音柱の継子は音が聞こえない (月宮塚帖)
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第一話

ハーメルン、そして二次創作の初投稿作品です!

ギャグとシリアス半々くらいで書いていきたいですが、多分シリアス多めになるかもしれません……(汗)

第一話は原作の数年前です。

ではお楽しみください!!!

追記:感想など、反応を下さると嬉しいです!




 ーーー暮方。

 

 それはこの世界で一番危険な時間である。誰もが足早に自宅へ帰ろうとしている中、少女は1人ふらふらと歩いていた。時々人に当たり、怒られながらも何処かを目指して歩いていた。彼女にとってその何処かはどこでも良かった。落ち着ける場所であればどこでも良かったのだ。

 

 そして彼女は街の端にある大きな屋敷のあるところまで来た。屋敷のすぐ裏が山で誰が見ても金持ちだと答えるであろうその土地の広さは目視だけでは把握出来ない。

 

 彼女は屋敷を一瞥すると少しだけ立ち止まってまた歩き出す。

 

 すると突然彼女の背後に大きな音を立てて異形が落ちてきた。

 

「クソッ! なんなんだあいつは! 俺様の血鬼術が、毒の血鬼術が効かないだと⁉ ……!? おおっ! こんな街の人が集まらねぇところに年頃の女がいるじゃねぇか! これで強くなれるぜ! 俺様ってば運がいい!」

 

 異形は少女の体を掴み勢いよくその肩口に噛み付く。少女は声にならない悲鳴をあげた。普通ならその後も声をあげ続けるか、声を上げて泣くかのどちらかであるが、少女はそのまま苦しそうな顔をして自身の肩に手を置く。彼女はその肩に置いた手の感触から先程まではなかったものが肩にあると感じ、何かを確認するためにそちらを向く。

 

 彼女は異形と目があった。すぐさま怯えて逃げようとする彼女を見て異形は不気味に微笑み、肩を噛む力を強める。あまりの痛さに彼女は暴れだした。ただ、彼女は大声をあげなかった。うぅっ、という苦しそうな声を静かに出すだけで大きな声は決して出さなかったのだ。

 

「……おかしい。味は人間だと言うのに、こいつはいつもの人間みたく叫ばねぇ。俺様の毒を入れたら味が落ちるから入れはしないが……、叫んでくれねぇとつまんねぇなぁ? ただの人間がよく耐える。俺様直々に叫びたくなるほど辛い毒を入れてあげよう!」

 

 じたばたと暴れる彼女はさらに肩に異形の鬼の鋭くとがった歯を刺し込まれたことでボロボロと大きな涙を流しながらさらに暴れる。だが、暴れたことで歯がさらに食い込み、彼女の白い肌と薄く古びてところどころ解れている着物に血が広がる。その血を上手そうに吸った鬼はようやく口を彼女の肩から放したと思えば、その注射器のようにも見えなくもない腕を彼女の腰に刺す。彼女はついに痛みに耐えきれず失神してしまった。

 

「……ふうん。気絶したか。まあ、いい。どうせこの俺様の血鬼術を吸収すれば跳ね起きて体中を引っ掻いて大声で泣きわめくだけだ。起きていても寝ていても関係ねぇ。さてと……、血鬼術―――」

 

 そんな気絶して彼女を見て圧倒的強者として自己陶酔していた異形は警戒を怠っていた。誰から自分は逃げていたのか、なぜ彼女を襲うことにしたのか。対して時間は経っていないのだが、すっかり頭から抜け落ちていたようだった。

 

 確認しよう。

 

 異形は誰から逃げていたのか。

 ―――自身の毒の血鬼術が聞かない強敵から逃げていた。

 

 異形はなぜ彼女を襲うことにしたのか。

 ―――自身を強くするため。

 

 ならばわかるはず。近くにはまだ異形の及ばぬ強敵が潜んでいることに。

 

「……なッ⁉」

 

 異形の少女に突き刺していた方の腕が切られた。断面は綺麗でおそらく刃物で切られたものだ。信じられないとでもいうように異形は腕の断面を見つめ、そして腕を切ったと思われる人物がいる方へ顔を向けるが、すでに遅かった。

 

 ぼとっと異形の頭が落ちる。これは異形の死を意味していた。首の断面から灰のようにはらはらと消えていく様はどこか儚い。異形の顔は歪んでいた。そして完全に消える寸前に涙を零す。何故に涙を零したのかは残された者にはわからない。

 

「……よかった。血鬼術は発動される前だったようですよ。ただ、肩の噛み傷は想像以上に深いですね。一旦止血をしてすぐそこの姉の屋敷で治療しましょう。宇髄さん、貴方も一応来てくださいね」

 

「俺は派手に毒が効かねぇ。お前を庇って血鬼術を食らったけど派手に俺は無事だ。俺のことなんぞ、ちび助に地味に心配されることはねぇよ」

 

「……あらまあ。そうなんですね。あの毒は鬼の反応を見るに、即死薬だったのでしょうが、貴方は毒の耐性があるから微熱で済んでいると。まあまあ! この後風邪をこじらせて死んでしまうのでしょうね! 可哀想なこと……。即死薬にはもしものために免疫力低下の毒も混ぜられていたようですよ。さすがに忍といえど、免疫不全にする薬への耐性はつけることはないですよね? だって体の中の白血球を破壊するのですから、耐性など付けられませんし。あ、これはわずかに宇髄さんの肌についていた毒を検体として宇随さんが鬼を倒す時に調べたのですが……。あの鬼は策士ですね。自分で倒せなくとも人は殺せると。絶対に人間の頃は素晴らしい薬師でしたよ。……それはそうと、ようやく音柱になれたというのにその柱が免疫不全で死亡するなど前代未聞ですよ。しかも鬼の毒の治療をしなかったという理由で。過去の柱は鬼との戦いで殉職しているのにも関わらず、貴方は布団の上で自分の不注意を呪いながら死んでいくのですね……。可哀想です……。よよよ……」

 

「わかったから一回黙れ! 長々ということじゃねぇだろ! 地味にうぜぇ!」

 

「では……」

 

「……俺も行くわ。この女のことで派手に気になることもあるしな。俺が担いでいく」

 

「ありがとうございます」

 

 どうやら異形―――改め鬼はこの大柄な男、宇髄に殺されたようだった。その横には宇髄とは対照的に同じ女性の中でも小柄の部類に入るであろう少女。彼女の名は胡蝶しのぶという。

 

 しのぶは怪我をした少女を自身の姉の屋敷に連れて治療するといった。無論、彼女のいう屋敷とは先程少女が少し見つめたあの広い屋敷のことである。しのぶの姉がこの屋敷を所有しているのには理由があるのだが、それはここで話さなくてもいいだろう。

 

「では、彼女はこちらへ連れてください」

 

 宇髄が案内されたのは風呂場だった。

 

「とりあえず、その方をここに寝かせてください。傷を洗うので。宇髄さんは一旦部屋から出てください。服を脱がしますので」

 

「……おう」

 

 宇髄はそのまま風呂場から退出し、屋敷にいる看護師を集めてくる。しのぶにはそんなこと指示出されていないが、少し不安だったのだろう。しばらくして服を着替えた肩をかまれた少女としのぶと住み込みであろう幼い看護師が中から出てきた。

 

「宇髄さん。彼女を横抱きで治療室までお願いします」

 

「わかった」

 

 宇髄はひょいと彼女を持ち上げ治療室へと彼女を運んでいく。そして治療室の寝床へ彼女を横たわらせ、しのぶのほうを向いた。

 

「俺はもういいか」

 

「はい。ですが、逃げないでくださいよ? 免疫不全さん?」

 

「派手に嫁たちのところに戻りたいんだが」

 

「残念でした。先程も言いましたが、もう一度言いましょうか?」

 

「チッ」

 

 宇髄は治療室から退出する。やはり女性だけの空間は居心地が悪いのだろう。嫁たちにも申し訳ないのかもしれない。嫁たちにも。

 

 宇髄が治療室から出ていったのを確認したしのぶはゆったりとした口調で少女に話しかける。

 

「では。治療を開始しますね。お名前は?」

 

「……」

 

 しかし、彼女は一言も発さず、しのぶを笑顔で見上げるだけだ。先程までは気絶していたが、彼女の身の回りで色々としていたのと、朝が来て騒がしくて起きたのだろう。そのため、彼女にしのぶは質問したのだ。

 

「私の質問に答えることができますか?」

 

「……」

 

 しのぶは何度も彼女へ声をかける。笑いながらこちらへ視線を送る姿は何年か前に保護した義妹を彷彿とさせる。

 

「……私の質問に肯定か否定でお答えください。あなたはこの街に住んでいますか、いませんか?」

 

「……?」

 

 どんなに工夫しても彼女は笑うばかり。さすがにしのぶも疲れてきた。今、遠くの地域に鬼の遠征討伐に行っている姉を呼びたい。―――私は上手く人と話せないのかもしれません。そんなことを思うほどに。

