たせしました。行きましょうか」

 

そう言い歩き出した瞬間。俺のポケットに入っていたスマホがピリリッと音を立てて震えた。

 

「あ、ごめん。電話だ」

 

スマホを取り出すと画面には大矢俊樹と書かれ、電話を取るか、拒否するかのボタンがある。俺は応答する方のボタンを押した。

 

「もしもし」

『もしもし、大矢だ』

「どうしました?」

『前言ってた調査が終わったから、その連絡にね』

 

調査というのは以前回線強度を上げるため店や施設ごとの優先度を調べるという調査だ。

 

「どうなりました?」

『それの報告もしたいから、今から会えないかな?』

「あー…分かりました。すぐ行きます」

 

そこで電話を切り、常陸さんと将臣の方に向き直る。

 

「ごめん。急に仕事が入っちゃったから、一緒に行けないわ」

「あら、大変ですね」

「俺はまた今度で」

 

そう言い、家に戻り部屋からパソコンを持ってくる。

 

「じゃ、2人はデートを楽しんで」

「デ、デート!?」

 

将臣驚きすぎだろ。

 

「神谷さん、行ってらっしゃいませ」

「うん。行ってきます」

 

そう言い、2人よりも先に境内から出て行った。

 

 

 

 

「こんにちは~」

 

指定された以前最初に顔合わせをした事務所に入る。もうすでに大矢さんがいた。

 

「お、来たね諒君。急に大丈夫だったかい?」

「平気ですよ。それでまとめたのはどれですか?」

 

俺がそう聞くと、大矢さんは鞄の中から1つのUSBメモリを取り出した。

 

「これに入ってるよ。パソコン持ってきてる?」

「持ってきてますけど」

「じゃあこれ挿し込んで見て」

 

大矢さんに渡され、まずパソコンを起動させる。起動し終わったら、メモリをポートに挿しフォルダを開く。開かれたフォルダの中にはいくつか資料が入っている。

 

「どれを開けばいいですか?」

「一番上のを開いてくれ」

 

言われた通り一番上にある資料をダブルクリックし資料を開く。

 

「それの一番最初には、各お店の来客人数とかを何年か平均させたものだよ」

 

資料には業種ごとに細かく表分けされ、今年、去年、一昨年の平均が載っている。その他にも色んなデータが載せられているが、今は割愛する。

 

「これに合わせて、やっていく感じですか」

「そうだね。やっぱり来客人数の多いところが優先だと思う」

 

となると各表の上の方に来てるやつか。規模的にも大きなところがやっぱり多いな。

 

「地道に各お店を回るしかないですか」

「まあそうやって確認していくしかないね。ネットワーク経由だとお店ごとの強度とか規格によって変わってきちゃうかもしれないし」

「確かにそうですね」

 

規格が新しいのと古いのが混同してるとセキュリティとかがめんどくさいからなぁ…

 

「それで各項目のそうだね…上から三番目くらいまでを次にやろうと思うんだけど」

「上から三番目…」

 

資料を見ると何個か表があって、穂織の役所や案内所、神社。飲食店系だと田心屋っていう甘味処が結構人が多いみたいだな。

 

「神社に関しては俺が調整したんで多分大丈夫だと思いますよ」

 

正確に言うと家のほうだけど、後で確認したら神社の境内と本殿までなら減衰なしで届いてたから問題ないと思う。他の部分は少し減衰してるけど使えなくはなかったから大丈夫。

 

「そうかい?ならそれ以外のところだね」

「それはいつやります?」

「明日でもいいかな?」

 

スマホのカレンダーを確認する。予定は入っていない。

 

「大丈夫です「よし。じゃあ明日から本格的に始めよう」

「分かりました」

 

そして集合場所と集合時間を共有し別れる。やっと本格的に開始か、忙しくなるぞ。

 

 

 

 

プルルッ

 

「ん?」

 

事務所からの帰り。歩いていたらスマホが鳴った。

 

「今日はよく電話が来るな」

 

そう思いながらポケットからスマホを取り出す。画面には川井教授と書かれている。

 

「もしもし」

『神谷君。久しぶり』

「お久しぶりです!川井教授!」

 

声の主は川井教授。本名は川井彩佳。俺が前通っていた学校のゼミのてーまえお題とか仕事とかをやるとき色々アドバイスをもらったりしてお世話になっていた。

 

「どうしたんですか?突然電話してきて」

『なに、どうしているかなと思ってね。体調崩したりはしていないかい?』

「あー…」

 

体調崩す以上のことには2回もなったけど。

 

「まあ大丈夫です」

『本当かね?少し怪しいが…』

 

バレてる気がする。ほんとなんか無駄にこの人鋭いんだよなー…

 

『まあいいか。大丈夫ならいいわ。それでそっちの生活にはなれたかい?』

「そうですね。他の人にもよくしてもらって、色々助けてもらってます」

『そうか。それはよかった。あ、そうそう君が作ってたプライベートVRのことなんだけど』

「え?学校変わったので課題提出しなくてもいいんじゃないんですか?」

 

プライベートVRは学校で川井教授のゼミに参加してると課題として出される。各講義ごとのテーマに沿って自由にカスタマイズするという課題だ。

 

『課題ってことじゃなくて、VRに携わる1人の人間として君が作っているものに興味があるんだ』

「俺の作ったやつに…ですか?」

 

俺のには特殊なのを組んだり、入れたりしてはいないのに、なんでだ?

 

『君のプログラムの組み方は無駄がないし、よく効率化されている。それは私も見習いたいんだ。天才プログラマーさん?』

「その呼び方はやめてくださいよ。俺はただの一般学生なんですから」

 

天才という呼び方は俺は嫌いだ。俺は人より多くの時間をかけ、人より多くの知識を持っているだけ。そうした努力に裏付けされているんだ。

 

「まあそういうことならいいですよ。テーマは何にしますか?」

『テーマはそうだね…自由でいこっか』

「自由?」

 

一番困るテーマだ。自由だと範囲が広すぎて、決める段階で悩むんだよなぁ…

 

『それの方が確認しやすいでしょ?』

「作り手の苦労は考えないんですか…」

 

少し項垂れた声で言うと、川井教授は、はははと笑った。

 

『明日に見せてくれって言ってる訳じゃないんだよ』

 

それならいいけど。

 

「ならいつですか?」

『一週間もあれば大丈夫そう?』

「多分大丈夫です。早く終わればその段階で見せればいいですか?」

『うん。構わないよ。それじゃあよろしく』

 

そして電話が切れる。自由に組んでみろか、なかなか難しいな。今は俺のVRは自然をテーマにしたものになっている。それを一度フォーマットして新しく始めるか。テーマは、そうだな…”和”でいくか。じゃあ今日の夜早速…あ、そういえば今日の夜にあれをやるんだった。




ヒロインに関してはもっと進んでから正式に考えていこうかなと思っています。
次回もよければご覧ください


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その14 今と過去

rumen様、crouton様お気に入り登録ありがとうございます
それではその14、どうぞ


時間は進み今は夜。祟り神の祓いに行くため、朝武さんと常陸さんが普段の格好から着替えていた。

 

「…凄い格好だね、それ」

「そうですか?忍び装束で、ワタシの正装なんですよ」

 

そういう常陸さんは忍びというには少し派手な気のする格好をしており、紺と白で全体的に肌の露出が多い。首元には黒と裏地が赤いスカーフのようなものを巻いており、ゲームの衣装のようにも見える。これ忍べんのかなあ?

 

「これは逆に目立ちそうな気がするんだけど…」

「でもこれ先祖から伝わる由緒正しき服装なんですよ、途中で新しく作り直したりはしてますが」

 

先祖が何年かよく知らないけど、服の持ちは綺麗に使ってもよくて10年だと言われている。それが忍び装束に当てはまるかは知らないけど、何回も修繕されているんだろう。

 

「儀礼的意味もあったりするのか?」

「はい。清められているので霊的な加護があるんです」

「なるほど…」

 

それによって呪詛からの影響は最小限に留められているっていうことなのだろうか、朝武さんも巫女服着てるし。

 

「では、行ってきます」

「行ってらっしゃい。気を付けて」

「それでは行ってまいります」

「うん。芳乃のことを頼むね」

 

そうして2人は出ていく。特に気負った様子もなく、いつも通りという感じで外に行った。

 

「2人にとっては自然なことなのか…」

 

あの塊を退治か…思い出しただけで頭が痛くなりそうだ。

 

「本当なら、2人に任せきりにせず、僕がなんとかするべきなんだろうけどね」

「え?」

「以前普段の舞は芳乃が、祟り神の退治は僕がとも思ったことがあったんだ。でもその力は僕には無かった

 

安晴さんは親の役目を果たしたかったのだろう。凄く辛そうな顔をしている。

 

「失敗どころか無茶をして、全治二か月の大怪我。あのときは本当に心配をかけてしまった」

「…あの、一緒に行った常陸さんはそういう妖に対抗する力はあるんですか?」

「芳乃よりは弱いらしいけど、あるそうだ」

 

だから2人だけしか無理なわけか…辛いな、これは。

 

「…」

 

将臣が何かを考え込んでいる。ここまでの話の流れと将臣が昼間言っていたこと、それを合わせると…

 

「自分が婚約者にされたのは、叢雨丸を使って穢れを祓う手伝いをしてほしいのではないか?とか考えてるんじゃないのか、将臣」

「え…?」

 

将臣は戸惑った顔をしているが、俺の推測が正しかったようでうんと頷いた。

 

「…確かにそう思われても仕方がないね。僕はそういうつもりで将臣君に結婚のお願いをしたわけじゃないんだ」

 

…ここからは将臣の方が重要な話だな。俺は退散するか。そうして俺は立ち上がる。

 

「諒どこ行くんだ?」

「ん?これからの話は将臣の方が重要だし、俺はあんまり関係ないしな。2人だけの方が何かといいだろ」

 

そして俺は自分の部屋に戻った。

 

 

 

 

「さてと…やるか」

 

パソコンを起動し、ブラウザを開く。今俺が何をしようかというと夕方くらいに電話で喋っていたVRの構築だ。テーマは”和”。穂織に来て、それを基にしたのを作ってみたくなったのだ。

 

「保存してあるところから持ってこないと」

 

俺はプライベートVRをサーバーに保存してある。USBメモリで保存して持ち運ぶのもいいけど、サーバーから取り出す方が楽だし、不慮の事故の時に対応がしやすい。取り出したVRを専用ソフトで読み込ませ、書き換え可能にする。

 

「とりあえずフォーマットかけて…」

 

今あるものを全部消し、まっさらの状態にする。

 

「まずどういうものにするかだな…」

 

自分が実際に動き、戦ったりするゲーム形式にするか、それとも景色を楽しんだりするのとかにするか…

 

「今回は観光みたいな感じでやるか。そうしよう」

 

とりあえずまずは軽く基礎プログラムを組む。ザ・シードが流通しているおかげでVR系は以前に比べ格段に作りやすくなった。大部分のプログラムが元から組まれているので、後は必要なプログラムを適宜組み込んだりすればいい。

