呪いの人形は恋を知らない (酎はい人形)
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1 仕事帰りと呪いの人形

文書作るの苦手ですが、昔考えた設定で作ってみようと思います。
一応モデルがありますがまあそれはそれとして頑張ろうと思います。
誤字とか脱字とかあるかもしれませんが、生暖かい目で見て下さい。


ガチャ

 

「ただいま~」

 

一応声を掛ける

 

「遅っそいわよ!何してたの!」

 

部屋の奥の方から声がする

やっぱめっちゃ怒ってますやん・・・

 

「ごめんごめん、残業で遅くなっちゃったんよ」

 

終業時間ギリギリに面倒な仕事押し付けられてこのザマよ

お陰で2時間の残業よ!

・・・しかしコイツは

 

「そんなの私には関係ないし!」

 

全くなんてやつだ!

労働で疲れた俺に労いの一言くらいあってもいいやろ!

・・・とまぁよくある俺の日常の一コマだ

ここだけ聞けば、気の強い彼女と暮らしてる気の弱いサラリーマンだ

そう見えるはずなのだが・・・実は違う

 

「ハイハイすんませんでした」

 

ガチャ

 

玄関からリビングのドアを開ける

 

「早くガラスケース取って!」

 

タンスの上に置かれた日本人形が声を上げる

そう、この声の主はこの日本人形なのだ

 

「息苦しい!死ぬ!呪い出る!早く!」

 

「・・・それガラスケース取ったら俺がヤバいのでは?」

 

「比喩よ!早く取って!」

 

「・・・ハイハイ」

 

カポッとガラスケースを取る

大きく伸びをする人形

 

「あー!スッキリした!」

 

「これ自分で取れないもんなの?」

 

「取れてたらやってるっての!」

 

・・・何言っても怒られる僕可哀想

つか怒られすぎな気がしてきたんだが!?

 

「悪かったよ市子」

 

市子「ホントよ!全く」

 

コイツの名前は市子

市松人形だから市子

物凄く安直だが本人が気に入ってるのでそう呼んでる

名ずけ親は俺

 

市子「ねぇねぇ、ガラスケース要らないよね?」

 

「何でよ」

 

晩飯の袋を台所に置きながら尋ねる

 

市子「だって動けないし息苦しいし良い事ないし」

 

「・・・でもホコリ付いちまうだろ」

 

正論を言ってみる

 

市子「・・・・・・ふん」

 

何故そっぽ向くし

 

市子「・・・まあ!それだけ私が大事ってことよね!」

 

「・・・まあハイ」

 

市子「まあって何よ!」

 

ビールとカップ麺を置く俺

いやはや健康もクソもない晩飯でございますよ

 

市子「・・・ちょっと、何よその貧相な晩ご飯は」

 

「給料日前でちょっとキツイんよ」

 

市子「アンタねぇ、そんなのばっかりだと死ぬわよ?」

 

お前はカーチャンか

 

「じゃあお前が作ってくれよ」

 

市子「材料くれれば作ってあげるわよ」

 

あら、案外可愛いこと言うじゃない

しかしその身長で何を作るのかと

シル〇ニアファミリーの様なミニチュア作られても困るぞ

 

市子「・・・アンタ今バカにしたでしょ」

 

カップ麺を吹き出す俺

 

「NONONO、馬鹿になどしておりませんよハッハッハッハー」

 

市子「・・・アンタいつか呪ってやるからね!」

 

「洒落にならんからやめてください」

 

・・・何と言うか、はたから見たらこの異質な空間

だが、俺にとっては少なくとも昔より幸せであることには違いない

彼女が居たから俺はここにいる

こうして生きている

 

市子「・・・ねぇ、ショウ」

 

ショウは俺のあだ名

市子は俺をそう呼ぶ

 

「・・・なんだよ」

 

ビールを呑みながら視線を彼女に送る

 

市子「アンタは私を・・・捨てないでよね」

 

「・・・何だよ急に」

 

市子「・・・別に!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・

まあ、色々あったからな、お互い

でもまあ

 

「安心しろよ」

 

市子「?」

 

「俺がお前を捨てる理由なんてこれっぽっちも無いから」

 

市子「!」

 

後ろを向く市子

長い黒髪

・・・というか前より伸びてるなオイ

 

市子「・・・・・・当然よ!」

 

どんな表情してるか分からんが、少なくとも喜んでいる様子だな

自然と俺も表情が柔らかくなる

 

「さーて風呂でも入るかな~」

 

市子「!なら私もーーー」

 

「アホか、人形と風呂入るとかどんな恐怖映像だよ!」

 

市子「髪は女の命なのよ?ケアしなさいよ!」

 

「いやいや、人形の髪にシャンプーはマズイだろ!」

 

市子「私の髪、人間の髪よ?」

 

お?サラッと怖いこと言う子ね

 

「・・・マジ?」

 

市子「あれ?言ってなかったっけ?」

 

「多分初耳や」

 

市子「じゃあ今言った」

 

ホントコイツは

ん?てことは・・・

 

「じゃあ尚のことガラスケース外せないやんけ」

 

市子「ちょっと!何でよ!」

 

「ゴキブリつくぞ?」

 

市子「!!!!!」

 

ゴキブリは人間の髪の毛を食べるって聞いた気がするからな

 

「・・・・・・まあそれでもいいならーーー」

 

市子「ガラスケースは付けといて!!!」

 

1つ問題は解決したな

 

市子「でもそろそろトリートメントはしてよ」

 

「・・・分かったよ、風呂入ってからやってやるから」

 

着替えとバスタオルを持って来つつ、風呂場に向かう

しかし人毛だったとは・・・

アイツがトリートメントに拘る理由がわかったわ・・・

髪に良いやつ買っとくか

 

 

 

 

 

そんな感じなのが俺の日常である

まあこんなのはいつもの一コマだ

忘れかけてた日常なんだ

呪いの人形がくれた日常

・・・・・・まあ普通ではないけどね

 




ダラっと書いてはいますが、ほぼ自己満足化しております。
モデルがあると言いましたが、内容はオリジナルです。
モデルの話はいつかしようと思います。
では次話でお会いできればです。


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2 仕事中と呪いの人形

市子のイメージ図は、市松人形のあの感じというより球体関節の人形のイメージです



今日中にシフト作らんといけないのに全然進まない

まあそれもそうだろう

さっきから用事だの何だの押し付けられてるのだから

可哀想な俺

 

「先輩、ちょっと教えて欲しいんですけど」

 

またしても俺の仕事が止まる

まあ後輩の為だ、止むを得なし!

 

「どーした笹原」

 

笹原玲奈

俺の一期下の後輩

見た目はギャルっぽいのだが割と真面目な奴

ただパソコンの知識が皆無で、よくエクセルのことを聞いてくる

というかエクセルの本渡して勉強しときなさいって言ったんだけどな・・・

 

笹原「この表の合計ってどーやって出しましたっけ?」

 

ほぼ入門編の話してきやがった・・・

こりゃ読んでないな

 

「へいへい・・・これはだなぁーーー」

 

・・・この調子で俺の仕事が終わらないのである

はい、今日も残業確定です

ありがとうございまーす

市子にまた怒られるわ

 

笹原「お、なるほど!ありがとう先輩!」

 

「そろそろ覚えてこような。出ないとデスクワーク出来んぞ?」

 

笹原「分かってますけど・・・」

 

・・・そんな目で俺を見るな

 

笹原「でも何だかんだで教えてくれるじゃないですか」

 

「教えんと進まないからだよ」

 

笹原「身も蓋もないなぁ」

 

ワシはお前のパソコンの先生じゃないんだぞ

全くこの小娘は

 

「俺も早いとこシフト作成終わらせなきゃならんのだよ」

 

笹原「え!終わってなかったんですか?」

 

「・・・悪かったな」

 

歯ぎしりしつつ、せっせとキーボードを叩く

あとちょいで終わりそうなのに畜生

 

笹原「先輩も大変ですねぇ」

 

「じゃ1個現場もってくれ。そうすりゃちょっとは楽になる」

 

俺の会社は請負会社で、現場が何個もある為そのエリアの担当者がシフトを組むことになっている

アホの社長が現場の契約をどんどんしてくれるお陰で担当者が決まらずに見切り発車しててんてこ舞いとなっている今日この頃

・・・お陰でしわ寄せがこっちに来て大変なんス

 

笹原「いや!私は一現場でお腹いっぱいなので!」

 

こうハッキリ言える性格羨ましい

俺も見習わないと

 

「・・・ほら、そろそろ定時だろ?早く帰んないと電車乗り遅れるぞ?」

 

時計は17時半を指していた

 

笹原「わお!そんじゃ私は失礼しますね!」

 

「ハイハイ、お疲れさん」

 

パソコンを見つつ笹原に声を掛ける

また30分位は残業だな・・・

 

笹原「・・・・・・先輩」

 

不意な声をかけられる

 

「どーした」

 

笹原「・・・ちょっと今度相談に乗ってもらってもいいです?」

 

何や急に

ワシに恋愛の相談は無理やぞ

最近色々あったばっかりなのに

 

「? 構わんけどどうした?」

 

何となく先が気になるので聞いてみる

 

笹原「いや!また今度でいいんで!」

 

気になるやないか!

 

笹原「明日お昼食べる時に相談乗って下さい」

 

「そうか?分かったよ」

 

笹原「それじゃ!お先失礼します!」

 

笹原が何かに悩んでる、と言った表情を読み取れた

年頃の女の子の相談とか俺大丈夫か?

つーかアイツ何歳だったっけ?

 

「気をつけて帰れよ~」

 

笹原を見送り、作業に集中する

結局何だかんだで1時間残業してしまった

・・・と、不意に背中に寒気を感じる

 

(嫌・・・・・・お願い・・・・・・)

 

「ふぇ!!??」

 

事務所には俺しか居ない

なんや急に

そういうホラーチックなのやめてけれ!

 

見回す俺の視界には、声を発するようなものは無かった

 

「・・・・・・市子の仕業か?」

 

オイオイいよいよテレパシー使うようになったんか

今帰りますから暫し待たれよ!