 

 すると、少女はハッとしたように肩を怪我していない方の手を動かす。それは何かの動作を表しているようだった。

 

「……あ」

 

 その様子を見てしのぶは気づいた。彼女は無視をしているのではない。もしかしたら話せないのかもしれないのだと。

 

「……アオイ。紙と筆、もしくは万年筆を急いで持ってきてください。その間、私は治療をします。この状況で治療の許可をもらうのは不可能でしょう。まずはこの方を私は救います」

 

 先程の幼い看護師―――改めアオイはしのぶのその言葉にうろたえる。まだしのぶよりも若いであろう彼女が看護師として働くこの環境は傍から見れば可笑しいかもしれないが、決して児童労働ではなく、アオイ自身の決意であった。だから彼女も怪我をしている彼女を助けたかったのかもしれない。

 

「ならば私も……」

 

「いいですから早く。紙と筆を」

 

「は、はい!」

 

 結局しのぶに再び頼まれ、これ以上駄々をこねては患者の迷惑になると判断したのだろう、アオイは治療室から出ていく。それを見ながらしのぶは止血をした傷口を消毒をし、清潔な布を肩に置いて包帯を手際よく巻いていく。一通り治療が終わった後、先程部屋から出ていったアオイが十枚ほどの紙と万年筆を持ってきた。

 

 それを見た、治療をしているしのぶをじっと見ていた少女が紙と万年筆を欲しそうに手を伸ばす。

 

「動かないでください。今、お渡ししますから」

 

 アオイから紙と万年筆を受け取ったしのぶはゆっくりと少女の体を起こし、寝床につく食事用の机を用意する。そして紙と万年筆を彼女に渡した。それを受け取った彼女はせっせと紙に文字を書いていく。そして文字を書き終わると万年筆を置き、しのぶにその紙を見せる。

 

『私は生まれつき耳が聞こえません。そのため話すことができません』

 

 紙には綺麗な文字でそう書かれていた。それを見たしのぶはやはりそうだったか、というような顔をして万年筆を彼女から受けとり伝えたいことを書こうとした。しかし、彼女は万年筆を渡さず、また文字を書き始める。

 

『お腹がすきました。ご飯をください』

 

 彼女は意味が分からないことを書いた。この状況で。入院着を着用し、肩に包帯を巻かれたこの状態で、怪我のことを書かずにお腹すいた、と。

 

「……お粥を持ってきてください。後は私が対応します。ついでに宇髄さんも呼んできてください。どうせ、暇してますから」

 

「……わかりました」

 

 しのぶはアオイにそう指示を出し、彼女から万年筆を受け取る。無理やり抜き取ったというような感じではあるが。

 

『ご飯は今から用意します。それと、貴方の名前を教えてくれませんか。傷は痛みませんか』

 

 しのぶは紙にそう書き込んだ。それを見て万年筆をしのぶから渡された彼女は目を見開く。何か問題でもあったのだろうか。

 

『名前はありません。名無しの娘とでもお呼びください。傷は、昨夜の肩のことですよね。痛くないので大丈夫です』

 

 彼女から渡された紙を見て次はしのぶが目を見開く番だった。名前がないこと、そして傷が痛まないというのだ。

 

『そうですか。それならばよかったです。では、いくつか質問をさせてください。生まれつき耳が聞こえないというのならばどのように言葉などを学んだのでしょう』

 

 後天的に耳が悪くなったのならば、読み書きができるのはわかるが彼女は先天的。言葉を学ぶのには一苦労であるし、引き取り先、と書いてあることからおそらく多くの地を転々とする生活だったのかもしれない。さすれば、さらに言葉を学ぶことなど難しいだろう。

 

『説明するために長い文を書きます。することがありましたら私のことは大丈夫ですからそちらを』

 

 すると彼女は紙に悩みながらそう書いて新しい紙を下ろして黙々と文を書き連ねる。その様子を一目見たしのぶはお粥はまだか、宇髄はまだか、と覗きに来ていたアオイよりも幼く見える少女に質問する。その少女はその質問には答えなかった。時折、烏が飛んできてしゃべりだしたりしたが名無しの娘はそんなことを気に留めない。

 

 そして、宇髄がお粥を持って治療室に現れたその時、彼女はようやく書き終わったとしのぶの白い羽織をくいくいっと引っ張る。

 

 しのぶは先程まで会話に使っていた紙の端にお粥をどうぞ、と書いてその新しく彼女が書いた紙を見る。

 

「なんだそれ?」

 

「彼女は先天的に耳が聞こえず、音が分からないそうなので話すこともできないようなのです。ですから筆談をしていて。しかし、そのような方が言葉を学ぶことなど、この世の中ではかなり難しいはずですので、私は気になってどのように? と質問したのですよ。これはその答えです。宇髄さんも読まれますか?」

 

 彼女が黙々とお粥を食べている最中、宇髄はしのぶに話しかける。しのぶの持つ紙は何かと質問をすればこのように返ってきたので、一瞬混乱仕掛けたが、彼の頭は弱くない。すぐに理解をする。耳が聞こえなかったから昨夜、自分の声の大きさがわからずに静かに鬼に噛まれているだけだったのだろうと。

 

「おう。見せてくれ」

 

「一緒に読みましょう」

 

 そして宇髄としのぶは一緒に名無しの娘から渡された紙を見る。

 

『私は生まれてからしばらくして、耳が聞こえないとわかったので親から捨てられたのでしょう。実の親の顔も私は知りません』

 

 そのように書き始められていたその文章はまとめると以下のようなことが書いてあった。

 

 捨て子だったために様々な人の間で売り買いされた。その中で何回か藤の家紋の家は居心地が良かった。言葉は藤の家紋の家に売られた時に学んだ。他にも売られた家の中でも対応が良かったところで植物や医療などの専門知識を学んできた。昨夜は彼女のことを良く思っていなかった家主に追い出されてしまい、行く当てもなく彷徨っていた。

 

 ―――すべて読み終わって。

 

 二人はどうしようもない感覚に襲われていた。藤の家紋の家など、周知の事実や、その他の彼女へのひどい対応など。今、もきゅもきゅとお粥を頬張っている彼女は自分たちが想像をはるかに超えた経験を積んでいたのだ。ただ、心優しい両親が人喰い鬼に食われたとか、いじめられた末に昨夜追い出されたとかだと思っていたが、何件も売買されるのはもはや奴隷。彼女は壮絶な奴隷人生を送ってきたのだと気付く。

 

 それは家族を鬼に殺されたしのぶよりも、親の押し付けがひどいあまりに逃げだしてきた宇髄よりも捉え方によってはひどいものだ。

 

「……宇髄さん。私のところでは姉の許可がないと人を預かることはできません。おそらく姉は許可するでしょうが、医療知識の集約は効率的ですが、そこを攻撃されては大変なことになるでしょう。ですから……」

 

「……ああ」

 

 二人は紙を見たまま、彼女へ視線を向ける。その視線に気づいた彼女は匙を口に入れたまま、こてんと首をかしげる。

 

「……俺が預かろう」

 

「……よろしくお願いします」

 

 紙通りなら彼女に才能はあるはずだ。読むだけで植物や医療の専門知識を身に着けることができていて、紙に書かれた通りであればそれを活用する能力もある。それを踏まえても過去を踏まえても彼女をこのままにしておくことはいけないことだと二人は思ったのだ。

 

『俺の名前は宇髄天元。お前は俺の家に来い。派手に養ってやる』

 

 新しく紙を手に取った宇髄は万年筆でそのように書き記し、お粥を食べている彼女にそれを見せつける。

 

 彼女はお粥を吹き出した。

 

「……!? ごほッごほッ」

 

 彼女は咳き込む。そして急いで匙を置き、万年筆を宇髄から受け取って紙に文字を書く。

 

『意味が分かりません。こんな私を養うなど』

 

『俺は祭りの神だ。なんでもできる』

 

『どういうことですか』

 

『とりあえず、お前は俺について来いってことだ。地味な返事はいらねぇ。無理矢理連れていく』

 

『ありがとうございます、でいいのでしょうか』

 

 文字上では会話のようで会話じゃないようなやり取りが行われていた。それを覗いたしのぶは思わずため息をつく。

 

「宇髄さん。彼女に名前を。名無しの娘さんなどひどすぎますから」

 

「そうだな」

 

 会話が続かないなら会話の種をまけばいい。そうすれば会話は自然と方向性を戻すであろうから。そんなしのぶの考えは目の前の紙に破壊されるのであった。

 

『お前の名前は、ぬい。よくも悪くも人と人を縫い合わせたからな。人との関係を縫い合わせるってすごいことだしよ。今日からお前は宇髄ぬいだ。 四人目の俺の嫁だということを覚えておけ』

 

「はぁ?」

 

