とある剣士のSAO事情 (ほがみ(Hogami)⛩)
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特別な話
特別編 アスナとヒナとヒカリの秘密の話


UA5000人記念!あんけーとの話です!
時期としては、ALO解決後~GGO直前の時期をイメージしてもらえると助かります。短めですけど、どうぞ楽しんでいってください!

※ついでに伏線とか……入れたいなぁ…



―時は2025年11月某日

 

ヒカリside

 

私たちは東京のとあるオシャレなカフェに来ていた

チリンチリン…と入口に付いている綺麗な鈴の音が鳴り響く。そこには栗毛色の綺麗な女性が立っていた

 

アスナ「こんにちは。ヒナちゃん、ヒカリ!」

ヒナ「アスナさん!」

ヒカリ「アスナ!」

 

アスナはにこやかな笑顔で手を振り、私たちの座る席に座る。その姿からは今とても幸せなのだという雰囲気が漂っていて、私たちにもその幸せがおすそ分けされているかのようなほんわかした気持ちになる

―最近アスナとキリトの仲がさらに良くなっていると聞く。そこでアスナは考えた。もっとキリトと仲を深めるにはデートすることが必要。だけど失敗したくないから、これまで何度もシンとデートしている私に意見を求めている…というのが今に至るまでのあらすじ的な話だ

 

ミナ「そういえば…アスナさんとキリトさんの馴れ初めって…どんな感じだったんですか?」

アスナ「え?私とキリト君の馴れ初め話?……うーん…信じてもらえるかわからないうけど…」

 

そういってアスナは紅茶を頼んだ後、キリトとの馴れ初め話を始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナside

 

それはあのSAO(悪夢)が始まってから2カ月もたっていない日のこと…

私はいつものようにダンジョンに籠って敵と戦っていた。モンスターがポップしては倒し、またポップしては倒しという坦々とした作業を何千回、何万回も繰り返してきた。もちろん武器は使えば壊れる。だがしかし、同じ武器を何本も買ってきているから武器の心配はない

 

アスナ「はぁぁぁっ!!」

モンスター「――――…」

 

私の放った細剣SS《リニア―》がモンスターの頭部にヒットし、ガラスが砕けるようなエフェクトを残してモンスターは消える。アイテムドロップはいつも通りで序盤では程よいのではないのだろうかという感じの手ごたえだ。だがしかし、今回はいつもとは違ったことがあった

 

「…さっきのはオーバーキルすぎるよ」

 

モンスターを倒したばっかりの私に黒髪の青年は話しかけてくる

―そう。これが彼との始まりであり、私の運命の歯車が回った瞬間だった。その頃の私はただの自分の行きたいままに、自分という姿を貫き通していため、彼のオーバーキルだという言葉は何も響かなかった

 

アスナ「何をしようと私の勝手でしょ?」

「…それを言われるとどうしようも無くなるんだけど…」

 

ーそれから数日後のこと…私はキリト君と共に第1層の攻略会議に出た。まぁつまらなかったけど…その後は、また私はダンジョンにこもっていた時と同じように迷宮区へと籠り始めていたころ、キリト君は1人の青年を連れてきた

 

キリト「ここにいたのか」

アスナ「…なんの用?」

キリト「何って…お前を探しに来たんだよ。1人で勝手に行きやがって…」

アスナ「…そんなの私の勝手でしょ?」

キリト「…それを言われると言い返せないんだけど…一応臨時だけど、パーティーだからさ」

 

何を思ったのかその頃の私は、彼も一緒にこのレベリングをしたいのだと勘違いし、今度行く時は誘うと言ったのだった

 

―――――――

現代

 

アスナ「…その頃から私はキリト君とシンさんとは知り合いだったの」

ミナ「信じられません…その頃のアスナさんがツンツンだなんて…」

アスナ「まっ!色々あってこんなふうに穏やかになったんだけどね!」

 

その色々はシンさんに話してもらおう…私の口からじゃ言えない…

少し話していると、注文した紅茶が机の上に置かれる

 

ミナ「もっと先の話を聞きたいです!例えば、どちらからその…どちらからお付き合いの話をかけたのかーとか」

アスナ「それは―もちろんキリト君から『結婚しよう』って!」

2人「「キャ――!!」」

 

なんてロマンチックな話なんだと、自分で話していて感じる。確かにキリト君は不器用でお人好しな性格。だからこそ、そんな彼に惹かれていった…

 

アスナ「ちなみに、ミナちゃんの馴れ初め話ってどんなのなの?」

ミナ「私ですか?!えっと…その…」

ヒカリ「ふふっ…話しても構わないわ。怒ったりしないから」

ミナ「ほ、本当に?では―――――」

 

ミナは意気揚々に自分の想い人のことを話始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミナside

 

彼と初めてあったのは、私がまだ10歳の頃に妹と共にプレイしたオンラインゲームだった

当時の私は最愛の妹を亡くし、学校にも行けないようなほど無気力になっており、そのゲームに没頭することでその無気力を紛れさせようとしていたがゲームというものが苦手で、血迷っていながらもプレイしていたところSinという男性プレイヤーと出会い、彼のからこのゲームのことや攻略方法。強くなる秘訣などを聞いた

 

Sin「"君にとってこのゲームはなんだ?なんのためにこのゲームで戦うんだ?"」

 

初めに彼が私に言った言葉だ。私は幼くて答えられなかったのだが、その言葉は私の心に響き、灰色だった世界を色付けけてくれため、その人を先輩と呼ぶようになってしまった

 

 

 

そして2年後…SAO(悪夢)が始まり、私は死の恐怖と隣り合わせな日々を過ごした。間もなくして、幼い頃からの知り合いとゲームないで出会い、サイライ率いる〈ヘブン・ライト〉というギルドを立ち上げた

私は、死の恐怖を殺しながらも必死に戦った。そんなある時…

 

ミナ「…迷っ…たァァァァァァ!!!

 

ダンジョン内にて完全にみんなとはぐれてしまった私は、大声をあげて自分の理性を保とうとするも、すぐに虚しくなる

第5層の遺跡型ダンジョンで私は1人。誰もいない遊園地に置き去りにされたみたいに悲しい…

そうこうしていると、私が叫んだのに反応したのか、ミイラのようなモンスターが私の方に近づいて来る

 

ミナ「い、いや…来ないで…」

 

恐怖で足がすくむ、手が震える。私は咄嗟に覚悟した…この場所で死んでしまうと。しかしその思考と同時にある一筋の希望も現れた

 

「フッ!!!」

ミイラ「ウォォォォォ……」

ミナ「は…ふぇ…?」

 

目の前にいたモンスターは光のエフェクトと化し、空に消えていった

「大丈夫だったか」と優しい声で囁いてくれたのは、まだ軽装のシンさんであった

 

シン「立てるか?」

ミナ「は、はい…ありがとうございますー」

シン「君は1人でここにいたのか?それとも…」

ミナ「い、いえ、弱小ギルドですがレベリングしてました…」

 

すると、私の声を聞いて駆けつけてくれたのか、仲間のみんなが現れる

みんなは、私の行動に心配した者や少し怒る者がいる中、サイライだけは、その状況をすぐに理解し、シンさんに駆けつけて礼をあげた

 

サイライ「なんとお礼をあげたら良いか…」

シン「いや俺は何もしていない。無事で良かった。ここであったのも何かの縁だよな…困ったことがあるんなら手を貸そうか?」

サイライ「申し訳ないです…」

 

私は驚いたのだ。彼は自分がやったと言わなかったことに

 

 

彼が私たちのギルドに仮介入すると、彼の名前がSinであることを知り、私はあの時の先輩なのでは?と仮定していた

でも確証がない。それだったら…ということで情報屋に聞いたのだが、お金がすごく取られたのだった…だけどそのおかげで、彼のことを知ることができた

 

ミナ(最前線で戦ってて…攻略組で…強い…彼に聞けばこの悩みをー)

 

私は抜け落ちたパズルのピースを集めるように彼の部屋へと赴いた

 

ミナ「失礼してもいいですか?」

シン「いいぞ」

 

私はこの人に悩みをぶつける!そして、聞いてもらう!それだけで十分…そう思っていたのだが…

 

シン「なぁミナ。"君にとってこのゲーム"はなんだ?"なんのためにこのゲームで戦う"んだ?」

ミナ(!!!!)

 

間違いない。迷信が確信に

私は強くも優しいそんな彼に惹かれていった

そんなある日、私は彼の旧友の秘密を知ることとなる。彼女に頼まれたのは、シンという名の希望を守ってほしい。私は彼女の頼みもそうだが、自分の気持ちに正直になることにした

 

ミナ(あなたは…私が守ります。任せてください…マイさん)

 

 

 

 

 

――――――――――

現代

 

私は、緊張しながらも自分の馴れ初め話を2人に話した

……実をいうと、彼にはっきりと告白というものはしていない。リーベという比喩的な愛の告白はしたものの(リーベ(Liebe)ドイツ語で愛という意味があります)、いざ告白となると緊張して言葉が出なくなってしまうのだ。それのせいで、ヒカリに先を越されたのだが…

 

ミナ「でも私はそれでよかったと思ってますよ」

ヒカリ「―ミナ」

アスナ「しっかりといい話じゃない――そういえば、最近シンさんALOで見ないけど、元気かしら?」

 

アスナは飲みほした紅茶のカップを机にコトッとおくと思いついたようにシンの話をする

確かに最近はALOに姿を現していない。だけど私は、リアルでもちょいちょいあっているのでそこまでの感情はなかった…けど、最近はリアルでも忙しいみたいで、ヒカリにもあっていないのだとか…

 

ヒカリ「シンは…とある事情でALOには入れていないの。それに――ふふ…会える日を楽しみにしていて」

2人「「???」」

 

ヒカリは楽しそうに微笑む

するとアスナのスマホから聞き覚えのある声が聞こえてきた

 

「ママ!おすすめのデートスポットをサーチしておきました!」

アスナ「ありがとう!ユイちゃん」

ユイ「いえ!お役に立てて何よりです!」

ヒカリ「――そうだ。ユイちゃん、ユイちゃんから見てキリトとシンはそんな感じ?」

 

ヒカリは興味深々にユイちゃんに質問する

キリトとシン……AIの立場から見たらどんな風に映るのか私も気になる…とユイちゃんは少し悩み、結論を出した

 

ユイ「強いて言うなら…パパは、優しくて面白い人ですね。シンさんは…難しいです。確かに優しい部分はあるんですが、どこか過去に囚われているというか…不思議な人だと感じます」

アスナ「ユイちゃん視点だと、そんな感じなのね~」

 

 

シンはどんな人か…とユイちゃんの回答を聞いて改めて思った。強くて優しい…うーん…難しい

ユイちゃんのいう通りなのかもしれない。でも私はそんな彼が好きだという気持ちは変わらない。それはヒカリも変わらないのだろう

 

ヒカリ「へぇ〜そんな感じに思ってるんだ。確かにシンはどこか過去を見ているっていうのはわかる。ところでアスナ、本題に入りましょうか」

アスナ「あ、忘れてたわ。ユイちゃんがサーチしてくれた場所は…」

 

 

 

 

 

私たちはアスナのデートをサポートする感じで話を進める―1時間ほどたち、アスナはウキウキ気分で帰って行った

私はそんなアスナを見ていいな~と思いながらも、自分の姿を合わせてみる。好きな人と一緒にお出かけ出来たらどんなに楽しいのだろうか…

 

―ピピピ…と私のスマホに通知が1件入る。なんだろう…と確認しようとすると、ヒカリのスマホにも通知が来た

 

ヒカリ「あ、シンから来てるわ」

ミナ「へ?私もシンから来てますよ?」

ヒカリ「なになに…『報告したいことがあるから、ALOのキリトたちのログハウスに来てくれ』って…あ、"完成した"のかしら?」

ミナ「何が完成したんです?」

ヒカリ「ふふ…実際にシンに会って聞きなさい♪」

 

楽しそうに微笑むヒカリに私は疑問を残しながらも、私たちはこのおしゃれなカフェを後にした

 

 

この話の続きは、またいつか……

 

 

 

 

 

 

 




楽しんでいただけたでしょうか?
ミナの馴れ初め話や、シンがALOに最近入っていない理由を簡単に説明します

・ミナの馴れ初め話+シンが《ヘブン・ライト》に入団した理由
 ミナは幼い頃にミナと瓜二つなとてもかわいい妹がいた。名は水瀬瑛佳(えいか)。彼女の呼び名は■■だ。"永遠に素晴らしい人"という意味を付けられた彼女の名からその呼び名を海外の意味と一致させて自分でつけたというから驚きである。
本当にミナと瓜二つであったが、とある事故で亡くなってしまった。その事故はミナにとって心にとても深い傷を負い、鬱の症状になってしまうが、妹とともにやっていたゲームとシンに助けられ、鬱に打ち勝つ。
その後、SAO事件が始まると、ミナはシンと以前自分を助けてくれたプレイヤーを重ね、シンに心惹かれる。
 シンが《ヘブン・ライト》に入った理由は、お人よしというかほっとけない性格故に、サイライの助けとミナの熱い支援に圧倒され、ソロプレイヤーだったシンを仮加入まで行った
シンはそのことを「もともとソロでいこうと思っていたが、誰かと共に戦うのも久々で良かった。今となっては、彼らと出会えたことを、心から嬉しく思っている」と言っている

―とまぁ、こんな感じですが、どうでしたか?ヒカリの馴れ初め話は?と思った方もいるとは思いますが、後の話に期待してください
そういえば、ミナが3話にてシンのことを先輩と呼んでいた理由が今回でわかりましたね!作者は、たまにこういった伏線を張っていたいたりしなかったりするので、そこも楽しんで頂けたらなぁと思います。

では、また次回お会いしましょう


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SAO編
1話 デスゲーム


西暦2022年 某日

VRMMORPGゲーム《ソードアート・オンライン》通称SAOのベータテストプレイが解禁された

ベータテスト応募者何万人の中から、抽選で千人の応募者がベータテスターとしてSAOのベータテストをプレイ出来ることとなった。その中に…運良く入ることが出来たのは幸運だったのだろうか、不幸だったのだろうか…

 

 

 

 

 

それから2ヶ月後の西暦2022年11月6日 日曜日

SAOの正式サービス開始が発表された

 

意識以外の感覚を全て遮断し、ゲームの世界のアバターになりきることが出来るVRMMO。自称ゲーマーとして俺はやらなくてはならないという使命の元に機材を全て揃え、フルダイブするためのヘルメット型の機材、ナーヴギアを頭に装着し、ベットに寝そべる

《リンク・スタート》と開始コマンドを口から発せば、俺の五感は全て遮断され、意識は仮想空間内に飛ばされる

―これで何度目だろうか…俺は心の中で呟く

ベータテスト版で俺は幾度となくこの機材を使ってSAO内に入った。おかげで他の人よりも多くの情報を手に入れることが出来た。だが、それはあくまでベータテスト版の話

今回のプレイは正式サービスだ。ベータテスト時のレベルは消去され、まっさらな新しいアバターとしてこのゲームをプレイする

 

「"マイ"はもう行ったかな…」

 

マイ―彼女とは同じくベータテストで出会った応募者なのだが、彼女はかなりの初心者だ

情報が多い俺が教えなくては、初心者にはあのゲームは難しい。どういうシステムなのか、どうレベル上げしなくてはならないのか、どう生き残ればいいのか…など

まぁそれは後で説明するとこにしよう

 

「……《リンク・スタート!!!》」

 

 

目を閉じて俺は開始コマンドを言葉に発する

すると五感は全て遮断され、真っ暗な世界になる。だが、次第に虹色の空間を潜り抜け、視界に色々な情報が出てくる

 

『ベータテスト版のアバターが残っています。"Sin"このアバターでプレイしますか?』

 

ベータテストのアバターでプレイするかシステムが質問してくる。YESかNoか…もちろんYESだ

Noにした場合、また初めからキャラデザをしなくてはならない。とてもめんどくさかったし、今のシンというアバターが個人的に好きだからその決断をした

ー数秒のロードが入り、その後に welcome to Sword art online という文字と共に俺の体は仮想現実内に完全に映される

 

シン「戻ってきたな…《はじまりの街》に!」

 

SAOの舞台、100層ある浮遊城《アインクラッド》の第1層にある、はじまりの街には活気があり、様々なプレイヤーが今日の日を待ちに待っていたのが伝わってくる

このゲームの醍醐味は、仮想空間内での現実感がすごいところだ。五感は全てSAO内にある。視覚、触覚、嗅覚、味覚、聴覚が自分のアバターに反映され、ナーヴギアを通して現実の脳内に情報が送られる。このゲーム内において、現実の体に伝えられる信号は全て延髄からナーヴギアに収得される。故にこの世界では自分の体のように走ったり飛んたりすることができるのだ

 

「…あの…」

シン「ん?どうしたんだ?」

 

俺の袖を引っ張る女性。髪は薄い茶色で少し長めの髪をしている。服装は…当たり前だが初期装備

アバターとして顔は変わっているものの、この人には見覚えがあった

 

シン「もしかして…マイか?」

マイ「どうして私の名前を…もしかして、シン?」

 

サラッと俺の名前を口に出す彼女。間違いない…

 

シン「あぁそうだ。とりあえず、前もやった通りに散策しよう」

マイ「う、うん!」

 

俺はマイの手を引いて、近くの武具店に入った

 

 

 

シン「まずは自分の使用武器を考えようか…この世界には様々な武器種があって、その武器種ごとに《スキル》が決まってるのは分かってるだろ?」

マイ「うん、シンの武器はなんなの?」

 

マイは俺の背中に背負っている片手剣に興味があるように、ジロジロと見てくる。俺が装備している剣は初期装備のままだ

 

シン「俺は片手剣を重視して使ってるけど、たまに短剣とか…曲刀、細剣なんかも使うぞ?だからひとつに絞る必要はないんだ」

マイ「へぇ…なら――」

 

マイはそう言って片手剣を選択し、自らの腰に鞘につけて収納した。えへへと言わんばかりの笑顔で俺の事を見て来るから、俺はその頭をグシャグシャと撫でてやった

 

 

 

 

はじまりの街 周辺

 

マイ「きゃっ……」

 

マイは青いイノシシ。正式には《フレンジーボア》の攻撃に耐えられずに尻もちをつく。

レベル1の雑魚敵だが、ホントの初心者には、程よい設定だろう…っていうか、ほんとにベータ版をプレイしたのかと疑ってしまうな…

 

シン「大丈夫か―?」

マイ「いたたた…」

シン「手を貸してやろうか?」

マイ「いいよ!私ひとりで頑張る!」

 

そうは言っても…みるみるうちにマイのHPがイエローゾーンに入っていく。HPがゼロになれば死んでしまうが、はじまりの街で再び生き返る。だけど、それは本当に最悪の場合だ。本当に危険な場合は俺が助けに入る

今のうちに、装備を変えておこう…片手剣から短剣に変えてと…スキルはその武器の熟練度によって習得出来る

スキルを発動すると、システムが自動的に体を動かしてくれるサポートをしてくれる。基本的には通常攻撃の合間に打つのが正解だ。スキルにはクーリングタイムがあるから何発も連続して打てない

 

マイ「こんのぉぉぉぉ!!」

 

マイの放った片手剣SSの基本技 ホリゾンタルが青いイノシシにヒットし、ガラスが割れるようなエフェクトと共にマイの目の前に勝利した証のように、白いウィンドウが表示される。そこにはさっきの奴を倒して手に入れたドロップ品や、この世界での共通通貨《コル》と呼ばれるもの。それと経験値が表示されていた

 

シン「おめでとう君の勝利だ」

マイ「やったぁ!!!!」

シン「今の感じを忘れるなよ?スキル発動時の感覚を」

マイ「うん!!忘れないよ!」

 

俺はマイの体力を回復させる為、目の前で右手で一振する。その手に反応するように自己に関係するウィンドウが開かれ、俺は手際よくアイテム欄から回復ポーションを選択し、実体化させる

小瓶に入った液体は、アインクラッドに差し込む光を反射し、キラキラと眩く光る

 

シン「ほら、回復薬だ。不味くはないと思うけど…」

マイ「ありがとう…」

 

マイは小瓶の蓋を開き、自分の口に突っ込んだ

するとみるみるマイのHPは回復していき、ゲージの端まで緑で埋まった…のだが…マイの顔はすごく険しい…

 

シン「不味かったか?」

マイ「……美味しくはない…」

シン「だよな~SAO内でも微妙だと言われてたし…」

マイ「そんなことより!先に行きましょ?まだまだこの世界を楽しみたいしね!」

 

マイはそう言って元気に駆け出して行った

俺もマイのスピードに遅れないように、急いでついて行くことにした

 

 

 

 

 

 

それから少しして…夕暮れの時間になった

マイは未だに信じられないようだ。この世界がゲームの中だということに…こんな綺麗な世界がゲームの中だなんて信じられなかったのは俺も同じだった

科学はここまで進化してきている…恐るべき時代だ

すると、どこからか金の音が聞こえ始めて、俺たちは突然はじまりの街の中央広場に転移させられた

そこには、数多のSAOプレイヤーが同じように転移させられて来たようだ。その数一万…いやそれ以上いるか?

 

―これでログアウトできるのか?!と誰かが叫んだ

これで?どういう意味か分からないまま、俺は単なる興味心でウィンドウを開き、ログアウトのボタンを探した

……ない。ログアウトのボタンの存在がなくなっている

このゲームから唯一ログアウトできるのはそのボタンしかない。今それがないということは…俺たちはもうログアウト出来ないということだ

 

「おい!上を見ろ!!!」

 

またしても誰かの声が中央広場に響き渡り、みんな上の空を見る。そこには夕暮れの空に混じって血のような赤いウィンドウがポツンポツンという表示されていた。そのウィンドウは次第に増殖し、空を覆い尽くしてしまった

ウィンドウとウィンドウの隙間から何やら赤い液体がはじまりの街に垂れてきて、それは次第に赤いローブを来た人へと変身した

 

『私の名前は茅場(かやば)晶彦(あきひこ)。今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ』

 

茅場晶彦…SAO開発に携わった天才ゲームデザイナーであり量子物理学者。SAOの開発ディレクター。それとナーヴギアの基礎設計者だとなにかの雑誌で読んだ…はず…

その男が言った次の言葉は……

 

『プレイヤーの諸君は、ログアウトボタンがないことに気づいていると思うが、これはソードアート・オンライン本来の仕様だ。この城の最上階…つまり100層をクリアするまで諸君らの自発ログアウトは行えない』

 

100層…行けるのか…?そんなに高い場所に…?ベータテストではろくに登れなかった…

俺は固唾を飲み込んで、茅場の話を静かに聞く

 

『…何らかの手違いで、現実の諸君らの頭部からナーヴギアが外れた場合と、この世界で死亡した場合…その者はこの世界、及び現実世界からの永久にログアウトすることとなる』

 

―――は?…今なんて…永久にログアウト…?それってつまり…死亡するってことか?

あまりに驚愕な出来事すぎて、話についていけない。茅場晶彦が言うにー現実の俺たちの体はどこかの病院に搬送されることとなるから安心しろーとの事。安心してプレイなんてできるか……

最後に、茅場晶彦はプレゼントとして、俺たちに手鏡を渡してきた。それに写った顔は……紛れもない現実の俺だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲーム開始から1ヶ月で2000人程亡くなった。だが、まだ1層も突破出来ていない

そして……俺も1人になった

 

レベル上げの為に、第1層北東の森の方で戦っていた時…マイは1層にも関わらず高レベルの裏フィールドボスと思われる熊型のモンスター。正式名は確か…《The Ripfate》切り裂く運命を意味する、ケモノによって命を落とした

俺のレベルもマイと同じくらい10レベル程だったが、ベータテスターとしての実力を生かし、ソイツをHPギリギリでソロ討伐した

そのおかげで俺のレベルは16程になり、ラストアタックボーナスと呼ばれるシステムによってレアドロップ品を入手した

―種別 片手剣 作成者 不明 品名《フェイトブレイカー》

見た目は赤黒く日本刀のような片刃だ。片手剣スキルが使用でき、謎の追加スキル 《刃鋭》を修得出来た

少し離れた場所で、刃鋭ソードスキル(SS)を試してみた《迅》《澄風》《兜割り》…どの技も全て攻撃が当たった瞬間にダメージが入るのではなく、数秒後に5・6発の斬撃ダメージがまとめて入るみたいだ

 

 

はじまりの街 黒鉄宮

 

元々、蘇生の間として死亡したプレイヤーを蘇生する場所だった黒鉄宮には、《生命の碑》と銘された碑石があった。その碑には約10000人ほどのプレイヤー名が彫られていて、至るところに横線で名前が消されていた。その数約…2000人。これは…死亡したプレイヤーと現在まだ生きているプレイヤーの名前なのだろうか…なら――

 

シン「――――――――」

 Mai 

 

マイのプレイヤー名に横線が刻まれていた

―それが暗示している事実は……"マイはもうこの世界にはいない"いや…現実からも永久にログアウトしてしまった…

 

シン「マイ……俺はこれからどうすればいいんだよ…どんなゲームもソロだった俺には…君がいなきゃ…このゲームをクリアできないよ…」

マイ『――君が――この世界を終わらせて…また会おうね…シン…』

 

どこからかマイの声が聞こえる。幻聴か…あるいは本当に聞こえたのか…

だけど、その声は俺に希望を与えてくれた。この世界をクリアするという希望が――

 

シン「マイ…必ず俺がこの世界を終わらせてやる。だから…見守っててくれ…俺の事を…」

「ねぇねぇそこの君。オレっちにその情報を分けてくれないかなぁ?」

 

そう言って俺に話しかけてくるのは、少し小柄なプレイヤーがだった。フードを被っていて、性別は不明。だが、顔にネズミのようなペイントがあった。こいつは確か…SAO内で初めて情報屋になったって言う《鼠のアルゴ》…だったか?

 

シン「その情報ってなんの情報だ。俺には生憎ネタが無い」

アルゴ「…そんなに美味しそうなネタを背中に背負っておいて何を言ってるのかナ?オレっちが気になってるのは、その剣さ。どこで入手したのかナ?教えてくれれば、こっちもそれなりの対価をあげるけド」

 

鼠はそう言って俺の背中にある剣をまじまじと見る

対価というのは、情報のことか…それとも金額か…

 

アルゴ「対価のことについて悩んでいるのかナ?それなら情報でもお金でもいいさ!」

シン「……生憎金は余るほどある。情報交換と行こうか…とは言っても情報になるかはわからんけどな」

 

鼠はそれでも別にいいとの事。俺はアルゴにこの剣についての情報を話した

だけど、俺がもっている迅鋭スキルの事は話していない。情報屋なんかにこの謎のスキルを言ったらどうなるか分からないからな

 

 

 

 

 

―この世界での死は、現実世界での死…デスゲームに巻き込まれた俺たちは必死に生き延びなければならない。亡くなった人達の為にも…自分の為にも…



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2話 ベータテスターとビーター

第1層 迷宮区内部

 

シン「はぁぁっ!!!」

 

剣は赤い残光を残して武装したモンスターに直撃する。ルインコボルド・トルーパーと銘打たれたモンスターは跡形もなく消滅する。―――迷宮区(ここ)で狩り始めてからどのくらいたったのだろうか…以前のボスモンスターとは比べ物にならない程弱いこのモンスターたちを狩り始めたのは、情報屋のアルゴ()が関係している

―奴がこの場所に、"大事な物"を落としたから、探してきてほしいと言われたためだ。アルゴから頼まれたものは紙のようなものらしい

このゲームをクリアするついでだからいいけど、一向に目標のものは見つからない。俺はいつも通りリザルトウィンドウを閉じようとしたその時…そのリザルトウィンドウに妙なものが入っていた

 

シン「《暗号化された紙》?アルゴが言っていたのはこの紙の事なのか?詳細は―ん?なんだこれ…」

 

紙の詳細は、文字通りの暗号化されていた。俺では読むことはできないが……何かのスキルがあれば読める―と記載されている。これにはどんな事が書かれているのだろうか。気になるが…アルゴにこれを届ければ何かわかるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮区近郊 トールバーナ

 

アルゴ「お!待ってたゾ!シン」

シン「これでいいのか?よくわからない紙だけど――」

アルゴ「それで正解サ。これはオレっちにしか読めない代物だからナ!ほら、これは報酬金だ。受け取れヨ」

 

アルゴに例のアイテムを譲渡し、俺は目の前にあるアルゴから貰った報酬金のウィンドウを閉じた

結局あれに書かれていたことは分かっていない。アルゴも何も言わないし、聞いても答えてくれない。重要機密情報というやつなのだろう。俺は兎にも角にも迷宮区を攻略しなくては次のフロアに行けない

そう思い迷宮区へと足を進めようと思ったそのとき…

1人のとげとげ頭の男性プレイヤーが俺に歩みよって来た

 

「おどれちょっと待てや。見たところ腕の立つプレイヤーやな?ワイらにちょっと手かしてもらおか」

シン「あんたは…手を貸すって…?」

キバオウ「ワイはキバオウゆうもんや。ワイらは明日、迷宮区の攻略をするんやけれど、ジブンにも挑戦してほしいっちゅうこっちゃ」

シン「……」

 

俺も今から行こうと思ってたから丁度よかった――とも思ったが、何やら事情がありそうだ

―そういやアルゴの話に、この街で迷宮区攻略会議があるとかそんな話があったな。もしかしたらそのつながりなのかもしれない。行こうと思ってたんだが、アルゴから頼まれたあれがあったおかげで、行けなかったみたいだけど…

 

シン「キバオウ…って言ったけ?」

キバオウ「なんや―」

シン「一人で挑むのか?」

キバオウ「あほ!んなわけあるかいな!ワイは"ベータ上がり"のような自分だけが良ければイイ奴らとはちゃう!みんなと効率よく攻略したいんや!」

 

なるほど…ベータテスターを非難する人なのか。ほんのさっき耳に入って来た情報だけど、こんなすぐに会えるなんてな

もし、ここで俺もベータテスターだと言ってしまったら…このプレイヤーは――

 

シン「…悪いが俺はパーティーを組む予定はない。それと―」

キバオウ「なん――」

シン「ベータテスターを馬鹿にするなよ」

キバオウ「っ―――!」

 

キバオウは俺の言葉に怒ったかのように顔を歪ませ、俺に罵声を浴びせてくる

 

キバオウ「なんやって!?もしかしてジブン…データ上がりなんか?!けっ!そんなんやったらもうええわ!!」

シン「あぁおい―――いっちまった…でもなんであんなにベータテスターを非難してるんだ?」

「それはだな…ベータテスターの方が沢山情報を持っているから…かな」

 

俺に話しかけてきたのは、黒髪で片手剣使いの男性プレイヤーだった

 

シン「――――」

キリト「驚かせちまったか?俺はキリト。君の事はアルゴから聞いてる。何でもすごい剣を持ってる剣士がいるってね」

シン「アルゴめ……後で情報料―って前に出したな。君もベータテスターを非難しているのか?」

キリト「まさか…さっきの君の言葉に感動したんだ。「ベータテスターを馬鹿にするな」どういう意味で言ったんだ?」

シン「俺はベータテスターだ。俺を非難するのはいいが、俺以外の奴を馬鹿にされるのは癪に障る」

 

この世界…デスゲームに参戦しているのは誰でも同じだ。中には悪い奴もいると思うけど大抵はいい人ばかり。それはベータテスターも同じだ。この前だって攻略本を無償で提供しているのを見たし、偏見だと俺は思う

 

キリト「――やっぱり聞いた通りだな。君、少し俺に付き合ってくれないか?」

シン「付き合うってどこに?」

キリト「迷宮区さ。俺のパーティーの一人が勝手に行っちゃって…迷宮区のどっかにいるとは思うんだけど一人じゃ無茶な可能性だってある。そこで!君に頼みたいわけなんだけど…どう?」

シン「いいよ。俺も迷宮区に用があったし、一緒に行こう」

 

俺はキリトと名乗るプレイヤーと共に迷宮区へと再び足を進めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮区内部

 

俺と同じくベータテスターだったキリトはかなり強い。それも桁違いに頭の回転が速い……同じベータテスターのはずなのに、こんなにも違いがあるのかと少し萎えそうになる

俺たちは安全圏でいろいろと話を始めた

 

キリト「――それで、その剣はどこで…しかもそんな剣見たことないぞ?刀っていう武器種も見た事ないし、そんな片手剣も知らない。まぁベータのときの話だけど」

シン「…この層の北東部の森にいたフィールドボスが落とした。武器名は《フェイトブレイカー》運命壊しの銘を打たれている剣だ。序盤からこういう剣があるのは嬉しい」

キリト「ほう…ベータにもない情報があるのか…」

 

すると迷宮区に誰かの攻撃する掛け声が響き渡る。それに続けてモンスターが消滅するときの効果音も聞こえてくる

キリトが探している人が近くにいるようだ。俺たちは走って探し始めることにした

――その人は案外近くにいた。フードを被っていて顔は見えないが、先ほどの声からして女性と判断した。見たところ細剣をつかう人のようだ

 

キリト「ここにいたのか」

「――なんのよう?」

キリト「何って…お前を探しに来たんだよ。一人で勝手に行きやがって…」

 

キリトの問いに対して、その女性は興味なさそうに回答した

 

「…そんなの私の勝手でしょ」

キリト「――まぁそう言われると言い返せないんだけど…一応臨時ではあるけど、パーティーなんだからさ」

「……それもそうね。ごめんなさい。勝手に一人で来てしまって。今度はあなたも誘うわ」

キリト「いやそういう事じゃないんだけど…まぁいいや。ありがとうなシン。俺に付き合ってもらって」

シン「いや、大丈夫だ。そういえば、キリトたちは明日のこの迷宮区攻略戦に参加するのか?」

キリト「参加するさ。攻略しなくちゃならない。君はどうするんだ?」

 

行きたい―――と言おうとしたのだが、マイのようなこともある。もう目の前で人が死ぬのはご免だ。だけど…攻略しなくちゃこのデスゲームは終わらない。この層のボス…イルファング・ザ・コボルドロードには何度か挑戦した。攻撃パターンも知っている。参戦しないわけにはいかない…か…

 

シン「俺も参加…しようかな…」

キリト「了解、なら、俺たちのパーティーに入らないか?」

シン「え―?」

キリト「君の剣の腕に興味があるし、仲間は多い方が何かといいからな。どうだ?」

 

キリトの意見はもっともだ。ソロプレイヤーには限界がある。いろんなゲームをしてきてそれを実感している

しかし逆の効果も実感している…仲間が増えれば増えるほど、対立が生じる。パーティーを組むのはいいが、パーティー内で対立が起こってしまっては元も子もない

それに…つい最近、マイを失ったことも関係してしばらくはパーティーを組むのをためらってしまう

 

シン「…パーティーに入ったら死なないって約束してくれるか?」

キリト「あぁ死ぬつもりはない」

「えぇ…死ぬつもりはないわ」

シン「よかった。ならお邪魔しよう」

 

『"Kirito"からパーティーの勧誘申請されています。受諾しますか?YES・NO』

 

俺の右手のひとさし指は、目の前のウィンドウに触れる

すると俺の視界の左上端の方に、二つの体力ゲージが追加される。えぇと名前は―キリトと…あ…すな?アスナで読み方合ってるのかな?間違ってたら怖いから、君…とか2人称で呼ばせてもらおう

 

キリト「短い間になるかもしれないけど、これからよろしくな。シン」

シン「あぁよろしく。二人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日…いよいよ迷宮区攻略の日だ。今現在、目の前にはフロアボス専用のフィールドへと通じる扉がある。リーダーのディアベル率いる《攻略組》と俺は仮称しているこのチームは、ベータテスターがあるのかどうかわからない。少なくとも2人…俺とキリトだけかもしれない。それでも最大限のバックアップを行わなくては…

 

ディアベル「みんな用意はいいか?じゃあ…行くぞ―――――!!!!!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

扉を開きボス部屋に突入する俺達。部屋の中はとても綺麗な装飾で照らされていて、戦闘フィールドとは思えなかった。すると、猛正しい咆哮と共にボス―――イルファング・ザ・コボルトロードが取り巻きのルインコボルド・センチネルと共にスポーンした

――見た目はベータ時と同じ斧とバックラー()、2mを悠に超えると思われるほどの巨体…HPバーは4段。腰にはのタルワール(湾刀)が備わっている。HPが少なくなれば盾や斧を捨て、タルワールに持ち替えて攻撃してくるだろう

 

ディアベル「作戦通りに―――いけぇぇ!!!」

「おぉぉぉぉ!!」

 

作戦とは…主力なプレイヤーがボスのHPを削り、攻撃してきたら防御型のプレイヤーに変わるというものだ

残念ながら俺達にはその資格はなく、取り巻きの奴らを倒していく――という単純作業なのだが…

 

少し時間が経ち…ボスのHPは残り1ゲージとなった。ベータの情報通りに今までの武器を捨て、タルワールに持ち替え―――――――いや…あれはタルワールじゃない。曲刀…?野太刀(ノダチ)か?!

