オーバーロード ~堕ちし聖女と黒き騎士~ (赤猫project)
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序章
プロローグ


プロローグはモモンガ様視点での進行になっております。
1話からはセイバーオルタ、邪ンヌからの視点も含めて話をお送りします。

それと原作には無い種族やスキル、職業等が出てきますが、あとがきにてどういったものなのか解説を入れておきます。


DMMO-RPG(体感型大規模オンラインRPG) 「ユグドラシル」、数多開発されたRPGのゲームのなかでも燦然と煌めいていたゲームタイトルだ。

12年前発売された「ユグドラシル」その目玉は他のゲームとは比べ物にならないほどの自由度が高いこと。自分のアバターはもちろん、種族、アイテム、住居にNPCなど多くの物をプレイヤーが自由にデザインでき、その圧倒的な自由度から「ユグドラシル」は爆発的な人気を博した。

 

 

 

 

 

 

 

 

――「ナザリック地下大墳墓」――

ここナザリック地下大墳墓は43人の仲間(ギルドメンバー)と力を合わせて作り上げた...

ギルド"アインズ・ウール・ゴウン"の本拠地である。

『プレイヤーが社会人であること、プレイヤーのアバターが異業種であること』この二つを参加条件としたギルドで、かつては「ユグドラシル」内の数千を超えるであろうギルドのうち最高十大ギルドの一つとしてその名を馳せていた。

だが、それもひと昔前の話、「ユグドラシル」の歴史は今日、幕を閉じる...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――「ナザリック地下大墳墓 第9階層 円卓の間」――

私は前々から休日をとっていた為、最終日にログインしていた。かつて43人の仲間(ギルドメンバー)がいたギルド"アインズ・ウール・ゴウン"も今や私、モモンガを含めてわずか6人となってしまった。

私はそのうちの一人、

スライム種 ≪古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)≫のヘロヘロさんと話している。他の仲間(ギルドメンバー)はおらず、二人で無数の空席がある円卓の間で話し合っている。円卓の間の物悲しい雰囲気などは忘れ、二人でなんてこともない会話を始めた。以前メンバーと回ったダンジョンの話や、ギルドでのイベント攻略会議をした時の話、ゲームの以外の話もした。二人で体の調子を聞いたり、ブラックな会社の仕事の愚痴を話し合ったりなどしている。

そんな時、ギルドのチャット欄に突然メッセージが二通送られてきた。二人は誰からだろうと中を覗いてみた。

 

『今帰宅しました、これからログインしますね。 セイバーオルタより』と言うメッセージと、

『仕事終わったー! モモンガさん今から向かいますので待っててくださいね! 邪ンヌより』というメッセージが届いていた。

 

「あのお二人、間に合ったみたいですね。」

ヘロヘロさんが少し嬉しそうな声で言った。

 

「はい、よかったです、これで他の残っているメンバーと会えます!」

私もうれしくて、少し声を上げ、スマイルの顔文字をヘロヘロさんに送った。

 

「でもすいません、モモンガさん。」

だがヘロヘロさんはかなり限界みたいで、私に謝る。

どうやら仕事の関係上、これ以上インできないとのことで、もうログアウトしないといけないとのことだった。

 

「気にしないでくださいヘロヘロさん。お二人には伝えておきますね」

私はやさしい声色で手を振りながらこう答えた、だが内心は強い悲壮感に苛まれているがぐっと堪えていた。

 

「ありがとうございますモモンガさん、お二人にもこうお伝えください、「ありがとうございました」と、では失礼します。」

そう残すとヘロヘロさんは軽くお辞儀し、静かにログアウトしていった。そしてヘロヘロさんがログアウトした通知のすぐ後、入れ替わる様に新たな通知が届いた。

 

「邪ンヌ さん セイバーオルタ さん がログインしました」

 

と通知が届き、その直後二人の女性が現れた。

 

「モモンガさん、お久しぶりです!」

元気よく話しかけてきたこの人は、《二重の影(ドッペルゲンガー)》の上位種族である《這い寄りし無貌の影(ナイアーラトテップ)》のアバターの邪ンヌさんだ。

黒魔竜使い(ブラックドラゴンサモナー)》と《聖騎士(パラディン)》のクラスがメインのプレイヤーで、金色の瞳に、綺麗な白っぽい肌、黒衣の衣装と少しボロボロのマントを着ており、マントには炎をイメージしているのか少し赤く染まっている。

そんな彼女が使う武器は神話級(ゴッズ)アイテム《黒く燃ゆる怨恨の旗槍(グラッチュ・オブ・フランシス)》という名の槍。

フランスの英雄「ジャンヌ・ダルク」が持っていたとされる旗をイメージして作った槍らしく、ジャンヌダルクの紋章の旗をイメージし、刃の根本部分にはアインズ・ウール・ゴウンの紋章の旗を取り付けており、よく勝利時にその旗を掲げていた。

彼女は使い魔である《黒き飛竜(ブラックワイバーン)》を複数体召喚し、《黒き飛竜(ブラックワイバーン)》に援護してもらいながらその槍を振るい戦う戦闘スタイルを用いていた人で、スキルで地面から赤黒く燃える槍を複数出現させて中距離の敵をけん制したりなど、前線ではとても頼りになる人だった。

 

ちなみになんで黒をベースにした服や武器にしているのかと私はジャンヌさんに聞いたことがあり、彼女が言うには『ジャンヌ・ダルクって最後、異端審問で火刑にされたんですよ。その時彼女には、彼らへの怨恨が少しでもあったんじゃないかと思ったことがあったんです。それで、気になってジャンヌの歴史を調べてみたら、とあるゲームで闇落ちしたジャンヌがいるの知ったんですよ! 己を見捨てた祖国、国民、そしてこの世の全てに憎悪し、復讐を誓った「竜の魔女」とゆう設定の「ジャンヌ・オルタ」とゆうキャラクター、もうそれがドストライクで、それをユグドラシルで再現してみたかったんです‼』

と嬉しそうに手をブンブンと振りながら答えていた。懐かしい過去の記憶が脳内で蘇る。そんな風に懐かしんでいたらもう一人のプレイヤーが話し始めた。

 

「久しぶりですモモンガさん、数か月ぶりですね。」

私に軽く会釈しながら丁寧に挨拶するこの人は、《黒鱗の竜人(ダーク・ドラゴニュート)》のアバターのセイバーオルタさん。

戦士職の《ケンセイ》と魔法職のクラスをメインに持ったプレイヤーで、白い肌に金色の瞳と、顔つきも邪ンヌさんのアバターに少し似ている、黒い鎧に赤く輝く模様が特徴のアバターだ。

オルタさん曰く、『とあるゲーム作品に好きなキャラクターがいてそれがカッコよく、そして綺麗なキャラなんですが、ユグドラシルでアバターを作ろうとしていた時邪ンヌさんも同じゲーム内キャラを再現してみたと聞きまして、私もせっかくだし好きなキャラを再現してみたかった』らしい。どうやら二人とも同じゲームで知り合った中なのだとか、

彼女のメイン武器は片手剣のワールドアイテム《黒く淀みし勝利の聖剣(エクスカリバー・モルガン)》。

元はアーサー伝説で出てくる剣が元ネタの《聖剣 エクスカリバー》とゆう青と金色の柄が特徴の武器だが、彼女がその聖剣を改良し、全体的な色合いを赤と黒に変更した剣。まがまがしくも一応聖剣ではあり、アンデット等には変わらず大ダメージを与えることはできるそうだ。ワールドアイテムとしての効果は教えてもらったことはないが、一度その力を見たことのある「たっち・みー」さんの話によると、「私とオルタさんが1v1で戦った場合、あの武器の力を使わなくてほぼ互角、そこにワールドアイテムの効果とプレイヤースキルの面を含めたら、私の方がかなり危ういかもしれないです。何せ彼女、以前ナザリックを襲おうとしたギルドの連合チーム、およそ200人をその剣の一振りで壊滅させたことがあるほどですから、かなり戦闘特化の効果だと思いますよ。多分「武人建御雷(ぶじんたけみかづち)」さんと、モモンガさん、あと「やまいこ」さんがいてようやく少しリードできるレベルかと。」と言っていた。一体どれほどの武器なのだろうか、気になるところだ。

 

彼女は基本この武器を大いに振るい前衛で暴れることが得意だが、ここぞと言う時にあえて距離を離れ、高威力の魔法を剣に纏い、大規模な一撃放つことで敵を一掃するなど、場面に合わせた戦闘が得意な人だ。

ちなみに戦士職のまま魔法職で得た魔法が使えるらしく、剣を振るい魔法を放ったり、剣に魔法を付与し威力を高める事ができるらしい。

本来なら魔法が込められたスクロールを使ったり、使いたい魔法が込められたマジックアイテム等を使わない限り、基本戦士職は魔法を使うことはできない。だがオルタさんは以前、"あるスキル"を入手し、戦士職のままでも魔法職の魔法を使えることができるようになったそうだ。本人は狙って入手したわけでは無く、気づかない内にスキル入手条件を満たし入手したとの事で、入手条件は本人でもわからないそう。

 

「あれ?ヘロヘロさんもしかして先に落ちちゃいましたか?」

邪ンヌさんが円卓の間を見回しながら言う。

 

「少し遅かったですね、あと数秒ログインが早ければ会えましたね。」

「えぇ、そんなぁ、久々にお話合いできると思ったのにー...」

 

邪ンヌさんはガクリと肩を下す。彼女は以前からヘロヘロさんと仲が良く、よく一緒にクエストをこなしていた中だった。

そういえば邪ンヌさんの持つ武器の素材集めにも、ヘロヘロさんはよく協力していたっけなぁ。

 

「入れ違いになっちゃいましたか、最後に挨拶をしたかったですね。」

「仕方ないですよオルタさん、あ、ヘロヘロさんがおふたりに「お疲れ様でした」と。」

「そうでしたか、できれば直接聞きたかったですね。」

「そうですねー、もうこれであえないかもしれないですからね...。」

とお二人とも悲しそうにそう言った。このギルドに残ってくれたメンバーの一人と最後に合うことができなかったからか、すこし心残りがあるんだろう。

そんな風に話していると

 

「あ、モモンガさん時間見てください、あと数分でこのゲーム終わっちゃいますね。」

突然オルタさんが少し寂しそうな声色で言う。俺は急いでゲーム内の端にある時計を確認する。すると確かに時間は「23:47」と表示されていた。

24:00になれば強制的にサーバーが落ちる、この二人と話せるのもあと10分ほどしか無いということ。

 

「もうこんな時間ですか、早いですね...。」

もうすぐこのナザリックが消えてしまう、仲間(ギルドメンバー)達と歩んだ軌跡が失われてしまう。そう思うと私の心はとてつもない悲しみに包まれた。多分お二人の心境も同じ何だろう、少しずつ声が小さくなっていくそんな感じがした。そんな中、邪ンヌさんは僕の声色を聞いて気にしてくれたのか、この雰囲気を変えたいと気遣ってくれたのか私にこう言ってくれた。

 

「モモンガさん、オルタさん、これで最後なのですし、最後は玉座の間に行きませんか?」

「あぁ、それはいいですね。モモンガさん行きましょう、最後にあの杖と共に。」

そういうとオルタさんは円卓の間に飾られていた一つの黄金の杖を指さした。

ギルド武器《スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン》この杖は、私達のギルド「アインズ・ウール・ゴウン」の仲間たちと共に作成したスタッフ型のギルド武器。ギルド長である私に合わせて調整されているが、この杖が破壊された場合はギルドその物が崩壊するため、基本この杖は「ナザリック地下大墳墓」の「円卓の間」の部屋に安置され、一度も使われたことがない。この武器を作る為にわざわざ有給を使ってまでログインしてくれたり、夫婦喧嘩してまで手伝ってくれたっけ...

 

「結局、この杖は使うことなかったですからね。最後ぐらい持っていきましょう。」

「そうですね、最後にこのナザリックの統治者として、これぐらいはしても皆怒らないですよね。」

私は静かに杖に向けて手をかざす、すると杖は私に引き寄せられるように手元まで寄ってきた。

 

「行こうか、我がギルドの... いや―― 我らがギルドの証よ。」

「ひゅー、カッコイイ‼ よっギルド長!」 邪ンヌさんが少し笑い声を出しながらはやし立てている。

「ふふ、やはり似合ってますねモモンガさん。」 オルタさんも少し笑っているように感じた。基本威厳ある声色のロールプレイしているひとなのに...

二人が囃し(はや)立ててくるの聞いて、普段とゆうか以前からこんなカッコイイ事を言うような自分ではないからか、かなり恥ずかしい...多分リアルの私は今少し赤くなってるだろうなぁ、

 

「さ、さあ二人とも早く玉座の間に行きましょう。」

「ご命令のままに、なんちゃって♪」

「そうだ、ギルド長として威厳ある立ち振る舞いをしないとなモモンガよ。」

「もう二人ともやめてくださいよぉ! オルタさんもここぞと言わんばかりにキャラによらないでくださいよぉ!」

三人はアハハ少し笑いながら、円卓の間を後にし、玉座の間に向かった。ユグドラシルの最後を玉座で迎えるために。

 

 

 

 

 

 

 

――「第10階層 玉座の間 廊下」――

私達三人は、玉座の間に向かう為に廊下を歩いていた。すると廊下の脇に数人のメイドと少し年老いた執事がいた。

 

「彼らはたしか...」

私は気になって彼らの設定を確認してみた。そうだ、メイドの彼女らはナザリック地下大墳墓第10階層にて、《玉座の間》へ進むプレイヤーを待ち構える為に配置されたNPC、執事長セバス・チャンと純戦闘行為を前提とした《戦闘メイド》からなる玉座の間の防衛チーム《プレアデス》だ。

 

プレアデスは執事長で竜人のセバス・チャン

メイド長で《首無し騎士(デュラハン)》のユリ・アルファ

人狼(ワーウルフ)》のメイド ルプスレギナ・ベータ

二重の影(ドッペル・ゲンガー)》のメイド ナーベラル・ガンマ

不定形の粘液(ショゴス)》と《始まりの混沌(ウボ・サスラ)》の種族をもつメイド ソリュシャン・イプシロン

自動人形(オートマトン)》のメイド シズ・デルタ

蜘蛛人(アラクノイド)》のメイド エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ

この8人で構成されている。基本時間稼ぎをメインにした構成なのでレベルが高いとゆうわけでは無いが、メイドの容姿などのレベルにおいてはかなり高く、皆可愛く、美女と呼べる容姿だ。

 

「ああ、モモンガさん《プレアデス》連れていきましょうよ《プレアデス》、最後なんですから!」

「わかりました、わかりました!連れていきますからそんな興奮しないでください邪ンヌさん...。」

邪ンヌさんがプレアデスをみて興奮している。なぜなら邪ンヌさんは彼女らの美人で戦闘メイドというプレアデスの設定、そう「戦う女性」が特に大好きなのだ。彼女が大の戦う女性好きな理由は、彼女の仕事に関係している。彼女は漫画家で仕事でアクション系の漫画を描いているらしく、その漫画のヒロインや主人公のキャラの設定のほとんどが「戦いに長けていて、綺麗or可愛い女性」という設定が多いらしい。ほとんど自分の趣味全開のキャラばっからしいが以外にもどの女性キャラもそこそこ読者には人気があるらしい。

 

「あぁ、この子達の頭とか撫でたりとか、抱いたりとかできればいいのになぁ。」

「いまさらそんなこと言ったってもう追加要素はありませんよ。」

「むー、わかってますよぉ。でも、でもですよぉ...」

そんな趣味の話を私の後ろで話す二人、ワイワイと彼女たちについて話している、それを聞いてると自然とナザリックの過去を思い出す。あの頃の仲間たちと、至高の43人と呼び合った仲間たちとの遊んだあの頃の...

だがもうそんな時は戻らない、そう考えながらも最後に二人と共に最後を迎えれれて良かったとそう感じた。

 

「ほら二人ともそろそろ行きますよ、プレアデスたちよ『付き従え』」

そうプレアデスたちに向けて話すと、プレアデスたちは私の後ろに整列しついてくる。

 

「あ、はい今行きます。ほら行きますよ邪ンヌさん。」

「あ、待ってくださいよオルタさん、もう少しプレアデスの良さについて話合いましょうよー!」

ワイワイと少しはしゃぎながらプレアデス達と共に玉座の間に向かう。もうすぐこのゲームは終わる、そんな事はないかのように私達三人は笑いあいながら玉座の間に足を運ぶ。

 

サーバーが閉じるまであと10分...

 

 

 

 

 

 

 

――「第十階層 玉座 入口」――

そんなこんなありながら私達は玉座の間の目の前までついた、時間はもう5分を切っている。

 

「ようやくここまでつきましたねー」

「そうですね、これが最後に見る玉座になりますね。」

「はいそうですね、では行きましょう。」

私はそう言って玉座の門を開けた。

玉座の名に相応しい豪華絢爛な内装、いくつもの巨大なシャンデリアが玉座の間を華麗に見せ、上の脇には多くの旗が掲げられている。この旗は我々の仲間(ギルドメンバー)を表す紋章を記した旗だ。確か最初にこうしようって話を切り出したのはジャンヌさんだったっけ。そんなこんなで玉座の間の奥に進み王の、ギルドマスターが座るにふさわしい大きな玉座が置かれている、何故か二つも…

 

「ここの玉座にモモンガさんが座るんですよねぇ、なんか懐かしく感じます。」

「私だけが座ってた訳じゃないですけどね。後々オルタさんもこの玉座が合うのでは?みたいな話が出てきて1度座ってもらったんですよね。」

「そうそう、そして座ったら案の定似合ってて、そしてギルド内で話し合って女王が座る玉座があってもいいのではって結論でたんですよね!それで途中から玉座が二つに増えたんでしたよね(笑)」

「そうですよ、そう決まってから私がモモンガさんの隣で座るようになったんですよ、アレ本当に恥ずかしかったですよ…」

そう、この話の流れでで分かるように、もうひとつはセイバーオルタさんが座る用の玉座、オルタさんの元ネタのキャラが王様だった事もあり、試しに(半ば無理矢理に)座らせてみた所、これがなんど玉座の間の雰囲気にピッタリとハマっていた。そしてその一部始終をみた他のメンバー(言い出しっぺは「ウルベルト」さんだったかな)達の多数可決によって、玉王と女王が座る二つの玉座が設置されたのだ。

 

「ほらほら二人とも、最後なんだから座ってくださいよ。ささ早く早く」

「わかりましたよ、ほらオルタさんも座ってください。最後もかっこよくこの玉座に。」

「わ わかりましたよ、今座りますってば...。」

そういうと私は左側の玉座に、セイバーオルタさんは照れ臭そうに右側の玉座に腰かけた。その時、無意識なのかオルタさんは自然と足を組み、片手で黒い聖剣を支えていた。やっぱりこの人が座るととてもカッコイイ、最後のラスボスが堂々と座り、勇者を待ち構えているようなそんなイメージが頭に浮かぶようだ。ただあんなに恥ずかしがっていたはずなのに足を組んだり、剣を片手で抑えたりなど無意識にしているあたり、元々やりたかったのかもなぁ、基本的にクールな対応をするオルタさんだったけど、こんな風にかわいい部分もあるんだなぁ。

そんなことを考えながらプレアデスに「待機」のコマンドを指示していた時、ふと私の横に佇んでいる一人の女性NPCが目に入る。

 

「彼女って確か、」そういうと邪ンヌさんが気づき私の問に答えてくれる。

 

「ああ、彼女はたしか守護者統括って設定のアルベドでしたよね。」

ああ、そうだった。この場所「玉座の間」にまで来るプレイヤーは結局最終日になってもいなかったので、少し設定を忘れていた。

(たしかアルベドを作ったのは「タブラ」さんだったっけな)気になった私はアルベドの設定を確認することにした。すると詳細には長々とアルベドに関する設定が書き込まれていた。

私は思わず「ながっ」と口に出してしまうほどに。その声に気づいたのか邪ンヌさんが横から覗きにきた。

 

「何を見てるんです?まさかこの長文、タブラさんの作ったアルベドの詳細ですか?」

「そうですよアルベドのです。タブラさんは"設定魔"でしたからね、以前もこの設定を練る為だけに、ユグドラシルにログインしてずっと設定練ってましたし。」

「私も自分もセイバーオルタのアバターやNPCを作る時、考えた事はありましたが流石にここまでは...。」

そう言うオルタさん、私も邪ンヌさんも全くの同じ意見で、うんうんと頷いていた。そんな風に話しているとアルベドの詳細の一番下についたようだ。するとこんな一文を目にする。

『ちなみにビッチである。』その一文じ自分はガクリと頭を下す。

 

「あぁ、ギャップ萌えでしたからね、タブラさんは。」

そういえばそうでしたね、個人の趣味だとしてもさすがにこれは、」

さすがにこの設定はどうなんだと私は思ってしまった。まぁ他人の趣味にあれこれ口を出すのはいけないとは思うけども...。

そう思いながらも私はこの設定を変えたいと思った。本来なら特定のツールが必要なんだけど、この杖《スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン》があれば、ツールの必要がなく変えることができる。

早速杖を使い、最後の一文を削除した。んーせっかくだしここに何か入れたほうがいいかなぁ

すると、近くにいた邪ンヌさんが一文に「モモンガを愛している。」こう書き込んだ。

・・・。 (なんじゃこの設定は!てか杖無しになんで邪ンヌさんがかきこめるんだ!?)

「ちょちょちょっと、何つう一言書いてくれるんですか!?というか何故邪ンヌさんが書き込めてるんですか!?」

「あれ、知らないんです?その杖でツールを使わず書き込もうとする時、いじれるメンバーを指定しないと近くにいるプレイヤーにも書き込めるようになるんですよ?」

「なっ!?」

そうだ、元々このツールを使う時は仲間で相談しながらギルドの背景設定を考えたり、階層のイメージを互いに書き込んだりする為に使っていた。その時は特に全員の意見をもらので、全く気にすることもなかった。個人のキャラの設定を変えるなど考えたこともなかった為すっかり忘れていた。

「あぁ、この通知はその通知なんですね、突然「ギルド管理者権限により、ツール設定を有効にされました」と通知が来たんですよ。」

初めて知ったそんな通知...それもそうだ、何せ自分が許可を皆に出してるのにそのような通知が来るわけがない、そもそもこれは杖を使える私だけしかできないのだから知るタイミングなど元からなかった。

そんな珍イベントで盛り上がっていたら時間が残り3分しかないのに気付いた。

 

「...もうすぐですね」そう私はつぶやいた。

 

「なんのことでs...あぁそうですね。」

オルタさんも時間に気づいたらしくさっきまでの盛り上がりが嘘のようにしんみりとしている。

「あら、もうそんな時間たっちゃいましたか、やっぱいざ終わるとなるとより寂しさを感じますね...。」

どんな時でも明るく接してくれる邪ンヌさんも、低いテンションで話す。今思えば、さっきまで楽しかったのは、邪ンヌさんが色々盛り上げてくれたのが大きかったからなぁ...プレアデス達との会話といい、アルベドの設定といい

 

もう終わる、そう感じた私は、玉座の間に飾られている仲間(ギルドメンバー)の旗を指さしながら名前を言い並べた。

 

「俺、たっち・みー、死獣天朱雀、餡ころもっちもち、ヘロヘロ....」

それに続いてオルタさんも続いて仲間(ギルドメンバー)の旗を指さしながら名前をよぶ。

 

「邪ンヌ、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜、タブラ・スマラグディナ...」

その後に邪ンヌさんが続いて、名前を呼ぶ、皆との思いでを思い出しながら...

 

「セイバーオルタ、武人武御雷、スーラータン、ばりあぶる・たりすまん、源次郎...」

一人、また一人と仲間(ギルドメンバー)の名前を挙げていった、それにつれて最後と言う言葉が悲しく突き付けられていく。そして3人とも心の中でこう思った。

 

 

  (((そう、楽しかったんだ...楽しかったんだ。)))

 

 

全員の名前を挙げ終えた邪ンヌさんとオルタさんは、私の方に顔を向け声をそろえてこう言った。

 

「「モモンガさん、いえギルド長、今まで本当にありがとうございました。」」

その言葉で私の胸の奥にしまっていたものがあふれた気がした。最後まで残ってくれた二人からの「ありがとう」の言葉、1人プレイヤーとして、そしてギルドの代表として心の底からうれしかった。本当にこのゲームを遊んで、このギルドを作って本当に良かった...

 

「お二人も、本当に、本当にありがとうございました。」

震えながら二人に向けて言う感謝の言葉、今頃現実の私は涙を流しているんだろうな、

二人も互いに顔を見合わせ、軽くお辞儀した後、静かに目を閉じ、最後の時を持つ。

 

ピッ ピッ ピッ...

 

静かなこの場所にこの場所に秒針が進む音だけが響き渡る...

 

 

 

23:59:55ピッ...

 

 

 

23:59:56ピッ...

 

 

 

23:59:57ピッ...

 

 

 

23:59:58ピッ...

 

 

 

23:59:59ピッ...

 

 

 

(さようならナザリック...ありがとう...)

最後、サーバーが閉じる瞬間、心の中でそう言った ―――

 

 

 

 

 

00:00:00ピッ...

 

 

 

 

 

 

 

一つの時代が終わった今、新たなる時代の秒針が音を立てる ――

 

 

 

00:00:01ピッ...

 

 

 

00:00:02ピッ...

 

 

 

00:00:03ピッ...

 




ご清覧ありがとうございました。

私は小説等を書いた経験などはほとんどなく、話の流れがめちゃくちゃになってしまったり、蛇足な部分が多かったりする可能性がありますので、そういった気になる箇所がございましたら、優しく指摘してもらえると助かります。
さて、まずは導入としてナザリック転移前の描写をさせてもらいました。まだ邪ンヌとセイバーオルタの口調に違和感を感じたと思いますが次回からキャラに寄せたセリフ回しをしていこうと思います。

せっかくなので今回は現在構想しているセイバーオルタのステータスの一部を少し書いておこう思います。


名前:セイバーオルタ  種族《黒鱗の竜人(ダーク・ドラゴニュート)》

《種族Lv.》+《職業Lv.》=Lv.100

《種族合計取得レベル45》
・黒鱗の竜人Lv.10
・竜人Lv.10
・湖の精霊Lv.9
など

《職業合計取得レベル55》
・ケンセイLv.10
・竜司祭Lv.10
・ドラゴン・ネクロマンサーLv.10
・エレメンタリスト(フレイム)Lv.10
・スナイパーLv.5
・ガンナーLv.5
など

《使用する武具》
・片手剣 ワールドアイテム《黒く淀みし勝利の聖剣(エクスカリバー・モルガン)》

黒と赤がベースのアンデット特攻のスキルがついている聖剣。もとはワールドアイテムの《聖剣エクスカリバー》を自分好みに改良したもの、色合いをいじっただけだが、剣になぜか天使特攻の追加スキルを得られた。(アンデッド特攻はそのまま)
この剣にはワールドアイテム特有の強大なスキルがあるらしいが本人は話したことはない。一度その力を見た事がある「たっち・みー」によると超攻撃特化のスキルとの事。

・仮面 《淀んだ目隠し》

黒いバイザーに赤く光る亀裂のような模様が特徴の防具、精神攻撃に大きな耐性が得られるほか、少量ではあるが一秒ごとにMPを回復することができる。MP回復の手段が少ないユグドラシルではかなり重宝される防具

《取得スキル・魔法》
・スキル 《竜の祝福(ブレス・オブ・ドラグニル)》

《竜の祝福》は戦闘時に重宝するスキル。《竜の祝福》を使うと、内に秘めた竜の力が自動的に最適解の攻撃を繰り出せるようサポートする。《竜の祝福》は一回の戦闘で1度しか使えず、効果も数十分とかなり短いが、このスキルを使っている間は、すべての攻撃が急所、つまりクリティカル判定となり、最適解の戦闘を行う為回避にバフを付与することもできる。だが一度しか使えず、効果も短い為、ここぞと言う時にしか使わない。

・第5位階魔法 《魔力放出(マジックバースト)》

自分の消費MPを自由に設定でき、消費したMPの量によって与えられるダメージが大きく変わる魔力を放出する魔法。一応消費MP量には上限があり10∼150程度。オルタはとあるスキルによって職業を変更せずに剣から魔法を放てるため、遠近巧みに使い分けることができる。

・パッシブスキル 《???》

オルタが偶然入手することができたスキル。本人曰く、このスキルによって戦士職のままでも覚えている魔法を扱うことができるようになるスキル。その際物理攻撃の数%分を魔法攻撃に上乗せできるらしく、普通に魔法職の状態で魔法を放つより少し強化されるという。


と、長々と設定を書かせてもらいました。次回は邪ンヌのステータスでも記載しようと思います。

※追記
今回の一文に「基本戦士職は魔法を使うことはできない」とありましたが、アニメや原作見返すとコキュートス等が使っていたりしてると思います。ですがその際武器を使わず、魔法の使用時は魔法の発動に専念しているように感じました。そのため私は「魔法の詠唱をしながら武器での攻撃は同時に行えない。」と解釈しました。つまり何が言いたいのかと言いますと、オルタは「武器を振りながら魔法を詠唱し放つことが出来る」という事です。
言葉足らずでややこしくなっていしまい申し訳ありません。


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1章 転移・調査・潜入
第1話


第一話になります。
ここから口調を原作よりにしたつもりですが、完全に原作よりというよりかはアバターの中の人っぽさもあるような話し方にしているつもりです(汗)

話し方の部分を完璧に原作よりにするのは何かオーバーロードのキャラとしては何か違うような私個人の考えですが、その点を踏まえお読みください。あと守護者枠のキャラに3体ほどFateのキャラを追加しています。

※報告のあった誤字を修正済み。
まだありましたらコメントにてご連絡を。


~セイバーオルタ視点~

 

 

「「「ん?」」」

三人はそろって少し間抜けな声をだす。それもそうだもうサービス終了時間はとっくに過ぎてるのにログアウトされていない。

サーバーダウンが延期になったのだろうか、そう思いつつ私はコンソールを出そうと指でタップする。

 

「なんだ、コンソールが出ないぞ。」そういうと、

「本当ですね、私の方もコンソールが現れません。」

「嘘、あなた達もなの? なにこれ、サービス終わる直前で新しいバグかしら?」

と邪ンヌとモモンガも同じらしい。どうやらコンソールがタップしても表示されないようだ。その後GMコールやチャット、強制終了の手順など様々な対応を試してみたが、そのすべてが使えなかった。

 

「どうなっているのよ一体!? GMコールはともかくとして強制終了まで機能しないとかありえないわよ...。」

「たしかにGMコールが使えないのはバグの可能性があるとして、強制終了が三人とも使えないとなるとバグの可能性は低そうですね。」冷静に返答するモモンガ。

「やけに冷静だなモモンガよ、最初のころはあれほど焦っていたというのに。」

「ええ、どうやら私に大きな感情の起伏とかがあると、どういうわけか抑制されるみたいです。」

「ほぉ、抑制されるということは何かのパッシブスキルが働いているということか、つまりスキルは機能していいるとゆうことか。」

「みたいですね、どんなスキルが働いているかまではわかりませんが。」

「そういう貴女も落ち着いてるじゃない...なによ、貴女までスキルが発動しているってわけ?」

「む、そう見えるか?これでも内心かなり焦っているんだがな。」

「表情も変えず、清々しい顔でよく言えるわね…。」

そんな風な話をしていた時、先ほどまで落ち着いていたモモンガが私達の顔をみて驚いた声をあげた。

 

「オ、オルタさん邪ンヌさん! く、口が動いてますよ!あと瞬きも!」

そんなばかな、このゲームにそんな機能はないはず。だが邪ンヌの顔を見てみると確かに動いている。とりあえず一旦少し落ち着こうと深呼吸した時、空気のにおいを感じた。そんな、口の動きすら実装されてないこのゲームに、まさかにおいが追加されるなんてことはありえないはずだ。一体どうなっているんだ...

そんなことを考えていた時、初めて聞く声を耳にした。

 

「どうかなさいましたか、モモンガ様方?」

そう話すのは守護者統括のアルベドだった、ありえない。そもそも話す機能など無いはずだし、コマンド以外のセリフを自発的に行うことなど起こりうるはずもない。

(でもこれは、NPCに命がたしかに宿っているようだ。この状況、まさか・・・)

そう考えていた時、モモンガが話し出す。

 

「・・・GMコールが聞かないようだ。」

そう話すとアルベドは申し訳なさそうな表情をしつつモモンガに向けて跪いた。

 

「もうしわけありません。私にはGMコールというものについてお応えすることができません。」

やはり彼らには命があり、思考している。これで三人は確信した。

(((私/俺達はユグドラシルの姿のまま何処か転移したんだ・・!)))

そうでなければこんな状況は起こりえるはずもない、ユグドラシルのアバターのまま新たに生を受け、NPCがしっかりと生きており、話すことも可能なんだから。

そうとわかれば、まずはこの大墳墓の外はどうなっているのか気になる。モモンガがアルベドに質問したように、私もセバス達に命令をだすとしよう。

 

「セバスよ。」

「はっ。」

しっかりと返事を返してくるな、NPC達には慕われているととらえるべきか。

 

「プレアデスを一体・・・いや、一人連れて大墳墓の外の周辺地理を確認してこい。連れていくプレアデスはお前の判断に任せる。」

「畏まりましたセイバーオルタ様、では・・・、ナーベラルと共に向かいたいと思います。」

「よかろう。何かあり次第連絡せよ。他のプレアデス達は9階層に上がり、侵入者が来ないか警戒に当たれ。」

「「畏まりました。」」

メイド長のユリ・アルファとセバスが同時に返答し、プレアデス達は玉座を後にする。こういった指示をすることなど、仲間達にはしたことはなかったからな、私が再現した"セイバーオルタ"の感じを表現てきているようで、少し心が躍る。

 

「セイバーオルタ様、私はどういたしましょうか。」

アルベドがそう聞きに来た。さてどうしようか、他の守護者達がどうなっているのか見てみたいというのはある。それならアルベドに守護者達を集めてもらい、あとで《伝言(メッセージ)》の魔法で連絡を……魔法…魔法はユグドラシルと同じように使えるのか?先ほどモモンガの感情がスキルによって抑制されたのを聞きスキルの方は使えるのは確認できた。では魔法はどうだ、性能が変わってたり、使えない可能性があるかもしれない。よし、こう伝えてみるか。

 

「そうだな、アルベドよ。ギルド内の各階層守護者達に連絡を取り、第六階層の闘技場まで来るよう伝えよ。時間は、そうだな…今から一時間後としよう。」

「かしこまりましたセイバーオルタ様。ではさっそく各階層の守護者と連絡を取りに――」

そういって動こうとしたアルベドだが、邪ンヌが横から付け加えるように話す。

 

「いや、ちょっと待ちなさいアルベド。全員ではなく一部の守護者は階層にて待機させておきなさい。いざという時になった場合でも一部守護者がいるなら対処しやすいはずよ。」

なるほどその発想はなかったな、基本楽観的な邪ンヌにしてはよく考えた発言ではないか。ではそうしよう。

 

「そうだな、そのほうが良い。では第四階層のガルガンチュアと、第八階層のヴィクティムを待機とし、他階層守護者達を第六階層に集めるように。」

「なるほど、畏まりました。邪ンヌ様、セイバーオルタ様。」

そういうと、アルベドは立ち上がり玉座を離れた。とりあえず一つ事は片づけたと思うべきか。

 

「で、貴女は第六に守護者集めて何する気?」

邪ンヌは私の考えを理解したと言うわけではなさそうだ。モモンガを含めて一度説明しておくか。

 

「とりあえず現状確認しておくことがまだあったのでな、それを行う為だ。」

「なにそれ、他に見たほうがいいものってあったかしら。」

「・・・なるほど、魔法の仕様と効果についてですね。」

モモンガは少し考え話す。冷静な時の思考と判断力は相変わらずのようでなにより、頼りになる男だ。

 

「ああ、この世界でも私たちの魔法は変わらず使えるのか、闘技場で確認しとくべきだと思ってな。」

「なるほどねぇ、そういうことならさっそく向かいましょうよ、この指輪が使えるかどうかも確かめられるしね。」

邪ンヌはそう言いながら指にはめた指輪を眺めながら話す。確かにゲームではこの指輪を使って階層を自由に行き来することができた。確かめておく必要があるか。

 

「そうだなではさっそく動くとしよう。モモンガ、邪ンヌよ準備はよいか?」

「私は大丈夫です。」

「私もよ、さっさと行きましょう。」

「そうか、では闘技場へ向かうとするか。」

そういうと3人は指輪をかざす。

 

 

 

 

 

 

―― 第六階層 闘技場 入口――

私達は指輪をかざすと、問題なく移動することはできた。

「指輪の効果には問題はないようですね。」

「そうね、とりあえず一安心だわ、この階層の移動にいちいち歩くと時間かかるからよかったわぁ。」

全くだ、9階層あるこの大墳墓をいちいち行ったり来たりするのは面倒だし、いざと言う時の対応がしずらくなる。そういう点ではこの移動方法についてはもう少し改善する必要はあったのかもな、まぁ今はとりあえず置いておくか。

 

「さて、向かうか。」

そういうと、私達三人は闘技場内部に足を進む。第六階層は星が輝く綺麗な夜空が広がっている。たしかここは「ブルー・プラネット」が一番気合をいれて手掛けていたな。この空の出来をブルー・プラネットに聞くたびに、ああだこうだと長々と出来ばえを話していたな、懐かしいものだ。そんな風に昔の事を思い出していた時だ。一人のダークエルフが観客席から飛び出してきた。彼女はアウラ、双子のダークエルフの姉でこの第六階層の守護者でもある魔獣使い(ビーストテイマー)だ。

 

「ようこそいらっしゃいました。邪ンヌ様、モモンガ様、セイバーオルタ様!」

「あらアウラじゃない、元気そうね。あら、もう一人がいないけどどうしたの?」

「あれ?」

そう言ってアウラが見渡すと、先ほどまでアウラがいた場所にもう一人、すこし震えながら下を覗いているダークエルフがいた。

 

「マーレ!モモンガ様方がいらっしゃってるのよ、とっとと飛び降りなさいよぉ!!」

「む、無理だよおねぇちゃん・・・。」

「マーーーレぇ!!」

「わぁわかったよぉ、おねぇちゃん…えぇいっ!!」

ぴょんと下に降りたマーレ、少し体制を崩し、おろおろしている、そして服を軽く整えながらこちらへ走ってきた。

 

「お、お待たせしました…。」

「全く、モモンガ様達がきてるんだから、早く降りなさいよぉ!!」グリグリ

「い、痛いよぉ、おねぇちゃん…!」

そういい、マーレをつかみ、頭を拳でグリグリと動かすアウラ。それを受け、少し涙目でアウラに謝るマーレ。この二人はこんなにも生き生きと感情豊かに動くもんなんだな。

 

「あらあら、仲のいいこと。この風景を茶釜が見たらどんな反応をしてたかしらねぇ。」

「ハハ、たしかにな。多分茶釜のことだ、きっと奇声を上げながら喜び回るだろうなフフッ。」

「アッハハ!確かに、茶釜が飛んで喜ぶその光景が目に浮かぶわ、アハ、アッハハハハ!!」

と茶釜の話をしにここへ来たんじゃなかった、さっそく魔法の確認を……。

 

うん? ちょっと待て、ごく自然と話しているが、私何故彼女のことを「茶釜」などと呼んだ?

いつもは「茶釜さん」と、さん付けで読んでいたではないか。しかもなんだこの口調は、私と邪ンヌは元からキャラに寄せたロールプレイしているわけでもないのに、なぜか口調が自然と「セイバーオルタ」と「ジャンヌ・オルタ」によっているではないか!?とりあえずまだ笑っている邪ンヌに話し換えて確認せねば…

 

「おい邪ンヌよ、ちょっと聞きたい。」

「アハハッ、ハアァ笑った。で、何?なんかあったの?」

「お前、その口調は"素で話している"のか、それとも演技か?」

「な、なによいきなり…そんなの素に決まって…」

邪ンヌもどうやらこの身に起こっている状況に気づいたようだ。ゲームで私達はキャラの外見と設定だけを凝っていて口調や性格といった部分をロールプレイで寄せるようなことはほとんどなく、いつも素の状態で話していたはずだ。だがこの世界に来てからどうだ、今の現状、これは…

 

「ねぇ、これ確実にこのキャラに付けた「設定」に寄っているわよね…。」

「ああ、確実に寄っている。口調はもちろん、性格の部分も少し寄っているような気はするな。」

「そうね、でも基本的な物の考え方とか思考はいつもどおりみたいね。」

「どうかしましたか、お二人とも。」

「いや、ちょっと口調がな・・・」

モモンガに今話していたことを説明する。

 

「えっ、今までの口調ってそういう口調にしていたんじゃなかったんですか!?」

「ああ、完全に素だ。自分でも気づかない程自然とこの口調で話していたんだ。」

「とゆうか、モモンガ貴方は特に口調は変わってないのね。声の感じは少し変わってはいるけど…」

「私はあまりそういった設定とか考えたりしてませんでしたからね。そこまで変わらなかったんでしょう。」

「そういうことか、まぁ現状何かあるわけじゃないから気にせず行こう。」

「まぁ途中まで気にしなかったし、この口調も嫌いじゃないから別にいいわ。」

対して重要性の少なそうな問題なので、この話題はここまでとする。あり得る可能性としては、この世界に来るにあたってこのアバターの設定に寄った生命として今私達は存在している為だろう。そんなこんな話をしていたらアウラ達が気に掛ける。

 

「どうかなさいましたか、セイバーオルタ様?」

「あぁ気にするな、少し邪ンヌ達と話していただけだ。アウラよ、私達はここにある検証をするために来たのだ。」

「ある検証ですか?」

「ええ、そうよ。とりあえず魔法を使いたいから的を用意してもらえる?」

「畏まりました、邪ンヌ様。ではさっそく準備しますね」

そうゆうと彼女は口笛を吹いた。そうすると闘技場反対の入り口から《ドラゴンの近縁(ドラゴン・キン)》が三体ほど出てきた。その手には藁でできた的を持っている、《ドラゴンの近縁(ドラゴン・キン)》達はその的を地面に突き立てた。

 

「的の準備終わりました、邪ンヌ様。」

「ええ、ありがとうアウラ、じゃあさっそく使わせてもらうわね。先やらせてもらうけどいいわよね?モモンガ、オルタ」

「大丈夫です、かまいませんよ。」

「ああ、別に構わん。」

「な、何をするんだろうね?おねぇちゃん」

「わ、わからないけど何か確認したいみたいだね。」

「そぉ、じゃあさっそく…」

そういうと邪ンヌは的に向けて手をかざす。ゲームなら使いたい魔法のコマンドを指定て発動するが、今はそんなものは無い。だが私たちは不思議と感じる、今の自分のHPとMPの量、覚えている魔法やスキルが。

 

「《火の槍(ファイヤー・ランス)》!!」

邪ンヌは第6位階魔法《火の槍(ファイヤー・ランス)》を呼んだ。すると、地面から炎を纏った複数の槍が的にめがけて向かって行き、的を燃やしながら串刺しにする。どうやら魔法の使用に関しても問題はなさそうだ。

 

「す、すごいねマーレ!」

「う、うん すごいねおねぇちゃん!あ、あの魔法は第6位階で元々威力はあるけど、スキルでかなり強化されてるよ‼さすが邪ンヌ様!」

「ふ、ふふん。当然よ、これぐらい出来なきゃ至高の43人には到底なれないわ!」

「「おぉーーー!!」」

何を照れているんだ、ただ普通に魔法を使っただけだろうに。こういう(おだ)てられることに弱い部分も「ジャンヌ・オルタ」の要素に寄った影響だろうか。

 

「それでは次は私ですね。」

モモンガはそういうと魔法《火球(ファイヤーボール)》を放つ。すると、炎の球が指先に現れた。その炎の球は、指を差した方向にまっすぐ飛び的に命中、激しく的を燃やした。

アウラとマーレはその魔法をみて、目を輝かして拍手している。ただの第三位階魔法なんだがな。

 

「ふむ、私の魔法の使用にも、特に問題はないようですね。」

「らしいな、二人が大丈夫と言うことは私も特に異常はないんだろう。では私は、魔法ではなく戦士職の動きについて問題ないか調べてみよう。」

そう言って私は、的より少し離れた位置に向かう。そして脇に備えていた私の愛用する黒い聖剣《黒く淀みし勝利の聖剣(エクスカリバー・モルガン)》を手に取る。自然と手になじむ感じがする…。リアルでは剣道などを習っていたわけでは無いが自然と剣の握り方がわかる。やはりこのアバターで10年以上剣を振り続けたおかげなのだろうか。すると唐突にアウラが私に質問する。

 

「あの、すいませんセイバーオルタ様。その戦士職の性能の確認?をするとのことでしたが、肝心の剣がありませんよ?」

「む?何を言っているのだアウラよ、今私はすでに剣を持っているぞ?」

「い、いえ。もうしわけありません!セイバーオルタ様のお言葉を疑うわけではありませんが、そのぉ、今お手元には黒い風が渦巻いているようにしか見えませんでしたので…」

「黒い風…あぁそうか、そういえばそうだったな、忘れていたよ…」

そう、この剣。元は《聖剣エクスカリバー》を私好みにアレンジした物だが、そのエクスカリバーの効果の一つとしてこんな効果があったな、使用者はこの効果に影響されないので忘れていた。

 

「…《聖剣、開放》―――」

私が一言そう言い放つと、手元にあった黒い風の渦が勢いよく流れ始め周囲に暴風が吹き荒れ始めた、そしてその暴風の中心には赤く光が強く輝いている。

 

「な、なんですか、この風!?」

「す、すごい風だよ、おねぇちゃん!!」

「ああ、お前たちはオルタさんが剣を開放するのを初めて見るのか」

「剣の開放…ですか?」

「そうよ、あいつの剣、《黒く淀みし勝利の聖剣(エクスカリバー・モルガン)》には相手からは剣の形をとらえることが出来なくなる妨害系の固有スキル、《秘匿せし黒き風(インビジブル・シャドウ)》ってスキルがあるのよ。その状態だと相手には剣の姿が見えず、攻撃するときのリーチの長さなどをわからなくすることが出来るのよ。」

「そ、そんな強い効果がある武器なんですか!」

「だが、聖剣を開放するとその効果は消えてしまうんだよ。」

「な、何で解除してしまうんですかモモンガ様?開放せずそのままでいた方が つ、強いのではないですか?」

「たしかに普通ならマーレの言う通りだろうな。だが、あのワールドアイテムは力を開放すると妨害スキルが消える代わりにステータスに強力なバフが掛かり、新たなスキルが二つ使えるようになるんだよ。」

「「えぇ!! ワ、ワ、ワールドアイテム何ですかあの剣は!!!」」

そのことを知らなかったアウラとマーレは衝撃の事実に驚きつつ、今ワールドアイテムの力の一旦を見ることが出来ている事実に感動を覚え私をキラキラとした目で見つめている。少し恥ずかしいな。そんな剣の説明を少し説明してもらっている間に、強烈に吹き荒れていた風や赤く輝いていた光も落ち着き、私の手元には刀身が黒く、赤い紋章が明滅する一振りの黒き聖剣が握られている。

 

「あ、あれが剣の本当の姿なんですか、モモンガ様?」

「ああそうだ、今から剣を振るだろうから、目を離さないようにな。」

「「は、はい!」」

さて、さっそくいつも通りに動けるか試してみるか。私は的がその後どうなるかイメージする、どう的に切りつけるか、その後はどうするか、イメージするは微塵に切り付けられた的のイメージ。イメージが固まると、私はその距離を縮めるために一歩踏み込み、距離を縮めた。その瞬間、一歩の踏み込みとは到底思えない音が響き渡る。さらに

 

「「えっ!?」」

二人がそろえて驚く、なぜなら彼女達から見たら私の姿が一瞬で消え、大量の土煙を上げ黒い閃光のようなものが的に向かったように見えたのだ。そして私は、一振り、二振り…と的に連続で切り付ける。複数回切り付けた後、最後の一撃を的の後ろに回れるよう、切り抜けるように振った。だが、アウラ達には武器を振る瞬間は見えておらず、ただ黒い閃光が的を通り過ぎたようにしか見えなかった。そして的は原型を残さず切り裂かれ、かつて的だった物が塵となって霧散する、その塵には赤黒い炎が燃えていた。

 

「ふむ、特に動きに変化はないようだな。」

「あ、あれマーレ?い、今の見えた?」

「う、ううんおねぇちゃん…ま、まま、待ったく見えなかったよ…。」

「どうだ二人共、これが私が聖剣を開放した時の力だ。」

「す、すごいです!私達、まったく目で追うことが出来ませんでしたよ!すごい音と衝撃がドーーンって聞こえたら、セイバーオルタ様がいなくなってて、その代わり黒い光がバァーーって走ったと思ったら、的の後ろにセイバーオルタ様がいて、肝心の的は粉々に切られてて、それでそれで…」

二人ともものすごい勢いで感想を並べ立てている。少し気分がいいな、こうやって褒められることなどなかったからな。だが少し怖いぞマーレ、アウラよ…

 

「待て待て、落ち着けアウラ、マーレ、少し興奮しすぎだぞ。」

「あっああ、すいません。」

「も、申し訳ありませんでした。セイバーオルタ様。」

二人ともものすごい勢いで話していたからか汗をかき、息が少し切れている。

 

「全く、二人ともしゃべり疲れてしまっているではないか。」

私は虚空に腕を入れ、水の入ったポッドと二つのコップを用意する。そしてそのコップに水を注ぎ、アウラ達に渡す。

 

「ほら、水だ。喉が渇いているだろう、飲むと良い。」

「「あ、ありがとうございます!」」

そういうと、二人はゴクゴクと喉を鳴らしながら水を飲みほした。やはり命がある為か、普通の生き物と同じく喉の渇きや食欲はあることは確認できた。そして水を飲み終えたアウラが少しうれしそうな声で私達に話す。

 

「なんか、私たちが思っていた至高の御方々のイメージと少し違いました。」

「あら、そうなの?一体どんなイメージだったのかしら?」

「えぇと、敵に情けがなく少し怖いイメージと言いますか…」

「ふっ、そんな風にみえていたのかアウラよ。なんならイメージ通りに振るってもいいぞ。」

「いえ今のままがいいです、絶対いいです!」

「ふふっ、そうか」

私達は少し微笑みながら言った。まったく、そんな風にみられてたのか。確かに私達はナザリックに攻めようとしたプレイヤーには本気で戦うし、たまに仲間と口論したりするが、基本ナザリック内では普通に優しく仲間達と接していたと思うがな。

私たちが和やかに話していると、外の周辺地理を確認していたセバスから連絡が私に《伝言(メッセージ)》入る。

 

『セイバーオルタ様。周辺地理の確認が出来ました。』

『セバスか、何かあったか?』

私ががそうセバスに聞くとセバスが少し困惑しているのような声色で話す、やはり何かあったようだ。

 

『少し、報告したいことがございます。』

『そうか、今守護者達に第六階層の闘技場に集まるよう呼び掛けている、お前もこちらに来て見てきた事を報告しに来るがいい。ナーベラルの方は、他のプレアデス同様九階層の警戒にあたらせる様に。』

『畏まりました、セイバーオルタ様。直ちに第六階層の方に向かいます。』

『うむ、頼むぞ。』そういうと《伝言(メッセージ)》が切れた。私は今聞いた事を二人に伝えようとした時だ。

 

「あら、私達が一番でありんすか。」

「どうやらそのようだな、白き同胞よ。」

「・・・・・。」

突然女性と男性の声が聞こえ、闘技場に《転移門(ゲート)》が現れた。中から歩いてくるのは紫を基調としたドレスに身を包んだ白蝋じみた白い肌をした少女と、赤と黒の外装を身に纏う男、その後ろから追うように黒いオーラでその身をつつんだ騎士が現れた。少女の方はシャルティア。ペロロンチーノが創った第一から第三階層の守護者であるアンデッドであり、《真祖(トゥルーヴァンパイア)》だ。

もう一人の外装に身を包んだ男はアントニオ・サリエリ。私が作り上げたシャルティアと同じく第二階層の守護者の《始祖(オリジンヴァンパイア)》だ。ちなみに《始祖(オリジンヴァンパイア)》とは《真祖(トゥルーヴァンパイア)》の上の種族ではあるが、サリエリは種族の差などをあまり気にしない為、シャルティアとは基本的に仲良く接しているという設定だ。

そして後ろにいた騎士はランスロット。サリエリと同じく私が作り上げた第三階層の守護者とゆう設定の《食屍鬼王(グールキング)》の騎士、かつての私と共にいた過去に戦死した騎士の一人だが、忠義を尽くすため、死して理性を失っていても私の為に仕えてくれている、基本無口でおとなしいが、私が指示を出すとまるで狂戦士のごとく戦うという設定を付けた騎士。この設定も私が以前遊んでいたゲームからの再現だ。細かい部分の設定は少し自分好みに変えてはいるがな。

 

「おお、わが主よ。恩讐の炎をその身に宿す、わが主よ!!」

「よくきたな、サリエリよ。」

「フッ、我は主に作られたのだ。主に呼ばれたとあれば我はどこへでも」

そういいサリエリは私の前に跪いてそう言う。私がお前を作ったせいなんだが改めてこう忠義を示されると、恥ずかしさがこみ上げてくるな…。一方ランスロットは、静かに私の前に跪いている。こいつだけはしゃべらず静かだから助かる。

 

「フッ、わが君ですってよ。慕われてるわねぇ貴女?」

「からかうな邪ンヌ…」より恥ずかしくなる…。すると

 

「あぁ、わが君! 私が唯一支配できない愛しの君!!」

シャルティアは嬉しそうに言うと、彼女は差していた傘を投げ捨てモモンガに抱き着いた。モモンガは見てわかるほど動揺しており、それを見ていた邪ンヌは体を震わせ、顔を抑え笑うのを抑えている。そういえば「エロゲーイズマイライフ」と豪語した創造主のペロロンチーノはたしか、シャルティアにはエロゲーに有りがちな設定をてんこ盛りに詰め込んだと言っていたな。その中には「サド」や「マゾ」を始め、「死体愛好癖(ネクロフィリア)」などの設定を持たせていて、彼女はアインズの骨格を「神の造形」とベタ褒めし、同じく死体のユリも好みで「男女どっちでもOK」な性癖を持つとかなんとか書いてあったな。

