アサルトリリィーPARASITEー (沼りぴょい)
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プロローグ

「おいおいおいおい……」

 

 目の前の惨状を見て思わず、と言った感じに呟いてしまった。現在、彼──―いや、彼だけではないのだが、周りの人間は体裁なんて気にせず、我先に安全と、自分の命だけが助かるために恥を捨ててまで逃げている。

 

 まぁ、それをするだけの原因が、彼らの背後からやってきているのだが。

 

「……なんでこんなところにヒュージなんかいるんだよ」

 

 ヒュージ(HUGE)。世界に突如として現れた謎の生命体で、ヒュージ細胞と呼ばれる巨大化細胞の暴走が生んだ生命体らしい。詳しいことは何もわかってないのだが。

 

「ここで隠れてやり過ごす……というのも無理だろうなぁ……」

 

 幸いなことに、彼は少し人込みから離れていたところで様子をうかがっていた。何をしていたかというと、雉を狩りに言っていた、と察するだろうか。

 

 こそこそ草むらの影から様子を伺い、現在現れたでっかいヒュージへと視線を移す。まぁ、見てもでっかいと恐ろしいくらいの感想しか出てこないのだが。

 

「あ!」

 

「おい……っ!」

 

 そして、運悪く目の前で転んでしまった哀れな少女が目に入る。ピンク髪の少女は転んだ後にまたすぐに立ち上がろうとしたのだが、痛みのせいで少しふらついていた。

 

 そしてそこに、ヒュージの死神の鎌と見間違うほどの一撃が少女にきらりと月明かりの光に照らされるのが少年の目に入った。

 

「っっっ!!!」

 

 体が勝手に動く。無意識とはこういうことだろうかと、まったく無関係なことを思いながら、彼女の体を抱きしめながら一緒に倒れこむ。その甲斐あって、少女の体をはかなく散らさずに済んだ。

 

 

 ──―あっぶねぇ……。

 

 柄にもなく、そんなことを思ってしまった少年。直ぐにいやいやいやそんなことしてる場合じゃないやろ! と気づき、直ぐに立ち上がり、少女を抱え上げる。

 

「逃げるぞっ!」

 

「ふぇっ!?」

 

 少女を抱えながらの逃亡劇。舞台が舞台ならお涙頂戴なシーンなのだろうが、追跡者は化け物だし、お姫様の抱え方なんて米俵を担ぐような持ち方である。お姫様だっこは筋力的に無理で、おんぶまではしている時間なんてなかったから、必然的にこうなった。

 

 少女が以外と身長低くて良かった……などと思いながら、がむしゃらに逃げる。どこをどう逃げたなんて全くもって覚えておらず、気づけば土手のような場所にたどり着いていた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

「だ、大丈夫……?」

 

「ぜんっぜん! ぜんっぜん大丈夫じゃない!!!」

 

 とりあえず一旦下ろしていい? と言いながら少女の足に負担がかからないようになるべくゆっくりと下ろした瞬間────

 

()は、空から降ってきた。

 

「あっ……」

 

「嘘だろ……」

 

 グルン、グルンと青の単眼が動き、こちらを見つめロックオン。ギュン! とヒュージの凶刃がこちらに刃を向けることが分かった。

 

 死を感じた。隣にいる少女をがむしゃらに押し飛ばす。

 

 風を斬る音が随分身近に感じる。流石にもうダメかと思い、ゆっくりと目を閉じた。死ぬ時は痛いの嫌だなぁ、なんて不謹慎なことを思いながら。

 

 ──―ま、女の子護って死んだんなら、両親にも顔向けできるだろ。

 

 そう思って、目を閉じていたのだが、全くもって痛みは来ないし、少年の意識が失われる予兆もない。恐る恐る目を開けると、そこには一人の少女がいた。

 

 ガンッ! という激しい金属音を響かせながら、少女は手に持っている武器でヒュージと同等に渡り合う。

 

 銀髪の、ショートカットで、月夜に照らされる顔が可愛らしくもイケメンであった。

 

「はぁ!」

 

 少女が操るには随分と物騒な得物を持って、ヒュージの金属体を真ん中から真っ二つにする。先程まで、無情にも少年の命を奪おうとした化け物は、壊れたおもちゃのように崩れ、光の粒子となって消えた。

 

「──―っ」

 

 息を飲む。別に、突然の出来事に言葉を失った訳では無い。

 

 少年は、こんな事態にも関わらず、彼女の容姿に見蕩れてしまったのだ。先程まであった死の気配なんて忘れ、少年はただただ、彼女の顔を見つめる。

 

 くるり、とヒュージを倒したのを確認した彼女は、少年の元へ駆け寄り、ポンッとその手で頭を撫でる。

 

「もう平気かい? 君が必死に守ろうとしていた姿。実にかっこよかったよ」

 

「へ? あ、いやぁ……」

 

 かっこいい。その言葉にこんな時にでも照れてしまった。

 

「夢結。そっちの子は?」

 

 くるっ、と夢結と呼ばれた黒髪の少女へ目を向ける銀髪の少女。返事はないが、頷いたのを確認したのを見た銀髪の少女は、また少年を見つめる。

 

「よし、とりあえず君たちを安全な場所に連れていこう。今までよく頑張ったね」

 

 ホッ、と安心したのも束の間。次の瞬間には、彼女の整った顔が歪んだ。それに疑問に思う暇もなく、グサリ、と少年は何かを突き刺したかのような音と、何かがバラバラに壊れる音。

 

 壊れた音は、彼女が先程まで操っていたあのヒュージでさえも倒してしまう武器のこと。そして、何かを突き刺したかのような音の正体は────

 

「…………あ」

 

 

 ゆっくりと、下を見ると、自身の胸から突き出ている刃物と、赤い自身の血。それをやった犯人が今後ろにいるであろうチェーンソーのような触手を蠢かせているやつであろうことに理解するのに、時間はかからなかった。

 

 視界がゆっくりと真っ暗になっていく。少年が最後に見たのは、安心させるかのようにこちらを見て笑う顔だった。

 

「安心していい。君達は僕と夢結で必ず守る。だから……今はゆっくりとおやすみ」

 

 不思議なことに、その言葉を聞いたら少年の胸中に不安な思いは全て消え去った。

 

 その言葉を最後に、少年の意識は暗く沈んでいく。

 

 そして、何やらトプん、と体の中に()()()()()()



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一話

作者はアールヴヘイムが好きです←ここ重要


 百合ケ丘女学院。鎌倉府、旧神奈川県と呼ばれていた頃、大正時代に設立されたお嬢様学校を母体とした世界的にも有名なリリィ教育機関である。

 

 そんな百合ケ丘も今日は新入生を迎える入学式。しかし、何やら一部では不穏な気配が漂っており────

 

「中等部以来、お久しぶりです夢結様」

 

 血の気の多い一年生が、上級生に喧嘩を売るという事態が起きていた。

 

 しかも、その喧嘩を売っている方の一年生も色々な意味で学園から問題児として認識されており、上の方も頭を抱えていた。

 

「もう、亜羅椰の奴。夢結様に何やってんのよ!」

 

「喧嘩売ってるんだよ、いっちゃん」

 

「止めます? 天葉様」

 

「私は興味あるかな~」

 

「じゃあ見てますか」

 

 と、何やら呑気な会話をしている三人。いっちゃんと呼ばれた緑髪ロングの子が田中壱(たなかいち)。白髪の子が江川樟美(えがわくすみ)と言い、樟美が腕に引っ付いている少女を天野天葉(あまのそらは)と言う。この三人、相当優秀でこの学園でもかなりの実力者なのだが、それは一旦割愛する。

 

「う~ん……でもその前に…………」

 

 チラチラと周りを見渡す天葉。それを不思議に思った樟美が問いかける。

 

「天葉姉さま? 一体何をしてるんですか?」

 

「いや何、ちょっと()の姿を探してるんだけど……ねぇ樟美? 壱? 居場所知らない?」

 

 と、笑顔で二人に問いかけると、二人はサッ! と視線を逸らした。

 

「んん~? その反応知ってるな~? ほらほら樟美、一体どんな条件で黙ったの?」

 

「それは、兄さまとお昼寝を──―! な、なんでもないです! 天葉姉さま!」

 

「壱は何を隠してるのかなぁ?」

 

「そ、天葉様? あの、無言の圧力かけるのやめてくれませんか……?」

 

 んー? んー? と言いながら自身のシルトでさえ笑顔で威圧してしまう。さすがはマギを使わないでも世界五本指に入るほどの実力者か。貫禄が違う。

 

「もう! 悠斗が居ないとつまんなーい!!」

 

「ぶえっくしゅ!!」

 

 そんな噂の悠斗こと、浅野悠斗(あさのゆうと)である。黒髪黒目に、やや整った顔立ちで、何故か男子なのに女子校に通っている哀れな男子高校生である。

 

 勿論、何故悠斗が百合ケ丘に通っている話をすれば、そもそも二年くらい前に遡らなければいけないので一度割愛する。盛大なくしゃみを披露すると、隣に居た薄紫髪の少女が悠斗の顔を覗き込んだ。

 

「あらら、大丈夫? 悠斗。風邪?」

 

「いえ、依奈様。なんか天葉様あたりに噂されているような気がして…………」

 

「なるほど、ま、天葉も私も、悠斗が来て色々と変わっちゃったからねぇ色々と」

 

 と、悠斗のほっぺたをつんつんと突く依奈と呼ばれた少女。

 

 番匠谷依奈(ばんしょうやえな)と言い、この少女もかなりの実力者であり、アールヴヘイムのプランセスという二つ名まである。

 

「それに、さっきから何だかムズムズ体から嫌な予感が…………というより、()()の気配が────」

 

 とその時、ゴーン! と百合ケ丘に鐘の音が鳴り響くと同時に、チリチリと悠斗のうなじを焼き尽くすかのような刺激が悠斗を襲う。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫ですけど……これ、どっかやらかしてますね」

 

「……あー、うん」

 

 二人の脳内に出てくたのはメガネを掛けた工廠科に属するとあるアーセナルだった。

 

「脱走、ですかね」

 

「その通りだ。さすがは悠斗だな」

 

 ポツリ、と呟いた声を肯定する声と同時に、コツコツという機敏な足音。

 

「久しぶりだな悠斗。元気にしていたか」

 

「はい、元気でしたよ眞悠理様」

 

「あら、眞悠理じゃない」

 

 内田眞悠理(うちだまゆり)。生徒会長の一角である『ジークルーネ』を担当しているリリィである。

 

「悠斗の予想通り、ヒュージが脱走してしまい、対処に当たれるリリィは全員出撃命令が下されている。勿論アールヴヘイムも例外ではない」

 

「え? でも私、そろそろCHARMが壊れそうだから悠斗にこれから見てもらおうって思ってたんだけど…………」

 

 チラ、と依奈が悠斗を見る。その瞳の奥には、どうも別の感情も隠されていそうである。

 

「大丈夫だ。一応、夢結にも出撃させたと、史房様からも連絡が来た」

 

「へー、夢結もね。なら安心かな」

 

「……白井様もか」

 

 夢結の名前が出てきた途端に、悠斗は少し顔を顰める。別に嫌いという訳では無いのだが、苦手意識を持っているのだ。

 

「既に天葉達も向かっている。依奈と悠斗も急いで向かうように」

 

「分かったわ」

 

「分かりました」

 

 そう言った後、くるりと背中を向けて去る眞悠理に、依奈を手を振って、悠斗はぺこりとお辞儀をした。

 

「さて、本当だったら私のCHARMを治して欲しかったけれど、仕方ないわね。行きましょ? 入学式も後回しよきっと」

 

「そうですね。では依奈様のCHARMを──―」

 

 と言った瞬間、依奈はがしっ! と悠斗の手を掴んだ。

 

「……あの、依奈様?」

 

「悠斗、あれ使うのは禁止だからね、あなたもCHARM持っていきなさい」

 

「え、でも俺のCHARMも壊れかけですし、CHARMよりもあれの方が俺としては個人的に使いやすくて」

 

「持っていきなさい」

 

「ウイッス」

 

 悲しいかな。美人の威圧にはどうしても勝てなかった悠斗である。CHARM保管室に行き、依奈のアステリオンを出した後に、刀身やらなんやらが全て真っ黒に塗装されてあるCHARMを引っつかむ。

 

「……頼むぞ、アロンダイト」

 

 アロンダイトと呼ばれたCHARMは、それに応えるようにキラリと光った。




主人公設定
浅野悠斗
所属レギオン:アールヴヘイム(壱盤隊)
CHARM:アロンダイト
レアスキル:???
スキラー数値:92

樟美が中等部時代に起こした事件の時に、壱と樟美の仲介とかやってたらなんか懐かれた。アールヴヘイムではスーパーサブとして活動しているが、やはり心配なのでこっそりついて行っている。
中等部時代は童顔だったが、中三の時に一気にややイケメンに成長した。


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二話

作者は亜羅耶ちゃんがイチオシです←ここ重要


「……あ、天葉様、悠斗達来ましたよ」

 

 森で待機していた天葉達に今から行きますという連絡をしていた悠斗達。リリィとしての身体能力を存分に生かし、五分で合流を果たしていた。

 

「依~~~奈~~~~!」

 

「ちょっ! いふぁいいふぁいふぉ! ふぉらふぁ!!」

 

 そして、天葉は依奈の姿を見つけた瞬間、一瞬で依奈の目の前に現れそのままほっぺたを引っ張り始めた。

 

「依奈! 何勝手に悠斗と二人きりとか羨ましいことしてたの! ずるい!」

 

「いいじゃない! 最近悠斗成分足りてなかったもの!」

 

 こんにゃろ~! とじゃれ合う二人を悠斗はとりあえ一旦無視し、樟美達の所に向かった。

 

「三人ともやっほー」

 

「……兄さま、よくあれ見てそのままスルーできましたね」

 

「あぁ、うん。あれはもう無視だよ無視。もう慣れた 」

 

 ちなみに、樟美と悠斗は同い年であるが、とある事情から樟美は悠斗のことを兄様と呼んでいる。詳しいことはry。

 

「で、本当は何をしていたのかしらぁ? 悠斗。私というのが居ながら」

 

 むにゅん、とそこら辺のリリィよりも発達している胸を恥ずかしげもなく押し付け始める亜羅椰。一瞬だけ悠斗の眉がピクリと反応したが、その前に壱が亜羅椰を悠斗から引き剥がす。

 

「こら亜羅椰! 誘惑しないの!」

 

「嫉妬かしら? 壱。安心して、私は悠斗もあなたもきちんと愛してあげるから」

 

「ヒッ!?」

 

 ペロリ、と唇を舌で舐めた亜羅椰に危険を感じた壱は、掴んでいた亜羅椰の腕を離し、すぐさま悠斗の後ろに隠れる。

 

「……お前は相変わらずだな、亜羅椰」

 

「仕方ないじゃない。これが私なんだから……ところで悠斗? 今晩は私の部屋に────」

 

「行かないからな」

 

 あら、残念と言いながら指をペロリと舐める亜羅椰。大抵の男ならその仕草をエロいと感じるのだろうが、亜羅椰の性格を理解している悠斗はジト目を向けるだけである。

 

 遠藤亜羅椰(えんどうあらや)。少々────いや、かなり癖が強いリリィである。戦闘技術や、彼女のレアスキルである『フェイズトランセンデンス』をS級で所持していることから一流なのであるが、気に入った相手を(性的に)喰ってしまうという厄介な性質を持っている。

 

 レギオンに入る際に、壱と樟美のことが(性的に)好きすぎて、勧誘されていたレギオンの誘い全て断り壱盤隊に入ったり、悠斗の寝込みを襲ったりなど(無事だった)かなりやらかしている。

 

「亜羅椰ちゃんエロイ」

 

「樟美からくってやろうか!」

 

「やめい」

 

 ぺちっ、と悠斗の一撃が亜羅椰の頭に襲い掛かる。その間に、樟美も壱と同じように悠斗の背中に隠れ、んべーと舌を出した。

 

「天葉様も依奈様も、じゃれ合ってないで行きますよ」

 

「「悠斗が原因なのよ!?」」

 

 ほっぺの引っ張り合いをしていた二人が揃ってツッコミをいれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうそう。わかっているとは思うけど悠斗、あれ使ったらだめだからね」

 

「わかってますよ。依奈様にもかなり釘刺されましたし、ちゃんとCHARMも持ってきてますから」

 

 と、悠斗は天葉達とは形状の違うCHARMを持ち上げる。

 

「ん、それならいいのよ」

 

 よしよし、と頭を撫でようとした天葉だが、サッと呆気なく避けられる。そのことに一瞬だけムクーと頬を膨らませたが、悠斗の顔を見て一瞬で気持ちを切り替える。

 

「総員! 戦闘態勢! 悠斗!」

 

「分かってます!」

 

 ジリジリと痛むうなじに手をやりながら周囲の気配を探る。

 

 この痛みは同胞が近くに居る時の反応。彼に対して、()()()()()()()()()()()()()()()()()と嫌にでも訴えかけてくる醜い同胞の思いが。

 

「横!」

 

「「「「「っっっ!!!」」」」」」

 

 次の瞬間、洞穴から虎視眈々と狙い済まされた鉄の腕が六人に向かって引き延ばされるが、事前に察知していた悠斗のおかげで難なく全員避けれた。

 

「っ、これ、上級生が捕獲していたヒュージじゃない?」

 

「同感っ。もう! 何やってんのよ百由!」

 

 決してどこぞの眼鏡かけたアーセナルのせいというわけではないのだが。

 

「とりあえず、ただのスモール級。私達の敵じゃないわ! 樟美!」

 

「うん、任せていっちゃん」

 

『ファンタズム!!』

 

 いくつもの仮定の世界線を覗き見て、欲しい結果に至るための動きや条件を空間単位で瞬時に理解できるスキル。自己の仮定から、未来の世界を脳内で再生して答えを得ると、周辺の人間にテレパスや共感で伝える。

 

 その中でも、樟美は史上最年少でファンタズムに覚醒した逸材であり、『神の子』とも言われるほどである。

 

「さすがは樟美ね」

 

「バッチリと見えるな……さすがは樟美だな」

 

「もう……褒めても手料理しか出ないよ、兄さま」

 

 戦闘中にも頬を赤らめさせるのは余裕の表れか、彼女の機嫌が著しく上がり、ヒュージの攻撃を踊るようにステップを踏んで避け始めた。

 

 ──ーフェアリーステップ……相変わらず奇麗だな。

 

「飛んで」

 

 バンっ! と彼女のCHARMのグングニルが射撃形態へと変わり、二発の銃弾がヒュージを襲う。

 

「やぁぁ!」

 

「せいっ!」

 

 ガキン! ガキン! と、間髪入れずに天葉と依奈が鉄の触手を切断する。

 

「壱!」

 

「りょう、かい!!」

 

 そして、すぐさま壱と悠斗も二人に続いて攻撃を仕掛けようと地面を踏み抜く。

 

「んっ!」

 

 壱と協力してヒュージの図体に突撃。衝撃でヒュージの体が吹き飛んだが────

 

 パリン。

 

「んげ!?」

 

 そのせいで、悠斗のCHARMに罅が入ってしまった。マギクリスタルコアまで罅が入っていないのは幸いだ。

 

「とどめよ。必殺! フェイズトランセンデンス!!」

 

 そして、亜羅椰のレアスキルであるフェイズトランセンデンスが炸裂し、魔力砲にのまれたヒュージはきれいさっぱり消えてなくなった。

 

「────ふう。S級とはいえ、流石に疲れるわね……ねぇ悠斗ぉ、おんぶしてよおんぶ」

 

「変なことしないならいいぞ」

 

「しないわよ。するとしても耳舐めるだけ」

 

「さて、亜羅椰は置いて行きましょうか」

 

「さ、皆帰るわよ~」

 

「あぁん! 冗談ですよ天葉様! 依奈様!」

 

 

 




アールヴヘイムの皆さんの口調難しい過ぎて……


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三話

 なんだかんだ亜羅椰のことを背負いながら学園へ戻ってきた六人。途中なんどか亜羅椰が悠斗の耳に息をふきかけて三回ぐらい本気で振り落とそうとするのを依奈が呆れながら止めるということを繰り返し、工廠科の方にCHARMを預けた後に、念の為医務室でメディカルチェックを受けた。

 

 しかも、悠斗は更に受けなければならない事項があるので、こうした戦闘の後はどのリリィよりも綿密に検査を行う。

 

 ピピーッという検査終了の音が聞こえたので、寝そべっていた機械から降りて、検査を担当してくれた女子に声を掛けた。

 

「どうだった?」

 

「バッチリよ。どこも異常はないから安心しても大丈夫」

 

 森辰姫(もりたつき)。戦うアーセナルなのだが、他人のためではなく自分用のCHARMを作るために工廠科へ進んだ変わり者である。

 

 彼女も、悠斗と同じ訳ありで、強化リリィである。悠斗は強化リリィという訳では無いのだが、彼女が強化リリィの副作用で苦しんでいた時に、彼女のルームメイトの亜羅椰と、同じアーセナルであり、同レギオンに所属している金箱弥宙(かねばこみそら)と共に支え続けていたため、とても仲が良い。

 

「そっか、それなら良かった」

 

「私としても安心よ。悠斗が乗っ取られていく様なんて見たくないから…………」

 

「大丈夫。今の今までこうして御することが出来ているんだ。絶対にそんな悲しい未来にはさせない」

 

 さて、そろそろ彼の秘密を教えておくが、まず最初にもう一度ヒュージのことについて振り返ろう。

 

「それでも、私は心配だよ……悠斗も、私の大事なひ──ー友達なんだから」

 

 ヒュージ細胞と呼ばれる巨大化細胞の暴走が生んだ生命体。捕食、寄生、成長を繰り返すことで多様な形状を獲得し、多くの種類が確認されている。

 

 そう、捕食、寄生、成長を繰り返しているのだ。

 

 ここまで言えば分かるだろう。彼はあの日──ー後に、甲州撤退戦と呼ばれたあの日、ヒュージに捕食、そして寄生されて成長をしている唯一の人間なのだ。

 

「ありがとう、そう言ってくれるだけで俺は頑張れるし、ここに居る奴にも目を背けずに向き合える。いつも感謝してるよ、辰姫」

 

 と、悠斗は俯いている辰姫の頭を優しく撫でる。触れただけで壊れそうなその儚さに、ゆっくりと……まるでお姫様を相手しているように優しく撫でる。

 

「……もう、恥ずかしいよ」

 

「日頃の感謝だ。甘んじて受け入れとけ」

 

「……そう」

 

 辰姫は更に顔をふせ、顔をどんどん赤くしていくが、リボンでまとめている髪がぴくぴくと跳ねているため、喜んでいることには変わりない。

 

「さて、そろそろ体育館に行こうか。理事長の計らいで入学式の時間帯もズレてるし、皆も待っているだろう」

 

「そう、ね。それじゃあさっさと行きましょうか」

 

 そして、辰姫はプルプルと顔から熱を追い出すように横に振る。悠斗も着ていた検査服を脱ぎ始め、百合ケ丘の男子用の制服に着替え終えると、部屋の外で待っていてくれた辰姫と合流して体育館へ向かった。

 

「そういえば、辰姫達は別働隊だったけど怪我とかしてないか?」

 

「えぇ、そもそも私達は戦闘してないから。怪我ひとつも無いよ……触ってみる?」

 

 と、自身の恥ずかしいと思う気持ちに蓋をして、頑張って服の裾を掴んでチラリと服をめくる。そこから、やや白いお腹が顔をのぞかせた。

 

「…………バカ。俺は男だぞ。そんなことするなよ……どうなるか知らんぞ」

 

 しかし、悠斗はゆっくりと辰姫の手を掴むとやんわりとその服から手を離させた。

 

「……別に、悠斗にだったらいいのに」

 

「……………………」

 

 実を言うと、バッチリ聞こえているので、亜羅耶とは違ったアプローチにドキリとする悠斗。

 

 ──ーったく、どうしてこうもリリィというのは……。

 

 可愛い人が多いんだ。本当に心臓に悪いと思い、赤い顔のままため息を吐くのだった。

 

「や」

 

「お疲れ様、悠斗。辰姫も、手伝ってくれてありがとうね」

 

「天葉様、依奈様、ごきげんようです」

 

 色々と時間がかかり、終わった頃には既に夕方。夕日をバックに天葉と依奈が廊下で待機していた。

 

「何してるんですか?」

 

「私達だって気になるのよ。悠斗の状況」

 

「あの三人も聞きたがってたけど、今から入学式だからね、先輩として、ここはきちんと大丈夫なのか聞いておいて、メールで送らないと」

 

 勿論、あの三人のことは、樟美、壱、亜羅耶のことである。

 

「大丈夫です。私もちゃんも三回くらい検査しましたけど、悠斗の状態はオールグリーンです」

 

「そっか、それなら安心だね」

 

 辰姫が言うと、天葉が笑顔で頷いた。

 

「それじゃ、私達は入学式には出れないからね」

 

「また明日ね悠斗。今度こそ私のCHARM、治してね」

 

「勿論です依奈様。また明日」

 

 じゃね~と、手を振って去って行く二人の背中を見送った後、入学式会場へ移動した二人だった。

 

 その途中────

 

「……なにこれ、リリィ新聞?」

 

「ん?」

 

 今まで見ることがなかった異変に辰姫が目を止め、不思議に思った悠斗も辰姫の後ろから覗き込む。

 

 ────この顔。

 

 そこに写っていた顔写真に、悠斗はなんとなく見覚えがあるような気がして、脳がチクリと刺激された。




辰姫ちゃん、アニメで喋ってるシーンって「倒しちゃったらごめんなさいですー!」しかなくて……。口調は全ての想像です。


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閑話

「はぁ……はぁ……」

 

 痛む体に鞭を打ちながら、ヒュージに支配された甲州を足を引きずりながら歩いて行く。体は痛むが、傷は治る。体力は減るが体健康そのものな状態に気持ち悪くなりながらも歩いて行く。

 

「んぐっ……!」

 

 その途端、またもやズキリとうなじが疼き、もうほぼ反射にも近くなった防衛本能。

 

 右手を振り上げると何かが飛び出たような感覚。大して力も入れていないのにそれだけで真っ二つになるスモール級のヒュージ。弱った獲物を狩り取ろうとしていたが、逆に狩られてしまった。

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

 ──ーまだ、まだ……。

 

 歩いている少年の意識は、ふとした瞬間にちぎれそうになるほどに弱い。

 

 彼────浅野悠斗は間違いなく一度、その命を()()()()。血液を送る心臓は動くのを辞めたはずだ。

 

 だがしかし、彼は目を覚ましてしまったと同時に理解をしてしまった。彼の体は、ヒュージによって生かされているのだと。

 

 ヒュージに寄生された者は、例外なく奴らの一員となり街を襲うはずなのだが、何故か悠斗の中に居るヒュージは暴れる気配などは無い。それを不気味に思いながら、ここまで幾度のヒュージの奇襲を捌ききっている。

 

 無論、悠斗に戦闘の知識はない。腕や足が切り刻まれようとも、彼の体は再生するので、思いっきりな力技なのだが。

 

「……っ、ぁ」

 

 カツン、と足が木の根にぶつかる。倒れる! と思いギュッと目をつぶったものの、なんの意識もしないで、悠斗の背中から二つの()()()が姿を表して彼の体を支える。

 

「はぁ……感謝、したくはないなぁ……はぁ」

 

 目を開けた悠斗の視界に映り込むのは、先程まで悠斗を襲ってきたヒュージと同じもの。ヒュージに寄生されたからか、このような物も使えてしまった。

 

 ──ーでも、流石に限、界……。

 

 どさり、と今度こそ悠斗の体が地面に倒れた。悠斗の意識が無くなったと同時に、腕も消失したからだ。

 

「ちょ! ちょっと! 大丈夫!? 依奈! 依奈! 急いで救援呼んで! それと、怪我の治療もするから医療キットも!」

 

「どうしたの? 天葉────って人!? 陥没指定区域に!?」

 

「それと! 百合ケ丘の方にも連絡を入れて置いて! この子、普通じゃないから!」

 

 伸ばしにしておいたら、絶対に酷い目にあう。そんな予感が天葉の頭の中に浮かんだ。主にゲヘナとかGEHENAとかG.E.H.E.N.A.とかに。

 

「分かったわ!人も呼んでくるから、天葉はきちんと守ってて!」

 

「任せなさい!」

 

 これが、彼と初代アールヴヘイムの出会いであった。




捏造です。陥没した甲州の様子を見るために、一度天葉含む実力者が送り込まれた的な。


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四話

「…………う──ーん」

 

 アールヴヘイム控え室にて。昨日は入学式だったのだが、学園の意向で入学式の次の日は休みとなっている。本来なら、アールヴヘイムにて、朝の任務があるのだが、戦力である依奈のCHARMは全壊寸前、悠斗のCHARMにはヒビが入ってしまい使い物にならないため、別のレギオンに代わってもらったのだ。

 

「……悠斗のこの様子どうしたの?」

 

「なんでも、昨日のリリィ新聞に載ってた子の顔に見覚えがあるんだって、いっちゃん」

 

 贅沢に支給されているソファ1つを陣取り、横になっている悠斗を見つめる壱、樟美、亜羅椰。

 

「新聞って、これのことよね。『週刊リリィ新聞』こっちが夢結様で、こっちが楓・J・ヌーベル──ーあら」

 

 その顔は、亜羅椰にとっても見覚えがあった。思い出すのは、昨日の入学式前のこと。夢結にシュッツエンゲルの契りを結ばせようとCHARMも交え、どさくさに紛れて性的にもまじわろうとしていた時に現れたピンク髪の女の子。

 

「…………へぇ?」

 

 興味が湧いた。亜羅椰の顔がどんどんあくどい笑みになっていき、指をペロリと舐めた。

 

「…………亜羅椰、余計なことしたらダメだよ」

 

 それに気づいた壱が亜羅椰に釘を指したが、果たして聞こえてたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、ごきげんよう梨璃さん」

 

「?」

 

 朝、トイレにて諸々な用事を済ませ、手を洗っていた少女──ー一柳梨璃(ひとつやなぎりり)は自分の名前を呼ばれたので後ろを振り返ると、そこには見覚えのある顔がいた。

 

「あ、どうも────じゃなくて! ごきげん、よう……」

 

 いつもの感じで挨拶を返そうとしたが、ここがお嬢様学校ということを思い出し、直ぐに訂正をした梨璃。

 

 そこに居たのは、勿論ちゃんと待ち伏せをしていた亜羅椰だった。壱の忠告はなんの意味もなさなかった。

 

「そんなありきたりなのじゃなくて、もっと本質的なことをしない?」

 

「本質的?」

 

 なんの事か分かっていない梨璃に、亜羅椰は近づくと、梨璃の左脇に自身の右腕を滑り込ませ、少し体重を掛け、梨璃を押し込む。とうぜん、後ろは洗面所なのでそこに梨璃を逃げないように押し込むと、左手を梨璃の顎に添える。

 

「ふふっ……」

 

 悠斗が居るのに何してるんじゃと思うだろうが、これこそが亜羅椰クオリティ。やはり可愛い子にはとりあえず手を出したくなるのが亜羅椰なのだった。

 

 顔が近づく。相変わらず梨璃はほげーっとしたまま。だがしかし、ここでトイレのドアがガタン! と勢いよく開き、二人の顔がそちらに向いた。

 

「ちょっとそこ! わたくしの梨璃さんから離れなさい!」

 

 楓・J・ヌーベル。グランギニョルの総帥を父に持つ優秀なリリィで、昨日のヒュージ騒動の際に、梨璃に二重の意味で落とされたガチ百合のリリィである。

 

「またあなた? ターゲットは夢結様かと思ったら……とんだ尻軽さんね」

 

「運命の出会いがありましたの。この私が抗えないほどに、劇的な」

 

「ほほぉう? その運命のお相手とやらは、それほどでもないようだけど?」

 

「ふえ?」

 

 その間にも、亜羅椰は右手を梨璃の頬まで持っていき撫で始める。

 

「梨璃さんも少しは抵抗なさい!」

 

(…………リリィって、みんなこうなのかな?)

 

 んなわけあるかい、と一応突っ込んでおこう。亜羅椰は、梨璃の体から一旦離れると楓の元に近づく。

 

「もし、梨璃さんが本当に運命のお相手と言うなら、きちんと縛り付けておかないと────」

 

 ────喰っちまいますわよ? 

 

 楓の顔を覗き込み、堂々と宣戦布告。

 

「ご心配なく」

 

 しかし、楓は別に苛立ちもしないで亜羅椰の肩に両手を置いた

 

「梨璃さんとわたくしはそんなやわな関係では──────あら?」

 

 居ない。楓が亜羅椰を押し退けて梨璃の元へ行こうとしたが、そこに肝心の梨璃は居らず。楓の反応を見て後ろを見た亜羅椰も「ん?」と思わず声を上げてしまった。

 

 そして、肝心の梨璃は二人の横を気配を殺して走り去っていた。

 

「梨璃さん!?」

 

 居なくなったことに気づいた楓が声を上げた。

 

 そして、そこを偶然通りかかった悠斗。

 

「…………お前ら何してんの?」

 

 トイレの前で放心している二人を見れば、当然その第一声が出てくるだろう。

 

「あら、悠斗」

 

「と、殿方ですの!?」

 

 当然、中等部から居る亜羅椰にとって、悠斗は既に百合ケ丘では公然の認識なのだが、楓は高等部編入組なので、悠斗のことは知らない──ーというか、悠斗のことについては全力で理事長代理が情報を塞いでいる。全ては、G.E.H.E.N.A.に存在を知らせないために。

 

 悠斗の姿を見つけた亜羅椰は、すぐさま悠斗の隣に移動すると、するりとさも当然のように悠斗の腕を抱き締め、他者よりも数段成長している女性の象徴を惜しげも無く押し付けた。

 

「…………おい亜羅椰。少しは自重したらどうだ? 一応俺、この人と初対面なんだけど」

 

「い・や・よ。それに──ーほら、向こうの反応が面白いじゃない?」

 

 と、亜羅椰が顎でクイッと楓を示すと、そこには顔を真っ赤にして指をプルプルと震えさせている楓の姿が。

 

「は、ハレンチですわっ! 人の腕に抱きつくなんてハレンチですわ!」

 

 今現在、楓の頭に特大ブーメランがぶっ刺さった。昨日の行動をお忘れなのだろうかこのぽんこつお嬢様は。

 

 このままじゃ妙な誤解をされたままだなと一瞬で結論付けた悠斗は、しっかりとホールドされている亜羅椰の手──ーではなく、手首をグリン! と動かして亜羅椰の脇腹を掴んだ。

 

「! ひゃあん!?」

 

 突然の刺激でびっくりした亜羅椰の一瞬のスキをついて腕を解放。それに気づいた亜羅椰は少しは顔を赤らめさせてブーと頬に空気を入れた。

 

「コホン、申し遅れたが、浅野悠斗だ。一応この百合ケ丘にはやむをえない事情があってここに居る。1年生だ。同じクラスになったらよろしく」

 

「……こ、こほん! 楓・J・ヌーベルと申します。よろしくお願い致しますわ、悠斗さん」

 

 きちんとした挨拶には挨拶を、握手には握手をの精神の元、楓は差し出された悠斗の手を嫌な顔ひとつもしないでそれに応じた。

 

「もう! その女ばかりじゃなくて私も構ってよ!!」

 

「ちょ! バカっ! 今挨拶中だから抱きつくのやめろ!!」

 

 自分以外に視線に行っている。アールヴヘイムのみんなにならまだ何となく許せるのだが、別の女に悠斗の視線が向くのには納得いかない。意外と可愛らしい嫉妬を顕にした亜羅椰が、悠斗の背中にダイブした。

 

「ちょ……ごめん、楓さん。今から俺はこのわがまま姫の機嫌取ってくるから……また後でゆっくり話せると嬉しいな」

 

「えぇ、機会がありましたら是非」

 

 くるん、と一度振り返って亜羅椰のことを米俵のように持ち上げた悠斗は、首だけを回して楓に向かって笑って言った。楓もそれに応え、悠斗と担がれてる亜羅椰の姿を見送った────あ、おんぶになった。

 

「……不思議な殿方ですね、悠斗さん……さて! わたくしも梨璃さんを探してあんなふうに……ぐふふ、どこに居らっしゃるんですの! 梨璃さーん!!」

 

 …………おい、ご令嬢。




亜羅耶可愛くない?書いてて思ったわ。


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幕間―――遠藤亜羅椰との邂逅ーーー

 最初は、唯一の男だからという点で興味はあったが、それも一瞬だけで彼女の性格、性質上でそんなに頭の中には残らなかった。

 

(ヒュージに寄生され、その上でリリィとしての才能も開花させた男……ま、別に興味はないわねぇ)

 

 とあるリリィが死んで、話題となり、後に甲州撤退戦という名前になった戦闘の際に、運悪く命を失い、そのせいでヒュージに捕食され、寄生されてしまった男。

 

 その程度の認識だった。彼女────遠藤亜羅椰にとって、浅野悠斗とはその程度の認識だったのだ。

 

 そんな彼女が悠斗に初めて本格的に興味を持ったのは一年後。ようやく悠斗も百合ケ丘の雰囲気に若干慣れ、女子の友人もそこそこにでき始めた頃────なんと、亜羅椰が密かに狙っていた田中壱と江川樟美と何やら楽しそうに談話しているではないか。

 

(……なになになに? なに&なになのよあの光景……)

 

 普段、悠斗が女子と喋る際、彼を救った番匠谷依奈と天野天葉以外の女子とは対面でそこそこ距離を離してから話しているイメージが強かったのだが……! 

 

(昨日を境に、何をどうしたらあんな両手に花状態になっているというのよぉ!)

 

 亜羅椰の心の声と同様に、カフェテラスにいた他のリリィ達もその姿を好奇心旺盛な目で見つめていた。

 

「それでね、兄さま。私、まだまだ食べてもらいたい手料理が──ー」

 

「悠斗悠斗、私もこの前手料理に挑戦したんだけど────」

 

「待て待て、俺は聖徳太子じゃないんだなら一人ずつ……な?」

 

 隣同士────というより、壱と樟美は既に悠斗に密着しているし、樟美に至っては何故か悠斗のことを兄さまと呼んでいるし、壱に至っては下の名前で呼んでいる。

 

 亜羅椰には分かってしまう。あれは、好きな人を狙っている目だとハッキリと分かってしまう。なぜなら、亜羅椰だって壱と樟美を見る時はあんな目になってしまうから。

 

 男を掴む時は胃袋から。それをしっかりと実践しようとしている二人。突然、亜羅椰は嫉妬をした。

 

(許さない……許さないわ! 浅野悠斗!)

 

 亜羅椰的には取られた(別に壱と樟美は亜羅椰のではない)と勝手に思っており、樟美に関してはこの前までとある事件によってクラスメイトからいじめを受けていたので、隙を見て優しくすれば勝手に堕ちてそのままぐふふまで持ち込んでいけると、そう思っていたのに。

 

 だから、亜羅椰は悠斗と接触をした。悠斗と接触をして、仲良くなれば壱と樟美に近づけるから。そう思った。

 

「ごきげんよう」

 

「ん?」

 

 一人になるタイミングずっと見計らい、中庭にて猫と戯れていたので声をかけた。

 

「君は?」

 

「遠藤亜羅椰と申します。実は、貴方には興味があって、いつ声をかけようかとずっとタイミングを見計らっていたのですわ」

 

「…………ふーん。ま、それでもいいけど」

 

 どっこい、と猫を持ち上げた悠斗。猫を顔の辺りまで持っていった。

 

「僕は浅野悠斗だにゃあ、よろくしだにゃあ」

 

「…………一体何をしているのかしらぁ?」

 

 その光景に、思わず亜羅椰は呆れた目を向けてしまった。にゃあ、と猫の呑気な声が響いた。

 

「ね、遠藤さん。俺の事は当然知ってたよね?」

 

「勿論よ、ヒュージに寄生されて生き長らえてしまった哀れな少年。そう説明されたわ」

 

 世間一般には隠している悠斗の存在だが、百合ケ丘の生徒にはしっかりとその事情も知らせてある。リリィのみんなは心優しいので特に拒絶されずに受け入れてくれたのは悠斗にとってもありがたかった。

 

「寄生されたせいでさ、色々と身体も強化されて、マギも扱えるようになったんだけどさ…………視線にも敏感になったんだ」

 

 猫を持ち上げるのをやめて、胸辺りで抱きしめた。

 

「君は、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「っ!?」

 

「ああやってやればよく見える。君の瞳は、俺を写してはいない」

 

 猫を下ろして、悠斗は亜羅椰へと近づく。亜羅椰はその謎の威圧に押され、1歩ずつ下がってしまうが、それをよしとしなかった悠斗に、一気に距離を詰められた。

 

「っ、キャッ!?」

 

 足払いをされ、右腕を掴まれながら地面に尻もちをつく。足の間に膝をつかれ、亜羅椰の顎に悠斗の右手が添えられた。

 

「別にいいよ。打算があって俺に近づくのは。俺だってみんなと仲良くはしたいし、これからも親交を深めたい。そう思っているけど────」

 

 驚く程に近い距離、亜羅椰は悠斗の目から逸らさずには居られなかった。

 

「俺の大切な友人に手を出すなら、いくら同じリリィでも、俺は容赦しないよ」

 

「あうっ」

 

 バチコーンと、優しくデコピンをおでこに喰らい開放された亜羅耶。

 

「それじゃあね、遠藤さん。次話しかけてくる時はちゃんと俺を移してからおいで」

 

 立ち去っていく悠斗に、にゃーと先程まで戯れていた猫がその後を負い、上手く悠斗の体を上り頭の上に収まった。それを最後まで見届けた亜羅椰、咄嗟に自身の体を抱きしめる。

 

「っ!?」

 

 頬は紅潮しており、呼吸も少し早い。彼女の状態を表すのならば、『ゾクゾクした』という表現が正しいだろう。

 

 元々Mっ気もあった亜羅椰だ。先程強引に押し倒され、迫られた悠斗に、どれだけ自分が女が好きだと言っても、女の本能を刺激されれば否応にも意識せざるを得ないだろう。

 

 だから、亜羅椰は()()()と思った。もっとあんな視線で見つめられたい。もっとさっきみたいに強引に迫られたいと。

 

「浅野、悠斗」

 

 名前を出すだけで、身体が熱くなり、顔自体にも熱がたまる。

 

 あぁ、これは────

 

「ゾクゾク、しますわぁ」

 

 その夜。百合ケ丘のリリィが寝泊まりしている寮から少し離れた一軒家──ー悠斗の為に作られた家で、とある男の悲鳴が響き、偶然悠斗とお茶をしようと近くに居た理事長代行が慌てたそうな。




亜羅耶ちゃんSっ気と一緒にMっ気もあると思うのよね(願望)。


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五話

 わがまま姫の機嫌を取るために、とりあえずアールヴヘイムの控え室に移動した悠斗達だったが、そこには壱と依奈が談笑していた。

 

「あら、どうしたの? 二人とも」

 

 既に亜羅椰が悠斗に甘えておんぶをしている姿はアールヴヘイム内では慣れている。慣れていると言っても、多少心にモヤッとしたものが浮かび上がり、後々それがどんな形で悠斗に向かうかは知らないが。

 

「わがまま姫が構え構えうるさいから、こうしてご機嫌取りですよ依奈様」

 

「亜羅椰ー、あんまり悠斗に迷惑かけたらダメだってば」

 

 と、依奈の奥から壱が亜羅椰に注意を飛ばすが、悠斗の背中から降りた亜羅椰は、プクーとまた頬を膨らませてから悠斗の腕に抱きついた。

 

「だって、悠斗ったら私やアールヴヘイムが居ながら、他の女にまで色目を使うんだもの」

 

「おい待て、俺がいつアールヴヘイムの皆と楓さんに色目を使った」

 

 あからさまに身に覚えがないの事を言われ、亜羅椰のセリフを拒否する。

 

「そもそも、俺と楓さんなんて初対面だし、この体になってから俺には性欲というものは消えている。一度死んでるしな」

 

「もったいない。こぉんなに百合ケ丘には美少女が多いのに……」

 

「そもそも、俺が百合ケ丘の誰かに手を出した瞬間、一発で懲罰室行きな、一生」

 

「ま、厳しいから仕方ないもんねぇ~」

 

 と、依奈がソファの背もたれにだらりと背中を預ける。

 

「そもそも、あんなにアプローチ受けてるのに顔色変えないということから既にお察しよね。1ミリも出れてくれないもんこの子」

 

「…………なんかすいません」

 

 ジトーと見つめる依奈の視線に少しだけ気まずくなった悠斗。当然、悠斗は依奈、壱、樟美、天葉達の気持ちにはバッチリと気付いている。亜羅椰なんて寝込みを襲ってきたから疑う余地もない。

 

 勿論、悠斗にとってアールヴヘイムの皆は大切な人だし、ふとした仕草でドキッとはするがそれだけ。一度死んだからなのか、ヒュージに寄生されているからなのかは知らないが、それ以上の感情を持つことが出来ないのだ。

 

 簡単に例をあげるとするならば、魔法〇高校の劣〇生の司〇達也状態である。

 

「いーのいーの別に…………いざとなったら既成事実を無理やりにでも作って逃げさせないようにするから」

 

「………………」

 

 依奈の恐ろしい発言に悠斗は冷や汗をたらりと流して顔を背ける事しか出来なかった。

 

「依奈様依奈様。その時は私も一緒に」

 

「えぇ、アールヴヘイムの皆で悠斗を分け合いましょうね。ただし、亜羅椰は除く」

 

「ちょ!? 依奈様ぁ!」

 

「悠斗一途になってから出直してきなさい!」

 

「…………………………」

 

 悠斗は冷や汗をかくことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……うん、まぁ何があったかは聞かないでおくわ」

 

「兄さま、大丈夫?」

 

 と、現れた悠斗の姿にあははと乾いた笑みを浮かべる天葉と、とてとてと近づいていく樟美。

 

 練習場にて合体技を練習していた天葉より、練習相手になってくれないかとの連絡をこれ幸いと思い逃げ出した悠斗。近づいて心配してくれる樟美がものすごく天使に見えた。

 

「……いつもありがとな樟美。お前は俺のオアシスだよ」

 

「んっ……」

 

 と、めちゃくちゃ憔悴しきった顔で樟美の頭を撫でる悠斗。嬉しそうにそれを甘受する樟美は、気持ちがいいのか目を細める。

 

「ほらほら、甘えるのもいいけど樟美。今は訓練の方優先よ。甘えるのは後にしなさい」

 

「分かりました、天葉姉さま」

 

 と、悠斗の手を離れて天葉の元へ向かう樟美。当然、両者の手にはCHARMが握られており、悠斗の手にも依奈のと一緒に直したユニークCHARMである『アロンダイト』が握られている。

 

「いつも通り、先に一本決めた方が勝ちね。あなた達ー! 見学するのもいいけどできるだけ離れて見てね! 危ないからー!」

 

「は、はいいい!!」

 

 と、天葉が目を向けた先につられて悠斗も目を向ける。そこには、今朝あった楓と、梨璃と、工廠科に所属しているミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウスまでなら見覚えはあるが、もう一人は悠斗は見たことがないので、高等部一年からの入学組だろうと当たりをつけた。

 

「それじゃあ、やりましょうか」

 

「お、男の人!? 百合ケ丘になんで男の人が居るんですか!?」

 

「なんじゃ二水。お主悠斗のことは知らんかった────ってそうだったのじゃ。悠斗は機密の存在じゃから、知らんくても無理はなかろう」

 

 と、先程天葉に注意された四人組のうち、鼻血が出てしまい鼻を抑えていた二川二水(ふたがわふみ)は、悠斗の事を慌てて指を指していた。

 

「男の人ってここに居てもそもそも大丈夫なんですか!? それに楓さんはなんでそんなに動揺してないんですか!? そもそもあのCHARM色々と変じゃありませんか!?」

 

「落ち着くのじゃ。そんなに一気に聞かれてもわしにはこたえられんぞ」

 

「わたくしは既に合いましたので」

 

「私の反応がおかしいんですかぁー!?」

 

 いや、二水の反応は決しておかしくないだろう。各ガーデンに所属しているリリィの名前はデータベースに乗っており、誰でも調べることが出来るが、二水の記憶では男のリリィなんてのは見たことも聞いたこともない。それはリリィオタクである二水が一番分かっているだろう。

 

「少し静かにしておれちびっこ。今から珍しいもんが見れるぞ」

 

「ちびっ子にちびっ子って言われたー!?」

 

 やいのやいのと騒がしい中、梨璃は先程現れた男の姿をじっと見る。

 

(…………あの人、どこかで)

 

 

「行くわよ悠斗。負けたら私に膝枕なさい!」

 

「なら、私は兄さまに腕枕されながらお昼寝したいです!」

 

 と、欲望を言いながらCHARM片手に突っ込んで行く二人。悠斗はその姿を冷静に見ながら、通常のCHARMよりも1.5倍程長い刀身のアロンダイトを構えた。

 

「悠斗のCHARMはいわゆるユニークCHARMと言うものでの、悠斗が自分自身のために作ったCHARMなのじゃ」

 

 ジャリ、ジャリ、ジャリ、と聞き慣れない音が聞こえる。

 

「フッ」

 

 悠斗がCHARMを振る。まだ二人とは3メートルほどの距離があるのに、ガキン! と重なる金属音が聞こえる。

 

「……っ、いつ見ても反則!」

 

「兄さま、ずるい!」

 

「ずるいも何も、俺以外扱えないだろこんなの……」

 