 

ディアベル「っ――――」

シン(なぜあいつは陣形を崩してまで一人で突っ込んだ…?それどころじゃない―――)

キリト「ダメだ!!みんな全力で後ろに飛べぇ――っ!!!」

 

キリトの声と共にボスは野太刀を構え、スキルを発動する。刀スキル…あれは―《旋車》か?まずい!!あいつを助けなくては――

俺は意を決して走る。間に合え…間に合え…もう一人も死なせるな――

 

「グォォォォォォォォォ」 

ディアベル「ぐわっ―――」

「グワァァァァァァァ!!!!」

シン「ディアベル!!!」

 

間に合わなかった…奴は2連続で刀スキルを発動して、ディアベルの体力を減らした

俺とキリトは地面に寝そべるディアベルの下に駆け寄り、回復させようとしたが…もうHPゲージは色を放っていなかった

 

ディアベル「君たちになら…託せる…ボスを―――倒し――」

 

ガラスが散るようなエフェクトと共にディアベルは消えてしまった

俺たちはディアベルの決意を引き継くために、再び剣を握って立った

 

キリト「――シン。行けるか…」

シン「――あぁ、奴の攻撃は大体頭に入ってる。俺が先に行って奴の攻撃を弾く。その隙に《スイッチ》を頼む」

キリト「了解」

アスナ「私もやる」

シン「よし…じゃあ行くぞ!!」

 

俺は剣を片手に走り出す。奴の攻撃は刀…広範囲技があるかと思うが、予測しろ…

奴は俺に気づき、刀を構え始めた。あの構えは…突進攻撃か?なら―――

 

シン「はぁぁぁぁっ!!」

「グォォォ……」

シン「今だ!!スイッチ!!」

 

《スイッチ》それは、二人以上で戦闘するときに片方の邪魔をしないように、一人が敵の攻撃を弾き、もう一人がスキルで相手にダメージを与えるという戦術。二人同時にスキルを発動してしまうと、どちらも戦いづらくなってしまうから、その戦法が基本的に強いられている

 

タイミングばっちりでキリトは、ボスの腹部に片手剣スキル《レイジスパイク》をヒットさせる。ボスはまたしても、ダウンしかける。アスナが突っ込んて行く

その時ボスは体制を整え、アスナに剣を振る

 

キリト「アスナ!!!」

アスナ「は――――」

 

間一髪で避けたアスナだったが、身に着けていたフード付きコートに攻撃が掠っていたようで、その防具が消滅する

アスナは、とても綺麗な女性だった。エフェクトのおかげかその容姿は、とてもきらびいて見える

 

アスナ「はぁっ―――!!」

「グォォォォォォ…」

キリト「ふっ……!!」

 

アスナの細剣スキル《リニア―》がボスに炸裂し、ボスは少し後ろに後退したものの、すぐに仕返しの体制に入る

キリトはアスナの前に立ち、その攻撃を何度か防ぐ――キィィィンと金属音が響き渡り、空気が震える。

ボスのスキル発動と同時に、キリトもその攻撃を弾こうと下から切り上げるが、ボスはその攻撃を避け、下からキリトを切り上げる

しまった…キリト――と叫ぼうと思ったときには、キリトはアスナの方へと飛ばされていた

 

シン「キリト!来るぞ!!」

キリト「くっ……」

「グォォォォォォォォォ!!!!」

「うぉぉぉぉ!!!!!」

 

もう少しのところでキリトに当たりそう――って時に、キリトの後方から緑色のソードスキルが飛んできた

キリトを助けたのは背の高い色黒の外人だった。両手斧を持ち、ボスに攻撃する。そこに何人かの男たちが参戦して、ボスを攻撃しようとするが、弾かれてみんな尻餅をついた

――キュイィィィンとボスのスキルの発動音が鳴る

 

キリト「危ない―――!!届けぇぇぇ!!」

 

高く跳ね上がり攻撃しようとしたボスに向かって、キリトは片手剣SS《ソニックリープ》を放ち、空中でボスを叩き切った

 

 

 

 

――長かったボス戦はキリトの手によって沈められた。ボスの消滅と共に光輝いていた部屋は一変、遺跡のような薄暗い空間へと変わってしまった。

経験値、獲得コルはすべてこのチームで山分け。ラストアタックボーナスによるレアアイテムは、キリトの物となった

 

シン「やったな。キリト」

キリト「あぁ…そうだな…。だけど一人の犠牲を出しちまった…」

シン「…ディアベルの死と引き換えに、多くの人を救ったんだぞ?悲しいことだけど前を向こう。ディアベルもそれを願ってるさ」

「この勝利、あんたのもんだ」

 

キリトに駆け寄るアスナと色黒の男。すると、みんなはキリトにむかって拍手を始めた

 

「………なんでや!!!!なんでディアベルはんを見殺しにしたんや!!」

 

静かな空間に怒号が響きわたる。この声は確か…キバオウといった人だったか?

 

キバオウ「ジブンはボスの攻撃知っとったやないか!?そんならそれを初めから知らせておけば、ディアベルはんが死ぬことも、ワイらが死にかけることもかなったやないかい!!!」

「そうだ…あいつ知ってて隠してたんだ…きっとあいつデータテスターだ!!」

「ベータテスターなら知ってて当然か…なら辻褄が合うぞ!!」

 

歓喜の声から一変、この空間はキリトを冒涜する声援が広まって行った。いや、それだけではない。ベータテスターという存在すら悪人扱いされ始めている

―――これはまずい事になりそうだ…一刻でも早くこの事を納めないと――

 

キリト「…ベータテスター?あんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」

シン「キリト…?」

キバオウ「な、なんやって?!」

キリト「俺は他のベータテスターとは違う。天地ほどの差が俺とベータテスターたちにはある。他にもいろいろ知ってるぜ?この先のボスの事とかな」

 

キリトは悪人高いような不気味な笑みを作り、反発する集団に話始める

 

キバオウ「なんやて…そんならそんなんベータテスターやない…チーターや!チーターやそんなもん!」

「ベータテスターでチーターだから…"ビーター"だ!」

 

ビーターというあだ名は瞬く間に広がり、キリトへの反発は強まった

俺はそんな状況を改善すべく説得しようと試みたが、キリトはそれを無視し、悪人を貫いた

 

キリト「"ビーター"いい響きだな。これからは俺の事をそう呼ぶと言い。"ベータテスターなんか"と一緒にするなよ」

 

ブワッとキリトは黒いコートを身に纏ってつぎの階へと足を進めた

――あいつ…まさか一人で行こうとしてないか?そんな予感が俺の脳内に予測される。確かにキリトは強い。しかもベータテスターでもある。一人でも行けるとは思うが、どこか不安がある。なぜこんなに不安になるのだろう…俺は元々一人で攻略しようとしていたのに、いつの間にか仲間というものが恋しくなっていた

 

『パーティーリーダーのキリトがパーティーを解散させました』

 

視界の端にはもう二つのゲージはなく、俺のHPゲージが虚しく黄色く光っていた

 

 

 




皆さんの中にあるキリトと違う可能性がありますが、悪しからず…
書いてて自分でもなんか違うな――と思ったり思わなかったりしているので、修正しながらこれからも頑張っていきます




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3話 仲間

第一層を攻略してから約2か月後…最前線で戦う俺やキリトは、もう第7層を攻略。第8層へと攻略を進め始めていた

-誰が言い始めたのだろうか…最前線で戦う人々の事の事を《攻略組》と

しかし、第8層は攻略組が動かなかった。否、動けなかったのである。ここまでほぼノンストップと言っていいほどガツガツ進んできた。情報屋の話ではこの層のボスは万全の装備でなければ厳しいらしい

生半可な攻撃では通用しない高い防御力、盾持ちだろうととも吹き飛ばす高火力…中途半端に踏み込めば、確実に死が待っているとのこと…

その為、みんなレベリングや装備を整えているのだろう。俺も心配だから、レベル上げを頑張っている

 

シン「せぁぁぁっ!!」

「キャァァァン…」

 

俺が放った刃鋭ss《兜割り》が敵モンスターの頭部にヒットし、無数のエフェクトと共に消滅した

この洞窟型ダンジョン《コルチカムの芽》にスポーンする四足のモンスター《カム・リーン》はとてもいい稼ぎになる。経験値のそうだが、とにかくコルが多いため、限られた人しか知らない穴場スポットだ。稀に高性能な防具や武器がドロップするモンスターが出るとかでないとか言われているが、俺はそんなモンスターみたことがない

かれこれこのダンジョンに入ってから数日が経っている。そろそろ主街区に行かなければ、"みんな"心配するだろう

 

シン「もうレベルも37か…にしてもこの剣―《フェイトブレイカー》は強化ができないってどういう事なんだ?レベルと共に強くなってるみたいだけど、どういう事?」

 

――ピッピッ…と誰かからのメッセージが来たことを伝える音が鳴る。誰からかと思って開いてみると、俺が今属している《ギルド》のメンバーからだった

 

『発信者―Sarai 要件―シンさん今どこにいるんです?ちょっと急用ができたので、ギルメン全員で集まりたいと思っているんですが、シンさんもきてくれませんか?』

シン「サイライ―――急用ってなんだ?しかもギルド全員で集まるって、何をするんだ…?」

 

悩んでいても仕方がない。とりあえず主街区《フリーベン》に行こう…そう思い俺は青色の結晶をアイテムスロットから実体化させ、自分の手に持つ。転移結晶と呼ばれるこの結晶は、自分が知っている主街区に転移することが可能だ。しかしそれに応じた値段もする…

 

シン「《転移フリーベン》」

 

俺は水色の光に包まれ、第8層の主街区に転移した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリーベン 中央酒場2階

 

そこは俺が正式には属していないが、集団として入っているギルド《ヘブン・ライト》の本拠地だ。ギルドと言ってもそこまで多い人はいない。俺を除いて5人の小さな集団…っていった方が正しいな。このギルドはみんな小学生のころからの幼馴染が集まっているんだとか

―そう思いつつ、俺は扉を開いた

 

「お!待ってましたよ~シンさん!さあ座ってください!」

 

そう俺に勧めてくるのは短剣使いの女の子《ミナ》だ。身長は俺の肩(シンの身長170ほど)ぐらいしかない小柄な少女だが、戦闘ではかなり役立つ。俺としては後輩のような気分になってしまうが、そういう性格なのだろう

―言われるがまま席に座ると、リーダーのサイライが話を始めた

 

サイライ「じゃあ全員集まったという事で、これからの事を話そうか」

「これからの事?」

ミナ「おとといぐらいに話しましたよね?《攻略組》の一員になる為の会議ですよ"リン"」

リン「あぁ、そのことね。覚えてるわよ。もちろん」

 

《リン》彼女は細剣使いのトラブルメーカー――らしい。何かあったら大抵のことの始まりは、彼女から始まっていると言っても過言ではないほど、トラブルを起こしやすい。だが、全てが悪いわけでは無く、極めて稀にそのトラブルによってレアアイテムを入手できるとか…

 

リン「で?どうするわけ?噂では攻略組は平均レベルが50以上だとか言われてるけど」

シン(50?!誰だ…そんな嘘を流した奴は。アルゴか――いや違うな。アルゴは正しい情報しか流さないよな?)

サイライ「う~ん…じゃあみんなレベルはどのくらい?」

リン「私、20。"フウマ"は?」

 

リンは赤い髪の少年に自身のレベルを問うた。《フウマ》彼は俺と同じ片手剣を扱うメインアタッカーだ。しっかりとした性格と冷静な判断でリンが巻き起こしたトラブルを幾度となく回避してきたこのギルドの副リーダー

その剣の威力は、攻略組である俺と互角。だけど、素早さは俺の方が上――でよかった…いや、この人達には俺よりも強くなってほしいけど、なんか悔しい

 

フウマ「俺のレベルは23。でもみんなそんなもんでしょ」

「あぁ俺のレベルもそのくらいだ」

リン「あんたはもっとレベルをあげなさいよ。なんたってこのギルドで唯一の防御役なんだから」

「そうはいってもな…防御型だからこそレベルが上がりにくいんだよ」

サイライ「まぁ"ソラ"の言いたいことは分からなくもないさ。防御型は攻撃力に劣るからねぇ…あ、ちなみに僕もみんなと同じくらいだよ。シンさんはどのくらいなんです?」

シン「俺は―――――」

 

突然問われて少し悩んでしまう。みんなは約20レベルなのに対し俺は約40レベル。強いに越したことはないけど、それならみんな遠慮してしまうんじゃないかという心配が出て来てしまう

 

シン「…俺も…みんなと同じくらい。25…くらいだ」

サイライ「そうですか、ならどうしようか…」

フウマ「どうしようとは?」

サイライ「攻略組のレベルが本当に50が平均なら、僕たちもレベルをあげなくてはならない。さて…どこで上げたらいいのか…」

 

困っているようだな…じゃあ取っておきの場所を教えてやるか。あそこはそんなに危険じゃないし、いい稼ぎになる

レベリングにはもってこいという場所――

 

シン「俺、いいとこ知ってるぞ?経験値もコルも手に入る穴場スポット」

リン「本当かしら?私たちのレベルでも行ける?」

シン「あぁ、敵の攻撃をよけるのと囲まれなければ何の問題もない」

サイライ「よし…では、明日はそこに出発するため、今日は宴だ~~!!」

 

テーブルに数多く実体化される色とりどりな料理たち。この世界で飲み食いしたとしても現実の体には何も入っていない。味覚は再現されていても、空腹満腹が再現されていたとしても、本当の満腹にはならない。それどころか、俺の体は今も病院で寝ているのだろう

――でも、今はそんなこと気にしてはダメだ。一刻も早くこの世界を開放しなくては、いつかはタイムリミットが存在する

 

ミナ「……」

シン「ミナ?どうかしたのか?くらい顔してたけど」

ミナ「…へ?な…なんでもないですよ!!それよりほら!おいしそうな料理が沢山ありますよ。食べましょう!!」

シン「―――」

 

さっきとは打って変わっていつもの元気なミナに戻った。何か気になる…さっきの顔はとても暗かった。まるで死の間際に立たされているかのような絶望している――とは何か違うけど、とりあえず暗かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

酒場の2階は宿屋にもなっていて、一晩一人200コルで自由に寝泊まりできる

部屋割りは、特に決まっていないためみんな自由に寝る。俺は個室で一人で寝る事がほとんどだが、夜は刃鋭スキルの熟練度上げに明け暮れていることのほうが多い

 

シン(今日の成果を見てなかったな……何かいいものが手に入ってるかな…?)

 

右指を一振り。そしてアイテム欄に移動…最新のアイテムは――

 

シン(カム・リーンの鱗と牙…それに―?なんだこれ…朽ちた短剣?えぇとなになに…【朽ち果てて使えなくなった短剣】?なんだそりゃ…実体化っと…)

 

実体化されたその短剣は文字通り朽ちていた。刃は錆び付き、ボロボロ。持ち手についている宝石のような飾りは黒くくすんでいて、綺麗な色を見せない。長さは20㎝弱。基本的な短剣よりも短いな

――でもこれが単なるドロップアイテムとは思えない。誰か良い鍛治師が居れば頼みたいのだが…

 

シン(良い鍛治師って言っても…いないしなぁ…以前に会った"リズベット"はまだ半人前だって言ってたけど、頼んでみるのも手…かな)

 

すると、コンコンと俺の寝室を誰かが叩く。その直後に「シンさん。まだ起きてますか?」と女の子の声が聞こえてきた。この声の主は恐らく、ミナだろう。要件は分からないが、俺は「まだ起きている」と答えた

 

ミナ「失礼してもいいですか…?」

シン「いいぞ」

 

俺は朽ちた短剣をアイテムストレージに入れてミナを寝室に入れた

普段着のミナは可愛らしい。いつも軽く結んでいた髪をほどき、代わりに紫いろの花飾りがついたヘアピンをつけている。服装は桃色を基調とした白いTシャツと黒の短パン

立ち話もなんだから俺はベットの隣に座らせて話を始めた

 

シン「なにかあったのか?」

ミナ「なんだか…寝付けなくて…せんぱ―――いえ、シンさん。折り入ってご相談があります」

シン「な、なんだ?改まって。俺に相談とは」

ミナ「私……みんなより弱いんです」

シン「みんなより…弱い?」

ミナ「…はい」

 

ミナは顔をうつむかせたまま俺に相談をしてくる。これはただ事ではないのだろう

さて…どうしたものか――もしかして――

 

シン「夕食時に元気がなかったのは、それが原因か?」

ミナ「……はい。みんなのレベルは20以上なのに対して私はまだ16とかそこそこで…全然よわいんです」

シン「―――」

ミナ「いっつも守ってもらってばっかりで…私、みんなのお荷物になってるんじゃないかって思ってしまうんです。でも戦闘して、死ぬのは怖い…このゲームはただのゲームじゃ――」

シン「―このデスゲームだからこそ学ぶものがある。例えば、人間との付き合い方…とかな。死ぬのは誰だってこわいさ。少なくとも俺は――だけどね」

 

すこし嘘をついた。俺は自分の死が怖いなんて思っちゃいない。誰かの死だけは怖い…そう思ってるつもりだ

彼女の不安は、自分の死が怖いんじゃないんじゃないか?もしかしたら、自身がどれだけこのパーティーに貢献しているか―というのを知らないから、自分の強みを自信に変えられない。そんな気がする

 

シン「なぁミナ。"君にとってこのゲーム"はなんだ?"なんのためにこのゲームで戦う"んだ?」

ミナ「私は……わかりません。なんのために戦う――とかも…」

シン「そうか。まぁそうだよな。わからないよな。今は分からなくても、いつかわかるようになればいい。俺が思うに君の端の方に描いてある"レベル"なんてものは単なる飾りに過ぎない。俺は戦いの中で、相手のレベルが格上だったとしても、その戦いからその敵の攻撃パターンを分析して、勝利への道を切り開いていくんだと思うよ」

ミナ「シンさんはお強いですね…身も心も…私とは全然違う…」

 

うつむいて悲しんでいるミナを見て、俺は彼女には自信が足りないんだと確信した

 

シン「少し、俺の話をしていいか?」

ミナ「はい、どうぞ」

シン「俺がこんなに強くなった理由。何だと思う?」

ミナ「…シンさんにとっての戦う意味が見つかったから?」

シン「そうだ。俺は2か月くらい前に、一緒に組んでいた人が居た。いい人だったよ。ゲームのプレイは苦手だったそうだけど…何とか俺がバックアップした。でも俺は彼女を亡くしてしまった…俺の目の前で無残にも散ってしまった。それは、俺が無力だったから…勝手に俺は周りの人よりも強いと勘違いしていたから…彼女を失った。だから俺は誓ったよ。"この世界を完全攻略して見せる"って」

ミナ「それが…あなたの戦う意味…」

シン「あぁ。目の前にいる誰かをもう目前で失いたくない。これだけは絶対だ」

 

そう言って俺はミナの頭をポンポンと優しく叩いた

サラリサラリと撫で心地のいいこの子は、後輩というか…もう自分の子みたいな感じになってしまっている

 

ミナ「あの…先輩…」

シン「ん?どうかした?」

ミナ「今日はここで寝たいです…///」

シン「―――あぁいいよ。ほら、ベットに入りな?俺はあっちでねるか――」

ミナ「先輩も…一緒に寝てください///」

 

正直こんなに積極的(?)なミナをみたことがない。ってか、いつから俺の事を先輩って呼ぶようになったんだ?

悪い気はしないが俺がここで断ってしまったら、ミナはもっと自信を無くしそうだな

 

シン「わかった。一緒に寝てやる。でもいいのか?俺なんかで――」

ミナ「先輩だから…いいんです…」

シン「ふ…可愛い奴め…おやすみ。ミナ」

 

そう言って目をつむった彼女の頭を優しくなでる

歳は分からない。ていうか、この世界で現実世界の事を聞くことはタブー。それはこの世界ならず、ネットの世界全般にいえることだ。今ここで静かに寝息を立てているこの子の本名を知らない。歳もどんな人生を歩んで来たのかも分からないんだ

 

―最近、レッドプレイヤーと呼ばれる人の噂がどこからか聞こえてきている。俺たちの頭の上には緑いろのカーソルが浮かんでいるが、人を傷つけたり犯罪行為をした場合《犯罪者》として、カーソルがオレンジ色になる。一定時間で戻るが、その間は主街区や圏内と呼ばれる〔絶対に攻撃ができない区域〕に行く事ができない

オレンジからさらに上がって、人を殺す行為プレイヤーキル(PK)を行うとカーソルがレッドになり、《殺人者》となる

現実とほぼ同化しているこの世界でPKなんかしたら…どうなるかわかるだろう。本当の殺人者になってしまう

 

シン(笑う棺桶【ラフィン・コフィン】――か…殺人(レッド)ギルドとかなんとか噂で出回っている見たいだけど、ほんとにいるのか?)

 

そう思いつつ俺はミナの隣に入り、明日に備えて就寝することにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 

コルチカムの芽 

 

フウマ「せぇぁぁぁぁ!!!」

「キャァァァン!!」

ソラ「なんの!!!今だ!ミナ」

ミナ「せいやぁぁぁぁ!!!」

 

 

フウマの先制攻撃によって臨戦状態になったカム・リーンはフウマに攻撃しようとするが、ソラが見事に間にはいり、大きな盾で攻撃を防ぐと、ミナがソラの肩を踏み台にして短剣SS《ウィングネイル》を見事にカム・リーンに命中させる

しかし、それだけで倒れるモンスターではない。HPゲージは緑から黄色に入りかけたところで止まっている

 

ミナ「うそ……」

リン「どいて!!!はぁぁ―――!!!」

「キャァァァン――」

リン「今よ!サイライ!!決めてやりなさい!」

サイライ「はぁ―――――!!」

 

怖気づいたミナの前に立つリンは、細剣ss《リニア―》をカム・リーンに与えると、ナイスタイミングでサイライがカム・リーンに片手剣SS《ソニックリープ》を決める

――見事な連携…こんな綺麗で滑らかな連携プレイは攻略組でもあまり見ない。キリトとアスナのような息ぴったりのコンビならまだしも、パーティーでこのようなのは―――このギルドは成長できる。今より何倍にも強くなって攻略組の一員になれるだろう

エフェクトと共に消滅するモンスター。サイライやギルドのみんなに振り分けられた経験値やコルはみんなのストレージに入る

 

サイライ「よしっ!ナイスだ!リン」

リン「それほどでもないわ」

ミナ「うぅぅ…」

 

俺は悲しそうにうつむいているミナに駆け寄り、手を差し伸べた

 

シン「大丈夫か?」

ミナ「やっぱり、なんの役にも立てなかった…」

シン「そんなこと無いさ。なんにもしてない俺よりも役に立ったよ」

ミナ「うぅぅぅ……」

シン「ほら立って。次の場所に行こう」

 

このぐらいの戦闘能力なら、俺が手を差し伸べるほどではないな。安心して俺も見守れそうだ

すると、奥のほうから何かの声が聞こえてくる。人でないケモノの咆哮――どこかで聞いたことがある声だった

俺もここにはよく来ているが、最深部にはいっていない。なんでも最深部には穴があって、その穴に降りる前に警告ウィンドウが表示されるからだ。『一度立ち入ったら戻ることは、不可能です。それでも行きますか?』と警告される

恐らくはそこが、このダンジョンのボス部屋なのだろうと考えていて、いつかはあそこに行くと決めていた

 

サイライ「よし、次の場所に行く前に少し休憩しよう」

フウマ「ふう…奴は硬かった。リンの細剣のような鋭利な物の方が有効的なのか?」

ソラ「攻撃はそこまで重くない。素早さもまあまあだ…やっぱり問題は―――」

リン「そうね、なら――――」

 

俺は傍でその光景を眺めている。俺もこんな友達が居ればな―――などと考えてしまうが、生憎、現実世界(リアル)では友達が少ない。まぁいっつもゲームばかりしているのが原因なんだろうけど…

リアルでの俺は今であれば17…だったか?相変わらず自分の歳を覚えるのが苦手なんだと実感してしまう。リアルでの俺はこの世界の俺とは全く違う。高校は行っていたのだが、いつからか行かなくなってしまった

俺の学力が―とかではない。その高校のレベルの問題だった。俺が志願して入ったはずの高校は、入ってみれば思っていたものとはかけ離れていたレベルの低さ故に、俺は行かなくなってしまった。俺が登校する日は大抵テストのある日だけだ

 

シン(点数なんてただの数字…俺が望んでいたものは技術と知識だったのにな…どうしてあんなになっちまったんだろう)

 

俺は思いすごしていたのだろうか。俺が持っている以上の事を学べるのが高校だと思っていたのに――

 

ミナ「シンさん?どうかしたんですか?」

シン「―?どうかした…って?」

ミナ「なんだか怖い顔していたので…何かあったんです?相談に乗りますよ」

シン「な、何もないよ。それより、これから――――っ?!なんの音だ?!」

ミナ「え?何も聞こえ―」

 

俺の耳には確かに聞こえている。大きなケモノが歩くような重量感のある地鳴りの音が…

そんなモンスターいるなんて俺は知らない…もしかしたらとても危ないものなのかもしれない

 

シン「…サイライ」

サイライ「な、なんでしょう?」

シン「一度ここを出よう。奥から何かがここに近付いてきている。恐らくはボス級のモンスターだと思う」

リン「そんなモンスターいるんなら狩ればいいじゃない」

フウマ「いや、やめておこう。この狩場を案内してくれたシンも知らないモンスターなら危険すぎる」

サイライ「……フウマの言う通りだな。やめておいた方が身の為だと言える。一度主街区に戻ろう」

 

俺たちは主街区へと戻り、今日の戦利品などを使って自分たちの戦力を底上げした後。普段通りに就寝した

――深夜。みんなが寝静まった頃…俺は一人、コルチカムの芽へと足を踏み入れていた。例の足音が気になる…もしボス級なのであれば、情報を集めなくては彼らに勝ち目がない。誰かが死んでからじゃ遅い…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミナ(シンさん…"今日は"どこに行くんだろう…)

 

 




振興ギルド《ヘブン・ライト》
リーダーのサイライ率いるこのギルドは、五人のメンバーで構成されていて、全員が幼い頃からの知り合いだという。ギルド内での争いというものはなく、みんな自由にやっている
自分のレベルにあった攻略やレベリング、そして素材集めを各自で行っているが、いざ集団で戦うとなると攻略組に遅れをとらないほど華麗なチームワークを見せる

洞窟型ダンジョン《コルチカムの芽》
基本的な洞窟ダンジョンとは違い暗闇という概念がなく、洞窟のいたるところに紫いろの小さな花が生息している。基本的なモンスターは四足の獣型が多い
洞窟の長さとしては、深いところで3キロ近くある。しかし、洞窟自体が、枝分かれしているため、すべての長さはとてつもなく長くなってしまうため考えてはいけない


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4話 赤い残光

深夜の洞窟型ダンジョンは基本的に何も見えなくなるところが多いが、ここは洞窟内に咲いている紫色の花が出す光の粒子によって視界が開けている。この花は咲いているから取れるのかと思い、手にとって見たことがあるが、すぐに消滅してしまう

ふと下を見ると、例の足音のモンスターが付けたと思われる巨大な足跡があった。俺の探索スキルでその足跡をタップして誰のものか見てみると…

 

シン(《????》の足跡――文字化けっていうよりは、見えないように細工されているって方が正しいだろうな)

 

足跡はまだ続いている。たどって行けばそいつの正体がわかるんじゃないか?

俺は背中にかけている《アニールブレード》をいつもの《フェイトブレイカー》に変更する。彼らの前では同じような武器で行かなくては、不平等だ―と自分で思ってしまっている節がある

―――とその時。俺は誰かに見られているような気配を感じ後ろを振り向いた。まぁ当然誰かがいるわけはなく、コウモリのようなモンスターが奥に飛んでいくだけだった。気のせいだったのかと思い、俺は足跡をたどり始めた

 

ミナ(あ―――あぶなかった……つい興味心でついて来ちゃったけど…シンさんのあの装備…一体何者なの…?もし戦闘になったらどうしよう…あ、でもさっきアルゴっていう人から《不思議なマント》もらっちゃったからそれをきて何とかしよう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルチカムの芽 深部

奥に進むにつれて敵の数が増えてきた。苦戦はしないのだが、本当に数が多い…

 

シン「ふっ!!!!」

「キシャァァァァン…」

「キシャァァァァァァァァ!!!!」

シン「っ……キリがなさすぎる…」

 

カマキリのような爪を持った赤い目の大きな蜘蛛は、シンに攻撃を仕掛けてくるが、シンはカウンター技《見切り》で対応する

一体が消滅したところで、意味がない。多めに数えるが…その数、20は居るだろう…いったいどこから湧いて出てくるんだ…?その元凶を倒せばこいつらは消えるはず

 

シン(見当たらない…どこだ…どこにいる…)

ミナ(シンさんが危険な目にあってる…でも私なんかが行ったらもっと迷惑になって――)

 

その時、ミナの足元の石がコロン…と転がってしまった。しまった―――と思うミナに、蜘蛛たちはシンの事なんていなかったかのようにすべての蜘蛛が隠れているミナの方へと向かっていく。来ないで――とミナは叫ぼうとするが、恐怖で声が出ない。それどころか、もうここで死んじゃうんだ…と絶望の感情が溢れてくる

 

シン「誰かそこに居るのか?!」

「キシャァァァ…?」

ミナ(あれ…襲いかかってこない…?)

「キシャァァァァ!!!!」

 

蜘蛛たちは、今度はミナが居なかったかのようにシンに向かって走りだしていく

シンは即座に考えを答えに導いた。あれはすべて"音に反応して動いている"という事を――そして行動した。この場所に来る前にNPCから買っておいた爆薬にどうにか火をつけて、まとまっている奴らに投げ込もうと…

 

シン「くっ……そこに人が居るなら、絶対に動くな!そして目と耳をふさいでおけ!」

「キシャァァァァ!!!!」

シン「鬱陶しい!!これでもくらえ!!」

 

耳を裂くような爆発音と太陽のように眩しい閃光が蜘蛛を焼く。それにすかさずシンは、その蜘蛛たちに攻撃を仕掛ける

刃鋭ss《迅裂》目標を中心に大きく回りこみながら、目標に向かって突進。通り抜けざまに攻撃するというスキルを発動させる

 

シン「はっ―――!!!」

ミナ(すごい…今、シンさんの姿が見えなくなって…2つの目みたいな"赤い残光"だけしか見えなかった…そのあとにシンさんが赤い残光の反対側に現れて…それで…)

「キャァァァン…」

 

シンの攻撃に当たった蜘蛛は、全てエフェクトと共に消滅した。凄すぎる――私なんかよりもずっと強い…とミナは思って見惚れてしまう。シンは蜘蛛がすべていなくなったのを確認したら剣を背中にしまい、ミナのいる場所に駆け寄って来た

ミナはばれてしまう…と考えたのか、マントについているフードを深くかぶった

 

 

 

 

 

 

―――――シンside――――――

 

シン「大丈夫だったか?」

「は、はい。おかげで助かりました…ありがとうございます…」

 

茶色いコートを装備した女の子と思われるプレイヤーは感謝の言葉を口にする。浅はかな装備に腰には見覚えのある短剣が指されており、ほかにはプレイヤーが居ない。一人で来たのであれば無謀すぎるような…

 

シン「君、一人で来たのか?」

「へ?は、はい。まぁ一人で来ました…」

シン「なにをしに来たのかわからないけど、ここは危険だ。早くここから出た方がいい。そんな装備じゃここでは通用しないぞ?」

「そ…そうですか…でも――」

 

少女は何かを言いたそうにするが、その口は閉ざされてしまう。訳あり―――なのだろうか…

この子が何をするためにここに来たのだろうか…あの装備では到底このダンジョンを攻略するのは不可能。実力もないと見える

先ほどの蜘蛛に囲まれたときに、なぜ剣を振らなかったのか

 

「私は……この先にある、理想郷の中心に咲く理想(イデアール)の花を採取しに来たんです。それがあれば…」

シン「…とりあえず君が大変なことになっていることは理解した。俺も手を貸そう」

「いいんですか…?」

シン「あぁ。俺がここで見捨てて勝手に死なれても困るしな。俺はシン。名前は?」

リーベ「私は―――――リ…リーベ。リーベです」

シン「そうかリーベ。短い間になると思うがよろしくな。そうだ、パーティー…」

リーベ「パ…パーティーは組めません…ごめんなさい」

 

リーベと名乗った少女は、俺とのパーティーを断った。そこにも複雑な事情があるのだろう。この世界だ。何があってもおかしくない。

まぁそんなことだどうでもいいや。俺の目の前で死なれるのはいやだから装備と武器をあげよう…

 

シン「君の装備じゃこの先は不安だ。だから装備と武器をあげるよ」

リーベ「そこまでしていただかなくても…」

シン「俺の目の前で死なれたら困るんだ。わかってくれ。ここを抜けたらあげた装備は捨ててもらっても構わない」

シン(えぇと……この防具と…武器《スカイエッジ》をあげよう。それしか良い物は持ってないし)

リーベ「え――こんな凄い防具や武器をホントに頂いていいんですか?」

シン「あぁ」

 

リーベはありがとうございますと一礼してから、俺があげた装備を装着した

俺があげた短剣は第2層か3層のダンジョンボスを倒して手に入れた現状最強短剣といっていいほどの攻撃力を誇る《空の刃》だ

刀身はおよそ30㎝。空を映したかのような透明度のある剣の中には、白く輝くもう一つの刃が備わっている

装備したとしても、そのコートはとらないみたいだ

 

シン「装備したな。さぁ行くぞ」

リーベ「は、はい」

 

理想郷なんてものがほんとにあるのだろうか。少なくとも俺は聞いたことがない

この子はとても不思議な事を言う…もしかしたら、言っている事がすべて嘘の可能性だってある。目的は一致していないが、俺はこの子をなぜかとても助けたくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルチカムの芽 最深部

 

リーベと歩いて数時間。もう少しでボス部屋に通じると思われる穴に到達しそうな距離だった。それと同時に、例の足跡はその穴に向かって進んでいる…ここまで理想郷と呼ばれる場所には到達していない。目撃すらしていない。なら消去法で…

――すると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。それはいつものような話声ではなく、叫び声だ

 

シン「この声は…もしかして―――」

リーベ「フウマさん…」

シン「お前…フウマを知ってるのか?」

 

なぜこの子はフウマの事を知っているのだろうか?フウマはあまり人と関わりたがらない性格だ。となるとギルド関係の子なのか?