 

(・・・・・・捨てないで)

 

「・・・・・・」

 

聞こえてはいる

だが何だろう

怖いというより悲しくなる

何だ

ロッカーで着替え、事務所の鍵を閉め早めに帰路についた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャ

 

 

「・・・ただいま」

 

自宅に着いた俺は声を掛ける

 

市子「おかえり!遅い!コラ!」

 

いつもの頂きました

またこのやり取りかよ

 

「残業でちょっとな。ケース取るぞ」

 

市子「やーっと伸び伸びできるわ!」

 

「なぁなぁ、市子先生?」

 

ちょっと質問させてもらおう

 

市子「なーに?」

 

「仕事中、お前俺に声掛けたか?」

 

帰り際のあの声のことを聞く

考えてみれば、市子とは違う声な気がするが

 

市子「何で仕事場にいるアンタに声掛けなきゃいけないのよ」

 

あっさり否定された

まあだろうね

 

「・・・だよなぁ。てっきりテレパシー的な何かで俺に声掛けたのかと」

 

市子「そんな能力、生憎持ち合わせておりません!」

 

腰に手を当ててムスッとした顔で話す市子

 

市子「・・・ていうか何?声聞こえたの?」

 

「・・・あぁ、何だったんだろ」

 

物悲しいあの声

正直怖いより心配の方が勝つ

 

市子「それ、なんて言ってたの?」

 

「んー?捨てないでって」

 

市子「・・・」

 

顎に手を当て、考え込む市子

と言うか仮に霊的な現象だったとして、何で霊的な存在のこの人に相談してんだ

なんかおもろいなコレ

 

「なんなのか分かるか?」

 

市子「・・・」

 

あれ?無視?

というか真剣に考えてくれてるのか?

てっきり罵詈雑言浴びせられて終わるものかと

 

「まああんまり気にしないけどな」

 

市子「ねぇ、ショウ」

 

「ん?」

 

市子に視線を送ると、何やら悲しげな表情をしていた

 

市子「・・・多分、近々アンタの元に来るかも」

 

え!!!!

 

「おい、何が来るんだ。こえーよ」

 

市子「声の主」

 

「それはつまり、幽霊?ゴースト?」

 

動転して聞く俺

 

市子「もしくは、私に近い何か」

 

「お前に近い何かって、何だよ」

 

市子「多分、アンタに縋ってるかも知れない。ちょっと注意してて」

 

何をどう注意すりゃいいんだ

てか俺呪われてしまうん?

 

「先生!注意の仕方教えて下さい!」

 

市子「まぁまた聞こえたら私に言いなさい」

 

えー!

大丈夫かな俺

 

市子「・・・平気よ、呪われる訳じゃないと思うし」

 

「そういう問題かね・・・」

 

市子「さっきも言ったけど、アンタに縋ってるっぽいしね」

 

「オイオイ!俺を頼りにされても困るぞおい!」

 

・・・とは言ったものの、どうしたものか

近々来るのであれば、まあその時に考えるとするか

もしや市子と同業者って感じか?

何れにしても、その時が来るまで待つしか出来ないがな・・・

 




展開遅いです
すみません


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3 後輩の相談と呪いの人形

そういえば恋愛要素無いな・・・・・・
さてどうしたものかしらね


翌日、簡単な朝飯を作り、平らげた

そーいえば、笹原に今日相談乗ってくれって言われてたっけ

 

市子「ねー、たまにはガラスケース外したままにしてくれない?」

 

「前も言ったけど、埃着いちまうし、ゴキブリが寄るかもしれんぞ?」

 

市子「動き回ってれば問題ないし!」

 

誰もいない部屋でガタガタ音してたら、お隣さんに何か言われちまう

そうでなくたってお隣さんあんま面識ないのに

 

「駄目。コレばっかりは折れなさい」

 

市子「えーー!」

 

まあ俺も意地悪がしたくてやっている訳じゃない

ただ何となくだが、俺が居ない時はガラスケースをしておきたい

何でだろうな

説明出来ないけど、ただ何となく・・・

 

市子「まあいいわ!それより今日は残業無しで帰って来なさいよ?」

 

それは何より俺が望んでるんだがな・・・

 

「・・・分かりましたよ、いってきます」

 

市子「行ってらっしゃーい」

 

ガラスケースの中から手を振る市子

こう見ると可愛い奴だな

口は悪いけど

 

 

 

 

 

 

 

会社でのお昼休憩

正直休まるような感じでは無いけどね

まあ会社でそんな身も心も休憩できるなんて思ってないけどね

 

笹原「先輩!」

 

後ろから声を掛けられる

そういえばそうだった

 

「おう、笹原」

 

笹原「先輩、ちょっと忘れてたでしょ!」

 

「忘れてないって!・・・んで、相談って何だよ」

 

そう言うと、笹原は辺りを見回す

 

笹原「・・・ここじゃ何ですので、ちょっとあっちで」

 

手招きしながら、事務所の一角に招かれる

まさか!告白とかではなかろうな!?

だとしたらどーしよ・・・

トラウマが蘇るのだが・・・

 

笹原「・・・先輩って、霊的なことって信じる人ですか?」

 

予想の斜め上を行きやがった

霊的なこと?

 

「まぁ、一応な」

 

市子の事もあるしな

まあ誰にも言ったこと無いけど

そもそも誰かに言っても信じないだろうしな

 

笹原「・・・実は、ウチにある人形、夜中に動くんです・・・」

 

「・・・」

 

何だろう

信じてない訳じゃないのに、全然びっくりしないな

寧ろびっくりしない俺にびっくりするわ

 

笹原「信じてないでしょ!」

 

「・・・違うよ、信じてない訳じゃない」

 

ウチにも口数の多い奴いますしね

まぁ別に言いませんが

 

「それで、その人形どんな感じに動くんだ?」

 

笹原「それが・・・頭が動いたり、ポーズが変わってたり・・・」

 

なるほどなぁ・・・

こりゃ完全に市子さんの同業の方だろうな

と言うか・・・俺に相談されても何もしてやれない気がするんだが・・・

 

笹原「それで先輩!ここからが本題なんです!」

 

えー!

ここからが本題かい!

 

笹原「今度の休み、一緒にお寺で供養しに行って欲しいんです!」

 

ナ、ナンダッテー!?

 

笹原「全然信じてくれなかったらやめとこうかと思ったんですけど・・・先輩なら一緒に行ってくれそうだったし!」

 

「・・・行くのは全然構わないんだが・・・・・・」

 

市子の同業者となるとな・・・

 

「何か実害とか出たのか?」

 

笹原「・・・いや、正直動く以外特には・・・・・・」

 

「・・・なら」

 

別にそのままで良くないか?

・・・なんて言おうとしたが、普通は不気味がって置いときたくないよな・・・・・・

しかも、確か笹原も一人暮らしだったしなぁ

そうなると1番いい方法と言えば・・・

 

「俺が引き取ってやろうか?」

 

笹原「え!?」

 

心底驚いた様子だった

そりゃそうだよな・・・

 

笹原「だって、動くんですよ!?」

 

「それは聞いた」

 

笹原「ヤバくないですか!?」

 

「んー、まぁな」

 

笹原「・・・・・・」

 

ドン引かれたか?

いや当たり前か・・・

 

「・・・・・・引いてる?」

 

笹原「そうじゃなくて・・・普通に心配で」

 

呪われてますっていう代物を引き取るって言うんだからな

まあ色んな意味で心配されますわそりゃ

 

「大丈夫だよ。引き取るくらい訳ないって」

 

ウチにはそれこそスペシャリストが居るしな

 

「任せとけ」

 

笹原「・・・先輩」

 

笹原が何となくだけど、安心した顔をした気がする

そりゃ怖いよな、勝手に動く人形とか・・・

 

笹原「分かりました!今度の休みの時、持ってきます!」

 

「あいよ。そーしたら、あのファミレスに集合するか」

 

笹原「分かりました。でもホント何かあっても私のせいにしないでくださいよ?」

 

コレで笹原のせいにしたら俺クソ野郎やんけ

 

「する訳ないだろ」

 

まぁコレで後輩の悩みが解消されるなら安いもんだな

この際同居人がさらに一人増えようが構わんし

 

笹原「・・・先輩・・・・・・優しいんですね」

 

「・・・何だよ急に」

 

笹原「普通こんな話信じてくれないし・・・」

 

だよなぁ・・・

そもそも、コレお寺さんとかに相談する案件だし

 

「別に優しくなんてないよ」

 

・・・もし市子が居なかったら、どう返してたかな・・・俺・・・

と言うか、市子が居なかったらそもそもこんな話すら出来なかったんだろうな・・・・・・

アイツは・・・

 

笹原「・・・先輩?」

 

考え込んでしまった

まあそもそも、あの事こそ信じてもらえない話だろうしな

 

「いや、何でもない」

 

それとも、いつか話しをしてもいいと思える人に会えれば・・・或いは・・・

 

笹原「それじゃ先輩、休みの日空けといて下さいよ?」

 

これだけ聞くとデートのお誘いみたい

ドキドキしちゃう

・・・アホか俺

 

「あいよ」

 

そうなると、市子にも伝えとかんとな

というか、アイツ嫌がったりしないよな?

今更だがちょっと心配や・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、という訳でだな、市子さんや」

 

市子「・・・」

 

「同居人がだな・・・・・・その・・・・・・」

 

市子「・・・」

 

ふぇぇ・・・

何も言ってくれないよぉ・・・

怒ってるんか?

 

「・・・・・・」

 

市子「・・・」

 

「・・・・・・」

 

市子「・・・」

 

気まず!!

おい何か言ってくれ!!

 

市子「・・・っぷ」

 

「!?」

 

市子「あっはっはっは!」

 

焦った!!

思った以上の大笑いにビックリしたわ!!

 

市子「ホント、アンタらしいわね」

 

「どういう意味だよ」

 

市子「別に?まぁ同居人が増えるのは構わないけど・・・・・・ただ・・・・・・」

 

ただ?

 

「何?」

 

市子「私みたいに呪わないとは限らないわよ?」

 

えーー・・・・・・

 

「ヤバいかね?」

 

市子「・・・・・・さぁね」

 

市子さんが言うと、ホント説得力あるが・・・・・・まぁそうだよなぁ・・・

何かしらの想いがあるから魂が宿ったんだよな・・・

それが怨念だったら一発アウトや!!

 

市子「・・・それと、これは飽くまで可能性の話だけどさぁ」

 

不意に市子が語り始める

 

「何だ?」

 

市子「アンタが言ってた、声が聞こえたって話ってもしかしてその子だったとか?」

 

んー・・・まぁ『捨てないで 』だからなぁ・・・有り得るけど

 

「だとしたら、よくまぁピンポイントで俺に聞こえたな」

 

市子「だとしたら・・・私より強いかもね、その子」

 

え!

何が!?

