キル姫日記 (やす、)
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プロローグ

僕はラグナロク教会に奏官試験を受ける為に地方からやって来たのだが当然の様に迷子になり途方に暮れていた。


「はぁ、、、」

 

 

もう何度目か分からないため息を吐いていた、家から持ってきた地図を見てもラグナロク教会の位置が分からず先程から同じ所をグルグルと回っているだけだった。

 

 

念のためと色んな物をリュックに押し込んできたのだがそれの重さに耐えきれず適当な所に座り込んでしまっていた。

 

 

「どうしたの?」

 

 

そう聞こえて顔を上げると男の人と女の人が立っていた。男の人は何処にでも居そうな服装で黒髪の短髪、女の人は長い桃色の髪に黒い防具にマント、白いタイツに似合う真っ赤なブーツを履いていた。

 

 

「ラグナロク教会に行きたいんですけど道に迷っちゃって、、、」

 

 

そう言うと二人が顔を見合わせていた、そして「僕達も教会に用があるから案内してあげるよ」そう言ってくれた。

 

 

お礼を言って立ち上がりその二人について行く事に、その道中に話を聞くと男の人はユウって名前で奏官をしているようだ、それで女の人はキル姫でティルフィングって名前のようだ。

 

 

「えっと、名前はなんて言うの?」

 

「僕はコウって言います」

 

「コウ君は奏官になりたいんですね」

 

「はい、それでここに来たんですけど迷子になっちゃって」

 

「たまにはそんな時もあるよ、あれがラグナロク教会だよ」

 

 

ユウさんが指さした方を見ると大きな教会の様な建物が見えてきた。あれ程大きな建物なのに何故気が付かなかったのだろう?

 

 

「おいでよ」

 

「はいっ!」

 

 

そう言われて教会の中へと入って行き受付の人と親しそうに話をしていた。

 

 

「ユウさん、ティルフィングさんに任務がありますよ」

 

「分かったよ、それより奏官になりたいって子を連れて来たんだけど」

 

「あぁー今奏官試験やってないんですよね」

 

「えっ……?」

 

 

そう言われて頭が真っ白になってしまった、てっきり教会に行けば奏官になれるものだとばかり思っていたしそういう試験って毎日やってると思っていた。勝手な僕の思い込みだったのだけど。

 

 

「頼むよマリア、なんとかできないかな?」

 

「うーん、次に試験があるのがいつかまだ決まってないんですよね、、、」

 

「そこをなんとか」

 

「私に言われても、、そうだ!先にキル姫と触れ合ってみるっていうのはどうですか?」

 

 

受付の人が何か閃いたような事を言っていた、だけど試験がやっていない事にショックを受けていた僕には聞こえていなかった。

 

 

「コウ君聞いていましたか?」

 

「えっ?あっ、聞いて無かったです…」

 

「マリアの提案で試験はまだだけど先にキル姫と触れ合ってみないか?って」

 

「はい!喜んで!」

 

「じゃあ教会の空き部屋を貸してあげますね、それとキル姫の図鑑を貸してあげますね」

 

「ありがとうございます!」

 

 

受付の人に分厚い本を貸して貰う事ができた、この本に一体何人のキル姫の事が書かれているのだろうか?まだ中を見た訳じゃ無いけど楽しくなってきた。

 

 

「それで、宿代と本の貸し出し料金で500,000ゼニーです」

 

「えっ?お金取るの!?」

 

「はい、その辺りで宿を借りるより安いんですよ♪」

 

 

そう言われてリュックから財布を取り出して中を確認したのだが財布の中に入っているお金だと支払う事はできなかった。タラリと冷や汗が垂れるのを感じた。

 

 

「もしかしてお金持っていませんか?」

 

 

半泣きになりながら頷くと受付の人が困った顔をしていた。

 

 

「うーん、じゃあ僕が立て替えとくよ、それで問題無いかな?」

 

「はい、じゃあユウさんの口座から引いときますね♪」

 

「良いんですか!?僕、初対面ですよ!?」

 

「うん、良いよ、そのかわりちゃんと奏官になって働き出したらで良いから返してね」

 

「はい!この御恩は必ずや!」

 

「のんびりで良いからね、じゃあ僕達は任務に行ってくるよ、行こっかティル」

 

「はい♪頑張って下さいね♪」

 

ありがとうございました!!

 

 

去って行く二人を見届けてから受付の人と話をしていた、聞くとあの二人はこの業界だとかなり有名な人らしく最強のキル姫と最強の奏官らしい。

 

 

「じゃあ案内するのでついて来て下さいね」

 

「はい!お願いします!」

 

 

受付の人に案内されて教会を歩いて行くと扉の前で立ち止まった。

 

 

「ここの部屋を使って下さいね、必要な物はある程度揃っているのでもし足りなければ自分で揃えてくださいね」

 

「はい!」

 

「明日からキル姫の見学を開始するのでそれまでに本に目を通しておいて下さいね?じゃあ私はこれで、また分からない事があったらなんでも聞いて下さい」

 

 

そう言って持ち場へと戻って行った。それを見送り扉を開けてリュックを下ろし一息つくその前に部屋を見ておこう。立ち上がり部屋を覗いて行く。

 

 

ベッドに机、キッチンにお風呂、トイレもあり洗濯機も空調機も付いていた、そして何より広い、まだ見てないけど部屋が後4つはあるだろう。一人暮らしじゃなくて一家で住んでもまだ広いぐらいだ。こんな部屋借りて良かったのだろうか?

 

 

そんな疑問を断ち切るように椅子に座り借りた本を読む事に。何ページか目を通した時にいつの間にか眠ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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1ページ目、マサムネ

コンコンっとドアをノックする音で目を覚ました。どうやら昨日本を読みながら机で寝てしまっていたようだ。返事をして急いで立ち上がりドアを開けると受付の人が立っていた。

 

 

おはようございます、良く眠れましたか?

 

はい、借りた本を読みながら眠っちゃいました

 

じゃあ予習はバッチリですね♪ここを真っ直ぐ行って左に曲がった所でキル姫が待っているのでそこに行ってくださいね

 

はい、ありがとうございます

 

 

そう返事をすると受付の人はどこかに行ってしまった。そうだ、お風呂も入っていないんだった。慌ててシャワーを浴びて服を着替え受付の人に教えてもらった所へと走ってゆく。

 

 

ごめんなさい!遅くなりました!

 

 

そう叫ぶも人の姿は無かった、不思議に思いながら辺りを見渡すと木造の建物が建っており和風な庭園が広がっていた。それを歩きながら眺めていた。

 

 

しばらく歩くと縁側で座禅を組んでいる人を見つけた、話を聞く為にその人の元へと歩いて行く。

 

 

すいません、マサムネってキル姫を探しているんですけ

 

 

僕の言葉は途中で止まってしまった。言葉が思い付かなかったんじゃない、その人の集中力に押されて言葉が詰まってしまったのだ。ただ座禅を組んでいるだけなのに凄まじい迫力を感じていた。

 

 

少し気まずくなり距離を置いてその人を観察してみる事に。その人の右側に刀が置いてあり長い黒髪を胸下まで伸ばし紺色の軍服?を着こなしていた。何故かお腹の周りだけは露出しおへそがチラリと見えている。

 

 

あっ

 

 

そんな女の人のおでこに蚊が一匹止まった。よく見ると美味そうに血を吸っていた。だんだんとそのお腹が膨らんでゆくのが見える。

 

 

しばらくすると満腹になったのだろう、おでこから飛び立ちどこかに飛んで行こうとした時だった。

 

 

せやっ!

 

 

掛け声と共に瞬時に立ち上がり飛んでいる蚊に一閃を繰り出した、その一閃は飛んでいる蚊を見事斬り落としていた。

 

 

…見えなかった。座禅を組んだ状態から瞬時に立ち上がり抜刀し刀を鞘に戻すまで2秒もかかっていないだろう。いきなり神がかった技を見せられ呆気に取られていると声をかけられた。

 

 

そなたがコウか、受付から話は聞いておる、主君の見習いをしている様だな

 

はいっ!僕コウって言います!今日一日宜しくお願いします!!

 

うむ!良い返事だ、拙者この時間は座禅を行なっているゆえ、早くに声をかけてやれずすまない

 

気にしないで下さい!あの、良かったら名前を教えて下さい

 

拙者の名はマサムネ、ただ一振りの刀

 

(か、かっけぇ…)

 

 

凛とした表情でそう告げるマサムネに見惚れ言葉は出せなかったけど頭の中ではそう叫んでいた。

 

 

威風堂々とはこの人の為にある言葉だ!と断言できる程の衝撃を受けていた。もし外人さんがこの人を見たらオォーゥ!ジャパニーズサムライガール!!と、涙を流しながら喜ぶだろう、、、興奮のあまり訳の分からない事を考えていた。

 

 

茶を淹れよう、待っておれ

 

あざっす!!

 

 

奥の部屋に歩いて行くマサムネの後ろ姿を尊敬の眼差しで眺めていた。だがよく見るとなんとなく足取りがおぼつかない、まさか…

 

 

あの、もしかして足が痺れたのですか?

 

戯けた事を吐かせ、拙者は武士であるぞ

 

はい!すいませんでした!

 

 

そう叱られたがあの足取りは絶対足が痺れている、そのまま見ていると爪先を地面にぶつけてしまったようだ、一瞬立ち止まったが直ぐに歩み始めた。もう見るのはやめよう、そう思い縁側に腰掛け美しい庭園を眺めながらマサムネの事を思い返していた、図鑑で読んだ限りキラーズはとある島国に伝わる幻の名刀政宗だったはず、その政宗の影響でマサムネは武士なのだろうか?

 

 

待たせた、茶が入ったぞ

 

ありがとうマサムネさん

 

 

マサムネに淹れて貰ったお茶を飲みながら何を話そうか考えていた、勢いがあればなんでも話せるのだが一回休んでしまうと何処となく漂うマサムネの威圧に押され怖気付いてしまっていた。モジモジしているとマサムネが口を開いた。

 

 

午前は拙者の修行に付き合って貰おう、その代わり昼からはそなたの用に付き合おうか

 

はい!僕にできる事ならなんでも言って下さい!

 

うむ、お主は奏官を目指しておるのだったな?

 

はい!奏官になる為故郷を出てここに来ました!

 

それは良い心がけだ、ならその覚悟、拙者に見せてみよ!

 

はぇ?

 

 

そんな訳でマサムネとの修行が始まった。いきなり刀を渡されて困惑していると「主君たる者質実剛健であらねばならぬ」と言われまずは素振りをする事に。

 

 

(お、重い…)

 

 

僕が初めて刀を持った感想だった。見た目は軽そうなのにいざ自分の手で持つとかなりの重さを感じていた。それでも隣で素振りをするマサムネを見ながら見様見真似で素振りをする事に。

 

 

その赤子の様な構え方はなんだ!拙者の形をよく見よ!

 

はい!

 

 

マサムネに激を飛ばされながら素振りをしているとなんとか形にはなってきたようだ。マサムネを見ると満足そうな顔をしていた。

 

 

まだ少し構えが甘い、こう持つのだ

 

 

そう言って僕の背後に立つと背中から手を伸ばし柄の握り方を教えてくれたのだが。

 

 

(めっちゃいい匂いする…それにこの背中に当たる柔らかな物は……?)

 

 

ただ僕をドキドキさせるだけでマサムネの説明なんて全く頭に入って来なかった。丁寧に教えてくれているのに今夜のオカズはこれにしようと謎の決心をしていた。

 

 

ふむ、少し顔が赤いな、少し休むとしよう

 

は、はいっ!

 

 

そう言って残念ながら僕の背後を離れてしまった。少しだけ背中に残る体温とお茶を取りに行ってくれたマサムネの後ろ姿を変な考えを持ってしまった申し訳なさで見ていた。

 

 

(………この刀って本物なのかな?)

 

 

庭園に残された僕は太陽の日を受けて美しく煌めく刃文を見てそんな事を思っていた。試しにそのへんに生えている草に刀を振ってみるとなんの抵抗も無く斬る事ができた。間違いない、モノホンの刀だ。

 

 

えぇぇぇ、、、僕初心者だよ?万が一怪我とかしたらどうしよう?

 

 

真剣だという事に気づき臆病風に吹かれていた。待てよ?マサムネの事だから何か意味が合ってこの刀を渡したのだろう、そうだ、そうに違いない。戻って来たら聞いてみよう。

 

 

すまぬ、待たせたな

 

あっありがとうございます

 

 

振り返るとお盆に湯呑みとお煎餅を乗せたマサムネが立っていた。お礼を言いながらそこに駆け寄って行くと湯呑みを渡された。それを受け取り縁側に腰掛けてのほほんとした時間を過ごしていた。

 

 

(あっ茶柱、何か良い事がありそう)

 

 

お茶の中に立つ茶柱を発見し少し笑顔になれた。良い事がありそうっていうよりこんな美人なキル姫に稽古をつけて貰いそれに今夜のオカズも手に入った、これ以上の良い事なんて他にないだろう。そう思いながら少し渋めのお茶とお煎餅を楽しんでいた。

 

 

少し休んだら次は拙者と試合をしようではないか

 

 

そう言われてお茶を吹き出しそうになってしまったのをなんとか飲み込んだ。

 

 

はい!はい、はーい!質問でーす!この刀でですか!?

 

そうだが。何か問題でもあったか?

 

これって本物ですよね?本物の刀ですよね!?

 

それがどうしたというのだ?

 

こんなので試合したら死んじゃいますよ!

 

そなたは命を掛けて戦場に出る覚悟を持っておるのだろう?

 

そう、ですけど、、、

 

そなたは一年に何人の奏官が犠牲となるか知っておるのか?

 

いや、それは…

 

今までに数え切れぬ奏官を見て来たがその数ほど戦場に散っていった者を見て来た。何故その者達が散ったかそなたに分かるか?

 

分からないです

 

それは己の弱さからくる焦り、不安だと拙者は思うのだ、どれ程の猛者であろうと一瞬の判断不足が命取りとなる、ならばどうすれば良いかそなたには分かるか?

 

分かりません

 

日頃から実戦さながらの鍛錬を行いその精神、肉体を高みへと押し上げるのだ、さればおのずと答えは見えてくるだろう

 

 

瞬きもせず僕の瞳を真剣な眼差しで見つめながらそう言ってくれた。この人は僕の事を心配して言ってくれてるんだ。そう思うとマサムネに対する尊敬とやる気が満ち溢れてゆく。

 

 

マサムネさん、、、

 

どうしたのだ?

 

僕っ!頑張ります!

 

うむ!その心意気、流石拙者の見込んだ男だ!

 

はいっ!!

 

 

お茶を一気に飲み干し立ち上がり庭園へと歩んでゆく。そして真剣を構えるとマサムネが僕の前で刀を構えた。ただそれだけでおしっこをちびりそうな程の威圧感を受けているがギュッと股に力を込め気合を入れる。

 

 

よろしくお願いします!

 

参るぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………

…………………

……………

………

 

 

 

「」

 

 

初心者とは思えぬ太刀捌き、見事であった

 

あ、ありがとうございます…

 

 

最初の頃は優しく相手をしていてくれたのだがスイッチが入ったのか目にも止まらぬ程の剣舞を繰り出されそれを泣きそうになりながら躱し続けていたため力尽きてしまっていた。でも身体に傷一つ付いていない事を考えるとまだ手加減をしてくれているのだと思うのだけど。

 

 

街に昼食でも食べに行こうか

 

はひぃ

 

 

肩で息をする僕とは違いあれだけ動いたにもかかわらず息一つ乱れていなかった、やはりキル姫と人では身体構造から違うのか?それか僕が貧弱なだけかも知れないけど。

 

 

息を整えるまで待っていて貰いそれから二人で教会の近くにある街までやってきた。今日が何日か分からないけど大勢の人で賑わう商店街を二人で歩いていた。

 

 

そなたは何が食べたいのだ?

 

僕はなんでも良いですよ、マサムネさんに合わせます

 

承知した、付いてまいれ

 

 

和風なマサムネの事だからうどん屋とかお寿司とかだろう、と、そんな事を思いながら前を歩くマサムネの背後を歩いていた。それならキツネうどんが良いな、一味をかけて程よくピリ辛で頂きたい。お寿司ならサーモンとか穴子も良いな。

 

 

今から食べに行くお店の想像を膨らませていた。どう転んでも食べれない物は無いから良いのだけど。

 

 

ついたぞ、ここは拙者の行きつけの店だ

 

(えぇぇぇぇぇぇっ)

 

 

そう言われてその店を見ると洋風な外装のオムライス屋だった。僕が勝手に想像していただけなのだがマサムネのイメージと違う店に動揺してしまっていた、しかも行きつけだと?

 

 

参るぞ

 

はいっ

 

 

ドアを開けカランとなる鈴の音で意識を取り戻しその背後をついて行く。もちろん店内も洋風でマサムネがこの店内で浮いている気がしていた。

 

 

「好きな物を頼め」そう言われて差し出されたメニューを見ているのだがどこをどう見ても和風な料理など無かった。気を取り直し日替わりランチを食べる事にしてメニューをマサムネへと返す。

 

 

「拙者はこれにしよう」そう言いながらテーブルにある呼び鈴を押していた。しばらくすると店員さんが来てくれてそれにメニューを頼んでいた。

 

 

カルボナーラとオムライスのセット、スープはコンソメで頼もう

 

 

バリバリの洋食である、本当に僕の勝手なイメージなのだがざるそばとか頼んで欲しかった、麺つゆでは無く塩で蕎麦を食べながら(塩だと香りの立ち方が違う)とか言って欲しかった。

 

 

まだメニューは決まっておらぬのか?

 

えっ?あーっと、日替わりランチ一つ

 

かしこまりました。

 

 

そう言って店員さんが下がっていった、その背中を見送り前を向くと不審な顔をしたマサムネがいた。

 

 

先程から何を惚けておるのだ、何か不満があるならもうせ

 

いや、あはは、、、昨日受付で貰ったキル姫の図鑑を読みながら机で寝ちゃってすこーし寝不足かなーなんて思ったり思わなかったり

 

左様か、文学に励むのは良い事だが自身の身を案じなければ元も子もないぞ

 

はい、仰る通りです

 

 

本当は和のイメージと違いすぎる物を頼んだマサムネに驚いているだけなのだがそんな事を口にする勇気は無かった。しばらくすると料理が運ばれて来てテーブルへと並べられた。

 

 

頂きます!

 

うむ

 

 

運ばれて来た料理を食べながら最後の望みで箸で食べていて欲しい。そう思っていたのだがマサムネはフォークとスプーンを使いカルボナーラを丸め旨そうに口へ運んでいた。しかしその食べ方は凛とした佇まいで上品そのものだった。

 

 

拙者の顔に何かついておるのか?

 

いえ!その美しさにしばし見惚れておりました!

 

拙者はただ飯を食らっておるだけだ、何もしておらぬ

 

 

そうは言っているのだが少しだけ緩んだ口元を僕は見逃さなかった。それにしても苦しい言い訳だった。気をつけよう。

 

 

そんな事を思いながらランチのオムライスを一口。んっ美味しいっ。それからスープも。うん、美味しい。

 

 

マサムネさん美味しいです!

 

当然だ、拙者の妹に教えて貰った店であるぞ

 

マサムネさん妹居たんですね

 

あぁ、お主もいずれ会う事になろう

 

楽しみにしてます

 

 

マサムネの妹、どんな人なんだろう?姉と同じで凛々しいのかな?それとも可憐なのだろうか?その両方を併せ持っている可能性もあるぞ。まだ見ぬマサムネの妹のイメージを膨らませていた。

 

 

先程から何を考えておるのだ?

 

えっ?あっと、無の境地に達してました

 

ふむ、鍛錬に励むのは構わぬが今は御飯時、料理が冷めぬうちに食せ

 

はいっ!

 

 

そのあとオムライスとスープ、サラダを頂き店を出る事に。

 

 

ご馳走様でした

 

ご馳走様でした、しばし待っておれ

 

 

そう言うとマサムネがレジの方へと歩いて行った。それを慌てて追いかけて「奢ります」とカバンを漁るマサムネを制したのだが「お主はまだ修行の身、半端者に施しを受ける訳にはいかぬ」と言われてしまった。なら大人しく引き下がるしか無かった、せめてと思い心からお礼を言って店を出る事に。

 

 

お主はいつこの街に来たのだ?

 

まだ昨日来たばかりです、部屋は教会で借りれたのですけどまだ何にも無くて、、、

 

ならばこの街で日用品を揃えると良い、この街には東西南北の地方から物品が集まる故

 

じゃあちょっと見させて貰おうかな?あの一つ良いかな?

 

なんだ?申してみよ

 

初めての街だから案内して欲しいんです、良いかな?

 

構わん、付いてまいれ

 

はいっ!

 

 

マサムネに案内して貰いながら街を歩いていた、えっと、必要な物はっと、、、ティッシュだな。それと食材も欲しいけどそれは今度で良いだろう。

 

 

マサムネさん、ティッシュが欲しいです

 

それなら彼方の雑貨屋にあるだろう、付いて参れ

 

はいっ!

 

 

しばらく歩くと他の店より大きめな雑貨屋が見えてきた。ここなら一通りの物は揃いそうだ。

 

 

拙者は表で待っておる、好きなだけ吟味すると良い

 

ありがとね、行ってくるよ

 

 

マサムネに待ってて貰い店内へ、色んな商品が所狭しと並ぶのをビビりながら見ていた。

 

 

もしこの棚を倒してしまったらどうなってしまうのだろう?

 

 

そんないらない心配をしながら店内を歩いていた。故郷にある雑貨屋はもっと店内は狭いしこんなに商品も置いていないのだ。

 

 

あった、あった。

 

 

お目当てのティッシュを発見しお会計をしようと思ったのだがマサムネにお礼の品を買おうと思い再び店内を彷徨う事に。稽古もつけて貰ったしご飯も奢ってもらった、せめてものお礼だ。

 

 

マサムネの事を思い出しながら商品を見ているのだが何が似合うだろう?服?アクセサリー?思い切って下着とか?それは無いか、、、

 

 

ってかマサムネってどんな下着をつけているんだ?ふんどし?いや、この想像はもうやめよう。

 

 

下着以外のマサムネに似合いそうな物を探していると瓢箪の飾りのついたヘアゴムを見つけた。あの長い黒髪は戦闘の時に邪魔になるかもしれないし値段も手頃だ。これにしようと決めてレジへと足を進めた。

 

 

お会5000ゼニーです

 

はーい

 

 

ティッシュとマサムネへのプレゼントを買えてルンルンで店を出ると壁にもたれ掛かり腕を組むマサムネがいた。うん、カッコいい。

 

 

お待たせ、マサムネにお礼をあげるよ

 

 

そう言いながらさっき買ったヘアゴムを渡してあげた。一応プレゼント用にラッピングしてもらったから中身は分からないと思うけど。

 

 

これは…?

 

今日付き合って貰った事とご飯奢ってもらったお礼だよ、似合うか分かんないけどね

 

そう申すということは粧物か

 

そんなところだよ、マサムネは何か見たい所はあるの?

 

特には御座らぬ、時期に日も暮れる、そろそろ家に帰ろうではないか

 

うん、そうだね、付き合って貰ってありがとね

 

うむ、そなたに渡したい物がある、家まで同行願おう

 

はい

 

 

そんな訳でマサムネと二人並んで家へと帰る事に。オレンジ色に輝く夕日を浴びながらのんびりと家へと歩いて行く。一体何をくれるのだろう?少し楽しみである。

 

 

大きな門を開けてマサムネが居た家まで戻ってきた。こう言う大きな門を開ける時に城門突破ーっ!!って言いたくなる。いや、それだけなんだけど。

 

 

お主は帰って食す物はあるのか?

 

何にもないです

 

ならば拙者の手料理を食べて行くと良い

 

マジ?あざっす!

 

 

なんとマサムネの手料理を頂ける事となった。断言しよう。作る料理は洋風だと。こう思っておけば洋食が出てきた時のダメージも少ないだろう。台所の見えるリビングに案内され椅子に腰掛けながらそんな事を考えていた。

 

 

いつの間にかエプロンを着たマサムネが忙しそうに台所を動き回っていた。スープの味見をしたと思ったら包丁で何かを斬り斬り終わるとそれを素早くコンロで焼いていた。少しでも時間が開けば竈門に息を吹き込んでいる。流れるような動きで料理が作られてゆく。ってかお米お釜で炊くんだ、、、コンロはガスなのにお米だけがお釜なのにこだわりを感じる。

 

 

お米の炊ける良い匂いと何かが焼ける匂い、それにこれはお味噌汁かな?どこぞの島国の夕ご飯のような匂いにだんだんお腹が空いてきた。

 

 

待たせた、味は保証せぬが頂いてくれ

 

いただきますっ!

 

 

マサムネの後ろ姿を見ていたらいつの間にか料理がテーブルへと運ばれていた。心から頂きますと伝えまずはお米を箸でひとすくい。いざ。

 

 

んっ、おいしっ

 

 

初めてお釜で炊いたお米を食べたのだがジャーで炊くやつと全然違う。一粒一粒が存在感を放ち噛めば噛む程甘みを感じる。この美味さはトラやゾウでも再現はできないだろう。

 

 

そして次はお味噌汁だ、ゆっくりと一口、うん、出汁の味と味噌の味が凄くいい感じ、それに具のワカメと豆腐もいい味してる。

 

 

次はおかずのアジの開きだ。丁寧に火を通したのだろう、皮はパリッと、身はふっくらと焼き上がっている。そして焼きムラが一切無い。これはポイントが高いですね。

 

 

拙者の作る飯の味はどうでござるか?

 

全部美味しいです!どうやったらこんなに美味しく作れるんですか?

 

それはな、道を見つけたのだ

 

道ですか?

 

そうだ、拙者が極める武士道、そしてこの料理道、この交わらぬはずの二つの共通点は何か分かるか?

 

えっと、武士道と料理道ですよね?

 

 

そう言われても何も思いつかなかった。武士道とは戦う事だと思うし料理道は料理を上手く作るって事だよね?

 

 

分からないです

 

左様か、この二つの道の共通点は刃物を使っと言う事だ

 

確かに、刀と包丁、でも同じ刃物でも全く違いますよね?

 

拙者も昔はそう思っていた、だが、刀も包丁も己の心が弱ければ真価を発揮する事はできぬ、ただ我武者羅に振るえば良いという物では無いのだ。

 

ふむ

 

 

力説してくれたけどあんまり理解は出来なかった、きっとこれは僕のレベルが低いからなのだろう。もっと精進すればきっと意味が分かるのだろう。そんな事を考えながらマサムネの作ってくれた料理を食べ終えていた。

 

 

片付けは僕がするよ

 

ならん、片付けるまでが料理道という物、客人は大人しくしておれ

 

はい

 

 

そう言われて大人しく後ろ姿を見ている事に。やはり手際が良い。これが道を極めた者の姿なのだろう。きっとこの人は良い奥さんになる。そんな事を思っていた。

 

 

ほら

 

あざっす

 

 

マサムネからお茶を受け取るとマサムネも椅子に腰掛けた。食後の一服と言わんばかりの渋いお茶である。

 

 

開けても宜しいか?

 

うん、良いよ

 

 

先程マサムネにあげた物を丁寧に開けていた。喜んでくれると良いな。

 

 

これは、へあごむという物だな?

 

うん、戦闘や料理する時に髪が邪魔になると思ってさ

 

有り難く頂戴しよう

 

つけてみてよ

 

あぁ、勿論だ。

 

 

そう言ってヘアゴムで髪を纏めているのだが何となくその手つきがままならない。

 

 

自分でできます?

 

無論だ、うむ、できたぞ

 

 

そうは言うけど纏めきれてない髪が垂れていた。この人不器用なのかな?

 

 

うーん、良かったら僕が付けてあげるよ

 

かたじけない

 

 

一度ゴムを解きサラサラの髪を束ね丁寧に巻きつけてゆけば完成だ。

 

 

できたよ、普段髪を結ばないの?

 

うむ、拙者はお洒落という物に疎くてな

 

お洒落しなくても可愛いもんね

 

お主は口が達者であるな、何故お主は最も簡単に髪を結ぶ事ができたのだ?

 

妹の髪を良く結んでたからだよ、だからこれぐらい簡単だよ

 

そうか、拙者も精進せねばな

 

マサムネさんの妹さんに教えて貰ったら?

 

それもそうであるな、そなたにはこれをやろう

 

 

そう言って懐から短刀を取り出して僕に渡してくれた。

 

 

ありがと、これは何に使えば良いのかな?

 

これは守り刀と言う、お主の道中に降りかかる災いをきっと跳ね除けてくれるだろう

 

 

ありがとうございます、大事にするね

 

うむ、次に会う時はお主が立派な奏官になっていると信じているぞ

 

頑張るよ

 

 

外を見るともう月が輝いていた。そろそろ帰ろうかな

 

 

今日一日ありがとね、そろそろ帰るよ

 

うむ、達者でな

 

またね

 

 

玄関まで見送ってもらい部屋へと帰る事に。修行は大変だったけど楽しい一日だった。

 

 

立派な奏官か、、、

 

 

そんな事を考えながらシャワーを浴びて机に短刀を置き眺めていた。刃渡りは一尺程だがマサムネの持つ刀と変わらず刃文は美しく見ているだけでゾクゾクする様な煌めきを放っていた。

 

 

それを眺めていると刀身に反射して僕の顔が写っていた。少し間抜けそうな顔で刀を眺める顔に気が付きそっと鞘に納めため息を一つ。気持ちを切り替えて図鑑を読むとしよう。

 

 

この図鑑通りにキル姫と会って行くなら次はレーヴァテインってキル姫だ。一体どんなキル姫なのだろう?この図鑑に写真が載っていないのが残念だ。

 

 

はぁっとため息をつきベッドにゴロリと寝転がりあの感触を思い出しながら枕元にあるティシュを引き寄せた。おやすみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姉上、借りていた竹刀を返しに参りました!

 

うむ、ご苦労であった

 

ってお姉ちゃ、、、姉上!その髪飾りはどうしたのですか!?

 

奏官の見習いの男に貰ったのだ、に、似合っておるか?

 

はいっ!とても似合っております!

 

そうか、なら良かった

 

それで、その男はどうだったのですか?

 

うむ、少し頼りないがこの世界に揉まれれば少しは引き締まるだろう、ムラマサもいずれ会う事になるだろう

 

はいっ!楽しみにしております!

 

 

縁側に腰掛け夜空に浮かぶ月を見ながらささやかな姉妹の時間を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 



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2ページ目、レーヴァテイン

目を覚まししばらくベッドの上でボーッとしてから着替える事に。今日はレーヴァテインってキル姫に会い行くんだ。

 

 

身体を伸ばしてからもう一度貰った図鑑でレーヴァテインの事をおさらいする事に。椅子に座り図鑑をめくりレーヴァテインを探してゆく。あったあった。

 

 

なになに?凄まじいポテンシャルを秘めているが全くやる気が無い。それと鶏が嫌い。らしい。もう少し調べるとゲーム内外で人気がありフィギュア化や人気投票でNo. 1だったりとかなりの人気を誇っている様だ。

 

 

どんなキル姫なのか凄く気になってきた、きっと美人で面倒見の良いお姉さんみたいな人なのだろう。勝手にそんな想像を膨らませていた。この僕の期待は一時間後に見事に打ち砕かれるのだけど。

 

 

コウ君ー起きてますかー?

 

はーい

 

 

そんな事を考えていたら受付の人、マリアさんが呼びに来てくれた、返事をしてドアを開けると眩しい笑顔がそこに合った。

 

 

おはようございます♪今日はレーヴァテインの所に行ってきて下さいね♪

 

はい!それでレーヴァテインさんはどこに居るのですか?

 

レーヴァテインなら教会を出て真っ直ぐ行ったところにある木の近くに居るはずですよ

 

ふむ

 

 

木の近くに居る?レーヴァテインは木が好きなのだろうか?

 

 

そんな疑問を持ちながら教会を出てレーヴァテインが居るという木を目指して歩いて行くと小高い丘の上に一本だけ生えている大きな木を見つけた。きっとこの木の事だろう。

 

 

おはようございます!今日一日よろしくお願いします!!

 

 

そこまで歩いてゆき大きな声で挨拶をしたのだが返事は無かった。他の木に居るのだろうか?でも周りを見回してもほかに木が生えているのは見えなかったしこの木で合っているのだろう。少しここで待つとしよう。

 

 

その大きな木を見ていると子供時代にこういう木を蹴ってカブトムシを落とす事を思い出した。懐かしいなぁ。そうだ

 

 

そのノリでこの木も蹴ってみる事に。勢いをつけて飛び蹴りを喰らわせるとドシンっと木が揺れた。うむ、我ながら良い蹴りだ。

 

 

ちょっと、なにすんのよ

 

???

 

 

何処からか声が聞こえた。周りを見渡しても人の気配は無い、でも声が聞こえるって事はどこかに居るのだろう。

 

 

はぁ、、、ここよ

 

 

そう言われて木を見上げると居た。太い枝に器用に寝転がる銀髪の女の人が居た。きっとこの人がレーヴァテインなのだろう。

 

 

おはようございます!僕コウって言います!

 

 

別にあんたの名前なんて聞いてないわよ、それより私のお昼寝の邪魔をしてただで済むと思ってんの?

 

 

そう言って僕に木の上から視線を向けた。紅く鋭い眼光で僕を睨み付けている。ただそれだけなのに僕は猫に睨まれたネズミの様に動けなくなっていた。

 

 

せっかく良い夢見てたのに、生きてるうちにあんな良い夢見ることなんてもう無いと思うんだけど。どう責任とるつもり?

 

 

あぁぁ…

 

 

どもる僕に「ねぇ」っと追い討ちをかけて来る。ヤバい、この人怖い。だけど何か話さないともっと怒ってしまいそうだ。頭をフル回転させて次の言葉を捻り出そうとしていた。

 

 

ねぇ、黙ってたら分かんないんだけど

 

ひゃっ、ひゃい!!

 

 

噛んだ、とんでもなく噛んでしまった。その事に動揺して言おうと思っていた言葉を見失ってしまった。まだ肌寒い時間なのに僕は背中に嫌な汗をかいてた。

 

 

良いから何かしゃべってよ、斬られたいの?

 

 

斬られる?と、言う事は木の上に居る人、レーヴァテインは僕に殺意を向けていると言う事だ。なら僕が発する言葉次第では命が危ないという事なのだろう。プレッシャーのあまり恐ろしい程心臓の鼓動が頭に響いていた。ドクン、ドクンと脈を打つのがまるで耳元で聞こえる様に。

 

 

黙ってたら分かんないんだけど、何か話しなよ

 

 

テンパる頭で考えて考え抜いた結果、僕の口から出た言葉は「ご飯食べに行かない?」だった。

 

 

はぁ?何言ってんの

 

お腹空かないですか?

 

別に、あんたと行かなくても自分の気分で食べるし

 

じゃあさ、一緒に食べに行こうよ

 

人の事起こしといて次はナンパなわけ?意味分かんないだけど

 

 

見上げると先程より殺気のこもった目で僕を見ていた。ここはとにかく勢いで誤魔化すしか無い。そう思い覚悟を決めた。

 

 

あぁ、そうだよ!ナンパだよ!一緒にご飯行きましょう!

 

やだ

 

そんなこと言わずにさ、美味しいご飯屋さん案内してよ

 

なんで私がご飯屋を案内しなきゃ行けないのよ、それに私はここから動きたく無いんだけど

 

そう言わずに一回だけで良いから!先っぽだけで良いから!

 

ふぅん、死にたいんだ

 

えっ?

 

 

焦りすぎて何を言ったか覚えてないけど僕はレーヴァテインをさらに怒らせる様な事を言ってしまった様だ。木の上から飛び降りてなんだかヤバそうな剣を僕に向けて居た。

 

 

安心して、苦しまない様にはしてあげるから

 

ひぃぃぃぃ

 

 

その言葉を聞いた瞬間に僕は悲鳴を上げながら丘を駆け降りていた。背後を振り返らず真っ直ぐ。その姿は脱兎の如く。

 

 

 

…………………………………………………

 

 

 

 

 

はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…

 

 

荒い息を吐きながら走り疲れた身体を教会の塀に預けて息を整えていた。すっごく怖かった。あのままあそこに居たら殺されていたかもしれない。なぜあんな凶暴なキル姫が人気投票1位なのだろうか?僕の先輩の奏官達はドMしか居ないのだろうか?

 

 

んっ、はぁぁぁ…

 

 

このまま部屋に帰ってしまおうか、臆病風に吹かれそんな事を考えていた。僕だってまだ死にたくないしレーヴァテインと1日を過ごさなくてもまだキル姫は沢山いる。それにもっと優しいキル姫と1日を過ごしたかった。

 

 

そうだ帰ろう。

 

 

そう決めてため息を吐きフラフラと部屋へ歩き出そうとして一歩踏み出しその歩みを止めた。

 

 

だけど、ここで逃げたらきっと僕はこのままだろう。それに僕はまだレーヴァテインってキル姫の事を何も知らない。このまま逃げるのは失礼なんじゃないだろうか?

 

 

天使の僕と悪魔の僕が頭の上で喧嘩を始めていた。漫画の様に煙を上げながら戦って、そしてしばらくすると天使の僕が右手を突き上げながら立っていた。

 

 

よし、行こう。

 

 

そう意気込み僕が逃げて来た道を戻る事に。少し歩いた時に見つけた売店で少し買い物をしてレーヴァテインが居るその木まで戻って来た。

 

 

レーヴァテインさん、もう一度僕にチャンスをください!!

 

はぁ、また来たの?その根性は認めてあげるから早く帰って

 

嫌です!

 

ちっ

 

 

冷たい言葉と舌打ちを浴びせられ心が折れそうになったけど自身を奮い立たせ木を登りレーヴァテインが寝転がっている隣の枝に腰掛けた。

 

 

じゃあさ、気が済むまで側に居ていい?

 

いや

 

そんな事言わずにさ、飲み物買って来たからあげるよ

 

 

そう言って先程購入したジュースをレーヴァテインに差し出すと少しだけ目線を僕に向けた。

 

 

どっちが良い?

 

どっちでも

 

じゃあこれあげる

 

 

そう言ってコーラを手渡すと「んっ」と返事をしてくれた。僕もジュースの蓋を開けてそれを飲みながら枝に寝転がった。

 

 

なんでレーヴァテインさんはこんな所に居るの?

 

別に、あんたに関係ないでしょ

 

まぁそんなんだけどさ、木が好きなの?

 

木なんて別に好きじゃないし

 

じゃあ高い所が好きとか?

 

普通

 

ならどうしてこんな所に居るの?

 

一人で居たいから

 

 

ふむ、どうやらレーヴァテインは一人で居たいみたいだ、あれかな?何か悩みがあって一人で居たい気分みたいな?もしそうならこのまま大人しくしていよう。

 

 

そう思いながら目を閉じ細目でレーヴァテインを見ていたら僕が渡したコーラを開栓しようとしていた。寝転がったまんまお腹の上で。

 

 

最悪っ…ねぇ、喧嘩売りに来たの?

 

あわわわわわわわ……

 

 

僕が木に登った時に振られてしまったのだろう。パンって音と共に噴き出したコーラがレーヴァテインの服に垂れてしまっていた。

 

 

今年始まって1番嫌な気持ちにさせられたんだけど

 

そんなつもりは無かったんだよ…

 

この服、結構気に入ってるんだけど、どう責任とるつもり?

 

 

そう言ってどこからかハンカチを取り出し服を拭いていた。ってかこの人はなんて格好をしてしているのだろう?口元がすっぽりと隠れてしまう程に立った白いTシャツの襟、それになぜか横の部分だけが切り取られており横乳から脇へと続くボディラインが悩ましい程に見えていた。そして美脚を隠す事なくさらけ出すホットパンツ。はい、ありがとうございます。

 

 

そんな邪念を振り切り自分が寝転がりながらあけるからだよ、そう言いたかったけどその言葉を飲み込み代わりに謝罪の言葉を口から吐き出した。するとレーヴァテインの口角が上がった気がした。

 

 

なんか言う事聞いてもらうから、言っとくけど拒否権なんて無いから

 

はい…

 

 

一体僕はどんな事を言われるのか、あれかな?一晩枯れるまで付き合いなさいとか?私がしたい時に呼び出すから絶対来いとか?なんてご褒、、恐ろしいんだ。

 

 

今、最っ高にイラってしてるんだけど、そうだなぁ、、、

 

 

気怠そうな顔でコーラを一口口に含みそれを飲み込むと身体を伸ばしながらその命令を口にした。

 

 

お昼ご飯奢ってよ

 

 

?????

 

 

その言葉に理解が追いつかなかった。僕は一晩中搾精されてしまうんじゃ無かったのか?都合の良い時に呼び出されるんじゃ無かったのか?

 

 

何間抜けな顔してんのよ、さっさと行くよ

 

う、うん

 

 

木から飛び降りたレーヴァテイン、それに続き木を降りてその後をついて行く。

 

 

早く

 

はい

 

 

しばらく歩きたどり着いた店は教会のある街から少し離れた所にある街、サフランという街だった。知らない人も多いと思うから説明をするとこのラグナ大陸の商業施設であり耕民区クレナイから集められた生産品を加工したり売りに出したりと俗に言う大陸の台所らしい。まぁつまり栄えた街だって事だ。そんな街を僕はレーヴァテインの後ろについて歩いていた。

 

 

人がいっぱい居るよ……

 

 

因みに僕は耕民区クレナイ出身なのでこういう人混みには慣れていなかった、行き交う人々の群れに居るってだけで頭がぼんやりしてくる。

 

 

ほら、さっさと歩く

 

はひぃ…

 

 

そんな僕を気遣う様子も無く人混みを掻き分けて歩くレーヴァテインを必死に追いかけていた。しばらくすると今にも潰れてしまいそうなお店の前で立ち止まった。

 

 

入って

 

はい

 

 

レーヴァテインがドアを開けその店へと入って行った、その背後を恐る恐る入って行く事に。

 

 

はぇぇ…

 

 

店内も今にも潰れてしまいそうな外装と同じくボロボロで少し埃を被っていた。店内を見渡しても他のお客が居る訳も無くなんとか店と言う形を残しているお店。悪い言い方をすれば廃墟の一歩手前、良い言い方をすればレトロな雰囲気漂う店内。そんな店内をレーヴァテインは迷わず進み一番奥の席に座った。まるでここが自分の指定席かのように。そして僕もレーヴァテインと向かい合う席に少しだけ躊躇いながら座った。

 

 

おじさん、いつもの二つ

 

はいよ

 

 

僕にメニューを決めさせる事なく「いつもの」が二つ厨房に居る人に頼まれた。その言葉から察するにレーヴァテインはこの店の常連なのだろう。いや、立ち振る舞いからしても常連なのは明らかだ。

 

 

そして頬杖をつきながら視線を何処かへ向けていた。その視線を辿ると調理場へと向けているようだ。ご飯が待ちきれない程にお腹が空いているのかな?

 

 

レーヴァテインから視線を外し店内を見回して見る事に、先程も伝えたようにレトロな雰囲気漂う店内の片隅に立てかけてある小さな写真立てを見つけた。目を凝らして見てみると写真は日に焼けて分かりづらいが優しく微笑むレーヴァテインとその隣で笑うお爺さんのツーショットの写真だった。

 

 

気付かれないようにその写真と僕の前に居るレーヴァテインを交互に見てみるととても同じ人とは思えなかった。

 

 

お待たせしました

 

 

そう言って初老の男の人が料理を運んで来てくれた。見た目は普通のおじさん、だけど何処かに違和感がある。そうだ、足音が変なのだ、一つは靴の音、もう一つは硬い音。少し目線を落としておじさんの足元を見ると片足が義足だった。

 

 

別に珍しい事じゃ無い、きっとこのおじさんも異族にやられたのだろう。ただそれだけの事。

 

 

冷めるから早く食べなよ

 

うん、頂きます

 

 

そう言って運ばれて来た料理を食べる事に、見かけは普通のナポリタンスパゲティ。味は、何処か懐かしくて優しい味。母の手料理に似たような。

 

 

そんなスパゲティを二人で無言で食べていた。

 

 

ご馳走様

 

ご馳走様でした

 

 

ご飯を食べ終わり食後のコーヒーを飲んでいた。満足なお昼ご飯だった。

 

 

先戻ってるからお会計よろしく

 

 

そう言ってお店を出て行ったレーヴァテイン。それを見送りまだコップに残っているコーヒーを飲みながら僕もこういう行きつけの店を探そう。そんな事を思っていた。

 

 

それから少しだけのんびりと過ごしお会計をする事に。レジの前に行くとおじさんがパタパタと歩いて来てくれた。

 

 

1600ゼニーです

 

はい

 

 

財布からお金を取り出しお会計を終えて店の外に出ようとしたらそのおじさんに話しかけられた。

 

 

君はあのレーヴァテインのマスターなのかな?

 

いえ、僕は奏官の見習いをしているだけです

 

そうか

 

 

それだけ話して後は沈黙。だった、少し気まずい空気が流れ出したのでそそくさと退散する事に。

 

 

また来ます、そう言って店を出ると「レーヴァをよろしく頼むよ」そう聞こえた。その言葉に返事をする事なくドアを閉めてレーヴァテインが居るさっきの木を目指す事に。

 

 

美味しいご飯だったよ、ありがと

 

 

 

再び木に登りレーヴァテインの横の枝に寝転がっていた。色々聞きたい事があったけどわざわざ聞く必要も無いだろう。そう思い目を瞑る事に。

 

 

ねぇ、なんであんたは奏官なんかになろうとしてるの?

 

んー?じゃあ僕も質問良い?

 

答えられる事なら話してあげる

 

じゃあさっきのお店のおじさんはレーヴァテインとどんな関係なの?

 

あの人は私のマスターだよ、正確には「元」マスターだけどね

 

そうなんだ、どうして共鳴を解除したの?

 

あの人はもう戦場に立つ事が出来なくなったから、ただそれだけ。じゃあ次は私の質問に答えて、どうして奏官なんかになろうとしてるのよ

 

………

 

ちょっと、人の話聞いといて自分は話さないのは無しよ

 

そだね、昔僕の住んでいる村が異族に襲われたんだ、その時僕の妹が異族に殺されちゃってさ、だから、僕の様な思いをする人が一人でも減ればって

 

そうなんだ

 

そうなんだよ

 

 

それから僕達に会話は無かった、それよりも僕が気づいたら寝ていたのだけど。

 

 

ほら、そろそろ帰りなよ

 

うーん、、、そうするよ

 

 

心地良く眠っていたところを起こしてくれた、それで目を覚まし大きく身体を伸ばした。

 

 

あっ

 

 

寝ぼけていてここが木の上だと言う事を忘れていた。僕はバランスを崩し枝から真っ逆さまに落ちていた。

 

 

ほら、ドジなんだから

 

ありがと、助かったよ

 

 

地面に叩きつけられると思っていた身体はレーヴァテインに抱き抱えられていた。

 

 

はーあぁぁ、あんたを助けたらお腹空いちゃったんだけど

 

僕もレーヴァテインに助けてもらったらお腹空いちゃったよ、お礼に晩御飯奢らせて下さい

 

 

そうレーヴァテインの腕の中で言っていた。あれですよね、抱き抱えられているので僕の右半身に柔らかな物が二つ押し当てられているのですよ、はい。

 

 

ヘンタイ

 

うわっ

 

 

少しニヤけていたのを気づかれたのかそのまま手を離され地面に落とされてしまった。それでもお釣りが来るのだけど。

 

 

さっさと行くよ

 

はい

 

 

またあのお店に行くのかな?と思っていたけど教会の近くにあるラーメン屋に連れて来てくれた。あの襟を下げてラーメンを食べるレーヴァテインに見惚れてしまっていた。

 

 

何見てんのよ、伸びる前に食べなよ

 

あぁ、、、うん

 

 

ズルズルとラーメンをすすっていた、美味しい。

 

 

これ食べたら帰りなよ

 

うん、そーするよ

 

 

ズルズルとラーメンをすすりスープを一口、うん、美味しい。

 

 

ご馳走様、先に外いるから

 

うん

 

 

お会計を済ませて外で待つレーヴァテインの元へ。ドアを開けると僕にジュースの缶を渡してくれた。

 

 

ありがと

 

別に、お昼も奢って貰ったから

 

レーヴァテインさんの頼みだったからね

 

じゃ、そろそろ帰りなよ、もう暗いし

 

あのさ

 

なに?

 

もう少しだけ付き合ってよ

 

 

僕がそう言うと少しだけ気怠そうな顔をして良いよって言ってくれた。その後二人で近くにある公園のベンチに座っていた。

 

 

それで、どうしたの?

 

なんで僕に優しくしてくれたの?あの時怒ってたでしょ?

 

 

そう聞くと少し俯き口元を襟に隠した。

 

 

二人目

 

二人目?

 

ああやって追い払って戻って来た人は。一人はあの人で二人目があなた、少し懐かしかったから、それだけ

 

そうだったんだ

 

 

ありがとう天使の僕、ありがとう良く勇気を出したあの時の僕、心の中で自分を褒め称えていた。

 

 

それと、復讐の為に奏官になりたいのならやめときなよ、そんな気持ちで奏官やってると死ぬから

 

復讐なんて考えてないよ、僕の村を襲った異族はもう討伐されてるし、さっきも言ったけど僕みたいな思いをする人が少しでも減ったらって

 

なら良いけど

 

 

そう言いながら僕の顔を覗き込んだ。月明かりに輝く真紅の瞳で僕の目を真っ直ぐに見つめていた。その美しさに言葉を出せずただ見つめ合っていた。

 

 

良い目してるね、じゃ私行くから

 

う、うん、ありがとね

 

別に、私の気まぐれだから

 

 

そう言ってレーヴァテインは闇夜に消えて行った。その姿が見えなくなるまで見送っていた。

 

 

………そうだ、貰ったジュース飲も

 

 

レーヴァテインに貰ったジュースのプルタブを起こすと中身が吹き出してきた。その雫は僕のズボンを汚していた。

 

 

やられた。あの時のコーラの事根に持ってたんだ。少し笑いながら一気にジュースを飲み干し僕も家に帰る事に。

 

 

ただいま

 

 

誰も居ない部屋に挨拶をしてシャワーを浴びてパジャマに着替えていた。

 

 

さてと

 

 

椅子に座り図鑑に目を通す事に。次のキル姫はデュランダルって人の様だ。剣を使うキル姫。それだけ見て僕はベッドに寝転がった。

 

 

レーヴァテインか…

 

 

そう呟いて布団を顔までかぶって目を閉じた。おやすみ。

 

 

 

………………………………………………

 

 

あの後私はいつもの木の根元に居た。そして空に浮かぶお月様を眺めていた。

 

 

あの人とあんな奴を重ねてしまった自分を嘲笑いながら何も言わずに私を照らしてくれている月をただ見上げていた。

 

 

…………

 

 

あの時の事が脳裏にフラッシュバックするのを頭を振って揉み消し深呼吸をして家に帰る事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3ページ目、デュランダル

今日は図鑑通りならデュランダルというキル姫に会いに行く日だ。朝起きてから図鑑を読みデュランダルの事を調べていた。

 

 

なになに?英雄ローランが持っていたとされる不滅の聖剣。ローランが敵に襲われた時そのデュランダルが相手の手に渡る事を恐れ岩にぶつけて折ろうとしたらあまりの切れ味で岩が切断され折ることができなかった、らしい。

 

 

かっけぇ、、、こういうエピソードを読むと胸が熱くなる。歴史に名を残す伝説の宝具。もうその言葉だけでご飯が食べれそうだ。その不滅の聖剣の名を冠したデュランダル、どんなキル姫なのだろう?今から楽しみだ。

 

 

おはようございます♪コウ君起きてますか?

 

はーい、起きてますよ

 

 

いつも通り受付嬢のマリアさんが起こしに来てくれた。扉を開けて挨拶と会話をしてデュランダルがいる所を教えてもらう事ができた。

 

 

デュランダルなら教会の近くのカフェに居ると思いますよ

 

ありがとうございます、そのデュランダルってどんなキル姫なのですか?

 

青い髪をしてて淑女の様な姿をしていますよ、見たらすぐ分かると思います♪

 

了解です!じゃあ行ってきますね

 

はーい♪お気をつけてー

 

 

マリアさんに見送られながら部屋を出て教えてもらった通りに歩いて行くと一軒の喫茶店を見つける事ができた。

 

 

ここかな?でもカフェって言ってたしどう見てもここは喫茶店だ。まぁ喫茶店とカフェなんて読み方が違うだけで意味は一緒だと思うんだけど。

 

 

ドアを開けて店内へ。まだ時間は早いのだがモーニングを楽しむ人達がたくさん居る、そんな店内を見渡していた。

 

 

青髪、青髪、、、あれかな?

 

 

その人達の中で一際優雅に飲み物を飲む女の子がいた。ゆっくりとティーカップを口に運びそれから音もなくカップを戻しそしてお菓子を口に運んでいた。

 

 

おはようございます、デュランダルさんですか?

 

はい、不滅の聖剣デュランダルとはわたくしの事ですわ、貴方の事は聞いていますわ

 

僕コウって言います、今日一日よろしくお願いします

 

それはそれはご丁寧に、コウ君もお座りになられて

 

あざっす

 

 

デュランダルに誘われて僕もモーニングを頼む事に。店員さんに注文を頼みそれが届くのを待っているその間お菓子を食べるデュランダルを見ていた。

 

 

幼さが残る顔立ちに青髪を水色の大きなリボンでまとめていた。それに可愛らしい服を着ている。こういう姿を見るとキル姫だとは全く思えない。

 

 

コウ君はマスターの見習いをしているようですね

 

はい、奏官になるために故郷を出てここに来ました

 

凄いですわね

 

それ程でも無いですよ

 

 

そう会話をしている間にテーブルにあるお菓子を食べてるデュランダル。美味しそうに食べているのだが一体何を食べているのだろうか?

 

 

デュランダルさんは何を食べているの?

 

これはマカロンと言いますわ、淑女のおやつと言えばマカロンと昔から決まっていますわ

 

へぇ、美味しそうだね、ひとつ貰って良いかな?

 

構いませんわ

 

 

そんな訳でマカロンとやらを一口。うん、美味しい。

 

 

美味しいねこれ

 

マカロンと紅茶はすっごく合うのですよ、コウ君もお試しあれ

 

でも僕が頼んだのはコーヒーなんだよね、コーヒとも合うかな?

 

それは分かりません、わたくしコーヒは飲めませんことよ

 

ふむ

 

 

しばらくして僕の頼んだセットが届いた。ホットコーヒーとサンドイッチである。手を合わせそれを頂くことに。

 

 

サンドイッチにパクリとかぶりつきコーヒーを飲もうとした時に目の前のデュランダルと目が合った。

 

 

どうしたのですか?

 

いや、デュランダルさんこそどうしたの?

 

いえ、別に、なんでもありませんわ

 

ふむ

 

 

気を取り直しサンドイッチをパクリ。そして目が合った。

 

 

どうしたの?

 

なんでもなくってよ

 

ふむ

 

 

良く見るとその目線は僕が食べているサンドイッチに向けられている事に気がついた。食べたいのかな?

 

 

食べる?

 

良いのですか?……いえ、結構ですわ

 

そう言うなら食べちゃうよ?

 

構わなくってよ

 

じゃあ遠慮なく

 

 

大きく口を開きパクリ。柔らかなパンの後に小気味良いきゅうりの歯応え、その後に咀嚼するとジューシーなハムの味、それを整えるマヨネーズに胡椒が良いスパイスになっている。「このサンドイッチを作ったシェフを呼びたまえ」思わずそう言いたくなる程の美味しさだ。

 

 

そしてコーヒーを飲む。飲む前に香りを楽しみゆっくりと口へ。ほんのりとした苦味がサンドイッチの後味をかき消し口の中をさっぱりとしてくれる。ってなんの解説をしてるんだよ

 

 

デュランダルさんはマカロンだけでお腹いっぱいになるの?

 

もちろんですわ!朝から食べたら太ってしまいます!

 

僕は朝はしっかり食べたいな、朝ごはん抜くと動けなくなるし

 

 

少し物足りなかったので他の料理を頼もうとメニューを手に取り読んでいた。

 

 

デュランダルさんはこの喫茶店には良く来るの?

 

もちろんですわ、このお店はわたくしの行きつけなのですよ

 

ならお勧めの料理を教えてよ、何が良いかな?

 

それでしたら…

 

 

テーブルに身を乗り出し一緒にメニューを覗くデュランダル、その時ふんわりと香る匂いに気がついた、

 

 

デュランダルさんって香水付けてる?

 

はい、淑女たる者如何なる時でも身嗜みを忘れるわけにはいかなくってよ

 

良い匂いだね、流石だよ

 

褒めても何も出ませんわ♪

 

 

嬉しそうなデュランダルに料理を決めてもらう事に。それを店員さんに伝えてまた待つ事に。

 

 

コウ君も香水をつけたりするのですか?

 

僕はそういうのはあんまりなんだよね、、、

 

ならわたくしが選んで差し上げますわ♪

 

じゃあご飯を食べたらお店に行こっか

 

はい♪

 

 

とても笑顔なデュランダルを見ながら先程頼んだ料理を食べようとしていた。因みにお勧めの料理はオムライスだ。

 

 

食べる前にケチャプで文字を書く事ができますわ

 

うーん、僕はそのまんまかけちゃうかな

 

ならわたくしが書いて差し上げますわ

 

じゃあお願いね

 

 

ケチャプを手に取り鼻歌を歌いながらオムライスに何かを書いていた。

 

 

できましたわ!わたくしの最高傑作が!

 

おぉー

 

 

綺麗なオムに描かれたのは可愛らしい星型だった。少し食べるのがもったいなく感じる。

 

 

さぁ、冷める前に食べて下さいな

 

そうだね、頂きます

 

 

なるべく星を崩さないように頑張ったけど無理だった。そのままスプーンで切り崩し口へ運んでゆく。

 

 

んっ!美味しい!すっごく美味しいよデュランダルさん!

 

わたくしのお気に入りですわ、当然ですの♪

 

 

ふわふわ卵とチキンライスの絶妙なコンビネーション。見事な美味しさだ。

 

 

デュランダルさんも食べる?思ったより多くて食べ切れないかも

 

仕方ありませんね、わたくしも頂きますわ

 

 

二人で美味しくオムライスを頂きお店を出る事に。満足なモーニングだった。

 

 

わたくしがいつも香水を買っているお店にご案内しますわ

 

お願いね

 

 

サフランの街をデュランダルと歩いていた。そこで問題が二つ出てきた。一つは僕はあまり香水が好きでは無いという事。もう一つはお金が無いのだ。それなりにお小遣いは持って来たつもりだったのだがレーヴァテインにご飯を奢ったり今回のモーニングでほぼ底をつきかけていた。つまり香水を買うような余裕は僕には無いのだ。この事を伝えなくては。

 

 

着きましたわ♪さぁ、わたくしがコウ君に合う香水を選んで差し上げますわ♪

 

うん、ありがとね

 

 

とても嬉しそうに告げるデュランダルに何も言えなくなってしまった。こんな可愛い女の子が笑顔を向けてくれたら断れる男なんて居ないだろう。手を引かれ店内へと導かれていた。

 

 

さっ、選びますわよ

 

うぇぇ………

 

 

目を輝かせながら店内を歩くデュランダルと違いその店内を漂う色々な香水の香りに頭痛がしてきていた。早く店内から出ないと吐いてしまいそうだ。

 

 

これなんてお似合いだと思いますわ♪

 

 

沢山ある香水の瓶から一つを選び出し僕に見せてくれた。それのサンプルをデュランダルが手首に吹きかけそれを僕へと近づけてくれた。

 

 

良い匂い、なのだがどうやら限界だったようだ。気持ち悪さと頭の痛さでふらりと意識が遠のいていった、、、、、。

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

んっっ、、、ここは…?

 

やっと気付きましたね、もう体調は宜しいのですか?

 

うん、なんとかね、心配かけてごめんね

 

 

気がつくと僕は何処かに寝かされていた。目を開けると見渡す限りの緑。起き上がり辺りを見渡すとどうやら何処かの草原に居るようだ。

 

 

いいえ、わたくしこそコウ君の体調に気付かずに…淑女失格ですわ…

 

そんなに気にしないでよ、僕が言わなかったのが悪かったんだよ

 

いいえ!わたくしが!

 

僕だって!

 

わたくしが!!

 

 

………………………………………………クスッ

 

 

 

良く分からない言い合いをした後にお互いがクスりと笑いやがて声を上げて笑い合っていた。

 

 

デュランダルさんが運んでくれたの?

 

もちろんですわ、コウ君を運ぶぐらいわけありませんよ

 

僕より小さいのに凄いんだね

 

わたくし、とーっても強いのですわ、そ・れ・と!レディに向かって小さいなんて失礼ですわ!

 

ごめんね、つい可愛くてさ

 

ふんっ、そんな言葉じゃ誤魔化されませんわ!

 

 

怒っている?そう思ったけどそこまで怒った声色じゃ無さそうだ、デュランダルが淑女ならこっちも紳士に対応してみよう。

 

 

大変助かりましたレディ、お礼に今夜のディナーでもいかぎゃでしょう?

 

お気持ちは嬉しいのですが紳士はこういう時噛まなくってよ

 

さーせん、やっぱり言い慣れない言葉を話すもんじゃないね

 

でも、今夜は貴方の顔を立ててお付き合い致しますわ

 

うん、ありがとね

 

 

そう言って笑い二人で草原に寝転がり空を見上げていた。優しく照らしてくれる太陽に心地良い風が吹き抜けてゆく。時計が無いから時間は分からないけど太陽の位置からして14時ぐらいだろう。

 

 

デュランダルさん、今何時か分かる?

 

今は15時ですわ、もうお腹が空きまして?

 

ううん、気になっただけだよ、それと

 

それと?

 

あぁは言ったけど僕まだこの街に来たばかりだからあんまり知らないんだよ…

 

でしたらわたくしのお勧めのお店にご案内しますわ♪

 

うん、ごめんね

 

謝る事はありませんわ、正直に言える事はいい事ですわ

 

僕がこの街に慣れたらまた改めてデートに誘うよ

 

わたくしに相応しいデートを楽しみにしてますわ♪

 

うん、頑張るよ

 

楽しみにしていますわ

 

 

そう言って目線をデュランダルが僕から空へと変えた。身体の力を抜いて自然体のままで空を見上げている。

 

 

どうしたの?って聞くとこうやって空を見上げるのが好きみたい。それに見習い僕も力を抜いて空を見上げる事に。

 

 

さっきも言ったけど柔らかく照らしてくれる太陽、優しく吹き抜ける風、ふんわりと柔らかな草。それを楽しみながら空を見上げていた。

 

 

…………あまりの心地よさに眠たくなってきた。隣で寝転がるデュランダルを見ると目を閉じていた、ならば僕が起きていなくては。眠気を覚ますために素数を数える事に。2.3.5.7.11……スヤァ。はい、速攻で寝てしまいました。ってか素数ってなんだよ、訳わかんないよ。

 

 

しばらくして肌寒さで目を覚ました、もう日が落ちかけていて辺りは薄暗くなっている、どうりで肌寒い訳だ。

 

 

隣を見ると寝ていたはずのデュランダルが居ない?辺りを見渡すと居た、少し離れた所で両手に剣を握っていた。起き上がりそこに近づいてゆく。

 

 

もう起きてしまいましたのね、気付かれる前に終わらせたかったのに

 

どういう事?

 

直ぐに終わらせますわ、わたくしの勇姿を目に焼き付けるといいですわ

 

 

そう言うとデュランダルは姿を消した。って言うよりも姿を見る事ができない程のスピードで動いていた。

 

 

バッサバサですのっ!!

 

 

そう聞こえた方を見ると落ちかけた夕日に剣が煌めいていた。そして何かが倒れる音が数回聞こえしばらくすると何も聞こえなくなった。どうでもいい話なのだが神器のデュランダルは二本剣があるのに実際に持っているのは一本なのはどうしてだろう?

 

 

お待たせいたしました、コウ君に謝らないといけませんね

 

 

その場に立ちすくんでいたらデュランダルが剣に付いた血を拭いながら歩いて来た。その姿はデュランダルもキル姫だと言うことを再確認させてくれた。

 

 

お疲れ様、どう言う事?

 

 

実は…

 

 

デュランダルの話はこうだ、この草原はサフランの近くにあるデュランダルのお気に入りの場所で人は滅多に来ない特等席のようだ、その代わり日が落ちると異族が出現するんだって。

 

 

日が暮れる前に帰ろうと思っていたけどつい寝入ってしまって異族に遭遇してしまったようだ。

 

 

これはわたくしの落ち度ですわ、お詫びにディナーにご招待しますわ

 

う、うん!お願いします!

 

 

危害も無かったし守ってもらったし断ろうと思ったけどそう言われたら淑女の顔に泥を塗る訳にはいかない。素直にお願いしよう。

 

 

着いてきて下さいな

 

はい

 

 

そう言われてサフランの方へ向かって歩いて行く。もう異族は居ない、そう思っても少し怖かったのでなるべくデュランダルの側を歩いていた。

 

 

しばらく歩き街中へ、それでもデュランダルは歩みを止めない、さらに歩き一軒の古ぼけた店の前で立ち止まった。

 

 

ここですわ

 

このお店、来たことあるよ!

 

本当ですの?あまり人の来るお店では無いのですが

 

うん、レーヴァテインに連れて来てもらったんだ

 

なるほど、そういう事ですね、さっ入りましょ

 

うん

 

 

再びそのお店へと入って行った。以前と変わらない店内、そして一番奥の席へと腰掛けた。

 

 

一度来た事があるならこのお店で頼む物は決まってますね?

 

そうだね、ナポリタンスパゲティでしょ?

 

違いますわ!ミートスパゲティですわ!

 

えぇ、そうなの?

 

そうですわ!このお店に来たらミートスパゲティって昔から決まってますわ!

 

じゃあ僕もそれを貰うよ

 

最初から素直に「はい」と言っておけばよろしいのですの

 

はーい

 

 

おじさんにメニューを伝えて待つ事に。その間もおしゃべりをしていた。

 

 

デュランダルさんは良くここに来るの?

 

もちろんですわ、ここのお店のお料理はとても美味しいのですわ♪

 

うん、確かに美味しいね

 

それにここのマスターの事を知らないキル姫はいなくってよ

 

そんなに有名なんだね

 

ここのマスターはキル姫を人として扱われる様に教会に掛け合ってくれたのですわ、以前私達、キル姫は恐れの対象でしたから

 

 

そう言って顔をハッとさせ口を手で押さえた、あまり言いたく無い話みたいなのでこれ以上聞くのをやめて別の話題を振る事に。

 

 

デュランダルさんはなんて香水を付けているの?

 

わたくしはオゥパラディのサボンという物をつけていますわ、でもコウ君は香水苦手でしたよね?

 

そうだけどその匂いは大丈夫なんだよね、そんなにキツくないっていうのかなんてゆうか、、、

 

付け方だと思いますわ、わたくしはハンカチにちょっぴり垂らしてそれで首筋、手首、足首を拭くだけですから

 

おぉー、お洒落な付け方だね

 

ほのかに香るのがポイントですわ、それに、香りはあくまで引き立て役、その香りにメインが埋もれてしまっていては意味がありませんわ

 

ふむふむ、勉強になったよ

 

次はお店に行くのではなくてわたくしがチョイスした物をプレゼント致しますわ♪

 

うん、楽しみにしているよ

 

 

楽しそうに話すデュランダルと話していたら頼んだ料理が運ばれてきた、会話をやめてご飯を食べる事に。美味しそうに湯気を立てるミートスパゲティに手を合わせ頂く事に。

 

 

んっ、美味しっ!

 

美味しそうに食べるのは構いませんがお口にソースがついてましてよ

 

ほんと?気をつけるね

 

やっぱりコウ君はお子ちゃまですわ♪

 

さすが淑女だね

 

とーぜんですわ♪

 

 

そう言うデュランダルの口元にもソースが付いていたけど言わないでおこう。そしてスパゲティを食べ終わりお腹を休めていると食器を下げる時にコーヒーを持ってきてくれた。

 

 

ーーーー♪

 

 

鼻歌を歌いながらコーヒーにミルクとシュガーを入れ混ぜているデュランダル。

 

 

コーヒーはブラックで飲まないの?

 

そのままだと苦くて飲めませんわ

 

そう?ここのは美味しいからそのままでも飲めるよ?もしかしてお口はお子ちゃまだった?

 

そんな事ありませんわ!なら、一口いただきますわ!

 

 

そう言ってカップを渡すとそのまま一口。声には出さなかったけど苦そうに口をイィーっとしていた。

 

 

どうだった?

 

飲めない事はありませんがわたくしはお砂糖とミルクが必須ですわ

 

ふふっ、そうみたいだね

 

 

そのままカップを受け取り一口。そして気が付いた。間接キスやんけ!そう理解した瞬間に顔が熱くなるのを感じていた。

 

 

そんなに顔を赤めてどうしたのですか?

 

な、、なんでもないよ!うん!ブラックのコーヒーは美味しいな!

 

変なコウ君ですわ

 

 

コーヒーと少し甘酸っぱい何かを楽しむ事ができた良いディナータイムだった。

 

 

そろそろ帰りますわよ、もうすっかり日も落ちてしまいました

 

そうだね、楽しい一日だったよ

 

こちらこそ、楽しい一日でしたわ

 

 

お会計、って思ったらいつの間にかデュランダルが支払っていてくれた様だ、何度も頭を下げてお礼を言う事に。

 

 

ご馳走様でした!本当にありがとね

 

構わなくってよ、次はコウ君にご馳走様してもらいますわ♪

 

うん、そうなれるように頑張るよ!

 

次会う時はもっともーーっと良い男になっているのですわよ♪

 

 

そう言ってデュランダルは家へと帰って行った。それを姿が見えなくなるまで見送り僕も家に帰ることに。

 

 

ただいま

 

 

誰も居ない部屋に挨拶をして机に財布を置きお風呂へ。パジャマを着てベッドに寝転がらずに図鑑を開く事に。

 

 

次は草薙剣ってキル姫のようだ。名前からして和風だからマサムネと同じ所の出身なのかな?それよりも、、、

 

 

ため息と共に財布を開けるとお札は入っておらず小銭だけがジャラジャラとしていた、このままではキル姫と会うよりも生活する事すらできないだろう。お金を稼がなくては。

 

 

パタンと図鑑を閉じてため息を一つ、そのままベッドへと倒れ込んだ。

 

 

何とかなるだろう、おやすみ。

 

 

 

 

………………………………………………………

 

 

あれから部屋に戻り引き出しの中からある物を探していた。

 

 

ええっと、あ、ありましたわ

 

 

仕舞い込んだ物の中からお目当ての物を握りしめてその手を引き抜き手のひらを広げた。その中には木でできた四葉のクローバーの置物が。今度彼に会ったらこれをあげようとすぐ手の届く所にそれを置き窓から夜空を見上げていた。

 

 

あっ

 

 

思わず声をあげそのままベランダへ。再び夜空を見上げ星空を見ていた。

 

 

今日はいつもより星空が綺麗に見える、そんな気がした。

 

 

へくちっ、うぅ、湯冷めしてしまいましたわ

 

 

部屋に戻ろうと窓を開けようとした時に窓に煌めく星が一つ流れて消えるのが映っていた。思わず振り返ったけどもうその姿を見る事はできなかった。

 

 

えへっ

 

 

少しだけ笑ってそのままお布団へ潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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4ページ目、草薙剣

朝起きていつも通りに今日会うキル姫の事を図鑑で調べていた。なになに?とある島国でスサノオと呼ばれる男が出雲国でヤマタノオロチを退治した時にその尻尾から見つかった神剣?おぉ、これまた凄いな。なになに?その後御神体として尾張国に祀られ続けたと。

 

 

つまりその草薙剣はその島国の守刀という事か、それってとんでもなく凄いキル姫なのでは無いのだろうか?

