白き悪魔?天使? (嫉妬憤怒強欲)
しおりを挟む

第一話 天使降臨?(前編)

初の転生ものです。


 

 給料日。

 

 それは社会で働く者にとって一ヶ月で最も重要で、嬉しかったり悲しかったりフリーダムだったりする日。

 

 日本でそこそこ名のある企業メーカーに勤める神木司(29歳独身、技術者兼整備士)にとってもそれは例外ではなく、仕事が終わるや否や早速ATMでおろした給料を片手に走り出した。

 彼の目的地はホ○ーゾーン。

 

 給料日の帰りには自分へのご褒美として、新作のプラモデルかゲームを買いに行くのが働き始めてからの彼の慣わしだった。

 

(ダブルオーもいいが鉄血のもまたそそるな)

 

 稼いだ金で趣味に生きる、彼にとっては至福の瞬間である。

 

 1時間ほど後、彼はホ○ーゾーンの紙袋に入ったプラモデル片手に、今にもスキップせんばかりの上機嫌で帰り道を急いでいた。

 

(待ってろよ。週末には俺好みに仕立てて、コンテストに出品してやるからな)

 

 横断歩道を歩いている彼はふと正面から近づいてくる、車のヘッドライトの光に気づいた。

 目を細めつつ確認するとハイビームで横断歩道に突っ込んでくる車が目に入る。

 車から見て信号は赤、停止を意味する色を理解していないのかぐんぐんと彼との距離をつめてくる。

 

 多少浮かれていたためもあり、気づいたときには既に避けても間に合わない距離だった。

 

「―――え?」

 

 衝突の瞬間、体の芯から嫌な音がする。

 あっさりと彼の体は宙を舞う。

 

(ああ、最悪だ……これが死ぬって事か……)

 

 意識が激痛に耐えかねて失われるまでのほんの刹那の間、彼の脳裏を駆け巡ったのは事故に対する恨み言でも、人生を振り返る走馬灯でもなく

 

(今日買ったプラモも、今後発売予定のプラモも、もう作れないのか…)

 

 モデラーとして○ンダムのプラモが作れないことへの無念だった。

 

 

 

♢♦♢

 

【ここではない何処か遠い世界、『アティスマータ新王国』】

 

 

 夢を見た。

 揺れる馬車の中で、黒を基調とした服を纏い、左腰に剣を差している小柄な少年は眠りから目を覚ます。

 

 服の上からでもわかる線の細さ。うっすらと青みがかった銀髪を肩よりやや短いミディアムのストレート、パッチリとした金色の瞳、顔立ちは非常に美形で、美少女と勘違いしてしまうほど整っていた。だが男だ。

 

(……なんか久々に昔の夢を見たな)

 

 少年は腕を伸ばす。

 あまりにも馬車の揺れが心地よく眠ってしまったが、まさかあんな夢を見るとは思わなかった。

 眠い目をこすりながら辺りを見渡す。

 

(辺り一面何もない)

 

 そう思い馬車の御者に声を掛ける。

 

「なあ御者さん、目的地まであとどれぐらいなんだ?」

 

 そう言うと御者はこっちを振り向き、

 

「あと1時間で着くよ。まぁそれにしてもよくぐっすりと寝てたね」

「いやぁ…あまりに揺れが心地よかったからつい」

 

 「あはは…」と気恥ずかしそうに頬をかきながらそう言うと、前方に高い壁が見えてきた。

 

「見えたよ、あれが目的地のクロスフィードだお嬢さん」

「……俺男なんだけど」

「えっ」

「えっ」

 

 五つの市街区から成る、十字型の城塞都市『クロスフィード』を少年は遠い目で見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 輪廻転生。

 死んであの世に還った霊魂(魂)が、この世に何度も生まれ変わってくる、という考え方。

 日本人なら、信じてはいなくともその考え方自体は誰でも知っているのではないだろうか。

 俺――神木司も勿論知ってはいたが信じてはいなかった。まさかそれを自身が体験するとは、彼は予想すらしていなかった。 

 その上、所謂前世の記憶がばっちりと残っていた。

 

 精神的には30近い格好良いナイスガイ(後半自称)だったのが、気づいた時にはまったく姿が違う子供もなっていて、あぁこれもしかして、という疑惑が確信に至るまでそう時間はかからず、俺が生きていた時代から数百年は遡るだろう生活様式、控えめに言って聞き覚えのない言語に晒される中でようやく異世界転生だと確信した。

 

 ネットもない。アニメもない。娯楽もそれほどありはしない。

 そんな世界で生きていけるのかと恐れおののいたのも今は昔。なんだかんだと楽しく生きてくることが出来た。

 

 

 エリアスとして生まれついた先は、ド田舎と言っていいほどの小さな農村。

 建物は少なく、森が近く畑しかなく経済の概念があるかどうかさえ怪しいレベルの村だった。

 だが、だからこそ楽しい。

 村にいた同年代の子供たちと野山を駆け回って遊びまわり、その中で年の功と溢れる若さを併せ持ったことでとりあえずその心を掌握して地位を確保。

 なんか気付いたらみんな子分みたいになっていたので、さっそくそいつらをまとめて青空教室を開講。文字の読み書きに関しては村にいた頭のいいお姉さんから習いながら、子分たちには前世で培った知識の一部(四則演算や商売の基本)を身に着けさせた。

 

……いやだって、放っておいたらどう考えてもどん詰まりになりそうだし、そうでなくてもたまに来る商人や代官からの徴収でちょろまかされてそうだしね!