 じゃらんじゃらんと音を立てながら()()()()()。悠斗がヒュージに寄生されているからこそ、できる芸当。

 

「蛇腹剣アロンダイト。あんな頭が疲れるCHARMは、悠斗にしか使えないのじゃ」

 

 分割された刀身がマギによって空中に浮き、悠斗を守るように展開した。




ぐろっぴはいつから百合ケ丘にいたのか調べてもわからなかったので、とりあえず中等部からいることにしました。


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幕間―――江川樟美との邂逅―――

 少女──ー江川樟美と浅野悠斗との出会いは偶然であった。

 

 当時、中学三年生だった江川樟美は、とある事件のせいで周囲の信頼を失い、ルームメイトである田中壱と絶縁状態にあり、いじめにあっており、一時的な処置として、少し訳ありなリリィが寝泊まりをしている特別寮にいた。

 

 とある夜の日。同じ特別寮におり、一時的なルームメイトである上級生、天野天葉を目を盗んで彼女は特別寮を歩いていた。

 

 ──―眠れない。

 

 それは、不安からか。はたまた恐怖からか。天葉が献身的に樟美の心を癒しているのでだいぶマシになったのだが、樟美は久しぶりに虐められている夢を見てしまった。当然、眠れる訳もなく、ぐっすり眠っている天葉にも頼ることは出来ない。

 

 だから、樟美は歩く。眠れない夜を過ごすために、宛もなく、ただただ一人で。

 

「……あ」

 

「ん?」

 

 そんな時、樟美は見かけてしまった。特別寮の中庭にあるベンチで一人、月を見上げている少年の姿を。

 

「……こんな時間に何してるの? 江川さん」

 

 浅野悠斗。当然、樟美もその名前を知っている。甲州撤退戦にて命を落とし、ヒュージに寄生されてしまった少年。

 

 同じクラスだし、人が少ないという理由でまだまだ一時的に特別寮に住んでいるという噂は知っていたが、まさかこんな所で会うとは思わなかった。

 

「……ふーん、恐怖と不安……何やら面倒なことを抱え込んでいるようだ」

 

 ドキリとした。同じクラスではあるが、殆ど教室に居ない彼が、なぜ私の状況を知っているのだろうと。

 

「おいで。溜め込むより、誰か知らない人にぶちまける方がよっぽどいい……最近、ハーブティーにハマってるんだ。もし良ければご馳走をしよう」

 

 ほとんど初対面と言ってもいい少年。別に、樟美には話す義理なんてどこにもないんだが…………。

 

『ほら、樟美。安心して私にぶちまけていいからね』

 

 どこか、雰囲気が天葉に似ていることもあり、樟美の足は自然と優斗の元に向かっていた。

 

 とんとん、と自身の隣に座るように促された樟美は、ちょこんと座ると、いい匂いが樟美の鼻腔をくすぐる。不思議に思ってそちらを見ると、何故か準備してあったティーカップに、悠斗がハーブティーを入れていたからだ。

 

「カモミールが入っている。心の緊張や不安を鎮めさせる効果があるそうだ」

 

 どうぞ、と言われ恐る恐る受け取り、ゆっくりとそのハーブティーを口に持っていく。

 

「……美味しい」

 

「そっか。他人に淹れるのは初めてだったから、少し嬉しいよ」

 

 と、悠斗は樟美に向かって優しく笑った。一般的に見れば、現時点の悠斗はイケメンと言っても差し支えない。月明かりも相まって、何やら余計に神秘的に移り、樟美はプイッと顔を逸らした。

 

「…………さて、さっきはぶちまけてもいいなんていったが、別に今、無理してぶちまけなくていいぞ」

 

「……え?」

 

 少し呆け、樟美の頭になにやらポンッと優しく重さが乗る。

 

「少しずつ、江川さんのペースでいい。言えると思ったら、俺に好き放題、全部ぶち負ければいい。汚いのも、醜いものも、全部含めて受け止めてやる」

 

「…………~~~っ!」

 

 撫でられていること気づいた樟美が、慌てて悠斗から距離を取った。

 

「……っ、も、もう戻ります!」

 

「うん、おやすみ。江川さん……もし良ければ明日もおいで。美味しいハーブティーをご馳走するよ」

 

 慌てて部屋へ戻った樟美は、天葉を起こさないようにゆっくりとベッドに潜る。すると、先程まで冴えていたのに今はゆっくりと眠気が襲ってきた。

 

 その日は、悪夢は見なかった。

 

「いらっしゃい、江川さん。今日は何がいい?」

 

 翌日。樟美は今日も眠れず、気づいたら悠斗の元へ向かっていて、隣にちょこんと座る。

 

 ハーブティーを飲んで、少しお話して、頭を撫でられて、恥ずかしくなった樟美が部屋に帰る。それも数日も続けば、それも心地よくなってきて、樟美の中で知らない感情が育っていくのも感じる。

 

 天葉に思う、敬愛とも違う感情。その想いに気付かないふりをしながら、ついに樟美は現在の自分の状況をぽつりぽつりと話し始める。

 

 ぐちゃぐちゃで、酷いことを沢山言ったような気がする。もしかすると、こんなことを言った悠斗に絶望されでもしたら、悲しい。そんなことを思いながら全て吐き出した。

 

 そんな、悠斗の反応は──────

 

「……大変だったね」

 

「っ!」

 

 拒絶でも、肯定でもなく、受け入れるだった。

 

「わた……わたっ、私……」

 

「今は何も考えなくていい」

 

 樟美の体が悠斗に包まれる。ゆっくりと頭を押さえつけられ、顔が胸にあたる。

 

「安心して、全部吐き出して…………泣いていいよ。()()

 

「! ……うっ……あぁ……!!」

 

 その日、一人の少女の鳴き声が中庭に静かに響いた。それを隠れてみていたどこぞのお姉様がフッと笑った後に、欠伸をしながらその場を後にした。

 

「落ち着いた?」

 

「……うん、ありがとう兄さま」

 

「…………ん? 兄さま?」

 

「…………ダメ?」

 

「全然ダメじゃない」

 

「…………えへへ」

 

 首を傾げる樟美の前には、流石の悠斗も断りきれなかった。

 

 もちろん、樟美が教室で悠斗を見つけて突貫し、悠斗のことを『兄さま』と呼んだ日は、クラスの全員があんぐりとしていたそうな。




後方腕組御姉様の天葉様。

結局、樟美が起こした周りの信頼を無くすような事件ってなんなのよって話。調べても見つかんないんだなも。


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六話

実は眞由理様も中々お好き←ここ重要


 ジャランという音が聞こえる度に、天葉と樟美の警戒意識レベルは最大にまで引き上げられ、かつてギガント級のヒュージと戦った時以上に2人の集中力は上げられており、ガキン! と火花を散らす。

 

 もちろん、相手を務めているのは蛇腹剣をまるで自身の手のように自由自在に操る悠斗。彼が一度腕を振るえば、一つ一つに分かれた刀身がまるで意識を持ったように四方八方から二人に襲いかかる。

 

 なぜ彼が、こんなにも扱いがムズい蛇腹剣を平気な顔をして扱っているのかと言うと、それは彼がヒュージに寄生されているからだ。

 

 ヒュージは、機械の触手みたいな腕を変幻自在に操ることが出来、悠斗自身も普通のCHARMは扱いきれなかったため、悠斗がこれなら行けるんじゃねー? 的なインスピレーションだけで適当にCHARMを作ったら出来た奴である。

 

 天葉と樟美は、悠斗の半径5m以内に近づくことは出来ず、防戦一方。それは唐突に終わりを告げた。

 

「あっ……!」

 

「樟美────っ!!」

 

 樟美の声に一瞬気取られた一瞬のうちに、悠斗は腕を振って刀身を回避すらもするさない目の前に置いた。

 

「チェックメイト、ですね」

 

「…………はぁー、負けた負けた。ほんとどういう性能してるのよ、そのCHARMは」

 

 張り詰めた空気を流すように天葉が長く息を吐く。天葉の降参の声を聞いたので、悠斗もアロンダイトを一つに戻すと、CHARMをぶっ飛ばされ、尻もちを着いた樟美の元へ向かう。

 

「ほら、立てるか? 樟美」

 

「うん……けど疲れた」

 

 樟美に手を伸ばすと、それを掴んできたのでゆっくりと樟美を立ち上がらせる。

 

「流石兄さま」

 

「お見事。勝者の権利として、私と樟美を好きにしてもいいわよ?」

 

「しませんから」

 

 樟美の肩を抱き寄せて笑う天葉に、溜息を吐く悠斗。仮に手を出したとしても、悠斗のその後の人生は一生牢屋の中である。

 

「ま、冗談半分は程々にしておいて」

 

(半分本気だったんだ、天葉姉さま)

 

「あなた達ー。念の為に聞くけど怪我とかしなかったー?」

 

 くるん、と天葉は首を回すと、後ろに居た四人を見つめた。

 

「…………あ、はい! 大丈夫ですぅ!」

 

 返事をしたのは二水だった。他の3人は圧倒されており、現実に戻って来るのが少し遅れた。

 

「そっか、それなら良かった」

 

 と、天葉はニコリと笑うと樟美と悠斗を促し始める。

 

「さて、一応私と樟美のCHARMの方診てもらっていい? さっきの訓練でかなり消耗してる気がするから」

 

「そうですね、かなり本気でしたから見る必要があるかもですね」

 

「それなら私、今から料理作ってきますね兄さま、天葉姉さま」

 

 一度火がつくと止まらないし、CHARMのメンテには時間がかかることを知っていたので、お昼も近いこともあったので樟美はそう提案した。

 

「あ、じゃあお願いしていい? 代わりにCHARM持ってってあげる。悠斗が」

 

「俺? まぁいいけど」

 

「ありがとうございます、兄さま」

 

 敬愛+大好きな人に手料理を振る舞えるという嬉しさから、ピコピコと髪の毛が動いた。

 

「それでは、直ぐに作ってきますので、兄さまの工房で待っててくださいね」

 

「はーい、行ってらっしゃーい」

 

 と、ニコニコと天葉が手を振り、姿が見えなくなった瞬間、天葉は悠斗との腕に腕を絡めた。

 

「天葉様?」

 

「いいでしょ? 最近、悠斗に甘えられなくて私も色々と限界だったのよ?」

 

 片手はCHARMでふさがっているが、片手でだけでもできるだけ近くに居たいと、触れ合いたいと体を密着させる。

 

 ふわり、とフローラルな香りが悠斗の鼻腔をくすぐり、少しだけ心臓が早鐘を打つがただそれだけ。想いを寄せてくれているのは嬉しいが、それに応えられないことに悠斗は罪悪感を覚えていた。

 

「……ごめんなさい、天葉様」

 

「ん? どうして悠斗が謝るの?」

 

「だって、俺はこんなだから……天葉様達の気持ちは分かっているのに応えられない…………それがとても嫌なんです」

 

「ふーん……ま、別にいいよ? 今はまだそれでも」

 

「え?」

 

「だって、悠斗がそこまで悩んでくれるのって、私達のことを大切に思っているからでしょ? 違うの?」

 

「……いえ、違わないです。俺は、天葉様達のことがとても大切です」

 

「だったら、今はそれでいーの。大切に思われてるって分かっただけでも、私は充分だしねー」

 

 えへへ、と言ってすりすりと悠斗の腕に頬を擦り付ける天葉。

 

「あー…………すっごい今悠斗成分が補給されているわ。最近不足気味だったから」

 

「ふふっ、なんですかそれ」

 

「知らないの? アールヴヘイムの原動力になっている悠斗から漏れ出る成分のことなんだ。これがあれば、毎日樟美のフェアリーステップが見れるよ」

 

「それこそなんなんですか」

 

 と、二人は身を寄せ会いながら学園の地下へと向かった。

 

(…………昨日のお礼を言いたかったが、何やら邪魔できる雰囲気じゃなかったな…………羨ましい)

 

 それを、柱の影から覗く眞由理の殺気が悠斗を貫いて、悠斗がびっくりしたのはまた別の話である。



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七話

 バチン! 

 

 夕暮れの百合ケ丘。天葉達のCHARMのメンテナンスを終えた悠斗は一人、散歩がてら廊下を歩いていたら、どこからか誰かがビンタをした音が響いてきた。

 

 ────なんだ、喧嘩か? 

 

 もしそうであるなら止めねばならない、という思いから足音を消して音の発生源へ向かっていく悠斗。間髪入れずにもう一度、先程よりも強いビンタ音が聞こえたので少し足を早めた。

 

 ────ここか? 

 

 そろーっと廊下の角がからこっそり見ていると、またもや見覚えのある顔が悠斗の目に入る。

 

 ────あれは、白井様と楓さん……に、さっき訓練場にいた二人か。

 

 見れば、どうやら楓が手を振り抜いているのを見て、夢結のことを思いっきりビンタしたに違いない。しかし、楓の頬も片方赤くなっているので、先に手を出したのは夢結の方であると推測できた。

 

「シュッツエンゲルとは、そういうものではないはずですわ!」

 

 楓の声が響く。

 

「互いを愛し慈しむ心を、世代を超えて伝えるもの! 単純な目先の利益を求めるものでは無いと聞いていましたが、違いますか! あなたのようなすっとこどっこいには、むしろ梨璃さんのような純粋なお方が必要ですわ!」

 

 悠斗は、目を見開かせて楓を見る。あの白井夢結に、そこまで言いのけた人を初めて見たからだ。

 

 それを聞いた夢結は、一瞬何を悩んだか拳を握ろうとしたがすぐに辞める。

 

「そうね、分かったわ」

 

 ポソりと呟く夢結。

 

「……分かったとは?」

 

「申し出を受け入れます」

 

「え?」

 

 なんの事か分からない梨璃は声を上げる。

 

「私が梨璃さんの守護天使、シュッツエンゲルになることを受け入れましょう」

-

 

「夢結さま…………」

 

 それを聞いた悠斗はさらに目を見開からせた。

 

「少しスッキリしたわ、ありがと」

 

 予想外の返事を受けて固まる楓。

 

「楓がさんって、案外いい人だったんですね! 私、見直しました!」

 

 何やら余計なものが混じっていた気がしたが、二水は純粋に楓のことを褒めた。

 

「あぁー!! わたくしってばなんてことを~~!!」

 

 まぁ、本人はそれどころではなさそうなのだが。

 

「……梨璃さん」

 

「は、はい!」

 

 なにやらまだ騒いでいる二人を放っておいて、梨璃の方向へ目を向けた夢結。

 

「後悔のないようにね」

 

「……! はい! 絶対しません!」

 

 と、喜ぶ梨璃だったが、夢結の目は、未だどこか悲しそうにしていた。

 

 しかし、それを表したのも一瞬のこと。夢結は一度ふぅと息を吐くと後ろに────正確には、悠斗が隠れている廊下の角を見た。

 

「それで、そこに隠れている人はいつまで居るつもりかしら」

 

 ────んげ。

 

 バレテーラ、と思いながら悠斗はスっと諦めて身を出した。

 

「あ、あはは……ご、ごきげんよう白井様……その、お久しぶりです……ね」

 

「男の人ぉ!?」

 

「あら、悠斗さん見てたんですか?」

 

「覗きとは、随分と悪趣味ね」

 

「いやいや、あそこで俺は身を出せるほど勇気は持ち合わせていませんし、ここに俺がいたのもビンタの音が聞こえたからです」

 

 結構響くんですよ、と悠斗が言うと楓が気まずそうに目を逸らした。

 

 さて、もう一度言うが、悠斗は夢結のことが苦手である。原因はあの日、悠斗がヒュージになってしまった甲州撤退戦のせいである。

 

 あの日、悠斗が殺されてしまった日、夢結がいた事も当然覚えており、百合ケ丘に保護された時は夢結にお礼を言おうと探していたこともあった。

 

 だがしかし、既に夢結は感情を無くしており、当の記憶も勿論覚えていないの一点張りで、更には近づくんじゃないわよのオーラで木っ端微塵に心が打ち砕かれた思い出がある。

 

 だから、悠斗は夢結に対して一種のトラウマを持っており、無意識の内に、夢結のことを恐れているのである。

 

 だがしかし、顔を合わせれば挨拶はするぐらいの仲にはなってはいるのだが。

 

「そう、ところで、どうしてあなたは私からジリジリと遠ざかろうとしているのかしら」

 

「え、そんなことはないは────ー」

 

 いや、ガッツリと下がっていたのだが、その悠斗の手をパシンと掴む手が一つ。悠斗がゆっくりと目を向けると、そこにはいつの間に近くに来ていた梨璃の顔が。

 

 至近距離で目と目が合う。そのことに楓が何やらまた暴れだしそうだが、パチクリと二度ほど瞬きをした瞬間、悠斗の記憶が刺激された。

 

「────ーあ」

 

「みつけ、ました」

 

 悠斗がその少女のことを思い出したことと、梨璃の呟きは同時。

 

 そう、なんと目の前に居た少女は、あの日、悠斗が命懸けで守ったあの少女だったからだ。そう考えれば、リリィ新聞を見た時に一瞬引っ掛かったのは充分に説明できた、

 

 その事を思い出した悠斗は、クスリと自然に梨璃へと笑いかけた。

 

「良かった。どうやら無事だったよ──────」

 

「無事で良かったですぅぅぅぅ!!!」

 

「──うだってええええ!?」

 

 感動の再会と言えるだろう。あの日、命を懸けて守った少年と、命を守られた少女の邂逅。本来ならばお涙頂戴な雰囲気なのだろうが、悠斗はなぜ、この少女に泣かれながら抱きつかれているかの訳が分からなかった。

 

「……これどういう状況ですの?」

 

「分かりません」

 

「私……っ! 私ぃ!! ずっと、あなたを……守ってくれたあなたを探していたのに見つからなくてぇ……!! 死んだんじゃないかと思ってぇ!!」

 

 えぐえぐと悠斗の胸で大号泣をする梨璃。どうやら、悠斗がザックリとヒュージに胸を突き刺された場面を見ていなかったようだ。思いっきり突き飛ばしていて良かったと……ついでに、梨璃が夢結に助けられていた際に、悠斗に背中を向けていたことも言わばラッキーだったのだろう。

 

「うぇぇぇ!! どうしてここに居るかは分からないですけど良かったですぅぅぅぅ!!」

 

「あぁ……うん、まぁ、無事じゃなかったけど……うん……ちゃんと生きてるよ」



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八話

「わぁぁぁ!!」

 

 梨璃と再会してから次の日。泣きまくる梨璃を何とか宥め、積もる話も色々とあったのだが、それは後々ということにした悠斗。とりあえずはお互い名前で呼び合うことに決め、連絡先も交換した二人。

 

 そんな悠斗なのだが、何故か朝っぱらから夢結と梨璃のティータイムにお邪魔しているのだった。

 

 そんな梨璃は、とある紙を目の前まで持ち上げ、目をキラキラとさせている。

 

 その紙には、夢結と梨璃の名前が書かれていた。

 

「これで私、夢結様とシュッツエンゲルになれたんですね! ね! 悠斗くん!」

 

「お、おう、そうだな…………」

 

 未だになぜ呼ばれたのか分かっていない悠斗は、その梨璃の表情を見てそこまで喜ぶのか……? と疑問に思っていた。

 

「夢みたい…………嘘みたいです……」

 

 と、夢見心地気味に呟く梨璃。しかし、夢結はそんな梨璃の言葉を無視するかのように紅茶を飲んだ。

 

「早く、私も夢結様や悠斗くんと一緒に戦いです……あ、でも、私。初心者すぎて何のレアスキル持ちかもわかんないんですよ。あはは……」

 

 と、頬をかきながら苦笑いをする梨璃。会話が続かない……というよりも、夢結がだんまりすぎて空気が少し気まずいので、今すぐ悠斗は逃げ出したかった。

 

「あ、二水ちゃんは、鷹の目というスキルらしいです!」

 

 レアスキル、鷹の目。空から地上を見下ろすように俯瞰視点で状況を把握するという空間把握のレアスキル。単なる異常視力ではなく、まるでチェスや将棋のように状況を把握することができる。戦場マップを確認せずとも的確な判断が可能になるレアスキルである。

 

「高ーいところから物事を見渡せるって──―そうだ! 夢結様と悠斗くんはなんのレアスキルを──────」

 

「ルナティックトランサー」

 

「へ?」

 

 ポツリ、と夢結が呟く。

 

「それが私のスキル──ーいえ、レアスキルなんてとても呼べない代物よ」

 

 レアスキル、ルナティックトランサー。精神は正常なままバーサーク状態で戦うことが可能な危険なレアスキルである。

 

 会話を辞めてしまい、再びまたまた気まずい空気が流れる。

 

「えと……えと……そうだ! 悠斗くんはなんの────」

 

「ルナティックレッドアイズ…………白井様のよりも凶悪で、絶対に使ってはいけない奴さ…………これもレアスキル──ーいや、レアスキルの枠組みに入れることさえも甚だしい」

 

「…………悠斗くん……?」

 

 そう目線を逸らして呟く悠斗。その顔は酷く悲しみに満ちていた。

 

 そして、そんな雰囲気最悪な三人を覗く人影が二つ。

 

「朝っぱらから三人で何をイチャついてますの~!」

 

「私には、どこかぎこちなく見えますけど」

 

 当然(?)、楓と二水の二人である。楓に至っては、双眼鏡を使ってまで覗いている。

 

「……ところで、そのメモはなんですの?」

 

 双眼鏡を外し、二水の方へ振り向いた楓が聞いた。

 

「お二人のことを週刊リリィ新聞の連載記事にするんです」

 

「二人? 誰と誰ですの?」

 

「梨璃さんと夢結様です」

 

「悠斗さんは?」

 

「あの人は、既に百合ヶ丘全体で周知されてるので、あまりゴシップにしても反応はなさそうだなと」

 

「あなたもなかなか容赦がないですわね…………」

 

「それ、私も興味あるナ」

 

 そんな会話をしていた二人に、音もなく近づき、ソファの上で胡座をかいている少女が一人。二水がそちらに顔を向けると、鼻の血管がまた切れたような気がして、急いで鼻を抑えた。

 

「あの夢結をたった二日で堕とすなんてビックリダ」

 

「そりゃあ梨璃さんですもの。当然ですわ」

 

 一体何が当然だと言うのだろうか。深くは突っ込まない。

 

「…………んで、あなたは?」

 

「私は吉村・Thi(てぃ)・梅。二年生だゾ」

 

 二水が出会えたことに嬉しすぎて、顔を完全に下へ向けた。

 

 

 

 

 梨璃達に、勉強のために大型ヒュージと戦うところを見せようとアールヴヘイムの任務中にお邪魔することにした夢結。もっとも、梨璃達がいるところでは、クッキーや紅茶が準備されてたり、陽の光をカットするためのパラソルまで準備をしていた。

 

 ……本当に戦闘の前の光景なのだろうか。

 

 もちろん、悠斗も引っ張られた。

 

「ヒュージです!」

 

「あれが……」

 

 二水がレアスキル、鷹の目を用いてヒュージの接近を確認する。

 

「噂の鷹の目ですわね」

 

「よく見ておきなさい」

 

 夢結がそう呟いた瞬間、明らかに準備されていた紅茶が揺れる。そして、後ろの方からミサイルがいくつかヒュージに向かって突撃して行った。

 

「うわぁ! な、なに!?」

 

 当然、その事を知らない梨璃は驚きの声を上げる。

 

「防衛軍の攻撃だな。ぶっちゃけ意味は無いんだが……ま、苛立たせる位なら効果はあるだろう」

 

 スモール級なら頑張れば倒せるが、今やって来ているヒュージには全くもって意味は無い。当然のように防がれる。

 

「気のせいか、こっちに向かってませんか?」

 

「百合ヶ丘女学院は、リリィの育成機関であると同時に、ヒュージ迎撃の最前線よ」

 

「そ、そうか。ヒュージの攻撃をここに集中させて、周りの被害を抑えるんですね」

 

「そして、多くのリリィが集まるこの場所は、ヒュージにとっても見逃せない場所なんだろうな…………お、梨璃さん、どうやら出るみたいだぞ」

 

「遅れないでよ、皆!」

 

 悠斗が目を向けた先には、マギの力を使って大きく跳躍する天葉の姿が。一瞬、悠斗と目が合うとウインクをした。

 

「新人相手にスパルタ過ぎません? 天葉様」

 

「そんなに意地悪されたら惚れちゃいますぅ」

 

 と、天葉を見上げた壱と亜羅椰。

 

 そして、天葉の後を追うように樟美と依奈が跳んだ。

 

「天葉様は私と兄さまのだから」

 

 と、なにやら樟美が張り合う。依奈も色々と突っ込みたかっが今は我慢した。

 

「無駄口叩くな! ほら行くよ!」

 

 そして、依奈はCHARMに『ノインベルト戦術』に使われる専用のバレットをセットした。

 

「アールヴヘイムが、ヒュージにノインベルト戦術を仕掛けます!」

 

 それを、鷹の目で見ていた二水が伝える。

 

「…………」

 

 依奈を始めとし、九人で空中でマギスフィアをパスしながら、最後の一撃を思いっきりヒュージに向かってぶちかます。これにはヒュージが発生させるマギによる防御も貫通させることが出来、大きな水しぶきが上がった。

 

「…………ん?」

 

 それをしっかりと見ていたアールヴヘイムに所属していて、スーパーサブ的な立ち位置にいる悠斗。ポケットに入れてる端末が震えていたので、それを取り出してみると、一つのメッセージが天葉から届いた。

 

『誤解しないでね! 私は悠斗のものだからね!』

 

 ────なーにいってらぁ。

 

 そう思った悠斗は悪くない。

 



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九話

 そして、またまた悠斗は梨璃達に引っ張られながら、訓練室へと入っていく。今から、夢結と梨璃の訓練が始まるのだ。

 

「構えなさい、梨璃さん」

 

「は、はい! ……こうですか?」

 

 夢結の言葉に促されながら、梨璃に支給されたグングニルを構えるが、呆気なくそれは夢結に吹き飛ばされる。

 

「うあっ!?」

 

「「あっ!」」

 

「ダメだ。CHARMに全くもってマギが込められていない」

 

 本当に初心者だったんだな、と思いながら痛みに顔をしかめる梨璃を見つめる。なにかアドバイスが必要かと思うが、マギの扱いは人それぞれなので、あまり意味は無いし、そもそもそれは、シュッツエンゲルである夢結の役目である。

 

「ヒュージとは、通常の生物がマギによって怪物化したものよ。マギという超常の力に操られているヒュージには、同じマギを使うリリィだけが対抗出来る…………マギを宿さないCHARMなど、それはただの刃物よ」

 

「は、はい!」

 

「もっと集中なさい。そうすればCHARMは動く。強靭になる」

 

「…………」

 

 梨璃は、意識をCHARMに向けて、少しずつマギを流していく。すると、少しずつCHARMが光り、マギクリスタルコアが輝き始める。

 

 だがしかし────ー

 

 ガァン! 

 

「ぐあぁぁぁっ! グッ……!」

 

 しかし、夢結はお構い無しにCHARMを梨璃のCHARMへとぶつけ、吹き飛ばす。あまりの痛みで、梨璃は片膝を着いてしまった。

 

「あぁぁ!」

 

「素人相手に、なんてことを……っ!」

 

 二水が心配そうに梨璃を見つめ、楓が少し怒り気味に夢結を見つめる。しかし、二人は外野など無視して、訓練をする。

 

「もう少し粘って見せなさい、梨璃さん」

 

「は、はい……っ!」

 

 痛いはずなのに、梨璃はもう一度立ち上がり、グングニルを構える。

 

 ガァン! 

 

「うああっ! くっ……」

 

 少しばかりの足音の後に、またもやCHARM同士がぶつかる激しい音。三度しか合わせていないのに、梨璃の息は切れており、肩で息をしている。そんな梨璃を、夢結は感情が何一つも残っていない目で見つめる。

 

 ────あの目だ。

 

 悠斗は、夢結のあの目が苦手だ。同じ人間────いや、悠斗は既に人間とは言えないかもしれないが、あんなに冷徹で、何も移していない夢結の目が、悠斗は苦手だ。

 

「……軽いわね」

 

「随分と手荒い事ですこと」

 

 そして、遂に我慢できなくなった楓が待ったをかける。

 

「私にマゾっけがあればたまらないでしょうねぇ」

 

 ────そういう問題か? 

 

 ────そういう問題です? 

 

 二水と悠斗の思っていることがリンクした。

 

「夢結様のお噂は存じておりますわ。レアスキル、ルナティックトランサーを武器に、数々のヒュージを屠ってきた百合ヶ丘屈指の使い手…………」

 

「………………」

 

「トランス状態ではリリィ相手でも容赦しないとか?」

 

「おい、楓さん──ー」

 

「楓さん、それは──ー」

 

「いいんです、私……」

 

 これ以上はダメだ。そう思った悠斗と二水が楓を止めようとしたが、立ち上がる音と声によって塞がれる。

 

「私……っ! 皆より遅れてるから、やらなくちゃいけないんです……! 今度こそ、失わないためにも…………」

 

「梨璃さん……」

 

 その時に、梨璃と悠斗の視線があったような気がした。

 

「だから、続けさせてください!」

 

 

 

 

 

 

 カッポーン。

 

「あいたたた……」

 

「おいたわしや梨璃さーん。全身アザだらけですわ~。ほらここも……ここも~!」

 

「そ、そこは違いますぅぅぅ!!!」

 

 

 

 

 

 

「はぁ……私にはやっぱり解せませんわ。そこまでして夢結様にこだわることないんじゃありません?」

 

「楓さんだって最初は………………」

 

「こんな所で挫けてはいられないよ。だって、私まだ夢結様のこと、それに、悠斗くんのことだってまだ何も知らないから」

 

 グッ、と拳を握って気合を入れる夢結。そんな梨璃達に近づく影が三つ。

 

「あなたが夢結様のシルト、そして悠斗の昔馴染みね~」

 

「まさか本当にモノにしちゃうなんてね」

 

「おめでとう、梨璃さん」

 

 寄ってきたのは、壱、亜羅椰、そして樟美の三人。

 

「あ、アールヴヘイムの皆さん!?」

 

 そして、二水は慌てて鼻を抑え始めた。

 

「丁度いいですわ。教えて頂けません? 夢結様のこと。ついでに、悠斗さんのことも」

 

 ついで発言に少しだけ楓にカッチーンときた三人だが、ここでやり合う訳にはいかないので、壱達は大人しく梨璃達の隣に落ち着いた。

 

「そう言っても、中等部は校舎違うしね~。悠斗のことなら沢山喋れるんだけど」

 

「でもぉ、夢結様と悠斗の共通点と言ったら……」

 

「…………甲州撤退戦」

 

「……甲州」

 

 梨璃がその言葉に反応する。忘れるはずもない、あの夜のことである。

 

「二年前、ヒュージの大交戦にあって、甲州の大部分が陥落した戦いのことですね? 百合ヶ丘からも、いくつかのレギオンが参加したものの、大きな損害を出して、威勢を誇った先代のアールヴヘイムが分裂するきっかけにもなったんです。先輩方にも伺っても、この件には口が重くて……」

 

「度胸あるわね、あなたも…………」

 

 二水のジャーナリズム魂に、引きながらも感心する壱。

 

「中等部三年生だった夢結様も、特別に参加していたと……」

 

「なら知ってるでしょ? 夢結様はそこで、ご自分のシュッツエンゲルを亡くしてるって」

 

「…………思ったんですけど、これと悠斗さんのどこに共通点が?」

 

「簡単よ。悠斗は甲州撤退戦で死んで、そこでヒュージに寄生されて生き返り、天葉様と依奈様に救われた…………本人もあまり覚えていないようだから、ここら辺の詳しい話が聞きたいのなら、天葉様たちの所に行くのをおすすめするわぁ」




ひえー……忙しすぎて書く時間がぁ~


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十話

お久しぶりです。最近めちゃくちゃ忙しくて………

いや、忘れてたわけじゃないんですよ?ただ、依奈様がかわゆ過ぎて……


 今日も訓練場にて、CHARM同士がぶつかる音が響く。 しかし、やはり梨璃は今日も夢結の攻撃を防ぐのが精一杯で、徐々に後ろへ下がっていく。そんな訓練を行っているうちに、観客も随分と増えた。

 

 

 

「訓練が始まってもう1週間です」

 

「こんなの、訓練じゃありませんわ」

 

 壁際にいた二水と楓が呟く。視線の先では、梨璃が苦しげに呻きながら防いでいるが、破られるのも時間の問題だろう。

 

(……私が梨璃を恐れている? まさか)

 

 そして、夢結の一際大振りな一撃が梨璃を襲い、吹っ飛んだ。

 

「ああっ!」

 

 地面を転がりながらも何とか着地を成功させた梨璃。最初はほけっとした梨璃だが、成功したことが分かると、分かりやすく顔を綻ばせた。

 

「……! やった! やりました! 夢結さ────」

 

 しかし、夢結はそんなことを気にせずに梨璃へ突貫する。それに気づいた梨璃はCHARMを握っている手をさらに強く持つ。

 

(マギを、集中!)

 

 梨璃のCHARM『グングニル』にはめ込まれている『マギクリスタルコア』に、梨璃のルーン文字が現れ、一時的な身体能力の強化。

 

「お!」

 

 その事に気づいた二階席にいる梅が声を上げる。次の瞬間には、夢結のブリューナクはしっかりと受け止められ、弾き飛ばされていた。

 

「夢結様がステップを崩したとな!」

 

「ようやくマギが入りましたわね!」

 

 その事に驚く一同。一方夢結は、そのまま梨璃を睨みつけたまま。ひらりと乱れた髪が夢結の額に落ちる。

 

「……、?」

 

 まだ何もアクションを起こさない夢結に対し、首を傾げた梨璃だが、夢結は持っているブリューナクを横にした。

 

「今日はこのくらいに────―」

 

 ゴーン! ゴーン! 

 

「────行くわよ」

 

「はい! ……どこへ?」

 

 条件反射で返事した梨璃だが、まだこの鐘の意味がわかっていなかったので、ついつい夢結に聞いた梨璃。

 

「今日の当番には、私達も入っているでしょ」

 

「……あ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、時は少し戻り壱盤隊────現アールヴヘイムの隊室には、どこか落ち着かない様子の悠斗は、ソファに座ったり、立ったり、ウロウロをしたりを繰り返している。その奇行ぶりに、亜羅椰、壱、樟美がその姿を目で追いながら首を傾げていた。

 

「なんだか落ち着かない様子ねぇ」

 

「兄さま、いつもよりだいぶ変」

 

「悠斗、そろそろ何があるのか教えてもいいんじゃないの? そろそろその奇行を見るのも飽きたんだけど」

 

 と、三者三様のセリフに悠斗は行動をピタリととめ、三人の向かい側にあるソファにゆっくりと腰を下ろした。

 

「……実は、梨璃が今日初めての実戦ということを聞いたんだけど」

 

「あぁ、要するに心配ってわけね」

 

「昔馴染みという理由だから過保護になのは分かるけど……」

 

「兄さま、浮気はダメっ」

 

「いや、浮気とかしてないけど?」

 

 樟美達から好意を向けられているということは知っている悠斗だが、そもそも付き合ってないから浮気にはならんだろと思いながらも、思考はやはり梨璃の方へ。

 

(…………怪我とかしないよな!? 白井様に絞られているということは知っているが、やっぱり心配だ……)

 

「……はぁ、そんなに気になるのなら行ってくればいいじゃない」

 

「いや、だが俺は当番に入ってないし……」

 

 壱のセリフにゆっくりと首を振る悠斗。

 

「あんまり敵に塩は送りたくないけど、後方見学なら大丈夫のはずよ。二水さんも見学するみたいだし」

 

「……そうか? それなら行けるか…………敵?」

 

「そう、ある意味敵よ敵」

 

 むすーっとした目で悠斗を見つめる壱。ほか二人も概ね似たような反応であり、その事に悠斗は少し困惑した。

 

 思っていることは、別の女にうつつを抜かしてないで私のことを見ろという乙女心満載なのだが。

 

 

 

 

 

 

 時は少し経ち、HUGE迎撃ポイントにて。集まったリリィ達の視線の先では、大型のHUGEが海を浮きながら接近中である。

 

「上陸までには、まだ少し余裕がありそうですわね」

 

「あれ? 楓さんも出動なの?」

 

 隣にいた楓に声をかけた梨璃。楓は、目線だけ梨璃に寄こした。

 

「今回は、まだレギオンに所属していないフリーランスのリリィが集められていますわね。この時期にはよくある光景ですわ」

 

「じゃあ二水ちゃんと悠斗くんも?」

 

「ちびっ子の方は後方で見学ですわ。実戦経験はありませんもの……悠斗さんは、どうしてでしょうね?」

 

「皆さん頑張ってくださーい!」

 

 遥か後ろの方では、戦闘の邪魔にならない場所で二水と悠斗が待機している。梨璃達にエールを送った二水は、後ろを向いた。

 

「それで、悠斗さんはどうしているんですか? しかも、CHARMまで持ってきて……」

 

「あー……その、梨璃が心配でな。昔馴染みだし、一度命を救った身としてはどうしても気になって……」

 

「なるほど……と、ところで! 取材とかしても大丈夫でしょうか!」

 

「……取材?」

 

 と、こんなやり取りが行われていた。

 

「初陣は梨璃さんだけですわね」

 

「は、はい! がんばりま────」

 

「あなたもここまでよ」

 

「……え?」

 

「……?」

 

 突然の夢結のセリフに梨璃と楓が夢結を見る。

 

「足でまといよ。ここで見ていなさい」

 

「…………、夢結さま」

 

 その言葉に、梨璃は眉を少しだけ八の字にして呟く。

 

「……来いと言ったり、待てと言ったり……」

 

「……」

 

 梨璃は、自分の左手を胸に置いた。




レギオンリーグ、始まりましたね。作者の所属しているレギオンは幸先よく圧勝でした。

依奈様、美しすぎるんよ……。


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十一話

おいおい、星五50パーセントはやべえって……七枚も当たったんだけど?ありがとう小林さん………。


「……相変わらず、不気味な形をしているな」

 

 だいぶHUGEの全貌が明らかになり、悠斗がポソりと呟く。そして次の瞬間、HUGEが飛んだ。

 

「と、飛びましたよあれ!」

 

「大丈夫だ。白井様が既に懐へ飛び込んでいる」

 

 二水がHUGEを指さしているが、既に懐には夢結が飛び込み、一撃を与える。

 

「…………あのHUGE、レストアか?」

 

「損傷を受けたHUGEがネストに戻ってその傷を修復したHUGEの事ですね」

 

「その通り。よく知っているな二水さん」

 

「情報収集は基本ですから!」

 

 と、一瞬胸を張ったものの、すぐさま不安な表情になった二水。

 

「で、ですが、レストアは様々な戦場を乗り越えたため、強い個体が多いと聞きますが、大丈夫でしょうか……」

 

「大丈夫だよ。何せ、白井様がいるしな」

 

 その時、HUGEの後背部から爆発が二度ほど。

 

「…………っ!!!」

 

「悠斗さん……?」

 

 急に立ち上がった悠斗を見上げる二水。悠斗の顔は、口を少しだけ開けており、手をわなわなと震わせていた。

 

 一体何が見えたのか気になった二水は、レアスキル『鷹の目』を使い、HUGEを見たが────

 

「……っ! あれは────」

 

「……CHARMだ。かつて、リリィが使っていたものだ」

 

 あのHUGEの背中には、アステリオンやブリューナク、グングニルなどなど、様々なCHARMがぶっ刺さっていた。

 

 それを見た悠斗は、ギリっ! と歯を鳴らした。

 

「あいつ……どれだけのリリィを……っ!!」

 

 悠斗にとって、リリィはとても大切な存在である。

 

 天葉と依奈に救われ、また自分を受け入れてくれたリリィという存在に感謝をしている。

 

 例え、顔を知らないリリィであろうと────リリィが殺されているのならば、悠斗が怒る理由は充分である。

 

 だかしかし、それで理性をなくしてあのHUGEに襲いかかるなど言語道断。自身を押さえつけるように手で顔を覆い、ゆっくりと深呼吸をする。

 

「だ、大丈夫ですか……?」

 

「……ごめん、二水さん。見苦しいもの見せたな」

 

「いえ、それはいいんですけど……手が」

 

「手……? あ……」

 

 見れば、悠斗の左手からは血がぽたぽたとと溢れ出ていた。

 

「心配ない、この程度なら()()()()

 

「治る…………? え?」

 

 二水が手に目を向ければ、先程まで血が出ていたのにすっかりと治っていた。

 

(嘘……! Z(ラストレーター)なら分かりますが、悠斗さんのレアスキルはルナティックレッドアイズだったはずです!)

 

「二水さん」

 

 グッ、グッ、と調子を確かめるように二度三度手を握りこんだ悠斗は、持ってきた悠斗専用CHARMである『アロンダイト』を握りこんだ。

 

「俺もちょっと行ってくる」

 

「は、はい! お気を付けて!」

 

 そして悠斗は跳躍し、楓の胸に突っ込んだ梨璃の元へと向かった。

 

「梨璃さん! 何なさいますの!?」

 

「バカかお前は!」

 

「梨璃さん!」

 

 数秒も経たずに梨璃の元へと合流した悠斗。周りには梅の姿もあった。

 

「おう悠斗」

 

「ごきげんよう梅様」

 

 この事態なので、挨拶も簡潔にした二人。肝心の梨璃は、ボーッと楓の顔を見た。

 

「……私……今、夢結様を感じました」

 

「白井様を……?」

 

「何をおっしゃいますの!?」

 

「マギだわ」

 

 コツコツと百由が近づいてくる。その後ろにはミリアムがミョルニルを持ったまま近づいてきた。

 

「CHARMを通じて、梨璃さんのマギと夢結のマギが触れ合って……」

 

「そんなCHARMの使い方、聞いたことありませんわ」

 

「じゃが、有り得るのう」

 

(……白井様)

 

 遠目からは、夢結が苦しそうに息をしているのが見えた。

 

「……私、前に夢結様に助けて貰ったことがあるんです。今度は、私が夢結様を助けなくちゃ!」

 

「……フッ、いい意気込みだな、梨璃さん」

 

「悠斗くん……? わっ!」

 

 その言葉を聞いて笑った悠斗は、梨璃に近づくとわしゃわしゃと頭を撫でた。

 

「俺だって、ある意味白井様に救われてるんだ……道は俺が切り開く。梨璃さんは、自分の気持ちを白井様にぶつけてこい!」

 

「っ! うん!」

 

「! 正気かおぬしら!」

 

 飛んだ梨璃と悠斗を見て、ミリアムが叫んだ。

 

「後でお背中流させてもらいますわよ!」

 

 次に、梨璃を追うように楓が飛ぶ。

 

「しょうがないな!」

 

 そんな後輩を見て、今度は梅が飛んだ。

 

「……参りますか? 雨嘉さん」

 

「……、うん!」

 

 それを見ていたオッドアイの少女、郭神琳(くぉしぇんりん)と翡翠色の瞳の少女、王雨嘉(わんゆーじあ)が目線を合わせて頷いた。

 

「私もCHARM持ってくれば良かったかな」

 

「──―っ! わしもいけばいいんじゃろがぁ!」

 

 ミリアムが、この空気に逆らえないようにやけくそ気味に叫んだ。




「わしもいけばいいんじゃろが!」←これ好き


主人公プロフィール更新
名前:浅野悠斗
年齢:15歳(今年で16)
レアスキル:ルナティックレッドアイズ
CHARM:蛇腹剣アロンダイト
所属レギオン:アールヴヘイム(スーパーサブ)
スキラー数値:92




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十二話

「いいか、梨璃さん」

 

「うん」

 

「君は、白井様に向かってまっすぐ突っ込むだけでいい。露払いは俺たちに任せろ!」

 

 その言葉に応えるように、悠斗のマギクリスタルコアにルーン文字が浮かび上がり、刀身が分裂。

 

「フンっ!」

 

 柄をまるで指揮棒のように振るうだけで、分裂した刀身が意志を持つように動き、的確にHUGEのミサイルを弾き飛ばす。その背後では、楓が蝶のように舞い、蜂のように突き刺す華麗なCHARM捌きでミサイルをはらって行く。

 

 ──―これが百合ケ丘の至宝と言われる楓さんの実力か……全く、恐ろしいな本当に。

 

 次に梅がタンキエムをガンモードにして、ミサイルを撃ち落とし、更に追撃のミサイルを悠斗が全て切り落とす。そして、夢結との一直線の道が出来上がった。

 

「行け! 梨璃さん!」

 

「夢結様ー!!」

 

 梨璃が飛び、夢結へと突っ込む。

 

「私に! 身だしなみは何時でもきちんとしなさいって言ってたじゃないですか!」

 

 ガンッ! と夢結のブリューナクとHUGEの腕がぶつかり、鍔迫り合いとなる。しかし、レアスキル『ルナティックトランサー』を発動している今の夢結は、通常よりも強化されているので、勢いよくHUGEの腕を吹き飛ばす。

 

「夢結様! 私を見てください!」

 

 現在の夢結は、敵味方の区別がついていない状態であり、振り返りざまにブリューナクを梨璃へと伸ばす。それに気づいた梨璃が慌ててグングニルの角度を変えて、ブリューナクとぶつかりあった。

 

 その瞬間、二つのCHARMの接着点から青白い光が輝きだし、『マギスフィア』が精製された。

 

「あれは……」

 

「マギスフィアですわ……」

 

「……ガッカリしたでしょう、梨璃。これが私よ……憎しみに呑まれた、醜く浅ましいただの化け物……っ!」

 

「それでも! 夢結様が私のお姉様です!」

 

「!」

 

 その言葉を聞き、顔を上げた夢結。

 

「夢結様ー!」

 

 そして、梨璃は両手を広げ、優しく夢結への抱きついた。その瞬間、狂気の色に囚われた髪が、元の黒色に戻り優しく梨璃を受け止める。

 

「……嘘だろ。白井様のルナティックトランサーを……」

 

「梨璃……っ!」

 

 だがしかし、HUGEは空気を読むということを知らない。感動シーンなんて知るかとでも言うように腕が二人を襲おうとするが────

 

「今いい所だろが。黙って見てろよ」

 

 その前に悠斗が割り込み、その腕を粉々にする。

 

「……飛ぶわよ、梨璃」

 

「…………はいっ! お姉様っ」

 

 梨璃が嬉しそうな声で応えると、二人の周りを漂っていたマギのレティクルが輝くと、ゆっくりと浮上した。

 

「……あの二人、抱き合ったままだぞ」

 

「私達、マギに乗ってる……」

 

「梨璃、行くわよ……一緒に!」

 

「はいっ!」

 

 マギスフィアの輝きがさらに強くなる。二人を乗せたマギは、HUGEの真上まで行くと落下を開始。夢結と梨璃による気合いの入った声とともに出された一撃は、HUGEを真っ二つにして、マギの粒子にへと変えたのだった。

 

「……やったナ。夢結」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れに染る百合ケ丘。ソメイヨシノが咲き散る、英雄たちが眠る丘にて、夢結、梨璃、そして悠斗の姿があった。

 

「ソメイヨシノが花を咲かせるには、冬の寒さが必要なの。昔は春の訪れと共に咲いて、季節の変わり目を知らせていたと言うけれど、冬と春の境が曖昧となった今は、いつ咲いたらいいか戸惑っているようね」

 

 一瞬、何かを逡巡したように梨璃を見ると、胸にあるペンダントの蓋を外し、梨璃に見せる。そこには、美しい銀髪の少女────夢結のシュッツエンゲルの姿が写っていた。

 

「この方が、夢結様のシュッツエンゲル……」

 

「そう……私のお姉様」

 

 そのセリフを聞いた梨璃は、ゆっくりと悠斗が手を合わせている墓へ目を向けた。

 

「川添……美鈴様」

 

(……この方が、俺の最後を看取ってくれた人……)

 

 天葉や依奈から名前は聞かされていたが、何となく行きにくかったこの場所。きっと、夢結が誘っていなかったら二度とここに来ることはしなかっただろう。

 

(……美鈴様か……あの時の顔と同じで、名前も美しい方だ)

 

「……ありがとうございました。俺を救ってくれて……看取ってくれて……本当に……」

 

 ありがとうございました。この言葉は、桜の花びらと共に風に流されていった。

 

 

 

 

 

「……その、ごめんなさい」

 

「……はて?」

 

 解散したが、何故か夢結に袖を掴まれた悠斗。一瞬二重の意味で心臓がドキッとしたが、その言葉に首を傾げた。

 

「最初にあった頃、ぞんざいな態度で接してしまったから……その……」

 

「あ、あー……別に、大丈夫ですよ白井様。俺は気にしてませんし、いやほんと」

 

 嘘である。本当は今すぐにここから逃げ出したいと思っており心臓がバクバクである。

 

 それを言うと、ポカーンとした夢結だったが、何かおかしいのか口を抑えて控えめに笑った。

 

「……なんです」

 

「いえ、別に」

 

「……変わりましたね、白井様」

 

「そう、かもしれないわね……」

 

 梨璃は、夢結のトランス状態を見事に救った。その事が、悠斗の脳裏を過ぎった。

 

 ────梨璃さんなら、もしかしたら俺のことも……。

 

「コホン…………と、所であなたはいつ私のことを夢結と呼ぶのかしら」

 

「……へ?」

 

「あなたは梨璃の昔馴染みなのでしょう? なら、私のこともお姉様か名前でよぶべきではなくて?」

 

「…………え!? いやいやいや! その理論はおかしいです白井様!」

 

「夢結よ。さ、言ってみなさい悠斗……」

 

「待って!? なんでそんなに優しい顔なんですか白井様!?」

 

 言わされました。




ごめんちゃい……最後、どうしてもやりたかったんです……


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十三話

 百合ケ丘のカフェテラスにて、とある三人の生徒が各々時間を楽しんでいた。

 

 ズズっと綺麗な所作で紅茶を飲んでいるのが、百合ケ丘のエースとも孤高のリリィとも言われる白井夢結。そして、イレギュラーであり、HUGEに寄生されながらも生き長らえている男のリリィ、浅野悠斗。

 

 そして、だらしなく顔を緩め、机に到底乙女のするような行動では無いことをしている一柳梨璃である。

 

「えへへ~」

 

 そんな梨璃は幸せ有頂天と言った感じである。憧れの夢結とシュッツエンゲルの関係にもなり、昔から探していた悠斗とも再会できた。気持ちはまぁ分からんでもない。

 

 たがしかし、気を抜きすぎではなかろうか? 

