日本食チートのない異世界ご飯 (NiOさん)
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たまごごはん。

転生者『これが“卵ごはん”だよ!』

異世界人『美味しい!美味しすぎる!さすなろ!』

NIOさん「……は?(キレ気味に)」


 私が勇者様……なろ主に出会ったのは、静かな雨の降る日のことでした。

 

 その頃の私は、奴隷商さんからまともな食事も与えられていませんでした。

 すっかり弱っている私を見て、奴隷商さんは『牢屋の中で死なれては迷惑だ』と呟いて。

 

 そんなこんなで、私は森の奥に連れていかれることになりました。

 

 外はしとしとと雨が降っていて、私は何となく『ああ、これなら静かに死ねそうだなあ』と考えたことを覚えています。

 ちょうど、その時です。

 

「……その奴隷、どうするの?」

 

 半死半生でヨタヨタ歩いていた私を指差して、少年が奴隷商さんに尋ねました。

 

 不思議な少年でした。

 

 大陸ではまず見ることのない黒い髪に、どこまでも深い黒い瞳。

 

 奴隷商さんは私を捨てに行くところであることを少年に告げて、彼のような若い冒険者が払えそうなギリギリの値段を吹っ掛けました。

 

 少年は歯を食いしばり俯いて。

 小さな声で、呟きました。

 

 「……このお金は……とても大事なもので……でも……見過ごせない……」

 

 そして、ボロボロの財布を取り出すと。

 奴隷商さんに財布ごと、渡したのでした。

 

 ……これが私のご主人様、なろ主との出会いです。

 

 私はこの時に誓いました。

 

 例え疎まれようとも、嫌われようとも。

 奴隷契約がなくなろうとも。

 

 一生この人に、ついていくって。

 

####################

 

「誓った私が、バカでした~~!!」

 

 なろ主と出会って数ヶ月が経ち。

 私は何度同じ言葉を絶叫したことでしょう。

 絶望する私の目の前には、世にも恐ろしいゲテモノ料理がありました。

 味のない野菜である『はくまい』の上に生卵を乗せて『しょうゆ』と言う調味料をかけたとか言う、禍禍しい料理。

 

 自分でも顔が青ざめるのがわかります。

 なろ主はどうやら、辺境の村『ニホン』出身で。

 劇的にクソ不味い『ニホン料理』を、至高の料理と勘違いしているみたいなのです。

 

「これが日本料理の『卵ごはん』。

 通称、完全食、だよ」

 

「生卵を、料理に、使うな~!!」

 

 あまりの酷さに、思わず敬語も忘れて抗議します。

 

「卵を生で食べたらお腹を壊す、子供でも知ってますよ!」

 

「いやでも、ちゃんと除菌魔法かけたから……」

 

「気持ちの問題です!

 なろ主は菌がいないからってカエルの卵を生で食べられます!?

 生理的にムリですよね!?」

 

「え、それは無理だけど、いいから食べてみてよ」

 

「嫌です、イヤですううう~~~!!」

 

「ほら、いいから、騙されたと思って」

 

 なろ主の『騙されたと思って』が出ました。

 これが出たら、食べざるを得ません。

 ……今まで騙されなかったことってないのですが。

 

「う……ううう~!

 え~い、ままよ!!(パクッ)」

 

「……どう?

 おいしいでしょ?」

 

「クソ不味い!

 

 生卵の鼻水みたいな食感が、先入観を打ち消すことなく前面に出ていて!

 これに味のない『はくまい』と、やたら味の濃い『しょうゆ』が合わさることで!

 

 三者三様の、それぞれの悪いところを余すところなく表現しきっています!

 

 掛け値なしに、これは、クソ不味いです!!」

 

「え、ウソ」

 

「ホントウです!」

 

 シュンとするなろ主を横目に、私は『たまごごはん』を胃の中に無理矢理流し込みます。

 ……こんなクソ不味い料理でも、なろ主の好きな味であり、なろ主が私のために作ってくれた料理だから。

 そんな私を見て、なろ主は『文句を言いつつも全部食べる素直じゃない奴隷ちゃん』とか言ってます。

 マジで何とかしてほしいです、この人。

 

 というわけで。

 

 これは私こと、『奴隷ちゃん』と。

 

 最高で、最低の、ご主人様、『なろ主』との。

 

 どうでも良い日常の、ものがたり。




 たまごごはん、おいしいよね。


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おにぎり。

転生者『これが“お握り”だよ!』

異世界人『んん!
 白米がホクホクで、中と“ウメボシ”の塩っ辛さと良く合う!
 この、“ノリ”とかいうヤツもパリパリして美味しい!
 さすなろ!』

NIOさん「……は?(立腹)」


 勇者様であるなろ主のお仕事は、もちろん魔王征伐なわけですが。

 まだまだ力が足りないので、近隣を脅かす魔物を狩ることで経験値を貯めて、魔王城へ一歩ずつ進んでいくつもりなんだそうです。

 なろ主のレベルが低いと言うのは、ある意味チャンスです。

 私もなろ主をサポート出来るくらい、強くならなくちゃいけませんね!