 

「・・・・・・聞きたくないけど・・・何が・・・?」

 

市子「何って、そりゃ勿論ーーー」

 

「・・・・・・勿論?」

 

市子「想いよ」

 

あ・・・そっちね

てっきり呪いとか怨念とかかと思いました

 

「・・・想い・・・ねぇ」

 

市子「・・・私だってそうよ?」

 

「・・・?」

 

市子「私だって、何かしらの強い思いがあるからこうやって魂が宿っちゃったんだから」

 

そういえば、市子の想いってなんだろうな

 

「お前の想いって?」

 

市子「・・・・・・思い出せないのよ」

 

ありゃま

記憶喪失って奴ですかい

つか、人形って記憶喪失あるの!?

 

「まぁその内思い出すんじゃないのか?」

 

軽くそうは言ったが、何か重要な気がするんだよなぁ・・・

何の予感かしらコレは・・・

 

市子「・・・まぁそうね。でもまぁ忘れちゃうくらいだし、そう大したことないと思うわ」

 

あっさりそう言う市子

いつか市子の想いが分かる時が来るんだろうか

・・・・・・・・・さてっと

同居人が増える訳だ

コレから忙しくなるな・・・もとい・・・

 

「これからうるさくなりそうだ・・・」

 

市子「・・・何ですって!?このタコ助!!」

 

・・・せめてお淑やかであってくれ・・・・・・新たな同居人よ・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この市子のすっぽりと抜けてしまった想い

きっと気づく時が来るのだろう

でも今は知らなくて良い

いつかたどり着いてくれると

そう信じているから

 

 




恋愛要素出せなくて草
考えてはいます、すみません


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4 新たな同居人と呪いの人形

長くなってしまった・・・
文を書くって難しいですね・・・


休日

ファミレスで相見える2人

そう!ワシと笹原!

傍から見ればデートなのだが・・・・・・

 

笹原「・・・先輩・・・・・・これが例の人形です」

 

・・・はい、デートではありません

曰く付きの人形を引き取る日でございます

・・・というか、思ってたのと違うな

どちらかと言ったら、何と言うか・・・

 

「・・・思ったより可愛らしいな」

 

やべ!

声に出ちった!

 

笹原「見た目は可愛らしい球体関節の人形何ですが・・・」

 

「こやつが、動いちゃうと」

 

笹原「・・・はい」

 

もっと怖いのイメージしてただけに・・・良かったわ・・・

 

笹原「・・・一応確認しますけど、ホントのホントに良いんですね?」

 

「今更お断りとかしないよ。大丈夫だって」

 

問題無いな

初手で何か実害が出たら笑っちゃったが、まあそんな気も無さそうだし

それに何より

思ったより可愛らしいし

 

笹原「もし何かあったら連絡してください!コレ、私のアドレスです」

 

棚から牡丹餅だな!

まさかの笹原のアドレスGET

・・・まあそんな浮ついた気は起こらんけどな

 

「ん!サンキュ!」

 

100%何か起こるけど、大丈夫よ

それより先ずは腹ごしらえよ!

 

「今日は奢ってやる。好きなやつ食え」

 

笹原「え!マジッスか!?」

 

先輩たるもの、当然じゃ

 

「構わん構わん」

 

笹原「それじゃ、遠慮なく・・・・・・すみませーん!」

 

ランチをとりあえず楽しむとするか

せっかくだし、俺もガッツリ食っとくか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店員「お会計、1万4520円になります」

 

・・・・・・・・・嘘だろ?

ファミレスで2人で食って1万越えとかどうなってんだ

予想外だったのは笹原の食いっぷりだ

あの細っこい体の何処に入るんだってくらい食ってたからな・・・

 

笹原「・・・先輩・・・・・・やっぱ私払いましょうか?」

 

健気な娘やな

だが馬鹿たれこの!

先輩が1度払うと言ったら払うんや!

 

「ばーか。財布仕舞え」

 

笹原「・・・でも」

 

「別にそこまで窮屈してないよ」

 

必死の強がりです

しかし後輩の手前

強がらせて下さい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笹原「先輩、今日は有難うございました!」

 

「かまへんよ」

 

車で笹原の自宅に送りつつ、声を掛ける

そういえば、俺の車に笹原を乗せるのは初めてだな

・・・というか、女の子を乗せるのは・・・あの時以来か

・・・・・・

 

笹原「先輩の車、一度乗ってみたかったんですよね!」

 

あらそうなのね

 

「そうか?まあ別に何の変哲もない車だけどな」

 

とか言いつつ、自慢のマイカーです

6年ローンです・・・・・・エヘ!

 

笹原「あ!そこのコンビニを左です」

 

「あいよ」

 

何だかんだで笹原の自宅に着いた

 

笹原「先輩・・・またご飯行きましょうね?」

 

「あぁ、良いぞ」

 

・・・あんだけ食われると正直困るがな・・・・・・

 

笹原「それじゃ先輩!有難うございました!」

 

笹原を見送った

・・・・・・・・・さて

 

「いつまで黙ってるんだ?」

 

声を掛けてみる

・・・・・・・・・反応無し

飽くまで人形という訳か・・・・・・

 

「お前にも先に言っておくが、お前の同業者が居るから宜しくな」

 

ガタッ

 

袋の中で音がした

反応あり

せめて喋って

 

「家に着いたら、色々教えてくれな」

 

声をかけるが無反応

ま、仕方ないよな

そんな車内の中、家に帰る

 

 

 

 

 

 

ガチャ

 

「ただいまー」

 

玄関を開け、声を掛ける

・・・

・・・

・・・

え!無視!?

 

リビングのドアを開けると、腕を組んで仁王立ちする市子の姿があった

 

市子「・・・」

 

何や

何でそんな仏頂面や

 

「・・・ただいま、帰りました・・・・・・」

 

おかしいな

何故俺がよそよそしくせにゃならんのだ!

まあともあれ、先ずはご対面と行こうか

袋の中から例のヤツを出す

 

「・・・この方が例のお方だ」

 

西洋人形を取り出す俺

まぁ見た感じは至って普通のお人形さんなんだよなぁ

 

市子「・・・」

 

「・・・・・・」

 

何だこの不思議な感じ

せめてお互い何か喋って

 

市子「・・・」

 

「・・・・・・」

 

何やねんこの緊張感

俺が司会進行した方がええんか?

 

市子「・・・いつまでそうしてるつもりよ」

 

市子が不意に声を掛ける

その言葉と同時に、西洋人形がカタッと音を出した

 

市子「平気よ、それっぽく演じなくたって」

 

西洋人形「・・・ちょ・・・え?・・・・・・」

 

声を漏らす西洋人形

そりゃそうだよ

いくら同業者が居るとはいえ、普通に喋っちゃうのはびっくりするよな

 

西洋人形「ちょっと・・・何で普通に喋ってるんですか!」

 

そんな貴方も普通に喋っておりますよ

 

市子「何よ、喋っちゃいけないわけ?」

 

西洋人形「だって・・・・・・」

 

視線を俺に送る西洋人形さん

あ、僕ですか?

へーきよ

慣れてますから

 

「言っただろ?同業者が居るって。だから慣れてるんだよ」

 

市子「アンタもちょっとは羽根伸ばしなさいよ。窮屈だったでしょ?」

 

西洋人形「・・・でも・・・・・・」

 

そうそう

ここではそんな気遣いは無用ですよ

ただ家主は俺や

せめて市子さんのその台詞は俺に言わせて欲しかった

 

「大丈夫だよ」

 

そう声をかける

もう今更びっくりなどしませんよ

 

「だから車で声かけたのに、無視しやがってコラ」

 

西洋人形「当たり前ですよ!コレで私が話したら・・・」

 

口篭る西洋人形

 

西洋人形「・・・・・・捨てられちゃうかもしれないじゃないですか」

 

阿呆め

そんなことする訳なかろう

 

「ばーか」

 

西洋人形「!」

 

「お前が動くって知ってて俺はお前を引き取ったんだぞ?」

 

西洋人形「・・・」

 

「喋るくらいで捨てる理由になるわけないだろ」

 

西洋人形「・・・・・・」

 

泣きそうな顔になってるな

ワシそんなに酷い事言ったか?

ゴメンね!?

でも事実だもん!!

 

市子「コイツはそういう男なのよ」

 

「コイツゆーな」

 

市子「じゃあコレで」

 

もっと酷いやんけ!

 

「・・・お前は俺をなんだと思ってんだ」

 

市子「変態」

 

何だか市子さんの俺へのイメージ悪過ぎて焦るわ

と言うか変態ってどういう事っすか!!

 

「だったら市子だってすぐ髪伸びるじゃねぇか!」

 

市子「それが何よ!」

 

「エロい奴は髪伸びるの早いらしいぞ」

 

市子「!!」

 

医学的根拠は無いらしいけどな

 

「・・・・・・大和エロしこ」

 

市子「今なんつったコラァァ!!」

 

ガラスケースをバンバン叩く市子

割れる割れる!!

やめろコラァ!!

 

西洋人形「・・・ップ」

 

笑う西洋人形

 

市子「何笑ってんだコラ!!」

 

怒りの矛先が西洋人形に向く

完全にとばっちりじゃねぇか

 

西洋人形「わ、笑ってません!」

 

「はいはい、喧嘩はそこまで」

 

一先ず仲裁する俺

 

市子「殆どアンタのせいでしょうが!」

 

ドゴッとガラスケースを殴る

そう言えばガラスケースまだ外してなかったな

 

「あんまりガラスケースを殴るんじゃありません」

 

そう言いながらガラスケースを外す

 

西洋人形「!!??」

 

西洋人形がビックリした様子だった

何やねん

もう驚くポイント無いだろうよ

 

「どうした?」

 

西洋人形「あなた!何ともないのですか!?」

 

ほえ?

たかがケースを外したくらいで何じゃ?

 

「何ともって、別に」

 

西洋人形「嘘・・・・・・」

 

市子「何の話?」

 

市子さんも分からん様子

市子大先生が分からんかったらワシ何てちんぷんかんぷんですよ

 

西洋人形「え!?日本人形さんも分からないんですか!?」

 

市子「分かんないわよ」

 

西洋人形「・・・なら良いですけど・・・・・・」

 

良いわけあるかい!

説明しなさいよ!

 

「気になるだろ」

 

そこで切られちゃうと理由を聞きたくなっちゃうわ

 

西洋人形「うーん・・・・・・寧ろあなたが大丈夫なら良いんです」

 

説明になってなくて草

 

市子「何よ!気になるじゃないの!」

 

そーだそーだ!

言ったれ市子さん!