 

「梨璃、あなた講義でしょ? 予習は?」

 

「分かってはいるんですけど、今こうしてお姉様のお顔を見られるのと、悠斗くんと一緒に居られるのが幸せで幸せで……」

 

「……だからといって、その体勢はないと思うが……」

 

(……ダメだわこの子。完全にたるみ切ってる。まさか、シュッツエンゲルになった途端にここまで緩むとは……迂闊だったわ)

 

 と、その時背後にいた三年生である、田村那岐(たむらなぎ)と、ロザリンデ・フリーデグンデ・v(ふぉん)・オットーが通りがかり、夢結と梨璃、そして悠斗の姿に気がつくと笑顔で挨拶を交わした。

 

「あら、ごきげんよう悠斗さん」

 

「ごきげんよう、ユリさん。それに悠斗さん」

 

「ごきげんよう那岐様、それにロザリンデ様」

 

「あ、あはは……ごきげんよう」

 

 当然、色んな意味で仲の良い悠斗は二人に対し手を振って挨拶を返すと、二人も嬉しそうに手を振る。それに対し、梨璃は照れくさそうに挨拶を返した。

 

 それに対し、夢結は首を傾げる。

 

「はて、ユリさん……? 誰かと間違えたのかしら」

 

「あ、それカップルネームです」

 

「「カップルネーム?」」

 

 夢結と悠斗の声が重なり、わかってないもの同士で顔を合わせた。こちらです! と案内する梨璃の後ろを着いて行った二人だが、梨璃が指さした先には一つの新聞が張り出されていた。

 

「これは…………」

 

「これです。週刊リリィ新聞の号外です」

 

 そこには、目立つように夢結の写真と梨璃の写真があり、目出しには『異色のシュッツエンゲル誕生! 夢結×梨璃』とでかでかとあった。

 

 それを見た悠斗は若干引いた。そこには何故か楓のコメントも書かれてあった。内容にも引いた。

 

「ほら、横に並べると『ゆ』『り』って読めるんですよ」

 

 そして、今時の人である夢結と梨璃がいることにより、カフェテラス内が仄かに騒がしくなる。

 

「ほら、ユリさんよ」

 

「まぁ、このお二人が?」

 

「ユリ様ですわね!」

 

「ユリ様ね」

 

「ユリ様ですね」

 

 ちなみに、悠斗は既に全学年に存在は知られているため、特にこういった騒ぎは起こらないため、この時だけは高みの見物を決めることが出来た。

 

 そして、この事態に我慢できなくなった生徒が一人。

 

 当然、夢結であった。

 

「お、お姉様~!?」

 

「夢結様!?」

 

 何があったのかは、そこにいた人しか知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ悠斗。聞いた?」

 

「何が?」

 

 突然の主語のない壱の言葉に首を傾げる悠斗。あれから夢結達と別れていた悠斗だが、ずっと工廠科の方にいたため、噂なんて微塵も知らない。

 

「梨璃さん、レギオンを作るらしいよ?」

 

「梨璃さんがレギオン?」

 

 一体何がどうしたら梨璃がレギオンを作ることになるのか想像がつかない悠斗。考える様子を見て樟美がクスクスと笑う。

 

「……噂をすれば影、ねぇ」

 

 何かに気づいた様子の亜羅椰が、樟美の後ろに隠れる。悠斗が亜羅耶の向けた視線の先を見ると、そこには梨璃と二水がいた。

 

「あなたたち、レギオンのメンバーを集めてるんですってね」

 

「やっほー。梨璃さん、二水さん」

 

 樟美が悠斗の背後に移動し、肩に両手を置いた。

 

「うぇ……? は、はい! 壱さん、樟美さん、それに悠斗くん、ごきげんよう」

 

「ごきげんよう」

 

「ごきげんよう梨璃!」

 

「うわぁっ!」

 

 そして、樟美の背後から亜羅椰登場。挨拶をした初日の光景が過ぎり、冷や汗をかく。

 

「あ、亜羅椰さん……アールヴヘイムでしたよね……? たしか……」

 

 距離が近くて思わず視線を外した梨璃。

 

「私の樟美と悠斗に手を出すつもり? いい度胸だわね?」

 

「だれがお前のか」

 

「樟美と悠斗をあなたに差し上げたつもりはありませんけどぉ?」

 

「天葉姉様…………!」

 

 いつの間にか現れた二年生、天野天葉に感激したように声を出した樟美。

 

「梨璃さんからそのいやらしい手をお離しになってぇ?」

 

「楓さん……!」

 

 そして反対側の方でもいつの間にか楓が現れていた。

 

「……楓?」

 

 その名前に、壱が意味深っぽく呟く。

 

「ていっ」

 

「あいたっ!」

 

 そして、その間に悠斗が亜羅椰に接近し、後頭部をペシンと叩く。それに気を取られている間に、片方の足を引っ掛け体制を崩すとすぐさまその下に回り込み、肩に担ぐようにして亜羅椰を持ち上げた。

 

「ちょ!? 悠斗ぉ!」

 

「おぉ……! 流れるような一撃ですぅ!」

 

「悪いな、ウチの亜羅椰が迷惑かけた」

 

「う、ううん……別に」

 

「ちょっと悠斗! 触れ合えるのは嬉しいけれど、もっと別の格好が────わひゃぁ!」

 

 余計なことを言い出す亜羅椰の脇腹をつまみ、黙らせる。その所業に梨璃、楓、二水は軽く引いた。アールヴヘイムに至っては日常風景なので見慣れている。

 

「誰かに声はかけたか?」

 

「その……六角さんに……」

 

「六角さん……? 汐里は既に水夕会────レギンレイヴにいるだろ? なんでまた」

 

「あはは……その。気づくのが遅れまして……」

 

「……まぁいいか。頑張れよ梨璃さん。いい出会いがあることを祈っている」

 

「うん! ……その、一応聞くけど、悠斗くんは────」

 

 と、梨璃が言った瞬間、後ろから樟美が抱きつき、右側からは壱が抱きつき、樟美のさらに後ろから天葉が抱きついた。ちゃっかり亜羅椰も逃がすものかと米俵みたいに持ち上げられている状態から抱きついている。

 

「────うん! ダメだよね!」

 

「愛されてますわね」

 

「まぁ、嬉しいことにな……ごめんな」

 

「ううん。大丈夫! 私、悠斗くん達みたいな人達が集まるレギオンのメンバーを集めるね!」

 

「あぁ、その意気だ」

 

「そうですわ梨璃さん! 私も、同じレギオンの仲間として協力いたしますわ!」

 

 と、楓が梨璃の腕に抱きついた。目の前の光景に触発されたのだろうか? 

 

「それじゃ悠斗くん! ごきげんよう!」

 

「おう、ごきげんよう」

 

「…………どうして、楓・ヌーベルみたいな凄腕が、あんなど素人と?」

 

 三人が完全に去った後、抱きついたまま壱が呟いた。

 

「所詮下心だけの繋がりでしょ?」

 

「お前がそれ言うか?」

 

「亜羅椰ちゃんがそれ言う……?」

 

 忘れてはならないが、この問題児、壱と樟美の事が(性的な意味で)好きだから壱盤隊に入ったヤベー奴である。

 

「喰うぞ樟美!」

 

「ひゃん!」

 

「くーわなーいで」

 

 悠斗に抱えあげられたまま、樟美へと顔を伸ばした亜羅椰だが、樟美はさらに強く悠斗へ抱きつき、天葉が亜羅椰の顔を押しとどめる為に手で亜羅椰を抑えた。

 

「……とりあえずみんな、離れてくれるか?」

 

 




亜羅耶……ほんと、いい性格してるわ……


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十四話

 翌日、悠斗が猫と戯れている時に端末から一つの着信音が鳴り響く。その音に猫がビビり、逃げ出したので少しがくりとしたが、切り替えて端末をポケットから出した。

 

「……へぇ?」

 

 そこには、珍しい名前が表示されていた。

 

「もしもし、どうした?」

 

「ごきげんよう悠斗さん。この前のHUGE討伐以来ですね」

 

「そうだな、神琳。あの時は話せなかったけどな」

 

 郭神琳。幼稚舎の頃から百合ケ丘にいる生え抜きのリリィで、オッドアイが特徴的な美少女である。何がとは言わないが、でかい。

 

「それでどうした? 亜羅椰の愚痴か?」

 

「いえ、それは違うのですが、少し頼み事が────」

 

 

 

 

 

 

 

「雨嘉さん。こちらが分かる?」

 

 数分後、とあるポイントに来て欲しいと言われた悠斗は、何故かいつも使っている専用CHARMのマソレリックと、アステリオンを準備していた神琳と合流。どうやら、一キロ先にいる王雨嘉という少女が一流のリリィだということを証明するための立会人として呼ばれたのだ。

 

「……! うん!」

 

 雨嘉は、太陽の光に反射したマソレリックの輝きに反応し、返事をする。

 

「そこから、私をお撃ちなさい」

 

「……え!?」

 

「訓練弾なら大丈夫よ」

 

「そんなわけっ────」

 

「装填数十発。きちんと狙えたら、私からは何も申しません」

 

 そして、神琳は一方的に通信を切ったが、端末に優しく呟く。

 

「大丈夫。あなたなら出来るわ」

 

「……それ、本人に直接言ってあげたらどうかね」

 

「……お立ち会い、本当にありがとうございます、悠斗さん」

 

「別に、神琳からの頼み事だしな。あと、梨璃さんのレギオンメンバー候補の実力を見ておきたいというのもある…………アイルランドの名門、王家の実力……果たして如何なものか」

 

 きっと、この場に雨嘉がいたら「私はヘボリリィだから!」と否定するだろう。

 

「それで、彼女……王さんのレアスキルは?」

 

「天の秤目……遠く離れたものも、寸分の誤差なく把握する。それが、雨嘉さんのレアスキルです」

 

「…………へぇ?」

 

(撃ちなさい、雨嘉さん。撃って、あなたが一流のリリィであることを証明なさい!)

 

 そして、その瞬間、青色に輝いた訓練弾が神琳に向かって真っ直ぐにやってきたが、神琳はアステリオンを横なぎにして弾き飛ばす。その余波で、青色に輝くスパークが撒き散らされる。

 

「雨嘉さんとの距離は約一キロ。アステリオンの初速は毎秒1800mだから、瞬きするくらいの時間はあります。狙いが正確なら、躱せます」

 

「なるほど、正確ねぇ……」

 

 ──―いや、まぁどれだけ正確だろうと普通に神琳がやってるのは神業のレベルになるんだが……。

 

 悠斗が同じことをやれと言われても出来る自信はない。

 

「それで、いつものCHARMは使わないのか?」

 

「対等な条件にしておきたいので」

 

 そして、そこからもさらに一発一発と繰り返し、八発目。海風から強い風が吹いた。

 

 ────かなりの強風だな。これだと訓練弾であろうともそれるぞ? 

 

 しかも、距離は一キロも離れているため、とてつもないほどにブレるだろう。

 

 だがしかし、雨嘉の放った訓練弾は寸分の狂いもなく神琳の元に到達。

 

 ──―嘘だろ。

 

 九発目も見事に神琳へと狂いもなく向かう。そして十発目。何を思ったのか神琳はその弾を跳ね返した。

 

「……神琳?」

 

「…………お見事でした、雨嘉さん」

 

「神琳……」

 

「あなたが優秀なリリィであることは、これで誰の目にも明らかだわ」

 

 その言葉に、端末の向こう側で梨璃の喜ぶ声が聞こえた。

 

「ありがとうございました、悠斗さん」

 

「いや、神琳も相変わらず見事だったよ。その腕前に純粋に惚れるな」

 

「ふふっ。ありがとうございます」

 

 と、嬉しそうに笑った神琳は、1キロ先にいる雨嘉を見た。

 

「……私、雨嘉さんが妬ましかったんです。エリートの家に産まれ、才能にも恵まれて……なのに、本人は自信を待てなくて悩んでいるなんて……なんなのよこの子はって……腹もたちませんか?」

 

「……腹を立てていたのか?」

 

「はい。でも、これでスッキリしました」

 

「…………相変わらず、面倒な奴だな」

 

「はい。よく言われます♪」

 

 多分、スッキリした理由は絶対最後の一発なんだろうなぁと思った悠斗だった。

 

「所で悠斗さん。あなたも梨璃さんのレギオンに入りますか?」

 

「……おい。俺は既にアールヴヘイムにいることは知ってるだろが」

 

「もちろん知ってますよ? ……ですが、遠藤さんには勿体ないと思いますので……どうです? 私に乗り換えませんか?」

 

「あほたれ」

 

「あうっ……」

 

 その言葉に、悠斗は軽く神琳の額にデコピンを食らわせる。しかし、互いに冗談ということは分かっているので、自然と笑顔が二人の間で浮かぶ。

 

「あ、レギオンの件は冗談ではありませんからね?」

 

「なんでだよ。そこは冗談であれよ」

 

「嫌です♪ だって、私だって────」




ちょっとした補足。
神琳は中等部の頃からいるので、悠斗のことは当然把握済み。優しい性格なので、百合ケ丘に悠斗が入ってきた当初からの友人なので、悠斗は神琳に恩を感じている。中三のとき、亜羅椰から狙われているところを助けられたので、さらに恩を感じている。

優しくて真っ直ぐな態度の悠斗にどんどん惹かれ、態度には出していないが、隙あらば狙っていくスタイル。アールヴヘイムの皆さんにはこっそりと危険人物(恋敵)としてマークされている。


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閑話 悠斗のレギオン事情

ギリギリまで悩みました。夢結様と梨璃の誕生日プレゼントを一緒に買いに行くデートにしようか、それとも学園内に残って梨璃の面倒を見るかどうか。

悩みました。三時間くらい悩みました。

ですが、決めました。

やっっっっぱり!デート回にさせたいっっ!!


 桜の花びらも完璧に落ちきり、夏の気配が近づいてきた六月の上句。悠斗は、学園理事長代行の高松咬月(たかまつこうげつ)と、生徒会のブリュンヒルデである出江史房(いずえしのぶ)によって朝早く呼び出され、理事長室にいた。

 

「朝早くから呼んでしまってすいません、悠斗さん」

 

「いえ、別に大丈夫ですよ史房様。そもそも俺は睡眠を必要としてませんし」

 

 一度死んでからは欲という欲が殆ど消え去った悠斗。特に、三大欲求の無くなり方は異常であり、睡眠欲、食欲、性欲は無いに等しい。だから悠斗は睡眠をとる必要がないので、時間ならたんまりあるし、なんなら夜は暇すぎて百由の研究を手伝っている迄ある。

 

 悠斗の隣に座り、ポットから紅茶を淹れ悠斗に差し出した史房。それを美味しそうに飲んでくれる表情を見て、頬を緩ませた。

 

「さて、今回悠斗くんを呼び出した理由は、レギオンに関してじゃ」

 

「……レギオン? 失礼ですが理事長代行、私は既に壱盤隊────アールヴヘイムに所属をしている身ですが……」

 

「今回はあまりにも多く私の元に、『ウチのレギオンに!』という声があまりにも多かったので、私の方から理事長代行にお願いしてこの場を設けさせて貰いました」

 

「……勧誘ですか」

 

「えぇ。特に要望が強いのはレギンレイヴやローエングリン、シュバルツグレイル────というか、全レギオンからそういう声が出ました」

 

「全レギオン……あれ? ということは史房様のとこのレギオンも……」

 

 そう悠斗が言うと、史房が少し頬を赤くして目を逸らした。

 

「うおっほん、なぜこのような要望が多いかと言うと、悠斗くんが現在所属しているアールヴヘイムにいる遠藤くんの素行に不満を持っている人達からでな」

 

「……あぁ~」

 

 思わず納得してしまった悠斗。亜羅椰は本当に問題児なのだ。リリィ単体で見たら、とても優秀で頼りになるのに……。

 

「今回は相談という形になるのじゃが、悠斗くんさえ良ければ他に複数のレギオンに所属してみてはどうかね?」

 

「複数……ですか?」

 

 咬月から言われた内容は、到底信じられないものであった。普通なら、個人で二つのレギオンに所属するなんてことは出来ないし、ありえないのだが、あまりの要望の多さに遂に『例外』を持ち出した咬月であった。

 

「えっと、それは流石に難しいかと……アールヴヘイムの皆とも話し合わないといけませんし……」

 

「うむ。特に期間は設けてはいないから、ゆっくりと話し合ってから決めてくれ」

 

「……その、悠斗さん。もし良ければ私のところに来てくれると嬉しいです……」

 

 

 

 

 

「────と、言うことが今朝あったんだけど」

 

「「ダメー!!」」

 

 言い終わった途端に、樟美と月詩が悠斗に抱きついた。現在の居場所はアールヴヘイム隊室。そこには三年生を除くメンバー全員が集まっていた。

 

「ダメです兄さま! 移動するなんて嫌です!」

 

「ダメですから! 悠斗くんはずっとアールヴヘイムにいるんですから!」

 

「ちょ、苦しい二人とも…………」

 

 二人の腕を必死にペチペチ叩くが、逆に二人は強く抱きしめ始める。

 

「ちょっと2人とも。あんまり抱きしめると流石の悠斗も苦しいからね」

 

「止めはしないのねぇ?」

 

「だって、あの二人がやってなかったら私がやってたし」

 

 と、壱が口だけを出したが、壱に助ける気はあんまりない。

 

「というか、そもそも原因って亜羅椰にあるのよね? それなら、やっぱり亜羅椰を追い出した方が……」

 

「そ、それは勘弁してください天葉様ぁ!」

 

 あんまりな天葉の言葉に亜羅椰が泣きつく。冗談よと言って笑ってはいたが、目は笑っていなかったような……。

 

「まぁでも、亜羅椰の件うんぬんかんぬんは無視して、悠斗って結局は三年生の先輩方と同じスーパーサブの立ち位置で、あんまりアールヴヘイムの一員って感じはしないものね。それだったらウチに欲しいってレギオンがいるのも納得だわ。まさか全部とは思わなかったけど」

 

 と、悠斗の隣に座っていたが樟美と月詩が抱きついてきたため避けた依奈が頬に指を当てながら言った。

 

「でも、だからって悠斗を他に渡す必要は無いですよね?」

 

「そうね弥宙。私────というか、ここにいる全員悠斗をわざわざ手放すなんてことは思わないでしょ」

 

「……あの、別にここを抜ける訳じゃなくて、複数のレギオンに入るってだけなんで、手放すとかそういうのではないと思うんですよ依奈様」

 

 やっとこさ二人の抱擁に気道の確保に成功した悠斗が依奈に言った。

 

「…………でも、結局は悠斗くんがどう思っているかじゃない?」

 

 と、ここで喋ったのは藍色髪のツインテールをかなり下の方でまとめている二年生、渡邉茜(わたなべあかね)が言った。その言葉に全員の視線が悠斗に向かった。

 

「……その、俺個人としては受けてもいいと思ってるんですけど……でも、やっぱり俺はアールヴヘイムの皆も大切だし……」

 

 悠斗は、例外なくこの百合ケ丘にいるリリィのことを大切な存在だと胸を張って言えるが、その中でも飛び抜けて大切な存在がアールヴヘイムや少しの少数人数友達なのだ。

 

 まぁ直訳するとアールヴヘイムに居たいということなので、その事をしっかりと理解した全員は少しだけ頬を赤く染めた。

 

「……だから俺は、隊長である天葉様の判断に委ねます」

 

「え、私? 私がそんな重要な役目を決めるの?」

 

 咄嗟に名前を出された天葉は困惑する。いきなり言われても……と思いながらも真剣に考え始めた。

 

「……うん、そうね……だったら条件をだします」

 

 

 

 

 

 

「思ったよりも早かったの」

 

「そうですね、俺を信頼してくれての事ですので、個人としてはとても嬉しいです」

 

 結論から言うと、天葉はとある条件を守ってくれるのから、一つだけのレギオンになら所属することをOKとした。

 

 一つ、必ずアールヴヘイムの隊室には毎日顔を出し、二時間はいること。

 

 二つ、そのレギオンであったことを簡単に報告すること。

 

 三つ、浮気禁止。

 

 三つ目に至ってはそもそも付き合ってないし……(ry)という茶番もあったが、この条件なら、皆が首を振ったのだ。

 

 そもそも、アールヴヘイムは外征旗艦を担当しているので、ゲヘナに情報を漏らさないために、徹底している悠斗は、アールヴヘイムの主な任をすることが出来ない…………というのもあったかもしれない。

 

「それでは、このことを公表しても大丈夫かのう? 待っているレギオンが複数あるのでな」

 

「えぇ、構いませんよ……まぁ、既に一つ決めてるんですけどね」

 

「ほぉ? それをどこか聞いてもいいかな?」

 

「公表しないのならば、特別に」

 

 後日、悠斗が特例としてもう1つのレギオンに所属できるという張り紙が貼られ、暫くは学園中が騒がしく、悠斗を勧誘しようとするレギオンが沢山いたとかいなかったとか…………。




茜様の口調は完璧に想像です。そして、もっと一柳隊の皆さんと絡めさせたかったのでこの会を入れました。そしたらラストバレット編も行けますし………。

現在、同時進行でifストーリー『御台場迎撃戦』も執筆中です。ほとんどが頭の中の妄想となりますが、色々と情報を収集して頑張りたいと思います。

………御台場迎撃戦について詳しく乗ってるのなんかないかなぁ……。どうやって夢結様たちが乗り越えたか普通に気になるんだよなぁ……


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十五話

 6月18日。今日も今日とてレギオンメンバーを集めるために集まっていた二水、梨璃、楓だが未だに七人から増えていない。

 

「個別に当たっても迷惑がられるから机を用意したけど……あと二人、なかなか集まらないね」

 

「そらまぁ六月ともなれば、大抵のリリィは大抵のレギオンに所属済みですわ」

 

「してないとしたら、一匹狼系の個性派リリィしか……お?」

 

 その時、二水が歩く二人のリリィを見つけた。片方は緑色の髪が特徴な二年生、吉村・Thi・梅で、もう一人は梨璃達と同じツバキ組、金髪の髪と赤い目が特徴の安藤鶴紗(あんどうたづさ)である。

 

「いました、個性派!」

 

「このさい贅沢言ってられませんわぁ!」

 

「し、失礼だよぉ!」

 

「……んお?」

 

 二人は、近づいてくる足音が聞こえて後ろを振り返る。

 

「なんだ……お前らまだメンバー探してんのカ?」

 

「は、はい……梅様どうですか? そろそろ…………」

 

「私はな……今はまだ一人で好きにしていたいかな」

 

「そこをなんとか……」

 

「しつこいっ」

 

「「わわわっ! ごめんなさ~い!」」

 

 鶴紗の剣幕にやられた梨璃と二水が楓の後ろに引っ込んだ。そのまま歩き去る鶴紗に対して、梅は三人に手を振りながら去っていった。

 

「……もう、このさい七人でよくありません?」

 

「もうちょっと頑張ろうよ……」

 

「定員まで残り二人……先は厳しいです……」

 

 二水が手元にあるチラシを見ながら呟く。

 

「せめて、悠斗さんが入ってくれればいいんですけど」

 

「悠斗くん?」

 

「はい。あまりにも悠斗さんのことが欲しいレギオンが多すぎるので、生徒会長が特別にほかのレギオンに所属してもいいと特例がでたらしいです……悠斗さんの条件により一つだけですが……」

 

「悠斗さん? 確かに不思議な魅力を感じるお方ですけど、梨璃さんの方がよくありません?」

 

「えっと……楓さん? それはどういう……」

 

「でも、悠斗くんって本当に人気だよね。この前も閑さんが熱心に勧誘してたなぁ」

 

 梨璃のルームメイトである伊東閑(いとうしず)は、レギオン『シュバルツグレイル』のリーダーである。

 

「幻想論」と呼ばれるファンタズムの未来予知のような動きを理詰めで再現する戦術を提唱し、理論的かつ攻撃的の極を目指している。

 メンバーは閑が書いたものすごい量の戦術論文を全員暗記して戦いに臨む。理性的で頭脳プレーを行うメンバーが多く、ときには教導官からのアドバイスにも反論するため、哲人のレギオンとも呼ばれている。

 

 また、現在生徒会『ジークルーネ』の役割を持っている二年生、内田眞悠理もこのレギオンに所属している。

 

「結果はどうでしたの?」

 

「えっと……遠目だったからよく……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら」

 

「夢結様」

 

 工廠科の廊下にて、とあるリリィのCHARMのメンテナンスをしていた悠斗は、夢結で鉢合わせした。

 

「…………いらっしゃい」

 

「え…………え!?」

 

 そして、大したことも告げられずに夢結に手を引かれる悠斗。

 

「ゆ、夢結様? 一体どうしたんですか?」

 

「明日、梨璃の誕生日なの。何をプレゼントするのか聞き込みをしているから、あなたもいらっしゃい」

 

「あ、明日ぁ!?」

 

 明日────6月19日は梨璃の誕生日である。

 

 ────ま、まずい!? 俺何も準備してない! 

 

 当然、その事を知らなかった悠斗は酷く慌てた。

 

「昔なじみのあなたの意見も聞きながら決めていくわ」

 

「是非、お供します」

 

 こうして、梨璃の誕生日プレゼントを決め隊が出来上がった。

 

「ちなみに、既に誰かのところ行きました?」

 

「百由よ」

 

「…………なぜ行こうと思ったんです?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは何か知らないかしら。梨璃の趣味とか、好きな物とか」

 

 次に夢結が────初めて悠斗が訪れた場所は、同じ梨璃のレギオンメンバーであるミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウスの場所だった。

 

「あぁ~。そういや梨璃は『ラムネ』が好き、と言っておったな」

 

「…………ラムネ?」

 

「わしは飲んだことないがの」

 

「ガラス瓶にビー玉で蓋をした、炭酸入り清涼飲料水のことかしら」

 

「……え?」

 

「ラムネをそこまで堅苦しく言い表す御仁は初めて見たの」

 

「私も……よく知らなくて」

 

「…………悠斗も大変じゃの。夢結様に付き合わされて」

 

「いや、俺も梨璃さんの誕生日プレゼントで悩んでたから都合がいい」

 

「じゃが、夢結様が用意してくれたものなら、梨璃はなんだって喜ぶと思うぞい────お?」

 

 しかし、ミリアムが後ろを向いた時には既に夢結の姿はなく、引っ張られる悠斗の姿だけが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

「はい。梨璃は、ラムネ好きです」

 

「たまに、分けてもらいますよ。お口の中でほらほろと溶けていくのが面白いですね」

 

 次に向かった場所は、王雨嘉と郭神琳の場所である。一瞬、悠斗の姿が見えたことに喜んだ神琳だが、隣に夢結の姿が見えた瞬間、背中に般若が浮かんだ。

 

 しかし、そんな夢結は先程聞いたラムネとは別物であることを知り、顔を背けた。

 

(ラムネとは……飲み物のことではなかったの!?)

 

「でも、梨璃なら夢結様からのプレゼントなら────」

 

「なんだって大喜びするのは間違いありません…………ところで、悠斗さん」

 

「ん?」

 

「まだ、レギオンが決まっていないのなら、一柳隊が────」

 

「ごめん、その話は後でな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ラムネ?」

 

 そして、次に現れたのは鶴紗の所だった。悠斗の姿を見て一瞬だけ少し頬を弛めたが、夢結に手を繋がれている場面を見て少し哀れなものを見るような視線に変わった。

 

「あぁ、駄菓子のラムネをよく購買部で勝ってますね。なんで私に聞くんですか」

 

「私の記憶だと、鶴紗さんは梨璃と仲がいいと思ったんだけど」

 

「ただのクラスメイトです。猫のご飯を買いに行くと、出くわすくらいで」

 

「……梨璃は、購買部で手に入るお菓子のラムネを貰って喜ぶかしら」

 

「白井様が、一柳のために選んだものなら、なんであれ喜ぶと思いますよ」

 

「……お前、なんか普段の言動からは理解できない良い言葉が出てきたな」

 

「うっさい……私でも見て分かることを言っただけ」

 

 

 

 

 そして、夢結と悠斗は購買部に顔を出した。一瞬、夢結は激辛コーナーの方に目を奪われそうになったが、梨璃のプレゼントを選ぶためだと鋼の意思を発動させる。

 

 暫し、夢結と別行動を購買部内でしていた悠斗の背後から、一人の少女が近づいた。

 

「悠斗」

 

「……眞悠理様? 珍しいですね、購買部に」

 

「それはお前もだろう。どうしたんだ?」

 

「梨璃さんに誕生日プレゼントを買おうと思って、参考になるかとここに来たんですが……どうも、いまいちピンと来なくて」

 

「梨璃……一柳か」

 

 顎に手を当て、苗字と名前を一致させた眞悠理。暫し中をキョロキョロと見渡した眞悠理は、悠斗に「しばし待て」と言った後その場を離れて二分後、一つの物を持ってきた。

 

「これでどうだ」

 

「ペンダント……ですか?」

 

「あぁ。蓋を開けば写真を入れることができるアクセサリーだ。そこに、夢結の写真でもはめておけばかなりいいと思うが」

 

「なるほど……確かに」

 

 梨璃の夢結スキーは見て分かる。確かにこれならプレゼントにもありだなと思い、眞悠理の手からそれを受け取る。

 

「ありがとうございます、眞悠理様」

 

「気にするな。お前のためだと思えば苦にはならん」

 

 と、少しばかり微笑んだ眞悠理。しかし、次の瞬間コホンと咳払いをするの、目線を少し下に下げ頬をパッと見では分からないくらい────少しだが赤くした。

 

「そ、それでだな悠斗……レギオンに着いてだが────」

 

「悠斗、行くわよ」

 

「夢結様?」

 

 夢結の声に振り向くと、彼女の手には駄菓子のラムネと、ラッピングができる袋の一式を持っていた。

 

「すみません眞悠理様。お話はまた今度」

 

「……あぁ。その……なんだ、夢結と一緒だったのか」

 

「はい、梨璃さんの誕生日プレゼントを一緒に決めていたところで……ではまた、ごきげんよう」

 

「あぁ……ごきげんよう…………羨ましい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、中庭に移動した悠斗と夢結。木陰になる所で暫しの休憩を挟み、隣同士でベンチに座っている。

 

「……あなた、ラッピングはしたことあるかしら」

 

「ごめんなさい夢結様。力不足です」

 

「……そう」

 

 手の中にあるラムネとラッピング袋を少々悲しげに見つめる夢結。そこに、一つの人影が近づいた。

 

「梨璃さんへのプレゼントですか?」

 

「汐里?」

 

「あなたは?」

 

「失礼しました、夢結様。あたし、梨璃さんのクラスメイトの六角汐里(ろっかくしおり)と申します。明日はお誕生日ですものね」

 

 六角汐里。不動劔(ふどうけん)の姫という異名を持ち、レアスキル円環の御手の使い手である。上品な性格をしているが、戦い方は非常に荒く、CHARMを使い捨てるように何度も何度も壊すので、ひっそりとアーセナルからは嫌われている。

 

 アールヴヘイムの次くらいによく悠斗にCHARMを見てもらっている。

 

「よく、ご存知ね」

 

「クラスメイトのことは、大体知っているつもりです。ラッピングなら、お手伝いしましょうか? あたし、こう見えても器用な方なんですよ」

 

「汐里は、そうさく倶楽部っていうのを主催してるんです。彼女になら、任せてもいいと思います」

 

 そう悠斗が補足すると、汐里は嬉しそうに笑う。

 

「……そう、それなら」

 

 そして、汐里の手伝いもありながら、何とかラムネを綺麗にラッピングをすることが出来た夢結。彼女の目には、ラッピングしたラムネが光り輝いて見えるだろう。

 

「流石汐里だな」

 

「いえいえ、あたしはほんの少し口添えしただけですよ」

 

「それでも、あなたのおかげだわ、ありがとう」

 

 少し微笑む夢結。

 

「できたら、本物のラムネをプレゼントしたかったのだけだ、何処で手に入るのか、調べても分からなくて……」

 

「そうですね……瓶入りのラムネは、今はほとんど作られていないと言いいますね。でも、梨璃さんの好物ということでしたら、梨璃さんの故郷でなら手に入ったということではないでしょうか」

 

「……梨璃の、故郷……!」

 

 ────あ、なんか嫌な予感。

 

 夢結が呟いた瞬間、嫌な予感が悠斗の体を貫いた。

 

「ところで悠斗さん」

 

「ん?」

 

「まだ、レギオンが決まってないのでしたら、是非水夕会に。お姉様も望んでます」

 

「……汐里? いつも言うけどさ、君達は既に18名でめっちゃバランス取れてるから、俺が入ってもバランスを崩すだけだと何回も説明したよ?」

 

「いえ、悠斗さんはいるだけでいいんです。それだけであたし達は嬉しいですから」

 

「えぇ…………?」

 

 そして、今日も何とか汐里のレギオン勧誘を回避した悠斗。汐里と別れると、夢結がゆっくりと悠斗の袖を掴んだ。

 

「悠斗」

 

「夢結様、念の為に聞きますが、梨璃さんの故郷にいくから着いてきなさいとか言いませんよね?」

 

「明日、梨璃の故郷に行くわ。着いてきなさい」

 

「言ったわ……」

 

 梨璃の誕生日プレゼント決め隊は、どうやら明日もあるようだ。




今日の補足By鶴紗

鶴紗とは猫関係でお友達になった。猫と仲良くしている悠斗を遠目で見ていたのを気づかれ、そこから徐々に仲良くなったネコトモである。常々、勝手に猫がよってくる悠斗のことを羨ましいと思っている。

でも、悠斗といる時間も……その、悪くない。


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十六話

 翌日、朝早くから夢結に校門前で待ち合わせを半ば強制的に告げられた祐樹は、集合時間30分前…………つまり、3時30分から待機をしていた。

 

 外出届も既に提出しているが、格好はいつも通り、百合ケ丘の制服を男用に改造した制服に、サイフとカメラを持ってきた。カメラは、梨璃の故郷の写真を撮ってペンダントにはめれば、故郷を思い出せるかなという思いからである。

 

「ごきげんよう、悠斗」

 

「ごきげんよう夢結様」

 

 四時ぴったりに現れた夢結に対して頭を下げる悠斗。夢結の格好も、ほとんど悠斗と同じだが、ショルダーバッグと日傘を持ってきていた。

 

「ルートの方は大丈夫ですか?」

 

「えぇ、事前に調べたから大丈夫よ」

 

「なるほど、それなら安心ですね。荷物、持ちますよ」

 

「いえ、軽いから大丈夫よ」

 

「夢結様、古来より男は荷物持ちとして扱うべしという風習があるのです。ここは、遠慮しないで大丈夫ですよ」

 

 と言って、夢結の日傘を持った悠斗。流石にショルダーバッグまでは持つということは出来なかったが。

 

「それでは、参りましょうか。エスコートさせていただきますね」

 

「……えぇ、その……お願いするわね」

 

 そして、二人の外出が始まる。

 

 改札を通る際、夢結が勝手が分からなくてオロオロしてたのを見て少し可愛いと思った悠斗だった。

 

 そこからは、二人は特に会話も無しに電車を乗り継いで移動する。悠斗は電車の移動が初めてだったから興味深げに車窓から見える景色に「ほー」と言いながら見ていたが、夢結はずっと姿勢よく前を見つめているだけだった。

 

 三回の乗り継ぎを経てから、悠斗達が降り立った駅は、ブドウ畑が沢山ある駅、『山梨県勝沼ぶどう郷駅』にやってきた。

 

「……熱いですね」

 

「もう六月の下旬だもの。仕方ないわ」

 

 悠斗が持っていた夢結の日傘を広げ、そのまま夢結の頭上へと持っていく。

 

「……何をしているのかしら?」

 

「女性にとって肌は大事ですから。それに、焼けたくないから夢結様も日傘を持ってきたのでしょう?」

 

「いえ、私が言っているのは、それだとあなたが────」

 

「俺は気にしないでも大丈夫です。日焼けしませんから」

 

 あれから、夢結は流石に悪いから自分で持つというが、悠斗は全くもってうんともすんとも言わないで、結果的に夢結が折れる形となり、歩き出す。

 

 あるけどあるけどブドウ畑のみが広がる道。二人の間に会話はないが、別に気まずいとは思わないし、むしろこの沈黙が心地いいさえ思っている。

 

「……あら?」

 

「夢結様?」

 

「いえ、この道を通るはずなのだけれど……」

 

 しかし、そこの道路は封鎖されており、看板には『この先HUGE活動区域。立ち入り禁止』というのがあり、断念することに。

 

「……山を回っていくしかないですね」

 

「そうね」

 

「大丈夫ですか? 夢結様。疲れたりとかしてませんか?」

 

「えぇ、特に問題は無いわ……行きましょう」

 

 そして、山を遠回りすること数時間、いよいよ目的地に近づいてきた。

 

「……この辺りが、梨璃の故郷の人達が避難した地域のはずだけど……」

 

「……ここが、ですか?」

 

 やはり、避難地域なので人は少なく、寂れた雰囲気を感じる悠斗。しかし、ここにかつて梨璃が住んでいたという事実は変わらないので、悠斗はカメラを取りだし、パシャリと1枚撮った。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんください、この辺りでラムネを扱っているお店を探しているのですが?」

 

 避難地域に辿り着き、一番最初に目に付いたお店、日原商店へと足を踏み入れた。

 

「ラムネけぇ……お嬢さん達の隣にあるのがそうじゃけぇ」

 

「隣?」

 

 夢結と悠斗が揃って隣を向くと、そこにはキンッキンの氷水の中に入っている、ガラス瓶にビー玉で蓋をした炭酸入り清涼飲料水の姿が……。

 

「「………………」」

 

 ごくり、とここまで暑さに耐えていた二人の喉から、音が鳴った。

 

「毎度」

 

 二人揃ってラムネを買い、シュワァァァ……という音を響かせるラムネを、悠斗は急いで喉を通した。

 

「……うまぁ」

 

 いくらHUGEに寄生されていようが、やはり体は人間か。ついついそう呟いてしまった。その時、悠斗の記憶に、とある歳上の二人の昔なじみのお祭りに行った時の光景を思い出した。

 

 ──―元気に、してるだろうか。

 

「お嬢さんリリィけぇ……ここら辺じゃ見ん制服だけんど、またえらい暑そうじゃ」

 

「見た目ほどでは、ないのですが……」

 

「おまんとぉのおかげで、ウチもなんとか続けているけんど、この道の向こん集は、もう皆避難して嫌になっちゃったじゃねぇ。昔はそのラムネが好きでいつも買いに来てた子供もいたもんだけぇど」

 

 その後も、おじいさんの話を聞きながらラムネを飲んだ夢結と悠斗。

 

「ごちそうさま、美味しかったです。持って帰りたいので、もう一本いただきます」

 

「リリィ……ならなんぼでも持ってけしぃ」

 

「おいおいじぃちゃん。それは流石にダメだよ」

 

「えぇ。きちんとお代は納めさせてくださいませ」

 

 そして、夢結の中にひとつの光景が脳裏によぎる。それは、梨璃と夢結が笑顔で二つのラムネを飲んでいる光景である。

 

「……もう一本、頂けますか?」

 

「あー……じいちゃん。出来ればあと二本ほど」

 

 

 

 

 

 

 ラムネも買い終わり、帰りの電車に乗った夢結と悠斗。しかし、夢結の太ももの上には、日原商店のじいちゃんから貰ったクーラーボックスが乗っていた。

 

『これは?』

 

『クーラーボックスです、夢結様』

 

『こうしておけば、帰って直ぐに冷たいのが飲めるじゃねぇ』

 

『……! ありがとうございます』

 

 という経緯で貰ったもので、クーラーボックスの中には梨璃と夢結が後々飲む用のラムネと、悠斗が買った天葉と依奈のお土産分が入っている。

 

 電車の乗り継ぎのために、少しばかり駅のホームで待つことにした二人。しかし、そこにちょっとしたアクシデントと遭遇した。

 

「喉乾いたぁ~なんか飲みたーい」

 

「電車降りたらなにか飲もうね?」

 

 アクシデントその一。駄々をこねる子供である。地団駄を踏み、母親へ駄々を捏ね始めた五歳くらいの男の子。それを見て、夢結がクーラーボックスの中からラムネを取り出そうとしたが、悠斗がその手を握って止めた。

 

「それは梨璃さんのだから、ここは俺ので」

 

 と言って、悠斗はクーラーボックスからラムネを一本取りだし、子供の元へ。

 

「これ、どうぞ」

 

「そ、そんな! 申し訳ないです!」

 

「大丈夫ですよ、あんまりお母さんに迷惑かけたらダメだぞ」

 

 ラムネを手渡し、男の子の頭を撫でる悠斗。これにて一件落着かと思ったが次の瞬間────

 

「いいなぁ……私も飲みたい飲みたい!」

 

 アクシデントその二。それを見て欲しがる子供である。耳に届いた時は、流石に動きが固まった。

 

「はい、どうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………その、ごめんなさい。あなたに任せてしまって……」

 

「気にしないで下さい夢結様。天葉様と依奈様に対してだったらなんとでも言い訳なりますし」

 

 お詫びとして少しの間だけ二人のすきにさせれば少し機嫌が悪くなろうとも、直ぐに上機嫌になってくれる。二人の気持ちを知っている上で利用しているのは心苦しくなるが、やむを得ないというやつである。

 

 百合ケ丘最寄りの駅にたどり着き、夜の廃墟となった街を歩く二人。後ろになにかの気配を感じた2人が振り返るも、そこには一匹の黒猫が通り過ぎただけである。

 

 そして、今度は目の前からガサガサと音がするので立ち止まったらそこからは色んなところに葉っぱを乗せていた梅と鶴紗であった。

 

「あ、夢結……と悠斗?」

 

「ども」

 

「梅様? それに鶴紗まで……」

 

「ここは学園の敷地ではないでしょう? 何をしているの」

 

 普通なら、学園の敷地から出る際には外出届けというものを出さないといけない。出していないことは、梅の「うっ……」という声から明らかである。

 

「この先に猫の集会所があるから、後輩に案内してたんだヨ」

 

「おかげで、仲間に入れてもらえたかもしれない……」

 

「中が宜しくて、結構ね」

 

「あれ、校則違反とか言わないのカ?」

 

 思っていた反応と違って、ついつい言ってしまった。

 

「私の役割ではないでしょう? …………というか、今はそんな気力が……」

 

「寂しがってたぞ、梨璃」

 

「え?」

 

「誕生日なのに、朝から夢結と悠斗がずっといなかったもんナ。オマケに今日もレギオンの欠員埋まらなかったみたいだし。あ、でもあれだろ? 夢結達はラムネ探しにいってたんだろ?」

 

「なぜ、それを」

 

「だってよりによって誕生日にシルトを放っておいてまで、他にやることあんのか?」

 

「…………ま、ないでしょうね」

 

 その言葉に、夢結が少し落ち込んだ。

 

 

「そっかぁ……天葉達のお土産を……災難な目にあったな」

 

 そして、四人仲良く百合ケ丘へ帰ることに。悠斗から今日のことを聞いた梅な朗らかに笑った。

 

「ま、別に後悔はしていないので大丈夫ですよ。結果的に、梨璃さんのプレゼントは残りましたし」

 

「…………ん?」

 

 その時、鶴紗が月明かりに反射して光る何かを見つけ、隣にいた悠斗の袖を握って立ち止まった。

 

「鶴紗?」

 

「これ……」

 

「どうした?」

 

 鶴紗達が止まったのをきっかけに夢結と梅も少し戻り、光源の場所を見るが、暗くてよく分からない。

 

「……? んん……?」

 

 そして、なにかに気づいた梅がお金を取りだし、入れる。その瞬間、あかりが着いた。

 

「あ、節電モードか」

 

 そして、蓋を開け、中から出てきたのは────

 

「ラムネ…………」

 

「え……」

 

 ────ガラス瓶に、ビー玉で蓋をした炭酸入り清涼飲料水だった。

 

 それを見て、夢結の顔が今まで見た事もないほどに落ち込んでいき──―地面に座り込────

 

「夢結様っ!」

 

「夢結!」

 

 ────む前に、咄嗟に悠斗が夢結の脇腹と腕の間に手を突っ込んで支える。あまりの脱力の仕方に、鶴紗と梅は顔を合わせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、梨璃達が仮に与えられている隊室に、プレゼントを持った夢結が現れると、それに酷く感動して両手を胸の前で合わせた。

 

「お姉様……! わざわざ私のために! 甲州まで行ってラムネを買ってきてくださったんですか! それに、このラムネも、正門のそばにある自動販売機のラムネですよね!」

 

「やっぱり知っていたか……」

 

「えぇ……そうねっ」

 

 その言葉に、夢結の体が徐々に斜めになる。

 

「お休みの日には、よく買いにていっていたんですけど、やっぱりお姉様も知っていたのですね!」

 

「そうは思えませんが……」

 

 夢結の状態を見てポソりと楓が呟いた。

 

「所詮、私は梨璃が思うほど大した人間ではないということよ」

 

「ええっ! そんな! 夢結様は私にとっては大したお姉様です!」

 

「なんか日本語違くね……?」

 

「悠斗さん、しーですよ」

 

 神琳が注意した。

 

「断じてノーだわ。あなたがそこまで喜ぶようなことを、私ができているとは思えないもの……」

 

「そんなの出来ます! 出来てますよ! ……じゃあ、もう一個だけいいですか?」

 

「……えぇ」

 

「…………お」

 

 そして、梨璃は両手を広げた。

 

「お姉様を私に下さい!」

 

「はぁ!?」

 

「梨璃さん過激ですぅ!」

 

 そして、とんでも発言をした。

 

「……どうぞ」

 

「はい!」

 

 何をすればいいか分からずに、とりあえず状態を少し前に倒した梨璃。そして梨璃は、夢結へと近づくと抱きついた。

 

「おおおおお……」

 

 そして、それを見てザワつく一柳隊の皆さん。ミリアムのアホ毛がハート型になっており、楓はそんな二人を睨み、神琳は両手で口を塞ぎ、雨嘉は両目を手で隠すようにしているが、しっかりと隙間から二人を見ている。

 

「……私、汗かいているわよ」

 

 どことなく、照れている夢結。梨璃が一瞬だけ鼻で息を吸うと「ブドウ畑の匂いがします……」と呟いた。

 

「……やっぱり、私の方が貰ってばかりね」

 

 そしてなんと、夢結も梨璃のことを抱きしめ返す。それに気づいた梨璃の顔が、一気に嬉しそうになった。

 

「お、お姉様……」

 

「……梨璃、誕生日おめでとう」

 

「……! はわっ……!」

 

 声にもならないような感動の声を上げる梨璃。それを見ている一柳隊の面々は完全に野次馬だった。

 

「は! ハレンチですお二人ともぉ!」

 

「号外ですぅ!」

 

「…………!」

 

 しかし、ここで異変が現る。夢結が梨璃を抱きしめている力が、段々強くなっているのだ。

 

「お、お姉様……その、嬉しいんですけど……っ! あの……苦しいですぅ……っ!」

 

「なんて熱い抱擁ですぅ!?」

 

「お姉様……っ! 私……っ! どうすれば……っ!」

 

「わしが聞きたいのじゃ」

 

「夢結様がハグひとつするのも不慣れなのは分かりましたから! 梨璃さんも少しは抵抗なさい!」

 

 そして、ついにキャパを超えた梨璃がショートし、目をぐるぐるに回し脱力した。

 

「梨璃!?」

 

「あっはっはははは!!」

 

 そして、その光景を見て腹を抱えて笑いだした梅。

 

「楽しそうですね、梅様」

 

「こんな楽しいもの見せられたら、楽しいに決まってるだろ!」

 

 そして、なあも笑い続ける梅。余りにも笑いすぎて涙が出てきたのを拭ってから、今度は梅が爆弾発言をした。

 

 ぴょこん、と鶴紗のアホ毛が揺れた。

 

「さっき鶴紗と決めた。今更だけど、梅と鶴紗も梨璃のレギオンに入れてくれ!」

 

「生憎個性派だが」

 

「……あの、だから私じゃなくてお姉様のレギオン────ええっ!?」

 

「そ、それじゃあ! これで9人揃っちゃいますよ! レギオン完成です!?」

 

「あらあら、これは嬉しいですね」

 

「あらま、このタイミング……」

 

「おめでとう梨璃」

 

「なんじゃ騒々しい日じゃの」

 

「梅は誰のことも大好きだけど、梨璃のために一生懸命な夢結のことはもっと好きになったぞ……梨璃!」

 

「は、はい!」

 

 急に呼ばれた梨璃が慌てて返事をする。

 

「ま、今日のあたしらは夢結から梨璃へのプレゼントみたいなもんだ!」

 

「遠慮するな。受け取れ」

 

「梅様……鶴紗さん……っ! こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

「これは……汗をかいた甲斐もあったものね」

 