 

 とまあ、こんな感じの幼少時代を過ごした。 

 

 それから8歳ぐらいに成長したとき、前世から持っていた科学知識や手先の器用さを利用して、川から水を引く水車や収穫作業を効率化させる木製の足踏み式脱穀機、手でハンドルを押し下げて井戸から水を吸い上げる手押しポンプ、肥料などを作ったりして(多少やり過ぎ感はあったが)村の発展に貢献した。

 

 穀物の生産も安定し、これで没落エンドルートは回避できたぞーとその時の俺は安心しきっていたが、この世界は決して人間に優しくなかった。

 

 しばらくして村の急速的な発展の噂をいち早く嗅ぎつけたある財閥の人間が接触してきて、なんやかんやあってその財閥には俺のスポンサーになってもらい、なんやかんやあってその財閥のご令嬢たちとその幼馴染達と仲良くなったり、なんやかんやあってクーデターに参加したりして、なんやかんやあって今に至る。

 なんやかんやの部分の説明は長くなるのでこの際省くことにする。

 

 俺は大きな荷物を纏めると、停留地点で馬車から降りる。

 御者に料金を払った後は城塞都市の五つに分けられた街区の一つである四番街区を歩いて行く。

 目的地があるのは、都市の中心に位置する一番街区。

 遠いな。

 せめて、この遠い道のりの気晴らしにと、道端の露店で買ったパンケーキをぱくつきながら道を進んで行った。

 立ち並ぶ建物の造りは鋭角の屋根が特徴的な古式建築様式でまとめられ、重厚で趣深い町並みを演出している。

 ふーん、ほーう、とか言いながら眺めていると、奇異な視線を感じた。

 周囲を見渡すと、珍しいものを見るような目で人々が俺を見ている。

 中には、クスッと笑ってる人もいるようだ。

 

……あっ、これじゃ俺、完全に田舎者まるだしじゃないかっ

 

 急に恥ずかしくなってきたので、薄めに焼き上げ果物をはさんだクレープに近い菓子を食べきり、顔を伏せつつ人目をかいくぐるように移動する。

 

 数十分がたち、ようやく目的地に到着する。

 軽く視線を上げると、そこには王立士官学校『アカデミー』が視界に入った。

 ホグ○ーツ城なんじゃないかというぐらいの巨大な建造物だが魔法使いは育成していない。ここは現在この世界において各国の主力となっている『兵器』のパイロットを養成するための施設だ。そして、その『兵器』を扱う上で男女を比較した場合、理由は不明だが女性の方が、適性が高いのだ。故に、アカデミーは士官学校とされているが、内情は女学園と呼んでも差し支えないような場所だ。

 しかもそのアカデミーの学園長を俺のスポンサーである財閥のご令嬢が勤めているのだ。

 

 今日俺がここに来たのは、彼女に手紙で呼ばれたからであるとしか言えないだろう。

 

 ちなみに俺宛てに届いた手紙の内容はこうだ。

 

 

『エリアス君へ

 こんにちは。

 そして、久しぶり。レリィ・アイングラムお姉さんよ。

 突然だけど三日後、城塞都市『クロスフィード』・王立士官学園に来てほしいのよ。

 理由は、来てからのお楽しみ。

 とりあえず、何も考えずに来てくれるとお姉さん嬉しいわ。

 懐かしい人にも会えるかもしれないしね。

 じゃあそういうことだから、三日後よろしくね。

 城塞都市『クロスフィード』・王立士官学園学園長

 

  あなたのレリィより♡』

 

 これもらった最初の俺の感想は、『あの人、もう二十代後半だよな?』でした。特に最初の方とか、最後の方とかについてだが。

 

「この先は王立士官学園だ。許可のない者は立ち入り禁止となっている」

「許可ならもらってるよ」

 

 アカデミーの正門に向かって歩いて行くと、正門前には衛兵が立ち塞がっていた。

 俺は懐から一つ目の書簡を取り出し、衛兵に渡す。衛兵は書簡の内容を確認すると、途端に慌てた表情になった。

 

「か、確認しました!学園長室へ案内します。ついてきて下さい」

 

 衛兵の案内の下、学園長へ向かう。

 

「すいませんね、騒がしくて。いつもならこんな事は無いのですが……」

「いや、問題ないよ。でも、どうしてまた?何かあったのか?」

 

 守衛は気まずい顔になる。

 

「実を言うと、昨日男が侵入したのですよ。1日中逃げ回った挙げ句生徒に捕まって。しかしその捕まった男がまたある意味有名な人物で……あ、着きました」

 

 そこである一つの扉の前で大勢の生徒達…もとい野次馬達が集まっていた。その扉の上には『学園長室』というプレートがある。どうやら学園長室はあそこらしい……でも何でこんなに生徒達が集まってるんだ?

 

 俺は生徒と生徒の間を歩いていく。その際「誰だろうあの子?」「編入生かな?」「…可愛い」「天使が舞い降りた」などとざわめいていたが、俺は気にせず学園長室前まで歩く。

 

「ここが学園長室です」

「道案内ありがとな」

 

 道案内をしてくれた衛兵に礼を言うと、扉をノックする。

 

「あ、開いてるから入ってきていいわよ。」

「失礼しまーす」

 

 中から懐かしい声が聞こえ、俺は学園長室の中に入る。

 

 そこには学園長となったレリィさんと、生徒と思われる数名の少女達と、手錠を掛けられた“一人の青年”がいた。俺はその青年が誰なのか一瞬で分かった。銀髪に黒い首輪、黒と白の機攻殼剣は帯びていなかったが、その二つのキーワードで誰なのかはっきりと分かった。その青年も俺の姿を見ると思い出したかのような表情になった。

 

「あれ…?エリアス?」

「……ルクス……お前ここで何してんだ?」

 

 この王立士官学園で、俺はルクス・アーカディアと再会した…再開の形が最悪だが…。

 

 

 