 

 

まだ見ぬ草薙剣というキル姫に期待と尊敬を持っていた。もう楽しみ、ヤバい!早く会ってみたい。

 

 

これ程までにマリアさんが来るのが待ち遠しいのは初めてである。まだ四話目だけど。

 

 

おはようございます♪今日は草薙剣というキル姫に会って貰いますよ♪

 

 

噂をすれば来てくれた。やっぱり草薙剣に会えるようだ、それと一つ相談をしてみよう。

 

 

おはようございます!分かりました、それと一つ相談があるのですが…

 

どうしました?

 

あの、もう持ち合わせが無いのでその、バイトか何かをさせてもらえると嬉しいのですが…

 

あぁー、なら今日は草薙剣と草むしりなんてどうですか?

 

えっ!?草むしり!?

 

 

さっき図鑑で読んだら凄そうなキル姫なのに草むしりをするらしい。全くその姿が想像できない。

 

 

私から声をかけておくのでこの場所に行って下さいね♪

 

 

そう言って地図に印を打ってくれた。この場所に行けばいいのか

 

 

それとコウ君はまだ見習いなので、、、そうですね、今回はマージン取らずに全部あげますね

 

えっ!?本当ですか?

 

今回だけですよ?それにこれは教会からの任務じゃ無くて私個人からのお願いなので♪じゃあよろしくね♪

 

ありがとうございます!

 

 

そう言ってマリアさんは去っていった。草薙剣、一体どんなキル姫なのだろうか?そんな疑問を持ちながら服を着替えてその待ち合わせ場所に行く事に。

 

 

えーっと、サフランのこの通りを真っ直ぐ行って、この筋を左、ここかな?

 

 

地図を頼りに街を歩いてゆくと一軒家にたどり着く事ができた、この家の草をむしれば良いのだろう。

 

 

それにしても、凄い家だな、、、

 

 

その家を一周歩いて回ってみたのだが玄関から道路に続く道以外は全て草に覆われてしまっていた。それでも洗濯物が干してあったりと生活感があるので誰かが住んでいるとは思うのだが。

 

 

まだ草薙剣は来ていないようなのでその家を見ながらぼーっとしているとパカラパカラと馬の蹄の音が聞こえてきた。その方を見ると女の人が1人、馬に跨っているのが見えそのまま近づいて来た。この人が草薙剣なのかな?

 

 

そちがコウか

 

おはようございます、えっと草薙剣さんですか?

 

頭が高い!控えおろう!

 

は、ははぁぁぁーーー!

 

 

いきなりそう言われなんだかよく分からないけど跪いてしまった。本当によく分からないのだけどそのままの体制で次の指示を待っていた。

 

 

うむ、くるしゅうないぞ、表をあげい

 

はい!

 

 

そう言われて顔を上げると馬の上から僕を見下ろしている女の人が。いや、女の子と呼ぶべきかな?

 

 

うんうん、そちは良い奴じゃな!気軽に草薙と呼ぶ事を許そう

 

ははぁぁーー!!有り難き幸せ!

 

 

自分でも何をやっているかよく分からないのだけどなんかこんな感じになってしまっていた。まぁ、楽しいのだけど。

 

 

ここがあの受付が言うておった現場か、、、どれ、下見と行くぞ

 

はい!お供致します!

 

うむ!着いてまいれ!

 

 

騎乗したままその家の周りを回り始めた草薙の横をまるで付人のように歩いてゆく。その光景はまるで殿様とその家来のようだ。

 

 

そちは草むしりをした事はあるのか?

 

した事はありますが数える程度です!

 

ならば余が草むしりの真髄を教えてしんぜよう、法螺貝!

 

 

草薙剣がそう言うと何処かからボォォォォーーーっと法螺貝の音が聞こえてきた。一体何事なのだろうか。

 

 

困惑していると馬の上からひらりと飛び降り草むらに向かって歩いて行った。そして一本の草を引っこ抜きそれを地面に置くと手を合わせていた。

 

 

草薙さん!その行為はなんなのでしょうか!

 

今のはこの草の生命を奪った事に対する儀じゃ!よく見ておれ!

 

はいっ!

 

 

そのまま見ていると草を抜く度に手を合わせていた。いや、本当に何事なんだ?それよりもこのペースで草むしり終わるのか?ってかそれ僕もやらないといけないのか?色んな事が頭の中をぐるぐると回っていた。

 

 

ほれ、そちも草を抜かぬか

 

はい、未熟者ではございますが抜かせて頂きます!

 

 

そう言われてその辺に生えている草に向かって手を伸ばしていた。

 

 

しっかり草を見て抜くのじゃ!この戯け者が!

 

はい!すいませんでした!

 

よく見ておれ、草とはこう抜くのじゃ

 

 

そう言ってお手本を見せてもらったのだが僕の抜き方と違いが全く分からなかった。

 

 

ほれ、やってみんか

 

はい!

 

違う!こうじゃ!

 

はい!

 

まだ腰の入れ方がなってはおらぬ!

 

はい!すいません!

 

 

……………………………………………疲れる、、、草むしりを初めてかれこれ30分は経っていると思うのにまだ全く進んではいなかった。もうすぐこの文も二千文字を迎えようとしているのにこの話のオチの付け方すら迷子になっていた。毎回オチを付けれている気がしないのだが気にしたら負けだろう。

 

 

 

ふう、そちよ、茶を持ってまいれ

 

お茶ですか?

 

うむ、余は喉が渇いたのじゃ!

 

ははぁぁぁーー!!

 

 

そう言われて僕は売店へと駆け出していた。そして売店にたどり着きドリンクコーナーを見ていたのだが。

 

 

茶って何の事を言っているんだろう?

 

 

そう思い立ちすくんでいた。お茶が飲みたいのなら麦茶、緑茶、ほうじ茶、抹茶とあるし紅茶も同じ茶葉だしお茶みたいなものだろう。それにコーヒーが飲みたくて茶と言った可能性も捨てきれない。ううーむ。

 

 

いや、待てよ、もし僕が草薙が望む物を買ってこなければ「余が飲みたい物はこれではない!買い直して参れ!」とか言われかねない。そうなると非常にめんどくさい。何か良い手は…そうだ!

 

 

いい策を思いつきそれを実行する事に。ドリンクコーナーから同じ飲み物を二本取り出しお会計をしてもらい草薙が待つ現場へと帰ってゆく。

 

 

草薙さん、買ってまいりました!

 

うむ!どれ、何をこうてきたのじゃ?

 

こちらです!

 

 

跪きその買ってきた物を差し出すように両手を伸ばした。

 

 

な、な、な、なんじゃこの真っ黒な飲み物は!余はこんな物をこうてこいとは言っておらぬ!

 

 

予想通り怒りだした草薙、だが僕には作戦がある。

 

 

しかし草薙様、この飲み物は南蛮より伝わる「コーラ」という飲み物でございます、僕を責めるのはこちらを飲んでみてからでも良いのでは?

 

ほおほお、南蛮より伝わりしとな?

 

 

よし!興味を持ってくれた!後は話術でなんとかしよう!

 

 

はい、このコーラと言う飲み物、一口口に入れればたちまち泡を立て喉越し爽快でございます

 

ほほーう、そちがそうまで言うのなら飲んでやらん事もないぞよ

 

はい、ただ今準備致しまする

 

 

コーラと一緒に買ってきたプラッチックのコップにコーラを注ぎ草薙の前へ差し出した。

 

 

どれ、そのこーらとやらの味を確かめてやるぞ

 

 

ごくごくとコーラを飲んでゆく草薙を見ているとコップに注いだ分を飲みきり(ぷはぁぁー)と満足そうな声を出していた。

 

 

うむ!余はこのコーラとやらを気に入ったぞ!

 

はっ!有り難き幸せ!

 

ふむ、そちに褒美を取らせてしんぜよう

 

 

おっ、何かをくれるみたいだ。ちょっとだけワクワクしながら待っていると草薙がこちらに近づいて来た。

 

 

ほれ、余の頭を好きなだけ撫でると良い

 

………?

 

 

困惑していると「どうした、早くせぬか」と催促をされた。一応手をズボンで拭いて頭をワシャワシャと撫でてあげる事に。

 

 

うむ!良い手付きじゃ!これより草むしりを再開するぞ!

 

はい!

 

 

なんだかよく分からないが草むしりが再開された。また何かを言われると嫌なので少し離れた所で草をむしってゆく。スギナにドクダミ、ハマスゲ、家でよく見る雑草達を引っこ抜いてゆく。

 

 

ふむふむ、中々良い手付きになったのじゃ

 

ありがとうございます!

 

だが、まだ少し足りぬ、そちに奥義を教えてやろう

 

奥義?

 

うむ、草むしりとはこうやるのじゃ!

 

 

そう言うと両手で草をむしってゆく草薙、ヤバい、何が奥義なのかさっぱり分からないよ。確かにさっきよりさっぱりしていっているけどさ!

 

 

どうじゃ!余の力思い知ったか!

 

天晴れでございます

 

 

よく分からないがよく分からないままにしておこう。そうすれば草薙も機嫌を損ねる事は無いだろう。

 

 

…………先程から心の声が雑になっている。気を付けよう。

 

 

それからしばらく草をむしりやっと半分って所でお腹の虫が音を立てていた。もうそろそろお昼にしたいな。

 

 

草薙さん、そろそろお昼にしませんか?

 

そうじゃなぁ、ほれ

 

ほれとはなんでしょうか

 

飯処に連れて行けと申しておるのじゃ良い店は知ってはおらぬか?

 

あぁ、、、その事なんだけど、、、

 

 

僕はまだこの街に来て日が浅いからよく分からないと伝えようとしたけど思い止まった。

 

 

草薙さんのおすすめのお店でご飯を食べたいです!

 

何?余のおすすめじゃと?

 

はい、草薙さんの言うお店に行けば素晴らしいお昼ご飯が食べれると思いまして

 

 

そう言うと「ふむぅ」と頭を悩ませていた。そしてしばらくすると思い付いたように手を広げそれを握り拳で叩いていた。

 

 

良かろう、余がそちにお店を紹介してしんぜよう

 

有り難き幸せでございます

 

 

そんな訳でお昼は草薙さんのおすすめの店に行く事に。もちろん草薙さんは馬に乗りその横をついて歩いて行く。あの口調はもう飽きたのでやめました。

 

 

ほれ、見えてきたぞよ

 

おぉー

 

 

しばらく歩くと見えてきたのは道端にある茶屋。分かりやすい説明をするのなら忍たま●太郎にでできそうな店だ。余計に分からなくなった?なんかごめん。

 

 

ばばよ!草薙剣がやって参ったぞ!

 

はーーい、お爺さん、お爺さん、草薙ちゃんが来ましたよ

 

おぉー、今行くぞ

 

 

草薙が呼ぶと店の奥から老夫婦が出てきてくれた。それにメニューを頼もうとしていたのだが。

 

 

あらあら草薙ちゃんもマスターができたの?

 

まさか生きているうちに草薙ちゃんにマスターができるのを見えるとは思わんかった

 

そんなのでは無い!こやつはただの付人じゃ!マスターでは無い!

 

はいはい、そんなに言ったらその人が可哀想ですよ

 

むぅ、それより団子と茶を持って参れ!

 

おじさん、お茶とお団子ですって

 

はいよー

 

 

そう言って奥へと入っていったお爺さん、それを店先の長椅子に座りながら待っていた。

 

 

草薙ちゃんのマスターは一体どんな人なの?

 

だからマスターでは無いというておるのじゃ!

 

えっと、僕はコウって言います、今は奏官の見習いをやらせて貰っています!

 

 

あら、ならもうすぐ草薙ちゃんのマスターになるのね?

 

それは…どうか分かりませんけど、、、

 

そもそもマスターとキル姫というのはじゃな!

 

 

草薙が説明をしているのだがお婆さんはそれをニコニコしながら聞いていた。何このお店、まるで親戚のおじさんの家に遊びに来たような安心感を感じる。

 

 

はい、お茶とお団子だよ、後これはサービスね

 

うむ!くるしゅうないぞ!

 

 

そう言って運ばれて来た湯飲みに入ったお茶と三色団子、それにこの緑色の物は草餅かな?

 

 

いただきまーす

 

 

まずは三色団子をパクリ。ほんのりとした甘味、それにモチモチとした食感。それを口にした後にお茶を一口。うん!ちょっと渋めのお茶が合う合う。そのまま草餅をパクリ、ん!程よく苦めなお餅に口の中に広がる抹茶の香り、成る程、抹茶の粉末がかけてあるのか。それを中和する甘い餡もナイスです。

 

 

どうじゃ、余の行きつけのお店は

 

うん!すごく美味しいよ!ありがとね

 

 

そのままお茶を一口。あぁ、幸せ。その後お爺さん、お婆さんと草薙と喋りながら楽しい昼食を過ごす事ができた。

 

 

そろそろ戻るとするか、ほれ、勘定をせぬか

 

はーい、えっと、いくらでした?

 

2000ゼニーになります

 

 

おぉ、地味に高い、でも、あの美味しさを考えたら安い。ナチュラルに僕が払う事になっているけどまぁいっか。

 

 

草薙ちゃんまた来てね

 

余の気が向いたらまた顔を見せてしんぜよう

 

ご馳走様でしたー

 

 

そんな訳で再び現場へと戻って来た。見渡しても後半分程だ、頑張ろう。

 

 

ほれ、そちも食べると良い

 

 

草薙が乗っている馬にご飯をあげていた。と、言ってもその辺に生えている草を食べさせているだけなのだが。いや、草食べるなら家の草を食べてもらおうよ。もちろん本人にはそんな事言わないのだけど。

 

 

気を取り直しチマチマと草をむしる事に。もう生えてこないように根っこからしっかりと引き抜いてゆく。それにしても日差しが強い。少し風があれば良いのだが無風である。

 

 

そっちの草は余がむしってやろう

 

うん、お願いね

 

 

草薙と場所を変わってもらいチマチマと草を抜いてゆく。言うだけあって草をむしる姿がなかなか可愛い。

 

 

退屈じゃのう、何か面白い話をせぬか

 

面白い話か、、、特に無いかな?

 

つまらぬ男じゃのう、特別に余が話をしてやろう

 

おっ、楽しみにしてます

 

うむ、心して聞くが良い。余の名は草薙剣、三種の神器にして神剣の力を継ぐ者なり!

 

 

ここに来て自己紹介をされてしまった、すごく反応に困る。

 

 

三種の神器って事は後二つあるって事?

 

うむ、余の他に天沼矛、八咫鏡がおるぞよ、まぁ、余には敵わぬがな

 

 

そう言って高らかに笑う草薙。ふむふむ、その二つもキル姫なのだろうか?きっとそうなのであろう。

 

 

ほれ、そちも身の上の話をせぬか

 

そうだね、僕はエゼル村出身のコウだよ、奏官になる為に教会でキル姫の勉強をしているよ

 

 

プチ、ブチ

 

 

聞くだけ聞いておいて草をむしるのはやめて貰いたい。まぁそんな感じで少し日が傾いてしまったけど草を抜き終わることができた。後は抜いた草を袋に詰め込めば任務完了だ。

 

 

あぁー疲れた

 

よし、これも食べてよいぞ

 

 

草薙が集めた草を馬に食べさせていた、、、もう何も言うまい。

 

 

ほれ、仕上げに余を家まで送り届けるのじゃ、それが終わるまではそちは余の家来じゃ

 

了解だよ、草薙さん

 

 

のんびりと草薙の家まで歩いてゆく事に。その途中振り返れば夕焼けが街を照らしていた。

 

 

むっ、急ぐのじゃ

 

 

急に馬を走られた草薙、一体どうしたというのか?

 

 

急いでどうしたの?

 

そちには太陽が沈みかけているのが分からぬのか!

 

それは分かるけども

 

日が沈めば辺りは暗くなってしまう、それがどんなに恐ろしいことか

 

うん?暗くなるとどうなるの?

 

暗くなってしまうのだ!分からんのかこの愚か者め!

 

 

頭をフル回転させて草薙が言いたい事を考えていた。多分暗くなると怖いから真っ暗になる前に帰りたい。と、言うことなのだろう。

 

 

なら晩御飯はどうする?お腹空いてない?

 

うむぅぅ、確かに腹は減ってはおるが、、、これもそちがちんたら草を抜いておるからこうなったのじゃ!

 

うん、ごめんね、じゃあそのお詫びに晩御飯奢るよ

 

余の話を聞いておったのか!

 

うん、聞いてたよ、ちゃんと家まで送ってくからさ

 

………まぁよい、そちがそんなに余と夕飯を食べたいと言うのならついていってやらん事もない

 

じゃあ決まりだね、行こっか

 

うむ!

 

 

そんな訳で以前レーヴァテインと一緒に来たラーメン屋へ。その近くに生えている木に馬の手綱を結びつけいざ来店。

 

 

ほほぉ、ここがラーメン屋と申す店か

 

そうだよ、僕もこないだ連れてきてもらったんだ

 

美味そうな匂いじゃな、はようラーメンとやらを余の前に持ってくるのじゃ!

 

じゃあどんなラーメンが良い?

 

何があるのじゃ?

 

えっとね

 

 

草薙と一緒にメニューを見ていた。楽しそうにメニューを見ている姿を見ると少し無理を言ったけど連れて来て良かったと思える。

 

 

余はこれにするぞよ!

 

じゃあ僕ば普通のラーメンにしよっかな、すいませーん

 

 

店員さんを呼びメニューを伝えてまた草薙とおしゃべりする事に。

 

 

それでの、前いた隊に異族が襲いかかったのを余の剣捌きで薙ぎ払ったのじゃ!

 

おぉー!草薙さん凄い!

 

余にかかれば異族など一捻りじゃ!

 

強いんだね

 

余の強さを直接見せてやる事ができぬのが残念じゃ

 

それは見てみたいけど異族に出会わないに越した事は無いからね

 

 

そんな事を話しているとラーメンが運ばれて来た。そのまま食べようとする草薙に嫌な予感がして小さい器に分けてあげる事に。

 

 

ちゃんとフーフーしてから食べるんだよ

 

子供扱いするでない!

 

ふふっ

 

 

そうは言いながらも器に入れてあげたナルトをキラキラした目で見ているのを見逃さなかった。

 

 

うむ!うまいっ!

 

それは良かったよ、今度他の二人とおいでよ

 

そうじゃな、余が見つけた事にしてあの二人を驚かせてやろう

 

そーしなよ

 

 

そんなこんなでラーメンを食べ終わり草薙を家に送って行く事に。

 

 

うぅぅぅぅ、、、、余の側を離れるで無いぞ!

 

うん、側に居るよ

 

 

夜道は怖い草薙、乗馬するのをやめて僕の隣を歩いていた。

 

なぁコウよ

 

どうしたの?

 

何故そちは余の我儘に付き合ってくれたのだ?たまにこうして奏官見習いと会う事があるのだがそやつらは途中で余の前から姿を消した。何故コウは姿を消さぬのだ?

 

んー?最初は神剣だから敬わなくちゃだったけど草薙剣の優しさに気が付いたからさ、そのお返し、、、かな?

 

優しさとな?

 

うん、日が当たる所の草をむしってくれたりあの時僕が薔薇に触ろうとしたのを止めてくれたでしょ?

 

気づいておったのか

 

まぁね、ちょっと無理矢理な説明だけど

 

なんの話じゃ?

 

こっちの話だよ、草薙剣の家は何処なの?

 

うむ!余の家はあそこじゃ!

 

 

そう指差す家は以前マサムネと会った家と同じ所にあった。いつの間にか教会の方まで歩いて来ていたようだ。

 

 

ここで良いぞ

 

もう大丈夫なの?

 

これぐらいの距離、一人でも帰れるぞよ

 

うん、じゃあまたね

 

コウよ

 

ん?

 

礼を言うぞ!立派なマスターになるのだぞ!

 

うん、頑張るよ

 

余との約束じゃからな!

 

 

そう言って草薙剣は家へと入って行った。それを見届けてから家に帰る事に。

 

 

ただいまー

 

 

誰も居ない部屋に声をかけて服を脱ぎながらベッドの方まで歩いて来ていた。

 

 

コウ君お疲れ様でした♪

 

うわっ!ビックリした!

 

へへへ、さっき姿が見えたので先回りして待ってました♪

 

そうならそうと早く言ってよ……

 

サプライズを忘れずに、ですよ♪それと今日のバイト代です

 

 

マリアさんから封筒を手渡してもらえた。思ってたよりも分厚くてニヤけてしまった。

 

 

草薙剣の分は渡してあるの?

 

もちろんですよ♪

 

なら良かったです

 

それとコウ君

 

どうしました?

 

草薙剣が水辺が苦手だという事を書き忘れてますよ

 

水辺が周りになかったんだよ……

 

そういう事にしておきますね、次から気を付けて下さい

 

了解です

 

じゃ、私はこの辺で♪またね♪

 

 

そう言ってマリアさんは帰って行った。このほのかに残るシャンプーの匂い、、、ご馳走様です。

 

 

それからシャワーを浴びて着替えてから机に腰掛け図鑑を開く事に。次はリットゥというキル姫のようだ。

 

 

ふぅ、、、

 

 

ため息をついてから先程貰った封筒を開けてみる事に。あれだけの厚みがあったからワクワクしながら開けてみると千ゼニー札が15枚入っていた。

 

 

よし、寝よう

 

 

そう決めてベッドに潜り込む事に。おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

あらぁ、草薙ちゃん帰ってきてたのですね〜

 

今帰ったところじゃ、八咫鏡は居らぬのか?

 

ここに居るぞ草薙よ

 

皆居る様じゃな、今日は余はコーラと言うものを飲んでラーメンを食べたのじゃ!

 

 

誇らしげに二人に告げる草薙剣、だが二人の反応は思っていたものと違っていた。

 

 

コーラなんて妾はしょっちゅう飲んでおる

 

ラーメン、美味しいですよね〜

 

な、なんじゃと!知らぬのは余だけじゃったのか!

 

 

3人は今日も仲良しです。

 

 

 

 

 

 

 

 



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5ページ目、リットゥ

目を覚まして身体を大きく伸ばし起き上がった。そして机に座りいつもの図鑑を開き今日会うキル姫、リットゥの事を調べていた。なになに?

 

 

マルドゥックの武器は炎の剣であり、炎の先が周りについた回る円盤に類似するという。

これはリットゥと呼ばれ、名前の意味は「炎」である。

ヘブライ語の炎「ラハット(ハット)」と同じであるという。

 

 

そしてこの炎の剣リットゥは、智天使ケルビムとともに エデンを守るために置かれた剣の炎(ラハット・ハヘレヴ・ハミトゥハペヘット)の原型のようである。

 

 

 

 

……コピペで申し訳ないがそういう事らしい。つまりリットゥはエデンを護る守護者なのだろう。エデンって何処にあるんだ?

 

 

そんな疑問を持ちながら図鑑を見ていた。今回はガチで書く事に困っている。ヤバい、どうしたら良いんだ、、、

 

 

 

机に頭をつけて悩んでいた。これを書く時は大体キャラクエやキル姫の個性を参考にしているのだが今回はそれが通用しなさそうだ。風呂を焚くキャラクエってなんだよ。

 

 

おはようございますー♪起きてますかー?

 

 

そんな僕の気も知らないでマリアさんが呼びに来てくれた、、、マリアさんは悪くないのだけど。

 

 

おはようございます、起きてますよ

 

今日はリットゥと会って来てもらいますね♪

 

分かりました!それで何処に行けば良いのですか?

 

そうですね、、、教会の入り口で待っていて下さい

 

分かりました!

 

 

そんな訳で着替えを済ませて身支度を整えて待ち合わせ場所の教会の入り口へと向かい歩いて行く。部屋を出て教会内を進んで行けば当然だが入り口へ辿り着いた。

 

 

リットゥ、どんなキル姫なのだろうか?守護者っていうぐらいだから筋骨隆々でデカイ剣とか持っているのだろうか?

 

 

謎の期待を持ちながら待っていると赤髪の女の人が歩いて来た。そして誰かを探すように辺りをキョロキョロと見回している。

 

 

もしかしてと思い勇気を出して声をかけてみる事に。

 

 

あの、違ってたらすいません、リットゥさんですか?

 

そうだが、お前がコウか

 

はい!おはようございます!僕コウって言います!

 

我が名はリットゥ、宜しく頼もう

 

はい!お願いします!

 

 

筋骨隆々では無かったけど両胸にとんでもない物を持っていた。しかもそれを際立てる様な薄紫色のタンクトップ?を着ている。顔を見て話しているつもりなのだがどーしても視線が泳いでしまう。

 

 

挨拶もそこそこにとりあえず朝ご飯を食べに行こうという話となった。リットゥに教会にある喫茶店に案内してもらう事ができた。

 

 

話はある程度は聞いている、奏官の見習いをしている様だな

 

はい!立派な奏官になる為に勉強してます!

 

そう言う割には随分とヒョロい身体をしているな、鍛えてはいるのか?

 

あんまり時間が無くて…いつも帰るとそのまま寝ちゃうんですよね

 

なら私が鍛えてやろう、お前の心の炎、私に見せてみろ!

 

はいっす

 

 

ハムハムとサンドイッチを食べていたらそう言われた。少し嫌な予感がするけれどせっかくお誘いしてくれたのだから頑張ろう。

 

 

よし、そうと決まれば急ぐぞ

 

えっ、まだ食べているのですが…

 

まだ食べているのか、早くしろ

 

はいぃ、、、

 

 

リットゥさんに急かされてサンドイッチを口に押し込みそれをコーヒーで流し込んだ。それを見てからリットゥがレジへと向かって行った。

 

 

会計を頼もう

 

リットゥさん、奢りますよ

 

ダメだ、目上の者が奢る、当然だ

 

 

そう言われてしまった。ここは素直に奢られていよう。

 

 

リットゥさんあざっす!

 

そんな事は良いんだ、どれ、食後のランニングと行こうか

 

はひぃ

 

 

そんな訳でリットゥさんとのトレーニングが始まったのだが食後のランニングが非常に辛い。

 

 

そんなのでは立派な奏官にはなれんぞ

 

ゼーーーハーーーゼーーーハーーー

 

 

元々農作業をしていた事もありそれなりに体力はあるつもりだったのだが食べてすぐのランニングに体が震えていた。下っ腹は痛くなるしお腹の中の物が走るたびに揺れているのを感じる。

 

 

リッ、、トゥさん、、あと、どれぐらい、、、走る、、のでふか、、、

 

この教会を2周するまでだ、気合を入れろ

 

は、、はひぃ

 

 

その後何度もリットゥの檄を貰いながら何とか走り切ることができた。どうでも良い話なのだがこの「檄を飛ばす」という言葉は本来は応援するという意味では無い様だ。少しだけ賢くなった気になりながら荒い息を整え滝の様な汗を拭っていた。

 

 

ほら

 

あざっす!

 

 

リットゥさんが渡してくれたタオルで汗を拭いていた。そして女の人(親以外)からタオルを渡してくれた事でテンションが上がっていた。

 

 

このタオルむっちゃ良い匂いっすね!何処の柔軟剤使ってるんっか?

 

これはフレ●フレグランスのフラワーハーモニーだったな、私も好きで使っているんだ

 

へぇぇ、今度買ってきます!

 

そんな事より少し休んだらまた走るぞ、今日は私が仕切らせて貰う

 

はいっす!

 

 

先程渡されたタオルを頭に巻いて気合を入れる。これなら汗も垂れてこないし匂いも堪能できる一石二鳥だ。もうお腹も落ち着いてきたし本調子で走る事ができる。

 

 

よし、行くぞ

 

はいっ!

 

 

前を走るリットゥさんを追いかけてゆく。のは良いのだが長い赤髪が走るたびに靡きそれによってシャンプーなのかよく分からないけど良い匂いが撒き散らかされているのだ。それを嗅いで「はぇぇぇ〜」と夢心地となっていた。

 

 

何を間抜けた顔をしている

 

あっ、すいません!

 

 

走りながら振り返ったリットゥさんに怒られてしまった。それでも再び「はぇぇぇぇ〜」と、なっているのだが。

 

 

とりあえず教会を4周程したところでランニングは終わりとなった。お互いが呼吸を整えながらゆっくりと歩いていた。

 

 

私についてくるのは少しお前の事を甘く見ていたようだな、謝罪しよう

 

そんなそんな、体力はある方だとは思っているので

 

ほぉ、なら午後からはもう少し厳しくしても良さそうだな

 

 

ニヤリと笑ったリットゥさんに優しくお願いしますと伝えると「考えておく」と言われてしまった。因みにもう僕の体力は限界である。

 

 

そんな訳でお昼ご飯にしようという話になり立ち上がろうとした瞬間に足の力が抜けてリットゥさんの方へとよろけてしまった。

 

 

おっとととっ

 

それ以上近寄る事は許さん!

 

ギャフンッ!!

 

 

そのままリットゥさんの方へ倒れていった僕は何故か蹴飛ばされ反対の方へと倒れていた。何だかよく分からないが理不尽を感じる。

 

 

す、すまない、、、っ

 

いたたたたっ、、、急にどうしたのですか!?

 

実は私は、、、

 

 

申し訳なさそうにリットゥさんが説明をしてれた。

 

 

キル姫は伝説の武器からキラーズを抽出してマナと適合させる事によって生まれる。そのためその武器の時の記憶が性格に反映されてしまう様だ。リットゥさんはエデンを守護していた記憶から自分のテリトリーに入り込む者に対して警戒をしてしまう。つまり先程僕がよろけてリットゥさんの方へ倒れたのはリットゥさんのテリトリーを荒らす行為として認識され、それを排除する為の攻撃との事。

 

 

私も分かってはいるのだが、、、

 

しょうがない事だと思うよ?大した怪我もしてないから気にしないでよ

 

そう言ってもらえると嬉しいよ、ゴホン。ご飯でも行こうか

 

はいっ!

 

 

そう言ってリットゥさんの後ろをついてゆくと教会の中にある食堂へ連れてってもらえた。

 

 

さっき蹴飛ばしたお詫びだ、好きな物を頼んでくれ

 

うーん、、、じゃあ遠慮なく頂きます

 

 

そう言ってもらえたのでちょっぴり高めなカツ丼を頼む事に。因みにリットゥさんはキツネうどんの様だ。

 

 

頂きます

 

いただきます

 

 

それでコウはどうして奏官を目指しているのだ?不純な動機ではなかろうな?

 

えっと、うーん、、、

 

 

うどんをちゅるりとしながらそう言われた。その問いに言葉を濁しているとやはり不純な動機かと冷たい声で言われてしまった。

 

 

あんまり言いたい話じゃないんだけどさ、、。

 

 

レーヴァテインに話した事を伝えるとなんといえない顔をされてしまった。

 

 

す、すまん、そんな事情があるとも知らずに

 

良いよ良いよ、こんな事聞かないと分かんないしさ

 

だがコウのその志、私は感服したぞ、私の前のマスターは不純な男だっだから余計にそう思うだけなのかも知れないが

 

リットゥさんの前のマスターはどんな人だったの?

 

朝は自分で起きれないわまともに働こうともしない。それに戒律が全てと言う私の考えを真っ向から否定する様な奴だったな

 

戒律?

 

そうだ、ルールと言った方が分かりやすかったか?

 

いえ、分かりますけど、、、

 

 

この世の戒律とはな、と戒律について語っているリットゥさん。これもその武器だった時の記憶なのだろうか?

 

 

と、言う訳だ。コウにも伝わったか?

 

はい、そりゃもうバッチリですよ

 

なら午後からも気合を入れてトレーニングをしないといけないな

 

はい

 

 

ご飯を食べ終わりまったりとした時間って訳もなく再びリットゥさんと筋トレをする事となった。

 

 

午前中にランニングはしたから午後からは上半身を鍛えるとしようか

 

了解です!

 

まずは腕立て伏せから行くぞ

 

はいっす!

 

 

リットゥさんと頭を合わせながら腕立て伏せをしていた。

 

 

しっかりと負荷をかけながらするのだぞ、息をしっかり吐いて

 

はいっす!

 

顔もちゃんと上げろ

 

はい!

 

 

腕立て伏せをしながら顔を上げるとリットゥさんが腕立て伏せをしている姿が見てた。それだけなら良かったのだが重力に逆らうモノがどーしても見えてしまう。一応見ない様にはしているのだがやはり視界に入ってしまう。

 

 

そんなに弛んだ顔でどうしたのだ、もっとしっかりしろ!

 

頑張ります!

 

 

そう言われてしまった、確かに顔は弛んでいたかも知れないが別の場所は張り詰めていると伝えたい。そんな勇気無いけど。

 

 

後何回するんですか?

 

己の決めた数をすれば良い、それが規律というものだ

 

了解っす!

 

 

そんな訳で腕立て伏せをし続けて43回ほどで力尽きてしまった。

 

 

もーむりだよぉ…

 

そこでやめるという事はその数がコウの決めた回数だという事だな

 

そーでしゅ

 

それは分かったのだがその気の抜けた返事はなんだ

 

しゃーせん

 

 

まぁ良い、次は背筋を鍛えるとするか、背筋は剣を振るうのに重要な筋肉だからな

 

はいっす!

 

 

腕立て伏せの次は背筋をする事となったのだが。ここまで書いていれば想像がつくと思うけど目のやり場と足と腕の痛みに耐えながら背筋を鍛えてゆく。

 

 

しっかり背を逸らせ!もっと顔を上げろ!

 

はいっす!!

 

 

…多分この人には自覚が無いのだろう。背を逸らし顔を上げるたびにその爆弾の谷間が僕の視界に入る事に。しかもタンクトップが汗で爆弾に張り付いてね、堪んないっすよね。

 

 

色々なやる気が満ちてゆく中、今日の筋トレは終了となった。

 

 

お前の心の炎、しかと見せてもらったぞ

 

あー疲れた、、、リットゥさんあざした!

 

最後にご飯でも食って帰ろうか

 

そうっすね、あざっす!

 

 

またまたリットゥさんに連れられて教会の中へと入って行き中にあるレストランへと連れてきてもらえた。

 

 

好きなのを頼め

 

ういっす!

 

 

そう言われて手渡されたメニューを見ていた。よし、これにしよう

 

 

あざっす

 

うむ

 

 

メニューを受け取るとそのまま店員さんを呼んでくれた。その来てくれた店員さんにメニューを伝えておしゃべりをする事に。

 

 

リットゥさんって好きな物とかあるんですか?

 

私は、そうだな、強いて言うのならリンゴが好きだ

 

おぉー、なら、趣味はあるのですか?

 

趣味って言う程でも無いが焚き火を眺めるのは好きだな。火を見ていると自然と心が熱くなってくるんだ

 

ならその焚き火でリンゴを焼いたら完璧ですね

 

ん、それもそうだな、今度やってみる事にするよ

 

その焚き火はどこでやってるんです?僕も焼いたリンゴ食べたい

 

もちろん規律に沿った場所でやっているよ、今度いいリンゴが手に入ったら誘うよ

 

あざっす!

 

 

そんなおしゃべりをしていると頼んだ料理が運ばれてきた。それに手を合わせていただくことに。

 

 

私に色々と質問をしたがそう言うお前には趣味や好きな事はあるのか?

 

んー趣味は特にないし好きな事も、、、無いですね

 

何か一つ趣味を持て、それだけで人生という奴は変わるらしいからな

 

考えておきますね

 

 

そんな話をしながらもオムライスを食べていた。うん、美味しい。

 

 

これを食べたら帰るぞ、日が落ちる前に家に帰るのも規律だ

 

了解っす!

 

 

そんなに規律、規律って息苦しくならないのだろうか?そんな疑問を持ちながら夕ご飯を食べ終わる事ができた。

 

 

今日はなんだか、その、楽しかったぞ。礼を言おう

 

僕も久々に身体が動かせて楽しかったっす!

 

またコウに会えるのを楽しみにしているよ、それと

 

それと?

 

私は戒律や規律を破る事は大嫌いだがそれでも破る事がある。それがどういう時か分かるか?

 

うーん?分かんないっすね?

 

それはな、己の信念を貫く時だ。ん、なんだその顔は!

 

いえ、カッコいいなって

 

本当にそう思っているのか?

 

思ってますよ?勉強になります!

 

まぁ良い、またな、コウ

 

あざした!

 

 

レストランの前でリットゥさんとわかれる事に。その背中が見えなくなるまで見送って部屋に帰る事に。

 

 

ただいまーっいてててて、、、

 

 

どうやら調子に乗って筋トレをしすぎたようだ。忘れた頃に痛みがやって来てくれていた。

 

 

風呂入って寝よっか

 

 

さっとシャワーを浴びてパジャマに着替え痛む身体を引きずって机に向かった。

 

 

えっと、次はナーゲルリングってキル姫か、、、細かい事は明日調べるとするかな。そう決めてそのままベッドに潜り込み布団を被りティッシュを引き寄せた。

 

 

 

おやすみなさい

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 

 

少し肌寒い風を感じながら縁側に座り込み今日の事を思い出しながら焼酎をコップへと注いでいた。

 

 

あら、晩酌なんて珍しいですね

 

ん、たまにはな、シェキナーお前もどうだ?

 

そうですね、付き合ってあげます

 

ならコップと後戸棚にあるお菓子を取ってきてくれないか?

 

この時間の間食は規律に反します

 

うっ、そうだったな、、、ならコップだけで良いぞ

 

はい、それに私にはリットゥの話が肴になりそうなので

 

 

そう言って微笑むシェキナーにそんな大した話など無いと返すリットゥ。そう言って笑い合った後に二つのコップを重ね合わせ口元へと運んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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6ページ目、ナーゲルリング

いててててっ

 

 

朝起きると同時に筋肉痛に悩まされていた。腕と背中、それに足までいい感じに筋肉が悲鳴をあげているのを感じる。

 

 

それでも起き上がり机に向かい今日会うキル姫、ナーゲルリングについて調べる事に。なになに?

 

 

ナーゲルリングとは、中世ドイツの英雄叙事詩の主人公ディートリヒ・フォン・ベルンの愛剣。

 

小人アルプリスが鍛えた剣で、元は巨人グリムが所持していたが、ディートリッヒがアルプリスに盗んでくるように命じ、その後ディートリッヒの物となった。

 

ディートリヒ曰く、「ナーゲルリングは全ての剣の中で最も優れている」。

その切れ味は鉄の鎧をも軽々と切り裂くほどであるという。

 

ディートリッヒはこの剣を使い多数の巨人を討伐したりと、数々の武勲を挙げた。

 

 

ただエッケザックスを手に入れた後はこちらに乗り換え、ナーゲルリングは英雄ハイメに渡しているので、ここを見ると「エッケザックス>ナーゲルリング」のように見えるが、先述したようにナーゲルリングは全ての剣の中で最も優れたものとディートリッヒ自身が言っているので、実際にどちらが優れているのかは解釈次第だろうか。

 

 

との事。再びコピペで申し訳ないのだがそう言う事のようだ。鉄の鎧を軽々と切り裂くってヤバいヤツやん!

 

 

ナーゲルリング、どんなキル姫なのだろうか?楽しみである。

 

 

おはよーございまーす♪

 

おはよございます!

 

 

いつも通りマリアさんが起こしにしてくれた。ドアを開けて今日の事を説明してもらう事に。

 

 

今日はナーゲルリングに会ってもらいますね、それと一つお願いがあります

 

はい、聞きますよ?

 

ナーゲルリングと一緒にワスレナの方にある村に果物を買って来て欲しいんですよね、もちろんお礼はしますよ?

 

分かりました!それでナーゲルリングは何処に居るのですか?

 

教会の入り口に居るようには言ってあるのでコウ君も早く準備して下さいね♪

 

りょーかいです!

 

 

それと馬車と必要な物はこちらで揃えておきますので少し待っていて下さい♪

 

はい!

 

 

そんな感じで去っていったマリアさんを見届けてから着替えて教会の入り口へ。少し待っていると銀髪で蒼目の女の子が誰かを探している様にキョロキョロしているのが見えた。

 

 

もしかしてナーゲルリングさんですか?

 

はい、そうですよ

 

 

話しかけてみると優しい声で返事をしてくれた。よくみるとゴスロリっぽい服装をしている。

 

 

おはようございます、僕コウって言います。今日一日よろしくお願いします

 

ナーゲルリングです、どうぞよろしくお願いしますね

 

二人共お願いしますね♪

 

 

挨拶を済ませた時に馬車を引いてマリアさんが来てくれた。馬一匹に一人用の荷台。ごくありふれた馬車である。

 

 

一応目的地の辺りで異族の目撃情報はありませんが万が一の時はナーゲルリングを頼って下さいね♪

 

分かりました、行きましょう

 

う、うん!行ってきまーす!

 

気を付けていってらっしゃーい♪

 

 

マリアさんに見送られながらの出発である。因みに僕が馬を操りナーゲルリングは荷台にちょこんと座っている。

 

 

お互いが無言の中カラカラと車輪の音と馬の蹄の音を聞きながらサフランの道を進んで行く。

 

 

あのっ質問良いですか?

 

はい、なんでも聞いてください!

 

コウ君はどういう人ですか?

 

えっと、そうだな、、、

 

私の事はどういう風に扱うつもりですか?

 

 

考えをまとめる前に次の質問をされてしまった。その質問にも答えるべく頭を悩ませていた。

 

 

僕は普通の人でナーゲルリングさんの事は一人のキル姫として接するつもりだよ?

 

そうですか

 

 

なんとも言えない返事を貰えた。その間もカラカラと音を立てながら馬車を進ませていた。

 

 

今日は何処まで行くのですか?

 

えっと、ワスレナのモルゼイ村って所だよ。このまま問題なければお昼頃には着くと思うけど

 

分かりました、それまでの間よろしくお願いしますね

 

僕の方こそお願いね、不甲斐無いと思うけど、、、

 

大丈夫ですよ、私は気にしません

 

ふむっ

 

 

なんとなーく冷たく感じるナーゲルリング。まぁ初対面だししょうがないのだろうと気持ちを切り替えて馬の操縦をする事に。

 

 

しばらくして馬の足取りが重くなってきた。そろそろ休憩しようと思い辺りを見渡すと道に一本の木が生えているのが見えた。

 

 

ナーゲルリングさん、あの木まで進んだら少し休憩しよっか

 

分かりました

 

 

木の近くまで馬車を操り手綱を木に結び付けた。これで一息つける。そういえばマリアさんが必要な物を揃えてくれていたはずだ。それを探す為に荷台を覗く事に。

 

 

どうしました?

 

いや、マリアさんが必要な物をくれたから何処にあるのかなってさ

 

私も手伝いますね

 

うん、ありがとね

 

 

二人で荷台を見ていると荷台の床の一箇所が外れる事に気が付いた。二人で顔を見合わせた後にその蓋を開ける事に。

 

 

((せーのっ!))

 

 

何故か二人で声を合わせてあけていた。

 

 

おっ?

 

なんですか?かご?

 

 

二人でそこを覗くと木で編んで作られたカゴが一つ入っているだけで他には何も入っていなかった。

 

 

えーっと?

 

これにその果物を入れて持ってきて欲しいって事なんですかね?

 

そうだと思うよ?

 

………………………

………………………

 

プッ

 

アハハッ

 

 

二人共笑い転げてしまった。マリアさんの事だからご飯とか入れてくれてるって思ってたのにまさかカゴだけだなんて。

 

 

面白い人ですね

 

そうだね、まさかカゴだけだなんてさ

 

私お腹空いちゃいましたよ

 

僕もだよ、この辺りにご飯屋さんは無いかな?

 

調べてみますね

 

 

そう言って腰についている二つの鳥籠の様なものを外すと中から白いねずみを取り出した。

 

 

そのネズミは?

 

今からこの子達の嗅覚でご飯屋さんを探してもらいます

 

へぇ、、そりゃすごいよ

 

この近くのご飯屋さんを探して下さいね

 

 

ナーゲルリングがそう言うとネズミ達はピンと背筋を伸ばしその後何処かに駆けて行った。

 

 

ナーゲルリングさんはねずみが好きなの?

 

ねずみもそうなのですが私は小さいものが好きなんです

 

そう言うことね

 

 

しばらくすると一匹のねずみが帰ってきて進路を鼻で教えてくれた。

 

 

あっちみたいですね、行きましょう

 

了解です!

 

 

先行し何度もこっちを振り返るねずみを見失わない様に馬車を進めてゆくと一軒のうどん屋さんを見つける事ができた。そこの亭主に馬車を停める所はあるかと聞くと裏に停めて良い様なのでそこで朝ご飯兼昼ご飯にする事に。

 

 

いただきます♪

 

いただきます

 

 

お互いの机に置かれているのは月見うどんだった。料理は同じなのだが僕は大盛りでナーゲルリングは小盛り、むしろお子様サイズと言った方が良いかもしれない。

 

 

ナーゲルリングさんは少食なの?

 

いえ、そうでは無いのですが小さいと可愛く無いですか?

 

ふむ

 

 

確かにそう言われてみればそうである。だけど月見うどんの月見を崩さない様に麺を一本一本箸で掴み食べるナーゲルリングの方が可愛い。さらに。

 

 

フーーフーーーと息で麺を冷ますパフォーマンス付きだ。この言い方は失礼かもしれないがロリ●ンなら一撃死するだろう。

 

 

どうしました?私の顔に何か付いてます?

 

んーん?何も付いてないよ?

 

 

残念ながら?僕はロリコ●では無いのでこの話はもう無いのだが何となく守ってやりてぇ、なんて事を考え始めていた。

 

 

ご馳走様でした

 

ごちそうさまです

 

 

そんな感じでご飯を食べ終えて再び馬車の旅を再開させていた。それと先程と違う事が一つ。

 

 

コウ君はどうして奏官になりたいのですか?好きな物はなんですか?っと、ナーゲルリングから質問攻めにあっていた。それに一つずつ答えていくとそれを笑顔で聞いてくれた。

 

 

朝よりも楽しく馬車を進ませ気が付けばモルゼイ村にたどり着こうとしていた。

 

 

なんだかあっという間でしたね

 

そうだね、ナーゲルリングさんが沢山話してくれたからだよ

 

そんな、コウ君が話してくれたからですよ

 

 

そんな微笑ましい会話をしながら村へと入ってゆく。

 

 

それでなんて果物を貰いにきたのですか?

 

えぇっと、ドラゴンフルーツだったはずだよ?

 

珍しい果物ですね

 

僕もあんまり聞いた事無いかなー?

 

とりあえず村の人に話を聞いてみませんか?

 

そうだね

 

 

馬車を村の入り口に停めさせてもらい二人でフラフラと村を歩きながらドラゴンフルーツを探していた。

 

 

すいまーせん、ドラゴンフルーツは売っていますか?

 

うちじゃ扱って無いね

 

すいません、ドラゴンフルーツありますか?

 

うちには無いよ

 

 

…………………

 

 

 

そんな感じで5軒程回ったのだが良い返事は貰えなかった。でもモルゼイ村の外れの方で一軒だけドラゴンフルーツを育てている農家がある事を教えてもらう事ができた。

 

 

そこに行ってみましょうか

 

そうだね

 

 

二人で郊外にある農家を目指して歩いて行く。夏を感じさせる太陽と吹き抜けてゆく風を感じながら。

 

 

心地良いですね

 

そうだね、ナーゲルリングさんは暑いの大丈夫?

 

私は平気です、コウ君はどうですか?

 

僕も大丈夫だよ、暑いより寒い方が嫌かな?

 

冬は誰かに抱き着けるから好きです♪ほら、暑いと抱き付きたくなくなるじゃ無いですか?

 

うーん?

 

 

ニッコリ笑顔でそう言うナーゲルリングの可愛さに何も言えなくなってしまった。

 

 

気が付けばその農家に辿り着く事ができていた。村からそれなりに離れているのに本当に一瞬で着いてしまった気がする。

 

 

すいませーん、ドラゴンフルーツが欲しいのですがー

 

はーい、教会のマリアちゃんのお使いかな?

 

そうです!

 

マリアちゃんドラゴンフルーツ好きだからね、そのカゴいっぱいに入れておくね

 

あざっす!

 

 

どっさりとカゴに入れてもらう事ができた。少し重たいけど良いだろう。

 

 

これって美味しいのですか?

 

美味しいよ、良かったらお二人も食べてみるかい?

 

良いんですか?

 

もちろんさ、こういうサービスからお客を作るんだからさ

 

 

少々本音が漏れている気がするけど農家の人の好意に甘えてドラゴンフルーツを頂く事に。

 

 

こうやって切って後はスプーンですくって食べるんだよ

 

あざっす!

 

 

ただシンプルに半分に切るだけで良い様だ。そのほかにもスムージーにしたりサラダに混ぜたりと色々な調理法があるみたいだが今回はシンプルにそのまま頂く事に。

 

んっ、美味しい♪

 

見た目と味が全然違うね

 

 

ほんのり甘くて酸味がいい感じで美味しいフルーツだった。キウイの様な種の感じさえ気にしなければ問題なく食べられる。

 

 

このフルーツがドラゴンフルーツって呼ばれる理由はこの竜の鱗の様な皮にあるんだよ

 

へぇ〜

へぇ〜

 

 

おじさんのうんちくを聞きながらも良いおやつを食べる事ができた。

 

 

じゃあまた来ますね

 

ありがとうございました♪

 

マリアちゃんによろしくねー

 

 

 

じゃあ帰ろっか

 

はい!楽しかったですよ♪

 

 

ご機嫌なナーゲルリングを荷台に乗せて教会を目指す事に。余程ドラゴンフルーツが気に入ったのかその話をしながら盛り上がっていた。そんな時だった。ナーゲルリングが連れているねずみが鳴き声をあげていた。

 

 

どうしたの?

 

異族です

 

 

その言葉に緊張が走る。馬の上から見渡してもその姿は見え無いけど不安が押し寄せてくる。

 

 

どうしたら良いかな?

 

私に任せて下さい、絶対にコウ君に手は出させません!

 

 

荷台で剣を構え戦闘態勢のナーゲルリング。その瞬間にねずみが一際大きな鳴き声をあげた。

 

 

そのまま馬車を走らせて!絶対に止まらないでね!

 

 

そう言い残し荷台を飛び降りたナーゲルリング。そう言われたら止まるわけにはいかない。馬に鞭を入れてスピードを上げてゆく。

 

 

ギャァァァァァァァ!!!

 

グギャギャギャギャ!!

 

 

異族の嫌な叫びが聞こえてきた。それでもナーゲルリングを信じてひたすらに馬車を走らせてゆく。

 

 

ザクッ ザシュッと何かを切る音が聞こえてその後にバサッと何かが倒れる音が聞こえてきた。そして最後に異族の咆哮が聞こえた後には馬車の音しか聞こえなくなっていた。

 

 

お待たせしました、任務完了です♪

 

ありがとナーゲルリングさん、助かったよ

 

あの程度の数なんて楽勝ですよ♪

 

 

走る馬車にナーゲルリングが飛び乗ってきてくれた。それにお礼を言うと笑顔を返してくれた。

 

 

街に着いたらお礼にご飯でも行こうよ

 

じゃあお言葉に甘えちゃおっかなー♪

 

うん、僕にはそれぐらいしかできないからさ

 

そんな事ないですよ!私には分かります!

 

そう言ってもらえて嬉しいよ

 

 

のんびりと馬車を走らせて教会に帰ってくる事ができた。門に馬車を停めてすっかり重くなってしまったカゴを二人でマリアさんが居る受付に持って行く事に。

 

 

はい、無事帰って来れました

 

あっ♪ありがとうございます♪このフルーツ私大好きなんですよね♪

 

 

そう言いながらスーツ姿のままドラゴンフルーツの皮を剥き食べ始めていた。この人仕事中にこんな事して良いのだろうか?

 

 

じゃあ二人にお礼を支払いますね♪

 

 

レジからお金を取り出して渡してくれた。この人は自由人なのだろうか?

 

 

それとナーゲルリング、コウ君を守ってくれてありがとうございます♪

 

え、なんで異族と戦ったって分かるのですか?

 

雰囲気で分かりますよ♪

 

ふむ

 

 

よく分からなかったけどまぁ良いだろう。そのまま教会にあるレストランへと二人でやって来ていた。

 

 

好きなのを食べてよ、今日のお礼だよ

 

じゃあ遠慮なく食べちゃいますね♪

 

 

ナーゲルリングが頼んだのはオムライスのお子様セットだった。因みに僕はカツ丼を頼む事に。

 

 

コウ君は私を信じてくれたのですか?

 

えぇっと?どう言う事?

 

異族に襲われた時です、私が裏切るとは思わなかったのですか?

 

ん、僕はナーゲルリングさんを信じていたよ?でももしそのまま居なくなったとしてもナーゲルリングさんには僕を守る義理は無いから恨みはしない。かな?

 

優しいんですね

 

かな?分かんないよ

 

ごめんなさい、疑ったりして

 

どう言う事?

 

ナーゲルリング。私が剣だった時の事は知っていますか?

 

確か小人アルプギスが作った剣でディートリヒ・フォン・ベルンの愛剣。だよね?

 

そうなのですが私は持ち主を何回も変えているのです、その時の記憶からかあまり人を信じられなくて

 

それは誰だってそうだと思うよ?世の中良い人ばかりじゃ無いし誰だって人を疑う事はあると思う、だけどそれは悪い事なんかじゃ無いと僕は思うよ

 

優しいのですね

 

ナーゲルリングさんには負けるかな?

 

 

お待たせしました

 

ありがとうございます、食べよっか

 

はい♪

 

 

カツ丼を食べながらオムライスを食べるナーゲルリングを見ていた。オムライスの中心に建てられた旗を倒さない様に食べてるのだが倒れてしまいガッカリした表情がとても可愛らしかった。

 

 

じゃあ帰ろっか

 

はい♪またお願いしますね♪

 

 

トコトコと待ち姫ルームへ駆けて行くナーゲルリングを見送って僕も部屋に帰る事に。

 

 

 

 

ただいまーー。あー疲れた、、、

 

 

誰も居ないドアを開けてそう呟いた後シャワーを浴びる事に。

 

 

ふぅ、

 

 

寝巻きに着替えて一息付いてから机に向かう事に。

 

 

なになに?次はアロンダイトってキル姫の様だ。よし、寝よう。

 

 

そう決めてベッドに潜り込む事に。おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

私は窓から空を眺めながら今日の事を思い出していた。まだ奏官の見習いの男の子とのちょっとした冒険の事を。

 

 

馬を運転している姿、人と喋っている姿。私と喋っている姿。全部見ていたけど間違いなくコウ君は良いマスターとなるだろう。

 

 

どうせ私は選ばれませんけどー

 

 

つい独り言が漏れてしまった。慌てて振り返るも聞いているのはねずみ達だけだった。

 

 

寝よっと

 

 

そのまま布団に潜り込むと二匹のねずみも入って来てくれた。その温もりを感じながら目を閉じて眠りの世界へと。

 

 

 

 

 



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7ページ目、アロンダイト

湖の騎士と呼ばれたランスロットの愛剣アロンダイト。その刃は刃こぼれする事なく鋭さを保ち続けると言う。

 

 

その他にも血塗られた魔剣と言う通り名があるがあまり知られてはいないだろう。

 

 

朝起きてから図鑑を読んでいたのだがあまり詳しい事は書かれていなかった。

 

 

アロンダイト、どんなキル姫なのだろうか?そんな疑問を持ちながらふうっと息を吐き図鑑を閉じて服を着替える事に。

 

 

筋肉痛が治り快適な身体で軽快に服を着替えてストレッチをする事に。これが終わったら朝ごはんにしよう。

 

 

そんな事を考えながら身体を伸ばしているとマリアさんが呼びに来てくれた。

 

 

おはようございます♪もう起きてますかー?

 

はーい、起きてますよ!今日は早いんですね

 

アロンダイトに鍛錬があるから来るなら早く来いって言われたんですよね

 

こんな早くから鍛錬って、、、まだ6時ですよ?

 

それだけ熱心なんですよ♪アロンダイトが鍛錬をしている場所は地図に記してあるのでそこに行ってきて下さいね♪

 

了解です!

 

 

マリアさんに地図を貰い教会の売店で朝ご飯を購入してその地図に示されている場所を目指す事に。

 

 

えっと、教会を出て左に行ってそのまま真っ直ぐ?

 

 

その方を目指して歩いて行くと森の中に入って行った。少し疑問を感じながらさらに進むと大きな湖が見えてきた。

 

 

へぇ、こんな所に湖なんてあったんだ

 

 

周りを樹木に囲まれ神秘的な雰囲気の湖に見惚れていた。水の透明度は高く底の方まで見る事ができる。

 

 

お魚いないかな?

 

 

そんな事を考えながら湖の周りを歩いていると何かを数える声が聞こえてきた。

 

 

九九万九五二三、九九万九五二四、、、、、

 

 

その声の主を探し辺りをキョロキョロすると一人の女の人が剣の素振りをしているのを見つけた。

 

 

九九万九六二三、九九万九六二四、、、

 

 

流れる汗を拭うことも無くひたすらに素振りをしている女の子。可愛らしいピンクの髪を後ろで編んで一本にまとめており清楚なワンピースを着ている。そしてそれを引き締める白色のタイツ。見た目なんてどうでも良い。僕はそのひたすらに素振りをする姿に目を奪われていた。

 

 

九九万九九九八、九九万九九九九.、百万!

 

 

そう叫びやっとその女の子は剣を納め汗を拭い空を仰いでいた。その姿はとても可愛らしく、なんだろう、尊い。

 

 

僕に気が付いたのだろう。話しかけてくれた。

 

 

貴方が受付が言っていた奏官の見習いですね

 

はい!僕コウって言います!今日一日よろしくお願いします!

 

それはご丁寧に、私はアロンダイトと申します

 

よろしくお願いします!

 

 

可愛らしい見た目と違い凛とした声のアロンダイト。そのギャップに心を掴まれかけていた。

 

 

えっと、剣の鍛錬をしていたの?

 

はい、私が騎士である以上鍛錬を欠かす事はできません

 

何回ぐらい素振りをしていたの?

 

百万回程

 

凄いっすね!

 

騎士として当然です

 

 

照れる事なく無表情のまま淡々と話すアロンダイト。少し距離は離れているのだがその瞳の奥に何か、何かを宿している様な気がした。

 

 

アロンダイトさんは朝ご飯食べた?僕買ってきたから一緒に食べようよ

 

 

買い物袋をぶらぶらさせてアロンダイトに見せたのだがその返事は「遠慮しておきます」だった。

 

 

どうしてなの?朝から鍛錬しているならお腹空いてるでしょ?

 

ダイエット中なので

 

ならジュースあげるよ

 

私はダイエットをしていると言ったはずですが

 

じゃあお茶なら飲んでくれる?

 

そうですね、お茶ならば頂きます

 

 

アロンダイトにお茶を渡してその辺りの倒木に腰掛け朝ご飯を食べていた。サンドイッチが美味しい。

 

 

その少し離れた所でアロンダイトはお茶を飲んでいた。そんな姿すら絵になる彼女。もし僕に画力があればこの姿をキャンバスに描いているだろう。

 

 

あの、私を見るのは、その、構いませんが少し不作法ではありませんか?

 

あっ、ごめんね、見惚れててさ

 

その様に言われるのは悪い気はしませんが気を付けて下さい

 

はーい

 

 

表情を崩す事なくそう告げるアロンダイト。お茶の入ったペットボトルを地面に置くと再び素振りを始めていた。

 

 

一、ニ、三、四、、、

 

 

僕はその姿をただ見ていた。あまり剣の事は詳しくないのだが凛とした姿でただひたすらに素振りをするアロンダイトになんとなく違和感を感じていた。

 

 

どうしてそんなに鍛錬をするの?

 

気が散ります、話しかけないで下さい

 

なら終わるまで見ているね

 

 

その姿を倒木に腰掛けて見ていたら先程感じた違和感の正体に気が付きアロンダイトに話しかけていた。

 

 

アロンダイトさん

 

なんでしょうか

 

どうしてそんなに辛そうに鍛錬をしているの?

 

辛くない鍛錬などこの世にはありません

 

そうじゃなくて、、、無理をしているっていうのか、嫌々やっているっていうのか

 

そんな事はありません!

 

 

素振りをやめて僕を睨んでいた。それでも僕は怯まずに言葉を続けた。

 

 

水遊びをしようよ、ほら、今日は天気も良いからさ

 

ふざけないで下さい、私は真剣なんです

 

僕だって真剣だよ、そうだな、、、じゃあお昼まで水遊びしよ、その後は僕も鍛錬に付き合うからさ

 

 

睨むアロンダイトから目線を逸らさずに言うとため息を吐いて「分かりました」と言ってくれた。

 

 

じゃあ早速遊ぼうか

 

 

そう言ってズボンが濡れる事も構わず膝まで湖に浸かっていた。見た目通りの水の冷たさが日差しに火照らされた身体を冷ましてゆく。

 

 

ほら、アロンダイトさんも早く

 

…分かりました

 

 

そう言って躊躇いながらそーっと湖に入って行くアロンダイト。そしてゆっくりと足を進めて僕の近くまで来てくれた。

 

 

それでこれからどうやって遊ぶのですか?

 

えっと、、、ごめん、勢いで誘ったからこの先は考えてないんだ

 

はぁ、貴方って人は

 

じゃあさ、水をかけ合おうよ!

 

 

そう言って手で水をすくいアロンダイトにかけていた。

 

 

きゃっ!もうっ、やりましたね

 

 

同じように水をかけてくれるアロンダイト。それにやり返すと少しだけ笑みを浮かべながら水をかけてくれた。しばらくすると二人は水浸しになっていた。

 

 

びしょ濡れだね

 

そうですね、誰かさんのおかげで

 

そう言われても良いほどに楽しかったよ、アロンダイトさんは?

 

私は、、、そうですね、悪くは無かったです

 

水って不思議だよね

 

水が不思議?

 

うん、無色透明なのに、ほら

 

 

足で地面をかくと水中で砂が舞い茶色く水が汚れていた。それをしばらく見ていると再び水は透明となった。

 

 

それにさ

 

 

両手で水をすくうと水は手の中に収まり隙間から雫が滴り落ちている。手を離すと水は再び湖に戻ってゆく。

 

 

形が無いのに形があるんだよね、これって凄い事じゃない?

 

おっしゃっている意味が理解できないのですが

 

なんて言えば良いんだろ、、、水って自由だよね

 

その様な考え方をする人を私は初めて見ました

 

僕もこんな事考えたのは初めてだよ

 

 

少しの沈黙の後にアロンダイトが大きな声をあげた。

 

 

どうしたの?

 

分かりました!その言葉の本質が!!

 

 

ザバザバと音を立てて岸に歩いて行き剣を構えると目を閉じていた。

 

 

急にどうしたの?

 

静かに。

 

 

そう言うと凄まじい程の集中をしていた。そして目を見開いた。

 

 

水の様に何色にも染まらず、水の様に形を変え、水の如く勢いをこの剣にっっっ!!!!

 

 

そう言って繰り出された一閃は先程の迷いは感じられず堂々と、凛としていた。

 

 

ありがとうございます、貴方のおかげで私は強くなれました

 

えーっと?

 

 

ただ水の話をしただけなのに改まりお礼を言われて困惑していた。

 

 

水は簡単に色を、姿を変えてしまうがそれでも無色透明に、水のあるべき姿に戻る事ができる。その言葉が私の剣技に新しい可能性を見出させてくれたのです

 

 

う、うん、それは良かったよ

 

そうですね、、、お礼にご飯でもご馳走させて貰えませんか?

 

じゃあお言葉に甘えさせてもらいます!

 

その前に今の感覚を忘れる前にもう一度鍛錬をします

 

分かりました!

 

 

そう言って素振りをしているアロンダイトを少し離れた所で見ていた。もうその姿から違和感は感じられず、なんだろ、一人のキル姫、いや、騎士の様に見えていた。

 

 

いつまで鍛錬をするの?

 

この感覚を身体で覚えるまでです!

 

 

アロンダイトの姿を見ながらお腹の虫がぐぅぅと音を立てていた。でもお腹空いたとは言える様な感じはなくただ剣を振るうアロンダイトを見つめていた。

 

 

しばらくして流れる汗を拭いながらアロンダイトが剣を納めていた。

 

 

これで午前の鍛錬は終了です、ご飯に行きましょうか

 

はーい

 

 

アロンダイトに着いて行き森を抜けて街の方まで歩いて来るとご飯屋さんが立ち並ぶ所にやってきた。

 

 

アロンダイトさんは何が食べたいの?

 

私は、、、そうですね、鍋が食べたいです

 

じゃあそこに行こっか

 

 

アロンダイトと鍋のお店へと入って行った。そこまで人は居らず御飯時なのにすんなりと席に座る事ができた。

 

 

先に決めなよ

 

ありがとうございます

 

 

メニューをアロンダイトに渡して僕は店内を見渡していた。そうは言っても変わった物を見つける事はなくただ店内を見渡していただけなのだが。

 

 

決まりました

 

ほい

 

 

メニューを受け取り見ていたのだがもう季節は夏に向かっているので鍋を頼む気にはなれず豚しゃぶのセットを頼む事に。

 

 

すいませーん

 

はーい

 

 

店員さんにメニューを頼み料理がくるまでの間おしゃべりをする事に。

 

 

アロンダイトさんはどうしてあんなに鍛錬をしているの?

 

今は私にマスターはいませんがもし私にマスターができた時に必ず私が御守りするためです

 

その為の鍛錬なんだね

 

それが私の騎士道ですから

 

 

そう言い切ったアロンダイト。それに言葉を続ける事に。

 

 

じゃあダイエットは何のためにしているの?

 

そうですね、後でその意味をお見せ致します

 

 

そう言ってくれた。ダイエットの成果と言われると体型の事なのだろうか?そう思い僕の向かいに座っているアロンダイトを見ていた。

 

 

……何処をどう見てもダイエットが必要な体型には見えなかった。それよりもう少しお肉をつけた方が良いのでは無いだろうか?それでも出るところは出ているのだが。

 

 

私を見るのは構いませんが不義を感じさせる視線を向けるのはやめて下さい

 

そんな目で見てないよ

 

いえ、そのように感じました

 

 

一応言い訳をしておいたがバレていたようだ。次から気を付けよう。

 

 

お待たせしました

 

ありがとね

 

 

豚しゃぶのセットを受け取りアロンダイトの方を見ると温野菜のサラダを受け取っていた。それって鍋のお店でも無くても良い気がするのだが気にしたら負けだろう。

 

 

頂きます

いただきます

 

 

豚しゃぶでもやしを巻いてゴマだれを付けて頂くことに。うん、美味しい。そのままご飯をかきこみお味噌汁を飲む。良い感じのお昼ご飯だ。

 

 

それに対してアロンダイトはドレッシングをつける事なくただ温野菜のサラダを食べていた。いくらダイエットだからってそれはどうなのだろうか?でも食べ方は人それぞれだから何にも言えないのだが。

 

 

それでもアロンダイトは美味しそうにサラダを食べていた。確かに野菜は美味しいしダイエットにもなるとは思うけど昼食としてそれはどうなのだろうか?

 

 

お昼からはどんな鍛錬をするの?

 

また素振りをします

 

組み手みたいなのはしないの?

 

相手が居ませんので

 

僕で良かったらしてみない?ほら、実戦に近い方が良いって言うじゃんか?

 

 

そう言うと一瞬驚いた顔をしてすぐに真顔に戻り「やめておきます」そう言われた。

 

 

僕なら大丈夫だよ、流石に剣でやるんじゃ無くて棒とかでさ

 

しかし、ただの人間に武器を向けるのは私は気が引けてしまいます

 

大丈夫、大丈夫、とりあえずやってみようよ

 

そこまでそう仰るのなら、、、

 

 

そんな感じで昼食を食べ終わり僕達はさっきの湖に戻って来ていた。そこで手頃な棒を二本拾いそれを剣に見立てて試合をする事に。

 

 

どっからでもかかって来てよ

 

その自信はどこから湧いてくるのですか?

 

さぁー?

 

分かりました、アロンダイト、参ります。

 

 

そう聞こえた瞬間に僕の頭は棒で叩かれていた。

 

 

いったーーーい!!

 

一応手加減はしたのですが、、、

 

たんこぶになってそうだよ、、、

 

はい、使って下さい

 

うん、ありがと

 

 

アロンダイトに貰ったハンカチを水で冷やして叩かれた所を冷やしていた。

 

 

やっぱり強かったよ

 

見ぬほど知らずを通り越して愚かなのですが

 

そんな事言わないでよ

 

いえ、事実です、もう一度試合私と試合をしようとした理由をお尋ねします、なぜ私と試合をしようとしたのですか?

 

理由なんてないよ、ただの思い付きだよ

 

本当に愚かですね

 

傷つくからあんまり言わないでよ、、、

 

 

ヘコむ僕に対して少しだけアロンダイトが楽しそうな気がした。それだけでもこの頭に痛みを受けた価値がある気がした。

 

 

それよりアロンダイトさんのダイエットの成果を見せてよ

 

分かりました。少しだけお待ち下さい

 

 

そう言って剣を構えて木の下に立った。そして目を瞑りマサムネにも負けない程に精神を研ぎ澄ませていた。

 

 

そこにひとひらの葉が舞い落ちてゆく。ふわりふわりと風に吹かれながらゆっくりと。

 

 

これが私のダイエットの成果です

 

えぇっと?何もしてなかったよね?

 

これを見て下さい

 

 

そう言ってアロンダイトが手に取ったのは先程落ちてきた葉っぱだった。それを見て僕は目を丸くした。

 

 

えっ、、凄っ!

 

 

その葉は葉脈のみとなっていた。ずっと見ていたのだがいつ動いた、いつ剣を振るったのか分からない程のスピードで葉のみを切ったという事なのだ。

 

 

少しでも体重が増えると僅かですが剣先が鈍ります。今のこの体重が私のベストウエイトなのです

 

へぇぇぇぇーーー

 

 

感心しすぎてへぇーとしか言えない僕に何とも言えない視線を向けてくれた。語尾力が無いのは認めるんだけどさ。

 

 

凄く凄いものを見せてもらったよ!

 

いえ、騎士として当たり前の事です

 

じゃあお礼に晩御飯をご馳走させて下さい

 

…先程の私の話を聞いていたのですか?

 

うん、もちろん聞いていたよ、でもあれだけの事をすればお腹空くでしょ?

 

まぁ、、、否定はできませんね

 

じゃあ決まりね、よろしくお願いします

 

こちらこそよろしくお願いします

 

 

それから鍛錬を一緒にしたりアロンダイトの剣を持たせてもらったりと楽しい時間を過ごしていたら気付けば日が落ちかけていた。

 

 

そろそろご飯食べに行こうか

 

そうですね、まだ少し時間が早いので夜の鍛錬もできそうですし

 

あれだけ鍛錬してまだするんだね…

 

はい、私は騎士なので、それに食べた分動かなくては太ってしまいます

 

その心意気は立派だよ

 

 

そんな話をしながら湖を出て森を歩き街までやって来た。それでも歩みを進め目指すのはレーヴァテインに教えてもらった洋食屋だ。

 

 

このお店は…

 

知っているの?

 

はい、このお店を知らないキル姫は居ないと言っても過言ではありません

 

そんなに有名なんだね

 

 

だから潰れずに残っているのか。失礼だが僕のささやかな疑問が解消されていた。

 

 

カランコロンと鈴の音を聞きながら入店しそのまま一番奥の席へと座った。

 

 

アロンダイトさんは良く来るの?

 

私はあまり、でもこのお店が嫌いって訳ではありませんよ

 

なら良かったよ、好きなのを頼んでね

 

分かりました

 

 

そう言って古ぼけたメニューを手渡し以前見つけたレーヴァテインとおじさんの写真を見ていた。あのレーヴァテインがあんなに優しい笑顔を浮かべる程二人は通じ合い長い時を共に旅をしていたのだろう。そう思うだけで僕も頑張ろうって気になれる。

 

 

決まりました

 

はい

 

 

メニューを受け取り目を通して食べたい物を決めおじさんを呼ぼうとしていた。

 

 

メニューが決まったのなら私に教えて下さい

 

えっと、僕はオムライスだよ

 

分かりました

 

 

そう言うと席を立ち厨房に居るおじさんの元へ歩いて行きメニューを伝えていた。あの事を気遣ってなのだろうか?それを見ているとお冷やを二つ持って席へと戻ってきた。

 

 

はい

 

ごめんね、ありがと

 

いえ、当然の事をしたまでです

 

 

そう言って視線をあの写真へと向けていた。

 

 

あの二人ってそんなに仲が良かったの?