「それはそうと! お二人いつまでくっついていますの!」

 

 

 

 

 

「その……梨璃さん夢結様の後だったらしょぼくて申し訳ないくらいだが……これ」

 

 そして、今度は悠斗が梨璃へ誕生日へプレゼントを渡すばん。眞悠里に選んでもらったペンダントの中には、既に梨璃の故郷の写真が入っている。

 

「これは……?」

 

「梨璃さんの故郷の写真が入ってるペンダント。梨璃さんがいつでも故郷を思い出せるように……かな」

 

「わぁ……! ありがとうございます! 悠斗くん!」

 

「ほほう、お主も中々粋なものを渡すのう」

 

「これも充分素敵だと思いますよ」

 

 と、ミリアムと神琳が梨璃の後ろから覗き込み、素直な感想を言う。

 

「それともう一つある────というか、さっき決まったんだけど……梨璃さん」

 

「はい、なんですか?」

 

「俺も誕生日プレゼントだ。遠慮なく受け取れ」

 

「……? えっと、それどういう────!?」

 

 悠斗の言葉が、鶴紗と同じに気づいた梨璃が目を輝かせる。

 

「も、もしかして! 悠斗くんも!」

 

「おう。元々は梨璃さんのレギオンに九人集まった後に入れてもらおうと考えていたからな。決まったことだし、これでようやく俺も勧誘を断わることが出来────」

 

「嬉しいですっ!」

 

「おっと……」

 

 そしてこの日。新たに10人のギルドが結成された。




NGシーン。

「そうそう、梨璃さんのレギオンに10人揃ったってことは知ってるわよ」

「耳が早いのね――――?あの、祀さん?」

「そう、悠斗くんも梨璃さんのレギオンに……羨ましい」

「あの……祀さん?肩が痛いのだけど………」


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十七話

「へぇ、結局梨璃さんの所にしたんだ。薄々分かってはいたけど」

 

 翌日、アールヴヘイム隊室に顔を出した悠斗。そこには壱しかいなかった。他のみんなは、この後にある出撃のための準備を慌ててしているのだとか。

 

「そうなのか?」

 

「そうよ。だって、悠斗の目、明らかに梨璃さんを見つめる時だけ違うもの」

 

「そんなに?」

 

「そう…………なんていうか、父親が娘を見守る的な?」

 

「えぇ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、正式に梨璃のレギオンの隊室が渡されたとのことなので、一応悠斗もレギオンに入った身として立ち会いに参加する。

 

「…………」

 

 そして、隊室の前に立った梨璃がほげーっと看板を見つめた。

 

「一柳…………隊!?」

 

「一柳隊がどうかしまして?」

 

「ええ、一柳隊ですよね」

 

「うむ、一柳隊じゃな」

 

「確か一柳隊だったかと」

 

「私も一柳隊だと思ってた」

 

「え? 違うのか?」

 

「私達、白井隊では?」

 

 元々梨璃は夢結のためのレギオンを作ろうと躍起していたので、この反応は当たり前だが……。

 

「どっちでもいい。だから一柳隊でいい」

 

「もう一柳隊で覚えちゃったヨー」

 

「じゃあ、一柳隊で問題ないわね」

 

「え……えぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「で、でもこれじゃ私がリーダーみたいじゃないですか!」

 

「いいんじゃないか? 別に」

 

「私はちーっとも構いませんが」

 

「梨璃の働きで出来たようなもんじゃからな」

 

「えぇ……?」

 

 隊室に移動し、机にそれぞれお菓子を広げてちょっとした宴みたいになっている中、悠斗、楓、ミリアムの言葉に困ったかのような声を出す梨璃。

 

「ま、梨璃はリリィとしてもまだちょっと頼りないけどな」

 

「まだまだよ。勿論、梨璃の足りないところは私が補います。責任をもって」

 

「良かったぁ……ですよ────!」

 

 次の瞬間、夢結がどこからともなく、現在使っているCHARM『ブリューナク』を出すと梨璃の目の前に置いた。

 

「──うわぁぁ!」

 

「つまり何時でも私が見張っているということよ! たるんでいたら、私が責任をもって突っつくから、覚悟なさい!」

 

「は、はぃ!」

 

「突っつく……? 一体何で?」

 

「あははっ、これなら大丈夫そうだナ」

 

「くっ……なんて羨ましい……っ!」

 

「リーダーを突っつきたいのか……あむ」

 

 鶴紗がドーナツを食べながら楓に突っ込むと、雨嘉が神琳へ視線を向ける。

 

「……百合ケ丘のレギオンって、どこもこんななの……?」

 

「……否定できねぇな」

 

「そうでも無いと言いたいところだけど……結構自由よね」

 

 アールヴヘイムを見ればお分かりである。

 

「と、ともかく! こうして九人通り越して十人揃った今ならノインヴェルト戦術だって可能なんですよ!」

 

「ま、理屈の上ではそうじゃな」

 

「それって……これだよね」

 

 と、梨璃がポケットから取り出したのは、リリィの手のひらからちょっと横がはみ出るくらいの銃弾があった。

 

「なんですか?」

 

「ノインヴェルト戦術に使う特殊弾ですわね」

 

「うわぁ……! 実物は初めて見ました!」

 

「それな、無茶苦茶高いらしいぞ」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「それ、一番安いヤツでも(ピー)千万するぞ?」

 

 そして、CHARMが戦車一台分くらいである。

 

「ノインヴェルトとは、『九つの世界』という意味よ。マギスフィアを、九つの世界に模した九本のCHARMを通し、成長させHUGEに向けて放つの。それは、どんなHUGEも、一撃で倒すわ」

 

「……できるかな、私達に」

 

 と、夢結の話を聞いた雨嘉が自信なさげに呟いた。

 

「今はまだ難しいかと。何よりもチームワークが必要な技ですから」

 

「ま、『目標は高く』と申しますわ」

 

「はぁ……そうですよね」

 

 少しばかり落ち込む梨璃に、夢結は何かを考え始めた。

 

 

 

 

 場所を移動し、一柳隊の皆が移動してきたのは今回討伐部隊としてアールヴヘイムが任務を行う場所だった。

 

「ここで見学ですか?」

 

「私達の戦闘を見学するなら、特等席でしょ?」

 

「あの夢結がシルトの為に骨折りするなら、協力したくもなるでしょ?」

 

 

 そう、夢結が梨璃の為にノインヴェルト戦術を見学させたいと言う思いから、アールヴヘイムの天葉と依奈に頼んたのだ。

 

「あはは、夢結をこんなに可愛くしちゃうなんて、あなた一体何者なの?」

 

「え? 私はただの新米リリィです」

 

「ありがとう、天葉」

 

「気にしないで、貸しだから」

 

「ノインヴェルト戦術が見たいのでしょう? お見せする間もなく倒しちゃったら、ごめんなさいね…………と、こ、ろ、でぇ?」

 

 依奈がくるりと振り向き、悠斗に向かって視線を向けた。その視線に、なんとなく寒気を感じてビクッとなった悠斗。

 

「そ、れ、でぇ? 私達に黙ってレギオンに入った悪い子はここにいるのかなぁ?」

 

「え、壱から何も聞いてな────痛っ、ちょっ、痛いです依奈様!」

 

 べシッ、べシッと依奈が悠斗の背中を叩く。そこに天葉も加わった。

 

「ほらほら、今はこれで勘弁したげるから、後でもっと凄い目に合わせるからね」

 

「俺何されるんです!?」

 

 

 

 

 

 そして、作戦開始時間となり、1匹のHUGEが海を潜り水飛沫を上げる────が、飛び出てきたのは触手のみであった。

 

「……! 私達に陽動を仕掛けた!?」

 

「HUGEの癖に、小賢しいじゃない……っ!」

 

 そして、今度こそ本命のHUGEが登場し、海から跳ねた。

 

「……押されているな」

 

「えぇ、あのHUGE……リリィまるでを恐れていない」

 

 そして、その異常性に気づいた悠斗や梅、そして夢結は不安を感じる。

 

「こいつ……戦いになれてる!?」

 

 天葉もこの危険性を感知し、自身のCHARMである『グラム』にノインヴェルト戦術を行うための特殊弾が装備された。

 

「アールヴヘイムはこれより、上陸中のHUGEに、ノインヴェルト戦術を仕掛ける!」

 

 天葉からスタートするノインヴェルト戦術は、次に依奈が受け取る。

 

「よく見ておきなさい」

 

「はい!」

 

「ノインヴェルト戦術は、その威力と引き換えにリリィのマギとCHARMを激しく消耗させる、文字通りの諸刃の剣です!」

 

 そして、完璧なコンビネーションで繋がれたマギスフィアは、ラストのフィニッシャーである亜羅椰の元へ。

 

「不肖遠藤亜羅椰。フィニッシュショット、決めさせてもらいます!」

 

 そして、放たれたマギスフィアは、HUGEの元へと行くと────マギの障壁によって受け止められた。

 

「なに!?」

 

「フィニッシュショットをとめた!?」

 

「嘘っ……!」

 

 そんな光景を初めて見たアールヴヘイムの面々は、驚きを隠せない。

 

「なんじゃぁぁぁ!!」

 

 後ろの方では、ミリアムの髪がすごいことになっていた。

 

「こんにゃろぉぉ!!」

 

 しかし、そこで黙っていないのが我らがアールヴヘイムの主将である。まるで女の子とは思えないようなセリフを吐きながら突撃。マギスフィアを後ろから後押しして、障壁を突破。そして爆発。

 

 ノインヴェルト戦術は確実にHUGEに当たった。

 

「もう、天葉姉様危ないです……」

 

「不本意ですが、アールヴヘイムは撤退します……くっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「アールヴヘイムが、ノインヴェルト戦術を使って仕損じるなんて」

 

 その信じられない光景に、一柳隊が呆然としていると、梨璃がCHARMを持って跳躍し、前にある廃墟の屋上へと着地した。

 

「梨璃さん!」

 

「あのHUGE! まだ動いてます!」

 

 確かに、遠目からでもあのHUGEが生きていることは明らかであった。

 

「黙って見てたりしたら、お姉様に突っつかれてしまいますから!」

 

「どさくさ紛れに、一柳隊の初陣ですわね!」

 

 そして軽く、一柳隊は悠斗を含めた10人で作戦会議を行うことに。レギオンのフォーメーションにはそれぞれ、『AZ』『TZ』『BZ』の三箇所がある。

 

 しかし、今回はまだまだ一柳隊の連携も全然取れていないということで、少なくともコンビネーションが取れる面で分けようということになった。

 

 夢結は当然、AZになるのでコンビが組める梨璃もそこに配置。レアスキルが分かっている楓と二水をBZに置き、残りはTZにおいて固めた。

 

 そして、夢結と梨璃が息を合わせた一撃により、HUGEがパックリと割れるが、消滅はしていないため倒せていない。

 

 そして、割れ目の境い目から、蒼い光が輝いている。

 

「何ですの!?」

 

「あの光は……」

 

「あれは……CHARMか? いや、待て……あの形状は……っ!」

 

 昔、天葉と依奈から聞いたことを思い出す。夢結は昔、ダインスレイブというCHARMを使っていたのだが、悠斗が死んだ甲州撤退戦の時に無くしてしまったのだと。

 

 あのHUGEに刺さっているのは紛れもないダインスレイブだ。しかし、別のリリィのという可能性もあるが、悠斗はどうしてもその可能性を捨てきれなかった。

 

「あのHUGEが…………俺の事を殺した……?」

 

 ドクン、と胸が激しく鼓動した。

 

 



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十八話

「あのHUGEが……俺を…………」

 

 思い出す、あの夜を。悠斗のことを、まるで女神のような笑顔で看取ってくれた川添美鈴のことを。

 

 思い出す、あの話を。天葉と依奈から聞いた、あの夜にその人は死んだということを。

 

 ────ドクンッ!! 

 

「グッ……あぁ……っ!」

 

「! 悠斗さん!」

 

 地面へと倒れ、片膝を着く悠斗のことを心配して近づく神琳だったが、その途端に、悠斗の背中から複数の触手────あのHUGEと()()触手が勢いよく現れた。

 

「っ! 悠斗さん! ダメです!」

 

「なんじゃなんじゃ! こっちでもあっちでも大変なことがおこっとるのう!」

 

 向こうでは、夢結がルナティックトランサーを発動させ、HUGE相手に無謀な突貫を行っている。

 

「あいつが……あの人を……俺を……っ!」

 

「悠斗さん! ダメです! それ以上HUGEに近づいては────!」

 

「────殺す」

 

 その瞬間、悠斗の髪が黒色から赤色に変化し、瞳がHUGEの目と同じ不気味な青色に変化した。

 

 レアスキル『ルナティックレッドアイズ』が発動された瞬間である。

 

「悠斗さん! ダメっ!」

 

「!」

 

 神琳の悲痛な叫び声も聞かずにあのHUGEにへと突貫して行った悠斗。それを見た神琳が泣きそうな顔でそのまま悠斗を見つめた。

 

「しぇ、神琳さん……あれは……」

 

 梅に救出された梨璃が、事情を知っているであろう神琳へと目を向けた。

 

「あれは、悠斗さんのレアスキル……『ルナティックレッドアイズ』でず」

 

「それって、前に悠斗くんが言ってた……」

 

 ルナティックレッドアイズ。それは、悠斗だけが持っている狂気のレアスキルである。ルナティックトランサーと同じく、精神は正常なまま「バーサーク」状態に陥るのだが、いつも悠斗が設定している枷が完全になくなると共に、対象に対して強い殺意を持ち、己の全ての力を使ってその対象を破壊するレアスキルである。しかし、その過程には周りがどうなろうと関係なしに破壊し続けるため、まだこのレアスキルをコントロールできてない無かった時期に、周りのリリィを傷つけさせてしまった。

 

「レアスキルと呼ぶのも烏滸がましいレアスキルじゃの。儂も噂には聞いておったが、あぁなるとはのう……」

 

「……っ!」

 

 そして、梨璃が立ち上がり、夢結と悠斗の元へ行こうと二歩下がった瞬間、声が聞こえた。

 

「あらら、悠斗ったらあんなの使っちゃって」

 

「ほんと、しょうのない子よね」

 

「! 天葉! それに依奈も!」

 

 それは、先程撤退したはずのアールヴヘイムだった。

 

「アールヴヘイム!」

 

「撤退したはずじゃ……」

 

「あの子があんななってて、見捨てられるわけないでしょ」

 

「それに、ああなった悠斗を戻せるのは私達しか知らないからね。妥当でしょ?」

 

 二人が悠斗を見つめる目は、困った子供を見るような優しい目だった。

 

「私達が悠斗を救うから、一柳隊の皆さんは夢結をお願い」

 

「それじゃ、先いくわね」

 

 と、手を振ってから飛び上がった。

 

「ところで、ソラはCHARM持ってないけど大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫。私ほら、これでも身体能力は高いから」

 

「そうだったわね」

 

 クスリ、と天葉の言葉に笑う依奈。二人の間に緊張なんてものはなく、まるでピクニックのようだった。

 

「殺す!」

 

「悠斗!」

 

「迎えに来たわよ!」

 

 そして、いよいよ二人が悠斗に接近。半壊しているが、CHARMがまだギリギリ使える依奈が前に出た。

 

 しかし、悠斗は一瞬だけ二人を見たが、対象としてカウントしなかったためすぐさまそっぽを向き、背中から生えている触手を、HUGEの腕とぶつけた。

 

「ほら! こっちを向きなさい! このバカ悠斗!」

 

 ガンッ! と依奈が悠斗にCHARMを振るうと、それに反応した悠斗が自身のCHARMを盾代わりに使い受け止める。そして、ようやく悠斗が依奈を姿を移した。

 

「……っ、依奈、様……」

 

「ほら! こっち戻ってきなさい! 今のあなたも素敵だけれど、普通の悠斗の方がもっと素敵よ!」

 

 青色の瞳が揺れ、一瞬だけ元の色に戻りかけたが、HUGEが腕を依奈に伸ばしてきたため、依奈を吹っ飛ばしてから背中の触手をぶつける。

 

「っ、今よ! ソラ!」

 

「悠斗!」

 

 そして、機会を待ってた天葉が、悠斗の背中の触手がHUGEに向いたタイミングで、天葉が悠斗に抱きついた。

 

「確保! 依奈!」

 

「OK! 二人なら、流石に持ち運べる!」

 

 そして、後ろから依奈が抱きつき、二人のタイミングを合わせてジャンプをして戦線を離脱。ちらりと後ろをむくと、丁度向こうも夢結の救出が出来たみたいだ。

 

「……ごめ、なさい……天葉、様……依奈、様……」

 

「謝罪なんていいから」

 

「そうそう。後でしっかりとデートしてくれれば私的には何も問題ないわ」

 

 HUGEから離れた位置で悠斗のことを下ろした天葉と依奈。しかし、離しておくとまたHUGEに突貫する恐れがあるため、二人がかりで押さえつけ、悠斗を元に戻す方法を話し合った。

 

「それで……今回はどっちがする? 私でもいいけど」

 

「ソラはマギ的に不安でしょ? 私がするわ」

 

「…………本当はここでそんなことないって言いたいけど、前回は私だったから、今回は譲るね」

 

 と、めちゃくちゃ悔しそうに言った天葉は、悠斗の体を全力で押さえつける方向へシフトする。

 

「……ごめんなさいね、本当は素面の状態であなたとやりたかったけど……」

 

 依奈は自身の髪をかきあげたあとに、悠斗の頬へ手を持っていく。そして、強引にこちらへ顔を寄せると────その唇に、自身の唇を持っていった。

 

「んっ……」

 

「────―」

 

 マギ交感と呼ばれる体内に溜まっている負のマギを解消させる手段であり、本当は手を繋ぐだけでも効果はあるが、この状態の悠斗には外部からの強い影響を与えなければ、悠斗の意思は戻ってこない。

 

 だから、この手段となった。二人の名誉のために行っておくが、決して下心あっての事ではない。

 

 多分。

 

「依、奈……」

 

「静かにしてなさい。すぐに終わるから────んっ」

 

 悪いものが溜まってるなら、悪いものと一緒にマギを解消させればいいじゃない。とかなんとも適当な横暴で行っている接吻式マギ交感だが、以外にも効果があるらしく、徐々に悠斗の目が黒に戻っていき、髪の色も黒くなった。

 

 そして、完全に悠斗から狂気が抜けたことを確認すると、依奈はゆっくりと口を離した。

 

「どう? 気分は?」

 

「……すみません、俺……また」

 

「気にしないで、後輩を助けるのも先輩の役目よ。それに、少しは嬉しいし……」

 

「ほらそこー。あんま私の前でいちゃつかないでねー」

 

 そして、向こうでも決着寸前であり、一柳隊の全員がゼロ距離でノインヴェルト戦術のマギスフィアの受け渡しをしていた。

 

「うっそ、なにあれ……」

 

「あんなやり方……見たことないわ」

 

 そのことに天葉と依奈が驚き、夢結と梨璃が直接HUGEに叩き込んだことで戦闘は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 その後。

 

「ごめんねぇ百由! 色々忙しい時にCHARM壊しちゃって……あーん」

 

「あむっ! CHARMを操ってノインヴェルトを無効化するなんて、とんだHUGEもいたもんだわ!」

 

「ほんとすみません! これもどうぞ!」

 

 急な百由に対してのCHARM修復依頼について申し訳ないと言う気持ちから、百由のラボに入り浸り、百由の世話を焼くアールヴヘイム。

 

「ほらほら、1番面倒な私のグラムの修復は悠斗がやるんだから急いでね」

 

「……これが今日言ってた凄いことか……色んな意味で凄いなほんと」

 

「兄さま、手が止まってます。もっと撫でて下さい」

 

「ちょっと待って樟美! 今手が離せないから!」




ということで、悠斗君のレアスキルでした。ちゃんと説明になっているか少し不安。


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十九話

 とある日、哨戒任務に当たっていた一柳隊だが、そこにはアビスの残骸とも呼べる物があちこちと砂浜に打ち上がっていた。

 

「全く……派手にやらかしてくれたものねぇ」

 

「昨日って! 戦闘ありましたっけ!」

 

「いえ、昨日は何も無かったはずです」

 

「共食いでもしたんじゃろか」

 

「HUGEを形作るのは、全てマギの力だからHUGEは物を食べたりしないはずです」

 

 二水があまりの臭いに鼻をつまみながら説明する。

 

「マギを失えば、HUGEは巨体を維持出来ず、その場で崩壊するはずよ。軟組織は一晩もあれば無機質にまで分解され、骨格も数日で────」

 

「それがまさに今……」

 

「この臭い、まだマシな方……」

 

 そんな雨嘉の言葉を聞いた二水が「ふぇぇぇ……」と声を出した。そんな中、なにかに気がついた梨璃が隊から少し離れる。その先には、なにか不思議な色をした不思議な物体があった。

 

「……?」

 

 しゃがみこんで覗くと何やら驚いた梨璃は慌てて立ち上がり、恐る恐るその物体へCHARMを突き刺そうとすると、マギクリスタルコアが反応を見せた。

 

「……? ……え!?」

 

 そして、CHARMの刃先と謎の物体の間に電流が走ると、それにまたもやびっくりする梨璃。

 

「ふわ!? ……え……なに、今の……?」

 

「梨璃さーん。どうしたんですかー?」

 

 その声に気づいた二水が梨璃の元へと近づく。

 

「あ、二水ちゃん! 今、CHARMが──―」

 

「ふぇ……え!? 梨璃さん!?」

 

「ふぇ? どうしたの? 二水ちゃん!」

 

 その時、梨璃の背後からゆっくりと近づく何か。それに気づいた二水が、顔を真っ青にした。

 

「どうしたー?」

 

「なにか見つかりまして?」

 

 そして、二水の声を聞いてゾロゾロと集まる一柳隊ズ。

 

「いえ! 何でも! CHARMが、ちょっと……」

 

「梨璃さん……う、後ろぉ!」

 

「え? ……わぁぁ!」

 

 遂に、その謎の影は梨璃に抱きついた。それは、人の形をしており、何故か全裸だった。それに驚いた梨璃がCHARMを落とした。

 

「「「「「………………」」」」」

 

「梨璃、何をしているの? …………!」

 

「梨璃さん?」

 

 そして、悠斗と夢結も交流。悠斗が何があったのか梨璃の方を見ようとしたが────

 

「! 悠斗さんは見てはダメよ!」

 

「だ、ダメっ!」

 

「うごっ!?」

 

 ベチコーン! と神琳と雨嘉の二人に目を手で勢いよく塞がれ、悶絶した。

 

「お、お姉様……」

 

「なんでこんな所に人がいんダ?」

 

「……ふぁ」

 

「……ふぁ?」

 

「ブアックシュ!」

 

「ふぇぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、悠斗の目はそのまま神琳と雨嘉が塞いだまま(神琳はここぞとばかりに腕に抱きついていた)医療室へ謎の少女を運んだ一柳隊。

 

 外にて全員が少女の様子を眺めている。

 

「ふぁ……こんな所にいても、私たちに出来ることはありませんわ」

 

「出来ることはしたわ梨璃。行きましょう」

 

「……あの、私もう少しここにいてもいいですか?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 ガラスに張り付きながら、目を逸らさずに言った梨璃。そんな梨璃を見て、夢結は一言────

 

「分かったわ」

 

 と言って笑うのだった。

 

 ────いや、親子か。

 

 そんな光景を見て、悠斗は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カフェテラスへ移動した一柳隊。紅茶や菓子をつまみながら梨璃のことを待っていたが、全く姿を表さない。

 

「帰ってきませんわね、梨璃さん」

 

「自分が助けたから、世話を焼きたいのでしょう。責任感の強い子だから。気になるのなら、あなたも行けばどうなの?」

 

「治療室はお喋り禁止なんですのよ。折角梨璃さんといた所で、黙ったままどうしろと?」

 

「見舞えや」

 

「見舞えよ」

 

 悠斗と鶴紗のダブルパンチが楓へ突き刺さる。

 

「意外だナ。黙っていても出来ることはありますわ~。とか何とか言うと思ってたのに」

 

 やけにクオリティの高いモノマネを披露した梅。それを聞いた楓が手をパンっ! として一言。

 

「なるほど! その手がありましたわ!」

 

「あるかー!!」

 

 噂をすれば影。ということか、突然と「お姉様ー!」という声が耳に届き、楓が嬉しそうな声を上げる。

 

「梨璃、どうしたの? そんな慌てて。あの子が目を覚ましたの?」

 

「いえ、まだ寝てます……ぐっすり」

 

 そして、梨璃は三つの教科書を置き、「お姉様に戦術理論の講義で教えて欲しいことがあったんですけど──―」とまで言ったところで、予鈴のチャイムがなった。

 

「あぁー! 間に合わなかった! これから講義なんです! ごきげんよう! お姉様っ!」

 

 夢結に笑いかけた後に急いで教室へと移動した梨璃。

 

「夢結は授業ないんだっけ?」

 

「取れる単位は、一年生の時に全て取ってしまったから」

 

「あっそ……じやあなー」

 

「ごきげんよう」

 

 と、一柳隊が全員移動し、その場に残ったのは悠斗と夢結のみ。

 

「……あなたは、授業はないの?」

 

「ほら、俺色々と特別ですので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕暮れが立ち始め、理事長室へ呼び出された悠斗。既に先にいた史房と共に話をしていたのだが、そこで政府から通話が掛かってくる。政府にバレる訳には行かないので、悠斗はそのまま黙った。

 

「時に高松君。先日そちらに保護された民間人のことなのだが」

 

「あー、該当する者はおりますが、それが何か?」

 

「民間人がHUGEとの戦闘に巻き込まれたというなら……対外的な問題になる前に、我々には身柄を引き受ける用意がある」

 

「折角ですが、お気遣いはご無用です。彼女はリリィであると判明しました」

 

「ほぉ、リリィとは」

 

「君たちの手を煩わせる訳には及ばん。提案を受け入れてはどうだ?」

 

 その言葉を聞いて、悠斗の眉がピクリと動く。

 

「ご存知の通り、当学院には対HUGE防衛線以外にも、リリィの保護という役割があります。そのため学院には独自の自治権が認められております」

 

「リリィ一人がどれだけの戦力になるか、そのリリィを一箇所に集中させ、かつシビリアンコントロールを受けることなく自治などと…………それがどれだけ、危険視されているかは、勿論君も知っているだろう」

 

 あまりの言いように、史房はついついため息を吐いてしまい、悠斗と目線を合わせる。悠斗はバカバカしいと言わんばかりに肩を竦める。

 

「勿論です。関係各所にそれを認めさせるほどの苦労は、筆舌に尽くしがたいものがありました。この学院が預かるのは年端も行かぬ子供ばかり。その彼女たちを、HUGE殲滅の矢面に立せれる我らもまた、危険なのではありますまいか?」

 

「…………今のは、問題発言として記録されるぞ」

 

「少なくともリリィが人間の敵になるなど、ありえない事です」

 

「リリィ第一世代としての君の見解は承知している。だが、過度な思い入れは判断を誤ることになる」

 

「…………ひとつお聞かせ願いたいのだが、彼女に興味を示しているのはどこの誰ですかな?」

 

「質問の意味が分かりかねるな」

 

「それは君とは関係ない事だ」

 

「関係ないとは────」

 

「いや待て」

 

 その瞬間、政府陣が一旦黙るが。

 

「また改める」

 

 と言って、通話を切った。

 

 ────嫌な予感がするなぁ。

 

「……はぁ、済まなかったのう二人とも、付き合わせてしまって」

 

「いえ、生徒会長としての権利ですから」

 

「俺にも関係あるかもしれないことですし、問題ないですよ」

 

「それよりお聞かせ願いますか? 理事長代行が、彼女をどのようにお考えなのかを」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと」

 

「あ! 悠斗くん! また後で!」

 

 次の日、一柳隊の隊室に入ろうとしたが、その瞬間に梨璃とすれ違う。そのことに首を傾げながらも隊室へと入っていった。

 

「ごきげんよう皆。梨璃さんとすれ違ったけど何かあったの?」

 

「梨璃が昨日拾った子の面倒を見ると言ってのう」

 

「あぁ、なるほど」

 

 ミリアムの言葉に全て察した悠斗。その時、コツコツコツと定期的に響く音が聞こえる。不思議に思って周りを見てみると、夢結の前に置いてある紅茶が波立っていた。テーブルの下をのぞき込むと、夢結がコツコツと靴を地面に当てて鳴らしていた。

 

「……夢結様?」

 

「どうかなさいまして?」

 

 それに気づいた悠斗と楓が夢結に話しかけるも、「何か?」と何も分かっていないかのように返した夢結。

 

「夢結様……そうは言ったものの、どこか落ち着かないのではありません?」

 

「…………多少」

 

「胸の内がザワザワと?」

 

「かも、しれないわね」

 

「ささくれがチクチクと痛むような!?」

 

「なぜ、それを……」

 

 ──―なんで楓さんはこんな嬉しそうなんだ? 

 

「夢結様、それは焼きもちです!」




アンケートがあります。これによって悠斗くんの存在が明るみになるタイミングが違います。

生存ルート→早い段階で存在が露見。どこぞの年上リリィのお二人にとある反応

原作ルート→ラスバレ編で存在が公にされる。


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二十話

 もうすぐ、戦技競技会がやってくる。簡単に言うと、運動会みたいなもので、個人部門、クラス部門、レギオン部門で競い合い、最優秀リリィに選ばれたリリィには、とんでもない豪華な物が贈られる。

 

 だがしかし、男である悠斗は全力で情報を漏らすのを止めているので、普通の手段であれば出ることが出来ない。

 

 そう、()()()()()()()()()

 

 コツ、コツと一柳隊の隊室に近づいていく一つの人影。その人影は、黒髪を腰ほどまで伸ばし、身長は女子と言う割には高く、とてもスタイルがいい。

 

「ごきげんよう」

 

「…………誰?」

 

 ガチャり、と一柳隊の隊室のドアを開けて挨拶をした少女。しかし、梨璃はその姿を見たことがないので首を傾げた。

 

「お、そういえばもうそんな時期だったナ」

 

「そういえばそうでしたね。とても良くお似合いですよ」

 

「ありがとう、神琳さん。嬉しいわ」

 

 そして、その少女を見て納得が言ったかのように反応したのは梅と神琳。しかし、神琳のセリフはどこかおかしく、それに気づいた雨嘉が「似合ってる……?」と呟いた。

 

「えと……お姉様……?」

 

「その格好、随分と気合が入ってるのね」

 

「えぇ夢結様。当日ではボロが出る可能性がありますから、一週間前からこうやって心身ともに慣らしておかないと」

 

 髪をファサァ! と手で払った少女。そして、普通に会話している自身のシュッツエンゲルのを見て「ふぇぇ……」と声を漏らした梨璃。

 

「もうええじゃろ。その御仁が悠斗だということを、早く教えてやれい」

 

「…………ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 そう。この少女は浅野悠斗、16歳。毎年、戦技競技会には、()()で参加している。

 

「悠斗くん!? 本当に悠斗くんなんですか!?」

 

「? ゆうとー?」

 

「おう。きちんと俺だぞー。よっこいせ」

 

 ウィッグを外すと、一気に梨璃の記憶の中にいる悠斗と、目の前にいる悠斗がやっと繋がった。

 

「お、驚きですぅ……! 今私、すごい体験をしましたっ!」

 

「信じられない……」

 

「ま、普通はそうだろうけどメイクとかはアールヴヘイムのみんなに教えてもらったし、女声も出るように練習したし、女子の仕草も研究したし……よいせっ。これで、私の事が学院外に漏れることはありえないですわ」

 

 ウィッグを嵌め直した瞬間に、また先程の謎の美少女(?)に戻る。この姿を知っている梅と神琳は、驚いている梨璃たちの様子を見てクスクスと笑っていた。

 

「名前の方はどうなってるんですの?」

 

「あ、確かにそうですね。悠斗が名前はちょっと女の子らしくない感じですし」

 

「名前? 私のことは────」

 

 悠斗は、梨璃に近づき、指で顎をクイッとした。何故。

 

「────悠夏(ゆうな)と呼びなさい」

 

「…………ぴえっ!?」

 

 梨璃の顔が赤く染った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば閑さん! 聞いてください! 今日悠斗くんが女の子の姿で現れたんですよ!」

 

「あら。そういえばそろそろ悠夏さんの時期ね。綺麗だったでしょう?」

 

「知ってるんですか!?」

 

「えぇ。みんな知ってるわよ」

 

「みんなっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日後、結梨のマギが完全に指輪に馴染んだので、ミリアムが持ってきたCHARM、グングニルとの契約をした。

 

「おぉ~」

 

「フンっ、北欧の田舎メーカーじゃなく、グランギニョルでしたら社割でワンランク上の物が手に入りますのに」

 

「このグングニルは中古じゃが、わしら工廠科が丹精込めて、全ての部品を一から組み直してある。新品よりかは扱いやすいぞい」

 

「あら、そう」

 

 相変わらずの言い方だが、楓なりの気遣いなのだろうか。

 

「ねぇりり、ゆうと。リリィってなんでたたかうの?」

 

「え?」

 

「結梨、私は、今は悠夏よ。ゆうな」

 

 梨璃と夢結の間にいる悠斗改め、悠夏の膝に座っている結梨だが、悠夏の頼みは無視された。

 

「えと……それは、HUGEから……皆を守るため……」

 

「誰だって、怯えながら暮らしたくない。それだけよ」

 

「クンクン。ゆゆ、悲しそう」

 

 何を思ったのか、結梨が夢結に近づき匂いを嗅ぎ出した。

 

「そう? 表情が読めないとはよく言われるけど」

 

「なんだ? 匂いで分かるのか?」

 

 そして、結梨は全員の匂いを「クンクン」と言いながら確認していく。そして、もう一度悠夏の膝の上に落ち着いた。

 

「皆も、悲しい匂いがする」

 

「誰だって、何かを背負って戦っているわ。そういうものかもね」

 

「くんくん、りりはあんまり匂わないのに」

 

「お気楽なのかな、私……あはは……」

 

「いいんでのよっ! 梨璃さんはいつまでもそのままで! 純新無垢さが、梨璃さんの取り柄ですものー!」

 

「ないものねだり」

 

「じゃなじゃな」

 

「クンクン……あ、でも今のゆゆは、りりがいるから喜んでる。りりがいないといつも寂しがってるのに」

 

「そ、そうかしら……」

 

 夢結が分かりやすく動揺した。

 

「夢結様が動揺してます!」

 

「匂いはごまかせんようじゃな」

 

「…………分かった! ゆりもHUGEと戦うよ!」

 

「無理しなくていいのよ結梨。まだ記憶も戻ってないのだから」

 

 悠夏が結梨の頭を慈愛に満ちた手で撫でた。

 

「ん……ちっとも分からない。だから沢山知りたいんだ」

 

「結梨ちゃん…………」

 

「あはは、そんなこと言われたら断れないナ」

 

「さてぇ。結梨さんのことも一段落したところで、次は雨嘉さんね」

 

「はぁ?」

 

「これと……これ」

 

「ふぇ?」

 

 神琳が取り出したものは、何故か巫女服とフリフリの付いた可愛らしいエプロンだった。

 

「この日のために用意したの」

 

「こんなのものあるぞい? にひひ」

 

「~~っ! 猫耳は外せない!」

 

 ミリアムが取り出したのはメイド服。鶴紗は猫耳カチューシャを取り出した。君達、一体どこから出した? 

 

「……! やわっ、やめてっ……!」

 

「……神琳さんたち、何してるのかな?」

 

「雨嘉さんをコスプレ部門に出場させるって」

 

 部屋の隅で、鶴紗、神琳、ミリアムに囲まれて無理やり着替えさせられる雨嘉。一応この部屋には女装をして、完全モードに入っている悠夏もいるが、元は男。しっかり夢結が悠夏の目を後ろから塞いでいた。

 

「雨嘉さんを? ちょっと地味じゃありません?」

 

「まだ何にも染っていないのがいいそうです!」

 

「そういうものですか」

 

「お前、本当に梨璃にしか興味ないのナ」

 

「そりゃそうですわー! …………なっ!?」

 

「……にゃっ」

 

 そこに居たのは、猫耳巫女メイドといった、属性もりもり衣装に身を纏った雨嘉の姿だった。

 

「やりましたわ!」

 

「やりきったのう!」

 

「はぁ~可愛い!」

 

「おぉ! わんわん可愛いな!」

 

「…………え"っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、いよいよ今日が戦技競技会の日になった。しかし、どこにでもやはり余計なものはいるのか、楽しそうな雰囲気のあるグラウンドとは対照的に、理事長代行がいるテントでは、重めな緊張感があった。

 

「さぁて。本日の客人は」

 

「十五名が敷地内に侵入しています。また、ドローンが三機ほど」

 

「素性は?」

 

「偽装していますが、大半は国内外の政府系組織です。中にはCHARMメーカー、反政府組織や、自然保護団体と思われるものも。まだ分析中ですが、興味の対象は浅野結梨で間違いないようです」

 

「こちらは何を探ります?」

 

「情報のルートを徹底的に、通信の量とその行先じゃ」

 

「挑発行為があった場合は」

 

「出歯亀が分を超えた場合の対処は、諸君らに頼む」

 

「はい。結梨さんには指一本触れさせんません」

 

 キリッ! と決めた史房。そのまま前を見つめたのだが、心中では────

 

(……出歯亀って何?)

 

 ────ジェネレーションギャップが発生していた。

 

「……ところで理事長代行」

 

「どうかしたかね?」

 

「いえ……その、なぜあいつはあそこまで自然と溶け込めているか気になるんですが……」

 

 眞悠理につられ、史房、祀、理事長代行がその方向を見る。そこには、悠斗────ではなく、悠夏が女子の中に自然と溶け込み、同じ椿組である六角汐里と、ルイセ・インゲルスと談笑している姿があった。

 

「それが、彼の魅力ということじゃろう」

 

「まぁ、慣れも含まれてると思いますけど…………」




めたもるふぉ~ぜ!ゆうなちゃん!
・概要
戦技競技会に出たすぎた悠斗が駄々を捏ねまくった結果、男だから無理なら女装すればいいじゃない!という謎思考の元、至った極地。無駄に美少女。

メイクを壱と樟美、仕草を亜羅椰を見て研究したらなんかやべぇのになって、落とされるリリィが続出。それを男の状態でやれと思うリリィは何人もいる。

身長:172cm
スリーサイズ:B92(百由特性シリコン) W68 H86

黒髪ロングのウィッグを被っているため、どことなく夢結に似ており、白ニーソである。


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十九話その2!

「……焼きもち? 私が……誰に?」

 

「もちろん、梨璃さんの大事なあの子に、ですわ」

 

「……楽しそうね、楓さん」

 

「ええ、そりゃもう。一匹狼として仲間からも恐れられた夢結様が、梨璃ロスで禁断症状とは、ププーですわー!」

 

「梨璃ロッ……!?」

 

 その間も、夢結のコツコツという音は酷くなる。

 

「ことこのことに関しては、私に一日の長がございましてよー!」

 

「威張ることか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその後、個人的に保護した子に一度色んな意味で会っておきたかった悠斗は、そのまま梨璃について行き医療室へ移動した。最初はやけに警戒されていたが、飴玉を渡すと懐いた。

 

「りり、あーん」

 

「もう、自分で食べれるでしょ?」

 

「りりがいいんだもん。あーん」

 

「自分で食べるの!」

 

「母親か」

 

「フフっ。梨璃さん、お母さんみたいね」

 

 奥から、秦祀が出てくる。一瞬だけ悠斗目を向けるとパチッ! とウインクをした。

 

「そして、悠斗くんはお父さん見たいね」

 

「俺、そんなに老けてませんよ?」

 

「お父さん、お母さん」

 

「せ、せめてお姉さんと言ってください!」

 

「お姉さん」

 

「ねぇ、そろそろ名前をつけてあげたら?」

 

「たら……?」

 

「名前が無いと、色々不便でしょ?」

 

「わ、私がですか!?」

 

「ゆうと、お父さん?」

 

「違うよ?」

 

 そして、梨璃があの子に付き添ってから一週間近いときが過ぎた。梨璃ロスによる禁断症状がやばくなったり、やばくなったり、やばくなったり。

 

 そして、夕方。

 

「ごきげんよう、お姉様」

 

「……っ」

 

 久しぶりに聞いた梨璃の声に、夢結はそちらを向く。

 

「……お隣、いいですか?」

 

「えぇ、どうぞ。梨璃」

 

「……っ! ご無沙汰してましたお姉様~!」

 

 そして、梨璃は今まで触れ合えなかった事を我慢していたのを解放したかのように夢結へと抱きつき、そのまま撓垂れ掛かる。

 

「どうしたの、ちゃんとしなさい」

 

「……? ……あぁ! それ、私の教本! お姉様が持っててくれたんですか!」

 

「さぁ、たまたまよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 向こう側では楓がヤキモチを焼いており、神琳がハンカチを差し出すも「泣いてませんわ!」と断る。嬉しそうに梨璃の事を見いた夢結の反対側に、重さが加わる。不思議に思って反対側を見ると、梨璃と同じような態勢で夢結に体重を預けている少女がいた。その奥には悠斗の姿もある。

 

 その少女は、今は髪を三つ編みにしており、前へ二つ流していて百合ケ丘女学院の制服を着ていた。

 

「……! あなた、この間の」

 

「おお! 元気になったか~」

 

「って、その制服!」

 

「うん! 正式に百合ケ丘の生徒にして貰えたって!」

 

「編入されたってこと……?」

 

「まぁ、可愛い」

 

「ほら、ご挨拶して。こちらは夢結様だよ」

 

「ゆゆ?」

 

「もうっ、ちゃんと練習したでしょ? 自己紹介っ、しようよ!」

 

「なんで?」

 

 きちんと練習したことが出来なくて「ふぇ~」と声を漏らす。そのやり取りを知っていた悠斗はクスリと笑った。

 

「なんじゃ、梨璃とこの娘……てか、悠斗も合わせると……」

 

「姉と妹。そしてお兄ちゃんって感じです!」

 

「ちょっとあなた達狭いわよ!」

 

「もっと詰めろ」

 

「梅も見たいゾ!」

 

 

 

 

 

 

 

「これなに?」

 

「スコーンよ。食べたいの? 食いしん坊さんね、誰かさんのようだわ」

 

「私ですかっ!?」

 

「夢結にもう一人シルトが出来たみたいダ」

 

「食べていい?」

 

「ちゃんと手を拭くのよ」

 

 普段は見せないような優しい顔で、少女にハンカチを渡す夢結。その光景はまるで────

 

「妹というか……」

 

「母と娘じゃな」

 

「夢結、お母さん?」

 

「産んでないわよ」

 

「じゃあお父さん?」

 

「それはどちらかと言うと悠斗でしょ」

 

「じゃあ、ゆうとがお父さん?」

 

「そのやり取り、さっきもやった────違うから神琳、肩を離しなさい。メシメシ言ってるから」

 

 どこか既視感を感じるやり取り。悠斗の後ろにたっていた神琳が、静かな笑顔で悠斗の肩を力強く握っていた。

 

「……で、この子の名前は分かったんですの?」

 

「それが、まだ記憶が戻ってなくて……」

 

「それじゃあ、今までなんて呼んでたんダ?」

 

「ふぇ!?」

 

「一週間近くありましたよね?」

 

「それは…………」

 

「? 別に、いい名前じゃん。なんで渋ってんの?」

 

 一週間近く、梨璃と一緒にこの少女を見守ってきた悠斗は、梨璃がなんて呼んでいたか知っている。なぜ渋るのか疑問に思った。

 

「言ってご覧なさい、梨璃」

 

「ゆり」

 

 その名前に、夢結が紅茶を吹き出した。

 

「はぁ!?」

 

「あぁ! それは!」

 

「私ゆり。りりが言ってた」

 

「そ、それは! 本名を思い出すまでの世を忍ぶ仮の名で!」

 

「それは無理あるだろ」

 

 変な言い訳に悠斗が咄嗟に突っ込む。

 

「それぇ! 私が付けた夢結様と梨璃さんのカップルネームじゃないですかぁ!」

 

「いえっ! あ、あのそれは!」

 

「あらぁ~、いいんじゃないんでしょうか」

 

「似合ってる、と思う!」

 

「なんか愛の結晶って感じだナ!」

 

「一緒に猫缶食うか?」

 

「いつの間にやら、既成事実が積み重ねられてますわぁ……!」

 

 楓が頭を抱えて本気で困りだした。既成事実とはちょっと違うと思うが……。

 

「じゃあ決まりじゃの」

 

「その名前でレギオンにも登録しちゃいますね」

 

「二水ちゃん!?」

 

「苗字はとりあえず…………悠斗さんのにでもしておきますか!」

 

「ふぇ!? 悠斗くんの!?」

 

「え、なぜ俺?」

 

「まぁ、別にいいんじゃないかしら」

 

「いや……まぁ別に俺はいいんですけど……」

 

「……美味しい」

 

 こうして、一柳隊に新たなリリィ『浅野結梨』が加わった。




せっかくの二次創作なんだから、苗字ちょっと変えたろーと思いました。反省も後悔もしてません。


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二十一話

 そしていよいよ、戦技競技会が始まった。悠夏が一応所属していることになっている一年椿組は、二水の周りに集まっていた。

 

「まずはクラス対抗戦ですね。私達一年椿組は、二人一組で技を競います」

 

「なるほど、となると私のペアは」

 

「私よね、悠夏」

 

「えぇ、壱。私達の実力、見せてあげましょう?」

 

 アールヴヘイムのある意味最強な一年コンビの二人が手を組んだ。ある意味チートである。

 

 1種目目は、空中に浮かんでいるディスクみたいなやつを誰が一番早く取るかを競う種目だ。マギを介し、空を飛ぶ必要があるため、二人の相性が重要になってくる。

 

「いくわよ!」

 

「えぇ」

 

 壱がブリューナクを地面に向け、円を描くようにするとマギで包まれた空間が出来上がる。素早くその場を退き、すぐさま悠夏が入れ替わるようにその場に立つと、そのマギを使って空中へ上昇する。

 

 他のリリィよりも明らかに早いスピードで上昇していく悠夏。無事に一番最初にディスクみたいなやつを掴みきった。

 

「ふふっ、まぁ当然ね」

 

「流石はゆうと────じゃなくて! 悠夏さんです!」

 

「? りり、ゆうとはゆうとだよ?」

 

「結梨ちゃん!」

 

 予め、悠斗のことについては学院の方から悠夏として接するようにと出ていたので、結梨に注意を促した梨璃。結梨はどことなく納得出来ていない様子だが……。

 

「お疲れ様、壱」

 

「悠夏もお疲れ様、相変わらずいい腕をしてるわ」

 

 二人がハイタッチをしようと近づき、パンっ! と小気味いい音を響かせると、周囲から軽く拍手が湧いた。

 

 次の種目は、エキシビション。リリィが自身の実力を披露したり、工廠科が開発した次世代CHARMの発表を

 する場である。一年生からは同じクラスである、レアスキル『円環の御手』の使い手である六角汐里や、ルイセ・インゲルス。二年生からは長谷部冬佳が会場を湧かせた。

 

 そして、午後一番の競技は混成レギオンによる的棒落としである。勝利条件は、的を落とすか、棒を倒すかのシンプルなものである。

 

 悠夏はアールヴヘイムと一柳隊に所属しているが、今回は昔から所属しているアールヴヘイムからということで出場をしていた。

 

 チーム振り分けはこんな感じである。

 

 倉又雪陽

 森辰姫

 吉村・Thi・梅

 谷口聖

 黒川・ナディ・絆奈

 

 

 今川誉

 北川原伊紀

 白井夢結

 田中壱

 清家知世

 

 

 石上碧乙

 高須賀月詩

 楓・J・ヌーベル

 金箱弥宙

 竹腰千華

 

 

 山梨日羽梨

 村上常盤

 遠藤亜羅椰

 伊東閑

 郭神琳

 

 

 

 田村那岐

 ロザリンデ・フリーデグンデ・v・オットー

 浅野悠夏(悠斗)

 ミリアム・ヒルデガルデ・v・グロピウス

 遠野捺輝

 

 以上の25名である。

 

(……あら?)