 

 というわけでここは『はじまりのむら』から数十キロ離れた草原のど真ん中。

 村を襲うゴブリンの住み処まではまだ道半ば、といったところでしょうか。

 出来れば今日中に『やわらか森』の入り口までは進んでおきたいですね。

 そんな私の考えを知ってか知らずか、なろ主が声を掛けたのでした。

 

「ちょっと休憩しよう、奴隷ちゃん。

『腹が減っては戦はできぬ』っていうし」

 

『はらがへってはいくさはできぬ』

 

 お腹が空いてたら戦えないと言う辺境の村『ニホン』のことわざだそうです。

 このことわざ自体には激しく同意します。

 激しく同意しますが……。

 

「出来たぞ奴隷ちゃん。

 日本料理の『お握り』だ!」

 

 ……やっぱりなろ主、ニホン料理をぶっ込んできた……。

 

「な、なろ主……なんですかコレ……石炭にしか見えませんけど……?」

 

「見た目は悪いけど、これは海苔って言って、海草を加工したものなんだ。

 ほら、食べてみて」

 

「か、海草を加工したもの?

 海草って、海のゴミですよね?

 『ニホン』ではそんな物食べるんですか!?」

 

 海草なんて、食べても下痢するだけです。

 『ニホン』は一体どれほど貧しい国なのでしょうか……。

 

「陸の恵みの『ごはん』を、海の恵みの『海苔』で包んだ日本人のソウルフード、『お握り』。

 

 ……良いから、騙されたと思って」

 

 また出ました、『騙されたと思って』。

 こちらの拒否する気持ちを根こそぎ奪う、魔法の呪文です。

 

「う……ううう~!

 え~い、ままよ!!(パクッ)」

 

「……ど、どうかな?」

 

「……お、おぇ~!

 黒い紙が喉に貼り付いて気持ち悪い!

 

 最初、一瞬だけ『パリッ』としているから騙されそうになるけど、その数秒後に海草に戻ってるじゃないですか!」

 

「え、あれ?」

 

「しかも、この、なかに入ってる赤い実、信じられないくらいしょっぱい!

 な、なんですかコレ!?」

 

「ああ、それは梅干しだよ。

 『梅はその日の難逃れ』と言って……」

 

「はあぁぁ!? 梅!? あの、木の実の、梅!?」

 

「え、え。

 うん、そう、だけど」

 

 なろ主は何でもないことのように言っていますが。

 梅の実には……青酸配糖体という毒が入っています。

 

 つまり、これは確実に……私を殺しに来ています。

 

「……わ、私を、ころすんですね?

 わ、私は……そんなになろ主を傷つけていたんですね?」

 

 あまりの出来事に、涙が次から次にぽろぽろと溢れてきます。

 

 確かに、『ニホン料理』に関してはボロクソに言ってましたが、だからって毒殺するくらい憎まれていたなんて……。

 

「なら、申し訳ありませんけど、ここでお別れです……大丈夫、なろ主はきっと立派な勇者様になれます……。

 

 さよならッ!」

 

「な、なんで突然死のうとしてるの!?」

 

 私が自身の喉元に突き付けた刃物を、なろ主が驚いた顔で奪い取ります。

 

 因みにこの誤解は、梅酒を飲むまでちゃんと解けることはありませんでした。

 

 お握りも梅干しもクソ不味かったけど、梅酒は美味しかったです。




 うめぼしのおにぎり大好き。


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すし。

転生者『これが“すし”だよ!』

異世界人『魚を生で食べると、こんなにうまいなんて!
 しかも、魚にこんな種類があったとは……!
 さすなろ!』

NIOさん「……は?(憤怒)」


「よ、よくぞ私を倒したな、勇者よ。

 

 しかしこの私、『海のシオカラーイ』は四天王の中で最弱……四天王の面汚しよ……ガクッ」

 

 旅を始めて一年が経ち。

 なろ主は遂に、四天王の一角を崩しました。

 素晴らしい快挙です!