いろんな憶測が飛び交うが、今はそんなことを考える時間はない

 

シン「急ぐぞ!!手を掴んでくれ」

リーベ「えっ?」

シン「いいから早く!!!」

リーベ「は、はい」

 

リーベが俺の手を掴んだと共に俺は駆け出す。俊敏性をあげているため並みの人よりかは早く行ける…

間に合ってくれ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ミナside―――

 

ミナ(ついつい嘘を付いちゃったけど、シンさんは私だって気づいてない?この剣…かなり強力な剣だとわかる

こんなに貴重なものを私にくれた…シンさん…私やっぱり――

いや、いまはフウマさんの声が聞こえたほうに行くしかない!!もしかしたら、このダンジョンのボスに挑戦しているんじゃ――)

 

私の予想は当たってしまった。ボスの部屋に続いていると思われる入り口の穴からみんなの声が聞こえてくる。私の視界にはまだギルドのメンバーのHPゲージが見えない…シンさんは正式なメンバーじゃないから出てないけど…

 

シン「行くぞ、リーベ!!」

ミナ「はい!!」

 

私はシンさんとボス部屋に突入した。ボスの部屋は綺麗な光を放つ花が多く生えていて洞窟とは思えない空間だった。あるNPCの話ではこの場所が理想郷と呼ばれており、1,000年に一度咲くと言われている幻の花。理想(イデアール)の花が咲くとき、運命を裂くケモノが侵入者を排除すると言っていた

私の目にボスの姿が明らかになる。2本足で立つ3mほどの巨体、黒い剛毛に備えられた紫色の甲殻…爪は鋭く、血のように真っ赤だ。その眼は怪し気な紫色の光を放ち、ケモノの上にボスの固有名が出される【The Destiny fang】運命の鋭牙という名のボス…

同時にギルドのみんなの体力が表示される。4人の体力は赤以下…防御型であるソラ

でさえ、赤ゲージに陥っている

 

シン「―――――」

 

気が付けば隣にシンさんは居らず、私たちの仲間の前でボスの攻撃を防いでいた

私も助けなくちゃ―――と思っても足がすくんで動けない…【私が戦う意味を見つけたというのに――】

 

ミナ「みなさん!こちらに来てください!!」

サイライ「君は…ミナ?」

ミナ「早く!攻撃を受ける前に来て!」

フウマ「行くべきです…サイライ!」

 

私はみんなを攻撃を受けないようなところに避難させて、ピンク色の回復結晶を使って体力を回復させた

私はこんなことしかできないけど…シンさんならきっと――――

 

 

―――シンside――――

 

これは驚いた…まさかここのボスが第1層で出会った奴と類似種だとは思いもよらなかった

《ザ・デスティニーファング》…運命の鋭牙――とでも言っておけばよいのだろうか…何がどうあれこの状況は運命的だ。傷ついた仲間…強大な敵…俺は同じことを繰り返さない…絶対に!!

 

シン「お前を…倒す!!」

「グォォォォォォ!!!!!」

シン「はぁぁぁぁ!!!!!」

 

キィィィィィンと甲高い金属音が洞窟内に響き渡る。HPゲージは5、だけどサイライたちが頑張って3つまで削ってくれた。体力が多いな。それで攻撃力の高かったら最悪なんだけど…なにか一個だけでも欠けていてくれ…そんな希望を俺は抱きながらボスにダメージを与える

―当たったのはいいが、俺の攻撃力でもミリ単位でしか減っていない気がする…体力が多すぎる奴だこれ―――

 

「グォォォォォォ!!!」

シン「がっ――――!!!」

 

俺は攻撃を防ぎきれず、洞窟の壁に吹き飛ばされてずり落ちる。あっという間に俺の体力は黄色ゾーンに到達。そして体力の半分を切った…一撃でこれとは―――最低被弾数、2回ってところだ。それ以上はオーバーキルになってしまう

―考えろ…と頭でわかっていても、考えがまとまらない。それどころか俺の心配は仲間のほうにある

 

シン「くっ……サイライ!これを使って主街区に《転移》しろ!!」

サイライ「これって…転移結晶じゃないか!!しかも5つも――」

シン「いいから早く行け!!!俺にかまうな!!!」

サイライ「恩に着ます…―あ!おい―――」

 

サイライは何か慌てた様子で俺が渡した転移結晶を使い主街区へと転移していった。その様は、間違って使ってしまったと言わんばかりの様子だった

――さてと…転移結晶はすべて使ったから、こいつを倒さない限りここから出られない。つまり俺はこいつと戦うしかないわけだ

攻撃力がいかに高くとも―体力が多くともどこかに必ず欠点があるはずだ…絶対に攻略不可能なダンジョンを作るはずがない

考えろ…早く考えろ…次の攻撃が来る前に―――

 

「グォォォォォォ!!!」

シン「ぁ――――――」

 

早すぎる―――予想をはるかに超えた速さで俺の体に噛みついて来ようとする。避けるのも間に合わない…

どこかで俺は死を覚悟した。回復していない半分しか残っていないHPに与えられるダメージ量は、いくらだろう…?死んだらどうなってしまうのだろう―――俺は約束を果たせないままこの世界から消滅してしまうのか…覚悟して瞳をつむる。

すると、俺の目の前から鈴の音のように綺麗な澄み渡る金属音が響き渡った

 

リーベ「っ……強い」

シン「リーベ…―――!」

リーベ「大丈夫…ですか?シンさん」

 

少女はにこやかな笑顔でこちらを見る。その可愛らしい笑顔や特徴はある一人の少女と一致した

俺がリーベという名の見知らぬ少女だと思っていたその子は、ミナであった。ところどころ似ている部分もあったのだと思うが、俺は見過ごしていた

ミナはその小さな短剣でボスの攻撃を弾き、その巨体に深く刻み込む。するとボスのHPは大幅に減り、3ゲージの半分を切った

 

シン「ミナ…なんだよな…?」

ミナ「はい…嘘ついてしまってすみません。シンさんが心配で来たんです。"また"何か無茶をしているんじゃないかって」

シン「"また"?」

ミナ「…ごめんなさい。私、シンさんの本当の強さを知ってるんです。攻略組で最前線で戦っていること…」

シン「だから…俺に相談してきたのか?」

ミナ「…はい」

 

ミナは反省気味に小さな声を漏らす

 

ミナ「攻略組のシンさんに聞けば、こんな私でも強くなれると思っ―」

シン「ミナはもう十分に強いよ。俺なんかよりもずっと」

ミナ「――え?」

シン「さっきだって俺が諦めかけた奴の攻撃を止めて救ってくれたじゃないか。助かった。ありがとう」

ミナ「シン…さん――」

 

俺の言葉に感化されたのか涙ぐむミナを、俺は優しくなでる

そして一度落とした自分の剣を拾い上げて、戦闘態勢に入る。今度は俺がミナを守る番だ――と言わんばかりに立つ

俺とこの剣の名前は―――《運命の破壊者(フェイトブレイカー)》。絶望の運命(さだめ)を打ち壊す者。誰も死なせない――死なせるものか!!!

 

シン「行くぞ……運命(デスティニー)鋭牙(ファング)!!その運命を打ち壊してやる!」

 

体力は自然回復効果により半分よりかは残っている

――いかに攻撃力が高かろうとも、当たらなければ宝の持ち腐れってもんだ。そう決断して、俺は勝利への一歩を歩み始めた

 



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5話 心の声

感想いただきました!とてもうれしいです!
これからももっと頑張って投稿しますよ~

一言でもいいので感想お願いします!




にらみ合う二つの運命―

高火力・高いHPでプログラムされているこの獣を倒すには、必ずと言っていいほど攻撃を受けてはならない。俺の防御力とHPはこの獣と比例しない。圧倒的な力で負けることがわかっている

なら、こいつの攻撃を受けないことが重要になる

 

チャッ―っと剣を強く握る。それと同時にボスは喉元をグルルルル…と威嚇するかのようにならす

威嚇行為なんだろうけど俺には関係ない。襲い掛かってくるボスの攻撃を俺は攻撃を防ぐ

 

重たい金属音を放つふたつの交わる運命。血のように赤く鋭利なボスの爪と赤黒く染まった俺の剣は、自分の運命をかけて壊しあっている。俺としては、こいつは因縁の相手だ。浅はかな自分とそれによって亡くした彼女が蘇る

―俺はこいつを倒して、これまでの自分に決着をつける。まだ届かないかもしれないけど――

 

シン「はぁぁぁっ!!!」

「グォォォォォォ!!!」

シン「まだ――行けるっ―――!!!!」

 

剣は空を斬ってボスの体へと到達する。俺の剣は、まるで硬くて大きな岩のようなボスの体表を紙を切るかのように、その体を切り裂く。しかしまだ終わりではない。赤い残光を引く剣を俺は自分の体のように使う

――刃鋭SS《霧月》。俺の分身のような剣士が4人四方から目標に向かって走り出す。その偽剣士には攻撃は当たらない。攻撃が当たった瞬間溶けて消えるが、攻撃を与えられた場合。俺が最後に放つ攻撃のダメージ量が倍増する

ボスは偽剣士に惑わされ、キョロキョロと辺りを手当たり次第に攻撃しだす

 

シン「だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

一閃…兜割りのようにボスの頭上から背面にかけて深く深く…ダメージを与える。HPゲージを見れば少ししか減っていないが、俺が鞘に剣をしまった瞬間―――――ボスの傷口から無数の斬撃エフェクトが発生し、みるみるHPが3ゲージから2ゲージになり、そして1ゲージを切った

数秒……時間が止まったかのようにピタリと動きが止まる。直後にボスの消滅と共にこの洞窟の風景が変わる

 

一面にいろとりどりな花が咲き誇り、空は青く澄み渡っている。風は気持ちがよく、花の良い匂いが漂ってきた

―そうか、ここが理想郷なんだな――と心で感じる

 

ミナ「シンさん…ここは――」

シン「あぁ恐らくは理想郷だ…本当にあるなんてな…」

ミナ「――!あそこ――誰かが居ます!!」

 

ミナが指を刺した方を見ると、ヒールを履いた綺麗な女性がこちらを見てほほ笑んでいた

花の妖精と言われても過言ではないほど美しい女性。俺はその女性を見た瞬間、悲しみが溢れる

 

シン「――――マイ……?」

ミナ「シンさん?」

シン「マイ……なのか?」

「くすっ…あなたは本当に強いね…安心したよ」

 

歩みよって来る女性―――いや、マイは俺の顔をみた瞬間、可愛らしく微笑んだ

彼女はまさしくマイだ…本物なのか?それともシステムがそのようにして作っているだけか?

どちらにせよ、俺は嬉しくなった。一度失った彼女にまた会えるなんて思っていなかったから――――

 

まい「初めまして、私はまい。この理想郷の女神です」

シン「め…がみ?」

まい「そうです。あなたと過ごしたマイとはべつのマイです。この世界に来る人を待ちに待っていました」

シン「ど――どういうことだ?マイがマイじゃない…?」

まい「あ…はなし過ぎました」

 

結論から言おう――この女性はマイとは違う人だ。まいと名乗る女性は俺に関係することを教えてくれた

この世界や俺が持っているスキル《刃鋭》と剣《フェイトブレイカー》は茅場昌彦が作りだしたものではなく、《カーディナル》と呼ばれるSAOの管理システムから作られたAI《―――》が勝手に作り出したものであり、本来のストーリーにはない機能らしい…言ってみれば異物同然。しかし、カーディナルはその機能を排除しようとはしなかった

 

彼女が願ったから――――――とまいは呟く

 

カーディナルはそれを見て異物ではないと判断。俺のスキルや剣はエクストラスキルとして登録、認証されたそうだ

スキル刃鋭の発生条件はなし。この剣も入手不可のチートのようなプレイヤーになってしまった。それなら、俺は《ビーター》と名乗っても大差ないな―とか思ってしまう

 

まい「…ミナ」

ミナ「は、はい。何でしょうか?」

まい「シンを―――彼を頼みます。彼は私たちの希望…夢なんです。不完全ではあったものの私たちを人間に近付けさせてくれました。あなたの心の声は分かります。私の思いと変わらない純粋で美しい心です…どうか――彼を―」

 

消えそうなまいは、ひそかにミナに願いを託した

 

シン「マイ!」

まい『たとえ刹那であっても―あなたの運命は壊れることはない…大丈夫。"わたしたち"が見守ってますよ』

 

 

言葉は届いたのだろうか、彼女は暖かな微笑みを残して光る花の花粉のように空に消えて行った

ミナはしばらく、下を向いて何かを呟いていた

 

ミナ「えぇ――――――その願い、私が引き継ぎます…」

シン「マイ……」

 

少し悲しくなった俺に対して笑顔でミナは笑いかけてきた。一緒にギルドに帰ろう――と

俺は前を向く。マイを失った悲しみは大きいが、マイは見守っていてくれると考えればよい。ミナと共にこのダンジョンから出て、主街区へとゆっくりいろんな話をして帰っていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

俺はギルドのみんなに俺の秘密を打ち明けた。俺がベータテスターである事や、俺の本当のレベル。攻略組だったことなど全て話した。そして俺は――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ギルドをやめた―――――

 

 

 

 

 

 

正式に入ってはいなかったものの、入っていると言っても過言ではない状態だった

やめる理由は俺が居なくてもこのギルドは攻略組の一角に入れるほどの実力を持っているし、プレイヤーとの付き合い方が上手だから――――っていうのは表の理由で、裏の理由としてはみんなを危険にさらすわけにはいかなかった

俺は何かと危険とともに歩いている感じがするから、誰も死なせたくないし悲しい事が起こって欲しくないから―

 

そう言えば俺が前線から離れている間に、キリトたちの手によって第8層から10層まで攻略。無事に第11層へと行くことが可能になったそうだ。そして……

 

第10層 主街区 《エドマエ》

朝食をとりながらアインクラッドの記事を見ていた俺は、ある記事をみて朝食をこぼしそうになった

 

シン「ぶっ??!!な、なんだこれ!【赤い残光の剣士"シン"ダンジョンボスを見事ソロクリア!犠牲者0の運命の戦い!】…だって…?!」

 

そう…俺に二つ名がついてしまったのだ

以前倒した《ザ・デスティニーファング》からドロップした黒を基調とした赤い線が走るコート《アナリシス》という装備を着て俊敏な動きをするから"残光"のように見える。という事で《赤い残光の剣士》という二つ名が通ってしまっている

ソロで行ったのが間違いだった……と考えているのが伝わったのか、武者のような赤い鎧を着た男"クライン"が俺に話しかけてくる

 

クライン「ま、そんなに気を落とすんじゃないぜ。そんなかっこいい呼び名があるだけ嬉しいと思え~?」

シン「いやそうだけど…あんまり目立ちたくないんだよな…」

クライン「いいなぁ~俺なんかギルドのリーダーしてんのに全然名前が上がんねぇ。お前が羨ましいくらいだぜーシン」

シン「俺にもそんな感情があればいいけどな…てか、クラインさ。なんでそんなに名前をあげたいんだ?」

クライン「それは…ほら……モテたいじゃん?」

 

薄々わかってたけどくだらないな…クラインとは以前攻略を共にしたときからこのような仲だ。なんでも俺がキリトと仲がいいからって俺とも仲良くするっていう謎の理論の上、仲良くなった

まぁ悪い奴じゃないのは分かるんだけど、フレンドリーな人だ。憎めない存在ってクラインみたいな人の事を指すのか?

 

クライン「まぁそれはいいとしておめぇ。いつ前線に戻るんだ?」

シン「もうすぐ戻るさ。彼女(パートナー)のレベルも俺に追いつきそうだしな」

クライン「くぅ~!おめぇはもう彼女を作ってんのかよ。誰でもいいから俺に紹介してくれねぇ?」

シン「残念だけど、彼女以外に親しい人は少ないんでね」

クライン「そ…そんなぁ…」

 

この世の終わりかと思わせるほど落胆するクラインをみて、俺は苦笑する

―ピコン…と誰かからメッセージが届いた音が鳴り、俺は確認した

 

『差出人―Mina 要件―報告します 本文―シンさん、報告したい事があるので私が居る場所に来てください―』

シン「―クライン」

クライン「へぁ?」

シン「急用ができた。俺はもう行くからな」

クライン「お、おう!いつでも待ってんかんな!可愛い女の子を紹介してくれよ!!」

シン「へいへい……」

 

俺はクラインの問いに大して軽く返事をした

そして、フレンドリスト欄を開いて、彼女の居場所を確認する。場所は第10層 北部に位置している森林の中にあるダンジョン内か――レベリングの為にあそこにいっていると聞いたが、報告したいこととは…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10層北部 森林ダンジョン《ハクシン》

 

済んだ空気が心地よく漂っているこの森林型ダンジョンは、どこか現実を思わせられる作りになっている。いや、この階層がそもそもそのような作りになっているのか―――日本を題材にしているのか和の要素が多く、主街区の名前もエドマエ。ここの名前はハクシン。恐らくは白神山地を題材にしているのだろう

この森の奥地には、神聖な神がこの地を守るように住んでいるのだという。彼女の居場所はこの奥地からだ。幸いレベルも上がって高くなったし安心して進めるんだけど、奥地には誰も行った事がないとかなんとか…

 

シン「―まぁ神聖な神が居るとかいうしね…進めないのも当然か…」

 

ここには狐を模したモンスターが多くスポーンする。そこから察するに、ここにボスは大きな狐か――

日本の神話とかに詳しくないからわからないんだけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハクシン 最深部

 

そこには、パートナーのミナがソワソワして俺の事を待っていた

彼女はあの頃からとても強くなって、俺と同レベル(40程度)になった。ここにソロで来たのだが、ミナ自身がソロで行かせてくれ―と願ってきたため、俺は仕方なく了承した

本当だったら了承していない。だって死なれたら困るし…でも、俺は彼女を信頼しているから死ぬことはないと確信しているし、死にそうになったらすぐに転移してくる

 

ミナ「もう!遅いですよ!」

シン「悪かったって…それで?報告ってここのボス部屋を見つけたってこと?」

ミナ「まぁそんなところです。NPCの話では、ここのボスの名前は【The・Foxspirit】妖怪《九尾》を意味するボスで、蒼色の炎球を飛ばしてくるそうです」

シン「鬼火―だな。それなら俺がブレイクポイントを作るからスイッチ頼むぞ?」

 

俺がボスの部屋に転移しようとした瞬間、ミナは俺の事を引き留めた

 

ミナ「ここのボスは、単なる攻撃では倒せないみたいなんです。本来は美しい神様がいたそうなんですが、そのボスに意識を乗っ取られてしまったそうで…神様の体を外してあげないと――」

シン「本体は出てこないってか――どうしたらいいんのかね…」

 

聖と邪。正反対のものがくっついてしまったモンスターに太刀打ちすれば―――

 

シン「聖と邪……そうか―それだ」

ミナ「何かわかったんですか?」

シン「あぁ。神を聖心にした場合、妖怪は邪悪になると仮定しよう。邪悪なものが聖心に入るってことは、かなり聖心側が弱っているってことだ。なら聖なるものを与えれば―」

ミナ「行けますね!」

 

あくまでも仮定でしかない。でもやらなかったら意味がない

俺はミナに、いつも通り「死ぬんじゃないぞ?」と声をかけると、「あなたこそ死なないでくださいよ?」と笑われた

そしてボス部屋に入る為、転移碑と呼ばれた黒い石に手を置く。その次にはもうボスの部屋だ

――ホォォォォォォォォォォ!!!と高い女性の声と共に黒い和服の人型のモンスターが現れた。そのモンスターの周りに蒼い鬼火が漂っているが、ボスの名前は【?????】だ。恐らくは、取りつかれた状態だからそのような名前になっているのだろう

 

ミナ「名前が違っても同じ―行くよ!シン!」

シン「あぁ!手順は同じだ!あいつを助けようぜ!!!」

 

ミナと同時に俺はボスに向かって走り出す

綺麗な剣劇の音がこの森中に響き渡ったのは他でもない。それは―――太陽が照らしている森の中の話…



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6話 霧の中の光

―――???side――――

第23層《霧の立つ湖》

 

霧が濃くて前が見えない―――だけどこれは、なんの変哲の無い通常エリア。いや―こんなに霧が濃いのだから、もう"あのエリア"に入っているのかもしれない

とめどない不安が私の心を揺さぶる。今ここには私しか居らず、頼れるのは私の武器だけだ

 

?「ここに――"あれ"があるはず……」

 

私は前もわからないまま、"あるもの"を取りに行くためここにきている

名前はわからない―――だけどそれが今の私には必要不可欠な重要アイテムだ

 

?「"あれ"があれば―――わたしは――――」

 

もう何日歩いたか分からない………………

食べ物も尽きた…………空腹感に襲われながら一歩踏み出すと、私の体がフラッ…と宙に浮かんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――シンside―――

 

第50層 主街区《アルゲード》

アインクラッド最大の都市にして、ある人が営業している雑貨屋があるこの街に、俺は一人で来ていた

 

「いらっしゃい……ってなんだシンか」

シン「なんだとはなんだ。一応客だぞ?」

「すまねぇな。で?今日は何の用だ?」

 

平謝りしたガタイの良い色黒の彼の名は"エギル"ここの雑貨屋の主人だ。エギルとは攻略組に入っているときに出会った…はず――違ってるかもしれないけど…初めて目にしたのは第1層の時。話したのは――――いつからだっけ?

ま!そんなことはいいや。今日はここにいい物を売りにきたのだ

 

シン「いつも通り、これ頼むわ」

エギル「ほう…って!おいこれ――」

シン「ん?どうした?なんかいいもんでもあったのか?」

エギル「ば―ば――ば…」

 

エギルは慌てふためいて俺が差し出したアイテムウィンドウを指を指しまくる

こんなエギル初めて見た…という事はその品はかなりの物なのだろう

 

シン「《龍紅結晶》それがどうかしたか?」

エギル「こ―こりゃあ…S級のレアアイテムだぞ?俺も実物を見るのは初めてだ…」

シン「で?そいつはどんなもんなんだ?」

エギル「なんも興味なしかよ…えぇと情報屋の話だと、そいつがドロップする確率は【10000分の1】らしい…鍛治職人に頼めば、強力な武器にも防具にもなる優れものだぜ?」

シン「ほーう…なら、そいつはとっておこうかな。そんじゃあさエギル。腕のいい鍛治職人紹介してくれないか?」

エギル「腕のいい鍛治職人か…それなら48層の主街区にある武具店に行けばいい。名前はたしか――《リズベット武具店》…だったか?」

 

リズベット…以前あった事があるけど、長らくいってないな―――久々に会ってみるか

俺はエギルから売った分のコルをもらい受け、軽めに挨拶をしてから48層の主街区へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

48層 主街区《リンダース》 "リズベット武具店"

 

こじんまりとした可愛らしい内装のこの武具店は品揃えが良く、値段も手が届く範囲の為、かなり繁盛しているんだとか…よく行く人から話を聞いたところ、「オーダーメイドは頼まない方がいいよ」って返って来た

どういう意図で発したのかわからないが、とりあえず店内に入店した

 

「いらっしゃいませ!リズベット武具店にようこそ!!」

 

カウンターで元気に挨拶するこの子が"リズベット"。メイスの使い手で鍛治職人として頑張っている

俺は早速オーダーメイドを頼むことにしたのだが―――

 

リズ「あれ?シンじゃない!久しぶりね!元気にしてた?」

シン「久しぶりだなリズ。俺は元気にしてたよ」

リズ「今日はあの子はいないのね」

シン「あぁ。ギルドの方で忙しいみたいなんでな。俺一人だよ。早速だけど……これ」

 

俺はリズに例のアイテムを渡す

 

リズ「これ――――って!!!!」

シン「あぁ。エギルが言うにS級のレアアイテムなんだろ?これで武器を作ってくれるとありがたいんだけど」

リズ「《龍紅結晶》なんて初めてみた…でも私にできるかしら…?」

シン「出来ると思って相談してるんだけどな。あ、今すぐにじゃなくていい。とりあえず預かっててくれ」

リズ「は…はぁ…あ、そういえばあんたさ!」

 

リズは何かよからぬ事を思いついたように、話を変える

―リズが聞いてきたことは、俺の強さだった。攻略組だからレベルはそこそこあると思うが…どうしてこんな事を聞いてくるのだろうか

 

リズ「いやね。さっき来てたお客さんが話してくれたんだけど、23層である一人が行方不明になっているんですって。もう五日の帰ってきてないそうなのよ」

シン「それなら血盟騎士団に頼めばいいんじゃないのか?あそこの人なら力を―」

リズ「―無理よ。あそこの目標は攻略メイン。人助けなんてしてくれるとは思えない。という事であんたに頼みたいと思ったの!」

 

なるほどね…だから俺を選んだってわけか

行方不明か――確かにあそこは迷いやすい。なんたって数メートル先の景色が見えないほど霧が濃すぎる。だから極少数の人しかいないフロアなのだ。もし行く機会があるときは大勢の人で行くのがセオリーなのだが…

 

シン「その人は一人で?」

リズ「そうみたいなの。ギルドに属してたっていうけど、そのギルドは黙秘。白を切るつもりなのかしらね」

シン「……心配だし行ってみるよ。話してくれた人はどこに?」

リズ「ありがとう。いまは…はじまりの街にいるみたいね。私からメッセージは送っておくけど、実際に会って話を聞いてみなさい」

シン「あぁ。いろいろとありがとうな」

 

俺はリズベット武具店をあとにして、主街区の転移碑から始まりの街へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――???side――――

 

?「う…ぁ…」

 

私は痛む体を動かし、目を醒ました――ここはどこだろう…と今までの行動を必死に思いだし始める

確か《霧の立つ湖》に行こうとしていて…フラッとした後に気を失った?体力ゲージを見ると、黄色まで減っている。どこで選択を間違えたのだろうか…"ギルドに入ってから"かもしくは"生まれた時から"間違っていたのだろうか

――体が言う事を聞かない…まるで痺れているように体は痙攣している。空を見上げると、灰色の空がガラスの破片のように切れている。―ここは峡谷内なのか…私はここで死ぬんだ―と自分に言い聞かせる

 

?「…い…やだよ…わ…わたし…死にたくない…よ…」

 

私の情けない声が峡谷に響き渡る

それと同時に私のHPゲージの色が赤色になって、まじかに死を感じてしまう…助けて―――と叫ぼうにもこんなところには助けが来ないことは、分かっている。わかっているからこそ恐ろしく、そして諦めてしまう

…あと数ドットで私の命は無くなるんだ…もう諦めて目をつむろう―としたとき、私の体が何者かに抱かれる

それは女性の形をした光の人影だった

 

『大丈夫…もうすぐ助けが来るからね…だから―ゆっくりとお休みなさい…』

?「あ…なたは―――」

 

その優しい声に私は感情が落ち着いた。この人に抱かれていると――この人の匂いをかぐと心が安らぐ…

そうして安心した私は、深い深い眠りについた…

 

 

 

―――シンside―――

 

状況が見えてきた。依頼主の人の話だと、行方不明の人の名前は"ヒカリ"女性プレイヤーで依頼主の人とは友人関係に当たるそうだ。30層を拠点とする少数ギルド《紅の月》に所属しているのだが、そのギルドは情報を提供しようとしない。一人で勝手にいったと供述しているが、如何せん根拠がない。黒鉄宮内の生命の碑にて彼女の名前は確認しているため、死亡はしていないようだ

 

シン「ギルド内でレベルが一番低かった彼女が、一人で23層に行かなければいけない理由でもあったのか?」

アルゴ「よ!シン!なにかお困り事かナ~?お姉さんに相談しないカ?」

シン「あ、アルゴ。いいところに来てくれたな。実は―――」

 

俺はアルゴにわけを説明した

 

アルゴ「なるほどナ。23層で行方不明者が…その《紅の月》っていうギルド。オレッち、情報持ってるヨ?ほしかったら数十万コルで教えてやるゾ?」

シン「な――」

アルゴ「冗談さ。まだ不透明な情報なんでナ。正しく教えるつもりはナイ。でも、どうしてもというなら話してあげてもいいかもナ~」

シン「意地悪いな…頼む、そのギルドの事について教えてくれ」

アルゴ「はいよ。正確な情報じゃないからくれぐれも信じ過ぎるなヨ?」

 

そう言ってアルゴは《紅の月》について、噂程度だけど話してくれた

――少数ギルド《紅の月》30層を根城にしていて、メンバーのレベル及び実力も攻略組に後れを取らない。仲の良い中立的なギルドだとされているらしいが、噂では中は極めて横暴な者が多いらしい。目標を達成しなかったら、防具回収や武器破損など犯罪フラグが立ってもおかしくない行動をしているのがたびたび見られる

中には、あの殺人ギルド《ラフィン・コフィン》のメンバーが関わっているとか…

 

シン「…噂にしてもそれは酷いな…ラフコフも関わっている可能性があるなんて」

アルゴ「ほどほどに信じておきナ。それで……お前、一人で23層に行くのか?」

シン「?そうだけど…なんだ?アルゴもついてきてくれるのか?」

アルゴ「別にそういうわけじゃ無いケド…少し心配って感じだ。シンには興味があるんだ。簡単に死んじまったら困ル」

シン「興味―ねぇ~」

アルゴ「な、なんだヨ」

シン「いや、なんだか"愛の告白"みたいだなと思ってな」

 

俺の言葉に動揺して、アルゴは顔が紅潮する。こんな情報屋の裏の顔なんて見ることができないだろう

もちろんさっきの言葉は冗談だ。さっきの仕返しって感じかな

 

アルゴ「あ、あ―あまりお姉さんをバカにするナ!!」

シン「はははは――それじゃ俺はこれで。またなアルゴ」

アルゴ「――シン!死ぬんじゃないゾ!!」

シン「あぁ!死ぬつもりは毛頭ない!お前のそのヒゲペイントの理由聞くまでくたばるつもりはないさ」

 

俺はアルゴに軽く手を振って、23層の主街区へと転移をした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

23層 圏外フィールド

 

23層は薄気味悪いと以前から思っていたのだが、いくらレベルが上がっても気味が悪い事には変わりない。アインクラッドで一番日照時間が少ないこの層の圏外は、ただでさえ霧で覆われているのに光が差し込まないおかげで心霊スポットのようになってしまっている。おまけに幽霊のようなモンスターが主な出現モンスターだ。ここを怖がるプレイヤーは数多いだろう…ミナもその一人なのだが

 

シン「おそらくヒカリさんは敵の攻撃を受けない安全圏に居るんだろう…この層で安全圏って…どこ?」

 

―キラリ…と霧の中に何かの輝きが見えた気がする。気のせいとも思ったが、何度も俺を誘うように点滅している

俺は興味心が沸き起こりその光に向かって足を出すが、その光はまるで俺から逃げる様にして追いつくことができない。だけどその光は消えることはなく、俺を翻弄するように点滅している

 

シン(あの光…追いかけて欲しいのか…?ならやってやるよ!!)

 

全速力――いま持っている俺の俊敏ステータスをすべて使ってあの光を捕らえた―――

その瞬間俺の体は宙に浮き、高く…硬い地面に叩きつけられた。かなり痛い…この世界じゃ本当の痛みは感じないのだがその…感情的に痛いと感じてしまう。何を言っているのかわからないと思うが、そんな感じだ

 

痛みと同時に先ほど捕まえた光が、俺の周りをホタルのように照らしていた



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7話 光の少女

――???side―――

 

楽し気な笑い声…暖かな陽気―――ここはどこだろう…私は体を起こして辺りを見渡す。無数に広がる色とりどりの花が咲き誇り、空は青く澄み渡っている。風は心地よく、花の香りを豊かに運んで私の鼻に届ける

峡谷でひかり輝く女の人に会って…深く眠りについたんだっけ?