 

 始まる前に、壱が悠夏の方向────正確にはミリアムの方を見たと思ったら、何やら面白い動きをしだした。

 

「……! ちびっ子には負けん……じゃと!? にゃろめー!!」

 

「こら、ミリアム。簡単に挑発に乗ってはダメよ」

 

 壱の見事な挑発に簡単に乗ってしまったミリアム。それを宥めるために悠夏がミリアムの頭を撫でる。その度にアホ毛がぴくぴくと揺れた。

 

「し、しかしのぅ悠夏。言っていいことと悪いことがこの世には会ってじゃな」

 

「大丈夫よ。それに、ちょったした嫉妬も含まれてるのよ? あれ」

 

「……ほほう」

 

 見事にミリアムを落ち着かせることが出来た悠夏。そんな悠夏に、三年生の那岐とロザリンデが近づいた。

 

「あまり作戦を決める時間はないけれど、守り役は悠夏さん1人でも大丈夫かしら?」

 

「私も手伝います?」

 

「いえ、大丈夫よお姉様方。私の強み……知らないわけじゃないでしょう?」

 

 競技の開始の合図を知らせるための銅鑼が鳴り響く。

 

「……!」

 

「私とお手合わせお願いします! 夢結様!」

 

「こんな時でもないと、構って貰えませんから!」

 

「倒しちゃったらごめんなさいですー!」

 

 と、アールヴヘイム一年組、弥宙、月詩、辰姫の三人が一斉に夢結の元へと走っていった。一応、この三人は敵チームなのだが、ここの連携は流石同じレギオンか。

 

「ちょっと! 抜け駆けしないでよ!」

 

 亜羅椰の声が響くも、夢結も三人に向かって慌てずに自身の型を構える。

 

「こら! 夢結は敬遠しなさいって言ったでしょ!」

 

「しょうのない子達ねー」

 

「いいなー」

 

 外部にいるアールヴヘイムの皆さんもこんな反応である。これには司令塔の依奈もガッカリ。

 

「「「いざ!」」」

 

 しかし、三人は呆気なく吹き飛ばされてしまった。

 

「もっと本気でいらっしゃい」

 

 ところ変わって、悠夏のチームの的と棒がある前、悠夏は複数の二年生によって囲まれていた。

 

「嬉しいですお姉様方。私にこんなにも熱いアプローチをして下さって」

 

「貴方はこうでもしないと倒せませんからね……もっとも、この人数でも勝てるとは思っていませんが」

 

 と、声を出したのは竹腰千華である。今悠夏の目の前にいるのは聖、千華、碧乙、誉、日羽梨、常盤の六人。夢結と梅以外の二年生全員集合である。

 

「あら、流石に分かっていますね、私の事」

 

「ですが、今日こそ倒させてもらいますね!」

 

「負けません……!」

 

 悠夏────もとい、悠斗が一番実力を出せる戦い方は圧倒的一対多の状況である。蛇腹剣である自身の特別CHARM、アロンダイトを振るい自身の意思で好きな刀身に分解させることの出来るその型は、まさに変幻自在。

 

「踊りましょう? 私のダンスは少々ハイテンポだけれど、着いてこれるかしら?」

 

 ガシャン! ガシャン! と音を立てながらアロンダイトが分離し、ふよふよ浮き初めた。

 

「っ! 総員! 戦闘準備!」

 

 

 

 

 

「へへっ、迂闊じゃのう!」

 

「隙だらけよ! グロピウスさん!」

 

「じゃからぁし!」

 

 ミリアムが思いっきりCHARMを振り上げ、壱のCHARMへと叩きつけた。

 

「私だって本当は、夢結様や悠夏に構って────御相手して欲しいけれど、今日はアンタで我慢してあげるわ!」

 

 一度二度切り結び、一度位置を入れ替えた後にもう一度火花が散る。

 

「なんの必殺! 『フェイズトランセンデンス!!』」

 

 ここでミリアムは壱に向けてレアスキル『フェイズトランセンデンス』を使用し、CHARMからマギのレーザーを放出。しかし、それは躱されてしまった。

 

「避けてしまえば皆同じよ!」

 

「へっへっへ、避けてくれてありがとうなのじゃ」

 

「なっ!」

 

 だがしかし、壱が避けたことで、丁度的と一直線になっていたため、そのレーザーは的を見事にぶち抜いた。これによって、悠夏達のチームの勝利が決まった。

 

「……あら、終わり?」

 

「グッ……相変わらずデタラメ……!」

 

「無念……!」

 

 そして、悠夏の所でもちょうど誉が地面に膝を着き、勝負の終了を告げた。二年生連合軍は全員、地面に膝を着いており、制服にも少なからず汚れがついているが、悠夏はそもそも息切れさえもしてなかった。

 

「……:あら」

 

 そして、フェイズトランセンデンスを撃ち、ガス欠となったミリアムは目を回しながら地面に倒れた。これが、試合に勝って勝負に負けたと言うやつか。

 

『救護班! 急げ!』

 

 アナウンス越しに、史房の声が響いた。




悠斗くんスペック~戦闘~

得意スタイルは圧倒的一対多。敵に囲まれているという状態が一番蛇腹剣アロンダイトの性質を引き出すことができる。もちろん、ちゃんと一対一でも強いため、ほとんど隙がない。なんなら本人は一対一の方が得意と言い出すため、誰がこんなの勝てるん?と百合ケ丘の生徒は常々思っている。


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二十二話

 的棒倒しも終わり、次の種目へ移行するはずだったのだが、悠夏はCHARMを持った結梨を見て首を傾げた。

 

「結梨?」

 

「あ、ゆうな」

 

 悠夏の姿を見て、てくてくと近づいてきた結梨。

 

「結梨、どうしてCHARMを持っているの?」

 

「まいが言ってたの。次はゆりの出番だから、CHARMもって準備しとけーって」

 

「……?」

 

 確かに、次はエキシビションマッチで百由が作ったHUGEと戦う種目だったはずだが、その相手はミリアムと記憶している悠夏。しかし、何やら楽しみにしている結梨を見て突っ込むのは響かれた。

 

 そして、結梨は既に設置されているHUGEの元まで行き、「ほぁ……」と見上げた。

 

「ちょっ!? ちょっとこれどういうことですかぁ!?」

 

 それに気づいた梨璃が、その方向を慌てて指を指した。

 

「見ての通り、午後のエキシビションマッチ」

 

「百由様が研究の一環で作成したヒュージロイドと、ミリアムさんの特別対戦のはずですが……」

 

「あ、梅がみりりんの代わりに登録し直しておいたゾ」

 

「そんなぁ!?」

 

「相手は百由の作ったなんかだろ。大丈夫じゃないカ」

 

「百由様だから心配なのでは……」

 

 珍しく、楓の言葉に全員の心が一致した。

 

 そして、時間になったのか地面から格子が出てきて、結梨とヒュージロイドを包む檻となった。梨璃が介入するのは間に合わず、格子の間の部分を握り、「あわわ……」と呟いた。

 

「あらら、間に合わなかったか」

 

「あー! 百由様! どうにかしてください!」

 

 そして、その場に百由とミリアムが現れ、この元凶である百由に対して梨璃が泣きついた。

 

「いやぁこの檻、勝負が着くまで開かないのよ」

 

「えぇ!?」

 

「要は結梨が勝てばいいんだロ?」

 

「エキシビションだから、当然リリィが勝つようにセッティングして…………ありますよね!?」

 

 今更ながら、百由の性格のことを思い出した雨嘉が、普段よりも少し大きめの声で聞いた。

 

「いいえ、その逆よ。ゴリゴリにチューニングしてぐろっぴもイチコロのはずだったのに……結梨ちゃんが危ないわ!?」

 

「百由様わしをどうする気だったんじゃ!? って、慌てるのが遅いわ!?」

 

「名付けてメカルンペルシュツリュツビュンくんよ!」

 

「名前まであんのかい! よっぽどお気に入りじゃの!」

 

「初心者が無茶するのは、私の役目じゃなかったんですかぁ!」

 

 ドサリ、と梨璃が地面に座り込み、泣き叫んだ。

 

「時代が変わったのね……」

 

「はい! 百合ケ丘のゴシップは、今やすっかり謎の美少女結梨ちゃんにとって変わりましたから!」

 

「二水ちゃんまで!」

 

「梨璃! 私、やるよ!」

 

「……結梨ちゃん」

 

 檻の中にいる結梨が振り向き、梨璃を見た。

 

「私もリリィになりたいの! リリィになって、皆のこともっとよく知りたいの! だから見てて!」

 

 そして、結梨はCHARMを掲げて自信満々に言った。

 

「信じなさい梨璃。あの子はちゃんと見ているわ。あなたもちゃんとご覧なさい」

 

 結梨は、右足を引きCHARMを倒して刀身が地面と平行になるように倒し、足は殆ど一直線。右腕を少し引き、突きの体勢で動き出しを待つ。

 

「あれは……!」

 

「夢結様の型……」

 

 ヒュージロイドの体が左に一瞬揺れた────その瞬間に、眼の残像が起こるほどのスピードで回転をし、結梨へと近づき、三本足のうち右後ろの足を遠心力を使いながら結梨へ突き刺す……が、結梨はなんとか左下からの切り上げにより防御を成功させるが、ヒュージロイドの連打を許してしまい、二撃目と三撃目はCHARMの刀身でガードしたが、四撃目の左脚の攻撃は後ろに回転しながらも回避したが、五撃目で大きく後ろへ飛ばされる。

 

「押された時は間合いを取りなさい!」

 

「そう。相手のペースは崩すためにあるのよ!」

 

「止まらず動いて! 相手に隙を作らせれば勝機はある!」

 

「相手をよく見て! そこに活路は見い出せるわ!」

 

 田村那岐、ロザリンデ・フリーデグンデ・v・オットー、内田眞悠理、悠夏からアドバイスが飛んだ。

 

 二歩後ろに下がり、左脚の攻撃を地面へと受け流すと砂煙が発生する。結梨はそれを利用して、ヒュージロイドの脚を走りそのまま頭を踏みつけてジャンプ。回転しながらも攻撃をしようとしたが既に結梨に向かって脚が伸びてきていたので迎撃へとシフト。「えいっ!」という可愛らしい声を出しながら脚を弾き飛ばし、その勢いを使ってヒュージロイドから離れた場所に着地し、すぐさまヒュージロイドに向かって走る。

 

 その動きにヒュージロイドが反応し、右脚を踏みつけたが、それを前に回転しながら回避。そのまま片手だけ使ってロンダードをし、その間にCHARMを両手で持って左脚の攻撃を弾き飛ばして、両足で着地してからジャンプ。

 

 その様子に、周りのリリィが「おぉぉ!」とどよめきと浮かぶ。歴戦の猛者であるアールヴヘイムでさえ前のめりになるほどである。

 

「皆……」

 

「梨璃。私が最初に手解きした時のこと、覚えているでしょ。最初に教えたのは?」

 

「はい。敢えて受けて、流して斬る」

 

「そう……ほら」

 

 結梨は決して自分からは斬りに行かない。あくまでも今まで見たことを活かし、確実に勝利を掴むために最前の手をいくつも脳内で計算している。

 

「…………っ!!」

 

 ガンッ! とCHARMとヒュージロイドがぶつかる。それを見事受け流した結梨は、右脚を隠れ蓑にしてヒュージロイドの側面へと移動。踏み込んだ足が地面を陥没させながらもヒュージロイドへ向かってジャンプ────そして、横一閃。

 

「はぁ!」

 

 そして、返すように上段の一撃。ヒュージロイドは配管を撒き散らしながら爆発四散した。

 

「やったぁ! ……と、失礼」

 

 史房がまるで自分のように驚いたが、我を取り戻した。

 

「りり! ゆうな! みんな! 見てた! 私、出来たよー!!」

 

「うわぁぁん! 結梨ちゃんえらいよォ!」

 

「うんうん、泣くなりり」

 

「全く、どっちが姉かしら」

 

 戻ってきた結梨に、梨璃が抱きつき、結梨が梨璃の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦技競技会も終わり、女装をする必要が無くなった悠斗は夜、百由、史房らと共に理事長室へ呼び出されていた。

 

「……解析科から、結梨ちゃんのDNAの解析結果が届きました」

 

「うむ」

 

「彼女のDNAは……平均的な人の女性であることは確かです……が、どこか不自然で……なんというか、平均的すぎるんです。普通の人間はどこかしら偏っているのが当たり前なのに……」

 

「要点を頼む」

 

「……彼女はHUGEに由来する個体……というのが私の結論です」

 

 

 

「人化したHUGE……というわけか。悠斗くんとは違って」

 

「……驚かれません?」

 

「……残念だが、先手を打たれた。研究機関G.E.H.E.N.A.とチャームメイカー『グランギニョル』が共同研究していた実験体の紛失を、国連に届け出た」

 

 ピクリ、と悠斗の眉が動いた。

 

「連中────彼らが言うには、彼女はHUGEから作り出した幹細胞を元に生み出された()()()()()だそうだ」

 

「……っ、その表現、胸糞悪いです」

 

「……可能なのか?」

 

「HUGEのDNAは、多層ゲノム重複を起こしていて、これまで地球上に現れた全てのDNA情報が備えていると言われています。その中には勿論、ヒトの物もあって、方舟に例える学者もいるほどです……まぁ、どうやったかは知りませんけど、行為としては可能です」

 

「倫理を無視した完全な違法行為だ。しかも連中は、己共の不始末を晒してまで、彼女の返還を我々に要求して来おった」

 

「どうします?」

 

「彼女が人でないとなると、学院は彼女を守る根拠を失うことになる」

 

「……」

 

「……っ! チャームメイカー、グランギニョルの総帥は、楓・J・ヌーベルの父親です」

 

「……理事長代行」

 

 ずっと黙っていた悠斗が、咬月へ視線を向ける。彼はずっと、右手を首筋に伸ばしていた。

 

 それは、HUGEを探知する時の為の()()であった。

 

「分かっておる。彼女がHUGEでは無いことは、既に悠斗くんが確認済みじゃ……百由くん、解析を頼む」

 

「お任せ下さい。必ずみつけます。結梨ちゃんが人である証拠を」




マジでゲヘナ許さんからなオメェ………


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二十三話

この九話は、アニメ見ていて一番イラついたので作者の代わりに悠斗君がボコボコにします。


 朝早くから呼び出された史房、祀、眞悠理、悠斗の四人は理事長室にいた。呼び出された理由は、当然浅野結梨の────―

 

「HUGE研究の国際機関G.E.H.E.N.Aと、フランスに拠点を置くチャームメイカーグランギニョルは、捕獲したHUGEの体組織から幹細胞を作り出した。HUGEのDNAには、過去この地球上に発生したあらゆる生物のDNAが重複して保存されていると言われている。彼らは人造リリィを作るため、その中からヒトの遺伝子を発現させようと試みた。今我々の保護しているのが、連中の言う実験体という訳だ。彼女がリリィでないとなれば、学院は彼女を匿う根拠と動機を失うことになる」

 

「……我々に、選択肢はないという訳ですね」

 

 ────捕獲及び、政府への受け渡しをする命令を下すためである。

 

「……悠斗くん」

 

 祀は、全く動かずに腕を組んで足を組み、目を瞑って微動だにしない悠斗を不安げな顔で見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃走したか……ま、そりゃそうだう……うん、俺だってその状況になったら逃げるな」

 

 政府から百合ケ丘女学院に結梨と梨璃に対して逮捕命令が下された。

 

「でも、ごめんな結梨……俺には今、お前を直接助ける手段がない」

 

「こら悠斗くん! 黄昏てないで早く手伝ってちょうだい!」

 

「分かってます百由様。早く結梨が人間である証拠を見つけましょう。もうすぐ、理事長代行が時間稼ぎに政府へ行く」

 

 現在悠斗は、百由と一緒に何とか結梨が人間である根拠を見つけようとするが、後一歩が見つからない。その事に、歯がゆい思いをする百由と悠斗の元に、一つの光明が指した。

 

「……! 百由様!」

 

「……えぇ、これなら行けるわ! 解析を急ぐわよ!」

 

「了解です!」

 

 それは、チャームメイカーグランギニョルから送られてきたひとつの資料。

 

 これがなければ証拠を見つけるのに一日遅れたわと百由は後々語った。

 

「よし! これで政府のおじ様達を黙らせるのには充分ね! 後はヘリで移動して────」

 

「百由様、ヘリよりも断然早い足がここにありますよ」

 

「へぇ!? でもいいの!? バレることになるけど!?」

 

 悠斗の行動は、今まで百合ケ丘が悠斗の情報を漏らさないように取っていた頑張りを全て泡に返す行動である。

 

「大丈夫です。既に理事長代行には許可は貰ってますし、それに────」

 

 悠斗は、一度瞳を閉じると、雰囲気が一変した。

 

「っ!」

 

「────俺だって、結構この件に関しては非常にキレてますから」

 

 その瞳からは、確かな殺意が浮かんでいた。

 

「……さ、行きましょうか百由様。今なら悠斗特急政府行きの切符が、一名様無料で乗れますよ」

 

「……相変わらず、スイッチのオンオフが激しいわね。思わずびっくらこいたわ」

 

 冷や汗をかきながらメガネのブリッジを上げた百由。そして、その返事にOKを出した。

 

「では、失礼しますね」

 

「……へ?」

 

 悠斗は一言断りを入れると、百由の背中と膝裏に手を伸ばすとそのまま持ち上げた。

 

 所謂、『お姫様抱っこ』と言うやつである。

 

「……え? あの……悠斗くん? これで行くの? ほんとに? 考え直すとかない? ちょっとこれは流石の私でも恥ずかしいなぁ……なんて」

 

「舌噛みますよ。では行きます」

 

 悠斗は少しだけ屈むと、その背中からマギでほんのりと薄い青色になったマギの羽が浮かび上がり、そのまま空を飛び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼だが、理事長代行は話を逸らしておられるようだ」

 

「年端も行かぬ娘達を戦いの矢面に差し出すのです。我々がなんのために戦っているのかは、常に問い続けるべきかと」

 

「リリィを擁するガーデンには、この時世にも関わらず破格の待遇を許している。なんのためか? 明白だ。ましてHUGEを庇うリリィなど、あってらならん存在だ」

 

「怪物と対峙するものは、気をつけねばならない。自らもまた、怪物になってしまわぬように」

 

「左様。我々も肝に銘じるべきでしょうな……ん?」

 

 ガチャリとドアが開き、その方向に咬月が目を向けると、扉から顔を出した百由が手を振っていた、

 

「んふふー」

 

「失礼、新しい報告が入ったようだ」

 

 咬月が入室許可を出すと、百由がタブレットを持ったまま現れ、その後ろから悠斗が現れる。それを見た政府人が、眉を顰めた。

 

「初めましてー。百合ケ丘女学院工廠科二年の真島百由です」

 

「同じく、百合ケ丘女学院一年の浅野悠斗です。お見知り置きを」

 

「……男だと?」

 

「えぇ、彼はれっきとした男のリリィですが、今は後回しにしておきましょう」

 

「マギに関する論文は昨年だけで51。その界隈では週刊百由って呼ばれてますね」

 

「百由様……」

 

「百由君」

 

 またもや余計なことを喋ろうとしていた百由を悠斗と咬月が名前を呼んで止める。

 

「おおっと失礼しました。いきなり結論ですが、結梨ちゃんは人です。HUGEじゃありません!」

 

 その言葉に、政府人がどよめく。

 

「はい論拠ですね!」

 

 百由がタブレットを操作すると、部屋が暗くなり背後にデータが出てくる。

 

「結梨ちゃんのゲノムを解析した結果、99.9パーセントの精度で人と一致しました」

 

「100パーセントでは無いのだな!」

 

「当たり前です。100パーセントの人というものは存在しません。だって俺とあなた同じです? 違いますよね。きちんと調べて出直してきてください」

 

 フラストレーションが溜まっている悠斗は政府を煽りに煽る。悠斗自身にその気は無いが、かなりキレているようだ。

 

「多様性の獲得こそが生命の生存戦略の根幹だから、ゲノムは日々更新されています。だから違って当たり前、私もあなたも99.9パーセントのヒトなんですよ」

 

「だがHUGEだ!」

 

「『遺伝子的にヒトであると認められたものは由来の如何を問わずヒトと見なす』。という国際条約が20年前に発行されてます。勿論、去年に我が国も批准してますよ?」

 

「だがHUGEはHUGEだ! 例外などない!」

 

「日本語理解できます? 例外じゃなくてキチンと法通りなんですよ。あなた達よく政府に入れましたね?」

 

「しかも、HUGE由来の遺伝子は結梨ちゃんが人化した時点で機能を喪失していることが確認されました。なんとこれは、今回の当事者でもあるグランギニョル側から提供された資料からの裏付けです! いやぁこれがなかったら後一日掛かってたでしょうね!」

 

「…………っっ!!」

 

 全ての反論を潰された政府は、口を閉ざし、唸ることしか出来ない。それを見て、悠斗の雰囲気が暗くなる。

 

「もう一度申し上げます。結梨ちゃんは人です!」

 

「なら、彼女はリリィということでもありますなぁ」

 

「命令違反は────っ!!」

 

 瞬間、この場にいる政府人の首から1センチ離れた場所に、キラリと光る鋭利な物が突き刺さっている事に気づいた。もちろん、出処は悠斗からである。

 

「────ごちゃごちゃごちゃごちゃうるせぇぞクソ野郎ども。これだけ根拠となる情報を集めたんだ。黙って『すいませんでした』くらい言えねぇのか!? あぁ!?」

 

 その言葉に、百由と咬月が驚いて悠斗を見た。悠斗の髪は怒りで赤に染まっており、瞳が青く揺らめいた。

 

 ルナティックレッドアイズ、発動である。

 

「間違えたら謝る。幼稚園生でも分かる事だぞこのド腐れ無能政府共。今すぐ、ごちゃごちゃ言ってねぇで百合ケ丘に謝罪文を送った上で、結梨と梨璃の逮捕命令を取り消せ…………あぁ、別にいいんだぜ? ゴタゴタと色々反論しようとしても……ま、その時俺はリリィとしてじゃなくて、自ら身をHUGEに落として、お前らを殺してやるよ」

 

「っ!?」

 

 悠斗から火山のマグマのように吹き出る殺意に息を呑むことしか出来ない。

 

「別に、お前らを殺した所で俺は捕まらない。だってお前らを殺したのはHUGEだからな。残念、不幸でしたの二言程度済まされる運命になりたくなければ…………早くやれよ」

 

「……っ、わ、我々を脅すつもりか」

 

「────ハッ」

 

 何とか声を出した一番偉そうゴミ────失礼、政府の人間が何とか声を出したが、悠斗はそれを鼻で笑った。

 

「脅す? 何を勘違いしている。これは命令だ。弱肉強食の枠組みに入れられたくなければ…………分かってるよなぁ?」

 

 頷かないと本気で殺される。その恐怖についつい首を振ってしまった政府人。気づいた時には遅く、しっかりと言質を取られた。

 

「後々、政府に対して自分の諸々の事情が書かれた情報が送られますので、しっかりと目を通して置いてくださいね…………悪用するなよ。G.E.H.E.N.Aになんか流したら、テメェらの一家纏めて朝日見れねぇようにしてやるからなぁ……」

 

 言動が完璧にヤのつく職業の人である。

 

 完全勝利で終わった話し合い。悠斗と百由がめちゃくちゃホクホク顔で帰ろうとしたその時、百合ケ丘の哨戒任務中のレギンレイヴ(水夕会)から救援要請が出ていた。

 

「……すいません理事長代行、百由様。俺先に行ってますね。汐里達が心配です」

 

「うむ、急いでくれ」

 

 そして悠斗は、来た時と同じように背中からマギの羽を生やして、百合ケ丘へ高速で移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ! みんな!」

 

「悠斗さん!」

 

 急いで移動した悠斗の目線に、一柳隊の皆の姿が見えたため、上空から失礼するが、二人姿が見えないことに気づく。

 

「梨璃さんと結梨は!?」

 

「悠斗さんお願いですぅ! 結梨ちゃんを! 結梨ちゃんをどうか!」

 

 二水が指を指した先では、ラージ級と思われるHUGEの周りに浮いている円盤のようなものが一つ二つと次々に爆発していた。

 

「! 結梨……っ!」

 

 ソニックブームを撒き散らしながら空を飛んで移動するが、結梨が居ると思われる場所から激しいマギの奔流が溢れ出し、HUGEを飲み飲んでいく。

 

「結梨──!!!」

 

「っ! ゆうと……」

 

 なんとか追いついた悠斗が、結梨を抱きしめる。

 

「全く、無茶をする子なんだから」

 

 その瞬間、盛大な爆発が巻き起こる。発生源は海だったため、百合ケ丘に直接被害はないが、結梨と悠斗が巻き込まれたということをしっかりと見ていた汐里は、持っていた二振りのCHARMを落とし、力なく地面に崩れ落ちた。

 

「そんな……結梨ちゃんが……悠斗くんが……っ」

 

 目から溢れ出そうに涙を、拭わずに呆然と海を見る。そして、本格的に声を漏らし始めた汐里の耳に────

 

「いってぇ!!!」

 

「ゆうと、大丈夫……?」

 

「っ!」

 

 聞きたかった、悠斗と結梨の声が聞こえた。慌てて振り返ると、少しだけ制服がボロボロになった悠斗を、抱きしめられている結梨が心配そうに覗き込んでいる図だった。

 

「……お、汐里。無事でよかっ────」

 

「っ! バカァ!!」

 

「背骨ー!!!」

 

 呑気に手を上げる悠斗に対し、汐里が思いっきり抱きついた。




理事長代行と政府の人たちのやり取り見て、ずっとこれがやりたかった。個人的にめちゃくちゃスッキリしました


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閑話 その後&オマケ

 コンコン

 

「どうぞ」

 

「失礼します、理事長代行」

 

 結梨が正式にリリィであることが認められ翌日。悠斗は理事長代行である咬月の元を訪れていた。それは、世界で初めて見つかった男のリリィがいるという情報を得て、各方面の反応が気になったからである。

 

「む、悠斗くんか」

 

「ごきげんよう理事長代行。各方面の反応、どうなってます?」

 

「まだ分からないというべきじゃろうな。何せ、男のリリィでありながら、体内にHUGEが寄生しているという嘘か誠か分からない状況じゃ。各ガーデンの方も、どう対応すればいいのか分からないのだろう」

 

「そうですか……」

 

「誰か、気になる人でもいるのかね」

 

「……えぇ、まぁいるっちゃいますね……」

 

 悠斗はボリボリと後頭部をかいた。

 

「昔からよく一緒に遊んでた────昔馴染みというんですかね? 一つ年上の友達が御台場女学校に通っていまして……彼女達は、俺の事を死んだと思ってるはずですから、少々そちらが気になりますね」

 

「ふむ、御台場に……」

 

 その後も話を続ける悠斗と咬月。

 

(……年上の昔馴染み?)

 

(気になる……誰だ?)

 

(とほほ……まだまだライバルは多いわね)

 

 その話を、扉に張り付きながら聞き耳を立てている三役がいたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

 東京地区萩壺に拠点を構えているガーデン、神庭女子藝術高校。リリィひとりひとりの人生を大切にしており、ヒュージ討伐の活動も最低限しか強制しないという理念を持つ、ガーデンからしてみればかなり特徴的な学校だ。

 

 そこの学校に存在する、トップレギオンである『グラン・エプレ』に所属している二年生の今叶星(こんかなほ)宮川高嶺(みやがわたかね)の二人は、理事長に呼び出され、とある情報が書かれた紙を渡すと、完全に凍りついた。

 

「…………こ、これって本当なんですか……?」

 

「えぇ。確かに彼のパーソナルデータがもキチンと存在しているものよ叶星さん」

 

 震える口で、事実かどうかを確かめる。それは今、叶星の目の前で証明され、叶星の足から力が抜ける。しかし、その前に何とか高嶺が叶星を支えたが、彼女も同様に足が震えていた。

 

「そんな……まさか、生きてるなんて……っ!」

 

 叶星の目から大粒の涙が出てくる。本当は高嶺も外聞を気にせずに一緒に泣き叫びたいところだが、今は叶星の番と必死に涙をこらえる。

 

「……知り合い、なのですか」

 

 その言葉に、二人は返事を返せるほどの余裕はない。

 

「良かった……良かったよ……! 悠斗くん!」

 

「えぇ、そうね……本当に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ、悠斗がもしラスバレに実装されるなら? 浅野悠斗紹介動画(風)

 

「…………え? 取材? 俺に……? そんなの聞いてないけど……いや、待って。この前依奈様も天葉様も受けたって言ってたな……まぁいいか。

 

 知ってると思うが、浅野悠斗だ。世界で初めての男のリリィ、そして唯一のHUGE寄生者として百合ケ丘にありがたいことに籍を置かせてもらっている。

 

 所属レギオンの方はアールヴヘイムと、特別に一柳隊にも所属させてもらっている。

 

 ……え? どうして二つのレギオンに所属しているかって? ……まぁ、色々とあるの色々とね……。

 

 何か聞きたいこととかあるか? ……ん? 交友関係について? まぁ確かに男一人の環境でキチンと友達がいるかとか気になるよな。

 

 それで、交友関係についてなんだが、皆優しいからたくさん友達はいるよ。

 

 同じレギオンの樟美や壱、亜羅椰もそうだし、汐里やルイセ……。

 

 上級生の方はロザリンデ様とか、眞悠理様とか、聖様とか、結構これでも充実してる。

 

 本当に、ここは意心地がいいよ。俺はそんな百合ケ丘の皆が大好きだし、命を賭して守り抜く覚悟もある。

 

 ……なんか重い感じになったな。ごめん。他に聞きたいことはあるか? 

 

 …………へ? 異性として気になる人? 

 

 あー……その、悪いが俺は、HUGEに寄生される前に一度死んでてさ……生き返ったのはいいけど、感情とかが色々抜け落ちててそういうのが感じられなくなったんだ。

 

 期待した答え出せなくてごめんね。でも、言葉通り気になる人というのはいるよ。神庭にいる、グラン・エプレに所属している叶星ねぇと高嶺姉さん

 

 そう。呼び名から分かると思うけど、昔は家が近所で幼馴染だったんだ。御台場に行ったことは知ってたけど、まさか転校しているとは思わなかったよ。

 

 …………他にも色々と聞きたいことがあるかもしれないけど、今日はごめんね。

 

 この後、結梨……あぁ、義妹的存在なんだけど、その子と散歩をする約束をしててね。

 

 また取材がしたくなったらいつでもおいで。時間があれば対応しよう。

 

 それじゃ、ごきげんよう」




リリカルなのはとコラボ……一体どんなストーリーになるのか、楽しみでごわすね!


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二十四話

十九話が二つある!とのコメントを頂きました。ありました。全部の題名を変えるのはめんど――――こほん、大変なので、その2!を加えました。

英断したわぁ……


「どうして梨璃が罰をうけないといけないんですか!」

 

 レギオンアールヴヘイムの隊室に、田中壱の声が響く。

 

「結梨が人だって認められたなら、梨璃がしたことだってお咎めなしってことじゃありません?」

 

 亜羅椰がクッションを抱きしめながら不満げに言った。やはり、梨璃が体裁上仕方ないとはいえ、罰を受けることを認められないのだろう。

 

 ────やっぱ、二人は優しいな。

 

「命令は命令。例えそれが、間違いから出たものだとしても、撤回するまでは有効よ」

 

「命令を守ったり守らなかったりでは、仲間を危険に晒すことにもなるでしょう」

 

「そんなの分かってます! けど、リリィには臨機応変な状況判断も認められているはずです!」

 

「そうね。でもそれは百合ケ丘での話。外ではそれを、快く思わない人達もいるのよ」

 

「百合ケ丘には、たとえ形式上で梨璃さんを罰する必要があるの」

 

「……まぁ、色々と軍も動いていた見たいだし、相当な無茶だったんだろ」

 

「兄さまがそれ言う……?」

 

「いや、まぁその通りだけど…………」

 

 忘れていないだろうがこの男、先日政府に殴り込みを行っているため、無茶度で言えば悠斗の方が断然上である。その事に樟美が突っ込んだ。

 

「本当に良かったの? 悠斗。今まで必死に情報が出ないように色々と細工してたのに」

 

「いいのいいの。そのおかげで結梨の命も救えたことだしな」

 

 そして、その無茶で色々と悠斗か失ったものも大きい。政府にG.E.H.E.N.Aに情報を流すなと脅────命令をしたが、多分だが既に情報は流れていると見た方がいいだろう。

 

 故に、これから絶対悠斗はG.E.H.E.N.Aに狙われることとなる。勿論、貴重な実験体として。

 

 ────まぁ別に、手を出してくるなら容赦なく殺すけどな。

 

「そういえば悠斗、さっき梨璃の様子を見てきたんでしょ? どうだったの?」

 

「ん? あー……うん、なんか意外と元気だったよ?」

 

 悠斗の脳内に、ふにゃりとした顔で笑った梨璃が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごきげんよう」

 

「ゆうとー!」

 

「おっと……」

 

 その後、何やら神琳に呼び出された悠斗はアールヴヘイムの皆に断りを入れ、一柳隊の隊室の扉を開けた瞬間、結梨が飛び込んできたため、咄嗟にそれを受け止めた。

 

「とりあえず来たけど、何をするんだ?」

 

「悠斗さん、梨璃さんのアクセサリーを探すのを手伝ってくれませんか?」

 

「ん? アクセサリー?」

 

「さっきりりに会いにいったけど、頭の四つ葉のクローバーがなかったの」

 

「……あー、そう言われればそんな気がするな。あった時はなんか違和感あったし」

 

 と、言うことで先日いた砂浜に梨璃以外が集まった一柳隊。主導は神琳が行うらしい。

 

 悠斗もなにか手伝いたかったが、レアスキルは『ルナティックレッドアイズ』で何の役にも立ちはしない。少し落ち込んだ。結梨が慰めていた。

 

「テスタメント! 参ります!」

 

 現在、神琳達が行おうとしているのは複数のレアスキルを組み合わせ、広範囲を探すということ。

 

 軸になるのが神琳レアスキル『テスタメント』と、二水の持つ『鷹の目』、そしてミリアムの『フェイズトランセンデンス』である。

 

 神琳のレアスキル『テスタメント』は広域拡大化スキルとも言われ、任意の魔法やレアスキル、術式などの対象(有効範囲)を広げるという非常に有用で便利なスキルではあるが、使用時は使用者の周りを覆うマギの防御結界が薄くなるので、使用するのが難しいレアスキルでもある。

 

 今回行うのは、簡単に言えばテスタメントで鷹の目の範囲を広げ、フェイズトランデンスでマギを供給し、ずっと使えるようにしよう! ということである。

 

「た、鷹の目!」

 

 二水がテスタメントで強化された状態で鷹の目を使用。この時点で普段よりも幅広い範囲が見えるが、本番はここからである。

 

「フェイズトランセンデンス! 受け取れ、わしのマギ!」

 

 そしてさらに、神琳がフェイズトランセンデンスを強化し、それが二水へと向かった。

 

「ふぎゃあぁ……し、視界が広がって……! 色々見えます……! 見え過ぎますぅぅぅ!!」

 

 最終的に、二水の鷹の目は地球丸ごとを見た。

 

「ふぅわぁぁぁぁ!」

 

 あまりの情報量に目を回す二水。そして、ミリアムと仲良く倒れた。

 

「二水さんに負荷がかかりすぎましたね。失敗ですが、いいデータは取れたので、今日のところは良しとしましょう」

 

「よ、よかないわ……」

 

「うわぁ……淡々としてるなぁ……」

 

 顔色ひとつも変えずにたんたんとメモを取る神琳に対し、少し頬をひくつかせた悠斗。

 

「前途多難ですわ…………」

 

 二日目。今日も今日とて砂浜へ集まった一柳隊。

 

「昨日の失敗を踏まえ、今日は新しい組み合わせで行こうと思います」

 

 今日も主導は神琳である。内容を聞いたところ、今日は役に立てそうなので少し嬉しい悠斗。

 

「まず二水さん」

 

「また私ぃ!?」

 

「安心して。今度は二水さんの鷹の目のスキルを、皆さんに分担して貰います」

 

「そういえば、結梨もフェイズトランセンデンス使えたよな?」

 

「うん。ゆりも使う?」

 

 悠斗と手を繋いでいる結梨が神琳に問いかけたが、神琳はゆっくり首を振った。

 

「いえ、結梨さんは使わなくても大丈夫ですよ」

 

「わしに任せておくのじゃ!」

 

「さ、行きますよ!」

 

「ファイト一発! おりゃ!」

 

 ミリアムのCHARMと神琳のCHARMがぶつかり、マギの波動が全員に当たり、鷹の目の共有が完了される。

 

「ふえ……」

 

 だがしかし、ミリアムは倒れる。

 

「おぉー! なんか鳥になったみたいだ!」

 

「これが鷹の目か」

 

「………………」

 

「おおー。すごいね、鷹の目」

 

「確かに、これは便利だな……」

 

 上空から見下ろすというのは戦いの場において正確に位置を把握するた絶大なアドバンテージとなる。これは確かに鷹の目持ちは人気だなぁと納得をした。

 

「とはいえ、まだまだ焼け石に水ではなくて? これなら、私のスキルの方が────?」

 

 楓のレアスキルは『レジスタ』である。俯瞰視野獲得、範囲内の味方のCHARMスペック向上、マギスフィア保護シールド、パスコーステレパス能力の複合スキルという色々すんごいのが詰まってる便利スキルである。一家に一台ならぬ、一レギオンに一レジスタと付けたいくらい、ノインヴェルト戦術を成功させる確率を上げるためのレアスキルである。

 

 そんなレアスキルを持っている彼女は、足元で何かを見つけた。

 




レギオンリーグ報酬で亜羅椰が来ることに満面の笑み過ぎる作者。

亜羅椰ちゃん好きだぁ………これもしかしてアールヴヘイム全員ある?宜しければあの……レギンレイヴの汐里ちゃんもお願いしたいなぁ……なんて。

あ、ルドビコも来たりしちゃう?有り得そう。


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二十五話

明日からまた学校が始まっちゃうから投稿頻度落ちます………ほんっとすいません


 三日目

 

「さぁー! 今日も張り切って参りましょー!」

 

 今日はやけに元気いっぱいな楓。海に向かって両手を上げている。

 

「急にどうした」

 

「腹でも壊したか?」

 

「一体何を企んでいる……」

 

「……クンクン、嬉しい匂い?」

 

 四日目

 

 生憎の曇り空。今日は海を中心に探してみたが、この日は見つからなかった。

 

 五日目

 

 今日はレアスキルの複合を試して見たが、途中でミリアムが力尽きたので中断。

 

 六日目

 

 土砂降りの雨。捜索する範囲も雨で狭まり、雨に濡れたままだと風邪を引く可能性があったので、早めに終わった。

 

 梨璃が出てくるまで、残り一日。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~、お湯が骨身に染みるぞい……」

 

「ここの所、冷えますものねぇ」

 

「あぁ……どうしよぉ……明日には梨璃さんの謹慎が解けちゃいますぅ!」

 

「結局、見つからないのかな」

 

「四つ葉のクローバー、だけに」

 

「梨璃が戻ってくるのに何が困るの?」

 

 その話を聞いていたアールヴヘイムの壱、亜羅椰が二水達に近づく。

 

「ねぇあなた達、最近浜辺で何してるのよ? 悠斗も最近アールヴヘイム(うち)に長居しないし」

 

「うぇ、それは……」

 

「探し物をしてるんだけど……」

 

「探し物?」

 

 遅れて樟美、月詩が合流し二水が4人に探し物について話す。その間、端では珍しく楓が汐里の背中を洗っていた。本当に珍しい光景だった。

 

「そっか、梨璃の髪飾りをね」

 

「私も手伝いたい」

 

「え、いいの?」

 

 思わぬ言葉に二水が驚く。

 

「早く見つけないと、いつ次のHUGEが現れるかも分からないでしょ? それに、悠斗と早くイチャつきたいし」

 

「亜羅椰の後半の言葉は無視して、また戦闘があったら、もう見つからないかも」

 

「えぇ、夢結様達にも話してみましょう」

 

 こうして、アールヴヘイムが加わった。

 

 だがしかし、これを聞いているのは当然壱達だけではない。

 

 次の日、砂浜に集まったリリィは沢山集まった。その光景に、夢結は目を丸くさせる。

 

「……ありがとう、恩に着るわ」

 

「ブッ!?」

 

「恩に着るっていつの人よ」

 

「……ごめんなさい、こんな時……どう言えばいいか分からなくて」

 

 本当に慣れていないのか、夢結の頬が少し赤く染まる。

 

「百合ケ丘にいるならば、皆大切な仲間よ。仲間が困っているなら手伝いたいと思うのは、自然なことでしょ?」

 

 天葉の言葉が夢結の胸に届く。

 

「ぶえっくしゅ!」

 

「ひっ!?」

 

「ん?」

 

 その時、朝から姿が見えなかった楓が何故か寒そうに腕を擦りながらやってきた。

 

「いないと思ったら、先に来てたんだ……」

 

「大丈夫です?」

 

「かえで、寒い?」

 

「いえ……お構いなく……」

 

 結梨が心配して楓に声をかけた。

 

 ここで、プチ戦争(主な範囲は天葉と依奈)が起こる。天葉が全員に手を繋ぐように言ったところ、誰が悠斗の手を握るかという戦争である。

 

 今回、いつも大体はどっちかの手を握っている結梨はフェイズトランセンデンス隊に組み込まれているため、珍しく両手がフリー。なので、誰が少ないふたつの手を握るかどうかの戦争がちっちゃく始まっていたが……。

 

「なるほど……んじゃ月詩」

 

「わ、私!?」

 

 突然のことに、悠斗の隣にさり気なーく陣取っていた月詩のアホ毛がピンッ! と伸びた。

 

「最近、あんまり構ってやれなかったからな。特に、月詩とはな」

 

 ニコっと月詩に微笑見ながら手を差し出した悠斗。月詩は、頬を少し赤く染めながら、嬉しそうに笑って手を取った。アホ毛が元気にハートマークを作っている。

 

「え、何あれ凄いラブコメ」

 

「月詩、凄い嬉しそうね」

 

 それを見ていた弥宙と辰姫が呟いた。

 

「それじゃもう片方は私が貰うわね」

 

「百由様?」

 

 そして、は左手にはさっそうと現れた百由が悠斗の手を握った。

 

「だってあれ、長くなりそうだし」

 

 と百由が指を指した先では、沢山のリリィがジャンケンを始めていた。勿論、終わった後左右にいる百由と月詩の顔を見て手と膝を着いたのは余談である。

 

「レアスキルを合成させるなら、接触式の方が、非接触式よりも効率はいいわ。とはいえ、こんなに大勢でやったことは無いけど」

 

 砂浜に一列に並ぶ百合ケ丘のリリィ達。手を繋ぐ形は、指と指を絡める恋人繋ぎである。

 

「今よ!」

 

「「「必殺! フェイズトランセンデンス!」」」

 

 ミリアム、結梨、亜羅椰のレアスキルがマギ供給源としてリリィを包んでいく。

 

 レジスタが、ヘリオスフィアが、鷹の目が、この世の理が、ルナティックトランサーが、テスタメントが、天の秤目が、円環の御手が、ファンタズムが、ブレイブが、カリスマが、ユーバーザインが、Zが、縮地が、ゼノンパラドキサが一つとなり、様々な可能性となっていく。

 

 そして見つける。海の中にある四つ葉のクローバーらしきアクセサリーを────

 

「!」

 

「「「「「「「「あったぁー!!!」」」」」」」」

 

「あそこです! 梅様!」

 

「な、なんたぁ!?」

 

 瞬間、ジョワユーズを持った楓が梅の肩に跨り肩車の状態となる。

 

「レアスキル縮地ですわ! ハイヨー!」

 

「お、おう!」

 

 言われるがままにレアスキル、縮地を発動し海の上を走り去っていく梅。

 

「……! あの二人! 帰りどうするつもりだ!」

 

 そして、帰りの手段が無いことに気づいた悠斗が慌てて月詩と百由の手を解くと、背中からマギの翼を出しそのまま海を這うように飛んで行った。

 

 梅が楓をぶん投げジョワユーズで海を裂いた。そして悠斗が梅を回収。

 

「……っと、悪いナ悠斗」

 

「ありましたわー!!」

 

「回収!」

 

 そして、楓が四つ葉のクローバーのアクセサリーを手にすると同時に楓を回収した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか、あれ楓が作った偽物だったとはなー」

 

「え、あれ偽物だったの!?」

 

 その後、懲罰室から出てきた梨璃に一柳隊のみんなで出迎え、楓が拾ったアクセサリーを梨璃に渡そうとしたが、秒でバレた。

 

 ちなみに、他のみんなは久々の出会いを邪魔するのもねーとの事でその場で解散した。

 

「何でも、梨璃さんの髪飾りには葉の部分にヒビがあったらしい。本物は既に焼け焦げてたよ」

 

「でも、当人たちはそれで納得したんでしょ? ならばそれでいいじゃない」

 

「そうね。まぁあれが偽物ってことにはビックリしたけど、皆ハッピーならばそれでいいじゃない?」

 

 アールヴヘイムの隊室に戻り、事の顛末を話した悠斗だが、皆の顔に不満は浮かんでいなかった。

 

「……兄さま」

 

「樟美?」

 

 突然、ソファに座っていた樟美が悠斗に抱きつく。その顔には、これから沢山甘えます! と書かれていた。

 

「ここ最近、兄さまに甘えられなかったので、今日はこれから甘えます」

 

「樟美……、なんだ辰姫もか?」

 

「辰姫も、これでも悲しいと思ってるの。構ってくれないと許さないから」

 

 この二人を皮切りに一年組が悠斗にくっつき始め、それを二、三年生は微笑ましいものを見る目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 夕暮れ時、何となく命を散らしたリリィ達の墓がある丘へやってきた悠斗。先客に夢結達がいたようで、先程すれ違ったばかりである。

 

 現在の悠斗は、美鈴の墓の前で両目を閉じ、手を合わせていた。

 

 そしてその時、ありえない事が悠斗の触覚、そして聴覚を刺激した。

 

「君は確か、あの時の少年だね」

 

「…………!!!」

 

 頬に感じた人の手────どこか冷たい温もりに疑問を感じながら目を開けると、目の前に人がいた。

 

 その人は、墓の前でしゃがんでいる悠斗に合わせて腰を下ろしており、悠斗の頬に手を伸ばしており、どこか優しげな目で悠斗を見ていた。

 

「あ、なたは…………」

 

「かっこよく育ったね。二年前からだいぶ成長して、僕好みの顔だ」

 

 彼女は、銀色のショートカット。そして、怖いくらい美しい顔立ち。

 

 それは、どこからどう見ても────

 

「美、鈴……様……」

 

「こうして会うのははじめましてだね、悠斗。大きくなったね」

 

 ────川添美鈴。かつて、夢結のシュッツエンゲルであり、甲州撤退戦で悠斗と同じく命を散らしたはずのリリィだつた。




月詩ちゃんのあのアホ毛。めっちゃ可愛いよねって話。ハート型て


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二十六話

「君は眠らなくてもいいのかい?」

 

「…………あなたは、一体どうして俺の目の前に」

 

「理由なんてないよ。まぁ、強いて言うならば運命と言ったところかな……冗談だけど」

 

 夜、校舎の屋根上にて腰を下ろしている悠斗に、背中合わせの状態で座る美鈴。

 

「まぁ、あえて言うならば忠告をしに来た……かな」

 

「忠告?」

 

「気をつけて」

 

 次の瞬間、背中の重さが消える。

 

「視る、ということは影響を受けることでもある……夢結達を頼む」

 

 季節外れのソメイヨシノの花びらが散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────結局、美鈴様はなんのために俺の目の前に現れたのだろうか。

 

 ここ最近、ずっとそのことを考えているが答えはまったく出てこない。あれが幻なのか、それとも霊となって悠斗の前に現れたのかすら分からないのだ。

 

 唯一、分かっていることがあるとすれば……。

 

「……俺が、HUGEに寄生されているからかなぁ……」

 

「どうしたの、いきなり」

 

「……依奈様?」

 

 中庭で猫と一緒に寝転がっていると、突如として依奈の顔が写りこんだ。

 

「どうしたんです?」

 

「それはこっちのセリフよ。最近、上の空じゃない?」

 

「……いや、まぁそうですね。少し気になることがあって」

 

「気になること?」

 

「はい……まぁ、強いて言うならコイツの事ですかね」

 

「コイツ……?」

 

 依奈が首を傾げると、悠斗は自身の胸をトントンと親指でつついた。

 

「どうして、こいつは俺に寄生したのか……どうして、俺に力を貸してくれているのかとか……まぁ色々」

 

「それは……確かに不思議よね。でも、今まで全く気にしてなかったじゃない」

 

「そう、なんですけど……けど、最近はどうしても意識をしないといけないことが多くて────」

 

 チラリ、と悠斗が依奈へ視線を向けると、そこには美鈴の姿が映る。

 

「依奈か。随分と多くのリリィに好かれているようだね。それは君の魅力によるものか、それともまた別の要因があるのか……どっちだと思う?」

 

「…………悠斗? どうしたの急に、私の顔を見つめて……ちょっと恥ずかしいんだけど……」

 

「……そうですね、相変わらず美しいなと」

 

「ちょっ! ちょっとバカ! あんまり先輩からかったらダメよ! ……べ、別に悪い気はしないけれど……

 

 ごにょごにょとそっぽを向き、自身の薄紫色の髪を指で弄る依奈。そういうのも可愛いんだよなぁ……と思いつつ、上体を起こそうとした瞬間、悠斗に激痛が走る。

 

「あっ……がぁ……!」

 

「悠斗……? ちょ! 悠斗!」

 

「ぐっ…………がっ……あああああああああああ!!!!」

 

 悠斗が、項に手を当てながら痛みで吠える。

 

「悠斗! しっかり! しっかりなさい悠斗!」

 

「グッ……うぅ……来るっ……HUGE……飛んでっ!」

 

「HUGE!? 一体何────うそ……」

 

 HUGEと言ったら、由比ヶ浜の海にある由比ヶ浜ネスト。そこからは、青白い光がまるでロケットのようにネストから打ち出されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 突如として由比ヶ浜ネストから射出された三体のHUGEは、一度、地球を一周した後に、百合ケ丘近郊に墜落する。その時の衝撃は計り知れない為、咬月はすぐさま百合ケ丘の生徒たちに避難区域まで撤退する指示を出した。

 

 生徒たちは、不満覚えながら自身のCHARMを持って撤退をしている。その顔には、誰にも母校である百合ケ丘を心配する顔もあるが、それよりももっと心配な存在がある。

 

「ほらしっかり……もうちょっとで休憩できるからね」

 

「キツくなったら直ぐに言うのよ?」

 

「悠斗さん、飲み物欲しくなったら言ってくださいね」

 

「CHARMなら辰姫が持ってあげるから」

 

「大丈夫? いざとなったら私が背負うからね」

 

「兄さま……」

 