 

西洋人形「・・・要するに、日本人形さんから出てる・・・何と言うか・・・その・・・」

 

説明下手過ぎて草

 

市子「もう!バシッと説明しなさい!」

 

西洋人形「ご・・・ごめんなさい!」

 

漫才しかお前ら

良いコンビになりそうで安心よ

 

西洋人形「日本人形さんから出てる負のオーラって言うんでしょうか・・・それがガラスケースを外した途端強くなったもので・・・」

 

「負のオーラ?」

 

明らかにヤバそう

絶対何かしらの害あるやん

一酸化炭素とか出てそう

でも今まで別になんともなかったけどな・・・

 

西洋人形「・・・でも、ご主人が大丈夫なら問題は無いかと・・・」

 

ご主人って・・・

なんかむず痒いな

 

「ご主人はやめてくれ、なんか恥ずかしい」

 

西洋人形「す、すみません!なんとお呼びすれば?」

 

んーそうだなぁ・・・

この際だしかっこいい呼び方でーーーー

 

市子「ショウでいいわよ」

 

お前が答えるんかーい

 

「・・・じゃそれでいいよ」

 

西洋人形「・・・分かりました、ではショウさんで」

 

「・・・で、話戻すけど、害がなければ問題無いんだな?」

 

西洋人形「はい・・・ただ、外出される際はガラスケースはつけた方が良いかと・・・」

 

市子「えーーー!!」

 

俺の感は正しかった・・・

いや何故か付けた方がいいと思ってたんだよ

俺の感って結構当たるんよ

 

西洋人形「でも、どうしてショウさんには何も実害が出ないのでしょうか・・・」

 

市子「私がコイツを呪う気無いからじゃないの?」

 

西洋人形「それでもこの量は・・・少しでも霊感の強い人が居たら気づくレベルですし・・・」

 

何やら市子さんは、俺が思ってる以上に凄い方だったのかも・・・

と言うか俺から言わせてもらえば、どっちもどっちなんだがな

 

西洋人形(もしかしたら・・・ショウさんの方がかなり特異な体質なのかも・・・)

 

西洋人形先生が俺見て何か考え込んでる

・・・つーか西洋人形先生って、なんか言いずらいな

名前なんなんだろ

 

「そう言えば、お前の名前は?」

 

西洋人形「私ですか?」

 

市子「そうね。名前くらい無いとコレから面倒だし」

 

そうは言いますが市子さん

俺の事本名で呼んでくれないではないですか・・・

まあ良いけどさ・・・

 

西洋人形「・・・その昔に私を・・・造ってくれた人につけて頂いた名前ですが・・・」

 

ほうほう

どのくらい昔かは気になるが・・・

 

西洋人形「ヴィオラって言います」

 

ヴィオラか

由来は分からんが良い名前じゃないか

 

「ヴィオラか。そんじゃ改めて宜しくな」

 

ヴィオラ「・・・はい!よろしくお願いします!」

 

市子「私は市子ね!敬い奉りなさいな!」

 

何でこいつは先輩風吹かしてんだ

この部屋において、上下関係なんて関係ありません!

 

「・・・こいつのこういう所は無視してくれ」

 

市子「ぶっ飛ばすわよ!?」

 

口悪!!

そんなに言うかね!?

 

ヴィオラ「・・・ふふ」

 

ヴィオラが自然と笑みを零す

きっと・・・これが私が求めていた場所なのかもしれない・・・

 

ヴィオラ「・・・あ・・・そっか・・・」

 

言葉を漏らすヴィオラ

 

「ん?どうした?」

 

ヴィオラ「・・・いえ、何でもありませんよ?」

 

「・・・?」

 

 

 

 

 

私の言葉を拾ってくれたのは・・・あなただったのですね・・・

私の願いを・・・聞いてくれたのは・・・

私を・・・救ってくれたのは・・・

・・・・・・

私は、以前のご主人を恨んだりはしていません

彼女のお陰で、私は彼と出会うことが出来たのだから・・・

人形とは、人から人に受け継がれていくもの

だからこそこれも・・・人形が故の宿命・・・

だから、私には彼女を恨む理由なんてない

悲しくないか、と言われれば悲しい・・・

けれど・・・・・・その宿命だからこそ、彼と出会えたのだ

だから・・・せめてこの幸せだけは大切にしたい・・・

彼の元で・・・・・・・・・

あなたが私を見た時・・・可愛いと言ってくれた・・・

・・・嬉しかった

もし・・・私が人形で無かったら・・・彼と・・・

・・・・・・

・・・これ以上はいけない・・・・・・

私は人形なんだ・・・・・・

人形が持っていい感情じゃない・・・

・・・この感情は・・・あなたから貰った呪いなのでしょうか・・・・・・

・・・だとしたら・・・私は幸せ者です

こんなに優しい呪いが・・・あったのですね・・・・・・

 

 

 

 

 




ヴィオラは完全にモデルが居ます
市子は飽くまでイメージ像ですが、ヴィオラはモデルが居ますね
いつか語れたらと思います


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5 記憶と呪いの人形

オリジナルの解釈があります
いやいや違うだろ、と思うかもしれません
しかしまあ飽くまでオリジナルですのでご容赦くださいな


休日にする事!

デート?ショッピング?

違います

掃除です

・・・・・・悲しい

掃除機を掛けながら悲しい独り身の寂しさを呪う

 

市子「ちょっと!あんまり埃たてないでよね!」

 

コイツは何にでも噛み付くやつだな

ピラニアかお前は

 

市子「・・・バカにしてるの丸わかりなんだけど?」

 

市子先生の謎スキル

何故俺の心が読めるし

 

「・・・だったらガラスケースの中入ってれば良かっただろ」

 

ヴィオラ「でも我々人形にとって、埃は天敵です!」

 

貴様も言うか!

口うるさいのが1人増えたよ・・・やったねヴィオラちゃん・・・

 

「ならキッチンにでも避難してろ!休みの日に掃除しないと面倒になっちゃうんだよ・・・」

 

市子「何よ!偉そうに!この変態!」

 

ヴィオラ「エッチ!スケベ!」

 

ヴィオラは市子に何を吹き込まれたのだろうか!

まあそれだけ馴染んでくれたのは良かったが・・・

 

「はい、お前ら掃除終わったら説教な」

 

市子・ヴィオラ「えーーー!」

 

当然だ!

こんな紳士を変態とか何処見て言ってんだ!

と言うか、何で市子さんは俺を変態呼ばわりするのだろうか・・・

なんか不安になるんだが・・・

いやナニがとは言わないけどさぁ・・・

 

「おい市子。お前の台座ちょっと退かすぞ?」

 

市子の私物はガラスケースと台座と本人

この3セットを密かに市子さんセットと呼んでいる

飽くまで密かにだけどネ・・・

 

市子「壊さないでよねー?」

 

毎回掃除する時いつも言われる台詞

壊さないっつうの

 

「へいへい」

 

そういえば、台座の裏ってどんなんなってたっけ?

あんまり意識して見ること無かったな

ついでにちょっと失礼して・・・

 

『 櫻井 』

 

台座の裏にそう彫ってあった

製作者の名前なのかな?

 

ヴィオラ「どうかしましたか?」

 

「ん?いや・・・」

 

調べてみたら、案外由緒正しいかも知れないけど・・・

しかし・・・

 

市子「ん?何よ」

 

詮索するのはやめとくか

何かしらの訳ありかもしれんしね

機会があったら調べてみるかな

 

ヴィオラ「あ、市子さん。髪に埃が!」

 

市子「嘘!取ってーー!」

 

すまんな2人とも

だがちょっとでも綺麗な空間にしとかんと埃が積もっちまうからな

これは君たちの為でもあるんやで?

 

「ほら、あと少しで掃除も終わるから大人しくしてろ」

 

市子・ヴィオラ「はーい」

 

子供の引率をする先生の苦労が今分かる・・・

こりゃ大変だよホント

 

 

 

 

 

 

 

 

掃除も一段落して腰掛ける俺

普通にちょっと張り切り過ぎたかな・・・

まあその頑張りがこの部屋の綺麗さよ!

 

市子「まあ?あんたにしては頑張った方ね」

 

ヴィオラ「ショウさんは何事にも真面目なんですね!」

 

市子「ヴィオラ、コイツを煽てても何も出てこないわよ?」

 

カチーン

市子のヤツ調子に乗りやがってー!

 

「よしヴィオラ。お前には何か買ってきてやろう」

 

ヴィオラ「え!ホントですか!?ヤッター!」

 

市子「ちょっとちょっと!私には!?」

 

「ある訳ないだろ。反省しろ」

 

なんなら正座でな

たまにはその悪すぎる口を反省しなさい!

 

市子「ホントヒドイ男!アホ!さいてー!」

 

そっぽ向く市子

とは言いつつも、市子の分も何か買ってきてやろうかなとは検討している

・・・が、何を買えばいいのかいまいち分からん

 

「ヴィオラは何が欲しい?」

 

ヴィオラ「私は・・・新しいお洋服が欲しいです!」

 

おうふ・・・

大の大人がお人形さんのお洋服買うの・・・中々ハードル高いな・・・

まあ世の中にはネット注文があるしな・・・

 

「・・・ネット注文で構わないかね?」

 

ヴィオラ「勿論ですよ!ありがとうございます!」

 

よし、探してみるか!

・・・ついでに市子の分もな

 

 

 

 

 

スマホを開いたと同時にふと思い出した

あの『 櫻井 』と掘ってあった名前

ネット注文の前に先に見てみるかね

色々検索してそれっぽいサイトがヒットした

その名前が・・・

 

「・・・・・・櫻井人形店・・・」

 

そう声を漏らした時だった

背中がザワついた

後ろを見ると、市子が物悲しそうにこっちを見ていた

 

「・・・どうした市子」

 

市子「・・・櫻井・・・・・・?」

 

聞き覚えがあるような様子

まあおそらく製造元だろうし聞き覚えはあるだろうよ

 

「あぁ、お前の台座に掘ってあったんだ」

 

市子「・・・櫻・・・井・・・・・・・・・」

 

何やら様子がおかしい

どうしたものなのか

 

「おい市子?」

 

市子「・・・・・・なんでもない」

 

ヴィオラ「・・・なんでもないという様子では無いですよ?」

 

まあ確かに

いつもの市子とは様子が明らかに違う

やっぱり何かあったのだろうか

 

「・・・大丈夫か?」

 

市子「・・・・・・何だか、ざわつく感じがするのよ」

 

俺なんて背中がざわついて焦ったよ

 

ヴィオラ「市子さんを結ぶ何かがあるのではないでしょうか」

 

製造元ってだけでは無い何かしらの因果関係があるかもな・・・

それに、市子の記憶の件もあるし・・・

 

市子「ま、良いわよ別に。なんか無性にざわついただけよ」

 

そう言うと、テクテクと台所の方へ歩く市子

寧ろ俺が気になるんだが・・・

 

ヴィオラ「・・・あの、ショウさん」

 

ズボンの端を引っ張りながら呼ぶヴィオラ

あら可愛い

・・・ってそうじゃなくて

 

「どーした?」

 

ヴィオラ「・・・市子さんなんですが、やっぱり普通の人形とは違う気がするんです」

 

そりゃこんだけ喋るわ動くわの人形は普通とは違いますわな

・・・まあ多分ヴィオラの言いたいのは、他の所謂呪われた人形とは違うって言うことなんだろうがね

 

「どういう事?」

 

ヴィオラ「・・・えっと、市子さんから出ているオーラ自体は負のオーラ何ですが・・・誰かに向けた怨念とは違うと言うか・・・」

 

????