 

「はあっ、はあっ……なんとか倒したぞ!」

 

 息を切らして仰向けに倒れ込むなろ主。

 本当に強くなりましたね。

 自分のことのように嬉しいです。

 

「終止圧倒してましたね。

 さすなろ!」

 

「いやいや、奴隷ちゃんも、本当に強くなったよ……ていうかその魔法、どこで覚えたの?」

 

「前の中ボスが使ったのを見よう見まねで……」

 

「て、天才か!?」

 

 なろ主が私を誉めてくれます。

 嬉しくって、ちょっとこしょばいけど、ここで満足しててはいけません。

 

『かってかぶとの おをしめよ』

 

 なろ主が言っていた辺境の村『ニホン』のことわざを思い出して、私は自分のほっぺたを両手で叩きました。

 ……痛いです。

 

 私が一人でそんなことをしていると。

 何を思ったのか、地面に倒れこんでいたなろ主は、突然がばりと起き上がって。

 

「よ~し、今日は、お目出度い日本料理にしよう!

 ちょうどココは海だし、魚を捕って、アレを作ろう!」

 

 そんな言葉を発しました。

 多分私を労ってくれているのだとは思いますが。

 

 ……どうせなら、ニホン料理以外が良いです。

 

####################

 

 なろ主が、生魚の切り身を丁寧に切り分け、『す』とか言う調味料で味付けされた『はくまい』にくっつけています。

 くっつける部分に塗ってる緑色の物体は、ニカワみたいなものでしょうか?

 

 なろ主の一連の動作はまるで職人で、目の前でリズミカルに握られていく一口大の『さかなとはくまい』は、見ている分にはとても綺麗でした。

 あくまで、『見ている分には』、ですが。

 

「これは、寿司っていうんだ。

 ほら、右から『サケ』『サバ』『アジ』『イカ』『タラ』だよ。

 まだまだ、どんどん握るね」

 

 

 聞いたことのない魚の名前を連呼するなろ主ですが。

 私にはそれが『アニサキス』『アニサキス』『アニサキス』『アニサキス』『アニサキス』にしか見えません。

 

 でも、少しだけ安心しました。

 なろ主なら、「フグの刺身だよ~」とか言う可能性もありましたから。

 ……なあんて。

 流石の『ニホン料理』でも、フグは食べないですよね。

 

「ご飯の上に、生のおさかな……ですか」

 

 げっそりする私に、なろ主は

いつもの言葉をかけます。

 

「まあまあ、だまされたと思って」

 

 うんざりしながら、ふと目を移すと。

 オレンジ色のプチプチとした宝石箱みたいな『すし』が目に入りました。

 

「あれ?

 このまるいプチプチ、きれい……」

 

「ん、それはイクラの軍艦巻きだね」

 

 生々しい『すし』の中で、一つだけメルヘンな物を見つけました。

 よ、よ~し。

 

「う……ううう~!

 え~い、ままよ!!(パクッ)」

 

 口の中に広がる、磯の生臭さ。

 プチプチと弾けた宝石からは、ねばねばした液体がどろどろと流れ出してきます。

 思ったのと、全然違う味です。

 もっと可愛い味を想像していた私がバカでした。

 込み上げる胃酸ごと宝石箱を飲み込みます。

 

「お、おえ~!!

 何ですかこれ?」

 

「魚の卵だよー」

 

 あまりにもあまりな発言に、それは、自然と出た言葉、でした。

 

「死ね! なろ主死ね!!」

 

「死……!?」

 

 流石に酷い仕打ちだったので、私は『すし』を完全拒否しました。

 なろ主は、自分で握った二人分の『すし』を一人で食べて苦しそうにしていますが、自業自得です。

 ……ちょっと可哀想なこと、しましたかね?

 

 ……いえいえ、たまにはコレくらいやらないと!

 

 あ、でも、卵焼きの『すし』は美味しかったです。




 シメサバとサーモンが好きです。


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みそしる。

転生者『これが“味噌汁”だよ!』

異世界人『見た目は悪いが……なんだか温まる!
 お袋の味と言うか……。
 確かにうまい!
 さすなろ!』

NIOさん「……は?(激怒)」


「よくぞ我を倒した!

 だがいずれ、第2、第3の魔王が現れるだろう!

 

 まあ、我の『毒爪』を食らった貴様には、そもそも未来が無いのだがな……ガクッ!」

 

 旅を始めて二年。

 なろ主はとうとう、魔王様を打倒したのでした!