 

「まずは地面と空をやんないと…」

 

それから俺は地面を草、空は青空に設定。ホームとして瓦屋根の建物を設定。そしてオブジェクトとして桜を追加したところで、アイデアが出てこず、まったく進まなくなった。

 

「あー…ダメだ。進まん」

 

いつもよりも進みが全然悪い。…気にしてんのかな、俺も。確かに俺も手助けをしたい。女の子2人に任せきりになり、男である俺が何も出来ないのは辛い。けど…俺に何が出来る?将臣みたいに祟り神に対抗する術も力も持たないただの人間に。それに俺はあの世界で逃げたんだ、もう戦えない。

 

「ダメだ、ダメだ…」

 

頭を振り思考を切り替える。最近どうしてもこういうふうになることが多い。

 

「なんか飲み物持ってくるか…」

 

そう思い立ち上がり、リビングに向かった。

 

 

 

 

「ん?」

 

リビングに向かう途中、玄関に人影があるのを見つける。その方に行くと

 

「あ、諒」

 

将臣だった。それにムラサメもいる。そして将臣の手には刀が握られている。

 

「どこ行くんだ?」

「…2人のところに行ってくる」

 

そういう将臣の顔は真剣で、決して中途半端な気持ちで言っているわけではない。

 

「戦えるのか?」

「分からない…けど、何もしないのも我慢できない。俺自身の意思で行きたいんだ」

 

自分の意思…か。強いな将臣は。それなら大丈夫だろう。

 

「…死ぬなよ」

「分かってる」

 

将臣と拳を合わせる。

 

「諒は?」

「俺?行くわけないだろ。武器も持ってないし」

「…そうだよな。変なこと聞いた」

 

そして将臣は外に行き、ムラサメもそれに続き出ていくが俺は一旦呼び止める。

 

「ムラサメ」

「どうした?」

「将臣を頼む」

「うむ、承知した」

 

俺の頼みに頷き、将臣の後をついていった。凄く心配だ…だけど俺には祈るくらいしかできない。

 

「俺はもう命を介した戦いは出来ない…無事に帰って来いよ」

 

俺の呟きは誰にも聞かれず消えていった。

 

 

 

 

「ふぅー…」

 

お茶を飲み、息を吐く。今は将臣が行ってから5分くらいだろうか。山が見える縁側に座り、山を見ている。

 

「大丈夫かな…」

 

なんとかうまくいってるといいけど…凄く心配だ。

 

「はぁ…」

「諒君」

 

誰かに声を掛けられる。その方を向くと安晴さんが立っていた。

 

「どうしました?」

「どこを見ているのかと思ってね」

「ああ、山を見てたんですよ」

「やっぱり心配かい?」

 

優しい表情と声で語りかけてくる。

 

「そりゃ心配ですよ。祟り神の脅威は自分が身を持って体感しています」

 

あの威圧感、見た目に似合わない素早さ、どこから飛んでくるか分からない攻撃。それらはとてつもなく危険だ。

 

「朝武さんと常陸さんはともかく、初めて行った将臣は動けるかどうかすら怪しいですよ」

「そうかもね。けどなんとかなるんじゃないかな。叢雨丸の使い手に選ばれたわけだし」

 

思ったより楽観的なんだな。

 

「そういえば将臣は俺が言った通りのことを聞きましたか?」

「そうだね…概ねその通りだったよ」

 

やっぱりか…

 

「やっぱりそういう意図はあったんですか?」

「それは絶対にないよ。祟り神の危険性は僕もよく知っている」

「ならなんでですか?」

 

そう俺が聞くと安晴さんは真剣な顔で理由を語り始めた。

 

「今のまま祟り神が穂織に留まってるという保証はない。万が一外に出てしまったとき、誰も事情を知らず、誰も祓えないでは被害が大きくなる」

 

それはそうか。今祟り神を祓えるのは、朝武さん、常陸さん、将臣の3人くらいだろう。3人だけじゃ数が少なすぎる。

 

「でもそれは結婚とは何も関係ないじゃないですか」

「…芳乃に必要なのは同年代の友人とのふれあいだと思うんだ。芳乃が今の仕事を継いだのは母が亡くなった幼い時。仕事を引き継いでからは余裕がなくなったんだ。それが何か変わればと思ってね」

「だったら結婚っていう関係じゃない方が良かったのでは?結婚を押し付けて2人の間に壁を作った。結局はエゴですよ」

「やっぱりそうだよね…」

 

肩を落とす。安晴さんは朝武さんを心配してそう言っているのだろうが、子からすればそんなのは親切とは言えない。朝武さんを見ればそれはよく分かるだろう。

 

「でもまぁ、急激な変化も必要なことも時にはありますから」

「そう言ってくれると助かるよ」

 

手に持っているお茶を飲む。安晴さんと話していたら少し頭が整理されてきた。今なら少しは進められるかな。

 

「そういえば諒君に聞いてみたいことがあったんだ」

「俺にですか?」

 

何だろう、仕事のことか?

 

「君の過去に何があったんだい?」

「…どういうことですか?」

「あの風呂場で茉子君と遭遇した時、普通の人なら気絶なんてしないと思うんだ」

 

そりゃそうだ。どっちかって言うと普通の男なら逆に喜びそうな気がする。

 

「何が君をそうならしてしまったんだい?」

 

俺にか…言うか、黙っているか、頭の中で葛藤する。言ってしまえば自分の心は少しは軽くなるのかもしれない。けど、余計な心配は掛けたくない、ただでさえ自分の娘が逃れられない戦いに身を投じ、苦心しているというのに。それに俺の過去を言うということは少なくとも、あのことを思い出さなくてはいけないということ、俺には辛すぎる…

 

「…もし君が言いたくないのなら無理しても言わなくていい。けど僕個人としては聞きたい。この家に住んでいるんだ子供に寄り添いたいんだ、親としては」

 

安晴さんの言葉に揺れ動く。そして俺はゆっくり口を開いた。

 

「……俺はどこにでもあるような普通の家庭に生まれました。毎日友達と遊んで、家族とどこか出かけたり、ゲームをしたり毎日を楽しく過ごしてました。あの悪夢のゲームに出会うまでは」

「悪夢…?」

「安晴さんはSAO(ソードアート・オンライン)を知っていますか?」

 

俺の問いに安晴さんはかぶりを振る。

 

「いや、知らないね」

「じゃあそれの説明からしますか」

 

当時の記憶を思い出しながら、語りだす。

 

「今から数年前、茅場晶彦という男がナーヴギアと呼ばれるフルダイブ型VRマシンを開発しました。五感を電子へと変え、現実とは異なる別世界、仮想空間へと飛ばす、それにより人間は完全なるバーチャルリアリティを完成させました。ナーヴギアの開発の少しあと、次にそのデバイスの持つ性能を最大限引き出し、ゲームを可能にしたSAO(ソードアート・オンライン)が発売されました。そのSAOの謳い文句は”これはゲームであっても遊びではない”。当時の俺はかっこいいなというようにしか認識してなかったんです。けどそれの本当の意味をその後身を持って知ることになりました」

 

口が渇く。どんどん当時のことが鮮明になっていくにつれ、言い知れぬ感情が湧いてくる。

 

「それをなんとか手に入れて、意気揚々とある言葉を唱え、その世界に入りました。最初はモンスター相手にある人のレクチャーを受けながら色々試してたんです。そこまではまだゲームで楽しかったんです。けどそこで仲間の内の1人があることに気づいたんです。”ログアウトボタンがない”と」

「ログアウトボタン?」

「SAOから出るために存在するボタンです。本来はメニューに合ってそれを押すことでそのゲームを終わらせることが出来るんです」

「でもそれがなかったら…!?」

 

安晴さんは気づいたようで驚愕の表情をしている。本来あったはずのログアウトがない。それが意味するのは

 

「自発的な脱出は不可能ということです。その後ある場所に強制転移され、赤ローブの男がこう言い放ったんです。”ログアウトが出来ないのはSAO本来の仕様であり、不具合ではない。この世界から脱出する唯一の方法は第100層まで登りそこにいるラスボスを倒すことのみ”と」

 

その後は現実を受け止められず呆然とするもの、泣き叫ぶもの、怒号を浴びせるもの、まさに地獄絵図だった。一瞬にして日常が崩壊したのだから。

 

「それが悪夢のゲームと呼ばれる所以…かい?」

「いえ、実際はまだ続きがあったんです。あともう一つ、それがSAOがデスゲームと呼ばれる訳を作りました」

 

深く息を吸い込み、ぐしゃぐしゃしてきた気持ちを整える。

 

「SAOでHP(ヒットポイント)っていういわゆる命の残量を可視化したものがあるんですが、それを全損すれば、SAOのアバターは死に、合わせて現実の自分も死に至るということです」

 

それが、ゲームであっても遊びではないという茅場の言葉の本当の意味だった。

 

「でもそれは本当に可能なのかい?ただのゲームが普通は出来ないはずじゃ」

「俺もそう思いたかったんです。けど出来てしまった。ナーヴギアは高出力の電磁パルスを発生させ着用者の脳を破壊するということをやるために作られたものでもありますから」

 

そういう意味ではもしかしたらゲームをするという意味では作られていなかったのかもしれない。ただ死に至らしめる殺戮道具として作られていたのかもしれない。

 

「それがSAO事件と呼ばれるものの始まりです。俺は攻略組と呼ばれる最前線で戦っていました」

 

第一層でキリトと出会い、そこからはコンビを組んでアインクラッドを登って行った。

 

「ただ最後まで攻略組に居たわけじゃなくて、紆余曲折あって途中で離脱したんです」

 

辛く、苦いあの記憶。それも1つではなく複数。俺は最後までキリトの隣には立ち続けてられなかった、途中で折れてしまった。

 

「それを話すことは?」

「……申し訳ないですけど、出来ません」

 

俺の中に残り続けている後悔と自責、そして恐怖。それらは今まで吐き出してこなかった。俺自身が潰れてしまいそうで、許せなくて、そして怖くて。俺のそんな雰囲気を感じ取ってくれたのか安晴さんはそれ以上は追求してこなかった。

 

「…辛かっただろうね」

 

その一言が心に凄く沁みる。

 

「それでも安心してほしい。いや安心してなんて言っちゃいけないのかもしれないけど、諒君を祟り神と戦わせるなんて言う命を賭けさせることは絶対にさせない。恐怖と不安で押しつぶさせることは絶対にしない。それは約束する」

「…ありがとうございます」

 

少し心が休まった気がする。とはいっても心にあるしこりはずっと残り続けている。これの解消は当分は無理だろう。

 

「それじゃ自分は明日仕事があるので今日はもう寝ますね」

「うん。些細なことでも何かあったら相談してくれていいから」

「ありがとうございます。あ、あとこのことは誰にも言わないでください」

「分かった」

 