 

「ちょっとシャルティア、いい加減にしたらぁ?」

アウラが呆れながらモモンガに抱き着いているシャルティアに向かって言う。

 

「おやちび助、居たんでありんすか?」

シャルティアはアウラに向かってこう言い放った。さすがにムカついたのか。反撃と言わんばかりに強烈な一言を言い放った。

 

「に せ ち ち…」

「なぁっ!!!!」

「図星ねぇ!わざわざゲートで来たのもそのせいしょう?そうしないと歩くたびに揺れて、そのお胸がどっか行っちゃうからぁ!」

それは"持たざる者"にとっては一番言われたくない言葉。"持つ者"を妬み、羨む"持たざる者"にとって己が一番空しく感じる禁断の言葉である。

 

「だっだまらっしゃい!あ、あんたなんて何もないでしょ!!」

「私はまだ76歳だけど、貴女はアンデッド。成長しないなんて可哀そうねぇ、今ある物で満足したらぁーププ♪」

「おんどりゃぁあ!吐いた唾はのめんぞぉ!」

そういいながらアウラの元に駆け寄り、喧嘩を始めてしまった。この光景をみていた私たちは懐かしさを感じる。

 

「なぁ邪ンヌ、モモンガよ、この光景を見て懐かしさを覚えないか?」

「そうですね、アウラを創ったお姉さんのぶくぶく茶釜さんと、シャルティアを創ったぺロロンチーノさんも昔こんな感じでよく言い争いしていましたね。」

「なつかしいわね。昔彼が茶釜に、好きな声優のサイン貰えるように懇願してたりしてたわよねぇ」

二人の現身のような光景に笑いながら見ていた時、言い争いをしている二人の奥からまた誰かがやってきた。

 

「騒ガシイナ。」

「なんだろうね、おじいちゃん?」

一人は水色の屈強な体をしたカマキリとアリを融合させたような異業種、もう一人は灰色のボロボロのローブを身にまとっている、白髪で顔に縫い目がある幼い少女。

異業種の彼の名はコキュートス。ナザリック第五階層の守護者であり、武人という設定の《蟲王(ヴァーミンロード)》だ。もう一人のかわいらしい少女の名はジャック・ザ・ミスト。邪ンヌが創ったプレアデス達がいる第九階層の守護者である《上位霊体(ハイ・ゴースト)》だ。彼女の設定としては複数の少女の恩讐が集まり生まれた存在であり母の愛・温もりを求め殺戮を繰り返す、邪ンヌの事を「おかあさん」と呼ぶ。

コキュートスはアウラ達の喧嘩の仲裁に入る。アウラ達の口喧嘩はさらに強くなっており、双方武器や魔法を構え使用しようとしている。

 

「このチビが私に無礼を!」「事実だぁ!!」

するとコキュートスは二人を止めるためか左手に持つ武器の先で地面を突く、すると地面があっという間に凍り付きアウラ達の居る方へ進んでいく。このまま騒がしいままでも自分はいいが折角だ、少し支配者らしい行動をしてみるとしよう。横を見るとモモンガがスキル《絶望のオーラ》を発動しようとしている、なら私も同じく《絶望のオーラ》を使い動くとしよう。

 

「「そこまでだ!」」

私とモモンガは絶望のオーラを身に纏いながらそう叫ぶ、アウラやシャルティア以外の他守護者達にも動揺が見える。どうやら支配者らしい行動をしたのは正解だったようだな、そしてモモンガはさらに言葉を並べる。

 

「シャルティア、アウラ。じゃれ合うのは其処までだ。」

「「申し訳ありません!」」モモンガはアウラ達を止められたのを確認すると、次はコキュートス達に目を配る。

 

「コキュートス、ジャックよ、よく来てくれたな。」

「アインズ様方ノ、ゴ命令トアラバ即座ニ...。」

「わたしも、わたしも!おかあさん達に呼ばれたなら、急いで絶対かならず行かなきゃね!」

「そうか、頼もしいな」

「フフッ、さすが私が作り上げた子ね」ウズウズ・・・

モモンガは守護者達にしっかり統率者らしい威厳があるように話す言葉遣いで話している。なんだ、モモンガの奴もやればできるではないか、こんな状況でも統率者としてしっかりやれそうだな。それに比べて邪ンヌは自分の作り上げたキャラが動いているのを見て気持ち悪い笑顔を隠せずウズウズとしている、隣に居たくないと思えるほどの気持ち悪さだ。俗にいう「変態」、いや「親馬鹿」というのはこうゆう奴のことを言うのだろうか…

 

「ふっ、やるではないかモモンガよ。これは私が行動する意味はなかったかな?」

「いえいえ、オルタさんも一緒に動くってわかったからですよ。」

「まったく二人して王様みたいな言動しちゃって、そんな柄だったかしら?」スッと先ほどまでのとは違いすっとした顔をして話す、なんだこいつ…。

「お前はお前で、少しは上に立つ者に見合った立ち振る舞いをしたらどうだ?自分の守護者を見てニヤニヤと、少しは感情を抑えて見せろ。」

「嫌よ嫌、私は私のままがいいの。私が気に入った奴がいたら愛でて、気にくわない奴いたら潰す。偽らず自然体でいたいのよ私。」

「お前らしくか、フッそれがいいなら勝手にするがいい。」

「えぇ、そうさせてもらうわ。」

そういうと邪ンヌは近くに来ていたジャックを抱きかかえ頭を撫でる。撫でられているジャックは嬉しそうにニコニコしていて、まるで本当の母と子のような絵が出来上がっている。途中まで抑えていたんだろうが"かわいい女性好き"の部分は変わらず残っているようで何より、多分こいつは別れた後自分の部屋でジャックやメイド達を愛でるのだろう、容易に想像できる光景だ。原作の邪ンヌのイメージとはだいぶかけ離れてはいるがな…。

 

「あぁ、私もモモンガ様に...」

「ぼ、僕も、あ、あんな風に頭をな、撫でてもらえないかなぁ…」

その光景を見てなにかボソボソと顔を赤くしながら独り言をしゃべっているシャルティアとマーレ。シャルティアはともかくマーレもそっち側なのかと一瞬不安になった。

 

「皆様、お待たせして申し訳ありません。」

少ししてアルベドと共にやってきた最後の階層守護者、彼の名はデミウルゴス。第七階層の守護者であり頭脳明晰、防衛時のNPC指揮官という設定を持つ悪魔だ。

これで各守護者がこの場に集った。ようやくこれからの方針を固める会議を始めることが出来る。

 

「そろったようだな、では始めるとしよう。」

「畏まりました、モモンガ様。」

「それでは皆、至高なる御方々に忠誠の儀を。」

アルベドがそういうと各守護者が次々と私達の前に跪く。

 

「第一第二第三階層守護者「シャルティア・ブラッドフォールン」、御身の前に…。」

「第二階層守護者「サリエリ」、第三階層守護者「ランスロット」、御身の前に。」

「・・・・・。(静かに跪く)」

「第五階層守護者「コキュートス」...御身ノ前二…。」

「第六階層守護者「アウラ・ベラ・フィオーラ」、」

「お、同じく第六階層守護者「マーレ・ベロ・フィオーレ」、」

「「御身の前に。」」

「第七階層守護者「デミウルゴス」御身の前に。」

「第九階層守護者「ジャック・ザ・ミスト」御身の前に!」

「守護者統括、「アルベド」御身の前に。」

「第四階層守護者「ガルガンチュア」および第八階層守護者「ビクティム」を除き各階層守護者、御方々の前に平伏し奉る…。」

「……ご命令を至高なる御方々よ、我らの忠義のすべてを御方々に捧げます!」

 

「素晴らしい…。」

 

私達は自然と口にした。つい先ほどまで、これで私たちの思い出は終わりだと思っていた…だが違った。

過去の遺物などではない、皆がここにいる…みんなの思いの結晶は今もなおここにある、そして私達は彼らを束ねる存在として今ここにいる!途中まで帰る手段は無いか等と考えていた自分はもういなかった。此処にはすべてがある、かつての仲間達と作り上げたもう一つの居場所が!!

 

「すばらしい、すばらしいわあなた達!」

「ああ、まったくその通りだ。」

「…お前たちならば、私達の目的を理解し失態することなく ことを運んでくれるだろうと確信した!!」

現実に未練はない…あの暗く寂しかった世界、あの世界に戻るなんてもう考えられなかった。ここにいる新たな「家族(仲間達)」と共にこの世界を過ごそう、三人は心からそう思った。

 

 

 

ここから、私達の新しい生活、冒険が幕を開けるのだ――

 




ご清覧ありがとうございました。

邪ンヌがキャラ崩壊し始めてそうな気がしますが、中の人の性格が強く出てると思ってもらえると助かります。その分、オルタの方は多少原作寄りなセリフ回しができてるかと、できていたらいいなぁ・・・、と思います。

さて今回は邪ンヌのステータス部分を少し開示するのと、ちょっと出てきたオルタの剣のスキルの詳細を記載します。

名前:邪ンヌ  種族《這い寄りし無貌の影(ナイアーラトテップ)

《種族Lv.》+《職業Lv.》=Lv.100

《種族合計取得レベル40》
・這い寄りし無貌の影Lv.10
・上位・二重の影Lv.10
・死の支配者Lv.5
など

《職業合計取得レベル60》
・黒魔龍士Lv.10
・聖騎士Lv.10
・侍(サムライ)Lv.5
など

《使用する武具》
・槍 神話級アイテム《黒く燃ゆる怨恨の旗槍(グラッチュ・オブ・フランシス)》

フランスの英雄「ジャンヌ・ダルク」が持っていたとされる旗をイメージして作った槍、ジャンヌダルクの紋章の旗をイメージし、刃の根本部分にはアインズ・ウール・ゴウンの紋章の旗を取り付けており、よく勝利時にその旗を掲げている。性能としては槍に炎のエンチャントがデフォルトでついており、攻撃がヒットすると相手に燃焼ダメージが追加で入る、だが炎耐性が高い敵が相手となると火力が下がってしまう。耐性付きの敵が相手の場合サブ武器の剣をメインに使う。

・片手剣 《逆十字の堕落剣(ぎゃくじゅうじのだらくけん)》

邪ンヌが持っているサブ武器の剣。基本使われることがないが、槍が使えない敵などが相手の場合両手持ちで使う。特に剣に強力なスキルがあるわけでは無いが、一応天使特攻が付いている。新たな世界では結構使うかもしれない。

《取得スキル・魔法》
・スキル《二刀流[両手装備]》
サムライのスキル。片手に別々の装備を付けることができ、攻撃回数が大幅に増加するが攻撃後のスキが大きくなってしまい、補助魔法なども使うことが出来なくなってしまう。
邪ンヌは槍と剣を両手に持ち戦うことが出来るがゲーム時代ではあまり使わなかった。新たな世界ではデメリットの隙に関してはプレイヤースキルで補うことが出来そうだから多分これから使う機会が増えるかも?

・第六位階魔法《火の槍(ファイヤー・ランス)
地面から炎を纏った槍が等間隔に現れる。魔法効果範囲拡大化(ワイデン・マジック)と共に使うと炎の槍が扇状に広がる。魔法遅延化(ディレイ・マジック)を併用すると魔法の使用が変わり相手に触れ設置するトラップ式の魔法となる。触れた個所から炎を纏った無数の凝固した血で出来た槍が体内から貫く。その場合威力は高くなるが近づき触れなければならない為、ゲーム時代では使う場面はあまりなかった。


《黒く淀みし勝利の聖剣(エクスカリバー・モルガン)》の追加効果詳細

・スキル《秘匿せし黒き風(インビジブル・シャドウ)》
《聖剣 エクスカリバー》が元から持っていたスキル《秘匿せし妖精の風(インビジブル・エア)》のスキルの名前が変わった物、性能に変化はない。
このスキルは武器の姿を透明化させ、武器の種類、大きさ、リーチなどを隠す効果がある。ちなみに名前が変わったことで、風の色が、薄い水色から、黒っぽい紫の風に変わった。

・スキル《聖剣開放【能力開花】》
スキル《秘匿せし黒き風(インビジブル・シャドウ)》を解除することで入れ替わりで発動するスキル。剣の秘匿を破るかわりに、ステータスを大幅アップさせる。ゲーム内でもかなり猛威を振るったスキルだが、LV,100のプレイヤーには対応される時もある。ちなみにこの剣がワールドアイテムたらしめる効果は別にあるとの事。

次回は、Fateキャラ守護者の設定を簡単に記載したいなぁと思います。
二話では「転移直後のナザリック編」のモモンガ様のナザリック探索の部分の一部描写を切り、はやめに「カルネ村編」に入りたいなと思っています。




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第2話

コピぺすると誤字に気づけないの何とかしたいなぁ...
細かく描写したいけど長くなる→短くするよう気を付ける→気づいたら長々と書いている→修正しつつ短くする→又長くなる(以下ループ)
短く、簡単に内容を伝えられる文書ける人本当に羨ましいです(泣)

あ、今回は邪ンヌのキャラが崩壊しますのでご注意を。



~オルタ視点~

 

私達の前に今、各階層の守護者達が跪いている。これからナザリックの今後に関する話し合いが始まろうとしているのだ

 

「面を上げよ」

モモンガが絶望のオーラを纏いながら言う。支配者らしく見えるようにわざと威圧できるスキルを纏っているのか、実に良い案だ。私はモモンガ自身何故オーラを纏ったのかわからず心の中ではアタフタしているのを知らず勝手に納得した。

 

「よく集まってくれた、感謝しよう。」

「感謝などもったいない、我らモモンガ様方にこの身を捧げた者達、モモンガ様方からすれば取るに足りないものでしょう。しかしながら我らが造物主たる至高の御方々に恥じない働きを誓います」

「「「誓います。」」」

「う、うむ期待しているぞ」

これほどまでに尊敬、崇拝されると逆に気持ちが悪くかんじるな。モモンガも若干引いているが、表に出さないようにしている。ではここからは私が話を進めるとしよう。

 

「さて、ここからは私が話を進めるとしよう。」

「お願いします、オルタさん。」

守護者達が一斉に私の方を真剣な眼差しで見てくる。こんな風にみられるのも会社でのプレゼン以来か、緊張するがあまり支配者らしくない部分を見せぬよう気を付けて話すとしよう。

 

「まずは、ナザリックの現状についてだ。現在ナザリックは原因不明の事態に巻き込まれていると思われる。すでにセバス達に地表を捜索させているのだが…」

そういい横に目を配るとつい今しがた到着したセバスが佇んでいる。そしてセバスは、ナザリックに起こった異変を話し始める。

 

「草原?」

「はい、かつてナザリック地下大墳墓があった沼地とは全く異なり、周囲1kmに人型生物やモンスター、人口建築物などは一切確認できませんでした」

「ご苦労だセバス」

「やっぱり、何かに巻き込まれて何処か違う場所に転移したってことで間違いなさそうね」

「そのようだな、守護者統括のアルベド、並びに防衛線の責任者であるデミウルゴス」

「「はっ」」

「両者の責任の下で、より完璧な情報共有システムを作り、警護を厚くせよ」

とりあえずナザリックの防衛の面はこれでいいとして、次はナザリックの偽装だな。周辺地理的に考えれば何もない草原にポツンと存在するこのナザリックは非常に見つかりやすい。さてどうしたものか、何か案が無いか考えていた時、邪ンヌが口を開く

 

「ねぇマーレ、ナザリックの隠蔽は可能かしら?」

「ま、魔法を使って常時隠蔽するのは難しいと思います。ただ、土魔法などで壁に土をかけ植物を生やし、カモフラージュをすれば…」

「栄光あるこのナザリック地下大墳墓の壁を土で汚すと…」アルベドが少し怒りに震えながら口を挟む。たしかにお前たちにとってナザリックの壁に土をかける行為は自宅に落書きされるのと同じような感覚なのだろう。だが今は非常時だ、少し抑えてもらおう

 

「アルベド、余計な口を出すな」

「はっ、申し訳ありませんセイバーオルタ様」

「邪ンヌよ、話を続けよ」

「はいはい。それでマーレ、壁に土をかけて隠すことは可能なのね?」

「はい、お許しいただけるのでしたら」

「だそうよ、どうしますモモンガ?此処の責任者は貴方、判断は貴方に任せるわ」

「そうですね、良い案だがあたりが草原だと大地の盛り上がりが不自然だよなぁ…よし、ならば周辺の大地にも同じように土を盛り上げダミーを作れば違和感はなくなるだろう。ではマーレ、早速それに取り掛かってくれ。隠せないナザリック上空には、後ほど私が幻術をかけるとしよう」

「は、はい畏まりましたモモンガ様」

良い案だな二人共、私が何か言わなくてもこの二人は最適解な案を出してくれる。頼もしい限りだ。

その後、モモンガが「お前たち守護者にとって、私達三人はどのような存在か」を聞いてしまった。正直私はあまり聞きたくなかった、なぜなら彼らは私達に絶対ともいえる忠誠を私達に誓っている、そんな彼らが私達のことをどんな風に言うのか。その返答は…私の想像以上だった、一人は私達を美の結晶と言い、一人はナザリックの絶対支配者に相応しいとのべ、一人は慈悲深いと…etc。そしてアルベドは私達を褒め称え、モモンガに至っては「私の愛おしい御方」と言い放った。

一体どうすればここまで私達を持ち上げられるのか、恥ずかしさを通り越して恐怖に感じる。その後私達はひとまず守護者達との会議を終え、9階層に戻った。

 

「はぁ、疲れた…。」

「ねぇ、感じた、あんた達…。」

「あぁ、嫌でも感じる…。」

 

・・・・・。

 

「「「あいつらマジだ…!!!」」」

私達は新しい悩みの種が発芽したのをこの身で見た気がした。

 

 

 

 

~邪ンヌ視点~

「はぁ~~…疲れた。」

私は着ていた鎧を解除しドレス姿になり、自室のベッドに倒れこんだ。あの後私達は各自室に戻り休憩を挟むようにした。私の自室には一般メイドが一人御傍付きとしている。私は彼女を見て今の今まで我慢していた"欲望"が抑えきれなくなり、私はつい行動に出てしまった。

 

「ねぇ、貴女?」

「は、はい何でございましょうか邪ンヌ様?」

「貴女名前は、なんていうの?」

「は、はい!私は一般メイドの「シクスス」と言います!」

少し緊張しながらも、元気良い声で返事をするシクスス、はぁあ"かわいい"…。

 

「ねぇ貴女、ちょっとこっちに来て」

「は、はい?」

「来ーて、はーやーく!」

「は、はい!畏まりました邪ンヌ様!!」

そういうと彼女はせかせかと私の前に歩いてきた。

 

「・・・・・カワイイ。」

「ど、どうなさいましたか?」

すると私は彼女に思いっきり抱き着いた。そうギューッと抱き着いたのだ。

 

「ふぇ、ふぇぇぇぇぇ!!/// ど、どどど、どうなさいましたか邪ンヌ様!?///」

「ああああああ!!かわいい、ほんとかわいい!いいわ本当にいいわあなた達!ここにきてよかったあああああああああ!!」

「わ、わっわわわ私がかっかかかかわいいですか!!///」

「そうよ、かわいいわよ! プレアデス達も綺麗でいいけれど、一般メイドも絶世の美女ばっか!こんなの抑えられるはずないのよー!!」

「あ、あわわわわわわわ///」

私は今まで我慢していた"かわいい子の愛でたい欲"が今まさに爆発し、シクススに襲い掛かった。このギルドに来て本当によかった、このギルドじゃないともしかしたらこんな転移なかったかもしれないし、この子達を一生愛でることはできなかったかもしれない・・・、そう考えてしまった私は、この世界で生きている限り、わたしの好みの子は死んでも守る!死ぬまで愛で続ける!と心に誓ったのだ

 

「(し、至高の御方が、さ最後までお残りくださった御方々のお一人である邪ンヌ様が、わ私をかわいいと言い、私を抱き、頭をなでてくださっている!!こ、こここれは夢、夢なの!いいや夢でも何でもいい!今私は至高の御方に撫でられているのだから!こんな こんなご褒美、もう…死んでも…いいかも…///)」

「プシュ~…///」

シクススはあまりのうれしさと興奮と衝撃のトリプルパンチによって顔を真っ赤に赤らめ、目をグルグルとさせダウン。一方、私はそんなことになっているとはつい知らず彼女の頭を撫で続けた。その後、彼女の状態に気づくのに数分掛かり、さすがに謝った。

 

「はーよかった!ありがとうねシクスス♪」

は、はい…ありがとうございました…。///

シクススは少しフラフラしながら、私の自室を後にした。彼女が部屋を出るのを見送った私はというと、急いで今起こった事を紙に記載し、ゲーム時代に使っていた「ネタ帳」に興奮しながら書き綴った。その後も他メイドたちを呼んでは、撫でたり、抱いたりし、ネタ帳に書き綴るのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

~一般メイドのフォアイル リュミエール視点~

私達フォアイルとリュミエールは廊下の掃除を終えて歩いていた。その時前から、友人のシクススがやってきた。なぜか顔を赤くしフラフラとした足取りで

私たちは心配になり、すぐに彼女のとこへ向かい話を聞く。

「ちょ、ちょっとシクスス、どうしたのよ!」

「シクスス、大丈夫!何かあったの、なにかやらかしたとか?」

「ううん…違うの…。」

シクススはか細い声で言う。

 

「そんな風にはみえないわよ!」

「一体何が・・・。」

「…もらった…。」

「「な、何?」」

私たちはか細い声で話すシクススに聞き耳を立てる。

 

「邪ンヌ様が…私の頭を…撫でてくださった…!///」

 

「・・・。(数秒の沈黙)」

 

「「ええぇぇぇえぇぇえ!!」」

 

私達は同時に驚きの声を上げた。それもそうだ、私たちは只のメイド。それも掃除や身の回りの手伝いしかできない一般メイド。そんな私達の友人であるシクススが、かの至高の御方、邪ンヌ様に頭を撫でてもらったというのだ。そんな出来事を体験するなんてありえないと、そんなことが起こるはずないと考えていた私達は驚くしかなかった…。その驚愕の事実を話したシクススはまたフラフラとした足取りで食堂の方へ足を進み始めた。

 

「また・・・お呼びいただけるかなぁ・・・///」頭に触れ、喜びに浸りながら・・・。

 

その後、その話を聞いた他メイド達が、一日ずつ交代で邪ンヌ様担当を決め、かの御方の寵愛を得られないか話し合ったのだった…。

 

 

 

 

~オルタ視点~

モモンガ達と別れた後、私も第九階層の自室に戻っていた。色々あったせいか自室のソファに座ると疲れがドッと伸し掛かった。と、まだ確認しないといけないことがあった。私は戦士職、魔法職以外にガンナー職もいくつか取っていたが、そのガンナー職で使う銃の確認をしようと思ったのだ。部屋には同じくガンナー職を持つ私の御傍付き、シズがいる。ちょうどいい、彼女と確認すれば不備は起きないだろう。

 

「シズ、少し良いか?」

「? どうなさいました セイバーオルタ様?」

「オルタでよい、所でシズお前は確かガンナー職を持っていたな?」

「はい 私はガンナーとスナイパー、この二つを 所持しています。」

「そうか、実は私も同じクラスを持っていてな。銃の確認をしたいので少し付き合ってもらいたい」

「畏まりました。」

そういうと私は、自分が持っているガンナー装備の《黒曜の魔導銃&黒曜の狙撃銃》を取り出す。この武器は《黒曜シリーズ》と言われている武器の中の1つであり、黒曜石のような色合いの銃。この武器は、近~中距離用の拳銃型と、長遠距離戦闘用の狙撃型を切り替えることが出来る武器。拳銃型は実弾と魔力弾の二つに対応しており、実弾の方は実体のある敵、魔力弾は実体のない敵に対して強い。狙撃型の場合は魔力弾と実弾を合わせた合成弾を使い、この弾は

撃ち出す前に弾の調整ができ消費MPを使い、弾の軌道や貫通力、威力、弾の追加効果の四つを強化できる。

 

「うむ、少し前に手に入れたばっかであまり実戦では使うことは無かったが、意外としっくりくるものだな」

「よくお似合いですよ、オルタ様」

「ありがとうシズ、弾の方だが実弾の方はかなり買い貯めていたと思うが、この世界で弾を消費した時、新しく供給できるかどうかわからない。さてどうしたものか」

「その件ですが、つい先ほどモモンガ様がこう仰っていました、『宝物庫の方にガンナー用に必要な物資はある程度集めているためあまり気にすることは無いと思う』とのことです」

「そうかさすがはモモンガ、仲間の事をよく考えているな。」

シズと弾などの供給について話しながら、手元で武器の調整をする、どうやらガンナー職のおかげである程度どういじればどうなるかわかる、弾の装填 武器の形態変化 合成弾の強化の変更についてはゲーム時代と変わりがないようで安心した。

 

「よし、とりあえずできたようだ。感謝するシズ。」

「とんでもございません 私達メイドは至高の御方々の為に働くこと これが生きる意味であり最大の喜びなのですから」

「そうか、ふむ…結構早く終わってしまったな。少し転移した外の風景でも見てみるとしよう、シズよ付いて来い」

「畏まりました、オルタ様」

そういうと私はシズと共に自室を出て、墳墓の外に指輪を使い転移する。

 

 

 

―― ナザリック地下大墳墓 第一階層 入口 ――

転移でナザリック入口前に到着した。外に出るため、入り口を出て外を目指す、入口の階段を上り終えた先の光景は、無数の星が輝いている広大な夜空が広がっていた。これはなんとも美しい、これほどの景色をブループラネットが見たらかなり歓喜するだろうな。そうして夜空を眺めていたら、空を飛んでいる人影を二つ見つける。

 

「あれは、モモンガとデミウルゴスか」

「そのようですね」

「せっかくだ、モモンガの所に向かうとしよう」

そういうと、私は虚空に腕を突っ込み、羽の形をした飾りがついているネックレスを取り出し、シズに渡す。このネックレスには《飛行(フライ)》の魔法が込められている。確かシズは使えなかったと思うから渡しておこう。

 

「《飛行(フライ)》の魔法が込められたアイテムだ、使うと言い。」

「あ ありがとうございます。」

そういうとシズは、首にネックレスを掛ける。それを見た私は《飛行(フライ)》の魔法を発動する。体がふわりと浮く感覚を感じ、向かいたい方向をイメージする、すると体はスーッと空を上り、モモンガの居る所に向かった。私が近づくのに気づいたデミウルゴスが私に軽く頭を下げる。

 

「セイバーオルタ様、どうしてこちらに?」

「いやなに、転移した外を一度見てみようと思ったのでな」

「オルタさん、見ましたかこの景色まるで宝石箱のように綺麗ですよ」

「ああ、絶景だな」

「ご要望さえあれば、モモンガ様方を美しく飾る宝石箱、ナザリック全軍をもって手に入れてまいります」

「ふっ、この世界にどの程度の強さを持った奴がいるのかもわからないのにか…、でもそうだな」

 

「世界征服なんて…面白いかもしれないな…。」

モモンガが漏らしたこの言葉が、後のナザリックに大きな影響を与えるとはこの時のモモンガだけは気づかなかった。私はそのセリフを聞き、ふと後ろのデミウルゴス達を見る。デミウルゴスはその言葉を聞き、感激に身を震わせて、シズは後ろで驚いたような顔をしている。自動人形(オートマトン)の彼女の表情は完璧には読み取れないが…

 

「おいモモンガ、あまり軽々しくそのような事を言うものではないぞ」

「大丈夫です、冗談ですよ」

絶対大丈夫じゃない、私は今後のモモンガの対応に不安を持ちつつもその言葉を静かに受け取った。そのころ下では、マーレがナザリックの隠蔽工作を進めているようだ。

 

「それでこの後はどうするモモンガ」

「そうですね、マーレの陣中見舞いに行きます。オルタさんはどうなさいます?」

「私は少し外をみたかっただけだ、これで戻るとしよう。それに私達二人がいたらマーレは緊張するだろうしな。それに私はお前とは違い竜人だ、眠気もあるのでな」

「そうですか、わかりました。それではまた明日」

「ああ、またな。デミウルゴスよ、モモンガの御傍付き頼んだぞ」

「畏まりました、セイバーオルタ様」

そうしてナザリックに戻ろうとする、その前にデミウルゴスの耳元でこうつぶやく。

 

「デミウルゴスよ。世界征服の件、後日二人で話したいのだが」

「なるほど、世界征服を必ず成功させるため、今後のナザリックの方針を含めた話し合いをするということで間違いありませんか?」

「そうだ、だからまず二人で話し合うとしよう」

「畏まりました。では後日」

私は伝えたいことを伝え、この場を後にした。モモンガのあの一言で多分守護者達含むナザリックの面々は「これから世界征服する」方針だと思い、世界征服の話はナザリック中に一気に広がるはずだ。しかもモモンガ当の本人はふとつぶやいた一言ゆえそのことを忘れるはず、ならば私が裏で支えようではないか。ナザリック玉座にてモモンガの隣に座る私が影からナザリックの今後について進め、この世界にナザリックを、「アインズ・ウール・ゴウン」の名を轟かせてみせよう…!

 

 

 

 

 

―― 数日後… ――

私とモモンガは、第九階層の執務室に集まっている。モモンガは遠隔で外を確認することができるマジックアイテム《遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)》を手探りで操作しており、隣にはセバスが就いている。

私は以前デミウルゴスと話した「世界征服」を円滑に進める為の作戦を考えている。何せこの世界に関する情報はほとんど皆無、私達以上の強者の存在など不安要素が沢山あるからな、あらゆるパターンを想定した進め方を思案しないと世界征服なんてできるはずもないからな。ちなみに邪ンヌは食堂に行っている、相も変わらずマイペースな奴だ。

私がこれからの行動を書き進めようとしたそんな時、モモンガが何かに気が付いた。どうやら《遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)》に何か映ったらしく、私が覗くと馬に乗った人間が小さい村に向かっていくのが見えた。

 

「祭りか何かか?」

「いいえ、モモンガ様、どうやら違うようです」

「ああ、馬に乗っている人間は鎧を着て武装しているな」

そのまま眺めていると、鎧を着た騎士達が村の人間共を襲い始めた。彼らは戦争でもしているのか?というか目の前で起こった惨状に私はあまり動揺しないのが気になった。以前ならこのような光景を見たらかなり動揺したはずなのに…どうやら精神部分も人間をやめたということか。そんなことは今はいい、彼らはどうするか考えよう。セバスがどうするのかモモンガに質問する。

 

「どうなさいますか、モモンガ様?」

「ふむ……見捨てる、助ける理由もないからな」

「……畏まりました」

セバスは少し悔しそうな声で答える。そんなセバスを見たモモンガは少し驚いた表情をみせる、その後何を感じ取ったのかモモンガは先ほどの言葉を撤回する。

 

「いや、気が変わった。私はこの村に向かう」

「なんと、畏まりましたモモンガ様」

「どういう風の吹き回しだ、先ほど見捨てるといったのに」

「いえ、私はあの人の恩を返したいと思っただけです」

「あの人の…恩…あぁ、そういうことか」

以前モモンガはセバスの生みの親たっちみーに助けられたことがあり、それがきっかけでこのギルドができた。たっちみーは「誰かが困っていたら助けるのは当たり前」と堂々と言えるほど正義感が強い人で、その性格、精神はセバスにもしっかり引き継がれていた。だからモモンガはセバスを見てモモンガはセバスにたっちみーの姿を合わせ、言葉を変えたのだろう。

 

「まあいい、なら私もついていくぞ。」

「わかりました、セバスよ」

「はっ」

「私とオルタさんは先にあの村に向かい人間共を助けに行く。アルベドに完全武装で合流するように伝えろ」

「畏まりました、モモンガ様」

「私も行くわよー」

いつの間にか執務室に居た邪ンヌが言う、いつ合流したのやら。

 

「そうか、ならこの3人で向かうとしよう」

「ああ、そうするとしよう」

モモンガは虚空から《スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン》の試作品を取り出し、準備した。私と邪ンヌは体に魔力を纏うイメージを浮かべ、私達のドレスの上から私達の黒い鎧を装備した。イメージするだけで上に来た鎧は着脱できるのでありがたい。そして全員の準備が終わったのを確認したモモンガは杖をかざし《転移門(ゲート)》を開き、私達は《転移門(ゲート)》に足を運ぶ。

 

「さぁ行きましょうか二人共」

「あぁ、行くとしようか」

「えぇ、この世界での初戦闘。フフッ少し楽しみね」

 

 

 

 

――カルネ村 エンリ視点――

どうして、どうしてこんなことに…私達は何もしていないのに、突然鎧の騎士がやってきて、村の人達が次々と襲われた。私達はお父さんのおかげで何とか少し逃げられたけど、後ろから私達を追う四人の騎士が追いついてきて私の背中を剣で切り裂いた。

「グッ‼ ―――――‼ ハァ…ハァ…」

背中に鋭い痛みが駆け巡った。痛い、痛い痛い痛い――

なんとかして妹のネムだけでも逃がさないと 逃げるまでの時間を稼がないと でも後ろの騎士は笑いながら剣を構え もう剣を振り下ろす直前だ だめだ このままじゃ、だれか だれかだれかだれか―――

 

助けてください!!!

 

私が心の中でそう叫んだ。すると、すぐ振り下ろされるはずの剣がこない事に気づいた。恐る恐る後ろを振り返ると、騎士達が私の前を見て怯えている。何が起こったの?私の前にはだれもいなかったはず…そう思い前を振り返ると、前の空間に不気味な空間が広がっているのが見え、中から3つの黒い人影が見えた…

 

 

 

 

 

 

 

 

――カルネ村 オルタ視点――

私達は《転移門(ゲート)》を通して先ほど見えた村近くにやってきた。《転移門(ゲート)》から出ると、目の前には庇った時に傷ついたのか背中に大きな切り傷を負った少女と、少女に庇われている子供、少女を襲ったであろう騎士四人が驚きと恐怖の表情でこちらを見ている。やけに驚かれているようだが。するとモモンガは一言も話さずいきなり鎧の騎士の一人に魔法を使った。

 

「《心臓掌握(グラスプ・ハート)》!」

モモンガが《心臓掌握(グラスプ・ハート)》を発動すると、モモンガの手元に透明な心臓が現れ握りつぶす。すると、前にいた騎士の一人が口から大量の血を吐き出し倒れた。

 

「ひぃぃ、なっなんだぁ!!」

騎士たちは何が起こったのかわからず恐怖で震えている

 

「ふむ、この世界で私が得意とする死霊系、その中でも上位の第九位階魔法が効かなければ逃げるしかないと思っていたが…」

「ば、化け物ぉ!!」

そういい騎士は剣を構えるが、恐怖で足が震えていて動けていない

 

「ふっ、女子供は追い回せるのに毛色が変わった相手は無理か? せっかく来たんだ。無理やりにでも実験に付き合ってもらうぞ」

「くそおおおぉぉお!!!」

一人の騎士が剣を振るう為に強引にモモンガ向けて突進する。もちろんそんな事私が許すわけがなく、バイザーを身に着け攻撃に移る

 

「遅いな…!」

「ヒィィッ!!」

私はそう言い高速で騎士に突撃し首元に一閃、騎士の首を両断し、頭と体を別れさせた。残った騎士二人はあまりの光景に一瞬理解できていなかったようだが、足元に分かれた頭が転がりすぐに仲間が死んだ事を理解し悲鳴を上げ逃げだそうとする。

 

「ひいいぃぃぃぃぃい!!ば、化け物ぉ!!」

「あら、私達から逃げられると思っているの?お馬鹿さん」

悲鳴を上げ逃げる騎士達を当然私達が逃がすわけもなく、邪ンヌが槍を地面に突き刺しスキルを発動した。すると騎士たちの足元から無数の黒い槍が現れ二人の騎士達を串刺しにし宙に持ち上げた。

 

「弱い、弱すぎるわまったく…」

「あぁそうだな、まさかたった一振りで死ぬとはな」

「この兵士達が異様に弱かっただけかもしれませんがね。」

「さてせっかくなので、《中位アンデッド創造「死の騎士(デス・ナイト)」》」

モモンガは自分が倒した一人の兵士の死体に向かいネクロマンサーのスキルを使った。すると、死んだ兵士が勢いよく起き上がり黒い粘液が体中から溢れ出た。そしてみるみるとその姿を変え、死んだ元兵士はデス・ナイトの姿に変わった。そしてモモンガは死んだ他の兵士を指さしデス・ナイトに指示をだす。

 

「デスナイトよ、この場にいる騎士を「グオオオオオオ!!!」殺せ…」

モモンガが言い切る前にデス・ナイトは村の方に走り去った。本来ならプレイヤーを守る壁役のモンスターのはずなのに、やはりアンデッドも自立して動くようだが

 

「えぇ…。主の盾になるはずのモンスターが、主をほったらかしにして先に行くかね、まぁ命令したのは俺だけど…」

「フフッ、あなた人望ないんじゃないの?」

「煽るな邪ンヌ」

そんなこんな周辺の敵を一掃していたら、開けておいた《転移門(ゲート)》から黒いフルアーマーに武装したアルベドが現れた。

 

「準備に時間が掛かり、申し訳ありませんでした」

「よいアルベドよ、むしろ良いタイミングだ」

「ありがとうございますモモンガ様。ところでこの人間(下等生物)はどうなさいますか」

「ひっ…!!」

アルベドは殺意の乗った眼差しで彼女達をにらみつける、お前はセバスに何を聞いたのだ…仕方ないのでモモンガはアルベドに説明する。

 

「アルベド、殺意を振り撒くのは止せ。ひとまず私達の敵はそこに転がっている兵士だ。」

「…畏まりました。」

「さて、娘よケガをしている様だな」

そういいながら、モモンガは村娘の方に近づき持っていた赤いポーションを渡そうとする。

 

「これを飲むがいい」

「ち、血!?!?」

「の、飲みます!飲みますのでどうか命だけは!」「おねぇちゃんだめだよ!!」

モモンガがものすごく怖がられている。何がいけないのかわからないモモンガはポカンとした顔をしている。その姿を見てクスクスと笑う邪ンヌと、村娘の態度に怒り武器を振り上げようとするアルベド。私はすぐにアルベドを抑え、村娘の誤解を解くため動く

 

人間(下等生物)風情が!」

「よせアルベド、武器を下せ!」

「はっ、失礼しましたオルタ様」

そしてモモンガのポーションを取り、私が娘に近づく。モモンガは見た目がスケルトンなのを忘れているんだろう、モモンガにはゲーム時代の感覚で素顔を晒すのはやめたほうが良いと改めて言っておくか…

 

「脅かしてすまなかったな、これは治癒のポーションだ、早めに飲むがいい」

「は、はい」

モモンガと共に来たからか私達も少し警戒されているな、だが私がポーションを渡すと彼女はそのポーションを口に運んだ。すると傷口が緑に光りみるみると傷をふさいでいった。どうやら効果の方は変わらずあるようだな。

 

「う、嘘? 傷が…」

「ふむ、大丈夫のようだな」

「ねぇ貴方達、貴方達は「魔法」という物は知っているかしら?」

「は、はい。たまに村に来る、薬師の知り合いが魔法を使えます」

「そうなのね、彼はマジックキャスターよ。心配しないで」

「わ、わかりました」

邪ンヌが彼女達のモモンガに対する不安を取り除いた所で、彼女達に守りの魔法と《ゴブリン将軍の角笛》を二つ渡し、村の方に向かう。すると娘が私たちに感謝する。

 

「あ、あのありがとうございます!!」

「ありがとうございます…!」

「気にするな」

「お、お名前は、何とおっしゃるんですか!」

「名前…そうか…そうだな…。」

モモンガは少し思案し、彼女に自分の名前を告げる。

「我が名を知るがいい ―――」

モモンガは今この時を持って名を変えた。1プレイヤーの「モモンガ」ではなく、我らがギルドの統率者としての新たな名、そう…

 

「我こそは、アインズ・ウール・ゴウン!」

 

 

 

 

 

―― カルネ村 広場 ――

私達は彼女たちが逃げて来た村「カルネ村」に飛んで向かった。すると先ほど倒した騎士と同じ装備の騎士達を襲うデス・ナイトの姿が確認できた。どうやら騎士達はデス・ナイトに向かうも手も足も出せず次々と殺されていく。

 

「うーん、ねぇモm…アインズ、あの兵士達弱すぎない?」

「そうですね、このレベルのモンスターに歯が立たないということは普通の人間のレベルはかなり低いって感じですかね」

「そうだろうな、デス・ナイトは基本守りに徹したモンスター、それでこれとなるとこいつらのレベルは20以下が妥当だろうな。」

「そう考えますと、ナザリックの防衛設備の方も少し変更を加えもいいかと思います」

「そうだな、この結果を踏まえてナザリックの防衛設備をデミウルゴスと共に構築せよ」

「畏まりました、アインズ様」

「さて、兵士も減った所で行くとしようか」

アインズは兵士の数が少なくなった所で声を発する。

 

「デス・ナイトよ、そこまでだ」

アインズがそういうとデス・ナイトは攻撃をピタリとやめた。そして残った兵士たちが声の聞こえた方に目を向けると4人の武装した集団が宙に浮いて見える。黒いフルアーマーに身を包み片手に斧を持ったアルベド、黒いマントをなびかせ槍の先を騎士に向け薄ら笑いを浮かべている邪ンヌ、赤く光る亀裂がある黒い鎧に身を纏い、同じく赤く光る亀裂があるバイザーを付け、黒い剣を持つ私セイバーオルタ、そして中心には黒を基調としたローブを身に纏い、赤いまがまがしいマスクを付けたアインズ。私達は彼らが私達に気づいたのを確認すると地上に降り立ち、アインズが話し始める。

 

「はじめまして諸君、私はアインズ・ウール・ゴウンという」

「諸君には生きて帰ってもらう、そして諸君の飼い主に伝えろ。『このあたりで騒ぎを起こすようなら、今度は貴様らの国まで死を告げに行く』と、いけ!そして確実に我が名を伝えよ!」

アインズが声を上げると、騎士達は悲鳴をあげこの場を去っていった。そして騎士の悲鳴が消え静かになり、周囲にはデス・ナイトが蹂躙した敵の死体が転がっているだけだ。するとアインズが私と邪ンヌにメッセージを飛ばしてきた。

 

『はー…、まったく、演技も疲れますよ』

『お疲れ、アインズ。』

『ふっ、良い演技だったアインズ』

『オルタさんは素でその口調なら私と立ち位置変わってくださいよ…』

『お前はギルドの統率者だろう?私が変わるわけにはいかないからなァ…』

『オルタさん、今私の状況を見て絶対楽しんでますよね!?』

『アハハ、まぁこれからも精々頑張りなさいなア・イ・ン・ズ・さ・ま♪』

『邪ンヌさんも!』

メッセージを使い三人で談笑していたら、一人の村人が私達に声をかけて来た。私達は完全に彼らの存在を忘れていた…。

 

「あ あの、貴方様方は一体?」

「私はこの村が襲われているのが見えたのでな、助けに来たものだ」

「「おお!!」」

「さて君たちはもう安全だ、安心してほしい」

「・・・・・。」

「む?」

アインズが話しながら村人たちに近づくと、なぜか少し村人たちがざわついている。そうかしまった、何も対価を求めず助けた私達を不審に思ってしまっているのか。それに騎士を圧倒的な強さで倒したデス・ナイトが命令を聞く人物が近づいてくるとあれば、の後何されるのかなど余計な不安を煽ることになってしまう、ならばちょうどいい。この世界の情報を知るにはいい機会だ少し金銭とこのあたりの情報を聞くとしよう。

 

「すまないがタダというわけではなく、少し対価をもらえると助かる。」

「ちょ、オルタさん何をいきなり…」

「…あぁ、はい畏まりました!」村人たちは少し安心したのか笑顔の表情を見せた

「なるほど、要求がないから少し不安になっていたわけね」

「なるほどそういうことですか…」

「ああ、何も要求がないよりかは営利目的と思われたほうがこの後も接しやすくなるだろうからな」

「流石はオルタ様!」

ということで、この後私とモモンガは村長の家に呼ばれ、大きな感謝の言葉を掛けられた。私達は偶然だと言い、私たちの存在を「僻地で研究していた世情に疎いマジックキャスターとその仲間」という言い訳を信じ、この周辺の情報をはなしてくれた。この場所はリ・エスティーゼ王国の領地だということ、隣にはバハルス帝国があり王国とはよく城塞都市エ・ランテル付近の平原でよく争っていること、二つの国の国境を挟んだ中間にはスレイン法国という国が存在し王国と争う帝国を支援していること。村長が言うにはあの騎士達が来ていた鎧には帝国の紋章があり帝国による襲撃と言っていたが、先ほどの話を聞くとスレイン法国による偽装の可能性もあるか…。

ちなみに通貨についてはユグドラシルの金貨は金としての価値はあるが流通しておらず独自の硬貨が流通していた、ユグドラシルの硬貨が使えないとなると金銭面が不安になるな。村長が言うにはこの近くの大きな都市はエ・ランテルで、そこには冒険者ギルドというものが存在しているという、このギルドに登録すれば金銭面は多少楽になるか。私は村長から聞いた話をメモしていた。そんな時突然アインズからメッセージが届く。

 

『ところで何で村長はこの格好に突っ込まないんですかね…。』

『その恰好って、お前がつけているマスクのことか?』

「嫉妬マスク」というのは今アインズが身に着けているマスクで、クリスマスイブの日にユグドラシルに一定時間ログインしていると問答無用で入手できたアイテム。通称《嫉妬マスク》

 

『このマスクを着けて何も言われないとなると、この世界のマジックキャスターはどのような存在なんですかね…。』

『フフッさあな、だが少なくともお前みたいな「骸骨姿」は居ないだろうな』

グサッ『うっ……そういわれると空しくなってきた…。』

マジックキャスターの姿など些細な事はほ放っておいて私は村長の話をメモ帳にまとめた。そして夕暮れ時、私達は一通りやりたい事をやりナザリックに帰ろうとしていた。

 

「さて、この場所ですべき事は終わった。撤収するぞアルベド」

「畏まりました、アインズ様」

すると私達の前を村の復興作業をしていた一人の村人が挨拶しながら通りすぎる、その姿を見たアルベドは彼を睨みつけた。

 

「どうしたのアルベド、もしかして人間は嫌い?」

「脆弱な生き物、下等生物、蟲の様に踏みつぶしたらどれだけ綺麗になるかと」

「アルベド…だがここでは冷静に優しく振る舞え、演技というのは大切だぞ」

「はっ…」アルベドは軽く頭を下げる。

『フフフ、演技は大切って貴方の方では…♪』

『邪ンヌ、わざわざメッセージを使ってまで私に言うな』

『フフフ、いや面白くってついね、フフフ。…うん? ねぇあんた前見てみて』

「ん、前?」

邪ンヌにそう言われて前を見ると村長と村人達が集まり話し合っている、どうやらこの周辺でまた何かが起こったようだ。

 

「どうしましょう、村長…」「あぁ……どうしたものか…」

 

「はぁ、また厄介ごとか…」

アインズは軽くため息をつき、村人たちの方へ足を進めた。




ご清覧ありがとうございました。

邪ンヌの中の人の欲望が溢れ元ネタの感じとは大きく離れてしまってましたが、こういうジャンヌオルタ其のまま感より多少離れたキャラの方が個人的に好きだったのでこうなりました。その分セイバーオルタの方はあまりキャラの雰囲気を壊さないようにしようと思います。さて今回は守護者の解説すると前回のあとがきに書きましたが…

あれは嘘だ。

書くならもっと細かく書き入れたいと思ってしまったので今回はありません、その代わり前回前々回に解説をし忘れた邪ンヌとオルタの種族や職業を解説しようと思います。

セイバーオルタの種族と職業について詳しく解説


・種族《黒鱗の竜人(ダーク・ドラゴニュート)》について
この種族は種族《竜人》を10Lvにし、職業に竜司祭Lv5、ドラゴン・ネクロマンサーLv5にした時入手できた種族。竜司祭の信仰系の魔法とスキル、ドラゴン・ネクロマンサーの魔力系の魔法とスキルがかけ合わさったようなスキルを入手できる。見た目は3種類の形態があり、第一形態は普段の人型形態。第二形態は体に竜の翼と尾生え、手は竜の鱗と爪が現れ、顔の頬当たりにも黒い鱗が現れる半黒龍形態。第三形態は完全に黒龍の姿になる黒龍完全形態。第二形態は飛行(フライ)の魔法無しで飛ぶことができる。第三は一度も使ったことは無いが強さとしてはユグドラシルでも最強と呼ばれた竜王に匹敵レベルとの事、だが他の竜王とはどこか違い黒龍状態だと何故か龍なのに強力なドラゴン特攻が付く。
ちなみに他の形態変化できる種族とは違い、第一、第二にステータスボーナスが有り、第三はむしろステータスはダウンする。


・種族《湖の精霊》について
ユグドラシルの森エリアにある湖にてイベントをこなすと手に入る種族。入手すると体力とMPのステータスに加護が付く。それと水魔法に補正が掛かるがオルタは熱系の魔法特化なので完全に無駄となっている


・職業《エレメンタリスト(フレイム)》について
炎、溶岩など"熱"に関する魔法特化にできる魔法職。何故か流星を降らせる魔法も使える。理由は「落ちる時に落下による"熱"を持っているから」と意外に特化魔法の裁定はアバウト。《黒鱗の竜人(ダーク・ドラゴニュート)》の効果でオルタが炎が現れる魔法を使うと、どんな炎も赤黒い色に変わる。

・なんでセイバーオルタの職業に《ガンナー》や《スナイパー》が?
アーチャーの水着アルトリアと、ライダーの水着アルトリア(オルタ)をイメージして持たせました。今後のエ・ランテル編では銃使いの冒険者として活動させる予定 水着の登場予定は…うん…まぁ…。



邪ンヌの種族についての詳しく解説

・種族《這い寄りし無貌の影(ナイアーラトテップ)》について
上位・二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)》の上位種。姿は《二重の影(ドッペルゲンガー)》とはだいぶ違い、本来の姿は黒い影のような服の姿で、背中側には無数の手が手を繋ぎ合ってできた銅像の後光の様な輪がある。本来顔がある部分にはフードのようなものを被っており、中は虚空になっている。
性能は、《上位・二重の影(グレーター・ドッペルゲンガー)》が60レベルまでの変身が可能で90%の能力コピーが出来るのに対して《這い寄りし無貌の影(ナイアーラトテップ)》はLv100までの変身が可能となり、100%能力をコピーできるようになる。
さらに複数のアバターを作り自由に姿を切り替えられ、最大6個までストックできる。このアバターはステータスやスキルなどの能力は元のステータスが引き継がれる為、容姿と種族だけを偽ることしかできない。
分身能力もあり、NPCとして1日(24時間)行動させることが出来る、ただし分身を作れるのは3体だけで所持スキルや魔法は分割、1時間で分身は解除されるため必然的に本体のステータスより弱くなる。エ・ランテル編ではこのストックしたアバターに変身し行動するかも…?

※ちなみに小ネタとしてかつてこの種族の名前は"ニャルラトホテプ"でだったけど"燃え上がる三眼"の一件が有った為、名前が変わった経緯がある

・なんで職業にサムライがあるの?
バーサーカーの水着邪ンヌイメージの為に付けました。一応サムライで使う刀や水着などの設定等はオルタの水着含めて考えてはいますが、サムライの要素はともかく水着要素出すかなぁ…? 何も考えてないけどいつか番外編でも作って水着回でも作ろうかな…



次回はガゼフが登場し、ナザリックvs陽光聖典です。冒険者編も、もしかしたら入れるかもしれないです…


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第3話

陽光聖典戦とエ・ランテル導入です。


広場に村人達が集まり話し合っている、どうやらこの周辺でまた何かが起こった様だ。

 

「どうしましょう、村長…」「あぁ……どうしたものか…」

 

「はぁ、また厄介ごとか…」

アインズは軽くため息をつき、村人たちの方へ足を進めた。

 

「どうかなさいましたか?」

「ああアインズ様、どうやらこの村に騎士風の者達が近づいているようでして」

「あら、また騎士達?その騎士の鎧は同じだった?」

「い、いえ。遠くから来ているのが見えたのでハッキリとは見えませんでしたが、多分別の国からの者かと」

だとすると、目的は村の巡回か?一応村長に村には定期的に巡回に来る者は居るか聞いたが「いえ、稀に冒険者が来るぐらいでその様な者は居ない」との事だった。とすれば後考えられるのは二つ、別に動いていた同じ騎士が報復に来たか、別の国の騎士が何らかの目的でこの村を訪れようとしているか、多分後者だろうが一応村の代表以外を避難させた方が良いな。

 

「アインズ、私が指示していいか。」

「ええ、大丈夫ですよ」

「では村長殿、貴方は私達と共にここに。他の村の方々はどこか別の場所に避難させてもらえるか、護衛にはこいつを置いておく(邪ンヌ指さし)」

「私が守るの?防御高いアルベドの方が…まぁいいわ」

「アルベド、私、アインズ、村長この四人で騎士の対応をするとしよう」

「だ、大丈夫でしょうか…?」

「心配しなくて大丈夫です村長殿、私もですがアルベドやオルタさんも腕は立ちます。しっかり皆様を守りますよ」

「あぁ、心配するな」

「わ、わかりました。何から何まで、ありがとうございます」

その後村人は奥の倉庫に集まり避難、入り口の外で邪ンヌが壁に寄りかかり見張っている。私達は広場に待機しこのまま騎士達が来るのを待つ。彼らが対話に応じるなら対話するが、少しでも攻撃の意志があれば……迷うことなく皆殺しだ。そして村人の避難が完了した少し後に鎧の騎士たちがやってきた。数は1,20人程か。戦闘を走っていたこの男がリーダーだろう、他の奴らより体格もよく屈強な戦士の風格を持っているように感じる。

 

「私はリ・エスティーゼ王国の王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフ。王の命令により最近この付近を荒らしまわっている帝国の騎士達を討伐する為回っている者である」

「王国戦士長…!」

村長が教えてくれたな、たしかリ・エスティーゼ王国の王の護衛であり、王国最強と言われている男だと、私達よりは断然弱いが、たしかに今まで見た人間の中では強さはかなり上位に見える。するとガゼフは私達の方をみて話す。

 

「この村の村長だな、隣に居るのは誰なのか教えてもらいたい」

「この方たちは…」

「それには及びません、初めまして王国戦士長殿。私はアインズ・ウール・ゴウン、彼女はオルタ。この村が襲われているのが見えまして、助けに来たマジックキャスターです」

「なんと…!」

彼はその言葉に驚いた後、馬から降り私達に頭を下げた。

 

「この村を救っていただき、感謝の言葉もない!」

「戦士長‼」

ガゼフが私達に礼をした時、後ろから兵士が一人やってきた。どうやら何かが起こったようだな

 

「周囲に複数の人影、村を囲うような形で接近しつつあります!」

「そうか…。」

どうやらまだすべて終わったわけでは無さそうだな…とりあえず一旦村人が避難している倉庫に入り、中から様子を見る事にした。すると確かに村の周辺に人が等間隔で囲っている、だが前と違っているのは彼らが鎧ではなくローブを身に纏っている事と、一人一人が天使を、しかも"ユグドラシルの天使"を召喚していることだ。以前の騎士とはだいぶ違うが別の国の者か?戦士長に聞いてみるか

 

「やつらは何者なのだろうな」

「これだけのマジックキャスターを揃えられるのはスレイン法国、それも神官長直轄の特殊工作部隊"六色聖典"のいずれかだろう」

「となると前に村を襲った奴らは…」

「装備は帝国の物だったが、どうやらスレイン法国の偽装だったようだ」

そうか、ならばこの村に同じ国の奴らが来たのは納得したが、では何故この近辺の村々を襲っている?こんな目立つ事をしていたらすぐに警戒される事ぐらいは予想できるハズだ…。

 

"誰かをおびき寄せる"為…?

