壊れないように、離さないように (東雲。)
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急降下爆撃と自問自答
一応基本的なユニバースは原作に準拠しているつもりです。
「らっ……ららら楽郎くん!私、っと…つ、付き合ってくだしゃひっ!」
これまでの状況を整理しよう。
本日は12/27。時節は冬休み。クリスマス前から年が明けて数日までの奴は長期休暇四天王(3つしか無くても四天王)の中でも最弱…
夕方にコンビニに買い物に行ったら、たまたま玲さんと出くわした。
登下校時のようにシャンフロの話題を少し話して、登下校時のようにいつもの交差点で別れる。
流石に年内にまた会える保証も無いので「良いお年を」を締めの言葉にして去ろうとしたら、これである。
どうしてこうなったかわかんないだろう、俺もわからん。
何?告白?
誰が誰に?
玲さんが、俺に??
まぁ待て俺。
落ち着け俺。
なにかの聞き間違いの可能性がまだ捨てきれない。
早とちりはピザの始まり。ここは冷静に玲さんの次の手をだな…
「…へ」
「…へ?」
「返事はっ、後日で結構ですからぁああぁあぁぁぁぁ………」
玲さん、猛ダッシュで戦線離脱。
…俺より足速いな。
「………おぇあ」
とりあえず、聞き間違いではなかったらしい。
…家、帰るか。
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現在、俺はリビングで正座している。
その目の前には仁王立ちの我が妹。
「私は目の前の人物に呆れ果てています」という雰囲気を隠そうともしない。
父さんも母さんもいなくて良かった。もし見られてたら俺の家庭内ヒエラルキーに響く。
「お兄ちゃん、ないわー」
帰宅直後に瑠美に見つかる(1 Combo!)
挙動不審を見抜かれる(2 Combo!)
洗いざらい吐かされる(3 Combo!)
KNOCK OUT!
3連打でラウンド取られるとかオトギニア・ユニオンにも無かったぞ畜生。どこのクソゲーですかね
「いやしかしだな瑠美、俺だぞ?才色兼備の高嶺の花が俺にだぞ?現実を疑う時間があったって良くない?」
「それは同意するけど、何の返答も返さないなんてダメもダメダメ。こんなんじゃその斎賀?さんも浮かばれないよ」
女心の理解度に関しては、如何にラブクロックを乗り越えた俺であっても本物には勝てない。所詮俺は1人のクソゲーマーよ…
「とにかく、斎賀さんには可及的速やかにちゃんと返事すること。YESでもNOでも、はっきりとね」
「へい」
「お兄ちゃんから聞く限りでも、斎賀さんあんまり我を通せないタイプっぽいし、告白するのに相当な勇気を出したはず」
なぜ1名からの伝聞だけでそこまで推測できるのか。教祖の影響かな?おのれペンシルゴン
「それに応えなきゃ人間失格でしょ」
「恥の多い人生であった」
「言っとくけど、もし女心を弄ぶような事したら…」
スルーしないで傷つくから。
「流石にそんな真似をする気はないが…したら?」
「トワ様にドヘタレ野郎を密告する」
「予告したら密告とは言わねぇだろ」
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恋愛ごとにおいてカッツォと同列の扱いをあのペンシルゴンに受けるのは末代までの恥、とにかく答えを出そう。
ひとまず自分の部屋に戻り、徐にVR釣りゲーを起動して竿を握って振る。引っ込めディプスロ。
「…………」
クソゲーに学べ。恋愛に重要なのは綿密なチャート構築である。勢いにまかせても待っているのはハッピーエンドではなくピザだけだ。
今から俺は名探偵だ。ミレィ氏のようなシャーロキアンではないが、このこんがらがった頭の中とかを解きほぐす為のロールプレイとテンションを作れ。
おっ当たり…なんだブラックバスか。リリースリリース
俺が考えるべき事柄を整理しよう。
・動機。なぜ玲さんは俺に告白をしたのか
・分析。俺は玲さんをどう思っているのか
・解答。俺は玲さんに何て返事するのか
まずは動機、『なぜ玲さんは俺に告白をしたのか』。
思いつく候補は3つ。
1.玲さんはいじめ等により無理やり言わせられている
2.第三者による俺を狙った奸計に玲さんがダシに使われている
3.玲さん個人の判断
1.に関してはあまり考えにくい。あの時の玲さんの反応的に嫌々言わされている感は薄いし、学校でもそういった噂は聞かない。
もしそういった噂が立っているのであれば、俺よりは噂に詳しそうな雑ピ共が俺と玲さんの関係を探ったりはしないだろう。それは玲さんを傷つける行為にほかならない。
というわけで1.は可能性が非常に低い。次。
ブルーギルが釣れた。川にお帰り
2.は…考えられなくはない。例えばペンシルゴンとかペンシルゴンとかペンシルゴンとか、大穴でサイガ-100。
俺が抱え込みまくっている情報(ユニーク)を吐き出させるため、俺が信頼を置く内通者を作ってしまおう、的な。
有り得そうではある。あるが…けどまぁ…多分無いだろうな。
サイガ-100との面識はジークヴルム戦で最後だが、あまり謀略や奸計を好むようには見えなかった。というかどっちかっていうと脳きn…やめとこう。
ペンシルゴンは…いくら何でも「恋愛」という一生に関わりかねない事柄を弄ぶような真似は…
真似は…
『外道に慣れた奴ら以外に』「恋愛」という一生に関わりかねない事柄を弄ぶような真似はしないだろう。よし。そもそもすぐ身近に邪教徒がいるし。
2.も多分無い。とすると残る候補は1つであり、それが自ずから俺が導き出した答えとなるが…
「マぁジでぇー…?」
とすると「なぜ」俺なのかも気になるのだが…まぁそれは本人に聞くしか無い。判断材料がなさ過ぎる。
仮に俺の言動が原因として、思い当たる節…岩巻さんにJGEのチケットを貰ったとき?
あの時、気になるかと思って「デートみたいだけど大丈夫?」とか口走ってしまったんだよなぁ。
それで玲さんが意識しだして…みたいな。
今思えば何を吐き出しやがったんだこの口は。
おっと脇道に逸れたな。閑話休題。
オオタナゴ…外来種ばっかだなこの川
動機にアタリがついたので、次は分析に移る。
『俺は玲さんをどう思っているのか』。
まぁ、友達、だよなぁ。
人間的に好感を持ってはいる。
優しい人で、心根が真っ直ぐだし、ゲームを健全に楽しんでいる。
リアル含め腕っぷしが強すぎたり、PKに無慈悲だったり、色々と豪快というか強引でちょっと怖かったりもするが、概ねいい人だ。
ただ、恋愛的に好意を持っているかと聞かれると……正直、考えたことも無いのでわからない。
特段今の関係に思うところも無いし、「リアルでも交友のあるゲーム友達」として何となくやっていくもんだと思っていた。
相手にとってはそうではなかったらしいが…
うごご………「友達」以外に答えが見つからん。保留だ保留。次!