 かつて、武力を持って世界の5分の1をも手中に収めた国があった。名を、『アーカディア帝国』と言う。

 アーカディア帝国の力に周辺諸国は、戦うか、その軍門に降るかの二択を迫られる程の物であった。

 しかし、帝国内部の実情は酷い物であった。

 政治腐敗の横行、男尊女卑思想の蔓延、更には非人道的な人体実験まで、上げれば切りが無いほどの闇を抱えていた。

そして、たまりに溜まった鬱憤が爆発するように、五年前にとうとう帝国内部でクーデターが発生し、滅びた後帝国は、『アティスマータ新王国』と名を変え、新たな国として生まれ変わった。

 

 ルクス・アーカディアは旧帝国の王子ではあったが、本人は非道な行為には加担しておらず、恩赦として元皇族であった罪を許され仮釈放されている『咎人』だ。そのとき、同時に交わした契約で国家予算の五分の一に相当する借金を負わされている。その借金返済のためいろんな所で雑用を引き受けている。

 

 俺は何故ルクスがここにいるか聞いた。内容はこうだ。ルクスは元々、学園長からの依頼を受けてこの学園で働く予定だったらしい。だけど昨夜、一人の女性からポシェットを盗んでいった猫を追って学園の屋根を走り、猫からポシェットを取り返した瞬間、重量で屋根が抜け落ちて運悪く女子風呂に落下。さらに落下した際、ルクスの隣にいる金髪の少女、新王国の王女リーズシャルテ・アティスマータにのしかかってしまい、おまけにポシェットの中身が下着だったという。その結果ルクスは覗きと痴漢と下着泥棒という三つの罪で捕まり、今に至るという訳らしい。ちなみにルクス曰く、“事故”だったらしい。

 

「ルクス、お前…いつからそんな欲望に忠実なやつに…」

「いや、だからあれは誤解なんだって!」

「でも見ちゃったんだろ?」

「うっ……」

 

 痛いとこをつかれ、ルクスはどもってしまう。

 けしからんヤツめ。これは後で詳しく聞く必要があるな。

 って、あれ?リーズシャルテって、確かこの国の王女様じゃん。のしかかるってかなりヤバいんじゃないか…?

 

「それじゃあ今回のは不幸な事故、という事でいいのよね?ルクス君」

「……は、はい」

「それじゃあ、この話はこれで終わり!!」

「学園長っ‼それだけなのか!?」

 

 レリィさんの言葉に、被害者であるお姫様が声を荒げる。

 

「仕事で呼び出したのは此方だし、ルクス君の無実は昔からの知り合いの私が保証するわ。だって、この子達にそんな度胸ないもの。うふふふふふ」

 

 確かに。 

 

「あの……フォローされてるのか、バカにされてるのか分からないんすけど?」

「あら?フォローしたつもりだったのだけれど?」 

「なあ、ところで俺たちが此処に呼ばれた理由はなんなんだ?」

 

 この会話には終わりが見えないことを察した俺は会話を止めさせる。

 

「あらあら、ゴメンなさいね。じゃあ本題ね。このアカデミーのことはルクス君と、エリアス君も知っているわね?」

 

 雑談をしていたレリィさんが本題へと話を移し、まず最初に俺たちにこのアカデミーについて知っているか?と聞いた。

 

 ここは、アティスマータ新王国の管理する、機竜使い士官候補生の学園。所謂、士官―武官と文官を含めた、役人の中でも序列の高い人間を育成する場所であり、更に詳しく言えば……

 

「機竜使い(ドラグナイト)並びに装甲機竜に携わる人間を育成する機関……か」

「そういうことになるわ」

 

 俺の言葉に、レリィさんは笑顔で頷く。

 

 装甲機竜と機攻殻剣は、それぞれ一対となって使用される兵器だ。

 装甲機竜は普段は各地の『格納庫』と呼ばれる場所に安置されており、機攻殻剣を鞘から抜き、グリップにあるボタンを押すことで、対応する機竜を転送―召喚する。

 

 装甲機竜以外の兵器でそんな真似は出来ない。

 光と化し、空間の転移を可能とする金属、幻玉鉄鋼と機竜の動力源である核石、幻創機核があるからこそ可能な芸当だ。

 転送自体の構造は、未だに解明されていない。

 装甲機竜が、遺跡から発掘された古代兵器であること、ある事情によって、遺跡の調査自体がなかなか進んでいないのが、主な原因だ。だが、それでも装甲機竜の持つ力は『技術が解明しきれていない』という理由で使用を控えるには、あまりに途方もない威力を秘めていた。

 

 故に、機竜の構造、原理解明の調査も、各国で激しく競争が行われている。

 

「装甲機竜が、遺跡から発見されて十余年。私たち女性は、旧帝国に敷いてきた男尊女卑の風潮と制度により、その使用は、ほとんど禁じられてきたわ。でもーー」

 

 ここでレリィさんが言葉を区切ると、ルクスの隣に立っていたお姫様が、ふっと口を開く。

 

「五年前のクーデターで新王国な設立されたのを境に、その認識は一変した。操縦に使う運動適性はともかく、機体制御自体の相性は、女の方が遥かに高いというデータが出た。それ以降、専門の育成機関を設立し、他国に負けない機竜使いの士官を揃えるべく、その育成に力を入れている――――というわけだな」

「その通りです」

 

 レリィさんは頷く。

 装甲機竜は、それまで戦争の主力だった、剣、銃、大砲、馬、そのすべてを無に帰すほどの超兵器だ。

 登場以来、もはや戦争、外交、商工を含め、その言葉なしでは、何も語れないところまできている。

 その辺りの事情、装甲機竜の育成機関があることくらいは、ほとんどの人が知っている。

 

「だからルクス君とエリアス君には此処で働いてもらおうと思ってね」

 

「「……………はい?」」

 