「……⁉」

 

 どちらにしろ会話は繋がらなかった。

 






やはり難しい……。

とりあえず、こんな感じで書いていきますので、これからよろしくお願いしますm(_ _)m



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第二話

お気に入り登録してくださった皆様、お気に入り登録してくださり本当にありがとうございます。

しおりの方もとても嬉しいです。本当にありがとうございます。

この嬉しさが執筆時の活力になっています!(__)


よろしければ評価や感想を下さるとさらに励みになりますのでお暇であればしてくださると嬉しいです。


本日のお品書きは「とりあえず、継子が強い」です。



 こんな感じでおかしな形で家族になった宇髄天元と名無しの娘改め、ぬいは半年経った現在、天才と言われるほどまでに成長していた。天才と言われる所以はその頭脳に限らず、身体能力にもある。ぬいは身のこなしが軽やかで、動きの緩急にメリハリがある。力の掛け具合も抜群で、その細腕からこれほどまでに強い力が出るとは思えないほど。

 

 ここまで言えばわかるだろうか。

 

 そんな彼女は音柱という鬼殺隊最高戦力の一角の地位にいる天元の継子となり修行して、ようやく鬼殺隊の最終選別から無傷で帰ってきて天元の嫁の一人の須磨にわんわんと泣きつかれているところだったのだ。わずか半年で人喰い鬼だらけの山で七日間過ごす最終選別を無傷で生き残ってきたのは奇跡のようなものだ。史上二人目の偉業である。ただ、一人目である少年は運悪く亡くなってしまったようだが。

 

 彼女はその天才である亡くなった少年を殺した鬼にこそ出会わなかったが、山のほとんどの鬼を狩りつくした。それも無傷で。過去には継子が無傷で帰還することはなくはなかったが、鬼をほとんど狩りつくして無傷の人間はいなかったのだ。

 

 そして、半年で彼女は鬼を狩る力だけではなくある術も身に付けた。それは読唇術。相手の言葉を読み取ることができる優れものだ。忍一家である宇髄家で徹底的に仕込まれたため、ほとんど間違えることがない。ほとんど間違えない理由はほかにもあるのだが、今言うことではないだろう。

 

「……お帰り、ぬい」

 

「(ただいま戻りました、兄上)」

 

 さらに言うと、ぬいは天元の妻になる話だったが、色々ぬいが拒絶して非公式の義兄弟となることになった。そのためかいつの間にかぬいは天元のことを兄上と呼び、慕うようになったのだ。

 

 ともかく彼女はこれにて鬼殺隊の一員となった。

 

「ぬい。今からでもやめることはできるぞ。本当に鬼殺をしていくのか?」

 

「(鬼という生き物がどういうものなのか、鬼殺隊が政府非公式の鬼を狩る組織であることも私は身に刻んでおります。この身はいつか助けてもらった方に捧げると決めていましたから、それを今更変えるなど私は決していたしません。……この宇髄ぬいの名に懸けて)」

 

 ちなみにぬいは読唇術に加えて言葉ごとの口の動きも学び、読唇術を使える同士であれば紙を使わずに意思の疎通ができるようになっている。いわゆる”口パク”というやつだ。

 

「それはわかったからよ。とりあえず、敬語をやめてくんね? 一応俺たち兄弟だよな?」

 

「(命の恩人ですから)」

 

「というか、こういう会話じゃなくて普通最終選別後ってもっと派手に感動的な再会になるはずだろ? なんで俺はこんなに地味でいれてるんだ」

 

「(あの雑魚鬼よりも兄上の方が格段に強いですから。十本に一本兄上に木刀を当てられるようになった私は異形にすらなっていない鬼には負けません)」

 

「まあまあ、いいってことよ。とりあえず地味に慢心だけはすんなよ。井の中の蛙大海を知らずってやつだ」

 

「(はい)」

 

 天元の家に住むようになってからは不安と安心からかすぐに泣いていたが、いつの間にか何にも動揺しない冷徹な女性になっていたぬいは須磨を優しく自分から剥がし、屋敷の中へと入っていく。

 

 彼女は現在十八歳。もうそろそろ十九歳になる頃だ。天元の家族になってから骨と見間違う程に痩せていた体は適度にふっくらとなり、ぼさぼさだった髪も美しく長い黒髪へとなっている。もちろん出るとこは出て、引き締まっているところはきゅっとなっているとても美しい女性となっていたのだ。

 

 なぜそんな彼女が鬼殺隊という組織の一員になったかというと、それは本人もよくわかっていない。彼女が見ていたのは長期間、家を空ける天元と彼を見送る三人の嫁たち。そしてたまに家にいるときに修行している天元だ。ぬいは気付いたら木刀を自分で持ち、素振りをしたくなっていて、そこから才能を見出され、忍の修行とともに剣術もそして呼吸法というものも学んだ。

 

「(刀では……私は無理かもしれない)」

 

 ぬいはそんな類まれな才能を持っているにも関わらず、どこか足りない表情をして自室に荷物を置き、木刀を手に取って庭にいた。最終選別用に天元がぬいに渡した日輪刀は天元が通常の刀を使わないため、この屋敷の唯一の刀である。ぬいは刀を扱うことができたものの、どこか”何か違う”感を感じていたのだ。

 

 ぬいは間合いが刀だと合わないのでは、と考え庭に落ちていたそこそこ長い木の枝を縄で固く木刀の先に結びつける。そして訓練用の案山子型の的にその即席の木刀棒を切りつけた。

 

 ぬいは刀の時より力がいれやすいように感じた。

 

「おうおう、休んでるかと思えば早速修行か? ……ん? なんだそれ」

 

 そんなところに天元が着流しを着て現れた。もうそろそろ彼は任務の時間である。着流しで大丈夫なのだろうか。

 

 ぬいは完全に視界の外から現れたどうしてか天元に気付き、そして口をパクパクさせてもう一度言ってくれと催促する。全く同じ台詞を口にした天元は追加でこんなことも口にした。

 

「派手にすげぇよな、それ。耳以外の五感が優れてるってやつ。俺の声の振動を感じたんだろ?」

 

「(……私にはこうするしかなかったものですから)」

 

 そう。彼女は耳以外の五感が常人の域を超えている。鼻で感情を読み取ることができるし、声も言語の判別はできないが、振動で感じることができるし、人が移動した空気の流れすら感じることができる。視力もかなりいい。いくらでもまっすぐ飛ぶ南蛮銃を彼女に持たせたら二つの山の間の最も長い距離の所にいる人の頭を射抜くことができるだろう。それくらい優れているのだ。

 

「まあ、とりあえずそれは置いとくこととして、さっきの質問の答えを言ってくれ」

 

「(刀では私は強い鬼に敵わないな、と思ったので刀を作ってもらう前にどうするべきかを考えていたのです。そしたらこの長さがちょうどいいように感じて)」

 

「……ふうん。確か、まきを がそれくらいのものを持っていたような……。……あれだな。まきを! 薙刀を持ってきてくれ! 真剣じゃないやつ!」

 

「(……どういうことでしょう?)」

 

 静かな足音でぱたぱたと長い棒―――薙刀を持って現れたのは天元の嫁の一人、まきを。なぜ持ってこさせられたのだろうと思っていたようだったが、ぬいの姿を見て、理解したようだった。

 

「ぬい! 帰ってきてたんだね! 挨拶くらいしてくれればよかったのに! 雛鶴さん! ぬいが帰ってきてるよ!」

 

「(あ、……薙刀、ですか)」

 

「おう。その長さとだいたい一緒だが……、刃の長さが短いからな。誰も使ってるとこは見たことねぇ」

 

「ほんとね! ありがとう、まきを。ぬい! おかえりなさい!」

 

 それぞれがぬいに話しているために会話の内容がごちゃごちゃであるが、ぬいはそれをしっかり拾い、ただいま、と雛鶴と まきを に返事をする。そして まきを から受け取った薙刀を広い庭で適当に振ってみた。

 

「(確かに薙刀となると必然的に刃の部分は短くなりますが、こちらの方が私には力がかけやすいですね。これを片端だけでなく、両端に刃をつければ少しは良くなると思いませんか)」

 

 数度薙刀を振ってみて天元の方に向き直ったぬいは提案をした。それを見た天元は少し考えると、ぬいに向かって歩き出す。

 

 そして薙刀をぬいから何も言わずに受け取って自分も振ってみた。

 

「これでも音の呼吸はできなくないな。他の呼吸も問題ねぇ。基本の五呼吸と音の呼吸を身につけてるお前にもちょうどいいかもな。複数の呼吸の習得者はぬいしかいない。そんなお前が新たに道を切り開くんだ。日輪刀は薙刀で頼んでみよう。ただ、刀も予備で作っておくぞ」

 

「(ありがとうございます、兄上)」

 

「んじゃ、俺は準備をしてくるわ。すぐに終わらせて帰ってくるからぬいは鍛錬終わらせて休んでろ」

 

