Act1.ハルウララ〜桜咲く〜 (雪狐)
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閑話(削除もしくは公開停止予定)
閑話:トレーナーの話と、とある記者の独り言


私生活が忙しくてなかなか更新が出来ず、本当にすみません。
なるべく更新できるように頑張りますm(_ _)m
今回も短くてなってます、すみません。

ちょっと書いてみたくなった事が増えたので、後編でなく中編に増やしました。
ウララのメイクデビューレースは次回更新になります。


「ついに今日、か」

 

 気が昂る……昨夜から自分でも不思議なくらい落ち着きがないのを実感している。

 これではまるで初めてレースに向かう新米のようだな……。

 少し早いが仕方ないか、取り敢えず既に何度も何度も確認したレース詳細データを読んでおくか。

 

「ダート、1300m、9人……ウララの推定人気は……9番人気」

 

 メイクデビューレースはだいたい実力は変わらない、が……ウララには圧倒的に時間が足りなかった。

 あのクズからもう少し早く引き離しておけば……いかんいかん、もしを言い始めたらキリが無い。

 

「勝たせてやりたいが、しかし……」

 

 ウララにメイクデビューレースを告げたあの日、私はゴールドシップと話をした。

 どこか私が考えていた事を否定してほしかった……しかし、ゴールドシップの考えも同じモノだった。

 

『正直に言わせてもらうならよぉ……アイツには時間が足りてねぇよ、今回はウラ吉に対しては辛い結果を避けらんねぇと思うぜ』

 

 普段は何を考えているか分からないゴールドシップが、あの時だけはなんとも言えない厳しい顔をしていたな。

 

 ウララは勝てない。 これは私も分かっているんだ……しかし、ウララは他の子に比べて出遅れている、だから1日でも早くメイクデビューをさせておかないと後々、困るのだ。

 

 あぁ、頭が痛い……。

 

 私のトレーナー人生で最も苦しいレースを迎えなければならないとは……小さなため息を吐いた後、頭痛薬を飲む。

 

「ふぅ……よし!情けない顔をするな!!喝!!」

 

 鏡に映る自分があまりにも情けない顔をしている、馬鹿者め! 私はトレーナーだぞ、私がこんなに情けない所を見せてどうする! 気合いを入れろ!

 パァンと乾いた音が辺りに響き、同時に頬に強い痛みを感じた。 そして、もう鏡には情けない顔をした私は映っていなかった。

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 あーダルい。

 自分で選んだ仕事なんだけどさ……最近、やる気起きないんだよね。

 

「ダル〜い」

 

 とあるウマ娘とトレーナーに憧れて記者を志した。 偶然、当時の彼氏に連れられて見に来たレースで、私はとあるウマ娘とトレーナー達に魅入られた。

 一際目立つ真っ赤なジャージ姿の私と同い歳に見える女の子と、真っ白な髪を靡かせるウマ娘。

 もっと彼女達の事が知りたくて、そんで記者を目指した。

 

 私が記者になる頃にはあのウマ娘の子は引退しているかもしれないけど、赤ジャージの女の子のトレーナーは現役で活躍しているはず! そう思ってた……なのに、私がやっと記者になった頃にはあの赤ジャージのトレーナーは居なくなってた。

 

 なんで? って思って先輩達に聞いてみた、するとみんな同じ事を言ってきた。

 

『あー……あの神童ちゃんか、アレはもうダメだと思うぞ。もう何年もトレーナーとして失敗して、結果を残せていないからな』

 

 先輩達の言葉がどうにも信じられないくて自分でも調べてみた

けど……結果はひどいモノだった。

 

 落ちた天才トレーナーやら、神童も大人になればただの人、などひどい書かれようモノばかり。

 事実あの赤ジャージのトレーナーは、1番長く指導していたウマ娘が引退した後から全く成績を残せておらず、何度も担当ウマ娘を変えられていた。

 

 そんで、もう私が記者として取材したかった2人がいない事を知って、一気にやる気が無くなったのだ。

 それでも、まだあの赤ジャージのトレーナーはトレセンを辞めていなかったんで、もしかしたら戻ってくるかも……なんて甘い事を夢見ながら記者を続けている。

 でも、もう無理かもなぁ……既に彼女が表舞台から消えて5年以上経ってるし、仲良くしてくれてるトレセンの関係者から、去年くらいにまた担当ウマ娘からトレーナーを解雇されたと聞いたしなぁ……。

 

「ハァ……あの赤ジャージのトレーナーを取材したかったなー」

 

 大きな溜め息を吐いた後、私はまたやる気なく仕事をするべく本日のレースを見るべく記者席へと向かい歩き出した。

 

 




次回予告(仮)

ウララとデビューレースと涙と〜後編+とある記者の涙〜


お知らせ
Act.2ライスシャワーの更新は、もう少しウララ編が進んでからやろうと思ってます。


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閑話:リスティーの半日とGシップの怖い話。

思いついたので少しだけ。


 桜井リスティーの朝は早い。

 4時半に起床した後、5時まで30分の瞑想をし、6時まで筋トレとランニングを行うのが毎日の日課である。

 その後は15分ほどウララの練習メニューをぼんやりと考えながら瞑想をして朝の日課が終わる。

 

 瞑想の後は食堂に移動し朝食。

 サラダ500g、水500ml、サラダチキン500g、味噌汁、ヨーグルト200g、牛乳500ml、プロテイン40gが毎日のメニュー。

 

 朝食後、ウララの朝練へと向かう。 朝練を終えた後、軽くウララへマッサージで疲労回復とウララ成分の補給。

 充分にウララ成分を補給をしたら、ウララを授業へと送り出す。

 

 ウララが授業を受けている時間帯は、基本的にリスティーは暇である。

 他のトレーナーは教師を兼任していたりするが、リスティーは受け持ちがないのと、担当のウマ娘が一人なので他のトレーナーに比べると比較的暇である。

 少し前なら、ダラダラとたづなさんの手伝いや理事長の手伝いをして暇を潰していたが、今のリスティーはハルウララという専属のウマ娘がいる。

 なので、空いた時間は全てウララの練習メニューの組み立てや、練習に使う道具を調達したり、練習を手伝ってもらうウマ娘を探したりしている。

 

 なんやかんや過ごした後、ウララと合流してから昼食を開始。

 豆腐500g、ブロッコリー150g、梅干し2個、白米300g、にんじんハンバーグ500g、お茶、牛乳とプロテイン。

 食べ終えた後には、ウララと軽く話して別れてから30分ほど昼寝をする。

 昼寝の後は軽く筋トレをしてからたづなさんの手伝いに向かうのが日課となっている。

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 とあるGさんの怖い話。

 

「今から話す事はよ……マジで現実にあった事なんだよ」

 

 Gさんはいつものように、風の吹くまま気の向くままに歩いていた。

 とくに何があったわけではないのだが、Gさんはふと練習場の方へと足を向けた。

 

 その時間は授業中って事もあり、誰もいなかったそう。

 それで、昼寝でもするか? ってGさん木陰へと寝そべった。

 

 まだまだ日差しが強くて、ジリジリと肌を刺激するが木陰には涼しい風が吹いていてね、とっても昼寝にはもってこいのシチュエーションだったそうな。

 

「よっしゃ、ゴルシちゃんはクールに昼寝するぜ」

 

 某ス○ード何某の真似でもしながらGさんはその木陰に寝転んだ。

 それでね、目を閉じてさぁ〜寝ようとしたその時……遠〜くからね、微か〜に何か引きずるような音が聞こえてきた。

 

 ザッ、ザッ、ザッ。

 最初は特に気にもしなかったんだが、その引きずる音が次第に大きくなってきた。

 

「あー!!うるせぇなぁー誰だー!!ゴルシちゃんの夢への旅を邪魔するの……は?」

 

 Gさんさついついイラッとして、音の正体を見てやろうと勢いよく起き上がった、そして次の瞬間……Gさんは信じられないモノを見てしまったそうです。

 

 音の正体……それはタイヤを引き歩くSさんってトレーナーだった。

 ここだけ聞くなら、ただSさんがタイヤを引いて歩いているだけじゃないか? って思うでしょう? 違うんです、なぜGさんが驚いたのか、それは……タイヤです。

 

 Gさんの通う学園ではね、代々のウマ娘達がパワートレーニングに使うための大きな大きなタイヤがあるんですよ。

 その大きさはなんと、直径4m超えで幅1.4mを超えるとんでもないタイヤなんだそう。

 

 ウマ娘でさえ引くのには相当のパワーがいると、Gさんは語る。

 そんなタイヤをね……Sさんは引いていたんですよ。

 

 Gさんはその光景を見た瞬間、背筋にゾワッ〜っと嫌ぁ〜な汗が流れたそうです。

 そしてGさんはただただ、目の前で起こっている有り得ない光景を見ているだけしかできなかったそうです。

 

 そして我に返った時に、もうSさんの姿は無かったそうですよ。

 

 Gシップの怖い話その1 終わり。




とりあえず……思いついたのを衝動的に書きました。

Gシップの怖い話、はまた閑話として書いてみるかもしれません。



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閑話:リスティーとSSの秘密の日曜日〜その1〜

本編更新は次回を予定しております。

今回のお話はリスティーさんとSSのお話になります。
リスティーさんの秘密の第一弾となっております。



 小さな頃の私は泣き虫で、よく兄弟達にいじめられては泣いていた。

 私の父母はとても厳しい人達で、父母は地方トレセンのトレーナーだった。

 

 兄や姉と妹と私は中央のトレーナーになるべく厳しい教育を受けていた。

 優秀な兄、姉、妹に比べて、私は体も弱く小柄だったため、父母は私の事を出来損ないだと言い、兄弟姉妹からも落ちこぼれと呼ばれ粗雑な扱いを受けていた。

 

 兄にグズと呼ばれ、姉からは不良品と呼ばれ、妹からはゴミと呼ばれていた。

 誕生日を祝ってもらった事すら無かったし、服などは全て姉か妹の着れなくなったお古ばかり、食事も兄弟姉妹の食べ残し、食べ残しが無かった日は雑草を食べる日もあった。

 

 転機が訪れたのは9歳になった夏の事、長らく中央トレセンで多忙なトレーナーをしていた祖父が、60歳の還暦を機に長期の休暇を取ったと遊びに来たことがキッカケであった。

 

 祖父は薄汚れボロボロな私を見るなり目を見開いて驚いた。

 そして父母を怒鳴りつけた、なぜこの子はこんなに痩せ細っている!? なぜこの子はアザだらけなんだ!? 怒鳴る祖父に対し、父母は不快そうな顔でただ一言だけ告げた、落ちこぼれだからですよ、と。

 その一言を聞いた瞬間、祖父は父を殴り倒し、母には怒声を浴びせた。 あまりの祖父の剣幕に兄弟姉妹も怯え腰を抜かしていた。

 祖父は一通り怒鳴った後、私を力強く抱き上げるとその足で乗ってきた車へと向かって歩き出した。

 

 外には当時は名前など知らなかったが、ド派手なピンク色のキャデラックが停まっており祖父は優しく私を助手席に下ろすとシートベルトを装着させてくれた。

 当時はオロオロするしかできずされるがままだった私に祖父は優しく笑い、ちょっと待ってなさいと優しく頭を撫でてくれた。

 それから10分程度経った頃に祖父は戻ってきて運転席へと座りエンジンを掛け、そのまま振り向きもせず私の実家から走り去った。

 

 その後、私は祖父の養子となり祖父の元で暮らし始めた。

 いきなり私を連れ帰り、養子にすると祖父が祖母に言った際には状況が飲み込めずに驚いていた祖母だったが、祖父から私がどの様な扱いをされていたかを聞いた後、祖母は私を抱き締め声を上げて泣き出した。 それに釣られる様に、私も泣き出してしまい、結局その日はそのまま泣き疲れ寝てしまった。

 後日、私は祖父母の正式な養子となり、それまで受けた事がなかった愛情を一身に注がれ始めた。

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 祖父母に引き取られ2年が経ち、私も11歳になったとある夏の日。

 私はアイツと初めて出会った。

 なんの予兆もなく、唐突にアイツは現れた。

 ギザギザに尖った歯、見るモノを引き込むような爛々と妖しく光る瞳、青鹿毛の髪、全体的にまるで漆黒の様に真っ黒な服装だった。

 当初、私はアイツの事を私の妄想だと思ったが、すぐにそれは違うと理解した。

 アイツは……コイツは私だ、と。 コイツと私は同じモノであると確信した。

 

「よぉ、やっと俺様を見たな」

 

 アイツはニンマリと口角を上げ嬉しそうに笑っている。 

 

「お前は誰なの?」

 

 ドキドキと胸が高鳴った、まるで長い時間探していたモノを見つけたような気持ちで鼓動が激しく高鳴る。

 

「俺様か?知ってるはずだぞ?思い出せよ」

 

 アイツは私の頭を優しげに掴むと、顔を唇が当たるくらいまで近づけニンマリ笑顔のまま目を細めた。

 

「……S、SS」

 

 私は頭に浮かんだその名をポツリと零した。

 すると、アイツは……SSはギザギザ歯を見せ大声で笑った。

 

「そうだ!!俺様はSS!!やっと会えたなぉー、俺様の半身♪」

 

 これが私とSSの始めての出会いだった。

 そしてこの出会いの後から、私の人生は大きく動きはじめた。

 

 

 




SSの正体につきましては、ご想像にお任せ致します。一応モデルは……あの青鹿毛のお馬です。

本編更新について

本編の続きがなかなか纏まらず、もう少しだけウララがどうやってクリークマッマを攻略するかを考えてみたいので、長く書かずにいると書けなくなりそうなので、本編の続きが書けるまで閑話を更新させて頂きたいと思います。

本編が纏まり次第、すぐに更新させて頂きます。
しばし閑話をお楽しみ下さい。

また本編更新後は閑話は削除、もしくは公開停止しようと思っています。


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本編
まだ蕾の君に


遅筆ではありますが、よろしくお願いします。


 私はきっとこの日の事を一生涯、忘れはしないだろう。

 

「な、なんという事でしょうかぁああ!?ハルウララ!!ハルウララが来たぁあ!!」

 

 まるで声の津波のような大歓声の中、満開に咲く桜のようにウララは駆け抜けていく。

 誰よりも速く、後ろから追い縋るウマ娘達を置き去りにウララは駆け抜ける。

 

 ウララ頑張れ!ウララ頑張れ!! この三年間、アナタが何度も泣き、何度も悔しがり、何度も打ちのめされたのを見てきた。 でも、それも今日で終わり。

 

「ウララァァァァァァ!!行けぇえええー!!」

 

 私の声が届いたのか分からないが、ウララは一瞬だけどニコッと微笑んだように見えた、そして。

 

「ハルウララ!!今!!ゴォォオオオオル!!」

 

 その瞬間、会場は声の大嵐に飲み込まれ、レース場にはハルウララという満開の桜が咲いていた。

 

 

 

 

****三年前****

 

 桜の舞い散る四月、私は1人のウマ娘と出会った。 彼女の名はハルウララ。

 とても明るく、いつも笑顔を絶やさずニコニコと楽しそうに走っている子だった。

 お世辞にも成績はいいとは言えず、私が初めに思ったのはまるで才能の無い子だった。

 

 しかし、どこか彼女に惹かれるモノを感じた私は、ウララをずっと見ていた。

 その頃の私は、教えていたウマ娘が引退してしまい燃え尽きていて、トレーナーを辞めて学園を去ろうと思っていた。

 お世辞にも私は良いトレーナーとは評価されていなかったのを知っていたし、前の担当していたウマ娘の子だけしか私に着いてきてくれなかった。

 

 裏でハズレトレーナーやら、鬼トレーナーやら、ウマ娘に無理な練習をさせるサディストと呼ばれているのも知っていた。

 実際、私の指導は厳しい。桐生院君や東条さんからもやり過ぎじゃないのか?と言われるほどだし、前に少しだけ預かって指導したゴールドシップに至っては私の顔を見るだけで逃げていく。

 

 別に、私も彼女らが憎くて厳しくしている訳では無いのだけれど……な。

 むしろ愛しくて勝ってほしい気持ちが強すぎるからこそ、私も指導に熱が入るのだ。

 最後に担当した子からは、リスティーは勘違いされやすいからねープークスクス〜! っとよく揶揄われていたものだ。

 

 事実、あの子の後に2人ほどに指導をしたのだが、見事に逃げられてしまった。 理事長にも既に退職届けを提出済みなので、後は私物を片付けて去るのみである。

 なのだが……どうしてもあの子、ハルウララが気になってしまいなかなか片付けが終わらずにいる。

 

「ふぅ……なぜか目があの子を追ってしまうんだよな……」

 

 なんて良く笑う子だ。

 なんて愛らしく笑う子だ。

 なんて……才能が無い子だ。

 

 知れば知るほど不思議な子だ。 既に去るのみの私には関係無いはずなのだが、どうしても気になる。 気になって夜も眠れない。

 つい、東条さんや桐生院君にハルウララについて聞いてしまったりする。 

 彼女は良いトレーナーに出会えるだろうか? 彼女を少しでも先に連れて行ってくれるトレーナーに恵まれるだろうか、などなど。

 

 気になる。気になって、気になって仕方ない。

 

 そして、ある日。 私は最悪の形で彼女の姿を見てしまった。

 彼女を担当するトレーナーが決まったと東条さんから聞き、どこか悲しいような気がしたが、彼女もやっとトレーナーに出会えたのだと納得し、自分の気持ちは内にしまった。

 

 さて思い残しも無くなった事だし、最後の片付けをと向かった練習場で私は見てしまった。

 ただ1人で、黙々と練習する彼女に……。

 

 どういう事だ? なぜトレーナーがいない? なぜ、彼女は1人なんだ?