 

「おねえちゃん、ここでなにしてるの~?」

「よかったら私たちと遊んでよ!!」

 

五歳くらいの子共だろうか…私に寄り添ってきて遊ぼうと誘う子供の誘惑には、私は弱い様だ

名前を聞かれた…私の名前は――"ヒカリ"不運な女の子と私は答えた。ふーん…と興味なさそうに答える二人の子も順次自己紹介してくれた。そのあと、二人の少女にたのしい話を聞かされていたら…

 

「ねぇ、おねえちゃんなんで泣いているの?」

ヒカリ「え…私が――泣いてる―――?」

「泣いてるかどうかもわからないなんて不思議だね~」

 

この世界に来てから、どこか私は消えかけていた。この子達とは違う道を歩いていたような気持ちになっていた

 

ヒカリ「うっうっ…私、あなた達みたいなこと早く出会いたかった――」

 

そうすれば、"私の感情は消えずに済んだ"のに―――と言おうとした瞬間、この綺麗な景色は消えかけていて、空もくすみかけていた。待って――行かないで――と心で叫んでも聞こえることなく私は再び闇の中に幽閉される

――また何かを失うのかなという不安と、絶望が交互に押しかけてくる。私が死んでも助けてくれる人はいない。彼女でさえも――――

 

「おい――――しっかりしろ―――――――」

 

 

 

―――シンside―――――

 

シン「おい!生きてるんならしっかりしてくれ!!」

 

俺はこの遺跡ダンジョン内の壊れた部屋で倒れていた女性プレイヤーに声をかけている。白く綺麗な髪…服装は白を基本としている戦闘用衣装のようだ。腰には細いレイピアが微かな光を放っている

―名前は出ていないが、HPゲージに紅の月のギルドマークが出ている。この人が探し人なのだろう…

 

「う……ここは―」

シン「よかった!目が覚めたみたいだな!大丈夫か?いま回復してやるからな」

「え…ぁ……」

 

彼女は戸惑いながらも、俺が差し出した回復薬を飲み干した

その後少し落ち着いた様子になったため、俺は彼女にいろいろと話してもらった。彼女はヒカリ。俺が探していた人だ

 

シン「どうして一人でここに来たんだ?」

ヒカリ「………」

シン「答えられないのならまぁいいけど―」

ヒカリ「答えるわ――順を追って説明する…」

 

――ヒカリside――

 

――今から二週間ほど前のこと――

私はいつも通りにギルドで戦っていた。表向きは攻略組にも負けないようなチーム力を持ていて実力も高く、中の良いギルドだと思われている。実際私も強くなりたいと思って、そのギルドに入団した

だけどその内実は真逆のギルド。容赦なく人を殺すいわゆる殺人ギルド《ラフィン・コフィン》とつながっていて、弱いプレイヤーに対して悪質な行動ばかりしていた

 

ヒカリ「私も――その被害者よ」

シン「被害者?なにをされたんだ?」

ヒカリ「――私の大切な武器を壊された」

シン「…え」

 

シンと名乗った男性は、私の言葉に衝撃を受けたようですまない事を聞いた―と口に出されたから大丈夫だと説明を始める

そう…私はこれまで幾度となく一緒に戦ってきた大切な武器を彼らに壊された。今、私の腰についているレイピアは昔に使っていたものだけど、どこか使い勝手が悪い。やはりいつもの剣じゃないと気が済まない

 

シン「気を悪くしたらすまないんだけど…一応聞いていいか?」

ヒカリ「なんなりと」

シン「その…なんで壊されたか解るか?」

ヒカリ「…おそらくは自分たちの失敗を腹いせを私に攻撃してきたのでしょう。彼らはそういう――」

シン「――やりかえさないのか?」

ヒカリ「え…何言って――やり返すも何も…彼らは凶悪な殺人ギルドと関わっているのよ?!やり返したらどうなるか――」

シン「それなら、俺がかたき討ちをうってやる。ヒカリとその前からやられた可哀そうなプレイヤーたちの仇を」

 

私は唖然とした…この世界にこんな人がいるなんて思いもよらなかったし…何より私なんかを気にかけてくれる人なんていなかった。この人がここに来た理由も"私を助けるため"だっていうし…この人とは知らない人なのに――

 

その時、私たちが居るこの場所に体が揺れるほどの地鳴りが起きた。基本的にアインクラッドでは地震は起きない。可能性として挙げられるのは…巨大なモンスターしかありえない

 

シン「――大丈夫だったか?」

ヒカリ「えぇ…」

 

ドスン…ドスン…と予想通り巨大なモンスターが歩く音が聞こえる

やがて遺跡の入り口からその姿が垣間見えた。黒く大きな牙と2本の立派な角を生やした猪のようなモンスターの体長はおよそ3m弱。暗闇とはいえ薄暗く、目視できる範囲ではそれしか見えなかった。もっといるのかもしれない…だけどあのモンスターの赤い眼力は、どんなに優れたプレイヤーでも怖気づいてしまうほど威圧的だった

 

シン「―ヘイトレッド」

ヒカリ「?」

 

ぼそぼそと何かを呟くシンに私は耳を近づけた

 

シン「…《憎しみの咆哮》か…恐らくはダンジョンボス――徘徊しているだけならいいんだけど…あの感じだと探索している?俺たちをか?23層のボスだから弱いとは思うけど、こんなダンジョンまだ見つかってないし…危険には変わりない」

ヒカリ「ねぇどうし―」

シン「しっ…あいつに気づかれる…」

ヒカリ「んん!」

 

モンスターは私たちに気づくことなく去っていった

私たちは深呼吸をして、一難去ったことに安心する。だけど…このダンジョンをどうやって抜ければよいのだろうか

 

ヒカリ「ね、ねぇ…あなたはどうやってこの場所に来たの?私は足を滑らせて…だけど」

シン「ん?俺は……君と同じさ」

ヒカリ「いま…なんて?」

シン「君と同じく足を滑らせてここに来たんだ。まったく…どうやって抜け出したらいいんだ?」

          

    ――こっちだよ――

 

幼い少女のような声が辺りから聞こえる。しかしこの場所には私とこの人しかいない

まさか幽霊――とも思ったが、そもそも幽霊はこの世界に留まれるのかと考え始めてしまう…

ふと私の手を見ると、ホタルのような暖かな光が手の中にあった。それは次第に辺りの空間にも現れて、私たちの目の前に人の形になって集った。そして私たちを誘うかのように手招きをし始めた

―こっち――こっちにきて―――と言っているかのようなその素振り…

 

ヒカリ「ねぇ、あの子を追ってみましょうよ。敵対しているようには見えないし…友好的だと思う」

シン「………」

ヒカリ「?ねぇ!」

シン「へ―あ、あぁ!そうだな。ついていってみよう」

 

シンはそういって光の少女についていった。どこか悲しいような顔をしていたのが気になって仕方がないけど、とりあえずついていくしかない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――《紅の月》side――――

 

「なぁ聞いたか?あいつがまだ生きてるって」

 

紅の月のギルド幹部の一人が話の途中で話題を変えた

それに反応するように、ほかの幹部がそいつの話を詳しく聞き始める

 

「あいつってあの"クズ"のことか?だがあいつは――」

「お前が始末したって?"キース"、お前生命の碑を見てきたのか?ばっちりとあいつの名前が書かれてんぞ?」

キース「はぁ?見て来て無いが、23層で麻痺毒針を背後から刺したんだぞ?それも五日前の事だ。確実に死んでるよ」

 

キースと呼ばれたギルドの幹部はわけがわからないように、手を煽る

しかし、あいつが生きているのは確実だ―とほかの幹部が口に出す

 

キース「自分で麻痺毒針は抜けないはず…」

「生きてたんならまた殺さなきゃならねぇだろ?俺たちの"秘密"を見られたんだからな」

「確かにそうだ。あいつは知ってはいけない事を知った。殺さなくては俺たちのこれからの危機に関わる」

キース「――それもそうだな。準備しろ。23層へと向かうぞ」

 

キースを先頭にしてそのギルドは準備を始めた。ただ一人の女を殺すための準備を――

 

 

 

 

 

 

――シンside――――

 

光の少女は小さな抜け道を通って先に進む。どうやら俺たちを助けてくれているようだ

しかし、あの声――似ている……彼女にとても似ている。信じられないくらい似ているから、少し懐かしんでしまった

いやいや、今はそんなことよりも辺りにも警戒しなくてはならない。さっきの猪に出くわさないようにしないと――ここは情報屋にも乗っていない未開の地。やつの名前は【The・hatredroar】憎しみの咆哮の名を持つボスだと思うけど、徘徊しているなんて今までなかった

ボスは基本的にボスの部屋からは出られない。なのにあいつは出てきている。おかしなことばかりだ

 

シン「…なんだ…広くなってきたな」

ヒカリ「もうすぐなの?」

『そうだよ―――もうすぐ"霧の晴れた湖"に辿りつく――』

 

光の少女は小さな子共になり元気にヒカリの問いに答える

霧の晴れた湖とはどんな所なのだろう―と思っていたら、小さな抜け道は遺跡感は無くなって代わりに地上から光が差し込む地底湖に変わった

その湖の真ん中には、小さな島があってそこには綺麗な鉱石が沢山精製されていた

 

シン「ここは――」

『ここは"霧の晴れた湖"。ここならあいつは入ってこないよ』

ヒカリ「そっか。助けてくれてありがとう。なにか欲しいものはない?」

『欲しいもの……うーん…』

 

少女は可愛らしく考えるが、何も思いつかなかったようでわからない!と可愛らしく答えてくれた

 

シン「君の名前は?」

レイ『名前…"レイ"。私の名前、レイ」

ヒカリ「そう。レイちゃん。どうして私たちを助けてくれたの?」

レイ『うーん理由はないよ?おねぇちゃんたちが困っているみたいだったから―ていうのと、お母さんがね。助けてあげてっていってたから』

シン「そうか。それじゃあ君のお母さんにお礼しなくちゃな」

 

突然、轟音と共にこの地底湖の一画の壁が崩壊して、あのボスモンスターが現れた

そいつはなぜか興奮状態になっていて、俺たちに向かって突進してきた。危ない―と思って剣を構えると、目の前に光の壁が現れて突進を防いでくれた

 

レイ『う……なんで…』

 

俺たちを守ってくれたのは、レイの力だったのだ。しかし、そのレイは段々と体の光が辺りに発散していってしまって光の壁が薄くなっていってしまっている

 

レイ『うぅぅぅっ!!!』

ヒカリ「レイちゃん!!」

レイ『私は…これまでみたいです…あとは任せますよ――シン…』

 

レイは最後の力を振り絞ったのか、光の壁に残った力をボスに解き放ち、そのまま俺に願いを託して消えて行ってしまった。俺はその願いに応えるべく、剣を強く握りなおしてボスに立ち向かっていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

俺は無事にボスを撃破し、ヒカリのもとへ駆け寄った。ヒカリは小さな島で水晶を始めとする綺麗な鉱石を見つめてたっている。どうしたのかと俺が聞くと、とある宝石を探しに来ていたことを思い出していた―とのこと

 

ヒカリ「その宝石の名前は――【流星の尾羽】綺麗な輝きを放ち、どんな悪でも受け付けないと記されているわ」

シン「なるほど…ってもしかして―――」

 

俺はアイテムストレージから一つのアイテムを実体化させる

手のひらほどの大きさの透明な宝石。以前にミナと共に手に入れていたことを忘れてそのまんまにしていたものだ

 

ヒカリ「そう―これよ!私が探しているのはこの宝石…」

シン「そうか。ならやるよ」

ヒカリ「え?でもこれはあなたの――」

シン「俺には不要だし…余ってるからやる」

 

ヒカリは嬉しいのか、その宝石を胸に抱いて「ありがとう――」と小さくお礼を言った

 



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8話 恩返し

突然ですが皆さん、最近暑くなってきましたね
体調管理をしっかりして健康に過ごしましょう!
(最近、体調崩して嘔吐したとは口が裂けても言えない…)


ダンジョンを抜けた俺たちは、とりあえず23層の主街区へと足を進めていた。安全ではないここに比べれば、いささか安全な圏内にいた方がよっぽどいい

そういえば、あの後ヒカリはギルドの脱退宣告をした。そうしなくては後にいろいろと問題が発生するからだ

 

シン「この回廊結晶は…黒鉄宮に指定されているから――」

ヒカリ「ねぇ、どうして私にそこまでしてくれるの?あなたは私とは関係のない人でしょ?」

シン「どうして――って言われてもな…一つは助けてくれって言われたものあるけど…」

ヒカリ「…けど?」

シン「俺が助けたいと思っているからかな。無慈悲に死んでいくプレイヤーをこれ以上出したくない。たとえ偽善者って言われても――まぁ無理なものは無理って判断するけどな。自分にできる最大限の事をしたいんだ」

 

ヒカリの境遇はよくわかる。ギルド内での優劣…弱いものは必ず強いものにやられる

―そんなのゲームの世界じゃなくても同じだ

 

ヒカリ「ぁ……」

シン「ひ、ヒカリ?どうした?俺の後ろなんかに隠れて――」

ヒカリ「しっ――彼らよ…」

シン「彼らって…」

 

すると前方に数十人ほどの集団がこっちに向かって歩いてくるのが見えた。ヒカリはその集団に対して恐怖があり、俺の背中に隠れている。集団は霧のせいかこちらに気づかずに素通りしていったのだが、その時に不穏な声が聞こえてきた

 

    ――奴を殺すまで気を抜くな―

 

ヒカリ「やっぱり…私を殺しに来たのよ…」

シン「大丈夫だ―もしかしたらモンスター討伐かもしれないだろ?君と決まったわけじゃ無い」

ヒカリ「あなたはあの人たちの恐ろしさを知らないからそう言えるのよ…あの人たちはモンスターを大人数で狩る事なんてめったにしない…」

 

子犬のように震え怯えているヒカリを俺は必死になぐさめた。確かに俺は奴らの事を知らない。顔も名前も見たことがない

ヒカリは恐ろしいギルドの中に一人でいたのかと思うと…

―奴らを黒鉄宮送りにしなくてはならない。だけど、あの人数を黒鉄宮に俺一人で送るのは無謀すぎる…考えて考えてやっと一つの案がまとまった。それは俺が"ソロ"だったら確実に考えられない案だ

 

シン(『要件―頼み事がある 本文―とある事情であるギルドを黒鉄宮送りにしなくてはならなくなった。かの"ラフコフとつながっている"とされているギルドだ。だが俺だけでは数十人のギルド全員を黒鉄宮送りにできない。そこで至急、君とそのギルドに頼みがある。俺がリーダー核との戦闘をしているとき、ほかの人たちをまとめておいてくれ。23層主街区で落ち合おう』)

 

俺はある人にメッセージを送った。すぐにメッセージが返ってきて、『了解。KoBにも少し話を通しておきます。では』とのことだった

 

シン「よし…ヒカリ、立てるか?」

ヒカリ「………」

シン「立てないみたいだな…なら――」

 

背中に抱いていこう――とも思ったのだが、それだとシステムが《ハラスメント警告》を出してしまう

どうしようか迷う…このままだと危険が迫る。どうやってヒカリとここから移動させようか

 

ヒカリ「……ごめんなさい。足が動かないの…だから――抱きかかえていいわ。あなたなら信頼できる」

シン「―すまないな。すこし失礼して」

 

俺はヒカリを抱えて急いで主街区へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

23層主街区

 

そこには、なんと早い段階で俺が呼んでいた人たちが居た

俺と唯一親交の深いギルド《ヘブン・ライト》のメンバーと情報屋のアルゴ。そして血盟騎士団のとあるチームが来ていた

 

ミナ「シンその人は…」

シン「あぁ、この人はヒカリ。23層で行方不明になっていた人だ。そしてメッセージにも書いた"ラフコフ"とつながっていると思われるギルドに属していた人だ」

アルゴ「おいおい…それって大丈夫なのカ?」

シン「大丈夫さ、なんたってそのギルドの事を教えてくれた人だし…彼らの目標は彼女だ。きっと口封じとかに殺しに来る」

 

そして俺は作戦を伝えた

恐らく、奴らはヒカリを探して主街区に来ると予想

俺はリーダー核の人と決闘(デュエル)する。その時にいろいろと白状させるから、証拠が掴め次第、各自拘束用意を始めて俺の持っている回廊結晶で黒鉄宮送りにする。ヒカリは狙われているから、近くの宿屋にてミナと待機。

 

アルゴ「もし相手が攻撃してきたらどうする?俺たちじゃかなわないゾ?」

シン「そのために血盟騎士団を呼んでくれたんだろ?ミナ」

ミナ「正解~♪血盟騎士団の皆さん。私の問いかけに応じてくれて感謝します」

「なに礼は要らんさ。我々もラフコフを危険視している。少しでも手掛かりがあれば満足ですからな」

 

血盟騎士団は改めて敬礼を始めた

 

シン「ここは圏内だ、ダメージはデュエル以外は当たらない。軽いノックバックが発生するだけだから安心してくれ。一人につき二人で交戦。一人がダウンさせたらもう一人が拘束。全員終わったら俺の回廊結晶で黒鉄宮送りにする。準備はいいか?」

みんな「「はい!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

俺の予想通りに数十人の集団が主街区へと入ってきた。ギルドのマーク…間違いない《紅の月》のマークだ

俺はそのリーダーと思われる人に向かって「お前たちが探しているものは、彼女か?」と聞くととぼける様にして不敵に笑う

 

シン「悪いな。お前たちの悪事はもうとっくに知っている。おとなしく黒鉄宮に行きな」

「ちっ…あのクズめ白状しやがったか…」

シン「お前はラフコフとつながっているのか?」

「あぁそうだ!俺たちのギルドはラフコフとつながっている!」

シン「あっそ…だからそんなにクズなんだな」

「な――――」

 

かちんと来たのか。リーダー核の男は俺にデュエルを申し込んできた

そっちからやってくれたのは、俺も運が良い…

 

「俺とデュエルしろ!てめぇに腹が立った!圏内じゃ攻撃は当たらないからなぁ~つまんねぇんだよ!」

「おい、ギル!勝手なことは――」

ギル「うるせぇ!!久しぶりに頭に来てんだ…PKしないときが済まねぇんだよ!」

 

ギルと呼ばれた怒っているプレイヤーを制そうとした人はそうか―と言ってあっけなく引き下がった

 

『"guilty"からデュエルの申請が来ています。受諾しますか?YES・NO』

 

俺はYESに手を触れて、全損決着モードに設定してデュエルを始めた

相手の武器は両手斧…対して俺は片手剣…威力では確実に負ける。なら相手を翻弄するしかない

 

「おらおら!!やっちまえギル!!」

「あんな細い剣なんかぶった切っちまえ!!!」

 

ギルドメンバーがこの戦いを囃し立てる。正直言ってうるさい

ギルはとても気持ちの悪い顔でこっちに向かって来る。俺は振り下ろされる斧をよけながら攻撃パターンを分析した

――基本は横振り。ダッシュ後には縦振り…スキルは発動しようとしない…こいつ――弱い

 

ギル「あんなに言ってたのにお前こそ避けてばっかのクズじゃねぇか!!」

シン「―――」

ギル「おら!本気出せよ!!」

シン「――――本気…出していいのか?―――」

ギル「ひっ…」

 

その瞬間、ギルは怯み尻餅をついた。それと同時に隠れていた拘束組が辺りのギルドメンバーとの交戦を始め、ここは乱戦状態になった

俺は尻餅をついたギルに向かって、片手剣SS四連《バーチカルスクエア》をその体に与えた。そのノックバックと共に俺は刃鋭SS《辻》をその身に与える。数秒――エフェクトを共に減っていくHPゲージをみて怯えたのか、ギルは負けを認めた

 

その後の事だが、そのギルドは俺たちの手によって壊滅。身柄は黒鉄宮に送られた

血盟騎士団の人たちは、それに付いて行ってラフコフの事を聞き出しているそうで、今この場にはいない

 

シン「君たちが来てくれて助かった。ありがとう」

サイライ「いえいえ…シンさんの一大事だと聞いたので駆け付けたまでです。以前の借りをまだ完全には返せてませんし」

シン「以前の借り――って別にいいのに」

アルゴ「なぁシン。オマエ、ギルドに属してたのか?初耳だゾ」

シン「ほんの数か月前の話だよ。このギルドはまだまだ成長できる。いずれ攻略組の一画になるよ」

 

俺はサイライがいるみんなの方を向いて話す。アルゴはなるほどナと言ってにっこりと微笑んだ

すると、宿屋の方からミナとヒカリが歩いてきた。ヒカリは俺たちに向かってごめんなさい―と一礼した

 

ヒカリ「私のせいで迷惑をかけてごめんなさい…」

リン「迷惑なんて思ってないわ。あなたは一人で悪に立ち向かっていたの。それなのに迷惑だなんて…思うはずないじゃない」

シン「そうだな。君は悪者じゃないし、君を咎めるような人は少なくともここにはいない。もちろん血盟騎士団の人たちも君が迷惑だなんて思っていない」

ミナ「シン…私にもそんなこと言ってなかったですか?」

シン「う――」

 

そう言えばそんなことを言った――気がする。いつの時か覚えてはいないけど…

俺はそのことに対して何かを言うが、ミナは笑って話を聞いてくれない。するとヒカリはふふっ―と笑みを零した

 

ヒカリ「お人好しというかなんというか――でもとりあえず助かったわ。ありがとう」

シン「そういや、君の剣はどうするんだ?よかったら腕のいい鍛治職人を紹介するけど…」

ヒカリ「そこまでしてくれなくても――」

ミナ「シンはあなたの事が心配なんですよきっと。あなたみたいな人を放っておけない人なんです」

ヒカリ「―――」

シン「……ま、まぁそんなところだ。どうだ?今度一緒に行ってみないか?」

 

ヒカリはほがらかな笑顔でありがとうと言ってくれた

とりあえず今日はもう遅い。サイライ率いるギルドは自分たちの拠点に戻り、俺を含む四人は23層の主街区にある宿屋に泊まる事にした

 

深夜…みんな個別の部屋に寝ていたのだが、俺の部屋に誰かが入って来たような気配がして俺は目が覚めた

俺の布団内に暖かい違和感を感じ取ったため、俺は布団を捲ってみると…そこには、武装を完全に解いた私服のヒカリがそこに丸くなっていた

 

ヒカリ「あ……」

シン「ヒ、ヒカリ?ど、どうしてここに…」

ヒカリ「それは…その………怖かったから…」

シン「怖かった?」

ヒカリ「また――彼らが私を殺しに来るかと思うと―怖いの…」

 

子犬のように怯え震えて丸まっているヒカリに俺はそっと手を添える。もうトラウマになってしまっているのだろう…確かに彼らには恐怖が纏っていた。俺には感じなかったが…

恐怖で眠れない人を放っておくわけにはいかない

 

シン「あいつらはもう黒鉄宮に行った。君を襲うものはもうないよ」

ヒカリ「私もわかってる―何度も何度も言い聞かせたのよ…でも、怖いの」

シン「大丈夫――俺が君の事を守る。ほら、手を握って」

ヒカリ「………ありがとう」

 

ヒカリは俺が差し出した手を、ギュッと握ってくれた。俺の手を握って少し落ち着いたみたいで、震えていた体が少しづつだが治まってきている

 

ヒカリ「――ねぇ…あなたは怖くないの?その…死の恐怖が…」

シン「怖くない…かな」

ヒカリ「それは…どうして?」

シン「俺がやり残したことなんて、あっちにはないし…俺の死よりも、誰か大切な人の死の方がよっぽど怖い。それと―――このゲームをクリアするまで死ぬつもりはない」

 

なんか恥ずかしい気持ちになるが…それはそれと考えておこう

リアルでやり残したことはない―というのは本当の事だ。ゲーム好きの俺がゲーム内で最期を迎えられるのなら、どれだけ本望なのだろうか――と以前から思っていた節がある

まぁ流石に閉じ込められることは予想外だったけど…

 

ヒカリ「強いね…私とは大違い…そんなあなたの傍にいられたらどんなに勇気づけられる…

シン「ん?ごめん最後の方が聞き取れなかっ――」

ヒカリ「――いいのいいの気にしないで。あなたのおかげで安心できた。守るって言ってくれて嬉しかったわ――」

シン「そうか…おやすみ、ヒカリ」

ヒカリ「おやすみ…シン…」

 

そう言ってヒカリは俺の手を握ったまま心地よさそうな寝顔をして、夢の世界に入っていった

俺もヒカリに続くようにして、夢の世界に入ったのだった…

その夜の夢は、やけに安心して過ごせるような穏やかな夢だった。以前に訪れたことのある花畑をヒカリと2人で歩いている――そんな夢だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

俺は先に起きたヒカリによって起こされた。ヒカリの表情は昨日とは打って変わって柔らかな表情になっていた

迷いが吹っ切れたのか――とか考える直後に――

――俺とヒカリが寝ているという情報を、よりにもよってアルゴに見られたのである。俺はどうにかしてその情報を漏らさないように口止めを願ったら、アルゴは「今度、いいネタになりそうな情報の提供」と引き換えだそうだ

それなら何も問題がない…アルゴは確実なことしか記事にはしない――という事は分かっているが、俺はかなりネタの宝庫。もしかしたら俺の事もいつか書かれるんじゃないかと心配してしまう

 

シン「よし…とりあえず昨日言ってた場所に行くぞ」

アルゴ「んじゃ、オレッちはここでさらばだナ」

ヒカリ「ありがとう。応援に来てくれて」

アルゴ「気にすんなヨ。オレッちは情報屋だ、昨日話してくれたダンジョンの事でチャラにさせてもらうゼ」

 

アルゴはそのまま、転移碑の方へと消えて行った

俺たちも少し腹を満たしてから、48層のリズベット武具店へと足を進めた

 

 

 

48層 主街区《リンダース》リズベット武具店

 

リズ「いらっしゃ…い…って、シンじゃない!無事に帰って来たのね」

シン「あぁ無事に連れて帰ってきた。ヒカリ、紹介するよこの人はリズベット。メイスの使い手でこの武具店の店長だ」

ヒカリ「よろしく――リズ…さん?」

リズ「リズでいいわよ、ヒカリ。これからよろしくね!」

 

リズはヒカリと笑顔で挨拶を交わした後、俺に今日の要件を聞いて来た※(ヒカリの事はもう依頼主に報告、再会している)

俺はヒカリの武器を作ってくれないか―と相談した。リズは気前よく引き受けてくれたのだが、オーダーメイドだとかなり高価になってしまうとのこと

 

ヒカリ「そう―ならこれを使って打ってくれないかしら」

リズ「これって――」

ヒカリ「【流星の尾羽】これがあれば私の剣が確実に作れると思うわ」

シン「でもこれ…君に必要なものだろ?」

ヒカリ「確かにそうよ。このアイテムを使えば、私の愛剣が手に入るから」

 

ヒカリは流星の尾羽を見つめて呟く

 

ヒカリ「だからお願い。リズ、あなたの手で私の愛剣を打ってちょうだい」

リズ「えぇ!わかったわ!なんなら私専用の力を使って最高傑作に仕上げますとも!」

シン「じゃあリズ、俺が前に渡した【龍紅結晶】を使って片手剣を作ってくれ、それと例の短剣を最終強化に…」

リズ「う…随分とハードな仕事にさせるわねあんたたち…まぁいいわ!私のとっておき見せてあげる!」

 

ついてきて―――と、武具店の裏の方にある鍛造場に連れられた。そこでリズは【流星の尾羽】と【龍紅結晶】を一個づつ籠に並べ、一個づつ丁寧に熱し、気持ちを込めてリズムよく熱したアイテムを叩いた

すると、【流星の尾羽】は《カレッジミーティア》と銘打たれた蒼白の細剣になった。刃は縦長で鋭い。鍔には流星の尾羽を模範したと思われる群青色をした宝石が埋め込まれている。細剣にも種類があるがこの剣はどれかと言われれば―片手剣寄りな剣だ

 

ヒカリ「うわぁ――また出会えた…しかも昔より強くて綺麗…」

リズ「当然よ。あなたのその気持ちが伝わって来たんですから、そのぐらいに仕上げないと」

ヒカリ「リズ、ありがとう!大好き!!」

リズ「とわぁぁぁ!!!」

 

――《勇気の流星》の名を冠した剣は、ヒカリの手の中で綺麗に輝き、ヒカリが抱き着いて倒れこんだリズの目に届く

その後、俺の【龍紅結晶】も同じように熱してリズムよく叩くと、今俺が背負っている剣に色合いが似ている片手剣が出来上がった。《リベレーション》基調は黒にも似た紺色。刃や鍔のような装飾は黒く、柄は緋色でかなり重量感がある。一撃の攻撃力が大きいと見た

 

シン「うん!最高の剣だ!ありがとうなリズ」

リズ「へへ!どういたしまして!――あぁそれとミナ。あなたにはこれをプレゼントよ」

ミナ「え?これは―――魔剣クラスの短剣?!いったいどこでこんなものを――」

リズ「それを聞くならそこにいる男に聞きなさい。私は頼まれて強化をしていただけなんだから」

 

リズはそういってこっちを見てくる

《クラウディウス》亡国をまとめていた王であり勇者である名を冠した短剣。俺がリズに頼んで最弱武器を強化してもらっていたものだ。たしか――《朽ちた短剣》だったか?一般モンスターからドロップしたとはいえ、こんな魔剣クラスになるなんて思ってもいなかった。第一にあんな剣入手の方が難しいだろうな。朽ち果てて使えなくなった剣なんて普通の人は、所持金の足しにするだろう

 

シン「気に入ってくれたか?結構長い時間をかけて最終段階までに引き上げたんだけど――」

ミナ「すっごく嬉しい!ありがとうシン!」

シン「おっとっと…いつも頑張ってくれてるからな。恩返しだよ」

ヒカリ「恩返し……」

 

ミナに抱きつかれる俺の言葉に反応したように、ヒカリは自分の愛剣をまじまじと眺める

そして俺の方に歩みよって来て――俺に抱きついて来た

後輩のようなミナと違い、身長も体格も女性のヒカリに抱きつかれるのは些か困惑してしまう

 

シン「ヒ―ヒカリ?!どうして」

ヒカリ「どうしてもこうしてもないわ。いろいろとお世話になったんだもの。それに――」

シン「そ、それに?」

ヒカリ「守ってくれるんでしょ?私の事」

ミナ「な―――!!」

 

俺に抱きついたままミナはヒカリに質疑をし始めた

そして俺には新しい仲間が増える事となった…当然クラインには嫌味のような事を言われたが、冗談だろう。彼はそういうタイプの人だ。彼が築き上げてきたギルド《風林火山》はクラインのおかげでこれまでの死者はいない

彼のそういうところが、実って攻略組の一員になっているのだが――

 

シン「な、なぁ…寝づらいんだけど…」

ヒカリ「そんなこと言わないでよ。あなたには助けられているの。今この瞬間も」

ミナ「そうですよ!ヒカリだけ恩返ししているずるいです!だから私も…シンを愛しにきました」

シン(右にはミナの小さな体が密着していて…左にはヒカリの…む、胸が――)

 

2人が仲良くなったのはいい事なのだが………

なんだか俺が過保護されているような気が―――しなくもない

 



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9話 パーティーとデュエル

64層 森フィールド

 

木漏れ日が気持ちよいこの森フィールドで俺は、食べられる食材を採取中だ

どうしてこうなってしまったのか――というのは数日前に遡る事となる

 

俺はヒカリとミナと共に、食べられる食材を入手したため料理をしようと思ったのだが、沢山手に入ったからできるだけ沢山の人と食べよう――とのことで、本日の夜にそのパーティーは開催される。それまでに沢山の食材を集めてくるように――と言われたため、料理スキルをあまり極めてはいないある程度の人が俺のように採取に出かけている

 

シン「このぐらいで大丈夫かな」

 

俺のアイテム欄には、食用のアイテムで埋め尽くされている。肉を初めとして野菜やキノコ、デザート用にと果実を集めてある。どれも通常では手に入りずらいようなアイテムばかりだ

特に果実は俺も味見してみたんだが、とても美味なものだった。レモンのような柑橘系の味の物やリンゴのような味をしているブドウ…あと完全なるイチゴも

俺が帰ろうとしたその時――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

61層 穏やかな孤島

 

この層は主に湖で構成されているが、所々に島があってその中心に主街区がある

ここは主街区から少し離れたところにあるモンスターがスポーンしない穏やかな孤島。そこはギルド《ヘブン・ライト》の本拠点だ。今夜はこの孤島の岸辺の方でパーティーが行われる。その為の準備が現在進行形で進められている

 

シン「よう。元気そうだなエギル」

エギル「おめぇもな。どうだ?食材は」

シン「そりゃあもう大量!大量!あまるくらい取ってきたぞ」

エギル「そうか!そりゃあよかった!さっさっそく女性陣のほうに持っていきな」

 

俺はさっそく《ヘブン・ライト》の本拠地にいるであろう料理担当の女性陣に俺のアイテムを渡しに行った

厨房に集まっているのは、血盟騎士団の副団長"閃光"という二つ名を持つアスナとミナ、それにヒカリもそこにはいた。キリトの話だと、アスナは料理スキルを完全コンプリートしているとのおとだったが、ミナが料理スキルを上げていたのは初耳だ。ヒカリはいつも―とはいかないが、手料理をふるまってくれるから料理スキルが上がっていることは知っていたけど…

 

ミナ「シン!集めて来てくれた?」

シン「あぁこれでどうだ?」

アスナ「凄い…こんなに沢山…あれ?このお肉は――」

シン「これはさ、《ラグーラビット》っていうウサギ型のモンスターからドロップした肉なんだけど…その…お目当てのS級の肉じゃなくてさ…A級の《ラグーラフット》っていう足の肉なんだよ」

アスナ「でもこれ凄いわ!少しパラメーターを見たんだけど、普通のA級肉よりもS級に近いものよ。これも一種のレア素材ってところね」

 

そう言えばキリトとアスナは以前に《ラグーラビットの肉》というS級レアアイテムを使った料理を食べている。それに比べればこんなもの対した物ではないと思うが――

 

アルゴ「ぬぁ??!!な、なんでこんなにラグーラビットの素材ガ…」

シン「お、アルゴ。俺が取って来たんだよ」

アルゴ「ど、どどどこで?!!」

シン「落ち着けって……後で一緒に行ってやるから…」

 

アルゴが同様するのも無理はないだろう。ラグーラビットはレア中のレアモンスターの一匹だ

なのに、こんなにその素材があるとすれば不思議しかないだろう。いや、俺も不思議に思っている。帰ろうと思い足を進め始めたその時、俺の目の前にラグーラビットが現れたのだ。それもかなりの数…

その時、飾りつけ役の二人の女性が厨房内に入ってきた

 

リズ「いや~疲れたわね~」

「ほんとですね。リズさん、張り切り過ぎたんですよ」

アスナ「おかえり。リズ、シリカちゃん。飾りつけはどうだった?」

シリカ「それはもうばっちりですよ。アスナさん。ピナもよく頑張ったね」

ピナ「キュルゥゥゥゥ!」

 

ミナと同じくらいの少女、"シリカ"は水色の羽の生えたモンスターを優しく撫でる。彼女はこのゲームでは珍しい竜使い(ビーストテイマー)として、ピナこと《フェザーリドラ》を飼っている

ピナはとても可愛らしい仕草をするため―――可愛い。

 

アスナ「あ、そうだリズ。キリトくん見なかった?もうそろそろ来てくれると思うんだけど…」

リズ「キリト?私は見て無いけど―――って!なによそのおいしそうな食材は!どうやって料理するのシェフ!?」

アスナ「お、落ち着いて…どうしようか迷っているの。これだけあるといろんなものが作れそうだし…」

ヒカリ「この果実はケーキにしてみたらどう?イチゴもあるし、デザートって感じで―」

ミナ「ショートケーキですね!私、お菓子スキルをあげているので、お任せください!」

 

ミナは胸を張って答えるが…お菓子スキルなんてものあったか?料理スキルの中に入っていると思うんだけど…

 

アスナ「そうね!そうしましょう!なら、このお肉はバーベキュー用とシチュー用に仕分けておくわ」

ヒカリ「私も手伝う。えっとこれはこうで―――」

リズ「仕分けるだけなら私にもできるから、手伝わせてもらうわ」

 

リズはアスナに駆け寄って食材を仕分け始める

どうやらここにいては作業の邪魔になりそうだ。俺は一度、エギルのもとへと向かってみることにした

 

パーティー会場

少し開けた浜辺に焚火を中心にして石の椅子がいくつか並んでいる。近くには、可愛らしい銅像が二つ置かれていて片方はピナのような竜の銅像があった。そして、木の枝が地面に刺さっていて、何か木のようになっていて可愛らしい

 

「パパ!早くこっちに来てください!!」

キリト「ちょっと待ってくれ…"ユイ"。俺はもうくたくただよ…」

 

ユイと呼ばれた少女は、白いワンピースに長い黒髪を揺らしてキリトの手を奪ってこっちに走ってきた

"パパ"――とユイはキリトの事を呼んでいたが…どういう事なのだろうか…

 

キリト「よう、久しぶりだなシン。とりあえず紹介するぞ。この子はユイ」

ユイ「ユイです。パパ(キリト)とママ(アスナ)の子共です」

シン「パパと…ママの…子供?」

ユイ「はい♪」

 

ユイは笑顔で俺の問いに答えてくれた。その様子から、その言葉は比喩でもなんでもない本当のことだと察する

しかし…この世界でそんなことできるのだろうか?仮想世界で現実とはまったく異なっている。例えていうなら、結婚システムだ。現実では婚姻届を提出しなくてはならないが、この世界では承諾ボタンをクリックするだけで結婚したとみなされる。

―子供を産んだ場合…その子供はどのような立ち位置になるのだろうか…俺たちはプレイヤーとして現実からダイブしてきている。しかし、その子供はこの世界で生まれたわけだから―

 

キリト「ユイ、頼むから誤解を生むような発言は控えてくれ」

ユイ「?どうしてですか?私は"パパの子供"という立場をあの人に伝えただけです」

キリト「いやそうだけど…まちがってはないけど…シン、詳しく説明するとだな―――――――――ユイはAIなんだ」

シン「AI?人工知能ってことか?」

キリト「あぁ。22層の森で訳あってユイは彷徨っていたんだ。そこに俺とアスナが行ったときにユイを保護したんだよ」

ユイ「それで記憶をなくしていた私は、キリトさんをパパ。アスナさんをママと呼ぶことにしたんです」

 