そうしてその場から立ち上がり、自分の部屋に戻る。敷いておいた布団の上に横になる。ここに来てから初めてSAO事件を濃く思い出した。俺の人生の転機になったともいえるものだ。それまでの俺の夢や価値観とかが一気に変わったし、俺の仲間も変わってしまった。それは性格的な意味ではなく…

 

「はぁ…」

 

スマホの写真フォルダを開く。そこから一枚のある写真を表示させる。

 

「みんな…」

 

それには俺と3人の男女が笑いあっている写真が映し出されている。俺の友達”だったんだ”

 

「くそっ…」

 

俺はSAOで3人全員を失った。SAOから守れなかった。失ってしまった人はもう2度と戻ってこない。そんな当たり前をあの時は痛いほど痛感し、とめどない後悔が溢れた。行動1つ変わっていればもしかしたら失わずに済んだかもしれない。

 

「あ…ああ…」

 

涙が止まらない。もう戻ってこないという当たり前すぎる常識を再認識した途端、箍が外れたように、ダムが決壊したように、涙が溢れる。止まれと思っても、俺の意思に関係なく、流れていく。それは俺にはどうしようも無かったのだ。

 




文字数が普段よりも多めになりました。主人公の過去が出てきましたが、まだ若干ぼやかしておきます。
次回もよければご覧ください


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その15 助言と仕事

お久しぶりです。私生活が忙しくなりだしたのでなかなか執筆時間が取れず、今後しばらくこのくらいのペースになると思います。
アキ様、鳳空神様、wing//様、クロンSEED様、アストロイア様、お気に入り登録ありがとうございます。
それではその15、どうぞ。


「ん…」

 

日の光で目が覚める。起き上がり周りを見るといつの間にか眠っていたみたいでスマホもパソコンも点けっぱなしになってしまっている。

 

「保存しないと…」

 

そう思いパソコンのところまで移動する。そして画面にある保存ボタンをクリックする。少し経ったあと保存が完了された。

 

「よし、朝ごはんに行くか」

 

立ち上がり、リビングに向かった。

 

 

 

 

「おはよう」

 

そう言い、リビングに入る。もう俺以外のみんながいた。

 

「おはよう。随分と遅かったね」

「なかなか起きれなくて」

 

そう言いながら、将臣の隣に座る。

 

「どうぞ、神谷さん…ってどうなさいましたか?」

「何が?」

 

常陸さんからご飯をもらいながら、聞く。どこか変なところがあるのか?特にないとは思うけど。

 

「目が…」

「目?」

 

目が腫れてるとかか?でも特に違和感はないからそれは大丈夫だと自分では思うけど…

 

「真っ赤になってるんですよ。鏡渡しますね」

 

常陸さんから鏡を渡してもらい、それで自分の顔を見る。目を見ると、常陸さんに言われた通り、真っ赤に充血していた。

 

「何かあったんですか?」

「んー…寝つきが悪かったからかな?」

 

多分昨日泣いてたことが原因な気がするけど、あんまり悟られたくはない。

 

「寝つきが悪いからでなるんでしょうか?」

「俺も原因はよく分からないから、まあそういうことにしておこうよ」

 

俺がそう言うと常陸さんは渋々ではあるが、納得し、それ以上は追求してこなかった。

 

「まあ、食べようか」

「「「「「いただきます」」」」」

 

 

 

 

「…そういえば将臣」

「ん?どうした?」

 

朝ごはんを食べ終え、隣でお茶を飲んでいる将臣に声を掛ける。

 

「昨日のお祓いはどうだったんだ?」

 

昨日は将臣、ムラサメ、朝武さん、常陸さんの4人で山にお祓いに行っていたが、それを俺は気になっていた。

 

「あー…うん、特に何もなかったよ」

「その間はなんだよ…」

 

明らかに何かあっただろう、その間は…気になるな。

 

「本当に何もなかったのか?」

「あったにはあったけど…プライバシーのために黙秘する」

 

なんだそりゃ?まあプライバシーのためなら聞かないでおこう。

 

「…無事戦えたのか?」

 

ケガをしなかったっていうのは朝の時点で分かったが、立ち回りがしっかりできたのか気になる。

 

「うーん…そうだな…」

「無事かと言われればいまひとつと言ったところだな」

 

将臣の後ろからムラサメが出てきてそう答える。

 

「動きは完全に素人だったし、茉子が手助けしてくれなきゃ危なかったぞ」

「ふーん…まあそりゃそうか」

 

あんな怪物じみたものと戦う機会なんてまずないからな。それはしょうがない。

 

「…なんかその言い方だと慣れてるみたいに聞こえるんだけど」

 

将臣が俺にそう言ってくる。なかなか鋭いな…けど、今は言えない。

 

「まさか…俺にそんな命がけの経験なんてないよ、将臣と同じ素人だって」

「…そうか」

 

若干まだ何か言いたそうではあるが、特に何も言ってこなかった。

 

「将臣はこれからもお祓いについていくのか?」

「多分、そうすると思う。けど、今後何かがないようにしないとなあ…」

「そういう協力してくれそうなあてはあるのか?」

「考えてはいるんだけど、まだ思いついてないって感じなんだよな」

 

そう言われ俺も少し頭を捻るが、穂織での人脈は将臣よりも少ないから将臣が出ないのなら俺も出せないな。あ…そういえば

 

「将臣って剣道やってたって言ってなかったっけ?」

 

以前将臣と初めて会ったときに自己紹介をしあっていた時に聞いたものだ。もしかしたらそれを応用できるかもしれない。

 

「言ったけど…今は関係ないだろ?」

「いや、関係あるんだな、それが」

 

俺のその言葉にえ?という表情で将臣が見てくる。

 

「将臣はALOって知ってるか?」

「知ってるけど…」

 

ALO(アルヴヘイム・オンライン)、レクトが開発し、現在はユーミルが運営しているVRMMORPGだ。ゲーム名の名の通りプレイヤーは9つの種族から1つを選び、妖精となり、ゲーム攻略をしていくというものだ。そこで何をしていたかは今は省くが、ALOの特徴は魔法があること、スキル熟練度は存在するものの、SAOのようなレベルは存在しないということだ。戦闘面についてのサポートがほとんど存在しないため、その能力はプレイヤー自身の運動能力に依存している。

 

「ALOはプレイヤースキル重視。つまり現実の運動能力とかスポーツ経験が重要になってくるんだ。それで俺の友達の妹もさ剣道やっててALOでも強いんだよ」

「へえー…でもそれゲームの中だけじゃないのか?」

「じゃあもう一つ例を提示してやろう。OSを知ってるか?」

「オーディナル・スケールだよな。知ってるし、やってたよ」

 

OS(オーディナル・スケール)、カムラが開発・販売をしている次世代ウェアラブル・マルチデバイス”オーグマー”で遊べるARMMORPGだ。VRとは違い、現実の生身の体を使うので完全にプレイヤーの運動能力に依存している。だから剣道に勤しみ全国大会に出場する腕前を誇っている和人の妹、直葉ちゃんはすぐに適応し、仲間の誰よりも上手く立ち回れるようになっていた。それに対して和人は普段の運動不足が祟ったのか、最初はひどい有様だった。けど元々の運動神経はそこまで悪くないのかしっかりと立ち回れるようになっていた。

 

「それにもさっき言ってた子はやってたんだけど、凄く動けてた。だから案外現実世界の習い事とかも役に立つんじゃないかな」

「それが祟り神との戦いに関係あるかどうか分からないけど、確かに…もしかしたら生かせるかもな…」

「まあそれを強要はしないが1つの選択肢として考えてたらいいんじゃないかな」

「そうだな、考えておく」

 

将臣の腕前が上達すればそれだけ危険度は下がるし、朝武さんと常陸さんの2人の負担が少なくなるだろう。がんばってほしいものだ。

 

「あ、諒君」

 

将臣と話し終わったら今度は安晴さんが話しかけてきた。

 

「どうしたんですか?」

「今日はこれから仕事じゃないのかい?」

 

…あ

 

「そうでした!やっば!」

「あらら、忘れてたみたいだね」

「ありがとうございます!すぐ準備していってきます!」

 

そう言い、急いでリビングから自分の部屋に戻った。

 

「えっと…財布とスマホと…パソコンも」

 

バックに必要な荷物を積め、部屋から出る。そして廊下を軽く走りながら玄関に向かっている時

 

「わっ!」

「きゃっ!」

 

ちょうど角を曲がったところで朝武さんとぶつかってしまった。

 

「いてて…朝武さん大丈夫?」

 

そう言いながら朝武さんに手を差し出す。

 

「大丈夫です」

 

朝武さんは俺の手をつかみ、立ち上がる。

 

「ごめんね。急いでて」

「このあと何かあるんですか?」

「うん。仕事があってね、急いでるからそれじゃ!」

「あ、いってらっしゃい!」

 

朝武さんに見送ってもらいながら、急いで仕事の集合場所まで走って行った。

 

 

 

 

「はぁ…おま…たせ…はぁ…しました」

「うん、別に時間に遅れてないから、そんな息切れするほど急がなくても大丈夫だよ?」

「いや、仕事としては…時間前行動が基本ですから」

 

乱れてる息を整えながら、仕事の鉄則を答える。会社なら定時出社や定時退社が基本だがあいにく俺は会社に入ってない学生だから少なくともこういう細かいところはちゃんとしておきたい。

 

「それで今日はまずどこから行きましょう?」

「まずは役所から。1番重要なところだからね」

「分かりました」

 

そうして役所に移動する。

 

 

 

 

「ここだよ」

「やっぱり都会とは違いますね」

 

穂織の役所は都会のような2階とか3階の高いビルのようになっているものではなく、1階建ての平屋で他のお店よりも広くなっている。

 

「よし、入ろうか」

「はい」

 

入口についている暖簾をくぐり、ドアを開けて中に入る。

 

「おーい、来たぞ」

「おお、俊樹」

 

中にいる1人の男性が大矢さんに反応する。そりゃそうか、ここもだけど、大矢さんの情報整備課も穂織の役所の中にあるから知り合いだろう。

 

「今日は頼むな」

「分かった。諒君行こうか」

 

大矢さんと一緒に移動し、サーバールームのようなところに移動する。

 

「ここで穂織の重要な情報を一括で管理してるんだ。とりあえずまずはここの確認だよ」

「分かりました。繋いでいいですか?」

「うん、僕は別のことやってるからお願い」

 

そう言い大矢さんはサーバールームから出ていく。俺はサーバーに移動し、持ってきたパソコンと繋ぐ、そして確認を始めていく。

 

 

 

 

「ふぅ~…」

 

確認と修正が終わり一息つく。なかなかめんどくさかった…

 

「諒君お疲れ。どうだった?」

「全体的には問題がなかったんですけど、一部脆弱性があったんで、そこを調整しました。多分一定の効果は出てくれると思いますよ」

「そうか、ありがとう」

 

労いの言葉をかけてもらいつつ、自分のパソコンの電源を切る。

 

「まだあるんですか?」

「ここは特にないから、別の場所に行こうか」

「了解です」

 

自分の荷物をまとめ部屋から出て行く。そして役所から移動して次の場所に移動していった。

 