俺がアホなのか理解があんまり出来ん・・・

 

「すまんヴィオラ。分かり易く頼む」

 

ヴィオラ「うーん・・・例えば私とかは、持ち主であるご主人に捨てられたくないっていう誰かに対しての想い何ですが・・・」

 

ふむふむ

 

ヴィオラ「市子さんは、自分に対しての何かしらの想いがあるみたいな・・・うーん・・・なんて言うか・・・」

 

何となく言いたい事がわかったような気がする

ヴィオラの様な人形のパターンは誰かに対しての念

捨てられたくない、可愛がって欲しい、私を見て欲しい

そんな想いが彼女達に魂を宿す、と

市子は、誰かに向けた想いでは無く自分に対して何かしらの想いが今の市子として魂が宿ったと・・・

 

「・・・何となくわかったが、ヴィオラみたいなパターンが多いのか?」

 

ヴィオラ「・・・というより、それが普通かと・・・・・・」

 

呪いの人形の普通はよく分からんが・・・

まあおかしな話だよなぁ

市子の本質は人形であって、自分自身に何かの想い・・・或いは無念や後悔のようなものがあるというのは・・・

 

「・・・まるで人間みたいだな」

 

そう、まるで人間だ

生きていた頃に後悔があるような・・・

 

ヴィオラ「・・・はい」

 

・・・うーん、まあ何がともあれだ

これは飽くまで予想に過ぎない

いくら市子とは言え、こんなデリケートな話をいきなりする訳にも行かないしな・・・

今の所手掛かりは・・・

『 櫻井人形店 』

どうやら鍵はここにありそうだな・・・

 

「・・・」

 

場所も割と近い

次の休みにでも行ってみるか・・・

何だか探偵みたいだな俺

あ、そう言えば

 

「話逸れちゃったけど、ヴィオラはどんな服欲しいんだ?」

 

そうそう

元々この話題でスマホを取り出したんだよな

 

ヴィオラ「え?・・・えっとですねぇ」

 

あともう1人

黄昏てるあのお方の分も・・・

 

「おーい市子?お前も来い」

 

市子「へ?」

 

何腑抜けた声を

 

「お前の分も買ってやるよ、何が良い?」

 

市子「な、何よ!さっきは邪険にしたくせに!」

 

それについてはお前が悪い

紛うことなきお前が悪い

 

「要らないならお前の分は無しにするぞー?」

 

市子「だ、誰もそんなこと言ってないじゃない!」

 

トテトテトテっと俺の元に来る市子

先の事はこれから考えればいい

分からないことは、一歩ずつ紐解いていけば良い

・・・・・・でも何だろうな

・・・・・・妙な胸騒ぎがする

理由は分からないが、知ってはいけない何かがありそうな・・・

・・・・・・

気の所為だよな!

気にしてたら何にも進まない

これが市子の為になるなら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は流れ、夜

佇むひとつの人影がそこには居た

 

「・・・どうやらこのアパートのようだな」

 

間違いない

このアパートから異様なオーラを感じる

この感じは・・・二体か?

以前から妙な気配を感じてはいたが・・・まさかこれ程とは・・・

この私が来たからには・・・

 

「・・・必ず滅してくれる・・・・・・」

 

この私から逃れられると思うな・・・

この・・・天城清玄からな・・・




このストーリーでは解釈で進ませてもらいます
よろしくお願いします


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6 ストーカーと呪いの人形達

今年の夏は夏らしいことできなかったなぁ・・・


毎朝の通勤

マイカーがあるというのに何故電車通勤せにゃならんのだ!

おのれ部長!許すまじ!

・・・まあ部長良い人だから良いけどさ

・・・・・・・・・

それはそれとして、最近妙な視線のようなものを感じる・・・

いよいよ俺にもモテ期が来てしまったようだ・・・

最後のモテ期は小学五年生の時だがな!!

・・・・・・・・・

冗談はさておき、マジでなんかヤダな・・・

早いとこ事務所に逃げ込みたいんだが・・・

気の所為だったらただの自意識過剰の男ですがね

目的の駅に着き、足早に事務所に向かう俺

 

笹原「あ、せんぱーい」

 

不意に背後から声を掛けられる

正直ちょっとビビる俺

 

「お、おう笹原。おはよう」

 

言葉がごもる俺

 

笹原「どうしました先輩?何か挙動不審でしたよ?」

 

あれ?意識してなかったけどそんな感じになってましたか?

だって何か視線を・・・

・・・とは笹原には言えないけど

 

「いやいやいつも通りやで」

 

笹原「えー、何か怪しい人みたいな挙動でしたよ?」

 

失礼しちゃうわね

しかし傍から見たらそんなにキョドってたのね

 

「何でもないって。ほれ行くぞ」

 

足早に歩みを進める

 

「ちょっと先輩!早いですってー!」

 

いやスマンの笹原

早めに事務所行きたいんや!

 

 

 

 

 

 

何だかんだで仕事に勤しむ俺

今朝の事が頭から忘れ去られてしまったお昼時

俺もそろそろ休憩とするか・・・

コンビニで買い置きしておいカップ麺を取り出す

ちょうどその頃に現場の巡回から笹原が戻ってきた

 

笹原「せんぱーい・・・ちょっと変な人が居たんですけど」

 

げんなりした顔で俺に詰寄る笹原

変な人?

不審者なら近くの交番に行きなさい!

てか大丈夫なのか?

 

「変な人って・・・何だそりゃ」

 

上司「変な人ならある意味でお前もそうだかな」

 

いきなり横から割って入ってきた俺の上司の白木さん

結構細かい人なんだが普段がいい人なだけに憎めない人

・・・・・・その前にどういう意味っすか白木さん!

 

「失礼しちゃいますよ!俺の何処が変なんすか!」

 

笹原「先輩は何と言うか・・・まあ変な人ですね!」

 

「少しでいいからフォローしろやお前は」

 

全くこの後輩は先輩をたてる事を知らんのかね?

と言うか何処が変なのかそこら辺説明してくれや!

 

白木「で?変な人ってどんな奴だったんだ?」

 

白木が笹原に尋ねる

そうそう、本題そこよ!

 

笹原「あ!そうそうそうなんですよ!」

 

説明を始める笹原

 

笹原「さっき現場から出る時に女の人に話しかけられたんですよ」

 

女の人なのね

勝手に男の変な人なのかと思ってしまった

 

笹原「そうしたら、おたくの会社に先輩居ませんか?って聞かれたんですよ!」

 

先輩って言うのは俺の愛称

・・・・・・愛称?

・・・愛称では無いが笹原は頑なに俺の事を一貫して先輩と呼ぶ

て言うか・・・え!?俺!?

 

白木「女の人だってよ!!」

 

肩をパンと叩く白木

力加減たまにこの人おかしい時があるんだよなぁ・・・

 

白木「それでそれで?」

 

続きを催促する白木

 

笹原「それで怪しいから一応、どちら様ですか?って聞いたんですよ」

 

良かったわ・・・

この子の事だからそのまま言っちゃったかと思ったわ

 

笹原「そうしたらこんな名刺を渡されて、先輩に渡してくれって・・・」

 

1枚の名刺を俺に渡す

『 心霊研究会所長 天城清玄』

 

「限りなく胡散臭いんだが!」

 

白木「なんだ何だ。お前の事気になってる系の女の子じゃないのかよ」

 

何処に期待を持ってるんすか白木さん・・・

いやいやそうじゃなくて!

 

笹原「・・・・・・それに先輩・・・」

 

うむ、笹原の言いたいことは何となく分かる

先日のヴィオラの件もあっての今回のコレだ

笹原も気にしてるっぽいしな・・・

 

「よーし笹原。飯食いに行くぞー」

 

ここではその話は出来ない

取り出したカップ麺を引き出しにしまう

 

白木「何だお前ら。飯食いに行くのか?」

 

ここで白木さんについて来られたら不味いのだが・・・

 

白木「まあ若いもの同士、行ってこい」

 

危ねぇ・・・

空気読んでくれて助かります白木さん

 

「あざっす。よし笹原、行くぞ」

 

笹原「あ、ちょ先輩!」

 

笹原と事務所から出る

 

 

 

 

 

 

 

 

事務所の下の階にある蕎麦屋

ちょっとお値段が張る為、たまにしか来れない

ただ周りが静かなので、チョイスした

 

「・・・さて、事務所での話の続きだ」

 

笹原「・・・はい、これって私が渡したあの人形と関係してるんですよね?」

 

申し訳なさそうに聞く笹原

関係ないとは言いきれないが、決してお前のせいではないぞ!

 

「だとしてもお前のせいでじゃねぇよ」

 

フォローする先輩の鏡

まあ実際そうだしな

俺が引き取ると言ったんだから

 

笹原「・・・それに、その人去り際に気になること言ったんです」

 

この上更に何かあるのか

 

笹原「2つあるうち、1つは危険だと伝えてくれって・・・」

 

・・・・・・

おい胡散臭いオカルト所長!

完全に余計な事言ってるんだよなぁ・・・

 

「へー、なるほどな」

 

まあどう考えても市子とヴィオラの事だよな・・・

さて、どう返したものか・・・

 

笹原「・・・あの人形が、何か悪いものを呼んだのでしょうか・・・」

 

お、ナイスな勘違い

笹原は市子の存在は知らんし、とりあえず良しと

曰く付きの人形を二体も持ってますとかバレたら流石に引かれそうやしな・・・

・・・と言うか笹原がめちゃくちゃ申し訳なさそうな顔しとる!