…なんだこいつ。ノーザンパイク?これも外来種なのか…おお日本の原風景はとうの昔に失われてしまったというのか。
ラスト!
『俺は玲さんに何て返事するのか』。
ここが一番の悩みどころだ。
変な答え方をすればペンシルゴンとカッツォからの絶え間ない煽りが飛び、下手したら斎賀家から直々に制裁が下りかねない。
なんかこう…建物から出た途端に車から腕だけ出したヒットマンが撃ってくる感じで…カッツォを盾にしてやり過ごせないものか。
ふと時計を見てみれば時刻は19時半。もう1時間近く経ったのか。釣果は4匹。うーんなんとも
そろそろ晩飯だな…まぁ考え事は飯を食べながらでも出来る。
食後の俺に望みを託してログアウトするか。
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おのれ食前の俺。何も答えが出なかったぞ。
YESと答えるのは…緊張こそすれど容易い。しかし、そんな気安く答えて良い問題ではないのだ。
もしその後に斎賀姉(シャンフロやってない方)から「玲のどこに惚れたのですか?」とか聞かれて答えに詰まろうものなら俺の人生はそこで終わりかねない。
つまり俺は「玲さんのココに惚れました!」と即答出来るようななにかを持って応じねばならない。
これが本当に難しい。今までそこまで気を遣ってこなかった相手のどこに魅力を見い出せば正当性が得られるのか。
だってここで顔だのスタイルだの、浅い場所に言及すれば、身体目当てと取られても文句は言えない。玲さんが容姿端麗であるから尚更だ。
ええい消えよ脳内ディプスロ!「身体だけの関係、グッドだねぇ!」じゃねぇ!俺の今後と命に関わるんだよ!
かといって内面であってもありきたりな事を言っていては危険は拭えない。「優しいところです」とか言っても薄っぺらく聞こえるだろう。
取りうる最良の選択肢は「玲さんにしか無い内面の深いところにある特徴を見つける」事…だがそれが果たして好意に繋がるかどうかは不明瞭。
そもそも今の俺の考えは果たして正しいのか?我が身の為に無理矢理自分に言い聞かせて玲さんを好きになろうとするのは…玲さんに対して不誠実じゃない?
だがそうしなければ俺は―――
解きほぐした筈の脳が再び混乱しだしたので落ち着けるためにもとりあえず風呂に入る。
頼むぞ…風呂上がりの俺…!
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有識者に聞く(聞いてない)
クソッタレの食後の俺よ。結局頭こんがらがったままだしついでに長風呂しすぎてのぼせ上がったぞ。頼むから一発殴らせてくれ。
なんだか無為に時間と体力を浪費しているような気すらしてきた。
こういうときはマブダチと相談(殺し合い)を…相談?
天啓が降りた。
そうだよ相談だよ!恋愛経験の無い俺1人で考えたって良い答えは出ない。バカの考え休むに似たりだ。誰がバカだコラ。
三人寄れば文殊の知恵。社会的生物たる人間は1人ではわからないことを、複数人と知識や意見をぶつけ合わせることで新たな解放を導き出してきた。
そうと決まれば早速相談相手を…
・カッツォ:リアルユニーク総受け魚類に聞いてもまともなアドバイスが貰えそうにない。却下
・ペンシルゴン:論外。妹からの報告を避けるために考えてるのに相談してどうする。却下
・秋津茜:玲さんと同性なので有力候補。ただペンシルゴンにあっさり筒抜けになりそう。却下
・ルスト:外道に染まりつつあるので危険。相談に乗ることと秘密にする事の二重でもっとネフホロしろとか言ってきそう。却下
・モルド:一番親身になってはくれそう。がルストが直ぐ側にいるので不安。却下
・京ティメット:ポンコツだし外道だしこいつもこいつで何か交換条件を出してきそう。却下
………碌な奴がいねぇ…っ!
何だ何だどいつもこいつも役に立たねぇ!安心して相談できる相手が1人もいないとかこのクランは外道の吹き溜まりかァ!?類友ってかやかましいわ!!
もう誰でもいい…合法の海に堕ちた列聖達よ…俺にカフェインの導きを…!
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同時刻、某掲示板
135:名もなき暴徒
何か声が聞こえる
136:名もなき暴徒
奇遇だな、俺もだ
137:名もなき暴徒
怖い怖い急にどうした
138:名もなき暴徒
わからん、誰かが助けを求めている…ような…
139:名もなき暴徒
>>135 >>136の合法堕ちは近いな
140:名もなき暴徒
全ての暴徒は時空を超えてライオットブラッドで繋がっている説…実在したのか!?
141:ライブラの導師
ライオットブラッドを飲み、内なる暴徒の魂が発する声に耳を傾けよ。さすれば道は開かれん
142:しぇふ
そういうときはライオットブラッド鍋を一緒につつき、〆のライオットブラッド雑炊をかきこもう
同じ食卓を囲むことでより一層親密になれる
143:バーテンダー
うまくいった暁にはうちのバーに来ると良い。極上のライオットブラッドカクテルを振る舞おう
144:ブレインアイ
ちなみに本人はここを見てないよ
145:ドリンクバー
同棲するならライオットブラッドの自販機が近くにある場所に部屋を取ると良いと思うぜ
146:名もなき暴徒
どうやら列聖たちにはよりはっきり声が聞こえているらしいな…
147:名もなき暴徒
>>140 なんか巨人とも戦えそうだな
148:名もなき暴徒
返答を見るに恋愛相談?
…暴徒相手に?
149:名もなき暴徒
>>148 お相手も暴徒なら間違っちゃいないかもしれない
150:名もなき暴徒
(そもそも声が聞こえることがおかしいのでは)
151:名もなき暴徒
>>150 シッ言うな
堕ちたいのか
152:バーテンダー
気化タブーおいちい!!!