確かにそれならわざと目立つ行動をしているのは理解できるが一体誰を、まさかこの前の転移で私達の墳墓を見られたのか…?色々考えていた時、アインズがガゼフに質問する。

 

「この近辺の村々は、目立ってまで襲う価値はあるのでしょうか?」

「いや、村を襲う事が目的ではないのだろう、ゴウン殿方も心当たりは無い、狙いでは無いという事は残りの可能性は1つだろう」

「あらあら、目的は戦士長の命みたいね」

「ああ、よほど恨まれているのですね戦士長殿も」

「本当に困ったものだ、まさかスレイン法国にまで命を狙われているとはな」

なるほど、法国の狙いは戦士長。スレイン法国にとっても、法国と友好的な帝国にとっても、戦士長の存在は脅威であり目障りなのだろう。特に帝国はいまでも王国と争っている、だが戦士長がいなくなれば帝国は戦争を優位に進められるし、その援助をした法国との関係もより友好的になる。王国にとっての戦士長はそれほどまでの人間ということか…とりあえず気になることは一つ分かった、だが私達にはもう一つ気になる物がある。

 

『なぁアインズ、あの天使って見間違いじゃなければ《炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)》か?』

『間違いなくそうでしょうね』

『この世界にもユグドラシルと同じモンスターがいるのね…まさか一緒に転移してきたのかしら?』

『いや、それは無いだろう。あれは隣に居るマジックキャスターが使役しているのだろう。これはこの世界にも同じモンスターが生息していると思って良いだろうな』

私達はメッセージで話し合っていた時、ガゼフが私達に声をかけて来た。

 

「ゴウン殿、良ければ雇われないか?報酬は望む額を用意しよう」

「…お断りさせてもらいます」

「…では、王国の法を用いて強制徴集というのはどうだ…?」

ガゼフがそういうと、周りにいたガゼフの部下が私達に剣を向けようとした。それに気づいた私はガゼフの喉元に剣を突き付け、邪ンヌはスキルを使い床から無数の槍を出し周囲の兵士達をけん制、アルベドはアインズを守れる位置で武器を構えた。ガゼフと周りの兵は私達の一連の行動に対応できておらず兵士達はあまりの速さと殺意に一歩も動く事ができず、ガゼフの顔には冷や汗が流れ唾をのむ。この一瞬の経験はガゼフ達が体感した中で一番の殺意と恐怖が渦巻いていた様に感じた。

 

「(まさかこれ程までに力の差があるとは… 最初一目見ただけで私達以上の強者なのは理解していたが、このまま無理やりと行けば確実に死ぬのは私達、ゴウン殿達は私達を軽く払いのけていくだろうな…これ以上とやかく言うのは絶対に避けなければならない…。)」

「二人共、もうよい」

「いいのアインズ、こいつら無理やり行かせようと剣向けたのよ?」

「そうですアインズ様、このような障害今すぐにでも!」

「私よせと言ったのだアルベド!私に二度も言わせるな」

「…畏まりました、アインズ様」

「はいはい、貴方が代表ですからね、貴方の決定に従いますよ~」

そういうと邪ンヌは指を鳴らしスキルを解除した。すると兵士に突き付けられた槍はボロボロと朽ちていくように消えていった。槍を向けられていた兵士たちは途端に腰が抜け床に座り込む。だが私は今だガゼフの喉元に剣先を突き付けている。

 

「オルタさんも」

「…フン」

私はそう言い武器の構えを解いた。だが武器はしまわず持ったままにしておく、すぐガゼフの首を刎ねられるように…

 

「(明らかに強者の彼女たちがゴウン殿の言う事に従うという事は、この御仁がこの中の代表ということか…だがアルベド殿と呼ばれた彼女と違いオルタ殿と邪ンヌ殿は"さん"と呼んでいる。この二人はゴウン殿と旧知の仲という事、かの御仁達には特に言葉に気を付けて話さなければ……。)」

「…大変失礼なことをしたゴウン殿方。これ以上は何も言わない…ではゴウン殿、お元気で。この村を救ってくれたこと改めて感謝する」

そういいガゼフは手を差し出しアインズに握手を求める。私達の殺意を間に受けたのにこんな風に優しく接してこようよしてくるとは中々面白いやつだ、それに刃を向けられた後なのに冷静に思考を巡らして言葉を選び話している。私はこの男にかなり興味が湧いてきた。アインズも同じ様に感じたのか少し笑い握手に応え、ガゼフがこれからの事を話し始める。

 

「我々がこれから囮となって何としても包囲は解いてみせる。だからもう一度頼む、この村をもう一度守ってほしい、このガゼフ・ストロノーフの願いを何卒……何卒聞き入れてほしい!」

この男、先ほどの申し出では怖気ずに私達に頼み込むとは。これほどの度胸があるガゼフという男、私はよりこの男に興味が湧いてきた。

 

「…それについては了解しました。村人は必ず守りましょう、このアインズ・ウール・ゴウンの名に懸けて…」

「えぇ、私達もそれについてはしっかり務めるわ」

「ああ、せっかく助けたのだ。ここで終わらせはしない」

「…感謝する、ゴウン殿方」

「あぁ、それとこれをお持ちください」

アインズはローブの中から木彫りの小さな彫刻のアイテムをガゼフに渡した。あれは確か… アインズが取り出したアイテムをガゼフは受け取る。

 

「君からの品だ、ありがたく頂戴しよう」

「戦士長、そろそろ…」

「ああ、ではゴウン殿ご武運を」

「ええ、貴方も」

ガゼフは私達との会話を終え、馬を走らせる。私達はその姿を見届けた

 

「…初対面の人間には、虫に向ける程度の親しみしか湧かないが…どうも話してみると小動物に向ける程度の愛着が湧くな」

「それであの尊きお名前を用いてまでお約束されたのですか?」

「そうかもな……」

「私は普通に面白い人間だと思ったけどね」

「ああ、あの男の内には私達のとは別の"強い意志"みたいなのを感じたな」

「ええ…そうですね…自分とは違うあの意志には、少し憧れを感じました…。」

私達はその後村を守る為の準備に取り掛かった。

 

 

 

―― 数十分後 ――

 

私達はガゼフ達が戦う様を探知系魔法越しに見ていた。誘導はうまくいき村から離すことはでき、天使対ガゼフ部隊の戦闘が繰り広げられていた。戦力としては天使一人にガゼフ以外の兵士2~3人でようやく拮抗といった所で数的にはガゼフの部隊が押されている、隊長のガゼフの方は一人で天使数体を倒せる程の実力はあるようだ。だが天使を倒せてもすぐに召喚されてしまっている。それに気づいたガゼフは天使達をなぎ倒しつつ指揮官と思われる男に向かう。

 

ちなみに、この戦闘を見ていた私達には一つ気になることがあった。ガゼフが使う"武技"という物だ。これはユグドラシルには無かった要素、能力としてはユグドラシルの職業スキルに似た物のようだが、この世界にはユグドラシルにあった力以外にもこの世界固有の技もあるのか

 

「"武技"か…私としてはかなり気になる物だな」

「面白そうね武技って!私達も使えないかしら?」

「どうなんですかね、私は魔術があるので覚えても使う機会はなさそうですが」

「そもそも私達はレベル100だぞ、覚えることが出来るのか?」

「あっ…ま、まあでも試してみないとわからないじゃない!うん!」

私達が武技について話していたら、戦況が大きく変わっていた。戦士職が多いガゼフの部隊と、MPがある限り呼ばれる天使達と遠距離攻撃がメインのマジックキャスターは相性最悪。すでにガゼフの部隊はボロボロで立って居るのはガゼフただ一人。そのガゼフもマジックキャスターの魔法に滅多打ちにされ地面に倒れる。そして確実にとどめを差すためか天使たちが一斉攻撃を仕掛けようとしていた。

 

「そろそろですかね」

「あぁ、まずは私があの男のもとに先に向かう。お前たちは後からあのアイテムでガゼフと入れ替わるといい」

「了解ー、此処の守りは…私達がせん滅するから大丈夫よね」

「周辺に敵の気配はないから大丈夫だろう、では私は先に行く」

「わかりました、すぐに私達も向かいますね」

そういい倉庫から出た私は、勢いよく大地を蹴った。大量の土煙を上げ、私はすさまじいスピードで駆けだす

 

 

 

―― ガゼフ視点 ――

「ガァッ‼‼グフッ!グアッ‼」

敵の魔法が俺の体に直撃し、当たった場所から体の内部に響く様な鈍痛が走る。これはまずい、明らかに一方的だ。

しかもあのモンスターは倒しても倒してもまた呼び出される…これでは倒しても倒してもきりがない……

 

「とどめだ。ただし一体でやるな、数体で確実にとどめを刺せ」

敵の指揮官が俺にとどめを刺すため指示を出している、このままで終わるものか、俺は今まで多くの命を奪ってきた…死など今更怖くはない!俺は最後の力を振り絞って立ち上がる。

 

「なめるなぁぁぁぁああ!!」

「ほう、まだ立てるほどの力が残っていたのか」

「はぁ…はぁ…俺は、王国戦士長!この国を愛し守護する者! この国を汚す貴様らに、負けるわけにいくかぁあ!!」

「愚かだな、こんな辺境の村人など切り捨てればこのような結果にはならなかっただろう。私たちはお前を殺した後で()()()()()()()()()()()()()()、お前のしたことは恐怖を感じる時間を長引かせただけに過ぎないというのに。無駄な足掻きをやめそこで大人しく横になれ、せめてもの情けに苦痛なく殺してやる」

今、あの指揮官は何て言った? あの指揮官は今()()()()()()()()()()()()()()といったのか…ハッ ハハ そうか殺すと言ったのか、ならお前はあの御仁達の力を知ることになるだろうな。そう思うと俺は何故か自然と笑みがこぼれた…

 

「ふっ…あの村には、俺より強い人がいるぞ…」

「はったりか?無駄なことを、そんなものが通用すると思っているのか? 天使達よ"ガゼフ・ストロノーフを殺せ"」

指揮官がモンスターに指示をだすと、4~5体の天使と呼ばれたモンスター達が俺に刃を向け突撃してくる、こんなところで、俺は終わってしまうのか…そう思い俺は敵の目の前で目を閉じてしまった。

確実に死んだと思ったが未だに来るであろう痛みがやってこない… 俺はゆっくりと目を開くと、黒い鎧に身を包んだ女騎士が私の前に立って居る。彼女は村にいた時私の喉元に剣を突き立てた御仁、彼女は天使達の武器をすべてはじき返していた。

 

「ふっどうやら無事…とは言えないが、生きている様だな」

「なっ・・・オ、オルタ殿! ど、どうやって此処に…!」

「なっ!?」 「ばかな!?」 「天使の攻撃をすべてはじいたのか!?」

指揮官以外の周囲に居るマジックキャスター達が驚きの声を次々と上げている。どうやら彼女はたった一撃で()()()()()()()()()()()ようだ、私でも1体の攻撃をさばくので手一杯だったあのモンスターの攻撃をだ。やはりあの御仁達は強い、あの時敵に回さないで本当に良かった…

 

「貴様は何者だ?」

「ふっ、貴様が指揮官か。私はそうだな…あの村に来た騎士を潰した者とでも言おうか」

「なっ!」 「ばかな!」

「ほう、貴様が騎士を…?とんだ虚勢だな。」

そういうと指揮官は手を振り下ろしモンスターに指示を出す。2体のモンスターが彼女目掛けて突撃する。

 

「邪魔だ」

彼女はそう言い剣を横に振るう。すると突撃したモンスターはその一振りで切り裂いた。その一撃を受けたモンスターは光の粒子となって消えていった

 

「ふむ、強さも其処までではないな」

「なぁああ!?」「あ、あり得ないッ‼」

「やはり…強いな、この御仁は…」

彼女の力を見て私は敵前で安堵する。彼女の内にある圧倒的強者のオーラが私の心の恐怖と不安が和らいでくれている。他の御仁達も彼女と同等の強さなのだろうか…そんなことを考えていた時だ

 

『そろそろ交代でな』

 

突然脳内にゴウン殿の声が聞こえると突然私の周りの景色がガラッと変わった、付近には負傷した俺の仲間達以外に村の人々が集まっていた。これはゴウン殿の魔法なのか…?

 

「こ、ここは一体…」

「ここは村の倉庫です、アインズ様が魔法で防御を張られています」

「…ゴ、ゴウン殿は…?」

「そ、それが戦士長と入れ替わるように姿が消えまして…」

俺はふと、戦場に行く前にゴウン殿に貰った木彫りのアイテムを思い出しポケットから取り出す。するとそのアイテムは役目を終えたのか砕けて消えていった。このアイテムで俺達と、かの御仁達を入れ替えたのだろう。

 

「…そ……そうか…」

俺たちはかの御仁達に助けられた、そう思うと私は安堵し、安心しきった顔で私は意識を手放した…。

 

 

 

―― オルタ視点――

アインズ達がガゼフとかいう男に渡したアイテムを使い、入れ替えるように戦場にやってきた。

「次から次へと……何者だ」

「初めましてスレイン法国の皆さん、私はアインズ・ウール・ゴウン。アインズと呼んでもらえると幸いです」

「なんだ、村の者か? 命乞いにでも来たのか?」

「いえいえ、実は…」

スレイン法国のマジックキャスターたちは、いきなりこの場の雰囲気が変わったような感覚を覚えた

 

「お前と戦士長の話を聞いていたが、本当にいい度胸をしている……。」

「はぁ?」

「お前たちはこの私が、手間をかけてまで救った村人を殺すと広言していたなぁ、これ程不快な事があるものか」

「ええ」

「まったくだ」

「フッ 不快とは大きく出たなマジックキャスター、で?だからどうした……」

「簡単だよ、抵抗することなくその命を差し出せ、そうすれば痛みは無い。だが拒絶するならその愚劣さの対価として絶望と苦痛の中で死に絶えるだろう」

「もっとも、すぐには殺さないがな」

指揮官の男は、アインズの存在を見ても何も恐れる様子はない…実力はガゼフ以下だろうな。だが何かを感じたのか指揮官の男は何か行動を起こそうとしている

 

「天使達を突撃させよ!」

男が命令すると、私とジャンヌ、アインズの元に天使が突撃してきた。天使達の輝く剣は私達の体を貫く、その光景をみた指揮官はこれで終わったと思っているようで笑っている。

 

「ハハハ! 無様な者だ、くだらんハッタリで煙に巻こうと……」

そう言いかけた時、天使達の異変に気付く。何故か天使達がジタバタと動いているのだ、まるで何かに抵抗しているような

 

「言っただろう、抵抗することなくその命を差し出せと……」

「まったく、無駄な努力だな」

「ホントそうね。無駄なMPの消費、ご苦労様♪」

指揮官は目を疑った。何故なら串刺しにされたはずの私達が天使達の体を掴んでいるのだ。まるで何もされなかったかの様に平然と、この光景を見た指揮官は驚きの声を上げる

 

「なぁあ‼‼」

「《上位物理無効化》のスキルだよ」

「低位のモンスターや情報量の少ないモンスターの攻撃を無効化するパッシブスキルだけど、まさか見た事がないのかしら?」

「まったく、こうもレベルの差が有るとこんな単調なスキルも見抜けないとは……少々ガッカリだ」

私達はそういうと各自攻撃してきたモンスターを始末する。アインズは二体の天使の頭を鷲掴みにし地面に叩きつけ、邪ンヌは天使の首元を掴み片手でへし折る。私は首元を掴んだ二体の天使を投げ回し蹴りを放ち頭を吹き飛ばした。

 

「やはりユグドラシルの《炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)》と同じ様だな」

「この程度の天使は流石に一撃なのね」

「まぁ、向こうでもあまり強い部類では無かったからな」

「さて……何故お前たちがユグドラシルの魔法を知り、モンスターを使役しているのか知りたかったが」

「まぁそれは一先ず置いておくとしましょ?」

「あぁ、攻撃してきたのなら次は私達の番だな……」

「「「いくぞ、鏖殺だ……」」」

私達が殺意を向けると指揮官達は怯えながらも、攻撃に移ろうとしてきた。

 

「ぜ、全天使達で攻撃を仕掛けろ!急げ!」

指揮官が命令すると、残っていた全天使達がこちらに攻撃すべく突撃してくる。

 

「本当にお遊びが好きな奴らだ……皆下がれ」

アインズがそう言う時は大抵全体魔法を使う時だ、私達は数歩後ろに下がりアインズから距離をとる。

 

「《負の爆裂(ネガティブ・バースト)》!」

アインズが魔法を発動すると、周囲にドーム状の負のオーラが炸裂し、天使達を全て一体も残さず殲滅した。その光景を見た指揮官は口を大きく開け驚きの表情をみせる

 

「あ…ありえない……。」

「(ガゼフ・ストロノーフが自身より強い御仁が居ると言っていたが、まさか、まさか!そんなわけがあるか!!)」

指揮官が驚愕していると、部下のマジックキャスター達が混乱しながらもこちらに魔法を放とうとしてくる

 

「《魔法の矢(マジック・アロー)》!」「《衝撃破(ショック・ウェーブ)》!」「《酸の矢(アシッド・アロー)》!」「《火球(ファイアー・ボール)》!」「《雷撃(ライトニング)》!」 etc.

出る魔法すべてユグドラシルの魔法だ。だがすべて低位の魔法ばかり、高くても第3位階程度の魔法しか撃ってこない。この部隊にはせめて第7位階の魔法を扱える者は居ないのか?こんな低位の魔法なら躱す意味もない。パッシブスキルで低位の魔法は無効化できるからな。魔法による攻撃は全て当たらず、周囲には土煙が舞うのみである

 

「やれやれ、あの天使がかなわないというのにこの程度の魔法しか撃ってこないとはな」

「まったくよ!これじゃあこの世界の強さ基準が分からないじゃない!あぁ服が汚れる……」

「土煙のせいで、視界は悪くするためかもな」

「ならば、私があの人間(下等生物)共を一掃いたしましょうか?」

「よいアルベド、少し検証もかねて態々ここに居るのだからな。」

「承知しました」

土煙の中私達が話していると、指揮官の男の声が聞こえた。

 

「《監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)》!かかれ!」

指揮官の男が呼び出した《監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)》が命令を聞き行動に移る、その声に気づいた他のマジックキャスター達は魔法の攻撃をやめ土煙が晴れる。土煙が晴れた先には《監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)》が持っているメイスを振り下ろそうとしている。それに気づいた邪ンヌはその攻撃を受け止めようとアインズの前に出る。《監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)》がメイスを振り下ろし、その攻撃を邪ンヌは片手で容易に受け止めた。

 

「やれやれ、じゃあ反撃ね」

邪ンヌは攻撃を受け止めた片手でメイスをはらい、もう片手に握られた槍で攻撃する。槍は黒い炎の魔法《獄炎(ヘル・フレイム)》を纏った槍で《監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)》の胴を貫く。《監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)》の胴には大きな穴が開きその穴から《獄炎(ヘル・フレイム)》が燃え広がる、《監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)》は塵も残さず消え去った

 

「あ、ありえるかぁああ!!上位天使がたった一撃で滅ぼされるはずがない!!」

「た、隊長…私達はどうすれば…」

「時間を稼げ!私は最高位天使を召喚する!!」

そういう指揮官は懐から水晶の様なアイテムを取り出し天に掲げた。あれはたしか《魔封じの水晶》、ユグドラシルにあったマジックアイテムだったはずだが……

 

「ほぉユグドラシルのアイテムも存在しているのか」

「みたいですね、アルベド。スキルを使用して私達を守れ」

「はっ!」

「さぁて、何が出てくるのかしらねぇ♪(ワクワク)」

「「邪ンヌさん/お前は何故嬉しそうなんだ……」」

「いでよ最高位天使、《威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)》!!」

指揮官の男が空に掲げた水晶が強く輝き水晶にヒビが入り砕け散る。すると空から優しい青き光と共に巨大な翼と(しゃく)を持った天使《威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)》が降臨する。周りの者達はその神々しい姿に感嘆の声を上げる。これがこいつらの持つ最高戦力……

 

「これが切り札……。」

「そう…みたいだな……。」

「何てこと…。」

「そうだ!恐れるがいいマジックキャスター共!」

「「「くだらない……。」」」

「なにっ!?」

「このような幼稚なお遊びに警戒していたとは……」

「まったく、とんだ期待外れよ!もっと強いの出してみなさいよ!!」

「敵に言う言葉ではないが…確かにそうだ。貴様ら揃いもそろって"弱すぎる"」

「お、お遊び……弱いだと…。い、いやまさかそんなはずは無い!上位天使の前でそんなのハッタリだぁ!!《威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)》よ、《善なる極撃(ホーリースマイト)》を放てぇ!!」

指揮官が指示すると《威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)》が持つ(しゃく)が砕け周囲に舞う、すると私達の頭上が強く光り出し、天から強力な光が降り注いだ

 

「は、ははははは!魔人すら消滅させる第7位階魔法!神の御業を知るがい…い……。」

指揮官が愉悦に浸っていた時、男の目には信じられない光景を捉えていた。かつてこの地に猛威を振るった"魔人"を消滅させた天使の第7位階魔法をまともに受けたはずなのに、彼らのシルエットがしっかり残っており、しかも一人は笑っているのだ……そして光の柱が消えた後にはほぼ無傷の状態の私達が立っていた。

 

「フッフフ、ハハハハハハ‼これがダメージを負う感覚、"痛み"か!」

「フッ、もろに受けた割には存外痛みは感じないのだなこの体は」

「私は避けたわよ、死なないと分かってても痛みなんか感じたくないわ!」

「なぁっ!!馬鹿な、馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁあ!!」

「この、下等生物がぁああああああ!!」

アルベドは私達が攻撃を受けてダメージを受けたのをみて、怒りの雄たけびを上げる

 

「わ わた 私たちの敬愛すべき主君であられる至高の、至高の御方々の体に傷を負わせるなど、ゴミである身の程を知れぇえええ!!容易くは殺さんんん!この世界で最大の恐怖と苦痛をぉおお!!」

「ひぃいいい!!」

「よい、アルベドよ」

「し、しかしアインズ様!」

「いいんだアルベド、よせ」

「オルタ様まで!」

「天使の脆弱さ以外のありとあらゆる事態は私達の狙い通りだ」

「ああ、それにお前は微笑みを絶やさないほうが魅力的だ、あまり声を荒らげるのはよせ」

「!!くふー!み みりょっ ゴホンッありがとうございますアインズ様」

『うまくアルベドを丸めたわねぇアインズ?』

『正直これ以上怒るアルベドを見るのは怖いので…ねぇ……』

私達が話していると、指揮官の男はまた天使に行動させようとしている。どうやらもう一度《善なる極撃(ホーリースマイト)》を使わせようとしているのだ。

 

「無駄よ、そいつはねぇ(しゃく)を犠牲に一度だけ魔法の強化ができるのよ?今更無強化の魔法ごときが私達に通じるはずないでしょ?あなたそんな事も理解できないのぉ(笑)」邪ンヌが笑いながら相手を煽る

 

「ばかな、そんなはずは無い!魔人をも消滅させた魔法だぞ!貴様らが生きているなどありe…」

「はぁもういい…絶望を知れ」

私はそういうと聖剣の剣先を《威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)》に向け、魔法を放つ。

 

「《魔力放出(マジックバースト)》。」

私は魔法を放つと剣の中心部分に魔法陣が現れ、剣先に赤黒い魔力が放出される。その魔力の本流は《威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)》を飲み込み、数秒で《威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)》は消し飛んだ。切り札の《威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)》が一撃で倒されたのを目の当たりにした指揮官達は、現状を受け入れられず声を発することなく佇んでいた

 

「魔人すらも超える力…お前達は一体何者なんだ……。」

「"アインズ・ウール・ゴウン"だよ。かつては、この名が知らぬものは居ないほど知られていたんだがねぇ…」

「さて、これからどうしてやろうか」

「ま…待って!待って欲しい!アインズ・ウール・ゴウン殿……いや様!私達、いや私だけでかまいません!い、命を助けてくださるならば望む額をよ、用意させてもらいます!」

「貴方間違っているわよ」アルベドが口を挟む

 

「なっ」

「…最初にアインズ様が"死ね"とおっしゃったんだから、人間という下等生物の貴方達は"頭を下げ命を奪われる時を感謝しながら待つべき"だったのよ」

「……かとう…せい…ぶつ……。」

「たしか貴方達、ガゼフに何て言っていたかしら?」

「あぁ確かに何か言っていたな、何だったか…」

邪ンヌと私が半ば笑いながらこういう。アインズは身に着けていた仮面を外し、指揮官の男が言っていた"あのセリフ"を言う。

「たしか…こうだったな――」

「"無駄な足掻きをやめそこで大人しく横に慣れ、せめてもの情けに苦痛なく殺してやる"と」

そう言うアインズの姿を、一言で言い表すならばまさしく魔王 ――

その光景を見た指揮官達の顔は、恐怖に染まりきっていた…。

 

 

その後、マジックキャスター達の半数を殺し、残った指揮官ともう半数のマジックキャスター達はナザリックに送られた。死体は今後のアンデッド創造実験の為ナザリックに送り、生き残りはナザリックの特別情報捜査官"ニューロニスト"による拷問もとい尋問を受けてもらい情報を引き出す予定だ。私達は一連の騒動の終わりを村人達に伝えた後、ガゼフの事は村の人々に任せその場を離れることにした。気づけばもう夜、私達は帰路についていた。

 

「やっべ―、至高の御方々マジかっけー!ンフフフ♪」

「どうしたアルベド?」

「いえ、何でもありません♪」

「そ、そうか?」

「ところでアインズ、これからナザリックの方針はどうするの?」

「そうですね…」

「表に出すべきだろうな」

「え、表にですかオルタさん?」

「正気?いきなりナザリックを表に出したら…」

「いや、すぐさま表舞台に顔を出すわけでは無いさ」

「どうゆう事でしょうか、オルタ様」

「このまま隠れながらコソコソとするのは性に合わん、それにつまらぬ。折角ならこの世界で正々堂々と動き回りたい」

「それはそうね、隠れながら過ごす日々なんてつまらないわ」

「そこでだ、一ついい方法を思いついた。まぁ私が思いついたわけじゃないがな」

「へぇ、何なのその"方法"って?」

「私も()()です、何ですかその方法って」

「何卒私にも、お教えください!」

アインズは案の定この前の事を忘れていた、これからナザリックのまとめ役として動こうとしている奴が自分で言ったことを忘れてどうする……。

 

「"世界征服"だ」

「「世界征服!?」」

「なんとまぁ!!」

「ちょっちょっと待ちなさいよ!世界征服っていきなり規模がデカすぎるわよ、何考えているのよアンタ!」

「そうですよ、世界征服なんて…」「お前が言ったことだろ」

「……はい?」

「だーかーらー、お前が最初に言ったんではないか、"世界征服なんて面白いかもしれない"って」

「なんと、アインズ様がそのようにお考えだったとは!?」

「いやいやいや、私がそんな事を何時言いました!?」

「ちなみに言質はデミウルゴスとシズも取っているぞ」

「……マジで?」

「……マジだ」

アインズは頭を抱えながら深いため息をつき、いまだ言った事実を思い出せず悩ませている。アルベドは私達が世界征服に向けて動こうとしていた事を知り目をキラキラと輝かせ羽をパタパタと羽ばたかせ興奮している。そんな中邪ンヌは冷静で、私に向かって話す

 

「……世界征服、方針は大きくて結構。だけどいささか急すぎはしない?いきなりどこか国とでも戦争でも起こすつもり?」

「いやそれはない、リスクが大きすぎるからな。最初は世界征服を円滑に進める為の土台作りだな」

「それはいいと思うけど、どうするのよ?」

「詳しくは帰ったら話す。まずはナザリックに戻るとしよう」

「ふーん、大丈夫なのよね?」

「まぁ聞けばわかるさ」

アインズが頭を悩ませている事など気にせず、私達は話しながら帰路についた。その後ナザリックの守護者や領域守護者などを第十階層に召集を掛けた、これからの方針を皆に伝えるためだ。階層守護者達が玉座に向かう為廊下を歩いている

 

「な、なにを話すんだろうね、おねぇちゃん」

「さぁね、でも至高の御方々が話すことだもん、きっと凄いことをこれからするとか?」

「なに、我らの創造主が話される事。何も不安など感じはしないさ」

「デミウルゴスは知っているんでありんすか?」

「あくまで予想だがね」

「ふぅん……と、コキュートス達でありんす」

シャルティア達は話ながら歩みを進めると、玉座の間へ通ずる扉に到着し門が開く。前には先に集合していたコキュートス,サリエリ,ランスロット,ジャック,そしてプレアデスとセバスが居た。

 

「やはり先ほどの歩みの音は、貴殿らか」

「階層守護者ハ皆集マッタヨウダナ」

「モモンガ様方はまだいらっしゃらないのでありんすね」

「我が主によると、少し外に出ていたそうだ」

「そ、外ですか」

「……はい、わかりました」

「どうしたの、セバスのおじさん?」

「モモンガ様からのメッセージが届きました、アルベド様と共にこちらに向かわれるとのことです」

「アルベドと共にぃ!?あいつまさか抜け駆けを!」

「いえ、モモンガ様からの指示で同行していたようです」

「ま、まさかモモンガ様は妻をアルベドと決めて…‼」

「シャルティアおねぇちゃん全く聞いていないよ?」

「「「・・・・・。」」」

勝手な妄想をして興奮しているシャルティアに他の守護者は半ばあきれ顔で見ている、そんな事など気にせず自分の妄想を広げ勝手にアルベドに対抗意識を向けるシャルティア。そんななか、玉座の入り口にいたユリがアインズ達がやってきたことを各守護者に伝え扉を開く。私達は左右に跪いている守護者達の真ん中を堂々と歩き玉座に向かう。目の前には玉座が3つ……ん?3つ?

 

「アルベド、玉座の方が一つ増えているが」

「はい、誠勝手ではございますが、邪ンヌ様がお座りいただけるよう玉座を追加させてもらいました」

「あら、気が利くじゃない♪ありがとアルベド」

「勿体なきお言葉…」「ぐぬぬぬぬ…」

なにか歯ぎしりのような物が聞こえた気がするが気にしないでおく。邪ンヌは左側、アインズは中心、私は右側の席に座る。私達が各玉座に腰を下ろしたその姿は魔王の様だ、3人も居る魔王など聞いたこと無いが…私達が玉座に座る姿を見た各守護者はなぜか感嘆の表情を見せる。さてこれから世界征服について守護者達と話し合うとするか。だがその前に…

 

「面を上げよ」

「「「はっ」」」

「まずは、私達が勝手に動いたことを詫びよう、何があったのかは後にアルベドに聞くといい。」

「さて、まずは私から皆に早急に伝えなければいけないことがある」

突然アインズは杖を持ち床に杖先で床をつく、すると玉座の後ろの壁に大きな旗が飾られた。

 

「私は名を変えた、これより私はナザリックを代表し"アインズ・ウール・ゴウン"―アインズと呼ぶがよい!異論ある者は立ってソレを示せ!

高らかと声を上げアインズは新たな名を示す。その名に反論する者は当然いなかった。

 

「ご尊名伺いいたしました、いと尊き御方。ナザリック地下大墳墓全ての者より絶対の忠義を。アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」

「「「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!!」」」

「至高の御方々に、私共の全てを捧げます!」

「「恐るべき力の王よ」」

「この世の全ての者が、御方々の偉大さを知るでしょう!」

「全テヲ超越セシ我ラノ王――」

「死と生を操りし、絶対なる強者に忠誠を!」

「死の支配者、オーバーロードに栄光を!」

「これよりお前達の指標となる方針を言明する、"アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説にせよ!"

「英雄が多いのなら、その殆どを塗りつぶしなさい、我らアインズ・ウール・ゴウンこそが大英雄だと生きとし生きるもの全てに知らしめなさい!」

「より強き者がいるのなら力ではなく策略で、数多くの部下を持つ魔法使いがいるなら別の手段で、今はその前段階に過ぎないが来るべき日の為に働け」

「「「我らアインズ・ウール・ゴウンこそが最も偉大なものであるという事を知らしめよ!!!」」」

「ウォオオオオオオ!!!」

 

この世界で"アインズ・ウール・ゴウン"の名を轟かせ、この世界に居るかも知れない仲間達に届くように…

 

「さて、一つ伝える事は伝えた。では次の話をするとしよう」

「デミウルゴス、"プレアデス"が一人シズよ。前に」

「「はっ」」

「さて、二人は以前私とアインズが夜空を見に外に出た時、傍付きとして付き添っていたな」

「はい確かにお傍におりました」

「ではシズ。夜空の景色を見てアインズはなんと言った?」

「はい、「この景色、まるで宝石箱のように綺麗」とおっしゃっておりました」

「うむ、ではデミウルゴスよ。貴殿はその言葉を聞きナザリック全軍をもって手に入れると申していたな」

「はい」

「ではアインズはその言葉を聞いた後、なんて言ったか覚えているか?」

「はい、アインズ様は私の提言を聞いた後こう仰っておりました。「世界征服なんて面白いかもしれないな。」と……」

「「「!!!」」」

その言葉を聞いた後他守護者達が驚きの声を上げる。そう、"世界征服"とナザリックの代表であるアインズが言ったと聞こえたからだ。二人の話を聞き、アルベドが声を高らかに話す

 

「各員、ナザリック地下大墳墓の最終目標は、正統なる支配者である御方々の為に宝石箱を……」

「この世界をお渡しすることだと知れ!」

「「「はっ!」」」

『えぇ……』

『なんだアインズ、まだ思い出せないのか』

『俺本当にそんな事言ったんですか……俺が…俺が…?』

そういいながらアインズが悩んでいるとスキルによる精神安定が発動した。余程の起伏がない限りめったに起こるものではないと聞いていたが、そんなに自分が言ったと信じたくないのか…?

『まぁ言ったことは仕方がない、此処から世界征服の話は私が受け持つから安心しろ』

『わかりました……。』

「さて、守護者達よ。我らの最終目標を知った所で、解決しなければならないことが幾つかある」

「まず一つはこの世界の知識だ。この世界の国々の情勢や文化、歴史に技術など知らない事が多すぎる。其の為第一の目標は多くの知識を得ることだ」

「質問よろしいでしょうか、オルタ様」

「なんだシャルティア?」

「その、いきなり人間の国を攻めたりはしないんでありんすか?」

「はぁ……シャルティアよ、その案はリスクが高すぎるのだ」

「リスクでありんすか?」

「確かに我々はレベル100を超えた強者。それ以下の種族の国など攻めるのは容易いだろう。だが我々はこの世界に無知という事を忘れてはならない。」

「そういうことですか」

「デミウルゴスはわかるんでありんすか?」

「あぁ、簡単な事さ。オルタ様は"至高の御方々と同等、又はそれ以上"の存在を警戒しているのさ」

「至高の御方々と同等?そんなのが…」

「居ないとも限らないさ。私達はユグドラシルから転移した存在だが、同じくユグドラシルから転移した者達がいる可能性は十分にあるからね」

「その通りだデミウルゴス。それにもう一つ、この世界には"武技"なる技を使える者がいた。これはユグドラシルには無かったものだ。同じように私達が知らない脅威になる力があるかも知れないからな」

「なるほど、そのようなリスクまで考えていたんでありんすね!」

「当然だ、さて二つ目の問題はどう地上に出るかだ。現状未知の要素が多い中いきなりナザリックを表舞台に出すのはこの世界の強者に目を付けられる可能性が高い、そこで」

「私とアルベドは以前、オルタ様と世界征服に向けての会議をしておりました」

「なんと!」

「クフフフ、まさか至高の御方とこのように話し合うことが出来たとはこの上ない喜び、それにこの話し合いで得られるものがとても多かったわ!」

「全く同じ意見だよ、オルタ様の思考の速さ、そして数々の案とアクシデント時の対応策そのすべてにおいて我々では到底たどり着けないほど深く練られた物ばかりだった。私にはオルタ様の領域には全くたどり着けなさそうだよ」

「えぇ、本当にそうね。私達にはオルタ様の思考には到底到達できないと改めて感じたわ……」

『あんた何を提案したのよ……。』

『オルタさん、何を話したんですか?』

『いや……。私達はエ・ランテルに行くっていうのと、そこで私達は冒険者になるって話をしただけだが』

わたしはそう言い、以前世界征服の為の行動や注意点などを書いていたノートを二人に見せた。そこにはある程度の思い浮かんだ事を書いただけで特に驚かれるようなことは書いてないはずだが

 

『普通とは言えないけど…比較的思いつきそうなことが多いですよね?』

『ええ…確かに意外な所もケアしているけど……とくに目立った個所は無いわよね……?』

二人は何がアルベドたちをそこまで言わせたのか分からない様で困惑している。実際私もそうだ、そこまで大層な事を言ったことは無い。これは、私達の思考は高度なレベルと思い込みによる物か……、これから何か言う時はさらに気を付けた言動をしなければいけないのか?

 

「……二人共謙遜はよせ。お前達の提案も良いものだったぞ」

「いえいえ!私達の考えなど至高の御方々の足元にも及びませんとも」

「事実なのだがなぁ……まあいいそれで計画というのはな。人間の国に行き私達は"冒険者"になろうと思う」

 

「「「冒険者…?」」」

「そうだ、この世界では冒険者にランク付けがされ、カッパーやアイアンなどランクを上げることが出来る。そこで私達がランクを上げ、ミスリルやオリハルコンなどの高ランクの冒険者になればより高度で多くの知識を得られるかもしれないからな」

「な、なるほど!」

「流石はオルタ様!」

「後は資金だな、この世界の硬貨は独自の物だ。ユグドラシルの硬貨は宝物庫にあるがこの世界の物で実験したい事は多くあるからな」

「失礼とは思われますが、聞きたいことがございます」

「よいぞセバス、言ってみよ」

「はっ、硬貨を稼ぐことが目的なら、ユグドラシルの金貨を多少売るのはどうでしょうか。こちらの世界でも金の価値は同じとお聞きしました」

「ふむ、その案もあるが、この世界にユグドラシルの硬貨が使われていない関係上ユグドラシルの硬貨を扱う物の情報が流れ、転移した者が動き出す可能性がある。余計なリスクは避けるのに限るからな」

「なるほど、畏まりました」

「さて、私達の行動については話した。あとは守護者達についてだな…」

そして私は、数人の守護者とプレアデスに指示を与えた。これから私達は少しづつこの世界に手を伸ばし始めた。

 

 

 

 

 

――エ・ランテル アインズ視点――

数日後、オルタさんが考えた計画を進めるため、私は《上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)》を使い、姿を黒い鎧の騎士に変えてエ・ランテルに入った。私はナーベラルと共に、オルタさんは邪ンヌさんと人型のシャドウアサシンの三人組で別パーティーを組むそうだ。二組に分かれて行動すれば情報も集まりやすいだろうとの考えらしい。

本来ならオルタさんと邪ンヌさんの二人組で行動する予定だったのだが『御身だけでなく我らもお連れください!』と守護者全員に言われてしまった為、守護者を同伴させるわけにはいかないので仕方なく一人追加としてシャドウアサシンを連れることにしたそうだ。

確か彼女はシャドウアサシンの一人で『グレイ』と呼ばれていたな。ナザリックの大九階層の守護者であるジャックが率いるアサシンの名が付いた者による暗殺チーム「渡影(とかげ)(弐式炎雷さん命名)」の一人だったな。彼女はその中でも唯一高火力の攻撃系スキル持ちだったな。

「さて私達はとりあえず宿に向かうとするか」

「はい、畏まりましたアインズ様」

「ちがう、この姿では私は"モモン"、冒険者モモンだ。そしてお前はナーベラルではなく、同じく冒険者仲間の"ナーベ"だ」

「畏まりました、モモン様」

「様付けはいらぬ、呼び捨てで構わん」

「畏まりました、モモンさー……ん」

「たどたどしいな…まぁいいこれから気を付けるように」

「はっ」

そうして私達は町の人に聞き、冒険者がよく泊まりに来ると言われた宿に向かった。外観は一階が酒場で二階以降が宿といった感じだろう。情報収集がしやすい酒場があるのは非常に助かる。そして私は酒場の入り口の扉を開けた。

中はある程度武装した冒険者らしき者達がチラホラといる。だいぶ柄が悪そうなやつが多い気もするが、冒険者というよりむしろ野盗のほうが近い人相だな。そんや野盗のような先輩たちがいる中、一際目立った3人組が目についた。

一人は龍の外郭をモチーフにしたフルプレートの鎧に身を包んでいた金髪の女性、竜モチーフの兜を外しており素顔が見えるがとても綺麗な顔立ちの女性だと分かる。もう一人は長い金の髪で青い服に部分的な鎧を装備している女性、顔立ちは白銀の鎧の女性によく似ていた。もう一人は灰色の綺麗なマントを羽織った少し幼い女の子、こちらはフードを深くかぶっておりあまり顔は見えないが顔立ちは二人の女性に似ている様に見えた。彼女達こそ姿を偽った邪ンヌさん達だ。

彼女達の容姿をチラチラとみている他の冒険者達が見えるが、そんな事お構いなしに3人は話し合っていた。すると、青い服の女性、邪ンヌさんが私達に気づき声をかけて来た。

 

「おや、貴方達もこの国に来ていたんですね」

「久しぶりだな、モモン」

「えぇ、少し色々ありましたからね」

「「・・・?」」

ナーベとグレイが不思議そうな顔をしている。私達はこの国で冒険者として行動する前に、お互いの関係に"設定"を付けており一応「かつて私達は共に冒険していた仲だがとある事情により解散。その後、海を渡り旅をしていたら偶然合流した」という邪ンヌさんが適当に5秒で考えた設定だ。一応ナーベ達二人にも伝えていたが、私達は元からナザリックで共にしているのにこのような発言をしているから疑問に思っている。設定の事は伝えたはずなんだけどなぁ……それより気になることがある

 

『邪ンヌさんすごい丁寧な口調ですが前そんなんでしたっけ?演技とか?』

『いいえ、どうやら種族の能力で変身すると口調や思考もその姿に引っ張られるようなんです、気にしないでください♪』

『私は演技で口調は変えているが、お前がそんな感じだと気持ち悪いな』

『失礼ですね!別にいいじゃないですか!』

『あはは…っとそうだ、お二人は冒険者としての名前はどうしましたか』

『私は、オルタから「アルトリア」に変えた。オルタの別名だがちょうどいいからこの名を使う』

『私はそうですね…ジャンヌと名乗ったとしても、もともと「邪ンヌ」ともじった名前でしたからね、どうしましょうか。』

『「ラピュセル」なんてどうだ、史実のジャンヌの異称でそんなのがあったではないか』

『そうでしたね、ではそうします。私はこれから「ラピュセル」です!』

『わかりました、ではそのように』

私達はメッセージで名前の確認をした後、同じ席に座り話し始める。その光景をみた周りの冒険者はヒソヒソと何か話しているのに気づく

 

「おい、あいつらの鎧みろよ。フルプレートだぜ」

「ああ、しかも女なんか全員美女と来たもんだ」

「何処かの貴族とかか?鎧の感じ的に竜王国とか?」

「わからねぇが、ありゃ相当いいものだぜ」

「男の方もすごいな、ちっボンボンめ…」

やはりこの姿は目立つか、にしてもこの世界はフルプレートの鎧は珍しいのか?ユグドラシルにはフルプレート装備なんてゴロゴロとあったし装備していたプレイヤーは多かったが。まぁこれからこの国で冒険者として名を上げていく予定なんだ、多少目立つ姿でもいいか…

 

「さて、これからアルトリアさん達はどちらに?」

「私達はすでに町を散策し此処の部屋を取ったからな、もう少し此処で休んだら冒険者組合の方に向かおうと思う」

「せ、拙達はその、これから冒険者登録をしようと思いまして」

「モモン達のこの後の予定は?」

「私達はここの宿の部屋を取ったら、同じく組合に行く予定です」

「そうですか、ではせっかく会えたんですし一緒に組合に向かいましょう!いいですよねアルトリア?」

「あぁ、それでいい。私達はここでゆっくりしているからモモン達は気にせず部屋を取りに行ってください」

「ありがとうございます、では行くぞナーベ」

「畏まりました」

そういうと私達は椅子から離れ、この酒場兼宿の店主であろう人物に声をかけ宿を借りたいと声をかけた。店主は私達の姿をとくに気にすることなく部屋の宿泊料を簡単に伝え。私はその額を払う。オーナーは硬貨を確認すると部屋の空き部屋の場所を教えてくれた。どうやらこの世界に"チップ"の文化などはなさそうだ。

そして私達は教えてもらった部屋を確認しようとすると、近くの机にいた男が私の前に足を出す、どこにでもこんな事をする馬鹿は居るんだな。仕方なく私はそのまま歩くと当然男の足がぶつかる。案の定男はくだらぬ事をほざきながら悪態をついてくる、しまいにはナーベの介抱がなんたらと口にする、私は男のあまりに下っ端ぱらしい言動に笑いがこみ上げてきた

 

「フッフフフフ」

「あぁん?何笑ってんだよ!?」

「いやすまない、いや許してくれ。あまりにも雑魚に相応しいセリフに笑いを堪え切れなかった」

「あぁん!?なぁっ!?」

わたしは男の胸倉を片手で掴み持ち上げる。リアルの自分ならこんな事絶対できないだろうけど今の俺ならこれぐらい簡単に持ち上げられる

 

「お前となら遊ぶ程度の力すら出さないで済みそうだ」

「うわぁああああ!?」

私は男の胸倉を掴んだまま遠くの席へ、投げ飛ばす。男はそのまま机に激突し倒れた。さて残りは二人だな…今ので私との実力差は理解できたとは思うが一応警告はしておくか

 

「で、次はどうする?時間を無駄にするのも馬鹿馬鹿しい、何なら――」

「ほぎゃぁああああああああああ!!」

突然男を飛ばした方から女の悲鳴があがった、私が悲鳴の聞こえた方を見ると赤毛の髪の女冒険者が頭を抱え怒りの表情を見せながらこちらに向かってくる、その眼には少し涙が見えた。

 

「ちょっとちょっとちょっと、あんた何すんのよ!あんたのせいで私のポーションが割れちゃったじゃない!免償しなさいよ!!」

「ポーション?」

なんでポーションごときにそんな怒っているのかわからなかった、ユグドラシルでは当たり前のように誰でも持っている物だったが

 

「あたしが、食事を減らし、酒を断ち、倹約に倹約を重ね貯めた金で今日!買ったばかりのポーションを壊したのよ!!」

「なら、原因はこの男たちだ。こいつらに請求したらどうだ?」

「金貨1枚と銀貨10枚よ?いつも飲んだくれてるから払えるはずないわよねぇ…」

男たちは冷や汗をかき焦りの表情を見せながら笑っている。たかがポーションに金貨までかかるとは、この世界ではかなり貴重なアイテムとして売られているのか

 

「しかたない、では私が持っているポーションを渡すので良いか?」

「ポーション持ってるの?ならそれでいいわ」

「そうかではこれでよいか」

そうして私はユグドラシルポーションを彼女に渡し、彼女が受け取る

 

「赤いポーション?」

「ん?なにか問題があったか?」

「いや、大丈夫よ」

「そうか、では失礼する」

そういい私は部屋に向かう為階段に向かった。全くいきなりこんな目に合うとはこれから大丈夫だろうか…

 

「貴方達よかったわね、彼の隣に居た子は一応第三位階魔法の使い手よ」

「「「!?!?」」」

その場にいたラピュセルがそういうと酒場が一斉にざわつき始めた。

 

「第三位階だと!?」「あの嬢ちゃんがそんな強力な魔法使いなのかよ!?」

「ええそうよ。ちなみに剣士の彼は彼女をしのぐ強さを持っている、貴方達は斬られなくて幸運でしたね…」「・・・・・。」

酒場は驚愕のあまり静まり返っている。酒場とは思えないほどに、そんなこんなあったが部屋を確認した私達は一階に降りアルトリアさん達と様々な視線を浴びながら酒場を後にし、冒険者組合に向かった。

 

 

「恥ずかしい……。」「慣れろ」




ご清覧ありがとうございました。

今まで誤表記や誤字が多かったので今回は以前より多く読み返していた為投稿が少し遅れてしまいました。しっかり確認しているんですがそれでもどうしても見逃してしまっている部分も出てきているかもしえません。その際は誤字報告をもらえると助かります

今回はfateキャラNPCのステータスを張っておきます



【ナザリック第二階層守護者】
アントニオ・サリエリ Lv.100
【種族】始祖(オリジンヴァンパイア)(ヴァンパイア系)
・基本は第二再臨の姿で、人型での戦闘時に第一再臨の姿になる。真の姿は第三再臨の悪魔に近い形相
【職業】吟遊詩人(バード)、※¹名演奏家(ヴァーチュオーソー)など
【カルマ値】中立〜悪
【性別】男性?(始祖は性別をいじれるらしいが基本男性の姿)



【ナザリック第三階層守護者】
ランスロット Lv.100
【種族】食屍鬼王(グールキング)(アンデット系統の種族グールの上位種族の一つ)
【職業】暗黒騎士 など
【カルマ値】悪
【性別】男性



【ナザリック第三階層守護者兼暗殺チーム兼暗殺チーム「渡影(とかげ)」のリーダー】
※²ジャック・ザ・ミスト Lv.100
【種族】上位霊体(ハイ・ゴースト)(アストラル系の種族ゴーストの上位種族)、切り裂きジャック(アンデッド系)
【職業】教祖・暗殺者(マスターアサシン)妖術師(ソーサラー)など
【カルマ値】中立~悪
【性別】不明(様々な霊体の集合体の為、性別が混同している)



【暗殺チーム「渡影(とかげ)」の一人】
グレイ Lv.70前後
【種族】|シャドウアサシン(アンデッド系)、シャドウデーモン(悪魔系)
【職業】アサシン、イビルスレイヤーなど
【カルマ値】極善(ナザリックには珍しいセバスと同じカルマ値が+)
【性別】女性
使用武器は【魔術礼装"アッド"】、人格のある魔法の武器で弓や鎌、剣に大槌など多彩に変形できる。死霊特攻付きで、倒した死霊を吸収し一時的に武器を巨大化させることが出来る。ただ死霊に強いだけで死霊以外のモンスターには強さ的に高ランクの武器と変わらない。力を開放させると強力な技が使えるらしい……。

※¹吟遊詩人(バード)の上位クラス。
※²種族名にジャックザリッパ―がある為、キャラの名前を変更。スキルに霧を使ったものがある為この名になった。

次回のあとがきの予定は特にないです。


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第4話

GW中に出す予定が投稿ボタン押し忘れてそのまま放置、しかも自分は出したと勘違いし気づかない始末、遅れて申し訳ありません

あと4期&新規劇場版製作決定おめでとうございます!