 

そうですね、この大陸であの二人の事を知らない奏官、キル姫は居ません、それにあの事件の事も

 

事件?

 

いえ、今の言葉は忘れて下さい

 

…分かったよ

 

 

凄く気になる事を言われたがその疑問は忘れる事に。誰にだって知られたくない過去が一つや二つあっても不思議じゃないし。

 

 

少しのんびりとしているとカウンターに料理が並べられた。それを二人で取りに行き二人同時に手を合わせいただく事に。

 

 

アロンダイトさんもサラダ以外食べるんだね

 

私だってこうして好きな物を食べる時ぐらいあります

 

 

アロンダイトが頼んだのは僕と同じオムライスだった。スプーンで一口サイズに切り分けそれをすくい口に運ぶと美味しそうな顔をしていた。

 

 

その顔を見ているだけでどこか安心している自分がいた。

 

 

私の顔に何かついているのですか?

 

そんな事ないよ、なんか見惚れちゃうんだよね

 

はぁ、、、食事中ですよ

 

うん、ごめんね

 

 

なるべくアロンダイトを見ないようにオムライスを食べる事に。同じくスプーンで一口サイズに切り分けそれを口へと運んでいた。その時に視線に気が付いた。

 

 

……どうしたの?アロンダイトさん

 

いえ、なんでもありません

 

不義な目線を感じたよ?

 

私のセリフの真似をするのはやめてください

 

 

そう言って二人で笑い合い楽しい夕ご飯を食べる事ができた。最後に食後のコーヒーを頂いてお店を出る事に。

 

 

今日はありがとうございました、思っていたより充実した時間を過ごす事ができました

 

そう言って貰えて嬉しいよ、今から鍛錬をするの?

 

そうですね、日が変わるまでは

 

あんまり無理はしないでね、休むのも鍛錬だよ

 

分かっています、では、私はこれで失礼します

 

うん、ありがとね

 

 

アロンダイトと教会の前で分かれる事に。夜道を歩いてゆくアロンダイトを見えなくなるまで見送ってから部屋に帰る事に。

 

 

ただいまー

 

 

返事が返ってくる事はないのに挨拶をしながら部屋の中へ。すぐにシャワーを浴びてパジャマに着替えて机に向かう事に。

 

 

明日はグラムというキル姫の様だ。少し下調べをしてからベッドに潜り込む事に。

 

 

いたたたたっ

 

 

頭にできているたんこぶを一撫でしてから眠りにつく事に。

 

 

おやすみなさい

 

 

 

 

 

 

 

二五八四!二五八五!二五八六!

 

 

私は教会から少し離れた広場で素振りをしていた。ダイエットの為じゃない、少しでも強くなるために。

 

 

二六〇二!二六〇三!

 

 

あの少年は奏官を目指していると聞いていた、もしかしたら私と共鳴するのかもしれない。ならばその時は私が命に代えても御守りする義務がある。その時の為に少しでも今よりも強くなっていよう。

 

 

二六五八!二六五九!

 

 

流せる汗も気にせずただひたすらに剣を振るうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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8ページ目、グラム

グラム(Gram)は、北欧神話に登場する剣のひとつ。その名は古ノルド語で怒りを意味する。 古エッダではファフニールを殺すためにレギンからシグルズに与えられるが、『ヴォルスンガ・サガ』では出自が異なりオーディンからシグムンドへ与えられ、後に息子のシグルズに受け継がれたものとされる。石や鉄も容易く切り裂いたといわれている。鍛え直された後の長さは7スパン(およそ140センチメートル)あった

 

 

朝起きてから図鑑でグラムの事を調べて出てきた文だ。思いっきりコピペなのは目を瞑って欲しい。オーディンの名が出てくるって事は北欧神話の武器なんだね。

 

 

一つ賢くなったと思いながら図鑑を閉じて大きく背伸びをしていた。

 

 

コウ君ー起きてますかー?

 

はーい、おはようございます!

 

おはようございます♪今日はグラムの所に行ってきて貰いますからね♪

 

了解です!それでそのグラムさんはどこに居るのですか?

 

そうですね、今の時間だと山に居るんじゃないですか?

 

 

……疑問を疑問で返されても困るんだけどなぁ。

 

 

とにかく山に行けば良いのですね?

 

はい♪一応グラムが居そうな場所はリストアップしてあるので探して下さいね♪

 

はい!

 

 

そんな訳で僕は地図を片手に山を散策していた。倒木や草をかき分けながら山道を進んでいた。元からこういう道は慣れているので苦労はしないのだけど。

 

 

いたた

 

野薔薇に引っかかりながら進むと開けた場所にでた。その広場を見ると木漏れ日を浴びながら小鳥と戯れる一人の女の人の姿があった。

 

 

綺麗な人……そう思いながらその人を見ていると小鳥が僕に気が付いたのだろう。空へと飛び去ってしまった。

 

 

あっ、、

 

 

それを残念そうに見送りその後に僕の方へと振り向いた。

 

 

おはようございます、もしかしてグラムさんですか?

 

うん、私がグラム。竜殺しのグラムって覚えてね♪

 

僕、コウって言います!今日一日よろしくお願いします!

 

はーい♪君の事は教会から聞いているよ♪奏官の見習いをしているんだっけ?

 

そうです!まだまだ未熟者ですがお願いします!

 

うん、じゃあ一日相手をしてあげるね♪そのかわり、私のお手伝いをしてもらおっかな?

 

お手伝いですか?

 

うん、この山の奥に竜が居るんだ♪

 

はぇぇぇ

 

 

動物や異族が居るのは知っていたけどまさか竜まで居るのは知らなかった。その竜をどうするつもりなのだろう?

 

 

それでグラムさんはその竜をどうするつもりですか?

 

もちろん、乗りこなすんだよ♪

 

そこは殺さないんですね…

 

竜殺しは昔の呼び名だからね♪殺せって言われれば殺すけど?

 

殺さないで下さい

 

冗談だよ冗談♪じゃあ着いてきてね

 

 

そう言った後に山道を進んで行った。その後ろをついて行くことに。

 

 

………………

 

 

当然山を登るので少し上に視線を向ける事になる。なのだが僕の前をグラムさんが歩いている。それがどういう事か分からないと思う。今回のグラムは図鑑No.142のグラム。そう言うとわかりづらいと思うから覚醒できるグラムと記しておこう。

 

 

それを踏まえて説明をすると腰まである茶髪の長髪にその頭にちょこんと乗った真っ赤なベレー帽それによく分からないお腹が露出した上着?それに赤のチェックのミニスカート、それに黒のニーハイ。つまり上を見るとどーしてもスカートの中が見えそうになってしまうのだ。

 

 

見えそうで見えない。なんとも男心と欲望をくすぐる格好で坂の上を歩いているので非常に目のやり場に困っていた。

 

 

それで僕は何を手伝えば良いのですか?

 

そうだね、私が竜に乗れたって証人になってもらえれば良いよ♪

 

了解です!

 

 

そんな話をしながらグラムさんはまだまだ山道を進んでゆく。その後ろを息を切らしながらなんとかついて行く。

 

 

居た

 

何が、、、居たの、、、?

 

 

ゼーーーハーーと息を整えながら膝に手を置き呼吸をしながら前を向くと山の頂きに身体を丸めた竜が寝転んでいた。

 

 

逃げる訳でもなく攻撃体勢を取る訳でもなくただその竜は僕達を見つめていた。

 

 

今日こそその背中に乗せてもらうからね!持ってて!

 

うわっ!

 

 

そう言うと僕に剣を投げてグラムさんはその竜へと駆け出して行った。それに反応する様に竜が咆哮を上げて外敵を打ち払わんとその翼を大きく広げた。その姿はモンスター●ンターのリオレス●の様だ。

 

 

ヒィィィィィ!!

 

 

その咆哮の大きさに耳を塞ぎ座り込んでしまったけどグラムさんは怯まずに竜へと向かって行く。

 

 

今日こそその背に乗せてもらうよ!

 

 

繰り出される尻尾の薙ぎ払いや翼手のパンチを躱しながら接近し竜の首元に飛びついた。そのまま身体をくるりと回し首に跨るとするすると背中へと降りて行っていた。

 

 

グォォォォォォォ!!!

 

きゃあっ!!!

 

 

もう少しで背中にたどり着く時に竜が暴れグラムさんが宙に浮いた。その瞬間に竜が尻尾を振り回しグラムさんを打ち払った。

 

 

いったぁーーー!!!

 

だ、大丈夫ですか…?

 

 

尻尾に吹き飛ばされ僕の近くにあった木に叩きつけられそのまま地面へと力無く落ちていた。因みに赤色だった。

 

 

逃げましょう!

 

ーーーーーーー!!!

 

 

まだ何かを言っているグラムさんを抱きかかえて先程来た山道を駆け降りて朝にグラムさんと出会った広場まで逃げてきていた。

 

 

大丈夫ですか?

 

うん、なんとかね

 

 

そう言うと背中が痛むのかストレッチをしていた。それが終わるのを待つ事に。

 

 

グラムさんはいつからあの竜に乗ろうとしているんですか?

 

いつからだっけなー?もう忘れちゃったよ

 

そんなに?

 

うん、だって乗りこなしてやりたいじゃんか♪

 

剣は使わないの?

 

剣を使ったら殺しちゃうよ?私は剥ぎ取りがしたいんじゃなくて乗りこなしたいの♪

 

 

笑顔でそう言うグラムさんを見ながらリオレ●スから落ちる素材はなんだったのかを思い出そうとしていたが思い出せなかった。

 

 

じゃあ僕も手伝うよ?

 

その気持ちは嬉しいけどあの一撃を人間が受けたらタダじゃ済まないよ?ほら、キル姫と人間じゃ頑丈さが違うし

 

確かに、、、

 

 

どう考えてもあの竜の行動、攻撃パターンを見抜いて回避、接近ができる気はしなかった。

 

 

それに

 

それに?

 

ほら、私って何度も裏切られてきた経験からあるからさ。あんまり、その、初対面の人を信じられないんだよね

 

 

そう言われてしまった。だけど僕は言葉を続ける事に。

 

 

確かに信じられないって気持ちは分かるよ?僕だって初対面の人をいきなり信じろって言われても無理だし。それでも、今日一日は僕の事を信じてくれないかな?

 

 

グラムさんの目を真っ直ぐに見て瞬きもせずにそう言うと苦笑いをしてその後に照れた様に笑ってくれた。

 

 

そこまで言われたら、、、じゃあ少しだけ信じてみよっかなー?

 

ありがとね、グラムさんはご飯食べた?

 

私は、まだだよ?コウ君は?

 

僕もまだだよ、食べに行こっか?

 

そうだね♪

 

 

そんな訳で山を降りて適当なご飯屋さんに入る事に。

 

 

グラムさんは好きな食べ物とかあるの?

 

私は特に無いかな?コウ君は?

 

僕も特に無いかなー?なら好きな物は?

 

私は小鳥が好きなんだ♪さっきも見てたでしょ?

 

うん、小鳥と戯れる姿が可愛かったよ

 

またまたー♪褒めても何もでないって♪

 

 

そんなたわいも無い会話をしながら焼き鳥屋に行かなくて良かったと謎の安心感を秘めていた。しばらく話していると料理が運ばれてきた。

 

 

いただきまーす

いただきまーす♪

 

 

じゃああの竜に乗れたら一番にコウ君を後ろに乗せてあげるよ♪

 

ありがとね、楽しみにしてるよ

 

そういえば今日一日だけだったね、なら昼からまた竜の所に行くよー♪

 

あれだけやられたのに諦めないの?

 

諦めるなんてできないよ♪これはまぁ「グラム」だった時の記憶だと思うんだけどさ

 

ふむふむ

 

 

キル姫はやはりその武器だった時の性格を引き継ぐ様だ。それならレーヴァテインはめんどくさがりな剣だったのだろうか?この辺りの神話を調べてみるのも楽しいかも知れない。

 

 

竜を倒したシグルズは竜の心臓の血を舐め、鳥の言葉を理解するようになった。シグルズは、レギンが自分を殺そうと企んでいると鳥たちが話しているのを聞き、逆に彼をグラムで殺した。

 

 

今軽く調べたのだがこう出てきた。これがグラムの小鳥が好きって設定の元ネタなのだろう。こうして見てみると中々良く考えられている。

 

 

どうしたの?浮かない顔して

 

えぇっと、考え事かな?

 

悩みがあるなら考えずに行動すれば良いんだよ♪善は急げってね♪

 

 

明るくポジティブな彼女。輝く笑顔が眩しい。

 

 

そんな訳で僕達はご飯を食べ終えて再び竜の元へと戻ってきていた。

 

 

さーて、次こそ乗らせてもらうよ!

 

 

気怠そうに目を細める竜に宣戦布告をして向かって行った。その姿を後ろから見ている事に。

 

 

竜の攻撃を前転で躱し素早く立ち上がり接近していた。それを竜も読んでいたのだろう、後方へ下がり攻撃を仕掛けていた。

 

 

その様子を見ているとなんだか仲のいい友達。長年戦い続ける好敵手の様な、なんだろう、いいライバルって気がしてくる。

 

 

そんな二人を微笑ましく見ているとグラムさんが吹き飛ばされこっちに吹っ飛んできた。

 

 

ゲホッゲホッ!あーーっくそッ!!

 

大丈夫?

 

うん!次こそ乗りこなしてみせる!

 

 

そう言って駆け出して行った。そしてすぐにこっちに吹き飛ばされてきた。

 

 

怪我する前にやめておいたら?

 

いーーや!私は絶対に乗りこなしてみせるよ!それにコウ君と約束したからね!

 

 

あの時ご飯を食べながら言っていた竜の後ろに乗せてあげる。その約束を守る為にグラムさんは立ち向かっているのか、、、そう思い何か自分にできる事は無いのか探していた。

 

 

そうだ!

 

 

閃き次にグラムさんが吹き飛んでくるのを待っていると飛んできてくれた。

 

 

もー一回!!

 

グラムさん待って!

 

 

傷まるけでそれでも立ち向かおうとするグラムさんを呼び止め思い付いた事を話していた。

 

 

でもそれってコウ君が危ないよ

 

大丈夫大丈夫、信じてくれるんでしょ?

 

 

そう言うと「うん」っと頷き笑顔を返してくれた。

 

 

じゃあ行くよ!

 

頼んだよ!

 

 

僕が先行して前を走りその後ろからグラムさんに着いてきてもらっていた。それに竜が驚いた様な顔をしたがすぐさま攻撃態勢へと戻り翼を広げた。

 

 

はいっ!!!

 

そーーれッ!!

 

 

竜が攻撃を仕掛けようとした瞬間に僕がしゃがみ込みその両肩にグラムさんが乗った瞬間に立ち上がった。それに合わせて飛び上がったグラムさん。

 

 

いっけぇーーー♪

 

 

空高く飛び上がったグラムさんは空中で体勢を変えながら竜の背に飛び乗った。

 

 

どぉどぉ!!大人しくしてねー♪

 

 

それを暴れて振り払おうとしたがしっかりとグラムさんが抱き付き離れない。しばらく暴れていたが諦めて大人しくなっていた。

 

 

私の言う事聞いてくれる?

 

 

そう竜に問うと素直に返事を返していた。竜の言葉は分からないけどグラムさんに従ってくれるみたいだ。

 

 

コウ君、私やったよ!!

 

うん!すごくカッコ良かったよ!

 

 

竜に跨りポーズを決めるグラムさんに拍手を送っていた。それを照れながら笑顔を返してくれた。

 

 

じゃあコウ君乗って♪

 

えっ!?いきなり?

 

もう懐いたから大丈夫だよ♪ねっ?

 

 

グラムさんにそう言われて困った表情の僕と竜。凄く不安だけどその竜の背に乗せてもらう事に。

 

 

じゃあ竜で行く空の旅、一名様ご案内だよー♪

 

 

グラムさんの声の後にゆっくりと竜が羽ばたき空へと舞いがってゆく。硬いと思っていた竜の背は思ったより柔らかく意外と乗り心地が良かった。それに振り落とされない様にしっかりとグラムさんに抱きついておりその温もりも。

 

 

ここでサマーソルト♪

 

うおおぉっっ!!

 

 

謎の指示により空中で一回転。それに振り落とされない様にしっかりとグラムさんに抱きついていた。

 

 

あはははははは♪楽しいね♪

 

もーこわいよぉぉぉぉぉ!!!

 

まだまだ空の旅は続くよ♪

 

 

空に竜の咆哮とグラムさんの笑い声。それに僕の悲鳴を響かせながら空の旅は続く。その旅は日が落ちるまで続いた。

 

 

よーし♪ありがとね♪

 

ふぇぇぇぇ

 

 

暗くなり月が照らし始めた頃に教会の前へと下ろしてもらえた。その後舞い上がる竜を見送りグラムさんと夕ご飯を食べに行く事に。

 

 

すっごく楽しかったね♪

 

そうだね、初めて竜の背中に乗ったよ

 

 

適当な店に入りご飯を頼んでもまだ興奮冷めやらぬ様子。嬉しそうに、楽しそうに話すグラムさんの話を聞いていた。

 

 

やっと竜に乗れたよ♪

 

夢が叶ったってやつかな?

 

そーだね、私の長年の夢が叶った、だね♪

 

凄くいい場面に会えて光栄だよ

 

それもコウ君を信じたからだよ♪

 

そう言ってもらえて嬉しいよ

 

 

それでねっと話すグラムさんの話をうんうんと聞いてゆく。そんな時に料理が運ばれてきた、

 

 

いただきまーす♪

いただきまーす

 

 

なんの躊躇いもなくチキンステーキにナイフを入れるグラムさんを見ながらカレーを食べていた。聞くと大きい鳥にはなんとも思わないとのこと。

 

 

コウ君はキル姫一人ずつに会っているの?

 

そうだよ、良い奏官になる為にね

 

じゃあそのうち私の妹とも会うんだね、ちょっと控えめな子だからよろしくね♪

 

了解です!

 

 

キル姫にも姉妹とかあるみたいだ。これもその神話繋がりなのだろうか?

 

 

じゃあそろそろ帰ろっか、今日の事の復習もしたいし♪

 

まだ何かするの?

 

帰って鍛錬をするんだよ、ほら、明日には今日の自分を超えていたいからさ♪

 

 

そう笑顔で言っていた。この言葉は僕の胸に響いた気がする。

 

 

じゃあコウ君またね♪

 

はい!ありがとうございました!

 

 

そんな感じでグラムさんと教会の前で分かれることに。見えなくなるまで振り返り手を振ってくれるグラムさんに手を振り姿が見えなくなってから家に帰る事に。

 

 

シャワーを浴びて服を着替えて机に向かい図鑑を開く事に。次はアマダスってキル姫の様だ。それだけ見てからベッドに寝転がり今日の事を思い出していた。

 

 

赤色、それにあの柔らかな二つの感触。、、。じゃなくて、諦めない気持ちと誰かの助けがあれば事は上手くいくのかも知れない。僕もグラムさんの様に諦めない気持ちを持とう。

 

 

そう思い布団を被りティッシュを引き寄せていた。おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

私は鍛錬を終えて家に戻ってきていた。

 

 

ただいまー

 

おかえりなさい、随分と遅かったですね?

 

そーかな?それより今日は色んな事があったんだよ♪

 

はい、聞かせてくださいね?

 

まずは竜に乗れてそれから奏官の見習いの子に会ったんだよ♪

 

あの噂になっている子です?どんな子でした?

 

良い子だったよ♪それに久しぶりに人を信じた、かな?

 

グラムが人を信じるなんて珍しいですね

 

あんだけ真っ直ぐに言われちゃったらね♪そのうちバルムンクも会えると思うよ♪

 

楽しみだな、でも目立つのは嫌だけど

 

そんな目立つ様な子じゃないから大丈夫だよ♪それより

 

はい

 

 

グラスを重ねた後ゆっくりと口元へと運んでいっていた。その後グラムの話に相槌を打つバルムンクだった。

 

 

 

 

 



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9ページ目、アダマス

僕はアダマス様の椅子になっていた。椅子って言っても四つん這いになりその上にアダマス様が座っているだけなのだが。

 

 

ほんとドMね、可愛がってあ・げ・る

 

はい!ありがとうございます!!

 

 

いきなりこんな話をされても理解ができないと思うから朝の一連の流れに話を戻したいと思う。

 

 

 

 

 

 

おはようございますコウ君♪

 

おはようございますマリアさん!

 

 

いつも通り朝起きて今日会うキル姫、アダマスの事を調べる前にマリアさんが部屋に起こしに来てくれていた。

 

 

今日は早いんですね

 

アダマスに早く呼んでこいって言われちゃったんですよね

 

へぇー何かあったのかな?

 

多分ストレスの発散がしたいんだと思いますけどね♪

 

えぇ、、、

 

 

何故僕がそんな事のために呼ばれるのか、そしてその文の語尾に♪はいらないんじゃないのか。そんな事を考えていた。

 

 

なので歩きながらアダマスの事を説明しますね。ついて来て下さい

 

はい

 

 

マリアさんが言うにはアダマスは最も硬い金属で作られた「アダマスの鎌」がキラーズで自他共に認める女王様気質の様だ。因みにギリシャ神話に出てくる武器で農耕の神、クロノスが持っていた武器の様だ。

 

 

それでアダマスさんはどこに居るんですか?

 

教会から少し離れた所にある広場で待っているはずです、あっ居た居た♪

 

 

マリアさんが指差す方に銀髪の女の人が居た。膝まであるブーツに黒色のタイツ。それにタイトな黒のワンピースにヤバそうな鎌を持っていた。

 

 

おはようございます♪連れて来ましたよ♪

 

ありがと、あんたがコウね

 

はい!今日一日よろしくお願いします!!

 

早速だけど椅子になりなさい、今すぐによ

 

椅子ならあそこにベンチがありますよ?

 

あんな誰が座ったか分からない小汚いベンチに私に座れって言うの?

 

 

そう言って鎌を振るい僕の首を引っ掛けた。

 

 

従わないならちょん切るけど

 

は、はいっ!!

 

 

銀髪から覗くキリリとした目付きで僕を睨んでいた。従わないと不味い。そう本能の警告に従い僕は四つん這いとなりその上にアダマスさんが腰を下ろしていた。

 

 

じゃ、じゃあ一日頑張って下さいね♪

 

 

その姿を見てマリアさんがそそくさと帰って行った。これで冒頭へと話が戻るのだ。

 

 

 

………………

 

 

座り心地が悪いわね、もっと腰を上げなさい

 

はいっ!

 

返事はワンでしょ、この役立たずが

 

ワン!

 

 

どうしてこうなっているのか理解が出来ずただ、ただ椅子になっていた。そんな姿を広場を利用する人達が見て直ぐに視線を逸らし広場から立ち去っていた。

 

 

恥ずかしい……だけど服を通して伝わるアダマス様の温もりを感じて悪くない気分だった。

 

 

それであんたはどうして奏官を目指しているのよ

 

僕は

 

喋んじゃないわよ、あんたが吸った空気が私の肺に入るって考えただけでイライラするわ

 

(えぇ…)

 

 

すごい事を言われた。そんなの知らないよとツッコミたいがそうしたら何を言われるか分かったもんじゃないからその言葉を飲み込んだ。

 

 

退屈ね、なんか面白い話をしなさいよ

 

えっと

 

返事はワンでしょ、もう忘れたの?

 

わ、ワン!

 

 

このままでも良いのだがこのままだと話が進まない事に気が付いた。なのでアダマスに提案をしてみる事に。

 

 

恐れ多いですが発言宜しいでしょうか!

 

 

このままだと話が進まないので本日の予定を立てたいです!

 

そうね、なら午前はこのまま椅子、昼からはマット。夜にはちょん切ってあげる

 

えぇ〜〜

 

 

ヤバいぞ、このままじゃ本当に話が進まない。それにちょん切るって何をだ!?

 

 

あの、、、ちょん切るって何をちょん切るのですか?

 

あんたの使う用事の無いその粗末な物よ

 

 

そう言われて考えた。使う用事が無くて粗末な物、、、まさか!?

 

 

もしかして僕のピーーーーですか!?

 

何あんた人前でピーーーとか言っちゃってんのよ、馬鹿じゃないの!

 

 

そう強い言葉が聞こえたけどその声色は何処となく恥ずかしそうだった。そんな事はどうでも良いのだが。

 

 

とりあえずご飯食べに行きませんか?

 

そのままここで飢えてなさい

 

そこをなんとか!

 

しょうがないわね

 

ありがとうございます!!

 

 

渋々アダマスさんが立ち上がった。それで僕も立ち上がる事に。

 

 

誰が立って良いって言ったのよ、そのまま四つん這いで移動しなさいよ

 

ワンっ!?

 

 

そんな訳で僕は四つん這いのままアダマスさんの後ろを着いて進んでいた。どうしてこうなっているのか理解ができないしそんな事よりも僕を見る人達の目線が凄く辛い。

 

 

色々な物に耐えながら進んで行くと喫茶店にたどり着いた。

 

 

ねぇ

 

はい?

 

私がドアの前に立っているのに開けることもできないの?とんだ駄犬ね

 

は、ワンッ!

 

 

急いで立ち上がりドアを開けてお辞儀をしながらアダマスが通るのを待っていた。

 

 

言われる前からそうしなさいよ

 

 

そう言って店の前にある傘立てに鎌を入れて店内へと入って行った。

 

 

………

 

 

色とりどりの傘に紛れて刺さっている鎌に笑いを堪えながら店内へ。アダマスさんが座っている席の前に腰掛けた。

 

 

はい

 

 

 

メニューを渡し姿勢を正してアダマスさんがメニューを決めるのを待っていた。

 

 

ねぇ

 

はい!

 

はい

 

 

そう言ってメニューを渡された。それを受け取り注文を決める事に。

 

 

これにしよう、そう思いアダマスに聞いてから店員さんを呼ぶ事に。

 

 

店員さんにメニューを伝えて目線をアダマスに移すと退屈そうに頬杖を付いている姿が見えた。それにがっつり開いた胸元と。

 

 

……ゴクリッ

 

 

気づかれない様に溢れた唾を飲み込んだ。ちょん切るんじゃなくてそれで揉み潰して欲しい。そんな事を考えていた。

 

 

何見てんのよ

 

あまりの美しさに見惚れていました

 

何よ急に、まぁ、そう言われて悪い気はしないわ

 

 

そう言って頬杖をついたまま顔を逸らしていた。思ったより良い反応だった。これは褒めればデレるタイプか?

 

 

本当にアダマスさんは美しいですね、その綺麗な銀髪にキリリとした目付き!そして惜しみも無く覗かせるそのマシュマロ!!

 

ちょ、ちょっと、そんなに褒めないでよ

 

いやいやいや!そなたは美しい!もう先っぽだけじゃ無くて全部入れたいぐらいに!

 

 

ブチッ

 

 

あっ、変な事言った。そう気が付いた時にはもう遅かった。

 

 

ちょん切るだけじゃ済ませないわよ

 

ひぃ!!

 

 

逃げようとした時にはもう遅かった。首根っこを掴まれ僕はアダマスに店外へと引きずられて行った。

 

 

どうやってあんたを料理しようか、かなりイライラしてるんだけど

 

本当にごめんなさい〜〜〜〜!!!!

 

 

街の少し離れた所にある雑木林へと引きずられ手を離された。その瞬間に僕は土下座をして許しを請うていた。

 

 

嫌、早くその粗末なモノを出しなさい

 

それだけは勘弁して下さい!!!なんでも言う事を聞きます!!

 

今、なんでもって言ったわよね?

 

はいっ!!なんでも言う事を聞きます!!

 

ふーーん?良い事思い付いたわ

 

あっ

 

 

そう気が付いた時にはもう遅かった。ニヤニヤしながらアダマスさんが何かを考えていた。

 

 

今日一日あんたは私の奴隷だから

 

は、はい…

 

 

そんな今更な事を言われた。まぁ良いんだけど。

 

 

ま、そんな過激な事は言わないから安心して、これは18禁じゃ無いし

 

ふむ

 

 

この瞬間にこのSSをR指定しなかった事を後悔していた。でももしこれが18禁なら今頃僕は三角木馬とか全裸でムチを打たれたりしていたのだろう。

 

 

そうね、手始めに私の事を褒めて貰おうか

 

えーっと?

 

私の事を褒めろって言ってんのよ、さっきあんたに言われて悪い気はしなかったんだから

 

分かりました!

 

 

褒めるところを探すためにアダマスを観察していた。どーしても胸元に視線がいってしまうけどその雑念を振り切り褒める部分を探す事に。

 

 

ちょっと、まだかかるの?

 

はい、整いました!

 

まずは頭からいきましょう!綺麗な銀髪に凛々しい顔を隠す事なく切られたショートカットが良い感じですね。そのまま下がってゆくと首元のチョーカー。さらけ出された胸元をさりげなく隠しなおかつ胸元の存在感を引き立てていますね。さらに注目したいのはこのタイトなワンピース!アダマスさんの美しいボディーラインをはっきりと映えさせあえて胸元だけは弛ませ余裕を持たせたデザイン!これは男共の目線を独り占めだ!

 

 

そしてそしてそのウエストに付けられたチェーン、そこに付いている黒い薔薇の飾りがおしゃれ感を引きてていますね、そして一番注目したいのがこのブーツ!黒を基本としてあしらわれた赤色がアダマスさんの女王様らしさを引き立てています!そしてこの少し大きめの絶対領域がいい味を出しています!これは脚フェチの視線が気になる!

 

 

って感じでどうですか?

 

うん、悪い気はしないわ

 

 

本当にこんな解説で良かったのか気になるけど少しだけ笑顔を僕に向けてくれた。因みに昼ごはんはキャンセルとなりとてもお腹が空いていた。

 

 

それにしてもお腹すいたわね

 

そうですね

 

気晴らしに殴らせてよ

 

ノーサンキューです

 

 

椅子になるとか土下座とかは構わないけど痛いのは嫌だった。思い返せば朝からいきなり命令されてそれを聞いてばっかりだった事を思い出していた。

 

 

アダマスさん

 

何よ

 

揉ませてもらって良いっすか?

 

はぁ?急に何言いだすのかと思ったら、、、良いわ、その度胸に免じて根本からちょん切ってあげる

 

まぁまぁ、僕は肩を揉もうと思ったんだけどアダマスさんは何処を揉まれると思ったの?

 

別に、私も肩だって思ってたわよ

 

じゃあ揉んでいいかな?

 

好きにすれば

 

 

そう言って切り株に腰掛けたアダマスさんの肩を揉んでいた。一応言っておくけどこれは下心があってじゃなくて本当になんとなくである。

 

 

いい力加減してるわね

 

お褒めに預かり光栄です

 

 

爽やかな風が吹き抜ける雑木林で肩をモミモミ。首筋から肩甲骨の間をしっかりと丁寧に揉んでゆく。胸が大きい人は肩が凝りやすい様でしばらく揉んでいると張った筋肉が解れてきた。

 

 

はい、終わりですよ

 

 

最後に肩を手の平で叩きマッサージは終了となった。

 

 

スッキリしたわ、ありがと

 

いえいえ、どういたしまして

 

 

肩を回してスッキリした様子のアダマスさん、分かる人には分かると思うけど肩を揉むと谷間が丸見えなのだ。これは今夜にとっておこう。

 

 

あんた朝から私にコキ使われてなんとも思わないの?

 

全くだよ、僕は勉強させてもらう立場だし。それに

 

それに?

 

アダマスさん美人だしさ

 

 

そう言うと恥ずかしそうに俯いてしまった。こういうドSな人の可愛らしい一面が見れるのは嬉しい。

 

 

それから雑木林でアダマスさんと色んな話をしていた。アダマスさんには妹が居る事。最近手頃なMが居ない事。今までに結構な数をちょん切ってきた事。こういう性格なのは元の武器がそうだった事。

 

 

その話を聞いて震え上がったが別に怒らせなければちょん切らないらしい。信用ならないのだが?

 

 

それであんたはなんで奏官になろうとしてんのよ

 

それはね

 

 

僕の身の上話をすると興味深そうに話を聞いてくれた。

 

 

あんたも色々苦労してんのね

 

どーなんだろ?

 

気に入ったわ、もし私があんたのキル姫になったらその目的の手伝いをしてあげる

 

うん、助かるよ

 

 

こんな性格だけど根は良い人みたいだ。そろそろ日も暮れてきたからご飯でもって話になっていた。

 

 

アダマスさんは何食べたい?

 

私は別に

 

じゃあ喫茶店に行こうよ

 

 

そんな会話をしながら雑木林を抜けようとしていた時だった。突然ガサガサと木々が揺れた。

 

 

離れて

 

う、うん、、、

 

 

アダマスさんに言われて後ろに下がるとその瞬間に異族が顔を出した。

 

 

い、異族!!

 

 

キシャーーーー

 

キシャーーーー!!!

 

 

それも一匹では無かった。複数の異族に囲まれてしまっていた。

 

 

アダマスさん逃げようよ!

 

へぇ、私の奴隷に手を出そうだなんて良い度胸してるわね

 

 

怯える僕の前で鎌を構えた。

 

 

私の前に跪きなさいっ!

 

 

単身で異族の群れへと走りその鎌を振るった。その戦闘内容は引っ掛かりそうだから書けないが優雅の一言だった。

 

 

もう終わりなの?つまんないわね

 

 

そう返り血を浴びた手で髪を掻き上げていた。そのまま振り返りペロリと舌を出していた。

 

 

かっけぇ、、、

 

 

ただただそう思っていた。

 

 

鎌を振るったら肩が凝ったわね

 

はい!揉ませて頂きます!

 

その前にご飯、奢りなさいよ

 

はいっ!

 

 

そんな訳で雑木林を抜けてあの喫茶店に僕達は来ていた。

 

 

好きなの頼んでよ

 

 

そう言ってメニューを渡したら「この店に来たら私はオムライスって決めてんの」そう言われてしまった。それにならい僕もオムライスを頼む事に。

 

 

この店を知ってるって事はレーヴァテインとはもう会ったのね

 

うん、結構前にね

 

ならここの店主の事は知ってるわよね?

 

それなりになら、、、

 

あんたもそのうち真実を知る事になるわ

 

 

意味深な事を言われて考えてしまった。ここだけの話なのだがこの店のおじさんについて何かありそうな事を書いているが特に何も無いのだ。何か思い付いたらこの伏線が回収されるかも知れないが今のところその予定は残念ながらない。

 

 

ほら

 

うん

 

 

カウンターに置かれたオムライスを取りにゆきテーブルに並べていた。

 

 

頂きます

いただきます

 

 

こうして今日最初で最後のご飯を食べることができた。その味は当然ながら美味である。

 

 

アダマスさんはいつからこの店に来てるの?

 

結構前からよ、あの人達が前線を退いてからだから20年は前ね

 

へぇ、僕はまだ産まれてすらないよ

 

あんた勘違いをしているけど人は年齢じゃないわよ

 

どう言うこと?

 

歳なんて勝手に取ってくけどそれより経験よ、少なくとも私はそう思うわ

 

ふむふむ

 

 

これは深い意味のある言葉だ。もしここにレバーがあれば深良いの方に倒しているだろう。

 

 

柄にもない事言ったわね、さっさと食って帰るよ

 

う、うん!

 

 

残りのオムライスを食べてお店を出る事に。

 

 

おじさん、また来るわ

 

ご馳走様でした!

 

 

気が付けばすっかり暗くなってしまった街を二人で歩いていた。午前中に椅子になったり犬になっていたのが遠い過去のようだ。

 

 

じゃ、私はここで

 

うん、一日ありがとね

 

悪く無かったわよ、それと

 

それと?

 

頑張りな

 

う、うん!!

 

 

夜の街に消えてゆくアダマスさんを見えなくなるまで見送り僕も家に帰る事に。

 

 

ただいまー

 

おかえりなさい♪

 

 

誰も居ない部屋に声をかけると返事があった。

 

 

うわっ!びっくりした

 

どうでした?アダマスとの一日は?

 

なんだか疲れたよ

 

それだけですか?新しい性癖に目覚めたとか、新しい扉を開いたとか

 

ありませんよ

 

なーんだ

 

なんでそこ詰まらなさそうなんですか

 

なんとなくですよ♪明日はミョルミルに会いに行ってきて下さいね♪

 

 

その後におやすみなさいと言い残してマリアさんは部屋から出て行った。それを見送りシャワーを浴びる事に。

 

 

いたたたたっ

 

 

長く四つん這いになっていたせいか膝を擦りむいていた。痛みに耐えながら身体を洗いパジャマに着替えてベッドに潜り込む事に。

 

 

アダマスさんか、、、

 

 

そう呟いた後にティッシュを引き寄せ眠りにつくことに。おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あら、帰っていらしたのね

 

何よ、何か文句でもあるの

 

いえ、それより何処となく顔が嬉しそうですね

 

そう?知らないわ

 

そうですか、最近肩が凝ってしまって

 

私が揉んであげるわ

 

あら、ならお言葉に甘えさせてもらいますね

 

 

椅子に座り背を向けたハルパーの肩を揉み解していた。普段の自分なら絶対する事のない行為に少し戸惑ったけど悪くない気分だった。

 

 

 

 



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10ページ目、ミョルニル

名称は古ノルド語で「粉砕するもの」を意味し思う存分に打ちつけても壊れることなく、投げても的を外さず再び手に戻る、自在に大きさを変え携行できるといった性質を持つが、柄がかなり短いという欠点もあった。

 

神話ではミョルニルはしばしば真っ赤に焼けているとされ、これを扱うためにはヤールングレイプルという鉄製の手袋が必要だとされる。

 

 

いきなりコピペで申し訳ないのだがミョルニルについて調べた事を書き出してみた。このSSを書くにあたってかなりこのサイトを利用させて貰っているのだが募金する気にはなれないでいた。

 

 

……そんな事より偉大なる雷神、トールが振るったとされるミョルニルをキラーズに持つミョルニル。そんな彼女に会える事を楽しみにしていた。因みに既に服を着替え後はマリアさんが呼びに来てくれるのを待つばかりである。

 

 

ミョルニル、どんなキル姫なのだろうか?ハンマーがキラーズだからきっと大柄なキル姫なのだろう。もしそうだったら筋肉とか触らせてもらおう。そんな事を想像してニヤニヤしていたらドアをノックする音が聞こえて急いで玄関に向かった。

 

 

おはようございます♪起きてますかー?

 

おはようございます!起きてますよ!

 

今日はミョルニルとバイトに行ってきて貰いたいんですよね

 

バイトですか?

 

はい♪こないだ他の奏官が異族討伐で地面をボコボコにしてしまったのでそれを平にしてきてもらいたいんです

 

良いですよ?

 

そう言ってもらえると思ってました♪もう準備はしてありますからね♪

 

 

そう言ってスコップと軍手、地図を渡してくれた。断る気は無かったしマリアさんも断られるとは思っていなかったようだ。

 

 

はい、それでミョルニルはどこに居るのですか?

 

ミョルニルなら教会の前に居るように伝えてあるので、ピンク色の髪と白い帽子をかぶっているのですぐ分かると思いますよ♪

 

はーい!

 

 

マリアさんに言われて部屋を出て教会の前に行くと居た。ピンク色の長髪に白の帽子を被った女の子。

 

 

おはようございます、ミョルニルさんですか?

 

うん♪雷神の槌、ミョルニルちゃんだよー♪今日一日よろしくねー♪

 

はい!僕コウって言います!よろしくお願いします!

 

 

手に持ったハンマー?をブンブンと振り回しながら自己紹介をしてくれた。僕の予想は大幅に外れ背は小さく可愛らしい顔をしているミョルニル。もし僕が阿良々●暦なら間違いなく靴を脱がしてその匂いを嗅いでいただろう。そんな事はどーでも良いんだ。

 

 

ミョルニルさんはマリアさんから今日のバイトの事聞いてますか?

 

うん、聞いてるよ♪地面をドッカーーンってすれば良いんだよね♪

 

多分それで合ってると思います!

 

でもミョルニルちゃんお腹すいちゃったから力がでーなーい

 

ふむ。

 

 

そんな訳で仕事前に二人で適当な喫茶店に入る事に。

 

 

わーい♪コウくんのおごり?おごり?

 

うん、好きなの頼んで下さいね

 

ミョルニルちゃんいっぱい食べちゃうよー♪

 

 

キラキラとした眼差しでメニューを見ているミョルニル。その姿を見て死んだ妹を思い出していた。

 

 

どうしたの?お腹痛いの?

 

 

そのミョルニルの声でハッと我に返った。

 

 

えっ?あーっと、何食べよっかなーーってさ

 

私もう決めたから次はコウくんがメニュー見て良いよ♪

 

うん、ありがとね

 

 

ミョルニルからメニューを受け取りメニューを決めて店員さんを呼ぶ事に。

 

 

えっとね、私はホットケーキとサンドイッチとね、あとココアとパンケーキ♪

 

僕はモーニング一つ、もう良いかな?

 

あとね、うーーーん、もう良いよ♪

 

 

頼んだ料理が来るまでのあいだミョルニルとおしゃべりをする事に。

 

 

ご飯ーご飯ー♪まだかなー♪

 

そんなにお腹空いているの?

 

うん♪ミョルニルちゃん沢山遊んでるからすぐお腹空いちゃうんだ♪

 

ふむ。

 

 

まだ朝の8時なのにどこで遊んでいたのだろうか?あれか?あの有名な朝帰りってやつなのか?

 

 

よく分からない想像をしていると料理が運ばれてきた。

 

 

うわぁ♪美味しそうなご飯がいっぱーい♪

 

全部食べれるの?

 

うん♪もちろんだよー♪いただきます♪

 

 

パクパクと美味しそうに料理を食べてゆくミョルニル。その食べ方は見た目相応で子供らしく美味しそうに食べていた。

 

 

ミョルニルさん口の周りにクリーム付いてるよ

 

えっ?ほんとー?まぁいっか♪

 

 

口の周りについたクリームも気にせずご飯を楽しんでいた。その姿を見ているとなんだか心が癒やされるのを感じる。

 

 

ご馳走様♡あー美味しかった♪

 

 

ご飯を食べ終わり満足そうな顔のミョルニル。僕も食べ終わったのでそのままお会計へ。

 

 

4524ゼニーになります

 

(うわ、たっか)

 

 

あれだけ食べればそうなるかと思いながらお会計を済ませ地図を見ながら現場に行く事に。

 

 

コウくん早くはやくー♪

 

 

僕の前を走りたまに振り返っては手を振ってくれるミョルニル。その姿に癒されているとミョルニルが転んでしまった。

 

 

大丈夫?

 

うん、ミョルニルちゃんこんな事じゃめげないよ♪

 

 

再びパタパタと走り出してまた転んでしまっていた。あれかな?大きな槌を持っているから走りにくいのかな?

 

 

よかったらその槌持ってようか?

 

うーん、じゃあお願いね♪

 

 

そう言ってミョルニルから槌を受け取ったのだがあまりの重さに持ちきれず地面に落としてしまっていた。

 

 

重たっ何これ!?

 

 

柄を持って持ち上げようとするのだが全く持ち上がらなかった。むしろビクともしていない。

 

 

やっぱりミョルニルちゃんが持つね♪

 

うん、ごめんね

 

 

僕が持てなかった槌を片手で持ち上げ肩に担ぎ笑顔で走っていた。人間とキル姫の身体能力の差を思い知った瞬間だった。

 

 

それから少し歩き郊外にあるその現場へと辿り着いていた。

 

 

うわっ、すごい跡だね

 

これ全部ペッタンコにすれば良いのかなー?

 

そうだと思うよ?

 

 

僕達の目線の先にあるのは抉られた道路だった。話で聞いたよりかなり損傷している。

 

 

どんなキル姫がやったのかな?

 

うーん、ミョルニルちゃんもこれぐらい楽勝だよ?

 

そうなの?

 

うん♪見ててね♪

 

 

ミョルニルがそう言うと槌を高く振り上げた。そして

 

 

ぺったんこーーー♪

 

うわぁっ!!

 

 

楽しそうにミョルニルが槌を振り下ろすとその衝撃で大地が揺れ地面が陥没していた。

 

 

どぉー?ミョルニルちゃん凄いでしょ♪

 

 

「えっへん♪」と言いながら得意げに槌を振り回していた。あんな小さな身体の何処にこんな力が詰まっているのだろうか?

 

 

凄いけどお仕事増えちゃったね

 

えぇっと、ミョルニルちゃん反省♪

 

可愛く言ってもダメだよ?

 

むぅぅぅーーーー!!

 

膨れてもダメだよ?

 

うぇぇぇぇぇぇん

 

泣いてもダメだからね?

 

はーーい

 

 

ころころと表情を変えるミョルニル。その一つ一つがとても可愛い。やっぱり僕も靴の匂いを嗅がなきゃ。

 

 

よく分からない事を考えてるとミョルニルが槌を使い地面を慣らし始めていた。慌てて僕もスコップで地面を慣らす事に。

 

 

カリカリとスコップで隆起した土を削り凹んだ所へ運び踏んづけていた。地味な作業だけど綺麗に慣らせば馬車も通れる様になるだろう。

 

 

チラッとミョルニルの方を見ると一生懸命に作業をしていた。その姿を見て思い付いた質問をしてみる事に。

 

 

ミョルニルさんはどうしてそんなに頑張るの?

 

だって、ミョルニルちゃん達が頑張れば他の人達が助かるんでしょ?

 

 

キョトンとした顔でそう言われた。その言葉は僕の胸に響いていた。

 

 

じゃあ僕も頑張るね!

 

うん♪じゃあミョルニルちゃんはもっと頑張るよー♪

 

 

 

そしてしばらくして。

 

 

あー疲れた、少し休もうよ

 

良いよ♪じゃあ休んでる間ミョルニルちゃんと鬼ごっこしよっか♪

 

えぇっと

 

 

そうキラキラとした目で見つめ言われてしまった。もう断る事なんてできない。

 

 

じゃあ僕が鬼をするね

 

うん♪じゃあミョルニルちゃん逃げるね♪

 

 

あはは♪と笑いながら駆けてゆくミョルニルを追いかけてゆくのだが先ほども言った通り転んでしまいすぐ追いつく事ができた。

 

 

はい、次はミョルニルが鬼だよ

 

うん、すぐ捕まえてぺったんこにしてあげるからね♪

 

 

笑顔で物騒な事を言いながら立ち上がっていた。それに恐怖を覚え脱兎の如く走り出した。

 

 

まてまてーー♪

 

ひぃぃ!!

 

 

ブンブンと槌を振り回しながらミョルニルが僕に迫って来ていた。そんな時にミョルニルのバランスが悪いのは武器であるミョルニルの柄が短くバランスが良くない事からきているのだろうと一人考え納得をしていた。

 

 

そーーれーー♪

 

 

その声を聞き後ろを振り返ると嬉しそうな顔のミョルニルが槌を振り上げていた。あれに潰されてしまったら命は無いだろう。

 

 

ぺったんこーーー♪

 

 

ズッシーーーンと響く轟音を聞きながら逃げてゆくと僕を追いかけるミョルニルが転んだ。

 

 

大丈夫?

 

平気だよ♪はい、捕まえた♪

 

 

心配になり駆け寄ると笑顔でタッチされてしまった。まぁ良いんだけどさ。

 

 

じゃあそろそろお仕事しよっか

 

そーだねー

 

 

それからのんびりと穴を埋めていた。お昼の時間を少し過ぎてしまったけどあらかた埋め終わる事ができた。

 

 

そろそろお昼にしよっか

 

うん♪ミョルニルちゃんお腹ペッコペコだよ、、、

 

頑張ってたもんね

 

 

因みに殆どミョルニルが道路を慣らしてくれていた。僕も頑張っていたのだがやはりキル姫には勝てなかった。

 

 

辺りを見渡すと少し離れた所に牛丼屋があるのを見つけた。ミョルニルに聞くと牛丼でも良いとの事なのでお持ち帰りを買いに行く事に。

 

 

特盛二つとお茶四本かな?足りなければまた買いに来るか、、、

 

 

あざしたーー

 

 

ホカホカの牛丼を持ってミョルニルの元へ。そのまま少し離れた木陰でお昼ご飯だ。

 

 

いただきまーーーす♪

 

いただきます

 

 

二人で木に背中を預けてのんびりと牛丼を楽しんでいた。

 

 

こうしているとなんだがピクニックに来たみたいだね

 

そーだねー、なんだかミョルニルちゃん眠くなってきちゃったよ

 

 

いつの間にか特盛の牛丼を食べ終えていたミョルニル。眠たそうにコクリコクリとしていた。

 

 

起こしてあげるから寝てて良いよ?

 

うん、、。おやすぴー

 

 

のんびりと牛丼を食べていると左肩に重みがかかった。横を見るとミョルニルが僕の肩を支えに眠っていた。何この可愛らしい生き物。

 

 

スーースーーと安らかな寝息とふんわりと香るお日様の様な匂いに癒されていると僕も眠たくなってきた。そのまま肩を寄せたい気持ちを抑え木に深く持たれ直し目を閉じていた。太陽を遮る木陰に優しく吹き抜ける風が眠りの世界へと連れて行ってくれた。

 

 

 

 

 

………………………………………………………

 

 

んあっ

 

 

少し肌寒くなり目を覚ますと辺りが薄暗くなり始めていた。慌てて起きようとすると僕の足にかかる重みに気がついた。

 

 

むにゃむにゃ

 

 

寝言を言いながら僕の足を枕に眠るミョルニル。可愛い!可愛い!じゃなくって!!

 

 

ミョルニル起きて!

 

むぅぅ?もーお仕事するのー?

 

もう夕方だよ!早く終わらせないと!

 

まだだいじょうぶーー

 

大丈夫じゃないよ!!

 

コウくんは慌てん坊だね♪じゃあミョルニルちゃんがすぐに終わらせてあげるぅ♪

 

 

すくっと起き上がるとそのまま槌を手に取り走り出した。それを追いかけてゆく。

 

 

ミョルニルちゃんの力、見せてあげちゃうよ♪

 

 

槌をブンブンと振り回し道路の凹みを直していた。その姿はまるで重機の様だ。僕も負けてはいられない、ミョルニルが慣らした地面を仕上げてゆく。そして

 

 

終わったーーー♪

 

助かったよミョルニル、ありがとね

 

 

辺りが暗くなる前に作業を終わらせる事ができた。作業した場所を確認してから帰路に着く事に。

 

 

ミョルニルって凄いんだね

 

ミョルニルちゃんにかかれば朝飯前なのです♪

 

 

朝ご飯もお昼ご飯も食べた後なのだがここは突っ込まないでおこう。

 

 

すっかり暗くなっちゃったね

 

暗い道怖いのかなー?

 

そんな事は無いけど暗いと異族が出るって言うし

 

異族なんてミョルニルちゃんがぺったんこにしちゃうよ♪

 

そんな事言うと本当に異族がでるよー?

 

 

僕がそう言った後にガサリと茂みが揺れた。それを二人で見ていると異族が顔を出していた。

 

 

ぺったんこーーーー♪

 

うん、ありがとね

 

 

瞬殺だった。何匹異族が居たのかもう潰れてしまって分からないけど蝿でも叩くかのように異族を叩き潰していた。

 

 

その時にキラリと光ったミョルニルの狂気を孕んだ瞳はやはりミョルニルもキル姫なんだなって実感させてくれた。

 

 

じゃあ、帰ろっか♪

 

うん、夕ご飯はどうする?お礼に奢るよ?

 

うん、食べる食べる食べるーーーー♪

 

 

無邪気にはしゃぐミョルニルと教会の近くのレストランへ。朝と同じで「好きな物を頼みなよ」と言うとメニューを独り占めしていた。

 

 

ミョルニルちゃんこれとこれとこれ食べる♪

 

いいけど残さないでよね?

 

まかせなさーい♪

 

 

ミョルニルからメニューを受け取り注文を決めて店員さんを呼ぶ事に。

 

 

…………………

……………

…………

……

 

 

それでコウくんはどうしてマスターになろうとしているの?

 

ミョルニルさんと同じかな?

 

ミョルニルちゃんと一緒?私マスターじゃないよ?

 

それは知ってるよ、僕も誰かの為になりたくて奏官を目指しているんだよ

 

えへへ、じゃあミョルニルちゃんと一緒だね♪

 

ミョルニルさんは誰かの為に

 

コウくんも誰かの為にね♪

 

 

笑顔でそう言ってくれたミョルニルを抱き締めて頭をナデナデしたい衝動を必死に抑えていると料理が運ばれてきた。落ち着きを取り戻しご飯をいただく事に。

 

 

うーーーん、美味し♪

 

 

ご飯を食べながら終始笑顔のミョルニルを見ながら楽しい夕ご飯を食べる事ができた。

 

 

ミョルニルさん今日はありがとうございました!

 

うん♪ミョルニルちゃんもすっごく楽しかったよ♪また遊ぼうね♪

 

 

レストランの前でミョルニルと分かれる事に。何度も僕の方を振り返りながら手を振ってくれるミョルニルに何度も手を振って、それは姿が見えなくなるまで続いた。

 

 

ただいまー

 

 

誰もいない部屋に挨拶をしてシャワーを浴び机に向かう事に。次はアイムールというキル姫の様だ。

 

 

ふぅとため息を吐いて図鑑を閉じるとそのままベッドに寝転がった。

 

 

おやすぴー、なんてね。

 

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 

 

 

……………………ZZZZZ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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11ページ目、アイムール

いつもの時間に起きて身体を大きく伸ばしてた。今日はアイムールというキル姫に会いに行く日だ。マリアさんが呼びにきてくれる前に予習をしておこう。

 

 

そう思い着替えてからキル姫の図鑑を開く事に。目次をなぞりアイムールのページを探す。あったあった。

 

 

「バアルとアナト」

 

 

イルが神々を招集し集会を開く。そこへやって来たヤム・ナハルの使者から「ヤム・ナハルは神々の支配者であり、バアルはヤム・ナハルの奴隷である」との宣告がされる。イルがヤム・ナハルの要求を受け入れたことでバアルは憤り、使者を殺そうとするが、アスタルトとアナトに止められる。その後、工芸神コシャル・ハシス(英語版)の作った武器・「撃退(アィヤムル)[注釈 1]」と「追放(ヤグルシュ)[注釈 2]」を受け取ると、バアルはヤム・ナハルの元へ行き、激闘の末ヤム・ナハルの頭を粉砕してこれを打ち倒す。ヤム・ナハルはアスタルトの進言によりバラバラにされて撒かれた。

 

 

ふむふむ。アイムールはアィヤムルという名前で撃退を意味する様だ。その隣のヤグルシュという武器も気になるけど今回は出てくる事は無いだろう。それにファンキルをやっている人ならアイムールとヤグルシが姉妹なのも知っているはずだ。やった事ない人はダウンロードをお願いしますっと。

 

 

工芸神コシャルから魔神バアルに送られた撃退を意味するアィヤムルの名を冠したアイムール。今から会うのが楽しみである。

 

 

コウ君ー?おきてますかーー?

 

はーい。おきてますよー

 

 

いつも通りに起こしに来てくれた。急いでドアのロックを解除してマリアさんを出迎えた。

 

 

おはようございます♪

 

おはようございます!

 

 

するといつもの受付の服装ではなく動きやすそうな服装のマリアさんがいた。

 

 

今日はアイムールに会いに行ってもらうのですが、今回は私も同行させて貰いますね♪

 

分かりました、珍しいですね

 

アイムールにコウ君の事を一日お願いしたらその代わり任務を寄越せと言われたので異族の討伐に行くんですよ。まだコウ君のバイブスだとキル姫を指示する事はできないと思うので保護者として私がついて行くんです♪

 

 

ふむ。

 

 

そう言われて思い返してみても確かに異族と戦闘になった時僕は見ているだけで何もしていなかった。それが普通なんだと思うけど。

 

 

とりあえずアイムールを教会の前に待たせているので行きましょうか

 

はい!

 

 

そんな訳でマリアさんと教会の入り口へ向かう事に。いつもとは違う格好で僕の少し前を歩くマリアさんに少しだけドキドキしていた。

 

 

おはよう御座います、アイムール

 

おはよう

 

 

マリアさんが茶髪の女の人に挨拶をしていた。胸元を曝け出したシャツに白いショーパン。それに赤と黒のタイツの人。この人がアイムールなのだろう。

 

 

おはようございます!僕コウって言います!今日一日よろしくお願いします!

 

駆逐者アイムール、よろしく。

 

 

駆逐者って聞くとどーしても某調査兵団を思い出してしまう。そうは言っても駆逐するのは巨人では無く異族なのだけど。

 

 

アイムール、今日の打ち合わせなんですけど

 

はい。

 

 

マリアさんがカバンから地図を取り出してアイムールと位置の確認と目的地の確認をしていた。それと、どの様なルート、移動手段で行くのかも。

 

 

……………………

 

 

その様子をしっかりと見ていた。僕も将来こうやってキル姫と打ち合わせをする姿を思い浮かべながら。

 

 

じゃあアイムールに私のバイブスを繋げますね

 

はい。

 

 

マリアさんが右手をアイムールにかざすと手のひらが光りその光はアイムールへと吸い込まれていった。

 

 

………バイブスとキラーズの共鳴を確認。マスター、何なりと御命令を。

 

そんなに畏まらなくて良いですよ♪のんびり行きましょう♪

 

 

ふむふむ。バイブスとキラーズはこのようにして共鳴するのか。

 

 

あっ、一応言っておきますけど私は特別ですからね?

 

えっ、そうなの?

 

はい♪私は全てのキル姫と繋がる事ができるバイブスを持っていますけど広く浅くなんですよね

 

つまりどういう事ですか?

 

その場凌ぎの共鳴しかできないんですよね、コウ君が知ってる人だと、、、ほら、ユウさんの様に一人のキル姫としか共鳴できない方がよりキル姫のポテンシャルを引き出す事ができるのです

 

ふむふむ

 

それが私は嫌で奏官を辞めたのですけどね

 

 

苦笑いをしながらそう言ってくれた。バイブスにも種類があるようだ。

 

 

マスター、指示を

 

そうですね、これより南へと進軍します♪

 

 

アイムールに促され僕達は南へと進む事に。サフランの街を抜けて耕民区クレナイへとやって来た。

 

 

ふぅ、少し休憩しましょう、コウ君ジュースを買ってきてくれませんか?

 

分かりました!何飲みます?

 

私はコーラで、アイムールは?

 

休憩は不要、アイムールは進軍を希望する

 

そんな事言わないでね♪じゃあアイムールにもコーラをお願いします♪

 

了解っす!

 

コウ君が戻ってきたら話を進めますね♪はい、お願いね♪

 

 

マリアさんから財布を貰いそのまま近くにある売店へと走って行った。

 

 

売店でドリンクコーナーからコーラを三本取り出してレジへ。

 

 

お会計お願いします

 

 

あれ?返事が無い。もう一回いってみよう。

 

 

すいませーーん、お会計お願いします

 

 

僕がそう言うとガラリと引き戸が開いた。それに気が付き「お会計お願いします」と言うとキシャャャャャャ!!と返事が貰えた。

 

 

い、、異族っ!??!?

 

 

この店の人の心配する余裕も無くコーラを掴み一目散に店を飛び出した。

 

 

キシャャャャャ!!!!

 

ひぃぃぃぃ!!!!!

 

 

当然見逃してくれるはずもなく追われていた。斧なのか剣なのかを振り回しながら全速力で走る僕との距離を縮められていた。

 

 

異族。この世界に君臨し人間を唯一捕食する生き物。僕も捕まれば食べられてしまうのだろう。そんなのは嫌だ!!!

 

 

意を決して急停止し手に持っていたコーラを振りかぶった。

 

 

これでもくらえ!!

 

 

僕が全力投球したコーラは異族の顔面にぶつかっていた。これで少しは足止めになった、はず!

 

 

キシャャャャャ!!!!!!(怒

 

ひぃぃぃぃ!!!

 

 

残念な事に僕の行為は火に油を注いだだけだった様だ。金色のマスクのせいで表情は分からないけど先程より怒っているのを感じる。

 

 

アイムール!!

 

標的を捕捉。これより駆逐します。

 

コウ君伏せて!!!!

 

 

マリアさんの声が聞こえてその場に伏せると僕の頭の上を何かが飛んでいった。その後、グシャリと何かが潰れる様な音が聞こえた。

 

 

もう大丈夫ですよ♪

 

ありがとう二人共!

 

 

そう言いながら身体を起こし二人の元へ。アイムールを見ると鎖の様な物を引っ張っていた。

 

 

ゴロゴロと音がする方を見ると血が付着している鉄球が見えてきた。これを異族に向かって投げたのだろうか?

 

 

アイムールさん、ありがとうございました

 

命令に従っただけでお礼を言われる様な事はしておりません。

 

 

無表情のまま淡々とそう言われた。その仕草に思わず一歩引いてしまった。

 

 

マスター、次の御命令を。

 

待っててね、まずは被害の確認が先だよ、アイムールは私達の警護をお願い

 

承知しました。

 

 

鎖を巻き終えたモーニングスターを構えているアイムールさん。その先の鉄球に付いた血も気にならない様だ。

 

 

ここまで書いてきてこのSSはR指定していない事に気が付いた。もっと表現を柔らかくしていこう。

 

 

アイムールさんはその鉄球の先に付いたケチャップは気にならないの?

 

拭いた所で直ぐに付着するので一緒です。

 

それもそうだね

 

 

マリアさんを先頭に街を進んで行く事に。よく見れば崩壊している家屋が見える。

 

 

ジュースを買いに行った時に気が付かなかったのですか?

 

てっきり廃屋かと………

 

もっと観察力を養って下さいね?戦うのはキル姫ですけど指示を出すのは奏官です、奏官の指示が間違えは命取りになりますよ

 

はい、気を付けます

 

 

マリアさんから有り難い言葉をもらう事ができた。この教訓をしっかり活かさないと。

 

 

アイムール、何かを感じますか?

 

標的を捕捉。あの建物の裏です。

 

分かりました、頼んでばかりですがお願いします

 

はい。

 

 

モーニングスターを構えアイムールさんが建物の裏側に回った。少しすると異族の咆哮が聞こえその後に鈍い音が響いた。

 

 

駆逐完了。次の指示を。

 

 

返りケチャップを浴びながらアイムールさんが帰って来た。だけどその表情は無表情のままだった。

 

 

もう少し探索をして生存者を探しましょう、それと異族の数次第では撤退します

 

マスター、私だけだと力不足だとおっしゃるのですか。

 

違います、だけどアイムール一人に負担をかける訳には行きません

 

私なら大丈夫です。殲滅の指示を。

 

ダメです、ひとまず確認に行きましょう

 

 

マリアさんの指示に不満げなアイムールさん。だけどしばらくして「了解しました。」と言った。

 

 

それから僕達は街を散策していた。そこまで大きな街では無いのだがその彼方此方に異族が潜み獲物を探していた。その度にアイムールが鉄球を振るい薙ぎ倒していた。

 

 

アイムール、大丈夫ですか?

 

心配は無用です。例え腕がもがれても殲滅活動を行います。

 

 

無表情だがその顔に疲れが見えていた。もちろん僕が気づくぐらいだからマリアさんがそれを見逃す事は無かった。

 

 

………これより撤退します、直ぐに教会へ戻り異族討伐の任務を発行します

 

 

苦渋の決断なのだろう。悔しそうに噛み締めている唇から血が垂れていた。そんなマリアさんにアイムールが近づいてゆく。

 

 

マスター。

 

アイムールの強さは分かっています、だけどその身に何かがあってからでは遅いのです

 

分かりました。私一人で殲滅活動を行います。

 

アイムール!?戻って下さい!!

 

 

マリアさんの声も虚しくアイムールは異族がうごめく街へと走って行った。

 

 

…………っう、コウ君、お願いがあります

 

はい!

 

私のバイブスを貸すのでアイムールに指示をお願いします、私は応援を呼んできます

 

分かりました!

 

決して無理はしないで下さい、このお願いが無理な事なのは分かっていますけど

 

 

そう言ってマリアさんは教会の方へと走って行った。僕もすぐにアイムールを追いかけていた。

 

 

アイムールさん!!

 

あなたは、、、バイブスを認識。マスターと判定しました。

 

そんな事より、どうしてマリアさんの言う事を聞かなかったの?

 

マスターの指示より殲滅活動の方が優先度が高いと判断したからです。

 

 

無表情にそう告げるアイムールに心の中のモヤモヤが爆発した。

 

 

アイムールさんは異族と戦うマシーンじゃないんだよ!教会に戻れば他のキル姫もいるしどうして力を合わせないんだよ!!

 

応援も同情も不要です。私は駆逐者アイムール。ただ敵を殲滅させるのみです。

 

だから!アイムールさんが怪我したらどうするんだよ!!

 

それは私が弱かった。ただそれだけです。異族がいますが指示は不要。殲滅します。

 

 

そう言い残してアイムールさんは異族の群れに向かって行った。何も出来ない無力な僕を残して。

 

 

…………

 

 

アイムールさんは強かった。街の中心にある広場に身を置き四方八方から迫る異族を涼しい顔で駆逐していた。鉄球を投げ異族を押し潰しさらに振り回し異族を一掃。顔にケチャップが飛ぼうと異族のお肉を踏もうと表情を変えずただ、ただ戦っていた。

 

 

…………あれは

 

 

そんな中屋根の上から弓を構える異族に気が付いた。だけどアイムールさんはそれに気が付いていない様だ。

 

 

アイムールさん!!!上!!!!

 

 

その言葉の後にコーラを思いっきり投げると屋根の上の異族に当てる事ができた。だがそれと同時に矢が放たれていた。

 

 

っ。目標を確認しました。

 

 

放たれた矢はアイムールさんの髪を掠め地面に刺さっていた。その矢で異族の位置を把握したのだろう。すぐ様屋根に飛び乗り殲滅させていた。

 

 

鉄球でお触りすると異族がケチャップとお肉となり地面に落ちてきた。屋根の上からアイムールさんが見渡していたけどもう異族の姿は無かったようで地上へと戻ってきた。

 

 

感謝します。

 

なんの事?

 

マスターの行動が無ければ矢が私を貫いていました。

 

別に、気づいたらそうしてたんだよ

 

この街の異族は全て殲滅致しました。あの。

 

どうしたの?

 

良ければお、お話をしませんか?

 

うん、良いよ

 

 

適当な所に二人で座りおしゃべりをする事に。

 

 

その前にこれあげるよ

 

これは?

 

さっき買ってきたコーラだよ、飲みなよ

 

そう御命令されるのなら。

 

 

そう言ってコーラの栓を回し開封していた。

 

 

マスター、これは?

 

あわわわわわわわっ!!

 

 

買ってから時間が経ち温くなった上にポケットに入れたまま走り回ったので開栓と同時に泡が吹き出してアイムールさんを汚していた。前もあったなこんな事。

 

 

大丈夫ですか!?

 

泡出る事ではありません。

 

漢字が違うよ!?慌てるだよ!

 

 

アイムールさんのボケ?にしっかりとツッコミを入れると少しだけ笑った気がした。

 

 

それから僕達は色んな事を話していた。僕が奏官を目指す理由だったりアイムールさんの妹の事。武器だった時の記憶から馴れ合う事を苦手とし一人で動いてしまう事だったり。

 

 

これがマリアさんが嫌だったことなのだろうか?浅くしか共鳴出来ないから自身の指示がキル姫の記憶に勝てずキル姫に無理をさせてしまうことが。当然こんな事聞けないから答えは闇の中なのだけど。

 

 

コーラとは随分と甘い飲み物なのですね。

 

それだけ温くて炭酸が抜けちゃったらそうなっちゃうよ

 

それではこれはコーラ本来の美味しさではないと言う事ですね。

 

うーん、そうだと思うよ?

 

いつか飲んでみたいです。本来の味のコーラを。

 

 

そう遠い目をしながら言われた。そんなアイムールさんに売店で買えばすぐ飲めるよなんて言えなかった。

 

 

マスター。目標を確認しました。

 

 

突然アイムールさんが立ち上がり空を睨んでいた。その方を見ると何かが飛んでいるのが見えた。

 

 

空を舞う異族。飛行種という者がいる事を思い出し僕も立ち上がり逃げる準備をしていた。いや、アイムールと共に戦うために気合を入れていた。

 

 

マスター。指示を。

 

うん、もう少し引き寄せて様子をみようか

 

了解。

 

 

しばらく見ていると竜の様だ。真っ直ぐこっちに向かって来ている。アイムールと二人でそれを睨んだ時だった。

 

 

コウくーーーーん、アイムールーーーー!大丈夫ですかーーーー???

 

 

 

マリアさんの声が響いていた。どうやら竜に乗って来てくれた様だ。

 

 

マリアは上空で待機してて!

 

異族は私達が!

 

 

何処かで聞いた事のあるような声が聞こえて二人が竜から飛び降り僕達の前に降りて来た。

 

 

ユウさん!ティルフィングさん!

 

コウ君よく頑張りましたね、後は私達に任せて下さい

 

アイムールはコウ君を守ってあげてね

 

 

剣を構える二人。それだけで凄まじい力を感じていた。そんな二人にアイムールが話しかけていた。

 

 

失礼ですがこの街の異族は殲滅しております。

 

えぇっと?

 

確かに異族の気配は感じませんね、一応確認してきます

 

 

二人が街を見て回ったけど異族の姿は無かった様だ。

 

 

無駄足だったみたいですね

 

マリア、説明

 

えぇーっと、、、あはははは

 

 

話を聞くとお休み中だった二人の家に行き無理矢理連れて来てくれた様だ。

 

 

ごめんなさい、二人しか動ける人が居なくて

 

まぁ良いよ、手当よろしく

 

でも何もしていませんよね?

 

もうマリアの依頼は受けないよ

 

そんなぁ!お願いですって!

 

 

そう言って煙草に火をつけたユウさんをマリアさんが必死に説得していた。その様子をティルフィングさんが微笑ましく見ていた。

 

 

じゃあ僕達は帰るね

 

コウ君、あまり無茶をしては行けませんよ?

 

 

そう言って二人は竜に乗り帰って行った。それを見送り僕達も帰る事に。

 

 

私達も帰りましょうか♪

 

それが指示であるなら。

 

 

三人で元来た道を歩いて行く。凄く怖かったけど少しだけ成長できた気がする良い一日になった。

 

 

三人でご飯食べに行きませんか?

 

そうですね、アイムールさんは?

 

同行します。

 

 

そんな感じで三人で教会のレストランへ。

 

 

今日は私が奢るので好きなのを頼んで下さいね♪

 

 

との事なので食べたい物をひたすら注文していた。

 

 

……………………。

 

どうしたの?アイムールさん

 

このメニューに乗っているコーラは先程のコーラと同じなのですか?

 

そうだよ?飲んでみる?

 

はい。

 

他に食べる物はどうする?

 

頼んで貰えればそれを食べます。

 

お腹空いてる?

 

空腹は感じておりますが。

 

なら頼んであげるね

 

 

マリアさんはすでにメニューが決まっている様なので店員さんを呼びメニューを伝える事に。

 

 

コウ君から私のバイブスを返してもらいますね♪

 

はい、どうやって返せば良いのですか?

 

そのまま椅子に座ってて下さいね♪

 

 

マリアさんが左手を僕にかざすと何かが吸い取られるような気がした。

 

 

はい、回収完了です♪

 

はい

 

 

バイブスってそんなに簡単に受け渡しができる物なのだろうか?考えても答えは出なさそうなので考える事をやめた。そんな事よりもテーブルに運ばれた料理だ。

 

 

いただきまーす!

 

 

私はどれを食べれば良いのですか?