納得。キリトもアスナも優しいから、ユイに慕われているんだろうな

―ユイ…AIなのか。マイと同じかどうかはわからないが、雰囲気は似ているような気がする

 

シン「そうか。ユイ、俺はシン。これからよろしくな」

ユイ「はい!よろしくお願いします♪」

 

ユイの笑顔は、朝露のようにきれいで可愛らしかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

リズ「それじゃ!第74層クリアとアスナとキリトの結婚を祝して――――乾杯!!!!」

「「―――乾杯!!!!」」

 

夕方…パーティーは盛大に開催された。74層をクリアしたという実績と二人の結婚を祝した会

本来はお料理パーティーみたいな感じだったのだが、話が進むにつれてめでたい会になった

―料理の数はかなりある。バーベキュー式の焼肉や《ラグーラフット》を使ったシチュー。それにオードブルもたくさんだ

 

クライン「うぅぅん!美味い…この"醤油"風味の刺身は最高だぜ!!」

サイライ「これは最高――!」

 

クラインとサイライは酷似した素振りで"醤油風ソース"をキリトの友人が釣ってきたという魚の刺身と合わせる

この醤油風ソースは、アスナが作ったものらしい…この世界の味覚エンジンを研究して、調合して作ったという優れモノだ

 

ソラ「この肉…旨すぎる…」

リン「ラグーラビット――だっけ?柔らかくてジューシーね~」

フウマ「さすがレア素材…」

エギル「これ売ったら儲かるなぁ!」

 

エギルはよく味わいながら肉を観察している

するとクラインがこっちにやってきて…

 

クライン「シンよぉ~おめぇはいいよな。かわいい女の子から囲まれて」

シン「クライン、そういえばあの後進展あったのか?あの子も結構かわいかったじゃないか」

クライン「それがな―――逃げられちまったんだよ…あーあ…かわいかったのにな」

シン「それは…災難だったな」

 

そう…クラインにも一度だけ彼女ができたのだ。それも超美人でスレンダーな大人の女性って感じの人で…クラインと仲が良かったのにどうして――と聞くのは野暮かと思い口に秘めておくことにした

すると、タイミング悪くヒカリとミナが俺のほうによってきて、俺は少し離れた木陰に連れていかれた

――クラインが涙を流して…ご愁傷さまとしかいえないな

 

シン「どうして俺ここに来させたんだ?」

ヒカリ「―――単刀直入にきくわ―」

「「―(ミナ)(ヒカリ)。どっちが好み??!!」」

 

2人の突然の告白に、俺は戸惑う

とりあえず俺は、その質問も意味を聞いてみることにしてみた

 

シン「な、なんでそんなこと聞くんだ?」

ヒカリ「気になったのよ。私はあなたと少しの間しかいない。でもミナはかなりの長い時間一緒にいる」

ミナ「私はシンとは長い時間一緒。でも、ヒカリちゃんのほうに優しいと思った――だから―」

シン「―どっちも好きだぞ?俺は分けた考えたことないし、二人は大切な仲間―いや、大切な"家族"だ」

 

俺は2人の高さの違う頭を優しく撫でる

すると2人は、なにかの合図のように向き合って微笑みあう

 

シン「な、なんで笑うんだ?」

ヒカリ「ごめんなさい―さっきのは少しシンを試したのよ。どっちを選ぶのか―ってね」

ミナ「シン。ごめんなさい!でも嬉しかった!私達2人を家族って認めてくれて」

 

ミナは満面の笑みで俺の手をつかみ、ヒカリと共にパーティー会場に戻って行ったのであった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

俺は早朝に装備を整え、ある1人の男プレイヤーとデュエルをしようとしていた

相手は、黒の剣士と呼ばれた二刀流(ユニークスキル)使いのキリト。相手にあって不足はない。それどころか、第47層のラストアタックを決めたのは、他でもないこのキリトなのだ

―しかも、SAOプレイヤー現在6000程のうち、キリトの持っているスキルは誰も使うことは出来ない。いわばキリト固有のスキル。ユニークスキルと呼ばれるものだった

 

シン(血盟騎士団団長のヒースクリフについで二人目のユニークスキル使い…)

 

ちなみにだが…俺のスキルもユニークスキルに入っていることになっている。しかし、俺は公開していないため、みんなには知られていない。ただ「赤い残光の剣士」という名の強い剣士として名が通っているだけだ

―まぁミナやヒカリにはばれているけど…ばらさないでくれ―って頼んでいるし大丈夫だろう―というよりは、今日の戦いで必ずばれることになるからな…

 

ミナ「――シン、準備が整いました。シンも準備が整い次第決戦フィールドにきてくださいね?」

シン「おう。わかった。すぐに向かうよ」

 

 

遠ざかるミナを確認してから、俺はキリトとの決戦フィールドへと足を進め始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第75層主街区《コリニア》

 

ミナ「頑張ってください!応援してますから!」

ヒカリ「直接手出しはできないけど…ずっと応援しているわ」

シン「ありがとうな二人とも」

 

俺は背丈の違う二人の頭を撫でてからキリトとの戦闘に臨む

場所はやけに広い闘技場で俺とキリトの一対一だ。しかし…俺はギャラリー(観客)がいるとは知らなかった。というよりは、知人だけが見守っていると思っていたのだが…

さすがにキリトも、この状況にはいささか不満を覚えたようだ。血盟騎士団団長との戦闘はここで行われたらしい。その時の観客もかなりいたものだと思うが、キリトはその時はどうしていたのだろう

 

キリト「――まぁいいか…よしシン。本気でかかってきてくれ。君の腕は噂でよく聞くし、どのくらい強くなったのか気になるからな」

シン「言われなくてもやってやるよ。キリト、本気を出してかかってきてくれ」

 

キリトは静かに頷き、俺にデュエルの決闘を申し込み始めた

俺は手元に届いたデュエル決闘の承諾ウィンドウの下部、yesのボタンに指を触れる。すると俺とキリトとのデュエル開始までのカウントダウンの音がこの闘技場に響き渡る

―初撃決着モード―相手のHPを先に半減させたほうが勝利―

キリトは背に携えた二本の片手剣を勢いよく抜き、構えを作る。黒い剣と水色の剣…二つの剣は晴れ渡った青空をその刀身に移し、勇ましく光輝いている

続いて俺も自分の剣を抜き、構えを作る。武器専用アイテムストレージには、"剣が二つ"装備されているが、実際に投影されているのは一つだけ――これは俺がキリトに勝つための秘策であるが…

 

シン(剣技のぶつかり合いで勝てる相手じゃない…相手は未知数のユニークスキル使い…さらにいうと第74層ボスのLA(ラストアタック)を取った正真正銘、最強の剣士だ…俺の技を最大限に使っていかないと必ず負ける…)

 

―10――9――8――…

もうすぐキリトとのデュエルが始まる…先読みをして最初の攻撃を防ぐか――あるいは先に仕掛けるか――

7――6――5――4―…

確実に勝利に向かう決断をしなくては―

3―2―1…

 

《デュエル開始》

 

キリト「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 

デュエル開始のブザーとともにキリトは走り出し、俺に剣を振るう

その速度はまるでシステムサポートを常に使っているかのような速度だ。見切れないほどではないものの…

―速すぎる…右手を防いだと思ったら左手で追撃が来る。どうやってこの攻撃を回避すればいいのだろうか

刃鋭スキルを使うには早すぎる。ここはどうにかして切り抜けなければならない

 

キリト「防御だけじゃ――負けるぞ―!」

シン「くっ…負けるわけにはいかない!!」

 

俺は必至の想いでキリトの剣を弾いた。キリトは少しよろけるもののすぐに体制を入れ替えて片手剣SS《ヴォーパルストライク》で追撃してきた。それを俺は――不本意ながらも刃鋭SS《迅烈》の初期動作で回避し、キリトの背後に回った

―キリトは驚いた顔をしているが、スキル後の硬直時間によって体を動かすことができない

 

シン(今だ―――!!)

 

そう踏み込んで、俺はキリトの背後から刃鋭SS《迅烈》の最後の動作に入った

しかし、キリトまであと数メートル…というところでキリトに課せられた硬直時間が解けてしまった。キリトはすぐに振り向き、俺の攻撃をうまく弾いた

 

シン「しまった――見誤った――」

キリト「すごいなシン…そんな攻撃初めて見たよ…」

シン「そういうキリトこそ。俺の剣技をよく弾くよ…尊敬するな」

キリト「ははは、それじゃ…ここからはお互い本気で行こうか―」

 

キリトはそういうと強く地面を蹴って、みたこともない剣技を放った…当然防ぎきれるわけもなく、数発俺の体に被弾してしまっている。幸運なことにHPは八割も残っているから、まだ猶予はある

―こっちも本気にならなくちゃな―と自分に言い聞かせて、刃鋭SS《霧月》を発動する

四人の俺の分身は、一人ずつキリトに向かって剣を向ける

 

キリト「っ…なんだ―これ!シンが四人?!しかも少し霧のような―!」

 

キリトは俺の分身に惑わされながらも、一人ひとり確実に処理していっている。さすがといったところか…

―数多く分身は攻撃したのだが、キリトはほぼ無傷。しかし、二発ほど切られているのを俺は確認した

キリトが最後の分身を倒すと、闘技場にはキリトだけが残された

 

キリト「どこに―――」

シン「はぁぁぁッ!!!」

 

霧となって宙を舞っていた俺は、キリトの頭上に剣を振り落とす

しかし、キリトは即座に反応して俺の攻撃を2本の剣で受け止める。俺は自分の剣をばねのようにして跳ね上がり、キリトから距離を取った

呼吸を整えて、再びキリトと剣を交え始める。しかしその時―――

 

キリト「はぁぁぁぁッ!!!!」

シン「っ―――…」

キリト「いけるっ!!!!」

 

キリトの攻撃によって俺の剣は俺の手を離れ宙を舞った。このままでは確実に負ける―そう思った俺は、とある言葉を口ずさんでいた

 

シン『武器(ウェポン)変更(チェンジ)。《リベレーション》』

 

すると弾かれた《フェイトブレイカー》は跡形もなく消失し、代わりに俺の右手にはつい最近作られたリズベットの最高傑作の剣《リベレーション》がしっかりと握られていた

――これが俺がキリトに勝つための秘策《武器(ウェポン)変更(チェンジ)》スキル。つい最近俺のスキルスロットに入っていたまたもやユニークスキルだ。戦闘中、"武器が手元にない"場合、武器専用アイテムストレージに装備されたサブウェポンとメインウェポンをチェンジする。メインウェポンは、自動的にサブウェポンスロットに設置される

 

シン(負けるもんか!!!!!)

 

と意気込んだ瞬間、デュアル終了のブザーが鳴り響き、Winner・Kiritoと制限時間の場所に表示された

気づけば俺の体力はイエローゲージに入っていて、キリトが先にイエローゲージにしたことが分かった

 

ウォォォォォォ―――と観客が盛り上がる。それと同時にキリトは俺に駆け寄ってきて地面に転ぶ俺に手を差し伸べた

 

キリト「ナイスファイトだった。シン、最後の攻撃が当たっていれば俺の負けだった」

シン「ありがとうキリト。さすが攻略組トップだな」

キリト「君も。攻略組トップだけどな」

 

俺はキリトの手を借りて立ち会がる。バトルに負けるのは悔しいはずなのだが、なぜだかそんな感じが一切しない

―これがキリトの周りに人が集まる理由なんだろうなと、実感する。いつか必ずキリトに勝ってやる―と心の奥底で決意した

 

そして…俺には「赤い残光のユニークスキル使い」という二つ名が追加されたのであった…

 




ここで登場しているユイは、カーディナルによって削除されかけたがキリトの手によって奇跡的にオブジェクト化に成功。また、《メンタル・ヘルス・カウンセリングプログラム》としての力は失い、アスナやキリトにかかわるすべての人に笑顔を与える高性能AIとして地位を得ている
※ちなみに、キリト・アスナの同意を得てユイはアイテムオブジェクト化することもできるらしい…


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10話 世界の端

SAOの正式サービス開始から2年ほど経ったある日…俺たち攻略組は、第75層迷宮区に挑戦するため緊急で75層主街区に呼び出された。しかもKoB団長ヒースクリフ直々にこの戦いに挑戦するという…

理由はKoBの迷宮区調査隊少数メンバーが迷宮区内のボス部屋に立ち入った瞬間、扉が閉まり、次に扉が開いた時には誰もいなかったという

 

シン(ボス部屋はクリスタル使用不可区域なのか?それとも――)

クライン「よぉ!シン!なんだよ暗い顔してんなぁ」

シン「お、クラインか…ボスのことを考えててな…」

クライン「ま、そんなに抱え込むなや。気楽にいこうぜ」

 

そういってクラインは仲間のほうに歩いて行った

しっかりとギルドリーダーしてんなぁ~とこんな中でも考えてしまう

 

ヒカリ「ねぇシン。この戦いが終わったら―」

シン「そういうことを言うな。フラグってもんが建っちまう」

ヒカリ「ふふっ…今日も変わらず元気ね。シン」

 

ヒカリは可愛らしく微笑む。

彼女の実力は攻略組に負けを取らないほど強いが、俺としては―――リズの店で待って居て欲しかった

彼女を守る―とは言ったものの、このような状況になってしまっては、その自信も薄れてしまう…しかし彼女にそんなことを言ってしまったら、間違いなく彼女は怒るだろう

―だけどヒカリやミナ…"大切な人々をもう失いたくない"

 

ヒカリ「また暗い顔してる」

シン「すまない…心配なんだ。また誰かを失うんじゃないかって」

ヒカリ「シン…」

シン「また誰かが死ぬんなら俺が―」

ヒカリ「―このゲームがクリアされるまで死ぬつもりはない。そういったのはあなたよ?」

 

ヒカリは厳かに、また優しく俺に声を投げる。その声の裏には怒りが混ざっているようにも感じ取れた

俺はそんなヒカリに対し、自分が弱気になっていたことを自覚する

 

シン「…すまん。弱音を吐いちまったな…気を引き締めないと」

ヒカリ「あなたが弱音を吐いたところを初めて見たわ。でもそれほど困窮しているのでしょう?大丈夫よ。きっと今回もボスを破れる。それにね…私、今回のボス攻略には些か不安を感じているの。初めてのボス攻略だからかもしれない―だけど、死の恐怖より何か…ほかのほうに不安を感じてる」

シン「ほかの方?」

ヒカリ「えぇ…今回は何か起こりそうな気がするの…」

ミナ「あ!シンさん!ヒカリちゃん!」

 

ミナはギルドのみんなと共に転移牌から現れて、こっちの方へと歩いてきた

彼女の装備…いつにもなく頑丈そうなフル装備になっている。それだけでなく、ギルド全員の装備が新調されて入り万全な対策をしてきているのが見て受け取れる

 

ミナ「今回も頑張りましょう!絶対に勝ちますよ!」

 

にっこりと笑顔になるミナを見て、俺たちは笑みを零す。そのおかげで緊張はほぐれ、俺が思っていた不安も綺麗さっぱり無くなった―彼女の秘められた力はすごいものだ―と改めて実感する

その直後、すっかり有名になったキリトとアスナが転移牌から現れる

もう二刀流スキルを保持していることを隠さなくてよくなったキリトは、二振りの剣をその背中に携えている

 

キリト「ようシン。元気か?」

シン「あぁ。元気だとも」

キリト「それは結構。今回は気を引き締めて行けよ?」

 

キリトはそのように言い残してどこかへ去ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―第76層 迷宮区――

 

マッピングされた地図を歩くこと数十分。俺たちは目的地へと辿り着いた

目の前には大きな木々を凌ぐほど巨大な鉄性の扉…おそらくは―いや、ここがフロアボスの部屋なのだろう…

この扉を開ければ…もう後戻りはできない。扉は閉まり、その部屋に閉じ込められるだろう

 

ヒースクリフ「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

扉を開くとともに、ヒースクリフが鼓舞するように大声を上げる

それと同時にヒースクリフ率いる攻略組は全軍、ボス部屋へと行進していく…全員が入ったのと同時に扉が勢いよく閉まりボスが――――出現しない?

 

「ボスはどこだ―?」

 

カラカラ…とどこからか骨のなるような音が聞こえる

しかし、ボス部屋を見渡してもどこにもいない――すると、アスナが「上よ!!」と叫ぶ。上を見てみればそこには―――巨大な骨のモンスターがいた

そのモンスターの名は《ザ・スカル・リーパー》巨大なその体は、全てが骨でできており、頭部と思われる大きな骸骨の眼は赤く光輝いている。その手(?)に備わっている大きく鋭い鎌は、闇に紛れてきらりと光っている

 

「キシャァァァァァァァァ!!!」

「うわぁぁぁ!!!!」

 

突然強襲してきたボスの攻撃に耐えられず、何人かの人がその一撃で消滅してしまう

―ありえない…と心の中で呟く。恐らくこの場にいるすべての人がそう思っただろう…彼ら――いや、俺たちは攻略組の中でも強者中の強者だ。防御力、攻撃力ともにトップクラスのはずなのだが、彼らは死んだ―それも蓄積されたダメージではなく、一撃で

この場に残された俺たちがすべき行動は一つ…こいつを無傷で討伐しなくてはいけないということ

盾持ちじゃない俺たちは、確実に死ぬ…ゲームの世界だけではなく、現実の体も死んでしまう!

 

ヒースクリフ「怖気づくな!奴は確実に倒せる!少しづつでもいいから、隙を見て攻撃を仕掛けろぉ!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ヒースクリフの声と共に駆け出していく襲撃隊。その部隊は、とても洗練された動きでボスの攻撃を避けてボスに攻撃を与える。しかし、そのHPゲージはミリ単位でしか減っていない…だが…

――この調子なら!!!

 

シン「ミナ!スイッチ!!」

ミナ「はい!シンさん!!」

 

襲撃隊のリーダー的な存在としてミナは俺とスイッチをする――というよりは、襲撃隊の大半はヘブン・ライトのメンバーが占めている。彼らはやはり素晴らしい力を持っている。そのチームに入ればまるで、長年一緒にいたかのような連携を取る

俺はミナから譲り受けた攻撃のチャンスをしっかりと掴む

 

シン「ふッ!!!」

ヒカリ「はぁぁぁ!!!」

 

俺は刃鋭SS《兜割》をヒカリは細剣SS《スタースプラッシュ》でボスのHPを徐々に減らしていく。徐々にだ。徐々に…ほんとに減ってる?ってくらいの微量だが…

続いてクラインやエギル、キリトやアスナも隙をついて攻撃をする

 

 

攻防戦を続けて数十分経っただろうか…ボスは俺たちの手で攻略した

誰が倒したのかはわからない。しかし、激しい攻防戦の結果…数十人のプレイヤーが消滅してしまった…

俺たちも、ボスの攻撃を受け流しながら攻略していたため、HPが半分を切って黄色ゲージまで落ちている

みんなボスがいなくなった部屋に腰を下ろしている。疲労感とでもいうのだろうか。しかし今回の戦闘はかなり厳しいものだった。それは間違いないと断言できる

数々の攻略をしてきた俺たちだが、ここまで死者、ともに戦闘時間が長かったことは極めてまれである

大抵の人はみんな黄色ゲージ――と思ってあたりを見渡してみると、一人だけ緑のゲージであり、尚且つ立ち尽くしている男がいた

―まさかな…と思っていると、キリトが突然その男に向かって走り始めた

 

キィン…と金属がなる音がしたと同時に、俺の目に見えたものは想像を絶するものだった

キリトが――立ち尽くしている男《ヒースクリフ》に向かって剣を突き刺そうとしていた。恐らくあの体制だと、盾で弾かれてヒースクリフの顔に当たりかけているのだろうと察する

 

シン「キリト…何やって――」

 

しかし、キリトの剣の先はヒースクリフの身には当たらず、代わりに《Immortal object》と紫の警告ウィンドウがヒースクリフとキリトの剣の間に立っていた

―《破壊不能オブジェクト》…この世界の建物や破壊されてはいけないモノに対し付与される特別なバフ。それを彼は持っているということは――

 

キリト「――ヒースクリフ。いや、茅場晶彦」

 

そこのいる全員が耳を疑った

かの有名なギルドの団長がまさかこのゲームを作った本人だとは思いもよらなかったのだろう

しかし、彼は否定しなかった。それだけではなく、このゲームSAOの最上階で最終ボスとして君臨するはずだったと高らかに話す。そして―――

―俺たちの体は地面にずり落ちた。動かすことができない…目だけで自分のHPバーを確認すると、麻痺のマークが付いていた。ヒースクリフは何を考えているのだろうか…

 

ヒースクリフ「君にはチャンスを与えよう。今ここで私とデュエルし、勝てばこのゲームは終了となる。負ければ…どうなるかわかるね?」

キリト「あぁ。いいぜ。受けて立つ」

 

ダメだ―と叫ぼうとしても、キリトの邪魔になってしまうと考えてしまい声が出ない

すると、俺の視界の端…麻痺のマークの隣に不思議な時計のようなカウントダウンが表示されていた。残り3'00"?三分…でいいのか?三分したらもしかして…この麻痺が消えるのか?

そう考えると同時にキリトとヒースクリフ、及びこのゲームのラスボスと本当の命を懸けた戦闘を――この世界の終わりを懸けた戦いを始めた。キリトもヒースクリフも二人とも最強クラスのプレイヤー。どちらも攻防を譲らず、キリトはソードスキルを一向に使わない――スキルを使った方が効率的に戦えるはず――そうか…ヒースクリフはこのゲームを作った張本人。ということはこの世界を熟知しているも同然。スキルも同様だ

 

シン(なら猶更早く…早くこの麻痺が解けてくれ…)

 

二人は激しい火花を散らしながら剣を交える。俺の視界に残る数値は2`00"…どうにか耐えてくれ…キリト…

キリトは何かに感化されたのか、ヒースクリフに向かって二刀流のソードスキルを使ってしまい、全てと言っていい剣技がヒースクリフが持つ盾に防がれる

俺はまだ時間が経たっていないのに、体を動かそうとする。まぁ当然動くはずが――

 

【ピクッ…】

 

少しではあるが、俺の右手"だけ"が動くことに成功した。だからどう―ということはないのだが、確かな進歩だと確信する

どうにかしてキリトの手助けになることをしなくちゃ…だけど、俺が出て行ったところでどうにかなる問題なのか?キリトとは仲は良いものの、コンビを組めるほど動きを熟知していない。逆に迷惑をかけてしまう

片手剣のキリトならともかく。二刀流のキリトとは日も浅い

当然、ヒースクリフに動きを読まれてこの世界からおさらばだろう

 

シン(いや―待てよ…?さっきのボス戦で彼女は――!!)

 

キリト―黒の剣士と呼ばれた彼についていけるものが1人だけいた

彼女【閃光のアスナ】や血盟騎士団副団長と呼ばれた彼の妻として今もなお、戦場を生きる彼女が―

 

シン「あ…アスナっ…キリトを――頼んだ!!」

 

 

俺は少しづつ手を動かして自分の腰についている支援用の回復針を手にセットする。細かい動きを投擲のスキルに合うようにしてシステムアシストを発動。そして成功したのち、俺が放った回復針は身動きにとれないアスナに刺さり、みるみるHPと異常状態が回復されていく

アスナは少し戸惑うようにして俺の方を見た。俺はキリトを頼んだ―と言わんばかりの顔を見せると、アスナは可憐な微笑みを見せてキリトの方へと走っていった

 

ヒースクリフ「さらばだ。キリト君――」

 

高く振りかぶされたヒースクリフの十字の剣は、キリトに向かって真っすぐに落ちていく――がしかし、その間にアスナが立ちはだかった

SAO史上最強ともいわれるヒースクリフの攻撃をくらったアスナは無数のエフェクトと化し、儚くこの空間に散っていった…キリトは、その後無気力な攻撃をヒースクリフに与え続けたが…力なくしてヒースクリフに腹部を貫かれる

 

シン(キ…リト…お前は――!)

キリト「はぁぁぁっ!!」

 

ヒースクリフの攻撃を真似るようにして、キリトはヒースクリフの腹部にアスナの愛剣《ランベントライト》を突き刺したのと同時に―――このデスゲームはクリアされた

2024年11月7日。SAOサービス開始から2年ほど経ったその日…英雄キリトの手によってこのゲームはクリアされた――生き残り約6000人。後のVRMMORPGにおいてこの伝説は永遠に語られることになる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《浮遊城アインクラッド》

 

俺はそれの崩壊を空から眺めている。生き残ったSAO生存者は順次ログアウトさせられるため、俺も残り少ない人のうちに入っているだろう…しかし、心残りはある。俺は"彼女"を救えなかったあの日――この身に背負った運命を幾たびも壊してきた。《運命の破壊者(フェイトブレイカー)》という剣と共に歩んだ記憶を俺は忘れないだろう

 

?「すべては彼女の思い通りというわけか…」

シン「あんた…どうしてここにいるんだ。茅場晶彦」

 

研究服姿で俺のそばに立ち尽くす彼―この世界を作った張本人にしてこの世界のラスボス。キリトに負けた最強の剣士【ヒースクリフ】の真の姿だった

 

茅場「私がどこに居たっておかしくないだろう?この世界の創立者にして仮想世界に住まう人なんだからな」

シン「一体…どういうことだ?」

茅場「…プレイヤーID《Sin》君は今までにないタイプの人だな。キリト君とは違う魅力がある。先ほどのアスナ君を動けるようにしたのも君なんだろう?」

シン「あぁそうだ。俺の――いや、彼女たちの力だ」

 

少ない時間ながら一緒に戦った彼女マイ。自分に自信が持てず、ギルドの中では一番弱いと錯誤していたミナ。凶悪ギルドに加入してしまい、危うくその命が取られそうになったヒカリ。俺の武器を打った史上最高の鍛造職人リズベット。ほかにもたくさんの人のおかげで俺はここに立っている

 

茅場「やはり君は最高だな。―最後に君に…頼みたい仕事がある」

シン「どんな用事だ?何なりと受けてやる」

茅場「それは―――――」

シン「――いいぜ。あんたの望みかなえてやる」

 

 

茅場は俺の答えを聞いたあと…霧のように頼んだ―と呟いた後、またもや霧のようにしてどこかに消えていった

1人になった俺は、様々なことを考える。また、"彼女を探す方法"などなど昔の俺だったら考えられないようなことも考え始める

―そうか。俺はこの世界で生きる意味を見つけたんだなと心から想う

 

自分の意識がこの仮想世界から消えるまで…俺は懐かしく思うこの世界を心かに染み付けてこの世界を去ることにした…いつの日か、彼女とまた会える日を心から待って―――

 

 



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SAO-dw編
11話 現実世界の話


ピッ―ピッ…と鳴る心電図。目を覚ませば、見知らぬ天井が俺のことを見下ろしていた

視界の端には、いつも見えていたHPゲージが見えない。おかしい、バグかと思い右手をシュッっと縦に振るが、ウィンドウは表示されない。それどころか体のあちこちが痛い…

その痛みで俺はここがどこだかはっきりとわかった

 

「―現…実…?」

 

恐らくはどこかの病院。その一室で俺は寝ているのだろう

長い間頭に被っていた機械をもう枯れ枝のようになった自分の手で外し、ベットのそばに置いた

―感覚が曖昧になっている…あの世界で過ごした俺とこちらの俺がごちゃ混ぜの状態だ。とりあえず俺はここで生きている。それは恐らくキリトやアスナ。ミナやヒカリも同様にここではないどこかの病院で今目を覚まして生きている

 

「…あの世界に――――忘れ物があったな…」

 

目の前に置いたナーブギアの重量感を確かめながら、俺は再び眠りについた

 

―――――――

 

「…さん…おきて…秋介(しゅうすけ)さん!」

「う――ん…」

 

俺は一人の少女の掛け声によって目を覚ます。ここはどこだろう―と軽くボケてみるが、すぐにどこだかわかった。ここはSAOを生き残ったSAO生存者(サバイバー)たちが集う学校の屋上だ

確か俺は―――次の授業まで時間があるし暇だったから屋上でサボっていたんだったか?

 

「もうやっと起きてくれましたね!気持ちよさそうに寝て…かなり眠りが深かったみたいですよ!」

「そんなこと言ったってな…昨日は遅くまで資料の作成やら"ダイブ"やらしてて大変だったんだぞ?休みたくっても暇がないんだよ。ミナ」

ミナ「あ!その名前はだめですよ!今は現実なんですから!」

 

"水瀬美奈(みずせみな)"―ミナは模範解答のような注意喚起を俺にしてくるが、プレイヤーネームに自分の名前を付けたが最後。彼女は現実も仮想も同じ呼び方になってしまうのだ

正直言ってかなり珍しい分類に入ると思う。ゲームに自分の本名を付ける人はあまりいない。まぁここに例外はいるが…とにかく、自分の本名を付けることは自分の存在を撒いていることと同じだ

 

「でもな~ミナはどっちも同じだからなぁ~」

ミナ「う……」

「水瀬さんって呼ぶのも今更感があるしな~」

ミナ「う……」

「どうやって呼ぼうかなぁ」

 

そんな風にミナのことをいじって遊んでいると、一人の女教師が俺たちに絡んできた

髪は肩まであり、立ち姿はすらっとしていてあの時のまま。その顔にかけられたメガネはチャーミングポイントとなっており、この学校でも有数な美人の存在と称される"日向麗奈(ひむかいれな)"先生だ

 

「シン。次の授業はあなたの出番よ」

シン「はいはい…ちゃんと教えますよヒカリ」

ヒカリ「ちょ――今はその呼び方はダメよ!」

シン「なら俺のことも秋介先生と呼ぶべきだろ?麗奈先生」

 

そう。日向麗奈先生のほんとの姿は、俺と共に戦ったヒカリなのだ。SAOにいた時からも大人びているとは思っていたが、まさか俺とほとんど歳離れていない先生だったとは思ってもみなかった

実をいうと…俺と麗奈(ヒカリ)は交際しているのだ。ミナはその事実をしって少し嫉妬したみたいだけど、今はこうして元気に俺と話してくれる

 

シン「さて―と…ごくわずかな教師生活を楽しみましょうかね!」

 

俺、"高袖秋介(たかそでしゅうすけ)"はいま臨時で教師としてこの学校で働いている。期限は3ヶ月と少し、もうこの学校に来てから1ヵ月と半分ほど過ぎているから、もうじきこの仕事も終わる

だが、熱心に勉強している子供を見るのは嫌いじゃない。むしろ好きな部類に入る。、まぁ歳はそれほど離れていないが…

 

俺が持っている授業は情報処理。ゲーム作った実績やらプログラム作ったことがあるからという理由だそうだ。生徒からは人気だそうだが、正直言ってよくわからん

ただ生徒に寄り添うようにしてわかりやすく教えているだけなんだが…

 

―――

 

シン「…だからここはこれが代入される形に―」

 

と順調よく授業していたのだが運悪くそこでチャイムが鳴ってしまい、俺の授業はそこで終わった

明日からは少しばかりの連休があるため、俺は生徒たちに軽度の宿題を出すことにした。課題内容はこうだ

『各自、簡単なゲーム・もしくは為になるようなプログラムを作成せよ。ネットと参考にしてもよいが、パクるのは不可。協力してすごいものを作ってもいいぞ。わかんないとこがあれば俺にメールしてもいいぞ。』

と出題した。簡単なゲームを作るくらいなら今の高校生でもできるだろうと踏み込んだのだ

 

 

なのだが…授業後、俺は自身の端末に届いた数多くのメール数に愕然とした

 

シン「メールしてもいいって書いたけどさ…さすがにあの短時間で300件はやばいだろ…」

ヒカリ「どうしたの?何か困りごと?」

シン「困りごと…だな。この短時間で送られてきたメールの数を見て漠然としたんだ」

 

俺の様子に気づいたヒカリは俺に寄って来るが、ヒカリもそのメールの数を見て漠然としたようだ。ただ普通に質問しているやつもいれば、中には俺の好みを聞いてくるやつもいた。青春してんなぁーとか思っていると、新たに新規メールが届いた

 

 

差出人『ヒースクリフ』

要件:今回も君に頼みたいことがある

本文:―いや、君にしか頼めないことだ。再びSAO-dwへログインし、失われた命の弔いをしてもらいたい。正確には私がやったことの罪滅ぼしと言った方が適任かな―…

 

ヒカリ「…なにこれ?いたずら?」

シン「…いたずらならよかったんだけどな…こいつは本物のヒースクリフ、もとい茅場晶彦だ」

ヒカリ「え?どうして?彼はたしか…」

 

ヒカリの言いたいことはわかる。SAOの開発者である茅場晶彦はすでにこの世を去っているのだ

だが俺の端末には彼からのメールが届いている。俺にはこのメールがいたずらではないことがわかる。それは、"SAO-dw"という単語だ

―その話は、俺があっちの世界についてから詳しく話そう

 

『ヒースクリフからのメール・続き』

―…あの世界はいわば墓場のようなものだ。データ自体はサーバーから削除されたのだが、アウターサーバーと呼ぶべき場所にデータが保存されている。あの世界で起きたこと・あの世界の記憶が集約されている

あの世界にログインできるのは君しかいない。よろしく頼む

 

シン「…ヒカリ」

ヒカリ「なに?改まって」

シン「今週の休みのことだけど…俺、数日間あっちにダイブすることになるかもしれない」

ヒカリ「え…あの世界って…?」

 

俺は息を整えてヒカリに話す

 

シン「―SAO。その朽ちた世界にさ…」

 

ヒカリは静かに怒りを表す

それもそうだ。今週末はヒカリ―麗奈と新都に行く予定があったのだ。それを断るってことは―まぁSAOの世界だったらデュエル申し込まれてコテンパンにやられるだろう―と思っていたのだが…

 

ヒカリ「…日曜日は開けときなさいよ?大事な――彼女との約束があるんだからね?」

 

ヒカリは顔を紅潮させて俺に抱きついてくる。ここが学校という名の職場であることを忘れ…可愛らしいと改めて思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日・夜

 

俺は自分の端末に届いた学生たちからのメールに一通り対応したのち、二年間俺を仮想世界に縛っていたあの器具に手をのばす。古びたナーブギアには自分のパソコンからのデータを受信する用のケーブルが一本つながっており、電源が入っている証拠であるランプがひとり静かに光っている

頭に装着すると懐かしい感覚を得てしまう…いけないことなのだろうが、あの場所・あの時間を早々忘れられるわけない。みんなにとっては悲劇でも、俺にとっては喜劇だったのだ

 

シン「―…リンク・スタート」

 

深呼吸をして開始コマンドを口にする

もしかしたら以前とおなじように、ログアウト不可になるかもしれない。もしかしたらあの世界で死んだらこの現実の世界でも死ぬかもしれない。ともしかしたらという思考が体中をめぐりにめぐって再び脳に帰る

しかし、再び帰ってきた時には俺の脳はもしかしたらという思考は除外されていた

 

シン(…死なない。絶対に死なない。この世界はもう死んでいるんだから、もう死ぬということはないはずだ)

 

 

そう決意しながら俺は崩壊したSAO。SAO-Decay world(朽ちた世界) にログインした

 




作者でーす
さぁて、新しい世界の登場ですね。SAOという名のVRMMORPGの残りカスともいえる世界―SAO-dw、ソードアート・オンライン《ディケイ ワールド》。詳しくは次回に回しますが、簡単に説明するとSAO事件の最後。キリトとアスナが天空(?)にてアインクラッドの崩壊を見ていたことと思います。dwの舞台は同じ世界の崩壊したアインクラッドです。というよりは、完全に崩壊した元の形を残していない瓦礫の山のようなところです。なので――とここまでで終わりにします!