 何か嫌な気持ちが湧いてきた、まさか? 彼女は……。

 気づいた時には、私は彼女の担当トレーナーを探して駆け出していた。

 

 しばらく練習場を探していると、見つけた。 ヘラヘラとした笑みを浮かべ、数人のウマ娘達と一緒にいた。

 すぐに私はなぜ、ハルウララのトレーニングを見てやらないのか? と問い詰めた。

 すると、奴は言った。

 

「あー、あの子ですか?あれはダメですよ、才能が無い。あの子、正直言うと押し付けられたから仕方なく受け持っただけなんですよねー」

 

 私の頭は真っ白になった。 もちろん怒りでだ、そして次の瞬間にこの無能者(むのうもの)を殴りつけていた。

 

「才能が無い?押し付けられたから仕方なく受け持った?貴様!!ふざけているのか!!もういい、あの子は……ハルウララは私が受け持つ!!貴様は一生、そのまま寝てろクズが!!」

 

 私に殴られ倒れた無能者は怯えたように私を見上げているだけだった。 そして、私は無能者の返事を待たずにその足で理事長室へと向かった。

 

 途中でスピカのトレーナーとすれ違ったが、何故か引き攣った顔をされた。 非常に不愉快ではあったが、今はハルウララのトレーナー変更が優先であったため無視をして足を早めた。

 

 

 

********

 

---理事長室---

 

「理事長!!話があるのだが!!」

 

 勢いよく扉をこれでもかと破らんばかりに乱暴に開けて入ってきた私を、理事長とたづな君は目をまん丸に見開いて驚いていた。

 

「ど、どうしたんだい?」

 

 理事長は驚きながらも対応をしてくれた。

 

「理事長、すまないが退職の件を撤回させて頂きたい!」

 

 私の発言が想定外の事だったのか、理事長は一瞬、目を見開き驚きを露わにしたが、すぐにわかったと私の退職撤回を認めてくれた。

 

「それともう一つ、ハルウララのトレーナーを私に変更して頂きたい」

 

 これまた予想外だったのだろう、え!? っと声に出して鳩が豆鉄砲を食ったかのような顔をした。

 

「しかし……ハルウララくんは確か、新人の……」

 

「問題ない、話はすでにつけてきた。たづな君、ハルウララのトレーナーを私に書き換えておいて」

 

 理事長の言葉を遮り、私は有無を言わせずにトレーナー権利を移させた。理事長とたづな君はまだよく状況を飲み込めずにいるようだが、私の強引な勢いと熱量に押されてかすぐに書類の制作をしてくれた。

 そして、出来上がったトレーナー交代の書類を貰うと私は居ても立っても居られず、練習場で1人でいる彼女の元へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 



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独り

「それじゃあ、君はここで自主練してて……えーと、名前なんだっけ?まぁ、いっか……じゃ、頑張ってね」

 

 トレーナーは投げやりに言い放った後、振り返りもせずにそのまま歩いて行った。

 

「……ハルウララだよ、トレーナーさん」

 

 ポツリと漏らしたウララの声は、もうトレーナーには届いていなかった。

 

――分かってたんだ。ウララは望まれてなかったって。

 

 下を向くと泣いちゃいそうで嫌だな……ダメダメ!! もっともっと頑張らなきゃ、頑張ればきっと私を見てくれるはず。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 トレーナーからは何にも指示がなかった、だから一生懸命に考えたけど何していいかわからないから……ずっと闇雲に走って走って、ただひたすらに走った。

 

 他の子に比べて、私は体力も技量も速さも無い。 でも、頑張る事だけはできるもん。

 頑張って頑張って、トレーナーがビックリするくらい頑張るんだ。

 

 ふと近くでトレーニングをしていたスペちゃん達が目に入った。楽しそうにみんなでトレーニングして、トレーナーさんからも褒めてもらえて……とても、羨ましいなぁ。

 心の奥がキュッって締め付けられるような感じがする。

 嫌だなぁ……嫌な気持ちがする。 私だけ、独りなのは嫌だな。

 

 寂しいなぁ……私も、みんなと一緒にトレーナーさんから指導されたいなぁ。

 

 

 次の日、思い切ってトレーナーさんにお願いしてみた。

 ウララもみんなのトレーニングに参加させて下さいって、そしたらトレーナーさん言ったよ。

 

「君さ、ついて来れないでしょ?みんなの邪魔になるからダメだよ」

 

 また、心の奥がキュッって痛んだ。私が、ワガママなのかな……みんなと一緒に練習したいって思うのは悪い事なのかな。

 

 その後も私は独りで練習を続けた。 頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って頑張るんだ。

 トレーナーさんに認めてもらえるように。

 

 

 ある日、トレーナーさんからみんなの練習に参加しなさいって言われた。とても嬉しかった。

 よぉし、張り切って練習の成果を見せるよ!!

 

「君さ……全然変わってないじゃん!!何してたの!?」

 

 練習の後、私はトレーナーさんに怒られた。 私がみんなの練習についていけなくて、途中で座り込んじゃったから。

 何にも成長してない! 何してたの!? 遊んでないで練習しなよ!! ってたくさん怒られた。

 私は……ウララは遊んでなんかなかったよ? 一生懸命、考えて頑張って練習したんだよ?

 そして、つい言ってしまった。

 

「トレーナーさんが何も教えてくれなかったから……」

 

 言葉を漏らしてから、しまったと思った。 けど、すでに遅かった。

 トレーナーさんは目を釣り上げて怒鳴り出した、自分がサボっていたのを俺のせいにするな!! お前は何様だ!? 俺が悪いのか!!

 

 ごめんなさい、ごめんなさい。

 違うの、ウララはただ……トレーナーさんに、認めて……。

 

「もう分かった!!君は好きにすればいい!!ったく、ボランティアで引き受けてやったのに!!」

 

 ま、待ってトレーナーさん。 ウララが悪かったから、お願いだよ。 トレーナーさん。

 

 ガクガクと体が震えてそのまま何も言えなかった。

 次の日から、ウララは本当に独りで練習する事になった。もうトレーナーさんは、声も掛けてくれない。まるでウララが……見えていないみたいに振る舞ってる。

 

 辛くて……辛くて。 いっその事こと、練習をやめちゃおうかなって思ったけど……気づいたら練習場に向かってた。

 ズキンズキンって胸の奥がとても痛い。 誰か、助けてよ。

 

 ウララを見て、ウララ寂しいよ。

 気づかないうちにポタポタと次から次に涙が零れ落ちる。

 もう笑えない、よ。

 

「誰か……ウララを……」 

 

 ウララを助けてよ。

 

「ハルウララ!!」

 

 不意にとても大きな声で名前を呼ばれた。 ビックリして声がした方に視線を向けると、知らない女の人が立ってた。

 鋭い目つきに、とても長い髪、ウララを見つめる薄緑色の瞳はとても力強く見えた。

 

 誰、だろう。

 

「今日からお前の新しいトレーナーになった、桜井リスティーだ!」

 

 え?新しい、トレーナーさん? あぁ、そうか……ウララ、ついにトレーナーさんに捨てられたんだ。

 自覚した瞬間、とても悲しくなってもう立ってられなくて……その場に座り込んだ。

 

「どうした!?」

 

 いきなり座り込んだウララにビックリしたのか、新しいトレーナーさんは慌てて駆け寄ってきた。

 

「大丈夫、です……あの、前のトレーナーさんは……」

 

 ウララが大丈夫だと言ったら、新しいトレーナーさんは安堵したような顔をした後に、瞳を細めて吐き捨てるように言った。

 

「あの無能者か、あいつならば私が成敗しておいたぞ。まったく、あのような無能を迎え入れるなど言語道断だ、嘆かわしい!!」

 

 新しいトレーナーさんはとても怒っているのか、とても声が怖い。

 ビクビクとしていると、新しいトレーナーさんは何かに気づいたのか、いきなりウララの事を抱き上げた。

 

「ひゃっ!?」

 

 そして抱き上げたまま歩き出した。な、なに?いきなり、どうしたんだろ……。

 ウララが困惑していると、新しいトレーナーさんは顰めっ面をしながら話し出した。

 

「まったく、傷だらけじゃないか。あの無能者は治療すらしてくれなかったのか……すぐに保健室で治療してやるからな」

 

 こんなことを言われたの初めてだった。前のトレーナーさんはウララがケガをしたのを見ても、何もしてくれなかったのに……。

 

「あ、れ……あれ?」

 

 なんでだろう、涙が止まらない。 次から次へとポロポロと涙が止まらないよ。

 

「な!?どうしたんだ!?どこか痛いのか!?ま、さか、私の運び方が悪かったか!?」

 

 急に泣き出したウララに、新しいトレーナーさんは慌てだした。違う、違うよ。ウララは嬉しいの、言葉が上手く出ないんだよ。

 

「う、ぅう……ぐすっ」

 

 結局、保健室に着くまでずっとウララは泣き止むことができなかった。たくさん泣いて、新しいトレーナーさんのお洋服も鼻水と涙でグシャグシャに汚しちゃった。

 

 いつまでも泣き止まないウララに、新しいトレーナーさんは困りながらも優しく抱きしめてくれて、頭を撫でてくれた。

 こんなに優しくされたのは初めてだったから、嬉しくて嬉しくて涙が止まんなくて、ずっと新しいトレーナーさんの胸の中で泣いちゃった。

 

 

 



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独りは終わり。

ハルウララに魅せられてしまいましたので、連投します。


 彼女に挨拶をしないとな、と意気込んで向かった私の目に写ったのは、悲しそうに泣いていたハルウララの姿だった。

 前の無能者がいかに彼女を見ていなかったが、一目瞭然であった。

 所々にできた擦り傷、あんなに花が咲いたような明るい笑顔をしていた彼女が泣いているのだ。

 俯き、今にも壊れてしまいそうな彼女を見ていられなくて、つい大きな声で出してしまった。

 

「ハルウララ!!」

 

 彼女はビクリと身を震わせながら、虚な目で私の方に視線を向けたきた。

 いきなり名前を叫ばれ、初対面である私に困惑しているのだろう、オドオドしている。

 とりあえず、あの無能者からトレーナーを交代した事を伝える事にした。

 

「今日からお前の新しいトレーナーになった、桜井リスティーだ!」

 

 告げた瞬間、ウララは一気に血の気が引いたように真っ青な顔になり、その場に座り込んでしまった。

 

「どうした!?」

 

 突然の事に私は焦ってしまい、慌ててウララの元へ駆け寄った。

 するとウララは搾りだしたようなか細い声で聞いてきた。

 

「大丈夫、です……あの、前のトレーナーさんは……」 

 

 一応、ウララの口から大丈夫だと聞いた事で安心はしたが、あの無能者の事が気になるのか……なぜか面白くない気分だ。

 

「あの無能者か、あいつならば私が成敗しておいたぞ。まったく、あのような無能を迎え入れるなど言語道断だ、嘆かわしい!!」

 

 あんなに満開の花のような、太陽のような笑顔をしていたこの子にこんな顔をさせおって!! 怒りが込み上げてきたが、すぐに怒りよりも近くで見たウララの擦り傷だらけなのが気になった。

 すぐに治療すべきであると判断して、私はウララを抱き上げ保健室に向かう事にした。

 

「ひゃっ!?」

 

 いきなり抱き上げられた事に驚いたのか、ウララは大きく目を見開き困惑を露わにした。

 ふむ、近くで見れば見るほど擦り傷が多いな……むぅ。

 

「まったく、傷だらけじゃないか。あの無能者は治療すらしてくれなかったのか……すぐに保健室で治療してやるからな」

 

 ウララはこんなに小さな体で耐えていたのか……そう思うとなんとも切なくなり、無能者への怒りが更に強まった。

 とりあえず治療をしなければなと、思いふとウララの顔に視線を向けた瞬間、私は心臓が凍りついたかのようにゾクリと寒気がした。

 

「あ、れ……あれ?」

 

 ウララが泣いていたのだ。

 ポロポロと大きく美しい瞳から止めどなく涙を溢れさせている。

 まさか!? 私の運び方が悪くて何処かを痛めたのか!?

 

「な!?どうしたんだ!?どこか痛いのか!?ま、さか、私の運び方が悪かったのか!?」 

 

 突然の事に私は冷静さを欠いてしまい、我ながら情け無いがオロオロと狼狽してしまった。

 なんとか涙の理由を探らねばと思うのだが、上手い言葉も方法も浮かばない。

 

「う、ぅう……ぐすっ」

 

 くっ!? 泣くほどに痛いのだろうか? 早く治療をしなければと焦るものの、あまり急いで揺らす事で更に痛みを与えるのでは? と思うと走って向かう事もできず、なんだがモヤモヤしながらも少しだけ早足で保健室へと向かった。

 

 結局、保健室に着いてからもウララは泣き止まなかった。

 私の胸元に顔を埋め、嗚咽を漏らし先程よりも酷くなっていた。

 すでに私の服はウララの鼻水と涙でベトベトになってはいたが、そんなことは些細な事であるから構わない。

 しかし今は兎に角、ウララがどうすれば泣き止んでくれるのかが重要である。

 

 むぅ、こんな時は確か……こう、だったか?

 遠い昔、母が泣きじゃくる妹にしていたように、私も記憶を思い出しながらウララを出来るだけ優しく抱きしめて、頭を優しく撫で続けた。

 

どのくらい撫でていただろうか、ふと気づくと胸元のウララから小さな吐息が漏れていた。

 

「寝て、しまったか……困ったな、治療をしないといけないんだが」 

 

 治療のために、ウララを起こさないようにゆっくり優しくベッドに降ろした。

 まずは涙と鼻水まみれの顔を優しくハンカチで拭き、次に水道で保健室にある置いてあったタオルを濡らしてから、優しく傷口を拭きあげてから治療をした。

 

 治療中、ウララがうーと唸る度、起こしてしまったか?と思いながらも、恐る恐る慎重に治療を続けた。

 

 そして30分程で治療を終えた。その後、時計を見るとすでに時刻は18時を過ぎていたため、起こして帰そうかとも思ったが、グッスリと寝ているウララを見ると起こすのはかわいそうに思った。

 

「仕方ない、背負っていくか」

 

 起こさないよう、慎重に抱き上げ寮に向かったのだが……。

 

「む?……ウララは栗東寮と美浦寮のどっちだ?」

 

 しばらく悩んでみたが、知らないものをいくら悩んでも無駄であると判断し、とりあえずフジキセキが寮長をしている栗東寮へと連れて行く事にした。

 なぜ、ヒシアマゾンでなくフジキセキの方を選んだかと言うなら、リスティーが過去にヒシアマゾンを数日預かった際にゲボるくらいトレーニングをさせてしまったので、未だに会うと顔を引き攣らせる為である。

 

 栗東寮の前に着き、フジキセキを呼び出すベルを鳴らした。

 そして、すぐにやってきてフジキセキに事情を話すと、フジキセキは心良くウララを部屋まで運ぶのを引き受けてくれたので、ウララの事を任せて寮を後にした。

 

 しばらく歩いた後、ふいに振り返り自然と言葉がでた。

 

「よく眠りなさいウララ、おやすみ」

 

 なぜだろうか……今日はよく眠れる気がするな、などと思いながら自宅へと帰る私の足はとても軽かった。

 

 

 



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顔合わせ

誤字のお知らせありがとうございました(・∀・)

お気に入りがまさかの100件越え……ありがとうございます。

なるべく毎日更新を目標にしたいと思います。


 朝、目が覚めた。 いつもは熟睡できなくてとっても憂鬱な気持ちだったはずなのに、今日はとってもスッキリしててポワッて気持ちになっている。

 

「ん……ん〜、んっ?」

 

なんでだろう?どうして今日はこんなに気持ちいいのかな? 昨日は確か……。

 まだ寝ぼけているのか、頭がしっかりと働かない。

 うーんうーんと唸り、不意に自分から香る自分のじゃない匂いに気づいた。

 誰の匂いだろう?

この匂い……あ、思い出した。

 昨日の事を思い出しウララは顔から火が出るほど恥ずかしくなった。

 全部、思い出した。 寝起きから意識がはっきりとしてくると同時に、新しいトレーナーさんにまるで子供のように泣きついてしまった。

 

「あぅ〜、恥ずかしい恥ずかしいよぉ」

 

 昨日、自分がやらかした事に悶えながらも新しいトレーナーさんについて考えてしまう。

 確か名前は……桜井リスティーさんだった。 髪がとっても長くて薄い緑色の力強い瞳がとても印象的だったなぁ。

 それに……あんなに優しく抱きしめてもらったのなんて、子供の頃以来かも。

 自分でも気づかないうちに顔がニコニコと笑ってしまい、頬はリンゴのように赤く染まっている。

 

 前のトレーナーさんはウララには無関心でお話すらまともにした事がなかった。

 新しいトレーナーさんはどうかな、ウララとたくさんお話してくれるかな。

 モジモジと考えていると、不意に自分に貼られた無数の絆創膏が目に入った。

 

「これ……全部トレーナーさんがしてくれたんだ」

 

 絆創膏の一つ一つからトレーナーの優しさを感じれるような気がして、また顔がニコニコとなってしまう。

 こんなにも嬉しいのはいつ以来だろうか、苦しくない笑顔なんて本当に久しぶりだなぁ。

 

「桜井リスティートレーナー……んっ〜!!」

 

 まだちゃんとお話してないけど、予感がする。 きっといままでの辛い事はウララが、リスティートレーナーに出会うためのモノだったんだって。

 ウララはこれからたくさん笑えるんだって思う。

 

 

 

************

 

 

「むぅ……」

 

 なんたる事だ……まさか、ウララの事ばかり考えてしまい、気づいたら朝になっていた。

 いざあの子のトレーナーになったと自覚してから妙に、ウララの匂い、ウララの体温、ウララの声……ウララの、ウララの、ウララの。

 えぇい!! 何を考えているんだ私は!! これではまるで初めて恋をした少女のようではないか!!

 落ち着こうと、目を閉じると……。

 

(トレーナー〜トレーナー〜♪)

 

 んぐっ!? 瞼の裏にウララが住み着いている!!

 そう瞳を閉じればイマジナリーウララがあの太陽のような笑顔で走り回る姿が見えてしまうのだ。

 

「……戻れ戻れ戻れ戻れ戻れ」

 

 ただひたすらに戻れ戻れと唱えながら、私は冷水のシャワーを浴び続ける。しかし、私の中で育ってしまった思いの形のウララはずっと笑い続けていた。

 

 

 

 

 

*******

 

 

 ついに放課後になった。 ウララのトレーナー権は正式に私へと移っている、つまり今日からウララとマンツーマンでトレーニングをする事となる。

 しかし、昨日はまともに会話らしい会話はしていないし……ここは私からウララを出迎えに行くべきなのか? むぅ〜!!っと唸っていると、不意に後ろから物音がした。

 

「む!?誰、だ……!?」

 

 ついつい反射的に睨みつけるように振り返ると、そこにはジャージ姿のウララが立っていた。

 露出している部分には昨日、私が貼ってやった絆創膏が見え隠れしている。と、いうか……グッスリ眠れたのだろう、虚ろ気だった瞳には強い光が戻り、頬にも薄らと赤んで私が魅入られたあの愛らしい雰囲気へと戻っている。

 綺麗な桜の浮かぶ大きな瞳、春を連想させる艶やかで色鮮やかな髪、まるで生まれたての赤ん坊のようなシルクのような肌……見れば見るほどに、ウララは美しく愛らしく見える。

 

「ふむ……んむ」

 

 自分でも無意識だったのだが、気づかないうちに左手でウララの頭を撫で、右手は頬をフニフニと摘んでいた。

 

「あ……トレーナー、さん……あの」

 

 私が行った突然の行動にウララは少し戸惑うように、私を上目遣いで見ている。

 

「……す、すまない。ゴホン、こちらから迎えに行こうかと思っていたのだが、手間が省けたな」

 

なでなで、なでなで、なでなで、なでなで。

 

 キリッと威厳を出そうと表情を引き締めてみたものの、あまりにも触り心地の良さに、ウララの頭を撫でる手を止まれずにいた。

 

なでなで、なでなで、なでなで。

 

「あぅ、あの……トレーナー、さん。そろそろ……」

 

 私にされるがままになりながらも、ウララは必死に意見を口に出そうとしているのだが、前の無能者のせいで上手く自分の意見を伝えるのが苦手になっているようで、モゴモゴと小さく呟くしかできていない。

 

 ふむ……本来のウララならば、底抜けの明るさと物怖じしない人懐っこさで接してくるはずだろうに。

 あの無能者の仕打ちですっかりウララは元気を無くし、人懐っこいフレンドリーな態度も形を潜めてしまっている。

 あの無能者め……許さんぞ。昨日は急いでいた為、一度殴っただけしかできなかったが……フン、後日キッチリと地獄を味合わせてやる。

 無能者への制裁をどうしてやろうか、などと考える間も私の手はずっとウララを撫で続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




私に絵心があれば、この撫で撫でシーンの挿絵などを描けるのですけど……。


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顔合わせの後と成長記録

ハルウララが可愛いので連投


 顔合わせ後、っと言っても一方的に私がウララを撫でまわしただけだったのだ。

 ウララの頭撫で撫ではとんでもない中毒性があるようだ、決して私に非はない……はず。

 

「ゴホン……さて、まずは君の実力が知りたい。練習場に行こうか」 

 

 まだ撫でたい衝動をグッと堪え、現在のウララがどの程度の実力があるかを知るためのテストをすることを提案した。

 すると、ウララは一瞬ビクッと体を強張らせるような動きをした後、小さくはいと答えた。

 

「……ふむ、では着いて来なさい」

 

 ウララの態度が気にはなったものの、まだ初日ということもあり緊張もあるのだろうと思い深くは詮索をしなかった。

 それにしても、なぜウララは私の横でなく後ろからついてくるのだろうか?