153:名もなき暴徒
今回は面会時間短かったな
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まぁ導きがあったほうがホラーだろって話。
しかしこのままだとまずい。延々答えが出せないのでは色々と手につかないし玲さんにも申し訳ない。
とにかく明日中に…答えを出そう。
……そういや今日はエナドリ飲んでないな…意外と、早く……眠気が…………
……
…………
………………
うーん随分気持ちの良い朝。
休日にもかかわらず起きたのは朝の6時半。
早起きは三文の得というが、三文ぽっち得するより睡眠時間のほうが大事だよな…
ともあれついに日付も変わってしまった。
顔を洗い、朝食を摂り、歯磨きを済ませてスパッと着替えた俺は、現在朝の7時で家の外。
今日はジョギングの日ではないがココにいるのには理由がある。
何というか居ても立っても居られなくなったので、身体を動かしつつ俺の退路を断つためだ。
メッセージアプリを起動し玲さんに連絡。
「昨日の返事がしたいのでレイさんの家に行っても良い?」
返事は直ぐには帰ってこないが関係ない。
玲さんに許可が貰えるならば時短になり、ダメだったとしてもとりあえず身体を動かす事で居心地の悪さを緩和できる。
何というインテリジェンスに満ちた行動…今年のダーウィン賞は貰ったな…あれダーウィン賞はなんか違うような。まあいいか
というわけで風雲斎賀城へ向けて歩を進める。
「…寒っ」
もう年の瀬、クリスマスは過ぎちまったな。
以前風雲斎賀城に向かった時はVRセットをレンタルするために、走って向かって15分くらいかかった。
今回は敢えて急がず、時折立ち止まって返事がないか確認する。
…既読も付いてない。道のりはもう半分くらいなんだが。
現在7時15分。となると到着は7時半ってところか。
まだ寝てる可能性は大いにある。が、最早動き出した足は止まらない。
ついでに思考が纏まらない。
オイオイラッパーの才能にまで目覚めてしまったのか。マルチスキルが留まるところを知らないな。
隙あらば明後日の方向にすっ飛んでいく思考を軌道修正しながら、俺は歩き続けた。
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昨日のAnother Side
ヒロインちゃんを急降下爆撃に導いた黒幕が明かされる!
斎賀玲は最早言い表せないほどに後悔していた。
自室に戻ってからというもの、布団にうつ伏せて枕に顔を埋め、足をじたばたさせながら羞恥とか後悔とか絶望とか不安とかがミックスした感情の嵐に耐え続けていた。
この告白が100%自分の意志によって行われたものであるならば、勇気を出した自分を褒めるひとかけらの自賛もあっただろう。
だがそれがない。つまるところこの告白は、第三者に煽られて触発されての暴発である。
(私っ…私は何という軽率な行動を………っ!!!)
「ぁああぁああぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁああぁあぁあぁぁぁあ………」
陽務楽郎攻略計画(告白できない自分を誤魔化す理論武装とも言う)ではもっとじっくりアプローチを重ね、向こうから自分を恋愛対象として意識させてから告白するはずだった。
あわよくば楽郎の方から告白してほしかった。
だが今楽郎からの玲の評価はせいぜいが「仲のいいゲーム友達」止まりだろう。そんな相手から脈絡もなく告白された時に彼がどう返事するのか、玲には全くわからない。
これで自分の事を意識してくれてめでたくカップル成立…となればその日が人生最大の記念日となるが、逆に「ごめん、玲さんのことは友達としてしか思ってなかったから…」などと言われてフられようものなら翻って命日だ。
脳裏に走馬灯めいて過るのは、過日に自分を煽った姉の友人にして、玲が所属するクランのオーナー。アーサー・ペンシルゴンとの個人チャットだった。
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『玲ちゃん。ちょーっとこの動画見てみない?GGCっていう世界規模のゲームイベントで行われた新作格ゲーのエキシビジョンマッチなんだけどね?
https://~~~』
(しばらく経過)
『動画、拝見しました。あの、もしかしてこれ…』
『流石玲ちゃん察しが良いね!その通り!白バイ5台くっつけて気色悪い動きしながら全米一のプロゲーマーと大激戦を繰り広げたのがサンラク君だよ!』
『どうしてご存知なんですか?』
『…。ざっくり言うとカッツォ君のリベンジマッチの為に、数合わせの欠員補充として引っ張り出されたんだよね』
『この試合を経て、カッツォ君は見事全米一の不敗神話を終わらせた訳だからまぁこの件はハッピーエンドって事で』
『それにしても凄いねぇサンラク君。『顔隠し』というガワこそあれど、これだけの活躍をしたから世間からの評価はうなぎ登りだよ』
『そうですか…』
この時、玲は胸の中が嬉しさで暖かくなった。
自分の大好きな人が、たとえ正体不明だとしても他者に認められる。
ただ近くにいるだけであっても、どこか誇らしさを感じずにはいられなかった。
『うん。だからカッツォ君経由で『顔隠し』宛のファンレターとかめっちゃ来てるんだってさ。中にはラブレター紛いのものも』
『え?』
玲の胸の中が氷点下と化した。
『いやー凄いよねぇサンラク君。オルケストラ戦も生配信の視聴者数300万突破してたし』
『いくら半裸の鳥頭だとしても、これだけの母数があれば女性人気も少なくないだろうねぇ』
『サンラク君結構いい顔つきしてるし?一度顔を出せばそれまでの人気含めて大変な事になりそうだなぁ~』
スゥ…と玲の胸の中に固形化した重く固い感情が落ちる。
『ほらシャンフロってばやっぱり日本で大々的にヒットしたタイトルだし?同じ学校でシャンフロをプレイしているのがまさかサンラク君と玲ちゃんだけって事は無いだろうねぇ』
『そうなるとあーどうかなーサンラク君ネットリテラシーはしっかりしてる方だけどーなにかの拍子でバレちゃうかもしれないなー』
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あの時は色々と冷静さを欠いていた。今にして思えばあれは明らかに自分を煽って発破をかけていたのだ。
なぜそうしたのかは考えが及ばないが、ともあれ自分はまんまと掌の上で踊ってしまった事になる。
「ふぐっ………うぅううぅぅぅっ………」
ネガティブな想像と涙が止まらない。もう今日は何をする気力も湧かなかった。
その日、斎賀玲は夕食を摂らず、姉によって無理矢理風呂に入れられてのぼせて力尽きて寝た。
……
…………
………………
泥のように眠りて翌朝。
人の心は案外単純なのだろうか。睡眠を挟むことで少しばかり心が落ち着いた。
寝ぼけ眼をこすり、枕元に置いてある時計を見れば7時20分…いつも起きる時間より遅い。
空腹と泣き疲れて少しばかり気だるい身体を起こし、端末を手にとって見る。
サンラク:昨日の返事がしたいのでレイさんの家に行っても良い?(20分前のメッセージ)
眠気どころかいろんな感情が吹っ飛んだ。
手が震える。彼からの大切なメッセージを、あまつさえ自分は寝過ごして、20分も待たせてしまった……!!!
「もはや…これまで………っ!」
しかしこのまま何も返答しないわけにはいかない。失敗したのなら、取り返す努力をせねばならない。
昨日以上の感情と思考が二重螺旋を描いてループし続ける脳内で何とか返事を打ち込む。
祈る思いで送信!
サイガ-0:大丈夫です
パニックのあまり確認の前に送信してしまった玲は文面を見直して枕に顔を叩きつけた。
「………どっち!」
これではYESともNOとも取れてしまう。早急に再度返事しなければ。
加速するパニックの中で玲は返事内容を考える。
「来ても大丈夫です」?返事を20分送らせてしまっている分際で言い方が厚かましすぎる。
「どうぞお入りください」?「お待ちしています」?どれもダメ!