 両脇を壱と、めずらしく真面目に心配している亜羅椰に肩を借り、樟美が背中から悠斗の事を押しており、月詩が体温が上昇している悠斗の体のチェック。辰姫と弥宙が周りの確認と介護のされようが凄いことになっている。

 

「はぁ……はぁ…………」

 

 ────クッソ……体が重いしだるいし熱いし……マジでなんなんだこれ……。

 

「わ、るい……みんな……」

 

「別に大丈夫よ! 困った時はお互い様!」

 

「私達、皆兄さまに助けられた。だから、今日は私達が兄様を助けるの」

 

「安心なさい。悠斗は大船に乗った気で入ればいいのよ」

 

 その悠斗の髪の毛先は、少しだけ狂気の赤色が混じっていた。

 

 そして、ようやく避難区域まで下がり、リリィ全員の足が止まる。ようやく悠斗を休憩させられる壱達は、すぐ様悠斗に腰を落とさせた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「体温が熱い……どんどん上がってる」

 

「これ、40度以上は超えてるんじゃないの?」

 

「はわわわ! こ、氷! 氷ありましたっけ!」

 

「……っ、来るっ!」

 

 ズキン! と項が酷く傷んだ後に心臓が一際強くドクン! と鼓動をする。その瞬間、強烈な音と振動が百合ケ丘のリリィ達を襲う。

 

「これ……どうやらHUGEが着地したみたいね」

 

「見たいね……ここまで離れているのになんて衝撃……」

 

「! いえ、それだけではないわ!」

 

 暫くしないうちに、負のマギが可視化され、それが波紋状になって広がり、退避しているリリィ達の元に向かう。

 

「……んっ……はぁ、なんか楽になってきた……」

 

「悠斗!」

 

「兄さま!」

 

 頭を手で抑えながらフラフラと立ち上がろうとするのを、樟美と壱がすぐ様支える。

 

「ちょっと、本当に大丈夫なの!?」

 

「あぁ、心配かけたな壱……それと、皆もありがとう」

 

「いえ、これは当然のことですから!」

 

 右手をグーパーグーパーしたりして体の調子を軽く見た悠斗、まだ少し体がだるい様な気はするが、全然さっきとは違って楽だし、体は全然熱くない。

 

「とりあえず、天葉様たちに報告しましょう」

 

「そうね。それじゃあ辰姫達は報告に────え!?」

 

「なに、どうしたの?」

 

「CHARMが……動かない!?」

 

「……なんだって?」

 

 身体能力を強化するために、CHARMで地面に円を描くとその円が青白い光を放つのだが、光どころか、マギクリスタルコアにルーン文字すらも浮かんでいない。

 

「……俺のは動くんだが?」

 

 突如としてリリィ達を襲った巨大なHUGE。そのHUGEの頭上には、美鈴のルーン文字を示す光が淡く揺れ動いていた。




11話はそこまで悠斗君を混ぜれなかったから短め。次回の全員ヴェルトでは何処に悠斗君を組み込もうかしら


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二十七話

いっちゃんのユニークCHARMの名前がアロンダイトと知った時、「やっべ名前被ってんじゃんどうしよ……」と思ったのはここだけの話。


「……こんなに離れていても、強い敵意と憎しみを感じるな」

 

「……まるで、ルナティックトランサーみたい」

 

 悠斗の傍でレアスキル『ルナティックトランサー』を唯一アールヴヘイムで所持している辰姫がポソりと呟く。その額からは、明らかに運動とは関係の無い汗が流れていた。

 

「私は『神宿し』まではいかないから確かなことは言えないけど……もう少し出るのが遅かったら、全員影響を受けていたの」

 

「そんなに……?」

 

 辰姫が冷や汗をかきながらそう言う。

 

「とりあえず、俺は百由様の所に行ってくる。多分だけど、この状態を一番確認できているのはあの人だ」

 

「……大丈夫なの?」

 

「問題ない。さっきのような痛みは何も感じないし、さっき試して見たけど俺のCHARMは何故か反応する」

 

 ほら、と悠斗がアロンダイトを見せると、マギクリスタルコアの所に悠斗のルーンが浮かんでいた。

 

「本当です……」

 

「うそ、なんで……」

 

「とりあえず、俺は行ってくる」

 

 悠斗は地面にサークルを描くと、跳んで行った。

 

「百由様!」

 

「悠斗くん、どうしたの──―ってえぇ!?」

 

 ぴょんぴょん跳び、百由の近くまでやってきた悠斗。百由の近くには史房、祀、眞悠理の三人がおり、百由の声に反応して悠斗を見ると、全員が同じ反応をした。

 

「おい! 悠斗!」

 

「悠斗くん! レアスキル発動しているわよ!?」

 

「……え?」

 

 現在の悠斗は、髪が先っちょだけ狂気の赤色に染まっており、瞳が少しだけ青色に揺れている。それを見た眞悠理と祀が悠斗の傍によった。

 

「……あ、ほんとだ」

 

「今気づいた……ということは、何も問題は無いのか?」

 

「そうですね眞悠理様。特に違和感はないです……とりあえず百由様、現状を教えて貰えますか?」

 

「え、えぇ。それはいいのだけど……本当に大丈夫?」

 

「大丈夫です」

 

 二回ほどこのやり取りを繰り返し、悠斗は百由から現在の状況を教えて貰った。

 

 なんでも、落ちた三体のHUGEは地面に深く潜り込み、地下で繋がっているらしく、そこから強力な力場────結界が展開されているらしい。

 

 そこから出るマギの量が尋常ではなく、その影響でCHARMが使えなくなっているらしい。

 

「……俺の、使えましたけどね」

 

「ほんとね……なんで?」

 

 百由がアロンダイトに触ろうとした瞬間、HUGEの場所で戦闘の音が聞こえる。

 

「あれは一体誰が────!」

 

 悠斗の強化されている目で捉えることが出来たのは、ピンク髪の少女である梨璃と、ルナティックトランサーで髪が白く変質した夢結がこの状況で戦っている姿だった。

 

「──―!! 梨璃さん! 夢結様!」

 

「ダメよ悠斗くん! 行ってはダメ────!!」

 

 百由の叫ぶように悠斗を止めようとしたが、悠斗はその前に背中からマギの翼を発生させ、飛んだ。

 

()()()()()。何となくだが、そんな気がした。

 

「! グッ!!」

 

 横から突然降り掛かってきたHUGEの腕をアロンダイトで受止めはじき飛ばし、後ろから来ていた二つ目の腕とぶつける。三本目は普通にローリングで回避して夢結と梨璃の元へ向かう。

 

「梨璃さん!」

 

「悠斗くん……!」

 

 地面にへたり混んでいた梨璃に手を伸ばして梨璃を立ち上がらせた悠斗。目線の先では夢結が存分に暴れている。

 

「俺はあのHUGEを抑え込む。だから梨璃さんは夢結様を」

 

「うん!」

 

 二人ですぐさま目的を決めて、いざHUGEへと重い目を向けた時、既に夢結は丸腰の状態でHUGEの目の前にいた。

 

「夢結様! 離れてください!」

 

「梨璃さん!」

 

 悠斗が一歩遅れて反応。梨璃が夢結のCHARMにグングニルをぶつけると、そこからマギの波紋が出る。しかし、それだけではHUGEのビームを防ぐことにはならない。

 

 だから、悠斗は二人を押した。ビームが発射される直前に梨璃と夢結。二人を押して、ビームの斜線には悠斗一人が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……ゲホッ、ゴホッ」

 

 ベチャリ、と咳き込んだ悠斗の口から血が出る。

 

 ────ふぅ……久々に、怪我をした。

 

 悠斗の腹からはどくどくと血が吹きでており、向こう側にある瓦礫の色が見えている状態────つまり、腹に風穴が空いている。

 

「はぁ……無茶を、した……ゴホッ」

 

 だがしかし、あれを悠斗が喰らっていて良かったというのも事実。悠斗だからこそ、あのビームを受け止められた。

 

 ────良かった、二人とは離れたところに吹き飛ばされて。

 

 仮にこの状況を夢結と梨璃がみていた場合、それはもう大変なことになっていただろう。いくら()()とはいえ、うら若き少女にこんなグロいものを見せる訳にはいかない。

 

 ジュゥゥゥ……と音を立てながら逆再生のように腹の穴がゆっくりと埋まっていく。その時、上を見上げていた悠斗の視界に、緑色に輝くマギスフィアが見えた。

 

 それを発したのは、一柳隊の王雨嘉。アステリオンを射撃モードでノインヴェルト戦術専用のバレットを打ち出した。

 

「やらなくちゃ……やらなくちゃやらなくちゃやらなくちゃやらなくちゃ────」

 

 次を受け取るのは二水。しかし、緊張で手がブルブルと震えまくっている。

 

「──―! うへぇぇぇぇ!! んぐっ」

 

 そしてついに目を瞑ってしまい、野球のボールみたいに打ち返してしまった。

 

「う"う"あ"!」

 

 しかし、そのせいで予定していたところとは大きく逸れてしまった。

 

「うわぁぁ!! すいませーん! お願いしま──す!!」

 

「いいえ! いいパスですわよ!」

 

 次に受け取るのは楓。百合ケ丘の至宝と言われる実力を如何無く発揮し、大幅にズレたマギスフィアに追い付き受け止め、そのまま射出した。

 

「なんか、いつもより調子いいゾ!」

 

「わしゃ絶好調じゃ!」

 

「いつもより体が軽い……っ! んん!」

 

 梅、ミリアム、鶴紗とマギスフィアを繋ぎ、二人にマギスフィアを届けるのは神琳。

 

「っ、夢結様、梨璃さん!」

 

「マギスフィアが来るわ! 私が受けるから、フィニッシュは貴方が!」

 

 だがしかし、HUGEの腕が()()に分裂し、マギスフィアへ向かった。

 

「!」

 

 そして、HUGEはそのマギスフィアを受け止めると、九本に分離した腕でマギスフィアに負のマギを込め始める。まるで、ノインヴェルト戦術の様に。

 

「っ! なんですって!?」

 

「マギスフィアを横取りされた!?」

 

「失敗だわ……逃げなさい、梨璃!」

 

「お姉様が逃げてください!」

 

「! 馬鹿な!」

 

 梨璃は、夢結の言うことも聞かずにHUGEに向かって跳び、夢結もその後をおった。

 

「たまには私の言うことを聞いたらどうなのっ、あなたは!」

 

「た、たまには!?」

 

守護天使(シュッツエンゲル)なのよ私は! なのに、梨璃は私の言うことなんていつも聞かなくて!」

 

 戦いながら言い争いをしている二人。しかし、着実にHUGEの攻撃を弾く。

 

「えぇ!? お姉様私の事そんな風に思っていたんですか!?」

 

「そうでしょ! あなたはいつも気がつけば私をっ、置いてけぼりにして!」

 

「自分より、他人のことで一生懸命で……」

 

 そして、梨璃がマギスフィアに追い付き、グングニルで受け止める。

 

「やった!」

 

「マギを吸いすぎてる!」

 

 しかし、このままではグングニルの方が耐えきれないことが分かっていた夢結は、咄嗟にグングニルの刃を切り飛ばした。その時、どこか打ったのか顔を歪める。

 

「…………グッ、動け……動けよっ! 俺の体……!」

 

 下では、未だ腹の修復が終わっていない悠斗が、のそりと上体を動かし、アロンダイトを地面に突刺す。

 

「女の子が戦ってるんだ……! 俺は何をやってるんだクソッタレがぁぁぁぁ!!!」

 

 一柳隊が戦っている姿に感化され、無理やりにでも力を振り絞る悠斗。急速に髪が紅く染まり、瞳も青色に変化をし、アロンダイトを杖代わりに血をポタポタと垂れ流しながら立ち上がる。

 

 だがしかし、感化されたのは悠斗だけでは無い。

 

「行くよ樟美!」

 

「はい! 天葉姉様!」

 

 夢結によって吹き飛ばされたマギスフィアのカバーに、アールヴヘイムである天葉と樟美が受け止めようと跳躍した。

 

「……! おっもぉぉ!!」

 

「っ!」

 

 グラムで受け止めるも、予想外の重さにCHARMが言うことを効かない。それを見た樟美が咄嗟にグングニルをグラムを支えるようにマギスフィアに接触させる。

 

「「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」」

 

 二人がかりで飛ばされたマギスフィアは、次の人物へ。

 

「はぁ!」

 

 アールヴヘイムのプランセス。番匠谷依奈。遠心力を上手く使い、クルクルと回りながら次の人物へパスをする。

 

「壱! 亜羅椰────!」

 

 しかし、投げ渡した瞬間に刃が砕け散った。

 

「これだけでCHARMが限界だなんて、どんだけのマギスフィアなのよ! かなりヤバいやつよ! 気をつけて!」

 

「望むっ、ところ!」

 

「あと頼むわよ!」

 

「「皆! 」」

 

 壱、亜羅椰と繋がれたマギスフィアは、百合ケ丘の生徒へと繋がれる。

 

 レギンレイヴが、ローエングリンが、生徒会三役が、アールヴヘイムが、ロスヴァイセが、シュヴァルツグレイルが、梨璃達の戦闘に感化されて、一人一人の想い(願い)が籠ったマギがマギスフィアへと送り込まれる。

 

 きっと、あのHUGEを倒してくれると信じて。

 

「「私達ももう一度!!」」

 

「「CHARMの限界まで!」」

 

「「夢結様と梨璃さんに!」」

 

「頼むぞ! わしの!」

 

「グングニル!」

「ジョワユーズ!」

「アステリオン!」

「ティルフィング!」

「マソレリック!」

「ニョルニール!」

「タンキエム!」

 

 七人で円となり、全員のCHARMでマギスフィアを押し返すが、負荷がかかりすぎて全員のCHARMが壊れてしまう。

 

「────邪魔なんてさせるかよ」

 

 全員の想いが籠ったマギスフィアを受け止めようとしていたHUGEだが、完全とは言えないが復活した悠斗が現れ、その腕を粉々にして代わりに受け止めた。

 

「っ! おっもっっっ! だけど────」

 

 カシャン! とアロンダイトを二つに分解させ、マギスフィアがついていない方でやって来ていたHUGEの腕をブロック。

 

「絶対に届ける! 夢結様! 梨璃さぁん!!」

 

 くるんと回転して遠心力込みでマギスフィアを投げる。それは悠斗自身にも負担があったそうで、塞ぎかけていた腹ががもう一度広がり、口から血が吹き出る。その間にマギスフィアを受け止めようとしていたHUGEの腕がマギスフィアによって砕かれていた。

 

「ノインヴェルト戦術は、CHARMを著しく損耗させるものだ。その腕をCHARMに模していたなら当然壊れる……覚えとけ……ゴフッ!?」

 

 ────……ま、ずい……そろそろ本格的に……。

 

「悠斗さん!!」

 

 地面に倒れ落ちる悠斗を、近くにいた一柳隊が取り囲み支える。薄れゆく意識の中、悠斗が最後に見たのはHUGEが夢結と梨璃の手によって真っ二つに斬られ、盛大に爆発。

 

 それは、梨璃達の────ひいては、百合ケ丘全体の勝利を知らせるものだった。

 




ここの全員ヴェルト戦術はマジでアニメ見た時感動した。二期ないの?二期。ずっとまってるんだけど。


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二十八話

前回のあらすじ

やっば、結梨ちゃんだしてねぇ……


「はぁ~……戦闘の後に入るお風呂は格別だわぁ~」

 

 まるでおっさんのような言い方をする壱。まぁあの戦闘をした後なら無理はないが。

 

「確かに格別だけど────」

 

 二水は周りを見渡し叫ぶ。

 

「────格別過ぎませんかぁ~!」

 

 先のギガント級との戦闘において、色々とボロボロになった百合ヶ丘。校舎はマギ結界により無事だったが、窓ガラスはすべて割れ、どこもかしこもボロボロとなっってしまった。この後の悠斗の疲労を考えると、さすがの悠斗の眼も死んだ。

 

「まさか温泉まで湧くとはねぇ~」

 

「大丈夫~。今はどの監視網も麻痺してるから、誰も見てないわよ~」

 

「そういう問題でしょうか……」

 

「私は見られたって平気だけどねぇ。特に悠斗には」

 

「亜羅椰は少し恥を知れ……!」

 

「亜羅椰ちゃんえろい」

 

「樟美から喰ってやろうか!」

 

「ひぃん!」

 

「下品なのはいけません」

 

「あ”ぁ”ぁ”ぁ”……」

 

「……もう私、何も突っ込みませんけど、普通に悠斗さんもいるんですね」

 

 腹に痛々しく包帯を巻き、腰に湯着を装着している悠斗がプカプカと全身を脱力し、浮かんだ状態で二水のもとにやってきた。すぐそばには結梨の姿もある。

 

「まぁ、別に俺は裸見たくらいで欲情とかしないし。ぶっちゃけると、犬猫見てる感覚と何も変わらん」

 

「本当にぶっちゃけましたね。あと、それはそれでなんか悔しいです」

 

 一応、乙女のプライドがある二水は悠斗の言葉に不貞腐れた。

 

「ゆうと、無事?」

 

「全然無事じゃないなぁ……まだ腹も完治してないし」

 

 包帯の下にはまだ風穴の空いた腹がある。もしこれを解くようならレーティングに18と付いた後にGもつくだろう。

 

「ごめんね、ゆうと」

 

「別に、結梨が謝ることじゃないだろ」

 

 悠斗はゆっくりと結梨の頭をなでる。実は結梨だが、悠斗と同じように頭痛に苛まれていたらしく、ずっと後方で寝ていたらしい。治ったころにはもうすでに戦闘は終わっていたもで、力になれなかったことに落ち込んだ結梨だった。

 

「今は、ゆっくりと体を休めろ」

 

 そういい、ゆっくりと目を閉じる悠斗。結梨も、同じように湯に浮かぶと、そのまま悠斗の体に抱き着いた。

 

「……今なら悠斗の事喰える大チャン────」

 

「やったらこの場にいるリリィ全員相手になるわよ亜羅椰ぁ? もちろん、アールヴヘイムからも抜けてもらいますから」

 

「じょ、冗談ですよ天葉様。おほほほほほほ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空調設備などは全部ぶっ壊れたが、電気はなんとか繋がっていたので、学園中からストーブやらランプやらを全て引きずり出し、夜の寒さを凌ごうとしていた一同。そんな中、夢結、梨璃、悠斗は咬月と百由に呼び出され、そこには史房、祀、眞悠理の三人もいた。

 

 ちなみに、結梨は一柳隊の面々に預けており、今頃ゆっくりと寝ているところだろうか。

 

 

「これが、私たち百合ケ丘女学院が管轄する、七号由比ヶ浜ネストの現在の様子よ」

 

「……はぁ」

 

「ここに写っているのが、ネストの主と目される、アルトラ級HUGEね」

 

「あるとらきゅう……?」

 

 よく分かっていないのか、梨璃の返事は空回り気味だが、とあることに気付く。

 

「えと……あの、もしかてこれ────」

 

 百由に見せられているこのアルトラ級の位置、それはどこからどう見ても────

 

「海の底ですか!?」

 

 ────由比ヶ浜の海の底である。

 

「そうそうそうそう! ちなみに、アルトラ級HUGEの全長は、400mとも1キロとも言われているのよ!」

 

「よく分からないですけど、凄いですね」

 

「ここ最近のHUGEは、このアルトラ級から、大量マギを半ば奪う形で供給されていたわ」

 

「過剰な負荷をかけられたせいで、今はネスト全体が、その機能を事実上停止していると思われます。殲滅するにはまたとない機会よ」

 

「…………そうですね、今はあのアルトラ級から伝わってくる気配も、凄く弱い」

 

 悠斗が項を探りながら、アルトラ級の気配を探し当てる。

 

「そこで、一柳君にその任務を頼みたいのだ」

 

「はい…………私!?」

 

 翌日、夢結、梨璃、悠斗を乗せたヘリが七号由比ヶ浜ネストの上空へと飛び立ち、その真上でマギの羽を広げた悠斗に、梨璃と夢結がしがみついている。

 

 その梨璃の手には、かつて夢結が使っていたダインスレイフが握られていた。その理由は、昨日の夜まで遡る。

 

「だけど、どうやって」

 

「これだ」

 

「これは……!」

 

 三人の前に出されたCHARMに、夢結が目を剥いた。

 

「お前たちの方が馴染み深いだろうな」

 

 黒と金色に彩られたCHARM。それはかつて夢結が手にしていたものである。

 

()()()()()()()。言わば、この事態の元凶となったCHARMだ」

 

 ダインスレイフのマギクリスタルコアには、今まで見たことない術式が見えている。

 

「美鈴様の書き換えた術式が、巡り巡って、由比ヶ浜のHUGEを狂わせた」

 

「それをヒントに、アルトラ級を倒すための────言わば、バグとしての術式を仕込んだの。まさかこんなすぐに使うことになるとは思わなかったから、間に合わせの急ごしらえだけど」

 

「急ぐ必要があるというわけね」

 

「昼間の戦い経て、私たちにはこの一振のCHARMと、悠斗さんのCHARMしか残されていないの」

 

「もし今HUGEが現れても……まぁ悠斗なら大丈夫だと思うが、負担が半端ないからな」

 

 仮に、今HUGEの大群が現れようが、悠斗のならば、その特性を生かし、三日三晩戦った後に、HUGE全てを全滅して無傷で帰ってくるだろうが、流石に疲労が半端ないだろう。

 

「これを扱うことができるのは、カリスマ以上のレアスキルを持つリリィだけ。そうでなければ、バグを送り込むどころか、自身が汚染される恐れすらあるわ」

 

「えっと……あの、カリスマって結局なんなんでしょう」

 

「今日の梨璃さんの戦い方は、通常のカリスマの域を超えている。全リリィのパフォーマンスが著しく向上を示していた」

 

「私達もつい参加しといてなんだけど、全校生徒でマギスフィアを繋ぐノインヴェルト戦術なんて、常識じゃありえないもの。仮説だけど、より上位のスキルを発言した可能性すら」

 

「……それでも、危険な任務には変わりないわ」

 

「……えぇ」

 

「ま、そのための俺でしょう? 史房様」

 

 アルトラ級HUGEがいるのは、はるか海の底。そのために、空を飛べる悠斗のマギの羽は脱出にうってつけである。

 

「えぇ。梨璃さんの送迎、キチンとやり遂げてみせますよ」

 

 時間戻って由比ヶ浜ネスト上空。三人は既にネストの空洞をゆっくりと降下し、アルトラ級の姿を悠斗は視認した。

 

「静かです」

 

「ここはもう、海の中のはずよ」

 

「……あれが、アルトラ級HUGE」

 

 さて、何故ここに夢結がいるのかと言うと、それもまたまた夜まで遡る。

 

「その作戦には、私も同行します」

 

「お姉様」

 

「夢結様?」

 

 突然の宣言に梨璃と悠斗の二人から声が上がる。

 

「梨璃は、私が守ります」

 

 流石にシルトを行かせて、守護天使(シュッツエンゲル)である自分が学院には残れないのか。

 

「じゃあ、お姉様は私が守りますね!」

 

「それじゃあ、俺は二人を守りますよ」

 

「いいえ、あなたも私が守るわ。あなたは梨璃の昔馴染みなんですから」

 

「…………たまに思いますけど、そこ強調する必要あります?」

 

「夢結、梨璃さん……悠斗くん」

 

「ごめんなさい、あなた達には大変な思いばかりさせて」

 

「いいえ。みんなすべきことをしたのよ」

 

「…………どうか、頼むっ!」

 

 と、言うことで、夢結も着いてくることになった。

 

 ゆっくりとアルトラ級HUGEに着地をした三人。梨璃が突き刺そうとする時に、夢結がその手に掌を重ね、更にその上から悠斗も重ねる。

 

「……CHARMから、美鈴様を感じます」

 

「…………そう」

 

 そして三人は、少しだけ手を引き、ダインスレイフをアルトラ級へ突き刺した。 その直後、マギクリスタルコアに現れていた術式が荒々しく輝きだし、そこからマギの奔流があふれだす。

 

「まだだ梨璃さん! CHARMが埋まりきるまで!」

 

 その言葉にハッとした梨璃は、力を入れてさらに強くCHARMを押し込む。そして、完全にCHARMがアルトラ級に埋まったのを確認した悠斗は、梨璃と夢結の体に手を回した。

 

「離脱! 捕まって!」

 

 CHARMに仕込んだバグは見事に発生。アルトラ級の自壊を察知し、崩れゆく由比ヶ浜ネスト。当然、今いる位置は海の底であり、そこに空洞があるのなら水が押し寄せるのは当然のこと。

 

 ────加速! 

 

 ドンッ! と音さえも置き去りにしてマギの羽を羽ばたかせる。そしてついに、三人は朝日を拝むことが出来た。

 

「…………眩しいですね」

 

「えぇ、本当に…………」

 

 顔を出した太陽が、まるで祝福するかのように、三人をずっと照らしていた。




自動保存された小説の項目あってマジで助かりました。(2400文字が吹っ飛びかけた)

さてさて、これでアニメ編BOUQUETは終了で、次回からラスバレ編となります。そのため、アールヴヘイムの面々は多少お休みしてもらうことに………ちょ、ちょくちょく出せたらいいなぁ。

悠斗くんの守護天使も決めねばならんなぁ………百由様とぐろっぴも電撃シュッツエンゲりましたし。守護天使にするなら誰がいいかなほんと……戦争起きそう。

………眞悠理様、シルトいたっけ……?ほほう?候補ならいると……ほほう。


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ラストバレット編
ラスバレ プロローグ


「「やぁぁぁぁぁ!!」」

 

 二機のCHARM、『グングニル』と『ブリューナク』が銀閃を描きながら、今には二人の少女のことを襲おうとしている異形の怪物────『HUGE』の肉体を裂き、その身を粒子状に変える。

 

「梨璃、大丈夫?」

 

「はぁ……はぁ……、はい、このくらい……、何ともありません」

 

 言葉とは裏腹に、全然大丈夫そうには全く見えない。

 

「そうは見えないわ。無理と感じたらさがりなさい」

 

「いえ、一柳隊のみんなも戦っているんです。わたしだけ退くなんてできません!」

 

 額に浮かぶ汗をぬぐい取る梨璃。そして、強かな瞳でヒュージを見つめる。

 

「それに、ここを突破されたら居住区域に被害が出ます! だから、絶対に退くわけにはいきません!」

 

「梨璃……、わかったわ。それなら、必ず死守するわよ」

 

「はい!」

 

 やはり、シルトの言うことには弱いのか、なんだかんだ許してしまう夢結。

 

「だけど、どうしてこんなにヒュージが……? 由比ヶ浜のヒュージネストは破壊したはずなのに……」

 

 先日、百合ケ丘を襲ったギガント級ヒュージ。その翌日に、七号由比ヶ浜ネストにいるアルトラ級を倒し、ネストは崩壊したはずだが……。

 

「ヒュージネストは他にもあるから、あの程度で、ヒュージは居なくなったりしないわ」

 

 由比ヶ浜以外にも、日本にはまだまだネストは存在する。ネストを1つ破壊したことは凄いことだが、それだけでヒュージは居なくなったりしない。

 

「……とはいえ、確かに、この数は異常ね。正体不明のヒュージとの遭遇報告もあるようだし、いったい何が────」

 

 その時、ヒュージの鉄の腕が梨璃を吹き飛ばす。防御結界のおかげで怪我には至ってないが、かなり痛そうである。

 

「くっ! あぁ──!!」

 

「梨璃!」

 

「はヵ……はぁ……」

 

「梨璃、やはりもう限界ね。この連戦だもの、仕方ないわ」

 

「大丈夫……です……」

 

(梨璃だけじゃない、正直、わたしも限界が近い……。だけど、他の一柳隊のメンバーも別の地点で交戦中。他の百合ヶ丘のレギオンも同様。救援は望めない……)

 

「くっ……。次から次へと……。梨璃、わたしの後ろに下がりなさい!」

 

 梨璃の前に立ち、CHARMを構える夢結。

 

「あなたのことは、わたしが護るから」

 

「さがりません! わたしだって、お姉様を護りたいんです!」

 

「あなたって子は……」

 

 梨璃の言葉に少し頬を緩ませた夢結。襲いかかってくるヒュージに向け、型を構えようとした時、どこからかマギの球が飛んできてヒュージに当たり、その体を爆散させた。

 

「え!?」

 

「これは……CHARMによる射撃!? どこから!?」

 

「「はぁぁぁぁぁ!!」」

 

 戦場に響く、二人の声。ヒュージを蹴散らしながらやってきたのは、百合ケ丘とは全く制服の違う二人の少女。

 

「あなた方は!?」

 

「詳しい話はあと! 今は────」

 

「はい、一緒に、ヒュージを殲滅しましょう!」

 

 凛とした少女、可愛らしい少女の助太刀により、一気に楽になる。

 

「梨璃、あと一息、行ける?」

 

「もちろんです、お姉様!」

 

「それじゃ、行くわよ!」

 

 そこからは、殲滅するのは早かった。謎の美少女の二人が手練であったこともあり、余裕のできた夢結、梨璃はいつも通りの連携でヒュージを撃退していく。

 

 その途中で周りのヒュージを撃退しながら近づいてきていた悠斗も無事に合流。銀髪の少女と目が合った時に、一瞬だけ両名とも身を固まらせたが、すぐさま再起動してそのままヒュージを殲滅する。

 

「ふんっ!」

 

 そして、悠斗のアロンダイトによって、最後のヒュージが倒された。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 長い戦闘。今までこのような経験は無かった梨璃がCHARMを杖代わりにしながら何とか立っている。

 

「どうやら、今ので最後みたいね」

 

「……まだです。まだ、他のみんなが戦っています。そっちを助けに行かないと……」

 

「大丈夫だ。他の地点は既に俺が終わらせている。全員無事だ」

 

 まだ戦おうとしている梨璃の肩に手を置いて、ほかのメンバーの無事を知らせる悠斗。

 

「よくおふたりであの数のヒュージ」を……流石です。ヒュージの数が一番多かった地点がここだったんです」

 

「それじゃ……、みんな無事なんですね……?」

 

「えぇ。安心してください」

 

「そっか……。よかっ……た……」

 

「「──!?」」

 

「……っと」

 

 限界からか、意識を失う梨璃。倒れる前に何とか梨璃の体に手を回すことで悠斗が支えることが出来た。

 

「梨璃! 梨璃!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「もういいの?」

 

「はい、疲労によるものだそうです。ご心配をおかけしてすみません」

 

 作戦も無事に終わり、医務室に運ばれた梨璃だが、倒れた原因は疲労であった。

 

「そう、無事でよかったわ」

 

「……わたし、一柳隊のリーダーなのに、かっこ悪いところ見せちゃいましたね。お姉様にも言われていたのに、結局無茶して、倒れて……」

 

「梨璃……。こっちにいらっしゃい」

 

 夢結に言われるがままに近づく梨璃。夢結はゆっくりと梨璃の頬に手を添えた。

 

「わたしの前では、どんなにかっこ悪くても、いくら弱音を吐いても構わないわ」

 

 夢結は梨璃に優しく微笑み、ゆりゆりな空間が出来上がる。

 

「あなたの全てをわたしは受け入れる。あなたは一柳隊のリーダーであると同時に、わたしの大切な『シルト』なのだから」

 

「お姉様……」

 

「だけど────お願いだから、わたしをひとりにしないでね。もう、大切な人を失いたくないの」

 

「わたしは、いなくなったりしません! ずっと、お姉様のそばにいます!」

 

「お姉様の笑顔は、わたしが必ず護ります!」

 

「ふふっ、それなら、あなたの笑顔はわたしが護るわ」

 

「えへへ」

 

 憧れのお姉様の言葉に、ついつい頬を緩ませる梨璃。

 

「お姉様、わたしもっと強くなります! どんなヒュージにも負けないくらい強く!」

 

「えぇ、でも、強くなるのはあなたひとりじゃないわよ。わたしも、一柳隊のみんなも一緒────」

 

「そして、リリィ同士の結束も。ですね」

 

「「──!?」」

 

 突如として、二人の空間に入り込む一つの声。夢結と梨璃が慌ててその方向へ顔を向けると、まるでトーテムポールのように顔が部屋の外から覗き込んでいた。

 

「あ、あなたたち、どうして!?」

 

「一応、ノックはしたんだけど。なんだかとても入り込める空気ではなかったので……」

 

「夢結様と梨璃の空気感は……うん、触れたらダメなんじゃないかなー、って」

 

「これが『シュッツエンゲルの契り』なんですね。素晴らしいです!」

 

「紅巳ちゃんが見たら悶絶しているところだわ」

 

「ゆ、悠斗くん!? いつから!?」

 

「結構最初からいたけど」

 

「そ、それより、お二人はどうして? それに、リリィ同士の結束って?」

 

 話をそらすように梨璃が先程聞こえた言葉について質問を投げかけた。

 

「あ、そうでした! では改めて────」

 

 凛とした方の彼女がこほん、と咳払いを挟んだ。

 

「エレンスゲ女学園高等学校、1年、相澤一葉(あいざわかずは)。レギオンは『ヘルヴォル』」

 

神庭(かんば)女子藝術(げいじゅつ)高等学校、2年、今叶星(こんかなほ)。レギオンは『グラン・エプレ』」

 

「百合ヶ丘の一柳隊を含むこの3校、3レギオンは、ヒュージに対抗するため、協力し合うことが決まったんです!」

 

「学校の垣根を超えたリリィ同士の結束強化。わたしたちも一緒に強くなるわ」

 

「まぁ、俺の情報を集めるっていう意図もあるかもしれんが」

 

「悠斗くん。そんなこと言ってはダメよ?」

 

 何やら親しそうな雰囲気をだす悠斗と叶星。本来ならそれに違和感を持つはずだが、その前の言葉で意識がそちらにいかなかった。

 

「みんなで、一緒に……」

 

「そう、リリィは、決して百合ヶ丘だけではないわ。この結束は、わたしたちにとって大きな力となるでしょう」

 

「ほかのガーデンからも得られることはあるだろうからな。ま、損をすることは無いだろうな」

 

「さぁ、わたしたちの戦いを始めましょう」

 

「はい! お姉様!」

 

 

 

 

 

{ プロローグ }

 

ユリズイセン

ALSTROEMERIA

 

A new begninning-×-[新たな始まり]

 

 

 

 梨璃が目覚める前。ちょっとしたワンシーン。

 

 

「久しぶりね、悠斗くん」

 

「その、久しぶり叶星ねぇ」

 

「叶星様。悠斗さんとお知り合いだったのですか?」

 

「そう……だな、幼馴染と言うやつだろうな」

 

「私たち、悠斗くんが死んだって聞いた時はすっごく悲しかったのよ? 高嶺ちゃんも珍しく涙を流したりもして……」

 

「……その、ごめん、叶星ねぇ。色々事情があって、俺の事を漏らすわけにはいかなかったんだ」

 

「ううん。それはいいの。私は、悠斗くんとこうして触れ合えるだけで、私は……」

 

 悠斗の手に触れ、ゆっくりと握り込む叶星。指を絡ませ、しっかりとその温もりを感じてから────徐々に力を込め始めた。

 

「…………叶星ねぇ?」

 

「私達は悲しい思いをしていたのに、悠斗くんはこの百合ケ丘で可愛い女の子とイチャイチャイチャイチイチャイチイチャイチ……」

 

「か、叶星様……?」

 

 突如として出てきた闇のオーラにタジタジとなる一葉。だがしかし、悠斗は涼しい顔をして首を傾げるだけであった。




NGシーン

「エレンスゲ女学園高等学校、1年、相澤一葉。レギオンは『ヘルヴォル』」

「神庭女子藝術高等学校、2年、今叶星。レギオンは『グラン・エプレ』」

「百合ケ丘女学院、1年、浅野悠斗。レギオンは『アールヴヘイム』」

「3人揃っ」「3に―――」「三人揃って!」

「「「…………」」」

「ちょ、ごめん。もう一回やり直し」

「いいから早く自己紹介なさい」


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雨中の救出作戦~②

「んん~っ。雨もすっかりやんだみたいだな」

 

 ところ変わって視点梨璃達。どうやらこちらでもヒュージとの戦闘があったようだが、突如として現れたエレンスゲ女学園のトップレギオンである『ヘルヴォル』と偶然にも合流。そして、ヒュージはヘルヴォルが高度な『ハイプレス戦術』を繰り出し、見事ヒュージを粒子状へと変えた。

 

「ヒュージの方も、あいつらが倒したので最後だったようじゃ。この付近からはもう反応がない」

 

 悠斗のより精度は甘いが、それでもきちんとヒュージの反応を探知できる『ヒュージサーチャー』を見てミリアムが一息ついた。

 

 そして、梨璃は久々に会う一葉の元へてとてとと嬉しそうに近づいた。

 

「一葉さん! またお会いできましたね! 嬉しいです!」

 

「私もです。先日は簡単な挨拶だけでしたからね。夢結様も来て頂き、ありがとうございます」

 

「なになに、一葉ってば百合ケ丘の子たちと仲良しだったんだ」

 

 ひょこっとと一葉の後ろから顔を出した茶髪の少女の名前は『飯島恋花(いいじまれんか)』。どことなくギャルっぽい感じがする。

 

「いえ、仲良しというか——」

 

「はい! お友達です!」

 

「……ふふっ、そうみたいです」

 

 一葉が何やら言おうとしたが、梨璃言葉に自然と笑顔がこぼれる一葉。しかし、その顔はすぐに心配をしている表情に戻る。

 

「……しかし、救助対象のリリィがなかなか見つかりません…………。梨璃さん、エレンスゲのリリィを見ませんでしたか?」

 

「エレンスゲの? それなら既に————」

 

「この二人で間違いないか? 一葉」

 

 突如として乱入してくる、エレンスゲでは一葉以外が聞いた事のない男の声。そして、空中からトンっという軽い着地音が響き、全員がその場を向いた。

 

「よ、久しぶりだな」

 

「悠斗さん! お久しぶりです!」

 

 そこにな、エレンスゲのリリィ二人を片手ずつでお姫様抱っこをしている悠斗がいた。

 

「うわっ! 本当に男の子!」

 

「あれが噂の……」

 

「……なんでお姫様抱っこ?」

 

 そのことに、各々反応を零す。若干一名は現れた状況に対してのツッコミだったが。

 

「お2人とも、無事でよかったです」

 

 悠斗がゆっくりと二人を下ろし、あとの対応は一葉に任せる。

 

「悠斗くん! 無事でよかった!」

 

「ゆうとー!」

 

「とと、結梨。無事でよかったよ。梨璃も心配さんきゅ」

 

 その後は、梨璃と結梨が姉妹のように悠斗に近づき、結梨が悠斗に向かって抱きつく。それを悠斗はしっかりと受け止めたあと、そのまま結梨を肩車する。

 

「皆さん、まずは御礼を申し上げます。この度は救援要請に快諾いただき、我がエレンスゲ女学園に所属するリリィの救出、そして保護をしていただいたこと誠にありがとうございます。正式な感謝状は後日、学園を通して送られると思いますが————」

 

 

「かたい! かたい、かたい、かたい! 買ったのを忘れて3日後に冷蔵庫から発掘されたドーナツくらいカチカチでパッサパサどよ、一葉!」

 

(分かりにくい……)

 

(なんだあの例え)

 

(まさかあの御仁……経験済みかの?)

 

「……むー?」

 

 一葉のガッチガチなお礼分に恋花がツッコミを入れた。一柳ズは心の中で疑問符を浮かべたが、結梨は首を傾げていた。

 

「そんなこと言われても……」

 

 その事に、一葉が若干気持ちが落ち込んだ。多分八割くらいは意味を理解していないと思う。

 

「あの、あなたは:……」

 

 ここで声をかけたのは我らがリリィオタクである二水である。

 

「おっと、自己紹介が遅れたね♪ ヘルヴォルのおしゃれ番長、飯島恋花とはあたしのことよ!」

 

 バンッ! という効果音が付きそうな感じでドヤ顔を決めた恋花。

 

「ばんちょう……?」

 

「エレンスゲには変わった役職があるのね」

 

 だがしかし、このあるいみ天然な梨璃と夢結には全く通じなかった。

 

「本気にしないでください、夢結様。恋花様もあんまりふざけないように」

 

「だって、一葉がかたいからさ~」

 

「恋花様が柔らかすぎんるですよ……」

 

 一葉のちょっとした諫めを軽く流す恋花。

 

「ふむ、あれがエレンスゲのトップレギオンか。思ったよりも愉快な連中のようじゃの」

 

「なかなか面白いレギオンに入ったみたいだな、千香瑠」

 

「ふふふ……梅さんこそ」

 

 ここで、知り合いかのようにヘルヴォルのメンバーに話しかけに行ったのは梅だった。彼女の名前は芹沢千香瑠。梅————そして、夢結と共通点は甲州撤退戦で、同じ戦場を駆けたことのある戦友である。

 

「それにまた夢結さんと同じレギオンに所属しているなんて、私まで嬉しくなってしまいます」

 

 甲州撤退戦での千香瑠が所属していた隊は第三部隊。そして梅は第五部隊であり、ここの二部隊は今でも交流が続いている。

 

「あー、あれはまぁ、うちのリーダーのお陰というか……うん」

 

「なんじゃ、お主ら顔見知りじゃったのか。夢結様のことも知っておるとはな」

 

「ははは、謙遜はよせよせ。大人しそうなナリをしてるけど、千香瑠は相当の使い手だからな」

 

「ふむ……まぁ、そのCHARMを見ればわかる。百由様から話は聞いていたが、直接見るのは初めてじゃな」

 

 と、話が盛り上がる三人に控えめに声がかかる。

 

「あの……千香瑠。携帯食、余ってないかな」

 

 彼女の名前は初鹿野瑤。クールで無口系な雰囲気をしているが、どことなく神琳と似た空気を感じる。

 

「藍がお腹減ったって騒いでて……あの人に被害が……」

 

「あぁ、いっぱい動きましたものね————被害?」

 

 千香瑠が疑問を口にし、そちらへ目線を移すと————

 

「ねぇねぇ、おかしない?」

 

「お……お?」

 

「んー?」

 

 藍と呼ばれた少女が、悠斗に突貫していた。

 

「ヘルヴォルは食べ物とか持ってきてないのか?」

 

「甘くないの、やだ。もそもそしたクラッカーとドロみたいなスープはいらなーい」

 

「それには全面的に同意する……しかも、エレンスゲだから味とか全然考慮されてないだろうし……結梨」

 

「うん、いいよ。幸せのおすそ分けだね」

 

 名前を呼んだだけで、悠斗と結梨は意図を分かり合う。正に以心伝心。結梨からの許可を得た悠斗は、ポケットから飴を取り出した。すると藍の目がピカピカと輝き出した。

 

「飴、好きか?」

 

「うん! すき!」

 

「こらこら、あんまり慌てたらダメだぞ? ほら、あーん」

 

「あー」

 

「…………餌付けされてる」

 

「なるほど、被害とはあっちの方じゃったか」

 

 膝を落とし、藍に飴を食べさせている悠斗。結梨はにっこにこの笑顔である。

 

「おいしー!」

 

「君名前は?」

 

「らん! ささきらん!」

 

「らんね、俺は浅野悠斗で」

 

「私は浅野結梨」

 

「ゆうととゆり、優しくてすきー!」

 

「おっと……なんか結梨がもう一人増えた気分」

 

「私、こんな感じ?」

 

「割りと」

 

「お、妹が増えたな」

 

「これはまたまた修羅場な予感がするぞい……」

 

 秒速で新しい子と仲良くなっている悠斗のことを見ていた四人。

 

「……あ、ご挨拶が遅れました……。初鹿野瑤です……よろしくお願いします」

 

「私は吉村・Thi・梅。さっきも話してたけど、千香瑠とは何度か戦場で会った仲だ」

 

 と、こちらと自己紹介が続き、藍が一つ目の飴を舐め終わり、もう一個を悠斗に催促。萌え袖にしている制服で悠斗の手を掴み、娘が父親に物をねだっている感じを幻視した。

 

「可愛い……神琳、あれ……すごく可愛い……」

 

「欲しがっても駄目ですわ。こっちで我慢なさい」

 

 そして、神琳と雨嘉の視線は何故か鶴紗の方へ。

 

「こっちってなんだ。わたしの方を見るな」

 

 当然、その事に不安を覚えた鶴紗。だが鶴紗よ。お前、猫の目の前では————やめとこう。

 

「でも、どこか鶴紗さんに似てますわね。サイズ的な意味もそうですけど、何か雰囲気と申しますか……」

 

「どっちも……可愛い……」

 

「………………」

 

 鶴紗は、つっこむことを諦めた。

 

「……さて、とりあえず私は今からあそこに混じってきて、あの子に母という認識を刷り込ませようかしら」

 

「神琳!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「とにかく、本当に助かりました。この御礼はいずれまた日を改めてお返しいたします。私たちは準備を整えたら再出撃します。このキャンプ地は一柳隊の皆さんで好きに使ってください」

 

「そちらのリリィの救助はもう完了したようですが、それでも再出撃ということは、あなた方の目的は————」

 

「ヒュージの殲滅、でしょう?」

 

「……はい、その通りです。先遣隊の報告でこの森には通常と異なる個体……。特型ヒュージが潜伏している可能性があります」

 

「特型ヒュージ!?」

 

 一葉の言葉に二水が驚きの声を上げる。

 

「詳しい情報はまだまとめ切れていないのですけど、我が校のレギオンのリリィが交戦したようです」

 

「その情報なら、わしの方にも届いておるぞ。なんでも戦闘中に形状を変化させるヒュージらしいのう」

 

「……あ、俺そいつ見たぞ。周りの反応と少し違ったから少し気になったが特型か……そりゃ納得」

 

「そんなヒュージがこの森のどこかに……」

 

「私たちヘルヴォルはその特型ヒュージの討伐任務を果たします。エレンスゲのトップレギオンの名に懸けて」

 

「…………」

 

 梨璃は、そんな一葉の姿を見て少し考え、そして振り返った。

 

「あの……みんなに相談があるんだけど」

 

「みなまで言うなよ。梨璃が今更何が言いたいか分からない俺たちじゃない」

 

「ええ、あなたの好きなようにしなさい」

 

「……え?」

 

 まだ何も言ってないのに何やら既に出撃の準備を進めていた一柳隊の皆さん。

 

「悠斗さんの言う通り、梨璃さんの考えることはみんなもう分かっていることですわ。相談なんて必要ありません」

 

 楓の言葉に、一柳隊の全員が頷く。

 

「……ありがとう、みなさん! 一葉さん!」

 

「は、はい! どうかしましたか?」

 

 急に大きな声を出されたので少しびっくりした一葉。少し肩がビクッ!? となった。

 

「わたしたち、一柳隊も同行します」

 

「え? ですが……」

 

「リリィ同士の結束ですよ! 一葉さん! 一緒に戦いましょう!」

 

「それに、俺はあの特型ヒュージの気配を覚えている。闇雲に探すより、すぐに見つかるぞ」

 

「………………」

 

 梨璃と悠斗の言葉に直ぐに返事を返せないでいる一葉。

 

「一葉も本当は、一柳隊と協力し合いたいんだよね? でも、これ以上助けてもらうわけにはいかないって思ってる」

 

「……はい、確かに協力し合うことは決まりました。ですが、既にエレンスゲのリリィを助けてもらってます。これ以上、一柳隊の力をお借りするのは……」

 

「おいおい、同士を助けるのはリリィとして当然だろ?」

 

「はい! それに、そんなの気にする必要なんてありません!」

 

「梨璃と悠斗の言う通りよ。それにあなたたちの言う特型ヒュージの情報は、百合ケ丘としても是非欲しいところ。だからこれは、百合ケ丘のためでもあるのよ」

 

「梨璃さん、悠斗さん、夢結様……」

 

「いいじゃん、一葉。戦力は多い方がいいし、賑やかなのはもっといいし!」

 

「らんもゆうとたち、好き」

 

「わっはっはっはっ! ちゃんと餌付けに成功したようじゃな!」

 

「……はぁ、まったく。私が見ていないところで勝手に仲良くなっちゃって」

 

 一葉は、暫し目をつぶっていたが、恋花の押しもあってか決断をした。

 

「わかりました。百合ケ丘女学院、一柳隊の皆さんとの共同任務に当たります。軍令部には略式で報告しておきます。梨璃さん、悠斗さん、夢結様、一柳隊の皆さん。ありがとうございます。そして、よろしくお願いします」

 

「はい! 一葉さん! 一緒に頑張りましょうね!」

 

「改めてよろしくお願いいたしますわ。ヘルヴォルの皆様」

 

「こちらこそ……よろく、です……」

 

「お互いの情報を突き合わせれば、ヒュージの潜伏地点を探るのに何か手がかりがつかめるかもしれないわね」

 

「はい、こちらも早急にデータをご用意しますね」

 

「らん、ゆうととゆりをまもるね」

 

「なら、ゆりはらんを守るよ」

 

「二人は俺が守るから安心しな」

 

「では準備が整い次第に、出発しましょう。ヘルヴォル・一柳隊の共同任務です」

 

「はい! 出発進行ですー!」



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雨中の救出作戦~①

お久しぶりです。ようやくまとまった時間が取れたのでこうして書いてます。就活に、卒業研究に、別サイトで書いてるオリジナル小説に………忙しい忙しい……


「こちら一柳隊所属、二川二水です。ただいま現場に到着しました」

 

 雨が降る戦場に、一人の少女の声が響く。彼女の名前は二川二水。レアスキル、『鷹の目』を持つ百合ケ丘女学院に籍を置くリリィである。

 