 

じゃあピザを食べよっか

 

 

運ばれて来たピザを切り分けアイムールさんのお皿に乗せてあげていた。

 

 

いただきます

 

 

表情を変える事なくピザを食べているアイムールさんに少し不安になる。

 

 

美味しく無かったかな?

 

いえ、美味と認識しております。

 

分かりずらいよ!?

 

あははははは♪

 

 

表情を変えないアイムールの口元が少しだけニヤリとした気がした。

 

 

楽しい時間はすぐに過ぎるもので気が付けば閉店の時間の様だ。

 

 

アイムールさん、ありがとうございました!

 

指示さえ頂ければまた同行します

 

 

そう言って帰って行くアイムールさんを二人で見送り僕達も帰る事に。

 

 

コウ君ごめんなさい

 

どうしたんですか?

 

危ない目に合わせてしまって、、、もしこれで奏官になるのをやめるって言われたらと思うと、、

 

大丈夫ですよ、僕は絶対奏官になりますから

 

はい♪じゃあまた明日起こしに行きますね♪

 

 

そう言って部屋の前でマリアさんと分かれる事に。

 

 

おやすみなさい♪

 

おやすみなさい

 

 

部屋に戻りシャワーを浴びて図鑑を開いていた。明日はラブリュスというキル姫の様だ。詳しく見ようと思ったけど眠気に負けて大人しくベッドに寝転がる事に。

 

 

今日の事を思い出しながら気付けば眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

…………………………………………………

 

 

 

おかえりおねーちゃん♪

 

ただいま戻りました。

 

ヤグね、今日一人で買い物に行ったんだよ♪褒めて褒めてー♪

 

はい。ヤグルシは凄いですね。

 

それでね、特売だったから買ってきたんだ♪

 

 

買い物袋から取り出し机に置いたのは大きなコーラのペットボトルだった。

 

 

コーラ。美味。

 

 

そう言って蓋を回し開栓していた。すると

 

 

おねーちゃん!冷やしてからじゃないとダメだよ!

 

時すでに遅し。

 

 

先程の様に勢いよく泡が吹き出しテーブルを汚していた。

 

 

もぉ〜!早く拭かないと!!

 

 

慌てるヤグルシを見ながらアイムールは少しだけ笑った。

 

 



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12ページ目、ラブリュス

両刃斧は今日でも北米などで林業の道具として使われている。古代、ラブリュスに象徴的意味が付与されるまでは木を切り倒す道具として、また武器としても使われてきた。ラブリュスに象徴性を持たせたのはミノア、トラキア、ギリシアの宗教や神話や芸術であり、青銅器時代中期から始まって東ローマ帝国の時代までその象徴性が維持された。ラブリュスはアフリカの宗教的象徴や神話としても登場する。

 

 

これだけだと誰の事かさっぱり分からないと思うがラブリュスの事だと言っておこう。

 

 

ファンキル内のプロフィールでもあるように象徴として持ち上げられたラブリュスの斧。それがラブリュス本人にどのような影響を与えているのかも気になるところだ。

 

 

ここだけの話なのだがハーメルンの違反者一覧を見ていたらWikipediaからのコピーで違反を受けた人が居るようだ。気を付けないと僕もやられてしまうかも知れない。お願いします!見逃してください!!これがキル姫の事を一番分かりやすく説明できるんです!!

 

 

そんな事を考えていたらドアがノックされた、今日も頑張ろうと意気込みながらドアを開ける事に。

 

 

おはようございます♪今日はラブリュスの手伝いをしてきて下さいね?

 

おはようございます!手伝いですか?

 

はい♪詳しい話は本人から聞いて下さいね♪もう教会の前の広場で待っているはずなので

 

了解です!

 

 

朝の一連の流れも終わり教会で待っているラブリュスの元へ。

 

 

ラブリュス、ラブリュス、、、ラブリュスの見た目の話をしてなかったから探しようが無かった。とりあえず一番目立っている金髪で巻き髪の女の子に話しかけてみる事に。

 

 

すいません、ラブリュスさんですか?

 

うん、私がラブリュスちゃんだよー⭐︎君がコウ君?

 

はい!僕コウって言います!今日一日よろしくお願いします!

 

 

ふーーん?と言いながら僕を見ているラブリュス。そして一瞬ため息を吐きすぐに笑顔に戻った。

 

 

じゃあコウ君にはラブリュスちゃんのお手伝いをしてもらうね♪

 

了解です!それで何を手伝えば良いのですか?

 

今夜ね、ラブリュスちゃんのライブをするんだ♪だ・か・ら・その手伝いだね♪

 

ライブです?

 

うん、ほら、ラブリュスちゃんはアイドルだからさ⭐︎

 

ふむ

 

 

そう言って可愛くクルリと回ったラブリュス。確かにラブリュスを見てみると何となーくアイドルっぽい様な気がする。一応不安なので段取りを聞いてみる事に。

 

 

それで何処でやるか決まっているんです?

 

まだ決まってなーい

 

何時からやるんです?

 

それもまだー

 

観客の人数は?

 

ラブリュスちゃんがやるんだから沢山来てくれるよ♪

 

ふむ

 

 

ダメそうだ、何となくだけどそんな気がする。いや、このままだとダメだろう。

 

 

とりあえず場所を決めませんか?

 

コウ君にお任せー♪

 

 

そう言われてしまった。そうは言っても僕に場所を確保する様な人脈も無いしツテも無いのだ。ゲリラでやるとしても色々問題が起きそうだし。

 

 

ライブ♪ライブ♪

 

 

僕の気も知らないでラブリュスは楽しそうである。さて、どうするか、そうだ!

 

 

ちょっと待ってて下さい!

 

はーい♪

 

 

一度教会に戻りマリアさんの元に行く事に。マリアさんなら場所を確保できるかも知れない。

 

 

マリアさん、今大丈夫ですか?

 

大丈夫そうに見えます!?後にして下さい!

 

はい、ごめんなさい

 

 

受付に行くと書類に電話に接客に忙しそうなマリアさんの姿が。残念だけどマリアさんの力は借りれなさそうだ。そうなるともう詰みである。まだ1300文字しか書いてないのに。

 

 

はぁ、、、

 

 

受付の近くに置いてあるベンチに座り込み頭を悩ませていた。場所に時間、観客の事。それになぜ僕がマネージャーみたいな事をしているのか。そして当の本人であるラブリュスは何をしているのか?

 

 

しばらく悩んでいるとマリアさんが来てくれた。

 

 

お待たせしました♪少しだけですけど時間を作る事ができました♪

 

ありがとうございます!あの、ラブリュスのライブをやる場所を借りたいんですけど、、、

 

ライブですよね、少し待ってて下さい

 

 

そう言うと直ぐに仕事場へと戻り書類を開いていた。少しすると戻って来てくれた。

 

 

ごめんなさい、人気の場所はもう予約が入ってしまってます、もっと早く言ってもらえれば良かったんですけど、、、

 

そうですよね、ありがとうございます

 

 

残念ながらいい返事は貰えなかった、足取りは重いけどこの事をラブリュスに報告に行こう。

 

 

ラブリュスさん、、、

 

おかえりー♪良い場所は見つかった?見つかったよね♪

 

 

楽しそうなラブリュスにその事を報告すると不貞腐れてしまった。

 

 

えぇーじゃあライブできないじゃーん

 

もう少し早く言ってくれればできたんだけど、、、

 

なにそれーじゃあラブリュスちゃんが悪いみたいじゃんか

 

 

そうだよっと、言いたい気持ちを抑えて不貞腐れるラブリュスとお昼ご飯を食べに行く事に。

 

 

その時に教会の裏にある空き地を見つけた。後でマリアさんにここを使っていいか聞いてみる事にしよう。

 

 

どうしたの

 

うんん、ラブリュスさんは何が食べたい?

 

私は別になんでも

 

お腹空いてないの?

 

食べたくないだけ

 

………

 

 

したかったライブが出来なくなりそうで不貞腐れるのは分かる、それが態度に出てしまうのもまぁ分かる、だけど

 

 

ラブリュスさん

 

なに

 

僕はラブリュスさんのライブ諦めてないよ

 

そんな事言われてもぉ

 

ラブリュスさんはもう諦めたの?

 

ラブリュスちゃんは……

 

僕はね、アイドルの事はよく分からないけどみんなの希望になる物だと思ってるんだ、だからラブリュスさんには諦めて欲しく無いんだよ

 

 

ラブリュスさんはアイドルなんでしょ?そう言うとハッとし顔を上げた。

 

 

うん!ラブリュスちゃんはみんなのアイドルだよ!!

 

なら頑張ろうよ、僕もどれだけ手伝える分からないけどできる限りの事はするからさ

 

えへへ、ありがとう♪

 

 

諦めていたラブリュスの顔に光が灯った気がした。それならば僕も頑張らないと。

 

 

ご飯後で良いかな?ちょっとマリアさんに聞きたい事ができてさ

 

うん、いいよぉ♪ラブリュスちゃんも付いてくね♪

 

うん、ありがと

 

 

そんな訳で二人で教会に行きマリアさんの元へ。忙しさのピークは過ぎたようでのんびりと昼食を食べているのが見えた。

 

 

 

マリアさん

 

はーい?どうしました?

 

教会の裏の空き地って借りても良いですか?

 

許可の申請が通れば使えますよ?ほぼ通ると思ってもらっても大丈夫です

 

分かりました、それと紙とペンを下さい

 

良いですよ?何に使うんです?

 

ポスターを作ろうと思いまして

 

分かりました、はい♪

 

あざっす!

 

 

そんな訳で教会のレストランに行き昼食を食べる前にラブリュスとポスターを作る事に。

 

 

ポスターなんて作ってどうするの?

 

みんなに配るんだよ、そうしたらライブするってみんな気付いてくれるでしょ?

 

なるほどー♪ならラブリュスちゃんも頑張るよ♪

 

 

二人で紙に下書きをしているのだが二人とも絵心が無く何枚も紙を無駄にしてしまったけどなんとか納得のいく物を作る事ができた。ラブリュスがライブをするって事と場所と時間を書き込んでゆく。まだ場所が取れるって決まった訳じゃ無いけど。

 

 

描けたぁ⭐︎

 

これをマリアさんにコピーしてもらおっか

 

うん♪後ラブリュスちゃんお腹空いちゃった

 

僕もだよ、何か食べよっか

 

はーい♪

 

二人で適当な物を頼みそれを味わう間もなく食べマリアさんの元に。

 

 

マリアさん、これをコピーしてもらって良いですか?

 

はーーい♪それと場所なんですけど一応許可は降りたのですが今日の17時から18時の1時間だけなら使えます

 

分かりました!ラブリュスさんも良いかな?

 

うん!大丈夫だよ♪

 

その代わりライブに必要な物は教会の倉庫から持っていって良いですよ♪その代わり使ったら元の場所に戻しておいて下さいね?

 

あざっす!!

 

 

コピーする前に時間だけ訂正してコピーしてもらったポスターと倉庫の鍵を受け取り教会を出る事に。今が15時だ、残された時間は少ない、効率よく動かなくては。

 

 

ラブリュスさんはポスターを配ってもらって良いかな?僕は倉庫を見て来るよ

 

うん♪ラブリュスちゃん頑張るからね♪

 

 

ラブリュスを教会の前の広場に残して裏にある倉庫へと走って行った。そしてその扉を開けると、、、

 

 

うわっ、凄っ

 

 

色々な物が所狭しと並べられていた。その中からライブに使えそうな物を探す事に。

 

 

これで良いかな?

 

 

僕が倉庫から引っ張り出した物は大きな台だった。この上でラブリュスにライブをしてもらう予定だ。他の物は奥にあって取ることができなかったのだが、、、

 

 

その台を直ぐ取れるところに置いてラブリュスの元へ。

 

 

お待たせ、手伝うよ

 

うん♪お願いね♪

 

 

二人で道ゆく人達にポスターを配って行く、ちょっと恥ずかしいけど頑張らないと。

 

 

お願いしまーす

 

ラブリュスちゃんのライブだよー♪

 

 

二人でお願いしながらポスターを渡して行くとあっという間に配る事ができた。

 

 

二人共頑張っていますね♪はい、差し入れですよ♪

 

あっマリアさん、あざっす!

 

ありがとねー♪

 

 

マリアさんが持ってきてくれたジュースを飲みながら少し休憩する事に。

 

 

状況はどうなってますか?

 

ポスターを全部配り終えたところだよー♪

 

今からステージの準備をしに行きます!

 

順調ですね♪今日は定時で終わるので後で顔を出しますね♪

 

 

そう言ってマリアさんは帰って行った。時計を見ると16時、後少しだ、頑張ろう。

 

 

次はステージの準備だね♪

 

はい!頑張りましょう!

 

うん♪

 

 

ラブリュスさんと倉庫に行き先程見つけた台を持ってその広場へと向かう事に。さっきチラッと見ただけだったけどよく見ると雑草が生えとてもアイドルがライブをする様な場所には見えなかった。

 

 

ごめんね、こんな場所しか用意できなくて

 

うんん、ありがとねコウ君♪私、すっごく嬉しいよ⭐︎

 

 

絶対不満を言われると思っていたのに笑顔でお礼を言われ戸惑ってしまった。

 

 

じゃあ残りも頑張ろー♪

 

う、うん!!

 

 

照明と椅子を二人で倉庫から運び出しセットすれば簡易だけどステージが出来上がった。その見た目はなんともいえないのだけど。

 

 

完成だね♪

 

ラブリュスさん着替えとかしなくて良いの?もう時間がないよ?

 

あっ、いけない!直ぐ着替えてくるから待っててね♪

 

 

そう言ってラブリュスさんは何処かに走って行った。時刻は午後16時48分、この時間になっても空き地には人影は無く段々と不安になってきていた。

 

 

お待たせ♪ラブリュスちゃんの衣装姿だよー♪

 

おぉーーー!!!

 

 

僕の不安も知らずにラブリュスさんが衣装に着替えてやってきた。その服装はまさに穢れ無き光(アイドル)っ!!!※語尾力が無く伝えられませんが初代暴走ラブリュスの衣装です。

 

 

お客さんはまだかな〜?

 

 

ラブリュスさんがステージの上から街を眺めていたけど誰も来る事はなくライブ開始の時間になってしまった。

 

 

ラブリュスさん、もう17時だよ

 

うん♪じゃあライブーーー、スタート♪♪

 

 

僕はただステージの上で歌いながら踊るラブリュスさんを見ている事しかできなかった。

 

 

教会の塀をバックにステージの周りは雑草が生えお立ち台は倉庫にあった台なのに、照明なんて提灯みたいなのに、それでもラブリュスさんは楽しそうに、嬉しそうに、笑いながらたった一人のお客の為に歌って踊ってくれた。

 

 

そう言うアイドルのライブでよく聞く今俺と目が合った!とかそう言うレベルじゃなくて僕とラブリュスさんは目と目を見つめ合わせラブリュスさんが微笑めば僕も笑い返していた。

 

 

そんな楽しい時間もあっという間に過ぎて最後はMCで締める事に。

 

 

今日はラブリュスちゃんのライブに来てくれてどうもありがとう♪最初会った時は頼りない人、どうしてこんな人をラブリュスちゃんに会わせたの?としか思いませんでした。だけど私がわがままを言っても、不貞腐れてもその人はライブをする事を諦めませんでした。可笑しいよね、私がしたい事なのにその人が一生懸命になっちゃってさ

 

 

その時ね、ラブリュスちゃんは気付いたの、アイドルはみんなに支えられてるんだって。一人一人のファンを大事にできないんだったらアイドル失格だって。

 

 

だからね、今夜はその人の為に、その人だけの為にこうしてライブができてラブリュスちゃんすっごく幸せだよ♪

 

 

本当はもっと沢山の人の前で歌って踊りたいけどそれはまだラブリュスちゃんには力不足だなって、

 

 

だからね、もし次コウ君に会う時はもっと大きくて♪煌びやかで♪たーーくさんの人の前でライブするからね♪ラブリュスちゃんとコウ君との約束だよ♪

 

 

そう言ってラブリュスさんはお辞儀をしてステージを降りた。僕は涙が止まらなかった。拭いても拭いても溢れてくる涙を止める事ができないでいた。

 

 

ラブリュスちゃんのライブどうだった?コウ君♪

 

 

そう聞かれたけど泣き過ぎて声が出せずうんうんと何度も首を縦に振っていた。

 

 

しばらくするとようやく落ち着きなんとか喋れるようになっていた。

 

 

凄く楽しかったです!ありがとうございました!!

 

えへへ♪ありがとね♪ラブリュスちゃん着替えてくるね♪

 

 

そう言ってラブリュスは更衣室へ。その間に片付けをしようとした時だった。

 

 

お疲れ様でした、ラブリュス喜んでましたね♪

 

あっマリアさん

 

二人が楽しそうだったからずっとあそこの影から見てましたよ♪お陰で蚊に刺されちゃいましたけど

 

来てくれれば良かったのに

 

二人に水を刺すような気がしましてね♪それとはい♪

 

これは?

 

 

マリアさんから渡されたのは封筒だった。

 

 

チケット代って思って下さいね♪後の片付けは私がしておくのでラブリュスとご飯でも食べて来て下さい♪

 

そんな、悪いですよ!

 

どーしたのー?

 

ラブリュスもお疲れ様でした♪

 

 

マリアさんがラブリュスさんにも同じ話をしたけどラブリュスの答えは。

 

 

そんな人任せなんかにできなぃー

 

 

との事でマリアさんに手伝ってもらい片付けをして三人でご飯に行く事に。

 

 

じゃあ、かんぱーーい♪

 

いぇーーい♪

 

かんぱーーい

 

 

そんな訳で教会の近くの居酒屋に行きテーブルを三人で囲んでいた。二人はビール片手に上機嫌そうだ。

 

 

コウ君も飲んで飲んで♪

 

僕は未成年なので……

 

えぇー!うそっ!信じられなーい

 

えぇ、、、

 

 

そんな感じで酔っ払い二人の相手を素面でしていた。辛い。そして。

 

 

おやすぴーー

 

マリアさん!ここ居酒屋です!

 

もー無りーzzzz

 

えぇ、、、

 

wwwwwwwww

 

 

ジョッキ二杯程でマリアさんは酔い潰れていた。そんなマリアさんを見ながらラブリュスは楽しそうだ。

 

 

ねぇコウ君

 

はい?

 

どうしてライブするの諦めなかったの?

 

だって僕はラブリュスさんの願いを叶えたかったから、それに

 

それに?

 

もしライブが出来なかったら絶対後悔するって思ってさ

 

それだけだったの?

 

うん、それだけだよ?

 

あははっ♪コウ君は面白いね♪

 

 

そう言って笑われてしまった。そして笑い終わってからラブリュスさんが言葉を続けた。

 

 

ありがとね、すっごく楽しかったよ♪

 

 

そう言って僕を見て微笑んでくれた。それだけで今日頑張って良かったと心から思えた。

 

 

そんな楽しい時間は過ぎるのが早く閉店の時間となってしまった。マリアさんを起こそうと身体を揺さぶっても起きる気配は無かった。困り果てていると店員さんがマリアちゃんはいつもこうだから置いて行って良いよと言ってくれた。

 

 

席で眠っているマリアさんを置いて店を出る事に。

 

 

じゃあコウ君またね♪

 

はい!ありがとうございました!

 

最後に、はい♪

 

はい!!

 

 

最後にラブリュスと握手をしてお別れとなった。何度も歩いて行くラブリュスに手を振りその姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 

 

さてと、帰ろっか

 

 

部屋に戻りお風呂に入り寝る前に次のキル姫の事を調べる事に。

 

 

次は、パラシュってキル姫のようだ。

 

 

それだけ調べてベッドに転がり目を閉じると今日の疲れかすんなりと眠りの世界に落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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13ページ目、パラシュ

理想の姿に向けて頑張る努力家。キラーズはヴィシュヌ神の化身と呼ばれるラーマの斧「パラシュ」その記憶から異常なまでの執念深さと標的を殲滅させるまで戦い続ける非道さを持つ。

 

 

前回も話したけどウィ●ペディアからのコピペをやめて久々に書いてみる事にしてみた。それだけどコピペには変わりないんだけど。

 

 

ヴィシュヌ神の名前があるって事はインド神話に出てきた武器だったのかな?………インド神話って言うとあんまり良いイメージが無いんだよな、話のスケールが大きすぎるって言うのか、結構残酷だったり。それは何処の神話も同じなのだけど。

 

 

話を戻そう。最高神ヴィシュヌの振るいしパラシュの斧。それをキラーズに冠したパラシュ。今から会うのが楽しみである。そんな事を考えていたらドアがノックされ急いで玄関に行き扉を開けた。

 

 

おはよーござまーす、、、

 

おはようございます、、、

 

 

前回ラブリュスの話で居酒屋に一人置いてかれたマリアさんが朝起こしに来てくれた。その顔はどう見てもしんどそうだ。

 

 

だ、大丈夫ですか?

 

飲み過ぎちゃって、、、頭が、、。

 

 

そう言った後に「ヴッ」っと声を出し口を手で押さえトイレへと駆け込んで行った。大丈夫かこの人。

 

 

何とも言えない気持ちで待っているとマリアさんが戻ってきた。そして「教会の前にパラシュに待ってもらってます」そう言って再びトイレへと走って行った。

 

 

…………

 

 

何となく重い足取りで教会の前に向かう事に。「お酒は飲んでも飲まれるな」そう偉人が残した言葉を噛み締めながら。

 

 

さて、そんな事よりパラシュである。また何もヒントをもらう事ができずにパラシュを探すのだが、今回は何となくヒントがある。

 

 

インドと言えばカリーだ、教会の前の広場でカリーが好きそうな人を探す事に。

 

 

すいませーん、カリーは好きですか?

 

僕かい?そうだね、カリーはあまり好きじゃないよ

 

あざした

 

 

クリーム色の髪の毛をツインテールにした女の人に話しかけたのだが良い返事は得られなかった。気を取り直してパラシュを探す事に。

 

 

もしかして君は人を探しているのかい?

 

そうです!あなたも人探しですか?

 

うん、僕も人を探しているんだ、良かったら手伝ってくれないかな?

 

良いですよ!

 

 

そんな訳でその人と一緒に人を探す事に。

 

 

君はどんな人を探しているのかな?

 

僕はパラシュってキル姫を探しているんです、僕奏官の見習いをしていて、、、

 

それなら僕の事だね

 

えっ?

 

僕はパラシュ、君が探している人さ

 

………僕コウって言います!今日一日よろしくお願いします!!

 

 

インド=カリーみたいな固定概念で「カリーは好きですか?」っと聞いた事を後悔する程に柔かな笑顔で自己紹介をされてしまった。もしターバンは好きですか?とか聞いていたら適当に千文字埋めてパラシュの話は終わる所だっただろう。

 

 

早速だけど僕について来て欲しい

 

はい!何処へでもついて行きます!

 

 

僕に背を向けて歩くパラシュの後ろをついて行く事に。街を離れ山を登り少し開けた所まで歩いて来た。

 

 

ここなら大丈夫だね、君も楽にすると良いよ

 

はい!

 

 

ここなら言葉が引っかかったけどまぁ良いだろう。広場を見渡すと所々に花が生えておりとても平和そうな場所だ。

 

 

ここで何をするのですか?

 

理想へ辿り着くためのトレーニングさ、もちろん君もだよ

 

 

そう言って小さな手斧を渡された。それに困惑しているとパラシュが一本の大樹の元へ歩いて行った。

 

 

それについて行きその根本を見ると無数に傷が付けられていた。

 

 

この傷は?

 

僕の斧の跡だよ、僕はこの木を一撃で薙ぎ倒す。それを目標にしているんだ。

 

 

大きな斧を木に立てかけストレッチをしながらそう言っていた。因みに木の大きさなのだが大人五人が手を広げて囲んでも届くかどうかで見上げても先端が見えない程だ。

 

 

その後僕達に会話は無く僕はただひたすらに木に向かって斧を振るっていた。ガツン、ガツンと斧を振うと木がミシミシと音を立てながら倒れていった。

 

 

ティンバーー!!

 

 

それを見ながらそう叫んでいたのだがパラシュは僕に目を向ける事も、気にする様子も無くただその木に向かって斧を振るっていた。

 

 

そんなパラシュの姿を見ていた。一心不乱に斧を打ち込み流れる汗も気にもしないその姿に。

 

 

…………

 

 

そんな姿をずっと見ていた。ふと思い立ち飲み物を買いに行く事に。

 

 

パラシュさん、飲み物を買いに行くけど何が良い?

 

……………………

 

 

僕の問いかけも気にも止めず斧を振るっていた。諦めて適当なジュースを買って来る事に。

 

 

 

………………………………………

 

 

パラシュさん

 

パラシュさん

 

パラシュさん?

 

なんだい、そんなに呼ばなくても聞こえているよ

 

はい、ジュース

 

 

そう言って買ってきたスポーツ飲料を渡そうとすると首を横に振った。

 

 

いらないよ、その気持ちだけ受け取っておくよ

 

そう言わずにさ、そうだな、少しおしゃべりをしようよ

 

やめておくよ、ただでさえ君を迎えに行って朝の鍛錬が手薄になっているんだ

 

 

そう言って再び斧を振ろうと構えた。その姿に少し悩んでペットボトルをパラシュの頬に当てた。

 

 

ひゃあっ!………何をするんだい

 

休憩しよ

 

 

驚き怒った顔にペットボトルを向けるとため息をつき斧を下ろし受け取ってくれた。

 

 

………

 

 

その時一瞬見えた手のひら、豆が潰れ皮が剥け血が滲んでいた。気が付かれない様に斧に目線を向けると斧の柄も赤黒く汚れていた。

 

 

僕の事をこうまでして止めたんだ、つまらない話をしたら許さないよ

 

うん、パラシュさんはどうしてここまで頑張るの?

 

目標、理想の為だよ、さっき少し話したね

 

目標はあの木を一撃で切り倒す事だよね、ならパラシュさんの理想を教えてよ

 

僕の理想……

 

 

そう言って言葉を詰まらせてしまっていた。だけど

 

 

僕の事は良いんだ、なら君の理想を聞かせておくれよ

 

 

怒った顔で僕に話を振ってくれた。それにジュースを一口飲んでから口を開いた。

 

 

僕の理想は僕みたいになる人を少しでも減らせたらって

 

君みたいに?女の子の頬にペットボトルを当てるデリカシーの無い人の事かい?

 

その事は謝ります、これは理想って言うより目標かな?

 

 

パラシュに妹の事を話し僕みたいに大事な人を異族に殺されない様にしたいって話をしていた。

 

 

うん、良い理想だね、だけど。その理想は一人では叶えられないね

 

分かっているよ、僕の理想にはキル姫の力が必要不可欠だよ

 

人の力にすがることしかできないのに何が理想だよ、とんだお笑い草だね

 

なんて言ってくれても良いよ、どれだけ笑ってもらっても構わないよ、これが僕の理想であり信念だからさ

 

 

ムッとしながらパラシュを見ると僕と目が合った、そしてしばらくそのまま目と目を合わせていた。

 

 

なんだよ

 

君は良い目をしているね、迷いの無い目だ、きっと良いマスターになるよ

 

なのかな?

 

もしかしたら将来君の元に僕が居るかも知れないね

 

どうだろ?パラシュさんは僕のバイブスを感じる?

 

全く感じないよ

 

おっと

 

 

その言葉に転けそうになってしまった。

 

 

君はまだ洗礼前だよね?

 

そうだよ

 

教会で洗礼を受け始めて君の中に眠るバイブスが目を覚ますんだ、たまに例外も居るけどね

 

ふむ。

 

なら仮に君が僕の未来のマスターだとしよう、君ならあの大樹に向かう僕になんて指示を出す?

 

 

そう言って大樹に指を刺した。それにつられ目線を向けた。

 

 

この木の樹齢は何年なのだろう?この大きさになるにはきっと何百年の歳月をかけたのだろう。

 

 

そうだね、、、僕ならやめてくれって言うかな?

 

それは何故だい?一つの意見として聞かせてもらうよ

 

うん、だってあの木は何百年の歳月をかけてここまで成長したんだ、それを他人の意思で斬ってしまうのは可哀想だよ

 

なるほどね、だけど僕は諦めるつもりは無いよ

 

それは分かってるよ、僕も止めるつもりは無いよ。一度木を良く観察して見ようか

 

 

そう言って立ち上がりその大樹を眺めていた。もし頭の良い人にこの木を一撃で薙ぎ倒す方法を問えば色々な計算式を使い必要な力を弾き出すだろう。だけど残念ながら僕は頭の良い人では無い。根性でなんとかしようとしていた。

 

 

何か良い方法は思い付きそうかい?

 

 

答えを急かすパラシュに僕の代わりに僕のお腹がグゥーーっと答えていた。

 

 

お腹空かない?

 

はぁ、分かったよ

 

 

僕のお腹の提案により教会がある街にご飯を食べに行く事に。その前に

 

 

ちょっと待っててよ

 

うん、その代わり早く戻って来るんだよ

 

 

教会にある部屋に消毒液と包帯を取りに行く事に。

 

 

お待たせ、はい、手を出して

 

手?こうかい?

 

 

そう言って差し出された手のひらは傷は一つなく触るとフニフニと柔らかかった。さっきまであんなにボロボロだったのに……

 

 

あの、そんなに触られると恥ずかしいんだけど

 

あっ、ごめんね、さっき見た時ボロボロだったからさ

 

キル姫の回復力を甘く見てもらったら困るよ

 

ふむ

 

 

そんな訳で適当なご飯屋さんに入る事に。それぞれ好きなメニューを頼みぼんやりと考え事をしていた。

 

 

もちろんあの木を一撃で切り倒すって事だ。これはパラシュがくれた試練だと思っていた、僕が奏官としてキル姫に的確な指示を出せるのかと。勝手な思い込みなんだけど。

 

 

…………

 

 

その事を考えながらテーブルを見るとケースに入れられた割り箸を見つけた。そこから一本取り出して大樹に見立ててイメトレをする事に。

 

 

テーブルに先端を当てその上を指で固定し真っ直ぐに立てそれを指で押していた。

 

 

何をしているんだい?

 

イメトレだよ、どうやったらあの大樹を切れるかってさ

 

興味深いね、君の思った事を聞かせてくれよ

 

うん、今こうやって割り箸が立ってるよね、このテーブル側を指で押してくれないかな?

 

こうかい?

 

 

パラシュが指で押しても変化は無かった。

 

 

次は真ん中を押してみてよ

 

分かったよ

 

 

パラシュが指で押すと割り箸がミシミシとしなり出した。このままもっと力を込めれば折れてしまうだろう。

 

 

次はてっぺんをお願い

 

うん

 

 

てっぺんを押すと割り箸はびくともしない。

 

 

なるほどね、少しだけヒントになりそうだ

 

えっ?

 

 

何かが閃いたパラシュ、残念だけど僕には何も浮かばなかった。

 

 

どういう事なの?

 

まだ仮説の段階だから言わないでおくよ、もしこれで僕があの木を切る事ができたら君は立派な奏官だ

 

???

 

 

不思議そうな顔をする僕にそう言ってくれた。それから少しして頼んだ料理が届けられた。

 

 

いただきまーす

 

 

僕の目の前でパラシュが美味しそうに焼きそばを食べていた。本当に僕の勝手な考えなのだがナンにカリーを付けて食べて欲しかった。そんな僕も食べているのはお好み焼きなんだけど。

 

 

さぁ行こうか

 

はい

 

 

ご飯も食べ終わりさっきの広場に戻る事に。そして雄大にそびえ立つ大樹を眺めていた。

 

 

行くよ、僕の力を見ててほしい

 

うん!

 

 

そう言うとパラシュは遠くに離れていった。そして斧を構え走り出した。

 

 

たぁぁぁぁぁ!!舞い散る血は薔薇の如く!!!

 

 

そう叫びながら飛び上がり大樹の真ん中辺りまで飛んでいった。そして。

 

 

 

ガッコーーーーーン!!!!と物凄い音が響いた。自分の表現力の無さが際立つけどこの際そんな事は良いとしよう。

 

 

木を見上げている僕の横にパラシュが降りてきた。「どうだった?」って聞くと何も言わずに大樹を見上げていた。

 

 

 

しばらく見ているとミシミシミシミシと音が聞こえパラシュが斧を打ちつけた所が裂け始めた。

 

 

そして。

 

 

 

ティンバーーーーーーー!!!!!!

 

 

 

僕の叫び声と共にその大樹は大地にその身を横たわらせた。

 

 

…………………

 

…………………ありがとう、君がヒントをくれたおかげだよ

 

 

少し照れながらパラシュがお礼を言ってくれた。

 

 

ヒント?なんの事?

 

あはは、君は勘が良いのか悪いのか分からないよ

 

 

そう言って笑っていたけどなんの事か分からず困惑していた。

 

 

パラシュさんの目標は達成できたね

 

いや、まだだよ、ほら

 

 

そう言われて指を刺した方を見るとまだ大樹が半分残っていた。

 

 

木を切る事はできた、だけどそれは君の力を借りてだ、残りは僕の1人の力でやってみるよ

 

 

そう言ってはにかむパラシュがとても可愛く見えた。元から可愛いんだけどさ。

 

 

 

あの倒れた木はどうするの?

 

そうだね、、、長い年月をかけ大地の肥やしになるさ

 

今考えたでしょ?

 

ふふ、内緒だよ

 

 

そんな倒れた大樹を二人で見ていた、今はまだ緑の葉が付いているけどやがて枯れ果てその身を朽ちらせ再び大地の栄養となり新たなる植物を育むのだろう。この大樹が大地から栄養を吸い上げここまで成長したように。

 

 

そんな倒れた大樹の近くに赤い花があるのを見つけ思わずそこに駆け寄っていた。

 

 

ん、バラか

 

 

そこに生えていたのは野薔薇だった。

 

綺麗な薔薇だね、僕は薔薇が好きなんだよ

 

 

そう言って手を伸ばしそのトゲが指に刺さる事も気にせず花を指で撫でていた。

 

 

美しいだけじゃなくこうして自分の身を守る為のトゲを持っている、僕はこんな女性になりたいんだ

 

 

そう僕に語ってくれた。

 

 

ならパラシュはその理想にたどり着いていると思うよ?

 

どうしてそう思うんだい?僕はまだ道の途中だよ

 

あんな大樹を一撃で切り倒すその力、それにパラシュは可愛いと思う

 

褒め言葉として受け取っておくよ、君にそう言われたからと言って僕はまだ満足した訳じゃ無いからね

 

 

そう言われそっぽをむかれてしまった、だけど真っ赤に染まった耳が良い味を出している。

 

 

帰ろっか、そろそろお腹空いたし

 

君はそればかりだね、それに君は全然鍛錬をしていないじゃないか

 

 

………お先に!

 

あっ!逃がさないよ!

 

 

山の坂道を駆け降りる僕の後ろをパラシュが迫る。かなり怖いけど振り返らずに昼に行ったレストランへと駆けてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

ただいまー

 

 

誰も居ない部屋に挨拶をして電気をつけまずはお風呂に入る事に。それからパジャマに着替えてキル姫図鑑を開いた。

 

 

明日はミトゥムというキル姫の様だ、それだけ調べてベッドに寝転がり目を閉じようとした。

 

 

………その前にトイレ行こ

 

 

まだ冴えた意識でトイレに行くと絶望する様な光景が広がっていた。広がっているのは●●なのだが。

 

 

それを踏まないように用を足し明日マリアさんに掃除してもらおう、そう心に決めて眠りにつく事に。おやすピーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 

少しだけ考え事をしていた、もちろんそれは今日会った男の事だ。僕は男性は苦手なのだけど彼の事はすんなりと受け入れる事ができた。

 

 

……………………

 

 

パラシュ!居るんだろー?

 

こんだけ月が綺麗なら飲まないと損だよー♪

 

やぁ、君達か

 

 

月を見て落ち着いていた心が二人の来客によりざわめきだした。これも悪くないだろう。

 

 

 



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14ページ目、ミトゥム

朝起きて今日会うキル姫、ミトゥムの事を調べる為に図鑑を開いていた。なになに?

 

 

戦女神イナンナが生まれた時に持っていた戦棍の一つミトゥム。もう一つはシタと言う名前でありミトゥムの姉である。二人はイナンナシスターズと呼ばれており同じ神話のシャルウルと仲が良く良くミトゥムと一緒に訓練をしているらしい。

 

 

ふむふむ。ちなみにその戦女神イナンナは世界樹を助けたり冥界に行ったりとなかなかアクティブな女神でその性格がミトゥムにも移っているのだろう。そうなると何処かに遊びに行ったりした方が良いのかな?

 

 

そんな事を考えていたら玄関がノックされた。返事をしながらドアを開けるとマリアさんが居た。

 

 

おはようございます♪今日はミトゥムの所に行ってきて下さいね♪

 

おはようございます!分かりました!それと

 

それと?

 

トイレの掃除をお願いします

 

………はい。

 

 

嫌そうな顔をしながらもトイレに向かって行くマリアさんを見てから教会の前にある広場に行く事に。今回もまずはミトゥムを探す事から始まるのだ。

 

 

ミトゥム、ミトゥム。そう思いながら広場を見渡すとピンクの長髪に虹色の羽根の形の髪飾り、紫の上着?に大きな斧を担いだ女の人を見つけた。とりあえず話しかけてみる事に。

 

 

すいませーん、ミトゥムさんですか?

 

おめーがコウだな!?このミトゥム様について来いよ!

 

おぉぉ??

 

 

話しかけた人はミトゥムで合っていたのだが次の瞬間にはもう土煙をあげながら何処かに走って行ってしまった。それを追いかける事に。

 

 

街を抜けてもしばらく走りサフランを抜けた所で立ち止まった。

 

 

はぁっ、はぁっ、はぁっ、、、、そんなに急いでどこに行くの?

 

良く追いかけてこれたな!褒めてやるよ

 

うん、ありがと、それでどこに行くの?

 

ばあちゃんちだよ

 

ばあちゃん?

 

ほら!あそこにみえるだろ

 

 

そう言ってミトゥムが指刺すのは大きな木造のお家だった。そのままズカズカと家の中に入って行きその後を追い玄関から家の中を覗いていた。

 

 

おはよー!ばあちゃん!手伝いに来たぜ!

 

おはようミトゥムちゃん、今日もありがうね

 

良いんだって!ばあちゃんにはいつも世話になってるからな!

 

 

玄関土間に座っている年配の女性と親しげに話をしていた、その姿を微笑ましく見ていた。

 

 

それでその後ろの方は?ミトゥムちゃんのマスター?

 

あたしも良くしらねーんだよ、おい、コウはなんなんだ?

 

えっとね

 

 

突然話を振られた事に驚きながらも自己紹介をする事に。

 

 

おはようございます!僕、コウって言います!今奏官の見習いをしています!

 

 

って感じだ、お前野菜の収穫はした事あるのか?

 

うん、あるよ?

 

じゃあ行くぜ!ついてこいよ!

 

ミトゥムちゃん、これを持っていって

 

僕が持ってきます

 

 

ばあちゃんに籠をもらい家の裏にある畑へとやってきた。一応何をするかと聞くと野菜の収穫をするとの事。

 

 

へぇ、良い畑だね

 

ばあちゃん一人でやってんだぜ!すごいだろ!

 

これを一人では凄いね

 

 

結構大きな畑で夏野菜が所狭しと実を付けている。夏らしい良い光景だ。

 

 

何から収穫するの?

 

適当に収穫すれば良いだろ?

 

ちゃんと柔らかい物は上に乗せないとダメだよ?

 

 

畑を見渡してみるととうもろこし、かぼちゃ、トマトにピーマン、スイカときゅうりが。

 

 

二手に分かれよっか、僕がスイカとかぼちゃを収穫するからミトゥムは残りをお願いして良い?

 

ミトゥム様にかかれば楽勝だぜ!

 

 

そんな感じで野菜を収穫する事に。大きく実ったスイカを一つづつ指で叩き身の詰まった物を選びへたを切ってゆく。

 

 

よいしょっと

 

 

そのスイカを畑の外へ置いておく事に。何個か運んでミトゥムの方を見ると乱暴に野菜をちぎっていた。

 

 

無理矢理やったらダメだよ?

 

そうなのか?

 

こうやって野菜を持って引っ張らずにへたを切るんだよ

 

 

トマトを手に取りお手本を見せてあげると真剣な眼差しで見てくれていた。

 

 

できるかな?

 

子供扱いするんじゃねぇ!でも一つ勉強になったぜ!

 

 

そう言って優しく野菜を手に取り収穫してくれていた。見た目や言動は少し乱暴だけど良い子なのだろう。夏の日差しと畑の熱気で汗をかきながら野菜を収穫するその姿を微笑ましく見ていた。

 

 

二人共、休憩して下さい

 

 

そんな僕達の元にばあちゃんが来てくれた。手に持つお盆の上には汗をかき冷たさをアピールするコップが。

 

 

ミトゥム、休憩しよっか

 

あたしはまだまだ大丈夫だって!

 

そう言わずにさ

 

しゃーねーな

 

 

手に持ったハサミを地面に置いてこっちに歩いて来てくれた。

 

 

なんでミトゥムはばあちゃんのお手伝いをしているの?

 

ねぇちゃんが家庭菜園が好きなんだけど上手くいかない時にこのばあちゃんが教えてくれたんだぜ

 

ふむ。

 

 

ポリポリとお茶と一緒に出されたきゅうりのお漬物を食べながらそんな話をしていた。そんな事よりもこのままいくと野菜の収穫で話が終わってしまうだろう。もっとミトゥムの可愛さやミトゥムらしさを出さなけれは。

 

 

そうは言ってもこののんびりとした感じが悪く無いので多分このままなのだが。

 

 

っしゃあ!そろそろやろうぜ!

 

そうだね、ご馳走様でした!

 

 

そんな訳で野菜収穫再開である。僕もミトゥムと一緒にきゅうりなどを収穫する事に。

 

 

なぁコウ

 

どうしたの?

 

この黄色くなったきゅうりは食えるのか?

 

 

そう言ってミトゥムが手に取るのは大きくなり実を緑から黄色に変えたきゅうり。

 

 

えっとね、本来僕達が食べているきゅうりは緑色だよね?だけどそれはまだ熟していない状態のきゅうりなんだ、本来きゅうりが熟した状態なのがこの黄色なんだよね、熟した物、そうだな、果物で例えるとバナナ。バナナって青い時に食べると美味しく無いよね?だけどシュガースポット、つまり皮に茶色い斑点が出た時に食べると美味しいね、これは熟したバナナなの方が美味しいって事だ。この話から考えるときゅうりも熟した状態、つまりこの黄色い方が美味しいってなると思うけどそうじゃ無いんだよね、きゅうりは黄色く、つまり熟してしまうと苦味や渋みが出てしまうから食べれるは食べれるけど美味しく無いんだよね。

 

早口で説明さんきゅー、ならこのきゅうりは食べられないんだな

 

そうだね、だけど肥料にすると思うよ?

 

肥料に?このきゅうりが?

 

あそこに穴があるでしょ?中を見た事ある?

 

どれどれ?

 

 

ミトゥムと一緒に畑にある穴へ行くと野菜が腐った臭いが漂ってきた。

 

 

くせぇな、一体何が入ってんだ?

 

ダメになっちゃった野菜をここに捨てるんだよ

 

そうするとどうなるんだ?

 

そうするとミミズとかが分解して肥料にしてくれるんだよ、それを畑に撒くと美味しい野菜が採れるんだよ

 

へぇ、勉強になったぜ!コウは詳しいんだな!

 

一応農家出身だからね

 

 

そんな感じで楽しく畑仕事をする事ができばあちゃんが作ってくれたお昼ご飯を頂くことに。

 

 

頂きまーす!

 

 

白飯にお味噌汁、漬物に焼き魚と日本を感じさせてくれる良いお昼ごはんだ。

 

 

お昼からは何をします?

 

今日はもう良いよ、ありがとうね

 

じゃあコウ!遊びに行こうぜ!

 

うん、良いよ

 

そうと決まれば飯なんて一瞬で食え!すぐ食え!さぁ食え!

 

えぇ、、、

 

 

ガツガツとご飯をかき込みながらミトゥムに言われていた。この元気はどこから出てくるのだろうか?

 

 

ゔっ、、、

 

大変!!

 

ばあちゃんお茶下さい!!

 

 

喉にご飯を詰まらせたミトゥムの背中をバシバシと叩き少し落ち着いたところにばあちゃんがお茶を飲ませてくれた。

 

 

危なく死ぬところだったぜ…

 

慌てて食べるからですよ

 

だってミトゥム様は早く遊びに行きたいんだよ

 

あんまりおおちゃくするとお姉ちゃんに言い付けますよ?

 

それはやめてくれよ!分かったよ、ちゃんと食べるよ

 

 

「お姉ちゃん」というワードが出てから大人しくご飯を食べ始めたミトゥム、一体どんな姉なのだろうか?

 

 

ミトゥムのお姉ちゃんはどんな人なの?

 

普段は優しいんだけど怒るとすんげぇ怖いんだ

 

ふむふむ、ミトゥムでも勝てないの?

 

ねぇちゃんに勝てる奴なんてこの世界に居ないぜ

 

ふむ。

 

 

ミトゥムの姉のシタ。一体どんな姉なのだろうか?今回はミトゥムの話なのでこれ以上シタの事に触れる事は無いと思うのだが。

 

 

ごちそうさまばあちゃん、さっ、遊びに行こうぜ

 

うん、ごちそうさまでした

 

 

ご飯を食べ終わり家を出ようとしたらばあちゃんからお土産に野菜をもらう事ができた。最近野菜を食べてなかったからこれは嬉しい。

 

 

何度もお礼を言いながらばあちゃんの家を後にして一度部屋に野菜を置きに教会まで戻り僕達は教会の前の広場に居た。

 

 

それで何して遊ぶ?

 

そうだな、肩パンしようぜ!

 

あんたは中学生かね、腕ごと無くなりそうだからやめとくね?

 

じゃあ、、、鬼ごっこだ!

 

 

キル姫と鬼ごっこをして勝てるのか不安だけど肩パンよりはマシだろうと鬼ごっこをする事に。もちろん鬼は公平にジャンケンで決める。

 

 

じゃんけんぽん!

 

 

じゃあ僕が逃げるね

 

すぐ捕まえてミンチにしてやるぜ!

 

えぇ、、、。

 

 

物騒な事を言うミトゥムが壁に頭を付けて10数えていた。まともに相手をしては逃げきれないだろうと何処かに隠れてやり過ごそうと隠れれそうな場所を探していた。

 

 

おっ、ここに隠れよう

 

 

僕が選んだのは民家の裏に合った小屋の影だ。ここなら簡単に見つからないだろうとたかを括り座り込んだ。

 

 

っしゃゃゃぁ!ミトゥムいっくぜぇ!!

 

 

ミトゥムの雄叫びを小屋影で聞いて身を震わせた。でもここで小屋の一部になっていれば大丈夫だろう。

 

 

……………………………

 

 

呼吸をゆっくりして気配を消していた僕の足を野良猫が匂いを嗅いでいった。これ程までに気配を消していれれば大丈夫だろう。

 

 

タッチだぜ!

 

何故だ!?

 

 

小屋に擬態していた僕は呆気なくミトゥムにタッチされてしまった。彼女は白眼でも身に付けているのかね?

 

 

どうして気付いたの?

 

うーんと、難しくて言えないけど勘ってやつだ!

 

ふむ。じゃあ次は僕が鬼だね

 

おぅ!このミトゥム様に追いつけるなら追い付いてみろよ!

 

 

斧を担いだまま走り出したミトゥムを追いかける事に。普通に追いかければ追い付くことはできないだろう。だけど僕には秘策がある。

 

 

 

靴と靴下を脱ぎ捨てクラウチングスタートの体制をとった。

 

 

そして脳内の合図者がピストルを鳴らした瞬間に大地を蹴り上げ素晴らしいスタートを切りぐんぐんスピードをあげ目の前を走るミトゥムの背中に手を当てた。

 

 

捕まえた!

 

おまえっ!マジかよ!?

 

ふふふっ、レーヴァテインから逃げてリットゥとランニングをしてパラシュからも逃げる事により素晴らしい脚力を手に入れたのだよ

 

おまえ逃げてばっかりだな

 

まぁまぁ

 

じゃあ競争しようぜ!

 

いいよー?でもここだとあれだから公園に行こうよ

 

わかったぜ!

 

 

そんな訳で僕達は教会の近くにある公園にやって来ていた。都合の良い話だけど公園の端から端がちょうど100メートルらしい。

 

 

うっしゃぁぁ!準備は良いか!?

 

うん、いつでもいけるよ

 

 

お互いストレッチして身体を仕上げていた。合図はその辺を散歩していたおじさんに頼む事に。

 

 

位置に付いて、よーーーーい

 

 

子供らしく立ったままのミトゥムに対して僕は先ほどと同じクラウチングスタートだ。勝負事ならば手を抜く訳にはいかない。

 

 

どん!!

 

 

おじさんの合図と共に両者が走り出した。

 

 

勝つのはこのミトゥム様だぁぁぁぁ!!!

 

うぉぉぉぉぉ!!

 

 

同時に走り出しお互い抜いて抜かれてを繰り返しながらゴールのフェンスを目指していた。そして。

 

 

 

っしゃぁぁぁぁ!!ミトゥム様の勝ちだ!

 

流石だよミトゥム

 

 

先にフェンスに辿り着いたのはミトゥムだった。ガッツポーズをしながら雄叫びをあげていた。

 

 

惜しくも負けてしまったけど楽しいからヨシとしよう。

 

 

そろそろ夜ご飯でも食べに行こうよ?もう良い時間だし

 

マジでか!?あーっと、ごめん!ねぇちゃんが家で作ってくれてるんだ

 

ふむ。

 

 

少し残念だけど公園でミトゥムと分かれることに。夕日に向かって歩いて行くミトゥムが見えなくなるまで見送ってから僕も家に帰ろうと足を進めていた。

 

 

 

ただいまー

 

 

家に帰りまずはシャワーを浴びて服を着替えていた。それからきゅうりをかじりながら机に向かう事に。

 

 

明日はダグタってキル姫の様だ。それだけ見てから図鑑をしまって冷蔵庫にトマトをとりに行く。

 

 

あーーん

 

 

サラダにドレッシングも捨てがたいけどこうやってそのまま食べるのは結構好き。まぁどうでもいい情報なんだけどね。

 

 

野菜を食べ終わりトイレに行ってから寝る事に、トイレに行くと朝よりも汚くなっている便座が。

 

 

…………。マリアさんはきっと家事のできない人なのだろう。まぁいいや、おやすみなさい。

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

ただいまねぇちゃん!

 

ミトゥムちゃんおかえりなさい、ご飯できてますよ

 

さんきゅー!

 

食べる前に手洗いとうがいをして下さいね?

 

分かってるよ

 

 

ミトゥムが手を洗いに行っている間にテーブルにご飯を並べていた。

 

 

はい、いただきます

 

いただきまーす!今日すんげぇ奴に会ったんだよ!

 

食べながら話してはいけませんよ、後で聞きますね?

 

はーい

 

 

 

 

 

 

 



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15ページ目、ダグダ

朝起きてから今日会うキル姫、ダグダに付いて調べる事に。なになに?

 

 

タグザとはケルト神話に登場する最高神の事でダグダとも呼ばれる、ふむ。

 

 

ダグザの名は「善き神」「偉大な神」を意味する。ダーナ神族の長老ともいうべき存在で、豊穣と再生を司り詩歌や魔術にも優れているらしい。

 

破壊と再生、生と死の両方の力を併せ持つ巨大な棍棒、天候を自在に操ることで豊作を招き、感情や眠りを誘うことができる三弦の金の竪琴、そしてダーナ神族四秘宝の一つにして無限の食料庫である大釜を所持している。

 

 

最高神らしく明朗な性格で、万能ぶりから多くの女神たちに慕われた一方、奔放さや野卑な面も持ち合わせる。粥が大好物であり、しばしば粥好きが高じて痛い目にもあっている。たとえばフォモール族と戦うために、ルーがダグザを偵察に差し向けたところ、敵がダグザを引き留めるために作った大量の粥を食べていて帰還が遅れてしまったという。ダグザは武芸にも秀で、フォモール族との戦いを前に、「全ての神々の偉業を私一人でやってのけよう」という万能神らしい宣言をしている。

 

 

との事。つまりダグダはダグザという大いなる神が携えていた棍棒がキラーズとなっているのだろう。ここには書いていないけどダグダの見た目についての文があるのだがこれは地上編のダグダに活かされているのだろう。気になった人はWikipedi●でダグダと検索して下さい。

 

 

ううーんっと椅子に座ったまま伸びをしながらもうすぐ会うだろうダグダの事を考えていた。

 

 

元の人が巨大な棍棒を持っていたのだからダグダも巨大な棍棒を持っているのだろう。………優しい姫だと良いな。

 

 

そんな事を考えていたらドアがノックされた。返事をしながらドアを開けるといつも通りの笑顔で挨拶をしてくれるマリアさんが居た。

 

 

おはようございます♪今日はダグダに会いに行って貰いますね♪

 

おはようございます!了解です!それとダグダはどんなキル姫なのですか?

 

広場で待っていれば運ばれてくるのですぐに分かると思いますよ♪

 

ふむ

 

 

運ばれてくるという言葉に疑問を持ったけどまぁ良いだろう。財布をポケットに差し込んでマリアさんと一緒に部屋を出て廊下を歩いていた。

 

 

あっ、マリアさん

 

はい?どうしました?

 

トイレ掃除のやり直しをお願いします

 

えっ、綺麗になってましたよね?

 

全く綺麗になってませんでした

 

あれー?おかしいなぁ、、、

 

お願いしますね

 

…………はい。

 

 

不満そうな顔のマリアさんと分かれて教会の前にある広場へとやって来ていた。運ばれて来るって言ってたけどどうやって運ばれて来るのだろうか?

 

 

朝の通勤や通学で広場を歩いている人達を見ながら考えていたのだが全く思い浮かばず考える事を諦めようとしていたらゴロゴロとなにかを引くような音が聞こえてきた、その方を見るとリアカーが誰かに引かれていた、きっと野菜を街に卸しに行くのだろう。その光景が少し懐かしくて見ているとリアカーに乗せられているのは野菜ではなく人だという事に気が付いた。

 

 

その光景を見て何となく不安が過った、あのリアカーに乗っているのがダグダというキル姫なんじゃないのかと。僕のその嫌な予感は当たりダグダらしき人を乗せたリアカーを広場の中心に停めると引いていた人は何処かに行ってしまった。

 

 

引く人が居なくなった事は乗っている人には些細な事のようで気にする様子も無く荷台から顔を覗かせ誰かを探しているようにキョロキョロとしていた。とりあえず話しかけてみよう。

 

 

おはようございます!もしかしてダグダさんですか?

 

うん、おはよぉー私がダグダだよ〜

 

僕コウって言います!今日一日よろしくお願いします!

 

丁寧にありがとうね〜それじゃぁ、、、しゅっぱーつ

 

 

リアカーの上で右手を突き上げているダグダさん、それはまぁ良いのだが話が見えてこないでいた。

 

 

えっと?

 

今日は私と大陸中のおいしい物を食べに行くよ〜てな訳で運転よろしくね♪

 

 

荷台の上からリアカーの持ち手に目線を送りながらそう言ってくれた。つまり僕がリアカーを引けば良いのだろう。悩んでいても仕方ないのでリアカーを引こうと持ち手をまたぎよいしょっと持ち上げていた。

 

 

その時に荷台を見たのだが荷台には座布団が引かれておりその上にダグダさんが体操座りをしていた。その横にはダグダさんの使う棍棒が置かれており、、、そんな事はいいんだ、それよりもダグダさんの容姿が問題なのだ。

 

 

長い金髪をポニーテールにまとめてあり前髪から覗かせる金色の瞳。それに顔はフェアリーの様な可愛らしさ。ここが1番のポイントなのだがたわわに実ったパイオツ。もうね、スイカが二つあるといっても過言では無いと思う。僕の棍棒がムクムクし始めていた。何?その爪楊枝しまえって?

 

 

よく分からない事を考えながらゴロゴロとリアカーを引いていた。

 

 

それで最初は何処に行くのですか?

 

んーっとね、お任せで♪

 

えぇ、、、僕まだこの街の事を良く知らないので案内なんてできませんよ?

 

そこはコウ君の自主性に任せるよ♪

 

 

自主性。それだけを聞けば良く聞こえるけどリアカーの上で寝そべるダグダさんがそう言うと考えるのがめんどくさいとしか思えない。まぁ良いんだけど。

 

 

ゴロゴロとリアカーを引きながらサフランの街を進んでいると何処からか美味しそうな匂いが漂ってきた、この辺りはご飯街なのかな?その匂いをダグダさんも嗅いだのか「うぅーん、良い匂い♪」と背後から聞こえていた。

 

 

時間は午前9時、朝ごはんには少し遅い時間な気がするけどこのあたりでご飯にするとしよう。そう思い適当な喫茶店の前で立ち止まった。

 

 

ダグダさんはこの喫茶店で朝ごはんで良いかな?

 

良いよ♪じゃあお願いね?

 

 

そう言ってダグダさんが僕に手を伸ばしていた。とても可愛い顔を向けられて満足なのだがその手を伸ばすという行動の意味が分からないでいた。

 

 

えっと?

 

歩くのは無理だからおんぶ♪

 

 

むっ、今おんぶと言ったよね?おんぶとは背中に背負う事だよね?つまり?

 

 

ダグダさん、どうぞ僕の背にお乗り下さい

 

はーい♪

 

 

しゃがんで背を向けるとのそのそとダグダさんが僕の背におぶさり首に手を回した事を確認してからよいしょっと立ち上がった。

 

 

(うっひょーーーたまんねぇぇぇぇ!!)

 

 

女の人の温もりと柔らかさ、それに押しつけられているパイパイに歓喜の心の声をあげていた。そんな僕に気が付かずダグダさんは背から手を伸ばし喫茶店のドアを開けようとしていた。

 

 

うーん、もーちょっと、、、

 

 

前のめりになりながら手を伸ばしやっとドアノブを掴み開ける事ができていた。そんな事よりもこの人は無自覚なのだろうか?

 

 

それから空いている席の近くでダグダさんを降ろすと素早く席に座りメニューを開いていた。そんなにお腹空いてたのかな?

 

 

私これにしよっと、コウ君は何にする?

 

僕は…

 

 

ダグダさんにメニューを渡されそれを見ていた。今日は食べ歩きする感じなので軽めな物にしようとコーヒーとサンドイッチにする事に。

 

 

メニューが決まり店員さんにそれを伝えてダグダさんとおしゃべりをする事に。そうは言っても無難な話題から。

 

 

ダグダさんはいつもはなにをしているのですか?

 

家でゴロゴロしてるよー?コウ君はー?

 

僕は奏官の勉強をしてます

 

ふぅーん?ならいっぱい勉強しないとね♪

 

ダグダさんにはマスターは居ないのですか?

 

居るよ?あの朝リアカーを運転してくれていた人居るじゃん?

 

はいはい?

 

あの人が私のマスターだよ♪

 

(えぇ、、、)

 

でも気にしなくて良いよー今日はお休みだからさ♪

 

 

そう言われたのだが何とも言えないモヤモヤした気持ちを抱えてしまった。それでもこうして僕の勉強のためにキル姫を貸してくれた奏官さんに感謝はしているのだけどキル姫って貸し借りできる者なのだろうか?

 

 

細かい事は気にしなくて良いよー?そんな事より食べよ♪

 

あ、うん、そうですね

 

 

気が付けば運ばれてきていたパフェをスプーンですくい口に運び美味しそうな顔をしているダグダさんが。僕もサンドイッチをかじりコーヒーを飲むことに。

 

 

笑顔でパフェを食べるダグダさんを見ているとその後ろの壁に何かのチラシに気が付きそれを目を凝らして見ていた。

 

 

なになに?教会の支部でお祭りが開催される?場所は…ここからそう遠くはないか。

 

 

ダグダさん後ろのポスターのお祭りに行ってみませんか?

 

お祭り?

 

はい、このポスターですよ

 

 

席から立ちそのポスターを指差していた、こうして近くで見ると縁日や出し物とかもあるようだ。

 

 

良いよー♪食べ歩きも良いもんね♪

 

じゃあ早速行きましょうか

 

まだ食べてる途中でしょ?

 

あっ

 

 

そう言われてテーブルを見ると食べかけのサンドイッチとまだ湯気を立てるコーヒーが。苦笑いをしてから席に戻り残りのご飯を口へと運んでいた。そんな僕を見ながらダグダさんはパフェを食べ続け終始笑顔だった。

 

 

次の目的地も決まりご飯を食べ終わりそのお祭り会場を目指して歩く事に。そうは言ってもダグダさんは僕が引くリアカーの荷台でゴロゴロしているのだが。

 

 

今日は天気も良くて絶好のドライブ日和だね〜♪

 

 

こうしてリアカーに乗っているだけで満足してくれて良かった。リアカーの荷台に乗っている事がドライブなのかどうかは置いといて。

 

 

しばらく進むと目的の町に辿り着く事ができた。既にお祭りが始まっているようで立ち並ぶ屋台に沢山の人の姿が見える。それに屋台から漂う良い匂いも。

 

 

全部周りますか?

 

そーだねー♪お願いね♪

 

 

そんな訳で町の入り口から見渡してみたのだが人が多い為リアカーで入って行くのは迷惑だろうと考えダグダさんをおんぶして祭りの中を歩いてゆく。

 

 

あっこれ食べたーい♪あれも〜♪

 

 

朝ご飯を食べたばかりなのに屋台に並ぶ食べ物に興味津々なダグダさん。ダグダさんが背中から指を指すたびに屋台に寄り食べ物を購入していた。

 

 

そんなに買って全部食べれるの?

 

もちろん残さずに食べるよ♪

 

 

そう言われたけどダグダさんの手には焼きそばやたこ焼き、フランクフルトが入った袋を左手に持ち右手にはかき氷が入ったカップが握られている。他の物は良いけどかき氷は溶けてしまう。早く食べれるような場所を探さなければ。

 

 

しばらく歩くと人気のない所にベンチがあるのを見つけた。

 

 

じゃああそこのベンチで食べましょうか

 

そうだね♪

 

 

ベンチの前にダグダさんを降ろし二人で腰掛けて買ってきた物を食べる事に。そうは言っても僕はお腹が空いていないので食べたいるダグダさんを見ているのだが。

 

 

あーーーん♪

 

 

美味しそうにご飯を食べているダグダさんを見ると心が癒される気がする。朝ごはんの時もそうだったけど本当に美味しそうに食べているのだ。

 

 

 

ねぇ〜買い物に行こうよ♪

 

えっ、もう食べたの!?

 

そうだよ?

 

 

ダグダさんを見ていたはずなのに食べ終わるのに気がつかなかった。僕がトロいのかダグダさんが食べるのが早いのか?まぁいいか。

 

 

おんぶ♪と手を伸ばすダグダさんの前でしゃがんで重みを感じてからよいしょと立ち上がった。

 

 

(お、重い、、、)

 

 

元々大柄な体型な事と沢山食べた事により増えた体重がずっしりと僕にのしかかっていた。それでも柔らかな物を背に感じれるから笑顔になれる。

 

 

あれやろ〜♪これやろ〜♪と気になる物を見つける度にそこでダグダさんを降ろして一緒になって縁日を楽しんでした。今まで関わってくれたキル姫もそうなのだがこうしていると本当に人間との差を感じない。むしろ違う所を探す方が難しいだろう。

 

 

なんでよぉ、、、

 

 

ヨーヨー釣りに挑戦し一つも取れずに落胆しているダグダさんを見ながらそんな事を思っていた。

 

 

僕が取ってあげますよ?

 

ほんと?

 

見ててくださいね?

 

 

紙でできた糸を濡らさない様にヨーヨーの輪っかに引っ掛けて青色のヨーヨーを釣り上げていた。

 

 

わぁ♪ありがと♪

 

 

顔とにヨーヨーを並べて笑顔のダグダさんを見ると姉ができた様な気分になれる。あんまり伝わってないと思うけど包容力がありなんだろ、一緒にいると落ち着くっていうか。

 

 

今胸見てたでしょー?

 

見ておりません!

 

もぉ、コウ君も男の子だね♪

 

 

ダグダさんはしゃがんでおり僕は立っているので胸のキャニオンを見下ろす事ができるのだ。一応見ていないとは言ったけど、はい。しっかりと見ていました。そして見ていたのはキャニオンだけじゃなくてその見えそうで見えない太ももの奥も、、、。

 

 

 

 

そんな感じでダグダさんと縁日を楽しんでいるといつの間にか日が傾き始めていた。ここから教会のある街に帰ろうと思うと直ぐにでも出ないと真っ暗になってしまうだろう。

 

 

ダグダさん、そろそろ帰りませんか?

 

えぇ〜〜?んーそーだね♪

 

 

少しだけ名残惜しそうなダグダさんをおんぶしてリアカーに乗せてゆっくりと元来た道を帰って行くことに。

 

 

帰ったら何食べよっかな〜?

 

 

後ろから聞こえるそんな声を聞きながら歩いて行くと少し離れた所に人影が見えた。今から縁日に向かう人なのだろうか?邪魔にならない様に道ギリギリにリアカーを寄せてその横を通り抜けようとしていた。

 

 

あっ異族

 

 

遠目から見た時は気付かなかったけどよく見ると異族だった。向こうも僕に気がついた様で武器を構えこっちに向かって来ている。

 

 

ダグダさん!異族です!

 

しょうがないなぁ

 

 

そう言ってリアカーに積まれていた棍棒を手に取り異族の前に立ち塞がってくれた。

 

 

戦うのは良いけど〜骨が折れる覚悟はできてるよね?

 

 

その言葉の後に異族に向かい棍棒を振り下ろし異族を吹き飛ばしていた。吹き飛ばされた異族が地面を転がりそのまま動かなくなっていた。

 

 

骨が折れる覚悟っていうより死ぬ覚悟だよね?大体あんな棍棒で殴られて骨だけで済むはずがないよね?

 

 

そんな事を考えている間にも異族は薙ぎ倒され最後に一匹だけが残っていた。

 

 

せ〜の♪

 

 

その異族に棍棒によるフルスイングを叩き込むと異族が空の彼方へと飛んで行き星となっていた。バイバイキーンと聞こえて来そうなシチュエーションである。

 

 

助かったよダグダさん

 

もー疲れたから歩けなーい、リアカーまで運んで♪

 

 

その場に座り込むダグダさんにそう言われた。そう言っているけど呼吸一つ乱さず汗すらかいていない。そんなダグダさんをおんぶしてリアカーに乗せてあげていた。

 

 

じゃあ朝の広場までお願いね♪

 

はい!

 

 

ダグダさんを乗せたリアカーを引きすっかり暗くなってしまった道を教会に向かって進んで行くのであった。

 

 

 

じゃあコウ君またね〜♪

 

一日ありがとうございました!ダグダさんのマスターさんにもよろしくお願いします!

 

は〜い♪

 

 

朝の広場にリアカーごとダグダさんを置いてゆく事に。聞くともう少ししたらマスターさんがお迎えに来るらしい。手を振りながら教会に帰ってゆく僕に笑顔で手を振りかえしてくれるダグダさん。可愛い

 

 

ただいまーっとドアを開けて部屋に入りシャワーを浴びて机に向かい図鑑を開いていた。次はシャルウルというキル姫の様だ。それだけ調べてからベッドへ寝転がり今日背中に押し付けられていた物の柔らかさを思い出していた。

 

 

 

……………………おやすぴー

 

 

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 

 

 

う〜ん♪やっぱりマスターが作ってくれるお粥が一番だね♪

 

 

笑顔でそう言うダグダにマスターがおかわりのお粥をお椀によそっていた。それを笑顔で食べるダグダを見てマスターもお粥を食べようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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16ページ目、シャルウル

朝のいつもの時間、マリアさんが呼びに来てくれる少し前に目を覚ました。

 

 

今日はシャルウルというキル姫に会いに行くんだ、その前に図鑑で調べないと。そう思いながら体を起し伸びをしてから目を開けると机の前にある椅子に女の人が座っていた。

 

 

「うわぁ!?だ、誰!?」

 

「おはようございます、驚かせてしまったようですね」

 

 

寝起きで寝ぼけている頭、さらに知らない人が部屋に居る事に僕は軽いパニックを起こしていた。そんな僕に女の人は今日着る着替えとメモ用紙を渡してくれた。

 

 

「あ、ありがとう、、、」

 

「まだマリアが来るまで時間があります、それまでゆっくりしていて下さい」

 

 

そう言って微笑んでくれた女の人にドキリと胸が高鳴った。緑がかった黒髪のショートカットに整った顔、それに金縁の片眼鏡?をかけている知的な女性。もしかしたら今日会うキル姫のシャルウルかも知れない。聞いてみよう。

 

 

「あの、もしかしてシャルウルさんですか?」

 

「はい、よろしくお願いしますねコウ君、まず先に先程渡したメモに目を通して下さい」

 

 

そう言われてメモを見てみるとシャルウルさんがどういうキル姫なのかが書いてあった。

 

 

ふむふむ。つまり秘書を極めたような人みたいだ。ん?

 

 

メモの最後に※が付けられておりそこの文を読むと時々破壊衝動を抑えられなくなると書かれていた。

 

 

その文とシャルウルさんを見比べて見てもどう見てもそんな感じには見えないのだが。

 

 

「あの、この破壊衝動って…?」

 

「私のキラーズは全てを破壊する物なのでその記憶です。そうは言ってもそんなに乱暴じゃありませんよ?」

 

 

そう言われて安心していたら「ムカッときたらやっちゃいますけど」と聞こえてきた。どうやら僕がシャルウルさんを怒らせたら命が危なそうだ。気を付けなければ。

 

 

「今日のお使いのルートは昨夜考えておりますので、それと安全の確保もバッチリです。マリアが到着次第すぐに動けるよう整えてあります」

 

「う、うん。ありがとうございます」

 

 

まだ寝起きなのであまり話を理解できていないのだが今日はシャルウルさんとお使いに行くようだ。今まで適当に決めていたから決めて貰えているのは凄く助かる。

 

 

「早く起きて下さいね、後5分ほどでマリアが来ます」

 

 

そう言われたけどモーニングスタンダップしている為布団から出れないでいた。その事を悩んでいるとシャルウルさんに声をかけられた。

 

 

「起きられないのならそのベッドを破壊しましょうか?」

 

「起きます!直ぐに起きて着替えます!!」

 

 

柔らかな声色の中に確かに宿った狂気を感じて僕は慌てて飛び起きすぐさま服を着替えていた。一見武器は持っていないみたいだけど多分この部屋、いや、この建物を破壊するのに武器などいらないのだろう。

 

 

「着替え、終わりました!」

 

 

ピンと背筋を伸ばし敬礼をしながらシャルウルさんにその事を伝えると満足そうに頷いてくれた。

 

 

そんな時にコンコンとドアをノックする音が聞こえそのドアを開ければいつも通り笑顔のマリアさんの姿が。

 

 

「おはようございます♪今日は、、、」

 

「私ならもうここに居ますよ」

 

 

マリアさんの言葉を遮りながら僕の背後から顔を出したシャルウルさんを見てマリアさんが顔をムッとさせていた。

 

 

「相変わらずの情報収集能力ですね、ならその先の事は言わなくても大丈夫ですね?」

 

「もちろんです、モルゼイ村の特産品の梨を買ってきて欲しい。既にリサーチは済んでいます」

 

「分かりました。ならコウ君の事をお願いしますね」

 

 

そう言ってマリアさんは足早に去っていった。過去にシャルウルさんと何かあったのだろうか?