いやいやヘーキよ?

 

「平気だよ。現に俺特に何も起きてないし」

 

いや実際は賑やかですがね

 

「仮に何が起こったところでお前のせいじゃないから安心しとけ」

 

笹原「・・・すみません・・・先輩」

 

「なんで謝るんだよ。大丈夫だから安心しろ」

 

笹原「・・・はい」

 

・・・・・・・・・さて、これからどうするかだよなぁ

確か天城・・・ナントカさんだっけ?

別に俺自身困ってる訳じゃないのになぁ・・・

何れにしてもいつかは対面しそうな予感があるな

余計なこと言うなってビシッと言っとかんと・・・

 

「ま、何にしてもナントカさんとは俺から話してみるよ」

 

笹原「お願いします先輩」

 

それからのランチは普通に頂いた

・・・1点だけ普通じゃないとしたら笹原の食欲

ワシの財布の中身空になるやろ!

蕎麦の大盛りにカツ丼大盛り2つってなんの冗談?

・・・いいさいいさ・・・もう存分にお食べ!!

俺の寂しい財布から1万円札を出し、お会計を済ませる俺・・・

 

笹原「先輩、ご馳走様です!」

 

「・・・は、はは・・・良いってことよ・・・」

 

後輩に奢るのは先輩の役目よ・・・

でもちょっとは手加減してくれてもええんやで?

・・・っと、それよりもだ

ホント色々やること増えちゃったな

市子の店に胡散臭い研究会所長・・・

色々やらんとな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ただいまー」

 

自宅の扉を開ける

アイツら静かにしているだろうか・・・

 

市子「あんたねぇ!黒髪こそ女の子美しさが1番際立つでしょうが!」

 

ヴィオラ「何言ってるんですかねぇ!ブロンドこそ美しさの頂点ですよ!」

 

・・・・・・

こんのアホ2人め・・・

 

「なーにやってんだコラ・・・」

 

市子「待ってたわよ!ちょっと聞きたいんだけど!」

 

「何だよ藪から棒に・・・」

 

ヴィオラ「黒髪と金髪、どちらの方が綺麗ですか!?」

 

仕事終わりにそんなアホみたいな質問を・・・

 

「・・・どっちでもええやろ」

 

市子「良いわけないでしょ!」

 

ヴィオラ「そうですよ!女としての魅力のぶつかり合いですから!」

 

えー・・・

事は意外と面倒臭い感じになってるのね・・・

 

「別に・・・どっちも可愛いでいいんじゃない?」

 

市子・ヴィオラ「良くなーーーーい!」

 

うるさ!!

お隣さんに聞こえたらどーすんだ!!

 

「分かった分かった!考えとくよ!」

 

なんで仕事終わりにこんな面倒臭いこと考えなきゃならんのよ…

 

「・・・つーか晩飯食べていい?考えるのはその後にさせて」

 

市子「・・・仕方ないわね!ちゃっちゃと食べちゃいなさいよ!?」

 

ヴィオラ「話はそれからですからね!?」

 

めんど!!

これは最もらしい事言って言いくるめた方がええか・・・

とりあえず買ってきた弁当をレンジで温めてーーーーー

 

ピンポーン

 

不意になるインターホン

最悪のタイミングなんだよなぁ・・・

人が飯食おうとしてる時に・・・

 

「・・・はーい」

 

視線の端に市子が見えた

 

市子「・・・・・・?」

 

何故か彼女は不穏な顔をしているように見えた

さほど気には止めなかったが、扉を開けた時悟った

 

「・・・初めまして」

 

「・・・へ?」

 

「心霊研究会所長の天城清玄と申します」

 

 




心霊番組が似合う季節になりましたねぇ・・・


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7 霊能者と呪いの人形

恋の「こ」の字も出てきませんねぇ・・・


「・・・・・・・・・」

 

天城「・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

天城「・・・・・・」

 

 

・・・いやマジ?

このタイミングは無いわ・・・

いやどのタイミングでも思うけども・・・

 

「・・・・・・」

 

天城「・・・・・・」

 

つーかなんか言ってくれよ!

怖いだろうが!

 

天城「・・・あなた、こんなにすごい霊気の中良く平気な顔してるわね」

 

「あぁ、僕エアコン結構強めに設定してるんですよ」

 

天城「私が言ってるのは『霊気』であって『冷気』ではありません」

 

鋭い指摘!

ありがとうございまーす!

・・・ってそうじゃなくて

 

「・・・分かる系の人ですか?」

 

天城「そうじゃなかったらここには居ないです」

 

さっきから言葉に刺があるのは気の所為だろうか・・・

 

「・・・左様でございますか」

 

天城「名刺は受け取らなかったかしら?貴方の職場の若い女の子に渡しておいたんだけど」

 

「胡散臭すぎて仕事場に置きっぱっス」

 

天城「・・・」

 

・・・もう少しオブラートに包むべきだったか

なんか怒ってるような気がする・・・

 

天城「・・・てっきりすぐ連絡が来るものだと思っていたから」

 

「え?」

 

天城「相当な曰く付きのものがいるんでしょ?」

 

「いや?全然?」

 

居るには居るけどアンタが思う程ヤバい奴らじゃないんでね!

・・・つーか早く帰ってくれないかな

 

天城「・・・貴方ねぇ、こんなのいつまでも放ってたら貴方が大変な目に遭うよ?」

 

「いや特に大変と思ったことないけど」

 

あ、嘘

アイツらよく喧嘩するし、掃除の時うるさいしまぁまぁ大変だわ

 

「・・・というか天城さん・・・でしたっけ?僕は別に困っては無いのでわざわざ来てもらって申し訳ないですけど、全然平気ッスよ」

 

天城「・・・ちょっと信じられないわね」

 

そんな事言われましても・・・

だって本当に別に問題無いんだもん!

 

天城「・・・そこまで言うなら少し見せてもらえないかしら?」

 

・・・えー・・・・・・

飯食えないんだが・・・

つーかめんどいんだが・・・

 

「・・・今日じゃなきゃダメっすか?」

 

天城「駄目」

 

即答やんけ

家主俺ぞ?

 

「・・・じゃせめて5分くらいでお願いしたいっす」

 

天城「・・・」

 

あれ?

全然聞いてねぇよ・・・

すごい目で訴えてくるやん・・・

怖い怖い・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まで沢山の除霊やお祓いをしてきた

昔から霊が視えるのは当たり前の事だった

・・・その所為で色々昔は大変だったけど

どうせならコレを仕事にしてしまおうと始めたのがキッカケ

何となしにつくった事務所であった為、どうせすぐ廃業になると思った

でも意外と相談の電話はよく来た

人知れず、皆抱えている悩みがあるという事なのだろう

それが見えない霊的なものなら尚更

だからこそ、本当に色々なものを視てきた・・・

・・・だからこそ、この男は異常だと思った

普通の人間ならこの場にいる事すら躊躇われる

私でさえ足が重い

気を抜くと持っていかれそうになる・・・

それこそ魂ごと・・・

 

男の部屋のリビングを見ると、そこには居た

2体の人形が・・・

周囲の空気が澱んでいるのがわかる・・・

頭が痛い・・・

恐らく私に対しての敵意なのだろう・・・

男の表情は特に変化も無く、台所の方に向かった

・・・何なのだ・・・この男は・・・

再び視線を人形にやる

・・・特にこの日本人形だろう

確かに隣の西洋人形も曰く付きなのは分かる・・・

しかしこの日本人形・・・異常だ・・・

人形なのにまるで人間に近い様な・・・

まるで呼吸をしてるかのようだ・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

正直に言うと少し後悔している・・・

ここまでとは思わなかったからだ・・・

これは直ぐにでも祓わなければならない・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・ちくしょう

結局家に入れちまったけど、アイツら大丈夫かな・・・

スピリチュアル的な何かで急に昇天とかしないよな?

つーか飯食っていいかね?

天城さんなんか2人めっちゃ凝視してるし・・・

・・・腹減ってるしせめてコンビニ弁当温めさせて

台所にちょっと失礼・・・

夜に飯作るとか無理だよな~

最初は何となしに作ってたけど、結局面倒になってインスタントやらカップ麺やらコンビニ弁当になっちゃうんよな~

・・・そりゃ健康診断で引っかかりますよね

 

天城「・・・ねぇ、悪いこと言わないから祓ってあげるわよ?」

 

「・・・へ?」

 

またなんか言ってるよこの人・・・

 

「・・・いや、だからね?別に何ともーーー」

 

天城「これはあまりにも異常よ・・・何れ貴方に災いが起こるわ」

 

・・・・・・災いねぇ

 

天城「そもそもこんな物を置いておいて平然としている貴方もどうかしてる」

 

・・・は?

何言ってんだこいつ

ていうかモノ扱いにムカつくんだが

 

天城「これは貴方の為に言ってるのよ?」

 

・・・・・・・・・・・・

 

「いや申し訳ないですけど、帰って貰ってもいいですか?」

 

天城「は?」

 

「アンタがコイツらの事をどう思ってるのかなんて知ったこっちゃないっすけどねぇーーー」

 

・・・やべ

これもう俺止められないわ

 

「少なくとも俺は命を救われたんすよ。勝手なこと言ってコイツらの事を悪く言うのはやめてくれないですか?」

 

天城「・・・・・・」

 

・・・やっちまった

つい頭に血が登っちまった・・・

気まず!!

どうしよ・・・

なんかフォローせんと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

驚いている・・・

彼の怒りに?

彼の言動に?