「これより、要請のあったエレンスゲ女学園に所属するリリィの救助捜索活動を開始します!」

 

 二水は一度言葉を切り、周囲を見やる。

 

「作戦地域は雨でよく見えない……じゃなくて雨天により視界不良。ケイブ反応もあり、一刻も早い救助が必要だと思いますっ。実際、悠斗さんが現在単独でエレンスゲの女学園の生徒を先行して捜索中です!」

 

 男で唯一のリリィである浅野悠斗は、自身の身体能力を生かし捜索中。夢結もその方が早く見つかる可能性を見出し許可した。

 

「っ!? 戦闘音あり! あちらは……梨璃さんと結梨ちゃん、夢結様の索敵範囲です! 二川二水、これより先頭地点に向かいます! 以上、通信終わりっ!」

 

 端末の電源を切り、本部との通信を途絶。二水は自身のCHARMであるグングニルを持ち、三人の元へ向かった。

 

「やぁぁぁぁ~!!」

 

 ビンク色の髪に、サイドテールをぴょこんと纏めた少女、梨璃がヒュージに向かって銃弾を三発当てた後、すぐ様ブレイドモードへと高速変形させ、スモール級のヒュージを粒子状へと霧散させた。

 

「こちらのヒュージは倒しました! お姉様と結梨ちゃんは────」

 

「わたしは大丈夫よ」

 

「わたしも大丈夫だよ!」

 

 振り返った先には既にヒュージを倒しきっていた、自身が姉と呼び、敬愛して止まない白井夢結と、悠斗の娘(悠斗は未認可)である結梨が服を整えていた。

 

「それより、梨璃、焦りは禁物よ。今も、かなり無理をしているように見えたわ」

 

「ごめんなさい、お姉様。エレンスゲ女学園のリリィがこの森で今も救助を待っていると思うと、いてもたってもいられなくて!」

 

「そうね……でも、あなたが怪我をしては元も子もないわ。この隊のリーダーは梨璃なのだから」

 

「はい……! ありがとうございます、お姉様!」

 

 戦闘中であるにも関わらず、二人の空気を醸し出そうとしている夢結と梨璃。その光景を見ていた結梨が「嬉しそうな匂い」と鼻をくんくんと動かしていると────

 

「ちょぉぉっと! お待ちになって!」

 

 邪魔者、若しくは・J・の者。楓・J(じょあん)・ヌーベルが乱入した。

 

「か、楓さんっ!?」

 

「わたくしに隠れて何をイチャイチャしてますのっ!? いくら夢結様とて、抜け駆けは許しませんわよ!」

 

 違う、そうじゃない。

 

「ふたりとも追いついたようね」

 

「無視ですのっ!?」

 

「どんまい、楓」

 

「結梨さん!?」

 

 まさかの結梨からの追撃に、心に少なくはないダメージを負った楓。胸を抑える仕草を大袈裟にした。

 

「あっ、待ってください! 梅様より通信です!」

 

「えっ、本当!?」

 

 二水が手にしていた端末に通信が入り、梨璃がそちらに近づく。

 

「もしもし、梅様ですかっ? そちらの様子はどうですか──?」

 

「おう、梨璃か。うんうん、通信は良好だゾ」

 

 一柳隊で、唯一夢結と同じ二年生である吉村・Thi(てぃ)・梅。

 

「エレンスゲ女学園のリリィはまだ見つかっとらんがの。悠斗からの連絡もまだじゃ」

 

「一応、争った形跡とヒュージの残骸は見つけた。近くにいると思う」

 

 その近くには、ミリアム・ヒルデガルド・v(ふぉん)・グロピウスと安藤鶴紗がおり、郭神琳(くぉしぇんりん)王雨嘉(わんゆーじあ)コンビは周囲の警戒を行っている。

 

「外征に来たエレンスゲのレギオンが消息を絶って5時間が経過。そろそろ救出してやらないと危ないな」

 

「こう視界が悪くては捜索もままならん。さらに手分けした探したいところじゃが……」

 

「これ以上、隊を分けるのは避けるべきだろう」

 

「同感。一人なのは悠斗だからこそできる芸当だし」

 

 悠斗の得意戦場は圧倒的一対多の状況である。そのことをよく知ってる鶴紗は改めて背筋をブルりと震わせた。

 

「皆さん! 雨嘉さんがヒュージを発見したようです!」

 

 その時、オッドアイの少女である神琳が通信中の三人へ警戒を促す。

 

「2時の方向、茂みの向こう。まだこちらには気づいていない……!」

 

 アステリオンを射撃モードにし、スコープ越しにヒュージの姿を視認した雨嘉。いつでも引き金を引ける準備は出来ている。

 

「梨璃、いったん通信を切る! 悠斗から通信が来たら教えてくれ!」

 

 そう言って梅は通信を切った。

 

「奇襲を仕掛けましょう。梅様、鶴紗さん、お願いいたします」

 

「おう。任せておけ」

 

「速攻で行く」

 

「わたくしと雨嘉さんで援護射撃を行います。射線には気をつけてください」

 

「うん、分かった」

 

「ヒュージの規模は不明です。要救助者もいることを念頭に、各員臨機応変に対応願います」

 

 司令塔としても優秀な神琳は、即座に指示を出した。

 

「戦闘開始です!」

 

 

 

 森を引き裂く影一つ。自身に内包されているマギを贅沢に使い、身体能力を強化させ、森を一陣の風となって移動する人物がいた。

 

(──―こっちか、ヒュージも近いな)

 

 浅野悠斗。単独行動中である。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……急いで! ヒュージがすぐそこまで来てる……!」

 

 そしてようやく、救助者であるエレンスゲのリリィを遠目で視認。悠斗は更に強く踏み込み、スピードを上げた。

 

「っ、ダメ……さっきの戦闘で脚が──」

 

「っ……!?」

 

 負傷したリリィ二人の目の前に体力のヒュージが現れる。

 

「あ……ああ……っ! ヒュージが、あ、あんなに沢山……っ」

 

「っ、私たちはエレンスゲのリリィよ。このままでは終わらせない……!」

 

 まだ比較的無事なリリィが自身のCHARMを気丈に掲げ、ヒュージへと向けるがその足は震えている。

 

 そして、ヒュージが二人へと襲いかかる────

 

「いやぁぁぁぁぁ……っ!!」

 

 だがしかし、次の瞬間リリィは自身の体が何かに持ち上げられていることに気が付く。不思議に思い塞いでいた目をゆっくりと開けると、自分ともう一人のリリィを軽々しく抱えて────というか、片手ずつで二人をお姫様抱っこしていた悠斗が視界に入った。

 

「あ、浅野悠斗さんっ!?」

 

「? 知ってるのか? いや、まぁエレンスゲのリリィなら当然か……」

 

 ヒュージを一瞬で千切り、近くにある木に二人を優しく下ろした悠斗は、相棒であるアロンダイトを構える。

 

「とりあえず、二人はそこで大人しくしていてくれ。ヒュージは俺が殺る」

 

「っ……!? で、ですがあの数です! 流石に浅野さんでも────」

 

「────舐めるなよ」

 

 ガシャン、ガシャンと音を響かせ、アロンダイトの刀身が32つに分断され、ふよふよと悠斗の周りを浮く。

 

「この程度、俺にとってはピクニックのようなものだ。だから、安心して守られとけばいいんだよ」

 

 柄を指揮棒のように振ると、マギによって操作されている刀身が悠斗の思いのままに動く。

 

「行くぞヒュージ共。同士を傷つけた責任────てめぇの命で取らせてもらうからな」

 

 悠斗が柄を振り下ろすと、遅れてアロンダイトの刀身も動く。その刀身は、目の前にいたヒュージを寸分違わずに切りつけ、真っ二つにした。

 

「す、凄い……!」

 

「これが、男のリリィ……」

 

「こちら悠斗。要救助者二名の生存を確認……あぁ分かった。直ぐにそちらに合流をする」

 

 ポケットから端末を取り出した悠斗は、すぐ様二水に連絡を入れた。向こうはどうやら既に一度全員合流をしているようだった。

 

「大丈夫か? 立てるか?」

 

「……その、ごめんなさい。実はあの時立っているのでさえやっとで……」

 

「……なるほどな。少し失礼するぞ」

 

 悠斗は先程のように二人を片手でお姫様抱っこをする。いきなりの事態に二人は頬を紅く染めた。

 

「あ、あの……っ! 何もそこまで……!」

 

「いいから、怪我人は黙って運ばれてろって。もうこれ以上怪我とかさせないから。しっかり掴まっていろよ」

 

「あうう……」

 

 恥ずかしさと悠斗の男前なセリフについつい頬が赤くなってしまう。ついでに何故か嬉しい気持ちも湧き上がってきた。

 

「1回梨璃────一柳隊のみんなと合流するけどいいか? 俺はそちらの本部と連絡手段かなくてな」

 

「は、はい……その、大丈夫です……」

 

「私も、その、異論は無いです……」

 

「よし、じゃあ行くぞ」

 

 そして悠斗は、二人を抱えたまま大ジャンプをするのだった。



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雨中の救出作戦~③

「ヒュージ反応……なし。この付近にはいないみたい、です」

 

 ヘルヴォルと百合ケ丘。合同で任務に当たることにし、隊を幾つかに分けることに。揺と梅は索敵を行っていたが、反応はなし。

 

「ふむ、こっちも同じくだ」

 

「一葉たちの方はどうでしょう……。隊を混同して分割とか、大丈夫かな……」

 

 少し不安顔を見せる揺だが、梅は全く心配はしていない。

 

「まぁ、何とかなるんじゃないか? ああ見えてうちの連中もそれなりの修羅場は超えてきてるし────」

 

 その理由の一つとして、コミュ力化け物の梨璃が、百合ケ丘には存在する

 

「あとはあれだな。純粋に仲良くなりたいんだろ、そっちの子達と」

 

 そう朗らかに笑う梅。

 

「仲良く……ですか」

 

「あぁ、うちのリーダーは人懐っこいところがあるからな」

 

「えぇぇーっ!? 本当ですかーっ!?」

 

 噂をすれば影というやつか。遠くの方から梨璃の声が聞こえてくる。

 

「ほら、早速始まったようだゾ……ふふふ」

 

 視点移り、梨璃、千香瑠、夢結の隊。何やら梨璃が嬉しそうな顔をしている。

 

「千香瑠様も山梨のご出身なんですかっ!?」

 

「はい、そうです。住んでいたのは中学までですが」

 

「そうだったんですね! わー、同郷の方とお会いできるなんて嬉しいです」

 

 まさかの同郷出身に喜びを隠しきれない梨璃。ピンクのサイドテールがびょこぴょこと揺れた。

 

「……いい雰囲気のレギオンだね」

 

 それを見て、柔らかく口元が緩む揺。そこに、闖入者が。

 

「リーダーがリーダーですもの。わたくしたちの絆は絶対ですわ! ねぇ、梨璃さん?」

 

 勿論、正体は梨璃スキーである楓・J・ヌーベルである。

 

「あははは……頼りないリーダーですけど、みんなに助けられてなんとか頑張ってます!」

 

「信頼し合えるというのは大事な事だと思いますりその繋がりこそ、レギオンの……リリィとしての強さなんでしょう」

 

「えへへ……」

 

 千香瑠の言葉に、少し照れる梨璃。ふと夢結は、別働隊にいる藍のことを思い出す。

 

「そういえば、佐々木藍さん……あの子のレアスキル────」

 

「ああ、夢結と同じ『ルナティックトランサー』のようだな。あの小さなら身体であの破壊力、相当なものだゾ」

 

 ルナティックトランサー。今も尚、『神宿し』の影響により、夢結自身まだまだ制御が出来てない狂気のスキル。

 

「えぇ……あの子のリリィとしての素質は素晴らしいものです。ですが、少し……」

 

「少し……なんですか?」

 

 言い淀む千香瑠に、疑問を投げかける梨璃。

 

「扱いが難しいね。放っておくと勝手に突撃、しちゃうし……浅野さん、大丈夫かな」

 

 別れる前に、悠斗と結梨になつきになつきまくった藍。悠斗に肩車されて別れたのは記憶に新しい。

 

「あのお方なら大丈夫でしょう。面倒見もよろしい事ですし……」

 

「そうだね! 結梨ちゃんもすごく懐いてるし!」

 

「悠斗は小動物の扱いが上手いからな!」

 

「小動物……」

 

 梅の言葉に少し引っ掛かりを覚えたが、否定できないのも事実だった。

 

 そして、鳴り響くヒュージ出現の警報。みんなの警戒心レベルが上がる。

 

「っ……!?」

 

「ヒュージの反応、多数! これは……恐らくケイブが近くにありますわ!」

 

「ケイブ……ヒュージたちかま通り道に使う異次元ワームホール。放っておいたらこの辺りがヒュージだらけになっちゃいます!」

 

「二水ちゃん、悠斗くんたちに連絡を! 別働隊と合流後、ケイブを総力で叩きましょう!」

 

 ケイブからヒュージが現れる。パッと見ではスモール級のヒュージだろうか。

 

「まずは敵の正確な位置と規模を知りたいですわね……お願いできますか、梅様」

 

 

 

 

 

 

 

「…………うん、うん。分かった。すぐに向かう」

 

 二水からの通信を受け取った悠斗は、すぐに端末を切って全員へと目線を向けた。

 

「梨璃から連絡が来た。皆は一度梨璃と合流することを優先してくれ」

 

「悠斗さんは、どうしますか?」

 

「俺は特型ヒュージの所に偵察しに行った梅様の支援をしてくる」

 

 肩車をしていた藍の脇に手を差し入れてプラーンと持ち上げた悠斗。

 

「結梨。藍の面倒を頼んだ」

 

「うん! 任せて!」

 

「よし。またな」

 

 藍と結梨の頭を撫でた後に、項から読み取れる反応を頼りに特型ヒュージを探す悠斗。

 

 マギを利用し、木から木へと飛び移り、最短で悠斗は梅の元へ。

 

「……っ! 梅様!」

 

「……っと」

 

 ヒュージの攻撃に当たりそうだった所を、咄嗟に悠斗が梅を脇に抱えて無事に回避。その直後、後ろからマギ弾が特型ヒュージへと当たり、怯みさせる。

 

「……ふふっ、絶好のタイミングだな、悠斗」

 

「梅様……無茶しすぎですよ」

 

 悠斗が現れたことにより、特型ヒュージの目線が完璧に悠斗へロックオン。それに当然気づいた悠斗は、梅を離して直ぐにアロンダイトを構える。

 

「よっと」

 

「無事か、梅様」

 

「当然」

 

 きちんと着地したのを見届け、ガチン! ガチン! と音を立てながらアロンダイトの刃が分裂していく。

 

「フッ────」

 

 羽の一撃を、チャームの柄を一振するだけで防ぐ。四方八方から分裂したアロンダイトの刃が突き刺さり、羽は悠斗の目の前で一時停止。

 

「……まるで天使のようだな」

 

 頭に輪っか。背中には二枚の羽があり、その様子はまるで天使のようである。

 

「悠斗くん! 私達は特型ヒュージを狙うから!」

 

「了解!」

 

 悠斗以外の一柳隊の皆は、あの特型ヒュージに集中することになった。確かに、圧倒的一対多の方が得意とする悠斗としては、あの九人の連携に入ったら逆に邪魔になるまである。

 

「悠斗さん! 一緒に露払いお願いします!」

 

「結梨! お前もこっちだ!」

 

「うん!」

 

 こうして、ヘルヴォル+悠斗と結梨の共同戦線が敷かれた。

 

「いいか結梨。敵を纏めて相手とる時に、こちらに纏めて倒す手段が無ければ常に一対一(デュエル)の状況に持ち込むんだ」

 

「デュエル?」

 

「……まぁ結梨は見て覚えさせた方が早いか」

 

 複数に分裂させていたアロンダイトを戻し、見本を見せる。

 

「まず一番重要なのは、敵に背後を取られないことだ。視界のどこかに入れておけば、反応できるし、次の対処もしやすい」

 

「分かった、じゃあわたしはこっちのヒュージを倒せばいいの?」

 

 くる、と悠斗と背中合わせの状態になる結梨。

 

「正解だ────お前の後ろは俺が殺る。だから、結梨も遠慮せずに、怪我せずに暴れろ」

 

「うん! よーし、いっくよー!!」

 

 

 

 ────『縮地』────

 

 

 なんとも可愛らしい気合いの入る声を上げて、ヒュージへと突っ込んでいく結梨。目に見えないスピードで細かく動いて、ヒュージを細切れにしていく。

 

 ────あれは、『縮地』か? 随分と使いこなしているな

 

「特型ヒュージ、活動停止しました! そのままケイブに攻撃を集中────」

 

「いえ、まだです!」

 

 二水の声が聞こえて、悠斗そちらに目を向ける。ソイツは確かにまだ生きていた。

 

 その時、悠斗の項にビリっ! と一際強い反応と、嫌な予感が同時に襲い掛かり、背中がブルっと震えた。

 

 そして、その予感を表すかのように、ヒュージは復活を果たした。新たに、二枚の羽を添えて。

 

「ヒュージ反応……いまだ健在! そやつ、まだ動くぞ!」)

 

「は、羽が……増えた……」

 

「形状変化……いえ、進化……? 戦闘中に姿を変えるヒュージなんて……」

 

 見たことが無いヒュージの特性によって、全員の攻撃が一旦止んだ。そして、そのヒュージはその隙を見逃さないように夢結へと攻撃を仕掛ける。

 

「っ……!?」

 

「お姉様、危ない……!」

 

「たぁぁぁぁーっ!!」

 

 しかし、それは藍の突撃によって止められ、その隙に悠斗と結梨が背後から迫る。

 

「結梨! 合わせろ!」

 

「うん!」

 

 息のあった完璧なタイミングの攻撃。それは、二人のCHARMが弾き返されることが答えとして帰ってきた。

 

「なっ!?」

 

「そんなっ!?」

 

「悠斗さんと結梨さんの攻撃が……っ!」

 

「トランスフォームに伴う外殻の硬質化、といったところじゃな。おまけに、増えた羽にあるあの目玉……」

 

「っと、目が増えている分火力が増してるな。大丈夫か、結梨」

 

「うん」

 

 ヒュージの目から放たれる無数のマギで出来た弾丸が無造作に飛び散る。悠斗は、それを結梨を抱えながら空中で身を捩り回避した。

 

「天使なんかじゃなかった……あれは、堕天使」

 

「四枚羽の堕天使か。百由様が喜びそうじゃな……よいしょっと」

 

「ん? 何してんの、それ?」

 

「百合ケ丘に、マギもCHARMもヒュージにも詳しいアーセナルかまおってな。データを送っているのじゃ。今頃、リアルタイムで解析中じゃろ」

 

「そんな事よりも皆!」

 

「ヒュージが増殖してます! 囲まれないように気をつけて!」

 

 悠斗と一葉の言葉を表すかのように、森の奥からゾロゾロとヒュージがやってくる。

 

「ほ、ほんとだ……さっきより増えてる!」

 

「ケイブから次々と湧いてきているようて。このままでは、数で押されてすり潰されてしまうわ」

 

「かと言って、あの特型ヒュージを放置して戦うのは危険ですわ」

 

「雑魚だったら俺が一蹴できるんだけどな……」

 

 悠斗の武器は殲滅に向いているのだが、ここはリリィ達が密集しすぎている。これだと、思う存分に武器の性能を活かすことができない。

 

「ノインヴェルト戦術で一気に片付けちゃいましょう!」

 

「それはちょっと難しいな……」

 

「梨璃さんの気持ちは尊重したいのですが、ノインヴェルト戦術を展開するには敵が密集しすぎています。まずは他のヒュージを一掃しなければ……」

 

 現在の状況で、特型ヒュージを倒すのは非常に至難。いい作戦が出ないまま、皆の眉が顰めそうになる前に、ヒュージが動いた。

 

「っ……!? 待ってください、特型ヒュージが移動を開始しました!」

 

「移動、ですって……?」

 

「ケイブの方へ向かっています……。も、もしかして逃げる気でしょうか……?」

 

「ケイブはヒュージだけが移動可能な異次元ワームホール。一度逃したら、次はどこに出現するかわからんぞ……!」

 

「そんなことはさせない……!」

 

「よし、なら皆はあのヒュージを追ってくれ。俺はここで雑魚を殲滅させる」

 

 カシャン、カシャン、と音を立てて刃を分裂させる。

 

「頼んだぞ、梨璃」

 

「うん! 皆さん! 急いであのヒュージを追いましょう!」

 

「悠斗さん! ご武運を!」

 

 悠斗を除いた全員が特型ヒュージを追っていく。周りのヒュージは、それを追っていくかに思えるが、全ヒュージの視線は悠斗に釘付けだ。

 

「全く……ヒュージなんかにそんな見つめられてもなんも嬉しくねぇっての」

 

 まぁリリィに見つめられても何も思わないんだけどな、と軽口を叩く悠斗は、腕を振るう。それだけで、分裂した刃がヒュージを切り裂いた。

 

「さて、こいよ雑魚共。ここから先は一方通行だぜ? あの世行きのな」



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雨中の救出作戦~終

皆様お久しぶりです……ヒロシです……(違う)

新社会人としての新たな生活。特殊すぎる職場の勤務体制……っ!

こんなの、忙しくて筆をとる時間がありませんわ~~!!

というわけでして、お久しぶりでございます。久々の更新です。


 四方八方から襲いかかってくるヒュージを的確に、一撃に粉砕玉砕大喝采していく悠斗。

 

 スモール級であろうと、ミドル級であろうとお構い無しに皆等しく一撃の前にひれ伏す。肉体はマギへと還り、空気に溶けていく。

 

「……ん?」

 

 暫くすると、悠斗に襲いかかったりせずに退却するヒュージが複数現れ始めた。伸縮自在がある程度の融通の効くアロンダイトであるが、刃片を繋ぐワイヤーにも限界というものがある。逃げていくヒュージを横目に捉えながら、最後の一体を斬り伏せた。

 

「これで終わり……梨璃達は無事か?」

 

 戦闘が終わり、意識が梨璃達の元に行った瞬間、悠斗の持っていた端末からの着信音。名前を見れば梨璃からだった。

 

「梨璃」

 

「あ、悠斗くん。無事?」

 

「無事。いつも通り怪我一つナシだ。それで、あの特型は?」

 

「その……ごめんなさい、逃げられちゃいました……」

 

 聞いた瞬間、目の前にいないというのにしょぼーんと体全体で落ち込む梨璃を幻視した。

 

「それは残念だったな。ま、そんな悲観することでもないだろ。だって俺と結梨の攻撃さえ弾いたんだからな」

 

 攻撃力だけ見れば、百合ケ丘でも上位に入るだろう二人の攻撃を弾いた特型ヒュージの装甲。あれを破る算段がなければ、討伐することは困難だろう。

 

「それで、この後は追撃か? それとも帰還?」

 

「あ、そうだ! 百由様から一柳隊はすぐにきかんしてってメッセージが来たんだ」

 

「メッセージ? 通話じゃなくて?」

 

「うん」

 

「何故だ」

 

 百由の行動に少しだけ思考が持っていかれた。態々メッセージでよこした理由、どうして電話ではダメだったのか等々。

 

「……まぁ考えるだけ無駄か。百由様だしな」

 

「そ、それは百由様が可哀想じゃ……」

 

「とりあえず、そっちと合流するよ。ポイントは?」

 

「あ、うん。この後座標を送信するから、そこで落ち合おう。またね」

 

「おう。百合ケ丘に帰るまでが外征だからな」

 

「うん! それじゃあね!」

 

「あぁ。また」

 

 通話を切り、アロンダイトを戻しながら移動を開始した。

 

 

 

 ──────────────────────────ー

 今日の文字数稼ぎ

 

 ほんっっっとうにお久しぶりですね皆さん私が投稿をサボっていた休んでいる間に、アサリリは色んなことが起きましたね。どうしてイベ石配布無くしたの運営ちゃん……? 

 

 レギリの亜羅椰ちゃんメモリアめっっっっちゃ可愛くなかった? もうやばいて(亜羅椰推し)。今回のレギリは仕事の時間帯が上手く噛み合ってフルで参戦出来るので頑張るぞい!

 

 



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ifストーリー~御台場迎撃戦~
御台場迎撃戦~①


ifストーリー御台場迎撃戦です。詳しい内容については勝手に保管させていただきます。

本編と違う点
・主人公の存在が隠されていない
・主人公は夢結様たちと同じ年齢

口調について出てないリリィについては勝手に想像補完させてもらいます。

御台場迎撃戦について詳しく乗ってるやつないの……?


 2051年、幕張の奪還を成功させるために、百合ケ丘含む2、3年生の多くのリリィが千葉市川に派遣されている中、東京の御台場にてノインヴェルト戦技交流会が開催されることになった。

 

 参加条件は、市川に招集されていない一年生かつ、ノインヴェルト戦術を採用しているガーデンが参加出来、百合ケ丘からも多数のリリィが参加するために移動を開始していた。

 

 その中で、異色が一人混じっている。黒髪黒目の、どっからどう見ても女には見えないイレギュラー。

 

 浅野悠斗。男のリリィで、全世界で唯一アビスに寄生されながら生きている人間である。

 

「悠斗。そろそろ着くよ」

 

「…………?」

 

 腕を組み、御台場にたどり着くまで寝ていた悠斗の体をゆさゆさと揺すり目を覚ます。暫し視界が安定しなかったが暫くすると、見慣れた顔が見えてきた。

 

「……天葉?」

 

「はいはーい。あなたの愛しの天葉さんですよー」

 

 フリフリと笑顔で手を振った天葉。それに対しに同じガンシップに乗っている百合ケ丘の生徒が天葉に対し鋭い視線を向けるが、天葉は全く待って気づいていない────というより、気づかないようにしている。

 

 一度立ち上がり、フンっ! と全身に力を入れて大きく伸び、長く息を吐いた。

 

「ありがとう天葉。起こしてくれて」

 

「いえいえ、これも勝者にとって当然の権利ですから」

 

「…………勝者?」

 

 天葉の言葉に首を傾げた悠斗。その悠斗の隣では、青髪ロングの少女、谷口聖(たにぐちひじり)が悔しそうに自身の手を見つめていた。

 

「あの時……ちょきさえ出していれば……」

 

「……聖?」

 

 大好物のチュパチャップスさえ口にくわえていないほどの聖の姿を見て、悠斗は首を傾げた。

 

 谷口聖は、ファンタズムという未来の選択肢を見るレアスキルを歴代最高位の完成度の高いリリィと呼ばれており、人懐っこく冗談が好きな聖は上下級生問わず好かれており、『百合ケ丘の恋人』という二つ名が着いている。

 

 勿論、10代の恋する乙女たちが狙っていたものは悠斗の顔を至近距離で眺めていいという権利。隣は隣で嬉しかった聖だが、やっぱりお礼の言葉は言われたかった。

 

 そんなこんなしているうちに、今回の合宿所となる御台場へ到着。そこには既に様々な学園のリリィがいた。

 

 御台場女学校、イルマ女子美術高校、那須大串女学園、聖メルクリウスインターナショナルスクール、柳都女学館、私立ルドビコ女学院、エレンスゲ女学園、アルケミラ女学館の計八校がいた。

 

 当然、男のリリィは非常に目立つ。悠斗がガンシップから姿を表すと、ヒソヒソとざわめきが強くなった。

 

「あれが男のリリィ……」

 

「本当に実在していたなんて……」

 

「以外とイケメン……」

 

「こら依奈。露骨に反応しない」

 

「……だって、なんか不穏な言葉が聞こえたんだもん」

 

 そう言い、露骨に先程の言葉を言った主を探そうとキョロキョロ見渡したのは番匠谷依奈。百合ケ丘でも最強の名前を誇るアールヴヘイムに所属している。

 

「分かってあげて、ユウ。百合ケ丘の皆でも手一杯なのに、これ以上ユウを狙うリリィが増えたら不味いとエナは思っているのよ」

 

「紫恵楽か……しかし、あれは露骨すぎないか?」

 

 鼻息を荒くしながら誰だ~誰だ~と探す依奈。いつの間にか天葉まで加わっていた。その様子に、流石の紫恵楽でも苦笑いをするしか無かった。

 

「……気持ちには答えられないってちゃんと言ったのにな……」

 

「それでも、諦められないのが乙女心って奴だゾ!」

 

 その言葉と共に、ぺちーンと悠斗の背中を叩いたのは吉村・Thi・梅だ。語尾が特徴的な元気少女である。

 

「梅か……そういうもんなのか?」

 

「おう! そういうもんだ!」

 

「……すごいな、乙女心って」

 

 悠斗はHUGEに寄生された時には既に一度死んでおり、その時に欲というものが消え去ってしまった。仲間のために怒る気持ちや流す涙はあるのだが、どうも恋愛的な感情が絡むと、いまいちピンと来ない。種の本能である子孫を作るという欲が無くなったからなのか、百由の力を持ってしても分からない。

 

 そして、遂に始まったノインヴェルト戦技交流会。全員の顔合わせも終え、いざ始めようとした瞬間────

 

御台場に、突如として大量のHUGEが現れたのだった。




と、言うことでifストーリーです。登場人物多すぎて頭パンク思想になりますが、沢山情報集めて頑張ります


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御台場迎撃戦~②

「…………っ!」

 

 顔合わせも終わり、さて今からノインヴェルト戦技交流会でも始めようとなった雰囲気になった一同だが、途端に悠斗が首筋に走る痛みによって顔を顰め、首筋を抑える。

 

 それを見たほかの学校の面々は首を傾げたが、当然それがなんの意味を持っているのかは百合ケ丘の全員が知っている。天葉が全員にCHARMを準備してという前に、悠斗が大声で叫んだ。

 

「全員構えろ! 来るぞ!」

 

「「「「っ!!」」」」

 

 その途端、御台場にHUGEの出現を知らせる警報が鳴る。街中に大量のHUGEが現れ始め、いくつものケイブの発生も遠目からでも確認できる。

 

 そして、リリィが多く集まっている合宿所にはいきなりのギガント級があらわれ、行動が一歩遅れた百合ケ丘以外の学園が息を呑んだ。

 

「依奈! 夢結!」

 

「お任せ!」

 

「えぇ」

 

 しかし、事前に心の準備が一歩早くできていた百合ケ丘の生徒たちが動き始め、悠斗に名前を呼ばれた依奈と夢結が悠斗の意図を察しギガント級へと突っ込んでいく。

 

「指揮は私が取ります! みんな! 急いで陣形を作って!」

 

 ここで、現アールヴヘイム主将である竹腰千華がギカント級を討伐するために声を上げる。百合ケ丘最高峰のレギオンの主将の言葉に反対するものは誰もおらず、急いで自分の役割の場所へ各々散っていく。

 

「練習も何もないですが、百合ケ丘の生徒でノインヴェルト戦術を行います! 露払いは悠斗さん達がしてくれます! フィニッシュは梅、任せます」

 

「おう、任された!」

 

 そして急遽、レギオン関係なくノインヴェルト戦術が行われることになった。本来なら、あまりおすすめ出来ない行為だが、今回は仕方ないと言えるだろう。

 

 一発目は千華。自身のレアスキルである『レジスタ』を発動させ、聖へマギスフィアを撃つ。そして八人つながり、ラストに梅へと無事にマギスフィアが渡る。

 

「任せたわよ!」

 

「あぁ! 悠斗! 夢結! 依奈! ノインヴェルト戦術を叩き込むゾ!」

 

「!」

 

 その言葉を聞いて、今までギカント級の触手をいなすようにしていた祐樹はアロンダイトを八分割させ、全ての触手を弾き飛ばした。

 

「やれ!」

 

「フィニッシュショット……いけ!」

 

 九人分のマギが乗せられたマギスフィアがガラ空きの胴体へと突き刺さりHUGEが消滅する。普段ならここで喜んでもいい場面だが、遠目にはHUGEの大軍が見えている。

 

「これを……私たちでやるの……?」

 

「やらなければいけないんだ。そうしないと、不味いことになるぞ……」

 

 

 

 

 そこからの動きは早かった。先程と同じように千華が総指揮となって、他の学園やレギオン関係なく入り交じる混成レギオンを結成。戦闘に関してならほかの学園よりも豊富な百合ケ丘の生徒を中心とした五つの部隊を結成し、役割を持たさた。

 

 ・第一部隊

 菅野真央 百合ケ丘女学院

 白井夢結 百合ケ丘女学院

 泉牡丹 百合ケ丘女学院

 谷口聖 百合ケ丘女学院

 福山・ジャンヌ・幸恵 私立ルドビコ女学院

 日比野羽来 イルマ女子美術学校

 川村楪 御台場女学校

 一宮・ミカエラ・日葵 イルマ女子美術高校

 竹腰千華 百合ケ丘女学院

 

 今回の作戦においては頭脳役を担うことになる。適宜他の部隊に指示を出したり、ファンタズムもち二名による連携が期待される。

 

 ・第二部隊

 手島恋町 イルマ女子美術高校

 アルテア・アレッサンドリーニ 聖メルクリウスインターナショナルスクール

 千子夕七 柳都女学校

 瀬戸・ベロニカ・いちか 私立ルドビコ女学院

 天野天葉 百合ケ丘女学院

 月岡椛 御台場女学校

 長谷部冬佳 百合ケ丘女学院

 天津麻嶺 柳都女学校

 

 レアスキル、ヘリオスフィア持ちを三名置き、防護をガッチガチに固め、防衛部隊としての役割を担う。さらに、流浪のアーセナルと呼ばれる天津麻嶺も組み込んだ。

 

 ・第三部隊

 青木夏帆 百合ケ丘女学院

 横山梓 御台場女学校

 番匠谷依奈 百合ケ丘女学院

 明石愛華 百合ケ丘女学院

 渡邉茜 百合ケ丘女学院

 西川御巳留 イルマ女子美術高校

 藤田槿 御台場女学校

 菱田治 御台場女学校

 芹沢千香瑠 ヘルヴォル

 多田紫恵楽 百合ケ丘女学院

 

 主に遊撃として各地を転々としながらHUGEを撃退する部隊。不測の事態が起きた時の援護部隊。

 

 ・第四部隊

 新海千景 アルケミラ女学館

 曽我菘 御台場女学校

 西郷紅 御台場女学校

 今川誉 百合ケ丘女学院

 弘瀬湊 御台場女学校

 黒木・フランシスカ・百合亜 私立ルドビコ女学院

 山梨日羽梨 百合ケ丘女学院

 リーアリデル・エッシェンバッハ 聖メルクリウスインターナショナルスクール

 ティシア・パウムガルトナー 聖メルクリウスインターナショナルスクール

 竹久央 御台場女学校

 川鍋薺 御台場女学校

 

 念の為に、第一部隊の後詰めとして後方に配置。第一部隊が崩壊した時用のための予備隊。

 

 ・第五部隊

 千田昊苺 那賀大串女学園

 吉村・Thi・梅 百合ケ丘女学院

 川端蛍 御台場女学校

 遠野捺輝 百合ケ丘女学院

 佐々木靖奈 那賀大串女学園

 大角梓氣 百合ケ丘女学院

 野口志奈乃 那賀大串女学園

 宮本煌椋 イルマ女子美術高校

 団塚英里彩 那賀大串女学園

 

 那賀大串女学園の主力を中心とした部隊。先程出現したという情報があった『巣なしのアルトラ』を確実に倒すための部隊。

 

 そして、ここまで来て名前が呼ばれていないリリィが存在し、百合ケ丘以外の学園のリリィが悠斗を見た。お前はどこやねん、と。

 

「悠斗さん、あなたには個人遊撃として積極的にHUGEを狩って下さい」

 

「了解だ。その方が俺も動きやすいしな」

 

「お、お待ちになって!」

 

「どうしましたか?」

 

 ここで、声を上げたのは聖メルクリウスインターナショナルスクールに所属しているアルテアだった。

 

「個人遊撃って本当に大丈夫ですの!?」

 

「えぇ、問題ありません。現に、私達は彼の強さを知っていますので」

 

 と、顔も見ずに答える千華に口を閉ざすアルテア。

 

「悠斗さんの強さは、圧倒的一対多における戦闘術。一人であるときこそ、彼は正しく最強なのですよ」

 

「そもそも、悠斗が傷付く事態を想像できないかな。私達が束になっても勝てないし」

 

 という天葉の言葉に少しザワつく。千華はパンっ! と手を叩きその場を収めた。

 

「時刻は一刻を争います…………全員、生きて帰ってきましょう」

 

 そして、後に伝説となる御台場迎撃戦が始まる。




さて、リリィの名前がたくさん出てきましたね!あなたの推しはいたかな?

もう一度いいますが、セリフがないキャラに対しては脳内補完させていただいております。キャラの絵を見て、なんとなくこんな感じかなーと考えながら書いてます。資料集ないの……?


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御台場迎撃戦~③

「さてと……まずは俺が道を切り開いてやらないとな」

 

 ガチン! ガチン! と音を鳴らしながら悠斗の持つアロンダイトが分離し、マギの力でふよふよと刃が八つ浮いた。更に、悠斗の背中からHUGEと同じ機械の触手が現れ、うねうねと悠斗を囲った。

 

「今日は最初から全開だ────貫けぇぇ!!」

 

 四方八方から遅いかかるHUGE。だがしかし、数の暴力というのは悠斗には通用せずアロンダイトが、HUGEの触手が後ろにいるHUGEさえも纏めて貫き、一気に二桁を超えるHUGEが沈黙、粒子状になって消え去った。

 

「……これが、あの人の実力……?」

 

 それを見ていた第一部隊に所属している川村楪が、遠目から悠斗を見て呟いた。

 

「いえ、まだまだ悠斗さんの実力はこんなものでは無いわ」

 

「谷口さん」

 

「あの人、実はスロースターターなの。まだまだ本領ではないわ」

 

「あ、あれで!」

 

「えぇ……ですが、悠斗さんに任せっぱなしにしたら、嫌われちゃいますから────」

 

 ドンッ! と第一部隊の近くにラージ級のHUGEが現れた。

 

「────しっかり、後でよしよしと頭を撫でて褒められるために、頑張りませんと」

 

「……た、谷口さん……?」

 

 第一部隊がラージ級とやり合っている間に、悠斗は一人、HUGEを倒しながら、感覚を辿りギカント級が多くいる地域を目指していた。

 

「フッ!」

 

 悠斗が腕を振るう度に、アロンダイトは変形する。蛇腹剣のしなりを生かし、横凪ぎ一閃で目の前にいるHUGEが一瞬だけ消え去り、背中から襲いかかってくるHUGEに関しては背中から生えている機械の触手で貫きまくる。

 

 本来なら、悠斗だけのレアスキル『ルナティックレッドアイズ』を使っていないと、HUGEの腕は出せないはずなのだが、負のマギが溜まっているからかどうかは知らないが、半分HUGEの悠斗にとってこの戦場はかなり戦いやすい。

 

 ────いつもより視界が広い、それに体も軽い。

 

 いつもなら、悠斗はスロースターターなので初めの動きに関しては舌打ちをするほどにコンディションが悪いが、今の状態はいつもの調子がいい時と同じ。しかもまだまだ上がる余力も見えていることから、自分自身の底知れぬ強さに自分でも恐ろしくなる。

 

「────ハァ!!」

 

 グルンと回転して、CHARMからマギで作った刃を自信を中心とした円形に展開することで、周りのHUGEが一掃される。

 

「……よし、次だ」

 

 その瞳は、少しだけ蒼く揺れていた。

 

 

 

 

「……さすがね悠斗は。ここら辺HUGEが全くいないじゃない」

 

 第三部隊の隊長になった百合ケ丘所属の番匠谷依奈。彼女の隊は遊撃担当で、不測の事態に備えてそれぞれの隊がある場所の近くを移動していたが、第4部隊の近くで周りにHUGEがいないポイントを発見した。

 

「本当に……悠斗君はどこまで規格外なの……?」

 

「呼んだか?」

 

「「っ!」」

 

 依奈と茜の背後から急に聞こえてきた、噂の人の声。パっ! と慌てたように後ろを向くと、そこには少しだけ髪を赤く染め、服がHUGEの体液だらけになっていた悠斗がいた。

 

「ちょ! ちょっと! どうしてレアスキル発動中なの!? 大丈夫なの!?」

 

「そ、それに悠斗君! HUGEの体液塗れですよ!?」

 

「…………あれ、ほんとだ。無我夢中でHUGE斬ってたから気づかなかった」

 

 二人の慌てように徐々に人が集まった。悠斗を見て最初はヒッ! と悲鳴をあげてCHARM構えたリリィもいたが、悠斗と分かるとすぐさま下げた。

 

「と、とにかく、大丈夫なの?」

 

 ルナティックレッドアイズの危険性をよく知っている百合ケ丘の生徒は、悠斗の姿を見て慌てて近づき、ぺたぺたと体を触る。体液なんてなんのそのである。

 

「あぁ、なんか知らんけど今日は大丈夫だ。それに、いつもより調子がいい」

 

 しつこく体を触る(主に依奈と紫恵楽)百合ケ丘の生徒を何とかいなしているうちに、第三部隊の空気が少しだけ和やかになる。先程までいつ死んでも、怪我してもおかしくない戦場にいて、下がり気味な士気が少しだけ回復した。

 

 だがしかし、ここで全員の背筋が凍るような一報が入ってきた。

 

 それは、巣なしのアルトラの討伐部隊だった第五部隊の作戦失敗の知らせである。

 

「……! 先行く!」

 

「あ、ちょ! 悠斗!? 私達も第五部隊の救援に行くわ! 急ぐわよ!」



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御台場迎撃戦~④

「しっかり! しっかりしなさい昊苺!」

 

「まずいゾ! 大型はいないけどスモール級のHUGEが沢山来る!」

 

 第五部隊。茨城県最強と呼ばれるガーデン、『那須大串女学園』のメンバーが揃い、巣なしのアルトラを討伐するための決戦部隊としてアルトラ級のHUGEとの距離を縮めていたが、あまりの快進撃に勢い付きすぎてしまい、HUGEの陽動に引っかかってしまった那須大串女学園の面々。その中で、エースの千田昊苺が、ラージ級のHUGEの奇襲に対応出来ず、怪我を負ってしまった。

 

 そのせいで第五部隊は作戦を遂行することが出来ずに撤退を余儀なくされてしまう。だがしかし、陽動に引っかかってしまったせいで、大量のHUGEが第五部隊の面々に襲いかかる。

 

 大型のHUGEはいないが、スモール級のHUGEでもまともに喰らえば命を落とす。梅が確認する限り、ミドル級の特型までいるためかなり旗色は悪い。

 

 更に、避難民もまだまだ沢山いる。このままだと避難民も死に、リリィ達も死ぬ。そのことを悟った川端蛍は、一つの決断を下した。

 

「皆、この橋でHUGEを食い止めましょう」

 

 これが後に、橋上の死守戦と呼ばれるようになる。

 

「……本気ですか?」

 

「えぇ。どうせここらで食い止めないと、私達も避難民も共倒れよ。なら、せめて一箇所でまとまって戦う方がいいし、HUGEは私達を狙う。これなら避難民は命を失わないで済むわ」

 

 その言葉に、第五部隊の面々は黙り込んだが、次の瞬間には快活な声が聞こえる。

 

「私はそれに賛成だゾ」

 

「吉村さん!?」

 

 それは、百合ケ丘に所属する吉村・Thi・梅だった。

 

「確かに、蛍の言うことは一理ある。それにきっと、悠斗が今ここに向かってきているはずだしナ」

 

「悠斗さん……ですか」

 

「あぁ! 悠斗は仲間のピンチの時には必ず駆けつける。そんなやつだからナ!」

 

 にこり、とこのような状況なのに満面の笑みを見せる梅。そのことに対して、全員が驚きの目を向ける。

 

「……あなたがそう言うなら、私も残ります」

 

「お」

 

 梅の言葉に、煌椋が参戦の意志を示すと、全員が諦めたかのようにため息をついた。

 

「……分かったわ。あなた達三人を残す訳には行きませんから────第五部隊! 何としてでもここを守るわよ!」

 

 深手を負った昊苺を除き、すぐさまフォーメーションを組む八人。ここから、地獄のような作戦が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────急げ、急げ、急げ!! 

 

「どけぇ!!」

 

 目の前の進路を塞ごうとするラージ級のHUGEを真っ二つに切り落とす悠斗。全力で走りながら、第五部隊が頑張って戦っているであろう場所へ移動している。

 

 項からの感覚で、HUGEがとある場所に集まっているのは分かっているため、そこに第五部隊がいるであろうと予測しているが、HUGEの反応は消えているためそこにいると悠斗は確信している。

 

 走っている時に、依奈が率いている第三部隊とはかなり距離が離れている。まぁ、進路にいる敵は全て悠斗が斬り殺しているため、負担はないだろうが。

 

 ────橋、あそこか! 

 

 そしてようやく第五部隊がいる橋にたどり着いた悠斗。誰一人欠けていないことを祈りながらも到着したが、そこにいたリリィは既に全員満身創痍。

 

「! 危ない!」

 

「あ────」

 

 そして、立っているのもやっとでCHARMを杖代わりにしながらもフラフラしている蛍に、HUGEが三体ほど襲いかかるので、その前に悠斗が蛍のことを横抱きにして抱えあげ跳躍。

 

「……あなたは」

 

「大丈夫? 川端さん」

 

 そしてその瞬間、この場にいるHUGEが全員、悠斗に向かってゆらりと青白い眼を向ける。

 

 そして、次の瞬間には全部のHUGEが悠斗に向かって攻撃を始めた。

 

「ま、そりゃそうだよな……お前らは、俺を無視できないもんな」

 

 蛍を両手から片手で抱き抱えるようにすると、悠斗はすぐさまアロンダイトを振るう。ガシャンガシャン! と音を立てながら細かく、鋭く変化していくアロンダイト。

 

 その数、なんと1()0()0()()()()。本来ならば流石の悠斗でも全てをコントロールすることは出来ないが、大雑把な指向性を持たせることは余裕である。

 

「吹き荒れろ」

 

 100本に別れた刀身が桜吹雪のようにHUGEを飲み込んでいく。マギで操られているHUGEにとって、いくら小さかろうが刃一つ一つが命を刈り取る悪魔の刃。

 

「凄い……」

 

「これが……」

 

 リリィ達よ。その目に刻め。

 

「よぉ梅、捺輝。無事なようで何より」

 

「……はは、本当に助かったゾ」

 

「えぇ、本当に……」

 

 これが、百合ケ丘最強のリリィである。



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御台場迎撃戦~⑤

「とりあえず、そろそろ蛍を下ろしてやってくれ悠斗。蛍、顔真っ赤だゾ」

 

「ん? ……おっと、ごめん川端さん。つい」

 

(つい?)

 

(お姫様抱っこで助けるのがつい?)