 

 

 

「次が最後ね」

 

あれから何軒が周り、そこで色々仕事をやっていたら、日も落ちかけてきた。

 

「分かりました。えーっと次は…田心屋ってところですね」

 

いわゆる甘味処で地元の人にも、観光客の人にも人気らしい。なんでも味やお店の雰囲気が良いのはもちろん、店員さんがかわいいんだとか、理由がなかなかに単純だな。そんなことを思いながら歩いていたら

 

「着いたよ」

 

外観は二階建ての木造建築のお店で入口には暖簾がかかっている。

 

「入ろうか。あ、その前にこれ」

 

手渡されたのは1つの黒い手帳。

 

「なんですか、これ?」

「それは君の身分を表す名刺の入った手帳だよ。名刺入れとメモの役割をくっつけてみたんだ。渡すの忘れてたよ」

 

開いてみてと言われ、手帳を開く。中には左側に名刺の入ったポケット、右側にメモ帳がくっついてある。左側の名刺入れから一枚名刺を引き抜く。名刺には自分の名前とその上に穂織情報整備部特別顧問と書かれている。割と凄い肩書をもらってしまったな。

 

「ありがとうございます。大事にします」

「うん。それじゃ改めて入ろう」

 

暖簾をくぐり中に入る。中はテーブル席とお座敷の席があり、壁には掛け軸や色んな絵が飾られている。

 

「いらっしゃいませー…あれ、諒くん?」

「芦花さん?」

 

お店の奥から出てきたのは、見慣れない服に身を包んだ芦花さんだった。

 




ネットワーク関連は調べたり、自分の想像の部分もあるので正直変なところもあると思いますが、目をつぶってくれると嬉しいです。
次回もよければご覧ください。


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その16 田心屋

執筆に割く時間がない、忙しい。
それではその16、どうぞ。


「なんでここに?」

「言ってなかったっけ?実家がここで、働いてるんだ」

「そうだったんですね」

 

実家が甘味処だって確かに言ってたな。

 

「2人は知り合いかい?」

「ええ、少し前に会ったことがあるんです」 

「へー…あ、大矢俊樹と申します。よろしくお願いします」

 

挨拶しながら大矢さんが芦花さんに名刺を手渡す。

 

「馬庭芦花と言います、よろしくお願いします」

 

この流れ俺も名刺渡した方がいいかな、そっちの方が俺の今の役割が分かりやすいか。

 

「俺も一応渡しておくね。よろしくお願いします」

「えーと…特別顧問?どういうことなの?」

「ああ、それが俺の仕事だよ。穂織の情報技術の構築の手伝いやってるんだ」

「それで、ネットワーク関連の調査をしたいので見せてもらいたいのですが、よろしいですか?」

「分かりました。案内いたします」

 

芦花さんにその場所まで案内してもらう。

 

「ここです」

 

案内された部屋はいくつかのルーターと小さいサーバーが置いてある。

 

「こちらのパソコンを繋げても大丈夫ですか?」

「大丈夫です。お願いします」

 

大矢さんは手早くパソコンをサーバーに繋ぎ、確認していく。あとはルーターの確認なんだけど…お客さんが使ってるかもしれないし、芦花さんに呼び掛けてもらうか。

 

「あの、芦花さん」

「?どうしたの?」

「ルーターの調整をするので、一時的にインターネットが使えなくなると思います。お客さんに伝えてきてくれませんか?」

「うん、わかった」

 

そう言い芦花さんは部屋から出ていく、少し経って戻ってきた。

 

「諒くん伝えてきたよ。お客さんも大丈夫だって」

「ありがとう。じゃあやるよ」

 

自分のパソコンに電源を入れ起動する。ルーターは2つあるんだよな…

 

「これどっちに接続すればいい?」

「えっとね、左にあるやつが家族で使ってるやつで、右にあるのがお客さんが使う用のだよ」

「じゃあ、お客さんが使ってる用のが先でいいか」

 

右にあるルーターに繋ぐ。パソコードなど必要な情報を打ち込んで接続する。とりあえず前朝武さんのルーターを確認したやり方をまず取る。回線速度などが測れるサイトにアクセスする。そして測定開始。少し時間が経った後測定が完了した。全体的な回線速度はまあ、フリーWIFIにしては妥当か。けどやっぱり遅いよなぁ…これ以上早くしたいのなら別のに変えないとだし、そこら辺はお客さん次第だな。んーと、次は…

 

「諒くんちょっといいかい?」

 

次にやることに移行しようとしたときに大矢さんに呼び止

「どうしました?」

「少し気になることがあってね、ちょっと見てくれない?」

「わかりました」

 

大矢さんのところまで移動して、パソコンの画面を見る。

 

「えっと、どこですか?」

「ここなんだけど…」

「ここ…ああ、これですか」

 

見つけたのはセキュリティの脆弱性。これは危ない奴だ。最近よくある手口でまずセキュリティに穴を作り、そこからウイルスが流れてくるためこれは早急に塞がないといけない。

 

「直さないとまずい奴です、これ」

「そうか…じゃあすぐ連絡しないとだね」

「いや、これなら俺が直せるんでやっちゃいます」

「え?出来るのかい?」

「まあ色んな仕事をやってるんで、専門の人には劣りますけど、よくある手口なんで俺にも対処はわかります」

 

場所を変わってもらい、パソコンを操作する。管理者画面を開き、コードを確認する。その中で1つのコードを発見する。

 

「(これだ…)」

 

そのコードを保存したまま、ウイルス対策ソフトを開き、スキャンを掛ける。これでウイルスは消えてくれる。あとはあるプログラムを組めば…よし、これで大丈夫だ。

 

「出来ました」

「もうかい?早いね」

「とりあえず、ウイルスを駆除して開いた穴を塞ぐプログラムを組んだのでたぶんもう大丈夫だと思います」

 

そう言い元々の持ち場に戻る。とりあえずもう一個のルーターを確認…こっちは大丈夫そうだな。

 

「大矢さん全部終わりました」

「わかった。話し合いたいからどこか席借りようか」

 

部屋から出て、また店内に戻る。

 

「あ、諒くん終わった?」

「うん。ちょっと話し合いたいから席良いかな?」

「うん。じゃあこちらにどうぞ」

 

芦花さんに席に案内してもらい、座る。メニューを渡してもらい、それに目を通す。飲み物がいいな…うん、抹茶ラテにしよ。

 

「俺抹茶ラテで」

「僕は日本茶でいいかな」

「かしこまりました」

 

伝票を書き終え、厨房の方に戻っていく。

 

「それでここまで何軒か回ってきたけど」

「やっぱりどこもまちまちですね」

 

結構強度的にもよかったり、悪かったりそれに規格自体もバラバラで統一した方がいいんじゃないかとも思った。

 

「あとサーバーを持ってるところは、セキュリティがあまいのがね…」

「そうですね…ウイルス対策ソフトでスキャンとかしたりするだけでだいぶ変わるんですけど、パッチ当ててないってのがなんとも…」

 

知識がないんだか知らないけど、なんで更新とかパッチ当ててないんだろうなぁ…

 

「これネットワーク整備の前に住民の皆さんに講習やった方がいいんじゃないですか?」

「確かにやった方がいいかもね、考えておくよ。あと…」

「お待たせしました、抹茶ラテと日本茶です」

 

次の話をしようとしたときにちょうど芦花さんがお盆に品を載せて持ってきた。おお、美味しそう。

 

「ありがとう」

「ありがとうございます」

「それではごゆっくり」

 

俺と大矢さんの前にそれぞれ頼んだものを置くと、持ってきたお盆を抱えながらまた戻っていった。

 

「いただきます」

 

カップの取っ手を持ち、口までもっていく。そして口に含む。ほんのりとした苦みが美味しい…なんで穂織って食べ物がこんなにおいしいんだろうな…

 

「いいですね、癒されます」

「そうだね~こういう仕事の時にはもってこいだ」

 

大矢さんもお気に召したようだ。それから俺たちは飲み物片手に色んなことを話し合っていった。

 

 

 

 

「…ということで、サーバーにウイルスが入る可能性があったのでスキャンを掛けて、対策のプログラムを組みました」

 

話し合いも終わり、今は芦花さんに問題点などを報告している。

 

「一応大丈夫だとは思いますが、何か大切なデータ等が無くなっていないか確認をお願いします」

「分かりました」

「あ、あとセキュリティの確認や更新はこまめにお願い。ずっと放置しておくと今度こそウイルスに入られちゃうから」

「うん、わかった」

「今回はありがとうございました。それでは失礼します」

「失礼します」

 

芦花さんに必要事項を伝えお店から出る。

 

「そういえば諒君のあの知識と技術はどこで手に入れたいんだい?」

「ゲームが好きでそういうところで働きたいって前から思ってたんです。学校でもプログラミングとかを専攻してて、そのついでに他の知識も入れたって感じです。それを勉強するのは苦ではなかったですし」

 

元々ゲーム好きでたくさんやってたけど、SAO事件後は嫌いになるのではなく、むしろ好きになった。自分の目で見ると価値観が大きく変わるものだ。

 

「なるほどね。絶え間ない勉強の賜物ってことなんだね」

「何事も腐らずやり続ければそれは凄い武器になりますから。天才と呼ばれてる人たちはそういうことの積み重ねが常人よりも濃いんだと思います」

 

それは学問分野だけでなく、スポーツの分野にも言えることだと思う。天才と呼ばれている人たちは努力の量が尋常じゃないんだろうと俺は思う。天才とは生まれ持った能力だけじゃないのだ。

 

「そうだね。諒君の言う通りだ。それじゃ今日はもう解散だ。お疲れ様」

「お疲れ様でした」

 

お店の前で解散し、帰路につく。今日は色々回ったから疲れたな、早めに寝よう。




本当にネット関連はよくわからん、故に想像です。
次回もよければご覧ください。


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その17 初登校

ええー…お久しぶりでございます。2週間ぶりくらいですかね。待っていた方いらっしゃればお待たせしました。あとがきの方に詳しくは書くので、とりあえず
その17、どうぞ


「ふぁ~…あ」

 

最近やっと馴染んできた新たな俺の部屋で目覚める。昨日の仕事は割と大変だったから、少し早めに寝ておいてよかった。昨日の疲れはなく、目覚めもいい。

 

「さて…リビングに行こ」

 

 

 

 

「なんか不思議な制服だな」

「前通ってたところとは全然違う」

 

朝ごはんも食べ終わり、今は学校に行く準備をしている。今日が初登校だ。

 

「学ランとかしか着たことないから違和感が凄いや」

「そうだな。俺もずっとブレザーだったからこういう…着物みたいなのは初めてだ」

 

将臣に同意しながら、細かく身支度を整える。穂織の制服はさっき言った通り不思議で白いYシャツまではあまり違和感がないのだが、Yシャツの上に納戸色の上着を羽織り、体の前で結んで止めている。…なんだか、よく似ているなあれに。

 

「よく似合ってるよ2人とも」

「ありがとうございます」

 