 着いて来なさいとは言ったが……後ろから.それも心なしか苦しそうな表情はなぜだ?

 

 チラッと背後に視線を向けると、ウララは俯き不安そうな表情をしている。 まるで、これから裁かれる罪人のようなその表情に私は内心、困惑を隠さずにいた。

 

 

 

 

***********

 

 

「それではまずは……」

 

 たづな君から貰ってきた入学時に作成されたウララのデータ表を、ペラペラと見ながら考えていた。

 なぜ入学時のデータかというと、あの無能者がウララを受け持ってからのデータを一切作っていなかったからである。

 あの無能者……いや、あのクズは調べれば調べるほどに、ウララに対して本当に何もやってこなかった事が発覚し、はらわたが煮えくりそうになる。

 

 ふむ……まずはスピード、スタミナ、パワー、根性、賢さと大雑把に分けてから調べてみるか。

 大まかなテスト内容を簡単に決め、私はウララに声をかけた。

 

「ハルウララ、まずは君のスピードを見たい。君は、短距離が得意のようだから1200mを走ってくれ」

 

 ウララは小さくはい……と答えると、スタートの位置に向かった。

 おかしい……私が見ていた彼女は走るのが好きだったはずだが……。

 ウララの態度がどこか気にかかるが、とにかくテストをしてみないと現在のデータが作れないため仕方なく走らせる事にし、テストが始まった。

 

 

 

 

*******

 

 

 全てのテストが終わった後、記録した数値を見て私は絶句してしまった。

 全くと言っていいほどに、ウララは成長していなかった。 いやむしろ、入学時の数値よりも悪くなっている。

 どういう事だ? 既に入学してから3ヶ月ほど経っている、普通なら成長が始まっている時期のはず……。

 

「あ、あの……トレーナー、さん……ご、ごめんなさい」

 

 私が測定した記録を眉を顰めて見ていたため、ウララは私があまりの数値の悪さに怒っているのだと勘違いしたのか、今にも泣きそうな顔で謝り出した。

 

「ウララ……ダメな子だから、何していいのかわからなかったから……ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 なんて事だ……ウララは指導指標すら貰っていなかったのか!? 私は驚愕してしまい、すぐにウララへ言葉を返せなかった。

 

「っ!?違う!悪いのは君じゃない。前のトレーナーだよ」

 

 ポロポロと大粒の涙を零し、嗚咽の声を堪え震えるウララを見た瞬間、咄嗟に私はウララを強く抱きしめていた。

 

 本来トレーナーとはウマ娘達を導き、時には良き友として、時には兄や姉のように彼女達を包む存在。

 このトレセン学園では当たり前に享受できるはずのモノをウララは3ヶ月もの間、受ける事ができていなかった。

 同じトレーナーとして私は申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。それと同時に、あのクズへの怒りが抑えきれない程に大きく燃え上がり、彼女専属のトレーナーとしてウララを育ててあげたい気持ちが熱く強く溢れ出てきた。

 

 



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私がお前の!!

お気に入りが見る度に増えてて300越えてる……(((( ;゚д゚)))アワワワワ
お気に入り登録して下さった皆様、ありがとうございます( ´ ▽ ` )




 しばらく私はウララが落ち着くまで抱きしめ頭を無言で撫で続けた。

 ようやくウララから漏れる嗚咽が止まったのを確認した後、名残惜しいが撫でるのをやめ顔を覗き込むと、ウララはどこか気恥ずかしそうな表情をしていた。

 

「トレーナー、さん……あの、またお洋服汚しちゃって……ごめんなさい」

 

 昨日に続き、今日もウララの鼻水と涙で服はベッショリと汚れてしまった。私は一切気にしていないが……ウララは気にしているようだった。

 

「構わんよ、私達トレーナーは君達の汗や涙を含めて抱き締めるのが仕事なのだから」

 

 フッと笑みを浮かべ、上目遣いで見てくるウララの頭を撫でてやると、安心したのか目を細め小さくエヘヘっと笑った。

 んっ〜!!可愛いなぁ!ゴホン、いかんいかん……どうもウララに対しては甘くなってしまうな。

 彼女にはやはり笑顔が似合う、ウララが笑えばこちらまで不思議と嬉しくなってしまう。まったく、こんなに可愛い子を苦しめおって……許さんぞ、あのクズ無能者め。

 

「あ、あの……トレーナー、さん」

 

 私がクズ無能者への怒りボルテージを上げていると、ウララが声を掛けてきた。

 

「あー、すまない。なんだ?」

 

 今はウララだけに集中しようと決め、気持ちを切り替えウララへ返事をした。すると、ウララは耳をピコッピコッと動かしながら少し顔を赤らめなが、抱き締めている手を離して欲しいと言った。

 

「すまない!」

 

 流石に抱き締め過ぎたかな? 馴れ馴れしくし過ぎてしまった……彼女まだ前のクズトレーナーのせいでトレーナーに対して苦手意識を持っているかも知れないのに……空気を読めなかったな、と私は内心かなり反省してしまった。

 

「あのね、違うの。あの、ね……抱き締めてくれるのは嬉しいんだけど、ウララはダメな子だから……トレーナーに抱き締めてもらえるほど成長できてない、から……その……」

 

 ハァ……本当に健気な子だ。この程度のコミニケーションは当たり前のレベルなのだが……前のクズゴミ無能者のせいですっかり彼女は甘える事を忘れてしまっているようだ。

 私は余計にウララが可愛く見えてきた。身体以上に心に大きな傷を負っているはずだろうに、甘えたいのに甘える事に臆病になっているんだろう。

 

「馬鹿者……このくらい、いつでもしていいんだぞ」

 

 私はそんなウララが愛しくて堪らなくなり、先程よりも強く抱きしめた。

 

「あ……んっ……本当に、いいの?甘えていいの?」

 

 ウララの声は震えている、まだ戸惑いがあるのだろう。まだ前のクズゴミ無能者の鎖が残っている、だから私はもう一度強くウララを抱き締め言ってやった。

 

「あぁ、いつでも甘えてこい!お前の……ハルウララのトレーナーはこの桜井リスティーだ、私が全て受け止めてやる!だから……全力でこい!」

 

 そう全てだ、全て受け止めてやる。私が、私こそがハルウララのトレーナーなんだ。もう離すものか、泣かせるものか、散らせるものか。

 強く強く抱き締め、今一度、私は己に誓いを立てた。

 私の想いが伝わったのか、ウララも強く私を抱き締め返してきた。そして、一層強く抱き締める力が強まった次の瞬間、強い風が吹き満開の桜吹雪が舞い散るイメージが見えたような気がした。

 

「ありがとうトレーナー!私、全力で頑張る!」

 

 先程とは違う、強い強いウララの声音がする。ゆっくりと彼女を抱き締める手を離しウララの顔を見た瞬間、私は今までに感じた事のない感覚に襲われた。

 桜が咲いていた。ウララの瞳に美しく燃えるような桜の花が咲いていた。

 

「美しい……」

 

 目が離せなかった。 そしてこの時、初めて私は本当のハルウララに出会えた気がした。

 

 




【次回予告のようなモノ】
ついに復活したハルウララ、そして彼女に魅入られたリスティートレーナー。

次回、ハルウララの夢!!

「トレーナー、私!○○○○!!」

次回もよろしくお願いしますo(*・∀・)


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ハルウララの夢とその先

お、お気に入りが400を越えてもうすぐ500になりそうです( ´ ▽ ` )ありがとうございます。

それと日間総合ランキング6位となってました、読んで下さった皆様とハルウララに感謝をo(*・∀・)ノ



「さて、それじゃあ今後の方針や君の……いや、ウララの希望とかを話そうか」

 

 本当は現在のウララのデータを取った後は軽めなミーティングをして解散しようと思っていたが、私もウララもすっかりやる気が漲ってきたため急遽、面談室を借りて本格的なミーティングをする事にした。

 

「はい!」

 

 ウララはすっかり前の太陽のように明るい彼女に戻り、瞳には力強い光が灯りキラキラと輝いている。 私に対しても、すっかり打ち解けてくれたようで、真っ直ぐに私の目を見て話すようになったし、返事も少し大袈裟なほど明るく大きい。

 

「先ずは……ふむ、そうだな……ウララ、君は何か希望はあるかい?」

 

 さて何から話そうか? 少し逡巡した後、まずはウララの希望について聞いてみる事にした。

 ウララは私の言葉にどこかソワソワとしながら、何やら口籠っていた。

 

 ほう、新しい表情だな。 うむ、愛いな! 新たなウララの表情に、私はついつい微笑んでしまう。

 そんな私とは対照的に、ウララはうー、うぅーと唸り何やら考え込んでいる。

 

「なんでもいいんだぞ?例えば、ダートで最速のウマ娘になりたいとか、春秋ダートを獲りたいとか、なんでもいいんだ。ウララの素直な気持ちを聞かせてくれ」

 

 いつまで可愛いウララを見ていたい気持ちはあるが、それだと永遠に飽きる気がしないため、私はウララが話やすいように精一杯の微笑みを浮かべ語りかけた。

 

「……聞いても、笑わない?」

 

 耳をペタンと倒し、指先をツンツンと合わせながらウララは上目遣いで私に笑わない? と聞いてきた。

 

「もちろんだ、笑わないよ。ほら、聞かせてごらん」

 

 あーー!! モジモジするウララ可愛いー!! ゴホン、いかんいかん、まったく……とんだ小悪魔だな、ウララは。

 などと、内心で可愛いウララに悶絶しそうになったが、なんとか表面上はニコッと微笑みを崩さないよう必死に耐えた。

 

「……たい」

 

 ん?少し声が小さくて聞き取りが出来なかったな……。

 

「すまない、少し声が小さくて聞き取れなかった、ウララ悪いけどもう一度いいかな?」

 

 ウララは大きく深呼吸をすると、カッと目を見開き今度はハッキリと聞き取れるように大きな声で言い放った。

 

「有馬記念で1番になりたい!!」

 

 な、に? 有馬記念……ん? 有馬記念、有馬記念、有馬記念!?

 私は予想外の言葉に驚きを隠さず、思わず立ち上がってしまった。

 ガタン!! と椅子が大きな音を立てて倒れた後、面談室をしばしの間、沈黙が支配した。

 

「……」

 

 ウララは私の反応を伺うように、ただ真っ直ぐに私を見つめている。

 それにしても有馬記念か……有馬記念といえば1年を締めくくる大レースで多くの伝説を産み出してきた言わば最高の称号を獲得できる大一番だ。

 多くの選ばれた名馬達がその有馬記念制覇の称号を目指し争う壮絶なレース。

 

「や、やっぱり無理……だよね、アハハ……」

 

 私は自分でも気づかないうちに黙り込み厳しい表情を浮かべていたのだろう、ウララは私が言葉を発する前に諦めに近い言葉を漏らした。

 ハァ、私は先程に誓ったばかりじゃないか。 ウララに二度とあんな顔はさせない、と!

 

「ハァ……よし!」

 

 バチン! と気合一発、私は自分に喝を入れるために思いっきり両頬を叩いた。

 

「ト、トレーナー!?」

 

 いきなりの事にウララは目を白黒させ驚きを露わにしている。

 喝を入れた際に切れたのか、口の中に鉄臭い匂いと味が広がる。 しかし、そんなことはどうでもいい。

 

「本気、なんだな?」

 

 私は倒した椅子を立て直し、それに座ると強く目を瞑りウララに問い返した。

 ウララは少しばかり驚いていたが、すぐに真剣な声音で本気だよ! っと返してきた。

 

 またしばしの沈黙が面談室を包む。 有馬記念は生半可なウマ娘では参加はおろかスタートラインにすら立てない。

 優駿と呼ばれる一握りの選ばれしウマ娘だけが挑戦を許されるのだから。

 現在のウララでは……。

 

「ふぅ……有馬記念制覇は重いぞ?」

 

 私はまだ目を閉じたままウララへ問うた。

 少しばかりの沈黙の後、ウララが応える。

 

「もう諦めたくない!!」

 

 それは、今まで一番力強い声音だった。

 

「……私は、君には楽しく走ってほしいと思っていた……いや、思っている。1番になれなくても、君が心から笑える走りをさせてあげたいと思っている」

 

 私は自分の素直な気持ちをウララへ吐露する。 君には……ウララには楽しく走ってほしいのだ、しかし……私はトレーナー。 彼女の意思を、夢を手伝い叶えさせてやるのが私達トレーナーの義務であり、愛なのだ。

 

「有馬記念制覇を目指すと言うのならば……私は鬼となるしかなくなる、生半可な指導では無理だ……本当に、本当に君は覚悟があるのかい?」

 

 きっと今の私はとても冷酷な顔をしているだろう、自分でも嫌になるほど分かる。 私は不器用なのだ、やると決めたら例え彼女達ウマ娘に嫌われるとしても指導する。 泣いても、弱音を吐いても、懇願しても指導は曲げない、曲げられない。

 今まで多くのウマ娘達が私について来れずに去っただろう、彼女だけは……ウララだけは楽しいレースをさせてあげたいのに。

 私は無言でウララを見つめる。

 

「っ……んっ!ウララは頑張りたい!ウララだって1番になりたい!!」

 

 あぁ……なんて綺麗で力強い瞳で私を見つめてくるのか。 ウララの覚悟は分かった……後は私が腹を括る番だな。

 

「明日から朝5時集合、夕方は8時半まで練習、全ての管理を私に任せる事……いいわね?」

 

 腹を括ろう、ウララの夢を叶えてあげよう。 たとえ、鬼と呼ばれようとも、私はウララを有馬記念制覇まで連れていく。

 

「はい!!よろしくお願いします!トレーナー」

 

 そして出会って1番の笑顔でウララは大きく返事をした。

 

 

 7月初旬 天気 快晴

 ハルウララの伝説はここから始まる。

 

 

 

 

 




【次回予告のようなモノ】

ついに始まるハルウララ伝説の初めての大きな一歩。
時には涙し、時にはリバースし、時には叱られる。
有馬記念は茨の道、それを踏み越えた先に伝説は生まれる。

【次回!! 鬼の桜井と伝説の産声】
タイトルが変わる場合があります。

同時上映、ゴルシと桜井トレーナー(予定)


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鬼の桜井再び

体調を崩しており、更新が遅くなりすみません。

お気に入りが700を超えました!ありがとうございます(*゚∀゚*)
今後もよろしくお願いしますo(*・∀・)ノ

タイトルにAct1と付け足しました。実はもう何人かを主人公にしたモノを書きたいと思い立ち、タイトルの修正を致しました。
Act2の主人公は……分かるでしょうか?(ヒントは下にあります)

追記

ナイスネイチャ4/16 33歳の誕生おめでとうございます!!
フォ━━━ヽ(゚Д゚)ノ━━━!!!


 ウララの夢を聞き、決意を確かめた後、私はウララと別れ自室へと直帰した。

 部屋の中は引っ越しをする予定だった為、ほぼ全ての荷物は段ボールへと収めているので、部屋はスッキリとなっている。

 

「まさかあの子にあんな夢があったとは、な……」

 

 ベッドに倒れ込むようにダイブし、先程のウララとのやり取りを思い出しながら目を瞑りながら今後の事を考える。

 

 正直、今のウララでは有馬記念制覇どころか参加すら厳しいだろう……スピード、スタミナその他も最低値である。

 有馬記念を目指すならば、ファンの力がいる。 ファンを得るためには結果が必要だ……GⅠ、GⅡ、GⅢで勝たなければ道は開けない。

 

「ふぅ……しかしまずはデビュー戦を済ませないとな」

 

 前の無能者がウララを放置していた為、ウララはまだデビュー戦が決まっていなかった。 すぐにでもデビューをさせたい、が……今のウララでは勝てないだろう。 いや、間違いなく勝てない。

 

「先ずは基礎体力を底上げするか……しかし、普通のやり方じゃ時間が足りない……だが、やるしかない……むぅ」

 

 ブツブツと独り言が漏れ出る。 そして脳裏に昔、自分の練習に耐えれず去っていったウマ娘達の顔が浮かぶ。

 

――私は貴女の人形じゃない!! 私は楽しく走っていたいのに!! こんなに辛いだけの指導なんて望んでない!!