そもそも悪いのはこちらなのに待つばかりなのがそもそもダメで…
「……!!!」
天啓が降りた。
返事をまたせた失点をある程度カバーする妙策。
こちらが待つ側なのが悪いのだ。
つまり、
「わたひから…伺います!!!」
楽郎本人から住所を聞いていないのでこのまま行った場合不自然なのであるが、状態異常:混乱の玲にそこまで考えが及んでいなかった。
静かに、しかし最速で身支度を整え、何か言っているような気がする姉を振り切り、庭を駆けて通用口へ。
扉を開き
飛び出した
想い人が目の前にいた
このユニバースのペンシルゴンはサンラクサンの素顔を見てませんが、
・妹ちゃんの顔付きはいい感じだし、兄も極端に悪くはないだろう
・玲ちゃんが惚れてる訳だから多少バイアスかかってるだろうし、褒めても嘘にはなるまい
などの推測から言ってます。ペンシルゴンはそういうことする
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問い直す少年
サイガ-0:大丈夫です
YES or NOのどっちなのか。これを読み取れないようでは…みたいな話なのか?良家のコミュニケーション文化わかんない…
とはいえこっちから聞き返すのはダサいし…
と思ったらそう待たずに再度返答
「『私から伺います』…でも、もう来ちまったんだよな…」
俺は既に、風雲斎賀城の門が視認できるところまで来ていた。
そして事ここにいたって尚、頭の中の整理がつかないでいた。
なんというか、今こうしてただ受け入れたとして、心のパズルピースが足りないままに付き合うことになってしまいそうなのだ。
「俺の玲さんに対する感情」というピースが。
これは良くない。浮足立ったままでは互いのテンションが合わず、結果として玲さんに迷惑がかかる。
故に、俺の頭の片隅には「受け入れて付き合う」の他に第二の選択肢が残り続けている。
一言で言うと「前向きな先送り」。
玲さんの好意は嬉しいし、受け入れたい気持ちもある。
だが今俺が玲さんに向けている感情は友情の割合の方が大きく、玲さんの気持ちを真っ直ぐに受け止めきれない…かもしれない。
だから俺の心の整理が付くまで、玲さんの好意を受け止められるようになるまで待ってほしい。
今の俺の葛藤を打ち明けて、その上で待ってもらう。
これってどうなんだろうなぁ…傍から見たらキープか何かに見えなくもなさそうだし…玲さんとしても諸手を挙げて喜べる返事ではない…多分。
ええいリアルの恋愛なんか考えたこと無いんだからわかんねぇよォーッ!幕末ランカーに心理学について聞くかぁー!?
「ふぅ…」
只今、通用口の前に突っ立ってインターホンに指を近づけ、あと数cmの段階で手が止まっている不審者と化しています。
フフ…あのピンポンダッシュの小僧達を笑えないな…インターホンって押すのにこんな躊躇するもんだっけ…
いつまでまごついている陽務楽郎!お前がもたつけば邪教徒経由でペンシルゴンに俺の現状が伝わり、カッツォの二番煎じとして扱われるんだぞ!
既に組み上げたチャートは90%の進捗率に達している。泣こうが喚こうが進むしかねえ!
足りないピースは動いてから拾っていけば、良い…!
……南無三!
インターホンに指が触れ、押し込まんとする刹那。
通用口から飛び出した玲さんと目が合った。
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覚悟とは何か。
それは決して高尚な自己犠牲精神などではない。
覚悟とは、『身の丈に余る一歩を踏み出す勇気』の事だ。
玲さんにとっては告白がきっとそうであったのかもしれないし、俺にとっては事前情報だけでまだレビューの1件も無い暫定クソゲーを発売日に買う事だ。
そして、この場における具体的な覚悟とはッ!
自分で組み上げたチャートをビリビリに引き裂いて心のゴミ箱にブチ込んでやることだァーッ!
「前向きな先送り」?「好きになった理由」?そんなもんリュカオーンにでも食わせてろ!
昨晩の自問自答に意味はあったらしい。
俺は今まで玲さんを…1人の人間として見れていなかった。
良家に生まれ、文武両道眉目秀麗。俺とあまりにかけ離れすぎていて、ゲームで他プレイヤーを見る時のような、現実味を薄めるフィルターがリアルでもかかっていた。
だが、今こうして見てみてば、そしてこれまでの玲さんを思い返してみれば。
俺と会話してたら何故かバグる玲さん。
俺と通学してたら突然フリーズする玲さん。
そして、俺の前で笑って、テンパって、他愛のない会話で盛り上がる玲さん。
全てに玲さんの魅力が詰まっている。
多分、今この瞬間が、俺が玲さんに惚れた瞬間なのだろう。
うわぁ心臓の音がうるさい。
「玲さん」
「はっひゃいっ!」
「その、昨日の事だけど…びっくりした。まさか玲さんが俺を…だなんて、思ってもみなかった」
思考を置き去りにして口が勝手に動き出す。
だが俺は手綱を取らず、敢えて脊髄に身を任せる。
「一晩考えて…自分の気持ちに、今答えが出た」
俺の玲さんへの感情が定まると同時に、俺の中に不安が芽生えた。
玲さんは、俺を過大評価していないか。
シャンフロでいくらレベルとユニークを積み重ねた所で、現実の俺には何らプラスにはならない。
夏休みにシャンフロを始めた時からちっとも変わらない、俺は1人のクソゲーマーだ。
にもかかわらず、シャンフロ廃人且つ純朴な玲さんには、もしかしたら俺が特別な存在に見えてやしないだろうか。
「俺は今まで、玲さんを1人の人として見えていなかったんだと思う。今の関係に不足を感じなかったから、玲さんの気持ちを知ろうとしなかった」
「今は、玲さんの事を知ろうとしてる。もっと知りたいと思う」
「けど、不安なんだ。玲さんに俺がどう見えているのか。俺のことを、過大評価していないか」
だったら、全部ぶちまけて直接聞けばいい。そのために言葉ってモンがあるんだろうが!
「俺は、人生の大半をクソゲーに捧げる覚悟をとっくに決めたクソゲーマーだ。シャンフロを始めたのだって、最初はただの気まぐれだった」
俺は包み隠さず話す。俺の事も
「俺の家族は趣味人ばっかで、互いの趣味に寛容ではあるけど、時には周りを顧みないこともある。玲さんに、何か迷惑をかけるかもしれない」
家族のことも
「シャンフロの中の俺だって、奇妙な星のめぐり合わせでああなったとしか言えない。何か1つでも違っていれば、ツチノコだなんだと呼ばれるようにはなってなかった」
「………」
玲さんは静かに俺の言葉を聞いてくれている。その内面は如何ばかりか。
「それでも、そんな俺でも…」
ぐっ…この言い方はちょっと自意識過剰か?
ええい今更恥ずかしがってる場合か!突っ走るんだよオラァ!
握手を求めるように手を差し出し、手の高さを固定したまま上半身を前に倒して90°のお辞儀!