安晴さんに褒めてもらう。なんだか照れ臭い。

 

「しかし懐かしいねー、その制服。昔を思い出すよ。むしろ僕は2人みたいに学ランやブレザーの類のものは着たことがないんだよね」

「安晴さんはずっと穂織にいたんですか?」

「いや、一度神主の勉強をするために大学に通うために外で出たよ。けどそれっきりかなぁ」

 

となるとだいぶ前だろうな。神主の勉強のためか、もう継ぐことが決まってたのか。

 

「神社を継ぐことはもう決まっていたんですか?」

「そうだね。あの子の母親の秋穂とは幼馴染だったんだけど、中学に上がる頃には秋穂は分からないけど、少なくとも僕は意識してたかな。朝武の家は2人も知っての通り由緒正しい家系だし、こんな事情だから血筋を残すことが肝要だと考えられているんだ」

 

それは…そうか。こんな戦いに身を投じ、万が一なんてことがあったら困るからな。

 

「だから朝武の家では、芳乃と同じくらいの歳になると婚約者がいて当たり前なんだ。在学中にも子供を産んで育てる巫女姫だって少なくない」

 

なるほど…慣習みたいなものになってるのか。

 

「秋穂は20代ではあったんだけど、今までから見ると割と遅めなんだよね」

「世間一般では、普通の年齢だとは思うんですけど」

 

俺も将臣と同意見だ。30まで行くとちょっと遅いのかな?とはなるけど20代なら全然若いだろう。

 

「まあ跡を継ぐ者がいないと困るし、周りからもつつかれてたからね。実際芳乃にだってお見合いの話は来ているんだ」

 

それは納得だ。朝武さんは普通にかわいいしな。

 

「とはいえ、芳乃のあの性格、来るお見合いの話全部断っていたんだけど、それでも話が絶えることがなくてね。正直に言えばそれを利用して、将臣君と婚約することを納得させたんだ」

「でもあんまり納得はしてないみたいですけど」

「そうだね。ちょっと無理やりすぎたかなとも思っているよ」

 

ちょっとどころじゃない気はするんだが…

 

「そういうのも込めて、将臣君には申し訳ない」

「大丈夫ですよ。誤ってもらうことじゃありませんから」

 

朝武さんと将臣のなんとも不思議でそれでいて現実感のない関係。それについてどう思っているかは本人しかわからなないが、大きな嫌悪感は持っていないと思う。そうでなきゃ同じ屋根の下で、なし崩しとはいえ暮らしていないはずだし。

 

「それと諒君もすまない。巻き込んでしまう形になってしまって」

「別に大丈夫ですよ。正直一人で仕事してご飯食べて寝てたりとかしてたら、凄く寂しかったと思いますし、始まりは変な感じでしたけど、今は凄く楽しいですから」

 

これは俺の本心だ。長く一人暮らしをやっていたからか、誰かと食卓を囲んだりするのが凄く楽しくて、嬉しかった。できることなら仕事の間はずっと一緒にいたい。

 

「そう言ってくれるとありがたいよ」

 

そんな話をしていたら廊下から足音が聞こえてきた。

 

「すみません、遅くなりました」

「お待たせして申し訳ありません」

 

常陸さんと朝武さんが来た。2人も制服に身を包んでいる。和というよりはところどころに洋のテイストも含まれていて、他ではなかなか見ない服だろう。朝武さんはいつも下ろしている髪を上げ、ポニーテールにしており、常陸さんは動きやすいようにスパッツを履いている。うん、よき。

 

「…」

 

将臣がなぜか固まってしまっている。

 

「将臣、何固まってるんだ?」

「可愛い…」

 

将臣の突然の言葉に2人は固まり、部屋は静まり返る。

 

「…っ」

「な、な、なにをっ」

 

突然言われたその言葉に2人は顔を赤く染める。

 

「あ!いや!変な意味じゃなくて、今までと雰囲気が違ってって意味で…純粋なって純粋って言い方もおかしいけど…」

 

将臣は必死に取り繕っているが、次第に話がまとまらずおかしな方向に飛んでいきかける。焦りすぎだろ…

 

「り、諒も2人のこと可愛いって思うよな?」

「そこで俺に振るのかよ…まあ2人ともよく似合ってて可愛いとは思うけどさ」

 

俺がそう言うと、すでに赤かった2人の顔がさらに赤くなった。…なんかまずった?

 

「あ、あは…もしやうら若き乙女の制服姿にドキドキですかぁ?」

 

常陸さんは努めていつものように言ってくるが、まだ戻り切ってない。

 

「どっちかというとポニテ萌えの方かな?」

「なるほど、そちらの方でしたか。良い趣味をお持ちのようで」

「なんのなんの、常陸さんこそ、ふっふっふっ」

「それはもう、ふっふっふ」

 

2人して悪い顔をして話しているが、それを本人が近くにいるときに話すのはどうなんだろうか。

 

「2人とも本人を前にしてそういう話しない。朝武さん顔真っ赤だよ?」

 

将臣の頭には軽くチョップを入れ、常陸さんには視線で訴える。

 

「てへへ」

 

可愛くごまかしたって駄目です。

 

「本当です。変な話はしないでほしいんですが…」

「…」

 

常陸さんが何やら意味ありげな視線を朝武さんに向ける。向けられてる朝武さんはというと凄く戸惑っている。

 

「な、なに…?」

「何でもありません。そろそろ学校に行きましょうか」

「そうしようか」

 

話をしていたらだいぶいい時間になっていた。

 

「行ってきます」

「行ってまいります」

「行ってきます」

「い、行ってきます」

「はい。いってらっしゃい」

 

 

 

 

「学院までまだあるの?」

 

学院までの道を4人で歩いてるときに将臣がそれを口にした。

 

「いえ、その坂を登ればすぐです」

「結構近いんだな」

 

家から出てきて10分も経っていない。

 

「山にも近いけど、祟り神とかは大丈夫なの?」

「今まで問題は起きていませんから、夜になる前に戻れば大丈夫だと思います。ですから学校が終わったらすぐに帰るようにしてください」

「わかった」

「了解」

 

朝武さんの忠告を素直に聞き入れる。流石に痛い目には遭いたくないからな。

 

「そういえば諒が通ってた前の学校は近かったのか?」

「いや、そんなに近くなかったな。通学にはバス使ってたよ。一応免許は持ってるけど、都会だと車より電車とかバスの方が便利なことも多いし」

 

交通網の発達は著しいからな。以前よりも路線数が増えてるし。

 

「ふぅん…仕事のときはどうしてたんだ?」

「それは場所によるかな、地方に行くこともあるから、そういうときはレンタカー借りてだな。自分の車はまだ持ってないから。そういう将臣はどうなんだ?」

「俺は家から近かったから歩きだな」

 

将臣はどこ通ってたんだろう。俺の知ってるところかな。

 

「都会は色々便利そうですね」

「便利なのは間違いないんだろうけど、穂織みたいなところにの方が良いところも多いし、どっちもどっちって感じかな」

 

都会は利便性がメリットだが、どこか息苦しさやつまりを感じる。穂織は利便性では都会に劣るものの、空気が美味しかったり、開けているのでどこか余裕が生まれる。

 

「あと少しですよ」

 

 

 

 

「ここが鵜茅(うがや)学院…」

「学院って感じはあんまりしないな」

 

到着した鵜茅学院は学院という感じのあまりしない建物だった。学院というよりもどちらかというと剣道や柔道の道場のように見える。

 

「元は武道館で剣術道場として使っていてな、年が過ぎていくにつれ門下生もいなくなっていったのだが、建物自体は立派じゃから、内部を改装して、今の学院になったのだ」

「流行りのリノベーションってやつか…」

 

いいね、趣がある。

 

「おはよう!」

「おはよう、お兄ちゃん、神谷さん」

 

学院を見ていたら廉太郎と小春ちゃんも登校してきたようで挨拶をしてくれる。

 

「おはよう」

「おはよう、廉太郎、小春ちゃん」

「怪我はもう大丈夫なのか?」

「ああ、ちゃんと言われた日にちは休んだし、駒川さんからもOKサインもらってるしな」

 

俺の返答に2人とも安堵の表情を浮かべた。心配かけてたみたいだな。

 

「山は危ないんだから気をつけないとダメだよ?」

「おっしゃる通りで」

 

まさか祟り神に襲われたあげく、山を転がり落ちるとは思わなかった。まあ前者は本来ならありえないんだけどな、多分小春ちゃんもそういう意味では言ってないだろう。

 

「しかし諒って冷静に見えて、意外と周りが見えなくなるタイプか?」

「いやーそういう自覚はないんだけどな」

 

まあ確かにみんなには熱中すると周りが見えなくなってどこまでもやっちゃうって言われたから意外とそうなのかもな。

 

「本当に気をつけないとダメだよ?」

「はい…すいません」

 

まさか年下の女の子に説教されるとは…若干凹む。俺が1人勝手に凹んでいると小春ちゃんは俺と将臣以外の2人にも気づいたらしく、急いで2人のところまで行った。

 

「遅れて申し訳ありません巫女姫様、常陸先輩。おはようございます」

「「おはようございます」」

 

そして小春ちゃんに続き廉太郎も来た。

 

「おはよう2人とも」

「そういえば廉太郎とは同じ学年だけど…小春とも知り合いなの?」

 

確かに…どこで接点があったんだろう。

 

「普段から様々なところで玄十郎さんにはお世話になってしますから」

 

なるほど、そういうことね。

 

「それに学年のクラスは各学年1つだけで、全学年を合わせても100人にも満たないんです」

「しかも学年が1つしかないから必然的にクラスの顔ぶれはずっと同じ。田舎だからな、全員が顔見知りなんだよ」

 

進学校のレベル分けみたいだな。それに他の地域と断絶してたから外から入ってきて学校が巨大化するとかがないのか。

 

「それよりも…」

 

廉太郎は将臣の肩に手を回し、声を潜めて何か話しかけている。ただ俺のところからは会話が聞こえない、けど表情は一応見える。さっきからころころ表情が変わっている。廉太郎は真面目な顔もしているけど、どちらかというと面白がっているような顔をしている。将臣は呆れ、照れ、不満そうな等々色々変わっている。絶対碌な話はしてないだろ…

 

「まったく…おまえら、遅刻になるぞ?」

 

腕時計を指さしながら2人に言う。

 

「そうですね。有地さんと神谷さんは先に職員室に行かないと行けませんし、ここにずっといる訳にはいきませんね」

「案内します」

 

そうして学院の中に入ろうとしたら、校舎から誰かが出てきた。

 

「有地将臣君と神谷諒君ですね?」

「?はい」

「そうですけど…」

 

群青色の髪を持つ女性に話しかけられる。先生か?