 俺たちがこのような反応を見せるのも仕方がないだろう。基本女性以外はこの学園には入ってはいけない。それなのに、入ることを許可するだけでなく、此処で働けというのだから驚くのは当然のことだ。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!何で男の僕等が!?」

「残念ながら、人手が足りないのよね」

 

 ルクスが反論する前にレリィさんが口を開く。

 

「機竜使いの歴史はまだ浅いでしょう?旧帝国の使い手も五年前のクーデターで大半が死んでしまったし、不本意だけど男の協力者を招くしかないのよ。整備士も機竜使いもね」

「エリアスはともかく、僕は整備の方はほとんどできませんよ?」

 

 おいルクス、なにちゃっかり俺だけを差し出そうとしてんだ。

 

「エリアス君がいるじゃない。教わればいいわ。使い手として予備知識があるだけでも貴重なのよ」

「……ちなみにレリィさんや。俺がここで働くのは…」

「勿論決定事項よ」

 

 あっ、ソウデスヨネ。

 

「学園の敷地にある新王国第四機竜格納庫。今日から週に三回、あなた達にはそこに通ってもらうわ。汚れるし、重労働だし、怪我の危険もあるけれど、良家のお嬢様たちにそんな事はさせられないでしょう。あなた達も男冥利に尽きると思わない?」

 

 からかうような声で、レリィさんが微笑んだ。

 どうやら俺たちはこの人に逆らうことはできないようだ。

 

「学園長、少しいいか?」

 

 話がまとまったと思った時、ふいにお姫様が、手を突き出し、話に割り込んできた。

 

「私の気のせいか?さっきから少女にしか見えないソイツが男……だと?」

「ふふ……そうよ。エリアス君はこんなにキュートな姿でも、正真正銘の男性よ」

 

「「「ええええええええええ!?」」」

 

 えっ、なに、ひょっとして今まで女だと思ってたのか。後ろに控えていた二人の女子生徒まで固まっちゃてるぞ。

 

「あらあら。やっぱり誰も気付いてなかったのね…………女装させて編入させるのもありだったわね」

 

 おいぃぃいい!!?レリィさん!?後半とんどもない発言してるの丸聞こえだぞ!?

 

「そ、そうか……話は大体分かった。だが私達はまだお前達を認めた訳では無いからな?特に貴様、お前はこんな痴漢で変態な犯罪者だ。そんな男をこの学園で働かせるなど、有り得ない!」

 

 やっぱりか。復活したお姫様はまだ納得しておらず、声を荒げたままだ。

 特にルクスに対しては敵意剥き出しだ。

 

「そうねぇ。それじゃあ、二年生主席であるリーズシャルテさん。ルクス君の処分はあなたの裁量に任せるわ」

 

 

「ええええええええっ!?」

「ふっ…」

 

 ルクスが驚きの声を上げている中、お姫様がニヤリと笑った。

 

「ならば決闘だ!ルクス・アーカディア、貴様が私に勝てば、貴様がこの学園で働く事を許可してやる。だが負ければ牢獄行きだ」

 

 お姫様は赤い機攻殻剣を抜剣すると、その剣先をルクスの方に向けながら決闘を申してきた。まぁ、妥当なところかな。

 

「ルクス……頑張れよ」

「何を言っている。お前も決闘に参加するんだぞ」

「…え?」

「エリアスと言ったな。処分は貴様も同じだ。私とお前の対戦相手が勝てば、貴様も牢獄行き。ルクス・アーカディアが勝てば、貴様の編入を許可する」

「ちょっ、ちょっと待って!ルクスは分かるけど、俺は何にも罪を犯してないぞ!?」

「貴様はルクス・アーカディアとはどういった関係だ?」

「えっと…一応、親友だが…?」

「じゃあ“親友”という連帯責任だ」

「とばっちりー!?」

 

 お姫様から理不尽な飛び火をもらった俺。そんな理不尽な“連帯責任”があってたまるかこの野郎(怒)。

 

 握り拳をつくるのを耐えながら、怒りに震えていると、彼女は扉の方に歩み寄り、そのドアノブを捻って扉を引いた。

 

「「「きゃぁっ!?」」」

 

 すると、扉の外で聞き耳を立てていたであろう女生徒達が部屋の中になだれ込むように倒れ込んだ。

 

「そう言う訳だ。学園の皆に伝えろ。観客は多いほど良いぞ。新王国の姫が、旧帝国の王子とその仲間をやっつける見世物はな」

 

「「「「「「「キャアアアアアアアア!!」」」」」」」

 

 お姫様の高らかな宣言で生徒達は一気にハイテンションになり、学園の者達に話を広めるべく楽しそうに走り去っていく。

 

 なんか話が大きくなってる。

 

「大変な事になったわよ!リーズシャルテ様が今回の痴漢と装甲機竜で決闘を―」

「相手は、女王陛下お気に入りの騎士だそうよ。詳しいこと誰か知ってる?」

「そもそも、相手は男でしょう?リーズシャルテ様の相手が務まるのかしら?」

「見た目はすごい好み何ですけれど…惜しいですわね」

「エリアス様……まじ天使、ハァハァ」

 

 おいぃぃいい!?なんか一人ヤバいのがいるぞ!?

 

「あらあら。大変なことになったわね」

 

 レリィさん、そんな他人事みたいに言わないでくれよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レリィさんに会わせたい人がいると言われて通されたのは学園の応接室。

 

「もう、兄さんもエルさんも何をやっているんですか?呆れましたよ」

「俺はとばっちりを受けただけなんだが」

「その……ごめんね、アイリのいるアカデミーで騒ぎを起こしちゃって…………」

 

 そこには二人の少女がいた。俺をエルと呼ぶ一人はルクスと同じ髪の色をした少女、アイリ・アーカディア。ルクスの実妹であり、同じ黒いチョーカーをしている。

 

「そういえばアイリとこうして会うのは五年ぶりくらいになるんだっけ?大きくなったなー」

 

 背も伸びたし前よりも美少女として成長してるな。

 一部はまだまだ発展途上のようだが……

 

「エルさん、今何か余計なこと考えませんでした?」

「イエ、ベツニ」

 

 勘だけでこちらの考えていることが読めるようになったのか。アイリ、恐ろしい子!