 

 脳裏に浮かぶ彼女達は皆、私への憎しみを露わにしている。

 私はただ、彼女達に勝てる力を与えてあげたいだけだった。

 しかし、彼女達にはそれがただの厳しいトレーニングを課し喜ぶ鬼トレーナーとしか見えなかったのだろう。

 事実、私の指導を最後までやりきった子は4人しかいないしな……。

 本当にいいのか? 迷いが私を苛む。 しかし、あの時のウララの真剣な顔が蘇る。 強い光を帯びたあの瞳が浮かぶ。

 

「……えぇい!何を考えているんだ私!」

 

 なんとだらしない! 腹を括ろうと決めたではないか! あの子と夢を叶えようと決めたではないかと再度、気持ちを引き締め直した。

 

「恐るな桜井リスティー!!フンッ!!」

 

 再度、喝を入れた後、私は処分する物と殴り書きされた段ボールの箱を開いた。

 

「もう二度と使うまいと思っていたんだが、な……」

 

 段ボールの中には、真っ赤なジャージや指導に必要な道具が入っている。 トレセン学園を去ると決めたあの日に、決別した道具達。

 不思議と、よく使い込まれた道具達が輝いているように見える。 それはまるでもっと役目を果たしたいと問い掛けてくるかのような錯覚がした。

 

「よし……心機一転始めるか!」

 

 心機一転、リスティーは気合を入れ直した。

 

 

 

************

 

 

 リスティーと別れた後、ウララは内から溢れ出そうな嬉しさに心を躍らせていた。

 明日は朝が早いので早く寝ないといけないと分かっているのに、気持ちが昂って眠れずにいる。 そしてついつい、今日のやり取りを思い出しながら耳をピコピコと動かしてしまう。

 

 昔、有馬記念で勝ちたいと話した事がある。 すると、話を聞いていた人達はみんな、ウララちゃんは夢が大きくていいね、と笑った。

 まるでウララが冗談で言っているとでも思ったのか、それとも……。 だから、ずっと胸の奥深くに留めてた。

 でも、トレセン学園に受かって、初めて出会ったトレーナーに嬉しくつい言ってしまった。

 すると、前のトレーナーさんは心底不快そうな顔をして言った。

 

 君が有馬記念? 無理無理、君じゃ参加すらできないよ。 くだらない夢なんか見てないでさ、現実を見なよ? って笑われた。

 

 悔しかった。 言い返したかった……でも、何も言えなかった。 ウララの夢はそんなにおかしいのかな……って、ウララは真面目に夢を話しちゃダメなのかな? って。

 だから、もう夢を話さないって決めていたのに。 新しいトレーナーの、あの真っ直ぐにウララだけを見てくれる、信じれるって感じた。 だから、話してみた。

 トレーナーは笑わなかった。 その代わりビックリしたように椅子から勢いよく立ち上がってウララを真っ直ぐに見つめてくれた。

 初めてだった、ウララの夢を笑わない人。 トレーナーはしばらくの間、真剣な表情をして何か考え込んじゃうような顔をしてた。

 

 ウララは内心ビクビクしてた、もしかしたら……あんまりにも無謀な夢に呆れちゃって、ウララのトレーナーを辞めたいって考えているんじゃないかって。

 怖くなった、また前のトレーナーみたいに無関心にされるのではないか? だから、慌てて否定した。

 ダメダメだ! 折角、こんなウララのトレーナーを引き受けてくれたのに、迷惑かけちゃダメだ。

 

 でも、トレーナーは思いかけない行動を取った。 いきなり両頬をとっても大きい音がする程に叩いた。

 ウララがビックリしてると、トレーナーは真剣な眼差しで本気なんだな? って聞いてきた。

 一瞬、何を言われたのわからなかったけど、すぐに理解した。 トレーナーは私が本気なのかを知りたいんだって、だからウララは本気だよ! って答えたら、またトレーナーは真剣な表情で考え込んじゃった。

 

 少しだけの沈黙があった後、トレーナーは目を閉じたまま、有馬記念制覇は重いぞ? って口を開いた。

 真剣なトレーナーの声、初めてウララの夢を聞いても笑わないで考えてくれた人。

 自分でも気づかないうちに、もう諦めたくない!! って叫ぶように言った。

 トレーナーは目を閉じたまま、優しい声音で楽しく走ってほしい、楽しく走らせてあげたいって言った。 その声音は本当に優しげで、本当にウララを大切にしてくれるって思える声だった。

 トレーナーはゆっくりと目を開け、とても冷たい顔をしながら、ウララの覚悟を再度聞いてきた。

 

 ビクリと心の底から震えるような気がした。 怖い、怖い。

 体が、心が震える、でもトレーナーの瞳が一瞬だけど潤んだようにみえた。

 きっと厳しく話すのは、ウララに対して真剣だからだろうって思った。

 だから、ギュッと手に力を入れて自分の気持ちを伝えた。

 

 真っ直ぐにトレーナーの瞳を見つめる、トレーナーもウララの瞳を真っ直ぐに見つめてくる。 そして、トレーナーは小さく微笑んだ後、すぐに表情を引き締め明日から朝と夕方に練習だと言ってくれた。

 

 初めてウララだけを見てくれるトレーナーに出会えた事が嬉しくて、明日は朝5時から練習だというのにウララは眠れず。

 

「キングちゃん、眠れないよ〜!」

 

っと同室のキングに笑顔で話すのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次回から本格的に桜井トレーナーとハルウララのトレーニングが始まります(予定)

次回予告(仮)

ついに始まる鬼の桜井によるトレーニング。 果たしてウララは耐える事ができるのか!?


同時上映(いつかやりたい)
かっとばせぇー、マックイーン!!


Act2.R
Act3.O
Act4.G
Act final.H.R.O.G
(の予定です)


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初めてのトレーニングと虹ウララ

今回は少しだけアレなシーンがありますので、食前・食中・食後すぐはご気分を害するかもしれません。 
ご了承下さい(>人<;)

お気に入りしてくれた皆さん、誤字報告を下さる皆さんありがとうございます(´ω`*)


「うわぁ〜ん、遅刻遅刻!!」

 

 昨夜、初めてのトレーナーとのマンツーマンでのトレーニングが嬉しくて、ついついウララは夜遅くまで眠る事ができなかった。

 そのせいで同室のキングが起こしてくれるまで、グッスリと起きる時刻よりも寝てしまい慌てて飛び起きた後、顔だけを洗いてんやわんやで着替えを終えてから待ち合わせ練習場へと向かった。

 

 ウララが練習場に着いた頃には、すでにリスティーは入り口の前で竹刀を地面に突き立てるようにして立っていた。

 

「ハァ、ハァ……ご、ごめんなさい寝坊しました!!」

 

 怒鳴られるのを覚悟し、ウララは一生懸命に頭を下げ謝罪をした、しかしリスティーは怒鳴る事はせず、静かに明日からは気をつけなさい、と言った後、練習場のターフの所へと歩き出した。

 

「は、はい!」

 

 てっきり初日から遅刻した事を怒鳴られると思っていたウララだったが、怒りを感じさせないリスティーの対応にホッと胸を撫で下ろしながら、後に続きターフへと向かう。

 

 ターフへと向かう短い時間、ウララはどこか不思議な感覚を覚えた。 一歩、また一歩、足を進める度にピリピリと肌に何かが当たるような不思議な感覚、そして込み上がってくる不安。

 

「ウララ、ウォームアップを念入りにしなさい」

 

 リスティーの声に、ハッと我に帰ると既にターフへと着いていた。

 

(ダメダメ! 集中しなきゃ!!)

 

 邪念を祓うように頭をブンブンと振り、リスティーから指示された通りウォームアップをいつもより念入りに行う。

 先ずは大きく深呼吸を数回した後に、上半身から下半身のストレッチをし終えた後に、軽くターフの中を走った。

 

「そろそろいいでしょ、ウララ来なさい」

 

 さっさと体を動かすウララをジッと観察していリスティーはウララのウォームアップが十分だと判断したのか、ウララを自分の元に来るような呼びかけた。

 

「お待たせ、しました!」

 

 足早にリスティーの元へとウララは駆け寄り、ビシッと背筋を伸ばして直立し次の指示を待った。

 リスティーはしばらくウララを頭の上からつま先まで見回した後、口を開く。

 

「君は圧倒的に基礎が足りない、今日からしばらくの間は基礎だけを行っていく。そして改めて言わせてもらうけど、私は本気でウララを有馬記念制覇まで連れていくつもりだ、今日より一切の泣き言は許さないからね?」

 

 その瞬間、真っ直ぐにウララを見つめているリスティーから放たれる目に見えないナニカを感じ取り、ウララはゾクリと体をナニカが走った。

 心臓がドクンドクンと一気に大きく脈打ち、少し息苦しい感覚に襲われる。 今までこのような感覚をウララは感じた事がない。

 

「返事は?」

 

 ウララが気圧され口を開けずにいると、リスティーは真っ直ぐウララの目を見つめたまま口を開き返答を求めた。

 

「は、はい!!頑張ります!」

 

 グッとお腹に力を入れ、ウララもリスティーを見つめ返し大きく返事を返すと、リスティーは軽く頷いた後に竹刀でターフのコースを指しながら言った。

 

「初日は軽めにしてあげる、まずは登校時間ギリギリまで一切足を止めずに走りなさい」

 

 一瞬、え? っとウララは思ったが、リスティーは有無を言わせぬと言わんばかりに、早くしなさいと檄を飛ばした。

 そしてウララの初日が始まった。

 

 

 

********

 

 

「ひっ、ひぃ……ぅ」

 

 リスティーの指示で走り出してから3時間、ウララはひたすら走っている。 立ち止まろうとするとリスティーから檄が飛んでくるため、止まる事は許されない。

 ボタボタと止めどなく汗が頭から爪先まで溢れ落ち、トレーニング用の服も汗でグチャグチャに濡れている。

 

(ぅ、ひぅ……も、もうどれだけ、走っ、たのぉ??)

 

 既に身体は限界を超え、ウララは一生懸命、飛びそうな意識を保ちながらリスティーの言いつけ通りに走り続ける。

 

 一方、フラフラと走り続けるウララを観察しながら、リスティーはスポーツドリンクの粉を水に溶かしていた。

 ウララが一定距離を走る度に、作ったスポーツドリンクを手渡して適切な水分補給をさせている。

 

「ふむ……そろそろいいか。ウララ!ラストスパートだ、ここまで来なさい!」

 

 時計をチラリと確認した後、リスティーはウララへと向かい呼び掛けた。

 

「は、はぁぉあい!!」

 

 ウララは最後の力を振り絞り、リスティーの元へラストスパートを掛けた。 しかし、既に体力がカラッカラッのため左右にフラフラと揺れながら早足で歩く程度のスピードしか出ていない。

 そして、やっとリスティーの元は辿り着いたと同時にその場にへたり込んでしまった。

 

「今日の朝練はこれでお終いにしよう、ほらシャワーを浴びてきなさい」

 

「ゼー……ゼー……あ、あり、が……とうござ、い、まし、だぁ」

 

 やっと終わった、とウララは安堵したと同時にドッと疲労が襲ってきた。

 なんとか立とうと必死に足に力を入れるが、限界まで酷使された足はウララの言う事を聞いてくれず、立つ事ができない。

 

「ぅ、ゔぅ……ぐっぬぅ……ゼー……ゼー」

 

 立つどころか、ウララはその場にベチャリと倒れ伏してしまいシャワーなんて浴びに行けるはずなかった。

 

「立てないようだな……ふむ……仕方ない、ほら」

 

 しばらく何とか立とうと奮闘するウララを見ていたリスティーだが、小さくため息を吐いた後、ウララをお姫様抱っこし練習場のシャワールームへと向かい歩き出した。

 

「ひゃっ!?ト、トレーナー……私、汗まみれ……それに土まみ、れ、だか、ら……汚れ、ちゃうか、ら」

 

突然のお姫様抱っこにウララは軽くパニックを起こしながらも、汗まみれで土で汚れた自分と密着するとリスティーの服を汚してしまうと慌てた。 しかし、リスティーは軽くウララに視線を落として口を開いた。

 

「フッ、構わん。頑張ったな、ウララ」

 

 小さくだが微笑み、ウララを抱く手に力を入れた。

 

「ッ!?……ぅ」

 

 不意打ちのようなリスティーの優しい言葉と微笑みにウララはついつい安堵してしまい、そして……。

 

「ウッ……ウゥゥ!!オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!!」

 

 リスティーの胸元へと向かい盛大に嘔○(虹色☆)した。 その後、ウララの意識はプツリと途切れた。

 

 

 

 

 




お食事中、お食事後の方がおられましたら、申し訳ありません。

次回予告(仮)

盛大に虹色☆してしまったウララが目覚めると、そこは見知らぬ天井だった。

次回、ウララと見知らぬ天井と……

タイトル変わる場合があります。


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ウララと見知らぬ天井、そして昼食の悪夢

誤字報告や感想を下さった皆さんありがとうございます。
それと評価を下さった皆さんもありがとうございます。




 なんだろう。 とっても温かくて、安心できる感じがする。

 耳にチャプチャプってお水の音が聞こえる。 そしてなんだろう、誰かが優しく私の体を洗ってくれているみたいで、少しくすぐったいなぁ。

 

「これは介護、これは介護、これは介護」

 

 なんだか、トレーナーの声が聞こえるなぁ。 何を言ってるんだろう? 起きたいのに……ウララ、とっても眠くて起きれないんだ……眠いなぁ。

 なんだかね、フワフワした気持ちがしてね。 とっても幸せな感じがするの。

 でも、頑張って目を開けてみたらね。 トレーナーがお顔を真っ赤にしながら、私を洗ってくれてた。

 

 フフッ、なんだろう。 きっとこれは夢なんだろうけど、なんだか嬉しいなぁ。

 トレーナーの手が触れる度にね、ウララの胸の奥の方がポワッて温かくなるの。

 起きなきゃ……んっ、ダメだ……動けない。 そして、とっても眠い……。

 もっとこの温かくて幸せな夢を見ていたいのに……もっと触れてほしいのに……も、う……眠い。

 

「3.14159……」

 

 遠くから何か分からない数字を数えるトレーナーの声を聞きながら、私は深い深い底に沈むみたいに落ちていった。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○

 

 

 

 次にウララが目を覚ました時、最初に目に入ってきたのは見知らぬ天井だった。

 まずは真っ白な天井、次に真っ白なカーテン、そして真っ白な布団が次々に目に映る。 半覚醒状態ではあるが、なんとなく場所がわかった。

 

(あぁ……ここ、保健室だ)

 

 まだ寝起きのためボッーとする頭で、ウララはどうしてここにいるのかを考え始めた。

 

(確か……ウララ、トレーナーに言われてずっと走って……その後シャワーを……あぁ!?)

 

 脳裏に浮かんだ光景は汗と土で汚れ、疲労で倒れ伏したウララをお姫様抱っこしてくれたトレーナー……そして、そんなトレーナーの胸元へ盛大に嘔○(虹色☆)した自分の姿だった。

 

(あ、ぁぁぁぁあ!?)

 

 ハッキリとではないものの、しっかりとトレーナーにやってしまったとんでもない事を思い出し、寝ぼけていたウララは一気に現実へと引き戻された。

 そして気づいた、自分の服が着替えさせられている事に。 そして、先程に見ていた温かな夢が、失神した自分を介抱しながらトレーナーがシャワーを浴びせてくれていた事実へと。

 蘇る感触と朧げではあるが自分を洗うトレーナーのなんとも言えない表情。

 

(あうっ……初日から何しちゃったの、私……)

 

 ウララのやった事といえば、初日から遅刻、初日から倒れる、初日からトレーナーに盛大に嘔○(虹色☆)、トレーナーに自分を洗わせる。 大失態としか言えない、とんでもない事をやってしまったのである。

 

 ウララは頭を抱えて布団の中で丸くなってしまった、自分はなんて事をしてしまったのか。 きっとトレーナーはこんか自分に、呆れてしまっただろうと。

 我慢する事、頑張れる事には自信があった。 それなのに、初日から返上不可能なまでの失態をやってしまったのだ。

 

「トレーナー……怒っちゃったかな」

 

 やっと出会えた自分の夢を笑わずに理解してくれるトレーナー、それなのに自分は……そう思うとウララは無性に悲しくなった。

 それと同時に怖くなった、もうトレーナーが自分に愛想を尽かしたんじゃないか? そう考えると、自分でも止めれないほどに身体が震えた。

 また、独りに戻らないといけなくなる。 独りがとても怖い、また誰からも見てもらえなくなるんじゃないか? もし、また独りに戻ってしまったら……大きくブルリと身体が震えたと同時に、いきなり布団を力強くで剥ぎ取られた。

 

「大丈夫かウララ!!」 

 

 そこに居たのは酷く慌てたトレーナーだった。 狼狽し、まるで壊れ物を扱うかの様にウララを念入りに触ってきた。

 

「まさか……後遺症か?いや、しかしアレくらいで……いやいや!まさかウララは身体が弱いのか?そうなら、練習のメニューを再度、作り直さないと……」

 

 トレーナーはウララの身体を念入りにチェックしながら、ブツブツと何かを口走っている。

 

「あ、あのトレーナー……」

 

 ウララは意を決してリスティーへ声を掛けた、しかしリスティーはまるで聞こえていないのかの如く、ひたすらウララの身体を念入りに触り続けている。

 

「顔色も悪くない……はっ!?まさかケガか!?いや、しかし……ブツブツ」

 

「トレーナー!!」

 

 自分の言葉に反応してくれないリスティーに、ついついウララは大きな声を上げた。

 するとリスティーはピクリと反応し、呟いていた独り言がピタリと止まった。

 

 しばし二人は無言のまま見つめ合う形で向かい合ったままで居たが、ウララが耐えかねて頭を下げ謝罪を始めた。

 

「トレーナー、ごめんなさい!」

 

 深く頭を下げ、申し訳なさそうな表情のまま顔を上げたウララを待っていたのは、想定外の事だった。

 

「ん?ウララ、なぜ君が謝るんだ?」

 

 リスティーはポカンとした表情を浮かべていた。 それは気を遣ってでなく、本心から何に対しての謝罪なのかわからないと言っているかのような対応だった。

 

 この対応には逆にウララが驚いた。 初日から遅刻、トレーニングで倒れ、極め付けはトレーナーに……普通なら怒鳴りつけられてもおかしくないはずだろう、と思ったのにトレーナーは怒鳴るどころか、心配そうな顔でウララを見てくれている。

 

「怒って、ないの?」

 

 恐る恐る、怒ってないのか? と言ってみた。 リスティーは少し考える仕草の後、ポンッと手を叩き納得がいったとばかりに微笑を浮かべた。

 

「あー、盛大に吐いた事だな?別に吐かれるのには、慣れているから気にしないでいい」

 

 吐かれるのに慣れているって……とウララは思ったものの、トレーナーが怒っていないと分かり安心し胸を撫で下ろした。

 その後は、リスティーから体調についてや、改めて今後の練習内容について話し合おうと話をした。

 

 多少は身体が気怠い感じと筋肉痛があったが、授業に出られない程ではなかったので、ウララはリスティーと保健室の前で別れ教室へと向かい歩き出した。

 その別れ際、リスティーから昼食には必ず食堂に来るようにと自分が合流するまで注文はしないようにと念を押された。

 

 

 

 

○○○○○○○○○

 

 お昼になった、なのでリスティーに言われた通り食堂に行くと既にリスティーが待っていた。

 ウララに気づいたリスティーは、こっちだウララと手招きをしている。

 急足でリスティーの元へ向かうと、何故かそこにはオグリキャップとスペシャルウィークも一緒に居た。

 瞬間、嫌な予感がウララを襲う。 そしてリスティーの次の言葉でウララの嫌な予感は、現実へと変わるのであった。

 

「今日から、昼食はオグリとスペシャルウィークと食べなさい」

 

 運ばれてくるあり得ないほどたくさんの食事、オグリキャップ、ウララ、スペシャルウィークの並びで座らされ、ウララの後ろにはリスティーが肩を掴み立っている。

 

「さぁ、食べなさい。オグリやスペシャルウィークに負けないよう頑張りなさいね」

 

 ウララの戦いが今、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今後、ウララはほぼ毎日オグリキャップ、スペシャルウィークと食事を摂る事になります。 果たして、ウララは食欲の権化に勝てるのか。

次回予告(仮)
食べる事も練習だ! 負けるなウララ、頑張れウララ!