「もし、玲さんが好きでいてくれるのなら…俺と…付き合ってください!」
……
…………
気が重たい沈黙。心が押しつぶされそうな不安。
昨日俺に告白したその時から、玲さんはこんな気持ちを半日以上も抱えたままだったのだろうか。
申し訳ないことをした。せめてもの誠意、玲さんからアクションがあるまで俺はお辞儀を崩さない…!
永遠にも思える十数秒だった。
そっと、差し出した手に触れる手の温度
弱く、けれど確かに握られる感覚
弾かれるように顔を上げれば、大粒の涙を零す玲さん。うわ綺麗…女神様かな?
「大丈夫です、楽郎くん。私は、ずっと貴方を見ていましたから。貴方を見損なったりなんてしません」
涙声だった。けれどその声色には悲しみではなく喜びがあるようで…
玲さんは俺の手を両手で包み込むように握り、自分の胸元へ近づける。
必然、引かれて俺は上体を半端に起こし、目の高さが合う形に。
「貴方を愛しています。よろしく…お願いします」
愛おしい微笑みを浮かべて、玲さんは俺を受け入れた。
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応える少女
家を飛び出した途端、目の前に楽郎くんがいた。
なぜも何もどうしても全部吹っ飛んで、その事実だけが私の頭を埋め尽くす。
けど、ここに来たってことは、私の…告…白…のっ、返事をする…。
今からでも楽郎くんの心証を上げる方法を…何か…!
「玲さん」
「はっひゃいっ!」
「その、昨日の事だけど…びっくりした。まさか玲さんが俺を…だなんて、思ってもみなかった」
うれしくて、けど少し悲しい。
すぐに否定しなかったから、私のことを嫌っていなかったから、けど私の気持ちに気付かなかったなんて。
都合のいい事を考える自分の卑しさに、涙が滲む。
「一晩考えて…自分の気持ちに、今答えが出た」
うれしくて、それ以上に不安が募る。
私の告白を受け止めてくれて、真摯に考えてくれたことに。それ以上に、語られるその答えが、望むものでなかったらと思うと、怖くて涙が溢れてくる。
「俺は今まで、玲さんを1人の人間として見えていなかったんだと思う。今の関係に不足を感じなかったから、玲さんの気持ちを知ろうとしなかった」
「今は、玲さんの事を知ろうとしてる。もっと知りたいと思う」
「けど、不安なんだ。玲さんに俺がどう見えているのか。俺のことを、過大評価していないか」
そんなことは無い。
そう声に出したくなったが、口を噤む。その不安は私もずっと抱えて、けど打ち明けられずにいたもの。
彼は今、私以上に勇気を出しているのだから、全部、聞いてあげたい。
ふと気づく。両目からとめどなく感情を溢れさせながら、心の中は凪いだ水面のように平静になっていた。
「俺は、人生の大半をクソゲーに捧げる覚悟をとっくに決めたクソゲーマーだ。シャンフロを始めたのだって、最初はただの気まぐれだった」
知っている。自分の好きな物に、尽きせぬ情熱を向けられる。理不尽を乗り越えるその時まで諦めず、立ち向かい続ける。その姿勢のなんと眩しいことか。
「俺の家族は趣味人ばっかで、互いの趣味に寛容ではあるけど、時には周りを顧みないこともある。玲さんに、何か迷惑をかけるかもしれない」
知っている。素晴らしいご家族だと心から思う。迷惑なんて、むしろかけられたい。貴方の見ている世界を、私も見たいから。
「シャンフロの中の俺だって、奇妙な星のめぐり合わせでああなったとしか言えない。何か1つでも違っていれば、ツチノコだなんだと呼ばれるようにはなってなかった」
知っている。彼があのゲームの中で刻んでいる軌跡は、他の誰一人としてそっくりそのまま辿ることはできないだろう。
けれど、もしもの話で自分を卑下する必要はどこにもない。
「それでも、そんな俺でも…」
そして、彼が全てを話してくれるのなら、私も打ち明けないといけない。
私の気持ちの全部を。
「もし、玲さんが好きでいてくれるのなら…俺と…付き合ってください!」
許容量を超えた喜びが胸を満たして溢れ出す。足元が覚束なくなってふらつくがなんとか耐える。
もしこれが夢なら永遠に覚めてほしくない。
夢見心地で、差し出された手を握る。恐る恐る、けれどしっかりと。
彼の手の熱と感触が、私に現実だと告げてくれる。
普段彼の前だと緊張してつかえてしまう言葉が、今なら淀みなく喋れる。
そんな気がした。
「大丈夫です、楽郎くん。私は、ずっと貴方を見ていましたから。貴方を見損なったりなんてしません」
幾度となく夢想した、彼からの告白。
私の答えは、あの雨の日から決まっている。
「貴方を愛しています。よろしく、お願いします」
拙者「自分の弱みを曝け出してるつもりで吐露した内容を相手は長所だと受け取ってくれる」シチュ大好き侍!
ただヒロインちゃんの場合ちょっと怖さを感じてしま
おまけを1話設けてこのSSは終わりです。
2021/04/06追記
追い幻覚を見たのでおまけが3話になりました。
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おまけ話
スローアウェイオーバースウェイ
時系列的には4及び5話の直後にあたります。
俺の全身全霊の逆告白と、それに応えてくれた玲さん。
こうして、俺たちは恋人となった。
浮足立った感情が、実感と共に胸に落ち着く。
俺は、玲さんを好きになったのだと。
あっやばいやばい顔があついあつい…あれ、そういえば玲さんは?
「」
斎賀玲、直立不動で気絶。
まるで理不尽難易度のクソボスを5時間かけて討ち果たした後の俺みたいな達成感と安堵に満ちた表情であった。
「………どうしようこれ」
現在俺の手は片方が玲さんにがっしり握られている。これを外そうとすれば玲さんは倒れてしまう。
玲さんの意識が復帰するまで待つか?いつになるかわかんないし、それまで天下の往来でこの姿勢を長時間続けるのは世間体に良くない。
じゃあ起こす?肩でも揺すって?…良いのかなぁ勝手に身体に触るの。恋人特権って事でどうにか…でもそうするしかないよな…よしやるか、行くぞ!
だが、俺の判断は遅きに失した。
何がそうさせたのか、玲さんの身体が急にバランスを崩す。
このままだと背中から
握られた手を引き上げる
いやこれ外れるわ意味ねぇ!
「っと!」
とっさに玲さんの背中に手を回してなんとか支える。
危ない危ない、交際直後に相手を怪我させたら洒落にならんぞ。あれ、てかこれ
「!!!」
いやちょっと待って近い!玲さんの顔が近い!そりゃそうか背中支えようとしたら必然こうなるわな!
というかこの姿勢、
・仰向けに倒れかけた玲さんの
・背中に片腕を回し
・もう片手で玲さんの両手を掴んで上に上げている
社交ダンスのポーズでそれっぽいの見たことあるやつぅー。屋外でする姿勢じゃねー!!