 

「……5年も経てば、成長しますよ……それにどこかの誰かさんは時々しか連絡をよこさないですしね」

「うっ……」

 

 アイリは少し拗ねた様子で視線を向けてくる。

 

「そういえばそう言うエルさんは、この五年そんなに伸びてないようですが気のせいでしょうか?もう少しで私の方が追い越してしまいそうですね?」

「ガハッ!?」

「それに以前よりも綺麗になってません?殆ど美少女にしか見えないじゃないですか」

「ブベラッ!?」

 

 こ、心にダメージがッ。

 アイリ、人が気にしていることをはっきり言いやがった!

 

「……な、なあアイリ、ひょっとして物凄く怒って……はい、ごめんなさい…俺が全部悪かったです」

 

 アイリの向ける視線に俺は勝てず、素直に謝った。

 昔はあんなにピュアな子だったのに五年でこんなに毒舌キャラに…!

 

「まぁ、エルさんがどこで何していようと私には関係ありませんけどね」

「Yes、アイリは『久しぶりに会えてとても嬉しいです。エルさん』と言っております」

「勝手に変な意訳しないで下さいノクト!!」

 

 ずっとアイリの側で立ったままの少女の言葉に、アイリは顔を赤くして否定する。

 

「そういえばこの子って誰だ…?」

「彼女は女子寮での私の同居人です。名前はお願いできますか?」

「Yes、1年のノクト・リーフレットと申します。アイリの従者をしています」

「ふーん、俺はエリアス・ライノールだ。こんな形で悪いけど、よろしくな」

「Yes、よろしくお願いしますエリアスさん……アイリから聞いていた通り女の子にしか見えませんね」

「それは言わないでくれ。これでも結構気にしてるんだから」

 

 ノクトは落ち着いた雰囲気のあどけなさの残る少女だが、余り感情を感じれない。しかし、珍しい黒髪なので印象的だ。

 

「えっと…君は座らないの?」 

「Yes、アイリのお兄さんとは適切な距離を保たないと、息を“吹き掛けられただけでスカートをめくられる”と聞いているので……まさかアイリのお兄さんが変態だったとは………残念です」

「ちょっ!?僕を何だと思ってるの!?」

 

 息だけでスカートを捲れるって……ルクスはとうとう人から離れた存在になってしまったようだ。

 というか初対面の女の子相手にこの印象って男としてどうなんだ?

 

「全く。兄さんが捕まって苦労するのは兄さんだけじゃ無いんですからね?私や『お母様』の事も少しは考えて下さい」

「ご、ごめんなさい」

 

 アイリの言葉にルクスは謝ることしか出来なかった。

 

 ルクス達は旧帝国の生き残りだが、ルクスが7歳の時、母方の祖父が皇帝に諫言した事がきっかけで母親と共に宮廷を追放された経緯から処刑は免れ、ルクスとアイリの二人には“咎人”として新王国から課せられた借金を返済する事を命じられている。母親の方は二人のどちらかが逃げた場合の人質として王都で殆ど軟禁状態にあり、許可が無ければ会う事も出来ないでいるのが現状だ。

 

 ちなみに俺はバレない程度に兄妹の借金の一部を肩代わりして返済している。国家予算の五分の一なんて額に、ほんのわずかなずれがあったところで誰も気づきはしないしな。

 

「ちなみに、あのお姫様は強いのか?」

「Yes、リーズシャルテ様はこの学園で現在無敗の強さを誇っています」

「リーシャ様の神装機竜〈ティアマト〉は、飛行型の機竜で〈レギオン〉と言う、飛行型金属の特殊武装があります」

 

 へぇ…そりゃあ大したもんだな。ああいうのは出力が高い分操作が難しいものなのに。

 

「じゃあ俺の対戦相手のシャリスっていう蒼髪の女の子も強いのか?」

「Yes、使用する機竜は汎用機竜の〈ワイバーン〉ですが、私ともう一人の幼馴染と共に務める学園の自警係三和音(トライアド)のリーダー的存在と呼べるほどの実力者です」

 

 俺の質問に二人が答えてくれた。

 

「まあ、兄さん達なら大丈夫ですよね。兄さんは自分から面倒ごとに首を突っ込んだんですから、勝手に負けるか勝つかしてください」

「うぅ……わ、わかったよ。僕が悪かったってば…」

 

 ルクス、完全に妹に尻を敷かれてるな。

 

「兄妹仲のいいことで」

「Yes,私もそう思います」

「それで、ノクトはやっぱりコイツが気になるか?」

「…!気づかれてましたか」

 

 ま、仕方ないよな。男の俺が機攻殻剣を持っているのだから。

 ノクト自身は気づかれたことに驚いていたが、チラチラしていたのは確かなようだ。

 

「コイツは俺好みに手を加えた代物でな。まぁ、どんなのかは見てのお楽しみってことで」

「…。そうですか」

「フフン、これで私の百二連勝ですね。私が兄さんに負かされる日はいつ来るのでしょう?」

 

 俺とノクトが話している傍らでルクスは結局、白旗を挙げたようだ。

 そして満足げな笑顔のアイリがルクスを手招きする。

 

「兄さん、エルさん、模擬戦前の機竜チェックのために機竜格納庫に行きましょう。リーズシャルテ様の対策も教えます。だから、勝ってくださいね」

 

 無論、負けるつもりは毛頭ないさ。

 

 

 

 

 

 