――エ・ランテル 冒険者組合 モモン(アインズ視点)――

私達は冒険者組合の扉を押し開けた。

組合に足を入れると奥にあるカウンターが目に入る。そこでは組合の受付嬢が数人、笑顔で我々の先輩であろう冒険者らの相手をしている。皮の軽装鎧に剣を持つ者や、神官衣に十字の装飾が付いたネックレスを掛けた者など様々な人達が集まっている。

 

「わぁ、人がいっぱいですねアルトリアさん」

「そうですねグレイ」

「人が多いという事は、それほど冒険者が必要な者が多いってことなんでしょう」

「いい仕事の取り合いになりそうだ、少し急ごうか」

「畏まりました」

 

そういい私達は受付に向かう為歩き出した。幾多の視線が私達の姿格好に集まっているのが感じられる。それもそうだ、この組合の中で私達の姿はかなり浮いている。それに私達は今日冒険者になりに来た者で首には冒険者を示すプレートが掛かっていない。周りには金や銀のプレートを付けた者ばかりで若干アウェー感を感じる。

 

「拙達、すごい見られていますね…。」

「チッ、ゴミムシ等が…」

「こらナーベ!そういうこと言わない。」

「も、もうしわけありません!じy…」

「ラピュセルよ、ラ・ピュ・セ・ル!」

「ラピュセルさー…ん」

「んーたどたどしいですが、まぁカワイイのでいいです♪」

「貴女のそういう所は変わらないのですね」

「ハハハ...おっと皆さん。もうすぐカウンターですよ」

私達が話ながら歩みを進めるとカウンターの前までやってきた。するとタイミングがよくちょうど一組が終わったようで、手の空いた受付嬢が居た。その受付嬢は私達に気づくと私達に声をかけてきた。

 

「ようこそ冒険者組合へ、今回は何の御用でしょうか」

「えっと、拙達は冒険者への登録がしたくて」グレイがひょっこりカウンターに顔をだし受付嬢の質問に答える

 

「わかりまし……えっ貴女も冒険者になるの?」

「はい…えっと、年齢の方は一応大丈夫かと…」

「そ、そうなの…わかりました。では手続きをしますが何名のパーティーですか?」

「拙達はこの方々と3人で組むつもりです」アルトリアとラピュセルを指さし答える。

「えっと、後ろの方々は違うのですか?」

「あぁ、彼らとは旧知の仲ってだけでパーティーは別々です。私達三人で1パーティーということでお願いします」

「そうですか、わかりました。ではそちらの方々も同じく冒険者登録を?」

「ええ、別々で二人パーティーを組みたいのですが」

「わかりました。では三人パーティーと、二人パーティーでこれから登録しますのでこちらの冒険者組合の規約の確認と必要事項を記載ください」

「わかりました」

私達は受付嬢から渡された羊皮紙とペンを受け取り記載された規約に目を通そうとしたがここで重大な事に気づいた。

文字が読めない!

日本語や英語などではない見たこと無い文字がずらりと並んでいる。これじゃあ何て書いているのか読めたもんじゃない…

 

『やばい、これ読めないんですが…。』

『ああ、これは困った。必要事項も何を書けばいいのかわからんぞ』

『そうですね…そうだ!ねぇお二人共、このアイテム使えませんかね?』

そういいラピュセルがアイテムボックスから取り出したのはモノクル型のアイテム、これはアイテムの鑑定や鍵開けなどの技術に補正をかけてくれるアイテムだったはずだが…

 

『それって、この前モモンがセバスに渡したアイテムですよね』

『なんで今それを?』

『このアイテムの説明欄に、「かの眼鏡、失われた言語を自動で翻訳する」とフレーバーテキストが入ってたんですよ』

『そうか…フレーバーテキストの部分も反映されてるかもしれないな』

『はい、ではさっそく使ってみますね』

そう言いラピュセルは取り出したモノクルをかけて受付嬢から貰った羊皮紙を覗いてみる、するとみるみる文字が日本語に翻訳されていった

 

『よかった!ちゃんとフレーバーの部分も反映されて、文字が翻訳されてますよ』

『それは良かった!あ、でも私達がこの字を掛けなきゃ読めても…』

『その点も大丈夫そうです、眼鏡の端っこに自分の名前の書き方等が出てきます』

『よかったぁ、ではラピュセルさんがメッセージで翻訳部分を伝えてほしいんですがいいですか?』

『わかりました、このまま進めていくんですね。ではまずは…』

ラピュセルが翻訳し、必要な部分を羊皮紙に記載していく。そういえば偶然ラピュセルが今アイテムを持っていたから今何とか乗り切れたが、もし何もなかったら今頃どうなっていたのか…受付嬢に任せることができたのか…そんなことを各々頭に思いながら書類を書き進めた。

 

「拙にはこの文字は読めないんですが…ナーベさんは読めます?」

「まったく……でも至高の御方々はスラスラ書いているわ…流石はモモンさん」

「えぇ、ほんとすごいですね!」

やめてくれ二人共、自分達は内心とんでもなく焦ってるんだ…。

なんとか危機を乗り越えて、書類(難敵)の方は記載が終わった。名前と役職、現在の所在地など簡単な物しか記載してないがこんな簡単な物で大丈夫なんだろうか

 

「拝見しますね。ふむふむグレイさんにアルトリアさん、ラピュセルさんで1パーティ……。モモンさんとナーベさんで1パーティーですね!確認しました、少々お待ちください」

スラスラと全ての書類を確認すると受付嬢は、カウンターの奥の棚から何かを手に取り持ってきた。手元には人数分の胴のプレート付きネックレスのような物を持っているように見えた

 

「では皆様こちらのネックレスを必ず身に着けてください。こちらは皆様が冒険者だという事を証明する物ですので絶対に無くさないように」

「それと、冒険者は依頼を多くこなすことでプレートのグレードが上がります。プレートが上位の冒険者ほどより強大な敵と戦うことになりますがその分報酬も高くなりますので頑張ってくださいね」

「わかりました、ではさっそくですが依頼を受けたいのだが。現在のランクで一番高難度の物を見繕ってくれないか?」

「い、いきなり高難易度ですか?冒険者という仕事はとても危険な物ですので最初は簡単な物の方が…」

「心配してくださりありがとうございます。でも大丈夫ですよ。ナーベ、彼女は第三位階の魔法が使えます」

「私も信仰系の第三位階魔法が使えます」

「せ、拙も使えます…!」

ざわりと大きく空気が動く感覚を感じ後ろを見てみると、驚愕の視線がナーベ、グレイ、ラピュセルに移っている。どうやらこの世界は、第三位階の魔法は魔法詠唱者(マジックキャスター)として大成した者が扱う領域と聞いた。そんなものが一度に3人も、しかも新人としてこの組合に来たのだからそれはとんでもない話なのだろう。

 

「私達も彼女達の強さに匹敵するだけの戦士です」

「アルトリアさんの言う通りだ。私達は報酬目的ではない、高レベルな仕事を望んでいるんだ。なので我が儘なのは承知しているがレベルが高い仕事を見繕ってほしい」

「そうですか…、皆様がそこまで言うなら探してみます。魔法使いとしての実力がある事を考えると、よさそうな仕事は……」

 

そういい、受付嬢は手元にある依頼の羊皮紙を探り私達に合った依頼を探している。すると私達の横から若い青年の声が聞こえた、どうやら私達にむけて話しかけているようだ。

 

「よかったら私達の依頼を手伝いませんか?」

 

声の聞こえた方に視線を向けると四人組の冒険者がいた。そして声をかけたであろう者は帯鎧を着用している戦士風の男。この男が後ろのパーティーのリーダーだろうか

 

「その依頼とはやりがいはありますか?」

「うーん。まぁ、あると言えばあると思います」

『二人共どうします?』

『私は別に彼らの仕事を手伝いをするのに問題はないぞ』

『私も特に異論はありません、初の仕事ですので、仲間が多いのはいいですけど…もし私達が苦手な部類の依頼だったら』

『では彼らの話を聞いてから決める、そうしましょう』

『『さんせーい』』

「やりがいのある仕事ならぜひ一緒にやらせていただきましょう。しかし一応どんな仕事なのか聞かせていただけますか?」

「わかりました!」

 

男は嬉しそうな声を上げると、受付嬢に少し広めの部屋を用意させた。まるで会議室のような広さの部屋に行き、それぞれ席に着くと私達を誘った男が話し始める。

 

「さて仕事の話をする前に簡単な自己紹介を。私がこの『漆黒の剣』のリーダー"ペテル・モーク"と言います。そして左に座っているのがチームの目や耳であるレンジャーの"ルクルット"」

「よろしくぅ♪」

「そして私の右に座っているのが魔法詠唱者(マジックキャスター)であり、チームの頭脳。"ニニャ"――『術師(スペルキャスター)』」

「…よろしく。しかしペテル、その恥ずかしい二つ名やめません?」

「え? 良いじゃないですか」

「へぇ、二つ名持ちなんですか」

「こいつ"生まれながらの異能(タレント)"持ちで、天才と言われる有名な魔法詠唱者(マジックキャスター)なんだよ」

「ほぉ、タレント……」

 

『タレントって確か、捕まえた陽光聖典の奴らが言ってた情報の奴ですよね?』

『だな。たしか武技と同じくこの世界特有の能力で、二百人に一人程度の割合で生まれ持つんだったな』

『そうですね、このタレント保有者自体はこの世界では珍しくないけど能力は千差万別。手に持った物の温度が正確にわかるといった弱い物や、竜の魔法が使えるといった強大ものなど幅広いタレントの能力が確認されているって話でしたね』

「ニニャは"魔法適正"というタレントで、習熟に八年かかる魔法が、四年で済むんだっけ」

「ほーう」

「す、すごいですねニニャさん!」

「あはは……この能力を持って生まれたのは幸運でした。夢を叶える第一歩を踏み出せたのですから」

 

「まぁ、もっと有名なタレント持ちが居るがな」

「バレアレ氏であるな」

「えっと、拙達は聞いたことが無いですが何方なんでしょうか?」

「なるほど、知らないという事は皆様はこの辺りの人ではないんですね」

「えぇそうなんです、実は数日前に来たばっかでして」

「あぁ。じゃあ知らないですかね?この都市ではかなりの有名人なんですが」

「えぇ、聞いたことがありませんでした。よろしければお教えいただけますでしょうか?」

 

私達がそういうと、彼らは快く有名なタレント持ちについて話してくれた

 

「わかりました。名前は"ンフィーレア・バレアレ"、名のある薬師の孫にあたる方で、彼が持つタレントは『ありとあらゆるマジックアイテムが使用可能』という物で、様々な制限があるアイテムや異種族限定のアイテムなんかも使えることができるようですよ」

「なんと、それはすごいですね」

「その人物、危険かと…」「…わかっている。この都市に来るのは正解だったようだな」

「すごいタレント持ちなんですね」

「ええ、でもその分色々大変だったんでしょうね…」

「どういうことですか?拙には素晴らしいタレントだと思うのですが」

「よく考えてみてくださいグレイ。そんな大層な力、他国に知れ渡ってしまえば様々な者からその力を狙われるかもしれないのです」

「そのンフィーレアって方が自衛手段を持っていれば良いですが、もし魔法の才能も平凡で武器を扱う事もない一般の方だった場合、簡単に上位の者に連れ去られてしまう可能性もあるかも知れないということです」

「な、なるほど。たしかにそう考えると強いタレントというのは良い事ばかりって事はないんですね…。」

「さて、話がそれてしまいましたね。最後は彼、森司祭(ドルイド)の"ダイン"です」

「よろしくお願いする」

「よろしくお願いします。ペテルさんにルクルットさん、ニニャさんにダインさんですね。では漆黒の剣の皆様が自己紹介されたので私達も」

「私はモモン、見ての通り戦士をしております。そして私の左隣に居るのが魔法詠唱者(マジックキャスター)のナーベ」

「…よろしく」

 

「では拙も、拙の名はグレイと言います」

「私はラピュセル、信仰系魔法を得意としています」

「私はアルトリア、一応戦士職ではありますが後衛でも戦えますのでどうぞよろしく」

「はい、よろしくお願いします!」

「あれ、お三方はモモンさんと同じパーティーではないんですか?」

「私達は別なんです。モモンはナーベと二人でパーティー、私達は3人でパーティーですよ」

「なんとそうであったか!でも皆様かなり親しい仲なのであるな?」

「それは拙達は昔、皆で旅をしてた仲なんです。ね、ナーベさん」

「え、ええそうよ」今絶対付けた設定忘れてたな…。

「へぇそうだったんですね!」

「どこを旅してたんですか?」

「この大陸の反対の海を渡ってきましたので、結構離れた場所なんです」

「すげぇ遠いじゃん!わざわざこの大陸に来たのはなんでなんだ?」

「まぁ向こうでの旅が終わった後、色々ありましてね」

「へぇーなるほど色々ねぇ」

「ルクルット、あまり他人の詮索はするなよ」

「わかったよ、でも女性方に少し聞きたい!モモンさんとはどういう関係なんですか!!」

 

……ん?

 

「え、ええと、一応旅した仲間ですよ?」

「あ、ああ。それ以上ではないが」

「せ、拙もそうです」

「ミジンコが……私はモモンさー…んと共にいただけです」「ちょおま」

「最後の厳しい一言ありがとうございます!!それで皆さんはご結婚はされてるんでショッ…!!」ルクルットが言いかけるとペテルが彼の頭にゲンコツを入れる。

 

「ルクルット?私先ほど言いましたよね??」

「わ、わかったわかった…。もう聞かねぇよ…。」

「あ、あはは…」

「まったく…さて自己紹介も終わりましたし、仕事の内容についてお話しますね。」

「はい、お願いします」

「今回やるのは依頼では無いのですが、この町周辺に出没するモンスターを狩るのが目的です」

「モンスター討伐…ですか?」

「えっと依頼のモンスターを狩るとゆう事ではなくてですね、モンスターを狩るとそのモンスターの強さによって報酬がでるんです」

「なるほど…」

 

つまりユグドラシルでいうモンスターを狩って、ドロップアイテムや金銭を手に入れるのに似た物か。彼ら曰く飯の種になり、周囲の人間は危険が減るなど国的にも冒険者的にも損する事ではないらしい。昔は私達もよくモンスター狩り周回したことはあったしありがたみは何となくわかる気がする。

 

ちなみにこの制度は"黄金の王女"という王国の王女様の政策の一つのおかげらしい。私としては少しその王女様に会ってみたいと思うけど、冒険者としてランクを上げればいずれ会えるかな?

今回は王女様の制度を利用し、今回モンスター狩りによる資金稼ぎをしに行くという事らしい。向かうはこの都市を南下した所にある森周辺を探索しに行くとの事らしいが、この辺りはカルネ村があった場所だな

 

「なるほど、わかりました。共に行かせてもらいましょう」

「私達も同伴させてください」

 

そういうと漆黒の剣のメンバーは嬉しそうな表情でメンバー同士で顔を見合わせた。

 

「おっとその前に、これから共に仕事を行うのであれば一度素顔を見せておきましょう」

「そうですね、一度ヘルムを外して見せましょうか」

 

そういいモモンとアルトリアはヘルムを外す。モモンのヘルムの中の顔は、まぁまぁ年を取った男(イメージは漫画ベ〇セ〇クのガ〇ツ)になっており、モモンは幻術で素顔を偽ったようだ。

一方アルトリアの方は本来のセイバーオルタの容姿を大人にしたような姿で普段オルタ時の時にあった幼さがある容姿とは違い、大人の妖艶ともいえる顔立ちとなっている。そんな二人の素顔をみて漆黒の剣のメンバーがそれぞれリアクションする。

 

「モモンさんの黒目黒髪でその顔立ち、この辺りでは見ない顔立ちですが本当にはるばる遠方からいらしたのですね」

「ええ、そうなんですよ」

「アルトリア氏の方は金の髪に青い瞳とこの地ではよく見る顔立ちであるな」

「すごい綺麗な顔だよなぁ!もしかしたら黄金の姫君と同等、いやそれ以上かもしれないなぁ」

「ちょ、ちょっとルクルット王女様に失礼ですよ!」

 

「それにしても…アルトリアさんの顔立ちはラピュセルさんとかなり似ていますね」

「たしかになぁ、というかグレイちゃんも顔立ちにてねぇか?もしかして親戚とかか?」

「せ、拙はその…」

「いえ、私達は血の繋がりはありませんよ。偶然です」

「なんと!他人に似ている者はこの世に2~3人と言われては居るが本当なのだな!」 あ、その部分はこっちと同じなんだ・・・

「イッヒッヒ!こいつは顔立ちが似ているの気にしているんだがナァ!」

 

突然ガラの悪そうな声が私達の耳に聞こえた。だが誰もその声の主に覚えがないため漆黒の剣の面々は辺りを見回す。

 

「なんだ、誰の声だ?」

「私達の声じゃないですよ?」

「あ、アッド!?」

 

グレイはそういうと腰についていた金色の鳥籠を外し机の上に置いた。その籠の中には青や銀、金といった派手な色が目立つ四角いサイコロのような物が入っている。

だが、その四角い物はサイコロの様に面にダイス目は書かれておらず、細かい強面の顔のような装飾が施されていた。漆黒の剣が興味深々な顔でそのサイコロの様な物を見ていたら、突然正面の顔の部分が動き出し、ピョンピョンと跳ねながらしゃべりだした。

 

「イッヒッヒッヒッヒッヒ! よぉボウズ共!」

「うわ、何だこいつ!?」

「モ、モンスターですか?」

「あ、あぁ違いますニニャさん!アッドは拙の"武器"なんです」

「えぇ!!」

「これが武器…であるか!?」

「"コレ"とはなんだ!"これ"とは!」

「アッド!!」

 

グレイは鳥籠を持ち上げると鳥籠をめちゃくちゃに振り回す

 

「ナァ! アァイデデ イデデデデ!!急に振り回すな!やめ、グレイやめろォ!」

「ア、アルトリアさん。な、なんなんですかあれ?」

 

ニニャが振り回されるアッドを見て少し動揺しながらも、アルトリアに話しかける

 

「えっと…彼、アッドは一応魔法武器の一種なんですよ。名称は【魔術礼装<アッド>】と言います」

「この武器はグレイ専用の武器でして…いや見てもらった方がいいですね。グレイ、皆に伝えやすいように少しアッドの力みせてあげて」

「わ、わかりましたアルトリアさん。アッドお願い、【第一段階〈限定解除〉】。」

「チィ!さっきまで振り回していたのに、まったく人使いが荒いなぁ!」

 

アッドが不満を愚痴ると、アッドが入っていた鳥籠とアッド自身が突然バラバラと分かれ次々と集まり形を優しい光を纏いながら武器として形を形成していく。その姿は先ほどの鳥籠とキューブではなく、まるで死神が扱うような大きな鎌に似た姿に変形していた。

 

「えっと、これがアッドの武装基本形態の鎌です」

「なんだ!?さっきの四角いのがバラバラになったかと思ったらでけぇ鎌みたいになったぞ!」

「それだけじゃねぇけどな!」

 

アッドはそう言うと、鎌状態のアットが再度形を変え、片手剣のような姿に変形した。

 

「っと、これが拙が扱う武器なんです。他にも形は変わりますが…」

「なんと、先ほどの姿の鎌とは違い、また大きく形が変わっているのである!」

「これが魔法武器の力ですか!」

「すごいです、こんな幼い子がこれ程の物を扱っているなんて!」

「すげぇ!こんなもんどこで手に入れたんだよ!」

「えっと、アッドは代々拙の家系に引き継がれた家宝みたいなもんなんです」

「彼女は私達と旅する前は墓守でして、アッドを使い自然に発生したアンデッドやゴースト等を一人で対応していたんです」

「なんと、一人でですか!」

「とてつもない勇気をもった子なのであるな」

「い、いえ拙はそれしかやる事が無かったので…」

「あそこ、幽霊やゾンビがわんさかいて俺的には面白かったがな!」

 

グレイがアッドを使いこなせるのには彼女特有のパッシブスキルが関係している。

【技術多様化】というスキルでアッドを使用して戦闘するときだけ彼女が持つ職業の中であればアッドが姿を変形すると同時にグレイの職業も共に変更されるのだ。

 

分かりやすく例えるならばアッドが弓に姿を変えた時、グレイは弓を扱うクラスにチェンジし、槍なら槍術の戦士職に、と言ったようにアッドの形態にあったクラスに自在に変更される。

そのため彼女の所持クラスは多様ではあるがレベルはほとんど中途半端である、だが取得しているクラスの多さで強さ、技量をカバーしているのだ。

 

「せっかくです、私の使う武器もお教えしましょうか」

「アルトリアさんの武器、ですか?」

「そのフルプレートの鎧を着ているので、剣では無いのですか?」

「確かに私は剣も扱います、ですがそれだけでは無くこちらも使うことがありますので」

 

そういいアルトリアは腰に付けていたホルスターから一丁の拳銃を取り出し机に置く。その拳銃は以前ナザリックの自室でシズと共に調整をしてたあの銃だ。

 

「これが武器…見た事ないですね」

「これは…近接って感じじゃねぇよな?」

「ええ、とはいえ魔法の杖というには不思議な形であるな。これまた珍しい品物である」

「もしかして、先ほど自己紹介の時後衛もと言ってましたがもしかして…」

「よくわかりましたね、これは"魔導銃"と呼ばれる物です」

「"魔導銃"・・・なんとも興味を惹かれる名前です」

「なぁなぁ、一体どんな武器なんだ!?」

「それは、後ほど見せて差し上げますよ」

「本当ですか、是非見てみたいです!」

 

『その鎧の姿でガンナー職って使えましたっけ?』

『使えんぞ?』

『えっじゃあどうやって?』

『フッ、まぁそれは見てからのお楽しみだ』

「さて、私達の事も伝えましたので早速お仕事に向かわれますか」

「そうですね、では早速行きましょうか」

 

そういい各々部屋を出ようと椅子から立ち上がり、冒険者組合を出ようと足を進め受付カウンターの辺りに差し掛かった。すると先ほど私達に対応してくれた受付嬢が私達をよんだ。何かあったのだろうか?

 

「あ、モモンさん!アルトリアさん!」

「貴女は先ほど対応してくれた受付嬢の、どうなさいました?」

「そのー。モモンさんとアルトリアさんに"ご指名の依頼"が今来ています」

「「!!!」」

 

漆黒の剣のメンバーが驚きの声を上げた、私達も内心驚いている。でも誰から? 私達がこの町に来たのは数日前、特に深く交流した人は居ないと思うが…私は受付嬢に聞いてみた

 

「私達への指名って、何方からでしょうか?」

「その……"ンフィーレア・バレアレ"さんからです」

 

まさか先ほど話題に出ていたンフィーレア本人からの直々の依頼だった。でも何故私達指名? 私達はそもそもあったことすら無いのに。

すると受付嬢の後ろから一人の男性が現れた。髪は金髪で目が隠れており、服装は白いシャツににた服装をしている、彼がンフィーレアだろう。

私が彼を観察していると後ろからとてつもない殺気を感じた。ナーベがとんでもない形相でンフィーレアを睨みつけているのだ。隣に居たモモンはすぐにナーベの状態に気づき周囲には見えない速度のチョップをナーベの頭に入れた。

 

「――!! ―――??」

 

ナーベは何されたのか分からないようで涙目で頭をさすり、困惑した表情を見せている。ナーベのポンコツっぷりはみていて可愛いものだが、内心ヒヤヒヤする。

 

「無闇やたらに殺気は出すなと言ったろう…」「も、申し訳ありません…」

「えっと初めまして、僕が依頼者です」

「あなたがンフィーレアさんですか、名指しの指名はありがたいのですがつい先ほどこの方々の仕事の契約をしてしまいまして…」

「あっ…そ そうですか……」

「少し待ってくださいモモン。漆黒の剣の皆様に少し伺いたいのですが、さきほどの仕事内容は依頼者がいない"エ・ランテル近郊に現れるモンスターの討伐"という仕事でしたが、報酬の方は大丈夫でしょうか?」

「それと依頼内容によっては同時に受けることもできるのでしょうか?」

 

「あ、はい。確かにラピュセルさんの言う通り、これから行く内容は正式な依頼者が居る仕事というわけではありません。こなせなければ依頼者が報酬を払わないといった事はないです」

「それに正式な依頼では無いので、依頼の重複ということにもならないと思いますけど…」

「そうですか、ではどうしましょう…」

「あ、あの少し提案があるんですけど。その、とりあえずンフィーリアさんの依頼内容を聞き、その内容が漆黒の剣の皆様と共に行えそうな内容でしたら皆様でその依頼を受けるというのはどうでしょう?」

「なるほど、その案は私は賛成しますが漆黒の剣の皆様や依頼者の方はどうでしょう、グレイの提案はどう思います?」

「僕の方は全然問題ないですよ」

「俺は複数の仕事ってのは全然構わないぜ」

「私も特に問題は無いですよ。ダインとペテルはどう考えてます?」

「私はグレイ殿の意見に賛成である。しかも依頼主があのンフィーレア殿であるのだ、願ってもない依頼と私は思う」

 

「そうですね、では私達漆黒の剣はグレイさんの提案を受け入れたいと思います」

「わかりました、良い案でしたよグレイ」

「あ、ありがとうございます!」

「皆の意見は纏まったようですね、ではこちらでお話をお伺いしましょう」

「はい、わかりました」

 

漆黒の剣の面々の了解をえると、私達は先ほどいた部屋に戻った。皆が部屋に置かれていた椅子に腰を下ろたのを確認した青年ンフィーレアが依頼について話し始めた。

依頼の内容としては"近くの森に自生している薬草を取りに行きたいためモンスターからの護衛と薬草採集への協力"との事だった。

仕事の内容については理解したが私達ナザリックの面々には少々不安要素がある、私達は索敵系のスキルや魔法防御系スキル等をあまり取得していないのだ。

 

その為索敵に少し不安があったが、今は漆黒の剣の面々と共にいる。レンジャーのルクルットは索敵に適しており、森の探索や薬草採集となると森司祭(ドルイド)のダインが居る。

そういう利点をモモンは漆黒の剣の面々に"私達に雇われるという形で共に仕事しないか"と提案すると彼らは快く受けてくれた。

 

その他補給や報酬についての話をした後、モモンがンフィーレアに幾つか質問をした。

内容としては1つ目はなぜ私達なのか、2つ目はどこで私達を知ったのか とこの二点を聞いた。ンフィーレアは特に理由を考えるそぶりもなく質問に答えた。

どうやら、宿屋兼酒場での件を見ていた冒険者が私達の事をンフィーレアの祖母の営む店で話しているのを聞き実力を知った事。

これから冒険者登録する事もお客で来た冒険者が話しており、これから冒険者になるカッパーの実力者依頼料も安くなるからとの事。

 

なるほど、話の内容に偽りは無いように見えるから特に話は嘘という事では無さそうだが……とりあえず理由を聞いたモモンは納得したようでこれ以上質問はしなかった。

そして一通り話が済んだことを確認したンフィーレアは声を上げる。

 

「では皆さん、準備を整えて出発しましょう!」

 

 

 

 

――エ・ランテル郊外 森周辺――

私達は今現在、カルネ村に向けて馬車を走らせている。馬車の運転はンフィーレアが担当し、荷台周辺を私達が囲うような形で警戒にあたっている。

途中馬を休めたり、ルクルットの質問でナーベがアルベドの名前をポロっとだしたり、途中の道のりでこの世界独自の"第0位階魔法"についてや歴史についてニニャと話し合ったりした。

 

この世界の事を知る度にもっと興味をそそる話がボロボロと出てくる。この世界特有の生産系の魔法が多いユグドラシルには無かった"第0位階魔法"や、この世界のおとぎ話に出てきた"八欲王"なる者達、話を聞くたびに私達の頭は同じ考えをはじき出す

 

『『『それ、プレイヤーじゃね?』』』

『やっぱ同じ考えですよね⁉』

『やっぱり私達より前みたいですが同じプレイヤーがこの世界に来てたんですね』

『確信ではないが、ほぼプレイヤーだろうな』

『それにしても、欲がすごいというか。話を聞けば聞くほど強欲の塊みたいなプレイヤー達ですね』

『……なんか"ゲーム内イベントをとことん楽しんでいた時の私達"に似ているような気がしました』

 

『ゲーム内イベント……まさか八欲王はこの世界の転移に気づかず"ゲーム内の隠しイベント"だと思ってたとでもいうのか?』

『でももし八欲王のプレイヤーが"クエスト進行中にこの世界に来た"としたら…?』

『可能性は無くは無いでしょう?』

『確かに、私もクエスト中にこんな事が起こればイベントだと思ってたかもしれません』

 

『あと思ったことが一つ。話を聞くとこいつらの思考、ゲーム初期の"異業種狩り"の思考が大きく出てません?』

『まさか"異種族狩り"が流行ってた時のプレイヤーとは思えないぞ、なぜならあの時代はレベル上位者はほとんどいなかったし…』

『ですがユグドラシルはレベリング自体は簡単でしたよね…?』

『『『・・・・・。』』』

『よし一先ず保留だ』

『『異議なし』』

 

「ど、どうしましたかモモンさん方?」

「あぁい、いえ何でもありません。少し考え事をしていまして」

「にしてもその八欲王の話っていつの頃できたのでしょうね。よくある英雄譚とは全くちがうお話でしたし」

「そこまではわかりません、ですが古くても200年前には伝わってたのではと言われていますね」

「そんな昔の…」

 

私達はもし八欲王は皆死んだと聞いたが、その八欲王が創ったNPCが居るかもしれない、そのようにユグドラシルの関係者と思われる者に対しての対応をこの先考えようと思った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

エ・ランテルから出て数時間、目の前にうっそうと茂った原生林が見えてきた。今のところここまで戦闘は無く比較的平和で話しながら行動できるほど余裕のある道行であったが、森が近づくと漆黒の剣のメンバーは少し堅い表情を見せた。そるとリーダーのペテルが少し堅い声で私達に話す。

 

「モモンさん方、この辺りからちょっと危険地帯になっていきます。念のため少しだけご注意ください」

「了解しました」

「ああ、ではルクルットさん。索敵の方お願いしますね」

「おう!美しき姫君の為だ!バリバリはたらきますよぉ!!」

「もうルクルットったら…」

「アルトリア氏の素顔をみてからずっとあの調子であるな」

 

「ははは、でも大丈夫ですよ皆さん。ここから先の森は「森の賢王」と言われている強大な力を持つ魔獣のテリトリーなんです。ですのでめったな事ではモンスターは姿をみせないんですよ」

「森の賢王ですか」

 

たしかカルネ村のエンリという娘から少し聞いたことのある名前だ。森の奥を根城としており姿を見た者は少ないが、存在は昔から語り継がれており、一説では数百年生きている蛇の尾を持つ白銀の獣とか言われていたな……。

 

『会ってみたいですね森の賢王、どんなモンスターですかね』

『ひさしぶりにモモンのコレクター魂に火が付きかかってますね』

『収集家だからな、昔から』

『だってもしかしたらユグドラシルに居なかったかもしれない魔獣かもしれないんですよ。楽しみじゃないですか』

『はいはい…。』

『少し落ち着きましょう…。』

 

「皆一旦止まれ! お客さんだ…。」

 

突如、ルクルットの緊張感を多分に含んだ声が飛ぶ。その声に気づいた漆黒の剣のメンバーはすぐさまルクルットの視線を向ける方向に武器を構えた。

 

「どこだルクルット?」

「あれだよペテル。」

 

そういいペテルの質問に対してルクルットが指さす方向。その指先には深い森が広がっているが敵影は見えない。多分隠れているのか、遠目で見えたのか。

索敵が得意なルクルットが警戒しているのだ、それを疑う物はいない

 

「どうするよ?」

「無理に突っ込むわけにはいかないのであるな」

「そうですね、この森のモンスターに無理するのは得策ではないですね」

「なら、森から出てこないなら無視して先に…」

「いや、ご登場のようだぜ!」

 

そんな話をしているうちに森がざわめき、ゆっくりとモンスター達が姿を見せる。小さな子供ぐらいの身長をした生き物ゴブリンが約30程、それに取り囲まれるように巨大な生き物オーガが8体現れたのだ。

ゴブリンの方は襤褸切れで作った袋を持っている。どうやら長距離移動を考えていると思われる雰囲気だ。モンスター達は一行を見渡すと、醜悪な顔に敵意の感情を浮かべながら草原に足を踏み出し始める。

 

「…やけに数が多いな。こりゃ戦闘確定だな」

「モモンさん!」

「…はい何でしょう?」

「組合での話では半分受け持つとの事でしたが、どのように分けましょう」

「私達は正面から向かい打ちますよ」

「えっアルトリアさん大丈夫ですか!?」

「私も彼らと共に正面にいきます。馬車の守護の方は皆さまにお任せしたいと思っています」

「ラピュセル氏の自信あふれる声、これは敵は任せてもいいと思うのだな!」

 

「私も正面から行きます。ナーベとグレイ、漆黒の剣の皆様はお互い左右に分かれ横手から攻めてください」

「は、はい!」

「畏まりました、モモンさん」

「モモンさん…お任せして大丈夫でしょうか?」

「心配してくれて有難うございます。でも私達は大丈夫ですよ」

「ええ、これでも以前の旅では困難など日常茶飯事でしたしね」

「そうですね、それにオーガごときに苦労してたら、単なる大口叩きになってしまいます。オーガを容易く屠る所を皆様に見ていただきましょう♪」

 

「了解しました。とはいえ私達も敵の突進を見逃すわけにはいきません。できる限りの支援はさせてもらいますよ」

「モモンさん方は、支援魔法はいりますか?」

「私は大丈夫です」

「ええ、私も大丈夫ですよニニャさん」

「お気遣いありがとうございます。ですが私も神官系の魔法は使えます。ニニャさんは漆黒の剣の皆様を優先して助けてあげてください」

 

「は、はいわかりました!でもどうします、このまま進んでも森に近いので逃げられる可能性があるけど?」

「なら、いつもの手で行こうぜ? カメの頭を引っ張り出してな」

「わかった、敵の突撃はモモンさん達がブロックするとして、抜けてきたゴブリンの足止めはダイン!」

「了解したのである!」

「オーガの足止めは私が武技<要塞>を起動させ私が抑える!ニニャは防御魔法を私に」

「わかった!」

「ルクルットは弓でゴブリンを狩っていってくれ、オーガが抜けてきたらブロック!」

「オーケー!」

「それでは、戦闘開始します!」

「それじゃまずは俺からだ」

 

そういいルクルットが弓を引き絞る。ギリギリという音が止むと、弦が空気を切り裂く音が鳴り矢が放たれる。

矢は空中を一直線に走り抜け、草原を歩いていたゴブリン達から数メートル以上離れた所に突き立った

 

「ンン? ギッヒヒヒヒィ‼」

 

ゴブリン達は放たれた矢が大きく外れたのを見て、ルクルットをあざけり笑いながらゴブリン達は何も考えること無くルクルット目掛けて走り出した。

その後を追うようにわずかに遅れてオーガも走り出す。ルクルットの作戦に引っかかったとも気づかずに――

 

「かかったなァ!」

 

もう一度弓の弦を引き絞り、矢を放つと、一直線に戦闘のゴブリンの頭目掛けて飛んでいき見事ゴブリンの頭を射抜いた。

射抜かれたゴブリンはその場で倒れ、後ろから来た仲間の軍に潰されれ絶命する。

仲間の死など気にせず突き進むゴブリン軍団。ニニャは後ろで強化魔法を発動し仲間のサポートに入る。

 

「《鎧強化(リーン・フォース・アーマー)》!」

「ありがとうニニャ、ダイン、オーガ一体がこちらに来たぞ」

「了解した、《植物の絡みつき(トワイン・プラント)》!」

 

ダインが魔法を使うと接近してきたオーガの足元を中心に草原の植物がざわめき、鞭とかしてオーガに絡みつき動きを止めた。

漆黒の剣が奮闘しているそんな中、モモンとアルトリア、そして私の三人は中心をのんびりと散歩のような足取りで歩き始めている。

左側には左にモンスターを逃がさないようにナーベとグレイが後ろから付いていく。目の前には戦闘を走るオーガが3体、もうすぐ目の前に来るというのに、恐怖すら感じていないのか足取りを変えることなく歩みを進めている。

 

「こんな風に敵と戦う何ていつぶりでしょうね」

「全くだな、しばらく戦う事も無かったからな」

「ええ、ほんとうに久しぶりです。とくに仲間と共に戦うのはね」

「フッ」

「フフ、そうだな」

「さて、やるか」

 

そういうとモモンは両手を後ろに回し剣の柄を握り、ラピュセルはすでに持ち歩いていた槍を警戒に回し構え、アルトリアはマントの下に手を入れ鞘から剣を引き抜いた。

モモンの持つ武器が大きく、大きく、弧を描くようにゆっくりと引き抜くと、二振りの剣がその姿を見せた。

モモンが握る1mを超えているであろう二振りの大剣は、まるで芸術品ような美しさを放っているような、そんな見事な武器だった。

 

一方アルトリアが鞘から引き抜いた剣は一般的な剣の大きさだがこちらも(つば)から柄の辺りに芸術品のような美しき金と青の彫り物がなされている。

この剣は、かつてアーサー王が引き抜いたとされる聖剣の一つ<勝利すべき黄金の剣(カリバーン)>である。

 

ちなみにラピュセルが今扱っている槍は邪ンヌの時に使っていた槍と同じもの。本来旗が掲げられていた部分にあった旗は流石に外している。

デザインは槍の刃の部分が少し特殊なぐらいで特別煌びやかな装飾などはされてはいない、だが漆黒の剣の面々はこの3点の武器はとんでもない業物であると直感的に感じ取っていた。

 

モモン達が武器を構えていると、一体のオーガがモモンの目前へと詰め寄っていた。オーガは攻撃をしようと雄たけびを上げながら、手に持った棍棒を大きく振り上げる!

 

「ウォォォオオオオ!!」

「さて…フンッ!」

 

先手はオーガかと思われたとき、モモンが強く踏み込む。その動きはまるで疾風の如く、右手に握りしめられた剣が白銀の輝きを残し空間を断つかの如くオーガに向けて走った。

その白銀の一振りでオーガの胴は一刀両断、腰から上の部分が滑り落ちるように地面に付した。

 

「うっそだろ、なんだ今の!?」

「なんと!!」

「信じられない…!」

「オーガを一刀両断…貴方は一体!?」

「ふっ、まだ驚くのは早いぞ」

 

一体のオーガがやられたのに気づいた後ろのオーガは少し足を鈍らせるも、そのまま私達の方に突進してきた。

 

「やれやれです…ねッ!」

 

次はアルトリアが踏み込み切りかかる。アルトリアの速度はモモンを超えており、その速さは疾風を超えもはや光速と言えるだろう。

そのスピードに一瞬アルトリアの姿が消えると、オーガに向かって閃光が走り、オーガを腰から肩にかけて一閃。斜めにオーガを一刀両断したのだった――

 

「はっ速えぇ!!なんだ今の速度!?それに女性のアルトリアさんもモモンさんと同じ様にブッタ切っちまったぞ!!」

「アルトリア氏が一瞬消えたように見えたのである!」

「これはミスリル、いやオリハルコン以上…まさかアダマンタイト!?」

「す、すごい……次元が違う」

 

「ふっ、相変わらず早いなアルトリア」

「お前も、意外と戦士として戦えるではないか」

「いやいやハッハッハ…」

「お二人共、お話は終わってからですよ~」

 

二人の元にラピュセルが駆けつける。いつの間にかラピュセルもオーガを一方的に倒しており、首から上にあるはずの頭がなくなっていた。おそらく槍を薙ぎ払う様に振るい首を飛ばしたのだろう……。

 

「おいおい、ラピュセルさんもいつの間にかオーガの首を飛ばしてるぜ…」

「彼らは、我々の想像をはるかに超える力を有しておったのだな」

「と、じっと見てる場合じゃない、モンスター達もモモンさんと強さを感じて怯えている。今のうちに仕留めよう!」

 

「ペテルよ、こっちのオーガの拘束がそろそろ限界である!」

「拘束されたオーガの後ろからゴブリンも来たよ!」

「了解、ルクルット剣に切り替えて共に対処してくれ!」

「オーケー! 俺達もアルトリアさん達に良いとこ見せてやろうぜ!」

「「「了解!」」」

 

漆黒の剣のメンバーの連携は素晴らしくいい動きだ。各々の技術や不得手などを互いに理解しているからこそできる適格な判断だ。彼らを見ていると昔のナザリックを思い出す……。

 

「いいパーティーだな、互いに連携が取れている」

「ああ、彼らならある程度実力が付けばもっと強力なモンスターにも挑めるかもな」

「二人共、彼らを眺めるのはいいですが、まだオーガ残ってますよ」

「そういえば、アルトリア?銃は使うんですか?」

「ああ、少し見せるって話したからな。少し待て」

 

そういうとアルトリアの周囲に光りと風が吹き荒れ纏い、鎧が姿を変えた。その姿は先ほどの竜をモチーフとした純白のフルプレートとは大きく変わり、青いドレスに白銀の甲冑を纏ったような姿に変わっている。

 

先程までの鎧は戦士職専用、今着替えた鎧はガンナー職対応の鎧装備である。彼女が着ている「早着替えのローブ」の効果によって、あらかじめセットしていた装備セットと入れ替わったのだ。

 

「これで使える」

 

そういいアルトリアはオーガに向かい銃のホルスターに手をかけ拳銃を引き抜き、剣を持つ手の反対に手に装備した。そんな中、残ったオーガが私達に恐怖したのか私達に背を向け森に逃げようとしていた。

 

「逃げる気か」

「させませんよ。グレイ、ナーベ出番です!」

「はっ、《雷撃(ライトニング)》」

「はい! 行くよアッド!」

「おうさ、この距離はこいつだなぁ!」

「撃ち抜け―」

 

アルトリアは抜いた銃をオーガに向け発砲する、逃げるオーガの一体に直撃。心臓部分に大きな風穴を開けオーガが崩れる。

ナーベはアルトリアの弾の着弾を確認し、その奥の3体のオーガの位置を確認すると、貫通力のある《雷撃(ライトニング)》を発動し、二体のオーガの胴を雷が貫く。だが先頭を走っていたオーガは位置がずれており《雷撃(ライトニング)》は命中しなかった。

 

「ちっ、ズレた…グレイ残りは任せましたよ」

「りょ、了解ですナーベさん!」

 

変形を終えたアッドを掴んだグレイがさかさず走り込み、先頭のオーガに近づく。そして、勢いよく振りかぶって、ブーメラン型に変形したアッドを投げつけた。

アッドが回転しながらオーガに直撃し脇腹を抉る。だが致命的なケガとはならず、抉れた傷を手でふさぎ、よろけながらもオーガは逃げようとする。

だがブーメランは投げると戻ってくる物、前方からオーガを追い抜いたアッドが戻り、胴に深々と突き刺さり地響きと共に倒れた。

 

「ギギィ、オーガヤラレタ!」

「ニゲロ! ニゲロ!」

「あ、ゴブリンが逃げるぞ!」

「逃がすか!」

 

オーガが全滅したのに気づいたゴブリン達が逃げようとしたがすでに遅く、漆黒の剣とモモン達に挟まれるような形になりゴブリンは逃げ場を失っていた。その後は一体ずつ確実にゴブリンを仕留め、オーガとゴブリン軍団はあっという間に壊滅した。

 

一通り戦闘が終わったのを確認すると、それぞれ仲間を回復させたり、モンスターの部位の剥ぎ取りなど行動に移る。

ラピュセルは最後の追い込みで負傷した漆黒の剣のメンバーをダインと共に回復魔法で治療していた。

 

「「《軽傷治癒(ライト・ヒーリング)》…」」

「まったく、二人共。最後の追い込みで無茶しすぎである」

「フフ。最後少し急ぎ過ぎましたねお二人共♪」

「イテテ……面目ない」

「イツツ…ちょっと無茶したなハハ」

「さて、治療は終わりましたよお二人共」

「ありがとうございますラピュセルさん」

「いやぁ、こんな美人に治してもらえるとは…できれば恋の病モ゛ッ‼(ゴンッ)」

「お前は…組合で少しは懲りたかと思ったら!」

「っ―――‼せっかく直してもらったのにゲンコツするかよったくぅ!!」

「アハハハ、本当に仲が良いのですね皆様。おっとアルトリアの方も見てきますので一旦これで」

「了解したのである、治療の協力感謝する」

「いいんですよお礼は、では」

 

一方ニニャは討伐したモンスターに寄り、耳などモンスターの一部を切り落としている。

 

「モモン、アルトリア。ニニャさんは何をしているのですか?」

「これですか? こうやって倒したモンスターの一部を組合にだしますと報酬がもらえるんだそうですよ」

「なるほど、ギルドに見てもらって換金という事ですか、となると多くのパーツを持っていかないとですね」

「そうだな、ニニャさん。私達も剥ぎ取り手伝いますよ」

「えっ本当ですか、ありがとうございます!」

「では、どの部分をはぎ取りましょうか?」

「そうですね……オーガは耳を切るとして、ゴブリンの方は――」

 

ニニャの指示を聞きながら私達は初仕事完遂の為、ゴブリンのパーツを切り取り始める。その光景を遠間から見ているペテル達と近くにいたンフィーレアが私達について話し出す。

 

「なぁペテル、あの人達だけどよ…」

「ああ。俺達より断然上。もしかしたら王国戦士長クラスに感じたよ」

「だよなぁ!あれが新しい冒険者、到底そうは思えない戦い方に見えたぜ…」

「ナーベ氏も、モモン氏が仰っていた通りの実力。第三位階の魔法を使いこなしていたのである!」

 

「ふっ当然です…!」

「ナ、ナーベさん…」

「モモンさん達の実力もそうだが、あの剣だよなぁ」

「あの大きな剣を二本、しかも片手で扱いオーガを真っ二つにするなんて…」

「アルトリアさんの剣も、モモンさんのと似たような一品だろうぜ」

「それにアルトリア氏の魔導銃という武器、とても強力な一撃を放っていたのである」

「ありがとうございます」

 

「あ、アルトリアさんモモンさん。剥ぎ取りの方は終わったのですか?」

「ええ、回収できる物は全て回収しましたよ」

「ありがとうございます」

「皆さーん、大分日も暮れてきました。今回はこの辺りで休みましょう」

「「「はい」」」

 

ンフィーレアが言う通り辺りはどんどん暗くなってきた。私達は森とは反対側の草原に焚火とテントを立て野宿することにした。

 

 

――野宿 ラピュセル(邪ンヌ)視点――

 

 

その夜、皆で夕食をいただきながら火を囲み談笑する。あいにくモモンはアンデッドの姿なので食事ができない。其の為モモンは宗教的な理由で食べられないという事にしようとしていた

 

「あれ、モモンさんは頂かないんですか?」

「えっと…すいません。宗教的な理由がありまして"命を奪った後、4人以上で食卓は囲んではいけない"というのがありまして」

「ほぉ、モモン氏は変わった教えを信じておられるのだな。しかし何故4人なのである?」

「え、えっと…それは……」

 

「"4(よん)"という数字は"4(し)"とも言いますよね?其の為、"命を奪った後に死を連想させる4人での食事は控える"ということだそうですよ」

「まぁ私達はその宗教には入ってないからこうして食事を楽しんでいますがね」

「なるほど、そういう意味が込められているとは…!」

「え、ええ…アハハ」

 

『設定考える時は、もっと練ってからにしましょうね♪』

『は、はい…』

『設定付けには変に厳しい時があるよなお前…』

 

「あそうだ、皆様に聞きたい事があるんですが。皆さんのチーム名、何故「漆黒の剣」なのですか?」

「ああそれ、それはニニャがー」「やめてください!若気の至りですぅ…///」

「恥じることは無いのである」

「勘弁してくださいよ本当にぃ…」

「アハハ…えっと"漆黒の剣"というのは昔存在していた"十三英雄"の一人が持つ剣が由来なんです」

 

「「"十三英雄"?」」

 

ラピュセルとアルトリアが口をそろえて言う。"十三英雄"、初めて聞く名称だ。

 

「な、なんですか?その"十三英雄"って?」

「ああ、遠方から来たラピュセルさん達は知らないんですね」

「えっと漆黒の剣とはその"十三英雄"の一人、「黒騎士」という人が持ってたとされる4本の剣のことです」

「そ、そうなんですね!」

「ま、それを第一に発見するのが俺たちの目標ってわけさ」

「本物が手に入るまでの間は、この黒塗りの短剣が私達の証なんです」

「へぇ、良い目標ですね」

 

「冒険者の方々って普段こんなに仲が良いのが普通なんですか?」

「ええ、互いに背中を預ける仲間ですからね」

「それに、うちのチームは男だけだからなぁ。あ、女がいるとよく揉めたりするって聞くぜ」

「あはは…それにチームとしての目標もシッカリした物がありますからね」

「皆の意志が一つに向いていると全然違いますからね」

「そうですね…」

「ああ…」

「モモンさん達もチームを?」

 

「……冒険者では無かったではありませんでしたがね。私がアルトリアさんと出会う前、弱くて一人だった私の命を救ってくれたのは純白の聖騎士でした。彼に案内されて初めて仲間と呼べる人達ができたんです……素晴らしい仲間達でした、そして最高の友人達でした」

「"でした"ではないでしょうモモン、私達は今でも最高の友人です」

「…そうでしたね、すいませんラピュセルさん」

「いつの日か、そんな人達に匹敵する仲間達ができますよ」

「そんな日が……くればいいですね」

 

モモンがつぶやいたその一言はとても悲し気だった。

 

「モモンさん…?」

「すいません…ナーベ、私はあちらで食べる」

「では、ご一緒させていただきます」

「…そうですか」

 

そういいモモンは彼らから離れた位置に離れた。その歩く後ろ姿には大きな悲しみがヒシヒシと伝わっくるようだった。

 

「…悪いことをいったようですね」

「気にしないでくださいニニャさん。彼がいつもあんな感じなんです」

「何か…あったのであろうな」

「ええ、少し私達の事についてもお話ししましょうか…私達はかつて長き旅をしていました。モモンや私達を含めた43人で」

「その旅は苦難や仲間との衝突も多くありましたしたが最後は皆笑い合う、そんな旅仲間でした」

 

「でもそんな旅も長くは続きません、故郷の異変で離れた者や、病で倒れた者。そして亡くなった者……」

「様々な理由で仲間は少しずつ減り…最終的に私達3人だけになってしまいました」

「…そんな」

「なんと…」

「モモンはその後、ナーベと出会い共に旅を続けていたそうですが、彼が旅を続けたのは"心の穴を埋める「なにか」"を探していたのかもしれませんね」

 

「そんなことが……」

「そんな経験があったんじゃあな……難しい話だ」

「…発した言葉は元には戻らないのである。ゆえにその言葉を塗り替えるだけの何かを、かの御仁に抱かせるしかないのである」

「……そうします」

 

この場の空気が重く悲しいように感じた。このままの空気ではまずい、そう思い何か話題を変えようとした時ンフィーレアが気を利かせてくれたのか話題を変えてくれた。

 

「…それにしても、今日のモモンさん達の戦闘すごかったですね」

「ええ、あれほど強いとは思いませんでした」

「そ、そうですか?」

「ありがとうございます」

「ちなみに、オーガを両断というのはどれほど卓越した技なのでしょうか」

「あ、それは気になりますね」

「皆さんから見て私達はどれほどでしょうか?」

 

「そうですね、はっきりいってアルトリアさんのチームとモモンさんのチーム。どちらも王国戦士長クラスだと思います」

「えっそれって!"アダマンタイト級"、つまりは最高位の冒険者に匹敵するという事ですか」

「そうです!」

 

他メンバーもうんうんとペテルに頷く、最高峰クラス…今まであった人間の中では一番強いと感じたガゼフがアダマンタイトクラスとは。まぁ異種族でレベル100の私達がレベル2~30程の人間より実力がないとあっちゃあ面目が立たないし当然だろうな

 

「すごいんですね…」

「モモンさんアルトリアさんに初めてお会いした時、着用している見事なフルプレートをみて嫉妬しました…」

「でも、相応しい実力を見せられれば納得するしか無いですね…」

「モモン氏のあの外見、ペテルより時長く鍛えているのである」

「モモンさんのヘルムの下を見たんですか!?」

「ええ、この辺りの人種ではありませんね」

「何処の国の人とか言ってましたか⁉」

「そこまでは言ってなかったですが…?」

「どうなさいました、ンフィーレアさん?」

 

妙にモモンの事について知ろうとしている気がした。なにか気になる事でもあるのか、それともカッパーの冒険者だから詳しく知りたいだけなのか、はたまた……ンフィーレアにどうしたのか聞くが本人は「何でもないです」というだけ。あまり深く聞くのは依頼者の彼に失礼か…

その後、私達はンフィーレアの行動に少し疑問を持ちつつも皆と交友をかわし、各々恋バナや冒険譚などを少し話し合いながらその日の夜を明かした。

 




おまけ

ア「ところでお前、さっきの過去設定、勝手に数人殺したな?」

ジ「べーつに良いじゃないですかぁ!「引退」はゲームキャラ的な死亡っぽいですし~。それにー、そのほーが今のモモンの雰囲気的に合ってるから良いんです~!」

ア「この場にいないからって、好き放題だなお前……」


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第5話

ようやく仕事が一息ついたのでお久しぶりの投稿です……が、久しぶりの為今回リハの為少し短めとなってます

次回辺りから元に戻していきたいなぁ……




一夜が明け、私達はカルネ村に向けて準備をしている

その最中、ニニャはモモンの元に向かい謝りにいった。モモンも前回の件は反省しており、謝罪の後色々な話を聞かせてもらえないかとニニャに優しい声色で話す。その優しい声で、モモンの気持ちが伝わりニニャが笑顔で返事する。その光景をみた私達は微笑ましく思った。

出発の準備が終わると、私達は再度カルネ村へと歩を進めた。道中は昨日の様なモンスターの襲撃はなく平和に進んでいるがそんな時ほど気を許してはいけない、漆黒の剣の皆さんは少しリラックスした雰囲気だが、モモン達は警戒を強めながら進む。少しの気のゆるみで罠にかかったりなどユグドラシルでは日常茶飯事だったからな

 

「皆さーん、そろそろカルネ村に到着しますよ!」

遠くに現れたのは木で出来た壁に囲まれた村。以前私達が救ったカルネ村だ。

 

「あれ、あんな壁あったっけな?」

『モモンさん アルトリアさん。あんな壁以前ありましたか?』

『いや無かったはずだ、この前の襲撃があった後に立てたのだろう。数日でここまでの物ができたのは少し驚きだ』

私達はカルネ村の目の前にたどり着いた。すると門の中からゴブリンが数体やってきた。以前襲ってきたゴブリン達とは違いガタイも良く、武器も鉄製の剣などを装備している。これはゴブリンの上位種であるホブゴブリンだろう、私達はすぐさま武器を構え警戒する、だがさらに増援。周囲の茂みから突然ゴブリン達が私達を囲う様に弓を構え現れたのだ

 

『少々面倒くさいな、私達ならこの程度すぐ打破できるが』

『今は漆黒の剣の皆さんやンフィーレアさんがいます。下手に動くと依頼が……』

『さて、どうしましょう…』

「ゴブリンさんどうかしましたか?」

「ああ! エンリの姉さん!」

「…!エンリ!」

「えっ ン、ンフィーレア!」

どうやらエンリいう少女とンフィーレアは知り合いらしく、その後ゴブリン達に私達の事を説明しゴブリン達は謝罪、武器を下した。あの少女は確か私達がこの地に来てすぐに出会い助けた少女だったな

 

『あのゴブリン、やっぱ《ゴブリン将軍の角笛》でよばれた奴でしたか』

『ああ、それに彼女が以前言っていた人物が彼だったとはな』

『え、彼女ンフィーレアの事言ってました?』

『名前は出てないが、魔法について知っているか聞いた時「村に来る薬師の一人が魔法を使える」と言ってただろう』

『ああ!その"魔法を使える薬師"が彼だったのか!』

私達はエンリとンフィーレアの方を見る。二人は久々の再開で嬉しそうに話し合っている。ンフィーレアは緊張しているようで、少し顔を赤くしながら話している。ラピュセルはその二人を見るとニヤニヤとした顔をし始める

 

『あらあら、これはいい物が見れました♪』

『『ん?』』

『何でもないです♪』

鈍感な二人は彼女達のやり取りを見て"彼の心情"に気づいてない。ラピュセルは鈍感だなと二人を見ながらメッセージを切った。

一通り再開を喜んだ後村へと入り少し休憩がてら各自散開し、私達は以前の襲撃者によって出てしまった犠牲者が弔われている丘に向かい村の全容が一望できる場所へと足を運んでいた。

 

「この村もだいぶ変わりましたね」

「そうだな、あの出来事が村全体の意識を大きく変えたんだろう。ゴブリン達の指導の元弓や剣の使い方や訓練を行っている今ならこの前のような惨劇はもう起こらないだろう」

「これもオルタさんが考えた作戦の一つですか?」

「まさか、この村を救ったのは偶然だ。だが、その偶然のおかげが良い方向に進むと思うがな」

「お二人共、いつもの呼び方と口癖になってますよ」

「おっと…」

 

「それに、これ程の死者が出たのによく心を保ったものだ。彼らは強い」

「左様でしょうか?私には只の雑魚にしか見えませんが」

「……ナーベよ、生きる物の強さは力や頭脳だけで測れるものではない。心・感情の強さも大きく戦況を変えることもあるのだ、覚えておくと言い」

「……畏まりました」

「私的にもよかったです。亡くなった方達は怨念を抱くことなく村の人達を見守っているようで」

「そうか……グレイは墓守、死者の魂や霊体を認知することに長けているのだったな」

「はい、今もこの人達はこの場所で村の人達を大切に思っています。皆穏やかな表情です」

「そうか……それはよかった」

 

私達が助けたこのカルネ村、これからナザリックの強化や実験においても大きな役割を担う事になるだろう。偶然とはいえこの村を助けたかいがあったものだ。だが世界征服までの流れが少し狂ってしまったな。あとでもう少し調整を加えなければ……

そんな事を考えていたらこちらにンフィーレアがやってきた。どうやらエンリと話している時私達の話を聞き、アルベドの名前が出たことで私達がアインズ一行だと気づいてしまったようだ、私達は少し動揺したが彼は私達に感謝の言葉を私達に言いに来ただけだった。

あとカルネ村を救った人達に隠し事をするのは失礼と思ったのか今回の依頼が何故私達指名だったのかも正直に話してくれた。どうやら宿屋の一件で渡したあのポーション、あれはこの世界では作れない赤い劣化しないポーションらしくその作り方を研究の為知りたかっただけらしい。

知識をしっても悪用することは考えていなかったらしいから普通に研究の為に考えた結果なのだろう、これはもう一人面白い人材を入手できそうだ。

彼は作り方を教えてほしいと迫ってくるが、まずこの世界にユグドラシルポーションの材料があるかわからない為それは断った。でも完全に隠すよりかはヒントを与えてもいいかと思い、少し簡単なヒントを教えいずれ私達に見せてほしいと提案した。これで"この世界でユグドラシルポーションを再現できるのか"という調査が進めることができるというわけだ。

その後彼に私達の事については一切口外しない事を約束させた。さすがにこんな初めに私達の名が知れ渡るのはリスクが大きいから仕方ない

 

 



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第6話

これにて森の賢王回は終わります!