次回、シンの感じるものと新たな子
 お楽しみにお待ちください!

…みたいな後書きを書いてみましたとさ!おしまいおしまい


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12話 SAOの骸

投稿期間が開いてしまい申し訳ありませんでしたぁっ!!!
最近、原神というゲームにハマっているおかげで投稿が遅れてしまったんです!なんであんなに面白いんだよぉ~!!

次話を心からお待ちしていた方々には、心からお詫び申し上げます。本当にすみませんでした…


―その世界は、瓦礫と残留意識でできていた。ベータテスト時から数えると約3年近く人が生活してきたこの世界にあったはずの鋼鉄の浮遊城《アインクラッド》はすでに崩壊しており、見る影もない

その城の亡骸はその真下にあった地上に落下し、亡骸街とかした

 

?「―…それから数多の時間が過ぎ…その亡骸街に―フォーリナーと呼ばれる種族が住むようになり、その町の名前は《ルーイン》となづけられましたとさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンside

 

懐かしのエフェクトと共に、この朽ちた世界に顕現する俺の体はあの世界のままだ

黒を基調とした赤い線が走るコートに、馴染みのある俺の剣。シュッっと手を縦に振ればウィンドウが出できて、今までの所持金を含め沢山のアイテムが収容されている。今となっては貴重なアイテムたちだ。大事に使わなくてはならない

―ウィンドウを閉じて視界を前の方にやると、昔とは違った景色が広がっていた

 

シン「これは―どういうことだ…?」

 

以前来た時―それは、SAOがクリアされた日の後のこと…

この世界を知ったのはちょうどその時だ。俺があの世界で最後にあったから茅場晶彦から託された使命を果たすためにログインしたのが始まりだった

だが、俺の目の前にある光景は以前見ていたものとは違う。あの時俺が見ていたものは瓦礫の山そのものだった。しかし、ここにある景色は瓦礫などという言葉で片づけていいものではなく、遺跡にも似た街になっていた

 

シン「俺が入っていない間に何があったんだ―?」

「―あなた…この世界の人?」

 

俺に話しかけてきたのは小柄な少女だった。ミナよりも少し大人びているが、その仕草はこどもそのものだ

…ふと、その子の容姿にどこか懐かしさを感じた。薄い茶色の長い髪…穏やかそうなきれいな瞳の色。その髪の癖や感じはとある人にそっくりだった

 

シン「―マイ…?マイなのか?」

マイ「どうして私の名前を?もしかして私―有名人だったり?!」

シン「……」

 

この様子からして俺の目の前にいる人は、俺の知っているマイではないのだろう

しかし今の会話で確信した。この人はマイなのだろう。茅場も言っていたが、ここはSAOの記憶などが集約されているのであれば、こういうこともあり得るのだろう

―ともかくこの子から、俺が去った後でこの世界に起こったことを教えてもらおうと思う

 

シン「君の名前は…旅の途中で聞いたんだよ。とにかく、ここはどこなんだ?少し記憶が飛んじまって…覚えてないんだよ」

マイ「そうなんですか…災難でしたね!なら私の家に来てください!いろいろと教えましょう!」

シン「でも…いいのか?そのご家族のこととか―」

マイ「大丈夫ですよ!いろいろと教えちゃいますから!」

 

マイはそういって俺の手をつかみ、トコトコと俺の手を引いて歩き始める

やはり以前来た時から確実に変化している。以前は人など生活していなかったはずだが…今はちらほらと人がいるのが見える。全員NPCなのだとしたら、誰がプログラムしているのだろうか…いや、ここの存在は俺と茅場しか知らないはずだ。ほかの人に認知されているはずがない

 

マイ「さ~て!私の家にいらっしゃい!」

シン「お、お邪魔します…」

 

マイが自宅として利用している住処は、木でつくられているコテージのような場所だった。瓦礫というものが多い中、この近くには瓦礫が少なく、大きな湖や段丘などがあり、ほかのところよりかは発展している感じがある

 

マイ「どうぞそこに座ってください!いろいろと準備しますので…」

シン「あぁありがとう」

 

俺はマイに促されるまま木製の椅子に腰を掛ける。するとマイは何やら液体の入ったティーカップを二つと、ポットを目の前の机に置き、コポコポと丁寧にカップに液体を注いだ

マイ曰くこの液体の名前は、《ルーミスティー》というらしい。その味は、どこか紅茶に近いような風味と甘さがあった

 

マイ「ふう…それじゃあどこから話せばいい?」

シン「初めから話してくれ。この世界のことについてな」

マイ「OK。まずは――」

 

マイが話してくれたことはこうだ

―この世界dwはSAOの残骸によって構成された世界であり、数百年間誰も生きることのできない死の世界と化していたそうだ。しかしそこにとある女神さまが力を与えて人が住める環境を整えたんだとか…

そこに、フォーリナーと呼ばれる種族がこの世界を復興しながら住むようになり、今のこの世界になった

大きさは約数千から数百程度キロの円形型。各地に村があるそうだが、ほとんど廃村なんだとか…《ルーイン》という名の都市だけが唯一の村だとのこと

 

マイ「…廃村したのにも訳があるそうです」

シン「へぇーどんな訳があるんだ?」

マイ「廃村になったわけは……《タナトス》と呼ばれる神が起こした祟りだといわれています」

シン「タナトス?なんかのモンスターか?」

マイ「いえ…昔、果敢に戦って命を落とした英霊が化けた邪神だといわれています。ルーインの近くにも類似した祠があるんですよ?」

 

果敢に戦った英霊―と聞いて俺は茅場のメールを思い出した

『失われた命の…罪滅ぼし…墓場のような場所…』

恐らくはその英霊というのは、SAO内にて亡くなったプレイヤーなのではないだろうか。そのプレイヤーが死というものを認知できずにこの世界を今もなお彷徨っているといるのではないかと推測する

 

シン「…いろいろとありがとう。俺、その祠とやらに近づいてみ―」

マイ「――ダメです!!」

 

いきなり大きな声を上げたマイに俺は少し気を取られる

 

マイ「祠には…村の人は近づいちゃいけません…あそこには――この世界の人じゃ倒せない魔獣が潜んでいます…祭事の時以外は基本的に獰猛な性格なので…限られた人じゃないと立ち入りは禁じられています」

シン「……」

マイ「無断で入ったらどうなることか…」

 

怯えたように震えるマイを見て、俺は静かにその頭に手をのせる

その手に伝わる感覚は非常に懐かしい感覚を取り戻した。あの日――すべての悪夢が始まった日の夜…俺は同じようにしてマイの頭を撫でた。マイはその後、笑顔になって睡眠したのだが…

 

マイ「"シン"…」

シン「なんだ?どうかしたか?」

 

と普段通りに会話したが、この子はマイであってもマイではない子なんだと思い出す

思い出したと同時に、俺が自分の名前を言ってないことも思い出した。なぜこの子は俺の名前を呼んだのだろう…名乗っていないというのに偶然ということがあるのだろうか?

―もしかしたらこの子は本当に…マイなのではないのだろうか―と頭をよぎるが、考えないようにしよう。これ以上考えてしまうとほかのことが手につかなくなってしまう

 

マイ「ご、ごめんなさい!!いきなり呼び捨ててしまって…」

シン「構わないけど…なんで俺の名前を知っているんだ?俺、名乗っていないぞ?」

マイ「―あれ?そうでしたっけ?なんででしょう…あなたの名前がシンだと思ったんですよ」

シン「……不思議なこともあるもんだな。まぁいいさ、俺は祠を見に行く。俺はこの村の人じゃないしな」

 

それと…早めに終わらせないとヒカリから説教くらっちまうし…

SAO事件で亡くなったプレイヤーを成仏させなくてはいけない。このままほったらかしにしてしまえば、悪循環という奴だろう。死ぬつもりはないから、"今回は"様子見するだけだけど、次回行く予定があればその時は確実に倒す

そう決意してマイの家を出た

 

 

 

 

街に出ると同時に、いろんな人から変な人なのではないかといった軽蔑の眼差しが俺に降り注いだ。俺は気には留めていなかったが、ある一人の老人が俺に話しかけてきた

―アンタはこの世界の人ではない。どこかへ去れ―という内容の暴言を受けて俺はカッとなってしまった

 

シン「どういうことですか。どこかへ去れ―というのは」

老人「言葉通りの意味じゃよ。異人は災禍の元凶!昔からそう言い伝えられてきた。アンタは異人そのものだ。早くどこかに去れ!!」

シン(こりゃ…俺の話を聞いてはくれないみたいだな…仕方ない。ここは素直に去って―)

 

去ろうとしたその時、俺の耳にとても良い情報が入った

―西の祠に行かせれば間違いなく滅ぶ―という情報だ。恐らくマイが言っていた祠というのは西の方向にあるのだろうと考え、足を西の方へと向かわせた。異人は災禍の元凶…か。確かにそうかもしれないが、一回見ただけでその人を異人だと判断するのはいかがなものかと思うが、俺が構うようなことでもないと自覚し、足を進めることにした

 

老人(まったく…近頃の若もんはわしのいうことを聞かん…こうなれば、"あれ"を放つしか―)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

ルーインから約五キロほど離れた山の中…ここら辺は瓦礫が少なく、自然がまだあるような場所だ。しかし、歩いている途中から日が暮れてきて、今はもう真夜中だ

暗い山道を月明りを頼りに、俺は祠を探した

ふと、あたりを見渡すと白い兜のようなものを着用したモンスターのようなものを見かけ、こっそりとそのモンスターについていくことにした

 

シン(見た感じ…SAOの第一層にいた奴にそっくりだな…ルイン・コボルドセンチネル…だったっけ?そいつに似てる…)

 

そのモンスターはやがて崖のような場所にひっそりと佇む遺跡に入っていった

これが例の祠なのだろうか…息をひそめ、その入り口から中をのぞくと…巨大な影を二つ捉えた。第一層ボスに酷似した巨大な影…その手にはしっかりと武器を持ち、どこからか採ってきた肉を豪快に頬張る

何度見てもやはり同じ姿―コツン…とその時、俺の足元の石が転がった

まずいと思い、彼らに気づかれる前にここを退散することにする

 

シン(ふう…危なかったな…まさか第一層のボスみたいなやつがタナトスっていう邪心なんだろうな…)

 

その時、考察をしている俺の近くを何者かが通った

黒い影のような…謎の新生物なのだろうかと思い、剣を抜刀して次の行動を慎重にみる。バクンバクンとなる心臓の音をできるだけ抑えながら真夜中の森を注視するも――先ほどの影はとうの昔に消えてしまったようだ

―しかし警戒を怠ってはならない。何時如何なる時でも対応しなくては俺はこの世界から消滅してしまう。それだけは避けなければならない

 

シン「っ――!!!」

 

気配を感じ取った俺は剣を真後ろに向ける。それと同時に誰かがその場ですっころぶと、その誰かが持っていたであろう灯りがその誰かを眩く照らす

そこ腰を置いていたのは…先刻街であった俺に暴言を吐いてきた老人だった

 

老人「いたた…何しとるんじゃこの馬鹿もんが!!」

シン「……すみません。少し襲われていたもので―」

老人「襲われていたぁ?ふん!そんなの嘘に決まっておろうになぜそんなにちんけな嘘をつくのじゃ?!これだから異人は災禍の元凶と呼ばれるんじゃ…まったく…」

 

と暴言老人はぶつぶつと俺に対する暴言を吐きながらどこかへと去ってしまった

何をしにここに来たんだろうかと考える暇なく、また先刻の黒い影が俺の傍を通る。今度ははっきりと見た。幻覚なんかじゃない。俺は木に背中を預け、戦闘態勢に入る

 

影『ふふっ…あそびましょ?あそびましょ?』

 

不気味な笑い声をあげながら俺の近くを通る影はついに正体を現した

―数人の子供?のようなシルエットの黒い影。ゴースト系のモンスターなのかあるいは本物の幽霊なのかよくわからない。すると突然、その影が俺に向かって突進してきた。俺は危機一髪で避けることに成功したが。被弾した木は朽ちて枯れてしまった

即死系の攻撃なのだろうが、もしあれに被弾してしまえばいっかんの終わりだ。慎重にかつ丁寧に戦闘を開始した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

無事に生還した俺はマイの家にて剣の手入れをしていた

昨日の疲れと数多の情報整理をしていたため、かなり体に来ているが、マイが差し入れで置いて行ってくれたお菓子が体に染みる。クッキーのようなサクサクとした食感に程よい塩加減がたまらず美味い…

 

シン「…もしあの第1層ボスみたいな奴が本当に奴なら、こうした方がいいな…」

 

俺が作戦を練っていると、ドタドタと何やら騒がしい音が家の外から聞こえてくる。何事かと思った矢先、マイが息を切らして駆け込んできた

俺がどうしたのかと聞く前に、マイは俺の腕を掴んで外へと駆け出し始めた

 

シン「ちょっと待ってくれ!状況をー」

 

俺は目を疑った。マイと共に止まった場所から見えるのは、あの老人から罵倒された町に、俺と因縁の獣がその街を襲っていた

ドス黒い血を浴びたような嫌気がさす程気分を害すあの黒毛、かつて”彼女”を穿いたいわをも穿くような鋭利な爪…そしてあの世界に置いていきたかった悪魔の叫び声が俺の脳に響き渡る

ーそう、やつの名はー

 

シン「… 《The Ripfate》…」

 

切り裂く運命を意味する四足の巨大な熊…そして因縁の相手である

そんな中、マイは俺に泣きながら擦り寄ってきた

 

マイ「助けて…私の…街をーお願い…」

シン「っ―――」

 

マイの必死な顔を見ていると、以前の自分に対する憤怒が巻き起こってくる。自分の惨めさ故に消えてしまった彼女。もっと強ければーもっと早くに存在に気づいていれば―と自分を悔やんだ記憶が俺の胸を締め付ける

俺はマイの頭に優しく手を置く

 

シン「…やってやる。俺が必ずたおしてやる!!」

 

そう言って、俺はそこから走ってその現場へと急いだ

彼女の――いや、あの町に住む人々の願いを俺は叶える

 




UI5000人越えました!いつも御覧いただきありがとうございます!
5000人を記念しましてアンケートを取ることにしました。以下の中から選んでいただくとありがたいです!
こんな作者が作る物語を、どうかこれからもよろしくお願いします


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13話 栄光と破綻の口実

題名からなんかすごそうな感じがしますが、特に意味はありません
ですが強いて言うなら―"ここからが始まりである"って感じですね。それでは本編楽しんでください!


――血が滴る。魂が漂う。何の因果か、血なまぐさい空気が漂うこの街で因縁の対決が始まろうとしている。切り裂く運命(TheRipfate)運命の破壊者(フェイトブレイカー)をあの時と同じ様に睨みつけ、殺意をちらす

前者は、その脳に記憶が無くとも体が彼のことを覚えている。それと同時に後者に"運命を破壊する"という運命(さだめ)を彼の身に傷つけた

後者は前者に恨みに近い感情を抱いている。否、前者にではなく、過去の自分自身に恨みを持っているのだ。そして彼はー

 

今日、過去の自分と決別を……する?

 

 

 

 

 

 

 

シンside

 

俺がここに来るまで悲惨な現場を見た。街中の壁に血がこびりつき、死の臭いが漂う。地面には数多の人であったものが散乱していて、中にはその原型すら留めていないものも見受けられる

 

シン「……」

 

あまりに悲惨すぎて言葉を失った。それと同時にその悲惨さに憤りすらおぼえる

―俺はやつを生かしてはおけない。なんの因果かわからないが、再び目の前に現れた。彼女をこの世から消した張本人を今度こそ消し去ってやる

すると、突然悲鳴がこの街に轟く。恐怖で動けなくなっているようなか弱く、消えるような女性の声。俺はその消えそうな声を手がかりに、その声の元へと迅速に駆けつけた

 

 

 

 

女性side

 

?「だ…誰か…助け―」

 

私は目の前に立ち尽くす邪神に怯え、利き手に携えていた槍を地面へと落とし、その体を地へと下ろす。彼女は死を覚悟した。もっと自分と向き合っていれば―と後悔したが、遅いと感づき静かに瞳を閉じて死をまった

 

シン「はぁっ!!!」

 

暗闇の中、突然響く男性の声。凛々しくあり、どこか勇気づけられる声だった。死を恐れた時に発生する幻とやらだろう…と自分に言い聞かせる。しかしいくら待っても痛みは訪れず、そこには闇が広がっているだけであった。それだけではなく、誰か戦っているような音さえも聞こえてくる

恐る恐る目を開けると、そこには1人の青年が恐るべき獣と戦っている光景が繰り広げられていた

 

シン「…大丈夫?」

?「ふぁ…?ふぇ…?」

 

青年はこちらに顔を向け、笑顔で聞いてくる。私は理解が追いつかずに変な声が出てしまった。しかし彼は、そんな事を気にせずに、「ここは危険だから逃げて」と避難勧告までしてくれた。戦闘中だと言うのに…

すると、すぐそばの角から1人の小柄な少女が駆け寄ってきて、私に肩を貸してくれた…

―彼は――体…何者なんだろうか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

シンside

 

無事に被害女性の救助に成功した。マイがナイスアシストで連れて行ってくれたから俺もこいつとの戦闘に集中できた

奴は以前よりも格段に強い。それも2つ程桁が違うみたいな感覚だ…

しかし突然獣は止まり、口を少し動かす

 

獣?『何故、人ヲ助ケタ?』

シン(これは…テレパシーってやつか?)

獣?『オマエモ分カッテルンダロ?人ガ醜イ生物ダト言ウコトヲ』

 

獣はゆっくりと口を動かしながら俺に話しかけてくる

…人が醜い生物だということ。か…確かにそうかもしれないが、だからといってこいつが大量殺人をする言い訳にはならない

 

シン「…何故人を殺す?」

獣?『サッキモ言ッタガ、醜イ生物ダカラダ。ダカラワタシハ人間ヲ殺ス!』

シン「それだけだと言い訳にはならない。ただの感情論だ。その証拠はどこにある?」

獣?『黙レ!!貴様ラノソウイウトコロガ争イヲ生ムノダロウガ!!!』

 

奴はかなり人間に対して嫌悪している思われる。しかし、そこまで至る原因はあったのか?

可能性としては…俺が倒したからか?いやそんなことはどうでもいいか

 

獣?『貴様ハ――私二トッテ怨恨ノ根源ダ!ホカノ誰ヨリモ貴様ヲ拒絶シテイル!!』

シン「―奇遇だな。俺もだ」

 

俺は剣を構えなおし、刃を獣に向けると奴は気高く咆哮し、攻撃を仕掛けてくる

剣は激しく鋭く尖った鍵爪とぶつかり合い火花を散らす。俺の攻撃は幾度となくあの鍵爪に遮られ、その身に剣が当たらない

まるで俺の放つ攻撃が見えているかのように防いでくる。それだけではなく、防いだと同時に俺に攻撃を仕掛けてくるため、かなり厳しい戦いになっている

 

シン(くっ…なんで動きが読まれてるんだ…)

獣?『何故動キヲ読マレテイルノカ…ト考エテイルナ?当然ノコダ』

 

まるで読心術の様に心を読んだ奴は、厳かに口を開いて言う

 

獣?『ワタシハ貴様デアリ、貴様ハワタシデアルカラダ。アノ日、あノ時にお前ノカラダに切り刻ンダ運命ノ剣は、幾度トナク貴様の命運ヲ破壊する歯車ト成ったハズダ。覚えてイルだろう?かつて戦ってキタ歴戦のケモノたちガ!!』

シン「…お前は一体―――…」

 

奴の肉体はドロドロに融け始め、やがて黒い影の肉体を構成した。その肉体の容姿は紛れもない俺の姿であり、昔のーちょうど16程度のレベルだった時の姿と似ている

奴のもつ剣は俺と同じ剣でありながらも、深海に住む龍の様に黒く、火山の奥地に佇む皇帝のような紅い光を放っていた

しかしその直後に黒い影は塵の様に消えていった。

突然の出来事に俺は硬直していた。あいつはなんなのか、この世界は単なるデータの墓場では無いと仮定した場合…誰がこの世界の指導権を握っているのかということが、俺の頭の中で巡りに巡る

―ひとまず、剣を背にしまい事の後片付けを始めることにしたとき、マイと先程の女性が俺の方へと駆け寄ってきた

 

マイ「無事で良かった…シンさん」

シン「…心配かけたな、すまない。貴女は先程の…」

トル「はい。先程は助けて頂きありがとうございます。私、名をミス・トルと申します。どうか気軽にトルと、お呼びくださいな!」

 

トルと名乗った女性はキラキラとした目で、俺の目を見る

どことなく、ミナに雰囲気が似ているような気がしなくもないのだが…

 

トル「あのタナトスを撃退できるほどのお力…誠に感服致しました。どうか!私を貴方様の付き人に志願致します!」

シン「そ、そうか?…って!」

 

それはつまり、トルは俺を守るべき主人かなんかだと思っているのだろう

―そこで俺は考えた。ここで彼女を切り捨てた場合と共に旅をした場合の利益不利益を。結果として導き出されたのは、ともに旅をすることだ。憶測ではあるが、彼女はマイよりもこの世界のことをよく知っているような気がするし、なにより断ってしまえば相当な心的ダメージを受けそうな感じがするしな

 

するとその時、例の老人が俺たちのもとへと歩いてきた。その顔は何やら言いたげな顔であり、どこか不服な感じがわんさかと伝わってきた

 

老人「貴様…これを見通してかの獣を放ったな?」

シン「なんのことだ?俺はただこの子に依頼されて―」

老人「とぼけるではない!貴様が昨夜、封印の遺跡に近づいたことはわしの目が捉えておる!昨日わしからこの街を追い出されたことの腹いせに邪神を解放し、それを自分で倒すことにして英雄と慕われたかったんじゃろうがそうはさせん!」

 

老人はいきり立ち、あたかも俺が悪人というありもしない事実を仕立て上げようとしている。しかし、そんな事実は一切ない。一部を除いてだが…

老人は俺だけでなく、隣にいる二人にも同じようなことを話はじめた

 

老人「貴様らもそうだ!こんなちんけな男についてやるなど―」

トル「―お言葉ですが長老様、この方はあなた様が考えているほどの人ではありません。この方は窮地の私を助けてくださいました。それに長老様、先ほどのお言葉から察するに、長老様も封印の遺跡に近づいたのでしょう?ならば、長老様も怪しい人になるのではありませんか?」

 

トルは凛々しく提言すると、老人は一人の兵士を呼んで「長老は今年の祭事の下見に行った」というアリバイ合わせのようなことを行ったのだ

なんと下劣な…と思った矢先、老人は突如何かに刺されたかのように地面に這いつくばる。よくその背中を見てみれば、黒い刃物のようなものが無数に突き刺さっていた

その刃物はやがて塵となって消失したが、その背後にはいつの間にか赤髪の青年が立っていた

 

老人「き…さま…」

?「黙れクソジジイ。昨日に俺を解放したことを悔やむのだな。ふッ!」

老人「ぎゃぁぁぁぁっ!」

 

影は地面に這いつくばる老人の胸に向かってその拳を貫通させた。そして勢いよくその拳を抜き、紅い水晶玉のようなものがその手の中に光っていた

 

?「…朽ちてやがんな。このジジイ…俺がこうすることを察して"秘宝"を隠しやがったな…?」

シン「…お前は誰だ!何が目的なんだ!?」

?「―プレイヤーネームSin。俺は貴様を紅玉宮で待つ。全ての御魂を払いしとき…俺は貴様に真っ向勝負を挑もうぞ?その責を放った時には――俺は世界を破壊する」

 

そう言い残し影は名乗りもせず再びチリのように消え去ってしまった

最後に奴が言い残した言葉―紅玉宮。それはかつて存在したアインクラッドの最上階に位置するいわばグランドクエストのような場所だとヒースクリフから聞いている

―俺がすべての御霊を払い、やつを紅玉宮で倒さなくては奴は必ずこの世界を破壊する…俺に課せられた使命はこの世界の救済―ってとこか

 

そう思いつつ俺は無残に散って行ってしまった街のみんなの弔いをやり始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――side

 

現実世界・旧アーガス本社ビル

深夜0:00分を回った頃…SAO事件を最後に消滅したアーガスの本社ビルには少しの明かりがともっていた

しかし、そのビルの所有権は民間人ではなく不動産会社が担っているため、見回りの時以外誰もいないはずなのだが、その明かりがともっているほうから誰かの話し声が聞こえる

 

?「へへっ……残していったことを幸運に思うぜ…」

 

痩せ気味の背の高い男が、今はないSAOサーバーの集積装置にPCをつないで何やら打ち込んでいる。その背後には天井に届きそうなほどに積み上げられた書類に囲まれたベットと例のサーバーにアクセスするためのナーブギア

―装置をいじっている彼の名は、 夜見彰 現在24になる無職の男だ。しかし2年前まではしっかりとエリート大学に在学していた

しかし2年前―例のSAO事件以来、彼の人生は一転した。茅場晶彦という名の男のせいで…

 

「かやばァ…今日俺はお前を越える!!!」

 

大学時代先輩でもあった茅場は、彼にとって憧れの存在であった。しかし……SAOにログインしたことが運のつきだった

 

「俺だけの世界を……俺が神となる世界をぉぉぉ!!!」

 

部屋中に木霊する男の叫び声。そして勢いよくクリックされるエンターキー。そのPCに表示されている文字はSAO-dw/login/player(name*)/set…

男はニヤリと顔を歪ませ、ナーヴギアを意気揚々と取り付けた

その心にはもう恐怖というものは一切合切なんにも無いようだった…

 

「―リンク…スタァ〜ト!!」




時系列としては、キリトがALOのことを知る直前の話です
まぁこれからいろいろあって、このSAO-dwで物語が進んでいくのですが、少し説明しておきます


―――エギルはなんでも屋です


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14話 真実と虚実

投稿期間がとても開いてしまい申し訳ありません
今年の夏から今月中旬にかけてリアルの方で忙しかったのと、この小説と平行して書いている小説の方に気が行ってました

本当に申し訳ありませんでした。気づけばUAの7000を超えていて…UA5000人記念の話は11月初期に出す予定ですので、少々お待ちを…

よかったら、私が平行して書いている"原神"の二次創作<自由を求めた彼女の冒険譚>を見て行ってください

それでは本編スタートです


―タナトスに街が襲われてから、数日たったある日のこと…彼―シンは2人の少女と共にその街を出ようとしていた。逃げ出すのではない。彼らは救済のために旅を始めたのだ。まずは…その街から西にある封印ノ洞窟へと向かうのであった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンside

不定リズムで地面は俺たちの足の音を鳴らして空気を振動させる。同じく俺たちが身につけている鎧や服からも音が出てくる

―こんなに綺麗に聞こえるのは、ここが山であるからだ

 

マイ「―ふぃ…疲れたよぉ…待ってぇ~2人ともぉー」

 

膝に手を付き、息を切らす様に胸を抑えるマイ。その様子にトルは自分たちが歩いてきた道のりを再確認する

 

トル「結構来ましたね…休憩にしませんか?」

シン「ーそうだな。しばらく休もうか。目的地はもうすぐだし、今のうちに体力を温存しておいた方がいい」

トル「そこでなんですけど……私、クッキーなるものを作ってきましたので…その…食べて頂ければ幸いです//」

 

何故か顔を赤らめるトルに疑問が湧いたが、トルの作る料理はとても美味い。事実、アスナの手料理と比べても誤差はないほど素晴らしい腕前を持ち、オマケに掃除・洗濯・武器の手入れetc…を完璧にこなす人なのだ。あの街で、騎士団と呼ばれる組織に配属されていた時の経験を糧にしている

俺たちは近くの岩場に座りこみ、休憩を始めた

トルはストレージの中からクッキーが入ったバケットを実体化させ、自分の膝の上に置いた。その中には、宝石のような綺麗な輝きを放つ美しいクッキーが入っていた。それを俺はパクりと1口頬張った

 

トル「じ、自信はありませんが…」

シン「――!美味いぞこれ!ほんのりと香るバターの風味とベリー系の甘酸っぱさが効いてるな!」

マイ(むむっ!シンさん…あの一口だけで材料を言い当てた?!こうしちゃいられない!)

トル「良かったぁ…美味しくないって言われたらどうしようかと思っていたんです。しかも材料も合ってますし…」

 

するといきなり隣にいるマイが唸り始めた。どうやら沢山食べたクッキーが喉に詰まったようだ

―マイのおかげでクッキーは3分の2消滅したとさ…

 

トル「そんなこと言ってないで助けてあげてくださいよ!!!」

シン「あはは。ついついな。それじゃマイ…これ飲んでくれ…」

マイ「むぅ――!―!!―!!ぷッはぁぁ…!?なにこれ!!!!」

トル「えっ……私のクッキーおいしくなかった…ですか?」

マイ「ああ違う違う!!!トルちゃんのクッキーは最高に美味しかったよ!でもね…追加で飲んだあの液体が…」

 

それもそのはず。マイが飲んだのは始まりの街原産のまずいと噂されていた回復薬だ。これしかなかったーというよりよく残っていたなと考えるほどだ。最後に使用したのは…いつのことだったか分からないほど前の話だ

食料には使用期限というものが存在しているのだが、クエストで入手できる限定特別品の物のため、存在していなかった

販売されている回復薬よりも少し回復量が多かったから結構重宝していたんだが、所詮は序盤アイテム。すぐに使うことはなくなり、アイテムストレージの糧となっていたのだ

 

シン「すまないな。でもあれ貴重品だぞ?アインクラッド第1層の―」

トル「えっ!シン様って古王国地に行ったことがあるのですか?!」

シン「古王国地…?」

トル「はい!かつて天空のすべてを手に入れていたと伝えられている古王国アインクラッドの跡地のことです。その国はもうすでに朽ちていますが、この世界の最北端にその骸とその国の末裔が住んでいるといわれていますが、その詳細はごく一部の人しか知らないそうです」

マイ「へぇーはじめて聞いた」

 

―いずれはそこに行かなければならないのだろうと心に思う

その瞬間、ガサガサ…と付近の茂みから物音が聞こえ、俺は即座に振り向いた。木々に視界が遮られているが、どこかで見たような人が歩いていくのを見た

どこだったかと探っていくうちに、ある一つの結論にたどり着いた

 

シン(あまり人と関わらなかった俺が印象に残っている人…墓場…)

 

考えていると、自然に足がそちらの方へと向かっていく。焦る気持ちを落ち着かせながら、その者の肩に手をかけた…

透き通るような青い髪。日頃から手入れされているであろうその鎧は、かつてのアインクラッド第1層でよく見られたもの。そして…その顔から発言したあの言葉を思い出した

 

シン「ディア…ベル…?」

ディアベル?「君は…?俺のことを知っているのか?」

シン(顔の形や喋り方、何から何まで酷似している…だけど、どこか違う気が…)

トル「シン様!待ってくださ…えっ!ディアベル様?!どうしてここに…」

 

トルは俺のことを追いかけて来た途端、ディアベルを見て驚いた

 

シン「トル、この人が誰か知っているのか?」

トル「はい!騎士団の主要都市《ライブラ》にて青白騎士という立ち位置に属している素晴らしい方です!ですが…何故このような場所にお越しになっているのですか?」

ディアベル「俺がここに来た理由は、大団長様からの指示さ。ここに属するタナトスを討伐しその秘宝を集めよ。との事でね」

 

ディアベルはその大団長様とやらを崇拝するかのように天を仰ぐ。しかし、ディアベルが言うにその決断はあまりにも突然の事だったのだそうだ。それは、気持ちよく寝ていたところに隕石が落ちてくるほど突然の事だと言うのだが、どういうことだろうか…(まぁ突然なことには変わりないけど)

 

シン「それでその大団長様ってのはなんで秘宝ってのを欲しがってるんだ?なにかの儀式に必要とか…か?」

ディアベル「…分からない」

シン「へ?分からない?」

ディアベル「あぁ、どうして必要なのか。何が目的なのかも知らされていないんだ」

シン「なら、従う必要はないんじゃないか?」

ディアベル「…それが出来れば最高なんだけどね…」

 

話によると騎士団は、この世界を仕切っている最高権力者なのだという。善良で仁義があり、誰からも好かれるような大団長がある日から突然、逆らえば何が起こるか分からない程の強大な力を持ち、気に食わなければ、その者を直ちに消す最低で最悪な独断者に成り果ててしまったのだという

…今更すぎるが、あの街以外にも街があったことに驚きだ。ディアベル曰く、それはかの大団長様とやらが仕組んだことらしい…1つの街と最高権力者が住まう都市だけしか世界がないと思わせれば、必然的にその街は最高権力者の元へと助けを求める。それが狙いなんだとか

―本来の世界は古王国地を除く5つの街や都市で構成されていて、そのうちにルーインやライブラなどが含まれている

 

ディアベル「そういえば、君たちはどうしてここにいるんだい?」

シン「この先にいるタナトスを倒す為だ。あんたと目的自体は同じだな」

ディアベル「そうか…なら、バーティーを組まないか?その方が効率的だし、お互いの利益に適うだろう?」

 

ディアベルはそう言って手を差し伸べた

俺はその手を、今度は殺さない…といった風に握った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SAO-dw時間…現在から数週間前

騎士団主要都市〈ライブラ〉

―――???side-―――

 

……この感覚…この匂い―俺は戻って来たのだと実感する

かつて自らが犯した正義を再びこの地で起こす。真っ当に生きるなどごめんだ…まずはここがどこなのか、自分の力を調べようとウィンドウ画面をシュッと出す

 

?(ちっ…レベルは前のままか…装備もあの時のまま…これじゃあ奴に勝てねぇなぁ…)

 

ふと落胆しかけた俺の視界端に映る誰かの姿。大柄で40代後半位のその男は、俺を見て大声をあげそうになるのをみて、俺は昔のようにそいつの後ろに回り込みその口を塞いだ

 

?「大人しくしてれば殺しはしねぇよ…さぁ、ここのことを教えて―ん?なんだこれ?」

 

俺は右手付近に出る赤いボタンをクリックするとその男はエフェクトと化し、俺の体にそのエフェクトが吸収されると、一気に膨大な量の情報が俺の脳内に入ってきた

 

?(くっ―なんなんだ…これ―)

 

脳にかかる処理が終わると、やっと状況を理解した。ここは現段階で世界を仕切っている最高権力者の主要都市で、さっきの男は大団長と呼ばれる最高権力者だった

そして俺が使った謎の力…《核吸収》というそのモノの力を自らのものとする最強の力だった。それを踏まえて俺はある1つの決断に至る

この世界に点在する6つの秘宝とやらを同じように、この体に吸収すればこの世界を完全に支配できる。それは、俺の希望であり、元々の世界を作った茅場に唯一勝つ手段なのだろう

 

?「この力…存分に使ってやる」

 

俺は大団長に代替わりして、騎士団を動かした

 

 

―全てのタナトスを討伐し、その核を俺に渡せ…あの男を完全に殺すために。

 

 




最後に登場した謎の男は、前回の最後に登場した男と同一人物です。少しだけネタバレすると、彼はSAO内にてラフィン・コフィンと関わっていた人物。残念ながら、ラフコフの最期には立ち会えなかったが、その意思は今もなお受け継いでいる

ディアベルについて
ディアデル・ナイティ。騎士団<青白騎士>。得意武器は片手剣
騎士団の数多い騎士の中でもその統率力と大団長を崇拝する力は群を抜いて一番だという。しかし最近は、大団長の突然の豹変ぶりに違和感を持ち始め、大団長の豹変の秘密を探っているようだが…



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15話 邪神・コボルドロード

投稿期間が空いてしまい申し訳ありません
今月中にもう一本投稿したいと思ってますので…


―それは邪神であり、かつて彼を消した獣である。赤く染まったその体には、巨大な斧とバックラーが。腰には鋭く研がれたタルワールが備わっている…がしかし。今回は何かが違う―そう。運命とは不規則的であるため、必ずしも前と同じとは限らないのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンside

 

ディアベルを仲間に加えた俺たちは、俺が以前来た祠へと足を踏み込んでいた。その祠の中は意外に深く、遺跡のようになっていて、第一層の迷宮区を思わせるような装飾、モンスターがポップしている

…しかし、どういうことなのだろうか。今ここにいるディアベルはあの頃のディアベルと本当にそっくりだ。茅場が言っていた"墓場"という意味が本当であったとしても、死者の蘇生はどんなことをしても不可能であり、どんなに時間が経ってもかなわない自然の摂理という奴だ

―そういえば、この遺跡…前に来た時よりでっかくなっている感じがするななどと考えていると、この祠の地図を手に持ったトルが口を開く

 

トル「もうすぐ例の部屋のようです」

ディアベル「よし、ここからは気を引き締めていくぞ」

マイ「はい!」

 

マイは綺麗な声を上げて返事をする

ちなみにだが、マイの得意武器は片手剣。実力は強くもないが弱くもないところであり、例えていうなら…ミナとヒカリを足して2で割ったような実力だ。だけど、被弾率というのはこのメンバーで1番少ない

そこに関しては、俺とかキリトよりも優れているといえるだろう

 

シン(…ミニマップがないぶん、これからの攻略は難しくなるだろうな……)

 

俺は、これからのことを考えながらもこの三人についていく。意外にモンスターはポップしないため、俺は別に安全面に気を遣う意味はない

 

シン「そういえば、ディアベル以外の騎士もタナトスに立ち向かっているのか?」

ディアベル「そうだね。俺を含めた5人の騎士が各地のタナトスを討伐しに行っている」

シン「そうか…もしだけど、教えられるならその人たちの名前を教えてくれないか?」

ディアベル「いいよ。えっーとまずは…」

 

ディアベルが言った5人の騎士はこうだ

―第1騎士・青白騎士ディアベル

―第2騎士・白百合騎士■■。その歌声は死した兵士をも鼓舞する心地よい歌である

―第3騎士・月夜騎士■■。長柄槍を得意とし、騎士団のみんなから信頼されている心優しい騎士

―第4騎士・中将騎士■■■■■。騎士の中では中将の位置に属する優れた統率力を持っている

―第5騎士・血盟騎士■■■■■■。全てに置いて最強と伝えられるほど、優れた統率力・戦闘力・判断力が誰にも劣らない

 

俺が知っている人もいれば、誰だか知らない人もいる。だけど、どこかで交わった可能性があるのかと思う

この世界…墓場となる世界で、名を馳せる者は何か特殊な自称でもあるのだろうか?