 

 

「では行きましょうか。馬車の手配はしてあるので」

 

「あざっす!」

 

 

そんな訳で今日はシャルウルさんとモルゼイ村に梨を貰いに行く事に。ドアを開けて外に出ると壁に大きな武器が立てかけられているのが見えた。

 

 

「これですか?私の斧です。室内にこれを持ち込むのは困難だと思いましてここに置かせていただきました」

 

 

その斧を軽々と肩に担ぎ歩き出したシャルウルさんの後ろをついて行く。そろそろ僕もキル姫耐性が付いてきたのでどんな武器を使っていても驚かなくなってきていた。

 

 

「馬車に乗る前に朝食にしましょう。教会を出て少し離れた所にある喫茶店が7周年記念で普段より安く朝食を食べる事ができますよ」

 

「ありがとうございます、じゃあそこに行きましょう」

 

 

そんな訳でシャルウルさんと喫茶店に行く事に。僕より背の高いシャルウルさんを見ながら喫茶店へと入ってゆく。

 

 

「この席がオススメですよ、何故なら日がよく当たり見晴らしも良いからです。それに他の席から少し離れているので隠密な情報も話す事ができますよ」

 

 

そう言いながら僕の手を引き窓際の席へと案内してくれた。上の二つは分かるのだが隠密な情報の意味が理解できず困惑しながらその席に座っていた。

 

 

「シャルウルさんはなんでも知っているの?」

 

「はい、なんなら今日マリアが履いている下着の色も教える事ができますよ」

 

 

そう言ってニヤリと笑ったシャルウルさん。これは羽●翼さんも舌を巻いてしまうだろう。

 

 

「それは聞かないでおきますね?それよりメニューをみませんか?」

 

「もう頼んでおきましたがよろしかったでしょうか?今までコウ君が食べていた朝食から選んだのですが」

 

 

さらっととんでもない事を言われて困ってしまっていた。一体僕はいつから監視されていたのだろうか?

 

 

「なーんて、それは嘘ですよ。驚きましたか?」

 

「全く冗談に聞こえませんでした」

 

「調べろと言われれば全て調べますけど」

 

「遠慮しておきます、、」

 

 

シャルウルさんは秘書より探偵の方が合うのじゃ無いだろうか?そんな事を考えていると頼んでくれた朝ごはんが届けられた。

 

 

「頂きまーす」

 

「はい、どうぞ」

 

 

そう言われてサンドイッチをかじりコーヒーを飲んでいたらまだシャルウルさんが食事をしていない事に気が付いた。

 

 

「食べないんですか?冷めちゃいますよ」

 

「コウ君が食べ終えてから食べるつもりなので、私に遠慮せず食べて下さい」

 

「一緒に食べましょうよ、コーヒーもせっかくホットで来てるし」

 

「大丈夫ですよ」

 

 

何か訳があるのだろうか?気になったけど聞くのをやめてなるべく早く食べる事に。

 

 

「ご馳走様でした」

 

「はい、では直ぐに食べますね」

 

 

そう言って急ぎながらかつ上品にご飯を食べるシャルウルさん。でもコーヒーは冷めてしまっているしサンドイッチも常温となってしまっているだろう。その姿になんとも言えない気持ちを抱いていた。

 

 

「お待たせしました。時間をかけてしまい申し訳ありません」

 

「ゆっくり食べて良かったですよ。行きましょうか」

 

 

それから僕はシャルウルさんが運転する馬車に揺られモルゼイ村へと向かっていた。青い空に優しく吹く風を感じながら馬を操るシャルウルさんを見ていた。

 

 

「シャルウルさんはマリアさんと何かあったの?」

 

「ありましたけど大した事じゃありませんよ?気になるのであるならお話します」

 

 

そう僕の方を見ずに言ってくれた。あの能天気なマリアさんがあれだけ嫌そうな顔をした理由。すごく気になる。

 

 

「気になるので聞かせて下さい」

 

「分かりました。でももうすぐモルゼイ村へ到着しますのでまた帰り道にでも」

 

 

そう言われて前を向くとモルゼイ村と書かれた看板が立っておりその奥にはこじんまりとした村が見えていた。馬車を邪魔にならない所に駐車させて2人で村へと入って行く事に。

 

 

「この村は果物を作ってるんですね」

 

「そうですね。モルゼイ村は梨の他にブドウやミカン、カキ等が名産です。以前は野菜も作っていたようですが」

 

 

2人で話しながら村を歩くと何処からともなく果実の良い匂いが漂ってくる。その匂いの方を見ると果物の販売所があり試食ができるようだ。

 

 

「この村を出発する時間は決められているのですか?」

 

「いえ、夕方までにマリアに梨を届ければ問題はありませんのでまだたっぷりと時間はありますよ」

 

「なら食べ歩きしませんか?」

 

 

僕の提案に片眼鏡を光らせた後「良いですよ」との返事を貰えた。

 

 

それからシャルウルさんに案内され梨園に向かいながら試食をしてゆく事に。手当たり次第に試食をしているお店を訪ねて食べ歩きをしていた。

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 

流石に試食だけして買い物をしないという訳にはいかないので気に入った果物は購入する事に。そこでもシャルウルさんの目が光るのだ。

 

 

「このブドウを下さい」

 

「はーい」

 

「その皿のブドウより隣のブドウの方が粒が大きく痛みがありませんよ」

 

「本当です?ならこっちのブドウを買います」

 

「チッ」(ありがとうございますー)

 

 

心の声がダダ漏れだけど聞こえなかった事に。そんな感じで僕達は梨園へとたどり着いていた。

 

 

「おぉー凄く大きいよ!」

 

「この辺りは梨の名産地ですからね。その中でも一番大きな梨園に案内させてもらいました」

 

 

梨園の外から見渡せない程の広さの園。それに沢山生えている木から大きな梨が無数に実っているのが見える。梨好きな人には堪らない光景だろう。

 

 

「ありがとうございますシャルウルさん」

 

「お礼を言われる様な事はしてませんよ。それよりまだ梨の試食をしてませんよ?見た目は良いかもしれませんが味が伴っていなければ意味はありません」

 

「それもそうですね」

 

 

そんな訳で梨園の人に挨拶をして梨の試食をさせてもらう事に。

 

 

ぶら下がっている梨を一つもいでそれを手早く皮を剥きあっという間に六つに切り分けているのを二人で見ていた。こうやって切ってあるのも良いのだけど僕は皮ごと丸かじりの方が好きだ。好みの問題なのだけど。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます、食べます?」

 

「私は後で、コウ君お先にどうぞ」

 

 

係員に切った梨を渡されそれを受け取り食べようとしていた。その時も、他の試食をした時もなのだけど僕が先に食べていた。まさか毒見役にされているのか?

 

 

変な事を一瞬考えたけどそんな訳あるはずが無いと思い直し渡された梨を口に運んでいた。

 

 

噛むとシャクリと小気味良い音をたてみずみずしさと程よい甘味が口いっぱいに広がってゆく。芯の部分をきれいに避けてあるのか嫌なえぐみもなくとにかく美味しいの一言だった。

 

 

「シャルウルさん凄く美味しいよ!」

 

「それは良かったです。私の分も食べて良いですよ」

 

 

和かにそう言われて困ってしまいとりあえずもう一つだけ食べてからそのお皿をシャルウルさんへ渡していた。

 

 

「そんな事言わずにシャルウルさんも食べて下さいよ。凄く美味しいですよ」

 

「そこまで言ってもらえるのなら」そう言ってフォークを使い梨を口に運び可愛らしい笑顔を見せてくれた。

 

 

「ここの梨ならマリアも喜ぶでしょう。それともうすぐにでも帰らないと日が落ちてしまいますよ」

 

 

そう言われて園内の時計を見ると良い時間だった。もう少し居たかったけど暗くなる前に帰りたいので退散する事に。

 

 

3人分の梨を購入し園の人にお礼を言ってからそそくさとモルゼイ村を後にする事に。夕日に背を向けながら教会を目指しのんびりと進んでゆく。

 

 

「それでシャルウルさんはマリアさんと何があったんです?」

 

「大した事じゃありませんよ?私の情報収集力にマリアが目を付け作業の手伝いをしていたぐらいです。最初はお互いを尊重し合いながら仕事をしていましたけど徐々にマリアがサボるようになっていきまして」

 

 

そう言われたけどマリアさんが仕事をサボるようなイメージが全く無いので何とも言えない気持ちになっていた。

 

 

「あの頃のマリアは若かったですからね。若気の至りというものでしょう」

 

 

そう僕の方を向かずに説明をしてくれた。何となくだけどこの話に触れるのはもうやめておこう。

 

 

ぼんやりと馬車を運転するシャルウルさんをみていると何処かから馬の蹄のような音が聞こえて来た。野生の馬でもいるのだろうか?何となく後ろを振り返ると馬っぽい何かがこっちに走って来ていた。

 

 

「コウ君は馬車の運転はできますか?」

 

「できますよ?」

 

「なら、お願いしますね。それとなるべく早く馬を走らせて下さいね」

 

 

そう言うと馬の背から荷台に移り置いてあった斧を手に取るとそのまま外へ飛び降りて行った。それを見送る余裕も無くすぐに馬に飛び乗り手綱を引きスピードを上げてゆく。

 

 

「ーーーーーーー!!!!」

 

 

シャルウルさんの叫び声が聞こえた後に何かがグチャリと潰れるような音と大地を震わせた振動が伝わってきた。一体後方で何が行なわれているのだろうか?振り返りたくてソワソワしていると馬車の横に武器を持った白い腕が飛んできた。もう考えるのはやめよう。

 

 

無心で馬車を走らせているとシャルウルさんが馬車と並走していた。それと目が合うと荷台へ飛び乗って来てくれた。

 

 

「ふぅ、少しだけ本気を出してしまいました。それとコウ君に謝らなければいけませんね」

 

「どう言う事です?さっきのは?」

 

「先程居たのは異族の騎乗型種と呼ばれるものです。先日下見をした時に全て破壊したはずだったのですが残党がいたようです。私の情報収集不足です。ごめんなさい」

 

 

そう謝られてしまっていた。そんな事気にしてないのに。

 

 

「僕は全然気にしてませんしこうやってシャルウルさんに守ってもらえたので謝る必要なんて無いですよ」

 

「しかし私のミスです。完璧にリサーチしたと言ったのに危ない目に合わせてしまいました」

 

 

運転をしているため振り向けなかったけと声的に真剣に謝られているのだろう。それなら僕もしっかりと答えなければ。

 

 

「分かりました。じゃあ夕ご飯食べに行きませんか?」

 

 

そう言うと驚いた声が聞こえて少し沈黙があった後に「分かりました」との返事がもらえた。もう教会の城壁が見えているのだけどシャルウルさんと夕ご飯を食べに行くお店をどこにするか考えていた。

 

 

まぁそんなこんなでマリアさんに梨を渡す事ができて今日のお使いは無事に終了となった。梨を貰った瞬間は笑顔だったのだがシャルウルさんを見るとすぐにムスッとなるマリアさんに苦笑いをしながらシャルウルさんとラーメンを食べに行く事に。

 

 

以前レーヴァテインに連れて来てもらったラーメン屋さんの椅子に2人で腰を下ろし何を食べるか決めようとしていた。

 

 

「シャルウルさんは何食べます?」

 

「私は、、、そうですね。チャーシューメンにします」

 

「分かりました。頼みますね」

 

 

メニューを頼み調理する亭主を2人でぼんやりと見ていた。

 

 

「シャルウルさんはラーメンでも後で食べるの?」

 

「そうですね。私のキラーズの記憶で誰かより先に物事をする事が少々苦手でして」

 

 

あっ、そう言う事だったんだ。だから何をするにしても僕を先にさせていたんだ。

 

 

「でもそれだとラーメン伸びちゃいますよ?」

 

「そうですよね、、、」

 

 

少し困った顔をしているシャルウルさんに思い付いた事を言ってみる事に。

 

 

「ならさ、同時に食べませんか?そうすれば麺が伸びる前に食べる事ができますよ?」

 

「そうです、、ね。やってみます」

 

 

そんな話をしていると僕達の前にラーメンが置かれた。シャルウルさんが手を伸ばす前に割り箸を渡してあげて2人同時にパキンと割っていた。

 

 

「じゃあ食べましょうか」

 

「はい。いざ」

 

 

2人寸分の狂いもなく手を合わせ湯気を立てるスープから麺を掴み出し麺をすすっていた。

 

 

それから会話もせず2人で黙々とラーメンをいただき完食となった。

 

 

「ご馳走様でした」

 

「ご馳走様でした。じゃあ帰りましょうか」

 

「はい。教会の前まで送りますね」

 

 

いつの間にかすっかり暗くなってしまっていたのでシャルウルさんに教会の前までついて来てもらいここで解散となった。

 

 

「今日はありがとうございました!」

 

「私こそありがとうございました、楽しい一日でしたよ。良い奏官になれると良いですね」

 

 

そう言って微笑みシャルウルさんは帰って行った。それを見送り姿が見えなくなってから部屋に戻る事に。果物を冷蔵庫に入れてシャワーを浴びてから少しだけ図鑑を眺める事に。

 

 

明日はロンギヌスってキル姫の様だ。それだけ見てから布団に潜り込む事に。

 

 

「おやすみなさい」

 

 

少し寒くなってきたから頭まで布団を被り気が付けば眠りに落ちていた。

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

今日買った梨を食べようと椅子に座った時夜空に輝く満月を見つけそれに誘われる様にベランダへと足を運んでいた。

 

 

まん丸く輝くお月様を見ながらシャクリと音を立て梨を食べていた。そんな時コンコンとドアを叩く音が聞こえそれに返事をした。

 

 

「はい」

 

「シャルウル」

 

 

入って来たのはマリアだった。キョロキョロと部屋を見渡しベランダに居る私に気が付いたようで窓を開け私の隣に並んだ。

 

 

「今日はコウ君の面倒を見てくれてありがとうございました」

 

「お礼を言われる様な事はしていませんよ」

 

「それと」

 

「はい?なんでしょうか」

 

「ごめんなさい」

 

 

そう私を見て言うと直ぐに顔を逸らしていた。そんなマリアの頭に手を伸ばしワシャワシャと撫でてあげた。

 

 

「次は許しませんよ?」

 

「分かっています、もうあんな事はしません」

 

「忙しい時は私に声をかけて下さいね」

 

 

そう微笑みながら言うとマリアが目を輝かせた。

 

 

「実はですね、明日奏官さん達の給料日なのですよ。それとクレームの処理と会議の資料作りと物品の整理があるので明日からしばらくお願いしますね♪」

 

 

少しだけそう言った事を後悔しながら再び梨を口に運んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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17ページ目、ロンギヌス

ロンギヌスの槍って知ってる?っと尋ねると大体の人はあのキリストの脇腹を突いた槍でしょ?と答えてくれると思う。それかアニメが好きな人ならばエヴァンゲリオ●でしょ?と言うかも知れない。

 

 

少し調べたのだけど『聖槍』と呼ばれていたり『聖遺物』だったりとよく分からなかったのだけどそのロンギヌスが神聖な槍だと言う事は伝わった。

 

 

でも疑問が残るのはロンギヌスは槍の名前ではなく槍を持っていた人の名前だという事だ。ロンギヌスの槍と言われれば確かに。と納得がいく。

 

 

ロンギヌス「の」槍なのだから。

 

 

よく分からない事を長々と書いてしまったけど今日はロンギヌスに会いに行く日なのだ。因みにファンキル内での話をすると一番最初に水着になったキャラだったり僕がファンキルに課金をし始めた原因だったりする。可愛いよね水着ロンギヌス。

 

 

そんな事を思いながらパタンと図鑑を閉じて椅子に座ったまま身体を大きく伸ばしていた。時計を見るともうすぐマリアさんが来てくれる時間だ。

 

 

「おはようございます♪今日はロンギヌスと一緒に教会で手伝いをしてもらいますね♪」

 

 

そんな事を思っていると来てくれた。いつもならノックがあるのにそれをしないでいつも以上の笑顔で部屋に呼びにきてくれた。

 

 

「おはようございます。今日はご機嫌ですね?」

 

「はい♪今日は私の手伝いに強力な助っ人が来てくれるんですよ♪」

 

「ふむ」

 

 

そんなご機嫌なマリアさんと部屋を出ていつもマリアさんが仕事をしている事務室の前で分かれる事に。

 

 

「ロンギヌスはこの先の資料室にあると思うのでそこに行ってくださいね♪今日の業務の事はロンギヌスが知っていますので」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 

その後にマリアさんが教えてくれた資料室を探しながら廊下を歩いていた。えっと?配膳室、会議室、図書室、資料室。ここか。

 

 

資料室のドアをノックして返事をもらってからゆっくりとドアを開けて部屋の中へと入ってゆくとショートカットの女の子が一人作業をしていて僕の方を向いてくれた。

 

 

「お、おはようございます、、、」

 

「おはようございます!僕コウって言います!今日一日よろしくお願いします!」

 

「はははは、はい!!こちらこそよろしくお願いしますね。私ロンギヌスって言います、、、」

 

 

聖槍や聖遺物と聞いていたのでもっと堂々とした人だと思っていたのだけど僕に挨拶をしてくれたロンギヌスは自信がなさそうで遠慮深いっていうかなんていうか。

 

 

「僕は何を手伝えば良いですか?」

 

「はい、えっと、、、そこのダンボールに入っている本を棚に戻して下さい」

 

「はい!分かりました!」

 

 

僕が元気よく返事をするとなんとなく驚かれてしまった。もう少し小声で話した方が良いのかな?

 

 

そんな事を思いながら言われた通りにダンボールに仕舞われている本を棚に戻してゆく。一応種類ごとに分けてるけど大丈夫なのかな?

 

 

「ロンギヌスさん、種類ごとの方がいいですよね?」

 

「そうですね、使う人が分かりやすいようにお願いします」

 

「了解です」

 

 

そう言われたので引き続き本を戻してゆく。そんな二人に会話は無く本を置く音だけが部屋に響いていた。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

作業に文句はないのだが退屈だった。ロンギヌスさんに話しかけようと隣で作業している姿を見るとその顔は真剣で話しかける事をためらいそのまま無言で作業が進んでゆく。

 

 

そんな時ロンギヌスの逸話を思い出した。もちろんあの脇腹を突いたという話だ。隣のロンギヌスさんを見ると背の届かない所に背伸びをして両手を上げ作業をしていた。脇腹をつつく絶好の機会だろう。

 

 

だけど思い止まりその姿を見ている事に。先程伝えたように背伸びをしている為緑色の上着がめくれ少しの隙間からシャツが見えていた。そのまま見ているとシャツもめくれ脇腹が見え隠れしている。これは脇腹をつつけといっているのだろうか?

 

 

少し考えて部屋を見渡すと小さな脚立を見つけそれを取りに行く事に。

 

 

「ロンギヌスさん、これ使って下さい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

そう言って怯えたような笑顔を見せた後にそっと脚立を受け取りそれを台に作業をしていた。それを見てから僕も本を戻してゆく事に。

 

 

(えっ、僕ってそんなに怖い顔してるのかな、、、?)

 

 

先程ロンギヌスさんが見せた怯えた笑顔を思い出してなんとなくショックを受けていた。後でマリアさんに聞いてみる事にしよう。

 

 

その後二人で黙々と作業をしているとダンボールに詰められていた本を片付ける事ができた。キリもいいので少し休憩をする事に。

 

 

「ロンギヌスさんはなんか飲みます?僕買ってきますよ」

 

「私は大丈夫です。コウ君の分だけで良いですよ」

 

「遠慮しなくて良いですよ?好きなの言ってください」

 

「本当に大丈夫なので、、、」

 

 

泣きそうな顔で言われたので諦めて自分の分だけ買ってこようと部屋を出て自販機を探す事に。マリアさんが居る受付の近くにあった事を思い出しそこに買いに行こうと歩いていた。

 

 

(僕の分だけで良いって言われても一人だけなんか飲んでるのは気が引けるし、だけどロンギヌスさんが何を飲みたいのか分からないし、、、)

 

 

なんかを適当に買っていけば良いかも知れないけどもしロンギヌスさんが嫌いな物を買って渡してもきっとロンギヌスさんはそれを飲んでくれるだろう。それはそれで気が引けるし、、、。

 

 

そんな事を自販機の前で考えていたのだが答えが見つからず困っていた。そうだ、こんな時は。

 

 

そう思いマリアさんがいる事務室に行きマリアさんに相談をしてみる事に。

 

 

「マリアさん、今大丈夫ですか?」

 

「はいはい?どうしました?」

 

「ロンギヌスさんにジュースを買いたいんですけど何を買えばいいか分からなくて」

 

「それならトマトジュースを買っていけば大丈夫ですよ♪」

 

「あざっす!」

 

「はい、そうくると思って準備しておきましたよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

入り口でマリアさんと話していたらその後ろからシャルウルさんがトマトジュースを二本渡してくれた。昨日はマリアさんがあんなに嫌そうだったのに同じ部屋にいるって事は何かあったのだろうか?それよりも相変わらずの察しの良さである。

 

 

お礼を言ってジュースを持って部屋まで急いで行きゆっくりとドアを開け部屋を覗くと椅子に座っているロンギヌスさんがいた。そこに歩いてゆく。

 

 

「はい、これなら飲んでくれるかな?」

 

「それはトマトジュース、、、」

 

 

そう言って僕とトマトジュースを交互に見ていた。例えるならエサを目の前に置かれて警戒しているがご飯が食べたい野良猫のような。この例えは失礼か。

 

 

「貰ったジュースだから気にせず飲んでくださいよ」

 

「なら、いただきますね」

 

 

ロンギヌスさんにジュースを渡してプルタブを起こすのを見届けてから僕もジュースを飲む事に。少しトロッとした喉越しとトマトの酸味と甘味が良い感じである。

 

 

「ロンギヌスさんはトマトも好きなんです?」

 

「はい、昔からトマトが好きなんです」

 

「ならさ早く片付け終わらせてトマト食べに行きませんか?」

 

 

そう言うと身を強張らせた後棚の影に隠れヤバい人を見るような目で僕を見ていた。どうやら失言だったようだ。それを弁解する為に何かを言おうとしたのだが言葉が思い付かず口をモゴモゴとさせていた。

 

 

「コウ君も私の力が目当てなのですか…?」

 

「力?力ってなんの事です?」

 

「隠さなくても良いんです。私に近づいて来る人は私の力が目当ての人ばっかりですから」

 

 

そう言いながら棚の後ろに完全に隠れてしまった。この状況をどうにかしないとロンギヌスの話が詰んでしまう。何か良い言葉を考えなければ。

 

 

「…………」

 

 

ヤバい、何も思い付かない。僕が悩んでいる間にもロンギヌスさんは僕に違和感を持ち続けるだろう。どうにかして誤解を解かなければ。

 

 

「えっと、僕はマリアさんにお願いして奏官の見習いをしています。ロンギヌスさんの力の事は今知ったしそれに今の僕には力なんて必要ないですよ」

 

 

悩んだ末に出てきた言葉を口にしてロンギヌスさんの反応を見る事に。しばらく棚の影を見ているとすこーしだけロンギヌスさんが顔を出してくれた。

 

 

「本当に私の力目当てじゃないのですね…?」

 

「はい、ほんとうですよ?信じられないと思いますけど本当です!」

 

 

少しの沈黙の後やっと棚の影から姿を見せてくれた。さて、ここからどうしようか。とりあえず話題を変えよう。

 

 

「作業はどれぐらい残ってるのです?」

 

「後は、、、ダンボールをたたんで置き場に戻せば終わりです」

 

「あと少しですね。なら終わったらご飯行きませんか?」

 

「えぇっと、、、私、、、」

 

「まぁまぁ、そんな事言わずにお願いしますよ。僕にロンギヌスさんの事を教えて下さい」

 

 

かなり恥ずかしかったけど勢いで押してみる事に。これでダメだったらこのままロンギヌスさんのお話は終わりにしよう。

 

 

そんな心配をしていたらロンギヌスさんが消えそうな声で(分かりました)と言ってくれた。物語続行が決まった瞬間である。

 

 

そうと決まれば急いでダンボールを片付けてお昼ご飯を食べに行く事に。時計を見ると午前11時半、少し早いから店も空いているだろう。

 

 

「ロンギヌスさんは何が食べたいです?」

 

「お任せしてもよろしいでしょうか…?」

 

「ふむ」

 

 

そう言われてお食事処を考えると前にレーヴァテインに連れて行ってもらったお店を思い出しそこに行く事に。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

教会を出てそこに行くまで僕達に会話はなくやけに周りの人の話し声が大きく聞こえていた。

 

 

「はい、先に選んでください」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

なんとかその店にたどり着き一番奥の席に座りメニューをロンギヌスさんに手渡しお冷を取りに行き席へと戻ってきた。

 

 

「あっ、、ありがとうございます」

 

「気にしないでくださいよ」

 

 

その後お冷を飲みながら一生懸命にメニューを見ているロンギヌスさんを見ていた。トマトが好きならケチャップを使っているナポリタンかオムライスだろうとそんな事を考えながら。

 

 

「私これにします」

 

 

そう言ってロンギヌスさんが指差すメニューはカルボナーラだった。うん、まぁ、、、ね?

 

 

そんな感じでメニューを店員さんに伝えてロンギヌスさんの話を聞く事に。

 

 

「じゃあ僕にロンギヌスさんの事を教えてください」

 

「私の事なんて知っても、、、何も良い事なんてありませんよ」

 

「うーん、、、」

 

 

会話が続かない。僕が何を話せば良いのか分からないのもあるしロンギヌスさんはネガティブな事しか言わないし、、、。それに僕と目を合わせようとせずチラチラと店の出入り口を見ている。直ぐにでもこの場から逃げ出したそうだ。

 

 

話を聞くよりまずロンギヌスさんの警戒心を解く事にしよう。

 

 

「じゃあ先に僕の事を話しますね、聞いてくれますか?」

 

「分かりました」

 

 

ゆっくりと落ち着いた口調で自分の事を話していた。奏官になりたいって事、妹を異族に殺された事、僕みたいな思いをする人を無くしたい事を。

 

 

「コウ君も力を求めているのですね、、、」

 

「確かに僕はキル姫の力が欲しいです。僕の願いはキル姫の力無しでは叶いませんから。だけどなんだろ、、無理にとは言わないです、キル姫だって戦いたくない人もいると思いますし。それなら怪我負った人や壊された街を治したり少しでも被害を受けた人達の力になりたいです」

 

 

ロンギヌスさんを見ながら力説すると気が付けばロンギヌスさんが僕の目を見ていてくれた。

 

 

「コウ君は優しいんですね」

 

「優しいですか?僕は自分のしたい事を言っただけですよ?」

 

「私はそう思います。私に近付いてくる人はそんな事言う人はいませんでしたから」

 

「ロンギヌスさんは過去にどんな事をされていたのです?良かったら話せる範囲で話して下さい」

 

「………私は、、、」

 

 

そう言った後ロンギヌスさんが話してくれた。ロンギヌスという名を冠している為に力があると思われそれを利用しようとする人達に追いかけ回されたり聖槍と崇められた事もあった。だけどロンギヌスさんは争いたく無いし崇められる程の存在でも無いと拒否し続けたという。

 

 

「私にそんな力もありませんし聖槍だなんてとんでもないです」

 

 

そう言って再び俯いたロンギヌスさんは誰がどう見てもキル姫ではなく一人の少女だった。

 

 

伝説の武器の名を冠すキル姫。それは僕達人間が勝手にそう言っているだけで本当は違うのかとそんな事を思っていた。

 

 

「お待たせしました」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

話と思考に夢中で料理を取りに行くことを忘れてしまっていた。気が付けばマスターが料理を運んで来てくれていた。

 

 

「あ、あなたは……」

 

「私はただの料理人です。ごゆっくりどうぞ」

 

 

驚くロンギヌスさんに声をかけながら料理を机に置きすぐに厨房へと戻って行った。僕達の前には湯気を立てる美味しそうな料理が。

 

 

因みにこの店のおじさんについて意味深な事が書かれているが特に設定を考えていない為深く書かれる事はないんだ。ごめんねおじさん。

 

 

そんな感じで美味しいお昼ご飯を食べる事ができ今僕たちは食後のコーヒーを楽しんでいた。

 

 

「お昼からは何か予定はありますか?」

 

「特にはありませんよ」

 

「良かったら買い物に付き合ってもらって良いですか?」

 

 

そう聞くとあまり人がいない場所ならばと返事をもらう事ができた。その後少しゆっくりしてから買い物をしに行く事に。

 

 

「コウ君は何が欲しいのですか?」

 

「日用品ですね、雑貨屋があれば良いんですけど」

 

「それなら案内してあげますね」

 

 

ロンギヌスさんに案内してもらい街にある雑貨屋に連れて来てもらった。その店を見ると(激安の殿堂、商品のジャングル)と書かれており期待ができそうだ。

 

 

「店に入る前にこれを被りますね」

 

 

そう言ってロンギヌスさんがかばんからマスクと帽子を取り出し深々と被っていた。理由を聞くと変装のつもりらしい。

 

 

トマトのワッペンが貼られた帽子を被り満足そうな顔をするロンギヌスさんに真実を伝えたいけどグッと堪えそのまま店内へと足を運んでゆく。

 

 

「おぉー!すげぇ!」

 

 

いざ店内へと入ると所狭しと様々な商品が売られており看板に書いてあった通りに安い、他の店と比べても一割以上は安いはずだ。そのためか人も多くはぐれないようにロンギヌスさんの横にくっつきながら店内を歩いてゆく。

 

 

「ここならコウ君の欲しい物もあるはずですよ」

 

「そうですね。だけど沢山ありすぎて悩んじゃいます」

 

 

ティッシュやトイレットペーパーを選ぼうとしても種類が多く結局一番安い物をカゴに入れてゆく。どれも同じだよね?

 

 

「ロンギヌスさんは何か欲しい物はありますか?」

 

「私は…そうですね。観葉植物を育ててみたいです」

 

「なら買いにいきましょうよ。植物なら知識があるので良いの選んであげますよ」

 

 

そんな訳で僕が欲しい物を買った後に植物を見に行くことに。苗売り場で真剣な眼差しで選ぶロンギヌスさんを微笑ましく見ていた。

 

 

「どんなのが良いのです?」

 

「見てると落ち着いて癒やされそうな物が良いです。それとあまり大きくならなければ、、、」

 

「それならオリーブはどうですか?どっかの国では幸せや幸福の象徴とされてますし」

 

 

そう言って売り場を見渡すと小さな葉を沢山茂らせたオリーブの苗木を見つけ二人で見ていた。タグを見てみると乾燥や温度変化に強く育てやすいと書いてあった。

 

 

「そう、ですね。これにします♪」

 

 

そう言って僕の方を見て微笑んでくれた。マスクと帽子で表情は分からないけどその目は確かに笑っていてくれていた。

 

 

その後買った物をロッカーに預け同店舗内にあるゲームセンターに二人で来ていた。コインゲームだったり遊具だったりと様々な物で楽しい時間を過ごしてゆく。

 

 

「エアーホッケーやりませんか?」

 

「良いですよ?でも、負けませんから」

 

 

「ワニワニパニックですか?」

 

「出てきたワニをこれで叩けば良いみたいですね?」

 

 

「えぇーい!」

 

 

ロンギヌスさんが声と共にパンチを繰り出すとモニターに500と数字が出された。その後に僕がやってみると75との事。ふむ。

 

 

機械から転がり出されたボールを取りそれをジャンプしながらゴールへと投げるその姿を見ていた。

 

 

「外してしまいました、、、」

 

(そのスカートでジャンプすると見える、見えちゃうから!)

 

 

ジャラジャラとコインを投入し台に置かれたコインを落としてゆく。

 

 

〈ジャックポットチャンス!〉

 

 

「あっ!やった、やりました!」

 

「流石ですロンギヌスさん!よかったら僕にコイン分けてください、、、」

 

 

と、まぁゲームに二人共夢中となり気が付けば日も暮れて良い時間となっていた。

 

 

「そろそろ帰りましょうか?」

 

「そうですね、あっ、もうこんなに暗くなってます」

 

 

お店を出て薄暗くなってしまった道を二人で歩いてゆく。その途中でラーメン屋に寄り二人で食べロンギヌスさんの家の前でお別れをする事に。

 

 

「今日はありがとうございました!凄く楽しい一日でした」

 

「私も楽しかったです。あの、良ければまた誘って下さいね?」

 

「はい!またぜひ行きましょう」

 

 

玄関の前で頭を下げてくれるロンギヌスさんと頭を下げ合い二人共笑い合い手を振りながら家への道を歩いてゆく。

 

 

「ただいまー」

 

 

誰も居ない部屋へに挨拶をして買ってきた物を部屋の片隅に置きシャワーを浴びパジャマへと着替え机に向かい図鑑を開いていた。

 

 

明日はトライデントというキル姫のようだ。それだけ見てからベッドに寝転がった。

 

 

今日の事を思い出していると眠くなってきたのでそれに逆らわず眠る事に。

 

 

「おやすぴー」

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

不思議な人だった。私を見ても力を欲しがろうとせずに私をキル姫ではなく女の子として見てくれた。

 

 

今日買ってきたオリーブの木に少しだけ水をやり葉に滴った水滴が光を浴び煌めくのを眺めていた。

 

 

(もし彼のキル姫になる事ができたなら、きっと彼は私の願い通りに戦う事ではなく被害を受けた人達のために全力を尽くすのだろう)

 

 

ぼんやりとそんな事を考えた後ベッドに潜り込み頭まで布団を被せた。

 

 

「おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 




ロンギヌスのイラストいただきました!



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18ページ目、トライデント

トライデントって何?って聞くと大体の人は顔をしかめると思う。少し話をするとギリシャ神話の十二の神々の一人、ポセイドンが持つ槍の事である。

 

 

そこまで言うとあーあのクソ台の事ねってなるかも知れない。そんな事は無いんです!純増二枚のARTに無限継続可能な盾を使ったアトランティスゾーンに無限の可能性を秘めたトライデントアタックに盾とセットストックが可能なゴットフューリー!それに七揃いすればトライデントアタックが付いてくるんだ!残念な事に設置店がことごとく近所から無くなり全く打つ事ができなくなってしまったができるなら撤去前にもう一度打ちたい!

 

 

じゃなくて、もっと身近な話をすると某車メーカーのエンブレムのモチーフにもなっているのです。

 

 

よく分からない事を長々と話してしまったけど今日会うキル姫は冥王が最も恐れた神、ポセイドンが持つトライデントの名を冠したキル姫だ。

 

 

一体どんな姿をしているのか想像も付かない。とりあえず楽しみである。

 

 

因みに僕は服を着替え図鑑を開きトライデントさんの事を読み終わったところだ。もうすぐマリアさんが来てくれる時間なんだけど。

 

 

壁にかけてある時計を見ながら玄関を覗くのだがまだ人の気配は感じられなかった。

 

 

しばらくすると玄関がノックされ急いで開けに行くとマリアさんではなくシャルウルさんの姿が。

 

 

「おはようございます、コウ君。」

 

「おはようございます、ってどうしてシャルウルさんが?」

 

「昨日マリアと仕事をした後飲みに行ったのですが私が止めるのを聞かずに飲み過ぎてしまい今日は休みなのですよ」

 

 

やれやれと手を振るシャルウルさんが全てを物語っていた。またあんな状態で部屋に来てもらうのもアレだから良いのだけども。

 

 

「それで私がマリアの代わりにコウ君を起こしに来たのです。今日はトライデントに会う日ですよね?」

 

「はい!そうです!」

 

「トライデントには8時に教会の前に来る様にと伝えてあります。それとコウ君にはこれを」

 

 

そう言って見せてくれた写真には青い長髪をツインテールにしてヒトデの髪飾りを付け笑顔の女の子が写っていた。

 

 

「トライデントの写真です。こうして見てもらった方が探しやすいと思い準備しておきました」

 

「あざっす!本当に助かります!」

 

 

相変わらずの準備の良さと気遣いに感動していた。デキる人とはこういう人の事をいうのだろう。今度お礼にご飯でも奢ろう。そう思いながら家を出てトライデントさんと待ち合わせ場所の教会の前へ。

 

 

 

 

 

……………………………………………………

 

 

「あっ、私としたことがトライデントを水辺に近寄らせないでと忠告をするのを忘れていましたね」

 

 

マリアの代わりに頼まれた書類を片付け終わりコーヒーを飲もうと席を立った時に思い出し時計を見ると十時を回っていた。

 

 

「まぁ、大丈夫ですよね」

 

 

ドリップされたコーヒーを冷ましながら窓から外を眺めていた。その頃。

 

 

 

「えぇぇぇ〜〜〜んっ!コウ君もうしわけぇ〜〜!」

 

「ちょっ!!ええっと、おおお??!!」

 

 

トライデントさんの謝る声と僕の叫び声が山にある湖に響いていた。こうなるまで色々あったので僕がトライデントさんに会った所に話を戻したいと思う。

 

 

僕は八時ぴったりに教会の前にある広場でトライデントさんを待っていた。青髪の女の子を探す為に辺りをキョロキョロしていると同じく辺りをキョロキョロしている青髪の女の子の姿が見えた。

 

 

「おはようございます。もしかしてトライデントさんですか?」

 

 

その子に近寄りそう聞くと笑顔で挨拶を返してくれた。

 

「うん、おはよ♪コウ君だったよね?」

 

「はい!今日一日よろしくお願いします!」

 

「そんなかしこまらなくても良いよっ⭐︎じゃあ今日は私と魚突きに行こうよ♪」

 

「魚突き?魚釣りじゃなくてです?」

 

「うんうん♪朝はお魚さんも寝惚けてるから奇跡的な大物が取れちゃうかもよ〜♪」

 

 

そう言われ予定もないのでトライデントさんと魚突きに行く事に。

 

 

「それでどこで魚を突くんです?」

 

「ふふーん♪私が一押しの場所に案内してあげるよ♪」

 

 

そう言ってルンルンと前を歩くトライデントさんの後ろをついて行く事に。昨日のロンギヌスさんと真逆の性格に少し戸惑うけどそのうち慣れるだろうとそんな楽観的な事を考えていた。

 

 

「はーい、ここが私一押しの場所なのです♪」

 

「おぉー!綺麗な湖ですね」

 

 

町を離れ山を登り僕は以前アロンダイトさんと会った湖に来ていた。一度来た事があるけど一応初見だという事にしておこう。

 

 

「じゃあコウ君にこれ貸してあげるね♪」

 

 

そう言ってカバンを漁るトライデントさんを見ていた。

 

 

「あれ?えっと、ちょっと待っててね。確かここに入れたはずなんだけど、、、」

 

「どうしたんですか?」

 

「昨日準備しておいた銛と水中眼鏡が見当たらないの〜〜っ!」

 

 

そう言ってカバンの中身を全部地面へと出し探していた。どう見ても銛と水中眼鏡の姿は無くかける言葉に悩んでいた。

 

 

「もうしわけ〜、、忘れてきちゃったみたい、、。」

 

「うん、良いですよ?じゃあどうやってお魚取ろうか考えましょ?」

 

「でもねでもね。私が忘れたのはコウ君の分で私のはもってるのです♪私が湖に潜ってお魚さんとってきてあげね♪」

 

 

そう言って湖へと飛び込んで行ったトライデントさんを見守っていた。そういえば水中メガネも付けず長靴で入って行ったけど大丈夫なのだろうか?

 

 

そんな事を考えながら湖のほとりにある木の下で座ってトライデントさんが帰ってくるのを待っていた。

 

 

しばらくして湖の真ん中辺りに泡が立っているのが見えた。きっと頑張っているのだろう。

 

 

それを見ていると波紋が立ち慌てた様子のトライデントさんが帰ってきた。

 

 

「おかえり、どうでし「コウ君にげてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

そのまま僕の手を掴み湖から離れてゆく。

 

 

「えっ、どうしたのですか!?」

 

「えぇぇ〜〜〜ん、間違えてあの湖の水源を突いちゃったよぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

水源?そう疑問に思った時には湖から巨大な水柱が立ち上がっていた。そして冒頭へと戻るのだ。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

水源を突かれた湖からは竜のように水が荒れ狂い辺り一面を飲み込み僕達の場所だけが水に浸からずに残っていた。

 

 

「てへっ♡」

 

「てへっじゃなーーーーい!」

 

 

そんな悲惨な光景に僕のツッコミが虚しく響いていた。

 

 

「コウ君そんなに怒らないでよぉ、、私ちゃんと反省しているよ?」

 

「怒ってないですよ?とりあえずどうしましょうか?」

 

 

先程も書いた通り水が荒れ狂いこの場所から僕たちは動けないのだ。

 

 

「待ってね、私が何とかしてあげるから!」

 

 

そう言ってトライデントさんが何かを探すように辺りを見ていた。

 

 

「何か探しているのですか?」

 

「うん、この辺りに水源があればそれを突いて水を打ち消そうと思ってさ♪」

 

「それってもっと悲惨な事になりません?」

 

「それは、、、やってみてからかんがえよーーーぉ♪」

 

 

そう言って地面に手に持つ槍を突き刺した。すると何処かから地鳴りのような音が聞こえ始めていた。

 

 

「もしかしてヤバめ?」

 

「大丈夫、大丈。うわぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」

 

「トライデントさーーーんっ!!!うぉぉぉぉぉぉっ!??!

 

 

トライデントさんが言い終わる前に吹き出した水により流されていた。残念ながら僕も流れに巻き込まれ流されてゆく。

 

 

「コウ君申し訳ぇぇぇぇぇーーーーーー!!!」

 

 

最後に聞こえたのはトライデントさんの叫び声だった。

 

 

 

……………………………………………………

 

 

 

「いたたた、ここは、、、?」

 

 

目を覚ますと水は引いており山の何処かで僕は気を失っていたようだ。辺りを見渡してもトライデントさんの姿が無い。

 

 

全身をぐっしょりと濡らし寒さを感じながらトライデントさんを探すために僕は歩き始めていた。

 

 

「トライデントさーーん?トライデントさーーーん」

 

 

その名を呼びながらぬかるんだ山道を歩いてゆくと木の上から音が。その音に気が付き見上げると枝に引っ掛かっているトライデントさんを見つける事ができた。

 

 

「おーーい。トライデントさーん」

 

「…………」

 

 

呼んでも返事はなくどうしようか悩んでいるとモゾモゾと動き枝から外れ落下して来た。

 

 

「あぶないっ!!」

 

 

落ちてきたトライデントさんをしっかりと抱き止めその顔を見るとその瞼をゆっくりと開いていた。

 

 

「あれ〜どうしたの〜?」

 

「寝てたんかい」

 

 

思わず突っ込んでしまったがしばらくすると今の状況を理解してくれたようで目をパチクリとしていた。

 

 

「えっと、この状況ってトライデントのせい?」

 

 

辺りが水浸しとなりずぶ濡れな二人を見て目が潤んでゆく。

 

 

「いやーたまたま石を退けたら水源があったみたいでさ、なんか凄い事になっちゃったよ」

 

 

「でも!私が湖に行こって言わなかった」

 

「お詫びに温泉でも行こうよ。確かこの辺りにあったはずだからさ」

 

 

トライデントさんの言葉を遮りそう言うとまだ何かを言おうと口をもごもごとさせていた。

 

 

「このまま連れてってあげるね」

 

「えっ!?ちょっと恥ずかしいよぉぉぁぁ」

 

 

お姫様抱っこのままその温泉に走ってゆくのであった。

 

 

 

 

「はぁぁっ、幸せ、、、」

 

 

その温泉へとたどり着き湯船に浸かりお湯の温かさを噛み締めていた。当然の話だが男女別なのでトライデントさんとは別である。それを少しだけ残念に思うのはもちろん内緒だ。

 

 

湯船に浸かり両手両足を大きく伸ばしリラックスしている、そんな時竹を束ねた壁の向こうからトライデントさんの叫び声が。

 

 

「お湯が大波をたててるぅぅぅぅ〜〜!!!」

 

 

その言葉の後に大シケの海の様な波の音と他のお客さんの叫び声が聞こえてきた。それを聞きながらブクブクとお湯へ沈んでゆくのであった。

 

 

しばらく温泉を楽しんだ後待合室で湯涼みをしているとトライデントさんが戻ってきた。

 

 

「おかえり、ゆっくりできました?」

 

「ゆっくりしたかったんだけどお湯が大波を立てちゃってそれどころじゃなかったよ、、。」

 

 

一体トライデントさんはなんなのだろう?と疑問に思いながら温泉に併設されている食堂でご飯を食べる事に。

 

 

「あっ、お水取ってきてあげるね♪」

 

「僕が取りに行くので座っていて下さい!」

 

 

席を立とうとするトライデントさんを制し素早く水を汲みコップを二つテーブルに置いていた。トライデントさんならあのウォーターサーバーの水すら噴射させそうな気がしたからだ。その前に僕が取りに行けって話だよね。

 

 

そんな感じで僕達は遅めのお昼ご飯を食べる事に。

 

 

「いただきま〜す♪」

 

 

無邪気にご飯を食べるトライデントさんを見ているとなんでも許せてしまう僕がいるのだ。妹成分強めというのかなんていうか。

 

 

「トライデントさんってお姉ちゃんとか居るの?」

 

「妹が居るよ♪」

 

「そうなんだ、さぞかししっかりした妹さんなんだろうね、えっ?」

 

「んー?どしたの?」

 

「今妹さんが居るって言いましたよね?」

 

「うん居るよー?どうしてそんなに驚くの?」

 

「いや、なんでもないです、はい」

 

 

人は、いや、キル姫は見た目によらない様だ。そんな感じでご飯を食べ終わり教会へと帰る事に。

 

 

「コウ君にはいっぱいいろんなことしてもらったから私がご飯奢ったげるね♪」

 

「あざっす!」

 

 

そう言ってレジの前に立ったトライデントさん。財布を探してカバンを漁っているのだが様子がおかしい。

 

 

「あれ!?お財布がない!お財布が無い!」

 

 

あわあわとカバンをその場にひっくり返して捜索しているのだが見つからず気が付けば僕達の後ろには長蛇の列が。

 

 

「えっと、いくらでした?」

 

「3852ゼニーです」

 

「はい、すいません」

 

「あったぁ〜〜」

 

 

ちょうどお会計を終えた後に恥ずかしそうに財布を持っているトライデントさん。うん、可愛いから許そう!

 

 

そんな感じで温泉を後にしてゆっくりと帰路に着く事に。慌しい一日だったけどたまにはそんな日も良いだろう。

 

 

「なんかごめんね」

 

 

僕の前を歩いていたトライデントさんがポツリと呟いた。

 

 

「どうしたの?」

 

「せっかくコウ君にお魚食べさせてあげようと思ってたのに空回りだし水源は壊しちゃうしご飯も食べさせてもらっちゃって、、、」

 

 

だんだんとその声色が泣きそうになってきている。ふむ。

 

 

「うんん、僕はお礼を言いたいぐらいだよ。なんだかんだで楽しい一日だったし色んなことできたしさ、それにトライデントさんの事を知る事ができた」

 

「じゃあ今度会った時にお魚食べさせて下さいね」

 

 

そう言うと動きが止まり笑顔で振り返ってくれた。

 

 

「うん!次こそはお魚食べさせてあげるからね♪期待して待っていて良いんだよ♪」

 

 

そう言ってお魚を突く様に地面に向かい槍を突き立てるとピシリとヒビが入りじわじわと水が湧き始めてきていた。

 

 

「えっと?」

 

「に、逃げろぉぉぉ〜〜!!」

 

 

そう叫んだ瞬間に勢いよく水が噴き上がった。その湧き上がる水から全速力で笑いながら逃げてゆく。

 

 

「じゃあまたねトライデントさん」

 

「うん♪また会おうね♪」

 

 

教会の前でトライデントさんとお別れして僕は家へと帰ってきていた。こうして出先でお風呂とご飯を済ませておくとその後が楽でいいね。

 

 

とりあえず明日のキル姫を見て寝るとしようかな、どれどれ?

 

 

図鑑を開くと明日は方天画戟というキル姫の様だ。ちなみに今から不安を感じていた。まぁどうにかなるだろう。

 

 

椅子に座ったまま大きく身体を伸ばした後ベッドへと潜り込み部屋の電気を消していた。

 

 

「おやすぴー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりー遅かったじゃん、先お風呂入っちゃいなよ」

 

「今日は入ってきたから大丈夫だよ〜」

 

「はっ?えっ?今なんて言った!?」

 

「だ〜か〜ら〜お風呂は入ってきたんだって!」

 

「成る程、ふぅーん?」

 

 

何やら察したような妹を尻目にそのままベッドへ飛び込んでいた。

 

 

「ねぇねぇ、どんな相手だった?イケメン?」

 

「むぅぅ、そのうちケラウノスも会うと思うよ」

 

「ふふーん、まっ、その時を楽しみにしておきますか」

 

 

 

 

 

 

 



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19ページ目、方天画戟

朝、目を覚まし着替えを済ませ今日会うキル姫、方天画戟の事を調べていたら玄関を開ける音が。マリアさんかな?と立ち上がると部屋には来ないでどこかの部屋へと入って行った。

 

 

そのまま待っていると嘔吐する音が聞こえ慌ててトイレへと向かう。

 

 

「マリアさん!?」

 

「おはようござ。うぷっ・・・」

 

「…………」

 

 

そっとトイレのドアを閉めて窓から外の景色を眺める事に。残念な光景の後だからいつもより景色が綺麗に感じる。

 

 

「しばらく待っているとフラフラとマリアさんが部屋に来てくれた。

 

 

「おはようございます、、、頭いった……」

 

「今日は方天画戟ってキル姫ですよね?」

 

「はい、、、教会の前の広場で待っているようには言って●●●●」

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

 

部屋で盛大に嘔吐し残念な匂いが漂う僕の部屋。借りている身だけどこれは文句を言っても許されるはずだ。

 

 

「掃除はしておくので…行ってきて下さい、、、」

 

「…………」

 

 

声を絞り出しそう言ってくれたので一言お礼を言って部屋を出る事に。

 

 

長い通路を歩きながら先程読んでいた方天画哉の事を思い返していた。

 

 

最強と謳われた武将、呂布奉先が使っていた槍、方天画哉。呂布と言えば大陸の武将の事だ。名前を聞いた事がある人は多いと思うが大まかな説明をしておこう。中国後漢の武将で勇猛さと武芸を兼ね備えた人。常人より力が強く天下を目指した男。

 

 

その人の性格を方天画戟が受け継いでいるのならきっと豪快な人なのだろう。なんとなく不安になりながら教会の前の広場へと足をすすめてゆく。だが、方天画哉さんはメーターキラーズなので少し楽しみでもあるのだ。何がメーターなのかは方天画哉のプロフィールを見て下さい。

 

 

広場にたどり着き方天画戟さんを探すのだが今回も何もヒントを与えられておらずどうしようか悩んでいると広場にある売店から怒声が聞こえてきた。

 

 

「おい!うちのもん食うなら金を払え!」

 

「あぁ?このオレに指図しようってか」

 

 

話を聞く限り食い逃げか何かなのだろう。こうやって人が多い所はどんな人が居るか分からないから怖いんだよね。

 

 

改めて都会の怖さを噛み締めていると二人が言い合う声が。

 

 

「この方天画戟様に文句があるって言うならオレに勝ってみな、そしたら金を払ってやるよ」

 

「うわっ、、、」

 

 

どうやら問題を起こしている人が方天画戟の様だ。そこに近づきたく無いと思いながらその場へと歩いてゆく。

 

 

「あの〜」

 

「あぁん?なんだよ」

 

「僕コウって言うんですけど今日一日よろしくお願いします、、、」

 

 

威圧的な態度に先程の行いの悪さにすっかりビビりながら話しかけていた。もうメーターの事なんて頭から消え去っていた。

 

 

「お前が方天画哉の奏官か?ならお代はお前が払えよ」

 

「、、、。はい」

 

 

なんだかよく分からないけど僕がお金を払う事となり渋々お金を支払っていた。

 

 

「二度とその面を見せるんじゃないぞ」

 

 

散々な事を言われながらお金を支払いとりあえず人目から離れた場所に行く事に。

 

 

「なんだお前、随分と弱っちいんだな」

 

「それはどうしてですか?」

 

「あんな親父にビビって金を払うようじゃまだまだって事だよ」

 

 

お金を払うのは当然ははずなのだが僕が悪いような言い方をされハテナを浮かべていた。

 

 

「良いかコウ、この世界は強い者が勝つんだよ。弱い者には何しても良いって訳さ」

 

 

僕を見下しながらそう言っていた。実にコメントに困る。

 

 

「僕はそんな事は無いと思います。何事にも対価が必要ですし何よりそんな事をしても敵を作るだけだと思いますよ?」

 

「敵なんざぶっ飛ばしてやれば良いんだよ、それでオレの言う事を聞かせれば良いのさ。そうだな、今オレがお前にパンを買ってこいと命じようか、それをお前か拒否をする。なら買ってくると言うまで痛めつけるまでよ」

 

 

豪快に笑う方天画哉さん。確かに僕も痛い思いをするのは嫌だし殴られるのは嫌だからパンを買ってくるだろう。

 

 

「じゃあその後の事は?もし僕がその事を教会に報告すれば何かしらの罰が方天画哉さんに与えられるかもしれませんよ?」

 

「ならオレに楯突いた奴をぶっ飛ばすまでよ、その後のお前の事もな」

 

 

ふむ。そうか、呂布がいた時代は戦乱の世。ならばこのような考えになるのは仕方ないかも知れない。

 

 

「じゃあもし方天画哉さんが勝てない相手だったらどうするんです?」

 

「そんな奴なんざ居ないね、我こそ最強だからな!」

 

 

自信たっぷりな方天画哉さん。とりあえず今日一日をどう過ごすか考えよう。

 

 

「そうだ、お前はまだひよっこだったな」

 

「そうですね」

 

「ならオレの強さを見せてやるよ、付いてきな」

 

 

立ち上がり何処かへ歩いてゆく方天画哉さんの後に付いて歩いてゆくとどんどん森の中へと入ってゆく。

 

 

「どこに行くんですか?」

 

「この辺りに異族が出るんだよ」

 

 

異族がどの様な場所に出現するするかは知らないけどこんな森の中に居るのだろうか?そんな事を考えながら方天画戟さんの後ろをついて行くと前を歩く方天画戟さんが走り出した。

 

 

「オレの強さ、しかとその目に焼き付けるんだな!」

 

 

方天画戟さんが飛び出して行った先にはのんびりとピクニックを楽しむ四匹の異族の姿が。異族にピクニックという概念があるのか不安だが森の開けた場所にシートをひいて楽しそうにしている姿はピクニックをしているのだろう。

 

 

どこからともなく槍を取り出し何かを食べている異族に向かい突き刺していた。

 

 

「ギッ」

 

「ギギギッ!?ギギギ!!」

 

 

小さい異族を森の奥へと逃しもう一人の異族が方天画戟さんに立ち向かったのだが呆気なく槍に突き刺されていた。

 

 

「見たかコウ!このオレの力をよ!」

 

 

矛先に付着したケチャップを振り飛ばし誇らしげな顔で僕を見ていたのだがなんとも言えない気持ちになり返事に困ってしまっていた。

 

 

僕だって異族に妹を殺されてているから復讐したい気持ちが無い訳では無いんだけど言ってしまえば人間だって牛や豚を食べるから何かに食べられても文句は言えないと思うし、、、。無抵抗な異族を攻撃するのはどうかと思ってしまう。

 

 

「身体動かしたら腹減っちまったよ、飯奢れよな」

 

「…………」

 

「おい、オレの話聞いてたか?」

 

「はいっ!ご飯ですよね!」

 

「お前が知ってる一番美味い店に連れてけよな」

 

 

そう言いながら僕の前を歩く方天画戟さんの後ろについて歩いて行く。心の中にある消えないモヤモヤを残したまま。

 

 

「このお店なんてどうですか?」

 

 

そんな僕がチョイスしたお店は以前レーヴァテインさんに連れてきてもらったラーメン屋さんだ。中華な方天画戟さんなら喜ぶだろうとの考えもあるのだが。

 

 

「ラーメンか、まっ、妥当だな」

 

 

引き戸を勢い良く開け店内へと入って行く。その音に店内の人が目線を向け縮こまりながらカウンター席へと座る。

 

 

 

「何にしましょう」

 

「この店で一番美味いラーメンを出しな」

 

 

そう伝え椅子へと座りふんぞり返る。その横へと申し訳なさげに着席して壁にかけてあるメニューを見ていた。

 

 

(よし、チャーシュー麺にしよう)

 

 

そう決めメニューを亭主へと伝えラーメンの到着を待っていた。

 

 

「へいおまち」

 

 

そして僕の元に運ばれてきたチャーシュー麺。方天画戟さんの前にはこの店のメニューにあるラーメンが全種類置かれていた。

 

 

「これはなんの真似だ?喧嘩売ってんのか」

 

 

机を叩き声を荒げるのだが亭主は涼しい顔で返答を返す。

 

 

「うちのラーメンは全部美味しくてね、どれも一番なんだよ」

 

「一番は一つしかないだろ。何を言っているんだ」

 

「そう言うのならお客さんが食べて決めとくれ。うちは美味いラーメンを出した、後はお客さんがどれが一番美味いか決めるんだよ」

 

 

その言葉に納得したのか割り箸を手に取り咥えて割ると一つずつ食べ比べてゆく。

 

 

「うーむ、この中からどれを一番か選ぶのは確かに難しいな」

 

「どれも美味いだろ。よし、お客さんはどれが一番美味いと思った?」

 

 

亭主の問いに頭を悩ませる方天画戟さん。そこにふと思った事を言ってみる事に。

 

 

「これって最強と同じですよね?」

 

「あぁん?ラーメンがか?」

 

「はい、どのラーメンが一番美味いか。それも味噌、醤油、豚骨、台湾と全部味が違うラーメンで」

 

「おい、どういう事だ?」

 

「まず方天画戟さんはどのラーメンが一番美味しいかったのか聞かせて下さい」

 

「オレは、、、」

 

 

僕の問いに悩みながらスープをレンゲですくい飲んだり具を食べながら悩みやっと答えを出していた。

 

 

「オレはこの台湾ラーメンが一番美味いと思うね、どれも甲乙付け難いが」

 

「なら方天画戟さんにとってこのラーメンが最強って事です?」

 

「最強、そう言われるとこのラーメンは違うな。いや。だが、、、」

 

 

再び食べ比べ答えを探すのだが答えは見つからなかったようで。

 

 

「なら他のラーメン屋に行って食べ比べてみな。俺の店より美味い店はある」

 

 

まぁうちが一番だけどな。と言いながら笑う亭主にお礼を言ってお会計をする事に。

 

 

「5045ゼニーだ」

 

(うわ、高い、、、)

 

 

半泣きになりながらカバンから財布を取り出し支払いをしようとした時方天画戟さんが僕を制した。

 

 

「オレが支払ってやるよ。あんな美味いラーメンを出されたんだ、ならオレも敬意を示そう」

 

「まいどー」

 

 

レジにてお支払いをしている方天画戟さんの後ろに立ちその姿を見ていた。てっきりお金が無くて盗みをしていたと思っていたからびっくりである。

 

 

「ご馳走様でした」

 

「勘違いするなよ、オレはお前の為に支払ったんじゃない、あの亭主に支払ったんだ」

 

 

満足そうにお腹をさすりながらそう言われていた。とりあえず感謝である。

 

 

「よっしゃ、昼寝でもしようぜ」

 

 

そう言われて山間部にある日当たりの良い草原へと来ていた。適当な所に寝転がり太陽を浴びる事に。

 

 

「どうして方天画戟さんは最強にこだわっているんです?」

 

 

そう尋ねてみたのだけど返事は無く気になって見てみると寝息を立てる方天画戟さんの姿が。あれだけ沢山食べれば眠たくもなるよね。そう納得して僕もお昼寝を楽しむ事に。

 

 

しばらくして物音が聞こえ目を覚ますと方天画戟さんが槍を構えておりその目線の先には沢山の異族の姿が。

 

 

「方天画戟さんっ!」

 

「ん、起きちまったか。さっきの逃げた奴が仲間を連れて戻ってきたみたいだぜ」

 

 

そう言われて異族の群れを見ると先頭に先程見た小さい異族の姿が。群れの数は百を超えておりとても方天画戟さん一人で勝てる気はしない。

 

 

「逃げようよ。このままだとやられちゃうよ」

 

「オレに売られた喧嘩から逃げろって言うのか?それは無理な話しだ。おい、死にたい奴からかかってきな」

 

 

僕の前に立ち槍を構え手招きをすると怒り狂ったかのように異族の群れが方天画戟さん目掛け攻撃を始めていた。剣、槍、斧。様々な武器を持ち襲い掛かる異族をもろともせず方天画戟さんの孤軍奮闘を僕は見ている事しかできなかった。

 

 

「っはは!やっぱり喧嘩はこうじゃなきゃな!まだだ!まだ足りねーぞ!」

 

 

楽しそうに笑いながら吠える。だがその身体を見てみると返り血では無い血が流れているのが見えた。このままだと押し切られてしまうだろう。

 

 

それでも方天画戟さんは戦いを続けて次第に異族の数は減ってゆき残りは2人となった。あの異族はピクニックをしていた子供の異族か。

 

 

「後2人、、、。先にくたばりたい奴はどっちだ?お前か、それともお前か」

 

 

荒く息を吐き血まみれの身体を槍で支えているにも関わらず眼光は鋭く対峙する異族を震え上がらせる。それでも手に持った武器を握り締め頷き合い襲い掛かる。

 

 

「いぎぃぃぃぃぃ!!!」

「ぎいぃぃぃぃぃ!!」

 

 

その姿をみてふと方天画戟さんが笑みを浮かべた。そして。

 

 

迫る異族に向かい槍を突き出し一人を貫いた。そのまま槍を振るい残りを打ち払い突き刺さった異族を振り飛ばす。それは見事異族を捉え地に伏せた。

 

 

「ギギギ」

 

 

折り重なる異族を纏めて貫きこの戦闘は終わりを告げた。

 

 

「流石のオレもこたえたな、、おい、メシ」

 

「えっ?」

 

「メシだって言ってんだよ。これだけ動けば腹も減るさ」

 

 

そう言いながらよろけながら僕の肩に掴まり歩けと促され町へと向かう事に。方天画戟さんのリクエストに答えて今日の晩ご飯は鰻屋に行く事に。

 

 

「見たかコウ。オレの強さをよ」

 

「うっさいわね!無駄口叩いてる暇があったら大人しく治療を受けなさい!」

 

 

たまたま鰻屋でバイトをしていたアクスレピオスというキル姫に治療をしてもらい僕達はカウンターでひつまぶしが出てくるのを待っていた。

 

 

「うん、すごくカッコよかったですよ」

 

「天下に名を馳し最強の武だからな」

 

 

豪快に笑う方天画戟さんに色々言いたい事があった。その言葉を飲み込み運ばれてきたひつまぶしをいただく事に。

 

 

「やっぱうなぎだな。お前もそう思うだろ?」

 

「うなぎ美味しいですよね」

 

 

たしかに鰻は美味しいのだがモヤモヤが引っかかりすぎて楽しめずにいた。

 

 

「よっしゃ、ご馳走さん」

 

 

そう言って先に外に出て行った方天画戟さん。お会計は僕のようだ。

 

 

「7500ゼニーよ」

 

「、、、はい」

 

 

泣きそうになりながらお会計を済ませ外に出ると満足そうな方天画戟さんの姿が。

 

 

「じゃあオレは帰るからな」

 

「はい、ありがとうございました」

 

 

そう言って方天画戟さんは帰って行った。僕も帰ろう。そう思いモヤモヤを残したまま帰路に付いていた。そんな時。

 

 

「ん、コウ君、帰り?」

 

 

僕に話しかけてくれたのはユウさんだった。

 

 

「はい、方天画戟さんと過ごした帰りです。あの、少し時間ってありますか?」

 

「うん、良いよ」

 

 

偶然会ったユウさんに少し話を聞いてもらう事に。

 

 

「はい」

 

「あざっす」

 

 

売店の前で缶コーヒーを買って貰い灰皿の前で話をしていた。

 

 

「キル姫ってやっぱりキラーズの影響を受けてるんですよね」

 

「うん、そうだね。武器の記憶がキル姫の性格になっているね」

 

「それが嫌だとは思わないんですか?」

 

「僕は嫌だとは思った事は無いかな?それがキル姫の個性で性格になるんだからさ」

 

「でも、、、」

 

「何があったのかは分からないけど奏官がキル姫の事を理解してあげないとね。簡単に言ったけど一番難しい事なんだけどね」

 

 

そう言って煙草を咥えて火を付け煙を吐き出していた。

 

 

「僕はずっとティルと一緒だったけど今でも喧嘩するしティルの全てを理解できてはいないよ。一人のキル姫でも分からないんだからコウ君は大変だと思う」

 

 

でもそれが君の選んだ道だよ。そう言って何かを思い出したような顔をしていた。

 

 

「そうだ。今ティルと喧嘩しちゃって家を追い出されてるから一緒に家に来てよ」

 

(えぇ、、)

 

 

そんな訳でユウさんの住むアパートに来ていた。

 

 

「開けるね」

 

「はいっ」

 

 

ユウさんがドアを開けた瞬間に影が踊り次の瞬間にはドスっと鈍い音が聞こえユウさんが手すりを飛び越し下へと落ちて行った。

 

 

「今日はこれぐらいで勘弁してあげます。あっコウ君?」

 

「、、、こんばんわです」

 

 

僕に気が付いた瞬間に慌てて表情を和かにしていたのだがもう鬼のような形相を見てしまった後なのだが?

 

 

「そうだ、ティルフィングさんは良い奏官ってどんな人だと思いますか?」

 

「そうですね。キル姫の事を一番に考えてくれる人、理解してくれる人。ですね」

 

「じゃあユウさんは違うのですか?」

 

「そんな事ありませんよ?さっき私のお菓子を食べたので少しお仕置きをしただけです」

 

 

お仕置きで思いっきり鳩尾を殴り二階から落とすのはどうなのかと思ったが言葉には出せず苦笑いを浮かべていた。

 

 

「コウ君、あなたはユウと違って沢山のキル姫と出会うと思います。キル姫も人と同じように個性があります。その全てを理解できる事は無理ですけど理解しようとしてあげて下さいね。そうすればきっとキル姫は答えてくれますよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

そう言って手すりに身を預け夜空に浮かぶ月を見上げていた。月明かりを浴びてにっこりと笑みを浮かべその左手の薬指に耀く指輪が。

 

 

「それとユウは私の大事なパートナーです。奏官としても男性としても」

 

 

愛しそうに指輪を眺め微笑む。

 

 

「さ、もう夜も遅いので早くお家に帰りなさい」

 

「はい!あざした!」

 

 

お礼を言ってお家に帰る事に。そしてシャワーを浴びて明日会うキル姫の事を調べる事に。

 

 

「なになに?天沼矛?読み方はあまぬまほこなのかな?」

 

 

それだけ調べて大きく体を伸ばしベッドに潜り込み目を閉じることに。おやすみなさい。

 

 

 

 

 



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20ページ目 天沼矛

天沼矛。それは古来の伝承によればイザナミ、イザナギが別天津神に大地を作るのに渡された矛である。

 

 

イザナミ、イザナギの二人が渡された天沼矛で大地をかき混ぜその雫が淤能碁呂島(おのごろじま)となったらしい。

 

 

毎回思うのだが神話というものはスケールがデカい。大地を作るのは当たり前で神を産んだり人類を滅ぼしたり。よくそんな神々がいる中で人類は生き残ってこれたものだ。

 

 

そのまで読んで図鑑を閉じため息を一つ。今日は天沼矛というキル姫にも会いに行く日でその予習を終えたところだ。

 

 

「おはよーございます♪起きてますかー?」

 

 

ドアをノックする音の後にマリアさんの声が聞こえ返事をしながら玄関へと行き鍵を開けていた。

 

 

「おはようございます!」

 

「はい♪今日は天沼矛ってキル姫に会いに行ってきて貰いますね。それとあまぬまほこって名前ではありませんからね?あめのぬぼこですよ?」

 

 

そう言われてしまった。過去を見渡す力でも持っているのだろうかこの人は。

 

 

「教会の前の広場で待っていてくれているので早く行ってあげて下さいね♪」

 

「あざっす!」

 

 

笑顔で言われてお礼を言いながら部屋を出ていつもの教会の広場へと向かう。今回も天沼矛さんの見た目について何も聞いていないからまずは本人を探す所から始まるのだ。今のところヒントは矛だ。つまり矛を持っている人が天沼矛さんだろう。

 

 

矛、矛、矛。辺りを見渡して矛を持っている人を探しているのだが人の数が多く視界が利かず中々見つからない。そんな時広場の端にあるベンチに座る女の子の姿が見えよく見ると槍を肩にかけて誰かを探す様な仕草をしていた。人混みをかき分けてその人の元へ。

 

 

「あの、天沼矛さんですか?」

 

「はい〜私が天沼矛です〜コウ君ですか?」

 

「はい、今日一日よろしくお願いしますね」

 

 

僕の天沼矛さんの第一印象は可愛い女だった。ファンキルで見てもらえれば分かると思うのだが空の様に青いワンピースを着て可愛いのに気高くて、それに幼さ残る笑顔を僕に向けてくれて、ロリコンの気持ちが理解できた瞬間である。

 

 

「天沼矛さんは何かしたい事とかありますか?」

 

「ええっと〜私は〜グルグルした物が好きなので〜それを探しに行きたいですぅ〜」

 

 

グルグルした物、グルグルした物。そう言われてグルグルした物を探すために頭をフル回転させていたのだが急にそんな事を言われても思い浮かぶはずもなくとりあえず天沼矛さんと朝ごはんを食べに行く事に。

 

 

天沼矛さんがイザナミ、イザナギが使った神器ということもあり和風な物が好きなのだろうと喫茶店では無くて定食屋さんを選び今僕たちは机に座り二人してメニューを見ていた。

 

 

「天沼矛さんは何が食べたいですか?」

 

「私は〜ええっと〜」

 

 

そう言ってメニューと睨めっこしていた。僕は壁にかけられたメニューを見ながら決めていた。ん、納豆定食にしよう。

 

 

「天沼矛さんは決まりましたか?」

 

「・・・・・」

 

「天沼矛さん?」

 

 

メニューを見たまま返事をしてくれず一心不乱にメニューを見る姿に不安を覚えメニューと天沼矛さんの顔の前で手を振るのだが微動だにしなかった。

 

 

「天沼矛さん?」

 

「あら〜私ったら考え事をしてしまってました〜」

 

「うんうん、メニューは決まりましたか?」

 

「まだです〜もう少し待っていてください〜」

 

 

そう言って再びメニューと睨めっこをしていた。横から目の動きを見ていると最初は目を動かしているのだけどいつの間にか一点を見つめていた。

 

 

「天沼矛さん?」

 

「はい〜メニューですよね?もうきまってます〜」

 

 

可愛らしい笑顔でそう言っていたので店員さんを呼んでメニューを伝えしばらくおしゃべり。

 

 

「天沼矛さんって日本神話のキル姫ですよね?」

 

「はい〜なので草薙ちゃんからコウ君の事は聞いていますよ〜」

 

「草薙剣さんと仲が良いんですね」

 

「そうですね〜草薙ちゃんと八咫鏡ちゃんといつも一緒に居ます〜」

 

 

キル姫も神話同士で集まるのかな?そんな事を思っていると頼んだ物が運ばれてきて頂くことに。

 

 

「納豆食べるんですね」

 

「私混ぜるのが好きで♪」

 

 

お皿に納豆を出しグルグルと笑顔でかき混ぜていた。実に可愛らしい光景である。

 

 

そんな光景を見ていると壁に貼られているポスターを見つけて目を凝らして見ていた。

 

 

よく見ると陶芸体験のポスターなようで粘土を台に置いて何かをしている絵が書いてあった。

 

 

「天沼矛さんって陶芸好きですか?」

 

「陶芸ですか〜?」

 

「はい、後ろのポスターを見てください」

 

 

納豆をかき混ぜながら振り返りそのポスターを見ていた。

 

 

「えぇっと〜楽しそうです〜」

 

「じゃあ行ってみませんか?」

 

「はい〜♪」

 

 

可愛らしい返事を聞いた後残りのご飯を食べる事に。

 

 

「ぐーるぐるです〜♪」

 

 

未だに納豆をかき混ぜている天沼矛さんを見ながら、、、。

 

 

 

 

「早く行きましょう」

 

「はぁ〜い」

 

 

ゆっくりと朝食を楽しんだ後僕たちは陶芸体験をやっている街まで来ていた。街の至る所に陶芸品が置かれておりこの街の特産品だという事を猛烈にアピールしている。

 

 

正直なところ僕はあまり陶芸品に興味は無いのだが家で使うために一つぐらい買おうかな?とすこーしだけ悩みながら街を歩いてゆく。

 

 

「ここかな?すいませーん」

 

 

しばらく街を歩き陶芸体験をやっている場所までやってきていた。店の人に挨拶をして陶芸体験をしたい事を伝えると快く案内をしてくれた。

 

 

「一人5.000ゼニーです」

 

「………はい」

 

 

手痛い出費だけど、、、。

 

 

「コウ君見てください〜♪すごくぐるぐるしてますぅ〜♪」

 

 

ロクロの上に置かれた粘土がくるくると回っている。それを見て大はしゃぎしている天沼矛さんを見ると笑顔になれる。

 

 

そんな僕達に係の人が作り方を説明してくれて、今から僕と天沼矛さんで陶芸を作る事に。

 

 

ロクロの上を回り続ける粘土に指を当てて形を整えてお椀を作ろうとしているのだが。

 

 

「ぐぬぬぬぬっ」

 

 

思っていたより難しく上手くできたと思えば形が崩れそれを直そうとすると目も当てられない状態に。

 

 

「コウ君見てください〜♪」

 

 

そう言われて天沼矛さんの方を見るとロクロの上をくるくると回る作品が。

 

 

(おぉ、、、)

 

 

陶芸の先生が唸る程の作品を作り上げていた。

 

 

「天沼矛さん上手ですね」

 

「なんか〜作りやすいというか、コウ君のも作ってあげますよ〜?」

 

 

お言葉に甘えて天沼矛さんに作ってもらう事に。

 

 

「見ててくださいね〜」

 

 

手を水で濡らしくるくると回る粘土へと指を当てると指に沿って粘土がお椀へと形を変えてゆく。

 

 

「………………」

 

 

その眼差しは真剣で普段のおっとりした雰囲気はない。

 

 

「はい〜できましたよ〜♪」

 

 

「おぉー」

(おぉー)

 

 

先生とハモったけど出来上がった作品にそれほどに感動していた。なんて伝えれば良いのか分からないけどロクロの上で回るお椀はお椀だった。

 

 

「上手にできました〜♪」

 

 

手に粘度が付いたまま顔を触ったのかほっぺたに付いている粘土の跡がいい味を出している。

 

 

「ありがとうございます!」

 

「後は乾燥させて焼いてもらいましょう〜」

 

 

そんな感じでお椀をお願いして二人で街を歩いて回る事に。

 

 

「天沼矛さんって器用なんですね」

 

「そんな事ありませんよ〜?ぐるぐるした物を見ていると閃くっていうのか〜?」

 

「ふむ?」

 

 

僕もぐるぐるした物を見ていると閃く事ができるのだろうか?そう思い街を見渡すとくるくると回る物を見つけ亭主に頼んで購入させてもらう事に。

 

 

「お礼にこれをあげますね」

 

 

僕が渡したのは小さな風車だった。天沼矛さんに手渡すと不思議そうな顔で僕を見ていた。

 

 

「これは一体〜?」

 

「風車ですよ。こうやって風に向かって向けてください」

 

 

街をそよぐ風に向かい向けると僅かな風を受けてからからと風車が回りなんとも風流を感じさせてくれる。

 

 

「・・・・・・♪」

 

 

からからと回る風車に見惚れている天沼矛さんをみているとあげてよかったという気になれる。

 

 

そんな時ふらっと天沼矛さんが揺れてパタリと倒れてしまった。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「目が、回ってしまいましたぁ〜〜」

 

「ふむ?」

 

 

目を回して倒れてしまった天沼矛さんを背負い何処か休めるような場所を探すために辺りを見渡すと公園を見つけ入ってゆくと木陰になっているベンチを見つけた。

 

 

 

「あれ〜?ここは、、、?」

 

「おはようございます、気分はどうですか?」

 

 

僕の膝の上から顔を上げた天沼矛さんの頭を撫でていた。それでもまだ天沼矛さんは夢心地のようで、口元から垂れる涎がとても可愛らしい。

 

 

「風車を見てたら気を失っちゃったんですよ」

 

「ごめんなさい〜」

 

 

もぞもぞと身体を動かし僕の横へと座って身体を伸ばしていた。よく見るとほっぺたにズボンの跡がついているのがなんとも。

 

 

まだお椀が焼けるには時間があるので少しのんびりとする事に。吹き抜ける風で煽られ揺れる風鈴の音を聞きながら二人で景色を眺めていた。

 

 

「もう一眠りしてもよろしいでしょうか〜?」

 

「はい、良いですよ?」

 

「お膝をお借りしますね」

 

 

再び僕の膝を枕に眠る天沼矛さんの頭を撫でながらお椀が焼けるのを待つ事に。

 

 

ぷーーーーーん

 

パシッ!