それもそうなのだがもう1つある・・・

彼が言い放った瞬間に、何故か穏やかなオーラが部屋を包んだのだ・・・

先程のような悪意に満ちたオーラが嘘のように・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

なるほど・・・

彼とあの2体の人形には軒並みならぬ何か特殊な絆があるように思える・・・

特にあの日本人形・・・

さっき迄の表情が嘘のように穏やかなだ・・・

私に向けた敵意もまるで無くなっている・・・

・・・・・・あぁ、そうか・・・

・・・これは貴女達の怨念ではなく・・・・・・純粋な・・・

 

天城「・・・そうね・・・ごめんなさい」

 

「・・・いや、その~・・・・・・」

 

天城「貴方の意見をしっかり聞くべきだったわ・・・」

 

「・・・いや、僕の方こそ・・・すんません」

 

・・・・・・・・・いいえ違うわ

貴方は悪くない・・・

私は今まで何を視てきたのだろう・・・

ただ無機質に祓い、除霊し、成仏させてきた

・・・何の想いも願いも聞かずに・・・・・・

よっぽど彼の方が彼女らの事を、霊のことを分かっている

だから彼は頑なに断ったのか・・・

・・・寧ろ彼に預けていた方が、彼女達にとって幸せなのかもしれない

 

天城「どうやら早とちりをしていたようね」

 

私がそう言うと彼が顔を上げる

 

「・・・え?」

 

天城「私もまだまだみたいね。こんなにも良く理解してくれている人が居るんのだもの」

 

「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

なんだったんや結局・・・

嵐のような時間だった様な・・・

 

市子「・・・ねぇ」

 

「・・・どーしたよ」

 

市子「・・・どうして庇ったのよ」

 

ヴィオラ「・・・そうですよ、私達は・・・・・・」

 

「呪いの人形だからか?」

 

市子「・・・」

 

ヴィオラ「・・・」

 

今更何言ってんだか・・・

 

「・・・アホな事言ってくれるなよ、俺飯食うから」

 

それに・・・

俺にとってお前らの存在は・・・

・・・・・・・・・まあいいか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィオラ「・・・市子さん」

 

市子「・・・何?」

 

ヴィオラ「・・・少し気になる事があって」

 

市子「・・・」

 

ヴィオラ「私、まだお二人の関係をしっかり理解してる訳では無いのでこんな事聞いていいか気になったのですが・・・」

 

市子「・・・」

 

ヴィオラ「・・・ショウさんが言ってた、命の救われたっていうのは・・・」

 

市子「・・・そうね・・・・・・分かったわ」

 

ヴィオラ「!」

 

台所からコンビニ弁当を持って座るショウ

・・・何だかお疲れのご様子・・・・・・

私・・・何だか悪い事を聞いているのかな・・・・・・

 

市子「・・・ねぇ、アホ助」

 

「だーれがアホ助だコラ」

 

市子「ヴィオラに、あの事教えてもいい?」

 

「・・・」

 

・・・あの事?

 

「・・・そうだな・・・・・・」

 

ヴィオラ「・・・・・・」

 

私の知らない2人の過去・・・

 

「・・・俺さ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・死ぬつもりだったんだ・・・・・・・・・」




恋の「い」の字もねぇ・・・


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8 昔の俺と呪いの人形

・・・半分実話です


何時からだろう・・・

ただ無機質に無意味に生きるようになったのは・・・

無意味に上司に怒られ、晒され、殴られ・・・

こんな事をする為に俺は・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

〜8年前〜

 

 

 

「・・・・・・」

 

高校を卒業して、すぐ就職した

就職先は飲食店の正社員

人と接するのは好きだったし、バイトで接客もしてたから・・・

元々ホールを希望してたけど、厨房に配属されたのは予想外だった・・・

まあそれでも、何とかなるとか軽く考えてた・・・

 

 

 

 

今日も終電か・・・

たった1人で厨房で仕込みをする俺

予約の分の仕込み+‪αをやらないと・・・

・・・・・・・・・

とてもじゃないけど終わる気がしない・・・

その上司は先帰るし・・・

ただ「やっとけ」と言われ、無機質に手を動かす

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

電車のホームに佇む・・・

別に、常に死にたいとか思ったことは無い

でも不意に、ここで飛び込めば明日から仕事に行かなくても良いって・・・

そう何となく考えてしまう・・・

・・・・・・・・・

色々限界なんだろうな・・・

人の少ない電車に乗り込み、目的の駅までボーッとする・・・

・・・あぁ、何度これを繰り返さなければならないのだろうか

 

 

 

 

 

電車を降り、家路を歩く・・・

・・・・・・・・・

何の為に、ここまで頑張らなければならないのだろうか・・・

何の為に、自分を偽り続けているのだろうか・・・

・・・・・・・・・

俺は・・・・・・・・・必要とされているのだろうか・・・・・・

俺は・・・・・・・・・

 

「・・・」

 

視界の端に何か居る・・・

何だ?

近寄ってよく見る

 

「・・・日本人形か」

 

電柱の傍らに置いてある・・・いや、捨てられているのだろう・・・

箱ごと捨ててあるとは・・・

・・・・・・

お前も・・・同じなんだな・・・

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

何故そうしたのかは分からない・・・

ただ、そうしたかったのは事実

だから、この日本人形を拾ったのだろう・・・

部屋に置き、埃をタオルで拭き取った

・・・・・・

もの悲しげだな・・・

それもそうか・・・

持ち主に棄てられたのだから

 

「・・・・・・」

 

俺、何やってんだかな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上司「本当お前使えねぇな!」

 

「・・・すみません」

 

上司「もういい!お前はサラダの仕込みでもしてろ!」

 

「・・・はい」

 

・・・「ッチ」という舌打ちが背後から聞こえる

他の人は見て見ぬふり

助けてくれる人なんて誰も居ない

助けてくれる人なんて誰も居ない

誰も居ない

誰も居ない

誰も居ない

誰も居ない

誰も居ない

誰も居ない

誰も居ない

誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も

 

 

 

 

もう・・・・・・終わらせたい・・・

こんな生活を終わらせたい・・・

視界が狭くなる・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗な部屋の中、俺はネクタイを天井に固定する

・・・・・・

ただ死にたいとか、そういうことじゃない

ここで首を括れば、明日から仕事に行かなくて良い

・・・そうか

そうすれば良いのか

そうすればやっと聞こえなくなるのか

そうすればやっと見えなくなるのか

そうすればやっと考えないで済むのか

そうすればやっと苦しまないで済むのか

固定したネクタイに首を通す・・・

 

「使えねぇなお前は」「なんでこんなことも出来ないんだよ」「自分で考えろよ」「昔いたやつの方がよっぽど使えたな」「何しに来たんだよ」「残業なんて出ると思うな」「お前が終わらせられなかったんだ」「自業自得だろ」「みんな迷惑してるんだよ!」「お前のせいなんだよ!!」

 

俺のせいなんだ

俺のせいなんだ

俺のせいなんだ

俺のせいなんだ

 

 

 

全部・・・・・・・・・俺のせいです・・・・・・・・・ごめんなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「ふざけんじゃないよ!!!」

 

・・・・・・・・・・・・え?

 

?「何があんたのせいよ!!なんにも悪くないじゃない!!」

 

・・・・・・・・・・・・誰?

 

?「もしかしたら、これからアンタは幸せになるのかもしれないのよ!?」

 

・・・・・・・・・・・・幸せに?

 

?「そんなふざけた連中のせいで死ぬなんて馬鹿みたいじゃない!!」

 

・・・・・・・・・・・・だって・・・俺・・・

 

?「今死んじゃったら!これから来るかもしれない幸せはどうすんのよ!!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・俺・・・

 

?「せっかくアンタは命があるのよ!!」

 

・・・・・・・・・・・・

 

?「あたしと違って!アンタには命があるのよ!!!」

 

・・・・・・・・・・・・

 

?「死にたいくらい辛いなら!辞めちゃってもいいじゃない!!」

 

・・・・・・・・・・・・・・あぁ・・・

 

?「アンタはもう、十分頑張ったじゃんか!」

 

・・・・・・・・・・・・・・頑張ったよ・・・

 

?「自分の心の声を聞いてみて・・・」

 

・・・・・・・・・・・・・・・心の声?

 

?「アンタ自身は何を望んでるの?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・望み?

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・に・・・・・・い・・・

 

・・・・・・に・・・・ない・・・

 

・・・・・・にた・・ない・・・

 

・・・・・・にたくない・・・

 

・・・・死にたくない・・・

 

・・・・死にたくない・・・

 

・・・・まだ生きていたい・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「・・・ちゃんと聞こえた?」

 

蹴ろうとしていた椅子に座り込み、項垂れた

何時からだろう・・・こんなにも涙を流したのは

何時からだろう・・・人との温もりを感じなくなったのは

俺は・・・ただ生きる事から逃げていた・・・

・・・・・・・・・・・・

大粒の涙が頬を伝う・・・

人形に説得されるとは思わなかったが・・・

驚きより恐れより何よりも・・・ただ口が動いた

 

「・・・ありがとう・・・・・・・・・」

 

精一杯の言葉だった・・・

顔を手で覆い、ただ流れる涙を見せないように・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

助けたかった

目の前に居るこの人を

今、まさに死のうとしていたこの人を

アタシを救ってくれたこの人を

放っておいたら死んでしまう

動くしかない

タブーを犯してでもこの人を救いたい

アタシは人形

動けばまた捨てられてしまう

それでも・・・アタシは・・・

この人を救いたい

救ってあげたい

助けてあげたい

生きて欲しい

自分を愛して欲しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どの位経ったのだろうか

茫然自失としながら、それでも彼女の前に向き合いながら、口を開く

 

「・・・あのさ・・・・・・」

 

人形に語りかける

・・・・・・・・・

だが反応はしない

おかしいな

絶対喋ってた

そりゃ精神的に参ってたのは事実

でも勘違いなわけない

・・・・・・・・・・・・

ようやく思考回路が追いついてきた

 

「・・・今更普通の人形のフリするのやめてくれ」

 

・・・反応無し

 

「・・・じゃあ勝手に喋ってくぞ」

 

・・・反応無し

 

「・・・俺、仕事辞めようと思う」

 

・・・反応無し

 

「・・・そんで、もう一度だけ自分なりに頑張ってみようって思うんだ」

 

・・・カタンッ

・・・反応有り

 

「・・・まあ、どうなるかわかんないけど、とりあえず友達の紹介のとこでやってみようって思う」

 

?「・・・良いんじゃない?」

 

うぉ・・・急に喋るんかーい

心臓に悪いなんてもんじゃねーよ

いやまぁ分かってたけどさぁ・・・

 

「・・・なんで、助けてくれたんだ」

 

?「・・・」

 

実はすげぇ聞きたかった

多分俺止めてもらわなかったら確実に吊ってた・・・

色々諦めてたからな・・・

 

「・・・先に言っとくとだな」

 

?「・・・」

 

「・・・すっげぇ感謝してる・・・本当に」

 

?「・・・アタシは、アタシの思ったことを言っただけ。それでアンタが思い留まったから、感謝なんて要らないわよ」

 

「・・・それでもーーー」

 

?「アタシはキッカケと選択を渡しただけ」

 

・・・

この人・・・もとい人形は・・・

・・・でもさ・・・それでもさて

 

「なら、俺がお前に感謝するのも自由だよな」

 

?「・・・ふん、勝手にしなさい」

 

というか、今更なんだが・・・

 

「・・・お前、曰く付き的なアレなのか?」

 

?「え、今更何言ってんのよ」

 

「いやほら・・・一応確認」

 

?「・・・まぁ、所謂そういう事よ」

 

・・・

イメージ全然違う

もっとこう・・・おどろおどろしい感じのアレみたいな

 

「・・・色々聞きたいんだが・・・どういう類なの?」

 

?「率直に言うと呪う系よ」

 

ストレート過ぎる

呪う系とか洒落にならねぇ!