多分原作よりハムスケ強く表現したかもしれない……?


私達は森に入った後漆黒の剣とニニャに「探知系魔法のセットに行く」と伝え一旦別れる事にした。

分かれた理由は一つ、森の賢王と合い我々の武勲を増やそうと考えたのだ、其の為事前に猛獣使いであるアウラをこの森に呼んでいたため今合流しようとしていたのだ。

 

「お待ちしておりました、アインズ様!」

「ア、アウラ様?」

「どうしてこちらに?」

「あれ?ナーベラルもグレイもアインズ様から聞いてない?」

「あ、ごめん言ってなかったわね」

 

かくかくしかじか

 

「なるほど、森の賢王をですか」

「そそ、今から私が呼んでくるからそれをアインズ様方が対応するの」

「アウラよ、"森の賢王"なる魔獣の目星は付いているか?」

「大丈夫ですオルタ様、特徴的にあの子かな……早速仕事に掛かります」

「頼んだぞ」

「はい!」

 

アウラは颯爽と森の樹々の枝を飛び越えこの場を去って行った。

私達もあまり長く彼らと離れていては変な疑いを掛けられる可能性もある為すぐさま漆黒の剣のメンバーの元に戻り警護を任務を再開した。

 

「あ、モモンさん」

「お待たせしました、行きましょう」

「はい!」

 

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後数分間、ンフィーレアの周辺警護を行う。ンフィーレアは軽い足取りで薬草が自生している場所に赴き、慣れた手つきで自身の背に背負っている籠の中に積んだ薬草を入れていく。オルタはこの世界の薬草などの知識を知る為にンフィーレアに薬草の事や効能の事について聞く。

 

「――成程、その紫の花が咲いている薬草がポーションの劣化を伸ばしているのか」

「はい、それとこの花の近くに自生している青い花びらが特徴のこの薬草を一緒に混ぜて回復効果を高め、劣化を伸ばした物が家で販売しているポーションになるんですよ」

「成程……」

『この知識は今後のポーション確保、量産で使えそうだな』

『オルタさん、ポーションの製造方法とか薬草の効果などを知るのは良いと思いますけどポーションそんな使う事ありますかね?』

『いや、ポーションに関しては世界征服の前段階……"国を作った後"の事で使えると考えただけだ』

『……"国作り"?』

『ほら、行くぞアインズ。彼らは先に進むようだ』

『えちょっとまって、国作る???どうゆう事ですか』

『……どういう事も何も、世界征服するのに国作らないハズ無いだろう?』

『……あっ』

 

世界征服に必要な事について全く知らなかったアインズは放っておいて、オルタはンフィーレアの薬草採取を手伝いつつ情報を集めていた時、突如森の奥から突如大きな轟音が響き渡り森が大きく揺れ始める。おそらくマーレが呼んだ森の賢王がこちらに向かっているのだろう。漆黒の剣のメンバーもそれに気づき周囲を警戒する

 

「これは……でけぇのがやってくるぞ!」

「ンフィーレアさん達はこの場を離れてください、私達で対処します」

「だ、大丈夫ですか!?」

「容易く追い返して見せましょう」

「モモンさん方、森の賢王はこの森の魔物達を抑えている存在でもあります。なので……できれば殺さないようにお願いします」

「わかりました、早く森の外へ」

「はい!」

 

モモンがそういうとンフィーレア達は少し安心した不安げな表情をしながらも、森の外へと走り出した。

 

「……とは言ったが、見届け人が居なければ森の賢王かどうかわからないな」

「そうですねー、どうしますモモン?」

「……殺さなければいい訳ですし、尻尾か足の一本ぐらいは切り落としましょうか」

「じゃあ対処は私が受け持とう、元から戦士職で物理防御はお前より高いからな」

「お願いします」

 

私達が作戦会議をしていると前方から大量の土煙がこちらに向かってくるのが見えて来た。あの感じからするとかなり大型、馬は狼とは明らかに違う種の魔獣だろう。

すると早速土煙から緑色の何かがものすごいスピードでこちらに飛んできた。アルトリアはその攻撃を片手剣で受け止める、すると――

 

「――ほぉ」

 

魔獣の一撃に体が後ろへとずり下がったのだ。

100レベルのアルトリアの体が後ろに下がる程の力なのか、ノックバックの効果をもったスキルか武技の可能性もある。

 

「面白い、私が後ろに動かされるとは――」

「へぇ、この魔獣……面白そうね」

「ノックバック持ちでしょうか……」

『――それがしの初撃を完全に防ぐとは見事で()()()》』

「「「……ござる?」」」

『さて……それがしの縄張りの侵入者よ、今この場から逃走するのであれば先の見事な防御に免じそれがしは追わないでござるが、どうするでござるか』

「フッ愚問だな、それより姿を見せないのは自身が無いのか、それとも照れ屋だからか?」

『ほぉ言うではござらんか……ではそれがしの威容に瞠目し畏怖するがいい!』

 

そう言い放った謎の声の主は私達の前からゆっくりと姿を現した。

周囲の樹々ほどある巨躯とその胸囲に浮かぶ魔法陣、前足に生えている鋭い爪、硬質な緑鱗(りょくりん)に覆われたしなやかな鞭のような尻尾……そして鋭く光る獣の眼光……

 

その恐ろしい姿の正体は――

 

ハムスターだった――

 

「少し聞きたい、お前の種族名はー「ジャンガリアン・ハムスター」とか言わないか?」

「なんと、それがしの種族を知っているのでござるか!?」

「あ、ああ。というかお前より小さい普通のハムスター飼っていたな」

「なんと、同族が居れば教えてほしいでござる!」

「それは……サイズ的に無理だな」

「そうでござるか、仕方ないでござる……」

「なんかすまんな……」

 

まさかのハムスターで場の空気が滅茶苦茶になってしまった、モモンはフルフェイスで表情が分からないがおそらく唖然としており、ラピュセルはその姿をみて腹を抱えて爆笑、ナーベは無表情でグレイは何故か少し嬉しそうな顔をしていた。

 

「おっと、それよりも……無駄な話は止して、命の奪い合いをするでござる!」

 

魔獣はさっきまでののほほんとした雰囲気を一蹴し、戦闘態勢を取る。

 

「なら正々堂々、一騎討ちと行こうじゃないか」

「なら、それがしから行くでござる!」

 

魔獣はその巨躯には見合わないスピードで突進、その一撃を聖剣で受け止める。だがやはりその一撃はアルトリアの体を少し後ろにのけ反らせた。

アルトリアはすぐさま魔獣の体を弾き体勢を整え斬り掛かる、が魔獣はその強固な爪で受け流し反撃。本気を出していないとはいえ聖剣の一撃をあっさりと流され反撃されたのはこの世界にきて初めての経験だ。

 

「(この魔獣……見た目はともかく能力は良いモノだな)」

「素晴らしい動きでござるな!」

 

魔獣は攻撃を防がれると周囲を走り回り、自身の体から低位の精神系魔法を放ちはじめた。

私達はパッシブスキルやアイテムで得たスキルでがっちり守っているため全く効果が無いが、漆黒の剣のメンバーがあの魔獣と戦っていたらほぼ勝ち目は無かっただろう。

 

「魔法も使えるのか、だが低位の魔法は私達には効かないぞ」

「ならば!」

 

魔獣は高く跳躍、自身の体を拘束で回転させ頭上から落下してくる。アルトリアは聖剣で受け止めるが意外と思い一撃に空いていた片手で剣を抑え一撃を受け止める。ガリガリと硬質なモノがぶつかりあう音が森一体に響き渡る

 

「堅い毛皮だな!」

 

アルトリアは本気で片足を切り落とそうと、魔獣を弾き飛ばし急接近。その勢いのまま斬り掛かるが瞬時に見抜かれ魔獣は後ろにバックステップ、聖剣の斬撃は深くは命中しなかったが軽い傷を負わせた。

魔獣はバックステップしながら自身の尾を勢い良く動かし殴り掛かる。魔獣の尾の一撃が来ることを瞬時に理解したアルトリアはすぐさま二撃目を振るい尾を弾こうとする。

だが、魔獣の尾は弾き飛ばされる寸前に向きを急激に変えアルトリアの背中に回りこんだ。アルトリアはバク転で後ろからの攻撃を回避しそのままの体勢で剣を振り下ろす。

尾はまたもや勢いを殺すことなく向きを変え剣に向かい飛んで行きぶつかり合う。大きな金属音と火花が散り二人は距離をとった。

 

「はは、この世界でこれ程楽しめたのは久しぶりだ」

「それがしも、これ程の強敵と相対した事は初めてでござる!」

「本気じゃないとはいえ適格にアルトリアの攻撃を弾く敵とか久々に見たわ」

「……本当に魔獣なんだな、あの姿で」

「だが、私達にも時間がないんだ。すぐに終わらせるぞ」

「お主、一体何を――」

 

突如オルタが剣を魔獣の顔に向ける、すると――

 

「スキル【黒龍の覇気】――」

「――……レベル1」

「……?ヒッ、ひゃああぁぁぁぁぁ……こ、降参するでござる、それがしの負けでござるぅぅぅぅ……」

 

スキル【黒龍の覇気】とは竜種・竜人種の最上位種族である竜王種の入手時に一緒に手に入るスキル。効果は相手に恐怖等のデバフを与えるアンデット系種で覚えるスキル「絶望のオーラ」のドラゴン版である。

 

「ふふ、中々楽しめたぞ」

「私個人としては、なんか拍子抜けな感じはしますけどね……」

「そう言うなモモン。この魔獣、ユグドラシル時代の使役獣でのジャンガリアン・ハムスターとは全然違ったぞ」

「このままこの魔獣を連れていくのは個人的に良いと思う」

「えっ!?本気ですか!?」

 

本来ジャンガリアン・ハムスターという魔獣は女性人気で何匹か相手した事あったが、これ程の戦士技能を持ち魔法すら扱う個体は見た事が無かった。おそらくこの世界で独自進化したジャンガリアン・ハムスターの上位種の可能性が出て来たのだ。

 

「個人的にはナザリックに連れて行ってみたいな」

「えっええ……」

「まあ、それは今は良いとして……こいつの事は頼むぞモモン」

「はぁ……えっ私ですか!?」

「そりゃそうだろう、ラピュセル・グレイ・私で3人パーティーだがお前達は二人組だろう?数的にもちょうどいいしな(?)」

「いやいやいや……!ラピュセルさんやナーベ達はどう思う」

 

「私としては良いと思いますよ、ギャップとかも……プフッククク……♪」

「ラピュセルさん笑ってるじゃないですか!?」

「私は御方々の意見に従います。この魔獣、強さはともかく力強い目をしていると思います」

「わ、私もモモンさんと一緒で良いと思います…!」

「ば、馬鹿なっ……!」

 

まさかの満場一致で賛成だった事に驚きを隠せないまま私達は森の出口にむかい漆黒の剣のメンバー達と合流をした。

そしてそのメンバー達に魔獣の事を伝えるとアルトリア達と同じようなリアクションを取る光景を見たモモンはしばらく考える事をやめたのだった。



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第7話

遅くなってしまい、本当に申し訳ない。

仕事が忙しくなる時期が不規則な職種な為書きたくても書けなかったりするので困ります……。
今年(2021年)の投稿はこれが最後になると思いますが、これからも不定期更新となるかも知れませんが応援してもらえると嬉しいです!

それでは、良いお年を。来年も「オーバーロード ~堕ちし聖女よ黒き騎士~」をよろしくお願いします! <(_ _)>


――アルトリア(オルタ視点)――

 

 なんやかんやとあったが依頼の方は(当たり前だが)上手くいき、カルネ村の人々に見送られて帰路に着いた。

帰りはかなり暗くなり敵も出てくるかと思っていたが特に追加で敵に合う事すらなく無事にエ・ランテルまで着いてしまった。なんか少し物足りない……。

 

「(これならアウラに頼んで追加で森の狼やゴブリン共をこちらにおびき出してもらうべきだったかもな……)」

「(まぁゴブリンの討伐価値を早く知ることでこれからの狩り対象を決めるのも手か)」

 

現地に到着するやいなや周囲の視線がこちらに向かって降り注ぐ、まぁ私達というより"ハムスター(魔獣)とその背に乗ったモモン"にだが……

現地人にとってはこのモンスターですら脅威なのでそんな魔獣を従えてる騎士というのはかなり注目を集めるのは当然なんだろうが、異世界人から見ればその光景の第一印象は"遊園地でどうぶつアトラクションに乗ったおっさん"にしか見えないのだ。まぁ私と邪ンヌは女だからどうぶつ系アトラクションには抵抗ないがモモンはリアルで男、正直噴き出す所だった。

ちなみに名前は「ハムスケ」になったらしい、なんとも安直な……

 

『プックククク……』

『ラピュセルさん笑わないでください‼‼』

『いやっ……笑うなって言う方が無理ですよそれwwwwwww』

『///~~~~~~!!!……ハァ』

 

視線を浴びてる中、我々は別れることになった。

モモンは魔獣の登録をする為にギルドに行かなければならないのだ、この魔獣現地では見た事無い種族との事なのでギルドにて魔獣の登録と使役に関しての登録もしなければならないのだ。

私は彼らと離れている時にこっそり狩っていたゴブリンや狼などのモンスター達をギルドに私報酬を受け取りに、漆黒の剣とンフィーレアは積み荷を運ぶ為店に向かった。

 

「アルトリアさん、お帰りなさい!初の仕事はどうでした?」

「なかなか良かったぞ」

「そうですか?それで、こちらにいらしたのは依頼の完了報告ですか?」

「いや、報告ではないんだ。道中にゴブリンとオーガの群れと合ってな?狩ってその装備や一部を持ってきた。鑑定し見合った金額が出ると聞いたので先に確認しておこうと思ったんだ」

「なるほど、そうでしたか!では一部と備品を見せてもらえますか?」

「ああ、これだ」

 

そういいラピュセルに持たせていた武具や耳や牙などのパーツを入れた4つ程の大きな袋を受付横に置く、その袋を受付嬢が確認すると先程とは表情が違い顔に焦りが見えはじめた。

 

「こ、この装備の数々と部位の数……これ、パーツ一つで一匹なんですよね?」

「ああ、同じ依頼を受けた冒険者から教えてもらいながら剝ぎ取ったぞ。それがどうかしたか?」

「い、いや……数が異常なんです。23、24、25……ゴブリンだけで30体以上、オーガに関しては8体分の牙と武器……!」

「そ、そんな驚く事なのか?」

「い、異常すぎますよ!これ……ちょっとギルド長と共に精査しないといけないかもしれません!」

「そ、そーなんですね……」

 

受付嬢は持っていた羊皮紙に武具の詳細や部位の数や状態等を記入していく。

その後受付嬢に聞いた話だとどうやら30ものゴブリンが集団で行動していたというのは一部族が総出で移動していたという事らしい。

流石にこの量を今日さばくのは難しいので明日、精査した後に報奨とプレートのランクアップについての会議を開くことになった

そんな話の時、別室に連れられ話していたモモンの方でも悲鳴が上がった。だがその悲鳴は恐怖によるものと言うよりかは驚愕による悲鳴に聞こえる

 

「あっちの魔獣登録も忙しそうだな……(笑)」

「あ、あはは……いきなり新人の冒険者があの森の賢王を退け服従させた。そしてその魔獣が新種とあればそうなりますよ」

「すまないな、受付嬢」

「ア、アハハ……」

 

そんなこんなで冒険者としての初依頼は無事終わり、後は彼らと合流し完璧に依頼を終わらせるだけだ。

そう、()()()()()()()()()()……。

モモンの方の魔獣登録が速く終わり、先にンフィーレアの店に向かっていった。私達の方もギルド長がやってきてゴブリン部族との戦闘が起こった場所やその時の状況、ゴブリン達の雰囲気等色々聞かれた後無事手続きが終わった。

報酬は明日払われると話がつき私達も急いでンフィーレアの店に向かおうとしたその時だった――

 

『オルタ様、邪ンヌ様……ンフィーレアの店が襲撃に遭いました』

 

ナーベから突如伝えられた報告、その報告で一瞬思考が停止した。

ンフィーレアが襲撃?何があった?どうしてそうなった……いや、今はそんな事を考えている暇は無い。

私達は急ぎギルドを後にする

 

「ア、アルトリアさん⁉どうしましたか⁉」

「緊急の要件が出来た!失礼する!」

 

私達3人は急ぎンフィーレアの店が存在する地区へ駆け出す。超高速で駆けだしている私達に驚きこちらを見る周囲の住人の事など気にせず全力で駆ける――

ンフィーレアの店に着き店内に入る、するとそこにはすでに殺されたアンデットとなったダイン達3人の死体と店の奥で倒れていた無残に殺されたニニャ……そして血が滴った大剣を持ったモモンが居た。

 

「おい、何があった!?」

「アルトリアさん……ンフィーレアが連れ去られました」

 

 

 

 

彼らの遺体を布で覆い手をあて祈る。彼らは私達とは違い人間、そこまでの感情は抱くことは無いと思っていた。だがあのひと時の旅での経験と彼らの明るく仲の良い雰囲気……一瞬だが昔のギルドを思い出した。

そんな夢に向かって進んでいた若き者達を、何者かが踏みにじった――

 

――私は人間(むかし)の様に怒る事が出来るようだ。

 

「……だ」

「どうしましたアルトリアさん?」

「……不愉快だ」

「ちょ、ちょっとアルトリア!?」

「ここまでコケにされたのは初めてだ……。何処の誰かも知らぬ馬の骨風情が私の計画を台無しにしてくれた……共に行動した仲の者を虐殺しただけでなく、彼らを使い"遊ぶ"とは――」

「不愉快、実に不愉快だ!これ程の侮辱を与えるとは‼簡単には殺さんぞ……‼‼」

「っ⁉」「ちょ、ちょっと⁉」「アルトリア様⁉」「アルトリアさん⁉お、落ち着いて……!」

 

私の周囲から黒い怨嗟の魔力があふれ出す、黒き悪意ある触手と共に私の周囲を激しく燃やす――

少しするとその怨嗟の炎は落ち着き周囲にうごめいていた触手も収まった。私の周囲の床は炎の影響で赤黒く明滅し呪いの様に胎動したモノに浸食されていた……。

 

「ここまで本気で怒りを露わにする所初めて見たわ……」

「私もです」

「こ、怖かったですぅ……(汗)」「至高なる御方がここまでお怒りになられるとは……」

「……すまない、取り乱した」

「大丈夫です、私もこの身になって人に抱く感情は少なくなりました。けど今回は……同意見です」

「ええ、あの子達との冒険は一瞬だったけどとてもいい時間でした。それを……」

「そうか……では、方針を決めよう」

 

一瞬怒りで我を忘れかけたが随分冷静になった。その後は犯人が持ち去った漆黒の剣のプレートを頼りに居場所を特定しそこに向かうまでの作戦を立てた。

リイジーに依頼と言う形で私達に全てを差し出す事にも成功し、これから犯人が居ると思われる共同墓地に向かおうと思ったのだが……

 

「……っ!アインズ様、シャルティア様からメッセージが届きました」

「シャルティアから?ナーベよ、シャルティアは何と?」

「はい……「こちらの準備は完了しました、合流の程お待ちしています」……との事です」

「合流?合流……」

「「「あ」」」

 

実は私達が冒険者として活動している裏でソリュシャンとシャルティア、セバスに武技の使い手に関して調査し捕まえる様任務を与えていた。

そして昨日、ソリュシャンからある程度人間を捕獲する機会が出来ると連絡が入った。其の為一人でも彼らに付き添うと話していたのだが……まさかの出来事が起こり離れられなくなってしまった……。

 

「しまった、イレギュラーが起こったせいですっかり忘れていたな……」

「どうします?私はリイジーに依頼をした身なので絶対離れられないですよ?」

「……シャルティア達を信じてないわけじゃないけど、血の狂乱が不安だから一人付き添うって話したけど」

「……!おい邪ンヌ、お前"這い寄りし無貌の影(ナイアーラトテップ)"の取得スキルで複数アバターの分体作り出す事できたよな?」

「え、ええ?まあ出来るけど?」

「その分体を送るんだ、多少のスキルと魔法を分体に譲渡すれば作れただろう」

「いいけど……いざと言う時そのスキル使えないかもしれないかもしれませんよ?分体消してこっちにスキルが戻ってくるとしても10秒ほどかかるし……」

「大丈夫だろう、こっちには私にモモン、ナーベにグレイも居るんだ。多少力を分散したところで影響は少ないだろう」

「はぁ、分かりました」

 

そういうとラピュセルは一旦変身を時元の邪ンヌの姿に戻り自身のスキルを発動する。

邪ンヌの周囲にいくつもの魔法陣とは違う赤い文字列が漂い彼女の周囲をとり囲む

 

「スキル〈|ユゴスに奇異なるよろこびをもたらすもの《ブリングズ・アー・ストレンジ・ジョイ・ター・ヤゴス》〉――」

 

今発動したスキルは"這い寄りし無貌の影(ナイアーラトテップ)"の種族が持っている初期スキルの一つ。自身の分体アバターを複数作成しストックする事でその姿に変身する事や分体を作り出す事が出来るのだ。

邪ンヌの左腕が複数の触手の集合体の様な異形に変質する、色や質感がそれぞれ違う無数触手が蠢き本来手の手と指の部分は無数の触手で疑似的に作り出している。

その手を作り出した触手がほどけ開くとその触手の渦の中心からどす黒い泥の様な何かが流れてくる。その泥が腕から零れ落ち床に大きな泥溜まりを作るとボコボコと動き始め徐々に人の形を作り始める。

泥の塊は人の形を形成し終えると次はその泥で防具や髪、竜の様な尾を形成しはじめた。分体の体のベースが完成すると徐々に全体の色合いが黒から様々な色に変色する。

少し黒い肌色や身に着けている黒いドレスの装備や色等、まるで本当に存在していたかのような出来ばいの分体が完成した。

 

「よっと、できたできた」

「……これが()()の分体じゃ♪」

「おお、これが邪ンヌ様の分体のお姿……!」

「初めて見ました……!」

「んあ?その尻尾は竜人ナンカ?」「アッド、尻尾って?本当だ、大きな尾がありますね……!」

「わえが持つ種族の一つ〈アスラの中の最上のもの(ヴリトラ)〉の姿じゃ、今のメインクラスである<黒魔龍士>の取得条件がこれだったからた態々魔竜狩りをお願いしたのぉ」

「自分で自分をみてる気分ってこんな感じなのねぇ……」

「と言っても私からすれば別人に見えるがな」

「「そうか?私達は自分を自分と自覚できるぞ?」」

「……二人ではなすな、困惑する」

「んじゃー早速シャルティアの所に向かうとするかのぉー。ナーベ、シャルティアにゲート開く様頼んでもらえるか?あ、あと自身の容姿も一緒に就てるのを忘れんようにな」

「畏まりました、<伝言(メッセージ)>……はい、こちら準備が完了しました。……は、今ゲートを開きます」

 

ナーベの言葉どおり、すぐに部屋の端にゲートが開いた。分体の邪ンヌはその穴に気にする事なくスタスタと歩き向かって行った、「本体の事よろしく頼むのぉ~♪」なんてのんきな事を言いながら。

 

「さて、じゃあ私達も本格的に動きましょうか」

「そうしよう、その前に自身の冒険者としての役を忘れないように」

「わかってます、ナーベとグレイも気を付ける様に」

「了解ですアルトリアさん、モモンさん!」

「畏まりました、モモン様、アルトリア様――」

「「様づけは無しだと言っただろう?」」

「は、はい……!」

 

こちらでやる事は全て済ませた、あとは墓地に向かい依頼を終わらせ……首謀者に死すら生ぬるい地獄を見せるだけだ――




一ヵ月前からとある事情で目を悪くしてから誤字がより分からなくなってしまった……誤字見つけたら優しく教えて報告をおねがいします……。


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第8話

あけましておめでとうございます (*- -)(*_ _)ペコリ

今年も無理せず自分のペースで更新しますので投稿はまばらですが、何卒よろしくお願いいたします!


※注意
今回は描写以外にもかなり"残虐な表現"に力を入れました。不快に思う方もおるかも知れませんのでご注意ください


 エ・ランテル西側地区、そこに大きな壁で遮られた共同墓地が存在する。

このエ・ランテルの敷地の4分の1を占めた巨大な共同墓地、帝国との戦場地が近辺に存在する為この地には戦死した者達を埋める為に大きく広大。

その後ろにはアンデットが多く湧くカッツェ平野が少し離れた所に有る他、墓地からアンデッドが出現し被害が及ぶ。其の為この国は他国でも珍しい広大な墓地を作りその周囲を壁で囲った。

墓地を出入り可能にする為、小規模であるが門の周辺に見張り台が設置されている。見張り台から墓地を監視し発生したアンデッドの対処を行っているのだが……今日の夜は地獄と化していた。

 

墓地を埋め尽くす程のアンデッド、そしてそれに対応する見張り役の兵達。だが戦力差はともかくその膨大な数による攻勢で見張りの兵達は撤退せざる負えなくなった。

 

「て、撤退だ!撤退しろ!」

 

そんな状況下で私達はやってきた、どうやら現場は想像以上にひっ迫していたようで、大型の低位アンデッドがいま城壁を跨ごうとしている。

 

「っ、冒険者……(だがカッパーでは……!)」

「お前達も逃げ――」

「――後ろをみろ」

「後ろ……っ⁉」

「ヒ、ヒィイイィイ……!」

 

見張り台から撤退してきた兵士達は城壁を超える巨体のアンデッドに恐怖する、隊長の男は他の者とは違いなんとか冷静になろうとしているが他の者達は恐怖に支配され腰が抜けて動けなくなっている。

あまりに情けない姿を横目に視つつアルトリアは巨躯のアンデッドに向け剣を振るう――

 

「武技……「斬空」!(スキル「空斬波」!)」

 

自身のスキルを武技と偽り、アルトリアは飛ぶ斬撃を放ち巨躯のアンデットの首を吹き飛ばした。そのあまりの光景に先程まで恐怖に染まっていた者達も驚愕の顔に変わる。

 

「私達は行く」

「な、なあ!?む、無茶だ!あのアンデッドの群れは」

 

バキッ‼バキバキッ‼‼

 

墓地に続く門から異音が響き、扉の中心が大きくひび割れ砕け散る……その壊れた個所から何百ものアンデッドがまるで濁流の如く流れこむ。

 

「ナーベ ーー」

「――畏まりました、モモンさん」

「グレイも加勢しなさい」

「了解です……!アッド、第一段階……限定解除!」「オウサ‼‼」

 

ナーべとグレイは死者の本流の前に立ち武器を構える。その後ろからはあの見張り台にいた兵士達の「無茶だ!」「早く逃げろ!」という声がかけられるが、アンデットが放つ不快な叫びにかき消され彼女達には届かない……。

 

「〈魔法二重最強化(ツイン・マキシマイズマジック)電撃球(エレクトロ・スフィア)〉!」

 

ナーベが放った電撃球(エレクトロ・スフィア)が死者の本流の中心にて炸裂し高圧の雷撃が辺りを照らす。

マトモに食らった正面のアンデッド達はその形を忘れ灰へと回帰し本流が崩れ中心に大穴が空く。その様子を狙ったのかグレイは死者の流れに空いた穴の中に向かい跳躍、大穴の中心に着地する。

アンデッドの群れは本流の中心に無謀にも単騎でやってきたグレイを逃すはずもなく、流れの向きが変わりグレイに向かい全てのアンデッドが襲い掛かる。

 

逃げ場を塞ぎ完全に包囲、全方向から囲われたグレイは死者の山に埋まる……が、グレイに飛びかかりできた死者の山の隙間から眩い光が溢れ始め、周囲のアンデットを吹き飛ばした。光の元はグレイが持っていた大鎌、あの一瞬で周囲を薙ぎ払いアンデッドを殲滅したのだ。

自分達より若い女性たちが圧倒的な戦いを見せるのを兵士達はすぐに理解できない、あれは本当に人間なのかと――

 

「アダマン……タイト……なのか?」

「よくやった二人共、ハムスケ!お前は急ぎ協会に行き状況を伝えよ。教会ならお前を知る者がいるから恐れられることなく話が出来るだろう」

「了解したでござる!」

「ナーベとグレイはこの場を続けて死守しろ」

「了解です」「畏まりました」

「ま、まて……お前達はどうするんだ!」

「……元凶を叩きに行く」

 

モモンとアルトリア、そしてラピュセルはグレイ達の反撃で空いた墳墓への道へと飛び込む。

門を超えた先に居たアンデッド達が待ち構える様に朽ちかけた剣を振り下ろすが、その刃が振り下ろされる前に3人は通り過ぎ……進路を邪魔するアンデットを粉微塵に斬り飛ばす――

その光景をみた隊長はまるで「竜の咆哮の様だった」と後に語り、最後にこうも伝えたという……「あれこそが、本当の英雄の姿だった――」

 

 

 

――

 

 

 

駆け出してから数分、共同墓地の中間付近まで掛け抜けた3人は前方に大きな建造物を目視する。

建物の作り的にナザリックにも存在する死者を弔う霊廟の様だ、だが霊廟に向かえば向かう程アンデットの数が増え3人の行く手を阻もうとしてくる……どうやら黒幕はこの教会にいる様だ。

 

「死者を弔う霊廟が、死者を生み出す場に使われるとは皮肉だな」

 

霊廟に向かうにつれ地面も舗装され、綺麗な石材で補装された通りに出る。そして……教会の入り口前に、堂々と謎の儀式を行っている集団を見つける。

その集団はみな黒い三角頭巾に手に共通の謎のマークが刻まれている木製のスタッツと思われる杖を握っている。その集団は後方にいる宝玉の様なモノを持った黒頭巾をしていない年老いた男を軸に円を作り何かの詠唱を行っている、一人の黒頭巾の男が我々が来た事に気づき宝玉を持つ男に語り掛けた

 

()()()()()、来ました……」

「(虚偽の可能性もあるが……敵前で名を言うとは、お粗末な連中だな)」

 

こんなたいそれた事をした連中にしては頭が足りないように感じる、が油断はしない。何か罠が無いかアルトリアが周囲を見渡す中モモンが男達に語り掛ける。

 

「やぁ、良い夜だな。こんなつまらん儀式をするには勿体なくないか?カジット……」

「ッ……チィ」「……あっ!?」

「ふん。儀式に適した夜か否は、儂が決める事よ。それよりお主は何者だ」

「とある少年を探すよう依頼を受けた冒険者でね……名前は言わなくても、分かるだろう?」

 

その答えを聞いた集団はかすかに身構えカジットは周囲に目を走らせる。どうやらこいつら全員がクロ、無関係な人間ではないと判断できる。

今の問答である程度この集団の強さが分かり心なしか落胆しつつ、モモンは続けざまに問う。

 

「お前達の中に"刺突武器"を持つ者が居るだろう、そいつは何処だ」

「……儂達だけ――」

「――ふーんあの死体を調べたんだ、やるねぇ~」

 

霊廟の奥から男達とは違う高い女の声が響いてくる。ゆっくりと歩いてくる女からは金属がこすれ合うような音が小さく聞こえてくる。

それが何なのか想像が付き、アルトリアは殺意が溢れ、再度飲まれそうになる。

 

「(こいつか……)」

「お主……」

「いや~バレバレだったからさぁ~隠れてもしょうがないじゃん?で、そちらさんの名前を聞いても良いかな?あ、私「クレマンティーヌ」よろしくね♪」

「……聞いてもしょうがないと思うが、モモンだ」

「……アルトリア」「私はラピュセルです」

「んー確かに聞いても意味無いか。ところでー……なーんでここが分かったの?わざわざ「地下下水道で待つ」とかいう手紙書いたのにー」

「お前のマントの下に答えがある」

「イヤー!変態エロスケベ―(棒)」

「……なんてね♪こ・れ・の・事?」

 

クレマンティーヌは歪んだ笑顔を見せマントを捲る、鱗一枚一枚が別の輝きを放つ鱗鎧<スケイル・アーマー>の様だ。

だがよく見るとその素材である鱗は従来の金属板は魔物の鱗ではなく、様々な冒険者達が身に着けたプレートで出来ていた……銅や銀、それに白金やミスリルのプレートまで存在する。

この女、数多の冒険者を殺しただけでなくそのプレートを戦利品、狩猟戦利品(ハンティングトロフィー)としている。

 

「私の仲間にはアイテムの位置を探る探知魔法が使える者がいてな、それがお前達の位置を知らせてくれた」

「ふーん……」

「……ラピュセル、お前はあの男達を任せる」

「了解です」

「クレマンティーヌ、私達は向こうで殺し合わないか?」

 

アルトリアはそれだけ言うとクレマンティーヌの返事を待たずゆっくりと歩き出す、その後を追うようにモモンもアルトリアの後を歩く。

 

「ふーん、オッケ~……」

 

クレマンティーヌも応え少し距離を開け後ろについていく。

これもアルトリアは計算済み、あの女の性格から考え私の投げかけに嫌とは言わないだろうと考察した。

わざわざ人間をもてあそぶように殺し、それを隠す事も無い。そして霊廟から現れる時の表情と余裕をもった態度……自身を強者とうぬぼれた者の特徴。

それを踏まえればどんな要求でも通るだろうと考えたアルトリアだが、モモンの後に続くもう一人の軽い足跡がそれを証明した。

 

「そーいや、あのお店で殺したのってお仲間?もしかして仲間を殺されて怒っちゃった~?」

「……彼らは一時協力した程度の中だ」

「ふーん。「よくも仲間を!」って激高してくれる子を嬲り殺すのが一番面白いのに……なーんで怒んないの?つまんないじゃ~ん!」

 

安い挑発、本来であればこんな挑発には乗らず自分のペースを保つのだが……

少しでも怒りを覚えたせいであの()()()が発動したのか、上手く心が抑えられない。

いま考えられる事はただ一つ……。

 

奴に地獄を見せつけろ――

 

「私の名声を上げる為に使う為の者をこうも遊ばれては苛立ちを隠せぬものだな」

「……ん~?」

 

私は腰に携えた聖剣を抜き構える。

 

「我が名声を広める為の道具だったのに、それを壊し計画をめちゃくちゃにしたお前という存在は……不愉快だ

 

怒りを含んだその口調に何を感じ取ったのか、クレマンティーヌはニヤリと不気味に笑う。

 

「あそうだ、カジッちゃん所に残った美人さん多分信仰系魔法詠唱者(マジックキャスター)でしょ?それじゃあカジッちゃんには勝てないよ?まぁ私に勝てるのも無理だろうけどね♪」

「……クッ、ハハハハハハ!」

「……何が可笑しい」

「いや可笑しいとも、実力をまともに測れない凡愚風情が我々の実力を測った気でいる……これが笑わずには居れるか?ハッハハハハ!」

「あぁ?このクレマンティーヌ様に勝てる奴がそうそういるわけねぇんだよ。この国で私とマトモに叩けるのは「明けの雫」と「青の薔薇」に一人、あとはガゼフ・ストロノーフとブレイン・アングラウス。……でもさぁ、本気で私に勝てる筈がないじゃん……」

「テメーのヘルムの内にどんな顔があるか知らねぇが、この!人外――英雄の領域に足を踏み込んだこのクレマンティーヌ様が!負けるハズねぇんだよ‼」

 

下等に見られた事に対し激高するクレマンティーヌ、それが弱者特有の感情だというのに気づいていない。

この世界でも同じ……"強いと思い込んだ愚か者ほど弱く、()()()()"。

 

「そうか……なら()()()やろうか」

 

私がそう言うとモモンがその意図を理解し軽く頭を縦に動かす。

彼は今回は観戦者、ナザリックを統べる者として私達の行動を監視し見定める。

そしてモモン、いやアインズは大声で私とラピュセルに告げる。

この言葉はナザリックの代表たる私の声なのだと高らかに宣言する為に――

 

わが友"セイバーオルタ"、"邪ンヌ"よ。我らがナザリックが意を示せ!

「あぁ?」

 

モモン……いや、アインズからの名を受け、アルトリアは"本来の姿"へと姿を変える。

 

「了解した……我らが王よ――」

 

自身の周囲を赤黒い禍々しき暴風が身を包み周囲に吹き荒れる。そして暴風の中心に飲まれたアルトリアは本来の姿へと変貌する。

黒ずくめの禍々しい色に赤い侵蝕された闇が悍ましく光る甲冑、先程まで手に握っていた白き聖剣はその影すら消え甲冑と同様赤黒く異様なオーラを放つ魔剣へと変わる。

白き竜のヘルムは無くなり、その素顔があらわとなる。薄い金髪の髪はなびき美しい顔はその美しさもさることながら圧倒的な強者の風格すら漂わせていた。

あまりの変化にクレマンティーヌは一瞬反応できなかったが、オルタの姿が変わった後、強烈な違和感を感じる。

 

「(なんだ?あきらかに雰囲気が変わりやがったのに……まったく()()()()()()()?)」

「はっ見た目が変わっただけじゃない!?その程度でこの私がおじけづくと思って――」

 

クレマンティーヌが言い切る前に黒騎士は、指にはめた指輪の一つを外す――

 

「っ!?!?」

「探知阻害の指輪を外さんと力量を視れないとは……愚かだな」

 

先程まで全くと言っていいほど感じなかった強者の風格、それが指輪を外した途端クレマンティーヌに襲い掛かる。

肌で感じる常軌を逸している殺意の波動、死を実感できる騎士の眼光……あれはバケモノだ。

ガゼフ……いや、それ以上の強敵だとクレマンティーヌの全細胞が怯え始める。

 

「は、ははは……所詮は威圧!本当の実力は私の方が上なんだよぉ……!」

「ふむ、探知阻害の指輪を外してもなお"自分が上"と言えるか、では……来るがいい」

 

 

 

――

 

 

 

数分前、霊廟入口付近にて――

 

「あーもう面倒ですね!」

「グォオオオオオオオオオ!!」

 

ラピュセルはカジット以外の男達を殲滅し儀式の主導者へ攻撃に移ろうとしたが、カジットは自身が持つ「死の宝珠」の力を使い"骨の竜(スケリトル・ドラゴン)"を呼び出し防がれる。

"骨の竜(スケリトル・ドラゴン)"は"死の騎士(デス・ナイト)"並の物理防御力を持ち、スキルにて"魔法を無効化"する為とても厄介な敵だ。

特に本気を出せず第3位階魔法以下の魔法しか使う事が出来ないという縛りがあるラピュセルには。

ラピュセルは己の物理攻撃で叩くしか有効打がないのだが、ギルドでも下から数えた方が早いほど物理攻撃力に振っていない。

いまの縛りであればプレアデス数人がかりで来られれば負ける可能性があるほどに弱体化する。

其の為ラピュセルは本気出せば勝てるのに勝てないというもどかしさと共に苦戦を強いられている――

 

「武技《5連突き》!(スキル<槍連撃・5連>!)」

 

ラピュセルもアルトリアと同じくスキルを武技と偽り攻撃する。高速の5連撃を骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の顔に集中し繰り出しその骨の体を砕く。

だが、後方で守られながら戦うカジットがアンデット系への回復魔法である<負の光線《レイ・オブ・ネガティブエナジー》>で回復させてくる。

 

「(私のスタイルは多種多様の魔法とスキルで翻弄する持久戦。其の為こういった戦いは得意ですが、今の縛り状態だと少し手間取りますね……)」

「……貴様、一体何者だ!何故骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の攻防をいとも容易くしのぐことが出来る⁉ミスリル?いや、オリハルコンクラスの冒険者か!」

「そんな大層な者じゃありませんよ、数日前に登録したばかりの冒険者です。もっとも、冒険者になる前はかなり死線をくぐっては来ましたが……」

「ミスリルじゃないだと?くだらぬ嘘をつきよって!チィ……!」

 

どうやら向こうも骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の攻撃を軽くいなすラピュセルが不思議でならない様だ。

このままでは押されかねないと判断したのか、カジットは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に強化魔法を3~4重に掛け体制を整え反撃に備える。

 

「(今あの男が使ったのは<鎧強化(リーンフォース・アーマー)>、<下級筋力増大(レッサー・ストレングス)>に<盾壁(シールド・ウォール)>と……<死者の炎(アンデッド・フレイム)>ですかね?)……ならば」

 

ラピュセルも相手の強化魔法に対抗して自身に強化魔法を掛ける――

鎧強化(リーンフォース・アーマー)>、<盾壁(シールド・ウォール)>……そして<死者の炎(アンデッド・フレイム)>に対抗して

負属性防御(プロテクションエナジー・ネガティブ)>、そして聖属性を武器に追加する<聖なる光(ホーリー・ライティング)>を唱える

 

「ヌゥ……(対抗魔法を掛けられたか……これでは先程と変わらん。仕方ない……!)」

「死の宝珠よ……!」

 

今の状況では先程と戦況が変わらない、そう思ったカジットは死の宝珠を高らかに掲げ全ての負のエネルギーを放出する。

地面がひび割れ大地から無数の骨が噴火の如くあふれ出し、一つの大型アンデットへと姿を変え始める。

無数の骨は一つの竜の姿へと姿を変え……2体目の骨の竜(スケリトル・ドラゴン)がラピュセルの前に立ちはだかった。

だが今の二体目の召喚によってエネルギーを使い切った宝珠は光が消え只の水晶玉に変わる。

 

「はぁ~、二体目ですか」

「チッ、いまので負のエネルギーは空になってしまったが……まあよい、お前達を殺した後で街を死の国に帰れば多少元は取れるだろうよ」

「さーて……どうしますか」

 

流石に二体となると押さえていた力を少し開放しなければならない、どう対処しようか考えていた時――

 

「わが友"セイバーオルタ"、"邪ンヌ"よ。我らがナザリックが意を示せ!」

 

遠くから聞きなれた声が聞こえて来た。その意図を瞬時に理解したラピュセルは――

 

――蹂躙を開始する。

 

「了解……ではここからは冒険者「ラピュセル」ではなく、「邪ンヌ」として対処致しましょう」

 

ラピュセルは武器として振るう旗槍を地面へと突き立てる、槍は地面を砕きヒビから赤黒い火柱が渦を描きラピュセルを包み込む。

炎に吞まれたラピュセルのシルエットは徐々に形を変え、自身を包んだ炎柱を旗槍でかき消した……先程の美しい青いドレスの様な服と銀に輝く鎧とは正反対の黒くおどろおどろしいモノへと変わり、肩には魔物の羽で出来た物であろう灰色のファー付きのマントが風になびいている。

そして一番の変化は……先程の聖女が如き顔とはまるで違う、まるでクレマンティーヌの様に不気味で歪んた笑顔を見せる女――

 

「ん~……さて!ここからはナザリック地下大墳墓を纏める者として行動しましょうか♪」

「なんだ、何が起こった……まぁ良い。骨の竜(スケリトル・ドラゴン)よ、あの女を潰せ!」

 

カジットは今起こった状況がいまいち理解できずにいたが、あの女を殺す事は変わりない。

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に指示を出すとそれにこたえる様に二体は前足を上げ勢いよく振り下ろす。

女は動きもせずその場に立って居るだけ……ドスン!と重撃が届き地面に前足を叩きつけた。

あの女を殺した!そう確信したのかカジットは笑みをこぼすが、それもひと時だけ……振り下ろした骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の脚がグラグラと震え始め徐々に持ち上がり……脚を掴み平然と持ち上げ歩み寄る邪ンヌの姿が見え始めたのだ。

 

「なっ⁉ば、馬鹿な!?」

「無駄よ無駄、<上位物理無効化>……私達この程度じゃダメージすらならないの」

「あ、あり得ん……!」

「あり得んって……今、目の前で、起こってるのよ?じ・じ・つ・よ♪」

「あり得るものか!骨の竜(スケリトル・ドラゴン)よ、もう一度――」

「――もういいわ」

 

邪ンヌは掴んだ脚を放り投げ、上空へと跳躍する。強引に足をどかされた骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は一瞬バランスを崩すがすぐに羽を使いバランスを保った。カジットは上空を飛んだ邪ンヌの目で追いかける、空を飛び月を背後に不敵に笑う黒い聖女がそこには居た。

 

「何故だ、〈飛行《フライ》〉の魔法が使えるのに何故逃げない……?絶対的な魔法耐性を持つ骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に勝算があるわけがないというのに」

「フフッ、勝算なら星の数ほどあるわよ……でも折角だわ、魔法詠唱師《マジック・キャスター》の貴方の為に良い魔法を教えてあげる……授業料は貴方の命で♪」

 

邪ンヌは構えていた旗槍を解き、片手を天に向ける。

そして邪ンヌは魔法を詠唱を始める、天に掲げた手から何重にも重なり大きくなる魔法陣が展開される。

その光景はまるで神話の如く、無数の赤黒い炎を纏った槍が何百と出現しカジットと骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に狙いを定める。

 

自身の認知をはるかに超えた謎の魔法にカジットの目は大きく見開かれた。もはやその悍ましい光景に言葉も出なかった。

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)も主の危険を察知したのかカジットの前に立ちふさがり巨体を盾とする。

それを思い出し、自身の脳で鳴り響く警鐘が心の声を叫ばせる。

 

「――ばかな、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)には魔法に対する絶対耐性が……!」

「絶対耐性……?それは第6位階以下の魔法の無力化でしょ?この魔法はねぇ――」

 

――10位階よ♪

 

第10位階――

人間だけでなく、神ですら扱える者は少ないと言い伝えられている幻想の魔法。

ありえない、そう言いたかったがそれがあり得るのではと思えてしまう魔法陣から溢れる強大な魔力の激流がその真実味を覚えさせてしまう

 

これは偽りではない、カジットの直感が認めた――

 

「何故だ、この儂が5年かけて作り上げた努力の結晶が……すべてがこの数分足らずで崩壊すると言うのか⁉⁉」

 

わめくカジット、今この男の脳裏には今までの走馬灯が一瞬で流れているだろう。

 

「<三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)怨嗟燃ゆる業炎の雨(レイン・オブ・グラッジルス・フレイム)>!」

 

標的を定めた50を超える怨嗟の炎を帯びた槍は、慈悲もなくかの男に降り注ぐ。

主人の盾となった骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は怨嗟の雨に貫かれ、その死体を動かす魔力ともども全てを焼き尽くし無に帰した。

盾が無くなれば次は男の番――

炎槍の雨が男を貫き、周囲に突き刺さる。突き刺さり動きを止めた炎の槍は次第に点滅し始め、竜を模した竜巻を呼び起こす。

竜巻の中心に取り残され、360度からその身を焼かれるカジット……彼の口からは悲鳴が聞こえる事は無く小さく何かを呟いた――

 

 

赤黒い業炎の竜巻が消え去った後、カジットの体は黒き灰へとその身を変えた。

 

「焦げた姿は素敵ね……エントマはこの状態の人間も好きかしら?」

 

人間を捕食するギルドのメイドを思い出しながら、闇に堕ちた聖女は笑みを浮かべた。

 

 

 

――

 

 

 

同時刻・共同墓地、霊廟のはなれ――

 

霊廟の方から悍ましい炎の渦が天に上った。

その渦は周囲を照らし、離れた場所に居たクレマンティーヌ達にも目に入る。

 

「あれは……」

「ラピュセル……もとい邪ンヌの魔法か、あれを使ったとなれば……あの男は死んだな」

 

カジットは死んだ。そう言い放つ黒騎士に噛み付こうとも考えたが、あの女が放つ覇気を考えると本当なのではと考えた。

 

「フッ、カジッちゃんは死んだところで、私の方が実力は上……アンタを殺す事ぐらいわけはねぇのよ!」

 

クレマンティーヌは激高し、身に着けていたローブを脱ぎ棄てる。

そして軽装の鎧の姿になるとクレマンティーヌはその体を深く沈めまるで獣の様な体制を取る。

 

「準備は出来たか」

「……〈疾風走破〉、〈超回避〉、〈能力向上〉、〈能力超向上〉!」

 

深くしゃがんだ状態でクレマンティーヌは4つの武技を同時に発動した、だがあの黒騎士が何かしてきたときの為に幾つか武技が使える余裕を残してある。

スティレットを強く握りしめ大きく息を吐き出すと、クレマンティーヌは突進する。

武技を使い姿が揺らぐ程の速度でオルタに近づくが、オルタは構えすら取らず武器を握ったまま動かない。

 

「(何を狙ってやがる、隠し武器か?それとも格闘戦?)」

「チッ、死ね――」

 

そう言い放ち強く握りしめたスティレットを突き刺す。

武技を同時使用し生み出されるこの一撃はどんな防具ですら貫く威力を誇る、その一撃で黒騎士の心臓を狙い――

 

――突き刺したハズだった

 

「……つまらん」

「は……?」

 

突き刺し確実に殺したハズの騎士が声を発した。

何が起こったのか理解が出来ず、すぐさま二撃目を入れようと動こうとしたが……スティレットを持つ片腕の感覚が途絶えた。

何か喰らったのか確認する為に腕を見ると、そこにあるはずの腕は無くただ自身の血が流れ出ていた。

 

「武技を使ってもこの程度の速度か……」

「あ、ああ、ああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼」

 

自身の腕が切り落とされた。それを目視し自覚してしまったクレマンティーヌに遅れて全身に激痛が駆け回る。

 

……痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!、痛い!!、痛い!!!、痛い!!!!

 

今まで何度か深手を負った事はあったが、それ以上の強烈な痛みが襲い掛かる。

 

「喚くな、騒々しい」

 

ザシュッっとまた何かが斬り落とされたような音が聞こえすぐに距離を離そうとする。

が、何故か体は動かず頭だけ下に移動している

 

「えっ――」

 

頭が落ちた、自分の頭が落ちた。

そう考え理解してしまった瞬間、意識が一気に落ち始める。

目の前が黒くなり思考する事すらできなくなり自身の頭が地面に落ちた音が聞こえると同時にクレマンティーヌの意識はその手を離れた……だが

 

「あれ?」

 

何故かまた意識が戻り、クレマンティーヌはその場で座っていた。

何が起こったのかわからず、彼女は斬り落とされた筈の腕や首をペタペタとさわり確認する。

大丈夫繋がっている、私は生きている――

だが、さっきの生々しい死の感覚は何だ……?