「(もう少しします)」

 

「帰ってきたばかりだから休め」

 

「(もう少しします)」

 

「……雛鶴ぅ! 湯は沸けてるか⁉」

 

「はい!」

 

「派手に連行するぞ!」

 

「休みは大切ですもんね!」

 

 後ろを振り返ってぬいに顔が見られないようにそう言うと天元はぬいから薙刀を取り上げ、そのままぽかんとしているぬいを小脇に抱え家の中に上がる。放せ!と言わんばかりに暴れるぬいをそれ以上の力で押さえつけてるその様は本当に兄妹のようだった。

 

「……ゴオオオオオオ」

 

「おい! 呼吸は反則だろ!」

 

「(……兄上が勝手に連れてくからです)」

 

 小脇に抱えてると片腕の負担がやばくなったからか、それとも顔を見えるようにするためか、所謂お姫様抱っこに変えた天元は炎の呼吸特有の呼吸音が聞こえたため、ぬいの口と鼻を塞ぐ。そして呼吸をしなくなったと判断してすぐにその手を離した。

 

「休んだら任務をすぐに終わらせた俺と まきを が相手して薙刀で型を合わせるからよ。地味に勝手にやられて変な癖がついたら困るんだわ」

 

 その言葉を見たぬいはなるほど、と納得しておとなしく天元に連れていかれることにしたようだ。

 

 そして物事はとんとん拍子で進んでいき、気づいたらぬいは夕餉を食べていた。何もせずにゴロゴロしていたから凄く不機嫌そうに見える。天元はすでに任務に出ていて、まきを は先にご飯を食べて別のことをしているようで、この場にはいなかった。

 

「(……ごちそうさまでした)」

 

「あら。早いわね。そのままでいいから好きなことをしていなさい?」

 

 食器を下げようとしたぬいを雛鶴は止めて、そのまま自由にしてて、といった。これはおそらくぬいが不機嫌な理由を察して鍛錬をしていいよ、と言葉外に伝えたのだろう。

 

 それに気づいたぬいは嬉しそうに笑みを浮かべて足早に居間から去っていく。

 

 庭に出たぬいはふと嫌な予感を察知した。まきを が血だらけでぬいの視界外の何かをじっと見ているのだ。構えているのは真剣ではない薙刀。それも先端が少し折れているものだった。

 

 それを見たぬいは急いで最終戦別の時に使っていた刀を取り出し、まきを

の前に立つ。

 

 やはり、占められていた障子で見えなかったところに手負いの鬼が二匹いた。ただ、その顔は余裕に満ち溢れている。それは女を二人、目の前に見つけたからだろう。

 

「柱と出会うなんて運が悪いと思ってたが……女が二人もいる屋敷に転がり込めて運がよかったなぁ!」

 

「ワタクシたちは夫婦(めおと)鬼でしてよ! 特別にあの方に群れることを許されている、ワタクシは下弦の陸なの。そして、夫は下弦の弐なのよ! ただの武家の女にやられるわけがないわぁ!」

 

 ただ、この鬼は馬鹿だった。もう一人登場したぬいの方もどうせ同じ実力だろうと色変わりのしていない刀を見て思ったのがすでに馬鹿である。ただの刀を持っているからここは武家の屋敷なのだろうと考えている時点で馬鹿だ。

 

 すでにこの時代は廃刀令が出されているのだから、刀を持っているのはよほどの事情を持つものだけである。すでに廃刀令が出ているこの時代に武家であろうとなかろうと女が刀を持っていることに少し疑問を持った方が正解だった。最近は事情も血の多くが武家の飾り刀の所持ではなく、鬼殺の刀の所持の方が多くなってきているのだから。

 

 そんなとき、ぬいは まきを に逃げてもらうとしたが、顔を まきを の方に向けてしまえばそれは大きな隙となってしまう。逃げてもらいたくても逃げることができないのだ。

 

「さあて! まずはワタクシの血鬼術で心地よくなってもらいましょうかねぇ? そしてそのままこちらにおいで! 優しく食べてあげるわぁ!」

 

 女の方の下弦の陸の鬼が男の下弦の弐の鬼の前に立ち、どや顔を決めると、突然そのまま歌いだした。

 

―――血鬼術【美魅惑歌】

 

「(……隙だらけだけど)」

 

 ぬいは何か罠があるかもしれないと隙だらけである鬼に攻撃を加えず、そのまま刀を構えていると後ろにいた まきを がとことこと鬼に向かって歩き出したのだ。

 

 それに加えて下弦の陸が音を発していることは感覚でぬいはわかったので、ぬいはこの鬼の血鬼術が音を介して人の精神に作用するものだと判断した。そのため、まきを が持っていた木製の薙刀で軽く まきを 叩き強制的に気絶させ、屋敷の中に寝かせる。それを雷の呼吸を使い、鬼に察知されることなく行ったものだから、鬼は突然一人いなくなったことにとても驚いていた。

 

「何なのよ! この女! 私の血鬼術が聞いてないじゃない!」

 

「どういうことだ! 感覚に作用してるんだぞ! 効いてないわけがない! さっきの柱には効いてたんだ! おかげでここまで逃げてこれたっていうのによ!」

 

 下弦の陸と下弦の弐は想定外の出来事に大慌てし、二人合わせてぬいを襲ってきた。どうせ、鬼殺隊員ではないのだから雑魚であろうと判断して。やはりこの鬼たちは馬鹿であった。

 

「ふんっ! 私たち夫婦の奥義よ! せいぜい亡くなる前に楽しみなさい!」

 

―――血鬼術【土壁隆起】【土流星群】

 

―――血鬼術【美惑眠歌】

 

 自分たちで奥義とかいうあたり、相手に最大限の警戒をしなさい、と言っているようなものである。もちろん、その言葉をしっかり見て居たぬいは警戒を強め、来る攻撃に刀を収めて何に対しても対処できるようにした。

 

 刀を収めるのは、刃を出していれば多くの呼吸を身に着けるぬいには最善の手を考える思考時間を作ってしまうという負の側面が生じてしまう。その思考の時間すらなく、最速で最善に対処するためには雷の呼吸の壱の型である最速の抜刀術であれば第一撃は防げるうえ、第二撃への最善を思考するための時間を抜刀術中に得ることができる。まさに刀を収めることはぬいにとって最大限の警戒態勢なのである。ただ、誰にでもできることではなく、おそらくぬい限定の行動であろうが。

 

 そんな世間一般から見ると隙だらけの姿勢であるぬいは血鬼術によって土壁に囲まれていた。はるか高くにある唯一の出口である吹き抜けの天井から壁の淵に立つ下弦の陸が自慢の歌声を響かせる。空を飛んでいた夜行性の鳥がぬいのもとへと落下してきたことから睡眠系の血鬼術であることが想像できる。

 

 そんな歌声と一緒に土の塊が上から降り始めてきたのだ。それを見たぬいは下弦の弐が土を操る系の鬼であると想像し、血鬼術を抜刀術ではじきながら最善手を選び取った。

 

 ―――それを選ぶのが確実であると誰かから言われたかのように行動に移し始めていた。

 

―――水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱

 

 ぬいは水の呼吸の素早い移動に優れた型を使い、壁を蹴り、土弾を華麗によけながら下弦の陸へと迫っていく。歌に集中している鬼はそれに気づいていなかった。

 

―――水の呼吸 壱の型 水面斬り

 

 静かに放ったそれは玖の型のスピードが加わり、鍛錬の時よりはるかに早く下弦の陸の頸へと到達した。

 

 あ、と小さな声で言った時には下弦の陸の頸は落とされていた。それにより、あたりを満たしていた歌声の血鬼術は消え、壁の上に立つぬいに向かって落ちてくる土弾の音が夜の屋敷に広がる。ぬいは血鬼術を発動し続ける鬼を冷ややかに見降ろしつつ、土弾を森の方へ跳ね返していた。頸を切るその時を見定めていたのだ。

 

「いいぞ! ぬい! あとは派手に任せろ!」

 

 どんっと勢いのいい踏切音が遠くからあたりに鳴り響くと次の瞬間、土の壁は一気に崩れ落ち、その場には何もなかったかのようにただの庭が広がっていた。

 

 土壁が崩壊した影響でぬいも真っ逆さまに落ちたわけだが、これはどこからか現れた天元が見事抱え込むことに成功し、間に合ったぁ、と焦るわけでもなく呟いた。

 

「(……うーん)」

 

 特にそのことに疑問を持ったわけでもないぬいは天元の腕の中で思案していた。それは下弦の鬼の弱さについて。確かにぬいは超短時間で下弦の鬼を討伐することに成功している。下弦の鬼は鬼の中でも上から数えて十二番目には入るとても強い鬼なのだからこうもあっさり倒してしまえば疑問を持つことも当然であろう。

 