次回
オグリキャップとスペシャルウィークとハルウララ


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オグリキャップとスペシャルウィークとハルウララ(虹)

読んでくださる皆さん、ありがとうございますm(_ _)m

今回は食事回となります。
アレなシーンがございますので、何か食べながらも読書はご注意下さい。


 食事が始まった途端、ウララは左右から発せられる圧力に恐れにも似た感情を覚えた。

 山盛りの料理が目に止まらぬ速さで消えていく。

 

「美味い……んっ」

 

「美味しい〜」

 

 ウララが1皿、食べ終わる頃にはオグリもスペシャルウィークも2〜3皿は食べ終えている。

 同じウマ娘とは到底思えない食べっぷりである。 

 置かれた料理がまるで瞬間移動したかのように消えていく。 料理→置く→消える→置く→消えるの無限ループ。

 

 元々、そんなに食が太い方ではないウララは真似できない芸当ではあるが、リスティーの期待に応えるべく奮起して食べ続けている。

 

 十数キロはありそうなコロッケの山盛りに、人参の突き刺さっているハンバーグの山、人参の姿煮、人参のステーキ、ホカホカの肉まんの山、その他いろいろ。

 食べても食べても減らない、それどころか増えていく。

 

 ウララは懸命に食べ続ける。 しかし、6皿ほど食べた後、唐突に限界は訪れた。

 息を吸うのも苦しいほど食べたのは生まれて初めての事だった。

 ふと今まで食べる事に夢中で、左右の2人を見る余裕がなかった。 2人どれくらい食べたのだろうと意識を向けたと同時にウララは絶句してしまった。

 

 すでにオグリもスペシャルウィークも30皿をゆうに超えており、まだ食べていた。 2人の食べるスピードはまるで食べ始めかの如き速さであった。

 

 その後、ウララの分もオグリキャップとスペシャルウィークの2人で食べてしまった。

 

「う、ぷっ……」

 

 食べ過ぎによる強烈な吐き気を懸命に我慢しながら、リスティーへ視線を向けた。 するとウララの視線に気づいたリスティーはフッと微笑んだ後に。

 

「もちろんデザートもあるぞ!ほら、ウララお食べ」

 

 と言った後、人参が7〜8本突き刺された特大のキャロットケーキがウララの目の前に置かれた。 もちろん、オグリキャップとスペシャルウィークの前にも置かれる。

 

 案の定、オグリキャップとスペシャルウィークは目を輝かせ、すぐに切り分け食べ始めた。

 そんな2人をよそに、ウララの手は完全に止まっている。 既に限界まで食べているウララには、もはやケーキまで食べるだけの気力も、胃の隙間もないならである。

 

 しかし、ウララは手を動かし始めた。 既に限界を超えており、食べ物を見るのも嫌なはずなのにウララはグッと堪えてケーキを切り分け、震える手で口に運んだ。

 ブルブルと身体が震える、もうどんな味なのかもわからない。 だが、ウララは一口、また一口と食べていく。

 これはトレーニング、これはトレーニングと必死に自分に言い聞かせてながら食べ続ける。

 

 一方その頃、オグリキャップ、スペシャルウィークと一緒に食事をしているウララを遠巻きにたくさんの生徒達が興味ありげと言わんばかりに見ていた。

 

 学園きっての大食いモンスターであるオグリキャップやスペシャルウィークは見慣れていたが、普段は他の生徒同様に普通の量しか食べないウララが、オグリキャップやスペシャルウィークに負けじと食べ続けているのが珍しかったためだった。

 

 皿が空になり積み上がっていく度にギャラリーは増え続け、ウララがケーキに手をつけ出した頃には、まるでレース前のようにザワザワとざわめきは大きくなっていた。

 

 そして遂に、ウララのケーキは最後の一口へと差し掛かった。 プルプルと震える手でその最後のケーキを口に放り込んだと同時に小さな歓声が上がった。

 

「う、ぷぅ……」

 

 ウララは顔を伏せ苦しそうな声を漏らす、お腹はまるで妊婦さんの様に膨れ上がり、如何にウララが頑張ったかの証であった。

 ウララは吐きそうなのを堪え、リスティーに頑張ったよ! っと伝えようと顔を上げ振り返ろうとした瞬間、あり得ない光景に固まってしまった。

 

「美味い、美味い。あ、おかわり」

 

「ハァ、美味しいです!あ、おかわり下さい」

 

 二匹の食欲モンスターはまだ、食べ続けていた。 すでに皿の数はウララの3倍以上は積み上がっている。

 そして次の瞬間、ウララのお口から、それはそれはたくさんの虹色物体が吹き出してしまった。

 

「危ない!ふぅ、間に合ったな」

 

 リスティーは予知していたかの如く、素早くウララの元にバケツを置いた。

 

 

 ハルウララ、食堂にて食欲モンスターオグリ、スペシャルウィークに敗北。

 ウララの勝利はまだ遠い。

 

 




食欲モンスターオグリキャップ、大食い胃袋総大将スペシャルウィーク初登場回でした。

次回予告

苛烈なトレーニングに毎日、虹色物体をオロロするウララであったが、遂にデビュー戦の日程が決まる。
しかし、ウララはまだまだ勝つには厳しい実力と判断したリスティーはとあるウマ娘をトレーニング相手として呼ぶのだった。
果たしてやってくるウマ娘は誰なのか?

次回!
ウララと宇宙とG!(仮)
(タイトルが少し変わる場合があります)


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ウララとG

毎日お気に入りが着々と増えてて、本当に嬉しいです。
読んでくださる皆さん、これからもよろしくお願いします(^人^)

前回の予告内容を変更しております。


「あ、桜井さん。ちょうどよかった」

 

 食事のあと、虹ウララを介抱し保健室へと送り終えた後、トレーナー控え室に向かっていた途中、たづなさんに呼び止められた。

 どうやら彼女は、リスティーの事を探していたらしく、同性でも見惚れるような笑顔を浮かべながら寄ってくる。

 

「何か用かな?」

 

 一刻でも早く今後のウララのトレーニングの計画案を作りたいのだが……と、内心は思いながらも足を止め要件を聞く事にした。

 

「頼まれていた部室の件ですけど……現在は空きの部室が無いので理事長が部室を増築なさるそうなので、しばらくの間はご不便をお掛けするんですけれど、用具室を使ってほしいとのことです」

 

 そう、リスティーはウララのトレーナーとして手続きをした際、部室の申請をしていた。 案の定、空き部室は無かったようだが、まさか新たに増築してくれるとは思っていなかったため、リスティーは内心驚いていた。

 

「それはありがたい、理事長に私が礼を言っていたと伝えておいてくれるかい」

 

 さすが理事長だな、仕事が早い。 と、リスティーが感心した。

 

「えぇ、お伝えしておきますね。あ、それとウララさんの前トレーナーへの対応は本当に提出して頂いた書類の通りでよろしいんですか?と、理事長がお聞きでした」

 

 用具室の使用許可証をリスティーに手渡したあと、たづなは思い出したばかりに、ウララの前トレーナーへの事を切り出した。

 

「あぁ、あの通りで構わない。理事長に、よろしくお願いしますと言っておいてくれ」

 

「わかりました……ウララさんへのケア、よろしくお願いします」

 

 たづなは思う所があるようではあったがそれ以上は言わず、ウララへのケアの事だけを告げた。

 その後、使用許可証の提出期限のなどの話をしてから、たづなと別れた。

 

 

○○○○○○○○○○

 

 たづなと別れトレーナー控え室に帰る道すがら、リスティーは理事長とのやり取りを思い返していた。

 ウララの夢を聞き、ウララを本気で育てようと決心した日。 ウララと別れた後、リスティーはウララの報告書をまとめると理事長へ会いに行った。

 そして、あの無能者がウララに対しての仕打ちを報告書に纏めた報告書を提出したのだった。 

 報告書を読んだ理事長は怒りを露わにし、すぐにウララの前トレーナーを解雇すると騒ぎ出したのだった。 しかし、リスティーはそれを止めた。

 理事長はまさかリスティーが解雇処分に異論を唱えるとは思っていなかったようで、ひどくビックリしていた。

 

 確かにあの無能者をクビにしてもらうのは容易い、しかしそれでは生温いとリスティーは判断した。

 あの無能者はウララを育てる価値のないモノ扱いをしていた。 そんな無能者に、ウララの力を見せつけてやりたいと思ったからだった。

 

 リスティーは理事長に解雇ではなく、減俸と厳しい再教育指導処分を求めた。

 ウララが夢を叶えたその時こそ、あの無能者にお前の目は節穴でトレーナーとして三流なのだと知らしめるためにも、あの無能者にトレセン学園を去られては困るのだ。

 

 話を聞いた理事長は複雑な顔をしたものの、リスティーの要求を聞き入れてくれたのだった。

 

 

 

 

○○○○○○○○○

 

 

 あれから20日程が経った。相変わらずウララは練習後にはグッタリと倒れ込み動けなくはなるものの嘔○(虹色)はしなくなっていた。

 

 練習場のベンチに座りながら、リスティーは思い悩んでいた。

 基礎体力も順調に上がってはきているが、まだ足りないとリスティーは思っていた。

 確かに基礎体力は上がった、しかしまだまだ他のウマ娘達に比べると圧倒的に成長の度合いが追いついていないのである。

 どうするべきか……。 リスティーは悩んだ、そろそろデビューもさせないといけないが、今のままでは勝つことは不可能……そろそろ新しいトレーニングを考えなければ……。

 何かないかと思い悩んでいる所に、あるウマ娘の姿が目についた。 その瞬間、リスティーは閃いた。

 

「……思いついたぞ、新しいトレーニング!!」

 

 勢いよくベンチから立ち上がると、新たなトレーニングの相手として協力を頼むべく目についたウマ娘に向かい駆け出していた。

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○

 

 

 いつものようにウララが用具室で着替え、集合場所の練習場に着くとジャージ姿のリスティーともうとは別にもう1人待っていた。

 トレーナーと一緒に居たのは……ウララはまだ面識のないウマ娘だった。

 逃げられないようにだろうか、見知らぬウマ娘はガッチリとリスティーに手を掴まれており、その表情は死んだ魚の様な目をして虚空を見つめている。

 

「トレーナー、その人誰なの?」

 

 ウララがそう尋ねるとリスティーは不敵な笑みを浮かべながら、隣にいるウマ娘を引っ張った。

 

「新しいトレーニングのパートナーだ、ほら自己紹介しろ」 

 

 リスティーに促され、初対面のウマ娘は口を開いた。

 

「私はお前のトレーナーに無理矢理拉致された哀れでキュートなゴールドシップだ……ってか、もう逃げないから手ぇ離せよー」

 

 それはそれは、渋い顔での自己紹介だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Gの正体はゴールドシップでした。
次回は新しいトレーニングが始まります。

次回予告(仮)

基礎能力向上を図るべく、新たなトレーニングの相手に連れてこられたゴルシ。
はたして新しいトレーニングとはなんなのか。

次回
黄金の不沈艦はウララを逃がさない(予定)


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黄金の不沈艦はウララを逃がさない

ゴルシって可愛いですよねー。

体調不良と多忙のため、次回更新は5日の夜くらいを予定しております。
更新ができずおり、読んでくださっている皆様、本当にごめんなさいm(_ _)m


「ハァ、ハァ……ぅう!?」

 

 肺が潰れそうなくらい苦しい、今すぐに走るのを止めて座り込みたい。

 でも、後ろから迫ってくる圧倒的な存在感がそれを許さない。

 

「アハハハハハ!!ほらほら、また捕まえるぞぉー!!」

 

 ドスンドスン! っと地響きを鳴らしながら、ゴルシがどんどんウララの背後に迫り来る。

 ヒッと小さな悲鳴にも似た声が漏れ出る。

 

「確保〜!!」

 

 声と同時に背後から強烈なタックルを受けて、ウララはその場に倒れ込んだ。

 

 新しいトレーニング、それはゴルシからひたすら逃げて逃げて一定時間、捕まらずにゴールまで走ることだった。

 

「あぅ……ぅ」 

 

 しかし既に数十回は捕まり、またスタートへと引きずられていた。

 

 ゴルシは楽しいのか鼻歌を口ずさみながら、ウララをまたスタートまで引きずっていく。

 

「よぉし♪ほら、次行くぞ〜♪」

 

 スタートにウララを置くと、ゴルシは楽しそうに再スタートを促してくる。

 今までのトレーニングも過酷であったが、今回の新しいトレーニングは更に辛いとウララは思った。

 どんなに距離を保って走っても、ゴール付近になるとゴルシは恐ろしいほど速い速度で追い上げてきて、ウララへタックルしてくるのだ。

 何度も交わそうとしたのだが、まるでゴルシにはウララが避ける方向が分かっているかのように、悉く避けた先でタックルをされては確保されてしまうの繰り返し。

 

 何がいけないのか、スピードが足りないのか? それとももっと別の何かが足りないのか?

 考えても考えても答えはでず、ウララはうーんうーんと頭を抱え悩み込んでしまった。

 

「お〜い?もう終わりなんか?なぁー、もっとゴルシちゃんと鬼ごっこで遊ぼうぜぇ」

 

 唸りながら動かないウララの周りをゴルシはクルクルと回りながら、ウララに再スタートをせがむ。

 そんな様子をリスティーは静かに観察し、ずっとメモ帳に何かを書き続けている。

 

「もうわかんない……ゴルシちゃん、続きしよう」

 

 しばらくして、ウララは考えるのをやめた。 そして、ゴルシに続きを始めようと言うとまた走り出した。

 

「よっしゃぁー!オラオラ〜行っぞー!!」

 

 ゴルシはゆっくりとウララの後に続きゆっくりと走り出した。

 序盤、中盤は10馬身ほど後ろにつけて走って、ウララが最後のコーナー付近に差し掛かると、一気な加速してウララの背後に張り付いてきた。

 

「くっ!?今度こそ!!」

 

 ウララはゴルシを振り切ろうと脚に力を入れ加速する、しかし……。

 

「おいおい?仕掛けるのが丸わかり過ぎ、だぞ!!」

 

 完全に仕掛ける前にゴルシは軽々とウララにタックルして、まるで高い高いするみたいに抱き上げた。

 

 結局、練習が許可されたギリギリまで鬼ごっこを続けたものの、ウララは一度もゴルシから逃げ切ることはできず終いだった。

 しかも、最後の鬼ごっこでゴルシにタックルされ抱き上げられた瞬間……ついにウララは、疲労と衝撃でゴルシに向かい盛大に虹を出した。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?目、目がぁぉぁぁああ!?」

 

 ずっとメモを取り続けていたリスティーがふとメモを取る手を止めて、顔を上げて見ると視界にはいったのは疲労で気を失ったウララとウララの虹をかけられ目を押さえながらもがくゴルシの姿だった。

 

「何をやっているんだ、まったく」

 

 リスティーは呆れながら、近くの水道からバケツに水を汲んできてゴルシに頭から水をぶっ掛けた。

 

「冷てぇぇえ!!何すんだ!」

 

 ゴルシはずぶ濡れになりながら抗議するも、リスティーはどこ吹く風と聞き流してウララを抱き上げた。

 

「今日のトレーニングはこれで終わりだ、ゴールドシップまた頼むぞ」

 

 そしてそのままゴルシには目も暮れず、シャワー室へと向かい歩いて行ってしまった。

 

「……いや、私もシャワー浴びるんだけど」

 

 独り残されたゴルシは、そう呟くとリスティー達の後を追う様にシャワー室へと向かい歩くのだった。

 

 

 




新しいトレーニング。
ゴルシとの逃げ切るまで終わらない鬼ごっこレース。


次回予告

朝は五時からひたすら走り、昼はオグリとスペシャルウィークと友情昼食、放課後はゴルシとの終わらない鬼ごっこを毎日、続けるウララ。
そしてついにやってくる、デビュー戦。
はたしてウララはデビュー戦を勝利で飾れるのか?

次回(変更の可能性あり)
ウララと初めての公式戦〜負けちゃったけど楽しかったよ、でも悔しいな……〜の巻


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ウララとマッサージと……

更新が遅くなり、すみませんでした。
やっと体調不良が治ったので、少し遅筆になるかもしれませんが、頑張って更新していきますので、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m

今回も短くてすみません。

お知らせ

Act2.Rのプロローグを投稿しました。 もしよければ、Act2.Rもよろしくお願いしますm(_ _)m


 ゴルシ鬼ごっこを始めてから二週間が経ったある日、ゴルシ鬼ごっこを終えた後、ウララは日課の地獄極楽マッサージを受けていた。

 

「んぐぅう!?い、痛い、でも気持ちいいよぉ」 

 

 地獄極楽マッサージ、それは疲労回復、骨格の矯正、柔軟を兼ねてリスティーがウララに施しているマッサージ。

 激しいトレーニングにより、蓄積した疲労や身体の歪みを治す桜井家の秘伝マッサージである。

 とても効果は高く、このマッサージを受けたウマ娘は常にベストコンディションを保つことができるのだが、この地獄極楽マッサージは名前の通りとても痛くとても気持ち良さを同時に感じてしまう。

 

「む?今日は首の骨が歪んでいるな、フンッ!」

 

「ト、トレーナー!まっ……ヒギュッ!?」

 

 メキリと鈍い音とウララの籠った小さな声が室内に響いた。

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

「痛たた……トレーナー、痛かったよぉ」

 

 地獄極楽マッサージの後、ウララは少しだけ恨めしそうな顔でリスティーに不満を漏らした。

 

「でも身体の調子は良いだろう?」

 

 しかし、リスティーは施術に使ったタオルを片付けながら、素っ気なく返す。

 

「うぅ……確かに身体の調子はとってもよくなるけど〜」

 

 確かに地獄極楽マッサージを受けた後、とても身体の調子は良くなる。 ウララ自身も効果は実感できているし、実際のところこの地獄極楽マッサージを受けなければまともに身体を動かす事も辛いほど疲労が抜けない事は分かっている。

 しかし、最近は痛みと共に感じる気持ち良さが癖になりそうで少し困っている。

 

「それにね、ウララに施術しているのはまだ軽いマッサージなのよ?」

 

「え……?」

 

 まだ軽いマッサージ? あのとても痛くて気持ちいいマッサージがまだ軽い? ウララはとても信じられなかった。

 

「君はまだ身体しっかりと出来ていないからね、本気でやってしまうと……ネジ切れそうで怖いんだよ」

 

 ね、ネジ切れる!? 想像しただけでビクリとウララの身体が震えた。 今以上の痛みと気持ち良さ……想像するだけで恐ろしいとウララは思った。

 もしあれ以上の痛みと気持ち良さを受けてしまったら、ウララはどうなるのか? ウララは受けてみたいような、怖いような不思議な感覚、そしてどんな感じなのかを想像してみる。

 

「まぁ、本気でマッサージできるのは早くても来年くらいだろう。ほら、汚れたウェアは袋に入れておいたわよ、さぁ帰りましょう」

 

 ウララが未知なるマッサージに対して想像を膨らませている間に、リスティーは手早く使用した道具を片付け、ウララの汚れたトレーニングウェアも袋に詰めてくれていた。

 

「うん、ありがとう」

 

 お礼を言ってから袋を受け取り、ウララが先に外へと出てからリスティーが戸締りしてからウララとリスティーは同じ途につく、リスティーは毎日ウララを寮の入り口までの見送りを日課にしており、ウララが1日にあった出来事を話し、リスティーが相槌を打ちながら聞くのが日課となっていた。

 

 ウララは実にニコニコと楽しそうに、今日聞いたこと、見たこと、思ったことを話す。 そんなニコニコと話すウララを見ていると、リスティーはとても嬉しい気持ちになってくる。

 練習場から寮まではゆっくり歩いても10分も掛からないで着く短い距離ではあるが、リスティーとウララにとってこの時間はとても楽しい日課の時となっていた。

 

「あ、もう着いちゃった……うぅ、もっとお話したかったのになぁ」

 