 

「遅いから何かあったんじゃないかと心配してたけど、みんなと話してただけだったんですね。初めまして!2人の担任になる中条比奈実です」

 

やっぱり先生だったのか。

 

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。わざわざすみません」

「むしろ事故に遭ったりしたわけではなくて安心したので、大丈夫ですよ」

 

中条先生は優しい笑顔でそう言ってくれる。初めて会ってから少ししか話していないのに凄く優しい人だと分かる。

 

「では簡単な手続きがありますから、2人とも今から職員室に行きましょう」

 

中条先生についていく形で職員室に向かった。




ここまで更新が遅れた理由としては、テストやれ課題やれがかなりあったり、その他自分の用事がぎっちり詰まっていて、まったく執筆時間が取れなかったためです。これからは比較的予定が空くので、ここまでかかることはないと思います。自分のモチベ次第っていうところではありますが。
次回なるべく早く投稿できるように、がんばります。
次回もよければご覧ください。


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その18 学院内にて

前回よりは間が空かずに投稿できました。
ニタニタナハナハ様、鳴無様、ark wr様、凪021様お気に入り登録ありがとうございます。
それではその18、どうぞ


「じゃあ2人は少ししたら、入ってきてね」

 

職員室でいくつか必要な手続きを済ませ、今は教室の前にいる。とりあえず俺と将臣は一旦待機。先に中条先生が教室に入っていった。

 

「…なんか緊張するな」

「そうだな…転校なんて初めてだし」

 

俺も将臣も少し緊張している。まあ初めてのことだししょうがない。それから少し待った後

 

「入ってきてー」

 

そう教室の中から聞こえた。扉に近かった将臣が前で、その後ろに俺がついていく。どこの学校にもよくあるスライド式のドアを開け、中に入る。中に入るとクラスのみんなの視線が一斉にこっちを向く。これは慣れん…そんな視線を浴びながら、教室の前の方にある教卓の横に着く。

 

「じゃあ有地君から挨拶を」

「あ、はい。初めまして。今日からお世話になります、有地将臣です。ここには家の事情で引っ越してきました。これからよろしくお願いします」

 

将臣が言い終わると、クラスから自然と拍手が生まれる。

 

「じゃあ神谷君も」

「はい。初めまして、神谷諒と言います。自分は仕事の都合でここに来ました。これからよろしくお願いします」

 

噛まずに、特に当たり障りのない普通のことを言う。

 

「2人ともありがとう。それじゃあ、有地君は一番後ろの、鞍馬君の後ろの席で。神谷君は朝武さんと常陸さんの後ろの席ね」

 

そう言われ、その席に移動する。

 

「何か困ったことがあれば相談してくださいね」

「うん、ありがとう」

 

朝武さんがそう言ってくれる。

 

「あ、そうだ2人とも」

「なんですか?」

「帰る前に2人に用事がありますから、少し待っててくれませんか?そんなに時間はかからないと思うので」

「わかりました」

 

何だろう用事って、転校初日に大事はないと思うけど…

 

「さて、始業式に移動しましょう」

 

その先生の合図でみんな一斉に教室から移動していった。

 

 

 

 

 

始業式も終わり、各種連絡事項をクラスに伝え今日は解散になった。ただ…

 

「なんで俺たち残らないとなのかな?」

 

朝先生に言われた通り、俺と将臣はみんなが帰った後も教室で待機をしている。因みに朝武さんと常陸さん、ムラサメも一緒にいる。

 

「諒は何か心当たりあるか?」

「いや、何にも」

 

心当たりはないけど、何か手続きとかに不備でもあったのだろうか。

 

「先生は時間はそんなにかからないって言ってたし、2人は先に帰っててもいいけど」

「そうだな。ムラサメちゃんもいるから、道は多分大丈夫だよ」

「いえ、急ぎの用事があるわけではありませんし、先生の用件も気になりますから」

 

そんな感じで話していると、ガラガラっと音を立て、教室の扉が開かれた。

 

「遅くなりました」

「お待たせして申し訳ない」

 

開かれた扉から、中条先生ともう一人、白衣を着た女性が入ってきた。ん、あの人は…

 

「駒川さん、どうしたんですか?」

 

以前俺が倒れたときに診てもらったのが駒川さんだ。何で学校にいるんだ?

 

「おや、神谷君」

「なんで駒川さんがここにいるんですか?」

 

率直な疑問をぶつる。

 

「いや、色々確認をね」

 

確認?なんのことだろうか。

 

「なあ諒、知り合い?」

「ん?将臣は会ったことないんだっけか、この人は駒川みづはさん。俺が前倒れたときに診てもらったことがあるんだ」

「あと、怪我をしたときもですね」

 

あ、山でやらかしたときのか。その時も…なんか短期間でお世話になりすぎてる気がするが…

 

「駒川先生はこの学校の嘱託医でもあるんですが…神谷君は何の怪我をしたんですか?」

「お恥ずかしながら、山で派手に転んじゃって」

「なるほど。気を付けてくださいね?山は危ないんですから」

「はい、ありがとうございます」

 

中条先生から忠告を受け、そのまま先生は教室を出ていく。

 

「みづはさんは何故わざわざこちらに?」

 

常陸さんが駒川さんにそう聞く。

 

「挨拶と、芳乃様と有地君の確認でね」

「確認…ですか?」

 

将臣が不思議そうに聞く。なんの確認だろうか。

 

「叢雨丸を抜いた影響なんだけど、2人とも大丈夫かい?」

「大丈夫ですよ。特に何も変わりはありません」

「俺も、特には」

 

駒川さんの問いに2人とも同じように答える。

 

「良かった。何もないようで安心しましたよ」

「言ってもらえれば、こちらから出向いたのに」

 

そう朝武さんが言うと、駒川さんは困ったような笑みを浮かべる。

 

「いえ、診療所に来てもらうと、みなさん芳乃様に話しかけられて、待合室が大変なことになりますから。それにちょうど学院にも用事がありましたから」

「そんなに朝武さんは人気なんですか?」

 

そう将臣が聞く。巫女姫様なんて呼ばれてるから一定の親しみみたいなもんなのかな。

 

「人気だよ。巫女姫っていう立場にあるのに加えて、隔たりがなく優しいからね」

「それに芳乃様は可愛いですから。私もお買い物に行った時とかは、必ず一回は芳乃様の話が出てきます」

 

なるほどね。人柄の良さか…それは俺も感じてる。突き放そうとしても、俺をどこまでも心配してくれたり、時折見せる油断しきった姿はとても冷たい人には思えなかったから。あと可愛いか…それは確かにだ。俺と将臣は同時に首を縦に振る。

 

「も…もう!そんなことよりも!」

 

常陸さんの言葉と、俺と将臣がそれに同意したことで、朝武さんの顔は赤くなっていた。朝武さんは何とか話題を変えようと別の話を振って来る。

 

「みづはさんはそれの確認だけですか?」

「大体の目的はそれなんだけど、あと医者として元患者の体調も気にかけておこうとね」

 

元患者…俺か。

 

「俺は大丈夫ですよ。身体が痛むとかもありませんし」

「神谷さんに完治しても心配するほどの傷があったのですか?」

 

朝武さんが俺を見ながら、駒川さんにそう聞く。

 

「身体中を強く打ち付けていましたし、祟り神に触れた部分もありますから。それと精神面も気になるので、念のためですよ」

「なるほど…精神面、ですか?」

 

常陸さんがそう聞き返す。多分駒川さんは俺のトラウマによる症状のことを言っているのだろう。けど、流石にみんなの前で言わないで欲しいなぁ…そんな俺の思いが伝わったのかどうかは分からないが

 

「ついこの間まで穂織の外で暮らしていた人間が、急に祟り神と対峙して変なトラウマが出来ていないか気になってね」

 

そんな感じの医者として至極真っ当な考えを言った。それを聞いてみんなも納得したようだ。

 

「それじゃ神谷君、保健室まで一緒に来てくれ」

「わかりました。みんなは先に帰ってていいよ」

 

俺がそう言うと、朝武さんと常陸さんの2人は何か心配なのか、少し渋っていた。

 

「なら吾輩がついていよう」

「ムラサメ様が一緒なら…」

「大丈夫ですかね」

 

なぜムラサメが一緒なら納得するんだ。

 

「神谷さん、夜の山には絶対に近づかないでくださいね」

「ああ、わかってる」

 

朝武さんの忠告を素直に聞き入れる。流石にあれをまた体験したくない。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

駒川さんにそのままついていき、保健室に向かった。




前回から約1週間ですね。用事が一段落しても時間がなかなか作れず。今後は1週間、長くて2週間ほどかかると思います。
次回もよければご覧ください。


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その19 体と心の確認

UA2000突破、ark wr様評価ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。
それではその19、どうぞ


「みんなから凄く信頼されてるんですね」

 

保健室に向かう廊下を歩いている時、駒川さんに率直な感想を言った。

 

「ん?ああ、昔からの付き合いだからね。それに医者っていう役目上、地域の人との信頼関係は重要だから」

 

地域の人から信頼されてなきゃ、ちゃんと診させてはくれないからかな。

 

「あの、昔からって?」

「私の家は代々医者で、その昔は朝武家のお抱えだったそうだ。今でもウチから最低でも1人は医者になるよう言われてるんだ。それでこの街と芳乃様の主治医になってる」

 

朝武さん専属…やっぱり

 

「穢れや祟り神とかの問題ですか?」

「それは勿論。穢れや祟り神、その周辺の知識や資料は、先祖代々ずっと受け継がれてるんだ」

 

へえ…先祖代々。そりゃ長そうだ。

 

「先祖代々ってことは、駒川さんも穂織でずっと過ごしてきたんですよね?」

「そうだけど…何か気になることがあるのかい?」

「いや、そんな大層なことじゃないんですけど、服が他の人よりも全然普通だなと思って」

 

駒川さんは穂織に住んでいる人のような少し派手目の和服じゃなくて、穂織の外で着ているような和服の上に白衣を着ている。それは外からくる観光客が着ている服と同じだ。まあ白衣を着てるのは少し特殊だろうけど、それは職業上のことだろう。

 

「そういえば、中条先生もどちらかというと外寄りの服装でしたね」

「中条先生は外から来た人だからね」

「外から…ですか?」

 

何でわざわざイヌツキなんて呼ばれ忌み嫌われてしまっているところに来るんだ?俺のように誰かに依頼されたから、とかか?

 

「まあイヌツキなんて呼ばれてるのを知らないところからだからね。流石に外から人を入れないと、なかなか町の中だけで、全てを完結させるのは難しいんだ」

 

そりゃそうだ。人数が少ないところでは1人の負担が自然と増えてしまうし、必ず穴が出来てしまう。それを補おうとすれば更に人がいる。そうして悪循環になってしまう。世知辛い問題だ。

 

「多少不便でも遠くを頼れば、君や中条先生のように力を貸してくれる人もいるってことさ」

「それもそうですね」

 

けどイヌツキなんて呼ばれてしまっているからそれもなかなかに難しそうだけどな…

 

「私も大学の頃は穂織から出ていてね、外であの格好をしていたら浮いてしまうよ」

 

駒川さんは軽く笑いながらそう言う。

 

「それでそのままその格好で落ち着いたんですか?」

「そうだね。仕事が忙しいから、すぐに着替えられる方が楽なんだよ」

「確かにそうですね。その手の和服は結構時間かかりますもんね」

 

そんなことを話しながら歩いていたら保健室に着いた。中にある椅子に座る。

 

「さてと、まずは脇腹の状態を見させてもらおうかな」

「わかりました」

 

軽く服を捲り上げ、脇腹が見えるようにする。

 

「これは…」

 

少し驚いた顔をしている。何か良くないことが?