休日且つ朝の内だからかまだ周囲に人影は見当たらないが、見つかるのは時間の問題。
どうする、どうする…!
「くっ…このまま…玲さんを、家に戻せば…!」
ひとまず余人の目からは隠せる。
そして落ち着いて寝かせて使用人の方に引き渡して俺は帰る。クエストクリア!いける!
「玲さん、ちょっと、我慢してくれよ…」
多少靴の踵が擦れてしまうが流石にこれはコラテラル・ダメージ。なんとか怪我だけは避けてひっぱ「玲、急に飛び出すなどはしたない真似は…」
通用口から斎賀姉(シャンフロやってない方)が姿を見せた。
今の俺たちをガッツリ視界に収める形で。
「………フッ」
父さん、母さん、瑠美、先立つ不幸を許してください。
ペンシルゴン、カッツォ。お前らが地獄に落ちた時は先輩としていびり倒してやる。
とはいえリアル切腹コマンドの前にやらねばならないことがある。
「…あの、運ぶの手伝ってもらってもよろしいでしょうか」
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どうやらリアル切腹の出番は無さそう。助かった…
玲さんのことはちゃんと見れるようになったが、斎賀家及び風雲斎賀城に関してはまだ何が飛び出すかわからない恐怖心がある。
この敷地面積と物々しさすら感じる純和風屋敷が既にファンタジーの領域に片足突っ込んでるんだよなぁ…
使用人の方にも手伝ってもらい(担架を持って来た。家の中で担架を使う可能性が…?)、何とか玲さんの部屋まで運び込んだ。
ただ当然というか、布団に寝かせるのは斎賀姉がやっている。その間俺は部屋の外で待機。
(か、帰りてぇ~~~………)
俺の手持ちは端末だけ。財布すら家に置いてきた。だって告白の返事をするだけのつもりだったんだもんよぉ!
こうして突っ立ってる時間をどうすれば良いのか。ネットサーフィンでもしたいところだが、いざ斎賀姉が出てきた時に端末を弄ってる姿が見られるのはバツが悪い。
この時間の持て余し抜きでも可能であれば一刻も早く去りたいと言うのに。
うーん…外道共を煽る文句…ウィンプをおちょくる方法…サバイバアルを黙らせるスクショの選別…
スッと襖が開いて斎賀姉が出てくる
「あー…その、玲さんはどう、でしたか…?」
「ご安心ください、ただの気絶です」
そうですかただの気絶ですか良かったです~、なんて素で返せる人物が果たして何人いるのだろう。安心できるかい
「そうでしたか、それでは俺はこれで…」
踵を返して玄関口へ向かう、
シュンッ(そうとしか表現出来ない素早さで俺の前に回り込む斎賀姉)
「まぁお待ち下さい」
何今の動き、
「玲がお世話になったのですから、もう少し休まれては如何でしょうか。失礼ながら、伺いたい事もありますので」
穏やかな微笑みのはずなのに圧が凄い。
頬が引きつる。嫌な予感しかしない。だが俺は諦めない男…足掻くだけ足掻く…!
「…シャンフロの話、ですかね?それでしたら玲さんにぃ…聞いたほうが良いかと思いますがぁ…」
「しゃんふろ…も気にはなりますが、今はそちらではありませんね。陽務楽郎さん?」
つみです。でなおさせてください
サンラクサンが待ちぼうけ食らってた時の一方その頃
「玲、起きていますね、玲」
「………(下手な問答を交わすと付き合ったのがバレるかもしれないので寝たフリ)」
「…まぁ好都合です。少々彼に聞きたいこともありますし。そのまま寝ているように」
「…!?!?(もうバレてる!?)」
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圧・迫・面・接
今、俺は玲さんの部屋で正座をしている。…昨日も正座してたな。正座強化週間か?
目の前には斎賀姉…もとい仙さん。
その後ろには玲さんが眠っている。
仙さんの目的は明々白々。妹の彼氏…つまり俺の、人となりを知らんとしている。
言い換えれば品定めだ。妹に相応しい相手かどうかを見極めるつもりだろう。そうとしか考えられない。
和風の屋敷に凄まじい威圧感の相手。ヴァッシュとの初対面を思い出す。だがあの時と決定的に違うことは、この状況を乗り切るためのロールプレイの指標が無い事だ。
ここで俺が不甲斐ないザマを見せれば仙さんの俺の評価はダダ下がり、ひいては玲さんに迷惑がかかるというのに。
ラブクロックでは付き合うまでがストーリーの殆どだった。付き合う前にヒロインの家族と話す事はあれど、後となると経験がない。
つまりこれはエピローグの後にあるシーン。プレイヤーの立ち入れなかったシチュエーションと言える。
俺はこれから裸一貫の俺自身で、この状況をクリアしなくてはならない。
なんたる理不尽、強制イベントの連続は扱いを間違えると容易にクソ要素に成り下がる。かといってイベントの合間に休憩を挟みすぎるとそれはそれでダレるんだよな…
だが、
(舐めるなよ…!)
この状況に対して、今俺は燃え上がり始めている。良いさ、やってやる。下手を打てば評価が下がる、だが上手く立ち回れば逆に上げる事も可能だろう。
腹くくって逆告白したのにここで水をかけられちゃ、せっかくの関係に亀裂が走りかねない。打てば響くコール&レスポンスで高評価をもぎ取る!
そういや昨晩からカフェインキメてないな。否、それがどうした。俺がカフェインが無いと何も出来ない奴だと思ったら大間違いだぞ…!
「この度は」
俺が気迫を漲らせたところで、仙さんが口を開く。
「玲がご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
丁寧に頭を下げる。土下座ではないのに幕末勢の土下座コマンドとは明らかに違う。所作から誠意が伝わってくる。
「ああいえいえそんな、俺のせいもあるので」
くっ…いかん出鼻を挫かれた。もしや狙って?読心術までお持ちですか?
「ところで、陽務さんは玲とお付き合いを始めたそうですが」
「っ……ええまあ」
お付き合いという言葉を他人から持ち出されると動揺してしまう。やばい、テンションという名のなけなしのメッキが剥がれそう。
「玲とはいつ頃から交流を始めましたか?」
そういうのは玲さんに聞いてよね…と言いたいがまぁ本人寝てるし、気になってる所なんだろう。
えっと…シャンフロでフレンドになったのは…千紫万紅の樹海窟に行く前か。となると夏休みもまだ中頃だな。
ただゲームに疎そうな仙さんの場合、ゲームのフレンドになった時期を言っても実感しづらいだろう。リアルで知り合い始めた時期を答えるべきかな。
「夏休み明け、ですね。通学路でたまたま会って、お互いシャンフロをやっている事は知ってたのでそのへんの話をするようになって、って感じです」
「…成程」
仙さんの態度が少し軟化した気がする。悪くない調子かな…?