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 悠斗の発言に少しだけ疑問を持った那須大串の皆さん。そんな中、悠斗はゆっくりと蛍のことを地面に下ろす。

 

「とりあえず、全員無事だな。間に合って良かった」

 

「……ね、ねぇ悠斗。あなた、今ルナティックレッドアイズが発動中だけど大丈夫なの……?」

 

 そう悠斗に声をかける梓氣。その問いに対し悠斗は首肯で返した。

 

「あぁ、体調には何も問題は無いし、逆に絶好調だ。何も心配することは無い」

 

「……そ、そう。それならいいのよ」

 

 心配してくれた梓氣の頭を撫でる悠斗。口調は素っ気ないが、髪がぴょこぴょこと跳ねているため、喜んでいることは確実である。

 

「みんなー! 無事ー!」

 

「お、増援が来たな」

 

 そうこうしている間に、依奈が隊長を努める第三部隊が橋へ到着。

 

「梅! 無事!?」

 

「おう、悠斗のおかげで無事だったゾ」

 

「しかし、昊苺さんがこうでは第五部隊は作戦を中止すべきですね。他の人たちも消耗が激しい……」

 

 確かに、梅とかは案外元気そうに受け答えしているが、腰は完全に地面に着いており、他のみんなも概ね同じ状態である。一際酷いのが、先程悠斗が助けた蛍だろうか。

 

「第五部隊がダメとなると……一番可能性があるのは第二部隊か」

 

「それと悠斗も……私たちは大丈夫よ。だから、悠斗は第二部隊に向かって」

 

「……いいのか?」

 

 そういう依奈を悠斗はじっと見つめる。

 

「えぇ。それに、私達だってそんなに弱くないつもりよ。この戦いで三人レアスキルに覚醒した子もいるし」

 

「へぇ、さすがは依奈だな。それなら任せれることが出来る……死ぬなよ」

 

「えぇ、任せて」

 

 べシッ、と依奈が悠斗の肩を叩くと、身を翻して跳躍しようとしたが────

 

「ま、待ってください!」

 

「ん?」

 

 悠斗に制止の声が掛かる。呼び止めたのは、どこの部隊にも所属されていない、御台場女学校付属の中等科の生徒。

 

「あ、あの……ありがとう、ございます。助けてくれて」

 

「気にしないでいい。リリィを助けるのは俺の勝手な恩返しだからな。それに年上も年下も関係ない」

 

 座っている少女の元に近づき、頭を撫でる悠斗。あまりにも自然に撫でられたので、その少女は頬を赤くした。

 

「一度、大きな戦闘を経験したリリィは、総じて一皮剥ける傾向がある。君、名前は?」

 

「梢・ウェスト……です」

 

「梢ちゃん、ね。君はきっと強くなれる……そうそう。もし仲良かったらでいいけど、(うい)(きいと)と知り合いならよろしく伝えておいてくれ」

 

「え!? あのお二人と知り合い!?」

 

「それじゃ」

 

 次に梢が瞬きした時には、悠斗は既に遠くに移動しており、声すらも届かないところにいた。

 

 

 

 

 

 

「うん、はいはい。了解」

 

「どうかしたの、天葉さん」

 

 端末を片手に電話していた天葉に話しかけたのは天津麻嶺である。怪我こそは少ないが、かなりレアスキルを使用しているため、少し疲労が見えている。

 

「依奈から連絡。悠斗がこっちに向かってるって。どうやら第五部隊の代わりに私達が巣なしを討伐しないといけないみたい」

 

「……噂をすれば、みたいね」

 

「天葉!」

 

「うわ……流石に来るの早くない? いや、まぁたしかに私達も第五部隊の救援に行こうとしてたからかなり近くにはいたと思うけど……」

 

 悠斗が移動し、依奈が電話し始めてからまだ一分しか経っていない。流石に来るのが早すぎである。到着し、全員無事か動画を確認した悠斗は────ピシャリと固まった。

 

「……おい、貞花はどこいった」

 

 百合ヶ丘に所属しており、『制御不能のリリィ』として有名な近藤貞花。彼女は第二部隊にいたはずなのだが、姿が見当たらない。

 

「あの子は後輩を守るために一人でギカント級と渡り合ったから無理やり下がらせたわ」

 

「何やってんだアイツ……だから上に中々認められないんだよ」

 

 相変わらずの彼女の行動に呆れてため息をついた悠斗。まぁそれも彼女らしいと無理やり納得することにした。

 

「俺が貞花の代わりにフォーメーションに入ろう。TZか?」

 

「いえ、悠斗はAZに入って頂戴。その方が殲滅力は高いわ」

 

「OK……なら、最終戦と行こうか」

 

 終わりの時は近づく。

 




どうやら後輩を守るためにギカント級と一人で渡り合った化け物リリィがいるらしい。


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御台場迎撃戦~⑥

「さて、やるぞ皆」

 

 首を回し、コキッコキッと骨を鳴らした悠斗。貞花が抜け、AZの空いた枠に悠斗が入るのだが、なんとAZは悠斗のワントップのみ。

 

 恋町とアルテアも一応AZの位置にはいるが、殆ど位置はTZで、アロンダイトを存分に生かせるフォーメーションである。

 

「道は俺が切り開く。皆はただ着いてくればいい」

 

「ひゅー! かっこいいよ悠斗!」

 

「天葉! 今はふざけてる場合じゃないわよ!」

 

 天葉の茶々に、夕七がツッコミを入れる。最終戦に突入するというのに全く緊張感が存在していない。

 

「……ま、任せたよ浅野さん。期待してるよ」

 

「貴方の実力、存分に見させてもらいますわ」

 

 恋町がひらひら~と手を振り、アルテアは真面目な顔で悠斗を見た。

 

「それじゃ……行くぞ!」

 

「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」

 

 悠斗の掛け声に、全員が体にマギを回して跳躍する。目標は、巣なしのアルトラ目掛けて一直線。

 

「邪魔っ!」

 

 途中、横から下からヒュージが出てくるが、ヒュージを感知できる悠斗に対しては不意打ちにすらならない。出てきた瞬間にアロンダイトによって真っ二つにされるため、出落ち感が半端ない。

 

「すごい……これが悠斗さんの……!」

 

「圧倒的ね」

 

「へっへーん。でしょ? 私達の悠斗は凄いんだよ」

 

 椛と麻嶺が悠斗の強さに感心した声を出すと、後ろにいた天葉がめちゃくちゃドヤ顔で胸を張った。

 

「どうして天葉が威張ってるのよ……」

 

 冬佳が左手で頭を抑え、やれやれと言った感じで頭を振る。

 

「でも、実際冬佳も悠斗が褒められると嬉しいでしょ?」

 

 悠斗の後ろにいる都々里が少しだけ口角を上げて冬佳を見た。

 

「……そりゃそうよ。だって、悠斗は私達(百合ケ丘)の宝ですもの」

 

 その後も、悠斗による活躍で無傷で進軍を進めた第二部隊。途中、ラージ級やギガント級もいたような気がするが、殆ど悠斗が1太刀で斬り伏せたので、そもそも第二部隊の面々は気づいてすらいない。

 

 依奈率いる第三部隊も、悠斗達の消耗をできるだけ抑えるために、ヒュージを狩っていた。そのおかげで、悠斗が相手するヒュージ減っており、悠斗のマギもまだまだ潤沢にある。

 

 そして、そんな第三二隊の目の前に現れる、巣なしのアルトラ。

 

「これが、アルトラ級……っ」

 

「大きい……っ! それに、なんという威圧……」

 

 初めて戦うアルトラ級に、無意識のうちにしり込みしてしまう第二部隊。あの天葉でさえ、頬に一筋の冷や汗を浮かべている。

 

「…………っ、待避!」

 

 そして、睨み合いはそう長く続かず、アルトラ級の攻撃によって決戦の火蓋は切られた。巨大な腕を振り上げ、悠斗真っ直ぐに狙って振り落とされる一撃。流石に受け止めることはせずに飛んで回避した。

 

「……ちいっ! 相変わらず馬鹿げた攻撃力を持ってやがる……っ」

 

「こうなれば短期決戦を狙うしかないわね……みんな! ノインヴェルト戦術をやりましょう!」

 

 夕七の言葉に、全員が無言で頷く。

 

「ファーストは私がやるわ! 行けそうな人に渡すから! 色々と陽動よろしくっ!」

 

「っ、最初は私ね!」

 

 夕七のチャームから飛び出たマギスフィアを、しっかりと冬佳が受け止める。流石にその不味さに本能的に気づいたのか、ヒュージが悠斗を無視して冬佳を狙う────が、冬佳はそれを華麗に躱してジャンブした。

 

「そうね……それじゃ恋町さん!」

 

「おっと、私ね!」

 

 三人目。恋町が危うげもなくそれを受け止めるが、ヒュージの逆の手の攻撃が恋町を襲う。

 

「ふふっ、失敗する訳には行かないからね……っ『ゼノンパラドキサ』!」

 

 レアスキル。ゼノンパラドキサ。無限と分割のパラドックスの名を持つレアスキル。 「縮地」と「この世の理」のサブスキルの複合スキルであり、「速く動ける上に、敵の攻撃を簡単に見切る」戦闘特化のスキルである。

 

 それを利用して、ヒュージの魔の手から逃れた恋町は、次の人に照準を合わせる。

 

「それじゃ……行っちゃって!」

 

「っ! 俺か!」

 

 四人目は悠斗。アロンダイトを分割させ、一旦破片で受け止めてリフティングの容量でマギスフィアを跳ねさせる。次の瞬間、マギスフィアを狙って放たれた小さな触手が空を切り、無事に悠斗の元へ。

 

「おっと、俺に対してだけいつも通り過激な攻撃だな……ま、今日はまじで調子いいから当たる気しないけど」

 

 レアスキルによって影響が出ている赤い髪をなびかせながら、触手ラッシュを乗り越えた悠斗。

 

「よし、行けっ! 都々里!」

 

「おまかせ!」

 

 五人目は都々里。見事なチャーム捌きでマギスフィアを受け取ると、ヒュージが攻撃をする前にマギを込めた。

 

「狙われるのは嫌だからね! お願い!」

 

「ここで私ですか!」

 

 六人目は麻嶺。五人分のマギが篭ったマギスフィアに一瞬、持っていかれそうになったが何とか耐える。だがしかし、その間にヒュージは既に麻嶺に向けて攻撃を放っていた。

 

「……っ、まずっ」

 

「シッ!」

 

 回避が間に合うか怪しいところで、その腕に四方八方からチャームの破片が突き刺さる。勿論その破片はアロンダイトであり、その攻撃が攻撃速度を少しであるが遅らせた。

 

「っ、感謝するわ悠斗さん! お礼に私が一から作るチャームをプレゼントするわ! 椛!」

 

「はい!」

 

 七人目は椛。彼女にマギスフィアが渡ると、悠斗が即座に椛のフォローに着く。メンタルが折れやすいというのは事前に天葉から教えて貰っていたため、その措置である。

 

「感謝します悠斗さん……私、あなたの傍なら————アルテアさん!」

 

「お任せ下さいな!」

 

 八人目はアルテア。しっかりとマギスフィアを受け取る。

 

「ここまで繋いでくださった皆様の想い……っ! 無駄にはしませんわ! 『ファンタズム』!」

 

 マギスフィアを保持したままヒュージの攻撃を華麗に交わしていく。彼女の目には、数先の未来が見えており、最善の選択を勝ち取り続けている。

 

「ラスト……お任せしますわ!」

 

「任せて!」

 

 そして、今までずっと影を潜めていた天葉が宙を飛ぶ。マギの橋に乗ってヒュージまで一直線。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ヒュージの意識外からの完全なノーマークの一撃。天葉のフィニッシュショットは、誰にも邪魔されることなく、アルトラ級ヒュージの脳天にぶち当てたのだった。

 

 そして、次の瞬間ヒュージを中心とした大爆発が起きる。

 

「回収!」

 

「えへへ、ありがとう悠斗」

 

 そして、爆心地にいた天葉は悠斗のアロンダイトのワイヤーを括りつけていたため、無傷で帰還。爆風に乗って勢いよく帰ってきた天葉は、お姫様抱っこで受け止めてくれた悠斗の首に思いっきり抱きついたのだった。

 

「…………しっかし、今日は本当に————」

 

「えぇ、とっても疲れましたわ……」

 

「わわっ!」

 

 そして、第二部隊の面々は、示し合わせたかのように地面へと座り込んだ。しかし、彼女達の顔に絶望はない。

 

 雲の切れ間からは、そんな第二部隊を祝福するかのように、柔らかく、暖かな日差しが照らしているのだった。



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御台場迎撃戦~終

舞台…………見に行きたかったなぁ(地理的関係と時期により断念。配信?クレジットカード持ってないので無理です)


「よいしょっ」

 

 大激戦を乗り越えた悠斗達。暫くの間は疲労で全員が動けなかったが、存分に休憩をとった後、お疲れ様会的なものが開かれた。

 

 豪華な食事が並び、思い思いにみんなが食事を楽しんでいる間、やはり引っ張りだこだったのは悠斗だっただろう。

 

 各地で色んな隊を手助けしたり、単騎でヒュージをボコボコにしたり、噂以上の実力があったことから、色んなリリィに話しかけられていた。

 

 その中で、アルテアが悠斗に対して『ミンネを捧げた』ため、その意味を知っているリリィがざわめいたが、悠斗はなんの事やら。普通に笑顔で受け取った。

 

 ちなみに、悠斗が代わりの穴に入ることになった原因を作った貞花だったが、一人でギガント級を相手取っていたくせにケロッと戻ってきたことで全員を違う意味でびっくりさせていた。もちろん、その後しこたま悠斗達に怒られましたが。

 

 こうして、美しき、幼い少女達のこの戦いは、『御台場迎撃戦』と呼ばれ、そこに参加したリリィ達は人目置かれるようになる。

 

 そして、会も終わり解散の時間がやってきたため、現在ガンシップへと乗る作業へ入っていく。

 

 勿論、その前に乙女たちの激しい聖戦(じゃんけん)が行われ、今回隣をゲットしたのは紫恵楽と────天津麻嶺だった。

 

「待て、なんで自然にいる」

 

 サラッと隣に座っていた麻嶺に突っ込んだ悠斗。

 

「別にいいじゃない。それに、あなたに私がイチから手がけたCHARM作るって約束したし」

 

「あれまじだったのか……」

 

 麻嶺は『さすらいのアーセナル』と言われ、気に入った子を見つけるとオリジナルチャームを作るという変わった人である。

 

「それに、あなたはあんなチャームを自力で作ったんだもの。面白い談義が出来そうね」

 

「はは……お手柔らかにな。あれ、俺でもどうやって作ったのか覚えてねぇんだから」

 

「そう? でも、面白話は聞けそうね」

 

「こらこら、あんまり天津さんとばっか話していると、私拗ねちゃうわよ?」

 

「フフ……人気者ね」

 

「おいおい、帰りも寝かせてくれね?」

 

 これは、有り得たかもしれないifの話。

 

 もし、生まれるのは一年早かったら。

 

 もし、悠斗が情報を隠していなかったら。

 

「悠斗さん」

 

「悠斗くん」

 

「だから、寝かせてくれって!」

 

 ガンシップに、悠斗の声が響いた。勿論、周りにいたリリィは隣にいた二人を羨ましそうに見つめるのであった。

 

「あ、あそこでちょきを出していれば……」

 

「アハハ! ドンマイだゾ! 天葉!」

 

「楪さん……どうにかして百合ケ丘に呼べないかしら」

 

「聖さん……実は私も────」

 

 

If完全妄想御台場迎撃戦──―終──―

 

余裕あるなら漫画版もやるかも



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番外編
亜羅椰ちゃん誕生日ですって


亜羅耶ちゃんが誕生日だってことを知ったので、さっき投稿したばっかですけど急いで書き始めました。

注意、本編とはなんら一歳関係ありません。


 四月二十五日。遠藤亜羅椰にとって、一年に一回訪れる特別な日。

 

「「「誕生日! おめでとう亜羅椰!!」」」

 

 そう、遠藤亜羅椰、16歳の誕生日である。

 

 アールヴヘイムの控え室にて、大好きで大切な人に囲まれて、樟美お手製の誕生日ケーキを食べる。

 

 嬉しかった。亜羅椰は普通に嬉しかった。

 

 天葉は言った。「誕生日プレゼント、ここら辺であんまり贈り物に相応しいものが見つからなくて……だから、今日一日アールヴヘイムの誰かが言うこと聞いてくれる券をあげるね」と。

 

 亜羅椰は即答した。「それでは天葉様、悠斗と二人きりになりたいですわ」と。

 

「え」

 

 壱と樟美は色々と言いたいことはあったが、依奈の天葉が年上の余裕(内心めちゃくちゃ動揺してた)を見せて、控え室からは、亜羅耶と悠斗二人だけの空間になった。

 

「ねぇ、そっちに行ってもいい?」

 

「返答聞いてから動けよ……別に、いいけどさ」

 

 返事を聞く前に対面に座っていた悠斗の元に移動していた亜羅椰。すぐさま悠斗の隣に座ると、ゆっくりと体を悠斗に預け、密着する。

 

 亜羅椰が頭に装着しているネコミミみたいなやつがびこぴこと動いていたので、悠斗の手は自然と亜羅椰の頭に行き、そのままゆっくりと撫で始めた。

 

「んっ……ねぇ悠斗。私たちが初めて会った時のこと、覚えてる?」

 

「そらもちろん…………初めてあった時より、その後のことの方がインパクト強いけどな」

 

 何があったかはご想像にお任せしますが、一つだけ言っておくとするなら、未遂ということだ。

 

「ねぇ、悠斗……あなたはいつになったら、私をあなた色に染めてくれるの?」

 

「……あんまり、俺に期待するなよ。俺に向けても、これから先の感情なんて一方通行なんだから」

 

 こてん、と亜羅椰が頭が悠斗の膝に落ちる。上向きになり、悠斗と目を合わせると、ゆっくりと手を悠斗に伸ばし、頬に触れる。

 

「嫌よ。そんなのは私、絶対に嫌」

 

「なら、俺以外に見つけるんだな」

 

「それはもっと嫌…………だって、あなたのことが本気で好きなんだから」

 

「その割には、たくさん目移りしてるようだが」

 

「それは仕方ないのよ。美少女を見たらついつい目が奪われる。それと同じよ」

 

 なんか違う気はするが。

 

「まぁ? どうしても悠斗が私を染めてくれないのなら……我慢できずに、私が強引に悠斗を染めちゃうかもだけど」

 

「へぇ? どんな風に」

 

「そりゃもちろん────ー」

 

 亜羅椰は素早い身のこなしで起き上がると悠斗と対面になる、いわゆる、対面座位というやつである。

 

 んー、と亜羅椰の顔が悠斗に迫る。今から亜羅椰が何をやろうかとしていたことを察した悠斗は、亜羅椰の口を人差し指で塞いだ。

 

「……もう、聞いてきておいて塞ぐのはズルよ」

 

 ジト目で悠斗を睨む。

 

「いやいや、流石にキスはダメだ」

 

「悠斗? 私にはこれがあるのよ? だから命令を拒否するの禁止」

 

「常識的範囲を弁えろ。キスはそう易々としていいものじゃない」

 

「易々と、なんて思ってないわ。本気で、悠斗としたいの」

 

 亜羅椰の瞳は、かつてないほどに真剣である。

 

「……後悔はしないな?」

 

「当然よ。私は既に心の準備は────んむっ!?」

 

 ここから先は、想像にお任せします。




亜羅椰ちゃん、誕生日おめでとう。亜羅椰ちゃんって結構ガチめに誕生日プレゼントは壱と樟美でとかいいそう。だから、勢いまんまで書きました。


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番外編あさるとりりぃぱらさいと いちご

アサルトリリィフルーツ見てたら思い浮かびました。反省も後悔もしてません


「え? 指輪を無くした?」

 

「はい、天葉姉様…………」

 

 アールヴヘイムの隊室にて、落ち込む影一つ。銀髪の髪を長めに流している少女の名前は江川樟美。目の前にいる身体能力なら世界でも五本指に入る凄さを持つ天野天葉とはシュッツエンゲルの契りを結んでおり、常に天葉や兄さまと呼び慕っている悠斗にピッタリくっついている。

 

「うーん困ったわね……指輪がないと色々と大変だしね」

 

「どこで落としたとか覚えてない?」

 

 ここで、二人の会話に交じってきたのはアールヴヘイムで司令塔を勤めており、プランセスといつ二つ名まで着いている番匠谷依奈である。

 

「その……気づいたら無くなってて……」

 

「風呂で外したという線は?」

 

「樟美はお風呂でも指輪は外さないわぁ」

 

 と、ここで話を聞いていた現アールヴヘイムの主将である田中壱と、問題児でありながら映像記憶能力をもつ遠藤亜羅椰が加わった。

 

 うーん、と五人が顎に手を当てて考えていると、コンコンコンと三回ノックを叩く音がして、扉が開かれる。

 

「ごきげんよう皆さん、樟美いますか?」

 

「ごきげんよう悠斗。樟美ならいるよ?」

 

 現れたのは、HUGEに寄生されながらも生き長らえ、唯一男のリリィとして活動をしている浅野悠斗である。

 

「兄さま、どうかしましたか?」

 

「これ、指輪忘れてたぞ」

 

「「「「え?」」」」

 

 樟美以外の声が重なった。

 

「……ちょ、ちょっと待ってね悠斗。そもそもなんで悠斗が樟美の指輪を持ってるの?」

 

「昨日の夜、樟美といつも恒例のお茶会をしていたんですけど、多分その時に忘れたんじゃないかなぁと。俺も気づいたのさっきでしたし」

 

「お茶会……? ちょっと樟美?」

 

「……こ、これは私の特権だもん……いくら亜羅耶ちゃんでも教えないもん」

 

「全く……樟美はいつも何かしら忘れ物するんだから……ほら、手を出して。俺が指輪をつけてあげる」

 

「す、すいません兄さま……」

 

 と、樟美は左手を出すと悠斗はそれを下から支えるように触れると、指輪をポケットから出した。

 

「じっとしてろよ」

 

「う、うん……」

 

 そして、悠斗は樟美の左手の薬指にゆっくりと嵌める。

 

「……ねぇソラ。左手の薬指に指輪ってなんか結婚式の時みたいじゃない?」

 

「……ははーん。もしかしてあの子、狙ってやったのかなぁ? 後で私もしてもらお」

 

「…………指輪って、基本皆同じデザインだから、本当に結婚指輪見たいよねぇ」

 

「…………」

 

「待て亜羅椰。無言で指輪を取ろうとしない」

 

「あ、あの……兄さま」

 

「ん?」

 

「その……夢結様がやっていたのですが、無くさないおまじないに、キスを……」

 

「白井様が?」

 

 樟美の脳裏に思い浮かんだのは、梨璃の指輪に対して口付けを行っていたシーン。事実、樟美はこれを悠斗にしてもらう為だけにわざと指輪を置き忘れていったのだ。

 

「白井様がやってたのなら効果はあるんだろうな。樟美、左手を」

 

「う、うん」

 

 赤くなった顔のまま、左手を持ち上げる樟美。周りにいる四人は、顔を赤くし手で顔を隠しているが、指の隙間からチラチラと見ていた。

 

「もう、忘れるなよ」

 

 そして軽いリップ音。指輪のところではなく、手の甲にキスをされた樟美は、喜びと恥ずかしさから、ふらりと倒れた。

 

「く、樟美……? 樟美──!?」

 

 

 ちゃんちゃん。




さんはん!わん!つー!はりきってGO!

召しませ賑やかカラフルフルフル 唯一無二の私達です!

お互い不思議でお互い大切 目が合う度ドッキドッキ

瑞々しく輝くんだ(キラリ光り惹かれたんだ) 迷わないで選んで!

お願い!

一口だけ 一口だけ Ah~

ふるーてぃが止まらない(Fo!)

アサルトリリィフルーツED『きゃんとすとっぷふるーてぃー』より
(尚、耳打ちなので間違っている可能性大)



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番外編「ハグの日?」パート2

 その後、今日は隊室に近寄らないでね、毒だから。と天葉に言われた悠斗は、百合ケ丘内を歩いていたのだが、梨璃からメールで隊室に来てくれと言われたので、一柳隊の隊室へ向かったのだが────

 

「ごきげんよう。梨璃さん、きた…………ぞ」

 

 コンコンと四回ノックして扉を開けると、そこには夢結と梨璃が幸せそうな顔で抱きしめあっている最中で、その他の周りのメンバーがいつぞやのように野次馬化していた。

 

「…………すまん。どうやら間違えたみたいだ」

 

「何も間違えてはおらんぞい。というか、呼び出して直ぐに帰るではないぞ」

 

 部屋を間違えたフリをして見なかったことにしようとしたが、それは近くにいたミリアムによって止められた。

 

「……はぁ、幸せです夢結様」

 

「……そう。ならよかったわ」

 

「ねぇ、俺本気で帰っていい?」

 

「気持ちはわかるが、もう少し待て」

 

 何やら夢結と梨璃の邪魔できない雰囲気に充てられ、隣に座りドーナツを頬張っている鶴紗へ聞いたが、断られたし袖を掴まれた。

 

「……はぁ、堪能しました! お姉様!」

 

「えぇ、それならよかったわ」

 

「……終わったか?」

 

「あ! 悠斗くん!」

 

 桃色のサイドテールをぴょこんぴょこん動かしながら悠斗に近づく梨璃。すると、ノーモーションでそのまま悠斗に抱きついた。

 

「……? これどういう状況?」

 

「今日はハグの日らしいからナ。梨璃がこうしてレギオンメンバー全員に抱きついるんダ」

 

「暖かくて、ふわふわしてた……」

 

 疑問に答えたのは梅と雨嘉だった。この二人は既に抱きつかれたあとのようだ。

 

「……じゃあもしかして俺が最後?」

 

「そういうこと…………梨璃のハグよ。拒否なんてしたら許さないわ」

 

「…………っ!?」

 

 顔の上半分を影に染め、悠斗を睨んだ夢結。それに恐怖心を感じた悠斗だった。

 

「……堪能しました!」

 

「……おう、そうか」

 

「悠斗くんはどうでしたか?」

 

「生きた心地がしなかったわ……」

 

「?」

 

 梨璃に抱きつかれている最中は夢結がものすごい形相で悠斗のことを睨みつけていたため、ずっと背筋が凍るような思いだったので、抱きしめ返す余裕すらなかった。

 

「それじゃあ次は私ね」

 

「ん?」

 

「あら、私がこのまま我慢すると思いましたか?」

 

 梨璃の次は神琳が悠斗の前に立ち、悠斗の手を握った。

 

「え、神琳も?」

 

「嫌ですか?」

 

「別に、構わないけど……」

 

 特に拒否する理由はないし、神琳の頼み事は基本なんでも聞いてあげたい悠斗。悠斗の頭の中には『拒否』という二文字は存在しない。

 

「ありがとうございます悠斗さん。それでは、失礼しますね」

 

「おおおお!! 神琳さん大胆ですぅ! 熱い抱擁ですぅ!?」

 

「神琳……嬉しそう」

 

 二水が持っているタブレットでパシャパシャ! と写真を撮り、雨嘉はニッコニコ笑顔の神琳を見て笑顔を浮かべる。

 

 しかし、神琳の様子がおかしくなったのは悠斗が抱き締め返してからである。

 

「…………んっ!?」

 

(こ……これは……少しマズイですね……っ)

 

「ありがとうな神琳。いつも世話になっている」

 

「っ、い、いえ……亜羅椰さんの行動は普段から目に余りますから、当然のことを……っ」

 

(悠斗さんの声が……耳元で……!)

 

 例に漏れず、身長差のせいで悠斗の口元が神琳の耳へ────というか、なんなら吐息までもがセットで神琳へと襲いかかっている。

 

(こ、これは……私、耐えきれません……っ)

 

「…………ふぅ」

 

「うおっ!? ……神琳?」

 

 そして、遂にキャパを超えた神琳は静かに気絶をした。恐るべし、この天然リリィキラー。

 

「…………ハグだけで気絶」

 

「……一体どんな原理だ……?」

 

「お、おぅ……悠斗、恐ろしいやつだナ……」

 

「……あれ? 私なんにも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リクエストにお応えして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラン・エプレ

~Kanba Joshi High school of Art and Design~

 

「悠斗くん悠斗くん。ハグしない?」

 

「……いきなり何を言うんだ? 叶星ねぇ」

 

 これは、あったかもしれないパラレルな世界の物語。

 

「今日はハグの日らしいわ悠斗。叶星にもした後、私にもお願いね?」

 

「高嶺姉さんまで……いや、まぁ別にいいけど」

 

 もし、悠斗を見つけたのが天葉と依奈ではなく、まだ御台場にいた叶星と高嶺が悠斗を見つけた世界線の物語である。

 

「……ほら、おいで叶星ねぇ」

 

「うん!」

 

 悠斗が手を広げると嬉しそうに叶星がその腕の中に収まる。座っている状態のため、叶星は悠斗に体重を完全に預けていた。

 

「相変わらず、甘えん坊ですね叶星ねぇは」

 

「悠斗くんと高嶺ちゃんの前でだけよ。普段ならこんな姿見せないわよ」

 

 悠斗の肩に顎を乗せた叶星は嬉しそうに回している腕に力を入れる。

 

 その時、高嶺が悠斗の後ろに座ると、少し体を伸ばしてそのままゆっくりと悠斗の体に手を伸ばすと叶星ごと悠斗の体を自身の方向へ倒し始めた。

 

 さすがは幼馴染か何をするのか一瞬で判断した叶星は、頭の位置を悠斗の胸へと変更する。そして、そのまま悠斗の頭は高嶺の膝に落ち着いた。

 

「……高嶺姉さん?」

 

「膝枕。一度こうしてやってみたかったのよね」

 

 微笑みを浮かべながら高嶺は悠斗の頬を撫でる。

 

 その時、グラン・エプレの隊室のドアから三人の少女たちが現れた。

 

「こんにちはー☆たかにゃん先輩いる────あー! 三人でくっついてる! ぼくもまぜろー☆」

 

「こら灯莉! 急に走ったら危ない────なっ、何してるんですか三人とも!?」

 

「土岐は……土岐は……」

 

 この陽だまりの咲く学園で、少年少女達はどのような物語を紡ぐのだろうか。

 

 それは、作者のみぞ知る…………。

 

Secret Episode

陽だまりの咲く八月九日

 



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番外編 「ハグの日?」

今日がハグの日ということを知ったので、悠斗君にはたくさんの人とハグしてもらおうと思います。

まさかの二話構成となりました。


「何年も前にはそんな日があったのか?」

 

「そうらしいです、兄さま。といっても、語呂合わせみたいなものですが」

 

 8月9日は『ハグの日』ということをアールヴヘイムの隊室にいた悠斗は、目の前に座っている樟美にそう教わった。

 

「ということで兄さま! ハグをしましょう!」

 

「何がというわけかは知らんが……別に、ハグくらい言われたらやるぞ? ほら、おいで樟美」

 

 両手を開き、樟美に向かって優しく微笑んだ悠斗のその笑顔に、樟美はクリーンヒットを喰らった。

 

「~~~っ! 悠斗兄さま!!」

 

「よいしょ。樟美は甘えん坊さんだな」

 

 勢いよく抱きついてきた樟美をしっかりと抱きしめ返し、そのまま片手は樟美の後頭部を撫でる。まさかの事態に樟美の顔は更に赤くなるも、今まで感じたことの無い幸福感に体中を包まれ、顔がだらしなくなる。そんな顔を見られないように樟美は顔をさらに悠斗の胸に押し付けた。

 

「やっほー、誰かいるー? ……ってあら、樟美と悠斗じゃない。二人してイチャついて何してるのかなー?」

 

「天葉様」

 

「そっ、天葉姉様!?」

 

 がチャリ、と開いたドアから出てきたのは現アールヴヘイムの主将である天野天葉だった。

 

「実は今日、ハグの日というらしいのでこうして樟美とハグしてます」

 

「ハグの日? そんなのあるの?」

 

「らしいですね」

 

 ハグの日というのは、HUGEが出てくる前にネット上で語呂合わせからそう呼ばれるようになった初めの頃なので、2054年の現在ではそもそもその言葉がのこっているかどうかすらも怪しかった。

 

「なるほど……じゃじゃあ悠斗。私ともハグしない?」

 

「樟美、ちょっと離れてな?」

 

 背中をポンポンと二回叩くと、渋々……本っ当に渋々悠斗から離れた。

 

「それではどうぞ」

 

「おっじゃましまーす!」

 

 天葉も樟美同様、勢いよく悠斗の懐に収まり、肩と腰に手を回されたことを確認する。その瞬間、天葉の体にも同じように言い表せない幸福感に襲われた。

 

「……ま、まずっ……これ、私耐えられ────」

 

「天葉様?」

 

「っ! だ、ダメっ悠斗……あんまり耳元で囁かないで……っ」

 

 悠斗と天葉の身長差は樟美よりもないが、その身長差のせいで悠斗の口が天葉の耳に近く、意図してなくても耳元で囁く構図になってしまった。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「んっ……ぜんっぜん大丈夫じゃ、ない……!」

 

 いつの間にやら、悠斗の腰に回していた手は肩まで伸びており、その顔は羞恥やら喜びやらが綯い交ぜになった紅さをしており、膝はガクガクと震えていた。

 

「──―あっ」

 

「っと、天葉様?」

 

 そして、完全に力が抜けた天葉は、膝がカクンと曲がり倒れ込みそうになったが、途端に悠斗が腰を支えた。

 

「天葉様、大丈────ってめっちゃ顔赤いですよ!?」

 

「ふふっ……幸せ……」

 

 慌てて天葉をソファへと座らせると、そのままガックリと横になった。こんな天葉は初めて見るため、樟美と悠斗が驚き顔を合わせると、またもや哀れな被害者────もとい、入室者が現れる。

 

「こんにちはー。誰かいる?」

 

「依奈様」

 

 番匠谷依奈。アールヴヘイムの司令塔であり、プリンセスの異名持つ実力者である。

 

「あら、悠斗と樟美じゃない。いたのね────ってええ!? ソラ!?」

 

 二人の姿を見て、近づいた依奈だったが、ソファに顔を赤くしたま倒れている天葉を見てビックリする。

 

「ソラ!?」

 

「……依奈、気をつけ……ガクッ」

 

「ソラ!? ソラ!? ちょっ、これどういう意味!?」

 

「実は────」

 

 悠斗とは、先程起こった出来事を依奈に話した。その反応は────

 

「え!? ハグ! 悠斗と!? したい!」

 

「────どうぞ」

 

 もちろん、悠斗とのハグをご所望した。特に断る理由はないため、悠斗はもう一度手を広げると依奈がやんわりと入ってきた。

 

「……! す、すご……何これ……!」

 

「依奈様、変な気分になったらすぐに言ってくださいね」

 

「! んんっ……それ、ダメぇ……!」

 

 またもや身長差で依奈の耳にクリティカルヒットした囁きは、確かに依奈の何かをゴリゴリと削り取っている。

 

 紅くなっているのが見なくても分かるくらいに顔に熱が溜まる。それを見られまいと悠斗の胸に顔を押し付けたが、うっかり悠斗の匂いを嗅いでしまった。

 

「あっ────」

 

「依奈様……?」

 

「……えへへ、ゆうとぉ……ちゅーしよう?」

 

「……………………ん?」

 

 随分と久しぶりに悠斗の思考が止まった。依奈の目には何やらハートマークが浮かんでおり、拒否らないことを肯定と見た依奈は、そのまま悠斗の唇に自身の唇を────

 

「だ、ダメです!」

 

「流石にそれは看過できないかなぁ!」

 

「あっ!」

 

 ────付ける前に、樟美とちゅーしよう? という言葉を聞いて復活した天葉が何とか依奈を引っ剥がした。

 

「ふぅ……危ない危ない。ここでキスとか絶対にさせるわけないじゃん」

 

「…………ハッ! 俺は今、なんか凄い光景を見たような…………!」

 

「忘れなさい悠斗。これは主将命令よ?」

 

「ウッス」

 

 天葉の笑顔なのに何故か冷たいその様子に、悠斗は即答することしか出来なかった。

 

 

 後編へ続く!




悠斗くんの秘密!

悠斗は何故か、リリィに『惚れられやすい体質』である。何故かは知らないが、彼はリリィに限定してすっごくモテる。悠斗に興味を持たない限り効果はないが、持ってしまったが最後、悠斗の元々の性格とその体質により一気に落とされてしまうリリィが続出する。

亜羅椰が悠斗に対し意識したのと、楓が『不思議な魅力がある』と言ったのはこの体質が原因。しかし、本人も周りにいるリリィにもこの体質のことは分かってはいないため、知らぬうちにリリィを堕としてしまう壮大な修羅場が発生する予定である。

なお、この体質の効果を存分に受けると、脳の枷が外され今回の依奈のように、悠斗に対する思いをつらつらと喋ってしまうため、これは楽しm――――ごほん、注意が必要である。



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郭神琳お誕生日記念3歳D-1

笑いしか無かった


 直線200m。帯広の────

 

「けい……競馬?」

 

「その前に、『ばんえい』というものがつきますけれど……これは些かシュールすぎますね……」

 

 ────ばんえい競馬場、第二Rにて、『郭神琳お誕生日記念』というものが行われる。調べたら普通に出てくるので皆も見よう。

 

「雨嘉さん、神琳さん、きちんと馬券は買えたかしら?」

 

「夢結様」

 

「いえ、それがまだ何を買えばいいのか迷ってしまって……」

 

「馬券受付終了はレースが始まる一分前よ。けど、やっぱり早めに買った方がいいわ」

 

「お姉様ー! わたし、買えましたよー!」

 

 にっこにこ笑顔で夢結に近づいていく梨璃。その後ろでは、悠斗に馬券の種類を教えて貰いながら買う少女達の姿がいた。

 

「俺は本当は普通の競馬────てかばんえい競馬とか俺も初めてだけど、まぁ今回は単勝だけでいいんじゃないか?」

 

 単勝馬券。それは、一着になる馬を予想する馬券である。

 

 今回、郭神琳お誕生日記念に出走するばんえい馬は10頭。

 

 ・グングニル

 ・ジョワユーズ

 ・ティルヴィング

 ・タンキエム

 ・マソレリック

 ・アステリオン

 ・ミョルニール

 ・ブリューナク

 ・ダインスレイフ

 ・アロンダイト

 

「あはは、なーんか知ってるような名前ばかりだナ!」

 

「つっこんだらダメだと思う、梅様」

 

「こればっかりは直感を信じるしかないのぉ……」

 

「ふぇぇ……何を買えばいいか悩んじゃいます~!」

 

「わたくしは既に決めましてよ?」

 

 やいのやいのとあれこれ騒ぐ少女達。その様子を見て、悠斗はアロンダイトの馬券を買うことに決めた。

 

 そもそも、ばんえい競馬とは競走馬がソリを引いて力や速さなどを競う競馬であり、ジョッキーはソリの上で鞭をシバいたりする。

 

「悠斗」

 

「わたくし達にも買い方を教えてくださいな」

 

「はいはい、えーっと、まず馬券には単勝やら複勝やらがあってな────」

 

 郭神琳お誕生日記念、出走。

 

「お、スタートしたな」

 

「みなさーん! 頑張ってくださーい!」

 

 ガシャン! とゲートが開き、勢いよく飛び出していく10頭。ジャラジャラと音を立てながらソリを引いていく。

 

「な、なんじゃ! わしが応援する馬が早くも最後尾に!」

 

 ぐろっぴが応援する馬────ミョルニール。早くも後ろからという競馬になってしまったが、まぁここまでなら何も問題は無い。

 

「流石ですわ! 流石わたくしが目をつけただけのことはありますわ!」

 

「よし、お前も着いていけ」

 

 先頭を走り、早くも第一障害を乗り越える────ジョワユーズが華麗にソリを引き、その後ろには鶴紗が応援するティルヴィングが追走。

 

 その後ろにグングニル、アステリオン、マソレリック、タンキエムがほぼ横一直線。先頭から二馬身ほど遅れて第一障害を乗り越える。

 

「お、お姉様!」

 

「安心なさい梨璃。まだ焦る場面ではないと悠斗も言っていたでしょう?」

 

 一馬身離れてアロンダイト、そこからさらに三馬身離れてダインスレイフとブリューナク、そして最後方にミョルニールといった競馬で進んでいく。

 

「あぁ!? 止まりましたわ!?」

 

 疲れからか、先頭を走るジョワユーズの足が止まった。騎手が鞭をしならせるも、中々進もうとしない。

 

「今だ! 抜け!!」

 

 そして、まるで梅の縮地のように走り去り、一気に先頭へと躍り出たタンキエム。そのまま第二障害まで進んで行った。

 

「いいゾ! そのまま逃げろタンキエム!」

 

「ティルヴィング、お前ならいけるっ……!」

 

「頑張って、アステリオン……!」

 

「そこです! 差しなさいマソレリック!」

 

「動きなさいジョワユーズ! 勝利は目の前ですわよ!」

 

「グングニルも頑張ってくださ~い!」

 

「お、お姉様────」

 

「そこよ! 差しなさいダインスレイフ! あなたならまだ行けるわ!」

 

「…………お姉様?」

 

「差せー!! 差せー!! アロンダイト差せー!!」

 

「悠斗くんの声が一番大きい!?」

 

「ミョルニール何をやっとるんじゃ!」

 

 馬券を握りしめ、思い思いに自分の夢へ声援を送る。

 

 そして、見事勝利したのは────

 

「いやー、まさかあそこからミョルニールが巻き返すとはな」

 

「えぇ! あの末脚! まさにミリアムさんのようなフェイズトランセンデンスでした!」

 

 ゴール前では多くのばんえい馬が足を止めた中、物凄い末脚を見せたミョルニールが一着、二着はダインスレイフ、そして三着はマソレリックだった。

 

「ミリアムさんのように、素晴らしい根性の持ち主でしたわね」

 

「うん、あれにはびっくり」

 

「四着、頑張った」

 

 こちらは比較的ぽわぽわしている組である。一方その頃────

 

「離しなさい梅……っ! 次の、次のレースは当ててみせるわ……っ!」

 

「よすんだ夢結!」

 

「止まってくださいお姉様!」

 

「ちょっとあなた達! ほわほわしてないで夢結様を止めなさい!」

 

 ルナトラ発動手前までいった。

 

「あ、そうそう。本来馬券を買うのは二十歳を超えてからだからな。未成年の皆はあくまで、見るのを楽しむだけにしとこうな」

 

「あの、これってわたくしの誕生日記念ですよね……?」

 




各リリィ応援馬紹介
梨璃→ブリューナク
夢結→ダインスレイフ
楓→ジョワユーズ
二水→グングニル
雨嘉→アステリオン
神琳→マソレリック
梅→タンキエム
ミリアム→ミョルニール
鶴紗→ティルヴィング
悠斗→アロンダイト


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ポッキーの日

「はい、悠斗さん。あーん」

 

「あー」

 

 今日は11月11日。今日も今日とて百合ケ丘は平和(?)である。

 

 悠斗は、珍しく神琳に誘われ部屋へとやってきていた。ルームメイトである雨嘉は居らず、どこかへと行っているようだ。

 

 そんな神琳が現在、悠斗に食べさせているものは、長さ約20cm程の小さな棒。その殆どに黒く、とろけるようなチョコがコーティングされている『ポッキー』というお菓子である。

 

「はい。そのまま噛まないで口に含んだままにしててくださいね」

 

「ん?」

 

 基本、神琳の頼み事はなんでも叶えてあげたい悠斗。一度首を傾げたまぁ特に断る理由もないので、とりあえず口に含まれているチョコをちろちろと舐める。

 

「悠斗さん、ポッキーゲームといつものを知ってますか?」

 

「…………?」

 

 悠斗の頭の中にはてなマークが浮かぶ。その反応を見て知らないと見た神琳が、ポケットから紙を取りだした。

 

「ポッキーの先端をそれぞれ二人が口に含み、交代ずつで噛んでいくものです。一応勝ち負けもあって、先に折った方がまけ……ということのようですね」

 

「ふーん」

 

 ポッキーを口に含んでいるので素っ気ない返事となってしまった。

 

「ふぁひふぁいふぉふぁ?」

 

「えぇ。既に雨嘉さんとやりました。中々楽しめたゲームなので、是非悠斗さんと、と思いまして」

 

 嘘である。

 

 その言葉を聞いたあと、首肯をするように頷いた悠斗。それを見て、さらに神琳の笑顔が花開く。

 

「ありがとうございます悠斗さん。それでは早速……」

 

 そして、神琳も反対側を口に含んだ。ポッキーゲーム、開始である。

 

 どちらが先に食べるか、そういえば決めてないなと思いながらも、俺が先に食べてるからいいよな、と自分で結論付けてとりあえず一口。

 

 ポキッ、と口の中で軽快音が響き、ポッキーを折らないようにもぐもぐと咀嚼した後に飲み込む。

 

 ────美味いな。そしてこれ意外と難しいぞ? 

 

 冷静に分析を開始していく悠斗。さて、次は神琳の番である。

 

 ────やはり、こうして見ると凄くかっこいいお顔……あ、見惚れてる場合じゃありませんね。

 

 ポキッという音が聞こえると、もう一度反対側からポキッと音が聞こえる。あとはどちらが羞恥心によってポッキーを折るのかだが、の勝負、明らかに神琳の分が悪い。

 

 なぜなら、悠斗が羞恥心に悶えることなどない。何せ堂々と平気で温泉が湧き出た時に女子と一緒に温泉に浸かっていた男である。

 

 性欲、食欲、睡眠欲をほぼ失った悠斗に、死角はない。その証拠に、悠斗は涼しい顔をしているが、神琳の顔は真っ赤である。

 

 そして、残り3cm程になり神琳は決意を決めた。

 

 ────ここで逃げたら女が廃りますわ……お兄様、わたくしに力を! 

 

「…………んっ」

 

「…………ん?」

 

 上唇と上唇がぶつかったあと、神琳はしっかりと悠斗の唇と自身の唇を触れ合わすことが出来た。

 

「……初めてのキスの味は、とても甘かったですわ」

 

 ちろり、と舌を出した神琳。その舌には、チョコレートが塗られたあった。

 

「…………なんだ、キスがしたかったのか?」

 

「えぇ。やはりわたくしもそろそろ行動に移さないと行けないような気が────悠斗さん? あの、どうして距離を詰めて────」




セーーーーフ!!間に合ったぁ!


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番外編 Valentine'sday kiss

いやぁー、この時期は皆ゲームの中で可愛い衣装着てくれるから本当に目の保養になる。

………ん?チョコ?作者は甘いものが苦手なので貰っても嬉しくないです(貰えるとは言ってない)。


 2月14日。世間ではバレンタイデーという、女の子が気になる異性にチョコを送ったり、友チョコという百合の入口に誘うかのようなてぇてぇチョコが存在したり────端的に言うと、モテない男はタダの平日である。

 

 今年のバレンタインデーは平日。数多くの乙女達が、とある男性へチョコを渡そうとキャーキャー色めいている百合ケ丘女学院。特に、料理長なんて異名を持つ彼女は、まるでウェディングケーキのような豪華なチョコケーキを仕上げるというガチっぷり。

 

 そんな数多くのリリィの心を虜にした件の異性────男で唯一のリリィである浅野悠斗は────

 

「来てくれるのは嬉しいけど、どうしてここにいるの?」

 

「避難」

 

 何故か、神庭女子藝術学校のトップレギオンである『グラン・エプレ』に所属する今叶星と宮川高嶺の元へ避難していた。

 

 何故悠斗が避難をしているのかは、丁度一年前まで遡る。

 

 百合ケ丘女学院に完璧に受け入れられるようになってから初めてのバレンタイン。二年前はアールヴヘイムメンバーと、クラスメイトの数人位しかチョコを貰った。

 

 どうせ今年もこの程度だろと鷹を括っていた悠斗。だがしかし、百合ケ丘にどれほどの乙女がいるとお思いなのか。

 

 道を歩けば目に付いた女子からチョコを貰う悠斗。天葉から紙袋は絶対に用意しておくように! と耳にタコができるほど聴いていたので、順調にそこへしまっていくのだが────大きさがヤバい。

 

 最初は手のひらサイズの箱だったのだが、人に会えば会うほどにチョコというなの愛情が大きくなっていく。亜羅椰なんて裸にリボン巻いて「私を食べて♡」なんてやってた。もちろんアイアンクローした後に眞悠理へ突き出したのだが。

 

 樟美なんて去年は悠斗チョコフィギィア(16分の1サイズ)を作っていた。無駄に再現度が高かった。

 

 そしてついに────ぶっちゃけ中等部の生徒の分まで貰ったんじゃねぇの? ってぐらいの人にチョコを貰いまくった結果。部屋がチョコで溢れかえった。

 

 幸か不幸か一度死んでいるため、チョコを食べすぎて体調を崩すことは無かったので貰った分のチョコはなんとか全部食い切ったのだが、約2ヶ月ほどチョコで部屋が溢れかえっていたのは若干のトラウマと化している。

 

「理事長代行も昨年の悲劇は知ってたから、なんか物凄い可哀想なものを見る目で外出申請を承認された」

 

「でも、ちゃんと百合ケ丘に戻ったらしっかりも気持ちを受け取っておかないとダメよ? 悠斗」

 

「高嶺姉さん」

 

 悠斗の後ろから自然な動きで抱きつき、指で持っているチョコを悠斗の口元へ持っていく。

 

「でも、今年は私達が一番最初ね。ハッピーバレンタイン、悠斗。はい、あーん」

 

「あー」

 

 高嶺になされるがまま、胸を背もたれにしている悠斗は、大人しく口を開けたがいつまで経っても肝心の甘い固形物がやって来ない。

 

 不思議に思って片目を開けると、すぐさま口に違和感。軽いリップ音が聞こえるのと同時に、市販のチョコよりも幾分も甘い味が口内を蹂躙する。

 

「高嶺ちゃん!?」

 

「んっ……んんっ……れろっ」

 

 端的に表現すると『口移し』である。流石は高嶺と言ったところだろうか。ものすごく大胆である。

 

「んっ……ふふっ、どう? キスと一緒に食べるチョコは」

 

「甘い。すっごい甘い」

 

 正直言うならば、悠斗は少しだけ甘いものが苦手であり、どちらかと言うとビターチョコの方が好みなのだが────

 

「でも、うん。美味かった」

 

「良かった。勇気出したかいがあったわ」

 

「勇気出した割には結構グイグイ行ったよね高嶺ちゃん!」

 

「あら、悔しかったら叶星やればいいじゃない。こんな風に」

 

 今度は軽く悠斗の頬へキスをする高嶺。悠斗は高嶺に抱きしめられたままなされるがままである。

 

「わ、わ……っ! 私だってやればできるんだから! 悠斗くん! 私の愛を受け取って!」

 

 と、勢いよく手作りチョコを自身の口に突っ込んでキスをしようと悠斗の胸に手を添えてからそのまま口移しを────

 

「あの、高嶺様、叶星様。こちらに悠斗が来てるって噂が────あ」

 

「お?」

 

「あら」

 

「んんっ!?」

 

 ガチャリンコと扉が開く音。現れたのは姫歌を筆頭とした紅巴、灯莉といったグラン・エプレ後輩メンバー達。

 

「……あ! かなほ先輩キスしてるー☆いいなー! ねぇねぇゆうと、ボクともあとでやろー☆」

 

「か、かかかかか叶星様!? これはいったい────って灯莉だめよ! そんな……まだ付き合ってもいないのに……姫歌だってまだなのに……

 

「土岐は……土岐は……」

 

「み……み……っ!」

 

 叶星は、キスを見られた羞恥心や、高嶺に対する対抗心等々がグチャりと混ざり合い────

 

「皆ー!! 忘れなさーい!!」

 

 ────キャラ崩壊して、メンバーを追いかけて行った。

 

 その後、グラン・エプレのメンバーのみでなく、まさかの神庭女子のリリィ達からもチョコを貰ってしまった悠斗。百合ケ丘に戻ってからも色々とあり、部屋がまたもやチョコで埋まった。

 

「……俺はどこに住めば……」

 

 ドアを閉めようにも、パンパン過ぎてもはやチョコ飲みとなった自室を見て、悠斗はそう呟いた。

 

 しばらくの間、悠斗の部屋がアールヴヘイムの隊室になった。




番外編ってネタに走れるから書いててすっごく楽しい。

悠斗メモその一
高嶺と叶星の前でだけ、悠斗はなされるがままになり、基本的にへにゃりとなる。


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