 

「何か問題でもあったんですか?」

「いや、むしろその逆だよ。もう治りきってる。これが若さかな」

「どうでしょうね?」

 

怪我の回復は特段早い方でもないんだけどな。

 

「じゃあ一応他のところも診ておこうか」

 

そう言い肩、腕等々、色んなところを診ていった。

 

「うん、傷は治ってるし、血色も良い。穢れの影響もなさそうだね」

「そうですか、よかった」

 

何も心配することはないようで、一安心。医者に直接言ってもらうと安心感が違うね。

 

「あと精神面もチェックしておこうか。あ、ムラサメ様はそこにいるかい?」

「?いますよ。俺の後ろに」

「少し部屋から出てもらっても大丈夫かな?内密なことだから」

「だそうだけど、大丈夫か、ムラサメ?」

 

俺の後ろにいるムラサメに聞く。

 

「まあ、平気だが…」

「大丈夫だそうです」

「あまり聞かれたくない内容も質問するので、すみません」

 

そう駒川さんが断りを入れると、ムラサメは保健室からすうっといなくなっていった。

 

「いなくなりましたよ」

「わかった。さてと…大丈夫だったかい?」

「大丈夫…とは?」

「祟り神に会って、トラウマが…」

 

ああ、やっぱりそのことか。その時の状況を思い出す。

 

「祟り神と対峙したときは、まったく動けなくなりましたよ。呼吸も荒くなって、何も考えられなくなって」

 

言っている最中も今現実に起こっているわけじゃないのに、どんどん口が渇いていく。それに少し震えも出てしまっている。

 

「かなり…きつかったですね…はは、みっともない…」

 

乾いた笑みを浮かべながら一旦言葉を切る。すると突然駒川さんが俺の手を握ってきた。

 

「あ、あの…駒川さん?」

 

突然の行為に俺は少し驚く。駒川さんを見ると、凄く優しい笑顔でこっちを見ていた。

 

「大丈夫。落ち着いて…」

 

俺の手を包んでいる駒川さんの手から暖かさが伝わってくる。そうしていたら自然と体の震えが収まっていた。

 

「みっともなくなんかないさ。その時の状況は聞いたよ。有地君を先に逃がしたようじゃないか」

「…共倒れになるのが一番まずいと思ってやっただけですから」

 

ただ将臣の身に何かがあってほしくないと思ったからだ。それに俺は結局ケガをして終わった。

 

「それは十分称賛されることだ、かっこいいことだと私は思うよ」

「…そうですかね」

「そうさ。それに人は誰しも弱さを抱えているものだよ。大事なのはそれを受け入れて、自分に何が出来るのか、最善をつくすことだ。神谷君は立派にそれを果たしたんだ。自分を卑下しなくてもいいんだよ」

 

駒川さんの言葉が俺に沁みる、少し心が軽くなった気がする。

 

「…ありがとうございます」

「うん。それじゃもう終わりだよ。体調管理には気を付けてね」

「わかりました。ありがとうございました」

 

そう言い椅子から立ち上がり、扉に手をかける。

 

「あ、ちょっと待って」

「どうしましたか?」

 

保健室から出ていこうとするときに呼び止められる。

 

「さっきのを見ても神谷君の心理状況は不安定になりやすい。だから定期的にカウンセリングを受けないかい?」

「カウンセリング…ですか?」

 

それは東京にいたときも定期的に受けていた。けどあまり効果はあったとはいえないんだよな。

 

「君さえよければなんだけど、どうかな?」

 

…駒川さんにならいいかもしれない…かな。

 

「じゃあ…お願いします」

「じゃあ、それについてはまた今度話そうか」

「わかりました、失礼します」

 

今度こそ保健室から出て、帰るために歩を進めた。

 

 

 

 

 

「さてと…」

 

今は玄関にいる。下駄箱から自分の靴を取り出し、それを履く。

 

「あ、神谷君ちょうどいいところに」

「中条先生、どうしました?」

 

靴を履いて玄関から出ようとしたところに中条先生が来た。

 

「頼みたいことがあってですね」

「頼みたいこと?」

 

何だろうか?

 

「聞いた話なんですが、神谷君は穂織のネットワーク関連の仕事で来たんですよね?」

「そうですけど…」

「実はこの学院のネットワーク管理も手伝ってほしいという話になりまして、お願いできますか?」

 

うーん…俺の一存では決められないな、籍は一応情報整備部にあるわけだし。

 

「自分の判断ではちょっと…」

 

そう言いながら鞄から名刺を一枚取り出す。

 

「俺の所属は今はここになってるんです。だからここに連絡してもらっていいですか?」

 

そう言いながら名刺を手渡す。

 

「穂織情報整備部特別顧問…特別顧問!?凄い肩書ですね?」

「肩書だけですよ、別に他の人と変わりませんから。では依頼はそこにお願いします」

「わかりました」

 

それじゃ、と言いその場を後にする。そのままどこにも寄らず家に向かった。




最後がどうも駆け足になってしまうなあ。
次の話はテストが始まる関係上出すのが少し遅くなりそうです。早く出せそうなら早めに出します。
次回もよければご覧ください。


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その20 2つのアドバイス

えー…お久しぶりでございます。前回の話からは約1か月。活動報告から数えれば約3週間とめちゃめちゃ間が空いてしまいました。ここ数話は謝罪と言い訳フェイズが必ず入ってる気がするんですがね…まあ言い訳は後書きの方に回すとして
それではその20、どうぞ


「ただいまー」

「戻ったぞ」

「おかえりなさい」

 

学校から家に帰ってき、常陸さんに迎えられた。

 

「身体の方は大丈夫でしたか?」

「うん、問題ないって」

「よかった…あ、あの精神面の方って何をやったんですか?」

「…軽いカウンセリングみたいなものかな。別に重いものじゃないから大丈夫」

 

本当は重いものなんだけど、あまり言うことでもないからな…説明した方がいいのかもしれないけど秘密にしておきたい。

 

「そうですか…」

「そういえば、将臣と朝武さんは?」

 

何か言いたそうな常陸さんをスルーして、話題を変える。

 

「有地さんは玄十郎さんのところに、芳乃様は舞の練習をしています」

「将臣は玄十郎さんのところ?何しに行ってるんだ?」

「それはわからないです。私も玄十郎さんのところに行ってくると言われただけなので」

 

うーん…何でだろうな?考えても特に思い当たるようなことはない。

 

「…まあいっか。朝武さんは舞の練習だっけ、それって毎日やってるのか?」

「病気の時は流石に休まれますが、それ以外は毎日ですね」

 

毎日…か。それは凄いな。もし俺も何か毎日ずっと続けているものがあったら、少しくらいは嫌になりそうだけど、朝武さんは

 

「…辛いとか思ったことないのか?」

「多分ないであろうな。芳乃のあの性格上」

「ですねぇ。神谷さんもご存じの通り、意地っ張りですから。それに芳乃様は小さい時からずっとやってきたので、もう体にしみこんでいるというか、生活の一部になっているのだと思います」

「なるほどね…」

 

なかなか大変なんだな、巫女っていうのも。普段から肩肘張ってる感じだ。その苦労とかは俺には想像できないなぁ…

 

「じゃあ俺はやることやるんで、何かあったら呼んで」

「仕事ですか?」

「いや、仕事とは違うんだ。前の学校の教授に頼まれたのがあってね」

 

前、川井教授に頼まれていたVR空間の構築がまだ終わっていない。というかあんまり手をつけられていない。時間は一応まだあるにしろ早く終わらせたい。

 

「わかりました。それなら夕飯の用意が出来たら呼びに行きますね」

「ありがとう、助かるよ」

 

それじゃ、と言いその場を後にし、自分の部屋に戻る。ただムラサメはそのままついてきている。

 

「何でついてきてるんだ?」

「ご主人もいないから暇なのじゃ。それに諒の仕事も気になるからな」

「別に面白いものでもないぞ?」

「吾輩が気になるだけだから気にしないでやってくれ」

 

そうは言われても後ろで浮かばれていて気にならない方が無理な話だと思うけど…まあいいか。

 

「わかった」

 

俺は手早く必要な機器の準備をする。一通り準備をしたらパソコンを立ち上げ、ソフトを開く。前回保存したところで止まっており、今日はこの続きからやる。とりあえず何追加するかな…軽い町みたいなの作ってみるかな。

 

「なら…」

 

手早くプログラムを組んでいく。正直建物の中に何か追加するのはめんどうだから、ハリボテでもいいかな…でも何軒かはしっかり作って見よ。カタカタとキーボードを叩き、必要な情報を打ち込んでいく。

 

「諒、それは何をやっているのだ?」

 

後ろにいたムラサメに声を掛けられる。

 

「ん?ああ、これ?VRの構築をしてるんだよ」

「ぶいあーる?」

 

この反応は知らないか、まあそりゃそうか。

 

「VRっていうのは正式名称がバーチャル・リアリティ。日本語にすると仮想現実っていう意味になるんだ」

「仮想現実?」

「ああ、難しい言葉で言っちゃうと、表面的には現実ではないが、本質的には現実。つまりは現実に限りなく近い世界ってことだな。で、まあそれは少し前から開発されてきてて、最初はゴーグルみたいな形で頭から被ってやってたんだ」

 

名前が確か…P○VRだっけか。

 

「そこからどんどん開発は進んで、今だと同じゴーグルのような形ではあるんだけど中身が違うんだ」

「どんな風にだ?」

「完全なフルダイブを実現したんだ」

「…どういうことなのだ?」

 

やっぱりそういうところには疎いか。

 

「今までのだとやるとき人は起きてる状態でやってたんだけど、フルダイブだと人は寝てる状態で意識をその空間に飛ばしてやるんだ。少し難しい話にはなるんだけど、その機械”ナーヴギア”とか”アミュスフィア”は使用者の脳そのものと直接接続するんだ。使用者の脳から発生させられる、歩く・走る・掴むとかの動きの電気信号、人間の五感の電気信号を機械がキャッチして、現実世界とは別の、全てがデジタルで構成された別世界に送る。そこでプレイヤーは仮想の体を持ち、操っていくんだ」

 

流石に話が難しすぎたかなと思い、ムラサメの方を見ると、予想通りポカンとした顔をしている。

 

「まあ要はゲームの中に入れるとでも思っておけばいいよ。それで今俺はそれに対応するVR空間の構築を、前の学校の教授に頼まれたからやってるんだ」

「…難しいことはよく分からんが、なるほどな。それでこれはいつまでに完成させるんだ?」

「早いに越したことはないんだけど…まだ少し時間がかかるかな。ちょっとアイデアに詰まったりしてるから」

 