「いやあ、さっきの鬼は地味に面倒だったなぁ。さすが下弦の鬼といったところか」

 

「(そうは思いませんでしたけど)」

 

「いや? 考えてみろよ。あの鬼たちは無惨が群れないようにしていた鬼の則を無惨同意で破って夫婦で戦ってるんだ。つまり二人でいて初めて力を発揮する」

 

 天元は縁側までたどり着くとそこにぬいを腰掛けさせ、自分もその横に座ってあの下弦の鬼が弱くはない訳を説明する。普通はこんなことは説明しないが、ぬいの将来の鬼殺のために天元は説明したのだ。

 

「ちなみに俺は下弦の陸に殺られかけたんだ。理由は俺は派手に音が聞こえるからだ」

 

「(つまり、私は音が聞こえなかったからあの鬼を倒せたと)」

 

「そういうこった。考えてみろ? あの土壁の中で眠らされてちゃあ、すぐに食われるだろ? 眠るまでの時差は下弦の弐に稼がれるんだ。抗いようがない。俺は派手に爆発させて土壁を壊したから怯えた鬼らが逃げ出しただけなんだけどな。でもまあ、俺の屋敷に逃げるとは派手に思わなかったわ。俺は歌は聞けねぇから近寄れないから焦ったが、地味に面倒な奴はぬいが倒してくれたからな。ありがとよ」

 

「(……当たり前のことをしたまでです)」

 

 ぬいは恥ずかしそうにしながら、無事でよかったといわんばかりに天元に抱き着いた。抱き着かれた天元は驚きつつも微笑みながら抱き返し、ぬいの頭を撫でる。

 

 こうして、ぬいは最終戦別突破直後に下弦の鬼の頸を切るという前代未聞の大偉業を成し遂げた新人として鬼殺隊の中で超有名人となるのだった。

 

 




いやあ、元々この下弦の鬼'sは超淡白に済ますつもりだったので、淡白な印象で物足りないのはOKなんですけど、どうにも戦闘描写が難産ですね。難しいです。

これからどんどん戦闘描写がうまくなっていくといいのですが(-_-;)



~大正コソコソ話1~

今回登場した下弦の夫婦鬼は人間の時から鬼だったみたいだよ。

二人とも路上で活躍する系の歌手だったみたいだけど、夫さんが妻さんを不良に取られかけたのに抵抗したことで逆にボコボコにされて声が出せなくなったうえ、妻さんは目の前で犯されたものだから、二人とも人間に対する憎悪がやばいことになってどうやって不良たちを殺そうか考えていたところに無惨が現れて、その憎悪を見込まれて鬼にされたようだよ。

ちなみにその不良たちは夫婦が鬼になった直後に食い殺されているよ。


~大正コソコソ話2~

ぬいはこの後に天元のつけている額あてとそっくりな額あてを天元からもらったよ。

雛鶴からは化粧道具、まきを からは真っ白で太ももぐらいまであるタンクトップタイプの羽織、須磨からは髪を束ねる用の真っ白な髪留めともらったよ。

泣いて大喜びだったみたい。



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第三話

今日は展開が早い(?)と思います。

多分早く書きたいシーンがアニメにどんどん登場してきているからだと思います。

遊郭編に入りたいですが、まだ原作の四年前。しんどいです。ペースが遅いです。さっさとぬいを甲にしたいです。

無限列車編も書きたいです。さっさと夢でぬいは幸せ(絶望)になってほしいです。

要約しますと、三話目にして難産でかつ、あんまり納得してないです。

タグでバレバレですが、縁壱フラグ建築したな、って誰でもわかると思います。

ちなみに隠してないです。意味なしに主人公最強とかあんま好きじゃないので先に最強じゃないことを宣言しときます。

大方最強の縁壱が悪い(((


では、長めの前置きはここまでで、これらを読んでくださった方に感謝。

本編スタートです。

納得いかなくても苦情は受け付けませんよ!!(((



 ぬいは頭を垂れていた。

 

 もちろん相手は鬼殺隊の若き棟梁、産屋敷耀哉である。下弦の鬼を入隊直後に討伐した件について話したいことがあったのだろう。

 

「……宇髄ぬい、か。いい名前を貰ったね。……そして君は音が聞こえないのだよね」

 

「(はい。そうです)」

 

「御館様。ぬいは音が聞こえないことに対し、そうであると返答しております」

 

「そうかい。ありがとう、天元。私はまだ右目は見えるのだけど、読唇術は身につけていないからね。天元がいてくれて助かったよ」

 

「……筆記でやり取りすることも可能ですが」

 

「いいんだよ。私は天元とも話したかったしね。君の継子の話とか当主として聞かなくてはいけないから」

 

「私めを呼んだのはそういうことでしたか。ご連絡が遅くなってしまい、申し訳ありません」

 

 そんな天元の謝罪に謝罪はいらないよ、顔をあげて?と優しく微笑んで促す耀哉に失礼します、と答えてから天元は顔をあげる。

 

「じゃあ、本題に移るよ。……この度は天元と ぬい、下弦の鬼の討伐ご苦労さま。特にぬい。君は最終戦別を突破したばかりで自分の刀も持っていないのによくやったね」

 

「(……もったいなきお言葉です)」

 

「……もったいなきお言葉ですと申しております」

 

「そう。ありがとう、天元。……本来ならば十二鬼月を倒したという事実は鬼殺隊の最高位である柱としての力があるということを示すものになるんだ。でも、君はまだ癸としても仕事をしていない鬼殺隊最弱の地位。急に柱に挙げても周りの子供たちが反対することは目に見えているだろう」

 

「(そうですね)」

 

「私もぬいも同じような心持でございます」

 

 耀哉は天元たちの一つ一つの返答にうなずきながら自分の考えをすらすらと述べていく。

 

「でも、ぬいが天元の継子であるというのも事実だ。実績を評価しなければ、ぬいが他の子供たちに舐められるということもあり得る話だろう」

 

 そこまで言って耀哉はすっと手を挙げた。それを合図に彼の後ろの襖が開かれ、一人の女性が長い物とともに座敷に現れる。

 

「今まで私たちは護衛を付けることを拒んできた。それは私たちの身よりどこかで鬼の被害にあっているであろう人の方を救うべきだと思っていたからだ」

 

「それは、つまりッ!」

 

「ぬいは下弦の鬼を討伐した功績により戊に昇格するよ。ただ、そこから鬼を五十体倒せば過去の経歴と並べて特例で甲に上がるし、そのまま柱にだってなりうる。これは下弦の鬼を討伐した新人として当然といえるだろう。まぐれであるとしても事実には変わりないからね。これくらいならば誰だって認める。そして私達、産屋敷家が護衛を付けなかった理由を今まで人的被害を最小限に抑えつつ、私達の身を守るに足る才能に溢れたものがいなかったから、としてぬいを形だけの私たちの護衛として任命する」

 

 異例の大抜擢である。今までいなかった護衛を形だけとはいえ、産屋敷家に付けるのだから。それに天元は驚きを隠せず、耀哉の方を見上げて硬直している。

 

「これは本来ならば柱となるに足る事実を行ったが故。地位を戊に抑えたからこそ、与えた護衛という地位だと思ってくれると嬉しいよ。ただ、あくまで形だけだ。君は多くの人を救える。だから、定期的に私たちの家に来て護衛をしている風に見せて、しっかり任務をこなすんだ。激務になってしまうが、許してほしい」

 

「(問題はありません。それもすべて功績を認めてくださったからでしょう。私には多すぎる報酬ではありますが、お望みの通りに刃を振るう覚悟はできております)」

 

 天元はぬいが言った言葉をそのまま耀哉に伝え、自分も師匠としてありがたいと感謝を伝える。そしてその言葉を受け取った耀哉はようやく女性から長い物を受け取り、膝をつく ぬい にそれを差し出した。

 

「これは早めに作るように刀鍛冶に頼んだものだ。千子村正のようにまではいかなくとも素晴らしい腕を持つ刀鍛冶に頼んだから一級品だよ。君の薙刀と刀、そして脇差だ。何色に変わるか見せておくれ」

 

 長い物は薙刀などが入った袋だったらしい。ぬいはそれを受け取って袋から薙刀を取り出し持ってみた。すると刀身がずずず、と黒に限りなく近い灰色である消炭色に染まる。

 

「初めて見る色だね」

 

「私も初めて目にします」

 

「ほぼ、黒ですね」

 

 耀哉、女性、天元の順に言葉を紡ぎ、ぬいの方を見る。ぬいは三人になぜそのような視線を向けられているのかわからないようだった。

 

「私の継子ですがどうやら適正呼吸は音や雷ではないようです。だから多くの呼吸を身に付けているのでしょう」

 

「確かに報告では水の呼吸で鬼を断ったと言われたね。ぬいの適正呼吸はいったい何なのだろう」

 

「……私は無知でありますゆえ、望むような回答はできませんが」

 