そんなことを考えていると、迷宮区おなじみ巨大な扉が現れた。これを開けばその奥の部屋にその層のボスがポップして戦闘が始まる…

―キィィィィィ…という軋む音と扉が地面を擦る重たい音が入り乱れて、扉が完全に開かれる。その先は真っ暗、一寸先は闇という言葉通りの空間が広がっていた

 

ディアベル「……何が来るんだ…?」

シン「気配がない?…まだポップしていないのか?」

 

その時、部屋の光が淡く光始めた。ようやく人の顔が見える程度に明るくなってくると、部屋の中心くらいの場所に一体のボスモンスターが水色のエフェクトと効果音と共に現れた。《イルファング・ザ・コボルドロード》HPゲージは二段。その姿は依然と変わらず―――と俺はその姿に違和感を感じた。

 

ディアベル「よし、行くぞぉぉぉぉ!!!」

トル「はい!!」

マイ「シンも行きますよ!」

シン「あ、あぁ」

 

俺達はうす暗い部屋を一気に駆け抜ける

ボスは俺たちに気づき、その手に持ったタルワールと斧を構えなおし、俺たちに突進し始める

―その時、ボスの後ろで何が光った。赤い…赤い…二つの閃光。そして恐怖を覚えるような低く、湿っけのある唸り声……そして…

 

シン「―っ?!みんな!下がれ!!」

 

猛烈な殺気と狂気を感じた俺は、みんなに呼びかけた

瞬間、目の前のボスがいきなり姿を消したのだ。それと同時にドスンという鈍い音と吹雪に匹敵する程の強風をこの身に浴びる。何事かと心から警戒するとやっと状況が読めた。先程までボスの後ろにいた何者かがボスのことを喰っていたのだ。ボスのHPゲージはみるみるうちに消失し、消滅エフェクトと共にそのボスの咆哮がこの空間に響き渡り、部屋の照明が活気を取り戻した

―俺たちの目の前に現れたのは血よりも赤く、常闇よりも深い体色をしている《イルファング・ザ・コボルドロード》だった。しかし、その頭上に表示されている名前は…

uawh:*+¥。:ip[kz;lcj・コボルドロード>

何かが、文字化けしていて読めないが、なんかやばそうな感じがその体からにじみ出ている

 

ディアベル「あれが……タナトス……」

シン「だろうな…武器は見たところ野太刀だけ。恐らく特殊攻撃持ちだろうな」

トル「いけるんでしょうか……」

シン「いや、行くんだよ。弱気になったら負ける。これは勝つ戦いだ」

 

俺は愛剣を構え直し、タナトスに突撃していく

剣を放たれた矢のように空を切る。その動きをシステムは認知し片手剣SS《ヴォーパルストライク》を発動させる

剣は何事もなくタナトスの身まで届くものの、与えられたダメージ量は、ミリに等しい

 

シン(なるほど…通常に攻撃するのはダメか…)

タナトス「ヴォォォォォォ!!!!!」

 

タナトスは手に持っている野太刀を俺に向かって振り下ろす

俺は軽く受け流し、片手剣SS《バーチカルスクエア》で対応するも、依然攻撃ダメージは不動。ソードスキルの硬直時間の短い間にどうしようか考えていると、タナトスが素早い動きをみせ、刀を振るった

―まずい!死ぬ!―と思ったその時、タナトスの野太刀は俺の頭上数cmで攻撃が緩んだ…

それは、タナトスの背後にディアベルがいて、何かしらのソードスキルを放っていたからのようだ

 

ディアベル「ふっ!危機一髪だったねっ!」

シン「済まない。恩に着る!」

ディアベル「いいさ!次、いくぞ!!」

 

駆け抜けていくディアベルの背を俺は追いかける

…と、タナトスのHPゲージを注目してみてみると、二割ほど減っている。俺がいくら攻撃しても減らなかったHPがどうしていきなり減ったのか…理由を考える

今、トルとマイが必死に攻撃しているが、一向に減っていないことから二人の攻撃が原因ではない。ということは、消去法でディアベルが関係していると考えられる

 

シン(だけど、この推理がほんとうかどうかは…)

ディアベル「くらえっ!!」

シン「……ビンゴだな」

 

ディアベルの攻撃と共に減っていくタナトスのHP。やはり俺の推理は間違ってなかったと息をつく

そしたらどうしようか…俺達三人でタナトスの攻撃をパリィしてディアベルとスイッチをする。これが一番良い攻略方法なのだろう。しかし、もっと他にもあるのではないかとか、考えてしまう…いや!これしかない!

 

シン「全員!タナトスの攻撃をパリィもしくは受け流し、ディアベルに攻撃させる隙を作れ!俺達の攻撃じゃ通用しないことが分かった!唯一の戦力がディアベルだ!」

ディアベル「へぇ…」

トル「了解しました!パリィ重視で行きます!」

マイ「わかった!何とかしてみるよ!」

 

各自一度タナトスから距離を取り、防御する陣形を取る

すると、タナトスはいきなり真上に飛び上がり、高速でディアベルに向かって突進していった

 

シン(旋車か??!!まずいぞ!!)

タナトス「グワァァァァァァ!!!」

シン「避けろ!ディアベル!!!」

 

ディアベルはその攻撃に対応できず、その一撃をその身に浴びる。俺はあの時の再来だ…と恐怖し、焦りを隠せない

―あの時の再来なら、次は緋扇だったか…浮舟だったか…だが、次は絶対に助けなければ!!!!

 

シン「せぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

俺はシステムを超えるような速さでタナトスに接近するも、僅かに奴の攻撃スピードに負け、ディアベルにその攻撃が当たる

ー叫び声を上げながら吹き飛ばされるディアベル。俺は接近する目標を変更し、ディアベルへと向かっていった

 

シン「マイ!トル!サポート頼む!!」

2人「「任せて!」」

 

2人は一生懸命タナトスのヘイトを集め、俺の方に攻撃が来ないようにする

俺はディアベルへと近づき、必死に回復結晶を使用するとするも、その行為をディアベルが拒んだ

 

シン「…どうして?」

ディアベル「ー思い出したんだ…さっき奴の攻撃を受けた時に。お久しぶりですね…シンさん」

シン「ディア…ベル?」

ディアベル「俺が死んでから…2年は経っている…無事、彼と共にこのゲームをクリアしてくれたこと…ありがたく思ってるよ」

 

今喋っているディアベルはさっきまで戦っていたディアベルとはどこか違う…死んでから?ありがたく思ってる?…混乱する俺を置いて彼はまた口を開いた

 

ディアベル「…俺は…死ななければならない…運命は…変えられない」

シン「何言って…」

ディアベル「だって…ここで生き返っても、俺の本体は死んでいるんだ。なら…最後にこの言葉をかけようじゃないか」

 

弱々しく話すディアベルに、俺はかつてのディアベルを合わせて考えてしまう。ここで彼は……

 

ディアベル『君たちなら…託せる…ボスを…必ず倒し…て…』

シン「!!ディアベル!!」

 

かつて言えなかった言葉を最後に、消失エフェクトと共にディアベルはこの世界から去った。カランカラン…と地面に落ちる彼の剣の音は、どこか希望に溢れているような気がした

 

 



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16話 意思

去年中にもう一話くらい出したいと思っていた時期が私にもありました。そう思い始めて気づけば一カ月を超えていて…UAも10,000を超えていて…
いつも見てくださる方々やふらっと見に来てくれた方々には本当に感謝しかありません。これからは、更新頻度を高められるように善処すますのでこれからもどうぞよろしくお願いします


今回終盤、多機能フォームを多用しています。


…意志の力というのは侮れない。死してもなお、その力は誰かによって受け継がれる。その誰かというのは、彼が定めるものでは無く、彼の意志を継ごうとする者である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンside

 

彼が死んだ…またもや俺の目の前で

―助けられなかった。もっと早く気づいていれば…自分は誰も助けられないのか…と自分を責めてしまう。今度は殺さないと心で誓ったはずなのに…こんな時…キリトなら…どう立ち直るんだ?

その時、どこからか心地の良い音が聞こえ始める

 

?「…♪〜♪〜♪」

シン「…歌?一体どこから…」

 

俺は音の発生源をしろうと、ボスの部屋に入る扉を見ると、そこには1人の少女が立っていた。全体的に白い身なりの少女は楽器を持っていて、その子が心地の良い歌声を発しているのだと理解できた

―その歌声を聞いていると、なんだか心が安らぎ、自分のすべきことがわかった気がする

 

シン(そうだ…俺がすべきなのは…彼の意志を継ぐこと!)

 

地面に落ち、冷えた彼の剣を手に取る。アイテム名は《白青の心》。

 

シン「…絶対に勝ってやるぞ…ディアベル!」

 

俺は自分の剣をしまって彼の心を装備し、今交戦している2人に声をかける。隙を作ってくれ、スイッチ入るーと

その言葉が上手く届いたのか、2人は上手い感じにパリィし、俺に攻撃の隙を与えてくれた。俺はその隙を逃さず、いつもより早く敵の懐に飛び込む

 

シン「はぁぁぁぁぁ!!」

 

奴の腹にホリゾンタルアークを決め込む。するとどういう訳か奴のHPゲージがみるみるうちに減っていく。ディアベルの攻撃しか通らなかった攻撃が、今は俺の攻撃でも通る。この剣ーディアベルの剣だからだろうか?

だが俺はそんなことを考える暇なく、次々にスキルを繋げていく

 

シン「まだ…まだ入るッ!!」

トル「シン様!」

マイ「シンさん!」

 

みんなの声が聞こえる。俺は無造作に奴の身をこの剣で斬りまくる。バーチカルアーク、スネークバイトと様々なスキルを使っていくうちに、この剣の変化に気づく。灰色だった剣が青銅色に変化し、常時スキルのエフェクトが出るようになっていた

 

タナトス「グァァァッ!!」

シン「っ……どこに…」

?『ーー上だーー』

 

どこからともなく聞こえてくる人の声に従い、上を見上げると、そこにはタナトスがカタナSS《旋車》を発動していた

ー声が聞こえてなかったら確実にくらっていた一撃をその剣で受け止める。重たい金属音が部屋中に鳴り響き、空気を震わせる。タナトスは剣だけでなく、その体重をその剣にのせ、俺を潰そうとする。何とかして、この剣をどかさないと、確実にゲームオーバーだろう

 

シン「ぐっ…あがっ……」

?『ーー俺が助ける。シンさんーー』

 

またさっきと同じ声が聞こえると同時に剣にかかる力が和らいだ。この隙にー!と俺はタナトスの剣を吹き飛ばす

吹き飛ばされたタナトスはくるりと宙をまい、体制を整える…が、その行動には前までの奴とは比べ程にならないほど隙だらけであった

 

シン「ここで決めるッ!!!」

?『――君は――』

 

スキル発動音が耳に入ると、俺はシステムアシストに身を任せる

 

シン「終わりだぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

?『―必ずこの世界もクリアできる――』

 

俺が放った最後の一撃は、タナトスの心臓部に直撃すると共に、タナトスのHPゲージを完全に消失させた

俺の目の前に勝利を意味するリザルトウィンドウが表示される。それと同時に俺の体は夏場の氷のように崩れ落ちた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シン「…ん…」

 

目を開くと、そこには俺の顔を覗くように見るマイやトルの姿があった。背中に伝わる冷たい感覚や頭に伝わる柔らかい感覚からして、俺は膝枕されているのだとわかった

 

トル「シン様、いきなり倒れて…とっても心配したんですから!」

マイ「もしかしたら死んじゃうかもって…心配したの!」

シン「…すまなかったな…」

 

俺はトルの膝から離れ、二人の頭を感謝の気持ちで撫でたあと、自分のHPをポーションで回復する

味は相変わらず不味いがしかし、不思議なことにHP回復量が異常な程に増えているのに気がついた。ぼんやりして2本使ってしまったのかと思い数を確認するが、数に変化はない

―するとまたも心地の良い音が空気を伝わる。戦闘中にみた人だろうかと思い辺りを見渡すと、例の少々がこちらに近づいてきていた

 

?「良かった…無事みたいですね」

シン「お気遣いありがとう。君は…?」

ユナ「私は白百合騎士"ユナ"。癒しの姫とか楽園の歌姫とか呼ばれているの」

シン「ユナ――」

 

俺は一生懸命に記憶を辿る

かつてアインクラッド内部で噂になっていた人がいた。そのプレイヤーはいつも同じ場所で歌を歌っているとの事。その声は疲労しきった攻略組の心を癒したんだとか?確かそのプレイヤーの名前もユナだった気がする

 

そういえば戦闘中、この子の歌声を聞いて勇気が出た。俺は感謝しようと立ち上がろうとすると、手に冷たい何かが触れる

それは剣だった。彼がーディアベルが使っていた一振の剣。それと同時に彼女に申し訳なさを感じた

 

シン「あ…その…すまなかった。ディアベルを助けられなくて」

ユナ「謝らないでください。灯火はいつか消える。それは彼も同じ考えだと思います」

シン「でも―」

ユナ「―彼は―」

 

ユナは俺の声を遮るようにして静かに話す

 

ユナ「―彼はあなたに剣を残した。希望という剣を――あなたに授けたんです」

シン「――――」

ユナ「だったら…あなたは彼の意志を継ぐべきじゃないですか?彼の意志を繋いで――彼が生きていたことを後世に伝えるべきです」

 

ユナの言葉はすごく俺の胸に刺さる

―そうだ。俺は彼から託されたんだ。ボスを倒してくれって。それはさっきのボスだけでは無い。この世界―いや、このゲームのラスボスを倒すまでそれは終わらないだろう

 

シン「ありがとう、ユナ。お陰様で俺のすべきことがわかった」

ユナ「それは良かった。では、私からあなたに頼みたいことがあります」

トル「白百騎士様からの依頼ですか?」

ユナ「はい。ここから北の方にフェアウェルの泉という地があります。そこの地下遺跡に邪神(タナトス)が封印されており、私は月夜騎士と共に秘宝の回収任務を執行していましたが…」

 

その月夜騎士とやらが足を踏み外して奈落に落ちてしまったそうだ。幸い命に別状はないらしいが、はぐれてしまってどうにもならない状況に陥り、自分の力だけではどうしようにもないと思ったためディアベルに助けを乞いにきた―が、そのディアベルはさきほどの戦いで死亡し、その戦いでディアベルの意思を継いだ(シン)に頼みを乞うことにした

というのがことの顛末のようだ

 

ユナ「ですので…お願いします。彼女を…私の親友を助けて―」

シン「―よし、今すぐ出発だ」

マイ「えぇ、いきましょ!」

 

俺たちは休憩する暇なく次なる目標地へと足を進めることにした。彼女の親友を助けるために

疲労しきった体に鞭を打ち、力を込めて立ち上がると、ディアベルの剣をサブウェポンにセットしておく。またいつ攻撃ダメージ不可のモンスターが出てくるか変わらない。念の為ーというのもあるが、ディアベルの意志を簡単には手放したくないというのが本心だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

か?trFkkB0「.?,.89¥。/.<^stik side

 

実験報告

無事、case1が終了。プレイヤーsin、case2へと移行中。プレイヤーg@7co,、¥&:.p、以前〈ライブラ〉から動せず

異質確認。排除確率…不可。異質はプレイヤーxitdx"*;? 'に寄生していると仮定。異質測定……完了。プログラムエッグと測定。完全に羽化した場合、エラーになる確率98%。現時点での排除手段はなし

茅場晶彦の残留意識、プレイヤーsinが1/6回収。世界を再構築する可能性、0.0000008%。稼働したとしても世界を再構築する可能性はなし

メインプログラム、2ー65ー9032ーpにてエラー発生。至急、問題箇所を確認。修正プログラム構築………デバック完了、修正プログラムに問題箇所なし、エラー箇所へ書き込み開始………完了。エラー箇所0。再起動後、エラー箇所のビルドアップを開始。ビルドアップ完了。エラー箇所、無事修正完了

 

?(…廃棄された世界じゃ正常に動くことはまずない。エラーが出るのは当たり前けど、彼が残してくれたTheLeafが対応してくれるーーねぇ、シン。貴方がこの世界をクリアするまで…私は貴方を守ってるからね)

 

 

AI BS「」h退....

 

 



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17話 動き出す二つの世界

今回は現実世界の要素として大半です


―心まで受けた感動や心が動いた出来事は、魂に刻まれている。その身が朽ちてもまだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――月夜騎士side―――

 

―気づいた時には私は、天井を眺めていた。最後の記憶にあるのは、確か白百合騎士と共に地下遺跡に秘宝を回収しに来ていた…そして…彼女を守るためにモンスターのヘイトを集め、モンスターと共に崖から落ちた…

 

??「いたたた…」

 

体のあちこちが悲鳴をあげる。崖から落下した時に体を強く打ったのだろう。幸い致命傷には至っていないが、体に残ったこの倦怠感は当分消えることがないだろう

―体を起こし周りを見渡すと、ここが遺跡の一部屋だということが分かった。四方に隣の部屋と隣接するアーチのようなものがあり、私はその部屋の真ん中にいた。ここは不幸中の幸いか、付近に敵は居らず、このあたり一帯は安全地帯のようだ。私は傷ついた体をじっくりと休めるために遺跡の壁に寄りかかろうとしたその時…たけましいほどのアラート音がこの遺跡内に響き渡る

 

??「しまった…」

 

遠くから大量のモンスターがこちらに向かってきているような音が聞こえてくる。私は、このままでは命の保証がないと思い、自分の体に鞭を打ち、この場から逃げようとすると真後ろから気配を感じて背筋が凍る。振り返るとそこには、大きな鎌を持ち、黒っぽいボロローブを着た巨大なモンスターが、こちらの方を見て佇んでいた

 

??「あ、あ、あ…」

 

私は恐怖に押しつぶされ、声が出ない

何が一番恐怖心を掻き立てるのかというと、モンスターの四段あるHPゲージが夏の蜃気楼のようにブレてその輪郭がはっきりと見えないことが一番怖い。こんなことは今までに一度も経験したことがない。それに加え、あの大きな鎌や深くかぶったフードの隙間から見えるヒビが入った頭蓋骨がより一層恐怖心を掻き立てる

―時間は刻々と過ぎていく。徐々にモンスターが迫ってくる音も聞こえてくる

 

??(ユナちゃん…私、もうだめかも…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――シンside――

 

静かな森の中心であろう場所に、例の泉があった。泉の規模はそこまで大きくない。例えるなら、学校の教室より少し小さい程度だ。木々の隙間から太陽の光が差し込み、泉の中央あたりに差し込み透き通った泉の水見反射することで幻想的な景色を作り上げている

 

ユナ「…行きましょう」

トル「行くってどちらへ?見たところ、地下への階段や洞窟は見られませんが…」

シン(―――まさかね…でもあの泉に飛び込むとしか考えられないよな…)

ユナ「あの泉の中心に飛び込むんです。そうすれば、地下遺跡に行けます」

 

俺の予想は的中した。SAOではあまりこのようなダンジョンは見かけなかった。俺がダンジョンにあまり挑戦しなかったこともあるだろうが、少なくとも湖の中に飛ぶこむなんてことしたことがない。したところで体が濡れるだけだし、意味がなかったからな

と、俺は何かが動く気配を感じ警戒態勢に入る

―行きましょう。と呟くユナめがけてモンスターが突進してきた。俺は咄嗟に剣を構え、ユナに向かってくるモンスターの攻撃を防ぐ。辺りを見渡すと、2・3匹のウルフ型のモンスターが俺たちを囲むようにしてそこにいたのだった

 

シン「囲まれているな…」

ユナ「こんな時に…」

シン「俺が最後に行く。みんなは早く飛び込め!」

マイ「シン一人じゃたいへ―」

シン「この程度の数、俺一人で何とかなる。心配はいらないさ」

 

マイはどこか腑に落ちない様子だったが、トルやユナと共に泉の中心部へと飛び込んでいった

俺もすぐに―とはいかない。このまま放置するのもよいことなのだろうが、戻ってきたときに面倒なことになる可能性もあるため、排除することが得策であると考えた俺はモンスターの群れに向かって行く

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後

 

俺はモンスターを一掃したあと、ダンジョンに入るための準備をしていた。マイたちはジャンプして飛び込んでいたが、俺も損か感じで飛び込んでよいのかと、いろいろと考えてしまう

いつもダンジョンに行くときは、何かしらのフラグが立たなければ行くことができないのがセオリーというものだ。例をあげるとすると、迷宮区なんかが分かりやすい例だろう。前層の迷宮区をクリアしなければ次の迷宮区もクリアできない。当たり前のようだが、これだって一つのフラグだ。前層の迷宮区をクリアしていないのに、突然次層の迷宮区をクリア――というか、挑戦すらできないだろう

 

シン「…本当に大丈夫だよな?」

 

不安になった俺に突然背中から衝撃が走る。泉に体を向けていた俺にはどうすることもできず、その衝撃に流されるようにして泉の中心へと落ちて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――か?trFkkB0「.?,.89¥。/.<^stik side――

 

・エラー発生。エラー発生。サイト2-56にて、エラーエンティティ74が出現。現在、サイト2-56にエラーエンティティ12とエラーエンティティ01及びエラーエンティティ74在留。世界崩壊確率200%。Theleafで修復…不可

対抗策、現時点でなし

 

?(―うそ…そんなこと…一つの場所に三体のエラーエンティティが同時に在留するんなんて…一体だけでも相当危険なのに…シン―)

 

私は彼にこの世界をクリアさせることを第一目標としているが、この状況は非常にまずい。下手したらこの世界――いや、これまでソードアートオンラインで戦ってきた幾千もの戦士が生きた証さえ消えてしまう可能性がある。それは私が"交わした契約"に反してしまう。彼らが生きた証を残し、それをなかったことにしないということが最低条件であった

―考えろ…考えろ…と頭の中でいろんなことを思考するが、どれも失敗に終わる結果になってしまう。なんに敵の数が多い。エラーエンティティ三体を三人で攻略することは無謀としか言えない

 

?(…この手は最大限使いたくなかった――けど、これしか未来がない)カタカタ…

 

私は特定の人に向けてダイレクトメールを送る。そして、この世界に加入できる権限を添付し、その人々がこの世界を救ってくれることを願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現代

 

―ヒカリside――――

 

ヒカリ「…ふう」

 

カチカチとなる時計に合わせて私は1つため息をつく

目の前に広げられているパソコンでの仕事が完了したのを境に時計をチラ見すれば、日付が変わっていて多少気が滅入ってしまう

―12月22日を越えて23日になってしまった。私は彼との約束が待ち遠しくなり、今からその準備を始めようとクローゼットを開ける

 

ヒカリ「あ…」

 

そこにしまってあったのは、2年間私を拘束していた《ナーヴギア》が無造作に放置されていた

 

ヒカリ「私…幸運だったのかな…?」

 

私が臨時講師として活躍できたのも、こうやって生きているのも全てはこのナーヴギアが無ければ始まらなかった

彼と出会って…彼に関わる全ての人と出会わなければ、私はこんな感情にはなっていなかったのだろう。少なくとも、私は幸運だと感じている

 

ヒカリ「……シン。彼は今も…」

 

SAOの朽ちた世界にダイブしている。なんのためなのだろうか…茅場晶彦からの頼みらしいが、それを素直に受ける必要が有るのだろうか?

あの世界の骸に行く必要があるのだろうか?可能性的には…

 

ヒカリ「…分からない。何か残したことがあるの?」

 

私は冷たくなったナーヴギアを手で優しく撫でた

…その直後、私のスマホが着信音と共に細かく揺れる。私はスマホに入ってきたメールをみた途端、我を忘れそうになった

 

ヒカリ「う、うそ…」

 

そのメールの送信者は、彼のスマホにも受信されたメールと同じ送信者だった

―ヒースクリフ。血盟騎士団団長にて、SAOをデスゲームと化した張本人、茅場晶彦からのメールなのだ。詳しい事情は分からない。だが、彼は数週間前に亡くなっているとシンの口から聞いているのだが、このメールは本当にヒースクリフなのかが分からない

 

『―月華よ、私を覚えているかな?君が考えていることは分かる。私が本当にヒースクリフなのか…だろう?もちろん、本物だとも。唐突だが君に頼みたいことがある。紛れもない(シン君)のことだ。

―初めは彼一人だけに頼もうと思っていたのだがね。事態は急を要する事柄なのだ―――』

ヒカリ「事態は急を要する…?」

『―私が作った世界…すなわちソードアートオンライン。キリト君にて攻略されたその世界だが、シン君は今もその中にいる。朽ちた世界にて、あの世界で死した人々の弔いをしているのだ』

ヒカリ「怪しい…だけど、シンがあの世界に行くってことは誰にも知られてないことだし…」

 

非常に怪しかったものの、彼でなければ知らない情報が沢山あった

そのひとつが"月華(げっか)"という呼び名だ。あの呼び名は、かつてヒースクリフ本人から時々呼ぼれていた呼び名だ。通り名としてその名は通っていたのだが、対面してその呼び名を言う人は、彼しかいなかった

―ピピピピピ…と再びスマホの着信音が鳴り響く。今度はメールではなく電話であった。スマホに映し出された人の名前を見ると、そこには《水瀬美奈》と書かれていた

 

ヒカリ「…こんな遅くにどうしたのかしら…はい、麗奈です」

ミナ「あ、ヒカ…麗奈先生、夜分遅くごめんなさい…少しご相談があって…」

ヒカリ「相談?もしかして…さっきヒースクリフからメールでもきた?」

 

私がそう答えると、ミナは驚きを隠せないでいた。彼女が連絡してきた理由はそのメールが本物かどうか分からないし、どうすればいいのか分からないから相談しよう。との事だった。実際、私もどうしたらいいかわかっていない

 

ミナ「これを信じて、再びナーヴギアを被ったとして…もしこれがガセメールで、本物じゃなかったら…」

ヒカリ「いえ、その場合は大丈夫のはずよ。もうSAOには入ることができないことはシンが検証していたわ」

ミナ「なら良かった~じゃあなんでこんなメールが…」

ヒカリ「―SAOはもう崩壊した。だけど、その崩壊した世界にシンがいるってのは見たよね?嘘みたいな話だけど、シンからSAOの朽ちた世界に行くって聞いているの。だから―――あっちの世界で、何かあったんじゃないかしら?

 

事態は急を要すると、メールには書いてあった。私の勝手な想像だが、彼があの世界で何か危険なことになっているのではないかと考えてしまうと心配で心配でたまらなくなる。それに日曜日は彼とデートする約束になっている。もし、その想像が本当だとしたら、彼は―――――

 

私は居てもたってもいられなくなり、スマホをベットに放り投げ、再びナーブギアへを手を伸ばす

 

ミナ「ちょ―――麗奈先生?!どうかしたんですか?!なにか大きな物音がしましたけど…」

ヒカリ「私は行くわよミナ。再びあの世界に」

ミナ「行くって…まさか麗奈先生、あのメールを信じるんですか?!あの疑わしいメールを?!」

ヒカリ「私は――私は幾度となく彼に助けられてきたわ。《紅の月》の時から今日にいたるまで、たくさん勇気を与えられてきた…だから私は今日、今までの恩を全部返すわ」

ミナ「ヒカリ―――わかった。私もシンに恩返しする」

 

ミナも私の気持ちを理解してくれたようで、彼女もナーブギアを被る音が聞こえる

 

ヒカリ「じゃ、行くわよ」

ミナ「はい!それじゃ…」

二人「「リンクスタート!!!」」

 

私たちは再びあの世界へとダイブした

いつも助けてもらっている彼に最大限の恩返しをするために

 




エラーエンティティとは、シンたちがタナトスと称しているモノと等しいものです。正式名称としてはエラーエンティティですが、あの世界に住む人々はタナトスと称しています。

SAOにはもう入れない
事実上、SAOと呼ばれるものにはログインすることができません。すでにSAOのサーバーは茅場晶彦及びカーディナルによって消去されています…というのが常人が想像できる最大の範囲です。ですが実際は、アカウントがサーバーにログインするための権限が無くなっただけです。SAO-dwはそのログイン権限がなくなったあとのSAOなので、普通ならその世界に干渉することは不可能です
ただ、管理者権限によってログイン権限の復活を指示することにより、権限復活したプレイヤーはログイン可能になります


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18話 心を惑わす迷宮

―――マイside―――

 

マイ「…来ない」

 

私は水のように蠢く地下遺跡の壁をみて言葉を漏らす

待てど暮らせど彼は一向にくる気配がない。心配するなとは言っていたものの、やはり心配になる

 

ユナ「彼は心配はないとは言っていましたが、やはり心配ですね」

トル「シン様…大丈夫でしょうか…いくら何でも遅すぎる気がしますが―」

 

トルが言い終わる瞬間に遺跡の壁が雷光のように光り輝く。それと同時に、壁の動きが停止した

―もしやと思い、壁を触れてみると、先ほどまで水のように触れることのできたはずの壁が、岩盤とも鋼鉄ともいえる硬さになっていた

 

ユナ「まさか…でも今までそんなことなかったのに…」

トル「どうなってしまったのですか?」

ユナ「恐らく…もうあっちの世界には戻れないかもしれません。あちらからも…」

トル「そんな――じゃあシン様は…」

マイ「シンなら…彼ならきっと大丈夫。きっと私たちに追いつくよ」

 

私はどこからか湧いてくるかれなら大丈夫という感情を信じ、この先を進むことにした。当然二人はわからないといった表情だったが、まぁいいかといったというような感じで私についてきた

 

 

 

しばらく経ち、ユナはここです―と例の騎士とはぐれた場所を指さす。そこは奈落まで続くかと思われる漆黒の闇が広がっていて、確かに誰かが滑落した形跡が残っていた。少なくとも下の方に明かりは見えない。ユナは焦ったようにここから飛び降りようとする。私たちはそんなユナを急いで静止させ、落ち着かせる

 

マイ「私たちまで飛び降りちゃったら、帰路が分からなくなっちゃうわ。私たちは正規ルートで行きましょう」

ユナ「でも…この穴の最深部がこの遺跡につながってなかったら…私は…」

トル「―真偽はわかりませんが、ここからものを落としてみませんか?そうすれば、遺跡とつながっているのであれば、落ちていることでしょう」

ユナ「…そうですね…なら―」

 

ユナは懐から一凛の白い花を取り出し、そこの見えない穴へ落とす。キラキラと光の粉を散らし、光り輝きながら落下していく

 

ユナ「…行きましょう。心配ですが…」

マイ「きっと届いていますよ。さ、行きましょう」

 

私たちは進んだ。助けなくてはならないユナの親友に出会うために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――シンside――――

 

シン「うわぁぁぁぁぁっ!!!」

 

何者かに攻撃を受けた反動で泉にダイブしてしまったようで、俺は反動を殺しきれず、徐々に地面が迫ってくる

 

シン「いでッ!!!」

 

俺は受け身を取ることができずに頭から地面にぶつかる。幸いなことにダメージは入らなかったが、顔が痛む。数値的なダメージではない精神的なダメージを受けた

突然なこととはいえ、ものすごく恥ずかしい。誰もいないけど恥ずかしい…

気を取り直して立ち上がり、あたりを見渡してみるが、あたりにはマイやトルはそこにはいなかった。先に行ってしまったのかと思い、追跡スキルを発動してマイの足跡を見ようとするが…どこにも形跡はなかった。それどころか、ユナから聞いた話とは少し違った。遺跡と聞いていたのに、遺跡というより洞窟のような自然的な内装だ。例を挙げると。第74層の迷宮区とどこか似ているところがある

 

シン「場所間違ったのか…じゃ、いったん戻って――」

 

俺は後ろを振り向くが、そこには何もなかった。普通のダンジョンであれば入ってきたところには、ダンジョンの入り口となる扉やら結晶やらあるのだが、俺の前には空虚である。透明だが存在している可能性もある。俺はそれも試したが、そこには何もない。ダンジョンの真ん中に放置されているという表現が一番この状況にあっている

 

シン「おいおい…マジかよ…マイたちとはぐれただけじゃなく、訳の分からないダンジョンのなかに放置とか…最悪すぎんだろ…」

 

落胆している俺の耳にモンスターの咆哮が聞こえた。それだけでなく、数多のモンスターが移動しているような足音…音は俺から見て正面の道から聞こえてくる。普段であれば無視するのだが、ユナが言っていた親友の騎士とやらが襲われている可能性がある。とにかく行ってみないとわからないため、俺は音のした方向へ歩いていくことにした

 

 

 

 

 

 

数分後

 

シン(…ここから先、洞窟から遺跡にかわってるな…)

 

音は鳴りやまず、その遺跡の内部から響き渡っている。耳を澄ませば、金属がぶつかるような音もかすかに聞こえる。いや、正確には、金属系の武器が地面や壁に当たる音の方が正しいだろう。そこから推察すると…誰かが逃げている、もしくは戦っていると考えられる

 

シン「急ぐか…」

 

俺は音源へと全速力で走る

―タッタッタッタっ…と走る俺の音と同時に、音は徐々に近づいている。遺跡は迷宮区のように複雑で道を間違えば、面倒なことになりそうなほど広い。だが、俺は確信している。次の十字路を左に曲がったら音を発している元凶が現れると

 

シン「ここか―――!!」

 

勢いよく角から飛び出すと、そこには数十メートルにもなる巨大なモンスターと、そのモンスターに襲われている槍を持った女性がいた。女性のHPゲージを確認すると、レッドゲージに陥っていて、危険な状況だった

巨大なモンスターは、ボロいローブのようなものを纏っていて、その手には巨大な鎌があった。モンスターネームは―

 

シン「《The Fatalscythe》…ボス―なのか?」

フェイタルサイス「――――――――」

シン(まずい――!!)