「玲の事はどう思っていますか?」
「んっぐ」
いきなりぶっ込んでこないでください変な唾の飲み込み方しちゃったよ。うぇーどう答えよう…。
まぁ正直に言うしか無いよな…別に悪い印象を持ってるわけじゃないし。
「最初はー…ただのゲーム友達とだけ、思っていました」
ていうか今朝までそう思ってました。
「今は、彼女として、恋人として…大切にしたいな、と思ってます…」
なんでコイツは彼女の姉に所信表明みたいな真似をしているんだ………ハッ、あまりの羞恥に第三者視点になってた!
これが、幽体離脱…!?
「…そうですか」
あれ、なんか不服そう。言葉が足りなかったか…
だが言い切ってから続けるのは印象が良くない。泥の上塗りになりかねん。ここは次での挽回を狙う…!
「では最後ですが、玲のどこに惚れましたか?」
「あー…」
マジで聞かれるとは。というかさっきから躊躇なく切り込んでくるけどこういうのって聞く側も恥ずかしいもんじゃないの…?
…ふう。
「繰り返しになりますが、最初は、ゲーム友達の玲さんを、あまり知るつもりはありませんでした。そういうのを嫌う人もいるので」
「けど、通学路で話したり、JGEに行ったり、色々と交流を持っていると、否応なしに見えてくるもので…」
実際は「今朝玲さんを見て初めて気づいた」が正しい。まぁ今は見えてるんだからセーフだよセーフ
「傍目からは完璧に見えている、見せているけど…近寄ってみると、案外ギャップというか、可愛い所もあるな、と…」
うごご…俺は一体何を言っているんだ…おや、仙さんの様子が…?
「貴方が玲に感じている魅力と同じものを持つ女性は、玲の他にもいるでしょう。例えばそのような女性と出会った時、どうしますか?」
…何だその質問。未来ばっか気にして今が生きられるかっての。
まぁ仙さんはそういう事が聞きたい訳ではあるまい。つまりこれは、俺の本気を問うているのだ。
ならば応えてやる。俺の本気を見るがいい!
「確かに、その可能性は否定できません。けれど、そんな事は関係ありません」
「…と、言うと?」
「俺が玲さんに感じた魅力は、好意の本質じゃ無いってことです。感情ってのは、どうやっても言葉に出来ない時もあるでしょう」
俺はこれから吐く言葉を思い返して3日は悶え苦しむだろう。だとしても俺は進む。パーフェクトコミュニケーションの為ならば!
「俺は…玲さんが玲さんだから、玲さんを好きになったんです。他の人なんて、考えるつもりはありません」
ぬおおおおおおおおおおおおお恥っっっずうううううううううううううううううううううううう!!!!!!
誰か俺を殺せえええええええええええええええええええええええ!!!!!
今すぐにでも殺虫剤をかけられた虫のようにのたうち回りたい衝動を必死に堪えながら仙さんの反応を見る。これで満足か畜生め!
「……………ふふっ」
あ、笑った。そんなに俺が滑稽かい?
「すみません、私は見合い結婚で、そういった恋愛事とは無縁だったもので…こういう話は得難い経験というものですね」
「はぁ…」
そうなの…としか言えんのだが。
「それだけ想われるとは、良かったですね、玲」
仙さんが寝てる玲さんをぽんぽんと叩く。……玲さんの耳赤くね?
「おっとぉ……………????」
「それでは、私はこれにて失礼しますね。」
状況が飲み込めなくなった俺の横を通り過ぎて、仙さんが部屋の外へ出る
「そういえば、今日は年末なもので屋敷の者達も忙しく、昼頃までこちらには来ませんよ。まぁ来ても引き返させますが…では、ゆるりとくつろいでいってください」
仙さんはそう言って襖を閉める。後に残されるのは耳まで真っ赤な俺と玲さん。
いや、うん。
「………」
「………」
何もしね――――――よ!!!!
「君だから君が好き」、という素敵フレーズを見かけてなんとか使いたいなと思っていた本編投稿前。
ようやく使えて今度こそ満足です。
仙さん的にはよっぽど酷い返答が無い限り交際相手として気にしないつもりでしたが、思ったより熱のこもった返事が来て内心大満足してると思います。
第一の質問の答えを聞いた仙さん
(ふむ、交流をはじめて4ヶ月弱…玲の事ですからそれより前から好意を持っていたのでしょうが…頑張りましたね、玲)
流石に年単位で片思いしていたとは思わない仙さん、勘違いで妹を評価する
第二の質問の答えを聞いた仙さん
(まだ入籍までは考えていませんか…やはり既成事実が必要ですね)
不穏な事を考えている仙さん
第三の質問の答えを聞いた仙さん
発言がそのまま思っていた事なので割愛。サンラクサンに高評価つけてる
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今こそ自爆は極まれり!
煽り合いの会話が難しい…ギブミー語彙力
帰宅して昼飯食って今。ただいまマイルーム。
「ふぅーーー………………」
椅子の背もたれに体重を預けて長く細い安堵のため息をつく。
「もう昼かぁ…」
色々と目まぐるしくて疲れた。
朝もはよから告白して俺と玲さんは…晴れて恋人となった。
そこまでは良しとしよう。
だが、問題はその後だ。
まず玲さんが気絶した。よほど嬉しかったらしい。流石に照れる。
慌てて背中を支えたら、通用口からあの斎賀姉…仙さんだっけ?が出てきて、手を握られながら背中を支えてる俺と恍惚の表情で気絶してる玲さんがガッツリ見られた。
この状況をどう説明するか迷ってる内に何故か風雲斎賀城に上げられ、一直線に玲さんの部屋に連行。
仙さんによる圧迫面接の後、「ここには12時頃まで誰も来ませんよ人を近づけさせないでおきますね(ニュアンス)」を言い渡された。
何もしねーよ!いくら付き合ったからって早速そういう行為に及ぶような奴は人間性がダメだろ!こちとら健全な男子高校生だぞ!言っちゃあなんだが下世話じゃない!?ここ由緒正しい良家ですよね!?