 

「復活は変わらずか……」

「っ……!」

 

オルタの声が自身の横から聞こえ急ぎ距離を取る。

先程の謎の死の感覚が自身の呼吸を乱し冷静さを保てない。

はやく冷静になれ、早く戦闘態勢を取れ……そう思いながら地面を眺めて動けずにいると左から血が流れて来た。

何の血なのかと顔を横に向け確認すると、そこには()()()()()()()を着ている腕と頭が無い死体が転がっているのが目に入った――

 

「あ……れは?」

「お前だよ」

 

クレマンティーヌが死体を確認したのを見計らいオルタが声を掛ける

 

「私……?馬鹿を言うな!私は今もこうして――」

「――死ぬ直前の記憶があるだろう?」

「!?」

「お前を蘇生したのさ。面白い事に部体をバラした後()()()()を蘇生すると片方の死体を残したまま新たに蘇生を施した部位から()()()()()"新たな人体として蘇る"ことが分かったらしくてな」

「この身で確認した事は無かった為、今この場で試させてもらった」

 

何をいっているんだ――

クレマンティーヌはオルタが一方的に話す事への理解が追いついていなかった。

死体?バラす?体が産まれる?単語一つ一つが理解できない、狂っているとすら感じる

 

「テメェ何を分けわかんねぇことを――」

「――だからな」

 

話を遮ろうとしたクレマンティーヌだったが、オルタは聞こうともせず一瞬でクレマンティーヌの横を通り縦に切り捨てる。

クレマンティーヌは座った体制のまま頭から下半身までを縦に両断され血しぶきが舞う

 

「あ え? こん ろは な   に ――」

 

また何かが起こった、そう思った時にはすでに遅く視界が左右バラバラに倒れ、両断された体が頭の重さでバランスを崩し左右に分かれ地に落ち、意識を失い――

――再度意識を取り戻す。

 

「ガッ……!ハァ…ハァ…」

 

また訪れた死の体験と意識の消失……。

もしやと思いゆっくりと右を見ると、そこには切り捨てられたクレマンティーヌの右半身が血を噴き出して倒れている。

そしてようやく気が付いた……自身が何度も殺され、そして蘇生させられているという事に。

 

オルタは何度もクレマンティーヌを殺し、再度蘇生を繰り返すことで地獄を見せようとしてるのだ。

先程、邪ンヌの方が終わり合流してきたのを確認したオルタは自身のスキルの衝動に身を任せクレマンティーヌへの処刑を決行した。

オルタが殺し、確実に死んだのを確認した後遠くで眺めている邪ンヌが透かさず第10位階魔法<終わらぬ輪廻(エンドレス・リーンカーネーション)>を発動し蘇生させる。

 

終わらぬ輪廻(エンドレス・リーンカーネーション)>は超位魔法を覗く位階魔法の中でも最上位の蘇生魔法。

ユグドラシルでは蘇生には代価として経験値、つまりレベルダウンが起こる。第五位階魔法の〈死者蘇生(レイズ・デッド)〉のレベルダウンは15~20レベル分ダウンし、第七位階魔法の〈蘇生《リザレクション》〉は10~15と消費経験値が減り、第9位階魔法の〈真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)〉は5~10と大幅に減り、最高位の<終わらぬ輪廻(エンドレス・リーンカーネーション)>となると消費経験値は1~5と破格の消費量で復活が可能になるのだ。

 

MP消費はその分大きいが、そこはオルタが持つバイザーの能力でMPを回復させ、連続で使用を可能にした。

その繰り返しを数分行い、愚かな女への罰とする事を考えついたのだ――

 

 

「どうだ、2秒前に斬り落とされた半身を見る感想は……?」

「グッ……オボェ……ゴホッゴホッ……!」

「ふむ、精神の摩耗と自死体験の把握による嘔吐、といった所か」

 

無慈悲に私を殺すバケモノは表情を変えることなく無様に敵前で吐いた私の姿を視て考察する。

 

「て、テめェ……なンで……ゴンな…ゴど……ゴフッ、ガフッ……!」

「何で?そんなの、只のお前の真似事さ」

「お前はあの時、冒険者の少女を殺さずいたぶり続け、苦痛と恐怖を自分が満足するまで与えていたんだろう?」

「それと同じさ、私が満足するまで"死と再生"を繰り返す……ただそれだけだ」

 

クレマンティーヌは「何度も蘇生できる」実力があるだとか、そんな事が頭の淵に入らない程に恐怖を覚える。

 

「ごの゛……ばげも゛の゛‼‼‼‼」

「クッ、ハハハハハハ‼‼」

「その化け物の憎悪を引き出したのはお前だ……!」

 

クレマンティーヌは絶望する。

あぁ、自分は相手にしてはいけないモノを相手にしていしまったのだと――

 

「は、はははは……はははははははっはは」

「ふん、狂ったところでやめるつもりはないがな。さぁ、最低でも2~30回は死んでくれ」

 

そして、クレマンティーヌは黒き悪龍の憎悪をその身で浴びる――

頭を引きちぎられた、首を落とされた、ねじ切られた、燃やされた、串刺しにされた、またねじ切られた、今度は裂かれた、今度は、今度は、今度は潰された、今度、今度、…………

 

 

 

――

 

 

 

 

…繰り返すこと67回、何もなかったこの場所はわずか5分で一人の人間の死体が散らばる処刑場へと変貌していた。

左を見ればあり得ぬ方向へねじ切れた女の腕が、右を見れば頭蓋を踏み砕かれ鼻から下の顔しかない肉塊が、前を見れば乱斬りにされ無数のブロック塊にされた"女だったモノ"が、後ろを見れば心臓に風穴が空き、恐怖を絶望に囚われた狂気の表情をみせる女の死体が散らばっている。

その光景はまさに地獄、現場を見ていなければこの光景が一人の「女の遺体だけで作られたこと」、そして「遺体の女はまだ生きている」という事にすら気づかないだろう……。

 

「……。」

「ふむ、こんな所か」

 

惨劇の舞台の真ん中には、黒い甲冑が月夜に照らされている美しき騎士と、地面に膝を着き次にくる恐怖に恐れを抱く女が座っていた。

 

「はぁ、ようやくあのスキルが収まったか。あのスキルのデメリットはこうなるとは思わなんだ……」

「ようやく落ち着いた?まったく、私の蘇生魔法があるとはいえ60回近く第10位階の蘇生魔法使わせないでほしいわ」

「すまない。MPの補填の為にお前に私のバイザーを渡してはいたがそれでもきつかっただろう、後ほど対価は必ずはらう」

「ええ、この依頼の対価は奮発してもらわないと割に合わないわ!」

「……善処する」

 

「お二人共、終わりましたか?」

 

オルタが処刑と言う名の遊戯を行っている間、アインズは一人霊廟の地下にはいりンフィーレアを連れ戻ってきた。

謎の透けた儀式用衣装に身を包み、目からは血が流れた後がある。

 

「戻ったか、済まぬな」

「仕方ないですよ、異業種はスキルのデメリットが強いですし……」

 

先程から出てくるオルタの()()()、それは彼の種族固有スキルである<悪龍の炉心>というスキルの事だ。

このスキルの効果はステータスの大幅加算と単純シンプルなモノだがそのデメリットが大きい。

デメリットは「カルマ値の暴走」、ユグドラシルではカルマ値の上限は+300~-500が上限ではある、だがこのスキルは特定の条件を満たすとそのカルマ値の限界値を突破し変動させてしまうというモノ。

この上限を突破したカルマ値は大幅なステータスの強化の恩恵と共に、一時的な「バーサーク状態」を引き起こし魔法やスキルを自由に選択できず選択したモノとは関係なくランダムに振るい、理性を失った獣……いや龍の様に暴れまわるのだ。

 

ユグドラシルでは「大幅なレベルの変化」がトリガーだったが、この世界で使用が変質したのか発動のトリガーが「強い感情の起伏」へと変わっていた。

その為、"漆黒の剣"の事を知り大きく感情が揺さぶったせいでスキルのトリガーが掛かり、一時的に暴走に似た状態になっていたのだ。 

 

「(ユグドラシルの様に暴れる様な事は無く制限できるのは幸いだったな……)」

「それで、この後この女はどうします」

「折角の武技の使い手だ、ナザリックに連れていく。そうだな……サリエリのスキルを使い吸血鬼にでもして手駒にするのが良いだろう」

「成程、それは良い案ですね」

 

自身の事を話しているのだろうが女は聞こえていても反応する気力は無い。

脳裏に移る自身の死んだ記憶……その光景で何度発狂しても魔法で精神を補強される――

苦痛を絶望が女を襲い、黒騎士が嘲笑うその光景は地獄の悪魔による処刑はこのようなモノなのか、これが自身の罰なんだと……自身の犯した過ちに後悔する。

 

「さて、クレマンティーヌよ……」

 

女は答えないが体が少し震え反応を示す。

 

「お前に最後の選択だ、このまま"68回目の死を迎える"か、我が軍門に下り生きるか……後者を選べば貴様のこれ以上の苦痛は起こらないだろうな」

「……に……。」

「うん?」

「本当に……もう死なない?」

「ああ。我がナザリックの為に働くと誓うのならばこれ以上の苦痛は起こさない、ナザリックを統べる我々が保証しよう」

 

……クレマンティーヌはすぐに決断する、あの化け物……いや、"我が主"の気が変わらぬように

 

「私、クレマンティーヌは……ナザリックを統べる……御方々に」

「忠誠を……誓います――」

 

クレマンティーヌがオルタの前に跪き頭を下げる、悔しさも後悔もない。

彼に忠誠を尽くせば生き残れる、これ以上の地獄を体験する事はない……生きる喜びを知る為に、彼らに永遠の忠誠を捧げるだけだ――

 

 

 

――

 

 

 

一連の騒動が終わり、撤収の為に整理するアインズ達。

転移門(ゲート)〉を使い幾つかの配下を霊廟前に集めさせ残党の捜索や戦利品の捜索などを指示する

 

「サリエリ、主に呼ばれここに」

「ふむ、よく来たサリエリ。早速だがお前に仕事を頼みたい」

「我が主の名であればなんでも……」

「ここにいる女、この者を吸血鬼へと変え配下に加えよ。"始祖(オリジンヴァンパイア)"であるお前ならばシャルティアより上のヴァンパイアへと変えられるだろう」

「お安い御用だ、我が主」

 

サリエリは、クレマンティーヌの首元に噛み付きスキルを発動する。

クレマンティーヌから小さく声が漏れ、体の欠陥が浮き出る。そしてドクッドクッと心音の音が聞こえ、人間の体から吸血鬼の体へと変貌する。

爪は鎧を容易く切り裂く鋭利な爪へと変わり、鋭い歯が生え、背中から赤いオーラで形成された羽が生え完全な吸血鬼へと変貌した。

スキルの効果が終わり首元から口を放すサリエリ、吸血した牙から赤い雫が垂れ艶めかしさを感じる。

 

「お前は今"操血の吸血鬼(ブラッドレーション・ヴァンパイア)"となった。これから己が命を捧げ忠を尽くせ」

「……畏まりました」

 

"操血の吸血鬼(ブラッドレーション・ヴァンパイア)"……確か血を操作するスキルが豊富の吸血鬼だったな。レベルは30程だが、死から生まれたヴァンパイアではないクレマンティーヌならもっと上、おそらく40後半か50前半程は行っているかもしれない。

 

『アルトリアさん!』

『(グレイからの"伝言(メッセージ)"か)グレイか、其方はどうだ?』

『こちらは結構な量のスケルトンが来ましたけど合流した兵士の人達と防衛し、町への被害なく無事落ち着きました……!』

『よくやった、これで我々の名声が加わる。分割し黒幕の確保と街の防衛をこなした冒険者として知られるだろう。本当によくやった、ナーベにも称賛すると伝えるように』

『はい、わかりました!……あ、これから兵士の方と状況を整理する為の話し合いをしますのでこれで』

「アインズ、邪ンヌ。グレイの方も無事防衛が終わったそうだ」

「そう、後で二人に頭ナデナデしなきゃ♪」

「そ、それは後ででお願いしますね……」

「え~なんでよアインズ~」

 

「まったく……クレマンティーヌよ、後ほどお前には過去の事など含めすべて話してもらう。サリエリと共に我がギルドに戻れ」

「かしこまりました……」

「了解した主、周囲に飛散した血と肉は集め持ち帰る。残った原型のある死体は報告に使うと思い残していく」

「ああそれでいい、ご苦労」

「では失礼する」

 

サリエリとクレマンティーヌは〈転移門(ゲート)〉をくぐりナザリックへと帰還する。

私達は人の原型が残っているクレマンティーヌの死体とカジットだった炭を抱え町へと戻る、それと念には念を押しアインズの魔法で死体に蘇生時、記憶を消去させる条件付きの魔法を付与してもらった。

これで万が一蘇生させられたとしても情報が漏れる事も無く、戦力としても役に立たない人間となるだろう。

 

「さて、あとはこの炭と化した|骨の竜<スケリトル・ドラゴン>だが……」

「これ持ち帰るとなるのは文字通り骨が折れるわよ……」

「また冒険者モードになると本気を出せませんからね、ナーベ達に連絡して馬車かなんか持ってきてもらいましょうか」

「そうするしかないか……何匹かシャドウ・デーモンを置いてよそ者に取られない様見張らせておこう」

「「賛成~」」

 

「では――」

 

悪意の具現化ともいえる三人は青い光に包まれ、再度冒険者へと姿を変える。

人間達は気づくのだろうか、己の町に世界を揺るがす力を秘めたバケモノたちが潜伏しているというのを……いや、気づかない方が幸せなんだろう。

 

「――凱旋と行こうか!」

「ええ♪」「ええ、行きましょう」

 

正義の皮を被ったバケモノは一かけらの悪意を持たず凱旋に向かう。これで一件落着、全て順調元通り。

仮面(朝日)の下で、悪魔()が笑う ――――




新年色々な作品を読み漁り表現方法等を個人的にこだわって書いてみました……。



ですが自分ではどうだかあまりわからないので、ご意見を"優しく"教えていただければ嬉しいです <(_ _)>


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第9話

こちら8話の前に分かれたジャンヌ(分体)のヴリトラ回となっております。
大きく話の流れが分かれるシーンがありますので、許せるという方のみお読みください <(_ _)>


―馬車の中 邪ンヌ(分体)視点―

 

シャルティアからの<転移門(ゲート)>をくぐり移動するヴリトラ、一瞬の暗闇から抜けた先の景色は豪華な馬車の中だった。

左にはプレアデスのソリュシャンとセバス、右には真ん中にシャルティアと両脇に"吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)"が座っていた。そして私が来たのに気づくとわざわざこんな狭い馬車の中で全員私に向かい膝間づき頭を下げていた。

 

「ようこそ、邪ンヌ様」

「うむ、楽にせい」

「はっ」

「さーて、早速じゃが今の現状を教えてくれるか?」

「畏まりました」

 

ソリュシャン達の報告によると、ある男がこれから私達の馬車を盗賊達が待ち伏せする所に連れていく予定のようでその中に武技の使い手が居れば捕獲、いなければ彼らの一人からアジトの場所を聞き襲撃という算段らしい。

 

「なるほどのぉ、大体わかった!まあわえがいるから安心せぇ」

「おお!なんと心強い!」

「流石至高の御方です!」

「あと……シャルティア、お主は暴走だけはせんようにな」

「は、はい。気を付けるでありんす……」

 

っと、ある程度話していたら突然馬車が止まった。外からは数人の男達の声が聞こえてくる……あれが今夜の犠牲者のようだ。

 

「おい、降りろ!」

「うるさいのぉ……言われずとも降りるというのに」

「では、行ってくるでありんす」

 

シャルティアはそういい馬車を開き外にでる、外には複数の武装した人間達……完全に欲にかられた愚か者達が私達を取り囲んでいた……が、それも一瞬だけ。

降りてきたシャルティアに先走って触れようとしたアホがまず一人しんだ。そしてその光景に恐れた他の盗賊達は足がすくみ逃げる機会を失いシャルティアの従者である二体の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)に無残にも殺され、ここまで案内した愚かな貴族の男はソリュシャンの娯楽の為の玩具となり体の内に沈む。

とこんな感じに想定通りのあっさりとした終わりを迎えた。

 

「はい、お疲れ様じゃ。とはいえ武技使いが居なかったのは少し残念だったが――」

「――邪ンヌ様」

「お?どうした吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)、なんか情報は得たか?」

「はい、どうやらこの近くにある山の洞窟に盗賊のアジトがある様です。そこに()()()()という人間を雇い守らせていると」

「ブレイン?誰じゃそれ?」

「その名、情報収集の際聞いたことのある名です。確か王国最強の戦士であるガゼフ・ストロノーフと互角に戦った者とか」

「ほぉ、あのガゼフとか……いい事を知った!よくやったぞ吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)!」

「ありがとうございます」

 

「では今からそこに向かう。セバスはこの後再度情報収集の任務を続けよ。私とシャルティアと"吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)"の4人でアジトに向かうとする」

「「「はっ!」」」

「念の為セバスには第9位階の透明化魔法を込めたスクロールを渡しておく。もし何者かにつけられていると思ったらそれを使いソリュシャンと王国を離れ森で潜伏するように」

「畏まりました」

 

一通り指示を出し、セバスとソリュシャンは馬車に乗り王国へと戻った。

残った私達は死体を操りアジトの入り口まで案内させた。どうやら昔使われていた採掘現場の跡地を盗賊達が占拠しアジトへと改装したようだ。山の大きさと洞窟の大きさや補装を見た感じかなり広く入り組んでいるだろう。

 

「かーなり広いのぉ。それに盗賊のアジトじゃ、トラップもあるかもしれんな」

「私が先行します」

 

自信満々に"吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)"の一体が走り坑道内に入った。が、まさかの入り口近くに仕掛けられていた落とし穴に引っかかりズポッと落ちていく……そのあまりにもシュールな光景に私は笑いシャルティアは呆れた表情を見せる。

 

「えー……」「プッ、ハハハハ!」

「お前……かの偉大なる御方の前で恥を晒すの?さっさと出てこい」

「も、申し訳ございません……!」

「お前、御方を失望させ――」

「ハハハ、まあまあ良いではないか!」

 

私は竜の尾で"吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)"の体を掴み落とし穴から出す。

"吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)"はかなり申し訳なさそうな顔をして私を視ている、そんな顔しなくてもいいのに……。

 

「よいよい、この程度のミスで失望するようならギルドは成り立っておらんわ!ハッハハハハ!」

「邪、邪ンヌ様?」

「それに、誰にでもミスは起こるし苦手なモノは存在する。それを知った上で役立てるのが上に立つ者の役目ってもんじゃ♪」

 

適当にそれらしき事を言いながら引き上げた吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)の頭を撫でる。

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)は先程の出来事のせいか、頭を撫でられている事に驚いているのかわからないが白い綺麗な肌が赤くなっている。

その光景をみて私のカワイイメーター(?)が上昇し私はさらに彼女を撫でた。

 

「まったくカワイイのぉ♪」

「邪、邪ンヌ様、お、お止めください……///」

「なっ⁉羨ましい‼(お、お前!喜んでんじゃありんせん!)」

「本音と建て前逆になっておるぞ~」

「っと、そんなこんな騒いでたらやってきた様じゃぞ」

 

私達が駄弁っていると洞窟の奥から物音がこちらに近づいてきていた。その音はだんだん近くなるにつれ装備がこすれる音や足音も大きく増えていく、どうやらかなりの団体で"お出迎え"が来たようだ。

 

「さて、収穫じゃ♪」

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

大分坑道を歩き山の中腹辺りまで降りて来た。

此処まで降りてきても出てくる盗賊は皆武技を使わない雑魚ばっか、軽く手を振るだけで体を両断できてしまう程に脆弱、額へのデコピンで10数mふっ飛び頭が消し飛ぶ人間すらいるレベルだ……こんな盗賊の所になんでガゼフと互角とまで言われる男が居るのか不思議でならない。

 

「こりゃわえが居なくても良かったかものぉ~」

「至高の御方が欲しがるような人間も居ませんし、此処はハズレかもしれないでありんすねぇ」

「うーん――」

「――おいおい、楽しそうだな」

 

突然前方から男がやってきて声を掛けて来た。青い髪に軽装の装備、腰にはこの世界では珍しい刀を携えている。

明らかにほかの盗賊とは雰囲気が違う、この盗賊達のボスなのか、それとも目的の"ブレイン"なのか……

 

「ぜーんぜん、弱すぎて楽しくありんせん」

「血で出来た球……見た事ないが、マジックキャスターか」

「ええ、信仰系でありんす」

「何だっていい、こっちの準備は出来てるぜ」

「……お主、わえら相手に一人で十分だと?」

「雑魚が増えたところでお前達に届く訳もないし余計足手まといだ、それなら俺だけで良いさ」

「ふーん、まあいいわ。行きなんし」

「シャアアアアアア‼‼」

 

シャルティアの名で吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)が青髪の男に突貫した。その爪で男に襲い掛かるが男は居合の構えと同時に高速の斬撃を繰り出す。吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)はその攻撃を見切り後ろに飛びのいたが肩辺りに傷を負った。

 

「(ほーん……あ奴、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)に立ち向かえる程度のレベルは持っているようじゃの)」

 

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)も魔眼や魔法で対抗するが、魅了の魔眼はレジストされ放った魔法も上手く回避されている。あの早い斬撃が来る以上うかつに間合いを詰めることもできない吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)は尻込みしていた。

おそらくあの高速の斬撃は……武技か?確認しなければ――

 

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)よ下がれ、わえが試す」

「は、はっ」

「い、至高の御方直々に!でありんすか⁉」

「少しわえがためしてやろう」

「フッ、そうかよ(あの白い吸血鬼とドレスの吸血鬼が驚き焦る主人……同じヴァンパイア、では無いな)」

「(なんの種族だ……?それが分かれば立ち回りも変えられるんだが……)」

 

「ブレイン・アングラウスだ」

「(っ、じゃあコヤツがガゼフと互角に近い腕を持つ奴じゃったか)わえは「ヴリトラ」、是非楽しませてくれ」

「(その余裕そうな笑み……引っぺがしてやる!)」

 

ブレインは先程と同じ様に刀を鞘に納め居合の構えを取り動かない、もしやこの構え自体が武技なのか。

今まで身体能力を一時的に強化するモノや攻撃スキルに似た技を放つ武技は見て来たが"「構え」から「居合」までの流れ"が一つの武技となっているものとは驚いた。

 

「準備は出来ているようじゃな♪」

「(飛び込んで来い……!俺の武技〈領域〉は半径3m以内の全てを把握する……間合いに入った瞬間、あの首に〈神閃〉を叩き込んでやる!)」

 

私はゆったり歩きながら男との距離を詰める、そしてブレインの領域内に足を踏み込んだ。

 

「(喰らえ、秘剣<虎落笛(もがりぶえ)>‼‼――)」

 

鞘から人類が知覚する事すらできない超高速の抜刀から不可視の居合を放つ……が、私から見れば鞘から抜かれた一撃はかなり遅い。感覚的には緩いキャッチボールの弾ぐらいのスピード、刀を避ける事も止める事も容易い一撃だった。

 

「(んーわえがこのレベルのスピードに感じるという事はー……人間のレベルでは上位という事に~……なるのかのぉ?)」

 

そんなこんな考えてたら刀の刃が首元に到達寸前だった。が、そんな事気にせずこの男をどうするかを考えている。そして居合の一撃が首に命中する――

 

カキィイン‼‼

 

「……は?」

 

神速の一撃は確実にあの女の首を捕えた、その一撃を持って首を刎ね飛ばしている筈だ。はずだったのに……女の頭は残り、刃が止まっていた。

 

「ば、ばかな……」

 

刀を首から放す。刃が触れた箇所に傷は一つもなく、薄皮すら斬れていないのか血すら一滴も出ていなかった。

 

「んー……人間レベルだと速いんじゃろうが……わえ的にはイマイチじゃな」

「ば、化け物……!」

「フッ、今更じゃのぉ。わえ達は化け物、冷酷で可憐な化け物じゃよ……♪」

「……(逃げるか、狙うは足!)」

 

ブレインは再度<神閃>を放つ、その一撃は先程とは違い首ではなく足首を狙ったモノの様だ。が、その今度はその居合が届く事は無くその刀を脚で簡単に踏み止められた。

 

「……っ⁉」

「んーその武技は見飽きたのぉ。もっと強い武技は無いのかぁ?」

「(その武技は俺の最強だっつうの……)」

「やっぱ実力を測るのは無理だったんかのぉ……。わえらの実力は天と地ではなく宙と地程の差があっては武技はどうなのかとか調べるのは苦労する……」

「ぐ……うぉおおおおおおお‼‼」

 

怒号を吐きながらブレインはヴリトラに斬り掛かる。先程とは違い神速の一撃を放つ武技ではなくがむしゃらに連続で刀を振り下ろし続ける。

おそらく普通の人間であれば高速の連続斬りに見えその一つ一つが人間一人程度なら両断することは容易な威力はあるだろう。

そう、()()であればの話だ――

 

ヴリトラはその一撃一つ一つを爪一本で一振り一振り丁寧に優しくはじき返していた。

 

「ハァ……!ハァ……!グッ、ハァ……、ハァ……」

「おや、疲れたかの?」

 

ブレインは恐怖する、その圧倒的な力を見せつける化け物に――

人間如きが、最強という存在を目指す事は間違いだったのだと強く感じさらに息が乱れる。

既にボロボロとなり散りかけた心を強引に繋ぎとめていたが、いまそのつなぎ目が解けていくのを実感する。

 

「俺は……努力して……!」

「うんうん努力は大事じゃの。だがのぉ、いくら努力したところで()()()()()()()()わえ達に追いつけるわけがない」

 

()()()()()()()――

この一言がブレインの心を完全に砕き折った。

自身は死に物狂いで無駄な努力をし、あの男を超えようとした夢すら無意味。

「全てが無意味だったのだ」と、そう教えられたのだ。

自身の無意味な人生と努力に涙が溢れた、いつ以来の涙だろうか。

 

「さて、わえも目的があるんでのぉ。大人しく――」

「――俺は馬鹿だ……」

 

ブレインは声を上げ、背を向け駆け出す。

その声は先程までの戦士の咆哮とはまるで違う幼い子供が泣きわめいているのと同じだった。

 

「あっこら逃げるな⁉」

 

あまりの展開にすぐに動く事ができなかったヴリトラはすぐに追いかけ捕まえることが出来ず目の前でみすみす逃してしまった。

 

「んー……もしかして、わえあの男の心へし折ったのか?」

「流石でありんす邪n……ヴリトラ様!あの男を力でなく言葉だけで全てをへし折るなんて!」

「いやー……完全に無意識なんじゃがなぁーじゃない!済まんがシャルティアよ、あの男を捕まえてくれ!」

「畏まりました!」

 

シャルティアと吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)はウキウキで駆けだしブレインが逃げた方角に向かう。

シャルティアが向かった後その時のハイテンションな感じに突然謎の不安感を感じた、そしてその不安は現実となってしまう。

数十秒後、シャルティアが向かった方角から無数の悲鳴が木霊してきたのだ。

 

「んあ?」

 

ものすごい不安感を抱きながら全速力でシャルティアの後に向かうヴリトラ、進んでいくと奥の通路から他とは違う明るい光が漏れてきているのを見つけその方向に駆け寄る。

光の先は開けた広間、そこはいくつもの通路とつながっておりテントや武具も置かれていたようだ……だが今一番に目が入った光景は其処では無い――

ヴリトラが来た通路方面を守るように建てられたであろう無残に壊されたバリケード。

 

辺り一帯に飛び散る盗賊の血と肉片、その人間だったモノが使っていたであろうボウガンや剣といった武器。

爪の様なモノで切り裂かれた跡が目立つ荷物が散乱し崩れたテント。

そして……恐怖によって狂った表情をしながら倒れている無残な死体の山と大量の血だまり――

凄惨な現場とその時の恐怖が一瞬で理解できるおぞましい地獄絵図、異種族の体でなければヴリトラさえ恐れてしまっていたであろう光景が目の前に現れていた。

 

無数の死体はあるが先行したハズのシャルティアの姿はなく、周辺の死体を漁り何かを探している一緒に先行した吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)が居るだけだった。とりあえずヴリトラはこの場で何が起こったのか……まぁある程度想像は付くが、一応聞いてみることにした。

 

「おい吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)よ、なにがあった?」

「邪……ヴリトラ様!申し訳ございません。この場所に逃げた男を追いかけていたのですが、途中でシャルティア様の〈血の狂乱〉が発動してしまい……」

「相手の能力を調べる前に殲滅したと……」

「……はい、私も止めに入ったのですが……暴走の方が強く」

「はぁ~……仕方ない、お主のせいではないから気にするな」

 

<血の狂乱>、シャルティアが持つスキルでもありペナルティでもある存在。血を浴び続けると戦闘力が増大するが、精神的制御が利かなくなってしまうスキル。

ここに来るまでの戦闘は「私共にお任せを」と言われたのでブレイン・アングラウスが来るまでずっと任せてしまったのが裏目に出てしまったようだ……。

アインズ達はこの時の為にお目付け役としてわえを傍に置いたというのに……発動条件の事をすっかり忘れてしまっていた。

 

「で、そのシャルティアは何処に行ったのじゃ?」

「シャルティア様はこちらに」

 

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)が案内した場所は他のテントより比較的綺麗に形を保っている一つのテント。

中にはいると無数の木箱が散乱しており奥には他の洞窟の通路と違い小さく狭いが通路が続いていた。そしてその通路の入り口付近にもう一体の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)がわえを待っていた。

 

「どうやらこの通路は隠し通路のようでして、あの男はその先に向かったようです」

「それに気づいたシャルティア様は急ぎこの通路に駆け入ってしまいました……。報告したい事もあったのですが」

「報告したい事?」

「はい、つい先程この盗賊共のアジトに向かって進行してくる集団が一組見つかりまして、身なり的に冒険者だと思われます」

「そうか、では案内せい。そちらはわえが対応する」

「畏まりました、こちらです」

 

吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)は隠し通路へと案内する、ヴリトラ達もその後を追いかけ通路を進む。

細いがある程度綺麗に舗装された逃げ道を通り、出口であろう月の光が入ってくる場所を出る。そこにはすでに異形化したシャルティアと9割殲滅された冒険者達の残骸が散らばっていた。

よくみると一人だけ殺さず残している様でその人間は武器を落とし無抵抗で異形化を解き何かを問いただしているシャルティアの前に座る、どうやら催眠を掛けているようだ。

ヴリトラもシャルティアのいる所に合流し声を掛けようとおもったその瞬間――

 

「―――!?」

 

シャルティアが何かに気付いたのか突如森の方を眺め催眠を施した人間をほったらかしにし全速力で森へと駆け出した。

 

「っ、居たと思ったら今度は森へと駆け出すとは!何が起こっておるのじゃ全く‼‼」

「ヴリトラ様、この冒険者の女はどういたしましょう?」

「その女の処遇は後でよい、とりあえず催眠が解けぬよう一人は見張りに着け!もう一人はわえと共に来い!」

「はっ!」

 

今日何度目かわからないが森の方へ急ぎ駆け出すヴリトラ、超高速で動きながらも的確に前方の樹々や障害物を最短のロスで躱し突き進む。

前方の森の切れ目からは何かの戦闘音と、竜に似た咆哮のようなものが聞こえて来た。だがそれだけでは無い――

森の奥から感じるのは……()()の気配。

 

「あれは……」

 

森の出口付近に到着し様子を伺うヴリトラ、眼前にはシャルティアと5人以上の重装備をした者達が目の前で戦闘を繰り広げていた。

シャルティアもその者達が危険な存在だという事に気付いたのか急ぎ排除しに掛かる。

 

大楯持ちが白いスリットのチャイナ服に似た服を着た老婆をカバーする、シャルティアもその老婆が一番危険だと感じ取ったのか急ぎ排除にかかる。

シャルティアの前に立ちはだかる大楯使いとその背後からカバーするように攻撃に移る長髪の男が襲い掛かるがシャルティアはその男の槍が振るわれる前に先制し爪で攻撃し防御した。

そして、あいている脚で大楯に強烈な中段の回し蹴りを放ち大楯使いを老婆の近くまで大きく吹き飛ばしつつ両手で槍使いを攻撃する。

槍使いはその攻撃を何とか槍で受け()()が横に吹き飛ばされ樹に背を叩きつけられ、少し苦悶する表情を見せた。だがその顔はまだ戦意に満ち溢れている。

 

「シャルティアの一撃で死なない人間じゃと⁉」

 

まさかの光景で気が動転するがまだ戦闘は続く――

シャルティアは槍使いを吹き飛ばし障害をはねのけた後は集団の中で少し離れた位置にいる大剣持ちとマジックキャスターと思われる女性を魔法で拘束し抑える。

そしてそのまま老婆を襲撃……するハズだった。

 

突如老婆の頭上から光のオーラで作り出された龍が降り立ちシャルティアに向かう、そして龍をかたどったオーラがシャルティアを包む。

シャルティアは突如動きが鈍くなり苦しそうな表情を見せる――

 

「っ、あの服はまさか⁉」

 

ヴリトラは老婆の服をみて思い出した、あれは――

 

――ワールドアイテム

 

ユグドラシル時代にあらゆるプレイヤーが求めた最上位のアイテム。

一つ存在するだけで戦況を大きく変えてしまうチート級の武具やアイテムの総称。

あれはその内の一つ「傾城傾国(けいせいけいこく)」に違いない。白銀のチャイナ服に黄金の龍の刺繍、そして天から降りて来た光る龍のオーラ……何度かユグドラシルで見たモノと同じだ。

 

「ワールドアイテム……‼‼この世界にも存在するか⁉」

 

シャルティアは今「傾城傾国(けいせいけいこく)」の能力である精神支配に抗っているのだ。

自身の意識が薄れながらもシャルティアはスキルで作り上げた槍を持ち最後の一矢として全力の一投を放つ。

その槍は大楯使いの両盾をいともたやすく貫き盾使いの体の一部をえぐり取った、その勢いは衰える事なく後ろの老婆の心臓も共に貫き始末して見せたのだ。

 

「―――――――‼‼」

 

長髪の男が老婆と盾使いに駆け寄り声を掛ける。一方のシャルティアはいまの最後の一矢ののちにピクリとも動かなくなりその場に佇んでしまった。

 

「っ‼あれは野放しには出来ん‼‼」

「ヴリトラ様⁉」

「わえが真の姿であの者達を囲う、その隙にお主はナザリックに戻り報告せよ!」

「で、ですが!」

「急げ!わえは分体、洗脳されても分体を消せば本体は無事じゃ!それに今わえには<伝言(メッセージ)>が渡されておらん!お主が頼りじゃ、行け‼‼」

「……かしこまりました、ご武運を!」

 

ヴリトラの体から青と黒の禍々しき炎が噴き出す。

その炎はみるみると周囲の物を焼き広がりあの人間達を囲い込み、そして黒き炎の壁が森に広がった。

 

 

 

 

 

「っ!なんだ、この炎は⁉」

――何者だ

 

炎の壁から突如声が木霊する、複数の女性が同時に喋っているかの様に重なり合った恐ろしい声が。

長髪の槍使いが盾使いを抱えながら周囲を見渡すが、見渡す限り青と黒の混じった炎の壁が広がるのみで声の主は見えない。

 

「っ、どこに居んのよ!」

「よせ、無闇に魔法を使うな!」

――わえの眠りを妨げたのはお主か

 

炎の壁から青い巨大な顔が浮かび上がる。

その眼は蛇竜の如き鋭い眼光、あらゆる生物を一飲みできそうなほど巨大な口……そんな恐ろしき顔が炎の壁から無数に浮かび上がったのだ

人間の集団はその考え難いおぞましき光景を見てしまい体が強張り凍り付く。

あれは逆らってはいけない――

そう心の底から思えるほどに、恐ろしく強大な存在だった。

 

「わ、私達は……とある国から来たものだ」

「た、隊長⁉」

「あれは明らかに竜種だ、討伐対象だ――」

「――静かに⁉」

「「っ!?」」

「……攻撃しても死ぬだけです」

ーー……ほう

 

槍使いの男は他の人間達とは違い恐れを抱きながらも勇敢にヴリトラの前に立つ。明らかにこの世界であったどの人間とも違う勇敢で強靭は心をもった強き者の風格、あきらかに他の人類の壁を一つか二つ超越した存在である事は確かな様だ。

 

「我々は法国の者、私はその隊長だ……」

ーー何故この地に来た……虚偽を言えばどうなるかは分かるだろう?

「……とある情報収集の任務中、突如情報収集していた我が国の聖女の一人が謎の爆発により亡くなった。国の上層部はその原因は"破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)"が復活したのが原因だと判断し、その調査の為我々は行動していた」

 

"破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)"……王国の書籍やこの世界史を記録した書物等をかたっぱしから読み漁ったが聞いた事が無い名前。

ただ"破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)"という単語は無かったが竜王という単語は何度か目にした。

ニニャが教えてくれた歴史の中に竜王という単語が出て来た。なにやら強大な力を持った存在と戦い多大な犠牲を払いつつも勝利したとかなんとか……。

この場合私がプレイヤーだとばれると面倒な事になりそうと直感的に感じたヴリトラはリアルで培った演技力と想像力でこの場を収めようと動く。

 

ーーキッ、キッヒッヒッヒッヒィ‼竜王(ドラゴンロード)とはこれまた久しいモノを聞いたものだ‼

「……貴方は、"破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)"では無い……のか?」

ーーなんじゃわえを知る物はおらんのか?

「……この場には」

ーーわえは……竜王を超えた真なる龍種なり

「……竜王を超えた存在?」

 

「(んー、ヴリトラの種族解説の中に「2000年以上存在する"真なる龍"の一体」だとかなんとか書いておったしその背景をそのまま用いるかの。最高峰の種族らしく少し見下した感じで……)」

 

ーーなんじゃ2000年以上たつと真なる龍の事すら知らぬと申すのか?キッヒッヒ……人間は変わらず劣っているのぉ

「嘘だ……!そんな種族存在するはずが――」

ーーわえが虚偽を語ったと?

「ヒィ……‼‼」

「どうか殺意を抑えていただきたい、彼らは先程の吸血鬼との戦闘で仲間が傷つき……少し、冷静ではないのです」

 

真なる龍の威圧力はかなりの強さがある様だ。

ユグドラシルでも竜王(ドラゴンロード)やその上である竜帝(ドラゴンカイザー)はユグドラシルでも屈指のボスとして君臨していた。

ナザリックの面々も大規模部隊を編成し討伐を計画する程に強大な存在――

だがこの世界とは違い"ユグドラシル"は所詮ゲーム、動きやスキルはパターン化されており周回するとなれば少数でクリア可能ではある。

実際この姿である〈アスラの中の最上のもの(ヴリトラ)〉はユグドラシルでの竜種ボスの一体である氷の魔竜<氷極の竜王(ヘルフリギット・ドラゴンロード)>を倒し極稀に手に入るアイテムを入手――

その後ヘルヘイム上空の雲海に住むドラゴンのレイドボスである〈海曇の竜帝(シークラウド・ドラゴンカイザー)〉を複数のギルドと協力し討伐する事で取得する事ができた超希少な種族だ。

 

――(あの氷の魔竜だけで100以上倒したのはなつかしいのぉ、途中でなれてオルタとたっちとわえの3人だけで討伐したっけのぉ……おっと今はそんな事どうでもよいわ)

――まあ良い、説明した所で理解できるとはわからんからな

――それで、その吸血鬼は何者じゃ?

「わかりません。突如、襲われたのです……」

――ほぉ、なら……()()()()問題ないのう

 

ヴリトラは炎の壁からその本来の姿を見せる――

黒く光る黒曜の如き鱗、その背からなびく壁と同じ炎がなびく背びれ……そして炎の壁からシルエットだけ見えた龍の顔がはっきりと見えた。

その首はシャルティアと近くに居た老婆の死体の真上から急降下し地面ごと飲み込んだ。

首が持ち上がりその場所にあった地面の吸血鬼と死体はこの場から消え去る。

 

ーーふぅ、不純物の混ざった血肉はまずくてかなわん

「っ……」

ーーなんじゃ、何か言いたげじゃのぉ

「いえ……何でもありません(今ここで聞いたところで、かの竜種の機嫌を損ねるかもしれない……すまない、エドガール)」

――ふむ、まあよい。鬱陶しい小石は除いたことじゃし、今すぐこの場を去るというのならお主らは生かしておこう

――ただし戦うと言うのなら、死を覚悟せよ

「た、隊長……」

「……撤退だ、この事を報告せねば」

――報告か……ならこう告げよ、かの国の聖女の死には関与しておらん。それでもわえに危害を加えようとするならば――

――国が消える程度では済まさぬと

「……っ、必ず伝えます」

 

法国の騎士達の背後の壁が消えその先の草原が現れる。隊長と呼ばれた男は既にこと切れた大楯使いを背負いこの場を離れていく。

一瞬こちらの方を見た後、かの者達は自国へと向かい歩みを進めた――

 

「……ふぅ~~~~~~~(汗)」

 

何とかこの場を収める事が出来た、それが分かった瞬間姿が元の人間形態に急速に戻り大きなため息を吐いた。

演技力や想像力はナザリック1を自負しては居たが、少し間違えば殺し合いになる可能性がある中での演技は心労がいつもの比ではない……一気に肩の力が抜けその場にへたり込んだ。

 

「全く……慣れない事はしないほうが良いな(パチンッ)」

 

ヴリトラが指を鳴らすと先程自身の顎で抉り喰らった地面の周りがヒビ割れ青黒い立方体が姿を現す。

これはブリトラがもつ固有スキル天地を覆い隠す隔絶の障壁(バリアズ・カバー・トップ・アンド・ボトム)――

効果は単純、「あらゆる概念を隔絶する結界を自在にMP消費なしで発動できる」というモノ。

その効果でシャルティアの周りを結界で覆い、まるで龍に喰われたかの様に見せかけたのだ。実際には喰ってはおらず結界で覆い、光すら隔絶した結果その場所にあったモノが抉れ消えたように見えたというカラクリである。

 

「さて、シャルティアはどうするかのぉ……」

 

近くの老婆の死体が着ていた傾城傾国(けいせいけいこく)は無条件で支配は出来るが支配した存在が行動するのには数分掛かる。

今はどんなに触れたり攻撃しても反応する事は無く今の内なら攻撃し、殺す事が出来ればすぐさま洗脳は解除され復活できるのだが……

 

「アインズがそんな事許すはずがないよのぉー……」

 

アインズはギルドとそのメンバー、NPCに自身の家族同様の愛を持ってしまった。

以前から怖いほどに感じた依存ともいえるギルドへの執着――

彼がどのような人生を歩んだかは知らないが狂っているとしか思えない程の執着を何度も目にしてきた……そんな男が「シャルティアを殺した」と知ったら……

 

「あー怖い怖い、連絡あるまでこの場で待機するかの」

 

伝言(メッセージ)>の魔法を本体から分体に渡されていない為連絡手段が無いヴリトラは仕方なくこの周囲を結界で覆い先程と同じく光を隔絶し周囲に溶け込む。

その間暇なヴリトラは一緒に閉じ込めてた老婆の遺体からワールドアイテムを脱がし確保する。

そしてシャルティアから離れた位置に座り込みシャルティアの動向を見守る――

 

「ワールドアイテムか。こりゃ荒れるかもしれんぞ?オルタ……」

 

ワールドアイテムを眺め小さく呟くヴリトラ。

彼女は知らない、その言葉はいずれ現実の物となる事……そして、その波乱のキーとなる存在が今この結界の上を飛び去った事を――

 




前話続けてぶっ通しで作った分疲労誤字多すぎてスイマセン……。

気づき次第随時修正していきますのでよろしくお願いします<(_ _)>


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2章 騒乱・侵蝕・決起
第10話


遅くなってしまい申し訳ない……!

身内がコロ助に掛かり、一家全員診断したら見事に全員コロ助に掛かってました……。
幸い一番に治ったのは私でしたが、その後のコロ助看病やら手続きやらなんやらあり遅くなりました……!


これからも不定期な更新が続きますが、よろしくお願いいたします


エ・ランテルの騒動から翌日……。

モモン達は宿の一室にて先程貰った報奨と新たなプレートを確認していた。

前回のアンデッド騒動を救った救世主として、ギルドに大きく評価され一気にランクが上がりオリハルコンへと昇級することが出来た。

いきなりの昇級に回りの冒険者が突っかかってきた奴らも多かった。だが大抵は拳一発で沈められるので物理的に黙らせた。その光景をみた他の冒険者達もモモン達の強さに納得し、これ以上突っかかってくることは殆ど無かった。

 

「それにしても、オリハルコン止まりとは……あのミジンコは御方を見る目が無い。アインズ様、やはりノミ蟲共の国で評価を貰うのではなく我らナザリックの力を示す為に侵攻するべきなのでは――」

「――馬鹿を言うな、この世界に我々と同じ世界から来た者がいないとも限らないのだ。急げは滅ぶのは私達なのかもしれないのだぞ」

「そのような事!ナザリック全軍をもってすれば……!」

「ハァ……ナーベ、確かに我々の力は人間の国と比べるまでも無く強い。だが世界一では無いのだ、その余裕はいずれ治さないと……身を亡ぼすぞ」

「っ、畏まりました」

「……あれぇ?」

「どうしましたラピュセルさん?」

「いやぁ、未だに分体と連絡付かないんですよねぇ……」

 

ラピュセルは昨日から分体であるヴリトラへと連絡をしようと<伝言>を飛ばそうとしているのだが全く反応がなく、返事が返ってくることが無い。

 

「んー?何してるのかしら、向こうの私」

「もう分体戻ってるんじゃ無いんですか?」

「いや、それだと自分に譲渡したスキルや種族が帰ってくるはずなんです、けど未だ帰ってきて無い…まだ活動中みたい」

「となると、何かしらアクシデントが?」

『そうみたいだぞ』

 

モモンとラピュセルの元にオルタから<伝言>が飛んでくる。

オルタとグレイは別行動でナザリックに戻っておりオルタは留守中の間に問題が無いか確認を、グレイは情報収集に長けた者に冒険者活動で集めた情報を伝えこの世界についての資料を纏めてもらっている。

 

『オルタさん、問題とは?』

『ああ。今しがたシャルティアの従者である吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)が一人帰ってきてな、私達が墓地で暴れていた裏の様子を聞いた』

『なんといっていました?』

『ああ、吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)の報告だとな――』

 

オルタは吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライト)から聞いたアンデッド騒動の裏、ヴリトラ部隊で起こった事を全て話す。

ガゼフと互角の戦いをしたブレインという男、シャルティアの<血の狂乱>による暴走、冒険者チームとの遭遇と一人逃がしたという失態……そして――

 

――法国の強者、ワールドアイテムを所持した部隊との邂逅を。

 

『……やっぱりこの世界にもあったんですね、ワールドアイテム』

『今回はアインズの慎重さが良い方向に転んだな』

『それで?なーんで私の分体は<伝言>出ないんですか~!ワールドアイテム持ちはシャルティアが倒したと言うんなら返事できますよねぇ?』

『……お前、<伝言>分けてないだろ』

『……あれ、わけないと返信できませんでしたっけ?』

『忘れてたなお前……』

『それにラピュセルさんが<伝言>渡してたら、本体が使えなくなりますよ?』

『あ~~~~~~~~‼完全に忘れてましたぁ~~~~‼‼』

『大丈夫かお前……(呆)』

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

オルタから連絡があった日の翌日、案の定私達にギルドの組合長から招集が掛かった。

モモン達はその招集に応じ組合の組合長専用の会議室に案内された、部屋の中には以前話した組合長のアインザックと、魔術師組合長のラケシル。

そして私達以外に召集されたミスリルの冒険者チームの代表さ3人が座っている。

 

「よく来たモモン君、アルトリアさん。空いている席に座ってくれ」

 

言われた通り空いていた席に座るモモン達、座った後簡単に他の呼ばれた冒険者達の説明を受ける。

ミスリルに見合った風格は持っている人間達、防具もモモン達にとっては初期装備に視える武具だがこの世界では上位に入る武具を来ている。

 

会議が始まる前、ミスリルの冒険者チーム「クラルグラ」の代表者のイグヴァルジが私達に突っかかって来たが組合長が丁寧に私達の凄さを丁寧に伝え一時的に黙らせてくれた。

今回の件の重大さもあり、組合長の言で一旦は黙って座るイグヴァルジだが、この感じだとまた突っかかってくる未来が想像できた。

 

「まず簡潔に。二日ほど前の晩、エ・ランテル近郊の街道を見回っていた冒険者達が吸血鬼と遭遇、その吸血鬼は遭遇した冒険者5名を殺害しました」

「今回集まってもらったのはその吸血鬼に関してです」

「(やっぱりシャルティアの件か……)」

 

ワールドアイテムを身に着けていた法国の者とは違いシャルティアが先行して出会ったエ・ランテルの冒険者達……どうやらヴリトラについての情報は渡っていないようだがシャルティアが暴れた事で討伐依頼が出た――

これは、上手く使えば更に冒険者としての地位を上げることが出来るかもしれない。

 

「その吸血鬼の特徴は?」

「生き残った冒険者に聞いたが、あまりの惨劇と恐怖にぼんやりとしか覚えてないらしいが銀髪に大口というぐらいだ」

「(まあ人間があの状態のシャルティアを認知したらそうなるな……)」

 

その後分かっている限りの情報を知らされる冒険者達。

吸血鬼は第3位階の魔法を幾度も使用していた事、プラチナ級の実力を持ち、軍に換算すれば万は行くだろう戦力を一体で確保していると思われる事実……。あまりに桁外れな化け物に周囲の冒険者達は怖気づく、この依頼は私達には手に余る――

 

――数人を除いて

 

「おい、そのヴァンパイアの姿はこれで間違いないか?」

「これ?……その本は」

「エ・ランテルの本屋で売られていた古い魔物の生態記録書の様だぞ、私も詳しくはしらない」

「その本、見せてくれないか」

「ああ、いいぞ」

 

この本、実際に本屋で買ったのだが実際はただ私達が仕組んだ蔵書。

吸血鬼やグール等のアンデッドだけを取り扱った本を簡単にでっち上げ本屋の奥に置かれていたと店主に嘘を付き買ったモノだ。

アインズには「自分達はこの吸血鬼を追ってこの地に来たと理由でも良いのでは?」と言われたが、それだと後々私達の素性に疑問を感じた者が出た場合の対処に困る、其の為邪ンヌに頼んで書いてもらった。

ナザリックで作りあえて劣化させたり損傷を作ったりした適当な本だが、内容が適当だとしても外見が古ぼけていれば貴重な本に視えるのが人間、簡単に騙せてしまう。

 

「ふむ、どうやらアンデッド等のモンスターを中心に書いた本の様だな、吸血鬼の欄も多くある」

「その欄に先程の証言に似た吸血鬼が書いてあるだろう」

「確かに、「銀の髪、大口が特徴的な吸血鬼:種族名不明」……確かに証言と似ている」

「名前は「カーミラ」、そう名乗ったバケモノらしいな」

 

この本の著者は現実世界で本を出しバカ売れしていた邪ンヌ。

キャラの設定も以前に漫画に使ったキャラクターの名前や特徴をそのまま引用しただけであるが、様々な本を読み漁りそれらしく表現するマンガ作家の一品はそれが偽物と気づかせることは無かった。

 

『流石私の一作、バレずに読み漁ってます……♪』

『実際、現実に魔物が居たら漫画作品の生態を確認したりするのかもな……』

「ふむ……謎多き吸血鬼ということもあり詳しい生態等は書かれていないか。よし、これを生還した冒険者の所に見せてみる。借りるがよろしいか?」

「いや、そのまま寄付という形でいい。ギルドが持っていた方が有用だろう(訳:そんな贋作ならいくらでも)」

「そうか、それはありがたい。それで吸血鬼討伐の件はどうだ?」

「もちろん、偵察もかねて引き受けますよ」「私もです」

 

「で、では他のチームは――」

「不要だ、足手まといは吸血鬼を増やすだけだ」

 

モモンは言葉を遮り、邪魔だと軽く手を振る。

オリハルコンクラスの冒険者二名が放つ一種の暴言、だがその暴言は一人を除き不快に感じることは不思議と無かった。

 

「なっ何を⁉」

「……それほどの自信があるのかね?」

「切り札はある、この魔封じの水晶だ。これには第八位階の魔法が込められている」

「なっ⁉魔封じの水晶だと⁉法国だと至宝とさえ言われているマジックアイテムだぞ⁉」

「そ、それに第八位階だと‼‼神話の領域ではないか⁉」

「くだらない‼嘘に決まっている‼‼」

「ほう、まだ鑑定はしていない。試してみるか?」

「グッ……‼」

 

モモンがヘルムの下で冒険者を睨む。一度の睨みだが、それを間に受けた冒険者達は威圧を間に受け言葉が出ずに怯んでしまう。まるで蛇に睨まれた蛙の様な感覚を肌で感じているのだろう。

 

「モモン、そんな余裕はないだろう」

「アルトリアさんの言う通り、そんな時間は無いハズだ。そうだろう、組合長?」

「――報酬は」「なっ組長‼」

 

組長は返答せず話を先へと進める。彼ら組合にとって最重要な案件、一分一秒でもこの異常事態を収めたいという意志の表れだろう。

 

「後で構わない。実際にその場に居るのかわからない存在なのだ、倒したらの話は終わってからでも十分だ」

「……チッ、俺はついていくぜ」

「邪魔になるだけだ、私達のパーティーだけで十分――」

「信じられるわけねぇだろうが、ぽっと出の新参者が‼‼」

「おいイグヴァルジ、止さないか‼‼」

 

イグヴァルジはアインザックの静止に聞く耳を持たず、感情的に叫び続ける。

この男、どうやら騒乱があった日に依頼で遠征していたらしく、実際に出来事がどうだったのか見ていないのだ。

それに踏まえ、数週間前に登録した新参者がいきなり自分達より上のプレートを身に着けている……長年積み重ねていまの地位に立った俺達よりも……!といった感情ゆえの愚かな行動だろう。

確かにユグドラシル時代、そういったプレイヤーに嫉妬した時も昔はあった。けれど数週間もすればそんな考えがいかに阿保らしいか理解できる、その人物が余程の"馬鹿"でない限りは――

 

「勝手にすればいい、一時間後エ・ランテル正門前に集合だ。先に偵察や地形を把握しに行く」

「あ?ああ、わかった。すぐに準備を整える」

 

ハッキリと伝わるモモンの苛立った声色にイグヴァルジは了解の意を告げるとは席を立ち、足早に会議室を後にする。アインザックはその姿を見て深いため息をつき手で顔を覆っていた。

 

「すまないなアルトリアさん。彼は何年も前から高ランク冒険者として行動していたせいか性格が変わってしまったようでな」

「気にしないでください、どこにでもああいった人間は少なからず存在しますので」

「ええ、貴方が気にする事では無い。私達は、この程度で苛立つような狭い心を持ち合わせていないので。(まぁ苛立ち関係なく、付いてくる奴は殺す予定だったがな……)」

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

街を出てシャルティアが発見された付近の森に入ったモモンとアルトリア、ここで行う事は……邪魔者の殲滅だ。

先に呼んでおいたマーレに幻術を仕掛けてもらい、そこにイグヴァルジのチームも招き入れた。

そして、慈悲を掛けることなく一人一人確実に殺していく…イグヴァルジ本人はアウラの能力により操られた無数の黒い蔦で木に巻き付け拘束、目の前で次々と仲間が殺されている瞬間を強制的に見せつけられていた。

 

「クソォ‼‼ちくしょぉ‼‼放せ‼‼話やがれぇぇぇ‼‼クソが‼てめぇらぶっ殺してやる‼‼」

「五月蠅い人間だ……」

「私達は警告したはずだ。そしてお前はそれに従わなかった……ならばこれがお前が選んだ選択肢の結果だろう?甘んじて受け入れろ」

「えっと……その、ごめんなさい!」

 

マーレが近づき持っていたスタッツを大きく振りかぶる。

可愛げなダークエルフの少年の姿が、周囲で眺めているバケモノ共と同じ様に……黒く歪な存在に見えた。

イグヴァルジはこれからどうなるのか悟り、命乞いをするが……。

 

「や、やめてくれ……‼‼やめてくれ……‼さっきまでの非礼は詫びる……!だ、だから……助けて……」

「う~ん……えぇぇいッ‼‼」

「やめろ……‼‼やめろぉぉぉぉぉっぉぉぉぉ‼‼

 

グシャッ.¨  .