人物ファイル

名前:神木司(転生前)⇒エリアス・ライノール(転生後)

外見:『転生したらスライムだった件』のリムルをモチーフ(ただしアレはついている)

好きなセリフ:「坊やだからさ」「俺はかなり、ロマンを愛する男なんだぞ?」

現在所持してる装甲機竜:
エクスシア・ワイバーン(ガンダムエクシアに似せて接近戦特化仕様に魔改造した飛翔型の汎用機竜)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 天使降臨?(後編)

あけましておめでとうございます。他の小説の執筆でこっちの方の更新が滞ってしまいました。申し訳ありません。


 そして、試合の時が来た。

 

「それでは第一試合、シャリス・バルトシフト対エリアス・ライノールの機竜対抗試合をこれより執り行う!」

 

 審判役の教官の声と同時に、舞台が歓声と熱気に包まれる。

 学園敷地内にある、装甲機竜の演習場。

 周囲を円状に石壁で囲い、中には土を敷いた広いリングがある。

 その中央で、凛々しい顔の蒼髪の少女、シャリスとエリアスは、防護スーツ役割を果たすパイロットスーツ『装衣』を身につけた状態で対峙していた。

 

 中心のリングは低く、外に行くほど高く盛り上がった形状は、旧時代のコロシアムを彷彿とさせる。

 観戦席には強靭な格子が張られ、さらに生徒の機竜使い数名が、常に障壁を展開して守っており、巻き添えの心配はない。

 エリアスが周囲を見渡す。

 

(…皆暇すぎだろ)

 

 相当な数の女生徒たち、そして教官までもが、この死闘とも言うべき決闘を、見物しに来ているようだった。

 

「両者とも礼、機竜を召喚してください」

 

 審判役の生徒が召喚を指示するのにあわせて、魔法の詠唱のような言葉、『詠唱符(パスコード)』を高らかに、宣言するように叫ぶ。

 

「――来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ!≪ワイバーン≫!」

「――降臨せよ、自然の秩序を守りし能天使よ。紋章の翼竜と我を使いて己が威光を放て!《エクスシア・ワイバーン》!」

 

 同時に、二人が振るった剣先が揺らめき、歪む。

 そこに高速で集まるのは、光の粒。

 無数の淡い光が、うねりを帯びて、二つの実体を形成する。

 二人の後方に、人を二回りほど大きくしたような、機械の竜が現れた。

 鋭角な金属が連結され、無数に折り重なった流線型のフォルム。

 濡れているような光沢は、使い込まれた名剣のように、禍々しくも美しい。

 

「「接続・開始(コネクト・オン)」」

 

 二人がそう呟くと、流線型の機械が内側から開き、無数の部品へと展開される。

 二人の両腕、両脚、胴、頭へと部品が向かい、高速で連結――装着される。

 

 竜を象る機竜は淀みのない動作で、瞬時にその身を覆う装甲と化した。

 

 

♢♦♢

 

 

(……快・感!やっぱりこのパワードスーツを装着する瞬間は、何度やってもたまりませんなぁ)

 

 機竜を身に纏い、10melほどの距離を開けて対峙する俺とシャリス。

 今まさに試合を始めようとする両者の間には心地よい緊張感と警戒が滲み、平穏な空の裏側に激闘の未来を予見させる何かを含んでいた。

 

……はずなのだが。

 

「……なぁ、ちょっといいか?」

『ん?どうした?』

「試合が始まる前に水を差すようで悪いんだが……君のその機竜はなんなんだ?」

『ふふふっ、いいだろう。俺の愛機だぜ?』

 

 シャリスの呆れたような声のおかげで色々台無しだった。

 まあそれも無理のない話。

 俺の装甲機竜を一目見て、平静を保っていられる機竜関係者なんてほとんどいないだろうからな。

 

 白と青のカラーを基調とした接近戦特化型汎用機竜《エクスシア・ワイバーン》。

 

 それが俺の機竜だ。

 機竜の中では珍しい全身装甲のフルスキンタイプ。

 頭部を完全に覆うヘルメット、胸部から肩までを守るブレストアーマーが上半身のシルエットを、剥き出しの操縦席で機械の四肢を操る従来の機竜とはまったく異なるものにしており、それでいて四肢を覆う装甲は細く、機竜独特の流線型なフォルムは損なわれていない。

 

 だが俺が一番力を入れたのは、エクスシアのデザインだ。

 頭を保護するヘルメットは白い兜のような形状で顔の横から後ろを覆い、額には銀色に輝くV字のブレードアンテナが屹立し、マスク状の顔面には緑に輝く人の目のようなデュアルアイが収められている。

 青いブレストアーマーは胴体の形をしており、そんな装甲に体を覆われ、装衣もインナースーツに隠された俺を見た前世の人たちは、こう思うことだろう。

 

――――ガンダム。

 前世でのガンダム作品に出てくる《ガンダムエクシアリペアII》をオマージュし、飛翔型の汎用機竜《ワイバーン》を通常の近接戦闘を主眼に置いたタイプへと魔改造したものだ。

 機械の竜が一転、天使の名前を由来としたガンダムと変わり果ててしまった。

 これこそが、俺の「ちょっとはしゃいで」しまった結果だ。

 

 だが後悔はしてない!

 

「君のそれは神装機竜なのか?」

『まさか…俺のは汎用型のワイバーンをちょっと改造しただけだよ』

「いや、どう見てもちょっとじゃすまないだろ」

『まぁ、はっきり言えることは俺が乗るコイツをただの機竜だと思わないことだな。気を抜いてるとあっさり負けるぞ』

「―――ッ、言ってくれるじゃないか」

 

 俺の挑発的な言葉に、シャリスは好戦的な笑みを浮かべる。

 

 緊迫感を孕んだ空気は俺達の近くにしか存在しない。

 ピリピリと肌を刺すような緊張が心地よく、ワクワクする心は止める気にもならなかった。

 

「試合開始!」

 

 そして双方の準備を確認した審判が、声を張り上げ戦闘の開始を告げる。

 

 先手必勝!