 

 ……だけど。

 

 ああ、だけどだけどだけど!

 

「なろ主、大丈夫ですか!?」

 

「……」

 

 なろ主が無言でまくり上げた服の向こうには。

 紫色に変色するお腹の傷が、ありました……。

 

「……え、え?」

 

「『魔王の毒爪』……食らったら、『女教皇(ハイプリエステス)』でも治せない、確殺の攻撃だ」

 

 傷口から、血がじわじわと滲んでいます。

 量は多くないものの、全く止まる様子を見せません。

 

「そ、そんな!

 なろ主!!」

 

 なろ主は力なく地面にへたりこむと、私に優しい目を向けました。

 

「奴隷ちゃん……最期に、君の作った味噌汁が、飲みたいなあ……」

 

「そ、そんな……何をいってるんですか。

 て、転移魔法で王都へ戻りましょう!

 きっと傷を治す方法が見つかるはず……」

 

 なろ主は、力なく首を振ります。

 もう全てを、諦めているかのように。

 

「ムリだ。

 自分の体のことは、自分が一番よくわかる。

 僕の寿命は、あと数時間だ」

 

「な"、な"ろ"主"~!」

 

 私は泣きながらなろ主に抱きつきます。

 まだ、こんなに温かいのに。

 こうしてお話ができるのも、あと、数時間だけ、なのですか?

 

「……だから……死ぬ前に、味噌汁が、飲みたい」

 

 私の頭を撫でながら、なろ主は静かに呟きました。

 

「わ、わがりまじだ!

 まがぜでぐだざい!」

 

 鼻水を垂れ流しながら、私は声を上げます。

 

 必ずや、最高の味噌汁を作って見せましょう!

 

####################

 

 なろ主に出会ったのは、今日みたいに静かな雨の降る日のことでした。

 

 栄養失調で死にそうな私に。

 長い間まともな食事を摂っていなかった私に。

 

 なろ主が食べさせてくれたものが……『みそしる』でした。

 

 磯臭い『かつおぶし』と『こんぶ』をベースに。

 まともな味のしない『とうふ』と。

 海のゴミと言われる『わかめ』とか言う海草を具材にした。

 ウンチみたいな色のスープ。

 

 今の私が食べたら、きっと『二つの意味で、クソ不味い!』と言うでしょう。

 

 でも、そのときの私にとって。

 

 何日も食事がとれず、久しぶりに出会った、心のこもった、そのスープは。

 

 ……世界中の、どんな料理よりも、美味しい物だったのです。

 

 なろ主が雨に濡れないように、辺りに雨避けの魔方陣を展開すると、私は大急ぎで『みそしる』を作ります。

 

 マジックボックスから鍋と『こんぶ』を取り出して、水魔法と弱い火魔法で静かに熱を加えていきます。

 沸騰直前に『こんぶ』を取り出して、沸騰したら今度は『かつおぶし』を適量加えます。

 『かつおぶし』が全部沈んだら、一旦火を止めて、灰汁を取って、再沸騰させて……。

 

 気持ちが急くのを我慢しながら丁寧に調理をこなしていく私。

 だってだって。

 これがなろ主の、最期に食べる料理になるのですから……!

 

 振り返ると、なろ主はすっかり血の気の引いた顔をしていました。

 脇腹からは、相変わらずじわじわと出血が続いています。

 

「……!!」

 

 今すぐに走り寄って、泣き付きたい!

 そんな気持ちを抑えるように、ぐっ、と唇を噛み締めて調理に戻ります。

 

 『かつおぶし』を濾し取ったら、今度は賽の目に切った『とうふ』と、水気を切った『わかめ』を投入して、しばらく沸騰させます。

 具材に火が通ったら、火を止めて、煮たたせないように注意しながら、『みそ』を溶かし込んでいきます。

 

「……おかあさん……今日はお味噌汁だね……」

 

 後ろから、ぼんやりとした、だけど幸せそうな、なろ主の声が聞こえてきました。

 

 もう、多分意識も朦朧としているのでしょう。

 『みそしる』の匂いと『みそ』を溶く音で、昔、母親に『みそしる』を作ってもらった記憶を思い出しているのでしょうか。

 

 ここにきて、私は気付きました。

 食事は、記憶と結び付いている。

 そこには、美味しいも不味いもなくって。

 

 幸せか、幸せじゃないかがあるだけなんです。

 

 この『みそしる』も。

 『たまごごはん』も、『おにぎり』も、『おすし』だって。

 

 あんなに美味しくないと思って料理を食べながら、それでも私はやっぱり幸せだったって。

 同じ料理を出されたら、きっと文句を言いながら、私はまた“美味しく”食べきるだろうって。

 

 今更になって、そんな、当たり前のことに気付きました。

 

 私は涙が入らないように『にえばな』をお椀によそうと、大急ぎでなろ主の元へ持っていきます。

 

「なろ主、なろ主!