「何か心当たりでもあるのかな?」

 

「心当たりといいますか、誰もが思いつくことでしょうが……。ぬいは新種の呼吸、もしくは過去に消え去った呼吸の使い手となるのではないでしょうか」

 

 その言葉を聞いた耀哉は満足したように頷く。そして、言葉を紡いだ。

 

 

”若草 萌ゆる

 

我が命は断罪に 我が使命は果たされず

 

遥か彼方へ (めい)を託す

 

いつか私を 超える者へ

 

耳は聞こえず 女子(おなご)であれど

 

我が命は 未来へ落ちるべし

 

芽生え萌ゆるは 新たな者へ”

 

 

 そこまで言った耀哉は口をぴたりと閉じ、ぬいの方を見る。どこか遠くを見るような目でじっと彼女を見つめたのだ。突然のその(うた)をすらすらと暗唱した耀哉は天元と女性から困惑の視線を受け止めつつ、にこりと笑い返した。

 

「……その詩は……?」

 

「最強の剣士と記録に残る者が最後に産屋敷家に送った手紙の内容だよ。諸事情で彼の生涯のほとんどは鬼殺隊としてのものではなかったけど、その功績はすごい物だった。そんな彼がこんな予言めいた詩を産屋敷家に送ったんだ。何かあるものだと一族はこれを残してきたんだよ」

 

「……確かに内容的には ぬい さんに類似する点はありますが、予言だとは思えません」

 

「あまね。予言か予言じゃないかではないんだ。かの剣士は黒色の刀を使っていたそうなのだよ」

 

「それは!」

 

「そう、ぬいの刀の色に似ている。私は彼女がかの剣士と同じ呼吸の使い手であると考えている。いや……確信している。……どうかな、ぬい? 君はどう考える? ……ぬい? 顔が赤いけど大丈夫かい?」

 

 ぬいは先程までじっと耀哉の顔を見ていたものの、詩を聞き()終えた後から顔を赤くして下を向いていたのだ。何やら恥ずかしがっているようにも見える。

 

「(だ、大丈夫ですっ。別に私のことじゃありませんし、関係ないことですから。なんでこんなに恥ずかしいのかはよくわかりませんが、きっと因縁があるのでしょう。関係ないと思いますが)」

 

 耀哉はふりふりと ぬい が首を振るのを見て、天元の仲介を前に言葉をつづけた。

 

「……そうか。きっと恥ずかしいのだね。この詩を示すのが自分であるということに気づいて。意味は”若草が育つ。私の命は断罪をするためにある。だが、私はその使命を果たすことはできなかった。遥か未来へ、その使命を受け渡す。いつか神に与えられた強さを超える者へ。その人がたとえ、耳が聞こえなくとも、女であっても、私の使命は誰かに受け継がれるのだ。新たに芽生え、使命を果たすのは未来の者たちだ”というものだ。……きっと ぬい は無惨を倒すための大切な鍵となりうるだろう。だから、ぬい。私達に力を貸してくれないか?」

 

「(……大した力にはなれないと思いますが、是非とも我が刃をお使いくださいませ)」

 

「なんといっているかわからないけどね。後で天元に教えてもらうことにしよう。時間も時間だ。子供たちの護衛についてもらってもいいかい? そして夜が明けたら炎柱邸に行ってもらいたい。そこで過去の書物を見せてもらうといい。そこには現炎柱である煉獄槇寿郎もいるし、次期炎柱の煉獄杏寿郎もいる。次期の子は確か今、十六歳だったはずだ。中々優秀な子……。いや、同期だね」

 

 同期……?と首をかしげる ぬい に対して疑っていたわけじゃないが、本当に言葉がわかるんだね、と耀哉は微笑む。困惑している ぬい に天元は柱であるゆえに知っている彼についての情報をぬいに言う。

 

「派手な髪色のやつだ」

 

「(……派手……。ああ、彼ですか)」

 

「誰かわかったみたいです」

 

「そう。彼も多くの未熟な剣士を助けていたからね。ぬいほど多くはないが、彼も多くの鬼を狩っていた。おかげで今年は鬼の補充が大変だよ」

 

 ふふふ、と縁起でもないことで笑う耀哉を見て天元は少し眉をひそめた。

 

「ぬいはもういいよ。我が子の元へ あまね と行ってくれないか? 我が子たちも ぬい のことを歓迎してくれるだろう」

 

「(……では、失礼します。恩を仇で返すことはありませんので、安心してこの刃をお振るいくださいませ)」

 

 天元がぬいの言葉を伝えて、ぬいはようやく部屋から退出する。そしてあまねの案内の元、彼ら夫婦の五人の子供の前へ姿を現した。たくさんの紙が散乱しているその部屋を見て、少々不思議がる ぬい をみて あまね は焦る。耳が聞こえないから、と話していたから子供たちは紙を用意して、最初に会いに来た時の言葉を先書きしていたようだったのだ。

 

「(……何を?)」

 

 この状況がわからない ぬい は思わず口を動かした。それを横目に見た あまね は落ちている紙を拾い、子供たちの使っていた筆を使って『すみません、この子たちが楽しみにしていたようで』と書いて ぬい に見せた。

 

 そういえば、ここには天元がいない、と気づいた ぬい は急いで紙を二枚拾って筆を借り、さらさらと文字を書いていく。そして、一枚をあまねに、もう一枚を五人の子供たちに見せた。

 

『あまね様、ご心配には及びません。素晴らしいお子様と出会えて幸せです。この部屋まで案内していただきありがとうございます』

 

『皆様。私は相手の口元が見えていれば、言葉を理解できます。読唇術、というやつです。ですから、皆様がお話しするときは私の方を見ていただけると嬉しいです。私からの言葉は筆談となりますが、皆様の声の揺らぎを体で覚えるためにも声を発していただけると嬉しいです』

 

 その紙を見て、五人の子供たちは「おぉ~」と声を上げた。そしてあまねは顔を赤らめた。先程の耀哉との謁見でぬいが読唇術をできるということを知っていたというのに子供たちのはしゃぎように焦り、思わず紙で意思疎通をしたことを恥じているのだ。

 

「では、自己紹介をさせていただきます。―――」

 

 子供たちと対面したぬいはその後、一人一人の言葉をしっかりと見ていた(聞いていた)。音の振動も覚え、意思疎通も大丈夫であろうというほどまで親密になったのだ。

 

 対して子供たちの方はぬいの発言には紙を媒体としなくてはいけないもどかしさから音柱に読唇術を学ぶ、という目標ができた。知らぬところで仕事が増えた天元である。今まで遠巻きにされて、人と関わることが多くなかった子供たちはぬいの存在がかなり大きいのだろう。家族以外の人で友人になりえる存在だ。齢四歳の五つ子はそれがとても嬉しかったようだ。

 

 そして、しばらくして ぬいの元にあまねがやってきた。

 

「ぬいさん。任務のお時間です。屋敷にいるのに鴉を飛ばすのはどうだ、と御館様が判断され、私が言葉をお伝えします。南南西、小さな村、そこに鬼の痕跡あり。隊員、煉獄杏寿郎と共に鬼を討伐せよ。以上です。詳しい場所は鴉が案内してくれるでしょう」

 

 その言葉を見た ぬいは紙に文字を書く時間が惜しいのであまねに深々と頭を下げた後、先程まで一緒に折り紙で遊んでいた五人の子供たちにも頭を下げる。

 

 それを見た子供たちは寂しそうに、だがそれでいて流石産屋敷の子供だとでもいうように声をそろえて「いってらっしゃいませ」とぬいに言葉を掛けた。

 

 ぬいは部屋の隅に置いていた薙刀と刀、脇差の入った袋をつかみ取り、襖をあけ、縁側から外へ飛び出した。明らかに失礼な行為であるが、鬼のことをよく知っているがゆえに産屋敷家の者は許容した。寧ろそれが好ましい行為であるとまで認識していた。

 

「(夜が明けた後に炎柱邸もとい煉獄家とおっしゃっていたが、都合のいい任務があったからそれを取り消したのだろう)」

 

 ぬいは夜が明けるまで子供の護衛ごっこ(・・・)をされると思っていたが故に、この任務には驚いていた。ただ、命じられたことには意味があるのだろう、と刀と脇差を腰に装備しながらそろそろ夕焼けの時間になるであろう道を駆けていく。

 

「(どこへ行く?)」

 

 ぬいが向かっている方向は南南西ではなかった。指示通り鴉について行っているのだが、どうも向かうべき場所とは違う方へ向かっているのだ。

 

 そして鴉はついにある屋敷の前でくるくると旋回して動かなくなった。

 

「うむ! さあ! 案内してくれ!」

 

「(うわっ)」

 

 不思議そうにそこに立ち止まった ぬいは視界外からくる気配を避けることが出来なかった。完全に意識の外にあったということだろう。故にぶつかった。人がいるのはわかったが対処が遅れ、ぶつかったのだ。