 

ボスは言葉に表せない咆哮をあげ、大きく鎌を振り上げる。俺は咄嗟に駆け出し、その攻撃を剣で受ける

―キィィィィン…と高い金属音と共に、俺の体に大岩でも持ち上げているような重さがのしかかる。しかし、それは大岩ではなく、ボスの攻撃なのだ。HPも最大だったはずが、イエローゾーンまで減っている。ただ防御しただけなのに、ここまで減るなんて考えられない

俺は精一杯の力を振り絞り、攻撃を跳ね返す

 

?「あ、あの―」

シン「大丈夫――だったか――?」

?「はい…すみませ―」

シン「謝らなくていい。今は逃げることに意識を向けろ!」

 

俺は剣を鞘に納め、彼女の手を引いてボスから距離をとる。このままでは、死は免れないと思った俺は逃げることにしたのだ。情けない話だが…あれはキリトだとしても倒せる代物ではないと思う…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは逃げに逃げて、近くの部屋に逃げ込んだ

 

シン「はぁ…はぁ…追ってきてないな…」

?「あの、助けてくれてありがとうございます」

シン「いいさ、あのまま見捨てることはできなかったし。はい、これ使って」

 

回復薬を彼女に渡すと同時に俺も回復薬を使用する

 

サチ「助かりました…私は月夜騎士サチです。あなたは…」

シン「俺はシン―って!月夜騎士っていったか?!」

サチ「はい?確かにそう言いましたが…どうしてです?」

シン「君の友人から助けて欲しいって依頼を受けていてね…ここに来たんだよ。生憎、その友人とははぐれちまったんだが…」

 

当初の目標としては完了。あとは…無事に脱出するだけとなった

―と言いたいのだが、あんなボスがうろちょろしていては逃げれるものも逃げれなくなるだろう。タナトスがいるのなら勝って帰りたいものだが、ひとまず先送りにすることにする

どうやって帰還するか考えていると、サチが俺に質問してくる

 

サチ「あの…依頼をしてきた友人というのは、ユナちゃんですか?」

シン「ん?そう」

サチ「そうですか―よかった無事なんですね?」

シン「あぁ無事だぞ。…俺も少し彼女のことについて聞いていいか?」

サチ「私が答えられる範囲なら」

 

俺は彼女の"歌"のことについて聞いてみることにした

 

シン「彼女のその…歌について何か知らないか?彼女の歌を聞いているとなんだか…回復したり、強くなったような感じになるんだ」

サチ「ユナちゃんは"吟唱"スキルを習得しています。吟唱は回復や身体強化等のバフ、敵モンスターの防御力低下などのデバフを与える効果があるそうです。吟唱スキルは他の誰にも習得できるものではありません。どういう経緯で手に入れたのかはわかりませんが…一つ言えるのは、彼女の夢が関係していると思います」

シン「つまりはユニークスキルってことか…その夢ってのは?」

サチ「ユナちゃんはずっと『大きな舞台で歌いたい。そしてみんなが私の歌を聞いて元気になった姿を見たい』そういってました。私も、ユナちゃんの声を聴いていると安心するし、何より元気が出るんです」

 

確かに彼女の歌声を聞いたとき、自分がすべきことがはっきりとした。それはシステム的な効果ではないことは明らかだろう。吟唱というユニークスキル以外にも、彼女だけの特別なユニークスキルというものがあるのではないか、それはシステムが生み出した単なる数値の配列ではなく、彼女自身の――現実の彼女の意思が反映されているのではないかと予想してしまう

―キリトもその一例に当てはまるだろう。彼は気づいてはいないと思うが、二刀流というユニークスキルの他にもたくさんのスキル(ちから)を備えている。例えるなら、仲間を集う力。論理的に思考し行動する力。仲間を見捨てないという力もあるだろう

 

するとその時、天井から白い花のようなものがゆらりと舞い落ちてきた。みればそれはユリのような花で、とてもきれいであった。ふと、隣を見るとサチがその花に驚いたように凝視すしていた

 

シン「どうかしたのか?」

サチ「あれは…ユナちゃんの花です!きっと私に心配をかけないように落としてくれたんだと思います!」

 

バッっと立ち上がるサチを俺は止める

 

サチ「何をするんですか!?私はあれを――」

シン「しっ…何かがこっちに近づい――」

 

俺が言い終わる前にそいつは現れた。ポップ(出現)という意味ではない。そいつは地面から現れたのだ。黒く大きな牙と2本の立派な角を生やした猪のようなモンスター…体長はおよそ3m弱。その瞳から発生られる赤い眼力は計り知れないものを魅せている…だがそいつは"絶対にそこにはいないはず"のモンスターであった

―三段のHPゲージ。文字化けしているがそいつの名前の初めに冠詞が付いている…ということはこいつはボスだ。同じダンジョン内に二種類のボスなどありえない…しかもこいつは―――!!

 

シン「The・hatredroar(憎しみの咆哮)…お前は23層のダンジョンボスのはず!!!」

 

そう。俺は一度こいつと対峙している。ヒカリ救出作戦の時だ。俺はレイと名乗る少女の力を借りつつかつことができたが、強敵と言っても過言ではない強さだった

 

ヘイトレッド「モォォォォォォッ!!!!!!」

シン「ちっ…サチ!そこに隠れていてくれ!はぁぁぁぁっ!」

 

俺は戦闘を開始した。あのときの経験からするにこいつからは走っても逃げきれないだろうと確信し、俺は剣を抜くしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――サチside――

 

恐怖。私は今、目の前の敵に恐怖をしている。死ぬかもしれない恐怖。怖くて…武器も握れなくなって…すべてから逃げ出したいこの感情は何なのだろうか。私は騎士なのだと自分に言い聞かせてもそれを上塗りするかのように恐怖が押し寄せてくる

(シン)はどうしてあんなに怖いものと対峙できるのだろうか。異国の剣士は普段から恐怖と戦う訓練でもしているのだろうか。私は恐怖でどうしようにもならないくらい震えている

 

シン「はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

彼が繰り出す見たことのない技。そして頼りになるその背中から私は誰かを思いだす

その人は黒くて…片手剣使いで…"私たち"に本当のレベルを隠して手伝ってくれたあの人。今みたいな恐怖に押しつぶれそうなときに優しい声をかけてくれたっけ…私がすべて逃げ出したくなって町の人目のつかないところに隠れても見つけ出してくれたあの人…名前は―――

 

シン「くっ…"君を死なせない"!!」

 

勢いよく突進してきたモンスターの攻撃を剣で防いだ彼は振り向いてそういった。その顔と私が思いだそうとしていた人の容姿が合致する

 

サチ「キ…リト…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ユナside―――

 

ユナ「♪~♪~♪」

マイ「ありがとうユナちゃん!」

 

私の歌声でマイは体力を回復した。しかし、その反動で、私の方に敵のヘイトが向いてしまう…

 

トル「はぁっ!!ユナ様には近づけさせません!」

ユナ「ありがとうトル。それじゃ、仕上げと行きますよ!」

 

ポロン…と私の愛用している楽器を奏でると、私の周りに音符や五線が出現する。その音符や五線は心地の良い曲を演奏し、私はそれに声を合わせる

―あぁ。いつからだろうかと私は懐かしむ気持ちになる。この力を手に入れた時は嬉しくて嬉しくてたまらなくなった。だけど、使えば使うほど何かを忘れているような感情になって不安になる。何を忘れているのかはわからない。だけど、私はやらなくちゃいけない気になって…誰かにこの歌を伝えなくちゃいけない気がする。それは私の夢とは違い、誰か"一人のため"に歌わなくてはならない

 

マイ「ふっ!!!!」

モンスター「―――――…」

マイ「ふう…助かったわユナちゃん!」

ユナ「―……」

 

誰なのかもわからないその人は…一体どこにいるのだろう…

 

マイ「ユナちゃん?」

ユナ「―へぁ?は、はい?!なんですか?」

マイ「いや、なんかすっごくぼーっとしてたからどうしたのかなって思って。なにか悩み事?私で良ければ話聞くよ?」

ユナ「…すこし考え事をしていました。私の力に関してです

この力はある日突然生まれました。それもなんの前触れもなくです。日課の歌声練習を行っていた時に、発現したのでしょう。当時は喉の通が良くなったな~としか思ってませんでした。ですが、それからというもの私が日課を行うたびに私の歌を聞きに来る人が増えてきたんです。初めは父や母でしたが、次第に私の村の人々…隣の村の人々…と増えて行ったんです」

トル「ユナ様って村の出身なんですか?」

ユナ「えぇそうです。のどかな農村で…今はもうないんです」

 

私が騎士団に入るのと同時に村はタナトスに襲われた。だからもうない

 

トル「それは…失礼しました…」

ユナ「いいんですよ。私はこれからもその村があったことを歌にのせて語りますから。私の歌の力には不思議なのもがあります。治癒能力をはじめとした回復や敵モンスターの防御力低下、それと…誰かの迷いを断つ力があるみたいなんです」

マイ「それがどうかしたの?」

ユナ「問題はここからです。私がちからを使う度にこの歌を誰かに届けなくてはならないと考えてしまうようになってしまうんです」

マイ「なるほどね…その誰かがわかんないから悩んでいるのね」

ユナ「…はい」

 

すると、マイは私のことをそっと抱きしめてきた

私は何をしているのかわからず混乱していると、マイは静かに口を開いた

 

マイ「誰かもわからない人に歌を届けなくちゃならないのはつらいよね。わかるよ。私もそうだから」

ユナ(マイも――?)

マイ「本当のことを言うとね?私は"ひとじゃないんだ"」

ユナ「え…」

マイ「私は"お母さん"に命じられて誰かもわからない人を守ろうとしている。それが誰かもわからない。だけど、私は生きている。ねぇ―"あなたは一体誰"なの?"何のためにここまできたの"?」

 

私はマイの言葉に心が揺れる

―私は誰なのだろうか。なんのためにここまで来て戦っているのだろうか。友のため?名誉のため?ここまで来て歌う意味はあるのだろうか?人々を勇気づけるこの力は自分に必要なのだろうか?

頭の中にノイズが走る

 

―私は白百合騎士――いや、違う。私はユナ。私は――彼女を助けるためにここに来た。戦う意味……私は戦えない。戦うための力がないから。私が歌う意味――彼らの代わりになるため―彼らとは誰だ?私が歌を届けなくちゃならない人はその中に含まれる?―――含まれる。確証はないが含まれる。その人の名前は…名前は…

 

ユナ「…エイジ」

 



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19話 自分たちがすべきこと

もともと不定期投稿とはいえ、間が空きすぎるのは困りものですね。言い訳はしません。だいぶ長らくお待たせしました!第19話どうぞ!


――ユナside―――

 

ユナ「…エイジ」

 

その名を口にした瞬間、私の頭にたくさんの情報が入ってきた

彼と過ごした時間――本当の私――攻略組――モンスタートラップ――ヘイト集め――私の死――

 

ユナ「あぁぁぁぁ…」

マイ「大丈夫。今はもう死なないよ」

ユナ「あ…あ…私は――」

 

私はあの時死んだ。モンスタートラップが発動した瞬間、みんなを守るために私は詠唱をしてそこにいたすべてのモンスターのヘイトを私に向けた。私は集団リンチともいえる最低なリンチをこの身に受け、無残にも散って行ったことが突如として頭に入り込んでくる

―私はなんでここにいるんだ?確かにあのとき私は死んだはず…あの茅場晶彦の話によれば、この世界で死亡した場合、現実でも死亡するはず…と私が疑問に思ったことが頭の中を巡り回る。だけど、さっきマイが口走っていたことを思いだす

 

ユナ「…死なない?」

マイ「うん。死なない」

ユナ「それは…もう死んでいるから…?」

マイ「そういう解釈もできる。けど、"私たちにとって"物理的な死というものは関係ないんだよ。…ねぇ。なんで人が死ぬのが怖いか知ってる?」

 

何故人が死ぬのが怖いのだろうか…考えたこともなかった。本能的に?今まで味わったことのないことへの恐怖?

自らを人ではないと語った彼女はどのように回答するのだろう…人だった私には解らなかった

 

マイ「人ってね…誰かに忘れられるのが一番怖いの。死の恐怖よりも…何倍、何千倍も怖くて苦しい。人間にとってみれば一番の罪なの。だからその生涯を何かに刻もうと、このしておこうと足掻くんだ」

ユナ「……」

マイ「死は、その人が真にこの世界から消えた時…つまりは覚えている人が完全に消滅した時に初めて死という罪ものがその人に科せられる」

ユナ「…それと私になんの関係が…?」

マイ『貴女は死なない。なぜなら、私やシンがあなたのことを完全に記憶しているから。何年、何十年たってもあなたが生きたという証は消えることがない』

 

その時。私の目にはマイという人物が別人のように見える

何故だかわからないが、私はその言葉からとても勇気を貰えたのだ

 

ユナ「…よし」

マイ「答えはまとまった?それじゃ…あなたはなんのためにここまできたの?」

ユナ「私は…私は!自分が生きた証をあの人に繋ぐためにここまできた!だから…もう怖いことはない!行きましょう!あの人のもとへ!」

 

私たちは再び歩みを進めた。あの人…シンさんに私の最期の願いを聞いてもらうために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――サチside――――

 

キリト―――私の口はその名を出した。その瞬間、かなりの情報が私の脳に流れ込む。かつて過ごした仲間―迷宮区――トラップチェスト――――多くのモンスター――――仲間の死―――最後に―私の死

最期キリトに感謝の気持ちを伝えられる時間があったのは幸運だったのだろう。…キリトはあの記録結晶を見てくれたのかな…?

 

シン「くっ…強いな…こんな時キリトなら―――」

 

敵の攻撃に弾かれ、ここまで飛んできたシンはぼそりと呟く。その声によって私は我に返る。いつまでも過去を引きずっていては、いつまでたっても前に進むことはできない

ーこんな時、キリトならどうするのだろうか…こんな時…キリトなら必ず助けに入るだろう。あの時もそうだったから。困っていたわたしたちに実のレベルを隠して助けてくれた。こんどは、私が誰かを助ける番!

 

私は槍を拾い、シンの前に立つ。シンは驚いたような顔を見せるが、私の表情を見てか何かを悟ったように安堵の表情を見せた

―怖い。怖いけど、ここで負けてはならない。私の役目は彼に私の願いを繋げてもらうために、私はこのケモノと対峙する

 

 

 

 

 

 

 

―――シンside―――

 

サチが俺の目の前に立った。何をしようとしているのかわからなかったが、俺はサチの表情を見て何かを悟った。その表情はどこか吹っ切れたように清々しく、どこか硬い決意を決めたようにも見えた

俺はその表情と似たようなものをどこかで見た気がした。とても近く…手が届かないような場所でその表情を見た

―あぁ思い出した。あの表情はキリトと似ているんだ。何か大切なことをするとき、絶対に成し遂げたやるといった清々しく凛々しい顔をするのだ。今のサチはキリトとものすごく似ている

 

シン(キリトなら…同じことをした?)

シン「さ、サチ…?」

サチ「シンさん。キリトに伝えてください。『私はあなたに会えてよかった。あなたのおかげで生きる術を学んだ。ありがとう』…と」

シン「…わかった」

サチ「それと、これを」

 

サチはゴソゴソと腰につけたカバンを探り、一つの記録結晶を取り出す。それを俺に渡してきた

 

サチ「この結晶を大切にしてください。これは私そのものといっても過言ではありません…では」

 

サチはそう言うとボスの方に向かって行った

俺も手伝おうと体を動かそうとするが、何故か体が動かない。自分のHPバーをよく見れば、そこには麻痺を示すマークが有った。おそらく先程の攻撃の反動だろう。痺れるように体が動かない。なんとかして動かそうとしても完全に動く気配がない

―その時、俺の口に何かが触れた。それと同時に体の痺れが取れていくような感覚になる

 

トル「シン様、大丈夫ですか?」

シン「と、トル?」

トル「はい!無事に合流できて良かったです!」

マイ「シン!無事?!」

 

俺の周りにマイやトル、そしてユナが集まって来ていた。無事に合流できたようで何よりだが、今はここの状況をどうにかしなくてはならない

 

ユナ「…シンさん。私とサチちゃんがここを切り抜けます。あなたはこの先に向かってください」

シン「切り抜けるって…どうやって?」

ユナ「………私の吟唱ss《オブリビオン》を使います。あなた達はその隙に逃げてください」

シン「《オブリビオン》って…どんな効果なんだ?」

 

俺はユナに聞くが、ユナは顔を曇らせる。なにか言いたくないことがあるように、俺はその時思った。そしてユナは、俺の手に何か柔らかいものを渡してくれた

その渡してくれたものは、ユナが普段つけているのとは違う綺麗な花だった

 

シン「これは…?」

ユナ「これは私が大切にしていた花です。一年の最高な季節に最高な気温設定の時に咲いた花。現実世界(リアル)ではクリスマスローズというみたいですね」

トル「ユナ様…」

ユナ「…さ、行ってください!ここは私達がどうにかしますので!」

 

ユナは立ち上がり、サチのサポートに入りに行く

俺も二人を助けなければという氏名を感じ、剣を拾って加勢しようとしたが、トルとマイが目の前に立ちはだかり、俺が行くことを拒んだ。一瞬なぜかと思ったが、二人の目を見て俺は自分の決断が違っていることに気がついた

―ここは二人に任せよう。彼女たちは自分たちがすべきことがわかっていた。それに俺が邪魔することは許されない

悲しさと不安が俺の感情を侵食している。だがしかし、俺は進まなければならない。彼女らの決意を無駄にしないように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ユナside――

 

走り去る彼の背を私は見送る。これで良かったはずだ。私達はすでに死んでいる存在…だか彼らは違う。今もなお生きていて、この世界を旅している。私達は彼と一緒に旅することは許されていないはずだ。死した屍と生きた英雄。一緒に旅をすることは不可能と知っているのになぜか私は一緒に旅をしたかったという後悔の感情がある

 

サチ「はぁっ!!!」

 

今はそんなことを考えている状況ではないと思う。荒れ狂うモンスターをサチは避け、それにまた追撃をかけている。私はサチに吟唱のスキルをかけ、死んでしまわないように念入りにバフをかける

―ここが終着点か…と悟る。そう、シンに話したスキル《オブリビオン》は吟唱SSの最高峰、すなわち自分を巻き込むほど強力でありその身を焦がす諸刃の剣の技である

 

ユナ「サチさん!あれを発動しますので、私のカバーをお願いします!」

サチ「あれを使うんですね?わかりました!存分に発揮してください!その間は私があなたの盾となります!」

 

サチはこちらに後退してきて、私を守る体制になるのを確認し、私は禁忌の詠唱を開始する

一人では使うことのできないこの最大の技。高ヘイトであり自分に攻撃が絶対向いてしまうため一人では推奨できない。だが、今は一人ではなく、二人だ。サチにはかなり耐えてもらわなくては

 

ユナ『我が身における純粋な力よ…今ここに勝利の歌を奏でましょう…』

 

ポワーンと赤い波紋が私を中心に広がり相手のヘイトを得る。それは完全に倒すしかヘイトを得たモンスターから脱出方法がない。私のような吟唱者には死と言っても過言ではないだろう

―詠唱とともにフィールド上に白い花がポン…ポン…と咲いて行き、花畑を形成する。その花は一つ一つがきれいな光の粉を出し、ホタルのようにも見えてしまう

 

ユナ『すべての生命よ…この歌を聞きなさい…』

 

遺跡の外から大勢のモンスターが入ってきた。その姿は千差万別。人形のモンスターもいれば、狼のようなモンスターもいる。そのモンスターはすべて私を狙っているのだとすぐに理解できた

恐怖は少ない。なぜならサチが守ってくれるだろう

―だが、恐怖があるとすれば、とあるモンスターだろう。獄吏型のモンスター。あれは以前、私をリンチで殺した。私にとっては恐怖そのものであった

 

ユナ(だけど…こんなところで負けはしない!)

 

私は託したのだ。彼に…シンに私の願いを託したのだ。だから私は彼の役に立たなければならない

だからここで決めなきゃならない!

 

ユナ『《オブリビオン》!!!』

 

花は声と共に散り、モンスターはその花吹雪をその身にくらう。獄吏型、狼型、人形、ノーム型、ボスのようなイノシシ型のモンスターと巨大な骸骨のモンスターもすべてすべてその花吹雪によって行動を制限される

やがてその花吹雪は巨大な花びらとなり、私やサチもろとも包み込んでしまった

 

ユナ「―これで…良かったのでしょうか…?」

サチ「私達にできることはこれくらいですよ。それに…(シン)には(キリト)と同じような決意を感じました。なら託すしかない…ですよね?」

 

サチは可愛らしくこちらを見る

実際には初対面なのだが、昔から一緒にいたような感情を覚えてしまう。そんな彼女に私は優しく微笑み返す

 

ユナ「…そうですね。そのとおりです」

 

直後、花びらは霧散し、遺跡もろとも消え去ってしまった




マイがおかしい?
マイが何かおかしいような口調になっていましたが、そういう仕様です。マイは自分でも言っていたように、彼女は単なるNPCではなく"お母さん"という人に何かを守ることを命じられて生存している特赦なNPCです。今回マイがおかしかったのは、その"お母さん"という人(もの)?が少しばかりのエラーを起こしたことで生じた障害です。以降、もとに戻っていることでしょう

サチとユナが記憶を取り戻した理由
月夜騎士ことサチと、白百合騎士ことユナは途中記憶を取り戻しました。本来の\saubhoiwaではありえないことでした。ですが、いくつもの因果が絡み合い、そのような結果を生み出した

特殊吟唱SS《オブリビオン》
この技は、本来の吟唱スキルはなかった特殊中の特殊な技。吟唱SSを持つものが真なる理を知るときに会得できるという…
詠唱直後にヘイトアップのデバフがかかり、その後白い花が咲き乱れ、最終詠唱時には咲き誇ったすべての花が風に吹かれるように宙に舞い、舞った花びらは巨大な花となり、この世界から霧散するだろう


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20話 束の間の休息

お、おまたせしました…汗
忘れられてないですかね?なにしろ二ヶ月くらい投稿してなかったので…不出来かも知れませんが、見ていってくれると嬉しいです


――か?trFkkB0「.?,.89¥。/.<^stik side―――

 

・危機回避。危機回避。サイト2-25にてプレイヤーIDYuna、Sathiの活躍により、エラーエンティティ01及びエラーエンティティ12が消滅。世界崩壊率0.002%まで減少

 

?(まさか彼女たちが記憶を取り戻してエラーエンティティを倒すなんて…予想外でした。ですがどうして…彼女たちは記憶を取り戻したのでしょうか…)

 

彼から託されていた世界構成にはそんな機能は入っていなかった。それも”彼女”が直接教えていたし、どうしてかわけがわからない。余計な介入者が現れたからか…それとも…

私は一度、深呼吸をして落ち着くことにした。まだ気は抜けない。あのサイトにはもう一体エラーエンティティがいる。それもかなり強力なエンティティだ。シンだけで倒せるかどうかもわからない

 

?「間に合えばいいんですが…」

 

今、シンと共に戦っていた彼女たちをこの世界にアクセスできるように努力している。すこしデータのバグが発生していて苦労しているのだが、なかなか進歩しない。シンとエラーエンティティが衝突する前に片付けたいものだ

・伝令。伝令。血盟騎士が茅場晶彦の残留意識獲得。現在、騎士団主要都市に到着。現在、確保されているすべての残留意識は4/6。そのうち3/6はプレイヤーIDsinが確保していると予想されます

 

?(ひとつ奪われてしまいましたか…まぁいいでしょう…)

?「次は悪魔ですよ…シン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――シンside――

 

シン「遺跡が…消えた…?」

 

ユナと別れを告げたあと、俺たちは無事に遺跡を出たのだが、一瞬、花吹雪が舞ったと思った瞬間、俺たちがいた遺跡は跡形もなく消えてしまったのだ。遺跡だけではなく、そこにいたモンスターも全て消え去ってしまったのだ

―これが彼女が言っていた《オブリビオン》という吟唱SSの効果なのだろうか…なんにせよ、サチやユナには会えなくなってしまった…やはり助けに言ったほうが良かったのだろうかと思ってしまう

 

マイ「いこう、シン。彼女たちは私たちに願いを託したんだよ。なら私たちは前に進むしかないよ」

トル「そうですシン様。ユナ様やサチ様はシン様を信じてあのようなことをしたのです。今は…この洞窟を抜けることを最優先としましょう?」

シン「…そうだな。ここで止まっていても何も進展がない!出口を探そう」

 

俺は一度落ち着き、いますべきことを整理する

―今は感傷に浸っている場合ではなく、この洞窟…すなわちダンジョンを抜けないと行けない。それを最優先にしないと、俺たちはここで野垂れ死んでしまう。HPという数値的な体力ではなく、現実世界の俺が死ぬ可能性があるのだ

とりあえず、付近を観察しよう。ここは洞窟型ダンジョンで、出口がわからない。後ろには遺跡があったが消失していて、あった場所は崖の湯になっているため後戻りはできない…つまりは進むしかないというわけだ

―俺たちはあるかもわからない出口に向かって歩き始めた

 

 

 

 

 

 

――数分後――

 

結構深いところまで来れたと思うが、何故かモンスターというモンスターに会っていない

なにか理由があるのかと少し考察してみるが、何も思いつかない。安置エリアなのだろうと思っておくことにした

 

トル「はぁ…はぁ…」

マイ「トルちゃん大丈夫?」

トル「だ、大丈夫…です…」

 

トルの疲れが見える。それもそうだろう。ここまでほぼ休憩なしに歩いてきたのだ。疲れていないほうがおかしいだろう。まぁ俺は迷宮区で慣れっこなのだが、なれていない人に取って見ればかなり厳しいだろう

 

シン「…少し休憩しようか」

トル「ほんとに大丈夫ですから…先に行かなくてはならないでしょうし…」

シン「ここで無理して行って倒れちゃったら元も子もないからな。休めるときは休んだほうがいい」

トル「う…分かりました」

 

トルは観念したかのようにその場に座り込む

俺もその場に座り込み、休憩を始めると、マイは少し近くを警戒してくると言って少しでかけてしまった

俺はトルの疲労を回復させるポーションはないかとストレージを探していると懐かしいものが出てきた。それは以前、ヒカリとミナが作ってくれた特製ポーションであり、疲労回復、状態異常回復、と様々な効果がある優れモノだった

 

シン「ほら、これ飲んで」

トル「なんですか…これ?」

シン「俺のお仲間特製ポーションだ!効果は予め俺が体験してるから安全だぞ」

トル「あ、ありがとうございます…いただきますね」

 

トルはこくこくと可愛らしくポーションの瓶に入ったレモンティーのように黄色い液体を飲む。実際あれはレモンのような風味がして美味しいのだ

 

トル「ふわぁ…美味しいですね――これって…

シン「だろ?俺の仲間は料理上手だったんだ。トルも結構な腕前だけど、彼女たちは別の意味で君よりすごかったよ」

 

別の意味とは、別の意味である。料理スキル…というよりかは、もう料理のユニークスキル何じゃないかと疑うほどにポーションを作っていた。それもなんの目的があったかはわからないが…とにかくその執念はすごかった

 

トル「私なんかより…お姉ちゃんのほうがすごかったです」

シン「お姉ちゃん?」

 

トルの突然の発言に俺は驚く

トルに姉がいたとは知らなかった…まぁ聞いてないから知らないのも当然なのだが。トルはお姉ちゃんを懐かしむように宙を見上げて話を続ける

 

トル「…私のお姉ちゃんは当時有名な騎士でありながらとても腕の立つ料理人だったんです。戦に行ってはそこの現地住民の人たちに料理を振る舞い、笑顔にしていく…そんなお姉ちゃんが私は好きでした」

シン「いい姉さんだったんだな」

トル「はいそれはもう…」

 

トルは笑顔になるがどこか少し悲しそうだった

 

トル「ですがある日…お姉ちゃんの作った料理に毒が盛られたんです。私はお姉ちゃんはやっていないとそこのひとたちを説得したのですが…残念なことにお姉ちゃんは…」

シン「…すまない。悲しいことを思い出させてしまったな」

トル「いえいえ…これもなにかの縁です。このポーションからどこかお姉ちゃんの味がしました………少し暑いですね…よいしょっと…」

 

トルは突然身につけた防具を外し始めた。その姿は妙に色っぽく、俺は思わず目をそらしてしまう

実際、トルはかなりに美人だ。それは少女としてだけではなく、一人の女性としてもだ。それに暑いと言っていたせいか、少し服がはだけて胸が見えそうになっている

 

トル「シン様…この熱をどうにか収めてくれませんか…?」

 

トルはトロンとした上目遣いで俺に寄りかかって来る

―なにかがおかしい。俺がのんだときはこんなふうにはならなかったはずだ。とポーションの瓶を確認するとそこにはラベルが貼られており、きれいな字でLiebestrank(媚薬)♡と書かれていた

俺はおかしいだろっ!と心の中で突っ込んだ。体力回復のポーションだったはずだ。いや待てよ…ミナが俺に渡してくれたのは―たしか2つだったような…

 

トル「シン様…♡」

 

あ、これは早くしなければどんどんやばくなるやつだ―と心のなかで思う。どうにかして直さなければもっとエスカレートしてしまう。どうすれば…どうすれば…と頭の中で必死に考える

そこで、俺は思い出した。本当の特製ポーションの存在を

俺はストレージの中をくまなく探す

 

トル「シン様…♡この熱を収めてください…♡」

シン(急げ…トルが手遅れの状態になる前にっ!)

トル「あぁシン様♡ものすごくかっこよいです…」

シン(あった!これをトルに飲んでもらおう)

シン「ほ、ほら!これを飲んで落ち着いてくれ!」

 

俺はトルに本当の回復ポーションを飲ませようとするが、トルは虚ろな目をしていて飲めるかどうかわからない。なぜだろうか…トルの目ハートが浮かんでいるような気がする

これは自力で飲めないだろうと判断した俺は、緊急事態だということでポーションを口に含み、トルに口移しをすることにした

 

シン(これは処置…これは処置…)

トル(はぁ〜♡シン様のお顔がこんなに近く…に…)

 

呪文のように俺は心のなかでつぶやき続ける。俺はロリじゃない。これは処置のために仕方なくだ

とか思っていると、トルは急に気を失ってしまった。HPゲージはまだまだあるため単なる気絶だろうと思い、俺はトルを俺の膝に乗せて休めせることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――マイside――

 

シンとはぐれて数10分。私はシンたちが休んでいる場所の近くを散策していた

付近に敵はいないが、警戒しておくに越したことはない。それと、早く出口を見つけなくては行けないのだとどこか思っている節があるせいか、どこか落ち着かない

 

マイ「なんでだろうね…」

 

先程の自信や今の感情は私の気持ちのハズなのにどこか私ではないような感情になっている

なんだかおかしな感覚だ

―と考えていると、何やら足音が聞こえる。それも数人という感覚ではなくかなりの大人数だ

私は警戒しながらその足音を聞いている。規則正しい音…少なくともモンスターではなさそうだ

足音は徐々に近づいてくる。私はその足音を出している人を見つけた

10人ほどの騎士…おそらくは騎士団の騎士だろう

 

ゴーバッツ「私は中将騎士、ゴーバッツだ」

マイ「…マイよ」

コーバッツ「君は何故ここにいるのかね?」

マイ「…少し迷子になったのよ。とある事情があってね」

 

するとコーバッツは少し神妙な顔をする

 

コーバッツ「とある事情とは…?ここは古王国地、旧74層迷宮区だぞ?一般人が立ち寄ることは不可能なはずだ」

マイ「古王国地…いや私たちが入ってきたのは…」

コーバッツ「もしやお前、この遺跡を狙った盗人か?!直ちにここで確保する!」

 

誤解だ―と言いたかったが、コーバッツの威圧に怖気づいて声が数珠のように詰まる

私は勇気を振り絞って誤解だと言おうとしたその時、騎士の一人がコーバッツに駆け寄り、何かを話す。私に不利益なことでなければよいが…と心の中で呟いていると、その兵士がこちらに向かって歩いてきた

優しそうな柔らかな目。その仕草からは嘘偽りなど無いように感じる

 

「どうも、あなたの話を聞かせてくれませんか?」

マイ「…見ず知らずの人に自分の話を聞かせる気はないです」

フィル「あ、自己紹介がまだでしたね。私ってばうっかりしてました。私の名は、フィル・ヴァートリー。改ましてあなたのお話を聞かせてもらえませんか?悪い事はしません。ただ、あなたはどう見ても盗人ではない気がしてならないのです。あと、敬語は別にいいですよ」

 

私はその言葉に少し警戒するも、優しそうな目に感化され、自分がいる状況を話す

―湖から洞窟に入ったこと。危険を介しこの洞窟に来たこと。すべてを話した

嘘冗談は含めていない。だが、傍から見たら冗談のように感じるだろうその物語をフィルはすべて受け止め、にこやかな笑顔で微笑み返してきた

 

マイ「…嘘だとは思わないの?」

フィル「まさか!盗人は嘘だと思わないのとか聞かないでしょう?」

マイ「それもそうね…信じてくれてありがとう」

フィル「いえいえ。それでは、あなたのお仲間さんがいるところに案内していただけますか?」

 

興味深々に聞いてくるフィルに私は屈し、よいと声を出す

するとフィルは小さく「やったっ」とガッツポーズをし、コーバッツと話をする。戻って来た時、私はフィルに話を聞いた

要約すると、フィルは私達について、コーバッツは自分たちの目的を遂行するのだという

コーバッツたちはフィルが抜けても気にしないという感じに通り過ぎていく

 

マイ「いいの?ついていかなくても」

フィル「いいんですよ。元々私はあの人の部下じゃありませんし、今の騎士団はどこかおかしいですし」

マイ(おかしい?)

フィル「そんなことはさておき、さ!行きましょう!」

 

私の案内を聞かないままどこかに行こうとするフィルを、私は静止させ、フィルに案内をする

このよくわからない人に振り回されるかのようで、少しめんどうだなと思ってしまったのだった



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