 

 

 

迫り来る蚊と戦いながら。

 

 

 

気が付けば僕も眠っていてしまい目を覚ました時には日が落ちかけ太陽が沈もうとしていた。

 

 

「ん、、あっ!天沼矛さん起きて!」

 

「う〜〜〜ん、、も〜少し〜〜」

 

 

寝ぼけ眼の天沼矛さんがとても可愛いのだけど立ち上がる様に諭していた。

 

 

「だっこしてくださぃ〜」

 

「ん、」

 

 

可愛く手を広げながら言われてしまい断る事もできずに天沼矛さんを背負い先程のお店に行く事に。

 

 

「良い時に来たね。もう出来上がっているよ」

 

 

店に入るとお椀を箱に入れてくれるところだったようで入れる前にお椀を見せてもらっていた。市販品よりも綺麗にできているお椀に惚れ惚れしながらお礼を言って帰路へと着く事に。

 

 

普段ならこの辺で異族が出てくるのだけど今回は何も出てこないで星空を眺めながらお家がある街まで帰ってくることができた。

 

 

「ありがとうございました!」

 

「いえ〜私も楽しかったです♪また遊びにいきましょうね〜♪」

 

 

天沼矛さんの家の前で分かれた後自宅へと戻りシャワーを浴びようとした時にまだ夕ご飯を食べていない事に気が付き冷蔵庫を開けるとこないだ貰ってきた梨を見つけ悩んだ後シャワーを浴びる事に。

 

 

パジャマに着替えた後梨をしゃくりしゃくりとかじりながら図鑑へと目を通してゆく。明日はルーンというキル姫のようだ。そこまで調べて梨を食べ終わり布団へと潜り込んでゆく。

 

 

 

「おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰りました〜」

 

 

いつに無く笑顔で家へと戻り貰ったお椀が入った箱を机の上に。

 

 

「ぬぼこか。その箱はなんじゃ」

 

「今日コウ君と一緒に陶芸をしてきたのです〜」

 

「ほほぉーう。どれ、余がその陶芸とやらを評価してしんぜよう」

 

 

机の上に置かれた箱を取ろうとした時に天沼矛の手が伸び箱を大事そうに抱きしめていた。

 

 

「ダメですよ〜これは私とコウ君の思い出のお椀ですから〜」

 

「いやじゃ!余に見せよ!」

 

「ダメですよ〜♪」

 

「二人共子供じゃのぉ」

 

 

楽しそうにはしゃぐ二人を見ながら満足そうに八咫鏡が笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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21ページ目 ルーン

朝起きてから今日会うキル姫、ルーンの事を調べるために図鑑を開いていた。なになに?

 

 

ルーン[1] (ルインとも)は、ケルト神話に登場する武器であり、アイルランド古文学を代表する名槍である[2]。広くは「槍」の意味を持つ[3]が、特にアルスターの戦士「ケルトハル・マク・ウテヒル(英語版)」特有の槍をさす[3]。ドゥフタフ[1]など、他人が使用する場合もやはり「ケルトハルのルーン」と称される。

 

ルーンは、その穂先をどす黒い液(血の煮液、毒液)に浸しておかないと柄が燃焼し、手に持つ人間を危険にさらすという特徴がある[2]。

 

 

はい。ヤバいキル姫という事が確定しました。もう僕がこの部屋に帰ってくる事はできないと判断して迷惑にならないように片付けをし始めていた。

 

 

「おはようございますー♪って何をしているんですか?」

 

「僕の荷物は捨てておいて下さい」

 

「あぁ、、、心中お察しします」

 

 

涙を流しながら部屋を片付ける僕の肩に手を置いて慰めてくれていた。

 

 

「とにかくルーンを教会の前に待たせているので行ってきてくださいね♪金髪で目付きが悪いのですぐ分かると思います♪それと二人に任務があるのでお願いします♪」

 

「・・・・・・はいっ」

 

 

マリアさんから地図と荷物を貰い部屋を出てゆく僕に骨は拾っておきますね♪と声をかけてくれた。とりあえず涙を拭いて覚悟を決めてルーンさんが待つ教会の前にある広場へと。

 

 

えっと、金髪で目付きが悪い人、悪い人。マリアさんから貰ったヒントを頼りにルーンさんを探しているとそれらしき人を見つけた。金髪を頭の上でリボンで結び目付きがかなり悪い人。もう雰囲気からして平気で人を殺せそうな人。

 

 

ヤバい、怖い。まだ距離があるのにルーンさんから漂う近寄り難い雰囲気に押され怖気付いていた。でも僕が行かないと話が進まないので震える足でルーンさんへと進んでゆく。

 

 

「あの〜ルーンさんですか・・・?」

 

「あぁ?誰だお前は」

 

「ひぃっ!」

 

「んだコラ、アタイに声をかけておいて悲鳴をあげるとは良い度胸してんな」

 

 

凄い!ヤバい!怖い!恐怖心の三拍子を心の中で叫びながら肉食動物に食われる直近のモグラの様にプルプルと震えていた。そんな僕を見ながらルーンさんが見下す様に笑う。

 

 

「安心しな。捕って食ったりはしないよ。多分な」

 

「ぼ、ぼぼ僕なんか食べても美味しく無いです!」

 

「んなもん見たら分かんだよ。そうねぇ、アタイ専属のサンドバッグにでもなってもらおうかしら」

 

 

そう言いながら何かが僕の顔の前で止まった。それがルーンさんの拳である事を理解した時には拳によって巻き起こった風圧が僕の顔の横を抜けてゆく。アダマスさんも怖かったけどこの人は本能的に恐怖を感じる。

 

 

「で、アタイに何の用なんだよ」

 

「ひゃい!ま、まままマリアさんから任務を頼まれてて」

 

 

慌ててポケットから紙を取り出すと「よこせ」の声と共に手が伸び紙を奪いふむふむと読んでいた。

 

 

「ちっ、マリアの頼みなら聞いてやるか。おい、お前はこの任務表を読んだのか」

 

「えっと、まだです、、」

 

「なら歩きながら伝えてやるよ。とっとと歩きな」

 

 

くるりと僕に背を向けたルーンさんの背後について歩いて行く。

 

 

「あの〜一体どんな任務なのでしょうか?」

 

「あの山にある湖の異族討伐だよ、それも水中に潜む異族だ。いやになっちまうね」

 

「はぇぇ」

 

 

水中に潜む異族なんているんだ。初耳である。

 

 

「まっ、アタイ一人で食い散らかすからよぉ、お前は震えて木の影にでも隠れてな」

 

「あっ、はい」

 

 

そんなこんなで街を抜けて山を進み異族が出るという湖に来ていた。辺りを見渡しても異族の姿は無くキラキラと太陽を浴びて水面が輝く平和な光景が広がっているのだが。

 

 

「異族は湖の中に居るんです?」

 

「あぁそうだよ。知らずに近づいたやつを襲い喰っちまうのさ。あれを見てな」

 

 

そう言われてルーンさんに手を引かれ木の影へと連れてこられ指を指す方を見ると一匹の鹿が湖の辺りへと歩いていた。辺りをキョロキョロと見渡し警戒しながら歩きやがて湖の水を飲み始めていた。

 

 

静かな空間には鹿が水を飲む音が響き渡る。

 

 

やがて顔を上げ滴る水を舐めとり鹿は山へと戻ろうとしていた。

 

 

「えっと?」

 

「おるぁぁぁ!!」

 

 

急に叫び声を上げたルーンに僕と鹿が驚き身を固めた。次の瞬間にはルーンさんが持つ槍が鹿に向かい投げられ鹿の首を切断し木の幹にガツンと突き刺さった。

 

 

「えぇぇぇ、、、」

 

「まだ飯食ってなかったからね。おい。アタイが満足するような料理を作んな」

 

「えぇぇぇ、、、」

 

 

困惑の連続である。とりあえずルーンさんと鹿の元へ。首を切断されもがく鹿を見ながらなんとも言えない気持ちになっていた。

 

 

「分かりました。じゃあ料理を作るので手伝って下さいね」

 

「うーーん、良い匂い♡頭クラクラしちゃいそうだよ♡」

 

「えぇぇぇぇ、、、」

 

 

鹿から流れ出た血を手につけ匂いを嗅ぎ上機嫌なルーンさん。完璧にキマっている。そんなルーンさんを横目に荷物を漁ると長めのロープがあった。

 

 

ロープを木の枝へ向かい投げ鹿の足を縛りロープを引き宙へとぶら下げ血抜きを行う事に。

 

 

「この間に火を起こしましょう。薪を集めるのを手伝って貰って良いですか?」

 

「ちっ、しゃーねーな。薪なんざその辺の木で良いだろ」

 

 

先程木の幹に突き刺さった槍を引き抜くとそのまま木を叩き切り手頃な大きさへと変えていった。

 

 

「ほら薪だ」

 

「あの、生木だと火が付きにくいし煙が出るから落ちてる枝を拾いましょう」

 

「あぁん?なら先にそう言えよクズ!」

 

「えぇぇぇ、、、」

 

 

そんなこんなでルーンさんと薪を拾い集め火を起こし焚き火をしていた。鹿を見るともう血は垂れておらず良い感じに血抜きができている。

 

 

「ルーンさん手伝ってもらって良いですか?」

 

「次はアタイに何をさせようっていうんだい」

 

「鹿を捌くんですよ。ほら、このままだと食べれないので」

 

 

ロープを緩めながら高さを調節して良い感じのところで作業開始である。荷物の中にあったナイフで皮を剥ぎ丁寧に剥いてゆく。

 

 

「へぇ、慣れたもんじゃないか」

 

「親父がやるのを見てたんですよ。僕は農家出身だから」

 

 

スルリと皮を剥いだら湖の浅瀬へと運んでゆく。

 

 

「異族が来ないか見張ってて貰って良いですか?」

 

「アタイに任せな」

 

 

ルーンさんに見張りをお願いして内臓を取り出す事に。首元からお尻に向かい刃を入れ皮膚を裂き膜を破り内臓を傷付けないように引き抜く。

 

 

その後お腹に溜まった血をかき出せば完了だ。

 

 

「こっちは完了です」

 

「よっしゃ、早速食おうぜ」

 

「まだこれから解体して食べれる部位に分けていきます」

 

「とっととしろこのゴミクズ!アタイは腹が減って気が立ってんだよ」

 

「えぇぇぇ、、、」

 

 

その後岩の上に鹿を置いて解体してゆき生肉を一切れルーンさんに渡した。

 

 

「はい、しっかり焼いて食べてくださいね?」

 

「アタイはこのまま食っちまいたいけどな」

 

 

血が滴る生肉を握り見ながら光悦な笑みを浮かべあーんと口を開け口へと運んでゆく。

 

 

「絶対にダメです!!火を通して下さい!!」

 

 

お肉を一口する瞬間に奪い去りルーンさんに大声で叫んでいた。

 

 

「あぁ?アタイに指図するつもりかい?良いぜ、ぶっ殺してやる」

 

「ジビエで取れたお肉は寄生虫が居たり菌を持っていたりします。冷凍すれば生で食べれるので生食は今はやめて下さい」

 

 

目を血張らせたルーンさんに胸ぐらを掴まれ睨まれたが一向に引かず睨み付ける。長い目線による戦いの後ルーンさんが手を離しやれやれと首を振った。

 

 

「お前良い度胸してんな。気に入ったわ」

 

「はぇ?」

 

「良いからさっさと肉を焼け肉を」

 

「はいっ!」

 

 

良く分からないまま解体する手を止めてお肉を焼く事に。適当な枝に刺し焼き加減を見ながら焼いてゆく。

 

 

「おい、まだかまだか。もう良い匂いがしてんじゃねーか」

 

「もうちょっとですよ」

 

 

脂が溶け出し火に落ちじゅうじゅうと音を立て脂で燃え上がる火がお肉に焦げ目を付ける。こんなものかな?最後に塩コショウをかけてルーンさんへ手渡す。

 

 

「あつっ!でもうめぇ!」

 

 

口をはふはふとさせながらお肉を頬張るルーンを見た後自分の分も焼く事に。同じように焦げ目を付け塩コショウを振った時横から手が伸びお肉を引ったくる。

 

 

「あっ、僕のお肉、、、」

 

「お前はアタイの為に肉を焼いてりゃいいんだよ。ほら、もっと焼かないとお前の分はみーーんなアタイのものだ」

 

 

ギラギラと目を輝かせながら笑うルーンさんに最初に会った時の人を殺してそうな雰囲気はもう感じなかった。そんなルーンさんを可愛いと思いながら追加のお肉を焼いてゆく。

 

 

そんな時ブクブクと湖が泡立ち水柱と共に巨大な異族が姿を現した。

 

 

[グゥゥゥゥゥ、、、!グラァァァァァァッ!!]

 

 

低い唸り声を上げた後咆哮を上げ僕達へと目線を向けていた。

 

 

「ちょっ!!ルーンさん!ヤバいの居るって!!」

 

「うるせーんだよザコが。アタイの飯の邪魔すんじゃねぇ!」

 

 

怒りをぶつけるかのように手に持つ槍をぶん投げると巨大な異族の頭部を貫通し向こう岸の木に槍が突き刺さった。

 

 

[グァァァァァァ・・・・]

 

 

悲鳴をあげながら魔法陣のような物に吸い込まれ異族は姿を消した。

 

 

「さぁ肉だ!早く焼いてくれよな」

 

「は、はい」

 

 

先程ルーンさんが倒した異族はアクアディアボロと呼ばれる異族で結構強い異族らしい。多分僕が浅瀬に内臓を置きっぱなしにしたから血の匂いに誘われて姿を見せたのだろう。まぁ良いけど。

 

 

その後ルーンさんは鹿を半分ほど食べ上機嫌だった。

 

 

 

「あー美味しかった♡たまにはこういうのも良いねぇ」

 

 

満足そうにお腹をさすりながら地面に寝転がっていた。その姿を見ながら思い付いたことを試す事に。

 

 

先程ルーンさんが切り倒した木を削り灰になりかけた焚き火に足すと煙を上げ始めた。その煙がかかるようにお肉を並べてゆく。

 

 

「なーにしてんだよ」

 

「燻製を作ろうと思いまして。せっかく料理するのだから全部使おうと思って」

 

「まだ美味い肉が食えるのか。早く寄越せよ」

 

「ちょっと時間がかかりますけどね」

 

「なんだよ。じゃあアタイはふらふらしてっからできたらすぐ呼べよな」

 

 

そう言って何処かへ行ったルーンさんを見送り僕はどうやったら煙で燻せるかを考えていた。

 

 

「うーーーん?」

 

 

考えた結果いい案が浮かばなかったので残りの鹿肉を骨から外して袋に詰め込み涼しい場所に置いておく事に。その後自分の分のお肉を焼きながら湖に視線を向けていた。

 

 

「・・・・・?」

 

 

湖を見ると水着姿のルーンさんが泳いでいた。この人自由だなぁ。

 

 

「おーーいお前も泳げよ。気持ち良いぜ」

 

 

湖の真ん中で立ち泳ぎをしながら僕へと手を振っていた。のは良いのだが僕は泳げないので大きく首を横に振り意思を伝える事に。

 

 

「あぁ?アタイの誘いを断るっていうのかよ」

 

 

ギロリと一睨みした後にこちらへと泳ぎざぶざぶと水を蹴飛ばしながら僕の元へ。嫌な予感がして逃げようとしたのだが美しい水着姿に見惚れていると気が付けばルーンさんが目の前に。

 

 

「お前は泳げないのか」

 

「はい、全く泳げません!」

 

「しょうがないなぁ♡じゃあ泳げる様になるまで・・・」

 

 

そう言ってにっこりと笑顔を浮かべた。つられて僕も笑顔になっていた。

 

 

「真ん中で浮かんでな!!」

 

 

その言葉の後に僕の身体が浮かび上がりぐわんと揺れると風切り音と共に投げ出され無事湖の真ん中へ着水していた。

 

 

「ちょっ!!むり!!たすけてぇぇぇぇぇ」

 

 

もがきながら沈んでゆく僕に聞こえたのはルーンさんの高笑いだった。

 

 

 

……………………………

…………………………

……………………

…………………

………………

……………

…………

………

……

 

 

 

 

 

「もうルーンさんにはお肉あげません」ムスッ

 

「アーハハハハハッ、悪かったって」

 

「ふんっ」

 

「そう怒るなよ。アタイが泳ぎを教えてやっからさ」

 

 

先程切り倒した木を手頃な大きさに叩き切りそれをビート板代わりに使い泳ぎの練習をする事に。

 

 

「んだその死にかけたカエルみてーな動きは!こーやって手は動かすんだよ」

 

 

罵倒しながらもなんだかんだ優しく教えてくれるルーンさん。そんな事よりもたまに触れる肌や水飛沫を浴びて輝く谷間に目線が行ってしまうのだけども。

 

 

そんなこんなで楽しく1日を過ごし日が暮れかけてきたので家に帰る事に。

 

 

「腹減っちまったな、、おい、飯作んな」

 

「良いですよ?まだ鹿のお肉も残ってますし」

 

 

そんな訳で自宅で料理を振る舞う事に。街で必要な物を買い込み自宅へと向かってゆく。

 

 

「おかえりなさい♪生きて帰って来れましたね♪」

 

その途中マリアさんと会い話をするとまだご飯前だったので一緒にご飯を食べる事に。

 

 

「じゃあ作るので待っててくださいね」

 

「アタイが空腹を感じる度に窓ガラス叩き割っちゃうかも♡だから早くしろよな」

 

「ルーンは相変わらずですね♪あっ、私は止めませんからね?」

 

「えぇぇぇぇぇ、、、」

 

 

そんなこんなで手を動かして料理を作る事に。

 

 

「はい。美味しい保証はありませんけど」

 

 

作る過程は省かれているが鹿肉の刺身にじっくり煮込んだシチューのご提供だ。因みにリアルで鹿肉を生食するのなら−30度で急速に冷凍し寄生虫を殺す事。それと肝炎の恐れがあるのでやはり火を通すのが一番である。もし食べる際はしっかりとネットで調べて自己責任で食べて欲しい。

 

 

「鹿肉は生姜醤油かニンニク醤油で。シチューはそのままでもご飯とでも良いですよ」

 

 

「「いただきまーす」」

 

「うめぇ!あははっますます気に入ったぜ」

 

「もうコウ君奏官目指すのやめて料理人になったらどうですか?」

 

「えぇぇぇぇぇ、、、、」

 

「お肉といえばビールですよね♪」

 

「おい、アタイの分ももちろんあるんだよな?」

 

「もちろんですよ♪」

 

「えぇぇぇぇぇ」

 

 

鹿のお刺身を頬張りながらビールを楽しむ二人。楽しそうで何よりである。

 

 

「zzz、、」

「zzz、、」

 

「えぇぇぇぇぇ、、、」

 

 

疲れかお酒のためか即寝した二人にお布団をかけてあげてから残り物を食べ食器を片付けお風呂へ。

 

 

その後明日会うキル姫の事を調べる事に。

 

 

明日は青龍偃月刀というキル姫のようだ。それだけ見てからベッドに寝転がり眠る事に。

 

 

「グガーーーーー」

 

(えぇぇぇぇぇ、、、)

 

 

誰かのいびきに悩まされながらもいつしか眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 



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22ページ目 青龍偃月刀

朝起きて部屋を見渡すと床で眠るマリアさんとルーンさんの姿と散らかり放題の部屋が。それを見ながら盛大にため息をついた後今日会うキル姫[青龍偃月刀]さんの事を調べるために椅子に座り図鑑を開いていた。なになに?

 

 

小説『三国志演義』において、武将の関羽が冷艶鋸(れいえんきょ)と呼ばれる青龍偃月刀を愛用していることから、関羽を象徴する武器であり、中国語では関刀(グアンダオ)という呼称もある。

 

長い柄の先に湾曲した刃を取り付けたものであるが、刃は幅広で大きくなっている。 柄の長さは刃の大きさに対してやや短めになっているが、これは(主に馬上で)片手での取り回しの良さを考慮したためである。

 

刃の大きさから分かる通りかなりの重量があるため、主に演舞や訓練用とされ、実戦で用いられることは少なかった。

 

 

ふむふむ?青龍偃月刀とは三国志に出てくる武将、関羽が使用した武器の様だ。ちなみにこの話は小説の話であり実際に関羽が青龍偃月刀を使用した事はない様だ。それともう一つ、僕自身が三国志演義を読んだ事が無いため三国志については触れられない事をここに念を押しておきたい。

 

 

青龍偃月刀さんの事はなんとなーく分かったのだけどもいつも呼びに来てくれるマリアさんがここで寝ているという事は一体誰が僕を呼びに来てくれるのかとそんな心配をしているとドアをノックする音が聞こえて音を立てない様にドアへと向かっていった。

 

 

「おはようございます。今日は青龍偃月刀と会う日ですよ。すでに教会の前の広場で待って貰っていますので早く準備をして下さいね」

 

「おはようございます。ありがとうございます!」

 

 

シャルウルさんにそう言われて急いで着替えて玄関を出るとシャルウルさんが待っていてくれた。

 

 

「私が青龍偃月刀の所まで案内しますね」

 

 

片眼鏡を直しながらそう言ってくれた。さすがシャルウルさんである。

 

 

「それで青龍偃月刀さんってどんなキル姫なのですか?」

 

「そうですね、義理堅く人徳や教養を持ち合わせているキル姫です。もう既に知っているとは思いますが天才と呼ばれた武将、関羽の愛槍であり統率力に優れています。それと余談ですがキル姫の中でも美しいと評判なのですよ」

 

 

そんな事を言われながら廊下を歩き気が付けば広場へと来ていた。そして広場にいる女性の中でも一際美人な人を見つけていた。

 

 

「あれが青龍偃月刀です」

 

 

シャルウルさんに連れられて広場の建物の影に佇む青龍偃月刀さんの前へと来ていた。

 

 

「おはようございます。今日はコウ君を一日お願いしますね」

 

「おはようございます!僕コウって言います!」

 

「おはよう。分かりました、私が今日中に立派な君主へと導いてみせますね」

 

 

なんだか引っかかる言葉だったけどもそれを気にならないぐらいに青龍偃月刀さんの美しさに見惚れていた。中華風の着物?にポニーテール。さらに前髪から覗く涼しげな蒼目。さらには帯で強調された谷間に美しすぎる御御足。今日のおかずはこれにしようと心の中で固く決めていた。

 

 

「コウ」

 

「えっ?あっはい!」

 

「何をボーッとしていたのですか?戦場では一瞬の油断が命取りとなります。気を引き締めて下さい」

 

「はい!気をつけます!」

 

「それでは私は業務へ戻りますのでここで失礼します」

 

 

そう言って去ってゆくシャルウルさんにお礼を言っていた。

 

 

「さてと、行きましょうか」

 

「どこに行くんですか?」

 

「着いてきてください」

 

 

くるりと背を向けて歩く青龍偃月刀さんの背後をついて行く事に。街を抜けてもその歩みは止まらず気がつけば山を登り始めていた。その途中に熊出没注意と書かれた看板があったけど大丈夫なのだろうか?

 

 

「コウ。優れた君主とはどんな人を指すと思いますか?」

 

「えっと、、」

 

 

君主とはマスターの事なのだろうか?それならばと僕が思うマスター像の事を話してゆく。

 

 

「状況判断ができて回りを良く見ることができる人の事だと思います」

 

「遠からず近からずの答えですね。ならばコウにちょっとした試練を与えます」

 

 

そう言って筒の様な物を渡され困惑しているとこれは釣り竿だという事を教えてくれた。

 

 

「この先に沢があります。そこでヤマメを釣ってもらいます」

 

 

その釣り竿を振り出してみるとそこそこの長さがあり聞くと10尺だそうで。

 

 

「分かりました。それで仕掛けはあるのですか?」

 

「釣り竿だけです。これ以上のヒントは与えませんので」

 

 

そう言って木に背を預け腕を組み僕を見ていた。普通に考えれば釣り竿だけでは魚を釣る事はできないだろう。振り出された3メートルの竿を見つめながら策を考える事に。

 

 

(まずは釣り糸になりそうな物を探そう)

 

 

そう思い辺りを見渡すのだが釣り糸になりそうなものは無く見つけた物といえば草の蔓ぐらいだった。それを千切り竿先に結ぼうとしても上手く結べず解けたり切れたりと使い物にはならなかった。

 

 

再び悩みながら次の案を練る事に。細くてしなやかで強度のある糸。そんなものが自然界に存在するのか?

 

 

うーんっと悩みながら頭を掻きため息を一つ吐くと僕の視界を邪魔するものが。目の前についた物をとってみると抜け落ちた髪の毛だった。ん、閃いたかも。

 

 

「青龍偃月刀さんの髪の毛をください」

 

「分かりました」

 

 

髪の毛を二本抜き僕へと渡してくれた。その髪の毛を穂先に結びつけるといい感じに結ぶ事ができた。そしてもう一本の髪の毛を髪の毛に結べば手元に届くほどの長さとなってくれた。

 

 

(後は釣り針。、、、流石にないか)

 

「青龍偃月刀さん。ヤマメってどんなお魚なんですか?」

 

「それは生態について聞いているのですか?」

 

「そうですね。何を食べるのかを教えて下さい」

 

「主に小魚や昆虫です」

 

「あざっす!それと髪の毛をもう一本下さい」

 

 

プチリと音を立てながら髪の毛を抜いて僕に渡してくれた。自分の毛を使えよって言われそうだけど僕は短髪なので結べないのです。えっ聞いてない?

 

 

その後エサにするために草むらでバッタを捕まえて先程もらった髪の毛を結び付けていた。胴体にしっかりと結び余った髪の毛は胴体に巻き付けてゆく。それを持って沢へと。

 

 

(・・・)

 

 

山の中を流れる沢。その言葉だけを聞くと景色が良くて涼しげな気分になれそうなのだが実際に目の前にしてみると川の水はひっきりなしに流れ泡を巻き込んでいる。それに水飛沫がかかっている岩には苔が生え足を置くところを間違えれば滑って転ぶだろう。さらに沢の上には枝がかかり足元ばかりに注意を向ければ竿先が枝に引っかかってしまう。上に足下に注意を向けてゆっくりと慎重に沢を歩いてゆく。

 

 

(・・・)

 

 

やっとの事川辺へと辿り着き釣り竿を右手に持ち左手にエサを持ち上流へ向けて竿を振りエサを打ち込んでゆく。

 

 

着水した時は水面にいたバッタが流れに飲まれ水中へと引き込まれてゆく。竿を立てエサが流れる場所をコントロールしてゆくと竿を握る手にコツンっと反応が。

 

 

(・・・)

 

 

少し竿を倒し髪の毛を送り込むとスーーっと髪の毛が下流へと引っ張られてゆく。だけどまだ竿は立てず髪の毛を張らず緩めずを保ちながら動きに追従してゆく。

 

 

やがて流れが溜まる場所に流れた時竿をゆっくりと立て髪の毛が張った瞬間に一気に引き抜くと一瞬の抵抗の後に銀鱗の魚体が宙を舞い陸へと飛んでゆく。

 

 

お魚が飛んでいった方へ行くと体全体を使いピチピチと跳ねるお魚を見つけてしっかりと頭を掴み青龍偃月刀さんへと見せていた。

 

 

「これってヤマメですか?」

 

「お見事です。お目当てのヤマメですよ」

 

 

にっこりと笑う青龍偃月刀さんにそう言われていた。

 

 

「良かった、、でもどうしてヤマメを釣れって言ったんです?」

 

「渓流釣りは観察力、胆力、精神力、知恵を問われる釣りです。それは戦闘においても同じなのです。状況を把握し指示をする前に自身がそれをできているかどうか見極めたかったのです」

 

 

そう言って先程釣ったヤマメをどこからともなく取り出したナイフで捌きお腹を出していた。

 

 

「少し遅いですが朝食にしましょう。私が魚を獲るので火を起こしては貰えませんか?」

 

 

そう言われたので返事をして枝と葉っぱを集めて焚き火を作る準備をしていた。その後青龍偃月刀さんが何をしているか気になり沢に行ってみる事に。

 

 

(?)

 

 

見てみると川の中心に立ち目を閉じる青龍偃月刀さんの姿が。それをみていることに。

 

 

(・・・・・)

 

 

何やら精神を統一させている様子で、その姿は気高く美しい。

 

 

その後目を見開き槍を岩に向かい振り下ろしていた。

 

 

「い、今のは?」

 

「見ていて下さい」

 

 

しばらくすると何匹か魚が浮かび上がってきてそれを掴み僕へと投げてくれた。

 

 

「岩を叩く事により衝撃を発生させ魚を気絶させたのです。さっ、ご飯にしましょう」

 

 

そう言って川から上がってくる青龍偃月刀さんを見ていた。なんか知恵とか策を使って魚を獲ると思っていたらとんでもないパワープレイをされて困惑なのだけども。

 

 

僕のそんな視線に気がつく事もなく手慣れた手つきで魚を捌くと枝を口から刺し塩を振り焚き火の横に突き刺していた。

 

 

焚き火で魚を焼いた事がある人には分かると思うのだけどとにかく時間と手間がかかるのだ。焦げないように向きを変えたり火の加減を見たり。それでもお魚が焼けてゆく良い匂いがかげるのはデメリットを超えるメリットである。

 

 

「さ、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

程よく焼けたお魚を貰い一口。パリッと焼けた皮にちょうど良い塩加減が素晴らしく美味しい。そして自然に囲まれて食べるという事も調味料の一つなのだろう。これを街で食べたらまた少し違うと思うし。

 

 

それに僕と対面する形で岩に座りお魚を食べる青龍偃月刀さんが居るのだ。まだそんなにキル姫と会ったわけではないんだけどこれ程までに沢が似合うキル姫はいないと思う。川のせせらぎをBGMに白い岩に座りその背後には逞しく流れる沢。伝わるかな?

 

 

「どうしたのですか?」

 

「青龍偃月刀さんが綺麗で見惚れていました」

 

「見惚れるのは構いませんが魚が冷めてしまいますよ」

 

 

照れた様子もなくお魚を一口。それが熱かったようで顔をしかめていた。

 

 

「コウに聞きます。今この場を見出す輩が現れたならどう指示を出しますか?」

 

「えっと、話が通じるのなら交渉してもらいたいかな?もし異族なら戦うように指示を出すと思います」

 

「分かりました。では交渉を致しましょう」

 

 

食べかけの魚を僕に渡すと立ち上がり槍を構え振り返った。それにつられて前を向くとそこには一匹のクマの姿が合った。

 

 

「去れ」

 

 

ただ一言青龍偃月刀さんが言うとクマは踵を返し山へと帰って行った。

 

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、何故討てと言わなかったのですか」

 

「クマの縄張りに入っているのはこっちだし無駄に血を流すのは僕が嫌だったからです」

 

「不思議な事を言いますね。ならばあの者たちは如何しましょうか」

 

 

青龍偃月刀さんが指差す先には二匹の子熊が。親クマは去ったのだが二匹の子熊がこちらを見ていたのだ。それを見ていると半立ちとなり鼻を動かし何かを探しているようで。その視線を辿ると僕が持つお魚へと向けられている事に気が付いた。

 

 

「青龍偃月刀さん。このお魚あげても良いですか?」

 

「構いませんよ」

 

 

二つの食べかけのお魚を投げるとそれを咥えて山の中へと帰って行った。

 

 

「まったく、お人好しですね」

 

「褒めてくれました?」

 

「どちらかと言えば貶しています。さて、邪魔者も居なくなった事ですし食事の続きとしましょうか」

 

 

二人して振り返ると放置されて炭となりかけているお魚の姿が。その様子を見てなんとも言えない表情の青龍偃月刀さんを見て思わず笑ってしまっていた。

 

 

「私の顔がそんなに面白かったのですか」

 

「ごめんなさい、なんだか可愛くて。良かったら街にご飯を食べに行きませんか?」

 

「そう、ですね。空腹では本来の力を発揮する事はできませんしご飯を食べ終わったらコウには教授したい事もありますので」

 

 

そんな訳で焚き火に水をかけて完全に火を消してから下山する事に。

 

 

「山というものは登るより降る方が大変なのですよ。行きは体力がありますが帰りは疲労が溜まり集中力が切れてしまいますから」

 

「気を付けます!」

 

 

青龍偃月刀さんに言われた通りに行きよりも体が怠く確かに疲労を感じていた。だけど農作業をしてた事もあり体力には自信はあるつもりだ。淡々と前を歩く青龍偃月刀さんの背後を見失わないようについて行く。

 

 

「あっ」

 

 

石の上に足を下ろし体重をかけた瞬間に石が転がりそのまま前のめりに滑ってゆき前を歩く青龍偃月刀さんにぶつかりそのはずみで青龍偃月刀さんも転んでいた。

 

 

「大丈夫ですか!?今退きます」

 

 

そう言ってくれて目を開けると視界が何かに塞がれており青龍偃月刀さんが立ち上がると共に視界が広がってゆく。つまり僕の顔の上に青龍偃月刀さんの股間が乗っていたのだ。

 

 

「大丈夫でしたか?」

 

「はい!ありがとうございます!!」

 

 

素早く立ち上がり青龍偃月刀さんに向かい敬礼をしていた。その姿にドン引きしながらも下山し教会のある街へとたどり着いていた。

 

 

「どこでご飯にいたしましょう」

 

「えっと、、」

 

 

街のご飯屋さんが立ち並ぶ場所を見ながら悩んでいた。

 

 

「青龍偃月刀さんは何が食べたいですか?」

 

「私は、、、牛のステーキが食べたいですね」

 

「じゃあステーキ屋に行きましょうか」

 

 

そう言った時に青龍偃月刀さんの着ている着物?の右袖が破れている事に気が付いた。さっき転ばせてしまった時に破れたのだろうか?

 

 

「服破れちゃってますよ?」

 

「困りましたね、人前を歩くのなら身嗜みはきちんとしておきたいですし、、、そうだ。私の行きつけの店に少し寄ります」

 

 

破れた箇所を摘みながら歩き出しその背後をついてゆく。青龍偃月刀さんの行きつけの店はどんな所なのだろうか?そんな事を思いながら青龍偃月刀さんの背後をついて行くと中華風のお店へとたどり着いていた。

 

 

「ごめんください」

 

 

そう言いながら店内へと。その後に付いてゆく。

 

 

(おぉー)

 

 

店先もそうだったのだが店内も中華風であり入店しただけで異国に来たように思える。感心しながら店内を見渡す僕を置いてレジの前に青龍偃月刀さんが立つと奥から店員さんが姿を見せていた。

 

 

「青龍偃月刀じゃないっすか。今日はどーしたんすか?」

 

「着物が破れてしまったので修理の依頼と一着服を仕立てて頂きたくて」

 

「りょーかいっす。ちょうど今朝良いものを仕入れたんで着てみるっすよ」

 

 

再び奥に入った店員さんが服を持って来ていた。それを受け取り更衣室へと消えてゆく。

 

 

「あんた青龍偃月刀の奏官っすか?」

 

「違います。僕は奏官の見習いをさせてもらってます」

 

「あー噂のね。ほいじゃウチともそのうち会う事になるっすね」

 

 

そう言いながらレジの下を漁り何かを僕に渡してくれた。

 

 

「これは?」

 

「付け髭っす。これを付けてれば青龍偃月刀が喜ぶっすよ」

 

 

付け髭で喜ぶ?よく意味が分から無かったけどあごに付け髭を付けてみることに。

 

 

「お待たせしました。まるで採寸した様にピッタリですね」

 

 

更衣室から出てきた青龍偃月刀さんの姿にしばし固まっていた。薄い青のチャイナドレス姿に。先程の着物より露出部は減ってしまったけどはち切れそうな胸元にくるぶしから太ももへと大胆に入るスリット。長い髪を頭の上にお団子に纏めてそこにかんざしが一本。

 

 

「気に入ったっすか?あと後ろを向いて欲しいっす」

 

 

くるりと回れば背に刺繍された龍が荒々しく滝を登る姿が。これはもう青龍偃月刀さんのためのチャイナドレスだと言い切れるだろう。

 

 

「お支払いは修理が終わった時に持ってきますね。主君行きましょうか」

 

 

主君?その言葉に疑問を持っていると僕の手を取り店外へと。「まいど〜」っと店員さんの声を聞きながら連れ出されていた。

 

 

「さぁ、お肉を食べ英気を養いその後しっかりとお勉強ですよ」

 

 

先程のステーキ屋さんに入り鉄板の上でじゅうじゅうと音を立てるステーキを前にしてそんな事を言われていた。そして肉汁滴るステーキをワサビ醤油で頂き大満足の夕食となった。

 

 

食べ終わった後青龍偃月刀さんに連れられて一軒のお家へとお邪魔する事に。

 

 

「私の持てる全てを叩き込みますのでその覚悟を持ってください」

 

 

テーブルに座る様促され着席すると山の様に参考書を積み上げてくれた。そしてワンツーマンで夜通し勉学を教えて頂くのであった。

 

 

 

 

 

 




〜おまけ〜



時計の短針が天辺を超えたあたりでコクリコクリと眠気に負けて船を漕ぎ始めていた。そんな僕の頭をぺしりと叩かれ前を向くと真剣な眼差しが。


「睡眠は大切なものです。しかし教養はそれ以上に大切な物なのです」ウンタラカンタラ

「は、、はいっ、、」


窓から薄陽が差すまで頃青龍偃月刀さんの授業は続いた。






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23ページ目 アルテミス

これを読んでくれている人には初めましてだよね。私の名前はクレアっていうんだ。詳しく知りたい人はユリ物語の黒ユリ物語、偽りなき清淑かアナザーストーリーを見て欲しいかな。


なんでお前がここにいるんだって?時系列的には黒ティルと僕ととキル姫日記は同じなので私がここにいても全然不自然じゃ無いよ?黒ユリ物語はこの時期だし。


んっと。そんな事より何故私がキル姫日記に出てきたのかその辺は順を追って説明するからね♪


朝起きて体に付いている藁を払ってから大きく伸びを一つ。それからパジャマから普段着へと着替えてゆく。

 

 

「マスター、おはようございます」

 

「おはよアルテミス。みんなは?」

 

「まだ眠っているようです」

 

 

そう言われて寝床を見るとまだ眠りの中のフォルカスとアポロンの姿が。時刻は午前八時、いつもなら起きてくる時間なのに。

 

 

「仕方ありませんね、私と任務を受けに行きましょう」

 

「そうだね。じゃあ起こさないようにそーっと行こっか♪」

 

 

そんな訳で家をこっそりと抜け出してアルテミスと二人で教会へ任務を受けに。もししんどそうな任務なら家に戻り二人を呼んでこれば良いし。なんて気楽に考えていた。

 

 

「おはようございます。任務を受けに来たのですが」

 

 

職員が忙しく駆け回るのを見ながら受付へと。いつもの受付のお姉さんへと話しかけていた。

 

 

「おはようございます♪えっと、今任務無いんですよね」

 

 

パラパラと書類をめくりそう告げてくれた。

 

 

「任務が無いとはそれはどういう事ですか?」

 

「えっと、ユウさんのティルフィングさんが大陸中の異族討伐任務を全て受けているので今任務は無いのです」

 

 

言っている意味が分からないのだけどそう言うならそうなのだろう?

 

 

(ねぇアルテミス。そんな事ってできるの?)

 

(さぁ、、?)

 

 

流石のアルテミスも話の意味が分からないようで。困り顔を浮かべていた。

 

 

「そうだ。任務の代わりじゃ無いですけど一日アルテミスと過ごしてもらえませんか?」

 

「それはどういう事ですか?」

 

「今奏官見習いの子にキル姫と一日過ごしてもらっているのですけどその子が体調を崩しちゃってて。代わりにクレアちゃんにお願いしたいのです♪クレアちゃんはいつも3人で過ごしているのでアルテミスと二人っきりで過ごす機会もありませんよね?」

 

「まぁそうですけど」

 

「な・の・で。私からアルテミスと二人の時間をプレゼントです♪」

 

 

全く意味が分からないのだけどアルテミスの事を良く知る良い機会だし私としてもメンバー達とは仲良くしていたい。受付の人の提案を受ける事に。

 

 

「クレアちゃんならそう言ってくれると思ってましたよ♪ならメニュー表を渡しておきますね」

 

 

受付の人のから紙を貰い教会を出る事に。私の部隊でフォルカスと一二を争う姉キャラのアルテミス。姉キャラっていうよりもアポロンという妹がいるので実際に姉なのだけども。

 

 

「じゃあアルテミス。一日よろしくね♪」

 

「はい、分かりました。それでその紙には何が書かれているのですか?」

 

「えーっとね」

 

 

握っていた紙を開き内容を読んでみる事に。どうやら一日を過ごすプランが書かれているようで。

 

 

「まずは四葉のクローバー探しだね」

 

「はぁ、、?」

 

 

複雑な表情のアルテミスと共に教会の裏手にある広場へと。

 

 

「じゃあここから四葉のクローバーを探そっか」

 

「分かりました」

 

 

この広場は結構な広さがありその一面にクローバーが群生いているのだ。そこから四葉のクローバーを探すのだが。

 

 

「うへっ、どれも一緒にしか見えないよ、、」

 

「良く観察して下さい。三つ葉と四葉、僅かな変化を見逃さないように」

 

 

季節は夏を過ぎ秋に向かっているのだが照りつける日差しは暑くクローバーを探しているだけで汗をかく。それに正直なところクローバーを探すのはダルい。

 

 

「あっつ、、」

 

 

朝は冷えるので着ていた上着を脱ぎラフな格好でクローバーを探す事に。

 

 

「人の目に付くかもしれませんので身だしなみには気を配って下さい」

 

「そうかも知れないけど暑いし」

 

「いけません」

 

 

きつめの口調で言われて顔を上げるとツナギのチャックを胸元を通り越しおへその辺りまで開けたアルテミスの姿が。

 

 

「じゃあアルテミスもチャックを閉めてよ!私よりラフ、ってより卑猥な格好だよ!」

 

「分かりました」

 

 

そう言って首元までチャックを閉めクローバーを探してゆく。

 

 

バイン。

 

 

胸の圧力に負けてチャックがおへそまで下がってゆくのを見て私は考えるのをやめた。

 

 

「もう三つ葉のクローバーに葉っぱをくっ付けようよ」

 

 

そんなこんなで根を上げた私はアルテミスにそんな提案をしていた。

 

 

「マスター、これは精神力と観察力を鍛える訓練です。戦場では僅かな変化が重要な鍵となりますので」

 

「分かったよぉ」

 

 

その後私とアルテミスで文字通り草根を分けて探しているとようやく四つ葉のクローバーを探し出す事ができた。

 

 

「ありましたマスター」

 

「おぉー流石だねアルテミス♪じゃあ次の任務に行ってみよー♪」

 

 

次のお題を見るべく紙を開くとゲームセンターにあるUFOキャッチャーでクマのぬいぐるみを入手せよと書いてあった。なので教会付近にあるゲームセンターへと。

 

 

「うへっさすがに人が多いね」

 

「はぐれないように私の側にいて下さい」

 

 

休日という事もあり多くの人がゲームを楽しんでいた。そんな中をアルテミスを二人で歩きクマのぬいぐるみが景品のUFOキャッチャーを探してゆく。

 

 

「ありました」

 

 

アルテミスの目線の先にはショーケースの中で存在感を放つクマのぬいぐるみが。説明文を読むとその大きさは1メートル程のようで名前はオリオンという。

 

 

「一回やってみて良い?」

 

「どうぞ」

 

 

との事なので100ゼニーを投入しアームを操作してゆく。クマの頭の上へとアームを運び落下ボタンを。

 

 

ウィーーーーン

 

 

「おっ」

 

 

落下していったアームはぬいぐるみを少し持ち上げたのだが外れてしまい虚しく定位置へと戻ってきた。

 

 

「次は私が」

 

 

アルテミスと交代しその姿を見ている事に。

 

 

「大きなぬいぐるみですが重心の中心を掴めば問題ありません。見ていて下さい」

 

 

最もらしい事を言いながらアームを操作してゆきクマの上で微調整を行っていた。さすがうちの狙撃手、観察力が素晴らしい。

 

 

決定ボタンを押すとアームが下がりぬいぐるみを掴むと持ち上げてゆく。

 

 

「おぉー!流石だね♪」

 

「私にかかればこのような事造作もありませ」

 

 

アルテミスの言葉が終わらないぐらいの時アームからぬいぐるみが外れて落下して行きなんとも言えない雰囲気へ。

 

 

「まだお金はあるしのんびりやろうよ♪」

 

「…そうですね。その前にもう一度観察します」

 

 

矢や銃を扱うプロフェッショナルは風向きや湿度にすら気を配るという。それはアルテミスも同じ事でショーケースを四方から観察しアームのレールにまでチェックを行っていた。

 

 

神話のアルテミスは狩猟の神だという事を思い出していた。このゲームセンターという場所はみんなにとっては遊び場だけどアルテミスにとっては狩猟場所の一つのようで。

 

 

たった一つの獲物を狩る為に下準備を行い確実に仕留める。狩猟の極意がここにあるのだ。

 

 

「全て把握致しました。この一手で必ず」

 

 

普段はクールな瞳に闘志を燃やしゼニーを投入しレバーを操作してゆく。

 

 

「そこっ!」

 

 

パシンっと落下ボタンを押すとアームが下がりしっかりとぬいぐるみを掴み持ち上げた。

 

 

ポロッ

 

 

「「あっ」」

 

 

しかし上昇した衝撃でふたたびぬいぐるみは落下してしまい二人して間抜けな声を出していた。

 

 

「大丈夫だって♪次があるよ♪」

 

 

落胆するアルテミスに変わりゼニーを入れてアルテミスにプレイする様に促してゆく。

 

 

だが何度やっても結果は同じでぬいぐるみは取れずプルプルと震えながら筐体を恨めしげに睨んでいた。

 

 

「少し休憩しようよ。ほら、熱くなっちゃうと周りが見えなくなるって言うしさ?」

 

「………っ」

 

「えっ?」

 

「その間に誰かにオリオンを取られたら私はどうしたら良いのですか、、、」

 

(えぇ、、、)

 

 

泣きそうな顔で言われて反応に困ってしまった。話を聞くとクマが大好きで是が非でも手に入れたいようだ。

 

 

「じゃ、じゃあ取れるまでやろっか♪いつも頑張ってくれてるしお金の事は気にしなくて良いよ♪」

 

 

私の言葉に頷いた後真剣な横顔でUFOキャッチャーをプレイしていた。ガラスケースに写る目が血走っていたけどまぁ良いでしょ。

 

 

邪魔になるといけないので私はアルテミスの元を離れてゲームセンター内をふらふらする事に。

 

 

(おっ)

 

 

そして見つけた物へと飛びつきそこへと座った。私が見つけたのはパチスロAnother GODハーデスである。もう撤去されてしまいこういうところでしかお目にかかれないのだ。

 

 

ウキウキしながらゼニーを入れていざ。

 

 

(・・・・・・)

 

 

何も起こらないまま300ゲームが過ぎヘルゾーン高確まで打とうか悩んだけど諦めてアルテミスの元へ。

 

 

「あっ」

 

 

アルテミスが居た。まだクレーンを操作しており近づいてゆくと半分泣きそうな顔をしていた。

 

 

「せ、制裁を下してやるっ!息をする暇も無いと思え!!」

 

 

完全に頭に血が上っているアルテミスをたしなめてゆく。

 

 

「私が見ててあげるから少し休んできなよ」

 

「そうさせて貰います」

 

 

疲れ切った声でふらふらと近くの休憩所へと歩いてゆくのを見送りクレーンゲームに視線を向けた。

 

 

ぬいぐるみは元あった場所から出口の方へとかなり動いておりアルテミスの苦労の跡が垣間見える。私も試しにもう一回やってみようと思いなんとなくコインを入れてレバーを操作してゆく。

 

 

アルテミスの言っていた事を思い出しながらアームをぬいぐるみの重心の中心へと運んでゆき決定ボタンを押すと下がって行ったアームがしっかりとぬいぐるみを掴み持ち上げた。先程は掴むことすらできなかったから大きな進歩である。

 

 

機械音と共にぬいぐるみを持ち上げてゆくのを見ていた。どうせ定位置に戻った衝撃で落ちるんだろと冷ややかな目線で。

 

 

アームが戻りガシャリガシャリと揺れたのだが掴んだぬいぐるみを落とす事なく出口まで運んでゆくとパカッとアームが開きぬいぐるみが出口へと落下していった。

 

 

(あれ?)

 

 

その瞬間に喜びよりも気まずさを感じていた。アルテミスがあんなに頑張って獲ろうとしていた物を私が簡単に取ってしまったことに。そしてただらなぬ気配を感じて振り返ると唖然とした顔のアルテミスの姿が。

 

 

口をぱくぱくとさせており唇の動きから言葉を読み取ると(私のオリオン)と言っているきがする。

 

 

「はいっ♪アルテミスに私からのプレゼントだよ♪」

 

 

素早く出口からぬいぐるみを取り出しアルテミスに押し付けゲームセンターの外へと連れ出してゆく。

 

 

「一通りの任務は終わったから報告に教会へ戻ろっか」

 

「そう、ですね」

 

 

ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら不満げで満足げな声を聞きながら教会へと。

 

 

「二人共お疲れ様でした♪これを任務の報酬として差し上げますね♪」

 

 

そう言って受付の人からもらったのは良い焼肉屋のチケットだった。これを持っていけば好きなだけ食べても好きなだけ飲んでも無料となる魔法のチケットだ。

 

 

「それもこれも差し上げます♪」

 

 

もう一つ貰った物ははちみつ味のポップコーンだ。これは帰ってからみんなで食べるとしよう。

 

 

「奏官見習いの子は大丈夫なんです?」

 

「はい♪もうすっかりと良くなって明日から復帰できそうです♪」

 

「分かりました、ありがとうございました。じゃあ帰ろっか♪」

 

 

ゲームセンターに時間を費やし過ぎたのかいつの間にか暗くなってしまった夜道を二人で歩いてゆく。この教会から私の家までは徒歩なら30分程の距離だ。

 

 

「マスター」

 

「どうしたの?」

 

「見てください月が輝いています」

 

 

アルテミスに言われて夜空を見上げると煌々と夜を照らすお月様が。今日は満月だから太陽にも負けない程の月明かり。

 

 

「綺麗だね♪」

 

「少し見ていてもよろしいでしょうか?」

 

「うん、良いよ♪」

 

 

手頃な石の上に座り二人して満月を見上げていた。お互いに言葉は無いけれどなんだか心地の良い感じ。

 

 

「月が綺麗ですね」

 

「うん、私も」

 

「?」

 

 

アルテミスの問いに答えたのだがハテナを浮かべられてしまったけどまぁ良いでしょ。でも少しだけ小っ恥ずかしい。

 

 

「タッチ!アルテミスが鬼だからね!」

 

 

誤魔化す為に急に鬼ごっこを始め逃げ出してゆく。一呼吸遅れた後私の後をアルテミスが追いかけてゆく。

 

 

その後家へと帰り二人に文句を言われたのだが朝起きれなかった方が悪いと一一喝し四人で夕ご飯を食べに行く事に。

 

 

夕ご飯を食べて家に帰るまでの間に色々あったのだけどここでは語らず(僕ティル)の方で語れるのだけども。

 

 

「はい。じゃあ寝る前にみんなで最後の任務をしよっか」

 

「任務ですか?何処かに行くのでしょうか?」

 

「いや、違うよフォルカス。最後の任務はアルテミスが持っているぬいぐるみでするんだ」

 

 

私の言葉にハテナを浮かべる3人に紙に書かれた最後の任務を読み上げてゆく。

 

 

「題して。クマのぬいぐるみを立たせる選手権だよ♪」

 

「「「???」」」

 

 

困惑する3人にルールを説明してゆく。って言ってもこのふにゃふにゃのクマのぬいぐるみを立たせるだけなのだけどさ。

 

 

「ぬいぐるみに細工をするのは無しだからね。じゃあアポロンからいつまでみよー♪」

 

「よぉーし!アポロンさまいっくよぉー♪」

 

 

ぬいぐるみを手に持ち確かめるようにゆすり何かを閃いたかのように頷くと壁にぬいぐるみをもたれかかさせていた。

 

 

足を床につけ腰を壁で支える事によって直立とはいかないけどクマのぬいぐるみを立たせていた。

 

 

「流石だねアポロン♪」

 

「みょーん♪じゃあポップコーンはいただくよーん♪」

 

 

美味しそうにポップコーンを食べるアポロン。次の挑戦者はフォルカスだ。

 

 

「大きなぬいぐるみですね。どこで貰ってきたのですか?」

 

「ゲームセンターでとってきたんだよ♪」

 

 

へぇっと呟きながらぬいぐるみを観察していていた。そして思い付いた事を行動へと移してゆく。

 

 

「どうでしょうか」

 

 

フォルカスは確かにぬいぐるみを立たせていた。頭を下にし仰け反らせ両手を前へと出し頭と腕の三点でぬいぐるみを逆立ちさせていた。

 

 

「確かに立っているからOKだね♪ポップコーン食べなよ♪じゃあ最後にアルテミスお願いね♪」

 

 

返事をしてフォルカスが逆立ちさせたぬいぐるみを立たせようとしていた。彼女のこだわりらしく壁に立てかけたりせずに直立させたいようで。

 

 

だけどふにゃふにゃのぬいぐるみなので手で押さえていれば立たせる事はできるのだが手を離せば頭から崩れていってしまう。

 

 

それでも諦めずに何度も何度も挑戦を続けてゆくのだが結果は一緒だった。

 

 

「黙示録の刻が来た!!」ドゴォッ!

 

 

(((えぇ、、。)))

 

 

ついに怒りが爆発したようでぬいぐるみの首を左手で掴みお腹へと拳をめり込ませていた。

 

 

「はいっ!終わり!この任務終わり!!寝るよ!今すぐに寝るよ!フォルカスは電気消して!アポロンは私と一緒にアルテミスを寝床に運ぼっ!」

 

「ーーーーーっ!!ーーー!!」

 

「おねぇちゃん落ち着きなって!」

 

「普段の冷静さを思い出して下さい」

 

 

荒れ狂うアルテミスを見てそれを鎮める二人を見て普段とは違うアルテミスの一面が見れた事に大満足だった。

 

 

次回のキル姫日記は私からバトンをコウ君に戻してピナーカってキル姫と過ごす予定だよ♪

 

 

私達の次回の登場はアポロンの時とフォルカスの時かな?もしコウ君より私の方が良いのなら私になるかもだけどね♪

 

 

 

 

 

 

 

 



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24ページ目 ピナーカ

僕とピナーカさんは轟々と燃え盛る山を見ながら立ちすくんでいた。なぜこうなったかは順を追って書きてゆくので今回もよろしくお願いします。

 

 

 

朝起きて今日会うキル姫、ピナーカさんの事を調べるために図鑑を開いていた。なになに?

 

 

インド神話最大の英雄の一人ラーマが使ったとされる弓。その他にも13の武器を持っていたらしくその中にブラフマーストラという名前があったけど今回は語られないだらう。

 

 

それよりもインド神話と聞くとパラシュさんの事を思い出す。きっとパラシュさんと縁があるキル姫なのだろう。

 

 

前回のアルテミスさんの時はアルテミスのマスターであるクレアさんが代わりに日記を書いてくれたとの事。もし会う機会があればお礼を言わなければ。

 

 

図鑑を読みながらそんな事を考えパタンと図鑑を閉じ大きく背を伸ばしいつもの服へと着替えマリアさんが呼びに来てくれるのを待つ事に。

 

 

「おはようございます♪今日はピナーカのところに行く日ですよ♪」

 

「おはようございます!」

 

 

そんな感じでマリアさんにピナーカさんの特徴を教えてもらいいつも通り教会の広場へと行く事に。

 

 

えっと、赤髪の下が紫?色の頭の人。よくわからないけど特徴的な頭だからすぐ見つかるだろうと広場を見渡すとこっちを見ているそんな頭の人を見つけた。

 

 

「あぁ?何ジロジロ見てやがんだよ」

 

 

僕と目が合うなり売り言葉を言いながら僕の方へとツカツカと歩んで来た。多分平和なものでは無いだろう。

 

 

「おはようございます!ピナーカさんですか?」

 

「っ、お前がコウか。マリアの奴から話は聞いてんぞ。奏官の見習いらしいな」

 

 

僕だと気がつくと話を聞いてくれるようで。声と雰囲気は怖いけど良い人なのかな?それとピナーカさんの髪色は炎をイメージしているのだろう。きっと。

 

 

「今日一日よろしくお願いします!ピナーカさんは何かしたい事はありますか?」

 

「そうだなぁ」

 

 

僕を見下ろしながら何やら考えている様子。しばらく顎に手を置いたりしながら考えていてなにかを思いついたようで。

 

 

「オイラは今めちゃくちゃに暴れたい気分なんだ。何かこの辺りにぶっ壊せそうなものが無いか探しに行こうぜ」

 

 

なんだかめちゃくちゃな事を言い出したけど逆らうと何をされるか分からないのでその案を受けて何か壊せそうなものを探しに行く事に。

 

 

「ピナーカさんは何を壊したいんです?」

 

「とにかくぶっ壊しがいがあるものが良いな。あれなんてどうだ」

 

 

ピナーカさんが指差す先には新築の工事現場が。建物の周りは足場で囲まれており足場屋さんが解体作業に取り掛かろうとしているのが見える。

 

 

「ちょ、新築を壊すのは不味いですよ!」

 

「まぁ見てなって、おい、そこのお前ら」

 

 

ツカツカと現場に歩いてゆくと作業員の方々とガンを飛ばしあっていた。朝から何してんのマジで。

 

 

一触即発かと思いながらその光景を物陰から見ていると何やら握手をし始め困惑しか出てこないのだが。

 

 

「おいコウ。今からこの足場をぶっ壊してやるぜ」

 

「は、はぁ、、」

 

 

そう言い終わるとハンマーを片手に足場をひょいひょいと登ってゆきカンカンと叩き始め解体作業を始めていた。

 

 

「オーライ」

 

「おらよっと」

 

 

ピナーカさんがバラした部材を下の作業員に渡しそれをさらに下の作業員が荷台へと積んでゆく。そんな光景を見ているとあっという間に足場が解体されてゆく。

 

 

「ふぅ、、良い汗かいたぜ。またな!」

 

「お疲れ様でした!」

 

「よしコウ!次のぶっ壊せそうなものを探しに行くぞ!」

 

 

一仕事終えて体が温まったピナーカさんと次の壊せそうな物を探しに行く事に。

 

 

「どうして足場の解体をしたんです?」

 

「そりゃお前好き放題ぶっ壊せてそれに人の役に立つんだぞ?やらねぇ理由がないだろ」

 

 

ごもっともな事を言われていた。最初は乱暴そうな人だと思ってたけど良い人なのかな?

 

 

そんな感じで僕たちは何か壊せそうな物を探して街をふらふらとしていた。そんな時一軒の廃屋の前でいかにも困ってそうなご老人を見つけて声をかけていた。

 

 

「おう、どうしたんだじーさん」

 

「実はのぉ、、」

 

「ふむ」

 

 

聞くとこの廃屋はおじいさんの実家らしく中古で売ろうにも古すぎて買い手が見つからず処分に困っているとの事。壊すのにもお金がかかるし所持していればお金がかかるしとまさに負動産。

 

 

「よっしゃ、オイラに任せな!解体後の手続きとか知ってるんだよな?」

 

「それが何も知らなくて、、」

 

「建物滅失登記ってのがあるんだ。それを解体後にしておかないと解体した建物の税金をいつまでも支払わなくちゃならなくなるんだ。教会に行けばやってもらえるから早く行きな」

 

 

建物滅失登記?何の話かよくわからないけど大事な話なのだろう。感心しながらピナーカさんの話を聞いているとおじいさんが嬉しそうに教会へと歩んでゆく。

 

 

「って訳だ。コウにもぶっ壊すのを手伝わせてやるよ」

 

「あざっす!」

 

 

そんな訳で解体作業を体験する事に。

 

 

「本来なら長袖長ズボンヘルメットに手袋安全靴がいるんだが今回は無しだ。そんなめんどくさい物オイラは嫌いだからな。だが、近隣への配慮と安全は何よりも優先しろ。分かったな」

 

「はい!」

 

「良い返事だ、まずは屋根に登り瓦の撤去だ」

 

「瓦ですか?一緒に解体しないんです?」

 

「まず解体の基本として物は分別する。この家は木造だから大きく二つに分けられる。なんだと思う?」

 

「えっと、燃える物と燃えない物です?」

 

「そうだ。そこから細かい分類があるんだが可燃ゴミと不燃ゴミを分ける事により処理費用が安く済む。混載だと手間賃が多く取られるからな」

 

 

ピナーカさんの話を感心しながら聞いていた。これを見ている人はピナーカさんの話を見に来たのに突然解体のうんちくを語られて困惑していると思うけどこれを書いている僕自身が一番困惑しているのだ。そんな訳でこの話にしばしお付き合い下さい。

 

 

「その中でも瓦が一番厄介なんだ。瓦ってのは粘土の焼き物で自然に分解させる事はまず無いしリサイクルできる方法もあるにはあるんだが数はすくねぇ、引き取ってもらう業者を探すんだがここでは省く。とにかく、瓦は別にして置いておく必要があるんだ」

 

「分かりました!それでどうやって屋根まで行くんです?」

 

 

おじいさんの実家は平屋建ての建物なのだが屋根までは高く何か道具が無ければ屋根の上に登る事はできないだろう。

 

 

「オイラに任せときな。しっかり掴まってるんだぞ」

 

 

ピナーカさんに言われた通りに差し出された手を握ると僕を抱き寄せ何をするのかと思ったらそのまま屋根の上まで飛び上がってくれた。

 

 

「よしっ、この瓦は素焼きのままだから滑りにくいが足元には十分に気をつけるんだぞ」

 

「素焼きの瓦です?」

 

「分かりやすく言えば塗料が塗られていない瓦って事だ。あの家の瓦を見てみな」

 

 

ピナーカさんが指差す方の屋根を見ると青色の瓦が。

 

 

「あの瓦は陶器瓦って言うんだ。陶器と同じように焼く前に色を入れてある。あの瓦が滑るんだよな」

 

「ふむふむ」

 

「とりあえずコウは平場の瓦をめくってくれ。オイラは棟を壊してくっからよ」

 

「はい!瓦ってどうやったら捲れるんです?」

 

「仕方ねぇな、瓦は言っちまえば重なっているだけなんだ。だからこの側面に指をかければ持ち上げる。持ち上げたらグッと掴んで手前に引くんだ」

 

 

そう言って一枚の瓦を引き抜いていた。

 

 

「一枚抜いてしまえば後はそこから捲っていけ。めくった瓦は一枚は反対向きに置いてその上に重ねて置く。分かったな?」

 

「はい!」

 

 

その後ピナーカさんに教えて貰った通りに瓦をめくってゆく。なんだかこうやって作業をしているとだんだんと楽しくなってくる。

 

 

「ピナーカさん、瓦の下にあるのはなんですか?」

 

「あぁ?それは土だ」

 

「土?なんで屋根の上に土があるんです?」

 

「こういう屋根は土葺きって言うんだがドロを置いてその上に瓦を置く工法だ。なぜドロの上に置くか分かるか?」

 

「いえ、わかりません」

 

「さっきも言ったが瓦ってのは置いてあるだけなんだ。だからどうしても隙間ができそこから雨が入る。だが入った雨はドロが吸うから雨漏りはしないってわけだ」

 

「ふむふむ」

 

「これを見な」

 

 

ピナーカさんに言われて屋根の中心部に組み上げられた棟を見てみる事に。積み上げられた瓦の山なのだけど。

 

 

「この棟が一番雨にあたり雨漏りしやすい場所なんだが見て分かる通りドロが濡れていない。腕の良い職人がこの屋根をやったって訳だ」

 

 

棟を組む時に隙間を気にして勾配を取りながら組めば雨は入らないとの事。今の棟はドロではなく別の建材で組まれているらしい。

 

 

まぁそんな感じで瓦を外してドロを土納袋に詰め込み下に放り投げて屋根の解体は終わった。後二千文字は屋根の話で引っ張ろうと思ったのだけど流石にまずいと懸念の声が上がりこの家の解体は終わった。

 

 

さっきまで建っていた家が跡形も無くなり更地となっている光景はなんだか心の奥底に寂しいって気持ちが湧いてくる。

 

 

それでもおじいさんは僕たちに感謝をしてくれてピナーカさんは満足気だからこの感情は僕だけなのだろう。

 

 

「さーって、貰った廃材で焚き火でもしようぜ」

 

「良いですけどどこでやるんです?」

 

「あーあっちの山だ」

 

 

建物の中で一番太くて大きな木の柱を持ちながら歩いてゆくピナーカさんの背後をついて行く。こんな柱でどうやって焚き火をするつもりなのだろうか?