 楽しい時間は過ぎるのが早い、そしていつもウララは寮に着くと少し寂しそうな表情をする。 リスティーにしても、もっとウララの話を聞いていたいのだが、ただでさえ門限ギリギリまで練習をしているためこれ以上ゆっくりと話す事はできない。

 

「また明日聞かせてくれ。ほら、早くご飯を食べて寝なさい」

 

 寂しそうに俯くウララの頭を少し強めにクシャクシャと撫で、リスティーはいつも微笑む。

 

「うん!トレーナー、また明日ね〜おやすみなさい」

 

 撫でられたウララはいつも嬉しそうに笑ってからリスティーにまた明日と約束してから寮の中へと入っていくのがお決まり事である。

 

「あ、そうだ。ウララ」

 

 いつもならウララが寮の奥へ入っていくのを見てから帰るリスティーだったが、今日は珍しく声を掛けた。

 

「ん?なぁにトレーナー」

 

 お別れの言葉を交わした後にリスティーから声を掛けられ、ウララは振り返った。

 

「デビューレース決まったわよ、詳しくは明日ね。おやすみ」

 

 リスティーはそう言った後、ウララに背を向け職員寮の方へと歩いて行ってしまった。

 

「……え?えええええええええ!?トレーナーァァァア!!なんで今言うのぉおおおお!!!」

 

 そして辺りにはウララの叫び声が響いた。

 

 

 




前回、次は初レースと書いてましたが、少し変更しました。

次回予告(仮)

ついに決まったデビューレース。ハルウララ伝説の第一歩が始まる。


次回
ウララとデビューレースと涙


少し考えている事を少し、Act2.Rの主人公とAct1.主人公ハルウララをライバル関係のようにしたいと思ってます。
Act2.R……ヒント→黒、短剣、ステイヤー、連覇を阻む存在。

どうでもいい作者の一言→ウマ娘の影響を受け競馬を始めてみました。とても面白いですね。


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ウララとデビューレースと涙〜前編〜

更新が遅くなりすみませんm(_ _)m

お気に入りが1000を超えました、お気に入りしてくださった皆さんありがとうございます( ´ ▽ ` )


「お、おはようござい、まふ……ぅう」

 

 昨夜、突然に告げられたデビューレースの事を考えすぎてウララはすっかり寝不足となっていた。

 別にデビューレースが嫌とかではなく、まさかなんの前触れもなく決められるとは思ってもいなかったため、心構えができていなかったせいであった。

 

「うむ、おはよう。では、明後日のメイクデビューレースについて話そうか」

 

 そんなウララをよそに、リスティーは気にも留めていないらしく更なるビックリ発言をした。

 

「え?あ、明後日?明後日なの!?」

 

 リスティーから告げられたメイクデビューレースの日付を聞いた瞬間、ウララは一気に眠気が吹き飛んだ。

 近々だとは思っていたものの、まさか明後日とは思っても見なかった事である。

 ビックリし過ぎてポカンとフリーズしているウララをよそに、リスティーはレースの内容を話し出した。

 

「場所は東京、距離は1300m、ダートの短距離だ」

 

 キュッキュッと小気味いい音を奏でながら、リスティーはホワイトボードに場所、距離、馬場を書きだした。

 そしてリスティーがホワイトボードいっぱいに書き終わる頃に、やっとウララは我に返った。

 

「あ、あのトレー……ナー……」

 

 我に返り、初めにウララの視界に入ったのはホワイトボードいっぱいに書き込まれたメイクデビューレースの情報とレースの傾向と対策だった。

 寝不足と膨大な難しい言葉の数に、ウララは考えるのをやめた。

 

「よし、それじゃあまずは軽く説明をするぞ」

 

「……はい」

 

 その後、結局2時間ほどリスティーによるレースの傾向と対策を聞かされ、覚えておくようにと分厚い辞書のような資料を手渡され初めてのレース会議は終わった。

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

「へぇー、やっとデビューレース決まったんか、よかったじゃん」

 

 すっかり日課のようになった、ゴルシとの鬼ごっこの合間にデビューレースが決まった事を話すとゴルシはニカッと笑顔を浮かべた。

 

「ぅん……でも、いきなりだから心ぱ……いんっ!?」

 

 ウララが不安を吐露した瞬間、背後からタックルされ盛大に吹き飛んだ。

 

「馬鹿野郎!!やる前から怖気ついてどうすんだ!ほら、練習すんぞー!!」

 

 そう言うとゴルシはウララを肩に担ぎ上げ、スタート位置へと歩き出した。

 スタート位置へと着くとウララを地面に下ろし、ほら行けと言わんばかり背中を押してきた。

 それに促されるように一気に自身のトップスピードで駆けていく。 するとすぐに背後から今まで何度も聞いて感じた、ドスッドスッと力強い音と圧倒的な存在感が近づいてくる。

 

「オラァ!!」

 

 そして、腰元に激しい衝撃を感じるのだった。

 

「まったくよー、何をビビってるの知らんけどな。メイクデビューレース程度には私よりヤバいのはいねぇから、安心しろよ」

 

 グイッと担ぎ上げられ、スタート位置へと連れて行かれる途中に言われた言葉を聞いて、ウララはどこか心が軽くなるのを感じていた。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 メイクデビューレースを明日に控えた今日、ウララは新しいトレーニングを言いつけられた。

 

「今日から新しいトレーニングだ、ゴールドシップ」

 

 リスティーに名前を呼ばれると鉢巻をしたゴルシがいきなり走り出した。 そしてリスティーはウララに、ゴルシを追いかけ鉢巻を取ってくるように告げた。

 

 新しいトレーニング、それはゴルシを追いかけて鉢巻を取る事。

 

「ハハッ!!捕まえてみろー♪」

 

 ゴルシは一定の距離まで近づかせると一気に加速し、また一定の距離がひらくとスピードを落としウララを見てはニヤリと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 

「ハァ、ハァ……くぅぅ!!」

 

 ウララも負けじと急加速したりして距離を詰めようとするが、まるでウララの考えがわかっているかの如くゴルシは同タイミングで加速して一定の距離までしか近寄らせてくれない。

 

 

「よし、今日はここまで」

 

 辺りが暗くなり始めた頃のタイミングで、リスティーから終了の合図が出て練習を切り上げる事になった。

 そして結局、練習が終わるまでウララはゴルシを捕まえる事はおろか近寄ることさえできなかった。

 

「ハァ……ハァ……ぅう」

 

 恨めしそうにゴルシを見やると、ゴルシはウララの視線に気づくとドヤッと笑みを浮かべなんとも腹立たしい笑顔をした。

 

「むぅ〜……わっ」

 

 ウララは悔しくてプクッと膨れていると、リスティーが頭をわしゃわしゃと撫でながら言った。

 

「それでいい。その悔しさを忘れないようにすれば、まだまだ成長できるぞ」

 

 リスティーからの一言で、ウララの中にあった悔しいという気持ちは一気に消え去って、褒められた事への嬉しさが溢れ出してきて自然と笑顔になり元気よく返事をした。

 

「うん!トレーナー!私、頑張る!!」

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 ウララを寮へと送った後、リスティーはゴルシと一緒に自販機の前に居た。

 リスティーは自販機で2人分の飲み物を買うと、一本をゴルシに手渡す。

 ゴルシは手渡されたジュースを一口飲んだ後、ダルそうに口を開いた。

 

「サンキュー、んで?何か用があるんだろ?」

 

 リスティーも飲み物を一口飲んだ後、真面目な表情のままゴルシを真っ直ぐに見つめながら口を開いた。

 

「ウララは勝てると思うか?」

 

 ゴルシはやっぱりな……と小さく漏らした後、少し考えるような仕草をして頭をガシガシと掻きながら口を開く。

 

「無理だな、確かに最初の頃に比べると良くはなってるけど……まだまだ足りねぇ。正直、最下位争いだろうな」

 

 そう言った後、ゴルシは一気に飲み物を飲み干した。

 

「そうか……」

 

 ゴルシの言葉を聞いたリスティーもただ一言だけ呟き、静かに飲み物を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告(仮)

ついにやってきたメイクデビューレース。そして緊張しながらも、ゲートへと向かうウララ。
果たしてウララはメイクデビューレースはどうなるのか。

次回

ウララとデビューレースと涙と〜後編〜
ここから始まるハルウララ伝説の初めの一歩。


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ウララとデビューレースと涙〜中編〜

更新頻度が遅く、本当にすみませんm(_ _)m

前回、中編としてありましたが今回を中編に変更しました。




「すぅーはぁーすぅーはぁー……」

 

 朝、目が覚めてからずっとドクンドクンと体震えるくらい鼓動が高鳴っている。

 初めてのレース、初めて人前で走るって思うとウララは更に緊張で鼓動が高鳴ってしまった。

 

「すぅーはぁーすぅーはぁー」

 

 なんとかこのうるさい鼓動を抑えようと無意識に何度も深呼吸をするが、一向に鼓動は大人しくならない。

 

「ちょっと……ウララさん、あなた大丈夫なの?」

 

 起きてからずっと同室のキングはウララを心配そうに見つめている。

 

「う、うん!大丈夫だよ!大丈びぃ……うっ、舌噛んじゃった」

 

 緊張のあまり思いっきり舌を噛んでしまい口の中に嫌な鉄の味が広がる。

 

「ちょっ!?あー!ほら、お口をすすいできなさい!」

 

 盛大にガリッと嫌な音とともに言葉と舌を噛んだウララにキングは居ても立っても居られなくなり、ウララの腕を掴み洗面台まで連れていった。

 

「う……ぺっ……あぅ」

 

 軽く口をすすぎ、吐き出すとほのかに赤みのある水が広がった。

 大事なレースの日だというのに、朝から舌を噛みこんなに血まででるなんて、ウララはドジで臆病な自分が恥ずかしく泣きたくなった。

 

「まったく……ほら、口を開けなさい!」

 

 涙で瞳を潤ませているウララをよそに、キングはウララの口を無理矢理に開かせると舌をキュッと掴んだ。

 

「すこーし痛いけれど、我慢しなさいな」

 

 そう言って、茶色の液をウララの下へと垂らした。 すると、ウララを今までに感じた事ない苦味に似た感触と焼けるような痛みが襲った。

 

「@☆○$¥*%$・*:〒*|=°¥!!!!」

 

 痛み、苦味、そしてとんでもない臭みがウララを襲い、ウララは声にならない声を上げ転げ回った。

 

「よし、これですぐに治るはずよ」

 

 キングはそんなウララを見ながら効いてる効いてるとウンウンと頷き見守っているのだった。

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

「いったい何があったんだ?」

 

 ウララを部屋まで迎えに行くと絆創膏だらけのウララが涙目が居た。

 ウララはポロポロと涙を流し、何故か上手く話ができないのか先程からよく聞き取れない声を漏らしている。

 

「む?むぅ?」

 

 聞き取れずリスティーが困っていると、部屋の奥からキングが出て来てことの顛末を話してくれた。

 

「つまりウララが盛大に舌を噛んでしまい、出血が酷かったためキングヘイローが治療をした、と言うわけだな?」

 

 キングはポロポロと零れるウララの涙をハンカチで拭きながら、そうですわ、と答えた。

 

「私の家に代々伝わる秘薬ですの、すこーし苦味と痛みはありますけどレースの時刻くらいには問題無く治りますわ。ただし!3時間は絶対に話をしたり、物を食べてはダメですからね」

 

 実は少し今日のレースについて再度、ウララと話そうと思っていたがキングからレース開始時間まで絶対に話をしたり、食事をしてはダメだと言われてしまったため断念するしかなかった。

 

 仕方ないか……とリスティーが内心小さくため息を吐いていると、キングはウララに王と書かれたマスクを着けさせていた。

 

「いいウララさん?絶対にレースの開始間際まで話をしたりしたらダメよ?はい、キングが王のマスクを下賜してあげるわ!ほら今日の主役は貴方よ、楽しんできなさい!トレーナーさん、ウララさんをよろしくお願いしますわね」

 

 そう言ってキングはウララの背中をポンっと押し送り出してくれた。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 本来、予定では軽めのミーティングをした後に軽めの朝食を予定したのだが、アクシデントのせいでミーティングも食事もできなくなったため、リスティーとウララは予定よりも早くに現地入りをする事となった。

 

「ウララ、少し早いが控え室行こうか」

 

 リスティーへの返事の代わりにピョコピョコと首と耳を縦に振りウララは答える。

 お喋りなウララも可愛いが、無口なウララも可愛いななどと顔色は変えずリスティーは内心では抱き締めてたいなぁと思いつつ、ちゃっかりウララが迷わないようにと手を繋ぎ控え室へと歩き出した。

 

 控え室に着くとまだ早い時間のため誰もいなかった。そして早速リスティーはウララに着替えるように指示を出し、その間リスティーはウララの靴の蹄鉄の確認をした。

 小さなハンマーを手慣れた手つきで軽くコツコツと叩き、ちゃんと固定できているか、ずれてはいないかと不備が無いかと調べてみる。

 本来、蹄鉄はウマ娘本人が調整するのだが、ウララはまだ蹄鉄の調整が下手だったので代わりにリスティーが調整と整備をしているだった。

 

 コツコツと蹄鉄を叩いていると、クイッと袖を引かれたので振り返ると、レース用の真新しい運動着に着替えたウララが立っていた。

 

「……もう少し待ってなさい、少し蹄鉄がズレているから調整をする」

 

 運動着のウララもなんて可愛い……また抱きしめたい衝動に駆られたが、腹筋にギュッと力を入れ表には感情を漏らさない。本当は運動着姿を目に焼き付けたいが、自制が取れなくなりそうなのでつい素っ気なさそうにしてから蹄鉄の調整に戻る。

 そんなリスティーの内心など知らずに、ウララはちょこんとリスティーのすぐ横に座り蹄鉄を叩く手をジッと見始めた。

 

 コツコツ、コツコツ、コツコツとただ蹄鉄を叩く音だけが控え室に響く。

 いつもなら、ウララから蹄鉄の調整のコツやらを聞かれるが、今日は話をできないためにお互いに無言だった。

 

 

 その後、10分ほどで蹄鉄の調整を終わらせて、リスティーはウララをイスに座らせからその場に膝をつき靴を履かせた。

 

「履き心地はどうだ?」

 

 ウララは軽く足を動かし履き心地を確認した後、ピョコピョコと動かし口元見えないが目元がニコニコと笑っているように見えた。

 

「問題ないな、さて……ウララ、私も着替えるからその間にこれを読んでおきなさい」

 

 資料をバッグから取り出してウララへと手渡した後、リスティーは久しぶりに袖を通す自分の勝負服へと着替えを始めた。

 

(もう二度と着るまいと思っていたが、な……)

 

 数年ぶりに取り出した燃えるような真っ赤なジャージ、これはリスティーにとって特別なモノであり、多くのウマ娘から嫌われた証。

 

「……ふぅ」

 

 小さく息を吐いた後、袖を通す。

 不思議な物で何度も着ているはずなのに毎回、このジャージを着ると気持ちが引き締まるのを感じる。

 

「よし……ウララ、ミーティングを始めようか」

 

 先に資料読んでいるウララの横に腰を落とし、リスティーは今日のレースのミーティングを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




次回予告(仮)

ついにデビューレースを迎えたハルウララ、果たしてウララの初レースはどうなるのか?

次回、ウララとデビューレースと涙〜後編〜をよろしくお願いします。



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ウララとデビューレースと涙〜後編〜

遅筆で申し訳ありませんm(_ _)m

いつもより少しだけ長くなっています。



 ウララとのミーティングを終えた頃には、他のウマ娘やトレーナー達も控え室に集まりザワザワし始めていた。

 

「ウララ、そろそろマスクを外しておきなさい」

 

 時計を見ると、もうすぐで入場が始める時刻だった。 そのためウララにマスクを外すように促す。

 

「ん……あー、あー……わぁ〜!全然痛くない」

 

 マスクを外したウララは恐る恐るといった風に声を出し、痛みが無いことに喜んでいる。

 

「ほらほら、トレーナー!見て見て〜」

 

 痛みが無いのが嬉しかったのか、ウララはリスティーに向かい大きく口を開き舌をベーっと出して見せる。

 

「っ!?コラ!女の子が人前で大きく口を開けるんじゃない!」

 

 リスティーは内心、舌ペロウララ可愛いぃぃぃぃ!! っとなりながらも、何とか理性が勝り他には見えないようにしてから、ウララを叱った。

 

「エヘヘ、ごめんなさい」

 

 ウララは、はにかみながら笑い返事をした後、ストレッチを始めた。

 

「コラ!!そのストレッチはダメだと教えただろう!!」

 

 それを見たリスティーはすぐさまウララを叱りストレッチをやめさせる。

 

「あ……そっか、えっと……」

 

 ウララはなぜ怒られたのかを思い出した後、動的ストレッチを始めた。

 

「そう、運動前は動的ストレッチをしなさい」

 

 以前、ウララが運動前にストレッチをしているのを見て、リスティーはそのストレッチは間違ってると指摘していた。

 リスティーは怪我の原因になりそうな癖などは徹底的に矯正させている。 その口うるささも原因で、今まで担当したウマ娘達から嫌われる事も多かった。

 しかし、怪我をするリスクを少しでも減らしてあげたい一心でリスティーは口うるさく注意をしていた。

 

「うん!んっしょんっしょ〜」

 

 そんな口うるさい自分にも、ウララは嫌な顔一つせずに従ってくれる。

 はじめはどうしてダメなの?みんなやってるよ?っとリスティーに疑問を口にしていたが、リスティーがなぜダメなのかを伝えると、ウララはすぐに納得してくれた。

 

……この素直な所はウララの美点だな。

 

 可愛いウララのストレッチを見ながら、リスティーは1人小さく微笑んでいた。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

「5Rに出走予定の皆さん、入場して下さい!!」

 

 ついに時間がきた。 係員がゼッケン1番のウマ娘から順番に先導していく。

 

「うわぁ……んっ、トレーナー?」

 

 ソワソワと忙しなく身体を揺するウララを見かねて、リスティーはウララの頭を優しく撫でてやった。

 

「楽しんできなさい、さぁ今日の主役はウララだよ」

 

 そう言ってポンッと背を叩き、ウララを呼びにきた係員の元へと送り出す。

 

「うん!!トレーナー見ててねー!!やるぞ〜!!」

 

 ウララはリスティーに向かいニッコリと大きく笑い、テンションが上がり過ぎたのか先導する係員を追い越して走って行った。

 

「あっ!?ちょっと待って待って〜」

 

 そんなウララの後を係員は慌てて追いかけて行った。

 

「やれやれ、しょうがない子だな」

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 ドクンドクン。 さっきから心臓の音がうるさいくらい大きい。

 空は真っ青に綺麗で、太陽は眩しいくらいに輝いてる。

 

「ドキドキするなぁ〜」

 

 目の前にゲートがあって、周りには一緒に走る8人のウマ娘達がいる。

 身体を揺らしてる子、ストレッチをする子、目を閉じて深呼吸してる子。

 各々、色んな動きをしている。 一方、ウララは楽しくて楽しくて堪らずにいた。

 