 

 『みそしる』、出来ましたよ!

 

 自信作です!

 

 なろ主に美味しく食べてもらえるように、一生懸命研究したんですよ?

 

 ほら、いい匂いでしょう?」

 

 なろ主は、うっすらと目を開けてはいるものの。

 私の声は、聞こえていないようでした。

 

「……失礼します!」

 

 ご免なさい、汚いって、言われるかもしれないけど。

 最後の最期に、なろ主に『みそしる』を飲んでほしい!

 

 私は口の中に『みそしる』を含むと。

 そのままなろ主の口許に、それを持っていきました。

 

 優しい雨の音が響きます。

 なろ主の喉が、こく、こく、と動くのが分かりました。

 

「……あ……ああ……奴隷……ちゃん?

 ……お味噌汁……作って……くれた……んだ……」

 

「……!!

 

 は、はい、なろ主!

 

 なろ主の大好きな『かつおぶし』と『こんぶ』で『おだし』を取った、自信作ですよ!」

 

「……うん……とっても……おいしい……」

 

「なろ主……なろ主……!」

 

「……」

 

「待って、待って、ほら、おかわりもあるんですよ?」

 

「……」

 

「まだ飲みたいですよね?」

 

「……」

 

「待って、待って、目を、目を開けてくださいいいい!」

 

 ダメです、ダメです!

 なんで、なんで?

 もう、こんなに、唇が冷たい!

 いやだ、いやだ、いかないで!!

 

「……おいしい……なあ……」

 

「……なろ主!!」

 

「……おいしいなあ……できれば……。

 

 ……これからも……ずっと……ずうっと……。

 

 ……どれいちゃんのおみそしるが……のみたかった……なあ……」

 

「……何ですか、そんなことくらい、お安いご用ですよ!

 

 これからも、ずっと、ずうっと、作ってあげます!

 

 

 ……誓っても良いです(・・・・・・・・)

 

 

 だがら、だがら、ずっど、ずうっど、いっじょにいでぐだざいいいいい……!!」

 

 これは、たぶん、辺境の村『ニホン』での、そういう(・・・・)誓い、なのでしょう。

 

 なんて遠回しな言い種。

 

 でも、良いですよ、私も誓いますよ。

 

 だからお願いです、神さま、仏さま、いえ、もう、誰でも良いんです……!!

 

 この人を、助けて!

 

 私の誓い(・・)に、なろ主は少しだけ笑って。

 

 そして、ああ。

 

 

 そして、光の粒子がなろ主の周りを取り囲んで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

###############

 

 

 

 

 

 

 

「おお ゆうしゃよ!

 

 しんでしまうとは なさけない!」

 

 

 

 何やら嘆き悲しんでいる王様の前で、なろ主と私は立ち尽くしていました。

 

 

「「…?

 

 …??

 

 ……………??????」」

 

 

 え?

 

 え?

 

 え?

 

 わ、わ、訳がわかりません。

 

 

「な、な、なろ主……こ、こ、これは、い、い、一体??」

 

 

 

 同じく首を傾げていたなろ主ですが。

 

 

 しばらくして、「ああ」と手を打ちました。

 

 

 

「そういえば、勇者には、『死に戻り』のスキルがあったんだった。

 全然死ななかったから、すっかり忘れてた」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……はあ?」

 

「……ゴメンね?」

 

 私は少しの間、眉間を押さえます。

 

 ちょっと、これは、ほら、いくらなんでも。

 

 困惑する思考の中で。

 

 だけど、歓喜の心を表現せずにはおられず。

 

 なろ主に、私の喜びが伝わらないように。

 

 ……私は、絶叫したのでした。

 

 

 

 

誓った私が(・・・・・)バカでした~~(・・・・・・・)!!」

 

 

 

 

 私の絶叫は王国を越えて。

 

 多分、遠い遠い辺境の村(・・・・)にも、響き渡るのでした。

 

 

 

 

 というわけで。

 

 これは私こと、『奴隷ちゃん』と。

 

 最高で、最低の、ご主人様、『なろ主』との。

 

 どうでも良い日常の、ものがたり。



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