 

 

そんな疑問を抱きながら歩いてゆくと町外れの公園の前へと差し掛かりそこで何かをしている子供達の姿が見えた。

 

 

よく見ると子供たちはサッサーをしているようで四人でボールを追いかけ楽しそうな歓声が聞こえてくる。そんな中ひとりの子供は上手くみんなについて行けずにいた。それでも懸命にボールを取ろうとしているのだが力及ばず他の3人と差が開いてゆきボールを取ることはできずにいた。

 

 

そんな四人を見ているとサッカーに飽きたのか他の3人は他の遊びをしていた。だけどその子はひとりボールを追いかけている。それは3人が帰って行っても続いている。

 

 

「なぁお前」

 

 

その子に見かねてピナーカさんが声をかけていた。突然声をかけられてビクッとし恐る恐るその方を見ると柱を持ったピナーカさんが立っているのだ。

 

 

「・・・・僕お金なんて持ってないです」

 

 

この反応をされるのは当然かもしれない。

 

 

「バカかお前は、オイラはそんな事しねぇって。それよりサッカー好きなのか」

 

「・・・は、はい」

 

「声が小さい!好きな事ならもっと堂々と言え!」

 

「あのピナーカさん?その柱を置いたらどうですか?」

 

「あぁ?そうだなわりぃわりぃ。そんな事よりお前はサッカーが上手くなりたいんだよな」

 

 

柱を置き話すのだが未だに困惑している子供に助け舟を送ると話を始めてくれた。サッカーは好きだけど上手くプレイができずに練習をしているのだが全く他の子に追い付けずもうやめようかと思っていたようで。

 

 

「ならオイラ達が練習に付き合ってやるよ。文句はないな」

 

 

そんな訳で子供とサッカーをする事に。僕とその子がプレイするのをピナーカさんが見てアドバイスをくれるようで。

 

 

「オラオラオラオラー!もっとボールをと相手を見ろ!本当に頭付いてんのか!?」

 

 

僕が蹴るボールを取ろうとする子にピナーカさんの激が飛ぶ。熱血的な言葉に最初はビビっていた子も熱されて果敢にボールを取ろうと脚を伸ばす。

 

 

「気合いと根性見せろ!執念でボールにかじりつけ!」

 

「はいっ!!」

 

 

最初は乱暴者だと思っていたけどピナーカさんは情熱的で良い姉貴分の人だと思う。そんな事を考えていたらボールを取られ次にドヤされるのは僕の番だった。

 

 

「何してんだコウ!そんなんじゃ奏官になんてなれねーぞ!」

 

「はい!!」

 

 

気が付けば夢中になり日が暮れそうになるまでその子にとサッカーを楽しんでいた。

 

 

「ありがとうございました!」

 

「良いって事よ。次はアイツらを見返してやるんだぞ」

 

「はいっ!」

 

 

去ってゆく子供を見送り目的地である小さな山へと僕達は来ていた。

 

 

「こんな大きな柱をどうやって焚き火にするんです?」

 

「見てなって」

 

 

担いでいた柱を地面へと捻り込んでゆくピナーカさん。しばらく見ていると柱が地面から生えていた。

 

 

「さぁ燃やそうぜ!焚き火は大きくしなくっちゃな!」

 

 

それから辺りから枯れ木を拾い集めて柱の周りにくべてゆくとキャンプファイヤーの土台のようになっていた。後は火をつけるだけである。

 

 

「点火だ!」

 

 

落ち葉に火を付け土台へと焼べると一気に火に包まれ辺りを明るく照らし熱気が伝わってくる。

 

 

「焼べるの上手ですね。何かコツがあるんです?」

 

「木と木の間をちゃんと作るんだよ。そうすれば空気が入って燃えやすくなるんだ」

 

 

見ている間にも火は広がり柱の先まで完全に包まれていた。見事な光景である。そんな時山の間を抜ける強い風が吹きさらに燃え上がった。

 

 

パチパチと音を立て燃える土台。炎の力強さと暖かさを感じていると火がついた破片が山へと爆ぜ飛んでゆく。

 

 

「やべっ」

 

 

ピナーカさんが消そうとしたがもう遅く枯れ木や枯れ草に延焼しあっという間に山を炎が包み込んでゆく。その様子を僕達は立ちすくんで見ていた。

 

 

「これって結構ヤバめじゃないです?」

 

「だいぶやべえな。でもオイラに任せときなって」

 

 

何処からともなく矢と弓を取り出すとごうごうと燃える山に向かい弓を構え弦を引き絞る。その姿を見ていると何を任せれば良いのか不安になってしまうのだが。

 

 

「いっけぇぇ!!」

 

 

ピナーカさんが繰り出した矢は風を纏い山を貫き飛んでいった。するとさっきまで燃えていたのが嘘のように火が消えていた。

 

 

「おぉぉぉ!?今何したんですか!?」

 

「山の空気を全部矢で飛ばしたのさ。空気が無ければ火は燃えられないからな」

 

 

豪快に笑うピナーカさんを見た後木々が炭になってしまっている山へと視線を向け直ぐにピナーカさんへと戻していた。まぁ焼畑農業って言葉があるからなんとかなるだろう。

 

 

「ほんじゃ帰るか」

 

「はいっ!」

 

 

一通り火が消えた事を確認してから下山し家へと帰る事に。なんだかよく分からないけど楽しい一日だった。

 

 

「ありがとうございました!」

 

「おぅ!またな」

 

 

ピナーカさんと別れて家へと帰りサッとシャワーを浴びて机に座っていた。

 

 

なになに?明日はアポロンというキル姫のようだ。

 

 

それだけ見てからベッドへと潜り込み目を閉じることに。おやすみなさい。

 

 

 

 

 



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25ページ目、アポロン

アポロン。それはアルテミスと対極するキル姫。アルテミスが月の女神ならアポロンは太陽の女神。アルテミスが姉ならアポロンは妹。

 

 

そんな事を考えながらまだ眠っているアポロンを抱きしめていた。どうもおひさしぶり♪キル姫日記のヒロインことクレアだよ♪

 

 

まーたお前かって?教会の受付のマリアさんに頼んでアルテミス、アポロン、ファルカスの話は私の担当にしてもらってあるんだ♪なので今回とフォルカスはよろしくね♪

 

 

話は戻るのだけどアポロンは太陽の女神。なので冬場はカイロ代わりに抱きしめて寝るとあったかいんだよ。夏はちょっとアレだけど、、。

 

 

そんな訳でアポロンを起こして今日の任務を貰いに教会へとゆく事に。

 

 

「おはよマスター!」

 

「おはよ、って起きてたの?」

 

「うん!アポロン様は太陽が昇るとともに起きるのだ♪」

 

 

朝からハイテンションなアポロン。因みに太陽が沈みかけると眠くなり夕飯を食べる時は食べながらうとうとしているのだ。

 

 

「それで今日は何処に行くの?今日はおねーちゃんとじゃなくてマスターと一緒に居てあげる♪」

 

「ん」

 

 

シスコン気味なアポロンからのお誘いに返事に困ってしまった。なんて言っても「おねーちゃんと一緒がいい!」と言われる事を覚悟していたのだけどこうもあっさりと、むしろ自分から進んで行こうと言われるとなんと言えば良いのか言葉が迷子になる。

 

 

「えっと、とりあえず教会に行こっか♪」

 

「はーい♪」

 

 

そんな訳で未だパジャマな私は普段着に着替えて2人に挨拶をして家を出る事に。

 

 

「おでかけおでかけ♪るんるんるーん♪」

 

 

いつも以上にハイテンションなアポロンを見ながら歩く。はっ!まさか何か欲しい物があるとか?

 

 

「何か欲しい物があるの?高い物はまだちょっと無理だけど普段頑張ってくれてるから買っちゃうよ♪」

 

「え?あ、いや。最近ずっとお家に居たから外に出れるのが嬉しいんだ♪」

 

「なるほど」

 

 

奏官の主な仕事は異族退治なのだけどユウさんのティルフィングさんが異族を刈り倒し最近任務が無くお家に引き篭もり気味だったのを思い出した。外に出ればお金はかかるし節約って事もあったのだけど、、。こう思うと2人にも窮屈な思いをさせているかもしれない。今度4人で何処かへ遊びに行こう。

 

 

そんな事を思っている間に教会へと辿り着きいつもの受付の人、マリアさんに話しかけていた。

 

 

「おはよーございます♪せっかく来てくれたのですが任務はまだ無いのです、、」

 

「それならクレアさんにこれをお願いしてもよろしいですか?」

 

 

マリアさんの背後から顔を出してくれたのはシャルウル。彼女はキル姫なのだけどマリアさんの手伝いをしているそうで。片眼鏡から覗かせる目から大人の色気を感じさせる。

 

 

「はい!私達に出来る事なら何でもしますよ♪」

 

「はい、ではこちらをお願いしますね」

 

 

優しく微笑むシャルウルさんからドキドキしながら紙を貰う。もしかしたら私は大人っぽい女性に弱いかもしれない。そんな事を思いながら。

 

 

「あっ、そうだ。ティルフィングさんからこれを預かってますよ♪」

 

 

マリアさんから受け取ったのは通帳と印鑑。そういえば前に任務報酬をくれるってティルフィングさんが言っていたのを思い出しながら受け取り何気なく通帳を開き目を丸くしてその場に固まった。

 

 

「マスター?どーしたの?」

 

「・・・・コレ、ミテ」

 

 

カタコトだなーと言いながら震える手で待つ通帳をアポロンが覗き込み私同様固まっていた。

 

 

「うわーーーい!お金持ち!お金持ち♪」

 

 

しかし未だ固まる私より先に喜びを爆発させていた。因みにだけどこの通帳に記載されているゼニーの数は九桁を指している。普段自販機でジュースを買うのも悩み悩みな生活をしている私にとってイビルドレイクが誓約されし絶蝶の氷剣をくらう。になっていた。

 

 

「アポロン!これは罠だよ!こうやって大金を手にさせて自堕落な生活をさせ私達を陥れる罠だよ!、、、分かった。私買われたんだ。今日帰ったら二人に連れて行かれてあんな事やこんな事を、さらには・・・」

 

「考えすぎじゃない?ねぇねぇ!新しいお家買おうよ♪」

 

「お家!!」

 

 

そうだ。このお金があれば現在のボロ小屋からおさらばして家を買う事ができる!全額使って家を買えばその後の為に働くし良いアイディアだ。

 

 

「もし家を買うのであれば場所を教えてもらえれば押さえておきますけど。ここなんてどうでしょう?」

 

 

シャルウルさんから渡されたパンフレットを食い入る様に見ていた。私達は4人だからある程度の大きさが欲しいし各自の部屋も合った方が良いだろう。それなら2階は部屋にして一階は・・・・。

 

 

「・・・ちゃん?クレアちゃーん」

 

「えっ、あっはい?」

 

「想像を膨らませるのは良い事ですけど先にシャルウルからの任務をこなして貰えませんか?」

 

「・・・はい!」

 

 

急な事に想像と妄想が膨らみすぎていた私はやっと現実へと戻ってきた。そうだ。家の事よりも今日は私の相棒と過ごす日なんだ。

 

 

「ごめんねアポロン。じゃあ行ってきます♪」

 

 

通帳と印鑑をシャルウルに預かってもらい教会のある街をアポロンと歩く事に。

 

 

 

「ねぇねぇ。その紙には何て書いてあるのー?」

 

「えっと、待っててね」

 

 

紙を開くとアポロンの演奏を楽しむ事。ハープとギターでのセッション。それと雪雲をどうにかしてくれと書かれていた。

 

 

 

「ねぇ、アポロンって雪雲を何とかする事はできるの?」

 

「うーんっと、、ちょっと厳しいけどお日様パワーを送っておくね♪」

 

 

との事です。本当に案を下さりありがたいのですがこんな事しかできなくてごめんなさい。早く暖かくなる事を祈っています。

 

 

そんな訳でアポロンと街を散策して楽器屋さんへと来ていた。調べたところアポロンの持つ楽器はハープだと思っていたのだけどリラ(竪琴)らしい。衝撃の事実である。因みに見た目は似ているのだけど全然違う楽器またい。

 

 

さらに話をするとアポロンとアルテミスになぜマルチスキルが無いのか。あんまり一緒にいるイメージが無いと聞くけど神話での話を考えると今の様子が一番適していると思う。アルテミスが好きなオリオンをアルテミスを騙してアルテミスにオリオンを打たせるとか正気の沙汰では無い。一方的にアポロンがおねーちゃーんって言っているのが適した状態であると私は思う。

 

 

今作ではそんな神話や原作の事は置いておいて仲の良い姉妹として書くのでそこのところをよろしくお願いします。

 

 

「アポロンって演奏できるの?」

 

「もちろん♪おじさーんこのリラ借りるねー」

 

 

リラって何だ?売り物を勝手に借りて良いのか?と疑問が渋滞していたのだけど小さな椅子にちょこんと座りリラを演奏する姿にそんな事はどうでも良くなっていた。

 

 

目を閉じて右手と左手で弦をなぞるように音を奏でるアポロンをひたすらに見入り聞き落ちてゆく。

 

 

「へへーん♪ねぇねぇ、ボクの演奏どうだった?」

 

「ブラボーの一言でございまする」

 

 

拍手をしながら立ち上がりスタンディングオベーションをしていた。因みに私だけでなく楽器屋の亭主と僅かに居たお客さんも。

 

 

「ねぇねぇアンコールお願い♪」

 

「しょうがないなぁー」

 

 

アンコールに答えて再びアポロンが椅子に座りリラへと手を伸ばしてゆく。太陽のように赤い髪に幼い見た目なのだが演奏する姿は優雅の一言。たった一人で演奏をしているのにこの場にいる人達の心を掴んでしまっている。

 

 

もちろん演奏が終わればスタンディングオベーションだ。

 

 

「マスターもどう?一緒にする?」

 

「私はちょっと楽器は無理かも、、やった事ないし」

 

 

遠慮気味に答えるのだが亭主に奏官とは指揮者のごとくキル姫を操る事ができるから大丈夫と言われ木製のギターを渡されアポロンの隣へと座っていた。

 

 

「じゃあボクとセッションしようよ♪ボクがリードするから音を合わせてね♪」

 

 

驚く間も無くリラから金属的な音が響き慌てながらギターを弾いてみる事に。

 

 

(あれ?)

 

 

不思議な感覚。本当にやった事が無くて持ち方も弾き方も正しいのか分からないけどアポロンの奏でる音に続き私のギターから音が奏でられる。なんていえば良いのだろう?こんな素敵な音を自分が奏でられるって感動?

 

 

アポロンの奏でる金属的な音と対極するギターから奏でられる柔らかな音。素敵、素敵すぎる!

 

 

気が付けば私も目を瞑り右手左手で音を鳴らし気が付けば即席の歌を口ずさんでいた。

 

 

そして演奏が終わると同時に起きた小さいながらの歓声は私の心の何かを刺激した。

 

 

「おじさん!このギターとリラ、買います!」

 

 

即決だった。そう言われるのが分かっていたかのように金額を示され若干現実へと戻ったけどそれを押し切って購入し店の外に出た瞬間の清々しさ!

 

 

「帰っておねーちゃん達にも聞かせてあげようよ♪」

 

「そうだね♪じゃあ帰ろっか♪」

 

 

帰りに教会に寄って通帳と印鑑を取りに行って無事にお家へと帰って来ていた。

 

 

「じゃーん♪ただいまー♪」

 

「見てみておねーちゃーん♪」

 

 

笑顔で二人に楽器を見せるのだけど返ってきたのは冷ややかな目線だった。

 

 

「マスター。趣味を持たれるのは構いませんが家を買う為に貯金をしているのをお忘れですか」

 

「アルテミスの言うとおりです。異族討伐の任務が無い今無駄なお金を使っている場合ではありません」

 

 

そんな二人に黄門の様に通帳を見せるとメダルメイデンが強欲の月閃を喰らった様な顔をしていた。

 

 

「すぐに身を清めて下さい!」

 

「えっ、なんで!?」

 

「生活の為に身を売っていたのですね、、それに気づかず申し訳ありません・・・」

 

「ちょっと、泣かないでよ!?えっ?ええっ!?」

 

 

その後アポロンと二人で今日会った事を話して何とか誤解を解くのであった。

 

 

「てっきり生活に困り春を売ったのかと」

 

「私ってそんな印象持たれる様な事した?した覚えは無いんだけど」

 

「まぁまぁ♪こんな時はボクが一曲弾いてあげるね♪」

 

 

そんな場を鎮めるのはアポロン。買ってきたばかりのリラを片手に椅子に座り音を弾いてゆく。

 

 

(ーーー♪ーーーー♪)

 

 

さらに弾き語る大サービスだ。なにこの子、楽器が使えて歌えるの?

 

 

「ふふーん♪ご清聴ありがとうございました♪」

 

 

ぺこりと頭を下げるアポロンに拍手の喝采を送り続けていた。

 

 

「じゃあご飯でも食べに行こっか♪みんなお腹すいたでしょー?」

 

 

そんな訳で私達は家の近所にある牛丼屋へときていた。そこでシャルウルからもらったパンフレットを広げて壮大な議論が行われてゆく。

 

 

「お風呂は大きいのが良いな。それとリビングは広く」

 

「キッチンも大きくしましょう。それと各自の部屋もゆとりが欲しいですね」

 

「お庭も欲しいな。おおーきな滑り台にブランコ♪」

 

「私が風水で間取りを占います。北に玄関を作るのは絶対にダメです」

 

 

 

あーだこーだと意見を取り交わしている私達に無言のプレッシャーをかける店員さんに押され我に帰り無言で牛丼を食してゆく。

 

 

そして帰宅してから再び議論が繰り広げられるのだ。部屋だのリビングだのトイレだのありとあらゆる声が飛ぶ中今の家を見渡す。オンボロでキッチンと寝室しかないこんな家だけど一つだけこの家の良いところがある。

 

 

「ねぇねぇ、二階に部屋は作るけど寝る時はみんなで寝ようよ。ほら川の字で寝るのって寂しくないし私好きかも」

 

 

部屋が少ないという事はみんな一緒に居れるって事。部隊として絆を深めるには良いと思うし同じ家に居るとしても別の部屋はちょっと寂しい。

 

 

「それなら布団にしますか?ベットにしますか?」

 

「それならば頭の位置が北西に向く様にしましょう。北枕は一般的に良くないと言われていますが気の流れを取り入れるには適した向きなのです」

 

 

 

二人に言われた事をメモに取りながら見るとアポロンがアルテミスに寄りかかり眠っていた。今回の主役であるはずのアポロンがこんな扱いで許されるのだろうか?

 

 

「そろそろ私達も眠りましょうか。今日は任務が無かったとはいえ明日は任務があるかもしれません」

 

 

アポロンを抱き上げそっと藁の上に置き優しくアポロンの頭を撫でているアルテミスを見ながら寝転がる事に。

 

 

抱き枕を取られた私はフォルカスに抱きついて眠る事に。

 

 

「フォルカスって体温低いよね。ちょっと冷たい」

 

「属性が氷ですからね。明日に備えて寝ますよ」

 

「はーい」

 

 

 

じんわりと暖かくなってきたフォルカスに満足しながら眠りへと落ちてゆく。

 

 

 

 

 

 

 



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26ページ目、エロース

エロースとはローマ神話に出てくる神の事である。エロースの事を調べるまで女神だと思っていたのだがいざ調べて出てきたのが羽根を生やした男の彫刻で少しがっかりしたのは内緒だ。

 

 

もう少し調べると恋心と性愛を司る神の様でエロースが黄金の矢で射ると恋心が芽生え鉛の矢で射ると恋を嫌悪する様になるらしい。神話だとアポローンを矢で射ったりアフロディーテの子供で合ったりと聞いた事のある名前がちらほらと。さらには同人誌も書かれていたりと。これは前からお世話になっております。

 

 

そこまで調べて図鑑を閉じ窓から外を眺める事に。どうもお久しぶりです!キル姫日記の主人公ことコウです。最近もう一人のヒロインに出番を奪われて気味ですがしばらくは僕なのでよろしくお願いします。

 

 

ちなみにもう着替え終わり後はマリアさんが呼びに来てくれるのを待つばかりである。

 

 

「おはようございます♪元気でしたか?」

 

「おはようございます!僕はいつでも元気です」

 

「なら良かった♪教会の前の広場にエロースに待ってもらっているので会いに行ってきて下さい♪金髪で青色の服を着ていると思うのですぐ分かると思います♪」

 

「了解です!」

 

そんな訳でエロースさんを探すために教会の広場へと来ていた。金髪で青い服を着てる人、そんな人を探して広場を見渡して見るとベンチに座るその人を見つけ近寄ってゆく。

 

 

(あっ)

 

 

表情が分かるところまで近づいて僕は足を止めた。ベンチに座る金髪の人の可愛さに足を止めてしまったのだ。

 

 

金髪のボブヘアーに少し幼い可愛らしい顔立ちに溢れそうなおっぱいが、おっぱいが!溢れそうです!!

 

 

彼女いない歴=年齢の僕には刺激が強すぎるエロースさんに挙動不審となりその場に立ちすくみただ目の前の天使(エロース)を見ていた。

 

 

「えーっとー?コウ君ですかー?」

 

 

そんな僕にベンチから立ち上がりにっこりとした笑顔で話しかけてくれたのだが僕はパニックを起こし壊れた人形の様に首を縦にブンブンと振っていた。

 

 

もうだめだ。姿だけでなく声まで可愛い。これが地上世界より天上世界に舞い降りた天使か。そうだ、そうに違いない。などと意味不明な事を考えていた。

 

 

「今日はーエロースと一日よろしくお願いしますねー?」

 

「はいっ!全身全霊を込めて今日を楽しみたいと思います!」

 

 

天使が会いに来てくれたのなら楽しまないのは失礼とよく分からない考えの元最敬礼をエロースさんへと送っていた。そんな訳で敬礼をする僕に謎の拍手を送ってくれたエロースさんと共に近くにある喫茶店へ入る事に。

 

 

オープンテラスの席へと座りお洒落な朝食の時間を楽しんでゆく。

 

 

「それでーコウ君は恋愛ってした事ありますかー?」

 

「僕はした事ないんです。田舎育ちで周りの女の人と言えばお母さんか近所のおばさんしか居なかったですし」

 

「それは勿体無いです!じゃあ今日はーエロースと一緒に恋人を探しましょう♪まずはーコウ君はどんなタイプの女の子が好きですか?」

 

「タイプ、、一緒にいて頼りになる人が好き・・かな?」

 

「それならお母さんが好きなんですね♪じゃあー私がコウ君のお母さんとコウ君をくっ付けちゃいます♪」

 

「なんでやねん」

 

 

思わず突っ込んでしまったのだがエロースさんは気にする事なく僕の家へと行こうとしている。そんなエロースさんを説得して再び席へと。

 

 

「コウ君は恋人は欲しくないのですかー?」

 

「恋人は、、本音を言えば欲しいですけど今は奏官になる為に勉強中だし今は僕にはちょっと早いです」

 

「勿体無いですよー!そんな事言ってるといつの間にか歳をとって魔法使いになっちゃいますよー?」

 

「魔法使い、ですか?」

 

「はいー♪男の人は30を過ぎても童貞だと魔法使いになっちゃうんですよー♪」

 

 

魔法使いってなんだ?とそんな疑問をコーヒーで流し込み前を向くとキラキラと目を輝かせるエロースさんの姿が。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「恋のお悩みを抱えてる女の子を見つけたんです♪エロースの出番ですー♪」

 

 

手に持つミルクティーを飲みコップを机に置くとその方へと向かい歩いてゆく。突然の行動に慌てながらも僕もコーヒーを飲み干しエロースさんの後を追う。その後をついて行くと家の角から誰かを覗く女の子の姿が見えその手には手紙の様なものが握られておりため息を吐くたびに白い息が宙に舞う。

 

 

(はぁ、、っ)

 

「恋のお悩みですね♪エロースにお任せですよ♪」

 

「きゃっ!?だ、だれ!?」

 

「そんなに驚かないでくださいー♪恋のキューピットのエロースですよ♪」

 

 

驚く女の子に笑顔を向けているのだが向けられている視線は警戒心を宿し身を守るために胸を手で隠す。その時一枚の紙が手から落ち地面へ。それを素早く拾い上げ指で挟む。

 

 

「うんうん♪ラブレターだなんてそんなにその人の事が好きなんですね♪」

 

「ラブレターなんかじゃない!返して!」

 

「それなら封筒をハートのシールでとめませんよー?素直に言わないとこれは返してあげません♪恋のお悩みならエロースがバッチリサポートしてあげますからねー♪」

 

 

怒った表情の女の子に向かいウインクをしているのだが、その姿はとても可愛らしいのだが当事者の女の子からしたら不審者でしか無いだろう。とりあえず事情を説明し先ほどの喫茶店へと戻って行く。

 

 

「どうぞ」

 

 

机の上にはコーヒーとミルクティーとココアが並べられ先程より警戒心を解いた女の子にエロースさんが詰め寄ってゆく。

 

 

「それでー一体誰の事が好きなのですかー?」

 

「あの人、、」

 

 

控えめに指を指す方を見ると買い物をしている一人の男の人の姿が。見た感じこの子と同年齢ぐらいか。さらに話を聞いて行くとこの街に住んでいて彼とは幼馴染の様で。

 

 

「ずっと彼の事が好きで、でも私なんかじゃ彼とは釣り合わないし、、でも他の人にはとられたくない、、」

 

 

項垂れながら話す女の子を笑みを隠しながらエロースさんがなだめいる。僕はその男の子をずっと見ていた。

 

 

「このエロースにお任せですー♪絶対二人をくっつけてみせますからね♪」

 

 

そう言いながら弓に矢を乗せギリギリと引き絞り始めた。その矢は矢尻が金でできており伝承通りならこの矢で射抜かれれば恋に落ちるはずだ。

 

 

「その矢で彼を打つの、、、?」

 

「いいえ違います。恋のサポートの開始の合図、ロックオーン♪」

 

 

右手を離すと引き絞られた矢が空へと向かい放たれた。

 

 

その頃。

 

 

「うぅー絶・寒いわね」

 

「そんな薄着で来るからです。風邪をひいても知りませんからね」

 

 

千年王国からラグナ大陸へ遊びに来たアルマスとティニがクリスマスを迎える街を歩いていた。そこへ先ほどの矢が迫る。

 

 

「くっ!?何!?」

 

「ア、アルマス!?」

 

 

無警戒で歩くアルマスの肩を矢が掠め地に刺さる。一瞬にして臨戦体制となり剣を取るのだが矢を放った主は見当たらず。

 

 

「異族の仕業かも知れません。アルマス、妖精結合しましょう」

 

「・・・」

 

 

辺りを警戒しつつアルマスに問いかけるが返事が無く振り返ると目をハートにしたアルマスの姿が。

 

 

「私、ティニの事絶・好きだわ」

 

「アルマス、、、?今はそんな事を言っている場合じゃありませんよ!」

 

「異族の事なんてもうどうでも良い、行きましょティニ」

 

「行くって何処にですry」

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

「それで恋のサポートって何をするのです?」

 

「まずは彼の事を観察して情報を集めましょう♪」

 

 

そんな訳で3人で変装をして街を歩く男の子の後を付けて行く事に。変装といってもサングラスをかけ帽子を被っただけなのだが。

 

 

(それで、彼のどんなところが好きなのですかぁ?)

 

(えっと、優しくて料理が上手で気配りができて高学歴で将来安定してそうなとこ、かな?)

 

(良い彼ですねぇ〜♪甲斐性がある男の人を捕まえるのは基本ですからねぇ〜♪)

 

(えぇ、、、)

 

 

二人の会話をドン引きしながら聞いていた。そこに愛はあるのかと叫びたいのを抑えながら二人の後をついてゆく。

 

 

そんな感じで後をつけて行くと彼が一軒のお店へと入っていった。そのお店はアクセサリーなどを扱っているお店の様で。

 

 

(・・・・・・)

 

 

その様子を女の子が泣きそうな顔で見送っていた。

 

 

「コウ君はお店に行って彼の事を偵察して来てくださいね♪」

 

「はいっ!」

 

 

二人のそばを離れて店内へと入って行くとお洒落な空間と多数のカップルが店内の品物を見ている姿に何となく気まずさを感じながら先ほどの彼を探して行く。

 

 

(・・・!)

 

 

ショーケースの中にあるアクセサリーを見ている彼を見つけて何食わぬ顔で背後を通りショーケースを覗くとネックレスを見ている事がわかった。そのまま正面に向かうと難しい顔をしながら選んでいる。誰かに贈り物なのだろうか?

 

 

しばらく見ていると店員さんを呼んでその中の一つを選びレジへと向かっていった。それを見届けた後店を出て二人の元へ。

 

 

「あのお店でネックレスを買ってました。誰かにプレゼントでしょうか?今日はクリスマスですし」

 

 

そう言うと女の子にキっと睨まれエロースさんに空気を読んでください〜っ!っと言われたのだけど。

 

 

そのまま店の入り口が見える影から見ているとしばらくして大事そうにプレゼントを抱えた彼が出てきた。プレゼントの包装を見るとクリスマスプレゼントなのは間違いないだろう。

 

 

「あぁ、もうダメ、、、」

 

 

その光景を見てがっかりと膝から崩れた女の子をエロースさんが抱き止め立ち上がらせると両肩に手を置いた。

 

 

「諦めるのはまだ早いですぅ〜!恋の応援団長のエロースはまだ諦めてませんよ!」

 

 

キッと前を向き弓を持ち矢立から金の矢尻の矢を取り出すと弓に重ねギリギリと引き絞り始めた。

 

 

「エロースのこの矢で射れば始めて目にした人に恋に落ちますぅ〜!早く彼の前に!」

 

 

張り詰めた弦が音を立てるのだが女の子がエロースさんの手を掴み首を横に振った。

 

 

「まだもう少しだけ彼の後を付けてみる。もしダメだったらその力を借りるかも、、」

 

「そう言ってくれると思ってました〜♪」

 

 

にっこり笑顔のエロースさんと再び彼の後を付けて行くと次はケーキ屋さんへと入って行く。

 

 

「コウ君」

 

「はい!行ってきます!」

 

 

再び彼の後を追い店内へ。このお店にも多くのカップルがおりこの街の何処にこんなに居たのかと不思議にならながら彼の後ろをつけて行く。

 

 

(んっ)

 

 

そんな中一人で真剣な顔でケーキを見る彼を見つけた。その姿はショーケースに収められたケーキしか見ておらず反射している僕の事なんて気にもしていないだろう。ショートケーキ、チーズケーキ、モンブランにタルト。その他にも色々あるのだがそれらをじっと見つめている。

 

 

しばらくしてその中から一つを選び店員に注文をしていた。その姿を見て僕は店外へ。

 

 

「ケーキを買ってました!」

 

「完全にクリスマス、、あぁ、、絶対誰かに渡すんだ・・・」

 

 

この世の終わりの様な顔をする女の子を必死にエロースさんがなだめその間僕はケーキ屋さんを見ていた。するとケーキが入っているであろう箱を持ちお店から出てくる彼の姿が見えそのまま何処かへと歩んで行く。

 

 

「また何処かに行くみたいです」

 

「コウ君は追跡をお願いします〜私は女の子のケアをしているので〜」

 

 

返事をして再び彼の後を追って行くと次はチキン屋さんへ。その後を追って店内へと入って行く。

 

 

(うわっ)

 

 

入った店の中は人が溢れかえりなんとか店内に入れるほど。後ろを見ればまた人が訪れて店内に入るのを諦め外で待っていた。そんな中彼が何を買うのか後ろから見ている事に。

 

 

「あの、さっきからずっと俺の後を付けてませんか?」

 

「べ、別にそんな事ありませんよ!僕もクリスマスだからプレゼントがしたくて」

 

 

ついに彼から話しかけられてしまった。それもそうだろう同じ顔を三店舗連続で見ていれば。適当に誤魔化したのだが不審な目線が迫る。

 

 

「まぁ良いけど。」

 

 

そう言って前を向いたその姿にため息を一つ。顔がバレているのであればもう追跡は無理だろう。

 

 

そんな事を考えながら怪しまれない為にチキンを買う為に列に並び続けたった3ピースのチキンを買う為に二時間ほど時間を費やしやっと外へと出る事ができた。その頃にはすっかりと外は暗くなっておりイルミネーションに照らされる街を見ながらベンチに座る二人の元へ。

 

 

「ただいま戻りました。これ食べましょ」

 

 

顔を上げたところにチキンを手渡し寒空の下3人でチキンを食べる事に。

 

 

「ミカ」

 

 

そんな時誰かに声をかけられて振り返るとさっきの男の人が。付けられてた。自分の行いを忘れてそんな事を思っていたらベンチに座っていた女の子が立ち上がっていた。

 

 

「なによ、、さっさと女の子とクリスマスの夜を過ごしたら」

 

 

その声に苦笑いを浮かべた後女の子の元に駆け寄り跪き手を取った。

 

 

「ミカ、俺と付き合って下さい」

 

 

その言葉の後しんっと沈黙が訪れた後「はいっ」との声が聞こえ二人がイルミネーション輝く街へと消えてゆく。そして見えなくなりそうな時女の子が振り返り僕達に深々と頭を下げていた。

 

 

「やっぱり恋が実った瞬間っていつ見ても良いですねぇ〜♪」

 

 

満足そうにチキンを食べ終えたエロースさんがそう言っていた。

 

 

「そろそろ帰りましょうか〜あんまり外にいると体が冷えちゃいます〜」

 

「そうですね」

 

 

エロースさんと帰り道は同じで途中までいろんな事を話しながら帰路を歩んで行く。

 

 

「そ・れ・で。コウ君は恋人は欲しくないのですかぁ〜?」

 

「欲しいけど、、今はまだちょっと我慢します」

 

「ふふっ。じゃあ教会に着くまでエロースの手、握っても良いですよ♪」

 

 

無邪気な笑顔と共に差し出された手にかなり戸惑いながらそっと手を出すと暖かな手で握ってくれた。それだけなのに嬉し恥ずかしの感情が溢れ出し顔が熱くなり心臓の鼓動が早くなる。

 

 

「はい、ここまでですよ♪コウ君またね〜♪」

 

 

教会の前で手を解き僕に笑顔で手を振りながらエロースさんは夜に消えていった。それを見えなくなるまで見送り僕はお家に帰る事に。

 

 

それから握った手を水に付けないようにお風呂を済ませてから机に座り図鑑を広げてゆく。明日は与一というキル姫のようだ。そこまで調べてからベッドへ潜り込み眠る事に。

 

 

エロースさん可愛かったな。そんな事を考えているといつの間にか眠りの世界へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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27ページ目 与一

与一、それは那須与一(なすのよいち)の名前である。それがどうしたという話なのだがその人が扱う弓がキラーズとなっているはずなので与一を語る為には必須の名前であろう。もう少し話をすると平安時代の武将であり兄弟が十三人おり与一は下から3人目のようで。主なエピソードとして弓の練習をし過ぎて左右で腕の長さが変わってしまった、扇の的を射抜くという話がある。その話を見る限り弓の腕が達者なのだろう。

 

 

ファンキルでの話をすると初期から居るキル姫の一人で意外とキャラの種類が多くクリスマスや学園、コラボ衣装を着たりと人の目に付く機会が多いキル姫だ。もう少し話をすると学園衣装の与一の成長率が悪すぎて某所で(クソザコ与一ちゃん)と呼ばれていたり、海上編で(お漏らし与一)と呼ばれていたり。

 

 

後半が悪口みたいになってしまったが学園与一はLSが優秀で使う機会が多かった人もいるのでは無いでしょうか?

 

 

そこまで調べて図鑑を閉じて外を見ていた。武将の魂を引き継ぐキル姫与一。会うのが楽しみである。

 

 

「おはようございます。もう起きてますか?」

 

「おはようございますシャルウルさん!もう準備万端です!」

 

「それなら良かったです。まだ寝ていたり準備が出来ていなかったら破壊するところでした。それより今日は与一と会う日ですが」

 

「図鑑には目を通してあります」

 

「はい。与一はここで弓の稽古をしているので会いに行ってきて下さい」

 

 

シャルウルさんから地図をもらいお礼を言ってから与一さんを探しに行く事に。まだ少し早い時間なのだけど稽古をしているという事はアロンダイトさんの様に少し堅苦しいキル姫なのだろうか?そんな疑問を持ちながら地図を頼りに与一が居る草原へとやって来てた。

 

 

えっと、居た。草原で一人弓を持つ女の子。あれが与一さんであろう。挨拶をしようと思ったけど真剣な雰囲気で稽古をしているのでしばらく後ろから見ている事に。

 

 

その姿を見ていると弓を構え少し離れた所に木の台を置きその上にペットボトルを置き的にしているようだ。でも風が吹くと的のペットボトルが倒れてしまい風により転がってゆく。それを追いかけ台の上に置いた時見ていた僕と目が合った。

 

 

「ひゃぁぁぁぁ!!??」

 

 

悲鳴のような驚いた声が離れている僕にまではっきりと聞こえた。なんか悪い事をしてしまった気分になったのだがその場で与一さんに向かい頭を下げた。すると与一さんも僕に向かい頭を下げてくれてしばらくお互いが頭を下げ合っていた。

 

 

「えっと、与一さんですよね?」

 

「はい!シャルウルから聞いてます。コウ君ですよね?」

 

「はい!今日一日よろしくお願いします!」

 

「ははははいっ!不束者ですがどうかよろしくお願いします、、、」

 

 

何処となく自信なさげに弱々しく話す与一さん。さてさてどうしたものか。

 

 

「あ〜の〜コウ君に一つお願いがあるのですが、、、」

 

「はい、どうしました?」

 

「与一は弓の稽古をしているのですが的が風に飛ばされてしまうのですこーしだけ抑えててもらってもよろしいでしょうか・・・?」

 

「えっと、的をですよね?」

 

「はい、的です」

 

 

話をまとめると的が動くから僕に抑えていて欲しいとの事。この与一ぶっ飛んだ発想をしている。

 

 

「あのーちょっと怖いんですけど、、、」

 

「それなら大丈夫です!この与一日々の鍛錬を積んでいますので弓矢の扱いには自信があります!」

 

 

そう自信満々に言う姿はとても可愛く、キル姫とは一種類の武器しか使えないがその種の武器の扱いには長けていると信じて台に隠れながら的を抑える事に。

 

 

「いきますよ〜!」

 

「はーい!」

 

 

目を瞑ると南無八幡大菩薩と聞こえその後しなる弓から矢が放たれ風を切る音が。その後目を開けると僕が抑えているペットボトルの蓋の部分が消し飛んでいた。

 

 

ちなみにだけど南無八幡大菩薩とはピンチの時に唱える呪文?なのだけど。

 

 

「ふぅ〜ちょーっと緊張しちゃいましたけど上手く当てれて良かったです」

 

 

本当に大丈夫だったのだろうか?不安になり身体中を手で触っても痛みも無いし傷も無いので良いとしよう。そして与一さんの方を見ると何かを求めるような視線を僕に向けている事に気づいた。

 

 

「凄いです!さすが与一さん!よっ!日本一!」

 

「いや〜毎日稽古に励んでいるおかげっていうか日々の鍛錬は身を結ぶって言うか〜♪そんなに褒められちゃうと照れちゃいます〜♪」

 

 

口ではそう言っているけど身をよじらせながら照れに照れている。うん、可愛い。

 

 

「じゃあコウ君にもう少しだけ褒め・・日々の鍛錬の成果を見てもらいます!」

 

 

本音が少し漏れていたけど聞かなかった事に。そして鍛錬の成果を見せてもらう事に。

 

 

「お願いします!」

 

「いきますよ!」

 

 

与一さんの合図の元空に向かい一つの扇を投げた。その扇は風に舞いながらひらひらと不規則に落ちてゆく。そこに与一さんが一本の矢を放った。

 

 

「どうでしょうか?」

 

 

拾い上げた扇を見ると真ん中にある赤い丸の中心に穴が空いていた。与一さんは不規則に動く扇のど真ん中を正確に撃ち抜いていたのだ。

 

 

「流石与一さん!よっ!ラグナ大陸一の弓使い!」

 

「〜〜〜〜〜♪」

 

 

褒められて赤くなった顔を手で隠しながら体をくねくねとさせていた。これだけ喜んでもらえると褒め甲斐を感じる。って言うか僕最初にペットボトルを抑える必要無かったよね?

 

 

 

ここまでで与一さんの事をまとめるとちょっと自信が無さげだけどその実力は本物でしっかりと弓の名手那須与一の魂を引き継いでいるのと鍛錬の成果を誉めるととても喜ぶといったところかな?

 

 

そんな訳で僕達はお腹も空いたので近くにある村へと行きその村で見つけた食堂で朝食兼昼食を食べる事に。

 

 

「おいひ〜です♪あっ食べながら喋るなんてはしたなかったです、、」

 

「可愛いねぇ、ほらシャケの塩焼きお食べ」

 

「お煎餅もあげるよ」

 

「良いのですか〜!?いただきますぅ♪」

 

 

与一さんが頼んだおにぎりを頬張りながら嬉しそうにしていてそれを見た村のおじいちゃんやおばあちゃんがおかずを与一さんにあげたりお菓子をあげたりとまるで遊びに来た孫のように接している。きっとこのおじいちゃんおばあちゃんは与一さんから放たれる末っ子オーラを感じ取っているのだろう。ついつい甘やかしたくなるこの末っ子オーラを。

 

 

「ところで与一ちゃんはキル姫だよね?」

 

「はい!与一は那須与一の魂を引き継ぐキル姫です!」

 

「おや、じゃあ弓の腕には自信があるんだね?」

 

「そりゃもう那須与一には及ばないかも知れませんが日々鍛錬をしているのでそれなりには自信はありますよ!」

 

「それは良かった。ところで与一ちゃん達に一つ頼みがあるんだけども」

 

「はい!与一達にできる事ならなんでも言ってください!」

 

「それは良かった。なら頼もうかな」

 

 

そう言ってニヤリと笑うおじさんを僕は見逃さなかった。嫌な予感がするけど与一さんがここまで乗せられて返事をしている以上その頼みを受けるしか無いのだけども。

 

 

「うぇぇぇぇーん!コウ君ごめんなさーい!!怒ってます?怒ってますよね?怒らないでくださーい!」

 

「大丈夫ですよ。僕は気にしていませんから」

 

 

しばらくして僕達は村の近くにある山を登っていた。何故ならおじさんに頼まれた任務を遂行するためなのだけど。

 

 

あの時おじさんに言われたのは村に出るイノシシを駆除してくれとの任務だった。その任務を聞いた途端に笑顔だった与一さんの顔は見る々青ざめ半べそをかきながら僕に助けを求める視線を向けていたのだが僕が無言で頷くとがっくりと項垂れてしまっていたのだ。

 

 

「与一さんの日々の鍛錬の成果を見せる時ですよ!」

 

「そうなんですけど、、すこーし与一には荷が重いと言うか、、なんというか・・・だってイノシシですよ!?与一よりもずっと大きいし速そうだし、、あの牙にやられたら絶対痛いです!」

 

「与一さんはキル姫だから痛いで済むかもしれないですけど僕がくらったら死んじゃいますよ、、、」

 

「あぁーっ!!そ、そそそ、そうですよね!どうしよう、どうしよう!そうだ!こんな時は、ええっと、、ええっと、、、!南無八幡大菩薩、、南無八幡大菩薩・・・!」

 

 

ぶつぶつと頭を抱えながら念仏を唱える与一さん。もし知らない人がこの姿を見たら不安しか感じないだろうけど僕はさっき与一の弓の腕を見せてもらったので不安は少ししか感じなかった。きっと与一なら上手くやってくれると信じているのだ。

 

 

「とりあえず任務をまとめましょう。任務はこの山にある三匹のイノシシの討伐とその中の一匹を村に持ち帰る事です。大丈夫ですか?」

 

「ひゃっ、ひゃい!」

 

 

噛みながら返事をしてくれる姿には不安しか感じない。だけど与一さんの弓の腕を信じて山道を進んでゆく。そう言う僕は農村出身なのでイノシシ狩りは何度も体験しているので多少の知識があり山道を進みながらイノシシの痕跡を探していた。

 

 

「与一さん。この辺りにイノシシがいるはずです」

 

「えっ、、どうして分かるのですか〜?」

 

「あそこを見て下さい。あの地面が掘り返された跡。あれはイノシシが餌を探す為に掘った跡です。それにまだ土が乾いてません」

 

「ならこの近くにイノシシが、、、」

 

「気を引き締めましょう」

 

 

イノシシ狩りとは異族相手よりも身の危険は少ないかもしれないけどそれでも年間に何人も命を落としている。相手は野生動物、もしかしたら異族を相手にするよりも厄介なのかも知れない。だけどキル姫である与一さんが居てくれるから不安は無い。それでも油断はできないのだけども。

 

 

季節は冬。雪こそ降ってはいないけど木々や草は枯れて落ち葉や枯れ草が視界を茶色く染める。イノシシの体毛は茶色く保護色となりイノシシを見付けるのは困難であろう。

 

 

「この感じ、、。空気が緊張でピリピリするのを感じます」

 

 

振り返り与一さんの顔を見るとさっきまでの迷いは消えて張り詰めた顔をしている。その目に迷いは無い。

 

 

「そこですっ!」

 

 

何かに向かい矢を放つとその矢は一本の木の根へと飛んでゆき何かに突き刺さった。

 

 

「ブヒィ!!!」

 

「ひぃっ!ごめんなさいごめんなさいっ!!」

 

 

与一さんの放った矢は落ち葉に紛れ身を隠していたイノシシの眉間を貫き絶叫の悲鳴を上げた後イノシシは動かなくなっていた。

 

 

「やった、、与一やりました!」

 

「流石与一さん!後二匹ですよ!」

 

 

保護色で完全に枯葉に同化していたイノシシを見つけ出し正確に急所である眉間を撃ち抜いた与一さんの観察力と弓の技術は流石の一言。これが本気の与一さんの実力。

 

 

「ふぅ、、、」

 

 

褒められても有頂天にならず深呼吸をしてコンディションを保つ与一さん。そして再び矢を放つと隠れるイノシシを撃ち抜いた。

 

 

「後一匹、、、!」

 

「落ち着いて行きましょう!与一さんならいけます!」

 

「はいっ!この与一にお任せ下さい!必ずや勝利を掴み取ってみせます!」

 

 

先ほどのおどおどした姿は消え今の与一さんの姿は勇敢なキル姫。そんな与一さんとイノシシを探して山道を歩んでゆく。そんな時僕達の目線はイノシシを見付けていた。

 

 

カッカッカッカッっと音を鳴らし後退りながら地面を掘る行動をとるイノシシは警戒心と敵意をこちらに向けている証拠だ。それに先ほどのイノシシに比べて発達した牙が顔を覆い隠す様に生えその牙には無数の傷がついているのが見える。きっと歴戦の猛者でありこの辺りのボスだろう。

 

 

「与一さん!」

 

「はいっ!南無八幡大菩薩!」

 

 

目にも止まらぬ速さで矢立から取り出した矢を放つ。その矢は真っ直ぐにイノシシ目掛け飛んでゆく。

 

 

「ブルアァ!!」

 

「「ひぃぃぃい!!!」」

 

 

与一さんの放った矢は確かにイノシシを捉えたのだが放たれた矢を牙で弾きこちらへと猪突猛進してきていた。

 

 

「与一さんっ!」

 

「無理ですぅ!これだけ近寄られたら矢を撃てませんっ!!」

 

 

一気に距離を詰められ与一さんの弓を封じられていた。このイノシシは弓使いが接近されると矢を放たなくなるのを知っているかの様に。僕達は悲鳴を上げながら山道を転がる様に逃げる事しかできなかった。

 

 

「与一さん!僕に弓を貸して下さい!あいつはきっと弓を持つ与一さんを狙ってます!」

 

「えええええぇぇぇーーーっ!でもそんな事したらコウ君がイノシシに襲われちゃいますよ!」

 

「このまま山を降れば村に降りてしまいます!そしたら村に被害が!早く!」

 

「分かりました!与一の弓をっ!」

 

 

横並びとなり走る与一さんから弓を貰いそのまま左へと走る。すると与一さんには目もくれず弓を持つ僕の後を追う様にイノシシが迫る。

 

 

「コウくーーーんっ!!」

 

 

無数に生える木々の間をすり抜けながらイノシシから逃げる。イノシシといえば真っ直ぐにしか走らない、一度走り出すと止まらないそんなイメージがあるかも知れないけどイノシシは急停止も急ターンも自由自在なのだ。そして100キロを超える体重で時速50キロのスピードで走る事ができる、その姿はまさに肉の戦車。人間である僕の走るスピードなどイノシシにとっては遅すぎる。すぐに距離を詰められてゆく。

 

 

「与一さんっ!!」

 

 

木々を抜け開けた場所にでた時手に持つ弓を与一さんに向かい放り投げた。その弓を目で追うイノシシは見た。僕が投げた弓を受け取り矢を構えイノシシに向かい標準を定める与一さんの姿を。

 

 

「この一撃で必ず、、、!南無八幡大菩薩っ!」

 

 

しゅんっと空を裂き飛ぶ矢は迷う事なくイノシシの眉間を撃ち抜き身悶えたイノシシはやがて地面へと伏した。

 

 

「・・・・・・やった、、与一やりました!与一やりましたよーー!!」

 

 

与一さんの歓喜の声が山中に響き渡る。

 

 

 

その後ニ匹のイノシシを埋葬した後一番小さなイノシシを村へと運んでゆくと村中から祝福を受けていた。

 

 

「本当にありがとうございます、このイノシシには農作物を荒らされ本当に困っていたのです」

 

「今夜は猪鍋にするので是非食べていってください」

 

 

そう言ってくれたので猪鍋ができるまで村で休憩を取る事に。

 

 

「流石です与一さん」

 

「あはは、、ありがとうございます、、」

 

 

与一さんと一緒に縁側に座りながら先ほどの健闘を褒めていた。でも与一さんの反応は少し控えめなものだった。

 

 

それから猪鍋を頂き教会へと帰る事に。

 

 

「夜は冷えますね」

 

「そうですね、、」

 

 

寒夜を二人で歩いてゆく。あれから与一さんはご飯を食べてる時もどこか上の空で口数も少ない。

 

 

「あの、コウ君」

 

「はい?どうしました?」

 

「与一を助けて頂きありがとうございました。与一だけだったら与一はあのイノシシを倒す事はできませんでした」

 

 

そう言ってぺこりと僕に向かい頭を下げてくれた。

 

 

「僕の方こそありがとうございました。僕だけだったらイノシシを倒せなかったしあの村はイノシシの被害を受け続けるところでした。与一さんの日々の鍛錬の賜物です」

 

「そんなっ!与一には勿体無い言葉です、、あの時与一は弓を撃てませんでした。それに人間であるコウ君を囮みたいにしてしまって、、」

 

「僕は囮になったつもりはありませんよ。ただ与一さんを信じていただけです。与一さんならイノシシを倒してくれるって」

 

「・・・与一、感激ですぅ!そりゃー毎日稽古に励んでましたし一日も稽古をしなかった日はありません。うんうん♪やっぱり成果が出るって良いですね♪」

 

 

泣きそうな表情から一点満面の笑みで話す与一さん。ころころと変わる表情はどれも可愛らしい。そんな与一さんを堪能しながら教会の前へと辿り着いていた。

 

 

「ありがとうございました!またお会いしましょう!」

 

「はいっ!また与一の稽古の成果見て下さいね♪」

 

 

夜に消えてゆく与一さんを見えなくなるまで見送り自宅へと帰ってゆく。

 

 

「あぁ、、疲れた、、、」

 

 

久しぶりに山道を走ったからかとても疲れた。それでも図鑑を開き明日会うキル姫の事を調べる事に。

 

 

なになに?明日はケラウノスというキル姫の様だ。そこまで調べてからシャワーを浴びてベッドへと潜り込む。

 

 

「おやすみなさい」

 

 

 

 

 



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28ページ目、ケラウノス

ケラウノス。それは神話最強の神ゼウスが扱う神の雷霆の事だ。ゼウスが雷霆を使えば全世界が焼き尽くされ本気で放てば宇宙すら焼き尽くすという。何それ怖い。

 

 

はい、どーも♪キル姫日記のヒロインことクレアです♪みんな覚えててくれたかな?

 

 

はいはい。まーたお前か?フォルカスの話しじゃねーだろって?それはそうなんだけど私達も急に教会に呼び出されて正直話を把握してないんだ。まぁその辺はマリアさんから詳しく説明があると思うからまぁそういう事で♪

 

 

そんな感じで本編の方いってみよー♪

 

 

 

「はい、私達四人は教会に辿り着きました。いきなり呼び出された私達を待つ運命は如何に!?」

 

「マスター」

 

「なーにアポロン?」

 

「そのノリにボクついていけないよ、、」

 

「アポロンに同意です。久しぶりの四人揃っての任務で浮かれるのは分かりますが気を引き締めなければ足元をすくわれますよ」

 

「えぇ、、みんな冷たいなぁ、フォルカスはどう?」

 

「アルテミスに同意です。まだ任務の内容は聞いておりませんが異族との戦闘になるかもしれません。今のうちから気を引き締めるべきです」

 

 

あれ?私がおかしいの?そんな事を考えていると私達を呼び出したマリアさんがこっちに来てくれた。

 

 

「皆さんおはようございます♪急に呼んでごめんなさいね」

 

「いえいえ、それで一体何かあったのですか?」

 

「それが今日はコウ君がケラウノスと過ごす日なのですがケラウノスとマンツーマンで会うと話がR18になりかねないのでクレアさん達にお願いしたくて呼んだんですよ♪」

 

 

ケラウノス?聞いた事のないキル姫の名前。そうはいっても図鑑に一通り目は通してあるので名前ぐらいは知っているんだけど詳しい事までは分からない。

 

 

「うぇ、、ケラウノス」

 

「知ってるの?アポロン」

 

「知ってるからゲンナリしてるんだよ」

 

「ふむ。じゃあアルテミスもケラウノスの事知ってるの?」

 

「はい。確かにケラウノスを相手にするのなら個人より隊の方が安全ですね」

 

「そんなにヤバいキル姫なの?」

 

「そうですね、、」

 

 

嫌そうな表情を浮かべる二人。過去に何かあったのだろうか?

 

 

「マスター、これは過去に何かあったというよりも神器としての記憶です」

 

「なるほど。それとさりげなく私の心を読むのやめよ?」

 

 

疑問を浮かべる私にフォルカスが説明をしてくれた。アルテミス、アポロン、ケラウノスは同じギリシャ神話の神器でありケラウノスは全知全能の神ゼウスの神器であると共にアルテミス、アポロンはゼウスの息子であると。

 

 

「ははーん?じゃあ二人はお母さん?に会うのが恥ずかしいんだ?」

 

「いえ違います。ゼウス、いや、ケラウノスの性格が最悪なので会いたくないのです」

 

「うぅ、、、思い出しただけでイライラするみょーん」

 

 

さらに話を聞いてゆくとゼウスはとんでもなく女癖が悪い神でヘーラーという奥さんが居ながら数々の女に手を出し孕ませていたという。

 

 

「じゃあその記憶を引き継ぐケラウノスは、、、」

 

「はい、貞操観念が低い。言い換えればチャラいキル姫なのです」

 

「うわぁ、、、」

 

 

この話を聞いてこの案件は蹴ろうと思っていた。アポロン、アルテミスも嫌がってるしもし内容が18禁になってしまうのなら別誌にでも書けば良いじゃないかと。

 

 

「マリアさん。申し訳ないのですが今回は、、、」

 

「ねぇねぇ♪君可愛いね♪私と良い事しようよ♪」

 

 

マリアさんに声をかけようとしていたのだが私とマリアさんの間に割り込み私に笑顔で話す青髪の女の子が。

 

 

「えっと?君は?」

 

「私はケラウノスっていうんだ♪君は?」

 

「私の名前はクレアだよ?」

 

「可愛い名前だね♪そ・れ・に。私の好み♪その赤い髪も整った顔も♪」

 

 

私を爪先から頭の先まで品定めする様に視線を動かしにししっと笑う。

 

 

「えっと、、あの、いきなり褒められると困っちゃうんだけど、、」

 

「初な反応がそそりますなぁ♪もしかして初めて?」

 

「うん、、」

 

「やった♪初ものゲット♪じゃあー初めてだからちゃんと優しくしてあげるからね♡」

 

「って!私女だよ!?女の子同士でそういう事するのは、、、」

 

「そう?私は女の子でも男の子でもいけちゃうからぜんぜん問題ないよー♪」

 

「マスターから離れなさいケラウノス」

 

「そうだそうだ!マスターから離れろ!このチャラ子!」

 

 

ケラウノスの言葉に頭がふわふわとしていると二人が声を荒げ青髪の子を睨む。その姿に現実へと帰ってきた。

 

 

「アルテミスにアポロン、フォルカスも居るのか、、、って事は君はこの子達のマスターなんだね?」

 

「そうだけど、、」

 

「うんうん♪じゃあ今日一日よろしくね♪どこに行く?私はいきなりホテルでもいいけどー♪」

 

 

私の肩を抱き教会から連れ出されてゆく。当然ただの人間の私が抵抗したところで敵うはずもなく引きずられてゆく。むしろそちらの方面に興味があるのですが←

 

 

「マスターを離しなさい」

 

 

そう言って私の右手を掴み引き止めるアルテミス。その左右でアポロンが弓を向けフォルカスが槍を向けている。

 

 

「おーおー怖い怖い♪でももしかして三体一で私に勝てると思っちゃってる?」

 

「黙れ!お前なんてボク一人でも十分だ!」

 

「ふぅーん?じゃあこうしよっか。私が君たちに負けたら大人しく諦めてあげる。私が勝ったら、そうだなぁ、、一晩この子を私の好きにさせてもらおっかな♪」

 

 

口に咥えた棒飴を転がしながらにししっと笑う。それに対し三人の目から火花が出そうなほど睨んでいる。そんな事よりもアルテミスとケラウノスに引っ張られて痛い。

 

 

「あのー?痛いんだけど、、、」

 

「どうする?も・ち・ろ・んやらないって選択肢はないからね♪」

 

「私はマスターを取り戻すためにこの勝負に乗るべきだと思います」

 

「ボクだってそうだよ!こんなやつにマスターを好きにさせるなんてできないよ!」

 

「…ですがケラウノスは、、、」

 

 

怒り心頭な二人に対しアルテミスは狼狽えている。よほどこのケラウノスは高い能力を秘めているのか。それよりも痛い。

 

 

「で?やるの?やらないの?やらないならその手を離してほしいなー」

 

 

ギリギリと敵意を剥き出しにする三人を前にしても余裕で涼しげな表情。よほど自信があるのだろう。

 

 

「…分かりました。この勝負乗ります」

 

 

二人に目配せをした後アルテミスが頷き私をかけた勝負が開始された。

 

 

何これ、、私を取り合って戦っちゃう感じ?私お姫様!じゃあ三人は私を守るプリンセスでケラウノスは悪いプリンセス、、、。登場人物全員プリンセスという奇跡!

 

 

「マスター、その様な邪険な考えを持つのはやめて下さい」

 

「そうだそうだ!マスターはどっちの味方なんだよ!」

 

「ごめんなさい、、、」

 

 

そんな訳で私達は教会の空き部屋を借りて私を賭けた勝負がおこなわれる事に。

 

 

「あの、私仕事があるんですけど、、、」

 

「そんなのシャルウルに任せとけば良いって♪マリアにはこの勝負の審判をしてもらうよ」

 

 

もちろんこの案件を持ってきてくれたマリアさんを巻き添えにして。

 

 

「分かりましたよ、、それでルールはどうするのですか?」

 

「3回勝負をして多く勝った方の勝ちで♪最初は私に選ばせてもらうよ」

 

 

そう言ってケラウノスが取り出したのはトランプ。もちろん未開封のシール付きだ。

 

 

「最初は軽めにババ抜きといこうじゃないの。異論はないよね?」

 

「勝敗はどう決めるの?」

 

「そりゃあ私が最後に残ったら負けだよ。そっちは私より後に抜けたら負け」

 

 

席に座りトランプの箱をテーブルの真ん中へと置いた。それに乗っかり三人が席へと着いた。

 

 

「マリアお願いね。私が配ると何かを仕掛けたとか後で難癖付けられると困っちゃうからさ」

 

「分かりましたよ。じゃあ開けさせてもらいますね」

 

 

マリアさんがビニールを開け未開封の証であるシールを取りカードを取り出しジョーカーを一枚抜き念入りにシャッフルしてから四人に配ってゆく。

 

 

そして四人の手元には12枚のトランプが。そこからペアを抜いてゆき手元に残るのは僅かに。

 

 

「それでは良いですね?スタート!」

 

 

マリアさんの合図によりババ抜きが開始された。ちなみにケラウノス、アルテミス、アポロン、フォルカスの順でカードを引いてゆく。

 

 

「じゃあアルテミスのカードを引かせてもらいますか」

 

 

突き出された手札から一枚選びシュッと引き抜く。そして笑顔を浮かべ手札をシャッフルしてゆく。

 

 

「はい、お姉ちゃん」

 

 

アポロンの手札から一枚抜き揃ったカードを捨てる。アルテミス残り一枚。

 

 

「どうぞ」

 

「にょーん♪」

 

 

フォルカスから抜いたカードを見てため息を吐き手札をシャッフル。

 

 

「どーぞー」

 

 

そしてフォルカスがケラウノスから一枚抜きペアを捨ててゆく。

 

 

「まっ。アルテミスが抜けるのは想定の内だけどね」

 

 

アルテミスの手札を抜きペアを捨てる。ケラウノス残り二枚。

 

 

「私がしっかりとズルをしない様見張っておきます」

 

「それはダメ。目配せとかで合図を送られたら私負けちゃうじゃん」

 

「ならアルテミスは私の隣に居てください。これで異論はありませんよね?」

 

「ふふーん♪話が分かるねマリアは♪」

 

 

ジロリとケラウノスを睨んだ後アルテミスはマリアさんの横へ。

 

 

「アポロン様も上がりだみょーん♪」

 

 

そしてフォルカスからカードを抜いたアポロンが上がりフォルカスとケラウノスの一騎打ちへ。フォルカス一枚ケラウノス二枚という熱い展開。

 

 

「私が引きます。手札を出して下さい」

 

「まぁ待ちなって。よーく混ぜないとジョーカーを引かせられないからさ」

 

 

二枚のカードを左右に切ってゆく。その目に笑みを浮かべながら。

 

 

「さぁどーっちだ」

 

 

フォルカスに向かい突き出した二枚のカード。それをフォルカスが真剣な顔で選び一枚を引き抜いた。

 

 

「ふっふーん♪じゃあ次は私が引く番だね♪」

 

 

にやにやと笑いながら手札を混ぜるフォルカスに眼差しを向ける。

 

 

「好きな方を引いて下さい」

 

 

フォルカスが突き出した二枚のトランプ。その上を指が踊る。

 

 

「ねぇフォルカス。フォルカスって私からジョーカーを引いたよね」

 

「そうですが、いきなり何を言い出すのですか」

 

「しかもそのジョーカーは私の手元に最初からあったやつ。こうなる事を予想して私が手を打たなかったと思う?そおだねー例えば、カードに折り目が付いていたり」

 

「………っ」

 

 

フォルカスが持つ右のカードに目を向けると確かに折り目がある。よく見なければ分からないほど僅かにだが。

 

 

「ほらフォルカス、私の目を見てよ」

 

 

カードの上からフォルカスがケラウノスへと視線を向ける。

 

 

「フォルカスの目を見ながら選んであげるよ♪君も美人だしちゃんと見ておかないと損だしさ♪」

 

 

フォルカスの瞳とカードを交互に見ながら手を泳がせやがて一枚のカードを引き抜いた。

 

 

「はい、私の勝ち♪」

 

 

ケラウノスが捨てたカードはクイーンのペア。

 

 

「安心して下さいフォルカス。まだ後二戦あります」

 

「ババ抜きなんて運だから落ち込んじゃダメだよ」

 

「私が勘でカードを選んだと思ったのならもう私の勝ちは確定だね♪さっ、このSSもR18にしちゃおっと♪」

 

「………ケラウノスの言う通りです。ケラウノスは私からクイーンを選んで引き抜きました」

 

「へぇ、良く気が付いたね♪折り目はブラフ。そう言われてしまえば人って不思議なもので折り目があるように見えちゃうんだよね。例え、それが明暗の影だとしても。そうやって不安になれば必ず顔にでちゃう。簡単な話だよ」

 

 

にししっと笑いながら咥えていた飴にキスをして再び口に戻していた。

 

 

「次のゲームは君達が決めて良いよ♪どんなゲームでも私が勝つからさ♪」

 

 

どっかりと椅子に座り余裕しゃきしゃきに三人へ視線を向ける。

 

 

「カードを扱うゲームはこちらが不利です。悔しいですが」

 

「なら向こうが不利になる様なゲームを選ばないといけませんね」

 

「むぅ、じゃあなんにする?」

 

「私に考えがあります」

 

 

アルテミスの案を二人が聞き驚いた顔を向ける。

 

 

「本気でそれを言っているのですか?」

 

「それはないよお姉ちゃん、、、」

 

「私は本気です。それに意表をつく事にこの作戦の意味があります」

 

 

真剣な顔を二人に向けると諦めたような顔をしアルテミス、フォルカスがマリアさんの元へ行きアポロンがケラウノスと対面する形で席に着いた。

 

 

「やい!ケラウノス!ボクと勝負だ!」

 

「あははっ♪アポロンとなんの勝負をするって言うの?こんなお子ちゃまに私が負けるはずないじゃん♪で?お題はなに?」

 

「ボクと睨めっこだよ!」

 

 

アポロンが叫んだ後部屋にケラウノスの笑い声が響く。

 

 

「ちょ、笑わせないでよw睨めっこってw」

 

「もしかしてルールを知らないとか?説明してあげよっか」

 

「ルールって、そんなの知ってるに決まってるじゃん。先に笑った方の負けでしょ?」

 

「ならいくよ!」

 

 

「「睨めっこしましょ。笑ったら負けよ、あっぷっぷ」」

 

 

・・・・・・

 

 

私達の前には指で鼻を押すケラウノスと口をイーっとさせて目尻を指で吊り上げたアポロンが。可愛い、、なんて可愛い戦いなんだ!

 

 

「笑者なしですね、仕切り直しです」

 

 

「「睨めっこしましょ。笑ったら負けよ、あっぷっぷ」」

 

 

・・・・・・

 

 

両頬を手で潰すケラウノスにこの世の終わりの様な顔で白目を向くアポロン。

 

 

「っ、、、あはははははっwちょっとwその顔はズルだってばwww」

 

「勝者アポロン!」

 

「あっ」

 

「へへーんっ!どうだケラウノス!」

 

「負けは負けか、、じゃあ最後はキル姫らしくバトルといこうじゃないの」

 

 

ニヤリと笑い立ち上がったケラウノス。その後に三人が立ち上がった。

 

 

「ねぇ、キル姫らしくバトルって!」

 

「もちろん戦うんだよ。でも安心して♪戦闘不能になった人には手を出さないからさ♪」

 

 

そんな訳で最後の勝負は三対一のバトル。人数的にケラウノスが不利なのだが自ら言い出したという事は自信があるという事だろう。

 

 

「回復薬は準備してありますけど、、、死なないでくださいね」

 

「えっ!?ちょっと、危ない事はやめよって!」

 

「だいじょぶだいじょぶ♪止めたって無駄だよ」

 

 

らんらんと部屋が出て行こうとするケラウノスがドアに手を伸ばした瞬間にドアが開きケラウノスの頭とドアがぶつかった。

 

 

「あったーっ。もう誰だよ!」

 

「あらごめんなさい。マリアを探してここに来たのですが」

 

 

頭を抑えるケラウノスに目もくれず部屋を見渡すとサッと隠れたマリアさんを見つけ出した。

 

 

「マリア、仕事をサボってこんなところで何をしているのですか?」

 

「しゃ、シャルウル、、これには訳があって!」

 

「はい、ケラウノスをコウ君から遠ざけたのは英断だと思います。しかしこの場にあなたは必要ありませんよね?」

 

 

顔が笑顔なのだが声のトーンはとんでもなく狂気を孕んでいる。その迫力に全員の背筋が伸びる。

 

 

「マリアのお仕置きは後にするとしてみんなに任務を渡しに来ただけですよ。そんなに身を強張らせないでくださいね」

 

 

マリアさんに紙を渡すと笑顔のまま部屋を出て行った。

 

 

「………………」

 

「マリアさん。その紙に何が書いてあるのですか?」

 

「」ガクガクブルブル

 

「あっ、、、」

 

 

頭を抑え部屋の隅っこで震えるマリアさんが落ち着くのを待ってからシャルウルが持って来てくれた紙を開く事に。

 

 

「えっと、対決に二種目追加です。こっちに来てください」

 

 

マリアさんに連れ出され空き部屋を出て廊下を進み配膳室へと来ていた。

 

 

「それで、一体なんの勝負が増えたわけ?」

 

「はい、お菓子作りとデートコースを考えるって案なのですがお腹も空いたので先にお菓子を作ってもらいます♪材料はシャルウルが準備してくれているので冷蔵庫に入ってませんか?」

 

 

そう言われて冷蔵庫の中を覗くと食材が冷やされている。それをテーブルの上に広げてゆく。

 

 

「これは、、、」

 

「ホットケーキですね」

 

 

ホットケーキの粉に卵に牛乳。この食材は間違いなくホットケーキだ。

 

 

「料理は三人で作る必要はないのでフォルカスかアルテミスが代表して料理を作ってください。選抜はクレアさんに任せますよ♪」

 

 

「それならお姉ちゃんだよ!いつもご飯作ってくれてるしさ♪」

 

「そうですね。アルテミス、お願いできますか?」

 

「分かりました。ケラウノス、私がお相手します」

 

「アポロンの次はアルテミスが相手か、、、姉妹揃って双子丼も良いかも♪」

 

 

なんだかとても魅力的な事を言いながらケラウノスがキッチンに立った。そして反対のキッチンにアルテミスが立ち料理スタート。

 

 

手際良く袋を開封し各分量を図り正確にボールへと移しかき混ぜてゆくアルテミス。対するケラウノスは目分量で食材をボールへと移してゆく。

 

 

「ホットケーキなんて誰がどういうふうに作ったって一緒いっしょ♪楽勝だって♪」

 

 

ふんふふーん♪っと楽しそうに作るケラウノス。だがアルテミスの顔は真剣そのものである。

 

 

ちゃっちゃとかき混ぜてフライパンへと移し焼き始めるケラウノス。アルテミスはまだ生地をかき混ぜている。

 

 

「ほい、ほいっと♪」

 

 

アルテミスが焼き始める頃にはケラウノスはお皿へとホットケーキを移す。

 

 

「まだできないのー?私の作ったのが冷めちゃうよ」

 

「黙りなさい。料理とは手間をかければかけるほどおいしくなるものです。あなたには分からないと思いますが」

 

 

フライパンを温めバターを溶かし記事をそそぐ。そして火加減を調節しながら丁寧に焼き上げてゆく。

 

 

 

「むぅーじゃあ先に私の作ったの食べてよ♪まっ。あんな事言ってる奴なんかに負けないけどね♪」

 

 

ケラウノスがだしてくれたホットケーキは形はぐちゃりと歪み黒い焦げ目が目立つもの。

 

 

「いただきまーす」

 

 

それを五人で食べるのだがマリアさんが切り分けると中から火が通ってない生地がどろりと垂れ所々に混ざり切ってない粉が見える。

 

 

「お待たせしました。どうぞ」

 

 

アルテミスが運んできてくれたホットケーキはこんがりとした狐色。そして切り分けるとふっくらとした生地。食べる前から結果は一目瞭然だ。

 

 

「勝者アルテミス!」

 

「ちぇーっ、まっ後二回戦あるからいっか♪」

 

 

それから六人でコーヒーを飲みながらホットケーキを食べ片付けをしてから次の勝負へ。

 

 

「次の勝負はなんなのですか?」

 

「えっと。デートコースを考えるってお題なのですが」

 

「はーい。デートコースなんてまどろこしい事言わずにさ、どっちとホテルに行きたいかにしようよ♪」

 

「その様な考え言語道断です。デートがあってのホテルだと思います」

 

「ふぅーん?言うねぇフォルカス。じゃあマリアに決めて貰おうよ」

 

「ホテルに行きたくなる方で」即答

 

「えっ!?早っ!」

 

「そっちの方が盛り上がりそうじゃないですか?」

 

「にししし♪そうだなぁ、五分間マリアを口説いて連れて行かれたくなった方が勝ちでどう?まっ、できないなら私の勝ちだけどね♪」

 

「分かりました。受けて立ちましょう」

 

 

意気揚々と立ち上がったフォルカス。別室でマリアさんを口説いて落とした方の勝ち。あの、その審判私がやりたいのですが←

 

 

「じゃあ私からいくね♪」

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

別室には椅子にちょこんと座るマリアさんが。そこにケラウノスが入ってきた。

 

 

「ねぇマリア」

 

 

椅子の背もたれに手を付き顔を近づけてゆく。

 

 

「私と良い事しようよ。最近仕事ばかりでそんな事もしてないでしょ?」

 

「女の子同士とか気にしなくて良いんだって♪そんな決まりもないし。そ・れ・に、女の子同士の方が感じる場所分かっちゃうじゃんか♪」

 

「強情だなぁ。じゃあちょっと試してみる?私のテクニック♪」

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

「フォルカスどうぞー」

 

「はい。行ってきますね」

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

「こんにちはマリア」

 

「えっと、、、その、、、」

 

「あの、今日は天気が良いですね」

 

「…………」

 

「」

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

「勝者ケラウノス!」

 

「…………」

 

「仕方ないってフォルカス。相手が悪いよ」

 

「これで二対ニかぁ。じゃあ最後はバトルだね♪」

 

 

そんな訳で私達は教会の裏にある広場へと来ていた。いつの間にかマリアさんの手にはかごが握られており中には緑色の瓶がぎっしりと詰められている。聞くと回復薬だそうで。

 

 

「にしししし♪じゃ、どっからでもかかってきなよ」

 

 

両手に銃を構え飴をころころと転がす。その目は確かな狂気が宿る。それに対し三人は必ず勝つという決意を目に宿す。

 

 

「良いですか?試合、開始っ!!」

 

 

バトルの開始を合図したマリアさんが逃げた後両者同時に動いた。

 

 

「それそれそれそれーっ!どの子から蜂の巣にしちゃおっかな♪」

 

 

両手に持つ銃から凄まじい勢いで魔弾が放たれ薬莢が飛び出してゆく。それを槍を前に構え盾として身体を守りながらフォルカスが駆ける。

 

 

「そこだっ!」

 

 

さらにフォルカスの後ろを追従するアポロンの姿が。フォルカスを盾とし反撃の矢を放つ。

 

 

「ほい、ほいっと♪その程度の事私が想定してなかったと思う?射る場所が分っちゃってるから狙いがバレバレなんだよねー♪」

 

「なら槍による攻撃を与えるしかありませんね」

 

 

今まで前に掲げていた槍を大振りな一閃を繰り出す。

 

 

「はいざんねーん♪その槍の長さはおおよそ二メートルぐらい。そしてフォルカスの手のリーチを考えてもニ、五メートルが限界だ。相手の射程範囲はとっくに把握済みだよ!」

 

「ふっ」

 

 

ひらりひらりと繰り出される槍を躱し反撃の魔弾を放つ。ケラウノスが言う通りにフォルカスが振るう槍は掠りもせず空を切るばかり。だがフォルカスは不敵に笑う。

 

 

「にょーーんっ!!あとはボクに任せろ!」

 

 

フォルカスと位置を変えアポロンが前線へ踊り出す。

 

 

「なっ!!」

 

 

ひたすらに魔弾を放つケラウノスを翻弄する様に辺りを駆け巡る。

 

 

「私がただ魔弾を撃っているだけだと思ってた?」

 

「もちろん!当たらない魔弾なんてなんの意味もないや!うわっ!?」

 

 

駆け巡りアポロンが何かに躓き転ぶ。その頭に銃口が向けられた。

 

 

「にしし。残念でした♪体力削って地面を耕した甲斐があったよ♪」

 

 

アポロンが転んだ理由。それは魔弾により地面が耕されそれに足を取られた事。アポロン戦闘離脱。

 

 

「それならば体力が果てるまで魔弾を撃たせるのみ!」

 

「やだなぁ。そんな事する訳ないじゃん♪君の射程は把握してるしこうしてるからアルテミスは矢を射れないしね♪」

 

 

ケラウノスの言葉に潜み時を待つアルテミスが唇を噛む。ケラウノスはアルテミスの位置を把握しフォルカスがアルテミスの前に来るように誘導しながら戦闘をこなしていた。

 

 

「アルテミス!私は構いません!私ごと撃ち抜いてください」

 

 

フォルカスが叫ぶが潜むアルテミスは返事を返す事ができずただ弦を張る。

 

 

「ちっ!」

 

 

躊躇うアルテミスに舌打ちをしてフォルカスは単身ケラウノスへ向かう。

 

 

槍を突き出しくるりと身を翻し飛びながら斬り伏せるのだがケラウノスを掠める事なく空を切る。

 

 

「ばーん♪」

 

 

振り上げた槍を持つ手を打たれ槍が宙を舞いフォルカスに向かい銃口が向けられた。フォルカス戦闘離脱。

 

 

「残るはアルテミスだけ。隠れてコソコソ狙いを定めてる奴なんて楽勝だよね♪」

 

 

へらず口を叩くケラウノスに向かい矢が放たれるのだが魔弾を放ち相殺。

 

 

「今の見た?君の弓じゃ私は倒せないんだよ♪痛い思いをする前にクレアを差し出なって」

 

 

ケラウノスの挑発に耐えかねアルテミスが姿を見せる。その手に月光弓を握りしめて。

 

 

「…確かに私の弓ではケラウノスにダメージを与えられそうにありませんね」

 

「そうそう♪やっと諦めてくれた?」

 

「ですが」

 

「?」

 

「これならば問題はありません」

 

 

アルテミスの構える弓にセットされたのはフォルカスの扱う槍。魔槍・フォルカス。

 

 

「この一撃で穿つ!」

 

 

ギリギリと引き絞られた弦が槍を発射する。

 

 

 

「っち!!なんで!とまらないっっっ!!!」

 

 

槍を魔弾で撃ち落とそうとするのだが槍は止まらずケラウノスに向かい飛来し。

 

 

「もう、ダメっ!!」

 

 

逃げ出そうにも寸前まで迫った槍がケラウノスに刺さる直前に左右から手が伸ばされた。

 

 

「なるほど。アルテミスの扱う弓の大きさならば槍を飛ばす事が可能と」

 

「流石お姉ちゃんだね♪」

 

 

掴まれた槍はケラウノスに当たる前に勢いを殺された。それを見てケラウノスがへなへなと崩れた。

 

 

「あははっ私の負け、か」

 

 

寝転ぶケラウノスの頬に何かが当てられみると緑色の瓶が。

 

 

「お疲れ様でした♪回復薬どうぞ」

 

「あんがと♪」

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

「これで私達のマスターから手を引いてもらえますよね」

 

「そうだねー残念だけど手を引かせてもらうよ」

 

 

悔しそうに立ち上がり回復薬を一気に飲み干した。

 

 

「あっあそこに良さそうな人が居る♪ねぇねぇー♪」

 

 

駆け出して行ったケラウノスの前には楽器を持った男の人が。

 

 

「あは、あははははは、はぁ、、、」

 

「全く、、、」

 

「・・・・・」

 

「残念そうな顔をしないで下さい」

 

「えっ!?そんな事ぜんぜんないよ!?」

 

 

そんなこんなで私達はケラウノスに勝利し私の純潔は守られる事となった。ちょっと残念なのは内緒。

 

 

「皆さんお疲れ様でした♪じゃあ今夜は記念にみんなでパーっとご飯でも行きましょうよ♪」

 

 

歩き始めたマリアさんの肩を誰かが掴んだ。

 

 

「もう任務は終わりましたよね?」

 

「あっ、いや、まだ残業が、、、」

 

「終わりましたよね?」

 

「はい、、、」

 

 

シャルウルに肩を掴まれ教会へと連れて行かれるマリアさんを見送り私達は帰る事に。

 

 

「みんなありがとね♪こんな日は牛丼だよ♪」

 

 

そんな帰り道何かいい事があったら行く事にしている牛丼屋さんへ。だけどみんなは不満気で。

 

 

「ねぇマスター。ボク達頑張ったんだからもっと良いご飯にしようよぉ」

 

「そうですね。あの苦労の対価が牛丼なのは納得できません」

 

「隊を労うのもマスターの勤めですよ」

 

「えっ、なら店に入る前に言ってよ、、、。なら今日は牛丼で!明日良いお店行こ!」

 

「約束だよぉー?」

 

「絶対ですからね」

 

「すいませーん!牛丼特盛汁だく四つ下さーい!」

 

「ボクのはネギ抜きでね♪」

 

「それとお味噌汁を一つ。みんなはお味噌汁いりますか?」

 

「「飲むー♪」」

 

 

楽しそうな三人を見てアルテミスは笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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29ページ目 フライクーゲル

フライクーゲルとはゲルマン、ドイツの民話伝承に出てくる魔弾の事である。

 

 

フライとは無制限に、自由に動くという意味でクーゲルは弾丸を指す言葉だ。伝承によるとフライクーゲルは「自由に動く弾丸、悪魔の力により当たる弾丸」らしい。

 

 

つまり悪魔に操られ自由に動く弾丸という事か、ヤバくない?