 初めて走るレース、今朝までは緊張で身体がガチガチになっていた。 でも、リスティーに頭を撫でてもらい、背中を押してもらったら、一気に緊張よりもリスティーに走っているのを見てもらいたいの気持ちが強くなった。

 

「よ〜し!!頑張るぞ〜!!」

 

 早く、早く、早く走りたい。 どんどん気分が高揚する。

 先程から尻尾が忙しなく右に左にパタパタと揺れ動いている。

 ウララを含むウマ娘達がソワソワしていると、ついにゲート担当の係員が声を上げた。

 

「皆さん、今からゲート入りを始めます。呼ばれた方からゲートにどうぞ」

 

 ついにゲート入りが始まった。

 続々と一人また一人とゲートに入っていく、特に問題なく進みすぐにウララの順番が回ってきた。

 

「ハルウララさん、7番にどうぞ」

 

 係員に名前を呼ばれ、ウララは元気よくゲートの前に駆け寄っていった。

 係員は頑張ってねと優しく声を掛けた後、手慣れた様子でゲートを閉めた。

 

「思ってたより狭いなぁ〜」

 

 ゲート入りの練習はリスティーと何度かしたものの、やはりレース本番のゲートは上手く言えないが違って見えた。

 

 もう後には退がれない、進めるのは前にだけである。

 後はただ、誰よりも早くゴールへと駆けるのみ。

 

 隣のゲートがガチャと閉まる、右隣の子は緊張しているのかブツブツと何やら言っている。

 左隣の子は緊張は無さそうだが、小さくお腹空いたなぁーっとボヤいていた。

 

「ゲートイン完了!!」

 

 最後のウマ娘がゲート入りしたのを確認した係員は、大きな声を上げゲートから離れて行った。 係員が離れたと同時にガチャンっと大きな音を立てゲートが開いた。

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 結果は9位だった。 出遅れ無く完璧な好スタートから始まり、作戦通り先行する形で走り出した。

 しかし、無情にもすぐに差が出てしまった。 前の方に付けて走っていくはずが、すぐに群について行く事ができなくなり最後方へと落ちた。

 

 ウララは何とかついていこうと加速するも、差は縮む事はなく。 最後は8着のウマ娘と8馬身もの差が開いてのゴールとなった。

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

「ウララはどこに行ったんだ」

 

 レースの後、ウララは控え室に戻って来なかった。

 この後にウイニングライブがあるため、衣装に着替える必要があった。

 

 ウララはすぐに見つかった。

 

 ウララは人気の無いトイレの個室で声を殺して泣いていた。

 

「ゔっ……ぅゔ……ぁ、ゔっ、どうして、こんなに……速くはしれ、ないの、かなぁ……ゔっゔぅ」

 

 声を掛けるべきか……と、リスティーは悩んでいるうちにウララが個室から出てきてしまった。

 

「あ……トレーナー……」

 

 リスティーの姿を見た瞬間、ウララはビクリと体を震わせた。

 そして、泣き腫らした顔で無理に笑った。

 

「エ……ヘヘ、負けちゃった。あんなに指導してもらったのに……ごめんなさい」

 

 その笑顔を見た瞬間、リスティーは言葉より早くウララを強く抱きしめた。

 

「謝るのは私の方だ、私の指導不足だった……すまない」

 

 強く強く抱きしめた。

 

「違、うよ……違う、トレーナーァ……ぅゔ、勝ぢだがった……勝ぢだがったよぉぉ!!」

 

 ウララは大きな声を上げて泣き出した、リスティーはそれをただ黙って受け入れるしか出来なかった。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

あの後、ウララは泣き疲れ眠ってしまったため、ウイニングライブは体調不良のためと断り、そのまま寮へと連れて帰った。

 

部屋に着くとキングヘイローは何も言わず、泣き疲れて眠ってしまったウララを抱きしめ、後はお任せ下さいとドアを閉めた。

 

 リスティーは自分の部屋に帰るなり、クローゼットの扉に頭を打ちつけた。

 

 不完全なトレーニングをさせてレースへと送り出した自分はなんて愚かなのか。

 勝ちたくない子がいるものか!! いくらデビューが遅れていたといえ、もっと時間を掛けるべきだったのだ。

 

 自分が焦り、誤った判断のせいでウララに辛い思いをさせてしまった。

 

 何度も何度もクローゼットの扉に頭を打ちつけていると、鈍い痛みの後にツゥーと血が滴り落ちた。

 

 ポタポタと血が滴り落ち、額がジンジンと痛む。

 ウララはもっと痛かったはずだ! もう一度強くクローゼットの扉に頭を打ちつけた。

 

 心のどこかに恐怖があった、昔のように指導をしたらウララに嫌われてしまうのではないか。

 そしてその自分の甘さが、ウララを苦しめた。

 

「情けない情けない……指導者として、なんと情けないのか!!私は……こんなにも、無力だ」

 

 涙の代わりにのように、また一つまた一つと血が滴り落ちた。

 

 しばらく俯いていると、血が抜けたせいもあってか頭が冷えてくるのを感じた。

 

「ふぅ……よし」

 

 数回、深呼吸をした後、洗面所へと向かった。

 鏡には額から滴り落ちた血の跡のある無様な自分の顔が映っている。

 

「情けない奴め……」

 

 この前、迷いは断ち切ったと思っていたのだがな、と小さく呟いた。

 もう一度、深呼吸をした後に棚から鋏を取り出した。

 

「弱虫な私はサヨナラ、だ!!」

 

 ジョキン!!っと鋏の断ち切る音とともにバサリとリスティーの長い髪が床に落ちた。

 

「原点回帰だ!馬鹿者め!」

 

 そして鏡に映る自分を怒鳴りつた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




次回予告(仮)

レースで惨敗してしまったウララはトレーナーに合わせる顔が無いと部屋に籠る、そんなウララを優しく諭すキングヘイロー。
キングヘイローの説得もあり、前を向こうと奮起するウララだった。


次回!!

ハルウララと鬼



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ウララと鬼の鼓動

更新が遅くなり、本当にすみませんm(_ _)m

遅筆ですが、更新をして参りますのでこれからもよろしくお願いします。




 ウララのメイクデビューの翌日、学園は一部の生徒の間でちょっとした騒ぎが起きていた。

 

 とあるGはその姿を見た瞬間、まるで怪物でも見たかの如く逃げ出した。

 またとあるMは、救いはないのですかぁぁあ!?などと叫び卒倒。

 更にOは、彼女の姿を見た瞬間、食べていた朝食を残してしまった。

 あまり関係ないが、某Mは曲がり角でGと衝突し鼻血を出して泣き出してしまった。

 

 そして騒ぎは学園関係者にも起きていた。

 沖野トレーナーは彼女の姿を見た瞬間、目を見開き口から飴を落とし固まってしまった。

 東条トレーナーは彼女の姿を見た瞬間、まるで長年の友人と出会ったかのように微笑んだ。

 南坂トレーナーは、彼女を見た瞬間にビクリと身体を固くした。

 黒沼トレーナーは、彼女を見た瞬間、ダラダラと汗を流し出した。

 

 燃えるような真っ赤ジャージ姿に、見るものを萎縮させる眼光、後ろ髪をバレッタで固定した姿は、リスティーが鬼と呼ばれ恐れられていた時の姿そのものだった。

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

「ハァ!!ハァ!!ひぃ」

 

 ゴールドシップは走っていた。 とにかく死に物狂いで走っている。

 表情はまるで、怪物から逃げるかの如く酷く怯えていた。

 

「ハァ、ハァ……こ、ここまでくればゴルシちゃん大勝……」

 

 逃げて逃げてやっと辿り着いたスピカの部室、中に入り一息を吐こうと椅子に腰を下ろし息を整えていると後ろから肩を掴まれた。

 瞬間、ゾクリと嫌な汗が流れだした。

 

「捕まえた」

 

 ガチガチと歯が噛み合わないほど震えながら、ゴールドシップが振り向くとそこには鬼が立っていた。

 逃げるか!? 刹那、ゴールドシップの脳内でゴルシ会議が行われる。

 

「逃げるべきだ!!」

 

 智謀のゴルシが逃げるべきだと強く声高に叫ぶ。

 

「もうダメだぁ、終わりだぉ!!」

 

 軍師のゴルシは頭を抱えてうずくまった。

 

「戦うべきだ!!ゴルシちゃんにやってやれない事はない!!」

 

 将軍のゴルシは開戦じゃあー!!と騒ぎ出した。

 

「もう好きにやれよ……アタシは知らん!」

 

 本体ゴルシは考えるのをやめた。

 

 ゴルシ会議、時間にして0.5秒。 ヤケクソになった本体ゴルシは一か八かと将軍ゴルシの案を取り入れる事にし、肩を掴む手を掴み力任せに引っ張ろうとした次の瞬間、首に圧迫感を感じた後、意識がブラックアウトした。

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

「痛てて……」

 

 ゴールドシップが意識をブラックアウトした後、闘魂注入ビンタで目を覚ますと目の前に鬼がゴールドシップを見下ろすような形で立っていた。

 

「まったく、私の顔を見るなりいきなり逃げ出して何のつもりだ?」

 

 一瞬、見るものを射殺す気か?と言いたくなるほど鋭い目つきのリスティーに、ゴルシは視線を合わせないようにしながら用件を尋ねた。

 

「ゴルシちゃんに何の用があんだよ……」

 

 まぁ、用件はわかっちゃいるけどな……とゴルシは内心で呟いた。

 

「お前の思っている通りだ、ゴールドシップ」

 

 刺すような鋭い視線も怖いが、まるで自分の心を読まれているような感覚が恐ろしくなった。

 

「明日からウララに本気の指導を開始する、なのでゴールドシップ。お前にまたしばらく付き合ってもらうぞ」

 

 まるで断る事は許されないような雰囲気が重苦しくゴルシに纏わりつく。

 

「どうせ……断れないんだろ?」

 

 酷く喉が乾く。 それに、チリチリとまるで火に炙られているかのような感覚さえしてくるような錯覚がする。

 

 しばし沈黙の後、リスティーはゴルシに背を向けた。

 

「明日の放課後、いつのもの場所にて待つ」

 

 一言そう言い残すと、もう興味もない様子で部室を出て行った。

 

「……ハァ……なんで今更、戻ってんだよ」

 

 誰に言うでもなく、ゴルシはリスティーが出て行った扉に向けボヤきを吐いた。

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 今回、被害に遭っていたのはゴールドシップだけではなかった。

 

 スーパークリークと奈瀬も被害を受けていた。

 突然やってきたリスティーに、クリークとウララの合同トレーニングを持ち掛けられた。

 最初は断ろうとしたが、リスティーのある発言でクリークが目の色を変えて賛同してしまったため、流される形で奈瀬トレーナーは合同トレーニングを受け入れるしか出来なかった。

 

 リスティーが言った言葉、ただシンプルでクリークに対しては衝撃的な提案。

 

「スーパークリーク、君にでちゅねごっこを心ゆくまで楽しめる娘を提供しよう」

 

 リスティーはウララのため、魔王(ママ)をも利用する事にしたのだった。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

「うわぁぁぁあん、キングちゃん悔しいよぉお!!」

 

 一方その頃、ウララは目を覚ましてからずっと昨日の事が悔しくて堪らず、キングに抱きつき悶えていた。

 

「まったく、ウララさんは仕方ないわね」

 

 まるで母親が子供をあやすように、キングはウララの頭を撫でながら、ずっとウララの話を聞き続けてくれていた。

 

「ハァ……明日から頑張らなきゃ」

 

 

 ウララは知らない。

 リスティーが、鬼と呼ばれていた昔の姿に戻った事を……そして、新たなトレーニングパートナー達の事を。

 

 今までのトレーニングがまるで天国のような優しいものだったと事を。

 

 ウララは、まだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告(仮)


遂に始まる楽しい合同トレーニング。
おしゃぶりとガラガラを持ったスーパークリークが、今ウララに襲いかかる。

次回!

ウララとでちゅね戦争


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ウララとでちゅねの悪魔〜でちゅね戦争・序〜

延期による延期、本当にすみませんm(_ _)m

度重なる体調不良、体調不良、捻挫、体調不良、データ消失などなどがありました。
ですがなんとか更新は続けていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。


 朝、目が覚めた時からナニカ違和感があった。

 上手く言えないけれど、なんだか背中がゾワゾワってしてる。

 

「んー?んー?」

 

 放課後になっても違和感の原因がわからないず、ウララは只々ソワソワしてしまう。

 

「ウララさん、朝からずっと何をソワソワしているの?」

 

 朝からひたすらにソワソワと落ち着きのないウララに、同室のキングは心配そうに尋ねた。

 

「んー?えっとねー……んー、わかんない」

 

 しかし、ウララ本人がこのソワソワする理由がわからないので答える事ができず、ただわからないとしか返せずにいた。

 

「体調は悪そうに見えないし……とにかく、具合が悪くなったりしたらすぐに保健室に行きなさいね?」

 

 キングはどこか心配そうにしながらも、自分のトレーニングがあるため後ろ髪を引かれながらウララと別れ去って行った。

 

「……なんだろ?んー?んー……トレーナーに相談してみようかな」

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

「遅いぞー!ウラ吉!!」

 

 いつものように部室代わりにしている用具室に着くと、そこには腕をご立派な胸の前で組み仁王立ちしているゴールドシップが待っていた。

 

「あれ?シップちゃん、今日は一緒にトレーニングする日じゃないよ?」

 

 トレーナーからはゴールドシップとの合同トレーニングはしばらく休みと聞いていたウララは、すっかりリスティーと二人でトレーニングと思っていたため予想外の出来事に軽く驚いた。

 

「フフン、この優しい優しいゴルシちゃんが、もう暫くだけ一緒にトレーニングしてやろうと来たんだよー!」

 

 正直、ずっとゴルシとの合同トレーニングをしてきたので、すっかりウララは誰かと一緒にトレーニングが楽しくなっていたので、またゴルシと一緒にトレーニングできるのが嬉しく満面の笑みを浮かべた。

 

「わぁ〜い♪ウララ急いで着替えてくるねー!」

 

 朝からのナニカは、またゴルシと一緒にトレーニングできるお知らせだったと思いやっとスッキリした! と、ウララは自己完結し急ぎトレーニングウェアに着替えるため用具室へと勢いよく飛び込んだ。

 

 勢いよく飛び込んだ扉の先でポフッと何かとっても柔らかいモノにぶつかってしまった。

 

「あぷっ!?な、なに?え?」

 

 ウララがぶつかったモノを確認しようと上を向いた瞬間、ゾクリと嫌な感覚が走った。

 そこにいたのは、ハァハァと激しい呼吸音を漏らし、ギラギラと蕩けた大きな瞳、口の端からは一筋のヨダレを垂らし自分を見下ろし、右手におしゃぶり、左手にはガラガラのおもちゃを持った見知らぬウマ娘だった。

 

「え……誰?」

 

 普段、人一倍人懐っこく誰にでも明るくコミュ力お化けのウララが、今目の前に居るウマ娘に対して激しい拒否反応と恐怖を感じ、蛇に睨まれたカエルの如く動けなくなった。

 

「ハァ〜ハァ〜、あらぁあらぁ〜♪なんて可愛いぃ、赤ちゃんなんでしょう〜♪」

 

 本能が逃げろ逃げろとウララを急かす。 しかし、目の前のウマ娘の圧がウララにネットリと絡みつき動けない。

 

 ゆっくりゆっくり、とおしゃぶりを握った右手がウララに近づいてくる。

 

「あぁ〜♪なんて可愛いぃ、はぁいおしゃぶりを咥えまちょうね〜♪」

 

 怖い怖い、でも体が動かない。 徐々におしゃぶりがウララの口へと近づいてくる。

 本能が叫ぶ、アレを咥えたらダメだ!! 危険だ! 逃げろ逃げろ!! だかしかし、体を動かせない。

 

「はぁい♪あぁ〜〜〜〜ん♪」

 

 遂に唇におしゃぶりが当てられ、彼女の甘ったるくも有無を許さない圧のある声音がウララに逆らう意志を奪っていく。

 

「あ、ぁ、ぅ」

 

 も、もうダメだ。 諦めかけた次の瞬間、背後から強い力で引かれた。

 

「遅えと思ってきてみたら……おい、お前は明日からの予定だろう?クリーク!!」

 

 間一髪の所でウララを救ってくれたのはゴルシだった。

 ゴルシはウララを自分の背中に庇うようにクリークの前にたちはだかった。

 

「あらあら、1日早いくらい誤差ですよ?誤差♪もう我慢できないんですぅ〜、早く赤ちゃんを返して下さい♪」

 

 クリークはまるで聖母のように優しい笑顔なのだが、底の見えないような真っ黒な狂気を孕んだ瞳がユラユラと妖しく輝く。

 

「チッ……ダメだ、今日はアタシがウラ吉とトレーニングすんだ。明日まで待っ……」

 

「もう限界なのぉお!!邪魔するなら、ゴルシちゃんもぉ赤ちゃんにしちゃいますよぉ!!」

 

 ゴルシの言葉を遮りクリークは声を荒げ、いつの間にか取り出した二つ目のおしゃぶりをゴルシの口元に投げた。

 

「甘ぇえ!!」

 

 ゴルシもどこからか取り出した卓球のラケットでおしゃぶりを叩き落とした。

 

 そこからはお互いにおしゃぶりを投げる、叩き落とすの激しい攻防が続いた。

 

「あ、ぅ……」

 

 すっかり蚊帳の外のウララは軽くパニックとなり、どうする事をできずアワアワと身を縮めて震えていた。

 

「ハァ、ハァ……やりますねぇ!ゴルシちゃん!ですがぁー!勝つのは私ですー!!」

 

「しのぎ切ってやるぜー!!ゴルシちゃんは無敵だー!!」

 

 お互いにこれが最後とばかりに声を荒らげた次の瞬間、クリークとゴルシは突然の空を舞う浮遊感を感じた、そしてすぐに背中に強い痛みを感じ悶絶した。

 

「まったく……何をしている馬鹿者共め」

 

いつの間にかやってきていたリスティーは痛みと衝撃でもがくクリークとゴルシを睨み殺さんばかりの視線で見下ろしていた。

 

 何が起こったのか、唯一見ていたのはウララだけだった。

 気配もなく突如、現れたリスティーは瞬きをした一瞬でクリークとゴルシの首元を掴み、そのまま投げ落としたのだった。

 

 人はウマ娘に敵わない、そう誰かが言っていた。 しかし、一部例外はいるのだと、この日ウララ一つ賢くなった。

 

 




次回予告(仮)

ついに出会ってしまったウララとクリーク。
でちゅねの魔王クリークママからウララは無事に生還できるのか?

次回!!