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

ポタポタポタと、脳液と頭肉が付いたスタッツから赤い鮮血が滴り落ちる。

この人間達は、私達がでっち上げる任務で出た犠牲者として扱われる為の道具どして使う。それと部位だけ切り落としナザリックで蘇生、アインズの上位アンデット作成の媒介にできるかどうかの実験を行う予定だ。

 

「さて、ここから先は私達とアルベドで向かう。万が一に備えマーレは偵察魔法を使い警戒、ナーベラルとグレイは一度この場を離れナザリックに撤退しろ。こちらが終わり次第、さいど冒険者として行動する」

「畏まりました、アインズ様」

「は、はい。畏まりました」

「よし、では向かうとするか。ゆくぞアルベド」

「畏まりました、アインズ様」

 

アインズとオルタ、邪ンヌとアルベトは森を抜けシャルティアが発見された地へと進む。

森を抜けた先に視えた者は大きな青黒いキューブ、そしてその前に脚を組み、森から取ったのであろう赤く小さなベリーに似た果実を口に投げ入れる竜人の女性が居た。よく見ると、手元に山盛りの果実を抱えている。

 

「あぁ!ヴリトラ()~‼よーやく合えたわ!」

「んむ⁉ンッ!ンッッ‼(ゴクンッ) ん、んん……お、おお!アインズにアルトリア!それに邪ンヌ(本体)‼やっと来たようじゃな!」

「遅くなってしまい申し訳ないな……えっと……」

「んあ?わえの呼び名か?種族名で呼んでもらえは良い、ヴリトラじゃ!」

「そうか。ではヴリトラ、この場で何が起こったか全て教えてもらうぞ」

「うむ、結構複雑な事が起こったからな。しっかり聞いておれ!」

 

ヴリトラはあの晩に起こった事全てを話し始める。

盗賊達の殲滅、ブレイン・アングラウスの発見と確保失敗、それに焦ったシャルティアの暴走、エ・ランテルの冒険者チームの虐殺……そして法国の部隊との会話、その全てを。

 

「……そうですか」

「また厄介事が増えたな。ここでさらに法国と事を交える様になれば、この世界存在するかもしれないプレイヤーが勘づくぞ」

「それよりも聖女の爆発って……()()が原因じゃないの?」

「何か気づいたのですか?邪ンヌ様」

「ほらあの時、私達が初めて公に行動したカルネ村よ。あの時も法国の雑兵達を一方的に殺したじゃない?」

「ああ、そんな事もあったな」

「その時、誰かが戦場を視ようとしていたでしょ?」

「たしか、そうでしたね」

 

実はカルネ村を守る為に戦っていた際、何者かが私達を偵察しようとしていた。

アインズの情報戦用の魔法が起動し我々の事等が知られる前に対策は出来てはいたが、その件と聖女の死がどう結びつくというのか。

 

「アインズ、"攻性防壁のカウンター魔法"は何だったかしら」

「カウンター魔法ですか?たしかー <爆裂(エクスプロージョン)>……あ」

 

今の一言で完全に答えが出た。そう、あの時偵察魔法を仕掛けてきていたのは法国の聖女だったのだ。そして聖女はアインズのカウンター魔法がある事を知らずのぞき見た結果……爆発四散した……と。オルタとアインズは膝から崩れ落ち手で顔を隠す、向こうの自業自得とはいえ結局はナザリック絡みだったのだ。

 

「あ、アインズ様⁉オルタ様⁉どうなさいましたか!」

「(クソデカ溜息)……おいアインズ、これは流石に……想定外だぞ」

「私だって、こうなるとは想像すらできないですよ……」

「ブッフフフ……悪い事したら必ず自分に帰ってくるとは本当だったのね♪」

「「お前/貴方にも関係ある事 ですからね⁉/だからな‼」」

 

アインズとオルタが声を揃えて突っ込む。何故邪ンヌはこうも緊張感が無いのか……不思議に思いながらもまずは目の前の事態に対処する為に動く。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。すまないなアルベド……」

「はぁ……とりあえず法国の件は後回しにしよう、まずはシャルティアだ。何処にいる?此処には居ないようだが――」

「――ああ、此処じゃよ」

 

ヴリトラは指を鳴らすと、正面の何もない空間がまるでガラスにひびが入ったかの様な高い音を立てながらヒビが入る。

そしてヒビが広範囲に広がると、バラバラと欠片が崩れて何もない空間から深い青色の立方体が姿を現した。

 

「なるほど、ヴリトラ()のスキルを使って隠してたのね」

「そうじゃ。これで完全に姿と気配を隔絶していた、このスキルなら第10位階でも探知は難しいゆえ第三者バレた可能性は無いはずじゃ……では、解除するぞ」

 

パチンッとヴリトラが指を鳴らし結界を解く。上からヒビが入りパラパラと結界の破片が粉雪の様に舞い散る――

 

そしてその結界の中からは、スポイトランスを片手に持ち顔を下に向けて無表情のまま佇んでいるシャルティアの姿がその眼に映る。

ピシピシッ、パリンッと結界が砕ける音が響き渡るがその音など気にする素振りすら起こさない、シャルティアの色白い肌も相まって、まるでマネキンである。

 

「……シャルティア、シャルティアよ。聞こえているか」

 

オルタが声を掛けるが全くと言っていいほど反応が無い。普通直立で立って居る人間は多少左右に揺れていたりするのだがそれすらしていない、本当にマネキンの様だ。

 

「やはり反応はないですね……」

「という事は……<鎧強化(リーンフォース・アーマー)>」

 

邪ンヌは自身に簡単な魔法を掛ける。目の前のシャルティアはその動きに反応する事は無く、呆然と立って居るだけ。

どうやら攻撃などシャルティア自身に影響がある行動をしない限り行動を起こすことが無いようだ。この反応はユグドラシルでも同じ仕様であった。

 

「やっぱり、強化魔法にも反応しない。ユグドラシルの時と同じね」

「その辺は同じなのか……少し安心だな。よし、そろそろシャルティアに声を掛けるとしよう。ヴリトラ、傾城傾国(けいせいけいこく)を」

 

オルタの言葉に頷きヴリトラは肩に掛けていた白い服を投げ渡す。傾城傾国(けいせいけいこく)、持ってみた感じは普通の服と大差ないように感じる、こんな服だと言うのに世界を揺るがしかねない超大物アイテムというのだから恐ろしいモノである。

 

「シャルティア、シャルティアよ。聞こえているか」

 

傾城傾国(けいせいけいこく)を手に持ったオルタが声を掛ける。すると、先程までの無反応ぶりとは打って変わりすぐさま声に反応し勢いよく顔を上げた。その声の主を瞬時に理解したからか、見えた表情はいつもと変わらず恍惚とした表情である。

 

「っ⁉オ、オルタ様!あぁ、オルタさまぁ……♪」

「(ヒエッ……)ウウンッ……シャルティアよ、目覚めたか」

「はいぃ♪至高なるオルタ様の美しき声にて、ばっちりこの通りでありんす♡」

「そ、そうか……(オルタ(今の私)でも流石に引くレベルの顔していたな……)」

 

あまりに不気味なシャルティアの表情をみて引き気味のオルタであったが、すぐさま切り替え洗脳を受ける前の情報を聞き出そうとする。

 

「シャルティアよ、お前はここで何をしていた?」

「何を……?確かあの洞窟で人間共を襲って……誰かを追いかけてて……それで……」

「……朧気か」

「は、はい。申し訳ございません」

「アインズ様、この症状は?」

「洗脳による影響だろう。ワールドアイテムクラスの洗脳だ、記憶が混濁している」

「(だとしても、そんな前の所から朧気になるモノかしら?それこそワールドアイテムの強さゆえ……なの?)」

「それじゃあ、お前が覚えている一番新しい記憶を思い出してみろ」

「一番新しい、でありんすか?」

「えっと……たしか……冒険者達を殺し……その後……誰かと、戦った?うッ!あ、頭が……痛む?」

「そうか、無理にとは言わん。楽にしろ」

「は、はい……」

 

やはり記憶の乱れが激しく洗脳を受けた戦闘に関しては殆ど無いようだ。それにしても法国……ワールドアイテムすら保持する強大な国、この世界にきて最も重要になるであろう場所が見つかったのは良くも悪くも貴重な情報だ。

 

「最後だが……()()()()は誰だ?」

「主……そ、それは偉大なる御方であらせられる恩君、()()()()でありんす!」

「……そうか」

 

いつものシャルティアなら今のセリフ、私では無くペロロンチーノと100%いうだろう問いであった筈だ、それを「オルタ様」とは……やはりワールドアイテムは恐ろし、いや……シャルティアなら私と言う可能性もありそうだぞ?

 

「シャルティアよ、お主は今洗脳に掛かっておる」

「せ、洗脳?この私が、でありんすか?ま、まさかそんな……」

「本当の事よシャルティア。それとも偉大なる御方のお言葉が間違っていると?」

「アルベド……。い、いえ……そのような事は――」

「アルベド、余計な口出しは控えろ」

「はっ、申し訳ありません。オルタ様」

 

「謝る必要は無い。シャルティアよ、お前に非はあるわけでは無いのだ。なにせ、かのワールドアイテムが関わっている。だからそう恐れるな」

「ああそうだぞシャルティア、むしろよくやったと褒めたい所だ」

アインズ様!オルタ様!それはあまりにもシャルティアを甘やかしているのでは……⁉」

「いーや、アインズの言う通りよ」

「じゃ、邪ンヌ様まで……⁉」

「まぁ待てアルベド、順を追って説明する。だが、まずはシャルティアの洗脳を解くのを優先しよう」

 

そういいオルタは右手に握っていた傾城傾国(けいせいけいこく)を空へと掲げる。すると握られた傾城傾国(けいせいけいこく)の竜紋様が光り出し、眩いオーラの竜が天へと昇って行き……砕けた。

そして龍が砕けるのと同時にシャルティアはフッと意識を失いその場に倒れかかる。すかさず邪ンヌが彼女を抱きかかえ容態を確認する、彼女からはスゥスゥと寝息が聞こえ無事洗脳が解除されているのを確認し、軽く微笑み、彼女の髪を優しく撫でた。

 

「お疲れ、シャルティア」

「解除は出来たようだな。さて、ではアルベド。お前はワールドアイテムについてどれほどの知識を持っている?」

「……私が知っている限りではございますが、"世界の理"その根底から覆しかねない程の力を秘めたアイテム……という事ぐらいです」

「正解だ。だがその効力の強さに関しては……実際に視た事は無いな」

「はい、モモンガ様方はユグドラシルでの冒険において何度か目撃していると、タブラ・スマラグディナ様がお話しているのを聞きました」

「そう、私達はそれの脅威を知っている。その脅威は言葉の通り法則を捻じ曲げる力だった」

 

今思えばあまりにもクソゲーになりかねない要素である。耐性を無効化し強制的に状態異常を与えられたり、固有ステージを塗り替えこちらの有利な環境に置き替えたり……やりたい放題できるアイテムばっかであった。

二十と呼ばれるアイテムなど運営に頼み、効果を発揮させられるモノがあったり等まさに公式チート、公式が病気と言われてもおかしくない要素……。

ぶっちゃけレベル1のプレイヤーが偶然入手したなら、100レベプレイヤーとも戦えてしまうのだから……みな血眼になって探査した事である。

 

「完全無効化を無視しデバフを押し付ける七色の水晶、溶岩地帯"全てを"ジャングルに変えてしまう白紙のキャンバス……でたらめな効果は正に天変地異と呼べる光景だったさ」

「そ、それほどの力だったのですか……」

「ああ、そんなアイテムを保有した相手をシャルティアは相打ちという形ではあるが確実に倒し、そしてアイテムをこちらが入手できた……これ程の功績を誉めずいつ褒めるという話なのだ」

 

シャルティアは素晴らしい事を成し遂げた、彼女が目覚めたら叶えられるレベルの最高の報奨を約束しなければ。

 

「おっと、話し過ぎたな。成す事は終えた、後はこの場での激しい戦闘を行った証拠をでっち上げ退散するとしよう」

「畏まりました。それで、証拠の偽造はどのように」

「アインズ、超位魔法を1発放って欲しい。地形に係わるタイプのだ」

「地形に係わるタイプ……<失墜する天空(フォールンダウン)>ですか」

「ああ、私の剣や超位魔法でもいいが……如何せん範囲が直線状ゆえ、余計なモノまで巻き込みかねないのでな。お前に任せたい」

「了解です、その前に……<|伝言≪メッセージ≫>。マーレ、周囲に人間等の反応はあるか?」

『い、いえ!人一人感知できていません。だ、大丈夫だと思います!』

「そうか、ならば問題なく放てるな。皆、私から離れぬようにな」

 

アインズは杖を地面に突き立て詠唱を開始する――

アインズの頭上に大きな魔法陣が展開され、その周囲を囲う様に無数の魔法陣が円を描きながら回っている。超位魔法、10位階より上の魔法……この魔法は他の魔法、スキルとは一線かけ離れた力を持っているがその分詠唱が必要になり、使用制限も設けられている上、同パーティー同時に発動する事も出来ない。

まぁ専用アイテムがあればある程度デメリットを消せるが、それでもかなりデメリットがある。

それを踏まえても強力な魔法であるため"諸刃の剣"と呼べる魔法だ。

 

 

「超位魔法<失墜する天空(フォールンダウン)>――」

 

 

アインズが詠唱を終える。

いくつもの展開していた魔法陣が巨大な魔法陣の中心へと集約され、一粒の小さな光の雫へと変貌。優しい雫の輝きは徐々に広がり、光を増す。そして2秒後には……私達を除く効果範囲内の"全て"を純白に染め上げた。

僅か5~6秒程度ではあるが、かの天へと上る光柱は、万物全てを灰塵へと変え、瞬く間にアインズを中心とした半径効果範囲内の全万物を一片の塵の欠片すらも逃さず平らげた――

 

光が収まり、見える景色は半径20メートル程はあるだろう巨大なクレーター。

クレーターの奥、効果範囲外の森の樹々は先程と変わらず青々とした緑が見え草木が風にたなびいている。だがすぐ下を見ればそこは地面が数メートル抉れている死んだ大地。この場所は今後数年は雑草一本すら生えない土地になったハズだ――

 

「これで、良いだろう。これ程の規模であればあの水晶を壊し暴発させたという嘘も信ぴょう性が高まる」

「流石はアインズ様です!」

「あとは……この水晶を――」

 

オルタはアイテムボックスからあの時陽光聖典が使っていたモノと同じ魔封じの水晶を取り出し、中心部分から少し離れた場所で思いっきり剣で砕いた。足元に先程までの水晶だった残骸が散乱する。

 

「後で調査が入られても違和感が無いようにしておこう。念のため大き目の破片は手元に残しておくとするか」

「あーあ、勿体ない……」

「ぐずぐず言うな。どうせ宝物庫に未使用品500以上ため込んでいただろう」

「よし、アルベド。後ほど殺した冒険者達の死骸の一部を周辺にばらまいておいてくれ。リアリティと言うのは大切だからな」

「かしこまりました、後ほどインプ達に配置させておきます」

「よし、では夜になったら私達は戻るとしよう。アインズ、邪ンヌは一応戦闘があったように見いせる為に傷、つけておくように」

「わかりました、オルタさん」

「えーーー!あの鎧カッコカワイイし気に入ってるのよ~!」

「文句言うな、なんならお前だけ死んだ扱いでも良いんだぞ?そうなったら気軽に町に出歩く事も出来ないだろうn――」

「――傷でも何でもごじゆーにどうぞ♪」

 

手平クルリと回転させ自身の鎧を差し出す邪ンヌ、ここら辺は原作というよりかは本人っぽさが出ている。

そんなこんなあり、転移して以来一番の多忙な日であった今日はこれにて一段落。

だが"今"が収まっても、"これから"の問題がまだ収まっていない。そのうえ新たな問題までも出て来てしまった……。

この問題はどうするべきか解決策をすぐに模索しなければならない、オルタ達の気が完全に休める日が来るのは、まだまだ当分先である――




簡単キャラ設定

オルタ&邪ンヌの精神変化度合について (低・中・高 三段階にて評価)

オルタ『精神変化レベル:高』

オルタの中の人が考えた"自分好みの設定"、「こうあってほしい」「こうなら素敵」といった"キャラへの願望"が強かった為に精神も自身の設定や願望に大きく引っ張られています。
変に頭の回転が速かったり、自身の考えを通そうとするのはキャラ設定の願望が強くでてるから


邪ンヌ 『精神変化レベル:小』

邪ンヌは設定等を付けて遊んだりしていますが、他の仲間達とは違いそこまで強くこだわっているわけでも無く、「自由気ままに遊んでキャラになりきる!」といったスタイルのプレイヤー ――

その為、キャラ設定による口調や思考は多少変化が起こっていても中身は結構中の人のまま。割合でいうなら7:3で自我が強く残ってます。
無類の美少女・美女好きや、おちゃらけた性格なのも本人の部分が強いから。キャラのメイン種族であるニャル様特有の変幻自在な神性も関わっているのかも……?


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第11話

シャルティアの一件から数か月が経った。

吸血鬼の一件は私達の偽装工作を疑う事すら無く、意外とスルリと受け入れられた。同行した冒険者達の死、大魔法を使わなければ倒せなかった吸血鬼を相打ち覚悟による自爆による討伐、それによる負傷……。

しっかり調べられてしまえばバレかねないモノだというのに、冒険者組合はおろか町の住人すべてに伝わりそれが本当だと信じ、ついにアダマンタイトにまで上り詰めることが出来た。

町を通り過ぎる私達を見つけると、町人は英雄を迎え入れるような態度を向けて迎えてくれるようになった。正直、そこまで大それた事をした感覚が全くないので"一人を除き"複雑な心境である……。

 

その後もギルドの最高難易度レベルの依頼を簡単にこなしていった私達、といっても普通の人間なら苦戦必至といった程度の難易度なので、こちらとしては暇つぶし程度の依頼である。

猛毒のブレスや石化の魔眼をもった「ギガント・バジリスク」の討伐、地中に潜り即死級の攻撃を真下から仕掛けてくる「サンドワーム・ヒュドラ」の討伐 等々etc……意外と強敵分類にはなるモンスターは存在しているのには驚いた。

 

とはいってもユグドラシルとは違い数は少なく、基本一体だけ。「サンドワーム・ヒュドラ」は群れを作り群衆で襲い掛かってくる。それゆえ「サンドワーム・ヒュドラ」は脅威はすさまじく、中級者ですら気を抜いていると窮地に陥るのだが、一体だけならただの雑魚。

三つ首から吐き出される状態異常ブレス、それが脅威なのだが一体だけなら耐性を積めば問題ない。集団でブレスをまき散らし、耐性を強引に突破してくるゆえ脅威なのだ。

 

とまあ、いつもの様に気楽な闘いを終えて帰路につき、周囲が賞賛する。退屈だったここ数年のユグドラシルでは得られなかった感覚に少し心が満たされる感覚をえる。だが、それもすぐに沈み消えていく。

それもそうだろう、何故だって思う事は無い。理由は一つ、「自身がオルタだから」だ――

 

アルトリアが反転したのがオルタ。自身が模範となり、規律を築き上げるのが本来のアルトリア。だが、オルタは規律を正し、国を守るためには容赦と慈悲を掛けない。

たとえそれが、誰もが悪ととらえるような悪逆の基に築き上げられたものだとしても、彼女の根底にあるのは「秩序」、傲岸不遜を貫きながら目指す先は国の為なのだ。自身の突立つ地点は土地の安寧、根本が悪ではない。

それゆえに、あらゆる娯楽も感情も空虚なモノ。目指す先を進むためには感情を捨て、迷いを捨て、情を捨て、暴君になり果てても突き進む。それがオルタが唯一残した夢だからだ。

 

それゆえに、この程度の事で喜びを露にすること自体がイレギュラー。その感情は私がまだオルタと同化しきっていない証拠だろう。この感覚は、嬉しいと思うべきなのか――

 

「……くだらない問答だな」

 

ふと口に出た言葉だった。まるでオルタから私に向けてはなった言葉の様に。そうだ、何を悩む必要がある。私はオルタであってオルタでない。それでいい、細かい事を気にするような自分がおかしかったんだ……そう思い込み、過ごすとしよう。

 

「……少し外を歩こう。シャドウデーモン――」

――はっ

 

影が揺らぐ。アルベド達の心配性によって付くことになったシャドウデーモン、何か一人で動くことにした場合、必ず伝えてほしいと言われてしまった。心配性の気はアインズゆずりだろうか。…創造者タブラだったはずだが、アインズに似るとはこれいかに。

 

「私は一人で出歩く。アインズと邪ンヌに伝えておけ。そして、これから私が体験したことはアルベド達には他言無用だ。変に心配されても困るからな」

――畏まりました

 

返答を返し、シャドウデーモンが陰に溶け込む。指示を理解したのだろう、陰は揺らぎなく元の姿を取り戻した。

 

「さて……少し歩こうか」

 

私は脳内でインベントリを想像し、防具スキンを取り出す。ユグドラシルにも防具の上に着せるスキンがあったりするのだが、ユグドラシルでは防具デザインをそもそも変えたりできたので需要は無かった。

つまるところ、防具の変更が面倒な人用のオシャレアイテムである。

 

私の持つキャミソールとパーカー、短パンにブーツと黒統一したリアルファッションスキンに換装する。スキンなので、元の防御力やスキルは変わらないが、着心地はスキンの服装になる様だ。

鎧の上に着けたスキンなのにキャミソールの感覚がしっかり伝わる。鎧並みの防御力を持った私服とは便利でユグドラシル運営さまさまである。

 

「ふふ…この私服も懐かしいな。着るのは以前のパワードスーツ登場時に出たコラボイベントの時以来だったか?」

 

時々この衣服でエ・ランテルを出かけるが、意外にもこの服装に疑問を抱く人間はいない。盗賊やら騎士やら、様々な衣服が存在するが故の無反応なんだろうか。

 

「さて……歩くか」

 

今更だが、私は王都に来ている。理由としては、アインズと邪ンヌ達はリザードマンの村への襲撃にお熱。私はつまらない見世物を見るよりかは、エ・ランテルの地域を統括している王都がどのような感じなのかをこの眼で見たくなったので残っている。ナーベラルはアインズ側に、グレイはこちらに残って、今は買い出し中だ。

 

「活気はある、貧困差が激しいと聞いていたが……そのようだな」

 

王都、温厚な王が統治する国だけあって活気は十分。だがそれは表面上だけのようで、少し路地を変えて、細道に入れば治安の変化は一変。陰湿な空気が流れ、闇市やスラムが表面的に出てくる。

やせ細った子供、ナイフを持ち通行人を品定めする悪漢達、フードを被った魔術師などなどetc……他国から来た旅人がボソッと言っていたが、貴族が腐敗した結果が現状だそうだ。

 

私も王として君臨し、そして滅ぶまでを垣間見た。この現状と、王の行動方針の緩さに少なからず腹が立つ。生ぬるい政治など、撤廃すべきと…心の中で煮え立つ怒り。だが、自身の国とは違うのだから…私が怒り憤慨するのもおかしいと考え、沸々と煮え立つ心を抑え込み再度町を練り歩く。

 

「おいおいおい、こんなところになんの用だ?お嬢ちゃん?」

「…はぁ、やはり来るか」

 

案の定、暗い裏路地にて男達が声をかけてきた。額に縫いキズのある典型的な悪漢達、見た目はシャツにズボンと普通の服装で、ナイフや剣を手に持ち近づいてくる。

 

「何だ、お前たちには関係ないでしょう」

「いやいや、関係あるんだよなぁ…お前の腰に付けた袋だよ、ジャラジャラジャラと、そそる音立ててやがるぜぇ」

「…金か」

「金だけじゃねえよ、おめぇ中々良い体してるじゃねぇかよ、ウィヒヒヒ…!」

 

ほんとテンプレートな会話であった。むしろここまでイメージ通りの雑魚となると逆に感心する。口には出さなかったが、心の中では「おぉ~」と拍手と共に感嘆の声を出していた。

とはいえ私は冒険者、あまり人に危害を加えるわけにはいかないのだが、こういう場合はちゃんと事情を説明すればしかるべき対処を行うとのギルマスの説明だったなと思い出す。なら、殺さない程度にいたぶって衛兵に突き出しておこう。

 

「さあ、大人しくこっちに――」

「――触れるな」

「……ヒヒッ、抵抗するってことは、傷モノになってもいいってことだよなぁ‼‼‼」

 

ナイフを振りかざす。小回りが利きやすいナイフをこうも大振りに振るうとは、剣と勘違いしているのだろうか。というより動きが止まって見えるので、容易くかわし、肘を逆方向にへし折り曲げた。やり方は簡単。片手で受け止め、膝で伸びた腕の肘へ目掛け、蹴り上げるだけだ。ベキバキッと砕ける音が響き、肘の可動部分の肉が皮膚を裂き少し白い骨をあらわにしていた。

 

「ギィヤァアアアアアアア‼‼」

「て、てめぇ‼‼」「やりやがったな!」

 

残りの二人が襲い掛かってくる。一人はナイフを突き刺しにかかり、もう一人はショートソードを横なぎに振りぬこうとする。対処の仕方を考えるのも面倒なので、手をポケットに入れたままこの状態の片足だけであしらう事にした。

剣持ちは蹴りでなまくらをへし折り、折れた破片を巻き込む形で胸元部分に蹴り飛ばしを一撃。鎖骨辺りに刺さる破片、脚は肺を巻き込む形に蹴りこんだので、男は呼吸困難になって倒れこんだ。

 

後ろから突っ込んでくるナイフ持ちは、前に飛び込みながらの回し蹴り。顎にヒットしピシピシとひびが入る音がした。それと同時に脳を揺らしたのでそのまま倒れこむ。とまあ、この程度片足で十分である……いや、指だけでもあしらえただろうが、こういう輩は徹底的に痛みと恐怖を刻み込まなければ収まらないだろうし…まぁ、教育である。

 

「おいお前、何してんだぁ?」

 

後方から女の声が聞こえてきた。振り向くと、赤い鎧に大きなハンマーを片手で抱えた大柄な女性。その後ろに赤ローブに仮面となんともマジックキャスターというような風貌の小柄な人物が立っていた。

よく見ると胸元にはプレートが下がっており、そのプレートは……アダマンタイトであった。王都で初めて出会った冒険者が同じアダマンタイトとはどんな偶然だまったく。

 

「……ぱっと見、おめぇが物取りってわけじゃあなさそうだな」

「……そうですね、私は襲われた身です」

「それで、身分証はあるか?」

「これでいいでしょうか?」

 

そういってパーカーのポケットからアダマンタイトのプレートを取り出す。それを見て、女性二人も、悪漢2人も驚きを見せる。仮面の人物はぱっと見だと表情がわからないが、少し体が動いたのを見ると驚きを見せているのだろう。

 

「マジか!おめぇアダマンタイトなのかよ!」

「……もしかして、最近エ・ランテルで新しく生まれた2つのアダマンタイトのチームか?」

「ご名答です」

 

そういい私は自身のスキンを解除する。

白銀の竜の鱗を模した古プレートの鎧、獅子と竜を掛け合わせたデザインのヘルムは外した姿。片手にはロンゴミニアドを構え、腰にはカリバーンを携えておいた。

ロンゴミニアドは、私がただキャラメイク厨だったが為だけに取った槍使い系のジョブを取ったおかげで装備できている。一応この槍もとんでもないハイスペック武器ではあるが……その中身は秘密だ。

 

「へぇ、中々生かす姿じゃねぇか!」

「……(姿が一瞬で変わった……何かのマジックアイテムか)」

「お、お前…アダマンタイトの冒険者なのかよ⁉」「ひ、ひぃいいいいいいい…!」

「休暇で観光をしに来ただけなのですが、まさかこんな面倒事に巻き込まれるとは」

「ははは!そりゃ災難だったな!」

 

その後、衛兵が駆け付け悪漢達は全員しょっ引かれた。ただ、腕折りはまあまあ怒られそうだったので、持っていたライトヒーリングのスクロールで、腕だけ直してから渡しておいた。

その後、私は一人で再度観光に行こうかと持ったが、赤鎧の方が「俺様は先輩だからなぁ!せっかくだし案内してやるよ!」と半ば強引に案内に同行してきた。赤ローブの方は戸惑っていたが、少しして諦めた。おそらくいつもそんな感じなのだろう。軽く謝罪をしたのち、共についてくることにした。

 

「おっと、そういや自己紹介がまだだったな。俺はガガーラン!「蒼の薔薇」ってチームの冒険者だ!んでこっちの小さいのが――」

「――イビルアイ。よろしく」

「こちらこそ、私はアルトリア。「聖光」のリーダーです」

 

「聖光」――

私達が考えた名ではないのだが、モモンとナーベの二人チームが、モモンの黒い鎧にナーベの黒髪から取り町では「漆黒」と呼ばれていた。私達は逆の「純白」という名がつくのかと思ったが、そうではなく。

「白でもいいけど、神々しさの方が買っているのでは?」と話題が広がり、漆黒の反対という意味でもあっているという事で「聖光」という呼び名で浸透した。

中身はどす黒い悪竜と邪伸、悪霊だというのに…その反対である聖なる光とはとんだ皮肉である。まあ、それのおかげで自分が化け物と知られずに済むのであればそれでいいのだが。

 

「へぇ、あんたがリーダーなのかい!他のメンバーは居ないみてぇだが、ウチと同じ女だけのチームなんだって?」

「ええ。といっても、寄せ集めとかではなく、昔馴染みの集まりですよ」

「昔馴染みか。だとしたらとんだ化け物だな。その友人も、アンタも」

「っ!?」

「あ?イビルアイ、そりゃあどういう事だよ?」

 

まさか、私のことがバレたのか?いやまさか、だとしたらどのような手段で知ったというのか。魔法だとしたら、私にかけた自動防護の魔法で落雷が降り落ちるハズだ。それが無いという事は、魔法ではない……武技?それともこの世界にしかないタレントの力か?

 

「この"聖光"ともう一つのアダマンタイトチーム、"漆黒"。この2チームの偉業はとんでもないモノだ」

「ギガントバジリスクの討伐にサンドワーム・ヒュドラの討伐。トブの大森林にて貴重な薬草の採取に、エ・ランテルのアンデッドの大群の掃討、強大なネームド吸血鬼「カーミラ」の討伐……話題と成果には事欠かないチームだと聞いているぞ」

「おいおい……そりゃ事実かよ」

「……ええ、事実です」

 

焦った……。化け物級って戦果の事だったか、紛らわしい。……って、こんな事気にするのは私達ぐらいなモノなのか。とはいえ、一応主目的である冒険者としての知名度の確保は順調と言っていいだろう。

 

「石化や猛毒のブレスが面倒なギガントバジリスクをか……あんた戦士だろ?よく戦えたな!」

「ブレスも何も……吐かれる前に斬ればいい話です。一撃で首を落とせばそれで終わりでしょう」

「……ハハハ‼‼あんたスゲェ事言うんだな!それが出来たら苦労しねぇよ!ッハハハ‼‼」

 

戦士職のモノが相手にしているんだから、それ以外対処する方法無いと思うのだが。スキルや技術メインの戦士は完全実力主義。だからこそ先制、からの一撃瞬殺が対モンスター戦基本戦術。炎雷も武御雷も少し違うが、基本先制からの一撃即死の立ち回りだから間違っていないはずだ。

 

「なるほど、アダマンタイトへ上り詰めただけはあるな」

「あんた面白いねぇ、是非一度手合わせ願いたいところではあるが、どうだ?」

「別に構いませんよ?」

 

私の即答に目を丸くしているガガーラン。まさかこうもすぐに返答が得られると思っていなかったのだろう。その答えを聞き、体が小さく震えうずいている。だが――

 

「よせ、冒険者同士での争いごとはご法度だろうが」

「ちっ、分かってるよ。冗談さ冗談、それに――」

「――もしぶつかってたら、手合わせじゃすまなかっただろうからな」

「……おや、手加減というモノは学んでいるつもりですよ」

「お前もあまりガガーランを乗らせないでくれ。その言動、わざとだろう?」

「(なんだ、見破っていたのか)これは失礼を、王国の冒険者がどのような人なのか、見てみたかったので」

 

……()()得られたからな。

 

「私はこれで失礼します、王国も周れましたので」

「そうか。もし仕事を一緒にすることになったら、その時は」

「いつか一緒に依頼に行こうぜ!」

「ええ、楽しみです。では」

 

そういい私はこの場を後にする。一緒に仕事……か。ああ、是非一度依頼を共にしてみたいものだ。

 

「見てみたい……あぁ、是非見てみたいな。()()()()()()、その力の一端でも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…よく戦おうとしなかったな」

「馬鹿言え、あれは鈍感な俺でもわかる。あいつは、バケモン級に強エーって事ぐらいはな」

「新たなアダマンタイト冒険者――"聖光"」、『"白竜騎士"アルトリア』…か」

「なんだそりゃ?」

「あのアダマンタイトの冒険者に付けられた異名、というかエ・ランテルて広まっている二つ名だ。"聖光"のメンバー"白竜騎士"『アルトリア』、"聖女"『ラピュセル』、"葬者"『グレイ』」

 

「ほぉ、それはまた大層な二つ名だな」

「そして、"漆黒"――"黒騎士"モモンに"美姫"ナーベ」

「新しい世代の到来ってか?はっ、新参には負けられねぇな」

「新世代の冒険者……か。()()()()()()()だったりするのだろうか」

「どした?なんか言ったか?」

「……いや、何でもない」



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第12話

 

――ナザリック第八階層――

 

フィールドの9.8割が荒野で構成された階層。この階層に入れる人物は私達プレイヤー以外許可なく入る事はできず、当然許されない立ち入り禁止区域――

 

そんなところに一人荒野を歩く私、オルタは何の為にこの場所に居るのかという疑問。それは、この階層に存在する"あれら"を見に来たのと、私が創り上げたNPCの様子を見に来たのだ。そのNPCは私達がこの世界にやってきた時の集合や、時折開催される会議の際も私達の前にやってきた事は無い。

 

その理由は決して我々に忠誠を抱いていないから来ていないわけでは……いや、それもあるのか?ま、まぁそれはいい。

そのNPCが来ない理由は、この階層の監視兼守護の為この階層から出なかった、いや…出さなかったのだ。その訳は、この階層にある。

 

「着いたな。まったく、この広さで転移できないのは面倒だな」

 

階層の端、一面茶色い荒野の大地に唯一存在する緑。その山に自制する緑の樹々と桜、その中心に古ぼけた幾つもの赤い鳥居を通る階段が続く『桜花聖域』。

100段以上はあるであろう階段を上りきると、そこにあるのは立派な本殿。そう、此処は神社――この階層を管理する為に置かれた唯一の建物だ。その近くに立っているのは、私の存在を待ち律儀に頭を下げて待つ一人の巫女。

 

「お待ちしておりました。ようこそ桜花聖域へ」

「顔を上げよ、オーレオール・オメガ」

「はい」

 

顔を上げるオーレオール・オメガ。赤と白の巫女服を身に纏い、長く整った黒髪をなびかせる彼女*1は、このギルドで唯一の()()()。といっても只の人間種ではない。その身に不死性を宿らした人間種でありながら、異形種に近い性質を宿らせた"異人"と表現できる存在。

プレアデスの一人でもあるが、彼女は他のプレアデス達とは違いレベルは100もある。詳しいステータス等は知らないが、彼女はこの桜花聖域の転移装置の管理や重要なアイテムの管理等を任されている。ちなみに彼女が目的のNPCではない。

 

「今日来た理由は把握しているな」

「伺っております。転移門を通り、かの場所に向かわれるのですね」

「ああ。私が創りあげた()()()がどうしてるか、確認したくてな。あと……"あいつら"の様子も見ておきたい」

「畏まりました。では、こちらへ」

 

オメガの案内についていく。山の岸壁に創られた大きな木造の門。そこに描かれているのは右に雷神、左に風神、そして中心に鬼の形相をした閻魔が描かれている。この先が、この階層が封印されている理由へと繋がる場所。このギルドの最大にして最悪の戦力――鈍い音と共に開かれていく地獄門。その先に広がる<転移門>の様な虚空の如き空間へと足を進めた。

 

 進んだ先に広がるのは、赤と黒の粒子が渦巻いてできた謎の空間。その粒子一つ一つがすべて生き物である。何億居るのだろうか、数えられることもできない無限に落ちる洞を気づき上げる、矮小な蟲の渦。その穴を浮遊している瓦礫が足場を形成している歪な空間だ。この虚空の洞を形成する虫の渦を一人で操り形成しているのが私が創り上げているNPCであり、"8階層のあれら"を隔離している張本人である。

 

その人物は、浮遊する大きな大理石の床に立ち、虚空の下を見下ろすように端に立っていた。黒い虫の羽に、ファー付きの服。鋭く豪壮な片手は黒く、まるで竜人の腕の様な形相をしている。なにより不気味なのは、彼の身体を漂い囲う黒い小さき粒子の渦。それはまさしく、この洞を形成している蟲そのモノ。私の存在に気付き、こちらに振り向く人物。その顔は片目以外がすべて様々な蝶や蛾で覆い隠されていて悍ましい*2。そして羽の隙間から覗かすその瞳は暗く、見るモノすべてを嫌悪している様であった。

 

「久しいなオベロン、いや……オベロン・"ヴォ―ティガーン"と呼ぶべきか」

「……。」

 

オベロンは何も答えない。彼は蟲の魔人種、コキュートス達に近い種族ではあるが、声帯が無いわけではないのだが…このオベロン、声を持つ器官が無いのか喋らないらしい。オメガからの情報でも、何か伝えようとするときは、すべて身振りと態度、そして唯一見れる片目から想像するしかないそうだ。

特段そのような設定を創った覚えは無いのだが……これがオベロンの本当の姿ということなのだろうか。あのすべてに嫌悪し、あらゆるモノをその穴に沈めようとした、おちゃらけているようで、すべてが嘘で塗り固められたお調子者のような言葉が無いとは……ほんの少し残念である。

 

「"あいつら"はこの下に居るのか」

「……。(小さくこくりと頷く)」

 

この下に居ることを確認し、おそるおそる下を覗く。その下に居たのは、大量の停滞した瓦礫。その瓦礫軍一つ一つが巨大な鎖に繋がっておりあいつらを"拘束"している。

玉虫色と呼べるかも怪しい異様な輝きを放つ体表に、背後の巨大な円盤に繋がる異形の体は虫なのか、獣なのか、竜なのか、はたまた神なのか……何をモデルにされたのかすらわからない歪な構造。

 

そして一番恐ろしいと感じる理由…この化け物は眠り、動いていないというのに…まるで今まさにコイツに襲われ、殺されかけている瞬間だと錯覚してしまう程の強大な覇気とオーラだ。

 

これが、この第8階層に封印されているナザリック地下大墳墓最大戦力……"第8階層あれら"その正式名称は「One Radiance Thing(ワン・ラディアンズ・シング)」。その意味は…「究極の一」という意味だろう。それぞれの頭文字を取り、我々はこう呼んでいる――

 

 

 

 

 

 

 

 

ORT,と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつの恐ろしいと言わせられる所以、ORTが持つ強大な力とHP、そして不死とも呼べるほどの再生能力と適応能力にある。

 

この化け物、ユグドラシル内のルールを捻じ曲げ、死という概念がない。

ORTの外殻はユグドラシルのなにより堅く、柔らかく、気温差に耐え、鋭い。最低でもクレーターを起こすほどの墜落や攻撃をしても問題ない程の耐久性を誇る。

また体内では核融合反応によるエネルギー生成を行っている設定があり、その影響か周囲に有害な猛毒系デバフを放射し、本体内では常にMPが生成されている。

 

ORTの攻撃は巨大な爪や植物の根の様な糸をメインとし、糸は膨張・炸裂ができ、この糸にも致死量の猛毒系状態異常デバフが帯びている。

更に背部の発光と共に稲妻状の光線が雨の如く降り注ぐ超位魔法を超える威力とも呼ばれる範囲攻撃も可能。

 

他にもバトルフィールドに作用する能力を封じたり、暗黒物質を泳ぐ未知の微生物を使う(という設定)ことで相手のバフを奪うこともでき、さらにはデバフを付与されても高い自浄作用によってそれを自身のバフに変換されてしまう。

 

この超常生物には弱点など存在せず、レイドボスとしては次元違いの強さを持ち、さらに他の結界系魔法やスキルとは一線を画すワールドアイテムの効果に類似した能力をも使う。

 

そして異常なまでの不死性。ORTは生物エネミーでありながら、体の構造がゴーレム種やマキナ種等の機械に近いのか、どの臓器や体が破壊されても自己再生による治癒をすればすぐに再起動する。

いわば、爪が割れたのと心臓を砕かれたのがORTにとっては同レベルの「()()()()()()()()()()()()()()()()」ということなのだ。

 

これは全ての細胞が全ての機能を有しているためで、故に心臓や脳が無くても他のパーツがその代わりで補え、さらに独立して動ける。これによって、部位破壊による相手へのデバフというプレイヤーへのボーナスも無いようなモノで、壊したところでまた体が出来上がっている。

いままで上げた力の概要だけでも頭がイカれてると思うであろうORTだが、まだ驚嘆すべき点がある存在なのは、その修復を完全かつ自力で出来ること。

 

いや…修復するというより新造されるに近いだろう。言うなればパーツを破壊しても、暫くするとそのパーツがより改善されて修復するという、まさにキチガイじみた能力である。

ここから~ここまで・ここを失ったら死ぬ、という境界線が存在しない為、ORTを倒すには異常なまでの巨躯をすべて覆い、一撃で倒せせるだけの高威力、広範囲の魔法攻撃・スキル以外に方法がない。

 

ちなみに"あれら"と複数体呼称なのは、ORTの体は複数の形態のORTが分裂し、それらが合体したのが今封印されている形態。背中の円盤が本体であり、他は全て自身から分離させた分身体の様なモノで、本体と独立し襲い掛かってくる。つまるところ今のORTの姿は三位一体の状態と言う訳である。内わけとしては――

 

常に空に浮かび、黄金の触手とバトルステージの半分以上を埋め尽くす熱光を放つ円形の死神、UFO形態。

 

暗き青い煙炎を吹き散らし、大陸を蹂躙する白銀の外殻と蒼き怪光を放つ異形の蜘蛛、星獣(せいじゅう)形態。

 

星獣形態の琥珀色の胴体中心部にあるコアに眠り、小型ながら異常な力を宿しすべてを蹂躙する人の形をした星の神、星神形態。

 

……そんな化け物が何故このナザリックの地下に存在し、この場所に封印されているのか。それは、このナザリックにORTが封印されていたから。

ナザリックにプレイヤーが襲い掛かってきた時には、阿鼻叫喚の悲鳴と、運営への罵詈雑言と共にナザリック制圧を目指していた傭兵NPCなど合わせ計1500人というユグドラシルサーバー始まって以来の討伐隊の大軍が第八階層にて全滅した。

 

敵に回したくない化け物、こいつの対処の方法は簡単。

この怪物が近くに居る時に"戦闘行為を行わない"事。このORTは自身の身を守ろうと周囲で戦闘を行ったモノを自身が眠るエリア、つまりこの第八階層で戦闘行為を行った存在が()()()()()蹂躙をやめない。

 

その為、この場所では極限までNPCとの戦闘を行わないように配属しているNPCを極限まで減らし、少数のNPCの戦力は最高峰の者達を配置する。

そういう理由もあって、アインズはこの場所を立ち入り禁止としたのだ。万が一自己意識をもったNPC達がこの階層にやってきて、戦闘行為を行ったとあれば……最悪ナザリックが消滅しかねないから。

そんな恐ろしい化け物を何故今になって見に来たくなったのかというと、この化け物がユグドラシルから違う世界にやってきて、何か性質が変わっていないか自分の眼でチェックする為。

報告はオメガから随時受けてはいるが…やはり直接この眼でみておくのが一番安心する。拘束されたORTが動く気配は無く、どうやらユグドラシル同様のORTの状態な様だ。

 

「だが安心はできない…か」

「オメガ、オベロンよ。この化け物が暴れ、我々のナザリックが消滅しないよう、これからもしっかり監視を行う事を忘れるな」

「畏まりました」「(睨んだ瞳で小さく頷くオベロン)」

「お前たちを他の階層や、外に出せないのは私も少し思う部分はあるが、ナザリック1重要な役目を担っているのだ。申し訳ないが、これからも頼むぞ」

「勿体無きお言葉です、アインズ様方に創造されし我らは、偉大なる御方方の為に存在するのです。この命尽きるまで、あなたに仕えさせていただきます」

「…………」

 

オルタの言葉に頭を下げる2人のシモべを前に、オルタは内心では安堵していた。オベロンの睨みを聞かせた視線には、小さい敵視にも似た感情が乗ってはいたが、それでも一応創造主として完全に嫌だと感じていない様で安心した。

…この感情、まるで反抗期に入った子供を心配する親にも似ていて、心の中で微妙な感情が渦巻いているオルタであった。

 

 

 

 

 

玉座の間に戻ったオルタ。ユリが私が扉の前にたどり着く前に、玉座へ続く重厚な大扉の開閉の合図を唱えた。それに呼応し、重く響いてくる金属がきしむ音と共に扉が開かれた。毎度これがあって扉で待たされることも無く、スムーズに行動が出来るのだから嬉しいモノである。

だが……少しでも気づくのが遅れ、私の足が止まった瞬間土下座して必死に謝り、そしてなぜか死で償おうとするのだけはどうにかならないものなのか。

 

玉座へ続くレッドカーペットを歩むオルタ。玉座前の階段付近には、王が通れるだけの幅を広げたまま頭を下げて私が玉座へ座るのを待っている守護者各員。その周辺の空には、オレンジ色のデジタルウィンドウと共に、各重鎮とも呼べる立場についたNPC達が画面越しに頭を下げている、これはリモートで会話している様なモノだ。どうしても役職のせいで離れられない者達への対応策だ。

 

小さき階段を上り玉座の前に立つ。現在アインズと邪ンヌはここには居ない。アインズはエ・ランテルにてせっせと名声稼ぎというなの依頼中、邪ンヌはというと…休暇としてグレイ連れて王国以外の国にプチ旅行中だそう。

 

正直私としては他国へ行くのは現状控えて欲しいと思っているのだが、以前の墳墓で無理させた件もあったし、なにより元が自由奔放な人だから諦めた。だが、なるべく遠くの国へ行かない事を条件にはさせておいたので、いざというときは大丈夫だろう。

 

誰も居ない空虚な玉座の一つへ腰を座らせる。そこから眺める景色、すべてのNPCが私への忠誠を示すため、指示があるまで頭を下げ続けている。本物の王の様な光景、普通であれば慣れる状況では無いモノゆえ戸惑うだろうが、私の心はとても平静そのものだった。……かの光景はオルタ()にとってさも当然といった心持ち、(オルタ)は王であるのだという自覚、この世界にきて歪んだ精神、今の私だ。

 

「面を上げよ」

『『『はっ』』』

 

私の声に呼応して、全NPC達が顔を上げる。彼らの表情、偉大なる御方のご尊顔を見られたことに対する感謝と、これから話すことへの期待が目に見えて露わにしている。

 

「良く集まってくれた。今回はアインズも邪ンヌも居ない、故に私が代理でお前たちへ話そうと思い集めさせてもらった」

「今回の議題は、デミウルゴスが考案した「英雄化計画」、そして私が考案した今後のの方針を改めて伝える」

「ではデミウルゴス、そして守護者統括アルベドよ」

「「はっ」」

「お前たちが考えた「聖光・漆黒英雄化計画」の仔細を分かりやすく伝えよ。ずれが起こらないように疑問は全て無くすように」

「畏まりました。デミウルゴス、詳細を」「ええ、では…計画の詳細を話そう――」

 

デミウルゴスが語りだす。私やアインズ、邪ンヌは事前に二人から作戦の大まかな概要を事前に聞かされている。その内容は…"人"から見れば残酷、我々から見れば良く練りこまれた作戦だと感じた。

その時の内容は粗削りな作戦だったのでまた詳細な内容は変わってはいるのだが、それでもまだ完全じゃないと言う作戦で遂行しても問題はなさそうな程洗練されていた。

だが、その内容をこなした先に待っているのは……他国との戦争である。彼らは良くも悪くもナザリック至上主義、人間やナザリックの加護、庇護下に無いものは悲しく愚かな愚物と思っている。だから他の者は殲滅、ナザリックの威光をこの大地に…この考えの元行動している。

 

彼らはそれでいいと思っている…だが、そんな空虚な椅子に誰が喜ぶ?王が君臨する大地に、統治する人民が居ないなど、それではただ廃墟をわが物顔で占領する間抜けにしか見えない。ナザリックという面々がいるとは思うが、彼らは民ではない。

それをさらに超えた、家族と呼ぶに近い仲間なのだ。彼らをカウントするのはいささか違う。なので、此処から先の方針について、つい先ほど考えた案を伝えることにした。もちろんアインズや邪ンヌ達にも連絡済み、正直アインズがしっかり理解しているか至極不安だが……。

 

「――と、これが私が考えた作戦の概要です」

「ご苦労だったデミウルゴス。さて、皆が聴いた通り我々がこれから進む道は各国への反感を多く買うだろう。だが、お前たちの戦力であれば大きな問題はないだろうと思っている」

「我々の力を表に出せば、我らの威光は全世界に知れ渡るだろう」

「――だが、それではつまらない」

 

同様の声を漏らす各員。それは先ほどの作戦に不手際があったのだろうか、それとも我々に不備が……などとあらゆる不安が渦巻いているのだろう。

 

「力でねじ伏せ、世界に恐怖を与えたうえで成り立つ王国……それではあまりにも、つまらないではないか」

「瓦礫を山に積み、真なる意味で我々を畏怖し尊敬するお前たちが国の根幹を担う、そして我々の庇護下に入れなかった愚かなモノ達は排斥し、敵対者は全て殺す……人間からみれば暴君とも捕らえられる王政、それではただ退屈だ」

 

静かに言葉を聞き入れていく各員、オルタが話す一言一言を聞き逃さないように真剣な表情で私の言葉を聞き入れていく。彼らにこれから話す事に対して受け入れるだろうか、小さい不安が心の中で黒く広がっていく。

 

――何を不安に思う事がある。

 

彼らにこの世界を本当の意味で、統治する…それを受け入れる意志があるのだろうか。

 

――私が目指す道こそ、我が王道へと繋がるのだ。

 

……心の中で、深い闇へと誘おうとしてくる甘く冷たい声。これは、私ではない、オルタからの声だろう。本来の彼女とは精神の構造が異形種の歪な感情に汚染された、歪んだ私の騎士王からの誘い。

そうだ、こうあれと願ったのは私だ、これが私が理想として虚像を現実に表現した私のオルタ。なら……その通りに進むべき……本当にそうか?いや違う、違うはずだ……今の私は"創り上げたオルタ"でも、"プレイヤーの私"でも無い……歪に歪んで混ざり生み出された"新たなる(オルタ)"のはずだ。

なら、過去に創り上げた設定も、人間だった時の私でも考えなかった、今の私だからこその理想を創り上げる。私が望む、理想の世界を――

 

「お前たち、この世界に存在している信仰を知っているか?この大陸に六大神と呼ばれ崇められている者達だ。以前私は、この者達が何百年も前に到来した者達、同じプレイヤーだと結論付けたと、お前たちに報告していたな」