仕方がないので玲さんと…まぁ付き合ったので、これまではしてこなかった互いのプライベートに踏み込む話題で話してみた。
お互い、いつ好きになったとか…これはこれで恥ずかしかった。
話し出してみると新鮮な話題が多く、(薄々察してたが)京ティメットと親戚だったのを知って、京ティメットを話題に出したら玲さんからの視線が一瞬幕末末期勢並にドス黒くなった。独占欲ゥ…まあそういうところもいいと思うけど。
昼前まで話してたら解放された。帰り際の玲さんの表情は記憶から消しておこう。
物足りなさげに見えたのはきっと話し足りなかっただけだろう。そういうことにしてくれ。
さて、逃避はやめて現実を見ますか。
俺が何から逃避しているかと言うと、俺の端末に表示されているものだ。
『ペンシルゴン(コール音)』
30秒程放置してもコールの切れないペンシルゴンからの電話。
正直タイミングがタイミングなので出たくない。まだテンションは平静に戻りきっていないのだ。うっかりボロを出したら帰ってから瑠美を口止めした意味がない。
だがここで切れるまで放置すればペンシルゴンがキレるし瑠美もキレる。
覚悟を決めて…カフェインもキメよう。あ、エナジーカイザーしか無い。
「…何の用だ」
『この天音永遠様からの電話を1分無視しての第一声がそれとは、蛮族に電話って概念は早すぎたかな?』
「蛮族にだって話す相手を選ぶ権利はあるんだよなぁ。で、マジで何の用だよ。こっちは幕末の年越しイベに向けt『おめでとうございます』………何の、話かな?」
『沈黙は答えって知ってる?いやあ君も隅に置けないねぇ!』
「…っな!?」
『うーんその声が聞きたかった!』
何故!?誰が!?いつの間に!?
いや、そんなものはわかりきっている!
リビングの扉をぶち破る気持ちで開け放つ。
「瑠美ァアイ!!」
「うるっさ…何?」
「お前ペンシルゴンにチクりやがったな!」
「え?」
「俺は…俺は朝一番で玲さんに返事したのに…逆告白までして!なのに…お前…お前というやつは…!」
「…話してないけど」
「えっ」
「だから話してないって。私にだって分別はあるもん。トワ様から直に聞かれないでもしないと言わないよ」
直に聞かれたら兄の恋愛事情を赤の他人にバラすのかお前…いやそれよりも
「言って…ない?」
「だからそう言ってるじゃん」
震える手で持ったままの端末を耳に近づける
『ひっ…くっ…ふふふっ…自爆っ…やっばお腹痛い…死ぬ…っ!笑い死ぬっ…!』
「………スゥー…」
……………また俺、なんかやっちゃいました?
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楽郎は激怒した。必ずかの邪智暴虐のペンシルゴンを除かねばならぬと決意した。
『へぇ~ふぅ~ん逆告白かぁ~良いじゃん青春じゃんアオハルじゃーん!』
「………頼むから俺を殺してくれ」
『そこまで落ち込むことないじゃん。新たなる人生の門出でしょ?祝ってあげるよ盛大にさぁ!花束でも贈ろっか?』
「銀の食器と盗聴器発見器買ってくるわ」
『サンラク君の健康にもプライバシーにも興味ないから無用の備えだね』
「転ばぬ先の杖でお前をしばき回すんだよ…てか何でレイ氏の事知ってんだよ」
『そりゃあ玲ちゃんを焚き付けたのが私だからだよ』
楽郎は激怒し(ry
「…はぁ。でもそれにしたって不思議だな、なんでお前が玲さんの背中を押したりする?」
『声色から不信感が滲み出てるよ』
「隠してないから滲み出てるとは言わないな」
『そうだねぇ、ぶっちゃけると親切心かな?玲ちゃんこのままだとサンラク君に告白するのいつになるかわかったもんじゃないし』
「詳しいんだな、レイ氏の事」
『お?嫉妬か?男の嫉妬は見苦しいぞ?』
「これは探究心であり断じて嫉妬などではない」
『おねーさんは大人なのでそういうことにしてあげよう。詳しいのは玲ちゃんと言うよりは…斎賀家全体って感じかなぁ』
「110番に連絡して良いやつ?」
『ダメでーす。…んーまぁサンラク君は知っててもいいか。付き合ったんだし』
『斎賀家の女性ってなんでかわからないけど恋愛下手な性格をしてるらしくて、玲ちゃんのお母さんも仙さんもお見合いで結婚したんだってさ』
思ったより深い話が飛んできた。
第三者からお家事情が聞かされてるんだがこれ知らないままのほうが良かった情報では?
『モモちゃんも職場じゃ人気あるんだけどねー本人が全く興味ないのと、傍目から見た時の完璧超人っぷりが近寄りがたくてだーれも声をかけようとしないんだよね』
恋人の姉の恋愛事情が友人からバラされる。今俺はそこそこいたたまれない。
『だから一番恋愛に真摯に頑張ってる玲ちゃんは応援してあげようかなーって思って』
果たして感謝するべきなのか。
人生の時間は有限だ。それも学生の間となると特に。
別に俺はクソゲーできてりゃそれで良いと思ってるクチだが、いざ大学生になってから玲さんと付き合って、「実は中学時代から好きでした」と聞かされる。
その時俺は「高校時代に付き合っておけば、もっと長い時間を恋人として過ごせたのに」なんて悔やむのだろうか。
……ちょっと、するかもしれない。
「……一応、感謝しとこうかな。業腹だが」
『謝意は現物支給で頼むよ。そうだなぁカッツォ君も知らないサンラク君の素顔とか気になるかなぁ!』
「俺のプライバシーに興味ねーんじゃなかったのかー?おぉーん?」
『さいつよカリスマモデル様は有象無象の戯言に貸す耳は持ち合わせておりませーん』
「…鳥頭(小声)」
『何急に自己紹介して。暇なの?』
カッチーン(スイッチが入る音)
「ペンシルゴンテメーGH:C来いやぶっ飛ばしてやるァ!」
『ハッ上等!私のクロックファイアちゃんでハメ殺してあげるよ!』
「やれるもんならやってみやがれこの野郎!!!」
辛うじて勝った。そして俺は今後ペンシルゴンとGH:Cで戦う時は絶対にヒーローを使わない事を心に誓った。
書きたいことは書いたつもりなので満足しています
2021/04/16追記
満足できなかったようです
2021/05/11追記
ちょっと気になってた部分を修正しました。オチも前よりは良くなった気がします。
余談
・NPC絶滅RTA
「助けるNPC居なかったらヒロイックゲージ溜めるの無理ゲーになるんじゃない?」という思いつきと好奇心から行われた正真正銘のジェノサイド。最小の労力で最大の破壊を生み出す効率の極地。たとえ悪鬼羅刹が躊躇おうとも、ペンシルゴンは算盤を弾くのだ。
普段NPCは生かさず殺さずなペンシルゴンのスタイルとはかけ離れている意外性も合わさりサンラクサンを追い詰めた。
案の定ヴィラニックゲージが枯渇した事が敗因となり、ペンシルゴンが負けた。だが敗北の瞬間、世紀末と化したかつての摩天楼で奴は笑っていた。
ゲーム終了後
「感想は?」
「うーん、草の根分けて潰していくのと世紀末な風景から在りし日を想うと割と楽しかったけど、悲鳴も断末魔も無くなっちゃうのはイマイチだから…1回で十分かな?」
「信じられるか…こいつティーンの憧れなんだぜ…」
「サンラク君事故のフリしてNPC殺ってたの私見逃してないからね?」
「別に悪行働いたからってヒロイックゲージが減るわけじゃないからやろうと思えば出来るんだよな。意味はないけど」
「「はっはっは」」
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