前回からアイデアに詰まり気味になってしまっている。なかなかテーマの”和”に合うのが思い浮かばない。

 

「なら吾輩も少し手伝うぞ。どんなのがいいんだ?」

「テーマは”和”なんだけど…何かあるか?」

「和か…なら昔の城下町のようにしてみるのはどうだ?家とか城、川とか」

「なるほどね、けど川か…」

「何か悪いのか?」

 

少し考え込む俺にムラサメは少し心配そうに声を掛けてくる。

 

「液体を表現するの凄い難しいし、めんどうくさいんだよね。まあそういうテクスチャ使えば少しは楽になるけど」

「むむ…ならしない方がいいのか…」

「出来ないことはないからやってみるよ。その案はいいアイデアだし」

 

大きな枠組みを決めればその後は作業がやりやすくなる。

 

「なら町みたいにしないとな…」

 

町というと必要なのは家とかお店とかの建物、道、あと道のわきにあるような針葉樹とか桜とかの木か。それで川は…左右を分けるように真ん中に配置して、それなら橋も作らないとか。そんな感じで何を追加するなど色々考えながらプログラムを組んだり、オブジェクトを配置していく。ソースコードに目をやりながら打ち込んでいると、ソースコードが何段にもなりかなり複雑化してきている。まあそれはしょうがない。いくら効率化しても長くなるものは長くなる。川のプログラムはとりあえず町が完成してからにするとして、どんどん作っていかないと。

 

「これはまだ時間かかりそうだな…」

 

良いアイデアが貰えた半面、なかなか時間がかかりそうで面倒くさい。そんな気持ちを入れながら小さく呟く。そんなときに部屋の扉がガラガラっと開いた。そっちに目を向けると朝武さんがいた。

 

「神谷さん、夕ご飯が出来ましたよ」

「わかった。すぐ行く」

 

今まで作業していたデータを保存してからパソコンを閉じ、立ち上がる。そしてリビングに向かっていった。

 

 

 

 

 

「神谷さん、前の学校の教授に頼まれてたことって何だったんですか?」

 

夕飯を食べている最中、常陸さんからそう聞かれる。

 

「そういえば言ってなかったな。プライベートVRの構築だよ」

「プライベートVR…ですか?」

 

今度は朝武さんにそう聞かれる。

 

「VRはわかる?」

「一応…知識程度ですが」

「将臣は恐らく馴染みがあるとして…常陸さんと安晴さんはどうですか?」

「私も芳乃様と同じくらいですね」

「僕は名前だけかな」

 

一応知ってはいるのか、なら説明はいらないか。

 

「前の学校自体がインターネットとか情報システムとかを専門にやれる学校で、その中のゼミの1つにVRを専門にしてるのがあったんだ。そのゼミでVR空間を作ってきなさいってのが課題として出るんだ」

「でも学生で作れるもんなのか?俺も興味はあったけど、難しそうでやめたんだけど」

「ちゃんとしたプログラムの知識とか、色んな知識はいるけど、前よりは作りやすくはなってるぞ。ザ・シードが流通したことで基礎プログラムは元々組まれてる状態だからな」

 

ザ・シードによる恩恵は俺もかなり受けている。本当に以前に比べて格段に作りやすくなっている。

 

「けど色々追加したりすればするほど複雑化していくのには変わりないけどな。俺の作ってるやつも効率化はしようとしてるけど、ソースコードが何段にもなってて凄い複雑になってるんだよな」

「うわぁ…やっぱり俺には無理そうだな」

「勉強すれば誰でも出来るようになるよ」

 

どれをやるかによって習得難易度は違うけどな。時間かかるやつはめっちゃかかるし、簡単な奴はすぐに習得できる。本当にまちまちなんだよな。

 

「そういうもんか…」

「そういうもんだよ」

 

将臣はまだ不満そうだが、それ以上は聞いてこなかった。

 

「そういえば、将臣は何しに行ってたんだよ」

「何しに…って?」

「常陸さんに聞いたけど玄十郎さんのところに行ってたみたいじゃん。目的もなく行くわけじゃないだろう?」

 

俺がそう聞くと、将臣は俺から目線を外した。その目は泳いでいる。

 

「あー…いやー…なんというか」

「そんなに言いにくいことなんですか?」

「言いにくくはないというか、なんというか…」

「煮え切らないですね」

 

将臣の答えに朝武さんがほんのちょっとだけイライラする。まあ、俺はそこまで深入りするつもりはない。

 

「…言えないのであれば話さなくていいや。別に詮索する気はあまりないし」

「そうしてくれると助かる」

 

将臣もそう言ってることだし俺はその話はそのままスルーした。そうしてその後は特に他愛のない話をし、夕飯を食べ進めていった。

 

 

 

 

 

「…よし、続きをやらないとな」

 

夕飯も食べ終わり、満足した中で部屋に戻る廊下を歩いていた。とりあえず部屋に戻ったらVRの続きを進めないと、期限に間に合わなくなる。頼まれてやってることだから期限に遅れるようなことはないようにしないと。

 

「あ、諒」

 

そんなことを考えながら歩いていたら向かい側から将臣が来た。

 

「どうした?」

「さっきの…」

 

さっき…というと夕飯のときのことか?

 

「俺はあの時渋ってたけど、やっぱり一人くらいには説明した方がいいかと思って」

「そんなに大事なのか?」

「一応…俺だけじゃなくて周りの人にも関係があることだし…」

 

玄十郎さんのところに行ったのが周りにも関係する…か…おそらくだけど

 

「それって祟り神に関連してか?」

 

俺がそう指摘すると将臣は目を見開いた。

 

「…よくわかったな」

「そりゃわかるわ。将臣は学院でも何かをやってるわけでもないし、玄十郎さんに頼み込むなんてよっぽどのことだろうとは思ったからな」

 

それに将臣は朝武さんや常陸さんと祟り神の退治に行って帰ってきたときにどこか少し思い詰めているような雰囲気を出していおり、自分でも何か考えていたのだろう。その考えに基づいて何故かはわからないが玄十郎さんを頼ったのだと俺は思っている。

 

「で、正確にはなんでなんだ?」

「今まで何回か祟り神の退治に俺もついていってるんだけど、俺は叢雨丸の使い手になっても戦力になれてないしむしろ2人に守られててお荷物になってる気がするんだ」

「でも朝武さんと常陸さんの2人は将臣よりも長く戦ってきてるんだぞ?最近来たばっかりの将臣が力になりにくいっていうのも無理はないと思うんだが…」

「それでも男の俺が女の子に守られてるっていうのはなんというか、情けないというか…」

 

なるほどね…つまりそれは

 

「俺が2人を守りたいし、情けない姿を見せたくない。要は見栄を張りたいってことだろ?」

「っ…悪いかよ」

「別に悪くはないと思うぞ。俺も将臣と同じような状況になったらそういう風には考えると思うし、見栄を張りたいっていうのも立派な原動力だからな」

 

男の原動力というのは元来単純なものだ。そんなことで?というものが案外男にとっては大事だったりする。

 

「それで将臣の腕前が上がれば2人の負担も軽くなってくるから万々歳だろ」

「そうなってくれればいいんだけどね…なかなかきつくて…」

「あー…」

 

確かに、そんな気はする。神社で見ただけだけど着物を着こなし、シャキッとした佇まいで、その目は威圧感が半端なかった。

 

「なんか厳格って言葉が似合いそうな人だもんな」

「ほんとそれなんだよな…年も結構行ってるはずなのに」

「ここじゃ案外お年寄りの方が強いのかもな」

 

笑いながら冗談めかして言う。流石にお年寄りの全員がそうじゃないとは思うけどな。

 

「流石に若い奴の方がだろ」

「そうだな」

「まあ…死なない程度に頑張れよ」

「そうする…でもお祖父ちゃんの特訓はマジで死にかけん」

 

将臣は特訓を思い出したのか顔が青くなり少し身震いしている。

 

「そう言ってるうちは大丈夫そうだな」

「マジできついんだって!お祖父ちゃん剣道の師範代持っててすげえ強いんだから」

「へえー…そりゃ凄いな」

「諒も今度来てみるか?」

「いや遠慮しとくよ。剣道なんてほとんど経験ないから」

 

体育で約4時間分くらいしかやったことないから素人に毛が生えた程度だ。

 

「2人に良いところみせられるようにならなきゃな」

「別にそれが目的じゃないんだけど…しっかりやるよ」

「おう。それじゃ部屋に戻るよ、まだVRが完成してないからな…あ」

「?どうした」

 

戻ろうとしていて将臣と逆を向いていた体を将臣の方に向き直す。

 

「1つアドバイスだ」

 

俺の経験則から言えるあることを言う。

 

「どんな動作にも必ず”起こり”がある。相手を観察し全てを見通せ。そしてどんな状況でも視野を広く、頭を冷静にな」

「…え?」

 

突然俺に言われ将臣は呆けている。俺は呆けている将臣をしり目に自分の部屋に戻っていった。

 

 

 

 

「…さっきのアドバイスの意味をしっかり汲み取ってくれてるといいけど」

 

部屋でVRの構築をしながら呟く。自分の経験から出たアドバイスだけどかなり有用なんじゃないかと思っている。スポーツとか、ただの日常生活とかの行動でもよく観察していれば、癖や動きを見抜くことが出来る。それが祟り神で、将臣たちを攻撃をしようとするのであればそれ相応の予備動作が必要になってくる。俺が攻撃を受けた触手の長さはそこそこ長かったからかなり大きな予備動作をしていた。それを見逃さなければ回避も反撃も出来るというわけだ。そして冷静に。頭に血が上りすぎると視野が狭まるし、正常な判断が出来なくなってしまう。命の危険と常に隣り合わせの状況では冷静さを失えば、待っているのは”死”だと言っても過言ではない。

 

「生存率を上げるための鉄則だからな…」

 

あの世界で俺だけじゃなく周りも常に意識し、実践したことだ。命というのはどんなことでも、どんな場面でも愛おしい。命は決して軽くない。それを絶対に見失ってはいけない。

 

「ちょっとでも将臣の中でプラスに働けばいいな…」

 

そう呟き、それまでの思考を切り替え、VR制作に取り組んでいった。




それでは言い訳をさせてください。活動報告で夏休みが始まったが筆が進んでいないので少々お待ちを、としたのですがその後、えげつないほどモチベが落ちましてハーメルン自体を2週間くらい開かなかったです。その後他の方の小説はまた読み始めたのですが、自分の方の小説は全然進まず。バイトも始めたので私生活も忙しくなり、やっと筆が進みだしたのは4日ほど前で、かなり間隔が空いてしまい待ってくださった方がいらっしゃれば申し訳ないです…
今後なんですが、1週間ごとのように明確に日にちを決めず、不定期更新で行こうと思います。そして失踪は絶対せずに最低でも1か月に1話は出したいと思います。もちろんそれ以上投稿できるように努力はします。
では次回、いつになるかはわかりませんが、是非ご覧ください。


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