 

邪ンヌの分身体であるヴリトラが接触したという法国、かの国は六大神と言われる数百年前君臨したプレイヤーと思われる者たちを神と讃え信仰している。それ以外にも、八欲王と呼ばれ恐れられた。こちらもプレイヤーと思われる者達が暴れ、魔王や魔神として恐れられ一部の文献に記されている。

つまりだ……この世界でただ王を名乗り、この世界のかの大陸に君臨すること自体は、前任者が居ることから考えおそらく可能なのだ。だが…それだけなら簡単に終わる、故に私達は――

 

「なら、このまま予定通りに国を創り上げ王となる…それで終わりにするのか?」

「前任者達が神として君臨したというのに、我々は只の一国の王となる……それでは、あまりにも退屈ではないか!」

「「っ!?!?」」

「私達プレイヤーはこういう言葉を知っている、現人神という存在を」

 

現人神――それはこの世に人間の姿で現れた神。そう、超常的な力を有し、大地に君臨した人の身であって人ではない次元を超えた存在。

この存在を思い出し、闇に澱んだ私の思考はこう思ったのだ……我々に相応しいのでは、と――

 

「私は、この大陸を統一し…あらゆる種族が信仰の元となる存在、今を生きる現人神となろうではないか」

「すべての生命が我らが威光に頭を下げ、その寵愛を受ける為にナザリックを信仰する……フッ、これほど愉快で面白き事があろうか」

 

配下達各員から驚嘆の息が漏れている。守護者各員の表情はそれこそ本物の神を見たかのような感激に溢れ、顔から自然と笑みがこぼれ、声が出ないのかうわごとのように口から途切れ途切れの弱い声を出している。

 

「故に私はこの世界において、我らがナザリックの至高なる43人の中で残りし我々――」

「私、セイバーオルタ・邪ンヌ・アインズ……いや、モモンガを…この世界の神として確立させる」

「世界が知るのだ、この大地において我々こそが全てを支配するモノだと。故に我々の最終目標は、我ら三柱を神へとすることだ!お前たちなら――容易いだろう?」

 

不遜なる笑みと共に、黒龍の翼が背中から伸び羽搏く。偉大なる御方であらされるオルタから語られた壮大な目標。玉座の間は彼ら偉大なる御方々を讃え、その永遠なる忠誠を再度示すための雄たけびと歓声で満たされた。

 

その光景を出先で見ていたアインズと邪ンヌはオルタの王としての姿と、それに見惚れ歓声を上げるNPC達の姿を一人は白んだ目で覗き、もう一人はこれから起こるであろう退屈しない日々を幻視し不敵な笑みをこぼしていた。

 

「デミウルゴス、そしてアルベドよ。我々の新たな目標を掲げた事によって、お前たちが考えた作戦も新たに修正を加えて欲しい…できるか?」

「っ!お任せください!このデミウルゴス、偉大なる御方々がこの大地に神として君臨する為の足掛かり、その第一作戦…心して計画を練らせていただきます!」

「我々の忠誠が必ず御方々を喜ばし、その気高き理想を実現できると……証明して見せましょう‼」

 

「ナザリックに栄光を‼‼」

 

『『『ナザリックに栄光を――‼‼』』』

 

「アインズ・ウール・ゴウン、万歳‼‼」

 

『『『アインズ・ウール・ゴウン、万歳‼‼』』』

 

歓声が鳴りやまないナザリック地下大墳墓、そんな中オルタ達に心酔し、さらなる忠誠を示す彼らを見て…複雑な心持ちを抱えたまま除く一人の"吸血鬼"が居た。

 

「ナザリック……か」

 

真夜中の王都、その町の屋根に一人赤い血で形成された羽を縮め、複雑な表情でオレンジ色のモニターを眺める紅き瞳の吸血鬼「クレマンティーヌ」がそこにいた。

*1
デザインは"killsheepsama"様から頂いております

*2
こちらのデザインもTwitterから許可を頂き真似させていただきました




ちょっとオリジナル展開になりそうと思った方、オリジナルというよりスマホゲーのストーリー展開に近い目標なので、実はそこまでオリジナルではないですよ(小声)


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第13話

~~闇夜の王国~~

 

 月明りが町を照らし、星空が明かりを消した王都を薄く照らす街並み。この素敵な夜空を一望できる王都の屋根の上から、静かな町を暗い眼で見下ろす一人の少女がいた。彼女は「クレマンティーヌ」秘密結社『ズーラーノーン』の"元"十二高弟の1人にして、元スレイン法国特殊部隊『漆黒聖典』第九席次“疾風走破”の異名を取った英雄級の力を持っていた実力者。

以前ンフィーレアの持つ『生まれながらの異能』を利用する目的で、彼の誘拐を同胞カジットと共に決行。そカルネ村から帰還したンフィーレアを攫う際に、彼に同行していた冒険者チーム『漆黒の剣』のメンバーを皆殺してエ・ランテルの墓地へともどる。

だが、その後に合流した二つの冒険者、今は『聖光』『漆黒』の名で知られている冒険者達に自身が犯した業の清算を行うため、幾度となく私に死と再生を繰り返し罰とした。30を優に超える死と再生を繰り返し、いままでの自分の傲慢さと自尊心を砕かれた私は、唯一残った生への執着にすがり彼ら、モモンとアルトリア…いや、アインズとオルタの元「ナザリック」の元に下った。

その後、オルタの配下である吸血鬼によって人間という人種すら捨て、かの死を楽しみ殺戮に快楽を見出していた愚かな人間の少女は、血の翼を羽ばたかせる吸血鬼へとその身を転じていた。

 

「……夜が、落ち着く」

 

以前の冒険者のプレートで構成していた軽装の鎧とは一転し、今の自身の姿は黒い聖堂の神官服に近い服装へと一転し、その裾や足元には自身のか返り血かわからない消えることの無い赤き血のシミが浮き出ている。

法国に居た頃に幾度とその目でみて、その一人を殺したかの聖女に似た服装を自身が着る事になるなんてなんて皮肉だろうか。人を殺すのを楽しみ愛し恋していた私が、神の名のもとに施し祈り救いを求める聖堂女の似姿へと転身するとは誰が思おうか。かの兄でさえ、そのような虚像を頭に浮かべられるとは思えない。

 

「これが私だとは…ハハ、笑えますね」

 

かの何十回もの死を繰り返し、いつの間にか以前の口調は何処かへ消え去り、丁寧な口調…聖女の姿に相応しき行動理念と喋り方となっていた。

そんな自分が変わったとは思っていない。今までの自分と今の哀れな自分との差に嘆く心傷があふれてくるのだ。まるで穴の開いたワイングラス。その全体像はボロボロで、あちこちひび割れているかのようだ。

 

「何をしているのですか?」

「っ⁉貴方は…グレイ、様でしたね」

 

いつの間にか隣で座っていたフードを被った少女。灰色の髪が夜風でなびくフードの奥からチラリと見えるかの人と変わらぬ少女も、かの魔神…()()主の為に動く忠実な配下。

彼女自身が言うには、ゴースト種などと同じ亡霊に近い存在らしい。幽霊系の種族に生まれたが、彼女は墳墓で墓守として活動しているという…矛盾としか思えない経歴を持つ。他のナザリックの配下より話しやすく、人間に近い感性を持っている数少ない存在なので、吸血鬼として生まれ変わった後、時々気にかけてくれてくれる。

 

「様なんて…敬称はいらないですよ。私はまだ…様などと呼ばれる存在では無いです」

「いえ、私にとって貴方はナザリック内で上の地位に居る者、敬称を外すわけにはいきません」

「クレマンティーヌさん……」

 

そういう彼女の手元は小さく、小刻みに震えていた。グレイはその理由に何となく察している。至高なる御方々の怒りを買う愚かな罪の清算を長き死と再生をもって清算され、その後の尋問による情報収集によって彼女の精神は砕けた。今彼女を生かそうと動かしている動力は、「死にたくない」「生きる為なら何でもする」という生への執着。その為、御方々の配下である私の機嫌を損なわないよう、言葉を選び必死に生きようとしているのだ。

 

そんな彼女姿を見て、グレイは何とも言えない悲しい気分となる。ナザリックにおいてカルマ値が+に傾いているのはごくわずか。彼女もその一人であるがアインズ様方の命令であったり、ナザリックに害する者であれば容赦なく人は殺せるし、躊躇することはない。だが……無差別に人を殺すという事は嫌悪感があふれてくるぐらいには人への情がある。それゆえ、どう接するのが良いのか迷っている…どうすればいいのかとアワアワしているのだ。

 

「えっと…拙はその…自分への態度とか、そういうのは気にしていないので、そんな気負わないで下さい!」

「その、御方々に背くような事をしなければ…過度に怒ったり、殺すようなことは致しません。他の人はー……その、分かりませんけれど」

「……ありがとうございます」

 

先ほどまでの手の震えは消え、落ち着きを取り戻した様に見えるクレマンティーヌ。でも、その声にはいまだ恐怖の色が抜けてはいなかった。

 

「そういえば…貴方はこの王都で何の任務を?」

「…教会に聖女として潜入、この国の情勢などの調査を任されました。あと……王国の王女についての情報収集をデミウルゴス…様に頼まれてます」

「(まだ様呼びに慣れていないのですね……)……ん、王女の、情報収集ですか?」

「詳細は話していませんでしたが、集めてもらえると嬉しいと言われました」

 

グレイやナーベラルも王国やエ・ランテルで行動しているがそのような話はなかった。御方々からもそのような話が無かった所を考えると、もしや先ほどの話で出てきたデミウルゴス様の"計画"に関係する内容、もしくは個人的な内容なのだろうか。

 

「……あれは」

「どうしました?」

「セバス…様が」

 

ゴースト種のグレイには夜目がそこまで聞いていないが、吸血鬼の眼には見えてのだろう。この王都のどこかにセバスがいる様だ。夜間の外出、特に制限などされているわけではないのでそこは問題ないようだが、クレマンティーヌが態々名をだしてまで知らせてくれたという事はなにかあるのだろうか。

 

「セバスさんがどうかしました?」

「大きな…麻袋をもって歩いている様です」

「…麻袋?」

「はい、長い麻袋です。セバス様の身長程はある長さの物です。それだけなら気にしなかったのですが、やけに周囲を気にしている様な気が――」

 

……買い物帰りだろうか?一応ソリュシャンと共に王国で情報収集の任務に就いていると話では聞いてはいる。貴族とその執事といった感じで身分をごまかし、セバスが町を練り歩き情報を集めている。その情報はナザリックや冒険者身分として立ち位置を作ったグレイにも届いてはいるが。わざわざこんな夜中に買い物?……すこし不自然に感じたが、彼にも彼なりの考えによる行動があるのだろうと考えることにした。

 

「多分、大丈夫じゃないでしょうか。セバスさんが御方々を裏切るような真似は絶対ないですよ。セバスさんの事は気にせず任務を頑張って大丈夫だと、拙は思いますよ」

「そう…ですか」

 

セバスという人物像は歴戦の戦士、完璧執事といった感じ。コレと言った欠点が想像できないのが彼である。それゆえ何も問題はない、そう結論付けてしまったグレイ。だがクレマンティーヌは自身の胸のざわめきが止まらないのが気になってしまう。本当にこのままで大丈夫なのか…と。

二人は知らない……彼の今夜の行動によって今後のナザリック、そしてこの世界が大きく変わる転換期へと入る事を。一連の騒動が、我らがナザリックの最高支配者、至高なる御方々がこの地へ君臨する為の序奏になるのだから――

 

 

 

 

 

数日後、グレイはクレマンティーヌが潜入している教会へと足を運んでいた。表向きの冒険者として活動している時、お世話になっている教会の人達に軽く挨拶しに行くのが日課である為だ。教会の中では、中央に飾られていた神をモチーフにしたオブジェに祈りを捧げる老人達や、協会の聖女や神官達の治療を受けている者達であふれている。まだ午前中だというのに人が多いのは、王都に教会が多くない為だろうか。

その治療を行っている聖女の中に、静かに瞳を閉じて人の治療をしているクレマンティーヌの姿が目に入った。どうやら少年の足へ<中傷治癒(ミドル・キュアウーズ)>を施しているようだ。

 

元々魔法を使える身ではないクレマンティーヌが魔法を扱えるのは、吸血鬼化による福音だろう。彼女がその身に転じた「操血の吸血鬼(ブラッドレーション・ヴァンパイア)」は神官よりの特徴を持ったヴァンパイア。種族が変質した際、その身に応じた魔法を宿したのだろうと、オルタは見解をだしていた。

元々ユグドラシルでも、特定の種族への変質時にスキルや魔法がついてくる事があったので何も変ではないとの事だったが、最初の頃の彼女は自身の体の変化と力に戸惑い恐れていた。けど今は自身の力として受け入れているようで、自然と魔法が使えている様だ。

 

「…少しは落ち着いたんでしょうかね」

「あ!グレイちゃんじゃん‼」「本当だ、グレイちゃん!おはよう」「おはようございます、グレイ様」

 

グレイの姿に気付き、国民や神官、聖女達が次々とグレイへ声をかけていく。彼女はこの町でも大人気。元々人との付き合いに抵抗がなく後ろ仲良く接するのは好きな方の変わったゴースト種、幽霊には見えないその愛らしい顔と態度に町の人気者になっている。まあ人気に拍車がかかっているのはアルトリアとラピュセルという交互しい姿の美しくも話しかけずらい二人よりかは、話しやすく自ら接してくれる点もあるのだろうが。

 

「皆さん、おはようございます!」

 

全員への返答を欠かさず還すグレイ。その健気さと愛くるしさにキュンとしている者達がこの場に何人いるのだろうか。

彼女の何事にも礼儀正しく挨拶を返したり、少し天然な所を見せたりするのも彼女を愛らしい娘の様に思う一因であることは間違いない。実際邪ンヌには裏で度々撫でられたり、ハグされたりと目いっぱい可愛がられているのがその証拠だろう。いや、彼女なら愛らしい女性なら条件反射でかわいがるか。

 

グレイに群がる人の隙間から、治療を終えて笑顔で手を振りお礼する子供達をほほ笑みながら手を振り返しているクレマンティーヌが見える。数日前の夜にみた不安そうな横顔は無いようで少しグレイは安心した。簡易的な挨拶は済ませたのでこの場を後にしようとするグレイ、周囲の大人達は少し残念そうな声色で引き留めようとするが彼女はアダマンタイトの冒険者の一人、彼女にもやらなければいけない事もあるのだと、しぶしぶ諦め彼女を引き留めることはしなかった。

 

「……み、皆さん拙に対して優しすぎます…!」

「ギィヒヒヒ!あの根暗な墓場で墓守してた愚図とは大違いだナ!」

「アッド!」「あぁ⁉痛でででで‼‼‼やめろ振るなぁぁああ、あああぁああぁあああぁあぁ‼‼‼‼」

 

相変わらずのアッドの口の悪さに、慣れた手つきで対応するグレイ。今日も変わらない日常を過ごす――

ハズだったのだが、偶然にも路地に人だかりができ道を塞いでいる光景が目に入った。人が多すぎてざわざわとした音と声が反響して何が起こっているのかわからないが、耳を澄まして音を聞き分けると……小さくではあるが、何かを殴っている様な音が奥から聞こえてくる。それとは別に、小さくくぐもった声を出す子供の声――

 

「もしかして……」

 

何か嫌な予感を感じたグレイは人だかりの中心を見ようと、人混みを蛇の様にスラスラと当たることなくすり抜けていき、騒動の中心が見える最前部分にたどり着く。そこで見えたのは、傷だらけの小さい少年を抱えたタキシード姿の背中の男。その奥には少年に暴行を与えたであろう拳に血が滲んでいる男と、その知り合いであろう2人が見えた。

 

「あの後ろ姿……まさか、セバスさん⁉」

「(アインズ様方からあまり目立たないようにと言われていたハズ……一体何が!?)」

 

その後の展開はセバスが悪漢を蹴散らし、偶然通りかかった兵士に少年の治療を任せ何も言わず立ち去ってしまった。一見すればその光景は只優しい執事が男を懲らしめ助けたように見えただけだろうが、この場の数名はセバスの超常的な身体能力に興味を惹かれ、彼の後をついていこうとしている。

今見た限り、興味を持ってしまった人間は2人。その中の一人は先ほど少年にポーションを飲ませ治療していた非番であろう兵士であった。彼は治療を終えた少年を後から合流した別の兵士に任せセバスを追いかけてしまった。

 

「…伝えた方が、良いのでしょうか?」

「この騒動がきっかけで目立つようになってしまう前に一言言っておいた方がいいですかね」

「――<気配遮断(ノー・オーラ)>」

 

アサシン系クラスのスキルである<気配遮断(ノー・オーラ)>を発動し、気配を完全に立った上でグレイはセバスの元に向かう。人混みの中から高く跳躍、一度壁を蹴りさらに高く飛び上がり、屋根の上に上る。このまま屋根を飛び超えながらセバスがいる方向に向かい駆ける。

グレイに探知系のスキルや魔法があるわけではない。ただ、セバスの力はこの町の中では飛びぬけている。その強者のオーラと言えようモノが感じる方角へ足を運べば自然と彼の基に近づける。以前のクレマンティーヌがあの屋根に居たのを察知できたのもその気配をたどって着いた先だからである。

 

幾つもの屋根を飛び越え、見えた先は裏通りのそのまた細い路地。人通りは全くなく、周囲に貼るのは2階建ての家と石壁で構成された細く薄暗い道だけ。そんな場所に何故と思ったが、あの方のことだ。おそらく自身が追いかけられているのに気づき、巻く為に態々このような薄気味悪い場所に足を運んだのだろう。

追跡者が来るまでにはまだ時間がかかる様子、今のうちにセバスに話を聞いておいた方がよさそうだ。ヒョイと屋根から飛び降り石壁へと着地、そのままスキルの効果を解除する。すぐさま何者かの気配に気づきこちらへ振り返るセバス。その誰かがグレイだと分かった瞬間、少し安堵したような顔色と、少し不安を抱えた目の色に変わったのが気になるグレイ。

 

「グレイ様…何故こちらに――」

「――拙に敬称はいらないですよ、セバスさん」

「……。」

「セバスさん、何故あの場所に?」

「たまたま町を歩いていたら、あの人だかりを見つけただけですよ」

 

声の感じ的におそらく嘘はついていないのだろう。だが、グレイの直感は……何となくだが、彼は別の意図があって、態々あの騒動の渦中に入っていったのではと、そう思って仕方ない。彼は私より、私以上に優しい…………いや、優しすぎるのだ。

 

「セバスさん…アインズ様から、あまり目立たないようとのご命令があったはずです。なのに――」

「――大丈夫です、あれぐらいの騒動ならこの国ではよくある事です。御方々の命令に背くような事にはなりませんよ」

「本当ですか。拙達とは違い、あまり目立った行動はするなとのご命令でしたよね?それなのに、自ら騒動の渦中に向かうなんて事……」

「――グレイさん」

「っ……。」

「大丈夫です。問題は、ありません」

 

やはり今日のセバスはおかしい。話している間ずっと顔からにじみ出ている後悔と少量の威圧を含んだ気迫、ナザリックで仕事していた時には一切見せたことの無い自身の辛さを隠そうとしない悲壮感のあるその表情に、グレイは言葉が詰まってしまう。

 

「セバスさ――」

「……あ、あの、セバスさん」

「グレイさんも気づきましたか。えぇ、どうやら誰か追いついてきてしまったようですね」

 

こちらに向かってくる足音。明らかに別の道に走っている音とは違う、足音が徐々に大きくなってくる。普通の人間では聞き分けずらい小さく遠い足音の違いを聞き分けて人が来るであろうと察知した。多分、途中で追いかけてきていた非番であろう軽装をしていた兵士の一人だろう。

 

「で、では拙はこれで――」

「いえ、間に合わないでしょう。ここは、私達二人で話を合わせ、なんとか乗り切りましょうか」

「……はぁ。で、では…話を合わせ……ましょう」「ギヒヒ!愚図のお前にそんな器用な事出来んのかぁ~!」

「な、何とかします……やります、拙は……」

 

足音はもうすぐそこに来ている。数秒も経てば後ろの曲がり角から出てくるだろう。グレイは小さくため息を吐いた後、邪ンヌの言葉を思い出す。

 

『いいグレイ?こういう演技が必要な任務に就いたのなら、その場での演技力――適応力を身に付けなさい。瞬時にその場を収めるのに適した演技を整え、それに自身が上手く適応する…これが重要よ』

 

ナザリックで冒険者として活動する前にナザリックで告げられた至高なる御方のお言葉。最初はその意味が十分理解する事は苦やしながらできなかったが、おそらく今の状況は邪ンヌが言っていたその演技力・適応力が試される場面。かの御方と共に行動するに値するんだというのを、見せる為にも…グレイは気合を入れなおした。

 

「よし…やるよ、アッド!」

「いや、やるのはオメェだけだろ」

「……い、いいから!やるよ! ///」

 

気合が空回りしているグレイを下から見上げ、珍しくも大丈夫かと心配になるアッドであった。



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第14話

遅くなりました……。

個人的にかなり中途半端感がありますが、これ以上遅れるよりかは一旦この状態で出して、続きを次話に書こうと思います。

仕事しながらの執筆は余裕がある時と無い時の差が凄いので、ご了承くださいまし……。


<グレイ視点 王国・路地裏>

 

「すいません!」

 

息荒く、路地から飛び出してきたのは一人の青年でした。軽装…というより私服の装いで、腰には剣を備えています。かなり必死に走り追いかけてきた様子。髪は乱れ、顔には多量の汗が流れ続け、白い息は止まる事は無い様子。

 

「「……。」」

 

追いかけてきていた金髪の青年がこちらを振り返る。腰に備え付けたかなり汚れた剣や遠目でも目立つ岩肌の様に固く出張った豆が出来ている手を見た感じ、それなりに剣術が扱えるようです。

服装は一般的などこでも普及しているオーソドックスなモノであるのをみると騎士や冒険者ではないのでしょうか?もしや盗賊や野盗の類なのかとも一瞬思いましたが、それならわざわざ声を掛けるなどありえないだろうし、なら彼がセバス様を追いかけてきた理由は一体――

 

「…何用でしょうか」

 

考え込んでいるうちにセバスさんが()()()()()威圧的に声掛けに返答しました。それを聞き先ほどまで追いかけてた際にかいたであろう汗とは違う汗が顔の皮膚から溢れ、流れ出している青年。

……せ、セバスさん。人にとってセバスさんの"少し"の威圧感は"かなり"の威圧感に感じてしまうので、少し強すぎます…!

 

できればここからさらに押さえて欲しいんですが……と思ったのですが、あの威圧を受けたのに、生唾飲んだのちにこちらに歩き近づいてくる。その表情は固く強い決意を決めた力強い表情をしています。あ、あれ?普通の人からしたら精神的重圧にそうとうまいっているはずなのに、この人の精神力は他の人間とは違うようですね?

 

「(セ、セバスさん…少し威圧が強すぎませんか?屋根に止まっていた鳥も驚いて飛んで行ってしまいましたよ……)」

「(心得ております。ですが、ここまでして私を追いかけてきた方、どのような人物なのか見極める為にも、少し強めにしてみましたが…強い心の持ち主のようですね)」

「(わ、わざとだったんですね…)」

「(それに……ここに来る前から尾行者が5人程ついてきておりまして……)」

「(尾行…このあたりは治安が悪いですからね、裏社会の人間も多いですから、セバスさんの格好ですと狙われてしまったんでしょうか)」

「(……そうだと良いのですが)」

「(……?)」

 

調べ終えたのだろうか、セバスさんが放っていた威圧感がフッと消えていく。それに気づいて歩いてこちらに近づいてきていた青年の口から小さく息が漏れた。

まるで戦場に向かっているかのように険しかった表情が少し和らいでいますが、あの威圧でかなり警戒心が生まれてしまっている気がします……。こ、この後の応答大丈夫でしょうか?

 

「貴方は一体?」

「あ……わ、私はクライムというもので、この国の兵士の一人です」

「本来であれば私の仕事の代わりをやっていただき、ありがとうございました!」

 

どうやら先ほどのセバスさんのひと悶着を見ていた王国の兵士の人の様で、セバスさんに深々と頭を下げています。

これだけでもこの人がとても誠実で実直な人というのがうかがえます。拙も人と一緒に居る機会が増えたおかげでそういう感覚もわかるようになりました。

 

「…ああ、構いません。では、私はこれで――」

「お待ちください!もし…もしよろしければ、先ほどの技を、伝授してもらえないでしょうか」

「(先ほどの技…?)」

「……どういう意味でしょうか」

 

話を聞くと、彼クライムさんはとある重要な方の護衛騎士らしいが、自分の非力さを誰よりを自覚し、その人を守れるように強くなるために修練に明け暮れているそう。

そんな自身の成長に伸び悩んでいる中、今日の騒動ですさまじいう動きで暴漢を鎮圧したセバスさんの動き、それを見てしまいどうしても学びたいと思い追いかけてしまったそうだ。

 

「ふむ……では、まず手を見せてください」

「えっ、は、はい……!」

 

セバスさんに言われたように手の平をみせるクライムさん。その手は所々豆とこぶが出来ており一目見ただけで普通とは違う分厚い手だと分かります。この感じだとクライムさんはかなりの努力家なんだろうなと、拙でも何となくわかる手でした。

 

「ふむ…厚く、硬い、戦士の良い手です」

「いえ、私など戦士の端くれ程度でしかありません」

「そんな謙遜しすぎですよ!クライムさんの努力がとても伝わる、良い手だと、拙は思います!」

「あ、ありがとう……。ところで、君は――」

「――では次に、剣を見せてもらえますか」

「あぁはい!」

 

偶然ではありましたが話を遮るようにセバスさんの次のお願いが届き、クライムさんも急ぎ剣を手渡しました。……セバスさんの優しい雰囲気があるとはいえ、他人においそれと自分の武器を見せる為に渡してしまうのは、ちょっとどうなのかなと思うのは拙だけなのでしょうか……?

 

「なるほど…これは予備武器ですね」

「なっ⁉どうしてそれが!?」

「なに…この部分に小さいですが凹みがありますし、所々に刃こぼれも見られましたので」

「っ!こ、これはお恥ずかしい所をお見せしました!」

「恥ずかしがることはありませんよ。今日は非番だったのでしょう、すこし気が抜けてしまうのはよくある事です」

「……///」

 

自身の恥ずかしい部分を見られてしまい顔が赤くなるクライムさん。なんか……この人は他の王国の兵士の方や町の人達よりも、少しだけ良い印象を感じます。偉い方の護衛を任される人なのですし、本当に根底の部分から善人な人なんでしょう。

 

「…貴方の性格は大体掴めました。戦士にとって手や武器はその人物を映す鏡です。貴方は非常に好感が持てる方の様ですね」

「わかりました、貴方に少しだけ訓練を付けましょう」

「ほ、本当ですか!」

「い、いいんですかセバスさん?何か急いでいた事があるんじゃ……」

「……何、いづれ対処する事ですので今すぐでなくても大丈夫です」

「あ、あの……所でこの女の子は一体?」

「あぁ、自己紹介をそもそもしておりませんでしたね。私はセバス、とある方の執事をしております」

「で、では拙も。拙の名前はグレイといいます」

「グレイ……グレイ?(その名前、つい最近聞いた気が……)」

 

……?何故か拙の名前を聞いてから、クライムさんが少し考え込んでいる様な気がします。拙がエ・ランテルに来たのはここ数週間前ですし、この王国で私を知っている人は教会の人達ぐらい。その教会の人もエ・ランテルでお会いした人が多かったり、その教会で知り合った人ぐらいなのですが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

【回想】

 

数日前 リ・エスティーゼ王国のとある酒場にて

 

 

 王都を歩くクライム、とある酒場にいるハズの二人にある方から伝言を頼まれ、その使いとして歩いていた。話で聞いた酒場にたどり着くと、すぐには入らず身だしなみを確認しておく。どんな時でも失礼が無いように気を付けなければならない。

護衛騎士だからという理由もあるが、これからお会いする方達は自身が命に代えてもお守りしなければならないこの王国の宝、リ・エスティーゼ王国()()()()である「ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ」と交流する人物達なのだから。

 

 

実たしなみに問題ない事を確認し、意気揚々と酒場の扉を開ける。中の賑わいは昼前だというのにそれなりに人が酒を楽しんでいる。そんな酒場の左奥、テーブルに大きなエールを注文した深紅の鎧を身に着けた大柄の女性と、同じく深い深紅のローブを身に着けた仮面の小柄の人物が話し合っている姿が目に入った。

その二人が今回目標の人物達、伝言を伝える為に歩みを進めるとこちらに近づく足音に気付いたのか大柄の女性の方が近づいてくるクライムに気付き、此方に振り向き笑顔を見せて手を振った。

 

「よぉ、童貞!」

「……お久しぶりです」

 

第一声が「童貞」なのはどうかと思うが、豪放磊落な性格は以前合った時と全く変わっていない。彼女がガガーラン、この王国のアダマンタイト冒険者チーム「蒼の薔薇」のメンバーだ。その隣にいるローブの少女も同じくメンバーの一人、イビルアイである。

そう、我が主ラナーの知り合いというのは、「蒼の薔薇」のリーダーである「ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ」。ラナーとの交流があり、時折冒険者が請け負ってはいけない、裏方の仕事をラナーから請け負ったりしているのだ。

 

裏方の仕事というのは、この国に蔓延る犯罪組織「八本指」に関する仕事。「八本指」はあらゆる犯罪を行い、王国を裏から操り支配しようとする者達。麻薬に奴隷売買、密輸、暗殺……あらゆる犯罪を請け負うこの国の汚点だ。

そんな汚点を掃除する為に、ラナー協力のもと、八本指殲滅の為にラキュース達は王国各地を奔走し、拠点を潰し、構成員たちを始末し、麻薬を焼き払ったりと、大々的に敵対していた。今回の連絡もその八本指がらみの連絡である。

 

「なんだぁ?俺に抱かれにきたのか?」「いえ違います(キッパリ)」

チッ…即答かよそれで、何の用だ?お前さんがここに来るなんて珍しいな」

「アインドラ様から伝言を預かりました。「至急動くことになりそうだ、詳細は戻り次第。ただ即座に戦闘に入れるように準備を整えておいてほしい」…との事です」

「おう、りょーかい。にしてもそれだけの為に此処に来るなんざ、ご苦労なこったな」

「いえ、これも護衛騎士である私の仕事ですので」

 

その後しばらく二人と話し合ったクライム。先日ガゼフ戦士長と手合わせをした事、イビルアイに頼んでいた魔法の修行についての話し合い、その際に浮かんできた魔法の歴史についてや、蒼の薔薇のリーダーラキュースについてなど……。

自分には才能が無い事を知っている為、このようなたわいない様な会話の中でさえ、一言一句危機のふぁすことなく、全て聞き覚え自分に蓄えようとしていた。そんな中、ラキュースの話をしていた際、何かを思い出したようでイビルアイが突如話の話題を少し変えた。

 

「あ、ああ!ガガーラン、そういえばエ・ランテルに()()()のアダマンタイト冒険者が生まれたらしいぞ」

「何?初耳だな。……ってか待て、()()()?エ・ランテルにいた元々のアダマンタイト冒険者は2組だけだろ?」

「それが、エ・ランテルに生まれたアダマンタイト級というのが、二組なんだ」

「マジかよ!同時に二組の冒険者がアダマンタイト級に選ばれたってのかよ!そんな話前代未聞じゃあねぇか?」

「そうだな…どうやら一方は黒色、もう一方は白色らしいぞ」

「うーん、黒はともかく白色かぁ……スレイン法国よりじゃなきゃ嬉しいがな……」

「そうか?私はスレイン法国寄りでも気にはしないがな。私自身命を狙われている身ではあるが、あの国の方針には多少共感できる部分があるぞ」

 

二人が法国について話し合い始めた。そんな中エ・ランテルで生まれたアダマンタイト級冒険者の事が気になっているクラインは二人の話を遮るように、イビルアイに冒険者の件を聞いてみることにした。

 

「……申し訳ありませんイビルアイ様。アダマンタイト級の冒険者が生まれたとの事でしたが、その方の名前はなんと?」

「ん?ああ、そうだったな――」

 

「1組は「漆黒」と呼ばれているチームだ。モモン、「漆黒の英雄」なんて呼ばれている戦士がリーダーで、「美姫」と呼ばれるナーベという、魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)の二人組だ」

「ほぉ~!二人だけとは、こいつはかなり隠し玉持ちだな」

「……もう一組の方は?」

「もう一組は「聖光」。「アルトリア・ペンドラゴン」と呼ばれている純白の鎧をまとった騎士がリーダーだ。メンバーは、「聖女」と呼ばれている信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)の「ラピュセル」、そして――」

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

<グレイ視点 王国・路地裏>

 

 

 

「もしかして……「聖光」の?」

「あれ、拙のチームの事を知っているのですか?」

 

どうやらクラインさんは私達の事を知っているようです。王国では冒険者としての行動はしていないはずですが、エ・ランテルでの評価がこちらにも広まっているのでしょうか?冒険者としての武勇を広めるという作戦目標、この王国にも広まっているという事は、作戦は順調そうですね。最初は拙にこんな大役務まるのか不安でしたが、順調に作戦を遂行できてるようで少し安心しました。

 

「おや、彼女の事をご存じで?」

「はい。エ・ランテルのアダマンタイト級冒険者チーム「聖光」のメンバーの一人、様々な武装を扱い敵をかく乱するアサシンとして登録されている方ですよね!まさかこんなに幼いとは……!」

「あ、あの……拙はそこまでの人間では……///」

「ご謙遜を!エ・ランテルで発生したアンデッドの大量発生事件、墓所の扉を破壊するほどのアンデッドの濁流を「漆黒」のナーベさんとの二人だけで対処し、北の山脈から飛来したワイバーンの群れ50頭の内の13体の単機討伐、貴重な薬草の採取に貴族の護衛の完遂……この偉業の数々、素晴らしいの一言に尽きますよ!」

「あの…その…… /////

「クライン様、それ以上は止めてあげた方がよろしいかと、彼女すっかり赤くなってしまっておりますよ」

「あ、あぁ……!すいません、私としたことが興奮しすぎてしまい…!」

「い、いえ…大丈夫です……!」

 

褒められる事に慣れていないのもあって、拙は純粋な誉め言葉が大の苦手です……。普通の人間であるクラインさんですらこの調子だと、もし偉大なる御方々に褒められると、私どうなってしまうんでしょうか……うぅ、想像することもできません……。

 

「そういえば、そんなすごい方がどうしてセバスさんと共に?もしや、師匠と弟子といった関係なのでしょうか?」

「えっ?あ、ああ…そ、そういう関係ではないんです!拙とセバスさんとは、以前セバスさんがお仕えするお嬢様の護衛として冒険者依頼をだしていまして、そこで数週間護衛をした際に、仲良くなったといった感じでして」

「ええ、皆様方の護衛は気の難しいお嬢様も、大変お悦びになっていましたよ。今日この場で会ったのも、完全に偶然なのですよ」

「な、なるほど……そういう関係だったのですね」

 

勿論今の話は先ほどすぐに考えた嘘です。いざというときにすぐ嘘を考え、それが事実の様に話し信じ込ませる……邪ンヌ様が教えてくれた技術です。あのお方の様に上手く騙せたのか不安ですけど、現状変に思われている様な様子はない様なので良かったです。

さすがに他人の成り立ちに深く聞きに来るような状況ではないですし、そんなデリカシーに欠ける人ではないのは知っていたので、この人だからこそ上手く騙せた……のでしょうかね?

 

この後、セバスさんがクライムさんにこの場でできる簡単な修行を行うのですが、まさかその修行があんな事になるなんて、拙には思いもしませんでした……。



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第15話

あけましておめでとうございます(激遅)

今年も自分のペースで投稿していきますので、よろしくお願いいたします。






にしても……王国騒乱編が長くなりそうです……。自分なりに短く、まとめたいなとは思っているのですが、どうしても王国騒乱はしっかり書き綴りたいので、お許しを……。


<グレイ視点 王国・路地裏>

 

その後、修行と題して簡単なモノを行うと告げたセバスさんはクライムさんに武器を構えさせました。その後セバスさんも拳を構え始め……闘気を開放しました。

いままでセバスさんは任務の為、自身の力を隠すために異業種としての迫力、気迫、闘気などを極限まで抑えて活動していました。それゆえに一般人として活動出来ていたんですが、そのオーラというべきものを開放し、クライムさんに強烈な殺気を向けたのです。

 

「……ッ!?!?!?」

「漢とは、この程度のモノですか?」

「せ、セバスさん!?」

 

強烈な殺気はクライムさんの身体を強張らせ、震えさせ、強大な敵…おそらく上位種のドラゴンと相対したような錯覚さえ覚えているのでしょう、小さく「……ドラゴン」と呟いていたのが聞こえました。というかそれよりも……セバスさん、これは流石にやり過ぎです!こんな殺気浴びせてしまったら彼、ショックで死んでしまいますよ!

私も何とか止めようと動こうとしましたが、「手出し無用で」と気迫だけで私に伝えようとしているのを感じました。至高の御方々や守護者の皆様と同じレベルの頂に至っているセバス様の気迫、クライムさんが浴びている殺気に比べてその迫力は微々たるものでしたが、それでも上位の存在たる迫力を感じてしまい、拙は口を開けませんでした。

 

「グゥ……あ…あぁ……‼‼‼」

「ク、クライムさん……(……あの人、セバスさんのあの殺気に抗う意志を見せている……?)」

「この程度ですか……では、()()()()()()()

「ッ!?せ、セバスさ―――」

 

拙が言葉を言い終える前にセバスさんの拳がクライムさんの顔に向かっていきます。あの一撃は先ほどの言葉通り相手を一瞬で殺せる威力!もしやセバスさんは修行とだいしてクライムさんを処理しようとしているのでは!?

もしそれが事実だとしたら、いくら人気が少ないと言えどこんな明るい場所で処分は目立つし、なによりこの影響でセバス様がさらなる問題に巻き込まれることとなったら至高の御方々が……!

 

急ぎアッドを盾に換装させて防がなくては……そう思っていました。ですが、クライムさんは諦めていませんでした。

この数十秒の間、強烈な殺気を真に受けたクライムさんの脳内では幾つもの想像も付かない程の負の感情が渦巻き、脳が走馬灯を見せていたハズ…そんなクライムさんが、覚悟を決めたかのような目を見せ頭を動かし躱そうとしていました。

そして……剣の柄を強く握り、眼差しにひとかたならぬ決意を燃やしたクライムさんは、死の恐怖を乗り越え、セバスさんの一撃必殺の拳をすんでの所で躱したのです。

 

クライムさんは、先ほど自身の頭があった所に突き出された死を匂わせる拳を見て、瞳と身体が震え、想像を絶する経験から解放されたのをゆっくりと実感したクライムさんは、崩れるように膝から崩れました。大量の汗が吹き出し、運動していたわけではないのに、息切れで苦しそうです……。

そんな彼と心配で一杯だった私を気にすることなく、セバスさんは拳を躱したクライムさんに向けて賞賛の拍手を送っていました……。

 

「はぁ……はぁ…はぁ…ッ……はぁはぁ…ゲホッ」

「(パチパチッ)おめでとうございます。どうですか、死を目の前にした気分は?そしてそれを乗り越えた気分は?」

「これが……死……?」

「それに、ショック死しなくて良かったですよ。時にはあるんです、死を確信してしまったが故に生きることを諦め、命を捨てる選択をしてしまうという事が」

「(セバスさんレベルの覇気なら、普通そうなって当然なのでは……(汗))」

「し…失礼ですが、貴方は一体……」

「私は単に腕に自信があるだけの老人にすぎませんよ、ただ貴方より長く少し生きているだけの…ね」

 

優しい笑顔を見せながら受け答えるセバスさん。さっきまでの鬼神の如き形相とは正反対すぎて、逆に今のセバスさんが恐ろしいと拙は感じています……。

 

「それに良かったですよ、グレイさんが手助けに入らないでくれたおかげで、彼は少し成長の道が開けたのですから」

「あ、あぁ…それは、その……あれ程の覇気を出しているセバスさんを見たら、止めたくもありますよ……!本当に殺してしまうのではと思ってしまったんですよ……!」

「ハッハッハ、失礼しました。ですが、私は殺人鬼ではないのですから、もう少し信用してください」

「それは……そうですけど!」

 

ハッハッハと笑いながら私の不安を流そうとするセバスさん、少しずるいです。そんな風に話していたら、先ほどの極度の緊張感から少し解放され動けるようになったクライムさんが立ち上がれる程に回復したようです。

……なんか、一皮むけた?というのでしょうか。今のクライムさんの顔はどこか、先ほどの自分から何かを脱ぎ捨てたかのような…心向きというのでしょうか、何処か変わったような気がします。

セバスさんも立ち上がったクライムさんの表情をみて、どこか関心している様な顔をなさったので、拙の感覚はあっているんだと思います。

 

「では、もう一度行いましょうk――」「まっ、待ってくれ!!」

 

突如後方から一人の男性が声を掛けてきました。かなり興奮し焦っているような表情です。顔立ちは以前邪ンヌ様が見せてくれた「マンガ」という"聖典"に乗っていた一部の人間の女性からは評判が良さそうな顔立ちに似ています。

腰にはこの国では珍しい刀を携えています。たしかこの世界では刀はかなりの高級品で、この世界基準では高レベルの武器の一種に数えられていると学びました。そんな貴重品を持っているなんて、この人は一体?

 

「まず、お三方の邪魔をしたことを心より謝罪させてほしい。だが、どうしても待っている事が出来なかったんだ……!」

「(成程、この方がクライムさん同様駆け足でこちらを追いかけていた二つの人陰の内の一つでしたか……となると、この人も王国の兵士?)」

「…お知合いですか?」

「いえ、違います。あなたの知り合いでも無いのですか?グレイさんはどうです?」

「いえ…拙の記憶にも……(王国の兵士でもない?)」

「私はブレイン・アングラウスと申します。お三方の邪魔をしてしまった事を重ねてお詫びさせてください、申し訳ありませんでした」

「っ!ブレイン・アングラウス……!」

「(ブレイン……ブレイン?…あっ、あぁ…!「ブレイン・アングラウス」…!以前邪ンヌ様が任務で出会ったっていう……!)」

「…それで、どのようなご用件でしょうか?」

 

セバスさんが尋ねると、ブレインさんはクライムさんと私の方を向きある事を尋ねた。それも、かなり真剣なまなざしで。

 

「なぜ…何故君達は、あの殺気を前に立っていられたんだ!」

「……。」「え、えっと……」

「あの殺気は常人の耐えられる領域を軽く超えていた!俺……いやすまない、私だって耐え切れない程のものだった……!にもかかわらず、君達は違う…耐えていた、立っていた!そして君はその殺気を跳ね除け、彼を守ろうとした……!」

「どうしてできたんだ!あれほどの事が!!」

 

ものすごい剣幕で綴られた問い。正直ブレインさんの言葉に戸惑っています。だって何故動けたと言われても、そもそも"拙に向けて"あの殺気を()()()()()()()()()ですし、自分はセバスさんの協力なオーラを自身で感知しただけなので……どう返答すべきなのでしょうか?

そんな風に悩んでいたら、ブレインさんの言葉にどこか戸惑いながらもクライムさんは、ゆっくりと口を開きま始めました。

 

「……分かりません。あれほどの殺気の奔流の中、何故自分が耐えられたのか……。ですが、もしかすると、私の主人の事を考えていたからかもしれません」

「主人?」

「はい。私が仕えているお方の事を考えたら……頑張れました」

「そんなことで、あれを……?」

 

……拙は、ブレインさんがあれほどの顔をしてまでクラインさんに問いかけた理由が、なんとなくわかったような気がします。おそらく、ブレインさんは「強さだけを求めて、他を捨てた」…そういう人生を歩んだんだと。

だから、おそらく自身より実力が劣っているであろうクライムさんがあの殺気を耐えきったことに理解が出来ず、困惑しているんだと……そう感じました。

 

「……そんなこと……そう、たしかにそんな忠義だけで耐えられるなんて普通は考えられないかと思います」

「だけどそれで耐えられるのが強い人なんだと思います。拙も、おそらくクライムさんと同様に殺気の渦に飲み込まれたとしても、拙を大切な仲間だと呼んでくださった方々の為を思えば、どんな苦難も乗り越える覚悟はできる……と思っています」

 

クライムさんの言葉を聞き、自然と拙も喋っていました。多分、拙にも決して他に譲れない忠誠、至高の御方々の存在があるからこそ、拙もブレインさんにその大切さを伝えたいと思ってしまったんだと思います。

 

「グレイさんの言う通りです。人は大切なものの為であれば、自分でも信じられない力を発揮することができます」

「大切なものを守り続けること…それが人の強さだと思っております。彼もまた、発揮したという事です。そして、それは他人事ではありません。他に譲れない何かがあれば、貴方が考える自分を超えた力を発揮することが出来るでしょう」

「譲れないもの……」

「自分一人で培った物なんて弱いものです。自分が折れてしまえば終わりなんですから。そうではなく、誰かと共に築き上げたならば、誰かのために尽くすなら、へし折られてもまだ倒れたりはしません」

 

強いまなざしでブレインさんへ答えるセバスさん。私達の返答にどこか自身を振り返り呆れている様子です。そして小さく笑い、「俺が捨ててしまったものばかりだな」……と、どこか清々しい顔もちで呟きました。

どうやらブレインさんの心の中で燻っていた何かが吹っ切れたようで、先ほどまでのどこか揺らいでいた目がしっかり前を見ているように拙は感じました。まだ不安はある様ですが、クライムさんが優しく強い声を掛けて応援したのをみて、さらに何かを感じた様に感じます。

 

……ですが、拙とセバスさんは彼らの話より、7()()()()()の方が気になっていました。この場での修行と雑談が長引きすぎた結果、妙な気配を漂わせていた気配がこちらに到着してしまいました。この感じ、拙と同じ暗殺者や盗賊の類の暗い気配と何人も殺したのでしょう……古い血の気配です。

 

「……アングラウス様」

「貴方ほどの方に敬称など……アングラウスで構いません」

「では私の事はセバスと…それではアングラウス君、ここに居る彼に稽古をつけてあげてはいただけませんか?」

「えっ、それは構いませんが、先ほどセバス様は……」

「はい、そのつもりでしたが……どうやら、お客様がいらっしゃったようで」

 

セバスさんが路地裏の奥を睨みつけると、そこには人影が3人。都市の風景に溶け込めるようブラウンのローブを纏っており、腰には複数の短剣を備えています。ローブの奥には、おそらく投げナイフ等が納められているのであろう縦長のシース*1が胸元に見え隠れしているのも見えますので、やはり拙の思っていた通り暗殺者の類の様です。

 

「馬鹿な!?あの殺気を受けてなおこちらに来るのか…!」

「いえ、先ほどの殺気は貴方とクライム君にしか向けていませんよ?」

「……え?」

「彼らは最初から敵と判断しておりましたので、逃げられても困りますので殺気は向けていませんでした」

「な、なるほど……だ、だとしたら君は何故あの殺気に気付いたんだ?」

「(え、えぇ…!敵が目の前に居るのにそっちが気になるんですか!?ブレインさん!)え、えっと……拙は、盗賊系を取得しているので、そういうのに敏感なので…」

「そ、そうか……(あの3人ですらあの殺気を気取られた様子が無いんだが…となると、この少女もセバス様側なんだろうな……)」

「私は彼らの内の一人二人程捕縛し、情報を引き出そうと思います。ですがお二人は部外者、私事に巻き込みたくはありません、ですのですぐに―――」

「セバス様、お邪魔かもしれませんが私も王国の騎士の端くれ、王都の治安を守る者として見過ごす事はできません…!」

「なら、お…私も強力させてもらおうか」

「ブレインさん……!」

 

このお二方は何処までも優しい人なようです。お二人共武器を抜き戦闘態勢を取りました。この感じだと、拙も逃がしてくれるような感じではありません、一人がこちらをじっと見て機会をうかがっているのが視線で分かります。なので拙も戦わなければいけないようです。

 

「ここは大人達に任せてくれ、君は今すぐここを――」

「アッド![第一段階]…限定解除!」『オウよ!幽霊じゃネェのが残念だが、しゃあネェなぁ!』

 

腰にぶら下げている籠を取り出し、アッドを私が一番使い慣れている鎌へと変形させます。セバスさんは尋問したいとの事でしたし、他のお二人も居ますので殺傷しないよう、釜の刃は無くし、気絶させられる様にしています。

 

「な、なんだあの武器!?彼女は一体……」

「彼女はエ・ランテルで新しく生まれたアダマンタイト級冒険者、「聖光」のメンバーのお一人、アサシンのグレイさんのようです」

「彼女が……!っはは、まったく…世界は広いな」

「さて…私は前の3人をお相手しますので、後ろの4人をお願いできますか」

「わかりました」

「グレイさんも、彼らの方を手伝ってあげてください。前の3人程度、私で十分です」

「(ですよね…セバスさんに勝てるような人達ではなさそうです)分かりました」

 

そういい拙とブレインさんが後ろを向くと、先ほどまで見えなかった4人の人影が立っていました。既に武器を抜いており、その武器の刃の先端…細いスティレットからは紫色の液体が滴っている。かなり粘性のある液体……毒武器の様ですね。

そんな風に警戒していたら、後方から何かが飛んできている様な気配を感じました。小さく風を切る音、明らか拙達の方に飛んでいる様です。でも風切り音が少し高い……なるほど、拙ではなく私の前で背を向けているブレインさんに向けて投げたようです。なので、すぐさま私が手を出しナイフを一本キャッチします。

今掴んだナイフの後に続きもう2本のナイフも投げられていたようですが、そちらはセバス様が目にも見えない程の速度でナイフを指の間に掴み、止めていました。流石……拙の速さでは1本しか取れませんでした……。

ナイフを受け止められたのを見て、暗殺者達の顔が驚きの表情を見せています。顔から汗が流れている所をみると、どうやら今やっとセバスさんの力を感じたのでしょうね。

 

「――おっと、この方達に浮気しないでいただけますか?」

「……まったく、危ない人達です」

「(あのナイフを一瞬で…!)…すごいですね」

「あぁ、あの二人のどちらかが王国最強だと言われても俺は納得するな」

「王国戦士長よりも、ですか?」

「ああ。あのご老人と彼女はお……すまない、言葉を崩させてもらう。俺とストロノーフ2人掛かりでも勝算は皆無だろうな。彼女に関しては…まだわからんが、おそらく二人掛かりで五分くらいだろうな」

「グレイさんもですか……!」

「買いかぶり過ぎです、私なんかより強い人は大勢いますよ……っと、来ますよ」

「よし、俺は右側二人をやる。クライム君は左だ」

「わかりました」

「君は奥の1人を――」

「――いえ、私が奥の二人を受け持ちます」

 

拙はスキルを使い脚力を強化し飛び出しました。右側の建物の壁を蹴り、後方に居る2人の後ろへ回りました。

拙の動きに驚きを隠せず、思わず口から焦りを含んだ声が漏れ出しています。さらにその後方のブレインさん達も私の動きに困惑している様です。

 

「ハハ……まさか、俺より小さい少女の方が頼れると思う時が来るとはな…!」

「…えぇ、全くです」

 

ブレインさん達二人が交戦を開始しました。剣がぶつかり合う音が路地に響き渡ります。

さて……お二人も戦い始めていますし、奥のセバスさんも~……すでに全員伸されていますね。

でしたら私も、早めに終わらせた方が良いですかね?

 

「……お前、例のアダマンタイト冒険者だな?」

「私の事も知っているのですね……」

「どうだ、俺達に敵対するんではなく、俺達の仲間にならないか?こっちに着くなら望むモノが手に入るぞ?金に力、名声も何もかもだ」

「……くだらないですね」

「なんだと、きさ―――」

 

あまりにもくだらない勧誘の言葉に呆れ、無防備すぎる喋る口が止まらない一人の首元におもいっきり鎌を振りぬきました。

鈍い衝撃音と共に首に鎌がクリーンヒットした暗殺者の一人が、「マッ……‼‼」と喋りかけていた言葉を口から漏らしながら、倒れました。……あまりにも弱いので困惑しています。ラリアットの様に鎌の一撃を喉に受けた暗殺者は白目をむき口の端から少量の泡を吹きながら動きません。

 

「―――は?」

「…では、貴方で最後ですね」

 

焦った様子でナイフを喉元に向け突き刺し来ました。そのナイフをのけぞって回避した拙は、そのまま流れるように手に持った鎌を逆手に持ち替え、裏拳の要領で身体をのけぞった状態から捻り頭の横を殴りつけました。

 

横から勢いよく殴りつけられた暗殺者はぐらりと体制をくずし、視界が揺らいでいる様子。一方私も危ない体制ですが、裏拳の要領で振るった鎌を地面に叩きつけ、まるで棒高跳びの様に飛び上がります。

そして再度体をひねりながら勢いをつけ、相手の肩目掛けて鎌を叩きつけました。

ミシミシと骨が軋む音がしたのと同時に、暗殺者の目が白目へと変わっていき、そのまま頭から倒れこみました。

 

「よし、これで終わりですね。お二人は――」

「……フッ!」「グハッ……‼」

「どうやらブレインさんの方は問題なさそうですね。クライムさんの方は……」

 

クライムさんの方は多少苦戦している様子、既に倒し終え援護という名の指導をしながら応対している様です。

そうして戦いを続けた結果…クライムさんが勝利を収めました。どうやらクライムさんは先ほどのセバスさんの修行とこの戦闘を経て何かを明確に掴んだようです。

 

「お見事です」

「さて……では、尋問を始めます」

 

無事脅威を排除することが出来たセバスさんは倒した暗殺者の一人を持ち上げると、自身のスキルを使い尋問を始めました。

……この件がきっかけで、この先の王国が大きく変わる事になるだなんて…この時の拙には想像すらしていませんでした。

 

そう……王国にとって最大級の事件の幕が、上がったのです。

*1
ナイフをしまうナイフ版のホルスターの様なモノ



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