 審判の掛け声と共に、俺は地面を蹴り、飛翔した。脚部とリアアーマー、背中の両翼の装甲から光を帯びた風を噴射させながら前進し、蒼のワイバーンを身に纏ったシャリスへと間合いを詰める。

 

『まずは挨拶代わりだ!』

「なっ!?」

 

 そう叫ぶと同時、金属の装甲で覆われた右手の中に集った光の粒子が現実のものとして両刃の大剣の形に結実し、 右前腕に装着される。

 

 シャリスが咄嗟に右手に構えていた機竜牙剣(ブレード)で防御の構えを取る。だが、俺は構わず上段から剣を振り上げる。

 工夫などとは無縁の勢い任せの一撃。しかし自身の速度を乗せたその一撃は生半可な工夫を凝らした一撃より遥かに恐ろしいものとなる。

 それを受けたシャリスは辛うじて攻撃は防いだものの、ほとんど吹き飛ばされるように後ろへと下がった。

 推進装置を噴かしながらステップをするように下がり、シャリスは剣を左手に持ち替え、右手に『機竜息銃(ブレスガン)』と呼ばれる銃火器を召喚すると、それを俺に向けて有無を言わさず火を噴かせた。

 

 俺は機体の腰部に装備されたサブブースターを噴かして、バルカンモードで放たれた複数のエネルギーの光弾を回避し続ける。そして光に反射して輝く剣を折り畳み、代わりに現した銃口からビームを応射する。

 

「剣が銃に変わった!?」

 

 俺が右腕部に装着している剣はガンダムエクシアのGNソードをモチーフに造った装備だ。GNソード同様、刀身を折り畳むことで銃身を展開したライフルモードになるようにしている。

 これにより、武器を取り替える時にかかる時間の短縮に成功した。

 銃と剣を一体化させるなんてこの世界の住人では誰も思いつかない発想だろう。

 現に射撃を避けているシャリスや観客にいる生徒達、教官達はかなりびっくりしてる。

 

『言ったろ?俺が乗るコイツをただの機竜だと思うなって…』

「――ああ、どうやら君の言うとおり、気を抜く余裕は無くべきじゃないよう、だなっ!」

 

 俺はマウントされた剣を展開し、追撃すべく再び前進を始める。

 

 

♢♦♢

 

 

 目まぐるしく位置を入れ替えて接近戦と射撃戦の繰り広げられるリングの下、演習場に詰め掛けた観客達は大いに沸いていた。

 鉄の竜と天使が剣を打ち合うたびに歓声が上がる。

 そんな熱狂に包まれる観客の中で、アイリとノクトは静かに戦いを分析していた。

 

「……あのアイリ、エリアスさんが使ってるアレは神装機竜なんですか?」

「いいえノクト。アレは正真正銘の汎用機竜です」

「ですが、汎用機竜であんなタイプは見たことも聞いたこともありませんよ?」

 

 汎用機竜とは、神装機竜とは異なり、同じ機体が多数確認されている装甲機竜だ。

基本的に飛翔型の《ワイバーン》、陸戦型の《ワイアーム》、迷彩や索敵能力に優れる特装型の《ドレイク》と、この三機がそう呼ばれている。

 学園の女生徒達も、機竜使いの士官を目指していることもあり、自前の機攻殻剣を所持している者が多い。

 ノクトも例外ではなく、今も自分の腰に機攻殻剣を下げている。

 

「それは当然です。なにせエルさん自らが改造したんですから」

「っ!?」

 

 アイリの衝撃的な一言に、ノクトは目を大きく見開いた。

 ノクトの驚愕も当然である。

 装甲機竜が発見されて数十年がたった今でも、その具体的な原理は解明されておらず、既存の部品を付けるか、交換する程度のことしかできていないのだ。

 このような全く別の機竜を作るレベルの改造に成功した例はリーズシャルテ以外知らない。

 

「……リーシャ様以外にもそんな逸材が」

「リーズシャルテ様と同列には考えない方がいいですよ。彼は会った時からこの世の常識を投げ捨てたような人なんです。彼の工房に何度か行ったときに見た発明品のどれもが、今の技術では実現が難しそうな代物ばかりでした……いったいどこからそんなアイデアが浮かぶのやら」

 

 ため息をつくアイリの脳裏には、電気の光を灯すランプや蒸気で動く機械仕掛けの馬車――――電球や蒸気自動車が並んでいるのが浮かぶ。それらは未だ世間に出ると色々あれなので、工房の中で眠っている。

 

「エルさんのことを知る人たちは稀代の天才発明家だの狂気のマッドサイエンティストだの呼び、尊敬するか恐れるかします。でも、私達の知っている彼は……死にかけた母を助け、病弱だった私に優しくしてくれたあの人は普通の人と大差ありません」

「アイリ……」

「とはいえ、頭のネジがどこか緩んでるのは否定できません。ノクトも、エルさんがしでかす時は、常識はどこかに置いておくことです。でないと身がもちませんよ」

「い、Yes……」

 

 

♢♦♢

 

 

「――――――くッ!なんて性能だッ!本当に同じ汎用機竜なのか!?」

 

 シャリスは真下から飛んでくる光弾を避け、手元に転送したブレスガンをエクスシアに向けて連射する。しかし、エリアスは巧みな操作技術で全てを避け切り、攻撃の手を緩めない。

 

(それに、それを操縦してる彼もただ者じゃない!)