 

 

まぁそんな事は置いておいてファンキルのフライクーゲルの話をするとファーストキラーズの一人でピンクの長髪に帽子、それに手にドラ●もんの空●砲を付けているイメージを持つ人が多いのでは無いでしょうか?因みにほとんどのイラストが手に何かを付けており素手を見せているのは海上編二種類、ロスラグの二種類、学園のみとなっている。そしてファンキルには初期から居るキル姫の一人で種類もかなり多い。一番僕が好きなのは聖鎖されているフライクーゲルだ。可愛いしカッコいいという隙が無いイラストなので是非一度見て下さい。

 

 

それと高確率で頭に帽子をかぶっているのだ。この理由は少し調べたのだが分からかった。でも何かしらの理由があるはず。

 

 

どうも、キル姫日記の主人公ことコウです!昨日はケラウノスに会う日だったのだけどマリアさんに止められて会う事ができずじまい。トライデントさんの妹という事で結構楽しみにしてたのに。

 

 

「おはようございます。もう準備はできていますか?」

 

「シャルウルさんおはようございます!もういつでも行けますよ。あれ?マリアさんはどうしたんです?」

 

「マリアは昨日私を怒らせたので少しお仕置きをしちゃいまして、しばらくお休みです」

 

「……………はい」

 

 

一体昨日何があったのだろう?気になるけど聞いてはいけない雰囲気がするのでやめておく事に。

 

 

「懸命な判断です。それとフライクーゲルなのですが先ほど教会前の広場に到着したようです」

 

「ありがとうございます!じゃあ行って来ますね」

 

「あとこれをお渡ししておきます。今日のお題と馬小屋の鍵です」

 

 

シャルウルさんにお礼を言って教会前の広場へと。広場を見渡しフライクーゲルさんを探すのだけど。

 

 

「ーーー♪ーー♪ーーーー♪」

 

 

やたら楽しそうな人が一人居た。楽しそうっていうか落ち着きがなく今にも走り出しそうっていうか元気のかたまりっていうのかなんていうか。

 

 

例えるなら陽キャかな。僕自身そんな人は苦手ですこーし関わりたくないので距離を取りフライクーゲルさんを探す事に。

 

 

「ハロハーロー♪げんきー?私はすっごく元気♪」

 

 

陽キャさんが見境なくいろんな人に話しかけている。これがコミュ力というものなのだろうか?因みに話しかけられた人の反応はほとんどがめんどくさそうな反応。それでも気にする事なく話しかけ続ける精神は少し見習いたい。

 

 

「んっと、私コウって子を探してるんだけど誰か知らないかな?」

 

 

悲報、陽キャさんフライクーゲルさんだった。そうなれば会いに行くしかないので覚悟を決めてフライクーゲルさんの元へ。

 

 

「おはようございまーす、フライクーゲルさんですよね?」

 

「イェス!私がフライクーゲルだよ♪君は、、、?」

 

「僕コウって言います!今日一日よろしくお願いします!」

 

「オーケー♪じゃあ今日一日ヘアピィにすごそうね♪」

 

 

とにかく笑顔で明るいフライクーゲルさんと無事に合流し本日の予定が書かれた紙を広げ読んでみる事に。

 

 

「えっと、本日の任務はクレナイにある村にミカンを買いに行く事です」

 

「ミカンね!オケェレッツゴー♪」

 

 

走って行こうとするフライクーゲルさんをなんとか引き留めて教会へ馬車を借りちょっとした小旅行へ。

 

 

「それでグリモワールが私に向かってバーン!って」

 

「そしたらなーんっと!ビックなベーンが!」

 

「もう堪らないよね!私もエキサイティンしちゃってさ♪」

 

 

しゃべるしゃべるしゃべる!教会を出てから一時間ほど経つんだけどノンストップで話し続けるフライクーゲルさん。まじでこれだけ話し続けられるのは才能だと思う。

 

 

「でさでさ!「でぇ?」って!あのちょっと怒った顔もキュートで可愛いんだよね♪」

 

 

そんなフライクーゲルさんの話に相槌を打ちながらゴトゴトと馬車に揺れてゆく。この人が静かになる時はあるのだろうか?そんな疑問を思いながら。

 

 

「ねぇコウ。そろそろお腹すいちゃったよ。ワッツターイム?」

 

「えっと、もうすぐ12時です。そろそろご飯にしましょうか?」

 

「イェス!コウは何食べたい?」

 

「んー、フライクーゲルさんに合わせますよ」

 

「ノンノン!自分の意見を言えない男はモテないよ♪アーユーオケ?」

 

「はい!じゃあカツ丼食べに行きましょ」

 

 

そんな訳でそれから少し走り見つけたそば屋さんへと。馬車をしっかりと木に繋ぎ二人で入店してゆく。

 

 

店内へと入りメニューを決めている間も話し続けるフライクーゲルさんなのだがご飯を食べている時は無言で美味しそうに食べていた。そのギャップが可愛らしい。

 

 

つかの間の休憩を終えて僕達は目的地である村へとやって来ていた。村の入り口から入ってゆくと家屋よりもミカンの木の方が多くミカンが好きな人にとっては堪らない光景だろう。

 

 

「イヤァ♪これだけミカンがあったら食べきれないよ♪」

 

「フライクーゲルさんはミカンが好きなんです?」

 

「んー♪ミカンはライクだよ♪皮を剥くのがちょっと嫌だけど」

 

「その気持ち分かります。でも手間がかかるから美味しいんですよね」

 

「そうだね♪皮を剥いて手に付いたミカンの匂いも乙なものだからね」

 

 

とりあえず先に任務であるミカンを購入し僕達もミカンの試食を行う事に。そこで良いミカン、悪いミカンの見分け方を教えてもらいザルに山盛りになっているミカンを頂いてゆく。

 

 

「へぇ、濃いオレンジ色のミカンが美味しいミカンなんだね」

 

「小さい方が美味しかったりヘタでの見分け方なんてあるんですね」

 

「でも残しちゃうのは可哀想だから私は全部食べちゃうよ♪」

 

 

そう言いながらザルから一つミカンを取り丁寧に皮を剥いてゆく。勝手な想像だとてきとーに剥いているって思っていたのだが白い繊維まで綺麗に取り一つ粒を口に運ぶと美味しそうな顔をしていた。

 

 

「デリシャス♪私もお土産に買って帰ろうかな」

 

「ミカンは日持ちするので良いと思いますよ?」

 

 

因みにだけどミカンについている白い繊維は健康に良いらしいので取らずに食べた方が良いみたいだ。

 

 

「じゃあそろそろ帰りましょうか?」

 

「そうだね。なんかリフレッシュできたよ♪サンキュ!」

 

 

大きく体を伸ばし笑顔を見せてくれた。それから僕達は馬車に乗り教会まで帰る事に。

 

 

「でさでさー♪」

 

 

帰り道もフライクーゲルさんの話を聞きながら帰ってゆく。本当によく喋る人である。おかげで楽しい時間が過ごせているのだけど。

 

 

「ーーーーー」

 

 

さっきまで笑顔で話していたフライクーゲルさんが急に真剣な顔となり手に空●砲を取り付けていた。

 

 

「それは?」

 

「静かに。異族だよ」

 

 

馬車の後方より迫る馬のような異族。騎型種と呼ばれる異族。それも単品では無く七匹の群れでこちらへと向かってくるのが見える。

 

 

「ヘェイ!フライクーゲルのマンマンショーの始まりだよ♪」

 

 

意気揚々と馬車の荷台に立ち異族を見て「シッツ」っと短く呟いた。

 

 

「どうしたんです?」

 

「コウはフライクーゲルの伝承を知っているかな」

 

「えっと、悪魔の力により当たる弾丸でしたっけ?」

 

「イェス。私の放つ弾丸は百発百中。だけどそのうちの一発は悪魔が望む場所に当たる。この意味が分かるかい?」

 

「つまり?」

 

「勘が鈍いね。私の放つ弾丸がコウに当たるかもしれないって事だよ。アーユーオケ?」

 

 

苦しそうに話す顔にいつものおちゃらけた雰囲気は無く。ただ手に付けた空●砲を見つめていた。

 

 

「分かりました。じゃあ全速力で逃げましょう!」

 

 

荷台を引く馬の背に乗りムチを入れ馬をけしかけてゆく。不安の中戦えばきっとそれは判断を鈍らせる。ならば逃げるが勝ちなのだ。

 

 

フライクーゲルの伝承通りなら放つ弾丸は六発までフライクーゲルさんの望む所に当たる。だが残りの一発は悪魔の望む場所に当たる。

 

 

伝説の武器としての記憶が戦う事を躊躇わせる。それならばと馬車を走らせてゆくのだが人が二人乗った荷台を引かせる馬に速度が出るはずもなく騎型種に追いつかれ並走されていた。

 

 

「フライクーゲルさん!」

 

「ノー、、、」

 

 

異族の数は七。六匹は倒せたとしても残りの一匹に弾丸が当たる保証は無く悪魔が望む場所へと弾丸は向かう。

 

 

「フライクーゲルさん、お願いです戦って下さい!」

 

「でも、、君を巻き込むかもしれないよ」

 

「このまま全滅よりマシです!それに僕は覚悟してます!」

 

「・・・・・」

 

 

振り返り叫ぶと帽子の間からキラリと輝く瞳が見えた。

 

 

「オケーッ!じゃあ私の弾丸が君を貫いたら一緒にヘヴンに行ってあげるよ♪」

 

 

背にかかる程の桃長髪を背に回し空●砲を向けると炸裂音の後並走する異族の上半身が消し飛んだ。そして。

 

 

「イヤァ!ナーイスショッ♪」

 

 

さらに左右を並走する異族に両手を向け同時に撃ち抜く。そのまま後方の異族を穿つ。

 

 

武器を振り上げ襲いかかる異族を消し飛ばし弾丸は残り一発。

 

 

「ゴーーーーーーーッシュゥ!」

 

 

最後七匹目の異族に向かい発砲。その弾丸は煌めきながら異族を撃ち抜いた。

 

 

「ミッションコンプリーッ!イェース!アイアムウィン♪」

 

 

夕日をバックにキラキラとした笑顔を見せてくれるフライクーゲルさんはとても可愛くて頼もしかった。

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

「お礼を言うのは私もだよ。君のおかげで自信が持てた。サンキュね♪」

 

「僕は何も、、、全部フライクーゲルさんの力ですよ」

 

「ノンノン♪ユーアーヘァピィ?」

 

「へあぴい?」

 

「イェス!ヘァピィ?」

 

「ヘァピィ!です!」

 

 

そんな訳でフライクーゲルさんと教会の前でお別れ。長い旅だったけどずっと話しててくれたフライクーゲルさんのおかげで楽しかった。手を振りながら歩いてゆくフライクーゲルさんの姿が見えなくなるまで見送りお部屋へと帰る事に。

 

 

「えっと、明日は八咫鏡ってキル姫か、、、」

 

 

そこまで調べてシャワーを浴びて眠る事に。おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘェーイ!グリモワール♪フライクーゲルが遊びに来たよ♪」

 

「もー何よこんな夜に、、、あんたには常識ってものが無いわけ!?」

 

「ノープロブレム!ミカンを買ってきたよ♪一緒に食べよ♪」

 

 

少し遅い時間にも関わらず笑顔で話すフライクーゲルを家へと招き入れコタツを囲みミカンに手を伸ばしてゆく。

 

 

「結構美味しいわね」

 

「でしょでしょ?だから君にも分けてあげたくてさ」

 

「気持ちは受け取ったわ。それともう少し喋る音量を考えなさい」

 

「ワッツ?」

 

 

笑顔でミカンの皮を剥くフライクーゲルにため息を吐くグリモワールであった。

 

 



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30ページ目 八咫鏡

八咫鏡と聞いてハテナを浮かべる人は多いと思う。だけど天照大神や三種の神器といえばあーってなる人も居るかもしれない。

 

 

簡単に八咫鏡の歴史を話すと遥か昔に天照大神が怒って岩の中に引きこもってしまい困り果てた神々が作り出した鏡だったり。現在では三重県にある伊勢神宮に奉納されている。と、まぁ神々しい鏡だという事だ。

 

 

今日は八咫鏡さんというキル姫に会う日なのだ。日本神話に名を残す八咫鏡、その名を冠する八咫鏡さんとは一体どんなキル姫なのだろうか?

 

 

「コウくーん、おはよーございまーす♪」

 

「おはようございます!なんか今日は楽しそうですね?」

 

「前回私の出番が無かったのでちょっとテンション高めにしてみました♪それよりも八咫鏡に広場で待っていてもらってますので会ってきて下さいね♪」

 

「あざっす!」

 

 

と、まぁそんな感じでいつもの教会の前の広場へ。とりあえず神々しいそうな人を探してゆく。

 

 

「そこのお前」

 

「?」

 

「お前じゃお前。そちがコウであろう、妾はここじゃ」

 

 

名を呼ばれて辺りを見渡すとベンチに座り僕に何かを向けている少女の姿が。

 

 

「間抜けな顔じゃのう、草薙が誉めてあったからどんな男かと楽しみにしてみればとんだ肩透かしじゃ」

 

 

僕に向けている何かをパッと開き顔を仰ぐ。手に持つものは扇子だったようで。

 

 

「おはようございます!えっと、八咫鏡さんですか?」

 

「それ以外そちに声をかける奴がおるか。妾が八咫鏡、三種の神器にて太陽神を写し出した鏡じゃ」

 

「ははぁぁ〜〜〜」

 

 

とりあえずひれ伏す事に。ベンチに座る八咫鏡さんの前に跪くと満足気に扇子を閉じた。

 

 

「おぉ、そち作法がなっておるな。表をあげぃ、ちと歩くぞ」

 

 

そんな訳で八咫鏡さんの下部として一日を過ごす事に。着ているワンピースのお尻の部分が何故か短くたまに見えるお尻を見ながら後をついて行く。

 

 

「そち。妾は喉が渇いたぞ」

 

「それならば茶屋(喫茶店)へ参りましょう」

 

 

辺りを見渡し和風な八咫鏡さんが好みそうな店を探しその店へとエスコート。もちろんドアを開けて上げて頭を下げながら八咫鏡さんが入るのを待つ。

 

 

「よいよい。くるしゅうないぞ」

 

 

満足気にドアを通る八咫鏡さんを追いかけ座る椅子を引き座るのを待ち着席するのを見届けてからメニューを広げ八咫鏡さんの前へ。

 

 

「そちも座らぬか」

 

「有り難きお言葉!」

 

 

八咫鏡さんから手渡されたメニューを見ながら食べたい物を探し店員さんを呼びしばらくおしゃべりをする事に。

 

 

「八咫鏡さんって得意な事とかあるんです?」

 

「そうじゃなぁ、、妾はモノマネが得意じゃ」

 

「おぉ〜、それって誰でもできるんです?」

 

「ここは一つ見せてやろう」

 

 

誰の真似をしようか考え思いついたのかニヤリと笑った。

 

 

 

「これそち!早う余の肩を揉まぬか!余は肩がこおておる」

 

「ん〜草薙剣さん?」

 

「正解じゃ。一度会った事のあるキル姫だからちと簡単じゃったか。ならば次じゃ」

 

 

ボーーーーーーーッ。

 

 

突然ぼーっとし始めた八咫鏡さん。これも誰かのモノマネなのだろう。

 

 

「えっ、誰?」

 

「ガー・ボーじゃ。奴はぼーっとしておるからの」

 

「なるほど。でも会ったことがないから元ネタが分かりません!」

 

「うーむ、ならば、、、」

 

「ゴミクズさーん♡あたいがぶっ飛ばしてやるよ!」

 

「ルーンさん!」

 

「正解じゃ。やはり初期組は個性が強い」

 

「確かに。みんな個性豊かでした」

 

「セリフだけでも識別可能じゃからな。身振り手振りも加えたいが文であるなら妾が何をしてあるか分からんからな」

 

 

八咫鏡さんが言っている事はごもっともである。そんな感じで運ばれて来たご飯を頂く事に。

 

 

ご飯シーンは特に何もないので飛ばされてしまうのだが。

 

 

「それで今日は何をします?」

 

「散歩じゃ。たまにはこうして大陸を歩くのも粋なものじゃ」

 

 

そんな訳で八咫鏡さんとその辺りをふらふらと歩く事に。忙しそうに歩く人やおしゃべりを楽しむ人たちを見ながら歩いてゆく。

 

 

「八咫鏡さんって古風ですよね」

 

「和風と申せ、古風と言われると妾がロリババアと罵られている様ではないか」

 

「ロリババア、、、?」

 

「そちが変な事を言うからじゃ!妾はババアではない!」

 

 

ロリババアってなんだ?一行で矛盾する言葉の意味が謎なのだが?そんな事よりも確かに八咫鏡さんは幼女体型だ。お世辞にもナイスバデーとは言えない。それが古風な話し方をする事がロリババアなのだろうか。謎は深まるが気にしないでおこう。

 

 

「ん」

 

 

そんな事を考えていると八咫鏡さんが立ち止まり何かを見上げた。その視線を辿ってみると山に鳥居があり上に続く階段が見える。

 

 

「行くぞ、ついてまいれ」

 

 

そう言って階段を上がってゆく八咫鏡さんの後ろをついてゆくと荒れ果ててしまった小さな神社が。

 

 

「コウ、手を貸せ。この様な姿、妾は辛抱ならん」

 

「仰せのままに」

 

 

八咫鏡さんは伊勢神宮に奉納されているから荒寺の様な光景が我慢できないのだろう。僕も神社という神聖な場所が荒れ放題なのは辛いので掃除をする事に。

 

 

「まずは屋根に乗った落ち葉を払うぞよ」

 

「はい!」

 

 

二人で棒を使い屋根に乗っかっている落ち葉を落としてゆく。上は綺麗な茶色なのだが下は水分を含み黒く変色し積もった年月の長さを感じさせる。

 

 

「粗方落とせば後は風や雨で落ちる。次は本堂じゃ」

 

 

見ればドアは外れてしまい本堂内に雨が降り込んだのか床はひどく汚れている。それを見かねて一度街に掃除道具を買いに戻る。

 

 

「雑巾と洗剤とバケツ?」

 

「後はホウキとチリトリとゴミ袋じゃな」

 

 

そんな感じで買い物を済ませて再び荒寺へ。

 

 

「まずは本堂のドアを全て取っ払い風を通すのじゃ」

 

「うっす」

 

 

引き戸となっているドアを全て外すと本堂を風が吹き抜けてゆき蜘蛛の巣を払い。それから入り込んでしまっている落ち葉やゴミをほうきで外へとはき出して行く。

 

 

「水を汲んでまいれ!」

 

「はいっ!」

 

 

たっぷりと水を汲んだバケツに雑巾を浸し固く絞り床を拭き拭き。長年溜まった汚れですぐにバケツの水が黒く濁ってゆく。それでもめげずに何度も雑巾をかけてゆくと床の木目が見え始めきた。

 

 

「少しずつ綺麗になってきましたね」

 

「うむ。あと少しじゃ」

 

 

再びバケツの水を変えて床をふきふき。しばらくして本堂のお掃除が終わった。

 

 

「ふぅ、、後は外を掃除して終わりじゃ」

 

 

最後に本堂の周りの草むしりをしてお掃除は終わった。建物の古臭さは仕方ないにしても前と比べると見違えるほどに綺麗になった。

 

 

「すまんなコウ。こんな事を手伝わせてしまい」

 

「いえいえ、綺麗になって良かったです。でもどうしても掃除をしようと思ったんです?」

 

「神社とは神が祀られる場所じゃ。この神社にもきっと何かの神が祀られておる。それがこの様に荒れ放題なのは妾は気に食わんからな」

 

「こうして綺麗にしておけば神も喜ぶのじゃ」

 

 

広げた扇子で顔を隠し上品に笑う。きっと何かのご利益があるだろう。

 

 

「さっ、手伝って貰った礼じゃ、夕食は妾が出してしんぜよう」

 

 

そんな訳で八咫鏡さんに連れられてあのレストランへとやって来ていた。最近来てなかったから新鮮である。

 

 

「いらっしゃい」

 

「くるしゅうないぞ」

 

 

腰の低い亭主に満足そうに扇子を振りながら一番奥の席へと。

 

 

「このお店に来たら頼むものはなんですか?」

 

「ミートスパゲティじゃ。そちは何を頼む」

 

「同じです」

 

 

そんな訳でミートスパゲティを二つ頼んでお冷を取りに行く事に。

 

 

「ここの亭主さんって奏官だったんですよね?」

 

「そうじゃ、たいそう立派な奏官じゃった」

 

 

どこか優しい瞳でキッチンを見ていた。

 

 

「いずれ亭主の話が書かれるであろう。その時を心待ちにしておけ」

 

 

亭主が従えていたキル姫はレーヴァテイン。僕が知っているのはそこまでなのだけど。

 

 

亭主がカウンターの上に置いたスパゲティを取りにゆき八咫鏡さんの前へ。紙エプロンを付けてから食べ始めていた。

 

 

「こらそち!子供っぽいなどと思ってはおらんだろうな!?」

 

「そんなことありませんよ?」

 

 

八咫鏡さんが着ている服は白色だからソースが付いたら目立ってしまうしお行儀良くスパゲティをフォークに巻いて一口サイズで食べている。それでも口に運ぶたびに美味しそうにしている仕草がとても可愛らしい。

 

 

「はい」

 

「くるしゅうないぞ」

 

 

紙ナプキンを渡すと恥ずかしそうに口の周りを拭いている姿もグットである。

 

 

「満足な一日であったぞコウよ」

 

「こちらこそありがとうございました」

 

「また神社を掃除するときはそちに手を貸してもらおうかの」

 

「ぜひ声をかけて下さいね」

 

 

そんな訳で八咫鏡さんと教会の前でお別れ。その時話を聞いたのだけど草薙剣さんと天沼矛さんと一緒に住んでいるようで。

 

 

「さらばじゃ!」

 

「ありがとうございました」

 

 

帰って行く八咫鏡さんの姿が見えなくなるまで見送り家に帰る事に。

 

 

なになに?明日はブラフマーストラさんというキル姫の様だ。名前からしてヤバそうだけど大丈夫なのだろうか?

 

 

少しブラフマーストラさんの事を調べてからお風呂に入って眠る事に。

 

 

おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 



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31ページ目、ブラフマーストラ

ブラフマーストラって何だ?キル姫の名前なのだけど。検索すると映画が出てきたりインド神話に出てきたりと、それは良いのだが具体的な事が書かれていない。それでも調べてみるとインド神話の英雄が使う必殺技みないな感じらしく最上級魔法のブラフマンダストラは宇宙を消し飛ばす事ができるようだ。相変わらず神話はスケールがデカい。

 

 

ファンキルでの話を少しするとロスラグ編のブラフマーストラさんはマルチで大暴れしていました。状態異常無効と再行動を持ち風パの力持ち。マルチをする人なら一度は目にした事はあるはずだ。それとオーバーキラーズが優秀でユグドラシルに持たせたりと。

 

 

インド神話出身のキル姫はパラシュさん、ピナーカさんに続き三人目である。

 

 

ちなみにだけどブラフマーストラさんに付いて書く事が思い付かないままのスタートなので今回もグダるのは間違いないけど今回もよろしくお願いします。

 

 

「コウくーん、おきてますかー?」

 

「はーい」

 

 

そんな訳でマリアさんにブラフマーストラさんの事を教えてもらい待っていてくれている教会前の広場へ行きブラフマーストラさんを探すのだが。

 

 

(・・・・・・あの人だ)

 

 

広場に佇む存在感の強い人を見つけた。あの人がブラフマーストラさんじゃなかったら誰がブラフマーストラさんなんだと言い切れる人を。

 

 

派手派手な民族衣装?に褐色の肌、それに溢れんばかりのおっ〇い。そしてやたらとイカつい顔立ち。このパターン知ってるぞ?殺されそうになったり椅子にされたりするやつだ。

 

 

それでも会わなければ話は始まらないので接触を試みる事に。もちろん酷い目に遭う事を前提に。

 

 

「おはようございます、、、」

 

「あんたがコウ?」

 

 

あっ見かけの割に声が優しい。だがまだ油断してはダメだ。

 

 

「僕がコウです!今日一日よろしくお願いします!」

 

 

いつでも逃げ出せるようにしながら頭を下げ挨拶をすると優しく微笑む声が。恐る恐る顔を上げると微笑む顔が。

 

 

「そう堅苦しくなるなって。楽にしてなよ」

 

 

笑顔でそう言ってくれるのだがこの人は宇宙を滅ぼす力を持っている人だ。まだ油断してはいけない。まずは趣味を聞こう。

 

 

「ブラフマーストラさんって趣味は何ですか?」

 

「あたしの趣味は瞑想とヨガかな。なんか瞑想してると無になれるっていうか自然になれるんだよね」

 

「なるほど」

 

「コウの趣味は?」

 

「僕は、、趣味って呼べるものは無いです。まだ奏官になる勉強中だし趣味をする時間なんてないんですよね」

 

「じゃあ今日はあたしの瞑想に付き合ってよ。きっと新境地ってやつに辿り着けるからさ」

 

「ふむ」

 

 

そんな訳で教会がある街を離れ少し山道を歩き開けた場所へと来ていた。少し小高いこの場所は街を見下ろす事ができ優しくそよぐ風や温かな太陽の日差しを感じられる場所。

 

 

「じゃ、ここに座んな」

 

 

そう言ってどこからかマットを取り出して地面にひいてくれた。その上に胡座をかき座る事に。

 

その横で同じようにブラフマーストラさんも胡座をかいていた。

 

 

「良い?目を閉じてリラックスして自然と一体になるんだよ」

 

「やってみます」

 

 

言われた通りに目を閉じて肩の力を抜き浅く呼吸をしてゆく。そして頭の中をからっぽにしてみる事に。

 

 

(・・・・・おっぱい)

 

 

残念ながら僕の頭の中に浮かんだのはブラフマーストラさんのおっぱいだった。ちなみにプロフィールをみるとバストサイズはメートルを超えている。あんなおっぱいでウンタラカンタラ。

 

 

「あんた余計な事考えてるね?瞑想のコツは何も考えずに無の事を考える事さ」

 

 

隣に座るブラフマーストラさんに邪念を見抜かれていた。それと何も考えずに無の事を考えるコツを聞く事に。

 

 

「難しく考えるなってことさ。そうすれば境地が見えてくるよ」

 

 

そう言ってもらい再び無に付いて考える事に。何も無いのに何かがある。そんな矛盾を深く考えずに考えてゆく。

 

 

(あっ)

 

 

そんな時何かに気が付く事ができた。何かは分からないのだけど僕は確かに何かに気が付いている。

 

 

僕が気が付いているものは矛盾。僕の意識はあるのに無い。無いのにある。曖昧であるのにハッキリと分かる。

 

 

寝ているのに起きている。起きているのに寝ている。

 

 

この感情を伝える語彙力が無いのが悔やまれるが今の気持ちを伝えるのなら僕は大自然の一部、いや、宇宙となっている。

 

 

「ほら、目覚ましな」

 

 

しばらくしてブラフマーストラさんに声をかけられて目を覚ましていた。その時に日差しによって暖められた服の温度を知る。

 

 

「あんたいい感じに瞑想できてたね、才能あるんじゃない?」

 

「うーん、、それはどうか分かりませんけど何かを感じる事ができました」

 

「それが瞑想の第一歩だよ。ご飯でも食べに行こっか」

 

 

マットをどこかにしまい歩き出したブラフマーストラさんの後ろを着いて行く。

 

 

そんな訳で僕たちが来たのは街の外れにある一軒の家。その家のドアをノックしていた。

 

 

「知り合いなんですか?」

 

「そんなところ」

 

 

少しするとドアが開き老夫婦が顔を出しブラフマーストラさんを見ると笑顔を見せてくれていた。

 

 

「こんにちわーおじさんおばさん元気だった?」

 

 

挨拶を交わし家の中へと。聞くとブラフマーストラさんは暇な時ヨガのインストラクターをしているらしく今日はもともとこの家に来る予定があったようだ。

 

 

「えっと?」

 

「ヨガを教える代わりにご飯をいただいてんのよ。コウの分も良い?おばさん」

 

 

そんな半端無理矢理なお願いなのだがおばさんは嫌な顔ひとつせず僕の分のご飯も作ってくれた。ご飯を食べ終えた後少しのんびりしてヨガを行う事に。

 

 

「まずは安楽座だよーしっかり両足を床に付けな」

 

 

三人の前でヨガのポーズをするブラフマーストラさんに習い同じポーズを取ってゆく。安楽座とは胡座の様な体勢なのだがそのポーズを取ると足のスジが伸びてゆくのを感じる。

 

 

「次は猫のポーズだよー」

 

 

次は猫のポーズと呼ばれるポーズへ。四つん這いとなり猫が背を伸ばす様にお尻を上げ頭を下げると背筋が伸ばされてゆく。

 

 

「続いた牛の顔ー」

 

 

3つめのポーズを取りながら気付いたことがある。それはヨガのポーズは動物の動きを取れ入れているという事。言い換えれば自然の力を取り入れているという事だ。人間が動物の動きを真似る事により普段使わない筋肉や筋を動かし体調を整えるのだろう。

 

 

その証拠にただポーズを取っているだけなのに体が熱くなり汗が滲んでくる。きっと体の五感に訴えかける何かがあるのだろう。

 

 

(ヨガってすごいんだな、、)

 

 

関心しながらバッタのポーズをとるブラフマーストラさんの胸元へと視線を注いでゆく。

 

 

 

「はいお疲れ様〜良い感じになったっしょ?」

 

 

しばらくしてブラフマーストラさんの声と共に瞑想をしてヨガは終了となった。ヨガを終えた感想として体が軽くなった気がする。聞けば毎日続けていれば柔軟性はもちろん肩こりや腰痛の改善に効果があるようで。瞑想をして脳を休めれば認知症予防にもなるようだ。

 

 

「じゃまた来るからね〜」

 

「お疲れ様でした」

 

 

二人に頭を下げて僕たちは教会へと帰る事に。家を出ると外はすっかり暗くなっており集中していたのか時間の流れが早く感じる。

 

 

「他の人にもヨガを教えているんですか?」

 

「そうよ〜こうやって人と触れ合うのは楽しいし人との出会いは自身を成長させてくれるってね」

 

「なるほど、、」

 

「あんたはまだ沢山の人やキル姫と出会う。その経験はきっと人生に活きてくるからさ、足を止めるんじゃないよ」

 

 

僕の肩を叩きながら豪快に笑う。最初は怖い人だと思っていたけど一日を一緒に過ごしてみると姉貴肌の良い人だと思えた。

 

 

最初に気が付かなかったのは神話の伝承を読み先入観を持っていたからだろう。これは反省しなければ。

 

 

「じゃ私は帰るよ。もし悩む事があんなら私のところに来な、良い感じに導いてあげるからさ」

 

「ありがとうございました!」

 

 

再び僕の肩を叩きその後手を上げながら家へと帰って行った。その姿が見えなくなるまで見送って僕も家に帰る事に。

 

 

そしてお風呂に入って図鑑を開き明日会うキル姫の事を調べておく事に。なになに?明日はヴァジュラというキル姫の様だ。そこまで調べてベッドに潜り込もうとした。

 

 

「ん、」

 

 

その前に床に座り瞑想をする事に。胡座を組み今日の事を思い出しながら無の境地へと。

 

 

 

 



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32ページ目、ヴァジュラ

ヴァジュラとはインド神話でインドラが所持していたとされる伝説の武器の事だ。インドラはこのヴァジュラを用いて自在にカミナリを操ったという。

 

 

はいどうも♪キル姫日記のヒロインことクレアでーす♪えっ?またお前か?フォルカスの話じゃねーだろって?

 

 

ふふふ、今回のヴァジュラと一日過ごすのは私達なのだ!なぜならヴァジュラについて書く事が思い付かず文字数を稼ぐ為に人数の多い私達を呼んだのだよ♪

 

 

「ねぇマスター、それ自分で言ってて悲しくならないの?」

 

「うーん、ちょっと悲しいけど出番があるだけ良いかなって」

 

「ポジティブですね」

 

「私も見習いたいところですね。それで今日はどの様な要件で教会へと呼ばれたのですか?」

 

「それは担当者の私が話しましょう♪はいどーも♪キル姫日記のナビゲーターことマリアでーす♪」

 

「イェーイ♪」

 

((…………))

 

 

テンション高めな私とマリアさんにフォルカスとアルテミスが冷ややかな目線を向ける中今日ヴァジュラと一日過ごす予定が書かれた紙を渡してくれた。

 

 

「何が書かれているの?」

 

 

楽しそうに私が貰った紙を取り広げて内容を読んでゆくアポロン。しばらくして眩しい笑顔を見せてくれた。

 

 

「うわーい♪サバイバルゲームだ♪ボクそういうの得意なんだ♪」

 

「「「サバイバルゲーム???」」」

 

 

アポロンが持っている紙をもらい読んでみるとヴァジュラとサバイバルゲームをしろと書かれていた。つまり野生的な生活をしてどちらが野生に近づけるかという事なのだろう。

 

 

「この勝負、私達の勝ちだね♪この時期に採れる食べれる植物や水の採取、寝床の確保はこの私の得意分野だからね♪」

 

「それでこのサバイバルゲームとは一体何なのでしょうか?」

 

 

得意げな私を完全にスルーしてフォルカスがマリアさんへと問いかけている。そんな時赤髪の女の人がこの場へと姿を見せてくれた。

 

 

「やぁやぁお待たせ。私がヴァジュラだ」

 

 

私達を見ながら挨拶をしてくれた人が今回のキル姫であるヴァジュラだ。突然の登場にフォルカス、アルテミスが敵意に満ちた瞳を向ける。

 

 

「まぁまぁ落ち着きなって、私が今日一緒に過ごすクレアだよ、よろしくね♪」

 

「おぉ、これは丁寧な挨拶だね♪それより早速サバゲーのルールを説明させてもらおうか」

 

 

そんな訳でヴァジュラがサバゲーのルールを説明してくれた。

 

 

ルールは配布された水鉄砲を使い相手の体を濡らした方の勝ち。場所はこの教会がある広場で行い他の住民に水をかければ違反となり退場。制限時間は今日の夕方まで。

 

 

「って感じだ。他に分からない事があるなら今のうちに聞いてくれよな」

 

「その水鉄砲の有効範囲はどれぐらいだにゃー?」

 

「おおよそ二メートルってとこだ。強くトリガーを引いて三メートルか?まっ、接近しなければ攻撃は届かないって事よ。他に質問はあるのか?」

 

 

そう言われアルテミスが手を挙げ質問を。

 

 

「チーム戦ですか?それとも個人戦でしょうか」

 

「そおだね。私達が奇数だから個人戦にしようか」

 

 

私達を見渡しうんうんと頷く。その横で笑顔で手をあげる人が一人。

 

 

「私が参加すれば偶数になるのでチーム戦ができますね♪ちょうど体も動かしたかったし私も参加します♪」

 

 

笑顔で挙手をするマリアさんの横を何かが通り過ぎてゆきそれは教会の外壁に突き刺さり止まった。それは何度も見た事があるシャルウルさんが扱う斧だった。

 

 

突然の現象に全員が困惑していると片眼鏡を直しながらシャルウルさんが斧が飛来した道を歩み突き刺さる斧を片手で拾い上げるとマリアさんに向かい振り下ろした。

 

 

「楽しそうな事をしようとしていますね。と、いう事は本日の作業に目処が付いている。そう思って宜しいのですよね?」

 

 

先程までお気楽ムードだったマリアさんの顔が一瞬にして青ざめガクガクと体を震えさせ始めた。そんなマリアさんの前に立ち再び片眼鏡をかけ直していた。

 

 

「なんて冗談ですよ、こうなる事を予想して昨日のうちにある程度は終わらせてありますから。マリアまで参加するのであるならレフェリーが必要かと思い参上致しました。どうしてその様な顔をしているのでしょうか?」

 

 

ダイナミック過ぎるシャルウルさんの登場に全員が引きつった笑顔を浮かべ。マリアさんに至ってはいまだに体を震わせている。

 

 

「驚かせるためとはいえ少しやり過ぎてしまいましたね。補修工事の方を手伝ってもらっても、宜しいですか?」

 

 

そんな訳でサバゲーの前に破壊された教会の外壁を直す事に。

 

 

「どうしたのですかマリア?」

 

「いや、あはは、腰が抜けちゃってさ、、、」

 

 

しばらくして外壁の工事を終えた後私達は教会前の広場へと集まりチーム分けをしていた。

 

 

クレアチーム。

 

クレア。

 

アポロン。

 

フォルカス。

 

 

マリアチーム。

 

アルテミス。

 

ヴァジュラ。

 

マリア。

 

 

 

となり三、三に分かれ教会の広場に南北に分かれ試合開始の合図を待つ。

 

 

「では準備はよろしいですね?試合、開始!」

 

 

シャルウルの声が響いた後一斉に動き出す。もちろん公平を保つ為にキル姫の武器は使用禁止で武器は安っぽい水鉄砲のみだ。

 

 

「相手のアルテミスをまず先に潰しましょう。続いてマリア。そして最後にヴァジュラを」

 

「遠距離なら負けちゃいそうだけどこの水鉄砲の射程ならお姉ちゃんに負けないよ!

 

「はい。なので今回はアポロンを主軸にして立ち回りたいと思います。場は隠れるところが無数に有る街。機動力に長けたアポロンなら優位に戦えるはずです」

 

(・・・・)

 

 

完全にマスターポジションをフォルカスに奪われてちょっとショックな私。それをいえば今回の主役であるはずのヴァジュラは今のところ空気なのだが。

 

 

その頃。マリアチームも作戦を練っていた。

 

 

「相手の主戦力はアポロンなはずです。なので真っ先にアポロンを落とし続いてフォルカス、最後にマスターを討ち取り完全なる勝利を手にしましょう」

 

「そう熱くなるなってアルテミス。肩の力抜いていこうぜ♪」

 

「確かに勝ちたいですけど楽しく戦いたいですね♪」

 

「この試合が終わったらパーっと飲みに行こうぜ。もちろんマリアの奢りでね♪」

 

 

お気楽な二人に頭を悩ませながらも行動を開始してゆく。

 

 

 

銃口を下げながら三人でひたすらに路地裏を走る。先頭を走るアポロンが交差点から顔を出して合図を出すと二人が続き新たなる路地裏へと消えてゆく。

 

 

「なんだかこういうのって楽しいね♪」

 

「静かに。見つかったらどうするのですか」

 

「そうだよマスター!」

 

(・・・・)

 

 

完全に二人のお荷物となりながら二人の後をついて行く。これはこれで結構楽しいのだけど。

 

 

「止まって、マリアが居るみょーん」

 

 

アポロンが右手を出し止まり前を向くと大通りをキョロキョロと周りを見ながら歩くマリアさんの姿が。様子を見る限りまだ私達の存在には気が付いていない様。

 

 

「ボクが気を引き付けるからその隙にマスターやっちゃってよ」

 

「うん、任せて♪」

 

 

アポロンがマリアさんの前を通り抜けるとマリアさんの注意がアポロンに移り後を追う。その背後から私が忍び寄る。

 

 

「私の勝ちだ、、、、」

 

「残念だったなクレア!背後は取らせてもらったよ音」

 

 

あっと思い振り返った私の顔に冷たい感触。それは顔を流れてゆき服を濡らしてゆく。

 

 

「クレア離脱です」

 

「あーはっは♪疾風迅雷ってね♪」

 

「えっ、もう私の出番終わりなの!?」

 

「これでお荷、、一人減ってしまいましたが問題はありません」

 

「今はこの場から離れるにょーん!」

 

「今お荷物って言いかけた〜〜っ!!」

 

 

やられた事よりもフォルカスが言いかけた言葉が胸に刺さる。そんな私にシャルウルさんがジュースをくれた。

 

 

「お荷物といえばマリアも同じですから」

 

(ひどい、、。)

 

 

 

お荷物を失った私達は街を駆ける。狙うは相手チームの指揮官であるアルテミス。

 

 

「アポロン!」

 

「うん!この街の地理はカンペキに把握してるよ♪」

 

 

小さな相棒の返事に微笑み返す。そして敵を探し駆ける。

 

 

「居たみょーん!」

 

 

前方には歩くマリアの姿。距離はおおよそ10メートル。射程外そしてあれは囮。しかし二人には秘策がある。

 

 

「飛べ!」

 

 

走るアポロンの前にフォルカスが立ち走るアポロンの踏み台となる。そして小さな相棒は空を駆ける。

 

 

一瞬太陽が遮られ頭に水がかかる。通り雨?そう思った時にはアポロンがはるか先に着地し路地裏に姿を消していた。

 

 

「マリア離脱です」

 

「えっ!?納得できないよ!」

 

「アポロンに水をかけられたのですよ」

 

 

まだ納得ができていないマリアさんにシャルウルさんがジュースを渡す。

 

 

「これで両チームからお荷物が居なくなりましたね」

 

「ひどいっ!?」

 

 

 

……………………………………………

 

 

「うっひょー!お前の妹やるなぁ!がぜん私も燃えてきたぜ!」

 

「流石フォルカス、と言うべきですね。体重の軽いアポロンを空に飛ばしお荷、、マリアと私達に気付かれずお荷物を討った。しかし一度見た策は破る事は容易い」

 

「んで、どうするんだ?各自追う?それとも」

 

「二人は必ず合流します。二人で行動しましょう。大体の目星は付けてありますので」

 

「さっすがアルテミスだな!んじゃ、反撃といきますか」

 

 

 

 

 

街を駆ける二人は街の中心部である広場にて落ち合っていた。この場所は多くの人が行き交い姿を隠す事ができる。人を隠すなら人の中だ。

 

 

「うまくいったみょーん♪」

 

「流石ですアポロン。しかし、まだ二人の姿は見えません。油断してはいけませんよ」

 

「大丈夫だってフォルカス。走りながらでもちゃーんっと回りは見てたからさ、追手は無かったよ」

 

 

アポロンの言葉に安堵しながら回りを見る。その視線は相手の姿を捉える事は無かった。

 

 

「それで、次はどうする?同じ作戦が通じるとは思えないけど」

 

「そうですね、、」

 

 

相手にアルテミスが居る以上同じ作戦が通じるはずが無い。それならば前回の策を超える策を練らなければ勝ち目は無いだろう。

 

 

顎に手を置き考える。そんな後頭部に何かが当たった。

 

 

「さようならフォルカス」

 

 

冷静な言葉の後に髪を伝う冷たい感触。それは長い黒髪を伝い地面に滴り落ちてゆく。

 

 

「フォルカス離脱です」

 

 

目を見開き振り返るとアルテミスの姿が見えた。それは相棒の背を追いかけてゆく。

 

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう、ございます」

 

 

納得がいかないまま手渡された缶を開封し口を付けてゆく。

 

 

 

 

 

 

アポロンは街を駆けていた。行き交う人々の隙間をすり抜け懸命に。そして振り返れば姉が迫る。

 

 

マリアを討った後フォルカスと無事に合流できた、その油断をフォルカスは討たれた。そして策も無く逃げる事しかできないでいる。

 

 

人混みを抜けたどり着いた先は住宅が立ち並び行手を阻む。簡単に言えば行き止まり。もっと簡単に言えば袋のネズミ。

 

 

「くっ、、、」

 

「追い詰めましたよアポロン」

 

 

目の先には水鉄砲を向ける姉。しかしアポロンはニヤリと笑う。

 

 

「ふふーん。ボクがこんな事で諦めると思ったら大間違いだよお姉ちゃん!」

 

 

アポロンは飛んだ。アルテミスを前にし大きく右へ跳び家の外壁を蹴り左上へと跳び上がった。

 

 

「勝負だよ!」

 

 

見上げたアルテミスの瞳に水滴が見え顔に滴り目を閉じた。

 

 

「アルテミス離脱」

 

 

目を開けると既にアポロンの姿は無く代わりにジュースを渡そうとするシャルウルの姿が。

 

 

「本当に勘がよろしいですね」

 

「いえ、それほどでもありませんよ」

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

夕刻に迫る街をアポロンが駆ける。目指す相手は最後の一人ヴァジュラ。

 

 

しばらく走ると街の広場に立つヴァジュラを見つけた。

 

 

「うぃ、、、っ、、やっと来たね。待ち切れなくて一本開けちゃったよ」

 

 

ヴァジュラの左手に握られているのは酒瓶。それを逆さまに向けるのだが垂れてくるのは一滴の雫。

 

 

「やい!酔っ払ってボクに勝てると思っているのか!」

 

「ふふふ。もちろんさ。じゃなきゃ酒なんて、ひくっ、、飲まないさ」

 

 

酒瓶を地面に置き千鳥足で歩きふらふらと水鉄砲を構える。

 

 

「勝負だよアポロン」

 

 

そう言われたのだがこんな酔っ払いなど相手にもならない。そう思いアポロンは不敵に笑う。

 

 

「じゃあボクが酔いを覚してあげる!」

 

 

とろんとした瞳に水をかけるためにアポロンが射程内へと走る。そして圏内に入り込むとトリガーを引いた。

 

 

「うぃっと、、、当たらないね」

 

「!?」

 

 

ヴァジュラに向けた銃口から放たれた水はヴァジュラに当たるはずだった。しかしのらりと躱され酒臭い息を浴びる距離まで近寄られた。

 

 

「この!このっ!!」

 

 

乱れ打つ水の弾丸はヴァジュラを捉える事はなく。やがて掠れた音と共に水が出なくなった。

 

 

「じゃ、私の勝ちで良いんだよな?」

 

 

ヴァジュラの言葉にアポロンは両手を上に上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「では♪我がチームの勝利を祝ってかんぱーーい♪」

 

 

 

勝負が終わりみんなで近くにある居酒屋へとやってきていた。そこで乾杯の合図と共にジョッキを打ち合わせ口へと運んでゆく。

 

そうは言っても未成年であるクレアとアポロンはコーラなのだが。

 

 

「いや〜楽しかったね♪たまにはこうやって体を動かすのも良いですなぁ」

 

「マスターは何もしてないじゃんか」

 

「そうです。無様に水をかけられていただけです」

 

「ちょっと今回私への当たりが強すぎない!?」

 

「それにしてもアポロンの攻撃を酔ってる躱すとは、、、」

 

「まぁ酔拳ってやつだな。相手がお酒を飲んだ事がないお子ちゃまで助かったよ♪」

 

「その言葉聞き捨てならないよ!今度は矢で射ってやる!絶対だからね!」

 

「おぉ怖い怖い♪そう怒らなさんなって♪」

 

「まぁ楽しかったから良いじゃんか♪」

 

「そうそう♪終わり良ければ全てよしってな、あはは♪」

 

「シャルウルーお会計よろしくね♪」

 

「はい、経費として落としておくので問題はありませんがくれぐれも飲み過ぎる事の無い様にお願いしますね」

 

「分かってるって♪すいませーん、生一つー♪」

 

 

渡されたビールを飲んでいるマリアを見ながらシャルウルはお仕置きの方法を考えてゆく。



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芭蕉扇

芭蕉扇と聞いて何を思い浮かべますか?と聞くと大体の人は西遊記かドラゴンボ⚪︎ルを思い浮かべると思う。

 

牛魔王という人物が二作共に芭蕉扇に関係しており燃える山の火を消すというもの。

 

ドラゴンボ⚪︎ルに関していうと亀⚪︎人が鍋敷きの代わりに使いワンタンのスープを溢して汚れたから捨てたという残念な扱いを受けているのだが。

 

 

そんな事は置いておいて西遊記関連であるという事は中華由来の神器なのだろう。今までに会った中華由来の神器をキラーズに持つキル姫達を思い返してみると方天画戟さんや青龍偃月刀さんだ。

 

二人の事を思い返すと芭蕉扇というキル姫も武将の血を引いているかもしれない。そう考えただけでクセが強い人だと想像がつく。

 

 

どうも、キル姫日記の主人公ことコウです!最近全く本誌の更新を行なっておらずふと見たら三ヶ月程放置しておりました。その代わり裏キル姫日記はコツコツと更新しておりますので是非そちらの方もよろしくお願いします。

 

 

「コウ君ーおはよーございます♪」

 

「おはようございますマリアさん」

 

 

そんな感じで久しぶりのマリアさんとのやりとりの後僕は芭蕉扇を探しに教会の前の広場へと来ていた。

 

そこで待っていてくれる芭蕉扇を見つけるために辺りを見ているのだが中々見つからず。それでも諦めずに探しているとようやくその様な人を見つけた。長い髪を袋みたいなので結び白と紫のワンピースの女性。何処となく漂う中華感を感じその人に話しかけてみることに。

 

 

「おはようございます、、。もしかして芭蕉扇さんですか、、?」

 

「そうよ。私が天界一高貴な霊宝、芭蕉扇」

 

(うわぁ、、)

 

 

もうこの言葉を聞いただけで芭蕉扇はプライドが高いという事を察した。そして気も強そうだと。

 

 

「おはようございます!僕コウって言います!今日はよろしくお願いしますね」

 

 

しっかりと頭を下げて挨拶をし顔を上げると満更でも無さそうな顔。確実に相手より自分が優位に立ちたい人だ。

 

 

「芭蕉扇様はもう朝ごはん食べました?」

 

「いや、まだよ。そうね、コウって言ったかしら?」

 

「はい」

 

「今日一日あなたに私の下端となる事を許可するわ。ありがたくおもいなさい」

 

「はっ!ありがたき幸せ〜」

 

「ふふっ。分かっているわね。それじゃあエスコートを頼んだわよ。もちろん私をエスコートするんだからそれ相応の準備はしてあるわよね?」

 

「・・・・?」

 

 

いつもその場のノリで動いているので準備とか言われると非常に困る。そして確実に準備をしていないと答えると芭蕉扇は機嫌を損ねるだろう。

 

なので一瞬の間に思考を張り巡らせ最適解なルートを探す事に。

 

 

「もちろんです芭蕉扇様。芭蕉扇様に今日一日を楽しんで貰えるよう考えてあります」

 

「そう、準備が良いわね。さぁ、私を満足させる事があなたにできるかしら」

 

 

再び満足そうな顔で僕を見てくれるのだが当然の様にハッタリなので芭蕉扇の顔を見るだけで背中を嫌な汗が伝うのを感じる。

 

 

「朝食の準備ができてます。どうぞこちらへ」

 

 

だが、僕はハッタリを一日押し倒すのだ。自分の身を守るために。

 

 

そんな芭蕉扇と共に来たのは近くに合った喫茶店である。

 

 

「どうぞお座りになられて下さい」

 

 

奇跡的に空いていた席へと行き椅子を引くとそこに芭蕉扇が座った。その後芭蕉扇と対面する形で席へと座る。

 

 

「どうぞ」

 

 

机の上に立てて置いてあるメニュー表を取り芭蕉扇に渡すと怪訝な瞳で僕を見た後メニュー表を手に取り目を通して行く。

 

 

「ほら、私は決まったわ」

 

 

返されたメニュー表へと目を通して食べたい物を選び店員さんを呼びメニューを伝えていた。

 

 

「それであなたは奏官を目指しているのよね」

 

「そうです!」

 

「良い志だとは思うけどあなたの様な貧弱な男に奏官が務まるのかしら」

 

 

じっとりとした目線を感じ苦笑いを浮かべているとつまらなさそうに頬杖を付き他のお客を眺めていた。

 

 

「芭蕉扇様はどんな奏官が理想なんですか?」

 

「そうね、私は身長が高くて頼り甲斐があって筋骨隆々とした奏官が好みよ。あなたとは正反対ね」

 

 

平然と告げる芭蕉扇に僕は苦笑いをする事しかできなかった。

 

 

それから届いた朝ごはんを食べながら芭蕉扇へ話を振るのだが適当にあしらわれ会話は続かず胃がキリキリしてしまいそうな朝食を終えて僕達は街へと来ていた。

 

 

「それでこれから何をするって言うのかしら」

 

「お買い物をしたいと思います!日用品とか思いついた時に買いだめしておきたいじゃないですか」

 

「買い物ねぇ」

 

 

ジトっと僕の顔へ向けられた目線に気が付き苦笑いをしながら芭蕉扇と共に某激安の殿堂へと行く事に。

 

 

個人的な意見なのだが某激安の殿堂はかなりイメージが変わった気がする。以前はヤンキーの巣窟みたいな印象だったのだが現在は誰もが訪れるスーパーになってしまっている気がする。何が言いたいのかと言うと尖った印象が丸くなったと言う事だ。まぁそれがどうしたと言う話なのだが。

 

因みにだけどこの店を僕は愛用していて商品が多いので暇つぶしに来たり他店より安い商品を買ってみたりゲームセンターに行ってみたりと。

 

 

「芭蕉扇様は何は何か見たいものありますか?」

 

「特に無いわね」

 

「じゃあ上から順に見ていきましょうか」

 

 

エスカレーターを使い二階へと上がり順に店内を回ってゆく事に。

 

 

「何処から見てまわります?」

 

「あなたに任せるわ」

 

 

そう言われて少し考えてキャンプ用品から見る事に。買う予定は無いのだけど見たくなるのだ。それからレジャー用品を見て馬車用品を見て工具を見て。それだけで時間が過ぎてゆく。

 

 

「・・・・」

 

 

そして振り返れば不機嫌そうな芭蕉扇の顔が。

 

 

「あの、、」

 

「ほんっとあなたって女性の扱い方というものを知らないわね。大体私がこんなおもちゃみたいな物に興味を持つと思っていたの?ずっと退屈してるんだけど」

 

 

一度不満を口にすれば止まらず芭蕉扇は僕を罵り続け僕が半泣きになったところで芭蕉扇の言葉はやっと止まった。

 

 

「ごめんなさい、、」

 

「あなたの様な何も知らない人にエスコートを頼んだ私がバカだったわね」

 

「はい、、申し訳ないです、、」

 

「良いわ。せっかく一日過ごすのだから私があなたを楽しませてあげる」

 

「えっ?」

 

 

芭蕉扇からの思わぬ言葉に僕はハテナを浮かべながら芭蕉扇の顔を見た。

 

 

「なに?不満なの?この私がせっかく楽しませてあげると言っているのに」

 

「いえっ!そんな事ないです!」

 

「じゃあ私について来なさい」

 

 

芭蕉扇に連れられて店内を歩いてゆく事に。

 

 

「あの、、、」

 

「何?この私の隣を歩くのよ?そんな下民が着るような服で私の隣を歩けると思っていたのかしら」

 

 

辿り着いたのは服を扱うお店でありそこでスーツを購入しスーツに着替えていた。なぜスーツなのかは分からないが初めて着るスーツに違和感しか感じない。

 

 

「ほらあなた。タイが曲がっているわよ」

 

 

更衣室で何度も結び方を見ながら結んだネクタイが曲がっていたようで芭蕉扇が少し屈み手を伸ばしネクタイを直してくれた。

 

 

「これでよしっと。何ぼーっとしているのよ、行くわよ」

 

 

そんな訳で芭蕉扇に連れられて店内を散策する事に。

 

 

「あなたはどんなものが見たいのかしら?」

 

「えっと、日用品かな?」

 

「ならそれを見にいきましょう」

 

 

二階から降り一階へと行き案内看板を見ながら日用品を探しにゆく事に。僕をリードする様に芭蕉扇が僕の前を歩いてくれるのだけどふんわりと漂うシャンプーの匂いにゴクリと息を飲む。

 

 

「どうしたのかしら?」

 

 

そんな邪な考えを見抜かれたのか芭蕉扇が振り返り僕の顔を覗き込む。

 

 

「えっと、、良い匂いだなって」

 

「当たり前じゃない。身嗜みは気を使っているしシャンプーだって。そうだ。良かったら私が使っているシャンプーを教えてあげるわ」

 

 

そう言ってもらい足の向きを変えシャンプーを売っている場所へ。そこで芭蕉扇が使っているシャンプーを教えてもらったのだが。

 

 

(うわっ、、高ぇ、、)

 

 

芭蕉扇が使っているシャンプーを見て目が飛び出そうになった。何故シャンプーが五千円近い値段で売られているのか。

 

 

「このシャンプーの良さは使わないと分からないわよ。まさか値段を見て躊躇なんてしていないわよね?」

 

「はい!買います!」

 

 

心の中で涙を流しながらシャンプーを買い物カゴへ。

 

 

「良い?使用する日用品は質で選ぶのよ。質の高い物に囲まれて生活をすれば自然と意識は向上するの」

 

「なるほど、、」

 

「その物の本質を見抜くとでも言いましょうか。例えばこのティッシュ。あなたならどちらを選ぶかしら」

 

 

芭蕉扇が指差すのは五箱でワンセットで売られているボックスティッシュが。同じボックスティッシュなのだが見比べて見ると値段に違いがある。

 

 

「えっと、安い方を買います」

 

「ほんとっダメね。ここを良く見なさい」

 

 

芭蕉扇が言う場所をよく見てみるのだがよく分からず困り顔で芭蕉扇を見た。

 

 

「良い?このティッシュは150組でこっちのティッシュは200組なの。確かに値段は安いかも知れないけどトータルで考えるとこっちの方がお得なのよ」

 

「なるほど、、」

 

「一箱で見たら50枚の差だけれどもセットで見ると250枚損している事になるわ。金額で言えばもう一箱買えるわね」

 

 

主婦の知恵を教えてくれる芭蕉扇に尊敬の眼差しを送っていた。

 

 

「芭蕉扇さんはどんなティッシュを使っているのですか?」

 

「私はこれ。花粉の季節だとこのティッシュが手放せないのよ」

 

 

芭蕉扇が言うティッシュは鼻セ○ブ。確かに鼻に優しいティッシュだ。

 

 

「次は食材を見に行くわよ」

 

 

芭蕉扇に連れられて次は生鮮食品売り場へ。売り場に行くとまずは野菜たちが陳列されているコーナーへと。

 

 

「あなたは夕食はいつもどうしているのかしら」

 

「キル姫達と食べて帰ったりたまに食べなかったり」

 

「どうせ体の事なんて何も考えずに食べているでしょ。今夜は私がご飯を作ってあげる」

 

「ほんとです?」

 

「本当よ。あなたの様な下民の為にこの私がご飯を作ると言っているのよ?泣いて喜んでもまだ足りないぐらいね」

 

「ありがとうございます!」

 

 

その後生鮮食品売り場を芭蕉扇さんの食材を選ぶコツを聞きながら周り僕は芭蕉扇に連れられて芭蕉扇の自宅へと来ていた。

 

 

「お、お邪魔します、、」

 

「楽にしてなさって。今から作るから」

 

 

何処となく中華な雰囲気のお部屋を恐る恐る歩いていると芭蕉扇が椅子を引き座れと。

 

引かれた椅子に座ると買い物袋片手に芭蕉扇はキッチンへと歩んでゆく。

 

 

(はぇぇ、、)

 

 

冷蔵庫に買ってきた物をしまうとエプロンを着て調理を開始した。その後ろ姿をただ見ていた。

 

 

その姿は優雅の一言。何度こうして料理を行えばこの立ち振る舞いが身に付くのか。

 

 

「何か手伝いましょうか?」

 

「私があなたに手伝わせると思って?邪魔になるだけだから大人しく座っていなさい」

 

 

ぴしゃりと言い切られ大人しく座り部屋を見渡す。置かれている家具は系統が統一されシックな雰囲気。そして見る限り埃一つ見つける事ができない程清掃が行き届いている。

 

それからしばらくすると部屋中に良い匂いが漂い始め良い感じに食欲を刺激してくれる。

 

 

「ほら、できたわよ」

 

 

芭蕉扇の言葉と共に机の上に料理が盛り付けられた大皿が。湯気を立て美味しそうな匂いを立てる料理に思わずため息が漏れる。

 

 

「まだあるからね」

 

 

そう言ってキッチンへと行くと皿を二つ持ちテーブルへと戻りお皿を置くと再びキッチンへ行きコップの四つと何かの瓶を持ち戻りやっと椅子に腰をおろした。

 

 

「あなた、お酒は飲めるかしら」

 

「飲んだ事無いんですよね。まだ未成年ですし」

 

「そう。ならこれだけにしといてあげる」

 

 

コップに何かを注ぐと僕へと渡してくれた。

 

 

「これは?」

 

「食前酒よ。アルコールには食欲を刺激する効果があるの」

 

「なるほど」

 

 

芭蕉扇が突き出したコップにコップを合わせてからそれを口へと運ぶ。

 

 

(んっ)

 

 

ほんの少しのアルコール感を感じた後爽やかなフルーティな味が口から鼻へと抜けてゆく。

 

 

「ほら、冷めないうちに食べてちょうだい」

 

「いただきます」

 

 

大皿に盛り付けられた料理を小皿へと取り分け一口。

 

 

「んっ!美味しいです!」

 

「当たり前の事言わないでもらえるかしら?誰が作ったと思っているのよ」

 

 

そう言うのだが芭蕉扇の顔は緩み柔らかな表情で夢中にご飯を食べる僕を見てくれていた。

 

 

「ちょっと、そんなにがっつかないでもっと味わって食べなさいよ」

 

「美味しくてつい、、」

 

「まぁ私が作った料理ですからね。そうなるのも無理はないわ」

 

「なんで料理なのですか?」

 

「青椒肉絲と炒飯よ。そうだ、レシピを教えてあげるから次は自分で作ってみなさい」

 

 

席を立ち別のテーブルへと行くとサラサラと紙に何かを書く音が。しばらくすると丁寧に折り畳まれた紙を僕に渡してくれた。

 

 

「ありがとうございます!」

 

「まっ、あなたが作った所で私の味を真似できるとは思えないけどね」

 

「精進します」

 

 

それから芭蕉扇と色んな事を話しながら楽しい夕食の時間が過ぎてゆく。

 

 

「ごちそうさまでした。食器洗いますよ」

 

「その気持ちは嬉しいけど、私の使っている食器は高いわよ?」

 

 

その言葉で僕は動きを止めて大人しく席に座り手際よく食器を下げ食器を洗う芭蕉扇の後ろ姿を見ていた。

 

それと同時に僕はキル姫を見る目が無いなと思い反省をしていた。

 

 

「はい、今夜のデザートよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

食器を洗い終えた芭蕉扇がテーブルの上に置いてくれたのはアンがたっぷりとかかったみたらし団子。

 

白い団子が香ばしく焼き上げられカラメル色のタレの甘い香りが別腹を開けさせる。

 

 

「ほら」

 

 

串を持ち口を大きく開けてお団子を一口で食べる芭蕉扇。口の周りに付いたタレに気づく事なく咀嚼しまた口を開けてお団子を一口。

 

 

「何よ?私の顔に何か付いているっていうの?」

 

「いえ、頂きます!」

 

 

食べ終えた後も口の周りにタレを付けたままな事を言えないままお団子を一口口に運ぶと甘塩っぱいタレの後に香ばしい味が口いっぱいに広がり思わず唸ってしまう。

 

 

「それを食べたら帰りなさい。もう良い時間よ」

 

 

そう言われて時計を見ると時刻はいつの間にか20時を回っていた。楽しい時間は過ぎるのがあっという間である。

 

 

「ごちそうさまでした。本当にありがとうございました」

 

「お礼なんていらないわ。それと」

 

「それと?」

 

「夜は暗いから家まで送ってってあげる」

 

 

そんな訳で芭蕉扇に家まで送ってもらう事に。夜間のしんっとした夜道を二人で歩んでゆく。

 

 

「あの、芭蕉扇さん」

 

「どうしたのかしら?」

 

「どうしてここまでしてくれたんですか?」

 

「そうね。まっ、私の気まぐれとでも言っておきましょうか」

 

「あははは、、」

 

「でも久しぶりに誰かと一緒に居れて楽しかったわ。またご飯でも食べに来なさい」

 

 

気が付けば教会の宿舎の前だった。僕は深く頭を下げお礼を言っていた。

 

 

「お礼なんていらないわ。そうね。そこまでお礼が言いたいのなら私好みの奏官になりなさい」

 

 

お休みなさい。そう言って芭蕉扇は闇夜へと歩んで行った。その後ろ姿が見えなくなるまで見送り家に帰る事に。

 

 

「ただいまー」

 

 

誰も居ない部屋に呟きながら入りお風呂に入った後机に座り明日会う予定のキル姫の名を調べる事に。

 

明日はアクスレピオスというキル姫の様だ。それだけ調べてからベッドへと潜り込んでゆく。

 

 

「お休みなさい」

 

 

今日の事を思い出しながら眠りへと落ちてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 



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