ウララとでちゅねの悪魔〜でちゅね戦争・始まり〜



お知らせ(のようなモノ)

今後の更新速度は、週1〜2ほどを頑張ってやっていきたいと思います。
本当なら、毎日更新します!と言いたいのですが……体調面などで厳しいため、遅筆更新となります。
本当にすみません。

更新日につきまして、作品説明欄につ随時掲載しております。


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ウララとでちゅねの悪魔〜でちゅね戦争・序々〜

更新が遅くなり、本当にすみませんm(_ _)m

体調不良には皆さんもお気をつけ下さい。




「まったく……くだらん事で争って、痴れ者共が」

 

 おしゃぶり合戦の後、ゴルシとクリークは地べたに正座をさせられ説教を受けていた。

 

「で、でもよ!先に手を出してきたのはクリー……痛っ!?」

 

 ゴルシが唇を尖らせながら反論するも、両成敗だ痴れ者! っとリスティーに拳骨をもらった。

 

「クリーク、君には確かに練習のパートナーを頼んだが……明日のはずだぞ?ちゃんと練習のスケジュールは渡していただろう?」

 

 ゴルシにデコピンで追撃をしながら、リスティーはクリークをジロリと横目で睨みながら声をかけた。

 

「えっとですねぇ……あの、実は我慢できなくて……その〜、早くでちゅねしたくて、来ちゃいました♪」

 

 クリークはリスティーの横に座るウララに熱いネットリとした視線を向けながら答えた。

 

「はぁ……スケジュールも守れないのなら、君に頼んだ合同練習は取り消しにさせてもらいたい」

 

 リスティーの言葉を聞いた瞬間、クリークは両手で口元を覆い隠し、目を見開き今にも泣き出しそうな表情でリスティーの足に縋りついた。

 

「嫌です!!お願いします、ちゃんと練習スケジュールを守ります!!わ、私、我慢しますから、だから……うっ、うぅ」

 

 クリークの大きな瞳からポタリポタリと大粒の涙が溢れ落ち、リスティーのジャージのズボンを濡らしていく。

 

「……二度目は許さんからな、いいな?」

 

 リスティーの許しを得てクリークは満面の笑顔になり、リスティーに何度もお礼を言った後、ウララにまたネットリとした熱い視線を向けながら小さな声を漏らした。

 

「ウフフ、お楽しみは明日♪可愛いぃ、私の赤ちゃん♪」

 

 地面に落ちたおしゃぶりを拾い上げ後、クリークはフンフン♪ と鼻歌を奏でながら部室から去って行った。

 

 

-----------

 

 

 

 

「まったく……相変わらず狂気じみているな……所でゴールドシップ、お前は何しに来た?」

 

 ゴルシの方に視線を移すと、どこから取り出したのかルービックキューブで遊んでいた。

 

「お?もう終わったんか?よっしゃー!!練習すんぞ、ウラ吉!!」

 

「え、え!?わ、あわわ」

 

「先に行ってんぞー!!そりゃーー!!」

 

 ゴルシは返事も聞かず、手慣れたようにウララをヒョイっと担ぎ上げ、部室のドアを蹴破り練習場へと走り去って行った。

 

「ハァ……ドアを壊すな、馬鹿者が」

 

 小さなため息を吐いた後、リスティーも練習場へと向かい歩き出した。

 

 

-----------

 

 

 

「よし、今日からゴールドシップにはハンデなしで追い込みをしてもらうぞ」

 

 いつものようにハンデ斤量を背負い始めたゴルシは、リスティーの言葉に驚いたような表情をした。

 

「いいのか?アタシがハンデ無しとか、勝負になんねーけど?」

 

「問題ない、ウララを徹底的に追い込んでくれ」

 

 へぇ、っとゴルシは一瞬だけニヤァと笑った後、身に付けた錘を脱ぎ捨て、肩をクルクルと回してから鬼ごっこのスタート位置に向かった。

 

 

-----------

 

 

「あ、ゴルシちゃん今日も……っ!?」

 

 今日もよろしくね、っと声を掛けようと背後のゴルシに向き直った瞬間、ゾワッと全身が震えた。

 まるで、得体の知れないナニカに出会ってしまったかのような、恐ろしいモノを見てしまったかのような、恐怖に似たナニカ。

 

「ウラ吉……今日から本気だ、アタシの本気は怖ぇぞ?」

 

 本気の鬼ごっこが始まる。

 

 

 

 




次回の更新も少し遅れる可能性があります。
寒くなりそうなので、皆さんも風邪などにはお気をつけ下さい。

次回更新日が決まりましたら、小説トップページにてお知らせします。

遅筆ではありますが、更新は続けていきますので今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m


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ハルウララと黄金船

更新が大変遅れ、21年内の更新ができず、本当にすみません。

今年もACT.ハルウララをよろしくお願いしますm(_ _)m

新しく、私とタマモクロス?の日常。を書き始めましたので、よろしければ、アチラもよろしくお願いします。


「ひっ、あぅー!?」

 

 まだ練習が始まってから30分も経っていないのに、ウララは既にボロボロになっていた。

 

 ゴルシとの練習や、食事の改善、リスティーとのマンツーマントレーニングで、前よりは確実に体力がついてきているはずなのだが……。

 本気のゴルシとの鬼ごっこトレーニングは、今までのトレーニングは遊びだったのだと、ウララは心底思った。

 

 前なら、ある程度はゴルシの動きが見えていたし、僅かにはだが反応する事もできていた。

 しかし、今日は一切反応すらできていない。 ドスッドスッっという足音が聞こえたと思ったら、まるで車にでも当たられたような衝撃が体を襲い、吹き飛ばされてしまうのだ。

 

 既に体は擦り傷や土でボロボロになっている。 いつもなら、リスティーが一旦休憩をしようと提案してくれるのだが、今日は一切、口を開かず黙ってウララとゴルシを見ているだけだった。

 

 経験した事のない痛み、疲労、恐怖にウララは泣きそうになった。

 もう何度目なのか、吹き飛ばされ立ち上がれずにいるウララをゴルシは無表情で見下ろしている。

 いつもならニヤっと不敵な笑みを見せて、大丈夫か? っとウララを引き起こしてくれるが、今日は一切の手助けや手加減をしてはくれなかった。

 

「起きろ、次やんぞ」

 

 まるで感情が無い作り物ように冷めた顔でウララに起きるよう催促するゴルシにウララは泣きそうになりながらも立ち上がり、スタート位置まで戻る。

 

 その後も、圧倒的な力の差でウララは吹き飛ばされ続けた。 

 辛い、痛い、もう止めたい、という気持ちがウララの心の中で混ざり合いぐちゃぐちゃになった。

 しかし、一番強くウララの心を叩いたのは悔しいという気持ちだった、あんなに頑張っていたのにまるで成長していない自分が悔しくて悔しくて堪らなくなった。

 

 ゴルシとの差、これは純粋に才能だけでは無いのだとウララは思う。

 確かに体格差や才能の差はあるだろう。 しかし、一番劣っているのは気持ちと努力の差なのだと気付かされた。

 

 本気で勝ちたいと思う気持ちが足りていない……っと言われているようで、ウララは心にズシリとした痛みを感じた。

 

 もう、やめようかな……。

 こんなに痛くて、辛い事したくないなぁ。

 

 心の中にたくさんの弱虫が産まれ、ウララはこのまま倒れて寝てしまおう、諦めようかなと思い顔を伏せたまま動けずに葛藤していた。

 

「ハルウララ!!」

 

 そんな時、今まで黙って見ていたリスティーが大きな声でウララの名前を叫んだ。

 その声に反応し、ウララはビクッと大きく震えた後、顔を上げリスティーの方を見た。

 

「立ちなさい!」

 

 掛けられたのは厳しい言葉だった、しかしウララは気づいた。

 リスティーの組んだ腕がブルブルと震え、握っている部分が力の入れ過ぎで真っ赤になっているのを。

 

「っう……ぅ、うう!!」

 

 頑張れ!頑張れ!ウララ!! 自分で自分を鼓舞し、ウララはゆっくりと立ち上がる。

 

 辛いのはウララだけじゃない、トレーナーもゴルシちゃんも辛いんだ!

立たなきゃ! もう、負けるのは嫌だぁ!!

 

 立ち上がったウララの瞳は爛々と強い光を帯びていた。

 

 後日、ゴルシは語った。

 あの日、ハルウララは本物になった、と。

 

 




次回

ハルウララと成長の鼓動〜でちゅねの悪魔とトレーニング〜


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ハルウララとでちゅね戦争〜前夜〜

更新が大変遅くなり、本当にすみませんm(_ _)m



 朝が来た。 

 素晴らしい日の始まり。

 スーパークリークにとって、今日は待ちに待った赤ちゃん(ハルウララ)との合同トレーニングの日。

 

 数日前、ついやる気持ちを抑えきれずにフライングをしてしまい、あわや合同トレーニングを断られそうになってしまった。

 そのせいで奈瀬トレーナーからこってり絞られ、クリークは反省しているように見えたが……しかし、あの日から毎夜毎夜クリークは恍惚な表情でおしゃぶりを念入りに磨いていた。

 

「あぁ〜♪早くヨシヨシしたり、子守唄を歌ったり、バブバブさせたりしてあげたい」

 

 スーパークリークの母性はまさに今、暴発寸前まで高まっていた。

 

 

 

 

★☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 ゴルシとの本気鬼ごっこの翌日は生憎の大雨でトレーニングがお休みになったため暇となり、ウララはリスティーに呼ばれリスティーの部屋に来ていた。

 

「お邪魔しまーす」

 

 部屋に入りウララの目に映ったモノは必要最低限の家具しか無く殺風景で大量の本とダンベルなどのトレーニング器具の散らかった女性の部屋とは思えないものだった。

 床から机の上まで大量の本が積み重なっていて、ウララは崩さないよう慎重に奥へと歩いていく。

 

「少々散らかっているけど気にしないでくれ、とりあえず……椅子は、無いから……ベッドにでも座りなさい」

 

 リスティーはベッド周りの本を端に寄せてからベッドに腰掛け、自分の横をポンポンと叩きウララに座るように促し座らせた。

 

「では今後の希望やトレーニングのメニューなどを話し合おうか」

 

 リスティーはベッド横のノートやらが乱雑に置かれた小さな机からボールペンとハルウララ育成vol.1と書かれたノートを手に取り、二人でトレーニングメニュー、食事のメニューなどを細かく話し合って決めていった。

 

「よし、トレーニングと食事についてはこれで決まり、と……さて、後は今後のレースについて話そうか」

 

 リスティーはそう言うと、レース予定表を手に取り広げ真剣な表情で口を開いた。

 

「とりあえずウララ、今年の有マ記念は諦めた方がいい……今の君では無理だ」

 

 リスティーの言葉にウララは顔を伏せグッと唇を強く噛み締めた。

 わかっていたことではあったが……リスティーから改めて告げられた実力不足の言葉は、ウララの心に鋭く突き刺さった。

 

 俯き微かに震えるウララを真っ直ぐに見ながら、リスティーは言葉を続ける。

 

「まず有マ記念に出るためにはファン投票で上位10人に選ばれるか、残り6枠はG1の制覇などの実績で選定されるかだ、しかし残念ながらデビューが遅れまだ未勝利戦すら勝てていないウララではまずファン投票は確実に無理だろうし、選定枠も実績が足りな過ぎるから無理だろう……それに今のままでは来年も無理だと思う」

 

 ウララ自身も解ってはいた事であったが、自身のトレーナーであるリスティーから告げられた事で覆せない現実を突きつけられたようにまじまじと感じさせられた。

 

「うっ……ぅう、ぐすっ……」

 

 自分でも気づかないうちに涙が溢れ出し、ポタポタと床に落ちては弾け

ていく。

 静かな部屋にウララの声にならない呻くような押し殺した声だけが響く。

 そんなウララをリスティーは何も言わずに強く抱きしめ、ただただウララが泣き止むまで優しく背中を撫でて続けた。

 外では雨がまるでウララの悲しげな声を隠すように激しく降り、ウララの慟哭を表すかのよう雷が轟音を鳴らしていた。

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○

 

 どのくらい時間が経っただろうか。

 ウララが泣き止んだ頃には雷雨は嘘のように消え去り、雲間から夕陽が差し込みはじめていた。

 

「落ち着いた?」

 

 ずっと抱きしめ撫で続けてくれていたリスティーは、ウララの涙が止まるのを待っていたかのようなタイミングで今までで1番優しい声音で問いかけた。

 

「……ぅん……あぅ」

 

 ウララは小さく頷く事しか出来なかった。 リスティーはそんなウララの顔を両手で掴み上を向かせた。

 

「フフッ、酷い顔をしているぞ?ほら、上を向きなさい」

 

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったウララの顔をリスティーは自身のハンカチで優しく拭き、優しく語りかけた。

 

「ウララ、君の悲しみを私はわかるなんては言えない。だけどね、君は私のパートナーだ。ウララが悲しい時も、嬉しい時も、楽しい時も、ずっと側に居てあげる」

 

 夕陽がリスティーの背後の窓から差し込んでいる。 まるでウララとリスティーを照らすよう。

 

「ハルウララ、前を向きなさい。君の夢は今はまだ遥か遠い幻影の様なものかもしれない……しかし、私が必ず君を連れて行ってやる。私を信じて付いてきてくれるかい?」

 

 ウララは直ぐには即答出来ずにいた。 なぜなら夕陽を背にしたリスティーの顔をまるでこの世のどんな宝石よりも美しく、自身を真っ直ぐに見つめる瞳に吸い込まれそうになった。

 

「綺麗……」

 

 返事より先にこの言葉が口からこぼれ落ちた。 今までに感じたことの無い不思議な感覚がウララの全身にピリピリと駆け巡り、この人と行きたい、掴みたい、あげたいと思った。

 先程までの絶望感や悲しみなどが嘘の様に掻き消える、不思議な熱い高揚感

が体を急かす。

 

「……すぅ……はぁ」

 

 一度目を閉じて大きく息を吸い、そして吐き出した。 そして、真っ直ぐにリスティーを見つめ返し大きな声で返事をした。

 

「はい!!私、トレーナーと夢を掴むよ!!トレーナー、私を連れて行って下さい!!」

 

 もう弱い自分(ハルウララ)とは決別した。 この日からハルウララは本当の意味でのスタートが始まった。

 

 

 

 

 

 




次回予告(仮)

弱い自分とお別れしたハルウララ、そんな彼女に更なる苦難と試練を与えんとする最狂のママが襲来する。
果たしてウララはでちゅねに抗えるのか……

次回

スーパークリークママ襲来、ハルウララとでちゅね戦争でちゅねの悪魔その一、おしゃぶりなんかに負けないよ!!




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ハルウララとでちゅね戦争〜序の序〜

更新が予定より遅くなりすみません(´;ω;`)



 本日晴れ、お日様よりも早くウララは目を覚ました。

 目覚まし時計が鳴り響く前に起きるのは初めてだった。

 

「ちょっと早いけど準備しようかな」

 

 同室のキングはまだ夢の中のため、起こさないよう静かに身支度を整えて部屋を出た。

 廊下を静かに歩いて外に向かう、玄関で靴を履いてからまだ薄暗い外へと向かう。

 

「すー……はー……すー……はー……ん〜、空気が美味しい!」

 

 大きく深呼吸し、少しひんやりする新鮮な朝の空気を肺にいっぱいに吸い込み吐き出す、不思議と心身が引き締まったような感覚した。

 

「んっ、しょ!んっ、しょ!」

 

 朝の新鮮な空気を堪能した後、しっかりと動的ストレッチを行い念入りに身体をほぐしていく。 次第に身体が熱くなり、ストレッチが終わる頃にはほのかに汗が出てきた。

 そしてもう一度大きく数回深呼吸をした後、ウララはトレーニングコースへと軽いランニングも兼ねて走って向かった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 トレーニングコースへと着く頃には薄っすらと朝日が差し始めていた、いつもなら沢山の人がトレーニングをしていて騒がしい練習場も今はとても静かで、まるでウララだけしか居ない世界に迷い込んだかのように思えた。

 

「トレーナーはまだ来ないよね……」

 

 当たり前ではあるが、まだ約束時間よりも1時間は早いためリスティーは来ていない。

 このまま待つのは手持ち無沙汰なので、ウララは自主トレーニングをすることにした。

 

 まずは軽くランニングから始めようとターフの中へと入り、ゴール板からゆっくりと走り出す。

 最初の数周は息が切れない程度に走り、身体が熱を帯び始め汗が滲み出始めたら一気にペースを上げていく。

 

「はぁ、はぁ!!んー!!」

 

 苦しくてもペースは落とさない、周を重ねる度にギアを上げてスピードを上げていく。 限界のギリギリまでギアを上げて加速する、心臓が早鐘を打つように激しく暴れ、肺は新しい酸素を求めて唸る。

 苦しくて、苦しくて、直ぐにでも立ち止まってその場に倒れ込みたいほど辛く苦しい。

 

「んんっ!!ゔぅ!!」

 

 ボタボタと大粒の汗が地面に落ちては砕ける、既に限界に近くなっているのはウララ自身がよくわかっている。 しかし止まりたくなかった、もっと早く、もっと先へ、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと、上に行きたい。

 

「ゔぅぅゔ!!」

 

 才能が無いから努力がいる、他の子に追いつくには常に限界を何度も超え続けないといけない。

 苦しくても、辛くても、たとえ血反吐を吐こうとも常に限界を壊して前に進まないといけない。

 

「ゔぅ、もっ、どぉぉ!!」

 

 歯を食いしばり、昨日よりも更に先へ。

 更にギアを上げようとしたその瞬間、雷のような怒号が響いたと同時に身体を強く抱き止められた。

 

「止まれ!!何をしているんだ!この馬鹿者!!」

 

 声の主は般若のような顔をしたリスティーだった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「痛、い……あぅ」

 

 リスティーはウララに息を整えさせ、直ぐに部室へと抱き上げ連れて行った。

 部室に着くなりウララを寝かせ、身体を念入りに触診しながら問いかけた。

 

「どこか痛んだり、違和感はないか?」

 

「ん、大丈夫……」

 

 ウララはどこかシュンと俯きながら頷く、触診とウララの言葉で故障や怪我は無いと判断できたようでリスティーはやっとウララから手を離した。 

 

「……ウララ」

 

そしてウララの名前を恐ろしいほど低い声音で呼んだ。 初めて聞くその声音にウララはビクリと身体を震わせ、恐る恐る顔を上げた次の瞬間、額に鈍い音と衝撃とともに鈍痛が走った。

 

「ふぎゃぁ!?」

 

 あまりの衝撃と痛みにウララは額を押さえて地面に倒れ伏し悶絶した。

 

「ハルウララ、誰があんなトレーニングを許可した?」

 

 鈍痛の原因はリスティーのデコピン(強力)で、更に追撃する気なのか二発目を構えてながらウララを般若の如く睨みつけていた。

 

「ご、ごめんなざぃ、ドレーナァアー」

 

 ポロポロと涙を零しながら謝罪をする。

 

「……ハァ……次、あんな無謀な事をしたら……フンッ!!」

 

 リスティーはウララに見せつけるよにしてスチール缶デコピンを打ち、本気の一撃を受けたスチール缶はグシャグシャにひしゃげ中身が漏れ出した。

 

「ウララの額がこうなるからね?」

 

 表情こそ笑顔だが、薄っすらと開いた瞳は猛禽類のようでウララは二度と勝手な練習は止めようと心に誓った。

 

 その後、勝手に無理な事をした罰としてウララは2日の謹慎を言いつけられ、筋肉痛と退屈な時間を過ごす事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はやっとクリークとでちゅね戦争に入る予定です。


次回更新は11/20〜25くらいを予定しています、変更がある場合はあらすじの欄に変更日等のお知らせを更新します。
更新が遅く本当にすみません。


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