 

「すまない! 君は誰だろうか! 隊服を着ているようだが!」

 

「(えっ、と。私は宇随ぬいと申します。あなたは?)」

 

「なんといっているかわからないな!」

 

「(あっ。……私の鴉は指文字がわかる鴉を頼んだって兄上が言っていたから……)」

 

 ぬいは鴉の方に体を向け、胸元のポケットから一枚の紙を取り出した。其処にはいくつかの指文字の意味が描かれている。それを見ながら ぬいは鴉に向けて”私のことを伝えて”という指文字を作る。

 

「カアアアアアア!!! コイツ、宇随ぬい!!!! 音柱ノ継子ォオオオオ!!! オ前ノ同期ィィィ!!! チナミニ音ガ聞コエナイ!!!! 読唇術ヲ身ニ付ケテイル!! ダカラ言葉ハ伝ワル!!!」

 

「うむ! 俺は煉獄杏寿郎だ!! 宇随ぬい……任務を一緒にする方だったか? 認識は間違っていないだろうか?」

 

 言葉で意思疎通ができないため、こくりと頷く ぬいに目を輝かせる杏寿郎。自分の言葉が伝わっていることに感激しているらしい。

 

「オ前、年下ァアアア!!! 敬語使エ!!!!! 俺ノ主、偉イ!!!!」

 

 ちなみに、ぬいは鴉の嘴から言葉を判別することができないため、鴉の言い過ぎは注意できない。よって、このような事故が起こる。

 

「そうか! それは失礼だったな! 敬語をこの後は使わせていただく!」

 

「ソレデイイ!!! 素直デ好マシイ!!! 俺ノ主ノ婿ニ来イ!!」

 

「婿入りは遠慮しとく!!! それと初対面の人間にそういうことを言うのは些か不安な鴉だな!!!」

 

「(何が起きている……⁉)」

 

 完全に会話の中心である本人をおいて鴉と杏寿郎の会話が進んでいると、杏寿郎の鴉が行クゾ!といい、飛び去ってしまった。それを見た ぬいは焦って手をぶんぶんと振り回す。会話に夢中になってた ぬいの鴉と杏寿郎はそれに気づき、行くか!と同時に言う。

 

 これが名相棒の誕生の瞬間である。

 

 




お願いです…!殴らないでッ!!((

以上、御館様と対面編、四歳児との対面編、杏寿郎との対面編でした。

怒涛すぎます。

一級フラグ建築士を名乗ってもいいですか???ダメですね。

ちなみにアンケート取りたいんですよね。(特に意味のないアンケートをしたいだけ)

ついでにオリ隠を募集したい。(意味しかない発言)

設定としては主人公と同期で主人公に助けられたけどお礼を言えず、自分の実力に絶望した杏寿郎より年下の男子とその男と双子の鬼殺隊に無関係だった女子。

活動報告で募集したいと思うのでそちらにコメントの方をよろしくお願いしますm(__)m

正直言うと、隠を考えていなかったッというだけなので、考えようと思えば考えます。

でも読者さんと一緒に盛り上がりたい欲があるのでッ!!!!!!!!!
是非!!!!!!!!!!!!!!!!!


では、次回、第四話。杏寿郎と一緒に鬼を討伐しに行ったよ!初任務にしてはむずすぎないか⁉をお楽しみに!!


~大正コソコソ話~

帰宅の前に読唇術教えて、と四歳児に言われた天元は仕事が増えたことに内心頭を抱えたそうです。嫁たちと一緒に教えていくことになりました。


追記:隠募集はこちらから↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=273869&uid=287146




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第四話

お気に入りとしおりがめちゃくちゃ増えている……⁉評価まで⁉

ありがたすぎます……!

感謝が天元突破……!!!

隠アイデアも感謝です!!!

***

本来ならば一話で終わらそうとしてたのですが、前半までが長くなってしまって、きりがいいとこまで書いてみたんですけど、それが4843字……。前回よりはるかに少ないっす……汗

では、本編をどうぞ!




 二人が着いたのは任務内容にもあったように小さな村。ただ、どこか陰気臭く、来訪者を迎えるような、そんな雰囲気ではなかった。

 

「……お外の人?」

 

「?」

 

 まずは綺麗な夕日が落ちてしまう前に聞き込みを、と意気込んだ杏寿郎の前に健康的な一人の少年が怯えた気配で二人を見ていた。そんな彼に杏寿郎は腰を屈めて話を聞こうとする。

 

「うむ! その通り、我らはお外の人だ! この辺りに起きている不思議なことを解決するためにここに来た!」

 

「……神狩り」

 

「は?」

 

「神狩りだ!!! おじさんたち!!! 神狩りが来た!!!」

 

「(神、狩り……ッ)」

 

 少年は大声で叫んだ。鬼狩りであるはずの二人に向かい、神狩りだ、と言いながら。すると、少年は態度を一変してにこにこと笑って二人を見上げる。その急変に警戒心を高める二人だったが、少年から発せられた言葉はそんな心配とは無縁の発言だった。

 

「……お外も暗いです。鬼が出てきましょう。泊まれる場所まで案内します」

 

「……行くしかない、か」

 

 まだ、夕日は沈んでいない。血鬼術で操られているのなら、日のある刻には支配が嫌でも外れる。そのため、二人は為す術無く少年の案内の元、村で一番立派であろう家に案内される。いや、この家が村にあるのがおかしいぐらい立派な屋敷が目の前にあった。村の家々に隠されていて、一般的な街道からの村の入り口からは全く見えなかったのだ。

 

 その屋敷からは隠す気がないほどの鬼の気配がするのだ。

 

「ここは村の守り神の屋敷です。僕らの家でもあります。他の家じゃ、鬼に襲われちゃうんだけど、ここだったら大丈夫なんです。だから客人はこっちに通すように言われてて」

 

「ッ。ありがとう! では我らはここで休もうか!」

 

 杏寿郎の言葉に頷くぬい。これ以上の詮索はやめた方がいいとの判断だった。

 

 部屋に案内されても緊張感が解けない二人は鬼の監視があるこの屋敷で作戦会議ができるはずもなく、このままでは無言のまま決戦の時を迎えてしまう。そんな危険な状態で戦い、ましては初の共闘に挑むのも無理があると判断したぬいは懐から紙と天元に買ってもらった鉛筆を取り出した。

 

『私は耳を除く他の感覚器官が人よりも遥かに優れています。そのため、人の感情が手に取るようにわかるので、してほしい行動など細かいことはわかりませんが、伝えたいことがありましたら、強く考えてください。私が合わせます』

 

「⁉ それが噂に聞く超高級品の鉛筆か⁉」

 

『そうですが。とりあえず内容は把握していただけましたか』

 

「うむ。把握はできましたが、貴女の鴉に怒られてしまうので、貴方は敬語を外していただけると!」

 

 鉛筆に驚かれ、敬語を使うなと言われ、いったいこの紙に書いてあることは本当に把握できたのかと不安になるぬいだったが、一呼吸おいて、紙に言葉を書き連ねる。

 

『わかった。敬語を外すとどのように話したらいいかわからないから、兄上の口調を真似するが、いいか』

 

「敬語を外してくれるなら別にいい! です!」

 

「……失礼します」

 

 そんな最中、二人の男が彼女らのいる部屋へと入ってきた。その手には少し冷めている質素な料理があった。決して客人に出すようなものではないといえるだろう。

 

 そしてその男達をはじめとして服を持ってきた女も現れる。

 

 だが、入ってきた男女は全員初めに見た少年と比べ物にならないほどやせ細っていてどこか虚ろだった。

 

 はっきりと言おう。二人はそれが不気味でたまらず、与えられたものには触れもしなかった。

 

 一人の男はぶつぶつと何かつぶやいていて、女は息を荒くしてなぜか顔を赤らめている。もう一人の男は頭を下げたままずっと助けてくださいと呟いている。

 

 人は増えていくばかりだった。

 

『囲まれていることには気づいているか』

 

「さすがに視界内にいるやつのことを言われてもな! 把握しているとしか言えないですがね!」

 

 食事を運んできた男達が。召し物を置いてきた女が。紙で会話している内容が危険すぎないことから無視をし続けていたが、流石に誰も部屋から出ていかないとなると危険視する。

 

 

 戦闘は突如として始まった。

 

 

「ッ⁉」

 

「(やはり、か。操り人形のように人間を使う鬼。……厄介でしかない。……声が届かないのは些かやりずらいな)」

 

 周りの人間が一斉に刃物をもって二人に襲ってきたのだ。二人は刀を鞘から抜かずに彼らを気絶させていく。それも面倒になってきたころ、襖から一人の男―――鬼が入ってきた。

 