・・・うーんでも

 

「・・・俺も呪うのか?」

 

?「アンタを呪う理由が無い」

 

「・・・そっか」

 

俺からしてみたら、彼女は恩人だ

俺を呪うことになったとしても、恨む事はない

当然捨てるつもりもない

捨てようとした命を、拾ってくれた彼女を・・・

 

「・・・そういえば、お前名前あるのか?」

 

?「・・・別に特に無いわよ」

 

名前ないのか・・・

それ色々不便だな・・・

・・・うーーーん

 

?「・・・好きに呼べば?」

 

「・・・そうか?ならーーーーー」

 

 

 

 

「・・・市子・・・なんでどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

この人形・・・もとい市子との会話はそれ位だった

次に日になり、俺は店長に離職届けを出した

店長とは別にそこまで関係性が悪かった訳じゃない

厨房の、所謂料理長との関係が最悪だった

店長の計らいで俺は厨房から外れ、残りの1ヶ月はホールで働く事になった

今までとは違う新鮮さに、かなり捗ったのをよく覚えている

・・・初めからホールで働いていたら・・・色々違ったかもしれないな

・・・未練なんて特にないけどな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィオラ「・・・・・・」

 

「・・・まぁ、こんな所だな」

 

悲しそうな顔してんなぁヴィオラぱいせん・・・

 

「まあ後は別にそんな大した話は無いな〜」

 

市子「そうね、最終日に店長に挨拶して、そのまま帰って引越しの準備して」

 

「そうだったなぁ、そっから友達の紹介で今の所で働いてるって感じだからなぁ」

 

・・・激動の人生な気がするわぁ

店長ともそれっきりだし、料理長となんて死んでも会いたくないし

あの後どうなったかなんて知ったこっちゃないしな

 

「ホント、人生ってどう転ぶか分かんねぇな」

 

ヴィオラ「・・・ショウさんは、今幸せですか?」

 

「ん?そりゃーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昔に比べたら・・・とんでもねぇ位幸せだよ」

 

彼はニコッと笑う

・・・・・・そっか・・・・・・・・・

アタシは・・・彼にその笑顔でいて欲しい・・・

あの時・・・アンタに拾われなかったらって思うと・・・本当に怖い・・・

道行く人は皆、見て見ぬ振りだった・・・

そんな中・・・足を止めてくれた・・・

アンタはアタシに・・・感謝してくれてるかもしれないけど・・・

実際は逆よ・・・

感謝してもしきれない・・・

・・・アンタの近くに居ると・・・暖かいのよ

何で暖かいのかは分からない・・・

人形の身体で、暖かいなんて意味不明よね・・・

でも・・・暖かいのよ・・・

 

「・・・さーて、明日も仕事や!風呂入って寝るから俺!」

 

ヴィオラ「・・・あ、そうですね、おやすみなさい」

 

市子「・・・おやすみ」

 

カチッと電気を消す

・・・・・・

ヴィオラは・・・どう思ったのだろうか

アタシの行動を・・・

 

ヴィオラ「・・・市子さん」

 

不意に声を掛けられた

 

市子「・・・何?」

 

ヴィオラ「ありがとうございます」

 

礼を言うヴィオラ

 

市子「どうしてアンタが礼を言うのよ」

 

ヴィオラ「市子さんがショウを止めていなければ・・・私はショウさんに会うことは無かったからです・・・」

 

市子「・・・そうね」

 

ヴィオラ「私・・・ショウさんが好きです」

 

予想外な事を言われ、驚く

 

市子「・・・え!?」

 

ヴィオラ「私たちを大切にしてくれるし、怖がることも無いし・・・」

 

・・・なるほどね

 

市子「・・・そうね、アタシも、アイツと話してると・・・暖かくなるしーー」

 

ヴィオラ「え?」

 

市子「え?」

 

ヴィオラの疑問に疑問で返す市子

 

市子「・・・アタシ、変な事言った?」

 

ヴィオラ「・・・いえ、まぁ・・・大丈夫です・・・」

 

市子「・・・何よ、煮え切らないわね」

 

ヴィオラ「兎角、私はショウも市子も好きです!」

 

アタシも入ってるのね

 

市子「そ!」

 

ヴィオラ「ちょっと!私の本心何ですよ!?」

 

市子「はいはい」

 

ヴィオラ「もーー!」

 

頬を膨らますヴィオラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子が死んで・・・何年経った・・・

何時までも・・・俺は引き摺り続けるだろう

たった1人の妹だったんだ・・・

ある霊能力者に相談した

妹に会わせて欲しいと

却下された

引き摺り続けると、亡くなった魂が昇れなくなるからと

それでも・・・俺は妹に会いたい

会いたいんだ・・・

だから俺は・・・紛らわす為に・・・人形を作り続けた

妹が好きだった人形を

不意に携帯が鳴る

 

?「・・・はい、もしもしーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

櫻井「・・・櫻井人形店です」




今は部下を持ってる身、昔の上司は良い反面教師です
・・・同じことを考えてる方、1度落ち着いて考えてみましょう
死ぬ程辛いなら、戻ってみるのも人生です
1度全てをブン投げて頭を空にするのも手ですよ
仕事の為に人生を捨ててはいけません
相談するのも手です
思い悩んで仕事を辞めるのは逃げではありません、選択です
1人でも多くの方が良い職場、良い方々に巡り会うことを願っています


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9 兄妹と呪いの人形

家族は大切にね!


 

 

普段と変わらない日常に俺は居た

親父の家業を継ぎ、人形屋で人形をつくっていた

日本人形、洋人形、球体関節人形・・・

本当に色々作ってきた

本当は継ぐ気なんて無かった

 

「真夜お兄ちゃんのつくったお人形、可愛いから好き!」

 

そう言ってくれる妹が居た

妹が好いてくれるからつくってる

ただそれだけの理由で継いだ

シスコンなのは自覚している

でもそれでも妹の事が第一だった

妹とは歳も離れており、今は小学校に入学したばかり

何時も俺が人形をつくっていると、後ろで見ている

 

真夜「零子、危ないから作業台の物触っちゃ駄目だよ」

 

零子「はーい!」

 

親父とは仲があんまり良くはない

母親は俺が小学校卒業してすぐに亡くなった

だから高校卒業して、すぐに家を出てやろうと思ってた

でも、そうしたら妹は・・・

色々思い悩んで結局人形屋に留まった

自分のなりたいものなんて特にないし、人形造りなんて興味もなかった

・・・ただ・・・妹が心配だった

お袋が死んでからは、妹は俺とよく遊んでいた

別に苦でもなかった

親父は昔から家族に関心が無い

どんな時だって親父は俺達の事なんて見向きもしなかった

お袋が死んだ時も、親父はいつもの通りだった

少し経ったらまた人形をつくっていやがった

すすり泣いている妹を宥めながら、俺はそんな父親の背中を睨んだ

だから俺はこの子だけは・・・俺が守らなきゃいけない

この子の笑顔を守らなければいけない・・・

この子が笑顔でいてくれるならそれでいい

この子だけは、幸せでいて欲しい

この子だけは・・・・・・

 

 

そんな思いとは裏腹に『それ 』が起こった

 

父親「零子が・・・車に・・・撥ねられちまった・・・」

 

何言ってんだ・・・

そんなわけねぇだろ・・・

今日だっていつもと変わらない・・・

なんで・・・

 

 

 

 

どのくらい経ったんだろか・・・

気付けば俺と親父は霊安室にいた

白い布をかけられた零子が居た

冷たくなっている零子が

医者からは・・・即死だったと聞かされた・・・

いや・・・もうなんて言うか・・・

生きる意味なんて何も無くなっちまったな・・・

俺・・・なんの為に・・・生きれば・・・

 

 

 

 

これからどう生きればいいんだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからずっと、俺の時計は止まったままだった

親父との会話は益々無くなり、ただの同居人と暮らしてる感覚だ

不意に後ろを向く

そうすれば零子がまた見ているんじゃないかって・・・

バカみたいなこと考えてる俺・・・

 

 

父親「・・・おい、流司」

 

不意に声をかけられる

珍しい事もあるな・・・

 

流司「・・・」

 

顔も向けずに作業を進める

 

父親「・・・すまねぇな」

 

手を止める流司

・・・何言ってんだ?

 

流司「・・・何の話だよ」

 

父親「お前にばっか苦労させちまった・・・すまねぇな」

 

流司「・・・だから、何の話だよ!」

 

声を荒げる

言葉の通りなのだ・・・

何に対しての言葉なんだよ・・・

 

父親「零子にも・・・流司にも・・・父親らしい事なんて何一つやれてねぇ・・・」

 

流司「・・・・・・」

 

父親「・・・何もしてやれねぇまま佳奈子が死んで・・・零子も死んで・・・」

 

お袋と、妹・・・

 

父親「・・・お前は・・・先に逝かないでくれ・・・」

 

顔を見ると、親父は泣いていた

・・・何泣いてんだよ

・・・大の大人がみっともねぇ

・・・何なんだよ

 

父親「・・・悪いな・・・・・・そんだけだ・・・」

 

・・・・・・

・・・急に話しかけてきたと思ったら・・・・・・

・・・何なんだよぉ!!

・・・・・・何で・・・俺は

 

流司「・・・何で泣いてんだ・・・俺」

 

親父とも思わなかったあの人を、何故だかな・・・

初めて・・・親っぽい所を見た気がする・・・

先に逝かないでくれって・・・それは・・・

 

流司「・・・俺も同じなんだよ・・・バカ親父」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからというもの、俺は一心不乱にとある人形をつくった

どうしてつくろうとしたか・・・きっと寂しさを紛らわす為だ

だから俺は・・・『 造るんだ』・・・

造るんだ・・・亡くならないものを・・・

そして俺は・・・この子に・・・もう名前をつけた

零になってしまった俺達家族を・・・また一から始めるんだ・・・

・・・だから・・・お前の名前は・・・

 

流司「・・・イチコ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




愛とは難しいものですな


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