 

 シャリスは焦りの中にも冷静に状況を分析していた。

 機動性と近接戦に特化しているエクスシアは装甲が薄く細身だが、不利を補い有利を生かした動きをしている。

 そしてそれを支える最大の要因が、右腕に装備されている大剣とブレスガンが一体化した武装によるものとシャリスも気付いていた。

 

 多少以上の無茶をしてでも武装を黙らせなければ、このままでは彼女に勝機はないだろう。

 

(ならば――!)

 

 賭けに出たシャリスは、引き絞られた弓から矢を放つように突撃する。

 

『おっ、真正面から来るか!ならこっちも迎え撃つ!』

 

 エリアスもエクスシアへ前進を命じる。

 開幕直後の一幕を髣髴とさせる、双方飛翔しての激突。

 シャリスは右手の武装をブレスガンからキャノンへと切り替え、左手にあるブレードと共に構えながら仕掛けてきた。

 

 機竜が扱う銃器には『機竜息銃(ブレスガン)』と『機竜息砲(キャノン)』があり、従来の銃とは違い、機竜の動力たる幻創機核(フォースコア)からのエネルギーを充填して放つといったものだ。ブレスガンはマシンガンのようにエネルギーの弾丸を連射できるバルカン、キャノンはいわゆる竜の吐く、強烈な炎を連想させる破壊力の高いビームを放てる。キャノンの方でまともに受ければ大損害だが、発射まではかなりのタイムラグがある故に、そちらは撃つなら敵を怯ませてからというのが通常の使い方になっている。

 

 だが近接戦では通常のワイバーンより特化しているエクスシアに対してそれは失策と言えよう。

 エリアスは武器をブレードモードにし、エクスシアのパワーを存分に生かすべく剣を構える。

 突撃をかけておきながら一方的に斬られるだけでは余りにお粗末ではないか。誰もが――そう、エリアスすらそう思った。

 そして2機の装甲機竜が交差した。

 エクスシアは大剣を振り下ろす。次の瞬間にはキャノンを持ったワイバーンの右腕の肘から先がワイバーン本体から離れ、宙を舞った。

 

 誰もがシャリスの突貫が失敗しと思った――――その時。

 

「この瞬間を待っていた!」

『なにっ!?』

 

 ワイバーンはすれ違いざまに反転し、ブレードをブレスガンに切り替えてエクスシアの右腕へと銃口を向けた。

 

 シャリスが取った手段はシンプルなものである。

 エクスシアの武装は近接戦に持ち込めば剣となり、距離を取れば銃となって即座に対応される。しかしその巨大さから、取り回しでは他の武装よりも劣り、十分な勢いがなければその威力を発揮出来ないものだ。

 つまり、振ってしまった後では即座の攻撃に対応できなくなるのだ。

 

 集中砲火を間近に浴びた特殊武装は、銃の部分が被弾したことで爆発を引き起こした。

 爆発の勢いをまともに受けたエクスシアの右腕から、衝撃で砕けた幻玉鉄鋼の欠片が飛び散り、内部のフレームがむき出しになる。

 エクスシアの右腕は深刻なダメージを受け、ろくに動かない状態だ。

 

『ちっ……やってくれたなッ!』

 

 次の行動に移るまでのほんの僅かな間、ここで攻撃を仕掛けた側と、受けた側での明暗が分かれた。

 

 予想外の攻撃を受け怯んだエリアスと、最初から意図してぶつかったシャリス。

 シャリスの狙いは、エクスシアが剣を振った直後からの、近距離でのカウンターアタックで特殊武装を破壊することである。

 多大なる右腕の犠牲を支払ってつかんだ僅かな好機。

 

「これで終わりだ!」

 

 シャリスはブレードに切り替えた左腕を振るい、エクスシアの肩越しに動力源である幻創機核《フォース・コア》へと鋭く、渾身の突きを繰り出した。

 

『舐めるなァッ!』

 

 シャリスの突きが届く直前、エリアスはエクスシアの腰のスラスターを前方に噴かし、その勢いで上体を反らしてなんとか避けた。

 そして、反らした機体をそのまま後ろに倒し、バク転を駆使してサマーソルトキックを放つ。エクスシアの脚はワイバーンの左手に握られているブレードを弾き飛ばした。

 

「なっ!?」

 

 エリアスの思いもしなかった下方からの蹴り上げ攻撃に、シャリスの対応が一瞬遅れる。

 その『一瞬』を、エリアスが見逃す事は無かった。

 

『もらったぁ!』

 

 空中でのバク転から態勢を戻したエリアスは、エクスシアの左手に一本の細い剣を召喚し、裂帛の気合と共にシャリスへと斬りかかる。

 

(もう一本剣があっただとッ!?間に合わなッ!)

 

 完全に体勢を崩したシャリスにその攻撃を避ける術はなく、右腕の損傷により防御もままならない。

 

(やられるっ!?)

 

 万策尽きたシャリスへ、振り上げられた剣が襲い掛からんとし、思わず目を閉じてしまった。

 

 

―――。

 

――――――。

 

――――――――。

 

 

 だが、数秒経っても一切衝撃が襲ってこなかった。

 

「?」

『戦闘中に目を閉じるのはご法度ですよ。お嬢さん』

 

 おどけた口調で言うエリアスの言葉で、シャリスは恐る恐る目を開ける。エリアスの剣が寸止めの状態で、自分の胴の辺りで止まっていた。

 

『それで、まだやるか?』

 

 静止したままデュアルアイ越しに問いかけられ、シャリスは理解する。

 

(どうあっても勝てるビジョンが見えてこない)

 

 シャリスは『潮時だな』と自嘲気味に小さく呟いた。

 

「……いや、止めておこう。私の、負けだ」

 

 そう言って、シャリスは武装を収めた。

 

 

 

「しょ、勝者!エリアス・ライノール!」

 

 そして一連の出来事に、やがて我に返った審判役の教官が、思い出したように試合終了の宣言をした。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。