「いやあ、ようやくあの女に頼り切りで強かった夫婦鬼が殺されたんだ。しかも、鬼狩り見習いに殺されたようだったね。無様だなぁ。だから俺があの二人の分まで鬼狩りを殺してあの方に献上したんだ。そしたらね、そしたらね、空席になったあの夫婦鬼の席に俺と俺の子供を鬼にして入れてくれるとおっしゃったんだ! だから、俺はその間にもたくさんの鬼狩りを狩ろうって思ってね? 新人っぽい君たちを雑魚鬼を使って誘き寄せたってわけ。わかる? 俺に嵌められて敵うはずもない鬼の元に君たちは来ちゃったんだ」

 

「うるさい鬼だな」

 

「(振動が不快、しゃべるな)」

 

 豪華な着物を着た鬼は両目を前髪で隠していた。だが、ちらちらと見えるその瞳の色は黒曜石のような漆黒。本来白目であろう部分まで黒かった。

 

「ふふふ。俺はそこらの雑魚鬼と格っていうものが違うんだ。そうだね、例えば血鬼術。大人たちは俺の言いなりだよ。最近巣にしたばかりだから血鬼術を使わなきゃいけないのが癪だけど、丁寧にやらないとね? 足元が掬われるのはごめんだ。でも、時間を掛けるほど、俺の巣は確固なものになる。信仰は集めるんじゃない。自然にできるものでもない。なら、どうすればいいと思う? まずは外から人が入らず、出ていかず、のところに巣を構えてね? そして、忙しい親の代わりに俺が子供育ててあげるんだ。大人には酒と称して俺の血を混ぜた水を。子供には楽しい遊び場と食事を。そして、そこでの常識をあの方と俺を絶対にしてくみ上げればいい。何年か経てばそこは立派な巣だ」

 

「……ッ」

 

「そうそう。大人たちはね? 反論していくんだけど、俺の血でだんだんと逆らえなくなっていく。太陽光も嫌いになっていく。そして夜しか行動しなくなる。……つまり、鬼役さ」

 

「は……?」

 

「そして俺が殺してあげるんだ。そしたら子供は鬼を怖がり、俺は人を食える。多少まずくても子供のためさ」

 

「(……ひどいな)」

 

「そして俺に信仰的だった子供も大人になっちゃうだろ? 外へ出すんだ。そして酒を成人の儀としてあげる。そしたら、その血に刻まれている通りの行動をするんだ。昨日まで家族だった女と日中連夜子作り。女の方は面白いからその行動は刻まないんだけど、男の力に敵うはずもなく、されるがままで苦痛も快感に、ずぶずぶと破廉恥になっていく。妊娠してもなお、快楽に抗えなくなるんだ。それでまあ――――――そういう風になったら子供を産む前に食ってあげるんだ。言っただろ? 痛みも快感になるって。最終的に耐えられた母体だけが永遠に子供を産む機械となってもらうんだ。そして最終的にはみーんな鬼役でがぶり。ほら。完璧だろ? ―――子供は宝だ。ずっと育ててあげよう。だが、大人は? 子供だけでいい。子供を落として消えるだけの道具さ」

 

 ぬいはそんな鬼の発言を見て、子供に執着するその姿にどこか既視感を覚えた。それはある家で住み込みで働いていた時に読んだ本に書いてあった話だ。

 

「俺は子供だけの世の中を作るつもりだ。実験でいくつか村を破壊せざるを得なかったが、それもまた良し。俺の子供は過去最高の出来になっているのだから」

 

「……お前の考えに同意する点もいくつかなくはない。強き者は弱き者を守る責務がある。……だが、お前はそれに大人を入れていない。ましては毛嫌いしている。そんなに子供が好きなのか」

 

「ああ。特に処女は美しい」

 

 ずっと思案していたぬいは情報をようやく整理し終える。

 

 

 その鬼には長い角が生えていた。そして、その鬼は処女を好んでいる。

 

 

 ここまで情報が集まれば十分だと判断したぬいは刀を腰に付けなおし、袋から先程もらった消炭色の薙刀を取り出す。

 

 ふつうの薙刀は一方の末端に刃物がついているが、ぬいの持つ薙刀は両末端に刃物がついていた。

 

「(さっさと殺す。お前の振動は不快だ。それと、語りすぎだろう。口を閉じろ)」

 

「……ああ、さっき紙に書いていたね。確か、耳以外の感覚器官は優れている、だったかな。君は処女だけど、体はもう大人だな。惜しいが消えてもらおうか」

 

 杏寿郎に説明している時間がないな、と思ったぬいは単独で鬼に切りかかる。しかし、それは操られている大人たちに阻まれる。

 

「厄介すぎる!」

 

「ふふふっ! この屋敷に久しぶりに大人を入れたんだ! 不快だ不快! さっさと死んでくれないと不快だ! 気持ちよく殺しておくれ!」

 

 せっかく刃を晒したというのに襲ってくるのが人間であれば結局先程の二番煎じ。意味がまるでない。ならば、相手の使えない、こちらを攻撃できないものを使えばいい。そう判断したぬいは天元特製の正露丸みたいな爆薬を取り出す。

 

「(私は宇随ぬい。音柱の継子。ならばやるべきことは一つ。派手に! 爆発!)」

 

 ぬいは人のいない方、そして隣の部屋に誰もいないのを肌と匂いで感じながらその爆薬を投げて、薙刀で切りつける。

 

 

―――音の呼吸 肆の型 響斬無間

 

 

 ドンッと大きな音が響き、立派な屋敷の壁が破壊される。弾ける爆弾の中には煙玉も混じっており、辺りは一面真っ白になった。

 

「何をしているのですか!? 危険です!」

 

「(―――祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛きものも遂には滅びぬ、ひとえに風の前の塵に同じ)」

 

 肌からびんびんと感じる杏寿郎の驚きと怒りの感情。煙の前には視界が消えて、普通なら音に頼らなければいけないが、ぬいにはそのようなことはできない。杏寿郎の言葉はわからないし、なぜ怒っているのかも想像がつかない。

 

 彼女は杏寿郎の位置を空気感で把握し、襟首を引っ張り、人のいない隣の部屋から外に出て屋敷から遠ざける。そしてそのまま村の外へと杏寿郎を誘導した。

 

 あまりに急なことで驚いている杏寿郎を置いといて、ぬいは元居た方向に薙刀の刃を向ける。

 

「(―――お前の栄華は終いだ。爆風の前に消えろ。一角獣を模した鬼め)」

 

 村の入り口から出てきたのは先程の前髪の長い一本の角を持つ鬼ではなかった。

 

 

 そう。まるで容姿は一角獣―――西洋風に言えばユニコーン。

 

 

 ただ、少しだけ開いている口から鋭い牙、そして先程まで生きていたであろう男の腕があるという野生に生きる一角獣あるまじき格好であった。

 

「お主、その姿に戻るのはいつ振りかのう? 約束の時間になっても若い女子を連れて来んから様子を見に下山してみたら二人の鬼狩りに殺されかけておる。愉快じゃ愉快。儂のが先に十二鬼月になれそうじゃなあ?」

 

「これから戦闘するんだよ。勘違いするんじゃないね、糞爺」

 

「援護するか?」

 

「ふざけんな。お前を先に食うぞ」

 

「まあまあ。確実に殲滅する方が飯もうまいじゃろ?」

 

「……チッ。勝手に笛でも吹いてろ糞爺。犬は出すな。出したら俺が食う」

 

「わかったわかった、糞餓鬼」

 

 そこに現れたのは笛を持ったしわくちゃな老人鬼だった。誰が周辺に鬼が一体と言ったのだろうか。そう。誰も言っていない。一角獣鬼と同じくこの老人鬼も十二鬼月級だと自分で言っている。確実に厄介な手合いとなってしまった。

 

「……厄介すぎるぞこれは」

 

「(……笛ならば私の相手だな。今のうちに紙を)」

 

「何しようとしてるのかなぁ? まあ、先手必勝だよね。男は殺して処女は食っちゃおう」

 

 人を操る一角獣鬼と正体不明の笛を持つ老人鬼。それに相対するは将来有望の新人の隊員二人。片方は炎柱の本来であれば継子。もう一方は十二鬼月をすでに倒している隊員で音柱の継子。

 

「(やるしかないだろう)」

 

「……だが、俺は俺の責務を全うする!」

 

 

 本番はここからだ。

 

 

 

 




最後の老人鬼、無限列車編の映画を見た人なら……覚えがあるかも?です。

本来ならば、歯車の犠牲者になってたとこなんですけど、直前で入れよう、と。

まあ、そのせいで伸びたんですけどね。


隠のアイデアはまだまだ募集しておりますので、前ページのリンクからどうぞ!!!


鉛筆一本この時代では現代の価値で3000円以上する上、高級官僚などが使っていたみたいです。天元のコネクションと財力よ……。


~大正コソコソ話~

ぬいは、いらいらしつつ、この鬼の話し方、教祖様に似てるな~って思っていたみたい。
誰?????



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